工兵は復讐を誓う (チョコ無しポッキー)
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決意の日

「誰か!助けてくれ!銃身がぶっ壊れた!」

 

そんな叫び声が私の耳に届く。どうやら固定型の機関銃の銃身が撃たれて壊れてしまったらしい。

 

「すぐに行きます!それまで隠れていてください!」

「あぁ!助かる!」

 

小さな身体を活かし、素早く機関銃の砲身を取り外し、予備の砲身を素早く付け替える。

ついでに穴だらけになっていた装甲板も外し、別のに付け替える。

 

「できましたよ!」

「ありがとう!他のところの援護に回ってくれ!」

「はい!」

「戦車が来るぞぉ!伏せろぉ!!」

 

動こうとすると突然近くから大きな音が聞こえる。

咄嗟に上を見ると、丁度友軍の戦車が塹壕の上を通っている所だった。

それは丁度私が昨日治した戦車で、無事に動いている所を見ると、治ってよかったと思える。

だが、その思考も突撃してくる敵を視界に捉えたことで打ち切ることになる。

治したばかりの重機関銃の砲身から大量の弾丸が発射され敵を撃ち抜く

昨日整備した同僚の小銃から放たれた一発の弾丸が相手の身体を貫く

なんと、哀しく、嬉しいことだろう?

そのように考える私はきっとおかしいんだろう。

 

「敵航空魔導士確認!撃てぇ!」

 

突撃してきた敵兵が倒されていく最中、絶望的な言葉が聞こえる。

現在こちらに航空戦力はない、上から爆裂術式を撃たれては一溜りもないだろう。

だからこそ一刻も早く敵魔導師を撃墜する必要がある。

私も近くの死んだ同僚が持っていた短機関銃を拾い上げ対空攻撃に参加し、敵魔導師を撃ちまくる。

しかし、所詮は歩兵の火力、撃墜には至らず逃してしまう。

だがその魔導師が降りた丁度その塹壕へ砲撃が飛んでいき、そこを吹き飛ばす。

あの程度で死んでくれれば良いが、恐らくは周囲の歩兵の撃破しかできないだろう。

 

「上空から巨大な魔力反応!なんだあれは…!?」

 

その声を聞き、周りの同僚の視線の跡を追おうとした。

だが、それは叶わず、私の目に映ったのは、まるで態様のように一瞬煌めいた閃光のみだった。

 

 

 

強烈な爆風が自身の身体を襲う。

それはまるで台風か、いや竜巻か。

どれともわからないほどに強く、そして圧倒的な衝撃波に私はまるでボールのように空中に投げ出され、そしてバウンドするように地面を転げて、やっと止まる。

右腕の感覚はなく、変な方向へ折れ曲がっている、右足は脛から先がなく、血がとめどなくでてくる、右目に関しても幾ら擦っても視界が開けることはなく、真っ暗なままで、左目の視界しか見えない。

だが、私が最も目を引いたのは自分の姿ではない。

先程まで私達の後方にいて、敵の前線へ攻撃をしていた砲兵隊

先程、修理した機銃とそれを扱っていた者

私と共にあった同僚

それら全てが吹き飛び、破片か、またはなにも残さずに消えてしまっている。

 

「ぁ…ぁ…」

 

私の仲間は、どこに?

 

「あぁ…ぁぁ…」

 

私が治した物は、どこへ?私が治し、勇ましくこの地を駆けていた戦車は?

 

「あぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!」

私の足は?私の右目は?これを奪った者は?

 

 

 

その後、私は駆けつけた衛生兵の処置で一命を取り留めた。

あの爆発術式…いや、爆炎術式での唯一の生き残りのようだ。

その日のうちに、私は転属届けをだした。

だした先は航空魔道隊。

私には魔道適性がある、魔道士にはなれる。

あの悪魔を撃滅する力は、私にはある

待っていろ、悪魔め。

私がその首を、人形を解体すようにねじ切ってくれる



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魔導士官学校

私は今、魔導士官学校にて勉学に励んでいる。

軍人としては3年のキャリアがある私だが、魔導師としてのキャリアはない。

空軍でもないのに航空機を撃墜したところでそれは空軍として優秀という訳では無いのと同じく、陸軍の工兵としてどれだけ優秀でも魔導師としては小娘同然だ。

自作の銃をもっている、という事以外は基本的に周りと変わらない。

自作の銃というのは、まぁ自分で言うのもなんだが、ゲテモノだ。

短機関銃を三つ、合体させたのだ。

旧式の短機関銃が余っており、廃棄品ならば寄越せと上へ言い、貰ったものだ。

トリガーを一つにし、銃身を切り詰め、反動を抑えるためにグリップを付けて、上部にある弾倉を取り替えやすくするために色々と形を整えて…等としていたら、原型がなくなった上に取り回し辛くなり、機動戦に向かないゲテモノになったわけだ。

まぁ正面への瞬間火力なら随一だが。

もちろん重く、移動速度は遅くなり、弾倉を持つためにガチャガチャとうるさいし、目立つし、弾倉に誘爆する確率は高くなるしでいいところは火力が高くなる以外はない。

だが、それでいい。

 

「クラビス少尉候補生、なにをボーッとしている。」

 

おっと、怒られてしまった。

そういえばいつの間にか廊下のど真ん中にいたらしい。

それで考え事をして、ボーッとしてたわけだ。

 

「申し訳ありません。」

 

「ところでクラビス少尉候補生…その背中に背負った対空砲はなんとかしてくれないか?」

 

「嫌です。」

 

「まぁ、そうだろうな…なぜ持ち歩いているんだ?」

 

と、グラント大佐は変なことを聞いてきた。

 

「何故と言われましても…何時攻撃されても反撃ができるように、でありますが…」

 

「だがここは学校だ。攻撃されることなどあると思うかね?」

 

「はい。帝国がいつこちらに攻撃を仕掛けてくるかはわからないのです。油断は禁物です。……いえ、もしかしたら願望かも知れません。」

 

「願望だと?」

 

「はい。あの悪魔が…ラインの悪魔がここへ攻撃を仕掛けてきて、そして私の目の前に現れてほしい、という。」

 

「…そうだったな。君は確か悪魔に友軍を…」

 

「…はい。」

 

「…すまなかった、嫌なことを思い出させて。」

 

「大丈夫です…」

 

すると大佐は逃げるようにそそくさと行ってしまった。

私は速くここをでて、士官にならなくてはいけない。

全ては復讐の為に。

 

 

 

私は復讐の為に努力したからか、異例の速度で一号生へとなった。

一号生が習うのはより高度な戦闘技術や戦略等。

そして二号生教育。

本来は成績上位の者がやることだが、残念ながらこの国にそんな余裕はない。

だからこそ成績が普通な私が教育をすることになっているのだろう。

なにから言うべきか。

正直台上に立つ私より、私の背中にある銃───最近ヒドラと呼んでいる───に視線が集中している気がする。

とりあえず、威厳を見せておくことが大事だろう。

 

「はじめまして、諸君。まずは、魔導士官学校への入学、おめでとう。私はお前達の指導をする、レるぇぐっ!」

 

思いっきり舌噛んだ、こんないい辛い名前にした親を許さない。

威厳を見せるどころか笑い物になるぞこれは…

 

「こほん…レルェクト・クラビス一号生だ。さっきのことは忘れるように」

 

口の中に広がる血の味に顔を顰めながらそう言う。

そこ、笑うな

 

「私が女の身と侮るなよ。教育を緩める気は無い。共和国は帝国には何もかも劣っている。だが、その過程で一矢報いなければただの臆病者だ。ゴミだ、虎に怯えるネズミだ。一矢報いる力を、貴様らに私はつけたい。並の訓練ではすまなさい。以上。」




「大佐、この前ぶりですね」

「あぁ、クラビス一号生か。…そういえば、二号生の中でなぜか君のファーストネームを言えるかチャレンジする、というのが流行っているのだが、何かあったのか?いや実は私も一度もしっかり言え」

「………大佐、ちょっとそれ誰がやっていたか教えてください。」

「……あー…二号生は殆どやっていたな。特に君の下にいる者達は。ちなみに、私はやっていない。」

「情報、ありがとうございました。私はやることができたので。それでは」

「あ、あぁ。……………すまんな…私も自分の命が大事だ…」


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