遊☆戯☆王ARC-V THE KING OF SPIRITS (Sepia)
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プロローグ

 自由とは、なんと素敵な言葉なのだろうか。

 まず言葉の響きが美しい。

 何をするのも個人の自由だとするのならば、無限の可能性が広がっているということだ。

 

 幼いことに見る夢というものは、大抵現実に実現できないものばかり。

 それでも、どんな夢だって想像するだけなら自由だ。実現できるチャンスだってあるかもしれない。

 

 それはそれもすばらしいことなのだろう。

 それゆえに――――――――今、この社会はどうしてこうなってしまったのだろう、と誰もが思わざるを得なかった。

 

 始まりは自由競争社会の考えを実現した都市だった。

 どこまででも可能性が広がっているはずで、それゆえに大きな夢だって抱けたはずだった。

 小さな自分の店を持って、いつしか店を大きくしていく。

 経営者なら誰もがそんな夢をもっていた。それは素敵なことのはずだった。

 

 自由競争社会に生じる一つの問題点である、大きな格差が生じることは最初から分かっていたはずだったのだ。だから、社会のシステムとして、貧しい人間も裕福な人間も交流できる機会を積極的に設けていけばいいだけだった。人による善意で、社会はどうとでもよくなるはずだ。

 

 なのに、今の現実はあいにくとそうではない。

 

 今の社会はどうなっているかというと、かつて夢に描いた理想の都市の姿はない。

 人々が善意の心を忘れてしまったわけではなく、格差があることに心を痛めている人間だっている。

 しかしながら今人々の心にあるのは悪意でもない。

 

 単純に言えば、純粋な恐怖であった。

 

 いつか事情が失敗して、食べていくのも苦しい生活になるのではないかという心配ではない。

 それは将来への不安というものだ。恐怖とはまた別のものだろう。

 

 今の時代には、純粋な恐怖の象徴として組織が存在しているのだ。

 

 その組織の名は、ルナ。

 

 シティの中の格差が広がる中で生じたスラム街では、日々人は生きていくために必死に生きていかなければならない現状だ。犯罪に手を染めてまで生きるつもりはないという強い心を持った人だって、家族がいえば家族のために鬼にも悪魔にもなる。スラム街において生きていくためには力がある者に付き従って生きていくというのも、一つの選択肢になったのだ。

 

 治安やモラルが低下して、多くのデュエルギャングやデュエルマフィアが生まれる中、ある一つの組織がその最大勢力として恐怖の代名詞として君臨していた。

 

 それがデュエルギャング『ルナ』

 

 ただのデュエルチームならば、別になんでもなかっただろう。

 デュエルで勝つ。デュエルで負ける。

 どちらの結果になろうとも、デュエルとは本来楽しいものだ。

 人々はデュエルとともに生きてきた。

 正々堂々と、真っ向勝負で勝ち上がってきた人間に対しては、敬意と栄光を持って称えられるべきだろう。

 

 しかし、ルナは違う。

 ルナのデュエリストは真っ向とは言えなかった。

 ルナの人間と行ったデュエルは、すべてが現実のものとなった。

 

 炎属性のモンスターが召喚されれば、周囲を火の海にすることもあった。

 闇属性のモンスターのダイレクトアタックによってルナのデュエリストにデュエルで負けたデュエリストは、意識不明のままで病院で寝たきりとなっているケースも多々あったようだ。

 

 ルナとは、デュエルの結果を現実にするデュエリストの集団だったのだ。

 

 ルナはデュエルによるありのままの略奪と殺戮を繰り返して、都市の恐怖の象徴と言えるまでになったのだ。もちろん全く対抗しなかったわけじゃない。格差社会の中では日々の暮らしにも苦労する人間もいるが、羽振りのいいお金持ちもいる。だから、成功者たちの莫大な資金源を基盤としてより優れた警察組織だって作られた。

 

 それがセキュリティ。

 

 自警団から始まったものが、シティの組織となった。それはよかったのだが、ここで問題が起きる。セキュリティの資金源、つまりパトロンはトップスと呼ばれている金持ちしか住むことが許されない場所に暮らすことのできる成功者たちなのだ。彼らは、セキュリティに自分たちの警護を依頼した。

 

――――――そう。貧しい連中のことなんて、放っておいてもいいから自分たちを守れ。

 

 セキュリティとは、つまりトップスの住人がルナから自分たちのみの身を守るために作られた組織でしかなかったのだ。呼ばれている貧しい人々の生活なんて、最初から考慮されていなかったのだ。

 

 そして、ルナがシティの中心部にまでやってくることを恐れた富裕層たちは、セキュリティをシティの中心部に配置して、セキュリティを貧しいスラム街に配備することなどなくなっていった。

 

 こうなってしまったらもうどうしようもない。

 あとは悪化していくだけである。

 

 そんなふざけた話があってたまるか。そんな善意からスラム街に出向き、炊き出しなどを行っていた心優しいものたちもいたが、ルナの脅威を前に一人、また一人とスラム街を去っていく。誰だって自分の命が大事だ。万が一にでもルナと出くわしたら命が危ないのだ。かつてルナの鎮圧に向かったセキュリティの実行部隊、デュエルチェイサーズがルナによって壊滅的な被害を受けた瞬間から、攻勢にでるだけの余裕はセキュリティにないことがはっきりしてしまったのだ。

 

 そして、ルナが現れてもおかしくないスラム街は、いつしか『サテライト』を呼ばれるようになった。忘れた頃に現れ、デュエルによる二次被害で破壊されていくサテライト。そして、セキュリティに守られているためにルナの現れないトップス。格差は広がるばかりで、狭まることなんてなかった。その中で、『サテライト』に住むしかない貧しい人間をコモンズと呼ばれるようになっていた。

 

 そんな日々の中で、金になるとある鉱石が見つけられる。

 その結果、金の亡者たちは地面をどんどん堀進めていくことになる。

 

 当然、雇われているのは日々の金が欲しいコモンズたち。

 露天掘りのようにしてシティ周辺を堀進められていき、いつしかコモンズとトップスというだけの貧富の差には収まらなかった。

 

 シティの住人と、サテライトの住人というだけでも、天国と地獄。

 

 いつしか二つの間には、心の壁だけではなく、露天掘りで堀進められた町から見たら物理的な壁として差が存在していた。コモンズは、トップスを文字通り見上げて暮らすようになった。

 

 けれど、根本的には誰もが『ルナ』に日々脅えて暮らしていた。

 

 これは、そんな世界から始まる物語。

 英雄(遊星)のいない世界の物語。

 Arc-Vの物語。

 



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Duel1 シティの王者

 ――――――――――おなかすいた。何か食べたい。

 

 水すら口にできなくなって何日立つだろう。もう足に力が入らない。立ってどこかに食べ物を探しに行く気力だってない。ボクはこのまま死んでしまうのだろうか。

 

 雨でも降ってくれれば、雨水でも飲んで何とか数日は生きながらえることだってできるかもしれない……なんて思いもしたけど、雨に当たれば身体が冷え切ってしまうことすらすぐには思い当たらなかった。そもそも今日はお日さまがこれでもかというくらい輝いている日でもある。むしろ、身体から水分が吸い取られていくようだ。のどが渇くなんて状況なんてとっく通り過ぎて、いずれはミイラのように干からびてしまうのではないかと思った。

 

――――ナギ。このままだとお前は死ぬぞ。

 

 ボクの名前を呼ぶ声にこたえて、ボクは手にした一枚のカードを見つめた。

 

――――――――ナギ。俺様は言ったはずだ。俺様の声なんて聞こえないふりをして生きていけと。俺様はそれでも一向にかまわないと。そうすれば、あの孤児院を追い出された後も、一緒に追い出された他の連中だって今はどうなっているかは分からないが、泣き付いてでもついていくはできたはずだ。俺様のことさえ見ないふりをしていれば、お前はこんな状況にだって立たされることなんてなかったんだ。

 

「そういえば、みんな元気かなぁ。シンジさんにはいろいろとお世話になったのに、何も返せていないや」

 

―――――――――ナギ。オマエ、こんな状況でそんなことを……

 

「シンジさんに、ボクは迷惑はかけられないよ。シンジさんはボクよりずっと年上のお兄さんだけど、大人っていうほどの歳にもなっていないんだ。今はどうしているのかは分からないんだ。シンジさんたちだって自分のことだけでいっぱいいっぱいのはずだ。みんなだって、今生きているのか死んでいるのかすら分からないのに」

 

 シンジというのは、ナギがいた孤児院にいた年上の孤児の名前である。

 実の姉に手を引かれて孤児院に押しかけるようにしてやってきたボクたち姉弟の存在をどう思っていたのか分からないが、それでもよくお菓子をくれた。ほんの一口サイズのものばかりだったけど、それでもボクはうれしかった。だからこそ、感謝をしていたからこそ住んでいた孤児院がトップスの人間が借金のカタとして奪っていき、住む場所がなくなったときに迷惑はかけられなかった。

 

『いいか!もうここはお前らの家じゃねえんだ!ウロウロしてねえであっちにいきな!』

 

 ある日突然やってきたシティの人達によって、孤児院を追い出されて住む場所もなくなった。

 年上のお兄さんといっても、まだシンジさんも14歳。

 まだ9歳くらいのナギでは一人で生きていくことなんて最初からできなかったのだ。

 

 この世界は格差社会。勝ったものはすべてを手に入れ、負けた者はすべてを失う。

 それが世の中の現実だと言うことを、物心ついたときには子供でも悟ってしまう社会だ。

 ならだ、今空腹で死にそうになっているボクは世間的には無様に負けた敗北者なのだろう。

  すべてを失うという言葉の中にはきっと、命も入っているのだ。

 

「ねぇ王様。もしボクが死んだら、王様の配下の一人にしてくれる?」

 

――――――一体何を弱気になっているんだ。オマエは俺様の家族を一緒に探すと約束してくれたではないか。ここで死ぬなんて許さないぞ。許さないのは俺様だけじゃない。みんな、オマエは精霊の声を聴いて、その願いを叶えた。

 

「……ボクがやってきたことなんて、お墓を掃除して、花を添えた程度のことだよ?」

 

―――――――――――それが特別なんだ。大抵、俺様達は不気味にしか思われない。そもそも、行き場のなくなった魂が集まるのが墓場だ。成仏したいと思っていても、線香一つとしてこんな世の中では挙げてもらえるかわからない人間なんて山ほどいるものさ。オマエは素直に、純粋に思いやりの気持ちで弔った。だからこそ、感謝をささげてオマエのデッキにはいつまにはアンデットばかり集まったんだ。

 

「ありがとう。そういってもらえるとボクもうれしいよ。でもね王様。もう身体が全然動かないんだ。何も成し遂げることができなかったボクだけど、死んだとしても王様と一緒にいられるならそれでいいかって思うんだよ」

 

 手にした一枚のカードを見つめる。。

 これがナギにとってすべての始まりだったように思う。

 

 昔から周囲の子供たちとは話がいまいちかみ合わないことがあった。

 

『……ねぇ、本当に言っているの?』

『ナギの言っている意味こそ分かんない。声なんて聞こえてこないよ?ナギのお姉ちゃんが出稼ぎに行くとかいって変なジャケットを羽織ってどこかに行っちゃったから、寂しくてかまって欲しいからそんなこと言うの?』

『そんなわけじゃないんだけど……』

 

 デュエルをしていると、時々変な声が聞こえてきたり、カードから意思みたいなものが感じることが多くあったのだ。そして、それを相談すればするほど、変な怨念にでも取りつかれたのではないかと思われて孤立していった。

 

――――――実際、俺様はアンデットだから悪霊とか言われても言い返せないところもあるんだがな……。

 

「でも王様は悪魔族じゃないし、悪霊ではないと思うよ。ボクは王様のこと、大好きだよ」

 

 そんな中、ある日何かの声に呼ばれるようにして出向いた墓地で拾った一枚のカードはナギにとって希望ともいえる存在だったのだ。本人が言うにはカードの精霊とのことだが、自分は何もおかしくないのだと肯定してくれる存在のようにも思え、話していくうちにナギにとって初めての心からの友達と思える存在だったのだ。

 

 アンデットの精霊なら、自分が死んだ後も一緒にいてくれるかもしれない。

 そう思うと、少しはこれから訪れるであろう死への恐れも少しは収まった。

 たとえ死んだとしても、一人ぼっちにならずにすむ。孤独の言うのはさみしいのだ。

 

「でも、もう一度くらいお姉ちゃんに会いたかったな。どうしているかな、お姉ちゃん。出稼ぎから帰ってきたら孤児院がトップスのものになってしまってもうないって知ったら驚くだろうな。シティの連中にはロクな目には合わされなかったな。ボクは何もできずにいなくなったとしても、お姉ちゃんが変な方向に走らなきゃいいけど……」

 

 ―――――――――――ナギ。

 

「でも、お姉ちゃんは何も悪くないんだし、変に責任なんて感じてほしくないや。ねぇ王様。もし王様がお姉ちゃんと今後出会えたら、ボクはお姉ちゃんのことが大好きだったって伝えてくれない?王様は将来のために力を温存しているけど、その気になればボク以外とも話ができるんでしょ?」

 

 ――――――――――――――――――ナギ。何を弱気なことを言っている。俺様はお前を死なせはしない。

 

「……あれ?」

 

 意識がぼんやりとする中、とうとう幻覚でも見え始めた気がする。このままボクの意識は消えてなくないのだと思っていたら、目が覚めたかのようにしっかりと意識を持つことができた。そして、そのときには周囲の景色は違っていた。どこかの路地裏の通路にある壁に寄りかかっていたはずなのに、気が付いたら周りは森に囲まれていたのだ。

 

「ここ、どこ?」

 

 見慣れない景色に天国にでも来たのかと思ったが、相変わらず自分がうごけないことに気がついた。

 まさか、死んだ後も空腹の状態が続いているとは思いもしなかったのだ。

 当然のことだった。ナギが今いる場所は天国でもなんでもなく、ナギはまだ死んではいないのだ。

 場所が変わっただけでナギの状態は何も変わっていない。

 

 

「誰か…いないの?誰か……」

 

 そんなこえが届いたのか、誰かからの声がした。

 

「ねぇ、ちょっと、大丈夫!?」

 

(―――――――王様?いや、違う。誰だろう)

 

 その声の主は、ナギにゆっくりと近づくと、ナギの身体をゆさぶった。

 

「誰かいる……の?」

「どうしたの、しっかりしてッ!お、起き上がれる?」

「おなか……すいたな。動けないや」

「ッ!待ってて!今何か持ってきてあげるからッ!だからしっかりしてッ!」

 

 しばらくすると、声の主は両手いっぱいに果物を抱えて走ってきた。

 動けない身体をモノを口にできるようにと上半身だけ起こされて、それでリンゴをそのまま口のほうに持ってきた。

 

「あぁ……ナイフかなにかで切らないとでも……そんなものはここにはない。だからこのまま食べてさせるしか……。お願い、食べて、しっかりして」

「キミは……誰?」

「そんなことどうでもいいから食べてッ!」

 

 必死に呼びかける声の主が、自分とそう変わらない歳の子供だと気が付いたのはこの時だった。

 この時の出会いのことをボクは今でもまだ覚えている。

 

 

            ●

 

 

 サテライトは安全な場所とは言えないだろう。最低限度の公的組織としてセキュリティがいてくれるものの、ルナと戦える存在なんてセキュリティの中でもエリート部隊のデュエルチェイサーズくらいのものだろう。何も犯罪を起こすのはルナのデュエリストだけではないので、形だけでもセキュリティがいるだけマシとしておくが、やはり治安の悪さは否定できないのだ。

 

 そんなサテライトの中でも、安全性という観点では差はあった。 

 シティからバイクを走らせても、片道一週間はかかるであろう場所であるミソラタウンは、安全性という観点からいうと、割と優秀な部類の街だった。

 

 ミソラタウンには特にこれと言った名所や特産物があるわけでもない。

 なにか特別な鉱物が発掘できる土地というわけでもない。 

 シティ中心部からは遠く、人が活発に交流しているわけでもない。交通の便だって決してよいとは言えなない。観光として何か目玉となるようなものもない。

 

 一言でいえば、ミソラタウンはどうしようもないくらい田舎なのだ。

 

 だからこそ、治安の悪い場所の多いサテライトの中では、まだ安全といえる場所になったのだ。

 なにせ価値のあるものがほとんどないため、強盗の心配もない。

 盗まれて困るものが、対して存在しない町なのだ。

 金持ちもいないため、盗みに入ったところでめぼしいものがあるかも怪しいところだ。

 そして何よりも、デュエルギャング『ルナ』の本所地があるとされている場所からサテライトの中で最も遠い場所にある。

 

 何か犯罪を犯すとして、なにもわざわざこんな何もない田舎までやってくる奴などいないのだ。

 ミソラタウンで犯罪を起こすくらいなら、工場とかも存在する隣町のスバルタウンに行くだろう。

 事実、ミソラタウンに住む住人だって、何か買い物に行くときには隣町まで出かけることが一般的だった。サテライトの住人は肩を寄せ合って生きていくが、ミソラタウンの住人はそれがより顕著に表れていた。

 

「た、だ、い、まー」

 

 ミソラタウンに存在するある教会に声が響く。

 彼女の名前はエル・アーネスト。

 彼女は修道女の格好をしているのは、彼女が教会という建物を利用して孤児院の院長をやっているからだ。彼女は今は18歳。少女といえる年齢であるが、大人の階段に足を踏み入れる年齢である。昔は相当にやんちゃな少女だったようであるが、今は歳よりも一回り大きな落ち着きを持つ女性になりつつあった。孤児院の拠点としている今の教会や院長の座も、彼女が昔にデュエルで強引に手にしたものである。

 

「あれーいないのー?ただいまー!ナギィー!お姉ちゃんにおかえりを言って欲しいんだけどー!」

 

 彼女は昔は凄腕のデュエリストであったらしいが、今はこうして人を育てることに専念している。

 行き場のなくなった孤児たちの面倒を見たり、デュエル教室を無料で開いてデュエルを通して文字や物事を教えていたり。そのおかげでエルは、ミソラタウンでは先生と呼ばれ評判が高かった。もともと両親もいなかったのに、7つも歳の離れた実の弟を自力で育て上げたものだから大したものだろう。少々弟に過保護になりがちなことがたまにキズではあるのだが。

 

「先生、おかえりなさい」

 

 エルの呼びかけに答えのたのは弟のナギではなく、リンという名の少女だった。

 

「あらリン。留守中に何かあった?」

「町内会長が訪ねてきました。今度の町内会でまた何かお話があるそうなので、先生にも出席してほしいそうです」

「話?一体何かあったのかしら」

「詳しくは聞いていませんけど、近いうちに店を開こうとしている人がいるらしくて、とりあえず顔合わせということで出席したいとのことです」

「あら。となると、またミソラタウンに住人が増えるのね。人手が増えるのはとてもいいことだわ」

 

 エルのやっていることの一つに、子供たちが将来自力で生きていけるようにと、仕事や文字を覚えさせているというものがある。文字についてはデュエルを教える段階で身に着けさせることができるが、仕事はというと、実際にやっていかなければ身につかない。Dホイール関連のことを教えてほしいという希望があったため、エルは二人の子供を直接面倒を見ていたのだ。その一人がリンという少女。

 

 そしてもう一人が、

 

「リン!これ運ぶの手伝ってくれよ。オレ一人はちょっと辛いんだ」

 

 ユーゴ、という名前の少年である。

 ユーゴもリンも、エルの弟であるナギと同じ11歳。まだ子供といえる年齢だ。

 エルは自分の弟と同じ年齢の子供を相手に仕事を覚えさせることには抵抗があったが、当の弟も手伝いと称して様々なことに手を出している。

 

 エルの友達が考古学を専攻しているため、助手としてついていったり。

 知り合いの鍛冶師のおじさんのところに手伝いとしてついて行ったり。

 なぜか共同墓地へと行って、誰もしない墓掃除や祈祷までしている。

 

 昔の負い目のあって強くは出れず、結局認めることになってしまったのだ。エルとしては、ユーゴもリンも素直に遊んでいてほしい年代であるのだが。今日のエルは自分のDホイールにサイドカーを設け、ユーゴを乗せて隣町のスバルタウンまで部品の買い物に出かけていた。今はちょうど帰ってきたところである。エルが二人に先生と呼ばれているのは、デュエルの先生をやっているからというよりは、孤児院の院長として一時保護者の立場にあることが大きい理由である。

 

「またいっぱい買ってきたわね」

「あぁ!買いだめでもしておいた方が安くからな!ところでリン、ナギはどこいった?」

「ナギならまだ奥の方で作業してるわよ」

「そっか!じゃあこれ頼むな!」

「あ、ちょっとユーゴッ!」

 

 ユーゴは手に持っていた紙袋の一つをリンに渡すと、また別の袋を手に走り去ってしまう。

 リンはその様子をため息をつきながら見つめていた。

 

「全く、落ち着きのない……。一体いつになったら余裕ってものを持ってくれるのかな」

「男の子って大体あんな感じじゃないの?ほら、ユーゴたちが慌ただしいなら、こっちは勝手にご飯でも作ってましょ」

「はい先生」

 

 リンは呆れ、エルは微笑ましいものを見るかのようにして走り出したユーゴがたどり着いた部屋の先には、ナギがいた。ナギは、ドライバーを片手にムムム、とうなっている。

 

「ねぇ王様。王様の超パワーとかで何とかならない?……あ、やっぱりムリ?機械族じゃないからダメ?」

 

 ナギはテレビの前で一人、ブツブツと変なことをつぶやいていた。

 はたから見ていると危ない人である。実際、ユーゴも最初は危ないやつだと思ったものだ。しかしアーネスト姉弟と一緒に暮らし始めると徐々に慣れてきた。ナギはカードの精霊の声が聞こえるというが、そんなものは聞こえないユーゴからしたらただの電波である。ナギの話をすべて信じているわけではないが、長く接していたら情も沸くというものだ。今では二人は大の仲良しである。

 

「おーいナギィ!ちゃんとテレビの部品買ってきたぜ!」

「あ、おかえり。頼んでおいてなんだけど、よく見つけたね」

「オウ!帰りに先生に闇市にもよってもらったからな!そんなことどうでもいいから早くしようぜ!もうちょっとでアンテナが直りそうなんだからな!」

「今何時くらい?」

「あと20分くらいしかないぜ!」

「オーケー。がんばるよ」

 

 ユーゴから部品を受け取りしばらく作業を続けていると、ズズズ、というノイズ交じりの音が響き、次第に画面が映りだした。

 

「やったぜ!」

 

 テレビが映りだすと、ナギもユーゴも正座して画面に集中した。

 彼らが見たかった番組がこれから始まるのである。

 

『さぁ本日、最高のライディングデュエル!奴の出番だ、最強のDホイーラー、ジャック・アトラス!』

 

 それは、この世界で最強と言われているデュエリスト、ジャック・アトラスの王者の称号をかけた防衛戦の生中継であった。

 

 

          ●

 

 

D・ホイール。デュエルディスクを進化させたそのマシンを駆使し闘うライディング・デュエルはスピードとスリルに溢れた最高のショーであり、自由の象徴であった。

 

 もともとはちょっとやんちゃな連中が何をとち狂ったのかバイクに乗ってデュエルをやりだしたことが原因であるが、それは瞬く間に普及した。

 

 そして、スピードとスリルの中に生きるデュエリストを、Dホイーラーと呼んだ。

 その中の頂点に位置するデュエリスト、ジャック・アトラス。

 彼はキングの称号を手にしてから、最強の称号をかけた数多の防衛戦に勝利して、無敗伝説を作ろうとしていた。

 

「ジャック、ジャック、ジャック、ジャック!!!」

 

 聞こえる声援はジャックを応援するものばかり。

 チャレンジャーに勝利を求める声なんて聞こえてこない。

 ミソラタウンから遠く離れたシティに存在するスタジアムには、客席に空席など見当たらない。

 誰もが楽しみにし、誰もが注目のデュエルが始まろうとしていた。

 なにせ、今日のデュエルは歴史の第一歩となるかもしれない可能性を秘めているデュエルだからだ。

 マスコミの人間も大勢駆けつけ、多くの来賓が招かれた。

 

「歴史をまた一つ踏み出す本日のデュエルッ!今回は解説として、デュエルアカデミア校長であるジャン・ミシェル・ロジェさんにお越しいただきました」

「デュエルアカデミア校長のジャン・ミシェル・ロジェです。私のようなものを、この場に、この瞬間に居合わせることができた名誉を誇りに思います」

「ロジェさんは、トップスとコモンズをつなぐ希望とも呼ばれている存在なんですよ。この場にはあなた以外の適任者はいないと思われます」

「そんな、畏れ多い」

「ロジェさんはデュエルアカデミアに、実力さえあればお金のないコモンズの人達も通うことができるようにしているそうですね。そのことが、トップスとコモンズの融和につながるとして、実際に学校を作り上げた功績は誰よりも大きいはずです。今年はデュエルアカデミアの高等部が開校となり、世間でも注目が集まっていますよ」

「今年で第一期生が高等部の一年生となったところです。デュエリストにとって大切なのは出身ではありません。事実、これまでにもサテライト出身でルナのデュエリストと戦って勝利してきた偉大な方たちがいらっしゃいます。私自身は、あいにくとデュエルの才には恵まれませんでしたが……それでも、私が育てた人間がいずれキングとなることがると思うと、夢があるとは思いませんか?」

「ほほう。では、ロジェさんはいずれジャックと超えるデュエリストを育ててみせると?」

「そうはいいません。ジャックは最高のキングです。しかし、人間である以上は寿命があります。私たちの次の世代へとつなげることを考えたら、いつかは誰からキングとなってもおかしくはないでしょう。事実、日々デュエルは進化しています。ソリットビジョンシステムが生まれ、ライディングデュエルが生まれ、そして今日は、またデュエルが進歩しています」

 

 今日行われるライディングデュエル。

 ソリットビジョンでしかなかった映像が、より迫力を持って再現されるようになったという。

 デュエルで行ったことが現実のものとなるわけではないが、ライディングデュエルにおいてよりリアリティを増すように技術が進歩したのだ。今日はそのお披露目である。

 

「ロジェさんは、新しいソリットビジョンを見たことがあるのですか?」

「もちろんです。なにせ、治安維持局のゴドウィン長官から直々に声をかけていただきまして、途中さんかではありますが、私も開発チームに参加させていただきました。今までのデュエルはSpスピードスペルを持ちいた特別なデュエルを行ってきましたが、今回はシステムの大幅な変更のせいでSpは存在しないデュエルを行います。ルールとしては通常のデュエルと何も変わらないのですが……、まぁ、見ていてください。決して、落胆させないことをここに約束しましょう」

「それは楽しみです」

 

 解説が一区切りすると、Dホイールの駆動音がどこからか聞こえてくる。

 やってきたのは当然、今回のデュエルの主役。

 

「待たせたな!俺がキングだッ!!」

 

 歓声が響き渡る。その熱意はテレビ越しでも伝わるものであった。

 対し、続いてチャレンジャーがDホイールに乗ってやってきても、歓声がやはりジャックのものと比べて小さなものでしかない。

 

「挑戦者よ。デュエルの前に言いたいことがあるなら言うがいい。キングはそれを訊いたうえで、お前に敗北を教えてやろう」

「……別に、言うことはないですよ」

「そうか。ならばこちらから聞こう」

「なんしょうか」

「お前の名前だ」

「……キグナス。お見知りおきを、キング」

 

 今回のチャレンジャーの名前はキグナスという名前らしい。

 だが、あまり有名なデュエリストではなく、ジャックのデュエルを毎回楽しみにして中継を見ているユーゴも名前を聞いてもピンとこなかった。おそらく大会自体が初出場のはずだ。

 

『それではフィールド魔法スピードワールド、セットオンッ!!』

 

 カウントダウンが始まる。

 それが終われば、デュエルが始まる。

 

「「ライディングデュエル、アクセラレーションッ!!」」

 

 キグナス LP 8000 VS ジャック・アトラス LP8000

 

 二人のデュエルが始まった。

 ミソラタウンという遠く離れた場所でテレビ越しに見入っていたナギであるが、彼の持つれカードの精霊がキグナスを見て反応した。

 

(……ン?)

(どうかしたの、王様)

(あのキグナスとかいうデュエリスト……。テレビとかいうこの機械越しの映像じゃいまいち分からんな)

(?)

(気にしなくていい。俺様の予想が当たろうが外れようが、ここからできることはない)

(そう)

 

 ナギやユーゴなんて、ジャックに影響を与えることはない。

 ジャックが二人に影響を与えることがあっても、その逆などありはしないのだ。

 いや、それはこの二人に限った話ではないのか。

 もはやジャックは、自分の勝利を願う応援団の言葉さえ聞いていない。 

 彼が見ているのは、自分のデッキと相手のみ。

 

『おおッ!先行をとったのは、やはりキングッ!!華麗な軌道で第一コーナーをとったッ!』

 

「俺は手札から、レッド・リゾネーターを召喚。こいつは召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚出ることできる。こいッ!魔サイの戦士!」

 

《魔サイの戦士》

効果モンスター

星3/地属性/悪魔族/攻1400/守 900

「魔サイの戦士」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、「魔サイの戦士」以外の自分フィールドの悪魔族モンスターは戦闘・効果では破壊されない。

(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「魔サイの戦士」以外の悪魔族モンスター1体を墓地へ送る。

 

「そして、レベル3の魔サイの戦士に、レベル2のレッド・リゾネーターをチューニング。シンクロ召喚ッ!転生竜サンサーラッ!」

 

《転生竜サンサーラ》

シンクロ・効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻 100/守2600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「転生竜サンサーラ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードが相手の効果で墓地へ送られた場合、または戦闘で破壊され墓地へ送られた場合、「転生竜サンサーラ」以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「そして、シンクロ素材として墓地に送られた魔サイの戦士の効果。デッキから悪魔族モンスター一体を墓地に送ることができる。この効果により、俺はデッキからダブル・リゾネーターを墓地に送る」

 

《ダブル・リゾネーター》

チューナー・効果モンスター

星1/炎属性/悪魔族/攻 0/守 0

「ダブル・リゾネーター」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このターン、その表側表示モンスターをチューナーとして扱う。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドの悪魔族モンスター1体を対象として発動できる。このターン、その悪魔族モンスターをチューナーとして扱う

 

 

「俺はカードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 ジャック 

LP8000

HAND:1

EXTRA :転生竜サンサーラ 

REVERSE:2

 

『解説のロジェさん。キングの先行による展開をどうみますか?』

『先行はドローを行うことができません。しかし、キングは一ターン目からシンクロ召喚を行ってきました。エクストラデッキからモンスターが特殊召喚される場合、モンスターはエクストラモンスターゾーンに特殊召喚されます。変なモンスターを召喚してしまっては邪魔になるだけでしょうが、キングのことです。これはあくまで、相手の出方を見ているだけでしょう。ここはチャレンジャーのほうに注目です』

 

 キグナス 

HAND 5 → 6

LP8000

 

「いくぞキング、私のターンッ!私は手札からハック・ワームを捨てることで魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動する。こいつの効果で私は、デッキからレベル1モンスター、ハック・ワームを特殊召喚!さらに、俺は魔法カード、アイアンコールを発動だ。このカードは自分フィールドに機械族モンスターが存在する場合、自分の墓地のレベル4以下の機械族モンスター1体を対象として発動し、その機械族モンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに破壊されるが、こいつには関係ないことです。墓地よりいでよ、ハック・ワームッ!」

 

 これで二体のハック・ワームがフィールドに揃った。

 同名モンスターゆえにシンクロ召喚を行うことはない。

 そして、キグナスはまだ通常召喚を行ってはいない。

 

「こいつら二体のハック・ワームをリリースして、現れろ、クラッキング・ドラゴンッ!!」

 

《クラッキング・ドラゴン》

効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻3000/守 0

(1):このカードは、このカードのレベル以下のレベルを持つモンスターとの戦闘では破壊されない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在し、相手がモンスター1体のみを召喚・特殊召喚した時に発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える。

 

クラッキングとは、主にコンピューターシステムにおけるプログラムやネットワークのセキュリティを破り、不正使用や改変・破壊などの悪事を行う犯罪行為のことを言う。ならば、その名を関する機械の竜は、その名に相応しい攻撃的な能力を持っているのだろうか。

 

「いけ、バトルだ。クラッキング・ドラゴンでサンサーラに攻撃!」

「サンサーラは戦闘で破壊され墓地に送られた場合、墓地のモンスターを一体特殊召喚できる。こいッ!魔サイの戦士!守備表示でよみがえれ」

「だがこの瞬間、クラッキング・ドラゴンの効果!魔サイの戦士の攻撃力を600下げて、キングに600のダメージを与える!」

 

 ジャック・アトラス

LP8000 → LP7400

魔サイの戦士  ATK1400 → ATK 800

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 キグナス 

LP8000  

HAND:2

MAIN:クラッキング・ドラゴン

 

「キングのターン。ドローッ!」

 

ジャック LP7400

HAND: 1 → 2

MAIN:魔サイの戦士

 

「俺は墓地のダブル・リゾネーターを除外して、フィールドの悪魔族モンスター一体をチューナーにする!よって魔サイの戦士をチューナーにする!さらに手札から奇術王ムーン・スターを特殊召喚!こいつは、自分フィールド上にチューナーが存在するときに手札から特殊召喚できる」

「ムーン・スターが出現したことで、キングにダメージを与えるッ!クラッキングブレスッ!」

 

 ジャック・アトラス

LP7400 → LP6800

奇術王ムーン・スター ATK900 → ATK300

 

「そして、レベル3の奇術王ムーン・スターにレベル3のチューナーモンスターとなった魔サイの戦士をチューニング!現れろレッド・ワイバーン!」

 

《レッド・ワイバーン》

シンクロ・効果モンスター

星6/炎属性/ドラゴン族/攻2400/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):S召喚したこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードより攻撃力が高いモンスターがフィールドに存在する場合に発動できる。フィールドの攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

「クラッキングファイヤー!」

 

ジャック・アトラス

 LP6800 → LP5600

レッド・ワイバーン ATK2400 →ATK1200

 

「墓地に魔サイの戦士がおくられたことで、デッキから悪魔族モンスター一体を墓地に送る。俺はデッキから風来王ワイルド・ワインドを墓地に送る。そしてレッド・ワイバーンの効果発動。シンクロ召喚したこいつはフィールドに表側表示で存在する限り一度だけ、フィールド上で一番攻撃力の高いモンスター一体を破壊できる。つまり、お前のドラゴンを破壊するっ!」

「クラッキング・ドラゴン!」

「そして、手札から、フォース・リゾネーターを通常召喚!いけ、二体でダイレクトアタックだ!」

 

 レッド・ワイバーン ATK1200

 フォース・リゾネーター ATK500

 

 二体の攻撃力の合計は1700。まずはフォース・リゾネーターが手から電流を放り、その後ワイバーンが口から炎を吐いてライフを削る。

 

 キグナスLP8000 → LP6300

 

 だが、キングの攻撃がこれだけでは終わらない。

 

「さらに、罠カード発動!緊急同調!この効果により、バトルフェイズ中にフィールド上のモンスターでシンクロ召喚を行う。俺はレベル6のレッド・ワイバーンにレベル2のチューナーモンスターフォースリゾネーターをチューニング!シンクロ召喚。いでよ、クリムゾン・ブレーダー!」

 

《クリムゾン・ブレーダー》

シンクロ・効果モンスター

星8/炎属性/戦士族/攻2800/守2600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。次の相手ターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚できない。

 

 ジャックの場に出てきたのは、紅蓮の戦士。

 彼は手に持った二本の剣をもって、キグナスに向かって一直線に迫った。

 

「そのままクリムゾン・ブレーダーでダイレクトアタック!クリムゾンスラッシュッ!!」

「くッ!」

 

 キグナスLP6300 → LP3500

 

「これでターンエンドだ」

 

 ジャック・アトラス

LP5600

HAND:0 

EXTRA:クリムゾン・ブレーダー      

REVERSE: 1

 

「私のターンです」

 

 キグナス 

LP3500

HAND:2 → 3

 

「私はモンスターをセット。さらに、手札から魔法カード、おろかな副葬を発動。こいつは、自分のデッキから魔法または罠カードを一枚墓地に送ることができる。この効果によって、私はデッキの銃撃砲(ガン・キャノン・ショット)を墓地に送る。私はこれでターンエンドです」

 

 キグナス

 LP3500

HAND: 1

MAIN:裏守備モンスター×1

 

「……それがお前の全力か?」

「……何か文句でもあるのですか?」

「いいから早く本気を出せと言っているんだ。俺がお前が全力でないことを見抜けないと思っているのか。それはキングをなめているというものだ!俺のターンッ!」

 

 ジャック・アトラス

LP5600

HAND:0 → 1

 

「本気を出さぬというのならそれでもいい。本気ではなかったからと、キングに与えられた敗北を慰める言いわけにでもしているがいい。いけ、クリムゾン・ブレーダー!モンスターを粉砕しろ!」

 

 伏せられていたキグナスのモンスターはジャック・ワイバーン。

 守備力0の機械族モンスターだ。 

 当然戦闘破壊される。

 壁となるモンスターを失ったキグナスに追いうちをかけるようにして、ジャックのモンスターの効果が発動する。

 

「クリムゾン・ブレーダーの効果!このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。次の相手ターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚できない」

『おおっと、キングは封じてきた。それで上級モンスターを召喚できない!』

「…………」

 

それでも、キグナスは格別動揺はしなかった。

 

「……次の相手ターン、ね」

 

 もちろんクリムゾン・ブレーダーの効果は理解している。

 一度効果が発動すれば、徐々に打てる手は減っていく。

 キングの前ににはそれは致命的な隙となるだろう。

 

 しかし、その効果には抜け穴があるのだ。

 

「なら、このターンに見せてあげますよ、私の本当の力を!」

「!」

「この瞬間、手札のデスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果を発動!こいつを特殊召喚するッ!」

 

 クリムゾン・ブレーダーの効果が発動するのは次の相手のターン。

 このターンには、特殊召喚は別に封じられていないのだ。

 

《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》

効果モンスター

星8/闇属性/機械族/攻2800/守2200

(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。

(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。コイントスを3回行う。表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。

コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

「そしてデスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果!バトルフェイズにコイントスを3回行う。表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローすることができる、これは相手バトルフェイズでも使える効果だ!」

「運にすべてを任せる気か」

「運ではない、結果は必然だ。俺はから罠カード銃撃砲を除外して、その効果を発動する。コイントスを2回以上行う効果が発動した時、そのコイントスの結果を全て表が出たものとして扱うことができる!」

 

《銃砲撃ガン・キャノン・ショット》

永続罠

(1):1ターンに1度、コイントスを行う効果が発動した場合、その効果で表が出た数によって以下の効果を適用する。

●1回以上:相手に500ダメージを与える。

●2回以上:相手フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

●3回以上:相手の手札を確認し、その中からカード1枚を選んで捨てる。

(2):コイントスを2回以上行う効果が発動した時、墓地のこのカードを除外して発動できる。そのコイントスの結果を全て表が出たものとして扱う。

 

 

「クリムゾン・ブレーダーを破壊!さらに、三枚とも表だったことで一枚ドローッ!」

 

 キグナス 

HAND 0→1

 

「俺はこのままターンエンドだ」

「ならばキングに引導をわたす私のターンが始まる!ドロー」

 

 キグナス 

LP3500

HAND:1 → 2

 

「魔法発動、悪夢再び。こいつで墓地に存在する攻撃力0の闇属性モンスター二体を手札にくわえる。俺が加えるのは、ハック・ワームとジャック・ワイバーンだ!」

 

《ジャック・ワイバーン》

星4/機械族/闇属性/攻1800/守0

効果モンスター

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

➀自分フィールドの機械族モンスター1体とこのカードを除外し、自分の墓地の闇属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「そして、キングの場にモンスターが存在しないことにより、ハック・ワームを攻撃表示で特殊召喚!」

 

《ハック・ワーム》

星1機械族・闇属性・攻400/守0

効果モンスター

➀相手フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる

 

「ジャック・ワームは自身とフィールド上のモンスター機械族モンスターを除外することで自分の墓地の闇属性モンスターを呼べる。これでクラッキング・ドラゴンを呼びたいところだが、あいにくとキングのクリムゾン・ブレーダーの効果でこのターン上級モンスターは呼べない。だが、今はこいつらで充分すぎるほどだ!いけ、俺のモンスターたち!キングにダイレクトアタックだ!」

 

 ジャック・アトラス LP5600

 

「まずはデスペラード・リボルバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 ジャック・アトラスLP5600 → 2800

 

「次に、ジャック・ワイバーンでダイレクトアタックッ!」

 

 ジャック・アトラスLP2800 → 1000

 

「最後にハック・ワームでダイレクトアタックだ!」

 

 ジャック・アトラスLP800 → 600

 

「ハック・ワームは攻撃力400しかないモンスター。だが、今の状況では攻撃するのミスでもなんでもない。そのことを教えてやろう。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

 キグナス 

LP3500

HAND: 0 

MAIN:デスペラード・リボルバー・ドラゴン

   ジャック・ワイバーン

   ハック・ワーム

REVERSE: 1

 

「俺のターン、ドローッ!」

 

ジャック

LP 600

HAND:1 → 2

 

「相手ターンのスタンバイフェイズが終わるとき、俺は伏せていたカードを発動する!」

 

しかし、先に動いたのはキグナスの方だった。

 

「永続罠、リビングデッドの呼び声!この永続罠は、墓地のモンスター一体を攻撃表示で特殊召喚する。俺が呼ぶのはもちろん、クラッキング・ドラゴンだ!」

「攻撃力400のハック・ワームで攻撃してきたのはそのためか」

「そうだ!お前は攻撃力600以上で、レベル3以下のモンスターを使った瞬間にクラッキング・ボルテックスの餌食となる。レベル2以下のモンスターならば、ぎりぎりライフは残るだろうがお前のデッキの低レベルモンスターなどチューナーくらいのものだ!」

「ふん。お前は俺のことをある程度は調べてきたようだな」

「当然のことだ。キングといえば、最強のDホイーラー。そいつは真っ向勝負のデュエルによって敗北したということは、『ルナ』に勝てるデュエリストはこのシティにいないということを意味しているのだから」

 

『――――――『ルナ』!?』

 

 キグナスの口から出た言葉に、観客の悲鳴が上がる。

 ルナというのは、それほどの恐怖の象徴ともいえる名前なのだ。

 

「ロジェさん!チャレンジャーがルナのデュエリストというのは本当のことなのでしょうか!」

「おおおおおお落ち着きましょしょ!」

「ロジェさん!しっかりしてください!ロジェさん!深呼吸でもしましょう」

「ゲ、ゲホ、ゴホッ!……失礼いたしました。た、確かにありうる話だとは思います」

「しかし、ルナのデュエリストはデュエルの内容が実体化するということでしたが?チャレンジャーはジャックにダメージを与えているのに、ジャックの身体には直接的な傷は見られませんよ」

「考えられる可能性としては二つあります。一つはルナのデュエリストだからといって、すべてがその能力を持っているわけではないということ。そしてもう一つは、あえてその能力を使っていないということです。おそらく、力をコントロールすることで制御できるのでしょう。まだルナのデュエリストとサイコデュエリストの差がはっきりしなかった頃に行われた魔女狩りによって、シティ内部のサイコデュエリストは一掃されましたが、まだルナは存在していることがその証拠ともいえるはずです」

「では、使わないのはどうしてでしょう」

「その能力を使って勝ったとしたら、どう思います?物理的なダメージで痛めつけてデュエルを有利に進めた卑怯者ともとらえられません。しかし、真っ当な一騎打ちのデュエルでキングを倒したら、これ以上にないほどの敗北といえるのではないでしょうか」

「で、ではチャレンジャーは、ルナはキングを完膚なきまでに叩きのめすために、あえて能力を使っていないと」

 

 事実、ジャックのライフは600まで追い込まれている。

 観客たちも、ジャックが負けるかもしれないと思い始めた。

 なにしろ、相手は得体のしれないルナのデュエリスト。

 いくらキングでも、万が一というものはありえるかもしれないと不安を誘う。それを、

 

「――――――――――うろたえるなッ!!」

 

 ジャックは一喝した。

 誰よりも危機的状況をわかっているはずなのに、ジャックはこの場の誰よりも冷静であった。

 

 

「ふん。大したことではない。俺は絶望など感じない」

「なに?」

「この状況、なにも絶望するべきものはないと言っているんだ。たしかに俺のエースはみな、レベルが高いモンスターばかりだ。しかし、モンスターを召喚する前にクラッキング・ドラゴンに対処すればいいだけのこと。ゆるいロックだ」

「この状況からそれを行うと言うのか!?」

「もちろん、俺を誰だと思っている?」

 

 ジャック・アトラスは宣言する。

 

「俺はジャック・アトラス。このシティの、すべてのDホイーラーの頂点に存在するデュエリスト!この程度のものを、危機と呼ばずに乗り越えられなくて何がキングだ!そして、それができるからこそ、キングは俺だ!見せてやろう。キングという称号の意味を!」

 

「俺は手札から永続魔法、闇の護封剣を発動!」

 

《闇の護封剣》

永続魔法

このカードは発動後、2回目の自分スタンバイフェイズに破壊される。

(1):このカードの発動時の効果処理として、相手フィールドに表側表示モンスターが存在する場合、そのモンスターを全て裏側守備表示にする。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターは表示形式を変更できない。

 

「これでお前のモンスターはすべて裏側守備表示となる」

「だ、だが!お前は俺の手を封じただけで、優位に立ったわけではない!裏守備とはいえ、俺の場にはモンスターが4体も存在していることには変わらない!手札一枚で何ができる!」

――――――――フン。お前は俺のことを調べたらしいが、もう一度調べなおしたらどうだ?」

「なに?」

「そうだろう?お前は、我が魂とも言えるカードの存在を忘れている」

「……まさか」

 

 我が魂。

 その言葉を聞くとともに、観客はルナへと脅えなど忘れ、ジャックへの期待と興奮ばかりが高まっていく。

 

「俺は墓地の風来王ワイルド・ワインドの効果を発動する」

 

《風来王ワイルド・ワインド》

効果モンスター

星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守1300

(1):自分フィールドに攻撃力1500以下の悪魔族チューナーが存在する場合、

このカードは手札から特殊召喚できる。

この方法で特殊召喚したターン、自分はSモンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。

デッキから攻撃力1500以下の悪魔族チューナー1体を手札に加える。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない

 

 

「こいつを除外することで、俺はデッキから攻撃力1500以下の悪魔族チューナーモンスター一体を手札にくわえる。よって、俺はデッキからダーク・リゾネーターを手札に加える。これで準備は整った。相手フィールドにのみモンスターが存在する時、手札からバイス・ドラゴンを特殊召喚!この効果で特殊召喚した場合、能力値は半分となる」

 

《バイス・ドラゴン》

効果モンスター

星5/闇属性/ドラゴン族/攻2000/守2400

(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

 

「さらに、ダーク・リゾネーターを召喚!」

 

《ダーク・リゾネーター》

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/悪魔族/攻1300/守 300

(1):このカードは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。

 

 

「レベル5のバイス・ドラゴンに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニングッ!王者の鼓動、今ここに列をなす!天地鳴動の力を見るがいい!シンクロ召喚!我が魂、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

星8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードが相手の守備表示モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動する。

相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊する。

(2):自分エンドフェイズに発動する。

このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、

このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 

 出てきたのはジャックのモンスターのなかでおそらく、一番有名なモンスター。

 ジャック自身が我が魂だと公言する、まさしくジャック・アトラスの象徴ともいえる竜。

 紅蓮の魔龍。

 その名は、レッド・デーモンズ・ドラゴン。

 

「いけえレッド・デーモンズ!裏守備のクラッキング・ドラゴンを攻撃しろッ!」

「クラッキング・ドラゴンは、自分のレベル以下のモンスターとの戦闘では破壊されない!」

「だが、レッド・デーモンズはダメージ計算後に相手フィールド上の守備表示モンスターをすべて破壊するッ!デモン・メテオッ!!」

 

 これにより、レッド・デーモンズ・ドラゴンはキグナスの4体のモンスターを同時に粉砕した。

 

「ぐッ!だが、まだ私のライフは残っているッ!」

「まだだ!まだ俺の攻撃は終わっていないッ!」

「最初のターンに伏せていた罠か!?」

「そうだ、見るがいいッ!進化したレッド・デーモンズの力を!」

 

 ジャックの象徴ともいえるモンスター。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン。

 その姿が変わっていく。

 

「罠発動、バスター・モード。こいつはレッド・デーモンズをバスター・モードへとモードチェンジさせることができる。灼熱の鎧を身にまとい、王者ここに降臨!出でよ!レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター!」

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン/バスター》

効果モンスター

星10/闇属性/ドラゴン族/攻3500/守2500

このカードは通常召喚できない。「バスター・モード」の効果でのみ特殊召喚できる。

このカードが攻撃した場合、ダメージ計算後にこのカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。また、フィールド上のこのカードが破壊された時、自分の墓地の「レッド・デーモンズ・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚できる

 

「キングの前に、ひれ伏せッ!!」

「ぐわぁあああああああああああ」

 

 キグナス LP 3500 → LP 0

 

 デュエルの決着がついたことで、二人のDホイールが減速し始める。

 完全にDホイールが止まる前に、ジャックはビシィッ!と、人差し指を天に向けてかかげて宣言した。

 

「キングは一人、この俺だッ!」

 

 ジャックがいつも行う宣言。

 それは、先ほどキグナスがルナのデュエリストだと宣言したことで生じた混乱など完全にかき消すものであった。

 

「ジャック!ジャック!!ジャック!!!ジャック!!!」

 

 そして、その歓声を遮るような形でセキュリティが出てくる。

 

『キグナスを……ルナのデュエリストを拘束せよ!』

「はっ!!」

 

 デュエルディスクを構えた何人ものセキュリティがDホイールから投げ出されて倒れたキグナスに迫るが、それをジャックが片手で制す。

 

 お前たちはここにくるな。

 

 そういう眼光一つで、セキュリティの部隊は停止した。

 

「……お見事でしたよ、キング」

「お前もまた、消えるのか」

「えぇ。私は消えます。ですが、最後に戦う相手があなただったのは、デュエリストとしては幸せなことでした。ありがとうございます」

「……ふん」

 

 ジャックと最後の言葉を交わしたキグナスは、自身の身体が消えていった。 

 これが、ルナのデュエリスト。

 

 デュエルで負ければ、身体が消えていく。

 そのため、ルナのデュエリストとは一体何なのかを知るものはいないとされる。

 

 たとえデュエルで倒しても、拘束する前に消えてしまうのだ。

 なぞに包まれた不気味な存在。それがルナのデュエリストであった。

 

 話には聞いていても、実際にその目で見た人間はほとんどいなかったため、このシティの大舞台でキグナスの消滅をこの目でみた観客たちに動揺が広がる。最後にキグナスと言葉を交わした男は、シティの住人に対して宣言する。

 

「キングが最初から全力でかかれば、一瞬だ!」

 

 

 今のデュエルの決め手となったカードはバスター・モード。これはジャックの最初のターンで伏せられていたものだ。ということは、ジャックは緊急同調で追撃を行う際にクリムゾン・ブレーダーではなくレッド・デーモンズ・ドラゴンを出していれば、そのまま勝利していたのだ。

 

「キングのデュエルは、エンターテイメントでなければならない!」

 

 一見追い詰められたように見えたデュエルも、実はジャックは最初から本気を出せばとっくに決着がついていたのだ。そのことを思い知らされた閑却はジャックの力をたたえ、大歓声が響き渡った。目の前の現実離れした光景など、もはや大したものではなくなっていたのだ。

 

「もう一度言う。キングは一人、この俺だ!」

ジャックは人差し指を天に向ける。

 その先には何もないが、ジャックの先にたつほどのデュエリストなどいないのだと、見ていた観客たちは思う。

 

 ルナという脅威を前にしてもびくともしない平和の象徴だと、この場にいるものは皆考えていただろう。

 

 

      ●

 

「ジャック!ジャック!!ジャック!!!ジャック!!!」

 

 そして、ジャックのコールをしている人間がまたここに一人。

 テレビでの中継を見ていたユーゴもまた、シティから離れたミソラタウンで熱にあてられていたのだ。

 

「すげえぜジャック!さすがはキングだ!ナギもそう思うだろ!」

「……うん、そうだね」

「オレもいつか、あの大舞台に立てるだけの実力をつけて、ジャックに挑むんだ!」

「ユーゴ君が挑戦するまで、キングがジャックだといいね」

「何言ってんだよナギ。ジャックが負けるはずがないだろ!」

「キミ以外に?」

「オレたち以外に、だ。オレだけの力じゃあそこまでいけない。シティに行くことだってまだ無理だ。ナギとリンと、それに先生も。ジャックを倒すとしたらオレたちの力で挑戦するんだ。ナギだって、夢があるんだろう?」

「……そうだね」

「だったら話は早い。ナギ。いつか一緒にシティへ行こうぜ。そして、いつか、オレたちの名前轟かせてやろう」

 

 それは、ジャックが見せた夢なのだろうか。

 シティの大舞台で、キングという称号をかけたデュエルを行う。

 

 それほどのデュエリストとなることを夢見る子供は多い。

 

 ユーゴだって、行ってしまえばジャックにあこがれた数多くいる子供の一人なのだろう。けれど、それを本気でかなえようと思っている人はそうはいない。だからこそ、

 

「ナギ。キングになるところを特等席で見ていてくれ」

「うん。楽しみにしているよ」

 

 ユーゴが眩しい。

 ナギはふと、そう思った。

 

 そして、自分のデッキから一枚のカードを見もせずに引き抜いた。

 そのカードは自分が一番好きなカードであり、精霊がやどるカードであった。

 

「王様」

 

 隣にいるユーゴにすら聞こえないくらいの小さな声で呼びかけると、威厳のある声が返ってくる。ナギはなんでもないよと答えた。

 

 そうか、という返事が返ってくるだけだったがナギはテレビに映るジャックを見て思う。

 いつか、自分もジャックのように堂々としたデュエルができるようになるのだろうか。




今回主人公はデュエルを行いませんでしたが、使うデッキは予想思います。


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Duel2 ナギとユーゴ

ヴレインズはVR兄様が一番好きです。


 

(おいナギ。朝だぞ)

「……あぁうん。おはよう王様」

 

 ナギ・アーネストの朝は、大抵彼のデッキにいる精霊の声によって目が覚める。

 特に与えれた仕事があるわけではないのだが、彼はやらなければならないという使命感で眠い目をこすりながらも目を覚ます。

 

(なんなら俺様が眠気を不っ飛ばしてやろうか?)

「王様のやり方って割と雑というか……その……心が冷えてくる感覚がするからやめようよ」

(そうかい)

 

 苦笑いしつつ、ナギは目覚めて外に出る。

 彼が日課としていること。それは、

 

「おはよう、お姉ちゃん」

「あらナギ。おはよう」

 

 孤児院の院長をやっている実の姉、エル・アーネストの手伝いである。

 家族が必死で働いているのに、自分がぐーすかと遅くまで寝ているわけにはいかなかったのだ。

 まだ11歳にしかならないナギにできることは大したことはない。

 ナギが変に手伝うよりは、エルにすべて任せていたほうが彼女自身手間がかからないのかもしれないが、そういって知らんぷりを決め込むのは嫌だった。

 

 そんな弟の様子をエルはいつも、微笑ましいものを見るような笑顔を浮かべている。

 

「眠たいのならまだ寝てていいのよ」

「そういうわけにはいかないよ。お姉ちゃんだってまだ眠たいのに頑張っているんだから、ボクだって」

「そう?じゃあ洗濯物持ってきてくれるかしら?今日は天気がいいから、午前中に乾きそうなの」

「わかった」

 

 ナギは自分の顔が隠れるくらいたくさんの洗濯物を持ってくる。

 そして、外に設置してある物干し竿に昨日のうちに服を通していく。

 その最中に、エルはふと思い出したかのように言った。

 

「あ、そうだ。ねぇナギ。ちょっと思ったんだけど」

「なーに?」

「あなた、デュエルアカデミアに通ってみる気はない?」

 

 ただ、それはナギにとっては片手間で言われるような些細な提案ではなかった。

 エルが何を言い出したのかを、すぐに受け止めることもできなかった。

 

「きゅ、急にどうしてそんなことを言うの?」

「前から考えてはいたのよ。ほら、前にナギがやりたいっていうことを教えてくれたでしょ?正直もっと前向きな夢はないのか思ってるけど、機会のひとつとして、どう?」

「……お姉ちゃんは、ボクはいない方がやっぱりいい?」

「とんでもない!またそんなこと言ったら本気で怒るわよ!」

「……ごめん。でもお姉ちゃんだって知ってるでしょ?シティにあるデュエルアカデミアが学校だよ」

「知らないはずがないでしょ」

「確かに優秀なら学費はなくなるようにしているとは聞いてるけど、シティで暮らすにはお金がいる。かかるお金は学費だけじゃない。生活費、食費、宿泊費。とんでもないことになる。いや、それ、これはいいわけかな。正直に言うと、お姉ちゃんを放っておくのはいやなんよ」

 

 コモンズでありながら、デュエルアカデミアを受験できるだけの金銭的な余裕がある。

 これは随分と恵まれていることだ。

 けど、その恵まれた立場にいなタラも、ナギの表情は晴れない。

 弟の顔を見て、姉は心の底から謝罪をした。

 

「……ごめんなさいね」

「どうしてお姉ちゃんが謝るの?」

「ナギ。あなたがやりたいことは、本当なら私が全面的に力になれる。ただ……その、嫌なのよ。もちろんアリスあたりなら私の頼みは喜んで引き受けてくれるだろうけど、私はシティと関わりたくないの」

「……あたりまえだよ。むしろ、こんなこと相談してるボクが厚かましいんだ。お姉ちゃんが謝ることは何一つないよ」

 

 いつかシティに行き、ジャックとデュエルをする。

 それがユーゴの夢で、エルはDホイールについていろいろと教えてはいる。

 ナギもリンもユーゴの夢が叶える瞬間をシティの舞台で見たいとは思う。

 

 ナギも自身の夢のために、いつかはシティに行くことになるとは思っていたが、それはユーゴの夢をかなえる時と変わらない時だと思っていた。

 

 けれどそのときエルは、シティには来ないだろう。

 そうナギは思っていた。

 

「あなたがどんな選択をするにせよ、応援だけはしたいと思うわ。その気になったら、言ってね」

「うん、ありがとう。お姉ちゃん」

 

 結局どうするかの結論がでないまま時間は過ぎ、朝食の時間だと全員がそろった。

 朝は昨日の夕食のスープが少々残っていたため、それを小さなパンが用意されていた。

 いただきます、とユーゴは大口をあけてパンにかじりつくが、すぐにリンに注意されていた。

 

「ユーゴ!パンはこぼさないようにして食べなさい!パンくずがボロボロと落ちているじゃない!」

「お、悪い悪い」

「何度言ったら分かるのよ!いつも先生のものを見習って食べなさいって言ってるでしょ!」

「そうはいうけどよ、先生もナギも食べ方が上品すぎるんだよ。あれをいきなりマネしろって言っても無理だって」

「努力くらいはしなさい!」

「リン。そう怒らなくていいわよ。どのみち掃除はあとでするし、急にやれっていっても窮屈でしょう。私もナギも、食べ方は親がいたころに強制されたものだから、習慣として逆に乱暴には食べられないの。食事は気持ちよく食べましょう」

「そうだぜリン!いいじゃないか、これくらい」

「うぅ……ナ、ナギからもユーゴに何か言ってよ」

「…………」

「おい、ナギ?どうかしたか?」

「え、あ、うん。ゴメン、なんでもないよ。気にしないで」

 

 朝は、どこか上の空となってしまった。

 デュエルアカデミアに行ってみないか。その答えが出てこないのだ。

 

 やりたいことはやればいい。

 

 エルはそんな考えをする人間だ。実際にちょっと前までは好き勝手やっていた。

 けれどそんな姉が弟ながら大好きだった。

 

 孤児院の院長の座について人の感謝されるようなことを多くやりだした姉を誇らしいと思う反面、少しだけさみしくも思う。

 

 ナギが行きたいといえば、行かせてくれるだろう。

 けれど、ナギ自身はデュエルアカデミアに行きたいかというと、正直言って微妙であった。

 将来のために役に立つかなと、その程度の思い入れしか込めていない。

 気分転換として朝の散歩に出かけたけれど、どうにも決心がつかなかった。

 そこで、彼の精霊が話しかけてきた。

 

(……ナギ。考え事か)

(あ、やっぱりわかっちゃう?)

(当然だ。オマエのことは昔から知っているからな。どうしたんだ)

(ちょっとお姉ちゃんの意図がよく分からなくてね)

(エルの意図だと?)

(どうしてデュエルアカデミアを受験してみないかって言ったのかということだよ。まさか、そんなこと言い出すとは夢にも思っていなかった)

 

 デュエルアカデミアという存在は知っていた。

 シティにある程度の期間滞在できる方法を考えていた時に、かつて思いついた手段の一つである。

 

 そして、合格できたとしても、自分が通うことはないだろうとして破棄した案であった。

 

「お姉ちゃんに悪い。ボクにはやりたいことがあるけど、それは家族と天秤にかけるようなものじゃない。贖罪のために、また別の罪を犯すわけにはいかない」

 

 ナギは自分のデッキから二枚のカードを引き抜き、右手で見つめた。

 それはナギのエクストラデッキに存在するカードであり、ナギが持つすべてのシンクロモンスターであった。そして、かつて自身の姉が、プレゼントとして自分に渡したものである。

 

「お姉ちゃん、今デュエルをしないんだ」

 

(それがどうした)

 

「本当なら、お姉ちゃんこそあのシティの大舞台で活躍できる人なんだよ」

(いや……それは厳しいんじゃないか。デュエリストとしての腕はともかく、その……)

「ありがとう王様。わかっているよ。ボクのことなんて関係なく、お姉ちゃんはそれを望まない」

 

 デュエリストにとっての最強カードとは、自分のデッキに眠る最も信頼するカードのことを言う。

 例えば、シティのキングであるジャック・アトラスが自らの魂だと主張するエースモンスター。

 紅蓮の魔龍。

 レッド・デーモンズ・ドラゴン。

 

「ボクにとっては最強のカードは王様だよ」

 

 だが、最強のデュエリストとはだれか?これは世間的にはキングの称号と手にした人間となるが、ナギにとっては違った。

 

「けどね、ボクにとっての最強のデュエリストはやっぱりいつまでたってもお姉ちゃんなんだ。お姉ちゃんがこのミソラタウンにずっといてくれるようになったのは、家族としてはうれしいけど、少し寂しくもあるんだ」

 

 一時は出稼ぎに行ってくるといってデュエルディスク片手に飛び出していった。

 そのときのエルは間違いなく、夢と理想を掲げていたはずなのだ。

 一時は本当に楽しそうにしていたのだ。

 

「ボクたち姉弟は昔から少しみんなとは違っていた。ボクが王様と話すことができる力があるように、お姉ちゃんだってある力があった。人に後ろ指をさされることだって何度もあった。そのためにやさぐれていた時もあったけど、ある日から楽しそうにデュエルするようになったんだ。何がお姉ちゃんを変えたのかは知らないけど、それはとても幸せなことだったはずなんだ。それを……それをボクのせいで、奪ったに等しい」

 

(オマエ、まだそんなこと言っているのか)

 

「思考の迷宮から抜け出せない。ボクができたことなんて、結局ボクが大好きになった人をことごとく不幸にしただけのことだ。ボクがいなければ、お姉ちゃんは今頃もっと幸せに……」

 

(ナギ)

 

「……ゴメン」

 

(俺様はオマエのこと、気に入っているぞ)

 

「ふふ、ボクも大好きだよ、王様」

 

 ナギは自分のデッキのエースカードを見つめながら優しく微笑んだ。

 それと同時に、自分を呼ぶ声が聞こえる。

 

「おーい、ナギィーー!」

 

 ユーゴだった。ユーゴはナギのもとまで走って駆けてくると、自分のデュエルディスクを抱えた。

 

「……どうしたの?」

「なんか朝からおまえの調子がおかしかったから、何か心配事でもあると思ってな。ここはデュエルで解決しようぜ!気持ちよくデュエルすれば、悩みなんて吹き飛ぶさ!」

 

 そして、笑顔でナギにそういった。

 

(ユーゴのやつ、あんなこと言ってるぞ。さてナギ、お前はどうする?ここでまだ終わらない自己否定の無限ループを続けるか、それとも……)

(決まっているよ、王様)

 

 ナギもデュエルディスクを構え、自分の親友に正面から向き合う。

 

「相手してくれるね、ユーゴくん」

「オウ!!」

「「デュエルッ!!!」」

 

 ナギ・アーネスト LP8000 VS ユーゴ LP8000

 

「オマエからこいよ、精一杯ぶつけて来い」

「そう。それじゃボクの先行だ。ボクのターンッ!ボクは自分のライフを墓場へと捧げ、手札から魔の試着部屋を展開させる」

 

《魔の試着部屋》

通常魔法

800ライフポイントを払う。

自分のデッキの上からカードを4枚めくり、その中のレベル3以下の通常モンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。それ以外のカードはデッキに戻してシャッフルする。

 

 

 ナギ・アーネスト LP8000 → LP7200

 

「この効果によりデッキから4枚めくり、その中のレベル3以下の通常モンスターを自分フィールドに特殊召喚する」

 

このカードに確実性というものはない。 

ライフを払っておいて、何もできなかったというケースもありうるカードである。

ただ、ナギにはカードを呼び込める自信があった。

 

そもそもカード一枚一枚と、それを使うデュエリストには相性というものがあるのだ。

全く同じデッキを持ってデュエルというものを始めたとして、最終的に行き着く先はデュエリストにとって千差万別だ。

 

デュエリストがカードを選んでいるのか、カードが使うデュエリストを選んでいるのかは分からない。

きっと両方なのだろうとナギは思う。

ユーゴの場合はメインデッキが機械族モンスターメインで構成されているデッキに行きついた。

そして、ナギの場合は

 

「一枚目、魔法カード、ワン・フォー・ワン。二枚目、罠カード、エンジェル・リフト。三名目、通常モンスター、さまよえる亡者。そして最後、四枚目!」

 

 ナギは4枚目にめくったカードを確認すると、安心したように微笑んだ。

 

「引いたカードはワイト!よってレベル2のさまよえる亡者と、レベル1のワイトを守備表示で特殊召喚する」

「お、いきなりきたな。ナギのキーカード」

 

 《ワイト》

通常モンスター

星1/闇属性/アンデット族/攻 300/守 200

どこにでも出てくるガイコツのおばけ。

攻撃は弱いが集まると大変。

 

「ボクは場の通常モンスター、さまよえる亡者を対象に、魔法カード馬の骨の対価を発動する。デッキからカードを二枚ドローする。そして、カードを二枚伏せてターンエンド」

 

ナギ 

LP7200

HAND:3

MAIN:ワイト(DEF200)

REVERSE:2

 

「今度はオレのターン!ドロー」

 

(さあて、どうすっかな)

 

 ユーゴのデッキはSR(スピードロイド)

 

 風属性機械族モンスターで構成されているデッキであり、状況に応じたシンクロモンスターで戦うデッキである。どんな状況でも器用に対応できる反面、シンクロ召喚が前提となるためメインデッキで戦うタイプのデッキではないのだ。

 

 メインデッキは下級モンスターが多いために大抵場合は相手のモンスターにシンクロ召喚で立ち向かうことになるのだが、

 

(今フィールドにあるのはワイトが一体。こいつ相手なら、別にシンクロ召喚する必要はない。シンクロ召喚できる状況なら、一体でワイトを粉砕してもう一体でダイレクトアタックができる)

 

 ワイトのステータスは貧弱だ。SRの下級モンスターでも余裕で破壊できる。

 

(気になるのはあの伏せカード。だが、ナギの基本戦術は脳筋だ)

 

 ナギはカードの精霊の声が聞こえるらしいが、やることはカードの組み合わせを前提としたコンボではなく、攻撃力を上げて殴るという脳筋そのものだ。本人は立派な戦術だと言い張っているが、リン相手だといつも逆に利用されてボコボコにされている。

 

(どのみち、あの伏せカードを警戒したところで、踏み抜かなきゃどうしようもないしな。ここはいつものようにいくしかねぇか!)

 

「俺は手札から、SR(スピードロイド)シェイブーメランを通常召喚。 そしてシェイブーメランをリリースして、ダウンビートを発動だ」

 

《ダウンビート》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体をリリースして発動できる。

リリースしたモンスターと元々の種族・属性が同じで元々のレベルが1つ低いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

「さぁこいベイゴマックスッ!」

 

《SRベイゴマックス》

効果モンスター(制限カード)

星3/風属性/機械族/攻1200/守 600

「SRベイゴマックス」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「SRベイゴマックス」以外の

「スピードロイド」モンスター1体を手札に加える。

 

「SRベイゴマックスの効果により、オレがデッキからSRを、メンコートを手札にくわえる。フィールドに風属性モンスターがいるので、手札からタケトンボーグを特殊召喚する!タケトンボーグはリリースすることで、デッキのSRチューナーを一体特殊召喚できる。さぁでてこい雷々大公!」

 

 これで準備は整った。

 フィードにはレベル3のモンスター一体とチューナーが一体。

 そうなるとやることは、一つ。

 

「いくぜ!レベル3のベイゴマックスに、レベル3の雷々大公をチューニング。十文字の姿もつ魔剣よ。その力ですべての敵を切り裂け!シンクロ召喚!現れろ、レベル6!《HSR魔剣ダーマ》!」

 

HSR(ハイスピードロイド)魔剣ダーマ》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/機械族/攻2200/守1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「HSR魔剣ダーマ」の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(2):自分の墓地の機械族モンスター1体を除外して発動できる。相手に500ダメージを与える。

(3):このカードが墓地に存在し、自分フィールドにカードが存在しない場合、自分メインフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分は通常召喚できない。

 

「魔剣ダーマの効果発動!墓地のシェイブーメランを除外してナギに500のダメージを与える!」

 

ナギ LP8000 →LP7500

 

「いけ魔剣ダーマ!ワイトを貫いて貫通ダメージを与えろ!」

「ボクはワイトを対象にしてリバースカードオープン。同盟同性同盟!」

 

 《同姓同名同盟》

通常罠

自分フィールド上に表側表示で存在するレベル2以下の通常モンスター1体を選択して発動する。

自分のデッキから選択したカードと同名のカードを可能な限り自分フィールド上に特殊召喚する。

 

「この効果により、ボクのデッキからワイトを二体守備表示で特殊召喚する!」

「だがその効果では魔剣ダーマは止まらない!続行だ!」

 

 魔剣ダーマのはけん玉の面影を持つ剣。

 その剣が亡霊の身体を貫くとともに、その衝撃で相手のライフを削り取る。

 

 ナギ・アーネスト LP 7500 → 5500

 

「オレはカードを二枚伏せてこれでターンエンドだ」

 

 

 ユーゴ 

LP8000

HAND:2(メンコート)

EXTRA:HSR魔剣ダーマ(ATK2200)

REVERSE:2

墓地:SR雷々大公、SRタケトンボ―グ、SRベイゴマックス

 

「ボクのターンだ。ドロー」

 

 ナギ 

LP5500

HAND:3 → 4

MAIN:ワイト(DEF200)×2

REVERSE:1

 

 ナギとユーゴはこれまでに何度もデュエルをしてきた仲だ。

 勝敗こそ時の運とばかりに入れ替わるが、相手がとってくる手もわかりきっている。

 

(ユーゴくんの手札には、ダイレクトアタックを止めるメンコートが存在する。ぐずぐずしていたら、状況は悪化するだけだ。さてどうしよう。とりあえずは手札のメンコート。あいつが今後の邪魔だ。今のうちに使わせたい)

 

「魔法発動!苦渋の決断。デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を墓地へ送り、その同名カード1枚をデッキから手札に加える。ボクはデッキからゾンビーノを墓地に送り、デッキからゾンビーノ一体を手札にくわえる」

 

《ゾンビーノ》

通常モンスター

星4/地属性/アンデット族/攻2000/守 0

ふたりは とってもなかよし

しんでもいっしょ よみがえってもいっしょ

はなれることはない

 

だから ふたりがであうことは もうにどとない

 

「出てきたな、ナギの持つ下級アンデットで固定数値だと最高打点モンスター」

 

 これでナギのフィールドにはワイトが二体。 

 

(少々もったいない気もするけど、打点が足りないから仕方ないか……)

 

「ボクはさらに手札の魔法カード、悪魔への貢物を発動する。この効果によって、フィールドに特殊召喚されたモンスター一体を選択して墓地へと送り、手札のレベル4以下の通常モンスター一体を特殊召喚する。さぁこいゾンビーノッ!魔剣をいけにえとして出てこいッ!」

「フフフフフ」

「さらにゾンビーナを通常召喚ッ!」

「ハハハハハ」

 

《ゾンビーナ》

効果モンスター

星4/地属性/アンデット族/攻1400/守1500

(1):このカードが相手によって破壊された場合、

「ゾンビーナ」以外の自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 これでユーゴのフィールドにモンスターは存在しない。

 しないのだが、

 

「このまま攻撃だ!」

「ダイレクトアタックを受けるとき、手札のSRメンコートの効果発動!」

 

SR(スピードロイド)メンコート》

 効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻 100/守2000

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から攻撃表示で特殊召喚し、相手フィールドの表側表示モンスターを全て守備表示にする。

 

「こいつの効果によって、ナギのフィールドのモンスターすべてを守備表示にする」

「ターンエンド!」

「オレのターン!」

 

ナギ 

LP5500

HAND: 1

MAIN: ワイト×2(DEF200) ゾンビーナ(DEF1500)、ゾンビーノ(DEF0)。

REVERS:1

 

 ユーゴ

LP8000

HAND: 1 →2

MAIN:SRメンコート(ATK1100)

REVERSE:2

墓地:SR雷々大公、SRタケトンボ―グ、SRベイゴマックス

 

「魔法カード、スピードリバースの効果を発動!墓地の魔剣ダーマを復活させるぜ」

「うわぁ」

「ナギを相手にするにはやはりこいつが一番強い!墓地から召喚された魔剣ダーマはエクストラモンスターゾーンではなくメインモンスターゾーンに置かれる。よって、俺はこれよりシンクロ召喚を行うことができる!」

 

 シンクロ召喚はエクストラデッキに存在するモンスター。 

 そのため最初に呼ばれた時はエクストラモンスターゾーンへと召喚される。 

 それはシンクロ召喚に、時には邪魔になることもあるのだ。

 より高いレベルのモンスターをシンクロ召喚するならば、エクストラモンスターゾーンのモンスターをシンクロ素材とすればいいだけであるが、低レベルのシンクロをしたい場合はそうもいかない。

 

 だが、エクストラデッキ以外から呼ばれた場合はメインモンスターゾーンへと送られる。

 

「自分フィールドに風属性モンスターが存在するとき、SRタケトンボーグを特殊召喚できる」

「出たね二枚目!」

「こいつの効果ももちろん知っているな?こいつ自身をリリースすることで、デッキからスピードロイドチューナーモンスター一体を呼べる。こい、SRスピードロイド赤目のダイスッ!そして、レベル4のメンコートにレベル1の赤目のダイスをチューニングッ!」

「くるか」

「シンクロ召喚ッ!さぁこいチャンバライダーッ!!」

 

HSR(ハイスピードロイド)チャンバライダー》

シンクロ・効果モンスター

星5/風属性/機械族/攻2000/守1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

自分は「HSRチャンバライダー」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

(2):このカードが戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。このカードの攻撃力は200アップする。

(3):このカードが墓地へ送られた場合、除外されている自分の「スピードロイド」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。

 

「やはり出てきたね、二回攻撃モンスター!」

「こいつの前にまず、魔剣ダーマの効果!墓地の機械族モンスター一体を除外して、ナギに500のダメージだ。オレはメンコートを除外!」

 

 ナギ LP5500 → 5000

 

「うッ!」

「チャンバライダーは二回攻撃することができ、そのたびに攻撃力を200あげることができる」

 

(ナギのフィールドにあるゾンビーナは、相手によって破壊された場合にゾンビーナ以外の下級モンスターを蘇生できる効果を持ってる。苦渋の決断の効果ですでに墓地にゾンビーノが存在している以上、オレがどれから攻撃してもゾンビーノが出てくることには変わらないな。……なら!)

 

「さぁバトルだ!まずは復活した魔剣ダーマで守備表示となっているゾンビーノを攻撃だ!ゾンビーノはレベル4で攻撃力2000もある通常モンスターだが、守備力は0!よって、貫通能力によってダイレクトアタックも同じだ!」

「ぐ!?」

 

 ナギ LP5000 → LP2800

 

「ナギのデッキのモンスターは、守備力が基本低い!だからこそ、お前相手なら魔剣ダーマはナギを貫く剣となるッ!」

「あぁ、その通りだよ。何度そいつにボコボコにされたことだか……」

「まだ終わらないぜ!次はチャンバライダーで攻撃!こいつは戦闘を行うダメージステップ時に攻撃力が200上がる。ゾンビーナを攻撃だ!」

 

 HSRチャンバライダー ATK2000→2200

 

「ゾンビーナが相手によって破壊されたので、墓地のゾンビーノを守備表示で特殊召喚する」

「次は二回目の攻撃!チャンバライダーはさらにパワーアップだ!」

 

 HSRチャンバライダー ATK2200 → 2400

 

「オレは復活したゾンビーノを攻撃するぜ!」

 

 ゾンビーナの効果によって復活したゾンビーノであったが、その体はチャンバライダーによってあっけなくその身体が引き裂かれる。

 

「オレはこれでターンエンド!」

「ボクのターンッ!」

 

 ユーゴ 

LP8000

HAND:0

MAIN:HSR魔剣ダーマ(ATK2200)

EXTRA:HSRチャンバライダー(ATK2400)

REVERSE:2

墓地:SR雷々大公、SRタケトンボ―グ×2、SRベイゴマックス、SR赤目のダイズ

 

 ナギ 

LP2800

HAND:1→ 2

MAIN:ワイト×2

REVERSE:1

 

「ボクは手札からワイトをリリースして、馬の骨の対価を発動し、デッキから2枚のカードをドローする」

 

ナギ:HAND 2→ 1 → 3

 

「手札の堕ち武者(デス・サムライ)を通常召喚し、効果発動」

 

堕ち武者(デス・サムライ)

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1700/守 0

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキからアンデット族モンスター1体を墓地へ送る。

(2):表側表示のこのカードが相手の効果でフィールドから離れた場合に発動できる。

デッキから「堕ち武者」以外のレベル4以下のアンデット族モンスター1体を特殊召喚する。

 

「となると、送るのは馬頭鬼か」

「そう!ボクは墓地に馬頭鬼を墓地へと送り、効果発動だ!」

「墓地の馬頭鬼を除外することで、墓地のアンデットを特殊召喚する。よみがえれゾンビーノッ!」

「さらに手札から月鏡の盾を発動し、ワイトに装備させる!そして攻撃表示に変更する」

 

月鏡(つきがみ)の盾》

装備魔法

(1):このカードの装備モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動する。

装備モンスターの攻撃力・守備力はダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力と守備力の内、高い方の数値+100になる。

(2):表側表示のこのカードがフィールドから墓地へ送られた場合、500LPを払って発動する。

このカードをデッキの一番上または一番下に戻す。

 

「戦闘においてほぼ無敵となる装備魔法か!」

「まだだよ、ユーゴくん!ボクは永続魔法、弱者の意地を発動だ!」

 

《弱者の意地》

永続魔法

自分の手札が0枚の場合、自分フィールド上に存在するレベル2以下のモンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分のデッキからカードを2枚ドローする。

 

「バトル!ボクはワイトでHSRチャンバライダーに攻撃!」

「ただでは終わらない!リバースカードオープン、スーパーチャージ!」

 

《スーパーチャージ》

通常罠

(1):自分フィールドのモンスターが機械族の「ロイド」モンスターのみの場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

「オレはデッキから2枚のカードをドローする!」

 

 

 ユーゴ 

LP8000

HAND:0 → 2

MAIN:HSR魔剣ダーマ

EXTRA:HSRチャンバライダー

REVERSE: 2 → 1

墓地:SR雷々大公、SRタケトンボ―グ×2、SRベイゴマックス、SR赤目のダイズ

 

「だけどその効果ではワイトは止まらない!戦闘続行だ。チャンバライダーは攻撃力を200あげる効果を持つが、それは戦闘を行うダメージステップ開始時!月鏡の盾はダメージ計算時だ。さきにチャンバライダーの効果が発動し、その後で月鏡の盾の効果が発動する」

 

HSRチャンバライダー ATK:2400→ 2600

ワイト    ATK:300 → 2700

 

「よって、ワイトでチャンバライダーを破壊する!そして弱者の意地の効果によって、ボクはデッキから2枚ドローする」

「チャンバライダーは墓地へ送られた場合、除外されている自分の「スピードロイド」カード1枚を手札にくわえる効果を持つ。オレは除外されているメンコートを手札にくわえるぜ」

 

 ナギ HAND:0 → 2

 

 ユーゴ LP8000 → LP7900

     HAND:2 → 3(メンコート)

 

 それだけではない。ナギのフィールドにはまだ攻撃を行っていないモンスターが二体いる。

 

「ゾンビーノで魔剣ダーマを攻撃!」

「ゾンビーノの方が攻撃力は低い。となると……何か引いたか」

「手札から速攻魔法、収縮を発動し、魔剣ダーマの攻撃力を半減させる!」

 

 ソンビーノ ATK2000 VS 魔剣ダーマ ATK 2200 → 1100

 

ユーゴ LP7900 → 7000

 

「さらに、堕ち武者でダイレクトアタック!どうする?メンコートは?」

「メンコートの効果は今は使わない!そのまま受けるぜ!」

 

 ユーゴ LP6900 → 5200

 

「ぐッ!」

「ボクはカードを一枚伏せてターンエンド」

「やってくれたなナギ!さすがだ、と言いたいが、オレの全力もまだまだこれからだ!ドロー」

 

  ナギ 

LP2800

HAND : 0 

MAIN:ワイト(月鏡の盾装備)、ゾンビーノ(ATK2000)、堕ち武者(ATK1700)

REVERSE: 2 

TABLE:弱者の意地

 

 ユーゴ 

LP5200

HAND:3 → 4(メンコート)

REVERSE:1

墓地:SR雷々大公、SRタケトンボ―グ×2、SRベイゴマックス、SR赤目のダイズ、HSR魔剣ダーマ、HSRチャンバライダー

 

(月鏡の盾は、戦闘では無敗の盾。それは、ナギのエースモンスターが出てこようが覆らない。だが、戦闘以外で対処できるだけたやすいもんだ!)

 

「オレは墓地に存在する、スピードリバースの効果を発動だ!」

 

《スピードリバース》

通常魔法

(1):自分の墓地の「スピードロイド」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「スピードロイド」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「なるほど、先ほどメンコートの効果を使わなかったのはこれのためか。この効果で墓地のベイゴマックスを手札にくわえれば、その効果で特殊召喚とSRのサーチができる。そのためにはメンコートが邪魔になる」

「あぁ、そのためにオレは最初に魔剣ダーマをシンクロ召喚した時に、バーンのコストにしなかった。そして、ナギの言うようにベイゴマックスを自身の効果で特殊召喚するつもりだった」

「……だった?」

 

ナギとユーゴ。

二人はこれまで何度もデュエルをしてきた仲だ。

いいかげんに互いのデッキの特徴なんて分かっている。

当然、ユーゴの今後の動きを予測しながらナギは戦っていた。

 

「今ドローしたカードで方針が変わった。やっぱ男なら、小細工もいいけど、打点で上から殴るのも楽しいよなッ!」

「全く持ってその通りだよユーゴくんッ!!」

 

 

 この会話をリンが聞いていたら確実にあきれているだろう。

 攻撃力だけがデュエルではないのだ。

 

 けれど、攻撃力が重要でないかというと、そんなはずがない。

 

 効果がなくとも、攻撃力が高いと存在しているだけで脅威となる。

 

「よっしゃ、行くぞナギッ!オレはスピードリバースの効果によって、手札に戻すカードは、シンクロモンスターの、HSRチャンバライダーだッ!シンクロモンスターのこいつは、手札ではなくエクストラデッキに戻る」

「チャンバライダーを戻して一体どうするつもり?」

「こいつはあくまで今度の保険だ。いくぞナギ!オレは手札からSRパチンゴーカートを通常召喚し、効果発動だぜ」

 

SR(スピードロイド)パチンゴーカート》

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻1800/守1000

(1):1ターンに1度、手札から機械族モンスター1体を捨て、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。 

 

「手札の機械族モンスター、SR-OMKガムを墓地に送り、効果発動だ。対象とするのはもちろん、月鏡のワイト!」

「ぐッ!」

「さらに墓地のSRスピードロイド電々大公の効果により、自身を除外することで「スピードロイド」チューナーモンスターを墓地より特殊召喚する。さぁこい赤目のダイズ!こいつは特殊召喚に成功した時、「SR赤目のダイス」以外の自分フィールドの「スピードロイド」モンスター1体を対象とし、1~6までの任意のレベルを宣言してレベル変更ができる。よって、オレがフィールドのSRスピードロイドパチンゴーカートのレベルを3にするぜ」

「合計レベル4。あいつがくるか」

「いくぜナギ!オレはレベル3となったパチンゴーカートに、レベル1の赤目のダイズをチューニング!シンクロ召喚、HSR快刀乱破ズール!」

 

HSR(ハイスピードロイド)快刀乱破ズール》

シンクロ・効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻1300/守1600

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードが特殊召喚されたモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージステップ終了時まで倍になる。

(2):S召喚したこのカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに、HSR快刀乱破ズール」以外の自分の墓地のスピードロイド」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

「さらに、墓地の電々大公の効果発動だぜ」

 

SR(スピードロイド)電々大公》

チューナー・効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻1000/守1000

「SR電々大公」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):墓地のこのカードを除外して発動できる。自分の手札・墓地から「SR電々大公」以外の

「スピードロイド」チューナー1体を選んで特殊召喚する。

 

「こいつの効果により、チューナーであるOMKガムを墓地から守備表示で復活させる」

「たしかOMKガムには、シンクロ素材となったときに攻撃力を上げることができる効果があったはず。その効果は成功するか不確定のランダム要素が絡むものだったはずだけど、まさかそれを狙って?」

「いいや違うぜ!こいつはあくまで保険さ。本命はこっちだ!手札から、魔法カード、《ハイ・スピード・リレベル》を発動ッ!!」

 

《ハイ・スピード・リレベル》

通常魔法

(1):自分の墓地の「スピードロイド」モンスター1体を除外し、自分フィールドのSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、除外したモンスターと同じレベルになり、攻撃力は除外したモンスターのレベル×500アップする。

 

「オレが除外するカードは、HSR魔剣ダーマ、レベル6だ!よってズールの攻撃力を3000アップするぜ」

 

HSR快刀乱破ズール ATK:1400 → 4400

 

「アホみたいな攻撃力で殴るのはナギだけの専売特許ではない!いけズール!ゾンビーノを攻撃しろ!こいつは特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う場合、もともとの攻撃力ではなく、現在の数値を倍加させることができる。よってズールの攻撃力は倍の8800!ゾンビーノの攻撃力は2000、そしてナギのライフは2500。よってこのバトルで発生する6800のダメージで、オレの勝ちだ!いけッ!ズール!」

「そうはいかない!罠発動!ガードブロック!」

 

《ガード・ブロック》

通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。

その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

「この効果でボクは、このバトルで死なない!ライフは残る!さらに一枚ドロー!」

 

ナギ 

LP2800

HAND : 0 → 1

MAIN:堕ち武者

REVERSE: 2 → 1

TABLE:弱者の意地

 

「ずっと前から伏せていた罠はそれだったか。おおかた、装備カードを失って無防備になったワイトを守るためのものだろう。なかなかいい手だが、ガードブロックの効果ではモンスターの破壊は防げない!ゾンビーノは粉砕される!」

「ボクのフィールドにはまだ堕ち武者が存在する。キミの攻撃はこれで終わりだ!」

「――――――それはどうかな?」

「なんだって!?」

「ナギ!オレの攻撃はまだ終わっていない。リバースカードオープン、緊急同調!」

 

ユーゴ 

LP5200

HAND:1 (メンコート)

EXTRA:HSR快刀乱破ズール

MAIN:SR OMKガム

REVERSE:1 → 0

墓地:SR雷々大公、SRタケトンボ―グ×2、SRパチンゴーカートSRベイゴマックス、SR赤目のダイズ

 

 

《緊急同調》

通常罠

バトルフェイズ中のみ発動できる。

シンクロモンスター1体をシンクロ召喚する。

 

「合計のレベルは……5!そういうことか!」

「ああ、いくぞ!オレはエクストラモンスターゾーンに存在するレベル4のズールに、レベル1のチューナーであるOMKガムをチューニングッ!シンクロ召喚ッ!再びフィールドに姿をみせよ、HSRチャンバライダーッ!!」

「出てきたな、チャンバライダーッ!」

「そして、シンクロ素材として使われたOMLガムの効果発動だ!」

 

SR(スピードロイド)OMK(オーエムケー)ガム》

チューナー・効果モンスター

星1/風属性/機械族/攻 0/守 800

(1):自分・相手のバトルフェイズに自分が戦闘・効果でダメージを受けた場合に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードの効果でこのカードが特殊召喚に成功したバトルフェイズに発動できる。

このカードを含む自分フィールドの風属性モンスターのみをS素材としてS召喚する。

(3):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。

自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードが「スピードロイド」モンスターだった場合、

このカードをS素材としたSモンスターの攻撃力は1000アップする。

 

「デッキの上から一枚墓地へと送り、それがスピードロイドならはチャンバライダーの攻撃力は1000上がるぜ」

「……二回攻撃モンスターの攻撃力が1000上がるのかぁ」

「いくぜッ!」

 

 ユーゴはデッキの一番上を確認した。そこにあったのは。

 

「デッキの一番上にあったのは、SRバンブー・ホースだ!よって1000アップ!」

 

 チャンバライダー ATK:2000 → 3000

 

「チャンバライダーで堕ち武者に攻撃する瞬間、チャンバライダーは攻撃力がアップする!」

 

 チャンバライダー ATK:3000 → ATK3200

 

ナギ LP2800 → LP1300

 

「これで堕ち武者も消えた!いけ、チャンバライダーよ、ナギにダイレクトアタックだ!」

「リバースカード発動、ピンポイントガード!この効果により、墓地からゾンビーノを守備表示で特殊召喚する。チャンバライダーは魔剣ダーマとは違い貫通能力を持たないため、守備力0のこいつでもなんとかなる!」

 

《ピンポイント・ガード》

通常罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘・効果では破壊されない。

 

「なるほど、だが、攻撃は続けるぜ。モンスターの破壊はできなくとも、攻撃によってチャンバライダーの攻撃力は上がるッ!」

 

HSRチャンバライダー ATK:3200 → 3400

 

「オレはこれでターンエンドだ。そしてエンドフェイズにズールの効果が発動だ。シンクロ召喚したズールが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに、HSR快刀乱破ズール」以外の自分の墓地のスピードロイド」モンスター1体を手札に加えることができる。オレは墓地のベイゴマックスを手札にくわえるぜ」

 

 ユーゴ 

LP5200

HAND:2(メンコート、ベイゴマックス)

EXTRA:HSRチャンバライダー ATK3400

墓地:SRタケトンボ―グ×2、SRベイゴマックス、SR赤目のダイズ、SRパチンゴーカート、SR OMKガム、SRバンブーホース、HSR快刀乱破ズール

 

  ナギ

LP1300

HAND:1

MAIN:ゾンビーノ(DEF0)

TABLE:弱者の意地

 

(うん、圧倒的なまでのピンチだ)

 

 現時点でユーゴの体制は盤石といえる。

 手札のメンコートはダイレクトアタックから身を守ることができ、そうでなくともベイゴマックスで次のターンも攻勢に出てくるだろう。攻撃力3400のチャンバライダーをなんとか倒しても、まだ安心すらできない。

 

 ガードブロックのドロー効果で引いたカードは突進。相手の速攻モンスターの攻撃力を上げる速攻魔法だが、こいつ単品ではどうしようもない。ゾンビーナを強化したところで、チャンバライダーにはかなわない。このまま負けるか、デュエルを続行するかはこのドローにかかっていた。

 

「ボクのターン」

 

 負ける。それはよくあることだった。ナギとユーゴの戦績なんて、特に偏りがあるわけではない。

 勝つときは勝つし、負けるときはあっさり負ける。

 ならば勝負の勝ち負けにこだわることもないのだが……

 

(嫌だなぁ……)

 

 このまま負けるのは、気に食わない。

 負けること自体はいい。

 だが、先ほどまで考えていたことが、自分でも気に食わない。

 

 自分には自信がないから、信念がないから、お姉ちゃんに申し訳がないから。

 

 そんな理由で心に迷いが生じ、全力すら出せず、勝てないと思ってしまった。

 そんなのデュエリストとして失格以外の何者でもない。

 

 

 そんな人間が、エル・アーネストの、自分が最強と思うデュエリストの、身内だというのは恥ずかしい。

 

 負けるなら負けるで、全力を出して負ける。

 それがデュエリストとしての最低限のマナーだ。

 

「ユーゴくん」

「ん?なんだ?」

「ボクとデュエルをしてくれて、ありがとう」

 

 こんなことを言うのは失礼かもしれない。

 皮肉に聞こえるかもしれないし、諦めにも似た感情を受け取るかもしれない。けれどユーゴは幸せそうに、

 

「いいってことよ、親友」

 

 何一つ裏表もない笑顔を見せてくれた。

 ならばそれに答えなくてどうする。

 

「いくよ、ユーゴくんッ!」

「さぁこい、ナギィ!」

「ドローッ!」

 

 ナギはドローしたカード。それは、

 

(……よう)

(王様)

 

 自分のデッキに宿る、カードの精霊だった。

 このカードを見た瞬間、ナギはどうしてだろうか、なんだか無性にほっこりした気分になった。

 

(来てくれたんだね)

(オマエが俺様を呼んだんだろうが)

(うん、待ってたよ)

 

 ナギ

LP1300

HAND:1 → 2

MAIN:ゾンビーノ

TABLE:弱者の意地

 

「いくよ、ユーゴくん」

「こい!」

「ボクはワイトキングを通常召喚!」

「この局面で出てきたか、ナギのエースモンスターッ!」

 

《ワイトキング》

効果モンスター

星1/闇属性/アンデット族/攻 ?/守 0

このカードの元々の攻撃力は、自分の墓地に存在する「ワイトキング」「ワイト」の数×1000ポイントの数値になる。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地の「ワイトキング」または「ワイト」1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。

 

 フィールドに出てきたのは、紫のボロ布を身にやつした骸骨。 

 ただ、骸骨というもののイメージとは違い、その姿は生命力にあふれるような力強さを見せつける。

 こいつこそが、ナギの最愛のモンスター。

 彼自身が最強だと信じて疑わない、象徴ともいえるモンスター。

 

「王の攻撃力は、墓地に眠るしもべの数で決まる。よって攻撃力は3000となる」

「だが、その攻撃力ではチャンバライダーに届かないぜ」

「攻撃力をボク相手に自慢しても意味がないってこと、キミだって知っているでしょ」

 

ワイトキングは自分より攻撃力の高いモンスターに対し、一切の躊躇もなく突撃していく。

 

「チャンバライダーの効果により、自身の攻撃力を200あげる」

「ダメージ計算前に、速攻魔法突進を発動し、王の攻撃力を700あげる!」

 

 HSRチャンバライダー ATK3400 → 3600

  ワイトキング   ATK 3000 → 3700

 

 ユーゴ LP5200 → LP5100

 

「レベル1のワイトキングが戦闘によってモンスターを破壊したことで、弱者の意地の効果発動。ボクの手札が0なので、二枚ドローできる」

「チャンバライダーが墓地に送られたので、除外されているSRを一体手札にくわえることができる。オレは、ハイ・スピード・リレベルの効果で除外した魔剣ダーマをエクストラデッキに戻す」

 

 ナギ HAND: 0 → 2

 

「ボクのフィールドにはピンポイントガードで蘇生したゾンビーノが存在するけど、攻撃はしない。攻撃表示に変更してターンエンドだ」

「攻撃してこないのか」

「今メンコートをくらうのは嫌なんだ。ボクはリバースカードを一枚セットしてターンエンドだ」

「覚えていたか。当然だな。オレのターン。ドローッ!」

 

ナギ

LP1300

HAND: 1

MAIN:ワイトキング(3000)、ゾンビーノ(ATK2000)

REVERSE:1

TABLE:弱者の意地

 

 ユーゴ 

LP5100

HAND: 2 → 3(メンコート、ベイゴマックス)

 

「オレは手札から貪欲な壺を発動だ。墓地に存在している5体のモンスターをデッキに戻し、カードを二枚ドローする。オレが選ぶのはこいつらだ!」

 

SRタケトンボ―グ×1

SR OMKガム

SRパチンゴーカート

HSR快刀乱破ズール

HSRチャンバライダー

 

(―――――ッ!ここでこいつを引いたか)

 

 ユーゴは引いたカード二枚のうちの一枚のカードを見て表情に出そうになる。

 そのうちの一枚は、エンジェル・リフトという罠カード。

 墓地からレベル2以下のモンスター一体を特殊召喚できる永続罠だ。

 

 このカードの特徴は、もっといいカードが存在している、というものである。

 

 そのカードの名は、リビングデッドの呼び声。

 レベル制限がなく、特殊召喚できるというものだ。

 ユーゴがリビングデッドの呼び声を使わない理由は、簡単である。ユーゴは持っていないのだ。

 

 金持ちのトップスとは違い、少年であっても自分で仕事をするコモンズの人間が使うカードは汎用性が高いものよりも、使う人を選ぶ物が多い。

 

 はっきり言って、トップスの連中に使えないカードとして捨てられたカードが手に入ることが多いのだ。

 エンジェル・リフトはそのうちの一つだろう。潤沢な資金力を持つトップスの人間ならこのカードを使う奴はまずいないはずだ。

 

(ナギ。このカードはオマエがくれたんだったな)

 

 限られたカードの中、デッキを組むコモンズを象徴するようなカードであると同時、ユーゴは懐かしい気持ちになるカードであった。

 

(まだデッキが40枚にもなっていないとき、使えるかもしれないって言って渡してくれたんだよな。オマエだって、カードを探している最中だったってのにな)

 

 エルのところにやってきて、自分のデッキを持って、なんとデュエルディスクまで手にして。

 今度はDホイールを作ろうというところまで来た。

 11歳の少年としては、自分は恵まれている方だろう。

 その自覚があるからか、何度デッキを組みなおしても、構築を見返してみても抜く気にはならなかったカードだ。

 

「オレのフィールドにモンスターが存在しないので、SRベイゴマックスを特殊召喚できる。そして、ベイゴマックス以外ののRを手札にくわえる。こい、ダブルヨーヨー!そのまま通常召喚だ」

 

SR(スピードロイド)ダブルヨーヨー》

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻1400/守1400

(1):このカードが召喚に成功した時、 自分の墓地のレベル3以下の「スピードロイド」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

「こいつは通常召喚に成功した時、墓地のレベル3以下のスピードロイドを復活させる。これで墓地のベイゴマックスを復活させ、効果発動。タケトンボーグをデッキから加え、リリースすることでデッキから電々大公を呼び出すぜ」

「電々大公……」

「こいつはチューナーだ。いくぜ、レベル3のベイゴマックスに、同じくレベル3の電々大公をチューニングッ!」

 

(今の手札でワイトキングを倒す手段はないが、ナギのライフは1300。風前の灯火に等しい。こいつを呼んでゾンビーノを破壊したところで、ライフはのこる。それにナギの二体のシンクロの一体はあいつだ。攻撃表示にするよりは……)

 

「シンクロ召喚、魔剣ダーマッ!ただし守備表示で現れろ!そして魔剣ダーマの効果発動!墓地の機械族モンスターであるダブルヨーヨーを除外して、ナギに500のダメージを与える!」

 

 ナギ LP1300 → LP800

 

「守備表示でだしてきた?」

「魔剣ダーマでゾンビーノを攻撃しても、ナギのライフは大したダメージはない。ゲームエンドまではいかないのさ。それに、ナギの二体のシンクロモンスターのうち一体はあいつだ。変にフィールドに残しておくよりは、妨害も含めて安全策でいくぜ!」

 

ユーゴ 

LP:5100

HAND: 2(エンジェルリフト、SRメンコート)

EXTRA:HSR魔剣ダーマ(DEF1600)

MAIN: SRダブルヨーヨー

 

「オレは手札から、魔法カードシンクロクラッカーを発動だ!」

 

 《シンクロ・クラッカー》

通常魔法

(1):自分フィールドのSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを持ち主のエクストラデッキに戻し、そのSモンスターの元々の攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。

 

「この効果により、ナギのフィールドに存在しているゾンビーノを破壊する。そして魔剣ダーマがエクストラモンスターゾーンから消えたことで、オレが再びこのターンにシンクロ召喚ができる。墓地の電々大公を除外して、墓地のレベル1モンスター、赤目のダイズを墓地から特殊召喚するぜ」

「魔剣ダーマのバーン効果は一ターンに一度だけ。となると、ここで出てくるのは、このデュエルで出ていないキミの最後のシンクロモンスターか」

「シンクロ召喚。HSRマッハゴーイータ!守備表示で出てこいッ!」

 

HSR(ハイスピードロイド)マッハゴー・イータ》

シンクロ・効果モンスター

星5/風属性/機械族/攻2000/守1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「HSRマッハゴー・イータ」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードをリリースして発動できる。フィールドの全ての表側表示モンスターのレベルはターン終了時まで1つ上がる。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「スピードロイド」チューナーが存在する場合に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は風属性モンスターしか特殊召喚できない。

 

 出てきたのは巨大な羽子板。

 シンクロ召喚を決めたユーゴであったが、まだまだ止まらない。

 

「まだだ!先のターンにOMKガムの効果によって墓地に送られていたSRスピードロイドバンブー・ホースの効果発動だ」

 

SR(スピードロイド)バンブー・ホース》

効果モンスター

星4/風属性/機械族/攻1100/守1100

「SRバンブー・ホース」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

手札からレベル4以下の「スピードロイド」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキから風属性モンスター1体を墓地へ送る。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

「この効果で、デッキの《SRスピードロイド三つ目めのダイス》を墓地に送る。」

 

《SRスピードロイド三つ目めのダイス》

チューナー・効果モンスター

星3/風属性/機械族/攻 300/守1500

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。

このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする

 

「これで一回分の攻撃は向こうにされる、か」

 

 徐々にナギが打つ手がなくなっていく現状に、どうしたものかと考え込むことになる。

 

「さらにオレはカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 ユーゴ 

LP5100

HAND:1(SRメンコート)

EXTRA:HSRマッハゴー・イータ(DEF1000)

REVERSE:1

 

 だが、ナギの疑問はこの現状をどうやって打開しようかというものではなかった。

 

「……どうして?」

「ん、何がだ?」

「どうしてOMKガムの効果を狙わなかったの?」

 

 OMKガムはシンクロ素材として使われたときに自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送り、そのカードが「スピードロイド」モンスターだった場合、シンクロモンスターの攻撃力は1000アップすることができる。ギャンブルではあるが、ワイトキングの現在の攻撃力は3000。正直大した攻撃力ではない。マッハゴー・イータの召喚時にOMKガムを用いていれば、互角に攻撃力を持っていけるもしれなかった。

 

 もちろん、三つ目のダイズには攻撃を一度防ぐ効果もあり、悪い選択肢だとは言わない。いわないのだが、OMKガムをバンブーホースの効果で墓地に贈り、シンクロ召喚を狙うことだってできた。そして、貪欲の壺によってチャンバライダーはエクストラデッキに戻っている。

 

 賭けのようそはあるが、このターンにユーゴが勝負を決めようと思えば勝負に出れたのだ。

 

 なのに、しなかった。

 どうしたのだろうかと聞くと、なんだかユーゴは照れくさそうに答えた。

 

「いや、別にオマエをなめているわけじゃないんだ。ただな……」

「ただ?」

「これはお前のために始めたデュエルだ。正直、俺が信念をかけて行うデュエルではない。そんな状況じゃ、いくら勝負は時の運といってもギャンブルは失敗する。それが分かっているんだ。ナギは敵じゃなっくて、オレの仲間だしな。こんな気持ちじゃ、引き当てられるものも引き当てられない」

「ユーゴくん」

「むしろ、この状況からオマエが迷いを吹っ切った信念で切り返してくれよ。それができるだけの力をお前が持っているって、オレは信じている」 

 

 信じている。

 そういわれてナギは自分のことを信じていたか、それを思い出す。

 

(……信じているとは言い難かったかな)

 

 自分のことなんて信じてない。嫌いだ。

 けど、ナギはユーゴのことが好きだし、彼は夢を絶対にかなえる存在だと信じている。

 なら、ユーゴが信じているボク自身のことを信じてみようと思う。

 

「いくよ、ユーゴくんッ!」

「さぁこい!」

「ボクのターン、ドローッ!」

 

   ナギ 

LP800

HAND:1 → 2

MAIN:ワイトキング(3000)

REVERSE:1

TABLE:弱者の意地

 

 

 これがナギのラストターン。次のユーゴのターンに魔剣ダーマが出されたら、効果ダメージだけでナギは死ぬ。この状況でナギがドローしたカードは、

 

「……お姉ちゃん」

「は?」

「きっとこれも運命なんだろうね。お姉ちゃんは、ボクに世界を見てほしいって言っているんかもしれない」

「おっ。いいカードが引けたようだな。引けたということは、もう迷っていることはないっていうことだ。よかったぜ」

「ありがとう」

 

 礼をいうと、おう、とユーゴは笑顔で答えた。

 

「ボクは手札からユニゾンビを通常召喚!」

 

《ユニゾンビ》

チューナー・効果モンスター

星3/闇属性/アンデット族/攻1300/守 0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

手札を1枚捨て、対象のモンスターのレベルを1つ上げる。

(2):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

デッキからアンデット族モンスター1体を墓地へ送り、対象のモンスターのレベルを1つ上げる。

この効果の発動後、ターン終了時までアンデット族以外の自分のモンスターは攻撃できない。

 

「ここでチューナーだと!?」

 

でてきたのはチューナーモンスターという名にふさわしく、肩を組んで歌を歌っているアンデット。

 

「ユニゾンビ自身を対象として、ユニゾンビの効果発動。対象モンスターのレベルを一つ上げ、デッキからアンデット一体を、馬頭鬼を墓地に送る。そしてこれから馬頭鬼を除外してゾンビーノを復活する。さて、ユーゴくん、どうする?」

「……」

「ボクたちは何度もデュエルしてきた。ボクの狙いは分かっているはずだ。ボクがキミのモンスターの効果を知っているように、キミもボクを知っている。マッハゴーイータはリリースすることで、相手フィールド上のモンスターのレベルを1あげる効果を持っている。この効果を使えば、シンクロ召喚の邪魔をすることができる」

 

(ナギが狙っていることは、おそらくレベル8のあのシンクロモンスターのシンクロ召喚だ。あいつの効果で、ナギはオレの手札を一枚除外してくる。オレの手札のメンコートを除外するだろう。確かにジャマはできるが……)

 

ユーゴがナギを知っているように、ナギもユーゴを知っている。

ナギが持っているシンクロモンスターは2体。

姉であるエルから渡されたカード。

そして、この状況で出てくるのはあいつのみ。

 

(マッハゴーイータの効果は知っている。そのうえで、まだあきらめていないということは、勝算があると言うことだ)

 

 どちらを選んでも結果が変わらないとしても、少しでも結果が良いもの選ぶ。

 それが勝負というものだ。

 ユーゴはナギのとりうるものを考える。

 

(ここで馬頭鬼は対象を取って発動する。復活するのはゾンビーナに変わらない。仮にゾンビーナの復活時にマッハゴーイータの効果を使えば、ナギのフィールド状のカードのレベルが1あがる)

 

  例えば、ナギのフィールドは、

 ワイトキング Lv1 → 2 

  ユニゾンビ  LV4 → 5

ゾンビーノ  Lv4 → 5

のようになる。

 

(たしかにユニゾンビとゾンビーノによるレベル8のシンクロは不可能になるが、ユニゾンビは手札を一枚捨ててレベルを1あげる効果がある。ナギには最後の手札が残っている。その場合はワイトキングとユニゾンビのシンクロであいつがきて、フィールドにはゾンビーノ一体がフィールドに残るだろう)

 

 確かに、ここでナギの切り札であるワイトキングが消えてくれるのは喜ばしいことだ。

 そのうえ、ナギの手札の最後の一枚が消えることになる。

 そうなればナギの残りの手段は伏せてあるカード一枚のみとなる。

 ゾンビーノ一体の攻撃は、墓地の三つ目のダイズを除外して無効にでき、そもそもユーゴのライフは5100残っている。仮にダイレクトアタックを受けても問題ない。体制としては盤石である。だが、

 

(オレとあいつは何度もデュエルしてきた。なら、マッハゴーイータがある時点で効果を使ってくることは予測しているはず……どうする?)

 

 しばし考えた後、ユーゴは決めた。

 

「オレは……、オレはマッハゴーイータの効果は使わない!」

「ならボクは、そのままゾンビーナを墓地から特殊召喚だ!」

 

 これでレベル4のチューナーと、レベル4のモンスターがそろったことになる。

 

「さらにボクは、ボクのワイトキングを対象として、ユニゾンビの効果を発動する!」

「ワイトキングのレベルを上げたところで意味はない。となると、ナギの手札は墓地に存在して意味があるものか」

「そうだ。ボクは、手札からシャッフル・リボーンを墓地に送る」

 

 ワイトキング LV 1 → 2

 

「そして、ボクは自分フィールドの永続魔法弱者の意地を対象にシャッフル・リボーンの効果を発動するよ」

 

《シャッフル・リボーン》

通常魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主のデッキに戻してシャッフルし、その後自分はデッキから1枚ドローする。このターンのエンドフェイズに、自分の手札を1枚除外する。

 

「ボクはカードを一枚ドローする」

「さぁこいナギ!オマエの最後のドローだ!オマエが真に迷いを吹っ切り、デュエリストとして戦っているなら、望みのカードを引き当てられるはずだ!」

「ありがとう、ユーゴくん。ドローッ!」

 

 ナギはドローしたカードを見る。 

 そして、勝ちに行く。

 

「いくよ、ユーゴくん。ボクはレベル4のゾンビーナに、レベル4となったユニゾンビをチューニング!」

「やっと出てきたか。先生がかつて使っていて、今はナギが持っているシンクロモンスター!」

「シンクロ召喚、PSYフレームロードΩ!」

 

《PSYサイフレームロード・Ω》

シンクロ・効果モンスター(制限カード)

星8/光属性/サイキック族/攻2800/守2200

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに発動できる。

相手の手札をランダムに1枚選び、そのカードと表側表示のこのカードを次の自分スタンバイフェイズまで表側表示で除外する。

(2):相手スタンバイフェイズに、除外されている自分または相手のカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを墓地に戻す。

(3):このカードが墓地に存在する場合、このカード以外の自分または相手の墓地のカード1枚を対象として発動できる。そのカードと墓地のこのカードをデッキに戻す。

 

 ナギのデッキはアンデット。

 本人が言うには意識して組んだわけではなく、いつの間にかデッキにアンデットが集まっていたとのことである。それゆえに、超能力の戦士を連想させるように身体から雷をバチバチと発生させているモンスターは異質な存在に見えた。

 

「PSYフレームロードΩの効果により、次のボクのスタンバイフェイズまで自身とユーゴくんの手札一枚を……SRメンコートを除外する!」

「だが、これでオマエのフィールドにはワイトキングが一体だけになった」

「最後に引いた一手はこいつだ!異次元からの埋葬!この効果で除外されているモンスターを3体まで墓地に戻すことができる。ボクは除外されている二枚の馬頭鬼と、PSYフレームロードΩを帰還させる」

「そうか。それを最後に引いたのか」

「さらにPSYフレームロードΩの効果!このカードが墓地に存在する場合、このカードと自分または相手の墓地のカード一枚をデッキに戻すことができる。よって、ボクはユーゴくんの墓地からSR三つ目のダイズをデッキに戻す。そして馬頭鬼二体をふたたび除外することで、墓地のゾンビーノを二体特殊召喚する」

 

 ゾンビーノ  ATK 2000

  ゾンビーノ  ATK 2000

ワイトキング ATK 3000

 

(これは、マッハゴー・イータの効果を使わなくて正解だったな。もし使っていたら、壁モンスターとして使えるモンスターが存在せず、ダイレクトアタックを受けていた。その場合はオレのライフは尽きていた。だが、マッハゴー・イータは守備表示。ソンビーノ一体の攻撃は止められる)

 

 そして、

 

「オレのライフは5100!お前の攻撃では削りきれないぜ!」

 

ユーゴ LP5100 → LP100

 

「ユーゴくん。これから行うのが、ボクの最後の攻撃だ」

「いいぜ、見せてくれよ。オマエが最後にどんな攻撃をするのか見せてくれ」

「いくよ、ユーゴくん。罠発動、エンジェル・リフト!」

「エンジェル・リフト!?」

 

自分と同じカードを伏せていたことにも驚いたユーゴであったが、それよりもなんだかほっとした。

デュエルの勝敗にかかわるかという点ではなく、親友もまた同じカードを使っていることがうれしかったのだ。

 

「ボクはこの効果で、ボクは墓地のワイトを特殊召喚する!」

「ん?さまよえる亡者じゃなくていいのか?」

「ユーゴくん。迷っていたことがあったけど、キミのおかげでどうするかは決めたよ。もう勝敗はどうでもいいけど、ボクはこれからもこのワイトとともに戦っていくんだ。ならば最後はこちらがふさわしい。ワイトを選んだことで負けるのだとしても、それはボクにとって本望だよ」

「そうかいい。じゃあオレも罠発動だ!」

 

発動する罠はもちろん、エンジェル・リフト。

次のターンにこれでレベル1のチューナーを呼び出し、マッハゴー・イータを自己再生能力で復活させたあと、魔剣ダーマを呼ぶつもりだった。

 

「キミも同じものを伏せていたの!?」

「あぁ、こいつで今呼べるのは……そうだな、こいつかな」

 

エンジェル・リフトはレベル2以下のモンスターを表側攻撃表示で呼ぶ。

今ユーゴが呼べるのは、

 

「さぁこい!赤目のダイズ!」

 

SR赤目のダイズ。

ユーゴが一番よく使うチューナーモンスターである。

そしてその攻撃力は、

「ナギ。お前の勝ちだよ」

 

100。

そしてワイトの攻撃力は300。

200のダメージで、ナギの勝ちだ。

この結果を受けてナギが思うのは、

 

「ユーゴくん。もしキミが絶対に勝つと決めて戦っていたら、キミが勝っていた」

「お互いさまさ。もしナギが最初から悩むことなくデュエルしていたら、また違った展開だったかもしれない」

「なぁナギ」

「なに?」

「オレたちは、オレたちのまま強くなろうな」

「うん、もちろんだよ。……ありがとう」

「いいってことよ!」

 

 そして、ワイトの攻撃が行われた。

 それでデュエルは終わった。

 

 なんだが心が少し落ち着き、迷いが消えた気がした。

 

「さぁ!帰ろうぜ!」

 

 そして、親友の姿がとてもまぶしく思えた。

 

 



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Duel3 風の魔法使い

 

 シティ最強のデュエリストとは誰だろう?

 その質問をすれば、十人中十人全員がキングの称号を持つデュエリストだと答えるだろう。

 つまり、ジャック・アトラスである。

 彼はキングの称号を求めて戦ってきた挑戦者を次々と返り討ちにして、無敗伝説を築きあげた。 

 ジャック最強説に異論を唱えようとするのは、これよりジャックと戦い、自分がキングとなろうとするデュエリストくらいなものだ。

 

 ならば、シティの外では? 

 サテライトでの最強のデュエリストは一体誰だろう?

 

 サテライト出身でありながら、実力を認められて雇われてトップスへと足を踏み入れたデュエリストであろうか。

 

 強い……というよりは、頭のおかしい連中が多すぎるためにルナのデュエリストですら関わり合いになりたくないと思われている町にいるデュエリスト達だろうか?それとも、ルナと最前線で戦い続けるデュエリスト達であろうか。

 

 こればかりは分からない。

 ジャックという名前に対し、知名度が低すぎるのだ。

 どれだけ強くでも、話題にならなけれな誰も知らない人でしかない。

 

 では、場所を限定して、ミソラタウンではどうだろう。

 特産物も何もない田舎のミソラタウンで最強のデュエリストとして名前が真っ先に上がるとしたら、やはりエル・アーネストになるだろう。

 

 彼女自身、今となってはデュエルをするわけではないので、ミソラタウンに住む住人は彼女のデュエルをした時の姿を知らないのだ。弟よりもずっと幼い子供たちを相手にデュエルを教えるときも、自分のデッキではなく、孤児院からのものとして貸し出している共通のデッキで文字の書き方、倫理観、デュエルの流儀などを教えているのだ。いずれは立派なデュエリストとなるべくできる教育を行っているのだ。

 

 そのせいでエルはミソラタウンでは知名度がやたら高い。

 

 最強かどうかは置いておいたとしても、ミソラタウンでは一番有名なデュエリストであることは間違いない。 

 

 それはデュエリストとして有名というよりは、有名だった人だデュエリストだったというべきであろうか。彼女が評価されているの尾はデュエルの腕ではなく、孤児院の経営者としての手腕だろう。青と白を基本とした修道服を着ておきながら、機械の修理だったり野菜の販売だったり、物の配達だったりなんでもやっている。シスターというよりは何でも屋に近い。

 

 エル本人からして修道服を着ている理由は、小さな子供が安心するかな、という程度のものであり、神様なんて微塵も信じていない人間なのだ。修道服に初めて袖を通したとき、弟に頭でも打ったのかと心配されたまである。

 

 そんななんでもできる人、というのがミソラタウンにおける今の彼女の評価であり、近所でも何か問題があれば彼女のもとへと相談にいけるようば気軽さも持ち合わせていた。

 

 人間として完璧で、どこに出しても恥ずかしくない姉。

 むしろ、下手なことをすれば実の弟である自分が彼女にとって唯一の汚点となりかねない。

 それが、ナギから見たエルの評価である。

 

 そんな有名人の実態はというと、

 

「があああああああああああ。ぐぅうううううううううう」

「……先生」

「むにゃむにゃ……」

「先生、身体が冷えますよ」

 

 毛布すらひかず、ドライバーを持ったまま腹を出して車庫の床で眠りこけていた。

 普段着している修道服はしわだらけになっていて、後でアイロンでもかけようとこの光景を見たリンは思った。

 

「先生!いい加減に起きてください!」

「ん、んんん?あぁリン。おはよう」

「おはようじゃないですよ。もう午後2時じゃないですか」

「午後2時か……じゃあ5時くらいになったら起こしてくれる?いや、晩御飯ができたら呼んでくれる?そのときは、お姉ちゃんの威厳を維持するためにもナギには適当な理由をつけといて、リンが直接来てくれたらうれしいかな。私はそれまでもうひと眠りして」

「バカなこと言ってないで早く起きてください!一体どうしたんですか!昨日、明日は商品の納品に行こうとか言っていたじゃないですか!」

「ほら、一応わたしが請け負った修理の仕事が一段落したことだし、今日は遅くまで寝ていてもいいかなって思ってね。もともと無理難題をダメもとで依頼されたんだし、完成した今となっては午前中くらい寝てようが誤差よ誤差」

「もう午後だっていってるじゃないですか!」

 

 リンからしたら、弟のナギは節穴であった。

 エル・アーネストという人間は親の手も借りず、デュエリストとはいえ少女が幼い弟を死なせずに育て上げているのだ。

 そして、今では孤児院の院長の座について、自分たちのように多くの子の面倒を見ている。

 身内としては誇らしいという気持ちはわかる。

 

 けれど、身内ゆえに気づくべき欠点のようなものを、リンからしたら逆にナギは見落としている気がする。一度指摘したこともあるが、ナギは些細な問題だと間をおかずに言い切ったこともある。

 

 頼りになる人ではあるのだが、どこか抜けている姉弟であるため、自分がしっかりとしなければという意識がリンにはあった。

 

 周囲を見渡してみると、デュエルディスクを修理でもしていたのか、近くにある机の上にはボルトやネジと言った部品の類が散乱していた。

 

「……あとで片づけておきますね」

「ありがとう。ねぇリン。ちょっと思ったんだけど」

「なんですか」

「私のお母さんになってくれない?」

「本当にしっかりしてください!起きてください!寝ぼけないでくださいよ!」

 

 リンは半泣きになりながらもエルをなんとかたたき起こすが、エルが完全に復活するまで30分はかかってしまった。やっていることは、親が寝坊助な子供を起こすのと何ら変わらないが、あいにくとエルは17歳。今年の誕生日を迎えたら18になる。そしてリンは11歳。年齢としては6つ違う。十代の6つは大きいものだ。ナギにとってはエルは実姉ゆえにお姉ちゃんあるが、両親の顔を知らないリンにとってエルは親という認識に近い。そんな人間の親になったら、いっきにおばあちゃんになってしまう感覚であった。それだけは避けたかった。

 

 エルは復活した後、しぶしぶ本来の予定であった修理品の納品に向かうことにして、Dホイールの準備を始める。その最中に思い出したかのようにエルは言った。

 

「あ、そうだ。近いうちにナギとユーゴを本格的に鍛えようと思うわ。とりあえず、いろいろやらせ

てみることにしたわ。リンはどうする?」

「……はい?」

 

 その内容に、リンは戸惑ってしまう。

 なにしろ、エルは普段から、子供は遊ぶべきだという主張をしていたからだ。

 サテライトにいる子供は、幼いころから両親の仕事を手伝わされる。

 それは人手が足りないからであり、お金がないからでもあった。

 

 けれどそれは本当なら悲しいこと。

 

 身内の仕事を手伝うことは立派なことだが、本来は保護者として不甲斐ない。

 できるならば、子供たちには遊んでいてほしい。

 将来のことの心配なんてしないでほしい。

 

 エル・アーネストとは、そんな風に考えている人だった。

 

「先生、急にどうしたんですか?今までそんなこと言いもしなかったですよね?」

「いやね、ナギの将来について考えていたの。シティにある学校にでも行かせた方がいいのか、それともチームにでも入れて経験を深めさせるか」

「シティの学校っていうと、デュエルアカデミアですか?」

「えぇ。でもね、ナギは考えたすえの結論として行くつもりはないって言ったの。最強のデュエリストである私のもとにいるのが一番成長できるって言ってくれたから、これはお姉ちゃんとしては覚悟を決めたわ。一人鍛えるのなら、あと何人か鍛えるのも変わらないし、この際だからユーゴにもいろいろやらせてみることにしたの」

 

 デュエルアカデミアにナギが行きたいというのなら、行かせるつもりだった。

 もし、昔エル自身がやったように、デュエルチームにでも参加して経験を積みたいというのなた、後輩に頼むこともした。

 

 けれど、ナギの選択は自分のもとにいることだった。 

 それゆえに覚悟が決まったともいえる。

 

 ナギとユーゴが、成長できる舞台を整えるのも自分の仕事だ。

 子供には遊んでいてほしい。それが自分の願いであるが、二人ともただ遊んでいるだけの子供でいるつもりはない。そのことを認めるつもりでいた。 

 

「リン、あなたはどうする?」

 

 そして、それはリンも同じだった。

 リンだって、ただ与えられるものをそのまま受け取って生きていくつもりはない。

 

「もちろん、わたしもやります」

 

 ユーゴはシティのキングという夢がある。

 ナギもシティに行ってやりたいことがあるという。

 わたしの夢は?

 

「わたしは、ユーゴが夢をかなえるところを特等席で見てみたいですから」

「そう。それじゃ、ナギを、ユーゴを、ずっと支えてあげてね」

「はい!」

「リンがいてくれるなら安心ね。それじゃいってくるわ。私は最短でも三日は帰ってこないと思うけど、二人をお願いね。我が弟はなんだかんだ手がかかるし、ユーゴは向こう見ずなところがあるし。何かあったらハジメのおじいさんに相談するといいわ」

「分かりました」

「それじゃ行ってくるわ。アクセラレーションッ!」

 

 エルが仕事でいなくなって、リンはしばらく車庫の掃除を始めた。

 ネジを分別して、散らばったドライバーを片付けて、誇りのたまった床を雑巾でふく。

 力仕事で役に立ちそうな男二人は食料を買い出し担当だったはずが、直前になって食費を浮かせるのだと川へと釣りに行ったきり戻ってこない。ちゃんと釣れているのだろうか。

 

……遅い。あいつら何やってるんだろう)

 

 いい加減夕飯の支度を始めたいのに、ユーゴとナギは帰ってこない。

 夕方くらいになっても帰ってこず、探しに行くべきかと思い始めた頃に、ブロロロロロロ―――――という機械音が近づいてきているのを聞いた。

 

「Dホイールの音?」

 

 先生に仕事を依頼しに来た人でも来たのだろうかと、リンは一人で外に出る。

 すると、

 

「え?」

 

 やってきていたのはDホイールに乗った集団だった。

 大体30名はいるだろうか。

 一人一人がDホイールに乗り込んで、教会まで一直線にかけてきたのだ。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 Dホイーラーの集団のリーダー格と思われる一人が出てくる。彼はDホイールから降りると、大声で叫んだ。

 

「私たちはデュエルチーム、スィクル!エル・アーネストに決闘を挑みに来た!」

「……またぁ?」

 

 過激なデュエルチームは縄張り争いをやっていると聞いたことがある。

 だが、どうしてそんなことをこの場で宣言するのかというと、リンには心当たりがあった。

 実は今までもこういうことがあったのである。

 

 経験として、今までのケースではこのようである。

 ミソラタウンを自分たちの縄張りにする。

 そのため、まずは手始めとしてミソラタウンで一番有名なデュエリスト、すなわちエル・アーネストとかいう小娘を叩つぶしてみせる……ということらしい。事実、スィクルからの代表者は大声で叫んだ。

 

「出てくるのですエル・アーネストッ!!あなたがこのミソラタウンの顔役だということは知っています!さぁ、デュエルだぁ!」

「……あのぉ」

「む、なんでしょう。ここは今から戦場と化すから、無関係な人間は離れていたほうがいいですよ。危険ですから」

「先生はいま不在ですよ」

「なんと?ならば仕方がありません。出直すとしよう。ところでお嬢さん、エル・アーネストがいつ頃帰ってくるか教えてもらえないだろうか。その時になってまだくるとしましょう」

 

 ガラの悪いデュエルチームだと、暴虐の限りを尽くしていくこともあるらしいが、どうやらこのスィクルとかいうチームは単純にエルに挑戦しに来たらしい。たまに、挑戦しに来たはいいものの、エルの顔を見るだけでひきつった顔で逃げ出すチームもこれまでにはあったが、このチームは礼儀正しく見えた。リーダーと思われる人物は青年だったが、年齢で言えばエルよりも上のような気がする。

 

 けれど、デュエルに相手をする分にはいいかな、とリンは思った。

 

「先生はいないけど、挑戦ということなら別に問題ないわよ。わたしが相手をしてあげる」

 

 エル・アーネストはデュエルをしない。

 リンでさえ知っていることといえば、昔は強かったという噂だけだ。

 似たように勝負を挑む人間が出てきては、いつもこう言って断っている。

 

『恥ずかしい話だけど、今の私は全力を出せないのよ。それはこちらの落ち度よ。十全の力で向き合わないなんて無礼を働くわけにはいかないわ』

 

 ナギが持っている二体のシンクロモンスターは、かつてエルが使っていてものだという。

 けれど、自分のカードを託したから今のデッキが十全でない、ということではないように思う。

 弟のナギがいうには、先生のデッキの中身は昔と今で違うらしいのだ。

 そうなると、気持ちの問題となる。

 デュエルをするような気分が乗らないのだろう。

 

 実際、エルへの挑戦者相手には、よく代理としてナギがデュエルをしている。

 ナギに勝てたらエルがデュエルを受ける、という条件を持ち掛けれたりすると、ナギはすごくやる気を出す。普段はよく負けたりするのに、異常な勝負強さを見せたりもする。

 

 あの姉弟の過去に何があったのかは知らないけど、嫌なことはさせたくないのだろう。

 そして、それは私も同じこと。

 ナギもユーゴもいない今、出直されるくらいなら今ここで自分が戦う。

 

 普段ナギがやっていることを代わりに私がやる。

 

 それだけだ。

 

「お嬢さんが?」

「えぇいいでしょう。私に勝てないようなデュエリストが、先生に勝てるわけがないんだし。前哨戦には申し分ないはずよ」

 

 リンはミソラタウンの中でもしっかりした少女と言われる。けれど、まだ11歳。

 年上からは見くびられるような年代でしかない。それゆえに、すぐにスィクルから反論が来る。

 

「お前のような小娘の相手をするほど、俺たちも暇じゃない!」

 

 あら、そうかしらと反論をしようとしたが、リンの助け舟は意外なところからやってきた。

 

「馬鹿者!相手を子供と思って甘く見るな!人を見かけで判断する人間は、いずれ相手の力量を見極められない人間になりうる!」

 

 リーダーと思われる人間が、いさめたのだ。

 

「しかし、ボス!」

「我々は大勢だ。しかも、いずれも彼女よりは年上だ。それなのに、いざおじけずにデュエルを挑むだけの度胸があることを、まずは認めなければならない!ここは彼女に敬意を表するべきだ」

「ボス!その通りでした!私が間違ってました!」

 

 どうやら、今回の相手は比較的良識のある挑戦者らしい。

 そういう相手と戦うというのなら、願ってもいないことだ。

 

「では、始めましょうか。お嬢さん」

「いいの?」

「もちろん。だって、私たちはデュエリスト。その誇りがあるのなら、互いに戦意があるのなら、やることはただ一つ。我の名はデューク!」

「リンよ」

 

「「デュエルッ!!」」

 

  リンLP8000 VS デューク LP8000

 

「レディーファーストです。先行と後攻。好きな方をどうぞ」

「そう?それじゃわたしのターンからいくわ私はモンスターを一枚セットしてターンエンドよ」 

 

 リン

LP8000

HAND:5 → 4

MIAN: 裏守備モンスター一体

 

「私のターンです。ドローッ!」

 

 デューク

LP8000

HAND:5 → 6

 

「私は手札から、ナチュル・パンプキンを通常召喚!」

「カボチャ?」

 

 フィールドに出てきたの、カボチャを連想させる下級モンスター。

 そもそもパンプキンとは、カボチャを意味する言葉である。

 まさに、見た目通りの名前を持つモンスターであった。

 

「えぇ。私の故郷は、このミソラタウンと変わらないくらいの田舎だったのですよ」

「じゃあ、デュエリストとしての腕試しの旅でもしているの?」

「大体はそんなところですかね。しかし、田舎者だと思われは困ります」

「その通りだぜ。俺たちはただの田舎者では終わらない!ボス、頑張ってくれ!」

「慕われているのね」

「このカボチャは相手フィールド上にモンスターが存在する状態で通常召喚に成功した時、手札から仲間を呼ぶことができる。さぁこい!ナチュル・スタッグ!」

 

《ナチュル・スタッグ》

効果モンスター

星6/地属性/昆虫族/攻2200/守1500

 

「今度はクワガタムシ?」

「まだです!自分が「ナチュル」モンスターの効果を発動したターン、手札のこのモンスターを特殊召喚できる!さぁ出て来い、ナチュル・ハイドランシー!」

 

 ナチュル・ハイドランシー ATK1900

 

「これは……アジサイの花?」

「えぇ、そうです。詳しいのですね」

「これでも女の子よ。普段付き合っている連中が男二人なだけで、花だって普通に好きよ」

 

 いつぞや、ユーゴがプレゼントだと言ってどこかで摘んできた花をくれたことがある。

 それがアジサイだったのだが、当の本人は何の花か知りもしなかった。

 エルがアジサイの花だと教えていたが、そこにはユーゴ自身興味はなさそうだった。

 それでも、自分のために花を持ってきてくれたことはうれしかったのだだから覚えている。

 

「カボチャ、クワガタ、アジサイ……。あなたは、故郷を田舎だといったけれど、あなた、随分とと故郷が好きなようね」

 

 人の好み、性格、人生。

 それはデッキに現れる。

 

 人のデッキを使うことがあったとしても、どうにも馴染まないことがあるのは使い手とデッキの相性が出てくるからだ。

 

 このデュークとかいうデュエリストは、このサテライトという田舎の中でも、自分の故郷を恥じてはいないのだろう。

 

「あなたのことが少しだけわかった気がする。さぁ来なさい。今度はわたしをみせてあげる」

「ぜひ。まずはナチュル・スタッグでセットモンスターを攻撃です!」

「攻撃されたモンスターはリバースモンスターよ」

 

《ガスタの希望 カムイ》

効果モンスター

星2/風属性/サイキック族/攻 200/守1000

 

「ガスタの希望カムイの守備力は1000。戦闘によって破壊されるけど、破壊される前に発動するリバース効果により、「ガスタ」チューナーを特殊召喚する。よって、わたしはデッキからレベル3のチューナーモンスター、ガスタ・ガルドを守備表示で特殊召喚するわ」

 

《ガスタ・ガルド》

チューナー

星3/風属性/鳥獣族/攻 500/守 500

 

「私には二体の攻撃が残っている。次はナチュル・パンプキンで攻撃です!」

 

 ナチュル・パンプキン ATK 1400 VS ガスタ・ガルド DEF 500

 

「ガスタ・ガルドはフィールドから墓地に送られた時、デッキからレベル2以下の「ガスタ」モンスターを呼べる。来なさいガスタ・イグル!」

「私が破壊したモンスターはいずれもガスタという名前をもっていました。ということは、そのモンスターも……」

「えぇ。この子は戦闘によって墓地に送られた時、デッキからチューナー以外のレベル4以下の「ガスタ」を特殊召喚できる効果を持っているわ。どうする、攻撃する?」

「……ここで攻撃しても、状況に応じたガスタが出てくるだけでしょう。私はまだナチュル・ハイドランシーの攻撃が残っていますが、攻撃はせずにターンエンドにします」

「そう、それじゃわたしのターンッ!」

 

 デューク 

LP8000

HAND:3

MAIN:ナチュル・パンプキン

   ナチュル・スタッグ

   ナチュル・ハイドランシー

 

 リン

LP8000

HAND:4 → 5 

MAIN:ガスタ・イグル(レベル1チューナー)

 

「わたしは手札のガスタ・グリフを墓地に送ることで、THEトリッキーを特殊召喚!」

 

《THE トリッキー》

効果モンスター

星5/風属性/魔法使い族/攻2000/守1200

 

「そして、ガスタ・グリフは手札から墓地に送られた場合、デッキのガスタを一体特殊召喚することができる効果を持っている。さぁ来なさい、ガスタの疾風リーズ!」

 

《ガスタの疾風 リーズ》

効果モンスター

星5/風属性/サイキック族/攻1900/守1400

1ターンに1度、手札を1枚デッキの一番下に戻し、相手フィールド上のモンスター1体と自分フィールド上の「ガスタ」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターのコントロールを入れ替える。

 

「わたしはガスタ・イグルを攻撃表示に変更するわ」

 

ガスタ・イグル DEF400 → ATK200 

 

「わたしはリーズは自分の手札を一枚デッキの一番下へと戻し、相手フィールド上のモンスター一体と、フィールドのガスタ・イグルのコントロールを入れ替える!わたしが選択するのは当然、ナチュル・スタッグ!」

 

 リン

LP8000

HAND:2

MAIN:THE トリッキー(ATK2000)

   ガスタの疾風 リーズ(ATK1900)

   ナチュル・スタッグ(ATK2200)

 

デューク 

LP8000

HAND:3

MAIN:ガスタ・イグル(ATK200)

   ナチュル・ハイドランシー(ATK1900)

   ナチュル・パンプキン(ATK1400)

 

「わたしはナチュル・スタッグで、攻撃表示のガスタ・イグルを攻撃よ!」

 

 デューク LP8000 → 6000

 

「さらに、戦闘によって破壊されたことで、わたしの墓地へと送られたガスタ・イグルは効果が発動するわ」

 

《ガスタ・イグル》

チューナー(効果モンスター)

星1/風属性/鳥獣族/攻 200/守 400

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキからチューナー以外のレベル4以下の「ガスタ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。

 

「わたしはチューナー以外のレベル4ガスタを……ガスタの静寂 カームをデッキから特殊召喚よ!総攻撃!いきなさい、ガスタの疾風リーズでナチュル・パンプキンを、THEトリッキーでナチュル・ハイドランシーを攻撃するわ!」

 

 ガスタの疾風リーズ ATK 1900 VS ナチュル・パンプキンATK1400

THEトリッキー    ATK2000 VS ナチュル・ハイドランシー ATK1900

 

「ぐああああああああああ!!」

 

デューク LP6000 →LP5500 →LP5400

 

「まだよ、わたしにはガスタの静寂カームによりダイレクトアタックが残っている!いきなさいカーム!カームベルト!」

「ぐッ!」

「ボ、ボスッ!」

 

 デューク LP5400 →LP3700

 

「そして、わたしはメインフェイズ2に移行して、ガスタの静寂カームの効果を発動するわ。墓地に存在するガスタ二体、ガスタ・イグルとガスタ・グリフをデッキに戻し、その後一枚ドローする」

 

 リン 

LP8000

HAND2 → 3

 

「わたしはカードを一枚ふせてターンエンドよ」

 

リン 

LP8000

HAND:2

MAIN:THE トリッキー(ATK2000)

   ガスタの疾風 リーズ(ATK1900)

   ナチュル・スタッグ(ATK2200)

   ガスタの静寂カーム(ATK1700)

REVERSE:1

 

「今度はこちらのターンです、ドロー!」

 

 デューク 

LP3700

HAND: 3 → 4

 

 デュークはドローしたカードを確認したあと、フィールドを見る。

 自分のモンスターは全滅し、相手フィールドには4体ものモンスターが存在している。

 状況は不利だが、同時に相手のデッキのコンセプトもわかってきた。

 

「……リンさん」

「なに?」

「あなたのデッキのコンセプトは、ガスタという名の、いえ」

 

 ガスタというテーマがデッキに入っていることに違いはない。 

 けれどリンのデッキは、ガスタだけとはデュークは思わなかった。

 

 カード同時の組み合わせにも相性というものは存在する。

 

 それは効果だけではなく、カードそのものの相性だ。

 デッキの枚数はメインデッキだけで40枚から60枚であるが、一枚だけ異質なカードを入れると、どうにもデッキがおかしくなるとされる。

 

 THE トリッキーというカードはガスタと効果のかみ合わせとしてはいいかもしれないが、どうにもガスタのイメージには合わない。そうなると、リンのデッキは、

 

「あなたのデッキは、風の魔法使いですね?」

 

 風属性の魔法使い。

 それがリンのデッキだ。

 

「えぇ。そうよ。正確には、わたしのデッキにいるのは風を操る者。それが魔法であれ、超能力であれ、風と共にある者たちが、わたしとともに戦うものよ」

「なるほど。あなたのことが少しだけわかった気がします」

「まだよ。わたしたちは、デュエルを重ねることで、互いを知ることができるわ。あなたはわたしのデッキにいる、私のパートナーともいえるモンスターを見ることができるかしら」

「ほぅ。今のガスタは、あくまで前座だとでも?」

「いいえ。それは違うわ。この子たちもわたしのパートナーであるのは事実。でも、一番のお気に入りは別にいるのよ。わたしの魔法使いを、見てみたいでしょう?」

「ならば、そいつを引きづりだしてみせましょう」

 

 本来デュエリストにとって、言葉はいらない。

 言葉に出すのは、その方が気持ちが伝わるからだ。

 

 けれど、それも長ければ蛇足でしかない。

 

 やはりデュエリストたるもの、デュエルで相手を引きずり出さなければ。

 

「私はナチュル・マロンを召喚。こいつは召喚に成功した時、デッキの「ナチュル」一体を墓地へと送るとができる。私はデッキからナチュル・パンプキン一体を墓地へと送る。そして、ナチュル・マロンは一ターンに一度、墓地のナチュル二体をデッキに戻しカードをドローすることができる。墓地のナチュル・パンプキン二体をデッキに戻し、一枚ドロー!」

 

 デューク HAND: 3→4

 

「そして手札から装備魔法、月鏡の盾を発動だ!」

「……戦闘では無敵とする装備魔法ね」

 

 ナギがよく使う装備魔法だ。そのため効果はよく知っている。

 攻撃力では負けなくなるが、欠点としては、相手に与えられるダメージが少ないことか。

 戦闘では無敗といえば聞こえはいいが、実際は戦闘する相手より攻撃力が100上回るだけなのだ。

 時間をかければ対処はできる。

 そうリンは判断したが、デュークの選択はリンの思惑を外れた。

 

「この対象は……あなたにコントロールを奪われたナチュル・スタッグです!」

「……へ?」

 

(装備するなら攻撃力1200のナチュル・マロンのはず。一ターンに一度効果を使えるなら、さっき使ったドロー効果だって、条件を満たせば次のターンに使える。持続して価値があるというのに、どうして?)

 

 鏡をハサミで挟んでいるクワガタムシの様子をいぶかしんでみていたリンであったが、クワガタの様子が変になっていくことに気が付いた。鏡から糸が大量に噴出し、クワガタが繭に包まれたのだ。

 

「え。何?羽化でもするの?」

「私はこのカードを発動しました。見えますか?」

「超進化の……繭?」

 

《超進化の繭》

速攻魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):装備カードを装備した自分・相手フィールドの昆虫族モンスター1体をリリースし、デッキから昆虫族モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の昆虫族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

 

 リンはデュークが公開した手札を見て、その効果を把握する。

 リンのフィールドに存在するナチュル・スタッグは昆虫族モンスター。

 月鏡の盾が装備されている今、超進化の繭の効果の発動条件は満たしている。

 

「いきます、俺のデッキの最強モンスターを見せてあげましょう!」

「くるわね」

「超進化の繭の効果により、俺のデッキから最強の昆虫を召喚条件を無視して呼び起こす。いでよ、最強の王、究極完全態(きゅうきょくかんぜんたい)・グレート・モス!!」

 

《究極完全態・グレート・モス》

効果モンスター

星8/地属性/昆虫族/攻3500/守3000

このカードは通常召喚できない。「進化の繭」が装備され、自分のターンで数えて6ターン以上が経過した「プチモス」1体をリリースした場合に特殊召喚する事ができる。

 

「攻撃力3500!どうです、ここいらではまず見かけない攻撃力でしょう!!おそれおののくといいですよ!」

「でた!ボスの最強の攻撃力を持つモンスターッ!」

「………3500かぁ」

「私は墓地の超進化の繭を除外して、墓地に存在しているナチュル・スタッグをデッキに戻して一枚ドローします!」

 

 デューク 

HAND:2 → 3

 

「このまま攻撃です!いけ、グレート・モス!その鱗粉で相手を吹き飛ばせ!グレード・モスラッ!!」

 

 リンのフィールドのガスタの疾風リーズが破壊され、ライフが削られる。

 

 ガスタの疾風 リーズ ATK1900 VS 究極完全態・グレート・モス ATK3500

 

 リン 

LP8000 → LP6400

HAND:2

MAIN:THE トリッキー(ATK2000)

   ガスタの静寂 カーム(ATK1700) 

REVERSE:1

 

「やはり、ガスタというモンスターはすべてがリクルーターではないようですね。さしづめ、魔法使いとその使い魔というデッキですか」

「……まだよ。まだ、わたしを理解した気になるのは早いわよ」

「!?]

 

煙がはれる。 

リンの足元にあった伏せカードが表側になっていた。

 

「わたしのガスタが戦闘によって破壊される瞬間に、このカードを発動していたの」

「永続……罠?」

「そうよ。永続罠、憑依解放。これは自分フィールドのモンスターが戦闘または効果で破壊された場合に真価を発動できるのよ。その効果によって、わたしは破壊されたモンスター一体の元々の属性と異なる属性を持つ守備力1500の魔法使い一体をデッキから表側攻撃表示または裏側守備表示で呼べる。ガスタは風属性!よって、風属性以外の守備力1500の魔法使いを呼び出す。わたしは、デッキから地属性の地霊使いアウスを裏守備でセットする」

 

《憑依解放》

永続罠

「憑依解放」の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の「霊使い」モンスターは戦闘では破壊されない。

(2):自分の「憑依装着」モンスターの攻撃力は、相手モンスターに攻撃するダメージ計算時の800アップする。

(3):このカードが魔法&罠ゾーンに存在し、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動できる。そのモンスター1体の元々の属性と異なる属性を持つ守備力1500の魔法使い族モンスター1体を、デッキから表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する。

 

 

「守備力1500はナチュル・マロンでは突破できない。カード一枚伏せてターンエンドです」

 

 デューク 

LP3700

HAND:2

MAIN:究極完全態・グレート・モス(ATK3500)

   ナチュル・マロン(ATK1200)

REVERSE:1

 

「ドローッ!」

 

リン 

LP6400

HAND:2→3

MAIN:THEトリッキー(ATK2000)

   ガスタの静寂 カーム (ATK1700)

   地霊使いアレス(裏守備)

TABLE TRAP:憑依解放

 

「墓地のリーズとカムイをデッキに戻してカームの効果発動よ。一枚ドローする」

 

リン

HAND:3 → 4

 

「さて、どうしますか?あなたの魔法使いをみせてくれますか?」

「……本当ならそうしてあげたいんだけど、攻撃力3500くらいはなれちゃっててね、まだ出番はないわ」

 

 身内の一人がやることが攻撃力をあげて殴るというシンプルな脳筋戦術なのだ。

 3500くらいの攻撃力も、大したことないかと思えてくる。

 きっと、慣れのせいだろう。

 デュエルが攻撃力がすべてだというのなら、リンはナギに勝てる道理はない。

 

 ナギもユーゴもここぞという時には勝負強さを見せるが、勝率となるとリンはナギもユーゴも相手にならないほど安定している。

 

 それはデュエルが、工夫で戦うことができるから。

 時には相手のことすら利用して、戦う柔軟性を秘めているから。

 

「わたしは裏守備でセットされていた地霊使いアレスを反転召喚!」

 

地霊使いアウス

効果モンスター

星3/地属性/魔法使い族/攻 500/守1500

リバース:このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手フィールド上の地属性モンスター1体のコントロールを得る。

 

「リバース効果は、自身が存在し続ける限り相手フィールド上の地属性モンスター1体のコントロールを得るというもの。分かっているわね。あなたの、グレート・モスをいただくわ」

「グレート・モス!」

「そしてわたしのアウスは自身と自分フィールドの地属性の力を持って、成長する!グレート・モスをその力の礎として、成長しなさい!アウス!」

「なんだ……アウスの姿は変わっていく!?」

 

 アウスとう名の幼い魔法使いは、自分の何倍もの大きさを誇るグレート・モスの身体を取り込んでいった。そして、栄養でも得たのは体つきも子供のものこら大人の背丈へと成長する。

 

「成長するモンスターがデッキにいるのはあなただけではないの。さぁ、姿をみせなさいッ!憑依装着ーアウスッ!」

 

《憑依装着-アウス》

効果モンスター

星4/地属性/魔法使い族/攻1850/守1500

自分フィールド上の「地霊使いアウス」1体と地属性モンスター1体を墓地に送る事で、手札またはデッキから特殊召喚する事ができる。この方法で特殊召喚に成功した場合、以下の効果を得る。このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

「アウスでナチュル・マロンを攻撃!」

「永続罠、ナチュルの神星樹を発動です!」

 

《ナチュルの神星樹》

永続罠

「ナチュルの神星樹」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドの昆虫族・地属性モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキからレベル4以下の植物族・地属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2):自分フィールドの植物族・地属性モンスター1体をリリースして発動できる。

デッキからレベル4以下の昆虫族・地属性モンスター1体を特殊召喚する。

(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。

デッキから「ナチュルの神星樹」以外の「ナチュル」カード1枚を手札に加える。

 

「この効果により、自分フィールドのナチュル・マロンをリリースして効果発動!ナチュル・マロンはレベル4以下の植物族モンスター。よって、俺はデッキからレベル4以下の地属性の昆虫族モンスター一体をデッキから呼び出す。出て来い代打バッターッ!こいつを守備表示にて特殊召喚する!」

「戦闘続行!このままいきなさいアウス!憑依解放の効果により、成長したアウスのモンスターの攻撃力は、相手モンスターに攻撃するダメージ計算時のみアップ!さらに、吸収して成長したアウスには貫通能力が備わる!」

 

憑依装着アウス ATK1850 → ATK2650 VS 代打バッター DEF1200

 

デューク 

LP3700 → 2250

HAND:2

TABLE TRAP:ナチュルの神星樹

 

「このまま勝負を決めるわ!」

「いいえ、まだです!代打バッターの効果発動!」

「!?」

「代打バッターは自分フィールドから墓地に送られたとき、手札の昆虫を呼ぶ出す。究極変異態・インセクト女王クイーンを呼び出す!」

「クイーンの名を持つ巨大な昆虫ッ!切り札が出てきたわね!」

「えぇ。私のもう一つの切り札、インセクト女王。虫の成長のうちの、一つの成長の限界点。自然には生まれない、突如として変化した王」

 

 

 自然には発生しない虫。

 それは、過酷な環境に適応するために生まれざるを得なかったということを示している。

 そうなると、その名にふさわしい強力な能力を持っているのだろう。

 だが、現状リンがこいつをどうにかすることはできない。

 

「THEトリッキーとガスタの静寂 カームを守備表示に変更するわ」

 

THEトリッキー ATK2000 → DEF1200

ガスタの静寂 カーム ATK1700 → DEF1100

 

「カードを一枚伏せてターンエンドよ」

「この瞬間、女王の効果が発動する!」

「このタイミングで?」

「自分フィールドにインセクトモンスタートークン1体を特殊召喚する!」

 

女王は自らの身体から卵を産み落とす。

その殻が破られて、小さな虫が誕生した。  

 リンには、この女王は自分の軍隊をつくりだしているようにも燃えた。

 

 

「次々と子供を産み落としていく女王様か。なるほど、昆虫の女王らしいわね」

 

 リン 

LP6400

HAND:3

MIAN:THEトリッキー (DEF1200)

   ガスタの静寂 カーム(DEF1100) 

   憑依装着-アウス (ATK1850)

TABLE TRAP:憑依解放

REVERSE:1(シフトチェンジ)

 

「私のターン、ドロー!」

 

デューク 

LP2250

HAND:2 → 3

MAIN:究極変異態・インセクト女王クイーン(ATK2800)

   インセクトモンスタートークン(DEF100)

TABLE TRAP:ナチュルの神星樹

 

 

「女王でアウスを攻撃です!」

 

究極変異態・インセクト女王クイーン ATK2800 VS 憑依装着アウス ATK1850

 

リン LP6400 →5450

 

「女王の効果発動!女王は、ダメージステップ終了時、自分フィールドのモンスター1体をリリースすることにより相手モンスターに続けて攻撃できる!インセクトモンスタートークンをリリースッ!」

「けど、こちらアウスが破壊されたことで永続罠、憑依解放の効果が発動するわ。デッキから守備力1500のモンスター一体特殊召喚することができる。わたしが呼ぶのはこのカード!来なさいWW(ウィンド・ウィッチ)ーグラス・ベルッ!!」

WW(ウィンド・ウィッチ)?」

 

 リンの場に召喚されたモンスターは、これまでとは一風変わったモンスターであった。

 まず、杖にまたがって飛んでいる、いかにも魔法使いというモンスターであった。

 これまでに見せたガスタというモンスターたちも風を連想させる者たちであったが、あくまでも風をその身に受けている姿が様になっている者たちであった。杖に乗って乗りこなす者たちではなかった。

 

「またせたわね。これが私の魔法使いよ。存分に、その力をみせてあげる。グラス・ベルが特殊召喚に成功した場合、手札から仲間のWWを呼び込むことができる。わたしは、WW-スノウ・ベルを手札にくわえる」

「チューナー……なるほど。シンクロ召喚ですか。しかし、そう簡単にはいきませんよ。女王で二回目の攻撃!攻撃対象はWW!」

「リバースカードオープン、シフトチェンジッ!」

 

《シフトチェンジ》

通常罠

自分フィールド上のモンスター1体が相手の魔法・罠カードの効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。その対象を、自分フィールド上の正しい対象となる他のモンスター1体に移し替える。

 

「攻撃対象をわたしのトリッキーへと移動させるッ!守備表示のトリッキーは破壊されるけど、WWはフィールドに残る!」

「ならば、カードを2枚伏せてターンエンド。このエンドフェイズ、女王は新たに命を生み出す!インセクトモンスタートークンを特殊召喚ッ!」

 

デューク

LP2250

HAND:1

MAIN:究極変異態・インセクト女王クイーン(ATK2800)

   インセクトモンスタートークン(DEF100)

TABLE TRAP:ナチュルの神星樹

REVERSE:2

 

リン LP5450

HAND:4(WW-スノウ・ベル)

MIAN:WW-グラス・ベル(DEF1500/チューナー)

   ガスタの静寂 カーム(DEF1100) 

 

「わたしのターン、ドローッ!」

 

リン

HAND:4 → 5

 

「相手スタンバイフェイズに、私は先のターンに伏せた二枚のトラップを発動する。一枚目、安全地帯!」

 

《安全地帯》

永続罠

フィールドの表側攻撃表示モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、その表側表示モンスターは、相手の効果の対象にならず、戦闘及び相手の効果では破壊されず、相手に直接攻撃できない。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターがフィールドから離れた時にこのカードは破壊される。

 

「この効果によって、女王は効果の対象にならず、戦闘及び効果によっても破壊されなくなりました」

「なるほど。さっきみたいにコントロール奪うのは厳しいみたいね」

「さらに、罠発動!蝕の鱗粉ッ!こいつは女王の装備カードとなる。そして、これがフィールドに存在する限り、あなたは女王以外の昆虫を攻撃できず、相手がモンスターを召喚・特殊召喚する度、または相手が魔法・罠・モンスターの効果を発動する度に、相手フィールドの表側表示モンスター全てに鱗粉カウンターを1つずつ置く。相手フィールドのモンスターの攻撃力・守備力は、そのモンスターの鱗粉カウンターの数×100ダウンさせる!」

「鱗粉をばら撒くようになったのね」

「この効果により、もはや女王を戦闘では破壊させなくなった。そして女王は、もとより他の昆虫が存在するときに効果では破壊されない効果を持っている!」

「出た!ボスの女王ロックだ!」

「そうなると、インセクトモンスタートークンを排除するのも難しくなったわね」

 

 こうなると、リンは女王様しか狙うことはできない。

 しかし、女王は仲間がいるときに力を増す。

 女王は戦闘で破壊することもできず、効果で破壊することもできない。

 

 先ほどの様にコントロールを奪おうにも、対象をとることもできなくなった。

 

 一時的に攻撃力を上回ったとしても、いずれは攻撃力を下げられる。

 事実上の、詰みに近い。

 

「……相手が悪かったわね」

 

 けれど、あいにくとリンには通用しない。

 

「なんですと?」

「その戦術は強力だとは思うわ。けど、私には通じない。わたしのデュエルは、そのやり方でハマるタイプのものじゃない」

 

 ナギのデュエルは、基本攻撃力を挙げて殴る脳筋戦術。

 ユーゴのデュエルは、相手の出方応じて戦術を切り替える対応戦術。

 そして、リンのデュエルは、相手のモンスターを利用して戦う、利用戦術。

 

「わたしは、ガスタの希望カムイを通常召喚!」

 

 リンがこのデュエルで一番最初に使用したカードが再び出てくる。

 ただし、このカードはリバースモンスター。

 通常召喚では効果は発動しない。そうすると、やることは一つ。

 

「シンクロ召喚ですか。ですが、その前に鱗粉がまき散らされるッ!女王よ、羽ばたかせるのです!」

 

MIAN:WW-グラス・ベル(DEF1500/チューナー) → DEF1400/チューナー

   ガスタの静寂 カーム(DEF1100) → DEF1000

 

 女王の羽により飛ばされた鱗粉の影響により、リンのフィールドのモンスターの攻撃力が下がっていく。けれど、それはわかりきっていたことだ。むしろ、相手から感じる風が気持ちいいとまで思っていた。

 

 ――――――――こちらも、風と飛ばしてあげる。

 

 それどころか、対抗して自分の風をみせてあげたいと思った。

 

「いくわよ。わたしは、レベル2のガスタの希望 カムイに、レベル4のWW-グラス・ベルをチューニング!風よ吹き荒れろ!その暴風を持ってすべてなぎはらえッ!!シンクロ召喚ッ!ダイガスタ・スフィアードッ!」

 

《ダイガスタ・スフィアード》

シンクロ・効果モンスター

星6/風属性/サイキック族/攻2000/守1300

チューナー+チューナー以外の「ガスタ」と名のついたモンスター1体以上

 

 出てきたのは、杖を持ち、緑の装飾で着飾った服を着ている人物であった。

 こいつの出現とともに、風がまき散らされる。

 

「このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分の墓地の「ガスタ」と名のついたカード1枚を選択して手札に加える事ができる。わたしは、シンクロ召喚に使用したカムイを手札に戻すわ」

「これがあなたの、風の魔法使いですか?この瞬間に再び鱗粉が飛ぶ!」

 

 ダイガスタ・スフィアード(ATK2000 →1900)

 ガスタの静寂 カーム(DEF1000) → DEF900

 

「カームを攻撃表示にする!」

 

 ガスタの静寂 カームDEF900 → ATK1500

 

「そしてバトルよ、スフィアードで女王様に攻撃よ!」

「攻撃力はこちらの方が上だ!」

「それがドツボだというのよ。攻撃力だけがデュエルじゃない!高すぎる攻撃力は、力となるとともに弱点にもなる!」

 

ダイガスタ・スフィアード (ATK 1900)  VS 究極変異態・インセクト女王クイーン(ATK2800)

 

 力があっていいものだ。

 けれど、操れる力は、時として存在するだけで弱点となるという。

 リンは女王を倒せないのなら、倒さないことにしたのだ。

 女王様自身の力によって、相手を倒すことにしたのだ。

 

「スフィアードは戦闘では破壊されない。そして、スフィアードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上の「ガスタ」と名のついたモンスターの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは代わりに相手が受ける!よって、900のダメージをあなたにあたえるわ!」

「なんですって!?」

 

 デューク

LP2250 → LP1350

 

 攻撃力自体は女王が上。

 スフィアードと女王の衝突では、リンの方へと衝撃が飛んでいく。

 しかし、スフィアードが衝撃を風へと変え、デュークの方へとぶつけていった。

 

「次はカームの攻撃よ!カームベルト!」

 

 カームは戦闘で破壊されるが、その余波によって生じた衝撃は再び風へと変換されて飛んで行った。

 

「攻撃力の差は1300!よって、1300のダメージよ!」

 

デューク

LP1350 → LP50

 

「……ぐッ!しかし、私のライフはまだ50残っている!」

「そうね、だからこそ、今度は私の魔法使いをみせてあげる」

「なッ!それはスフィアードのことではなかったのですか?」

「これから見せるのは、私の最も好きなモンスター。あなたに敬意をしめし、そのカードでこのデュエルの決着させるわ。メインフェイズ2へと移行して、魔法発動。二重召喚ッ!この効果により、わたしはこのターンにもう一度通常召喚ができる」

 

 二重召喚は発動条件が存在しない魔法である。

 そのためデュークは、リンがやろうとしていることを理解した。

 

(メインフェイズ1でそのカードを使っていれば、鱗粉の効果で攻撃力がさらに下がっていた。それを逆手に取られて、今のバトルフェイズで私のライフは尽きていた)

 

 本当なら、自分はとうに負けている。

 その事実をかみしめた後、デュークはリンにいう。

 

「リンさん」

「なにかしら?」

「あなたに感謝を言わせてください。ありがとうございます」

 

 今自分のライフが残っているのは、決してリンのプレイングミスなどではない。

 自分の一番の魔法使いの存在を言及してしまった以上、それを見せてあげたかったのだろう。

 それは全力で相手をしないという無礼でもあったが、少女の思いやりでもあった。

 

 どちらを感じるかは、人によって異なるだろう。

 

 デュークは、それに感謝を感じるタイプの人間だった。

 それを見抜いていたからこそ、リンも自分を見せようと思ったのだろう。

 

「時にリンさん。一ついいですか?」

「なに?」

「わたしたちあと一緒には、来てくれませんか?あぁ、別に私たちの故郷にきてくださいということではないですよ。シティに行くときに、一緒にこないかと誘っているのです。あなたもデュエリスト。この町にいるだけよりは、シティに行って力を試したいと思うことだってあるでしょう」

「誘ってくれてありがとうございます。けど、ごめんなさい。シティへはいずれ行くとしても、その時に一緒に行きたい人はもう決まっているの」

「そうですか」

 

 残念です、とデュークはつぶやいた。

 リンに一緒に来てほしいと思ったことは事実で、本気で誘ったつもりだった。

 

 デュークは一人ではなく、多くの人間ときている。

 無理やりにでも連れていくことだって物理的にできるだろうが、こんなことをやろうと思う人間はこの場には誰一人としていない。

 

 だってそうだろう。

 ちょっと照れたように頬をかきながら口にする人間に無理を言うなんて、できはしない。

 

「わたしはチューナーモンスター、WWウィンド・ウィッチ-スノウ・ベルを通常召喚」

 

 デュークは穏やかに微笑むと、リンが出すというモンスターの出現を待った。

 

「すでにエクストラモンスターにはダイガスタ・スフィアードが存在している。ということは、レベル7のモンスターをシンクロ召喚するのですか」

「そうよ、まだわたしのフェイバリットが出ていないわ!それを今から見せてあげる!レベル6のダイガスタ・スフィアードに、レベル1のスノウ・ベルをチューニングッ!真冬の風よ。雪も氷も我が力として吹き抜けよ!シンクロ召喚!現れよ!レベル7!WW-ウィンター・ベル!」

 

WW(ウィンド・ウィッチ)-ウィンター・ベル》

シンクロ・効果モンスター

星7/風属性/魔法使い族/攻2400/守2000

チューナー+チューナー以外の風属性モンスター1体以上

「WW-ウィンター・ベル」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の墓地の「WW」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターのレベル×200ダメージを相手に与える。

(2):自分・相手のバトルフェイズに自分フィールドの「WW」モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターのレベル以下のレベルを持つモンスター1体を手札から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

「こいつが君のフェイバリット……」

 

 リンが今出したモンスターこそ、リンのフェイバリットカード。

 風を操る、風と一体化した風の魔法使い。

 

「ウィンター・ベルは一ターンに一度、自分の墓地のWW一体を選択し、そのレベル×200のダメージを与えることができる。わたしが墓地に存在するグラス・ベルを選択し、そのレベルである4×200の合計800のダメージを与えるッ!スノー、ブリザードッ!!」

 

 デュークのライフはわずか50。

 これでこのデュエルの決着がついた。

 

 デュークが口を開こうとしたのとほぼ同時、遠くから声がする。

 

「おーい!リンー!」

 

 今回全く役に立たなかった男二人が帰ってきたのだ。

 ユーゴは二人分の釣り竿を持っていて、ナギは両手で二つのバケツを握りしめていた。

 ナギは自身の精霊の影響か、ものすごく力持ちなのだ。

 翌日の筋肉痛があるからやらないらが、その気になれば片手でDホイールを持ち上げることもできるらしい。

 

 軽々と運ぶバケツの中には、大量の魚があった。

 

「見てみてリンちゃん!ボクたちやったよ!」

「これは運が向いてきたんじゃないか?大量に釣れたぜ!いやぁ今は調子が良かったな!ところでこいつら誰だ?」

 

 帰ってきた二人に、ことのあらましを説明すると、ユーゴは自分がデュエルを受けたかったと落胆した。

 落ち込むユーゴを慰めることもせず、リンは二人がつってきた量を見て、どうしたものかと考え込んだ。

 

「どうしたの?」

「こんなにつって、どうするの?これ食べきれる量じゃないでしょ」

「院長先生のとことか、みんなのところにわけにいこうよ」

「お、いいじゃねえか。ハジメのじいさんにも持って行ってやるか」

「あのねナギ。今先生もいないのよ。第一、これ捌けるのはわたしくらいしかいないじゃない。こんな量無理よ」

「そ、そんな!どのみちお姉ちゃんがいても料理なんて無理だし、リンちゃんに頼るしかないと思っていたのに!」

「だったら量を考えなさいよ!」

「じゃあさ、ここでみんなで食べようよ。食べていきますよね?」

 

 リンに怒られているナギであったが、ふとデュークたちに一緒に魚でも食べないかと提案してきた。

 

「いいのですか?」

「あなた方も旅をしてここにいるんでしょ?だったら、せっかくだし一晩くらいここに泊まっていきませんか?ここは教会。経営者がちょっとあれだったとしても、人が来る分には大歓迎なんだ。ここに泊まって、せっかくだから旅の話でも聞かせてくれたらうれしいかな」

「そういうことでしたら、ぜひ。せっかくなので、料理も手伝いましょう。任せてください。故郷ではこういうことはよくやっていたものです。いいですかみなさん、失礼のないように!」

「もちろんですぜボス!」

「おっ。そりゃいいや。なぁいいだろリン。せっかくの機会なんだからさ」

 

 二人からの笑顔の提案を受けて、リンは仕方ないかとため息をついた後、

 

「そんな人数、どこで寝てもらおうかしら」

 

 あきらめて提案を受けることにした。

 

「ご心配なく。我々は寝袋だって持っています。旅の必需品ですからね」

「いや、スペース何とかあけますから、野宿はやめましょう。ここ、いちおう教会ですから、その前で野宿っていうのはわたしが気が進みませんし」

「ねぇリンちゃん。これどう料理する?串刺しにでもする?刺身にでもする?最悪火を通せば腹は壊さないから、とりあえず焼く?」

「リン、リン!オレは塩をたっぷりかけるのもいいと思おうぜ!」

「あんたたちはちょっと黙ってて」

 

 楽しそうに魚を抱える男二人を見て、リンはどうしたものかと頭を抱えた。

 けれどデュークはその様子を見て、リンはこの子たちと一緒にいたいのはこの子たちなのだろうなと、微笑ましく見ていた。

 

 



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Duel4 神に背いた天使

 ミソラタウンは平和な町である。

 そこには「あくまでサテライトの中では」という一文がつくものの、場所によってはルナとの決戦の舞台となって、壊滅した町もあるという。それに比べれば、争い事がそうそう起きない町なんて平和そのものと言えるだろう。ユーゴなんては、波乱もない町なんてつまらないなんて言うが、それは本当ならば贅沢なことなのだろう。

 

 ある町では、日々デュエルギャングとデュエルチームが縄張り争いをしているという。

 朝起きて、朝ご飯を食べて、地域のみんなと協力しながら生きていくなんて、平和ボケともとれるだろうが、幸せなことだろう。

 

「結局余っちゃったわね。魚」

「うーん」

 

 リンがスィクルという名のチームの挑戦を受けている頃、ナギとユーゴが釣ってきた魚が多すぎて、結局食べきれなかった。

 冷蔵庫にしまおうにも、現状では入りきらない。

 なので、周りに分けていくことにした。

 交流会がてら、スィクルの人たちとの会談の場でも使ったものの、まだあまりが出たのだ。

 チームスィクルの人たちには、持って帰ってもらってもいいと提案したが、それは近所の人たちと食べるといいといわれた。

 

「クロウ兄さんでも遊びに来てくれたら、一緒にDホイールで持って帰っても貰えばいいんだけどね」

「クロウ?あいつ最近配達の仕事で忙しいし、そんな余裕はないだろ」

「じゃあ、やっぱりボクたちで周囲におすそ分けに行こうか。お姉ちゃんは帰ってきてから持って行ってもらうのも、なんか申し訳ないし」

「そうね。先生も仕事帰りで作業を増やされたくはないでしょう」

 

 ナギたちが暮らしている場所は教会である。

 しかし、そのくせしてDホイールの駆動音はするわ、デュエルの客は多いわで、騒音として迷惑をかけることがある。というか、大抵迷惑をかけている。エルはここを自分の仕事場に改造したし、まともに祈りをささげるための場所とは言えない状態なのだ。

 

 そのためお隣さんにはいつも申し訳ないことをしているという自覚はある。

 ささやかな賄賂というわけではないが、気持ち程度に品物を持っていくのも構わないだろう。

 

「じゃあボクは、院長先生のところに持っていうよ」

「お。ハジメのじいさんのとこか?」

 

 ナギやユーゴが暮らす孤児院の院長は、エルとなる。

 それゆえに、院長といえばエルのことを言う。

 

 しかし、エルの弟のナギからしたら、別の人物を指す。

 エルの前に院長を務めていた、ハジメという名前のおじいさんだ。

 もともとハジメの孫娘が院長の座に就くはずだったのだが、当の本人がその気がない上に、エルが希望したこともあって、今はエルが院長となっているのだ。

 

 エル自身破天荒な部分もあるために、ハジメからしたら大丈夫かと気にかかっているらしい。

 その報告もかねて定期的に挨拶に行っている。

 ナギ自身お年寄りと話をするのが好きなため、仲は良好である。 

 

「ユーゴくんはどうする?一緒にくる」

「……いや、今日はやめとくよ。ハジメのじいさんの家はここから徒歩だと距離があるし、それなら残りの分をリンと手分けして回るさ。オマエはじいさんのところでゆっくりしてこいよ」

「そう?じゃあ行ってくるね」

「おう!行ってこい!」

 

 ハジメの家は、普段寝泊まりしている教会からそこまで遠くはない。

 徒歩で片道ほんの40分くらいのものだ。

 

 あたりを見回しても、他の住宅なんて全く見られないような場所に、ポツンとハジメの家はある。

 ハジメの仕事は鍛冶師。

 今ではもう老後を穏やかに過ごしてもいいような年代だが、今でも若い者には負けないと踏ん張っている。

 鍛冶の仕事場も兼任しているため、人里離れた場所にあるのだ。

 

 近くにあるのは、共同墓地くらい。

 これでは、いちいち買い物するのも面倒だ。

 

「院長せんせーッ!いらっしゃいますかーッ!」

 

 ナギの声が響き渡る。

 しばらく待っていると、ガラッ!と扉を開けてハジメの姿が見えた。

 

「お。おぉ。ナギちゃんか。よくきたのぅ」

「院長先生もお元気そうでなによりです」

 

 ナギは11歳。

 ハジメは70歳。

 

 二人の年齢から言って、お爺ちゃんと孫のような間柄であった。

 ハジメには孫がいるのだが、彼女はエルと同年代である。しかし、彼女は仕事としてミソラタウンを離れていることが多く、いつもハジメと一緒に暮らしているというわけではない。ナギからしたら優しい人たちには違いないのだ。

 

「おすそわけをもってきましたー!」

「おぉ。ありがとうナギちゃん」

「最近なにか変わったことでもありましたか?」

「そうじゃ。ナギちゃん。ちょうどいいところにきてくれたのぅ」

「何か問題でもありました?今お姉ちゃんが外に出向いているところですが、帰ってきたらすぐに連絡を入れるようにした方がいいですか?」

 

 ナギは11歳。

 やれることはなんでもやっているつもりなのだが、どうしてもエルのほうが頼もしいのだ。

 ナギにできることといえば、力仕事くらいだ。

 王様が力を貸してくれれば、翌日の筋肉痛覚悟でDホイールだって持ち上げられる。

 

「ナギ。おぬしは精霊の声が聞こえるんだったな。だから、墓地を掃除したりしてたといっておったのぅ」

「えぇ。しばらく掃除にはいってなかったですね。これから行ってきましょうか?」

「そのことなんだが、この付近の共同墓地があるじゃろう。そこで、最近夜になると変な声がするのじゃ」

「……変な声?例えばどのような」

「そうじゃのう……騒いでいる、というか、一人の声ではなく、何か集団でもいると思えば、人影一つ見当たらない。どうかちょっと確かめて見てくれんかのぅ」

「分かりました」

 

 現実的な可能性を考えてみる。

 もし、夜中に墓場でデュエルチームでも入り浸るようになったとしよう。

 

 これは人の手によるものだから、案外すんなり解決できる。

 うるさければ魂たちも安らかには眠れない。

 そう話をすればわかってもらえるだろう。

 

 もしわかってもらえず、一人で手に負えそうになければ、ユーゴあたりを誘って二人で殴り込みに行こう。

 それでなんとかなるはずだ。

 

 ほかに考えられる可能性としては、カードの精霊たちが騒いでいるというものだろうか。

 カードの精霊の声が聞こえる人間は少なく、ナギ自身が知っているのは自分以外に一人しかいない。

 けど、精霊自身が言葉を伝えようと思えば手段はあるらしい。

 弱い力しかなくても、数が集まれば全体としての意思として亡霊のような声が響くこともあるのだ。

 

「どう思う?」

『……どうもこうも、考える必要はない。行ってみればすべて判明する。今の時点であーだこーだ考える必要性は皆無だ』

「それもそうだね」

 

 王様の言うように、ナギならば見ればどのケースなのかはっきりする。

 ナギは気楽な気持ちで日が落ちるのを待ってから、ハジメに言われた共同墓地へと向かった。

 そこで見たものは、

 

「なに……これ……」

 

 共同墓地に置かれている墓の一つ一つが、青白く発行していたのだ。

 よく見ようと近づいていくと、墓地に入ろうとした時点で気づく。

 墓地全体が何やら薄い壁のようなもので覆われている。

 薄い壁、と判断したのは、先の景色が見通せるからだ。

 

 コンクリートの壁の様に一面に色がついているのではなく、ビニール袋のような青がかかった透明色。

 しかし、手で押してみてもびくともしない。

 ゴムでも触ったかのようにぶよん、という手の感触があるだけだ。

 

『ほぅ。久々に見たな』

「王様?これが何か知っているの?」

『なぁに。これは精霊の力の一種だ。人払いの意味でも使われることがある』 

「え、じゃあこれ、悪いもの?」

『それはわからない。力を使うからやらないだけで、こんなこと、やろうと思えば俺様だってできる』

「王様はその気になれば割となんでもできるよね……」

 

 カードの精霊というが、その中でも力関係というものはあるらしい。

 カードに限らず、大切にされたものには魂が宿るという言葉があるが、王様はナギのデッキの中でも最強のカード。

 精霊としての性能も、それなりには強いらしい。

 

 それなりに、なんて表現をするのは、ナギがトップクラスの精霊がどの程度のものかを知らないからだ。

 

 ほかに出会ったことがある精霊の大半が成仏しかけの存在であったり、会話はできても願いばかり言う他力本願な奴だったりするため、比較対象としていまいち強さの実感がないのだ。

 

「でも、精霊の力ってことは……」

『この中にいるのは、間違いなく精霊が絡む奴だろうな。目的など知らんがな』

 

 誰かとデュエルをしていて、邪魔されたくないから結界みないなものを張ったのか。

 それとも何か秘密の作業でもやっているのか。

 

「王様、行ける?」

『俺様の力で、入りこめはするぞ。ナギ。お前の好きにするがいい』

 

 デュエルの力は、なにも幸福はだけではない。

 世の中にはデュエルさえなければ幸せに暮らせたと主張する人間もいるだろう。

 そして、デュエルにより人を不幸に陥れる人たちだっている。

 

 その象徴として、デュエルマフィアやデュエルギャング、さらにはルナまでいる。

 

 この先に入り込めたとして、どのような人と出会うかは分からない。

 やめておけばよかったと後悔するかもしれない。

 それでも、

 

「行くよ、王様。エル・アーネストの弟が、あなたを王を仰いでいる人間が、その程度で弱気になるわけがない」

『もう一度言う。好きにするといい』

 

 ナギは後退という選択肢はなかった。

 そのまま突き進むと、今度は壁なんてなかったかのように通り抜けた。

 しばらく歩くと、共同墓地の中心部ともいえる場所で、ローブを被った人間がいることに気付く。

 

 向こうは気が付いていないようだったので、ナギの方から声をかけた。

 

「もしもし」

「ひゃいッ!!」

 

 ナギの声を聴いて、どうやらびっくりしたような声があがる。

 そして、振り向くと同時にあわててローブを取り払ったことにより、素顔が明らかになった。

 

(お姉ちゃんよりも、ちょっと年上かな?)

 

 紫色のローブを羽織っている、大人の女性がそこにはいた。

 エルは孤児院では院長と呼ばれているが、その実まだ20歳にもなっていない未成年だ。

 

 サテライトと呼ばれている地域では、十代は立派な労働力の一つでもあるが、それでも一部門を仕切る人間としては若い方になるだろう。目の前の女性は、少なくとも20歳は越えていると思った。けど、20代前半だろう。どこか、幼さというものが顔立ちに見て取れる。

 

「え、ど、どうしてここに?びっくりさせないようにって、ちょっと墓地全体の存在を薄くしていたのに!結界まで張ったのに!」

「……あなたこそ、こんなところで何をしているんですか?」

「わ、わたしですか?わたしは少し、ここの墓地の除霊を行っていました。そんなことよりも、あなたまだ子供じゃないですか!こんな時間にこんなところにいて、家族の方が心配しますよ!早く帰るべきです!」

 

 真っ先に、家族のことを心配するこの人は悪い人ではなさそうだと、ナギは思った。

 サテライトは基本的にはスラム街。

 ここミソラタウンが比較的平和なだけであって、人さらいも起きる場所だ。

 

 デュエルギャングのボスになる!なんて夢を抱いている子供だっている場所なのだ。

 ナギだって実際に誘拐されたこともある。

 その時はエルがデッキ片手に殴り込みをかけに行って、最後は誘拐犯が真っ青な顔色で命乞いをしていた。

 あの時は自分が情けなくなて随分とへこんだものだ。

 

 悪い人ならば家族が心配しているのではないか、なんて真っ先に気にかけたりはしないので、そう気を張ることはなさそうだとナギは考える。

 

『…………』

 

 けれど、王様の意見はどうやら違ったらしい。

 王様はナギの隣に、はっきりと見える形で姿を見せる。

 

「王様?」

 

 しかし、それはナギだからはっきりと見えるだけ。

 たとえユーゴやリンが見ても、何も変わらないように見えるだろう。

 エルもデュエリストとしては特殊な部類に入るが、精霊なんて見えてはいない。

 

 事実、目の前の女性も王様のことなんて見えていないようだった。

 

「?」

 

 ナギが口にした言葉が誰に向けられているものか、いまいちピンときていない。

 それどころか、この人は幻覚でも見ているのではないだろうか、大丈夫かと心配そうな視線を向けてきた。

 だからナギは、取り繕ったかのように現状を口にする。

 この程度の反応は慣れっこなのだ。

 

「ボクは最近、この墓地が騒がしいって聞いたから様子を見に来たんですよ」

「あー、それは……、たぶん、私が原因ですね。私が見るに見かねて、ここ最近はずっと除霊作業を行ってましたから。きっと霊たちも、帰るべき場所を見つけようと騒いでいたのでしょう」

『…………』

 

 ナギとの会話においても、視線も一瞬でも王様の方には動かない。

 ずっと、彼女の意識はナギの方に向いたままだ。

 

『…………』

「王様。さっきからどうしたの?」

 

 ナギは隣に実体化した(ように見えている)王様の方を向いて、何かあったのかと話しかける。

 すると、王様は気になってるということを述べた。

 

『……いや、いないな』

「誰が?」

『あいつのデッキに、精霊はいない』

「それがどうかしたの?お姉ちゃん目当てで挑戦にやってきたデュエリストは沢山いたけど、ボク以外で王様を見たことがあるのは、結局今までで一人だけだよ。見えないのが普通なんじゃない?」

『確かに、それが普通だ。だが考えてもみろ。普通の人間が、除霊なんてできるわけがない』

「デュエリストだったらできるんじゃない?」

『デュエリストにも種類があるだろう』

「たしかに」

 

 ナギだって今までに除霊を行ったこともある。

 けど、それはナギ一人でできることではない。

 ナギ一人でやれることといえば、せいぜいお墓にお供え物をすることぐらいだ。

 

 本格的な除霊となると、王様の力を借りる必要がある。

 そう、アンデットの王である、ワイトキングの力が必要だ。

 

『だが、こうして俺様が存在を強めてみても、俺様の姿が見えているわけではなさそうだ。ただ……俺様の存在をうすうす感じてはいそうだな』

 

 王様はカードの精霊だ。

 そのため、実体化という形で出てくることもある。

 その場合、ナギからしたら目の前にいるのだから、視線も必然的にそちらに向く。

 

 しかし、それは他人からしたら幽霊と会話しているようにしか見えないのだ。

 おかげさまで電波扱いされる。

 

「あのー、ひょっとして、あなたはギフトデュエリストだったりします?」

「……あぁ、なんか久々に聞いた言葉です」

「違うんですか?」

「違うといえば違う気がしますね。大して気にしないで下さい」

「?よくわから理ませんが、隣に精霊がいるんですね」

「カードの精霊のことを知っているんですか?」

「もちろんです。私自身、カードの精霊に友人がいますからね。普段は一緒ではないんですが、ちょっと力を分けてもらったこともあるんですよ」

 

 強力なカードの精霊なら、デュエル中でなくとも、誰もに姿が見えるように現れることができる。

 この女性は、王様が見えていないながらも存在は認識している事実から推察するに、自力で姿を見せた精霊と友人だったのだろう。

 

「それにしても、王様ですか?わたしには見えていませんが、そう呼ぶということは仲がいいんですね」

「興味があります?」

「もちろん。デュエリストと精霊の関係といっても、いろいろありますから。中には、心まで完全に精霊にとりつかれているというデュエリストもいました」

「なにそれ怖い」

『まぁ、なかにはそんな奴もいるわな。俺様のように、純粋に対話が成立するタイプはそうそういない。ほとんどは、意思を伝えることができても、会話まではいかないだろう』

「じゃあ王様はすごいんだね」

『当然だ。俺様はアンデットの王。ワイトキングだ。そこらの雑魚とは一緒にするな』

「…………?」

 

 ワイトキングの声はナギにしか届かない。

 それゆえに、女性にとっては会話がとぎれとぎれでついていけなくなってしまう。

 

「あ、ごめんなさい。決して無視するつもりはなかったんですよ。つい、癖で……」

「いえいえ。気にしないでくださいね。でも、ちょっとお願いしていいですか?」

「なんでしょう」

「デュエルしませんか?精霊を見れるデュエリストなんて、そうそう出会えませんからね」

「いいですよ。ボクは、ナギ。ナギ・アーネストといいます」

「ドロシー・マーベルです。よろしくお願いしますね」

「「デュエルッ!!」

 

 ナギ・アーネスト LP8000 VS ドロシー LP8000

 

 ドロシー・マーベル。

 彼女の名前を聞いた瞬間、どこかで聞き覚えがあるような気がした。

 ちょっと考えて思い出せなかったので、考えるのはやめでデュエルに集中することにした。

 

「どちらが先行で行きますか?」

「ボクはどちらでもいいですよ。ドロシーさんの好きな方をどうぞ」

「そうですねー。じゃあコイントスします。表出たら私が先攻でいかせてもらいますね。そらッ!……裏でした。ナギさん、あなたが先攻です」

「ボクのターン。ボクはモンスターをセット。そして、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

ナギ

LP8000

HAND:2

MAIN:裏守備モンスター一体

REVERSE:2

 

 ナギの基本戦術は、基本的に打点を挙げて殴るというもの。

 先攻で高い攻撃力のモンスターを出すよりは、守りを選択した。

 

「では私のターンですね。ドローします」

 

ドロシー

LP8000

HAND:5 → 6

 

「では私もモンスターをセットして、カードを二枚セットしてターンエンドです」

 

 守りを固めてきたナギに対して、ドロシーが行ったこともまたカードをセットするのみであった。

 現時点では互いに、互いのデッキがどのようなものであるのかが全く判断がつかない。

 

ドロシー

LP8000

HAND:3

MIAN:裏守備モンスター一体

REVERS:2

 

「ボクのターン」

 

ナギ

LP8000

HAND:2→3

MAIN:裏守備モンスター一体

REVERSE:2

 

 カードをドローしたナギは、様子見していても仕方がないので、自分から打って出ることにした。

 

「ボクはセットしたモンスターを反転召喚!」

「あら、かわいい羊さんですね」

「そうでしょう!そうでしょうとも!」

 

 ナギが反転召喚したモンスターはスケープ・ゴースト。

 夜眠れないときには羊を数えればいいとされるが、実際に亡霊のように空を漂う羊を見ると、どのような反応を示すのだろうか。かわいい、というドロシーのような反応が正しいとナギは主張するが、リン相手に出したらナギのモンスターの中では比較的マシなだけという評価を受けていた。解せぬ。

 

「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹!ボクは四体まで羊を出す!」

 

《スケープ・ゴースト》

リバース・チューナー・効果モンスター

星1/闇属性/アンデット族/攻 0/守 0

(1):このカードがリバースした場合に発動できる。

自分フィールドに「黒羊トークン」(アンデット族・闇・星1・攻/守0)を任意の数だけ特殊召喚する。

 

「なんだか眠たくなりそうですね」

「さらにボクはデッキの一番上のカードを、九尾の狐を墓地へと送ることで、手札からアームズ・ホールを発動する。このターン通常召喚できない代わりに、デッキの装備魔法一枚を手札に加える。ボクはデッキの団結の力を手札に加えるよ」

 

 団結の力は自分フィールドのモンスターの数に応じて攻撃力をあげる装備魔法。

 ナギのフィールドにいるモンスターは5体。

 よって、今発動したら団結によるパワーアップは4000。

 

(団結して殴ってもいいけど、せっかくいいものが墓地にいったんだ)

 

 しかし、今フィールドにいるモンスターの攻撃力は全員0。

 戦いは数だとはいえ、雑魚が団結してもささいなものとなる。

 

「そして、ボクは羊一匹と、スケープ・ゴーストをリリースすることで、墓地の九尾の狐の効果を発動する。墓地からこいつを特殊召喚だ。さぁ出ておいて!」

「フォオオオオオッ!!」

 

 ゆえに、ナギは強力な攻撃力を持つモンスターを復活させることとした。

 九本の尻尾を持つ狐。

 狐といえばかわいらしペットを連想する人が大半だろうが、あいにくと九尾の狐は邪悪な笑みを浮かべていた。そもそも、アンデットなんて基本そんなものだ。

 

 ナギからしたら、よくよく見れば愛らしいという感想なのだが、リンは邪悪なオーラしか感じないといった。

 悲しい。

 

「さらにボクは、手札から団結の力を発動!」

 

 団結の力は、自分のモンスターの数×800の値能力があがる装備魔法。

 今ナギのフィールドにいるのは、墓地から復活した狐が一体に、羊が3体。

 よって、能力値は800×4=3200アップする。

 九尾の狐の元々の攻撃力と合わせて、5400。

 

「狐でセットモンスターに攻撃だ!墓地からよみがえった狐は、貫通能力を持っているッ!これで大ダメージを与えます!」

「あなたが攻撃を宣言したこの瞬間、私はリバースカードを発動します。罠カード、メタバースッ!」

「確かそのカードは、フィールド魔法を発動させるというものッ!」

「よくご存じですね。メタバースの効果により、デッキのフィールド魔法を発動するか手札に加えることができます。私は、デッキに存在している天空の聖域を発動しますッ!」

 

 フィールド魔法の発動と同時に、ソリットビジョンによって周囲の景色一帯が切り替わる。

 墓場という今いる場所から、どこか空の上の、神様でも見ているかのような雲の上。

 その中に神殿が立ち並んだ。

 ナギとドロシーは、その神殿の大広間に立っていた。

 

「聖域が展開している限り、天使族モンスターの戦闘で発生するそのコントローラーへの戦闘ダメージは0となります」

「……まずい。根本的にボクの得意分野とかみあわない」

 

 いくら攻撃力をあげて殴ったとしても、戦闘ダメージを与えられなければ意味がない。

 天使族モンスターを全滅させていればダメージは通るのだが、そう簡単に全滅させてはくれないだろう。

 ナギの基本スタイルは、一瞬のスキをついて火力で殴るスタイルなのだ。

 面倒なことになったと思った。

 

「フィールド魔法が展開しても戦闘は続行されますが、九尾の狐の貫通ダメージはうけません。さらに、戦闘で破壊されたのはコーリング・ノヴァです。このカードが戦闘で破壊されたとき、デッキから攻撃力1500以下の天使族・光属性モンスター1体を特殊召喚することができます。さらに、フィールドに「天空の聖域」が存在する場合の追加効果として、リクルートの対象には「天空騎士パーシアス」1体を追加することができます。よって、私は天空騎士パーシアスをデッキから特殊召喚します!」

「ボクはこれでターンエンドです」

 

ナギ

LP8000

HAND:2

MAIN:九尾の狐(ATK2200)WITH 団結の力(800×4=3200)=5400

   黒羊トークン(DEF0)×3

REVERSE:2

 

「それでは、私の番ですね」

 

ドロシー

LP8000

HAND:3 → 4

FIELD:天空の聖域

MIAN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

REVERS:1

 

 次はドロシーのターン。

 ドロシーはカードを引いた後、迷わずにバトルへと入った。

 

「バトルです!パーシアスで羊さんを攻撃です!パーシアスは貫通能力を持っています」

「へ?ぎゃあああああああああ!!」

 

ナギ

LP8000 → LP6100

 

「そして、相手に戦闘ダメージを与えたときに一枚ドローできます!」

 

ドロシー

HAND:4 → 5

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンドです」

「うぅ……なんか最近、こんなのばっかなような気がする」

 

 ナギのモンスターは基本、守備力が小さいものが多い。

 ユーゴやリンのような身内相手だとそれがばれているため、貫通ダメージを狙ってくることが多いのだ。

 この前だって、ライフの大半が貫通ダメージで消えていった。

 

「だ、大丈夫ですか!」

「大丈夫です!心配しないでくださいッ!」

 

ドロシー

LP8000

HAND:3

FIELD:天空の聖域

MIAN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

REVERS:3

 

ナギ

LP6100

HAND:2

MAIN:九尾の狐(ATK2200)WITH団結の力(800×3=2400)=4600

   黒羊トークン(DEF0)×2

REVERSE:2

 

 相手に気を使わせるようでは、一人前のデュエリストを名乗ることはできまい。

 ナギは気を取り直して、デッキからカードをドローする。

 

ナギ

HAND:2→ 3

 

「ボクは狐でパーシアスを攻撃ッ!」

 

 九尾の狐が尾を束ね、一つの火の玉を作り出す。

 

「グラッジ・オブ・ナインッ!!」

 

 その火の玉は、太陽のように直視できないほどの輝きを持ち始めた。

 使用者のナギですら手で陽射しを遮ろうとするなか、ドロシーは太陽から目を全く離さなかった。

 そして、ちら、とドロシーは手札を公開する。

 ナギは確認できなかったが、そこにはオネスト、と書かれていた。

 

 ナギが現状を把握したのは、太陽が離散してパーシアスが狐を切り裂いた後であった。

 

ナギ LP6100 → LP4200

 

「ぐあああああああああああああああ!!!」

「私はパーシアスが戦闘ダメージを与えたことで、私は一枚ドローしますね」

「ど、どうぞ」

 

ドロシー

HAND:3 → 2(オネスト使用) →3(パーシアスのドロー)

 

「……ゲゲゲッ!だ、だけど、九尾の狐は破壊されたときに尻尾を分身として切り落とすことで亡霊をこの世にとどめることができる!狐トークン2体を守備表示で特殊召喚!」

 

 スムーズに反撃を行ってくるドロシーに対し、ナギは冷や汗が出てきていることに気が付いた。

 

(この人、すごく強い人だ。たぶん、まだ全然本気じゃないんだろうな)

 

 ドロシーさんは、今までのナギのデュエルに対して、すべて微笑ましいものをみるとうにして対応している。焦りなど、全く見せていない。

 ナギは、自身の姉が、エル・アーネストこそが最強のデュエリストだとは思っている。

 けど、弟は姉の実力を正確に図ることはできていない。

 

 エルが出稼ぎと称してどこかのチームに出向いていた時代も、その時はナギは一緒についてはいかなかったから、エルのデュエルを見ていないからだ。けど、一つ言えることはある。

 

 ――――――――今、ボクはお姉ちゃんの足元にも届いていないんだろうなぁ

 

 大好きな家族に届くだけの力をつけるためにも、どんな相手だろうと臆せず戦う必要があった。

 ドロシーさんは、自分よりも強いデュエリストだということを自覚しながらも、ナギは自然を笑みが出てきていることに気が付いた。だってそうだろう。ドロシーさんが強ければ強いほど、自分はエルに近づける機会を得る。

 

「どうかしました?」

 

 急に微笑むボクのことを、ドロシーさんは気持ち悪いと思うだろうか。

 きっと思うだろう。

 

「ドロシーさん。ボクは、あなたの本気を見たいです。なので、無理にでも引きづりだして見せます」

 

 ユーゴのような同世代とのデュエルではない、大人とのデュエル。

 試されているのだと、思わなくてはどうする。

 相手を慌てさせるほどのものでなくては、どうする。

 

「そして、メインフィズ2へと移行します。ボクはこのターンまだ通常召喚を行っていません!」

「なにを出すんでしょうか」

「ボクは手札のワイトを通常召喚ッ!」

「……はい?」

 

 この局面で出てきたモンスターはワイト。攻撃力300。守備力200。

 低レベルの貧弱ステータスモンスター。

 

「ワイト?どうしてここで?」

「ボクにはまだ手札が一枚残っている。そして、フィールドには羊二匹と、尻尾が二つ残っている。トークンは通常モンスターとして扱い、羊はレベル1、尻尾はレベル2として扱われる。よって、ボクのフィールドには5体のレベル2以下モンスターがそろったことになる」

「……通常モンスターの数で効果が決まるカード、ですか?」

「そうです!ボクは魔法カード、弱肉一色を発動します。自分フィールド上にレベル2以下の通常モンスターが表側表示で5体存在する時に発動する事ができるカードで、お互いのプレイヤーは手札を全て捨て、レベル2以下の通常モンスターを除くフィールド上に存在するカードを全て破壊される!」

 

 フィールドに存在しているワイトが雄たけびをあげる。

 その叫びは、フィールドに存在していくカードを破壊していった。

 ナギの残っている手札や、フィールドにセットしていたカードも破壊される。

 それでも、トータルで見れば損ではない。

 

 ナギの場には雑魚とは5体のモンスターが残るが、それ以外の互いの手札とセットカードが消えるのだから。ワイトの雄たけびは天空に存在していた聖域を粉砕し、元の夜の墓場へと景色を戻した。

 

「リバースカードオープン!禁じられた聖衣!パーシアスを対象に発動します!」

 

《禁じられた聖衣》

速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が600ダウンし、効果の対象にならず、効果では破壊されない。

 

「この効果によって、私のパーシアスは破壊されませんッ」

「ッ!ボクはワイトと羊一匹をリリースして、墓地に存在する狐を特殊召喚するッ!ターンエンドです」

 

ナギ

LP4200

HAND:0

MIAN:九尾の狐(ATK2200)

    羊トークン(DEF0)

狐トークン(DEF500)×2

 

ドロシー

LP8000

HAND:0

MIAN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

 

「それじゃ、わたしのターンですね」

 

 互いの手札は0枚。

 セットしている魔法・罠カードはない。 

 ナギのフィールドには狐が存在し、ドロシーのフィールドにはパーシアスが存在する。

 互いのフィールドのカード大した差がない以上、これからはドローによって戦況が大きく変わる。

 

「ドロー」

 

 それがわかっているはずなのに、ドロシーは特に迷うこともなく、祈ることもなく、自然にデッキかあらカードを引いた。

 

ドロシー

LP8000

HAND:0→1

MAIN:天空騎士パーシアス(ATK1900)

 

「私はパーシアス進化させます。天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス手札から特殊召喚しますね!」

 

天空勇士(エンジェルブレイブ)ネオパーシアス》

効果モンスター

星7/光属性/天使族/攻2300/守2000

(1):このカードは自分フィールドの「天空騎士パーシアス」1体をリリースして手札から特殊召喚できる。

(2):フィールドに「天空の聖域」が存在し、自分のLPが相手より多い場合、このカードの攻撃力・守備力はその差の数値分アップする。

(3):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

(4):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 ナギの目の前に出てきたのは、パーシアスを一回りごつくしたような天使だった。

 一目で同じ系統のモンスターだと判断出来た。

 

「パーシアスの進化体?けど、攻撃力は2300なら大して変わっていない!とうことは、何か恐ろしい能力が……」

「そんなものはありませんよ?天空の聖域があれば、私のライフが上回っている限り、それだけ攻撃力が上がっていただけです。弱肉一色で聖域は消えていますから、差は攻撃力が400上がっているくらいですね」

「危なかった。さっき破壊できなきゃ負けていた……ん?待てよ?ということは」

 

 進化したパーシアスは、狐の攻撃力を上回っている。

 フィールドの最大攻撃力というアドバンテージは消えたわけだが、ナギが問題視したのはそこではなかった。

 

 パーシアスの効果をそのまま受け継ぐ進化体。

 そうなると当然、貫通能力も受け継いでいるということだ。

 

「それじゃ、ネオパーシアスで羊さんを攻撃しますね」

「やっぱりぃぃぃいいいいいいいいいい――――――――――グへェッ!?」

「い、今変な声が出ましたよ!?」

「……気にしないでください」

 

 ナギLP4300 → 2000

 

「そ、そうですか?それじゃ、私は戦闘ダメージを与えたことで、パーシアスの効果でドローさせてもらいますね」

「ど、どうぞ」

「……これを引きましたか」

「ドロシーさん?」

「いえ、なんでもないです。私はカードを一枚セットしてターンエンドです」

 

ドロシー

LP8000

HAND:0

MIAN:天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス (ATK2300)

REVERSE:1

 

ナギ

HP2000

HAND:0

MAIN:九尾の狐ATK2200

   狐トークン(DEF500)×2

 

「ボクのターン、ドローッ!手札から魔法発動、強制転移ッ!」

 

 強制転移は互いのプレイヤーが自分自身のフィールドから一体のモンスターを選択し、コントロールを移すカード。ナギは選択肢があるものの、ドロシーは一体にしかフィールドにいたいため、選択肢なんてない。

 

「それじゃ、ネオパーシアスを差し上げますね」

「ボクは、ドロシーさんに狐トークンを渡す!」

 

 狐トークンを守備表示のまま渡したものの、問題はない。

 だって、

 

「ネオパーシアスで攻撃!ネオパーシアスは貫通能力を持っているッ!」

 

 ネオパーシアスも、墓地からよみがえった狐も、貫通能力を持っている。

 

ドロシー LP8000 → LP6200

 

「ネオパーシアスが戦闘ダメージを与えたことで、一枚ドローする。そして、狐でダイレクトアタック!」

「あらら。ダメージを受けてしまいましたね」

 

ドロシー

LP6200 → LP4000

 

「ボクがカードをセットして、ターンエンド」

 

ナギ

LP2000

HAND:0

MAIN:天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス (2300)

   九尾の狐(ATK2200)

REVERSE:1

 

 これで、ドロシーの場のカードは、伏せたカードが一枚だけ。

 モンスターは存在しない。

 

 対し、ナギのフィールドには奪ったネオパーシアスと、九尾の狐が存在する。

 しかも九尾の狐は破壊されると怨念としてトークンを残していく。

 

 フィールドのアドバンテージ自体はナギの方にある。

 あるのだが、

 

(……なんだろう。このまま勝てる気がしない)

 

 どうも、ナギは嫌な予感がしてきた。

 単純に考えて、ドロシーが何をしても、手札一枚からではどうにもできないはずなのに、ドローしてそのままターンエンドをするとは思えなかったのだ。

 

『あいつのデッキの本性が出てくるかもな』

 

 そんな中、ナギの思考を呼んだかのようにして、彼のデッキのワイトキングが語り掛けてくる。

 

「王様?」

『おかしいとは思っていた。神に仕える光の天使。そんなカードを操るやつが、こんな墓場で供養なんてするものかとな』

「それは変なの?うちのお姉ちゃんはなんちゃってシスターだから例外かもしれないけどさ、聖職者といったら祈りをささげる人たちでしょ?この世にとどまる怨念を浄化しようとしても変ではないと思うけどなぁ」

『そこじゃない。意識すべきは、そこに怨念側の意思がどうあるかだ。神に仕える天使や女神という連中は、自分たちこそがただしく、それ以外は神に歯向かう不届きものだと考える節がある。いちいち、意見をを尊重せず、問答無用で消しかかってくる奴らだ。だが、あいつはどうも、そうではない気がする。それに、なんか変なカードも使っていたしな』

「変なカードなんて使っていたっけ……?ん、そういえば……」

 

 デュエリストとデッキというものは、どうも切り離せない。

 デッキはデュエリストの心を表したものでもある。

 心と合わないものを使おうとしても、答えてくれない。

 

 ナギはエルの昔のデッキをもらっているからこそ、よくわかる。

 

 PSY(サイ)フレームというデッキがある。

 かつて、エルが使っていたデッキ。

 エルはかつて自分が使っていたデッキを、心機一転と称してそのまま弟に渡したのだ。

 

 そのデッキを使いこなすことができれば、昔のエルと同等の実力があるといえるだろう。

 しかし、ナギには使いこなすことができなかったのだ。

 デッキを信じていないわけではないのだ。

 

 エルの名前がかかったようなデュエルで、姉の力にすがりたいときには力を貸してくれた。

 デッキが答えてくれた。

 

 しかし、どうも自分の力だとは思えなかった。

 

 そのままナギが使ってみたこともあったが、どうにもしっくりと来なかったのだ。

 一部デッキに入ってもいるが、メインのギミックはエルのものはなく、別の形に落ち着いた。

 

 それゆえに知っている。

 人によっては、これじゃないとダメというような、デッキとデュエリストとの間には相性が存在する。

 

 カードはデュエリストの気持ちに答えてはくれるが、デュエリストが自然に力を発揮できるのは自分のデッキだ。それは性格であったり、境遇であったり、抱いている感情で決まる。

 

 それを踏まえた上でドロシーが今まで使用したカードの中で、一つ異質なものがあるとすれば、

 

「……禁じられた聖典?」

『あぁ、あれは、神に逆らった者のカード。正直光の天使を操るやつが使うようなカードじゃない』

「そうなると、ドロシーさんのデッキは……」

『おそらく、デッキの本質は、光の天使ではないのだろう』

 

 王の言葉を受け、ナギはドロシーを見た。

 ドロシーはちょうど、カードをドローしたところだった。

 

「……そうきますか」

「…………」

「ナギさん」

「なんですか」

「あなた、カードが人の思いにこたえることがある。そう思ったことはありますか?」

「当然です」

 

 聞かれるまでもないことだった。ナギは、カードの精霊の声が聞ける。

 すべてのカードが精霊として出てこれるカードではないが、それでも、知っているのが一人だけでも十分だった。

 

「なら」

 

 ドロシーはナギの答えに満足したのか、意思を明確にした。

 

「カードの意思には、デュエリストは応えなければいけませんね」

『くるぞ、ナギ。あいつのデッキの本性が……』

 

 ワイトキングの言葉を聞くまでもなく、ナギの身体が全身から気をつけろと叫んでいる。

 

「いいカードを引いたのですか?」

「えぇ。もちろん。正直言いましょう。今回のデュエルでは、私自身はデッキに呼びかけてはいませんでした。そのうえでこれが来るということは、デッキが負けたくはないといっているということなのでしょう。なので、負けるわけにはいかなくなりました。全力をもって、デッキに応えるために勝ちにいきます!私はドローしたこのカードを、堕天使の戒壇を発動しますッ!」

 

《堕天使の戒壇》

通常魔法

「堕天使の戒壇」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地の「堕天使」モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。

 

「堕……天使?」

「私は墓地に存在する堕天使スペルビアをその効果で守備表示で特殊召喚します。さらに、スベルビアは墓地からよびがえった時、墓地の天使を復活させます!出てきなさい!堕天使テスカトポリカッ!」

 

 堕天使スペルビア (DEF2400)

 堕天使テスカトポリカ(ATK2800)

 

 ドロシーのフィールドに出てきたモンスターは、パーシアスとは打って変わって、光というにはおぞましい漆黒の翼を持つ天使たちであった。堕天使とは、神に背いたことで天界を追われた者たちのことを言う。光の天使というよりは、闇に染まった元天使というべき姿がそこにはあった。

 

(弱肉一色で、手札から墓地へと捨てられていたモンスターたちか!)

 

 現時点でフィールドの最大攻撃力は、ドロシーの堕天使テスカトポリカの2800。

 この時点でドロシーが優位に立った。

 

(さて、ボクの伏せカードはここで使うべきか……?)

 

 ナギのフィールドに残っている伏せカードは、つり天井。

 フィールドに4体以上のモンスターが存在するとき、そのすべてを破壊する罠カード。

 

 今ナギのフィールドには九尾の狐とパーシアス、そしてドロシーの場には堕天使が二体存在している。

 発動条件は満たしている。

 

(……釣り天井はモンスターを敵味方関係なく一掃する。ボクのモンスターも破壊されるけど、九尾の狐は破壊されたら怨霊を残していく)

 

 そして、次のターンに、墓地の狐はナギのモンスター二体をリリースして、復活できる。

 怨霊二体をリリースして、狐は完全復活する。

 ただ、問題は、

 

(ドロシーさんが残している、あの罠カード……)

 

 ドロシーの手札はすでにない。

 堕天使二体のうち、一体の効果はすでに判明している。

 つり天井を破壊した瞬間、次のターンに何をドローしようが問題ないナギが優位になる。しかし、

 

(ドロシーさんは、勝ちに行くと言った。なら、あの罠にもきっと何か仕掛けてくるに違いない!)

 

 つり天井は、フリーチェーンだ。

 どのタイミングでも発動できる。

 なら、ドロシーの罠に割り込む形で発動させてもいいだろうと思った。

 

「行きますよ!」

「さぁ、来てください!全力をもって迎え撃ちましょう!」

 

 しかし、それは発動条件を満たしていればの話である。

 

「私はフィールドに存在している堕天使スペルビアを墓地へと送ることで、リバースカードオープン!魅惑の堕天使を発動します!」

「ここで大型モンスターをリリース!?」

 

《魅惑の堕天使》

通常罠

「魅惑の堕天使」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、「堕天使」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

相手フィールドの表側表示モンスター1体を選び、エンドフェイズまでコントロールを得る。

 

 フィールドのモンスターの数が三体になったことで、ナギの目論見が外れた。

 しかも、まだ罠の効果は発動したばかりで、効果も適用されていない。

 

「魅惑の堕天使は、相手のモンスターをこのターンの間だけ倫理観を狂わせ、魅惑におぼれさせることができます!よって、九尾の狐を堕天させます!」

「グルルル……」

「まさか怨念の塊みたいなモンスターがさらに混乱するなんて……よくわからないもんだ」

「バトルです!堕天使テスカトポリカで攻撃です!」

 

 堕天使テスカトポリカATK2800 VS 天空勇士エンジェルブレイブネオパーシアス (ATK2300)

 

ナギ

LP2000 → 1500

 

「ぐゥ……」

「これで、あなたのフィールドにはモンスターはいません!九尾の狐でダイレクトアタックです!」

「グルルル、グォオオオオオオッ!!」

 

 ナギのライフは1500。九尾の狐の攻撃をそのまま受けたら、ナギは負ける。

 そして、ナギの手札はなく、唯一の伏せカードは発動条件を満たしていない。

 けれど、

 

「ボクは墓地から罠カードを除外することで、その効果を発動する!」

 

 そのままは終わらなかった。

 弱肉一色の効果でドロシーの堕天使たちが墓地へと言っていたように、ナギのカードだって墓地へと言っていたのだ。

 

「罠カード、もののけの()くう(ほこら)から、墓地のアンデットを現世へと通じる道を作る!」

 

《もののけの()くう(ほこら)

通常罠

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。

 

 蘇らせるモンスターは、弱肉一色で手札から墓地へと捨てたモンスター。

 

「こい!ゴブリンゾンビッ!」

「キシャッ!」

 

《ゴブリンゾンビ》

効果モンスター

星4/闇属性/アンデット族/攻1100/守1050

 

(ゴブリンゾンビはフィールドから墓地に行ったときに真価が発揮されるモンスター。効果が無効となって呼び出されても、墓地は別だ)

 

 九尾の狐は貫通能力を持っているため、ゴブリンゾンビの攻撃表示で出した。

 その値は1100。

 決して高いとは言えないが、ナギの今のライフは1500。

 攻撃を受けても、ライフは400残る。

 

(このターン攻撃して来たら、墓地に行ったときの効果で守備力1200以下のアンデットをデッキから手札に呼べる。反撃は十分にできる!)

 

 もっとも、それだけではドロシーのライフ6200はすべて削りきれない。

 次のターンでナギが勝てるかどうかは、次のドローで何を引くかだろう。

 そう思った。

 

 けれど、ドロシーも確信したいたのだ。

 

「このデュエル、もらいました!」

 

 ナギがドロシーのリソースを考慮していたように、ドロシーだってナギが打ってくるであろう手を考えていたのだ。

 

「私はここで、1000のライフを代償とすることで、堕天使テスカトポリカの効果を発動します!」

「バトルフェイズで発動する効果!?」

「私の堕天使たちの何人かは、ライフと引き換えに自分の墓地の堕天使魔法、罠カードの効果を適用することができます!」

「……まさか」

「そうです!魅惑の堕天使の効果を適用します!」

 

 ドロシー LP4000→LP3000

 

 魅惑の堕天使の効果は、発動ターンの間だけ、相手モンスターを堕天させるというもの。

 

「ゴブリンゾンビのコントロールを、いただきます!」

「……まいったなぁ」

「そして、私は墓地に存在している魅惑の堕天使をデッキに戻します」

 

 九尾の狐の攻撃を止める手段はない。

 これは負けだ。

 

「……王様、ごめんなさい。負けたよ」

『仕方ないさ。ナギ、お前はもっと、広い世界を知るべきだ。エルが最強と思うはいい。俺様を最強と信じるのもいい。だが、それはほかに強いやつがいることを否定はしない』

「そうだね」

 

王に勝利をささげられなかったことを悔やむナギであったが、その様子をみていドロシーが微笑んだ。

 

「本当に精霊と仲良しなんですね」

「変なことですか?」

「いいえ。むしろ安心しました。精霊に力を与えられたギフトデュエリストは、最後は悲劇をたどることが多いですから。どうやらあなたは違うみたいです」

 

ギフトデュエリスト?

ドロシーも少し口にしたが、そんな言葉はナギは知らない。聞いたこともない。

それは一体何なのかと聞こうとしたが、その前に九尾の狐が尻尾に怨念を宿す方が早かった。

 

ドロシー相手に質問する時間はなかった。

けど、自分が一言口にする時間くらいはあるだろう。

 

「王様」

『なんだ』

「強い人はたくさんいるね。ボクももっと、強くならなきゃね」

『そうしてくれ。俺様が安心して見てられるやつになってくれ』

「うん」

 

 そして、ナギは九尾の狐の炎の直撃を受けて気絶した。

 けれど、その表情は穏やかであった。

 



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Duel5 堕天使の聖典

「……ン、んん?……ん?あれ、ここどこだろう?」

 

 ナギ・アーネストは目を覚ました。

 今はいつだろうかと考えるよりも先に、あたたかなお日様の陽射しが窓から差し込んできた。

 そうか朝かぁと考えて、朝ぁ!?と飛び起きる。その時点になってようやく自分が布団で寝ていることに気が付いた。はて、昨日の夜の最後の記憶はなんだったかと思い出す。

 

(あ、そうか。昨日は確かドロシーさんとデュエルして……)

 

 先代の孤児院の院長であるハジメのおじいちゃんに頼まれて、墓場の様子を見に行って、ドロシーさんと出会った。その後せっかくの機会ということでデュエルをした。その後は、

 

(うん、その後からの記憶がさっぱりとないや)

 

 全く覚えていない。

 この状況から推測するに、どこかに拉致されたというわけではなさそうだ。

 

 拉致なんて発想が真っ先に出てくるのは自分でも悲しいが、サテライトはルナの脅威からデュエルマフィアやギャングが発達した場所でもある。すなわち、人さらいなんてことも平気で起こりえるほど治安が悪い。ナギ自身デュエルギャングに拉致された経験もあるのが笑えない。あの時は大惨事になった。さんざん大騒ぎした後、大笑いしているのはお姉ちゃんくらいのものだった。

 

(お姉ちゃんがしばらく仕事でミソラタウンからいなくなっていてよかった)

 

 ハジメのおじいちゃんの家に行くことはユーゴには伝えてある。ハジメのお爺ちゃんの家に泊まることは今までにも多々あったし、今回もそうだろうと楽観視するだろう。けれど徒歩40分は行こうと思えば行けるものの、気軽に行こうとは思わない。

 

 けれどDホイールがあれば話は別だ。

 ちょっと様子を見に来て、ナギがいないことに気付いて、大事にしていたかもしれない。

 

「やってしまったなぁ」

 

 ナギは姉に心配はかけたくないのだ。

 姉にかかるであろう苦労は取り除いてやりたい。

 幸せになってほしい。

 エルも自分に対して似たようなことを考えているのは知っているので、知られなくてよかったと思った。

 

『よぅ。目覚めたか』

 

 すると、聞きなれた落ち着いた声が聞こえてきた。 

 ナギのデッキに宿る精霊である。知らない場所にいるので、この声が安心する。

 アンデットからの呼び声であるのに、まだボクは生きているという実感が持てる。

 

 

「おはよう王様」

『おぅ』

「ここ、どこ?」

『昨日会ったデュエリストの家だ。ミソラタウンの中だぞ』

 

 知っている景色があるだろうかと、窓を開けて顔を出そうとしたときに、ちょうどドロシーが様子を見にきた。彼女はナギが起きていることに気が付くと、心の底から安堵したように笑顔を浮かべた。

 

 

「ナギさん!おはおうございます!」

「昨日はご迷惑をかけました……申し訳なかったですよ……」

「そんなことは気にしないでください。起きてくれてよかったです。これから朝食にしようと思うので、一緒にどうですか」

「……そうですね。では、おことばに甘えます」

 

 ドロシーに連れられて部屋を移動する。

 豪華な食事があった……というわけではないが、昨日会ったばかりの人からの親切でいただくものだ。

 どんなものでもうれしかった。 

 

「いただきます!」

「遠慮しなくてもいいですよ。わたしは断食生活慣れてますし!」

 

 瞬間的に、箸をおいた。

 

「え?やっぱりやめましょうか!?ドロシーさんこそちゃんと食べましょう!なんなら後でボクたちの家に来てください!ごちそうしますから!ボクが魚を捌きますから!最近塩焼きを覚えたんですよ!」

「大丈夫です!そこまで貧乏はしてないですよ!あ、でもいざとなったら食べに行きますね。じゃあ私はみそ煮のやり方でも教えましょうか?」

「ぜひおねがいします」

 

 普段のナギだったらエルが心配しているかもしれないとすぐに断っていたかもしれないが、ドロシーが相手なので聞きたいこともあったのだ。それゆえに、純粋に提案してくれたのはうれしかった。うれしかったのだが、本当にもらっていいものなのかと別の意味で心配になった。今度お礼の品に何か食べ物を持ってくることにしよう。冷蔵庫とリンちゃんと帰ったら相談しよう。

 

 

「ドロシーさん。昨日のデュエルの途中でお聞きしたかったことをお尋ねしてもいいですか?」

「なんでしょうか」

「ドロシーさんはギフトデュエリストについて詳しいんですか」

 

 昨日のデュエルでドロシーは、ナギのことをギフトデュエリストなのかと聞いた。

 

 ギフトデュエリストとは日頃は聞きなれない言葉であるが、ナギにとっては意味を持つ言葉だ。

 

 ユーゴやリンがギフトデュエリストという言葉を聞いても、何それを答えるだけだろう。

 その反応が一般的なのだ。

 

 二人が無理だということはなく、精霊と関わらない限りはまず聞くことがない言葉だからである。

 

 ギフトは贈り物を意味する。

 そして、神様からの贈り物のことを才能という。

 

 精霊の力を使える、という才能のことをギフトと称し、その力をもつデュエリストをギフトデュエリストという……らしい。

 

 らしい、なんて他人事のような反応なのは、ナギ自身にその自覚がほとんどないからだ。

 ギフトデュエリストといえる存在を、大して知らないのだ。

 

(ボクが知ってるといえるギフトデュエリストって、あの子だけだからなぁ)

 

 精霊の声が聞こえるという発言をする人間には、ナギは今までにも何人かと出会ったことはある。

 しかし、あくまでもナギの知り合いという立場ではなかった。

 出会っただけで人となりなんて知らないやつがほとんどだ。

 

 唯一、友達ともいえる存在だったギフトデュエリストは、自分が天才デュエリストだなんて言われていたそうだが、本人は才能があるなんて微塵も思いもしないような人だった。近所を回れば見つかるくらい気軽に会える存在ではないのだ。絶対数として、どれだけいるのかわからない。シティ中を探し回っても、100人はまず見つからない。10人いるかいないかだと思っている。

 

(ボクが昔にやらかしたことを考えれば、お姉ちゃんに聞くなんて恥知らずもいいところだ。そもそも、ギフトデュエリストの中でもそんな名前がついているって知っているやつほとんどいないんじゃないかなぁ)

 

 精霊のことは見えるやつは探せば見つかるかもしれないが、ギフトデュエリストという名称で呼ばれていることを知らないやつが大半だとナギは考えている。王様(ワイトキング)がいうには、精霊の中でも対話できるタイプはそうはいないらしい。そこらの連中と一緒にしないでほしいというのは、王様の弁である。精霊が見えても、会話ができないので、単なる愛玩動物のように思っているやつもいるのだろう。王様がいうには、ナギは一般的なギフトデュエリストからは外れているらしいが、ナギがその一般的な奴を知らないのだ。ドロシーさんは知っているのだろうか。

 

 

「わたし自身には精霊を見る力はありません。けど、精霊に友人がいるんですよ。ギフトデュエリストの持つ精霊はデッキに眠っていますが、精霊自身の力で実体化することもできます。その時に出会ったんです」

「精霊にお友達が?」

「えぇ。今は真尾(マオ)という名前でいろんなところを見て回っているそうです」

 

 

 精霊が自力で実体化できるとは知っていた。

 精霊はそもそも、人間以上に多芸なのだ。

 ただ、自力での実体化はデメリットが大きいからやりたくないと王様は言っていたことがあることを覚えている。

 

 

「ドロシーさんのデッキにはいませんよね?」

「えぇ。あの方は誰かのデッキにいる精霊というわけではありませんでした。あの人はデュエリストの力を借りず、自力で精霊世界からやってきたそうです」

 

『………』

 

「そして、わたしにいろいろと教えてくれました。その中に、ギフトデュエリストという存在もいることを教えてもらったんですよ」

 

「ん?ということは、ドロシーさんは他のギフトデュエリストを知っているわけではないのですか?」

「今覚えば、あの人はそうだったのだろうという心当たりがある人は見たことがあります。けどその程度しか知りません。だから、ナギさんを見たときにはびっくりしました」

 

 ナギがドロシーのことをギフトデュエリストというものを知っている存在だとして話がしてみたかったように、ドロシーからしても、実物のギフトデュエリストを話をしたかった、ということだろう。

 

「私が墓場に結界を張っていたのを覚えてます?」

「はい。あれは精霊の力と王様から聞いたので、何が来たのかとビックリしましたよ」

「あれは、私が出会った精霊から授かった力の一部なんですよ。ギフトデュエリストと精霊は本来一蓮托生であり、上下関係はありません。相棒です。ですから、大抵の場合、精霊は願いをギフトデュエリストにかなえてもらう報酬として、力を貸すことが多いみたいです。私の場合、遠回りに精霊から力を授かっていますので、私も一応ギフトデュエリストになるのでしょうが、それを名乗るレベルではないようですね」

 

『そらそうだ。デッキに精霊がいないのに、力を与えようとしたらどうしても力が落ちる。なるほどな。俺様を視認できない程度に能力が弱体化して中途半端な形となっていても無理はないか』

 

 ナギにとってはそのあたりのシステムは理解が及ばないものの、ワイトキングからしたら納得のいくものだったらしい。王は精霊の力を使いつつ、本人に自分が視認でいていないというちぐはぐさが気になっていたようであったらしい。

 

「ところで、ナギさんもギフトデュエリストなら王様からの何か願いや使命があるのですか?」

「いいえ。王様はとくには何も……」

『俺様のやりたいことといっても、なぁ。そもそも俺様は大してナギに力渡してない……』

 

 屍たちの王(ワイトキング)はその能力の特性として、仲間がそろうことによって加速的に能力が強くなっていく。

 

 王様と出会ったばかりのころは何もできなかったのだが、デッキにワイトが増えていくたびに可能なことが累乗のごとく増加した。今ではナギに少し力を貸す程度のこと、なんてことはないのだ。しかし、ナギ自身王様をカードとしてデュエルで使うことはあっても、精霊としての力を必要とする場合がないのだ。あくまで、平和に生きている分に関してはであるが。

 

 

「ドロシーさんは何か頼まれたんですか?」

「えぇ、友人の頼みですからね。わたしはカードショップをやろうと思います」

「え?」

「カードショップをやろうと思います」

「ど、どこでですか?」

「もちろんこのミソラタウンを考えています」

「……」

「このミソラタウンを考えています。」

「聞こえなかったわけではないんですよドロシーさん……」

 

 呆然とするナギに対して聞こえなかったと判断したのかドロシーは反芻させるものの、ナギが呆然とした原因はもちろん難聴ではないのだ。

 

「正気ですか?」

 

 ミソラタウンは平和な町である。

 だがそれはサテライトでは、という前提がつく。

 

 事実だけを述べるとしよう。

 ミソラタウンとは、町の未開発を引き換えに安全を確率した町であるのだ。

 

 工業がさかんな町では金目のものが開発される。そしてそれを目当てに多くの人間が集まるのだ。 

 そこにはいい人も集まるし、悪い人も集まる。

 

 対し、ミソラタウンは産物もないので人が集まらない町なのだ。

 

 エルだって、孤児院の院長をやっているが、そもそもこの孤児院の運営のもととなる資金はミソラタウンで手にしているものではない。エルが昔一緒にデュエルチームをやっていた仲間たちと強引に企業化させて、その資金をもとにやっているのだ。エルが仕事としてミソラタウンから出ていっているのはそのためである。

 

 

「この町でやっても儲かるとは思えませんよ」

 

 

 強いカード。弱いカード。

 

 その違いは確かに存在する。

 

 使い道のないカードは存在しないのといえたとしても、弱いカードは存在しないというデュエリストはいない。誰だって、デュエリストならば自分のデッキこそが最強であると信じて戦うものだからだ。

 

 当然、強いカードは高価な値段で取引されるし、弱いカードなんて最悪捨てられる。

 

 このミソラタウンで強いカードの販売をしたところで、買うだけの余裕があるやつはいない。

 弱いカードは取り扱ったところで儲けは出ない。詰みである。

 

 カードショップを経営したところで、食べていくことができる気はしないのだ。

 

「ドロシーさんほどのデュエリストなら、シティで活躍できるでしょう。いえ、トップスに行くことだってできるでしょう」

 

 サテライトとシティの間には大きな壁がある。

 それは精神的なものでもあるし、物理的なものでもある。

 

 大きな壁を越えなければ、サテライトの人間はシティに行くことすらできない。

 そしてシティに入れたとしても、日頃の生活が苦しければ、仕事を求めて最下層の区域に行かされる。

 

 しかし、デュエルが強ければまた話は別だ。

 ルナの存在が過激化するとともに、シティは強いデュエリストを求めている。

 

 デュエルが強ければ、シティでの立場は盤石である。

 護衛という形でトップスへと招かれることだってある。

 

 一度デュエルしたからこその感覚だが、ドロシーは自分とのデュエルで全力を出していない。

 

 まじめにはやったのだろうが、絶対に勝つというだけの気迫がまるでなかった。

 

 その気になればもっと強いのだろう。 

 それゆえにカードショップという方向に行ったことが理解できず、ドロシーさんは何を考えているのだろうかと思案していたら、アドバイスが念話という形で飛んできた。

 

 

(ナギィ。オマエ、わからないのか。全く、お前はダメだなぁ)

(王様!まさか王様は理解しているというの!王様は頭が空っぽなのに!)

(馬鹿を言うな。俺様は筋肉はないが、それでもそこらの連中よりはパワーを出せるんだ。つまり骨で筋肉を代用できる。そして、頭が本来筋肉でできているのだとしたら、頭も骨で代用できるとわからないか?よって、パワーが出せる俺様は頭がいい)

(な、なるほど!)

(教えてほしいか?)

(是非に!)

(いいか。話のポイントはここだ。まず、ドロシーは金を稼ぐ必要なんてないのさ)

(どうして?)

(今のお前とエルと同じだよ。金を稼ぐ奴が別にいるのさ)

(……!わかったよ!王様!)

(よし、俺様達の察しのいいところを突き付けてやるのだ!)

 

 

 相棒のアドバイスを受けて、ナギは一つの結論に達する。

 ドロシーには、生活費を稼ぐ人が別にいるのだろう。

 ナギの場合はエル。彼女は実の姉だ。

 

 ナギ自身、なんとか商売でできることはないかなと工夫を考える年齢でしかないが、ドロシーは外見から判断してエルよりも少し年上程度だろう。つまり、20歳前後。20歳前後にもなって、生計を親兄弟に頼るということはないだろう。そうなると最も考えられる可能性は、

 

「ド、ドロシーさん!ご結婚おめでとうございます!」

 

 ドロシーさんは結婚するのだろう。または、すでに結婚しているのだろう。

 そして、このミソラタウンを拠点とする新婚夫婦として暮らしていくつもりなのだろう。

 

 ボクの完璧な推理に、ドロシーさんはぽかんとしていた。

 

「旦那さんはどちらですか?好きなものはありますか?お姉ちゃんと二人でまた挨拶に来るので、できたら旦那さんがいる時間を教えてください!」

「ま、待ってください!どうしてそうなったんですか!?」

「必然の流れです」

「違いますよ!勘違いです!私はまだ独身で、まだ……まだ……うぅう」

 

 ナギの声を否定する声が徐々に自虐的になっていく。

 あれ、しくじったのかとその時点でようやく気が付いた。

 

(バカな!俺様の推理は完ぺきだったはずだ!一体どこで狂ったというのだ!)

 

 相棒の動揺する声が聞こえてくるが、ドロシーの手前言わないことにした。

 ナギ自身王様の頭がからっぽである可能性を考えたくなかった。

 

「わたしはこれまでデュエル一筋で、ずっとデュエルばかりやっていたからなぁ……」

 

 遠い目をしドロシーをなんとかフォローしようにも、そのフォローはナギの最愛の姉に対してもぶっささるような気がしたので何も言えなかった。

 

(ボクがいなければ、お姉ちゃんもボクを育てるという重荷もないし、あれだけ素敵な人なんだからとっくに彼氏見つけて結婚してるだろうなぁ)

 

 そして、ナギの目も死んでいった。

 二人とも無言になった。

 

「「…………はぁ」」

『……あれ?どうした、お前たち。おーい!』

 

 ひとまず先に我に返った王様は、ナギの心を冷やしてみた。

 優秀な精霊は精神干渉をすることもできるのである。

 

「寒気がするッ!はっ!ド、ドロシーさんのデッキのモンスター、格好いいと思います!特にあの黒い天使たちが!」

「あぁ……わたしの堕天使ですか」

 

 なんとか話題を変えることにする。その仮定で気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「ドロシーさんは本来のデッキは堕天使なんですか?デュエルの前半と後半で戦い方が違っていた気がしますけど」

 

 ナギとのデュエルでドロシーが使用したモンスターは、前半で光の天使の使者。後半が闇の天使。

 

 天使族というくくりでデッキを組んでいることは疑問には値しないが、対峙してみて、随分と毛色が異なるものだと感じた。ナギも多くのアンデットを使うものの、最終的に行きつくには王様だ。ドロシーにとっての王様は、堕天使たちなのかと考えたのだ。

 

「実は、昔にデッキを変えたことがあるんですよ。それが堕天使です。光の天使たちがまだ入っているのは、昔のデッキの名残ですね。本当なら堕天使だけでデッキを作れるんですけど、どうにも思い出があるせいか外せないんですよ」

 

 困ったものですね、とドロシーは微笑んだ。

 

 デュエリストの腕は精神状態を大きな影響を及ぼす。

 自分に合うデッキ、合わないデッキは存在する。

 

 心境の変化でデッキが変わったというのなら、きっと今のドロシーに一番合うのは堕天使のみで戦うことなんだろう。

 

 けれどそうせずに、昔のこともひきづったまま戦うことにしたドロシーに対して大したものだとナギは思う。デッキとしては弱くなっても、デュエリストとしての精神によって時にはデッキパワーを凌駕する。

 

 カードに対する愛情が深い人なのだと、ナギは思った。

 

 それからご飯を一緒に食べながら、ドロシーさんの大体の人となりを理解する。

 カードだって使ってもらいたいのだから、その主を探す手伝いをする。それが今のドロシーの目的だ。

 

「ドロシーさん。よかったら、ボクも……」

 

 そんなドロシーの目的に協力したいとは思い、そのことを申し出ると、彼女は喜んでくれた。

 

「ありがとう。ナギさん」

「具体的な行動について、とりあえずはお姉ちゃんが帰ってきてから、また考えるとしますよ」

 

 しかし、悲しいことに、ナギには行動力がない。

 11歳でできることが大したことがないのだ。

 王様の力を借りるにしても、やれることは肉体労働くらい。

 根本的なことは何一つとして解決していない。

 

 初手で姉に相談するという現実に泣けてきた。

 

「お姉さんはどんな人なんですか?」

「このミソラタウンの事実上の顔役に近い人です。きっと力になってくれますよ」

「お名前は?」

「エル・アーネストといいます」

「エル?……エル?あれ、どこかで聞いたことがあるような気も……あれ?」

 

 エルは今でこそこのミソラタウンを拠点として生活しているが、昔はデュエルチームで活躍していたのだ。本人が言うには自分はそこそこ強かったらしいので、名前が少しは売れているのだろう。ドロシーさんが聞いたことがあっても疑問はない。

 

「んー?」

 

 しばらく考えていたようであるが、どうにもダメそうである。

 どのみち、名前が分かったところで会ってみないことには始まらないのでいいとしようか。

 

「ではドロシーさん。お姉ちゃんが帰ってきたら、また二人であいさつに向かいますね。一晩泊めていただいた礼ありますし」

「それじゃ送っていきますよ」

 

 ドロシーは玄関にでると、Dホイールを引っ張り出してきた。

 Dホイールを持つデュエリストは一定の力を持つ証。

 ドロシーが持っているのは当然かと思う一方で、やはりうらやましいと思った。

 

 いつか自分のDホイールを持てる日が、来るのだろうか。

 いつか、自分に自信を持てる日が来るのだろうか。

 

「それでは行くますよ。しっかりとつかまってくださいね」

「はい!」

「それと道案内お願いします。まだちょっとこの辺りについてはよくわかってませんから」

 

 ナギとドロシーが向かう先は、ナギやユーゴが普段住んでいる教会……ではなく、ハジメの家である。

 ハジメの依頼で墓地へ言ったはいいものの、そこから報告などしていなかったため、心配しているだろう。顔を見せて安心させてあげよう。

 

 しばらくDホイールで静かに移動していると、途中に昨日ドロシーと出会った墓地が見えた。

 

「実は、最初はデュエルギャングでも居座っているのかと思っていたんですよ。ドロシーさんでよかったです」

「そ、そんな風に思われていたんですか!?あ、そういえばどうしましょう。除霊の途中だったんですけど……」

「それについては、ボクが何とかしておきますよ。得意分野なので」

「それじゃあよろしくお願いしますね!」

 

 まぁ、仕方ないか。やってやるかという王様の反応を見て微笑んでいると、轟音が鳴り出した。

 急なことだったので、ビビッて後部座席からドロシーの身体を強く抱きしめてしまう。

 

「ひゃう!」

「ご、ごめんなさいドロシーさん!」

「ナ、ナギさん!しっかりつかまっていてください!行きますよ!」

 

 ドロシーはアクセルを強く踏み、Dホイールが加速する。

 

「え?ドロシーさん?」

「今の音は爆発音に近いです!何かあった可能性がありますから飛ばしていきます!」

 

 そして、行きついた先はハジメの家。

 ハジメの家は、仕事場の鍛冶場の近くに存在しているので、周囲に他の家はない。

 

 だからこそ、家の状態がすぐにわかった。

 

 ハジメの家の壁に、ヒビが入っていたのだ。

 

「院長先生!」

 

 そして、ハジメは外壁に叩き付けれたかのように倒れていた。

 

「先生!しっかりしてください!院長先生!」

「……おぉ。ナギか。帰ってきたのはうれしいが、逃げるのじゃ……」

「先生!」

 

 ハジメはもう70を過ぎている初老の男性だ。

 仕事も引退し、あとは趣味の時間に生きるような人物だ。

 激しい運動なんてできるはずもない。重症なのは見て取れた。

 

「おじいさんにこんなことをしたのはあたなですか!」

「……」

 

 そして、ハジメを壁に叩き付けたのであろう人物見て、ドロシーが声を挙げる。

 そこには生気のない20代くらいの男性がいた。

 

「こんなおじいさんを相手にして、恥ずかしいとは思わないんですか!」

「……千秋(ちあき)を出せ」

「へ?師匠?」

 

 千秋(ちあき)というのは、ハジメの孫娘だ。

 

 考古学を専攻しており、ナギにもよく教えてくれている。

 ナギは千秋の語る歴史の話が好きだったことや、使用するデッキも近いところがあるので、名実ともにナギの師匠と呼んで慕っている。千秋はエルと同性代だということもあって、なぎのことをかわいがってくれていた。

 

 

「どうして師匠が……」

「もう一度言う。千秋を出せ」

「院長先生。これはいったい……」

「さぁな。じゃがわかることは、あの娘はまた変なことに巻き込まれてそうだということだ―――――――ウッ!」

「院長先生!」

 

 ナギが肩を貸すが、ハジメはまだふらついている。

 早く寝かせてあげないといけないと思うが、状況がそうはさせてくれない。

 

「しらばっくれるなら、もう一度見せてやる」

 

 そういうと、目の前の男はカードを取り出した。

 

「……まずい!逃げるのじゃナギ!」

 

 そして、すべてを薙ぎ払うかのような暴風が吹き渡った。

 近くにあった森の木が折れる。少し遠くの墓の墓標が倒れる。そして目の前のナギたちは、二人そろって風に飛ばされようとして、

 

 ―――――――――バサッ!

 

 黒い羽が、すべてを遮った。

 ドロシーの堕天使が、現界していたのだ。

 

 現界しているのは堕天使だけではない。

 ナギの相棒(ワイトキング)もまた、現界してナギとハジメの二人を背中か二人を支えていた。

 

「お、王様」

(ナギ。相手は精霊だと思え)

「はい?精霊?」

(あぁ、厳密には、精霊の力を感じるが、どうも本体の力を感じない。おそらく、精霊に操られているか、力にとりつかれたか、そのどちらかだろう。いや、人間かどうかもあやしいな。人形かもしれない。死体を操っ五るのかもしれない)

「じゃ、じゃあ院長先生は……」

「どのみち、あいつの力をもろに受けてしまったということだろう」

 

 ワイトキングの言葉を前に、ナギは目の前の男に立ち向かおうとする。

 一歩踏み出そうとしたら、そのまえにドロシーの手によって静止された。

 

「ドロシーさん?」

「この人は私が相手をします」

「でも、ドロシーさん!相手は精霊ですよ!」

「私も、精霊とは縁がある。戦えないことはありません。あなたは早く、おじいさんを手当てをしてあげてください!私には、おじいさんのことを知らないあなたのほうが、私がやるよりも安心できるはずです!」

「でも……」

 

 戸惑うナギに対して、ドロシーは言った。

 

「大丈夫。こう見えても私、そこそこ強いんですよ」

 

 昨日デュエルをしてわかっている。

 ドロシーが勝てない相手に、今のナギは勝てはしない。

 

(そういうことだ。いくぞ、ナギ)

 

 ワイトキングはドロシーを一瞥すると、ナギをハジメをそれぞれ片手でかかえて飛び去って行った。

 そして、それを追おうとする男に対し、どこにいくつもりかと冷たい目でドロシーは問う。

 

「まさか、戦意のある相手を無視したりはしないですよね?」

 

 二人の間にしばしの沈黙が流れ、として無言のまま戦いがスタートする。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

??? LP8000 VS ドロシー LP8000

 

 

「俺の先行だ。フィールド魔法、フューチャー・ヴィジョンを発動する」

 

 

《フューチャー・ヴィジョン》

 

フィールド魔法

 

このカードがフィールド上に存在する限り、自分または相手がモンスターの召喚に成功した時、そのモンスター1体を選択してゲームから除外する。

召喚したモンスターのコントローラーから見て次の自分のスタンバイフェイズ時、この効果で除外したモンスターを表側攻撃表示でフィールド上に戻す。

 

「この効果によって、通常召喚したモンスターは互いに次の自身のスタンバイフェイズまで除外されることとなる」

 

「……強制的にタイムラグを生じされるフィールド魔法ですか」

 

 

 通常召喚を起点にして動いていくデッキというものは多い。

 このフィールド魔法によってワンタイムのタイムラグが、生じていく。

 デッキによってはそのラグは致命的なものとなってしまう。

 

「俺は神獣王バルバロスを通常召喚。こいつはレベル8のモンスターだが、リリースなしでも妥協して通常召喚することができる。そしてこの瞬間、バルバロスは未来へと跳ぶ。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

???

LP8000

HAND:2

FIELD:フューチャー・ビジョン

REVERSE:1

Exclusion:神獣王バルバロス

 

 強制的に召喚したモンスターが未来へと跳ぶ。

 そんな状況は、味方によってはドロシーの優位である。

 通常召喚しなければいいだけなのだ。

 

「私のターンッ!行きますよ!私は手札のヘカテリスを墓地に捨てることで、その効果を発動します!デッキから永続魔法、神の居城-ヴァルハラを加えます。そして、私は神の聖域を起動させます。さぁ、出て来なさい!」

 

 永続魔法が起動する。

 神が存在し、神に仕えた天使たちが待機している城が出現する。

 

 神の居城ーヴァルハラはこの効果は自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動と処理ができる効果がある。その内容は、

 

「居城から1ターンに1度、自分メインフェイズに聖域(手札)から天使族モンスター1体を降ろすことができます!居城から地上へと堕ちてきなさい!堕天使アスモディウスッ!」

 

 ドロシーも遠慮はない。

 最初から全力で、叩き潰すつもりでやる。

 

「アスモディウスは一ターンに一度、デッキから仲間を墓地へと堕ろすことができます!堕天使スペルビアを墓地へと堕ちさせます!」

 

 特殊召喚したモンスターは未来へと送られない。

 今のフィールドはがら空きだ。この機を逃すまいと、ドロシーは先制攻撃を仕掛けた。

 

「攻撃です!」

 

 アスモディウスの攻撃力は3000。

 アスモディウスはその黒き羽を剣のような鋭さをもって、敵に向かっていった。しかし、その途中にアスモディウスの目の前に爆弾が出現する。

 

「罠発動、万能地雷グレイモヤ。相手の攻撃力の一番高いモンスターを粉砕する」

「…………甘い!」

 

 爆弾によって、黒い煙が巻き起こる。

 視界が遮られる一瞬で、黒い羽が男に向かって飛んで行った。

 

「!?」

 

???

LP8000 → LP6200

 

「……?」

「わたしの堕天使をなめないでくださいね。そこらにいるような優しい慈愛に満ちた者たちではないのです。むしろ、堕天使とは神に背いてでも一念を果たそうとする人たち!意思の強さは並大抵のものではないですよ!」

 

 煙が晴れると、ドロシーのモンスターは二体へと増えていた。

 

「増殖?」

「いいえ。単に、両翼を引きちぎっただけです。そして、翼から生まれた怨念が、再び天使の姿を形作っているだけです。アスモディウスが分かれた姿。アスモトークンとディウストークン。先ほどの言い撃破アスモのもの。次はディウストークンで攻撃します!行きなさい!」

「ぐ!」

 

???

LP6200 → LP5000

 

「私は、カードをカードを二枚セットしてターンエンドです!」

 

ドロシー

LP8000

HAND:2

MAIN:アスモトークン(ATK1800):効果では破壊されない。

   ディウストークン(ATK1200):戦闘では破壊されない。

REVERSE:2

TABLE MAGIC:神の居城ーヴァルハラ

 

 

???

LP5000

 

 

「俺のターン。ドロー!この瞬間、フューチャー・ビジョンの効果により、バルバロスが戻ってくる」

 

HAND:HAND:1→2

MAIN:神獣王バルバロス(ATK3000)

 

「神の名を持つ獣の王ですか……いいでしょう!わたしの堕天使の相手にとっては不足なし!」

 

 むしろ、神の名前を持つモンスターが相手でデッキが喜んでいるのをドロシーは感じ取った。

 

「さらに、可変機械獣ガンナードラゴンを通常召喚。通常召喚したこのモンスタはまた未来へと送られる。バルバロスでアスモトークンを攻撃」

「……この程度、まだまた様子見に過ぎないですよ」

 

ドロシー 

LP8000 → 6800

 

「ターンエンド」

 

???

LP5000

HAND:1

MAIN:神獣王バルバロス(ATK3000)

EXCLUSION:可変機械獣ガンナードラゴン

FIELD:1 フューチャー・ビジョン

 

「では次は私のターン」

 

ドロシー 

LP6800

HAND:2 → 3

MAIN:ディウストークン(ATK1200):戦闘では破壊されない。

REVERSE:2

TABLE MAGIC:神の居城ーヴァルハラ

 

「ドロー」

 

 ドロシーはドローしたカードを見つつ、相手のデッキについて分析する。

 

(先ほどのターンまででいうと、相手のデッキは力を封印されているモンスター中心のデッキ)

 

 正確には、召喚した時に能力に制限がかかってしまうモンスターメインのデッキ。

 フューチャー・ビジョンによって未来に飛ばすことで、そのデメリットを消しているのだろう。

 

(私の伏せたカードの一枚は、天罰。手札一枚を捨てて、効果モンスターの効果発動を無効にして破壊するカウンター罠。けど、相手がモンスター効果を発動して使う類のデッキではなさそうね。効果を使うときはないかもしれないわね。まぁいいわ)

 

「どのみち、ご老人に無礼を働く無礼者は上から叩き潰します!天使モンスターであるディウストークンを神への貢物として、聖域(手札)から堕ちてきなさい。堕天使ディザイア!」

「ザァアアアアアア!!!!」

「ディザイアは天使一体をリリースして通常召喚できる能力があります!」

 

 ディザイアとは欲望を意味する。

 欲望に従い、神からの追放を受けた天使が降臨した。

 

「だが、通常召喚したモンスターは未来へと送られる!」

「神の摂理に歯向かうことは、得意分野です!手札から速攻魔法、禁じられた聖槍を発動します!」

 

《禁じられた聖槍》

 

速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない

 

「これでディザイアは現在に残ります!」

 

 堕天使ディザイア ATL3000 → ATK2200

 

 

「さらに、堕天使ディザイアは自身の攻撃力を1000下げることによって、相手フィールドのモンスター一体を墓地へと送ることができます!消えなさい!神の使途の獣の王!」

 

 堕天使ディザイアATK2200 → ATK1200

 

「場が空きました!堕天使ディザイアでダイレクトアタックです!」

「……」

 

???

LP5000 → LP3800

 

「ターンエンド。そして、聖なる槍の効果は消え、ディザイアは800の攻撃力を取り戻します」

 

ドロシー

LP6800

HAND:1

MIAN:堕天使ディザイア(ATK2000)

REVERSE:2

 

 

「俺のターン」

「……ドロー!」

 

 

 次は相手のターン……なのだが、ドロシーはその様子を見て疑問を感じる。

 状況は決して不利ではない。

 

 むしろドロシーがデュエル開始時からずっと優位にデュエルを進めている。

 だからこそ気付いた疑問だ。

 

(あの人、顔色が全く変わっていない……顔色が悪かったのは最初からだけど、こうも変化がないものなの?)

 

 デュエルで不利な状況になれば、大抵の人間はアクションを起こす。

 それがプラスのものであっても、マイナスのものであってもだ。

 

 自分のデッキを信じてドローする場合にも、決意が宿る。

 

(あの人からは何も感じない)

 

 だからこそ、淡々とデュエルを進める相手が、本当に感情を持っているのかとすら思う。

 フィールドに攻撃力2800のガンナー・ドラゴンが帰還して、その機械の龍を見る。

 

 当然無表情である機械の龍の姿が今相手をしているデュエリストそのもののようにすら見えた。

 

???

LP3800

HAND:1→2

MAIN:ガンナー・ドラゴン ATK(2800)

FIELD:1 :フューチャー・ビジョン

 

「いけ。ガンナードラゴン。ディザイアを攻撃だ」

 

 ガンナードラゴンは背中から鋸を出現させ、高速回転させて切りかかってくる。

 無言で実行されるその動作が、自分の意思のなさを示しているかのようだった。

 

「リバースカードを発動します!速攻魔法、禁じられた聖杯!ディザイアよ、聖杯の力をもって、本来の強欲さを取り戻しなさい」

 

 夢というものは原動力である。夢を叶える。夢が破れる。

 どちらにせよ夢を失うことは原動力を失うことを意味している。

 堕天使ディザイアという天使は、自分の願望をかなえるとともに気力を失っていく天使であった。

 

 その天使が、聖杯によってかつての夢を見た。

 

「グォオオオオオオオオオオ!!」

 

 堕天使ディザイアATK2000 → 3400

 

 もともとの秘めたる欲望を取り戻すことで、力を取り戻した堕天使が迎撃にはいる。

 そのまま機械の龍を粉砕すると、ドロシーは信じていた。

 

「手札から速攻魔法発動。リミッター解除」

「!?」

 

 リミッター解除。

 その魔法が公開された瞬間に、ドロシーは自分の不利を悟った。

 

 リミッター解除は自分の機械を暴走させて、己のスペックを強引に引きずり出すという魔法。

 機械には感情がないので、己の身体を無視した力を無理やりなら出せるのだ。 

 

 ガンナードラゴン ATK5600 VS 堕天使ディザイア ATK3400

 

「ぐゥ……」

 

ドロシー

LP6800→LP4400

 

 秘めたる欲望では届かない。

 

 堕天使は身体を真っ二つにされて、現世から消え去った。

 けど、それは相手も変わらない。

 

 過剰な力を引き出したものの末路なんて、自滅以外にはないのだ。

 

「ですが、あなたのガンナードラゴンも自滅します」

 

 リミッター解除。

 その効果を受けたモンスターは、エンドフェイズに破壊される。

 

「……ターンエンド」

 

???

LP3800

HAND1

MAIN:

FIELD:1 フューチャー・ビジョン

REVERSE:0

 

「私のターン。ドロー!」

 

ドロシー

LP4400

HAND:1 → 2

MIAN:

REVERSE:1

 

 

「……」

 

 ドロシーはカードを引きつつも、やはり得体のしれないものに対する見方をやめられない。

 

(私が追い込んでいる。それは間違いない)

 

 相手の場のモンスターはいない。

伏せカードもない。

場にある者といえばせいぜいフューチャー・ビジョンくらい。

それも、神の居城から直接天使を堕ろすことができる今はそこまでの脅威とは思わない。

 

(あと、ライフは3800。攻撃力を4000以上出されたら負けるという状況なのに、この変化のなさは何?)

 

 不気味に思えど、やることは変わらない。

 

「私は永続魔法の効果により、手札から堕天使ゼラートを降臨させます!」

 

ゼラートは、かつて神の聖域を求めて旅をしていた戦士の成れの果て。

神の力を手にする前から優秀な戦士だった彼は、神の力を手にしたことで高い攻撃力を持つ。

その値、2800。

 

「ゼラートでダイレクトアタックです!」

 

???

LP3800 → LP1000

 

「さらに、カードを一枚伏せてターンエンドです」

 

ドロシー

LP4400

HAND:0

MAIN:堕天使ゼラート(ATK2800)

REVERSE:2

TABLE MAGIC:神の居城―ヴァルハラ

 

「俺のターン」

 

???

LP1000

HAND:2

 

「俺は手札から強欲で金満な壺を発動する」

「私の知らない壺!?」

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの

裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

「この効果によって、エクストラデッキからランダムに6枚除外して、カードを二枚ドローする」

 

???

LP1000

HAND:1→3

 

「俺は墓地の獣戦士族モンスターと機械族モンスターを1体ずつ除外して、獣神機王じゅうしんきおうバルバロスUrウル手札から特殊召喚する。俺はガンナードラゴンとバルバロスを除外する」

「神の使徒の一体ですか」

 

出てきたのは攻撃力3800の大型モンスター。

けれどドロシーにとってはそこまでの脅威ではなかった。

 

 

「神への反逆者たちばかりを扱う私が、神の使徒のカードの効果を知らないと思ってますか!バルバロスUrはその攻撃力の代償として、相手にダメージを与えることはできないモンスターです!」

「手札からフィールド魔法、チキンレースを発動する」

 

《チキンレース》

フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、

相手よりLPが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージは0になる。

(2):お互いのプレイヤーは1ターンに1度、

自分メインフェイズに1000LPを払って以下の効果から1つを選択して発動できる。

この効果の発動に対して、お互いは魔法・罠・モンスターの効果を発動できない。

●デッキから1枚ドローする。

●このカードを破壊する。

●相手は1000LP回復する。

 

 

「チキンレース?」

 

 チキンレースとは度胸試しの一種のこと。

2台の自動車が同時に壁や崖に向かって突撃し、先にブレーキを掛けた方が臆病者(チキン)とされるゲームだ。

 

「たしかそのカードは、1000のライフで三つの効果のうちのどれかを起動するというもの。あなたのライフは1000。効果を使う余裕はない。そうなると、狙いは……フューチャー・ビジョンを消すことね」

「Urをリリースする」

「!?」

「そして、偉大魔獣ガーゼットを通常召喚する」

 

《偉大グレート魔獣まじゅう ガーゼット》

 

効果モンスター

星6/闇属性/悪魔族/攻 0/守 0

このカードの攻撃力は、生け贄召喚時に生け贄に捧げたモンスター1体の元々の攻撃力を倍にした数値になる。

 

「こいつはアドバンス召喚のためにリリースしたモンスターの倍の攻撃力を持つ」

 

偉大魔獣ガーゼット ATK7600

 

ガーゼットの攻撃力は7600。

そして、今のドロシーのライフは4400。

つまり、攻撃力が3200以下のモンスターと戦闘を行い、そのダメージを受けたらドロシーが負ける。

そしてドロシーの場には攻撃力が3000以上のモンスターはいない。

 

 この魔獣はきっと、どんなものでも取り込めるキメラ。

 黒い翼の天使を使うとはいえ、ドロシーもまた女。

 このキメラは直視していたい外見ではなかった。

 

「これで俺の勝ちだ」

「……あなた、勝利を目の前にしても表情が変わらないのね」

「話を聞く気はない。バトルだ」

 

 

 キメラの右腕が膨れ上がり、ゼラートに殴りかかってくる。

 この一撃を受けた段階で、ドロシーのライフは尽きる。

 伏せカードの一枚は使い物にならない。そんな状況だが、伏せカードは二枚あるのだ。

 

 

「俺の勝ちだ!」

「ダメージ計算時、リバースカードオープン、禁じられた聖典を発動!」

 

 

《禁じられた聖典》

速攻魔法

(1):お互いのモンスターが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。

ダメージステップ終了時まで、このカード以外のフィールドのカードの効果は無効化され、その戦闘のダメージ計算は元々の攻撃力・守備力で行う。

 

 

「互いの効果を発動したことにより、あなたのガーゼットの攻撃力が0となる」

「!?」

「そして、このカード以外のカードの効果はこの戦闘の間まで消える。つまり、チキンレースの効果も消えて、ダメージはあなたに通る!さぁわたしの堕天使よ、叩きのめしなさい」

 

 ダメージ計算時のタイミングで発動できるカードは限られている。

 聖典に対する反撃をくらうこともなく、堕天使は向かってきた魔獣の翼をへし折った。

 

「ぐぅううううううううううううう!?」

 

 そして、その勢いのまま相手のデュエリストを吹き飛ばした。 

 そのままドロシーは相手につかみかかった。 

 

「さぁ、いいなさい!あなたは一体何!? どうしておじいさんを襲ったの!?」

 

 ドロシーは詰め寄るが、相手は何も言わない。

 胸倉を締め付けようしたら、その瞬間に身体が崩れていく。

 

「!? あなたまさか……」

「………お見事」

「あなた、どこの配下?野良の精霊ってわけじゃないんでしょう!まさかルナ?違うわよね?」

 

 返答はなかった。

 体が崩れていく目の前のデュエリストに対し、ドロシーができることはない。

 

「………あぁ、デュエルで消えるのか。よかった」

「待って!わたしはドロシー!あなたを倒したデュエリスト!覚えておきなさい!」

「……あぁ。ありがとう。負けたものが、勝者に何も言わないのは不公平だ」

 

 そういって。目の前のデュエリストはドロシーだけに聞こえる声でつぶやいた。

 

 

「―――――――――――だ」

「!?」

 

 伝えることは伝えたと、そのまま彼は灰となって消えていった。

 チリとなり、風が吹くと跡形もなくなってしまう。

 ドロシーはそんなデュエリストの最後に、何を思ったのかは自分でもよくわからなかった。

 けれど、ただ一言つぶやいた。

 

「……物騒な世の中になったものね」

 

 



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Duel6 百鬼夜行の輪廻①

リンクテーマで一番好きなのはやはりティンダングルです。
なんか私の中でそうとうインパクトがあるんですよ。

お兄様がデュエルするの!?となった後、V兄様が使っていたような機械族テーマでも使うのかな、と思っていたら、出てきたのがあれですからね。



 

「なんてこった!」

 

 憤るようなユーゴの声が響き渡る。

 そこには後悔が突き詰められていた。

 

「俺がもっと早くに来てさえいれば、みすみすじいさんを危険な目にあわせたりはしなかったのに!」

 

 ナギとドロシーの二人がハジメの様子を見ている最中に、ユーゴがハジメの鍛冶場を訪ねてきた。

 ナギとユーゴは同じ教会で暮らしているが、一日待っても帰ってこなかったナギを心配して、翌日様子を見に来たのである。

 

 そんなユーゴが目にしたのは、手当てを受けて寝込んでいる年寄りの姿。

 さすがに驚いて、駆け寄って手伝いをし、一段階したときになってからようやく事情が呑み込めた。

 

「紹介しておきますね。こちらドロシーさん」

「はじめまして」

「オウ!よろしくな!俺はユーゴってんだ」

 

 ドロシーはナギの姉のエルとおそらくい同じくらいの年齢である。

 すなわち、11歳のナギやユーゴからすれば立派な大人ともいえる歳だ。

 そんな人に対して気軽な対応をしているユーゴは、生真面目なリンが横で見ていたら激怒するだろうと、ナギは思った。

 

「ユーゴさんですね。よろしくお願いします」

 

 年下の子供の言うことだとして受け流しているのか、そもそも一切気にしていないのかわからないが、ドロシーはユーゴの言い方にも一切気を悪くした様子はなかった。

 

「ナギさん、この子もギフトデュエリストだったりします?」

「ギフト……?なんだそれ?」

「王様の声が聞こえたりする人のことだよユーゴ君」

「あぁ、精霊のことか。悪いがオレはさっぱりだ」

「たいていの人はそうなんだけどね」

 

 カードの精霊の声が聞こえる人はレアだ。

 

 精霊側が実体化していれば、誰にでも聞こえるのだが、あいにくと実体化は精霊側としてもあまりやりたくはないらしい。カードの方から聞こえるように調整して話しかけることができたとしても、その逆は不可。たいていの場合は一方通行となってしまう。

 

「オレも、自分で聞くことができていたらよかったんだけどな」

「どうしてですか?」

「だって、そしたらナギのことももっとよく理解してやれるからな」

 

 ナギとユーゴ、そしてリンが一緒に暮らしているきっかけは成り行きに過ぎない。

 二人はエルが連れてきたのだ。

 ナギはそのことに嫌だとは絶対に言わない。

 

 ユーゴもエルからDホイールのことをはじめとしていろいろと教わっていきたいから、エルの身内相手に人間関係でトラブルは起こさないようにしようと思った。

 

 初めは互いに気を使っている関係だったが、一緒に食卓を囲めばどんな人間かもわかってくる。

 ナギはユーゴに対し、まっすぐな夢を持てる子だと好感を持った。

 ユーゴはナギに対し、ネガティブな夢を捨ててほしいと反感を持った。

 

 ユーゴの夢はシティのキング、ジャック・アトラスに挑戦し、シティのキングの座を手に入れるということ。ユーゴたちの年齢の子供たちにとってはわりとありふれたものである。だが、ナギはジャックには一切の興味を示していない。なら、ナギの夢は何かといわれたら、ユーゴにはいまいち理解できないものであったのだ。そして、おそらくその夢はかなえたらいけないものなんじゃないかともふと思った。

 

 理解が及ばなかった理由の一つは精霊のこと。

 精霊の声が聞くことができたら、ナギの気持ちを少しは理解できるのかと思ったのだ。

 

 

「仲がとてもいいんですね」

「おう!オレたちは親友だからな!」

 

 ユーゴはナギに約束したことがあるのだ。

 

「オレがキングになるところを、ナギには特等席で見ててもらうのだからな!」

「うん、楽しみにしているよ」

 

 自分の夢を笑顔でかたる少年の姿に、ドロシーは微笑ましいものを見るように見ていた。

 しかし、ふと表情を引き締めると、避けては通れない話題を出した。

 

「さきほどのおじいさんを襲撃したデュエリストについてですが……」

「何かわかったことがあるんですか?」

「精霊の力がからんでいることは間違いないのですが、どうも精霊側の意思とも違う気がします」

「どう違うんだ?」

 

 精霊に詳しくないユーゴにとっては、すべては伝聞の情報でしかなく。実感が伴わない。

 精霊の存在は肯定しているが、知っているやつとなると、

 

『本体が渡した力の一部が悪用された、といったところか』

 

 ナギのデッキにいる、ワイトキングのみ。

 ワイトキングは、ナギの口を借りる形で話していた。

 落ち着いた声色がナギのもとのは違うので、誰が話しているのかがすぐにわかる。

 

 一々実体化するよりもこの方が、楽らしい。

 

「うお!ひさびさに声を聴いた気がするぜ」

『困ったやつもいるもんだ。精霊といっても、人格も様々だ。あるやつは人間を愛し、あるやつは人間を信じず、周りの環境や影響を気にするやつもいれば、むしろ滅茶苦茶に壊れてしまえとか思うやつもいる。雑魚モンスターの精霊なら何をたくらんだところで無害だが、変に力をもっているやつは手に負えないことをやらかしかねない。何も考えずにやった愚か者がいるのだろう』

「オマエ、なんだかんだ言うが、ナギのこと大好きだよな」

『ふん』

「あれ、王様?もういいの?」

 

 ワイトキングは言うだけ言うと、さっさと意識をナギへと戻した。

 アンデットの精霊というと悪霊をイメージしやすいのだが、ユーゴにとってはワイトキングは過保護な御先祖様のようにも見えている。悪霊ならば、とりついている相手の健康や気分など一切気にしないはずだ。

 

「とりあえず、当面の目標ですが、彼がおじいさんのところに来た原因についてです」

「それなんじゃが、ちょっといいか?」

 

 声がした方を向くと、ハジメの爺さんが部屋から出てきた。

 

「院長先生!」

「おじいさん!もう大丈夫なんですか!」

「おぉ、大丈夫じゃ、お嬢ちゃん。心配かけて悪かったのぅ」

「ですが……」

「今はわしのことよりも、大事な話があるのじゃ。聞いてくれい。話はわしの孫娘のことじゃ」

「師匠……」

 

 ハジメの孫娘の名前は、千秋という。

 彼女はエルと同い年の少女である。

 もともとはハジメの身内として、孤児院の院長を継ぐ予定であったのだが、その仕事を引きついたのはエルであった。エルはしばらくミソラタウンを離れることはなかったし、千秋は自分でやりたいこともあったのだ。同世代ということで友達となったエルと千秋は、協力して仕事を割り振ったりプライベートを満喫したりしている。

 

(師匠、今どこでなにをしているんだろう)

 

 千秋が仕事としているのは、考古学。 

 それも、カードの歴史についてなども取り扱っている。

 

 ナギは千秋が話してくれる古代の話が大好きで、よく聞きに行ったものだ。

 この世界には特別なドラゴンが存在しているという話も聞いたことがある。

 

 ナギは精霊の声が聞こえるという特異な力があるため、弟子入りをする形で調査についていったことも多いのだ。

 

「あやつは千秋を探しているようだった。わしには、千秋の居場所を聞いてきた。なぁ、千秋がどんなことに巻き込まれているかわからんが、あやつの力になってやってはくれんかのぅ」

「お姉ちゃんが帰ってきたら相談してみることにしますよ」

「すまんのう」

「任せてください。師匠のことが心配なのはボクも同じですから」

 

 ミソラタウンのどこかにいるというのなら自分で探し回ればいいのだが、そうでないならエルの帰りを待って協力してもらった方が格段に早い。自分のDホイールでもあればいいのだが、あいにくと11歳でDホイールに乗っているところをセキュリティにでも見つかったらそく確保される。

 

「もちろん私も協力しますよ」

「ドロシーさん!」

「千秋さんという方とは面識がありませんが、これでもそこそこ名前が知られたデュエリストだったんですよ。きっと力になれるはずです」

「ドロシーさんが協力してくれるなら、頼もしいです!」

「ところで、ナギさんのお姉さんはいつお帰りになるか分かりますか?」

「お姉ちゃんならあと二日はあれば戻ってくるとは思います」

「本格的なことはお姉さんと合流してから考えるとしましても、当面のことを考える必要があります」

「当面のことってなんだ?」

「おじいさんの護衛をどうするか、です」

 

 ドロシーの意見は、ハジメへの再襲撃を懸念したものであった。

 千秋を探す手がかりが何もなかったからハジメの方にやってきたのなら、再び誰かが来る可能性もある。 

 今何よりも優先して気にするべきこどは、千秋の捜索ではなくハジメの身の安全なのだ。

 

「あ、そうか。院長先生のことを考えたら、ここから移動して教会の方に身をよせた方がいいのかな」

「それなんじゃが、護衛はいらんぞ」

「な、なに言ってんだよじいさん!現にじいさん寝込んでいたじゃないか!」

『よし、俺様の力で結界を貼るか。そしたら、デュエル以前に問答無用にやられることはないだろう』

「王様。そんなことが可能なの?」

『もちろん、デュエルに持ちこんだところでデュエルに負ければどうにもならん。どうするかは好きにしろ』

「じゃあ頼めるかのぅ。デュエルにさえ持ちこめばなんとかできると思うのじゃ。さっきはデュエルする前に問答無用で吹き飛ばされたからのぅ」

「じいさん!」

「ユーゴよ。心配してくれるのはわかっているが、わしは千秋がいつ帰ってきてもいいように、ここを開けたくはないのじゃよ。それに、教会へいっても、結局わしまで探しに行くわけにもいくまい。この歳じゃ、乗り物はあまり好かんのだ。それならば結局かわらんのじゃよ」

 

 ユーゴはハジメを心配している。

 だからこそ、ここではなく自分がいつもいるであろう教会の方へと移動すべきだと思っている。

 

 ハジメは千秋の身を案じている。

 自分のことよりも、千秋の助けになってもらいたい。

 

 互いに心配している相手が違うものの、その気持ちは本物だからこそすぐには譲るつもりはなない。

 

 

「ナギ!お前からもじいさんを説得してくれよ」

「ナギ。おぬしなら、わしの気持ちがわかってくれるよな」

 

 親友のナギは、ハジメを心配する自分の気持ちがわかるはずだとユーゴは確信し。

 身内のことを何よりも心配する気持ちは、姉を持つナギには説明するまでもないとハジメは思う。

 

 板挟みとなったナギに対し、提案をしたのはドロシーであった。

 

「デュエルをしましょう」

「え?」

「ユーゴさんはおじいさんを心配している。結界をわたしとナギさんで用意すれば、そうそう問答無用ではやられません。なら、おじいさんの強さをユーゴさんが信じることができれば、結果は出るはずです」

「そうじゃのうぅ。よし、やるか。ひさびさのデュエルじゃい」

「お、いったな。叩きのめしてやるぜ。じいさん相手だからって遠慮はなしだ」

「望むところじゃい」

 

 四人は外へと出る。 

 ユーゴとハジメは互いにデュエルディスクを装備して、向き合った。

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 ユーゴLP8000 VS ハジメ LP8000

 

「じいさん、先攻をゆずってやろうか」

「馬鹿もの。若者は元気に走り回るべきじゃ」

「そうかい。ならいくぜ、オレの先攻だ!」

「よいこい。遠慮はいらんぞ」

「オレはなら手札からSR(スピードロイド)シェイブー・メランを通常召喚するぜ。フィールドに風属性モンスターが存在することで、手札からタケトンボーグを特殊召喚できる。そしてタケトンボーグをリリースして、デッキからSRのチューナーを特殊召喚する。こい!赤目のダイズ!」

「スピードロイド?玩具のデッキですか。変形とかしそうですね」

 

 ユーゴのスピードロイドを初めて見たドロシーの感想は、見た通りのものだった。

 おもちゃをモチーフにしているデッキだが、最近のおもちゃというものはハイテクなのである。

 

「赤目のダイズが特殊召喚に成功したことで、その効果によりシェイブーメランのレベルを変更する。レベルを4から5に変更するぜ」

 

 SR シェイブー・メラン Lv4 → Lv5

 

「さぁいくぜ、レベル5となったシェイブーメランに、レベル1の赤目のダイズをチューニング!シンクロ召喚!さぁ出てこいHSR魔剣ダーマ!」

「けん玉!」

「ドロシーさんやったことあります?」

「実は苦手なんですよ、けん玉。ちっともできませんでしたね。懐かしいです」

 

 子供のおもちゃはドロシーから見ると懐かしいものばかりであったが、そう感じたのは年寄りのハジメの同じようなものだったようである。

 

「おぉう。よかよか。懐かしいのぅ」

「こいつは一ターンに一度、墓地のシェイブーメランを除外することで500のダメージを与えることができるぜ!」

 

ハジメ 

LP8000 → LP7500

 

「オレはカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

ユーゴ

LP8000

HAND:2

REVESESE:1

EXTRA:HSR魔剣ダーマ(ATK2200)

 

「なら、今度はわしのターンじゃな。ドロー」

 

 そして次からはハジメのターン。

 その時になってユーゴは考える。

 

(そういや、ハジメのじいさんってどんなデッキを使うんだ?)

 

 ハジメは、ナギが師匠と呼ぶ千秋という人のおじいさん。

 ユーゴは千秋とは面識こそあるものの、そこまで詳しいわけではないのだ。

 だが、千秋の使うデッキがどんな内容なのかは知っている。

 千秋のデッキは、アンデット族の脳筋シンクロモンスターで殴りに行くデッキ。

 ナギに師匠と呼ばれているほど仲がいいだけのことがあると思っている。

 

 さて、ハジメのデッキは……。

 

「それではわしは呪文をとなえさせてもらうとしよう。魔法カード、魔妖廻天(まやかしかいてん)を発動じゃー!」

「かいてん?」

「あ、ユーゴくん!廻天っていうのは天を、つまり世の中を回すっていう意味なんだよ!」

「つまり?」

「世の中の常識を一変させるっていうこと!この魔法一枚で院長先生の世界が動き出すよ!」

「この魔法により、これより始めるのは輪廻が回る世界。ついてこれるかな」

「よくわかんないが、全力で受けて立つぜ!じいさん!」

「この魔法の効果により、わしはデッキから魔妖(まやかし)を一体を手札にくわえることができる。波旬を手札に加える。そして召喚!いでよ、翼の魔妖!」

 

《翼の魔妖(まやかし)-波旬》

効果モンスター

星1/風属性/アンデット族/攻 600/守 400

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから「翼の魔妖-波旬」以外の「魔妖」モンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は「魔妖」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

 波旬とは仏教の用語で悪魔のことを指す。

 人を殺したり善行を邪魔するなど、仏道修行を妨げる悪魔の総称であるともされる。

 

 なら、魔妖とは、人を魅了して無心になることを阻害する連中のことでもあるのだろうか。

 

「波旬の効果により、デッキから(うるわし)魔妖(まやかし)妲姫(だっき)を特殊召喚する」

 

(うるわし)魔妖(まやかし)妲姫(だっき)

チューナー・効果モンスター

星2/炎属性/アンデット族/攻1000/守 0

(1):「麗の魔妖-妲姫」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードが墓地に存在し、「魔妖」モンスターがEXデッキから自分フィールドに特殊召喚された時に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果を発動するターン、自分は「魔妖」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない

 

「レベル1の波旬に、レベル2の妲己をチューニング!シンクロ召喚!(わだち)の魔妖-朧車!」

「車?」

 

(わだち)魔妖(まやかし)朧車(おぼろぐるま)

シンクロ・効果モンスター

星3/地属性/アンデット族/攻 800/守2100

 

 

「だが、所詮はレベル3のシンクロモンスターだ。そうそう大した効果は持ってはいないはずだ」

「それはどうかのぅ」

「この瞬間、墓地に存在する妲己の効果発動じゃ。妲己が墓地に存在し、エクストラデッキから魔妖が特殊召喚さらときに、魔妖すべてに愛されし姫はよみがえる!」

「な、なんだと?」

「レベル3の朧車に、レベル2の妲己をチューニング!シンクロ召喚!」

 

《毒の魔妖(まやかし)土蜘蛛(つちぐも)

シンクロ・効果モンスター

星5/地属性/アンデット族/攻2000/守1800

 

「そして、この瞬間、墓地の妲己の効果発動じゃ」

「それターン制限ねぇの!?」

「翼の魔妖(まやかし)-天狗をシンクロ召喚!」

 

翼の魔妖(まやかし)-天狗

シンクロ・効果モンスター

星7/風属性/アンデット族/攻2600/守1500

 

「さらに、妲己はよみがえる!レベル2の妲己を天狗にチューニング!シンクロ召喚!出てこい妖狐!」

 

(うるわし)魔妖(まやかし)妖狐(ようこ)

シンクロ・効果モンスター

星9/炎属性/アンデット族/攻2900/守2400

 

「なるほど、どんどんレベルを上げていく妖怪デッキですか。変わったデッキですね」

 

 ナギの使うモンスターと似た系統の奴らだとユーゴは思った。

 

 正直、ナギは切り札といえばワイトキングという攻撃力の暴力がいるものの、やることといえば割と多様だ。通常モンスターのサポートカードだってたくさん使うし、同名モンスターを並べる戦術だってやる。わりと相手を見て柔軟に対応しているように見える。

 

 

 だが、ハジメのデッキは一体のモンスターと一体のチューナーからここまで出してきた。

 妲己という妖怪に魅入られた者たち。 

 それが魔妖という連中であるのかとも思った。

 

「これで恐ろしいのは、手札を一枚しか使っていないということだ」

「シンクロ召喚に成功したことによって、妲己は復活する。そしてバトルじゃ!わしは妖狐でそこの剣玉を攻撃じゃ!」

「罠発動!重力解除!」

 

 重力解除はフィールドのモンスターの表示形式を変えるカード。

 守備表示のモンスターは攻撃することができない。

 

(うるわし)魔妖(まやかし)妖狐(ようこ)》 ATK2900 → DEF2400

(うるわし)魔妖(まやかし)妲姫(だっき)》 DEF0 → ATK 1000

 

 

「ならばメインフェイズ2へと移行する。魔法発動。苦渋の決断じゃ」

「苦渋の決断?それって確か」

 

 ナギが稀に使う通常モンスターのサポートカードだ。

 効果は、デッキからレベル4以下の通常モンスターを墓地へと送り、その同名モンスターをデッキから手札に加えるというもの。

 

「わしはこの効果で、デッキからヘルバウンドを墓地へと送り、一枚手札に加える」

「……?」

「二枚伏せる。ターンエンドじゃ」

 

ハジメ 

LP7500

HAND:3

EXTRA:(うるわし)魔妖(まやかし)-妖狐 DEF2400

MAIN:(うるわし)魔妖(まやかし)妲姫(だっき) ATK 1000

REVERSE:2

 

「よし、オレのターン」

 

 

ユーゴ 

LP8000

HAND:2 → 3

EXTRA:HSR魔剣ダーマ(ATK2200)

 

 ハジメはいきなりエースモンスターを出してきたが、考えばこれはチャンスでもあるとユーゴは考える。

 エースモンスターをここで倒せるだけの手札が、ユーゴにはそろっていたのだ。

 

「オレはSR(スピードロイド)パチンゴーカートを通常召喚!」

「パチンコをモチーフにしたモンスターなら、弾丸を込めて発射するモンスターですかね」

「よくわかりますねドロシーさん」

「ふふん、これでも結構博識なんですよ?」

「こいつは手札の機械族モンスターを捨てることで、効果発動!フィールドのモンスターを一体破壊する。オレが狙うのはもちろん、その化け狐!」

 

 パチンコモンスターに弾丸が装填され、発射された。

 その標的となった狐は、弾丸を受けてそのまま破壊された。

 

「これで狐は消えたぜ!」

 

 これで目下最大の障害を排除したことになるのだが、ハジメのデッキ、魔妖が動き出すのはこれからであった。

 

「レベル9のシンクロモンスターが破壊されたことで、天狗の効果発動!」

「!?」

 

 

《翼の魔妖(まやかし)-天狗》

シンクロ・効果モンスター

星7/風属性/アンデット族/攻2600/守1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「翼の魔妖-天狗」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードが墓地に存在し、元々のレベルが9の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。

(3):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カード1枚を選んで破壊する。

 

「わしは墓地に存在しているアンデット族モンスターであるヘルバウンドを除外して、天狗を特殊召喚する!」

「げ。復活しやがった!」

「ん?これってもしかして……」

 

 なんとなくデッキの特徴が見えてきたドロシーであったが、彼女もデュエリスト。

 ユーゴにアドバイスなど送らない。

 ユーゴが今やっているのは、ハジメとの真剣勝負だ。

 戦術も方針も、彼自身が決めるものだ。

 

「ならば、オレは墓地に存在している赤目のダイズとタケトンーグを除外する!これにより、ヒドゥン・ショット発動!」

 

 フィールドのパチンコモンスターに再び弾丸が装填され、発射された。

 発射は二発。

 

「カードを二枚、破壊する」

「オレは天狗と妲姫の二枚を破壊する!これで、フィールドはがらあきだぜ!」

「そうはいかない。レベル7のシンクロモンスターが破壊されたことで、墓地に存在している土蜘蛛の効果発動!。破壊されたことで、墓地から土蜘蛛を復活させる。除外するのは妲姫だ!そして、このカードが特殊召喚に成功した場合、互いのデッキの上からカードを三枚墓地に送る」

 

 

《毒の魔妖(まやかし)土蜘蛛(つちぐも)

シンクロ・効果モンスター

星5/地属性/アンデット族/攻2000/守1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「毒の魔妖-土蜘蛛」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードが墓地に存在し、元々のレベルが7の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。

(3):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。

 

 

 土蜘蛛の口から糸が吐かれ、ユーゴとハジメのデッキに接続された。

 そして、糸が絡まったカード三枚が墓地へと送られる。

 ここまでくると、ユーゴにも魔妖の全体的な特徴が見えてくる。

 

 

「まてよ……輪廻っていうのは生まれ変わりのことだろ?まさか、こいつらって……」

「そう!死んでも生まれ変わって復活する。輪廻をめぐるモンスターたちだ!」

 

 ただし、無条件で生まれ変わるわけでもないようだ。

 生まれ変わりの代償として、墓地にいる仲間を除外している。

 

(なーる!苦渋の決断でやっていたのは、墓地肥しの一環か。あれを使えば一体だけとはいえ、手札を減らさずに墓地にアンデットを送ることができるからな)

 

 死んでもよみがえるということだが、条件は無条件ではないらしい。

 アンデット系のデッキらしく、墓地のリソースと相談していく必要があるらしい。

 ならばユーゴの今やることは、

 

「オレが墓地から機械族モンスターを除外することで、500のダメージを与えるぜ!」

 

 できる範囲で、ハジメを削っていくことのみ。

 魔剣ダーマから発射されたビームがハジメに直撃した。

 

ハジメLP7500 → 7000

 

「いけ、魔剣ダーマ! そこの蜘蛛に攻撃だ!」

 

ハジメLP7000 → 6800

 

「土蜘蛛が破壊されたことで、墓地から波旬を除外することで朧車を墓地から特殊召喚する」

 

 

(わだち)魔妖(まやかし)朧車(おぼろぐるま)

シンクロ・効果モンスター

星3/地属性/アンデット族/攻 800/守2100

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「轍の魔妖-朧車」は自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードが墓地に存在し、元々のレベルが5の自分のSモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分の墓地から他のアンデット族モンスター1体を除外し、このカードを特殊召喚する。

(3):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターン、自分のモンスターは戦闘では破壊されない。

 

「朧車が特殊召喚に成功した場合、このターンわしのモンスターは戦闘では破壊されなくなる効果をもつのだ」

「どのみち、守備力2100は越えれないな。ターンエンド」

 

ユーゴ

LP8000

HAND:0

EXTRA:HSR(ハイスピードロイド)魔剣ダーマ(ATK2200)

MIAN:SR(スピードロイド)パチンゴーカート(ATK1800)

 

 

「わしのターン。ドロー!」

 

ハジメ 

LP7000

HAND:3 → 4

MAIN: (わだち)魔妖(まやかし)朧車(おぼろぐるま)(DEF2100)

REVERSE:2

 

 

「わしは手札からおろかな副葬を発動する。この効果でデッキから一枚魔法または罠カードを墓地へと送る。わしは、デッキのリビングデッドの呼び声を墓地へと送る。そして、手札のヘルバウンドを捨てることで、罠カード、ブービートラップEを発動じゃ!」

 

《ブービートラップE》

通常罠

(1):手札を1枚捨てて発動できる。

自分の手札・墓地の永続罠カード1枚を選んで自分フィールドにセットする。

この効果でセットしたカードはセットしたターンでも発動できる。

 

「わしは当然、リビングデッドの呼び声をセットする。そして、この効果でセットしたカードはすぐに発動でいる。リビングデッドの呼び声を発動!」

「となると、出てくるのは」

「当然、こいつじゃ!」

 

(うるわし)魔妖(まやかし)-妖狐》 ATK2900

 

「おぅ……状況が元通りになったぜ」

「それだけではない。魔妖はよみがえったときに、その真の力を発揮する」

「まさか、追加効果が!」

「妖狐の効果!このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊するのだ!」

 

 当然、狙われるモンスターといえば、

 

「グぅ」

 

 妖狐の手のひらに出現した火の玉を投げつけられて、魔剣ダーマはあっさりと粉砕された。

 

「いけ!妖狐よ。そのまま攻撃じゃ!」

 

 

 ユーゴの場にはSRスピードロイドパチンゴーカート(ATK1800)が存在している。

 しかしパチンゴーカートは攻撃力2900の前には無力であった。

 

「ぐあああああああああああああああ」

 

ユーゴ

LP8000 → LP6900

HAND:0

 

「ターンエンドじゃ」

 

 これでユーゴの手札は0。

 そして、フィールドにもカードが一枚も存在しない。

 

「さぁ、ユーゴよ。おぬしはこの百鬼夜行の輪廻を、お前は打ち破ることができるかのぅ?」

「これが、じいさんの魔妖(まやかし)ッ!」

 

 もはや、ユーゴはハジメを説得するという段階ではなくなった。

 自分も勝てるかどうかわからない。そんな状況まで追い込まれた。

 

 

 

 




遊☆戯☆王Arc-V 第82話 「究極の隼VS黒羽の雷」より。

クロウ・ホーガン「俺達コモンズは、トップスの奴らと違って、エースモンスター級のカードを何枚もエクストラデッキに入れておく事は出来ねぇ」

という発言があります。

ユーゴがまだ11歳なので、アニメ本編の年齢を遊矢と同じ14歳とすると、本編(スタンダード編)開始まだ少し時間があります。

作中キャラのエクストラ事情については、クロウさんの発言を踏まえていてください。
何を持っていて何を持っていないのかは、見ているうちになんとなく理解できてくると思います。

魔妖は、一つ前のビルドパックに国防が出たのが散々な評価を受けている理由であって、メインデッキを圧迫しないという最大のメリットはやはり大きいと思ってます。


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