数字落ちの優等生 (グリーム)
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入学編 入学編 第1話

前作を読んでくださった皆様、お久しぶりです。初めましての方は初めまして。キィチャと申します。以前投稿していた「魔法科高校の欠陥生」ですが、諸事情によりリメイクを検討しております。リメイク完了後は削除し、無かったことにしたいと思っております。まあ、とりあえずこの作品は全く別の作品ではありますが。
改めて、これから宜しくお願い致します。


――始まりは、時を戻すこと10年前。

 

「本日を以て、四堂家を二十八家から永久追放とする。以後、四堂家は紫藤家へ改名し、現当主 四堂青道を国外追放処分とする。」

 

この言葉を最期に、父の姿を見ることは無くなった。それと同時に、それまで優しかった母の姿を見ることも、無くなった。

 

 

それから十年の月日が、経過した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――2095年 4月東京都にて

 

「はあ…。やっぱり早過ぎたよなぁ」

 

今日は待ちに待った魔法大学附属第1高校への入学。憧れの一科生の制服を着て、期待に胸を膨らませて来たはいいものの早過ぎた。まだまだ時間に余裕があり過ぎる。仕方ない、少し見て回ろうかと思った時であった。何やら声が聞こえる。

 

 

 

 

「納得できません!」

「まだいってるのか」

「どうしてお兄様が補欠なのですか!」

 

 

なんとまぁ大きい声を。とはいえ、あれに介入する程の度胸を持ち合わせている訳でもない俺は、気にせず通り過ぎていった。

 

これから先に起こる悲劇の事など、何も考えずに。

 

 

 

少しばかり歩くと、ベンチがあるではないか。そんな覇気のない考えを持った俺は、遠慮なくベンチを利用する。すると、日差しが気持ちいいのだ。これは…寝てしまう………。

 

 

 

 

 

 

 

「………て……い。おき………。」

「起きて下さい!!」

 

「うわぁ!……びっくりした…。て、えっと、どちら様で?」

どうやら寝てしまっていたようだ。起こしてくれた子はとても先輩には見えない。同級生だろうか。

「あ、えっと、いきなり大声でごめんなさい。もうすぐ式が始まるので、起こそうと思っていたんです。それから、私は生徒会会計の中条梓っていいます。」

「……先輩でしたか。わざわざすみません。えっと、自分の名前は紫藤銀次と申します。本当にありがとうございました。中条先輩。」

「いえいえ、これも先輩の務めですから。」

そう言って、中条先輩は胸に拳を当ててご機嫌になる。……この人ちょろいな。と、中条先輩が続けて話す。

 

「でも、君が例の紫藤銀次君かぁ…。思っていたより優しそうで良かったなぁ…。」

「例の?一体、どんな話か聞いても?」

「はい。実技試験は文句なしで1位!どの部門も過去最高得点で、首席の子も最高得点だったのにそれすら上回る点数で、教員と生徒会で話題になってました。ただ…入試結果が理論を除いて、全教科70点だったのもあって、残念ながら入試結果は次席だったのも、これまた話題になってまして……。」

 

「そんな事に…。成程です。って、そろそろ時間ですね。色々とありがとうございました。中条先輩」

「いえいえ!また何かあれば、是非!」

そう言って別れた俺は、講堂へと急ぐ。

 

さあ、いよいよ魔法科高校での生活が始まる。

どんな形であれ、これからの将来がこの3年で決まる。それは学内においても、学外においても。そして何より、目的を果たす為の3年でもある。だからかな。この学校がどれ程のレベルなのか、非常に楽しみでならない。

 

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。


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入学編 第2話

講堂に着き、中へ入る。待ち受けていた光景はというと。

 

「これが差別意識ってやつの実態か…」

 

前列には一科生。半分より後ろは二科生と綺麗に分かれた光景。まるで、私達を差別してくださいと言わんばかりに。

 

だがしかし「郷に入れば豪郷に従え」という言葉があるくらいだ。ここで問題を起こすのも良くない。そう思った俺は前の席に座った。

 

すると定刻通りだったのか、

 

「只今より、魔法大学附属第1高等学校の入学式を開始します」

と司会らしき人が話し出す。

 

さあ、いよいよ始まる。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

まあ、魔法科高校の入学式だからといって、何か変わるのか。という訳でもなく、ごく普通の入学式であった。気になったといえば、総代の言葉くらい。その総代がなんと、先ほど男と口論になっていた女の子で、「皆等しく」だとか「皆仲良く」だとか、聞いていてヒヤヒヤする演説だった。流石に、首席と次席だ。同じクラスになる事は無いとは思うが、クラス割り当てを確認する。するとどうやら、俺は。

 

「A組ね…。何も無いといいけど。」

 

胸騒ぎがするが、これで今日のやるべき事は終わった。さあ帰ろ「ぎーん!!!」よし、帰「ぎーん!!!!」……………。

 

「銀!!私を置いていくとは何事ですか!今朝は一緒に行くt「煩い声デカイ」……ごめんなさい。」

「まったく…何時になったらお前は落ち着きのある人間になるんだ。そもそもな、寝坊したのはお前だろうが…優奈。」

「えへへ…。それほどでも「褒めてない」ごめんなさい。」

 

さっきから騒がしいこの女は、俺の側近。名前は浅井優奈。代々紫藤家の側近を務めてきた血筋らしく、小さい頃から俺に纒わり付いた、言わば……

 

「イソギンチャク」

「い、いそ、イソギンチャク!?!?」

 

そう、イソギンチャクみたいに俺の元を離れないのが特徴。とはいえ、魔法師としての才能は確かで、クラスは「B組でした」とのこと。難なく一科生になっているようだ。いやいや、本当に幸いだ。

 

「そうか。そうかそうか。そいつぁ良かったな優奈ぁ」

「へ?何がですか?」

「いやぁ、良かった良かった。これでお前は、俺から離れるということを漸く学ぶ機会が作れたじゃないか。」

「へっ?……まさか…!!」

「あぁ。俺はA組だ。良かったなぁ優奈ぁ」

「ウソだっ!!!!」

「事実だ。諦めろ。」

「今から校長に抗議を「やめろバカ」バカ!?なんですとぉ!?」

「はぁ……。もういいから。」

「いいから!?」

「少しは落ち着け。ほら、帰るぞ。」

「うぅ〜……」

 

さて、こんな茶番はともかく、今日の予定はこれにて終了。あとは帰宅するのみだ。さっきから「嘘だ……あんまりだぁ……」とブツブツ嘆いているこのイソギンチャクを引きずって、今日は帰宅するとしよう。明日からまた、張り切っていこう。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
お気づきになられた方もいらっしゃると思いますが、本作品は1話あたりの文字数を少なめに作成しております。理由は追々、ということで。次回もよろしくお願いします。


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入学編 第3話

今回ちょっと多めです。


翌日。普段と同じように起床し、優奈と朝食を摂る。なるべく手短に支度を済ませ、これまでと同じように家を出る。印象としては武家屋敷で、普通の一軒家と比べたらかなり広い。家の中は普通の家庭と変わらないのだがこの家には、優奈と俺の2人暮らしだ。それが原因で、使っていない部屋も数多くある。

 

さて、通学中も特に面白いことは無かったので、省かせてもらう。ということで、HRまで到着してしまった。といっても、今更緊張する事なんて何も無い。普通に中に入ったその時だった。何やら中が騒がしいのだ。すると、なんて事だ。総代の女の子と同クラスではないか。

 

 

「わーお。」

 

 

思わず口に出てしまった。それもそのはず。何せ彼女の周りは…

 

「これからよろしくね!」

「司波さん!これからよろしく!」

「仲良くしようね!」

 

なんて。どれだけ点数稼ぎたいんだよ…と思いながらも席につこうと思った。が、着けないのだ。何故なら、「紫藤」に「司波」だ。仕方ない。

 

(これは、様子見でもしようかな。)

 

そうして、俺の傍観劇は幕を開けた。と、思っていたその時だった。

 

「ねえ、席に座らないの?」

あれま、いきなり声掛けられちゃった。しかも女の子に。という初心気取りをするつもりは無いので、早速答える。

 

「えーっと。実はさ、俺の苗字が『紫藤(しどう)』っていうんだ。それで見てよ、あれ。自分で言うことじゃないけど、そこまで肝が座ってる訳じゃないからさ。どうにもあそこに近寄る気にはなれないって訳。あ、俺の名前は紫藤銀次っていいます。これからよろしくね。」

 

と、ちょっと丁寧に答えてみた。うん、我ながら気持ち悪い。

すると今度は向こうが口を開いてくれた。

 

「そうなんだ。なら私と同じ。えっと、北山雫です。雫って呼んで。こちらこそよろしく。」

 

と。なんか、似た様な境遇の子にいきなり出会えるとは…。と、感心していたその時。

 

「ちょっと待ってて。もうひとり連れてくる。」

と、雫がいきなり言い出した。そして来たのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

「え………………ウソ……。ぎん、君……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは俺自身予想していなかった。同じ魔法師であったから、もしかしたらとは思っていた。がしかし、それが雫の知り合いで、まして一校に来るとは思っていなかった。およそ、10年ぶりの再開になる。俺の印象は変わっている筈だが、向こうは相変わらずのようだ。未だにツインテールにしてるとは思ってなかった。

 

「えっと……ほのか、だよな。あはは……。」

 

10年前。つまり小学生の頃、最初に通った学校で知り合った俺の数少ない知り合い。それが目の前にいる彼女、光井ほのかである。

 

「ひ、久しぶり…だね…。ぎん、君…。」

「そ、そうだな。俺が一方的に引っ越しちまったからな。あ、あはは…。」

ぎこちない。というか気不味い。それもそのはず、10年ぶりなのだ。何から話せばいいか分からない。というか、何を話すべきかが分からない。と、そこへ手を差し伸べてくれたのは…

「ほのか、知り合いだったの?」

雫さんでした…。ナイス…。

「うん。雫と知り合う前の、ね…。」

 

奇跡って、あるんですね。うん。

 

―――――――――――――――――

 

その後、ほのかと話をしようと思ったのだが、担任によるオリエンテーションの説明が始まってしまった。……空気読めや。

 

そんな事はともかく、俺はその後の授業見学を一人で周った。そして、漸く昼休みになったが、ここで問題が起きた。あとから考えれば、これが全ての始まりだったのかもしれない。

 

 

―――――――――――――――――

 

「おい優奈。何処をさ迷ってたんだよ。」

「ごめーん!まだ校舎の造りを把握出来てなくて…」

「まあいいか。早くメシにしようぜ。」

「うん!そーだね。」

 

と、こんな会話をしながら優奈と食堂へ向かう。すると、

 

 

「司波さん。ウィードと相席なんて辞めるべきだ」

「君たち、この席から退いてくれないか」

 

まただ。また、総代の子の取り巻き共が何かしている。というか、会話を聞いている限り、これは酷い。と思っていると…

 

「銀。有象無象を見ていて苛つくので、排除しませんか?」

なんて、優奈が言い出すのだ。仕方ないという思いと、優奈の言うように苛つきを覚えながら、俺はその場へ向かっていった。

 

 

「その辺にしときなよ。お前ら。」

 

―――――――――――――――――

 

「その辺にしときなよ。お前ら。」

言ってしまった。だがもうどうでもいい。正直、もう既にこの学校に失望を覚えているくらいには苛ついている。

 

「お前は、ウィードの肩を持つのか?」

ウィード、ねえ…。

「下らない。だから、そんな考えしか持てないんだよ、低脳。」

 

この言葉に苛ついたのか、興が冷めたのか。取り巻き共は去っていった。

 

「文句ないよな。優奈。」

「ええ。流石は銀ですね。」

 

なんて会話をしながら、その場を立ち去ろうとした時だった。

 

「紫藤さん、ですよね。私は司波深雪です。本当に助かりました。ありがとうございました。」

 

総代の子にお礼を言われてしまった。

「いえいえ。俺もムカついてたので。それじゃ俺たちはこれで。」

 

そう言って、司波さんと別れた俺は優奈と食券を買いに行く。

 

これで終われば良かったのになぁ………。




気に入らなければ、遠慮なく低評価お願いします。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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入学編 第4話

突然だが「諸処に啼鳥を聞く」とはよく言ったものだ。昔の人は一体どんな頭をしていたのか気になるくらいにだ。理由?じゃあ教えてあげよう。今俺に聞こえるのはというとだな。

 

「司波さんは僕達と帰るべきだ!」

「一緒に帰りたいなら付いてくればいいじゃないですか!」

「僕達は司波さんに相談があるんだ!」

「はっ!そういうのは自活中にやれよ」

 

あーあ。雑音しか聞こえてこねえ。てかコイツらウルセェ。まったく何時まで喧嘩してんだよ小学生でも仲直りくらい出来るわ発情期ですかこのやろー。ま、人間に発情期とか存在しないんだけど。って、そんな事はいい。問題はこの……

 

「黙れ!ウィードが指図するな!」

「さっきからウィードって…。今の私たちに一体どれだけの差があるというんですか!」

 

この、馬鹿ども。特に一科生のどうしようもない勘違い野郎達だ。まあ今の二科生の発言も良くないが、元はと言えばこの一科の馬鹿どもが問題なのだ。「プライド」。こんなものに一瞬で、あっさりと心を取り憑かれているのだから、人間とはこれまた恐ろしい。

 

て、そんな場合じゃないな。

 

「そんなに知りたいなら、教えてやる!」

「これがウィードとブルームの差だ!」

ほらみろ言わんこっちゃない。え、お前ひと言も口に出してない?嫌だなあ何言ってんですか。

 

 

 

 

 

 

 

言う言わない以前に、考えれば分かるレベルなもんだから、口にするのすら惜しい程に呆れてるんですよ。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

とは言っても、何もしない訳にいかない。なんて事を考えながら、俺は行動に移しこう言った。

 

「馬鹿は馬鹿なりに学習しろ。犯罪者」

え、展開された起動式をどうやって消したって?いやぁそれは企業秘密だなあ。おしえてあげないよんっ。

 

「な、お前昼の!またウィードの肩持つのか!」

 

あらあら、すっかり取り憑かれていらっしゃる。けどまあこれなら、俺が出る幕でも無いか。

 

「優奈」

俺はそう言って、CADを閉まった。優奈も同様に。

 

その時だった。

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法の使用は、校則違反以前に犯罪行為ですよ!」

「風紀委員長の渡辺摩利だ。とりあえず事情を聞く。お前達は1-Aと1-Eの生徒だな。」

 

そう言って、二人の女の人がCADを構えながらやってきた。が、最悪だわこれ。何せ、どっちも………。

 

「さ、行くわよ?銀次君?」

「まさか言い逃れはしないよな?――銀」

 

昔馴染みの知り合いだ……。

 

―――――――――――――――――――

 

その後、風紀委員長こと摩利先輩と、生徒会長こと七草会長への弁明を、昼のお返しかは分からないが、深雪さんがしてくれた。それで納得がいったのか、二人は引き返していった。さて、お礼は大事だ。早急に済ませよう。

 

「深雪さん。すまない、助かったよ。」

「いえ、こちらこそお昼は助けて頂きましたので」

なんていい子なんだこの子は。と思いつつ、目的を済ませよう。

 

「改めて、紫藤銀次だ。よろしくね、深雪さん。」

「浅井優奈と申します。銀を助けて下さりありがとうございました。」

と、挨拶を交わした。ちなみに優奈はちゃっかりだ。そうして、他の二科生のメンバーである達也、エリカ、レオ、美月と自己紹介をし合い、雫とほのかも紹介した所で帰宅した。

 

さて、これにて波乱の1日は幕を下ろしたが忘れないで欲しい。これはまだ、高校生活初日だということを。




ヒロインどうしましょうか…。付き合わせ方は自分の考えで進めますが、誰がいいなどの希望がございましたら、感想にお願いします。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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入学編 第5話

ちょっと紫藤家について触れます。(教えるとは言ってない。)


翌日。何事も無かったかのように、ただ当たり前の日常を過ごすかのように登校した俺に待っていたのは「拒絶」だった。

 

「あいつ、ウィードの味方したんだってよ」

「補欠護ってヒーロー気取りのつもり?」

「おい、声でかいって」

 

こんな会話が、彼方此方から聞こえてくる。言いたいことははっきり言えばいいのに。

 

まあ、だからと気にするつもりは無いし、気にしたところでどうにかなる訳じゃない。そう思っていた俺の所へ、深雪さんがやってきた。

 

「おはようございます。紫藤さん」

「おはよう、深雪さん。そうだ、俺の事は気軽に名前で呼んでほしいかな。」

普通の挨拶に加えて頼んだ俺に対し、深雪さんは笑顔で「はい!銀次さん」と言ってくれた。ええ子すぎるやろ…。

 

「そういえば、七草会長が放課後に生徒会に来て欲しいそうですよ?」

「生徒会室に?昼休みじゃなくて放課後に?」

「ええ。ご本人がそう仰ってました。」

 

あぁもうこれ嫌な予感しかしない、いや予感じゃないよワンちゃんレベル越えてるよ確チャンものだよ。あぁ嫌だほんと嫌だ帰るもんいいもん銀次君おうち帰るもん。……………あぁ、不幸だ。

 

――――――――――――――――――

 

放課後なんてものはすぐにやってきてしまった。あれ程嫌がっていた俺ではあるが、勿論生徒会室の前までは来ているのだ。そう、前までは。さて、生徒会室の前まで来たんだ、もう帰「れないわよ?早く入ってね?銀次君?」………うっわ怖すぎ心読みやがったよあの女。

 

「はいはい。入りますよ入ればいいんでしょ、入れば。」

そう言って、しぶしぶ生徒会室に足を踏み入れた。がしかし、中には誰も居らず、その部屋にいるのは、俺と会長のみだった。

 

「さてと。なんで2人なのか、理由はわかるかしら?」

「いいえ?全くと言っていいほど。」

「そう。でもその前にお願いがあるの。」

「お願い?ですか。どんなですか。」

「あのねぇ―――そろそろ『ソレ』やめてくれないかしら?」

 

あーあ。本当にこの人ときたら。まったく……

 

「最高だよ。やっぱり猫と化かし合いをしたって化かされるのはこっちか。流石だよ。」

「はぁ……。相変わらず性格が悪いわね。一体何がアナタをそうしたのかしら。」

「さてねぇ。というかボクにそんな事を聞いたって無駄なのは、もうとっくに知っているだろう?いい加減本題に入ったらどうだい?」

「それもそうね。」

 

そう言って、七草は一呼吸置いて口にした。

 

「ブランシュについて、持ってる情報を全部売って。」

「成程。流石に十師族ともなれば、紫藤の本質を理解しているか。うん、そうだねえ。」

「父から全て聞いたわよ。『紫藤家』『四堂家』の事。ついでに貴方の役割も、彼女の役割も。」

 

あの狸は何を話してやがる。

 

「まあいいよ。2日くれるなら、安くしとくよ。」

「ええ。分かったわ。それでお願い」

 

さてと。ここから起こることはトップシークレットだ。事情なんてものを今は考えるつもりは無い。だが、これが俺の一つの存在意義だということを、約束しよう。

 

「了解しました。―――ここに盟約を結びし依代よ、我が意に従い、我が魂の礎になる事を誓うか?」

「誓います」

「心得た。此処に、汝と我の誓約を印す。三日目の月が登りし時。それを以て、誓約を破棄する事を、我はここに誓おう。―――これで、誓約は結ばれました。今後二日間の間、会長が指定した言葉に関する情報は、俺の演算領域を通して共有されるんで。それを今回の依頼分としてください。もし足りなかったら、元から持ってる情報を紙媒体でお渡ししますので。」

「分かったわ。ねえ、最後に1つだけいい?」

「はい?なんですか?」

「これは依頼とも関係無いし、家柄の事も関係無いわ。それだけは約束するから聞かせて。」

なら何なのか、なんて事を聞くのは無粋だと思い、俺はただ「答えるかどうかはともかく、質問は聞きますよ。」とだけ答えた。彼女はそれで満足したのか、優しさのある顔つきで一呼吸置いてから話しはじめた。

「あのね」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀次君はもう、昔みたいに呼んでくれないの?」




これでいいのかと思いつつも、ここでこう書いておかないと、この作品が成り立たないんです…。ご勘弁を。これは内容とは全く関係無いですが、この作品が読んでいて苦痛だ、イライラする、読む気になれない。という事があれば、他作品へ行ってもらって構わないです。というか、そういう場合低評価を押してもらって構わないです。万人に好かれる、嫌いだという人がいない。そんな作品は、創作物においては存在しませんから。作者として、それだけは読者の皆様には把握しておいてほしいです。

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。次回もよろしくお願いします<(_ _)>


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入学編 第6話

キャラがブレブレに感じる方もいらっしゃると思うので、そのうちキャラ設定をちゃんと公開します。ただ、早いうちに公開しちゃうと個人的に面白くない部分もあるので、もう少しお時間を下さい。


「昔みたいに…ねえ。ふーん。」

まるで興味が無いかのような、気の抜けた返事に思うかもしれない。だが、ここで互いの状況を説明すると印象は変わるだろう。

だって、互いに睨み合っているのだから。

 

「どうしても、と言っても?」

「まあ、そちらがそう望んでいるのは分かりました。ただ、こちらとしてはわざと喧嘩を売ってるようにしか聞こえないのですが?」

「あら、別にそういうわけじゃないのよ。ただ…」

「ただ?」

ただ。そう言った直後に、この女は頬を少しばかり赤らめだした。可愛いと思ったのはここだけの話にしておく。

 

「ただ、もう1度貴方と友人でいたい。それが私の望み…かな。」

「ふーん。あっそ。」

彼女が真剣に話すのに対し、俺は興味が無い様な態度を続ける。興味が無いと言えば本当の事だが、完全に無いという訳でもない。だから俺は、逆に話し始めた。

 

「先輩。」

「な、何かしら…」

「質問をしても、いいですか?」

「ええ。」

「では、早速。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……今、貴女は幸せですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「質問はこれくらいにしておきましょうか。すみません。お時間を取らせてしまい」

「う、ううん。大丈夫」

最初の質問がどれくらい経っただろうか。橙色の綺麗だった夕焼け空はとっくに消え去り、窓を見れば真っ暗な夜空である。日が暮れて、時間が経過した証拠である。

「さて。そろそろ時間ですし、今日は帰りましょうか。」

そう言ったのは俺だった。

「ええ。そうね。それでその…」

「分かってますよ。依頼の件はお任せ下さい。この名に恥じぬ成果を、お約束しますので。ところで、」

「ふぇっ?な、何?」

どうやら俺が話を切り替えたのが、意外だったのか。彼女は間抜けな声をつい、出してしまったようだ。こちらとしては気にしないが、淑女としてら振る舞いたい彼女としては恥ずかしいのだろう。顔をまた赤くした。

 

「もう暗いですし。駅までなら、送りますよ?」

「えっ!?え、ええと、直ぐそばまで迎えが来てるから。今日は、大丈夫…です…。」

「そうですか。なら、安心ですね。」

「そ、そうね…。」

帰宅準備を済ましている最中とはいえ、話題が見当たらない。なら話さなければいいのだが、それはそれで気まずい。

 

 

 

 

これが、10年という重さなのだ。

 

 

 

「それじゃあ。お先に失礼します。」

「え、ええ。今日はわざわざありがとうございました。」

これはきっと、生徒会長としてだろう。だが、俺はそれが何故か気に食わない。だから、敢えて今日の結論をここで出すことにした。

 

「いえいえ。じゃあ…………またね、真由美姉さん。」

 

 

―――――――――――――――――――――

 

帰宅後、優奈の雷が落ちたのは言うまでもない。連絡もせず、勝手に依頼を受け、挙げ句夕食の当番をサボって、作らせてしまったのだから、当然と言えば当然の結果である。

 

だがそれ以上に収穫もあった。が、それよりも先に、優奈のご機嫌取りをしなければいけない。元側近候補とはいえ、怒るとめちゃくちゃ怖いのが優奈の特徴なのだ。

 

「な、なあ優奈」

「………何」

「い、いやさ。本当に今日は悪かったって。今度からはちゃんと連絡するから」

「女と二人っきりでお話する事を連絡されても困ります」

「っぐ……!!い、いやそういうことじゃなくて。本当に悪かったよ。依頼の件も、夕食の事も。」

「夕食は別にいいです。でも…」

「でも?」

「依頼の件は、正直に言うともう受けて欲しくないんです。」

 

そう言った優奈は、涙目で心配をする様な顔をしている。

ここまで心配を掛けていたこと、ここまで気づいてあげられなかったこと。ここまで優奈が苦しい思いをする様になった原因。その全てである俺は、一体どれだけ愚か者なのだろうか。

 

 

「……理由を聞いても?」

「はい…。銀は、依頼の代償を分かっててやっているんですよね。」

「ああ。そうでもしないと…」

「そうでもしないと、奥様には辿り着けない。ですか?それとも、私の父や母、そして旦那様の情報を集められない。ですか?」

「なっ!?なんでそれを」

「知ってたんです。ずっと前から」

 

そう言った優奈は、既に涙を流すこと無く真剣な顔をしていた。

 

「旦那様方が行方を消した後、銀が跡を継いで依頼を再開するようになって少し経った頃、聞いてしまったんです。」

「聞いた?いったい何を?」

「当時の依頼主と、銀の会話をです。……悪いとは思ってます。でも、偶然の事で、それを知ってしまったんです。」

 

この話には、少し覚えていることがある。依頼を再開するようになった頃。初めてこの家の事を知った時の事である。しかもそれは「四堂」の情報ではなく「浅井」の情報を手に入れた時の事だ。優奈が言っているのは、恐らくこの事である。

 

 

だがそんな事はどうだっていい。

優奈に心配を掛けた事の方が大事だ。

 

「ゴメンな優奈。気付いてやれなくて」

「いえ。銀が無茶をする時は、いつだって人の為ですから。……………今回の依頼は別ですが。」

「そ、それもゴメンな。」

「もういいです。許してあげますから。…今回の件は別として」

「ぐ………ゆ、ゆうな?」

 

そう口にした俺は、恐る恐る上を向いた。そこに居たのは、涙目でもなく、真剣な顔付きでもなく、赤くしている訳でもない。ただ単純にニッコリとした黒い笑顔を見せている、「優奈様」だった…。

 

「銀次」

「は、はいいいい!!」

「私、前にも言ったよねえ?依頼は私の許可を取ってから受けろって。」

「あ、あはははは…。そう、だっけ?」

「銀次」

「は、はい!!」

「貴方……次は無いって前にも言ったわよねえ?」

「ぎ、銀次君馬鹿だから覚えてないなぁ…なんて」

「そう…。私との約束を守らない、連絡をせずに女とイチャイチャ二人っきりで談話。その上夕食の当番をサボって私にやらせる。へぇ、そんなにお仕置きして欲しかったんだぁ。へぇ……。」

「あ、あの優奈、さん?」

「そんな愚か者の銀次には……罰を与えます!」

 

そう言った直後、優奈は俺に電撃系統の魔法を放った。それをもろに受けた俺の意識はどんどん薄れていったのだった……。

 

 

 

 

 

これは後日談ではあるが同時刻。どうやら司波家でも同じような現象が起こっただとか。

 




最初は短い方がいいのかなと思っていたのですが、やっぱりこれくらいの方が良いんですかね…?宜しければ、感想にて読者様のお気持ちをお聞かせください。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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入学編 第7話

依頼の件から1週間が経った。勿論、依頼については既に後腐れ無く完了し、報酬も貰った。その事もあってか、優奈も少しずつ元の対応をしてくれるくらいには機嫌もよくなった。放課後に部活をやっている訳でもない俺は、図書館に少し立ち寄ったり、買い物をして帰宅するという平和な日常を送る毎日だ。風紀委員や生徒会に誘われたが、「忙しいのは嫌だ」なんていう巫山戯た理由で断った。

 

深雪さんにやたらとくっ付いていた連中とも話さなくなり、放課後は雫とほのか、それに優奈は部活、深雪さんは生徒会、達也は風紀委員、その他の皆も部活をやっているらしく、放課後は必然的に1人になることが多い。何ともまあ、まるで枯れた青春を味わっている、そんなある日の放課後の事だった。

 

 

恐れていた事が、起こり出した。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

『全校生徒の皆さん!』

 

それは突然の事だった。突如、放送で流れ出したこの声にビックリした人達がザワつき始めた。それと同時に、深雪さんが端末を確認し始めた。恐らく、生徒会の呼び出しだろう。そう思っていた。

 

「あの…銀次さん。」

なんと、俺に声を掛けたのだ。

 

「ん?なぁに?」

「実は生徒会長からの連絡で、銀次さんにも来て欲しいとの事なんです。」

「へ、へえー。そっか、それは仕方ないね。急ごうか。」

あんの女ァ…………!!!

 

―――――――――――――――――――――

 

「遅いぞ、って何故銀まで来たんだ。」

「呼び出しっすよ。―――あのクソ猫の。」

「なるほどな。真由美らしい」

 

摩利先輩とそんな会話をしているが、俺が今いるのは放送室前、つまりさっきの放送の犯人がいる部屋の前である。先程流れていた放送をここで振り返ろう。

 

『全校生徒の皆さん!失礼しました。全校生徒の皆さん。我々は差別撤廃と非魔法クラブと魔法競技クラブとの優遇措置の改善を求める有志同盟です。この件に対し、我々は生徒会と部活連に対等な交渉の場を要求します!』

という感じだった。……確か。

 

「それで、どうするんですか。摩利先輩」

「そうだな。十文字、お前はどうする」

そう言って摩利先輩が話を振った相手は、部活連会頭にして十師族「十文字家代表代理」十文字克人先輩。

 

「俺は、交渉に応じてもいいと思っている。」

見た目はまさしく、巌の様な人である。

 

―――――――――――――――――――――

 

その後、生徒会も交渉に応じる事を認め、達也が今回の件の主犯である、剣道部の二年生である壬生先輩に連絡をした。そして、その身柄をクソ猫こと、七草会長が預かることとなった。結果として後日討論会を行う事になり、その日は解決へ至った…………………………はずだった。

 

 

「おい」

「んぅ~?なぁに?銀次君?」

「なんで俺は帰れないんだよ」

 

そう。あの後、他の連中は帰っていったのにも関わらず、俺だけは帰らせてもらえなかったのだ。

 

「んー。ひ・み・つ!」

「よし帰「待って!」…んだよ。」

「少し、時間を貰えないかしら。」

「はぁ……。それは七草家としてか。それとも」

「七草真由美個人としてよ。」

「………………分かった。」

 

深呼吸をして、いよいよ口を開いた。

 

「お願いがあるの。」

「お願いぃ?依頼じゃなくて、か?」

「そう。これは生徒会長七草真由美個人としてのお願い。これは銀次君を生徒会にも、風紀委員にも、部活連にも入らなかった事を承諾した理由なの。」

「ま、とりあえず話は聞くよ。」

「ええ。………今回の件、やっぱり実働部隊は別にいると思うの。壬生さんのやっている事は、何処か違和感を感じるし、それに部長の司君が出てこないということ、加えて君からの情報にもあったブランシュ日本支部のリーダーの事。これを全部整理すると…」

「どうもキレイすぎる。まるで、昔から計画されているかのように」

「ええ。」

 

今回の件。つまり、ブランシュ―――反魔法主義団体。この連中の部下であるエガリテ。そのエガリテの証であるリストバンドを着けた生徒。そして、剣道部部長とブランシュ日本支部のリーダーの関係。これらが今回の依頼で、俺から彼女に渡した成果である。だが、この情報全てを見れば見るほどに、計画性を感じる様になるのだ。それは調べていた俺も、成果を手に入れた彼女も同様に。その事を踏まえて、俺は話を聞くことにした。

 

「だから、お願いがあるの。」

「聞こう。」

「討論会の日。君に学校を巡回して欲しいの。今年度の入試次席として。でも、これはただの我儘。だから、もし嫌なら「やるよ」…え。」

「だから、やるって。それ。」

 

「そう…。ありがと、ギンちゃん。」

「……姉さんは俺が守るよ。」

互いに聞こえないよう、二人はそう口にしたとか。

 

それから2週間が経過した。そして、いよいよ討論会当日を迎えたのだった。

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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入学編 第8話

放送室騒動から2週間、いよいよ今日は討論会当日。緊張感と不安に押し潰されそうな雰囲気を持つ通学路ではあるが、一科生の校舎に入れば雰囲気はガラリと変わった。

 

「今日の討論会行くー?」

「行かない行かない。部活」

「私正直興味無い」

「だよなーウィードがまあ張り切っちゃってさ」

 

校舎に入った途端に聞こえる、この様な会話の数々。

まったく、だからこの学校には期待を出来ないというのに。

 

 

□ □ □ □ □

 

下らない会話を聞きながら、俺はゆっくりとHRへと向かう。

優奈は俺の考えを察したのか、黙りとしている。

 

「じゃ、また昼休みな」

「はい。また」

 

軽い会話を済ませて別れる。そして、そのまま自分の席へ向かう。

 

「雫、おはよ。深雪さんもおはよ。」

「おはよう銀」

「おはようございます、銀次さん。」

 

いつもながら、ここまではもう慣れたのだ。

だが問題はここからだ。

 

「ほのかも…その、おはよう」

「あ、う、うん。……おはよう」

 

そう。彼女、光井ほのかである。入学式翌日に再開して以来、彼女とはまともな会話をしていない。元はといえば、相談も無しに引っ越した俺が悪いのだが、それでも目も合わせてくれない。こんなやり取りがもうひと月近く続いているのだ。

 

□ □ □ □ □

 

「それで、皆は今日の放課後は?」

 

「参加しようと思ってる。深雪は?」

「私は生徒会があるから、勿論参加するわ」

「そっか。それで、ほのかは?」

「………え、ええと雫と見に行くよ。うん。」

俺の声に反応出来なかったのか、それともわざとなのか、ほのかは少し間を開けて答えた。

「それで銀は?」

「あぁ俺は…」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「んー。また後で話すよ。」

「分かった。」

 

そう言って雫は自分の席に座った。こうして、安らぎは去っていった。

 

□ □ □ □ □

 

その後何かあったかといえばそういう訳でもなく、昼休みも相変わらず優奈と二人で食事を摂った。何かあるかといえば、あるのはきっとこの後だろう。俺は生徒会長権限で、特別にCADを携帯しながら巡回を既に開始していた。授業が終わってから1時間半近くは経過したから、そろそろ討論会も終わるだろう。そう思っていた時であった。

 

ドォーン

 

実技棟から爆発音、それと同時に煙が上がったのが確認できた。

 

「どうやら、予想的中ってか。」

 

独り言を口にしていたその時だった。

 

 

「銀次君、聞こえるかしら」

声の主は、七草真由美生徒会長本人だった。

 

□ □ □ □ □

 

「銀次君、聞こえるかしら」

「こちら紫藤です。聞こえてますよ」

「良かった…!!じゃあ、現状の説明をするわね。どうやら、実働部隊は実技棟以外にも居るみたいなの。」

「でしょうね…。目的は恐らく、図書館でしょう。魔法科高校は大学の資料を謁見出来るから、大方目的は産業スパイと変わらないと思われますよ。」

「そう…。なら、この後の判断は貴方に任せます。」

「りょーかいです。では、また」

 

この言葉を最後に、俺は通信を切りながら図書館へと向かった。久しぶりの実戦をする羽目になってしまったんだ。それなりに痛めつけなければ、気が済まないというモノだ。




真由美との会話メインになってしまっていますが、どうにも雫やほのかは原作も影薄い話なので…。次回からはどうにかなるんですけどね…。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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入学編 第9話

気が向いたら入学編の閑話を入れるかもしれませんが、1話のみになると思います。よろしくお願いします。


図書館に向かった俺だが、明らかにミスを犯している。優奈を連れてこなかった事だ。敵の目的が図書館ならば、戦力を集めているのは間違い無いだろう。さて、どうしたものか………。

 

□ □ □ □ □ Side優奈

 

私、浅井優奈には現状が理解出来ていない。放課後になって、いつも通り部活に参加したら、なんとテロリスト。ちなみに部活は雫やほのかと同じだけど、今日は二人とも討論会を見に行ってしまった。こういう事があると、いつもなら銀からの連絡が来るのに、今日は来ない。だから、私はとりあえず銀を探す事にした。まずは体育館。中庭にも寄るけど、きっと誰かが戦っているだろう。

 

~Side out~

 

□ □ □ □ □

 

途中で敵を倒しながらの移動だった為、時間は掛かったものの図書館に到着した。そのまま扉を迷いなく開ける。するとやはり、と言うべきだろうか。

 

「あらら、沢山いるねえ」

 

目の前には、敵が待ち構えている。数を見れば、ざっと20人くらい。

うん、やっぱり優奈を呼ばなかったのはミスだったよ。とはいえ、そんなことを言ってる場合ではない。仕事はちゃんとしようじゃないか。

 

「お兄さん達さ、そこ退いてくれたりしない?」

「ここから先は通さぬ」

「だよねー。やっばりだめ?」

「貴様…余程痛い目に遭いたい様だな」

「どうかな。案外痛い思いをするのは……そっちかもよっ!!」

 

茶番劇程度の交渉が決裂した。

ならばやる事は1つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どちらかが息絶えるまでの、殺り合いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □

 

どれくらい時間が経ったか。という程でもなく、むしろ瞬殺と言っていいレベルの圧倒的な実力差。

 

「まさか…貴様…」

 

最後の一人がそう口にしていたが気にすることもなく、ただ魔法を撃つ。照準機能の付いた銃型CADから放たれたその魔法は、一瞬にして対象を焼き尽くし、消し炭にする。遺体すら遺さないその残酷な魔法は「消滅」という言葉がよく似合う。この魔法を俺は「デモリッション」と呼んでいる。すると、それを見ていたのか…

 

「銀、今お前は何をした」

と、話しながら達也にCADを向けられた。解せぬ。

「テロリストを消し炭にしただけ。OK?」

「対象を消し炭にするだと?聞いたことがない。」

「そりゃあ俺のオリジナルだし、インデックスへの提供も出来ないってこんな魔法。ってそれより、まだ残ってるみたいだけど、どうする?達也の知り合いでしょ、彼女。」

俺達が話してる間に降りてきたのか、先日の放送室騒動の主犯の壬生沙也加が姿を見せたのだ。

 

「ここから先は、私が通さない」

そう言って、取り出したのは指輪だった。

 

しかも、軍事物資で有名なアンティナイト付きの。

 

キャストジャミングを使いたいのだろうが、残念な事にこのメンツには関係無い。何せここには、体術の天才である達也、入試首席である深雪さん、達也に付いてきた千葉家出身のエリカ、そして……

 

「遅いぞ。」

「私に連絡しなかったクセに」

 

独学ながら、剣技と柔術のスペシャリストである優奈が揃っている。今更キャストジャミングなんて、関係無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、俺?俺は……秘密♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、まあそんな事はいい。問題はこれからだ。

 

「誰が相手になるのかしら」

壬生先輩はそう口にした。すると、何やらエリカが嬉しそうだ。

 

「エリカ、行くか?」

「うん。銀次君は休憩してなよ。」

「了解」

 

 

「…というわけで、初めまして壬生沙也加先輩。1-Eの千葉エリカです。お相手願えますか?」

「ええ。かかってきなさい。」

そういった直後、エリカは特攻を仕掛けた。

 

「これ、渡辺先輩と同じ!?」

「残念。私のはひと味違うよ!!」

 

□ □ □ □ □

 

結局、勝者はエリカだった。一度仕切り直しはしたものの、エリカの剣術はあまりにも洗練されたものであった。ただ、ちょっと本気でやり過ぎたのか…

 

「ごめん先輩。骨折れてるかも。」

と言うのだ。ここは仕方ない。俺の出番か。

 

「担架使って運ぶぞ。達也、優奈。手伝え。」

「はーい」

「分かった」

 

 

 

こうして、テロリスト達の襲撃は幕を下ろした。さあ、次は黒幕を当ててみせようじゃないか。

 

□ □ □ □ □

 

担架を使って壬生先輩を保健室に連れて行くと、待っていたのは「三巨頭」と生徒会であった。

 

「皆、お疲れ様でした。」

そう口にしたのは七草会長。

「それで、結局敵の目的は何だったんだ」

「図書館にある大学の資料で間違いないかと」

「そうか。それで有志同盟は、上手く弱みに付け込まれた。という事だな」

「恐らく」

壬生先輩の怪我を診ている間、俺は十文字会頭と情報の交換を行っていた。それが終わったところで、今度は壬生先輩に話を伺ったのだが、衝撃の事実が判明したのだ。

 

「摩利先輩…。流石にそれはちょっと…」

「待て!私はそんな事言っていないぞ!」

「じゃあなんて言ったの?」

俺、摩利先輩、七草会長の順で口にした。何でも壬生先輩の話によると「お前では私の相手にならない。自分の実力に合った相手を探してくれ」と言われたんだそう。これが本当なら最低だよな…。

 

「確か私はこう言ったはずだ。[私ではお前の相手にならないから、自分の実力に合った相手を探してくれ]と。剣術勝負ならともかく、単純な剣の勝負なら私は壬生には到底叶わないぞ。」

「本当に?嘘じゃないですね?」

「あぁ。誓って嘘はない」

摩利先輩は自信を持ってそう答えた。

なるほど、答えが見えてきた。

 

「そうすか…。会長、会頭。」

「何かしら。」

「これは恐らく、記憶の改ざんで間違い無いでしょう。それからエガリテが出てきたんです。黒幕もブランシュ日本支部で間違い無いかと。」

「そうか。それで紫藤、これからどうする。」

「さあ?少なくとも俺は、自分に害がなければ放っておくタイプなんで、なんとも。まあ被害が出たら徹底的に潰しますが。」

「そうか…ならば」

 

その直後、十文字会頭は意外な人物に声をかけた。

 

「司波、お前はどうする」

なんと、達也に声を掛けたのだ。

 

「俺は、自分と深雪の日常を壊そうとした奴らを放っておくつもりはありません。すぐにでも向かうつもりです。」

「分かった。車は手配しよう」

あらら、行くのね。すると、

どうやら行くのは二人だけじゃない様だ。

 

「達也、俺も行くぜ」

「達也くん、私も行く」

エリカとレオも参戦する様だ。

これなら俺は要らないだろう。

 

「じゃあ、俺は帰りますね。」

卑怯者だとか薄情者だとか。そう言われても構わない。それでも俺が行った所でやる事は無いのだ。周りの反応も予想通りだった。

「お前は…この状況を分かっているのか!」

「紫藤!巫山戯るのも大概にしろよ!」

「紫藤君、どういうつもり?」

「おいおい銀次、そりゃあねえんじゃねえの?」

摩利先輩や服部副会長、エリカやレオがそう言うが知ったこっちゃない。と、思っていたその時だった。

 

「銀次君。もしかして今日って…」

七草会長がそう言った。どうやら分かっていた様だった。

 

「七草先輩の予想通り、今日は【あの日】です。勿論この非常事態なのは分かっています。でも、それでも僕は、毎年この日だけは【紫藤】の名を棄てているつもりです。それだけの覚悟をしてこの場にいるんです。それに本来ならば、今日は休むつもりでした。だから申し訳ないんですけど、僕も優奈も今日だけはこれ以上、他人に時間を譲るつもりは無いです。それに今日だけは…この10年、僕は1度も【紫藤】として生きた事はありませんから。」

「私も銀と同じです。今日だけは私は…銀の友人では無いですから。浅井優奈として、一人の側近として、覚悟を決めているつもりです。だから、私も銀同様に今日はこれでお暇させていただきます。御迷惑をお掛けしますが、すみません。今日だけは譲れないです。」

 

そう言って、俺と優奈は座っていたベッドから腰を持ち上げた。

 

「じゃ、後は頼みます。押し付けた様で申し訳ないんですけど、今日はこれで失礼致します。」

 

その言葉を最後に、俺と優奈は保健室を、学校を後にした。

 

 

□ □ □ □ □

 

後日談というか、後から聞いたこと。

あの後、カウンセラーの小野遥先生から、ブランシュ日本支部のアジトの居場所を提供してもらったんだそう。場所は、意外にも一校の傍にある廃工場とのこと。メンバーは達也に深雪さん、エリカにレオ、十文字会頭にこれまた驚く事に剣術部の桐原先輩も向かったらしい。敵のボスであった司一は、やはり魔法を使って記憶の改ざんをしていたとのこと。彼の止めを刺したのが、桐原先輩でその瞬間はなかなかの迫力だったと、達也は熱弁してくれた。

 

 

ところでこれにて一件落着。というのが今回の表向きの結末なのだが、俺個人に関してはまだ終わっていないのだ。それもあり、俺は今生徒会室に呼び出された。どう答えてみようか。さて、ここまで長々と語らせてもらったが、大事な事を語っていなかった事を忘れていた。これは俺、【紫藤銀次】を語る上で重要な前提ではあるのだが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が誰かに固着する。それは決して有り得ない。

 

 

 




入学編は次回閑話を投稿して終わりです。九校戦編も是非お楽しみに。それとヒロインですが、実はまだ決めかねています。宜しければ是非、感想にてご意見を頂ければ幸いです。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


※明日、活動報告にて本作品について投稿しますので、ストーリーには関係ありませんが。そちらも是非よろしくお願いします。


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九校戦編 九校戦編 第1話

閑話を入れるといったな、アレはウソだ!というわけで、九校戦編に行くぞ!
(なんというか、話の内容的にボツにしました。あまりにも面白くないし、そもそも要らない要素をぶち込み過ぎてもういろいろと酷かった…。)


「明日?」

「うん。空いてる?」

「んまあ、空いてるけど…」

「じゃあ、一緒に勉強しない?」

「どこで?」

「何処って…ウチの家だよ?」

「………え?」

 

 

「だから、ウチの家だよ?」

 

□ □ □ □ □

 

というわけで、雫に「一緒に勉強しないか」と誘われた俺は、優奈と雫の家に向かう事になった。俺はどっちでも良かったといえばよかったのだが、コイツ(優奈)が言うことを聞かず「行く!行こう!行きましょう!」と駄々を捏ねるので、諦めて行く事にした。まったく、どんだけ勉強がしたいんだよドMかっての。

 

「お前はほんっとうに…」

「ん?何か言いました?」

「いいや、何も」

 

おっと、口に出そうになってしまった。

 

□ □ □ □ □

 

雫に指定された通りの道を進むと、どうやら到着した様子。いやいやそれにしても……。

 

「デカいな…」

「家も大概ですけど、雫の家も凄いですね…」

「家は地下が広いだけだろ。地上は普通だ」

「アレで普通って………狂ってる」

「解せぬ」

 

外見はそうでもないんだけどなあ…。

この家と比べたら。

 

と、おっと大事な事を忘れていたみたいだ。

 

「………」

「し、雫?」

 

この、出迎えてくれていた雫を放置していた。

 

「………」

「お、おーい雫さーん」

「………」

「雫さんやーい。おーい…」

「………ブフッ」

「わ、笑った!?笑いましたね!?」

「…笑ってない。早く入って?」

 

………明らかに笑ってたよね!?

 

□ □ □ □ □

それから何も無かったかのように、のんびりと勉強する事になった。メンバーは俺、優奈、雫、ほのかと優奈のクラスメイトであるエィミィだ。エィミィとは今日知り合ったのにも関わらず、なんか仲良くなれた。似たもの同士…では無いのに。

 

ちなみに今は「魔法言語学」というのを勉強している。

ちなみに俺は専門外。

 

「光あれをラテン語で?」

「Sia la luce!」(スィーア ラ ルーチェ!)

「銀、それはイタリア語でしょ……」

「grazie!」

「褒めてない。じゃあエィミィ」

「Fiat lux!」(フィアット ルクス!)

「正解」

「光は得意範囲なのに〜…」

「Capisco」

 

「…銀はいい加減イタリア語止めてね?」

 

いいじゃない、イタリア語。

 

□ □ □ □ □

 

「後は必修の魔法学かぁ…」

「魔法学って実技が影響してくるし…」

「しかも理論って覚えにくいんだよね…」

 

あれま、この娘達は理論全滅ですか。と、そんな会話を聞いていた優奈が悪い顔をしている。まさか。いやまさか…

 

「あれ、銀を呼んだ理由ってその為じゃないの?」

「…えぇ?優奈どういうこと?」

「だって、銀って一般教養は数学と物理を除いたらどうしてこうなるのか理解出来ないって程に壊滅的だけど、実技と魔法系筆記科目だけなら天才的だから…。あれ、もしかして皆知らなかったの?」

言いやがった!コイツ本当に言いやがった!よしこれは帰ったらお仕置きだ。うんそうしようそれがいい。

 

「そ、そうなの!?」

「さてね。どうでしょう?」

「演技は良くないですよ、銀」

優奈の奴、謀りやがった。…まあいい。

 

「確かに自信はあるよ。でもあるってだけ」

 

「ふーん。」

「そうなんだ…」

「へえー…」

「銀…?」

 

何故だろう。何も悪いことはしてない筈なのに、それなのにこの少女達の視線は。酷い、酷いよ。俺が何をしたというんだ。何処かに救いの手は伸びてこないだろうか。

 

そんな馬鹿な事を考えている時だった。

 

「雫、ちょっとお邪魔するよ。」

「あ、パパ」

 

……………パパ?

 

「おや、ほのかちゃんじゃないか。お小遣いをあげよう。」

「ええっ!?い、いいです!悪いですって!」

「いいからいいから」

「いえいえ!貰えませんって!」

「いいからいいから」

 

………え、何?何この状況。優奈さえポカーンとしてるけど?え、何?どうしたらいいの?え?え?………え?

 

「パパ、そんな事いいから。皆に挨拶」

「おっと済まない。私は雫の父の潮だ。この子のことをこれからもよろしく!!」

「…あ、はい」

「…どうも」

「こちらこそ…」

 

何となくだが、雫のお父さんと知り合いになった…。

 

□ □ □ □ □

 

「それでパパ。どうしたの?」

「あぁ。えっと…紫藤銀次君って、君の事かい?」

「ええ、まあ。自分です」

まさかのご指名…?いやまさか。

「ちょっと時間を貰えないかな?」

「あ、はい。構いませんが…」

 

ご指名かーい!!

 

□ □ □ □ □

 

雫のお父さん、潮さんの後を付いていった俺は和室に案内された。さて、この部屋にいるのは俺と潮さん、それから……

 

「私は雫の母の紅音です。よろしくね、紫藤君」

 

雫のお母様のようだ。って、おいおいおい……。

 

「いえいえ、こちらこそ。A級のライセンスを持っている事で有名な北山紅音さんに、実業家の北山潮さん。こちらとしてもお会いできて光栄です。」

「そんなに持ち上げないでくれていいわよ。ただの母親だから」

「そうだね。私もただの父親に過ぎないからね」

 

「そ、そうですか…。」

うーん。やりづらい…。

 

なんて事を考えていると、先に二人が動いた。

 

「紫藤君。君の聞きたいことがある」

「?聞きたいこと、ですか?」

「ええ。無礼を承知で貴方のパーソナルデータについて、調べさせてもらったわ。浅井優奈さんについてもね。」

「へえ。そうなんですか。でも、俺なんかのデータを調べる意味なんて、無いでしょう?」

「意味はあるよ」

 

 

「へえ。……どんな」

「君の、本名とか。かな。」

「っ……!!」

「そう殺気立たないで欲しい」

「……すみません」

建前だが謝ることにした。いやだって、勝手にプライバシーもクソもないこと調べられて殺気立たないわけないでしょ。

 

「これについてなにかする訳じゃない。だから聞かせて欲しいんだ。」

「何を」

「君は、雫とこれからも友人でいてくれるかい?」

「は…?」

え、何言い出すのこの人達。あんなシリアス要素出しておいて言いたい事それって……ちょっと。俺のイラつき返してくれない?

 

「言ってる意味がわかりません」

「私はね。雫に酷いことをするような輩を、雫の友達と認める訳にはいかないの。だから聞かせて。あまりにも異常なデータを持っている君や優奈さんが、雫の友達で居てくれるのかしら。」

 

はあ、まったく。これだから親っていうのは。

 

 

 

 

 

 

 

好きになれない。

 

 

 

 

 

 

 

「さてね。どうでしょう。……ただ」

「ただ?」

「俺が、いや。アイツを傷つけるようなことがなければ、俺は良い友達でいたいとは思ってますよ。」

「…そうか。君を信用しよう」

「ありがとうございます」

 

「さて、長く拘束して悪かった。そろそろ戻るとしよう」

「ええ」

 

こうして、俺の北山家訪問は幕を下ろした。余談だが、あれから優奈たちは勉強しないでダラダラ話していたらしい。………俺が苦労していたというのに。

 

いよいよ期末テスト。今回は真面目にやるとしよう。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。


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九校戦編 第2話

今年ラス投稿です。
来年ものんびりやっていこうと思います。
よろしくお願いします。


期末テストが終了し、いよいよ結果が出た。

 

総合成績

1位 司波深雪(1-A)

2位 紫藤銀次(1-A)

3位 光井ほのか(1-A)

4位 北山雫(1-A)

5位 浅井優奈(1-B)

 

実技

1位 紫藤銀次(1-A)

2位 司波深雪(1-A)

3位 北山雫(1-A)

4位 浅井優奈(1-B)

5位 森崎駿(1-A)

 

総合で2位と5位が変わるという事態が起きたが、まだ許容範囲である。問題はここからであった。

 

筆記

1位 司波達也(1-E)

2位司波深雪(1-A)

3位 光井ほのか(1-A)

4位 吉田幹比古(1-E)

5位 紫藤銀次(1-A)

 

筆記では二科生がトップに入るという異常なことが起きた。更に、上位20名の中には、この他に2人の二科生がランクインするという結果となった。

 

こうして期末テストも終わり、一学期は終わりを告げた。

 

……はずだった。

 

「銀次君には必ず出てもらうから」

「…………………は?」

 

□ □ □ □ □

 

 

~それは期末試験の結果発表当日の事であった。

 

「深雪さん。総合トップおめでとう。」

「ありがとうございます。会長」

「発表はまだなんだけど、深雪さんには九校戦の主力選手としても頑張って貰わないとね。」

「私で良ければ、是非努めさせていただきます。」

「ええ。期待してます。それで実はお願いがあるのだけど…」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「という事だから。」

「え、いやちょっ。は?九校戦?……ってなに?」

「まずそこからなのね……」

そう言うと、七草会長はため息を吐きながら項垂れた。

銀次が九校戦を知らないのには理由があるが、それを聞かれる事はなく、説明してもらうことになった。

 

「九校戦っていうのはね、全国にある9つの魔法科高校が優勝を争う場なの。ちなみに第一高校は現在2連覇をしているの。私達3年としては、今年優勝してこそ本当の優勝だと思っているの。この説明で分かったかしら?」

「大体は。で、どんな競技があるんすか?」

「まず決められた水上コースでタイムを競うバトル・ボード。時間内に標的を狙って得点を競うスピード・シューティング。それからクラウド・ボールに遠隔魔法を使うアイス・ピラーズ・ブレイク。後は男子限定のモノリス・コード。この5つの種目を主に2,3年生が出場する本戦と、1年生のみが出場出来る新人戦に分かれて得点を競うの。勿論だけど、銀次君は新人戦の男子筆頭だから。宜しくね?」

「そうすか。了解です。」

「ええ。よろしくお願いします。」

 

といったところで説明が終わり、同時に昼食を摂ることになった。生徒会室で食事というのは銀次にとっては初めての事であった。すると、そんな食事中にまたもや問題が。

 

「会長。エンジニアの件は?」

「そうなのよね。まだ足りてないのよ…」

 

なんだがまたよく分からない話をしている。そんな顔をしながら、銀次は自分から質問をした。

 

「エンジニア?っていうのは?」

「ええっと、エンジニアっていうのは選手の調整をする人の事よ。実はそれが足りていなくて…。」

「そうなんですか。候補は?」

「うーん。リンちゃん、やっぱりダメ?」

「無理です。私では中条さん達の足を引っ張るだけです」

「そっか…。」

と、会長は早速スカウトに失敗した。どんまい。と、考えていた銀次だが、ここでひとつ忘れていた事があった。

とてもとても大事な事を。

 

「そういや……達也は候補にいないんですか?深雪さんの調整って確か達也がしてるって聞いたことありますけど」

 

俺がそう言った瞬間、生徒会メンバーは全員固まり、達也は俺の事を思いきり睨んできやがった。……道ずれじゃ。

 

「…盲点だったわ。そうよ、新人戦女子は達也くんに任せちゃいましょ!!」

会長が思い切った事を口にした。さて、ここで問題。

 

二科生で1年生。そんな人材が、九校戦スタッフとして歓迎されるか。答えは勿論。

 

 

 

 

 

 

否。であった。

 

 

「納得いきません!」

「その二科生をエンジニアにするのは反対です!」

 

あーあ。選定会議が始まったと思ったら予想通りだ。てか達也ってトラブルメーカーですよね、ほんとに。ちなみに新人戦の選手の主な知り合いを挙げると、女子は深雪さん、ほのかに雫とエィミィ。それからイソギンチャク。

 

「誰がイソギンチャクですか!」

 

お前だよ優奈。

 

と、失敬。男子は俺を筆頭に、森崎もチームメイトにいる。

そして今もコチラを睨んでくる。嗚呼怖い。

 

 

 

□ □ □ □ □

 

結果として、達也はエンジニアに採用された。実力を示して、支持をされたからである。担当は新人戦女子と……………

 

 

 

 

 

 

「担当の司波達也です。よろしくお願いします」

「どうして俺まで……」

 

 

 

 

男子である俺1人だ。

どうして俺だけなのだろうか。

□ □ □ □ □

 

それから月日は経ち、7月31日。明日には移動というのもあり、俺と優奈は荷造りをしていた時であった。

 

「銀。一般回線です。」

「はいはい今出る」

 

急な事であったので、少し慌てながら返事をした。急いでリビングに向かい、回線を繋いだ。出た相手というのは……

 

 

「なんの御用ですか………真夜様」

 

四葉家現当主である四葉真夜御本人であった。

 

「銀次さんに優奈さん。お久しぶりね。」

「ご無沙汰しております。真夜様」

「そう畏まらないで下さいな優奈さん」

「それで要件は?」

「大した事ではないのよ?貴女達が九校戦に出ると聞いたものだから、ついお話したくなったのよ。」

「………。」

「そんな顔をしないで頂戴、銀次さん。私はただ応援するだけですもの。干渉するつもりはないわ」

「………どこまで出して良いのですか?」

「別に私を気にすることなど無いのに。まあ【双龍】や【楽園狂】は使わない方がいいんじゃないかしら」

「それくらい心得ておりますよ。…荷造りもありますし、そろそろ急がないと睡眠時間も取れないで、これで失礼します。」

「ええ。楽しみにしてます」

 

その言葉を最後に、通信は切断された。

さて。あの女が出てきた、という事はこれが俺のデビュー戦。という事である。この舞台、どうしてくれようか。




四葉真夜と銀次の関係についてはまだまだ秘密にしていく予定です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いします。皆様、良いお年を。


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九校戦編 第3話

あけましておめでとうございます。昨年は小説投稿を始めて、私生活でも色んな事がありました。大学受験は勿論ですが、職質みたいなものを受けたりもしました(笑)
原因は街を歩いていた時間帯(笑)
平日の昼間でした。こんな時間に何をしてるんだ、学校をサボったのかという濡衣を着せられて、交番で色々と調べられました。今でもその事を忘れてませんし、その交番の人は今でも嫌いですね。骨折して病院行っただけで不良みたいな言われ方、何か悪いことでもしようとしてるんじゃないのか、財布にこんなにお金入ってるけど何でこんなに入ってるのか、盗んだお金じゃないか。などいろいろ言われましたね。ムカつきましたね。診断書や保険書、バイトの社員証や銀行の通帳を利用して黙らせましたが。ちなみにそれ以来、その横の病院には行かなくなりました。病院に事情を説明して、ほかの医院を紹介して貰うという事をしました。その交番の前を通るのも嫌だったので。そんな1年でした。

さて、2018年は大学生活が始まり、これまで以上に執筆時間が増えると予想してます。バイトも増やす予定ですが、執筆時間を増やせるよう頑張りたいと思います。こんな駄作者ですが、読んでくださっている読者の皆様に、これまで以上に面白いと思って頂けるよう頑張っていく所存です。本作品「数字落ちの優等生」を今年もどうぞ宜しくお願いします。


夏休みももう残り一ヶ月。そんな由々しき事態だというのに、今日は九校戦会場への移動日である。厳密に言うと会場側のホテルへの移動だが。選手の宿泊施設も試合会場も国防軍の施設というのもあり、移動は学校単位である。我ら第一高校も勿論バスと車での移動なのだが、問題が発生した。

 

 

それは七草真由美の遅刻である。

 

家の事情なので仕方ないと言えば仕方ないが、七草の当主は一体何を考えているのだ。と言いたいくらいである。そういう俺達も移動をすればいいのだが、3年が待つという判断をした事により移動が出来ないとのだ。さて、これにより司波深雪の怒りも溜まり始めたぞ?何せ、選手の出欠を達也が、炎天下の下、1人で行っているのだから。しかもあの女の為に未だに待っているのだ。そろそろ冷房(深雪の魔法)効きすぎてバスが寒い。何とかしようか。

 

「おい優奈」

「何ですか銀」

俺の隣は優奈である。てか安定過ぎる。

 

「氷の女王様をどうにかして来い」

「嫌ですよ。怖いし。銀が行って下さい。」

「俺も怖えよ。つかてめえ俺の側近だろ」

「それ元ですし。しかも候補ですし。」

「変わんねえだろ」

「変わります〜。変わっちゃいます〜」

「…………イソギンチャクのくせに」

「今言いましたね!?イソギンチャクって!」

「うるせえ!言ってねえ!」

「いーや!言いました!銀のバカ!」

「バカとはなんだ!バカとは!早く行ってこい!」

「嫌です!誰が女王様の所なんて行くもんですか!」

「おま…え…っ!!!」

やべえ。何がやべえってとにかくやべえ。死んだ。俺死んだこれ死んだ確実に死んだわ。

「ふっ、怖気づきましたか!なら銀が氷の女王様の所へ行ってください!」

「いや、バカ、おま…」

優奈のバカ…もう知らん。俺は知らんぞ。このバカがどうなっても知らんぞ。だって後ろ見ろよ。てか気配で気づけよ。

「さあ!さあ早くお行きなさい!そして逝きなさい!」

「誰のもとへかしら?」

「そりゃ勿論氷の女王様もとい!深雪の下へ!」

あー言っちゃった。言っちゃったよこのおバカ。これじゃイソギンチャクどころかお猿さんだよ。

「そう。…優奈ったら、そんな事思っていたのね?」

「へ…?」

「ねえ優奈。涼しくしてあげる…!」

「え、ちょ!深雪!?へ!?」

「さあ…こっちへおいでなさい…!」

「いやァァァァァ!!!!!!」

 

そうして優奈は逝きましたとさ。めでたしめでたし。

 

□ □ □ □ □

 

あの後、まもなく会長が到着した。優奈はそれからというもの深雪と二人で座っている。というのも、深雪が優奈を離さないのだ。監視、というやつだ。これ以上勝手なことを言うな、という意味での。

それによって俺の隣も変わっている。

 

 

それがなんと………

 

 

 

「あ、あはは…」

「ははは……」

 

よりにもよって、ほのかである。気まずい。

 

□ □ □ □ □

 

さて。こうしてバスの座席が変わり、隣がほのかとなってから随分と時間が経った。バスはとっくに移動しており、もう高速の中である。するとその時だった。何やら騒がしい。

 

「おいあれ…」

「逆走…?」

「こっちに向かって来てないか…?」

 

そんな声が聞こえる。何とまあ悠長な。

仕方ない。ここは俺が「止まれ!」ここは俺「止める!」ここは「ぶっ飛ばす!」こ「待て!」…コイツら…!!

 

「あーもう!お前ら全員やめ!真由美姉は後ろのエンジニア組に報告!摩利さんはそこの2年生叱っといて!会頭は車停めて下さい!深雪は火を消して!ほかの者はシートベルトして待機!以上!」

 

『了解(したわ)』

 

俺のこの指示通りに事は進んだ。この後も何事も無く、逆走車の確認も済んだ。という事で会長とお話をしよう。

 

「先輩方に深雪ちゃん。お疲れ様でした。」

「ううん。流石は銀次君ね」

「いえいえ。会長のお陰で、後ろに被害は出ませんでしたよ。ありがとうございます。」

俺はこう言ったのだが、何やら不服そうだ。

「…あの、会長?」

「……………」

「かーいーちょーうー?」

「……………」

「七草先輩〜?」

「……………」

「はぁ……。分かったよ。真由美姉」

「ふふ♪やっと呼んでくれた♪」

 

憎たらしい。この猫被りめ。

 

「あの銀次君が、やっと♪」

「そんなに嬉しいかよ」

「もちろん♪」

「はあ………」

 

□ □ □ □ □

 

その後は一度も同じようなことは無く、予定よりかなり遅れたがホテルに到着した。ホテルでは二人部屋か三人部屋で部屋割りが決まっており、俺のルームメイトは達也と機材である。うわあいやったあ。

 

と、そんな事を考えながら荷物を運んでいると、驚く人物がいた。エリカ達である。

 

「あ、紫藤君」

「ほんとだ!銀次じゃねーか!」

「こんにちは紫藤君」

 

エリカにレオ、美月もいる。何しに来たのだろうか。

 

「お前ら、何でこのホテル居るんだよ」

「関係者よ関係者」

エリカはそう言う。だが何のだろうか。よく分からないがまあいいだろう。

「そっか。悪いけど、この後忙しいからまた後でな」

「うん、またね」

 

□ □ □ □ □

 

「良かったのか?」

部屋に着いての第一声がこれである。意味不明だ。

「何がだよ達也」

「忙しいなんて嘘をついて」

「嘘じゃねえだろ」

「俺の場合はな。だが、銀次の場合は嘘だろう。」

「これから忙しくなんだよ」

「そうか。」

「……………故意によるもの、か?」

「その可能性が高い」

「そっか……」

 

故意によるもの、ということは第一高校を狙っているものがいる。という事だろう。ブランシュとは別件で。さて、どうしたものかな。

 

 

九校戦で問題は起こしたく、無いんだけどな。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。


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九校戦編 第4話

三校メンバー初登場です。(個人的には「一色」といえばソーマの某元七席の先輩や俺ガイルの生徒会長のあざとい後輩を連想しちゃいます……)




ホテルについてからというもの、本当に忙しくなってしまった。原因は「懇親会」というパーティーの所為である。俺が今いるこの場には、一校から九校までの全スタッフにエンジニア、選手と来賓が揃っている。有名な人で言うと、ドイツ発のCADを販売も行っている大手ブランド「ローゼンマギクラフト」の日本支部の社長などだ。高校生の大会によくも来るもんだ。

 

「あの、少し宜しくて?」

いきなり来たので何だこいつ。と思ったが相手は金髪に赤い制服。三校が視察に来たのか。

 

「どちら様で?」

「私は第三高校1年の一色愛梨と申します。貴方は?」

「第一高校、紫藤銀次だ。同じく1年」

「そう。貴方、実績は?」

「そんな大層なもんねえよ。興味も無い」

「あらごめんなさい。一般の方でしたの。今年の一校は一般の方が多いようね。」

あ?何だこいつ。てかムカついたわ。

「おい」

「何かしら?」

「さっきからアンタ、一般がどうのこうのうるせえよ」

「あら、一般の方が私達に勝てるわけないでしょう?これなら、新人戦は三校の優勝で確実ですわね」

「どうかな。少なくとも一般で実戦で活躍してきた奴を俺は何人も見てきたしな。実戦で大したこと出来ねえ様な数字付きを何度も見てきたから分かるんだよ」

「なっ!一色家は師補十八家!よくもそんな事が言えたもんですわね!」

「十八家、ねえ……」

 

十八家。これは数年に一度、師族会議で行われる「十師族選定会議」に呼ばれる二十八家のうち、十師族に選ばれなかった18の家の事である。個人的にあまりいい思い出は無い。

 

「補欠、か」

「黙りなさい!一色家をこれ以上侮辱するなら!」

「そこまでだ一色」

 

一色と名乗るこの女が俺に平手打ちしようとした時の事だった。彼女の腕を掴み、止めたのだ。制服は赤、顔立ちの良いその男に、俺は見覚えがあった。

 

「一条…」

「顔見知りなんだから将輝でいいだろ。」

「僕もいること忘れてない?」

「ジョーか。久しぶり」

「うん。銀次こそ」

 

彼らは一条家時期当主の一条将輝に、加重系「基本コード」を13歳で発見した天才の吉祥寺真紅郎。赤い制服という事は三校に入学したのだろう。ジョー、もとい吉祥寺は彼女を追い返して行ってしまった。

 

「さてと。一色が悪かったな」

「気にしてないよ」

「アイツは数字に誇りを持っていてプライドが高くてな」

「雰囲気で分かったよ。」

「だろうな。」

「ま、俺は数字に興味なんて無いし、数字が全てを示さない事も知ってるからな。あれを何とも思わない俺が被害者で良かったよ本当に」

「全くだ。ところで紫藤」

「競技なら秘密だ。お前の競技を知るつもりも無いからな。」

「そうかい。…当たったら、全力でやろう」

「御手柔らかに頼むぞ」

 

こう言いながら握手を交わし、将輝は去っていった。こんな災難がいきなり襲ってきたから改めて会場を見渡してみた。にしてもこの会場さあ………

 

 

 

「人多すぎだろ…」

「そりゃ全選手がここにいるんだもの」

俺が独り言を口にしていると、真由美姉が近づいてきた。おい猫、何を企んでいる。

「独り言にツッコむなよ」

「それを言うと独り言の効力無くなると思うわよ?」

「俺の負けか…」

「お姉さんに勝とうだなんて10年早いわよ♪」

「お姉さん、ねえ……ふーん」

「な、なによ」

「いやあ?べっつにぃ?ただ俺の、お姉さんは、自分のどこを、どう、お姉さんっぽいのかなぁ、と思って」

「なっ!それどういうこと!?」

「別にどうもしてませんよ?」

「ウソ!絶対なんか隠しt」

 

『それでは九島烈閣下より、ご祝辞となります』

 

真由美姉が口を開こうとすると、そんなアナウンスが流れた。だが簡単には現れないようで、魔法を使って隠れている。

 

相変わらず、あの男は意地が悪い。

10年前もそうやって……!!!」

「銀次君…落ち着いて」

え、まさか。

「声、出てた?」

「ええ……」

「悪い」

 

最悪だ。最悪で最悪の最悪だ。俺の馬鹿野郎が。

と、そこで閣下の魔法は途切れた。

 

「済まない。今のはちょっとした悪戯でな。だが、この悪戯に気づいたのはこの会場で7人のみだった。それも1人を除き、全員同じ学校の生徒であった。すなわち、もし私がテロリストだとしたらそれを止めることが出来たのはその7人であり、尚且つ円滑に避難や対策をとることが出来たのはその1つの学校のみということだ。魔法師の諸君、魔法とは手段に過ぎない。例えどんなに大規模な魔法であったとしても、工夫をすれば、小規模な魔法でも勝つことができるという事だ。諸君の工夫を、期待している。」

 

そう言って、閣下は下がっていった。その直後の事であった。

 

『本日はもう一方、世界的企業の紫電様より、ご祝辞となります』

 

おい、今なんつった?

 

『紫電様、ステージにご登壇をお願いします』

 

いや、聞いてねえよ!?

 

というのも、名前を呼ばれているこの『紫電』というのは、現在世界で最も人気のある【LFile】という仮想型デバイスを販売した人物の事で、他にも純金のみの外装のCADや世界で唯一、認識阻害魔法の為だけに作った小型CADや、銃タイプの刻印型CAD、自己加速術式専用のシューズ型デバイス、左利き専用の汎用型CADなどだけではなく、一部のCADマニア向けの特殊なCADも作っている人物である。

 

 

 

ちなみに『紫電』の正体は、俺と優奈だ。

 

 

 

(いや聞いてねえよ!?何やってんの誰だよこんなこと思いついたの優奈はねえなあの爺でもねえなじゃあまさか……真夜様?)

 

恐らくだが、これは四葉真夜の仕業だろう。

 

仕方ない。やるしかない。

 

□ □ □ □ □

 

俺は今、ステージに登っている。スーツに仮面で。

何でだよと言いたいくらいに用意の良いセットが用意されていて、これを着ろと言わんばかりの場所にあったのだ。音声変換の魔法も準備出来た。では始めよう。

 

「はじめまして。私は紫電グループの責任者です。今回、この九校戦に招待して頂きましたので、ここでお話をさせてもらいます。まあ、簡単な話です。魔法は工夫。ごもっともだと思いました。でもね、私はそれだけでは悩む方もいると思いました。確かに工夫は大事です。でもそれだけでは足りないと思いました。何かと。それは心です。心の持ち方次第で、コンディションだとかモチベーションだとか。色んなものが変わってくると私は思ってます。選手の皆さん。体調管理は勿論ですが、エンジニアやスタッフへの感謝を忘れずに。今こうして試合ができるのは、支えがあるからです。エンジニアの皆さん。仕事を全うするのも大事です。でも選手への感謝を忘れずに。皆さんの手腕が振るえるのは選手がいるからです。互いにその気持ちを忘れないで下さい。最後に。

 

ここは軍の施設だ。魔法科高校を出た魔法師は大抵軍に入ると言われている。そして道具だ、作り物だと非魔法師に言われる毎日だ。でもそれがどうした!我々にそんなこと関係ない。我々だって同じ人間なんだ!怒りや憎しみ、喜びや悲しみ。色んな感情を持っているんだ。泣いたり笑ったり、喧嘩したりもする。恋だってする。子供だって産む。食事に洗濯、掃除だってする。睡眠も取る。我々は同じ人間なんだ。当たり前だろう。道具には全部要らないことだ。

 

何が言いたいか。今を忘れるな。今こうして仲間と共に立てること、笑う事、泣く事。忘れるな。人間なんだ。人間としての当たり前を忘れるな。それを忘れたら、世間の見る道具と同じになっちまう。

 

皆さんの人間らしいところが見れること、楽しみにしてます。」

 

俺はそう言って壇上が去っていった。

 

 

いやあほんとに。

 

臭い。言葉が臭い。どこのカッコつけだよ。あぁ恥ずかしい恥ずかしい。一生の黒歴史だよ一族の恥晒し過ぎて恥ずかしいよ優奈に会いたくねえよお恥ずかしいよお………。……恥ずかしにたい。




最後まで読んで下さり、ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。

ps ヒロインをそろそろ決めようと思います。
今のところ候補は真由美、優奈、リーナです。
真由美とリーナはコメントから。優奈はかなり何となくです。この作品にしか存在しないオリキャラなので…。
これ以外も勿論募集してます。感想にてお願いします。


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九校戦編 第5話

「アンタだろ」

「何のことかしら?」

「とぼけるなよ?」

「あら、とぼけてなんていないわよ?」

「はあ………。」

 

懇親会の犯人はやはり真夜様だった。

まったく、本当に人騒がせな。

と、ここまで笑顔だった顔つきから真剣な顔つきになった。

別件ですか。

 

「ところで銀次さん?」

「なんすか真夜様」

「九校戦にちょっかいを出している輩がいるみたいだから。気をつけてね?」

 

ちょっかいを出している輩…ねえ。去年からそういう風潮が裏社会ではあったみたいだから、ある程度犯人は絞れる。

 

「まあ大丈夫でしょう」

「そうね。貴女達なら問題無いわね」

「ええ。問題無いです」

「なら、期待してるわ」

「はいはい」

 

通信は途絶えた。要するに逃げられた。

ちくせう………。

 

□ □ □ □ □Side 優奈

 

「温泉?」

「うん。聞いてみたら使っていいって」

「そっか。うん!行こ!」

私、優奈はこうして温泉に行く事になった。

メンバーは新人戦女子の皆と。

 

温泉かあ………。

 

 

 

 

何年ぶりだろ。

 

□ □ □ □ □

 

温泉に着た。皆可愛いしスタイルがいい。

 

のだが、やっぱり格差社会はあったようで。

 

「わあ……!ほのか……」

「な、何エィミィ」

「………もんでいい?」

「だ、ダメ!」

 

エィミィがやたらと親父くさい。

これはどうにかしないと止まらないぞ。

 

 

 

 

そう思っていたけど、話題は一気に変わった。

 

「懇親会の時、三校の一条君凄い深雪の事見てたね〜」

「そうそう!しかも凄くカッコよかった〜」

「で、深雪はどうなの?」

「え、私?」

 

いきなり自分にくると思ってなかったのか、深雪は少し戸惑っている。まあ、答えの予想つくけど。

 

「そこまではっきりと見たわけじゃないの。それに意識する必要も無いじゃない?」

「じゃあやっぱり、深雪は達也さんのことが好き?」

 

そう聞いたのは雫だった。

きっとこれはほのかのタメなんだろう。

 

「お兄様は血の繋がった兄妹よ?恋愛感情は無いわよ」

 

『……………』

 

私はこの答えを分かっていたけど、皆は分かってなかったみたい。

 

 

「と、ところで優奈ってさ」

お、今度は私ですかい。

「ん?なあに?」

「優奈って、紫藤君といつも一緒にいるじゃない?そこのところどうなの?」

何を言い出すかと思えば……。

まあ確かに、私は四六時中銀の傍にいる。

それ故の質問なんだろうけど、誤解は解こう。

 

「んー。無いかな。銀はない。有り得ない。」

「え!そうなの!?」

「うん。恋愛感情で一緒にいるわけじゃないの。なんというか」

 

『なんというか?』

 

あら、皆さん食いつくわね。

 

「腐れ縁って感じ。もう10年以上一緒に暮らしてるからかな。何とも思わないんだ。銀の寝顔を見てもマヌケ顔だなって思う程度だし、銀と一緒に寝ても特に思うことも無いし、銀の下着を見ても何とも思わないし、銀の裸見ても見苦しいって思うくらい…かな。」

「な、何それ……。」

「前半はともかく、後半はもう末期じゃないかな…」

エィミィにほのかはそこで引くのやめようね。

素直に傷つくから。

 

 

 

そんなこんなで長風呂も体に良くないから、浴場をあとにした。…………銀ってそんなに人気あるのかな。

 

Side out

 

□ □ □ □ □

 

翌日。開会式が終わった直後にバトル・ボードの予選がある。ということで、皆で観戦することにした。初観戦だから楽しみにしていたが、いやいやこれはなあ…。だって会場がさあ…

 

「摩利様〜!!」

「渡辺先輩〜!」

「きゃー摩利様〜!」

「摩利様素敵〜!!」

 

とか、黄色い声しか聞こえないんだもの。

これにはいろいろと尋ねたい。

 

「なあ雫」

「ん、なあに?」

「九校戦ってどれもこんな感じなの?」

「ううん。注目選手はこんな感じだけど、無名の選手とかだとこうはならないよ。」

「んじゃあ摩利先輩がおかしいののか」

「ん、そういうこと。」

 

なんだそういうことか。じゃあつまり真由美姉や克人さん、一条やジョーはこういう試合になるって訳だ。成程な。

 

そんなことを考えていると、レースが始まった。

 

摩利先輩は開始直後に水面を揺らして妨害をしてスタートをした。その後も加速術式等を駆使。予選は1位通過となった。

 

□ □ □ □ □

 

さて。あっという間に夜になった訳だが、俺も暇ではない。

やらなくてはいけない事があるのだ。

 

何というと…。

 

「失礼します。」

「久しぶりだな。銀」

「風間さんこそ。元気そうで」

 

そう。この男、国防陸軍の風間少佐との食事である。

この他にも、他の軍人との食事に、閣下とのお茶会もある。

 

閣下のところは行きたくないけど。

 

「二人とも九校戦に出るようだな」

「新人戦ですが。」

「それでも素直に喜ぶべきだろう。」

「それ、実力を考えてから言ってくださいよ?」

「それもそうか。」

「ええ。ただの暇つぶしにしかなりませんよ」

 

「ところで銀次」

「なんです?」

「お前は…どこまで力を見せるつもりだ」

「そうだね。それを言わないと安心出来ないか」

「すまない。これも任務なんだ」

「いやいや。そっちの立場なら仕方ないよ」

「そう言ってくれると助かる」

「【流星群】やムスプルヘイムくらいは使うよ」

「例のあれは…」

「絶対にないよ」

 

 

アレは、あの魔法だけは使ってはならない。それは優奈自身も知らない【悪魔の如き魔法】だから。少し間違えれば【全てを壊せる】あの魔法を、優奈は知ってはいけない。知られてはいけない。

 

 

アレは、魔法という言葉を遥かに越えているから。




最後まで読んで下さり、ありがとうございました。次回も宜しくお願いします。


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九校戦編 第6話

数日ぶりで、文章がいつも以上に酷いかもです。
悪しからず。


「ほらここ座って?」

「え、いや、そ「座って?」はい…」

「それじゃあ聞かせてもらおうかしら」

 

只今、時刻は九校戦三日目の午前1時。俺は何故かロビーの椅子に座らされている。いや、どうしてこうなった。俺は悪いことなんてしてないぞ。してないはずなのに、何故だ。何故……

 

 

 

真由美姐さんはお怒りなのでしょう…。

 

□ □ □ □ □

 

「私が言いたいこと。分かるわよね?」

「え?言いたいこと?しらn「分かるよね?」…」

 

うわあ怖い。笑ってるのに怖い。とても笑ってるなんて言えないくらい怖い。目が笑ってなさすぎて怖い。

 

「ねえ、銀次君…?」

「は、はい……」

 

ああ死んだ。俺なにやらかしたんだろ。

せめて遺書は書くべきだったなあ…。

ああ………冥土の土産は何にしよ…。

 

そう思っていたが、答えはあっさりしていた。

 

「私の試合、全部見に来なかったでしょ」

 

真由美姐さんの試合?の事だった。

え?てか、今日やってたの?余裕で寝てたけど。

 

「試合って?今日やってたんですか?」

「……知らなかったの?」

「はい。」

「パンフレットは?」

「優奈が持ってるんで」

「自分のは?」

「無いですね」

「私渡したはずなんだけど……」

 

うわあやっちまってるじゃーん。これどんなバツが待ってんだろ。斬首かな?銃殺かな?呪殺かな?あ、ドライミーティア(真由美の得意魔法)かな?

 

ちなみにパンフレットは優奈に取られてしまっている。2枚貰ったのは確かだけど、1枚は家に忘れてしまった。優奈が悪い。

 

「そ、それで…?」

「それでって?」

「俺を呼び出した理由は…?」

 

呼び出した理由。正直分かってはいるけど、念の為。万が一、もしかしたら、本当にもしかしたら、怒る為に呼び出したのでは無い可能性がある。……と、思いたいから一応聞いておく。

 

「銀次君がそんな事ありえないかなーと思ってたけど、これではっきりしちゃったからバツを与えるタメ、かな。」

「斬首ですか?銃殺ですか?呪殺ですか?」

「へ…?」

 

ああどうしようどうやって謝るよ死んで詫びないといけないんじゃねえのどうするよ十師族しかも直系怒らせちまったよこれタダではすまねえよなあこりゃあ七草家の闇に葬られるかなあやべえよなあ明日から俺どうやって生きてこ。

 

「あ、あの銀次くん?」

「俺、死んで詫びますね………」

「お、落ち着いて?殺さないから。」

「へ…?」

 

俺、死なないの…?殺されなくて済む…?

闇に葬られる事もなし…?

 

「その代わり明日は私と居てもらうから」

うわあいやっt……。………え?

 

「今なんて?」

「だから、明日は私と一緒に居てもらうからね?」

 

は………?なんて……?

 

「……わんもあぷりーず」

「だから、明日は私と一緒に行動してもらうからって!もう言わないからね!?」

 

明日、一緒に、行動……?つまり……?

 

 

強制連行及び、危険人物の監視…………?

 

 

「……………終わった」

 

嫌な予感しかしないぜベイベー。。。

 

□ □ □ □ □

 

という理由で、九校戦3日目。今日は達也たちとではなく、この悪魔と行動することになりました。やったね。。。

 

「で、今日は何するんですか?」

「何ってもちろん、試合を見に行くのよ?」

 

試合観戦…。今日は確か……あ、摩利さんの試合だ。

 

「バトル・ボードですか?」

「ええ。……それは覚えてたのね」

「偶々ですよ」

 

ほんとに偶々だった。それでも真由美さんは不機嫌だ。

ねえ、俺ほんとに何かやらかしたんじゃない?

 

 

そんなこんなで会場に到着した。

さて、摩利さんは優勝できるかな?

まあ、聞くのが早いか。

 

「摩利さんって優勝可能なんですか?」

「可能も何も、去年優勝してるわよ?」

「じゃあ今年も…?」

「順当に行けば、間違いないわね」

「oh………」

 

摩利さんマジすげえっす………。

 

□ □ □ □ □

 

試合が始まるまで、俺はそのまま真由美姐さんと雑談を繰り広げていた。いやあほんとにいろいろ話しましたよ。最後の方なんて一世紀前の音楽の話とかしてたから。これマジで。

 

………RADWIMPASとかいいよね。

 

「そろそろですか?」

「そうね……」

 

そう言った直後、選手が入場してスタンバイした。

いよいよ始まる。

 

『オン・ユア・マーク』

 

そんな放送が聞こえた直後、レースは開始した。

 

摩利さんは文句無しで、とは言いづらいがトップを走っている。このまま行けば、間違いなく優勝。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

だが、結果はそうはならなかった。

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □

 

バトル・ボード女子は三校の優勝となった。

摩利さんは、CADの不具合で操作が出来なかった他校の選手を庇い、怪我をした。結果から言えば、棄権。

 

それによる順位は5位、つまりは得点なしである。

 

さて。そういう俺は今、摩利さんの病室にいる。

そろそろ起きるんじゃないだろうか……。

 

「………っ!!」

「ホントに起きた。」

「言ってる場合じゃないでしょ。何処だか分かる?」

 

ちなみに、勿論真由美姐さんも一緒にいます。

「何を言ってるんだ……。痛っ」

「確かに何を言ってるんだって感じですね。」

「はあ…。摩利、肋骨が折れてるから、安静にしててね?」

「おい!それじゃあ!」

 

驚いたような顔をしているが、よく考えてみよう。

レース中に魔法を使わずに吹っ飛んできた魔法師を庇ったんだ。肋骨が折れたくらいなら、正直安い話だ。でもそんな考えを持てるのはきっと、俺だからなんだろうけれど。

 

「残念ですが、競技はもう無理ですよ」

「2、3日は安静にして。完治には10日掛かるそうよ」

「そうか…。」

 

残念そうにしてはいるが、言わなきゃいけないことがある。

俺はそれを言わなきゃいけないんじゃないのか。

 

そんな使命感が、俺の思考を遮った。

そして、その使命を果たすことにした。

 

「摩利さん」

「お?どうした銀次」

 

 

 

 

 

 

「……命に別状はないだけ、運が良かったです。」

 

 

 

 

 

「あぁ………。」

 

勘違いかもしれないが、声を聞いた摩利さんは何処か寂しそうで、それでも安心したような顔をしているように見えた。

 

そんな摩利さんをみて、俺は病室を後にした。

 

□ □ □ □ □

 

そして、翌日の九校戦四日目。

九校戦史上異例の事態が、幕を開けた。




別にRADWIMPSだけが好きという訳では無いです。あ、「おしゃかさま」と「最大公約数」は普通に好きですが、「前前前世」は全然聴かないです。あ、RADWIMPSの曲全然知らないと全然わかんないですよね。すみません。あ、現在ちょっと私生活が多忙なので、投稿頻度が相変わらず疎らになります。すみません。
あ、最後まで読んで下さり、ありがとうございます。次回もよろしくお願いします。<(_ _)>


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九校戦編 第7話

こんにちは、こんばんはキィチャです。LINEでイキり出しておいてネタだと、後から言う奴にキレてます。本音で言ったとしてもネタでもつまらない。そんな感想しか湧いてこないですが(笑)



九校戦四日目。

 

今日からは新人戦が始まる。

九校戦は四日目から9日目までが新人戦、9日目の夜からはまた本戦が再開するという、少々めんどくさい日程になっている。

 

ところで俺、紫藤銀次はどの競技に出るのかというと。

 

 

 

「CADも問題ないね。」

「新人戦トップバッター。頑張れよ」

「りょーかい。」

 

1つは、新人戦初日のスピード・シューティング。

しかも、新人戦選手で1番最初の出番である。

 

□ □ □ □ □

 

優奈Side

 

皆、雫の応援に行ってしまい、達也さんも雫の方に行ってしまい、銀の応援は誰も居ない。可哀想だから、という理由で深雪とエリカが来てくれたので、3人で銀の試合を見ることにした。

大前提として、銀はこれまで世間に名を出した事は無い。それもあって、試合を見に来ている人はきっと『カーディナル・ジョージ』を目当てに来ているんでしょうか。欠伸したり、友人と喋ったりしてる人が殆ど。

 

銀は、何処までこの人達を唸らせられるでしょうか。

 

「ねえ優奈」

話しかけてきたのはエリカ。

「なあに?」

「銀次君って、どんな魔法を使うの?」

やっぱり気になるのだろう。質問の内容は予想通り。

 

でも、それもそのはず。銀は普段、みんなと一緒に過ごしていながら、魔法を使ったところを見られていない。否、『魅せていない』。

私でさえ、あまり見ることもない。

 

「驚くと思うよ。」

「驚く?そんなに凄いの?」

エリカは半信半疑のようだった。でもそれ以降の事を、私は口にしなかった。

 

試合が始まるからだ。

 

□ □ □ □ □

 

開始の合図が鳴った。普通の選手なら同時にCADを構えるが、銀はそれをしない。その姿を見て、エリカは立ち上がってしまった。

 

「銀次君!?何してるの!?」

 

立ち上がりながら、声を荒らげていた。私はその魔法を知っていたから黙っていたが、深雪も驚いていた。それは何故か。

 

それは 「達也さんと話し合った作戦じゃない」 から。

 

達也さんと打ち合わせをした本来の銀の作戦は、放出系統の魔法を使い、ひたすら撃ち続ける。

 

という、単純な作戦の筈だった。

 

でも、銀はやっているのは全く別の事。

 

射撃エリアを、ただ黒く染めているだけ。

それだけなのに、得点は次々に増えていく。

 

「なんだよアレ……」

「一高にあんな逸材がいたのかよ…」

「あんな魔法、見たことないぞ…」

 

会場がざわめきに溢れる。

深雪もエリカも、驚きを隠せていない。

正直、私も驚いている部分はある。

それでも銀は100/100点で、予選を終えた。

 

Side out

 

□ □ □ □ □

 

それは開始してすぐの事だった。

俺ら魔法式を展開しようとした。だが出来なかった。

 

魔法式が、展開されない。

何度同じことをしても、使用する魔法を変えても。

魔法式はいつまでも展開されない。

有り得ないと思いながらも、俺はCADを閉まった。

 

(緊急時とはいえ、もう使うとはなぁ………)

 

正直に言うと、その魔法を使いたくなかった。

でも、その魔法以外に使える魔法はなかった。

 

そして、ボソボソと声に出して、魔法を展開した。

 

「アクティベイト シャドウ・レイン」

 

展開した瞬間。有効エリアは一瞬で黒く染まった。

この魔法の効果である。

 

この魔法【シャドウ・レイン】は影を収束して、それを硬化させながら針状に変形させる。そして針状の影がクレーに雨のように突き刺さるという魔法である。

 

発動時こそ見た目は地味だが、触れれば人間くらいは一瞬で殺せる。威力はもちろん抑えたが、それでも強力な魔法だ。

ついでに、俺のオリジナルの1つである。

 

ここまで説明しているが、何故エリアが黒く染まっているかは別である。実はこれ、放出系魔法でカモフラージュを作り出して【シャドウ・レイン】を隠しているだけである。

 

そんな黒く染まった有効エリアは、次々にクレーを破壊する。恐らくだが、この魔法を見ればインデックスへの登録を迫られる。だが、それをさせたくないのだ。何故か?

 

ふざけるな。

この言葉しか出てこない。

 

だってこんな魔法を登録すれば、軍事的利用なんていくらでもするでしょ。はっきり言って、この魔法の規模によっては戦略級魔法にもなるし。通常でも戦術級と言っても刺し違えない。

 

こんな魔法。知らない方が幸せだ。

 

 

さて。長々とよく分からない事を考え込んでいたが、もうすぐ100点だ。妨害こそあったが、これで予選突破は確実だろう。

 

 

今回の妨害の件、一体どうしてくれようか。

 

□ □ □ □ □

 

「予想通り、妨害工作をされていたよ」

「やはりか…。名の知られていないお前はもしかしたらと、可能性を考慮していたが、やはり手を出してきたか。」

「ああ。……ったく、癇に障る奴らだよ。」

「これで犯行場所が分かったが、問題はここからだ」

「ああ。一体どうやって、だな。」

 

試合が終わった後、俺は達也に即連絡をした。

元々は囮としての作戦だったから、引っ掛かってくれた奴さんには感謝しかない。まあ、今は気にしても仕方ない。

 

「雫はどうだった?」

「予選は通過したよ」

「流石は女子2番手だね。午後はバトル・ボードか」

「ほのかと、優奈か。」

「まあ、二人は大丈夫でしょ。」

「問題は……」

 

問題は、俺。これ以上の妨害工作をされれば、はっきり言って危ない部分もある。『カーディナル・ジョージ』は伊達じゃない。これは建前ではなく、本心である。ほのかに関しても、あの作戦なら問題ない。

 

優奈も、手筈通りにやってくれるだろう。

 

「試合の時間だ、行ってくる」

「頑張れよ。銀次」

「雫によろしく伝えておいてくれ」

 

通信はここで切れた。さあ、始めよう。

 

□ □ □ □ □

 

時刻は23時49分。九校戦も五日目に入ろうとしている。

そんな時の事だ。俺は1人、会議室に呼び出された。

 

「失礼します。紫藤です」

「よし、入れ」

 

会議室に入ると、中にいたのはたったの2人。

七草真由美・十文字克人の2名である。

 

「スピード・シューティング優勝おめでとう。」

「ありがとうございます。七草会長」

「ご苦労だった。この後も宜しく頼む。」

「お任せ下さい。十文字会頭」

 

まずは手探りに。この二人だけが揃う。

深く考えるのも良くないが、呼ばれた理由は大体分かる。

 

「会長。今回は何の話ですか?」

「とぼけないで。…貴方の予想してる通りよ。」

「やっぱり………」

 

深く考えて良かった。という程ではないが、安心した。これで期待外れの答えだとしたら、ガッカリしていただろうから。

 

予想通り。つまり、呼び出された理由はこうだ。

 

「インデックスへの登録、ですよね。」

「ええ。大学からその要請をされています」

 

真由美さんからは、いつもの様なタチの悪い笑顔は全くない。これは生徒会長としての威厳を保つ為だろうけど、関係ない。

 

「お断りします」

 

キッパリと言ってやった。登録する訳にはいかないから。

 

「理由はなんだ」

今度は会頭から。説明するのだるいなぁ…。

まあいいや。簡単に話すか。

 

「危険すぎるからですよ。殺傷効果さえあるので。」

「殺傷効果だと?」

「はい。規模によっては戦術級と同等の威力にもなる」

「そうか……。分かった。此方で説明しておこう」

「ありがとうございます。」

 

話が終わると、真由美さんは笑顔を戻した。

なるほど、この時間でも小悪魔降臨ですか。

 

一方で十文字先輩からは先程までの表情は消えない。

そんな事を考えていると、意外な言葉が飛んできた。

 

「紫藤、今から言うことは、学校とは関係ない」

「?はい。」

「この話を聞き流しても、構わない。」

「わかりました。なんですか?」

後から考えれば、この言葉が飛んできたのはきっと十文字家からの指示なんだろう。だからこそ、先輩という立場で話していた訳では無かったのだろう。

 

考えれば考える程、嫌な事しか思いつかない。

 

十文字会頭が言った言葉はこうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「4の数字がお前に帰ってくることは、ない。」




今回は結構吹っ飛ばし回でした。バトル・ボードに関しては次回キチンと触れますので、お楽しみに。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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九校戦編 第8話

あれ、メインヒロイン要らないんじゃない…?
ちょっとどうしようか迷ってます。
横浜編には間に合わせます。


九校戦6日目。この日は男女アイス・ピラーズ・ブレイク決勝リーグとバトル・ボード決勝がある。

 

戦績から言うと、銀次、深雪、雫、エイミィが「棒倒し」(ピラーズの略称)で決勝リーグに勝ち残り、女子に関しては1〜3位までを独占できる可能性が残っている。

バトル・ボードにおいては、男子は全滅。女子はほのかと優奈が勝ち残っている。タイムで見ると、1位は優奈である。

 

さて。六日目の試合で九校戦の全出場試合が終わる銀次は、決勝の準備をしながらある事を思い出していた。

 

『4の数字が戻ってくることはない』

 

何も知らない人からすれば意味がわからない言葉ではあるが、少なくともこの青年は違った。

 

「4の数字…ね。別に愛着はないんだけどなあ」

 

愛着はない。だが気にはなる。そんな表情をしながらの準備を見ている者は、誰も居なかった。本人以外のいない殺風景なその部屋と、真剣で何処か寂しげな顔をしていた本人。それだけで部屋の雰囲気は作られてしまっていた。その時だった。

 

「時間になりましたので、移動をお願いします」

それはアナウンスではなく、係員からの口頭の連絡だった。それに対する彼の返事はというと。

「分かりました。」

と、だけ。何もなく普通だ。

 

□ □ □ □ □

 

『3…2…1…ピーッ!!』

 

男子アイス・ピラーズ・ブレイク決勝が始まった。

銀次の相手は一条将輝。三校のエースにして十師族「一条」の長男。次期当主になる日も近いとも言われている。

 

開始直後に彼は得意魔法「爆裂」を使用した。だが発動することは無かった。銀次の魔法である。

 

「これ程の領域干渉…。流石銀次だな…」

 

彼はそう口にしながら魔法を展開し直した。だが次の瞬間、防いだ銀次から魔法式が展開されていた。その魔法陣は大きく、将輝の氷を全て埋めつくしていた。そして魔法は発動された。

 

「将輝…これでお終い。星屑の力に、君は勝てない」

 

発動された魔法の名は『星屑の裁き』。魔法陣からはプラネタリウムの様な光景が映し出され、同時に星々が魔法陣の上を舞っているかのようだった。だが星々は次の瞬間、砕け散り、そして氷に落ち、将輝の氷は全て粉々に砕け散った。その間僅かゼロコンマ3秒。その圧倒的な力を前に息を呑んだのは将輝だけでなく、会場にいる全ての者が、とある1つの魔法を連想していた。

 

まるで『夜』の支配者であると。

 

こうして、男子アイス・ピラーズ・ブレイク新人戦決勝は異様な光景を残して幕を下ろした。

 

□ □ □ □ □

 

午前中に新人戦の全試合を終えた銀次は、急いでいた。午後からはバトル・ボードがあり、ほのかと優奈が出場する。彼の目的は無論、優奈の試合を見に行く為であるが、それだけではなかった。試合開始まで30分。急がなければ席は取れない。会場まで走っていたその時であった。

 

ドンッ!!

 

「イタタ…。もう誰ですの…?って…」

「イタタ…。ごめん。急いでたから…って」

 

『え?』

 

銀次がぶつかったのは、金髪で紅い制服の女子。懇親会で彼が揉めた三校の一色愛梨だった。

 

「あ、一色さん…だよね。ゴメン急いでたから」

「いえ…。バトル・ボードの観戦かしら?」

「うん。大事な仲間が出るんだ。」

「そう…。あの紫藤、さん」

「ん?なに?」

銀次と話す愛梨の顔は真っ赤だった。それはまるで片思いをしている少女のような顔つきで。

 

「あの。もしよければ……」

 

□ □ □ □ □

 

『オン・ユア・マーク……ピーッ!!』

 

バトル・ボード女子決勝が開始した。選手はほのかと優奈、三高の四十九院沓子、七高と四高の選手。スタートの時点で、トップは三校。真後ろには優奈。少し離れた所にほのかという順位だ。

 

さて。これを観戦しに来た銀次はというと…

 

「まさか席が余ってるなんてな。一色さん、ありがとね」

「いえ。お気になさらないで?」

 

先程ばったり会った愛梨と観戦していた。銀次は楽しそうな目で試合を見ていたが愛梨は違った。深呼吸をして、口にした。

 

「……懇親会の事。本当にごめんなさい。」

「え?…あぁ。あれか。」

「その…貴方に失礼な事を言ったわ。本当にごめんなさ「気にしてないよ」…え?」

「別にそんな事気にしてないって。」

言葉にすればするほど愛梨は下を向いていった。いつ泣き出しても普通なくらい涙目な彼女の声も、段々細々としていった。それでも銀次は下から顔を覗き込んだり、頭を撫でたりする事は無かった。ただ淡々と彼女と会話をするだけだった。

「でも、私の気が済まないわ」

「えー?いいのに」

「罰を与えて」

「罰?」

「ええ。罰よ」

「わかったよ。じゃあ、下の名前で呼んで?」

「下の名前?」

「銀次って呼んでよ。俺も下の名前で呼ぶからさ」

 

「は…はい!銀次さん!」

 

返事をした彼女からは既に、先程までの暗い雰囲気は消えていた。それは懇親会の時の様な圧力的な笑顔ではなく、友達と笑っているかのような笑顔であった。

 

□ □ □ □ □

 

二人が話していた最中も試合は続いていた。出だしとは変わり、三校の選手は3位、ほのかが少し前を行く2位。だがしかし、トップはそれよりも遥かに前を進む優奈であった。

 

「んーちょっとがっかりかなあ。退屈」

 

トップを行く彼女からしたら、後ろの4人は退屈しのぎにもならなかった。スタートこそ策を駆使していたものの、今となっては移動魔法を掛けているだけで、座禅を組んでいるのだ。そんな彼女は、途端に目を見開いた。

 

「そうだ。イイこと思いついた…!!」

 

□ □ □ □ □

 

結論から言うと、バトル・ボードの優勝はほのかだった。トップだった優奈は準優勝。ほのかの逆転優勝となった。

 

そんなバトル・ボードも終了し、時刻は21時。銀次はとある所で待ち合わせに来ていた。

 

「よっ。退屈しのぎはどうだった?…優奈」

 

彼が待っていたのは優奈だった。ホテルの屋上のベンチに座りながら、二人は隣り合わせになっていた。

 

「うーん。トップはつまんないから、狙ってみました」

「狙った?何を?」

「…ジャストタイム」

「あぁ。成程」

「……怒る?」

 

恐る恐る聞いた彼女は銀次の顔を覗き込んだ。

それに対する銀次は、彼女にとっては普通だった。

 

「いいんじゃねえの。俺はお前らしくて好きだよ。」

「ふぅん…ならこの後も好きにします」

「けど、気付かれるなよ?」

「分かってます。それも……退屈しのぎですから」

 

そう言った彼女は屋上を後にした。それに変わって、屋上には別の人間がやってきた。

 

「どういうおつもりですか…?銀次さん」

 

やってきたのは深雪だった。彼女の服装が制服という事はまだシャワーを浴びる前なのだろう。

 

「どうもこうも…聞いてた通りだ。」

「聞いてた通りって…!!じゃあほのかが優勝出来たのは!」

「思ってる通りだよ。………四葉のお嬢さん」

「…!!どうしてそれを」

 

その頃には既に、深雪はCADを構えていた。それもその筈。なにせ彼が口にした事は彼女が秘匿していた情報であったから。

 

「他にも知ってるよ。言いふらす気は無いけどね」

「そうですか。…見返り、ということですよね」

「よく分かっていらっしゃる。」

「それが貴方の本性ですか。性格が悪いですよ?」

「よく言われる。…これで失礼するよ」

 

その場を後にした銀次は、無表情だった。一方で深雪は、それはそれは恐ろしいものであった。鋭い目付きに眉間に寄った皺、未だに降ろすことのないCAD。一歩間違えたら彼女の魔法の餌食になり兼ねない。そんな状態だった。

 

様々な目的が動きながらも、九校戦は六日目を終えていた。




バトル・ボードは正式なタイムが分からないので、あくまでもジャストタイムを狙ったとだけ。タイムを狙ったら準優勝になった。そういう解釈をしてもらえるとありがたいです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。


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九校戦編 第9話

前回少し書き方を変えてみたんですが、いかがでしょうか。
それまでが個人的には小説感が無いと思って、前回の様な書き方に変えてみました。今後もこの形を取っていきつつ、たまに視点を変えたりしてみようかと検討しております。


九校戦七日目。新人戦も明日で終わりを迎える。

今日は新人戦ミラージ・バットとモノリス・コード予選がある。

とはいえ、ホテルの一室で未だに睡眠をとっている銀次にとっては、興味が無いものであった。彼は既に試合を終えた選手であり、万が一非常事態が起きなければ、規定により出場が出来ないのだ。

 

さて、時刻は午前11時20分。モノリス・コードの試合開始時間である。それでも彼が起き上がることは、無かった。

 

□ □ □ □ □

 

時刻は午後1時。それでも銀次が起きることは無かった。

普通の人からすれば流石に起きろと言いたいところだが、たび重なる疲労の影響もあり、それを言いにくる人はまだいなかった。彼は想子保有量が少ない側の魔法師だという事を皆知っているからである。しかし、銀次が寝ている状況はその時変わったのだ。

 

「おい銀次!いい加減起きないか!」

「zzz......」

「そうか起きないか。なら一度イタイ思いをしt「おはようございます!摩利さん!」むっ。やっと起きたか。」

 

起こしに来たのは風紀委員長の摩利であった。とはいっても、この状況。「女子が男子を起こしに来る」という夢の様な状況なのだが、彼女にはそれを気にするほどの余裕はなかった。

 

「今すぐ支度しろ。非常事態が起きた」

「非常事態?モノリスで何かあったんすか?」

 

銀次のこの言葉の後、摩利は少し躊躇っていた。彼は既に疲労が溜まっていて、何かと無理をさせるべきではない。それでも呼び出さなくてはいけない。事態が事態であるが故に。覚悟を決め、彼女は話を始めた。

 

 

「想像以上に酷いことになった。急いでくれ」

 

 

□ □ □ □ □

 

「紫藤です。おはよーです。」

「おい紫藤!朝食も摂らずにどこにいたんだ!」

声を荒らげたのは服部刑部少丞範蔵副会長。

略してはんぞー副会長。

「おはようございます副会長。部屋で寝てました。」

「今までか…?」

「はい。今までずっと」

 

「どんだけ眠かったのよ……」

そう言ったのは2年の千代田花音。

「おはようです花音先輩。流石に疲れてたので」

「そう。なら仕方ないわね」

「ご心配をおかけしたようで」

そう言った銀次の顔からは既に笑顔が消えていた。それは花音と話していた時の笑顔や服部と話していた時の無表情は消え、すっかり別人のような顔つきであった。すると今度は鼻で臭いを嗅ぎ始めた。目を瞑り匂いを嗅ぐ。すると、目を開き銀次は言葉にした。

 

 

「この臭い……血、ですね」

 

 

説明がなかったのにも関わらず、彼の口から出てきたその言葉に周りの者は騒然としたが、約1名のみ、そうでは無かった者がいた。呼び出した彼女である。

 

「モノリスで事故が起きた。全員重傷だ」

「命に別状は?」

「特にない。市街地ステージのスタート時に『破城槌』を建物内で使われたようだ。建物が上から崩壊したというわけだ」

「それ殺傷ランクAになるやつじゃん…」

「知っているのか?」

「これくらい常識ですよ。」

 

淡々とした会話だが、摩利は既に怒りを見せていた。彼女もバトル・ボードで被害を受けた1人であり、銀次に続いてまたもや自分の学校に危害を加えられたというわけだ。むしろ怒りを抑える方が難しいと言えるほどの事態である。

 

「銀次。この後真由美が話をしたいと言っていてな。少し待っていてもらえるか?」

 

銀次は少し考えた。今回の件、というより九校戦に関して、彼は敵の行動を黙認する立場でいようとしていた。それがもし真由美と話などすれば『七草と手を組んだ』と敵に勘違いをされる可能性もある。ここで敵を潰しても、軍と繋がっていると考えられる可能性も疑われる。それ等は彼にとって都合が悪い。それ故に答えを渋っていた。

 

「うーん…少し、時間を下さい」

「?どうかしたのか?」

「ええ、まあ…。」

「?まあいい。真由美が来るのもまだの様だしな」

 

□ □ □ □ □

 

「俺は出ませんよ」

「何故だ。」

「出たくないからですよ」

「それでは理由になっていない」

「貴方は権利の意味を履き違えている」

「強制しているつもりはないが」

「理由を却下するのは強制しているも同然かと」

「納得出来ないと言っているのだ。的確に話せ」

「お断りします」

「…………。」

 

結論として、彼は話し合う事は認めた。だがそれ以上妥協するつもりは一切ないということである。今もこうして「モノリス・コードを出てほしい」という真由美と克人からの願いを拒否している。しかしそれは克人も譲らなかった。譲れなかった。

 

「俺より適任はいると思いますよ」

「それを考慮した結果だ」

「絶対嘘でしょ先輩」

「決めつけは良くないだろう」

「強制も良くないでしょ…」

「ならば理由を話せ」

「出たくないから。それだけです」

「何故出たくないのだ。危険性はない」

「それは本来ならでしょう?怪我人は既に出てますよ」

「言いたいことはわかるが、お前しかいないのだ」

「いやいるでしょ。……約1名」

「1名だと?誰だ」

「ブランシュの一件。片付けたのは誰でしたっけ?」

「俺と桐原、千葉と西城と……まさか司波か?」

「ご名答です。アレは活躍出来ますよ」

「……お前はどうする」

「休ませてください。身体はもう動きません」

「先に言え。七草」

 

ここで口論は止んだ。克人は真由美を呼び出した。

 

「え、な、何!?」

「………何をしてるんだお前は…」

「真由美さん…………」

 

彼女の体制に二人は呆れていた。何をしていたのか。彼女は暇だったからか、1人セクシーポーズ紛いの事をしていたのだ。それをしていた時に克人からの呼び出し。彼女はそれを見られてしまったというわけだ。それはもう生徒会長とは言い難い様子であった…。

 

「わ、忘れてください…お願いだから………」

「あ、あぁ……………」

「そ、そうですね…見なかったことにします………」

 

その後、部屋に達也が来るまでの間、その部屋では気まづい空気が流れていたという事があったらしい。




次回もよろしくお願いします。


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九校戦編 第10話

九校戦…進まねえ……。
後2.3話で終わらせたい…。


達也が会議室に呼び出されてからは早かった。

それまで言い合いになっていた銀次と克人の口論とはまったく違い、達也は一度は断ろうとしたものの、あっさりと受け入れたのだ。残りもメンバー選出も早く、レオと幹比古を指名した。

 

こうして、モノリス・コードの新メンバーは思っていた以上にあっさりと決まったのだった。

 

□ □ □ □ □

 

即席とはいえクラスメイトなこの3人。達也はCADの調整をしているとはいえ、3人とも緊張していないと言えば嘘である。

 

「俺が…モノリス・コードの選手…」

「た、達也…嘘じゃないんだよね?」

「あぁ。事実だ。」

「び、ビビってなんかないからな!」

レオはビビっていた。手が震えるほどに。

 

「それにしても、僕らを出すなら銀次は?」

そう言ったのは幹比古だった。達也と銀次はホテルのルームメイトなのだが、何故か11時を回っても部屋には帰ってこない。

 

「どうやら断って俺を指名したらしい。」

「なんだそりゃ。押し付けたも同然じゃねえか」

「まあそうなる。が、仕方ないというのもある」

「仕方ない?面倒事を押し付けるのが?」

幹比古は少し怒っていた。達也が最初に言ったことだけを聞いてみれば、銀次は「めんどくさいから押し付けた」ということで更に彼からすれば「才能を持ちながらもやる気がない。才能を持て余している」ように見えてしまうのだ。

 

だが達也はそれを察していた。

「落ち着け幹比古。銀次のことについて少し話す」

「わかった。なんだい?」

幹比古はそこで座り直した。ついでに言えばレオを座り直したが、彼はそこまで真面目に聞くつもりはないようだ。

 

 

「まずアイツは俺たちと違い、既に2種目に出場している。それも三高の『カーディナル・ジョージ』と『クリムゾン・プリンス』に1対1の勝負で勝利している。九校戦の出場規定は2種目。本来ならアイツは出れない立場なんだ。今回の件で運営が特例を出したとはいえ、これ以上アイツが出れば、三高からはクレームやブーイング、酷くなれば一高側に三高が抗議する可能性も出てくる。恐らく、アイツはそれをわかっていたんだろう。」

 

「じゃあ、銀次が断ったのは…」

「疲労もあるが、それが理由だろうな。」

「そんな先の事を最初から考えてたなんて…」

 

二人の話はそこで終わった。達也の調整が終わったのだ。本来ならばCADの調整というのは、時間がかかるのだがこの短時間で終わったのは達也だからこそと言えるだろう。1人あたり10分程度で完了しているのだ。

 

「さ。明日は試合だ。遅くまで済まなかった」

「いいってことよ!頑張ろーぜ!」

「そうだね。頑張ろう!」

 

3人はここで解散した。この時、まさか自分たちが前代未聞の事態を引き起こすとは、まったく思っていないであろう。

 

□ □ □ □ □

 

達也がCADを調整していた同時刻、銀次は別の場所にいた。

 

「森崎…早く治せよ…。心配させるんじゃねえよ…」

彼が居たのは、森崎の病室だった。

 

銀次は既に1時間以上そこにいた。森崎の包帯だらけのボロボロの身体を見て気分を害す。というのは銀次には無かったが、包帯に染み付いた血を見る限り、手を握るのは控えていた。

 

「さてと。そろそろ行きますかね…優奈」

「用意は出来てます」

「なら、行くぞ」

「了解です」

 

□ □ □ □ □

 

「このままでは一高が優勝してしまう…!!」

「何か手はないのか!」

「失敗すれば良くてジェネレーター。悪くて…」

「そんなこと言うな!気味が悪い!」

「ならどうするのだ!」

「九校戦を、中止させればいい!」

「!!ジェネレーターを派遣するのか!?」

「それしかないだろう…」

 

ここは横浜ベイヒルズタワー周辺に存在するビルの中のとある一室。その一室にいるのは香港系犯罪シンジケート。名を『無頭龍』(ノー・ヘッド・ドラゴン)

 

彼らは九校戦を利用してトトカルチョを開いていた。優勝校を予想して、儲けようという目的。大抵の参加者は「一高」だが彼らは違った。彼らはなんと「三高」を指名したのだ。これで優勝しなければ、赤字は免れない。そこで彼らは九校戦に細工を施した。

 

これまでのアクシデント彼らの仕業である。

だが、焦っていた。余りにも一高が強過ぎるのだ。

十師族である「七草真由美」「十文字克人」だけではない。1年の「司波深雪」「紫藤銀次」もその原因であった。「紫藤銀次」に関して言えば細工をしたのにも関わらず、優勝。想定外の事態となった。

 

想定外の事はそれだけでは終わらなかった。

モノリス・コードの選手を襲撃したのにも関わらず、代理選手の発表。これではやったことの意味がなかったことになる。

 

更にそれだけではなかった。

 

「よう。犯罪シンジケートさん?」

「少し。癪に障ったので…潰しに来ました」

 

彼らの本拠地への紫藤銀次の登場だ。

もはやどうすることも出来ない。

 

「良くもやってくれたよねえ…優奈」

「3つ質問します。命くらいは検討してあげます」

「わ、わかった…!」

 

「まずリーダーはダグラス・ウォン。ですね?」

「あ、あぁ!そうだ!」

「では次。大亜連合の支援を受けた。違いますか?」

「あ、あぁ!そうだ。俺たちは支援を受けた。」

 

 

「では最後。モノリス・コードで起こった事故。あの時使われた『破城槌』はお前らの仕業だな?」

最後の質問者は銀次だった。声は低く、ドスの効いた声。氷のように冷たい視線。手中にあるのは特化型CAD。ブランシュの時とまったく同じである。

 

「もう一度聞く。破城槌は、お前らの仕業だな?」

「……………そうだ。俺達が命令した」

「つまり、運営を買収したんだな?」

「……………そうだ。」

「そうか。……………よし、キエロ」

 

スパァーンッ!!

 

CADからはいよいよ魔法が放たれた。部屋の内部は赤く染まり、天井は真っ赤で炎が映し出されたかのよう。

 

「お前らのせいでこの魔法使えなかったんだよねえ…」

 

「す、済まなかった!だから命だけは!」

「日本からは手を引く!もう二度と戻らない!」

「だからせめて命だけは!頼む!」

 

男達は一斉に土下座をした。だがそれを許すも許さないも、行動したのは銀次ではなかった。

 

「見苦しい…早く去ね」

 

トドメを刺したのは優奈だった。銀次の魔法より早く、瞬間的な速さで、それは一瞬のことであった。

 

「スズメバチ……。上達したな」

「……あまり派手に出来ませんから」

「………試合で疲れたか?」

「……まさか。暇つぶしでしたよ」

「そうだな…。」

 

「残り7秒で77点になるだなんて…馬鹿馬鹿しい」

「………多分、雫には気づかれました」

「…ふぅん。ま、嘘はつくなよ?」

「分かってますよ……嘘は、1番嫌いですから」

「………ミラージ・バット準優勝。お疲れ様」

「ありがとうございます………銀」

 

銀次が魔法をキャンセルした後、二人はそのままホテルに帰っていった。ロビーから入った時には受付に驚かれたものの、その後音を出さず、気配を見せずに部屋に戻っていったという。それはまるで、裏に生きる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパイのようであった




どうにもふわふわした構想しか出来上がらない…。
次回かその次で終わらせたいとは思ってます。
(ちなみにこの作品の九校戦編の山場はまだです)
それが終わったら夏休み編ですかね。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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九校戦編 第11話

早く横浜編書きたい…。
その前に夏休み編ですが…。

※少し修正しました。 2/1


「無頭龍が行方不明?」

それは突然の事であった。

 

「あぁ。彼らがいたと思われる地点を調べた結果、既にその場所にいないことが判明した。部屋には血痕も残っていたそうだ」

「では何者かに殺された。ということでしょうか」

「そう判断すべきだろう。特尉」

「了解しました」

「ところで特尉……いや、達也」

「何でしょうか風間少佐」

 

特尉、もとい達也がいるのはこれまたホテルの一室である。とはいえ、軍人用フロアにある一室ではあるが。

九校戦期間中とはいえ、元々九校戦の会場は全て国防軍の敷地である。軍人が居てもおかしくはないが、ホテルは関係者でいっぱいである。だが、それで軍の人間が使えないというのもおかしな話である。そこで、期間中でも軍の人間が使えるように運営がフロアを指定しているのである。達也が居るのもその1つだ。

 

「モノリス・コードに出るというのは、本当か?」

「よくご存知で」

「君はトラブルに愛されているからね」

「真田さん…。」

「そうね、達也君といると退屈しないわね」

「俺は好きでトラブルに愛されている訳じゃないです」

「…とは言っても、現状…どう考えてもなあ。」

「柳くん、それを言ったらお終いだよ」

 

部屋に居たのは風間と達也のみではなかった。真田大尉、藤林少尉、柳大尉という3人の軍人もいる。彼らは達也と同じ部隊に所属している、少し変わった軍人達である。

 

「達也、分かっているとは思うが」

「一条と事を構える前に、負け犬になります」

「あら、潔いのね?」

「勝てば後が面倒ですから」

「向こうが負ければ師族会議だろうからなあ…」

「確かに二度も負けるというのは…」

「一条家としては大問題、だろうな」

 

4人の意見は既に一致していた。

達也は絶対に優勝してはいけない。

これ以上のイレギュラーは良くない。

そんな思いによって。

 

□ □ □ □ □

 

九校戦八日目。新人戦モノリス・コード決勝の開始まで残された時間は30分。カードは三高と一高である。

 

 

達也は勝ち上がってしまった。即席のチームで、ゲリラ戦に近い作戦で、勝つつもりのなかった試合の数々で。

レオや幹比古よりも、むしろ会場が驚いていた。

「代理が決勝進出」という異例の事態に。

 

「達也…とうとう決勝だぞ…」

「まさか自分たちが決勝とはね…」

「これは予想してなかったんだがな…」

 

そもそも彼らが出たのは森崎率いる本来のメンバーの代理である。あの事故によって、指名された3人に最初は期待2割不安8割の一高メンバーだった。だが箱を開けてみれば、決勝進出。

 

もはや本来のメンバーより強い可能性さえあった。あの二科生が、自分たちが軽蔑していた、初戦敗退するだろうと思っていた、劣るはずがないと思っていたあの二科生が決勝なのだから。

 

「よし。一条は俺が相手をする」

「じゃあ僕が吉祥寺だね」

「よし!防御は任せろ!」

 

それでも変わることなく、彼らは会場に入っていった。

 

□ □ □ □ □

 

時を同じくして、ホテルの屋上。銀次はそこにいた。

 

「で、なんの用?……真由美姉さん」

「うん。ごめんね決勝の観戦もあるのに」

「それは別に。どうせアイツら勝てるから」

「あら、評価しているのね」

「勝てないと判断したくらいには」

「それ、かなりの実力じゃない……」

 

銀次は進んで屋上に来た訳では無い。真由美に呼び出されたから来ただけである。そうでなければ来なかった。というより、話を聞くつもりもなかった。

 

「要件は………連れの事か」

「やっぱり黙認してたのね……」

「………ゴメン」

真由美の要件は今そこに居ない銀次の連れ、優奈に関することだった。彼女を、生徒会長として黙認出来なかったのだ。

ただ生徒会長として以前に、人間としてでもある。

銀次を呼び出した理由は、まずそれが1つ。

「点数的な変動はないけど、結構問題あるのよ」

「分かってる。でも、無駄だと思う」

「それだとタメにならないと思うけど」

「優奈が求めるのは完全勝利じゃない、快楽だ」

「あの試合でいう………○分00秒のことかしら」

「…………まさにそれだ」

 

銀次は嘲笑していた。それは真由美が魔法を使用する必要もないくらい分かるほどに。優奈がやった事は客観的判断をすれば、正しくない事である。ただ主観的判断をすれば、そうとも言えない。九校戦という舞台で、競技自体の優勝が同校であればいいのだから。だからこそ優奈は、ほのかを優勝させて快楽を求めた。ほのかを利用して、自分は遊んでいたのである。最低なのは明らかだ。それでも結果的には二種目とも準優勝。快楽を求めていたとしても、最低限の得点は入れている。どれだけのことをしても、実績を出している。

 

だが真由美はそれでも良しとしなかった。

「人間として、直さないといけない部分だと思うの」

「無理。あいつは……既に狂ってるよ。」

「…………手遅れって言いたいの?」

「そう取ってもらって構わない」

「そう…。やっぱり変わったね、銀次君」

「変わらないよ。ずっと放任主義だ」

「そういうところは変わってない」

「………悪口は程々にな」

「考えておくわ。それより本題」

「まだあったのか………」

 

そこで真由美の顔が引き締まった。それを見た銀次はそれに合わせて笑顔を消した。幼馴染という関係は1度終わりだ。

 

「七草家当主が本邸に招きたいと申しております」

「それはつまり、俺に出頭しろと?」

「事を構えるつもりはありません」

「そういう所は父親に似てんだな。狸女」

「それでは、拒否すると?」

「生憎と協会からも呼び出されてんだわ」

「そうですか。では当主にはなんと?」

「丁重にお断りしますとお伝えしてくれ」

「…当主にはその様にお伝えします」

「よろしく。じゃあ俺は行くわ」

 

「………待って」

「何?まだ何か?」

「そうじゃないの。ねえ、銀次君」

 

 

 

彼女は一度そこで口を閉じた。彼女がそれから言った言葉に、銀次は後に考えさせられることになるが、今は別問題である。

今にも泣きそうな表情で彼女はこう言った。

 

 

どうして君は、そこまで幸せを嫌うの。と。

 




これでいいのか悪いのか…。
自分は浮かび上がる言葉をただ書き込んでいるだけなんで、そこは違うんじゃないか?って思う時は、大抵言葉を選ぶくらいで、シナリオを変えようとはしないんです。なのでこれでいいのかって、わからないんですよね。なんとも不便な思考です。
もしかしたらあと3話かかるかもしれないです。
まあ、そこに関してはあしからず。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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九校戦編 第12話

主人公がモノリスに出ないので、モノリスは飛ばします。
すみません。ご了承ください。

※モノリス・コードの結果は原作通りだと思ってください。
モノリス書くと、主人公マジで空気になるので飛ばします。


九校戦10日目が終了した。

2095年の九校戦が、漸く幕を降ろした。

総合優勝は第一高校。新人戦も同様であった。

一高はこれで3連覇を達成。史上初のことだった。

 

また、殆どの競技での優勝は一高選手。1つの学校が優勝した競技数においても、大会史上最多数の記録であった。

 

その背景には【妖精姫】七草真由美や【十文字家次期当主】十文字克人の二種目優勝、15歳にしてAランク魔法師レベルのニブルヘイムやインフェルノの使用や1年にして本戦ミラージ・バッドで優勝した司波深雪の存在があった。だがそれだけではなかった。

 

女子は基本的に成績がよかった。戦績を見れば、優勝出来ずとも準優勝や3位入賞も多かった。しかし男子は別であった。2人を除いて、予選落ちや3位入賞止まり。あまり戦績が良いとは、とても言える結果ではなかった。

 

2人というのは、十文字克人ともう1人。新人戦ながらも三高のエースにして天才【カーディナル・ジョージ】吉祥寺真紅郎と十師族「一条」の名を背負う【クリムゾン・プリンス】一条将輝を一切相手にせず、圧倒的な実力差で二種目優勝をした男の2名だった。

 

彼はそれまで無名であった。二つ名などという大層なものはまったくなかった。それどころか、この大会において、優勝候補にもなかった。しかしその結果は覆され、二種目優勝。それも優勝候補を圧倒した上での優勝。

 

このことから、彼はこう呼ばれた。

王子をねじ伏せる姿から【銀の皇帝】と。

こうも呼ばれた。スピード・シューティングで有効エリアを黒く染めた謎の魔法を使用したことから【パンドラの悪魔】と。

 

しかし誰も知らなかった。気づかなかった。

その男がどんな人間かを。その男の素性を。

どんな人間関係を築いているのかを。

そして後夜祭パーティに参加していない事を。

 

そんな彼、紫藤銀次は焦っていた。苛ついていた。

ある老人を前にして、というより老師を前にして。

 

□ □ □ □ □

 

「……どういうつもりだ爺」

「相変わらず口が悪いな」

「だったらいきなり呼び出すな」

「それはすまないと言ったであろう」

「いいや気が済まない。絶対許さねえ」

 

ホテルの一室。ホテルの中でもVIP専用の部屋で、銀次は老師【九島烈】に会っていた。後夜祭パーティを欠席して。

 

「で、碌でもない話なんだろ?」

「………奴の消息が確認された」

「…………まだ生きてたのかよ」

「それでもお前の父親だろう」

「父親?あんな屑が?」

「そう言ってくれるな。アレは事故でもあった」

「だが、9割は事件性がある。と」

「……………………………」

 

2人が話していた内容。それは銀次の父に関することだった。烈の方は銀次を説得するが、銀次は聞かなかった。聞こうとしなかった。父親の消息も、存在も、人間性も。認めなかった。

 

それ程に嫌っていた。軽蔑していた。

それが彼と彼の父の関係だった。

 

「何にせよ、俺から干渉はしないよ」

「分かっておる。だが、どうせあの男の事だ」

「そのうち、日本に戻ってくるだろうな」

「くれぐれも気をつけるのだぞ。」

「分かってるよ。油断はしない」

 

緊迫した空気の中、2人はその会話だけをして解散した。というより、烈が銀次を追い返した。

 

□ □ □ □ □

 

部屋を出た銀次の表情は暗かった。とにかく暗かった。全てに絶望した様な表情で、目つきは既に死んでいた。

 

(……あの男が、生きていた。か)

 

(…俺と優奈のどちらか。【楽園狂】はないだろうな。だとしたら【双龍】か【あの魔法】が目的と見るか)

 

(だが、いつ来る?【あの魔法】は優奈には一切伝えていない。【双龍】を手にしたところで、使い道は限られる。だとしたら、これは………)

 

暗い表情の中、ホテルの廊下にもたれかかって、腕を組んで、制服を着ていた銀次は漸く口を開いた。

 

「………【計画】を使う、か」

 

それは誰も聞くことの無かった独り言だった。

 

□ □ □ □ □

 

パーティも終盤。会場ではラストの音楽が掛かり始めた。大抵の生徒は踊っているが、2人の少女は違った。

 

「雫。こんな所に呼び出して、どうしたの?」

「大事な話。誰にも聞かれたく無いと思うから」

「そう………」

 

優奈と雫は会場から出て少し歩いた所、人がいない所に来ていた。2人とも達也と踊った後は1度も踊らず、雫に関してはむしろこっちが本命であるかの様な態度を取っていた。

 

「優奈。今から聞くことに嘘をつかないで」

「それは……質問にもよるけど」

「分かった。じゃあ、聞くね」

「うん。どうぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、ほのかが優勝する様に手を抜いたの」

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □

 

突然の質問だった。前置きと置いてから質問をした雫だったが、内容はかなり唐突だった。だが優奈は動揺しなかった。

 

というより、予想が的中したかの様な、クジが当たった時の様な、嬉しい事があった時のような、笑顔を見せていた。

 

「よく気づいたね。雫」

「……!!どうして!?」

「どうしてって言われても。興味が無いし」

「そんな理由で手を抜いたの?」

「うん。そうだよ」

「………理由を聞かせて、お願い」

「………そうだねえ」

 

優奈はそこで言葉を止めた。怒りを見せている雫の前で、驚く程に冷静で、淡々とした態度を取っていた優奈だったが、決して雫を鎮めようとはしなかった。雫を対等に見ようとは、決して、1度も、まったくしなかった。

 

「じゃあ、雫は優勝したら嬉しいの?」

「……え?」

「優勝したら嬉しいの?」

「もちろん。」

「どうして?」

「どうしてって、それは…」

「あれ、答えられない?嬉しいのに?」

「そうじゃない。そもそも関係無「あるよ」え?」

 

「優勝したら嬉しい?私には理解出来ないよ」

「……………」

「ま、理由なんて人それぞれだし。それが言葉に出ないことなんて、人間にはよくあることで、ごく自然の事だからそこは気にしなくていいよ。でも、私から見たら雫はそうじゃない。」

「……どういうこと?」

「雫が優勝したら嬉しいって思っているのは、自己満足。理由が無くて、ただラッキーと思ってるだけ。」

「……違う」

 

「自分の種目を気にしても、総合優勝とかには興味はない。自分が勝てばそれでいい。他は興味ない。ピラーズで深雪に挑戦したのもそういう事。深雪の事を考えてなかったんだよ。もし深雪が疲れきっていたら。これ以上試合をするのは厳しいと深雪が思っていたら。なんてこと、考えてなかったんだよ。」

「……そんなことない」

 

「他人の優勝に興味がない。ほのかさえいればいい。

………ほのかが優勝したのに私にこうやって聞くの、本当は迷っていたんでしょ?」

「……そんなことない」

 

「本当はほのかが幸せなら、何でもいい」

「……違う……!」

 

「他の人なんて、」

「やめて……!」

 

 

「……ほのかが幸せなら、どうでもいい」

「違う!そうじゃない!!」

 

□ □ □ □ □

 

「違う。そうじゃない。」

「じゃあ、なに?」

「確かに勝ちたかった。深雪に勝ちたかった。だから達也さんに色んなことを相談した。ほのかが優勝した時、深雪が優勝した時より嬉しかったのもホント。でもそうじゃない。」

「………それで」

「優奈が優勝を捨ててまで求める物が一体何なのか、知りたかった。優奈のことを、もっと知りたかったの」

「………そうなんだ」

「優奈は私の友達だよ。…優奈は、違う?」

 

雫のその質問に、優奈はあっさりと答えた。その言葉を使えば最後。2人の仲は悪くなると優奈は悟っていたが、そんな事はまったく気にせず、口にした。

 

「違うよ。私には銀次だけ。あとは要らない」

「え」

「…別に雫を陥れるつもりはなかったの。ただ私が楽しそうだと思ったから、こんな言い方しただけだよ。」

「どういうこと?」

「私が求めるのは力じゃない。」

「………」

「私は楽しければいい。後は要らない」

 

 

「それが浅井優奈だよ。分かった?」

「……………」

「じゃ、私もう行くね。銀に呼ばれてるし」

 

優奈はそこで去って行った。下を向いている雫に気を止めることなく、早歩きで、雫を置いて1人で去って行った。

 

 

□ □ □ □ □

 

後日談というか、オチ。

 

 

優奈と雫はそれから関わることが無くなった。帰りのバスも、解散後も。バスに関しては優奈は銀次の横の窓際に座ったのも理由の1つだが、解散後も優奈は1人で帰宅した。銀次の誘いに乗らなかったのは、優奈にしては珍しい事だったが、銀次に理由を当てつけて1人先に帰っていった。

 

 

銀次に関して言えば、悩みのタネが出来てしまった。優奈の事だけでなく、己の父親のこと。更に加えて、夏の一大イベントも臨時で追加されてしまった。それは何か。

 

「七草家本邸の訪問」である。

 

 

結局、銀次は断らなかった。それは七草家にビビっているから、七草家に逆らった後が怖いから、真由美に脅されたから。等という巫山戯た理由ではない。決して、そんな理由ではない。

 

 

こうして、銀次の夏休みが始まった。

それは、苦難と出会いの始まりでもあった。




結構限界な表現です。どう書こうか悩んだ結果、こういうレベルです。文章を書く能力が乏しいのは、ご了承ください。
次回から夏休み編をやって、オリジナルを挟みます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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夏休み編 夏休み編 第1話

うわぁい夏休み編だあ。
今度こそ、今作こそは失敗しませんように…。



「ねえ、海に行かない?」

「海?」

「あっもしかして」

「うん。ほのかの予想通りだよ」

 

九校戦が幕を閉じ、1週間ほど経過した。

時刻は午前10時とお昼時ではあるが、夏休みということもあり、起床も普段よりは遅くなる。そんな生活を送っていた雫は「海へ行かないか」と2人を誘った。

 

「プライベートビーチと別荘があるの」

「それは…凄いわね」

「で、皆で行かない?」

「いいわね。お兄様にお伝えしてみるわ」

「うん。お願い」

「じゃあ、エリカと美月は私が誘うね」

「じゃあほのかは銀次達を誘ってみて」

「分かった!連絡してみるね!」

 

と、軽い会話ながら、夏のバカンスの計画についての話し合いがこれにて終了した。大抵の事はここで決まったのは驚きだ。

ちなみに、レオと幹比古については深雪が達也に伝えた後、達也が連絡するという事になった。

 

□ □ □ □ □

 

「それで、俺に来ないかって?」

「正確には優奈もなんだけど……どうかな?」

「まあ、俺はいいけど……優奈は?」

「まあ私も構いませんが……。」

 

深雪達と話した後、ほのかはすぐに銀次に連絡をした。

正しくは、優奈宛で銀次に。であるが。

 

「そっか。よかった〜」

「よかったって?なにが?」

「ううん。こっちの話だから大丈夫だよ」

「?そうか。まあ、詳細はまた頼むわ」

「うん。りょうかい。」

 

「ところで、ほのか?」

「うん?どうしたの優奈」

「せっかくのバカンスだからさ。」

「うん。」

 

 

 

「達也君に告っちゃえば?」

 

 

「え、ほのかってそうだったの?」

「あれ、銀は知らなかったんですか?」

「それっぽいかな?とは思ったけど、そうでもないって思ってたんだよ。でも、まあアイツは顔立ちいいしなあ…」

「私も銀以上のイケメンは彼が初ですよ」

「そうか?ところで、ほのか?おーいみっちゃーん。」

「ほのかー。だいじょぶですかー?」

「………な」

 

ここで漸くほのかが反応した。優奈がいきなり提案したから、ほのかが反応するまでに2分は掛かっている。

これはもう、ほのかも隠しようがなかった。

 

「そんなにわかりやすい…かな」

「そりゃあんな眼差しで見てれば…まあ」

「でも、しーくんは気づかなかったんだよね?」

「んまあ、俺は確証が無かったと言うか何というか」

「じゃ、じゃあ少しはそうだと思ってたの?」

「それは…まあ、そうだなあ」

 

「嘘……じゃあもしかして皆………」

「多分皆気づいてると思いますよ。」

「嘘!?どうしよう優奈。私言えるかな!?」

「さあ?それはほのか次第じゃ?」

「ええ!?無理無理無理!自信ないよ!」

 

反応したと思った次は、慌てだした。

顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうなのに、おてんば娘であるかのように、慌てている。

 

この姿に、銀次は思うところがあった。

(10年経っても、ほのかは変わらないな。)

 

□ □ □ □ □

 

時を同じくして、司波家。

深雪も、通話が終わった後に行動をした。

「お兄様、少し宜しいでしょうか?」

「深雪。どうしたんだい?」

「実は…………」

 

と、ここでほのかと雫と話しあったことについて、深雪は達也に伝えた。バカンスのこと、レオと幹比古に伝えて欲しいということ。

 

そして、九校戦の銀次のことについて。

 

「銀次が知っていた?」

「はい。確かに言われました」

「そうか……」

「お兄様……」

「大丈夫だよ。敵でないうちは何もしない」

「分かりました。海の件はどうしましょう?」

「そうだね。丁度空けているから大丈夫だよ」

 

達也がそう言った瞬間、深雪の表情は一変した。

何かを隠しているような顔つきから、笑顔に。

 

「分かりました!行きましょう!」

 

□ □ □ □ □

 

翌日。銀次は通話の最中だった。

 

「……やっぱ、やらないといけねえよなあ…」

「そうねえ。ごめんなさい、疲れているはずなのに」

「それは大丈夫です。これ以外にも予定あるので」

「あら?出掛けるのかしら?」

「明後日から知人の別荘。帰ったら狸野郎の本邸」

「それはつまり、七草と手を組むのかしら?」

「嫌だなあ……あんな雑魚と組みませんよ」

「それはつまり。今後も、ということかしら?」

「勿論ですよ」

 

銀次はギラギラとした目付きで、三日月のように笑った。

そして、通話の相手にこう言った。

 

「何処にも固着しませんよ。四葉相手でも七草相手でも」

 

 

「そう……。それはそれで残念ね」

「理由は分かっているでしょう?」

「ええ。分かってます、だから惜しいのよ」

 

と、今度は通話の相手である四葉真夜が笑った。

笑顔というより、作り笑いというべき顔つきで。

 

「『夜』の後継者として、貴方が欲しいのだから」

 

 

□ □ □ □ □

 

それから2日。いよいよ旅行当日。

朝5時に起床。それから日課の筋トレとランニングを済ませた後、優奈は朝食の支度を簡単に済ませる。作り終わった後は、銀次を起こすだけ。これが優奈にとって「当たり前」の朝なのだ。

 

「銀。朝です。起きてください」

「ん、んぁ、あぁ。おはよ」

「おはようございます。早く着替えて来てくださいね」

「うぃー」

 

銀次を起こした後、リビングに戻っていく。

戻った後は、トースターからパンを取り出す。

このご時世、パンを焼くだけならもっと高機能な機械は幾らでも存在するのだが、優奈はこの機械をとても気に入っていた。

 

「早く食べて行きますよ?」

「はーい。」

「それじゃ」

「おう」

 

『いただきます』

 

銀次と優奈の朝の食事にはルールがある。

 

1つは「その日の予定を確認すること」。

2人で行動することが多いのだが、それでも基本的には忙しかったりする為、ゆっくり出来る朝に確認することになった。

 

2つ目は「調理は優奈、片付けは銀次」。

実は銀次も調理出来る。実際、昼食や夕食を作ることもある。だが、銀次は「朝に弱い」という弱点がある。逆に優奈は朝に強いのだが、細かい作業は苦手なのだ。『適材適所』ということで、このルールが出来上がった。

 

そして最後は「平日は和食、休日は洋食」。

平日には学校がある。学校以外の予定が入らないのだ。その為、朝は非常にゆっくりと出来るため、二度手間なりやすい「和食」を食べる事になった。逆に休日は常に予定があり、銀次はかなり忙しい時がある。酷い時は、早朝に帰宅する事もあったりする。そこから優奈が提案し、和食より短い時間で用意できる「洋食」を食べる事になったのだ。

 

夏休みのような長期間については、予定がある日は「洋食」とし、予定がない日は「和食」となっている。多少面倒なルールではあるものの、2人とも承諾した上でのルールである。

 

「でもさ、お前大丈夫なの?」

「何がです?」

「いや、雫のことだよ」

「大丈夫も何も、私は別に。」

「そう?向こうはショッキングだったりして」

「まさか。軽蔑したと思いますよ」

 

「そうやってまーた友達がいなくなるんですね」

「ちょ、私には銀がいるではないですか!」

「黙れイソギンチャク」

「久しぶりに聞いたけどなんで!?」

「いや、あのなあ……」

 

ここで銀次は1度口を閉じた。溜息をついた後、もう一度口を開いて話を始めた。

 

「お前、そろそろ同性の友達くらい作れよ」

「……………」

「そろそろ俺以外とも普通にしろよ」

「……………銀が居れば、それでいいです」

「そう言って、本当は気にしてるんだろお前」

「………煩いです。私の勝手でしょう」

「…………………はぁ。別に大丈夫だろ」

「………………それでも不安なんです。」

「大丈夫。きっと受け入れてくれるよ」

「…………………なら少し、考えておきます」

「よろしい。期待してる」

 

この後、2人は家を出て待ち合わせ場所へと向かっていった。既に他のメンバーが揃っており、そこには雫の父もいた。

そんなことがあったが、船で移動し、いよいよ銀次達は北山家の所有している別荘に到着した。

 




最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
前作同様、夏休み編で過去編的な展開も混ぜていこうと思っています。これは主人公の設定故の判断ですので、あしからず。
ではまた次回、よろしくお願いします。


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夏休み編 第2話

バイト…疲れた…。
8時間レジのパネル見てるだけで頭がおかしくなりそうで、目が疲れるし、眠くなる私は絶対クリエイターとかシスエンとか向いてない。
高校でプログラミングの勉強したのでこれでも一応、ゲームクリエイターさんだとか、システムエンジニアさんだとかそういう方々の凄さは分かっているつもりです。マイクロソフトとかアップルとかに勤めている技術職さんはマジで敬意を払いたいくらいです。
スクエニのプログラマーとかもう憧れます。
情報系の資格は幾つか高校で取ったんですけどね。
(国家資格だけどそんな役立つとは思ってないです)


「パスッ!」

「えいっ!」

 

ポスッ

 

「エリカ……わざとやってるだろ」

「あはは…」

 

別荘に到着した後、荷物を置いてから早速全員水着に着替えた。

皆、砂浜の方で遊んでおり、ビーチバレーをしていた。

 

ちなみ(銀次、優奈、達也はパラソルの下でただ佇んでいた。正確にいうと達也は読書、優奈は音楽観賞、銀次は昼寝をしていた。

 

「優奈は行かないのか?」

と、声を掛けたのは達也。

 

「んー、たまにはぼーっとしたいなって思って。」

と、優奈はイヤホンを片耳だけ外して答えた。

 

「そうか。それで銀次は寝ているのか?」

「うん。そうみたいです」

「そうか…」

 

達也はここで再び、読書へと意識を戻した。

ページを捲って読もうとすると、別の影が射し込む。

 

「お兄様、少し遊びませんか?」

と、声を掛けたのは深雪。

他のメンバーもパラソルの所まで寄ってきており、ただパラソルの下にいるだけの3人を呼びに来ていた。

 

「深雪?」

「そうですよ!ほら優奈も!」

「ええ、私もですかー?」

「お兄様、3年前じゃないんですから…」

 

と、声を掛けた深雪は少し呆れていた。

一方、ほのかは銀次を起こしていた。

 

「ほら、しーくんはそろそろ起きたら?」

「んっ、あぁ……ほのかか」

「うん。皆で遊ぼう?」

「りょーかい。」

 

と、銀次が起きたタイミングで達也が上着を脱いだ。同時に優奈も帽子とタオルをその時だった。

 

「達也くん……それって……」

 

達也の身体を見たエリカは身を見開いてそう言った。エリカの見た達也の身体には、無数の傷跡があった。普通の人とは思えない程に。

 

「すまない。あまり気持ちのいいものでは無いな」

達也はそう言って上着を取ろうとした。

 

だがそれは失敗し、深雪に取られてしまった。

 

「深雪はお兄様の身体を気持ち悪いとは思いません。お兄様の身体の傷は、お兄様の努力の賜物だということを深雪は知っております。」

深雪がそう言うと、達也は上着を諦めた。

そして、海へと向かっていった。

だがこの時、雫以外は誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

銀次の背中に達也以上の傷跡があったことに。

優奈の背中に、深い傷跡があった事に。

 

 

 

 

 

□ □ □ □ □

 

「良かったな、バレなくて」

「なんで今日に限って…」

 

そう言ったのは銀次と優奈だった。

二人はそのまま、上着を脱ぎ捨てた。

 

「よし、競うか?」

ストレッチをしながら銀次は言った。

「イイですね。たまには」

と、楽しそうに優奈は答えた。

 

 

「じゃあ負けたら……」

「無論。」

 

 

 

 

 

『帰ったら、1週間掃除当番!』

 

 

一瞬とはいえ、黙った割に勝負の理由は、大したことが無かった。はっきり言って、下らない。

しかし、2人の視線だけは本物だった。

 

 

それはもう、九校戦の決勝以上に。

 

 

□ □ □ □ □

 

「よし!俺の勝ちー!」

結局、勝者は銀次だった。勝った銀次はガッツポーズを大胆にし、高らかに叫ぶ。

 

一方、優奈はというと……

 

「ふぇぇぇ………負けたぁ………」

 

よっぽど掃除当番が嫌なのか、半泣きだった。

無理もない。優奈は「細かい作業が苦手」なのだ。

銀次は同情はすれども、情けはしない。

優奈を一目見ると、嘲笑った。

 

「嫌だあ、掃除、嫌い……………」

「頑張りたまえ、優奈くん」

 

優奈が項垂れるも、銀次は嬉しそうにそう言った。

その姿はもはや、悪魔とも言える。

言い換えれば、サイテークソ野郎だ。

 

「ぎん……少しだけ、少しだけ手伝って下さい…」

「はあ…分かったよ。少しは手伝ってやる」

「!!ありがとうございます!!流石は銀です!」

「煽てても何も出てこないからな?」

 

勝負をしたにも関わらず、結局2人で掃除をすることに。全く意味のなくなった水泳対決だったが、それよりも重大なハプニングがここで巻き起こってしまった。

 

「おい…エリカたちは?」

「クルージングに乗ってたよね…?」

そう言ったのはレオと幹比古。

2人は海を見渡す。だが何も無い。

 

「おいレオ…あそこ、見て」

「ん?銀次…って、おい!あれは!」

「ヤバいぞ!早く行こう!達也!幹!」

銀次が見つけたのは白い船。それも、逆さまの船。

そしてエリカたちが乗った船も、白い船。

その船を見る限り、エリカ達の乗った船だろう。

確証は無いが、ほぼ間違いない。

銀次はそんな直感で、急いで船の元へ向かった。

 

□ □ □ □ □

 

(振動系…移動魔法…発動)

 

防水タイプの腕輪型CADを操作する。

使ったのは振動魔法と移動魔法。

まず振動系。これで海の中を調べる。

障害物を感知し、人型を探し出す。

次に移動魔法。これを人型に使う。

これを使って、海上へ強制的に上げる。

 

そうして浮かび上がったのは……エリカだった。

 

「エリカ、大丈夫だったか?」

銀次は優しく声を掛けた。

「なんとかね。ありがとね、銀次君」

「礼はいいさ。このまま砂浜まで移動させるよ」

「うん。お願い」

 

まずは1人。残りのメンバー、雫と美月、ほのかを助けないと。そう思っていた銀次だったが、その必要はなかった。

 

「雫、大丈夫?苦しくない?」

「う、うん。ありがとう……」

雫を救出したのは、なんと優奈だった。

九校戦の時とは正反対の場面に、銀次は驚いた。

 

また、美月も幹比古が救出。レオは船をひっくり返して、元通りに。深雪が海を凍させて、船を砂浜まで滑らせる。

 

ここまでは順調だった。ここまでは。

問題は、達也とほのか。この2人だった。

 

「ちょっ待って!達也さん!」

 

その言葉を聞かずに、ほのかを救出して海上へ。

しかし達也のその行動は間違いだったのだ。

 

水着が流され、ほのかは上裸だったのだ。

 

「いやあァァァ!!!」

 

□ □ □ □ □

 

「ひっく、えぐ…グスっ」

 

その後、ほのかは泣き出した。

否、達也が泣かせた。泣かせてしまった。

 

「ん?どったのエリカ」

銀次は船の損傷を確認していて、雫と一緒に船を片付けていたため、この状況が理解出来ていなかった。その為、エリカに聞くしかなかったのだ。

 

「実は……」

と、小声で聞こえない所まで移動してから始めた。

 

「なるほどなー。事故なら仕方ないんじゃねえの?」

「大事なのはそこじゃないと思うよ?」

「…好きな人に見られたってことだろ?」

「やっぱり銀次も分かってたんだ?」

「優奈から聞いたんだよ。協力しろって言われて」

 

「え、優奈が?」

銀次の言葉に、雫は驚いていた。

九校戦の彼女からは、想像出来なかったのだろう。

 

「そうだ。あ、そうだ。その前に雫に話があるんだ」

「話…?」

 

エリカが戻って行き、雫と2人きりになった銀次は気まずそうな表情で、雫に言おうとした。

「その……優奈の事だ」

「優奈?が、どうしたの?」

 

「いや、その…。頼みがあってな」

「うん」

「実はあいつ、こういう旅行初めてなんだよ」

「えっ?そうだったの?」

「ああ。しかもアイツ、今日誕生日なんだよ」

「……………え?」

「でも、アイツそれ知られるのが嫌らしくてな。」

「う、うん」

「だから、その……頼みがあるんだ」

「うん。なに?」

 

ここで銀次は息を呑んだ。深呼吸をして、再び雫の顔を見た。覚悟を決めて、銀次は頼みを口にした。

 

「祝ってやってくれねえか?誕生日」

 

 

 

 

「…………え?」

「いや、あのな?俺以外に祝ってもらったこと無いんだよ」

「う、うん」

「それでだな?雫さえよければ…っていうわけだ」

「うん。いいよ?」

「流石に無理を言ってるのは分かってる。」

「だから、いいよ?」

「九校戦の時、酷いこと行ったもんな。」

「ねえ、聞いてる?」

「でも、雫にしか頼めそうにないんだ」

「だから、いいよって。聞いてないよね?」

「どうしてもだ!頼む!って、今なんて?」

「だから、いいよって言ったの」

「ほ、ほんとか?」

「うん。この前も、理由があったんでしょ?」

「………優奈のこと、頼むわ」

 

 

 

「分かった。任せて。」

 




ワンチャンの可能性ですが、そろそろ前作の完全リメイク版を書き始めるかもしれません。ヒロインは相変わらず真由美で。
前作リメが真由美ってことは……分かりますよね?
はい。こっちでは真由美ルートは無いです。
候補どころか、こっちでヒロイン作るかすら迷ってます。ちなみに、劣等生で一番好きな女子キャラは泉美か真由美です。

ギャップがなんか良くないですか……?
まあ、雫信者には圧倒的に負けてますが。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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夏休み編 第3話

今回、結構重要な話に入っていきます。。
リメイクを書きながらなので少し遅れるかもです。


「達也さんの事が好きです!」

「………ほのか」

「達也さんは私の事、どう思ってますか…?」

 

その夜、ほのかは達也を外へ連れ出した。

昼間に辱めを受けたとはいえ、それでも気持ちは変わらない。彼女はその想いを、達也へと告白した。

 

「すまない。その気持ちには……応えられない」

「え………」

「俺は昔、事故で感情を失ったんだ」

「っ!え、えと…」

「だから、恋愛感情も俺には無いんだ」

「そんな……」

 

初めて知る真実に、ほのかはショックを受けた。

想いを寄せている彼が、感情を持たないことに。

自分とは付き合えない。ということに。

 

 

「だから、俺は誰かを特別に扱えない。」

「でも、私フられたわけじゃないんですよね?」

「まあ、そうだが……」

「なら、諦めません!」

 

こうしてほのかは、自分の気持ちに応えてもらうことは叶わなくも、それでも伝える事に成功した。

二人はその後も、色んな事を話し合っていた。

 

□ □ □ □ □

 

ほのか達よりも、別荘から離れたところ。

銀次は深雪と二人きり。

彼は深雪に呼び出されていた。

内容はほのかのように、愛の告白などという甘ったるいものではなく、むしろ真逆。尋問に等しかった。

 

「それで、話って?」

「………以前、貴方は私の事を知っていました」

「それが何か?誰にも話してないさ」

 

むしろ話すわけにはいかないだろう。

銀次は彼女の事情を察していた。

 

「………話していれば、お兄様が黙ってませんよ」

「だろうね。アレは君の為に在るのだから」

「………その言い方、止めてもらえませんか」

「事実を止めろだなんて、愚か者過ぎないか?」

 

生徒会で首席で、秀才。そんな彼女に対して「愚か者」などという言葉を使うのは彼くらいであろう。想像するのも無駄である。

 

「……貴方は何者ですか。何故、知っているのですか」

「さてね。自分で調べる事も必要だと思うけど?」

「………はぐらかすつもりなのですね」

「自力で知ることに意味があるって言ってるんだ」

「………そうですか」

 

どこまでも答えるつもりのない銀次に呆れたのか、諦めたのか、それとも怒りを覚えたのか。深雪は端末を取り出した。

 

「私にも、考えがあります」

「ほぅ。考えとは?」

「叔母様に、直接お話させていただきます」

「面白い事を言うね。お好きにどうぞ?」

「面白い?場合によっては、四葉が動きますよ?」

「それは有り得ないよ。絶対に起こらないことだ」

 

深雪にはそれなりの考えがあった。

もし、深雪の狙い通りに四葉が動けば、死を覚悟しなければならない。そのまま処分されれば、自らの敵は消え、四葉の敵も消え失せる。その功績は「当主候補」としては欲しい。

故にこれは、彼女にとってチャンスなのだ。

 

「貴方を消そうとする者も出る、思いませんか?」

「思わないね。ホラ吹きに言われても。」

「………っ!!分かりました、ならば」

「早くしなよ。怪しまれるよ?」

 

銀次の言葉に今度は明らかな怒りを見せた深雪は、いよいよ叔母に連絡をした。深雪が睨んでいるにも関わらず、銀次はズボンのポケットに手を突っ込んだまま、にこやかにしている。

傍から見れば、ただの変質者に近い光景である。

 

「あら、深雪さん。どうしたのかしら?」

「夜分に失礼致します、叔母様」

「それは構わないわ。どうしたのかしら?」

「実は………」

 

深雪はこれまでの経緯を説明した。

話し終えた後、「これで勝った」と思い込んでいた深雪に、彼女の叔母、真夜から予想していなかった言葉が飛んできた。

 

「深雪さん、少し変わってもらえるかしら?」

「え?はい………」

 

なんと、「変われ」と言われたのだ。

彼女もこれは予想していなかった。

 

「叔母様が、お話があるそうです」

「?分かった」

 

端末を渡された銀次はまず「俺です。…はは」と、苦笑いをする。一体何を話しているのか、もはや予想が追いつかず、深雪は一層怒りが込み上げていた。

 

「俺です」

「あら、その声は銀次さん?」

「そうですよ」

「………もしかして、バレた?」

「逆だよ。俺はバレてない」

「だからといって、悪ふざけも止めなさい?」

「あはは……気をつけまーす」

 

勿論、真夜の声は深雪に聞こえるはずがない。

彼女には、銀次の軽い言葉しか聞こえていない。

その声を聞く度に、深雪は少しずつ怒りを向けていた。

 

 

「反省してないわね、ところで話は変わるけど」

「はいはい。なんです?」

「『例の件』がそろそろ動くわ」

「…………本気で言ってるのか?」

 

真夜のその言葉を聞いた途端、銀次からはとてつもない程の殺気が漏れていた。正面から浴びた深雪は怒りを一瞬で忘れ、足が震えていた。

 

 

「ええ。本気も本気よ」

「…………わかった。七草邸から直行する」

「助かるわ。それじゃ、深雪さんと仲良くね?」

「はいはい。それじゃ、また後日」

 

「ほれ、変われってさ」

「は、はい」

 

と、話し終えた銀次はそのまま端末を返す。

受け取ったのを見ると、そのまま歩いていく。

しまったと思いながらも、真夜の対応をする。

 

「深雪さん」

「は、はい」

「大丈夫よ、彼はちょっとした知り合いだから」

「え?知り合い…ですか?」

「ええ。たまに会ってるから、安心してね?」

「分かりました……お忙しい中すみませんでした…」

 

□ □ □ □ □

 

「あの、銀次さん!」

 

真夜と話し終えた銀次を、深雪が追いかける。

銀次は既にかなりの距離を歩いていた。

 

「?まだ何か?」

「その、叔母様とはどういう……」

「うーん。………話さなきゃダメか?」

 

そう言った銀次の顔は暗かった。

何度か、彼のこういう顔を見ている深雪は、

その表情の真相に興味があった。

 

 

「出来れば、お聞きしたいです」

「分かった。長くなるから、とりあえず座ろうか」

「は、はい」

「目を瞑って、聞いてほしい」

 

銀次の指示どおりに、深雪はその場へと座る。

正面に見える水平線を見つめる。

寂しそうな顔をした銀次を見る。

波の音が、ゆっくりと聞こえる。

 

目を瞑ると、銀次の声が聞こえてくる。

 

「これは、今から10年前のこと。」

 

 

 

 

 

 

「俺が『紫藤』を名乗る理由の話。そして…」

 

 

□ □ □ □ □

 

場所は変わって、バルコニー。

優奈は、そこで月を眺めていた。

 

「はぁ……綺麗だなー」

「そうだね。ここは眺めがいいから」

「うん。それ分かるかも…………って」

「優奈、今話せる?」

「ま、まあ大丈夫ですけど……」

 

優奈に話し掛けたのは雫だった。

既にお風呂上がりの雫はパジャマに着替えており、

後は寝るだけの格好だった。

逆に優奈は昼間から着替えた服のまま。

優奈はかれこれ2時間ほどそこに居たのだ。

 

「今日は助けてくれて、ありがと」

 

まずはお礼から。雫は溺れかけていたところを優奈に助けてもらっていて、ずっとその言葉を言う機会を伺っていた。

 

「………それはどういたしまして」

「それから、これ。」

「え?これ……………ケーキ?」

「うん。今日のお礼と……ねえ優奈」

「??今日のお礼と?」

「それと」

 

ここで雫は、一呼吸置いた。

これから言いたいこと、聞きたいこと。

それらを一度、整理するために。

そして、優奈に言った。

 

「誕生日おめでとう。優奈」

「……………………なんで」

 

「なんで…………私なんかに」

 

そう呟いた優奈は、ボロボロと泣いていた。

鼻は赤く、涙で顔はぐしゃぐしゃ。

雫は用意していたのか、ハンカチを差し出す。

 

「ありがとう………でも、なんで知ってたんですか?」

「銀次から聞いたの。」

「なるほど…」

「それでね、これ銀次から」

 

そう言われて渡された箱を開ける。

中に入っていたのは………

 

「うそ!!これ……!!」

 

中に入っていたのは、既に写真の入った写真立て。

それも5人家族の写った、写真。

それを見て、再び涙を流した。

 

「これ、優奈の……?」

「はい。これ、家族です………故人ですが」

「え……」

「この際、雫には話しておきますね。その前に」

 

涙をハンカチで拭き、椅子から立ち上がる。

雫の方を向き直して、優奈は頭を下げた。

 

「先日のこと、本当にごめんなさい」

 

□ □ □ □ □

 

それからというもの、二人で色んな話をした。

雫とほのかの出会い、九校戦のこと。

雫の夢、今日1日のこと。

時刻が10時を回った時、いよいよ優奈は話した。

 

「それじゃ、本題に入ろっか」

「ご家族のこと……だよね」

「うん。…目を瞑って聞いてくれる?」

「分かった。」

 

優奈の指示に従い、雫は目を瞑る。

少し冷たい夜風。

聞こえてくる虫の音。

それに合わせて、波の音も聴こえる。

耳を済ませていると、優奈の声が聞こえてくる。

 

 

「……これは10年前のこと。夏の日のことです」

「これは私が家族を失った理由の話。そして…」

 

ここで、優奈は一呼吸置いた。

これから話すことを、本当は話したくなかった。

その思いはどんどん強くなる。

それでも、彼女は話を始めた。

 

同時刻、銀次も同じ話をしようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは、銀(優奈)と出会った日のこと』

 

 




という事で、次回過去編です。
一応、今作は追憶編やらないで、オリジナルか「星をみる少女」をやろうか、考えています。オリジナルなら「春休み編」的な感じになると思います。お楽しみに。
まずは次回、主人公達の過去編です。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。


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夏休み編 第4話

お久しぶりです。生きてます。


北山家の別荘での一件から1週間。

銀次は七草本邸の来ていた。

 

「ご無沙汰しております。弘一様」

「あの件以来だね。元気そうでなによりだ」

「…その節は本当にありがとうございました」

「気にする事はない。さ、座るといい」

 

彼が対面している男は七草弘一。

十師族『七草』の現当主にして、真由美の父。

そして、四葉真夜の元許婚者でもある。

 

「今日はわざわざすまなかった。」

「いえ、此方の予定も片付きました故」

「それは、聞いてもいい話かい?」

「ええ。大した事ではないので。」

 

と、銀次はそう言いながら弘一を睨んだ。

「何を隠している」とでも言いたげな弘一への牽制と威嚇を含めながら睨み、出された紅茶に口をつけた。

 

誰のチョイスか。それを知っている上で、

紅茶を味わう。とても辛い。

夏のバカンス、北山家別荘での出来事を語った。

 

□ □ □ □ □

 

「それにしても、珍しいね」

「アイツには初の旅行でした」

「今度は是非、真由美とも行ってあげてくれ」

「都合が合えば、ですね。」

「ああ。さて、本題に入ろうか」

 

そう言った弘一は座り直す。

その目に先程までのサングラスは無い。

サングラスを外し、銀次に目線を向けていた。

 

「先日、ある研究所が突如閉鎖された」

「へぇ。」

「その件だが貴様。噛んでいるな?」

 

そう言い、CADを取り出す。

銃型のそれを、彼の額へと付ける。

続けて彼は話した。

 

「何処まで壊すつもりだ【終焉】」

 

□ □ □ □ □

 

「……終焉?」

「とぼけるな。」

「いやいや。何ですかその名前」

「一説では、魔法協会の闇と言われている」

「その割には、名前ダサいですね…」

「それは後にしてくれ。それで」

「自分は何も。残念ですが」

 

銀次がそう言うと、弘一はCADを閉まった。

本当に何も知らないと思ったのか。

それとも、今日の所は諦めたのか。

 

「では、自分はこれで。」

「…わざわざ済まなかった」

「いえ。……最後にひとつだけ」

 

 

音のしない部屋で、その声は響いた。

小さな声なのに、弘一にはハッキリと聞こえていた。

小さな声で、銀次は一言だけ呟いた。

 

「………余計な真似をしないことを勧めます」

 

□ □ □ □ □

 

「…聞こえてますか」

「ええ、ハッキリとね」

 

七草本邸を後にした銀次はピアスに声を発した。

正確には「ピアスに似せた通信機」だ。

そしてその相手は真夜である。

 

計画通り。と、真夜はそう言った。

その声を聞いた彼は、思わず腹を抱えた。

そして、大笑いした。

 

「いやぁ楽しかった。」

「そうね…ふふっ」

「でもまさか、俺のことだとは。」

「やはり、欲しいのは私以外も同じなのね」

「…モノ扱いしないでくれます?」

「あら、これでも評価してるのよ?」

「それ、性格の悪さにおいてでしょう?」

 

妖美な笑い方をした真夜は咳払いをした。

それにつられて、銀次も同じ様に。

 

「さてと。準備は出来たわね」

「はい。後は実行するだけです」

「思えば、今日まで長かったわね…」

「それもあと一歩です。」

「………やはり、行くのね?」

「はい。今のうちに会っておきたいので」

 

「それはやっぱり、向こうの?」

「はい。一時期とはいえ、確かに初恋でした。」

「あら。先生に報告しておこうかしら」

「辞めて下さいね。恥ずかしいので」

「……そろそろお開きにしましょうか」

「はい。…また後日」

 

その言葉を合図に、ピアスが砕ける。

粉々になったピアスは風に流されてしまった。

ピアスのままならば問題だが、生憎と粉である。

もはや用はない。銀次は気にせず歩き出した。

 

「ただいま」

 

□ □ □ □ □

 

同時刻 USNAにて

 

「おはようございます。総隊長」

「おはようございます。シルヴィア」

 

総隊長と呼ばれた女の子は敬礼する。

すると、そこから動き出さない。

 

「総隊長?」

「…足攣った…」

 

どうやら、脚をつった様子。

敬礼ひとつで足をつる。なんてポンコツだろう。

そんな彼女はひとつの想いを抱いていた。

 

(元気にしてるかしら、ギンジ)

 

□ □ □ □ □

 

 

「おはようございます。銀」

「ん、おはよ。」

 

午前8時。休日にしては早めの起床。

しかし2人は既に着替えていた。

 

「さてと。行こうか」

「………はい」

 

優奈は悲しげな顔をしていた。

心なしか、顔色が悪い。

それは銀次も知っていた。だがしかし。

だがしかし、銀次はそれには触れなかった。

否、触れる気が無かった。何故か。

それは彼も同じだからである。

彼も、銀次も顔色が優れないからである。

 

「…今日だけは、我慢な」

「…はい。我慢、です」

「よし。行こうか。」

「正直、1年で最も気分が悪くなる日ですが…」

「それでも、今日だけは絶対だよ。」

「分かってます。…………今日で、11年ですね」

「それでも毎年忘れないんだよな…」

 

「…あの家。【四堂】邸に行く事だけは」

 

これは、2095年8月22日のことである。

その日は、2人にとって最悪の日である。

その日は、2人の出会いの日でもある。

その日は、それでも尚、最悪の日である。

その日は、10年。否。11年前。

11年前、ある事件が起きた日。

11年前の8月22日。雨の日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人にとって、家族を失った日である。




過去編は先延ばしで。
とりあえず触れるだけにしました。
遅れた理由は色々あります。ごめんなさい。
とりあえず、ヒロインはもう決定してます。
今回で、ほぼ分かるように書いてはあります。
次回もよろしくお願いします。

※ 前半の七草関連は正直無視でも問題無いです。


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夏休み編 第5話

東京郊外にある一軒の廃屋敷。

雑草は伸びに伸び、辺りには苔やツタが茂る。

池は濁り、瓦の屋根は筒抜け。表札もない。

明らかに人が寄り付くような外観ではない。

それは外観だけで無かった。

 

中へ入ると、ボロボロの床。

割れた瓦はそこら中に。

だが、一番目に付くのはそれらでは無い。

建物の至る所に真っ赤な跡。

これは全て、「人間の血」なのだ。

それは壁や窓、扉にまで飛び散っている。

汚れを落とすことも可能だろうが、それをしない。

 

2人は、それをする気にはなれないのだ。

何せ、最愛の家族が流したものだから。

 

 

「相変わらずですね。この家は」

「片付けたいのか?」

「…まさか。」

 

 

ここに来てから、2人は会話をしなくなった。

しても、淡々と。冷めた様な口調で。

まるで人が変わったかのように、戻ったかのように。

 

「…行こう」

「…はい」

 

 

□ □ □ □ □

 

 

2人が建物に入ってから、一時間が経過した。

この間、別々に屋敷を回っていたのだ。

2人とも、至る所に水滴を残して。

 

そして2人はある場所で合流した。

大広間の様な部屋だった。

何も無い。ただ血痕だけが残るだけ。

 

2人にとって、特に思い入れは無い部屋だった。

ただひとつ、「死場所」という意味を除けば。

 

「…ただいま、姉さん」

「…ただいま。兄様」

 

2人が声を出したのはそれだけだった。

ただ目を瞑り、ただ願うだけ。

紫苑の花と線香を添えて。

ただひとつだけを願う。

 

「…行こう」

「はい。」

 

 

立ち上がり、2人は口を揃えて言った。

行ってきます。と。

 

□ □ □ □ □

 

 

 

「覚えてますか。7年前のこと」

 

屋敷を後にした優奈はそう言った。

 

「7年前…あぁ。USNAか」

「はい。…あの娘、今どうしてますかね」

「さあな。ポンコツらしくしてるんじゃねえか?」

「そうですね。ポンコツですもんね」

 

「でも。あのポンコツはたまに凄かったな」

「そうですね。…嘘の付き方もポンコツでした」

 

そう言った優奈は冷めていた。

ジト目で銀地を見つめ、彼の目だけを見ていた。

 

「…まだ好きなんですか?」

「…悪いか?」

「別に。私は銀とそうなりたいと思わないので」

「…言ってくれるじゃん」

「だって、粗〇ンのチェ〇ー少年じゃないですか」

「……お前さあ。」

 

優奈の余りにも下劣な下〇タに、銀次は呆れた。

「そんな育て方をした覚えはない!」

なんていうギャグを言うつもりも無かった。

そこで、とりあえずため息をついた。

 

 

 

「少しは、元気出ましたか?」

「これでも平常運転だよ。」

「……嘘つき」

「?何か言ったか?」

 

 

 

 

「いいえ!何も言ってないです。」

 

 

 

□ □ □ □ □

 

紫藤銀次は基本的に忙しい。

これはある日の事である。

 

 

朝は8時に起床。出発は9時。

自宅前に待機していた車に乗る。

 

やってきたのは、魔法協会横浜支部。

 

彼は、ここに呼ばれていた。

呼び出されていた。

来させられていた。

 

 

それから8時間。彼はある事に専念する。

「書類作成」である。

それも、四葉関連の。

 

 

これらは全て、真夜が送ったものである。

理由はひとつ。「楽をしたい」から。

 

「…量が増えてる」

 

 

彼の夏休み、残りは全てこの書類作成で終わるのだ。

何とも味気ない。この言葉に尽きる。

 

 

 

□ □ □ □ □

 

 

 

 

「おはようございます。銀。」

 

 

また朝がやってくる。

こう、毎度朝が来ると、憂鬱になる時がある。

銀次にとって、それはまさに今日であった。

 

「…あと5分」

「ダメです。起きて下さい」

「…5分だけ」

「早く。起きて下さい」

「いいじゃん。…あと10分」

「ダメです。ちゃっかり伸ばさないで下さい」

 

銀次がどれだけ粘っても、優奈は拒否した。

それ程、今日は起こさなければ行けなかった。

 

 

「……そろそろ話したらどうですか?」

「既に知ってると思うけど。…暫く家を出る」

 

 

「行くんですか?……また」

「…今回は代理として動く」

「それ、対立するって事ですよね?」

「仕方ないだろ。…そうせざるを得ないんだ」

「……何かあれば、私を呼んで下さい」

「あぁ。あの人にもそう言われてる」

 

 

時は流れ、8月31日。夏休み最終日。

紫藤銀次は、東京から姿を消した。

たった1枚の手紙を残して。

 

 




今回短めですみません。
書きたい話が長くなるわけでもなかったので。
まあ、寄せ集め感はありますが。あしからず。
次回の投稿は原作「エスケープ編」を読んだ後にしようと思います。
少し期間が開きますが、ご了承下さい。
次回もよろしくお願いします。


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横浜騒乱編 横浜騒乱編 第1話

今回ちょっと短めです。
理由は色々あるんですが、後々報告します。

さて、今回から横浜騒乱編です。
「え、夏休み編あれで終わり?」
と、思っている方もいらっしゃると思います。はい。あれで終わりです。理由は2つあります。1つ目は「今後の内容上で問題発生したから」です。これは…ちょっと悩み中です。実は私、コンセプトを毎回決めてるんです。夏休み編のコンセプトは「過去と日常」でした。まあ、触れただけですがそれにも理由があるんです。

今後の内容を確立するにあたって、実は幾つか諦めなければいけないんです。その1つが「オリ主最強」なんです。なので、「オリ主強い」にしてるんです。因みに横浜騒乱編のコンセプトは、といいますと。

「怒りと素性」です。ではお楽しみください。


『休学?!』

「はい。暫く留守にすると言ってました」

 

二学期初日。駅で集合するいつものメンバーに1人足りない。銀次が唐突ながら、休学をしたのだ。

勿論、旅行に出掛けていたりしていた彼等はそれを知っているわけもない。全員がそこで驚いたのだ。

 

「何か、事情は聞いていないのか?」

そう言ったのは達也だった。

「いえ。置き手紙だけでした」

と、優奈は答える。

 

「手紙?このご時世に?」

「確かに、紙媒体なんて珍しいもん使うな」

 

このご時世、紙媒体の物は他の媒体資料にに比べたら圧倒的に少ない。あらゆる紙媒体の物は電子化され、紙等は滅多に見ない。

紙が使われるとしたら、「極秘の文書」くらいだ。

 

「何にせよ、暫くは会えないみたいだな」

「時々連絡はするとは言ってましたので」

 

気がつけば、校舎まで到着していた。

 

□ □ □ □ □

 

東京にある九重寺。銀次はそこにいた。

彼を出迎えたのは九重八雲。達也の師匠である。

足を組み、出された茶に口を付ける。

 

「にがっ」

「おや、意外と舌は子供だね」

 

うるさい。とは言わなかった。

しかし、それ以上の問題発言はした。

 

「ぶち〇ろすぞわれ」

「……口が悪いよ。」

「まあいいや。聞きたいことがある」

「うん。なんだい?」

 

「思念体について、教えて欲しい」

 

□ □ □ □ □

 

「僕が知っているのはこれくらいだよ」

「そうか。助かった」

 

その言って寺を後にする。

その直後のことだった。

つけられてる。と、銀次は確信した。

 

(おいおい。物騒だな)

 

まあいいや。と、彼は走る。

気配は辺りから消えていった。

 

「お疲れ様です。銀次殿」

「お迎えありがとうございます。花菱さん」

 

花菱兵庫。四葉の人間である。

彼は若輩者ではあるが、腕は確かだ。

実際、銀次が葉山の次に信頼してるのも彼である。

 

「奥様から伝言を預かっております。」

「あの人はなんと?」

「『帰るように』とのことです。」

 

「チッ、あの年増が…」

 

その言葉に、その暗号に彼は憤りを覚えた。

その言葉はどうやら、2人のみの暗号のようで、花菱には全く理解出来ていなかった。故に、彼の怒りについても、理解が出来なかった。

 

「了解したと、伝えて」

「承りました」

「あぁそれともうひとつ」

「はい。何でしょう」

 

「『ぼっち』と言っておいて」

「…?畏まりました」

やはり意味がわからない。花菱はそう感じていた。

 

 

□ □ □ □ □

 

その1時間後、真夜は花菱からその話を聞いた。

ご苦労様。彼女はそれだけ伝えた。

回線を切った後、真夜は項垂れた。

 

「本当にやるつもりなのかしら…」

 

自ら指示を出しておきながら、彼女は迷っていた。

これで本当にいいのか。と。

もしこのまま進めば、確実に彼は表に出れなくなる。逆に中止すれば、甚大な被害は免れない。

現在の監視体制故の結果に、迷っていた。

見えなくなればいいのに。そう感じていた。

 

それでもやるしかなかった。頼むしかなかった。

己の復讐のため、己の理想の為に。

彼を、否。彼等を犠牲にするしか無かった。

 

 

「…………ヴィシュヌ」

 

葉山すら居ないその部屋に、その言葉が響いた。

 

□ □ □ □ □

 

9月4日。達也は放課後に呼び出されていた。

「論文コンペに出てくれないか」という依頼で。

出てくれないか。とは言っても、代理としてだが。

 

しかも、それを了承したという話はすぐに広まった。学内だけではなく、学外の銀次にさえである。

 

「頑張ってな。達也」

「ああ。ところで、今なにをしてるんだ?」

「えーっと…………パンケーキ作ってる」

「は?」

「自宅でパンケーキ作ってます……」

「はっ?」

 

達也はそれ以外に言葉が出てこなかった。

休学をしている。というものだから、もっと深刻な状態に晒されているものだと思っていたのだ。それが「パンケーキ」なんていう、甘い答えで返ってきたのだ。裏切られた気分である。

 

「………学校に顔を出せよ」

「明日はそうするよ。」

「いや、毎日来い」

「そうしたいんだけど、忙しくて」

「パンケーキ作りがか?」

 

クスクスと笑う達也に、違う。と銀次は答える。

意地が悪いとは思いながら、自業自得だと反省する。

 

「……内容を聞いてもいいか?」

「……いいよ、『話』は妹から聞いてんだろ?」

「あぁ」

「なら、話は早い」

 

ドスの効いた声で、銀次は言った。

「俺がやってんのは、椅子取り合戦の準備だよ」

 

椅子取り合戦という言葉を達也は別の言葉で認識した。この話は深雪には出来ない。と考えた上で。

そして、パンケーキを作ってる銀次に言い返した。

 

「…俺の仕事は、既に決まってるようだな」

「そうだね。頭に入れておくといい」

 

 

9月の夜に涼しい風が靡く。

その風は、彼に嵐の前の静けさを感じさせた。

新たな事態と共に様々な陰謀が動き出す。

風は、いつまで吹くだろう。いつ止むのだろう。

夜空を見上げ、銀次は少し悲しげな顔をしていた。




今回短いのは、次回を長く書くためです。
それと今回、前書きとあとがきが長いからです。
まあ個人的に長い。というだけですが。
実際毎回長くても書いてて、私疲れるんです。
逆に読んでいても疲れるな。退屈する。と、感じました。それ程自分の文章力が無い。ボキャブラリーが少ないと感じました。私自身の頭が弱い証拠ですね。もっと善処します。

最後に軽いネタバレになりますが、横浜騒乱編ではヒロインは出ません。まあわかってる方は分かってると思いますが。次回もよろしくお願いします。


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横浜騒乱編 第2話

9月下旬。暑さはすっかりと消え、秋らしくなる。

葉は枯れ始め、紅葉は紅く、イチョウは黄色く染まる。第一高校の中庭も、すっかり秋景色。

そんな中庭を、後者から見つめる人影が2つ。

人影の正体は真由美と復学した銀次である。

 

「わざわざごめんね。」

「いえ。それで話とは?」

「ええ、実は相談したい事があって…」

「何でしょう?」

「暫く、護衛をお願いしたいの」

 

その言葉に、銀次は反応出来なかった。

護衛。恐らくそのままの意味だろう。

それは分かっていた。しかし疑問があった。

 

「護衛?家の者は?」

「今はワケありで、外れてるの」

「そうですか」

 

「ワケあり」という言葉に少し警戒はしたが、無意味だと悟った銀次は詮索する事を諦めた。そして、護衛を引き受けた。それが後に彼を苦しめるとも知らずに。

 

□ □ □ □ □

 

「…はい。はい。…了解です」

「…依頼ですか?」

 

夜の自宅で、優奈はそう言った。

既に入浴を済ませたのか、着替えている。

そんなに経ったのか、と銀次は時計を見る。

話し始めてから、1時間以上経過していたのだ。

 

「悪いな。最近どうにも忙しくて」

「七草先輩の護衛もあるんですよね?」

「ん、あぁ。」

「…無理、しないで下さいね?」

 

リビングを後にする銀次にそう言った。

それに対する銀次はわかってる。と、ひとこと。

銀次は慌てて浴場に向かっていった。

 

□ □ □ □ □

 

10月上旬。生徒会のメンバーが新生された。

また、風紀委員長と部活連会頭も入れ替わり、第一高校ではすっかり新体制を築いていた。

 

引き続き生徒会に入った深雪は、その日も作業をしていた。作業、とは言っても既に殆ど片付いており、少し休憩をしていた時だった。

 

(あれ、紫藤君と…七草先輩?)

 

たまたま見えた外の景色には男女の姿があった。

まさか、いやまさかとは思ったが、真由美のその美貌は遠くからでもよく分かる程で、男の顔つきも明らかに銀次のもので、間違いないと思っていた。

 

(でも何で2人が…?)

 

深雪は2人が話すところを見たことが無い。

それどころか、2人でいる所を滅多に見ない。

珍しいとは思ったものの、やけに親しげなのだ。

 

(まさか…あの2人…)

 

結果として、深雪は2人の関係を誤認してしまった。それが誤解だと知るのが、何ヶ月も先だと知らずに。

 

□ □ □ □ □

 

10月も中旬。論文コンペの準備も進んでいた。

そんな中、銀次は風紀委員の代理を務めていた。

理由は達也がコンペに参加する為、風紀委員の仕事が困難になってしまう。というものだった。

 

その日、銀次は摩利の頼みでとある病院に来ていた。そこは以前、壬生が入院していた病院で、摩利の話だと、ここに一高生が入院してるらしく、銀次はその本人の監視と尋問をするように言われたのだ。そう、言われたのだ。

 

言われたのだが…

 

「あ?入れねえじゃん」

 

病室の扉は閉まっていた。

すると、後ろから足音が聞こえる。

少しずつ、少しずつその音は近付いてくる。

そうして現れたのは、ただの男だった。

 

ただの、人喰い虎だった。

 

「そこを退け」

「何でこんなところに、人喰い虎が…」

「そこを退け」

「……嫌だ、と言ったら?」

「……ならば仕方あるまい」

「穏やかじゃないなあ、全くもう」

 

『力づくで潰す』

 

 

□ □ □ □ □

 

人喰い虎に出くわした銀次の行動は早かった。

即座にCADを用意する暇など既になかった。

そこで、彼は素早い判断で魔法を発動する。

 

「アクティベイト。───」

 

発動された魔法は、即座に標的を襲う。

対象の虎は、それを受け悶え苦しむ。

その姿はまるで、廃人寸前の抜け殻。

 

「まあいいや。早く帰りなよ」

「ア゙ア゙アアア゙ア゙ア゙あああア゙あア゙ア゙ア゙ア゙」

「はあ…今日はこれくらいにしとくか」

 

すると、銀次は指を鳴らす。

その音に合わせて虎の悲鳴は止む。

そしてどこかへと消えていってしまった。

 

「やっと帰ったか」

「……今何をした、銀次。」

「ん?……あれ。」

 

「なんだ、摩利さんですか?横の方は?」

「銀次……今、お前何をしたんだ?」

 

摩利の言葉に呆れたのか、いつまでも下げない摩利の武器を見たのか、銀次はため息を吐く。それに合わせて修次も武器を持つ。

 

「何って、んー。そうですね」

 

「見ての通り、『虎刈り』ですよ。」

 

□ □ □ □ □

 

「私が言いたいのはそういう事じゃない」

「自衛目的です。問題ないでしょう」

「精神干渉魔法は禁止された魔法だぞ!」

「そうですね。」

 

摩利の怒りはそれでも治まらなかった。

銀次の平然とした態度に一層怒ってしまったのだ。

ついには1人で帰っていってしまったのだ。

 

「あらまー…帰っちゃったよ」

「あまり、摩利を責めないでやってくれ」

「分かってます。で、貴方はもしかして」

「おや、僕を知ってるのかい?」

「千葉修次さんですよね。エリカのお兄さんの」

 

ずっとその事を忘れていたのか、ここに来てようやく挨拶をする。彼、千葉修次はエリカの兄であり『幻影刀』の異名を持つ剣士であった。魔法師では有名な人なので、銀次はその事も知っていた。

 

「エリカとはどういった?」

「友人ですよ」

「そうか。今後ともよろしく頼むよ」

「ええ。勿論です」

 

□ □ □ □ □

 

それからというもの、銀次は忙しくしていた。

 

早朝に起床して、優奈とトレーニング。

その後すぐに支度をして出発する。

そして真由美を迎えに行き、一緒に登校する。

放課後は風紀委員の仕事を一通りこなす。

その後真由美を自宅まで送り届ける。

帰ったと思ったら、今度は別の予定が入り、

すぐに着替え、自宅を後にする。

家に帰るのは、この頃は深夜2時ごろ。

休めるのは2時間ほどで、4時には起床。

 

その姿を、優奈は心配していた。

 

「銀?大丈夫ですか?」

「………」

「銀?おーい!銀?」

「…ん、あ。ごめん。で、なんだっけ」

「…………銀」

「ん?何?」

 

「無理だけはしないで下さい」

「…悪いな。心配かけて」

 

昼食中にも意識が遠のく。

その様子を見た優奈は嫌な予感がしていた。

 

 

そして、それは見事に的中してしまった。

 

 

「……それ、本当ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「銀次が倒れたって、本当ですか?」



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横浜騒乱編 第3話

すみません。今更ですが、横浜騒乱編はすっ飛ばし展開で進めます。来訪者編で苦労するのが目に見えているからです。


目が覚めると、それは知らない天井だった。

ここが何処か、何月何日の何時か。

何もかも、銀次は把握出来ない状況にいた。

すると、真由美がやってきたのだ。

彼女はすぐに飛び込んできた。

 

「良かった…心配したんだからね!?」

「えっと…何がどうなってこうなってるの?」

「え、銀次君何も覚えてないの?」

「うぅ。すみません…」

「まあ、仕方ないか。過労で倒れる程だし…」

「へ?過労、ですか?」

 

銀次は信じられないという顔をしていた。

これまで、過労で倒れた経験など勿論あるはずも無く、優奈以外に介抱してもらうなんていう経験も無かった。つまり彼は、今どうしたらいいのか分からなかったのだ。

 

「とりあえず。まだ休んでてね?」

「いえ、もう大丈夫ですよ」

 

銀次はそう言って布団から起き上がろうとした。

しかし、まだ体力が回復していない所為か、起き上がるのにも、歩くのにもフラつきが見える。その姿を見た真由美はいよいよ怒れずにいられなく、銀次を怒鳴った。

 

 

「そうやって無理するから絶対ダメ!」

 

□ □ □ □ □

 

なんだかんだ言って、結局銀次は休んでいた。真由美の話によると、帰り道でいきなり倒れ、酷い高熱を出していたらしい。家に連れて帰ったはいいものの、丸一日起きることもなく、酷く魘されていたという事だった。

 

 

真由美が置いてくれた水をひと口で飲む。

すると、コンコン。と音がする。

 

「失礼します…」

 

入って来たのは、女の子だった。

背は小さく、容姿は中学生くらい。

銀次はその子が誰か、分からなかった。

 

 

「えっと…どちら様で?」

「三女の泉美と申します。お見知り置きを」

「そうですか。ご迷惑をお掛けしてすまない」

「いえ!滅相もないです!それで、えっと…」

 

 

目の前の彼女は慌てていた。

恐らく、あまりこういった場面に出くわしたことがないのだろう。銀次はそれを察して、手を差し伸べた。

 

「ここにいると、風邪が伝染るよ?」

「あ、はい。えっと…」

 

 

 

「お食事をお持ちいたしました…」

 

 

□ □ □ □ □

 

泉美が運んでくれた食事を食べていると、真由美が戻ってきた。どうやら、欠席の連絡をしていたらしい。

 

 

「優奈ちゃんから全部聞いたわよ。……君が私の護衛以外にも色んな事で忙しくしてたって。…どうして言ってくれなかったの?」

 

真由美の言葉に、銀次は唾を飲んだ。

彼女のために、が、いつの間にか。

いつの間にか、彼女に心配されていたのだ。

彼はここに来て、漸く反省をした。

それでも、銀次には理由があった。

真由美の護衛を優先したいという、理由が。

 

「………だから」

「ごめん、もう1回言ってくれる?」

「…もう、貴女を裏切りたくないから」

 

「…え?」

 

「もう、貴女を裏切りたくない。貴女を見捨てる事だけはしたくない。あの日、貴女を置いて消えたくせにこんな事を今更言う資格が無いって事は理解してます。それでも、もう貴女を裏切る事だけはしたくないんです。………聞いて、姉さん」

 

「…うん、なに?」

 

意味は違えど、互いにボロボロの状態だった。

かつて言えなかった思いを、ここで。

今、この瞬間に。銀次は告げた。

 

 

「…貴女の為なら、私は剣にもなります。盾にもなります。10年前、貴女に救っていただいた恩は一生忘れる事は無いでしょう。例え、敵対しようと、軽蔑されようとも。それでも、最後には必ず貴女の武器として生きる所存です。……ここに、約束します」

 

 

□ □ □ □ □

 

剣にもなる、盾にもなる。

 

その言葉を、真由美は受け入れなかった。

彼を受け入れる事態は正直、可能だった。

このまま自分のモノにするのも容易かった。

 

それでも、真由美は受け入れなかった。

 

「…ねえ、覚えてる?」

「…何をですか?」

 

「…どうして、幸せになろうとしないの?」

「え」

 

 

「私のモノになるって事は、七草の駒として生きるも同然。それを承知で言ってくれたのは分かってる。はっきり言って、嬉しかった。でも、それじゃいつまでも君は、幸せになる事は出来ない。不幸になるだけよ。」

 

「ねえ。聞かせて?貴方の本当の願いを。」

 

 

「……は、ハハ」

 

 

銀次は理解が追いついていなかった。自分にとって、真由美に仕えるということは幸せのはずなのだ。そのはず、そのはずで間違いなかったのだ。一点の、心に残るモヤモヤを除けば。だが、そのモヤモヤが何なのか。銀次には分からなかった。完全には分からなかったが、少しなら分かる気がした。

 

それは、触れてはいけない領域だと。

 

 

「…はは」

 

しかし、既に手遅れだった。

その領域に、触れていた。

既に、侵食されていたのだ。

 

 

「はは、ははは、ははははは」

 

「銀次君…?」

 

 

「アハハハハハハ」

「アハハハハハハハ」

「アハハハハハハハハ」

 

「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗いクライ暗いクライクライ暗い暗い暗い怖いクらい怖い暗い怖い暗い怖い暗い怖い暗い怖い暗い怖い暗い怖い暗い怖い暗い暗い怖い暗い」

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

「銀次君!しっかりして!銀次君!」

「アハハハハハハハハ………」

 

「…銀次君?私が分かる?」

「…真由美、姉さん?」

「良かった……。」

「あれ、今、俺何か言いました?」

 

「え……?」

 

真由美が気づいた時には既に手遅れだった。それはもう、彼の心が壊れ始めているという証拠だった。彼の心、つまり彼の精神を喰らう『ナニカ』が暴れ始めていたのだ。少しずつ、ゆっくり確実に。

 

このままいけば、恐らく彼は彼でなくなるだろうと感じた。外見が変わることは無いにしても、内部は全く別の存在になり得る。真由美はそう感じた、そして彼を恐れた。

 

 

何れ、それと向き合う事になると知らずに。




今回、結構重要回でした。「壊れる」という言葉を覚えておいて下さると、幸いです。ちなみに前にもお話しましたが、今作のヒロインは真由美ではありません。それは別作品で進める予定です。横浜騒乱編でヒロインが出ることも無いです。ご了承ください。

次回、もしくはその次で横浜事変入ります。
次回もよろしくお願いします。


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横浜騒乱編 第4話

お久しぶりです。遅れてすみません…。
あ、今回短めです。ご了承ください。


その日も紫藤家の朝は早かったのだが、いつもとは少し違った様子であった。明らかに、違っていた。普段ならリビングへと向かうのだが、この日は優奈が銀次の部屋に来ていた。

 

 

「いいですか?今後は無理しないでくださいね?」

「……覚えてたら覚えておきマース」

「は?」

「あっいやっ、すみません…」

 

優奈が仁王立ち、銀次が正座。

この状態が2時間続いている。

銀次はこの状態を、こう呼んでいる。

 

『優奈様ご降臨』と。

 

「聞こえねえなぁ。」

「私が馬鹿でしたすみませんでした優奈様!」

 

その日の夜中に、銀次が帰ってきた。

聞けば、七草邸から脱出した様子で、どこで転んだのかはわからないが、所々服が汚れている。

何処までも人の話を聞いてない証拠である。

 

優奈はこれ以前に、一連の件を許してなかった。

そこで、銀次が帰ってきた時にする事を決めていた。

 

【あの馬鹿話聞かねえから絶対シバく】と。

 

「大体、私言いましたよね?」

「えっ、あ、はい…」

「おい、銀次。私…ちゃんと言ったよな?」

「はぃぃぃ!勿論ですとも優奈様!」

「そうよねぇ。なのに…どうしてかしら?」

「さぁ…?自分にもサッパリ?」

 

 

「は?」

「本当にすみませんでした!」

 

10月30日午前4時。

今日も紫藤家は平和です。

 

 

□ □ □ □ □

 

 

「ほら、そろそろシャキッとしてください」

「はぁい。」

 

10月30日。論文コンペの当日。今年のコンペには達也が参加するため、エリカやレオ、銀次と優奈も応援に来ていた。優奈としては、銀次には家で休んでいて欲しかったのだが、彼が言うことを聞くとも思えず、諦めて連れてきてしまった。他の友人達も、合流した時には銀次の体調を心配したが、彼は何を言われても、大丈夫。と言うだけであった。その様子を疑う者も、無論何人か。

 

「……エリカ」

「何よ。ミキ」

「…銀次、隠し事してるんじゃないかな」

「さあね。……まあ少なくとも」

 

幹比古とエリカ。2人も疑っている側の人間であった。エリカは話しながら、銀次の顔を見つめる。外見は至って普通、病人には見えない。しかし、彼女はその外見さえ疑う。何か起こるのではないか、という不謹慎ながらもそんな予想をしながら。

 

「何か隠してるのは明らかね」

 

 

エリカと幹比古。2人はそんな話をしていた。

何も起こらない、彼はいつも通りだと。

そう思っていたい。そう願っていたい。

しかし、それは単なる願いでしかなかった。

その予想は、勘は。当たってしまった。

 

「動くな!!全員CADを捨てろ!」

 

 

□ □ □ □ □

 

一高のプレゼンテーションが終わり、三高のプレゼンに入る、準備時間のことだった。突如として建物は揺れ、武装した数人の人が入ってくる。テロリストだ。

 

そのテロリストの1人はこう言った。

「動くな!!全員CADを捨てろ!」と。

 

相手は武装済み、いつどんな被害を受けるか分からない。そう判断した者達は皆、その通りにした。無論、深雪やほのか、エリカ達もそれを受け入れた。

 

しかし、それを無視した者もいた。

たった3人、その3人は無視をした。

 

1人目は男子生徒、それもコンペの選手。

1人は、撃ってきた弾を全て手で掴み、捨てた。

そして、撃った男を瞬殺してしまった。

 

もう1人は女子生徒だった。

彼女は、目にも止まらぬ速さで動く。

そして、手刀のみで相手を無力化してしまった。

 

最後の1人は他の2人とは違った。

敵を無力化するかと思うと、肩を叩くのみ。

撃ってきた弾はすべて弾く。

そうしてる間に、彼は呟いた。

「術式展開。マリオネット……発動」

 

彼がマリオネットと呟いたその瞬間のことだった。肩を叩かれたテロリスト達は一斉に倒れた。その様子を見た彼は、パニッシュと呟いた。そして、その直後のことだ。

 

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙あ」

「痛い痛い痛い痛い」

「苦しぃ……たすけぇでぐれぇ……」

 

そう言いながら、彼等は血を吐く。

何も出来ないまま、ただもがき苦しむ。

その姿はやがて、死体へと変化した。

 

残ったのは数体の変死体と、壊れた武器。

それを冷たい視線で見つめる1人の青年。

それに恐怖を覚える、ギャラリーの生徒。

ただそれだけが、それだけが残っていた。

 

□ □ □ □ □

 

テロリストを無力化した2人の男子生徒、もとい達也と銀次は死体を集め、ホールから動かした。その作業を終えた頃には、手に血痕が残る。2人はそれを見ても何も思わないが、それ以外はどうだろう。

 

答えは、無論。否、であった。

 

 

「おいおい。そんな騒ぐなよ」

「仕方ないだろう。死人が出たんだ」

「いや、死人くらい別に…」

「銀、少しは常識というものをですね…」

「はいはいわかってますよ……ったく」

 

 

銀次がそう言うのには訳があった。騒いでいる連中が仮に知らない人だとしよう。それならば、まだどうにかなっていたのだ。知らない人ならば、知らないふりをして消えてしまえばいい。しかし、今回は真逆、連中には知り合いもいたのだ。平然とした殺害、死体を見ても変わることのない態度。彼にとっては至って普通の事であっても、周りはそうではない。その次元の違いに、彼らの中にある平和ボケという言葉に、銀次は苛立ちを覚えていたのだ。

 

「……外行ってくる」

「分かった。俺も後から行こう」

「……悪いな、達也」

 

そう言って銀次は足の震えた人達の中を掻き分けるように、まるで逃げるかのように、その場を後にした。

 




改めて、お久しぶりです。ネット環境を整えるのに時間が掛かったのと、学校が思っていたよりも忙しくて…。4月から一人暮らしなので、落ち着くまでは投稿頻度は下がりそうです…。ごめんなさい。


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横浜騒乱編 第5話

原作25巻を読んでたら、投稿するの忘れてました。
まあただひとつ思ったのは「敵になる条件として大抵キ〇ガイにならないといけない?」って思いました。この作品はそうでないといいんですけどね…。まあ、それ言ったら埒が明かないと思うので、この辺にしておきます。

p.s.後書きにてご報告がございます。


「なんだよこれ…」

「うわ……」

 

そう言ったのは、レオと幹比古。彼らはあの後、達也に動向、というよりも銀次を追いかけようと建物の入口付近に来ていた。するとどうだろう。辺り一面、血痕どころか、血の海同然であった。そして、その奥にいたのは、白い制服を脱いだ銀次。

 

「あ、遅かったね。皆」

「お、おい銀次…」

「ん?なんだよレオ、どうした?」

「これ…お前がやったのか…?」

「うん。そうだよ。」

 

レオの表情は歪んでいた。今目の前にいるのは、自分の友人で一高1年の実技トップの紫藤銀次なのか、それとも違うバケモノなのか、分からない。分からないからこそ、怖い。血の海を平然と見つめ、死体の山を作り出し、大量の返り血を浴びているのにも関わらず、尚、平然としている。この姿に、誰が怯えないだろう。誰が恐怖を覚えないだろう。そんな思考で埋め尽くされていた彼の口から出た言葉は、銀次の予想通りとも言え、レオ自身にとっては信じられないものであった。

 

 

「……バケモノ」

 

バケモノ。それがレオの本心であった。

 

 

□ □ □ □ □

 

「レオ…?」

 

レオの言葉に、幹比古が驚く。

しかし、驚いていたのはレオもだった。

 

「え……俺…今…」

 

自分でも、信じられない。信じたくなかった。友人に対して、無意識に、ごく自然にバケモノと言う自分を。

 

それは周りも、言われた銀次でもそうだった。銀次に関しては、レオの言葉によって、顔を隠してしまった。

 

「…席を外すよ」

 

顔を隠したまま、銀次は去って行く。

それを追いかける者は、1人もいなかった。

 

 

□ □ □ □ □

 

「……それで、この後だが」

 

銀次が敵を殲滅してどこかへ行ってしまったとはいえ、状況が良いとは言えない。それに加えてレオの失言、更に加えると、優奈も機嫌を損ねている。その態度は見た目以上に、オーラが。というより雰囲気が表しており、「ドス黒い何か」がレオだけでなく、他の皆をも飲み込もうとする膨大な圧の様な、そんな雰囲気が、優奈の意思を代弁していた。

 

その圧力に耐えられなかったのか、ほのかと美月は具合を悪くしてしまい、エリカとレオ、幹比古は完全に怯えている。当の銀次は不在で、優奈はこの機嫌。妹の深雪に任せる訳にもいかない。もはやこの状態をまとめられるのは、達也のみであった。

 

「とりあえず、先輩達と合流しよう」

「それなら、VIP会議室があるよ」

 

そう言ったのは雫だった。どうやら彼女は普段通りで、優奈の雰囲気に耐えられるようだ。

 

「分かった。では、そこに行こう」

 

□ □ □ □ □

 

───Side 銀次

 

 

「…バケモノ、か」

 

異常だとか、強過ぎるだとか、そういう言われ方をされた事は何度かあった。けれども、あバケモノと言われた事は1度もなかった。しかも友人だと思っていた人に言われるんだから、これまたグサリとくる。まあ、間違っているかと言われたら、そうでもない。と、俺は答えてしまうだろう。自分自身、周りよりも強い事は確信していたし、劣る事は無いとも思っている。だから、だからこそ、求めていたモノの先で待っていたのがこんな結末だなんて、信じたくない。

 

「とは言ってもなあ…」

 

こんな時はため息がつきたくなる。幸せが逃げると言われてもだ。そもそも、幸せなんてとうの昔に逃げている。

 

おっと、通信機に着信だ。

 

「…はい」

「あら、元気ないわね?」

「なんだ、アナタですか……」

 

やはりというか、この通信機は殆どが「この人」からの連絡で埋め尽くされているのだが、まあいつも通りのことだ。事務連絡か何かだろう。

 

「…要件は?」

「横浜における当家の全権は、貴方に譲るわ。存分に楽しんでおいでなさい?ああ、それと。片付いたら、家へおいでなさい。珈琲と焼き菓子を用意して、待ってるわ」

「…分かりました」

 

俺が返事をした所で、通信は途絶えた。

いつも通り、あの人は無茶苦茶だ。

何でも勝手に決めるのだから。

 

 

さて。今日起こったことを1度整理しよう。

 

七草家本邸から逃走した。

自宅に戻ったら優奈様が降臨した。

横浜に来たら、テロリストが来た。

マリオネットを使って、そいつ等を殺した。

他の敵もマリオネットで殺した。

そしたらレオにバケモノと言われた。

ちょっとショックだったので逃げてきた。

今度は連絡が来た。全権を譲ると言われた。

楽しんでこいと言った。

終わったら家に来いと言われた。

 

前半は兎も角、後半が意味するのはひとつ。

 

 

「さぁて…ひと仕事しますか。」

 

この瞬間、紫藤銀次は消える。

今後、横浜での俺の名は…四堂。

またの名を…【終末を告げる者】

 

 

□ □ □ □ □

 

「大黒特尉、貴官にも出動命令が出ている」

 

VIP会議室に着いた後、達也達は真由美や十文字を含めた先輩達と合流した。しかし、銀次と合流することは無く、代わりに合流したのは国防軍の者達であった。

 

大黒特尉、もとい達也にそう言ったのは、達也の上司である風間玄信。彼は達也の兄弟子でもある。

 

「了解しました。」

 

敬礼をしながらそう返事を返す達也に、違和感を覚えるギャラリーではあるが、まだ足りない。達也は軍人であるから、やむを得ないにしても、ここには1人、はぐれた男がいる。

 

バケモノと言われた。

気味が悪いとも言われた。

気持ち悪いとも言われた。

 

魔法師とはいえ、普通の人間が、大勢の人間からそんな言葉を投げられたら、普通でいられるだろうか。答えは否だろう。

 

しかし、その場に現れた男は違った。

 

何処までも鋭く尖った視線。

普段分けていた前髪はストレートに。

怪しさを感じた雰囲気は消えている。

しかし、歪みのない狂気を覚えさせる。

 

友のために、家族の為に、姉弟同然の人のために。力を振るい続けた、優しくも脆く、崩れそうな青年だった。

 

そんな青年は。

 

「四葉家代表、四葉真夜より本件における代理の任を授かりました、四堂銀次です。当家は横浜市街地における本件の対処に、国防軍との共闘を望みます。風間殿、如何ですか?」

 

 

 

もう、いない。




あの、先に伝えさせて下さい。ごめんなさい。
何が、というと「ヒロイン」です。単的に申しますと、ヒロインを作るのをやめました。面倒な事になりそうだということ、原作でメイン枠に復活しちゃったことなどが原因です。まさかこのタイミングでメイン枠に戻るとは思ってませんでした…。あ、リーナの事です。はい。
それから、この先の内容も少し変えていこうと思い、ヒロインは廃止でいこうと思います。ごめんなさい。

それと、気づいた方もいらっしゃるとは思いますが、私HN変えました。キィチャ改め、グリームです。

そもそもキィチャっていうのは、キーマカレーの「ライスの黄色」と「ルーの茶色」から来てるんです。で、グリームっていうのは「グリームニル」です…(笑)あ、完全にシャドウバースです。

次回もよろしくお願いします。


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6話

おひさです、オリジナル要素入れていきます。
※久しぶり過ぎて少し原作忘れてる部分もあるので、今回はちょっとオリジナル強めです。


残酷、とはよく言ったものである。

人は惨めなものに対して、同情や軽蔑の態度を取る。その多くは「可哀想」と、口にする。

それが、俺が生きて学んだ事のひとつ。

 

同情は嫌いな方だ。

その眼差しが、その態度が、その眼差しの奥に隠れた哀れみの感情が、大嫌いだ。生きているうちに、何度もそんな目を向けられてきた。それがどうだろう。

 

今度は軽蔑ときた。

これは初めての事だった。

確かにショックといえばショックだ。

でもどうしてかな。おかしいんだ。

 

(それ以上に、どうも気分がいいや。)

 

──side out

 

 

ある街は、一瞬にして変貌を遂げた。

綺麗な景色は真っ赤に染まり、道という道はもはや存在しない、それ程の被害。その道に転がるのは無数の死体。

 

その道を、ただ1人歩いていく。

目的地も無く、目標もなく、ただ歩く。

歩くだけなのに、それでも死体は増えていく。

 

この光景を見た者が後世にこう語り継いだ。

「終末を告げる箱」と。

 

それとは別に、こんな話もある。

13の青年が砂浜を走り抜ける。

復讐、この言葉の為だけに。

自信をもって戦った敵兵は既に戦意を喪失。

それでも青年は殺めた。殺め続けた。

絶望の中、生き残った敵兵達はこう言った。

「摩醯首羅」と。

 

 

過去の出来事と思われていたこの悲劇。

しかし横浜の市街地で、それは再臨した。

 

「さあ、フィナーレといこうか」

 

まるで悪魔のようなその笑いは。

味方だった者にさえ、絶望を与えた。

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫

 

絶望を味わいながらも、兵達は闘い続けた。

何度も何度も攻撃しても、箱は決して傷つかない。

 

「無駄なんだよねえ」

 

そう言った瞬間、兵達は呼吸を止めた。

 

「マリオネット、跪け」

 

言葉に合わせて兵達は跪く。

 

「全員自害しろ」

 

言葉に合わせて兵達は自害する。

その数は、およそ千を超えていた。

 

「これが…箱…」

「バケモノが……」

 

死んでいった兵はそう言い残した。

 

この千を超える兵士の死を、たった1人の青年が行ったこの惨劇を、後世の歴史ではこう語り継がれたという。

 

「狂血の人形劇」と。

 

またこうも語られた。

 

「バッドエンド・プランナー」と。

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪

 

一連の騒動から1日が経過したその日、ニュースの内容は一色となった。「横浜市街地でのテロと、海で起きた謎の大爆発」について。

 

 

主犯は大亜連合なのではないか?

どうしてこんな事件が起きたのか。

あの爆発は核兵器によるものではないのか?

 

など、様々な憶測が飛び交った。

 

また、被害に遭った魔法科高校は全ての学校で、1週間の休校を実施することが発表された。

 

「……というわけよ」

「何が、というわけよ。ですか全く」

「運良く、というよりは悲惨過ぎて、報道するにも出来ない。というのがマスコミの考えみたい。と、いうわけよ」

「まあ、久しぶりに暴れたので…」

 

とある屋敷の一室、男は年上の、それこそもう中年もいい年の女と、テーブルと珈琲を挟んで対面していた。

 

「今回はあまり表には出ませんでした。が、」

「………裏では凄いことになっている、とでも?」

「予想出来たならどうしてあんなことを。」

「今回はまあ、気分です。それより、話は別でしょう?」

「ええ。………これは提案よりも、警告に近いわ」

「暫くは大人しく身を潜めるつもりですが、何か?」

 

男のその言葉を聞いて、女は少し黙る。

気の利く使用人が両名のカップに珈琲をまた注ぐ。

それに1口、また口をつける。

 

「ここで大人しくしてなさい。」

「それは一体……なんでまた」

「いろいろと言わなきゃいけない事もあるのよ」

 

はあ…と、女は溜息をつく。

男はそれを見て笑う。

 

言葉だけならばこれは恋人の様なものに近いかもしれないが、あくまでも中年の女性と、青年くらいの男だ。勘違いすら有り得ないだろう。

 

「やっと…本当の事を語る気になりました?」

「ええ、貴方達の仲を壊したくはないけれど…」

 

やめてくださいよ、とは言わなかった。

男は既に真剣な眼差しを向けていたから。

 

それを見て、女は話し出した。

 

「貴方の母親を殺したのは」

 

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪




リハビリ程度に短めで。
次回、来訪者編に入ります。


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