<Infinite Dendrogram>-枝葉末節:超級異譚- (チャシェ)
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“公平無視”セントの場合 vs“最強”
□【煌騎兵】レイ・スターリング
「そういえば、兄貴の知ってる<超級>ってどんな奴がいるんだ?」
ある日のこと、クマの着ぐるみを着ている兄と一緒に食事をしていた俺は、なんとはなしに話を切り出した。
『いきなりどうしたクマー?』
「いやさ、俺も多少は外に目を向けるべきかなと思ってさ」
俺もこれまで何人かの<超級>、現在確認されているエンブリオの最終形態である<超級エンブリオ>の持ち主に会ってきた。何を隠そう目の前の兄もそうだし、
後になって知った人も含めているとはいえ、片手の指で足りる量を超え、今では両手の指に届きそうな数だ。
しかし、当然のことではあるがその大部分は王国と皇国の超級に絞られている。
「暫くは王国から出ることもそうないだろうし、戦争で戦うのも皇国のマスターだけだろうけど、その先出逢わない保証もないしさ」
まあありていに言えば、いい加減何か起こる度に皆の解説を聞いてばかりというのもなんだかな、とふと思い立ったのである。
ぶっちゃけ俺も解説したい。物知りだなとか言われたい。
故にゲーム最古参組であり<超級>でもあるこの兄に、恥を忍んでコッソリと皆が知らないであろう知識を教えてもらうのだ。
「それでよいのかレイよ……」
今はネメシスはそっちで飯を食っているといい。この店の料理は絶品らしいから。
今日はサービスでいつもより量大目でいいぞー、たらふく食うといい。お子様ランチとかおススメらしいぞ。
「わーい、と言うとでも思ったか!」
あれ、
だが諦めない。この知識は絶対に俺だけのものにするんだッ。
「哀しくなるぐらいの不屈の意志だのう……。しかたない、飯代は弾めよ」
くっ、かなりの出費になるだろうが仕方がない。
ドヤ顔で情報通の皆に語る為と思えば懐は痛いが安い犠牲だ。
「と、言う訳で兄貴、よろしく頼む。できればマリーとかが知らなさそうで且つ強いマスターがいいな」
『中々に細かい注文だなお前……、まあいいクマ―。このお兄様が聞かせてやろうではないか、弟よ』
そこそこうざいがまあいい。ここは讃えて上機嫌にさせる作戦でいこう。
「ツヨクテカシコイオニイサマオネガイ―」
『そこまで棒読みになる奴初めて見たクマー……』
そう言いつつ、兄は語りだした。
『ある<超級>の話をしよう。奴は【
◇◆◇
□■かつてのどこか 【剛闘士】セント
俺は今、ある相手と向かい合っている。人とヤマアラシの姿をした二人一組の化物だ。
その正体はなんと驚き“
本来同格の筈の<超級>でさえもそいつには一歩譲らざるを得ない、誰もが恐れる絶対強者だ。
「そこをどきなさい。たとえエンブリオの到達形態が同じだとしてもあなたに超級職はない。この至近にて【獣王】と【怪獣女王】に勝てる訳がないのは解るでしょう。」
実にその通りな降伏勧告だ。かの音に聞く“魔法最強”ならば単独でもこいつに勝てる可能性はあるが、しかしこの距離では不可能だろう。
お互いの距離は100m前後。普通はどんな魔法職であろうと魔法が効果を発揮する前には敗れ、エンブリオの誇る<必殺スキル>でもどちらかを倒す間にどちらかにやられる。
ならば近接職になら勝機はあるか。いやいやまさか。
「
そうでもなければ、単純に「速度について行けずに力で負ける」というどうしようもない現実があるだけだ。
「御忠告痛み入るね。流石は頂点の一角、慈悲深いことだ」
すなわち彼女の発言通り、普通に考えて超級職でない俺にはこの状況・この距離で勝つすべはない、ということになる。
そう、
「だがいらない心配だな。あんたの趣向には合わないだろうが、あんたを倒す方法くらいはある」
しかしこの俺も条理を超越せし<
たった一手、その一手を打つだけでひっくり返すには事足りる。
「……なるほど、あなたのエンブリオはテリトリー系列ですか」
TYPE:テリトリー、それは結界型のエンブリオの総称。一定範囲内に何らかの独自法則を敷く力を持つ、実体無きエンブリオである。
その能力は自他の強化・弱体、制限など多岐にわたり、<超級>ともなれば自他の装備品の封印やアバターの変化などの変わり種もいる。
「へえ、頭が随分と回るものだ。脳筋型だとばかり思っていたが……いや、
参考までになぜ解ったのか聞かせてもらってもいいか?」
「……簡単な話です。あなたが仮に私に勝利できるとしたら、エンブリオの<
その手に持つ剣は見た所どこぞのUBMから
そしてチャリオッツやキャッスルでないのは見ればわかります。
ではガードナーか? それもまた周囲に何もいない時点で除外してもいいでしょう。」
TYPE:チャリオッツやキャッスルはその名の通り乗騎や住居の形をしたエンブリオだ。見ればだいたいわかる。
仮に俺がこのタイプだとしても今出ていない以上出して乗る前に殺されることだろうし、乗っても何かする前に破壊される可能性の方が高い。
頑丈さに全てを賭したエンブリオならば破壊は免れるかもしれないが、それでは勝てるとは言えないだろう。
TYPE:ガードナーは名前の通り
物理系のステータスが非常、否異常に高い彼女達ならたとえ極小のエンブリオであろうと見抜ける筈だ。
或は
マスターを殺せばエンブリオも共に消えるが、彼女のHPは膨大だ。消えかける一瞬で仕留められる事は想像に難くない。
「では
最低でも
……驚くべきことに、彼女の推理はほぼ完璧だった。ここまで看破できるという事は、日頃から最強である為にそれだけ弱点に注意しているという事だろう。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。敵を知らず己を知れば一勝一負す。敵を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず危うし。ゲーマーとして傾向と対策は基本という事だろう。
「流石は皇国最強、伊達や酔狂、怠惰でその地位にいられる訳がないってことか。
しかしどうする? このタイミング・
「簡単な事です。そちらに踏み込まずに攻撃すればいいだけの事。効果範囲が限られるテリトリーは、その範囲の外に出てしまえば一切の効力を受けない。
ならば適当な武器でも投げれば、それだけでステータスの低いあなたは砕け散る。
仮に発動していないとすれば、スキルの名称を唱える隙か、発動する素振りを見せた一瞬で殺すだけの事です」
技キャンセルとはまたえげつないことを考える。流石は怪獣、蹂躙するのはお手の物と言う訳だ。
そうその通り、彼女の対策は極めて正しい。
本来ならばそれを告げる必要はないが、ここまで問答無用でこちらを倒さず、礼儀を持って接してくれた
「なるほど、なるほど、なるほど。しかし致命的にお前達が失念していることが一つある」
「……さて、なんのことでしょうか」
おや、さすがの獣王も解らないらしい。いや、それとも気付かないふりだろうか。
告げる。
「俺のテリトリーは、
しかして、その言葉を皮切りに戦闘が始まった。
当然のように“物理最強”は俺より早く動き、ヤマアラシの突撃と素早く後ろに下がった人型の投擲斧が迫る。
そして――――――
◇◆
□■カ■■■ナ辺境
“物理最強”の連撃がセントに迫る。
迫り――――これまた当然のように、武器を大地に突き刺した上で、その攻撃を
「……チッ」
必殺スキル等の奥の手を使っていないとはいえ、神話級クラスの
所詮は上級職どまりのマスターには本来止められる筈もない攻撃だ。
ならば、そこには何らかのイカサマが行われているという事に他ならない。
そしてこの場合のそれは、彼の必殺スキルである。
「間に合ってよかった、とでも言っておこうかね。タイミングを外したら俺が死ぬからな」
「何を白々しい…この効果であれば事前に仕掛けておくべきもの。それをしなかったのは自信の表れでしょう、こちらの行動タイミングを完璧に読み切れるという。」
彼のエンブリオの名は【劣悪平等 ガクモンノススメ】
必殺スキルは《
その効果は「半径一㎞以内の円柱状の範囲内の存在を無差別に対象とし、対象の
すなわち、『相手のステータスを自身と同程度に制限し、自他のスキルを封じる』スキル。
相手を自身と同じ土俵にまで引きずり下ろし、自分の得意な土俵で勝負をつける、正に悪平等の象徴ともいえるエンブリオだ。
ステータスへの補正はなく、そのリソースの全てを必殺スキルに注ぎ込んだ特化型であるが故にその効力は非常に高く、防ぐことはほぼ不可能に近い。
まして、必殺スキル発動前の全力を出していないエンブリオでは
一度嵌ってしまえば、強制的にスキル抜き、レベル差無視、相手と同能力での戦いを強いられる。
当然ながら魔法は使えず、純粋な自らの五体と武器を操る技量を試される戦闘へと強制的にシフトさせられる。
そして、このようなエンブリオを持つマスターの技量が、当然低いはずもなく。
故に“物理最強”でさえも、この場では有利な戦いを運べる道理はない。
「……だとしても、こちらは二体、そちらは一人。数の有利はこちらにある。仮にそちらの技量が高くとも、そう容易く倒されるつもりはない」
「思ってもいないことをよくも言う。なるほど確かに人と同程度の筋力を持つ小型のヤマアラシと人型の連携を止めるのは容易ではないだろうな。しかし、困難というほどの事でもないさ。
そして、気づいてるか? 既にあんたが挑まれる側ではなく、
事実として、この状況で精神的優位を持っているのはセントだ。
身体能力のバランスこそ失ってないとはいえ、超高AGIによる思考加速を失った【獣王】では常にやっている長考ができず、結果的に行動のキレも奪われる。
一見平等な条件に見えて、やはりどこまでも都合のいい悪平等。否、
「さあ、かかって来いよ“物理最強”。たまには数に任せて敵を襲う
「
『――Ganking』
そして戦闘が再び始まり、そして暫しの後に終わりを迎えた。その場所に佇む影は
◇◇◇
□【煌騎兵】レイ・スターリング
「え、ってことはつまり……」
『ああ、勝ったのはセントだ』
うっそだろ。あのフランクリンでさえも一目置くらしい、皇国最強にサシで勝てるなんて。
いやまあ
「<超級>ってやっぱみんなすごいんだな。でも能力的に兄貴なら割と楽に勝てるんじゃないか?」
兄のジョブである【破壊王】の奥義スキル、《
更にリアルチートとも称される兄の格闘・先読み技能が有れば仮にスキルを封印されて能力が同程度になっても勝てないってことはないんじゃ…
『いや、それが場合にもよるけど最初に言った通り完封されかねないんだ。アイツのスキルは実はステータスの上限や下限だけで合わせることも可能でな?』
なんか雲行きが怪しくなってきたぞ……。
『つまり俺みたいにステータスの一部が突出して高い奴が平均して低い奴の上限に合わされた場合、こちらの高い値が普通の値になって、比率変化で低い値が死ぬほど低くなるんだ。
いくら俺が普段速度が十倍の相手に十倍の先読みで対応してると言っても、それは常人よりはるかに高い数十万のSTRがあるからってのが大きい。
それも封じられちまった上で接近戦を挑まれたら、
……今、さらりとさらに空恐ろしいことが聞こえたような気がしたが。
「さすがに冗談だよな?」
『いや、事実だ。とはいえ、それはそこまで驚くことじゃない。元々俺がガチで格闘に打ち込んでたのは学生の頃だしな。腕が落ちないように一応鍛えてたとはいえ、物心ついた時から今に至るまでひたすら武術修行してるアイツに劣るのはしょうがないクマー』
確かにそう聞くとまともそうに思えてくるが、そもそも十年と鍛えずに格闘ジュニアチャンプの座に輝き寸分違わない先読みをできる時点でこの兄はかなりおかしい部類なのだ。
いくら長い時間をかけてるとはいえ、そのおかしい兄を超えられるのは非常におかしい。
というかそんな奴が同状態での戦闘を強制するエンブリオを持ってるって、ひょっとすると最強連中よりもヤバいのではないだろうか。
「勝てる奴いるのかそれ?」
『流石にそこまででもないクマ―。近接戦闘者でも同じくらい強い奴がいないわけではないし、俺でも数キロ先からバルドルの戦車・戦艦状態で砲撃食らわせれば勝てる』
あ、そうか。半径が一㎞ならその外から遠距離物理攻撃を仕掛ければいいのか。
俺の
バランスがぶっ壊れてるとも揶揄されるこの
「たしかセフィロトってクランに所属してる“魔法最強”も相当な広域殲滅型だと聞くし、最強相手でもやっぱり相性って大事なんだな」
『そうだな。そこを弁えておかないと
お、どうやら次の話が始まるらしい。
最初はドヤ顔の為だったが、中々面白くなってきた。
『とはいえ内容はさっきの話の続きだクマ―。自信を過剰に持つとどうなるか、一瞬の油断が命取りっていい教訓になると思うクマよ』
◇◆◇
□カルディナ辺境 【剛闘士】セント
獣王達を倒してから少し経ったある日の事。俺は新たな依頼を受けて再びこのカルディナ辺境の砂漠地帯を訪れていた。
俺はもともと旅人。今回の依頼が終わったらまた旅に出るつもりだ。元々なんとなく居心地が悪くないのでこの国に留まっていたが、いい加減潮時だろう。
今度はどこに行こうか。神造ダンジョンがあるアルターとか、機械の国とか言うロマンがあるドライフ…は獣王を倒したから行きづらいな。まあ適当に決めるか。
そうこうしている内に教えられた場所についた。まあ見渡す限り、十㎞近く広がる砂漠の中。目印になるものと言えばこの目の前に建つ
さて、そろそろなにかアクションが欲しいものだが……通信機だろうか。おそらくドライフ製と思われる機械が置いてある。
『聞こえますか?』
おだやかな……それでいてどこか空恐ろしいものを感じさせる声が機械から聞こえてきた。
どうやらすっぽかされた訳ではなかったらしい。
「聞こえてますよ【
『ですからファトゥムで構いませんよ。
「いえいえ、セフィロトの皆さんのご心配はもっともですよ。このタイミングで“物理最強”と“魔法最強”の勝敗が着くのもさることながら、あなたがたがぶつかっては周辺被害が大きくなりすぎる。あなたが<
まあつまり、カルディナという国に所属しているわけでもない俺が獣王と戦った理由はそういう事だった。
何故かは知らんがお忍びで観光に来ていた獣王達がカルディナで発生した<UBM>の情報を嗅ぎ付けた。
しかしこのタイミングで動かせ、なおかつ間に合う位置にいたセフィロトの<超級>は
そのままぶつかり合えば周辺都市どころか地域が丸ごと壊れても何ら不思議ではない、どころかそうならない方がおかしい戦いとなる。
だが黙って見逃し、他国の超級に取られるには特典武具は少々惜しい。故に地味で周辺被害という言葉とは縁がなく、一度目ならほぼ確実に相性勝ちできる俺が依頼を受け、華麗に達成したと言う訳だ。
まあ他国の超級を国家所属に近いマスターが倒したことが知られれば問題になりかねないし、俺のような旅人を使用するのは悪くない選択肢だったのだろう。
更に超級とはいえほぼ無名に近い奴にやられたとなれば向こうもばらせば恥をさらすことになる。そこまで念を入れずとも、自国の最強がやられたなんてマズイ話だ。勝手にもみ消してくれると思うが。
「まあそれはさておき、まさかあなたから
『いえ、今回はそういう用ではないのですよ。機会があればそういったことも楽しそうとは思いますが』
……うん? どういうことだろうか。
スパーリングというからてっきりそういう話かとばかり思ってしまったが……。
『ですがその前に、この前の話はどうでしょうか。
「お言葉はありがたいのですが、私は旅好きの根無し草。自分以外の人間に縛られるのはあまり好みませんし、ここは実に見て廻りたい世界です。申し訳ありませんが、この話はなかったことということで……」
『そうですか、それは残念です。
やけに強調してくるな……。まあこちらも受けるにやぶさかではなかったが、しかし特定の国家に所属すると色々面倒そうだからな。
特に他国への侵略を狙っているという噂のカルディナとか、絶対どこかで恨み買いそうだし。
「それはさておき、ですが近接でないとなると私と戦って得られるものはありませんよ? それこそただの一方的な蹂躙に……いやまさか」
『そのまさかです。私は今回【戯王】から、
「……は?」
蹂躙だと? 何故だ。いや理由は解らなくもない。要するに警告だろう。「我々と敵対すればこうなるぞ」というわかりやすい脅しだ。
そりゃ誘いを断った相手を普通に見逃さないというのはよくあることだ。一発ぐらいかましてやるというのはわからなくもない。
特に俺は遠距離物理攻撃系、たとえば長距離砲撃能力を持つあのクマあたりと組めばかなりの確率で大抵の<超級>を葬れる。
他国につかないよう脅しておくべきという心情は至極最もだ。ファトゥムさんも普段の対応がいい人だから忘れがちだが、ただのいい人が超級にまでなれるわけがない。
いやそんなことはどうでもいい。今すぐここから離れ――
『残念ですよ……本当に』
いや、もう遅い。
『《魔法発動加速》“ノータイム”、《魔法範囲指定拡大》“五千メテル”、《魔法発動隠蔽》、《魔法射程延長》“八千メテル”――《ボトムレスピット》』
そして、魔法系超級職【地神】である“魔法最強”の膨大なMPを使い、数km遠くから大地に
『おや、これはどういうことでしょうか。ちゃんとあなたのエンブリオの外からエンブリオを囲むように放ったつもりだったのですが』
「ちなみに、話したら見逃してもらえたりしますかね?」
『それはあり得ません』
ですよねー。
まあここで話しても話さなくても、
ファトゥムさんの試行錯誤が増えるかどうかなものだ。ならおとなしく諦めて楽な死に際にしてもらうべきだろう。
「俺のエンブリオは、相手がスキル・魔法を発動する際、その能力の初期発動範囲に俺のテリトリーが被ると無効化できるんです。要するに俺のテリトリーを含んだ落とし穴なんかは効かない、という訳ですね」
まあ魔力が通ったりなんだかんだするんだろう。その繋がりから逆算して無効化の力が流れて行ったりしているのだろうか。
その辺の理論をリアルに検証してる連中もいるが、実際にどうなのかはいまいちよく解っていないらしい。
おっと現実逃避している間に俺の周囲数kmを囲うように城壁ができた。壁だから
逃がさない為とはいえ、念を入れることだ。上手く死んだふりをして逃げる作戦もこれでは論外となるだろう。
『それでは、さようなら。次に会うときは敵じゃないといいですね』
次の瞬間、俺の足元が急激に一㎞程盛り上がり、俺は空中に投げ出された。
まあ俺のエンブリオは天ならともかく大地の下の範囲はそれほどない。故にわざわざ数キロ下で発動して押し上げたのだろう。砂漠だからこそできる芸当だ。
まあ空中を移動するすべも一度きりとはいえ緊急回避としてそこそこの距離転移するすべも無くはないが、それをしたところで今度は他の方法で殺される。砂漠で【地神】相手は無理がある。
そもそも射程外から一方的に攻撃してくる上、逃げ道を塞ぎおそらく認識から逃れる類の特典武具を使用してくる相手なんてどうしようもない。
結局あんな怪しい依頼に手を出すべきではなかったのだ。物理最強を完封したから、まあ最悪相手が本気でやる気でもなんとかなるだろうという油断が
普段の俺ならあの依頼を見た瞬間即座に逃げ出していただろう。それでも逃げられなかった可能性が高いが。
そんなとりとめのない考えは近づいてくる大地によって終わりを迎えることになる。
(とりあえずデスペナ明けたら一度アイツぶっ殺そう)
そんな小さな決意を残して。
【致死ダメージ】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
◇◇◇
□【煌騎兵】レイ・スターリング
「ひどいオチだな」
二重の意味で。
というか“魔法最強”が強すぎる。〈超級〉なんて皆そんなものではあるのだが。
俺だったらどうするか。落下ダメージは何回かは《
まあでもシルバーを使えば空中機動は可能だし、同じ手では死なないだろうが、問題はそんなことじゃない。
それが【地神】にとってただの通常攻撃でしかないのが問題なんだ。
『実際、エンブリオの性質によっては落とし穴の類はそれほど苦にしない奴らは多いだろう。しかし、それらはアイツにとって山ほどある通常攻撃の一つでしかない。
まともに正面から戦闘するなら圧倒的な
それが絶対強者とされる“最強”の名を持つ者なんだ。
そんな“最強”連中の一角である獣王とこの先戦うかもしれないってのは心底恐ろしいが、それでも俺達はドライフとの戦争に勝たなくちゃいけない。
兄や他の〈超級〉が手伝ってくれたとしても勝てるかはわからない。だからこそ色々な戦いや強者について知っておけばどこかで役に立つかもしれない。
そうも思って聞いてはみたが、予想以上に〈超級〉の出鱈目さを聞かされることになってしまった。
だとしても……可能性はいつだって、俺の意思と共にある。
極僅かな、ゼロが幾つも並んだ小数点の彼方であろうと……可能性は必ずある。
例え小数点の彼方でも、諦めなければ決して可能性は消えない。
だから今はその可能性を少しでも上げる為に、自分磨きと洒落込もう。
「それで、他にどんな〈超級〉がいるんだ?」
『まあまあそうせかすなクマ―。じゃあ次はな……』
話は結局昼前から日暮れまで一日中続き、その日はそれで潰れてしまった。
……完全にほっておかれて拗ねた上ヤケ食いを続けていたネメシスと目を背けたくなる飯代を残して。
To be continued……?
構想は出来てるのでそのうち別のキャラでもやる予定
設定・キャラへの質問や話の感想等、まあ内容に関するものなら何でも感想お待ちしております
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“情報脅者”紗記礼汰の場合 戦争の前取材
□【聖騎士】レイ・スターリング
「はい、これで今回のインタビューは終わりとなります。この度はありがとうございました」
「いえ、こちらこそお役に立てたなら幸いです。ありがとうございました」
さて、唐突だが、俺はついさっきまで取材を受けていた。
元はと言えば兄が持ってきた話で、まあ最近のアルター王国で起きた騒動にかなり関わっている俺に取材をしたいやつがいる、ということだった。
本来なら気恥ずかしいので断ろうと思っていたんだが、是非にと言われたのと兄の推薦、そして
……こんなこと初めてだからちょっと浮かれて結構話しちゃったが、それでもやっぱり終わった後は気恥ずかしさが残るな。
受けて後悔したとまでは言わないけど、顔赤くなってないか心配だ。
「それで、今回の件の報酬なんですが、どうしますか?
鉄板として<UBM>の情報や話せる範囲での皇国含めた他国の内情等。世界終焉の危機のようなヨタ話に近いものから今流行りのデートスポットまで、およそ情報と呼べるものならだいたい提供できますが。
ただ流石に他のマスターやティアンのまだ身内しか知らないような秘密情報に関しては倫理に反するので言えませんが、匂わせるくらいなら可能ですね」
皇国の内情は最低限は聞いてるし、それ以上のことは俺が聞いてもどうしようもないだろう。デートスポットは行く相手がいない。
世界終焉の危機ってのは気にならなくもないがそれこそ今の俺が聞いても何もできないし、ヨタ話でせっかくの権利を使うのはもったいないな。
<UBM>の情報ってのは気になるけどある程度は掲示板に載ってるし、無料であの<DIN>の記者に話を聞けるんだからここでしか聞けないことを知りたい。
……だから、ここで聞くべきことは一つだろう。
「じゃあ、あなたのことについて聞かせてもらえませんか?」
「……私ですか。いえかまいませんが、そんなたいした人間じゃないですよ私」
「
俺がそう言うと紗記さんはキョトン、と目を丸めた後大きくため息を吐いた。
「やれやれ、君の兄が言ったのかな? あの人にも困ったものだ。多少関わった事件を大袈裟に書いたからって報復のつもりなのか。人が隠してることをバラすのはマナー違反に近いと思うんだけどねえ」
それ日頃から他人の隠してることを暴いてると評判の記者のセリフじゃないよな……。
というわけで、俺がこの取材を受けたのはそういう訳だった。
非戦闘職の<超級>でさえ数は少ないし、その人達も大抵は戦闘関係の能力であることが多い。俺が知ってる奴で言うとフランクリンなんかがそうだが、あいつのエンブリオもその例にもれずモンスターを造る能力だった。
そんな中、戦闘が一切できないという制限を持っている【記者】系の<超級>のことを取材の依頼とともに兄に聞き、気になって受けることにしたのだ。
俺にはエンブリオの位階を知る能力は無い為、ぶっちゃけ兄に騙されてたら赤っ恥だなと思っていたんだが、まあ事実だったようでよかったよかった。
「ま、仕方ないか。流石に完全には話せないけど、ある程度までは僕の<エンブリオ>のことについて教えてあげよう。
記者やってるだけあって能力もそっち系でね、情報取得能力さ。数キロ程の範囲の情報を把握するテリトリーに近いエンブリオで、俺は【万物把握 ラプラス】と
この能力の特筆すべき点はアイテムボックスの中身やアイテムや職業等のテキストまで読めるだけでなく、
このおかげで遠距離から安全に戦闘を見守れるし、上位プレイヤーの戦闘記事で好評価を得られててね。個人的趣味の“田泥都市伝説コーナー”なんてのもやれてるんだ。ありがたい話だよ」
依頼報酬にあったヨタ話みたいな世界終焉云々って個人的趣味の産物だったのか……、確かに一昔前にあった雑誌の都市伝説コーナーみたいな内容ではあったけど。
というか記者の割に異様に口が軽いというか、やったら自分の事について楽しそうに話すもんだな……。
「そんなに驚くことでもない、記者なんてみんな話好きなものさ。そうじゃなければ不特定大多数相手に記事を書いたりしないだろう?
それに記者にとって自分のことを話すことなんてそうそうないしね。むしろ聞いてくれてありがとうと言いたいぐらいだよ。
それで話を続けると、僕のエンブリオは効果時間や範囲・情報の精度と能力自体の優先度、そしてクールタイムが関連しててね。何かを上げれば何かが上下する。限られたリソースを配分するって意味じゃある程度可変式なこれはお得なスキルだよ。
まあ大抵スキルはそこまで自由度はないから効果からその他の数値を予想すればいい。例えば
他人の情報までボロボロこぼしてんじゃねえか……。
いやまあたぶん話を聞いてる俺へのサービスだとは思うけど、この人が対象のほぼすべてのスペックを把握するような能力持ってるのは空恐ろしいな。
この人の胸三寸によっては自分の情報が全て敵に流出すると言っても過言じゃない。
特定の国に属さない<DIN>にいてよかった、と言うべきだろう。それでもだいぶ怖いけど。
なんで情報しか扱わない<DIN>がこの世界で幅を利かせているのかという事の一端を理解できた気がする。
「まあ後はちゃっちい動体視力を向上させるスキルと自身の観測系スキルを強化するスキルがある、といったところかな。
普通の戦闘職や生産職ならこんな何にも影響を及ぼすことのないエンブリオ、控えめに言って遠慮したいと思うけど、それが<エンブリオ>の能力である持ち主のパーソナリティや行動を分析してのアジャストってことだろう。
逆に言えば卓越した人物観察眼と推理能力を持った人間なら、特定の人のエンブリオについて詳しくは知らなくてもマスター本人から逆算して能力を理解することができるかもしれない。
まあ普通に不可能だと思うけどね。でもこのゲームで人の取材してるとぶっちゃけお前らほんとに人間なのと思うような奴との遭遇も多々あるし、探せばどこかにいてもおかしくないんだよなー。君の仲間の……ルーク君だっけ、彼とかどうだい? 結構観察眼に光るところがあるとか聞くけど」
「いやそこまでは……。少なくとも俺は聞いたことはないですね。さすがにそれは難しいと思いますよ」
あのルークでもさすがにそこまで出来るとは思えないな。でもひょっとしたら出来るかもしれないし、折を見て聞いてみようか。
びっくり人間には兄と姉を含めて今まで何人か遭遇してるしな……。うぅ、思い出したら嫌な思い出がよみがえってきた。
「おいおい大丈夫かい? ひどい顔色だ。休んだほうがいいんじゃないかい?」
「あ、いえ、大丈夫です。取り敢えずお話ありがとうございました。ためになりました」
「そうかい、まあ少しでも参考になったならよかったよ。また何か知りたい情報があったら言ってくれ。多少安めにしてあげよう」
商魂たくましいな……。いや、ここは流石は記者だと言うべきところだろうか。
「あ、そうだ。最後にちょっと、君達が獣王と戦った場所と日時の詳細を教えてもらえないかい?
そういうところに観光に行くマスターやティアンも実は意外といてね。事件が起こった場所や日時をまとめた地図ってのもそれなりに人気があるんだ。
それに動画が上がってるとはいえ、細かい詳細を記した解説記事ってのもそれなりに人気があるものだしね。勿論そちらは君達の手札が割れることにもつながるし、そちらは基本的には戦争後にまとめる、という形にさせてもらうつもりだから安心してほしい。
その時は詳細を確認しにまた取材に来るから、是非君のクランの仲間やその他の人とも一緒によろしく頼むよ」
「本当に商魂たくましいですね……。まあ、わかりました」
そして場所と日時を伝えて、それで本当にその日の話は終わりだった。
まあインタビューは気恥ずかしかったが、色々聞けたからよかったとしよう。
今回の戦争もいい結果を出して、次の取材もいい話として話せたらいいな、と思わせるところまでが思惑だったのかもしれない。
やる気も出たし、少し遅い時間だけどレベル上げにでも行くとしよう。
今回の取材では無用扱いされてその辺で紗記さん持ちでやけ食いしてるネメシスもちゃんと拾ってかないとな。
◇◇◇
□■国境地帯・戦場跡
レイ・スターリングを取材し終えた記者、紗記礼汰は<DIN>本部に向かわず、数日前に講和会議が決裂し、戦場と化した国境地帯に来ていた。
一度の戦闘によって出来たとは思えない、しかし事実として<超級>同士の激突によって出来たクレーターやひび割れた地面、崩壊した山岳。
加えてそこから十キロ以上離れている、それほど壊れてないがやはり地形に傷跡が残っている議場跡。
その双方を一望でき、ほぼ同一の距離を保つ位置に立ち、地図を見ていた。
「この位置・この時間なら使えるか。ギリギリになってしまったが、問題はないな」
そう呟いて、
「《効果時間》“五秒”、《形状指定》“直方体”、《範囲指定》“五平方キロメテル”、《時間指定》“
そのエンブリオの秘奥、
言うまでもないことだが、<エンブリオ>の<必殺スキル>とは、
そしてアクティブの<必殺スキル>を発動させる場合、およそ二つの使用パターンがある。
無詠唱で使用できるものと、
故に彼の発言は必殺スキルの名であり、同時に自らのエンブリオの名に他ならない。
【万象観測 アカシックレコード】 それが彼のエンブリオの真の名である。
(話を喜んで聞いてくれた彼には悪いが、嘘は吐いてないから問題はないだろう。僕がこのエンブリオを常日頃から【万物把握 ラプラス】と呼んでいるのは事実だし、全ては語らないと明言していた。ただでさえ<エンブリオ>というものはパーソナル以上にモチーフから能力を推察されがちなんだ。隠している能力を未来視と勘違いしてくれれば都合がいい)
そして紗記が隠していた事実はもう一つ、そのエンブリオの神髄が
未来視とは違いその力は未だ起こっていない未来を予知することは出来ないが、かつて起こったことの詳細、そしてそこにいた何者かのその時点での能力を知ることができる。
少し前に<超級>が戦った場所に訪れその能力を調べることも、そこで起きたログを閲覧することも可能。
しかし<超級エンブリオ>の段階ではどれだけ縛りを入れようと数週間過ぎればほぼ観測不可能となるため、知られてしまえば実質効果は半減以下となってしまう。
自分の居た場所を一定期間封鎖するだけで事実上無効化できてしまうのだから。
よってエンブリオをラプラスの悪魔と、必殺スキルをその神髄である未来視と勘違いされることは紗記にとって至極都合が良かった。
知らないはずのことを知っていても未来視と思えばそれ以上は考えない。これから起きる計画をバレない様にしていれば、終わった後には気を配らなくなる。
そこまでうまくはいかずとも選択肢が増えるだけで相手のやることは増え、そこに隙ができる。
仮に自分が取材できなくても、他の記者が入る隙が生まれることも起こり得る。
紗記はあくまで<DIN>の記者の内の
紗記はその後しばらく戦場跡をうろつき、数回必殺スキルも使いつつ情報を取得し続けた。
そして手に入れた情報の吟味を終え、懐からなんらかのマジックアイテムを取り出しそれに向かって話を始めた。
「あ、もしもし編集長? ええ、ええ、大丈夫です。今回の調査で次の戦争の主力と思われる存在の能力はおよそ確認が終了しました。前の愛闘祭で【狂王】ハンニャや【超闘士】フィガロ等も確認してますし、後は皇国側に新たについた【車騎王】マードックと
はい、戦争にも参加はするつもりです。適当に<AETL連合>あたりに王女関係の情報を流して名義貸ししてもらうのがベストですかね。無論戦争への協力は一切しませんので、逃走・隠蔽に強い奴を送っていただければ……あ、あいつが、ほう、わかりました。それなら戦争終了まで見てられそうですね。はい、勿論取材はしっかりと。
あ、今回手に入った目玉情報ですか? やはり
上司との通信を終え、マジックアイテムを懐にしまい、紗記礼汰は再び歩き出す。
さらなる取材のため、記事の完成度の向上のため、そしてなにより――――彼自身の好奇心を満たすために。
この世界のすべてを観測するまで、彼の歩みは止まらない。
To be continued
一つ終わったー。やっとこれで短編集と言える
レイ君のインタビュー内容もその内書きます
内容に関するものなら何でも感想お待ちしております
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異譚:外伝 “不屈”レイ・スターリング特別独占インタビュー!
書くって言ったので
王国・皇国間の戦争、第二次騎鋼戦争が迫る昨今。
今回、我々<
“
いまや<超級>を二人抱えたクラン、<デス・ピリオド>のオーナーでもあり、更に<超級>が後二人加わる予定もあるとのこと。
未だ超級職でも<超級>でもない身でありながら、確実に戦争の台風の目となるであろう少年。
戦争を前に、彼は今何を思うのだろうか。
――――
――今回はインタビューを快く受けていただき、ありがとうございます。
いえ、報酬が魅力的、というのもありますが、自分を客観視するにもいいと兄に言われまして。
俺はこういうの慣れてないので、失礼があったらすみません。
――とんでもない。兄、というのは王国討伐一位、【
はい、兄にはよく色々と助けてもらっています。起こした事件関係で迷惑をかけられることも多いですけど(苦笑い)
――広範囲を高火力で破壊する広域殲滅型の方にはありがちですが、彼は特に環境破壊が大きい方でもあります。そして私も個人的に親しくさせていただいておりますが、少々人命以外の犠牲を厭わない所もありますし。
――少し話が逸れてしまいましたね。普段は<超級>であるお兄さんと共に冒険することもあるのですか?
いえ、今は戦争前ということもあって手ほどきを受けていますが、普段は特にないですね。
現状実力が離れすぎていますし、兄はソロの方が向いてますから。
パワーレベリングは技術が伸びないから良くない、とも言われました。
――実にお兄さんらしい判断だと思います。
――さて、レイさんは今や<超級>を複数抱えた世界有数のクランの主となっています。何か思うところは?
特にはないですね。兄が入ってくれたのは今回の戦争に参加するという目的のためで、他の<超級>が入ってくれるのは兄がいるからというのが大きいですから。
さすがに戦争が終結したからといって解散することはないですが、それを自分の力として誇ることはできません。
いつかこのクランのクランマスターとして誇れるような存在になりたいですね。
――噂通り、真面目な方ですね。クランマスターとして誇れる存在、ということは<超級>になることも見据えている、ととっても?
いえ、さすがに今はそこまでは。でも漠然とですが超級職は憧れますし、第六までにはなりたいと思っています。
クランマスターに相応しい経験や実績等、実力以外でも何かがあればと。
――世界最強のクラン、<セフィロト>のオーナーも非<超級>ですし、意外と<超級>クランのオーナーに求められているのは戦闘力以外の何かかもしれませんね。例えば、熱い精神とか。
よく暑苦しいとは言われますが、自分ではそんなつもりはなく、ただ真剣に思ったことを言ってるだけなんですよ。
まあ客観視するとやっぱりこっぱずかしいことを言ってるんですけど(笑い)
しかもそれが大抵人前だったりするので毎回後で顔が赤くなります。
――周囲が気にならないほど真剣だということですね。世界派の<マスター>には稀にそういう方もおられます。
――実はお兄さんもこっぱずかしい、もとい熱いことを結構言ってるんですよ。いつか名言集とでも名付けて世に出しましょうか。
俺の分は勘弁してください(真顔)
――さて、ここからはレイさん個人の事、過去の経歴やその時の思いを聞いてみたいと思います。
――まず、この世界に来たきっかけというのは何でしょうか。
俺向こうでは学生なんですが、大学受験が終わったのがきっかけですね。
以前から兄に誘われていたんですが、ちょうど受験勉強を始めた高二の頃に被っちゃったので、必死に誘惑に耐えた二年間でした。
それで受験が終わってひと段落したので始めて、今に至るって感じですね。
――なるほど、心中お察しします(笑い)
――次にこちらに来て思ったことなどを。
リアル、ですね。完全に世界って感じで。ティアンの方も自然ですし、とても別の人間とは思えませんでした。
――世界派の方がよく言われることですね。一部の遊戯派の方も認められていることでもあります。
――その後あのリリアーナ・グランドリアのクエストを受けたと。外の自然ダンジョンに行ってしまった妹さんを助けるものだったとか。
はい、兄と一緒に受けたんですが、【
必死でミリアーヌを連れて逃げたんですが、追いつかれ、なんとか<エンブリオ>が目覚めて倒すことができました。
状況にメタしていた能力だったのが幸運でした。結局その後兄とリリアーナ…さんと合流し、クエストをクリアしました。
――それが後の“
――そしてその事件の功労もあり【
騎獣をルークたちが引き付けてくれたこと。マリーがくれた【
多くの要因が重なり、仲間と共に掴んだ勝利だと思います。
それに……<超級殺し>の助力もありました。
――準<超級>の身でありながら、<超級>を単独で殺した規格外。彼女が関わった<ノズ森林>の初心者殺しでレイさんも殺され、それが縁となったとか。
よく知ってますね……。はい、それから彼女との縁が生まれました。
そのときに兄が暴走して、<ノズ森林>が焼失したのは申し訳なく思ってます。
――まあそこは本人が十割悪いでしょう。一番悪いのはそれで殺せてないことですが。
――さて、その後レイさんは賞金首であるゴゥズメイズ山賊団の討伐に向かい、頭目のなれの果てである<UBM>と戦われます。
弟を誘拐された女性と出会い、救出を依頼されたのがきっかけでした。
相性もあり俺がメイズを、その時一緒に来てたユーゴ―という友がゴゥズを倒し、あとは人質を助け出すだけ。
そんなとき、メイズの怨霊が死後ゴゥズや他の団員を取り込み、<逸話級UBM>、【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】となって立ちはだかりました。
ユーゴーに子供たちをギデオンまで運んでもらい、俺は単騎で挑みました。
結果的には倒せましたが、一歩間違えれば失敗していた、努力の結果としての奇跡の勝利だったと思います。
――低レベルかつ上級職一つで<UBM>を倒すという行為は過去にほぼ例を見ないことです。運だけではなく、やはり諦めなかったレイさんの闘志があってこそだったんでしょう。
――そして時はしばらく経ち、アルター決闘一位のフィガロと黄河決闘二位の迅羽による<超級激突>。そしてMr.フランクリンのギデオン襲撃事件が起こります。
――ギデオン襲撃では、フランクリンの悪辣な計画により、開始当初熟練の<マスター>が動けなかったこともあり、レイさんはアルター側の中心人物として活躍していました。仲間であるルークさん達と共に、闘技場外に備えていた敵側に寝返った<マスター>を倒し、フランクリンが出した天敵、【RSK】をも倒しました。
闘技場外の<マスター>を倒したのにはルークの力の方が大きかったと思います。
【RSK】はかなりギリギリの戦いでした。ただ、諦めたくはなかった。
それにミリアーヌの事件を仕組んでいたのがフランクリンだと知り、犯人をなんとしても“ブン殴る”と決めていたのもありましたから。
一か八かの綱渡りの結果、なんとか倒すことができました。
……そのあとも、色々あったんですけどね。
――まさに“不屈”の闘志、といったところでしょうか。格上に何度も勝利を収めているレイさんの強さの一端に触れた気がします。
――そしてレイさんの言葉通り、ギデオンのモンスター解放が<超級殺し>によって阻止されてもフランクリンは諦めず、五万体以上のモンスターによるギデオン殲滅を開始します。
あいつならまだ何かある、とは思っていましたが、さすがに予想以上でした。
それでもただ時間を稼ぐことだけを考え、騎士団の方々や<超級殺し>、そして闘技場に閉じ込められなかった<マスター>の助力の結果、なんとか間に合いました。
――闘技場を解放し、ついにその姿を衆人環視の元に晒した元“正体不明”、レイさんの兄でもあるシュウさんの登場。あの瞬間空気が変わったと言う方もいました。
――でも個人的にはその前のレイさんの言葉、「――眼前に、お前と悲劇が在る限り」が一番好きですね。
止めてくださいほんと!
あとで改めて言われると恥ずかしいんですよ……。
まあ、兄がいなかったら確実に俺は殺されてたでしょうし、危ういところではありました。
やっぱまだまだ遠い存在ですね。それでもいつかはとは思いますが。
――そして宣言通りフランクリンに一撃入れて倒し、事件はひとまず幕を下ろしました。
――しかしそれでも平和にならないのがレイさんです。今度は<アルター王国三巨頭>の一人、扶桑月夜に誘拐されました。
いやほんと我ながら波乱万丈ですよね……。
その際はちょっとした縁でフィガロさんが助けに来てくれたのでなんとかなりましたが。
下手するとフランクリンより俺メタってましたねあの女化生。
――ぶっちゃけ軽い気持ちで調べていたらここまでどさどさ出てくるとは思いませんでした。そういう星の生まれなんでしょうね。
――その後<マスター>の父親を捜してほしいというティアンの子の依頼を受け、オーナーのいない<K&R>や新たなるPKクラン<ライジング・サン>の襲撃を受けながらも、その村に封じられていた<古代伝説級UBM>、【黒天空亡 モノクローム】との死闘を征します。
<K&R>は結局オーナーのカシミヤが出てきて仲裁、<ライジング・サン>に関しては先輩が全部やっちゃったんですけどね(半笑い)
ちょっとした因縁があったみたいなので。
【モノクローム】はギリギリの戦いでした…っていつもギリギリですね俺。
先輩の協力、能力の相性、諦めないで勝ったのも同じです。
依頼もいい具合に終えられたので、ほんと良かったです。
――仲間と助け合い強敵に挑む。レイさんが英雄と呼ばれる日も近いかもしれません。
――さて、次の遺跡編は王国や運営からのカット要求が甚だしかったので省略して、【
あいつそんな方法でベルドルベル氏相手に勝利したんですか。なさけないですね。
まああの戦いだけは間違いなく相手が精神的に弱く、馬鹿だったから成立した勝利、と言えます。
俺には珍しいパターンでした。
――さすがその精神性だけで<超級>最弱格と言われるだけのことはあります。とはいえあの時が初出の<UBM>の召喚には驚かれた方も多いのではないでしょうか。
――そして愛闘祭での一件を経て<超級>所属数が五人になった王国に、皇国から講和会議の申し込みが来ます。しかしそれは皇国の罠であり、それを看破したのもレイさんだったとか。
はい。でもそれは本来なら兄やルークなら看破できたはずです。
兄は【
さすがあのフランクリンを擁する皇国の王族とでも言うべき悪辣な策ではありましたけどね。
――そしてそれを看破したレイさんたち王国組と、皇国組の戦闘になりました。皇国の姫クラウディアを王国の国王代理アルティミア殿下が、お兄さんが【獣王】の<エンブリオ>、【怪獣女王 レヴィアタン】を、そして<超級>を欠いたレイさん達<デス・ピリオド>と<月世の会>の<超級>扶桑月夜とその秘書月影永仕朗が、皇国最大戦力【獣王】ベヘモットを相手にすることとなります。
――そういえば、皇国側にはもう一人の<超級>、【魔将軍】ローガンがいたはずですが……?
扶桑月夜の合計レベル600以下を即死させるコンボにやられました。
一応超級職のため600以上あったはずですが、何かの職業をリセットして、他の職業に就きレベルを上げていたのかもしれません。
さすがにあの状況であと一人<超級>がいたら勝てなかったでしょうし、そこは助かりました。
――なるほど。ローガンは度重なる敗北で決闘一位の座すら失いました。ようやっと自分の欠点を省みて強化を図っていたとすれば、それが仇となって今回は死んだとはいえ、戦争では彼の逆襲も見られるかもしれませんね。見たい人いないと思いますが。
――さて、余計な話はさておき、レイさんたちとベヘモットの戦いに話を戻しましょう。率直に言って、勝てると思いましたか?
はい。少なくともそのための策と努力は積んできたつもりでした。
最終的には【獣王】の隠し持っていた
勝てなかったのも事実なので、まだまだだなという気持ちが強いですが。
兄が多くを背負ってくれましたし、最後には扶桑月夜に全てを任せてしまいました。
これからも戦争に向け精進を続けていきたいです。
――動画を見る限りでも、【獣王】の命に何度も迫っていたことがわかります。惜しくも敗れましたが、<デス・ピリオド>を低く見る者はいないでしょう。皇国の攻撃を、自国の<超級>の多くがいない状態で凌ぎ切った王国の多くの方々の尽力には目を見張るものがあります。
――最後に、戦争が間近に迫ってきている昨今。戦争に向けて、意気込みなどをお願いします。
必ず勝つ、とは言えません。それは俺だけがどうこうしてかなえられるものじゃない。
それに今はまだ、戦争でどう動くかということもはっきりとはしていません。
それでも、決して諦めず、自分にできる限りのことをして、王国の勝利の一助となるつもりです。
諦めない限り、可能性はいつだって、俺たちの意思と共にある。
俺はそう信じていますから。
――力強いお言葉、ありがとうございました。国に属さない記者ではありますが、それでも応援しています。がんばってください。
はい。こちらこそありがとうございました。
――――
未だ若輩の身であることを認めつつも、諦めないで全力を尽くすと誓ってくれたレイさん。
その姿は悪鬼羅刹も慄くようなものでありながら、その
戦争だけではなく、これからも彼の前には高く険しい壁が立ちはだかることだろう。
しかし、彼ならば打ち破ってくれると信じられる。
そんな彼が率いる<デス・ピリオド>の活躍には、今後も目が離せない。
我々<DIN>は、戦争後も彼らの動きに注目し続けるつもりだ。
※ティアンの方への配慮などから、一部発言を修正・編集しております。ご了承ください。
聴き手:紗記礼汰
これまで書いた主な記事
・徹底検証:三人の“最強”で結局誰が一番強いの?
・突撃インタビュー! <IF>きっての常識人、“
・伝泥都市伝説:“化猫屋敷”【
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“再起不能”SFMの場合 PKKの襲来 前篇
□■大海・船上
【
強盗系超級職の座に就いたPKにして、その実力は
エンブリオも第六形態という極少数の<超級>を除けば最上に近い段階にまで進化させており、強力な力を持つのは間違いないことだろう。
犯罪クラン<ゴブリンストリート>を率いアルター王国で名を轟かせていた凶悪な犯罪者であり、今はグランバロアに移って海賊としても犯罪行為を続けている、筋金入りのPKだ。
また様々な<超級>との交戦経験を誇る稀有な人材でもある。
その量はドライフとレジェンダリアを除いた全ての国の<超級>と一戦交えているほどだ。
類稀なる実力から仲間にも慕われ、超音速駆動をも可能なステータスと相手の部位を奪い取るスキルを持つ。
同じPKにもその実力を認められている、まず間違いなく強者の枠に入る<マスター>だといえるだろう。
それが現在、いつものようにより格上の<超級>に襲われ、なすすべもなく地/船底に這い蹲っている彼のプロフィールである。
ちなみにそこは海に出た彼の所有する古舟の上。
幾度となく<超級>に破壊されながらもなけなしの金で買った中古の安い舟である。
「《グレーターテイクオーバー》……《グレーターテイクオーバー》! クソっ、何で使えねえんだ!」
エルドリッジの就いている【強奪王】の固有スキル《グレーターテイクオーバー》は射程距離(半径百メートル)にいる相手の部位を強奪する凶悪なスキルだ。
エルドリッジはこれまでこのスキルを使って相手の首を奪い、数多の敵を殺してきた。
発動する前に殺されたこともあったが、使う時間さえ稼げばほぼ確実に勝利をもたらしていた力。
しかし今、その信を置いている力が
「何度繰り返しても無駄だ。お前のスキルは使えない。だいぶ遅くなってしまったが、かつての初心者狩りの報いは受けてもらう……と言いたいところだが」
そう話しかけたのはエルドリッジの前に立つ男だ。
ファーの付いた黒いコートを着込み、右手にはギロチンの刃を無理矢理柄に備え付けたような剣を持っている。
そう、その姿はまるで
「お前<超級>に殺され過ぎだろう。俺が働くまでもなくもう四回はデスペナルティに追い込まれているとは予想外だった。仲間もさっき殺した二人だけとは、天下の野盗ギルドもずいぶんと落ちぶれたものだ。
“魔法最強”、“応龍”、“人間爆弾”に“断界”まで。殺されても笑われないそうそうたる面子ではあるが、お前呪われてるんじゃないか?
これを機に犯罪からは手を洗って、おとなしく真面目に生きた方が――」
「ふざけるな。俺は腐っても【強奪王】エルドリッジだ!
たとえ何度命を奪われたとしても、俺のこの誰かから奪う生き方は奪えねえ!
それが【強奪王】エルドリッジとしての俺のプライd……」
地に塗れながらもそう高らかに宣言しようとし、その中途で首を切断され命を落とし、光の粒子となって消滅した。
「なるほど、流石は【強奪王】。たいしたものだ。これはリスキルしても無駄だろう。ある意味で立派な大人だ」
男は心底エルドリッジを称えるかのような口調でそう告げ、手を叩いて敬意を表した。
そして踵を返し、
「次はアルター王国か。さて、今度はちゃんとこなせるかね……」
憂鬱そうに、それでいて目には殺意を灯して、その男――無所属の<超級>、SFMは歩き出した。
◇◇◇
□【
それは講和会議の少し前の事。
俺がPKクラン<K&R>のサブオーナー、【
所用によりマリーと先輩はギデオンに行き、兄もそれについていったのでパーティーはルークと俺だけ。
王都アルテア周辺の狩場にでも行こうという話になり、俺達は王都の外に出ようとしていた。
その時、唐突に一人の男に話しかけられた。
「“
……誰だろうか。
全身黒づくめで寒くもないのにコートを着ている……のはまあいいにしても、いきなり話しかけられると少し驚く。
俺もフランクリンのギデオン襲撃や【魔将軍】との戦いでそこそこ有名になったから、名を知られてること自体は不思議ではないんだけど、いきなり慇懃無礼な対応をされるのはちょっと困る。
「えっと……そうですけど、あなたは……?」
「失礼した。俺は処刑人系統超級職【
めっちゃ丁寧な対応だった。
PKKってのは確かPK専門のPKだったか。他のMMOでは盛んなところもあるけど、そういやこのゲームじゃあんまり聞かないな。
にしても処刑人系統ってなんだろうか、聞いたことのない職業だけど。
「【
ありがとうルーク。そんな系統もあるのか。
そんな人が俺に何の用だろうか。PKKに狙われるようなことをした覚えも……、ん?
「それで、どういったご用件でしょうか。レイさんは清廉潔白、心優しい人ですから、悪意を持ってPKに及んだことはないと思いますが」
いや待てルーク、そっちじゃない。
そうだ、俺達が組んでるパーティメンバーって……!
「<超級殺し>マリー・アドラーと<
そうだ、マリーはPK専門の殺し屋で、先輩はPKクラン率いてたんだった。
そりゃPKKにも狙われるわ!
この人は知らないのかもしれないけど、今は俺が作ったクランのメンバーでもあるし、なおさらマズい。
「ちなみに居場所を教えた場合、そして教えなかった場合どうなるのでしょうか」
「別に君達に手荒な真似をする気はない。PKと親しくしているとしても君達はPKでもなければ犯罪者でもないのだからな。教えなかった場合は俺が少し困るだけの事だ。
教えた場合にしても、
それほど殺すつもりはないっていくらか殺すつもりってことだろうか……。
どうだろう、教えてしまっていいものか。まあ二人とも自業自得みたいなものでもあるし、自分で何とかすべきことかもしれない。
でも大事な仲間だし、ここは少し心苦しいけど黙っておく方向で……。
「そういうことでしたら協力させてもらいます。あの人たちは今ギデオンで決闘をしていますね。」
ちょっ、ルークおま。
「あの人たちも立派な大人ですし、ある程度の事は自分でなんとかすべきです。それに僕らよりも経験もレベルも上なんですから、かばう必要もないでしょう。
戦争にまで影響させることはSFMさんも望んでないようなので、そちらの方も問題はないでしょうしね。
あ、ちなみにSFMさんは戦争の講和会議のことはご存知でしょうか。僕たちはあれに参加するつもりなので、できればデスぺナは一度ぐらいで済ませておいてほしいのですが」
結構シビアな判定だなルーク……。
まあ言ってることはもっともではあるし、大事にならないならそれでいいってことにしておこう、うん。
「そうか。礼を言おう、レイ・スターリング、ルーク・ホームズ。これ以上何かを要求するのは図々しいとは思うのだが、急に出て行ってこちらの意図を誤解されるのも本意ではない。
できれば詳しい案内と彼女らへの説明を手伝ってもらいたい。無論謝礼は出そう」
「いや、それぐらいはいいですけど……どうやって行くんですか? 竜車でもそこそこの時間がかかりますけど」
同じ国内とはいえ王都からギデオンまではそれなりの時間がかかる。往復ともなれば結構時間がかかってしまう。
流石にそれほど長くはつきあえないしな。
「なに、足はある。安心していい。おそらく
もっとも速い、とは中々の自信だ。
移動手段ということであれば、天竜に乗ったりするんだろうか。
◇◇◇
王都の外まで出てきたが、特に何も見当たらないな。
これからアイテムボックスとかから出すのかな。
「まあ少しだけ待ってほしい。おそらくすぐに来る」
すぐに来る、ということはある程度自立行動ができるモンスターだろう。でも地上には姿が見えないし、やはり天竜なのか、天竜に乗るのか。
飛行能力のある竜に乗るのは初めてだし、できれば乗り心地がいいといいな。
「御主、実は竜に乗って空を飛びたいだけなのではないだろうな?」
ギクッ。
ま、まさかそんなことを考えてるわけないだろ。
それに別にいいじゃないか天竜に乗りたいとか思っても! 男のロマンだろ!
そうこうしていると空から赤い物体が。これは、バイクか? しかも背中に人が乗ってる。
いや、バイクに化けた竜である可能性もワンチャン…!
「いや、さすがにそれはないでしょう」
ルークは無慈悲だった。夢は潰えた。
とは言え空を翔けるバイクというのもそれはそれでロマンかもしれない。
そして少しずつ高度を下げていたバイクが目の前の地面に停車し、乗っていた男が降りてきた。
鋭い目つきが特徴的な、俺より少し年上ぐらいの青年だ。
バイクと同じ赤色のヘルメットに、肩や肘等に強化パッドの付いた青いライダースジャケットのような服を着ている。グローブやブーツ等他の服と合わせてまさにバイク乗りといった風貌だ。
どちらもこちらの世界ではあまり見るものではないし、おそらくは特注品の一点ものだろう。バイクは<エンブリオ>だろうか。
この人がさっき言っていた「足」か。でもこれじゃあ二人乗り以上はできなさそうだけど……。
「追加の乗客か。いいだろう、サイドカーを展開しよう」
うおっ、大きなサイドカーが出てきた。これなら少し詰めれば二人までなら乗れるな。
ネメシスは申し訳ないが紋章に戻っていてもらうとして、SFMさんは……。
「俺は彼の後ろに乗るから心配しなくていい」
なら大丈夫か。世界最速の移動手段という他称、その力を体感する時が来た。
どれほどの速さなのか、しかと体に刻み込もう。
「《
《
◇◇◇
速かった……世界最速は伊達じゃない。
最初の状態ですら超音速どころじゃない速度だったのに、途中で更にスキルを使って速度を上げたりしてくるとは思わなかった。
しかもスキルなのか地面に潜ったり空を駆けたり、地面を走っても直角に曲がったりしだしたから心底驚いた。
《
でもジェットコースターみたいな感じで楽しかったし、かなりの短時間で着くことができた。
一応礼を言おうとしたら軽く手を振っていなくなってしまったし、クールって感じの人だったのだろう。
「いつもより飛ばしていたな。おそらくバイクを見た時の君の眼の輝きと期待に応えようとしたのだろう。奴はああ見えて熱い男だ。できれば気を悪くしないでやってほしい。」
一見クールなようですぐ熱くなるタイプの人だったのか。最後まで予想以上の人だった。
そもそも俺の周りに予想の範囲内で物事をこなす人がいない気もするが、まあ気にしないようにしよう。
「にしてもあの速さ……彼も超級職なんでしょうか」
「ああ、奴も超級職の一角。騎兵・操縦士系統速度特化超級職【
超級職の運び屋とは豪華だな。でもそういった職業を活かして仕事をしている人はきっと他にもいるのだろう。
速度特化ってことは純粋な戦闘系じゃないのかもしれないし、意外とよくあることなのかもしれない。
にしても超級職か……。
「超級職って、どうすればなれるんですか?」
俺の周りには超級職の人が多い。たまに超級職に就いている人と模擬戦すると、やはり職業由来のステータスやスキルの強力さを味わうことが多い。まあ差はそれだけじゃないんだけど。
今はもちろん下級・上級職の選択とレベル上げで手一杯だけど、いつかは超級職に就きたいという気持ちはある。
「超級職になる方法か……、それならまずは自身に必要な超級職を考えるところからすべきだな。
発見されている超級職の数は千を越えたが、未だ数百以上未発見の職業があるとも言われる。しかし、ある程度は系統で予測できる。
自らの<エンブリオ>とのシナジー、自身の得意とする戦法と照らし合わせて自らに合いそうな超級職を探すところから始めるべきだろう。話はそれからだな」
なるほど、確かにその通りだ。
ただでさえネメシスはスキルが多いタイプなんだし、色々考えてみるべきかもしれない。
しばらくは地道に死兵のレベル上げを繰り返さなければいけないんだし、時間はたっぷりあるんだからな。
「それでいくつか候補を選んだら後は条件探しと条件を満たすための努力が必要となる。仮に条件が解らなくてもある程度は予測できるから、探している間はそれを試してみるのもいいだろう。
基本的には条件は大きく三つに分かれ、その職業の下位の職業を必要とするもの、その職業が最も得意とすることを一定数させるもの、それ以外の特異なもの、となる。最後は【
例えば俺の【断罪王】なら一定人数の犯罪者の殺害、下位職業をすべて取ること等が求められる。おかげで俺はおよそ犯罪者以外には攻撃力が著しく欠けるステータスとなっているが、その分犯罪者相手には強力だ」
条件にも色々あるんだな。
にしても武器を生涯身に着けないって兄でもやってないぞそんなこと。しかも神系統ってことはかなり才能がないと取れないんだし、おそろしい条件もあったものだ。
俺は取れてももうちょっとまともな条件だろうな。
と、そうこう話している間に目当ての闘技場に着いた。
ちょうど決闘が終わっての休憩時間だったようで、結界内でマリー、先輩、そして狼桜の三人が休んでおり、兄は外でカシミヤと談笑していた。
『おお、我が弟と弟子ではないかクマ。今日はレベル上げをするって言ってなかったクマか?』
「いや、ちょっと案内を頼まれちゃってさ。あの三人の決闘はどうだった?」
今回、マリーと先輩は狼桜の「王国で
カシミヤは狼桜の監視をしているらしい。まあ自分がいない間の行動がアレだったから無理もない。
『結局一度じゃ終わらずに何度かやったが、基本的には流石と言ったところか<超級殺し>が一番勝率が高いな。スキルの多様性と必殺の威力の高さが圧倒的、それに超音速機動が地味に強い。重力結界によって速度を落とせるビースリーや闘技場だから高いコストを払える狼桜でも厳しい戦いって感じだ』
一度じゃ終わらないのは予想外じゃないけど、やっぱりマリーは強いな。まともにリベンジができるのはまだまだ遠い。
おっとそろそろSFMさんを紹介しないと。ってあれ、いつの間にか姿が見えない。いったいどこに……。
「<超級殺し>マリー・アドラー、<凶城>元オーナーバルバロイ・バット・バーン、<K&R>サブオーナー狼桜だな」
「げっ」
『ああ?』
「なんだい?」
その姿は、既に結界内で三人と対面していた。
「かつての王都封鎖、初心者PKの件で、話がある」
◇◇◇
とりあえずなんとか俺とルークが間に入り、話を成立させた。
というか理由ってあの王都封鎖だったのか。通りで最近はめっきりPKしてない二人が指名されるはずだ。
先輩についてはマリーが依頼を受けてたけど、結局PKはできなかったって言ってたしな。
「なるほど、つまりそちらの方はあの時の被害者に依頼されてきたと。それにしては少し時間が経ち過ぎていませんか?」
「それに関しては返す言葉もない。リアルが忙しく、最近はほとんどログインできていなくてな。しかし依頼は依頼、少なくとも釘刺しぐらいはと思い今更ながら来たという訳だ」
まあリアルは大事だからな……。だれもが休業中のマリーや無職の兄の様に四六時中ログインできるわけじゃない。
俺も大学がこれ以上忙しくなったらどれくらいログインできるかはわからない。
それでもできるだけはこの世界を離れずにいられるように勉強頑張らないと。
「その節においては本当に申し訳ないのです。一応被害者の方には弁償と謝罪に回ってはいるのですが……」
あ、カシミヤが小さい体をさらに小さくしている。自分がいない間のことなんだからそこまで気にしなくても。
小学生の割に責任感が強いカシミヤとしては、クランオーナーとしての責任を感じているのか。
「いや、君に対し責任を問おうというつもりはない。リーダー以外の暴走が原因だという話も聞いている。そも君がいるときの<K&R>の優良さは歴然だ。王国最強のPKだというのにもかかわらず俺に依頼が一件も来ていない事がそれを証明している。しかも<K&R>に関しては君主導で既にほぼ賠償は済んでいるんだ。気に病む必要はない」
丁寧なフォローだ。でもやっぱり優良なPKクランってなんともいえない気分になるな。
『PKKねえ…。しかも<超級殺し>と同じ様な殺し屋プレイか。変わった奴だな。殺される奴は弱かったからだろ』
「たしかにそうかもしれない。弱い者が強い者の主義主張によって殺されるのは仕方のないことだ。だが弱くても楽しむ自由も殺された相手を何とかしてほしいと誰かに頼む自由もある。そしてPKは俺の主義によって殺されるだけだ。
それと俺をそいつと一緒にするのはやめてもらおう。俺は依頼だからと言って無闇矢鱈と初心者を虐殺するようなことはしないし、内情を把握せずに依頼を遂行することもない」
「あ、すみません私が悪かったので勘弁してくださいはい。ちょっと心が痛くなりますので」
「そんな後悔するくらいならなんでやったんだいアンタ……」
マリーに対して当たり強いな……。事実だから何も言えないみたいだけど。
そういえばさっきもマリーは一人だけ「面倒なのが来た」みたいな顔をしてたな。
「マリーはひょっとしてこの人と知り合いなのか?」
「ちょっと仕事柄共闘したり、私と相性が悪い彼の条件に合う依頼を流すぐらいです。まあそこそこ長い知り合いではありますね」
「深い訳ではないがな。
さて、しかしいきなり実力も知らない者から釘を刺されても反応に困るだろう。どうだ、一戦交えてみないか。無論
……三対一だって?
いくらなんでも余裕が過ぎるだろう。仮にも準<超級>が三人、しかも一人は格上である<超級>を殺し、<超級殺し>と呼ばれている者。自分の実力を示すにしても、返り討ちにされたら元も子もない。
あるいは
『ほう、なら試してやろうじゃねえか』
「ダーリンが見てる前で売られた喧嘩を買わないわけにはいかないねえ!」
「流石にイラッと来たので殺しますね」
三人とも非常に乗り気になっておられる……、いやまあ一人じゃ相手にならないみたいなこと言われたら仕方ないとは思うけど。
俺でも言われたらイラッとする。俺達への対応の丁寧さを見る限り、敵に対しては多少対応が荒くなる人なのかもな。
しかし俺の知り合い三人対謎のPKKの決闘か。あれだけの自信、間違いなく見応えのあるものになるだろうけど……。
「ルークと兄貴はどっちが勝つと思う?」
「なんとも言えませんが、SFMさんの自信は相当なものです。なにか強力な札があるであろうことは間違いないでしょう」
『しかも相手を調べてるPKKってことは三人の能力もよく知ってるだろう。それに対してSFMの情報は一切ない。三人がかりとはいえどうなるかは読めねえな』
情報の有無ってのはやっぱり大きい。切り札の存在を知られていたら格上に勝つ確率はかなり落ちるし、知らない相手なら初見殺しにかかる可能性もある。そういう意味ではSFMさんが有利なのは間違いない。
しかし三人も経験豊富なPKだ。能力もデバフ楯・中距離射撃・近接と上手く分かれてる。やっぱ読めないな……。
「そうだ、カシミヤはどう思う? さっきからずっと無言だけど」
「勝敗については特に言えることはありません。ただ、なんとなくなんですが……」
なんだろう。気がかりでもあるのだろうか。
決闘をするうちの一人は自分のクランのサブオーナー、心配になっても無理はないけど、どうもそういう感じじゃない。
「先程から、
……あの“断頭台”とも称されるカシミヤが、首を落とせるイメージがしない?
尋常じゃない才気を持ち、小学生の身でありながら【
ただの勘と軽視はできない。
『まあ試合前にごちゃごちゃ言ってもどうしようもない。ほら、始まるぞ』
気付けば四人は既にかまえ、始まりの合図を待つばかりとなっていた。
確かに考えても仕方がないか。今は模擬戦を見守るしかない。
合図は兄の<エンブリオ>から放たれる銃声らしい。兄が第二形態のガトリングを上にかまえ、引き金を引き、ついに試合が始まった。
To be continued
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“再起不能”SFMの場合 PKKの襲来 後篇
□とある系統について
【
その一例としてこの系統は記者系統の様にOFFにできないスキル、《因果応報》というパッシブスキルを持つ。
その効果は「指名手配された犯罪者を相手にするとき、STRをスキルレベル×100%し、犯罪者以外が相手の時スキルレベル分の一にする」というもの。スキルレベルの上限は下級で5、上級で9まで。超級職ではスキルレベルは10、よって十倍の攻撃力を手にするが、指名手配犯以外には十分の一となる。
犯罪者に対しての強化と、犯罪者以外に対しての弱体化。
言ってしまえばそれだけではあるが、相手が指名手配を受けていなければ意味がないどころか確実にマイナスの能力。
故にこの職業に就く者は一族として犯罪者の対処を行ってきたティアンや、指名手配されたプレイヤーを狩るためにPKが稀に就く程度。はっきり言って二桁いるかどうか。
その超級職である【
故に今回、指名手配犯ではないPKである三人に勝つ能力を秘めているのは彼、SFMの超級職としての能力ではない。
それは当然――
◇◆◇
□■闘技場
銃声と同時に動き出した者は三人。マリー、バルバロイ、狼桜のPK組である。
情報が足りていないのは三人とも理解している。それによるリスクの存在も同様に。
しかし初見殺しへの対策とは、出される前に殺すことに他ならない。
故に歴戦のPKたる三人は即座に
「《
『《
「《天下一殺》!!」
マリーが出したのは自身の<エンブリオ>の必殺スキル。防御突破用の貫通能力を付与する“緑の貫通”と聖属性閃光弾の特性を付与する“銀の閃光”によって描かれた弾丸生物であり、目潰しを兼ねた防御を貫く攻撃である。
バルバロイが出したのは<エンブリオ>の固有・必殺スキルと上級職【
狼桜が出したのは超級職である【伏姫】の初撃に限り威力を超上昇させる奥義。十万を優に超える突きの一撃である。
それぞれが直撃すれば<超級>をも殺し得る必殺であり、出し惜しみのない全力の一撃。
それが一歩も動かないSFMをめがけ三方から飛来し――――そして、体表を
幸い攻撃はお互いに当たらなかったが、自身の必殺が一切効かなかったことを警戒し三人は即座に離脱。
この場にいる者で唯一そのタネを多少知っているマリーは、苦虫をかみつぶしたような表情で思考を巡らせる。
(やはり通じませんか。貫通特化の“ウルベティア”ならいけるかとも思ったんですが、まったく面倒な能力もあったものです。カルディナの“万状無敵”と戦ったらどうなるんでしょうか)
この現状を起こしているのはSFMの<エンブリオ>の固有スキルが一つ、《万古不磨》の力である。
このスキルは自身と周囲の物体の表面に摩擦ゼロの形状自在の膜を張るというもの。
膜自体の強度はそれほどでもないが、摩擦がないという事は威力が伝わらないという事。貫通能力も例外ではなく、冷気や熱気も全身を覆えば完全に遮断され、この世界の魔法も多くは物理現象の形で出る以上、大抵の魔法も逸れていく。
本来は光をも逸らすが、今は透過させている為外部から姿を視認できている状態である。故に不意打ちで閃光系の攻撃をすれば効果はあるが、この三人では純粋な光攻撃はできない為意味はそれほどない。
これと
そして周囲の物体にも張れるのであれば、その用途は防御だけにはとどまらない。
「チッ」
『な、ん……?』
「なんなんだいこの地面!」
開始から一歩も動かないSFMの周囲をある程度の距離を保ちながら動いていた三人が、突如として足を滑らせた。
立ち上がろうとしても地面に手を立てることすらできず、ただ延々と円を描くように滑り続け、最終的には立てない状態で闘技場の壁に当たり、三人が纏まって身動きがとれなくなる。
そんな状態でも狼桜は必殺スキルを使用し外骨格を形成、防御を固めているが……意味はない。
SFMの右手に握られた剣は断頭に特化した武器。頸部以外の全てを透過し、頸部のみ防御力を無視して切断する武具【断頭剣 ギロチン】。
元は処刑人の一族だったティアンの家に代々伝えられていた「指名手配されていない犯罪者を殺すための武器」だったが、ある事情で彼の手に渡っていた。
その経緯は今は省くが、重要なのはその効果。いくら防御を上げても意味はなく、受け太刀ができないという問題も、体で受けられるSFMには関係ない。
勝利を確信したのか、SFMは身動きがとれない三人に向かって無造作に歩き出していく。
そしてその距離が数十センチにまで近づいたタイミングで、唐突にSFMに向けてバルバロイの右手が突きつけられた。
『《
それは無形の結界たるテリトリーの利点。自身の<エンブリオ>を圧縮することによって効力を増加させる秘奥。
今はまだ修行中でロスも多く、真円の範囲を四分の一にし、五百倍の重力を三倍の千五百倍にするところまでしか至っていないが、それでも強力な超重力結界。
しかも指名手配されていない相手と戦っている為、素ではギリギリ五桁のSTRが十分の一の四桁、なおかつENDはさほど高くないSFMでは、状態異常である【拘束】も含め身動きができなくなり下手に動けば負荷に骨がへし折れる。
そして動きが封じられ、それでもなお口を開き何かを呟くSFMの口に、大型単発式拳銃の銃口がねじ込まれた。
その銃を握る手の先にいたのはマリー。隠密系統超級職である【
それによってSFMの目の前まで近づき、隙をついて銃を口にねじ込んだのだ。
「いくらなんでも体内にまで膜は張れないでしょう。不意打ちはPKの華ですし、悪くは思わないでくださいね」
その銃から放たれるのは“爆殺のデイジー・スカーレット”。それは数百メテルを更地にするほどの爆発を起こす赤い少女。
そんなものが口内で炸裂すればどうなるか、もはや語るまでもない。
狼桜の巨大な外骨格によって目線を遮り、バルバロイの重力結界により動きを封じ、奥義によって近づいたマリーが必殺スキルで仕留めるコンビネーション。
アルター王国で名を馳せるPK三人の、プレイヤーを殺すことに慣れている者としての直感的な即興連携。
その鮮やかさを見れば、誰もが彼女達が歴戦のPKであることを疑わないだろう。
「《
そして致死の一撃が――
「……?」
マリーは困惑しながらも引き金を何度も引くが、まるで弾詰まりでもしたかのように弾丸生物が出てくる気配はない。
それでも使えないと見るや銃を手放し、取り出した短剣を口内に突き込もうとするが、一手遅い。
重力結界によって動きが阻害されている筈のSFMが、まるで重力など感じていないかのように動き出した。
まずマリーの頸が刎ねられ、そのまま身動きの取れないバルバロイと狼桜の頸も斬られる。狼桜は身代わり能力のある特典武具で一度は防いだものの、二度目で死亡。
それで、模擬戦は終了だった。
◇◇◇
□【死兵】レイ・スターリング
勝負が終わり、決着は着いた。結果から見れば当初の自信通り圧勝である。
これがカシミヤが斬れないと思った理由だろう。マリー達がこけたのを見るに摩擦操作能力だと思うけど、物理系しか攻撃手段がない者にとっては天敵も天敵。
「私たちのスキルも多くが無効化されてしまうのう」
《
カシミヤは《
「しかし最後に使った能力はなんでしょうか。マリーさんの必殺スキルを封じた力。彼の必殺スキルかなにかでしょうか」
『おそらくはその通り、スキル無効化の類だろうな。具体的な能力は何とも言えないが――』
「俺の<エンブリオ>、【天地無能 ファンブル】のスキルだ。対象を取る類のスキル・魔法の対象に取られない《万魔超越》と、相手のスキル発動を失敗させる《
バルバロイの場合重力力場自体は対象を取らないが【拘束】は対象を取る。【拘束】を無効化できれば後は用意していた耐重力装備で多少は動ける様になる」
なんか高校時代の友人がやってたカードゲーム思い出すな……対象を取るとか取らないとか墓地に送るとか捨てるとか。ややこしいシステムだった。
しかしスキルだけ見てもかなり強いな。物理系の攻撃は効かず、対象を取る魔法・スキルも効かず、それでも突破できそうな空間系のスキルや闇属性の魔法も封じられる。
しかも足元が覚束なくなり、自由に動けなくなれば後は首を斬られるだけ。
しいて言えば必殺スキルが届かない超遠距離から、空間跳躍によって体内に直接攻撃できる迅羽なら勝てるだろうけど、決闘の場合は闘技場の範囲がある。迅羽の場合細かい座標の指定が必要だし、どちらかと言えばSFMさんの方に優位があるな。
「でもそんなに能力の詳細を言ってしまっていいんですか?」
「君達には先程世話になった。気にするほどのことでもない。それに決闘専門ならともかく、俺は元々PKK。不意を打つのが俺の方である以上、能力がバレてもさほどの問題もない」
生真面目な人だなあ。
まあ種を知っていても対応は難しいし、簡単に対策を用意できるものでもない。
不意を打たれればまず敗北は免れないだろう。スキルも魔法も使えない状態ではあの防御を抜くことは不可能に近い。
そういう意味では自身の能力に対しての自信の表れと見るべきかもしれないな。
「さて、釘刺しも終わった以上、俺がここにいる意味もない。帰らせてもらうとしよう。
君達も行きたい場所をがあるのなら送らせるが」
「いえ、せっかくですのでこちらで決闘を見ていきます。ちょうどもう一試合始まりそうですし」
え、ルークそれってどういう……。
「あんた達が上手く決めなかったせいで負けちまったじゃないか!」
「いえあれはどこぞの鎧がちゃんと重力で封じてなかったからです。あなたから重力結界取ったらただの鈍間な多少堅いだけの置物じゃないですか。これだから趣味でPKやってる人は」
「じゃあ殺し屋の癖に決められてねえお前はなんなんだよ。AGI型の癖して対応が遅せえ。銃の引き金引いて二度駄目だったら困惑してねえで即座に剣を抜けマヌケ。それに外骨格形成するだけしかしてない奴にも言われたくねえ』
あー荒れてる。負けた責任の擦りつけが始まってしまった。まあ宣言通り三対一で勝たれたんだから悔しく感じるのも無理はない。
あ、マリーが銃を抜いた。先輩も楯を構えた。狼桜も槍と髑髏出した。これは数秒後には殺し合いが始まるな。
まあ闘技場だしいいか……。
「そうか、解った。レイ・スターリングとルークホームズ。今回は世話になった。重ねて礼を言わせてほしい。
カシミヤ、君はこのまま優良なPKとして頑張ってほしい。君は若いからこの先なにか困ったことがあるかもしれないが、その時はどうか最寄りの交番に声を掛けてくれ。深刻な悩みから軽い困惑まで、お巡りさんはいつでも君の相談に乗るだろう。
それとシュウ・スターリング。指名手配されないように気を付けろ。善行はよく聞くが、悪行もまた多い。ノズ森林の件とかな」
『それはほっとけクマ』
そして、SFMさんは去って行った。ほんとに釘刺しだけしかしなかったな。
PKがいる以上、被害を受けたプレイヤーからの依頼は絶えないだろう。次もまた、PKに会いに行くのだろうか。
「PKKとはもっと恨み骨髄でPKと見れば
そこはよかったって言うところじゃないかな。
流石は小学生にして元天地出身のPK。野試合にためらいがないどころか大歓迎って感じだ。
でも確かになんでPKKなんてやってるんだろう。PKに恨みがあるわけでもなく、PKが嫌いなわけでもない。
子供に対して親切だし、そういうプレイヤーを守る為とかなのかな。
『おし、せっかくだし空いてるスペース使って稽古をつけてやろう。二人同時にかかってこいクマ―』
「ほら、レイさん」
まあそんなこと考えても仕方がない。せっかくの模擬戦だ。頑張って、少しでもものにしないともったいない。
模擬戦が終わった後はギデオン周辺で狩りをして、そこそこレベルも上がった。
講和会議ももうそれほど遠くない。俺もがんばらないとな。
◇◆
□■決闘都市ギデオン
闘技場を出て来た道を辿りながら、SFMはアイテムボックスにしまったメモ用紙を確認していた。
「次の依頼は……また<
嘆息し、紙を確認していくSFMだが、何の偶然かそこに載っているのはほぼ<IF>のメンバーの名前である。
どうするか思案するもなかなか答えは出ず、結局何も思いつかないままギデオンの外に出る。
「次の目的地はどうする?」
今日一日の同行を依頼されていたバイク乗り、赤星龍伍が待っていた。
正確に言えば直前まで空を駆けており、空から来るのを見てSFMが来るより先に戻っただけなのだが。
「難しいな……。依頼はあるものの相手の所在が不明だ。<IF>は神出鬼没、足取りを追うこともままならん」
「カルディナのある都市で【
彼の告げた言葉に、さしものSFMも目を見開き、驚きを露にする。
それもそのはず、【殺人姫】エミリー・キリングストンといえば<IF>の初期メンバーにして万単位でのティアン殺害を為した人物。
その後も様々な事件を起こしているが、いまだデスペナルティになったことがないとも言われる怪物だ。
「本当に本物なのか? コルタナで事件を起こしていたが、その後所在は不明だったはず。【
「間違いない。ついさっき珠関連の事件を取材するために行っていた<DIN>の記者からの情報だ。隠蔽されてこそいたが、間違いなく本人だと言っていた。今ならまだ間に合うかもしれない」
SFMはその言葉を聞き少し考え込むが、すぐに顔を上げ決断する。
「隠蔽されていると言うのであれば確度は高いか。よし、そこまで頼む」
そう言いながらバイクの後ろに乗り込み、即座に出発した。
バイクを走らせている赤星龍伍に、運転中であることを気にしつつ話しかける。
「だが何故それを俺に告げる?
そこまで重要な情報だ。よく<DIN>の記者を乗せて走るお前でもなければ、一般の<マスター>が知る事はできまい。それを――いやまて、それがなぜお前に来る? お前が<IF>のメンバーの所在を知る理由などないはずだ。俺から聞いたのならともかく」
「友人の望みを手伝うのに理由が必要か?」
言葉を遮り、赤星龍伍が告げたその一言に、SFMは再び驚きながらも笑みを浮かべた。
「さて、相手は子供だとも聞く。大丈夫なのか」
SFMの子供に対する優しさを知る彼は心配してそう聞くが、SFMの眼は揺らがない。
「問題ない。暴力を振るってしまう子供を止め、説教するのも――
アバター名は
「次こそは止めてみせる。あんな顔を子供にされてたまるか。
ゲームなんて物は―――
情熱を心に燃やし、静かに覚悟を決める。次こそは、今度こそはと闘志を固める。
そんな価値観が古臭いことは解っている。
それでもその理想が正しいと信じているから。
To be continued
これでシュウとも戦わせて負けさせてバランスを取るつもりだったが、いい勝負させて負けさせる方法が見つからなかったので断念
こいつが元は<超級>相手に嫌がらせをするクズにされる予定だったとは誰も思うまい
内容に関するものなら何でも感想お待ちしております
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“鼠算”ウェーザーの場合 前篇 人類最多の広域制圧型
□【聖騎士】レイ・スターリング
ある日、兄に呼び出された俺はルークと共にギデオンの闘技場まで来ていた。
戦争も近づいてくる最近となっては、兄も積極的に模擬戦や指導などを増やし、ビシバシと俺達を鍛えてくれていた。
今日もおそらくはその一環だろうが、事前にやる内容が伝えられないのは珍しく、俺とルークは疑問に思っていた。
「今日はなんだろうな。まあなんにせよ、つきあってくれてありがとうルーク」
「いえ、ボクもお兄さんの呼び出しともなれば気になりますから」
相変わらず物腰が穏やかだなあ。見習いたいものだ。
しっかし呼び出しといて遅いな。どっかで道草でも食ってるんだろうか。いやクマだし蜂蜜かもしれない。
現実的に考えれば、兄の事だし子どもに囲まれてる可能性が一番高いんだが。
『スマンスマン、遅れたクマ―』
と、声がしたので入口の方を振り返ると、いつものようにクマの着ぐるみの兄の姿と……見覚えのあるライオンの着ぐるみと、見たことのない
なぜ三人も着ぐるみで。流行ってるのだろうか。いやこの前の着ぐるみ=変人の法則からすると新たなる変人の可能性が。
「思考がずれておるぞ」
おっとあぶない。考えが明後日の方に行くところだった。
とりあえず無難に挨拶からいくか。
「兄貴と、フィガロさん、ですよね。えっともう一人の方は……?」
「フィガロで合ってるよ。こんにちは」
「ウェーザーです。ども」
兄以外は中に入ったら着ぐるみを脱いでいた。やっぱりフィガロさんと、ウェーザー、か。
黒に近いグレーの服装に、唯一真紅のジャケットが目立つ青年だ。年は俺と同じぐらいだろうか。ダルそうな雰囲気を纏っている。
しかし<超級>にして決闘一位、いつもは神造ダンジョンに潜りまくってるフィガロさんまで来るとは驚いた。
さて、今回はどういうイベントだろうか。欲を言えば兄がこの二人と戦うのを観戦するとかがいいのだが。
『お前の苦手な相手としては、基本的には遠距離型と複数の敵を操る広域制圧型だってのは解ってるだろ?
遠距離型はこの国にもそこそこいるが、複数形の広域制圧型はほとんどいない。だが敵の<超級>の内二人がそのタイプだから、経験は積んでおいた方が良い。
と、言う訳で、俺の知る限り
ちなみにフィガロはなんかついてきただけクマ』
ついてきただけなのかい。いいのか決闘一位。
まあ未知の強敵ともなれば気になって当然かもしれない。折角兄がセッティングしてくれたんだし、俺も頑張らないと。
◇◇◇
「まあルールとしては、君の攻撃が俺に届いたら俺の負け、俺に届く前に設定条件が満たされたら俺の勝ちってとこかな」
俺とウェーザーが結界内に入り、条件の確認が始まった。
「設定条件、それって一体どんな……?」
『それはある程度伏せるクマ―。まあ時間がかかればかかるほど条件が満たされる可能性が高いとだけ言っておくクマよ。条件が満たされたらウェーザーがスキルを使って終わりクマ』
なるほど、時間経過やらなにやらで条件が満たされ、なんらかのスキルが発動するタイプを想定した模擬戦ってことかな。
まあ【魔将軍】にしろフランクリンにしろ時間をかければそれだけモンスターを増やせるし、広域制圧型相手には速めに倒すのが肝心。条件に異論はない。
「心の準備もできたみたいだし、シュウ合図よろしく」
『おし、それじゃあ始めクマ―』
合図軽ッ!
いやそんなことよりも速効だ。即座に距離を詰めて―――
「よろしく頼むよ、《
ウェーザーさんが右手に持っていた黒い笛を軽く振り、風切り音が鳴ると同時に闘技場の地面が黒い鼠に変わりだした。
一気に数十、数百と増え、なお増える。
増殖が終わる頃には、ウェーザーさん側の闘技場の大地は一面覆われていた。
(こやつの鼠、総数は千体といったところか。一瞬でこの数とは言うだけのことはあるのう)
ああ、でも動きを見るにステータスは低い。それこそ初期の職業に就いていないときの俺以下だろう。
とすると、おそらくは数とスキルが強力なタイプ。スキルが解らない状態で正面からは下策か。少し離れて《煉獄火焔》で焼き払うか《地獄瘴気》で動きを封じるかでいくべきかな。
いや、待てよ。兄は確か
「ん、待ってくれるのか。ありがとう、これで数を増やせる」
その言葉を皮切りに、一度は止まった鼠の増殖が更に加速する。
千を越え、万をも軽く突破する。闘技場の一角を埋め尽くし、ウェーザーの姿を隠していく。
「一応説明しておくと、俺の<エンブリオ>【黒鼠笛 ラッテンフェンガー】のスキルの一つ、《鼠呼びの笛吹き》は土等を千匹のレギオンたる鼠にするスキルだ。この第一陣は《鼠呼びの鼠》というスキルを持っていて、笛と同じことができる。まあ第二陣は流石に持ってないんだけど」
つまり千匹の鼠が更にそれぞれ千匹生み出す、結果合計で
いくらステータスが低くても、尋常な数じゃない。これもおそらくは<
「勿論スキルはそれだけじゃないけど、まあそんな感じ。この雲霞の如き鼠をかき分けて俺に攻撃を当てられたら終了だ。存在隠蔽系のアイテムは使わないから頑張れ」
これでそんなもの使われたら勝ち目がない。いや闘技場内だからまだいいけど、どの程度離れられるのかは不明とはいえ遠くで永遠に作られたら勝負にならない。
おそらくは普段はそういう戦闘スタイルなんだろうな。
さて、これを攻略するなら―――やっぱ当初の予定通り速効といくか!
鼠に覆われつつも、まだ少し赤が見える場所を目指し、一直線に突っ込んでいく。
その際無数の鼠に噛まれるが、それは無視して突き抜ける。毒があったが、
(レイ、こやつの毒、返しきれない強いものから弱いものまで多種多様だ! だが、そのお陰で収支はプラス。いけるぞ!)
よし、結果的に能力が上がった。赤の影も動いてはいるが、今の強化された俺よりは遅い。
これで即座に決着を着ける!
そして俺の振るった黒旗斧槍が、赤の影を両断し―――そこから鼠があふれ出した。
鼠への変化かと思ったが違う。最初から鼠の塊にジャケットを着せていただけか!
黒い服装は鼠に紛れるため、真紅のジャケットはその色を印象付け、そこにいると見せるため。
なにからなにまで計算ずくか。これで完全に見失った。これじゃ速攻は無理だ。
しかも周囲は鼠だらけ。これだと下手に火も使えない。瘴気も使えばさらに視界を狭める。
本格的に面倒なことになってきた……。
◇◇
「なるほど、これはかなり面倒なタイプだ」
『お前だったらどうするかは聞かなくても分かるから言わなくていいが……流石にまだレイには早かったかな』
シュウ・スターリングは少々後悔したような素振りを見せていた。
成長が早く、戦争が近いこともあり予定を前倒しにしたが、これではあまり学べるものがないのではないか、と。
「いや、こういうのもいい経験になると思うよ。視界を埋め尽くすほどの敵となると広範囲攻撃が必要だけど、レイ君はシルバーがないと難しいしね」
『まああいつが積極的に攻撃してないのが救いだろうな。状態異常に対抗できるスキルがあるのも大きい。勝機は消えちゃいないか』
フィガロのフォローをありがたく思いつつ、気を取り直すことにするシュウ。
まあ初見じゃなければあの弟は何かを考えるだろうし、経験を活かすことができるだろう。それになにより、まだ終わったわけじゃない。
そして普段あまりしないフォローという行為をなんとかこなしたフィガロは、純粋に疑問を投げかける。
「そういえばあの状態異常も中々面白いね。あそこまで複数の効果があるのは見たことがない」
『あいつの<エンブリオ>の更なるスキル、《
ウェーザーの<エンブリオ>のモチーフであるラッテンフェンガー、ひいては“ハーメルンの笛吹き”の正体は鼠から感染したペストであるという説もある。
或は鼠という獣に対しての「病を運ぶ獣」というイメージによって生まれた、と取ることもできるスキル。
一体一体は職業に就いていない成人男性以下のステータスとはいえ、百万の数と状態異常はそれなりに難敵だ。
「なるほど、それであんなに多種多様なのか。【
「本人としては結果的には問題ないとか思ってそうクマ。事実どれだけ強化されても意味は薄い。ま、今は見守っておくクマ」
弟を信じ、見守ることも兄の仕事であると。そう割り切り、試合に集中するシュウ。それを見て自らも試合の行方を考えるフィガロ。
どちらも試合を予測し、それでいて同時に考える。自分であれば、どう対処するかと。
「そういえば君の弟子君はどうしてそこで泡を吹いてるんだい?」
『……誰にでも苦手なものはあり、トラウマは克服が難しい。おそらくそういうことクマ』
◇◇
レイ・スターリングもまた、どうするかを考えていた。
現在なんとか少し距離を取り、近づいてくる鼠を《煉獄火炎》で焼き払い、考える時間を生み出している。
しかし多勢に無勢であることには変わりなく、相手の位置を特定する方法を考えなければきりがない。
こうしている今も、いくらかの鼠が数でゴリ押して炎の壁を突き抜け、噛みに来ている。ダメージはそれほどでもないが邪魔だ。
(元が土だからか怨念の集まりが悪い。これじゃ条件を満たす以前にMPとSPが尽きる。相手の位置を探すにはどうすれば……いや、
何がしかの考えに辿り着いたのか、覚悟の決まった顔で、槍を
「ネメシス、頼むぞ!」
そして、そのまま上に槍を投げる。投げた槍は空高くに飛び、そのまますぐに帰ってくる。
「どうだった?」
(奴は上にはいなかったぞ。つまりあの鼠どもの中にいるはずだ!)
そのネメシスの言葉を聞き、左手から出る炎の火力を引き上げていく。
そしてそのまま周囲を一通り焼き払い、更にシルバーを出して乗り、走り回りながら燃やしにかかる。
「攻撃を当てればいいんだ。シルバーの風蹄爆弾でも一発だけなら躱される可能性はあるけど、
『おっとろしい手を取るクマ~、まあ俺でもそうするだろうけど』
レイのいっそ暴力的とすら言える発言に対し、観客席からシュウもまた引いたようなことを言いながらも同意を示す。
それがこの場での最善である、少なくとも同条件ならば同じことをする、と。
そしてそのまま闘技場を一周し、更に鼠を燃やしていく。
死ねばまた土に戻るため火のつきは悪いが、それをものともしない火力だ。
時折鼠が突っ込んでくるが、一度噛む以上のことはできずに形を崩していく。
毒を与えた鼠が死ぬことで《
二つのスキルを稼働させているため、《風蹄》でバリアを張る余裕はなく、自らも火に捲かれているがダメージは《ファーストヒール》で時折回復させるだけが限界。
だがレイの努力の甲斐はあり―――ついに闘技場全域が炎に包まれた。
いくら火に耐性があろうと、この劫火の中では傷つかずにはいられない。
或は水属性や海属性の卓越した術者ならば問題ないかもしれないが、ウェーザーは物理職。
これでは攻撃が届いていないとはいえないだろう。
しかし、火の中に彼はいなかった。
「空中にはいなかった、地上にもいない。……なら、地下か!」
レイは即座に居場所を悟り、地面を探ることに専念する。
自身が起こした火のせいで少々見辛いが、それでも大地に開いている鼠穴を確認する。
(それなりの高さまで鼠を積み上げたのも、地下から意識を逸らすためと見るべきかのう)
ネメシスの発言に内心で同意しつつ、レイは地下に入る方法を探る。
ウェーザーが地下に潜んでいるというのであれば、人が一人入れるサイズの穴が確実にある。
既に埋まっているとしても居場所のヒントになるはずだと、そう考えシルバーを降りて穴から這い出てくる鼠を燃やしつつ地面を調べ始めた。
それっぽい穴の跡を確認しては槍を突き刺し続け、その合間に出てきた鼠に噛まれようとかまうことなくウェーザーを捜す。
そして遂に、槍を突き立てた時に硬い感触が返ってきた。
「あっぶねえ、なあ!」
槍の刃を受け止めていたのはウェーザーの持つ黒笛。
武器として使うのが主目的ではないとはいえ<超級エンブリオ>のTYPE:アームズ。そう簡単に砕けるものではない。
そして槍ごとレイを弾き返しつつ地上に脱し、そのまま笛を構え対峙する。
「やられるかと思った。勘がいいというよりは頭がいいってタイプかな。順序立ってよく攻められてるもんだ」
「そちらこそ。意外と頭使うタイプか。もう少し怠惰だと思ってたんだけどな」
「あらかじめ対応を何セットか用意してるだけだって。雑魚を殺すには事前に策を考えておく方が楽だから」
「何をしても勝てる」と考えて結果予想外の事をされ負けるよりは、「高確率で勝てる行動」を組み立てて置く方が良い。
仮にひっくり返されてもその方法もまた予想内なら対応が早く済む。焦ってイラついて迂闊な行動をして負けるよりは何倍もマシである、というのがウェーザーの戦闘思考。
つまりこの展開も、彼の予想の範囲内ではあるということだ。
しかし状況はレイに傾きつつある。
隠れて鼠を増やしていたウェーザーが出てきたことでレイも直接的な攻撃が可能になった。
攻撃をレギオン任せにされると《
そしてなによりこの近距離であれば、《煉獄火炎》の範囲内。左手を差し向けるだけで戦いは終わる。
「やれやれ、このままじゃ攻撃喰らっちゃうか。
まあでも良かった。ギリギリ
その言葉にレイは即座に反応する。
左手を向け、《煉獄火炎》を放つ。炎が到達し、ウェーザーにダメージを与えるその直前。
ウェーザーのスキルが発動する。
「時間切れだ。───《
そのスキルの効果として、レイの鼠に噛まれた跡が淡く輝き、レイのHPが根こそぎ消えた。
そして【死兵】のスキル《ラスト・コマンド》の効果により、何事もなかったかのようにレイの身体はスムーズに動き、炎がウェーザーに直撃した。
◇◇◇
□【聖騎士】レイ・スターリング
模擬戦は終わったが……これ勝敗どうなるんだ。
条件が先に満たされてスキルが発動したんだから俺の負けと見るべきかな。あと一歩だったんだけど。悔しいな。
しかしあのスキルはなんだったんだろう。状況的に即死系スキル、それも噛み跡が光ったところを見る限り噛まれた数が条件に関わってくるのだろうか。
「うわ<上級エンブリオ>と上級職に負けたー。テンション下がる。おいシュウ、お前の弟【死兵】就いてんのかよ。正気か?」
正気度を疑われてしまった。まああんまり常識人が就くジョブじゃないのには自覚がある。
それはさておきウェーザーとしては敗北カウントなのか。意外だ。
「攻撃喰らったら負けだしなー。いやほんと《ラスト・コマンド》とか予想しねえよ普通」
『まあお前もだいぶ縛りプレイだったんだから落ち込むなって。付き合ってくれたことには感謝してるしな。あと誰の弟が正気じゃないって?』
「縛りプレイの上で勝てなきゃダメだろ。あ、お前の職業そういや【
『命がいらんようだな……』
「この戦車も出せるか厳しい闘技場で俺に勝てるとでも?」
仲良さそうだな。こんな模擬戦に付き合ってくれるあたり、それなりに親しい友人なのだろう。
しかしやっぱ対多数は危ないな。状態異常への対策があったから良かったものの、それでも姿を物理的に隠されていたら狙うのは難しい。
一方的にやられるばかりじゃこっちのMPとSPが先に尽きてしまうし、戦争では相手を選ぶことも重要だな。
さて、とはいえ戦争では俺はどうするべきなのだろうか。基本的には<超級>が生き残っていた方の勝ちみたいなところもあるし、<超級>殺しを狙うべきか。
或いは全員が相打ちする前提で同格の相手を減らすことに専念すべき、とも考えられる。
まあ始まってみないとわからないし、とりあえずどちらも選べるように考えておかないとな。
「まあ気を取り直してもう少しマジでやろうぜ。強化をかけまくった鼠どもの力を見せてやろう」
『なお元のステータスがそれほどでもないので雑魚』
「やっぱ先お前とやろうか」
仲良いなあ。
まあ<超級>同士の戦闘が見れるとなれば願ったりだ。後学のために見てみたいな。
いまんとこまっとうな対戦はフィガロさんと迅羽だけだし、見ておいて損はないだろう。
だがそこで、二人の話を遮る者がいた。
「それもいいけど、せっかくだから僕とやらないか」
フィガロさんがいい笑顔でウェーザーさんに迫る。
どちらとしても<超級激突>になるのは間違いないが、闘技場じゃ全力を出せない兄と違ってフィガロさんは闘技場において最強の男。
何にせよ、是非とも見たい一戦だ。
「いいっすね。こちらこそ」
その申し出をウェーザーが心なしか愉しそうに受け、二人が結界内に入った。
そしてお互いに構え、名乗りを上げる。
「アルター王国決闘ランキング一位、【
「無所属無名、【
単独で百万の広域制圧型と、孤高なる無限強化の個人戦闘型。
人類最多と王国最強。
“
未だ<超級>の身にして、“
To be continued
軽い設定解説。無視しても特に問題はないです
・【黒鼠笛 ラッテンフェンガー】
能力特性は増殖に近い生産。そして代替。造った時のMPなどの消費はほぼない。
本人の面倒、すなわち敵を代わりに処理する群団。一体でも人型でもないのは求めていた性能に必要でないから。
ウェーザーはレベル上げが面倒なタイプで、効率を競える単純作業や普通に行動してできることの代替は特に求めていなかったことでこうなった。
まあ第一陣は多少の知能があるのでちょっとしたお手伝いぐらいはできる。第二陣は無理。
第一陣の能力は二千体の鼠を造り出すことと二千体の鼠を操作すること。
そのため第二陣が減っても過去呼んだ分も合わせて二千体以上は呼べないが、第二陣の数が減るとそれをこなしたものは共食いにより消えることで後釜を生み出し、減った分を補完、残った分とあわせ操作する。
状態異常能力を鼠に与える能力は他者の状態異常を一度受けないといけないためリソース消費はかなり少ない。与える毒や病などを選択することも可能。しかし意味はほぼないので基本的には全部乗せである。
肉片との接触でも感染するため回避することは難しい。ただし状態異常無効化系にはお察し。
・《
最初に対象が鼠に状態異常を与えられてから444秒経過し、その間一度も状態異常が途切れることなく、状態異常を与えた鼠が666体を越えた時に発動できる。
条件を満たした相手をまとめて即死させる。ただし鼠は一度全滅し、耐性は抜けるが身代わりアイテムの類には弱い。
・“鼠算”
正確には源義の鼠算ではないが、一見鼠が鼠を無限に出してるように見えることから。
まあ三次元的な展開をしなければ数キロ単位で地表覆えるから誤解が生じても無理はない。
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“鼠算”ウェーザーの場合 後篇 最も無限に近き者達
□■【
【獣将軍】という職業は、本来将軍系としては
それはこのジョブが、【
獣戦士系統は、ステータスの伸びが悪く、スキルを固有である《獣心憑依》しか持たない微妙なジョブとかつては言われていた。
《獣心憑依》の効果は「従属キャパシティ内のモンスター内、一体の元々のステータスを自身のステータスに足す」というもの。
しかし獣戦士系統はキャパシティが小さく、上級職である【
超級職の【
ティアンのみの時代には評価されなかった系統である。
しかし<エンブリオ>であるガードナーがキャパシティを消費しないことから、<マスター>の時代からは評価され始め、ガードナー獣戦士理論という最強ビルド論まで生まれることとなった。
純竜をはるかに凌駕するガードナーのステータスを自らに足し、戦闘用のスキル構成のみを考え他のジョブを取る。
最終的に、ステータスに特化した、ガードナーの純粋上位互換たるガーディアンの<超級エンブリオ>を持ち、【獣王】の座に就いたベヘモットを生み出して理論は完成を迎えた。
そのベヘモットが“物理最強”と呼ばれ恐れられていることを考えれば、理論としての完成度は頷けることだろう。
さて、では【獣将軍】はどんな職業なのか。
基本的には他の将軍系と同様、自身の配下である大勢の魔獣を強化して、連携して戦う広域制圧型ではある。
ステータスは低く、スキルが多様。それだけを見れば、差異はそれほどない。
異端と呼ばれる訳は、【獣王】と同じレベルEXであり、
そして、その効果とは――――――
◇◇◇
時間比例強化と装備数反比例強化の二つの力に、必殺の極限強化。その三つをもって無限に等しい強化を行うフィガロ。
百万の毒を持つ鼠を、自らが死なない限りほぼ永続的に生み出し、なおかつ
そんな二人の初手は、ほぼ同時だった。
ウェーザーとフィガロは闘技場で向かい合い、そして即座に行動に移る。
二人は
その動きに、レイは違和感を覚える。
(召喚前に殺される危険があるウェーザーさんが距離を取るのは解る。でも、どうしてフィガロさんが距離を取るんだ?)
そして、その疑問はすぐに解消されることとなる。
ウェーザーは鼠を生み出し、その鼠が更に鼠を呼び出す。一呼吸の合間にその総数は十万を越え、ウェーザーは鼠の中に姿を消した。
そしてそれに対しフィガロは装備を変更、下半身の袴と右手の剣のみにする。
その剣から――いきなり
それは初手で放った故、フィガロの全力、
しかし、ある程度の熱量があれば一瞬で死ぬ鼠が相手ならば、それで十分消し飛ばせる。
さらに炎の波を出す斧や風の刃を飛ばす刀、雷を大地に走らせる鎚などで広範囲攻撃を次々行う。
鼠が近づく間どころか再誕が間に合わないレベルで消し飛ばし、一瞬で鼠は1%、すなわち一万匹を残すばかりとなった。
そのまま鼠ごと隠れたウェーザーを消し飛ばす為の連撃を放つフィガロに対し、
フィガロは咄嗟に武器で防ぐが、即座に笛での連撃が飛来する。ステータスの補正が大きい装備に切り替えるが、それでもなお押し込まれる。
そう、
本来<エンブリオ>のステータス補正が皆無に近く、将軍というステータスが上がりづらいジョブに就いているウェーザーにはできるはずがない攻撃。
その種は、【獣将軍】の持つ《獣心憑依》、レベルEXの効果にある。
その効果は「従属キャパシティ内の
それこそが将軍の中でも異端と呼ばれる理由。配下の魔獣よりも自らの方が強く、配下が死ねば死ぬほど弱体化する。
配下を率い圧殺する広域制圧型の将軍が、配下を危険にさらせないという矛盾。
無論他の将軍と同様純粋な数の力を発揮することは可能だが、そうしないほうが圧倒的に強い。
最大の力を発揮しようとするのならば配下を危険のない場所まで下がらせ、単騎で当たるのが最善となる。
最初にこのジョブについて知った<マスター>には、「軍を率いるより単騎で戦う方が強い将軍ってラノベキャラかよ」と言われさえした頭の悪いジョブである。
本来この職業は、【獣王】程ではないが小さな従属キャパシティではなく、パーティとして支配下に置いたモンスターの一割を足して自らを強化するのが基本となる。
そしてガードナー獣戦士理論と同様に、強力なガードナーを入れればその五割が足されたステータスを発揮できる。が、この超級職は【獣王】と違いプレイヤーにはほぼ人気がなかった。
仮に獣王と同じ様な超高ステータスを持つガーディアンをこの枠に当てはめたとしよう。
それで足されるのは五割。同等のステータス特化型<超級エンブリオ>でさえ二体必要な計算となる。
半分でも四体。十分の一、数万のステータスでさえ二十体は必要だ。神話級モンスターに近いステータスが二十体。<超級>でさえ得られるかは微妙なレギオンだろう。
故に微妙なスキル。ティアンだけの頃は【獣王】よりは評価されたが、<マスター>の時代になってからは評価が逆転した稀有な例。
ここで、さらに数を広げて考えてみよう。
百分の一、数千のステータスならば二百体。とある<エンブリオ>の超級時の出力を考えれば、現実的な数値である。
千分の一、数百のステータスならば二千体。余裕がありそうな数値だ。
そしてウェーザーのレギオンのステータスはすべてぴったり十。数は百万体となる。
すなわち最大値は
超級職と<超級エンブリオ>のシナジーによる、異常としか言えない強化。
無限にすらも勝利し得る、まさに
そのシナジーを、フィガロもまたシナジーにより打ち破る。
武器を切り替え、射程延長と自動索敵攻撃を持つ【
数を増やし続ける鼠を絶え間なく鎖で狙い、超高熱を放ち容易くは受けられない剣でウェーザーを攻撃する。
当初は鼠の再誕速度の方が優れていた。それに伴うステータスの上昇に対し、フィガロもステータスを向上させしのぐ。しかしそれは、鼠への対応に割り振るリソースが欠如することを意味する。
絶え間ないお互いの強化の上昇。時間経過によって数値を上げるフィガロと、フィガロの手が弱まった隙をつき増加量を減少量より増やし、ステータスを更に引き上げるウェーザー。
リソースの喰い合いが起こり、戦闘時間が伸びていく。数分、数十分、そして――ついに一時間を超える。
気を利かせ、シュウが闘技場の時間設定を操作したことにより外からは数分の出来事だが、本人達からすれば上昇したAGIもあり数十時間にも感じる戦闘。
【獣将軍】のバフによる鼠への強化と、それをものともせずにブチ抜く強化された武具。
威力が十分に向上したグローリアαの《極竜光牙斬・終極》と、それを回避し、又上がったステにより一瞬耐えるウェーザー。
インフレの極致ともいえる争いは互いの能力を極限まで鍛え上げ、超級職であろうとかすっただけで死ぬ領域にまで引き上げる。
そのステータスは既に十万を優に超え、百万すらもいずれ超える。そう確信できる戦い。
そんな狂気的な強化に、先について行けなくなったのはウェーザーだった。
「ごふっ」
フィガロの剣の一撃をまともにくらい、吹っ飛んでいくウェーザー。
まだ限界値の五百万には遠く及ばないが、しかしこの結末は当然の現実。
その理由のまず一つに、能力特性の違いが存在する。
自身を自身の力で強化し、その数値に限界も低下もないフィガロとは違い、ウェーザーは造り出した鼠の数にステータスを依存し、なおかつ鼠の力は変わらない。
いくら鼠を地下に逃がし余波を避けさせ、上がった分の数値を自分に向けさせているとはいえ、限界が来るのは当然のこと。
そして二つ目。これが致命的だった。
そもそも【黒鼠笛 ラッテンフェンガー】の能力特性は増殖。それには鼠だけではなく、毒の増殖も含まれる。
通常スキルだけ見ても、二つのスキルが共に純粋な武器の性能強化に繋がっているフィガロとは違い、ウェーザーは今は必要のない毒という要素にもリソースを割り振っている。
それは決して否定されることではない。<エンブリオ>単体で見れば、数が多いが攻撃力に欠ける鼠に、攻撃能力を与える当然の選択。
自身から毒を生み出す訳では無いため、リソースも最低限で済む安く質の良い買い物。
しかしこの瞬間、純粋に強化値のみを競う勝負では、
或いは数にのみリソースを費やしていれば、その数は数千万にも達していたかもしれない。それだけいればフィガロでも半分も殺せなかったかもしれない。
しかしそれはあくまでifの話でしかなく、それ故にこの場での勝敗は覆らない。
「ありがとう。君もまた、素晴らしい強敵だった」
フィガロは鎖で更に鼠を減らしつつ、ウェーザーの真上に飛び上がる。
そして強敵への感謝と賛辞を胸に、極限に近く強化された剣を振るう。
本家本元の《
闘技場の地面に底が見えないほどの穴を開け、決闘の終了によって全てが元に戻る。
今再びの<超級激突>は、決闘王者、フィガロの勝利で幕を下ろした。
◇◇◇
「いやあさすがに闘技場で王者に勝とうとするのは無理があったか。強かったよ。さすがは王国最強」
「いや、初手で数を減らしていなかったらあぶなかったよ」
決闘が終わった後、二人の<超級>はお互いの健闘を讃えあっていた。
俗に、勝負は天の運、地の利、人の技と言う事がある。元となった言葉とは離れてしまった、曲解された言葉ではあるが、間違いではない。
技自体は互角だった。使える技に限りがあったとはいえ、それは双方同じこと。リソースの差があったとはいえ、それだけならばまだ可能性はあった。
故に
闘技場の王者の面目躍如という他ない。
『いやーまったくいい試合だったクマ。ところでこれで二連敗だって自覚あるか?』
「やっぱお前とは決着を付けないといけないようだな。ちょっと待ってろ。流石に遠慮していたがそこのルーキー相手にステータスの暴力で勝つから、その後お前な」
『ルーキー相手に全力とか恥ずかしくないクマ?』
「大丈夫、まだ伏せ札はあるから全力じゃない。本気ではあるが」
全力ではなくとも容赦なくルーキーを殺戮しようとする<超級>がここにいた。
その後も闘技場で闘いは続き、勝ったり負けたりを繰り返す。
<超級>三人の乱戦や、
その際の勝敗は……ここでは語らないでおこう。
ちなみに。
ルーク・ホームズは最初から最後まで自身のガードナーの膝の上で泡を吹いていた、ということだけは最後に語っておく。
To be continued
ルーク君好きに嫌われそう(小並感)
でも鼠モチーフならやるしかないかなって思ったんや
・【
基本的にはスキルで潜水能力などの耐性や状態異常を与える攻撃能力(簡単に言うと炎のパンチ、氷の牙みたいなの)を与える。純ステアップ系はそれほど効率が良くない
魔獣製作・召喚能力はなく、地道にテイムするか特典武具や今なら<エンブリオ>での召喚・生成が必要。
それだけなら微妙な性能だが真っ当な広域制圧型だったのが、困ったことに一番性能を発揮できるスタイルが個人戦闘型となってしまう。
全部《獣心憑依》レベルEXが悪い。
「個々が結局強くない」という弱点は実は奥義によって改善できるが、それをやると本当に個人戦闘型になる本当に残念な仕様である。
・全ステ最大値五百万について
我ながらクソだと思う。
ただし依存先が鼠なので現状の手札では広域殲滅型には割と弱く、通常値がカスなので奇襲されると心底マズイ。
逆に相手の索敵範囲外で鼠を作っておけば、数キロ先からでも一瞬でブチ殺せる。
また地下に鼠を逃がせるので多少は広域殲滅型にも対抗できるが、地下しかないのと索敵範囲の広さも相まって【地神】は結構天敵。
奥義を先出し出来ればワンチャンある。
この十分の一にしようかとも思ったが百万のわかりやすさには勝てなかった。
感想お待ちしております
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