福音の鐘は誰がために鳴る (らーめんどんぶり)
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第一話 使徒襲来

さて、今回から本編ですが、投稿直前に不具合を起こし、一話が消失。
てなわけで急遽作ったため不本意なことになってしまったので、多少の不満には目をつぶってくださると幸いです。


照り付ける日差し、鳴り止まない蝉時雨、ガタガタと音を出して走る電車、次第に見えてくる高層ビル群

 

「ここが父さんのいる第三新東京か」

中性的でひ弱な少年、シンジはふとそんなことを呟く

 

少年はポケットから“NERV”とロゴの入ったIDと水着の美女が写った写真、見ためゴミにしかみえない紙切れを取り出す。

 

紙切れには

 

        来い

                ゲンドウ

とだけある。

 

10年前、自分を捨てしばらく顔も見ていない父にこんな手紙一枚で会いに来るなんてつくづくバカだなぁとシンジは思う。

 

「東海地方全域に緊急事態宣言が発表されました。半径10km以内の住民はただちに避難してください」

 

突然、警報のアナウンスが鳴り響く

 

シンジは突然のことに戸惑うも、迎えの美女に電話を掛ける。

が、緊急事態のため繋がらない

 

仕方なくシェルターを目指そうとするが初めての地であるため右も左も分からずさ迷ってしまう

 

 

ズドオォォォォオオオオオン!

 

凄まじい爆音と共に爆弾が爆発する、その先にいるのは、、、怪物?

 

なんだあれは?

あれはなんだ?

イッタイナンダ?

 

シンジはパニックに陥り、思考すら怪しくなる

しかし、不思議と恐怖というものは沸き上がっては来なかった

いや、もちろん恐怖というのはあったのだが、所謂死の恐怖ではなく、例えるなら初めて出会う人と話すときのような、接触に対しての恐怖だった

 

 

キィィィィィイイン!

 

甲高いブレーキ音を響かせながら青いルノーが接近してくる

 

「ごみーん、遅れちった

あなたが碇シンジ君?早くのって!」

 

シンジが言われるがままに助手席に乗り込む

 

「あの…」

 

「あ、私は葛城ミサト、ミサトって呼んでね♪」

 

かなり際どい格好をした妙齢の美女がそう名乗ったので

「僕は碇シンジです」

と自分も名乗る

それにしてもどうなっているんだ?

なぜ怪物がいる?何をしているんだ?

この人はなにか知っているのだろうか?

シンジが思考の海に沈みそうになったときミサトがこういった

 

「シンジ君、あれは使徒というの、人類の敵、そして私、もとい私たちは使徒と戦う組織、もちろんあなたのお父さんもね」

 

「先生からは、人類を守る立派な仕事だと聞いています」

 

「そ!その通り、これからお父さんに会いに行くわ。

IDは持ってるでしょ?」

 

「はい」

シンジは簡潔にそう答えると、ミサトから渡された“ようこそネルフ江”というパンフレットをめくりはじめた

 

 

 

「遅かったじゃない葛城一尉?」

 

道に迷ったのかずっと同じところをぐるぐるしていると、金髪に水着に白衣という奇抜な服装をしたこれまた妙齢の美女が現れた

 

「ごっみーん♪でも、ちゃんと連れてきたわよ」

 

「この子がサードチルドレン?私は赤木リツコ、リツコでいいわ、よろしくね」

 

「よろしくお願いします」

 

「ついてきて、あなたに見せたいものがあるの」

 

 

 

すると、真っ暗な部屋に連れてこられた

 

右も左もわからずあたふたしていると、突然目の前に顔が現れる

 

うわぁぁぁぁあああ!

と、少年は絶叫するが、二人の女はそれには目もくれず、片方はなにやら決意したような顔でじっとその巨大な顔を見つめ、片方は誇らしげな表情で語りだした

 

「いい?シンジ君。これは汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン、その初号機よ」

 

「エヴァンゲリオン、ですか?」

 

「ええ、そうよ、さっき私たちを襲った怪物、使徒を倒すためのね」

今度はミサトが答える

シンジは別段襲われたような気がしていなかったため、恐らくミサトの言う通りなのだろうが、あまり実感がわかなかった

 

「使徒って敵なんですか?」

思わずそんなことを口にしてしまう

 

「なにバカなこといってるのよ!敵に決まってるじゃない!私の父を、私の言葉を、私からすべてを奪ったのよ!」

ミサトは激昂した。シンジはその言葉の重さに胸を痛ませ、反省した

 

「すいません…そうとは知らずあんなこと言ってしまって。あの、嫌なこと思い出させてしまってホントにすいません」

これはシンジの本心であった

謝罪に謝罪を重ねるのは聞く方からみればうざったらしいのかもしれないが、シンジは語彙に自信がなく、特にこのようなとき上手く話せないためどうしてもこうなってしまうのである

 

「あ、ごめんなさい、いきなり声を荒げてしまって。とにかく使徒は私たちの敵なの、これだけは覚えておいて」

 

ミサトと一応の和解を済ませたとき頭上から、声が聞こえた

 

「そうだ、使徒は我々の敵だ。よく来たなシンジ」

 

「父さん…」

 

「ふっ…出撃」

 

「出撃!?パイロットは!?」

 

「あら、今目の前にいるじゃない?」

 

「ちょっと!本気でいってるのリツコ!?あのレイですらシンクロするまでに時間がかかったじゃない!それを今来たばかりのシンジ君なんかに」

 

「座っているだけでも構わん、葛城一尉、わかっているな?」

皆まで言わせずシンジの父、ゲンドウはそう言う

 

「しかし!」

 

「冬月、レイを起こせ」

 

「いいのか?」

怪訝な顔で傍に立っている白髪の老人は答える

「死んでいるわけではない」

ゲンドウはそう言うとどこかに電話を掛けた

 

「乗りなさい、シンジ君」

 

「乗る!?乗るってこれにですか?そんな…」

 

「なに弱気なこといってるの!あなたが乗らないと人類が滅びるのよ!」

ミサトは先程までの態度とは一転して乗ることを強要してくる

 

「そんな!人類だなんて…」

 

シンジが狼狽えていると、何人かの医者に運ばれ、包帯を巻いた、蒼髪紅眼のアルビノらしき少女がやって来た

 

「レイ、予備が使えなくなった、もう一度だ」

 

「シンジ君!こんな子を戦わせる気?男の子でしょ!」

 

「何をしているシンジ、臆病者に用はない、帰れ!」

 

ミサトとゲンドウがなにかいっているがそんなことは耳に入ってこない。

ただ、目の前の少女を助けたい

シンジはその気持ちで一杯だった

 

「あの、大丈夫?無理しちゃダメだ。寝ていないと」

 

「ダメ、命令だもの。それと、あなた、誰?」

 

「あ、ごめん、僕は碇シンジ」

 

「碇?」

 

「ああ、碇ゲンドウは僕のお父さんだよ」

 

「そう…」

 

目の前の少女はそれだけ呟くと体を起こそうとする、しかしそのとき大きな揺れが襲った

 

「やつめ…ここに気づいたか」

 

ストレッチャーはひっくり返り、上から瓦礫が落ちてくる、シンジはとっさに少女を抱え込むと全力で走る

どうやら少女は無事なようだ

 

しかし、

 

「シンジ君、あなた…」

 

「え?」

気づくと右足首が折れていた

しかし、シンジは不思議と痛くなかった

それどころか少女を守れたことが誇らしかった

「あ、足、おれちゃいましたね、でも、その子を守れてよかったです。そういえば僕、あれに乗らないといけないんでしたね、大丈夫です僕が乗ります」

 

シンジは出来るだけ笑顔を保ったままそういった

しかし、その表情は涙を浮かべており、溢れんばかりの恐怖が滲み出ている

 

あまりに悲しそうなその顔に、様子を見ていた発令所のメンバーは心を痛めたが、生憎ここにいるメンバーは心がないらしく、これ幸いとエヴァの操縦法を教え込んでいる

 

ゲンドウはニヤリと笑うと再び発令所へと戻っていった

 

「エントリースタート」

 

「シ、シンクロ率40%、誤差0%、ハーモニクス正常、暴走ありません」

 

 

「40%!?嘘!あのアスカですらそこまでするのに7年はかかったわよ!?」

 

「すごい、行けるわ!」

 

 

「シンジ君、聞こえる?行くわよ!」

 

「はい、行きます!」

シンジは力強く、決意の込めた目で見据えながらそう答える

 

(あれと戦うのか…怖いな。でも、これであの子を、みんなを守れるなら!)

 

「司令、よろしいですね?」

 

「ああ、使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」

 

「エヴァンゲリオン初号機発進!」

 

うっ!と射出の抵抗に耐えながら初号機は地上へと出る

 

「いい?シンジ君、まずは歩くことだけを考えて」

 

「歩く、歩く、こう、か?」

シンジが歩くところをイメージすると紫の機体は動き出した

 

「動いた!」

発令所は歓喜する

 

(動くかも分からないものにのせてたのか?)

 

シンジはとても不安に思ったが今はそんな場合じゃないとすぐに思考をやめる

 

 

すると、いきなり目の前が暗くなる

 

あいつだ、あの使徒の体だ、シンジは目で見るまでもなくそう感じとると避けるため体を動かそうとする、しかし、左手を捕まれたらしく動くことができない

 

やがて、ミシミシと音をたてながら左手が握りつぶされていく

 

「うがぁぁぁぁああああ!!!!」

 

圧倒的な力に握りつぶされる痛みは決して耐えられるものではなく、シンジはその痛みに喉から血が出るほど叫ぶ

 

「シンジ君!」

 

ミサトは叫ぶことしかできなかった

 

左手が完全に折れ、シンジの意識が遠退く。

すると、今度は光のパイルがシンジの頭を撃ち抜く

 

もはや声にすらならない悲鳴と共にシンジは意識を手放した

 

「パ、パイロット、生存不明…」

 

オペレーターの一人、伊吹マヤが死の宣告ともいえる報告を告げる

 

(もう、終わりなの?こんなことしかできないの?父の仇なのに!)

ミサトは腹の底から黒い感情が沸き上がってくる

(あんな子供に乗せるからよ!もし生きてたら容赦しないわ、あんなガキのせいで私の仇が!)

 

皆が沈黙していると、突然初号機が動きだした

 

「ウォォォォォォォオオオオ!」

 

獣のような咆哮とともに使徒を蹂躙する初号機

そのあまりの過激さに皆誰しも口を動かすことができなかった。

 

 

 

「勝ったな」

 

静寂の中で男が呟く、最も、それに答えるものはいないが。

 

だが、その言葉とは裏腹に、その瞳には涙が溢れていた

 

 




さて、最後のセリフは誰の言葉でしょうか?

それはさておき、これからアスカ登場まではシンジ君は綾波一筋、LRS一直線になります。
綾波推しの方々は一話も見逃さず見てくださいね!


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第二話 見知らぬ、天井

「うわぁぁぁぁあ!」

絶叫とともにシンジは目覚める

 

荒くなった呼吸を静め、天井を見上げる

 

「知らない天井だ…」

 

ゆっくりと体を起こし辺りを見渡す、真っ白でなにもない大きな部屋、どうやら病室みたいだ

 

すると、ゆっくりとシンジの頭に昨日の記憶が流れ込んでくる

 

「そうか、あのとき怪物にやられて…」

 

「やっほーシンちゃん♪目覚めたー?」

能天気な声でミサトが入ってくる

 

「はい、丁度今、目が覚めたところです。ところで、ここはどこですか?あいつは、怪物はどうなったんですか?」

シンジは早口で捲し立てるように問う

 

「焦らなくても教えるわよ。ここはネルフの病院、といっても足首の骨折を直すため、心配しなくてもすぐ退院できるわ。

それと、昨日のことホントに覚えてないの?」

 

「はい、あのときはあの子を助けなくちゃって夢中だったので」

 

「あの子?ああ、レイのことね。それにしてもあなたそんなこと考えてたのね」

 

「すいません…」

 

「誰も責めちゃないわよ笑

ただ、初対面の女の子のために体張るなんて意外に男の子なのね」

 

シンジは少し照れるように俯く

 

「それで、使徒をどうやって倒したのか、だったっけ?あれはあなたが倒したのよ」

 

「僕が?」

 

「やっぱり覚えてないか。まあ、あなたが世界を救ったのよん♪」

 

「そうですか、それはよかったです。それと!あ、あの、その、レイっていう子は無事なんですか?」

 

「あら、シンちゃんそんなにレイのこと気になるの?もしかして、一目惚れしちゃった?」

 

この女性はやたらと野暮なことを聞いてくる人なんだなとシンジは思った

 

「いえ、まあ、そんなものです。それにあの様子だとあの子がパイロットなのでしょう?怪我もしていたみたいですし、あんな辛いこと女の子に体験させるのはちょっと…」

 

ミサトは、シンジの言葉に微笑む

 

「優しいのね」

 

「そんなこと無いですよ、僕はただなにもできなくて後悔するのはもう嫌なんです」

 

ミサトはシンジのその表情によほど辛いことがあったのだろうとおもい、その事については触れなかった

 

「あら?十分優しいわよ。それと、あの子は無事よ、まあ入院はしてるけどね」

 

「そうですか、でもよかったです」

 

「そうだ!そんなに気になるなら今度お見舞いいってみる?まあ、シンちゃんの足がなおってからだけど」

 

「あ、はい、是非」

 

そんな感じでミサトと談笑をし、その日は終わった

 

 

入院生活中はネルフの色々な人がお見舞いに来てくれた

大抵はよく頑張ったとか、ありがとうとか、暖かい言葉ばかりでシンジは嬉しかった

 

まあ、中には、涙を流して謝るものや、ミサトを必死に弁明するもの、レイを助けたことを茶化してくるものといった3馬鹿オペレーターもいたのだが

 

それはそうと今日はシンジの退院の日である

 

入院中にお見舞いに来てくれた冬月副司令が、今後の待遇や生活について教えてくれた

 

どうもあの使徒という怪物はまだやって来るみたいで、今回のようにエヴァに乗って戦わなくてはならないらしい

もちろん、シンジも怖じ気づいてはいたがレイのためと思い快諾した

 

住居は当初ネルフ内の予定だったのだがミサトがそれを拒否、ミサトは自分のの家で預かると言ったのだが、今度は副司令がそれを拒否、チルドレンの監視や体調管理にはミサトの家の方が良いのであろうが、何分この葛城ミサトという女性は私生活が杜撰なのだ

 

それを知っている冬月だからこそ、それを拒否したのだが、先程いった監視や体調管理を滞りなくするためには流石に一人暮らしは問題があるためミサトの隣に住むことと相成った

 

そして、今日はもうひとつ、レイとの対面の日である

 

病院内の青果店でフルーツバスケットを買い、病室へ向かう

 

「ここよ。それと、あの子少し変わった子でね、反応が薄くてもガッカリしないでよん」

 

「はい…」

 

「レイ、入るわよ」

 

「あの、失礼します」

 

「何か用ですか?葛城一尉」

 

「ああ、この子がレイのお見舞いをしたいって言ったから連れてきたの」

 

「それじゃシンちゃん、私は外で待ってるから」

ミサトはそう言うと踵を返す

 

「なに?」

 

少女は冷たくそう言う

 

「あの、君のお見舞いに来たんだ。怪我してたみたいだから心配で」

 

「そう」

 

「あの、これ食べる?」

 

シンジはそういってリンゴを取り出す

 

「いい、いらない」

 

「あ、あの、さっきミサトさんから聞いたよ。なにも食べてないんだって?食欲ないのはわかるけどフルーツくらいでも食べないと体調壊しちゃうよ」

 

普段は自分の意見を通そうなんてあまり思わないシンジなのだが、その優しさ故、人のためなら少ししつこくなってしまう

 

「命令なら、そうするわ」

 

「命令?そー言われないと食べないの?」

 

「ええ、必要ないもの。必要の無いことはしない、命令があればそうする。それだけよ」

恐らくいつもはこの言葉ですら必要ないと思うレイなのだが、そうしないとしつこく言われると思ったのか、口数を多くして拒否する

 

 

命令…

そういえば、とシンジは思い出す

あのときもそう言っていた

だからこの子は簡潔な言葉しか話さないのか、まあ、ネルフはどうも軍隊紛いの組織らしいので、そう教えられてきたのかもしれない

 

小耳に挟んだ程度だがドイツにいるチルドレンは10年も訓練を続けてきたらしいし、きっとこの子もそうなのだろう

 

地下で、ほとんど見知った人、それも年上しかいない環境で訓練付けの日々なんてしていたら女の子らしさとか、感情の豊かさなんてのは身に付かないのかも知れない

(とはいえ学校には通っているのだろうし、同年代の子とも関わる機会はあるのだが、実はシンジ自身、友達を作るのが苦手なため、すっかりその事は忘れていたのだ)

 

 

シンジはそう考えをまとめ、彼女を理解したのか、それ以上はなにも言わなかった

 

 

二人の間に沈黙が流れる

 

やがて、シンジは立ち上がると一言、

「あの、君のことをとやかく言うつもりはないけど人から必要と言われたものだけじゃなくて自分でしたいことをしてもいいと思うよ。だって、君は人形じゃないからね」

 

自分でも何でこんな言葉が出たのかとシンジは混乱するが言ってしまったものは仕方がない

しかし、レイが訝しげな顔をしたのであわてて取り繕った

 

「あ、別に君を人形だと言った訳じゃないよ。ただ、もっと自分らしく生きてほしいと思ったから。知ったような口聞いてごめんね。それじゃ」

 

シンジはそう言うと病室から出ていく

 

「人形、私のしたいこと、私らしく。ダメ、わからない。碇君、司令の息子、サードチルドレン、暖かい人。暖かい?そう、私、嬉しいのね」

 

レイは初めて司令以外の人間に興味を持った

 

この暖かさがなんなのかはホントはわからなかったがきっと嬉しいからなのだろうとレイは思う

レイに心が芽生えた瞬間だった

 

 

 

「どう?シンちゃん♪なかなか可愛い子でしょ?」

ミサトがおどけた声で聞いてくる

 

「ええ、そうですね。でも、あの子、たぶん人と関わってないんじゃないですか?なんというか、心が冷たい気がします」

 

シンジは何気なくそう言う

碇シンジという少年は別段頭がいいわけではなかったがその類い稀な優しさからか洞察力があり、こういう核心をついた発言が多い人間であった

 

「そうかも知れないわね。じゃあ、シンちゃん、たびたびレイとお話ししてあげなさいよ」

ミサトはこの少年の中学生離れした洞察力を高く買ったようだ。しかし、流石に非人道的な組織だとは思われたくないため、曖昧な解答で誤魔化す

 

「はい、そうしますね。あの子にはあんな怪物との戦いなんかより、よっぽど幸せな未来を歩んでほしいですから」

 

その言葉は、いつか、シンジの母、碇ユイが言った言葉に似ていた

 

「子供たちの明るい未来、か」

 

ミサトはシンジの言葉に、みずからの幼少の頃を思い出していた

 

 

白い巨人、自分を助けてくれた父、セカンドインパクト、言葉を失ったときのこと、大学での友との出会い、ドイツでの訓練、いままでの色々な出来事を思いだし、ミサトは空を見上げる

 

その頬に一筋に流れる雫が、美しく、煌々と光っていた

 

 




どうでしょう?
綾波レイは心がある方がいいと思いません?
彼女との邂逅はどのような結果をもたらすのか、皆さんも予想してみてください。

さて、次回からはミサトさんは優しくなれるのか、彼女の心情にスポットを当てていくので、ミサトさん推しの方も楽しんでくださいね


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第三話 鳴らない、電話

最初にいっておきますが本作品のなかでは珍しく書き溜めしてないお話ですので少々意味不明な点が存在するかもしれません。ご了承下さい


レイのお見舞いを終えたあと、すぐさま新居へと帰り、引っ越しの荷ほどきを終わらせると、ミサトから引っ越し祝いの誘いが来たのでシンジはミサトの家にいった

 

「さあ、入って入って!」

 

「お邪魔します」

 

「私も最近越してきたばっかだからちょっち散らかってるけど我慢してねん♪」

 

そう言われて招かれた部屋はシンジの想像を越えていた

 

「これが、ちょっち?」

 

シンジはビックリした

足の踏み場もないほど汚れた部屋、ビールしか入っていない冷蔵庫

 

とても目の前にいる美女が暮らしているような家ではない

 

これは何とかしなければと、シンジはそそくさと片付けを始める

 

ミサトはそれに気づかずテレビを見ている

 

一時間ほどして、片付けを終えるとシンジはすぐさま自分の部屋へと戻り食材を持ってくると料理を始めた

 

ミサトはまだテレビを見ている

 

(それにしても、人を招き入れたっていうのにこんなにテレビに夢中になるのか?

僕が片付けをしたりこうやって料理をしていることに気づいているんだろうか)

 

やがて、美味しそうな匂いが部屋のなかに漂うと、やっと気づいたのかミサトがビックリして振り返る

どうやらなにも気づいていなかったらしい

 

「あの、いつの間に?しかも部屋がきれいになってる」

 

ミサトは口を開けて呆然としている

 

「もしかして、ミサトさん気づいてなかったんですか?僕が来てからもう二時間もたってますよ」

 

「え!?嘘!あの、ごめんなさい」

 

「いえいえ、おきになさらず。それに、これは僕が好きでやってることですから。あ、そろそろ料理できそうなんで、食器の準備お願いしていいですか?」

 

「ええ、わかったわ」

 

「あ、あと、ご飯食べたらすぐ御風呂入れるようにしておきましたから」

 

「ホント、何から何までありがとうシンジ君」

ミサトは何から何まで驚きっぱなしで、整理するのも疲れるためもう考えることは諦めた

 

「いえいえ、ミサトさんずっと動いてましたから疲れているでしょう?」

そう、普段の軽さからは想像もつかないが、彼女はれっきとした作戦部長である

使徒戦の後始末や報告、次に向けての対策などやることはたくさんあるのだ

 

「僕は入院していたんで少しからだ動かしたいですし」

 

ミサトの方へ振り返りシンジは優しく微笑む。振り向き美人とは彼のためにある言葉なのかもしれない

 

 

「シンちゃん!私と結婚しない?」

ミサトは突然そんなことを言う

 

「な!なにを言うんですか、からかわないでくださいよ」

 

「大マジよ!」

 

 

「はいはい、じゃあ僕が成人したらよろしくお願いしますねー」

シンジは軽くあしらう。どうやら女性の扱いも不慣れというほどでもないのかもしれない

中学生なのだから、これだけの美人にこんなことを言われたら普通は顔を真っ赤にしてしまうだろう。某ジャージとメガネのように

 

 

「あ、ほら、ご飯出来ましたよ!さあ、食べましょ!」

 

そこには溢れんばかりの美味しそうな中華料理が並んでいる

 

「ミサトさん、ビールお好きみたいですし、簡単に作れるってのもあって中華にしてみました」

 

「ありがとねシンジ君、それじゃいただきます!」

 

「うわぁぁぁあ!美味しいいぃ!シンちゃん大好きぃ」

ミサトは感動し、涙を流しながらご飯にかぶりつく

 

シンジはその様子を優しくニコニコしながら見守っている

 

天使のようなその微笑みはまさに新婚のお嫁さんのようである

 

 

そのあともペンペンとの邂逅、泥酔したミサトとの絡み、知らない天井を見つめ感傷にひたるなど疲労は溜まっていったのだが、その心地よい疲れからシンジは安らかに眠りにつく

 

 

 

そんな生活が4日ほど続いたある日のこと、例によって家政婦と化したシンジはミサトの家で朝食を作っているのだが、今日はなぜかミサトの起きるのが早い

早起きになったのかななどと思っていると、

「あ、そーだシンちゃん、いい忘れてたけど今日から学校よ。第一中学校2年A組ね」

と、突然の辞令

 

「ええっ!?ミサトさん、そんなの聞いてないですよ」

 

「あら、今聞いたじゃない?それで、今日は早く準備してね。幸い制服も特に指定がある訳じゃないし、いつものワイシャツとズボンでいいんじゃないかしら?お昼は購買もあるみたいだし、ね?」

 

冗談じゃない、とシンジは思う。

なぜそんな大事なことを今言うのか、考えてみればネルフの人たちはいつもこうだ

利用するときは利用して、必要のないときは野放し、まったく自分達は道具かなにかなんだろうか

 

「まあ、そう気にすることもないわよ。それに、レイもいるのよ♪昨日退院したみたいだし今日は学校にいくってリツコが言ってたわ」

 

シンジがネルフへの不満を沸々とさせているとミサトがそう言った

 

ネルフへの不満や、学校生活への不安で一杯のシンジだったが、レイという一言で忘れてしまう

 

案外シンジもゲンドウと大差ないのかもしれない

 

 

 

さて、そこから約一時間ほどが過ぎ、場所は学校に移る

 

先程のSHRで簡潔に自己紹介を終え、一時間目の自習時に巻き起こった質問の嵐もそれとなくかわし、シンジは今屋上にいる

 

「おい、転校生、お前があのロボットのパイロットっちゅうんはホンマか?」

 

ジャージで関西弁をしゃべる番長気質の男子に呼び出されたのである

 

「あ、うん、まあ一応」

 

「さよか、すまんな、転校生。ワシはお前を殴らなあかん、殴らな、気がすまんのや」

 

と、ジャージは突然そんなことを言い出す

 

「すまないね、こいつの妹さんこないだの戦闘で大怪我しちゃったんだ」

 

隣にいる、いかにもオタクな眼鏡が言う

 

「そんな…あの、ごめん」

 

「ごめんで済んだら警察はいらんのや!」

ジャージはそう叫ぶとシンジの右頬にパンチを見舞った

 

ぐはっ!と声をあげ、倒れこむシンジ

 

「ええか、次からは足下よう見て戦うこっちゃ」

 

ジャージはそう一言残すと帰っていく

 

「イテテテ…」

 

シンジは赤くなった頬に手をあてがう

 

「碇君、非常召集、先、行ってるから」

するとどこから現れたのか突然レイが横に来てそう言うとそそくさと居なくなってしまった

 

 

 

 

 

「目標は低高度を保ったまま飛行中、ここに向かってきます」

 

「まったく、使徒っていうのはなぜこうも異質なのかしら?飛行の原理もまったくの不明、サンプルがほしいところね」

リツコは持ち前のマッドセンスをフルに活用してもわからない生物に対し嬉々とした目で見つめながらデータをとっている

 

「そんなの知ったこっちゃないわよ。どのみちぶっ倒すんだから!それより、パイロットはまだなの?!」

 

「サードは現在移動中、いえ、ケイジに到着しました」

 

「シンジ君!急いでエヴァに乗って!行くわよ!」

 

「は、はい!」

 

シンジは突然の発進に戸惑いながらも力強く返事をする

 

「パイロット、エントリー完了、シンクロ率60%ハーモニクス正常です」

 

「すごいわね、まだ2回目の戦闘だというのに」

リツコはまたも嬉々とした目で見つめながらそう言う

 

「シンジ君?射出されたら、ATフィールドを展開、使徒のフィールドを中和しながら即パレットガン斉射、いいわね?」

 

「はい」

シンジは簡潔に答える

 

ミサトはその様子にシンジは肝が据わっていると思ったが、実際にはシンジは先程のジャージの言った言葉で頭が一杯だった。

民間人を傷つけるなど想像すらしていなかったシンジとしてはその事実は恐怖そのものなのである。

成功のために犠牲を払うのは当たり前のことなのだがそこを良しとしない辺りがこの碇シンジという少年の強さであり、優しさであり、弱さなのである

 

つまり、シンジはこのとき集中していたのではなく、むしろその逆だったからこそ返事が疎かになっただけなのだ

 

 

そんなことはいざ知らず初号機は地上へと射出される

 

目の前で蹂躙される国連軍、薙ぎ倒されるビル、その惨憺たる光景に死の恐怖が沸き上がる

しかし、それはシンジ自身の死ではなく、先程のジャージの妹のような民間人の被害を思ってのことであった。

軍事には疎いシンジではあったが度重なる訓練を通じて兵器が街へと及ぼす被害に関してはある程度わかるようになっている。それ故に心が痛むのだ。

 

「シンジ君!撃って!」

シンジがどう戦おうか思いあぐねているとミサトから怒号が飛ぶ

 

「え?」

 

次の瞬間、光の鞭がシンジを襲う

 

投げ飛ばされる初号機、シンジの絶叫が響く

 

「嘘、なんで、、、?」

 

「シンジ君?シンジ君!どーしたの!?」

 

「ミサトさん!なんで民間人がいるんですか!」

 

「民間人!?あ、シンジ君のクラスメイト!」

そこには、片足を失った眼鏡の少年とジャージの少年が居た

 

「ミサトさん、僕はまた人を傷つけたんですか?」

 

「シンジ君…」

ミサトは先ほど諜報部の報告によってトウジとのことを知っているが故に言葉を失う

 

「民間人に被害が出るのは僕には耐えられません、この戦いが終わったらパイロット止めます」

人を傷つけたという事実に我を忘れ自棄になってしまうシンジ

 

「なにいってるの!」

冗談じゃない、人を傷つけられないなんて綺麗事だ。とミサトは心のなかで呟く

ミサトは軍人であり、大人である。そう思ってしまうのも無理はないのかもしれない。

 

「ミサト!」

瞬間、リツコがミサトを遮る

 

「シンジ君のシンクロ率が下がっていってる。起動指数ギリギリよ。この状態じゃ戦うことはおろか、逃げることすらできないわよ」

技術部長のリツコとしては友人の勝手な復讐心で計画を潰されてはたまらないのだ。

 

「チッ!兵装ビル幾つ使える?使えるだけ稼働させて!」

ミサトとて馬鹿ではないらしくすぐに対応を始める

 

「撃てるだけ撃って!チャンスを見計らって使徒をワイヤーで捕捉。いいわね!」

リツコからの事前報告によって今回の使徒はATフィールドを展開していないことは知っている。

それは、単純に防御力の高さが異常だということを意味する。つまり攻撃自体は届くのである。すなわち、ダメージを与えることは出来ずとも、動きを止めたり、吹き飛ばすことくらいは可能なのだ。

 

「はい!」

ミサトの思わんとすることに察しがついたのかオペレーターは指示を最後まで聞くこと無く行動に出る

 

 

そして、、、

 

 

作戦部長としての本領を発揮し、使徒の捕捉に成功するミサト

歓喜する発令所、圧巻される国連軍

 

形こそ歪だが、人の力が証明されたことは素晴らしいことだ。

 

「シンジ君、後で私のところへ来なさい。

それと、そこの二人は覚悟することね」

ミサトの表情は複雑である

 

「副司令に会わせてくれますか?」

足元で嘆くクラスメイトをよそにシンジは憤りを込めた声で提言する

 

「それは貴方の態度次第ね」

しかし、ミサトは軽く受け流す

 

 

この後の出来事が二人の壁を強固にしてしまうことに今はまだ誰も気づいてはいない




さて、シンジ君はどーするつもりなのでしょう。
優しさがもたらすのは正義が自己保身か。

すいません。この話忘れてて書いてませんでした。てなわけで急遽作ったので改訂するつもりです。
駄作でも勘弁してくださいね

次回予告

シンジの行動に憤慨するミサト。彼女の歪な心はシンジを無慈悲に傷つける。
耐えきれず逃げ出すシンジをリツコは優しく慰める。
決裂する大人たちの関係、顕在化しはじめる心の壁。
悲しみの雨のなか少女は彼に何をもたらすのか。

来週もサービス♪サービス♪


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第四話 雨、逃げ出した後

最初にいっておきますがミサトの書き方が少し酷いです。ミサト推しの人、すいません。


「僕はエヴァに乗りません。」

 

シンジはミサトにそれだけ伝えるとそれ以上口を聞くことはなかった。

 

ミサトはそんな態度に苛立ち、手を挙げようとしたが、リツコに止められ、オペレーターたちに宥められながら祝勝会へと向かっていった。

 

シンジの方はと言うと、リツコに優しく諭されていた。

 

 

「シンジ君、学校で何があったかは知ってるわ。だから、あなたは今回のことでなにも悪いところなんてないのよ。

あなたが優しいことは私たちが一番分かっているはずなのに、辛いことをいってしまってごめんなさいね。ミサトを許せとは言わないわ。そもそもシェルターを抜け出されたのも私たちの失態だしね。

でも、シンジ君、ひとつだけ忘れないで。

今回のようなときは別として、基本的にはミサトの指示には従って。

ミサトは軍人、戦いに勝つための手段は彼女がたてる作戦が私たちのなかで一番なのよ。だから、ミサトのことを恨まないで欲しいのよ」

 

リツコは半ば錯乱状態にあるシンジのために懇切丁寧に、そして優しいシンジのためにあえて非礼を侘び、それでいてミサトの管理下から逃げられないようにと細心の注意を払っていた。

 

「リツコさんが家族ならいいのに…」

 

シンジはふと、そんなことを呟く

 

「ふふ、ありがたいことね。

でも、何でそんなこというの?ミサトのこと嫌いになった?」

 

「嫌いというよりも苦手です。

最初はフレンドリーに接してくるのに、規律だとか命令だとか、戦闘になると目の色が変わるし、おどけてるようで何か考えてるみたいだから気持ちがわからないから。」

 

それを聞きリツコは少し驚く。

 

シンジのいうことはほとんど核心をついていた。

ミサトが父の仇のため戦っていること、家族というのは飾りで、実際には監視や管理が目的なこと。

シンジの洞察力にリツコは自分に似たものを感じる。

 

「シンジ君、あなたはよく人を見ているのね。

酷な話かもしれないけれどしっかりとした答えを返さないといけないわね。

今、シンジ君はこのネルフでもかなり上位の保護指定人物なの。シンジ君はパイロットだから、命を狙われかねないし、あなたの体調もいち早く気づかなければいけない。

まあ、これにはあなたも気づいてるでしょうけどね。

そして、シンジ君。あなたは考えすぎよ。

たとえあなたの考えが当たっていたとしても、あなたが考えすぎて苦しむのは私としても嫌なのよ。」

 

リツコは儚げな表情を浮かべる

 

「どうしてですか?

それもパイロットの体調管理の一環ですか?」

 

苛立ちを感じていたシンジは反抗的な態度で答える

 

「そういうところよシンジ君。

あなたは言葉を深くとらえすぎなのよ。

あなたはね、私に似ているのよ。

私の母はあなたのお母さんと同じで東洋の三賢者と言われる科学者だった。

だから、小さい頃から何をしても“赤木くんの娘だから当然”としか言われなかった。

それが悔しかった。それからというもの、誰から誉められても、嬉しくなかったし、関わってくる人もどーせ私や母さんの研究や権力にしか興味ないんじゃないかと思うようになってしまった。

何をしても心は満たされない。誰とも関わりたくないのに、人肌が恋しくなる。寂しくなるのよ。

あなたにはね、こんな無様なことになってほしくないのよ。」

 

リツコはそんなシンジの態度に不快になることもなく思いの丈を語る

 

「心配してくれたのに体調管理のため何て言ってしまってごめんなさい。

リツコさんのおかげで少し頭が冷えました。

ありがとうございます」

 

リツコの真意に気付き、シンジは素直に謝る

 

「感謝されることなんてないのよ。

じゃあ副司令の部屋まで送っていくわ。

いらっしゃい」

 

リツコは微笑みながら答えるとゆっくり歩き出す

 

「シンジ君か。

私に話しとは一体どんなことかね?

先にいっておくが、君をパイロットから外すことは難しいのだよ。」

冬月の部屋に入ると先手を打ってきた

 

「いえ、リツコさんのおかげで落ち着きました。

エヴァには乗ります。民間人も守ります。綾波もネルフの皆さんも守ります。」

 

どうやらシンジの目的は違うところにあるようだ

 

「ほう、それは有り難いことだね。

では、話とは何かね?」

 

「さっきもいった通り僕はみんなを守ります。

だから、僕に協力してください。

使徒を倒すためじゃなく、民間人を守る組織として。」

 

「ほう、つまり君は目標殲滅より、被害の縮小に重きを向けた作戦がほしいというのだな。」

 

パイロットをやめると思ってたシンジからの思わぬ提言に組織内の人員をもう一度選別しようと決める冬月

 

「はい、もう傷つく人はみたくないし、僕が傷つけたビル群もただじゃないでしょう?

経済は悪化の一途をたどっている。これ以上飢餓で子供たちが苦しむのは耐えられません。」

 

「君はそこまで考えているのか。

分かった。我々は使徒の脅威から人々を守るためにある。人命救助を重点とさせよう。

話はそれだけかね?」

どうやら心底感心したようである

 

 

 

「これは僕のわがままですけど、リツコさんと一緒に住むことはできませんか?」

ここでシンジが本題を切り出す。

シンジが冬月と話そうと決めたのもミサトの隣人が嫌だったからなのだ

 

「赤木くんとかね?

本人次第だが、彼女は多忙だ。

基本はネルフにいる。あまり家にいるわけではないぞ?」

 

しかし、冬月としてもそれは都合がいいことなので却下はせず理由を探る

 

「いいんです。リツコさんはきっと僕を殺そうとしないはずだから。

それに、綾波のこともリツコさんは育ててくれたみたいだし、せめてなにか恩返ししたいので」

 

「そうか、それは辛い思いをさせてしまったね。

赤木くんには私から伝えておく。

それにしてもなぜ碇ではなく私に話したのかね?」

口実ができて一先ず解決し、冬月は赤木博士を選んだ理由にゲンドウがいないか探る

 

親子二人で同じ趣味だったら最早お笑い以外の何物でもないのだ。その辺りに気を配らなければならない分冬月は多忙なのだ

 

「父さんは多分僕の好きにはさせてくれないですから。

それに、なぜかはわからないけど父さんは綾波とリツコさんだけは他の人より大切みたいだし。」

 

「どうしてそう思うのかね」

赤木博士が漏らしたのかと怪訝な顔をする冬月

 

「見てて分かりますよ。それに、子供が死にかけてもなにも思わない、平気で殺そうとする人を僕は父とは思いません。ここに来てからずっと言いたいことが二つあります。僕に家族なんて入りません。そして、僕は道具じゃありません」

 

「そうか、それはすまないね。では気を付けて帰りなさい」

 

ほんとはもっと色々言うのだろうがシンジの言葉は当たっているのでなにも言わずそっとしておくことにした。

 

 

 

「息子より、女。か」

教え子がただの外道になったことに落胆しため息をつく師であった

 

 

 

「あら、早かったわね

あなたも祝勝会行くでしょ?なんたって戦ったのはあなたなんですもの」

外に出るとリツコが待っていた

 

「いえ、僕はなにもしてません」

 

「そう、それならレイも行っていけないというの?

あの子はね、ずっとここで生活してきたから同年代の友達がいないのよ。本来なら祝勝会なんて来ないのよ。きっとあなたになにか期待しているんでしょう。行ってあげてくれないかしら?」

悪戯っぽく笑うリツコ

 

「綾波がですか?それなら行きます。」

 

「ありがと。なら送っていくわ」

 

「何から何までありがとうございます」

 

「感謝されるようなことじゃないわよ。まだ子供なんですもの。甘えたっていいのよ」

 

 

 

「おっそーいリツコー。」

もうすでに酒が回っているミサトは普段の姿からは想像できないだらしない姿で悪態をつく

 

「あら、あなたと違って後始末があるのよ私は」

ミサトに対し苛立ちを覚えているリツコは少し毒づく

 

「相変わらず仕事の虫よね。それで、シンジ君も来たわけ?」

リツコに対しては反論できないため標的をシンジに移す

 

「なに?シンジ君は当事者でしょ?」

表情は変えず、しかし苛立ちを込めて答える

 

「そーいうこといってんじゃないわよ。命令違反で罰則もないわけ?」

あくまでも緩さを保っていくミサト

 

「全く、変なところで軍人になるんじゃないわよ。シンジ君、レイが待ってるから行ってあげて」

シンジの悲しげな顔を見ていたたまれなくなったリツコはシンジをレイのもとへ行かせる。

 

 

「あ、はい」

そういってそそくさとレイのもとへ向かう

 

「碇君…」

レイは振り向きながら名前を呼ぶ

 

「やあ綾波」

 

 

「ごめんなさい」

少し俯き加減で謝るレイ

 

「突然どーしたの?」

 

 

「だって、碇君がジャージの人に殴られたとき止めに入らなかった。

赤木博士はケンカは止めるものだといっていたわ」

このところリツコはレイに情操教育をしている。リツコ曰く、彼女ももう思春期なのだからだという

 

「なんだ、そんなことか。気にしてないよ。

それに、殴られて当然だったしね」

 

「なぜ?ジャージの人の妹が怪我をしたのはエヴァのせいじゃないのに?」

 

「どーいうこと?」

 

「ジャージの人の妹はN2爆雷の影響で崩れた瓦礫で怪我をしたと聞いているわ」

 

「それじゃただの八つ当たりってこと?」

 

「ええ、私にはわからないけれど」

 

「そっか、よかった」

 

「どうして?」

 

「心のそこから恨んでるんじゃないって分かったからさ」

 

「そう、碇君は優しいのね」

 

「心配してくれてるのかい?」

 

「心配。よくわからない。でも、なぜか不安」

 

「そっか、ありがとね綾波」

二人の会話は盛り上がりすらしないものの幸せそうに時間が流れていた

 

 

「ミサト?シンジ君はまだ子供なのよ?」

リツコはこの際言いたいことを言おうと思っている

 

「子供だからって甘く見てられないでしょ?ここは戦場なのよ?」

一方のミサトも臨戦態勢である

 

「でも結局その子供に頼らなきゃなにもできないじゃないの」

 

「私だってエヴァにさえ乗れればあんなガキ用はないわよ」

 

「ミサト!もう一辺言ってみなさい!

ただじゃおかないわよ」

 

「何よリツコ。エヴァを作ったのはアンタでしょ?何が汎用人型決戦兵器よ。どこが汎用なのよ!」

 

「あなたに、あなたなんかに何がわかるのよ!」

そういってテーブルを叩くリツコ。

しかしその目には涙をためている

 

「リツコさん!大丈夫ですか?落ち着いて」

慌ててシンジが駆け寄ってくる

 

「あら、シンジ君。ごめんなさいね」

 

「なーに?リツコは名前で呼ぶわけ?」

今度はシンジに牙を剥くミサト

 

「葛城さん。今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう?」

シンジはそんなミサトに憤りを覚える

 

「なによ、それは!そんなにリツコが好きならリツコの弟子にでもなればいいじゃない!ガキは大人しリツコお姉さんに甘えてなさいよ!」

大人げなく騒ぎ立てるミサト

 

「ミサト!」

 

「じゃあなに?彼が今回の作戦でなにか有効なことをしたわけ?なんで臆病者のガキがこんなとこに来てるのよ!」

 

「それは…」

 

「もういいですよ、リツコさん」

シンジはそう言うと出ていこうとする

 

「ちょっとシンジ君どこ行くの?」

 

 

「今は一人にしてください。さよなら」

そういったシンジの肩は震えていた

 

 

「ミサト!なんてこというのよ!」

 

「ほんとのこといったまでじゃないの

人に咎められて逃げるなんて、ホントにガキね」

 

「ミサト、あなた最低ね」

 

「なんとでも言いなさい。軍人は民間人に恨まれるものよ」

 

「はぁ、レイ、シンジ君を追いかけて」

このままじゃミサトが暴走しかねないためリツコはミサトを落ち着かせるためここに残る。

そこで、レイにシンジを頼む

 

「今外は大雨よ?あの子相当傷付いたみたいだからきっとどこかで泣いてるわ。風邪でも引いたら大変じゃないの」

 

「分かりました」

 

「リツコー?あなたいつからシンジ君のお母さんになったわけ?」

 

「その言葉絶対あの子の前で言わないで」

 

「なーに?照れてんの?」

からかうミサトだが、リツコはなんの感慨もうけない

 

「いい?ミサト、シンジ君の母はエヴァの建造中に事故で亡くなったの。彼が3歳のときにね。そして、司令に捨てられた。彼はユイさんではないもの。碇司令にとっては必要なかったのよ」

どうやら相当苛ついていたらしく、つい口が滑る

 

「そんなことってあるのね」

 

「ちゃんと資料読みなさいあなた。

だから、シンジ君の前で軽々しく家族なんて言わないで。あの子にとっては家族は温もりじゃなく恐怖なのよ」

リツコそういいながら心配そうには雨の降り頻る窓を見つめた

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱみんな僕のこと役立たずって思ってるんだろうな。それもそうか、戦闘中に戦意喪失なんて罰せられて当然か」

鬱陶しい雨の中シンジは歩いていた

 

「このまま倒れたらどうなるのかな。きっとネルフの病院に連れてかれるんだろうな。

リツコさん、きっと心配してくれるんだろうな。あの人だけは他の人とは違うから」

自棄になり絶望しながらも、リツコを思い浮かべる。

どうやら、シンジの中でリツコは大事な人になったらしい

 

 

「いや、ダメだ。リツコさんにはさんざん迷惑をかけたんだ。僕の体調管理もしてくれてるし、優しい言葉で慰めてくれた、さっきは葛城さんからかばってくれた。

でも、もう迷惑かけちゃダメなんだ。

僕一人で頑張らないと」

しかし、優しさの塊であるシンジは人に頼ることを拒絶する

 

「何だか眠くなってきたな。ここで寝てもいいよね。もう疲れたよ」

疲れ果てたシンジは路地裏で倒れこんでしまった

 

 

 

「碇君、見つからない。

もう二時間も探してるのに。赤木博士からの連絡もない。碇君、どこ?」

雨の中必死に走り回るレイ

 

しかし、彼女が探しているのは人気の多い通りであるため見つからない

 

普通あのような状態のときであれば人を避けるために人気のないところに逃げ込むのだがレイに感情を理解するのはまだ難しいのである。

 

大方、レイの思考では、雨が降っているからどこかで雨宿りしていると思っているのだろう。確かに合理的なレイから見ればそれが正解なのだ

 

 

 

 

 

「碇君、見つけた。」

どこを探しても見つからないため捜索範囲を広めて探しはじめてから一時間後、雨も弱まり月明かりに照らされた薄暗い路地でシンジを見つけた

 

 

 

「碇君?寝てしまっているの?冷たい、これじゃ死んでしまうわ」

返事がないシンジに駆け寄り安全を確認するレイ。しかし、その手は死人のように冷たい。寝息が聞こえなければきっと死んでしまったと思うであろう。

 

 

〈赤木博士、碇君を見つけました。でも、寝てしまっている。それに雨で体が冷えてて、動かなくて、それで〉

突然のことへの対応苦手なレイはパニックに陥って動揺してしまう

 

〈落ち着きなさい、レイ。今すぐ迎えにいくわ。何処にいるの?〉

そんなレイをやさしく宥めると、車へ向かうリツコ

 

〈ええ、分かったわ。近くにコンビニがあるからそこで雨宿りしてなさい〉

場所を聞き、車を出して電話を切る

 

 

 

「レイ、良く頑張ったわね。少し待ってて」

リツコが二人のもとへついたのはそのすぐ10分後のことであったが、たった10分とはいえ

自分よりも重い少年をおぶっていたレイの足は震えている。

このままでは二人とも風邪を引くため車にのせるとコンビニへ入っていく。

 

「さぁ、行くわよ」

何やら風邪薬やタオルを買ったらしいリツコは二人をタオルで拭くと車を走らせた

 

「何処へ?」

レイが首をかしげる

 

「私の家よ。もう遅いし二人とも泊まっていきなさい。」

レイは忘れていたがもう時刻は22時を回っている。

子供をそのまま返すわけにはいかない。

それに、この二人は今一人にしておくのは危険なのだ

 

「でも」

 

「遠慮しなくていいのよ。あなただってシンジ君が心配なんでしょう?」

レイの言葉を遮り答えるリツコ

 

ところで、このところレイはリツコの笑顔が増えたことに気づいているのだろうか

 

「分かりました」

 

 

 

 

「でも、レイのパジャマとか持っていかないといけないわね。じゃあ少し寄るわね」

ふと、思いだしたリツコはレイの家へ向かう

 

 

 

「レイ、あなたあのままなにも買ってないの?」

レイの家に入るなりリツコは驚きの声をあげる

そこにはおよそ人が住んでいるとは思えないほど殺風景な光景が広がっていた

 

「何を買えばいいか分からないので」

レイは全く気にせず答える

 

「はぁ、じゃあ明日は買い物行くわよ」

リツコの想像通り、レイはなにも買っていなかった。

 

元々レイには買い物を好きにしなさいと言ってあるのだが本人にその気がないだけなのである。

しかし、このままではさすがに不味いので買い物へいくことにした

 

「服も持ってないのね。仕方ないから今日は私のを貸すわ」

クローゼットの中には制服、タンスには最低限の下着しか入っていなかった

 

 

「さぁ、入って」

リツコの家はマンションではなく戸建ててある

家に帰るというよりは寄ることの方が多いリツコにとってはミサトのようにマンションで住むのは面倒なのである

それに、すぐにでも車を走らせることは緊急時の対応にも役立つのだ。

 

「う、ん、、?ここは、、、?」

しばらくしてシンジが目覚める。

 

毛布がかけられ服は少し大きめのジャージに替えられている。

ちなみにこのジャージの出所は秘密である。

 

「シンジ君、目が覚めた?

ここは私の家よ。ちょっと待っててねご飯もうすぐ出来るから」

リツコはキッチンからそう声をかける

 

「碇君、大丈夫?」

すると今度はレイが駆け寄ってきた

 

「綾波来てくれたの?」

 

「あら、見つけてくれたのはレイよ」

 

「そっか、ありがとう綾波」

 

「いいえ、私は赤木博士に言われたから」

 

「そっか」

分かりやすく落胆するシンジ

 

「でも、碇君が全然見つからなくてすごく心配だった。さっきは分からないと言ったけれど、分かった気がするの。」

 

「心配してくれたんだね。ありがとう」

そういって微笑むシンジ

 

「ごめんなさい、こういうとき、どんな顔すればいいか、分からないの」

レイは顔を赤らめ俯く

 

「笑えば、いいと思うよ」

そうシンジに言われ、天使の微笑みを見せるレイ

 

「ふふ、お熱いのね二人とも。さあ、ご飯出来たわ。二人ともいらっしゃい」

 

「すいません」

 

「謝んなくていいのよ。これから一緒に住むんですもの」

 

「え!?」

間抜けな声をあげるシンジ

 

「あら、シンジ君が言い出したんじゃないの?」

 

「そうですけど、こんなに早くOKされるとは」

 

「私もね、最初は断るつもりだったの。でも、あなたを見てるとほっとけないのよ。だから、うちにいらっしゃい。」

シンジを見ていると保護欲を掻き立てられるのだ

 

「ありがとうございます」

 

「ふふ、気にしなくていいのよ。それに、誰かがうちにいるって心地いいものだしね」

 

「すいません、良くわかりません」

 

「そうよね、私もね母が研究一筋で家にいなかったからずっと一人だったの。すごく寂しかったし辛かったわ。でも、今こうやってあなたたちがここにいる。それが嬉しいのよ」

どこか悲しそうに語るリツコ

 

「そうですね、リツコさんと綾波は一緒にいて心地いいです」

するとシンジが気を利かせる

 

「ふふ、親になるってこう言うことなのかしらね」

そういって笑うリツコは今恐らく誰にも見せたことがないほど心からの笑顔をしていることだろう

 

「あら、ごめんなさい。今日は変なことばかりってしまうわね。酔っているのかしら?お酒は飲んでいないのだけれど」

家族という言葉をシンジに向けるなと言った自分が失言してしまい慌てるリツコ

 

「いえ、ホントにリツコさんがお母さんだったら良かったのに」

シンジがボソッと呟く

 

「さ、レイ、シンジ君お風呂入ってきなさい」

リツコはそれには気づかない振りをする

 

「はい」

 

「それと、レイは私と一緒に入りましょ?」

ウィンクするリツコ

 

「お話があるのよ」

首をかしげるレイにため息をつきながらそう告げる

 

 

「リツコさん、いい人だな。みんなとは大違いだ。家族ってこう言うものなのかな」 

 

お風呂に浸かりそういいながら涙を流すシンジ

 

 

 

「レイ、今までごめんなさいね」

お風呂に入るなりリツコはそう言った

 

「あなたの身の回りの世話のことよ。ほったらかしにしてしまっていたわ」

 

「いえ、気にしていませんから」

 

「じゃあ、明日のお買い物はシンジ君も来てもらいましょうか?」

 

「はい」

言葉こそ素っ気ないが顔は真っ赤である

 

「レイ、あなたってそんな顔できたのね」

目を見開いて驚くリツコ

 

「変、ですか?」

おそるおそる訪ねるレイ

 

「いいえ、可愛いわよ。これからもっとたくさんの表情が出来るようになるといいわね」

慈愛にみち溢れた目はほんとの母親を思わせた

 

 

「シンジ君ごめんなさいね、他に空き部屋はあるのだけれど掃除してないから今日はレイと一緒にここで寝てくれるかしら?布団は二つあるから」

ほんとはそんなことないのだがレイのために画策する

 

「僕はいいですけど」

 

「私も構わないわ」

 

「そう言うことだから、それに二人もなにかお話しして親睦を深めなさい。エヴァのことならレイが、学校のことならシンジ君が話せるでしょ。」

そういって部屋を出ていくリツコ

 

「分かりました」

 

 

「でも、しっかり寝なさいよ。あなたたちは疲れてるんですもの」

 

 

「ありがとうございます。おやすみなさい」

 

 

 

 

 

「いい寝顔してるわね。こんな無垢なこどもたちに世界の命運を懸けてるなんて。でも、それもあの子が来るまでの辛抱よ」

子供たちが寝静まった頃リツコは二人の寝顔を見ながらシンジとレイの頭を撫でていた

 

 

「母親、か。母さんは何を考えてたのかしらね。それに、私が親だなんて。ロジックじゃないのね」

 

そういって微笑むリツコの顔は、欺瞞に満ちたものではない、優しい母の顔に見えた




ホントはもっとミサトとの確執を書きたかったのですが、ミサトアンチではないので割愛させていただきました。

今回はリツコ回です。そして、リツコは今作のキーになります。
まあ、いくつか伏線があるので、お察しください。
↑自分で伏線とか言う時点でかなり分かりづらい伏線ですので伏線として役に立ちませんけど笑笑

ところで、リツコさんはなぜこんなに優しいのでしょう?
まあそれは後々分かるとして、次回予告!


お互いの壁を感じ、益々溝が深くなっていくミサトとシンジ。
お互いの確執はやがて周囲へと広がっていく。
分裂する司令部、再び起こる悲劇、その時司令は何を思うのか?

次回、ネルフ、思惑のむこうに


※追記 今回、次回は通常話2話分の作品なので、人の造りしものは割愛させていただきます。


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第五話 ネルフ、思惑の向こうに

更新できなくてすいませんでした。
立て込んでいたことも少しずつ解消し、やっと落ち着いたので、これからぼちぼち更新していきます。
駄文ですが、最後までよろしくお願いします。


リツコの家で住むことになったシンジは自分の部屋をもらい、荷ほどきを終えて眠りに耽っていた

 

 

「…ンジ君、シンジ…シンジ君!」

 

誰かが自分を呼ぶ声がすると思いシンジが目を開けると目の前にリツコの顔があった

 

「うわぁ!」

跳ね起きるシンジ

 

 

「シンジ君、ご飯出来たわよ。食欲無いようなら後にするけど…どうする?」

 

「いただきます」

 

 

 

そういって二人がダイニングへ行くとテーブルには豪勢な食事が所狭しと並んでいた

 

「うわー」

圧巻して下を巻くシンジ

 

「どう?喜んでくれた?ささやかで申し訳ないけれど今夜は貴方の引っ越し祝いよ」

 

「あの、ありがとうございます」

 

ふふ、と笑うリツコ

 

「さあ食べましょうか」

 

 

「シンジ君、お願いがあるのだけれど。レイとこれからも仲良くしてくれないかしら?」

 

「なんだ、そんなことですか。言われなくてもそのつもりですよ」

 

「それなら良かったわ。でも、あの子、育ちがあまり良くないの。だから少し世間知らずなところがあるのよ。」

 

「ああ、なるほど」

 

「どうかした?」

 

「いえ、なんでもありませんよ。ただ、今日の買い物してても好きなものがわからなかったり、服なんて必要ないとか言ってたから不思議だったんです」

 

「シンジ君、レイのことお願いできるかしら?」

 

「もちろんですよ」

 

「ふふふ、頼もしいわね。」

 

 

 

一方、その頃レイは…

 

 

「ありがとう、感謝の言葉、初めての言葉」

 

「碇君、司令の息子、初めての人、よく、わからない」

 

レイは今日のことを思い出していた

 

 

ショッピングモール

 

シンジはレイと買い物に来ている。

本当はリツコも来る予定だったのだが、用事が入ったため二人をショッピングモールまで送ったあとネルフへと向かってしまったのだ。

 

 

「綾波、まずは家具を買おうか?値段も大きいし、お金もあまりある訳じゃないから先に買っておかないとね」

 

「ええ、そうするわ」

 

ショッピングモールというのは便利なもので、インテリア、家電、洋服、食料品となんでも揃っているのでモノにこだわりの少ないレイやシンジにはうってつけの商業施設である。

 

インテリア用品店

 

「綾波、まずはソファー、テーブル、カーテン、カーペット、ベッド、壁紙、照明を選ぼう。」

 

「どれを選べば良いのか分からないわ」

 

「部屋のイメージを作るものだから綾波の好みの柄で統一すれば良いんじゃないかな?」

 

「ごめんなさい、よくわからないの」

 

そういってレイは俯く

 

「そっか、じゃあ、無難にインテリアセットを買おう。全部は選べなくても、セットの中からなら選べるでしょ?」

 

「あ、これなんかどう?」

カタログをパラパラと捲る手が止まる

 

そこには、彼女らしい淡く繊細な色のもので統一された、涼しげな部屋の写真があった。

 

「綾波、あまりモノを使わないみたいだし、あの部屋空調もないから涼しくて落ち着ける方がいいかなって…どうかな?」

 

「碇君はこういうものが好きなの?」

 

「えと、綾波に似合うかなって。これならこの毎日の猛暑も気にならないし、読書にも向くと思うよ」

そこには涼しげな水色と、優しい白を基調としたこざっぱりとしていながらもおしゃれな装飾もあるトータルコーディネートインテリアセットがある。

 

レイはあまり好みなどはないが、このとき初めて好きという感情が芽生えた。

どうやらレイは相当気に入ったらしい

 

「なら、これにするわ。」

一見冷めた物言いだが、彼女の頬は紅潮している。

どうやら素直になるのが恥ずかしいようだ。

 

さぁ、次は洋服選びだ。と意気込む

 

 

レイとシンジは中高生に人気のブランドではなく、少し大人目の洋服店に来ていた。

 

最近の若者の風潮はレイに合わないと判断したシンジが、他に唯一知っている店だった。

 

「綾波、何かいいものあった?」

 

シンジが訪ねるが、綾波は申し訳なさそうに俯く。

 

シンジは選んであげようかとも思ったがあまり自信もないので店員にいって繕ってもらうことにした。

 

その後、帽子や靴、下着や靴下などを買って買い物は終わり。

 

家電の方はリツコが既に手配してくれたらしい。

 

レイの好みが無いというのもあって想像よりも早く終わっので早めにお昼を済ましてショッピングセンターを出た。

 

 

「綾波、ちょっと待ってて」

帰る途中、立ち寄った公園のベンチで休憩していると突然シンジがそういってどこかへ走っていく。

 

「待たせてごめんね」

そういってシンジが戻ってくる。その手にはアイスクリームが2つあった

 

「ほら、今日は暑いからさ。綾波もたくさん歩いて疲れたと思うし」

 

「そう、なら頂くわ」

 

そんな姿を見て困ったように笑うシンジだったが、レイはお構いなしに食べきるとまた歩み出す。

 

そして、綾波の家についた。

 

「それじゃ、綾波。僕はこれで!今日は楽しかったよ!」

 

「あ、あの、今日はありがとう。色々助かったわ」

そういって顔を真っ赤にしながらも微笑む

 

「やっと笑ってくれたね。やっぱり綾波は笑顔が似合うよ。それじゃまたね」

 

「ええ、また」

 

 

 

 

 

「なぜ?心がポカポカする。そう、碇君との買い物が楽しかったのね私」

そういって自分の感情を理解したレイは、ベッドに顔を埋めている自分がにやけていることに気付いていなかった。

 

 

 

所変わってネルフ本部発令所

 

「葛城さん、不機嫌そうですね。」

「朝からずっと文句言いっぱなしだもんな」

思い通りに行かない使徒戦にミサトは苛立ちを隠しきれずにいた。

 

「なんなのよ、あのガキは!私のおかげで勝てたってのに礼のひとつも言わないわ、リツコに泣きつくわ、全くそんな甘い気持ちでパイロットなんかするんじゃないわよ!」

仮にも仕事場である発令所だと言うのに平気でシンジを非難するミサト。

そしてその暴言の矛先は遂にリツコにまで向けられる。

「全く、リツコもリツコよね。何であんなガキに甘くしてるのかしら?一緒に住んでるらしいし、もしや?いや、まさかね」

そう言いながらもマヤに視線を向ける

 

「か、葛城さん!先輩に限ってそんなこと!」

 

「あら、リツコは科学一筋だったこそきっと一度落ちたら落ちるとこまで落ちるわよ。それこそ溺れるくらいにね」

その言葉に絶句するマヤ。どうやら覚えがあるのかもしれない

 

「そうだっ!そんなに気になるなら調べて見ましょ!これ以上職務怠慢されても困るし、これはあくまで上司としての行動だから問題なしよ!」

 

そうして、良からぬことを企てるミサトたちだった。その思惑の行き着くところは…

 

 

 

 

ネルフ司令室

 

「碇、保安部が監視してたレイのことだが」

 

「なんだ?」

 

「いや、言いづらいんだがな。どうにも感情が芽生え始めたらしい」

 

「なぜだ?」

 

「お前の息子だよ。やはり同年代の異性がいると言うことは大きいのだろう。」

 

「ふっ、レイはユイに似ている。息子に惹かれるのもそれが理由だろう。」

 

「お前はそういうがな。お前を裏切り、彼のもとにつくことも考えられるのだぞ?」

 

「問題ない。その時は消えてもらうだけだ。だが、確かにパイロットの損失は大きい。

だがレイの心を閉じ込めるのは簡単だ。シンジとて、すべてを受け入れるわけはあるまい?」

 

「成る程な。相変わらず外道だなお前は。」

 

「おや、あなたがおっしゃるのですか?冬月先生?」

 

「はあ、確かにそうだな。私はもう教育者でも人間でもない。ユイ君以外に興味など無いしな」

 

そういって不敵に笑う二人だった。

 

 

 

 

今日は起動実験の日、レイの脳裏にはあのときの暴走がよみがえる。

 

以前は自分を助けてくれたゲンドウを慕っていた。だが、シンジやリツコと暮らすうちにあのときの笑顔にどこか翳りと思惑があったことに気づいた。

果たしてそれがなんなのかは分からないが、少なくても、なにも言わずとも自分を支えてくれるあの二人のように手放しに歓迎していい人間ではない…と思う。

 

無へと還るために作られた存在、ゲンドウによって作られた仮初の命だと言うことはわかっている。人形に心がないのも知っている。

 

だから、たとえ命の危険に晒されようとも自分はあの白い巨人から逃れられないのだ。時が来るまでは…

 

 

そんなことを考えながら憂鬱に惰性でシャワーを浴びていると誰かが家に入ってきたらしく、廊下に足音が聞こえた。

 

この場所を知っている人間は、ゲンドウ以外にはリツコしかいない。

 

実は、シンジは建物は知っているが部屋の番号は知らないのだ。まあ、ほとんど廃墟なので住める部屋など限られてはいるのだが

 

 

そこで、レイは正体がゲンドウだと当たりをつける。

というのも女性であるリツコなら部屋にずけずけと入るような不躾な真似はしないと思ったからだ。

 

自分の部屋を掻き回されるような不安とそれを阻止しなければという焦燥感に駆られ、服を着ることもせずに部屋へ向かうレイ。

 

そこにはやはりゲンドウが立っていた。

 

そして彼は冷たく言い放つ

 

「なんだこれは?」

 

「碇君と赤木博士が」

 

「誰が許可した?」

レイの言葉を遮り、威圧的に問いかける

 

「申し訳ありません、碇司令」

 

すると突然ゲンドウが近づいてくる

そして

 

パシンッッ!

 

と音が鳴る

 

レイは自分が叩かれたことに気付いていなかった

 

ゲンドウはそのまま部屋を去っていく。

 

「お前には失望した」

 

最後にそう言い残して出ていくゲンドウをレイは呆然と見つめ、ただ立ち尽くしていた。




レイとシンジの買い物のところはホントによくわからなかったので適当です。

さて、思惑というほどかな?と思うかもしれませんが、本番はこれからです。
まだラミエルも来てませんし、原作より遅れてますしね。


さて、主人公を変え、転生モノにすることにしたわけですが登場はまだ先です。でも、もうすぐかな?

使徒戦の順序だったり、その他のイベントだったりは原作準拠なので大幅に脱線することはありませんが、加持さんを殺しはしません。アスカも救います。三人目にもしません。
それ以外は…まあ、後々わかるとして

次回予告!

芽生え始めた幼い心は、穢らわしく掻き回され、再び光を失ってしまう。
レイを心配するシンジであったが、これまでにない最強の使徒は容赦なく彼を傷つける。
そして再び衝突するミサトとシンジ。
一方リツコは部下の余りの変わりように衝撃を受けていた。
残忍な思いを巡らすマヤ、その背後にちらつくゲンドウとの関係。

様々な問題が渦巻く第三次直上戦線、全てを守り抜くと誓った碇シンジの戦いの行方は?

次回、光と闇、その先に


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第六話 加速するシナリオ、心の本懐

ゲンドウが部屋を去ったあと、レイは再び人形に戻ったかのように感情を押し殺してしまっていた。

 

 

“お前には失望した”

 

ゲンドウの声が脳内に響く。

 

いったいどういうことなのだろうか?

 

自分はリツコやシンジと共に衣替えを行ったにすぎない。それなのになぜ失望されなければならないのか。

 

ゲンドウの声を何度も反芻し、その言葉の真意を辿ろうとすればするほど訳がわからなくなっていく。

 

そして同時に、もっとも忌避すべき“圧倒的恐怖”が形を成していく。

 

 

それに至った切欠はシンジのある一言だった。

 

 

“綾波は普通の女の子らしく自由にしていいと思うよ”

 

シンジにとってはレイを気遣った何気ない一言にすぎないかもしれないが、レイにとって“普通”とは自分からかけ離れたもので、同時に強く望んだものだったために、その言葉にひどく感動したのを覚えている。

 

なぜその言葉を思い出したのかは分からないが、きっと自分の今の姿をゲンドウに肯定されたいという意思の表れだったのだと思う。

 

だが、思えばそれが間違いだったのだ。

 

自身の脳内に響くシンジの声はとても甘美で、神経を麻痺させるような破壊力を持っていた。

だが、レイはそれに浸ることは出来ない。幼少より虐待にも近いものを受けてきたレイにとっては信頼の先には裏切りがあり、愛情の裏には打算があることを知っていた。

もとい、体がそれを覚えていた。

 

だからこそ、シンジの言葉の裏側を探るためにシンジの言葉を否定する言葉を探した。

見つからなければ本望だ。だが、見つかったところでシンジが優しく騙してくれるならそれでもいい。

そう強く願う彼女の気持ちが募るほど、現実というのは残酷になっていく。

 

どんな言葉でもシンジの言葉なら受け入れようと思ったのに、頭の中から聞こえてきたのはゲンドウの言葉だった。

 

“お前は人間ではない、私のために道具となれ”

 

それがレイが生まれて初めての言葉だった。

 

その言葉を思い出したときレイの中で全ての思いが霧散した。

 

 

シンジに抱いた微かな愛情も、自身に芽生えた感情も、リツコに感じた優しさも、創造主(ゲンドウ)という圧倒的な存在の前に掻き消された。

 

 

同時に襲ってきたのは使命感と罪悪感。

 

ゲンドウの計画を遂行させなければという使命感と、自らシンジたちを拒まなければならない罪悪感に板挟みにされたレイの心はこの時既に疲弊しきっていたのだろう。

 

そしてやがて、最悪の形となってそれは現れることとなる。

 

 

 

学校

 

 

 

「おはよう、綾波」

 

「…」

 

やっぱりだ。ここのところ綾波は返事をしてくれない。

最初は何か悪いことでもしたのかなって思ったけど申し訳なさそうにうつむくところをみるときっと何か事情があるんだと言うことは分かる。

でも、それがなんなのかは見当がつかなかった。

 

僕には相談できない何かなのかな?

 

いや、そうだとしても挨拶くらいは返してくれてもいいはず。今の綾波は自分から人を避けている感じだ。

 

もちろん、人付き合いを好む性格では元々無いけれど、今までの綾波はどちらかと言えば必要のないことはしないって言うだけで人を拒んだりはしなかったはず。

 

うーん。分からないや

 

リツコさんに聞いてみるしかないかな。

 

 

 

ネルフ司令室

 

「赤木博士、どういうことかね?」

 

ゲンドウの重い声が響く。無駄に広いこの部屋だからこそ分かることだが、今のゲンドウの声色からして怒気というよりは焦りが感じられる。

 

何がそんなに気に入らないのかしら?

 

「どうしたのかね?」

そんな呑気なことを考えていると、冬月が催促してくる。

もちろん、彼はこちらの心配をしてくれているみたいだけど…

 

「いえ、私はレイに相応の感覚を備えさせようとしたまでですが?」

 

嘘だ。もちろん、そういう意味も含めているけれどこれはそんなに簡単なモノじゃない。

これがただの教育や子育ての一環ならこんなに責め立てられることはないのだから。

 

「我々はそれについて聞いているのだよ。質問の意味が分からないわけではあるまい?」

 

あら、どうやら相当乱心のようね。ま、無理もないけど。

 

「それはその通りですけど、エヴァのシンクロにはそれも必要だと考えます。」

 

ほう、と副司令がどこか感心したかのように眉を上げる。隣の司令は相変わらず何を考えているか分からないが一瞬苦い顔をしたのが見えた。

 

もしかしたら行けるかもしれない。

愚かにもそんなことを期待してしまう。

 

「まず、先日の直上会戦のデータからパイロットの心理状態とエヴァとのシンクロ、そして戦闘パターンの因果関係について。」

 

「レイの出撃時、レイの心理状態は特に問題もなく正常シンクロ率は起動指数ギリギリでしたがハーモニクスは60%とかなりの数値を叩き出していました。

しかし、戦闘時のエヴァの動きには最大コンマ2秒にも及ぶ多大なタイムラグがあり、また、攻撃に対する回避行動もあまりありませんでした。」

これは事実だ。実際、レイは初号機での活躍はほとんどできていなかった。

だが問題なのはシンクロのそれよりも、彼女は自分を蔑ろにし過ぎていることだ。それをなんとしてでも直さなくては。

 

「エヴァの神経伝達経路は脊髄からの反射を意識的に制御しているため、思考によって意図的に回避を選択しない限り捨て身になるのは自明の理。

レイは感情や自己防衛意識が多分に欠如してる為、このような結果になったと考えられます。現在のネルフの資金、そして国連軍や地上都市の被害から考えて、これは重大な問題だと判断しました。」

この辺りはもう適当だ。もちろん言っていることは事実だが、回避行動云々はその気になればMAGIの機械制御でどうとでもなるし、何より、有能な指揮者がいれば何ら問題はない。最も、その有能な指揮者がいないのが事実ではあるが。

 

ならば、叩くところは一つ、金である。

司令たちが金をつぎ込んでシナリオを進めることに躍起になっている反面、それを抑止しているのもまた金なのだ。

人が生きるのはエヴァだけにあらず。

その事をよく理解しているこの世界の重鎮たちはきっと現在進行形でこの問題に頭を抱えていることだろう。

 

つまり、被害が抑えられると聞いて無下に出来るほど彼らに余裕はない。

 

勝った!と心の中で呟く。

 

だが、、、

 

「構わん、予算については追加されることが議会で決まった。」

 

嘘だ。そんなはずはない。いや、それ自体はあり得ることだろうが、被害縮小は老人たちにとっても急務なはず。それなのにどうして…

 

まさか…

 

 

「じきに、弐号機が届く。戦闘のことは葛城一尉に任せておけばいい。」

そういって不敵に笑うゲンドウ。

 

やられた。老人たちの切り札とも言える弐号機が戦闘に参加するとなれば被害云々など考える必要もないということか。

 

しかし、これだけの早さで輸送すると言うことはアダムの確保を捨てたということになる。

シナリオの要を捨ててまでレイを?

 

いや、違う……もしや!

 

 

「被害の縮小に関してはレイの感性を変えずともパーソナルデータにMAGIシステムを干渉させ行動パターンに自己防衛を組み込むように改変すれば問題ない」

分かってはいたがやはりこの男も科学者である。

それもただの科学者とは違う。エヴァやMAGIのようなオーバーテクノロジーを扱う一流の技術者なのだ。

 

もちろん、自分から見ればなまじ権力を持っているために勘違いしている愚か者に変わりはないが、その権力が絶大なのもまた事実であるのがこの男のたちの悪いところである。

 

 

「使徒来襲のスケジュールが近づいている。初号機の修理はあとどれくらいかね?」

気持ちの悪い嫌みな声で訪ねてくる。

 

やっぱりだ。出来れば外れてて欲しかった予想が見事に当たってしまった。

 

だがそれももう遅い。このタイミングでこの質問をされたということは家に帰ることは出来ないだろう。

 

負けた。やはりこの男は何を考えているか分からない。

でも、それでも私は諦めたりは出来ない。

 

母の遺志を継ぎ、私が人類の未来を切り開くのだ。

 

「初号機の修理は明後日には間に合うかと」

今は我慢、と自分に言い聞かせながら絞り出したその言葉を聞くと、目の前の男は卑しい笑みを浮かべる。

 

その言葉を最後に私の長い夜が始まる…

 

 

 

 

 

 

リツコの家

 

「リツコさん今日も帰ってこないのか…」

リツコさんが帰ってこなくなって今日で3日目、本部で片付けなきゃいけない仕事があるらしい。

 

もともと一緒に住むと決めたときに言ってたことだから驚いたりはしないし、一人でも寂しくはないけれど、3日にもなると心配になる。

 

一緒に住んでみて分かったことだけど、リツコさんは家の仕事をしない。

もちろん料理は出来るみたいだし、ミサトさんみたいに家事がずぼらなわけでもない

けど。

 

よほど忙しいのか、家にあるものに手付けることは滅多になく、ずっとパソコンとにらめっこしてるものだから、部屋は散らかることはないし、洗濯も乾燥機付き洗濯機に入れるだけですむ。掃除はお掃除ロボットがしてくれて、食器は食洗機に入れればいい。

簡単に言えば、全自動である。

 

でも、休日にエプロンをかけて料理をしたり家事をしてるところを見ると、機械に頼りっきりなんじゃなくて、仕方なくそうなったんだなって思う。

 

少し話が脱線したが、僕が言いたいのは、リツコさんがちゃんと生活できているか心配だってこと。

 

ネルフには全自動で色々してくれる設備はないし、よほど忙しいはずだからご飯を食べているかすら怪しい。

それどころか、お風呂もシャワーで済ましたり、ほとんど眠ることもない生活をしている可能性だってある。

 

リツコさんははっきり言って働きすぎだ。

 

ただでさえ頭をよく使う仕事なのに、体力も使うようになってるのだからいつ倒れてもおかしくないだろう。

 

「何か出来ることはないかな?」

 

良いことを思い付いた。ご飯を食べていないならたべさせてあげればいい。

 

差し入れってことにしておけば無下に断られることもないと思う。

 

それから1時間後、栄養満点のお弁当と手作りのケーキを持って僕はネルフに向かった

 

 

 

技術部長執務室

 

 

「一体母さんはなんであんな人に惹かれたのかしらね」

 

司令が部屋を去り、音も光もなくなったベッドの上でそんなことを呟いてみる。

 

 

 

“母の友人の夫であり母の不倫相手”

 

そんな言うまでもなく外道である彼に惹かれるところなど恐らく何もないということは分かりきっている。

 

ユイさんがどうだったのかは分からないが、少なくても母は、決して心から愛してなどいなかっただろう。

 

もちろん、激情に焦がれることが好きな人であったし、女であるということへの執着の強い人であったから嫌々ではなかったのだろうが、それでもやはりそこには打算があったのは確かだ。

 

では、母はなにを求めていたのだろう?

 

一番に考えられるのは地位だ。

そもそも三賢者とまで言われた科学者の地位は約束されたものだろう。

 

となればそれだけでは到達できない地位、即ちゼーレということになる。

 

元よりずっと疑問に持っていることであるが、ゼーレの管轄下にMAGIを置かなかったのはそれが如実に表われていると思う。

 

第七世代コンピューターの先駆け、世界初の人格移植OSとして誕生したMAGIシステム。

その開発者であり脳そのものである母には、どういうわけか人類補完計画の情報が明け渡されていなかった。

 

人類補完計画の要であるはずのエヴァンゲリオン、そしてその零号機の開発すら行った彼女が知らないなどあり得ないと何度も思った。

 

だが、不自然なのはそれだけではない。

 

三賢者の中でも権力者であったはずの母は何故かゼーレと対立関係にあった。

 

学生時からゼーレの研究者として働くユイや、ゼーレのお膝元であるドイツで開発の全権を握るキョウコとは違い、母には特別な階級やゼーレからの信頼が無かった。

 

 

そもそも、母はゼーレの人間ではない。

 

というのも、母のネルフにおける貢献というのは、元々個人として開発を進めていたMAGIシステムの研究に目をつけた老人たちが半ば無理矢理にゲヒルンに引き込み、多額でそれを買い取ったに過ぎないからだ。

 

 

さらに、ああ見えて母は正常な性格と倫理観を持っていた。

 

故にユイの提唱したエヴァンゲリオン構想やゲンドウやゼーレの掲げる人類補完計画の存在に気付いたときは猛烈に反対したのだ。

 

尤も、それが文字通り命取りになったと後に知ったが母はそのことを悔いたりなどしていないだと断言できる。

 

 

それが、私の知る赤木ナオコであり、それが私の目指す場所なのだから。

 

 

母は最後まで科学と共にあり、最後まで人類のために生きたのだ。

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「科学はね、人のためにあるのよ。だから、人が科学に呑み込まれてはいけないの。それを忘れないでね」

 

この言葉を聞いたのは確か、自分が高校で主席を取ったときの夜だった。

 

科学に身を捧げ、夫も作らず仕事だけに没頭していた母が、どういう風の吹き回しか、寝ている私のベッドに座り込んでそんなことを呟くものだから、思わず心配になったくらい、新鮮な出来事だった。

 

思い返してみれば確かにその日の母はおかしかった。

いや、正確に言えば弱々しかった。

 

科学を語る母はいつも嬉々とした顔を浮かべ、仕事に没頭する母は鬼気とした迫力を持っていた。

 

しかし、その日の母が語る科学は決して人類の叡知などではなく、その日の母が語る仕事は夢と語るにはあまりに酷いものだった。

 

 

あの時の母ほど頼りない科学者はいないだろう。

だが、あのときの科学者(赤木ナオコ)は確かに赤木ナオコ(私の母親)であった。

 

 

その日初めて私は、幼い頃から私が求めてきたモノ(愛情)を貰うことが出来たと思う。

 

 

その日の母の話は要約してしまえば

“科学は決して万能ではない、触れてはならないものある。科学者とは人類に与えられた微かな叡知を引き出し、生きるために活用するために存在するのだ”

と、言うことだった。

 

その話は、これから科学者として生きていく私の不安を和らげ、憧れの人()との距離を縮めてくれた。

 

 

 

そして、私に、ゼーレと戦う遺志を託してくれた。

 

 

 

だが、私はあの夜に、すべてを誓ったあの夜に、彼―ゲンドウ―と身体を重ねた。

無理矢理にではあったけれど、それでも大きな罪を犯した。

行為が終わり、家に着く頃には人としてのナニカを失ってしまっていた。

 

そして、同時にあの日、母を失った。

 

 

人としての私は、赤木ナオコの娘である私はあの日死んだのだ。

 

 

だが、決して失ったらいけないものある。失いたくないものもある。

 

私がどんなに辛くても、辛い思いをしている彼らを助けることをやめてはいけない。

 

私がどんなに辛くても、人類のため、母のため、ゼーレと戦うことをやめてはいけない。

 

それが私の生きる意味。

 

それが私の生きる意志だから、母の託した遺志だから。

 

 

「弱い私はあの日に置いてきた。負けられないわよ、私」

 

虚空に向かいそう呟くと、私は再びパソコンの画面へと視線を落とす。

 

そこには誰から送られてきたのか、一言だけ

 

「お疲れ様、りっちゃん」

 

無機質なゴシック文字から溢れだす愛情に頬に冷たいものが滴るのを私は、止めることすらできなかった―――

 

 

 




ナオコやリツコの話は独自展開です。
ですが、原作で感じられた些細なことを引き延ばして考えればきっとこうだろうという、根拠のあるオリジナル回ですので、皆さんも是非アニメ新世紀エヴァンゲリオン第21話「ネルフ、誕生」をもう一度ご覧になって、解釈の幅を広めてみては?


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