死に場所を探して (change)
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いいえ既に変人です

50連目までのガチャ→イア!イア!→ラスボス系ヒロインの礼装イマジナリー&虚数×3と疑似本人&アタランテ。(槍ニキ、子ギル)
80連目までのガチャ→イアァ!イアァァ!→シバの女王&エミヤ(4体目)

エミヤ、お前じゃないんだ。桜、私先輩じゃない。
あれ?これセイレムピックアップじゃなくて、冬木ピックアップだったのか・・・?


俺には何の特徴も無かった。俺にしか出来ないこととか、誇れるものも、努力しようと思うことも無かった。

毎日が、退屈だった。

小学生の頃、貴方の夢についてという課題があり、俺はその時、自分の明確な目標やら夢やらが全く浮かばなかった。何をやっても無駄で無意味な俺が何かを成してもそこに意味は無く、成す事もない。だから俺は、その課題で夢を見つけることが今の俺の目標です。と言った。先生はそれでも工夫された良いスピーチだったと評価してくれて、家で親にも良かったね。と誉めてもらえた。

 

でも、夢が無いという事に、誰も心配はしてくれなかった。

 

だから俺は親に聞いた。夢は持っていないといけないものなのか?と。

 

難しいことを聞くね~?何?何かあったの?・・・もしかして虐めとか受けてるの?ちゃんとそういうことは言ってよ?

 

違う。虐めなんかじゃない。そう言おうとしたけれど、親は言いたいことを言い終えるとすぐさま離れていった。その後にもそれとなく、迷惑にならないように自然に、先程のように疑われないように聞いた。しかし、返って来るのは全て似たような、全く分からないという内容であった。

 

人生はまだ長いんだから大丈夫。

――何が大丈夫だ。

夢はいつか出来る。

――いつかとはいつだ。

 

親へ質問してもこれ以上は無駄だと判断した俺は、それから先、ずっと疑問を持って過ごした。

 

そして中学生となり、道徳の授業で夢とは生きる活力だ。と習った。その時俺は、そっか。と納得した。

俺のような夢を持てない存在が生きてても無駄なんだ、と。

 

俺は努力するのが嫌いだった。成果を上げる為に頑張ろうという姿勢が嫌いだった。努力をしても俺が何かを成したことは無く、してもしなくても結果が変わらなかったから。

小学生の頃転校した親友が自殺をした。原因は虐めだった。俺はそんな事を知らずに悠々と生きていた。それを知った時、俺は悲しいと感じられなかった。あ、そうなんだ、位のことに感じられた。どうでもいいと思ってしまった。俺に出来たことはあっても、どうせ結果は変わらなかった。そう思った。

 

夢を持てず、努力を嫌い、生きることがどうでも良くなってきた俺は、自分の死ぬ所を想像した。すると、驚く程にそのイメージは湧いて出てきた。

 

夢とは違ってすぐさま想像出来て、沢山思い付ける。いつからか俺は自分の自殺するイメージを考えることが楽しくなってきた。

 

中学生の道徳の授業で、今度は命の大切さなどを習ったが、少し疑問に思うことが出来た。

 

貴方の命は貴方だけのものでは無い。

自殺は周りを大いに悲しませるから絶対にいけない。

 

命が自分以外の人の物でもあるということは、つまりは自分勝手に動けないということになる。元は自分の命の筈なのに、何故赤の他人の事を考えて命を捨てることなどが咎められなければいけないのだろうか?

自殺も同様だ。周りを悲しませるというが、それは死んだ者に悲しんでいるのでは無く、自分の価値を見てくれる人が消えたから悲しんでいるのだ。要するに、自分をもう見てくれないというエゴで悲しんでいる。少し見てくれたことで身勝手な喜びを覚えた癖に、悲しむ理由は死んだ者に押し付ける。何故自殺したんだ、何故相談しなかった、と。

 

人間は、綺麗でいたい、他人に良いように思われたい。きっと誰もが心の底でそう思っている。こんな事を思っている俺にも、そういった部分は勿論ある。

誰もが仮面を被って、偽って、自らのエゴを優先しようとする。他人の為というのも、他人を助けて自分が良いように思われたいからというのが多い。

 

世界は欲で満ちている。俺達人は、苦痛となるものをとことん嫌う。人は欲に忠実だ。俺達人は、人では無く人の欲を信用出来る。

 

欲に忠実になることが人生を楽しむコツだ。と誰かから聞いたことがあったが、成る程、確かにそうだ。欲に忠実になれば人から理解もされやすい。

 

なら俺は、人生を楽しむ為に自殺しよう。

 

そして俺は高校生となり、死について考えた。

死とは人生の先、あらゆる生命の先にあるものだ。それは回避することなど出来ない。偶に死が自分からやって来ることもある。ニュースを見れば高確率で死人が出ているこの世界において、死というものは真に恐ろしいものなのだろう。何故ならば、本当の恐ろしさを当人以外が実感出来ないからだ。

 

A君が死んでも、B君に死ぬ本当の直前、助からない死の直前に感じたことやどんな気分かを伝えられないのだ。だからこそ、生者が真の意味で死を理解、恐怖することは出来ない。人間が普段冷静に生きているのも、本能が死を知らないからだ。死ぬ場面に陥った時、初めて人の本能は死という未知を認識する。生物は未知へと遭遇すると、真っ先に来るのは恐怖と興味という感情なのだ。

 

長々と語ったが、要するに死とはいつまでも未知なる恐怖だということだ。そして、興味の対象でもあるということ。人間は興味を持ったものを持っている知識を使って何とか知ろうとするものだ。それは俺も例外ではない。

 

死ぬことについては考えていても無駄だ。実際に死ぬしか無い。生きることに、もはや何の興味も無い。

自分の夢、死の理解を果たす為、俺は首を吊って自殺した。首の骨が折れる痛みと、窒息の苦しみ、暴れる本能を抑える理性の戦い。

正に地獄だった。

俺は地獄とは死んでから味わうものだと思っていたが、どうやら違ったらしい。激しい激痛と苦しみはきっと死ぬ前提に良くあるのだろう。しかし自殺は違う。自分で自分を殺すのだ。嫌がる本能を理性で抑えるというのはどんな痛みにも勝る。

 

しばらくして俺は地獄巡りを終え意識を失った。次に目が覚めることも、考えることも無いのかという興味を持って現世を去った。

 

そして、現在に至る。

周りは暗闇、体もない。意識だけがそこにある。唯一特徴があるとすれば枯れた大樹があるということだ。

記憶は残っているが、移動も出来ず、精神に負担が掛かっていく感覚を覚える。どうやら精神体というものにでもなったのだろう。取りあえずは出来ること。具体的には大樹の観察をしてみた。

 

風は感じられない。にもかかわらずその大樹の枯れ枝は触手のように蠢いている。

耳を済ましてみれば、山羊のような声が聞こえて来る。

 

流石は死後の世界。常識が存在していないと見た。まるで夢のような不思議な世界だ。最も、本当に夢でなければ良いのだが。

 

ジーッと大樹を観察していると、大樹は触手のような枯れ枝を使い、俺の視点の場所までソレを伸ばしてきた。

 

――○▼※△☆▲※◎★●!

 

枯れ枝から聞こえて来た悲鳴のようにも雄叫びのようにも聞こえる悍ましい声と人間には到底理解しえないだろう言語に、精神体となった俺はあまりの恐ろしさに狂気に染まりかけた。

 

――○イソザ□★ミツ▼タ

 

――ワガ△ンズ※◆ヤド◎

 

――キュ●キョク▼モン■バンニン☆サガ○ダセ

 

狂気に染まりかけたことで精神が狂ったのだろうか?大樹が何か伝えようと喋っているような気がする。いや、ここは最早常識など無かったか。木が喋った所で何の問題も無い。木が喋るのも、枯れ枝が生物のように蠢くのも普通なのだろう。

 

俺が一人納得していると、大樹は蛇のように蠢く全ての枯れ枝を使いドームを形成して俺の視界を覆った。その後、覆われた俺は枯れ枝から運ばれてくる肉塊に埋もれていった。死んでから呼吸が必要なくなったが、流石に肉塊に埋もれるのは気味が悪い。早々に終わってくれと願った。しかし、しばらく時間が掛かる気がした俺は、またもや思考することにした。

 

この肉塊はどこから出てきたのか。そして誰の肉塊なのか。

 

1つ目の疑問は、まぁ今まで通り意味不明な事の起きるこの空間においては普通のことなのかも知れない。もしくはあの大樹に内蔵されていたとも考えられる。

問題は2つ目、正直見覚えしかない。これでも十数年も使っていたのだ、いくら肉塊になろうと、この黒子や傷、自殺前に付いた首の引っ掻き傷は全て俺のだ。つまり、俺の死体だ。

 

この怪物大樹は、俺の体を復元しようとしているのか?

 

だとしたら凄い経験が出来そうだ。地獄で肉体が蘇る。肉塊になった自分の体が綺麗に元通り、などめったに体験出来ることじゃない。拙いな、肉塊に埋もれてワクワクするとか変人になっている気がする。

 

――デキ△

 

頭が肉人形に付くと、枯れ枝が形成していたドームは解かれ、俺はもしやと思い体を動かす感覚を手足に伝えると・・・・・・

 

 

スタッ

 

 

 

 

コイツ・・・・・・動くぞ!

 

凄い!こんなのは初めてだ!いや、本当に死んで良かった!肉体に精神体が戻った時のこの何とも言えない感覚は一生忘れない!一生はもう終えたけれども!

 

「えっと、アナタの御名前を聞いても宜しいですか?」

 

肉体が戻ったからやっと会話が出来る。質問したいことは山積みだ。取り敢えずは名前があるのか聞いてみよう。

 

――シュブ=ニグラス

 

やっと大樹が何と言ってるのか理解出来始めた。いや、逆にシュブ=ニグラスが俺の言語を理解したのかもしれないが。

 

俺はシュブ=ニグラスという名前を覚え、次の質問をしようとした。が、先に口(口などないが)を開いたのはシュブ=ニグラスだった。

 

――ヨウケンハスンダ、オクルゾ

 

「何を送るんですか?」

 

――オマエダ、ワガシンズイノウツシミヨ

 

「・・・・・・はい?」

 

何故だろう唐突に嫌な予感がしてきた。神髄って何?俺はまだ何も習ってないし覚えても無駄だよ?無意味だよ?何かお使い的なの頼まれても絶対それ俺適任じゃないですよ?本当ですよ?

 

――キュウキョクノモンノバンニンヲミツケ、カクセイサセヨ

 

「え、窮極の――」

 

門って何?と言おうとしたが、瞬きをした瞬間に空から落下していた。え?空中紐無しバンジーさせる為にあのシュブニ様は俺の肉体戻したの?このままだと落下してまた肉塊リターンだよ?何かあるよね?もう地上目の前だけど。

 

「あ゛ぁぁぁ、お゛ぉれ゛ぇし゛ぃぃんんだぁぁぁぁ」

 

風圧で凄いことになっているだろう俺の顔面。サヨウナラ、次の瞬間には真っ赤なメイクがされてるだろうさ。

 

などとふざけて現実から目を背けていたが、もう地面はすぐそこだ。衝撃と痛みに身が引き締まる。何とか体制を整え、着地しようとするが、最高でも骨折だろう。

 

「そぉぉぉこぉぉぉのこぉぉぉ!!どぉぉぉいぃぃぃてぇぇぇ!!」

「え?!」

 

目の前に散歩していた金髪の女の子に注意を促し、俺は再び、ダイナミックに現世へと戻った。・・・足が折れてないのが不思議だけど、足が・・・痺れて・・・痛い!




ん?前半と後半で同じ主人公だとは思えない・・・・・・?きっとテンションが上がりに上がったからだよ。


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親方!空から男の人が!

アビーは女の子と言うべきか、幼女と言うべきか。
さて、セイレムのシナリオを忘れかけてきたのでどこか可笑しな所があったら御指摘頂けると幸いです。

まだアビーが・・・引けない・・・。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

・・・誰か、この空気を・・・壊してくれ。

 

現在俺は謎の新天地にダイナミックに降り立ち、目を丸くして口を開けているかなり可愛らしい金髪の女の子と海岸沿いで出会った。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・!」

 

しばらくどう話しかけるか迷ったが、黒いコートを着た知らない男の人が突然空から目の前に降って来て、どう納得のいく説明が出来るだろうか?貴女を盗みに来ました。など通じないのが現実だ。くっ、某泥棒3世のように空中水泳が出来ていればもしかしたら出来たかもしれなかったのに!

 

「・・・えーっと、その、何だ?驚かせてごめんね」

「魔女・・・魔女なのっ!?」

 

取り敢えず場の空気を対話に持っていこうとしたらバッサリ切り落とされた。あー、まぁこの位の年の女の子なら魔法とかそういったファンタジーに興味深々な頃合いかな?ふむ、ならそういった感じで話しを進めていこう。・・・でも何でそんな怖がって・・・いや、知らない男の人が空から降って来たら怖過ぎるか。

 

「魔女じゃないよ、お兄さんは魔法は使えないし、精々出来るのは思考すること位だよ」

「・・・嘘よ、じゃあどうやって空から降って来たの?」

 

あ、あれれ~?信用zeroだぞ~?そして痛い所を・・・。空から降って来た理由か・・・。何か現実味のあるものとか面白くこの場を誤魔化せるの無かったかな・・・?

 

「うーん・・・。あ!自転車で空を飛ぼうとしたんだ。こう、プロペラと羽を付けてブーンと」

「じてん・・・しゃ?何かしらそれ?」

 

よし、食いついた。

 

「あれ?自転車って知らない?こうタイヤが2つあってペダルを足で漕ぐことで前に進むんだ。それで空も飛んでみようと思ってね」

「・・・まぁ、凄いわ。それで、その自転車はどこなの?」

「それが此処に来る途中に空で大破しちゃったんだ。それで自転車は海に・・・お兄さんは此処に落ちて来たってわけ」

 

上手くいった!上手くいったぞ!女の子の顔もさっきとは違って朗らかな表情だ。よし、取り敢えず俺が事故でここに来たと信じてもらえたら、次に名前を聞こう。そうすることで自然な流れで道案内も頼める可能性がある。

 

「そう、大変だったのね?足は大丈夫なの?凄い勢いで空から落ちて来たようにも見えたけれど?」

「ん?あぁ、大丈夫だよ、お兄さんの体は頑丈みたいだから。良ければ君の御名前を聞いても良いかな?」

「えぇ、アビゲイル・ウィリアムズ。どうぞアビーと呼んで下さいな。」

 

よし覚えた、アビーの笑顔は凄い力でした。う、こんな純粋な女の子を騙していることへの罪悪感が俺を襲う・・・・・・

 

「そうか、じゃあアビー、ここらに地図などは無いかい?お兄さんはこれから少しこの町を見て行こうと思うんだけど?」

「なら私がセイレムを案内するわ。是非セイレムを見て行って!」

 

計画通り!いや~罪悪感で心が痛いなぁ・・・硝子のハートが砕け散りそうだ。にしても、セイレム・・・か。ん?あれ、アビゲイルって確か・・・。

 

いやまさかな。

 

俺はセイレムの町をアビゲイルに案内して貰った。その途中で様々な人を見かけたが、全員が全員俺を怪しむような目で見て陰口を言っていた。

 

――こんな町に何のようだ・・・・・・

――あんな黒いコートを着ているだなんてまるで魔女だわ!

――あれはカーターさんの所の子かい?知らない男について行くなと言われてただろうに・・・・・・

 

えぇぇ・・・何か予想以上に暗いんですけど・・・・・・。まぁでも、これでようやく確信出来た。

きっとここは1692年付近のセイレムだろう。セイレム魔女裁判という大事件が起きた町だと記憶している。魔女を恐れていたピューリタンという宗教団体。まだ少し幼い女の子であるアビゲイル、集団心理の暴走の例として引用されることが多かったからその内容は良く覚えている。いるのだが・・・・・・。

 

本当にこんな素直そうで優しい子供が事件を起こすのか?

 

「あら?どうしたの旅人のお兄さん?何か気になることでもあったのかしら?」

 

んー、あるけれども・・・・・・。

 

「・・・・・・いや、何でもないよ。それよりどこか働ける場所はあるかな?少しここの環境にも触れてみたいんだ。」

「あら、そうなのね。なら私より叔父様に聞いた方が良いかも知れないわ。」

 

叔父様の所に向かう小6か中1ぐらいの女の子と男子高校生・・・・・・凄い怪しいな。正直これ以上セイレムでアビゲイルと深く接触することは危険かも知れない。何でも出来そうなシュブニ様の探しものを探す時点で危険な気もするのに、アビゲイルと深く関わって魔女裁判に出なくてはいけなくなるなど絶対に回避しなければ。もう死の理解は十分出来たからわざわざ何の目的も無く同じ首吊りで死ぬのだけは嫌だ。せめて獄死とか圧死で、興味の為に死にたい。・・・・・・いや、圧死は嫌だな、首吊りより痛そうだ。もしそうなったら獄死でお願いしよう。

 

アビゲイルに手を引かれ、あっちへこっちへ歩いていくと、今まで見てきた村の家より格段に立派な家が建っていた。どうやらここにアビゲイルの叔父様、確かカーターさん?が居るのだろう。

 

「叔父様、旅の御方を連れて来たわ。この町の仕事をしてみたいって言ってるのだけれど、良い仕事は無いかしら?」

 

アビゲイルが一人で扉の奥に入っていき、待っている俺は扉の外で少し聞き耳を立てていた。昔の家だから防音機能が全く無いようだ。頑張ってアビゲイルとカーターさんの話がどうなっているのか聞こうとした。

 

「アビゲイル、私は知らない人を連れて来てはいけないと言った筈だ。」

 

ん?聞き覚えのある声だ・・・。何度か聞いたような気もする。

 

「そう・・・だけれど、困っている様子だったから・・・・・・」

「・・・分かった。今回は見逃す。罰は無しだ。次からは気をつけなさい。それじゃあ旅の御方を連れて来なさい。少し叔父様はその人とお話するから、アビゲイルは席を外しなさい。」

 

俺がカーターさんの声に不思議な感覚を持っていると、アビゲイルが扉を開けて叔父様が話しがあると伝えに来た。姪に何かしてないな?など言われるのだろうか・・・・・・。あぁ、緊張してきた。

 

「・・・失礼します。」

「初めまして、私はランドルフ・カーターだ。宜しく。」

 

す、すす・・・・・・杉田ァァ!?

 

「えぇ・・・宜しくお願いします。」

 

拙い、謎過ぎる!何故杉田が此処に!?まさか自力で出演を!?

く、落ち着け、彼は杉田では無い・・・・・・。

 

「それで、君は仕事を探していると言ったが、どのような仕事を探しているんだい?」

「はい、実は今、無一文でして、どこかで稼ぎたいんです。食費分稼げる誰でも出来る仕事はどこかにありませんか?」

 

そう言うとカーターさんは考える素振りを見せ、すまないと言うと提案を出してきた。

 

「君はまだ此処に来たばかりなのだろう?この村は貧しく、常に緊迫した雰囲気だ。君のような旅人がわざわざこのような村に来たということで既に村に住む者達は君のことを疑念の眼差しで見ているだろう。この私も、ね。」

「・・・・・・」

「だが君は帰る賃金も無いのだろう?本当は帰る分の賃金を渡して帰らせるだろうが、私も貧しくてね。ただでは渡せない。もし良ければ――」

 

 

 

 

「旅人さん、仕事は見つかったかしら・・・・・・」

 

私は今森の奥に居る。誰にも言っていない秘密の場所だ。最近は此処で祈りを捧げたり、空を眺めていたりする。

 

「叔父様ならきっと仕事を見つけて下さるでしょうけれど、やっぱり少し心配だわ・・・」

 

私は今日会ったばかりの旅人さんが心配だった。仕事を探していたけれど、わざわざこんな村で働いてみたいだなんて変わった方だと思った。何か理由があるのだろうけれど・・・・・・。

 

「・・・・・・そう言えば、あの方はどこから来たのかしら?自転・・・車?という物に乗って来たと言っていたけれど、海を渡ったということは、このセイレムの外から来たのよね。」

 

私はこのセイレムの外にとても興味があった。外の世界がどうなっているのか知りたいし、行ってみたいと思っている。ティテュバにも外の世界のお話などを聞いたけれど、どれも楽しそうな話だった。

 

「フフッ、もしまた会えたら聞いてみようかしら。」

 

どんな話をしてくれるのか、考えただけで楽しみだ。私は暗くならない内に森を出て叔父様の家へと帰り、ティテュバの作ったお食事を3人で食べようとしていた。

 

「あら、お嬢様、お口にシチューが付いていますわ。今拭きますね。」

「すまない。それを取ってもらえるかい?」

「これですね?はい、どうぞ。」

「ん、ありがとうティテュバ!・・・あれ、4人?・・・て何で旅人さんがっ!?」

 

あ…ありのまま今起こった事を話します。私はいつも通り家に帰ってティテュバと叔父様の3人で会話しながら食事をしようと思ったら、いつのまにか4人になっていた。何を言っているのかわからないと思いますが、私も何があったのかわかりませんでした…頭がどうにかなってしまったのかと思いました…催眠術だとか幻覚だとか、そんなものでは断じてありません。もっと恐ろしいものの片鱗を味わいましたわ・・・・・・。

 

「アビゲイル、今日から彼もここの使用人だ。改めて挨拶をしておきなさい。」

「改めて、宜しくお願いします。アビゲイルお嬢様。」

「・・・えぇ・・・宜し・・・く・・・・・・その、何で使用人に・・・?仕事は・・・?」

「はい、これが仕事です。」

 

お、落ち着くのよ(アビゲイル)。つまりあの厳格なカーター叔父様が人を新たに家に雇ったのよ。家族が一人増えたのよ。でもティテュバの時は私の我が儘で仕方がないって感じだったけれど何故旅人さんは使用人になれたの・・・・・・?うぅ、考えても考えても頭がぐるぐるするだけだわ。もう考えるのは止めましょう・・・・・・。

 

「旅人さんは凄い方でしたよお嬢様。私がシチューの工程で失敗しても、彼はその失敗を物ともせずに作ろうとしていたシチューを見事に成功させまして・・・・・・」

「凄くないですよ。まぁ簡単なミスでしたし、私じゃなくてもあんなのは誰でも出来ましたよ。」

 

ん?ということはこのシチューは旅人さんとティテュバが作ったのかしら?てっきりティテュバだけで作ったのかと思っていたわ・・・・・・。

 

「旅人さんは人のお手伝いが得意なのね。」

「そんなまさか、私に出来るのは何かを無意味なものにすることぐらいで、今回は偶然ティテュバさんの失敗を無意味なものに出来ただけですよ。」

 

旅人さんは困ったような顔で少し笑いながら否定するが、私はそうは思わない。旅人さんは凄い人なのよ!

 

「それでも凄いわよ!ね、ティテュバ!叔父様!」

「フフ、えぇ、そうですね。」

「あぁ、そうだな。」

 

今日のカーター家の食事は普段より賑やかだった。こんな生活が、ずっと続けば良いな・・・・・・。




さて、何故アビーと深く接触しないようにと考えていた主人公が使用人になったのか・・・・・・。次回に持ってこれるかな?

因みにこのティテュバは1代目でシバの女王では無いです。つまりこのセイレムの舞台はカルデアの来る前で初期のティテュバが死ぬ前のセイレム。


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さす叔父

1話から凄い勢いで低下していく文章力。あ、1話から低いままだった。

注意:この小説のヒロインは1代目ティテュバではありません。どのような展開があっても1代目ティテュバがヒロインになることはあ り ま せ ん。

誤字報告ありがとうございました。修正しましたがまだ可笑しかったら申し訳御座いません。


セイレム滞在2日目、俺はカーター家の使用人となり、ティテュバさんの指導を受けながら言われた仕事をこなしていた。

カーターさんに家で働かないかと聞かれた時は本当に焦った。アビーと深い関わりを持つことや村人の注目を更に集めるだろうことが確定するからだ。

村人は信頼を築いていければ良いが、問題はアビーだ。

 

アビーと関わりを持つということは、魔女裁判でティテュバさんのように疑われる可能性が大だということ。

 

ラッキーなことに俺は人種差別の対象を持っていない。が、何がどうなるかわからない。魔女裁判などという事件に常識や想定は通用しないだろう。何せ狂気的な裁判だ。そこに正しいことや平等、論理などは絶対に無いだろう。

 

故に断って違う仕事を探そうとした。が、そこでカーターさんは取って置きの約束を持ち出して来てくれた。

 

――君が使用人になってくれたら君の望むことの手伝いをしよう。何、少しばかり困っていそうだったと姪から聞いてね。

 

これに俺は了承することを選択した。そもそも俺はセイレム生活が目標ではなく、シュブニ様の望みを果たすことが目的なのだ。あんな人体の完全蘇生が出来る頂上の存在が探すものとなると、俺はそれが何なのか死んででも見つけだしてみたいのだ。

 

「にしてもティテュバさんって割とまともで親切な人だったなぁ・・・・・・。史実ではとんでもない悪役姿で描かれていたけれど。」

 

俺が知っていたティテュバという人物はTHE魔女という感じの絵であったのだが、どうやらそれも違うらしい。アビーが優しいのと同じでなかなか想像していた人物像と噛み合わない。

 

「・・・・・・あの人も死ぬのか。望まずに。」

 

魔女裁判を止めることは出来ない。何故なら既に歴史で決定されているものだからだ。俺一人が何を言っても無駄なのだ。一度死んだとしても俺の在り方はここにくる前と変わらない。俺は無意味で無価値、何も成し得ないのだ。

 

何をしても結果が変わることは無い。全ては決まっていること、必然なのだ。偶然なんてない。俺が何かをしなくても誰かがするし、誰かがしなくても俺がした結果と変わらない。あぁ、本当に無意味。

 

そう言えば見ていたアニメの一つで起源は印だとか方向性だとか言っていた気がする。俺はそれで例えるなら無意味なのだろうか。死んで生き返っても無意味な存在なのは変わらないし。

 

「面白いな、仮に起源というものが有ったとして、俺の起源は何か・・・・・・。これは良い課題だ。もし無意味でなければ何なのか・・・・・・いや、考えても無駄だろうけれど。」

 

どう考えても無意味なのだが、まぁこの殺伐としたセイレムでの娯楽程度にはなるだろう。暇な時に考えるとしよう。今は買い出し中だ、早く村に溶け込む為に彼らのルールや欲を理解しなければ。

 

「すみません。パンを4つ下さいますか?」

「・・・・・・金はあるのか?」

「はい、これで足りますか?」

「・・・足りないな。」

 

え?いや、そんなはずは・・・・・・。確かにカーターさんから代金を預かっている。ここの所物価が上がっているのはいつものことらしいが、それを踏まえて多めに預かった。急に値段が大きく上がることは今まで無かったと、ティテュバさんの付けていた家計簿を見ても明らかだった。

となると、フィクションでしか見たことは無いが、カーターさんの言う通り俺は今嫌われているから買わせてくれないのだろうか。金があるならさっさと帰れということだろう。

しかし、ここで帰ってしまうと使用人として見切りを付けられてしまうかもしれない。初めての御使いもこなせない使用人など役に経つ筈もない。

 

「すみません、では4つでいくらになりますでしょうか?使用人である私がカーター様(・・・・・)からお預かりになった金額はこれが全てでして・・・・・・。」

「・・・気のせいだった。持っていけ。」

 

俺は少し大声で周りの人の耳にも届くよう目の前の30才位の男性に言った。ティテュバさんから聞いた話だと、カーターさんの立場はこのセイレムで高い地位にあるそうだ。何でも、相談したらちゃんと意見を返してくれたり、作物を育てる上でかなり貢献したため、人々の信頼や好感はかなり高いとも。だから俺は、村人のカーターさんへの欲を利用した。大声でカーターさんから預かった代金でパンを買いに来たと言えば、周りの人間はカーターさんの存在が俺の背後にあると認識し、俺を通してカーターさんに意地悪をしたら嫌われるかもという不安感を煽った。ここに住む人々は、誰かに認められたい、もしくは知恵ある誰かに全てを委ねてしまいたいという欲が強い傾向にあるのだろう。どちらも良くあるものだ。

 

俺はパンを4つ貰い、ありがとうございます。と言ってその場を後にする。俺が通ろうとすると、先程の騒動を見ていた村人達はまるでモーゼに割られた海のように道を開けた。あー、少し不安感を刺激しすぎて警戒されたか・・・・・・?たぶんだが、コイツ、カーターさんの使用人だからと調子乗りやがって。とか思われてそうな・・・・・・。

 

「・・・・・・ちょっと予想以上に面倒だな。旅人ってだけでこの村での扱いは何をするにも障害になりそうだ。カーターさんの後ろ盾で表面上は良いけれど、内面での評価が上がらないと探しものを見つける前に魔女裁判に掛けられてしまうかもしれない・・・・・・。」

 

どれほどカーターさんへの欲が強くとも、死を目の前にしたら生存本能が生きたいという欲を優先させるだろう。もしそこで俺の評価が低ければ即OUTだ。ティテュバさん諸共あの世逝きだ。まぁ、その時は俺がティテュバさんに少しばかりあの空間での話をしてあげよう。いや、俺がしたいだけだが。

 

そうして俺は帰路についた。道中でアビーとティテュバさんがどこかに向かうのを見ながら、パンを持ってカーターさんの家に入る。

 

「すみません、遅くなってしまいましたか?」

「いや、大丈夫だ。寧ろ予想より早かったことに驚いたよ。ティテュバは黒人でこの村の生まれでも無かったから良く村人から嫌われていたんだ、それは今もね。だからパンを買うにもどこか怪我をしてきたりしていたよ。きっと村の人々が私に気付かれないように事故のように見せかけていたのだろう。ティテュバは事故ですから、と良く言っていたからね。」

「つまりカーター様は私に他所からやって来た者の扱いを実際に私に知って欲しかったのですか。」

「あぁ、そして詫びなければならない。怪我をするかもしれないと知った上で私は君に使いを頼んでしまった。」

 

カーターさんはそう言うと俺の方へ頭を下げてきた。流石に使用人に頭を下げる主人など見ていられるものでは無かったので、早々に頭を上げて欲しいと伝えた。

 

「私は特に気にしていませんよ。怪我もしてませんし。ほら、結果が大事なんですよ結果が。」

「・・・・・・そうか。だがそれでは私の気が済まない。何か聞きたいことは無いかな?」

 

終わり良ければ全て良し。結局俺は怪我しなかったのだから問題は無い。

だがこの際だ、少し質問しても良いだろう。

 

「アビゲイルの両親はどこに居るんですか?」

「・・・・・・そうか、アビゲイルの両親について聞いていなかったか。アビゲイルの両親は・・・どちらも、既に他界している。」

 

 

 

 

私ティテュバ、今とても拙い状況に陥っています。

 

「お嬢様!お嬢様!」

 

アビゲイルお嬢様が森で熱にうなされて倒れてしまいました。一緒に行こうとせがまれて同行していた私は即座に森を出ることにしたのですが、残念ながらこのティテュバ、森の構造に関しては全く分かっておらず、どっちの方角に御屋敷があるのか分からなくなり、かなりの時間を森で彷徨ってしまっていたのです。かれこれお嬢様が倒れてから2時間程経っています。6時位でしょうか、もう日も暮れてしまって霧の立ち込める森は暗くなる一方。噂ではこの森には夜に野生の狼などが出ると聞いていましたが、もういつ遭遇しても可笑しくは無いこの状況。一体どうすれば・・・・・・。

 

「うぅ・・・・・・ティテュ、バァ・・・」

「お嬢様、どうかお気を確かに・・・!本当に、どうすれば・・・!」

 

あぁ、焦りが止まらない。思考が働かない。どうしよう、どうしよう。あぁ、何で森の構造を把握していなかったの!何でアビーお嬢様を頼って私は一緒に森を探索していたの!馬鹿っ、馬鹿っ!私の大馬鹿者っ!

 

自分の行動を後悔し、それでもティテュバはアビゲイルを背負って森を進む。もう真っ暗だ。耳をすませば狼の遠吠えが聞こえる。

 

「誰か、誰かいませんか・・・!」

 

こんな時間に森に来る者など居るはずも無い。しかしどんなに小さな可能性でも今は縋りたいのだ。

 

「あ!痛っ、うぅ・・・!お嬢様・・・!?」

「・・・・・・」

「しっかりして下さい!お嬢様っ!」

 

地面から出ていた木の根に躓き、アビゲイルを背負ったティテュバは前に転倒する。転倒する直前、アビゲイルを背負っていた片手が無意識に離れ、咄嗟に倒れこむ前に手を付いた。が、片手で自分の全体重を支えられるように、ティテュバの腕は出来ておらず、捻挫による激しい痛みに襲われる。そして片手を離してしまったせいでアビゲイルはティテュバの背から落ち、バタリと地面に力無く倒れる。痛いとも呟かないアビゲイルの姿に、今まで不安で押し潰されそうだったティテュバはもしやと最悪の結果を想像する。

 

アビゲイルお嬢様が死んで・・・え?

 

そんなはずは無い。きっと気を失っているのだ。死んでなど・・・あるはずがない。

それでもティテュバは自分の想像したことが頭を過ぎる。もしかしたら、本当に・・・と。

 

「誰でも良い!誰か、誰か助けて下さい!お願いします!何でも、何でもしますから!誰か!助けて!!

「グルルルル・・・・・・」

 

ティテュバはありったけの声を張り上げて助けをこう。誰でも良いから助けてと叫んだ。そして、現れたのは狼、助けなどでは無かった。

現れた狼は1匹や2匹では無い。ざっと10匹は居る。どうやら腹を空かせていたようだ、ティテュバを囲う狼達が見せている歯茎からボタボタと唾液が地面へと落ちる度にティテュバはアビゲイルを守ろうと恐怖に怯え泣きながらも必死に力強く抱き締める。

 

あぁ、ここまでですか・・・・・・私の人生。お嬢様・・・ごめんなさい。私のせいで・・・・・・こんな・・・。

 

「アビゲイルお嬢様、本当に・・・申し訳、ございません・・・・・・。」

 

か細い声でガクガクと涙し震えながら懺悔するティテュバに狼は何の躊躇も無く襲いかかる。1匹、2匹と口を開いて吠えながら接近する。

 

「――っ!」

 

パァン!

 

次の瞬間に襲って来るだろう痛みにティテュバは体を縮こませ目を瞑る。が、何時まで経ってもその痛みが襲って来ない。薄く目を開けて何が起きたのか確認しようとすると、そこに居たのは先程までいた狼達では無く――

 

「アビゲイル!」

「2人共!大丈夫でしたか!?」

 

目の前の2人を確認した瞬間、ティテュバは安心から気を緩ませ、極度の疲労から意識を手放した。




次回はこの続きですかね。そろそろ魔女裁判開幕、としたいのですが・・・行けるかな?私の文章力で。


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汝は魔女!罪ありき!

死者1名。


アビゲイルの両親に関して話した俺とカーターさんは、いつまで経っても帰って来ないアビゲイルとティテュバさんを不信に思い、少し村人達にアビゲイルとティテュバを見ていないかと話しを聞いた。あっちで見た、あそこで見たと様々な証言が聞けたが、そのどれもが行き先は知らないという内容だった。俺はカーターさんに過去にもこの様な事はあったのかと聞くと、ここまで遅くは無かったと言う。しかしどうやらアビゲイルは1度は既に似たようなことをしており、帰って来た時にこっぴどく叱りつけたという。その時は森に行っていたらしい。

俺とカーターさんはこんな時間にまだ居るとは考えたく無いが一応森を探しに行こうという結論に至り、カーターさんは狼が出た時ように猟銃を持って行くことにした。残念ながら俺には猟銃を持って撃てる程筋力が無い為、カーターさんと共に常に離れないよう気を付けて森を探索した。

 

しばらく森を探索してもう他の所を探そうかと話していると、森の奥から助けを求めて叫ぶ声が聞こえた。間違い無くティテュバのものだと判断し、カーターさんと急いで声の発生源へ向かった。

 

どうにかティテュバとアビゲイルを見つけたが、事態はかなり危険な状況だった。狼の群れにカーターさんは迷わず空砲を撃ち撃退、後何秒か遅れていたらティテュバとアビゲイルは狼の群れに食われていたかもしれなかった。

 

「ティテュバさんは気を失ったみたいですね。極度の緊張から解放されたからでしょう。アビゲイルお嬢様は・・・・・・酷い熱ですね。森の探索中に熱で倒れ、そこでティテュバさんが森を出ようとしたのでしょうか・・・・・・」

「私がティテュバを連れて行こう。君は姪を頼む。」

 

俺よりカーターさんの方が力があるため、カーターさんはアビゲイルより体重のあるティテュバさんと肩を組んで先へ進む。俺は身長差がある為、アビゲイルをどう運ぶか悩んだが、人形を持っている為、落とさないようにお姫様抱っこで良いかと判断してカーターさんの後を追う。

 

夜の森を抜け安心していると、御屋敷に人だかりが出来ていることに気付いた。村に居る殆どの人達だ。牧師さんやパンを売っていた男も居る。

 

「どうかしましたか?」

「あぁ、カーターさん!この村に――」

「通して貰おう。」

 

カーターさんが何事かと思い、近くに居た女性に聞くと、話しを遮って髭を生やした黒服の男性がカーターさんの前に来た。立派な服装からしてセイレムの外から来たと推測出来る。男性はカーターさんを見てから横のティテュバさんを見てむっ、と顔をしかめる。

 

「その女性はどうしたのですか?どうやら気を失っているようですが・・・・・・」

「あぁ、先程姪と森で迷っていたようで、姪が森で病気になって心配になり、私とそこの彼が助けに行った所、安心したことで倒れてしまったようだ。」

 

彼、と言い此方を向くカーターさんを見て、男性も此方を見る。男性は先程よりかはマシだったが、ティテュバさんの時と同じで少し顔をしかめた。

 

「・・・・・・申し訳無いのですが、貴方の御名前を聞いても宜しいでしょうか。」

「あぁ、申し訳無い、名乗り遅れた。私はホプキンス。マシュー・ホプキンスです。マサチューセッツ州知事の命によってセイレムに主席判事として赴任してきました。」

 

まさか・・・もう、始まろうとしているのか。魔女裁判が開かれた理由は確か魔女のティテュバが女の子に魔術で呪いを掛けたと自白したことからだった筈・・・。

 

「この村に魔女が居るとの報告を受けたのですが・・・成る程、その女を引き取らせて貰おう。彼女には魔女の疑いがある。」

「・・・っ」

 

思わず息を呑んだ。セイレム魔女裁判が間違いなく始まろうとしている。ホプキンスの周りに居たジョン・スターンとメアリー・フィリップスという名の二人はティテュバを連れて何処かへと向かって行く。カーターさんはティテュバさんが魔女では無いと講義したが、では何故森でいきなりアビゲイルが倒れるような熱を出したのか、ティテュバさんが魔女では無いと証明出来る説明が出来るかと言われ、カーターさんは仕方無くティテュバさんの身柄を預けた。魔女では無いと分かれば解放されると思っているのだろうが、きっとティテュバさんはこの後拷問されて・・・・・・

 

「・・・・・・その、ティテュバさんはまだ体調が悪いと思われます。もう少し待ってくれませんか・・・・・・?」

「駄目だ。時間を与えれば証拠を隠蔽する可能性もある。魔女だった場合、死者が出るかもしれんが・・・君はそれで良いと?・・・・・・そういえば君もセイレムの外から来たようだな。君も魔女なんじゃないかね?」

 

ホプキンスがそう言うと、魔女という言葉に村人達は過剰に反応する。それまで怪しむ程度の目線だったものが、既に敵意を含む目線になっていた。

 

「いいえ、私は魔女ではありません。私はカーターさんに仕えるただの使用人です。」

「それは本当かね、カーター氏?」

「えぇ、彼はただの使用人です。」

 

カーターさんが少し強くそう言うと、ホプキンスはしばらく無言で此方を眺めるとそうかと言って俺に対しての話を止めて背を向ける。

 

「それでは彼女を連れて行く。魔女だったならば丘にて即時に絞首刑とする。以上だ。」

 

以上だ。と聞いて村人達は足早に自分達の住む家へと戻って行く。ホプキンスはティテュバさんを拘束しているジョンとメアリーを連れて暗い夜道を歩いて行った。闇夜に消えるティテュバさんの姿を見て、俺は少しだけ心がざわついた。

 

「・・・ティテュバはきっと大丈夫だ。彼女が魔女である筈が無い。今日はもう遅い、アビゲイルの看病は私に任せて早く寝なさい。良いね?」

「・・・・・・すみません。」

 

カーターさんは少し暗い表情の自分を見て優しい声音でそう言った。この後の結末を知っているからこそ俺は少し休みたいと思っていた。使用人なのに申し訳無いと思いながらも俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

――それは夢だった。

――何も無い空間に綺麗な宝石が3つ置いてあった。

――宝石はそれぞれ違った色をしていたが、内2つは混ざった色をしていた。

――あまりに綺麗な宝石を目にし、単色である青色の宝石に触れようと指先を伸ばした。

――しかし指先は宝石に触れる事は無く

――その宝石は、色を失い砕け散った。

――救えない。君には何も救えない。君は誰?そんな声が、聞こえた気がした。

 

「・・・・・・」

 

目が覚めた。もう一度眠りにつこうと思えなかった俺は、気分転換に屋敷を出る。まだ外は暗く、冷たい風が頬を撫で、霧によって視界が少し悪い。どうやら眠ってから時間はあまり経っていないらしい。アビゲイルを看病していたというカーターさんが屋敷で眠っていたのを見たから深夜だろうか。

 

「・・・・・・丘に、行ってみるか。」

 

ティテュバさんが連れて行かれた時、ホプキンスの言っていた絞首刑。それは魔女だと分かったら即座に丘でやると言っていた。俺はそれを思い出し、丘の方へと足を運ぶ。きっと結末は変わらないのだろうが、まだ死んでいないかもと思うだけで少し嬉しく感じられた。

 

俺は徒歩で屋敷から丘についた。大きな木の横には絞首台が見える。霧のせいで視界が悪く、遠い所からはどうなっているのか全くわからない。俺は木の近くにまで歩く。

 

「・・・うっ!ゲホッゲホッ!・・・」

 

近付くと凄い臭いがした。糞尿の混ざったような強いアンモニア臭に思わず吐き気がした。

生前の記憶が蘇る。

 

『首吊りによる死体は体内から糞尿を撒き散らしており、物凄く臭いようです。』

 

まさかと思い、絞首台の場所に向かうと、そこにはボロボロになった見慣れた服を着た切り傷に打撲、流血の後が見える見慣れた顔の女性。カーター家の使用人にして使用人としての自分の先生に当たる人物と酷似していた。

 

「・・・・・・そうか、やっぱりそうなのか・・・・・・」

 

彼女は魔女として処刑された。史実通りに。一切の容赦は無く拷問され魔女だと自白したのだろう。マシュー・ホプキンスという男は魔女を処罰するのでは無く、魔女を生み出し金にした男だった。作っては殺し作っては殺しを繰り返したのが彼だ。彼女もその犠牲だったのだ。

 

絞首台を見ていると、背後から男に声を掛けられた。振り返るとそこに居たのは彼女を魔女にして殺したホプキンスだった。

 

「やぁ君か。この通り処刑は終わった。彼女は自分が魔女だと自白したよ。」

「拷問で、ですか。」

「結果魔女が死んだのだ。過程などどうでも良いこととは思わんかね?これにより村人は安心して生活が出来るだろう。」

 

どうせまた生み出すんだろう?とは言わず、俺は彼女が死ぬ寸前の様子を聞いた。そして、聞いたことを後悔した。

 

「あぁ、彼女は最後泣きながら騒いでいたよ。お嬢様を頼みますなどとね。その後首吊りでもがき、死にたくないと言っていたよ。実に滑稽だった。」

「・・・・・・そうでしたか。」

 

彼女は俺に託したのだろう。アビゲイルの事を守ってくれと。しかし駄目だ。それだけはいけない。俺に、そんなことは出来ない。彼女は死に際に、無駄な願いを託してしまったのだ。

 

「君も、魔女と思われないよう気を付けるんだな。」

「・・・・・・そうですね。気を付けます。」

 

そう言って俺はホプキンスに背を向けて来た道を戻った。途中で雨が降って来たが、気にすること無く屋敷に帰った。カーターさんも、アビゲイルも、2人共彼女の結末をまだ知らない。いや、聡明なカーターさんはこの事を視野に入れていたかも知れない。だが、アビゲイルは・・・そもそも彼女が連れ去られたことを知らない。連れ去られた原因も。だからこそ原因を知った時、優しくて思いやりのあるアビゲイルはきっと自分を責めるだろう。それも、今までに無い位に。

 

俺にその気持ちは分からない。だからこそアフターケアなどの方法も分からない。

 

どうすれば良い?

 

「・・・・・・アビゲイルには、真実を語らない。」

 

きっとこれが1番だ。知らないのが1番良い。彼女は今セイレムの外に出ていると、そう伝えよう。彼女は彼女の生きる活力となる夢を見つけたと。

俺はそう決めると、寝ている2人を起こさないように静かに2人の部屋の前を通って自室のベッドに入った。

良い夢を見たいと、そう思いながら。




主人公君の感情が見えたかな?
割とホプキンスって難しい・・・・・・。
因みにホプキンスの取る魔女への拷問は本当はもっと酷いものだったそうです。女性は拷問の一つとしてレイ○等をされたり、乳首を刺されたり。縛って水に沈めたり石を体の上に積んで圧迫させたり。獄死した人々はレイ○後に口封じとして殺害したものと思われているんだとか。
FGOのホプキンスはあれでも割とマシな方だったんですね・・・・・・。
クトゥルフ要素は2週目から強く出て来る予定です。まぁ1週目でも少しずつ要素を出して行こうとは思いますが。


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パンケーキは最強だった・・・・・・?

明けましておめでとうございます。
少しずつ書いていたので何か変な所があるかもです。
テストで致命的失敗、2部序章で発狂、突然塾の予定が組まれ打ち上げなどのイベントに全て被るという奇跡にSAN値ピンチでした・・・・・・。唯一の救いはらっきょ再放送と4騎士+α福袋にアビーが居たことです。


「魔女は死んだ。彼女は自分が魔女だと認めたのだ。しかし魔女の死体は何処かへと消えた。まだこの村には魔女の協力者がいる。」

 

セイレム滞在3日目の朝、カーターさんを連れて俺は夜に行った丘へと向かった。道中に村人達がいないと思ったが、多くの人が既に丘に集まっていた。

丘に着くと、絞首刑となったティテュバさんの死体が消えていた。この事からホプキンスは魔女の協力者、もしくは魔女が他にも居ると村人達に告げた。その話を聞いた村人達は周りの人達を見回し疑心暗鬼に陥る。

 

――誰だ・・・誰なんだ・・・?

――お前じゃないよな・・・?

 

近くに居るのでは?という恐怖から村人達の声は震えお互いを疑い、何人かは空気に耐えきれずに丘を出た。

 

「お前は確かあの魔女と同じカーター家の使用人だったな。お前は深夜に此処に一度来ていたが、お前が魔女か?」

 

そんな訳無いと言いたいが、深夜に来た理由はただの気分だった。など何の力も無い。無駄だが一応言っておこう。

 

「残念ながら私はあの夜気分転換に外に出たんです。まぁ、何の説得力も無いでしょうけれど。」

「そうか、自分が魔女だと疑われるようなことをしていて、今もそう思われていると分かっている訳か・・・。」

 

ホプキンスは俺の発言を聞き目を細めて俺の顔をじっと見る。品定めされているような気がして良い気分はしない。

 

「ふん、貴様のような怪しい者は、精々魔女だと思われないよう出しゃばらないことだ。」

「っ・・・・・・気を付けます・・・。」

 

蔑みの心が含まれた忠告を言い終えると、ホプキンスは丘を後にする。ホプキンスとの会話を終えた俺に、カーターさんが近寄り話し始める。

 

「そうか、君は既にこの事を知っていたのか・・・・・・。ティテュバの死体さえ見ることが敵わないのは残念だが、きっと彼女は天に召され、今も私達の心配をしてくれているだろう。」

 

気にするな。とカーターさんは俺に優しく言った。俺は多少嫌な気分になっただけで、そこまで深刻な程心に傷を負ってはいない・・・筈だ。俺よりも、ここに連れて来なかったアビゲイルの方が心配だ。

 

「私の事は良いんです。それより、アビゲイルお嬢様にはどの様に伝えますか?処刑された。と本当の事を伝えるには些かまだ幼いかと思いますが・・・・・・。」

「そうだな。姪には話さず、ティテュバは外の世界に出たと伝えておこう。」

 

分かりました。と言い、話す話題も無く少し気まずい雰囲気の中カーターさんと俺は屋敷へと帰る。

・・・カーターさんはこれからセイレム村がどうなるか考えているだろうか。仮に考えていたとして、どんな風に自身の身を守るのだろうか?狂った村人ならカーターさんに対しても魔女だと言ってしまうかも知れない。それを見過ごすホプキンスだとは到底思えない。

 

「その・・・カーター様は魔女の断罪で自分が疑われたらどうするおつもりなのですか?」

「私が魔女と思われたら・・・か。そうだな・・・まずはちゃんと自分が魔女では無いと説明する。相手が納得するまでね。もし相手が話を聞こうとしないなら、落ち着けと言ってあげる。そんな所だろうか?」

「・・・そうですか。良かったです、ちゃんと考えておられていて・・・。」

 

少し予想外だった。自分が疑われたら他人を魔女だと言って逃げるのかと思っていたが、カーターさんは違うらしい。最も、俺に悪い印象を持って欲しくないから嘘を言っている可能性もあるが。まぁまだ説得なんて方法を考えられる分狂ってはいないのだろう。カーターさんが狂ったら村人達もそれに乗って狂ってしまいかねない。もしそうなったら俺の首は即刻吊られるだろう。外から来た奴らは魔女だと言って。

 

「君は?君ならどうするんだい?」

「私は・・・そうですね。納得のいく死に方がしたいんで、やることをしたら、自分が魔女です。全部自分のせいです。と言う予定です。今の内にアビゲイルお嬢様やカーター様に感謝の言葉なども考えておかなければいけないかも知れません。」

「・・・・・・」

 

そう言うとカーターさんは信じられないといった顔つきで此方を数秒間見る。そんなに信じられないだろうか?まぁ、早く探し物を見つけなければいけない。今度もカーターさんに書庫を見せて貰おう。手掛かりがあるかも知れない。前回もかなり書庫の本を漁ったが、あまり手掛かりが無かったのだ。

 

「カーター様、今度また書庫に籠もって本を漁っても宜しいでしょうか?」

「・・・・・・あぁ、構わない。君はどんな本を読んでいるんだい?」

「どんな本・・・ですか。そうですね、歴史やティテュバさんの読んでいた本でしょうか。料理に使う食糧の節約方は暗記しておかないといけませんし。」

 

ここで探し物を見つける為の本を探していると言えば、カーターさんに怪しまれる為言わない。

歴史は勿論セイレムについてでもある。セイレムがどんな場所なのか、自分の記憶を信じるより実際に読んで確認した方が安心出来る。

 

「そうか、君は勉強熱心なんだな。」

「いえ、世間知らずなので・・・。あ、屋敷に着きましたね。」

 

そうこう話している内に屋敷に着いた。俺はカーターさんと共に屋敷に入ると、アビゲイルが自分の部屋から出てきた。どうやら熱は前より下がっているようだ。苦しそうだった表情も浮かべていない。

 

「叔父様も旅人さんもどこに行っていたの?私、起きたら誰も居なくて寂しかったわ・・・。」

「あ・・・。」

 

少し涙目のアビゲイルを見て、少し申し訳無さを感じる。カーターさんと共に見に行ってしまった為、熱を治す為に寝ていたアビゲイルをほったらかしてしまった。何も伝えずに出て行けば、確かに心配になるだろう。

 

「申し訳御座いません・・・。少しカーターさんとセイレム村を歩いて回っていたもので・・・。」

「すまない、アビゲイル。」

 

俺とカーターさんは涙目のアビゲイルに謝罪すると、アビゲイルは渋々と許してくれた。ほんの少し不機嫌といった所だろうか。

 

「ありがとうございます。そろそろ食事の支度をしましょう。アビゲイルお嬢様の御希望は何かありますか?」

「え?・・・パンケーキ、パンケーキが良いわ!・・・出来れば・・・だけど・・・・・・。」

 

パンケーキというとあれだろうか?前にアビゲイルが言っていたカリカリのベーコンなどが乗っているタイプだろうか?ティテュバさんが食費などを節約していた分少しだけ資金は潤っている。どうせならここでアビゲイルの御機嫌を取っておきたい。

 

俺はアビゲイルの好きなパンケーキで良いかをカーターさんに聞くと、姪への謝罪には丁度良い。と許可を貰えた。ティテュバさんの作ったパンケーキの作り方が書かれたメモを見て、急いでパンケーキを作る準備をする。パンケーキ作りは人生で初の為、少々失敗しそうで心配なのだが・・・・・・。

 

「ベーコンを焼いてっと・・・・・・。」

 

ベーコンなど久し振りだ。肉自体が久し振りとも言える。ふとアビゲイルを見ると、既にベーコンの香りだけで御満悦だ。ふ、チョロい。

 

「・・・・・・良し。これで完成・・・の筈。」

 

完成体を知らない為心配なのだが、取り敢えず書かれていた通りには出来た。

 

「アビゲイルお嬢様、こんな感じで――」

「えぇ、えぇこれだわ!私の大好きなパンケーキ!」

 

うぉ、テンション高っ。カーターさんも気になっているのかじっと此方を観察していた。あの・・・終始無言で見られていると何かやらかしたんじゃないか心配になるんですけど・・・・・・。

 

「えっと、カーターさん。これで宜しいでしょうか・・・・・・?」

「・・・・・・ん?あぁ、構わないよ。実に美味しそうなパンケーキだ。」

 

?何か考えていたのだろうか?まぁ良しと言われたことで安心は出来た。俺は出来立ての熱いパンケーキをアビゲイルとカーターさんの前へ置き、全員で食事を取り始める。・・・・・・不味くは無いな。

 

「美味しいわ、ありがとう旅人さん。」

「勿体なき御言葉、ありがとうございますお嬢様。」

「ふふ、旅人さんは謙虚なのね?・・・・・・そういえばティテュバはどうしたの?起きてから見てないのだけれど・・・・・・?」

 

キョトンとした顔で聞いてきたアビゲイルに、俺は言い聞かせるように丁寧にゆっくりと嘘を話す。

 

「聞いて下さいお嬢様。ティテュバさんは・・・・・・このセイレムを出て行きました。ティテュバさんは夢を見つけて、それをどうしても果たさなければいけなかったんです。どうか御理解頂けませんか?」

「・・・・・・」

 

アビゲイルの表情は暗い。いきなり大切な人が消えたのだ、仕方のないことだろう。森で熱を出した時ティテュバに迷惑を掛けた為謝りたい、感謝もしたかったのだろう。

 

「・・・えぇ、少し寂しいけど、仕方ないことだわ。」

「御理解頂きありがとうございます。・・・ティテュバさんから、伝言があります。」

「・・・ティテュバから、伝言・・・・・・?」

「はい、最後まで付き添えないことをどうかお許し下さい。どうか、お嬢様の夢が叶いますように。と・・・・・・。」

 

これも嘘だ。そんな伝言は受けていない。でも、本人ならきっとこう言った。俺の口からじゃ意味が無いかもしれないけれど、何となく、ここで言わないと自分の心が痛みそうだった。

 

「・・・・・・そう。」

「・・・さて、そろそろパンケーキを食べきらないとせっかくの美味しい料理が冷めてしまう。お話は後にしよう。」

 

カーターさんの言う通りパンケーキが少しずつ冷めてきている。俺はアビゲイルと話すのを止めて、食べかけのパンケーキを食べ始める。・・・・・・冷めてても美味しい。久し振りにパンケーキなんか食べたなぁ・・・。水増しとか節約のことをそこまで考えていない料理も此処に来てから初めてだ。俺が黙々と食べるのを見てアビゲイルも好物であるパンケーキを食べる。幸せを噛みしめているのは表情から直ぐに分かる。

 

やがて全員がパンケーキを食べ終えると、俺は既に夕陽が落ち始めていることに気付いた。ここに来てから濃い出来事の連続で時間があっという間に過ぎている気がする。もうそろそろで夜だ。さて、今夜も書庫を漁ろうかなぁ・・・・・・。




次は夜のセイレムかなぁ・・・。色々とヤバいことが起きる予感・・・。予約投稿で何回もミスって3回目でやっと年が違うと気付いた・・・・・・。


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Fate/☣

福袋は約93%未召喚鯖が来る4騎にした。アビーにメルト、マーリン、孔明、玉藻などなど、欲しい鯖が沢山居た。ガチャを引く、星5の輝きを放つライダーのカード。ライダーかぁ、オジマンやっと来るのかな?
          メイヴ
瞬間時が止まった。あれ?前回の夏、メイヴとクレオパトラ同時に引いたなぁ・・・


       持ってるんですけど

   持 っ て る ん で す け ど

見事に4人のエミヤによる女難の相が働きました。爆ぜてアーチャー!自害せよっ!あ、でもメルトガチャで2枚目のキャスギルとエレナ引けたのでそこまで悪くはなかったです。
今回は大きく物語が進行します。別名急展開。あんな本やこんな生物?やら・・・・・・。


霧が立ち込める夜、カーター家の書庫にて、蝋燭の明かりの下俺は本を漁っていた。

なかなか目的の本は出て来ない。書庫の4分の3を読み漁っても出て来ないとなると此処にヒントは無いのだろうか?

 

「うーん、目が痒い。」

 

長い間本を読んでいたせいで目が渇き痒みを感じる。ゴシゴシと手で目をこすり、少し体を伸ばし休憩する。集中力を持続させる為に別のことを思考する。

 

俺の起源にあたる物が何か、未だにそれは自分でも分からない。無価値なのか無意味なのか、それとももっと別の何かなのか。正解を確かめることが出来ない為、任務を果たすまでに分かるか分からなくなってきた。そもそも架空の作品の設定なのだからそんな物を持っているとは思えないが。

 

それと、このセイレムに来てから謎が増えた。

一つは文章。読めない文字でも視界に入ってくると文字がいきなり水滴の落ちた水面のように振動し、日本語に変わること。読んだ本をカーターさんが見ていたが驚かなかった為、俺の脳が変化したのだろう。もしくは目の機能が増えたか。

二つ目は言語。これは途中まで気付かなかった。日本語で通じるというだけでも異常なのに相手も日本語で応答してくれるのは可笑しい。ここは日本じゃない。

 

まぁ正直どうでも良い上にシュブニ様ならそのようなことでもしていそうだ・・・わざわざ人体改造する位に重要な願い、もしくはそれを達成するのに必要なことだったのだろう。

とその時の俺は思い、この2つの謎については深く考えるのを止めた。考えてもきりがない。

 

しかし問題は3つ目、魔女裁判の始まり方だ。

本来、セイレム魔女裁判の正史通りならアビゲイルが突然暴れだしたり奇妙な行動をとるようになり、医師によって悪魔憑きと診断される筈だった。しかし、アビゲイルはそのような仕草を見せず、ティテュバさんは完全にホプキンスの想像と拷問だけで殺された。そこに告発などは無かった。ここから俺が導き出した結論は5つ。

 

1つ、俺が既に幻覚を見ている。

2つ、此処はセイレムでは無く死後の地獄であること。

3つ、俺の知っている史実が間違えで、本来はこのセイレムが正しかったということ。

4つ、このセイレムは俺の知っているセイレムでは無く、違う世界、違う結末や過程を送ったセイレムだということ。

5つ、歪んだセイレム。セイレムの歴史に何か大きな異物が混じり、結果史実と全く違うセイレムの姿になったということ。

 

1と2があるのは完全に否定出来る材料が無いからだ。幻覚なんて見ているのかわからないし、地獄だと言われても死後に地獄が見れていないからだ。そもそももしかしたら地獄は複数あるのかもしれないし。

3は正直難しい。セイレム魔女裁判の記録が博物館に残っている為あまり信憑性が無い。しかし絶対に史実通りだったとは実際にこの目で見ていない為断言することも出来ない。

4は根拠が薄い。死後に放り出された場所が普通の場所とは少し考えずらかったからだ。平行世界か並行世界か・・・どっちでも構わないがこれは3と見分けがつかない。

5は・・・正直一番それっぽくあり一番根拠が無い。シュブニ様が探している門番という存在がセイレムの歴史を狂わせているのでは?という位だ。確証は無いが関わっていても可笑しくは無い。そんな気がするという理由だけだ。

 

「・・・はぁ、疲れた・・・ふぁあぁぁ゛ぁ゛ぁ゛・・・」

 

大きな欠伸をして本を片付け始める。これ以上は少しキツい。ここらで作業を取り止めておかないと徹夜しそうだ。俺は興味を持ったモノに関してはストーカーがドン引きする位にはしつこく知りたがるからだ。

 

俺は読んでいない本と読んだ本を次読みに来る時に読んでいない本が分かるように1冊の本を少しだけ外に出っ張らせた。名前は・・・

 

「『イスラムの琴』・・・・・・これは題名からして何か御伽話っぽいな・・・いや、もしかして聖書か?」

 

良くこんな本まであるなぁと感心しながら、俺は片手に火のついた蝋燭を持ち、木製のドアノブに手を掛ける。

 

ガチャッとドアが開くと同時に、背後から何かが落ちた音がした。そっと背後を見ると、落ちたのは先程名前を確認した『イスラムの琴』だった。

 

「げっ、折り目付いて無いよなぁ・・・!」

 

本のページが木の床に面していることによりとても心配になった俺は落ちた本の近くに戻った。

 

ページをパラパラと捲り確認したが、特に折り目は付いていなかった。

 

「ふぅ、安心安し・・・ん?」

 

ページをパラパラと捲っていたら、本から何かのメモが出て来た。カーターさんが栞として使っていたのだろうか?だとしたら怒られてしまいそうだ。

 

「何か今日は不幸じゃないか?・・・・・・っ」

 

メモを見て、出て来そうになった叫びを必死に出さないように押し込める。咄嗟に周りに誰も居ないか確認し、メモを本に挟んで元の位置に戻す。

 

書かれていたのは2つのワードだけ。しかし字体は誰の物なのか分かった気がする。

 

「『銀の鍵』『外なる神』・・・・・・。内容は分からないが、この2つのワードの内の1つである『銀の鍵』は俺の目的である窮極の門の番人に関係している可能性があるな・・・・・・調べてみるか。」

 

これで『イスラムの琴』の内容を読まなければいけなくなった。このメモが挟んであった本は重要なヒントになり得る可能性があるだろう。しかし問題はメモを書いた人物だ。もし本当に想像している人物ならば、今後俺は少しその人物の行動を注意して見た方が良いかもしれない。このメモを書いていたとなればまず普通の人では無い可能性があるということになる。シュブニ様ほどの者が頼むことに関係しているということなのだから。

 

「外なる神・・・・・・もしやシュブニ様はそういった分類の中に当てはまる者なのか?・・・読んで見れば分かるだろうか・・・。」

 

俺は本を机の上に置き、椅子に座って読み始めようと本の表紙を捲ろうとした。しかし、扉の外から歩く度に起きる木の床が軋む音が段々此方に向かって来ていることが分かった。俺は急いで本を棚に戻した。直後、扉がゆっくりと少しだけ開き、ドアの隙間から青い目が此方をジッと覗く。

 

「・・・・・・旅人さん、調べ物は終わったの?」

「あ、はい。たった今終わりました。」

 

ビ、ビックリした・・・・・・。

 

アビゲイルは俺が調べ終えたと聞くと俺の座っている近くにまで来てカーターさんが出て行ったきり家に帰って来ていないけれど知らないか?と聞いてきた。どうやら俺が調べ物をしている間に村人が此処を訪れていたらしく、その村人にカーターさんが付いて行ったらしい。

 

「一緒に探しに行かない?」

「いや、カーター様をお待ちしま・・・すみません。」

 

断ろうとしたのだが、アビゲイルが少し寂しそうな顔をしていることに気付き取り止める。勝手に消えたことを今日反省したのにまたやらかすのかカーターさんは・・・・・・。それとも――

 

「アビゲイルお嬢様一人を夜の散歩に出してしまいますと、私もカーター様も心配になってしまいます。カーター様を探すのに私が付き添いましょう。」

 

そう言うとアビゲイルはパァっと咲いた花のように明るい表情となり、行きましょう!と俺の手を引っ張って玄関まで走り出す。俺はアビゲイルの走るテンポに合わせて小走りする。あ、光は必要だな。玄関に置いてあったランプを借りよう。

 

「行きましょうか。」

「えぇ!」

 

 

 

 

ザワザワザワ・・・・・・

 

村の広場まで来ると夜にも関わらず多くの人が集まっていた。良く見れば人だかりの奥に人の姿が見える。どうやら村人達はそれから距離を取っているようだが・・・・・・?

 

「人が多いですね・・・アビゲイルお嬢様は此処で少々お待ち下さい。私が少し様子を見てきますので。」

 

俺はそう言って村人達の方へと向かい、人の波を掻き分けて先頭に出た。一体何が起きていると言うのだろうか・・・

 

「・・・・・・は?」

 

瞬間、全身に冷水を掛けられたかのような感覚を覚える。人、そのように見えていたソレは、肌の色が青白さのある灰色のようであり、焦点が合わず、爛れた口を持って此方にゆっくりと歩いて来ていた。一歩進む毎に腐敗臭が襲って来る。

 

最速それは、人というにはあまりにもかけ離れていた。これを見た人は誰しも一度は思うだろう。

――死者が蘇ったと

 

「・・・・・・」

『・・・・・・・・・ァ゛ァ゛・・・』

 

良く見ればソレは此方を向いては居るが、なかなか此方へ向かっては来ない。注意深く仕草や全身を見ているととある事に気付き、偶然ソレと目が合った。

 

『ァ゛・・・ァ゛ァ゛ァ゛・・・・・・』

 

声帯が潰れているのか、息を吐く音しか聞こえない。しかし、目が先程より見開かれているのははっきりと分かった。

 

見られている。俺をアイツは見ている。異様な姿をしたソレを見て、自然と足が動いた。

 

逃げよう。

 

「・・・・・・!」

 

俺は人混みを掻き分けてアビゲイルの居る場所まで走り出した。後ろは振り向かない。徐々に背後から村人達の悲鳴が聞こえてくる。追って来ていると言うのだろうか?

 

「旅人さん、どうしt――キャッ!」

「静かに、目を瞑って、耳を塞いで下さい。後ろを振り向かないで・・・!」

 

アビゲイルをお姫様抱っこして走り出す。取り敢えずはカーター家まで戻る。それで駄目なら森で撒く。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

走る、走る、走る――

 

耳を澄ませば背後から呻き声のような物が聞こえる。アビゲイルは言った通りに耳を塞いで目を瞑っている為気付いていないのだろうが、何かが起きていると確信している為か少し怯えている。

 

「・・・・・・よし!着いたっ!」

『ァ゛・・・ァ゛・・・!・・・ァ゛ァ゛!』

 

屋敷の扉を開けて中に入り、即座に鍵を閉める。

腐った肉が扉にぶつかり、ぐちゃっ、ぐちゃっと音を立てる。

 

「た、旅人さん・・・アレは・・・」

「気にしないで下さい。ただの劇団員です。ここまでわざわざ演技しに来てくれているだけですよ。でも少し迷惑ですね、アビゲイルお嬢様は部屋に居て下さい。私は少し彼女と話をして来ますので。」

 

アビゲイルの潤んだ瞳を見て自分の部屋に行くように促す。こうして話している間にも扉が壊されて入って来てしまうかもしれない。そうなればアレから逃げるのは難しい。

 

俺は書庫の部屋の窓を開け、そこから再び外に出る。まだ扉の前に居る爪が真っ赤に濡れているソレに向かって窓を閉めて走り出す。

 

「おい、こっちだっ」

『ァァ゛・・・ァ゛・・・ァ゛ァ゛・・・』

 

鬼ごっこが再開し、俺とソレはアビゲイルが熱を出したあの森へと走り出す。森で上手く撒いて逃げる、もしくは――

 

殺られる前に・・・殺るしかない。

 

覚悟はした。アレはもう人じゃない。別の何かだ。例えどれだけ知り合いに似ていたとしても、アレは彼女じゃない。逃げられたなら逃げる。が、それが無理ならどうにかして先に殺すしかない。

 

『ァァ゛ァ゛・・・ァァ゛・・・!』

 

俺は、まだここで死ぬ訳にはいかないんだ。

 

深い霧が立ち込める夜、狼の居る森にて、狩る者と狩られる者の競争が始まった。




すまない、駄目文なんてレベルじゃない急展開ですまない。セイレムの終盤以上の急展開で本当にすまない・・・。深夜帯に書くことが出来なくなり遅くなってしまい本当にすまない。


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さては狂信者だなオメー

評価ありがとうございます。いきなり色付いてて慌てました。えぇ、思わずSAN値チェックしましたとも。
そしてFGOプレイヤーの方々、周回お疲れ様でした。
それにしても、センター試験はFGOと世界史Bとのリアルコラボイベントだったのか・・・・・・?というコメントにはとにかく笑った。仕方ないですよね。


狼の遠吠えが響く霧の立ち込める夜の森。黒髪の青年は迫って来る人間だった者から逃げ惑う。

逃げ出してからどれくらい経過しただろうか。撒いたと思い森を出ようとすると遭遇するという場面に何度も出くわし、体力がかなり削られ、恐怖心から吐き気が来ている。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ゲホッゲホッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

『ァァ゛・・・』

少なくとも30分は走っているというのにも関わらず、息切れの一つもしていないのを確認して、人間だったソレには肉体の限界が無いように見えた。人間を止めたからだろうか?

 

「こっちに・・・」

『・・・・・・』

 

他の場所と比べても木々が多く暗い場所に入り、左へ右へと移動する。霧のおかげで更に暗い為、しばらくは見つからないだろう。

 

「スゥー・・・・・・ハァ・・・・・・」

 

ゆっくりと息を整える。まだ来た方角は覚えている、迷うことは無い・・・・・・

 

「・・・・・・ふぅ」

「・・・・・・お前、誰だ。」

 

心臓が一瞬止まる。安心した直後に突如話し掛けられつい体が逃げようと体制を取る。

 

「待て、落ち着け。お前は誰だ?」

「・・・・・・貴方は誰だ。」

 

白髪にしわくちゃの肌を持った男性は自分の名を聞かれアブサラム・ウェイトリーと答えた。

 

「アブサラム・ウェイトリー・・・カーターさんが何度か言っていたような・・・」

「カーター・・・あぁ、お前はカーターの召使いか。何しに来た?ここはお前らのような者が来る場所ではない神聖な儀式の場だ。」

 

儀式?何やら不穏な単語が耳に入ったが、今はこのアブサラムさんにこの事態を解決する方法が無いか聞いてみることにする。

 

「追われているんです、化け物に。村から此処まで逃げて来たのですがまだ追われていて・・・。」

「化け物・・・それはどんな姿をしていた?」

 

アブサラムさんは化け物の話に興味を示す。怪異的な話の為信じてくれるか心配だったがどうやら話を聞いてはくれそうだ。

 

「腐った死体のようでした。焦点が合わず、喉が潰れているようでした。」

「口は爛れていたか?」

「はい」

 

アブサラムさんはほう、と笑いながら一人納得しているようだった。正体を知っているかのような素振りに俺は質問をする。

 

「アレが何なのか知っているのですか?」

「喉が潰れているのは知らないが、食屍鬼(グール)だろうな。」

「食屍鬼・・・どうしたら逃げられるでしょうか?何か弱点などは無いのでしょうか?」

 

そう言うとアブサラムはニヤニヤと笑いながら質問に答える。その少々薄気味悪い笑みは場の暗い雰囲気と合わさり恐怖心を少し煽る。

 

「お前は食屍鬼から逃げたいのか、成る程な。そうだな、私の持つ屋敷に来い。」

「屋敷?それはどこに?」

「この森だ、・・・着いて来い。」

 

そう言われた俺はアブサラムさんの後ろに付いていく。道中で食屍鬼に襲われないか心配になって聞いたが、御守りがあるから大丈夫だと言う。

 

「御守りって何ですか?」

「エルダーサイン、その亜種だ。」

 

エルダーサインって、聞いたこと無いから亜種とか言われてもな・・・・・・

 

「具体的な効果は?」

「分かり易く言えば神秘的要素を持つ外敵への御守りだ。これはそういった類の者から身を隠すことが出来る。元は旧支配者などに対して効果を発揮するものだった。・・・・・・これは貰い物でね、カーターの姪の親の物だ。最も、それも誰かから貰った物だったらしいがな。」

 

旧支配者?何を支配していたのだろうか?

それよりも、このアブサラムさんはアビゲイルの親と知り合っていたらしい。もしかしたらこの人ならアビゲイルの両親の死因を知っているのかもしれない。

 

「あの、アビゲイルお嬢様の両親に何があったのか知りませんか?カーター様に聞いても教えてくれなかったので・・・・・・」

「ほう、カーターに教えて貰えなかったのか。アイツらは門を潜って死んだ。耐えられなかったから死んだのだ。私は、ただ門を開く方法を教えただけのこと。自殺のようなものだ。」

「っ!・・・門・・・それは、何の門だったのですか?」

 

俺が興味を持ったのが伝わったのか、アブサラムさんは此方を向き、ニィっと笑う。やはり気味の悪い笑みだ。

 

「気になるか?」

「・・・・・・はい」

「・・・・・・窮極の門だ」

 

俺の目的、窮極の門の番人の覚醒。その番人に関係する窮極の門を、この人は知っているのか・・・・・・?しかもアビゲイルの両親は一度、窮極の門を潜っている・・・・・・?

 

「・・・これは、ふと思ったことなのですが・・・・・・」

「何だ?」

「門があるなら、鍵もあるのですか?」

 

そう言うとアブサラムさんは全身を震わせながら笑い始める。その姿は恐怖心を煽り、俺を更に不安にさせる。

 

「ハッハッハ・・・何故そう思った?」

「いえ、単純に扉を開けるには鍵が必要ではと思いまして。その、あるんですか?」

「さて、どうだろうな。・・・着いたぞ、入れ。」

 

話していたら、いつの間にか小屋に着いていた。小屋はアビゲイルの個室2つ分の大きさで木造、そのボロボロの外見から年季が入っていることが伺える。

 

「失礼します・・・」

 

中は予想より散らかっておらず綺麗だった。どうやらアブサラムさんは整理整頓をしっかりとするタイプのようで、本棚には綺麗に全ての本が収まっている。アブサラムさんは何かを持って目の前の席に座る。

 

「座れ、客に飯を奢る位のことはするさ。・・・まぁ、この貧しい村で出される賄いなど、飯と言える物かは分からんがな。」

「ありがとうございます。」

 

出されたのはパンに少量のシチュー。味がとても薄いが温かいシチューが汗で冷えた体を暖める。

 

「それで、お前は何者だ。ただの人には見えないが・・・・・・。お前からは形容し難い臭いがする。」

「えぇっ!?、あ、いや、そんなに臭いますか・・・・・・?」

「違う。いや、確かに汗で少し臭うが、そういう話ではない。」

 

マジか、今度水風呂で念入りに体を洗っておこう。

 

「お前からは外なる者に連なる臭いがする。表現出来ない臭いがな。常人には理解出来ないだろうがな。」

「外なる者、そうだ、その外なる者とは何なのですか?」

 

アブサラムさんは席を立ち、古びた日記のような物を取り出した。

 

「それは?」

「ウェイトリー家の知恵が詰まった本だ。外なる者だけではない。大いなる者達に関することが記述されている。」

 

アブサラムさんはそう言いながらもペラペラとページを捲る。やがてとあるページで捲るのを止め、此方にそれを渡す。外なる者と書かれている。

 

「外なる神、人には理解出来ない言語を用い、人に興味本位で関わることのある存在・・・・・・」

「そうだ、我らウェイトリー家はその外なる神の一柱である一にして全、全にして一なる者の住む場所へ続く門の在処を伝えられている。」

「ウェイトリー家の方々は既にその門を潜ったことがあるのですか?」

「無い。我らのようなか弱い猿では彼の王に会うことは愚か、その門を潜る資格もない。無理に通ろうとすればウィリアムズ共のようになるだろうよ。」

 

死ぬ。ということだろうか。だが門を潜っていないのならばどうやってウェイトリー家はその先に外なる者が居ると知っているのだろうか?聞いてみた方が良いだろう。

 

「何故門の先に外なる神が居ると知ることが出来たのですか?」

「ウムルという者がかつてウェイトリー家の下に来たことがあったらしい。その者が伝えていったのが始まりだ。どうやらそのウムルはその外なる者の使者を名乗っていたらしい。」

 

え、ウムルさんに滅茶苦茶会いたいんですけど。うわぁ・・・まだ生きていればなぁ・・・

 

「何だ?ウムルにようでも会ったのか?」

「いえ、ただ気になっただけで・・・・・・。それで、門を潜る資格はどうしたら手に入るのですか?」

 

少しばかり緊張する。これが分かれば俺の使命は果たされるのだ。その方法を実行すれば、俺はやっとシュブニ様の求める者を見ることが出来る。

 

「資格は与えられる物だ。外なる神から唐突にな。興味を持たれれば、自然といつかは与えられる物だ。」

「つまりは・・・?」

「我らは資格を与えることは出来ない。」

 

残念だ。これで全て終わったと思ったのだが・・・・・・。いや、まだ可能性はある。シュブニ様が資格を与えている可能性も・・・・・・!

 

「他の外なる神から資格を貰った場合はどうなのですか?」

「駄目だな。よっぽどのことでも無ければ意味は無い。」

 

面倒な・・・・・・。良いじゃないか少し位別の資格でも・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・。これ、読んでも良いですか?」

「好きにしろ。理解出来るのならな。」

 

許可を貰い、外なる者以外のページも読む。どうやら銀の鍵などついても少しばかり書かれているようだ。あ、もしかして・・・・・・。

 

「アブサラムさんってカーター様の持つエルサレムの琴を読んだことあったりしますか?メモに銀の鍵、外なる者って書かれていたんですけど・・・・・・。」

「いや、私は知らないな。・・・・・・だが、そうか。奴は外なる者について知っているのか・・・・・・フフ、フハハハハハハ!」

 

怖いからいきなり笑わないでくれませんか!?

まぁ、だろうなとは思ってもいたが、やはりアブサラムさんでもないか。ならやっぱりあのメモを書いた人物は・・・

 

俺が思考していると、アブサラムさんは笑うのを止め、しわくちゃの顔で此方を見る。

 

「気にいった。カーターなんぞに仕えさせるのは惜しいな・・・。お前、しばらく此処を使って良いぞ。」

「良いんですか?」

 

驚いた。まさか使用許可が貰えるとは・・・。これで外なる神について、門と鍵についても十分に調べられそうだ。

 

「今夜はここに泊まっていけ。食屍鬼は朝にはあまり目立つ行動をしない。朝になってから此処を出た方が安全だ。」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

親切にしてくれて嬉しい半面、心の底では実験台にされそうな気がしなくもない為、正直不安で仕方がない。せめてもう少し善人っぽい顔をしてくれていればなぁ・・・。

 

「何、心配するな。ただの親切心だ。」

「・・・・・・」

 

えぇ~・・・本当で御座るかぁ~・・・・・・?




今回の題名の別名は、アブサラムさん、顔怖過ぎて滅茶苦茶恐怖心を煽る回。
『クトゥルーの呼び声』の帯にFGOのアビーとラヴィニアが写っているようです。帯めっちゃ欲しい・・・

それにしても、ウムルって誰のことだろうなー(棒読み)


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