太陽とひまわりの仲間達との暗殺教室 (籠野球)
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プロローグ① 出会いの時間

皆さん初めまして、籠野球です!!

これが初投稿です。小説など書いたこと無いですが、温かい目で見てくれると嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


陽奈乃side

 

 その日、私はいつものように、家へと帰る為に通学路を歩いていた。私はE組だから登下校にも時間が掛かるんだよね~。でもこれから一年こうやって帰るんだから慣れないとね。

 

「ミャア・・・」

「えっ?」

 

 曲がり角に差し掛かった私の耳にそんな鳴き声のような音が聞こえて、私は思わず周りを見渡した。すると私の帰り道と反対側の路地に、子猫とその周りに不良とも呼べる人達が、ニヤニヤと笑みを浮かべながら足で子猫をつついていた。

 

「やめて!!」 

「あぁ?」

 

その光景を見た瞬間私は思わずそう叫びながら、子猫の元へと走り子猫を抱きかかえた。

 

「何でそんなことするの!?猫ちゃんがかわいそうだと思わないの!?」

 

そんな私の声に不良達は笑みを浮かべたまま、

 

「おいおい嬢ちゃん、俺たちは子猫が起き上がれねえみたいだから、手伝ってあげてるだけだぜ。それの何が悪いんだ?」

 

そんな不良の言葉に私は思わず叫んでいた。

 

「何言ってるの!?どうみてもこの猫ちゃん怪我してるじゃない!!そんなことにも気づかずにただ足で蹴るだけなんて、あなたたちサイテーだよ!!」

 

そんな私の言葉に不良達はスッと笑みを消すと、

 

「おい女、黙って言わせておけばいい気になりやがって、その猫ごとボコボコにしてやろうか?」

 

そう言いながら近づいてきた。

 

 私は思わず後ずさっていた。相手は4人だしどうみても高校生だ。とても逃げ切れない。

 

そんな私に不良の1人が、

 

「何とか言ったらどうなんだてめえ!!」

 

そう言いながら私を突き飛ばした。

 

(地面にぶつかるっ)

 

そう思った私は反射的に子猫を抱きしめ、ギュッと目を瞑った。

 

 

 

 

 

 ・・・・・しかしいつまでたっても衝撃は来なかった。そのかわりに何かに受け止められたような感触に、私は恐る恐る目を開けた。

 

すると、私の横に同じ制服を着た少年が立っていた。

 

 

 

???side

 

 俺がその道を通ったのは、全くの偶然だった。教師の頼みごとを終わらせ、学校から直接商店街に買い物に向かっていたからだ。

 

正直俺はうちの学校の制度が嫌いだった。その教師の頼みごとも、大賀にA組《俺のクラス》の奴らが押しつけていたのを俺が引き受けたんだ。

 

E組(特殊強化クラス)という制度もあるが、同じ中学生なのに何であんな差別をするかね。うちの学校のシステムだと分かってても、やっぱ気分は良くないしな。

 

「やめて!!」

「ん?」

 

 そんなことを考えてると突然そんな叫び声が聞こえて、俺は反射的にその声の聞こえた方向に走り出した。

 

どんどん声が大きくなっていき、やがて一つの曲がり角にたどり着いた。その道の先を見てみると、俺と同じ制服を着た女子生徒が不良達に囲まれそうになっていた。

 

(・・・椚ヶ丘の制服だな。てか、何で1人であんな奴らに立ち向かってんだ?あの子、喧嘩も強そうには・・・なるほどな)

 

その子の腕の中にいる子猫を見て、俺は大体の状況を把握したその時だった。

 

「何か言ったらどうなんだ、てめえ!!」 ドンッ!!

「!! チッ・・・」 

 

突き飛ばされた女の子を見て、俺は舌打ちをしながらその生徒の元へと走り出し、その子を受け止めた。

 

 

 

陽菜乃side

 

「大丈夫?」

 

 突然現れた少年にそう声をかけられ私は我に返った。

 

「立てるか?」

「う、うん」

 

その言葉に頷くと少年にあずけていた体を起こして自分で立つことにした。

 

私のその姿に安心した顔を浮かべると、不良達の方へと向き直り、

 

「怪我してる子猫を必死に守ろうとする女の子を突き飛ばすなんて、あんたら男として情けねえな」

 

そう言い放った。少年のそんな言葉に不良達は完全にキレた様子で、

 

「テメエ、いきなり出てきて調子のんじゃねえぞ!!」

 

そう言いながら不良達の一人が少年の胸倉を掴んだ。思わず止めに入ろうとしたその時、()()()()()()()()

 

次の瞬間、彼を掴んでいた男が真後ろに吹っ飛ばされた。自分達の近くに仰向けに転がっている男を見た不良達は、続いて男を吹っ飛ばしてみせた彼に目を向けた。そこには右手に握り拳を作った彼が佇んでいた。

 

「「えっ?」」

 

あまりにもありえない光景に私も不良達も固まってしまった。私と同じ制服ということは中学生なのは間違いないはずなのに、高校生をパンチ一発で倒してしまったということだろう。

 

「て、てめえ!!」

 

一足先に我に返った不良達は、3人がかりで彼に襲いかかった。思わず息をのんだが、彼は何一つ慌てずじっと相手を見据えていた。

 

先頭の男が彼に殴りかかったが、彼はスッと左に避けると、男のお腹に膝蹴りを喰らわせた。無防備な状態で膝蹴りをもらった男は、何も出来ずにその場に崩れ落ちた。彼はそのまま体をおもいきりひねると、2番目の男にひねりを戻しながら左手で裏拳を顔に叩き込んだ。1人目の男に気をとられた男は避けることも出来ずに吹っ飛ばされた。すると、最後の男が彼に向けて左足で蹴りを繰り出した。しかし彼は右腕で蹴りを受け止めると、相手の右足に足払いを仕掛けた。全体重を支えていた足を払われたことで男は抵抗できずに倒れ込み、彼はその倒れ込んだ男にトドメの一撃をお腹にたたき込んだ。

 

まさに一瞬の出来事だった。4人全員を倒すのに、二十秒もかかっていないだろう。あまりにもの早業に私は再び立ち尽くしてしまった。

 

 そんな私を尻目に彼は小さく息を吐くと、私の方へと歩み寄ってきた。

 

「怪我はない?」

「は、はいありがとうございます」

「そっか、よかった」

 

私の言葉に安心した様子で笑いかけてくれた彼に私は本当に安心できた。

 

「その子は、君が飼い主?」

「いえ、この子は道の真ん中にいて・・・それをあの人達が・・・」

「ちょっと見せてくれる?」

 

そういうと彼は私の腕の中にいた子猫を、自分の腕で抱きかかえて観察し始めた。

 

「・・・うん、これなら大丈夫。病院に連れて行けばきっと治るよ」

「本当っ!よかったぁ。」

「この辺りで一番近い動物病院ってどこだか分かる?」

「あ、それなら私の家の近くにあるんで、私が連れて行きます」

「そうか、ありがとう」

 

(ううっ、笑顔が似合うし凄いかっこいいな///)

 

ニコッと笑いながら話しかけてくれる彼に私は少し照れてしまった。しかしまだ名前すら聞いてないことを思い出して、子猫を私に返してもらいながら再び彼に話しかけた。

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。私は倉橋 陽菜乃、来年から3年E組の2年生です。あなたは?」

「ん?同学年だったんだ。ならA組の"神木 太陽"って言えば分かるか?」

 

私はその言葉に驚いた。なぜならその名前は私達の学年では有名な名前だったからだ。

 

神木 太陽(かみき たいよう)。椚ヶ丘中学校の中でも、一位、二位を争う成績の天才だが、校外での喧嘩も多い危険な人物として知られていた。

 

でも目の前の神木君は、そんな怖い人には見えなかった。だから私は恐る恐る聞いてみた。

 

「あの・・・噂で聞いたんだけど、神木くんって「おいなんだこりゃあ!?」

 

 しかし、私の質問はそんな声にかき消された。ビックリして周りを見渡すと、神木君がさっき倒した人達によく似た人達に囲まれていた。

 

「おいてめえ、よくも俺らの仲間ボコボコにしてくれたな。その女ごと可愛がってやるから覚悟しとけよ!!」

 

どう見ても相手は2,30人いるうえに、さっきの人達よりあきらかに強そうな雰囲気に私は思わず神木君の制服の袖を掴んでいた。

 

「倉橋さん、俺の傍から離れないで・・・ん?」

 

私にそう声をかけた途中で神木君はある方向を向いた。私もその方向を見ると、そこには私達と同じ制服を着た人達が3人立っていた。

 

「何やってんだ、太陽?」

「お前ら、何でここに?帰ったんじゃないのか?」

「いや、それが太陽に頼み忘れたものがあった事に気づいてな」

「どうせならもう4人で買い物に行こうと思って追いかけてきたんだけど、それどころじゃないみたいだね」

 

そんな風に話しながら3人は私達の方へと近づいてきた。この状況が全く関係ないかの様に話す4人に相手の1人が叫びながら向かっていった。

 

「てめえらシカトしてんじゃね(シュッ!!)ガッ!?」

「邪魔」

 

しかし、その声が最後まで話されるよりも先に、彼ら3人の中で一番背の高い人が、その人にアッパーを放っていた。目の前で仲間を倒されたことにより、男達は完全にキレた様子だった。

 

「倉橋さん、君帰り道はどっち?」「えっ?」

 

そんな彼らをよそに神木君は私にそう尋ねてきた。あまりにも唐突に聞かれた為、私は思わず聞き返してしまった。

 

「倉橋さんの帰り道はどっち?」

「あ、えっとあっちの道なんだけど・・・」

 

もう一度聞いてきた神木君に、今度はちゃんと帰り道を指差した。それは、ちょうど3人が現れた道の先だった。

 

「都合がいいや。倉橋さん、あっちには誰もいないから、振り向かずに走って逃げな。」

「えっ、でも・・・」

「大丈夫、君には指一本触れさせないからさ。」

 

再び笑顔を浮かべながらそう告げてくれた神木君に、そんな状況じゃないと分かっていても心臓がドクンと鳴ったのが分かった。

 

「てめえら、ほんとにぶっ飛ばされてえようだな。」

 

その言葉に我にかえり周りを見渡すと、今にも襲いかかってきそうな様子で私達を見ていた。

 

そんな中、4人の中で1番小さい子が背中に差していた竹刀を引き抜きながらこう言い放った。

 

「怒りに身を任すのはいいですけど、相手の実力くらい見極めないと、無様に負けを晒してしまうだけですよ。」

 

それが開戦の合図になり、男達は一斉に私達に向かって来た。それと同時に、神木君は私を帰り道の方へと軽く突き飛ばしながら、「走れ!!」そう叫んできた。

 

私はその言葉を背に後ろを振り向かずに帰り道へと急いだ。

 

 

 

太陽side

 

 数分後・・・先程まで30人以上が立っていた路地には俺達4人以外は全員が倒れていた。

 

「だから言ったのに・・・」

 

竹刀を背中に戻しながら"登志(とうし)"はそう呟いた。

 

「しょうがねえさ。こいつら頭に血が上って冷静な判断が出来てなかったしな」

 

"威月(いつき)"はそう言いながら気絶している男達を道の端に移動させていた。

 

「でもこれまずくないか?こんだけ暴れちまったんだ、よくて停学だろ?」

 

男達を移動させ終わった後、"大賀(たいが)"がそう俺に聞いてきた。

 

「いざとなったら俺一人でやりましたって言うだけだよ」

「構わねえよ、皆で落ちりゃあいいさ」

 

威月のその言葉に登志も大賀も頷いた。ホントにこの3人には迷惑かけてばっかりだな・・・

 

「ありがとな、皆」

 

そう呟いてから俺は歩き出し、3人も俺についてきた。とりあえず急いで買い物を済ませて帰らないとな。

 

 

 

翌日・・・

 

 俺達4人は予想通り1ヶ月の停学と、停学後のE組行きを言い渡された。

 




いかがだったでしょうか。

今回は主人公の1人とヒロインの出会いでした。
一応作中に出てきたこの4人を中心に書いていくつもりです。

もし書き方などにアドバイスがあったら教えてくれたら嬉しいです。
出来るかは分からないですけど(笑)

それではまた次回お会いしましょう!!


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プロローグ② 依頼の時間

皆さんどうも籠野球です。

プロローグ①となっていた所からも分かると思いますが、プロローグの続きとなっています。今回でプロローグは終わって次回から本編に入ります。

それでは、どうぞ!!



太陽side

 

停学を言い渡されたあの日から2週間後、俺達は居間の卓袱台の四方に座りながら学校から出された大量の課題を終わらせながら話し合っていた。

 

「後2週間か、まだまだ長いな」

「しょうがねえさ、30人近くもボコボコにしたんだ。むしろよくこれだけですんだもんだよ」

「太陽と威月はA組だからね。学校からしても退学はまずいんじゃないかな」

 

威月と登志の返しに、俺は停学を受けた日の事を思い出した。

 

 

 

「君達はE組行きだ」

「・・・ま、そうでしょうね」

 

 不良共をボコボコにした翌日の朝、俺達は理事長室に呼び出され、理事長―――浅野(あさの) 學峯(がくほう)にそう告げられた。

 

「それちょっとおかしくねえっすか?確かに俺達は奴らを病院送りにした。でもそれは、内の女子生徒を守る為、俺達から売った喧嘩じゃないんすよ?」

「そういう問題じゃない。前々から君達、特に神木君の暴力事件は問題になっていたんだ。今回も含め、全部揉み消してきたが流石に人の噂までは消せないからね。」

 

威月の文句にも、理事長はそう返すだけだった。・・・取り付く島もないな。

 

「そもそも、彼女はE組だ。彼女がどうなろうが構わないが、君達に何かあった方が困るんだ。」

「!! そうですか・・・分かりました」

 

迷い無くそう言い切った理事長に納得はいかなかったが、これがこの人の教育理論な以上、何言っても無駄だろうな。

 

「・・・ちなみにだが、神木君に水守君は留まる事も特別に認めるが、どうする?」

「大賀や登志はどうなるんですか?」

「当然、2人はE組だ。あくまで君達2人だけだ。どうす「断ります。」」

「俺もっすね、話になりません。」

 

理事長の提案を俺と威月は一蹴した。大賀や登志がE組だってのに、俺達だけA組なんて納得いくわけねえ。

 

「フー・・・分かった。では改めて言い渡そう。"神木 太陽"、"水守 威月"、"九澄 大賀"、"伊勢 登志"。以下4名には、1ヶ月の停学。並びに、停学明けのE組行きを命ずる―――」

 

 

 

(・・・ま、どのみちあの人の考えは好きじゃないし、丁度いいや) 

 

 そう考えていると廊下側の襖が開いて、大賀が4人分のお茶を持ってきながら居間へと入ってきた。

 

「はい、お茶」

「おー、サンキュー」

 

俺は差し出されたお茶を礼を言いながら受け取った。大賀はそのまま威月と登志にお茶を差し出した後、自分のお茶を持ちながら卓袱台の残った一方に座りこんだ。

 

普通、停学中に家の外に出てはいけないだろう。だが俺達は問題なかった、なぜなら()()が俺達の家だからだ。

 

孤児院「ひまわり」

 

名字も違う俺達は幼い頃からこの孤児院で育ってきた。血もつながっていない俺らだけど、この家の皆はお互いにとっても大切な家族だ。

 

「それにしても"実徳(じっとく)"さんにも迷惑かけちゃったよな・・・」

 

俺がこの孤児院の経営者でもあり、俺達の父親的存在の神木 実徳(かみき じっとく)に対しての反省を口にすると、3人は苦笑いを浮かべながら、

 

「喧嘩した理由を話したら許してくれたし、大丈夫じゃないかな」

「今更後悔しても仕方ねえし、停学後にまた頑張ろうぜ」

「その為にも、ちゃんと課題を終わらせないとな」

「・・・そうだな!頑張ろうぜ!」

 

そんな風に4人の気持ちを一つにし、再び課題に取り組もうとしたその時だった―――――

 

「ピンポーン」

 

 突然鳴った呼び鈴に俺達は顔を見合わせた。まだ小学生組が帰ってくるには早い時間だからだ。

 

「う・・・ん」

「あっ、華」

 

まだ3歳で、居間の端っこで昼寝をしていた神木 華(かみき はな)が、その音に起きかけたのに大賀が気づき、様子を見にいったのを横目に俺は立ち上がった。

 

「俺が出ようか?」

「いや、俺が出るよ」

 

威月の誘いを断って俺は襖を開けた。そのまま廊下を歩き玄関前にたどりつき、扉を横に開けた。

 

 そこには、黒スーツを着た、一目見て強いと分かる男性が立っていた。

 

「突然すまない、この孤児院に神木 太陽君達四人がいると聞いて来たんだが」

「ええ、俺が神木です。何かご用ですか?」

「ああ、出来れば中で話せないか?あまり外で話せる話ではないんだ」

「・・・分かりました、少々お待ち下さい」

 

強者の雰囲気を纏ったこの人を上げていいものか一瞬迷ったが悪い人という感じがしなかった為、俺はとりあえず片付けの為に居間へと向かった。

 

 

 

 数分後・・・居間の卓袱台を挟んで俺らはこの人と向かい合っていた。

 

「どうぞ、粗茶ですが」

「ああ、ありがとう」

 

再び寝てしまった華を抱きかかえて座る大賀の代わりに登志がお茶を出した後、俺達の横に座ったところで改めて俺が口を開いた。

 

「それで一体、何のご用でしょうか?」

「改めて突然の訪問申し訳ない。私は防衛省の烏間 惟臣(からすま ただおみ)という者だ」

 

(なっ防衛省!?何でこんな人が俺らの前に現れたんだ!?まさかこの前の喧嘩がそんな大ごとに!?)

 

突然の出来事に俺も軽くパニックになってしまった。そんな俺を横目に威月は口を開いた。

 

「で、防衛省の方が中学生の俺達に何の用件ですか?」

「まず、ここからの話は国家機密だと理解してほしい。君達は先日の月破壊事件は知ってるか?」

「? ええ、月の七割が突然消失した事件ですよね」

 

威月と烏間さんの会話を聞きながら、冷静になりながら俺も事件を思い出していた。

 

俺らが停学が始まって1週間後、月が突然7割消失したのだ。当時テレビでは、どこかの国の軍事兵器かと騒がれた程の事件だった。

 

「その犯人が椚ヶ丘中学校3年E組で教師をしている」

「「「「・・・・・は?」」」」

 

あまりにも突然の話に全員が固まってしまった。そんな俺らに烏間さんは、

 

「ちなみにこれがそいつの写真だ。」

 

さらに追い打ちをかけてきた。なぜなら差し出された写真に写っていたのは、どう見ても黄色いタコの様な生き物だったからだ。

 

「えーと・・・これってドッキリですか?」

「それなら良かったんだがな・・・」

 

俺の失礼な質問にも、烏間さんは何一つ怒らずため息をつくだけだった。

 

「とにかく、この話は真実だ。月を破壊したこの生物は来年3月には地球をも破壊する」

「そこまで分かってるのに秘密裏に始末出来ないんですか?」

「もちろん努力はしているがこいつはとにかく速い、最高速度は実にマッハ20だ」

「マッハ20!?いくら何でも桁が違いすぎでしょう!?」

 

あまりにも常識から外れた話に少し混乱してしまった。大賀や登志も話に若干ついてこれてなさそうなそんな中、威月だけは冷静に質問を続けた。

 

「そんな怪物が何でE組の教師を?」

「こいつの狙いは分からん、だが生徒に危害を加えないという条件で政府は了承した。理由は二つ、教師として学校に来るなら監視が出来るし、もう一つは、「生徒が毎日暗殺出来るから・・・ですか?」そうだ」

 

なるほど、ようやく理解できた。つまり今日烏間さんがここに来た理由は、

 

「停学明けにE組行きが決まっている俺達に暗殺の依頼に来たということですか?」

「その通りだ。もし断ると言うのであれば、記憶消去の治療を受けてもらうが」

「「「「・・・・・」」」」

「強制はしないが出来れば引き受けてほしい。暗殺の成功は冗談抜きで地球を救う事になるからな、当然報酬も出る」

「報酬?」

「成功報酬は百億円だ「やります!!!」

 

烏間さんの声に俺は即答した。百億もあれば孤児院も楽になるだろうし、俺らや小学生組、華もちゃんと大学まで進学出来るだろうしな。これは殺るしかない!!

 

「そ、そうか、ありがとう。他の3人はどうするかね?」

「こいつは頭良いくせに言い出したら聞かないですからね、俺らがフォローしてやらないと」

 

苦笑しながらそう言った威月に、大賀や登志も笑いながら頷いた。

 

「ありがとう。君達には無害で奴には有効なナイフと銃を支給する。他に何か必要な武器はあるかね?」

「じゃあ、出来れば日本刀を作ってください。僕は刀の方がいいと思うんで」

 

烏間さんの言葉に登志がそう返した。確かに登志はナイフよりはそっちの方がいいかもな。

 

「分かった、手配しよう。他にはいいか?・・・無いなら今日はここらで失礼しよう。停学明け待っているぞ」

 

そう言い残して、烏間さんは帰っていった。烏間さんが来てから1時間も経たずに大きく変わった状況に、俺達は小学生組が帰ってくるまで終始無言だった。

 

 

 

「ほーら、皆ご飯だぞー」

 

 午後6時過ぎ。何も予定がなければ俺は大体この時間に、飼っているペット達に餌を順番にあげるのが毎日の日課だった。

 

うん、やっぱり生き物は和む。いろいろ考えてグチャグチャになった頭を整理するのにも、やはりこいつらは最高だ。

 

(しかし俺達が暗殺か・・・これもある意味因果なのかな)

 

ようやく全種類のペットに餌をあげ終わった俺は、今日の話を思い出しながら庭に座りこんだ。

 

正直、俺達は戦闘ならかなりの強さだと思っている。でも暗殺となると経験が無いから、どうすれば良いのか分からなかった。

 

「いや、暗殺なんて経験ある方がおかしいんだけどな」

「そりゃあ、そうだろうよ」

 

座った体勢のまま呟いた独り言に返事が返ってきたが、誰かはすぐ分かった。大賀は今頃晩ご飯の準備中だろうし、登志は小学生二人の宿題を見てあげてるのをさっき見たからだ。

 

だから俺は自信を持って、その体勢のまま振り返らずにその名前を呼んだ。

 

「威月」

「おお、何だ太陽?」

 

俺の言葉に返事をしながら、威月は俺の横まで歩いていた。

 

「悪かったな、俺1人で勝手に決めちゃって」

「構わねえよ。どうせお前の事だ、百億あれば孤児院の皆が楽になるからとかそんな考えだろ?」

「う、その通りだ・・・」

「やっぱりな」

 

威月は予想通りだと言わんばかりの表情で俺を見てきた。俺ってそんな分かりやすいのか?

 

「それで、何か殺す手段は思いついたのか?」

「・・・いや、正直まだ思いついてねえ。マッハ20がどれぐらい速いのか想像がつかねえしな」

「まあ、そうだろうな」

 

ということは、威月も俺と一緒なんだらうな。でも、殺さないと百億はもらえねえ。その為にも、

 

「標的を見てみないとな、早く」

「そうだな、まったくこの1年大変な事になりそうだ・・・」

「はは、確かにな。でも、」

「ん?」

 

威月の声に俺は笑いながら立ち上がり、

 

「楽しい1年になりそうだ」

 

そう威月に言いながら、俺は明日から始まる毎日に俺は自分の胸がこれ以上ないくらい躍るのを感じた。

 

 

 

「何でもいいが、俺達まだ停学が2週間残ってるからな」

「それは、言わないでくれよ威月・・・」

 

訂正。明日からではなく、2週間後からだった。




いかがだったでしょうか。

次は4人のプロフィールを投稿する予定です。太陽以外は名字も出てきていませんが、次回の投稿の待っていただけたら幸いです。

それではまた次回お会いしましょう!!


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プロフィールの時間

皆さんどうも籠野球です。

タイトル通り今回はプロフィールを投稿したいと思います。

話が進んで新たな情報が出てきたらここに書き込んでいきたいと思います。

それではどうぞ!!



神木(かみき) 太陽(たいよう)

誕生日 7月28日

身長 175cm

体重 62kg

好きな教科 数学 理科(特に生物)

特技 動物に懐かれること

趣味 ペット飼育

外見 「家庭教師ヒットマンREBORN!」の山本武を暗めの茶髪にして目つきを鋭くした感じ

 

個別能力値(5段階)

体力 4

機動力 3.5

近距離暗殺 5

遠距離暗殺 2

学力 5

動物愛 5

 

 

作戦行動適正チャート(6段階)

実行力 5

戦略立案 6

指揮・統率 5.5

政治・交渉 3

探査・諜報 2

技術力(特殊能力) 5.5

 

今作の主人公その1。二年の三学期の最後に不良達に囲まれた倉橋陽菜乃を助ける為に、暴力事件を起こしてE組となった。

天才だが危険な人物として中学の皆からは恐れられているが、本当は大切な人のためなら身の危険を惜しまない優しい性格の持ち主。

なぜか動物に好かれる事に天賦の才能があり、「ひまわり」でも太陽が拾ってきた動物を飼っている。

高い戦闘力と作戦立案力を持ち、戦闘員としてもリーダーとしても優秀な存在。

生後まもなくして両親と死別し、実徳に引き取られ孤児院「ひまわり」で育った。

「ひまわり」の皆の事を家族としてかけがえのない存在として大切に思っている。その為皆からも絶大な信頼を寄せられている。

修学旅行で倉橋 陽菜乃と両想いになりながらも自身のこれまでの行いなどから告白できずにいたが、威月の後押しもあって恋人同士となった。

 

 

 

水守(みずもり) 威月(いつき)

誕生日 6月11日

身長 182cm

体重 82kg

好きな教科 英語(外国語全般得意)

特技 筋トレ 外国語通訳

趣味 ボードゲーム

外見 「ありふれた職業で世界最強」の坂上龍太郎を黒髪にした感じ

 

個別能力値

体力 4.5

機動力 2

近距離暗殺 4.5

遠距離暗殺 1.5

学力 4.5

筋力 5

 

作戦行動適正チャート

実行力 4

戦略立案 5

指揮・統率 6

政治・交渉 4.5

探査・諜報 2

技術力(特殊能力) 4.5

 

主人公その2。太陽に協力してE組行きとなる。

E組の中でも一番の高身長と高い身体能力を持ち、特に筋力に特化した能力を持つ。

常に冷静でいることを心掛けており、太陽がもっとも信頼を寄せる男でもある。

状況判断や指揮能力も一級品で、壁役にも指揮官にもなれるE組の中でも貴重な存在。

9年前の両親とアメリカに旅行の最中に殺し屋ボマーの起こした爆発事故によって両親を失い「ひまわり」にて暮らし始める。また、その一件からボマーを殺す為だけに生きる事を決める。

「ひまわり」で暮らし始める前は、中村 莉桜と幼馴染みでもあり密かに恋心を抱いてはいるが、余り仲を進展させようとはしていない。

幼い頃、エリートだった両親から英才教育を受けていたのもあって、見た目とは裏腹に「ひまわり」の4人の中で一番何でもこなせる器用な男でもある。

 

 

 

九澄(くずみ) 大賀(たいが)

誕生日 4月16日

身長 177cm

体重 63kg

好きな教科 体育 家庭科

特技 家事全般 運動(興味は余りない)

趣味 料理

外見 「BLACK CAT」のトレイン・ハートネット

 

個別能力値

体力 5

機動力 5

近距離暗殺 5

遠距離暗殺 3

学力 1.5

家事全般 5

 

作戦行動適正チャート

実行力 6

戦略立案 1

指揮・統率 1

政治・交渉 1

探査・諜報 4.5

技術力(特殊能力) 4.5

 

主人公その3。太陽に協力してE組行きとなる。

E組ナンバーワンの身体能力の持ち主で、特に脚力に特化した能力を持ち、その脚力をいかした足技による戦闘と追跡・潜入を得意としている。

非常に明るく前向きな性格で、ムードメーカーになる事が多い。

家事全般が得意な為、家事が苦手な実徳の代わりに「ひまわり」の家事のほぼ全てを担っている。

小学校二年の冬、借金が原因で両親と懐中時計と共に再会を約束されて「ひまわり」で暮らし始める。連絡1つ無い両親に対しては特に恨んでもおらず、約束を信じて待ち続けている。

様々な事から助けた事もあってか神崎 有希子から好意を抱かれ(E組の皆からも分かりやすい位だったが、大賀自身は全く気づいていなかった)南の島の肝試しにて告白されて、恋人同士となった。

 

 

 

伊勢(いせ) 登志(とうし)

誕生日 3月20日

身長 159cm

体重 48kg

好きな教科 日本史 古文

特技 剣術

趣味 そば屋巡り

外見 「銀魂」の沖田 総悟を鮮やかな黄色髪にした感じ

 

個別能力値

体力 4

機動力 4(飛天御剣流使用時は5)

近距離暗殺 5

遠距離暗殺 2.5

学力 2.5

飛天御剣流 5

 

作戦行動適正チャート

実行力 4

戦略立案 1.5

指揮・統率 1.5

政治・交渉 1

探査・諜報 1

技術力(特殊能力) 5.5

 

主人公その4。太陽に協力してE組行きとなる。

渚と同じくE組男子の中でもっとも背が低い。

学校に行くときは竹刀を持ち歩き、旅行などでは鞘付きの木刀を持ち歩いている。

幕末最強の剣士と恐れられた"人斬り抜刀斎"の子孫で、彼が振るったとされる「飛天御剣流」の正式な継承者。

4人の中でも一番温厚な性格で皆に敬語で話すが、怒りや強敵との戦いを行うと、その人斬りの血を呼び起こす。この時、超人的な強さと引き換えに、口調は荒くなり敵に対しての容赦を無くす。

小学五年生の三月、実の兄である伊勢 龍志によって両親を殺され「ひまわり」で暮らし始める。その兄を止める為に、飛天御剣流を振るい続けている。

自身の過去を知り、それでも傍にいようとしてくれる矢田 桃花に夏休み以降、恋心を抱き始めている。

 

 

 

E組以外の人物

 

神木 実徳(じっとく) 41歳

孤児院「ひまわり」の院長で、太陽達の親代わり。

仕事の為孤児院を空けることが多く、いない時は家政婦の岬に一任している。

「ひまわり」の皆には非常に慕われているが、家事全般は苦手で太陽達4人(主に大賀)に殆ど任せている。

負傷していたとはいえ、殺し屋を武器も使わずに倒す事ができ、日本政府やロブロさんには、恐神と呼ばれている。

 

皆藤(かいとう) 裕樹(ゆうき) 11歳

小学五年生。

「ひまわり」で暮らす子供の一人でサッカーが大好き。

 

細川(ほそかわ) 彩子(あやこ) 9歳

小学三年生。

「ひまわり」で暮らす子供の一人で太陽がいない時のペット達への餌やりを担当する。

 

神木 (はな) 3歳

「ひまわり」で暮らす子供の一人で、実徳の遠戚。

「ひまわり」のアイドル的存在で特に太陽と大賀に懐いている。

 

(たちばな) (みさき) 32歳

「ひまわり」に勤務する家政婦で平日の昼や太陽達がいない時は、3人の面倒を代わりに見ている。

 

伊勢(いせ) 龍志(りゅうじ) 生死不明だが、生きていれば19歳

誕生日 3月3日

 

登志の実の兄であり、飛天御剣流最強の男、人斬り抜刀齋の生まれ変わりと言われる程の腕前を持つ。

飛天御剣流に対しての考え方の違いから、登志や自身にとっての両親を斬殺し、行方不明となる。

登志にとって因縁の相手でもあるが、あくまで飛天御剣流に対しての考えの違いのみで対立しているだけで、普段の兄弟仲は悪くなく、寧ろ良好。




いかがだったでしょうか。

余談ですが、九澄 大賀はジャンプのある漫画の主人公の名前です。

理由は僕が初めて買った漫画だったので、思い入れが深いからです。

名前以外はほとんど似せるつもりは無いですけど、まずかったら別の名前になるかもしれませんが、ご了承ください。

というわけで、次回から本編スタートです。

ダラダラと書いていくつもりなので、読んでくれる方は、のんびりと待っていてください。

それではまた次回お会いしましょう!!



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一時間目 初登校の時間①

皆さんどうも籠野球です。

この話から本編の始まりです。時期的には、奥田さんの暗殺が失敗した辺りでビッチ先生が来る数日前のつもりです。

果たして4人は暗殺に成功し、百億を手にする事が出来るのか?

それでは、どうぞ!!


威月side

 

 俺達の停学が始まってから約1か月、ようやく停学期間が終了した俺達はE組校舎に向かう為に山道を歩いていた。

 

「あー、この制服着るのも久しぶりだなぁ。すげえ懐かしい気がするわ」

「まあ、これからまた一年間お世話になるけどね」

 

大賀がそう感慨深いに言った言葉に、登志が笑いながらそう返した。

 

まあその気持ちは俺も同じだな。俺達この1ヶ月間、食材の買い出し以外は外に出なかっしな。

 

「これからは、また岬さんに華をお願いしないとな」

「岬さんに華も懐いてるから心配ないよ、僕達もだいぶ助けられてるしね」

 

岬さんは家政婦だけど、俺らが小学生の頃から「ひまわり」に居てくれてるしな、ある意味俺らにとっては第2の母親みたいな存在だ。

 

そんな事を考えてると、大賀が道の先を見ながら呟いた。

 

「それにしても、この山を一キロも登った先か、E組は。」

「うん。隔離校舎とはよく言ったもんだよね、全く・・・」

「だからこそ、暗殺なんて出来るんだろうよ。」

 

俺はそう2人に返しながら、後ろにいる太陽に話しかけた。

 

「太陽もいい暗殺計画立ててくれよ。お前が頼りだからな。」

「・・・・・」

「太陽?」

 

返事が無いことに疑問を感じた俺は後ろを振り向いた。

 

「よしよし、可愛いなあお前。この山によく来るのか?」

「ワン!」

 

そこには、野良犬と戯れている太陽の姿があった。何やってんだあいつは!?

 

「お前は一体、何をやってんだ!?」

ゴッ!!! 「痛ってえーーー!?」

 

俺は無言で太陽の元へと歩み寄り、そう叫びながらその頭に拳骨を落とした。そんな俺をビビッたのか、野良犬は一目散に逃げていった。

 

「ああ、(わん)ちゃん!!何してくれんだよ威月!?どっか行っちゃったじゃねえか!?」

「いや、お前が何してんだ!?俺ら停学明け初日だぞ!?それなのに遅刻したらまずいだろうが!?」

「あ、そうだった・・・すまん、つい」

ビュオッ!!!!!

 

そう太陽に説教していると、突然辺り一面に突風が走った。

 

思わず目を覆った俺達が次に目を開けた時そこには、

 

「ヌルフフフ。知らない気配があったので来てみましたが、君達が神木君達ですか?」

 

触手が生えた黄色いタコがいた。

 

(え!?もしかしてコイツが標的か!?てかマジでこんな見た目なのか!?)

 

突然現れた生物に俺も少しだけ固まったが、太陽がすぐに返した。

 

「はい。俺が神木 太陽です。あなたが標的ですか?」

「ええ、私が月を爆った犯人です。皆からは殺せんせーと呼ばれています」

 

(・・・さっきまでしょぼくれてたくせしやがって))

 

太陽の頭の切り替えの早さに感心しながらも、俺ら3人も自己紹介をした。

 

「すいません、突然でビックリしちゃって。俺は水守 威月です」

「あ、俺は九澄 大賀です」

「伊勢 登志です、はじめまして」

「はい、はじめまして。もうすぐ朝のHRが始まりますよ、校舎で待っていますね」

 

そう言うと殺せんせーは猛スピードで飛んでいった。

 

「あれが、マッハ20か。やっぱ速いな」

 

太陽はそう言いながら、殺せんせーが飛んでいった方角を見つめた。

 

おそらく太陽の頭の中では、今いろんな場面と状況を想定しているだろう。

 

いや、大賀もストレッチをしているし、登志も三日前に烏間さんから届いた刀の形のナイフに手を掛けている所を見ると、殺る気は充分だな。

 

「ま、殺る気はあるみたいだし、計画はまた後で練ろうぜ」

 

俺のその言葉に3人は頷いて、俺達は急いで校舎へと向かった。

 

 

 

渚side

 

 今日、本校舎から転入生が4人来ることを烏間先生から教えてもらった僕達は、どんな人か杉野や茅野と話し合っていた。

 

「もうそろそろだね、転入生が来るの」

「つっても殺し屋じゃないのか?ちょっと不安だな」

「それは無いと思うよ、烏間先生も殺し屋ではないって言ってたし。茅野は男子か女子どっちだと思う?」

「私はどっちでもいいけど、仲良く出来る人がいいかな」

 

そんな事を話していると、岡島君と前原君が会話に入ってきた。

 

「俺は女子!!女子がいい!!」

「あぁ、それも可愛い女子がいいな!!」

「あはは・・・2人はそうだろうね」

 

でも頼りになる人達がいいな。

 

そう考えていると始業のベルが鳴り教室の扉がガラリと音を立てながら開き、殺せんせーが入ってきた。

 

「HRを始めます。日直の方は号令を」

 

その言葉の後にクラス全員での一斉射撃が毎日の日課だが、

 

「起立、気をつけ、礼」

「にゅやっ?今日は発砲は無しですか?ヌルフフフ、まあいいでしょう」

 

今日は誰も発砲しなかった。なぜなら、この後転入生の紹介があるからだ。

 

「・・・はい、遅刻無しと。皆さん素晴らしいですね。さて、皆さんご存知の通り今日本校舎から転校生が4人いらっしゃいます。全員、簡単な自己紹介をしてもらいましょう。ではどうぞ」

 

殺せんせーのその声に反応して教室の前の扉が開いた。そこからまず入ってきたのは鮮やかな黄色の髪で、背中に竹刀の袋を背負い、腰にも刀の様な物を差した僕と同じくらいの身長の男子だった。

 

「C組から転入してきました伊勢 登志といいます。これから一年間よろしくお願いします」

 

そう言って伊勢君は頭を下げた。

 

「ヌルフフフ、よろしくお願いします。では次の方」

 

殺せんせーのその言葉で入ってきた生徒は少し暗い茶髪のボサボサ頭でかなり背が高くスラッとした体型の男子だった。うう、羨ましい。

 

「D組の九澄 大賀です。よろしく!!」

 

そう言いながら九澄君はニコニコと笑っていた。

 

「はい、よろしくです。では次」

 

次に入ってきたのは黒髪を刈り上げた短髪で、九澄君よりも少しだけ背が高く筋肉質な体型の男子だった。

 

「水守 威月、A組からだ。よろしくな」

 

そう言って微笑みながら、腕を組んだ。す、少し怖いな。

 

「よろしくお願いします。それでは最後の方どうぞ」

 

最後に入ってきたのは九澄君よりもかなり暗い茶髪のツンツン頭で、少し目つきが鋭い男子だった。正直かなり怖い。

 

しかし彼が話し出すよりも早く、倉橋さんが立ち上がり驚いた様子で叫んでいた―――――

 

 

 

太陽side

 

「神木君!?」

 

 突然、自分の名前を呼ばれた俺は思わずその方向を見た。すると、そこには明るい茶色の髪色の女子が驚いた顔で俺を見ていた。

 

(この子はあの時の!!そう確か名前は・・・)

「倉橋さん・・・だっけ?」

「は、はいそうです」

「そうか、E組って言ってたもんね。あの時の子猫は元気?」

「はい!!もうすっかり元気になってくれました!!」

「そりゃあ、良かった」

 

停学になっちまったから、それだけが気がかりだったんだよな。

 

「ヌルフフフ。2人はお知り合いみたいですねえ。ですが、今は自己紹介をしてもらえますか」

 

殺せんせーがニヤニヤと笑みを浮かべ、緑のしましまの顔になりながら自己紹介を促してきた。あの皮膚どうなってんだ?

 

そんな事を疑問に感じながらも、俺はクラス全員の方へと向き直り、

 

「A組から転入してきた神木 太陽です。多分この学校の中じゃ良い意味でも悪い意味でも有名だと思いますが、皆と頑張っていきたいと思うんで気軽に太陽と呼んでくれると嬉しいです。一年間よろしくお願いします!!」

 

そう言って俺は頭を下げた。

 

「ヌルフフフ、新しくE組にやってきた4人と一緒に殺せるといいですねえ、卒業までに。さて、それでは授業を始めます。4人は一番後ろにカルマ君を挟んで並んで座ってください。」

 

そう言って殺せんせーは、一番後ろを指差した。なるほど、確かに空いてるな。

 

俺達は言われた通りに席に座って、それを確認すると殺せんせーは授業を開始した。

 

「太陽君、久しぶりだね」

「ん?おぉカルマ。久しぶり」

 

俺の横はカルマか。頭がいいコイツがここにいるって事は、コイツも喧嘩でE組に来たな?

 

「太陽君達も喧嘩?」

「やっぱお前もか。そうだよ、倉橋を庇ってな」

 

そんな風に話していると、

 

「二人とも授業始まってるぞ」

「あ、ホントだ。カルマ、また後でな」

「はいよー」

 

隣の威月の声に、カルマにそう言いながら俺は教科書を開いた。

 

殺せんせーの授業は本校舎の教師より分かりやすかった―――――

 

 

 

「太陽君ちょっといいかな」

「ん?」

 

 一時間目が終了した休み時間、俺は登志と同じくらいの身長の男子と手にリストバンドをはめた男子に話しかけられた。

 

「僕は潮田 渚、渚って呼んでくれる?」

「俺は杉野 友人、よろしくな」

「おお、よろしくな渚、杉野」

 

俺はそうやって渚に返した。

 

「太陽君ってA組だったんだよね。何でE組に?」

「三学期の最後に倉橋が不良達に囲まれていたのを見つけてな。それで助ける為に、不良達をボコボコにしちまったんだよ」

「だからさっき倉橋がいきなり話しかけてたのか」

「ま、そういう事だ」

「神木くん・・・」

 

その時、ちょうど倉橋が話しかけてきた。何か顔暗いな。

 

「なんだ倉橋?」

「その、神木くん達がE組になっちゃったのって、やっぱりあの時の事のせい?それだったら本当にゴメンね・・・」

「あー・・・まあ確かにあれが原因だけど気にしなくていいよ。もしあそこで俺らが行かなきゃ、倉橋がどうなっていたか分かんなかったしな」

「でも・・・」

 

うーん、どうも倉橋は気にしちゃってるみたいだな。俺達は何回も喧嘩してるし、今回たまたまやり過ぎちゃっただけなんだけどな。

 

「・・・もし倉橋が気にしちゃってるなら、俺の願いを一つ聞いてくれるか?」

「え・・・あ、うん。何?」

「笑って」

「え?」

「笑いながらありがとうって言ってくれれば、それだけで俺は充分だよ」

 

笑いながら俺は倉橋にそう告げた。そんな俺の言葉にポカンとした後、倉橋は満面の笑みを浮かべながら、

 

「本当にありがとね、太陽くん!!」

 

そう言ってくれた。うん、やっぱり倉橋には笑顔が似合う。

 

「渚、太陽って天然なのか?」

「うーん、どうなんだろう」

 

そんな俺と倉橋を見て、渚と杉野は何やらヒソヒソと話し合っていた。何、話してんだ?あの2人。

 

そんな感じで午前中の時間は過ぎていった―――――




いかがだったでしょうか。

長くなりそうだったので、二話に分けようと思います。

ちなみに4人の席順ですが、
太陽→カルマの左
威月→太陽の左
大賀→カルマと寺坂の間
登志→威月の左
のつもりです。

しかし自分で書いてて何ですが、太陽と倉橋はホントにお似合いに感じます。生き物が好きな所や、明るい倉橋と少し天然な太陽。かなり似ている2人だから書いてるのが楽しいですね。

それではまた次回お会いしましょう!!


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二時間目 初登校の時間②

皆さんどうも籠野球です。

前回の続きからで昼休みからになります。ホントは訓練を書きたかったんですが、難しそうで断念しました。

まあそもそもそんな上等なセンスも無いですけどね(笑)

それでは、どうぞ!!



太陽side

 

 昼休み、俺達は4人で集まりながら持ってきた弁当を机の上で広げようとしていた。すると、

 

「太陽君達も今日は一緒に食べない?」

 

渚や杉野が俺ら四人を誘ってきてくれた。もちろん断る理由なんてない。

 

誘いを了承すると、俺達の机の元に渚と杉野、それに小柄な緑色の髪色の女子がやってきた。

 

「私は茅野 カエデ、私もいい?」

「ああ、構わねえよ」

 

俺は茅野の質問に快諾し、7人で昼食を食べることになった。

 

そして俺達4人が弁当を開けた瞬間、渚が驚いた様子で口を開いた。

 

「あれ、四人のお弁当って全員一緒なんだね?」

「そりゃそうさ、大賀が全員作ってるんだからな」

「え!?九澄君が全員の分を作ってるの!?」

 

渚が出した大声にクラス全員が反応した。

 

「あ・・・ゴ、ゴメン」

「別にいいよ、隠す事じゃないしな」

 

我に返った渚が俺達に謝ったが、九澄が代表して返事をした。

 

「でも、何で九澄君が全員の分のお弁当を作ってるの?」

「俺、料理好きだからさ、家族全員の分を作ってるんだよ」

「? 家族って皆、名字違うよね。どういう事?」

「渚、俺の噂の一つに孤児院で暮らしてるって聞いた事ないか?」

「え・・・あれって噂じゃ無くて本当なの?」

「ああ、威月達3人は小学生の頃から、俺は生まれてからすぐに孤児院で生活しているよ。」

 

俺のその言葉にクラス全員が無言になってしまった。

 

そんな状況にテンパった俺の代わりに威月が俺の気持ちを代弁してくれた。

 

「別に俺ら4人全く気にしてねえからさ、皆そんな気を遣わねえでくれよ。」

「こうやって4人で一緒に学校行って、ご飯一緒に食べるのも結構楽しいからね。」

 

登志もそう言った事で、ようやく渚が口を開いた。

 

「ゴ、ゴメンね・・・でも九澄君すごい料理上手いんだね。」

 

まあ確かにこの弁当もすげえな。里芋とレンコンの煮物、ネギ入りの卵焼き、キュウリの浅漬け、牛肉のそぼろをのせたご飯。

 

これを全員分の朝食を作りながら作って、さらに洗濯機を動かしたりもしてるんだからホントに大賀はすごいな。

 

「もし良かったら僕にも今度教えてくれない?」

「全然いいよ。今度俺らの孤児院に来なよ、教えるからさ」

「本当?ありがとう!」

 

渚と大賀のそんなやりとりを聞き、俺ら以外が「ひまわり」に来てくれるという事実に俺はなぜか嬉しくなりながら弁当の残りを食べた―――――。

 

 

 

 陽菜乃side

 

昼食後、私達は体操服に着替えて校庭に集まっていた。今日の五時間目は体育だからだ。

 

「よし、じゃあ今日のナイフ術の訓練を始める。・・・む?神木君がいないようだが?」

 

その言葉に私達は太陽君がいないことに初めて気づいた。

 

「あれ、一番最初に校庭に出て行ったんですけど・・・」

「そういや何か見つけた様子で山を下りていったな」

 

磯貝君と前原君の会話を聞いた水守君は、

 

「まさか・・・おい前原、あいつどっちに降りてったか分かるか?」

「え、あっちだけど」

「分かった。すいません烏間先生、五分で戻ります!!」

 

そう言って前原君が指差した方向へ下りていった。

 

そうして五分後・・・

 

「たく、おまえは。授業時間くらい把握しとけや」

「だからゴメンって」

 

そんなやりとりをしながら2人は山の下から歩いてきた。謝りながら歩いてくる太陽君の腕の中には小さな白い動物がいた。

 

眠っている様子の長い耳と短いしっぽを持つその動物の名前を、私は興奮しながら叫んだ。

 

「ウサギだー!!」

 

私は太陽君の傍に駆け寄り興奮したまま、太陽君に話しかけた。

 

「太陽君、どうしたのこの子!?」

「いや、さっき何か動いた気がしてさ、追いかけてきたらコイツがいたんだ」

「可愛い~!でも何でこんな山の中に?」

「野生のウサギがこんな所にいるはずが無いからな、おそらく子供が飼いきれずに捨てられたんだろ。酷い事するぜ・・・」

「でも元気そうで良かったね。」

 

この子は怪我してる風には見えないし、太陽君に安心して眠っちゃったんだろうな。

 

「とりあえず、家で飼うけどお前ら構わねえか?」

「拒否してもお前はコッソリ連れてくるだろ?それに今更ペットが一匹、二匹増えても変わらねえよ」

 

ため息をつきながらそう言った水守君に、九澄君と伊勢君が笑いながら同意していた。

 

「とりあえずその子は教室に連れて行ってくれ、今は体育の時間だ」

「げ、もうこんな時間!?すいません、急いで戻ってきます!!」

 

烏間先生の言葉に太陽君は慌てて教室へと走って行った。

 

「とりあえず今日は時間が短いからな、少しキツくなるから頑張ってくれ」

 

・・・今日はすごく大変そうだな。

 

その後訓練で私を含めて皆ヘトヘトになってしまい、太陽君は皆の前で謝罪していた。

 

 

 

太陽side

 

放課後・・・

 

「全くお前のせいで皆ヘトヘトになってたじゃねえか」

「ま、まあいいじゃねえか、ちゃんと許してくれたし」

「初日から迷惑かけてどうすんだって言ってんだよ。たく・・・」

 

 学校からの帰り道、威月のそんな言葉に俺はただ冷や汗を流していた。

 

「まあそれくらいにしておこうよ。あんな山の中に放置されてたら、その子死んじゃってたかもしれないんだから」

「そうそう、太陽がそんなのほっとける訳ないしな」

 

俺の腕の中には、昼の子ウサギが丸まっていた。起きてはいるけどホントにおとなしいなコイツ。

 

コイツに癒やされていると威月はいきなり表情を変え、話を直球で切り出してきた。

 

「で、何か計画はあるか?」

「・・・いや、全く」

 

正直情報が少なすぎんだよな、殺せんせーに対する。

 

そんな俺の表情から読み取った威月は、あるメモ帳を俺に差し出してきた。

 

「これは?」「渚から預かってきた。殺せんせーの弱点が書いてあるらしい。それと、これまで実行した暗殺を教えてくれたぞ」

「マジか!?サンキュー、威月!!」

 

こういう時、威月の冷静さはホントに頼りになるぜ。

 

「じゃあ今まで実行した暗殺とその詳細を教えてくれ」

「おう」

 

俺は威月からメモ帳を受けとりながらそう言うと、威月は順番に話し始めた。

 

1.クラス全員での一斉射撃→出席を取りながら余裕で躱す

 

2.渚が手榴弾で自爆テロ→1ヶ月に一度の奥の手、脱皮で防がれる

 

3.杉野が野球ボールに対先生BB弾埋め込んで投げる→グローブを取ってくるほど余裕で止められる

 

4.数人でナイフで攻撃→花壇の花と入れ替えられる程余裕で躱す

 

5.4のおわびで吊された状態でハンディキャップ暗殺大会→途中でロープが切れて焦りはしたがが、何とか躱す。

 

6.カルマが崖から飛び降りながら暗殺→ネバネバになって防ぐ

 

7.奥田さんが毒物で暗殺→ちょっと姿が変わったりしたが、特に問題なし

 

「とまあこんな感じらしい。どうだ、何か策はあるか?」

「でも一斉射撃や自爆、毒物でも駄目なんてな・・・」

「吊された状態でも駄目じゃ刀を当てるのも難しいね・・・」

 

3人はそう話しているけど俺は全く逆の考えだった。このメモ帳に書いてある情報と今まで暗殺の状況を生かせれば、

 

「可能性はあるかもしれねえな」

「! マジか!?どうするんだ?」

「とりあえず今から急いで帰って烏間先生に電話して、ある物を明日までに作ってもらう。そして、明日仕掛けるぞ」

「明日?ずいぶん急だな」

「俺らについてほとんど殺せんせーが知らない状態の方がいいんだ、この暗殺はな」

「・・・分かった」

 

威月は俺の計画は聞かずに了承し、2人も頷いてくれた。この信頼に応えないとな。

 

「それと大賀、悪いんだけど明日朝早くに学校行けるか?俺らも手伝うからさ」

「いいけど、何をするんだ?」

 

その言葉に俺は振り返って3人の方へと向き直りながら、こう告げた。

 

「渚と話がしたい、今回の暗殺の要なんだ」

 

 

 

渚side

 

 太陽君達がE組にやってきた翌日のHRの始まる前、僕はその太陽君達に校舎のに外に呼び出されていた。

 

「わざわざゴメンな、渚。これ返すぜ」

「あ、うん、ありがとう威月君」

 

威月君、見た目は怖いけど結構話しやすいんだな。

 

「てかいつの間に名前で呼び合ったんだ?」

「これ貸してもらった時にだよ」

「ああ、なるほど」

 

太陽君と威月君のそんなやりとりを聞きながら僕は質問をした。

 

「それで、まだ僕に何か用かな?」

 

僕の質問に、太陽君は真剣な眼差しで僕を見つめながらこう言った。

 

「今日俺達は殺せんせーに暗殺を仕掛けるつもりでいる」

「えっ!?」

「ただその計画には渚の協力が必要不可欠なんだ、協力してくれないか?」

 

僕は太陽君のそんな質問に考えた。正直殺せんせーはそんな簡単に殺せるとは思えない。でも、

 

(太陽君の目はこれ以上無いくらい真剣だ。そんな人が僕を必要としてくれるなら・・・)

 

「分かった。どうすればいいの?」

 

僕のその言葉に太陽君は真剣な眼差しのまま、僕にこう告げた。

 

「もう一度、殺せんせーに自爆テロを仕掛けてほしいんだ」




いかがだったでしょうか。

次回はいよいよ4人に暗殺をやってもらおうと思います。

果たして4人はどんな方法で暗殺するのか楽しみに待っていただけたら幸いです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三時間目 暗殺の時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ暗殺の時間です。

果たして4人は暗殺を成功させる事が出来るのか?

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

六時間目・・・

 

 朝、渚に協力を依頼した今日の六時間目の最後は、プリントを行い終わった者から帰るという流れは渚が自爆テロをやった時の授業と形が似ていると渚が言った為、俺は迷わず六時間目に暗殺を行う事を決定した。なるべく状況は同じにしたい。

 

「であるからして、ここの数式はこうなるのです。分かりましたか、皆さん?」

 

教室の前では殺せんせーが数学の公式の説明をしている。その公式を頭に入れながら、時計をチラリと見た。

 

六時間目が始まってからまもなく四十分、渚曰く残り十分くらいで授業を終わってプリントを配り出すらしい。

 

一限の授業時間は五十分、つまり渚の話通りならもうすぐ授業は終了するはずだ。

 

迫り来るタイムリミットに思わず握り拳を作った。

 

渚には、肝心の手榴弾(ブツ)はもう渡してある、後は仕掛けるだけだ。

 

(大丈夫、きっと上手くいくはず・・・)

 

渚にはプリントを渡されてから約二分後に動いてくれと指示は出してある。皆が終わる前にケリをつけたいからだ。

 

「ヌルフフフ、それでは今日はここまでにします。今からプリントを配るので終わった方から教卓に提出して帰って結構です」

 

殺せんせーのその言葉に、俺は左右の3人に目配せすると、3人とも殺せんせーにも分からない程度に小さく頷いてきた。

 

俺達の気持ちは1つ、なら問題ない。渚が動き出したら、

 

(作戦開始だ。)

 

俺は小さく息を吐きながら、心の中で作戦開始を告げた。

 

(一秒、二秒、三秒、・・・十秒・・・・・三十秒・・・・・・・・・・一分)

 

心の中で時間を数えていた俺には、普段は特に感じない一分が永遠の様に感じた。

 

叫びたくなる様な衝動をグッとこらえて、その時を待った。そしてついに、

 

「ガタッ」

 

そんな音を立てて渚が席を立ったのを見て俺は自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。

 

「・・・・・」

「・・・もう出来ましたか、渚君?」

 

無言で近づく渚に殺せんせーは何かに勘づいたのかもしれないが、

 

(大丈夫、ここでは多分止めない。なぜなら、まだ渚は何もしていないからだ)

 

次の瞬間、渚は殺せんせーにナイフを叩き込んだ。だが、殺せんせーは無言でナイフで受け止めた。

 

そんな殺せんせーを無視して渚は前の時と同じように、殺せんせーにもたれかかろうとした。しかし、

 

ピタッ・・・

 

そんな音を立てて渚は触手に受け止められてしまった。

 

「・・・どうやらまだ、命を大切にしない生徒がいるみたいですねぇ」

 

殺せんせーの顔はド怒りの真っ黒に染まりかけていた。

 

しかし、俺達は何一つ慌てなかった。何故なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

(今だ!!)

 

そう思いながら俺は手元のスイッチを押した。

 

次の瞬間、渚の首にかけてある手榴弾から()()()()()()()()()()()()()―――――!!

 

 

 

渚side

 

「にゅやッ!?」

 

 殺せんせーの悲鳴を背に、その場に伏せた僕は朝の4人との会話を思い出していた。

 

 

 

今日の朝のHR前・・・

 

「もう一度、殺せんせーに自爆テロを仕掛けてほしいんだ」

「え・・・」

 

太陽君の言葉に僕は固まってしまった。その行動が起こす意味を僕は知っているからだ。

 

「勘違いしないでくれ。別に渚を危険な目に遭わせたいんじゃない」

 

・・・? どういう事だろう・・・?

 

 

「渚に協力してほしいのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「冷静さを、奪う?」

 

その言葉に思わず僕は聞き返してしまった。

 

「ああ、渚から借りたメモ帳の内容や、威月から聞いた今までの暗殺の詳細から一つ殺せんせーの傾向が分かった。基本的に殺せんせーは単純な殺り方ではおそらく殺せない。それは、クラス全員の一斉射撃の中でも出席を取ったり、吊された状態でも余裕で躱す事からも多分間違いないだろう」

 

ただし、と太陽君は少し間を空けると、

 

「そんな殺せんせーでもギリギリ躱した暗殺が二つある。一つは渚の自爆テロ、もう一つはハンディキャップ暗殺大会の時にロープが切れた時。この二つと関係がある殺せんせーの弱点は「テンパるのが意外と早い」。そして、これらを組み合わせた結果、俺はこんな仮説を立てた」

 

そう言いながら太陽君は息を吸い込んだ後、僕にこう宣言した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だということだ。」

「!!」

 

太陽君のその言葉に、僕は息をのんだ。

 

「それが、僕の自殺テロってこと?」

「そうだ。殺せんせーが何者かは分からない、だが生き物はかならず怒りによって冷静さを奪われる。それは殺せんせーでも例外じゃないはずだ。」

「昨日聞いた話じゃ渚が暗殺失敗した時、殺せんせーは真っ黒になって怒ったんだよな?」

「う、うん」

 

威月君のその質問に僕は頷いた。あの時の殺せんせーは今までで一番怖かったもんな・・・

 

「殺せんせーが怒った理由が命を大事にしなかった事なら、もしE組に来てすぐの俺らが渚を使って()()()()()()()()()()()()()

「殺せんせーは間違いなく怒るって事・・・?」

 

僕のその答えに、太陽君と威月君は頷いた。

 

「その状況を作り出せれば俺らの勝ちだ」

「でも、そこからどうするの?殺せんせーを怒らせただけじゃ殺せないよ?」

「そうだ、だからコイツを使う」

 

そう言うと太陽君はポケットからある物を取り出した。

 

「手榴弾?」

「見た目はな。だがコイツの正体は煙幕弾(スモークグレネード)だ。これは烏間先生に昨日の夜急いで作ってもらった。手榴弾と同じ見た目で、リモコン操作で起爆するタイプとお願いしてな。コイツを渚に持ってもらい、前回と同じ様に殺せんせーに暗殺を仕掛けてもらう」

 

太陽君はそのまま話を続けた。

 

「間違いなく、殺せんせーは避けるだろう。そして暗殺の促したのは俺らだと予想して怒り出す、その瞬間にコイツを起爆する。冷静さを失ってる上に、爆弾と思っていた物から煙が噴き出すんだ。かならず殺せんせーはテンパるはずだ。渚は煙が噴き出すのを確認したら床に伏せてくれ、後は俺らが殺る」

(凄い・・・)

 

淀みなく計画を説明する太陽君に、僕は素直にそう思った。

 

昨日E組に来たばっかりなのに、殺せんせーの怒りさえをも利用するなんて僕には想像もできなかった。

 

「だが、この暗殺にはリスクがある・・・」

 

威月君は表情を曇らせながらそう言った。

 

「それはもちろん、渚のリスクだ。このグレネードは当然殺傷能力は無いが、急遽作ってもらった物だから何が起こるかは分からない。おまけに渚は、その煙を大量に吸い込んでしまうかもしれない」

「もし、この計画を聞いて断りたいなら断ってくれて構わない。当然の権利だからな、計画を立てた俺がやる。どうする?」

 

威月君と太陽君は、本当に僕の身を心配して言ってくれてるのが分かった。だからこそ僕は迷わずに答えた。

 

「大丈夫、僕にやらせて!!」

 

 

 

太陽side

 

 ブシュゥゥゥゥゥ!! 「にゅやッ!?」

(サンキュー渚!!)

 

渚は計画通りにやってくれた!!後は俺らの番だ!!

 

―――煙を確認したら、登志は素早く刀型対殺せんせーナイフ(自分の得物)を手にとって威月の傍に来る。

 

―――威月は両腕を組んで、登志を腕に乗せると、後ろ向きに登志を教室の前までぶん投げる!!

 

普通なら煙のせいで何も見えないはずだ。でも俺達は渚に前回と同じ場所で暗殺を始めてくれとお願いしてある。大体の場所さえ分かれば、後は微調整で何とかなる!!

 

(その為に俺らは今朝誰よりも早く教室に来て、何回もシミュレーションしたんだ!!) タンッ

 

練習の時と同じ様に、登志は教室の前の方の天井付近にたどり着いた。

 

―――後は簡単、登志は天井を蹴って加速し、殺せんせーに最速で刺突(つき)を放つ!!

 

(もらった!!)

 

 

 

次の瞬間、登志の刺突の風圧で煙が大きく動いた―――

 

 

 

威月side

 

―――暗殺が終わったら、大賀は素早く窓を開けて煙を逃がしながら渚を呼べ。それを聞いたら渚はグレネードから離れろ。

 

 ガラッ 「渚!!」

 

(太陽の計画通りにはなったはずだが、どうだ!?)

 

「全員窓を開けて!!」 ガラララッ!!!

 

片岡の指示で皆が窓を開け始め、少しずつ煙が少なくなってきた。

 

やがてグレネードから煙が完全に出なくなり、教室の前が見える様になってきた。すると、

 

「・・・お見事です。まさか先生の怒りさえをも利用してくるとは。」

 

触手一本を失い、顔を少しだけ抉られた殺せんせーと床に悔しそうな顔をして膝をついた登志がいた。

 

「登志・・・」

「・・・僕は最速で放った。でも、ごく僅かに殺せんせーが身を躱す方が早かった」

(失敗か・・・)

 

だが落ち込んでる場合じゃない、まずは無事を確認しなきゃいけない奴がいる。

 

しかし、俺が呼ぶよりも早く、太陽が駆け寄りながらその名前を呼んだ。

 

「渚!!大丈夫か!?」

「コホッ・・・うん、何とか大丈夫」

 

太陽の言葉に渚は微笑みながらそう答えた。言動もしっかりしてるし、何とか大丈夫そうだな。

 

「すまなかったな、渚。あんだけやって殺せなかったよ、俺の作戦ミスだ」

「そんなことないよ、太陽君。作戦は上手くいってたはずだったよ」

「その通りです、太陽君。君の作戦は完璧でした」

 

殺せんせーは、そう言って太陽の頭に手を置いた。

 

「先生にわざと怒らせ冷静さを奪わせた後に、視界を奪ってから登志君の最速の刺突。完璧な計画でしたよ、さすがは学校トップクラスの天才です。」

 

高評価だ、ならなぜ躱された?

 

「ですが、一つだけミスがありました。それは渚君が()()()()()()()()()()()()事です」

「!!」

 

殺せんせーのその言葉に渚が息を呑んだ。

 

(そうか、渚は今回殺す気でナイフを振らなかった。だから殺せんせーに少しだけ冷静さを与えてしまったのか)

 

その僅かな差が、ギリギリで登志の攻撃を避けさせたのだ。

 

「ゴメン・・・僕のせいだ・・・」

「いや、渚はよくやってくれたよ」

 

太陽は落ち込む渚にそう声をかけた。すると、そんな太陽に殺せんせーは、

 

「ところで太陽君。先生も君に聞きたいことがあるのですが」

「えっ?あ、はいどうぞ」

 

殺せんせーの問いに、太陽は顔を引きつらせながらそう言った。

 

殺せんせーはニヤニヤと笑みを浮かべながら、

 

「計画を知っていた渚君はともかく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「うっ、いやそれは・・・」

 

そんな殺せんせーの質問に太陽はたじろいだ。でも俺は当然の質問だと思っていた。

 

なぜなら、自爆テロの時と同じ状況で殺せんせーがド怒りになったり、その後すぐに辺り一面煙だらけになったのに()()()()()()()()()()()()()()。そりゃおかしいに決まってる。

 

そしてあの笑みを見る限り、殺せんせーも感づいてるんだろうな。ならもう隠す必要もねえか。

 

「俺が昼休みにクラス全員に計画を伝えたんすよ、()()()()()()()」「ちょっ、威月!?」

 

俺の言ったことに太陽は慌てて口を挟もうとしたが、それよりも先に磯貝が口を開いた。

 

「え!?あれって太陽の指示だったのか?」

「ああ、お前らが急な暗殺に驚かないようにってな」

「でも、今回の暗殺は俺らは自然な表情でいてくれって言ってたけど、それなら言わない方が良かったんじゃないのか?俺らの表情で殺せんせーが気づいた可能性もあっただろ」

「その言葉、何度コイツに言ったことか・・・」

 

俺はそう言いながら太陽をチラリとみると、

 

「だがコイツは、決して首を縦には振らなかった。”渚が俺の作戦を信じてくれた以上俺もE組の皆を信じたい。皆にこの作戦で危険な目に遭ってほしくない”、コイツはそう言ったよ」

「ヌルフフフ、殺し屋としては甘いですねえ。ですがクラスメイトとしては完璧です」

「こんな奴だからこそ、俺ら3人はついてきたんですよ」

 

殺せんせーの言葉に俺は薄く笑いながらそう言った。

 

「もういいよ、威月。皆が聞いた通りだ、今回の俺の計画は失敗だ。でも俺はこのE組の皆と一緒に頑張っていきたい。だから、これからもよろしく頼む」

 

そう言って太陽は頭を下げた。

 

「何言ってんだよ太陽。昨日からクラスメイトだろ、俺達は」

 

磯貝がそう言うと、クラスのあちらこちらから声が飛んできた。

 

「よろしくね!!太陽君。」

「でも分かってても殺せんせーが真っ黒になりかけた時はホント焦ったなー」

「触手一本と顔に傷なんて、今までで一番惜しかったよねー」

 

太陽を責める奴なんて1人もいなかった。そんな状況に太陽は俺の方を見ながら、

 

「・・・良いクラスだな、ここは」

 

笑顔でそう言ってきた。そんな声に俺は、

 

「ああ、最高だ」

 

同じく笑顔でそう返した。

 




いかがだったでしょうか。

作中の事が実際に出来るかは分かりません(笑)。
まあ出来る事にしておいてくれたら幸いです。

それと話が変わりますが、
最近久々に小説情報を見たら、お気に入り登録をしてくれた方がいてビックリしました!!。
こんなド素人の自己満足の小説を、読んでくれるばかりかお気に入り登録までしてくれた方がいる事に、作者はとても感動しています!!
これからも素人なりに頑張っていくので、どうかよろしくお願いします!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四時間目 噂の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は太陽の噂についてです。
椚ヶ丘中学でも危険人物との噂の太陽ですが、本当にそうなのかと倉橋が疑問に思う話です。

果たして彼は本当に危ない人物なのか?それともただの噂なのか?

それではどうぞ!!



陽菜乃side

 

 私は帰り道を通りながら考え事をしていた。太陽君の噂についてだ。

 

今日の暗殺、結果的には失敗しちゃったけど、今までで一番惜しい暗殺だった。

 

私を含めてクラスのほぼ全員が太陽君達4人を歓迎しているはずだ。

 

だからこそ忘れてたんだけど、

 

(太陽くんは危険人物って噂なんだよね・・・)

 

暴力事件を何度か起こしているというのは、私が謝った時も太陽君自身が気にしてなかった事からも多分、本当なんだと思う。

 

でもあの時、渚君の元へと誰よりも早く駆け寄って無事を確認した時の表情や、威月君が言っていた太陽君の言葉を思い出すと、どうしてもそんな怖い人だとは思えなかった。

 

(どっちが本当の太陽くんなんだろう・・・)

 

そんな事を考えていると、ある曲がり角にたどり着き私は思わず足を止めた。

 

「あ、ここは・・・」

 

ここは太陽君と初めて出会った場所だ。この角を左に曲がれば家に帰れる、しかし私はなんとなく右に行ってみることにしてみた。

 

暗殺が終わった後全員プリントを再開したが、カルマ君と同時に一番乗りで終わらせた太陽君は、九澄君に買い物を頼まれていたからだ。学校から直接商店街に行くにはこの道が一番近い。

 

(もう一ヶ月も前の事なんだな・・・)

 

道を歩きながら、私はあの日の事を思い出していた。

 

子猫を守る為に不良達の前に出たが何も出来ずに突き飛ばされた私を受け止めてくれて、

 

一人で四人を倒した後私に笑いかけてくれて、

 

大勢に囲まれても私に指一本触れさせずに家へと帰してくれた。

 

(うん、やっぱりただの噂だよね)

 

そう思い直していると突き当たりの大きな用水路を挟んだ道に出ようとしていた。

 

この用水路は深さが二メートル以上あるから、絶対にこの近くで遊んではいけないと昔から言われてきた場所だった。

 

その道に出ようとしたまさにその瞬間、()()()()()()()()()()

 

「きゃあ!?」

 

文字通り横から吹っ飛んできたこの人に、私は思わず声を上げて驚いてしまった。急いで倒れているこの人に声を掛けようとして、

 

「えっ、この人・・・」

 

殴られた痕があるこの人は、確か一ヶ月前に私を突き飛ばした人だった。

 

「たく、あんたらも懲りないな」

 

聞き覚えのあるそんな声が私の耳に届き、恐る恐る飛んできた方向を向いた。

 

そこには10人近くが倒れており、唯一太陽君だけがポケットに手を入れながら呆れたような眼差しで立っていた。

 

倒れている人達は明らかに殴られて気絶しており、太陽君は傷一つなかった。

 

そんな異常な状況に私は思わず恐怖を感じてしまった。

 

(やっぱり太陽くんは・・・)

 

そんな風に考えていると太陽君はおもむろに横を見ると、

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

しゃがみ込みながらそう言った。私もその方向を見てみると、小学校低学年くらいの男の子がしゃがみ込んでいた。

 

「うん。ありがとうお兄ちゃん!!」

 

あの子を助けたという事が2人の会話ですぐに分かった。自分から仕掛けた訳じゃなかった事が分かり、少しだけ安心した。

 

「あれ、コロがいない・・・」

「あそこにいるよ」

 

太陽君はそう言いながらある方向を指差した。そこには、茶色の豆柴が1人の男の近くに1匹いた。話を聞く限りあの男の子のペットだろう。

 

安心した顔をした男の子が太陽君の手を借りて起き上がろうとしたその時、

 

「てめえなめてんじゃねえぞ!!」

 

突然この前私と太陽達に怒鳴ってきた男が立ち上がると、豆柴を用水路の中に放り込んだ。

 

「!!」 ダッ!! ガシャッ!!

 

太陽君はそれを見た瞬間走り出し、フェンスを乗り越えると、

 

「とりゃあ!!」 ザバーン!!

 

そんな叫び声とともに、()()()()()()()()()()()()

 

「コロ!!お兄ちゃん!!」

「太陽くん!!」

 

男の子はそう叫びながらフェンスに駆け寄り、私は思わず太陽君の名前を叫んだ。

 

「へっ、ざまあみやがれ!!」

 

男はそう吐き捨てながら、私の方へと逃げようと走ってきた。

 

「てめえ逃げれると思ってんのか?」

ボカッ!! 「ぐあっ!?」

 

しかしそんな声と同時に繰り出されたパンチに男は吹っ飛んでいった。

 

後ろを振り返ると、そこには威月君が拳を振り抜いた状態で止まっていた。

 

「大丈夫か?倉橋」

「う、うん。大丈夫」

 

そう聞いてきた威月君に、私は何とかそう答えた。

 

「太陽!!大丈夫か!?」

「! そうだ威月くん、太陽くんが!!」

 

大賀君のそんな声に私は太陽君が飛び込んだことを思い出し、慌ててフェンスに駆け寄った。ここは深さが二メートル以上あるんだった。

 

「どこにいるの、太陽くん!?聞こえたら返事して!?」

 

しかしそんな私の声にも何も反応が無かった。飛び込んでからもうすぐ三十秒くらい経つはずだ。

 

「そんな・・・」

 

私が思わずそんな不吉な事を考えてしまったその時、

 

ザバッ!! 「プハァ!!」

「「太陽(くん)!!」」

「あー、死ぬかと思った・・・。」

 

姿を見せた太陽君に私と九澄君は同時に彼の名前を呼んだ。よく見るとその手にはさっきの子犬が抱きかかえられていた。

 

(良かった、無事で・・・)

 

私は太陽君のその姿に本当に安心できた。するといつの間にか横に歩いてきていた威月君は、

 

「太陽、そこに梯子がある。上がってこれるか?」

「ん、おおホントだ。大丈夫だ、いけるよ」

 

威月君が指差した方向を見てみると、確かに梯子があった。

 

太陽君がその方向に泳ぎだしたのを確認しながら、私達は近くの橋を渡って反対側の梯子の近くに着いた。

 

「大賀、この子を頼む」

「おお、任せろ」

 

梯子での途中で、太陽君はフェンスを乗り越えた九澄君に豆柴を預けてから梯子を登りきった。

 

そのままフェンスを乗り越えて戻ってきてからその子を受け取ると、

 

「濡れちゃってるけど、大丈夫だよ」

「コロ!!良かったぁ・・・」

 

泣きそうになっていた男の子に笑いながら手渡した。

 

「コロっていう名前なのか、いい名前だね」

「うん、本当にありがとうお兄ちゃん!!」

 

そのまましゃがみ込んで男の子と話し始めた。

 

(あ、あの顔は・・・)

 

私はそんな太陽君の顔に、私は見覚えがあった。その顔はあの時私に笑いかけてくれた時や、暗殺後の渚君の無事を確認した時の顔にそっくりだった。

 

そう考えていると威月君が、

 

「一応アイツの弁明の為に言っておくけどな、倉橋」

「えっ?」

「アイツが暴力を振るう時は、ああやって誰かがいじめられた時や、俺達「ひまわり」の誰かが馬鹿にされた時だけで、自分から喧嘩をした事は一度も無いんだよ」

「そうなんだ・・・」

「ま、だからって殴っちまうのは良くないけどな」

 

笑いながらそう言うと威月君は九澄君と共に太陽君の近くに歩いて行った。

 

(やっぱり、噂通りの人じゃ無かったんだね、太陽くん)

 

普通なら暴力は威月君の言ったとおり良くない事だろう。

 

でも全く知らない人の為に、自分の身の危険を顧みずに助けにいける太陽君は、

 

誰よりも優しい人なんだと思った。




いかがだったでしょうか。

太陽は弱い者いじめや、意味も無く暴力を振るったりをするような人物ではないとそう思ってくれたら幸いです。

今回で4人の暗殺はこれで終了です。次回は集会を書くつもりです。
本来ならビッチ先生ですが、書かなくても大丈夫だと思って書きません(ごめんなさい、ビッチ先生m(_ _)m)。

それではまた次回お会いしましょう!!


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五時間目 集会の時間

皆さんどうも籠野球です。

前回後書きで言った通り、今回は全校集会になります。

作中にも書いてますが、暗殺から一週間経って、ビッチ先生はその間にE組に来たという状況です。ビッチ先生好きな方は本当に申し訳ございません。m(_ _)m

それでは、どうぞ!!



太陽side

 

 俺達の暗殺失敗から一週間、五月になり暗殺期限も残り十一月となった今日、俺達E組は昼休みを返上し、渚や杉野、茅野と一緒に全校集会の為に本校舎へと向かっていた。

 

「昼休み返上してまで行かなきゃいけないなんて、ホントに大変だよねE組って」

「この学校のルールだからな、仕方ねえよ」

 

登志の言葉に威月はそう返した。ホントE組を見下すのが好きな学校だ。

 

「カルマってサボりないんだろ?大丈夫なのか、渚?」

「カルマ君も成績良いからね、罰くらっても痛くも痒くもないって」

「カルマらしいな・・・」

 

大賀は渚の答えに苦笑いを浮かべていた。カルマも頭良いんだし、もう少しやる気になりゃいいのにな。

 

「そうなると、太陽君や威月君もサボっても問題ないんじゃないの?」

「そうなるだろうが停学明けだしな、不真面目な事ばっかやってらんねえよ」

 

茅野の質問に威月はそう返しながら俺を()()で指差し、、

 

「コイツがそんな事するわけねえさ。E組の皆がやってる事なのにな」

「・・・確かにな、太陽がそんな事するわけねえか」

 

そう言うと、杉野は笑いながら威月に同意した。そんな風に信頼されると嬉しいもんだな。

 

「・・・それはそうと、1つ聞きたいんだが威月?」

「ん?何だ」

「何でお前は、ずっと俺の服を()()で掴んでるんだ?」

 

そう、山を下りる時からずっと威月は俺の制服を右手で掴んでいた。ペットじゃねえんだから離してほしいんだが・・・

 

俺の質問に、威月は呆れた表情を見せながらこう言ってきた。

 

「お前はほっといたらすぐにどっか行っちまうからな。掴んどいた方がいちいち探す手間が省ける」

「何言ってるんだよ、俺がそんな事するわけ・・・」

「初登校の時も野良犬と戯れてたよな」 ギクッ!

「昼休みに動物探しにいって、何回か五時間目遅刻してるよね」 ギクギクッ!!

「そして今もそこら辺の虫や動物見つけては、目ぇ輝かせてるよな?」 ギクギクギクッ!!!

 

大賀や登志、威月の言葉に渚達も合わせた6人全員が呆れた表情で見てきた為、俺は無言で目を逸らした。

 

「分かったらさっさと行くぞ」

「・・・おう」

 

威月の言葉に俺はそう返すのが精一杯だった。

 

 

 

 無事、体育館へとたどり着いた俺達は決められた場所に出席番号順に並んでいた。E組は先に並んどかなきゃいけないルールだからな。

 

(やることねーな、すげー暇だ・・・)

「ねえねえ太陽くん。これ見て?」

「ん?」

 

その声に俺は後ろを振り返ると倉橋と中村がナイフケースを変わった模様にしていた。

 

「ナイフケースデコったんだ~可愛くない?」

「へーこんなん出来るんだ、すげーな2人共」

「そんな大したもんじゃ無いよ。そんなムズくないしね」

 

中村はそう言っているが、俺は素直に凄いと思った。俺こういうのってあんま得意じゃ無いしな。

 

「でも本校舎の奴らには見せねー方がいいと思うぞ?俺らの暗殺は機密事項だしな」

「分かってるって」

(絶対分かってないなアイツ・・・)

 

中村のそんな返しに俺は確信した、まったくアイツは・・・

 

ざわざわ・・・

「お、本校舎の連中入ってきたな。じゃあ俺戻るわ」

「ん、そーだね」

「ありがとう、太陽くん」

 

そう言って俺は自分の場所に戻った。

 

 

 

「・・・油断してると、どうしようもない誰かさん達みたいになっちゃいますよ」

 

そんな校長の話に、全員が爆笑しているのを見て俺はため息をついた。

 

全くこいつら勉強できるかもしれねえけど、心が腐った奴ばっかだな。だからこの中学は嫌いなんだよ・・・

 

「それにいくら勉強できても、人として間違った行動を簡単に取ってその後後悔する事になりますからね。皆さんも気をつけましょう」

「え?そんな奴いたっけ、カルマの事か?」

 

そんな校長の話に俺は、キョロキョロと辺りを見渡した。すると、近くにいた大賀が、

 

「多分、太陽の事言ってんじゃないか」

「はぁ、俺の事か?」

 

いいかげんカチンときた俺は無言で歩き出し、壇上に上がった。

 

「な、何だ君は!?(ギロッ)ヒッ」

 

俺が無言で睨みつけてやっただけで、校長はあっさり下がりやがった。こんなんでビビるくらいなら端から言うなっての。

 

俺は校長には目もくれず、マイクを掴むとこう言い放った。

 

「えーただいまの話に出てきた神木 太陽です。校長は俺が後悔してるとか言いましたけど、別に俺は後悔してません。少なくともテメエらみてえに人を馬鹿にして楽しんでる心が腐った奴よりも、E組の皆の方がよっぽど好きですしね。まあテメエらなんかどーでもいいけど喧嘩売るなら買ってやるぜ、いくらでも。じゃあ一年間よろしくお願いします。あ、マイクここ置いときますね」

 

そこまで言い切ると、俺はマイクを置いてスタスタと自分の場所へと帰った。あーすっきりした。

 

「言い切ったなー、太陽」

「あいつらには一度言ってみたかったしな、E組に落ちて初めて言えたよ」

 

笑いながら大賀は俺にそう言って、俺も笑いながら大賀に返した。

 

「神木君」

「へっ?」

 

その声に俺は振り向くと困った顔の烏間先生がそこにいた。よく見るとビッチ先生も後ろにいるな。

 

「全く君は・・・全校集会であんな無茶をしてどうする?」

「アハハ、すみません。でも後悔はしてませんよ」

「フッ、君はそうだろうな」

 

そう言って、烏間先生は後ろに下がっていった。あ、倉橋と中村がナイフケース見せて慌てて止められてる。だから言ったのに・・・

 

その後ろではビッチ先生が渚に何か話した後いきなり抱きついたと思ったら、烏間先生に腕を極められながら教師達の列に戻っていった。大変だな、烏間先生も・・・

 

 

 

「ん~!!やっと終わった。」

 

 ようやく全校集会が終わって俺は大きく伸びをした。やっとE組に帰れる。

 

あの後も大変だった、E組の分だけプリントが無かったが変装した(変装になってなかったが・・・)殺せんせーがマッハで手書きのプリントを用意したり、ビッチ先生がナイフで刺そうとして烏間先生が再び腕を極めながら退出させていた。烏間先生も苦労が絶えないな・・・

 

「いやーしかし太陽ホントにスカッとしたぜ、お前の宣言!!」

 

そんな事を考えてると、前原がいきなり肩を組みながらそう言ってきた。

 

「おっと、ハハ俺自身一度言ってみたかったしな。元A組の俺が言っても偉そうか?」

「んなことねーよ、サンキューな太陽」

 

前原だけじゃなく、E組の皆も賛同してくれた。うん、やっぱりこのクラスの方があいつらなんかより好きだな。

 

「よし、じゃあ帰ろうぜ皆」

「あ、渚がジュース買いに行ってるぜ。」

「ん、そうか。じゃあ俺が一緒に帰るよ」

 

磯貝と杉野の会話を聞くと、俺は自販機の方へと歩き出した。俺らは自販機なんて使ったことは無いけど、場所くらいは分かる。

 

「お、いたいた。なぎ・・・ん?」

 

渚を見つけたが、渚が本校舎の2人に絡まれている様子だった。ホントに弱い者イジメが好きな奴らだな。

 

とりあえず渚を助けようと声を掛けようとしたが、それよりも先に渚がクスリと笑いながら、

 

「・・・殺そうとした事なんて無いくせに」

 

そう言い放った。本校舎の2人組はそんな渚に臆した様子だった。

 

(今のは・・・殺気?まさか、渚が?)

 

「あ、太陽君。ゴメン、探してくれてた?」

「・・・構わねえよ。行こうぜ」

「うん」

 

そう言って俺の少し前の歩く渚を見つめながら俺は少し笑いながら、

 

(どうやら・・・俺達も含めて、一筋縄じゃいかないな。このE組は)

 

そんな事を重いながら渚と一緒にE組へと向かった。




いかがだったでしょうか。

次回はテストを予定しています。果たして4人はどんな成績を残すでしょうか。

気長に待っていていただけたら幸いです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六時間目 テストの時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は中間テストです。

果たして太陽達4人の成績やいかに!?

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「「「「さて始めましょうか」」」」

 

((((・・・何を?))))

 

 テスト二日前の今日、教科別のハチマキをしながらそう言った大量の殺せんせーに、俺達4人を含めてクラス全員がそう思った。

 

 

 

その後、殺せんせーは迫る中間テストの為にクラス全員にマンツーマンで苦手教科を復習すると言って、分身が1人1人の前に現れた。なるほど、だから1人1人の苦手教科のハチマキか。

 

でも、何で寺坂は「NARUTO」なんだ?・・・あぁ、苦手教科が多いからか。

 

「でも先生、こんなに分身して体力もつの?」

「ご心配無く、1体外で休憩させてますから」

「それむしろ疲れない!?」

 

渚と殺せんせーのやりとりを聞いてたその時、いきなり殺せんせーの顔が歪んだ。

 

「うお!?」

「急に暗殺しないで下さいカルマ君!!それ避けると残像が全部乱れるんです!!」

「意外と繊細なんだな。その分身」

 

しかし渚に聞いた限りじゃちょっと前までは2、3人が分身の限度だったらしいが、凄い成長速度だな。

 

「・・・となっています。ここまでは大丈夫ですか、太陽君?」

「ええ、大丈夫です」

 

まあ何にしろ、テスト前には助かる存在だ。

 

そんな風に、今日1日は過ぎていった。

 

 

 

「さらに頑張って増えてみました。さぁ、授業開始です。」

 

((((増えすぎだろ!!))))

 

 翌日・・・1人に3人が教えられるぐらいに増えた殺せんせーに俺達は心の中でそうツッコんだ。しかも何か分身が雑になってるな、別キャラになってるぞ。

 

「どうしたんだ、殺せんせー?昨日に比べて妙に気合入ってんな」

「渚に聞いたんだけど、昨日理事長に挑発されたみたいだよ」

「なるほど、それでか」

 

大賀のそんな返しに、俺は納得した。あの人の教育では俺達は落ちこぼれじゃないといけないしな。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか、殺せんせー?」

「ゼーゼー・・・だ、大丈夫です。」

 

 一時間目中ずっとそのままで授業を続け、肩で大きく息をしている殺せんせーに、登志がうちわでパタパタと扇ぎながらそう質問していた。

 

「さすがに相当疲れたみたいだな」

「なんでここまで一生懸命先生をすんのかね~」

 

確かに前原と岡島の言う通りだよな。地球破壊する超生物が何でなのかね?

 

「ヌルフフフ。全ては君達のテストの点を上げる為です。そうすれば、皆さんが尊敬の眼差しで先生を見てきて、評判を聞いた近所の巨乳の女子大生が先生に教えてもらいにきたりと先生には良い事づくめ」

(よこしま)な考えが漏れてるぞ・・・。」

 

威月は呆れた様にそう呟いた。少なくとも教師としては失格だな・・・

 

「でも、勉強できなくても百億あればその後の人生バラ色なんだし程々でいいよ」

「そうそう、私達エンドのE組なんだしね」

 

そんな言葉に他の皆も頷いていた。う~ん、間違っちゃいねえけど、そんなんじゃ駄目だと思うんだがな・・・

 

「なるほど、今の君達には・・・暗殺者の資格はありませんねぇ」

 

すると、顔に×印を作りながら殺せんせーはそう言うと、

 

「全員校庭に出なさい、烏間先生とイリーナ先生も呼んで下さい」

 

そう続けながら、教室を出て行った。

 

「何だ、いったい」

「まぁ、なんとなく分かるけどな」

 

大賀にそう返しながら、威月は歩き出した。俺も大体の想像はつくかな。

 

 

 

 校庭に出てきた俺達に、ゴールを動かしていた殺せんせーは振り返りながらビッチ先生にこう切り出した。

 

「イリーナ先生。プロの殺し屋として伺いますが、仕事をする時用意するプランは1つですか?」

「? ・・・いいえ不測の事態に備えて、予備のプランを綿密に作っておくのが暗殺の基本よ」

「では次に烏間先生。ナイフ術を教える時、重要なのは第一撃だけですか?」

「・・・第一撃はもちろん最重要だが、強敵相手では第一撃は高確率で躱される。その後の二撃、三撃をいかに高精度で繰り出すかが重要だ」

 

殺せんせーの質問に2人はそれぞれそう答えた。2人の話に共通してるのは・・・

 

「先生方のおっしゃるように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。しかし君達は自分達には暗殺があるからと勉強の目標を低くしている。それは、劣等感から目を背けているだけです」

 

クルクルと回りながら、殺せんせーは話を続けた。

 

「もし、暗殺という拠り所を失ってしまったら、君達にはE組の劣等感しか残らない。そんな君達に先生からの警告(アドバイス)です」

 

どんどん加速する殺せんせーは、俺達にこう言い放った。

 

「第二の刃を持たざる者は・・・暗殺者を名乗る資格なし!!」

 

やがて竜巻を作り出したその姿を見ながら自分の予想が当たったと分かった。

 

(しかし第二の刃が勉強となると、明日のテストに何か条件出してきそうだな・・・どんな条件出すつもりだ?)

 

そう考えてると、やがて校庭を平らに"手入れ"してみせた殺せんせーは、

 

「もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ校舎ごと平らにして先生は去ります」

「・・・それが明日のテストって言うなら、どうすればいいんだ?」

 

俺の横にいる威月は腕を組みながらそう聞いた。威月もやっぱり俺と同じ考えみたいだな。

 

「明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。」

「!!?」

 

殺せんせーのその言葉に皆は衝撃を受けていた。そりゃそうだろう、いきなりそんな事言われたらな。

 

「随分高い目標だな・・・。この学校って何人いるんだっけ?」

「確か全員で190人だった筈だ」

(かなりキツいな・・・、いけるのか?)

 

威月の言葉に俺はそんな風に考えていると殺せんせーは、

 

「君達の第二の刃は先生が既に育ててます。自信を持ってその刃を振るってきなさい。自分達が暗殺者(アサシン)であり、E組である事に!!」

 

そう発破を掛けてきた。へえ・・・

 

「威月、お前はどう思う。この条件?」

「・・・ホントにいけるのかは分からねえ、ただそんな事あの理事長が黙ってるとは思えねえな」

 

威月の言葉に賛同した。そう、挑発までした人が俺達E組の成績アップを無視するとは思えんな。

 

「ま、何でもいいけどな」

「どういう事だ?」

 

威月の声に俺は、

 

「言われっぱなしは癪に障る。見せてやるさ、集会であそこまで言った俺の刃を。殺せんせーにたっぷりとな」

 

ニヤリと笑いながらそう言った。

 

 

 

大賀side

 

「・・・・・」

 

 中間テストから三日後、俺達は分かりやすく落ち込んでいた。理由は簡単、明らかにテストの内容が変わっていたからだ。

 

どうやら理事長がテスト二日前に出題範囲を大幅に変えたらしい。俺達E組にはその伝達がなかった事により、大幅に点数を落としたのだった。

 

「ハァ・・・」

 

ため息をつきながら俺は自分の点数をもう一度見た。

 

九澄 大賀

 

英語 52点 

国語 59点

数学 60点

理科 48点

社会 47点

総合 266点 (学年139位)(クラス26位)

 

いくら停学明けでも正直、良くはないだろう。俺に比べたらさっき見せてもらった登志の方が頑張っていた。

 

伊勢 登志

 

英語 51点

国語 70点

数学 58点

理科 60点

社会 72点

総合 311点 (学年110位)(クラス18位)

 

「・・・先生の責任です。君達に顔向けできません」

 

殺せんせーのその言葉にドキッとなった。

 

これでは第二の刃とはとても言えない。殺せんせーがE組が去ってしまうかもしれないが、それを止める事は俺達には出来なかった。

 

シュッ!! 「にゅやッ!?」

 

その時突然、背を向けていた殺せんせーにナイフが飛んでいき、殺せんせーは悲鳴を上げながらそれを躱した。

 

思わずナイフが飛んできた方向を見てみると、そこにはカルマと威月、それに太陽が立っていた。

 

「いいの~?顔向けできなかったら、俺らが殺しに来んのも見えないよ」

「カルマ君達!!今先生は落ち込んで「バサッ」・・・?」

 

殺せんせーがそう言いかけた途中で、カルマが答案を投げた。

 

赤羽 業

 

英語 98点

国語 98点

数学 100点

理科 99点

社会 99点

総合 494点 (学年5位) (クラス2位)

 

「俺達問題変わっても関係無いし。」

 

す、すげぇ・・・カルマって頭良いんだな・・・

 

「あんたが俺達に合わせて余計な範囲まで教えたからだよ。だよね、太陽、威月?」

 

そんなカルマの声に2人は、

 

「そーだな。俺らの力舐めてもらっちゃ困るぜ、殺せんせー」

「よく言うよ・・・お前らみたいなペースじゃ、俺はいつかパンクするっての」

 

神木 太陽

 

英語 99点

国語 98点

数学 100点

理科 100点

社会 99点

総合 496点 (学年1位タイ) (クラス1位)

 

水守 威月

 

英語 99点

国語 94点

数学 89点

理科 88点

社会 91点

総合 461点 (学年14位) (クラス3位)

 

そんな点数のテストを見せながらそう言った。さすが太陽と威月・・・

 

「だけど俺はE組(このくみ)出る気無いよ。2人は?」

「当然、行かねーよ。本校舎に居ても百億のチャンスなんてあるわけねーしな」

「同じく。・・・てかよ殺せんせー、50位以内に入れなかったって理由で尻尾巻いて逃げんのか?」

 

3人はそれぞれそう言って、更に威月の言葉の後をカルマが引き継いだ。

 

「それってさぁ、結局怖いだけじゃないの?」 

(チラッ)「!!」

 

その時、太陽が俺を見てきた。なるほど・・・

 

「そっかぁ、殺せんせー怖かったのかー。正直に言えば良かったのにー」

「! なるほどー"怖いから逃げたい"って言う事かー」

「「「そうか、そうかー」」」

 

俺の言葉にクラス皆が追撃した事で、殺せんせーがプルプル震えだした。

 

そこで間髪入れずに威月が、

 

「で、どうする負け犬。負け犬らしく、尻尾巻いて逃げっか?」 プチッ

 

そう笑みを浮かべながら挑発して、殺せんせーからそんな音が聞こえた。

 

「にゅやーーーッ!!逃げません、期末テストでリベンジです!!」

 

怒りながらそう言う殺せんせーに、おもわずクラス全員が大笑いした。

 

中間テストで俺達はおもわぬ壁にぶち当たった。

 

それでもこのクラスで刃を磨く。

 

俺は改めてそう決意した。




いかがだったでしょうか。

次回からいよいよ修学旅行編に入っていきます。
四人がどの班に入るかなどは楽しみにしてくれたら幸いです。

そして注意事項です。
これから4人の扱う技は基本的に他作の技ばかりで、オリジナル要素はほとんど無いと思います。

また、「こんなん中学生には無理だろ・・・」と思うような状況が山ほど出てくるかもしれません(ここまででも、結構出てる気もしますが・・・)。
そういうのが嫌いな方は、ここで読むのをやめた方がいいかもしれません。

それでもよろしいという方はぜひ更新を待っていただけたら嬉しいです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七時間目 修学旅行の時間①

皆さんどうも籠野球です。

前回から遅れてすいません。内容を確認しながら書いていたので遅くなりました。

いよいよ修学旅行です。

果たして太陽達を含めた修学旅行はどうなるのか。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「太陽君達、どこの班に入るか決まった?」

「ん?」

 

 中間テストから数日後、登校していきなり片岡に話しかけられた。班?

 

「班って何のだっけ?」

「来週の修学旅行じゃねえのか」

「そうそう、決まったら私か磯貝君に伝えてね」

 

威月と片岡の言葉でやっと思い出した。そういや数日前に烏間先生も言ってたな、確か・・・

 

「プロのスナイパーに狙撃しやすい場所(ポイント)を選んでそこを観光するんだっけ」

「うん、皆はもう班作ってあるから4人はバラバラになってもらわなきゃいけないけど・・・」

「決めるの遅かったのは俺らなんだから、自業自得だよ」

 

大賀の言葉に俺ら3人も頷いた。皆と行けるなら俺達は充分だしな

 

「じゃあもうここで決めちゃおうよ、その方が僕らも片岡さんも楽だし」

「登志の言う通りだな。片岡、班のメンバーと狙撃場所を教えてくれねーか?」

「いいよ、えっとね・・・」

 

メモを見ながら、片岡は読み上げていった。

 

1班 嵯峨野トロッコ列車の途中の橋の上

メンバー 磯貝、木村、前原、岡野、矢田、片岡、倉橋

 

2班 映画村のチャンバラショー

メンバー 三村、岡島、千葉、菅谷、速水、不破、中村

 

3班 産寧坂の出口

メンバー 寺坂、吉田、村松、竹林、狭間、原

 

4班 京都の街中

メンバー 渚、茅野、カルマ、奥田、神崎、杉野

 

「こんな感じだけど、どうする?」

「3人が構わないなら、僕は2班がいいな。チャンバラに興味がある」

 

登志のその言葉に俺らは頷いた。登志が2班がいいって言うなら別にいいしな。

 

「俺は渚がいるし4班かな、街中とかすげえ楽しそう」

「構わねえよ、威月は?」

「いいぜ、なら太陽は1班に行けよ。そっちの方がいいだろ」

「いいのか?じゃあそうするよ」

「じゃあそれで決めちゃうね。本当にそれで大丈夫?」

 

片岡の言葉に俺らは頷いた。京都か・・・楽しみだな。

 

 

 

「1人1冊です。」

 

 帰りのHR、殺せんせーはそう言いながらクラス全員に分厚い本を渡してきた。なんだこりゃ?

 

「うわっ、重っ・・・」

「何ですか?これ」

「修学旅行のしおりです」

「辞書だろ、これ!?」

(広辞苑並だな・・・)

 

登志の質問に答えた殺せんせーに大賀がツッコんだ。2泊3日なのに何でこんな分厚いしおりなんだ?

 

その答えはしおりを読んでいた威月が教えてくれた。

 

「イラスト解説の全観光スポット、旅の護身術、お土産人気トップ100・・・まだまだあるし、どんだけ楽しみにしてんだよ・・・」

「当然です。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。先生はね、君達と一緒に旅行に行けるのが嬉しいのです」

「フッ」

 

殺せんせーの言葉に、威月は笑みを浮かべただけだった。そう言われたら何も言えんわな。

 

(このE組での修学旅行は、普通の修学旅行よりも楽しそうだ)

 

俺はそう思いながら、来週を待った――――――

 

 

 

「うぃーす、俺らが最後か?」

「おお、太陽。それに3人もおはよう」

「すまんな、待たせて」

「大丈夫だよ。まだ集合時間五分前だしね」

 

 修学旅行当日の朝、集合場所に到着した俺達は磯貝と片岡に挨拶をしていた。どうやら俺らが最後らしい。

 

その時、片岡は登志の腰に差してある物に気づいたみたいだった。

 

「あれ?伊勢君、それって木刀?」

「はい、お守り代わりです」

「でも何かちょっと変わってるね。木刀なのに鞘に入れてるんだ」

 

登志の木刀は少し変わっている。刀身部分は普通の木刀なのに、鍔が付いてて、鞘に入ってるのだ。だから鞘もかなり太く、正直不格好だ。

 

「どっかに遠出する時はコイツを持って行くんです。電車乗る時は烏間先生に持っててもらうつもりですけどね」

「揃ったか、2人とも」

 

そんな話をしていると、ちょうど烏間先生が俺達の近くにやってきた。

 

「はい、全員揃いました」

「そうか、もうすぐ電車が来る。そろそろホームに移動してくれ」

「分かりました」

「あ、烏間先生これを預かってくれませんか?」

「む?・・・木刀か。分かった、京都に着いたら返そう」

 

そう言って烏間先生は登志の木刀を受け取ると、一足先にホームに歩いていった。俺らもさっさと行くか。

 

 

 

「うわ・・・A組からD組まではグリーン車だぜ」

「俺らだけ普通車」

「いつもの感じね」

 

 本校舎の連中が優先されるからなー、この学校は。

 

「別にいいさ。あいつらと一緒に旅行なんて行きたくねーし」

「ま、そうだな。さっさと乗ろうぜ」

 

威月や俺はそう言いながら乗り込んだ。さっさと席決めて少しでも()()()を寝かしてやりてえしな。

 

席に座ってから少し経った後、ビッチ先生が珍しく地味な服装で入ってきたと思ったら、座席でシクシクと凹んでいた。どうしたんだ?

 

「ビッチ先生、派手な格好で来て、烏間先生に怒られたんだよ」

「なるほど・・・」

 

車両に入ってきた渚が理由を教えてくれた。それはビッチ先生が悪いな、引率ならそれらしい服装で来ねえと。

 

その時、渚が窓際の席で寝ている()()に気がついた。

 

「あれ?九澄君、寝てるの?」

「ああ、コイツ今日寝たの2時で朝起きたのは5時なんだよ」

「えぇ!?じゃあ九澄君三時間しか寝てないの!?」

「ああ、大賀の奴1人で「ひまわり」の皆の3日分の着替えや朝ご飯を準備して、俺ら4人の朝ご飯と弁当作って、おまけに「ひまわり」の掃除も朝早くからやってたみたいだからな」

「勿論、俺らも朝は手伝おうと6時には起きたんだが、それよりも先に大賀はもう起きてたんだよ・・・」

「す、凄いね、九澄君」

 

俺や威月の言葉に渚はどん引きしていた。そりゃそうだろう。俺らが逆の立場なら完全に渚と同じ反応するしな。

 

「ま、そういうわけだから、京都に着くまで寝かしてやってくれ」

「う、うん分かった」

 

そう言うと渚は4班の皆の元に歩いていった。

 

それからも大変だった。スイーツ買ってて乗り遅れた殺せんせーが電車に張り付いたり、すぐ落ちる付け鼻を菅谷が新しい付け鼻を作ってあげたりと、既に普通の修学旅行じゃありえない現状に俺は苦笑いした。

 

 

 

渚side

 

「大丈夫か、大賀?」

「おう、もう大丈夫」

 

 京都の旅館で威月君は九澄君にそう話しかけて、九澄君は笑顔で返していた。本人がそう言っているなら大丈夫なのかな。

 

でも、殺せんせーは全然大丈夫じゃなさそうだ。まさか乗り物酔いとは・・・

 

「大丈夫?寝室で休んだら?」 シュッ

スカッ 「いえ・・・ご心配無く。先生、枕を忘れてしまったなので東京に戻らないと」

((((そんだけ荷物あって忘れ物かよ!!))))

 

岡野さんのナイフを躱しながらの言葉に、クラス全員がそう思った。逆に何を入れてきたんだろう・・・

 

「どう神崎さん?日程表見つかった?」

「・・・ううん。確かにバッグにいれてたのに」

 

すると、後ろで茅野と神崎さんが話していた。まだ見つかってないのか、日程表・・・

 

「神崎さんは真面目ですねぇ、わざわざ自分で日程を纏めておくとは感心です。ですがご安心を、先生手作りのしおりを持てば全て安心」

「「「「それ持って歩きたくないからだよ!!」」」」

 

特製しおりを出しながらの言葉にクラス全員がツッコんだ。それ持ってきたの僕と九澄君だけだもんね・・・

 

「ところで、太陽はどこいったんだ?」

「どうせ外で飼われてた犬の所だろ・・・」

「ええ、確かにお1人、太郎の元にいましたよ」

 

威月君が磯貝君の言葉にそう呟くと同時に、女将さんがそう言いながら僕達のいるロビーにやってきた。

 

「太郎はあまり他の人に懐かないんですが、あの子は凄いですね」

「アイツは異常ですから、気にしないでください」

「それで、何かご用ですか?」

「はい、今から30分後に夕食となります。ご飯はおかわり自由となってます」

「「「おかわり自由!?」」」

 

烏間先生と女将さんのやりとりに、誰よりも早くそう言った威月君達3人になぜか僕は嫌な予感がした。

 

 

 

「パクパクパクパク・・・」

「ガツガツガツガツ・・・」

「ムシャムシャムシャムシャ・・・」

「モグモグモグモグ・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

 食堂で休まず食べ続ける4人に、僕達は誰もが無言になっていた。伊勢君は僕と同じくらいの身長なのに、いったいどこに入っていくんだろう。

 

「威月君6杯、太陽君5杯、九澄君4杯、伊勢君3杯・・・。4人っていつもこんなに食べるの?」

「いや、普段はせいぜい2杯だよ。これは俺ら4人のルールだよ」

「ルール?」

「あぁ、「食べれる時は限界まで食べる」ってな」

「アハハ、凄いなあ・・・」

 

そんなやりとりをしていると、テレビからニュースが流れてきた。

 

「続いてのニュースです。昨夜兵庫県で発生した女性殺害事件ですが、遺体には無数の斬られた後が残されていることから、使用された凶器は刃物の様な物であることが判明し、警察では女性連続殺人事件と関係があるとみて調査をしていますが、犯人グループは未だに逮捕されておりません」

「怖いニュースだね・・・」

 

そんなニュースに茅野はそう呟いた。兵庫県は京都の隣だもんね。

 

すると、烏間先生が話し出した。

 

「この事件は警察でも何ヶ月も前から問題になっている事件だ。だが、刃物となっているが、実際は日本刀でな、しかも複数人で犯行をおこなっている上、リーダーの男は平成の"人斬り抜刀斎(ひときりばっとうさい)"とまで言われる腕らしくてな」

「人斬り抜刀斎?」

 

烏間先生のそんな言葉に磯貝君はおもわず聞き返した。その答えを殺せんせーが教えてくれた。

 

「幕末に恐れられた最強の剣士の二つ名です。彼の振るう剣は陸の黒船とまで言われる程の影響力があったらしいですよ」

「そんな凄い人がいたんだ・・・」

「だが、あまりにも人間離れしている事から、後々庶民が作り出した架空の人物だとも言われている」

(でも、もしそんな人が僕らのクラスにいたら、暗殺も成功する確率が増えただろうな・・・)

 

烏間先生の言葉にそう思いながら太陽君達を見ると、

 

「パクパクパクパク・・・」

「ガツガツガツガツ・・・」

「ムシャムシャムシャムシャ・・・」

「モグモグモグモグ・・・」

 

四人とも全く変わった様子は無く、ずっとご飯を食べていた。興味無いのかな?

 

「念の為皆、夜間は出歩かずに、昼間も何人かで行動するように」

 

そんな烏間先生の言葉と共に1日目は終わった。




いかがだったでしょうか。

早速他作の単語です。もはや説明も要らない有名作品なので分かると思いますが、果たしてこれがどう絡んでくるでしょうか。

次回は大賀を含めた4班を書いていこうと思ってます。
何話構成で書くかは未定です。
楽しみに待っていてくれたら幸いです。

それと今作のUAが1000を超えました!!
これが多いのか少ないのかは分かりませんが、読んでくれているという事が作者のモチベーションに繋がります。
これからも地道に頑張っていくので、気長に待っていて下さい!!

それでは、また次回お会いしましょう!!



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八時間目 修学旅行の時間②

皆さんどうも籠野球です。

今回から4班の皆を書いていきます。大賀を加えた4班は果たしてどうなるでしょうか。

それでは、どうぞ!!



大賀side

 

 2日目の自由時間、俺は4班の皆の一緒に予定通り街中を歩いていた。

 

「昨日は皆ゴメンな、移動中俺寝っぱなしで」

「仕方ないよ、1人で全部準備してたんだもんね」

「今日皆で回れるなら大丈夫だよ」

 

俺の謝罪に渚や神崎さんが笑いながらそう言ってくれた。良かった、許してくれて。

 

「でも九澄くんは凄いね。1人で孤児院の皆の家事をしているなんて」

「そんな事無いよ、俺が好きでやってるだけだしね」

「でもそんな事が出来るのも、きっと九澄君が誰よりも優しいからだと思うよ」

「あ、ありがとう」

 

神崎さんに笑顔でそう言われた事で、俺は思わず照れながらそう返した。そんな事言われたのは初めてだしな。

 

(でも、神崎さんって綺麗で勉強も出来るし俺なんかにもちゃんと接してくれる優しい人なのに、何でE組に落ちたんだろう)

 

俺はそう思ったが口に出すのはやめた。誰にでも人に言いたくない話はあるだろうしな。

 

「でもさぁ、修学旅行くらい暗殺の事忘れたかったよなー。」

「確かにな、俺京都って来たこと無かったけどすげぇいい景色だな。暗殺とか縁が無さそうでさ」

 

杉野の呟きにに俺も便乗した。とても暗殺って感じはしねえな。

 

「そうでもないよ2人共、ちょっと寄りたいコースがあったんだ。」

 

そう言って渚は俺をコンビニの近くに連れてった。そこには坂本 龍馬と書かれた石碑の様な物があった。

 

「坂本龍馬・・・ってあの?」

「あ~、1867年龍馬暗殺 「近江屋」の跡地ね」

 

奥田さんの疑問にカルマが答えていた。

 

「歩いてすぐの距離には本能寺もあるよ。当時とはちょっと場所がズレてるけどね」

 

そっか・・・織田信長が死んだ本能寺の変も、ある意味暗殺の一種か・・・

 

「有名な暗殺、無名な暗殺と色々あるけど、ずっと日本の中心だったこの街は、暗殺の聖地でもあるんだ」

「言われてみりゃ、こりゃ確かに立派な暗殺旅行だな」

 

渚と杉野のやりとりを聞きながら、俺は殺せんせーを思い出していた。

 

(確かに地球を壊す殺せんせーは、この世界に重大な影響を与える典型的な暗殺対象(ターゲット)だな)

「・・・さ、そろそろ狙撃ポイント決めに行こうか。祇園の中でいいんだっけ?」

「うん。一見さんお断りの店が多いから、結構人が少ないんだ」

(それなら目立たなくてよさそうだな。よーし、今度こそ・・・「ブルッ」 うっ)

 

神崎さんの言葉に気合を入れ直したその時、俺は急にトイレに行きたくなってしまった。いけね、緊張してんのかな。

 

「ゴメン、皆。俺ちょっとトイレ行ってくるわ」

「え、いいけどこの先、祇園の中にはもう無いんじゃないかな。」

「げ、マジか・・・どうしよう」

 

旅館まで戻るのは面倒くさいしな・・・と考えていたその時、カルマが後ろを指差し、

 

「さっきのコンビニで借りてきたら?まだそんな離れてないっしょ」

「あ、そうだな。じゃあ皆先行ってていーよ、走って追いつくから」

「でも、道ちゃんと分かるかな?」

「平気平気、じゃ」

 

そう言って俺は1人コンビニへと向かった。

 

 

 

 無事トイレをすませた俺は、祇園に向かう道を走っていた。

 

「えーと、確かここを右だな」

 

そう独り言で確認しながら、右に曲がった。

 

ブオォォォ!! 「うわっ!!」

 

すると、道の真ん中から猛スピードで走って行く1台の車とすれ違った。

 

「危ないなぁ、何急いでんだ?」

 

そう言いながら俺は目的地の祇園へと入る道を曲がりながら声をかけようとした。

 

「ゴメン皆、お待た・・・え?」

 

しかし俺の言葉は途中で止まった。何故ならそこには渚にカルマ、そして杉野が倒れていたからだ。

 

「み、皆!!どうした!?しっかりしろ!!」

 

慌てて3人の傍に駆け寄ってみると、どうやら殴られて気絶してるみたいだった。

 

「く、九澄君!!」

「!! 奥田さん、何があったの!?」

「それが高校生に殴られて、神崎さんと茅野さんがそのまま車で・・・私は思わず隠れちゃって、ごめんなさい・・・」

「いや、無事で良かったよ、2人はどっちに行ったか分かる?」

「は、はい。九澄君が来た方向に逃げていきました!!」

(さっきの車か!!クソッ!!)

 

渚達をこんな目に遭わせて、尚且つ神崎さんと茅野さんを攫ってくなんて許せねえ!!

 

「奥田さん、とりあえず渚達が目を覚ましたら、殺せんせーに電話してくれ」

「え、九澄君は?」

「俺は2人を追う。大丈夫、俺強いから。とにかく頼んだよ!!」

「ま、待ってください、九澄君!!」

 

奥田さんの制止も聞かずに俺は走り出した―――――

 

 

 

有希子side

 

 攫われてからどれぐらい経ったかは分からない。

 

私と茅野さんは両手を後ろで縛られた状態で座っていた。

 

ここはどうやら閉鎖されたダーツやビリヤードのお店みたいだった。

 

「・・・そういえばちょっと意外。さっきの写真、真面目な神崎さんにもああいう時期あったんだね」

 

すると、隣にいる茅野さんがそう話かけてきた。

 

「うん・・・うちは父親が厳しくてね、良い肩書きばかり求めてくるの。そんな生活から離れたくて、知ってる人がいない場所で格好も変えて遊んでたの」

 

私はそう言って自虐気味に笑いながら続けた。

 

「・・・馬鹿だよね。その結果得た肩書きは「エンドのE組」。自分の居場所がもう分からないよ」

 

そう話していると、私達を攫った男達のリーダーの様な男が話しかけてきた。

 

「俺らと同類(ナカマ)になればいーんだよ。俺らもさ、肩書きがどーでも良いって主義でさ。エリートぶってる奴らを台無しにしてよ、なんてーか自然体に戻してやる?みたいな。」

 

そこまで話してニヤリと笑いながら、

 

「俺らそういう教育(あそび)山ほどしてるからさ。台無しの伝道師って呼んでくれよ」

ボソッ 「・・・さいってー」

 

男がそこまで言った後、茅野さんがそう呟いた。すると、男は茅野さんの首を掴みながら怒鳴ってきた。

 

「何エリート気取りで見下してんだ、あァ!?お前もすぐに同じレベルまで堕としてやんよ!!」

 

そう言うと茅野さんを離した後、男は私達に下品な笑みを浮かべながらこう言ってきた。

 

「いいか、今から夜まで相手してもらうがな、宿舎に戻ったら涼しい顔で「楽しくカラオケしてただけです」って言え。そうすればだ~れも傷つかねえ。東京に帰ったらまた皆で遊ぼうぜ、楽しい旅行の記念写真でも見ながら・・・なァ」

 

男のそんな言葉に私はおもわず身を震わせた。そんな目に遭ったらこの先どんな人生が待っているか簡単に想像がつくからだ。

 

(誰か・・・助けて・・・)

 

私がギュッと目を閉じながら、そう考えた。その時だった―――――

 

 

 

ガシャアァァァン!! 「ゴフッ・・・」

 

そんな音を立てて入り口の木製のドアを破壊しながら、男達の仲間が吹っ飛んできた。

 

「!?」

「な!?だ、誰だ!?」

 

私達は突然の出来事に驚いたが、すぐにリーダーの男がドアのあった方を見ながら、そう怒鳴っていた。

 

「フー・・・どうやら木が腐ってたみたいだな。開ける手間が省けて助かった」

 

すると、何事も無かったかの様にそんな事を言いながら、1人の中学生が入ってきた。

 

私達と同じ学校の制服を身に着けたその人の名前を、私はおもわず叫んでいた。

 

「九澄くん!?」




いかがだったでしょうか。

次回は大賀の戦闘シーンです。果たして大賀の使用する技は何か楽しみにしてくれたら幸いです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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九時間目 修学旅行の時間③

皆さんどうも籠野球です。

今回は大賀の戦闘シーンです。

でも、戦闘シーンが少ないと思うかもしれません(本格的にはまた今度書くとは思うのでご容赦ください)
m(_ _)m

それでは、どうぞ!!




神崎side

 

「よかった・・・2人とも怪我はない?」

「う、うん大丈夫」

 

 いきなり現れた九澄君に少しだけ驚きつつも私はそう答えると、九澄君は安心した様子で笑った。

 

「・・・何で此所が分かった?てか、何モンだ」

「九澄 大賀、この2人のクラスメイトだ。俺、足にはちょっと自信あってな、しおりに載ってた怪しい場所を探しまくったんだよ」

 

リーダーの男の問いに、九澄君は真面目な顔つきになりながら答えた。

 

「俺のクラスメイトをこんな目に遭わせておいて、無事ですむと思うなよ?アンタら」

「へっ、テメエも世間知らずのエリートかよ。どうだ?お前もこの2人相手に色々教育(あそ)んでみねえか。3人一緒にエリートの肩書きなんか捨てちまって、俺らと同類(なかま)になれよ」

「・・・」

 

そんな男の言葉に九澄君は何も言わなかった。迷っていると判断した男は調子に乗って更に言葉を重ねた。

 

「そうすりゃ、そいつを殴った事はカンベンしてやるよ。一緒に台無しの伝道師になっちまお「黙れ・・・」・・・あァ?」

 

しかし、男の言葉は九澄君のそんな言葉に遮られた。

 

「お前は俺らをエリートだと思ってるみてえだが、俺達は学校の中じゃ落ちこぼれって言われている存在だよ。おまけに俺は学校でも暴力事件起こしてる上に成績も良くないからな、俺は何て言われても構わねえよ」

 

「でも、」と言いながら九澄君は彼等を睨みつけ、こう叫んでいた。

 

「この2人はどんなに差別されようが馬鹿にされようが、テメエらみてえに他人を巻き込んだりはしねえ。心まで堕ちきったテメエらなんかと一緒にしてんじゃねえよ!!」

「九澄くん・・・」

 

私は思わず彼の名前の呟いた。そんな事を言ってくれるのは九澄君が初めてだったからだ。

 

「・・・黙って聞いてりゃいい気になりやがって。たった1人で俺らに挑む気か?ふざけやがって」

 

男は額に青筋を浮かべながら、周りの仲間に命令した。

 

「ちょっとばかし痛めつけてやれ。全員で構わねぇ」

「おいおい、こんな中坊1人に10人でか?弱い者イジメになっちまうよ」

 

その言葉に周りの人達は大笑いした。確かにいくら何でも1人で10人も相手出来るはずがない!!

 

「ま、俺1人でボコってやるからよ。安心しろよ、中坊」

 

しかし私が逃げてと叫ぶ前に1人が指を鳴らしながら九澄君の前に出ていき、

 

「おらぁ!!」 ブンッ!!

「九澄くん!!」

 

九澄君に向かって拳を突き出し、私は思わず叫んでいた。

 

「・・・」 スッ

 

しかし九澄君は無言で左に避けると、

 

首肉(コリエ)―――

ドカッ!! 「ガッ!?」

 

そう言いながら、左足で男にハイキックを放っていた。カウンター気味に繰り出された蹴りを喰らって男はそんな声を上げた。

 

―――シュート!!」 ブオン!! ガシャアァァァン!!

「な!?」

 

九澄君はその勢いのまま、そう叫びながら足を振り抜き、男は近くに置かれたビリヤード台に突っ込んでいった。

 

衝撃的な目の前の光景に、男達は思わずそんな声を出しながら固まり、私と茅野ちゃんも動けずにいた。

 

そんな中、九澄君は足を下ろしながら男達に言い放った。

 

「別に良いよ、弱い者イジメしてくれて。ただし、返り討ちに遭っても知らねえけどな」

「て、テメエ。調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

 

その挑発じみた言葉にリーダー以外の男達がそう叫びながら、突っ込んでいった。

 

「・・・10人くらいか、なら」

 

そんな彼等を見渡しながら呟くと、九澄君は床に手をつきながら叫んでいた。

 

「パーティーテーブルキックコース!!」

 

 

 

渚side

 

「皆!!多分ここだよ!!」

 

 気絶から回復した僕達は閉鎖されたビリヤード場の前に到着していた。

 

「しかしこのしおり隊員が拉致られた場合とか、すげえ想定してあるよな・・・」

「京都で買ったお土産が東京で売られてた時のショックからの立ち直り方とか、鴨川の縁でイチャつくカップルを見た時の自分の慰め方とか余計なモンも多いけどね~」

 

僕の手に握られたしおりを見ながら杉野とカルマ君はそれぞれそう言った。ま、まあ今回はそんな余計なお世話しおりのお陰で2人を助けに来れた訳だし・・・

 

「奥田さんの話じゃ九澄が1人で来てるんだよね」

「は、はい。止めようとはしたんですが・・・」

(九澄君はしおりを持って来てたし、間違いなくここに来ている筈!!)

 

そう考えていたその時、杉野が建物の入り口の近くに落ちているある物に気づいて声を上げた。

 

「! あれ、しおりじゃないか?」

「ホントだ!やっぱり九澄君ここにいるんだ!!」

「あそこから入れるみたいだよ」

 

カルマがそう言って木屑が大量に落ちている場所を指差した。多分ドアがあったんだろう。

 

「行こう、皆!!茅野や神崎さん、九澄君を助けないと!!」

 

そう言って僕達はそこから中に入るとそこには、

 

「えっ・・・」

 

驚いた顔の茅野や神崎さん、呆然と立っているさっき僕達を襲ったリーダーの男。

 

 

 

・・・そして、10人が倒れているその真ん中に佇む九澄君の姿が見えた。

 

目の前の光景に言葉を失っていたその時、僕達に気づいた茅野が声を上げた。

 

「! 渚、皆!!」

「茅野、神崎さん!!」

(2人とも無事みたいだ、よかった・・・)

 

茅野の声で僕達に気がついたのか、九澄君は僕達に笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

「大丈夫か、皆?」

「お、おう。こ、これ、お前がやったのか?」

「まあな」

 

そんな杉野と九澄君のやりとりを聞きながら、カルマが男に話しかけた。

 

「どーやら九澄が全員片付けちゃったみたいだね。しょーじきやり返したかったけど、まだやる?お兄さん」

「・・・イキがんなよ中坊どもが」 バチンッ!!

 

!! ナイフを出した!?

 

「・・・アンタ、そんな物持ち出すなら俺も手加減出来ないかもしれねえよ?」

「うるせェ!!テメエだって落ちこぼれなんだろうが!?同類の分際で偉そうにしてんじゃねーよ!!」

「それは違います」

 

九澄君の言葉に男が怒鳴り返したその時、後ろからそんな声が聞こえてきた。

 

振り返ると、そこには顔を隠した殺せんせーが立っていた。

 

「殺せんせー!!」

「遅くなってすみません。他の場所からしらみ潰しに探していたのですが、どうやらもう殆ど終わったみたいですね」

「・・・てか、何で顔隠してるの?」

「いえ、暴力沙汰になるのを想定してましたので暴力教師と覚えられるのはちょっと・・・」

(世間体、気にするんだ・・・)

 

そう思っていると、殺せんせーは男へと向き直り、

 

「確かに九澄君を含めてここにいる皆さんは落ちこぼれ呼ばわりされています。ですが、彼等はそこで()()()()に実に前向きに取り組んでいます。肩書きなど関係ない、清流に棲もうがドブ川に棲もうが、前に泳げば魚は美しく育つのです」

「・・・さて、まだアンタに3人が殴られた分と神崎さんと茅野さんを攫った分の借りを返してないし、ケリをつけようか」

「舐めてんじゃねえぞ、テメエ!!」

 

そんな言葉に男はナイフを九澄君に向けて右上からナイフを振り下ろした。思わず僕は息をのんだが、九澄君は左に避けると、

 

首肉(コリエ)!!」 ドカン!!

「グアッ!!」

 

そう叫びながら、蹴りを繰り出した。男はそう言いながら倒れ込みかけたが、九澄君は止まらなかった!!

 

肩肉(エポール)!!」 ガコン!!

背肉(コートレット)!!鞍下肉(セル)!!」 ドッ!!ドカッ!!

胸肉(ポワトリーヌ)!!」 ドスッ!!

もも肉(ジゴー)!!」 ズバンッ!!

 

目にも止まらぬ鮮やかな蹴り技を連続で浴びせていた。その怒濤の連続攻撃に男は何も出来ずに膝をついた男に、

 

「吹っ飛べ、羊肉(ムートン)ショット!!」 ドカカカン!!

 

そう叫びながら放った九澄君のトドメの後ろ蹴りを喰らい、男は吹っ飛んでいった。地面を何度か転がってからようやく止まった男は完全に気絶している様だった。

 

「あ・・・やべっ、やり過ぎた!!大丈夫か!?」

 

少しの間の後、九澄君が思い出したようにそう言いながら慌てて男の元へと駆け寄っていった。そんな九澄君の後ろ姿を見ながら杉野は呟いた。

 

「すげえな・・・九澄って」

「うん・・・色んな意味で」

 

あれだけ強いにも関わらず、自分で吹っ飛ばした男に焦った表情をしながら駆け寄る九澄君に、僕は思わず苦笑いをしながらそう返した。

 

 

 

大賀side

 

「・・・ふぅ、やっと解けた。大丈夫、2人とも?」

「うん、大丈夫!」

「本当にありがとう、九澄くん」

 

 その後、男の安否を確かめた後(何とか打撲程度に威力を抑えれた様だった・・・)、神崎さんと茅野さんの両腕を縛っていた紐を解き終わった俺がそう言うと、2人は笑いながらそう言ってくれた。

 

「でもゴメンな・・・俺がその場にいればこんな目に遭わせなかったのに」

「そんな、九澄君のせいな訳ないよ!」

「うん、ちゃんと助けに来てくれたしね」

「そう言ってくれてよかったよ、とりあえず皆はもう外に出たし俺らも行こうぜ」

 

そう言いなが入り口に向かおうとした俺の目に、床に落ちている携帯電話が止まった。

 

「あれ、携帯電話が落ちてるぜ。二人の?」

「え?あっ、それ九澄君が最後に吹っ飛ばした人のだよ。さっき見たもん」

(衝撃で落としちまったんだな)

 

そう思いながら、何気なく俺は携帯を開いた。すると、

 

「えっ?この人・・・」

「あっ・・・」

 

髪の毛が鮮やかな茶髪で、凄い派手な服装やアクセサリーを身に着けた女の子が写っていた。背景はどう見てもゲームセンターだし、かなり遊んでいる印象を受けた。

 

(でも、この女の子の顔、もしかして・・・)

 

俺は自分の疑問を解決する為にも、俺は神崎さんに聞いた。

 

「この女の子、ひょっとして神崎さん?」

「う、うん・・・私の家は父親が厳しくてね。それで何もかも嫌になって、肩書きも捨てたくて格好を変えて遊んでたんだ」

「もしかして・・・それが原因でE組に?」

「うん・・・幻滅しちゃった?」

「・・・・・」 バキィ!!

 

不安そうにそう聞いてくる神崎さんの目の前で、俺は無言で携帯を床に叩きつけた。

 

「九澄くん?」

「・・・さっき俺は神崎さんの前であいつらをボコボコにしたけど、神崎さんは俺に幻滅してる?」

「えっ?ううん、だって私達を助ける為にやったんだもん。幻滅なんてする筈ないよ」

 

・・・そうだよな、神崎さんはこういう人だよな。

 

「俺の知ってる神崎さんは勉強も出来ておしとやかで、俺なんかを優しいと思ってくれてる優しい人だよ。他の神崎さんなんて知らないな」

「九澄くん・・・」

「それに肩書きで物を言うなら、俺なんか孤児院育ちで暴力事件まで起こしてるしな」

 

笑いながらそう言って出口に向かおうとした俺の背中に、神崎さんの声が聞こえてきた。

 

「・・・ありがとう、九澄くん」




いかがだったでしょうか。

というわけで、大賀の使用する技は「ONE PIECE」の"サンジ"の足技です。
選んだ理由は子供の頃からアニメで見たサンジの足技がかっこいいと思っていたからです。
単純ですいませんm(_ _)m

次回からは太陽を含む1班を書いていきます。
完全オリジナルな為、かなりグダグダになるかもしれませんが、読んでいただけたら幸いです。

それと、年内の投稿はこれが最後になると思います。掃除や里帰りなどでパソコンが触れそうにありません。
こんな小説を読んでくれる方には本当に申し訳ありませんが、年明けの更新をお待ちください。
m(_ _)m

それでは、また次回お会いしましょう!!
それと、皆さんよいお年を!!


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十時間目 修学旅行の時間④

皆さんどうも籠野球です。

明けましておめでとうございます!!m(_ _)m

遅れて申し訳ありません。ようやく自宅に帰ってきたので、投稿を再開していきたいと思います。

まあ、新年になっても作品のクオリティは相変わらずですが(笑)

今回から1班を書いていきます。こちらはかなり無理矢理な展開になっているかもしれません。
ご了承ください。
m(_ _)m

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「そういえば皆に確認してなかったけど、俺ら4人が勝手に入る班決めちゃったけど、俺でよかったか?」

 

 俺達1班は予定通りトロッコ列車に乗る為に皆で歩いている途中、俺はそう皆に質問していた。片岡が説明したとは言ってたけど。

 

「勿論いいに決まってるだろ。何心配してんだよ」

「そうだよ、太陽君。皆にちゃんと説明したら歓迎するって言ってくれたよ」

 

磯貝と片岡のそんな言葉に、班の皆が頷いてくれた。ホントにいい奴らだな、E組の皆は。

 

「でも、太郎君連れてきて本当に良かったのかな?」

 

倉橋は、そう言いながら俺の下にいる太郎を見た。太郎の首から伸びたリードは俺の手に握られている。

 

「大丈夫だろ、女将さんから俺に言ってきたんだしな」

 

太郎を連れてきたのは、俺が朝ご飯に前日同様おかわり祭りをしていた時に女将さんに話しかけられて、太郎が俺に懐いているのを見込んで散歩に連れて行って欲しいと頼まれたからだ。

 

「最近長い時間散歩に連れて行けてなかったからって言ってたし、太郎も楽しそうだしな」 

「ワンッ!!」

 

昨日から感じてたけど、どうもコイツはかなり頭が良い。今も俺らの言葉を理解しているのか、嬉しそうに尻尾を振りながら鳴いた。

 

そんな事をしていると、俺達は山道への入り口へとたどり着いた。この山道を十五分程登った先に列車乗り場はあるらしい。

 

「この山登んなきゃいけねえのか・・・結構大変だな」

「俺らは殆ど毎日山登りしてんだろ。慣れたもんじゃねえか」

「そう言われりゃ確かに」

 

俺の返しに前原は苦笑していた。山登りのエキスパートと言っても過言じゃねえしな、E組の皆は。

 

(まあ、のんびり登りゃあいいだろ。発車まで30分はある「グイッ」・・・へ?)

 

そう考えていた俺の手に突然何かに引っ張られる様な感覚が走った。見るとそこには、すぐにでも走り出しそうな様子の太郎がいた。

 

「えっ・・・まさか太郎、走るのか?」 

「ワンッ!!ハッハッハッ・・・」

 

俺の言った言葉に、太郎は元気よく返事をしてきた。マジかよ・・・

 

しかし、太郎が走りたいと言った以上仕方ない。俺は磯貝にため息をつきながら告げた。

 

「ハァ・・・磯貝、俺は太郎を連れて先に行く。皆はゆっくり歩いてきてくれ」

「お、おう。大丈夫か?」

「まあ、死にはしないだろう「グイッ!!」うわっ!!」

 

そう磯貝に返す途中で太郎がさっきより強い力で、俺を引っ張って走り出した。てか、速っ!!

 

「太郎ぅぅぅ!!分かったからもうちょっとゆっくりぃぃぃ!!」

「大変だな・・・太陽も」

「うん、大丈夫かな?」

 

猛ダッシュで登り始めた俺に、木村と岡野のそんなやりとりがかろうじて聞こえた―――――

 

 

 

「ぜー、ぜー、ぜー・・・」

「だ、大丈夫、太陽くん?」

 

 歩いて十五分かかる山道を十分間、ほぼ全力疾走した俺は倉橋のそんな声に、ベンチに座りながら手を挙げて返すぐらいしか出来なかった。ちなみに太郎は駅の近くにあるリードを結んだポールの下で眠っていた。まあ、太郎は列車に乗れねえだろうからいいんだろう。

 

(帰りは何としてもゆっくり下山しよう・・・)

「はい、太陽くん。」

「えっ?」

 

そう考えていたその時、倉橋がそう言いながらハンカチとスポーツドリンクのペットボトルを渡してきた。

 

ハンカチ(これ)はもう1個あるから大丈夫だよ。これは良かったら飲んで、お金はいいよ」

「おう、サンキュー。でもいいのか?」

「うん、全然いーよ」

 

笑顔でそう言ってくれた倉橋に感謝してペットボトルを一気飲みした。

 

「ぷはぁ。助かったよ、倉橋」

「そんな、私の方が太陽くんに助けられてるもん。これくらいは当然だよ」

「前に言ったろ。俺は倉橋がそうやって笑顔でいてくれれば、俺は充分だよ。それに、俺は倉橋の笑ってる顔が好きだしな」

「そ、そうかな。えへへ///」

 

そんな風に倉橋が照れたように笑ったちょうどその時、

 

「ヌルフフフ。何やら甘酸っぱい空気を感じますねえ。」

 

そう言いながらピンク色の顔になって、ニヤニヤしている殺せんせーが現れた。その言葉と表情にさっきまでの疲れが殺意に変わった。

 

「殺せんせー、アンタに俺は今までで一番殺意が沸いたよ・・・」

「にゅやッ!?さっきまでの空気が一気に殺意に!?」

「た、太陽くん落ち着いて!!」

 

この場でナイフを出しそうになったが、倉橋の声で何とか堪えた。危なかった・・・

 

その時、駅の中で待ってた磯貝が出てきて・・・

 

「太陽、倉橋。列車が来るまでもう少しだから、駅の中に入ろうぜ。先生、行きましょう」

「にゅや。そうですね」

「うん、分かったよ」

「へーい・・・ん?」

 

そう返事をして立ち上がったその瞬間、何かの気配を感じた気がした俺は後ろを振り返った。

 

(? 誰もいない・・・気のせいか?)

「太陽くん、どうしたの?」

「いや、何でもない」

 

倉橋に声をかけられて、俺は思考を打ち切って皆の方へと向かった。

 

 

 

五時間後・・・

 

「しっかし、殺せんせーはホントに化けもんだな」

「まさか弾丸を八つ橋で止めるなんてね・・・。さすがに想定外だったね」

「ま、いいじゃねえか、こうしてお土産買いに行く時間もたっぷり取れたしな」

 

 そんな風に話ながら前を歩く班の皆を眺めがら、俺は自分の考えに確信をしていた。

 

(間違いねえ・・・誰かが俺らを付けてきてる)

 

そう、トロッコ列車の駅からずっと気配を感じていたのだ。列車の中、山道を下山する時、昼食時、そして土産物屋に入った時も。

 

そして今も俺達の50メートル程後ろから、誰かが俺らのことをずっと尾行しているのだ。だが、けして俺らに手を出してこねぇ・・・どういうことだ?

 

そう不審に思っていると、俺のすぐ前で倉橋と歩きながら、携帯で電話していた矢田が声を上げた。

 

「2班の皆が後10分くらいでこの先の道を通るらしいよ。一緒に旅館に帰ろう」

(2班って事は登志がいるな。2人でなら何とかなるか。)

 

そう考え、しかし皆に注意を促そうと口を開きかけた。

 

「皆。実は・・・「? 誰だあの人?」

 

しかし俺の言葉は前原のそんな言葉に遮られた。その言葉に俺も思わず前を向いた。

 

そこには、武士の様な服装に黒い布で顔を隠した男が立っていた。どう見ても普通の格好では無い男は俺達が通る道を塞ぐように立っていた。

 

「あの・・・すみません、何かご用ですか?」

スッ・・・ 「!!」

 

俺は見逃さなかった。その男が背中に刀を背負っている事を。そして、磯貝が声をかけるのと同時に背中に手を回したのを。

 

「磯貝下がれぇ!!」

「フッ!!」 ビュオッ!!

 

反射的に走り出した俺の声のすぐ後に、男は刀を抜いて磯貝に袈裟切りの要領で刀を振った。

 

グイッ!! 「うわっ!?」

「おらぁ!!」 ブンッ!!

 

俺は咄嗟に磯貝の背中を掴んで後ろに引っ張ることで何とか防ぎ、その勢いを利用して男に蹴りを放った。

 

スカッ タッタッタッ 「! チッ、待て!!」

「太陽!?」

「皆はそこにいろ!!」

 

しかし俺の蹴りは後ろに跳ばれて躱された。男はそのまま後ろに逃げ始めた為、俺は舌打ちしながらそいつを追いかけた。

 

(いきなり襲ってきたくせに逃げるなんて、何だコイツ・・・!!) ザッ!!」

 

するとそいつは2、30メートル走った先の袋小路へと逃げ込んだ。俺も追いかけてそこに入るとそいつはこちらを向いて立っていた。

 

逃げ道が無いのに妙に落ち着いてる態度の男に俺は不審に思いながらも声をかけた。

 

「お前・・・何のつもりだ?」

「・・・1日尾行していた甲斐があったな。お前だけはかなり強そうだと言っていた、情報通りの動きだ」

(! やはりそいつの仲間か!でも、それが分かっててなぜ俺を誘い出した?)

 

そう俺が考えたその瞬間だった。

 

「キャー!!」

「!?」

 

1班の皆の方からそんな悲鳴が聞こえた。俺を孤立させたのか、クソッ!!

 

「そっちへ戻るなら、俺は逃げさせてもらう。手遅れにならないといいがな」 タンッ

「なっ、く・・・クソ!!」

 

そう言い残して男が塀を乗り越えて逃げていくのを追いかけたいのを堪え、俺は急いで皆の元へと戻った。すると、前方遙か遠くに刀を持った奴らが走り去って行くのが見えた。

 

倉橋と矢田を除いた全員が尻餅をついているのを見て、俺はとりあえず磯貝に話しかけた。

 

「皆!!大丈夫か!?」

「俺らは無事だ!でも、倉橋と矢田が攫われた!!助けようにもそいつら刀持ってて・・・アイツは!?」

「いや、逃げられた・・・クソッ!!俺がいながら!!」

「あの人達、多分昨日のニュースの人達だよね。どうしよう、このままじゃ2人が!!」

 

ドクンッ・・・

 

片岡のそんな声に、俺は自分の心臓が脈打つのを感じた。

 

(このままじゃ2人が?・・・2人が・・・死ぬ・・・・?)

 

そう思いながら俺は倉橋の顔を思い出していた。俺に笑いかけてくれた倉橋が死ぬ?

 

(・・・冗談じゃねぇ!!何の為に強くなった?()()()()()()()()()()()()()()()()()!!守れないのだけは、もうゴメンだ!!) 

「ワンッ!!」

「! 太郎・・・そうだ!!」

 

そう考えていると、足元で太郎が吠えた。そして、俺はある考えが思いついた。これは賭けだが、上手くいけば2人の元にたどり着ける!!

 

「太郎、お前に―――

 

 

 

陽菜乃side

 

 私と桃花ちゃんは朝登った山の登山ルートを外れた山の真ん中辺りに座りこんでいた。私達は縛られてもいないし、怪我をしている訳でも無い。それでも私達は逃げることは出来なかった。なぜなら、私達の周りには十人近くの刀を持った男が立っているからだ。

 

ギュッ・・・

 

思わず抱き合いながら泣く私達を前に男達は話し出した。

 

「随分と上玉じゃないか。将来が楽しみの2人だな、さすがに殺すのが惜しいな」

「じゃあ止めますか、頭ぁ?ま、顔見られてる以上それは出来ないですけどね」

 

そんなやりとりに私はこの人達が昨日のニュースの犯人の人達なんだと確信した。

 

(怖い・・・私、殺されちゃうの・・・?)

 

「そうだな。悪いな、嬢ちゃん達。恨むなら、偶然俺達が逃げ込んだこの山に朝登ってきた自分達の運の無さを恨んでくれ。

「何、せめて苦しまないように一太刀で殺してやるさ。人を斬るその感触が俺達は大好きになっちまってさぁ。今まで何人も殺しちまったんだ」

 

笑いながらそう言った男に桃花ちゃんは涙を流しながらこう呟いた。

 

「い、嫌・・・誰か、助けて・・・」

 

そんな掠れた声に頭と呼ばれた男は、

 

「ここら辺には人は来ない、呼んでも無駄さ。やれ!!」

 

そう命じられて笑っていた男は刀を引き抜き私を見ながら、

 

「まずは、お前だ!!」

 

そう言いながら刀を振り下ろしてきた。

 

私は思わず目を閉じながら1人の名前を叫んだ。その名前はお父さんでもお母さんでも、殺せんせーでも烏間先生でも無く、私の笑った顔が好きだと言ってくれた男の子だった。

 

「助けて、太陽君―――――!!」

 

 

 

ザクッ!! 「銃弾(ブレット)!!」

ドンッ!! 「ガハアッ!?」

 

そんな私の耳にそんな音と声が聞こえてきた。急に聞こえたそんな音に思わず私は身をすくませた。しかし、

 

「待たせたな。倉橋、矢田」

「ワンワンッ!!」

 

そんな声と鳴き声が聞こえてきた。聞き慣れたその声に思わず目を開けると、そこには男が倒れていて私達の前には左手の手のひらで血を流しながら刀を受け止めている太陽君の背中と、その足元で吠える太郎君の姿があった。

 

「太陽くん!!」

「遅くなって悪いな、2人とも。立てるか?」

 

その言葉に、私と桃花ちゃんは頷いて立ち上がった後、私は太陽君に話しかけた。

 

「でも太陽くん、どうやってここに・・・?」

 

すると、太陽くんはポケットからある物を取り出した。

 

「コイツのニオイを太郎に辿ってもらったのさ」

「これ、私のハンカチ・・・?」

「正直賭けだったけどな。ありがとな、太郎」 

「ワン!!」

 

太陽君はそう言いながら、太郎の頭を撫でた。

 

そんな光景に思わず安心していると、太陽君は顔つきを変えながら男達に話しかけた。

 

「もし見逃してくれるなら、あなた達の事は誰にも言わない。頼む、見逃してくれないか?」

 

その言葉で私は我に返った。そうだ、まだ犯人達は私達の前にいるんだ・・・

 

「・・・殺せ。2人まとめてだ」

 

しかし、男から帰ってきたのはそんな言葉だった。太陽君はその声にギリッと歯を鳴らし・・・

 

「2人ともダッシュで山を下りろ、俺が足止めする」

「太陽くん!?そんな・・・」

 

私は言葉を失った。それは、私達を助けに来てくれた太陽君を置いて逃げるということだからだ。

 

「いいから行け。2人を守りながら戦うのは無理だ。だから、2人は早く「その必要は無いよ、太陽」!!」

 

続けざまにそう言おうとした太陽君の声をそんな声が遮って、太陽君や私達は思わず声がした後ろを振り返った。

 

そんな私達の目に入ったのは、腰に木刀を差した鮮やかな黄色の髪の毛の男の子が歩いてくる姿だった。

 

そんな彼の名前を驚いた様子で太陽君は呼んだ。

 

「登志・・・!?」




いかがだったでしょうか。

太陽戦闘シーンとみせかけて、登志の戦闘シーンです。登志の戦闘スタイルは果たして何でしょうか?

それと、作中に出てくる銃弾は太陽の技ですが、別に太陽は某主人公の様に体が伸びる訳ではありません。ただ太陽の使う技はその主人公の技に近いので、基本的に名前はそのまま利用させてもらうと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十一時間目 修学旅行の時間⑤

皆さんどうも籠野球です。

今回は登志が無双します。4人の中でも一番温厚な登志が使う技はいったい何でしょうか。

それでは、どうぞ!!


陽菜乃side

 

 突然現れた伊勢君に全員が驚いたが、一足先に立ち直った太陽君が伊勢君に話しかけた。

 

「登志、どうやってここに?」

「この人に聞いたんだ」

 

そう言いながら伊勢君が見せてきた携帯には、武士の格好で顔を隠した人が縛られているのが写っていた。

 

「悲鳴が聞こえたと思ったらこの人が僕達の前に逃げてきてね。いきなり刀を抜いてきたから、つい反撃をね・・・。その後この人が太陽達を襲ったって知って場所を聞き出したんだ。あ、携帯(コレ)は三村君に貸してもらったんだ」

 

そう言いながら伊勢君は男達の方へと向き直った。

 

「もうすぐ烏間先生や警察の人達が来る筈です。あなた達も年貢の納め時ですよ」

 

その言葉に男達は動揺した様子だったが、リーダーの男は余裕たっぷりに言い返してきた。

 

「それがどうした?警察如きに俺らは逮捕されねえよ。今まで何人も逮捕してこようとしてきたが、全員病院送りにしてやったしな」

 

笑みを浮かべながらそう言った男に、他の人達も冷静さを取り戻した様子だった。おそらく本当にやってきたんだと分かった。

 

そう思っていると、伊勢君はおもむろにリーダーの男の人に話しかけた。

 

「すみませんが、あなたが人斬り抜刀斎と噂されてる人ですか?」

「あ?よく知ってるな。そうさ、俺が平成の人斬り抜刀斎だ」

 

そんな返しに、伊勢君はもう一度質問した。

 

「・・・一応聞いてもいいですか?」

「? 何だ?」

「その二つ名・・・取り消す気はありませんか?」

 

そんな伊勢君の問いに、男は一瞬だけキョトンとした後、大笑いしながら話し出した。

 

「取り消す気なんてねえさ。何せ俺の剣術は人斬り抜刀斎が使用したとされている流派の殺人剣を使用しているからな」

「・・・そうですか、仕方ありませんね」

(仕方ない・・・?)

 

伊勢君の呟きに疑問に思っていると、伊勢君はチラリと太陽君を見た。

 

「太陽、この人達は僕がやる。いいよね?」

「はぁ・・・やり過ぎるなよ、登志」

(こくっ)

 

ため息をつきながらそう言った太陽君に私も桃花ちゃんも驚いてしまった。

 

「太陽くん!?1人で戦うなんて無茶だよ!!」

「そうだよ!!2人で戦った方が・・・」

「大丈夫だから、黙ってみてな」

 

しかし、太陽君はそう言って微動だにしなかった。こうしてる間にも伊勢君は1人で男達の元へと歩いていった。

 

「舐められたもんだな。1人で全員を相手するとは、さぞかし良い腕を持つんだろうな?」

「・・・むやみに怪我人を出したくありません。病院送りが嫌な方は、すぐに逃げて下さい」

「安心しな、病院なんて誰も行かねえ。お前ら4人が死んで終わりだあ!!」

 

木刀の鞘に手を添えながらの伊勢君のそんな言葉にリーダーの男以外が、そう叫びながら刀を抜いて襲いかかろうとしたその瞬間、太陽君が口を開いた。

 

「1つ聞きたいんだが、2人共」

「・・・?」

「2人は、()()()()に負けると思うか?」

「えっ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――!!」 ドンッ!!

ブオンッ 「ガッ!?」

「!?」

 

 次の瞬間、伊勢君は急に加速して男達に接近しながら、木刀を横薙ぎに振った。

 

その攻撃を先頭の男は避けることも出来ずに喰らって吹っ飛ばされた。その早業に私達も男達も少しも反応出来なかった。

 

「フッ!!」

シュッ!! 「ガハッ!!」

ブンッ!! 「ギャア!?」

ドカッ!! 「グアッ!?」

 

伊勢君はその速さのまま、最短の動きで次々と男達を木刀で斬っていった。その動きはもはや芸術とも言える洗練された動きだった。

 

数十秒後には伊勢君以外はリーダーを除いた全員が倒れていた。

 

そんな光景に私達は呆然としていると、伊勢君は再び男に話しかけた。

 

「・・・1つ言っておきたいんですが、僕は貴方の顔なんか見た事も無いですよ?」

「・・・あぁ?」

 

そう聞き返した男に伊勢君は木刀を肩に乗せながらこう続けた。

 

「人斬り抜刀斎の振るう剣は、その子孫に先祖代々受け継がれてきた一族の技です。その剣は一対多数の斬り合いを得意とした神速の殺人剣で、流派名「飛天御剣流(ひてんみつるぎりゅう)」と言います。木刀(こんな剣)じゃ無かったら確実に人を斬殺する事が出来ますよ」

「「「!?」」」

 

伊勢君のあの人斬り抜刀齋について詳しく知っているかの様な発言、おまけにこの強さ・・・まさか!?

 

「まさか・・・伊勢くんは、人斬り抜刀斎の子孫・・・?」

「そうさ。登志は人斬り抜刀斎を先祖に持つ、れっきとした「飛天御剣流」の正式な継承者だ」

 

桃花ちゃんと太陽君のやりとりで、私の予想が間違ってなかった事が分かった。

 

「面白い!!」

 

その時、リーダーはそう言いながら刀を引き抜いた。

 

「まさか、人斬り抜刀斎の剣の使い手がいるとはな。貴様を殺せば俺が本物になる訳だ」

「僕はその名前で呼ばれるのが嫌いなんですよ。人を殺した事なんて無いですしね」

「安心しろ!!その名前は今日から俺が受け継いでやる!!」

 

そう言って男は伊勢君へ刀を振り下ろした。

 

「!?」

「そんな大振りの剣、飛天御剣流にとっては避けてくれと言っているようなものですよ」

 

しかし、伊勢君は一瞬で身体を横にして男の攻撃を躱すと、そのまま回転しながら背後に回り込み、

 

「飛天御剣流 龍巻閃(りゅうかんせん)!!」 ドゴンッ!!

 

そう言いながら男の後頭部に木刀を叩き込んだ。その衝撃に男は地面を何回も転がりながら気を失った。

 

振り抜いた体勢で止まっていた伊勢君は軽く息を吐くと、

 

「・・・ご先祖様の2つ名なんかに未練はありませんし正直どうでもいいですが、それでも貴方なんかに譲れるほど軽い名じゃありませんよ」

 

そう言いながら木刀を鞘へとしまった。

 

 

 

 

「ふー、終わったか・・・怪我は、無さそうだな。さすが登志」

「うん、僕は大丈夫。太陽こそ左手は大丈夫?」

 

 確かに太陽君の手のひらからはまだ血が流れ出ていた。

 

「大した事ねえよ、2人を助けられたんだ。むしろこの程度で済んだんだから、上等だろ」

 

太陽君は左手を振りながら私達の方を向きながら話しかけてきた。

 

「しっかし、ホントによかったよ。2人共、本当に怪我は無いか?」

「うん、大丈夫。本当にありがとう!!2人共」

「2人のおかげだよ。何て言えばいいか・・・」

 

私と桃花ちゃんは笑いながらそう答えた。しかし、太陽君と伊勢君はそんな私達を見て顔を曇らせた。

 

「? な、何2人と(ギュッ)えっ・・・」

 

すると突然、太陽君が私を抱きしめながらこう告げた。

 

「体が震えてんぞ、2人共・・・」

「!」

 

言われて初めて気がついた。私達の体はカタカタと震えていたのだ。

 

「怖くて当然だ、殺されそうだったんだからな」

「太陽・・・くん・・・」

「守れなくてゴメン。すぐに来てやれなくてゴメン・・・でも、もう大丈夫。俺達はここにいる。よく・・・頑張ったな」

 

その言葉でもう私達は限界だった。桃花ちゃんは伊勢君に抱きしめられながら、私は太陽君の腕の中で泣き続けた。中学三年生にもなってここまで泣きわめいて、二人からすればあまりにもみっともなかっただろう。

 

それでも2人は、何1つ言わずに頭をなでてくれた。その優しさが何よりも嬉しかった。

 

やがて私達は泣き疲れて、眠り込んでしまった――――――




いかがだったでしょうか。

というわけで、登志が使うのは「るろうに剣心」の主人公"緋村剣心"が振るう「飛天御剣流」です。
理由はまずかっこいいのと、温厚な登志が殺人剣を振るうギャップが面白いと思ったからです。

そしていくつか注意事項です。今作での「飛天御剣流」は原作とは設定がいくつか異なります。
今作では、「飛天御剣流」は一族に受け継がれてきた流派となっていますが、これは今作のオリジナル設定で原作設定や原作キャラは一切関係ありません。
それと、登志の得意技は龍巻閃ではありませんが、緋村剣心の得意技でも(いつか出しますが)ありません。登志の身長であれが得意技ではおかしいと思ったので変えました。ご了承下さい。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十二時間目 修学旅行の時間⑥

皆さんどうも籠野球です。

今回はちょっと恋愛要素を入れたいと思います。

ちなみに作者は恋愛経験ありません(笑)

だから正直上手くは書けないかもしれませんが、温かい目で見守っていただければ幸いです。

それでは、どうぞ!!


陽菜乃side

 

「ん・・・あれ?ここは・・・?」

「目が覚めたか、倉橋君」

 

 いつの間にか眠っていた私の呟きにそんな言葉が返ってきて、私は声がした方向を向いた。

 

そこには、烏間先生がホッとした顔で立っていて、思わず私は声を上げた。

 

「烏間先生!?」

「あぁ、大丈夫か?倉橋君」

「は、はい「バサッ」・・・あれ?」

 

私はとりあえずソファから起き上がろうとしたが、同時に私の体の上から何かが落ちていった。

 

よく見ると、それは男子の制服の上着だった。

 

「あぁ、それは太陽君の上着だ」

「太陽くんの?」

「あぁ、彼は今左手の診察と治療をしている所だ」

 

烏間先生はそう言って奥の扉を見た。そういえばあの時血が出てたもんね・・・

 

(太陽くんは大丈夫って言ってたけど本当に大丈夫かな・・・)

 

そう考えてると、烏間先生が思い出すように呟いた。

 

「しかし、まさか登志君が人斬り抜刀斎の子孫だったとはな・・・」

「烏間先生にも話したんですか?」

「あぁ、登志君自ら話してくれた。彼自身も隠しきれないと思ったんだろう。何せ日本刀を持った男達10人以上を無傷で倒したんだからな。中には骨が折れてる者もいたらしい」

「あの、烏間先生。伊勢くん達は私達を助けようと・・・」

 

2人が殴った事に変わりは無い。でも・・・

 

すると、烏間先生はそんな私を見てフッと笑みを浮かべ、

 

「分かっている。確かにやり過ぎと注意はされたが、相手は日本刀を持っていたし登志君は木刀だったからな。2人を守る為にという点からも充分正当防衛の範囲内だろう」

「よかった・・・」

「だが、一応警察の事情聴取は受けてもらわなければならないから登志君と矢田君に行ってもらっている。怪我をしている太陽君は病院に連れてきたんだ」

「? 私は何でこっちに来ているんですか?私は怪我してませんけど」

「あー、それはだな・・・」

 

私がそう聞くと、烏間先生は言い淀んだ。どうしたんだろう?

 

「・・・倉橋君が太陽君を掴んで離さなくてな・・・」

「え・・・」

「眠ってしまった倉橋君を太陽君が車まで運んでくれたんだが、病院で太陽君が降りようとした時も倉橋君が太陽君の袖を掴んだままだったからな。仕方なく病院に一緒に連れてきたんだ」

「そ、そうなんですか、だから上着がかけてあったんですね・・・///」

 

うう、恥ずかしい。

 

ガチャッ 「お、起きたか倉橋」

 

そう考えていると、奥の扉が開いて太陽君と烏間先生の部下の眼鏡をかけた男の人が出てきた。

 

「太陽くん!その手・・・」

「大した事ねえよ」

 

太陽君の左手には包帯が巻かれていて私は思わず声をあげたが、太陽君は笑いながらそう言ってくれた。恐らく私を安心させようとしてくれてるんだろう。

 

そんな太陽君の優しさが何よりも嬉しかった。

 

鶴田(つるた)、怪我の具合はどうなんだ?」

「はい、大事な血管などは幸いにも傷がついてないみたいなので、二週間程で包帯が取れるみたいです。東京の病院に連絡してくれるとの事なので、二週間後病院に行ってくれとの事です」

「そうか、ご苦労」

 

烏間先生は眼鏡の人―――鶴田さんに確認をすると、太陽君に向き直りながら話し出した。

 

「とりあえず、太陽君。勿論一刻の猶予も無かったのは分かるが、1人で解決しようとするのはやめてくれ。君はかなり強いとはいえ、1人の中学生だ。君にもしもの事があれば、孤児院の皆にも迷惑がかかってしまうからな」

「アハハ、すみません・・・次からは気をつけます」

 

烏間先生の言葉に太陽君は苦笑いを浮かべながらそう返事をした。そんな太陽君に烏間先生はフッと笑みを浮かべると、

 

「まあ、説教はこれくらいにしておこう。旅館までは車で送るから2人ともついてきてくれ」

「あ、俺はいいです。太郎を連れて帰らないと・・・さっきも鶴田さん大分吠えられたでしょ?」

 

そんな太陽君の言葉に鶴田さんは苦笑いを浮かべていた。太郎君、太陽君が近くにいないと駄目なんだろうな。

 

「だが、歩いて15分くらいとはいえ、君は怪我人だ。大丈夫か?」

「大丈夫ですよ、俺は強いって烏間先生言ってくれたじゃないですか。じゃあ倉橋、また旅館でな」

 

困った表情の烏間先生にそう笑いながら出口へと歩いていく太陽君に、私は何故かこう叫んでいた。

 

「太陽くん!私も一緒に帰っていい?」

 

 

 

「よしよし。待たせたな、太郎」

 「ワンワン!」

 

 病院の入り口の近くで太郎君と戯れる太陽君を見ながら私は考えていた。

 

(何であんなこと言っちゃったんだろう・・・)

 

烏間先生は止めていた。私は道を歩くのは今は怖いかもしれないから、今日は歩かない方がいいと。

 

でも私が行きたいと駄々をこねたら、太陽君が「絶対に俺が守ります」と言ってくれた事で、少し後ろから護衛するという条件で渋々許可してくれた。

 

(でも・・・何でかは分からないけど、太陽くんと一緒に帰りたかった)

 

そんな事を考えていると、太陽君が右手でリードを持ちながら、立ち上がって声をかけてきた。

 

「じゃあ行くか、倉橋」

「! あ、うん分かった」

 

そう返事をして、私は太陽君の横に並んで歩き出した。

 

(何とか大丈夫かな、ちゃんと歩けるし)

 

そう思いながら病院の敷地から出た瞬間、

 

ビクッ 「!?」

「倉橋?」

 

私の足は少しも動かなくなった。太陽君のそんな声すらも聞こえなくなる程私は思い出していた。

 

あの人達に無理矢理連れていかれた強さ、向けられた視線、そして刀を振り下ろされたあの瞬間。

 

(怖い・・・殺されそうになった事が。助けてもらったのに、ゴメンね太陽く「ギュッ」・・・?)

 

すると、私の手をいつの間にかリードを左手に持ち替えた太陽君が右手で私の手を掴んできた。

 

恐る恐る太陽君の顔を見ると、私を真っ直ぐに見つめながら話してきた。

 

「俺が必ず守るし、旅館に着くまでこの手は絶対に離さない。信じてくれ」

「太陽くん・・・」

 

自分でも不思議だった、さっきまであんなに怖かったのに太陽君にそう言われただけで、歩く事が出来ると思えるのだ。

 

私は太陽君の手を握り返しながら言った。

 

「大丈夫。行こう、太陽くん」

「・・・おう!」

 

 

 

 帰り道を手を繋ぎながら2人で歩き始めて少し経った頃、私は太陽君に話しかけた。

 

「今日は本当にありがとうね、太陽くん」

「もう礼はいいよ。助けたのはあくまで登志だしな」

「そんな事無いよ。太陽くんが来てくれたから、伊勢君も間に合ったんだしね」

 

そう言ってから私は少し間を空けてから、

 

「でも、何であんなに必死になって助けてくれたの?」

「え?」

「手を怪我してまで助けてくれるなんて普通は出来ないんじゃないかな?」

 

なぜそんな質問をしてしまったのか自分でも分からなかった。とりあえず慌てて訂正しようと口を開いた。

 

「ご、ゴメン!!急に意味分からない事聞いちゃって。せっかく助けてくれたのにゴメンね、今のは忘れ「大切だからだよ」・・・え?」

 

そんな言葉に思わず聞き返した私を、太陽君はジッと真剣な表情で見つめてきた。

 

「「ひまわり」の3人を除いたら、倉橋がE組の中で誰よりも大切だからだよ」

「私が・・・?」

「あぁ。倉橋とはまだ少ししか一緒にいねえけど、倉橋が俺の事を噂だけで見ないでくれているって分かるからさ。それに、初日とか今日の朝とか見せてくれた笑顔が俺は何よりも好きなんだ」

 

「だから、」と太陽君は一呼吸置くと、

 

「二人が攫われたあの時、倉橋が死ぬって考えたら体が真っ先に動いたし、仮に左手を切り落とされても何一つ後悔しなかったよ・・・ま、それは倉橋が気にするだろうけどな」

「太陽くん・・・」

「それくらい俺にとって倉橋は大切な存在だからさ。これからも頼ってくれよ」

「うん、ありがとう・・・」

「・・・何かハズいな。さっさと行こうぜ」

(あぁ、そうだったんだ。やっと分かった)

 

照れ隠しに笑いながら歩く太陽君に引っ張られながら、私はようやく自分の気持ちに気づいた。

 

―――――何であの時あんな事を言ったのか。

 

―――――何で太陽くんにそう言われただけで、平気なのか。

 

その二つの答えは全く簡単だったんだ。

 

―――――もっと太陽くんの傍にいたいから。私も太陽くんの事がE組の誰よりも大切だから。そして何より・・・

 

 

 

 

 

―――――私が太陽くんの事が好きだからだ。




いかがだったでしょうか。

ベタな展開になってしまってすいません(そんな事ないかもしれませんが・・・)
というか、太陽がキザになっちゃったかもしれません。
まぁ、こういうのも良いかなと思って書きました。

後1、2話で修学旅行も終了の予定ですが、オリキャラの1人をE組の感じで言えばくっつけちゃおうと思います。
誰かなんて、言うまでも無いですよね(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十三時間目 修学旅行の時間⑦

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ修学旅行も終わりに近づいてきました。果たして2人はどうくっつくのでしょうか。

それと、原作とキャラの性格が違うと思うかもしれませんが(これまでも充分違うかもしれませんが・・・)ご了承下さい。

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

ボンッ!! 「うわっ!?またやられた!?」

 

 夜、旅館の中にあるゲームコーナーのシューティングゲームで自分の機体がやられて俺は思わず声を上げた。

 

そんな俺を後ろで見ていた4班の皆(カルマを除く)がヒソヒソ話し合っていた。

 

「これで九澄君、5回連続1面クリア出来ずに終わっちゃったね・・・」

「致命的にセンスが感じられないな・・・」

「五百円使って1面もクリア出来ないなんて・・・」

「うるさい!!次は大丈夫だ!!」

 

茅野さん、杉野、渚のそれぞれの言葉にそう返しながら、俺はもう百円を出そうとしたその時、廊下から威月と登志が現れた。

 

「お前せっかく実徳さんから普段の小遣いとは別に貰った千円、全部突っ込む気か?」

「お、2人とも。「ひまわり」の皆、どうだった?」

「うん、元気ではあったけど、寂しいから早く帰ってきてねって言ってたよ」

(多分寂しいからだけじゃ無いだろうな・・・後で俺も電話しとくか) チャリン

「あ、入れやがった」

 

登志の言葉にそう考えながら、俺は百円を投入した。威月は呆れた様にそう言ったが、俺は聞こえないふりをした。何としても一面はクリアしてみせる!!

 

「うおおおっ!!」 カチャカチャ

「いや、だからそんなに大きく動かしたら・・・」

ボンッ 「うわぁ!?」

「大丈夫かな、大賀・・・」

「ほっとけ、もう無理だ。とりあえず部屋行こうぜ」

 

 

 

「うおぉ!どーやって避けてんのか全然分からん!!」

「恥ずかしいな、何だか」

「おしとやかに微笑みながら手つきはプロだ!!」

「・・・・・」

 

 そんな風に楽しい会話が聞こえる中、千円を使い切った俺は別のゲームの椅子に座りながら凹んでいた。

 

(まさか、結局1回もクリアできないとはな・・・はぁ)

 

そう考えてながら神崎さんを見てみたが、ホントに凄いな。

 

「すごい意外です。神崎さんがこんなにゲーム得意だなんて」

「・・・黙ってたの。遊びが得意でも進学校(うち)じゃ白い目で見られるだけだし、全部肩書きを捨てようとして得たものだし、私の心が弱かった結果だと思ってきたから」

 

奥田さんの言葉に神崎さんはそう言って「でも、」と続けた。

 

「九澄くんは教えてくれたから」

「えっ?」

 

突然俺の名前を呼ばれて俺は思わず神崎さんを見ると、

 

「肩書きなんかに逃げない強さを、そして私の心は堕ちてなんかいないって言ってくれた。そう言ってくれたのは九澄くんが初めてだったから、凄く嬉しかった。」

 

そう言うと神崎さんは、俺を一瞬だけ見ながらニコリと笑い、

 

「今日は本当にありがとね、九澄くん」

「・・・あぁ。どういたしまして」

 

その言葉に俺は笑顔で返した。これから神崎さんも前を向いて歩けると良いな。

 

「・・・あ、そうだ。1つ渚に言っておく事があったんだった」

「? 何、九澄君?」

 

いきなり呼ばれ、ビックリしている渚に、俺は笑いながら言った。

 

「俺ら4人に君づけなんかしなくていいよ」

「え?」

「友達には呼び捨てで呼んでほしいしな。俺ら、E組の皆は大事な友達だからよ」

「・・・分かったよ、九澄」

「おう」

 

 

 

 「ひまわり」に電話をかけてから部屋に戻ると、何やら男子が集まって話し合っていた。

 

「あれ、皆何やってんの?」

「おう、九澄。お前は気になる女子誰だよ?これは全員参加だからな」

「気になる女子?」

「簡単に言やぁ、好きな女子って事だ。大賀はいるか?そういう奴」

「えー・・・急に言われてもな・・・」

 

 前原に聞き返した俺に答えてくれた威月の言葉に俺は少し考えたが、今まで色恋沙汰にあんまり興味が無かった俺は自分を優しいと言ってくれた女の子の名前を挙げた。

 

「・・・神崎さんかな?同じ班だったし」

「やっぱそうか。お前1人で神崎助けたらしいしな、相当評価上がってんじゃねえか」

「そんなつもりねえよ。クラスメイト助けただけだ」

 

そう返しながら周りを見渡すと、太陽がいない事に気づいた。

 

「威月、太陽は?」

「どうせ、太郎の所だろ。さっきもいたしな」

「ホントに動物が好きだな・・・太陽は」

 

威月のため息混じりの声に、渚が苦笑いを浮かべた。お、ちゃんと呼び捨てで呼んでくれてるな。

 

その時、ふと思った事を皆に聞いた。

 

「そういや、太陽には聞かなくていいのか?皆」

「だってあいつは倉橋って言うに決まってるだろ」

「そうそう二人の帰ってきた時とか見れば丸分かりだよなー」

 

そんな言葉に皆はうんうんと頷いていた。

 

(確かに()()()()()()を見たら当然だよな・・・)

「でも、実際あの2人って付き合ってんのか?」

 

確かに俺を含めて皆それは気になっていた。仲良さそうだったけどな・・・

 

「両想いなのは間違いねえだろうが、太陽は付き合う気は無いんじゃねえかな」

「え?何でだ、両想いなんだろ?」

「アイツは優しすぎるからな、倉橋にはもっと良い奴がいると思ってるだろうから気持ちを伝えないと思うぜ」

(確かに、太陽ならあり得るかも)

 

威月と磯貝のやりとりに俺も心の中でそう思った。太陽はいつでも皆の事を優先するもんな・・・

 

「でも、そんなので本当にいいのかな。太陽は・・・」

「ま、決めるのは太陽だからな」

 

渚にそう返しながら威月は立ち上がると、

 

「でも、アイツも多少我が儘言っていい時もあるしな。倉橋の為にも、ちょっと背中押してやるか」

 

フッと笑いながらそう言った。

 

 

 

陽菜乃side

 

(私は太陽くんが好き・・・)

 

 大部屋で皆と一緒に話しながら、私は帰り道で気づいた自分の気持ちについて考えていた。

 

(でも、太陽くんは私のことをどう思ってるんだろう・・・)

「・・・ちゃん?」

(私の事が大切だって言ってくれたけど・・・私と一緒の気持ちだったらいいんだけどな・・・)

「陽菜乃ちゃん?」

「えっ?」

 

すると、私の名前を呼ばれて前を見ると、皆が心配そうに私を見てた。

 

「大丈夫、倉橋ちゃん?何か考えてる様子だったけど」

「あ、大丈夫。ゴメン、何の話だっけ?」

 

莉桜ちゃんにそう言われて、私は笑って誤魔化しながら聞き返した。

 

「だから、男子の中でましなのは磯貝とか前原だよね。前原はタラシだけど、磯貝は普通に優良物件だよね」

「でも、九澄くんも凄いかっこよかったよ!!」

 

莉桜ちゃんの言葉にカエデちゃんが興奮したように声を上げた。

 

「1人で高校生を10人以上も倒して見せたんだよ。凄かったよね、神崎さん!?」

「うん、凄い強かったね」

「でも、伊勢くんも凄かったよ」

 

カエデちゃんと神崎さんのやりとりに桃花ちゃんが入ってきた。

 

「刀を持った人達を傷1つ負わずに倒しちゃったんだよ、かっこよかったな」

「飛天御剣流だっけ?凄いよね、人斬り抜刀斎の子孫なんて・・・」

「普段の伊勢くんがそんなの使うなんて、想像も出来ないもんね」

 

メグちゃんの呟きに桃花ちゃんが笑いながらそう言って、全員が頷いた。

 

「ああ見えて威月も結構良い所あんだよね~」

「確かにね、水守君も優しかったよ。今日も荷物持ってくれたしね」

 

莉桜ちゃんの言葉に原さんも同意していた。莉桜ちゃん、水守君を名前で呼んでるんだ。珍しいなー・・・

 

「でも、神木はまだ少し怖いかな」

「うん、悪い人じゃ無いのは分かってるけど、暴力事件も起こしているのはホントらしいしね。やっぱり危険なのは本当なのか「そ、そんなこと無いよ!!」・・・えっ?」

 

ひなたちゃんとメグちゃんのやりとりに、私は思わず立ち上がりながらそう言った。皆の視線が一斉に集まったのにも気づかずに、私は続けざまに言った。

 

「太陽くんは弱い者イジメしている人を見つけた時とかで、自分から暴力を振るった事は無いくらい優しい人だよ!」

「今回も私や桃花ちゃんが攫われた時も誰よりも必死になって助けてくれたし、私の事がE組の誰よりも大切な存在だから助けたかったって言ってくれたもん!!・・・・・あっ」

 

そこまで言って自分がとんでもない事を言っているのに気づいたが、既に莉桜ちゃんがニヤニヤと笑っていた。

 

「へ~、やっぱそんな事言われてたんだ~、そりゃそんなに必死になるわけだ」

「な、何の事かなー・・・」

「隠さなくてもいいって、それに皆分かってたし」

「え、そうなの!?」

 

莉桜ちゃんの言葉に驚きながらも聞き返すと、

 

「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()倉橋ちゃん見たら誰でも分かるって」

(み、見られてたんだ・・・うう、恥ずかしい///)

 

自分でも顔から火が出そうな程真っ赤になっているのが分かった。

 

「で、で?倉橋ちゃんアイツの事好きなの?てか、もう付き合ってんの?」

「えぇ!?う、ううん。付き合っては・・・いない・・・よ」

「へぇ~、好きなのは否定しないんだ~」

「!?///(コクッ)」

 

その言葉に私はただ頷くくらいしか出来なかった。すると、皆が興味津々な様子で私を見てきて、顔を上げられないくらい恥ずかしかった。

 

すると、桃花ちゃんが笑顔で話しかけてきた。

 

「じゃあ告白しちゃいなよ、太陽くんに!!」

「えぇ!?そんなの無理だよ!!もし断られちゃったら・・・」

「倉橋ちゃんから告白されて断る奴なんていないって!」

「でも・・・」

 

莉桜ちゃんもそう言ってくれたけど私には自信が無かった。太陽君は優しいから、気を遣ってくれているだけなんじゃないかって思ってしまうと、どうしても勇気が出なかった。

 

(誰か、自信をつけてくれるといいんだけどな・・・) スゥ

「ガキどもー、もうすぐ消灯時間よー」

 

そう考えてると、襖が開いてビッチ先生が入ってきた。

 

その言葉に私達が返事をする前に、ビッチ先生が私を見ながら話しかけてきた。

 

「倉橋、アンタにお客さんよ」

「え、誰ですか?」

「水守。女子部屋に入るわけにはいかないから廊下に出てきてくれって」

 

私は疑問に思いながらも廊下に出ると、威月君は柱にもたれかかっていた。

 

「水守君、何か用?」

「倉橋、お前に太陽の気持ちを教える」

「え・・・」

「それを聞いてアイツに告白するならしろ」

 

私を横目で見ながらそう言ってから、威月君は話し始めた―――――




いかがだったでしょうか。

1話で終わらせたかったのですが、長くなってしまいました。

ホントに他の人はなんで短くまとめられるんだろう・・・

まぁとにかくいよいよ次話で修学旅行も終了です。
果たして2人の恋やいかに!?

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十四時間目 修学旅行の時間⑧

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ修学旅行編終了です。

威月と太陽は何を話したのか・・・2人の恋はどうなるのか・・・

それでは、どうぞ!!


威月side

 

 倉橋に会う少し前、俺は太陽と話す為に犬小屋に向けて歩いていた。すると、

 

「今日はお前のおかげで2人を助けられたよ。ホントにありがとな、太郎」

「ワン」

 

そう言いながら、犬の頭を撫でている太陽の姿が見えた。そこまではいつもの光景だ。

 

だが、微笑んではいるが、何かを考えている様子にも俺は見えた。多分大賀や登志にも分かるだろう。

 

「太陽」

「・・・威月か」

 

俺の声にチラリとこっちを見た後、そう言いながら頭を戻した。

 

俺は太陽の横へと並んだが何も声をかけず、太陽も無言のまま時間が過ぎた。

 

数分程経った後、太陽が話しかけてきた。

 

「何か用か、威月?」

「話は聞いたがその手を見る限り、本当に今日は大変だったみたいだな」

「まあな」

 

笑いながら太陽は立ち上がった。だが、勿論そんな話をしに来たんじゃないのは当然分かっているだろう。

 

その証拠に太陽は表情が一瞬で真面目な顔に変わり、自ら切り出してきた。

 

「・・・倉橋の事だよな?」

「そりゃそうさ。あんな顔した倉橋と手ぇ繋いで帰ってきたんだからな」

「ま、まあそうだよな」

 

太陽相手に回り道する必要は無いだろう。そう判断した俺は、直球をぶつけた。

 

「付き合うのか?」

「・・・」

 

そんな俺の言葉に、太陽は無言になって視線を横に外した。

 

「・・・どうすりゃいいんだろうな」

「お前は倉橋の事どう思ってんだよ?」

 

俺の言葉に太陽は少しだけ間を空けると、

 

「・・・好きだよ。じゃなきゃ、あんな事は言わねえ」

「なら、何を迷う事があるんだ?どう見ても、倉橋だってお前の事を好きだと思ってるだろ」

 

すると、太陽はほんの少しだけ困った笑みを浮かべ、

 

「俺は孤児院育ちだし、暴力事件何度も起こしている様な問題児だ。俺なんかと付き合わなくても、倉橋ならもっと良い奴に出会える筈だよ」

「(・・・やっぱりそういう考えか)全くコイツは・・・

「それに、俺って結構馬鹿だしさ、倉橋もいつか辛くなる(ゴツン!!)痛ってえ!?」

 

太陽が喋ってるのを無視して、俺は無言でその頭に拳骨を落とした。

 

「い、いきなり何すんだよ威月!?」

「テメエが寝惚けた事ばっか言ってっから、目ぇ覚ましてやったんだよ」

 

太陽の言葉に、俺はそう返しながら続けた。

 

「お前は倉橋がそんな上っ面しか見ない奴だと思ってんのか?本気でお前に幻滅すると思ってんのか?だとしたら、お前は倉橋をそんな奴だって思っていたのか?」

「そ、そんなわけねえだろ!!」

「なら、そんな不安になる必要はねえだろうが。倉橋からすりゃあ、自分の気持ちを隠さなきゃいけねえ方がよっぽど辛えよ」

「!! 威月・・・」

「好きなんだろ?守る為に強くなったんだろ?守ってやれよ、1番近くでな」

 

そう言い残すと、俺は旅館へと歩き出した。言いたい事は全部言ったし、後は2人の問題だしな。

 

 

 

倉橋side

 

「これが太陽とした話だ。悪いな、勝手な事して」

「ううん、ありがとう。威月くん」

 

 私は威月君に太陽君と話した内容を聞かせてもらった。そして、私と一緒の気持ちでいてくれたのが何よりも嬉しかった。

 

そんな私の表情を見て威月君はフッと笑うと、

 

「・・・アイツなら、まだ外にいると思うぞ」

「! 本当にありがとう、水守君」

 

私にさっきまでの迷いは無かった。今は何よりも太陽君の元へ行きたかった。

 

「ゴメン威月くん、私行くね!」

「あぁ、アイツを頼むな」

 

その言葉に私は頷くと、玄関に向けて走り出した。

 

靴を慌てて履きながら玄関を開け、犬小屋の方へと走ると、

 

(いた!!)

 

そこにいる私の好きな人の名前を私は呼んだ―――――

 

 

 

太陽side

 

「太陽くん!!」

「!? 倉橋・・・」

 

 突然呼ばれて俺は声がした方向を見ると、倉橋が俺の近くまで走ってきていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ゴメンね、急に」

「い、いや構わねえ。ど、どうしたんだ?」

 

膝に手をついて息を整える倉橋に、俺は動揺を隠しきれなかった。

 

(全く倉橋がこうやって俺の前に来ただけでこんなに動揺してんだから、俺も相当だな)

 

内心そんな事を考えていると、倉橋は真剣な顔になって話しかけてきた。

 

「私、太陽くんにどうしても言いたい事があって・・・」

「! ・・・おう」

(このタイミングでこの話って事は威月の奴・・・)

 

家族兼1番の親友が余計な気を利かしてくれたんだと分かり、おもわず心の中で苦笑した。

 

(・・・でも、もう覚悟決めねえとな。俺なんかに好意を抱いてくれてるんだからな)

 

そう思いながら目の前の初めて好きになった女の子を見ていると、倉橋は大きく息を吸い・・・

 

「私、太陽くんの事が「スッ」・・・え?」

「その言葉を倉橋が言ってくれるつもりなら、それは俺から言わしてほしいんだ」

「太陽くん・・・」

 

言いかけた倉橋の口に指を当てながらそう言った後、俺は改めて倉橋の目の前に立った。

 

「・・・」 ゴクッ

(緊張する・・・今までこんな風になったのは初めてだ)

「大丈夫?太陽くん」

「!! ああ、大丈夫だ」

(ったく、情けねえぞ俺。1番近くに守るんだろうが)

 

何より、覚悟を持って言おうとしてくれたこの子の想いに応えたい―――だから、俺は大きく息を吸い・・・

 

 

 

「倉橋 陽菜乃さん、俺は貴方が好きです。迷惑かけてしまう事もあるかもしれません。それでも、俺なんかでよければ付き合って下さい」

 

真っ直ぐ見つめながら言ったその言葉に、倉橋は笑顔で返事をしてくれた。

 

「うん・・・よろしくね、太陽くん!!///」

「よかった・・・」 ガクッ

「た、太陽くん!?」

 

赤くなりながらもそう言ってくれた倉橋に、俺は思わず安堵から膝をついた。

 

「わ、わりぃ。ちょっと安心しちまってな」

「アハハ、よかった・・・でも、そこまで考えてくれてたなんて凄く嬉しかったよ」

「あぁ、俺もすげえ嬉しいよ」

 

立ち上がりながら「ところで」と一呼吸置くと、

 

「いつまで見てんだお前ら?」

「えっ!?」

 

倉橋の後ろにそう言いながら視線を向けると、倉橋も慌てた様子で後ろを振り向いた。そこには、

 

「あちゃ~、やっぱばれてたか」

「そりゃそんだけいりゃあ分かるっての」

「み、皆!?いつからいたの!?」

 

E組のほぼ全員に殺せんせーまでもがいた。倉橋は気づいてなかったのか・・・

 

「おめでとう、陽菜乃ちゃん!!」

「いいカップルになりそうね、2人共」

「うぅ、恥ずかしい///」 ギュッ

「な!?テメエ羨まし過ぎんだろ、太陽!!」

 

女子に冷やかされて、恥ずかしさが限界を超えた倉橋が俺の背後に回り込んで浴衣を掴んだのを見て、岡島が吠えた。

 

「よかったな、太陽」

「すまなかったな、威月・・・」

「何の事だ?俺は背中押してやっただけ、最後はお前達の気持ちの問題だろ?」

「いや・・・お前のお陰だよ」

 

威月が気を利かしてくれなきゃ、付き合えてなかっただろうしな。

 

「ヌルフフフ、甘酸っぱいですねぇ。これぞ青春」

 

その時、ニヤニヤと笑いながらメモをとっている殺せんせーを見て、俺は1つの疑問が出来て威月に聞いた。

 

「・・・そういや威月はともかく、何で皆がここにいるんだ?」

「多分そこのタコが全員にバラしたんだろ。最初は俺1人で見守ろうとしてたからな」

プチッ 「そうか、分かった」 カチャカチャ

「にゅや?太陽君は何で犬の首輪を外しているのです「行け、太郎!!」「ワンワン!!」にゅあぁ!?なぜ太陽君の言う事を聞いて先生に!?」

「うるせぇ、外道タコ!!死ねぇ!!」

 

そう言いながら俺はナイフを抜いて襲いかかり、殺せんせーはダッシュで逃げていった。

 

その光景に皆は大笑いして、殺せんせーの後を追いかけていった。俺も続こうとしたが、

 

「ちょい待て」 グイッ

「ぐえっ」

 

威月に引っ張られ俺はおもわずそんな声を漏らした。

 

「お前はせっかく出来た彼女を放っておく気か?2人でもう少し話してろよ」

「あ・・・ホントにお前には迷惑かけるな、威月」

 

威月は俺の言葉に手を挙げながら、部屋へと戻っていった。あいつには、本当に迷惑をかけるな・・・

 

 

 

威月もいなくなって再び静寂の中、俺が口を開いた。

 

「改めて、これからもよろしくな倉橋」

「あっ・・・」

「? どうした?」

 

何かを言い淀んだ倉橋に聞き返すと、赤くなりながらも俺を見つめてきて、

 

「その、陽菜乃って呼んでほしいな///」

「あっ、そっか。そりゃそうだよな」

 

彼女のそんな頼みを断るわけにはいかないし、何よりそう呼びたかった。

 

だから俺は笑いながら呼んだ。誰よりも大切な、守りたいと思った彼女の名前を。

 

「好きだよ、()()()

「! ありがとう、太陽くん///」

 

照れながらそう言ってくれた陽菜乃を、誰よりも可愛いと思った。




いかがだったでしょうか。

とりあえず、2人ともおめでとうございます!!(書いてるのは自分ですが)
告白とかが作者の恋愛経験のなさ故上手く書けてないかもしれませんが、ご了承下さい。
m(_ _)m

とりあえず次回からはあの転校生が来るところから始まります。

但し、少しプロフィールを変更してから書き始める上に仕事も始まるので、投稿が遅れるかもしれません。

何かとグダグダな小説ですが、頑張って書いていくのでのんびりと待ってくれたら幸いです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十五時間目 転校生の時間

皆さんどうも籠野球です!!

お待たせしました。読んでくれてる方には本当に申し訳ありません。
m(_ _)m

いよいよあの転校生がやってきます。果たして太陽達がいるE組ではどうなっていくでしょうか。

それとプロフィールを若干変更しています。作りが粗くてすいません。
m(_ _)m

それではどうぞ!!


威月side

 

「いただきまーす!!」

 

 修学旅行も終わって今日からまた学校へと通う朝、「ひまわり」ではいつも通り朝ご飯の時間を迎えていた。

 

「うーん、やっぱり大賀兄ちゃんのご飯が一番美味しいなぁ!!」

「ありがとう、裕樹」

 

裕樹の嬉しそうな言葉に、大賀は笑いながら返した。確かに俺らもやっぱり大賀の飯が1番だな。

 

「うん、実徳さんのご飯よりずっと美味しいよ」

 

そんな裕樹の言葉に実徳さんは苦笑いを浮かべながら返した。

 

「おいおい、私だって頑張ったんだ。少しは認めてくれよ」

「えー、だって実徳さんの作ったカレー、お米がお粥みたいだったもん」

「ウッ!?」

「お肉も生煮えだったし、野菜も火が通ってなかったよね」

「ウウッ!?」

「おじさん、りょうりへたー」

「ゴフッ!!」

「じ、実徳さん!?」

 

裕樹・彩子・華(小学生以下3人)からの()()に、実徳さんはそんな声と共に後ろに倒れ込み、登志が慌てて駆け寄った。悪意が無い攻撃程恐ろしい物は無いな・・・

 

「3人共、実徳さんの料理が壊滅的なのは今に始まった事じゃないけど、一生懸命作ってくれたんだからそんな酷い事言っちゃ駄目だよ」

「「「はーい・・・」」」

(コイツが1番悪意無いんだよなー・・・)

 

3人に対してそんな少しズレた注意をしている大賀を見ながら味噌汁を啜った。ホント、退屈しない家だ。

 

「パクパクパクパク・・・」

「? 太陽お兄ちゃん?」

 

そんな中、無言でご飯を食べ続ける太陽に彩子は声をかけたが・・・

 

「ごちそうさま!じゃあ俺もう行くな!!」

「え!?お兄ちゃん!?」

 

太陽はそう言って食器を台所に持って行くと、鞄を引っ掴んで玄関へと走った。

 

「嬉しそうだね、太陽兄ちゃん」

「まぁいいじゃねえか、何せ初めて出来た彼女なんだからな」

 

湯飲みを持ちながら、俺は裕樹にそう返した。

 

 

 

太陽side

 

「ハァ・・・ハァ・・・フー・・・」

(もうすぐ待ち合わせ場所だな・・・10分前か、いい時間・・・えっ!?)

 

 息を整えている俺の目に入ってきたのは、明るい色の髪の毛の俺の彼女が待ち合わせ場所に立っている姿だった。

 

「陽菜乃!?」

「・・・あっ!!」

 

俺の声に気づき、陽菜乃は嬉しそうな顔でこっちを見てきた。

 

「太陽くん。おはよう!!」

「おはよう。随分早いんだな、まだ待ち合わせ時間よりも早いのに」

 

その言葉に陽菜乃は照れた様に笑うと、

 

「えへへ、何か待ち遠しくて早く来ちゃったんだ///」

「ハハ、陽菜乃も一緒か。嬉しいな」

(こんなしょうも無い話で楽しいんだから、彼女はやっぱりいいなぁ)

 

そう考えながら、俺は陽菜乃の手を右手で握りながら、

 

「さ、行こうぜ陽菜乃。遅刻するわけにはいかないしな」

「うん!!」

 

陽菜乃の返事を聞いて、俺達は歩き出した。

 

 

 

「そういえば太陽くん。今日新しく転校生が来るって知ってる?」

「あぁ、昨日の夜烏間先生が「ひまわり」に電話をかけてきてくれたよ」

 

 山道を登っている途中、陽菜乃のそんな質問に俺はそう返した。

 

「多少外見で驚くけど、余り騒がずに接してってどんな人なんだろうね~」 

「言い方からすれば多分殺し屋だろうな。遂に暗殺者の転校生が来たって事だろうな」

(でも、転校生って事は俺らと同学年なのか?)

 

中学生の殺し屋なんているのか?そんな疑問を陽菜乃にぶつけると、陽菜乃は携帯を取り出し・・・

 

「岡島くんが顔写真無いですか?って聞いたら、これが返ってきたんだって。太陽くんはもう見た?」

「いや、俺ら4人携帯持ってねえんだ」

「あ、そうなんだ。じゃあはい、これ」

「ん?女子なのか?」

 

見せてくれた携帯の画面には、女の子の顔が写っていた。

 

「うん、そうみたい。仲良く出来るといいな~」

「・・・」

「ど、どうしたの太陽くん?」

 

食い入る様に画面を見ている俺に、陽菜乃は少し焦った様に聞いてきた。

 

「ん?あぁワリィ、意外と人間じゃ無くてサイボーグか何かかと思ってさ」

「アハハ、それはさすがにないんじゃないかな・・・」

「ま、そうだよな」

 

そこで会話を打ち切って、俺らは教室に歩き出した。

 

俺らの想像が遠くはなかったのを知るのは、今から30分後だった―――――

 

 

 

「ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ」

「よろしくお願いします」

(まさかマジで人間じゃねえとは・・・烏間先生も大変だな・・・)

 

 さっき見た女の子が写っている黒い箱と、その後ろに手を触れながら話す烏間先生に俺はしみじみとそう思った。

 

「プークスクス・・・」

「お前が笑うな、同じイロモノだろうが。言っておくが彼女は思考能力(AI)と顔を持ち、生徒として登録されている。「生徒に危害を加える事は許されない」それが教師としての契約のお前は彼女が銃口を向け続けても、決して反撃出来んからな」

(なるほど・・・契約を逆手に取って、無理矢理機械を生徒にしたって事か)

「いいでしょう、自律思考固定砲台さん。あなたをE組に歓迎します!!」

 

 

 

 一時間目・・・教室の前では、いつも通り殺せんせーが授業を教えているのを見ながら俺は威月に話しかけた。

 

「なぁ、威月。アイツ固定砲台って言ってたけどどうやって殺る気だと思う?」

「おそらくあの中に銃を隠し持ってるんだろうな。だが、その程度じゃ殺せないのは上の連中も分かってると思うんだがな・・・」

(確かにな・・・自律思考ってのが鍵なのか?)

「―――この登場人物の相関図をまとめると・・・」

 

そう考えていると、殺せんせーがそう言いながら黒板の方に向いた。その瞬間!

 

ジャキン! ボボッ!!

(やっぱ仕込んでたか!!てか危な!?)

 

一瞬だけ光ると箱の中から瞬時に銃火器が出てきて射撃を開始しし、俺は慌てて頭を下げた。

 

「ショットガン四門、機関銃二門。濃密な弾幕ですが、ここの生徒は当たり前にやってますよ」

 

しかし、やはりその程度の攻撃では殺せんせーには傷一つつかなかった。てか、チョークで弾く程余裕たっぷりに躱しきってるし、まだまだ余裕そうだな。

 

「それと、授業中の発砲は禁止ですよ」

「・・・気をつけます。続けて攻撃に移ります」

(チッ・・・気をつける気、ねえなコイツ・・・!!)

「・・・懲りませんねぇ」

 

転校生は一瞬だけ光ると、そう言いながら緑のしましまの(舐めてる)顔の殺せんせーに再び射撃を開始した。

 

(でも、さっきと一緒じゃまた躱されるだけじゃねぇか。所詮は機械か・・・)

バチュッ!! 「な!?」

 

そう思ったその瞬間、殺せんせーの指が弾け飛び俺は声を上げた。何が起こった!?

 

「・・・今の射撃、さっき殺せんせーがチョークで弾いた玉の後にもう1発だけ追加していた」

(! 登志は銃弾も見切る程の動体視力の持ち主だ。そんな登志がそう言ったって事は・・・)

隠し弾(ブラインド)か!!しかも、殺せんせーの動きを学習して当てたのか!?」

 

コイツまさか・・・相手の動きをどんどん取り入れる(学習する)事で進化していくのか!?

 

「次の射撃で殺せる確率0.001%未満、次の次の射撃で殺せる確率0.003%未満、卒業までに殺せる確率90%以上。よろしくお願いします、殺せんせー」

(見くびった・・・コイツは紛れも無く殺し屋だ・・・!!)

 

俺の推理を決定づける様に、転校生は笑いながらそう言うと次の進化を始めた。

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン・・・

「・・・これ、俺等が片すのか・・・」

「大丈夫か、陽菜乃?一番前はめっちゃ飛んでくんだろ」

「うん、別に怪我は無いけど・・・」

 

 床に散らばった大量のBB弾を見てそう言った磯貝の近くで、俺は最前列にいる陽菜乃に声をかけた。

 

(結局一時間目の間、ずっと射撃してたからな・・・)

「掃除機能とかついてねーのかよ。固定砲台さんよお」

「・・・・・」

「チッ、シカトかよ」

「やめとけ。機械にからんでも仕方ねーよ」

(確かにコイツは殺せるかもしれねぇ。だが、これじゃ皆が納得しねえだろうな・・・)

 

村松と吉田のやりとりを聞きながら、俺はため息をついた。

 

そして、二時間目、三時間目とその日は一日中ずっと転校生の射撃は続いた―――――

 

 

 

明後日・・・

 

「おはよー渚、杉野」

「二人ともおはよー。」

「あ、おはよう。太陽、倉橋さん」

「おはよー」

 

 今日も陽菜乃と登校中、前に渚と杉野が歩いているのが見えて声をかけた。

 

そのまま4人で登校する途中、杉野が思い出すように話し出した。

 

「しっかし、一昨日よりは昨日は楽だったよなー」

「そうだな、暗殺が一回も実行されなかったからな」

 

そう返事をしながら昨日の事を思い出した。

 

本当なら昨日も暗殺が実行されただろう。だが、寺坂が箱ごとガムテープで固定する事で、奴は銃を展開する事が出来なかったのだ

 

「まぁ、もし陽菜乃に何かあったら、箱ごとぶっ壊してやったけどな」

「よかった・・・実行されなくて・・・」

 

俺の言葉に渚は冷や汗をかきながらそう言った。

 

「ま、どっちにしろ奴の暗殺には俺らのメリットが無いからな」

「? どういうこと、太陽くん?」

 

陽菜乃の疑問に俺は頭の後ろで腕を組みながら話した。

 

「銃撃のせいで授業が出来ないのがまず1つ。そしてもう1つは、奴が殺せんせー殺したって報酬は俺らには回ってこない、開発者の連中に入る筈だ」

「あ、そっか・・・」

「だから昨日の寺坂のやり方に誰も文句は言わなかっただろ?」

「確かにね・・・」

 

そう話していると下駄箱についたので上履きを履いて、廊下を歩き出した。

 

「どっちにしろ、烏間先生に苦情言わねえか?アイツと一緒じゃクラスが成り立たないって」

「それもいいかもな」 ガラッ

 

杉野にそう返しながら俺は教室の扉を開けた。すると、

 

「ん?何か体積増えてね?」

「え?あ、ホントだ」

 

微妙に箱が大きくなっているように感じた。渚も同意してくれたし、勘違いじゃないだろう。

 

ブツッ・・・ 「おはようございます!!渚さん、杉野さん、それに太陽さんに倉橋さん!!」

「「「「!?」」」」

 

その時、そんな音を立てながら液晶が点いたと思ったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そのあまりにも突然の変化に俺達4人は固まっている俺らの後ろから殺せんせーが自慢気に説明を始めた。

 

「親近感を出すための全身表示液晶と体・制服のモデリングソフト。全て自作で8万円!!」

「豊かな表情と明るい会話術。それらを操る膨大なソフトと追加メモリ。同じく12万円!!」

 

(転校生がおかしな方向に進化しやがった・・・いいのか、これ?)

「先生の財布の残高・・・5円!!」

 

5円玉を指先に載せながらそう言う殺せんせーの説明を聞きながら、俺は心の中でそう思った。




いかがだったでしょうか。

1つだけ言っておきたいのは太陽が羨ましいです。
こんな学生生活が送りたかった・・・

まぁ気を取り直して、
次回はこの続きです。基本的にこの話にオリジナル要素は混ぜません。なるべくシンプルに終わらせるつもりです。

それと今更ですが、倉橋は男子でも「ちゃん」付けで呼ぶらしいですが、今作では全員「くん」で統一させてもらいます。
全員の呼び方分からなかったので・・・すいませんm(_ _)m

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十六時間目 自律の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は転校生が進化した続きからです。

しかし、他の方の作品を読ませてもらうと、作者のセンスの無さを感じます。OTL
でも、読んでくれる方が少しでもいてくれるなら、素人なりに頑張っていこうと思います!!

それでは、どうぞ!!




太陽side

 

「庭の草木も緑が深くなってますね。春も終わり、近付く初夏の香りがします!」

「たった一晩でえらく変わったな・・・」

「これ一応固定砲台・・・だよな?」

 

 時間ぎりぎりに登校してきた威月や大賀もそう言いながら転校生を見ていた。何か箱から音楽も流れてるし、殺せんせーすげぇ改造したな・・・

 

「何ダマされてんだよおまえら、全部あのタコが作ったプログラムで動いてる只の機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろ、ポンコツ」

ウィィン 「・・・おっしゃる気持ちわかります寺坂さん」

 

寺坂にそう言われた転校生が、そんな言葉と共に寺坂の方を向いた。てか、動くんだなあの箱・・・

 

「昨日までの私はそうでした。ポンコツ・・・そう言われても返す言葉がありません」 ぐす、ぐすんっ・・・

「あーあ、泣かせた」

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」

「なんか誤解される言い方やめろ!!」

 

泣き始めた転校を見て、片岡と原がそう言って寺坂がそうツッコんだ。確かに何かヤバい奴に聞こえるな。

 

「いいじゃないか2D(にじげん)・・・Dを1つ失う所から女は始まる」

「「「竹林。それお前の初ゼリフだぞ、いいのか!?」」」

 

竹林のその言葉に杉野達がそうツッコんだ。確かにそれでいいのか・・・

 

「でも皆さんご安心を、殺せんせーに諭されて・・・私は協調の大切さを学習しました。皆の合意を得られるようになるまで、私単独での暗殺は控える事にしました」

「そういうわけで仲良くしてあげて下さい・・・ああそれと、もちろん先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけてません」

 

その言葉に転校生は手を挙げる仕草をすると、そこから銃が飛び出してきた。

 

「先生を殺したいなら、彼女はきっと心強い仲間になる筈ですよ」

(機械まで生徒にしちまうのか、何でも出来るな殺せんせーは)

 

ま、新しいクラスメイトが増えたのは嬉しいな。

 

 

 

昼休み・・・

 

「へぇーーっ、こんなのまで体の中で作れるんだ!」

「はい、特殊なプラスチックを体内で自在に成型できます。設計図(データ)があれば銃以外でも何にでも!」

 

 作られた美術品を見て呟く様にそう言った岡野に、転校生がそう返した。

 

「面白ーい!じゃあさ、花とか作ってみて」

「わかりました、花の(データ)を学習しておきます。それと、王手です千葉君」

「・・・三局目でもう勝てなくなった。なんつー学習能力だ」

 

矢田の言葉にそう返しながら、千葉とやっていた将棋で勝ったらしい。やはり凄いAIだな・・・

 

その時、大賀が笑いながら俺と威月に近づいてきた。

 

「思ったより大人気だな、転校生」

「まぁ、1人で同時に複数の事が出来るし、自在に変形出来るからな。迷惑さえかけなきゃああなって当然だろ」

 

大賀の言葉にそう返していると、近くに来ていた殺せんせーが冷や汗をかきながら呟いた。

 

「・・・しまった」

「は?何がっすか?」

「先生とキャラが被る」

「いや、被ってねえよ1ミリも!!」

 

殺せんせーの言葉に威月がツッコんだ。逆にどこが被ってるんだ?

 

「このままでは先生の人気が・・・皆さん、皆さん!!先生だって人の顔ぐらい表示できますよ。皮膚の色を変えればこの通り」

「「「キモイわ!!」」」

 

そう言いながら顔に男の顔を作った殺せんせーに、クラス全員がツッコんだ。そりゃそうなるだろうよ・・・

 

「あとさ、このコの呼び方決めない?自律固定砲台っていくら何でもね」

 

教卓に膝を抱えて座る殺せんせーを無視して片岡がそう言った。

 

「だよな」

「自律固定砲台だから・・・」

 

そう言いながら皆が考え込む中、登志が口を開いた。

 

「じゃあ1文字取って"律"はどうですか?」

「安直だな~伊勢」

「でも、分かりやすくていいんじゃない」

「お前はそれでいい?」

 

前原がそう聞くと一瞬だけきょとんとした後、

 

「・・・嬉しいです!!では"律"とお呼び下さい!!」

 

()は笑いながらそう言った。

 

「上手くやっていけんじゃねえか?」

「・・・どうだろうな」

 

その様子を見てそう言った大賀に、威月がそう返した。俺も正直威月に同感だな。

 

「えっ、何でだ威月?」

「寺坂の言った通り、あくまで殺せんせーのプログラム通り動いてるだけだしな。律に意志があるわけじゃねぇ」

「おまけにあんな改造勝手にして、開発者(もちぬし)が黙ってねえんじゃねえかな」

 

威月の言葉の後に律を見つめながら俺がそう言った。

 

そんな言葉とともに今日1日は過ぎていった―――――

 

 

 

 

「おはようございます、皆さん」

(元に戻ってる・・・ということは開発者が外したのか)

 

 翌日・・・最初の状態に戻っている律を見てそう考えている中、烏間先生が口を開いた。

 

「"生徒に危害を加えない"という契約だが、「今後は改良行為も危害と見なす」と言ってきた」

 

やっぱりか・・・ま、暗殺にはいらねえ能力だもんな。

 

「君等もだ。"彼女"を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ」

「・・・それって上の連中は俺らの迷惑は何も考えてないって事ですか?」

 

寺坂からガムテープを取り上げながらの言葉に、威月は腕を組みながら烏間先生にそう聞いた。

 

「・・・すまない。開発者(もちぬし)の意向でな、従うしかない」

「いや、烏間先生のせいじゃありませんよ。気にしないで下さい」

 

政府の人間なのにホントに良い人だな、あの人は。

 

「親よりも生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ」

「・・・攻撃準備を始めます。どうぞ授業に入って下さい、殺せんせー」

 

殺せんせーがそう呟く中、律は初日と全く変わらない無機質な声でそう言った。

 

 

 

 一時間目の授業が始まって少し経った頃、俺は威月に話しかけた。

 

「でも、元に戻ったって事は律の奴・・・」

「そりゃあ初日みたいになるって事だろ。全く、はた迷惑な話だ」

「・・・もし陽菜乃やE組の皆に何かあったら、賠償なんか関係ねえ。俺が奴の息の根を止めてやる」

「ま、そん時は一緒にやろうや」

 

そう威月と話していると、殺せんせーが初日の様に黒板の方を向いた瞬間、一瞬だけ光り俺はおもわず身構えた。

 

ジャキッ!! 「・・・?」

 

しかし律の中から出てきたのは、花束の山だった。その光景に誰もが固まっていると、律が口を開いた。

 

「・・・花を作る約束をしていました」

(! それは昨日の矢田との約束!元に戻ったのに何でだ?)

 

そんな俺の心の中での疑問に答えるように、律は皆に説明し始めた。

 

「殺せんせーが私のボディーに施した改良のほとんどは、開発者(マスター)が暗殺に不要と判断し、削除・撤去・初期化してしまいました。

・・・ですが、学習したE組の状況から()()()は「協調能力」が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました」

「・・・素晴らしい、つまり"律"さんあなたは」

「はい。私の意志で産みの親(マスター)に逆らいました」

 

髪を触りながら、律は可愛らしい笑顔を浮かべながら殺せんせーにそう言った。

 

「こういった行動を"反抗期"って言うんですよね。"律"は悪い子でしょうか?」

「とんでもない、中学三年生らしくて大いに結構です」

 

顔に丸を浮かべながら殺せんせーはそう言って、皆は律の周りに集まった。

 

そんな光景を見ながら俺は笑みを浮かべながら呟いた。

 

「まさか機械が反抗するなんて、開発者も想定外だろうな」

「まあな、でも丸く収まってよかったじゃねえか」

「ハハ、確かにな」

 

威月にそう返した後、俺は再びポツリと呟いた。

 

「・・・親に反抗する事も、俺は全く出来なかったけどな・・・」

「太陽・・・」

 

威月はそれ以外は気を遣って何も言わなかった。




いかがだったでしょうか。

最後はプロフィールにも書いてある通り太陽は両親と死別しているからという意味の発言です。
死別した理由などは、4人全員それぞれ後々書いていくつもりです。

次回はいよいよ「ひまわり」に渚達が行く話です。
もし出来たら間取りの挿絵を入れたいのですが、作者は絵や字が下手なので分かりません(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十七時間目 「ひまわり」訪問の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は渚達が「ひまわり」に遊びに行く話です。

ただし、完全な作者の想像な為、実際の孤児院とは一切関係ありません。
m(_ _)m

それでは、どうぞ!!



威月side

 

「そういえば渚。いつ「ひまわり」に来る?」

「えっ?」

 

 律が開発者に逆らったその日の放課後、山道を下山中に渚に大賀がそう話しかけた。ちなみに今いるのは俺ら4人に渚、杉野、倉橋だ。

 

「ほら、初日に料理教えてやるって言っただろ?何だったら俺の持ってる料理本あげてもいいぜ」

「本当!?ありがとう!」

「全然いいよ。じゃあ、いつにする?」

 

大賀の質問に渚は少し考えた後、

 

「土曜日は午前中までだし、その後に行ってもいいかな?」

「ああ、いいよな威月?」

「構わねえよ。2人もそれでいいか?」

「うん、僕はいいよ。」

「・・・・・」

「・・・またか」

 

登志からはすぐに返事が返ってきたが、太陽からの返事が無いので俺はため息をつきながら後ろを振り向いた。

 

「よしよし、お前最初の日に会った奴だよな。やっぱここら辺が縄張りなのか?」

「わあ、可愛い~。よしよし」

「ワンワンッ!!」

 

すると、予想通り太陽と倉橋の2人は野良犬と戯れていた。てか、会話を聞く限り初日の野良犬なんだな・・・

 

「ハァ・・・帰るぞ、皆。」

「えっ、ほっといていいのか?」

「2人だし大丈夫だろ。動物バカの2人はほっとけ「あ、俺は大丈夫だからな、別に杉野とかも一緒に来てくれていいぜ」

「「「「聞こえてたの(かよ)!?」」」」

 

背後からのそんな返事に、俺達は全員でツッコんだ。

 

 

 

渚side

 

 土曜日・・・学校が終わって僕達は「ひまわり」に行く為に、九澄達について歩いていた。4人の話じゃ、学校から歩いて30分くらいの距離らしい。

 

「でも、俺達も一緒でホントにいいのか?」

「いいに決まってんだろ。たいしたもてなしは出来ないけどな」

 

今、僕と太陽達4人の他には茅野に杉野、倉橋さんの3人がついてきていて、杉野が代表して太陽に聞いていた。

 

「でも、楽しみだな~、太陽くんの飼っているペットいっぱいいるんだよね?」

「ああ、全部拾ってきた奴だけどな」

「もうすぐだよ、皆」

 

太陽が倉橋さんにそう返したその時、伊勢がそう言って路地を一本曲がりやがて1つの建物が見えてきた。

 

それは木造の建物だった。正面から見たら横長の昔の日本風の家で、右に玄関があってその扉の枠の上には孤児院「ひまわり」と書かれていた。

 

「あっ、(わん)ちゃんだ!!」

 

倉橋さんがそう言いながら左端を指差すと、そこには犬小屋と数匹の犬が元気よく走り回っていた。

 

ガララッ 「あれ?お帰りなさい、お兄ちゃん達」

「おお、ただいま彩子。さくら達に昼ご飯か?」

 

正面の窓を開けながら肩ぐらいまでの髪の長さの女の子がそう言って、太陽が返した。

 

「うん。お兄ちゃん、その人達は?」

「俺らのクラスメイトだよ。遊びに来たんだ」

「へー、珍しいね!」

 

そう言うと、彩子と呼ばれた女の子は僕達の方を向くと、

 

「初めまして、細川 彩子って言います。この「ひまわり」で太陽お兄ちゃん達と一緒に暮らしてます。小学四年生です」

 

礼儀正しいなー・・・しっかりした良い子だな。

 

「彩子、他の皆は?」

「裕樹は友達と遊びに行って、華は昼寝しているよ。岬さんは今は洗い物をしているところ」

「了解」

「・・・?」

 

大賀と彩子ちゃんのやりとりで出てきた初めて聞く名前に僕達は頭に?を浮かべている僕達に、威月が説明してくれた。

 

「裕樹と華は俺達同様、ここで暮らす子供達で、岬さんはここの家政婦だ」

「へえ」

「じゃあ中入ろうぜ、太陽はどうする?」

「俺は一緒に餌やりをするよ。陽菜乃は?」

「うん、私も一緒にやりたい!!」

 

九澄の言葉に太陽がそう言い倉橋さんもそう言った為、2人以外は玄関へと歩いた。

 

ガララッ 「ただいま帰りました、岬さん」

「お帰りなさい、登志君、皆」

(うわっ、綺麗な人・・・)

 

扉を開けながらの伊勢君の言葉に反応して、奥から女性が笑いながら歩いてきた。

 

背中まである黒髪を後ろで1つに束ねたその人に、僕は素直にそう思った。

 

「あらっ・・・威月君、その子達は?」

「クラスメイトです。ちょっと渚が料理を大賀に教えてもらいに来たんです。2人は遊びに来ました」

「そうなんですか。初めまして、橘 岬です。ここ「ひまわり」の家政婦です、よろしくお願いします」

 

笑いながらそう言った岬さんに、僕達は慌てて自己紹介した。

 

「はい、渚君に杉野君、それに茅野さんですね。

「それと、外に太陽と彼女の倉橋っていう子がいます」

「あら、そういえば少し前に彼女が出来たって言ってたわね。私も早く見てみたいな」

「ハハ、もうすぐ見れますよ。じゃあとりあえず居間に行こうよ」

 

威月と岬さんのやりとりの後、伊勢がそう言って僕達は廊下へと上がった。

 

廊下を歩いて1つの部屋の前に着いたら九澄が注意をしてきた。

 

「皆、華が寝てるから静かにな」

「おお、分かった。てか何歳なんだ?」

「今、三歳だよ」

「凄い年離れてんだな・・・」

 

九澄の返しに、杉野は驚いた様子でそう言った。確かに十歳も違うんだな・・・

「院長の遠戚らしいんだ。それでここで引き取ったらしい」

「へえ・・・」

「ま、そんなわけで静かにしてくれ」

 

九澄の言葉に僕達は頷くと九澄は襖を開けた。

 

「スー、スー・・・」

「お、ホントに寝てるな。ただいま、華」

「うわあ、可愛い!」

 

九澄の挨拶の後、茅野が興奮した様子でそう言った。僕達も見てみると、そこには岬さんみたいな黒髪の小さな女の子が布団の上で寝ていた。確かにかなり可愛い。

 

「神木 華って言うんだ」

「えっ?太陽も神木だよな?」

「ああ、院長が神木 実徳って名前で、太陽と華は実徳さんから名字を貰ってるからな」

「そうなんだ・・・」

 

杉野の質問に威月がそう返して、僕はおもわずそう呟いた。太陽は生まれてすぐにここで暮らしてるって言ってたから両親の名前知らないんだろうな・・・

 

「そんな暗くなんなよ、太陽は気にしてないって。それより、さっさと始めようぜ、渚」

「あ、うん。よろしくね、九澄!」

 

九澄のそんな声に、僕は慌ててそう返した。

 

 

 

陽菜乃side

 

「いや~でもすっごい楽しかった~。ありがとう、太陽くん!」

「おお、よかったよ、喜んでくれて」

 

 犬ちゃん達と遊んだ後、私は太陽君の部屋に来ていた。笑いながらそう返してくれた太陽君に頷いた後、私は部屋の一角にあるゲージを見ながら言った。

 

「この前のウサギ、太陽くんの部屋で飼ってるんだね」

「ああ、さすがに華のいる部屋で飼うわけにはいけないからな」

 

四畳半の部屋の一角のゲージの中では、ウサギが元気よく野菜を食べていた。本当に可愛いなあ~

 

「でも凄い部屋だね。猫1匹とウサギ1匹のそれぞれゲージが1個、それにハムスターのケースが押し入れの下にあって、ペットの餌とか以外は本棚くらいしかないんだね」

「勉強は居間でやるからな。押し入れの下にハムスターのケース入れれば、寝るスペースだけは確保出来るんだ」

「へぇ・・・」

 

確かに今私達が座っている場所以外は殆どスペース無いけど、布団敷くだけなら大丈夫だろうな。

 

「・・・渚くん頑張ってるかな?」

「大賀は料理教えるのは上手いからな、大丈夫だろ」

 

2人は今、台所で頑張っているだろう。渚くん上手く出来るといいな。

 

「・・・?太陽くんちょっといい?」

「ん?おお、どうした?」

 

私は本棚にある1冊に目が止まり手にとって見てみると、

 

「・・・獣医に関する本?」

「ああ。俺、将来獣医になりたいんだ」

 

太陽君の夢を突然聞いて私は驚いた。そんな私の様子に太陽君は苦笑いを浮かべながら聞いてきた。

 

「意外か?」

「えっ?ううん、突然聞いたからビックリしちゃって・・・」

「確かに「ひまわり」の皆以外には言った事無いからな」

 

そう言いながら太陽君は立ち上がると、

 

「世の中には捨てられてる生き物ってこいつら以外にも山ほどいるけどさ、全部助けるのは流石に無理だ」

「・・・」

「だから、せめてちゃんとした飼い主がいて可愛がられてるペットだけは助けてあげたいんだよ」

「だから獣医に・・・?」

「まあ、どっちみち生き物と関わる仕事がいいんだ。子供みたいだろ?」

 

笑いながら太陽君はそう言っているが、私はそうは思わなかった。

 

「そんなことないよ」

「えっ?」

 

だから、私は笑いながら太陽くんに返した。

 

「太陽くんの夢は、誰よりも生き物を大切に思ってるのが分かる優しい夢だよ」

「陽菜乃・・・」

「私は応援するよ、太陽くんの夢」

「・・・ありがとな、陽菜乃」

 

太陽くんは笑いながらそう言うと、

 

「じゃあ殺せんせー殺せたら、その報酬で陽菜乃は動物園のオーナーになれよ!!そしたら、俺が専属の獣医をやるからさ!!」

「うん!!凄く楽しそう!!」

 

そんな子供みたいな会話をしながら私達は笑い合った。

 

そうして、時間は過ぎていった―――――

 

 

 

4時頃・・・

 

「今日はありがとう、九澄」

「おう、また何か教えてほしかったらいつでも来な」

「バイバイ、おにいちゃん、おねえちゃん」

 

 目が覚めた華ちゃんを抱きかかえながら九澄くんはそう言って、華ちゃんも手を振りながらそう言ってくれた。やっぱり可愛いな~

 

「皆も何時でも来てくれていいからな。待ってるぜ」

「ありがとな、太陽」

 

太陽くんの言葉に杉野くんもそう言っていよいよ帰ろうとしたその時、後ろの玄関の扉が開いた。

 

「おや、お客さんかい?」

「あ、実徳さん。お帰り」

 

私達が後ろを振り返ると、そこには黒髪を中分けにした長髪の男の人が立っていた。

 

誰か疑問に思っていると、太陽くんが教えてくれた。

 

「ここの院長の実徳さんだ。皆はクラスメイトです、実徳さん」

「おや、そうかい。初めまして、皆さん」

 

その言葉に皆が挨拶し始めて、私の番になって私は笑顔でこう言った。

 

「倉橋 陽菜乃です。太陽くんの彼女です!!」

「! そうか、君が・・・」

 

驚いた様子でそう呟いた後、

 

「太陽は優しい子だ。私の息子をよろしく頼むよ、倉橋君」

「はいっ!!」

 

笑みを浮かべながらそう言ってくれて、私はそう返事をしながら頷いた。

 

「皆、また月曜日な」

 

太陽君のその言葉を聞きながら、私達は「ひまわり」を後にした。

 

(でも、こんな時間に帰ってくるなんて実徳さんってどんなお仕事してるんだろ?)

 

そう疑問に思いながら私は皆と一緒に帰り道を歩いた。

 

 

 

太陽side

 

「良い子だな、倉橋君は」

「ええ、俺なんかにはもったいない彼女ですよ」

 

 陽菜乃達が帰ってすぐ、実徳さんがそう話しかけてきて俺は笑いながらそう返した。ホントに陽菜乃は最高の彼女だよ。

 

「てか、実徳さん今回はどこ行ってたんですか?」

「ちょっとノルウェーにな。君達のクラスの転校生について話をつけてきたんだ」

「え?それって・・・」

「ああ、自律思考固定砲台の自主性やクラスの皆の安全を尊重するように約束をしてもらいにな」

(やっぱり律の事か・・・でもそれならもう安心だな)

 

威月と実徳さんのやりとりに俺は心の中で安堵した。でも実徳さんが行ったって事は・・・

 

「ちゃんと平和に話し合ってきました?」

「・・・大丈夫だよ。最後は皆ちゃんと話し合いに応じてくれたしね」

「何ですか、その間は・・・」

(律の開発者の皆さん、貴方達の回復を心より祈ります・・・)

 

俺の質問にそう返した実徳さんを見て、俺は心の中で合掌した。実徳さんが本気出したら、めちゃめちゃ恐ろしいからな・・・

 

「ま、とりあえず無事で何よりです。今日は早めに夜ご飯にしますか?」

「いいのかい?ありがとう、大賀君」

「はい、たまには岬さんもどうですか?」

「いいのですか?ではお言葉に甘えて」

 

大賀の言葉に、大人2人は笑いながらそう言った。

 

(この家は普通の家庭とは全然違う)

 

そんな光景を見て俺はそんな事を考え、

 

(・・・でも、やっぱりこの家が1番好きだ)

 

そう思いながら、笑みを浮かべた。




いかがだったでしょうか。

一応「ひまわり」の見取り図を貼っておきます。

【挿絵表示】

字の汚さと作りの粗さはご了承下さい。
m(_ _)m

岬さんは夜は基本的に帰るので部屋はありません。それと、実徳の職業はこれから明らかになっていきます。

次回はあのタラシの話ですが、その話は書きません。
その時間帯の裏での太陽の話を書きます。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十八時間目 雨中の記憶の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は太陽の過去に少し触れます。
生まれてすぐ「ひまわり」で育ってきた太陽の過去とは・・・

それでは、どうぞ!!



渚side

 

雨の季節。梅雨の6月、暗殺期限まで残り9か月のなったこのE組で、僕達は新たな疑問にぶち当たっていた。

 

((((何か大きいぞ))))

「殺せんせー、33%ほど巨大化した頭部についてご説明を」

「ああご心配なく、律さん。湿度が高いせいで水分を吸ってふやけただけです」

「「「「生米か!?」」」」

 

クラス全員がツッコむ中、殺せんせーは顔を絞った。

 

「雨粒は全部避けて登校したんですが、湿気ばかりはどうにもなりませんからねぇ・・・」

「・・・ま、E組のボロ校舎じゃしゃあねえわな」

 

威月が天井を見上げて恨めしげに呟く間も、雨漏りはずっと続いていた。エアコンでベスト湿度の本校舎が羨ましいな・・・

 

そう考えていたその時、倉橋さんは何かに気づいた様子で声を上げた。

 

「先生帽子どうしたの?ちょっと浮いてるよ」

「よくぞ聞いてくれました。先生ついに生えてきたんです」

 

殺せんせーは嬉しそうにそう言いながら帽子を取った。

 

「髪が」

「「「キノコだよ!!」」」

ムシャムシャ 「湿気にも恩恵があるもんですねぇ。暗くならずに明るくじめじめ過ごしましょう」

 

まあ、殺せんせーの言う通りだよね。早く梅雨過ぎないかなぁ。

 

「・・・にゅや?太陽君どうかしましたか?」

「・・・えっ?」

 

その時、殺せんせーが頬杖を突きながら窓の外をボンヤリと見ている太陽に声をかけた。

 

「何やら顔色がよくないので。気分が悪いですか?」

「・・・いえ、大丈夫です。体調が悪いわけじゃないんで」

 

笑いながらそう言った太陽だが、いつもに比べその笑顔には影が差していた。

 

「そうですか・・・何かあったら先生にすぐ声をかけて下さい」

「はい、ありがとうございます」

(どうしたんだろう、太陽・・・)

 

普段と違う太陽に疑問に思ったが、殺せんせーが授業を再開したので僕も黒板に集中した。

 

 

 

「渚、コンビニ寄って帰ろう。苺パフェ食べたいんだ~」

「いいよ、茅野」

 

 帰りのHR終了後・・・茅野にそう誘われ、僕はそう言いながら頷いた。茅野はスイーツが好きだな。

 

「太陽くん、帰ろう」

「陽菜乃」

 

すると、倉橋さんがそう言いながら太陽に近づいていった。仲いいな、あの2人も。

 

「あー・・・悪い、俺今日さっさと帰るわ」

「えっ?う、うん分かった」

「ゴメンな。じゃあ、また明日」

 

そう言うと太陽は本当に1人で帰っていった。珍しいな・・・太陽が1人で帰るなんて。

 

「・・・どうしたんだろ?太陽くん、まだ左手痛いのかな・・・」

 

そんな太陽を見ながら倉橋さんはそう呟いた。太陽の手の包帯は日曜日に取れたらしく、本人は大丈夫って言ってたんだけどな・・・

 

「わりいな、倉橋。手が痛いんじゃねえよ」

「? 水守君、どういう事?」

 

そう聞き返した倉橋さんに、威月は窓の外に目を向け、

 

「アイツ、雨が嫌いなんだよ」

「えっ、雨が?」

「ああ、たまにだけど雨が降る日はいつも決まった夢を見るらしい」

「夢・・・?」

「んで、その夢が太陽は苦手なんだ。だから、雨が苦手なんだって」

 

悪夢みたいな物って事なのかな・・・

 

「両親と死別した時、雨が降ってたらしくてな」

「でも、生まれてすぐに「ひまわり」で暮らしてるんじゃ・・・」

「実徳さんに聞かせてもらったらしい」

 

威月はそう言いながら視線を戻し、

 

「アイツは夢の内容を俺らにすら言わないしな」

「え、3人にも!?」

 

ビックリした。4人には隠し事なんて一切ないと思っていたからだ。

 

「アイツにも思い出したくない記憶はあるって事さ。下手に気を遣わずにいつも通り振る舞ってやればいいさ。明日には元に戻ってるだろうしな」

 

威月はそう言って話を打ち切った―――――

 

 

 

威月side

 

「ごちそうさまー!!」

 

午後七時半。皆のそんな声で晩ご飯は終わった。今日も美味かった、流石大賀だな。

 

「威月兄ちゃん、将棋やろう」

「ああ、いいよ」

 

全員で食器を運んだ後に裕樹がそう言ってきて、俺はそう返した。裕樹はたまに俺に勝負を挑んでくる。

 

「今日こそ飛車と角がない兄ちゃんには勝ってみせるからな!!」

「ああ、臨むところだ」

 

そう裕樹に返す中、台所にいた大賀が入ってきて太陽に声をかけた。

 

「太陽。風呂入ってるからもう入ってこいよ」

「えっ?」

「もう寝ちまえよ。悪夢見るかは分かんねえから、すぐ寝ちまうしかねえだろ」

「・・・わりい、じゃあそうするわ」

 

そう言いながら太陽は立ち上がると、居間を出る直前に俺らの方へと振り向くと、

 

「おやすみ、皆」

 

その声に全員がそれぞれ挨拶を返した。

 

その後、太陽は居間に入っては来なかった。

 

 

 

太陽side

 

サアァァァ

 

(雨・・・?)

 

突然聞こえてきたそんな音に俺はそう思いながら目を開けた。

 

そこは何やら瓦礫の山に囲まれた、異様な空間だった。

 

(熱い・・・何だ、手足も動かねえ?)

 

突然感じたとてつもない熱さに俺は体を起こそうとしたが、何故か俺の体は動かなかった。

 

「・・・い、大丈夫か?」

(?・・・実徳さん?)

 

突然声が聞こえおもわずその方向を向くと、そこには若い頃の実徳さんが立っていた。

 

「しゅ、主人は・・・?」

「・・・いや、もう手遅れだ。」

(! 誰だ、この人は?)

 

その声に反応して前をよく見ると、そこには茶髪の女性がいた。

 

しかし、その人の顔はぼやけてよく分からなかった。

 

「こ、この子を・・・頼みます・・・」

 

そう言いながら俺を実徳さんに差し出したのを見て、ようやく俺はこの女の人に抱きかかえられていたのが分かった。

 

実徳さんは俺をその人から受け取ると、その女の人に話しかけた。

 

「待ちたまえ、君も一緒に・・・」

「私はもう無理です・・・だから、私とあの人の生きた証であるこの子だけは生きていてほしい・・・」

(! この人、まさか・・・)

 

その言葉に俺はこの女の人が誰か、分かったかもしれなかった。

 

「私達はいつまでも遠くから見守っていると、その子が大きくなったら伝えて下さい・・・大切な人の力になってあげられるような優しい子になってほしい・・・そんな願いを込めた名前です・・・」

 

そう言うと女の人は小さい声で、しかしはっきりと聞こえる声でこう言った。

 

「その子の名は―――()()

 

 

 

「母さん!!」

 

俺はそう言いながら飛び起きた。しかし、目の前の光景は十年以上住んでいる自分の部屋だった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・またあの夢か・・・」

 

呼吸を整えながら俺はそう呟いた。何年経っても薄れない記憶に俺はおもわず自虐的な笑みを浮かべた。

 

「(ま、忘れても困るけどな・・・)まだ3時か・・・」

 

そう思いながら時計を見ると3時を指していた。雨はとっくの昔に上がったらしい。

 

のどが渇いた俺はとりあえず台所へと向かった。

 

「えーと、麦茶あんのかな・・・「扉の所にあるぞ」!?」

 

冷蔵庫の中を探していた俺は、独り言に返事が返ってきたことに驚いて入口を見た。

 

そこには威月や大賀、それに威月が立っていた。

 

「お前ら、何で・・・?」

「ふわぁ、そりゃあんな叫び声上げたら目ぇ覚めるっての」

「そ、そうだよな・・・悪い」

 

威月の返しに俺はおもわず苦笑いを浮かべながらそう言った。

 

「また、()の夢か?」

「・・・(コクッ)」

 

威月の問いに俺は頷くだけだった。そんな俺を見て威月は頭を掻きながら、

 

「別に言いたくねえなら言わなくていい。でも、何かあったら、遠慮無く頼ればいいからな」

「うん、僕達は()()なんだからね」

「俺はそうだな・・・何でも好きなもん作ってやるよ」

「お前ら・・・」

 

笑いながらそう言ってくれる3人に、俺は思わず呟いた。大事な事すら教えてないってのにそう言ってくれる3人は、俺にとって本当に大切な家族だ。

 

「とりあえず、寝ようぜ。まだ早いしな」

「そうだね、もう寝よう」

「じゃあな、太陽」

「おう、ありがとな、お前ら」

 

部屋へと戻っていく3人にそう返すと、俺は麦茶をコップに入れると一気に飲み干した。今ならちゃんと寝られそうだ。

 

そうして、俺も再び眠りについた。今度は夢は見なかった―――――

 

 

 

 余談だが、翌日登校すると陽菜乃を含めて10人以上が正座して烏間先生にお説教されていた。殺せんせーもいるし、何したんだアイツら・・・




いかがだったでしょうか。

太陽というより4人の過去は少し重いです(基本的に人死が関わってきます)
どんな過去かはこれから明らかになっていきます。

次回はビッチ先生の師匠の話です。これもあまりオリジナル要素は入れないつもりです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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十九時間目 LRの時間

皆さんどうも籠野球です。

今回はビッチ先生とあの師匠のお話です。
それと注意ですが、今回から会話の中で『』で表示されてる時は、日本語以外で話していると思って下さい。

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「わかったでしょ?サマンサとキャリーのエロトークの中に難しい単語は1コも無いわ」

 

 英語の授業中、ビッチ先生が海外ドラマを見せたながらそう言った。てかあれ、中学生が見るドラマじゃねえんじゃ・・・

 

「周りに1人はいるでしょう?「マジすげぇ」とか「マジやべぇ」だけで会話を成立させる奴」

 

そこまで言った後木村を指差し、

 

「その「マジで」にあたるのがご存知『really(リアリー)』。木村、言ってみなさい」

「・・・リ、リアリー」

「はいダメー。LとRがゴチャゴチャよ」

 

指で×を作りながらビッチ先生はそう言った。結構発音って難しいな・・・

 

「LとRは発音の区別つくようになっときなさい。外人(わたし)としては通じはするけど違和感あるわ。言語同士で相性の悪い発音は必ずあるわ。相性が悪いものは逃げずに克服する!!これから先、発音は常にチェックするから」

(・・・でも、聞いてて飽きねえな、ビッチ先生の授業は)

 

大分教師が板についてきたビッチ先生に俺はそう思った。良い先生になってきたな。

 

「LとRを間違えたら・・・公開ディープキスの刑よ」

(・・・ディープキスさえしなければ)

 

最後に余計な一言を言ったせいで、微妙に好感度は下がったが。

 

「ふわぁ・・・」

「ちょっと威月。アンタちゃんと聞いてるんでしょうね?アンタ言ってみなさい」

 

そんな中、威月が欠伸を漏らし、ビッチ先生が同じように指差しながらそう言った。

 

「ハ?・・・『really』」

「あら、アンタ上手いわね」

 

威月の発音にビッチ先生が意外そうに言った。ホント威月は英語上手だな。

 

「外国語は得意なんで。他にも何ヶ国かは話せるっすよ」

「凄いわね。じゃあご褒美に私がディープキスを」

『殺すぞ、くそビッチ』

『な!?アンタ言っていいことと悪いことがあるわよ!?』

 

ビッチ先生が何かを言いながら威月に食って掛かった。英語だから何言ってるかはちょっと分からなかったが、

 

「「・・・・・」」

 

太陽とカルマが笑いを堪えてるのを見て、碌な事言ってないのが分かった。

 

 

 

「しっかし卑猥だな、あの人の授業は・・・下ネタも多いし」

「でも、潜入暗殺が専門だから話術も上手いし、経験談も聞いてて飽きないよ」

 

 放課後・・・校舎から出たところで杉野が呟き、渚がそう返した。確かに経験豊富だなあの人は。

 

「・・・正解してもしなくてもディープキスするのはやめてほしいけどね」

「ああ・・・ほぼ痴女だよな、あの先生」

 

登志の苦笑いを浮かべながらの言葉に俺はそう返した。太陽と威月は力ずくで防いでいたがな・・・

 

すると、杉野が思い出したように俺達に聞いてきた。

 

「てか、威月ってすげえ英語上手いよな。あれって何でだ?」

「両親が英語得意で教えてもらったりしてたんだってよ。小さい頃はよく海外に行ってたらしい」

「へえ~・・・」

 

今この場には渚に杉野、登志と俺しかいない。2人は先に帰ったみたいだった。

 

「ま、威月に聞いてくれ。・・・あれ?」

「? どうしたの、大賀?」

 

そう言って何気なく鞄を探った俺の呟きに、登志が聞き返してきた。

 

「わりい、教科書忘れた。取ってくるわ」

「じゃあ、待ってようか?」

「いや、いいよ。皆は帰っといてくれ、じゃあな」

 

そう言って、俺は1人で校舎へと向かった。もう10分は歩いてるし、待たすのも悪いしな。

 

 

 

「お、あったあった」

 

 教室の自分の机の中から目当ての教科書を見つけ、鞄の中へとしまった。

 

「見つかった?」

「あれ、登志?」

 

すると、突然そう声をかけられ入り口を見ると、そこには登志が立っていた。何でいるんだ?

 

「僕だけ戻ってきたんだ。2人にはもう帰ってもらったよ」

「そうか、サンキューな」

 

そう言って俺は入口へと向かった。太陽も威月も帰ってるだろうし、急がねえとな。

 

「?」

「どうした、登志?」

 

その時、登志が横を向きながら?を浮かべた。

 

「今、見た事ない人が空き教室に入っていったんだ」

(見た事ない奴?誰だ?)

 

その言葉に疑問に思った俺と登志は教室に向かい、扉のガラスから教室を見た。

 

「(スッ)!?」

 

そこから見えたのは、ワイヤーの様な物で首を絞められながら吊されているビッチ先生と、その前で腕を後ろで組んでいる男の後ろ姿だった。

 

ガラッ! 「何してんだテメエ!?」

「む?」

 

それを見た俺は、迷わず扉を開け放ち男に突進した。そんな俺に男はそう言いながら振り返った。

 

腹肉(フランシェ)シュート!!」

 

俺はそう叫びながら男の腹に蹴りを喰らわせようとした。

 

タンッ! 「何!?」

 

しかし、男は上に跳んで蹴りを躱した。今のを躱しただと!?

 

「!!」

「飛天御剣流 龍槌閃(りゅうついせん)!!」

 

しかし、無防備になった瞬間すかさず登志が跳躍し、竹刀を引き抜きながら男の頭に振り抜いた。

 

スカッ! 「えっ!?」

 

だが、登志のその一撃も男は体勢を横にしながら躱した。

 

(バカな!?いくら竹刀とはいえ、登志の飛天御剣流を躱すなんて!?)

「登志下がれ!この人半端ねえぞ!!」

 

俺の言葉に登志もそう思っていたみたいだった。一瞬で俺らは男から距離をとって次の手を考えた。

 

「よせ、2人とも。『何してる。下ろせ、女に仕掛ける技じゃないだろう』」

「! 烏間先生」

 

その時、背後から烏間先生がそう言いながら入ってきて、男に英語で話しかけた。

 

『・・・問題ない、ワイヤ-に対する防御くらいは教えてある』

 

男は何かを言いながらワイヤーを切った。英語でもない言葉だから俺には内容は分からなかったが、とりあえず俺達はビッチ先生に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?ビッチ先生」

「・・・えぇ、大丈夫よ」

 

登志の言葉にビッチ先生はそう返した。よかった・・・

 

『何者だ?せめて英語だと助かるんだが』

「・・・これは失礼、日本語で大丈夫だ。別に怪しい者ではない」

 

烏間先生が何か言ったと思ったら、男は日本語でそう喋った。助かった・・・けど、何者なんだこの人?

 

「イリーナ・イェラビッチをこの国に斡旋した者・・・と言えばお分かりだろうか」

「? 誰ですか、烏間先生?」

「"殺し屋屋"ロブロだ」

 

登志の問いに、烏間先生はそう答えた。殺し屋屋?

 

「腕ききの暗殺者と知られていたが、今は引退して後進の暗殺者を育て、その斡旋で財を成しているらしい」

(元殺し屋か・・・なら俺らの攻撃を躱したのも納得だな)

 

それぐらい手練れの人じゃなきゃ、俺らの連携が当たらないなんてありえないしな。

 

「・・・先程は僕と大賀がすみません。でも、そんな人が何でここに?」

「いや、構わない。"殺せんせー"は今どこに?」

「奴なら上海まで杏仁豆腐を食いに行った。30分前に出たから、もうじき戻るだろう」

「フ・・・聞いてた通りの怪物のようだ」

 

烏間先生の言葉にロブロさんは笑いながらそう言って、ビッチ先生の方を向き、

 

「今日限りで撤収しろ、イリーナ。この仕事はおまえじゃ無理だ」

「「!?」」

「ずいぶん簡単に決めるな。彼女はあんたが推薦したんだろう」

 

あまりにも突然の宣言に俺と登志は言葉を失ったが、烏間先生は冷静にそう言った。

 

「状況が大きく変わっていたからな。正体を隠した潜入暗殺ならこいつの才能は比類ない。だが、一度素性が割れてしまえば、普通の殺し屋以下だ。あげくのはてに教師のマネゴト、こんな事をさせるためにお前に技術を教えたわけじゃないぞ」

「・・・そんな、必ず殺れます師匠(センセイ)!!私の力なら・・・」

「ほう、ならば」

 

ビッチ先生の言葉にそう返しながらロブロさんは動き出そうとした。

 

シュバッ!!! 「・・・?」

 

しかし、俺と登志がそれぞれ足と竹刀を突きつけた事でロブロさんは動きを止めた。

 

「・・・何しようとしてるかは分かりませんが、ビッチ先生にまた何かするなら俺らも手加減はしませんよ?」

「貴方にとってビッチ先生がどういう人なのかは知りませんが、このクラスにとって大切な存在です。それを奪うなら、僕も本気でいきます」

「フ・・・良い目だな、俺の部下に欲しいくらいだ」

 

俺らの言葉に、ロブロさんは笑みを浮かべながらそう言った。

 

「しかし、」とビッチ先生に向き直りながら、ロブロさんは質問をした。

 

「今、お前に俺の動きや2人の動きが分かったか?」

「そ、それは・・・」

「この2人はお前よりも遙かに強い。この2人だけが強いのかは知らんが、お前よりも強い暗殺者がいる以上この仕事に執着するのは金と時間の無駄だ」

 

そう言いながらビッチ先生に近づき、ロブロさんは話を続けた。

 

「ここの仕事(コロシ)は適任者に任せろ。2人の転校生暗殺者の残り1人が・・・実践テストで驚異的な能力を示し、投入準備を終えたそうだ」

(! 律みたいな転校生がもう1人いるのか?)

 

ロブロさんの言葉が気になったが、口には出さなかった。今はそんな事どうでもいいしな。

 

「さっきおまえは発音について教えていたが、教室(ここ)こそがおまえにとって・・・LとRじゃないのかね」

「半分正しく、半分は違いますねぇ」

「! 殺せんせー」

 

すると、ロブロさんの言葉にそう返しながら、顔に半分ずつ○と×を浮かべた殺せんせーが現れた。

 

「何しに来た、ウルトラクイズ」

「ひどい呼び方ですねぇ。いい加減殺せんせーと呼んで下さい」

 

烏間先生の言葉にそう返した後、殺せんせーは2人に向き直り、

 

「確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません。クソです」

「誰がクソだ!!」

 

何気に酷いなぁ、殺せんせー・・・

 

「ですが、彼女という暗殺者こそ、この教室に適任です」

 

そう言いながら2人を指差し、

 

「殺し比べてみればわかりますよ。彼女とあなた、どちらが優れた暗殺者か」

(今度は何企んでるんだ、殺せんせー?)

 

そう言った殺せんせーに、俺は心の中でそう思った。




いかがだったでしょうか。

ロブロさんって原作では、あまり強そうではなかったですが、多分これくらいは出来るだろうと思いながら書きました。

ちなみに登志が使用した龍槌閃は跳躍して相手の頭に叩き込む技ですが、教室内で使用できるかは触れないで下さい(笑)

次回は2人の勝負です。はたして、ビッチ先生はE組に残留することが出来るのか。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十時間目 克服の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は二人の対決です。
はたしてビッチ先生はE組に残留することが出来るのか?

それと、今回後書きで報告があります。目を通してくれたら嬉しいです。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「先生、あれ・・・」

「気にするな、続けてくれ」

 

 ナイフ術の訓練の時間中、陽菜乃がそう言いながらナイフである場所を指し、烏間先生がそう返していた。

 

そこには、ビッチ先生とロブロさん(名前は大賀から聞いた)それに、忍者の格好をした殺せんせーがこちらを伺っていた。

 

「・・・ホントに2人が話していた通りだな」

「ああ、そうみてえだな」

 

横の威月にそう返しながら、昨日の大賀と登志からの話を思い出していた。

 

何でもロブロさんはビッチ先生の師匠で、ビッチ先生をE組から出て行かせようとして、殺せんせーがビッチ先生にE組で暗殺(しごと)を続けるのを認めさせる為に、2人に模擬暗殺をさせてるらしい。

 

(ルールは烏間先生に先に対先生(人には無害な)ナイフを当てた方が勝ちってルールらしいが・・・ビッチ先生に勝てる要素あんのか?)

「威月はどっちが勝つと思う?」

 

そう聞くと、威月は訓練をしている大賀や登志に目を向けた。

 

「昨日の話じゃロブロさんは本気じゃなかったとはいえ、大賀と登志の攻撃を躱す程の実力者だろ。真っ向勝負じゃビッチ先生に勝ち目ねえだろ」

「だよな・・・得意の色仕掛けも烏間先生には通じねえだろうし、どうやって殺る気なんだろうな?」

 

そんな事を話し合ってると烏間先生が終了の合図を出し、訓練の時間は終わった。すると、

 

「カラスマ先生~、おつかれさまでしたぁ~。ノド渇いたでしょ。ハイ、冷たい飲み物!!」

((下手くそか!!))

 

水筒のコップを差し出しながらのそんな言葉に、俺と威月は同時に心の中でツッコミをいれた。いくら何でもそれはねえだろビッチ先生・・・

 

当然、そんな罠が烏間先生に通じる筈も無く・・・

 

「(ハァ・・・)おおかた筋弛緩剤だな、動けなくしてナイフを当てる。(ギクッ)・・・言っておくが、そもそも受けとる間合いまで近寄らせないぞ」

(もう「ギクッ」って音が聞こえるよ・・・)

 

そう思ってると、ビッチ先生がコップを地面に置こうとして転び、磯貝と三村が起こしていた。

 

「ありゃ、無理だな」

「ああ、無理だ」

「無理だね、残念だけど・・・」

 

その光景を見て、3人はそう言った。気持ちは分かるが、もう少し期待しようぜ・・・

 

 

 

休み時間・・・

 

ガラッ 「失礼しまーす」

 

 訓練が終わった後、日直の俺は次の授業のノートを取りに職員室に来ていた。

 

「ご苦労さまです、太陽君。では、これをお願いします」

「分かりました」 (チラッ)

 

そう言いながら横を見た。そこには、パソコンに向かっている烏間先生と、それを無言で見つめるビッチ先生がいた。

 

(皆、応援してるんですから。頑張って下さいよ、ビッチ先「ガラッ!!」! 正面から!?)

 

突然扉から入ってきたロブロさんに俺は驚きながらも、烏間先生を見た。

 

「くっ(ガゴッ)!」

(椅子に細工をしたのか!?) 「烏間先生!!」

 

とっさに立とうといた烏間先生の椅子が止まったたのを見て、俺はそう予想して声を上げた。

 

その間もロブロさんは近づき烏間先生にナイフを当てようとした。

 

バンッ!! ボッ!! 「・・・!!」

 

しかし次の瞬間、烏間先生は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(速え・・・しかもあんな体勢から・・・)

 

目の前の光景に驚いていると、床に落ちたナイフを拾い上げながら烏間先生は口を開いた。

 

「熟練とはいえ年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間を、ずいぶん簡単に殺せると思ったもんだな」

 

そこまで言った後、ナイフを殺せんせーに向け、

 

「分かってるだろうな。もしも今日殺れなかったら・・・楽しみだな」

 

不敵な笑みを浮かべながらそう言い残して、烏間先生は職員室を出て行った。

 

(・・・ロブロさんでも無理なのか。てか、何で烏間先生あんなやる気満々なんだ?)

 

そう考えていると、手袋を外しながらロブロさんは苦々しい笑いを浮かべながら呟いた。

 

「・・・フッ、相手の戦力を見誤った上にこの体たらく。歳はとりたくないもんだ」

(手首が青くなってる・・・捻挫だな。あれじゃあもう無理だな)

「これでは・・・今日中にはあの男は殺れないな」

「にゅやッ!?そんな、諦めないでロブロさん!!まだまだチャンスはありますよ!!」

 

俺の予想通りの言葉を言ったロブロさんに、一瞬でチアリーダーの格好になった殺せんせーが焦りながらロブロさんの肩を揉みながらそう檄を飛ばした。てか、何で殺せんせーがあんなに焦ってるんだ?

 

「例えば殺せんせー。これだけ密着していても、俺ではおまえを殺せない。それは経験からわかるものだ。戦力差を見極め・・・引く時は素直に引くのも優れた殺し屋の条件なのだ。殺る前にわかる、イリーナにあの男を殺すのは不可能だ。どうやら、この勝負引き分けだな」

「・・・そうですか、あなたが諦めたのは分かりました」

 

話を聞いた後、殺せんせーはそう言いながらビッチ先生の肩に手を置いて話を続けた。

 

「ですが、あれこれ予測する前に・・・イリーナ先生を最後まで見て下さい。経験があろうが無かろうが、結局は殺せた者が優れた殺し屋なんですから」

「フン・・・好きにするがいい」

 

そう言い残してロブロさんは職員室を出て行き、職員室は再び静寂に包まれた。

 

「・・・アンタは本気で思ってるわけ?私がカラスマにナイフを当てれるって」

「もちろんです。あなたが師匠のもとで何を教わったかは知りません。ですが・・・教室(ここ)で何を頑張って来たかは、よく知ってます」

 

そう言うと殺せんせーは床に落ちたナイフを拾い上げ(もちろん紙で挟みながら)、ビッチ先生に差し出し、

 

「あなたの力を見せてあげて下さい。烏間先生に師匠に、何より生徒達に」

「俺も信じます、ビッチ先生。頑張って下さい!」

「・・・フン!!」

 

殺せんせーと俺の言葉に、ビッチ先生はそう返しながらナイフを受け取った。

 

 

 

昼休み・・・

 

パチッ 「・・・お、見ろ太陽」

パチッ 「! 殺る気だな、ビッチ先生」

 

 今日の昼食のおにぎりを食べながら威月と将棋を指していると、威月が外を見ながらそう言った。

 

見ると、外で木にもたれながら昼食を食べている烏間先生に、ナイフを持ちながら近づくビッチ先生の姿があった。

 

遠いから流石に声は聞こえないが、烏間先生に何か話しかけているビッチ先生を見ながら三人は話し出した。

 

「正面から行く気かな?ビッチ先生・・・」

「でも、素人ならともかく烏間先生に戦闘じゃ勝てるはずがない・・・」

「だから結局・・・色仕掛けになる。でも、それじゃ烏間先生は殺れねえ」

 

上着を脱ぎだしたビッチ先生に、予想通りと言わんばかりの顔で威月がそう言った。

 

「あれじゃ、烏間先生がナイフ奪って終わりだな。やっぱビッチ先生じゃこの程度が限界か・・・」

「・・・いや、そうでもねえよ。ビッチ先生なら殺れるさ」

「? お前やけにビッチ先生の肩を持つんだな。何でそう言い切れるんだ?」

 

烏間先生がもたれかかっている木の後ろに回ったビッチ先生を見てそう言った威月に俺はそう返し、威月が訝しがりながら聞いてきた。

 

「・・・さっき、殺せんせーがビッチ先生の努力を教えてくれたからな」

「は?努力?」

「・・・この前の授業の時間、ビッチ先生言ってたよな。()()()()()()()()()()()()()()()()。現にビッチ先生って日本語めちゃめちゃ上手だろ?」

「確かに上手いけど、それがどうかしたの?」

 

俺の言葉に登志が肯定しながらも、聞いてきた。

 

「外国語を覚えるのは挑戦と克服の繰り返し、そう殺せんせーは教えてくれた。そんな挑戦と克服のエキスパートのビッチ先生のE組に来てからの努力の内容を知ったら、殺れないなんて思わねえよ」

 

俺はそう言った後、笑みを浮かべながら3人にこう言った。

 

「現に、今の間合いはビッチ先生の間合いだぜ」

ビンッ!! 「何っ!?」

 

次の瞬間、烏間先生がビッチ先生の脱ぎ捨てた上着によって、足を掬われたのを見て威月が驚いた声を上げた。

 

よく見ると、上着にはワイヤーが通してあり、烏間先生の後ろに回ったのも木でカモフラージュするためだった。

 

咄嗟に体勢を立て直そうとした烏間先生だが、それよりも早くビッチ先生が上に乗った。

 

「すごい!!烏間先生の上を取った!!」

「やるじゃん、ビッチ先生!!」

 

その光景を見て登志が叫び、皆が同意する中、威月に話しかけた。

 

「ビッチ先生は殺せんせーを殺すのに必要な技術を考えて、挑戦と克服をしてるんだって。あのワイヤートラップを見ても、努力が分かるだろ?」

 

そう話してるとビッチ先生は烏間先生にナイフを叩きつけた。しかし・・・

 

「! 駄目だ、止められた!!」

「力勝負じゃ、ビッチ先生に勝ち目無いよ!!」

 

当たる寸前でナイフを受け止めた烏間先生を見て、大賀と登志がそう声を上げた。すると・・・

 

「・・・ん?何か烏間先生呆れてるぞ?」

「ホントだ。・・・あ!?手を離したからナイフが体に当たった!!」

 

その言葉通り、烏間先生の体にはビッチ先生の握ったナイフが当たっていた。

 

「すげぇ!!」

「ビッチ先生残留決定だ!!」

 

皆がそう言う中、威月が苦笑いを浮かべながら俺に話しかけてきた。

 

「・・・おそらく殺させてくれとかそんなこと言ったんだろうな。そんな暗殺者見たことねえけどな」

「確かにな。でも、苦手なものでも逃げずに克服するあの姿を見て、俺達が挑戦を学べば、暗殺者としてのレベルの向上に繋がる。だから、E組にビッチ先生は必要なんだってよ」

「・・・なるほどな」

 

笑いながらの俺の言葉に、威月はそう言って笑みを浮かべた。

 

(卑猥で傲慢だが、真っすぐなビッチ先生は俺達E組の英語教師だ)

 

大喜びしているビッチ先生を見て、俺は素直にそう思った。

 

 

 

放課後・・・

 

「・・・おい、なんだあの甲冑は?」

「にゅや・・・万が一の一秒間のために備えをと・・・」

 

 ノートを提出しにきた俺は、殺せんせーの形をした甲冑の前でそんなやりとりをする2人を見て、何で烏間先生があんなにやる気満々だったのか分かった気がした。てか、あんなの作ってっから給料日前は金欠なんだよ・・・




いかがだったでしょうか。

何故かビッチ先生って書くのが難しいですね・・・嫌いなキャラでは無いんですけどね。

次回はいよいよもう1人の転校生がやって来ます。大半は原作通りですが、微妙に4人に戦わせるつもりです。

そして報告ですが、投稿ペースをしばらく1週間に一話程度にします。
詳しい理由は活動報告に書きたいと思います。まあ、たいした理由では無いんですけどね(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十一時間目 転校生の時間・二時間目

皆さんどうも籠野球です。

しばらくの間は、毎週日曜日に投稿したいと思います。
今回はいよいよあの転校生がE組にやってきます。
タイトルはいいのが思いつかなかったです。
申し訳ありませんm(_ _)m

それにしても・・・モン○ンといい、小説といい、影分身が使えたらいいのにな・・・

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

ザアァァァ・・・

 

「さて皆さん、今日烏間先生から転校生が来ると聞いていますね?」

「あー、うん。まぁぶっちゃけ殺し屋だろうね」

(ハァ・・・今日も雨か・・・)

 

 殺せんせーと前原のやりとりをボンヤリと聞きながら、俺は内心ため息をついた。

 

(・・・ホント、早く梅雨過ぎねえかな)

「律さんの時は痛い目を見ましたからね。先生も今回は油断しませんよ」

「そーいや律、何か聞いてないの?同じ転校生仲間として」

「はい、少しだけ」

 

原の質問にそう返した後、律は話し出した。

 

「元々は私が遠距離射撃、彼が肉迫攻撃と2人が連携して殺せんせーを追いつめる予定でしたが、2つの理由で同時投入はキャンセルされました」

「何で実行されなかったんですか?」

「2つは彼の調整に時間がかかったから。もう1つは、私が彼より圧倒的に劣っていたから」

(・・・大賀から聞いた話じゃ、ロブロさんもそんな事を言っていたらしいな。殺せんせーの指を飛ばした律より強いって、どんだけ強いんだ?)

 

登志の質問に答えた律の話に皆が唖然としたその時だった。

 

ガラッ ぬっ・・・

(・・・何だ、コイツ?)

 

その時教室の扉が開き、全身真っ白な格好をした奴が入ってきて、思わず身構えていると。

 

スウ・・・ びくっ・・・

ポン びくっ!!

(・・・何なんだ、コイツ?)

 

突然右腕を上げ、鳩を出したコイツに俺はますます拍子抜けしてしまった。てか、皆も分かりやすく動揺するなよ・・・

 

「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ。私は保護者・・・シロとでも呼んでくれ」

(フー・・・とりあえず、いきなり攻撃してきたりとかは無いようだな)

 

笑顔で懐に鳩をしまいながらそう名乗ったシロにとりあえず安堵しながら、何気なく天井の端っこを見た。

 

「・・・」

 

そこには、液状になった殺せんせーが無言で張り付いていた。どんだけビビってんだよ!?

 

「奥の手の液状化まで使うってどんだけビビってんだよ!?殺せんせー!!」

「い、いや・・・律さんがおっかない話するもので」

(へー・・・液状化するのは聞いてたけど、あんな風になるのか)

 

てか、ホントにビビりだよなー・・・そう思っていると、殺せんせーは元の姿に戻りながらシロに話しかけた。

 

「初めまして、シロさん。それで、肝心の転校生は?」

「初めまして、殺せんせー。ちょっと性格とかが特殊な子でね。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」

 

羊羹を差し出しながらシロはそう言った後、渚の方を向いて何かに気づいた様子だった。何だ?

 

「何か?」

「いや、皆良い子そうですなぁ。これなら、あの子も馴染みやすそうだ」

 

殺せんせーの質問にそう返した後、シロは俺を指差しながら、

 

「席はあの子の後ろでよろしいですか?殺せんせー」

「ええ、構いません」

「では紹介します。おーいイトナ!!入っておいで!!」

 

シロのそんな言葉に、クラス全員が再び扉に視線を向けた。さあ、どんな奴だ・・・

 

「・・・!!後ろだ、太陽!!」

「!?」 バッ!!

 

その時、登志がいきなりそう叫び、俺は反射的に後ろを振り返りながら防御の構えをとった。

 

ドゴッ!! スッ

((((いや、何でそこから!?))))

 

次の瞬間、後ろの壁を壊しながら男子が入ってきて椅子に座った。何事も無かったかの様に座る転校生に、全員がツッコんだ。

 

「俺は・・・勝った。この教室のカベよりも強い事が証明された。それだけでいい・・・それだけでいい・・・」

(・・・何か面倒臭い奴が来やがったな。殺せんせーも変な顔になってるし・・・)

 

そう言いながら頷いている転校生や、それを見て殺せんせーが笑顔でも真顔でもない中途半端な顔になる中、シロが転校生を紹介し始めた。

 

「堀部 イトナだ。名前で呼んであげて下さい。ああそれと、私も少々過保護でね。しばらく彼の事を見守らせてもらいますよ」

(随分変わった2人だな。また一波乱ありそう「ザアァァァ・・・」! ちょっと待て。コイツ・・・)

 

そう考えていた途中、外から聞こえてきた雨の音で俺は新たな疑問が浮かび上がってきた。

 

その時、同じ疑問をカルマが聞いた。

 

「ねえ、イトナ君。ちょっと気になったんだけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

そうなのだ。イトナは傘どころから何も持っていない。なのにコイツは水滴一つ服についてないのだ、そりゃあおかしいに決まってる。

 

「・・・」

 

しかし、イトナはその問いを無視して辺りを見渡し、俺ら4人を見た後俺を見ながら話し出した。

 

「・・・おまえ達は多分このクラスの中でも群を抜いて強い。けど安心しろ」

 

そう言った後、俺の頭を撫で、

 

「俺より弱いから・・・俺はおまえ達を殺さない」

「・・・あぁ?」

 

その言葉に威月は若干キレた様子だった。やべえな・・・

 

ガタッ 「言ってくれるなテメエ。俺がお前より弱えだと?」

 

椅子から立ち上がりながら、そう話しかけた威月をうっとうしそうな顔でイトナは見た。

 

「やるまでもなく分かる。おまえでは俺には勝てない。簡単に殺せる」

「言ってくれるじゃねえか・・・殺せんせーよりも先にテメエから殺してやろうか?」

「ちょっ!?威月抑えて!!」

 

ゴキッと右手を鳴らしながらそう言った威月を、登志が慌てながら止めた。威月が出した本気の殺気に、クラスの殆どがビビっているしな。

 

「気持ちは分かるが、やめとけ威月。ホントに人殺しになる気か?」

「・・・チッ」

 

俺の言葉に威月は、苛つきながらもなんとか矛を納めた。

 

そんな中イトナは教室の前に歩きながら話し出した。

 

「俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、アンタだけだ」

「ケンカの事ですか、イトナ君?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

 

羊羹を食べながらそう言った殺せんせーに、イトナは同じく羊羹を出しながら答えた。

 

「立てるさ。だって俺達、血を分けた兄弟なんだから」

「「「「!? 兄弟ィ!?」」」」

 

その衝撃のカミングアウトにクラス全員が口を揃えてそう叫んだ。

 

(・・・またややこしくなってきたな。やっぱり一波乱あるなこりゃ・・・)

 

そんな中、俺はそう思いながらため息をついた。

 

 

 

「まさか兄弟なんてな。てか本当なのか?」

「どうなんだろ・・・油断させる作戦かもしれないよ」

「まあ、放課後になりゃ分かるだろ」

 

 昼休み・・・俺らは空き教室で弁当を食いながらイトナについて話し合っていた。ちなみにわざわざ空き教室に来た理由は、威月がイトナと一緒の場所にいるのを嫌ったからだ。普段は冷静だが、キレたら1番ヤバいのが威月だからな。

 

「てか、大丈夫か威月?殴りかかったりとかしねえよな」

「ああ、もう大丈夫だ。悪かったな、お前ら」

 

一応威月に確認してみたが、笑いながらそう返した。まあ、本人がそう言ってるしとりあえずは一安心だな。

 

「イトナの話が仮に本当だとしたら、殺せんせーが何も知らないのは何でなんだろうだ?」

「ありがちなのは、幼い頃に生き別れたとかだけど・・・」

「片方が超生物の時点で、どんな想定も通用しねえよ・・・」

 

威月のその言葉に俺達は頷いた。突然変異とか言われても100%無いとは言い切れないからな・・・

 

「どっちにしろ、兄弟の事を語るなら、殺せんせーの過去も少しは分かってくるんじゃねえか?」

「・・・そうだな、イトナが放課後何を見せてくれるか。逆に楽しみになってきたよ」

 

そんな威月と俺のやりとりで会話が締めくくられた。

 

その後、E組全員に心配させたことを威月が謝ったり、2人の類似点を探したりしながら、俺達は放課後がくるのを待った―――――

 

 

 

 放課後・・・教室の真ん中に机のリングを作り、その中で殺せんせーとイトナが向かい合っていた。

 

(まるで試合だな・・・)

 

その異様な光景にそう考えていると、上着を脱いだイトナの肩に手を置きながらシロは話し出した。

 

「殺せんせー、1つルールを決めないかい。リングの外に足が着いたらその場で死刑!!どうかな?」

(なるほど・・・俺達生徒の前で決めたルールは、守らなければ()()()()()の信用が落ちる。単純だが、殺せんせーには有効な手だ)

 

そう考えていると、殺せんせーは予想通りの言葉を返した。

 

「・・・いいでしょう。ただしイトナ君、観客に被害を与えた場合も負けですよ」

「・・・」 コクッ

「では合図で始めようか」

 

イトナが頷いたのを確認すると、シロはそう言いながら右手を挙げ、

 

「暗殺・・・開始!!」

 

そう言いながら手を振り下ろした。

 

 

 

 

 

ザンッ

「なっ!?」

 

 次の瞬間、殺せんせーの左腕が切断され俺はおもわずそんな声を上げた。

 

ただし、それは斬られた左腕にではなく、切り落とした得物を見てだった。今も自由に動いている()()()()()()()生えたそれは、

 

「「「触手!?」」」

「なるほどな・・・そりゃ濡れるはずがねえわ」

 

皆の声の後、威月が呟く様にそう言った。触手で弾けりゃ傘なんて要らねえからな。

 

「・・・こだ」

ぞくっ!!

 

その時、殺せんせーが黒く染まりながらそう呟き、俺は背筋が凍った。殺せんせーの出す殺気は、さっきの威月とは桁が違った。

 

「どこでそれを手に入れたッ!!その触手を!!」

「君に言う義理は無いね、殺せんせー。だがこれで納得したろう。両親も育ちも違う。だが・・・この子と君は兄弟だ」

「・・・どうやら、あなたにも話を聞かなきゃいけないようだ」

 

どこ吹く風で返すシロに左腕を生やしながらそう言った殺せんせーに、左手の袖を見せながらシロは言った。

 

「聞けないよ、何故なら君はここで死ぬからね」

カッ 「!?」

 

次の瞬間、シロの左袖から出た光を浴びた殺せんせーが、固まったかの様に一瞬動きを止めた。何だあの光!?

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイラタント挙動を起こし、一瞬全身が硬直する」

 

そう説明しながら、シロは右手の親指を下に向けた。

 

「全部知っているんだよ。君の弱点は全部ね」

「死ね、兄さん」

 

そんなイトナの言葉の後、殺せんせーは全身を貫かれた―――




いかがだったでしょうか。

次回はイトナVS殺せんせーですが、少しだけ4人がちょっかいを出します。また、4人が使える技も少し使用します(これも有名な技ですが・・・)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十二時間目 絆の時間

皆さんどうも籠野球です。

何とか間に合いました。ストックあってホントによかった・・・

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

ヒュッ ドドドドド!!

 

 殺せんせーを突き刺した後も、イトナはトドメと言わんばかりに触手を連続で刺していった。

 

「うっ・・・うおおっ・・・」

「殺ったか!?」

 

クラス皆が目の前の光景におもわずそんな声を上げた後、村松がそう言った。

 

「・・・いや、上だ」

 

しかし、寺坂はそう言いながら上の蛍光灯にしがみつきながら、荒い呼吸をしている殺せんせーを見た。

 

「脱皮か・・・そういえばそんな手もあったっけか」

 

確か月1のとっておきの脱皮をもう使わせるとはな・・・

 

「でもね、殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知っているよ」

ブワッ!! 「にゅやッ」

 

シロがそう言った後、イトナが殺せんせーに向けて攻撃を再開した。

 

「脱皮は意外とエネルギーを消耗する。よって直後は、スピードも低下するのさ。それでも常人から見れば速い事に変わりはないが、触手同士の戦いではデカいよ。加えて最初の奇襲で腕を失い再生したね。再生(それ)も結構体力を使うんだ」

「ううっ」

 

シロの言葉を肯定するかの様に、さっきから殺せんせーは防戦一方だった。

 

「また、触手の扱いは精神状態に大きく左右される。今どちらが優勢か、生徒諸君にも一目瞭然だろうね」

(よく知ってやがる・・・)

 

俺も殺せんせーから冷静さを奪う作戦を立てたから、その効果はよく知っていた。

 

そう考えていると、シロは再び左袖を上げ、

 

「さらには、献身的な保護者のサポート」

カッ 「!!」

 

その言葉の後、再び光線が発射され、それを浴びた殺せんせーが固まった。

 

ザンッ!! 「!!」

 

その隙を見逃さずに、イトナが殺せんせーの足を切断した。

 

「フッフッフ。これで脚も再生しなければならないね」

「・・・安心した。兄さん、俺はおまえより強い」

 

シロは笑いながらそう言って、イトナは冷静にそう言った。

 

(・・・あれなら、もしかしたらホントに殺れるかもしれねえ。だが、)

 

俺はそう考えながら、周りを見た。

 

「「「・・・・・」」」

 

そこには、どこか悔しそうな表情で無言で立っている皆がいた。何を考えてるかは、何となく分かるけどな。

 

「で、どうすんだ、太陽?」

 

すると、威月がそう俺に話しかけてきた。見ると大賀と登志も俺らの近くに寄ってきている。

 

「あんなパッとでの奴らに殺されてもいいのか?」

「んなわけねえだろ。奴が殺したって、一銭にもならんしな。」

 

つーか、俺らが知らなかった情報で殺されるのは癪だしな。

 

「・・・脚の再生が終わったみたいだし、恐らく次で決めにいくだろうな」

「だな。どうする、太陽?」

「とりあえず、あの光線が厄介だ。殺せんせーの動きを止めれるからな」

「だが、もしあれがイトナにも効くなら・・・」

 

威月の言葉に俺は頷いた。効かなくても、怯むくらいにはなるだろう。

 

「大賀。シロさんをお願いしていい?」

「? いいけど、何するんだ?」

 

すると、登志が大賀にそう言って、大賀が了承しながらも聞き返した。

 

「触手を撃ち抜く」

「「「!!」」」

 

鞘に左手を当てながらのその言葉に俺らは驚いた。刀も届かないのにいけるのか!?

 

そんな俺らに笑みを浮かべながら、

 

「確かに刀は届かない。でも間合いの外からの攻撃は僕にも出来るからね。任せてよ」

「・・・分かった、任せろ!」

 

登志に頷くと、大賀は軽く深呼吸をした。そして・・・

 

「・・・(ソル)!!」

 

次の瞬間、()()()姿()()()()()

 

 

 

渚side

 

「脚の再生も終わったようだね。さ・・・次のラッシュに耐えられるかな?」

(っ・・・本当ならE組(ぼくら)が殺したかった!!)

 

 その言葉に僕はおもわずそう思ってしまった。本当なら弱点(それ)は、僕等がこの教室で見つけていく筈だったからだ。

 

「何をしようとも、私の性能計算は完璧だ。殺れ、イトナ」

 

その言葉の後、イトナ君が殺せんせーの上に跳躍し、シロは再び左袖を殺せんせーに向けて、圧力光線を照射しようとした。

 

ガッ!! 「何!?」

「えっ!?」

 

次の瞬間、九澄がシロの横に現れ、シロの左手を上に向けて蹴り上げた。九澄は太陽達と一緒に僕の近くにいたのに!?

 

カッ 「うっ!!」

ブオンッ!!

 

蹴り上げた左手のせいで圧力光線を浴びたイトナ君は、そんな声を上げながらも殺せんせーに触手を突き立てようとした。

 

ビュン!! 「なっ!?」

「にゅやッ!?」

 

しかし突然何かの物体がイトナ君と殺せんせーめがけて飛んでいき、イトナ君の触手を斬った。

 

「ちょっ、登志君!?今どさくさに紛れて先生も狙いませんでした!?」

「あ、バレちゃいましたか?」

 

殺せんせーの声に反応して伊勢を見てみると、刀型対殺せんせーナイフの鞘に左手を添えながら、左半身を前に突き出した体勢のまま笑う伊勢の姿があった。ということは、さっきの物体は伊勢の刀だろう。

 

「・・・おまえ、何をする」

 

すると、イトナ君は怒った様子で伊勢に話しかけた。そんな声に伊勢はスッと顔を真面目な顔にして、イトナ君に話し始めた。

 

「「飛天御剣流 飛龍閃(ひりゅうせん)。」確かに僕はイトナ君みたいに触手は持ってないし弱いかもしれないけど、一瞬動きの止まった君の触手を撃ち抜くくらい僕には簡単だよ」

「・・・この戦いの後、おまえも殺して(バサッ)!!」

「おいおい、転校生。ターゲットの前でよそ見とは随分余裕だな」

 

イトナ君の言葉は殺せんせーが自分の脱皮した皮膚で包んだ事で遮られ、それを見ていた太陽は笑みを浮かべながらそう言った。

 

必死にもがくイトナ君だが、触手のないイトナ君では破ることは出来なかった。

 

「同じ触手なら・・・対先生ナイフが効くのも同じ。触手を失うと動揺するのも同じです」

 

そこまで言った後、殺せんせーは勢いをつけながら、

 

「でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です。」

ブン!! ガシャアァァァン!!

 

そう言ってイトナ君を外へと放り投げた。窓ガラスを割って外を何回かバウンドした後、イトナ君は止まった。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずです。ですが、君の足はリングの外に着いている」

 

そこまで言った後、殺せんせーは緑のしましま(舐めてる)になり、

 

「先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑、もう二度と先生を殺れませんねぇ」

ドクン 「負けた・・・俺が・・・弱い・・・?」

 

すると、そう呟いたイトナ君の触手が黒く染まり始めた。

 

「黒い触手!?」

「やべぇ、キレてんぞアイツ!!」

 

皆が口々にそう言う中、イトナ君は窓枠に跳び乗りながら、イトナ君は話し始めた。

 

「俺は強い。この触手で誰よりも強くなった。俺とおまえが1対1なら勝っていたはずだ」

「ハッ、笑わせるぜ」

 

すると、威月が鼻で笑いながらそう言って、イトナ君を含めて全員が威月を見た。今のイトナ君に余計なこと言ったら!?

 

「お前だってそこのシロ(保護者)にサポートされてたじゃねえか。俺らはお前らが先にやった事をやり返しただけだぜ。しかも、お前が弱いと言った奴らがな。殺せなかった負け犬は引っ込んでろよ」

「っ、殺す!!」

「待て、イトナ!!」

 

威月のその言葉がトドメだった。シロの制止も聞かずに、イトナ君は威月に突っ込んだ。

 

そして、イトナ君が威月の目の前に近づいたその時、

 

・・・鉄塊(テッカイ)

ドカカカッ!!

 

威月は何かを呟き、直後にイトナ君が触手を叩き込んだ。

 

「フッ・・・(シュッ)(ガシッ!!)なっ!?」

「「「!?」」」

 

すると、威月は何発も触手を喰らったにもかかわらず、何事もなかったかの様に右手でイトナ君の頭を鷲掴んだ。

 

メシメシッ「ぐああぁぁ・・・!」

「どうした転校生、俺より強いんじゃなかったのか?殺してみろよ、俺を。」

 

手を振り払おうとイトナ君はもがいていたが相当な力なのかそれは出来ず、くぐもった声を上げた。それを見ても、頭を握り潰すと言わんばかりに力を込めながら威月は話しかけていた。

 

恐怖をも感じる目の前の光景に、僕達は身動き1つ取れずにいると、

 

「止めろ威月!!殺す気か!?」

「いけません、威月君!!」

「・・・っ、すまねえ・・・」

 

太陽と殺せんせーの制止にようやく威月は手を離した。よかった・・・

 

いつの間にか触手も元の色に戻っているイトナ君は呻きながらも殺せんせーを見ながら、

 

「お、俺は誰よりも強・・・い・・」 ドサッ・・・

 

そう言いながら力尽きた。それを見たシロは殺せんせーにイトナ君を担ぎながらこう告げた。

 

「すいませんね、殺せんせー。どうもこの子は・・・まだ登校できる精神状態じゃなかったようだ。転校初日で何ですが・・・しばらく休学させてもらいます」

「待ちなさい!一度E組(ここ)に入ったからには、卒業するまで面倒を見ます。それにシロさん。あなたにも聞きたい事が山ほどある」

「いやだね、帰るよ。力ずく止めてみるかい?」

 

そんなやりとりの後、殺せんせーはシロの肩に手を掛けた。

 

しかし、先生の手は、触れた瞬間に溶けた。シロは服についた触手の残骸を払いながら

 

「対先生繊維。君は私に触手1本触れられない。心配せずともまたすぐに復学させるよ殺せんせー。責任もって私が・・・家庭教師を務めた上でね」

 

そう言い残して、イトナ君が開けた穴から出て行った。雨は、いつの間にかやんでいた。

 

 

 

太陽side

 

「すまなかった、皆」

「も、もういいって。誰も気にしてないからさ」

 

 シロ達が去ってから机を直した後、威月が皆の前で土下座していた。まあ、磯貝もそう言ってくれてるし、多分大丈夫だろう。それよりも・・・

 

「何で殺せんせーは顔を覆って照れてるんだ?」

「シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どっちかと言うとギャグキャラなのに」

「あ、自覚あるんだ」

「つかみ所のない天然キャラで売ってたのに、ああも真面目な顔を見せてはキャラが崩れる」

「自分のキャラの計算してんのが腹立つな・・・」

 

木村がそう返した後、ビッチ先生が切り出した。

 

「・・・でも、あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね」

「・・・ねぇ、殺せんせー。説明してよ、あの2人との関係を」

「あんなの見たら聞かずにいられないぜ」

「・・・仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ」

 

皆の声に、殺せんせーはそう言いながら立ち上がり、俺達は息をのんだ。

 

「実は先生・・・人工的に造り出された生物なんです!!」

「「「・・・」」」

 

ドォーン!!とでも聞こえそうな勢いで殺せんせーはそう言って、俺達は五秒程無言になった後、

 

「「「だよね。で?」」」

「にゅやッ!!これ結構衝撃告白じゃないですか!?」

 

そう聞き返した。俺達の反応の薄さに驚いた様子だったが、冷静に返した。

 

「・・・と言っても、自然界にマッハ20のタコなんていませんし」

「宇宙人じゃないならそれ位しか考えられねえよ」

「イトナが弟っていうのは、殺せんせーの後に造られたと想像出来る」

 

登志、威月、俺の順で言った言葉に皆頷き、殺せんせーは末恐ろしい物を見たような顔をした。これくらいは分かるっての・・・

 

すると、渚が殺せんせーに問いかけた。

 

「知りたいのは()()先だよ、殺せんせー。どうしてさっき、イトナ君の触手を見て怒ったの?殺せんせーはどういう理由で生まれてきて・・・何を思ってE組(ここ)に来たの?」

「・・・・・残念ですが、今それを話した所で無意味です」

 

長い沈黙の後、殺せんせーはそう切り出した。

 

「先生が地球を爆破すれば、皆さんが知ったことも、全て塵になりますからねぇ」

「「「「・・・!!」」」」

「逆に、もし君達が地球を救えば・・・いくらでも真実を知る機会を得る。・・・もう分かるでしょう、殺してみなさい。暗殺者(アサシン)暗殺対象(ターゲット)。それが先生と君達を結びつけた絆のはずです」

 

そこまで言って帰りの挨拶をした後、もう一度照れながら殺せんせーは教室を出て行った。

 

 

 

「・・・あれ?烏間先生、何ですか?それ」

「あぁ、新しい訓練設備だ」

 

 皆より一足先に校庭に出てきた俺ら4人は、部下の鶴田さん達と何かを造っている烏間先生を見つけた。今度はどんな訓練をするのかな?

 

「・・・そういえば、威月君。君はイトナ君に攻撃を受けていたが、傷1つ無いのか?」

「えぇ、まぁ」

 

威月の返しに烏間先生は少し考える素振りを見せた。

 

(烏間先生は防衛省の人間だし、もしかしたら大賀と威月が使った()()についても知ってるのかもな・・・)

「烏間先生!」

 

そう考えていると、後ろから磯貝の声がして、俺達は後ろを振り返った。そこには、E組の皆が歩いてくるのが見えた。

 

「どうした?大人数で」

「あの・・・もっと教えてくれませんか、暗殺の技術を」

「・・・?今以上にか?」

 

いきなりどうしたんだ?殺る気がさっきまでとは比べものにならんな。

 

「今までさ、"結局誰かが殺るんだろ"ってどっか他人事だったけど」

「今回のイトナ見てて思ったんだ。誰でもない、俺等の手で殺りたいって」

「今後、殺し屋に先越されたら俺等何のために頑張ってきたかわからなくなる」

「だから、限られた時間殺れる限り殺りたいんです、私達の担任を」

「殺して、自分達の手で答えを見つけたい」

 

最後に磯貝がそう言ってから、俺ら4人を見ながらこう付け加えた。

 

「・・・それに、あの戦いに横槍を入れられるくらい強い太陽達4人の背中に少しでも追いつきたいんです」

「皆・・・」

 

磯貝の言葉に皆が頷くのを見て、俺はおもわずそう呟いた。その言葉が素直に嬉しかった。

 

そんな俺達の様子を見て、烏間先生は笑みを浮かべながらこう言った。

 

・・・意識が1つ変わったな、いい目だ。では、希望者は放課後に追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ」

「「「「はい!!」」」」

「太陽君達はどうする?無理にとは言わんが、出来れば受けて欲しいが・・・」

 

その問いに対する俺ら4人の答えは決まっていた。だから、代表して俺が笑いながら答えた。

 

「毎日は流石に無理です。でも・・・やるに決まってますよ!!」

(イトナの正体、それに殺せんせーの正体・・・まだまだ、知らなければならないことも山ほどあるし、その為にも強くならないとな!!)

 

そう思いながら、俺は制服の上着を脱いだ―――

 

 

 

 

 

「では早速、新設した垂直20メートルロープ昇降。始めっ!!」

「「「「いきなり厳しっ!?」」」」




いかがだったでしょうか。

剃や鉄塊と言えばどんな技かは説明もいらないくらいの有名な技ですよね!
ですが、この作品での説明はまだまだ後になります。

それと今更ですが、4人は基本的に体術(刀も体術とみなす)のみで戦い、技も体術を極めた物になるつもりです。一部例外もあるかもしれませんが(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十三時間目 球技大会の時間・表

皆さんどうも籠野球です。

今回は球技大会です。
作者は小学校は野球、中高はバスケをやっていたのでどっちも好きです。(補欠でしたが(笑))
ちなみに観るのは野球、実際にプレイするのはバスケの方が好きです。(どうでもいいわと思った方、皆さんが正常です。)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

 イトナの暗殺から数週間が経ち、ようやく梅雨が明けたE組では殺せんせーが間近に迫った球技大会についてのプリントを見ながら話し出した。

 

「クラス対抗球技大会・・・ですか。健康な心身をスポーツで養う、大いに結構!!・・・ただ、トーナメント表にE組が無いのはどうしてです?」

「E組は本戦にはエントリーされないんだ。その代わり・・・大会の最後のエキシビションに出なきゃなんない」

「エキシビション?」

 

三村の返しに殺せんせーがそう聞いて、威月が答えた。

 

「全校生徒の見てる前で男子は野球部の、女子は女子バスケ部の選抜メンバーと見せ物にする為に()らされんだよ。部の連中は本戦には出れねえから、皆に力を見せる場を設けてんだ」

「なるほど、()()()()やつですか」

 

殺せんせーのその言葉に片岡は頷きながらも

 

「でも心配しないで、殺せんせー。暗殺で基礎体力ついてるし。良い試合して全校生徒を盛り下げるよ。ねー皆」

 

片岡のそんな言葉に、陽菜乃を含めて女子達が「おーう」と返事をしていた。ホントにこのクラスの女子のまとまりはいいな。これなら良い試合出来るだろう。

 

「俺等さらし者とかカンベンだわ。おまえらで適当にやっといてくれや」

「寺坂!・・・ったく」

 

寺坂がそう言いながら席を立ち、吉田と村松もついて行き、磯貝がそう言った。アイツらは困ったもんだな・・・

 

「野球となりゃ頼れんのは杉野だけど、なんか勝つ秘策ねーの?」

 

すると、前原が後ろを振り返り、杉野に声をかけた。そういや、杉野は元野球部って言ってたな。

 

「・・・無理だよ、うちの野球部かなり強ぇーんだ。とくに主将の進藤は、豪速球で高校からも注目されてる。・・・俺からエースの座を奪った奴なんだけどさ」

「進藤か・・・噂は俺と太陽も聞いた事あるな」

 

確か、三年B組でかなり頭も良い優等生だった筈だっけ。凄えのかが良く知らんが、最速145キロとか言ってたな。

 

(ああいう奴こそ、文武両道って言うのかね)

「だけどさ・・・殺せんせー」

 

そう考えていると、杉野が両手をギュッと握りながら、

 

「勝ちたいんだ、殺せんせー。善戦じゃなくて勝ちたい。好きな野球で負けたくない。・・・E組(こいつら)とチーム組んで勝ちたい!!」

 

そう言う杉野からは、強い想いを感じた。面白え・・・

 

「・・・まぁでも、ほとんどが野球未経験のE組(おれら)じゃ、やっぱ無理かな、殺せんせー」

 

苦笑いを浮かべながら杉野はそう言って殺せんせーを見た。

 

(わくわく)

 

そこには、野球のユニフォームを着た殺せんせーがウキウキ顔で立っていた。毎度の事だが、いつ着替えたんだよ・・・

 

「おっ・・・おう。殺せんせーも野球したいのはよく伝わった」

「・・・ヌルフフフ。最近の君達は目的意識をはっきりと口にするようになりました。その心意気に応えて殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう!!」

「エリート達に一泡吹かせてやろうぜ、杉野!!素人だけど、俺も頑張るからさ!!」

「九澄・・・サンキューな!!」

 

大賀に杉野がそう答えたその後、俺達は殺せんせー、もとい殺監督のもとトレーニングを開始した。

 

 

 

1週間後・・・

 

「おーよしよし。こんな所で猫に会えるなんてな~」

「ミャア」

 

 本校舎のトーナメントが終わるまで暇な俺は、校庭の端っこをウロウロしていた。すると、金網の小さい穴から入ってきた野良猫がいたので、頭を撫でながら戯れていた。いや~ホントに癒やされるな。

 

「・・・あ、いたいた。おーい、太陽ー」

「お、終わったか」

「うん、もうすぐだって」

 

と、そこに大賀と登志が現れた。どうやら俺を探しに来てくれたらしい。

 

「じゃ、行くか!!バイバイ」

「ニャア」

 

最後に頭を撫でた後、俺はそう言いながら立ち上がり、2人の元へと走った。あの子も最後に返事してくれたし、絶対勝たないとな!!

 

「・・・お、やっといたか。全く・・・こんな時まで野良犬と戯れてんじゃねえよ」

「違えよ、野良猫だよ」

「いや、どっちでもいいわ」

 

E組男子の近くに着くと、威月が呆れた表情でそう言ってきた。その言葉に俺はそう反論したが、威月は心底どうでもいいと言わんばかりにの様子でそう言った。俺からしたら結構大事なんだけどな。

 

「まあいいや、とりあえずもうすぐ試合始まるぞ。大賀は一番ショート、太陽(お前)は打撃は無しでセカンド、登志は六番で守備は無しだってよ。これ、メンバー表」

「サンキュー・・・ん?威月は出ないのか?」

 

差し出してきたメンバー表を見て、攻撃にも守備にも威月の名前が無いのに気づいて俺はそう聞いた。

 

E組(うち)の作戦は走力がある程度無いと無理だからな。守備もキャッチャーは杉野とよくキャッチボールしてる渚がやるから、俺はやらなくていいだろ」

「なるほど・・・そういや、作戦と言えば殺監督どこ行ったんだ?指揮するって言ってなかったっけ」

「あそこだよ。烏間先生に目立つなって言われてるから・・・」

 

渚が指差した方向を見てみると、落ちてるボールに紛れてボールに擬態した殺監督が顔だけ出していた。

 

「遠近法で紛れてるんだ。顔色とかでサイン出すんだって」

(あれむしろ目立ってねえか・・・)

 

そう考えていると、殺監督は地面に潜って何度か顔色を変えた。

 

「あれ何のサインだっけ?」

「えーっとあれは・・・」

 

俺の質問に渚がサイン表をめくりながらこう言った。

 

「"殺す気で勝て"ってさ」

「・・・確かに奴等程度に勝てなきゃ殺せんせーなんて殺せるはずないもんな」

「エリート様に目に物見せてやろうぜ!!」

「・・・そうだな、皆!!」

 

磯貝と大賀の言葉に、杉野はそう言って、全員が気合いを入れ直した。

 

「おっしゃあ。殺るぞ!!」

 

俺のかけ声に、皆が「おう!!」と返事を返した。

 

 

 

「E組の攻撃 一番、九澄君」

「よーし、行ってくるぜ!!」

「頼んだぞ、九澄!!」

 

杉野とそんなやりとりをした後、大賀は右バッターボックスに入った。

 

「プレイ!」

スッ ビュンッ ズバアァァァン!!

「ストライク!」

 

審判のコールの後、ピッチャーの進藤はボールを投げ、綺麗にキャッチャーのミットに収まった。

 

「これはすごい。ピッチャー進藤君、さすがの豪速球!!E組九澄棒立ち!バットくらい振らないとカッコ悪いぞ~!!」

 

そんな実況が入り、背後からは笑い声が聞こえた。うぜぇ・・・

 

「? 大賀の性格上、初球から振っていくと思ってたんだけどな・・・様子見か?」

 

そんな中、威月は不思議そうに呟いた。確かにそれは俺も思った。どうしたんだ、大賀の奴?

 

すると、大賀は二球目の前にこちらを振り返りながら叫んだ。

 

「杉野ー!!これって打ったらどっち走んだっけー!?」

 

その質問に俺達全員がずっこけた。ルールくらい把握しとけや!!

 

「おーっと九澄なんと走る方向が分かっていなかった!!E組は非常識の集まりか!?」

(クソ・・・今回はさすがに言い返せねえ。)

「よーし、バッチこーい!!」

「それって守備の時に言うやつじゃ・・・」

 

杉野が一塁()から回ることを伝えた後の大賀の言葉に登志がそう呟いた。何かいろいろ勘違いしてないか?大賀の奴・・・

 

「なあ、太陽。お前や威月が大丈夫って言ったからそうしたけど、ホントに九澄が一番でいいのか・・・?」

「・・・まあ、心配になる気持ちは分かるが、大丈夫だよ」

 

杉野の心配そうな声に、俺は笑いながらそう言って大賀を見た。

 

「確かに大賀がバカなのは認めるが・・・」

スッ 

 

進藤が再び振りかぶりボールを投げるのと、俺の言葉は同時だった。

 

ビュンッ

「家事スキルと、身体能力と運動神経の高さにおいてアイツの右に出る奴はいねえよ」

「おりゃあ!!」 カキィィィン!! 「なっ!?」

 

そうかけ声を発しながら大賀の振り抜いたバットに当たり、ぐんぐん飛んでいくボールを見て進藤はそんな声を上げた。

 

「明らかにど真ん中だったしな。芯に当たった筈だ」

 

E組の皆が歓声を上げる中、威月は笑みを浮かべながらそう言った。その言葉通り、ボールは見事にフェンスを越えた。

 

「な!?何とE組九澄先頭打者ホームランだぁ!!偶然バットに当たったのかー!?」

 

そんな実況が流れる中、大賀はベースを一周して帰ってきた。

 

「すげえぜ九澄!!まさかホームランなんてな!!」

「まぐれだよ。相手も舐めてくれたしな」

(確かに最初の発言のおかげで、明らかに大賀を馬鹿にしてたしな。そう思うと逆に上手くいったって事か)

 

笑いながら皆にそう返す大賀に、俺は心の中でそう考えた。怪我の功名ってやつだな。

 

「ま、とりあえず一点だ。頼むぜ木村」

「おう。行ってくるぜ」

「二番、木村君」

 

杉野のそう返事をして、木村はバッターボックスに入った。

 

(もう相手も明らかに舐めてはかからないだろう。ここからは、特訓の成果を出すときだな・・・)

ズバアァァァン!! 「ストライク!」

 

そう考えていると、木村は一球目を見送り、審判はストライクをコールした。

 

(シュッ)(シュッ)(シュッ)

「! サイン出したな、殺監督」

 

その時、殺監督は3回顔色を変えながら出てきて、木村はヘルメットを触って了解の合図を出した。

 

シュッ コォン 「何っ」

 

そして二球目。進藤は投げたストレートを木村はバントで一塁線へと転がした。

 

「一瞬誰が捕るか迷ったし、足の速い木村なら、らくらくセーフだな」

 

そんな威月の予想通り、木村は余裕でセーフになった。

 

「アイツら驚いてるだろうな。何でこんなに簡単にバントが出来るのかって」

「いくら進藤の球が速くても、俺達の特訓相手はあのタコだからな」

 

威月の返しに俺は笑いながら殺監督を見た。

 

(300キロの球を投げ、分身による鉄壁の守備。そんな超人野球に比べりゃ、あんな遅いボールを狙った場所にバントするなんて、今の俺達には簡単すぎるぜ) コォン

 

そう考えていると、三番バッターの磯貝も出塁し、ノーアウト一、二塁となり、四番の杉野に回った。

 

(進藤は完全に困惑してるな。だが、杉野を甘く見てると痛い目見るぜ)

 

バントの構えの杉野に恐れた進藤は内角高めにボールを投げた。

 

スッ カキイィィィン!!

 

その甘い球を杉野は見逃さず、一瞬で打撃(ヒッティング)に切り替え振り抜いたバットに当たったボールは、外野を深々と抜けた!!

 

「走者一掃のスリーベース!!な、なんだよコレ予定外だ・・・E組三点先制ー!!」

(この調子なら、まだまだ点は入る。これなら楽「審判、タイムを」! 理事長!?)

 

そう考えている途中で、理事長がグラウンドに入ってきた。よく見ると、野球部の顧問が担架で運ばれていくのが見えた。

 

「・・・どうやら、ここからが本番みてーだな」

 

そんな威月の声を聞いて、俺は気を引き締め直した。




いかがだったでしょうか。

点差は原作通りですが、大賀に活躍させたかったのでこんな形になりました。

ちなみに、E組には攻撃と守備を分担出来るハンデがあるので作者の中では、

 打 順     守  備
一番 大賀  ピッチャー 杉野
二番 木村  キャッチャー 渚
三番 磯貝  ファースト 菅谷
四番 杉野  セカンド 太陽
五番 前原  ショート 大賀
六番 登志  サード 木村
七番 岡島  レフト カルマ
八番 カルマ センター 磯貝
九番 千葉  ライト 三村

このようなスタメンのつもりで書いてます。打撃の渚や、守備の前原の代わりに太陽達を組み込んだ形です。

次回は理事長VS殺せんせーの対決になります。果たして勝つのは理事長率いる野球部か、それとも殺せんせー率いるE組か。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十四時間目 球技大会の時間・裏

皆さんどうも籠野球です。

理事長と殺せんせーの指揮の下での野球対決後半です。
ただし、無理矢理2話で終わらせた上、好きなスポーツな野球ネタでもある為、過去最長の長さになってしまいました・・・OTL

尚、この話はずっと威月の視点で進行していきます。(出番無くて暇そうなんで・・・)

それでは、どうぞ!!



威月side

 

「・・・!!今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で・・・野球部員も先生が心配で野球どころじゃ無く、それを見かねた理事長先生が急きょ指揮を執られるそうです!!」

(重病ねぇ・・・さっき何か理事長が顧問に話しかけた途端に倒れたけどな。)

 

実況の後の歓声の中、俺はそう考えていた。恐喝じみた事言ったとしか思えんな・・・

 

「威月~どうなってんの試合?」

「あ?・・・中村か」

 

すると、突然話しかけられ後ろを振り返ると、そこには中村を含めてE組女子が歩いてきていた。

 

「終わったみたいだな。勝ったか?」

「いや~惜しいとこまではいったんだけどね~」

「バスケ部相手に善戦したなら上等だろ。お疲れさん」

 

苦笑いを浮かべながらそう返す中村に、俺はそう返した。

 

女バスのキャプテンめ・・・あんなに自慢気に揺らしやがって・・・

「・・・何か茅野が胸を押さえながらブツブツと呟いてるけど、大丈夫か?」

「あー・・・いいよ、今はそっとしといてあげて」

 

正直かなり怖いが、まあそっとしとけって言ってるしいいか。

 

「こっちは大賀のホームランと、杉野のタイムリースリーベースで三点取ったが、理事長(ラスボス)登場って所だ」

「へえ、凄いじゃん男子!!」

(ここまではな・・・でも、何やら円陣組んでるし、何かしてくんのは間違いねえな)

 

中村の返しに俺は心の中でそう返した。あの理事長が相手で、そう簡単に終わるとは思えんな・・・

 

そして、円陣が終わり五番前原の打順で野球部は、

 

「こっ、これは何だー!?守備を全員内野に集めてきた!!」

 

実況の言葉通り、野球部は極端なまでの前進守備を敷いてきた。

 

「バントしかねえの見抜かれてるな」

「でも、あんなの反則じゃないの?」

 

俺の言葉に片岡がそう聞いてきた。その言葉に俺は冷静に返した。

 

「ルール上はフェアゾーンのどこで守っても大丈夫だよ。勿論審判が駄目って判断したら別だがな」

(審判はあっち側の人間だから、それはあり得んだろうな・・・)

「うわっ!!」 ガキン バスッ

 

すると、予想通り審判は止めず、前原は簡単に打ち上げてしまいアウトになった。

 

「もうあれじゃあ点は入らないよ・・・どうすんの?」

「いや、登志ならまだ分からねえ」

「六番 伊勢君」

 

速水のそんな呟きにそう返す中、次のバッターの登志が歩いて行った。

 

(なんせ登志は、唯一300キロをジャストミートしてみせたからな) スッ

 

足元を軽く(なら)した後、登志は左バッターボックスで構えた。ただしその構えはかなり変わっている。

 

左手で左腰にバットを固定し、右手でグリップを握る姿は間違いなく剣士の構えだった。

 

「あんな構え見た事ないけど・・・大丈夫なの?」

「反則じゃねぇし大丈夫だろ。登志自身、あれが1番打ちやすいって言ってたしな」

 

そう中村とやりとりをしていると、一球目を進藤が投げた。

 

「フッ!!」 

カキイィィィン!! 「!!」

 

そんなかけ声と共に、登志は(バット)を振り抜き打球はライト線ギリギリに飛んでいき、クラス全員が歓声を上げた。しかし・・・

 

「ファール!!」

「あぁ、惜っしい!!」

 

微妙にラインをきれてしまい、審判はファールを宣告した。その結果にクラス全員が口々にそう言った。

 

「でも、あれなら次はヒットに出来るぜ!!もう一点いけるって!!」

「・・・いや、厳しいな」

 

そんな前原の言葉に俺は冷静にそう返した。

 

「え?何でだ、威月?」

「大賀と杉野以外は警戒しなくていいっていう相手の油断を誘うための六番登志だったからな。出来れば一球で決めたかったんだ」

「確かに警戒はされたかも知れねえけど、伊勢ならいけるって!!」

「いや、アイツには弱点があんだよ」

 

そんな俺の言葉と同時に進藤は二球目を投げた。

 

ググッ 「うっ・・・」

ガキッ 「しまっ・・・」

「速球には反応が鋭いんだが、遅いボールには極端に弱いんだよ」

 

そんな俺の言葉通り、カーブを打ち上げてしまい登志はアウトになった。

 

「ゴメン・・・」

「仕方ねえよ、俺達変化球の打ち方は教わってないからな」

 

落ち込みながら帰ってくる登志に、俺はそう励ました。寧ろ素人の癖に145キロをジャストミート出来る大賀や登志が化け物なんだっての・・・

 

(ただ、もうこれじゃあ点は入んねえ・・・何か作戦ねえのか殺監督?)

(・・・)(・・・)(スッ・・・)

(打つ手無しかよ!!それでも監督か!?)

 

2回目で冷や汗を流し、3回目で顔を覆った殺監督に俺は心の中でツッコむ中、七番岡島も倒れ、E組の攻撃は三点止まりとなった。

 

「もう点は入りそうにねぇ。頼んだぜ、杉野」

「おう!!」

 

俺のその言葉に、杉野はそう返しながらマウンドへと向かった。ここからは杉野のピッチング次第だな・・・

 

 

 

ズバアァン 「ストライク!!バッターアウト!!」

「すげぇ杉野!!二者連続三振だ!!」

 

今二個目の三振を取った杉野に、前原はそう声を上げた。

 

(杉野のボールはめちゃくちゃ速くはないが、変化球のキレは進藤以上だな。あれなら充分抑えられるだろう。ただ・・・)

 

俺はそう思いながらも相手ベンチを見た。

 

そこでは、理事長が進藤の横に座って、何やら耳打ちをしていた。

 

(何か進藤の奴、目がヤバいことになってんな・・・洗脳も出来んのかよあの人・・・)

カキンッ!! 「しまっ・・・」

 

そんなことを考えていたちょうどその時、僅かに甘く入ったボールを打たれ、杉野はそんな声を上げた。

 

パシッ 「よっと。菅谷!!」 シュッ

 

しかし、ショートの横を抜けそうなボールを大賀が逆シングルで捕り、名前を呼びながら一塁の菅谷に送球した。

 

パンッ 「ア、アウト。スリーアウトチェンジ・・・」

「凄い、九澄君!!」

 

皆と笑いながらベンチに戻ってくる大賀に女子達はそんな声を上げた。アイツは天才だからな。スポーツやってたら、どれでも主力になれるだろう。

 

(なのに本人は、スポーツ興味全然無いんだもんな。)

「で、次のバッターは・・・カルマか」

 

内心苦笑しながらも、俺はメンバー表を確認しながらそう言った。

 

「で、どうすんだ?あのシフトじゃ、ヒットは打てねえぞ。」

「まぁ、とりあえず殺監督の指示があったからね~。やってみるよ」

 

俺の問いにカルマはそう返しながらバッターボックスに向かった。指示があった?何のだ?

 

「? どうした、早く打席に入りなさい」

「ねーえ、これズルくない理事長センセー?」

 

すると、打席に入らずに近くで立っていたカルマに審判はそう声をかけ、カルマは理事長にそう言った後、本校舎の連中に向かって話し出した。

 

「こんだけジャマな位置で守ってんのにさ、審判が何にも注意しないの一般生徒(おまえら)もおかしいと思わないの?」

(なるほど、抗議させるのが狙いか・・・確かにそれにはカルマが適任「あーそっかぁ。おまえ等バカだから、守備位置とか理解してないんだね」・・・いや、やっぱアイツじゃ駄目だ!!やり過ぎるだろ!!)

 

俺の予想通り、カルマは本校舎の連中にブーイングに遭った。

 

(・・・結局こうなるのは分かってたけど、何でわざわざ抗議させたんだ?殺監督は)

 

ジュース缶やゴミを投げられながら舌を出しているカルマを見た後、それでも顔に○を浮かべている殺監督を見て俺はそう思った。

 

 

 

その後、結局抗議は認められずカルマと九番千葉は三振に終わり、大賀は敬遠されて(抑えられないと判断したんだろう)出塁出来たが、次の木村が倒れ二回の攻撃は終わった。

 

そして・・・

 

ガキィィィン!! 「うわっ!!」

 

四番であり、理事長が強化改造中の進藤がスタンドに放り込む一発を放ち、二点差に追いつかれた。

 

(やっぱりアイツは別格だな・・・マジで手がつけられねえぞ・・・)

「切り替えろ、杉野!!まだ二点差だぞ!!」

 

そう声をかけ、杉野も頷いた。これぐらいで崩れる程、杉野もメンタルは弱くないからな。

 

カキイィィィン 「わっとと・・・」

 

しかしその後、素人故のマズい守備のせいで、もう一点を返され、なおもワンアウトランナー一、三塁の状況で九番に打席が回った。

 

「さあ、ついに野球部がE組を追い詰めたぞ!!最終回を待たずに引導を渡すのか!?」

「やべえ・・・」

 

目の前の光景に前原はおもわずそう呟いた。確かにかなりピンチだ。グラウンドの皆もかなり緊張していた。

 

「・・・」

(杉野の奴、さすがに焦ってやがる・・・マズい、このままじゃ打たれ「落ち着け、杉野!!」! 太陽!!)

 

すると、太陽がセカンドからそう杉野に声をかけ、杉野は振り返った。

 

「今度こそ、俺達は絶対捕ってみせる!!だから信じてボール投げ込め!!」

「!・・・おう!!」

 

太陽のそんな言葉に、杉野はそう返事するとバッターに向き直った。

 

「太陽くん・・・」

「捕れる保証も無いのに、アイツがそう言うとホントに捕ってくれる気がするな」

(確かにな。それがアイツの不思議な所だ)

 

その光景に、倉橋はそう呟き、前原は笑いながらそう言った。その言葉に俺は心の中で苦笑すると、

 

「倉橋。太陽が頑張れる魔法の言葉教えてやろうか?」

「えっ、何?」

「「頑張れ、太陽。」って笑顔で言ってやれ。お前にそう言ってもらえるのが、アイツは何よりも嬉しい筈だ」

「・・・うん、分かった」

 

俺の言葉に倉橋はそう言いながら頷き、息を大きく吸ってから笑顔でこう言った。

 

「頑張れー!!太陽くん!!」

カキンッ!! 

 

その直後、強烈なセンター返しの打球が飛び、野球部はヒットを確信した。

 

「舐めんなっ!!」 ズシャァァァ パシィ

「な!?」

 

しかし、その打球に太陽が食らいついた。右方向に飛んだボールを地面を滑りながらキャッチした。

 

「頼む、大賀!!」 シュッ

パシッ 「アウトッ」

「フッ!!」 シュッ 

パシッ 「ア、アウトー!!」

 

太陽はうつ伏せの状態のままボールを投げ、大賀は二塁を踏みながらボールを捕ると、そのまま一塁に送球し審判はアウトを宣言した。

 

「ダ、ダブルプレー!?E組まさかのダブルプレーでスリーアウトを取りました。!!」

「よっしゃあ!!」

「やったー!!」

 

目の前の光景に、E組全員がそんな声を上げた。流石、頼りになるな。

 

「痛て・・・やっぱジャージであんなことするもんじゃねーな」

「すげえよ、太陽!!完全に抜けたと思ったぜ!!」

「普段の俺なら捕れなかったよ」

 

前原の言葉にジャージの砂を払ってから倉橋を目を向け、

 

「でも、彼女が応援してくれてんのに、格好悪いとこ見せれるかよ」

「うん!!すっごい格好良かったよ!!」

 

笑いながらそう言うと、倉橋も笑顔でそう返した。一瞬で構成されたほんわかとした空気に全員が和んだが、

 

「そこまでにしとけよ2人とも。まだ、試合は終わってねえし・・・」

 

俺はそこまで言ってから、殺監督を見た。

 

「あそこにニヤニヤ顔でメモ取ってるタコがいるからな」

「・・・よし、殺す」

「お、落ち着いて、太陽くん!!」

「今は試合中だし、ここでバレたらマズいって!!」

 

全力で倉橋と磯貝に止められ少し落ち着いた太陽は、

 

「ハァ・・・ハァ・・・お前ら!!さっさとあんな連中ぶっ倒して、あのタコ殺すぞ!!」

 

その号令に、皆笑いながらも返事を返した。

 

 

 

 その後、E組の三回表の攻撃は三者凡退に終わり、いよいよ最後の守りとなった。

 

(一点も入れさせなきゃE組(うち)の勝ちだ。だが、相手は理事長・・・何をしてくる?)

 

そう考えていると、先頭バッターはいきなりバントの構えをとった。

 

コンッ 「うっ!!」

ツルッ 「あっ、くそ!!」

 

慌てて木村がボールを拾いに行ったが、守備の練習なんてしていないE組ではまともな処理は出来なかった。

 

あっという間にノーアウト一塁となり、次のバッターも同じくバントをして、瞬く間にノーアウト一、二塁となった。

 

「クソッ!!E組(おれら)もバントシフトでいこうぜ!」

「駄目だ。奴等は普通に打てる。極端な前進守備なんてやって、もし外野に飛んだら終わりだ」

 

前原にそう返している間にも三番はバントをして、ノーアウト満塁となり打席には、

 

「ここで迎えるバッターは・・・我が校が誇るスーパースター進藤君だ!!」

(チッ、このために初回から準備してたのか・・・最後は力でねじ伏せようって事だな)

 

完全に目がイっちまってる進藤を見て、俺は舌打ちしながらそう思った。完全に洗脳による強化は済んでるんだろう。

 

(どうすんだ?殺監督・・・?)

 

すると、外野から磯貝とカルマが歩いてきて、野球部同様極端な前進守備をとった。何だ・・・殺監督の指示か?

 

「さっきそっちがやった時は、審判は何も言わなかった。文句無いよね、理事長?」

(! そうか・・・さっきカルマに抗議させたのは、こっちがやり返しても文句を言わせねえ為か!)

 

カルマの言った言葉に、俺はそう推理した。現に今、審判や観客達も黙認するしかなかった。

 

(だが、今の奴の集中力は極限まで高められてる。それだけじゃ・・・)

「ご自由にどうぞ。」

 

予想通り、理事長はただ冷静にそう言っただけだった。その言葉を聞いた後カルマは笑いながら、

 

「じゃ、遠慮無く。」

「ち、近い!!振れば確実にバットに当たるぞ!?」

 

実況の言葉通り、2人は進藤から殆ど離れてない至近距離に立った。普通じゃありえない光景に進藤は呆気にとられていると、

 

「気にせず打てよ、スーパースター。ピッチャーの球はジャマしないからさ」

「フフ、くだらないハッタリだ。構わず振りなさい進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ」

 

カルマと理事長の言葉に、進藤はただ驚愕の表情を浮かべた。

 

シュッ 「・・・!!」 ボッ!!

 

そんな中、杉野がボールを投げ、進藤はためらいながらもバットを振ったが、2人は殆ど動かずに躱してみせた。

 

(マッハ20相手に鍛えられた動体視力。おまけにあの2人は度胸も動体視力も、俺ら4人を除けばE組の中じゃトップクラスだ。バットを避けるくらいは簡単だろうな)

「・・・だめだよ。そんなスイングじゃ。次はさ、殺すつもりで振ってごらん」

(・・・勝負あったな)

 

カルマの言葉に冷や汗を流しながら震え始めた進藤を見て、俺は()()を確信した。

 

ゴオッ 「う、うわあぁぁっ・・・」 ガスッ

 

今の進藤に、試合を決める一打は打てなかった。腰が引けたスイングに当たったボールは、2人の前で大きくバウンドした。

 

パシッ 「渚君!!」 シュッ

 

カルマは片手でボールを捕ると、そのまま渚へと投げてワンアウト。

 

「渚。三塁に投げろ!!」

シュッ パシィ

 

スタートが遅れた二塁ランナーを、太陽は見逃さずに声をかけたことで渚が三塁にボールを投げてツーアウト。

 

「木村次は一塁へ!!進藤走ってないから焦んなくていいぞ!!」

ヒュッ ポーンポーン・・・

 

杉野がそう叫び、木村は一塁へとボールを投げた。普通ではあり得ないくらい遅いゴロの送球だったが、へたり込む進藤相手ならそれで充分だった。

 

パシッ 「・・・と、トリプルプレー・・・ゲームセット・・・」

「・・・ゲ、ゲームセット・・・!!何とE組が野球部に勝ったー!?」

 

菅谷がボールを捕った瞬間審判がそう宣言し、そんな実況の声が響いた。

 

「キャーやった!!」

「男子すげぇ!!」

(フゥ・・・何とか勝ったか)

 

後ろで女子達がそんな声を上げたのと同時に俺は小さく息を吐いた。試合には参加してないのに、えらく疲れた・・・

 

俺の視界の先では理事長が無言でベンチから腰を上げ、去って行くのが見えた。

 

(これで、殺せんせーと理事長の戦いは、中間テストと合わせると一勝一敗か・・・次は期末になるのかな)

 

そう考えながら、俺は皆の元へと歩いていった。何はともあれ、勝利は勝利だしな。

 

 

 

 

 

余談だが、球技大会後から少しの間、進藤が大賀を熱心に勧誘していた。まぁ、何回も断られて、非常に残念そうにしながら諦めたが。




いかがだったでしょうか。

ちなみに登志の構え方ですが、イメージは某野球ゲームにあるオリジナルの構え方の1つを参考に右手で振り抜くバッティングフォームです。実際には出来ないと思いますが、まあ登志が凄いという事にしておいて下さい。

次回はいよいよあの男がやってきます。果たしてE組は大丈夫か・・・

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十五時間目 鷹岡の時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよあの男がE組にやってきます。
個人的には暗殺教室で1番嫌いなキャラですね。というか、好きな人いるんですかね・・・

それと、そろそろ投稿ペースを戻していきたいとは思ってるんですが、仕事の都合上毎週2話投稿は厳しいかもしれません。
ストック自体は5話以上出来てはいるんですが、様子を見ながら投稿していくので、これからも是非読んでいただけたら嬉しいです!!m(_ _)m


それでは、どうぞ!!



烏間side

 

(4ヶ月目に入り、可能性がありそうな生徒が増えてきた。)

 

 ナイフ術の訓練中、ナイフを避けながら俺は心の中でそう考えていた。

 

(磯貝 悠馬と前原 陽斗。運動神経が良く仲も良いこの2人は、2人がかりなら・・・俺がナイフを当てられるケースが増えてきた)

ピッ 「! (よし)、次!!」

 

そう考えてる今も磯貝君を囮に前原君がナイフを掠らせ、俺はそう評価しながら次の生徒を呼んだ。

 

(赤羽 業。一見のらりくらりとしているが・・・その目には強い悪戯心が宿っている)

 

おそらく俺に足払いを仕掛けて赤っ恥をかかそうなどと考えているんだろう。だが、

 

(そう簡単にいくかな?)

「・・・チッ」

 

警戒する俺を見て、カルマ君は笑みを浮かべながら舌打ちした。

 

(そして、神木 太陽、水守 威月、九澄 大賀、伊勢 登志。この4人は文句無く主力と言えるだろう。九澄君は、並外れた機動力と卓越した足技を使い、切り込み隊長としても優秀だ。伊勢君は温厚な性格だが、一度刀型ナイフを持てば「飛天御剣流」の腕を遺憾なく発揮する)

 

2人に対して心の中で評価すると、目の前の威月君を見た。

 

(威月君は、筋力は凄まじいが4人の中では1番遅く、一見暗殺向きではないとは思うが・・・)

ザッ ビュン!! 「むっ!!」

(常に最短距離を通り、少しずつ相手との距離を詰める事が出来る頭脳でカバーしている。至近距離なら、かなり驚異な存在だ)

 

今も俺にナイフを当てかけた威月君を見て、俺はそう評価した。

 

(そして、太陽君。正直の所・・・彼はここまで目立った行動をしていない。修学旅行や球技大会での動きを見る限り能力は高いが・・・)

 

そう考えながら、前に本人が言っていた言葉を思い出した。

 

(「俺は本気を簡単には出せないんです。ですが、もし()()を出したら、誰にも負けるつもりはありませんよ」・・・彼はそう言っていたし、様子を見てもいいだろう)

 

そう思いながら、太陽君に対しての思考を打ち切った。

 

(女子は、体操部出身で意表を突いた動きができる岡野 ひなたと、男子並みの体格(リーチ)と運動量を持つ片岡 メグ。このあたりが近接攻撃(アタッカー)として非常に優秀だ。

そして殺せんせー。彼こそ正に俺の理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない!!)

「人の思考を捏造するな。失せろ標的(ターゲット)

 

後ろでボソボソと耳打ちするタコにそう言ってから、俺は全体を見渡し、

 

(一部未だに積極性を欠く者もいるが、全体を見れば生徒達の暗殺能力は格段に向上している。この他には目立った生徒はいないものの・・・「ぬるり」) 「!!!」 バシッ

 

いきなり背後に感じた得体の知れない感覚を反射的に振り払った。

 

「・・・いった・・・」

「・・・!! すまん。ちょっと強く防ぎすぎた」 

 

そこには、渚君が倒れており、俺は慌てて駆け寄った。何だったんだ、今のは・・・

 

 

 

太陽side

 

(烏間先生が反射的に振り払う程の気配・・・やはり渚には・・・)

 

 烏間先生に大丈夫と返しながら立ち上がる渚を見て、俺は全校集会(あの時)感じた感覚を思い出していた。

 

「どうした?太陽」

「いや、別に」

 

俺の様子に疑問に思った威月が声をかけてきたが、俺はそう返した。わざわざ教える程の事じゃないしな。

 

その後は何事もなく、今日の訓練は終わった。皆が口々に話す中、陽菜乃が烏間先生に話しかけた。

 

「せんせー!放課後街で皆でお茶してこーよ!!」

「・・・ああ。誘いは嬉しいが、この後は防衛省からの連絡待ちでな」

 

そう言い残し、烏間先生は校舎へと戻っていった。私生活でも隙が無いな・・・

 

「いいのか~太陽~。彼女烏間先生に取られちまうぜ~?」

「俺はそこまで嫉妬深くはねえよ」

 

すると、肩を組みながら前原がそう言ってきて、俺は笑いながらそう返し、

 

「それに、男の俺から見ても、烏間先生は男として理想的だしな」

「あー、それは分かるかも」

 

俺の言葉に男子の殆どが頷いた。格好いいもんな、烏間先生。

 

「・・・でも、烏間先生って常に私達との間にカベっていうか、一定の距離を保ってるような」

「私達のこと大切にしてくれてるけど、それってやっぱり・・・ただ任務だからに過ぎないのかな」

「そんな事ありません」

 

矢田と陽菜乃のやりとりに殺せんせーが入ってきた。

 

「確かにあの人は・・・先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ」

 

殺せんせーのそんな言葉に、俺は無言で烏間先生が入っていった校舎の方を見つめた。すると、

 

「・・・ん?何だあの人?」

 

何やら大荷物を抱えたデカイ男がこちらに歩いてきた。見た事ねえ人だな・・・

 

男はそのまま俺達の近くに歩いてくると、荷物を下ろしながら話し始めた。

 

「やっ!俺の名前は鷹岡(たかおか) (あきら)!!今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくな、E組の皆!」

「!! これ「ラ・ヘルメス」のエクレアじゃん!!」

「こっちは「モンチチ」のロールケーキ!!」

 

荷物の中身を見ながら、女子達がそんな声を上げた。どうやら、有名なお店のお菓子らしい。俺は当然知らんが。

 

「モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。おまえらと早く仲良くなりたいんだ。それには・・・皆で囲んでメシ食うのが1番だろ!」

ヒョイ パクッ (旨!何だコレ!?)

 

鷹岡さんのそんな言葉を聞きながら、俺は一つを手に取って食べてみたらすげぇ旨かった。大賀がたまに作るデザートも旨いが、やっぱお店の奴は違うな。

 

「同僚なのに烏間先生とずいぶん違うんスね」

「なんか近所の父ちゃんみたいですよ」

「ははは、いいじゃねーか父ちゃんで」

 

木村と原の言葉に笑いながらそう言った後、

 

「同じ教室にいるからには・・・俺達家族みたいなもんだろ?」

(! 家族・・・ね・・・)

 

三村や中村と肩を組みながらそう言った鷹岡さんを見て、俺は違和感を感じた。

 

 

 

渚side

 

「いやぁ、これで裕樹達や華のおやつ代が2,3日浮いた。よかったよかった」

「良かったね、太陽」

 

 帰り道、太陽は両手にお菓子を持ちながらホクホク顔で帰っていた。鷹岡さんにお菓子を孤児院に持って帰っていいかと聞いたら、快く許可してくれたからだ。

 

今日は太陽に僕に倉橋さん。それに杉野と岡島君が一緒に帰っていた。

 

「で、皆はどう思う?」

 

その時、杉野が僕達にそう聞いてきた。間違いなく鷹岡先生についてだろう。

 

明日から体育の時間は鷹岡先生が担当するらしい。烏間先生の負担を減らす為みたいだけど・・・

 

「えー・・・私は烏間先生の方がいいなー」

 

倉橋さんはそう返していた。まぁ、倉橋さんはそうだろうね・・・

 

そんな中、岡島君が口を開いた。

 

「でもよ、実際のとこ烏間先生って何考えてるかわかんないとこあるよな。いつも厳しい顔してるし。その点あの鷹岡先生って根っからフレンドリーじゃん。案外ずっと楽しい訓練かもよ」

(確かに、そうかもしれないな)

 

僕は口には出さなかったけど、心の中で同意した。杉野も同じ考えの様子だった。

 

「お前もそう思わねぇ?太陽」

「・・・ホントにそう思うか?」

 

岡島君の言葉に先頭を歩く太陽はそう返した。

 

「えっ・・・」

「あの人の目・・・最初は感じなかったが、その奥は酷く濁ってる。用心だけはしといたほうがいいぜ」

 

そう言いながら振り返った太陽の顔は、さっきまでとうってかわった様なとてつもなく真剣な表情で僕達はおもわず息をのんだ。

 

その後は、誰も何も言わずに帰り道を歩いた。太陽のその顔だけが僕達には凄く印象に残っていた―――――




いかがだったでしょうか。

太陽の本気シーンはこれから先に書いていきます。ちゃんとそこまで続けれたらいいんですけど(一応完結を目指してはいますが)・・・

まあとりあえず・・・今週は週の真ん中でもう1話。日曜日に1話投稿するつもりです。よかったらご覧になってください。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十六時間目 訓練の時間

皆さんどうも籠野球です。

前話で言った通り、今週は真ん中の今日も投稿します。

今回は鷹岡がやってきた続きからです。嫌いなキャラなのに結構すんなり書けました。何故だろう・・・
クオリティは・・・お察し下さい(笑)。

それでは、どうぞ!!



大賀side

 

「・・・えっ、太陽と威月、今日遅れるの?」

「あぁ、昼までには来るけどな」

 

 朝のHR前、俺は渚の問いにそう返した。

 

鷹岡先生について知っているか一応実徳さんに聞く為に遅れると2人は言っていた。実徳さんは三時間目が終わるくらいに帰ってくるらしいけど・・・

 

(2人からは、「何かあったらE組の皆を頼む」・・・そう言われたから、俺も少しは警戒しないと)

 

俺は心の中でそう考えながら、気を引き締めた。実徳さんの仕事は秘密だから、皆には言えないしな。

 

キーンコーンカーンコーン・・・

「ま、別に風邪とかじゃないから安心してくれよ」

 

その時始業のベルが鳴り、そう言った俺に渚が頷くのを見た後、俺は自分の席に戻った。

 

 

 

四時間目・・・太陽と威月、そしてカルマ(サボりらしい・・・)を除いた全員が校庭に揃ったのを確認して鷹岡先生は口を開いた。

 

「・・・よーし皆集まったな!では今日から新しい体育を始めよう!ちょっと厳しくなると思うが・・・終わったらまたウマいモン食わしてやるからな!」

「自分が食いたいだけじゃないの?」

「まーな。おかげ様でこの横幅だ」

 

中村さんの言葉に鷹岡先生は笑いながらそう返し、皆はクスクスと笑っていた。

 

(うーん・・・2人は警戒してたけど普通に馴染んでるし、いい先生じゃないのか?)

 

かけ声を決めようと言って、どこかで見た事あるような事を言い、皆が笑ってるのを見て俺はそう考えていた。2人の考えすぎじゃないのかな?

 

俺のその浅はかな考えは、次の瞬間覆された。

 

「さて!訓練内容の一新に伴ってE組の時間割も変更になった。これを皆に回してくれ」

ペラッ (なっ!?)

 

そう言いながら差し出してきた時間割を見て、俺は言葉を失った。

 

そこには、通常授業は三限までで、四時間目から十時間目まで訓練と書かれていた。夜9時まであるその時間割に、登志も他の皆も言葉を失っていた。

 

そんな中、鷹岡先生はさっきまでと変わらない様子で話し出した。

 

「これくらいは当然さ。理事長にも話して承諾してもらった。この時間割(カリキュラム)についてこれればおまえらの能力は飛躍的に上がる。では早速「ちょっ・・・待ってくれよ、無理だぜこんなの!!」・・・ん?」

 

そこまで話す鷹岡先生にようやく立ち直った前原が割って入った。

 

「勉強の時間これだけじゃ成績落ちるよ!理事長も()()()()()承諾したんだ!!遊ぶ時間もねーし!!できるわけねーのこんなの(ズンッ!) がはっ・・・」

(なっ!?)

 

いきなり膝蹴りを!?

 

「「前原!!」」

「「できない」じゃない、「やる」んだよ。昨日言ったろ?俺達は「家族」で、俺は「父親」だ。父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」

(な、何言ってんだ。こいつ!?)

 

磯貝と一緒に前原に駆け寄る中、鷹岡は当たり前の様にそう言いきり、俺はおもわずパニックになってしまった。

 

「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。1人や2人入れ替わっても、あのタコは逃げ出すまい」

 

そこまで言ってから鷹岡はフッと笑みを浮かべると、

 

「けどな、俺はそういう事したくないんだ。おまえら大事な家族なんだから。家族みんなで地球の危機を救おうぜ!!なっ?」

(っ!だが、1つだけ分かった。コイツは父親を押しつけるだけで、俺達の事なんか何1つ考えちゃいねえ!!)

 

神崎さんと三村を抱きながらそう言った鷹岡に俺はそう確信した。

 

その間も鷹岡は神崎さんの頭を撫でながら聞いた。

 

「な?おまえは父ちゃんについてきてくれるよな?」

「・・・は、はいあの・・・」

 

すると、神崎さんはそう言った後、笑顔を浮かべながらこう言った。

 

「私は嫌です。烏間先生の授業を希望します」

(!! 凄い・・・)

 

その言葉に俺はそう感じた。恐怖を全く感じていない筈はない。なのに、真っ直ぐそう言いきった神崎さんを、俺は誰よりも強いと思った。

 

バチッ!! 「!?」

「か、神崎さん!!」

(ブチッ) 「磯貝、前原を頼むぜ」

「えっ、九澄?」

 

次の瞬間、鷹岡は神崎さんに張り手をし、神崎さんは吹っ飛び、杉野が慌てて駆け寄った。唇が切れたのか口から血を流す神崎さんを見て、俺は磯貝にそう言いながら立ち上がった。

 

「・・・おまえらまだわかってないようだな。「はい」以外は無いんだよ。文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃんは得(ブオッ!!)!」

 

それ以上()()()に口を開かせるつもりはなかった。俺は一瞬で鷹岡に詰め寄って腹に後ろ蹴りを放った。

 

しかし、体に当たるギリギリで鷹岡は俺の足を後ろに跳んで躱した後、俺に話しかけてきた。

 

「何だいきなり?」

「女の子の顔に傷をつけるとは何事だ!?」

「ちゃんと手加減してるさ。お前も父ちゃんと喧嘩してみるか?」

「・・・上等だよ。俺は本気でいかしてもらうがな!!」

 

そう言って俺は鷹岡に蹴りを放とうとしたが、すんでの所で烏間先生が駆け込んできた。

 

「よすんだ、九澄君!!やめろ、鷹岡!!」

「だめだよ、大賀!!」

(ぐっ・・・)

 

いつの間にか近くに来ていた登志にそう言われながら羽交い締めにされて、俺は少しだけ冷静になった。。

 

「大丈夫か?首の筋に痛みは無いか」

「烏間先生・・・だ、大丈夫です」

「前原君は?」

「へ・・・へーきっス」

 

・・・2人は何とか大丈夫そうだな。よかった・・・

 

 

「大丈夫さ、烏間。大事な俺の家族だ、手加減するのは当然だろ」

「いいや、貴方の家族じゃない。私の生徒です」

 

すると、殺せんせーが青筋を浮かべながらそう言って鷹岡の肩に手を置いた。しかし、鷹岡は「フン」と鼻で笑うと、

 

「体育は教科担任の俺に一任されているはずだ。短時間でお前を殺す暗殺者を育てるんだぜ。厳しくなるのは常識だろう・・・それとも何か?多少教育論が違うだけで、お前に危害も加えてない男を攻撃するのか?」

(クソッ!!)

 

その言葉に殺せんせーは何も言い返せず、俺も悪態をつくしかなかった。

 

 

 

その後、俺達は鷹岡の指示でスクワット300回をやらされることになった。

 

(いくら訓練してるからって、登志や俺はともかく皆に三百回もスクワットなんて無理だ)

「じょっ・・・冗談じゃねぇ・・・」

「初回からスクワット300回とか・・・死んじまうよ・・・」

 

予想通り、100回に到達する前から皆から、特に女子達はもう限界が近そうだった。

 

(このままじゃ皆が潰れる・・・でも、どうすれば「烏間先生~・・・太陽くん~・・・」! 倉橋さん!)

 

そう考えていると、倉橋さんのそんな声が聞こえて、俺はおもわず倉橋さんを見た。

 

「おい、烏間は俺達家族の一員じゃないぞ」

(マズい!!)

 

すると、握り拳を作って鷹岡はそう言いながら倉橋さんに近づいていき、俺はそう唱えた。どう見たって、神崎さんみたいに殴るつもりだろう。

 

「おしおきだなぁ・・・父ちゃんだけを頼ろうとしない子は」

(くっ・・・)

 

震える倉橋さんをそう言いながら殴ろうとする鷹岡を見て、俺は今度こそ蹴り飛ばそうとした。

 

「大丈夫だ、大賀。ここは俺に任せろ」

「えっ・・・」

 

その時、そんな声が聞こえたとおもった次の瞬間、1つの影が俺を追い抜き、倉橋さんの前に立ちはだかった。そして、

 

バシッ!! 「・・・おい、テメエ。俺の彼女殴ろうとはいい度胸してるな・・・」

 

鷹岡の拳を受け止めながら、追い抜いた影の正体(太陽)はそう口を開いた。

 

 

 

太陽side

 

「太陽くん!!」

「悪いな、陽菜乃。遅くなって」

 

 後ろから聞こえた陽菜乃の声に俺は背を向けたままそう答えた。

 

実徳さんから鷹岡についての噂(独裁的な体制で部下を育てる事や、烏間先生に劣等感を抱いている事)を聞いた俺と威月は、急いで「ひまわり」からE組の皆の元へと駆けつけたのだ。

 

「・・・お前も父ちゃんに刃向かう気か?」

「アンタみたいな父親持った覚えはねえな」

 

鷹岡のそんな言葉に俺はそう返した。俺が父親と呼べる人は、本当の父親と実徳さんの2人だけだ。

 

「すまねえ、皆。大丈夫か?」

「よく来てくれたぜ、威月・・・」

 

皆、汗の量が尋常じゃねえ。このくそ野郎、マジで俺達の事、潰しても何て事ないと思ってやがるな。

 

「ほう・・・かなりの体格だな。俺と一緒に頑張ってみないか?」

「訓練の最中に()()()アンタに大怪我負わせていいなら」

 

俺と同じように青筋を浮かべながら威月が拳を鳴らしていると、烏間先生が近寄ってきた。

 

「太陽君、威月君」

「分かってます、烏間先生。ここでこの人を殴るのはマズいって」

 

そう返しながら手を離し、「でも、」と間を空けてから、

 

「大切な仲間や彼女までもが危ない目に遭ってるのに、黙って見ていられる程俺は人間が出来てません」

「てか、まだ殴りかかってないだけ褒めて欲しいくらいっすね」

「あぁ、分かっている」

 

俺の言葉に烏間先生は頷いて、鷹岡に向き直りながら話し出した。

 

「それ以上・・・生徒達に手荒くするな。暴れたいなら俺が相手を務めてやる」

「・・・言ったろ、烏間。これは暴力じゃない、教育なんだ。・・・でも、皆もまだ俺を認めてないだろう。父ちゃんもこのままじゃ不本意だ」

 

そう言いながら鷹岡は懐からある物を取り出しながら、こう言った。

 

「そこでこうしよう!!こいつで決めるんだ!!」

「・・・ナイフ?」

 

誰かが呟いた通り、鷹岡は対殺せんせーナイフを取り出していた。

 

「烏間。おまえが育てたこいつらの中でイチオシの生徒をひとり選べ。そいつが俺と闘い一度でもナイフを当てられたら・・・おまえに訓練を全部任せて出てってやる!!男に二言は無い!!」

 

鷹岡のそんな言葉に皆は少し明るくなった。そんな中、鷹岡は自分の鞄に向かって歩き、

 

「ただしもちろん、俺が勝てばその後一切口出しはさせないし・・・使うナイフはこれじゃない」

 

そう言った後、鷹岡は鞄の中からある物を取り出した。鈍く光る銀色の刀身のそれは、

 

(本物のナイフ!?)

「殺す相手が人間(オレ)なんだ。使う刃物も本物じゃなくちゃなぁ」

 

そう言いながら鷹岡は笑みを浮かべた。そんな鷹岡に烏間先生は慌てた様子で反論した。

 

「よせ!!彼等は人間を殺す訓練も用意もしていない!!本物を持っても体がすくんで刺せやしないぞ!!」

「安心しな、寸止めでも当たった事にしてやるよ。俺は素手だしこれ以上無いハンデだろ」

(コイツ・・・ビビる俺達を叩きのめすのが目的か!!)

「さぁ烏間、ひとり選べよ!!嫌なら無条件で俺に服従だ!!生徒を見捨てるか、生け贄として差し出すか!!どっちみち酷い教師だな、お前は!!はっははーーー!!」

「・・・さっきから聞いてりゃふざけた事ばっか言いやがって・・・!!」

 

笑いながらそう言った鷹岡に、大賀が怒りを隠そうともしないでそう呟いた。

 

「烏間先生、俺に行かして下さい!!2人の分もまとめて蹴り飛ばしてやる!!」

「ナイフなんざいらねぇ、素手で充分だ(ゴキッ)」

「竹刀使っていいなら、僕でもいいですよ」

 

大賀の後にも威月や登志もそう言って、鷹岡に近づこうとした。

 

(スッ) 「! 太陽?」

 

俺はそんな3人を右手で止め、威月のそんな声を無視して烏間先生に声をかけた。

 

「烏間先生、選んで下さい。俺達はその判断に従います」

「・・・」

 

烏間先生は鷹岡が地面に放ったナイフを無言で拾った後、ある生徒の元へと歩き出しその生徒の前で止まった。

 

「渚君。やる気はあるか?」

「なっ!?」

(やっぱり・・・俺と一緒だな)

 

威月はそんな声を上げ、他の皆も驚きの表情を浮かべたが、俺だけはそう考えていた。

 

「ぼ、僕・・・!?」

「ああ、選ばなくてはならないなら恐らく君だが、返事の前に俺の考え方を聞いて欲しい」

 

そう告げる最中も、烏間先生は渚から一瞬たりとも視線を外さなかった。

 

「地球を救う暗殺任務を依頼した側として・・・俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障する事だと思っている」

 

そこまで言って「だから、」と間を空けた後、

 

「このナイフを無理に受け取る必要はない。その時は俺が鷹岡に頼んで・・・「報酬」を維持してもらうよう努力する」

(・・・さすが烏間先生だな。政府の人間なのにホントに優しい人だ)

 

さて・・・どうする、渚?

 

 

 

渚side

 

(僕はこの人の目が好きだ)

 

 こんなに真っ直ぐ目を見て話してくれた人は、あの時の太陽達以外見た事が無かったからだ。

 

(立場上、僕等にも隠し事も沢山あるだろう。僕なんかより強い人はいっぱいいる中、何で僕を選んだのかも分からない)

サッ (けど、この先生が渡す(ナイフ)なら信頼できる。)

 

そう思いながらナイフを受け取り、

 

(それに、神崎さんや前原君の事。せめて1発返さなきゃ気が済まない)

 

2人を見ながらそう考えた僕は、

 

「やります」

 

そう言った後、ナイフを口に咥えながら腕を伸ばした。




いかがだったでしょうか。

ホント中学生、しかも女子を殴るとか漫画読んでてイライラしましたねこのシーンは。

次回は2人の対決になりますが、対決後を変えています。
簡単に言えば鉄槌を下します。どうやってかはお楽しみに。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十七時間目 才能の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は渚VS鷹岡です。
前話で言った通り勝負までは原作通りですが、そこからは変えています。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「お前の目も曇ったなぁ、烏間。よりによってそんなチビを選ぶとは」

「鷹岡は素手対ナイフの闘い方も熟知している。全力で振らないと掠りもしないぞ」

「・・・はい」

 

 戦闘の準備に入る3人を、俺を含め全員が黙って見ていた。すると、俺の横にいる威月が話しかけてきた。

 

「なぁ、太陽。大丈夫なのか、渚は?」

「心配か?」

「たりめえだろ。百歩譲って俺ら4人以外から選ぶとしても、何で渚なんだよ・・・」

 

そう呟く威月に大賀や登志も同意していた。だが、俺には何の心配も無かった。

 

「見てれば分かるさ。俺もあの条件なら、渚を選ぶ筈だ」

「・・・?」

 

俺の言葉に威月は疑問に思った様子だったが、俺が何も言わないのを見て無言で渚達を見つめ直した。

 

(渚があの時見せた殺気・・・あれが本物なら、いける筈だ)

「さぁ来い!!」

 

そう考えていると、鷹岡と渚は数メートル離れた状態で向かい合った状態で、鷹岡はそう言った。

 

(どっちにしろ、勝負は一瞬で決まるな・・・)

 

そう思いながら、俺は2人を見つめた。

 

 

 

渚side

 

 僕はさっきの烏間先生の話を思い出していた。

 

(いいか、この勝負は鷹岡にとっては「戦闘」で、自分の強さを見せつける必要がある。対して、君は「暗殺」だ。強さを示す必要もなく、ただ1回当てればいい。そこに君の勝機がある)

(奴はしばらくの間、好きに攻撃させるだろう。それらを見切って戦闘技術を誇示してから、じわじわと君を嬲りにかかるはずだ。つまり、反撃の来ない最初の数撃が最大のチャンス。君なら、そこを突けるはずだ)

「・・・」

 

僕は無言でナイフを見つめた後、()()に辿り着いた。

 

(そうだ、戦って勝たなくていい。()()()()()()()()

 

―――だから、僕は笑って普通に歩いて近づいた。通学路を歩くみたいに、普通に。

 

ポスッ ヒュッ

 

やがて鷹岡先生の左手に当たった僕は、そのまま鷹岡先生の顔に向かってナイフを振った。

 

―――ここで初めて鷹岡先生は気付いたみたいだった、自分が殺されかけている事に。

 

―――鷹岡先生はギョッとして体勢を崩した。

 

(誰だって殺されかけたらギョッとする。殺せんせーでもそうなのだから)

 

―――重心が後ろに偏ってたから、服を後ろに引っ張ったら転んだので、仕留めに行く。

 

―――正面からだと防がれるので、背後に回って確実に。

 

そして・・・

 

ピタッ 「捕まえた」

 

ナイフの峰を当てながら、僕はそう呟いた。

 

 

 

太陽side

 

「「「・・・」」」

(想像以上の才能の持ち主だったな・・・渚の奴)

 

クラス全員が目の前の光景に固まる中、俺はそう考えていた。

 

戦闘の才能でも暴力の才能でも無い、暗殺の才能。コレばかりは俺ら4人もカルマも持ってはいないからな。

 

「あれ・・・峰打ちじゃダメなんでしたっけ」

(普段はどう見ても無害な人間なんだけどな・・・)

 

キョドりながらそう言った渚を見て、俺は苦笑した。

 

「そこまで!!勝負ありですよね、烏間先生」

 

すると、そう言いながら殺せんせーは渚の手からナイフを奪い取ると、

 

ポリポリ 「まったく・・・本物のナイフを生徒に持たすなど正気の沙汰ではありません。ケガでもしたらどうするんですか」

「はは・・・」

(ハッ、よく言うぜ・・・ピンチになったら助けに入ってただろうに)

 

ナイフを食べながらそう言った殺せんせーに渚は苦笑いを浮かべながら立ち上がり、俺は心の中で毒づいた。

 

「やったじゃんか、渚!!」

「ホッとしたよ、もー!!」

 

そこで、ようやく杉野や茅野が代表してそう声をかけながら渚の近くに全員が駆け寄っていき、俺の近くには威月だけが残った。

 

「・・・太陽は知ってたのか?渚の才能」

「薄々感づいてはいたよ。殺気を出した瞬間も何回か見たことあるしな」

「そうか・・・」

 

腕を組みながら話しかけてきた威月に俺は正直に返した。今更嘘をつく必要は無いしな。

 

「・・・(パチーン)」

「いたっ。何で叩くの、前原君!?」

「あ、悪い・・・ちょっと信じられなくてさ」

 

今も目の前で前原に頭をはたかれて疑問をぶつける渚の姿を見て、威月は苦笑いを浮かべながら呟いた。

 

「あんな光景を見ると、とても渚が強そうには見えねえな」

「まあな。でも・・・だからこそ、鷹岡は油断して反応が遅れたんだ。弱そうってのは警戒心を抱かせない、まさに暗殺にとっては重要な才能だからな」

「確かにな・・・でも、こんな時代に暗殺の才能伸ばして渚にプラスになるのか?」

 

ま、確かに暗殺の能力生かせるのなんて普通は無いけど・・・

 

「それを決めるのは渚だろ?俺らがどうこう言うもんじゃねえ筈だ」

「・・・それもそうだな」

 

そう結論づけ、渚達の元へと行こうとしたその時、

 

「このガキ・・・父親同然の俺に刃向かって、まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか・・・!」

「チッ、アイツ!!」

(何て諦めワリい野郎だ・・・)

 

渚の背後にいた鷹岡が立ち上がり青筋を浮かべながらそう言ったのを見て、威月は舌打ちし俺は心の中で毒づいた。

 

「もう1回だ!!今度は絶対油断しねぇ、心も体も全部残らずへし折ってやる・・・!!」

「・・・確かに、次やったら絶対に僕が負けます」

 

鷹岡のそんな言葉に、渚は振り返りながらそう言った後、

 

「・・・でも、はっきりしたのは鷹岡先生。僕等の「担任」は殺せんせーで、僕等の「教官」は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押しつける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が、僕はあったかく感じます。(スッ)本気で僕等を強くしようとしてくれたのは感謝してます。でもごめんなさい、出て行って下さい」

 

頭を下げながらの渚の言葉に皆は無言の肯定を示した。すると、

 

「黙っ・・・て聞いてりゃガキの分際で・・・大人になんて口を・・・」

「・・・ヤベえぞ、太陽。このままじゃ」

「仕方ねえ、力づくで止めるか・・・」

 

怒りで震えながらそう言った鷹岡を見て、威月がそう言って俺も同意しながら駆け出そうしたが、

 

スッ 「! 大賀!!」

 

無言で渚を守るように鷹岡の前に立った大賀を見て立ち止まった。そんな大賀の行動に、鷹岡は怒りに震えながら口を開いた。

 

「・・・何だ、貴様・・・」

「渚はアンタの出した条件の中で結果を出した筈だ。なのに、それを逆恨みするのはおかしいんじゃねえの?」

「なっ、テメエ・・・」

「命のやりとりにもう1回なんてあるかよ。アンタはもう死んだんだよ、黙って消えろよ」

「っ!!」 ブンッ!!

 

その言葉がトドメとなったみたいだった。鷹岡は声にもならない叫び声を上げながら、大賀に右ストレートを放った。

 

ビッ 「なっ!?やめろ、鷹「烏間先生!!」・・・!?」

 

頬に掠らせながら躱した大賀は、止めに入ろうとした烏間先生に話しかけた。

 

「先に手を出したのはこの人ですし、俺も我慢の限界です。だから・・・1発だけ許可してくれませんか?」

「ハァ・・・分かった。1発だけだぞ」

「ありがとうございます。・・・そんなわけで、今度は俺が相手をしてやるから、かかってこいよ」

「図にのるなよガキがぁ!!」

 

人差し指でクイってやりながら挑発する大賀に、鷹岡はそう言いながら突進していった。

 

ブンッ!! ブオッ!! シュッ!!

 

鷹岡はパンチや蹴りを連続で繰り出していたが、大賀はそれら全てを躱していた。

 

「す、すげぇ・・・大賀の奴、全部躱してやがる・・・」

 

目の前の光景に、岡島が代表してそんな声を上げた。そんなクラス皆に向けて、登志は話し出した。

 

「大賀の身体能力は元々中学生離れしてるんだけど、特に脚力は大人顔負けだからね」

「おまけに今アイツは怒りで攻撃が単調になってるからな。大賀に当たる訳ねえさ」

 

威月もそう言って、その言葉を肯定するかの様に大賀は躱し続けた。

 

ドンッ 「!」

「ハァ・・・ハァ・・・ようやく追い詰めたぞ・・・」

 

すると、大賀は大きな木を背中に背負い、鷹岡は大きく呼吸をしながらそう言った。

 

「マズいぜ、太陽!!あれじゃあ、もう逃げれねえよ!!」

 

前原がそう叫び、クラス皆も不安そうな顔を浮かべた。そんな中、俺ら3人は冷静だった。

 

「逆だよ。大賀があそこまで追い詰めたんだ」

「オマケに鷹岡は考え無しに攻撃し続けたせいで、息も上がってるな」

「さて、アイツあの状態からどんな1発放つつもりだ?」

 

そう話し合ってると、鷹岡は右拳を振り上げ、

 

「くたばれぇ!!」 ブンッ!!

 

そう叫びながら大賀に振り下ろした。

 

スカッ 「なっ!?」

「き、消えた!?」

 

しかし、鷹岡の攻撃は空を切ると、姿が消えた大賀に皆は戸惑いの声を上げた。しかし、俺ら3人は当然見えていた。

 

「ここだよ。」「上だよ、皆。」

「「「!?」」」

 

そんな俺の声と大賀の声は重なり、鷹岡や皆は一斉に上を見た。大賀はいつの間にか5メートル以上の高さの枝に逆さまにぶら下がっていた。忍者かお前は・・・

 

そして、皆が上を向くのと入れ違いに大賀は枝を蹴って加速すると、鷹岡の頭上に落下しながら空中で1回転をして、

 

粗砕(コンカッセ)!!」 ゴンッ!!

 

そう叫びながら、鷹岡の顔面に踵落としを放った。無防備な状態でそれを喰らった鷹岡は一瞬硬直した後、受け身も取れずに倒れ込んだ。

 

(うわぁ・・・大賀の奴、自分の技の中で1発で1番威力の高い技選びやがった・・・)

スタッ 「勝負あり・・・ですよね、烏間先生?」

「あ、ああ・・・そうだな」

 

目の前の光景に若干引いてると、着地した後、そう確認する大賀に烏間先生は驚きながらも頷いた。

 

「お前ちゃんと生きてるんだろうな?そいつ・・・」

「ほどほどに手加減したから大丈夫だよ。仮にも精鋭部隊にいた人間なんだろ?この人」

 

大賀に一応確認をしていると、烏間先生は俺達全員の方へと向き直り、

 

「・・・俺の身内が・・・迷惑かけてすまなかった。後の事は心配するな。俺1人で君達の教官を務められるよう、上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」

「「「「烏間先生!!」」」」

 

烏間先生の話に皆は安堵の表情を浮かべた。それならもう安心だな。

 

すると、鷹岡が倒れたまま呻きながらも話し始めた(生きてた事に少しだけ安堵したのは内緒だ。)

 

「くっ・・・やらせるか、そんな事。俺が先にかけあって・・・」

「交渉の必要はありません」

 

その時、校舎の方からそんな声が聞こえ、俺達が一斉にそっちを向くと、そこには理事長が立っていた。そのままこっちに近づいてくる理事長に殺せんせーは恐る恐る用件を聞いた。

 

「・・・ご用は?」

「経営者として様子を見に来てみました。新任の先生の手腕に興味があったのでね」

(ヤバいな・・・この人の考え方なら、鷹岡に続投させる筈だ)

 

そう考えていると、理事長は身動きが取れない鷹岡の口を開けると、

 

「でもね、鷹岡先生。あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。が、暴力でしか恐怖を与える事ができないなら・・・その教師は三流以下だ(スッ)自分より強い暴力に負けた時点で、()()の授業は説得力を完全に失う」

 

そう言いきりながら鷹岡の口に懐から取り出した紙を突っ込んだ。

 

「解雇通知です。椚ヶ丘中(ここ)の教師の任命権は防衛省(あなたがた)には無い。私にあるという事をお忘れなく」

(た、鷹岡よりもよっぽど怖え・・・)

 

そう言いながら立ち去っていく背中を見ながら、俺はおもわずそう思った。

 

「っ!」 ダダダッ・・・

 

すると、鷹岡はそんな理事長を追い抜いて校舎へとフラフラになりながらも逃げていった。それを見て皆が一斉に喜びの声を上げた。そんな中、威月が苦笑いを浮かべながら話しかけてきた。

 

「鷹岡を切る事で、誰が支配者か見せつけやがったな。どう転んでも、理事長(あの人)の掌の上って事か・・・」

「そうだな・・・ま、今回は素直に感謝しとこうぜ」

「・・・だな」

 

そんな風にお互い苦笑しながら話し合ってると、陽菜乃が声をかけてきた。

 

「太陽くーん、水守くーん、烏間先生が甘い物奢ってくれるって~!!早く行こ~!!」

「はいよー。行こうぜ、威月」

「おう!」

 

俺達はそう返事をしながら、皆の元へと駆け出した。すると、今回ろくな活躍してない殺せんせーは、土下座しながらついてきた。そこまでして食いたいのかよ・・・




いかがだったでしょうか。

というわけで、大賀に蹴ってもらいました。書いててスカッとしました(笑)!!
後、"サンジ"の一撃で威力が高い技と言えばもう1つありますが、あれはマジで殺せそうなのと、使い勝手の良さで「粗砕(コンカッセ)」にしました。
何の技か分からない方は「反行儀」と調べて下さい。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十八時間目 プールの時間

皆さんどうも籠野球です。

夜勤中なので朝に投稿するつもりが寝落ちしてました(笑)

今回はタイトル通りですが、原作とは最後を若干変えています。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「暑っぢ~・・・」

「地獄だぜ・・・クーラーのない教室とか・・・」

 

鷹岡もいなくなって1週間以上経ち、本格的な夏に入り始めた今日、クラスの皆は口々にそう言いながらだらけていた。

 

「だらしない・・・夏の暑さは当然の事です!!温暖湿潤気候で暮らすのだからあきらめなさい。・・・ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます」

「「「「ずりぃ!!」」」」

「アンタが一番だらしねえよ・・・」

 

殺せんせーはそんなことを言いながら指揮棒を突きつけたが、黒板に書いたロシアを指しながらそう続けた為、逆に威月がそうツッコんだ。てか、超生物が夏バテかよ・・・

 

「大丈夫か、皆?まだまだ夏はあるんだぜ」

「・・・太陽達は平気なのか?太陽は汗すら掻いてねえけど」

 

そんな中、黒板の内容をノートに写しながらの俺の言葉に、俺ら4人を見ながら三村が呟いた。

 

「俺は暑さには強いからな。全然平気だよ。」

「そもそも「ひまわり」にはエアコン無いからな。慣れてんだよ」

 

俺の言葉の後、大賀が笑いながらそう続けた。エアコンが無いのが俺ら4人には普通だからな。

 

「でも今日プール開きだよねっ、体育の時間が待ち遠しい~」

「いや・・・そのプールがE組(おれら)にとっちゃ地獄なんだよ」

 

水泳バックを持ち上げて嬉しそうにそう言った陽菜乃に横の木村が呟いた。

 

「プールは本校舎にしか無いから、俺達は炎天下の山道を1キロ往復して入りに行く必要がある。人呼んで「E組死のプール行軍」。特に帰りの山道は力尽きてカラスのエサになりかねねー」

「それ、どんな軍隊?」

 

木村の説明に俺はそうツッコんだ。てか、もうそれ虐待じゃね?

 

「うー・・・本校舎まで運んでくれよ、殺せんせー」

「んもー、しょーがないなぁ・・・と言いたいですが、先生のスピードを当てにするんじゃありません!!いくらマッハ20でも出来ない事はあるんです!!」

「・・・だろーね・・・」

 

前原のそんな文句は顔に×印を浮かべながらの殺せんせーにそう返され、前原はそう呟くしか無かった。

 

「・・・でもまあ気持ちはわかります。全員水着に着替えてついて来なさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう、そこに涼みに行きましょう」

(? 何だいきなり)

 

いきなりそんな事を言った殺せんせーに全員がそう思った。

 

 

 

「裏山に沢なんてあったんだ」

「・・・一応な。っつっても足首まであるかないかの深さだぜ」

 

 殺せんせーの後ろをついて行く途中で、千葉と速水がそんなやりとりをしていた。俺も全く知らなかったな。

 

(ま、少しは涼しくなるだろう)

「そういや、渚君。この前凄かったらしいじゃん。見ときゃ良かった渚君の暗殺!」

「ホントだぜーカルマ」

「カルマ君面倒そうな授業はサボるんだから」

「えーだってあのデブ嫌だったし」

 

大賀と茅野のそんな返しに、カルマは舌を出しながらそう言った。その気持ちは分かるがな・・・

 

「アハハ、でも人間相手に通用しても、この教室では意味が無いからね・・・」

(まぁ確かに皆毎日のように何かしら暗殺を試みてるが、決定的な暗殺者が出来てはいないな)

 

苦笑いを浮かべながらそう言った渚に心の中で同意した。どうやって殺せばいいのかね・・・

 

そう考えていると、殺せんせーは俺達に振り返りながら話し始めた。

 

「さて皆さん!さっき先生は言いましたね。マッハ20でもできない事があると。そのひとつは君達をプールに連れて行く事。残念ながらそれには1日かかります。」

「1日・・・って大げさな。本校舎のプールなんて歩いて20分「おや、誰が本校舎に行くと?」(サアァァァ・・・)・・・!!」

 

磯貝の言葉を遮って殺せんせーはそう言って、耳を澄ませば殺せんせーの後ろから何やら水の流れる音がしていた。

 

俺達は一瞬だけ無言になった後、木々を押しのけて音のする場所を見た。

 

そこには、岩に窪みに出来た自然のプールがあった。目の前の光景に驚いて言葉を失っていると、

 

「何しろ小さな沢を塞き止めたので・・・水が溜まるまで20時間!バッチリ25コースの幅も確保。シーズンオフには水を抜けば元どおり。水位を調整すれば魚も飼って観察できます」

 

そこまで説明した後、普段よりも更に笑みを浮かべ、

 

「制作に1日、移動に1分、あとは1秒あれば飛びこめますよ」

「「「い・・・いやっほおう!!」」」

(こんな事してくれる先生なんて、普通いねえよ!!全く・・・これだから、殺せんせーは殺し辛えな!!)

 

殺せんせーのそんな言葉に、皆が一斉に上着を脱いでそんな声を上げながら飛びこんでいき、俺もそんな事を考えながら飛び込んだ!

 

 

 

「楽しいけど、ちょっと憂鬱。泳ぎは苦手だし、水着は体のラインがはっきり出るし」

「大丈夫さ、茅野。その体もいつかどこかで需要があるさ」

「・・・うん、岡島君。二枚目面して盗撮カメラ用意するのやめよっか」

 

 浮き輪で浮かびながらの茅野の呟きに岡島がそう返したが、茅野の言う通りカメラを持ちながらでは犯罪の匂いしかしなかった。てか、もう完全にアウトだろ・・・

 

「渚・・・あんた、男なのね」

「今さら!?」

「・・・まぁ、仕方ない」

 

中村にそう言われてツッコむ渚に不破がそう呟いていた。渚の奴、気の毒に・・・

 

「・・・あ、太陽いったぞ!!」

「え?(ボンッ!!)痛っ!?」

 

その時、突然そう声をかけられ振り向くと、目の前に殺せんせーボールが飛んできていた。あまりにも突然だった為、俺は避ける事も出来なかった。

 

「た、太陽くん!!大丈夫!?」

「大丈夫か、太陽!?」

「ゴホッ、ゴホッ・・・おう、大丈夫だ。ちょっと考え事しててな」

 

一緒に遊んでいた陽菜乃や大賀がそう声をかけながら近寄ってきたので、俺は笑いながらそう返した。少し水は飲んじまったがその程度だ。

 

「よかったぁ~・・・あれ?太陽くん、それ火傷の痕?」

 

俺の言葉にホッとした顔をしながら陽菜乃は背中を擦ろうしてくれたその時に俺の背中の傷痕に気づいてそんな声を上げた。

 

俺の背中には所々火傷の痕がある。ただし、俺にその記憶は無い。何故なら、

 

「あぁ、俺がまだ生まれて間もない頃に1回火傷したんだ。その時の傷痕らしい」

「え・・・そうなんだ。大丈夫だったの?」

「じゃなかったら今ここに俺はいねえよ」

「あ・・・そっか」

 

俺の返しに、陽菜乃は苦笑いを浮かべながらそう言った。そんな陽菜乃を見て俺は苦笑しながら、

 

「まぁ、確かに当時はかなり危なかったらしい。これでも、大分消えてきたほうだけどな」

「そうなんだ・・・触ってみてもいい?」

「あぁ、いいよ」

 

そう言うと、陽菜乃はゆっくりと俺の背中に触れた。指先が触れる感覚を感じて少しくすぐったい。

 

「これ、痛くはないの?」

「あぁ、痕が残ってるだけで、傷はとっくの昔に完治してるからな」

「へぇ~・・・」

 

そう言いながら陽菜乃はしばらくの間俺の背中を撫でていた。正直この感覚は悪い気はしなかった。でも、

 

「・・・・・なあ、陽菜乃」

「? なに?」

「その・・・あんまり背中を撫でられるとくすぐったいし、何よりめちゃめちゃ恥ずかしいからそろそろやめて欲しいんだが・・・」

「あ・・・ゴ、ゴメン!!///私桃花ちゃん達と遊んでくるね///!!」

 

俺のそんな言葉に陽菜乃は顔を真っ赤にしながら慌てて手を離すと、そう言いながら矢田達の所へと泳いでいった。

 

「あー恥ずかしかった・・・」

「でも何か嬉しそうだったぜ、太陽」

「・・・否定はしないがその言い方はやめてくれ。俺が変態に聞こえる・・・」

ピピピッ!

 

近くにいた大賀に笑顔でそう言われ俺がそう返したその時、何やら笛の音がして俺達は笛の音がした方向を向いた。

 

「木村君!!プールサイドを走っちゃいけません!!転んだら危ないですよ!!」

「あ、す、すんません」

ピーッ! 「中村さんに原さん!!潜水遊びはほどほどに!!長く潜ると溺れたかと心配します!!」

「は、はーい・・・」

 

いつの間にか監視員の格好になっている殺せんせーが監視台に乗りながら注意をしていた。いや、まあそれはまだ分かるが・・・

 

「(ピッ!)岡島君のカメラも没収!!(ピピッ!)狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい!!(ピーッ!)菅谷君!!ボディーアートは普通は入場禁止ですよ!!(ピピピーッ!)そして太陽君!!せっかくいちゃいちゃしてたのだから、もっと見せなさい!!」

「どんな注意だ!?てか、それが教師の言う事か!!」

(さっきからピーピーうるせえし、これだからありがたみが薄れんだよ・・・)

 

そう思いながら、監視台の上でふんぞり返って鼻歌を歌っている殺せんせーを見ていると、大賀が首をかしげながら殺せんせーに聞いた。

 

「そういや、殺せんせーは泳がないんですか?自分が作ったのに。(ギクッ)・・・? 殺せんせー?」

 

その質問にそんな音が聞こえそうなくらい硬直した殺せんせーを見て、大賀は頭に?マークを浮かべた。

 

「せ、先生は皆さんの安全を見守る必要があります。それに、皆さんにはふさわしく整然と遊んでもらわなくてはならないので・・・」

「カタイこといわないでよ殺せんせー。水かけちゃえ!!「(バシャッ)きゃんっ!!」・・・え?」

「・・・何、今の悲鳴?」

 

冷や汗を流しながらそう弁明した殺せんせーに陽菜乃がそう言いながら水をかけた次の瞬間、殺せんせーはそんな声を上げ皆が無言になった後、誰かがそんな声を上げた。

 

(今の悲鳴にあの反応・・・まさか!)

 チラッ (こくっ)

 

その状況に俺はある仮説を立て、監視台の近くにいるカルマに目配せするとカルマは頷いた後監視台の近くまで泳ぎ、監視台の根元を掴んで揺らし始めた。

 

グラグラ 「きゃあッ!ゆらさないで、水に落ちる!!」

 

その様子を見て仮説は実証に変わった。殺せんせー、泳げないのか!!

 

「「「「・・・・・!!」」」」

 

皆も気づいた様子だった。思いもかけずに得た、今まで1番使える弱点に。

 

(水殺か・・・この夏の暗殺の大きなテーマになりそうだな・・・)

 

そう考えながら、皆を見渡した。皆も殺る気になっているのが分かるしこれならいけるだろう。

 

「・・・チッ」

(! 寺坂・・・?)

 

しかし、物陰から制服のままこっちを見ていた寺坂がそう舌打ちしながら校舎に帰っていくのを見えた。アイツも入ればいいのに・・・強情な奴だな。

 

 

 

寺坂side

 

放課後・・・

 

(クソッ!なんだよ、アイツら!どいつもこいつもあんなタコに取り込まれやがって。)

 

 帰り道の途中、俺は苛つきながら家に帰っていた。今日は吉田も村松もいない。

 

(・・・居心地がワリい。あのタコさえ来なければ・・・ダメ人間の集団の中にいられたのにクソッ!!・・・だが、また渚や他の奴らに手を出したらあのタコがだまってねえ・・・どうすりゃ・・・)

 

四月の最初、俺は渚に自爆テロをさせたが、脱皮で防がれたあげくにあのタコに本気でキレられた。次やったら、今度こそ何されるか分からねえ・・・だからこそ、俺はここまで何も出来なかったんだ。

 

「・・・フフフ、お困りのようだね?寺坂君」

「アァ?・・・! テメエは・・・」

 

その時、突然後ろからそう声をかけられた。振り返ると、そこには全身白尽くめの格好をした男が立っていた。

 

(コイツは、確かイトナって野郎の保護者とか言ってた。確か・・・シロって言ってたな)

「・・・なんか用かよ、俺に?」

 

そう思い出しながら、俺は話しかけた。すると、シロは再び笑いながら話し出した。

 

「フフフ、分かるよ寺坂君。私には君の考えていることがね」

「・・・アァ?テメエ何言って「あのタコのせいで自分の居場所が無いが、自分では何も出来ない・・・だろ?」・・・!?」

 

俺の言葉を遮ってシロはそう言ってから懐からある物を取り出した。

 

「!? 金・・・?」

「十万ある。私とイトナは奴を殺す計画を立てている。君にその計画の手助けをして欲しいんだ。もし引き受けてくれるなら、達成を確認した後すぐコレを渡し、奴を殺してまた元のE組に戻してあげよう」

 

そう言いながら、懐に金をしまうシロに俺は話しかけた。

 

「何で俺なんだ?」

「あのタコは鼻が効くからね。外部の者が動き回ればすぐ察知しちまう。だから寺坂君のような内部の人間がいいんだ」

 

そこまで言ってから、シロは両手を広げながら話し始めた。

 

「君の気持ちはよく分かる。あのタコに苛つくあまり、君はクラスの皆と孤立を深めている。私は奴を殺せる。君は元のE組に戻れる。どちらにとっても悪い話では無いはずだ、どうかね?」

「・・・」

 

―――地球の危機とか暗殺のための自分磨きとか落ちこぼれからの脱出とか、俺は正直な所どーでもいい。その日その日を楽して適当に生きたいだけだ。

 

―――・・・だから俺は・・・

 

「・・・いいぜ、何すりゃいいんだよ?」

 

―――こっちの(ほう)が・・・居心地が良いな・・・

 

「フッフッフ。そうこなくては」

 

俺の言葉にシロの覆面の下の目が光った気がした。




いかがだったでしょうか。

原作では寺坂はシロとイトナには裏工作後に会っていますが、この作品ではその前に会わせました。その方が書きやすそうだったので・・・

また、太陽の傷などはまだまだ説明は先になります。本気のきっかけみたいな物です。

それと、片岡さんの回は飛ばします。書く必要は無いと思ったので(好きな方はすいません。)
m(_ _)m

それでは、また次回お会いしましょう!!


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二十九時間目 寺坂の時間

皆さんどうも籠野球です。

シロが寺坂に取引を持ちかけた所から2日経った所からです。この間に片岡さんの話が終わっています。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「・・・じゃあ、やっぱり殺せんせーは泳げないのか?」

「あぁ。渚や茅野さん、それに片岡さんも確認したんだって」

 

 プールで殺せんせーの弱点を知った日から2日経った今日、俺ら4人は山道を歩いていた。今日は久々に4人での登校だ。

 

その途中で、俺は大賀から昨日渚が得た情報を聞いていた。やっぱり俺達の予想通り、殺せんせーは泳げないらしい。水に入ると、触手が水を含んで身動きが殆ど取れなくなるとの事だった。

 

「でも、元水泳部の片岡さんでも1人なら余裕で相手出来るみたいだし、そもそも落ちない自信があるって」

「まぁ、マッハ20だからな・・・」

 

そんな大賀の言葉に威月は頭の後ろで両手を組みながらそう言った。確かに水に落とすまでが大変そうだな・・・だが、

 

「それは上手く計画立てりゃ、何とかなる。皆と一緒に考えていけばいいさ」

「そうだね。まだ夏は始まったばかりだし、まだまだ時間はあるよ」

 

俺の言葉に登志がそう言いながら頷き、2人も「そうだな。」と返してくれた。

 

そのまま4人で校舎の前まで歩いてきたその時、クラスの皆が慌てて校舎から出てきたのを見て、俺らは首をかしげた。どうしたんだ、皆?

 

「おはよう。どうしたんだ、皆」

「あ、太陽達。それが大変なんだ、プールが・・・!」

「は?プール?」

 

1番近くにいた前原のそんな言葉に威月が代表してそんな声を上げた。何の事か分からないのでとりあえず俺ら4人も皆に続いてプールへと走った。すると・・・

 

「な!?これは・・・」

「メチャクチャじゃねえか・・・」

 

そこには、木のベンチや飛び込み台が壊されたプールがあった。ゴミまで捨ててあるし誰がやったんだ、こんな事・・・!?

 

「あーあー・・・こりゃ大変だ」

「ま、いーんじゃね?プールとかめんどいし」

(! アイツら・・・)

 

すると、ニヤニヤと笑みを浮かべながらそう話し合ってる吉田や村松、それに寺坂の姿が見えた。この状況で笑ってるって事はアイツらが・・・?

 

「・・・」

「ンだよ渚、何見てんだよ」

 

俺と同じ考えなのか渚も3人もジッと見ていると、視線に気づいた寺坂がそう言いながら渚に近寄った。

 

ぐいっ 「まさか・・・俺らが犯人とか疑ってんのか?くだらねーぞ、その考え」

ガシッ 「・・・疑われて当然じゃねえの?そんな態度なら尚更」

「やめろ、大賀。寺坂達がやったって証拠はねえんだ。疑うだけ時間の無駄だ」

 

渚のネクタイを掴みながらそう言った寺坂の腕を掴みながら大賀がそう言った為、2人の間に一触即発の空気が流れた。俺はとりあえず大賀を止めようとそう口を開いた。

 

「太陽君の言うとおりです。そんなのは時間の無駄です」

「!・・・すみません。悪かった、寺坂」

「・・・おう」

 

その時、殺せんせーがそう言いながら現れたので、大賀が寺坂の腕を離しながら頭を下げ、寺坂も一応そう言って2人は離れた。

 

シュバッ 「はい、これでもとどおり!!いつも通り遊んで下さい」

 

その後、殺せんせーがマッハでプールを直し皆にそう言ってるのを見て、寺坂は何も言わずに校舎へと帰っていき、吉田と村松もついていった。

 

「・・・どう思う、太陽?」

「多分寺坂達だろうな、壊したのは」

 

そんな3人を見て威月がそう聞いてきたので、俺は思ったまま口にした。あの態度からして明らかだろう。

 

「だろうな。元々アイツら勉強にも暗殺にも積極的では無かったが、最近特に変だな」

「放っとけよ2人とも。いじめっ子で通してきたあいつ的には面白くねーんだろ」

「殺していい教室なんて楽しまない方がもったいないとは思うけどね~」

(・・・確かにそうだが、少し気になるな・・・)

 

杉野やカルマの言葉に同意しながらも、俺はアイツら3人・・・特に寺坂から目が離せなかった。

 

 

 

ガラッ 「フー・・・ん?何してんだ皆?」

「あ、太陽。見てくれ、凄くね!!コレ!?」

 

 帰りのHRが終わった後、トイレに行って教室に戻ってきた俺は皆が集まっているのを見てそう聞くと、大賀が興奮した様子でそう言った。

 

よく見ると、何やら木で作られたバイクにライダースーツを着てヘルメットを被った殺せんせーが跨がっていた。

 

「すげー!!まるで本物じゃねーか!!お前もそう思わねえか、太陽!?」」

「へぇー、車輪もついてるしホントに走れるのかと思った。」

「いや、いくら何でも車体が木で出来たバイクは無いだろ」

 

威月の笑いながらのツッコミに皆が同意しながら笑った。吉田も「走ってる途中でぶっ壊れちまうぜ!!」と言いながら笑ってるし、いい空気だな。

 

「・・・何してんだよ、吉田」

「あ、寺坂。い、いやぁ・・・この前こいつとバイクの話で盛り上がっちまってよ」

「ヌルフフフ。先生は大人な上に(おとこ)の中の漢。この手の趣味もひととおり(かじ)ってます」

 

すると、いつのまにか教室に入ってきていた寺坂が青筋を浮かべながらの質問に吉田がそう返し、殺せんせーは笑いながらそう言った後、元の服装に一瞬で着替えて話を続けた。

 

「しかもこのバイク最高時速300キロ出るんですって。先生一度本物に乗ってみたいモンです」

「アホか、抱きかかえて飛んだ方が速えだろ」

 

その言葉に吉田がそうツッコみ、再び皆が笑い出した。ま、そりゃそうだ。

 

バキィッ! 「にゅやーーーッ!!?」

 

その時、寺坂が無言でバイクを蹴り壊し、殺せんせーが悲鳴を上げた。

 

「何てことするんだよ寺坂!!」

「謝ってやんなよ!!大人な上に漢の中の漢の殺せんせー泣いてるよ!?」

「な、泣かないで下さい、殺せんせー。また作りましょうよ」

 

いきなりの寺坂の暴挙に当然クラス全員がブーイングを浴びせた。いや、もちろん寺坂が悪いが、殺せんせーも大人で漢の中の漢ならマジ泣きするなよ・・・登志が必死に慰めてるし。

 

「・・・てめーらブンブンうるせーな虫みたいに。駆除してやるよ」 

カァン バシュシュシューーー!!

「うわっ!!」

「何だコレ!?」

(っ殺虫剤!?)

 

すると、寺坂がそう言いながらスプレー缶を投げ落とし、中から煙が噴射され皆がそんな声を上げた。

 

「テメッ・・・いくら何でも「寺坂君!!ヤンチャするにも限度ってものが・・・」」

 

俺が寺坂に掴みかかるよりも先に、殺せんせーが寺坂の肩を掴みながらそう言った。すると、寺坂はその手を払いながら、

 

「さわんじゃねえーよ、モンスター。気持ちわりーんだよ。テメーも、モンスターに操られて仲良しこよしのE組(テメーら)も」

「テメェ・・・あんまり調子に乗ってると俺も容赦しねえぞ・・・」

「落ち着いて、太陽」

 

寺坂のそんな言葉にキレかけた俺だったが、登志がそう言いながら割って入ってきてくれたので何とか堪える事が出来た。

 

そんな俺の代わりにカルマが口を開いた。

 

「何がそんなに嫌なのかねぇ・・・気に入らないなら殺しゃいいじゃん。せっかくそれが許可されてる教室なのに」

「何だカルマ、テメー俺にケンカ売ってんのか。上等だよ。だいたいテメーは最初から・・・(ガシッ)・・・!?」

 

そこまで言いながら近寄っていった寺坂の口を鷲掴み、空いている手でしーのポーズを取りながらカルマは話し出した。

 

「だめだってば寺坂。ケンカするなら口より先に手ェ出さなきゃ」

「テメエが何しようが勝手だけどな・・・真面目にやってる俺達の邪魔までしてんじゃねえよ」

「・・・ッ!!放せ!!くだらねー!!」

 

カルマの後に威月が腕を組みながらそう言った所で、寺坂はカルマの手を払いながら教室を出て行った。

 

「・・・なんなんだ、アイツ」

「一緒に平和にやれないもんかな・・・」

「・・・ちょっといいか、吉田」

「あ?何だよ、太陽」

 

前原や磯貝が寺坂が出て行った扉を見ながらそう呟く中、俺は吉田に話しかけた。

 

「プール壊したのって、寺坂の指示でか?」

「うっ、それは・・・」

 

俺の質問に言い淀んだ吉田に苦笑しながら話を続けた。結構良い奴だな、吉田は。

 

「別に責めてるわけじゃねえんだ。寺坂の指示があったのかって思ってな」

「・・・あぁ。昨日いきなり携帯に送ってきてな。理由聞いても教えてくれねーんだよ」

「・・・そうか」

(いくらクラス1のバカでも、何の脈絡も無くプールを壊すなんてありえねぇ。オマケにさっきの殺虫剤もいきなり撒きやがった・・・計画性が無さ過ぎるが、何か妙な胸騒ぎがするな・・・外れてくれりゃあいいが・・・)

 

この俺の予想が間違ってなかった事を俺達は翌日知る事になる―――――




いかがだったでしょうか。

ここは基本的には原作と一緒です。次回からは少し原作と変えてあります。

それと、話は変わりますがこの作品のUA数が5000を突破しました(31話も投稿してれば当たり前なのかもしれませんが(笑))!!
読んでくれる方々、本当にありがとうございます!!
これからも頑張っていくので、読んで頂けたら幸いです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!



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三十時間目 ビジョンの時間

皆さんどうも籠野球です。

申し訳ありません。人狼ゲームと進撃の○人2にはまって今週はパソコン触らなかったので更新出来ませんでしたm(_ _)m
必ず日曜日には投稿するのでこれからも是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


威月side

 

「ぐすっ・・・ぐすっ・・・」

「なによ。さっきから意味も無く涙流して」

 

 寺坂が教室で暴れた翌日の昼休み、皆で昼飯を食べている中殺せんせーが涙を流しているのを見てビッチ先生がツッコんだ。どうしたんだ、殺せんせー?

 

「いいえ、鼻なので涙じゃなくて鼻水です。目はこっち」

「まぎらわしい!!」

「どうも昨日から体の調子が少し変です。夏カゼですかねぇ・・・」

 

2人のやりとりを俺はぼんやりと眺めていた。てか、超生物も風邪引くのか?

 

(寺坂も今日は来てねえし、太陽も言ってたがちょっと気になるな・・・「ガララッ」っ寺坂!)

「おお、寺坂君!!今日は登校しないかと心配でした!!」

 

そんな風に考えていると、ちょうど寺坂が入ってきて殺せんせーがそう言いながら駆け寄った。

 

「昨日君がキレた事ならご心配なく!!もう皆気にしてませんよね?ね?」

「・・・う、うん・・・汁まみれになっていく寺坂の顔の方が気になる」

(汚えなぁ・・・流石に気の毒だ)

 

自分が鼻水が止まらない事を忘れているのか、興奮しながらそう皆に確認している今も寺坂の顔は鼻水でべちょべちょになっていくのを見て、茅野がそう返した。

 

すると、殺せんせーの服で顔を拭いた後、殺せんせーに指を突きつけながら寺坂が話し出した。

 

「・・・おい、タコ。そろそろ本気でブッ殺してやンよ。放課後プールへ来い。弱点なんだってな、水が」

 

そこまで言った後、寺坂は俺達の方へと向きながら、

 

「てめーらも全員手伝え!!俺がこいつを水ン中に叩き落としてやッからよ!!」

「「「「・・・・・」」」」

 

そう言ってきたが、誰もその言葉に頷く事は無かった。ま、そりゃそうだわな。

 

すると、皆を代表して前原が立ち上がりながら寺坂に話しかけた。

 

「・・・寺坂、お前ずっと皆の暗殺には協力してかなかったよな。それをいきなりおまえの都合で命令されて・・・皆が皆ハイやりますって言うと思うか?」

「ケッ、別にいいぜ来なくても。そん時ゃ俺が賞金百億独り占めだ」

「・・・なんなんだよ、あいつ・・・」

「もう正直ついてけねーわ」

 

前原の言葉にそう返しながら教室を出て行った寺坂を見ながら、吉田と村松がそう呟いた。てことはアイツの独断って事か。ますますおかしいな・・・

 

「私行かなーい」

「同じく」

「俺も今回はパスかな」

(皆も行く気なさそうだな。俺も正直あのバカの計画なんか興味も「皆、生きましょうよぉ」って何だこりゃ!?」

 

そう考えている途中で殺せんせーがそう言って、俺達は殺せんせーの流した粘液に捕まった。

 

「せっかく寺坂君が私を殺る気になったんです。皆で一緒に暗殺して気持ち良く仲直りです」

「「「「まずあんたが気持ち悪い!!」」」」

 

粘液を流しすぎて顔全体がドロドロになりながらの殺せんせーの言葉に皆がツッコんだ。もはやホラーだよ!!

 

「・・・威月、放課後ちょっと話せるか?」

「! 分かった」

 

すると、俺の横で机の上であぐらを掻きながら弁当を食べる太陽が話しかけてきて、俺は頷いた。てか、逃げんの早えな太陽・・・

 

 

 

放課後・・・

 

「よしよ~し。いい子だな~」 バサバサッ!!

(・・・アイツ何で鳩に懐かれてんだ?)

 

 俺は通学路の途中で鳩と戯れている太陽を見つけた。ちなみに俺達は水着には着替えたが、上に体操着を羽織っている。

 

「ワリい。待たせたな、太陽」

「おっ、威月。こっちこそワリいな、呼び出して」

 

俺の声に反応して太陽は振り返り、顔も一瞬で真面目な顔になりながら話しかけてきた。

 

「皆は?」

「プールに散らばって入れって寺坂が命令して一応指示通り動いてるよ。大賀と登志には念の為プールに入ってもらってる」

「そうか。」

「・・・どう思う?アイツの計画」

 

俺がそう聞くと、太陽は考える素振りを見せながら答えた。

 

「俺は寺坂が誰かの指示で動いてると思う」

「! ・・・誰が?」

「それは分からねえ。でも、昨日のアイツの暴挙もそう考えれば辻褄が合う」

「なるほど・・・」

 

太陽の言葉に俺はそう呟いた。確かにプールを壊したり、殺虫剤を撒いたりと意味の分からない行動ばかりとってるしな。

 

すると、太陽は坂道の下を見ながら、

 

「俺はこのまま下まで変わった奴がいないか探す。威月はプールに戻ってくれ。何かあった時は頼むな」

「分かった。気をつけろよ」

「そっちもな」

 

そう言い合いながら太陽は下に降りていくのを見た後、俺はプールへと急いで戻った。

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・何とか間に合ったか。」

 

 5分間走って、ようやくプールが見える距離にまで俺は戻ってきた。見てみると皆がプールに散り散りに入っていて、寺坂の手には1丁の拳銃が握られていた。

 

ずっとテメーが嫌いだったよ。消えて欲しくてしょうがなかった

ええ、知ってます。暗殺(これ)の後でゆっくり2人で話しましょう

(・・・ん?・・・あれは、まさか!?)

 

拳銃を向けながらの2人の会話が辛うじて聞こえる距離にまで近づいたその時、俺はプールの排水門に取り付けられているある物に気づいてしまった。

 

普通なら見ただけでは分からないだろう。だが、俺は気づいてしまった。

 

「全員プールから上がれぇ!!」

 

俺がそう叫ぶのと寺坂が引き金を引くのは同時だった。

 

次の瞬間、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

大賀side

 

ドグァッ!!! (!? 何だ!?)

 

いきなり近くの水を抜く門が爆発して、俺はとりあえずプールから脱出しようとした。

 

「うわっ・・・」

「うっ・・・」

(! 杉野!!神崎さん!!)

 

しかし、門の近くにいた2人が流されるのを見えて、俺は迷わず2人を追いかけた。このまま落ちたら二人とも溺れるか岩に体をぶつけちまう!! 

 

ガシッ (よしっ、追いついた!!でもここからどうする!?)

 

2人の手を掴む事には成功したが、水の速さに2人は何も出来ない様子だった。

 

(・・・仕方ねえ!!)

 

戦闘以外にはなるべく使うなって言われてるけど今は緊急時だ!!

 

そう決意して2人の腰に手を回しながら俺はその言葉を唱えた。

 

(―――――月歩(ゲッポウ)!!)

 

 

 

「大丈夫か、2人共!?」

「ゴホッ・・・おう、大丈夫だ」

「けほっ・・・ありがとう、九澄くん」

「よかった・・・」

 

 近くの岩場に着地した俺の問いに、2人は咳き込みながらもそう返してくれた。

 

「でも、誰がこんな事を・・・」

「分からない・・・でも、寺坂1人でやったとは思えない」

 

神崎さんの呟きにそう返しながら俺は立ち上がると、

 

「杉野、神崎さんを頼む。俺は先に行く!!」

「分かった!」

「気をつけてね、九澄くん」

 

そう返してくれた2人に頷いた後、俺は水が流れた先へと下りていった。

 

すると、少し下りた先の小さい崖に皆が集まって崖下を見ていた。

 

「皆、大丈夫!?いったい何が・・・」

「! 九澄、あれ見ろ!!」

 

すると、磯貝がそう言いながら崖下を指差したから、言われるがまま俺も崖下を見た。

 

「!!」

 

そこでは、イトナと殺せんせーが戦っていた―――――!!

 

 

 

威月side

 

ドグァッ!!! 「ぐっ!!」

 

目の前で排水門が爆発し、俺はおもわず目を覆った。

 

(クソッ!!遅かったか!!) 

「皆さん!!」

 

そう考えている最中も、壊れた場所から水と一緒に皆が流されていき、殺せんせーがそう言いながら追いかけていった。

 

バシャッ スタッ 「! 登志!!」

 

すると、爆発された場所から一番遠い所に登志が矢田と倉橋を抱えて着地するのが見えて、俺は登志の名前を呼びながら駆け寄った。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ゴメン、威月。近くの2人抱えて脱出するのが精一杯だった・・・」

「いや、2人助けただけでも大したものさ。流石登志だ」

「ありがとう、伊勢くん」

「助かったよ」

 

呼吸を整えながら話す登志に倉橋と矢田が礼を言った。登志の事だ、おそらく太陽の為に倉橋の近くにいたんだろう。あいかわらず優しい奴だ。

 

「・・・何コレ?爆音がしたらプールが消えてんだけど」

「! カルマ」

 

すると、カルマがそう言いながら現れた。多分帰ろうとする途中で戻ってきたんだろう。とりあえず俺はカルマに状況を説明する為に口を開こうとした。しかし、それよりも先に近くで呆然としていた寺坂が呟き始めた。

 

「話が違げーよ・・・イトナを呼んで突き落とすって聞いてたのに・・・」

「! イトナだと!?」

「なるほどねぇ・・・自分で立てた計画じゃなくて、あの2人にまんまと操られた・・・ってわけ」

 

俺とカルマはそれぞれそう呟いた。太陽の言う通りになっちまったって事か、クソッ!!

 

「言っとくが、俺のせいじゃねーぞカルマァ!!こんな計画やらす方が悪りーんだ!!皆が流されってたのも全部奴等が・・・」

「テメエ・・・あんましふざけた事ばっか(ゴッ!!)! カルマ」

 

カルマを掴みながらそう言った寺坂をカルマが殴った。衝撃で座りこんだ寺坂を見下ろしながらカルマは話し始めた。

 

標的(ターゲット)がマッハ20で良かったね。でなきゃお前、大量殺人の実行犯にさせられてるよ。流されたのは皆じゃなくて自分じゃん」

「・・・」

「カルマ!!そんなクズの相手してる暇はねえ!!さっさと行くぞ!!いけるか、登志達は!?」

「人のせいにするヒマあったら・・・自分の頭で何したいか考えたら?」

 

俺の言葉に3人は頷きながら立ち上がり、カルマが寺坂にそう言い放った後、俺達5人は爆破された先を下りていった。

 

 

 

「威月ー。あの2人が絡んでるって事はさ」

「昨日のプールや殺虫剤も、全て計画って事だろうな。それは太陽も想定していた。」

 

 山道を下りながら俺はカルマと話し合っていた。朝から鼻水が止まんなかったのは殺虫剤が原因で、プールを壊したのは爆弾の準備をしやすくするためだろう。

 

「でも、粘液を出し尽くして何か意味あるのかな?」

「少し前に渚に聞いたんだが、殺せんせーは少しの水なら粘液を固めて水を吸収しないように出来るらしい」

「じゃあ・・・粘液を出しつくさせたのは・・・」

「確実に水を吸わせる為だろう。クソッ・・・」

 

倉橋が呟きにそう返したその時、大賀達の姿が見えた。

 

「大賀!!」

「! 威月。大変だ、イトナが・・・」

 

大賀がそう言いながら崖下を指差した。見てみるとイトナと殺せんせーが戦っていて、それを少し離れた場所で見ているシロの姿があった。

 

奴らの計画通り、殺せんせーの触手は水を吸って格段に膨れ上がっていた。あれでは、殺せんせーはいつものスピードは出せないだろう。現に今も、殺せんせーはイトナに押されっぱなしの様子だった。

 

「チッ! アイツらの計算通りって訳か!!」

「・・・髪の毛が変わってる。触手の数を減らして、その代わりにパワーとスピードを上げてるんだ」

 

俺と登志がそう話し合ってると、シロは俺達に気づいてイトナに話しかけた。

 

「イトナ。あの3人には注意しな。今の君なら大丈夫だろうが、念の為にね」

「くっ・・・登志、刀は?」

「ゴメン。プールに入るから教室に置いてきちゃったんだ・・・」

(今から取りにいったんじゃ、間に合わねぇ。どうする?)

「でも、いくら水のハンデがあるからって、押されすぎじゃない?」

 

すると、片岡が不思議そうにそう言ったのを聞いて、俺も疑問に思った。何であそこまで一方的にやられてんだ?

 

その時、後ろから寺坂が現れて口を開いた。

 

「水だけのせいじゃねー。見ろ、タコの頭上」

 

言われて見てみると、触手の射程範囲内のそこには吉田や村松、それに原がいた。特に木の枝にしがみついている太・・・ふくよかな原は今にも落ちそうになっていた。

 

「あいつらの安全に気を配るから、なお一層集中できない。奴ならそこまで計算しているだろうな」

「のんきに言ってんじゃねーよ寺坂!!あれマジで危険だぞ!!」

「お前まさか、全部奴らの言いなりだったって事かよ!?」

 

そう言った寺坂に、前原と大賀が噛みついた。そんな声に寺坂は「フン」と笑うと、

 

「あーそうだよ。目標もビジョンも無え短絡的な奴は・・・頭の良い奴に操られる運命なんだよ」

「・・・お前、また何開き直って「だがよ」・・・?」

 

俺の言葉を寺坂は遮ると、

 

「操られる相手ぐらいは選びてえ。それに、賞金持って行かれるのも気に入らねぇ(ドンッ)だからカルマ!テメーが俺を操ってみろや。その狡猾なオツムで俺に作戦与えてみろ!!カンペキに実行してやらぁ!!」

「良いけど・・・実行できんの、俺の作戦?死ぬかもよ」

「やってやンよ。こちとら実績持ってる実行犯だぜ」

 

カルマにそう返しながら、寺坂は歩き出した―――――

 

 

 

 

 

「・・・えっ、もう作戦考えたのか?カルマ」

「いや、まだだけど、もう行くの?」

「え!?あ、うん・・・まだなの!?」

 

俺とカルマの言葉に寺坂はそう言いながらピタッと止まった。いくら何でも短絡的過ぎるだろ・・・




いかがだったでしょうか。

次回はカルマの作戦はそのままですが、その後を変えています。
果たしてE組はシロとイトナを撃退する事が出来るのか。カルマはどんな作戦を立てるのか・・・。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十一時間目 現場の時間

皆さんどうも籠野球です。

最近どうも書く元気が無いです・・・(他のゲームやっているのもありますが)
それでも読んでくれる方々の為にも必ず日曜日投稿は欠かさずに頑張っていきたいと思います!!

・・・ストック無くならない様にしないと。

それでは、どうぞ!!



威月side

 

「思いついた!原さんは助けずに放っとこう!!」

「「「・・・」」」

 

 手を叩きながらそう言ったカルマに、全員が無言になった。ま、普通はそうなるわな。

 

すると、皆を代表して寺坂がカルマに掴み掛かりながら噛みついた。

 

「おいカルマ、ふざけてんのか?原が一番危ねーだろうが!!ふとましいから身動き取れねーし、ヘヴィだから枝も折れそうだ!!」

「いや、カルマの作戦は正解だと思うぜ。俺でもそうする」

 

俺の言葉にカルマ以外の全員が俺を見てきた。そんなにおかしいか?

 

「原はあの場所にいるからこそ、殺せんせーの集中を削げるんだしな。おまけにシロはあくまで殺せんせーを殺すことが目的な以上イトナの攻撃対象になることは絶対無い筈だ」

「その通り。さすが威月」

「そこまでは分かるが、それからどうすんだ?今の奴には俺ら3人でもまともに戦うのもキツいぜ?」

(登志なら分からないが、刀持って無い以上とても太刀打ち出来ねえし・・・)

 

俺は心の中でそう考えながら、カルマにそう聞いた。すると、カルマは寺坂のシャツを掴みながら話し出した。

 

「・・・寺坂さぁ、昨日と同じシャツ着てんだろ。同じとこにシミあるし。ズボラだよなー、やっぱお前悪だくみとか向いてないわ」

「あァ!?」

「・・・! 待て、昨日と同じシャツって事は」

 

俺の呟きにカルマは笑みを浮かべたのを見て、俺はカルマの考えた作戦が分かった。そういう事か・・・

 

ブチブチッ! 「でもな、バカだけど体力と実行力持ってるから、お前を軸に作戦立てるの面白いんだ」

「・・・バカは余計だ。いいから早く指示よこせ」

 

シャツのボタンを引きちぎりながらのそんな言葉に寺坂がそう返した後、カルマは作戦を話し始めた―――――

 

 

 

「さぁて、そろそろトドメにかかろうイトナ。邪魔な触手を全て落とし、その上で心臓を「おい、シロ!!イトナ!!」・・・ん?」

 

 戦ってる内に水を吸って大きくなった足元の触手を見ながらシロがそう言いかけたその時、寺坂がそう声をかけたことで、シロは寺坂の方を向いた。

 

「よくも俺を騙してくれたな」

「まぁそう怒るなよ。ちょっとクラスメイトを巻き込んじゃっただけじゃないか。E組で浮いてた君にとっては丁度良いだろ」

「うるせぇ!!てめーらは許さねぇ!!」

 

青筋を浮かべながらの寺坂の話にもそんな風にあっさりとした態度で返すシロに寺坂はそう言うと、シャツを脱ぎながら水の中へと入っていき、

 

「イトナ!!テメェ俺とタイマン張れや!!」

「止めなさい、寺坂君!!君が勝てる相手じゃない!!」

「すっこんでろふくれタコ!!」

「布きれ1枚でイトナの触手を防ごうとは健気だねぇ・・・黙らせろ、イトナ。殺せんせーに気をつけながらね」

 

シャツを体の前で構えながらそう言った寺坂を殺せんせーは止めようとしたが、寺坂はそう返しただけだった。そんなやりとりを見て、シロはクスクスと笑いながらそう言ったと思ったら、声色を変えてイトナにそう命令した。

 

「威月!!」

「大丈夫、ここまではカルマの作戦通りだ。言ったろ?シロは俺達を殺すことが目的じゃないっ。」

 

心配そうに俺に声をかけてきた大賀に、俺はそう返した。すると、俺の言葉の後にカルマは頷きながら口を開いた。

 

「あぁ。だから寺坂にも言っといたよ。気絶する程度のダメージは喰らうけど、逆に言やその程度で済む。死ぬ気で喰らいつけって」 ドッ!!

 

その言葉を言い切った瞬間イトナの触手が寺坂の腹に直撃した。しかし、寺坂はその触手を見事腹で受け止めて見せた。

 

(やるじゃねえか・・・いい根性してやがる)

「よく耐えたねぇ、ではイトナ、もう一発あげなさい。背後のタコに気をつけながら・・・「くしゅんっ」 ・・・?イトナ?」

 

俺が心の中でそう思っていると、シロはそうイトナに指示を出そうとしたその時、イトナが急にくしゃみをし始めたのを見て、シロは首をかしげた。カルマの作戦通りだな。

 

「寺坂のシャツが昨日と同じって事は・・・昨日寺坂が教室に撒いたスプレ-を至近距離で浴びたシャツって事だ」

「それは殺せんせーの粘液を出し尽くさせた成分だろ。なら、アイツもただで済むわけ無いわな」

 

カルマの話を、俺が引き継いだ。同じ触手持ちなんだしな。結果は見ての通りだ。

 

「で、イトナに一瞬でも隙を作れば、原さんはタコが勝手に助けてくれる」

「今だ、磯貝!!片岡!!」

 

カルマがそう話すのと同時に原を助けた殺せんせーを見て、俺は2人に合図をし寺坂も水を叩きながら吉田と村松に指示を出し俺達はイトナの頭上に散らばった。

 

「殺せんせーと弱点一緒なんだよね。じゃあ同じ事やり返せばいいわけだ」

「ま、まずい!!」

 

カルマがそう言いながら親指を下にして俺達が飛び込むのと、シロの声は同時だった。

 

俺達が次々と飛び込んた事で出来た水しぶきがイトナにかかっていき、みるみるイトナの触手は大きく膨れあがっていった。

 

「だいぶ水吸っちゃったね。あんたらのハンデが少なくなった」

「さっき聞いたが、お前寺坂にプールの水に触手の動きを弱める成分の薬剤入れさしたんだってな。自らの首を絞めたってわけだ」

「ぐっ・・・」

 

カルマと俺の言葉に、シロはそんな声を上げた。だが、イトナは止まらなかった。

 

「俺は負けない・・・こんな程度で俺は「いや、これでお前の負けだ!!」・・・!?」

「太陽!!」

「受け取れ、登志!!」 ブンッ!!

 

すると、いきなり崖上に現れた太陽はそう言いながら登志に何かを投げた。

 

パシッ 「! 僕の刀!?」

「ハァ・・・ハァ・・・山道を1キロ以上を全力疾走は流石にキツかった・・・」

(そうか・・・ずっと戻ってこないと思ったら、登志の刀を取りに行ってくれてたのか!!)

「悪いが、ちょっと今は動けん・・・登志、後は頼んだぜ」

「・・・ありがとう、太陽。コレがあれば、もう大丈夫」

「皆、登志の後ろに」

 

太陽にそう返した後、登志はイトナへと向き直った。俺の声に反応して全員が登志の後ろに下がったのを確認してから、登志は胸の前で刀を水平に持ちながら口を開いた。

 

「イトナ君。僕は正直、君が殺せんせーを殺すならそれは仕方がないと思ってる。力のある人が殺すのは当然だからね。

 

登志はそう言いながら刀を引き抜くと、

 

「でも・・・寺坂君を騙し、なおかつ皆を危険な目に遭わせた以上、僕は君を許さない!!」

「黙れ!!俺は強いんだ、おまえなんかに負けない!!」 ブンッ!!

 

登志の言葉にそう言いながらイトナは触手を登志に向けて振った。

 

スッ 「!!」

 

しかし、登志は瞬時に横へと動いて躱してみせ、イトナは驚愕の表情を浮かべた。

 

「スゲェ!!伊勢の奴躱しやがった!!」

「何驚いてんだよ前原。登志は「飛天御剣流」の使い手なんだぜ」

「? 「飛天御剣流」の使い手なことが関係あるの?」

 

目の前の光景に前原がそう言ったので、俺は冷静にそう返した。すると、俺の言葉に疑問に思ったのか、片岡が俺に聞いてきた。

 

「関係大ありさ。登志に聞いた話だがそもそも「飛天御剣流」っていうのは「剣の速さ」「身のこなしの速さ」「相手の動きの先を読む速さ」という3つの速さを最大限に生かして戦う流派らしいからな。おまけに弾丸を見切る程の動体視力を持つ登志からすれば、水吸って重くなった遅い触手を躱すぐらい児戯に等しいさ」

「これで終わり?イトナ君」

「ぐっ・・・まだだ!!」

 

皆に説明をしていると、登志がイトナにそう話しかけてイトナがそう言いながら、再び登志に触手で襲いかかった。

 

様々な方向から攻撃を繰り出すイトナだったが、登志は横に後ろに下にと同じく様々な方法で躱していった。

 

(しかしまあ、よくあそこまで躱せるもんだな。ホントに化け物じみた強さだな、飛天御剣流は・・・)

「ガアッ!!」 ブンッ!!

 

目の前の光景に俺はおもわずそう考えてると、イトナが一際大きな声を上げて登志に触手を振り下ろした。

 

「! (スカッ) はぁっ!!」 ザンッ!!

「!?」

 

その大振りの攻撃を登志はあえて紙一重で躱し、そうかけ声を上げながらイトナの触手を叩き切った。驚きの顔をイトナが浮かべる中、登志は刀を下ろしながら呟いた。

 

「勝負ありですね」

「・・・で、あんたらどーすんの?見ての通り伊勢はイトナには負けないよ。俺等も賞金持ってかれんの嫌だし、そもそも皆あんたの作戦で死にかけてるし。ついでに寺坂もボコられてるし

「まだ続けようってんなら、こっちも全力で水遊びさせてもらうが?」

 

カルマと俺の言葉の後、皆がそれぞれの方法で水を掬ってイトナに向けて構えた。誰が見たってもうイトナに勝ちの目は無いだろう。

 

「何度でも相手しますよ。2人が諦めるまで」

「・・・してやられたな。丁寧に積み上げた戦略が・・・たかが生徒の作戦と実行で力づくでひっくり返された」

 

登志の言葉にシロはそう言ってからクルリと背を向けると、

 

「・・・ここは引こう。触手の細胞は感情に左右される危険なシロモノ。この子等を皆殺しにしようものなら・・・反物質臓がどう暴走するかわからん」

(反物質臓?)

 

シロの言葉に疑問に思ったが、聞いたって教えてくれる訳無いので、無言でいた。退却するのに違いは無いしな。

 

「帰るよ、イトナ」

「・・・(ギリッ)」

「イトナ!!」

(コイツ・・・まだ向かってくる気か?)

 

無言で歯を噛み締めるイトナにシロはもう一度名を呼んだ。その態度に俺は握り拳を作り、登志は刀を握り直した。

 

「どうです皆で楽しそうな学級でしょう。そろそろちゃんとクラスに来ませんか?」

「!・・・フン。 

 

すると、水で膨れた殺せんせーがイトナにそう話しかけ、イトナはそう言い残してシロの後についていった。

 

(・・・とりあえずは一安心だな)

 

その光景に俺は大きく息を吐いて、そう考えながら握り拳を緩めた。

 

 

 

渚side

 

「ふぃーっ、何とか追っ払えたな」

「良かったね、殺せんせー。私達のお陰で命拾いして」

「ヌルフフフ。もちろん感謝してます。まだまだ奥の手はありましたがねぇ」

 

 イトナ君達の姿が完全に見えなくなり、杉野はそう言いながら手に持っていたバケツを放り、岡野さんは片眼を閉じながら殺せんせーにそう言った。

 

バシャッ!! 「サンキュー、登志。助かったぜ」

カッ 「ううん、こっちこそありがとう。太陽が刀を取りに行ってくれたからだよ」

 

その時、太陽が水に着地しながら伊勢に声をかけて、伊勢は刀を左手に持っていた鞘に仕舞いながらそう返した。

 

「お前俺と話した後すぐに教室に向かったのか?」

「いや、一応下まで向かって誰もいなかったからすぐに引き返して、その途中で爆音が聞こえてな。急いでプールに向かったら、威月やカルマ達が下りていくのが見えてさ。その時登志が刀持ってないのが見えてもしかしてと思って教室に取りに行ったんだ」

「・・・なるほど。ま、助かったぜ」

 

威月の質問に太陽はそう返し、威月は笑みを浮かべながら太陽に礼を言った。太陽が機転を利かせてくれたおかげだな。本当に助かった・・・

 

「・・・そーいや寺坂君。さっき私の事さんざん言ってたね。ヘヴィだとかふとましいとか」

「(ぎく・・・)い、いやあれは状況を客観的に分析してだな・・・」

「言い訳無用!!動けるデブの恐ろしさ見せてあげるわ!」

 

寺坂君はそう弁明しようとしていたが原さんの圧力に押されっぱなしだった。まぁ、女の子にあんなこと言ったらそりゃあ怒るよね・・・

 

「あーあ、ほんと無神経だよな寺坂は。そんなんだから人の手の平で転がされんだよ」

「うるせーカルマ!!テメーも1人だけ高い所から見てんじゃねー!!(グイ)(バシァッ)」

「ぶ!!」

 

すると、ただ1人水に入らずにニヤニヤと笑みを浮かべながらそう言ったカルマ君を寺坂君がそう言いながら水の中へと落とした。

 

「はぁァ!?何すんだよ、上司に向かって!?」

「誰が上司だ!!大体テメーはサボリ魔のくせにオイシイ場面だけ持って行きやがって!!」

 

その言葉に片岡さんや中村さんが同意し、皆がカルマ君に絡んでいった。い、いいのかな、止めなくて・・・

 

そう思いながら寺坂君達を見ていると、水を絞り、いつもの大きさになった殺せんせーは話し始めた。

 

「寺坂君は高い所から計画を練るのに向いていない。彼の良さは現場でこそ発揮されます。体力と実行力で自信も輝き、現場の皆も輝かせる。これから先の成長が楽しみな暗殺者(アサシン)です」

 

楽しそうに笑いながらカルマ君を沈めようとして反撃の跳び蹴りを喰らった寺坂君を見て僕もおもわず笑った。寺坂君がクラスに馴染んで来たのが嬉しくて。多分それはカルマ君や皆も同じだろう。

 

 

 

 

 

―――――だからこそ僕達は見落とした。水なんかよりもっと大きな・・・殺せんせー最大の弱点を。




いかがだったでしょうか。

ちょっと登志が強すぎるかな?とも思いましたが、まあフィクションなのでいいでしょう(笑)。

次回からはいよいよ期末テストに入っていきます。4人の結果を楽しみにしていて頂けたら幸いです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十二時間目 期末の時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ一学期も終了に近づいてきました!!
今回はテスト開始までです。

それでは、どうぞ!!



太陽side

 

「ヌルフフフ。皆さん基礎がガッチリ出来てきました。この分なら期末の成績は期待できます」

 

 二人の襲撃から少し経った今日、俺達は間近に迫った期末テストも為の勉強を外で行っていた。あいわらずの分身マンツーマンだ。

 

「殺せんせー。また今回も全員50位以内を目標にするの?」

「いいえ、あの時は総合点ばかり気にしていました。生徒それぞれに合うような目標を立てるべきです」

 

渚のそんな質問に殺せんせーはそう返した。まあ、正論だな。前回はむちゃくちゃ過ぎた。

 

「そこで今回は・・・この暗殺教室にピッタリの目標を設定しました!」

(ピッタリな目標?)

 

いきなりそう言った殺せんせーにクラス全員が注目した。それを確認すると、殺せんせーは左手に銃を持ちながら話を続けた。

 

「前にシロさんが言った通り、先生は触手を失うと動きが落ちます」 ドブチュッ!!

 

!! 足の触手を・・・

 

「1本減っても影響は出ます。ごらんなさい、子供の分身が混ざってしまった」

((((分身ってそんな減り方するモンだっけ!?))))

 

確かに目の前の殺せんせーは子供の分身が混じってるが・・・普通分身の数が減るんじゃないのか?

 

「さらに1本減らすと(ドブチュッ!!)ごらんなさい、子供分身がさらに増え・・・親分身が家計のやりくりに苦しんでます」

(何か無駄に切ないな・・・)

パンッ!! 「もう1本減らすと、父親分身が蒸発しました。母親分身は女手一つで子を養わなくてはいけません」

「「「重いわ!!」」」

 

クラス全員がそうツッコんだ。無駄にドラマチックだし、結局何が言いたいんだ?

 

「先生が触手1本につき先生が失う運動能力は・・・ざっと20%!・・・そこでテストについて本題です。今回の期末テスト、教科ごとに学年1位を取った者には、答案の返却時に触手を1本破壊する権利をあげましょう」

「「「「!!」」」」

 

殺せんせーのそんな言葉に、俺達は目を見開いた。そんな俺達の反応に殺せんせーは満足げな笑みを浮かべると、

 

「チャンスの大きさが分かりましたね。総合と5教科全てでそれぞれ誰かがトップを取れば、それだけ先生の触手を破壊出来ます。これが暗殺教室の期末テストです」

(・・・この先生は、殺る気にさせるのがホントに上手えな)

「ちょっといいすか?」

 

殺せんせーのそんな言葉に俺はそう考えていると、横の威月が手を上げた。

 

「それって1教科1人までって事ですか?例えば、100点が2人いた場合はどうなるんですか?」

「良い質問です。もちろんその場合は2本破壊する権利を上げましょう。賞金百億に近付けるかどうかは・・・皆さんの成績次第です」

(てことは、触手全部破壊する事も可能って事か・・・面白え!!)

 

殺せんせーのそんな返しに、俺は内心そう考えながら笑みを浮かべた。

 

 

 

放課後・・・

 

カリカリカリカリ・・・

 

「・・・よし。半分出来た」

「気合入ってるねー太陽」

「そりゃそうだろ。あんな条件出してきたら」

 

 殺せんせーに作ってもらった問題集を解きながら独り言を呟いたその時、横のカルマがそう声をかけてきたので、俺は笑いながらそう答えた。

 

(1教科だけなら上位にいる奴もE組には山ほどいるからな)

「まあいいや、俺帰るねー」

 

そう考えてると、カルマはそう言って欠伸をしながら出て行った。ずいぶん余裕だな、カルマは。

 

「むー・・・」

「大丈夫、大賀?」

 

その時、自分の机で勉強していた大賀がそんな声を上げ、登志が大賀に近づきながらそう聞いた。大賀はあんまし勉強得意じゃないからな。

 

「大賀は応用問題よりは、きっちり基礎を固めたほうがいいぜ。それだけでも、点数は跳ね上がる筈だ」

「おー、サンキュー。・・・でもさー、前回あんな妨害されたのに今回は大丈夫なのか?」

 

俺のアドバイスに大賀がそう返事をした後、そう聞いてきた。言うまでもなく理事長の事だな。

 

「大丈夫さ。烏間先生とビッチ先生が交渉に行ったみたいだからな」

 

すると、鞄を持った威月がそう言いながら会話に入ってきた。まあさすがに2回も妨害はしてこないだろう。

 

「それより太陽。あんまし根詰めすぎんなよ?」

「え、俺がか?そんな風に見えるか?」

 

突然の威月のそんな注意に俺は真顔でそう返した。俺は総合でも1位狙えるんだから、頑張るのは当然だと思うが・・・

 

はぁ・・・「全く自覚ねえんだよな、コイツは・・・まあ、とりあえず今日は帰ろうや。あんまし遅いと皆心配するしな」

 

その声に俺ら3人は頷き、帰り支度を始めた。何か威月が呟いてたけど、まあいいか。

 

 

 

翌日・・・

 

カリカリカリカリ・・・

「五英傑とテストで勝負?」

「あー、昨日そういう話になってな・・・」

 

 昨日の夜に問題集を終わらせ、今日の朝再び貰った問題集を解いている一限目の自習時間の途中で俺は磯貝にそう聞き返した。

 

昨日の放課後、磯貝達は前々から予約していた本校舎の図書室へ勉強しに行ったら五英傑に絡まれ、テストで勝負する事になったらしい。ルールは5教科それぞれで学年1位を多く取った方が勝ちで、勝った方が負けた方に1個命令出来るらしい。

 

とりあえず俺が1つ聞きたいのは・・・

 

「誰だっけ、五英傑って?」

「いや、元クラスメイトの事くらい覚えとけよ・・・浅野達の事だよ、理事長の息子の」

 

威月に言われてようやく思い出した。

 

浅野(あさの) 学秀(がくしゅう)。理事長の息子で、A組を束ねるリーダーで何でも出来る完璧な奴だ。確かに浅野と周りにいる4人を合わせてそんな風に呼ばれてたけど・・・

 

(俺、浅野以外には負けたこと無いしな。すっかり忘れてた)

「こらカルマ君、真面目にやりなさい!!君と太陽君なら充分総合トップが狙えるでしょう!!」

 

そう考えていると、教科書を顔に載せて寝ている隣のカルマに殺せんせーがそう注意した。さっきから全然勉強してないけど、大丈夫なのか?

 

「言われなくてもちゃんと取れるよ、俺も太陽も。あんたの教え方が良いせいでね」

 

すると、カルマはそう言いながら教科書を手に持ち、

 

「けどさぁ、殺せんせー。「トップを取れ」って最近フツーの先生みたいでつまらないね。おまけにそのA組が出した条件ってなーんか裏でたくらんでる気がするよ」

(確かにそれは同感だな。浅野の事だ、何か考えがあっての事だろう)

 

奴は人は良いが、親に似てかなり狡猾だからな。

 

(でも・・・そう簡単に負けるつもりは無いがな)

「心配ねーよ、カルマ。これ以上失うモンありゃしない」

「勝ったら何でもひとつかぁ。学食の使用権とか欲しいな~」

「それいいな、弁当代が浮く」

 

そう考えていると、岡島と陽菜乃がそれぞれそう言って、大賀が笑いながら言った。ホントお母さんだよな大賀の考え方・・・

 

そう考えていると、殺せんせーが中学校のパンフレットを見せながら話し出した。

 

「ヌルフフフ。それについては先生に考えがあります。()()をよこせと命令するのはどうでしょう?」

「「「!!」」」

 

それを見て、俺達は目の色が変わった。なるほど・・・それは面白そうだな。

 

「先生の触手、そして()()。ご褒美は充分揃いました。暗殺者なら狙ってトップを取りなさい!!」

ガタッ 「・・・心配いらねえよ、殺せんせー」

 

殺せんせーの声を聞きながら俺は立ち上がり、皆を見渡しながらこう続けた。

 

「俺が5教科全て1位とって総合も1位で6本!んで他の皆も俺と同点1位でそれぞれ1本!!本校舎の連中全員ぶっ殺して、殺せんせーもぶっ殺してやろうぜ!!!」

「「「おう!!」」」

 

俺もかけ声に皆がそう返した。皆の為にも何としても1位を取らないとな!!

 

「・・・」

 

そう考えていた俺は、心配そうに俺を見つめる隣の威月の視線に気がつかなかった―――――

 

 

 

テスト前日・・・

 

「どうですか、殺せんせー?」

「・・・はい、完璧です。よく頑張りましたね」

 

 俺の提出した問題集の答えを採点し終わって顔に大きな○を浮かべながらの殺せんせーのそんな言葉に、俺は小さくガッツポーズをした。

 

(ここまで問題集を作ってもらってはそれを解くのを各教科やったしな。これなら大丈夫だ!!)

「ヌルフフフ。では、最後にこれをどうぞ」 スッ

 

そう考えていると、殺せんせーはそう言いながらもう1冊を差し出してきた。

 

「これは?」

「各教科の難問や1位を取るなら押さえておきたい問題を集めた物です。これを今日やれば、明日のテストは必ず1位を獲得出来るはずです」

「マジですか!?ありがとうございます!!」

 

そう言いながら俺は殺せんせーからそれを受け取った。ここまでやってくれるんだし最後にもう一頑張りだな!!

 

「じゃあ、威月。朝、話した通り、俺が華の面倒見とくから、3人はここで頑張っててくれていいぜ」

「ホントに大丈夫か1人で?やっぱり俺らも一緒の方が・・・」

 

今日は岬さんがちょっと用事で昼からは華の面倒を見れないから、俺が1人で先に「ひまわり」に帰って華の面倒をみると朝話し合ったのだ。

 

今日はテスト前日で午前中だけだしな。威月はやけに俺の心配をしているみたいだが・・・

 

「大丈夫だって。帰っても居間で勉強してるだけだからさ。威月は大賀と登志と勉強頑張ってくれよ。じゃあな!!」

 

そう言って俺は扉に向かって歩き出した。威月はまだ何か言いたげだったが・・・

 

 

 

「すみません、岬さん!!ちょっと遅れちゃって・・・」

「お帰りなさい、太陽君。いいですよ、気にしなくて」

 

 ちょっと約束していた時間より遅れた俺は、そう岬さんに謝ったが岬さんは笑って許してくれた。

 

「華ちゃんは今は寝ています。後はお願いね、太陽君」

「ありがとうございました。いってらっしゃい」

 

そんなやりとりの後、岬さんは帰っていった。とりあえず俺は鞄を部屋の本棚に掛け、中から貰った問題集と筆記用具を取り出し、居間へと向かった。

 

(さーて・・・こいつを終わらせれば1位取れるって言ってたし、気合入れて頑張るか!!) 

スッ 「ん・・・」 

「あ・・・起こしちゃったか?ごめんな、華」

 

そう考えながら襖を開けたその時、華がそんな声を上げたのを見て、俺はそう言いながら華へと近づいた。

 

「あ・・・おかえり・・・たいようおにいちゃん・・・」

「おう、ただいま。」

(ん・・・何か、華の顔がいつもと違う・・・?)

 

寝起きだから様子が変でもおかしくは無いが、いつも顔が赤い様な・・・これは多分大賀なら分かってくれる筈だ。

 

(もしかして・・・)

「華。ちょっとごめんな」

 

そう言いながら、俺は布団に寝ている華のおでこに手を当てた―――――

 

 

 

渚side

 

翌日・・・

 

「どーよ渚?ちゃんと仕上がってる?」

「・・・まあヤマが当たれば」

 

 テストは本校舎で行う為、僕達は朝から本校舎に来ていた。廊下を歩いている途中で中村さんにそう声をかけられた。僕は中村さん程出来ないからな・・・

 

バチィン! 「男ならシャンとしな!!英語ならあんたも上位狙えるんだから」

「う、うん。頑張るよ。ただもうちょっと手加減してくれても・・・」

「あ~ゴメンゴメン」

「楽しみだなァ~」

「ん?」

 

背中をはたきながらそう発破をかけてくれる中村さんにそう返しながら歩いていると、D組の元クラスメイトの2人が声をかけてきた。

 

「A組と無謀な賭けしたんだって?」

「おまえら負けたらどんな命令されんだろ~な~」

スッ 「鉛筆2本くれ、中村」 

「ん?はいよ」

 

その時、隣に威月が現れて中村さんにそう言って鉛筆を受け取った。何をするんだろうと思っていると、

 

「(プス) ? (ブシュッ) ホゲェー!?」

 

2人の内の1人の鼻へと無言で突き刺し、上へと引っ張った。よ、容赦無いなあ威月・・・鼻血で凄い事になってるよ・・・

 

「悪い、中村。鉛筆2本無駄にしちまった」

「別にいいよ~、それだけの価値あるモン見れたしね~」

 

折れた鉛筆を手に持ちながら話す威月に、中村さんが楽しそうに笑いながらそう返した。・・・この2人って結構仲良いんだな。あんまり教室で話してる所は見ないけど。

 

「てか、ずいぶん早いね威月。1人で来たの?」

「おう。一時間目英語だろ?俺も1位狙えるしちょっと復習しときたくてな。アイツの負担を少しでも減らさねえと」

「そうなんだ。頑張ろうね!」

「あぁ、2人もな」

 

そう話していると、扉の開いている空き教室を見つけた。

 

「・・・さてあたしらのテスト会場ここだよね」

「・・・ん?もう誰かいるぞ」

「・・・」

(((誰だ!?)))

 

そこにいたのは、律の髪型をしているが明らかに律とは違う人が座っていた。その光景に僕達3人が心の中でツッコんでいると、教室の壁にもたれかかっていた烏間先生が口を開いた。

 

「律役だ。人工知能の参加はさすがに許されなくてな。律がネット授業で教えた替え玉を使う事でなんとか決着した。・・・交渉の時、理事長に「大変だな、コイツも」という哀れみの目を向けられた俺の気持ちが君達に分かるか?」

(((いや本当に頭が下がります!!)))

 

途中から震えながら話す烏間先生に僕達3人はすぐに頭を下げた。ホントに大変だな、烏間先生は・・・

 

「・・・まあとにかく、律と合わせて俺からも伝えておこう。頑張れよ」

「・・・はい!!」

「うす」

「へーい」

 

―――一緒になって闘う人。

 

―――敵となって闘う人。

 

―――応援をくれたり、野次を飛ばす観客(ギャラリー)達。

 

―――僕等は殺し屋。闘いのゴングは今日も鳴る!!




いかがだったでしょうか。

ちょっと無理があるかなとも思いましたが、ここはこうしようと決めていたのでご了承下さい。
m(_ _)m

次回でいよいよ一学期終了です。
果たして太陽達は破壊する権利を取れるのか。A組との賭けの結果は・・・

それと話は変わりますがこの作品に☆1の評価をくれた方がいました。
厳しい評価ありがとうございますm(_ _)m
・・・覚悟はしていましたが、やっぱりちょっと凹みますね(笑)。

作者自身頭で思い描いていた様に書けず、小説を作る難しさを最近特に痛感しています。
ですが、少なくとも読んでしっかりと評価をしてくれた事については、非常に感謝しています!!
最低でも夏休みまでは頑張って書いていきたいとは思ってるので、これからも駄作だとは思いますが、是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十三時間目 反省&一学期終了の時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ一学期終了です。果たしてテストの結果はどうなるでしょうか・・・

それと、先日誤字脱字報告してくれた方がいました。ありがとうございます!!
m(_ _)m
作者自身見直しはしていますが、もちろん完璧ではありませんので本当にありがたいです!!
これからも気づいた方は是非報告して頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「さて皆さん。全教科の採点が届きました」

 

 テスト終了から3日経った今日、ついに届けられたテストの結果を持ちながらの殺せんせーの言葉に、全員に緊張が走った。

 

「では発表します。まずは英語。E組の1位・・・そして学年でも1位!!中村 莉桜!!水守 威月!!共に100点!!」

 

そんな殺せんせーの言葉に、皆が歓声を上げる中、中村さんは下敷きで自分を扇ぎ、威月は小さく息を吐いた。すげえな、2人とも100点って・・・

 

「完璧です。君のやる気はムラっ気があるので心配しましたが。威月君もさすがは元A組です」

「ふふーん。なんせ触手1本かかってるからね。忘れないでよ、殺せんせー?」

「どうも。ま、得意科目ぐらいはね」

 

○を浮かべながらそう言った殺せんせーに、2人はそれぞれそう返した。とりあえず、これで2本ゲットだな。

 

(それにA組との対決でも1勝だな)

「続いて国語。E組1位は・・・神崎 有希子!!97点!!・・・が、しかし、学年1位は浅野 学秀!!100点!!」

 

そう考えていると、殺せんせーはそう言った。97点でも充分凄いのに、何で皆100点取れるんだ?俺なんか5教科で100点なんて小学校でも1、2回だけなのに・・・

 

「・・・やっぱ点取るなぁ、浅野は」

「強すぎ。英語も99点だぜ」

「五英傑なんて言われてるが、結局は浅野を倒さなきゃトップなんざ取れねえよ」

 

前原と三村の呟きに威月は冷静にそう返した。とりあえずこれで1勝1敗か・・・

 

「・・・では続けて返します。社会!!E組1位は磯貝 悠馬!!98点!!そして学年では・・・おめでとう!!浅野君を押さえて学年一位!!マニアックな問題が多かった社会でよくぞこれだけ取りました!」

「よっし!!」

 

殺せんせーの声に、磯貝は大きくガッツポーズをした。よくあれで98点取れるな・・・何か最後首相の会談の回数は?なんて問題あったけど、そんなモン分かるか・・・でも磯貝は分かったって事だもんな、凄い・・・

 

「これで2勝1敗!!」

「次は理科・・・奥田か!!」

(理科は太陽の得意な教科でもあるからな。もしかしたら・・・)

 

不破さんと杉野の言葉を聞いて、俺はそう考えた。2人1位なら5本潰せる!!

 

「理科のE組1位は奥田 愛美!!99点!!そして・・・・・素晴らしい!!学年1位も奥田 愛美!!」

 

殺せんせーの声に皆が歓声を上げた。これで3勝1敗!!数学の結果の前にE組(おれら)の勝ちが決まった!!

 

(でも、同点1位では無かったか・・・残念だな)

「そして最後に数学!!E組1位は神木 太陽!!99点!!ですが・・・学年1位は浅野 学秀!!100点です!!」

 

その言葉に皆からは「あー」とか「惜しい-」といった声が漏れた。後1点足りなかったか・・・

 

「ちなみに太陽君は総合でもE組1位ですが・・・こちらも学年1位は浅野君です。わずか2点差でした」

(太陽・・・)

 

その言葉に俺は太陽の席を見た。そこにはカルマと太陽がいなかった。最初はいたが途中で出て行ったんだろうな・・・太陽が勝てなかった原因を「ひまわり」の3人は知っていただけに、慰めが無駄な事は分かっているけど・・・

 

「まったくアイツは・・・殺せんせー。ちょっと出ますね」

「にゅや?どこにです?」

 

その時、威月がそう言いながら立ち上がり、殺せんせーがそう聞いた。その言葉に威月はフッと笑うと、

 

「ちょっとばかし説教かましてきます」

 

 

 

太陽side

 

ヒュオォォォ・・・

 

 俺はテストを片手に持ちながら、校舎の近くの崖上にある岩に片膝を立てて座りこんでいた。もう夏だってのに風がやけに冷たく感じた。

 

(カルマも抜けてたし、あいつも満足いかない結果だったんだろうな・・・) ピラッ

 

神木 太陽

 

英語 99点 (学年2位タイ)

国語 96点 (学年3位タイ)

数学 99点 (学年2位)

理科 98点 (学年2位)

社会 97点 (学年2位)

総合 489点 (学年2位)

 

点数だけを見れば充分過ぎる結果だろう。だが、それでは意味が無かった。

 

「・・・1位じゃなきゃ・・・意味がねえんだよ・・・」

 

今回は1位を取れなきゃ何にも意味が無いのだ。2位を取ることに意味なんて無い。

 

「ちくしょう・・・」

 

そう言いながら俺は立てた膝の上に頭を落とした。悔しさと皆に対しての申し訳なさしか無かった。すると、

 

「こんな所でしょぼくれてやがったか」

「っ、威月・・・」

 

背後からそう声をかけられ、俺は後ろを振り返ると威月が歩いて来ていた。

 

そのまま威月は俺の横へと座り話しかけてきた。

 

「残念だったな、今回は」

「・・・あんだけ大口叩いといて、この様だ。皆に合わす顔がねえよ」

「・・・今回お前が負けた理由は勉強を頑張らなかったからじゃねえ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、テスト前日俺は華のおでこに手を当て、華に熱があることに気づいたのだ。そこから俺は急いで華を病院に連れて行ったり、夜まで看病をしたりしていた。その結果殺せんせーが作ってくれた問題集をやることが出来なかったのだ。その僅かな差が、この結果だろう。

 

「・・・華が熱を出したのも、岬さんが気づけなかったのも理由にはならねえよ、それら全部含めて結果だろう?岬さんには死ぬほど謝られたし、2人のせいにする気はもちろんねえ。俺がもっと頑張ればよかっただけの話「はい、ドーン」(ボカッ!!)痛っ!?」

 

話の途中でいきなり威月に殴られた。何だ!?

 

「お前さぁ。今回の件、全部自分が悪いと思ってんのか?」

「だ、だってそうだろ。俺が朝に華の様子に気づいてりゃよかったんだし、俺が悪「ボーン」(ボカッ!!)グハァ!?」

「今回の一件はお前だけの責任じゃねえ。お前1人に負担かけすぎた俺ら3人とE組皆の責任でもあ」

 

再び俺を殴った後、威月は立ち上がり、

 

「太陽、お前は凄えよ。頭だって良いし、戦闘でも本気じゃなくても俺や大賀と互角に戦うくらいだからな。紛れもなく天才だし、皆の先頭に立つ力もある」

「?」

「でも完璧じゃねえ。そんな人間いねえ。1人で解決出来ない時だってきっとある。そんな時は頼ればいいんだ。俺ら3人は家族だし、E組の皆は仲間だろ?今回の1番のお前のミスは、頼らなさ過ぎた事だ」

「威月・・・」

「少なくとも、誰1人お前を笑う者なんざE組にはいねえ。いつまでもへこんでんじゃねーよ、どアホ。そんな暇あったらさっさと作戦立てやがれ」

 

そう言って威月は戻っていった。

 

バチンッ!! (サンキュー、威月。殴らなくてもよかったと思うが・・・)

 

顔をバチンと叩きながら俺は心の中で礼を言った。威月の言う通り、頼っちゃいけない家族や仲間なんていねえよな。

 

(・・・さっさと戻るか。勝手に抜けて来ちまったもんな)

 

そう考え、威月の後を追いかけた。もっと皆を頼ろう、そう誓いながら―――――

 

 

 

「さて、皆さんが取ったトップは英語2人、社会1人、理科1人の計4人です。早速暗殺を始めましょうか。トップの方は4本どうぞご自由に」

 

 カルマと俺が戻ってきて、全員が揃ったのを確認して殺せんせーがそう言った。(カルマは殺せんせーが挑発したらしい)

 

「おい、待てよ。5教科トップは4人じゃねーぞ」

「にゅや?」

 

すると、寺坂、吉田、村松の3人が殺せんせーの前に出た。何だと思っていると、

 

「5教科っつったら(こく)(えい)(しゃ)()・・・あと()だろ。」 パサッ

 

寺坂 竜馬 

吉田 大成

村松 拓哉

 

家庭科 100点

 

そう言いながら、3人はテストを教卓に放った。

 

「ちょ、家庭科のテストなんて()()()でしょ!!何本気で100点取ってるんですか!?」」

「だーれも()()5教科なんて言ってねーよな。」

(た、確かに言っては無かった・・・でもまさかこんな抜け道を見つけるとは・・・)

 

殺せんせーと寺坂のやりとりを聞きながら、俺は驚きで言葉を失っていた。俺には思いつかない柔軟な発想だった。

 

「・・・()()()とか失礼じゃね、殺せんせー?5教科最強の家庭科さんにさ」

「そーだぜ先生、約束守れよ!!」

 

カルマがそう言った後に、クラス全員が追撃した。これじゃあ黙るしか無いな。

 

(結局7本か・・・殺せんせーも想定外・・・・・ん?待てよ、家庭科って事は・・・)

つんつんっ 「・・・にゅや?な、何ですか九澄君?」

 

その時、俺はある考えが頭によぎった。それと同時に、大賀が殺せんせーをつついた。

 

「いや・・・家庭科を認めてくれるなら」 パサッ

 

九澄 大賀 

 

家庭科 100点

 

「にゅあぁぁぁ!?く、九澄君も!?」

(やっぱり・・・大賀も100点だよな・・・家庭科は。)

「何だよ、九澄。俺らの計画知ってたのか?」

「あ、いや・・・家庭科だけは毎回100点なんだ、俺」

 

吉田の問いに大賀はそう答えた。大賀は洗濯とか料理とか昔から得意だからか、家庭科のテストだけは小学校から100点しか取った事なかったからな・・・

 

「・・・な、太陽。俺らも中々やるだろ?」

「・・・あぁ」

(俺やカルマが1本も取れなくても結局8本か・・・頼りになるな、皆)

 

笑みを浮かべながらそう聞いてきた威月に、俺も笑いながらそう答えた。

 

 

 

「1人1冊です」

「また出たよ・・・過剰しおり」

「アコーディオンみたいだね・・・」

 

 数日後、終業式が終わった後、俺達は殺せんせーからしおりを手渡され大賀や登志がそれぞれそう呟いた。国語辞典数冊分はあるぞ、これ・・・

 

「さて、これより夏休みに入るわけですが皆さんにはメインイベントがありますねぇ」

「ああ、賭けで奪った()()の事ね」

 

そう言いながら中村はパンフレットを掲げた。

 

―――椚ヶ丘中学校特別夏期講習 沖縄離島リゾート2泊3日

 

俺達E組が賭けで奪った()()()、本来A組に与えられる筈の特典だが、今回トップ50位の殆どをA組とE組で独占してる以上、俺達にも資格はあるだろう。

 

「君達の希望だと、この離島の合宿中に触手を破壊する権利を行使するという事でしたね」

 

その言葉に全員が頷いた。それは皆で決めた事だ。四方を海に囲まれた島での方が水殺がしやすいからな。

 

「触手8本の大ハンデにも満足せず、万全に貪欲に命を狙う。正直に認めましょう。君達は侮れない生徒になった。これは標的(せんせい)から暗殺者(あなたたち)への通知表です」

 

そう言って殺せんせーは二重丸の書かれた紙を大量にばらまいた。標的(ターゲット)からの嬉しい評価だな。

 

「一学期で培った基礎を活かし、夏休みも沢山遊び沢山学び、そして沢山殺しましょう!!」

 

―――――暗殺教室基礎の一学期、これにて終業!!

 

 

そんな殺せんせーの声を聞きながら俺達は家へと帰った。今年の夏は楽しくなりそうだ!!

 

 

 

 

 

・・・余談だが、しおりは全員が置いて帰り、後で殺せんせーが自分で配達していた。




いかがだったでしょうか。

出来る奴って結構自分で解決しようとしてしまう・・・だからこそ、皆を頼れという威月の説教でした。

ちなみに太陽以外の他の3人の点数ですが、

水守 威月

英語 100点
国語 95点
数学 92点
理科 91点
社会 94点
総合 472点  (クラス4位タイ)(学年11位タイ)

九澄 大賀

英語 68点
国語 69点
数学 71点
理科 67点
社会 68点
総合 343点 (クラス28位)(学年92位)

伊勢 登志

英語 67点
国語 83点
数学 79点
理科 78点
社会 85点
総合 388点 (クラス21位)(学年53位)

このような結果になっています。作者の中で剣士キャラは英語苦手なイメージがあったので、大分下げました。

神崎さん、磯貝君、奥田さんの3人の点数を1点ずつ上げたり(浅野と接戦にしたかったので・・・)狭間さんに100点を取らせませんでした(大賀に100点取らすと決めていたのでこうしました。)。

さて、いよいよ一学期終了です。遂にここまで書くことが出来ました!!
正直イトナや寺坂の話はうまく書けずに苦労したりもしましたが、少しずつ増えていくお気に入り登録数やUA数を見ながら頑張って書いてきました。

読んでくれる方々、本当にありがとうございます!!これからも是非暇つぶしと思って読んでくれたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十四時間目 特別の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は原作の「いきものの時間」に少しだけオリジナル要素を入れた話です。

まぁ簡単に言えば2人がイチャつきます(笑)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

 夏休みが始まって少し経ち7月27日の夜、俺は陽菜乃に呼び出されていた。

 

「ごめんね、太陽くん。こんな夜に呼び出して」

「構わねえよ、彼女の頼みならな。でも、何で学校の山に来たんだ?」

 

陽菜乃が待ち合わせ場所にしたのはE組校舎のある山の麓だった。何でこんな場所に?

 

すると陽菜乃はストッキングとタッパーを取り出すと、

 

「これを仕掛けるの手伝ってほしいんだ~」 パカッ

「これは・・・バナナとかパイナップル?」

「うん、それを焼酎に漬けた物だよ~」

 

中身を見せながらそう言った。それと、ストッキングって事は・・・

 

「ひょっとして、カブトムシとかクワガタ捕まえるトラップを作るのか?」

「正解~、さすが太陽くん!!」

 

陽菜乃は笑いながらそう言った。なるほど・・・面白そうだな。

 

「じゃあ、そろそろ行くか?」

「うん!!」

 

そう話しながら、俺達は山の中へと入っていった。

 

 

 

1時間後・・・

 

「この辺でいいか、陽菜乃?」

「うん。ありがとう!」

 

 枝の上からそう確認しながら、俺は最後の仕掛けを木に結びつけ始めた。20ヶ所は仕掛けたし、これなら大丈夫だろう。

 

「でも、太陽くんって昆虫も好きなんだね」

「俺は好きなんだが、彩子や華が虫嫌いらしくてな。だから、「ひまわり」でも飼ってないんだ」

「アハハ。まぁ、女の子なら普通そうだよね」

 

そう話しながら仕掛けを結び終え、俺は地面に着地した。

 

「よし、じゃあ帰るか。家まで送ってくよ」

「あ、ちょっと待って、太陽くん」

「ん?」

 

陽菜乃のそんな声に俺は振り返った。すると陽菜乃は、鞄から細長い箱を取り出しながら話し出した。

 

「威月くんに聞いたんだけど、太陽くんって明日誕生日なんだよね?1日早いんだけど、はい誕生日プレゼント!!」

「えっ・・・マジか!?あ、ありがとう」

 

俺は慌てながらもそれを受け取った。予想もしてなかったから、びっくりだった。

 

「えっと、開けていいのか?」

「うん、いいよ!!」

 

陽菜乃に確認してから俺は包み紙を破いて箱を開けた。

 

「これは・・・ネックレス?」

「あ、うん。太陽がモチーフの飾りなんだ」

 

なるほど、確かにチェーンの先端には太陽みたいな飾りがついている。

 

「あんまり高い物じゃ無いんだけど・・・あんまり嬉しくないかな?」

「・・・そんなことねえよ、めちゃめちゃ嬉しい。こんな物貰ったこと無いからさ」

 

不安そうな陽菜乃に俺は素直にそう返した。俺は陽菜乃がくれる物なら何でも喜ぶ自信があるしな。

 

そのまま俺はネックレスをつけようとした。だが・・・

 

「・・・悪い、陽菜乃。つけてくれねえか?こういうのやった事なくてさ・・・」

「あ、そうなんだ。じゃあ、ちょっとかがんでくれる?太陽くん背が高いから」

 

その言葉に頷いて俺は膝に手を置き、陽菜乃は正面から俺の首に手を回した。

 

「よいしょっと・・・」

(うっ!?・・・そういや、陽菜乃の顔こんな近くで見たの初めてかも・・・)

 

数十センチにまで近づき、真剣な表情で俺の首に付けようと頑張る陽菜乃の顔に俺はドキッとなった。

 

(陽菜乃はお世辞抜きに可愛いと思うし、正直こんな可愛い子と付き合うなんて予想できなかったなぁ)

「ん~んと・・・よしっ!」

(でも、俺なんかで本当にいいのかって不安になっちまうな・・・)

「できたよ~太陽くん」

「うわっ!?」

 

そんな事を考えていた為、陽菜乃の声にビクッとなった。そんな俺に驚いた様子で陽菜乃が話しかけてきた。

 

「ど、どうしたの、太陽くん!?」

「い、いやちょっと不安になってな」

「不安?」

 

そう聞いてきた陽菜乃に俺はさっきの考えを話した。すると、

 

「・・・私は・・・これからもずっと太陽くんと一緒にいれたらいいな・・・///」

「えっ・・・」

「太陽くんはどうかな?」

 

顔を赤くしながらも笑ってそう言ってくれた陽菜乃を見て、俺は自分の馬鹿さに呆れた。

 

(・・・馬鹿だな、俺は・・・ここまで言ってくれる彼女に不安になるなんて)

「俺も一緒にいれたら、何よりも嬉しいな」

「太陽くん・・・」

「ありがとな、陽菜乃。大事にするよ、これ」

「うん!!」

 

そんな風にどっちもが笑いながら俺達は手を繋ぎながら俺達は山を下りた。その途中・・・

 

「で、陽菜乃。明日の朝また来るのか?」

「うん。一晩置いておいたら明日の朝にはかかってるからね」

「そっか。じゃあ明日の早朝に再び集まるか?」

「来てくれるの?ありがとう!!」

「そりゃあ行くさ。彼女の頼みなら」

 

そう言うと、陽菜乃は何かを考えている様子だった。

 

「どうした?」

「・・・じゃあ、太陽くん。明日、また別のプレゼント上げてもいい?」

「? 俺はもちろんいいけど、お金大丈夫か?」

「大丈夫だよ。お金は使わないから」

「??」

 

陽菜乃の言葉に首をかしげながらも頷いた。

 

そのまま俺は陽菜乃を家の前まで送り届けた。何をくれるのか考えながら―――――

 

 

 

翌日・・・

 

「おはよう、陽菜乃」

「あ、おはよう太陽くん」

 

 日が昇り始めた早朝、昨日と同じ場所で待ち合わせた俺達はお互いにそう声をかけた。

 

「楽しみだな~いっぱいかかってるといいけど」

「あんなに仕掛けたんだ、大丈夫さ。じゃ、行くか」

 

うきうきしている陽菜乃に笑いながらそう返し、歩き出そうとした。

 

「あ、太陽くん。ちょっと待って」

「え?」

「昨日朝ご飯食べないでって言ったでしょ?おにぎり作ってきたんだ。先に食べよ」

「おぉ!!マジかよ、サンキュー!!」

 

バケットを見せながらの言葉にテンションが上がった。大賀以外に作ってもらうのなんて修学旅行の旅館以外は久々だな。

 

「じゃあ、どっか木の上に登って食うか?眺め良さそうだし」

「あ、いいね。そうしよっか。」

 

そう話しながら俺達は山の中に入り、適当な高さの木に登り朝日を背中に受けながら俺達は並んで座った。

 

「はい、太陽くん。梅と鮭だけどよかったかな?」

「おう、サンキュー。」

 

2つの包みを受け取りながら、俺はそう返した。基本的に「ひまわり」の人間は好き嫌い無いからな。

 

「いただきまーす。(パクッ、モグモグッ)」

「ど、どうかな・・・?」

「・・・うん、美味えよ!!サンキュー、陽菜乃!!」

「ホント!!よかった~!!」

 

ただのおにぎりでも、彼女が作ってくれたってだけで1番美味く感じるな。

 

あっという間に1個目を食べ終わった後、2つ目に手をかけながら話しかけた。

 

「でもカブトムシとかクワガタって久々だな。売ったら金になるし、小遣い稼ぎにも面白そうだな」

「うん、探してたアレが来てるといいな~」

「? 目当ての虫がいるのか?」

「うん、まあね~」

 

そう話してると、前から何やら話し声が聞こえてきた。

 

・・・しかし前原まで来るとは意外だわ。こんな遊び興味無いと思ってたぜ

次の暗殺は南国リゾート島でやるわけじゃん。そしたら何か足りないと思わないか?

(あれは・・・渚に杉野、それに前原じゃねえか。何やってんだ?こんな早朝に)

 

3人の姿が見えて俺は内心首をかしげた。夏休みなのにこんな朝早くに学校に来る奴なんてそうはいないからな。

 

すると、前原が握り拳を作りながら熱弁を始めた。

 

「金さ!!水着で泳ぐきれいな姉ちゃん(ちゃんねー)落とすためには財力が不可欠!!」

(欲望全開だな・・・15歳の考えじゃねえぞ・・・)

「こんな雑魚じゃダメだろうけど・・・オオクワガタ?あれとかウン万円「ダメダメ、オオクワはもう古いよ~」 え?」

 

前原の言葉を遮った陽菜乃の声に反応して、3人は俺達に気づいた様子だった。

 

「太陽、倉橋!」

「おは~」

「(パクッ)よお、話聞く限りお前らも小遣い稼ぎみたいだな」

 

最後のひと口を口に放り込み、そう言いながら俺は枝から飛び降りた。

 

「てことは2人も虫取りに?」

「あぁ、俺は陽菜乃の付き添いだがな」

「倉橋、オオクワガタが古いって何でだ?」

「んっとね~私達が生まれたころはすごい値段だったらしいけど、今は繁殖方法が確立されて値崩れしてるんだって」

 

枝から降りてきた陽菜乃のそんな返しに、前原は衝撃を受けた顔をした。

 

「そ、そんな・・・1クワガタ=1姉ちゃん(ちゃんねー)ぐらいだと思ってたのに」

「んな訳あるか。つーか人を虫で換算するな」

「せっかくだし、みんなで捕まえよっ。トラップ仕掛けてあるからさ!!」

 

そう言いながら陽菜乃は歩き出した。皆で虫取りも楽しそうだな!!

 

 

 

「おぉ、大量だな」

「へぇ~これ2人で仕掛けたのか?」

「まあな」

 

 前原や杉野にそう返しながら俺はトラップに掛かった虫を虫かごに入れていった。

 

「この調子なら1人千円位かせげるね~」

「おお~バイトにしちゃまずまずか」

「陽菜乃、目当ての虫はいたか?」

「ううん、いなかった」

「ま、20ヵ所以上仕掛けたし、どれかに掛かってるといいな」

「うん!!」

「フッフッフ、効率の悪いトラップだ。お前らそれでもE組か!!」

「ん?」

 

そう話してると、上からそんな声が聞こえてきて俺達は一斉に上を見た。

 

そこには片手にエロ本を持った岡島が枝に座っていた。いや、中学生が堂々とエロ本を読むなよ・・・

 

「せこせこ千円稼いでる場合かよ。俺のトラップで狙うのは当然百億だ!!」

「百億って・・・まさか」

「あのタコも南の島までは暗殺も無いと油断してる。そこが俺の狙い目だ」

 

そう言いながら俺達を木陰まで連れて行き、俺達はそこから覗き込んだ。

 

―――そこにはカブトムシみたいなツノを付けた殺せんせーが大量のエロ本の上に座り、その中の1冊を読んでいた。

 

クックック。俺の仕掛けたエロ本トラップにかかってるな

すげえ・・・スピード自慢の殺せんせーが微動だにせず見入っている。よほど好みのエロ本なのか?

まさかとは思うが・・・あれで擬態してるつもりか・・・?

 

目の前の光景に、前原と俺はそれぞれ小声で呟いた。

 

「あいつの好みを1ヶ月間研究したからな。俺だって買えないから拾い集めてだが」

「? 殺せんせー巨乳なら何でもいいんじゃ・・・?」

「現実ではそうだが、エロ本は夢だ。写真も漫画も、僅かな差で反応が全然違うんだ」

 

渚にそう答えながら見せてきた携帯には、確かにエロ本によって反応が全然違う殺せんせーが写っていた。てか、大の大人が1ヶ月もエロ本拾い読むなよ・・・

 

「俺はエロいさ。蔑む奴はそれでも結構。だがな・・・誰よりもエロい俺だから知っている。エロは・・・世界を救えるって

(・・・何故だろう。言ってる事はゲスだが妙にカッコ良く感じる)

「殺るぜ。エロ本の下に対先生弾を繋ぎ合せたネットを仕込んだ。今なら必ずかかる。誰かこのロープを切って発動させろ。俺がトドメを刺す」

 

渚が(はさみ)を受け取り、岡島がナイフを構えた。岡島のエロのナイフが殺せんせーを貫くか・・・そう思っていた次の瞬間、殺せんせーの目が伸びた。何だありゃ!?

 

「デ、データに無いぞ。あの顔はどんなエロを見た時だ!?」

(岡島も見た事無いだと!?何なんだ、いったい・・・)

シュパッ!!

 

そう考えていると、殺せんせーは触手を伸ばし戻ってきた触手には1匹のクワガタが握られていた。

 

「ミヤマクワガタ、しかもこの目の色!!」

「!! 白なの、殺せんせー!!すっごーーーい!!!探してたやつだ!!」

「ええ!!この山にもいたんですねぇ」

(白だと!?それって確か・・・)

 

2人のやりとりを聞き、俺はある考えがよぎった。それにしても、カブトムシの格好の超生物と女子中学生(しかも彼女)がエロ本の上で飛び跳ねるのは中々シュールな光景だな・・・

 

そう考えていると、殺せんせーはいきなりハッとしたように俺達を見て、次に足元のエロ本を目を落とすと、そのまま赤くなりながら顔を覆った。

 

「面目無い・・・教育者としてあるまじき姿を・・・本の下に罠があるのは知ってましたが、どんどん先生好みになる本の誘惑に耐えきれず」

(やっぱバレてたか・・・てか、命よりもエロを選ぶなよ・・・)

「で、どーゆー事よ倉橋?ゲームとかじゃミヤマクワガタってオオクワガタより全然安いぜ?」

 

殺せんせーの言葉にそう考えていると、杉野が倉橋に話しかけた。確かにそうだが・・・

 

「最近はミヤマの方が高い時が多いんだよ。繁殖が難しいからね。このサイズなら二万はいくかも」

「に、二万!?」

「おまけに目を見てみろ。目が白いだろう?」

 

杉野が倉橋の返しに驚愕の顔を浮かべる中、俺は皆にそう言った。これは・・・すげえな。

 

「生物の授業でアルビノ個体って習ったろ」

「えっと・・・確かごくまれに全身が真っ白で生まれてくるやつだろ?」

「あぁ、クワガタのアルビノは目だけに出るんだ。ホワイトアイって言って天然ミヤマのホワイトアイなんざ学術的価値があるぜ」

「売ればおそらく数十万は下らないですねぇ」

「「「「すっ・・・!?」」」」

「一度見てみたかったんだ~!!そしたら、殺せんせーがズーム目で探してくれるって!!」

「よかったな、陽菜乃。ただ、皆目の色変わってるから気をつけてな」

(殺せんせーの数十万の言葉に渚達の反応が凄かったからな)

 

苦笑しながらそう考えていると、陽菜乃が手にクワガタを持ちながら何かを考えていた。どうしたんだ?

 

「陽菜乃?」

「・・・ねぇ、太陽くん。私からのプレゼントとこれを貰うのとどっちが嬉しい?」

「? そりゃあもちろん陽菜乃がくれるプレゼントだよ。何くれるかは知らないけど、俺には数十万以上の価値があるしな」

「・・・そっか。じゃあ今渡したいから、昨日みたいにちょっとかがんでくれる?」

「へ? 分かった」

 

陽菜乃にそう返しながら俺は昨日みたいに膝に手を置いた。何だ?また何かつけてくれるのか?

 

そう考えていると、陽菜乃は無言で俺に近づき少しだけ背伸びをすると・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ・・・

「!!??」

 

目を閉じながら俺の唇に自分の唇を重ねてきた。そのあまりにも突然の行動に俺は身動き一つ取れなかった。

 

「・・・プハッ」

 

数秒間そのままの体勢でいた後、そんな音を立てながら陽菜乃は離れ、俺はおもわず自分の唇を触った。

 

(い、今のって・・・)

チラリッ 「「「「「・・・・・」」」」」

 

おもわず陽菜乃以外の皆を見ると、殺せんせーを含めた全員が顔を赤くしながら無言で立っていた。その反応を見るからに、夢では無いだろう。

 

陽菜乃に視線を戻すと、腕を後ろで組んで顔を真っ赤にしながらも、笑顔で陽菜乃はこう言ってきた。

 

「誕生日おめでとう、()()()()!!」

(あぁ・・・駄目だ)

 

その言葉に俺は直感でそう思った。

 

―――この先俺は目の前の天真爛漫な彼女には一生勝てないだろう。

 

―――でも、それが悪い気はしなかった。




いかがだったでしょうか。

とにかく倉橋さんが可愛く書けてたらいいんですが・・・
呼び方を変えさせたのは太陽だけが特別な感じを出したかったからです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十五時間目 策謀の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は短めです。
南の島までの準備期間になります。

それでは、どうぞ!!


威月side

 

 南の島での暗殺が後1週間に迫った今日、俺達E組はその訓練と計画の詰めに校庭へと集まっていた。殺せんせーの暗殺期限まで残り7か月となり、勝負の8月だ。

 

「まぁまぁガキ共。汗水流してご苦労な事ねぇ」

 

そんな俺達の前にビッチ先生がそう言いながら現れた。帽子にサングラスと、とても教師の格好には見えんな・・・

 

「ビッチ先生も訓練しろよ。射撃やナイフは俺達と大差ないだろーにさ」

「大人はズルいのよ。あんた達の作戦に乗じてオイシイとこだけ持ってくわ」

「別にいいが・・・後ろの人にもバッチリ聞かれてんぞ」

「えらいもんだな、イリーナ」

 

三村にそう返したビッチ先生に俺がそう呟いた後のそんな言葉に、ビッチ先生はギクリとなりながら後ろを振り返った。

 

「ロ、ロブロ師匠(センセイ)!?」

「夏休みに特別講師で来てもらった。今回の作戦にプロの視点から助言をくれる」

(なるほど・・・ロブロさんなら信用できるからな)

 

その後、ビッチ先生はロブロさんに怒られ、地味な服装に着替えに走った。あの人無言で立ってるだけで充分怖えからな・・・

 

「ロブロさんって殺し屋の斡旋業者なんですよね。今回の暗殺にも誰かを・・・?」

「いいや、今回はプロは送らん。

・・・というより送れんのだ。殺せんせーは臭いに敏感。特に君達以外の部外者の臭いを嗅ぎ分ける。これまでも何人もの殺し屋を送りこみ悉く失敗してきたが、その際にプロ特有の殺気を臭いごと覚えられ・・・2回目からは教室には辿りつかせてもらえない」

 

岡野の質問にそう返しながらロブロさんはそう言った。確かシロも同じ事言ったって寺坂は言ってたな。

 

「つまり、1度使った殺し屋は2度使うのは難しい上・・・困った事も重なってな」

「困った事?」

「残りの手持ちで有望だった殺し屋達が何故か突然連絡がつかなくなったんだ。

・・・という訳で、今現在斡旋できる暗殺者は0だ。慣れ親しんだ君達に殺してもらうのが1番だろう」

 

矢田の質問にそう返しながらロブロさんはそう言いきった。連絡がつかなくなったってのは少し気になるが、今気にしても仕方がないな。

 

 

 

「先に約束の8本の触手を破壊し、間髪入れずクラス全員で攻撃して奴を仕留める。

・・・それはわかるが、この1番最初の「精神攻撃」というのは何だ?」

 

 射撃訓練を始めた俺達の横でロブロさんはそう質問し、渚がそれに答えた。

 

「まず動揺させて動きを落とすんです。冷静さを奪う効果は、太陽達が証明してるんで」

「この前さ、殺せんせーがエロ本拾い読みしてたんスよ。皆には内緒ってアイス1本配られたけど・・・今どきアイスで口止めできるわけねーだろ!!クラス全員でさんざんにいびってやるぜ!!」

 

前原の言葉に皆が笑みを浮かべた。ま、これに関しては殺せんせーが悪いな。

 

「他にもゆするネタはいくつか確保してますから、まずはこれを使って追いこみます」

「残酷な暗殺法だ」

 

渚の締めの言葉にロブロさんは冷や汗を流しながらそう言った。それは同感だが、今は使える物なら何でも使うべきだからな。

 

「・・・で、肝心なのはとどめを刺す最後の射撃。正確なタイミングと精密な狙いが不可欠だが・・・」

「・・・不安か?このE組(クラス)の射撃能力は」

「いいや、逆だ。とくにあの2人は素晴らしい」

 

烏間先生の問いにロブロさんは射撃訓練中の千葉や速水を見ながらそう言った。

 

「・・・そうだろう。千葉 龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶ者の無い狙撃手(スナイパー)、速水 凛香は手先の正確さと動体視力のバランスが良く、動く標的を仕留める事に優れた兵士(ソルジャー)

どちらも主張が強い性格ではなく・・・結果で語る仕事人タイプだ」

「ふーむ、俺の教え子に欲しい位だ」

 

烏間先生の説明に、ロブロさんは笑いながらそう言った。今も2人は的の風船を次々と割っているし、ホントにすげえな。あの2人は・・・

 

「他の者も良いレベルに纏まっている。人生の大半を暗殺に費やした者として・・・この作戦に合格点を与えよう。彼等なら充分に可能性がある」

 

俺達全員を見渡しながらロブロさんはそう評価してくれた。プロの正当な評価は嬉しいな。

 

パンッ!!「・・・あれ?」

「はずれー。ホントに浮かれすぎだぜ、太陽」

「アハハ、すまん・・・」

 

すると、射撃を外した太陽に大賀が笑いながらそう言って、太陽は苦笑いを浮かべた。

 

誕生日の前日に倉橋に呼び出されて出かけたと思ったら、ネックレス付けて帰ってきたと思ったら、誕生日にも朝早く出かけたと思ったらニヤニヤと笑みを浮かべながら帰ってきたからな。ちなみに今も太陽の首にはそのネックレスが付けられている。

 

「たーくん、頑張って!!」

「! (パパパパンッ!!)」

「うおっ!? すげえ、全部ど真ん中!!」

(倉橋も太陽の呼び方変わってるし、あいつ倉橋が応援したら何でも出来そうだな)

 

今も倉橋の声に反応して全弾的に当ててみせた太陽を見て、俺はそう考えながら苦笑した。

 

「何ぼーっとしてんの、威月?あんたもさっさと訓練しなよー」

「中村」

 

その時、隣にいた中村が銃を持ちながら話しかけてきた。いつの間にか順番が回ってきたみたいだ。

 

「でも俺らはテストで確実に破壊出来るんだから別にいいだろ」

「そりゃあそうだけど、いつか役にに立つときが来るだろうから、やっといて損は無いっしょ」

「へいへい」

 

そう言いながら俺は銃を的に向けた。ま、言ってる事は正論だからな。

 

そして、俺は引き金を引いた―――――

 

 

 

渚side

 

パァン 「狙いが安定しただろう。人によっては立て膝よりあぐらで撃つのが向いている」

「は、はい。さすが本職」

「・・・・・」

 

 今も不破さんにアドバイスをしているロブロさんを見て、僕は1つ聞いてみたくなった。殺し屋の事を知り尽くしているこの人に。

 

「ロブロさん」

「む? ・・・!」

 

話しかけた僕にロブロさんは目を開いた。いきなり話しかけたからかは分からないけど、とりあえず僕はそのまま話を続けた。

 

「僕が知ってる殺し屋って・・・今の所ビッチ先生とあなたしかいないんですが・・・ロブロさんの中で、1番優れた殺し屋ってどんな人ですか?」

「ほう・・・興味があるのか?殺し屋の世界に」

「あ。い、いや・・・そういう訳では」

 

僕の質問に笑みを浮かべながらそう聞いてきたロブロさんに僕はしどろもどろになりながらもそう返した。ただ聞いてみたくなっただけだしね。

 

「そうだな・・・俺が知っている中で最強と呼べるのは2人だな」

「2人?1人じゃないんですか?」

「1人は殺し屋では無い。最強の殺し屋と呼べるのは地球上にたった1人。この業界にはよくある事だが・・・彼の本名は誰も知らない。ただ一言の仇名で呼ばれている。

―――曰く、"死神(しにがみ)"と」

(死神・・・)

「ありふれた名前だろう?だが我々殺し屋にとって最強の男は死神以外にはいない。神出鬼没、冷酷無比。(おびただ)しい数の屍を積み上げ、そう呼ばれるまでに至った男だ。今ももしかしたらじっと機会を窺っているかもしれんな」

「・・・もう1人は?」

「もう1人の男は死神以上に謎の男だ。戦場に姿を現したと思ったら、ある国に機密情報の調査に赴いたりもしているとの噂だ。こちらも本名は分からないが、恐神(きょうしん)と呼ばれている。だが、心配しなくていい。死神はともかく、恐神は金や名誉で動くような男では無い。君達にとって危険な存在にはならないだろう」

(でも、そんな人がいるなら・・・いよいよ南の島のチャンスは逃せない!)

 

ロブロさんの話に僕はそう心の中で決意を固めた。すると、そんな僕を見てロブロさんは再び笑みを浮かべながら話し出した。

 

「・・・では少年よ。君には必殺技を授けてやろう」

「!? 必殺・・・?」

「そうだ。プロの殺し屋が直接教える・・・必殺技だ」

 

そう言いながらロブロさんは後ろで組んでいた両手を解いた―――――

 

 

 

―――・・・そして、南の島の暗殺ツアーが始まる!!




いかがだったでしょうか。

恐神はこの作品オリジナルですが、もう誰かは分かると思います(笑)まぁ、本格的に紹介するのは、まだまだ先になりますが。

さて、いよいよ南の島ですが、その前にオリジナル回を何話か挟みます。
簡単に言えば、残り2組のカップルの話です。お待たせしました!!(別に待ってねえよと言うコメントはスルーします(笑))

ゴールデンウィーク中は投稿できたら何話か投稿するので、是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!




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三十六時間目 考えの時間

皆さんどうも籠野球です。

皆さんはGWいかがお過ごしでしょうか。作者は会社の都合で9連休となり、昨日からパソコンをカタカタ頑張っています!!

GWの間は残り2組を進展させていきたいと思います。今回はその片方の話です。

それでは、どうぞ!!


登志side

 

 南の島での暗殺が残り数日に迫った今日、僕は路地を1人で歩いていた。時刻は11時半を少し過ぎた辺りだ。

 

(さてと、今日はどこにしようかな・・・)

 

僕はお昼ご飯をどこで食べようか悩んでいた。知らないお店に行くのもいいけど・・・

 

(・・・そうだ、久々に田中さんのお店にでも行こうかな)

 

 

 

 目当ての店に行く為、僕は商店街をスタスタと歩いていた。商店街に入ると、流石に人が多くなってきた。

 

チラッ、チラッ・・・

「(ボソボソ・・・)」

 

その途中ですれ違った人達の殆どが、僕を二度見してヒソヒソと話し合っていた。確かに僕の格好はおかしくは無いが、普通に街を歩くには珍しいだろう。

 

(まあ、この髪色でこんな格好しているのも珍しいんだろうな。もう慣れっこだけど「や、やめてください!!」・・・ん?)

 

鮮やかな黄色い自分の髪の毛を触りながらそう考えていると、突然、前方でそんな声がして、僕は前を向いた。

 

そんな僕の目に入ったのは高校生くらいの男の人が中学生くらいの女の子の腕を掴んでいる光景だった。ポニーテールにした髪の毛が特徴のその人は・・・

 

(矢田さん?)

スタスタ 「何してるんですか?矢田さん」

「! 伊勢くん!?」

「あぁ?何だテメエ?」

 

突然現れた僕に、2人は驚きながらもそう返してきた。この2人、どう見ても知り合いって感じじゃ無いよな・・・

 

「えっと、その子のクラスメイトですけど」

「はぁ!?クラスメイト!?お前どう見てもこいつより背ェ低いじゃねーか!!」

「うっ!?痛い所つきますね・・・」

 

あんまり気にしてはないんだけど、はっきり言われるとやっぱり効くなぁ。

 

「まぁいいや。俺この女に用があるからお前は引っ込んどけや」

「えぇ・・・でも、どう見ても矢田さん嫌がってますし、それを放っとくのはちょっと・・・」

「いいからとっとと引っ込んどけや!!」

グイッ 「痛っ!!」

 

僕のそんな態度に痺れを切らしたのか男は無理矢理矢田さんの腕を引っ張り、矢田さんがそんな声を上げた。

 

シュバッ!! 「・・・なっ!?」

 

次の瞬間、僕が鼻先に背中から引き抜いた竹刀の柄を突きつけた事で、男はそんな声を上げた。多分見えてすらいないだろう。

 

「・・・すみませんが、これ以上矢田さんに手荒な真似するなら、僕も容赦しませんよ」

「うっ・・・」

「諦めてくれませんか?」

「わ、分かった・・・」

 

僕が本気だと悟ったのか、男は矢田さんから手を離すと一目散に逃げていった。

 

「フゥ・・・大丈夫ですか、矢田さん?」

「ありがとう、伊勢くん!」

 

僕の声にそう言いながら笑ってくれた矢田さんを見て、僕は安心しながら竹刀を背中に戻した。

 

すると、そんな僕を全身を見ながら、矢田さんは口を開いた。

 

「・・・あの伊勢くん、ちょっといいかな?」

「? 何ですか?」

「伊勢くんの格好って道着・・・だよね?何でそんな格好してるの?」

 

矢田さんの質問通り、僕は白の上衣と紺色の袴を着て足袋と草鞋を履いていた。こんな格好で街を歩く人なんて滅多にいないだろうな。

 

「僕昔から1ヶ月に一度、他の道場の人と一緒に稽古をやらせてもらってて、その帰りなんです」

「へぇ、そうなんだ」

「矢田さんは、こんな場所に1人で何を?」

 

僕のそんな質問に矢田さんは苦笑いを浮かべながら話し出した。

 

「実は今日、陽菜ちゃんやメグちゃん達と一緒に南の島での服装とか選ぶ約束で、11時半にここで待ち合わせしてたんだけど・・・メグちゃんに急な用事が出来ちゃったみたいで、1時からになっちゃったんだ。私ちょっと早く家出ちゃってメールが来た時にはもう着いちゃってて、どうしようか迷っていた時に、」

「さっきの人に絡まれちゃったって事ですか?」

「うん・・・伊勢くんが来てくれて助かったよ」

(矢田さん綺麗だしスタイル良いから、邪な考え持った人に声掛けられる事もあるんだろうな)

「お昼ご飯食べながらどこ行くか相談しようとしてたから・・・ホントにどうしようかな」

 

困った様な笑みを浮かべながらそう話す矢田さんに僕は提案をした。

 

「僕、今からよく行くお店にご飯食べに行くんですけど、よかったら一緒にどうですか?」

「えっ、いいの?」

「ええ、僕なんかと一緒でよければ」

「ありがとう、伊勢くん!!じゃあ、ご一緒させてもらうね」

 

その言葉に僕は頷き、2人並んで歩き出した。

 

 

 

桃花side

 

 15分程歩いた後、伊勢君が連れてきてくれたお店はお蕎麦屋さんだった。

 

「お待たせしました、天ぷら蕎麦です」

「ありがとうございます」

 

そう言いながら店員さん女の人は、お蕎麦を私の前に置き、

 

「はい、登志君。かけ蕎麦ね」

「どうも」

 

そう言いながら伊勢君の前にお蕎麦を置いた。

 

「ホントにいいの?助けてくれたんだし、天ぷらくらいならご馳走するけど・・・」

「いいですよ。僕、かけ蕎麦が好きなんです」

 

すると、私の質問にうきうきしながらそう返す伊勢君を見ながら、店員さんは笑みを浮かべながら話し出した。

 

「それにしても登志君も隅に置けないわね~。こんな可愛い女の子連れてデートなんて」

「やだなぁ、田中さん。僕とそんな勘違いされたら矢田さんが気の毒ですよ」

「はいはい、ゴメンなさいね。じゃあ、ごゆっくり」

 

伊勢君に笑いながらそう返して店員さんは去って行った。ホントによく来るみたいだな、伊勢君。

 

「気にしないで下さい、矢田さん。とりあえず食べましょうか」

「あ、うん。いただきます」

「いただきまーす」

 

お互いにそう言いながら、私達は蕎麦を食べ始めた。

 

「・・・へえ、私お蕎麦屋さんのお蕎麦なんて初めて食べたけど、凄い美味しいね!!」

「それは、よかったです」

「伊勢くんはよく来るの?」

「道場に行った帰りはお蕎麦屋さんを巡るのが趣味なんです。1ヶ月に1杯くらいしか食べれないから、ここは3ヶ月に1回くらいですね」

「そうなんだ。お蕎麦好きなんだね?」

 

私のそんな質問に、伊勢君の顔が少しだけ暗くなった。どうしたんだろう?

 

「・・・昔の思い出なんです。前の家族との」

 

苦笑いを浮かべながらの伊勢君の言葉にギクリとなった。そういえば伊勢君は孤児院で暮らしてるんだった!!

 

「ゴ、ゴメンね伊勢くん。私知らなくて・・・」

「あ、いえ気にしないで下さい。言ってなかった僕が悪いんですし、「ひまわり」の皆に不満があるわけじゃ無いですから」

 

私の言葉に伊勢君は笑いながらそう言うと、

 

「そんなことより、学校の話でもしましょうよ!!テストとかね」

 

そんな風に明るく話題を変えてくれた。伊勢君のそんな優しさに感謝しながら私は頷いた。

 

 

 

「・・・でも、あの時の菅谷君のペイントは凄かったねー!」

「確かにそうですね。「ひまわり」のメンバーは流石に遠慮してましたけど」

 

 まだ時間に余裕があったから、お蕎麦も食べ終わった後も私達はお蕎麦屋さんでずっと喋っていた。と、いっても私が一方的に喋って、伊勢君は相槌を打つだけだけど。

 

どんな話でも伊勢君はニコニコと笑ってくれるので、ホントに話しやすかった。

 

「・・・あ、ゴメンね。今更だけど、私が一方的に喋っちゃって」

「いえ、楽しかったですよ。ありがとうございます」

 

今もそう言ってくれる伊勢君に、話してる最中も心の中でずっと思っていた言葉を口にした。

 

「・・・伊勢くんって殺人剣の使い手には全然見えないね」

「アハハ、確かにそうかもしれませんね。争いはそこまで好きなわけじゃ無いですし」

「・・・伊勢くんもそうなんだ」

「矢田さんも?」

 

伊勢君の言葉に頷きながら、私は話し出した。

 

「私・・・血とか見るのが苦手で。できたらそういう戦いとかを避けたいんだ」

「・・・だからビッチ先生から接待術や交渉術を教えてもらってるんですね」

「うん・・・伊勢くんみたいな強い人からしたらこんな考え方は甘いかな?」

 

恐る恐る私は伊勢君にそう聞いてみた。すると、伊勢君はさっきまでと同じように笑いながら答えてくれた。

 

「甘いと思いますよ」

「うっ!?・・・やっぱりそうかな?」

「はい、僕達は殺し屋ですから。戦いを避けられない時だってあるだろうし、血を見ることも必ずあるはずです」

(うぅ・・・伊勢くんって笑顔で結構厳しいこと言うんだな・・・)

 

自分で聞いといて勝手だけど、私は少しだけ裏切られた気分だった。おもわず俯いていると、

 

「でも、僕はそんな矢田さんの甘い考え方の方が好きですよ」

「え?」

 

そんな言葉にパッと顔を上げると、さっきまでよりもニコニコとしている伊勢君があった。

 

「矢田さんみたいな考え方の人が増えてくれるのが理想だと思ってます」

「・・・ありがとう、伊勢くん」

 

その笑顔を見る限り、気を遣ってる訳じゃ無くて、本心で言ってくれてるんだろう。それが何よりも嬉しかった。

 

そう思っていると、伊勢君はいきなり悲しそうな笑みを浮かべながら呟いた。

 

「・・・僕も矢田さんみたいな考え方で生きることが出来たらよかったな」

「? 伊勢くんだって理想なんでしょ?」

「確かに理想ですけど、僕は人斬り抜刀斎の子孫で飛天御剣流の継承者ですからね」

「でも、争いごとが伊勢くんも好きじゃ無いんでしょ?だったら・・・」

「無理ですよ、僕には」

 

笑みを浮かべながら伊勢君は椅子から立ち上がると、

 

「矢田さんも覚えていた方がいいです。僕がどんなに争いごとを嫌い、そんな生き方を望んでも・・・人斬りの血が流れてる僕は所詮人斬りなんですよ」

「伊勢くん・・・?」

「・・・そろそろ行きましょうか。1時なんですよね、待ち合わせ」

 

その言葉を聞いて携帯の時間を確認してみるといつの間にか30分を過ぎていて、私も慌てて椅子から立ち上がった。伊勢君の言葉の意味も分からないまま―――――

 

 

 

「ゴメンね、伊勢くん。待ち合わせ場所までついてきてもらっちゃって」

「いいですよ、暇ですから。それに、また変な人に絡まれたら大変ですしね」

「アハハ、ありがとう」

 

 お蕎麦屋さん前で分かれるつもりだったが、伊勢君がついてきてくれるって言ってくれたから甘えることにして、10分前に待ち合わせ場所に戻ってくることが出来た。

 

「皆さんから連絡はきたんですよね?」

「うん、もうすぐ着くって」

「そっか。じゃあもうすぐですね」

 

そう言いながら私の横に立っている伊勢君にさっきの言葉について聞こうとした。

 

「伊勢くん。あの・・・「あ!桃花ちゃん!!」 ! 陽奈ちゃん、皆」

 

しかしそんな声が聞こえてきて振り返ってみると、そこには陽奈ちゃんやメグちゃん達が歩いてきていた。

 

「ゴメンね、矢田さん。私の予定のせいで・・・え、伊勢君?」

「こんにちは、皆さん」

「あ、実はね・・・」

 

男の人に絡まれたって事は心配されちゃうから隠して、私は皆に説明をした。待ち合わせ場所に早く着いちゃって困ってた時に、道場から帰る伊勢君とたまたま会って一緒にお昼ご飯を食べたと。

 

「・・・それでここまで送ってくれたんだよ」

「そうだったんだ。ゴメンね、2人とも」

「大丈夫ですよ。今日はもう暇だったんで」

 

メグちゃんにそう返した後、伊勢君は陽奈ちゃんに話しかけた。

 

「倉橋さん、また太陽と遊んであげて下さい。今日も一緒に行けなくて残念そうにしてましたから」

「そっか~。今日はもう皆と約束してたから行けなかったけど、今度は私も犬ちゃんと一緒にふれあい広場行ってみたいな~」

「太陽も喜びますよ、きっと」

 

陽奈ちゃんは笑顔でそう言って、伊勢君も笑いながらそう返した。陽奈ちゃんと太陽君はホントに仲良いなー。羨ましい。

 

そう考えていると、伊勢君は私に聞いてきた。

 

「ところで、矢田さん。さっき何か言おうとしてませんでした?」

「・・・ううん、何でもない。ありがとね、伊勢くん」

「? どういたしまして。じゃあ僕はこれで。また南の島の日に会いましょう」

 

あまり大っぴらに言わない方がいいと思い、私は聞くのをやめた。そんな私に疑問を浮かべながらも私達に頭をペコリと下げて歩いて行った。

 

「・・・伊勢くん!!」

「? はい、何ですか?」

「頑張ろうね、南の島で」

「はい。じゃあまた今度」

 

そう言いながら伊勢君は少し離れた場所から手を振ってきた。今度の暗殺は頑張らないとね!!

 

 

 

 

 

―――その時の私はもちろん知らなかった。伊勢君が言っていた言葉の意味を。

 

―――・・・そして何より私は伊勢くんの事を何1つ分かっていなかったと。それを痛いほど知ることになるのがすぐ間近に迫っていることを




いかがだったでしょうか。

というわけで、2組目のカップルは登志×矢田です。ちなみに登志の好きな食べ物は作者の1番好きな食べ物です(人生最後はかけ蕎麦を啜りたいくらい好きです(笑))。

また、現段階ではこの2人はお互いに全く好意を抱いていません。あくまでクラスメイトです。これからどう進展していくかは楽しみにしてくれたら嬉しいです!!

それと、登志は正直「るろうに剣心」の主人公とキャラや話の流れが似てしまうと思います。(もしかしたらクロスオーバーのタグをつけるかもしれません。)細かい設定は違いますが・・・これから判断していきたいと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十七時間目 信じる時間

皆さんどうも籠野球です。

GWも後半分になりました。ずっとごろごろしたいですが、諸事情で明日から3日間パソコン触れないので今日も頑張ってます。

今回はもう1組のカップルです。こっちはもう分かるとは思いますが・・・

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

チリーン・・・チリーン・・・

「スー・・・スー・・・」

 

 南の島の暗殺ツアーまで数日に迫った今日、俺は居間に寝転がって昼寝をしていた。風鈴の音が心地よい。

 

時刻はもうすぐ昼の1時。そんな夏の昼下がりのひとときを俺は満喫―――

 

 

 

 

 

パチッ 「暇だ」

 

していなかった。正直俺は掃除とか料理とかが好きな為、こういう暇な時間の過ごし方が分からなかった。

 

ゴロリ 「・・・やっぱ太陽達について行くべきだったかなぁ」

 

太陽達は今日、犬のさくら達を連れて久々にペットのふれあい広場に遊びに行ったのだ。裕樹や彩子、華のお守り係として威月や珍しく家にいた実徳さん、それに岬さんにも連絡して皆は出かけていった。登志は剣術の稽古に朝から出かけている。

 

本当は俺も誘われたが、俺は家の掃除でもしようと思って家に残ったのだ(今は後悔してる)

 

そんなわけで、今「ひまわり」にいるのは俺1人だ。

 

「・・・」

 

寝転がって天井を見つめながら俺は何かやることは無いか考えた。

 

掃除、洗濯→ここ最近暇だったから毎日こまめにいろんな場所を掃除したから殆ど掃除する場所が無かった(一応床掃除したが両方合わせて1時間半で終わった)

昼ご飯→素麺茹でて食べた(てか、1人分だからそんな時間かからない)

買い物→昨日ある程度買い物行って買ってきた(チラシ見てみたけど、今日は余り良い物が無かった)

宿題→日記や自由研究以外は終わらせてある(太陽と威月という監督とコーチによって「ひまわり」のメンバーは7月中に終わらせてある)

 

(何にもやることねえ・・・)

 

とはいえ、晩ご飯作り出すには早すぎるし、昼寝も飽きたしなー・・・

 

「・・・よし出かけよう」

 

そう呟くと、俺は体を起こした。こんな時悩まないのが俺の良さだと思ってる。

 

(・・・久々にあれを持って行こうかな)

 

そう考えて俺は自分の部屋の襖を開けた。

 

料理本しか入ってない小さな本棚しかない殺風景な俺の部屋。その本棚の上に置いてある小さな箱を手にとって、蓋を開けた―――――

 

 

 

「ん~良い天気だな~」

 

 商店街に着いた俺はそう言いながら伸びをした。夏休みなだけあって人は結構多いなぁ。

 

(さて・・・とりあえず外に出たけど、これからどうしようかな?)

 

俺は道の端っこで腕を組みながら考えた。

 

(図書館に行ってみるのもいいけど、料理本はもう全部1回は読んだことあるしなー。普通の本はあんまり好きじゃないし・・・)

「・・・あれ、あそこにいるのは」

(かといってスーパーに行くのもなぁ・・・変に余計な物買っちゃっうかもしれないし・・・)

「こんにちは、九澄くん」

(うーん・・・何しよっかな~)

「・・・九澄くん?」

「え?」

 

その時、俺は誰かに声をかけられている事に気づき、俺は声がした方向を向いた。

 

そこには、神崎さんが不思議そうな顔で立っていた。

 

「神崎さん!?」

「こんにちは、九澄くん」

「あ、うん。こんにちは」

 

ニコリと笑いながらそう挨拶してくれた神崎さんに俺は慌ててそう返した。夏休みだから当然だけど、私服を着ている神崎さんはいつもよりも凄く可愛かった。

 

「何してたの九澄くん?」

「いや、何も。むしろ何しようか考えてた所。神崎さんは?」

「そうなんだ。私は今から気分転換にゲームセンターに行こうとしてたんだ」

(! ゲームセンターかー・・・)

 

神崎さんのそんな言葉に俺は考えた。お小遣いは俺は殆ど使わないから貯めてるし、たまには遊んでみるのも面白いかも。

 

そう考えた俺は神崎さんに聞いてみた。

 

「神崎さん。迷惑じゃなければ、俺もついていっていい?」

「うん。私と一緒でいいなら」

「ありがとう!」

(・・・神崎さんと一緒が嫌な人なんていないと思うけどなー)

 

そんな事を考えながら、俺は神崎さんの後ろをついていった―――――

 

 

 

1時間後・・・

 

パンパンッ!!

 

「九澄くん、次は右から来るよ!!」

「おう!!」

 

 俺と神崎さんは画面に出てくるゾンビを銃で撃っていくゲームを2人でプレイしていた。

 

神崎さんの指示通り右から出てきたゾンビを銃で次々倒していると、後ろから何やら話し声が聞こえてきた。

 

「・・・おい、この2人見てみろよ」

「え?・・・て、女の方は結構可愛いじゃん」

「バカ!!この2人、最終ステージまで1回も死なずに来てんだよ!!」

「ハァ!?これ、ここで1番難しいシューティングだろ!?」

(・・・これ、そんなに難しいか?)

 

こんなの、さっきやった格闘ゲームやパズルゲームに比べたら、ただ出てくる敵を撃てばいいだけのゲームじゃん。おまけに・・・

 

「・・・あ、九澄くん。右上の箱にマシンガンが入ってるから、取って!!もうすぐラスボスだよ!!」

「オッケー!!」

 

こんな風に神崎さんがアドバイスをくれるのだ。いくら初心者でもここまでサポートしてくれたら上手くできるに決まってる。

 

そう考えながら敵を倒し続ける事5分、最後のボスを神崎さんが倒し俺達はゲームをクリアした。

 

「フゥ・・・ありがとう、神崎さん」

「ううん。こっちこそ九澄くんが凄く上手かったから助かったよ。本当に初めてなのかな?って途中で思っちゃった」

「アハハ、ありがとう」

(・・・まぁ、他のゲームの殆どは負けたけど・・・)

 

俺が勝ったのってエアホッケーくらいだけだもんなー。体力使う奴でしか勝てない・・・

 

「九澄くん、次は何をやる?決めていいよ」

「うーん・・・そうだなー」

(後やってないのは太鼓や車のゲームかー。どっちも面白そう・・・ん?)

 

そう考えていたその時、俺達にニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいてくる見た感じ高校生の男に気づいた。

 

「ずいぶん楽しそうだな2人とも。ちょっと俺にも分けてくれよ」

「? 分けてと言われても・・・どうすれば?」

「簡単さ。少し小遣いくれりゃあいいんだよ」

(うーん、どうしよう?)

 

突然のかつあげに、俺は考えた。もちろんこの人に負ける気はしないけど・・・

 

チラッ (こんなとこで暴れたら店の人や神崎さんに迷惑かかっちゃうし、太陽や威月も「避けられる戦いは避けるべき」・・・そう言ってたし仕方ないか)

「お金渡したら何にもしないですか?」

「お、話が分かるな。あぁ、約束するぜ」

 

その言葉を確認して俺は財布を取り出すと、

 

「はい(チャリン)じゃあ行こうか、神崎さん」

「・・・え?あ、うん。」

(ハァ・・・今の俺の全財産だったんだけどなー)

 

男の手に俺の手持ち千円の残り三百円を置いた後、俺は神崎さんにそう促し、神崎さんもそう言って俺達は男の前から去ろうと―――

 

 

 

 

 

「ちょっと待て!!」

 

した俺達の前に、男はそう言いながら再び立ちはだかった。

 

「え!?お金渡したら何もしないって言ったじゃないですか」

「三百円ぽっちでいいわけあるか!!今、財布の中に五千円入ってるの見えたぞ!!」

 

確かに俺の財布には五千円が入ってはいるが・・・

 

「これはダメですよ、「ひまわり」の食費なんですから。俺達に餓死しろって言うんですか?」

「いや知らねえよ!?」

 

俺の質問にそうツッコんできたけど、勝手に食費は渡せないしな。

 

「何と言われても、俺が渡せるのはそれだけなんですよ。もう行ってもいいですか?」

「舐めやがって・・・外出ろや中坊・・・!!」

 

俺の言葉に青筋を浮かべながら、男はそう言った。やっぱりそうなるのね・・・

 

「だ、大丈夫?九澄くん・・・」

「あー・・・大丈夫だよ、神崎さん」

(そっちがその気なら、俺もそうするだけだしね)

 

 

 

有希子side

 

 男の人に絡まれてから10分後、路地裏には男の人とその人が呼んだ人達合わせて5人が気を失っていて、九澄君だけが立っていた。

 

「うーん・・・こういう人達って何で勝てないのに挑んでくるんだろう?」

「いや・・・九澄くんが強すぎるんだと思うよ」

 

少なくとも私は高校生5人以上に1人で勝ってみせる中学生なんて見た事が無かった。

 

「ゴメンね、神崎さん。結局こうなっちゃって・・・」

「ううん、気にしないで。九澄くんはちゃんと避けようとしてくれたしね」

「ありがとう。で、どうする?またゲームセンターに戻る?」

「ううん、また変な人に絡まれちゃったら困るし、そろそろ帰ろうかな」

「(パカッ)・・・あ、もう2時半か」

 

私の言葉に九澄君はポケットから懐中時計を取り出しながらそう言った。

 

(凄く古そうな時計だな・・・九澄くんの物なのかな?)

「途中まで送っていくよ、神崎さん。どうせ暇だしね」

「あ、うん。ありがとう」

 

でも、変なこと聞いちゃってもいけないから私は時計については何も聞かずに九澄君にお礼を言った。

 

 

 

 商店街を歩く途中で私達はお話をしながら歩いていた。

 

「でも、凄いよなー神崎さんは。国語は学年2位だし、学年でも上位とか。ホント凄えよ」

「そんなことないよ。触手は奪えなかったし、九澄くんの方が凄いと思うな」

「あんなの寺坂達の作戦に乗っかっただけだよ。アイツらのおかげさ」

「でも、九澄くんだって100点を取れたからこそだよ。充分凄いよ!」

「アハハ、家庭科で100点取れてここまで褒められると、何か恥ずかしいな。ありがとう」

 

九澄君は笑いながら私にそう返した。私の素直な感想だけどな。

 

そう思っていたその時、九澄君は私に向かって質問してきた。

 

「神崎さんって勉強凄く出来るけど、将来何か夢ってあるの?」

「! う、うん。まあね・・・」

「あ、マズいこと聞いちゃった!?だったら別に・・・」

「大丈夫だよ、気を遣わなくて」

 

私の様子を見て慌ててそう言った九澄君にそう返した。優しいんだな、九澄君って。

 

「私ね、介護士になりたいんだ」

「介護士?」

「うん。私の両親って弁護士と事務所の事務員で忙しくてね。私のおばあちゃんが倒れた時も仕事ばっかりで、私が身の回りの世話をしてたんだ」

「それは・・・」

「お父さんが悪いとは思ってないよ。その時におばあちゃんが見せてくれた笑顔や感謝の言葉が忘れられなくて・・・」

「だから介護士を?」

 

私は頷いた。家族以外に夢を話したのは初めてだった。

 

「・・・おかしいかな、私の夢って?」

「そんなこと無いよ。いい夢だと思う」

「! ・・・ありがとう、九澄くん」

 

私の質問に笑いながら即答してくれた九澄君の態度が嬉しかった。

 

「笑顔や感謝の言葉は「ひまわり」の皆もくれるしな。よく分かるよ」

「そっか、九澄くん孤児院の家事をしてるんだっけ。凄いよね」

「そんなこと無いよ、命の危機になるくらいならね」

「え?い、命の危機?」

 

九澄君の口から飛び出たとんでもない言葉に、私は思わず聞き返すと九澄君は笑いながら話し出した。

 

「俺が「ひまわり」で暮らし始めたのは小学校二年の冬なんだけどさ、その頃は太陽と威月、それに院長の実徳さんの3人だけで暮らしてたんだけど、実徳さんって致命的に料理が下手くそでさ。あのまま食べ続けたらヤバいと思って俺が作り始めたのがきっかけなんだ」

「しょ、小学校二年生から家事をしてたんだ・・・大変じゃなかったの?」

「全然。俺、両親から3歳の頃から料理とか家事はずっと教えてもらってたから大好きだったしね」

 

そう言うと、九澄君は少しだけ寂しそうな笑みを浮かべながら話し出した。

 

「・・・俺、「ひまわり」で待ってるんだ。両親とまた会う日を」

「え?ど、どういうこと?」

「・・・俺の両親は30歳くらいまで他の店で下積みをして店を出した料理人だったんだ。毎日朝早くから夜遅くまで頑張ってたから不満は無かったし、たまの休みにはちゃんと俺と遊んでくれたから自慢の両親だった。

そんな両親の負担を少しでも減らそうと思って家事を始めたんだ。

・・・「ひまわり」の皆との暮らしも大好きだけど、あの頃はホントに幸せだったな」

「・・・何で九澄くんは「ひまわり」に?」

「・・・小学校高学年になった頃、実徳さんに教えてもらったんだけど両親が友人の借金の保証人になっちゃったみたいでね・・・いくらかは知らないんだけど簡単に返せる額ではなかったらしいんだ。

両親は駆け落ち同然で結婚したらしくて、頼れる人もいなかったらしい。

・・・「ひまわり」に預けられた日のことは今でもしっかりと覚えてる」

 

そこまで言ってから九澄君はポケットからさっきの懐中時計を取り出した。古そうだが、綺麗な時計だった。

 

「両親の宝物だったこの時計を俺のポケットに入れながら、"いつか必ず戻ってくる。それまで「ひまわり(ここ)」で待っていてくれ"・・・そう俺に言い残して両親は去っていったんだ」

「・・・」

 

思いがけずに聞いた九澄君の過去に私は言葉を失っていた。そんなに辛い過去があったなんて・・・

 

「両親がいなくなって今年で8年経つのかな。手紙1つ来たこと無いけどね」

「今まで1度も連絡すら無いの!?」

「まあね。多分頑張ってくれてるんだと思うよ」

 

平然とそう言った九澄君に私は驚いてしまった。何でこんなに平然としていられるんだろう・・・

 

「・・・九澄くんは、諦めたことはないの?ご両親がもう戻ってこないって」

「? 無いけど、何で?」

「だ、だって5年以上どこで何してるかも分からないんだよ!?だったら普通はもう捨てられたと思・・・!! ごめんなさい」

 

私の質問にキョトンとしながらそう返した九澄君に私はおもわず口が滑ってしまい、謝りながらうつむいた。何か言われても仕方ないと思った。

 

「・・・何で俺が、両親がもう戻ってこないと諦める必要があるんだ?」

「え?」

 

しかし、九澄君のその言葉におそるおそる顔を上げると、九澄君はニコリと笑っていた。

 

「確かに、両親にまた会える可能性が低いことくらいバカな俺でも分かってる。

・・・でも、俺が信じてあげなきゃ、誰があの2人を信じてあげるんだ?」

「九澄くん・・・」

「それに俺、待つのにはもう慣れたしな。いつまでも待ち続けるさ」

「・・・強いね、九澄くんは」

 

真っ直ぐに私を見ながらそう言いきった九澄君に、私は素直に思ったことを口にした。平然としている様に見えたのは、誰よりもご両親を信じているからなんだろうな・・・

 

「そんなことねえよ。ただバカなだけさ」

「ううん、本当に強いと思うよ。

・・・私と違って」

「? 神崎さんは充分強「有希子?」・・・え?」

 

その時、九澄君の声を遮りながら名前を呼ばれ、私達は声のした方向を向いた。

 

 

 

大賀side

 

 そこには、1人の女の人が立っていた。見るからに品のあり、雰囲気だけは岬さんによく似ていた。

 

(でも・・・この人の顔って神崎さんに似ている?それにこの人さっき神崎の名前を呼んでたよな・・・)

 

神崎さんが大人になったような顔をしているこの人はまさか・・・

 

「お母さん」

「! あ、初めまして。クラスメイトの九澄 大賀です」

 

予想通り、神崎さんがそう言った後に俺はそう言いながら頭を下げた。第一印象って大事だから実徳さんや岬さんに礼儀正しくしろって言われてるしな。

 

「初めまして、有希子の母です。有希子、何してたの?」

「ちょっと遊びに。そこで九澄くんに会って、途中まで送ってもらってたの」

「そうなの?ありがとうね、九澄君。よかったら家でお茶でもどうかしら?有希子の男の子のお友達なんて初めて見たし」

「え、そんな悪いですよ!!それに男が女の子の家に上がるわけには・・・」

「あら、しっかりした子ね。遠慮しなくて大丈夫よ。時間に余裕あるならどうぞ」

 

どうやら、俺の休みのひとときはまだまだ終わらないみたいだ・・・




いかがだったでしょうか。

前に4人の過去には人の命が関わってくると言いましたが、大賀だけは唯一両親が生きています。

というわけで、神崎さんの家にお邪魔することになった大賀ですが、次回は大賀が漢をみせます。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十八時間目 約束の時間

皆さんどうも籠野球です。

今日で連休が終了です(涙)来週から投稿ペースが戻ると思いますがこれからもよろしくお願いします。
m(_ _)m

偶然、神崎さんのお母さんに出会い、家にお邪魔することになった大賀ですが、果たしてどうなるでしょうか・・・

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「どうぞ、九澄君」

「ありがとうございます」

 

 神崎さんのお母さんにそう言いながら、俺は紅茶を受け取った。そのまま横に座る神崎さんの前にも紅茶を置いた後、神崎さんのお母さんは横向きの一人用のソファーへと座った。

 

チラッ (・・・しっかし、「ひまわり」とは大違いだなー)

 

表に「神崎法律事務所」と書かれた看板が出ているここは、事務所と家が一緒になった凄く綺麗な家だった。

 

(このソファーもすっげえ高そうだし、お金持ちなんだろうなー)

「九澄君?」 えっ?」

 

その時、神崎さんのお母さんが不思議そうに俺を見ているのに気づいた。いけね、気を取られてた!

 

「あ、すいません。何ですか?」

「いえ、有希子は学校ではどんな感じか聞いてみたかったのよ。この子、家のせいであんまりお友達連れてこれなくてね」

「なるほど。うーん・・・皆に優しくて、勉強も出来る素晴らしい人だと思ってます」

「へぇ!!良かったわね、有希子。貴方にそんなこと言ってくれる子がいて!」

「く、九澄くん。そんなに、言わなくても・・・」

 

俺の答えに神崎さんのお母さんは嬉しそうにそう言って、神崎さんは慌てた様子でそう返してきた。紛うことなき本心なんだけどなぁ。

 

「あ、そういえば九澄君本当に大丈夫だった?無理矢理連れてきちゃったけど、ご両親が心配してないかしら?」

「えっと・・・実は俺、孤児院で暮らしてまして」

「そうなの!?ごめんなさいね・・・」

「あ、いえ。言ってなかったのは俺の方ですから、気にしないで下さい」

 

申し訳なさそうに頭を下げられたら、逆に俺の方が申し訳なくなっちゃうよ・・・

 

「ありがとう。

・・・この辺りの孤児院ってことは、「ひまわり」かしら?」

「はい。よく知ってますね?」

 

普通、孤児院なんて知らない筈だけどな・・・

 

「フフ、噂でよく聞くのよ。「ひまわり」の子達についてね」

「うっ・・・あんまり良い噂じゃ無いですよね?」

「確かによく聞くのは、不良の人達と喧嘩したとか、数十人を怪我させたとかそういう噂ね」

「す、すみません・・・」

 

俺は下を向きながらそう謝るしかなかった。事実だしな。

 

すると、神崎さんのお母さんは穏やかな口調で話し始めた。

 

「でも、良い噂の方が多いわ。商店街の掃除とかもよく手伝ってくれたり、元気よく挨拶してくれるって。何より、弱いものイジメとかをせず、むしろ守ろうとする優しい子達だってね」

「・・・」

「現に今話してても、君に悪い印象なんて少しも感じないわ。自信持って」

「・・・ありがとうございます」

 

微笑みながらのその言葉が何よりも嬉しかった。そんなこと言ってくれる人がいるとはな・・・

 

「九澄君は将来の夢とかあるの?」

「なりたい職業は今の所は無いです。でも、将来「ひまわり」を継ぎたいとは思ってます」

「孤児院を継ぎたいの?」

「はい、実は・・・」

 

俺は神崎さんのお母さんに過去を話した。両親が借金を背負った事、「ひまわり」で待っていていてほしいと言われた事を。

 

「それで、「ひまわり」で待ち続けるためにも継ぎたいんです。

・・・まぁ、孤児院の皆の世話が好きなのもありますけどね」

「そう・・・また、会えるといいわね」

「はい!!」

ガチャッ 「ただいま・・・ん?お客さんか?」

 

その時、玄関の方のドアが開いて、黒髪の中年男性がそう言いながら入ってきた。ただいまって言ったし、神崎さんのお父さんかな?

 

「お帰りなさい、お父さん」

「あら、お帰りなさい。今ちょうど有希子のクラスメイトの子が来てるのよ」

「あ、初めまして。九澄 大賀です」

「よろしく、有希子の父だ。

・・・君は、将来何を目指してるのかね?」

(えっ、初対面でそんなこと普通聞くのかな・・・?)

 

いきなりの質問に、そう考えながらも俺は答えた。今は特に決まってはないが自分が暮らしている孤児院をいつか継ぎたいと。すると・・・

 

「孤児院で暮らしている?フー・・・あまりいい人間関係とは言えんな。孤児院で暮らしている奴なんかに禄なのはいないだろう」

ピクッ (「ひまわり」の皆を・・・)

 

その言葉に、俺はムッとなった。別に俺はどれだけバカにされてもいいんだが、「ひまわり」の皆が侮辱されるのは正直見過ごせなかった。

 

ギュッ 「ゴメンね、九澄くん・・・

「! ・・・大丈夫、気にしないで

 

しかし、神崎さんが俺の手を握りながら申し訳なさそうに小声でそう言ったのを見て、俺は我慢した。まあ、ここで怒ったら逆効果だしな。

 

「すみません」

「まぁ、ゆっくりしていくといい」

 

頭を下げながらの俺の言葉にそう言いながら神崎さんのお父さんは対面のソファーへと座った。

 

(・・・神崎さん、お父さんが厳しくて遊びに逃げたって言ってたよな。確かに肩書きとかに厳しそうな人だな)

「・・・そういえば有希子。もうそろそろ進路は決めたのか?」

「えっ・・・」

 

そう考えていると、いきなり直球で話を切り出した神崎さんのお父さんに、神崎さんは言葉を失っていた。

 

「ちょっと貴方。お友達のいる前で話す事じゃないでしょ?」

「もう8月なんだ。決めないといけない頃だろう?で、どうなんだ有希子」

「・・・前言ったよね。私、介護士になりたいって」

 

絞り出すようにそう言った神崎さんにため息をつきながら神崎さんのお父さんは話し出した。

 

「まだそんなことを言っているのか?介護士なんてくだらない夢捨てて弁護士や看護師のようないい仕事があるだろう?」

(! くだらないだと・・・!?)

 

その言葉に俺はキレかけた。神崎さんがどんな思いで介護士になりたいかを聞いたからこそ我慢できなかった。

 

ギュッ (! 神崎さん・・・)

「私は介護士になりたいの!お願い、お父さん!!」

 

しかし、再び俺の手を掴みながらそう必死に訴える神崎さんを見て、俺は堪えた。

 

・・・しかしその声は届いてなかった。

 

「だから言っているだろう!!介護士なんて肩書き、決して誇れる職業ではないんだ!!夢ばっかり見てないで、もっと現実を見なさい!!」

(・・・)

 

正直、俺はその考えは間違ってると思う。誇れる職業かどうかは本人が決める事だと思うからだ。

 

(・・・でも、「ひまわり」の皆には「余所の家庭には余所の考え方や育て方がある。それに口を出したらダメだ」・・・そう言われてるし、どうすれば「・・・何で・・・分かってくれないんだろ・・・」・・・っ!!)

 

そう考えていたその時、うつむきながら絞り出すような声で呟いた神崎さんの頬から涙が落ちるのを見て、俺の中の何かがはじけた。

 

「・・・だから介護士なんてくだらない夢「・・・何で、そんな事が言えるんですか・・・!?」・・・む?」

 

話し続ける神崎さんのお父さんの言葉を遮った為、全員の視線が俺に集まるのが分かったが俺は止まれなかった。

 

―――もちろん、神崎さんの家には神崎さんの家の育て方や考え方があるのは分かってるし、俺なんかが口出ししてはいけない事も分かっている。

 

バンッ!! 「何でそんな事が言えるんですか!?」

 

―――・・・でも、自分の言いたい事が分かってもらえず、涙を流す神崎さんを見て黙っているなんて俺には出来なかった。

 

突然テーブルを叩きながら立ち上がり、そう言い放った俺に3人は驚いた様子だったが、俺は勢いそのままに話し続けた。

 

「神崎さんがどんな思いで介護士になりたいかも聞かずに、何でくだらないなと言い切れるんですか!!それが親の言う事なんですか!?」

「・・・親だからこそ娘に正しい道へと進ませるのは当然だと思うが?」

「違う!!あなたのやってる事は、神崎さんに無理矢理自分の思い通りの道に進ませようとしてるだけだ!!

・・・仮に神崎さんが間違った道へと進もうとしてたら止めるべきだと思います。でも、神崎さんの夢は困ってる人を助けてあげられる優しい夢な筈です」

「・・・」

「なのにあなたは、神崎さんの夢を否定するばかりで応援一つしてあげない!!親ならまずは子供の夢を応援してあげるものじゃないんですか!?誇れる誇れないなんて本人が決める事だ!!」

 

無言で見つめてくる神崎さんのお父さんの視線は正直かなり怖い。でも、ここで止まりたくはなかった。

 

「・・・君のような孤児院で暮らす者ではまともな感覚で話す事は出来ないだろう」

「!! ・・・・・確かに俺は孤児院で暮らしてます。貴方みたいな優秀な人間ではないと自覚しています」

 

「でも、」と言いながら俺は右手の親指で自分を指し、

 

「俺は「ひまわり」で育ってきた事を誇りに思ってる!!「ひまわり」の皆を誰よりも誇りに思ってる!!そんな俺の大切な()()を、独断や偏見でバカにするような貴方なんかに、神崎さんの夢をバカにする資格なんて無い!!」

「!!」

 

俺の言葉に神崎さんのお父さんは目を見開いた。でも、それは怒っているわけではなさそうだった。

 

「それくらいにしましょう、貴方。確かに九澄君の言うとおりだわ」

「お母さん・・・」

「! す、すいません」

 

その時、ずっと黙っていた神崎さんのお母さんが口を開いた。俺がソファーに座り直したのを確認すると

 

「有希子。確かにお父さんの言うことは間違っているわけでは無いと思うわ。介護士は体力的にも精神的にもかなり過酷な職業だと思う。それでも、やりたいの?」

「・・・覚悟はあります。夢だけで出来る仕事じゃない事も分かってる。でも、やりたいの!!お願い、お父さん、お母さん!!」

「・・・俺から言っても意味ないですが、お願いします。認めてあげてください」

 

そう言いながら神崎さんと俺は頭を下げた。そんな俺達を見て神崎さんのお母さんはクスリと笑うと、

 

「ここは有希子を信じましょう、貴方。この子の為にこんなに真剣になってくれる子もいるんだから、きっと大丈夫よ」

「・・・あぁ、そうだな」

「! ありがとう、お父さん!!お母さん!!」

 

2人のその言葉に目に涙を浮かべながらも満面の笑顔でそう言った神崎さんを見て、俺は心から安堵した。

 

 

 

 

 

カチ・・・カチ・・・

「・・・・・」

 

 

 

 

 

カチ・・・カチ・・・

(き、気まずい・・・てか俺、神崎さんのお父さんに勢いに任せてぼろくそに言っちゃってたよな)

 

全員が無言になってから恐らくまだ数分も経っていないだろうが、俺はもういっぱいいっぱいだった。

 

神崎さんのお母さんは微笑んでるし、お父さんはじっと俺を見ているのが尚更キツかった。

 

「・・・」

(神崎さんも何か俺をチラチラと見てるし・・・ど、どうしよう・・・?)

 

この状況を打開する方法を無い頭目一杯振り絞り、ようやく思いついた案は、

 

「・・・あ、じゃあそろそろ失礼します」

 

この場から逃走する事だった。

 

「あら。もう少しゆっくりしていってもいいのよ?」

「い、いえ。もう4時ですし、そろそろ帰らないと」

(これ以上いたら胃に穴が開くよ・・・)

 

そう思いながら俺はソファーから立ち上がり、玄関に向かおうとした。

 

「・・・九澄君。」

「は、はい!!」

 

その時、神崎さんのお父さんにそう呼び止められ俺は直立しながらその方向を向いた。内心、冷や汗を掻いていると、

 

「さっきはすまなかった。

・・・弁護士になって10年以上経つが、法廷以外で完璧に言い負かされたのは君が初めてだよ」

「い、いえ・・・こちらこそ失礼な事、言っちゃってすみません」

 

すると、神崎さんのお父さんは笑みを浮かべると、

 

「またいつでも来なさい。歓迎するよ」

「あ、ありがとうございます」

 

その言葉に俺は頭を下げた。また来る事あるのかな・・・?

 

 

 

「今日は本当にありがとう、九澄くん」

「いや、こっちこそゴメンね。お父さんにズバズバ言っちゃって・・・」

 

 数分後、俺を見送るためについてきてくれた神崎さんと家の前で話していた。少し空が赤くなり始めていた。

 

「ううん、そのお陰で私が介護士を目指す事を許してくれたんだもん!!本当にありがとう!!」

 

満面の笑顔を浮かべながらそう言ってくれるけど・・・

 

(でも、もし俺がやった事のせいで神崎さんがご両親と仲が悪くなって最悪離婚とかなっちゃったら・・・うわぁぁぁ!!俺のせいでーーー!!!)

 

と、そんな風に脳内でわちゃわちゃやっていると、神崎さんが少しだけ顔を暗くしながら呟いた。

 

「・・・私、九澄くんに助けられてばっかりだね」

「えっ、そうだっけ?」

「うん・・・修学旅行や鷹岡先生の時、プールでも助けてもらったし、今日は私の夢まで助けてくれたね」

「あくまでそうなっただけだよ。鷹岡の場合は助けた訳じゃないと思うし」

「でも・・・(ぽんっ) えっ」

 

暗い顔をしたままそう呟いた神崎さんの頭の上に手を置いた。顔を上げた神崎さんに俺は笑いながら宣言した。

 

「このE組にいる限り俺が何度でも助けてやるさ。神崎さんは大切な仲間なんだからね」

「九澄くん・・・」

「あ、ゴメンね・・・もし、心配なら、(スッ)指切りしよっか」

「指切り?」

 

頭に乗せていた左手の小指を差し出しながらの俺の言葉に、神崎さんはそう聞き返してきた。

 

「俺は両親との約束が守られる日を待ってる以上、約束を破る事だけは絶対にしねぇ。ここで約束したら次に神崎さんが「助けて」と思った時、必ず助けにいく事を約束するよ」

「・・・ありがとう」

スッ (・・・指細いなぁ。流石、女の子)

 

俺の言葉に神崎さんは笑顔でそう言いながら俺の小指に指を絡めてきた。

 

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ーます。指切った!!」」

「よし!!これで約束したな。安心してていいからね」

「うん、頼りにしてるね」

 

微笑みながらそう言ってくれた神崎さんは夕日のせいか、少しだけ赤い気がした。

 

(・・・うん?夕日?)

ゴソゴソ・・・パカッ 「げっ!?もう5時だ!!急いで飯作んねえと!!じゃあね、神崎さん!!」

「あ、うん。バイバイ」

 

そう言いながら手を振ってくれた神崎さんに手を振り返しながら俺は帰り道を走った。今日は気分がいいし、豚カツにでもしよっかな~

 

 

 

有希子side

 

「・・・ふフゥ」

 

 九澄君の姿が完全に見えなくなったのを確認してから、私は家の壁へともたれかかった。そうしないと崩れ落ちそうだったからだ。

 

「・・・頭に手を乗せるのは反則だよ///」

 

頭に手を当てながら私はそう呟いた。

 

あの瞬間から心臓のドキドキが止まらなかった。正直、夕方じゃなかったら顔が真っ赤なのがバレていたと思う。

 

・・・そう、私は今日1日で完全に九澄君に心奪われてしまった。ゲーム中ニコニコと笑ってくれたあの笑顔や、両親を待ち続けてるという強い心。そして何より私の為に両親に真正面から立ち向かってくれたあの姿に。

 

こんな気持ちになったのは生まれて初めてだったから、どうしたらいいのか分からないけど・・・

 

「・・・」

 

私はジッと九澄君と指切りをした小指を見た後、その指をギュッと握りしめながら呟いた。これくらいなら、いいよね?

 

「・・・約束だよ、()()くん」




いかがだったでしょうか。

というわけで、大賀×神崎のカップルでした。正直下手な恋愛ゲームみたいになってしまいましたが、大賀にはこういうのが似合いそうだったのでこういう形にしました。

それと作中で介護士について酷く書かれていますが、これは酷く言わせようと書いただけです。
不快になられた方は本当に申し訳ございません。
m(_ _)m

ちなみにですが、大賀はこの段階では神崎さんに全く好意を抱いてません(笑)あくまでクラスメイトだと思ってます。
なので、このカップルは神崎さんに積極的になってもらいます(・・・じゃないと一生大賀は気づけないと思うので・・・)

というわけで、次回よりいよいよ夏合宿の時間に入っていきます。
物語が大きく動く予定なので是非読んで頂けたら幸いです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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三十九時間目 島の時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ南の島編へと入っていきます。原作の中では、1番好きな所です。

上手く書けるかは分かりませんが、読んでくれたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


威月side

 

ザザザ・・・

 

「にゅやァ・・・船はヤバい・・・先生頭の中身が全部纏めて飛び出そうです」

(船酔いかよ・・・乗り物全般ダメなんだな、殺せんせー)

コトッ 「はいよ、太陽」

 

 船のデッキで手すりに体を預けている殺せんせーを見ながら、俺はチェスの駒を動かした。風が気持ちいいな、船の上って。

 

「えーっと・・・」

「威月達、チェスしてるんだ」

「まぁ、暇だからな」

 

教室の中では将棋ばっかりだから珍しいんだろうが、まあ、俺はボードゲームなら何でも好きだしな。

 

「・・・そういえばさ、ちょっと聞いていい?」

「ん?何だ?」

「伊勢って剣道の時に着る服みたいな格好だけど、あれって私服なの?」

 

渚が手すりにもたれかかって海を見ている登志を見ながらそう言った。確かに登志は稽古の時に着る紺色の袴に薄黄色の上衣を着て、足袋と草鞋を履き腰に木刀を差していた。

 

「登志は私服って持ってなくてな。たまに「ひまわり」に来た時も基本和服だろ?流石にあれで南の島に来るのは大変だろうからさ」

「あっ、そういえば」

「登志自信、あれが1番動きやすい格好らしいからな。いいんじゃねえの?」

「・・・! たーくん!見えてきたよ!!ほら、殺せんせーも起きて!!(シュッ)」

 

その時、倉橋が殺せんせーにナイフを振りながら興奮した様子でそう言った。やっと見えてきたか!

 

「東京から6時間か・・・結構かかったな」

「ちょっと待ってくれ陽菜乃。俺まだ威月とのチェスの決着が・・・」

「あ、たーくん!あそこにイルカいるよ!!」

ヒュン!! 「おぉ、ホントだ!!凄え!!」

(・・・今、マッハ20にひけを取らない速さだったんじゃ・・・?)

 

太陽は一瞬で倉橋の横に移動してそう叫んでいた。ま、チェスは帰りに決着つけるか。

 

「あれが殺せんせーを殺す場所!!」

「「「「島だーーーっ!!」」」」

「・・・おっと、そろそろ大賀を起こさないとな」

 

皆がそう叫ぶ中、俺はデッキの屋根があるベンチの上で寝ている大賀の元へと向かった。修学旅行同様朝早かったからな、大賀の奴・・・

 

「(結局6時間寝っぱなしだったな) ・・・ん?へぇ」

 

そう考えながら曲がろうとした瞬間、俺は素早く隠れた。何故なら寝ている大賀の頭を膝に乗せながら顔を少しだけ赤くしてる女の子がいたからだ。

 

「ま、ここは任せるか・・・しっかし、大賀も隅に置けねえなぁ、いつの間に惚れさせたのかねぇ」

 

そう呟きながら、俺は太陽達の元へと帰った。

 

 

 

大賀side

 

ワイワイガヤガヤ・・・

 

(ん・・・?もう着いたのか・・・?)

 

周りが騒がしくなり、俺は少しずつ意識が覚醒してきた。船の上だから心配だったけど、ちゃんと寝られてよかった。

 

もぞっ (・・・ん?俺、枕か何か使ってたっけ?ベンチにしてはやけに柔らかい感触だな「あ、起きた?九澄くん」 ・・・!!」

 

目を閉じたまま頭を少しだけ動かした俺の上からそんな声がして、俺は一瞬で目を見開いた。

 

そこには、神崎さんの顔があり、俺は一瞬で飛び跳ねた。今の感触ってまさか!?

 

がばっ!! 「神崎さん!?え、えっと・・・まさか俺に膝枕してくれてた・・・?」

「ゴ、ゴメンね。私たまたまここに来たら九澄くんが寝てて・・・ベンチ硬そうだったけど頭の下に敷いてあげられる物持ってなくて・・・迷惑だった?」

「そんな!!神崎さんに膝枕されて迷惑に思う奴なんていないよ!!」

 

E組の皆に知られたら殺されちまうよ・・・そう考えていると上目遣いになりながら神崎さんは聞いてきた。

 

「・・・じゃあ九澄くんも嬉しかった?」

「へ?そりゃあすっごい嬉しかったよ!!ありがとね、神崎さん!!」

「そ、そっか。それならよかった///」

「? 顔赤いけど大丈夫?熱とかあるなら殺せんせーに言った方がいいよ」

「へっ!?だ、大丈夫だよ!!」

「そ、そう?ならいいけど」

 

ま、本人が大丈夫って言ってるならいいか。

 

「って早く行かないと!!行こうか、神崎さん」

「うん。そうだね」

 

俺達はそれぞれの荷物を持って乗り場へと向かった。さ、行くか!!

 

 

 

太陽side

 

「遅かったな、大賀」

「ゴメンゴメン。俺と神崎さんが最後?」

「うん、皆もう降りてるよ」

 

 船のスロープから最後に降りてきた2人とそう話しながら俺達は皆の元へと向かった。

 

「うおー!!海だー!!」

「流石、南の島だな。景色もかなり綺麗だ」

 

普段は見えないそんな風景に威月までもがテンションが上がっているのが分かった。いやー、来てよかった。

 

「ようこそ、普久間島リゾートホテルへ。サービスのトロピカルジュースでございます」

 

その時、ボーイの格好をした人が片手にジュースを載せたトレーを持ちながら声をかけてきた。サービス良いな。

 

「あ、どうもありがとうございます!!」

「ん? 3つしか無いのか?」

「申し訳ありません。他の方々に配ってしまいまして」

 

登志の後の威月の質問に、ボーイさんは申し訳なさそうにそう言った。ま、遅かったのは俺達なんだから仕方ねえわな。

 

(この場にいるのは、俺達4人に、陽菜乃に神崎。それに渚と杉野か)

「僕はあんまりノド渇いてないから、他の皆が飲んでいいよ」

「そうか?じゃあ、神崎さんと杉野が飲めよ」

 

渚の言葉を聞いた大賀が、そう言いながら2人にジュースを差し出した。

 

「え?いいのか?九澄達が飲んでもいいんだぜ?」

「俺らにそんな高級そうなモン、口に合わねえよ。遠慮しないで飲んでくれよ」

「ま、そういう事だ。ほらよ、陽菜乃」

「ありがとう、たーくん」

 

大賀の言葉に便乗しながら俺は陽菜乃に最後の1杯を手渡した。・・・自分で言っといて何だがちょっと悲しくなるな。

 

「サンキューな、九澄」

「おう。はい、神崎さんも」

「ありがとう。たい・・・コホン、太陽くん、九澄くん」

「ん?おう(あれ?今大賀の方向いてたよな・・・?)」

 

咳払いをしてからそう言った神崎さんに疑問を抱いていると、

 

「フッ」

「? どうした、威月?」

「いや、何でも」

 

少しだけ笑った威月が俺は気になった。こういう時の威月ってなーんか企んでるんだよなー

 

「おーい、太陽達。何やってんだー?今から班別に別れて遊ぼうって話になったから早く来いよ」

「おー、ワリい磯貝。3人はもう大丈夫か?」

「うん、ご馳走様ー!!」

「ありがとうございます」

「お気に召されて何よりです。是非、普久間島をご堪能下さい」

「よし、行こうぜ皆!!」

 

皆がコップを返すのを確認してから大賀が皆の元へと1番に走り、皆も渚達もついていった。俺も続こうとしたその時、

 

「フッ・・・」

「! ・・・どうかしましたか?」

「あ、いえ。仲の良い方達だと思って。不快になられたのなら申し訳ございません」

「・・・いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

(・・・今の笑いは威月の笑いとは全く意味が違う気がしたが・・・気のせいか?)

 

直感でそう感じたが、俺はとりあえず皆を追いかけた。まぁ、今は関係ないしな。

 

 

 

―――この直感が当たっていた事を、俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

威月side

 

「いやぁ、遊んだ遊んだ。お陰で真っ黒に焼けました」

「「「「黒すぎだろ!!」」」」

 

 夕方までそれぞれの班と遊んで全身真っ黒になった殺せんせーにクラス全員がツッコんだ。歯まで真っ黒ってどういう身体してんだよ・・・

 

「どっちにしろ、そんな状態じゃ飯食いにも行けなくねーか?何とかしろよ」

「ヌルフフ。お忘れですか?威月君。先生には脱皮があるのですよ」

 

すると、殺せんせーの頭部が裂け始め、一瞬で元の黄色い姿に戻った。

 

「ホラ、もとどおり。こんな使い方もあるんですよ」

 

殺せんせーは得意げにそう言っているが・・・

 

「それって月1のとっておきなんだろ?これから暗殺なのに自分から防御力減らしていいのか?」

「・・・あっ」

 

俺の言葉に殺せんせーはそう呟いた後、椅子に座って顔を覆った。・・・ホントに何でこんなドジをする奴を殺せないんだ?

 

そう考えていたその時、矢田が声をかけてきた。

 

「ねぇ、水守くん。陽奈ちゃんと太陽くん知らない?さっきからいないんだけど」

「ハッ! まさか、2人であんなことやこんなことを(ボカッ)グボァ!?」

「自重しろ、バカ」

 

岡島を殴って止めたその時、前原が口を開いた。

 

「そういや、2人ともグライダーに乗ってる時に海を指差して興奮してたな」

「海を指差して?」

「確かにグライダーを降りてから海の方へと歩いていったかも」

「分かった。サンキュー2人共」

 

前原と片岡に礼を言ってから、俺は海岸に向かった。すると、海に突き出した桟橋の先に2つの人影が見え、俺は迷わず桟橋へと向かい、

 

「何してんだ、2人共」

「おう、威月」

「おうじゃねえよ。勝手にどっか行ったから皆心配してんぞ」

「あ、そういや誰にも言わずに出てきちまったな。すまねぇ」

 

俺の言葉に、太陽は苦笑いを浮かべながら謝った。ま、無事ならいいが。

 

「んで、お前らは何をしてんだよ?」

「それなんだけどさ、見てくれよ。今度は陽菜乃の番だな」

「うん!!」

 

すると、倉橋は首にかけている笛を吹いた。「ピーッ!!」という音がしたと思ったら・・・

 

バシャ!! 「は!?イルカ!?」

 

いきなり海から飛び出したイルカに俺は驚きを隠せずにいると、

 

「(ピピーッ!!)ジャーンプ!!」

ばしゃーん!!

 

倉橋の笛と声に反応してイルカがジャンプをした。何でイルカ手懐けてんの、コイツら!?

 

「よーしよし、良い子だね~」

「いやーイルカって人懐っこいし賢いよなー。すぐに覚えてくれたぜ!!」

「・・・おう、凄いな(・・・この動物バカ2人相手にまともな感覚で話すのは止めよう)」

 

嬉しそうに笑う2人を見て、そう決意を固めた。疲れるだけだしな。

 

「なぁ威月。コイツ「ひまわり」で飼えねえかな?「イルカのいる孤児院」みたいな感じでさ」

「そんな孤児院あってたまるか。1回落ち着けよ」

「やっぱ無理かー・・・」

 

俺の言葉に落ち込んだ様子でイルカを撫でる太陽に俺は若干の罪悪感を感じた。いくら何でも真っ向から否定しすぎたな・・・

 

「(ハァ・・・)殺せんせー殺して百億手に入ったらいけるかもな」

「! ・・・そうだな。サンキュー、威月」

「頑張ろ!たーくん!!」

「おう!!」

(全く、やっと元に戻ったか)

 

太陽は動物の事になると頭のネジが飛ぶからなぁ。俺がフォローしてやらないと。

 

「とりあえず飯食いに行こうぜ。腹が減っては暗殺もできぬってな」

「おう!! ・・・ところで、威月。ここはどうだった?」

「それなら大丈夫だ。1番最初に確認したからな」

(高級なホテルだから心配だったけど、ここは大丈夫だったな)

 

そう考えながら太陽にその言葉を告げた。

 

「主食はパンだけど、ご飯も用意してくれるって」

 

 

 

渚side

 

「パクパクパクパク・・・」

「ガツガツガツガツ・・・」

「ムシャムシャムシャムシャ・・・」

「モグモグモグモグ・・・」

(・・・この光景見たことあるなぁ)

 

 殺せんせーの苦手な船の上で修学旅行同様に、ご飯をおかわりしている4人を見て僕はそんな事を考えていた。ホントによく食べるなぁ。

 

「ふぅ、ご馳走様」

「ご馳走さん」

「俺は後1杯かなぁ」

「俺も」

 

すると伊勢と威月が先に食べ終わり、太陽と九澄が空のお皿を持ちながらそう呟いた。ま、まだ食べるんだ・・・

 

「たーくん。私もう食べ終わったし、ご飯よそってきてあげようか?」

「おー、ありがとう」

 

そんなやりとりの後、倉橋さんがお皿を持っていった。()()()から、また一段と仲良くなったみたいだなー

 

「さて、俺も「九澄くん」 ん?」

 

その時、立ち上がろうとした九澄に神崎さんが声をかけた。どうしたんだろう?

 

「何?神崎さん」

「その・・・私がよそってきてあげようか?」

「「「「!?」」」」

「え、いいの?迷惑じゃない?」

「ううん、全然。さっきまでと同じくらいでいいよね?」

「あ、うん。じゃあ、お願い」

 

ニコニコと笑いながらそう聞く神崎さんに九澄はそう言いながらお皿を手渡した。そのまま神崎さんは嬉しそうに歩いていった。

 

(さっきまでと同じって聞くって事は、神崎さん九澄の事見てたってことだよね。それにあの嬉しそうな表情・・・もしかして、神崎さん九澄の事・・・)

「す、杉野君!?しっかりして!!」

「そ、そんな・・・」

 

杉野が崩れ落ちそうになっているのを伊勢が支え皆が九澄と神崎さんに注目する中、九澄が不思議そうに呟いた。

 

「しっかし神崎さんってよく食べるんだなー」

「「「「え?」」」」

 

その言葉にクラス全員が九澄に注目したが、九澄はさっきと全く同じ様子で皆に聞き返した。

 

「だって、自分も食べるから俺のをついでによそってきてくれるんだろ?女の子なのによく食べるんだなー」

「「「「・・・」」」」

「え?どうした、皆?」

 

殺せんせーを含めて全員が真顔になり、九澄が不思議そうにそう聞いてきた。もしかして・・・九澄ってかなり鈍感?

 

「・・・とりあえずは保留しよう」という威月の提案にクラス全員が賛成しながら夕食は終わった。

 

 

 

太陽side

 

「さぁて()()()()だ、殺せんせー」

「会場はこちらですぜ」

 

 前原や菅谷に促されながら杖をついてよろよろ歩く殺せんせー(飯食ってる最中にまた酔ったらしい)と一緒に俺達はある場所へと辿り着いた。

 

そこは、ホテルの離れの水上パーティールームだった。入り口以外の3方向を海に囲まれたここなら逃げ場なんて無い。

 

「さ・・・席につけよ、殺せんせー」

 

その時そんな声が聞こえ、殺せんせーは中にいる三村と岡島に気づいた様子だった。

 

「楽しい暗殺」

「まずは映画鑑賞から始めようぜ」

 

テレビにもたれかかりながら2人は笑みを浮かべてそう言った。




いかがだったでしょうか。

大賀は鈍感だなぁと自分で書いておきながらしみじみと思いました(笑)でも、こういうのは書いてて楽しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十時間目 決行の時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ南の島での暗殺です。4人が加わった暗殺は果たしてどうなるでしょうか。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「まずは、三村の編集した動画を見て楽しんでもらい、その後8人が触手を破壊し、それを合図に一斉に暗殺を始める。それでいいですね、殺せんせー?」

「ヌルフフフ、上等です」

 

 磯貝の説明に殺せんせーはそう言った。特に驚く様子は無いし、ここまでは想定通りなのかね。

 

「セッティングごくろーさん、三村」

「頑張ったぜ。おかげで飯抜きだ」

「2人共、パンだけは持ってきてあげたから先食えよ」

「サンキュー、九澄」

 

菅谷に笑いながらそう言った三村と岡島に大賀がパンを手渡した。こういうところが大賀らしいよな。

 

「殺せんせー、まずはボディチェックを。いくら周囲が海でも、前みたいに水着を隠し持っていたら逃げられますしね」

「入念ですねえ。そんな野暮なことしませんよ」

(・・・)

 

恐らくは、今殺せんせーの背中に触っている渚でも、殺せんせーは殺せないだろう。

 

(でも・・・皆で考えたこの作戦なら)

「準備はいいですか?全力の暗殺を期待しています。知恵と工夫と本気の努力、それを見るのが先生の何よりの楽しみですから。遠慮は無用、ドンとかかってきなさい」

「言われなくても。上映するぜ(はじめるぜ)、殺せんせー」

 

椅子に座りながらの殺せんせーの言葉に、岡島がそう言いながら小屋の電気を消した。

 

画面に「3年E組が送るとある教師の生態」と言うタイトルが流れる中、登志が小声で話しかけてきた。

 

太陽、僕達は小屋を出入りして人数を悟らせないようにしないと

おっと、そうだった。

・・・そういや、あの映像って内容どんなのなんだ?俺、詳しくは聞いてなかったんだが」

さあ?殺せんせーが動揺するものとは聞いてるけどね

 

登志も知らないのか・・・いったいどんな内容なんだろう?

 

そう考えながら俺は適当な所で再び中へと入った。すると・・・

 

「・・・まずはご覧頂こう。我々の担任の恥ずべき姿を」

(あれは・・・虫取りの時の殺せんせー。録画してあったんだな)

「最近のブームは熟女OL。全てこのタコが集めたエロ本である」

「にゅ、にゅやあああああ!?違っ・・・ちょっ岡島君達、皆に言うなとあれほど・・・」

(ま、まあ効果はてきめんみたいだな)

 

いきなり自分の醜態を晒され動揺しまくりの殺せんせーに気にせず動画は続いた。

 

「お次はこれだ。女子限定のケーキバイキングに並ぶ巨影。誰であろう、奴である。バレないはずがない。女装以前に人間じゃないとバレなかっただけ奇跡である」

(・・・コイツは自分が国家機密の存在っていう自覚が無いのか?)

 

今も狭間にネチネチと攻められ、顔を赤くしながら覆った殺せんせーに俺はそう考えていると、

 

「給料日前の奴である。分身でティッシュ配りに行列を作っている。そんなに取ってどうすんのと思いきや・・・なんと唐揚げにして食べだしたではないか」

(コイツは生物としてのプライドが無いのか!?給料日前とか関係無しにやっていい事じゃねぇぞ!?)

「こんなものでは終わらない。この教師の恥ずかしい映像を1時間たっぷりお見せしよう」

(これ、耐えられるのか?殺せんせー・・・)

 

そう思いながら俺は再び小屋の外へと出た。もうあまり意味ない気もするが・・・

 

 

 

威月side

 

1時間後・・・

 

「・・・死んだ、もう先生死にました。あんなの知られてもう生きていけません」

(・・・さすがに少し気の毒だな。いや、まあ8割以上殺せんせーに原因あるんだがな)

 

小屋の中でベンチに座りながらほんの少しだけ同情していると、画面に「完」と出ると同時に最後のナレーションが始まった。

 

「さて、秘蔵映像にお付き合い頂いたが・・・何かお気づきではないだろうか、殺せんせー?」

チャプ・・・チャプ・・・ 「!!」

(ようやく満潮になったな・・・この動画はその為の時間稼ぎでもあるということは流石に気づけなかったようだな)

 

満潮の海水は、殺せんせーの足の触手をパンパンに膨れさせていた。ここからだな・・・

 

ガタッ 「誰かが小屋の支柱を短くでもしたんだろ」

「船に酔って、恥ずかしい思いして、海水吸って、だいぶ動きが鈍ってきたね」

「避けんなよ、殺せんせー。ここからが本番だぜ」

 

俺達8人はベンチから立ち上がり殺せんせーへと銃を向けた。

 

(さぁ・・・後は頼むぞ、皆)

パパパンッ 「くっ・・・(パカァ) !!?」

 

触手を撃ち抜いた瞬間、小屋の4方の壁が崩れ落ちフライボードに乗った登志を含めた10人以上が小屋全体を覆うように飛んだ。言うなら、水圧の檻ってとこか。

 

ピーッ!! バシャンバシャン!! (! 手懐けたかいがあったようだな)

 

恐らく太陽と倉橋が小屋の周りをイルカに飛び跳ねさせてるんだろう。急激な変化に弱い殺せんせーは混乱して、反応速度はさらに落ちるはずだ。

 

ザパァ!! 「射撃を開始します。照準・殺せんせーの周囲全周1メートル」

 

その時、水中から飛び出てきた律のそんな言葉と同時に、皆が一斉に殺せんせーの周りを狙った。殺せんせーは()()()攻撃には敏感だからこそ、全体射撃では弾幕を張るだけにして・・・

 

(トドメの2人) バシャァ!!

 

俺が心の中でそう唱えると同時に水中から千葉と速水が顔を出した。鼻が効く殺せんせーを騙す為に2人の服は目立つ狙撃ポイントに仕掛けたダミー人形に着させたのだ。(遊んでたのは、これらの動きを交代で隠す為だ)

 

(発砲音も、2人の匂いも消されてる今、この射撃は見えてない。もらった!!) パパンッ!!

 

次の瞬間、殺せんせーの身体が閃光と共に弾け飛び、その衝撃で近くにいたメンバーは海へと吹っ飛ばされた。

 

ザパァ 「プハァ!殺ったか!?」

 

海面に顔を出しながら俺は辺りを見渡した。どうやら全員無事らしい。

 

(今のはかなり手応えがあった!!もしかしたら・・・)

「油断するな!!奴には再生能力がある。片岡さんが中心となって水面を見張れ!!」

(逃げ場は無かったはず。さぁ・・・どうなる!?)

 

烏間先生の指示を聞きながらそう考えていると、水面から泡が見え、俺達は銃を一斉に向けた。そんな俺達の前に現れたのは・・・

 

プカァ 「ふぅ」

「「「「・・・・・」」」」

 

殺せんせーの顔が入った透明とオレンジの変な球体だった。・・・何だあれ?

 

「これぞ先生の奥の手、完全防御形態!!外側の透明な部分は、高密度に凝縮されたエネルギーの結晶体。肉体を思い切り小さく縮め、余分になったエネルギーで肉体の周囲をガッチリ固める。この形態になった先生は無敵!!水も対先生物質もあらゆる攻撃を跳ね返します。」

「んな!?てことは、いくら暗殺仕掛けてもそれになられたら無理じゃねえか!?」」

「ところが、これも完璧では無いのです」

 

太陽の言葉に殺せんせーはそう返した。

 

「このエネルギー結晶は24時間ほどで自然崩壊します。その瞬間に先生は肉体をふくらませ、エネルギーを吸収して元に体に戻るわけです。裏を返せば結晶が破壊されるまで、先生は全く身動きが取れません。最も恐れるのはロケットに詰めこまれ、はるか遠く宇宙空間に捨てられる事ですか・・・その点はぬかりなく調べ済みです。24時間以内にそれが可能なロケットは今世界のどこにもありません」

(・・・完敗だな)

 

俺達も知らない隠し技を使い、その欠点もちゃんと計算してたとは・・・こりゃあ負けを認めるしかねえわ。

 

「そっか~、弱点無いんじゃ打つ手ないね」

「カルマ?」

 

その時、カルマが茅野から携帯を受け取ってから殺せんせーに近づいていった。何をする気だ?

 

スッ 「にゅやぁぁぁ!?それはさっきの動画!!やめてーーーッ、手も無いから顔も覆えないんです!!「ごめんごめん。じゃ、至近距離で固定してっと(コトッ)」って、全く聞いてない!!」

「そこで拾ったウミウシも付けとくね(ねとぉぉぉ)」

「ふんにゅあぁぁぁぁ!?」

「あと誰か不潔なオッサン見つけてきてー、これパンツの中にねじ込むから」

「助けてーーーッ!!」

(カルマの奴、いきいきとしてんな・・・)

 

こういう時、ホントにカルマは敵に回したくねえな・・・

 

手に殺せんせーを持ちながら話すカルマを見て冷や汗を流していると、烏間先生が殺せんせーを受け取りながら話しだした。

 

「・・・とりあえず解散だ、皆。上層部とこいつの処分法を検討する」

「ヌルフフフ。仮に対先生物質で封じてもエネルギーの一部を爆散させて、さっきのように吹き飛ばしますがねぇ」

「・・・!!」

 

唇を噛みしめる烏間先生をよそに殺せんせーは俺達を見ながら

 

「ですが、皆さんは誇って良い。世界中の軍隊でも先生を()()まで追いつめなかった。ひとえに皆さんの計画の素晴らしさです」

(・・・ま、仕方ねえか。またチャンスはあるだろうしな)

 

皆が殺せんせーの言葉に落ち込む中、俺はそう割り切った。いつまでも凹んでても何も始まらねえしね。

 

「威月、掴まれ」

「お、サンキュー。

・・・お前もそんなに落ち込んでないみたいだな」

「いや、イルカを飼えなくなったって意味ではショックだな」

「フッ、なるほど」

(そんな軽口を叩いてるくらいなら大丈夫だろう。皆も早く立ち直ってくれるといいがな。)

 

そう考えながら、俺は皆と共にホテルへと帰った。・・・今から起きる事も知らずに―――――

 

 

 

大賀side

 

「しっかし疲れたわ~・・・」

「自室帰って休もうか・・・もう何もする気力ねぇ」

「ンだよ、テメーら1回外した位で。殺る事やったんだから明日1日遊べんだろーが」

(・・・どうしたんだ?何人かやけに疲れてるな・・・)

 

 今も椅子に座りながらそう話す前原や三村はやけにしんどそうなのに、寺坂は全然平気そうだった。三村はともかく、前原は確か元サッカー部だから体力あるのに・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

「確かにすんげえ疲れた・・・」

「! 大丈夫か?2人共」

 

その時、後ろに座ってる杉野や神崎さんもしんどそうにしているのに気づき、俺はおもわず声をかけた。杉野も野球部なのに・・・

 

「お、おう大丈夫だ・・・」ガクッ

「心配しなくて大丈夫だよ・・・九澄・・・くん」ガタッ!!

「!? 杉野、神崎さん!?って熱っ!?」

 

いきなりテーブルに突っ伏した杉野と椅子から崩れ落ちそうになった神崎さんを見て、俺は慌てて神崎さんを抱きかかえた。神崎さんの身体は平熱ではありえないくらいの熱さだった。

 

(この熱、明らかに普通じゃない!!)

「り・・・中村!?しっかりしろ!!」

 

俺の前では、中村さんを抱きかかえている威月がいた。よく見ると3人の他にも前原や三村、他にも何人か倒れていた。

 

「烏間先生!!陽菜乃の様子が・・・!! 何だ、これ!?」

「倉橋さんも・・・」

「チッ・・・動ける連中、とりあえずホテルのフロントに聞いて上に何かかける物持ってこい!!明らかに普通じゃねぇ!!」

「分かった!!」

 

先に部屋に戻っていたが、様子のおかしい倉橋さんを抱えて慌てて戻ってきた太陽の驚いた声と同時に発せられた威月のそんな指示に、登志を含めた動ける皆が一斉に動き出した。

 

 

 

 動けない皆を寝かせながら、俺達は待機をしていた。

 

「動けないのは全員で10人か・・・」

「烏間先生、犯人がウイルスって言ってたって言ってましたよね・・・」

「らしいな。今、烏間先生の部下の人が電話掛けてるってよ」

 

威月と奥田さんのやりとりで俺はさっきの出来事を思い出した。 

 

皆の様子がおかしくなってすぐ、烏間先生の電話に犯人を名乗った男から電話がかかってきて、男によると皆が倒れた原因は人工的に作られたウイルスでおよそ1週間で死に至る程強力なウイルスらしく、治療薬も男が持っている物以外は無いらしい。

 

男の用件は、山頂に見えるホテルの最上階に1時間以内にE組の中で1番背が低い女子と、水色の髪の毛の男子2人に殺せんせーを連れてくる事。それと引き替えに治療薬をくれるらしい。

 

「呼ばれてる2人は・・・茅野と渚か。危険だな・・・」

 

威月がそう呟いたその時、烏間先生の部下の女の人が携帯電話を片手に駆け寄ってきた。でも、顔色はあまり良くないな・・・

 

「・・・案の定ダメです、烏間さん。ホテルに問い合わせても「プライバシー」を繰り返すばかりで・・・」

「・・・やはりか」

「やはりってどういう事ですか?」

 

登志の質問に答えた烏間先生の話によると、この「普久間島」は「伏魔島」と言われ、あのホテルは世界中のマフィアや政府の偉い人が出入りして毎日のように違法な商談やドラッグによるパーティーをしているという噂があるらしい。

 

「ふーん、そんなホテルがこっちに味方するわけないね」

(カルマの言うとおりだ。こんな時に殺せんせーも動けないなんて・・・いったいどうすれば「(スッ)行くぞ、威月、大賀、登志」・・・!! 太陽)

 

その時、太陽が立ち上がりながら俺達に声をかけてきた。何をする気か聞くまでも無かった。

 

「待て、どこへ行く気だ?太陽君」

「決まってるでしょ。皆をこんな目に遭わせた奴をぶん殴って、治療薬を奪ってくるんですよ」

「ダメだ!!危険すぎる。君はまだ中学生なんだそ!!」

「分かってますよ、それくらい」

 

そこまで言ってから、太陽は烏間先生を睨みながら話を続けた。

 

「でも、前に言いましたよね?俺は陽菜乃やクラスメイトが危ない目に遭ってるのに黙っていられる程人間が出来てないって。どれだけ止めても、俺は行きます」

「くっ・・・しかし・・・」

 

太陽の決意の固さが分かったのか烏間先生はそんな声を漏らしたその時、殺せんせーが口を開いた。

 

「良い方法がありますよ。烏間先生、太陽君」

「! 殺せんせー?」

「律さんの下調べも終わったようですし、元気な方は来て下さい。汚れてもいい格好でね」

 

 

 

太陽side

 

 数分後・・・倒れてる陽菜乃達と看病の為に残った竹林と奥田を除いた俺達は、ホテルの裏側の崖の下にいた。おもわず見上げていると、律が話し始めた。

 

「ホテルのコンピュータに侵入して内部の図面と警備の配置図を入手しました。この崖を登った先に通用口があります。侵入不可能な地形ゆえ、唯一警備も配置されてありません」

「敵の意のままなりたくないなら手段は1つ。動ける生徒全員で侵入し、最上階を奇襲し治療薬を奪い取る!!」

 

ビニール袋に入れられ、烏間先生に運ばれている殺せんせーの言葉に全員が言葉を失っていると、烏間先生が絞り出すように呟いた。

 

「・・・危険すぎる。この手慣れた手口、敵は明らかにプロの者だぞ」

「ええ、しかも私は君達を守れない。大人しく私を渡した方が得策かもしれません。どうしますか?全ては君達と指揮官の烏間先生次第です」

「・・・ありがとうございます。殺せんせー、律」

「! 太陽君」

 

2人のやりとりを聞きながら俺は崖に近づいた。危険かどうかなんて関係ねぇ。守れなきゃいけない奴がいるなら俺はどんな道でも行くさ。

 

「俺も行くぜ、太陽。ぶん殴りたいのは俺も同じだからな」

「俺もだ。皆を助けないと!!」

「当然僕も行くよ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、アンタ達!!」

 

行く気満々の俺ら4人にビッチ先生が噛みついた。それと同時に皆を代表して磯貝が話し出した。

 

「太陽、それは・・・ちょっと難しくないか?」

「そーよ、無理に決まってるわ!!第一この崖よ!!ホテルに着くまで転落死「いや、まぁ・・・崖だけなら楽勝だけどさ(バババッ)」・・・なっ!?」

 

しかし、ビッチ先生の言葉を遮りながら俺達は一斉に崖を登り始めた。唖然とするビッチ先生をよそに、再び磯貝が今度は烏間先生に向かって口を開いた。

 

「でも、未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないから。烏間先生、難しいけど指揮をお願いします」

「見ての通り彼等は只の生徒ではない。あなたの元には18人の特殊部隊がいるんですよ。さあ、時間は無いですよ?」

 

殺せんせーの言葉に数秒だけ目を閉じた後、覚悟を決めたような強い瞳で烏間先生が作戦を告げた。

 

「注目!!目標山頂ホテル最上階!!隠密潜入から奇襲への連続ミッション!!ハンドサインや連携は訓練のものをそのまま使う!!いつもと違うのは標的(ターゲット)のみ!!3分でマップを頭に叩き込め!!19時50分(ヒトキューゴーマル)作戦開始!!」

「「「「おう!!」」」」

(待ってろよ・・・陽菜乃、皆。絶対助けてやるからな!!)

 

俺はホテルを見上げながら心の中でそう唱えた。




いかがだったでしょうか。

というわけで、今回はホテル突入まででした。ここからはオリジナル要素も入れながら書いていくことになります。まあ、主に4人の戦闘を書くと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十一時間目 大人の時間

皆さんどうも籠野球です。

今週は仕事が忙しかった・・・(残業後は書く元気が出にくいですね(笑))

まあ、頑張りますけどね!!

それでは、どうぞ!!




威月side

 

(ひょいっ)(バッ)「やっぱ身軽だなー、岡野は」

(確かにな。女子とは思えない運動能力だ)

 

 次から次へと崖を登っていく岡野を見て木村がそう呟いた。その点は同意するが・・・

 

(ひょいひょいっ)(ババッ)

(大賀の身体能力はそれを簡単に上回るんだからな。ホントに化けモンだ・・・)

 

岡野よりも速く上へと登っていく大賀を見て、俺はおもわずそう考えた。俺には到底真似出来んな・・・

 

「・・・それに比べてうちの先生は、動けるのが3人中1人だけとは・・・」

「一応ビッチ先生も動けるが、こういう体力勝負みたいな場所じゃあ役に立たねえな」

 

下を見ながらの木村の呟きに俺もそう言いながら下を見た。そこには烏間先生にしがみついて喚くビッチ先生と腕に下げられたビニール袋の中に入っている殺せんせーがいた。烏間先生もよくあの状態で崖を登れるな。

 

「つうか、ビッチ先生何でついてきたんだ?」

「留守番とか除け者みたいで嫌なんだって」

 

千葉の問いに近くの片岡が答えた。子供か、アンタは。

 

「フン、足手まといにならなきゃいいがな」

「確かにそれも心配だが、俺が心配なのは太陽だよ」

「あァ?太陽が?」

 

寺坂の問いに俺の少し前を1人で無言で淡々と登っている太陽を見ながら答えた。

 

「あいつにとってE組の皆、特に倉橋は特別な存在だと思ってるだろうからな。変に気負いすぎてないといいんだが・・・」

 

いざとなったら力づくで止めないとな・・・そう思いながら俺は崖を登った。

 

 

 

 崖を登り切った俺達に律が再び話し始めた。

 

「この扉の電子ロックは私が開けられます。また、監視カメラも細工することが出来ます」

 

そう言いながら律は指を鳴らす仕草をしたと同時に、前の扉のロックは外れたみたいだった。

 

「ですが、ホテルの管理システムは多系統に分かれており、全ての設備を私ひとりで掌握するのは不可能です」

「・・・さすがに厳重だな。律、侵入ルートの最終確認だ」

「はい、内部マップを表示します。」

 

そう言いながら律が見せてきたマップによると、ホテルは11階+屋上の構成となっており、エレベータが使えないため階段を登るしかないが、その階段もバラバラに配置されてるみたいだった。

 

「テレビ局みたいな構造だな」

「?」

「ああいう所は、テロリストに占拠されにくいよう複雑な設計になってるらしい」

(悪い奴らが愛用するわけだ・・・)

「行くぞ、時間が無い。指示を見逃すな」

 

千葉の言葉にそう思っていると、烏間先生がそう言いながら扉を開けたので俺も気を引き締めた。

 

音を立てないように先を歩く烏間先生をついていくと、角で烏間先生が止まった。あそこは・・・確かロビーか。

 

チラッ (多い・・・10人はいるな)

「・・・ここを通らなきゃ非常階段まで行けないんだっけ」

「あぁ・・・だからこそ、一番警備が厳重だな。全員見つからずに通るのは不可能だな」

 

こっそりと覗いた後、登志の言葉に俺はそう返した。どうすれば・・・

 

「こんな所で時間食ってられないぜ!!ここは俺達4人と烏間先生の5人で(ガシッ)「待て、大賀」!・・・太陽?」

「敵の数が何人かも分からんこの状況で、5人だけで行くのはあまりに危険すぎる。ここで焦ったらダメだ」

「・・・どうやら、冷静にはなってるらしいな」

「当たり前だろ、威月。皆を助けなきゃいけないのに、落ち着いてなくてどうするよ」

「フッ・・・で、この状況はどうすんだ?時間が無い以上は大賀の案もありだとは思うが」

 

崖の時の心配はもう大丈夫みたいだが・・・この状況の解決にはなってないしな。

 

そう思っていると太陽はロビーを見渡し、ある物を見つけてニヤリと笑みを浮かべた。あれは・・・ピアノ?

 

「ビッチ先生」

「ん?」

「(ボソボソ・・・)出来ますか?」

「仕方ないわね、いいわよ」

 

何を耳打ちしてるんだ?と思っていたら、ビッチ先生はふらっとロビーに歩いていった。その行動に全員が驚くが、

 

「心配いらねぇ、黙って見てな」

ふらっ・・・ふらっ・・・ドッ 「あっ、ごめんなさい。部屋のお酒で悪酔いしちゃって」

「お、お気になさらずお客様」

 

ふらふらと歩いていたビッチ先生にぶつかられた男は、その色気に完全にやられた様子だった。さすが色仕掛け(ハニートラップ)の達人・・・

 

「来週そこでピアノの弾かせて頂く者よ。早入りして観光してたの。・・・酔い覚ましついでにピアノの調律を確認しておきたいの。ちょっとだけ弾かせてもらっていいか?」

「あ・・・じゃあフロントに確認を(がしっ)「いいじゃない、あなた達にも聴いて欲しいの。私を審査して、ダメなとこがあったら叱って下さい」

 

フロントに確認されたら一発でバレちまう為、男の腕を掴んで留めるとビッチ先生はそう言ってピアノを弾き始めた。

 

♪~~♬~♫~~

 

「メ、メチャクチャ上手ぇ・・・」

(幻想即興曲だな。ピアノも勿論上手いが魅せ方が完璧だ)

 

色気を理解した人が全身を使って弾く、まさに"音色"。あれで魅了されない人なんていないだろうな。

 

「ね、そんな遠くで見てないでもっと近くで確かめて」

「「お、おお・・・」」

 

ビッチ先生は最後に少し遠くにいた2人を引きつけると同時に左手で「20分稼ぐ、行け」というサインを警備員達に見えないように出してきたのを確認して俺達は素早く非常階段へと登った。

 

「ぷはぁ!全員無事にロビーを突破!!」

「凄えなあ、ビッチ先生・・・正直、見とれちまった」

「でも、よくピアノ弾けると分かったな?太陽」

「いやぁ、色仕掛けの達人のビッチ先生ならあれくらいは出来ると思ってな」

「その通りだ。優れた暗殺者ほど(よろず)に通じる。彼女クラスになれば、暗殺に役立つ技能なら何でも身につけている。色仕掛け(ハニートラップ)に関して言えば、彼女は紛れもなく世界でも1、2を争う達人だ」

(殺せんせーがいなくても、E組の先生は頼りになるな!!)

 

そう思いながら、俺は3階への階段を登った。目的の最上階まではまだまだだな・・・

 

 

 

 3階の入り口に差し掛かった所で、烏間先生が振り返りながら話し始めた。

 

「・・・さて、君等に普段着のまま来させたのにも理由がある。入り口さえ潜り抜けられれば・・・ここからは客のフリが出来るんだ」

「? 悪い奴等が泊まるホテルなのに中学生、しかも団体客なんて来るんですか?」

「聞いた限り結構いる。芸能人や金持ち連中のボンボンだ。甘やかされて育った彼等は・・・あどけない顔のうちから悪い遊びに手を染める」

 

大賀の質問に烏間先生がそう答えた。同い年にもそんな奴がいるんだな・・・

 

「ただし・・・我々も敵の顔を知りません。敵も客のフリをして襲ってくるかもしれない。充分に警戒して進みましょう」

「「「「・・・はい!」」」」

「前方は俺が守る。太陽君達4人はすまないが後方の警戒を頼む」

「「「「了解です」」」」

 

殺せんせーと烏間先生の注意と指示に返事をしてから、俺達は再び動きだした。

 

「うーん・・・」

「どうした、太陽?」

「いや、皆がいつ毒を盛られたのかなって」

 

列の1番後ろを歩いていると、横の太陽がそう言った。

 

「さあな・・・だが、竹林が言うには「感染力は低い」と犯人が言っていた所から、経口感染の可能性が高いって事だな」

「えーと・・・ゴメン、それってどういう意味なんだ?」

「つまり皆は、ウイルスを口から入れたって事さ。食い物とかに混ぜられてな」

「でも、夕食は皆食べたじゃねえか。何で10人だけが?おまけに三村と岡島はパンしか食べてないのに倒れたぞ」

「そこなんだよな・・・おっと」

 

大賀とそう話していたその時、横を客2人が並んで通っていった。一瞬だけ警戒したが、2人は振り返る事もなくそのまま歩いていった。

 

「・・・ホントに只の客みたいだな」

「むしろ視線すら合わせねぇ。こんな場所でトラブルは起こしたくないんだろうな」

「それに、前方には烏間先生がいるからな。俺達は後ろを守ってれば大丈夫だろ」

 

3人でそう話していると、登志が胴着をつまみと笑いながら話し始めた。

 

「・・・でも良かったぁ。僕の格好目立つからね。絡まれたらどうしようと思ってたよ」

「ハハ、まあその時はコスプレということに「寺坂君!!そいつ危ない!!」(ブシュウ!!)!!」

 

その時、前方の広間からそんな声と音が聞こえ俺達は前へと飛び出した。そこには、1人の男が立っていた。目の前には何やら煙が充満していた。

 

「どうしたんだ、皆!?」

「不破が目の前のアイツを危ないと言った瞬間にいきなり何か吹きつけてきたんだ!!」

「・・・何故わかった?殺気を見せずすれ違いざま殺る。俺の十八番(おはこ)だったんだがな」

 

顔を隠していた布を下げながら男はそう言った。ん?アイツ・・・どこかで・・・

 

「だっておじさん、ホテルで最初にドリンク配った人でしょ?」

「!! そうか、あの時のボーイか!!」

「断定するには証拠が弱いぜ。ウイルス盛る機会は沢山あるだろ」

「皆が感染したのは飲食物に入ったウイルスから・・・そう竹林君言ってた。クラス全員が同じものを口にしたのは・・・あのドリンクと、船上でのディナーの時だけ。でも、ディナーを食べなかった三村君と岡島君も感染した事から、感染源は昼間のドリンクに絞られる」

(・・・何か探偵漫画の主人公みたいだな)

 

横に歩きながら語る不破を見てそう思っていると、不破は勢いよく男に指を突きつけた。

 

「従って、犯人はあなたよおじさん君!!」

(・・・しかし、俺や太陽よりも早く辿り着くとは、たいした推理力(ガクッ)・・・!!)

「烏間先生!!」

 

その時、男と対峙していた烏間先生が膝をついたのを見えた。あの煙・・・まさか毒か!?

 

「俺特製の室内用麻酔ガスだ。一瞬吸えば象でも気絶(オト)すし外気に触れればすぐ分解して証拠も残らん。お前達に取引の意思が無い事はよくわかったし、ボスに報告しに「させませんよ」・・・何っ!?」

 

男の言葉を登志が遮った。男が現れた通路の前には登志や大賀、他にも何人かが武器を持って立っていた。

 

「敵と遭遇した場合・・・即座に退路を塞ぎ連絡を断つ指示をしてある。

・・・我々を見た瞬間に、報告しに帰るべきだったな」

「・・・フン、まだ喋れるとは驚きだ。だが所詮はガキの集まり。お前が死ねば統率も取れなくなるだろ」

 

ふらふらの烏間先生にトドメを刺さんと言わんばかりに男は戦闘態勢に入ったと思った次の瞬間、男はガスを右手で烏間先生に噴射しようとした。

 

グシャァ!!! ドッ・・・

「烏間先生!!」

 

しかし、烏間先生が飛び膝蹴りを喰らわす方が何倍も速かった。エグい音を立てながら倒れた男に少しだけ同情したが、すぐに倒れた烏間先生を助ける方が先だった。

 

 

 

「・・・ダメだ、普通に歩くフリをするだけで精一杯だ。30分で戻るかどうか・・・」

「象が気絶するガス吸って動けるのも充分凄いけどな」

 

 磯貝に肩を借りながら歩く烏間先生に、気絶している男を椅子などで隠しながら呟いた。化けモンか、あの人・・・

 

(それはともかく、標的のいる11階まではまだまだ先だってのに殺せんせーは勿論、烏間先生やビッチ先生にももう頼れねぇ。俺達だけでいけるのか・・・「いやぁ、いよいよ夏休みって感じですねぇ」・・・(プチッ))

「渚、回して酔わせろ」

(ヒュンヒュン)「にゅややーーー!?」

 

呑気に話す殺せんせーにキレた俺の命令で振り回された殺せんせーはそんな声を上げた。ったく、1人だけ安全だからってお気楽だな。

 

「よし寺坂、これねじこむからパンツ下ろしてケツ開いて」

「死ぬわ!!」

「カルマの言ってる事は置いとくとして、何でこれが夏休みなんだ?」

 

俺の問いにグロッキー状態だった殺せんせーは一瞬で戻ると、

 

「夏休みとは先生の保護が及ばない所で自立性を養う場でもあります。大丈夫、普段の訓練で学んだ事をしっかりやれば・・・君達ならクリアできます。この暗殺夏休みを」

(・・・相変わらず体を使うミッションになると容赦がねえな、この人は)

 

自分基準の無茶振りをされても困るだけだっての・・・

 

(まぁ・・・どのみち後戻りは出来ねぇ。さっさと行くしかねぇ「・・・」・・・ん?)

「どうした?太陽」

 

そう決意したその時、太陽が顎に手を当てて何かを考えているのに気づき、そう声をかけてみた。

 

すると、太陽は真剣な目で俺を見ながら話してきた。

 

「威月、頼みがある」




いかがだったでしょうか。

果たして威月に太陽が頼んだ事とは・・・

それと余談ですが、この小説を書くために原作読み返してますが、烏間先生の飛び膝蹴りってホント人殺せそうだなと思いました(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十二時間目 カルマの時間

皆さんどうも籠野球です。

夜勤中は仕事終わりに本屋とか行かないから、殆どゲームかパソコン触ってました!!虹六面白いです!!



・・・あ、勿論小説もちゃんと書いてますからご心配無く(笑)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「なあ、ホントに大丈夫なのか?2人に行かせて」

「烏間先生が動けない以上はこうするしかない。2人を信じよう」

 

 4階から5階に上がる階段の途中で、そう聞いてきた木村に俺はそう返した。

 

「それより、俺達は自分の身を心配しろよ。2人は一応の保険だが、俺達がいるのは敵陣のど真ん中なんだからな」

「! お、おう。」

 

そんなやりとりをしていると5階の入り口に辿り着いた。ガラス張りのここは確か・・・展望回廊だったか。

 

「烏間先生が動けない以上、前方は俺が守るから後方は頼むぜ、登志」

 

俺の言葉に登志が頷くのを確認してから俺達は慎重に進んでいった。周りは海が一望できた。

 

(全く・・・こんな状況がなかったら、リゾート気分を満喫できるのに・・・!!) スッ 

 

その時、前方から強者の雰囲気を感じ、皆に止まれのサインを出した。

 

恐る恐る覗くと、1人の男が窓ガラスにもたれかかっていた。どう見ても殺る側の人間だな・・・

 

(こんな見晴らしの良い場所じゃ、奇襲も出来ねぇ。どうするか(ビシッ)!?()()()ガラスにヒビを!?)

「・・・つまらぬ。足音を聞く限り、そこそこの奴はいるぬが、「手強い」と思える者が1人もおらぬ。精鋭部隊出身の教師がいるはずぬが・・・"スモッグ"のガスにやられたぬか、半ば相打ちぬか」

 

気づかれてるなら仕方ないと思い、俺達は男の前に出た。・・・てかこいつ、誰も怖いから言わないんだろうけど・・・

 

「"ぬ"多くね、おじさん?」

(言った!?さすがカルマだ・・・)

「つけるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだ。カッコよさそうだから試してみたぬ」

 

こういう外国人ってホントにいるんだなー・・・

 

「間違ってるならそれでもいいぬ。この場の全員殺してから取れば恥にもならぬ」 ゴキッ

「・・・その握力がアンタの暗殺道具って訳か」

「需要はあるぬ。身体検査に引っかからないのが何よりも大きい。近づきざま頸椎をひとひねり。その気になれば頭蓋骨も握り潰せるぬが」

 

男の言葉に岡野が青ざめた。おそらく想像したんだろうな。

 

「だが面白いものでぬ。力を鍛えるほど、強い敵との殺し合いをしてみたくなる。・・・だが、お目当てがこのザマではガッカリぬ」 パカッ

(チッ・・・仕方ねえ、ここは俺か登志で(ビキッ) !! カルマ!?)

 

いきなり観葉植物で男の取り出した携帯を窓ガラスに叩きつけたカルマにビックリしていると、

 

「プロって意外とフツーなんだね。ガラスや頭蓋骨くらい俺でも割れるよ。ていうか、速攻仲間呼ぼうとするあたり、おじさんって中坊とタイマン張るのも怖い人?」 

「!! よせ、無謀「ストップです、烏間先生」何っ?」

 

その時、殺せんせーが烏間先生を止めながら話し出した。

 

「顎が引けている。以前の彼なら余裕をひけらかし、顎を突き出して相手を見下していました。ですが、今の彼は目は真っ直ぐ油断なく、相手の姿を観察してます」

(言われてみれば口の悪さは変わってないけど、以前のカルマとは様子が違うかも・・・)

 

テストが終わってからあんまり目立ってなかったが、どうやら考えが変わったみたいだな。

 

「カルマ、危なくなったら俺と登志が助けに入る。やっちまえ!!」

「オッケー、太陽」

 

俺にそう返しながら、カルマは観葉植物を振り下ろしたが、

 

ガシィ メキメキ 「柔い。もっと良い武器を探すべきだぬ」

「必要ないね」

 

振り下ろした観葉植物の幹をへし折りながらの男の言葉に、カルマはそう返しただけだった。やっぱり、あんなモンじゃ倒せんか・・・

 

「気をつけろよ、カルマ!!その握力だ、掴まれたら終わりだぞ!!」

「分かってるよ」

 

俺にそう返しながら観葉植物を捨てたカルマに男は突進しながら腕を突き出すが、

 

ビュッ スッ

ボッ パシッ

 

「すごい・・・全部避けるか捌いてる」

(確かにカルマは喧嘩が強かったが、いつの間にあんな防御技術を・・・)

「烏間先生の防御テクニックですねぇ」

(そうか・・・烏間先生が俺達のナイフを躱す時の技術を盗んだのか。やっぱカルマの戦闘の才能はE組の中では桁違いに高いな)

 

殺せんせーの言葉を聞いて改めてそう感じていると、男は一旦攻撃の手を止めた。

 

「・・・どうした?攻撃しなければ永久にここを抜けられぬぞ」

「どうかな~?あんたを引きつけてるスキに皆がちょっとずつ抜けるってのもアリかと思って。」

 

後ろにいる俺達を親指で指しながらのカルマの言葉に、男は無言でカルマを見つめた。まあ、それも作戦としてはありかもな。

 

「(ボキボキ)・・・安心しなよ、今度は俺から行くからさ。あんたに合わせて正々堂々、素手のタイマンで決着つけるよ」 スッ

(・・・カルマが正々堂々ねぇ)

 

正直カルマには1番似合わない言葉な気がするがな・・・ファイティングポーズを取るカルマに俺は心の中でそう思っていると、男は笑みを浮かべながら構えた。

 

「良い顔だぬ、少年戦士よ。(スッ)おまえとならやれそうぬ。暗殺稼業では味わえないフェアな闘いが」

ダッ ガキッ

 

カルマの跳び蹴りを男がガードをした後にカルマはそのままパンチや目潰しを繰り出していった。やっぱりカルマのセンスは抜群だな・・・男も回避と防御でいっぱいいっぱいの様子だ。

 

バチッ!! 「くっ・・・」

 

そして一瞬の防御の遅れでカルマのローキックが男の足に決まり、男は膝をつきながらカルマに背を向けた。

 

その隙を当然カルマは見逃さずに男へと突進し、皆が勝利を確信していた次の瞬間、

 

ブシュッ!!

 

男は背を向けたままカルマに何かを吹きつけ、カルマは崩れ落ちた。あれは・・・さっきの奴のか!!

 

「長引きそうだったので、"スモッグ"の麻酔ガスを試してみる事にしたぬ」

「き・・・汚ぇ。そんなモン隠し持っといてどこがフェアだよ」

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ。拘る事に拘り過ぎない、それもまたこの仕事を長くやってく秘訣だぬ」

「くっ・・・」 ガッ

 

吉田にそう返しながらカルマの顔を掴んだ男を見て、登志は刀に手を掛けたが

 

「待て、登志」

「!? で、でも・・・」

「少し気になるんだ。確かに不意打ちではあったけど、カルマにしては綺麗に喰らいすぎだと思ってな」

「えっ・・・」

 

もしかしたら、カルマの奴・・・そう考えたその時だった。

 

「至近距離のガス噴射、予期してなければ絶対に防げぬ(ブシュッ!!) !! な・・・なんだと・・・」

「奇遇だね。2人とも同じ事考えてた」

 

男の言葉を遮りながらカルマは男に同じガスを噴射して、無警戒の男はそれを簡単に喰らった。やっぱりかかったフリか!!

 

「ぬぬぬうううう!!」

 

膝を震わせながらも男は懐からナイフを取り出すと最後の力を振り絞ってカルマに突進したが、象も気絶させる程のガスを吸い込んだ状態では大した事ないスピードだった。

 

ナイフを持った腕を捻りながらカルマは男を地面に叩きつけ、

 

「ほら寺坂早く早く、ガムテと人数使わないとこんな化けモン勝てないって」

「・・・へーへー。テメーが素手で1対1(タイマン)の約束とか、()()()無いわな」

ズズンッ 「ふぎゃッ」

(今、カルマが捻りこんでる腕の肩からミシッて音がしたような・・・)

 

俺と登志を除いた全員がのしかかり、男はそんな声を上げた。大丈夫か、あの人・・・

 

「縛る時気をつけろ。そいつの怪力は麻痺してても要注意だ。特に手のひらは掴まれるから絶対触れるな」

「「「「はーい」」」」

(・・・特に仲間が下りてくる気配は無いし、とりあえずは勝負ありだな)

 

上からの増援が無いことを確認し、俺は警戒を少しだけ緩めて皆が終わるのを待った。

 

 

 

「くっ・・・」

「毒使いのおっさんが未使用だったのくすねたんだ。使い捨てなのがもったいないな~」

 

 手足をグルグル巻きにされながら男を前にカルマはガスの容器を手で弄んでいた。いつの間に盗んだんだか・・・

 

「何故だ・・・俺のガス攻撃・・・お前は読んでいたから吸わなかった。俺は素手しか見せてないのに・・・何故・・・」

「とーぜんっしょ。俺は()()()()の全部を警戒してたんだから。あんたが素手での闘いをしたかったのはホントだろうけど、この状況でそれに固執し続けるようじゃプロじゃない。俺等をここで止めるためならどんな手段でも使うべきだし、俺が同じ立場ならそうしてる」

 

そこまで言った後、床に座り込み、

 

「あんたのプロ意識を信じたんだよ。信じたから警戒したんだ」

(・・・ホントに変わったな、カルマの奴)

「大きな敗北を知らなかったカルマ君は・・・期末テストで身をもって知ったでしょう。敗者も自分と同じ、色々考えて生きているんだと。それに気づいた者は・・・必然的に相手を見くびらなくなり、敵の能力や事情をちゃんと見るようになる。敵に対し敬意を持って警戒できる人。戦場ではそういう人を・・・()()()()と言うのです」

 

カルマはまだまだ強くなる・・・俺も負けてられねえな!!

 

「・・・大した奴だ、少年戦士よ。敗けはしたが楽しい時間を過ごせたぬ」

 

 

 

 

 

「え、何言ってんの?楽しいのこれからじゃん」

 

・・・え?わさびとからしのチューブを手に持って何すんだ、カルマの奴?

 

「・・・何だぬ、それは?」

「わさび&からし。おじさんぬの鼻の穴にねじこむの」

「なにぬ!?」

「さっきまではきっちり警戒してたけど、こんだけ拘束したら警戒もクソもないよね」

 

そう言いながらカルマは男の鼻の穴にフックを引っかけ、

 

「これ入れたら専用クリップで鼻塞いでぇ・・・口の中にトウガラシの千倍辛いブート・ジョロキアぶちこんで・・・その上から猿轡して処置完了。さぁ、おじさんぬ。今こそプロの意地を見せる時だよ」 ブジュッ!!

「・・・殺せんせー。カルマ君、特に変わってなくない?」

「正確には、変わらなきゃいけないとこが全く変わってないな・・・」

「・・・えぇ、将来が思いやられます・・・」

 

男の絶叫をBGMにしながら、俺達は生き生きとしてるカルマを見ながらそう呟いた。




いかがだったでしょうか。

カルマがガラスを割るこのシーンは原作の中でもかなり好きな部類です!!1回やってみたいです(笑)



・・・修理代いくらかかるんだろう。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十三時間目 約束を果たす時間

皆さんどうも籠野球です。

前回グリップを倒した為、原作ではあのボンボンの話になるんですが、そこは書きません。

今回から数話は、それと同時刻に起きたオリジナル回です。

それでは、どうぞ!!



太陽side

 

 カルマが男にさんざん処置という名の拷問を施した後、俺達は6階へと到着したが・・・

 

ガチャッ 「ちっ、鍵が掛かってやがる。ここが開かねえと階段にたどり着けねえな・・・」

 

裏口の階段への入り口のドアノブを捻りながら俺は舌打ちした。7階に上がるためには、内側から鍵を開けるしかないな・・・

 

「ここは・・・テラス・ラウンジだっけ」

「ああ、見た感じクラブにしてるみたいだな。ちょっとこっそり見てくるから、皆はここにいてくれ」

 

そう皆に言ってから、俺はテラスへの入り口が見える位置からしばらく様子を伺っていると・・・

 

(・・・なるほど、女性に対してのチェックは甘いみたいだな。男女の2人組の時も男の人に対してのチェックはかなり厳重だ)

 

2、3組確認した俺は皆の元へと戻ってそれを報告した。

 

「なるほど・・・つまり男子が入るのは難しいということですか?太陽君」

「はい。片岡、危険だけど女子達連れて中に入ってくれないか?俺達じゃ入れそうにないんだ」

「それはいいけど・・・やっぱり男子に1人はついてきてほしいんだけどな・・・」

「それは分かるが、入れない以上はどうしようも・・・」

 

たとえ武器持ってなくてもヤバそうだもんな・・・

 

「ん?・・・太陽~、1人なら入れるかもよ」

「? どうやってだ、カル・・・」

 

俺は言葉を失った。何故なら、カルマの手に握られていたのはどう見ても女物の服装だからだ。

 

「・・・どうしたんだ、それ?」

「外のプールサイドに脱ぎ捨ててあったんだ。持ち主はどこか行ったみたいだね」

「・・・・・一応、聞くんだが、中に入る方法は?」

「誰かがこれで女装して入るんだよ」

 

恐る恐る聞いてみたが、帰ってきたのは予想通りの言葉だった。うわぁ・・・

 

「で、誰が行く?」

(・・・チラッ)「「「「・・・」」」」

 

カルマの問いの後、俺は周りを見渡したが登志以外も男子全員が目を逸らした。そりゃそうだよな・・・

 

「えっと・・・僕がやろうか?男子の中では1番身長低いし」

「登志は無理だろ。木刀なんか持ち込める筈無いしな」

「あ、そっか・・・じゃあ、渚君はどう?身長も僕と同じくらいだし」

「え、僕!?」

 

登志の指名に渚は狼狽えたが、正直、渚くらいしか適任な奴いないんだよな・・・

 

「渚、頼めないか?このとおりだ」

「う・・・分かったよ」

 

頭を下げた俺に、渚はしぶしぶ承諾してくれた。・・・いろんな意味ですまん、渚・・・

 

 

 

「お、お待たせ・・・」

「「「「・・・」」」」

 

 トイレで着替えてきた渚に全員は言葉を失った。何故なら・・・

 

「自然すぎて新鮮味が無い」

「そんな新鮮さいらないよ、速水さん!!(パシャッ)そしてさりげなく撮らないでよ、カルマ君!!」

 

まあ実際不自然さ0だもんな・・・カルマは絶対弄る為だろうな。

 

「とにかく、頼むぜ渚。女子の皆に何かあった時はな」

「うう・・・分かったよ」

「行ってくるね!!」

 

片岡の言葉の後、女子達と渚は店内へと向かった。店の前で少し不安だったが・・・

 

「・・・よし、問題なく入れたみたいだな」

「全然女の子に見えたもんね、渚君」

「・・・登志、それは渚の前では言ってやるなよ」

 

ま、何にしろ皆を信じるしかないな。そう思いながら俺は時計を見た。

 

「・・・威月達と別れてもうすぐ10分か」

「大丈夫かな・・・威月達」

「分からんが、あの2人を信じるしかないな」

 

頼んだぞ・・・威月・・・大賀・・・

 

そう心の中で願いながら、俺は外を見た―――――

 

 

 

有希子side

 

「だ、大丈夫ですか?神崎さん」

「うん、ありがとう奥田さん・・・」

 

 氷を取り替えながらの奥田さんの問いに、私は笑いながら答えた。頭を冷やしてくれてるおかげで、少しだけ楽にはなってきたかな。

 

「奥田さん、次は中村さんを頼む。そろそろ取り替える時間だ」

「は、はい!!」

 

竹林君は凄く頼りになるんだな・・・さっきから奥田さんにもテキパキと指示を出しているし

 

「フー・・・もうすぐ20分か。皆は大丈夫だろうか・・・」

「大丈夫ですよ!!皆、きっと治療薬を取ってきてくれますよ!!」

「そうだぜ、竹林。確かに殺せんせーは動けないけど、烏間先生だっているんだしな」

 

皆・・・頑張って・・・でも、無理はしないでね・・・

 

そう考えていたその時だった。

 

「ハハハ、ホントに中学生ばっかりみたいだな」

「「「「!?」」」」

 

突然テラスの入り口からそんな声が聞こえると同時に、30人近くの男達が入ってきた。

 

「・・・何者ですか?貴方達」

「お前達に恨みは無いんだが、上からの命令でな。攫わせてもらおうぜ、抵抗するのはいいがまともに動けるのはせいぜい2人だけ、おまけにその2人も荒事は得意じゃなさそうな奴らで勝てるかな?」

「くっ・・・」

 

竹林君と奥田さんは確かに戦う事は得意じゃ無い。どうすれば・・・

 

ギュッ・・・

 

私は思わず左手の小指を握りしめた。この場に彼はいない。だから助けに来てもらう事なんて出来るはずが無い。それは分かっていた。それでも・・・願わずにはいられなかった。

 

「・・・女子からの方が手っ取り早いな。さっさと攫っちまえ!!」

「っ!!」 

「神崎さん!!」

 

その時、1人の男が指示を聞いて私は持ち上げられた。

 

恐怖で身がすくむ中、私は心の中で誰よりも好きで誰よりも来て欲しい人の名前を心の中で唱えた。

 

(助けて、大賀君!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三級挽き肉(トロワジェム・アッシ)!!」 

ズドドドン!!「ガハッ!!」

 

 その時、横からの急な衝撃で私を担いでいた男は吹っ飛ばされ、投げ出された私は地面に叩きつけられる衝撃に備えた。

 

「っ!! 「よっと」(ぼふっ) ・・・?」 

 

しかし、そんな言葉と共に受け止められた感触に私は驚いた。すると、

 

「遅れてゴメンね、神崎さん」

「!! 九澄くん!?」

 

その言葉で私は大賀君にお姫様抱っこされてることに気づいた。突然現れた大賀君への驚きと、お姫様抱っこされてる恥ずかしさに言葉を失っていると、

 

「な、何だテメェ!?」

「!!」

 

別の男が角材を振り下ろしてきて、大賀君は蹴りで迎撃しようとした。

 

バシィ!! 「なっ・・・」

「オラァ!!」 ドンッ!! 

「ぐ・・・お」 どさっ・・・

「水守君!!」

 

しかし、左手で受け止めると同時に右拳をボディに打ち込んだ水守君の反撃に、男はそんな呻き声を上げながら倒れた。いきなり現れた2人に男達は驚いて動きを止める中、水守君は軽く息を吐いた後、私達を見渡しながら呟いた。

 

「・・・どうやら、ギリギリ間に合ったみたいだな」

「下ろすよ、神崎さん」

「あ・・・うん、ありがとう」

「助かったよ。

・・・しかし、何で2人はここに?」

 

少しだけ残念に思っている中、竹林君のそんな素朴な質問に水守君は笑みを浮かべながら答えた。

 

「太陽に頼まれたのさ」

「太陽に?」

 

 

 

威月side

 

「威月、頼みがある」

「急に何だ?」

 

 毒ガスの男を倒した直後のそんな太陽の言葉に俺は聞き返した。どうしたんだ?

 

「大賀か登志のどっちか1人を連れて、倒れてる皆の元へ戻ってくれないか?」

「!! 皆の元に?何でわざわざ?」

 

ただでさえ烏間先生が戦えないのに更に戦力を分散させるなんて、余程の理由じゃなきゃ賛成出来んが・・・

 

すると、太陽は寺坂の方を向き、

 

「コイツと会った時、先頭にいたのは寺坂と吉田だったんだよな?」

「お、おう。それがどうかしたか?」

「・・・なのに、相手は躊躇いなくガスを噴射してきた。つまり相手は、俺達が中学生でも全く容赦ないって事だ。威月、この状況で俺達相手に確実に優位に立つために敵のプロ達は何を考えると思う?」

「!! なるほど・・・動けない連中を手中に入れて、俺達を身動き取らせなくしてくるって事か」

 

確かにそれなら、俺達の動きを完璧に封じこめる事が出来るな。

 

「向こうでまともに動けるのは竹林と奥田だけ。2人は戦闘向きの能力では無い、とても守り切れねぇ」

「・・・だから俺ともう1人で護衛をするって事か?」

「ああ。烏間先生が戦えない以上は俺達4人の半分に分けるしか無いんだ」

 

そこまで言った後、太陽は申し訳なさそうな顔を浮かべながら、

 

「・・・もちろんこれはただの想像だし、戦力を分けたらかなり危ないのも分かってる。でも、威月以外に任せられる奴はいないんだ・・・頼まれてくれ、頼む」

 

そう言いながら頭を下げてきた。全くコイツは・・・

 

「・・・俺、前に言ったよな?困ったときは頼れって。俺は家族だぞ、そんな顔で頼まなくていいんだよ」

「俺が威月と一緒に行くよ!!太陽と登志は治療薬を頼む!!」

「威月・・・大賀・・・任したぜ、2人共!!」

「「おう!!」」

 

 

 

有希子side

 

「・・・それで、急いで戻ってきたのさ」

(そうだったんだ・・・)

 

 水守君の説明に私は心の底から安堵した。太陽君のおかげだな。

 

「でも、間に合ってよかったよ。怪我は無い?神崎さん」

「うん、大丈夫。

・・・ありがとう、助けに来てくれて」

「クラスメイトを守るのは当然だよ。」

 

すると、大賀君は笑いながら私に左手の小指を見せながら、

 

「それに・・・「必ず助けに行く」そう()()したもんね」

(!! 大賀くん・・・)

 

嬉しかった。ただの口約束に過ぎない私との約束を、本当に守ってくれた事が。

 

「大賀!!フォローはしてやる、好きなように暴れろ!!」

「ああ!!」

 

水守君の言葉にそう返しながら大賀君は男達の方へと向き直り、

 

「何人でも相手してやるよ・・・!!お前らみたいな卑怯な連中、俺が片っ端から蹴っ飛ばしてやる!!」

「舐めた事言いやがって・・・所詮ガキ2人だ、やっちまえ!!」

「九澄くん!!」

 

リーダー格の男のそんな声を合図に、男達は一斉に大賀君に襲いかかった。

 

タンッ!! 「(ガシッ)えっ・・・」

「・・・何だかんだ言って、この技が1番乱戦に向いてるんだよなぁ」

 

しかし、大賀君は一瞬で跳躍して1人の男の頭に手を乗せたと思ったら、

 

「パーティーテーブルキックコース!!」 ブオン!!

ドカカカン!!! 「「「「ぐあぁぁぁ!?」」」」

 

修学旅行の時と同じように逆立ちした状態で開脚しながら身体を回転させた。敵の真ん中で放ったその攻撃に、複数人が吹っ飛ばされた。

 

「す、凄い・・・九澄君「な、舐めんじゃねえぞテメェ!?」 !?」

 

誰もが驚いたその時1人の男がそう叫びながら奥田さんに近づき、奥田さんは身を竦ませたが、

 

ブンッ!! 「(ドカンッ!!) がハッ!!」

「大賀だけじゃねえんだ、忘れるな」

「ありがとうございます、水守君!!」

 

直後に水守君が放り投げた椅子が直撃し、その人も気を失ってしまった。

 

「こ、この!!」 ブンッ!!

「こんなモンで(パシィ)、俺を倒せるか!!(バキィ!!)」

「う・・・ご・・・」

 

水守君はそのまま別の男が振り下ろした角材を受け止めながら、脇腹に拳を突き刺した。途端に鈍い音が鳴り、男は脇腹を押さえながら崩れ落ちた。

 

「な、何なんだ・・・コイツら・・・」

「考えてる暇なんか無いぜ!!」

「大賀!!さっさと片付けるぞ!!」

 

2人の予想外の強さに唖然としている男達を相手に、そう言いながら2人は暴れ続けた。

 

 

 

「あ・・・が・・・」

「い、痛え・・・」

「(バキィ!!)ガ・・・ハ・・・」

「ハァ・・・ハァ・・・片付いたな」

「フー・・・ああ、残りはそこのリーダーだけだ」

「か、かすり傷1つ無しとか、どんだけ強えんだよ2人共・・・」

 

 数分後・・・周りには男達が呻きながらか気絶した状態で倒れ、最後の1人を倒した大賀君の荒い呼吸をしながらの呟きに水守君がそう返した。

 

「奥田、竹林。全員無事か?」

「う、うん。大丈夫だよ」

「指一本触れられてないさ・・・ホントに助かったよ」

「そっか、良かった・・・」

 

大賀君が安心したような顔でそう言ったその時、たった1人残ったリーダーの男が呆然とした様子で呟いた。

 

「な、何だよお前ら・・・たった2人で30人も・・・」

「残るはテメエだけだ。寝てるコイツら連れて、さっさと消えろや」

「く、クソ・・・こうなったら俺が(ドスッ)ガッ・・・」

「「!!」」

 

その時、喋っていた男の背後に突然筋肉質な男と痩せ型の男が現れ、筋肉質な男に殴られた事でリーダーの男は気を失った。

 

「・・・ったく、やっぱこんな雑魚共だけに任したのは失敗だったな」

「そんなこと無いさ。

・・・まさか、ここまで強い中学生がいるなんて思いもしなかったからな」

「・・・気ぃ引き締めろよ、大賀。この2人、さっきまでの奴らとは桁が違うぞ・・・」

「うん・・・この感じ、殺し屋だな」

 

戦闘態勢を取りながらそうやりとりする2人を見て、筋肉質な男が楽しそうに笑い、

 

「"マジシャン"、お前どっちの相手するよ?俺はどっちでもいいぜ」

「どっちでも構わんが・・・お前まさかこのテラスに爆薬とか仕掛けてないだろうな、"ボマー"。俺は子供を殺す気は無いぞ?」

「!! ボマー・・・だと・・・!?」

 

2人のやりとりに水守君は目を見開きながら、男を凝視した。どうしたんだろう・・・?

 

「そんな事する訳ねえだろ、楽しみが減っちまう」

「それならいいが・・・お前は無関係な人でも平気で殺す。そんなのは殺し屋とは言えんぞ?」

「へいへい、説教はよしてくれ。これが俺のやり方だからな」

「・・・大賀、お前はマジシャンって呼ばれた方を頼む。あのボマーって野郎は俺がやる」

「えっ・・・! わ、分かった。・・・大丈夫か、威月?顔怖いぜ?」

「・・・ああ、問題ねぇ。頼んだぞ」

 

そう言いながら水守君は男達の元へと歩いて行った。何か水守君、ボマーって名前を聞いてから様子がおかしいな・・・

 

「竹林、奥田さん。大丈夫だとは思うけど巻き添えに遭わないよう気をつけてな。

・・・それじゃ、神崎さんも気をつけてね」 くるっ

「あ・・・待って、九澄くん!!」

「ん?」

 

あ・・・思わず呼び止めちゃった・・・ど、どうしよう?

 

「何、神崎さん?」

「え、えっと・・・無事に帰ってきてね」

(うう・・・そんなので呼び止めるなんて凄く不自然だよ・・・)

「・・・それは、新しい約束?」

「え?」

 

大賀君はいつも通り笑ってくれていた。そんな屈託の無い笑顔に思わずドキリとなった。

 

「約束なら・・・必ず守るよ。絶対戻ってくるから!!」

「(大賀くん・・・)・・・うん、約束!!」

 

私の声に頷くと、今度こそ大賀君は男達に振り返った。気をつけてね、大賀君・・・

 

「お互いが1対1(タイマン)の2対2。楽しい喧嘩だな!!」

「全くお前は・・・まぁ、中学生と闘いたくは無いが、依頼な以上は仕方ない」

「(ゴキッ)・・・やるぞ、大賀」

「おう!!」

 

そんなやりとりと共に、大賀君と水守君は突進した―――――!!




いかがだったでしょうか。

というわけで、大賀と威月のバトルシーンです。ホテル内で4人を戦わせるのは、流石にグダグダ過ぎるな・・・と思って、太陽・登志のホテル内組と大賀・威月の外組に分けました(まぁ、大賀はそもそも神崎さんの側で戦わせるつもりでしたが(笑))

無理矢理外で戦わせる理由を作ったので、おかしな所もあるかもしれませんが、ご容赦下さい。
m(_ _)m

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十四時間目 空中戦の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は大賀の戦闘です。

果たして大賀は、殺し屋相手にどんな戦いを見せるのか・・・

それでは、どうぞ!!


有希子side

 

ガッ 「・・・たいした蹴りだ。とても中学生とは思えない」

スタッ 「それはどうも」

 

 跳び蹴りを受け止めながらのマジシャンと呼ばれた男の賞賛に、距離を取りながら大賀君はそう返した。その間もお互い戦闘態勢を取ったままだ。

 

「・・・すまないな」

「えっ、何がです?」

「君のような中学生と戦いたくは無いんだが・・・依頼されてる以上は仕方なくてな」

 

申し訳なさそうな顔で大賀君にそう話す辺り、殺し屋だけど話が通じない人では無いのかな・・・

 

「・・・俺、貴方の事、嫌いでは無いですね。それに・・・別に気にしなくてもいいですよ」

「む?」

「俺には守らなければいけない人が、貴方はプロとしてやらなければいけない事がある。どちらにも譲れないものがあるなら戦うしか無いですよ」

 

「それに、」とひと呼吸置いて大賀君は少しだけ笑い、

 

「貴方みたいな強そうな人と戦うのは初めてですから、ちょっとだけワクワクしてます」

「・・・フッ、若いな。だが、誰よりも真っ直ぐな良い目をしている。」

 

笑いながらマジシャンは構え直し、

 

「君の本気を全力で受け止めよう。かかってきなさい」

「はい!!・・・貴方はその腰の銃を使わないんですか?」

 

確かに男の両腰には、ホルスターが1つずつ付いているけど・・・それは使わせない方がいいんじゃ・・・?

 

「すまんが、これは本気を出す時に使う物でな。これを使わせることが君に出来るかな?」

「なるほど・・・でも、使う前に倒されないといいですね!!」

 

そう話すと同時に、2人は再び接近した。

 

ブンッ ガッ

ヒュッ スカッ

 

それは素人の私から見ても凄い戦いだった。男のローキックを大賀君が足で止めたと思ったら、間髪入れずにもう一方の足で繰り出した大賀君の蹴りをバックステップで男は躱した。

 

「「フッ!!」」 ガキィ!!

(・・・でも、大賀くんは勝てるのかな・・・)

 

2人の蹴り足が空中で交差してそんな音を立てる中、私はそう考えていた。勿論、大賀君が強い事は知ってるけど、本物の殺し屋相手に大賀君の蹴りは通用するの・・・?

 

ガッ 「うおっ!?」

「! 九澄くん!!」

「貰った!!」

 

その時、男の足払いで体勢を崩された大賀君に、そう言いながら拳で追撃しようとした男を見て、私は思わず声を上げた。

 

タンッ 「何っ!?」 スカッ

 

しかし、大賀君は強引に両手を地面に着きながら躱し、

 

木犀型斬(ブクティエール)シュート!!」 ドンッ!! 「ガハッ!!」

クルン 「はあ!!」 バキィ!!

 

逆立ちの要領で身体を起こしながら男の無防備な顎へと蹴りを放った。一瞬だけ宙に浮いた男を大賀君はそのまま身体を捻って、男を蹴り飛ばした。

 

(凄い・・・殺し屋相手でも、大賀くんの蹴りは通用するんだ!!)

「ゴホッ・・・何て身体能力をしてるんだ、君は・・・」

「・・・立てるなんて驚きました。綺麗に顎に入ったのに・・・」

 

す、凄い戦いだな・・・驚いた様子でやりとりをする2人をそう思いながら見ていると、

 

グラッ 「くっ・・・」

「!! やっぱり、平気な訳無いですよね」 ダッ!!

 

男の人が急にふらついたのを見て、大賀君はそう言いながら突進した。

 

ブンッ  ガシッ

シュッ   スカッ

 

男は大賀君の攻撃を何とか防御していたが、少しずつ後手になってきてるのが私にも見てとれた。そして、その遅れが致命的な隙を生んだ。

 

ブオン!! ガッ 「うっ・・・」

 

今度は大賀君のローキックによって、男は体勢を崩した。

 

首肉(コリエ)!!」

 

当然、大賀君がそんな隙を見逃す筈も無く、そう言いながらハイキックを男に放ったのを見て、私は当たるのを確信した。

 

 

 

 

 

パシュッ・・・

スカッ!! (えっ・・・)

 

その時、突然そんな音と同時に()()()()()()()事で大賀君の蹴りは外れた。な、何で!?

 

「九澄、後ろ!!」

「何!?(バッ)」

「フッ!!」 

「(ドカッ!!)ガッ・・・」

 

杉野君のそんな声に反応して、素早く振り返った大賀君のお腹に男の蹴りが入り、今度は大賀君が吹っ飛ばされた。

 

「だ、大丈夫か!?」

「ゴホッ・・・ゴホッ・・・サンキュー、杉野。お陰で致命傷は避けられた」

 

杉野君の声に咳き込みながらも返した大賀君はそのまま身体を起こし、

 

「杉野、見てたなら教えてくれ。あの人どうやって避けて俺の背後に回ったんだ?」

「・・・すまん、速すぎてどうやったのかは分からなかったけど、これだけは言える。アイツ・・・()()()()()()()()

「なっ!?」

 

空を飛んだ!?普通の人間にそんな事出来るはず無いのに!?

 

「認めよう、君は強い。だからこそ、ここからは敬意を持って俺も本気でいかせてもらう」

(・・・えっ、あの銃・・・)

 

両手に銃を持ちながらそう言った男に違和感を感じた。よく見てみると、その銃は普通の拳銃とは形が違ったからだ。

 

・・・迷っても仕方ないな。行くしかねぇ!!

「! 九澄くん!?」」

 

しかし、私が教えるよりも先に大賀君は突っ込んでいってしまった。男の人は構えもせず、ダラリと両腕を垂らした状態で大賀君を見据えていた。

 

「ハアッ!!」 シュッ!!

 

そんなかけ声と共に放たれた大賀君の後ろ蹴りはお腹に向けて一直線に飛んでいった。絶対に当たると思えるくらいの速さだった。

 

パシュッ スカッ 「くっ・・・なっ!?」

 

しかし、再びそんな音がしたと思ったら大賀君の攻撃は外れた。しかし、今度は別の意味で大賀君は言葉を失った。

 

―――何故なら、男は()()()()()()()()()()()で後方に飛んでいたからだ。

 

スタッ 「・・・驚いたかい?この拳銃を模した道具からアンカーを打ち出して空を飛ぶ。これが、俺が"マジシャン"と呼ばれる所以(ゆえん)だ」

 

そう言いながら男は左手を大賀君に向け、

 

「これを無効化させるには、何も無い平地に出るしか無いが・・・そんな事させるつもりは無いぞ?」

「っ・・・」

「悪いがいたずらに長引かせるつもりは無い。俺の動きを捉えきれるかな?」 パシュウ!!

 

男は左手で銃からワイヤーを屋根へと打ち出して空へと飛んだ。そのまま右手で少し横に打ち出して位置を調整すると、

 

パシュゥ!! シャアァァァ!! 「フッ!!」

「!? 危ね!!」 ゴンッ!!

 

大賀君の近くへと打ち出し、落下のスピードを合わせた強烈な踵落としを放ち、大賀君は辛うじて躱した。大賀君がいた場所の板は粉々に粉砕されていた。

 

「・・・流石だな、良く躱した」

「ハァ・・・ハァ・・・当たってたらタダじゃすまなかった・・・」

 

確かに躱せたけど、明らかに大賀君の方が疲れてる・・・このままじゃ・・・

 

「なら、これはどうかな?」

 

そう言うと男は再び天井にワイヤーに打ち付けると、空を飛びながらさっきと同じように位置を調整し、

 

パシュ!! (またさっきと同じ!?)

ゴオォォォ!! 「何度も同じ手食うか!!」 ブンッ!!

 

さっきと同じように大賀君の近くに打ち付けて急接近してくる男に、大賀君はそう言いながら迎撃しようと足を蹴り上げた。

 

「フンッ!!」 カッ!!

「何!?」 スカッ!!

 

しかし、攻撃が当たる直前でもう一本のワイヤーを天井に打ち付けてスピードを落とした事で、大賀君の蹴りは空を切った。

 

「ハッ!!」 ドカッ!!

「ガハッ!!」 ガシャアァァァン!!

「「九澄(くん)!!」

 

男はそのまま無防備の大賀君へと蹴りを放ち、大賀君は横に吹っ飛ばされた。テーブルや椅子を壊しながら止まった大賀君に、私と杉野君がそれぞれそんな声を上げた。

 

ガラガラ・・・ 「痛て・・・あんな使い方もあるのかよ・・・」

「九澄くん、血が!?」

「ちょっと切っただけだよ・・・」

 

テーブルや椅子だった物の残骸の中から立ち上がった大賀君の頭からは血が流れていて、私は思わず息を呑んだ。どう見ても、平気そうには見えなかった。

 

「・・・九澄君というらしいな。これ以上は危険だ、負けを認めてくれ」

「・・・・・」

「九澄くん・・・もういいよ・・・逃げて」

 

男の提案に私も同じ気持ちだった。これ以上私達の為に傷つく大賀君を見たくなかった。

 

「・・・それは出来ません」

「!! 九澄くん!?」

「ゴメンね、神崎さん。神崎さんが俺を心配して言ってくれてるのは分かってる」

 

「でも、」と言いながら振り返った大賀君はニコリと笑っていた。

 

「ここで約束守れないようじゃ、俺は一生両親と会うことなんて出来ないんだよ」

「や、約束?」

「うん、必ず助けにいくって約束。約束だけは・・・死んでも守る!!」

 

大賀君は再び男へと向き直り、

 

「皆を守る為にも、俺自身の為にも、貴方は・・・俺が倒す!!」

「・・・そうか。なら、俺も何も言わない。全力で仕留めるぞ!!」

 

大賀君の宣言に、男はそう言いながら再び天井に銃を向けた。

 

パシュ!! パシュ!! パシュ!! パシュ!!

 

空に浮いた男は横に下にと様々な角度にワイヤーと打ち付けて、縦横無尽に空を飛び回って大賀君をかく乱し始めた。

 

「くっ・・・(ドカッ) っ!!」

 

その動きを追いきれずに攻撃を受けた大賀君は一瞬だけ膝をつきかけたが、すぐに体勢を立て直した。

 

「へへ・・・さっきの一撃に比べたら威力は低いな。やっぱり、威力を犠牲にスピードが上がっても全く怖くねぇ」

「確かにな。だが、何発も連続で喰らえば、流石に無事ではすまんだろう!!」

 

確かに、いくら弱い攻撃でも何回も当たって大丈夫な筈が無い!!

 

「確かに君の身体能力は中々の物だ。だが、空中戦において俺に勝てる奴なんていない!!」

ドカカカッ!! 「ガ・・・ハ・・・」

「もう止めて、九澄くん!!このままじゃ死んじゃうよ!?」

 

そんな言葉と共に繰り出された連続攻撃に、遂に大賀君は膝を着いた。私は何とか止めようと声を上げた。

 

「大丈夫だよ・・・神崎さん」 ふらっ・・・

「く、九澄くん!?」

「・・・どうやら、意識を完全に絶つしかなさそうだな・・・」

 

ふらふらになりながらも立ち上がってみせた大賀君に男はそう言ってワイヤーを天井に放ち、

 

「次の一撃で決めるつもりだ。・・・最後にもう一度聞こう、負けを認めてくれないか?」

「・・・すみませんが、そのつもりはありません」

 

大賀君はそう言いながらニコリと笑い、でも目だけは真っ直ぐと相手を見つめながら再び宣言した。

 

「勝つのは・・・俺ですから」

「・・・覚悟ありか。分かった、ならせめて一撃で終わらせる!!」

 

そう言って男は天井付近まで飛ぶと同時に大賀君の近くへと打ち出し、

 

「これで終わりだ!!」 シャアァァァ!!

「ハァ・・・ハァ・・・フゥー・・・」

(目を閉じた!?)

 

急降下してくる男を気にも止めずに目を閉じた大賀君に私は驚愕してしまった。その間も男は大賀君に近づいてきていたからだ。

 

「ハアァァァ!!」 ブンッ!!

「避けて、大賀くん!!」

 

 

 

 

 

・・・剃!!」 ドンッ!!

 

・・・思わず大賀君の名前を呼んだ私の耳に入ってきたのは、そんな呟きと攻撃の音だった。

 

 

 

 

 

「・・・どういうことだ?」

「・・・えっ?」

 

 しかし、男のそんな呟きで、私は大賀君の姿が無い事に気づいた。大賀君はどこに・・・?

 

「・・・そこにくると分かってる攻撃、避けるなんて簡単だよ」

「!? 「肩ロース(バース・コート)!!」(ガコォン!!)ぐあっ!?」

 

すると、そんな声と共に現れた大賀君は男の右肩を蹴った事で、鈍い音を立てると同時に男が苦悶の表情を浮かべた。

 

「この・・・」 ブンッ!!

 

しかし、着地した大賀君を素早い後ろ蹴りで迎撃しようしたが・・・

 

スカッ!! 「バカな、また!?」

(消えた!?)

 

()()()()姿()()()()()()()()()()で、男の蹴りは空を切った。大賀君も消えた!?

 

腰肉(ロンジュ)!!」

バキ!! 「ガハッ!!」

 

その時、突然男の背後に現れた大賀君はそのまま男の腰に蹴りを放った。そんな予測不可能な動きに男は完全に翻弄されていた。

 

タンッ 「後バラ肉(タンドロン)!!」 ドカァン!!

腹肉(フランシェ)!!」 ゴキッ!!

 

ダメージで動けない男に大賀君は跳躍する事で素早く前に回り込み、そのまま2連撃を叩き込んだ。これは・・・修学旅行の時と同じ!!でも、蹴る場所と名前が違う!?

 

「ぐ・・・お・・・」

「まだまだぁ!!」

タンッ「上部もも肉(カジ)!!尾肉(クー)!!」 ガガッ!!ゴゴッ!!

 

思いがけない大賀君の反撃で動けない男に、このチャンスを逃さないと言わんばかりに大賀君は地面に手をついて回転しながら追撃した。

 

「く、くそ・・・」

もも肉(キュイソー)!!」 ドスッ!! 「ぐっ・・・」

すね肉(ジャレ)!!」 ブンッ!!

 

ダメージが蓄積する中、連続で足を蹴られた事で遂に膝を着いた男を蹴り上げようと、大賀君は足を地面に手を着きながら足を振り上げた。

 

 

パシュゥ!! シャアァァァ!!

スカッ!! 「っ!!」

「ハァ・・・ハァ・・・空中に逃げてしまえば君では手出しできまい」

(あんな状態でまだ動けるなんて・・・)

 

でも確かに、空中では大賀君は・・・

 

「・・・1つ勘違いしてる事がありますよ、マジシャンさん」

「何だと?」

ぐっ・・・ 「空中戦が得意なのは、貴方だけでは無いですよ」

 

そう言いながら大賀君はしゃがみ込むと、

 

「月歩!!」 タタタタンッ!!

(ええっ!?)

 

次の瞬間、大賀君は()()()()()()()()()()()()()()()、男へと急接近した。

 

「バ、バカな・・・その技はまさか!?」

 

大賀君のその行動に動揺した男に大賀君はトドメの一撃を放った。

 

仔牛肉(ヴォー)ショット!!!!」 ドゴォン!!

「ガ・・・ハ・・・」

 

全力で放った大賀君の()び蹴りに、男は砂浜まで吹っ飛ばされ何回転かした後ようやく止まった。

 

スタッ 「ハァ・・・ハァ・・・これで倒れないなら、もう俺に勝ち目は無いな・・・」

 

着地した大賀君も、いつ倒れてもおかしくない状態だった。お願い、もう動かないで・・・

 

 

 

ふらっ・・・

(!! そ、そんな!?)

 

ふらふらの状態で立ち上がった男は大賀君をじっと見据えていた。そんな男の視線を大賀君は逃げる事無く受け止めていると、

 

「・・・フッ、見・・・事だ・・・」 ドサッ・・・

 

一瞬だけ笑みを浮かべた後、今度こそ男は倒れた。その顔は実に晴れやかだった。

 

「か、勝った・・・」 ふらっ・・・

「! 九澄くん!!」

「だ、大丈夫。何とか動けるよ」

 

すると今度は大賀君が倒れかけ、私は思わず声をかけたが大賀君はそう言いながら私達の方へとゆっくりと歩いてきてくれた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・約束は守ったよ、神崎さん」

「うん・・・ありがとう・・・!!」

 

ボロボロの状態で、それでも笑いながらそう言ってくれた大賀君に私も泣きそうになりながらも笑顔でお礼を言った。本当にお疲れ様・・・

 

 

 

ガシャアァァァン!! 

「きゃあ!?」「!! 何だ!?」

 

 

 その時、いきなりそんな音がして私は思わず耳を塞いだ。ま、また敵!?

 

「・・・え?」

「い、いったいどうしたの?九澄く・・・」

 

音のした方向を向きながらそう呟いた大賀君に話しかけながら私もその方向を向き、そして言葉を失った。

 

そこには、余裕な表情で立っているボマーと呼ばれた人と、テーブルの残骸にもたれかかったボロボロの水守君がいた―――――




いかがだったでしょうか。

マジシャンの道具のイメージは、勿論あの巨人を駆逐する漫画のアレです(笑)

殺し屋とは少し違う気もしますが・・・まあいいでしょう(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十五時間目 復讐の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は威月の話です。

ここまで書いてきて、1番苦労する話になりました・・・(この1話書くのに、正直1週間以上掛かったと思います)

おまけに過去最長になってしまった上に、残酷な描写が少しだけですがありますが読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「ど、どうしたんだ、威月!?」

 

テーブルにもたれかかっている威月に俺は思わず声をかけた。威月があんな傷だらけになるなんて・・・

 

「前原、教えてくれ!!何が起こったんだ!?」

「わ、分かんねえよ!?でも、何か最初から様子がおかしいんだ!!」

(どっか怪我してるのか!?でも、さっきの連中倒した時はいつも通りだったのに・・・!!)

 

そう考えていると、威月の前に立っていたボマーと呼ばれていた男はおもむろに話し出した。

 

「随分な殺気だな。何でお前みたいなガキに殺気向けられなきゃいけねえんだか」

「うるせえよ・・・」

 

そう返しながら立ち上がった威月の放つ殺気は、今まで感じたことないくらい鋭かった。

 

「テメエを殺す。その為に俺は生きてきた!!」

(殺す!?ど、どうしたんだ威月は!?)

 

威月が何の理由も無く人を殺そうとするなんてありえない!!この人といったい何が・・・

 

「俺はお前なんざ見た事もねえぞ?殺される理由が分かんねえな」

「だろうな・・・もう9年も前の話だからな。

・・・昔話してやるよ」

 

む、昔話・・・?

 

「・・・昔、ある所に1人の子供がいた。その子の両親は父親が自衛隊隊員、母親が大学の外国語を教える教員というかなり裕福な家だった。そんなエリートの両親から生まれた子供に対し、両親は厳しくも最大の愛情を持って育て、その子も自分の両親をとても誇りに、そして尊敬していた。その家族は、まさに理想的な家族だった」

 

その時、威月の握り拳が強く握られるのが分かった。威月らしくなく、感情的になっているのがすぐ分かった。

 

「そんな家族が引き裂かれたのは今から9年前の夏だった。

その時、家族はアメリカにいた。少し前に6歳になった子供の誕生日祝いも兼ねた旅行だった。

・・・楽しい思い出になるはずの旅行が悪夢に変わったのは、ある高層ビルでの爆破事件だった。

突然の爆発に街中が混乱する中、正義感の塊みたいな父親は危険を承知で救助と避難誘導の為にそのビルの中に入り、母親も通訳するために付いていった。

そんな出来事を、子供はホテルで寝ていた為、全く知らなかった。

・・・起きた子供が、前から父親と知り合いで連絡を受けて駆けつけてくれた孤児院の院長から聞いたのは、両親が死んだという知らせだった」

 

威月のそんな話に、誰もが言葉を失った。だって・・・この話はどう考えても、威月の・・・

 

「子供は思い切り泣いた。当然だ、まだ6歳だというのに尊敬している両親が死んだのだから。そんな子供に、その院長は一晩中傍にいた。

やがて、泣き止んだ子供は「その人に何で両親は死んじゃったのか?」と聞くと、両親はビルの中で起きた2回目の爆発で死体も残らなかったらしい。

その人曰く、2回目は誰を狙ったのか分からなくするための爆発らしかった」

 

そこまで言った後、威月は一瞬だけ目を閉じ、

 

「爆発を起こした犯人は・・・殺し屋"ボマー"」

「!! じゃあ・・・やっぱりこの人が!?」

「あぁ・・・俺の両親を殺した野郎だ・・・!!」

(威月の様子がおかしかったのはそのせいか!!)

 

自分の両親殺した人を目の前に冷静でいれるはずが無いもんな・・・

 

「テメェを殺すために、俺は・・・!!」

「ほう、あのビルでの爆破の時のか。そりゃあ気の毒だったな」

 

威月のそんな言葉にも、男はまるで興味なさげにそう言っただけだった。そんな態度に威月は更に熱くなっていった。

 

「テメェ・・・!!殺し屋のくせに無関係な人まで巻き込んで、何も思わねえのか!?」

「お前、今まで殺した虫の数なんて数えてるか?それと同じだ」

「!! 貴様ぁ!!」 ドンッ!!

 

男の笑みを浮かべながらのその言葉に、威月は激昂しながら男に突進した。

 

ブンッ!! ブオンッ!!

(大振りな上に単調すぎる、いつもの威月じゃない。それじゃあ当たらないぞ!!)

 

俺の予想通り、男は簡単に威月の攻撃を避けていた。

 

「熱くなるなって。ソイツも心配そうに見てるぞ?」

「余所見してんじゃねぇ!!」

「落ち着け、威月!!その人の言葉を聞いたらダメだ!!」

(あの人は明らかに威月を煽ってる。このままじゃ・・・!!)

 

そう思いながら俺は威月にそう声を張り上げた。しかし・・・

 

ヒュン!! ボッ!!

(くそっ、ダメだ!!聞こえてない!!)

 

熱くなっている威月にはまるで届かなかった。男は続けざまに攻撃を繰り出す威月が疲労するのを待っている様子に見えた。

 

「ガアァァァ!!」 ブンッ!!

「ふん(スカッ)、おら!!」

「(ドカッ) ガハッ!!」 ガシャアァァァン!!

「威月!!クソッ!!」

 

やがて、一段大振りの攻撃を簡単に躱しながらの男の蹴りによって威月は再びテーブルの瓦礫に吹っ飛ばされた。それを見た俺は、思わず男に突進しようとしたが・・・

 

ズキィ!! 「う・・・ぐ・・・」

「く、九澄!?」

(クソ・・・さっきのダメージが今頃に・・・)

 

突然、身体に走った痛みのせいで、俺は思わず膝を着いた。

 

(こんなんじゃあ、もう戦えねえ・・・どうすれば「手ぇ出すなよ、大賀・・・」・・・!!威月!?)

 

そう考えていたその時、そんな呟きと共に威月は立ち上がった。

 

「この戦いに手ぇ出してみろ・・・俺は「ひまわり」の皆でも容赦しねえぞ・・・!!」

 

威月の目はそれが本気だと何よりも語っていた。仮にここで俺が助けに入ったら、間違いなく威月は俺を攻撃するだろう。俺は見守るしか無かった。

 

「おいおい、いいのか?2人の方が勝ちやすいぞ?」

「っ(ギリッ)ぶっ殺す!!」

 

その時、薄笑いを浮かべながら男がそう言った為、唇を噛みしめながら再び威月は突っ込んでいった―――

 

 

 

「これで終わりだな」

「い、威月・・・」

 

 その後も大振りの攻撃の合間に繰り出される反撃を貰い続け、何回も倒れては立ち上がるのを繰り返していた威月は、強烈なボディーブローを受けたことで再び倒れた。もう何回目かも覚えてない・・・

 

フラッ・・・ (まだ立てるのか!!でも・・・)

 

ふらふらの状態の威月は、誰が見ても限界に思えた。それほどまでに威月の身体はボロボロで、何カ所からは血が出ていた。

 

「そろそろ終わりにしてやるよ」 バキッ!!

 

そんな威月を見て、男は背中から何やら棒の様な物を取り出すと、地面に向けて振った。木の板が簡単にへし折れた辺りから見ても、間違いなく金属製だろう。

 

「依頼は攫えとの事だが、殺してはいけないなんて言われてないしな。1人くらいはいいだろう」

(マズい・・・あんなので殴られたら、流石の威月も!!) ぐっ・・・

 

男の言葉に、俺は反射的に足に力を込めた。さっきに比べたら大分ダメージも回復してきてる。今なら・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

(!! 威月・・・)

 

しかし、荒い呼吸をしながらも威月はさっきまでと何一つ変わらない強い瞳で俺を見てきた。手を出すなって・・・もう限界だろ!?

 

「・・・お前が手を出したらダメなんだよ、大賀」

「えっ・・・」

「これは・・・俺が乗り越えなきゃいけない壁なんだよ!!」

 

そう言いきった威月を見て、初めて感心した様子で男は話し出した。

 

「ほう・・・その意思の強さ。確かにそっくりだな」

「!! テメェ・・・俺の両親を見たのかよ?」

「爆破前に一応中に仕掛けたカメラでな。知らないフリをしただけさ」

 

男は思い出すかの様に話し出した。

 

「・・・お前の両親は確かに立派だった。最初の爆発に巻き込まれて動けない怪我人や家族とはぐれてしまった子供達を介抱・誘導を最後まで率先して行っていた。あれこそまさに、生きる意思の強さと言ったところか」

 

男はそう言ったと思ったら、ニヤリと笑みを浮かべ、

 

「そんな意思を踏みにじるのは何よりの快感だ」

(コイツ・・・!!どこまで人をバカにすれば!!)

「(カランッ)まあ、俺からの親切として、きっちり家族の元へと送ってやるよ。何か遺言あるか?」

「・・・安心したよ」

「あ?」

 

金属棒を頭の上で構えた男の問いに、威月はそう呟いた。聞き返した男を笑みを浮かべながら威月は言いきった。

 

「お前が、予想通りのクズで安心したんだよ。これなら安心して殺せる」

「っ!! そんなボロボロの状態で偉そうな口叩いてんじゃねえよ!!さっさと死ねや!!」 ブンッ!!

 

男は激昂しながら威月の頭に振り下ろした!!

 

「いつ・・・(ガアァァァン!!)」

 

威月の名前を呼ぼうとした俺の言葉は、そんな鈍い音に掻き消された・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・やっと隙を見せたな」 ダンッ

「なっ!?」

 

突然そう呟いた威月に、その場にいた全員が驚いた。慌てて対応しようとした男だったが、それよりも威月が踏み込む方がよっぽど速かった。

 

「はあ!! (ドドンッ!!)」

「ぐっ・・・何を」

 

気合を入れながらの威月の拳を腹に受けた男はよろめきながらそう呟いたが、その後の言葉は継がれなかった。

 

「(ドクン!!)!? ガハア!?」

(なっ!?)

 

一瞬だけ身体を震わせた後、男は口から血を吐きながら膝を着いた。な、何をしたんだ?威月は。

 

「・・・テ、テメエ・・・何で頭を金属で殴られて死ぬどころか、気を失いすらしねえんだ・・・!?」

「(プッ)・・・フン、金属で殴られたぐらいで俺は死なねえんだよ。何せ、俺は身体を鉄に出来るもんでな」

「な、何だと・・・?」

 

そうか・・・殴られる瞬間に鉄塊を!!威月の鉄塊(それ)は太陽よりも優れてるからな・・・

 

「ああそれと、今のは俺が独自で編み出した必殺技だ。お前を殺す為のな」

「ひ、必殺技だと?」

 

テーブルの破片の小さな木の板を拾い上げながら威月は続けた。

 

「世の中の全ての物には、攻撃する際に多少なりとも抵抗がある。それのせいで衝撃は全て伝える事は出来ない・・・それを改善したのが、俺の技」

 

そう言いながら威月は板を上に放り投げてから構え、

 

「フッ!!」 ドドンッ!! パアァン!!

「なっ!?」

 

板を殴ったその瞬間、木の板は粉々に粉砕された。その光景に男は目を見開いていた。

 

二重(ふたえ)の極み・(かい)。拳を立てた状態で対象に一撃を加え、その衝撃が対象の抵抗とぶつかったその瞬間に指を折り曲げて二撃目を叩き込む。一撃目で抵抗を失った対象は、二撃目で完全に粉砕されるという訳だ。人相手に使えば、敵に重大な()()ダメージを与える技だ」

「外傷ダメージ・・・だと?バカな・・・この衝撃は・・・」

 

確かに二重の極み・壊を喰らったにしてはあの人、傷1つ無いよな・・・?おまけにあの血は?

 

「話は最後まで聞けよ。確かに二重の極み・壊は威力も高いし殺傷能力も凄いんだが、拳への負担が桁違いにデカくてな。それに、素早く動かれたら当てにくい上に加減も難しい。だからこそ、俺はもう一つ編み出した。その名も二重の極み・(めつ)、コイツは壊の反対で敵に()()ダメージを与え、動きを封じる技だ」

(そうか・・・だからこの人は見た目に傷は無いのにあんなに血を・・・!!)

 

いつの間にあんな技を編み出してたんだ、威月は・・・

 

「俺は最初からこの状況に持ち込む為に動いてたのさ。怒りに身を任せて動けなくなった俺を、トドメを刺しにきたアンタの攻撃を受け止めながら、二重の極み・滅を叩き込む。全部、俺の作戦通りだ」

「なっ!?じゃあ、途中でキレたのもこの人を挑発してトドメを刺させようとしたのも全部芝居だったのか!?」

「大賀、俺が常に冷静でいる理由って何故だと思う?」

「えっ?」

「復讐を遂げる為には・・・悲しみや怒り、そして憎しみすらをも呑み込んで殺す事だけ考えて動けばいい。そう考えついたからさ」

 

そう言った威月の目は、今まで見たことも無いくらい冷たかった。

 

「ふざけんな、ガキが・・・!!」 ふらっ・・・

「まだやる気かよ?さっさと俺に殺されろ」

「うるせぇ!!テメェみてえな中学生なんかに、俺が負けるか!!」

 

男はそう言いながら棒を掴んで威月に突っ込んでいったが・・・

 

「おらぁ!!」 ブンッ!!

ガシッ 「・・・コイツでトドメだ」

「威月、待っ・・・」

 

棒を左手一本であっさり受け止めながら右拳を握った威月は、俺が止めるよりも早く必殺の一撃を叩き込んだ。

 

「二重の極み・壊!!」 

ドドンッ!! 「ぐ・・・は・・・」 ドサッ・・・

 

お腹にそれを喰らった男は、後ろに吹っ飛ばされながら倒れた。その代償として、威月の右拳からは血が滴り落ちていた。

 

「あー()って・・・やっぱ壊の負担は桁違いだな」

「威月、手は「ま、殺せるならこんな痛み関係ねえがな(ザッ)」!!」

 

俺の問いに答えずに、威月は棒を左手で持ちながら男に近づいていった。 

 

「ば、バカな・・・俺が、こんな奴に・・・!?」

「これでトドメだ。一応聞くが、何か言い残すことはあるか?」

「ふざけるな・・・俺がこんな所で死ぬわけが(ブンッ!!・・・バキィ!!)・・・!!」

 

そんな男の口は、威月が棒を足に振り下ろした事で絶叫に変わった。どう見ても折れているだろう。

 

そんな容赦ない行動に俺は初めて威月を恐れた。

 

(これが・・・威月の復讐なのか?)

「俺はテメェのそんな戯れ言を聞く気はねえ。ま、そんなくだらねえ言葉が吐けるって事は、覚悟ありって事だな」

「た、頼む。助けてくれ・・・」

「お前そう祈った人達を何人殺してきた?何人の生きる意思を踏みにじってきた?そんなお前の命乞いが許されるわけ無いだろ?」

 

ばっさりと切り捨てながら威月は棒を振り上げた。それを振り下ろした瞬間、男は死ぬだろう。

 

「っ!!」

 

勿論、これが威月の生きてきた理由なのは分かってる。だが、家族として口を挟まない訳にはいかなかった。

 

「威月ダメだ!!その人を殺しちゃ!!」

「・・・これが俺のやるべきことだ。その為なら、俺は全てを捨てる覚悟で生きてきた」

「っ!!」

「すまんな、大賀。「ひまわり」の皆にはよろしく言っといてくれるか?」

 

威月の笑みを浮かべながらの発言に俺は唇を噛みしめた。言葉に一切の迷いが無かったからだ。

 

(今の威月を止めるには何を話せばいい!?どんな言葉なら「それで、ホントにいいの?威月」!! 中村さん!?)

 

無い頭、振り絞っていた俺の耳に入ってきたのは、奥田さんに支えられながら上半身を起こした中村さんの言葉だった。

 

「全てを捨てる覚悟ってアンタ言ったけどさ、全部捨ててからはどうすんの?」

「捨ててから・・・だと?そりゃあ「「1人で孤独に生きる」」 !?」

「アンタの考えくらいすぐ分かるよ」

 

ハモった事に驚く威月に、中村さんは笑いながら続けた。

 

「家族を失ったアンタが、また一緒に暮らせる家族と呼べる人達に出会ったっていうのに、それを捨ててまで自分達を殺した人に復讐する事なんてあの人達が望んでると思う?」

「・・・!!」

「俺もそう思うよ、威月。正義感の塊みたいな人達だったんだろ?そうでなくても、自分の子供が人を殺すなんて許す親なんていないと思うぜ?」

 

中村さんが威月の両親を知っているかの様な発言が若干気になりながらも、俺は威月にそう呼びかけた。そんな俺達の言葉に威月は目を閉じながら数秒天を仰いだ後・・・

 

「・・・中村、大賀。確かにお前達の言う通りだな。そんなことしたら、あの2人に叱られちまうな。」

「・・・威月!!」

「ただ、ケジメだけはつけさせてくれるか?」

「えっ?」

 

威月はそう言うと棒を振りかぶり、

 

「死ね」 ブンッ!!

「な・・・威」 ドゴオォォォン!!

 

俺達が止めるよりも早く棒を振り下ろし、とてつもない轟音が響いた―――――

 

 

 

 

 

「い、威月!?何「う・・・あ・・・」 ・・・え?」

 

 しかし、威月の振り下ろした棒は男の顔面のすぐ横の床に突き刺さっていた。威月の濃密な殺気を受けた男はそんな言葉と共に気を失った。

 

「・・・おい、大賀」

「な、何だ?」

()()()()()()()()()?」

(!! そうか・・・)

 

威月の言葉で、ようやくやりたいことが分かった。

 

「威月の一撃喰らって、生きていられる奴なんているわけないだろ?」

「フッ、当然だ。」

 

俺にそう返してくれた威月の顔は、憑き物が落ちたかの様な柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「終わったみたいだな」

「「!!」」

 

その時、背後からのそんな声に振り返りながら構えると、そこにはマジシャンと呼ばれた男が右肩を押さえながら歩いてきていた。後ろには10人くらいいるし、まだやる気か!?

 

「警戒しなくていい。私がこんな状態な上にボマーまで倒された以上、俺達は君達には二度と勝てないさ。敗者なのにすまないが、コイツらは俺が責任持って連れて帰るから退かせてもらえるかい?」

 

男の右肩は、完全に骨が砕けている様子だった。恐らくは、俺の「肩ロース(バース・コート)」が直撃したからだろうな。

 

「そっちが売ってきた喧嘩だ。そっちが退くというなら、止めはしねえよ」

「助かるよ。マジシャンの名を持って、この場にいる奴らには二度と手を出させないと誓おう」

 

男はそう言いながらボマーと呼ばれた男を担いだ。この人は義理堅そうな人だし、約束通りにしてくれるだろうな。

 

「・・・それと1ついいかな?」

「はい?」

「君達が使った技、誰に教わったんだ?」

「えっと・・・」

 

俺は威月に目配せした。あまり他の人に言うなと言われてるしな・・・

 

しかし、俺達の沈黙でこの人には充分だったみたいだった。

 

「やはり・・・道理で強いはずだ。あの男からの教えを受けているというならな」

「あまりバラされると困るのですが・・・」

「分かっている、ここだけに話にしておくよ。では、さらばだ。おい、行くぞ!!」

 

笑みを浮かべながら俺達にそう言ったマジシャンが同じく倒れている奴らを担いだ男達と共に去って行くのを見て、俺と威月はようやく肩の力を抜いた。何とか、守り抜けたな・・・

 

 

 

―――こうして、俺と威月の死闘は終わった。後は、皆次第だな・・・




いかがだったでしょうか。

というわけで、威月の使用技はこれまた「るろうに剣心」の相楽 佐之助の二重の極み+オリジナル要素の技です(本来の二重の極みは、威月の使用する壊の方です)
滅は「刀語」という小説に出てくる虚刀流という剣術の奥義の1つ、「柳緑花紅」を参考にした技です。

最初は威月には虚刀流を使わせようと考えていたのですが、それだと剣士が2人になっちゃうし、威月は純粋な力で戦うタイプにしたかったので止めました(笑)

ちなみに、タグに原作キャラ以外の死とありますが、4人に人殺しはさせません(今回はかなり際どかったですが・・・)

まあとりあえず・・・これで2人の戦いは終了です。次回からは再びホテル内へと戻っていきます。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十六時間目 武器の時間

皆さんどうも籠野球です。

・・・ん?もう日曜日だっけ?と思った方もいるかもしれませんが、残念ながらまだ木曜日です。

このペースだと夏までに夏休みが終わらなさそうなんで、少しだけ頑張ってみました(笑)

今週は日曜日にも投稿するので、是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

ジャラ 「うぐ・・・わ、悪いな九澄」

「こんな感じでいいのか?竹林」

「ああ。全員、発熱が酷いから脳にダメージがいかないように頭だけは冷やしてるんだ」

 

 マジシャンやボマーと呼ばれた男達を退けた俺と威月は、竹林から簡単な応急処置を受けた後、皆の看病をしていた。今は杉野の頭に氷のうを載せたところだ。

 

「はい、不破の予想通り倒れてる奴ら全員があのジュースを飲んでるみたいです。はい・・・」

 

視線の片隅では、威月が三村から携帯電話を借りて烏間先生に電話をしていた。10人全員がジュースを飲んでいる事と、皆を狙ってきた連中を何とか退けた事を報告する為にだ。

 

「あの・・・九澄君は休んでてもいいですよ?看病は私達だけでも出来ますし・・・」

 

奥田さんはそう言ってくれるけど・・・

 

「大丈夫大丈夫。それに、2人だけに任せてたら申し訳ないしな」

「そんな!?九澄君や水守君が必死になって戦ってくれたから私達も助かったんです!!むしろ、私達の方がそんなに傷だらけなのに申し訳ありません」

「ああ、身体がキツければ休んでくれても構わない。それに文句を言う奴なんていないさ」

 

うーん、奥田さんも竹林もそう言ってくれてるが・・・

 

「心配すんな。この程度で倒れるような柔な鍛え方してねえし、やりたいって俺達が言ってるんだから止めないでいいさ」

「み、水守君。分かりました・・・」

 

電話が終わったのかこちらに近づきながらの威月の言葉に、奥田さんも納得してくれたみたいだった。

 

 

「烏間先生は何て?」

「とりあえず俺達2人はこのままここで皆の看病兼護衛をしておいてくれとの事だ」

「そっか、分かった」

 

ま、今から戻って中に入るのも大変そうだしな・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

「大丈夫?神崎さん。何かいる?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう、九澄くん。」

 

杉野や神崎さんは俺にお礼を言ってくれるけど・・・

 

「・・・ゴメンな、2人共」

「え?」

「何がだ、九澄?」

 

・・・何でそんなに不思議そうな顔が出来るんだ?この2人は・・・!!

 

「2人がこんな目に遭ってるのは、少なくとも俺が原因だよ。俺が2人にジュース飲ませなきゃ・・・」

「何言ってんだよ!!九澄が悪いわけねえだろ!?」

「私達は自分の意思で飲んだんだもん。気にしないで」

「だが・・・(スッ)・・・?」

 

その時、神崎さんが俺の頬に手を当て、笑いながら続けた。

 

「私は、いつどんな時でも明るい九澄くんでいてほしい。だから、そんな顔しないで?」

「そうだよ、らしくねえぜ?」

「2人共・・・ありがとな」

 

ホント・・・優しいな、このクラスの皆は。

 

「じゃあ、2人が元気になったら俺が美味しい物作ってやるよ」

「マジか!?九澄が作ったの1回食ってみたかったんだよ!!」

「楽しみにしてるよ、九澄くん」

「おう!! ・・・そういや、神崎さんに1つ聞いていい?」

「? 何?」

 

不思議そうな顔をした神崎さんに戦ってる最中に感じた疑問をぶつけた。

 

「神崎さん、さっき俺の事、大賀って呼ばなかった?」

「う!? ゴ、ゴメンね思わず呼んじゃって」

「あ、いや別に怒ってるわけじゃ無いよ。これからもそう呼びたかったら呼んでくれていいし」

「!! ・・・じゃあ、これからも大賀くんでいいかな?」

「全然いいよ」

「ありがとう、大賀くん」

 

? 何で神崎さんこんなに嬉しそうなんだ?ただ名前呼ぶだけなのに。

 

「(ボソッ)・・・やっぱ、俺じゃ勝てんな

「ん?何か言ったか?杉野」

「何でもねえ。それより、俺も大賀って呼んでも構わねえか?その代わりにお前も俺を友人(ともひと)って呼んじまっていいぜ」

「おう、分かった。これからもよろしくな、友人」

「ああ・・・っと、ワリい眠くなってきたから寝るわ」

「ふわぁ・・・ゴメン、私も」

 

体力も落ちてるだろうし、少し寝た方がいいかもな。

 

「おう、また誰か来てもサクッと追い返してやるから安心して寝てろ」

「いや、来ない方が安心出来るんだが・・・」

「アハハ・・・じゃあおやすみ、大賀くん」

 

俺にそれぞれそう返しながら2人は目を閉じた。おやすみ・・・2人共。

 

「でもよお、実際大丈夫なのか威月?」

「何がだ?前原」

 

その時、前原が威月に声をかけた。

 

「お前らの話じゃ、烏間先生も毒ガスでまともに動けないんだろ?そんな状態で皆は大丈夫なのかよ・・・」

 

確かにそう思うのは当たり前だけど・・・

 

「大丈夫さ。そもそも、俺達2人と太陽・登志の2人との間にはとんでもない力の差があるからな」

「あ、あの2人はお前らよりも強いのか!?」

「・・・仮にあの2人が本気出したら、烏間先生とも良い勝負するかもな」

 

威月の言葉に皆が驚いた様子だった。そりゃあそうだよな・・・

 

そんな中、岡島が威月に問いかけた。

 

「じゃ、じゃあ何で2人は本気出さないんだ?そんだけ強いなら簡単に最上階まで辿り着けるんじゃねえのか?」

「正確には簡単には出せないんだ。2人共ある事情でな」

 

そこまで言った後、威月はスッと立ち上がると、

 

「どっちもヤバいが、もし本気出した時に危険なのは登志だな」

「えっ・・・伊勢が?」

「ああ、普段の登志はあんなに温厚なんだが・・・もし何かの拍子に本気になっちまったら・・・」

 

岡島にそう返しながら威月はホテルを見上げながらその言葉を口にした。

 

「本気になった登志は、()()()()

 

 

 

太陽side

 

「・・・うむ、頼むぞ」 ピッ

 

 威月からかかってきた電話を受けていた烏間先生がようやく電話を切ったのを確認して、俺は口を開いた。

 

「何て言ってましたか?威月は」

「不破君の予想通り、倒れてる皆はジュースを飲んでいるらしい。それと、太陽君の言った通り殺し屋達が攫いに来たらしい」

「!! それで?」

「ああ、大賀君と威月君が退けてくれたとの事だ」

「流石、大賀と威月!!」

 

ありがとう・・・2人共。

 

「2人にはそのまま皆の元にいてくれと指示を出したが、構わないか?太陽君」

「はい。殺し屋と戦ったなら、いくらあの2人でも無傷では無いと思いますから」

「うむ、俺も同感だ」

(でも・・・)

「でも、良かったぁ。皆無事で。そう思わない太陽?」

 

登志が俺に何か話しかけてきていたが、俺は聞こえてなかった。

 

「・・・」

「太陽?」

(クソッ!!俺があの時、陽菜乃に飲ませてなければ陽菜乃はあんな目に「(ポンッ)倉橋さんはそんな事思ってないと思うよ?」 ・・・!!)

 

肩を叩かれながらのそんな言葉に俺は思わず振り返ると、ニコリと笑った登志の顔があった。

 

「・・・俺、そんな分かりやすいか?」

「倉橋さんの事になるとね。太陽が本当に倉橋さんの事を思うなら、ちゃんと無事に帰ってあげようよ。それが、何よりも倉橋さんが喜ぶ事だと思うよ」

「登志・・・ああ!!」

(登志のこういう雰囲気は本当に落ち着かせてくれるな・・・ありがとよ)

 

その時、扉からガチャリという音が聞こえると共に、片岡が扉を開けてきた。

 

「お待たせ、皆」

「サンキュー、片岡!!」

 

まだまだ先は長い・・・気ぃ引き締めていかねえと!!

 

 

 

「あ、渚君もう着替えたんだ」

「そのまま行きゃよかったのに。暗殺者が女に化けるのは歴史上でもよくあるぞ」

「伊勢も磯貝君も、勘弁してよ・・・」

「渚君、()()なら早い方がいいらしいよ」

「とらないよ、カルマ君!!」

「渚、静かに・・・こっから先は油断できねえんだぞ」

「うう・・・僕が悪いわけじゃ無いのに・・・」

 

 渚の呟きを聞きながら、俺は7階入り口から顔を少しだけ出した。

 

「ここから先はVIPエリアか?律」

「はい、客が個人で雇った見張りを置けるようになるみたいです」

「なるほどな・・・明らかにやる雰囲気だ」

 

早速、階段の前に2人か・・・俺らの標的(ターゲット)に関係あるにしろないにしろ倒さなきゃ進めんな・・・

 

「太陽、ここは僕が行くよ。あれくらいなら「いえ、ここは寺坂君が持っている武器が最適ですねぇ」 へ?」

 

木刀に手をかけた登志の言葉を遮った殺せんせーの言葉で俺達は一斉に寺坂を見た。

 

「・・・ケッ、透視能力もあんのかテメーは?」

「大丈夫なのか?素早く2人とも倒さねえと連絡されちまうぜ?」

「任せとけって、太陽。

・・・おい木村。あいつらこっちまで誘い出してこい。お前の足ならいけるだろ」

 

手に持っていたリュックサックから何かを探しながら寺坂は木村に指示を出した。

 

「俺がァ?どうやって?」

「知らねーよ、何か怒らせたらいいんじゃねーの?」

(適当だなぁ・・・らしいっちゃらしいが)

「・・・じゃあさ木村(ゴニョゴニョ)」

(・・・そしてノってきたな、カルマは)

 

そう考えていると、耳打ちをされた木村は男達の方へと歩いていった。カルマの奴・・・一体、何を言わせる気だ?

 

スタスタ 「・・・ん?何だ、ボウズ」

キョロキョロ 「あっれェ~脳みそ君がいないなァ~こいつらは頭の中まで筋肉だし~(くるっ)人の形してんじゃねーよ豚肉どもが」 スタスタ

(カルマぁ!?いくら何でも攻めさせすぎだろ!?)

「おい」

「待てコラ」

 

当然ブチ切れた男達は背を向けた木村に向けて走り出してきた。捕まったらタダじゃすまんだろうが・・・

 

タタタタタ

「なっ!?コイツ、クソ速ぇ!!」

 

流石、大賀を除けばE組1の俊足なだけあって、男達に捕まらずにこっちまで逃げてこれた。

 

「今だ、吉田!!」

「おう!!」

「てか・・・こいつ (ドッ)!?」

 

男達の一瞬の隙をついて寺坂と吉田がそれぞれの男にタックルをかまし、

 

ばっ!! バチチッ!!

「・・・なっ!?スタンガン!?」

 

手に持った()()をそれぞれの男の首に叩き込んだ。何万ボルトもの電流を素肌に喰らった事で男達は一瞬で気を失った。

 

「タコに電気効くのか試そうと思って買っといたのよ。こんな形でお披露目するとはな」

「買ったって・・・高かったでしょ、それ」

 

確かに片岡の言う通りだな。一万以上はするんじゃないのか?

 

「ん・・・ちょっと前に臨時収入あってな」

「へー・・・今度そのバイト教えてくれよ」

「うっ!?それはちょっと無理だな・・・」

 

? 何で変な汗出してんだ?寺坂の奴。

 

「・・・いい武器です。ですが、その2人の胸元を探って下さい」

「あン? (ごそっ) !!」

「「「「!!」」」」

 

殺せんせーにそう言われて男達の胸元を探った寺坂の手に握られていたのは、本物の拳銃だった。

 

(すげ・・・流石の俺も実物見るのは初めてだな・・・)

「その拳銃は、千葉君と速水さん。君達が持ちなさい。烏間先生はまだ精密な射撃が出来るまで回復していない以上、今もっともそれを上手く扱えるのは君達です」

 

確かにそれは言えてるが・・・いきなり実銃持たせるのか?

 

「ただし!先生は殺すことは許しません。君達の腕前なら、殺さずとも倒すことは出来るはずです」

「「・・・」」

(2人共、何か迷ってるな)

 

恐らくはさっきの暗殺の狙撃を失敗したからか。2人に無理なら誰にも無理だったと思うがな。

 

「心配しなくていいよ、2人共。いざとなったら僕と太陽が何とかするしね」

「気負う必要はねえ。俺達の中ではお前達が1番上手いんだ。自信持て」

「お、おう・・・」

「うん・・・」

 

頼んだぜ、2人共・・・

 

「さ、急ごう。タイムリミットまで、残り30分くらいだしな」

 

俺の言葉に全員が頷くのを確認してから俺は8階への階段を上った。

 

(敵が雇った殺し屋があの2人や威月達が戦った奴らだけとは思えんし、もしかしたら銃の使い手もいるかもしれねえな・・・)

 

そう思いながら、俺は8階入り口の扉を開けた―――――




いかがだったでしょうか。

杉野は大賀を親友だと思い、自分の好きな女の子がその親友の事を好きな為に自ら諦めるという立ち位置にしました(この作品で杉野の事を友人って呼ぶのは大賀だけです)

杉野ってE組男子の中ではかなり好きなタイプなんで、単純に失恋させたく無かったし明るく立ち直ってほしいので・・・

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十七時間目 チャンスの時間

皆さんどうも籠野球です。

いやー暑い・・・昼間に寝るのはしんどいですね(笑)

皆さんも体調管理しっかりと頑張って夏を乗りきって下さい!!




・・・クーラー買おっかなー

それでは、どうぞ!!



太陽side

 

 8階のフロアは映画館にあるような椅子が半円に並び、その先にステージがある造りとなっていた。

 

「ここは?」

「どうやらコンサートホールとなっているようです。あのステージの横にある扉から9階に行けるみたいです」

「サンキュー、律」

 

・・・敵の気配はしないな。ここにはいないのか?

 

・・・!!太陽、誰か来る

「(やっぱり簡単にはいかんか・・・!!) 

全員椅子の影に隠れろ!!

 

登志の言葉を聞いての俺の指示に、全員が散り散りに椅子の影に隠れた。

 

ガチャ スタスタ 「ハァ・・・俺がガキのお迎え。クソ不味い、やっぱり美味ぇのは銃だけだ・・・」 パク

 

そう言いながら入ってきた男はステージの上で銃を咥えた。・・・何かまた変な奴だな。

 

スタスタ・・・ピタッ 「・・・・・16、いや17匹か。驚いたな、動ける全員で乗り込んで来たのか」

(やはり気づかれるか・・・変人でも一流か)

 

男は口から拳銃を引き抜くと、後ろの照明に向けて一発撃った。途端に轟音が鳴り響き、殆ど全員が耳を塞いだ。

 

「言っとくが、このホールは完全防音だ。おまえら全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねえ」

スッ (! 撃つのか、速水!?)

 

その時、俺の横で座席の隙間から速水は銃を構えた。でも確かに、まだ俺達が銃を持ってると敵が知らない今は絶好のチャンスかも・・・

 

「おまえら人殺しの準備なんてしてねーだろうし、おとなしくボスに頭下げとけ(バァン!!) なっ!?」

う・・・銃を狙ったのに・・・!!

 

言葉の途中で放たれた弾丸は男の後ろの照明に当たった。外したか・・・

 

「・・・なるほどな。下の連中の銃を奪ってきたって訳か・・・暗殺の訓練を受けた中学生・・・か」

切り替えろよ、速水。こっからが本番だぞ!!

う、うん!!

 

敵はもう油断なんかしねえ。ここからは、戦いだ!!

 

「(グイッ)いーね、意外と美味え仕事じゃねーか!!」

(眩しっ!?ステージの照明付けやがったな!!」

 

男の背後の照明が点灯し、逆光で一気に見づらくなった。銃持ち相手にキツいな・・・!!

 

「(チュバッ) 今日も元気だ、銃が美味え!!」

「!! 速水、危ねえ!!」 

ドンッ!! 「キャッ!?」

 

口に咥えていた銃身が速水の方を向いたのが辛うじて見え、俺は慌てて速水を突き飛ばし、その勢いを利用して俺もその場を離れた。

 

ドンッ!! (!! 速水のいた場所をピンポイントに!!おまけにこんな座席の隙間を通しやがったのか!!)

「すまねえ、ちょっと強く突き飛ばしすぎた。大丈夫か!?」

「ありがとう、神木」

 

様子を見るに、特に怪我もしてないな。危なかった・・・

 

「一度発砲した敵の位置は絶対忘れねえ。お前ら2人は、もう一歩もそこから動かさねえぜ。

・・・さあて、お前らが奪った銃はもう一丁あるはずだが」

(コイツ・・・一対多数の戦闘に慣れてやがるな・・・!!どうする・・・!?)

 

明らかにさっきまでの2人よりも強いこの男に勝つ方法を考えていたその時だった。

 

「速水さんはそのまま待機!!今、撃たなかったのは賢明です、千葉君!!君はまだ位置を悟られていない!!先生が指示を出すので、チャンスがくるまで待つのです!!」

(これは・・・殺せんせーの声。いったいどこから見てんだ?) スッ

 

俺は静かに隙間から顔を出すと、最前列の座席が1つだけ開いているのが見えた。・・・まさかあそこに?

 

「テメー何かぶりついて見てんだ!!」 ズキュン!!ズキュン!!ズキュン!!

キン!!キン!!キン!! 「ヌルフフフ。無駄ですねぇ。これぞ完全防御形態の真骨頂!!」

 

男がその座席に銃を乱射したのを見て、俺は確信した。何であんな所に座ってるのかはこの際、置いとこう。

 

「中学生が射撃の名手に挑もうというのです。これくらいの視覚ハンデはいいでしょう?」

「・・・チッ、その状態でどうやって指示すんだよ?」

「では木村君、5列左にダッシュ!!」

 

殺せんせーの指示で木村は左へと素早く動いた。突然の動きに男が驚く中、殺せんせーは続けざまに指示を出した。

 

「寺坂君と吉田君はそれぞれ左右に3列!!」

ババッ 「なっ・・・」

「死角が出来た!!この隙に茅野さんは2列前進!!」

 

次々と指示を出して混乱させるのはいいが、名前で呼んでばっかりじゃいずれバレるんじゃ・・・?

 

そう考えていたその時、殺せんせーは指示の仕方をガラリと変えた!!

 

「出席番号18番!!右に1で準備しつつそのまま待機!!」

「へっ」 ササッ

岡野(5番)片岡(7番)はイスの間から標的(ターゲット)を撮影し、律さんを通して様子を千葉君に伝達!!」

(なるほど・・・俺達にしか分からない情報で。これなら分かるわけ無いわな)

矢田(ポニーテール)は左前列へ前進!!登志(剣士)も左前に2列進めます!!最近竹林君イチオシもメイド喫茶に興味本位で行ったらちょっとハマりそうで怖かった人と、夏休みの最初に誕生日プレゼントとして倉橋さんにキスのプレゼントを貰った人!!攪乱の為、大きな音を立てる!!」

ガンガンッ!! 「何で知ってんだテメー!!」

ガガガン!! 「タコ後で覚えとけよ!!それと皆、興味津々な顔で見るな!!」

 

俺と寺坂が若干ダメージを負った事以外は、順調に敵を攪乱していった。奴は恐らく千葉を見つける事に専念してるだろうな。

 

「・・・さて、いよいよ狙撃です、千葉君。先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。速水さんは状況に応じて彼のをフォロー、敵の行動を封じるのが目的です」

「・・・っ!!」

 

俺のいる場所からは、千葉がよく見えた。銃を握りしめてかなり不安そうだな・・・横にいる速水にも緊張しているのが雰囲気で分かった。

 

「・・・が、その前に感情をあまり表に出さない仕事人の2人にアドバイスです。君達は先程の先生への狙撃を外した事で・・・自分達の腕に迷いを生じている」

(・・・さっすが、よく分かってるな。)

「言い訳や弱音を吐かない君達は・・・勝手に信頼を押しつけられる事も、苦悩していても誰にも気づいてもらえない事もあったでしょう」

 

思うところがあるのか2人は黙ったままだった。そんな2人に諭す様に殺せんせーは続けた。

 

「でも大丈夫。君達2人が外した時は銃も人もシャッフルして、誰が撃つかも分からない作戦に切り替えます。君達の横には同じ経験を持つ仲間がいる、安心して引き金を引きなさい」

 

・・・こういう所がこの先生のズルいところだ。生徒が1番欲しい言葉を真っ直ぐに言ってくれる。

 

「お前ら2人で無理なら、誰も文句は言わねえ!!ぶちかませ、2人共!!」

「「・・・(カチッ・・・)」」

 

俺の言葉に千葉も速水も何も返さず、銃の撃鉄を起こしただけだった。腹括ったみたいだな!!

 

「では、いきますよ。出席番号18番!!立って狙撃!!」 バッ!!

「ビンゴォ!!」 ドオン!!

 

殺せんせーの声に反応して椅子から飛び出した影を、予想していたのか間髪入れずに男は額を撃ち抜いた!!・・・が、

 

「なっ、人形!?」

「ふー・・・音も立てずに作るのは疲れたぜ・・・」

 

その影の正体は菅谷が作った人形だった。この短時間で良く作れるな・・・

 

分析の結果、狙うなら()()一点です

「オーケー、律」 ドキュゥン!!

 

律とのそんなやりとりと共に、千葉の拳銃から一発の弾丸が発射された。

 

「・・・フへへ、外したな」

(!! 今の、銃を狙っていない?じゃあどこを・・・?)

「これで2人目の場所が・・・(ゴッ!!)!?」

 

男の言葉は最後まで発せられなかった。何故なら、天井の照明が男に直撃したからだ。

 

(つ、吊り照明の金具を撃ち抜きやがった!?千葉の奴、何て射撃の腕してんだよ・・・!!)

「く・・・そが・・・」

ズキュッ!! ビシッ

「ふーっ・・・やぁっと当たった」

 

その状態でも銃を構えた男の拳銃を速水が弾き飛ばしてそう呟いた。千葉といい速水といい、流石の仕事人コンビ!!

 

「よっしゃ!!ソッコー簀巻きだぜ!!」

 

それを見た寺坂はガムテープを手に、男に向かっていったが・・・

 

「ガアァァァ!!」

(拳銃!!まだ武器隠し持ってたか!!)「寺坂!!」

「うっ!?」

 

男は左手で腰から抜いた拳銃を寺坂に突きつけていた。やべえ、間に合わねえ!!

 

ドンッ!! 

「ハァ!!」 バコン!! 

ドオンッ!! 「何っ・・・!?」

 

しかし、そのピンチを救ったのは登志だった。一瞬で男の懐へと潜り込み、木刀の柄で男の腕を上にかち上げた事で寺坂に飛ぶはずだった弾丸は上に逸れた。

 

「フッ!!」 ゴッ!!

「う・・・ご・・・」 バタッ

 

登志はそのまま柄を一度戻し、今度は男の脇腹へと柄を突き刺した事でようやく男は倒れた。

 

「油断しちゃ駄目だよ、寺坂君。敵は殺し屋なんだから」

「お、おう」

 

流石、登志・・・頼りになるな。

 

「無茶をさせる・・・肝を冷やしたぞ」

「そうですねぇ、確かに最後は少し焦りました」

 

男をグルグル巻きにしている中、烏間先生は殺せんせーにそう話しかけていた。まあ、確かに危ない戦いではあったな・・・

 

「ですが、どんな人間にも殻を破って大きく成長出来るチャンスはあります。でも、1人ではそのチャンスを活かしきれない事はよくあるのです」

(まあ、確かに仲間がいるのといないのとでは違うかもな)

 

俺も「ひまわり」の皆やE組メンバーがいるから頑張れる、みたいな時があるしな。

 

「だからこそ、生徒の成長の瞬間を見逃さず、高い壁や良い仲間をすぐに用意出来る教師になりたいんですよ」

 

殺せんせーらしい考えだな、嫌いじゃねえ。

 

「・・・うし、出来た」

 

そう考えていたその時、男をグルグル巻きを終えた吉田がそう呟いた。

 

「伊勢、さっきは助かった。サンキューな」

「気にしなくていいよ。今、無事ならね」

 

寺坂の礼にも登志は笑ってそう返すだけだった。俺も同感だな、怪我するよりはずっといい。

 

「さ、済んだなら行こうぜ、皆。もう二十分くらいしか無いしな。」

「「「「おう!!」」」」

 

そう皆に檄を飛ばしてステージ横の扉を開けた。その先に死闘が待っているとも知らずに―――――




いかがだったでしょうか。

千葉と速水のスナイパーコンビはかなり好きです!!

いきなり本物の銃、使っての精密な射撃とか、どんだけ凄いんだよ!!と当時はツッコんだ記憶があります(笑)

それと、この話で「太陽とひまわりの仲間達との暗殺教室」も50話になりました!!

こんな小説を読んでくれてる方々、本当にありがとうございます!!

駄作なのは今も昔も変わりませんが、是非これからも読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十八時間目 人斬りの時間

皆さんどうも籠野球です。

タイトルからも誰が戦うかは分かると思います(笑)只、この話はちょっと後書きにも出来たら目を通して下さい。

それと、前回の話でUA数が10000を突破しました!!(活動報告でも簡単にですが、報告してます)

本当にありがとうございます!!これからも読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

ギイィィィ・・・ 「ここは・・・何だ?ホールみたいだが・・・」

 

 9階の大きな扉を開けてみると、そこには正方形のだだっ広い空間が広がっていた。床の絨毯やシャンデリアを見る限りは豪華な部屋だが・・・

 

そんな俺の疑問に、律が答えてくれた。

 

「どうやら、VIPの方が密会やパーティ等に使用する目的で作られた部屋みたいですね」

 

なるほど、確かに部屋の両端には質の良さそうなテーブルや椅子が並べられているな。

 

「・・・!!(ガシッ)」

「どうした、登志?」

 

その時、部屋に入ってきた登志が刀に手をかけたのを見て、俺は警戒しながら問いかけた。敵の気配は特には感じないんだが・・・

 

「皆、気をつけて。この部屋、何か変な雰囲気がするんだ。」

「変な雰囲気?」

「何て言うか・・・剣士の雰囲気を感じるんだ。」

 

登志曰く、剣士には剣士だけが放てる独特の殺気のような雰囲気があるらしい。俺にはさっぱり分からんな・・・

 

「「「・・・」」」

 

皆が登志の言葉に部屋の中の警戒を始め、俺も周りを見渡すが・・・

 

(ダメだ・・・分からねえ。敵が本当に剣士なら、登志にしか分からないのかもな・・・)

「うーん・・・よく分からないな・・・」

 

そう言いながら烏間先生に肩を貸している磯貝がテーブルの置いてある場所に背を向けたその時だった。

 

「・・・!!磯貝君、後ろ!!」

「えっ・・・(バキィ!!)・・・!?」

 

登志のそんな声と、磯貝の背後のテーブルの1つを割りながら登志同様和服の男が飛び出すのは同時だった。

 

「まず1人!!」 ブンッ!!

ドンッ ザクッ!! 「くっ・・・」

「「「「烏間先生!!」」」」

(速い!!さっきまでの奴らとは桁違いに!!)

 

咄嗟に磯貝を突き飛ばした事で磯貝は無事だったが、代わりに烏間先生の腕が切られたみたいだった。

 

「ふ・・・人を斬る。この感触がたまらない。」

(コイツ・・・人を斬る事を楽しんでやがる!?)

 

明らかに手練れのこんな奴相手に素手じゃ勝てねえ!!何か無いか!?

 

(・・・っ、アレだ!!)

「さて、満足に動けば無いみたいだし、まずは「くたばれ!!(ブンッ!!)」

 

膝を着いている烏間先生に気を取られてる男の横からインテリアの甲冑が持っていた槍を(先端は流石に避けたが)をバットの様に側頭部に叩き込もうとしたが、

 

ガキィ!! 「ほう・・・中学生と聞いていたが、中々気概のある奴もいるみたいだねぇ」

(クソッ!!当たらんか・・・)

 

手に持った日本刀で俺の一撃は簡単に受け止められた。

 

男は俺の一撃なんて関係ないかの様に周りを見渡した後に笑みを浮かべ、

 

「・・・17人か、楽しみだねぇ。お前らは何て言って死ぬのかな?」

(コイツ・・・最初から俺ら全員殺す気でいやがる!!)

「皆、一旦下がれ!!コイツはやべえ!!」

 

皆もそう感じていたのか、全員が男から距離を取ろうとした。

 

「逃がしはしない!!」 ギロッ!!

ドンッ!! 「何っ!?」

 

男の目が一瞬だけ光ったように見えたその瞬間、俺は身体が急に重くなるのを感じた。

 

「えっ・・・何これ!?」

「何だ、身体が動かねえ・・・!!」

(!? 皆も動きが止まっただと!?)

「まずはお前「飛天御剣流 龍翔閃(りゅうしょうせん)!!」 !!」

 

俺に振り下ろそうとした男の刀は、一瞬で男に下の潜り込んだ登志に向かって振り下ろされた。そして登志も、右手を刀の峰に手を当て、跳躍しながら男の顎に木刀を斬り上げていた。

 

カッ!! 「むっ!!」

スタッ 「飛天御剣流 龍巻せ・・・」

 

お互いの刀がぶつかると同時に、登志の刀の威力が予想以上だったのか男は体勢を崩され、登志は素早く着地して直ぐさま二撃目を放とうとした。

 

グイッ 「きゃあ!!」 「桃花ちゃん!!」

「う・・・」 ピタッ

 

しかし、男は近くにいた矢田を抱きかかえて後ろに下がった為、登志も攻撃を止めるしかなかった。

 

プッ!! 「!! 登志!?」

「大丈夫、目の下を薄く斬られただけだよ」

 

いきなり顔から血が出始めた登志に驚いたが、登志は血を拭いながら冷静にそう返しただけだった。

 

「・・・まさか、実際にお会いする事になるとはね」

「!! この人知ってるのか、登志!?」

「剣士なら知らない人はいないよ」

 

登志は木刀を右手に持ったまま俺達に向かって話し出した。

 

悪原(あくばら) 鬼平(きへい)、縮めて悪鬼(あっき)。金を貰って殺しを引き受ける、闇の世界では有名な人斬りだ。女、子供相手でも容赦しない非常に残忍な性格で、依頼に関係なく強い敵を見たら殺し合いたくなるという危険人物でもある。特に危険視されている理由としては、その奥義にあると言われている」

「奥義?」

「通称"(しん)一方(いっぽう)"、目を見た敵を威圧して動きを止める技らしい。その技で、多くの屍を気づいてきたとの事だよ」

 

それで全員、動きが止まったのか。とんでもねえ技を使いやがるな・・・

 

「俺も知っているぞ。飛天御剣流、幕末最強の剣士、人斬り抜刀斎が使用したとされる、その名の通り空を跳躍したりする技を持った神速の殺人剣と」

 

そこまで言った後、悪鬼は「だが、」と呟きながら首をかしげ、

 

「妙だな?飛天御剣流は一族の技で、5()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()との噂で・・・当時そいつは15歳だった筈だがな」

「あ、あの事件?」

「・・・」

 

初めて聞いた事にクラスの皆は一斉に登志を見た。俺は登志に聞かされてたから知っていたが・・・

 

「・・・待てよ?そういえばこの噂にはもう1つ噂があったな。事件当時、まだ10歳に満たない一族の末裔も生きているとの噂。こっちの信憑性は低かったが・・・なるほどな、貴様がその噂の子と言う訳か!!」 ギロッ!!

「登志!!」

 

俺達同様に男に心の一方を喰らい、登志は一瞬だけ止まったが・・・

 

「(すぅ・・・)ハアアァ!!」 パシイィン!!

「・・・自力で解いたか」

「太陽!!心の一方っていうのは、簡単に言えば敵に暗示をかける一種の催眠術の様な物。自らの精神をかき乱す位の気合いを入れれば解く事が出来る筈だよ!!」

 

気合いを入れる・・・そう聞いた俺は目を閉じ、一旦精神を落ち着かせ・・・

 

「っらあぁ!!(パアァン!!) ハァ・・・ハァ・・・なるほどな。」

「ほう・・・中学生で解ける者がいるとは・・・貴様も中々の腕前だな」

 

そこまで言った後、悪鬼は登志へと刀を向けた。

 

「お前の言った通り、俺は強い奴に興味があってな。ましてや、幕末最強の剣士、飛天御剣流を扱う人斬り抜刀齋の末裔。斬り合いたいと思う気持ちは剣士ならおかしくないだろ?」

「登志。一応聞くんだが、この戦いを避ける方法はあるか?」

「無理だろうね。あの人は僕を完全にターゲットに定めてるし、心の一方は簡単には解けないよ」

 

だろうな・・・烏間先生も傷は浅いだろうけど、本調子じゃ無いしな。

 

「仮に皆が心の一方を解いてここを突破できても、敵の手に渡っている矢田さんはかなり危ない」

「だな・・・戦うしかねえな」

「太陽は、動けない皆を守ってあげて。あの人とは・・・僕が戦う」

「気をつけろよ、登志。多分コイツ、俺達が今まで戦ってきた相手とは群を抜いてヤバいぞ・・・!!」

 

俺の言葉に頷くと、登志は男に向かって一歩踏み出した。それを見て、男は矢田を後ろへと放り投げた。

 

「痛っ・・・」

「言っておくが、全員無事に通りたければ俺を倒すしか無い。戦いの最中にこの女を助けにいく素振りを少しでも見せたら・・・分かってるな?」

「ええ、そのつもりですから」 スッ

「いいだろう。だが、そんな木刀(得物)で俺と戦う気か?殺し合いが出来ないだろうが」

 

確かに、真剣持ってる相手に木刀じゃ分が悪いが・・・

 

「当然です、僕は貴方を殺す気はありませんから。そうでなくても、僕は飛天御剣流で人は殺しません」

「おいおい、冗談だろう?幕末最強の人斬りが操った殺人剣を扱いながら人を殺さないなんて」

「別に何と言ってくれても結構です。僕は僕の飛天御剣流で戦います」 スッ

「・・・まあすぐ気づく事になるだろう、己の甘さにな」 スッ

 

そんなやりとりをしながら、2人は構えた。俺達には、ただ見守るしか無かった。

 

「来い」

「ハアッ!!」 ドンッ!!

 

悪鬼の声に反応して、登志は加速して男に接近すると木刀を男の脳天に向けて振った。

 

ガッ!! 「フッ!!」 シュッ!!

 

しかし、悪鬼は軽々と受け止めるとそのまま手首を返して刀を登志の脇腹に向けて振り下ろした。

 

「ハッ!!」 カシィ!!

 

だが、男が刀を振るよりも早く刀を戻していた登志も、その攻撃を簡単に受け止めてみせた。

 

「ハアァァァ!!(フハハハハ!!)」 カカカカカン!!

 

そこからはお互いの凄まじいせめぎ合いだった。木刀と真剣がぶつかる音がするくらいで、刀の動きはどちらの動きも全く見えなかった。

 

「すげ・・・伊勢の野郎、よく木刀で真剣と戦えるな・・・」

「恐らく自ら微妙に身体と木刀の軸をずらして、払うように受けてるんだ」

 

じゃないと、登志の刀が一方的にダメージ受けちまうからな。

 

「フフフ(ギロッ!!)」

「!!」

(野郎また!!)

「ハッ!!」ブオンッ!!

 

再び心の一方を登志にかけてから、悪鬼は横薙ぎに刀を振った。

 

「ハア!!(パンッ!!) フッ!!」 タンッ

スカッ 「むっ!!」

「効かないと言った筈だ!!」

 

しかし登志は素早く術を解き跳躍して攻撃を躱すと、

 

「飛天御剣流 龍槌閃!!」

ドカンッ!! 「ぐっ・・・」

「当たった!!」

 

勢いを利用した登志の技は悪鬼の右腕に直撃した。

 

スタッ 「浅いか・・・」

「なるほど・・・腐っても飛天御剣流の使い手というわけか」

 

感心したように男は呟いていた。まだまだ余裕そうだな・・・

 

(・・・相手は間違いなく強い。だが、()()には入ってくれるなよ・・・登志)

 

そう願いながら、俺は登志を見つめた。

 

 

 

登志side

 

(充分な跳躍が出来なかったから、今の一撃は入りが浅かったな・・・)

 

 心の一方を解除した後に素早く跳んだからな、龍翔閃にするべきだった。

 

「さて、貴様の強さもある程度は把握したし、今度はこっちから行かせてもらうぞ」 ダンッ!!

 

・・・悔やんでてもしょうがない!!もう一度、隙を作り出すまでだ!!

 

「ハア!」 シュッ!!

(まずは、左手での刺突!!) スカッ!!

 

僕は右に避けて躱した。よし、攻撃は見えてる!!

 

「せい!!」 ブンッ!!

(そして、右手に持ち替えてからの右薙!!) スッ!!

 

僕から見て右からの横薙ぎの一撃を僕はしゃがんで避けた。

 

「ホッ!!!」 ブオンッ!!

(そんな僕にそのまま右手で唐竹(上)からの、切り落し!!)

 

予想通り上から刀を振り下ろしてきた男の刀、目がけ・・・

 

「飛天御剣流 龍翔閃!!」 ゴカンッ!!

「う・・・」

 

さっきと同じように刀を下からかち上げた。その衝撃で、男の刀は右腕ごと上に持ち上げられた。

 

(よし!!刀が戻ってくるよりも先に着地して龍巻閃を「フッ(グルンッ)(パシィ)」 なっ!?)

 

しかし、この人は素早く右手と左手を背中で合体させることで、左手に刀を持ち替えていた。

 

「!! ヤバい!?躱せ、登志!!」

(くっ・・・) 「フハハ!!」

 

太陽の声が聞こえたが、地面に足が着いてない僕では躱すことは出来なかった。

 

ザクッ!! 「うぐっ!?」

「登志!!」

 

串刺しは辛うじて避けたものの、右肩を掠める様に刺さった刀による焼けるような痛みに僕は思わず膝を着いた。

 

「動きを読んではいたみたいだが、背車刀は初めてみたいだな。おまけに、その技は着地するまでの間に一瞬だけ隙が出来る」

(この人、何で飛天御剣流の技の対策を・・・ぐっ)

 

クソッ・・・血が止まらない、思ったよりも傷が深いかも・・・

 

「やはり、殺さないなんて甘い事を言うお前では話にならんな・・・どうすれば本気を出す?」

 

そう言うと、この人は辺りを見渡し、やがて矢田さんに視線を向けて、

 

「・・・やはり、怒ってもらうのが1番手っ取り早いか」

「何を・・・」

「フフフ」 ギロッ!!

 

男はさっきみたいに心の一方をかけた。

 

「!! ・・・か・・・は・・・」

「と、桃花ちゃん!?」

 

すると、矢田さんは突然痙攣したと思った次の瞬間、喉に手を当てながら苦しみ始めた。明らかに普通じゃない様子だった。

 

「!! 矢田さんに何をしたんだ!?」

「心の一方を強くかけたのさ。肺が麻痺をして呼吸が出来なくなる位にな」

「なっ、何だと!?そんなことをしたら!?」

「当然、死ぬな」

 

烏間先生の言葉に、男は笑いながらそう返しただけだった。

 

「そ、そんな!?」

「せいぜい持って数分程度、お前やそこのアイツ程の手練れでも無いこの小娘に解くことは出来んぞ」

 

その言葉に僕は血が沸き立っていくのが分かった。

 

「お前・・・矢田さんはただの女の子なんだぞ・・・!!戦う力なんて殆ど無い、ただの・・・!!」

 

自分でも声が震えているのが分かった。自分の感情が押さえるのが精一杯だった。

 

「見れば分かる」

 

しかし、僕に帰ってきたのは、そんな変わらない様子の声だった。殺す事なんて何とも思ってないかの様な声だった。

 

「悪鬼・・・!!」

「それに、貴様とて剣士の端くれだろう。言いたい事があるなら、その剣で語ったらどうだ?」

 

まだ僕は、ここまでは理性を保つ事が出来た。

 

「伊勢・・・くん・・・・」

 

でも、涙目で苦しそうに助けを求めるかの様子で僕の名前を呼ぶ矢田さんを見てしまったから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン・・・

(僕は・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン・・・

(この人を・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン!!

(―――殺す)

 

 

 

渚side

 

ブオンッ!! ドゴン!! 「グオッ!?」

「「「「!?」」」」

 

 いきなり男のお腹に木刀を叩き込んだ伊勢の動きが、僕達には見えなかった。それほどまでに今の速さはさっきまでとは桁が違った。

 

「(パシンッ) !! 身体が動く!!」

「ほ、ホントだ!!」

 

男が吹っ飛ばされたお陰か僕達にかけられていた心の一方は解けたみたいだった。

 

「伊勢、大丈・・・夫・・・」

 

すぐに伊勢に声をかけようとした僕は言葉を失った。何故なら、伊勢はさっきまでとは雰囲気がまるで違ったからだ。

 

「フハハ!!ようやく呼び起したか!!これこそが、飛天御剣流!!これでこそ、人斬り抜刀斎の子孫!!」

「すみませんが、()は貴方とノンビリ喋ってる時間なんて無いんですよ。殺してあげますから、さっさとかかってきて下さいよ」

 

お、俺・・・?しかも・・・殺す!?

 

「・・・マズいです、烏間先生、殺せんせー」

 

その時、太陽が伊勢を見ながら口を開いた。その顔はこれまで見た事が無いくらい焦りの表情を浮かべていた。

 

「今の登志は・・・()()()()




いかがだったでしょうか。

というわけで、登志覚醒です。

そして謝罪したいのは、読んだ事ある方ならご存知だと思いますが、「るろうに剣心」の敵キャラの1人と流れがほぼ一緒です(勿論、細かい設定や部分は微妙に変えてはいますが・・・)

理由といたしましては、作者が剣術について微塵も知識が無いからです・・・捻りが無くてホント申し訳ありません・・・
m(_ _)m

こういうのがマズいのかが分かんないので、その時は教えて頂けたら幸いです。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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四十九時間目 抜刀斎の時間

皆さんどうも籠野球です。

一応何も言われたりもしていないので、とりあえずは書いた通りにやってみたいと思います(誰もこの小説に興味無いのかもしれませんが(笑))

まあ、ダメな時は消せばいいやと軽く考えています(笑)

それでは、どうぞ!!


渚side

 

「俺は貴方と喋ってる時間は無いんです。殺してあげますから、さっさとかかってきて下さいよ」

 

木刀を左肩に載せながら再び発した伊勢の言葉に、僕は聞き間違いでは無かった事が分かった。

 

「どういうことだ、太陽君!?登志君の身に何が!?」

「・・・登志はごく僅かですが、人斬り抜刀齋の血が流れています。普段は登志自身の精神力で押さえ込んでるんです」

 

そうか、伊勢は人斬り抜刀齋の子孫なんだっけ・・・

 

「でも、強い敵との極限なまでの命のやりとりをしている時や激しい怒りを覚えた時、登志は人斬り抜刀齋の血を呼び起こします。そうなった時、登志は自分の事を俺って言い口調が荒くなるんだ。まだ敬語を使ってる辺り、鍵をこじ開けた程度でしょうが・・・」

 

確かに太陽の言う通り、俺って言っている・・・

 

「・・・「ひまわり」に来た当時、精神的に不安定だった登志は俺達3人相手を敵と見なして一度だけああなった事があるんです。大賀は当時身体を鍛えては無かったけど、俺達は3人で登志と戦った」

「それで・・・どうなったの?」

「・・・登志を止める事は出来たが、大賀と威月は足と腕をそれぞれ1本折られ、俺は一週間意識を失った」

「「「「なっ!?」」」」

 

さ、3人がかりで!?

 

「俺らも1回しか見てないし、上手く説明するのは難しいんですが・・・はっきり言えるのは、今の登志は人斬り抜刀齋を呼び起こしかけていて、桁違いの強さの代わりに敵に対して一切の容赦を無くします」

「くっ・・・止める事は出来ないのか!?」

 

烏間先生の言った通り止めないとマズいんじゃ・・・

 

「おいおい、外野がジャマをするなよ。ようやく面白くなってきたんだからな」 チャキッ

「皆はそこで見ててよ。コイツ相手なら、俺1人で充分だからさ」 スッ

(ダメだ・・・2人とも続ける気だ!!)

「いくぞ、抜刀齋の子孫!!」 ドンッ!!

 

悪鬼は左手で刀を構えながら伊勢に突進していった。

 

「フハハハハ!!」 ヒュンヒュンヒュン!!

「・・・」 ババ!! カッ!!

(す、凄い・・・)

 

悪鬼もさっきよりも速くなっているのに、伊勢も軽々と3連撃の2撃を躱した後に鍔迫り合いになっていた。

 

ギリギリギリ・・・ 「フッフッフ、どうやら見切りの腕も上がっているみたいだな」

「無駄口叩いてる暇があったら、さっさと来て下さい」

「いいだろう!!」 ザッ シュッ!!

 

伊勢の言葉に悪鬼は一瞬で距離を取って左手で刺突を放った。

 

「・・・」 スカッ

「むん!!」 ブンッ!!

「ワンパターンですね」 バッ!!

 

左に躱した伊勢に、悪鬼は右手に持ち替えて横薙ぎに振ったが、しゃがんで伊勢は躱しながらそう言った。これは、さっきと同じ動き!!

 

「せいっ!!」 ブオン!!

ぐっ・・・ 「飛天御剣流 龍翔閃!!」 ガキンッ!!

 

そのまま振り下ろした刀をさっきと同じ技で伊勢は上にかち上げた。

 

(でも、それじゃあさっきと同じ!!)

グリュン!! 

 

そう考えていると、やっぱり悪鬼は背中で刀を右手に持ち替えて刺突を繰り出そうとした。危ない!!

 

「ハア 「(シュッ!!)」 ぐほっ!?」

「「「「!?」」」」

 

しかし、それよりも先に伊勢が左手の刀で刺突を頭に叩き込む方が速かった。その衝撃で2人の距離は再び開いた。

 

「何回も同じ手喰らう訳、無いでしょ?飛天御剣流を、俺を舐めないで下さい」

「フフフ、流石人斬り抜刀齋の血を持った子孫だ。強さも殺気も桁違いだな」

「死にたくなかったら、矢田さんにかけた心の一方を解いて下さい。それさえしてくれたら、命だけは勘弁してあげますよ」

 

伊勢のそんな提案は見ている僕達も同じ気持ちだった。誰も殺さない方が良いに決まってる。

 

「残念ながら、俺にももう解けん。解く方法があるとすれば、あの女が自力で解くか、俺を殺すしか無い。まあ、前者は不可能だろうが」

「・・・結局、貴方の息の根を止めるしか無いって事ですか」

チャッ 「そっちはもっと不可能だがな」

 

そう言いながら、悪鬼は刀を水平に構えた。いったい何を・・・?

 

「人は思い込む事で実際にそうなったように感じる。腹が減ったと思えば本当に腹が空くし、怪我を負ったと思えば身体が痛くなる。心の一方とはそんな心の隙を突いて相手を威圧し動けなくする技。思い込めば人間は本当にそうなる・・・そして、それは俺も変わらん!!」 ギロッ!!

(刀の刃の部分に自分の目を写した!?)

 

いったい何をするのか?そう思っていると・・・

 

「うおおおっ!!俺は、負けん!!」 ドクンッ!!

「!! な、何だこの感じ!?」

 

悪鬼のがそう言ったその瞬間、悪鬼の身体が大きくなったように感じた。

 

「・・・なるほど。自分自身に強力な暗示をかけて、自分を強化しているという事ですか」

「俺は、死なん!!」 ドクンッ!!

 

発せられる強烈なプレッシャーに僕は恐怖した。それほどまでにこの人が放つ殺気は強烈だった。

 

「うおおおっ!!」 ドクンッ!!

シュウゥゥゥ・・・ 「俺は、最強!!」

「こ、これは・・・」

「待たせたな。これが俺の最終奥義、心の一方"憑鬼(ひょうき)の術"」 ザッ

 

そう言うと悪鬼はテーブルのある場所に近づきながら刀を上で構えると、

 

ガガガガガッ!! (い、一瞬でテーブルが粉々になった・・・速さがさっきまでと比べものにならない!!)

「こいつを使って勝てなかったのは、たった1人だけだ。卑怯と言えばそれまでだが、使わせてもらうぞ」

「き、汚え・・・さっきまでよりも強くなったって事だろ・・・そんなんじゃもう伊勢に勝ち目は「構いませんよ」 !?」

 

吉田君の言葉を遮ったのは、他ならぬ伊勢だった。

 

「戦いに卑怯も汚いも無いですし、どんな技を好きなだけ使ってくれても俺は構いません」 スウゥゥゥ 

「む。」

カッ 「ですが、俺が殺すと言った以上、貴方の死は絶対です」

 

そう言いながら木刀を鞘にしまうと、伊勢は身体をやや半身にした。何だろう?あの構え。

 

「あれは、抜刀術の構えか!!」

「抜刀術?」

「別名"居合"、納刀した状態から鞘走りをさせながら抜き放つ日本刀を使った技なら最速の技で、登志が最も得意としている技だ」

「フッフッフ・・・ましてや、神速の飛天御剣流の抜刀術、ましてや今のコイツは人斬り抜刀齋の血を呼び起こした子孫。紛れもなく最速の剣だな。面白い!」

 

そう言うと、悪鬼は楽しそうな笑みを浮かべながら刀を構えた。2人の間の空気が再びピリッとなるのを感じながらも、僕は烏間先生に疑問をぶつけた。

 

「それで、伊勢は勝てるんですか?烏間先生」

「・・・分からんが、とても勝てるとは思えんな」

「えっ!?な、何でですか!?」

「その理由としては抜刀術というのは技の性質上、外した瞬間無防備になるからでしょうねぇ。達人の域のあの人なら躱しても不思議ではありません」

「おまけに、登志君の刀は木刀だ。あれでは充分な鞘走りは出来ない上に重い。どう考えても、登志君に分が悪いだろうな・・・」

 

殺せんせーと烏間先生は伊勢を見つめながらそれぞれ解説してくれた。でも、それじゃあ伊勢に勝ち目は・・・!!

 

「いえ、勝つのは登志です」

「! ・・・何故そう言い切れるんだ?太陽君」

「簡単な話ですよ」

 

厳しい表情でそう言った太陽は、伊勢を見つめながらこう言い切った。

 

「アイツが殺すって言った以上、それは絶対です。登志の殺すは・・・何よりも重いんです」

 

太陽はさっきからずっと冷や汗を流してる。その態度は、冗談で言っている様にはとても見えなかった。

 

「来て下さい、人斬り抜刀齋の技を見せてあげますよ」

「いいだろう、いくぞ抜刀斎の子孫よ!!」 ドンッ!!

 

悪鬼が桁違いの速さで突進し、2人の距離が縮まって伊勢の少し前にまで近づいた次の瞬間!!

 

「―――!!」

「ぐっ・・・」

 

目にも止まらぬ速さで抜かれた木刀が悪鬼の顔に迫った。分が悪いとはとても思えなかった。

 

「ぐおぉ!!」 スカッ!!!!

(躱された!?)

 

しかし、伊勢の刀は悪鬼の髪の毛を数本引きちぎっただけだった。躱す方も速すぎる!?

 

「(にぃ・・・)これで終わり(ゴキャッ!!)だ!?」

「「「「!!!!」」」」

 

悪鬼がそう言いかけた次の瞬間、伊勢は木刀の鞘で刀を持った右腕を抉っていた。生々しい音がする中、そのあまりにも素早い動きに僕達はただ呆然となった。

 

「さ、鞘での二段抜刀!!何て速さだ・・・」

ドサッ 「ぐ・・・お・・・」

()()()()() ()()()() 双龍閃(そうりゅうせん)木刀(こんな刀)が抜刀術に向かない事なんて言われなくても分かっています。抜刀術の全てを極めた男、それが俺の先祖が人斬り抜刀齋と呼ばれた由来です」

 

腕を押さえながら呻く悪鬼に、伊勢は淡々と説明をするだけだった。普段の伊勢ではありえない光景に、僕は立ち尽くすしかなかった。

 

「なるほどな・・・流石、人斬り抜刀齋の血を持つだけの事はある」

「腕の(すじ)を破壊しました。これで貴方の剣士生命は終わりです(スッ)そして、これで人生の終わりです」

「! ダメだ、登志!!今、殺したらお前はもう戻れなくなるぞ!?」

 

太陽のいきなりの叫びに、僕達は思わずビクンとなった。

 

「ど、どういうこと?」

「馬鹿野郎!!今の登志は人斬りの血を呼び起こしかけてんだぞ!!あんな状態で人を殺してみろ、あっという間に人斬りになっちまう!!」

「そ、そんな・・・」

「いけません、登志君!!そんな事、先生は許しません!!」

「俺は別に殺せんせーに許して貰わなくて結構ですよ」

 

伊勢は一度、僕達の方へと向き直りながら続けて聞いてきた。

 

「それに、ここでコイツを殺さなきゃ矢田さんは死んじゃいますよ?それとも、何か矢田さんを救う方法がありますか?殺せんせーに烏間先生」

「それは・・・」

「・・・無いなら黙ってて下さい。もう時間がありませんから」

 

そう言うと、伊勢は再び悪鬼に向き直った。

 

「そうだ、俺を殺さなきゃその女は助けられんぞ?冥土の土産にいいのを一撃くれよ」

「そうですね、貴方なんかにそんな物あげる気は無いですが、トドメの一撃はくれてあげますよ」

「登志・・・」

「・・・ゴメンね、太陽。やっぱり俺には、普通の暮らしは出来ないよ。俺が平穏な暮らしを望めば望むほど、人斬り抜刀齋の血が俺の宿命が邪魔をする」

 

しゅ、宿命?何の事だろう。悲しそうに微笑んだ伊勢の顔は、今まで見たこと無いくらい痛々しかった・・・

 

すると、伊勢はスッと顔を元に戻すと、

 

「待たせたな、悪鬼」

「ああ、俺に人斬り抜刀齋に一撃を味わせてくれ!!」

「っ!!」

「伊勢・・・ (ブンッ!!)

 

僕達が止めるよりも早く、伊勢は刀を振り下ろそうとして思わず僕達は目を閉じたその瞬間だった。

 

「ダメェーーーーー!!」 パアン!!

 

 

 

登志side

 

 ・・・俺の一撃は悪鬼に当たる直前で止められ、俺は思わず声が発せられた方を見て驚きながら呟いた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

「矢田・・・さん。」

 

そう、俺を止めた叫びは矢田さんが発した物だった。苦しそうに呼吸をしながらも矢田さんはしっかりと僕を見ながら話し出した。

 

「ダメ・・・だよ、伊勢くん・・・私の為なんかに殺しちゃ・・・」

「まさかあの女・・・自力で解いたというのか・・・?」

 

・・・何で、そんな涙目になりながら止めるんですか、矢田さん・・・コイツを殺さなきゃ、貴方は・・・

 

「登志、その男を殺せば確かに矢田は助かるだろう。ただし、矢田は死ぬぞ」

「!?」

「肉体的にじゃねえ、心が死ぬんだ。自分の為にクラスメイトに人殺しをさせてしまった・・・そんな思いを、矢田は一生背負っていく事になる。そんなの、耐えれる筈が無いさ」

「心が・・・」

「俺達だって、お前のそんな姿は見たくねえ。戻ってこい、誰よりも優しい普段のお前になってな」

「・・・」

 

俺は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふらっ・・・ 「!! 矢田さん!?」

 

突然、崩れ落ちそうになった矢田さんを見て、僕は慌てて抱きかかえた。

 

「大丈夫ですか、矢田さん!?」

「ハァ・・・ハァ・・・だ、大丈夫だよ伊勢くん・・・」

「よかった・・・」

 

呼吸も安定してきてる、本当によかった・・・

 

「伊勢くんこそ、大丈夫?肩、怪我したみたいだけど・・・」

「え?あ、はい。僕は大丈夫です」

「! やっと、また僕って言ってくれたね・・・」

 

笑顔を浮かべながらの矢田さんに言われて気がついた。いつの間にか言ってたな。

 

「戻ったな、登志」

「ゴメン、太陽・・・何も考えずに僕は・・・」

「戻れたなら大丈夫さ。とにかく今は(ゆらっ・・・) !! 登志!!」

「傷を負ったとはいえ、そんな小娘にまで破られるとはな・・・俺も衰えたもんだ」

「っ!!」 ギュッ・・・

 

刀を左手で持ちながら僕の背後に立った悪鬼に矢田さんは僕の服を握りしめたが・・・

 

「無駄です。利き腕を失った今の貴方に負けるほど、僕は弱くは無い筈です」

「フッ、そうだろうな。だから、この刀は戦うためじゃない。こうする為さ」 ブシュゥ!!

「「「「!?」」」」

(じ、自分の心臓を!?)

「ふーむ、何人もの心臓を刺してきたが・・・自分の心臓の感触は・・・また格・・・別・・・」 ドサッ

 

誰もが衝撃を受ける中、独りごちながら悪鬼は倒れた。

 

「お、お前。何で・・・」

「当然だろう?利き腕を失った剣士など、翼をもがれた鳥に過ぎん。そんな奴が生きていても仕方ない、だから死ぬ。それだけの事だ」

 

口から血を吐きながらも男は太陽の言葉にそう返すだけだった。

 

「悪鬼さん・・・」

「甘い男だな、お前は。さっきまでのお前は、俺が初めて負けた男にそっくりだったぞ。流石、同じ飛天御剣流を使うだけの事はある」

「えっ?」

「だが、そんな甘さを残す以上は、お前はあの男には勝てんぞ」

「あの男・・・?」

 

僕の呟きに、男は愉快そうに笑いながらその言葉を口にした。

 

「"龍志(りゅうじ)"はもっと・・・手強かったぞ?」

 

―――その言葉に、僕は自分の血が冷たくなるのを感じた。

 

何でこの人がその名を知っているのか?知っているなら今どこにいるのか?それらを聞き出そうとしたが・・・

 

「っ・・・死んだ」

 

僕が聞くよりも先に太陽のそんな言葉が聞こえた。

 

「・・・ケッ、よく分かんねーこと言いやがって。気にすんなよ、伊勢」

「・・・・・」

「伊勢?」

 

 

寺坂君の言葉すら僕の耳には入っていなかった。

 

龍志・・・「・・・くん」

 

龍志・・・!!「・・・勢くん」

 

僕は・・・貴方を止める為に・・・!!「伊勢・・・くん?」「っ!!」

 

その言葉で我に返り慌てて見渡すと、声をかけてくれた矢田さんを含めた全員が不安そうに僕を見ていた。

 

「大丈夫?伊勢くん。何か、思い詰めた顔してるけど・・・」

「あ・・・大丈夫です」 

 

僕は心を落ち着けようと、刀を鞘へとしまった。

 

カッ 「・・・ねえ、太陽。これでよかったのかな・・・?」

「ん?」

「僕も剣士だから、悪鬼さんの行動が間違ってるとは思わない。でも、自ら死を選ぶ必要があったのかな?」

「・・・さあな。俺は剣士じゃないから、この人の考え方があってたのかもよく分かんねえ」

 

「でも、」と太陽はひと呼吸入れると、

 

「結果的にはお前も矢田も生きている。今は、それを喜んだらいいんじゃないか?」

「・・・うん、そうだね」

 

そうだよな、とりあえずは矢田さんを助けることは出来たんだもんな。

 

「話が済んだのなら、急ごう。もう取引の期限まで10分弱しか無い。すまないが、登志君は歩きながら治療を受けてくれ」

「「「「はい!!」」」」

「分かりました」

 

烏間先生の号令で僕達は再び上への階段がある奥へと向かった。

 

タッタッタッ 「(ピタッ)・・・(くるっ)」

 

その途中で、最後尾の僕はもう一度だけ振り返った。

 

当然ながら、そこには仰向けで倒れている悪鬼さんの死体があるだけだった。

 

「・・・」

 

「龍志はもっと、手強かったぞ」最後に言ったその言葉を、僕はもう一度だけ思い出した。

 

(龍志・・・こんな所で、その名前が聞けるなんて)

 

今はまだ、貴方に追いついたなんて思っていません。ですが、僕は必ず貴方を止めてみせます。だから・・・

 

(待っていて下さい・・・()()・・・)

 

そう唱えながら、僕はもう振り返らずに上へと向かった。




いかがだったでしょうか。

悪鬼を殺すかどうかは迷いましたが、ここは剣士としての矜持を大事にしたかったので、こういう形にしました。

そして、同じと言っておきながらオリジナル要素です。まあ、一族の技とか言ってる時点でこんな流れを想像してた方もいるかもしれませんね(笑)

登志の過去について触れるのはもう少しだけ後になるので、ノンビリとお待ち下さい!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十時間目 黒幕の時間

皆さんどうも籠野球です。

申し訳ありません。ストック自体はあるんですが、若干のスランプで最新話があまり進んでないので日曜日だけにさせてもらいました。

来週からどうなるかは分かりませんが、とりあえず読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

スー・・・きゅっ 「ふうぅ~・・・まだ力半分だが、ようやく体が動くようになってきた」

「力半分ですでに俺らよりも強え・・・」

「やっぱりあの人だけで良かったんじゃ・・・」

 

 10階の階段付近に立っていた男の首を絞め落とした烏間先生を見て木村と片岡が呟いた。一発で男の意識刈り取ってるし、やっぱりあの人化けモンだな・・・

 

「・・・伊勢君、どう?肩ちゃんと動くかな?」

「(くいっくいっ)はい、ありがとうございます。茅野さん」

 

階段の踊り場では茅野に包帯を巻いて貰った登志が、肩を動かしながらお礼を言った。本人は大丈夫って言ってるが・・・

 

(利き腕の肩を切られてる以上は、あんまり戦わせない方がいいだろうな)

ごそごそ・・・ 「・・・ん?コイツは、カードキーだな。何で見張りのコイツが持ってるんだ?」

「どうやら、最上階のVIPルームの部屋の鍵みたいだな」

 

俺達が階段から来ることを本気で警戒してなかってか・・・舐めやがって・・・!!

 

「いや、舐められていた方が好都合だ。敵の油断を誘えるからな」

「・・・そうですね、隙を突けるならいくらでも舐められてやりますよ」

「フッ、その意気だ」

 

俺の言葉に烏間先生は微笑みながら立ち上がると、

 

「さあ、もう時間が無い。少しも動きが無ければ、流石に相手も警戒を強めるだろう。今から各自に役割を指示していく、まずは・・・」

(・・・ん?寺坂の奴、やけに足がふらついてるな・・・)

 

特にダメージを受けた訳じゃ無い筈なのに・・・

 

ぴたっ 「! 渚ッ・・・」

「・・・すごい熱だよ、寺坂君・・・」

 

!! 熱だと!?まさか・・・

 

「まさか、ウイルス(バッ)んっ」

「もしかして、お前もあのジュースを?」

「・・・黙ってろよ、お前ら・・・」

 

やっぱり・・・そんな状態でここまで来たのか!?

 

「俺ァ体力だけはあんだからよ、こんなモンほっときゃ治るんだよ」

「そんな、無茶だよ・・・」

「未知のウイルスな以上、簡単に治る訳がねえ。下手すりゃ死ぬぞ、お前!?」

「烏間の先公がガス浴びちまったのは・・・俺が下手に前に出ちまったからだ。ましてや俺は、前にクラス全員殺しかけたこともある。

・・・これ以上、足引っ張れるかよ・・・!!」

「寺坂君・・・」

 

そこまでの覚悟を、踏みにじる事は出来んか・・・

 

ぽんっ 「無茶だけはするなよ?戦闘は烏間先生と俺がやるからよ」

「おう・・・」

 

・・・何としても、治療薬を奪わねえと!!

 

 

 

 約束の時間まで5分くらいにまで迫った頃、ようやく俺達は最上階の扉の前に辿り着いた。

 

(ようやく、ここまで来たな・・・)

「太陽君、カードキーを。」

「はい」 スッ

 

 

烏間先生の指示を聞いて俺は扉の横に取り付けてある端末にさっきのカードキーを通すと、いとも簡単に扉のロックは外れた。

 

スウッ 「・・・結構だだっ広いですね。VIPルームだけはあるな」

「だが、遮蔽物は多い。気配を殺せば、かなり至近距離まで近づける筈だ」 くいっ

 

烏間先生はそう言いながら手でサインを出してきた。俺達全員は頷き、授業で習った歩き方に切り替えた。

 

スッ 「おお、"ナンバ"ですか!!実に綺麗に出来ている!!」

 

忍者も使ったとされる、手と足を一緒に前に出す事で服や靴の擦れる音を軽減出来る歩法。コイツを覚えてから音を立てる暗殺は減ってきてるもんな。

 

「行くぞ」

((((コクッ))))

 

決して慌てず、悲観せずに一部屋ずつゆっくりと確認していき、そして・・・

 

(いやがった・・・!!)

 

1番奥の部屋、標的(ターゲット)は背を向けて椅子に座っていた。男の脇には爆弾の様な物が付いたスーツケースが置いてあり、男の手元にはそれの起爆スイッチらしき物があった。

 

(こんな奴のせいで陽菜乃や皆は・・・)

チラッ (!! フー・・・落ち着け、打ち合わせ通りに行動するんだ)

 

俺達に確認するような烏間先生の視線に、俺は冷静さを取り戻した。

 

―――まずは可能な限り接近して、取り押さえられればベスト。

 

―――もし、遠い位置で気づかれた場合は烏間先生が男の手元を撃つ。それと同時に俺達が一斉に飛びかかる!!

 

(皆をあんな目に遭わせた恨み、一発ぶん殴ってやる!!)

 

そう思いながら握り拳を作ったその時だった。

 

「かゆい」

 

いきなりそう言った男に俺達全員が固まった。

 

「思い出すとかゆくなる。でも、そのせいかな。いつも傷口が空気に触れるから・・・感覚が鋭敏になっているんだ」

(てか、コイツの声・・・まさか!?)

 

すると、男はスイッチを大量にばらまいた。

 

「元々はマッハ20を殺す準備で来てるんだ。超スピードで奪われないよう、リモコンの予備くらい作るさ」

「・・・烏間先生」

「・・・連絡がつかなくなったのは―――殺し屋の他に()()にもいる。防衛省の機密費―――暗殺に使う筈の金を抜いて・・・俺の同僚が姿を消した」

 

憎悪が増してるがこの声、それに烏間先生の同僚・・・間違いない。

 

「・・・どういうつもりだ、鷹岡ァ!!」

「悪い子達だ・・・恩師に会うのに裏口から来るなんて、父ちゃんはそんな子に育てた覚えはないぞ」

 

顔にひっかき傷を大量に作った鷹岡は笑みを浮かべながらそう言った―――――

 

 

 

登志side

 

 僕達は鷹岡に言われるがまま、屋上へとやってきた。危険だけど、治療薬がかかっている以上は言う通りにするしかない。

 

「気でも狂ったか、鷹岡。防衛省から金を盗んで殺し屋を雇い、ましてや生徒達をウイルスで脅す愚行・・・」

「おいおい、俺は至極まともだぜ!!これで地球の危機は救えるんだからな」

「地球の危機を、救える・・・?」

 

僕のそんな呟きに鷹岡は渚君と茅野さんを指差し、

 

「俺の計画では、そこの茅野とかいう女を使う予定だった。部屋のバスタブに対先生弾を敷き詰め、そこに賞金首を抱えて入ってもらう。その上からセメントで生き埋めにするのさ」

「なっ・・・」

「対先生弾に当たらないように元に戻るには、爆発で吹き飛ばす必要がある。生徒思いの先生は、そんなことせずに大人しく溶かされてくれると思ってな」

 

悪魔か・・・この人!?あまりにも狂気じみた計画に、誰もが言葉を失っていた。

 

「・・・許すと思いますか?そんな真似を、私が」

「・・・これでも人道的さ。お前らが俺にした仕打ちに比べたらな」

 

仕打ち・・・?

 

「屈辱の目線とあの時の騙し討ちのナイフが頭ン中ちらつく度にかゆくなって、夜も眠れなくてよォ!!」

 

渚君との一騎打ちの事か・・・中学生に負けたとなれば、評価が下がるのは当然だろうな。

 

「ホントは俺に踵落としを喰らわしやがった九澄 大賀にも用があるが・・・潮田 渚、俺の未来を汚したお前だけは絶対に許さん!!」

 

水色の髪の男子ってわざわざ指定したのは、渚君に用があったからか!!

 

「完璧な逆恨みじゃねえか・・・」

「テメーが作ったルールで勝手に負けただけだろーが。言っとくが、俺等は渚が勝ってようが負けようが、テメーの事大っ嫌いだしな」

「ジャリ共の意見なんて聞いてねェ!!俺の指先1つでジャリが半分減るって事忘れるなよ!!」

「上等だ、お前がスイッチ押すのと俺がテメーをぶん殴るの。どっちが速えか試してみるか?」

 

額に青筋を浮かべながら太陽は指をボキッと鳴らした。太陽はそのまま一歩近づこうとして、

 

「!!」 ピタッ

「? どうしたの?太陽」

「誰だ?ヘリポートの上にいるのは?」

 

太陽の言葉に僕達は一斉に上を見た。すると、

 

「・・・ほう、もう一歩近づいたら頭をぶち抜く気でいたが・・・悪鬼を倒した辺り中学生離れしているとは思っていたが、ここまでとはな」

「なっ!?貴方は、石動(いするぎ) 万朶(ばんだ)!?」

「誰ですか?烏間先生」

 

拳銃を太陽に向けながらそう言った茶髪の男を見て、烏間先生が驚いた様子でそう言った。この人・・・強い!!

 

「通称"万屋(よろずや)"、日本で最強と呼ばれる殺し屋だ。そして、日本政府からの依頼は必ずこなす事を条件に特別に殺しを許可されている唯一の殺し屋でもある」

「なるほど・・・道理で強そうな筈だ」

「だが、一般市民を巻き込む仕事を許可されてはいない筈だ!!なのに何故ここに!?」

「この男が多額の金を積んできたからさ。日本政府の依頼は金にならん」

 

お金で裏切ったって事か・・・

 

「・・・鷹岡。あの男と戦いたい、アイツもここまで上がらせろ」

「ああ・・・潮田 渚と神木 太陽!!治療薬が欲しけりゃここまで上がってこい!!」

「渚、行ったら危険だよ・・・」

「・・・行きたくないけど、行くよ(ひょい)あれだけ興奮してたら何しでかすか分からないし、話を合わせて治療薬を壊されないように渡してもらうよ」

 

殺せんせーを茅野さんに預けると、渚君は鷹岡の方へと歩いていった。

 

登志。お前、あそこの資材でヘリポートまで跳べるか?

えっ・・・

 

その時、太陽が僕にしか聞こえないように声をかけてきて僕は周りを見渡した。

 

すると、ヘリポートのすぐ近くに鉄骨がブルーシートをかけられて置かれているのが見えた。

 

・・・ああ。うん、あれくらいなら

そうか・・・いざとなったら渚を助けてやってくれ

 

僕にそう言うと、太陽も鷹岡の方へと歩いていった。2人とも、気をつけて・・・

 

 

 

ブンッ 「これでもう、だーれも登ってこれねえ」

 

 鷹岡はヘリポートに上がるための階段を下へと放り投げた。ヘリポートにいるのは太陽と渚、それに鷹岡と万屋と呼ばれた男だけだ。

 

「潮田 渚、足元のナイフを取れ。この前のリターンマッチだ」

「待って下さい、鷹岡先生。闘いに来たんじゃ無いんです」

「だろうなァ。この前みたいな卑怯な手が使えない以上は、一瞬で俺にやられるのは目に見えてる」

 

・・・そこだけは、あの人と同意見だな。

 

「だが、一瞬で終わっても俺の気がすまん。だからこそ・・・今やってもらう事がある」

 

そう言うと鷹岡は指を地面に突きつけ、

 

「土下座しろ。卑怯な手で勝ってしまってすいませんってな」

「・・・」

 

渚君・・・

 

「・・・(スッ)僕は「それが土下座かァ!?頭こすりつけて謝んだよォ!!」

ぎりっ (太陽・・・)

 

膝をついた渚君に激昂しながらそう言う鷹岡に、太陽は今にも殴りかかりそうだった。恐らく、渚君が我慢しているからこそ、辛うじて堪えられてるんだろう。

 

「・・・僕は、実力が無いから卑怯な手で奇襲しました。

・・・ごめんなさい」

「おう、あと大人に偉そうな口、叩いた事もだ。生徒が教師に向かってだぞ!!」 グイ

「っ・・・生徒のくせに先生に生意気な口を叩いてしまいました。本当に、ごめんなさい」

 

土下座をした渚君の頭に足を載せる鷹岡に僕も思わず刀に手をかけた。それでも、何とか治療薬の為に渚君が我慢しているのに、僕が飛びかかる訳にはいかなかった。

 

「・・・(ニコッ)よーし、やっと本心を言ってくれたな。先生は嬉しいぞ」

「・・・」

「・・・ん?おい、何だその顔は神木?言いたい事でもあるのか?」

 

太陽は、さっきからずっと鷹岡と万屋を見ていた。その顔は、いつもよりもずっと険しかった。

 

「いや・・・あんな強い奴連れてきたアンタが、そう簡単に治療薬渡してくれるもんかと思ってな・・・」

(えっ・・・)

 

太陽の言葉に僕はギクリとなった。そうだ、僕達はあの人が渚君がああすれば助けてもらえると思ってたけど・・・

 

「フッフッフ、正解だ。神木」 ブンッ!!

「「「「なっ!?やめ・・・」」」」

 

笑みを浮かべながら投げられたスーツケースに僕達は思わず声を上げたが、その言葉が最後まで言い切られるよりも先に・・・

 

 

 

ドゥゥゥン!! (そ、そんな・・・)

 

・・・スーツケースは鷹岡の仕掛けた爆薬によって木っ端微塵になってしまった。皆を助けられる唯一の希望が・・・!!

 

「あっはっは!!そうだ、その顔が見たかったんだ!!あのウイルスで死んだ奴がどうなるか知ってるか!?全身がデキモノだらけになって顔面がブドウみたいに腫れ上がるんだ!!」

(・・・許さない!!あの男!!)

「はーっ・・・はーっ・・・(カチャッ)殺して・・・やる・・・!!」

 

!!渚君もナイフを拾った!!

 

「おーう、ようやく殺る気になったか。そのためにお前にはウイルスを盛らせなかったからな。何せおま(ドカンッ!!) グハッ!?」

 

そんな鷹岡の言葉を、太陽がぶった切った。鷹岡の顔面を殴り飛ばした事で鷹岡は吹っ飛ばされた。

 

「テ、テメエいきなり(ゴゴゴゴゴ・・・)・・・あ?」

「な、何だ!?太陽君の身体から何かが・・・あれは、蒸気?」

 

あ・・・あれは!!

 

「皆はここにいて下さい!!僕は太陽を止めてきます!!」

「なっ!?登志君!!」

(こんな所でアレを使わせたら・・・太陽は!!)

 

烏間先生の声を横に、僕は鉄骨に向けて走り出した―――――!!




いかがだったでしょうか。

というわけで、渚と太陽がそれぞれ戦います。

・・・しかし、いよいよ南の島編も終盤になってきました。南の島編が終わったら、1回小説を見直そうかなーとも考えています(今見ても誤字とか脱字多そうなんで)

それでは、また次回お会いしましょう!!




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五十一時間目 渚の時間

皆さんどうも籠野球です。

仕事が今ちょっと忙しいんですが・・・ストックがあるので今週は2話投稿したいと思います。

ま、ノンビリと書いていきたいと思います(笑)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

ゴゴゴゴゴ・・・ (身体が熱い・・・でも、抑えきれる気がしねえ!!)

「な、何なんだテメエ・・・」

「・・・鷹岡、お前は奴の相手だけしてろ。このガキ、只の中学生じゃねえみてえだ」

 

烏間先生や皆の声はおろか、目の前の2人の声もあまり聞こえなかった。

 

(陽菜乃・・・皆・・・こんな奴らのせいで・・・)

 

せめて・・・この2人は俺が・・・!!

 

スタッ 「熱っ!?・・・しっかりして、太陽!!」

「・・・登志・・・」

 

その時、登志がヘリポートの上に着地しながら俺にそう言ってきた。

 

「その人達が憎いのは僕達全員同じだよ!!でも、その人達を殺したって何も解決なんてしないよ!?」

「分かってるよ・・・んなこたあ・・・!!」

 

頭ではとっくの昔に分かっている。でも、身体が抑えられなかった。

 

(俺が・・・俺がコイツらをぶっ殺「チャリ」・・・!! 陽菜・・・乃)

 

首元を緩めようとした俺の手に触れたのは、陽菜乃がくれたネックレスだった。

 

―――「私は・・・これからもずっと太陽くんと一緒にいれたらいいな」

 

あの時の陽菜乃の言葉が頭に蘇った。

 

(・・・バカか、俺は。俺なんかにそこまで言ってくれた彼女を、俺が裏切ってどうする!?)

 

陽菜乃や皆がそんな敵討ちみたいな事、俺に望む筈がねえに決まってる!!だからこそ、俺はE組の皆が大切なんだ!!

 

(俺が・・・今やらなきゃいけない事は・・・)

 

 

 

登志side

 

ゴゴ・・ゴ・ (!! 太陽の身体から蒸気が収まった!!)

 

 何があったのか分からず、太陽をジッと見ていると・・・

 

「・・・ワリい、登志。もう大丈夫だ」

「っ、太陽!!」

 

振り返った太陽は、いつも通りの太陽だった。

 

 

「ったく、お前に偉そうに言っておきながら・・・俺もまだまだだな」

「何だ?蒸気が収まったな」

 

目の前の万屋が不思議そうに呟く中、太陽は僕に問いかけてきた。

 

「・・・登志、渚は?」

「・・・あ!!」

 

しまった!!渚君も危ない状況だったの忘れてた!!

 

「チョーシこいてんじゃねーぞ、渚ァ!!」

「!! 今のは・・・寺坂君?」

 

向こうも何かあったみたいだな・・・どうしよう。

 

「登志、この人は俺に任せてお前は下に降りてろ」

「・・・1人で大丈夫?」

 

この人も、さっきの悪鬼さんと同じくらいには強そうだけど・・・

 

「ああ・・・まさか、俺じゃ不安か?」

「!!(クスッ)ううん、全然」

クルッ 「皆を頼むな」

「任せてよ!!」 タタッ

 

そのやりとりで充分だった。僕は一瞬で2人から背を向けると、

 

「フッ!!」 タァン!!

 

今度は逆にヘリポートから飛び降りた。降りる方が簡単だな。

 

スタッ 「!! 登志君!!太陽君は!?」

「大丈夫です、もう冷静さを取り戻しました。それより、寺坂君はどうしたんですか!?」

「コイツ、ウイルスに感染してやがったんだよ!!今も凄え熱だ!!」

 

なっ!?そんな状態でここまで来てたって事!?

 

うるせえ・・・見るならあっちだ。

・・・やれ、渚。死なねえ範囲でブッ殺せ・・・!!

「・・・」

 

こっちを見下ろしている渚君からは、さっきまでの殺気が消えていた。

 

スッ 「・・・あれ?渚君が腰にしまったのってスタンガン?」

「うん、寺坂君が渚君に放り投げたの」

 

でも、腰に付けたって事は使わないのかな?

 

「ナイフ使う気満々で安心したぜ。スタンガンはお友達の為に一応拾ってやったって事か」

 

鷹岡はそう言うと、おもむろに懐から小瓶の様な物を取り出した。何だろう・・・何かの薬品みたいだけど。

 

「ちなみにだが、薬はここに3回分だけ予備があるが・・・渚クンが本気で殺しにこなかったり、下の奴等が邪魔しにきた時には、こいつも破壊する」

「くっ・・・」

「作るのに1ヶ月はかかるそうだ。人数分には足りないが最後の希望だぜ?」

 

手出しは簡単には出来ないな・・・

 

烏間先生。もう大分精密な射撃は出来るでしょう?渚君が危険と判断した時は、迷わず鷹岡先生を撃って下さい

(殺せんせーがそこまで言う程・・・でも、確かに危険だな・・・)

 

烏間先生曰く、本来殺し屋は戦闘はしない。むしろ、()()に相手が入る前に致命的な一撃を与える職業だからこそ、僕達もそれに絞って訓練させていると。

 

(悪鬼さん以外の3人は、それに入る前に倒せたけど・・・) スウ・・・

 

渚君は殺気を殺しながら鷹岡に近づこうとしたけど・・・

 

ズンッ!! 「あぐっ!? (ズシャァ) がはっ・・・」

「おら、どうした?殺すんじゃなかったのか」

 

強烈な蹴りをお腹に喰らった事で、渚君はいとも簡単に吹っ飛ばされた。

 

(今のあの人は、完全に軍人そのものだ・・・!!太陽ならともかく、渚君じゃ戦闘で勝ち目は無い!!)

「くっ・・・」 シャッ

スッ パアン!!

 

予想通り、渚君のナイフを鷹岡は余裕で受け流しながら開いた手で渚君の顔面に拳を叩き込んだ。

 

「しょ、勝負になんねえよ・・・」

「烏間先生、もう撃って下さい!!渚、死んじゃうよ!!」

 

今も一方的に殴られている渚君を見て、茅野さんが悲痛な叫び声を上げた。

 

チラッ (もう一度あそこから上に行くか?いざとなったら、腕くらいへし折って・・・「待て・・・手出しすんじゃねー」!! 寺坂君!?)

「まだ放っとけって?そろそろ俺も参戦したいんだけど」

「いいから黙って見てろよ・・・渚の奴、まだ何か隠し玉持ってるみたいだからよ」

 

隠し玉?そんな物が渚君に・・・?

 

 

 

渚side

 

南の島の一週間前・・・

 

「い、今のが・・・「必殺技」・・・?」

「そうだ・・・と言っても、ピンとはこないだろうがな」

 

 僕はロブロさんの前で尻餅をついていた。今のは・・・

 

「だが、殺し屋としての最大のピンチの時、この技は絶大な威力を発揮する」

 

そう言うと、ロブロさんは右手の指を3本立てながら、

 

「この技を発動する為に必要な条件は、大きく分けて3つ!!」

 

 

 

「スウー・・・ハー・・・」

「?」

 

 全身の痛さはあったけど、何故か僕は冷静だった。ロブロさんの言った条件を確認するくらいには。

 

(「―――1つ!!武器を2本持っている事!!」) スー・・・

(「―――2つ!!敵が手練れである事!!」) ハー・・・

(「―――3つ!!敵が殺される恐怖を知っている事!!」) ・・・フウ

 

・・・よかった、ぜんぶそろってる」 

「!?」

 

―――鷹岡先生、実験台になって下さい。

 

僕に何かを恐れたのか、鷹岡先生は身を震わせたが・・・

 

「・・・」 スタスタ

 

僕は、あの時と同じように笑って近づいた。頭の中では、再びロブロさんとの会話を思い出していた。

 

 

 

「必殺・・・技と言っても、「必ず殺す技」ではない。訓練を受けた暗殺者なら、理想的状況なら殺すのは当然だからだ」

 

殺す技じゃない・・・?

 

「だが、もしも標的(ターゲット)が手練れの時には、逆にこっちの気配を悟られ強引に「戦闘」へと持ち込まれる。どちらかと言えば、彼ら4人もそのタイプだろう」

 

ロブロさんが指差したのは、太陽達4人だった。確かに戦ったら強いもんな、太陽達は。

 

「そんな窮地(ピンチ)に「必ず殺せる」理想的状況を造り出すのがこの技だ。戦闘の常識から外れた行動を取る事で、再び「戦闘」から「暗殺」に引き戻す。「必ず殺す為の技」、それがこの必殺技だ」

「殺す為の技・・・」

「俺のようにやってみろ、少年。ノーモーションから、最速で、最も遠くで、最大の音量が鳴るようにだ」

「・・・」 スッ

 

言われた通り、僕はやってみたけど、

 

ビチッ 「・・・あっ!?」

「日常でもまずやらない動きだ、意外と難しいだろう?だが、裏を返せば、それだけ常識外れの行動という事だ。完璧に鳴るように練習しておけ」

「・・・でもロブロさん、これって・・・」

「そう。相撲でいう"猫だまし"だ」

 

ひ、必殺技って言うくらいだからもっと凄い技かと思ってたけど・・・

 

「確かに地味だが、相撲の技術と全く関係ないこの"音"は・・・相手の意識を一瞬だけ真っ白にするだけの力がある」

 

 

 

(「ましてや君がいるのは殺し合いの場だ、負けたら死の緊張感は相撲とは比べものにならん!!」)

「く、くそガキィ~・・・」

 

 確かに、有利な筈の鷹岡先生は僕の行動に釘付けになっていた。

 

(「極限まで過敏となった神経を・・・音の爆弾で破壊する!!」)

(「でも・・・手を叩くなら武器を手放さないと・・・」)

(「だからこそだ。相手が手練れなら、君の挙動を1つ1つ観察している。だからこそ、戦闘の常識の範囲外の行動に虚をつかれるんだ」)

 

―――タイミングは、ナイフの間合いの僅かに外!!

 

ドクン・・・(まだ遠い・・・もう少し)

 

―――叩き方は、体の中心で片手を真っ直ぐ敵に向け、その腹にもう片方の手を音の塊を発射する感覚で!!

 

ドクン・・・ドクン・・・

 

―――敵の意識は、接近するほどナイフに集まる!!

 

ドクンドクンドクン・・・!!(その意識ごと!!)

 

次の瞬間、僕はナイフから手を放し・・・

 

 

 

 

 

パアン!!!!

 

鷹岡先生の目の前で、音の爆弾を発射した。

 

「な、なにが・・・おこ・・て」

 

至近距離で喰らった鷹岡先生は、身体を大きく反らせた。

 

―――暗殺者は、その隙を逃さない。2本目の刃を、素早く叩きつけろ!!

 

僕は素早く腰に差したスタンガンに手を掛け、鷹岡先生のガラ空きの脇に叩き込んだ―――――!!

 

 

 

登志side

 

バチッ!! 「ぎっ!?バカ・・・な」 ズシャッ

 

 スタンガンを喰らった鷹岡は、何も出来ずに膝をついた。

 

「す、凄え・・・」

(こ、これが渚君の隠し玉!!双龍閃と同じく変則的な二段攻撃だけど、実用度なら渚君の方が圧倒的に上だ!!)

 

渚君の力に、誰もが釘付けになった。それほどまでに、渚君の動きは洗練されていた。

 

「う・・・あ・・・」

「・・・へっ、トドメ刺せ、渚。首辺りにもう一回ぶち込みゃ気絶する」

 

寺坂君の言葉に、渚君は無言で鷹岡先生の首をスタンガンで持ち上げた。最早、抵抗する力なんて残されてないだろう。

 

「・・・貴方には、沢山の事を教わりました」

「・・・!!」

「酷い事も沢山されたけど、貴方には感謝しています」

「や、やめろ・・・!!その顔で終わらせるのだけは・・・!!」

「(ニコッ)鷹岡先生、ありがとうございました」 バチッ!!

 

笑顔で叩き込んだ2撃目によって、鷹岡はようやく倒れた。

 

「・・・勝った」

「「「「よっしゃあぁぁ!!元凶(ボス)撃破ー!!」」」」

 

僕の呟きの後、全員が歓声を上げた。

 

(・・・後は、太陽が勝つだけだ!!)

 

僕は、そう思いながら2人を見つめた―――――




いかがだったでしょうか。

渚のこのシーンは格好いいですよね!!原作の中でもかなり好きなシーンです!!

次回は太陽の戦闘シーンです。・・・太陽の戦闘シーン書いたのはプロローグ①だから、懐かしい気もしますね(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十二時間目 一流の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は太陽の戦闘シーンになります。

それと、前話で初めて1日のUA数が200を超えました!!

レベル低っ!?っと思われるかもしれませんが、作者は大喜びしました(笑)

これからも、是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

(凄えな、渚の奴)

 

 あんな隠し玉持ってたなんて・・・渚の暗殺の才能は底が知れないな。

 

「フン、やはりあの程度か。鷹岡とかいう男、役にたたんな」

 

そんな俺の前では、軽蔑の眼差しで気絶している鷹岡を見つめながら、万屋が両腕を組んで立っていた。

 

「・・・アンタの雇い主だろ?なのにそんな言い方はねえだろ」

「知るか、弱いから負けただけ。それにあくまで金払いがいいから従ってやっただけだ。あんな奴がどうなろうと知った事か」

 

・・・この人からしたら、鷹岡なんかどうでもいいって事か。

 

「てか、アンタの雇い主倒されたんだ。もう俺と戦う意味無いだろ?」

「いや、ここでお前達全員を生かしておいたら、俺も日本政府から追われてしまうから口封じしないとな」

 

万屋は右手にナイフを持ちながら構えた。

 

「チッ・・・渚!!絶対に攻撃が当たらない場所にまで下がっとけよ!!」

「う、うん!!」

 

鷹岡の懐から治療薬の入った小瓶を取り出した後、渚は後ろへと下がった。

 

「そこそこの力は持ってるみたいだが・・・本気で俺に勝つ気か?」

「ああ、勿論」 スッ

「その思い上がりを正してやる!!」 ドンッ!!

 

万屋はそう言いながら、構えた俺に突進してきた。

 

ブンッ!! スカッ!!

 

男が右手で斜めに斬り下ろしたナイフを俺は左に避けた。速いが避けられん訳じゃない。

 

「おら!!」 シュッ!!

「効くか!!」 サッ!!

 

そのまま手首を返して横薙ぎに振ってきたナイフを、俺は一瞬のバックステップで躱した。

 

「フッ!!」 ブオンッ!!

「うおっ!?」

 

俺は空振りした男の隙を突いて、男に右足でのハイキックを放った。空振りしたがその攻撃によって、男は体勢を少しだけ崩した。

 

ドンッ!! 「せいっ!!」

 

俺は素早く右足を着地させると、左足を踏み込んで右手で正拳突きを繰り出した。

 

「(にぃ)」

「!!」

 

だが、万屋が笑みを浮かべたことで、素早く拳を退いた。

 

「遅え!!」 ブンッ!! サクッ!!

「太陽君!!」

 

だが、万屋はそれよりも早く腰からもう一本のナイフを左手で右腕を斬った。烏間先生の心配する様子での声が響く中、万屋は得意げに話し出した。

 

「ハハハ!!中学生にしちゃ中々の動きだが、そんなレベルで俺を倒そうなんて甘いんだよ!!」

「・・・」

 

俺はとりあえず、万屋から距離を取って、無言で斬られた右腕を見つめた。確かに凄い動きではあるな。

 

(・・・だが、)

「お前なんかに俺が倒せる訳があるか!?一流の殺し屋の俺相手に、お前如きが「フッ」 ・・・!!」

 

偉そうに語っていた男は、俺が鼻で笑ったのを見て黙った。

 

「・・・テメエ、何がおかしい?」

「いや・・・日本最強と呼ばれている筈の殺し屋が、たかだか中学生相手にこんな舐めりゃ直りそうな傷1つで大喜びなんて(ペロッ)大した事ねえな・・・そう思っただけだ」

「・・・何だと?」

「俺に戦う力をくれた人は、少なくともそんな殺せもしなかった技で喜ぶような人じゃ無かったもんでね」

 

そう言いながら俺は構え直した。

 

「来いよ、三流。本当の一流に教わった俺の力、見せてやるよ」

「舐めるな、くそガキが!!」

 

俺の挑発に男は青筋を浮かべながら突進してきた。今度はナイフを両手に持ってだ。

 

(確かに二刀流で来られたらキツいはキツい・・・だが、)

紙絵(カミエ)!!」

 

俺はその言葉を唱えた。

 

ヒュンヒュンヒュン!!

 

俺に超高速の連続切りを仕掛けてきた万屋だったが・・・

 

スカカカッ!! 「なっ!?」

「て、敵の攻撃から生まれる風圧だけで避けているだと!?」

 

ナイフの勢いに身を任せて躱す俺の動きに、万屋も烏間先生も驚いた様子だった。ま、こんな事出来る奴なんて普通いないもんな。

 

ぐっ 「オラァ!!」 シュッ!!

「ぐっ・・・!!」 ザシュッ!!

 

しかし、俺のカウンター気味に放ったパンチも、男はギリギリでバックステップで躱してみせた。

 

(・・・さっきは挑発したけど、この人も日本最強を名乗るだけの事はある)

「何なんだ貴様・・・しかし、その技どこかで・・・」

 

恐らく、強力な一撃を相手に入れた方が勝つな。この戦いは・・・

 

(・・・やはり「銃弾(ブレッド)」でいくしかないな) ぐっ・・・

「・・・何、考えてるのか知らねえが、お前なんかに負けるかよ!!」 シャキン!!

 

また二刀流で来る気か?俺に単純な攻撃は効かないと分かった筈だが・・・

 

「・・・これで殺す!!」 ブンッ!!

(ナイフを投げた!?・・・でも、)

 

俺達の距離はかなり離れている。死角から投げられでもしない限り当たるわけない。

 

ひょいっ (ガラ空き!!) ドンッ!!

 

ナイフを躱すと同時に突進した。ナイフを投げた左手に注意しながら突っ込めば、大怪我はしねえ!!

 

「甘えよ」 シュッ!!

「何っ!?」 ガガッ タンッ

 

すると、万屋は右手のナイフも投げてきた。予想外の行動に俺は無理矢理、足を止め横っ跳びに躱した。

 

チャキッ・・・ (拳銃!!)

「そこだ」 ドオンッ!!

ビッ 「ぐっ・・・」

 

俺の動きを読み切っていたかのように、着地点を狙って放たれた銃弾は、俺の左肩を掠めた。

 

「チッ!!心臓を狙ったんだが、ギリギリで反応しやがったか!!」

「太陽君、大丈夫か!?」

()ー・・・何とか掠めただけです」

 

ナイフは最初から捨てる気だったのか・・・くっそ、油断した!!

 

「お前、どうやら近接戦闘は得意みたいだが、そんな至近距離に近づかなくても俺はお前を殺せるさ」

 

万屋はナイフを2本とも拾い上げながらそう言うと、

 

チャキ 「さて、まだ10人以上いるんだ。お前1人にばかり時間を使うわけにもいかんし、さっさと終わらせるか」

 

コイツはもう勝った気でいるみてえだが・・・

 

すくっ 「・・・1つ言っといてやるよ」

「あ?」

トントン 「俺の拳が届かない位置から銃で狙撃すれば勝てるなんて思ってんなら・・・甘いんだよ」

 

つま先で地面を蹴りながら俺は万屋に言い切った。

 

(正直、実践で使用するのは初めてだ・・・だが、鍛錬だけはずっとしてきた!!)

「フン、言ってろ」 スッ

 

ナイフを構えた・・・まずはコイツの油断を誘うんだ。

 

「オラ!!」 シュッ!!

「フッ!!」 ガッ

 

左手で放ってきたナイフを、俺はバックステップで下がった。さっきと同じように動くのは避ける為だ。

 

「フッ(ダッ!!)ハア!!」 ブンッ!!

「!! よっと!!」 カアン!!

 

万屋は俺に向かって突進すると同時に右手のナイフを投げてきた。少しだけ驚いたが、俺は横に躱した。

 

「そこだ!!」 パシッ

「んなっ!?」 

 

走りながら最初に投げたナイフ拾いやがった!?

 

「むん!!」 シャッ!!

「(ビッ)くっ!!」 ズシャァ

 

そのまま横薙ぎに振ってきたナイフが頬を掠ったが、俺は後ろに滑りながら躱した。

 

「そこだ。」 ビュンッ

 

俺に向かってそのまま拾ったナイフを投げてきて、俺はさっきと同じように横っ跳びに躱した。

 

「終わりだ。」 チャキッ・・・

 

そんな俺に、万屋は開いた手で銃を抜いた。確かにこの体勢から普通なら反撃なんて出来ないが・・・

 

(ここだ!!)

 

逆に俺は、この瞬間こそが唯一のチャンスだと思っていた。どんなにナイフで不規則な動きをされても、銃を構えるその瞬間だけは絶対に変わらないからだ。

 

「死ねえ!!」

(それはテメエだ!!) グイッ

 

俺は空中で右足を振りかぶった。狙いは、右手で俺に向けて構えている拳銃!!

 

嵐脚(ランキャク)!!」 シャリン!!

 

次の瞬間、俺はそう叫びながら右足を振り抜いた!!

 

 

 

バキッ!! 「なっ!?」

 

俺の放った衝撃波によって右手の銃は粉々に破壊された。初めてだが、上手くいったな!!

 

スタッ 「(ソル)!!」 

シュバッ!! 「何っ!?」

 

俺は素早く着地して、万屋の目の前へと急接近した。考える暇なんて与えねえ、このチャンスで()る!!

 

「っこ、このガキー!?」 ブオン!!

鉄塊(テッカイ)!!」 

 

いきなり目の前に接近された事で完全にパニックになりながらも、まだ隠し持っていたのか新たなナイフを左手で俺に突き立てたが・・・

 

ガキィ 「な、何でだ・・・?ナイフが刺さりもしねえ・・・!?」

(威月程の鉄塊は無理でも、こんなナイフに負けるほど俺の鉄塊は弱くねえ!!) ぐっ・・・

 

心でそう唱えながら俺は右拳を握った。くらえ、俺の1番得意な技!!

 

銃弾(ブレッド)ォ!!」

ドゴォン!! 「ぐぼおっ!?」 よろ・・・

 

お腹に俺の銃弾を喰らった万屋は、口から血を吐きながらよろめいた。手応えありだ!!

 

(逃がさねえ!!このままもう一発「させるか・・・(ヒュッ)」 !! 手榴弾!?)

 

万屋がいきなり投げてきた物体の正体が分かった瞬間、俺は顔を覆いながら後ろに跳んだ。

 

ボンッ シュウゥゥゥ・・・

「なっ、煙幕弾(スモークグレネード)!?」

 

いきなりその物体から煙が噴き出した事で、俺は煙から出ようとしたが・・・

 

スタタタタ・・・(!! コイツ、まさか渚を!?)

「させるか、剃!!」 シュバッ!!

 

どこかに走る音に、俺は最悪の可能性を防ぐ為に先回りした。

 

「渚!!」

「た、太陽!!どうすれば・・・」

 

? 渚は大丈夫そうだな。じゃあ奴はどこに・・・?

 

シュウゥゥゥ・・・ (煙が晴れてきた・・・なっ!?)

「消えた!?」

 

渚の驚いた声通り、ヘリポートからは万屋の姿が消えていた。

 

(どこだ!?隠れる場所なんて、どこにも「ヒュウゥゥゥ・・・」 !! まさか!?) タタタ

 

いきなり聞こえてきた風を切るような音に、俺は慌ててヘリポートのフェンスへと走った。

 

カンッ 「確か、こっちが風下の筈・・・!!」

 

フェンスに掴まった俺の目に映ったのは、ハンググライダーで下へと逃げて行く万屋の姿だった。くそっ!!逃げる為の時間稼ぎだったのか!!

 

(逃がさねえ!!俺が月歩(ゲッポウ)で「ストップです、太陽君」っ!!)

 

フェンスを乗り越えようとした俺を止めたのは、殺せんせーだった。

 

「彼が待ち伏せを狙っている可能性も充分ありえます。今更、敵の土俵で戦う必要はありません」

「・・・」

「今、君が優先すべき事は、彼を倒す事ですか?」

「・・・いえ、治療薬を持って帰る事です」

「はい、正解です」

 

そうだ、敵が退いてくれたのなら無理に戦う必要は無いに決まってる。

 

クルッ (今は、無事に治療薬を持ち帰る。それだけ考えてればいい)

 

さっき心の中で唱えた事をもう一度確認しながら、俺は渚の元へと歩き出した。

 

 

 

 皆が直してくれた階段から降りた俺と渚に、殺せんせーが安堵の表情を浮かべながら話しかけてきた。

 

「よくやってくれました、2人とも。今回ばかりはどうなるかと・・・」

「俺は少し掠った程度ですから。渚は大丈夫か?」

「僕も大丈夫。でも、どうしよう・・・薬、鷹岡先生から奪った分だけじゃ全然足りないよ」

 

流石に3本じゃ、10人は治せないだろうな・・・

 

「・・・烏間先生、スモッグとかいう男に治療薬の作り方を聞き出しましょう。1ヶ月ならギリギリ間に合うかもしれないですし・・・」

「そうだな・・・とりあえず、ヘリを呼んだから皆はここで待機していてくれ。俺があの男を「フン、テメー等に薬なんざいらねえよ」 !!」

 

烏間先生の声を遮ったそんな声に、俺達は入り口へと振り返った。

 

「ガキ共、このまま生きて帰れると思ったか?」

 

そこには、俺達が倒した3人が立っていた―――――




いかがだったでしょうか。

話の間にも書かれているのを見ても分かると思いますが、太陽はアレを全種類使用する事が出来ますが、大賀や威月がそれぞれ使用する技は大賀や威月の方が上手く扱う事が出来ます。

次回でいよいよホテル突入はラストになると思います。ここまで長かったー・・・あ、でも南の島編はもう少しお付き合い下さい(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十三時間目 大人の時間・二時間目

皆さんどうも籠野球です。

ヤ、ヤバい・・・仕事が忙しすぎて全然進んでない・・・

盆休み前は忙しいですね(笑)

まあ、頑張っていきたいと思います!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「「「「・・・!!」」」」

「・・・お前達の雇い主は既に倒した。戦う理由はもう無いし、俺も充分回復している」

 

 突然現れた3人に俺達はそれぞれ武器を構え、烏間先生が代表して話しかけた。まあ、奴らからしたらプライドもあるだろうから報復もあり得ない話では無いわな・・・

 

「これ以上、戦っても互いに被害が出るだけだし、やめにしないか?」

「ん、いーよ」

「あきらめ悪ィな!!こっちだって薬無くてムカついて・・・え?」

 

銃を咥えながらの返しに、噛みついた吉田も拍子抜けだったみたいだ。・・・やけにあっさりだな。

 

「「ボスの敵討ち」は契約には含まれちゃいねえ。てか、下のイカれた剣士や万屋を倒す化けモンみてえな中学生と殺り合う気なんざねーよ。それに今言ったろドレッド、お前等に薬なんざそもそも要らねーんだよ」

 

薬が要らない?どういう事だ?

 

すると、スモッグと呼ばれていた男がおもむろに懐から何かを取り出し、

 

「お前等に盛ったのは、食中毒菌を改良したものだ。後3時間位は猛威を振るうが、その後は無毒になる(スッ)ボスに使えと言われたのはこっちだ、これ使ってたらお前等の仲間は終わってたな」

「使う直前にこの3人で話し合ったぬ。ボスの設定した交渉期限は1時間、わざわざ殺すウイルス仕込まなくてもいいぬと」

「俺は交渉法に合わせて様々な毒持ってるからな。命の危機を感じるには、コイツで充分だったろ?」

 

初めっから別のウイルスを仕込んでたって事か・・・確かに全員、騙されたな。

 

「・・・でもそれって、鷹岡(アイツ)の命令に逆らってたって事だよね。金貰ってるのにそんな事していいの?」

「アホか小娘、万屋みてーにプロの誰もが金で動くと思ったら大間違いだ」

 

岡野に呆れた様子でそう返した男は思い出すかの様に話し出した。

 

「勿論、依頼人(クライアント)の意に沿うように最善は尽くすが、ボスは薬を渡す気は全く無さそうだった。カタギの中学生を殺した実行犯になるか、命令違反がバレてプロとしての評価を落とすか。どっちの方が俺達の今後にリスクが高いか、冷静に秤にかけただけよ」

(プロとしてか・・・やっぱり一流なんだな、この人達は)

 

でも、今回はそんなしたたかさに助けられたんだもんな。本当によかった・・・

 

「・・・ま、そんなワケで残念ながらお前等は誰も死なねえ。(ヒュッ)その栄養剤、患者に飲ませて寝かしてやんな。「倒れる前より元気になった」って感謝の手紙が届く程だ」

((((アフターケアも万全だ!!))))

「・・・信用するかは生徒達の回復を見てからだ。事情も聞きたいし、しばらく拘束させてもらうぞ」

「・・・まあ、しゃーねーな。来週には次の仕事があるし、それ以内にな」 バババ・・

 

烏間先生の言葉に男がそう返したその時、遠くからヘリが近づいてくるのが見えた。ようやく来たか・・・

 

「リベンジマッチはやらないんだ、おじさんぬ。俺の事、殺したいほど恨んでないの?」

「殺したいのはやまやまだが、俺は私怨で人を殺した事は無いぬ。(ポン)誰かがお前を殺す依頼をよこす日を待つ、だから狙われる位の人間になるぬ。」

(おお、カルマが子供扱いされてる・・・)

 

カルマの頭の上に軽く手を当てながら話す握力男を見て、俺は軽く衝撃を受けた。初めて見たな、あんな光景・・・

 

「・・・あの」

「あ?何だよ」

 

その時、登志が拳銃を咥えて立っている男に話しかけていた。

 

「さっきはすみませんでした。それで、1つ聞きたい事があるんですが、いいですか?」

「別に殺し合いの中での攻撃だ、気にしちゃいねーよ。んで、何をだ?」

・・・貴方は、龍志って男を知ってますか?

「龍志・・・いや、聞いた事ねーな」

「そうですか・・・ありがとうございます」

 

登志・・・恐らくは悪鬼が知ってたから、この人達も知ってると思ったんだろうが、外れだったか。

 

カンッ 「じゃあな、ガキ共!!本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ!!そん時ゃ、プロの殺し屋の本気の味(フルコース)を教えてやるよ」

 

ヘリに跳び乗った男達は殺し屋らしい暗殺予告(エール)を残して去っていった。あの人達には勝てそうにねえなぁ。

 

 

 

バババ・・・ 

「・・・寺坂君」

「あ?」

 

 別のヘリに乗って皆の元へと帰る途中、ヘリの中で渚が寺坂に声をかけた。

 

「ありがとう。あの時声をかけてくれなきゃ、僕は・・・」

「・・・ケ、テメーの為に言ったんじゃねぇ。1人欠けたらタコ殺す難易度上がんだろーが」

「うん・・・ごめん」

 

素直じゃねえなぁ、寺坂の奴。

 

そう思っていたその時、烏間先生が思い出したかの様に登志に声をかけた。

 

「・・・そういえば登志君」

「はい?」

「悪鬼という男が最後に言った龍志と言う男、知り合いなのか?さっきも男達に聞いていたみたいだが・・・」

「っ・・・すいません。今は、まだ・・・」

「・・・そうか。言えるようになったら話してくれるか?」

「あ、はい勿論です」

 

皆も気になっていたらしく、2人のやりとりを聞いて納得してくれたみたいだった。俺は登志から聞いてはいるが、勝手に話すわけにはいかんもんな。

 

「ところで、烏間先生。あの万屋って男はどうなったんですか?」

「む。ああ、今の所は報告はきていない。今、全力で探している所だが、相手は日本一の殺し屋だからな・・・」

「そうですか・・・」

(奴の強さは桁違いだった。野放しにしといたら、何をしでかすか分からないからな・・・)

 

そう思いながら、俺はヘリの窓から万屋が飛んでいった方向を見つめた。

 

 

 

???side

 

「くそっ・・・あのガキ・・・」

 

鬱蒼と茂った森の中、1人の男が鳩尾を抑えながら歩いていた。木の発破が擦れる音以外何も聞こえないくらいの静寂の中、男は殺意を滾らせながら森の出口を目指していた。

 

「このままで済むと思うなよ・・・倒れてる連中、人質にしてやりゃあ手出し出来ねえだろ。何かマジシャンやボマーもやられたみてえだが、あんな連中と俺が一緒だと思うなよ」

 

男はニヤリと悪い笑みを浮かべ、

 

「倒れてる連中の前で、全員ぶっ殺してやらあ!!奴らの絶望する顔が見物(シャリン!!)・・・え?」

 

そんな男の言葉を遮ったそんな音に男はそんな声を上げた。

 

ブシャアァァァ!! 「なっ!?ぐ・・・があぁぁぁ!?」

 

次の瞬間、男の肩口からはとてつもない量の血が流れ始めると同時に襲ってきた激痛に男は叫びながら膝をついた。まるで何かの刃物のような斬られたような傷だった。

 

「バカな・・・いったいどこから・・・「万屋・・・だね。」!!お・・・お前は!?」

 

その時、男の背後からそう言いながら1人の男が現れた。黒スーツを着て、髪を中分けにした男は何ともいえない不気味な雰囲気を纏っていた。

 

「君に恨みは無いが、死んで貰うよ」

「そうか・・・どこかで見た技かと思ったらお前の・・・」

 

男はそう言いながら木に背中を預けながら立ち上がり、

 

「何故お前がここに・・・おまけに、何であんなガキがお前の技を使えるんだ・・・恐神!!」

 

男にそう呼ばれた男―――恐神は何てこと無さそうに質問に答えた。

 

「鷹岡君が防衛省の金を持ち逃げして姿を消した時から、私は独自に君の挙動を調査していたのさ」

「な、何だと・・・?」

「鷹岡君は、E組での1件で評価が下落していたからね。彼の性格を考えたら、必ずE組に復讐すると睨んでいたのさ。私が思いつく中で最も金で裏切る可能性が高い殺し屋といえば・・・君だよ、万屋」

「くそ・・・」 スッ

 

図星を突かれた男は、空いている手でナイフを構えた。

 

「・・・それと、何で彼らが私の技を使えるのか・・・だったね。その答えは、もっと簡単さ」

「何?」

「私が、彼らの親代わりだからさ」

「えっ・・・」

 

―――それが、男の最期の言葉だった。

 

指銃(シガン)」 ガガン!!

 

恐神はそう唱えながら男の額と心臓に指を突き立てた。急所への2連撃を喰らった男は一瞬だけ身体を震わすと、声を発する間もなく絶命した。

 

ドサッ 「フー・・・ん?これは・・・太陽君の銃弾(ブレッド)か」

 

倒れかけた男を支えた恐神は、男の肋骨が折れている事に気づき、そう呟いた。

 

ヒュウゥゥゥ 「・・・太陽君、威月君、大賀君、登志君。君達が人を殺す必要は無いさ。そういう汚れ仕事は、闇に生きる私の仕事だ」

 

恐神はそう言うと、男を担いで深い森の中へと消えていった。辺りは何事も無かったかのように再び静寂に包まれた・・・

 

 

 

渚side

 

 僕らは皆の待つテラスへと戻り、皆に栄養剤を飲ませると同時にもう大丈夫な事を伝え、それぞれが泥のように眠り、起きたのは翌日の夕方だった。

 

「おはよう、元気になった?」

「(モグモグ・・・)おかげさまで、やっぱり皆ジャージなのね」

「(ズー・・・)他に客いないし、これが楽だわ」

「(パクパク・・・)2日分の全員の私服なんて分かんないし、尚且つ太陽君達の私服考えるの難しいって」

「・・・不破さんの発言がメタいのは置いといて、皆何食べてるの?」

 

凄い良い匂いするなあ、お腹空いてきた。

 

「・・・あ、おはよー渚。お前も食うか?」

「おはよう、九澄。それは・・・スープ?」

「ああ、俺が作ったんだ。はい、岡野さん、三村」

「ありがとう」

「サンキュー」

 

九澄は岡野さんと三村君に両手の器を手渡し、

 

「どうする、渚?飯前だから無理にとは言わねえけど」

「あ、じゃあ貰おうかな」

「九澄君、私もいい?」

「おお、勿論。じゃあ、ちょっと待ってな」

 

僕と茅野の言葉に頷くと、九澄は近くに置いてある寸胴へと歩いて行った。よく見ると、その下にはカセットコンロもあった。

 

「でも九澄君、そんなの作ってるなんて何時に起きたの?」

「んー?大体9時くらいかな。俺、毎日5時には起きてるし、少し寝すぎた」

「は、早いんだね朝・・・」

「でも、皆寝てるから暇でホテルうろうろしてたら厨房で俺達の朝食分の食材が無駄になったって言ってたから、それを使って作ったんだよ」

 

そう言いながら九澄が持ってきてくれた皿を僕と茅野は受け取った。ジャガイモ、ニンジン、タマネギにベーコンというかなりシンプルな具材のスープだった。

 

「(ゴクッ)うわぁ・・・美味しい!!ホントに九澄君って料理上手なんだね!!」

「サンキュー。自由に食材使ってよかったらデザートとかもっと手の込んだ料理も作ったんだけどな」

「何でも作れるんだね、九澄って」

「レシピさえあればな。和洋中、何でもいけるぜ」

 

凄いんだな、九澄って・・・

 

「おー、皆もう起きてんのか」

「おはよう、皆」

 

その時、後ろからそんな声がして振り返ると、太陽達3人と杉野と神崎さんが歩いてきた。どうやら、5人が最後らしい。

 

「おはよう皆」

「あ、登志。お前の着てた道着、肩口が破れてたから縫っといたぜ。あれ刃物で切られたのか?」

「あはは、ちょっとね。ありがとう、大賀」

「「「「・・・」」」」

 

一家に1人欲しい―――皆が九澄に対してそう思った。

 

「神崎さん、友人。身体はもう大丈夫か?」

「「「「・・・?」」」」

「おう、もうバッチリだぜ。サンキューな大賀」

「ありがとう、大賀くん」

「「「「!!」」」」

 

あれ、2人とも九澄の事を名前で呼んでる!?

 

「ん?杉野達、大賀って呼ぶようになったのか?」

「あぁ、大賀がいいって言ってくれたからな」

「今、思えば太陽や威月は渚達に名前で呼ばれてるしな。渚達もそう呼んでくれていいぜ」

「え~っと・・・」

 

杉野はともかく、神崎さんもいるのに勝手に呼んでいいのかな・・・?

 

そう思っていると、威月がスッと僕の近くに寄り、

 

ボソッ 「あのバカは女子に名前で呼ばれる意味なんて当然、分かっちゃいねえし、単純に友達に名前呼ばれる感覚でしかねえ。別に構わねえと思うぞ」

「あ、うん、分かった」

 

その耳打ちに僕は頷き、

 

「じゃあ・・・大賀」

「おう!!」

(満面の笑みで返してくれるけど・・・)

 

それなりに積極的なのに、神崎さんも気の毒だなあ・・・

 

 

 

「(ズーッ・・・)・・・で、あの中に殺せんせーがいるのか?大賀。」

「(ジューッ・・・)ああ、ダメ元だけど、対殺せんせー弾で覆うんだって」

 

 スープを飲みながらの威月の言葉に、何かを作りながら大賀はそう返していた。

 

僕達の目の前には、殺せんせーが入ったコンクリートの建物が海の中に急ピッチで建てられていた。今も沢山の防衛省の人達が忙しそうに動き回っている。

 

「やっぱり烏間先生は凄えよ。不眠不休で指揮とってるのに、疲れすら見せねえもん」

「・・・10年ちょいであの人みたいな超人になる自信ねえな」

 

苦笑いを浮かべながらの太陽の言葉に、クラス全員が同意した。確かに自信ないなぁ。

 

「ビッチ先生もああ見えて凄い人ですし、あの3人も長年の知識や経験、それに仕事に対してちゃんとした考えを持ってましたしね」

「・・・かと思ったら、鷹岡みたいに"ああはなりたくない"って思う奴もいる」

 

うう、何か自信なくなってきた。

 

「別に難しく考える必要ねえんじゃねえの?追い抜かして追い越して、そうやって少しずつ大人になっていくもんだろ」

「そうそう。そんな事考えるくらいなら、今を真っ直ぐ楽しく生きたらいいんだよ」

「・・・お前は少し考えとけよ」

 

威月の言葉に、皿を両手に持ちながら大賀が入ってきた。威月は呆れた風にそうツッコんだけど、顔は少しだけ笑っていた。

 

(大賀はいつでも明るいなあ、僕も見習おっと)

「友人、神崎さん。はい、約束した美味しい物」

「・・・? これって・・・」

「オムレツ?」

 

確かに美味しそうだけど、何でオムレツなんだろ?

 

「えーいいな。大賀、俺らには?」

「わり、作るって約束したのは2人だけだから今回は勘弁な」

「? 大賀のオムレツってそんなに美味しいの?」

「多分、ホテルとかでも金取れるレベルだよ。大賀の1番得意な料理だからな」

「へー・・・」 パクッ

 

太陽の言葉を聞きながら、杉野は一口食べた。

 

「・・・!! 美味っ!?」

「(パクッ) ・・・本当!!すっごく美味しい!!」

 

・・・2人とも顔が輝いてる。ホントに得意なんだな。

 

「うわぁ・・・凄い美味しそう。今度、僕にも作ってくれないかな?」

「私も私も!!」

「私は作り方教えて欲しいな」

「ああ、いいぜ。こんなんで良ければいくらでも」

 

僕や茅野、それに原さんのお願いにも大賀は笑顔でそう言ってくれた。楽しみだなぁ~

 

ドォン!! 「「「「!!」」」」

 

その時、前のコンクリートの建物が爆発した。殺せんせーが戻ったんだ!!

 

「殺ったか!?」

 

威月はそう言ったけど、実は全員、結果は薄々分かっていて・・・

 

「先生の不甲斐なさから苦労させてしまいました。ですが、皆さん未知の敵やウイルスと戦い本当によく頑張りました!!」

「おはようございます、殺せんせー。やっぱ先生は触手が無くちゃね」

「はい、おはようございます。では、旅行の続きを楽しみましょうか」

 

殺せんせーはいつもの姿に戻った殺せんせーは楽しそうにそう言ったけど・・・

 

「旅行の続きって・・・もう夜だぞ?」

「明日には帰るんだし、1日損した気分だよね~」

 

日も落ち始めた辺りを見渡しながら、威月と中村さんはそれぞれ代表してそう言った。

 

「ヌルフフフ、夜だから良いんですよ」

「「「「?」」」」

「真夏の夜にやる事と1つですねぇ」

 

いつの間にかお化けの恰好に着替えた殺せんせーの手には、「納涼ヌルヌル暗殺肝だめし」と書かれた看板が握られていた。




いかがだったでしょうか。

というわけで、恐神が出てきました。果たして、誰でしょうねー(棒)

さて・・・E組風に言うなら、そろそろあの2人をくっつけちゃいましょうかね(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十四時間目 告白の時間

皆さんどうも籠野球です。

とりあえず間に合ったー!!ここまでは何とかストックがありました。

さて・・・タイトルでも分かる通り、いよいよやってきました。ちゃんと書けてるといいんですが・・・

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「「「「暗殺・・・肝だめし?」」」」

「先生がお化け役を務めます。1日動きませんでしたし、たっぷり分身して動きますよぉ」

 

 聞き返した俺達に、殺せんせーは腕を伸ばしながらそう言った。てか、伸ばす関節あるんだな・・・

 

「もちろん先生(お化け)は殺してもOK!!暗殺旅行の締めくくりにはピッタリでしょう」

「面白そーじゃん。昨日の晩、動けなかった分の憂さ晴らしだ!!」

 

確かに面白そうだなー、前原の言葉に皆も乗り気みたいだし。

 

「場所はこの先の海底洞窟。300メートル先の出口に男女ペアで抜けて下さい」

「ん、男女ペア?」

「ええ、こういう時は男がエスコートしてあげるのが当然ですから」

 

ふーん・・・まあ、そういうモンなのかな。

 

・・・わざわざ、男女ペアって指定してくる辺り、何か企んでるなありゃ

確かに・・・

 

? 何か威月と太陽がボソボソ喋ってるな、どうかしたのか?

 

「まあ、いいや。んで、そのペアはどうやって決めるんですか?」

「クジ引きにしようとは思ってますが、もしお互いに同意してるペアであれば構いませんよ」

「じゃあ、たーくん。一緒に行こーよ!!」

「ああ、勿論」

 

まあ、この2人はそうなるよな。

 

(さて、俺はどうすっかなー・・・)

・・・くん

(といっても、俺は彼女いないし、)

大賀くん

(ま、クジ引きでいっかー「大賀くん」) 「え?」

 

腕を組みながらそう考えていた俺は、神崎さんに声をかけられている事にようやく気づいた。

 

「あ、ごめん。何、神崎さん?」

「えっと・・・」

 

神崎さんは少しだけ言い淀んだ後、覚悟を決めたかのように顔を上げると、

 

「私と一緒にペアになってくれないかな?」

「・・・え、俺と?」

「う、うん。あ、誰かとペアの約束してた?」

「いや、それはしてないけど・・・」

 

何で急に俺を誘ったんだろ、神崎さん。

 

おぉ~・・・

積極的だな~神崎ちゃん

(? 積極的って皆どういう事だ?)

「・・・やっぱり迷惑・・・かな?」

「え!?」

 

皆の声に集中して無言になっていた俺に不安になったのか、神崎さんは悲しそうに笑いながらそう言った。

 

女の子のこういう顔が苦手な俺はテンパりながら返した。

 

「そ、そんな!?神崎さんに誘われて迷惑なんて思う奴がいたら、俺が片っ端から蹴っ飛ばしてやるよ!!」

「ほ、ホント?じゃあ・・・」

「う、うん。俺で良ければ」

「ありがとう、大賀くん!!」

 

満面の笑みでそう言ってくれた神崎さんが可愛くて、俺は思わずドキッとなった。

 

 

 

「へー、やっぱ中は少しひんやりしてるんだな」

「・・・ん、やっぱり少し怖いね」

 

 洞窟の中に入った俺達はそんな事を話し合っていた。

 

「大丈夫大丈夫、何かあったら俺が守るって!!」

「うん、頼りにしてるね」

 

・・・まあ、幽霊に物理攻撃効くのかは分からんけど。

 

「・・・あ、そういえば神崎さん」

「何?」

「ここに入る前、威月と何か話してたみたいだけど、何、話してたの?」

 

順番待ちをしていた最中、神崎さんは威月と何やら話していたのだ。その時、神崎さんの顔はこれ以上無いくらい赤かったし、威月は楽しそうな笑みを浮かべていたのが気になったのだ。

 

「う!?え、えっと・・・ちょっと水守君にアドバイスをしてもらったんだ」

「へー珍しいな。何について?」

「そ、それは言えないかなー」

「そっか、ゴメンね」

 

別に言いたくないのを無理に聞き出すつもりは無かったしな。

 

「ううん、気にしないで。

・・・そういえば、大賀くんはこういうお化けとか幽霊とかって平気なの?」

「うーん・・・いきなり来られたらビビる程度かなー。でも、当然いるって信じてるよ」

「! そうだよね・・・いつか会えるといいね、ご両親に」

「ああ!!(ペンペンペン・・・)・・・ん?」

 

その時、洞窟の奥から何やら変な音が聞こえてきた。

 

「な、何だ?この音」

「楽器・・・かな。でも、何でこんな所で・・・?」

(ま、まさか本当に出たのか!?)

 

俺達は音のする方へとゆっくりと近づき、そして恐る恐る覗いた。

 

ボウッ・・・ 「出たあぁぁぁ!?」

「きゃあぁぁぁっ!!」

「(ペンペン・・・)ここは血塗られた悲劇の洞窟。琉球・・・かつての沖縄で、戦いに敗れた王族達が非業の死を「うおぉぉぉ!!(ブンッ!!)」(スカッ!!)にゅやぁぁぁ!?大賀君、いきなり蹴らないで下さい!!」

 

いきなり出てきた幽霊に俺は反射的に蹴りを放つと、幽霊―――に扮した殺せんせーはそんな叫び声と共に逃げていった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・な、何だよ、殺せんせーか。ビックリさせやがって・・・」

「こ、殺せんせーがお化け役をやるって言ってたんだし、当然といえば当然だったね・・・」

 

あーくそ、素でビビった・・・てか、対殺せんせーナイフ使うの忘れてた。

 

「フー・・・ちょっと落ち着いてきた(ギュウゥ)!?」

 

その時、俺は今の現状に気づいた。神崎さんは俺の背中に抱きついていたのだった。

 

「か、神崎さん?」

「!! ご、ゴメンね///!?実は私お化けってちょっと苦手で・・・」

 

神崎さんは慌てながら俺から離れた。

 

(た、助かった・・・神崎さんみたいな綺麗な人に抱きつかれたら心臓に悪い・・・)

「大丈夫なら、行こう大賀くん」

「・・・」

 

俺に迷惑をかけないようにか笑顔で神崎さんはそう言ったけど・・・

 

スッ 「えっ?」

「その・・・怖いんなら、俺とで良ければ手ぇ繋いでみる?そんなんで怖さが紛れるかは分かんないけど」

「大賀くん・・・ありがとう」

 

神崎さんは一瞬だけキョトンとした後、微笑みながら俺の手を握り返してきた。夏休みの最初に感じた通り、神崎さんの手は小さかった。

 

 

 

「そこちょっと段差あるから、気をつけて神崎さん」

「うん、分かった」

 

 洞窟らしく多少足場が悪くなってきていたが、俺達は手を離す事無く歩いていた。

 

足場の悪い場所では手を離してもよかったのだが、「出来たら繋いでいてほしいな」と神崎さんが言った為そのまま歩いていた。まあ、別に少し大変なだけだしな。

 

「さて・・・大体、半分位は進んできたのかな?」

「うん、でも殺せんせー全然出てこないね」

 

神崎さんの言った通り、さっきから殺せんせーは全く出てきていなかった。

 

(まさか、俺が蹴りで迎撃したからか?でも、あれは不可抗力だし・・・)

ボウッ 「うおっ!!」

 

いきなり出てきた殺お化けに俺はそんな声を上げた。少しだけ足が出そうになったのは内緒だ。

 

「ビックリしたー・・・大丈夫?神崎さん」

「うん。むしろ、大賀くんにビックリしたかも」

「うぅ・・・」

 

クスクスと笑いながらそう言った神崎さんに少しだけ恥ずかしい思いをしたが、手を繋いでる効果があったと思って割り切る事にした。

 

「落ち延びた者の中には、夫婦もいました。ですが、追手が迫り・・・椅子の上で寄り添いながら自殺しました」

(意外と設定がしっかりしている・・・)

「その椅子がこれです」

(何であるんだよ!?)

 

そう思いながらも俺と神崎さんは殺お化けが指差した方向を向いた。するとそこには・・・

 

「「・・・」」

 

後ろにハートマークが付いたベンチが置かれていた。・・・何だ、あの椅子?

 

「琉球伝統のカップルベンチです。これに2人で1分座ると呪いの扉が開きます」

「いや、どんな呪い!?」

 

仮にそんな呪いがあったとして、何でこんな場所で時間まで設定されてるんだよ!?

 

 

ヌルフフフ。やはり今1番恋人に近いのは間違いなくこの2人。ここらで良い感じにくっつけてあげるのが担任の粋な計らいというもの!!さあ、お二人共。ここに座ってもっと仲を深めましょう!!」

(何か鼻息荒いな、殺せんせー・・・)

 

片手にメモ帳持ってるし、何がしたいんだ?

 

「えーっと・・・」

「とりあえず座ってみよっか」

「まあ、そうしてみるか」

 

俺達はとりあえずベンチへと座った。・・・これでいいのか?

 

「お二人共、もっと会話を弾ませて!!男女の仲の良さを見せれば見せるほど、呪いが解けやすくなる筈です!!」

「いや、だからどんな呪いですか・・・」

 

とりあえず分かったのは、殺せんせーがこの状況を楽しんでるという事だな。

 

「・・・どうしようかな」

「どうしたの、神崎さん?」

 

いきなりの呟きに思わず聞き返すと、神崎さんは少しだけ困った表情をしながら、

 

「・・・ここには、私なりに覚悟を決めて来たから」

「?」

 

いくらお化けが苦手でも、そんな覚悟してまで来る必要あるのか?そう考えていたその時だった。

 

にゅやあぁ・・・もう一押し欲しいですねぇ、大賀君。例えばギュッと抱きしめたりとか(ヒュウゥゥゥ・・・)・・・にゅや?」

(な、何だ?いきなり不気味な音が・・・殺せんせーじゃ無いのか?)

 

神崎さんも不安そうに周りを見渡し始め、全員に緊張が走ったその瞬間だった。

 

ドロロロ・・・ 「う~ら~め~し~や~」

「にゅやぁぁぁ!?」

「本物が出たあぁぁぁ!?」

「きゃあぁぁぁっ!!」

 

白いお化けが脇から登場した事で、俺達3人はそれぞれそんな声を上げた。

 

ガラッ 「お助けー!!」 ビュンッ!!

「(ギュッ)だ、大丈夫。俺が何としても守ってみせるから!!」

「た、大賀くん・・・」

 

殺せんせーも扉の先に逃げて行っちゃったし、最悪神崎さんだけでも・・・そう考えていたその時、

 

「こんな単純な手に引っかかるとは・・・」

(・・・え?この声・・・)

 

お化けが喋りだしただけでも驚いたのに、その声に聞き覚えがあった事にまた驚いていると・・・

 

ゴソゴソ・・・ 「フー・・・あのタコ行ったぜ、中村」

「オッケー。しっかし、1番ビビりなのにお化け役やろうとするからダメなんだよね~」

「威月、中村さん!?」

 

白い布を脱いだ威月がそう言った事で、脇から携帯を手に持った中村さんが現れた。

 

「ビックリした・・・てか、俺ら歩くの遅かったか?」

「いや、俺らが走ってきただけだ」

「? 何でだ?」

 

すると、威月は笑みを浮かべながら神崎さんを見て、

 

「神崎の手助けをしようと思ってな。どうせあのタコが野次馬根性全開でお前らに注目するだろうと予想してみれば、思った通りって訳だ」

「み、水守君・・・!!」

 

手助けって何をだろ?神崎さんも慌ててるし。

 

「と・こ・ろで、お二人さん」

「な、何?中村さん」

 

その時、中村さんがニヤニヤとした笑みを浮かべながら口を開いた。威月が悪だくみをする時の様な顔に少し淀みながらも俺は聞き返した。

 

「2人はいつまで抱き合ってるのかな~?」

「えっ・・・!?」

 

言われて、さっきからずっと神崎さんを抱きしめ続けていた事に気づいた。

 

バッ!! 「ご、ゴメン、神崎さん!!」

「う、ううん///・・・ありがとう、守ろうとしてくれて」

 

顔を赤くしながらも上目遣いでお礼を言ってくれた神崎さんがあまりにも可愛くて、心臓の鼓動がヤバかった。

 

「いや~青春だね~」

「見てるだけで胸焼けするな・・・」

 

2人はからかうようにそう言った後、

 

「んじゃ、私達は先行くからお二人さんはごゆっくり~」

「あ、最後の登志達にはかなり時間空けてから入ってこいって言っといたからな、頑張れよー」

 

そう言い残して先に進んでいってしまった。

 

(ゆっくりって・・・もう扉開いてんだし、別に進んで問題ないんじゃ・・・)

・・・ありがとう、2人共

「え?」

 

小声で何かを呟いた神崎さんに聞き返すと、

 

「大賀くん。良かったら、もう少し話さない?」

「えっ?まあ、構わないけど。」

「ありがとう。じゃあ、もう1回座ろっか」

 

そう言いながら神崎さんが再びベンチに座ったので、俺もとりあえず腰を下ろした。

 

「えっと・・・」

「改めてだけど、昨日は助けに来てくれて本当にありがとう。ちゃんとお礼言いたかったんだ」

「それなら気にしなくていいよ。大切なクラスメイトを助けただけだしね」

「大賀くんからしたらそうかもしれないけど、指切りをして約束してくれて、傷だらけになりながらも私達を守ってくれて本当に嬉しかった」

 

うーむ、面と向かって言われると照れるな。

 

「・・・だから、これからもずっと守ってほしい」

「・・・へ?」

「私は大賀くんにずっと守ってほしいです。これからも、誰よりも私の近くで」

「・・・」

 

上目遣いで顔を少しだけ赤くしながら神崎さんはそう言ってきた。そんな神崎さんに俺は―――

 

 

 

「いや、無理だよ。俺、神崎さんみたいに頭良くないし、高校とか一緒は無理だろうし・・・」

「・・・・・え?」

 

俺の言葉に神崎さんはキョトンとなった。

 

「俺の頭じゃあ、神崎さんの足元にも及ばねえし、傍で守ろうとしたら神崎さんに高校のレベル下げて貰うしか・・・」

「・・・」

 

・・・あれ?神崎さん何も言ってこないな。でも、事実だしなあ。

 

「(クスッ)アハハハ・・・」

「か、神崎さん?」

「いや・・・水守君のアドバイス通りだなぁと思って」

 

神崎さんは笑いながら立ち上がると、振り返りながらそう言ってきた。威月のアドバイス・・・?

 

「"あの鈍感バカには、変な搦め手使っても無意味だ。真っ直ぐぶつかっていった方が、きっと応えてくれる"って。だから、もっとシンプルにいくね」

「? どういう・・・」

 

意味と聞こうとした俺の口を・・・

 

 

 

チュッ・・・ 「ん・・・」

「!?」

 

神崎さんの唇が塞いできた。神崎さんの突然の行動に、俺は硬直してしまった。

 

「プハッ・・・」

「えっ・・・・・神崎さん、何を「好きです」!?」

 

数秒後、唇を離した神崎さんに思わず問いかけた俺の耳に聞こえてきたのは、そんな言葉だった。

 

「え・・・あ・・・」

「ゴメンね、急にこんな事しちゃって。でも、今言わなきゃ後悔すると思ったんだ」

 

いつの間にか、神崎さんの顔はこれ以上無いくらい赤くなってはいたが、表情は真剣そのものだった。

 

「いつどんな時でも明るい貴方が好きです」

「只の口約束を守ってくれる義理堅い貴方が好きです」

「どんな時でも助けてくれる強い貴方が好きです」

「怖い人にお金を出せと言われて、300円を出してしまうちょっと間の抜けてる貴方がちょっと可愛くて好きです」

「そして何より・・・家族や私達の為に必死になれる、そんな優しい九澄 大賀くんが私は大好きです」

 

「私と、お付き合いしていただけませんか?」俺を真っ直ぐに見つめながら、神崎さんは最後に微笑みながら告白してきた。

 

(嘘だろ・・・だって神崎さんだぞ!?E組で1番人気のある女の子が俺の事を・・・)

「あ、えっと・・・まずはありがとう、俺に告白してくれて」

 

でも・・・

 

「俺、暴力事件起こすような奴だよ?」

「それだけ強いから、私達を守れたんだよ」

「頭だってそんなに良くないし・・・」

「私もE組だから、一緒だね」

「家事しか出来ないし・・・」

「うん、オムレツ凄く美味しかったよ。また作ってほしいな」

「夢見がちなバカだし・・・」

「誰よりも信じる強さを持ってるって素敵だと思うな」

「・・・えっと・・・」

 

俺の言葉にすぐに返してくる神崎さんに、俺は言い淀んだ。

 

(てか、何で俺はこんなに抵抗するような事、言ってるんだ?)

「・・・大賀くんは、私が嫌い?」

「そんな訳ねえよ!!神崎さんが嫌いなんて言う奴いる訳が「良かった・・・なら、お付き合いして下さい」!!」

 

安心した様な顔でもう一度告白してきてくれた神崎さんに、俺は自分の頭を殴りたい気分だった。

 

そうだよな・・・そんなこと、全部分かってて()()()()俺を好きと言ってくれたんだよな・・・

 

俺が軽く息を吐いた後、

 

「・・・最後に1つ聞いていい?」

「何?」

「・・・後悔しませんか?」

「大賀くんに私が後悔するなんて、あり得ないよ?」

 

可愛らしく小首をかしげながら即答してくれた神崎さんに、もう迷いは無かった。

 

「はい、俺で良ければお願いします」

 

今まで生きてきて、TOP3に入る位緊張した瞬間だった。

 

「ありがとう、大賀くん///」

 

そう言いながら満面の笑みを見せる神崎さんは、誰よりも綺麗だった―――

 

 

 

「えーっと・・・俺達、これからは恋人同士なんだよな?」

「うん、そうだね」

 

 何か実感湧かないなー・・・いきなり恋人になったと言われても。

 

「・・・何か、あんまり変わんないね。恋人になったっていっても」

 

神崎さんも俺と同じ考えみたいだなぁ。

 

「どうすれば恋人なんだろうな?」

「うーん・・・やっぱり、最初は名前を呼ぶんじゃないかな?」

「あ、確かに。太陽も付き合い始めてから倉橋さんを名前で呼び出したもんな。じゃあ・・・」

 

そう言いながら、俺は神崎さんと向き合ったが・・・

 

「・・・っ」

(名前呼ぶだけでこんな緊張するのか!?太陽と倉橋さんはこれを乗り越えたってのか!?凄いな、あの2人!?)

「大賀くん?」

 

っつても、神崎さんはもう俺の名前を呼んでくれてる。次は俺が呼ぶ番なんだ!!

 

そう覚悟を決めた俺は・・・

 

「ゆ、有希子・・・」

「!! うん///!!」

 

とびきりの笑顔で返事をしてくれた神崎さん―――有希子に俺は限界だった。

 

「う・・・うわあぁっ!!」

「た、大賀くん!?」

(いや、無理だろ!!どんだけ可愛いんだよ!?てか俺、こんな可愛い人とさっきまでよく平然と話せてたな!?)

 

いきなり叫びだした俺に有希子も慌てた様子だったけど、気にしている余裕なんて俺には無かった。

 

(しかも、こんな人が俺の彼女になった・・・俺、大丈夫かなあ?)

「だ、大丈夫?大賀くん」

「ハァ・・・ハァ・・・何とか・・・でも、ゴメン。俺、有希子とどうやって付き合っていったらいいのか分かんな(スッ)・・・?」

 

有希子は俺に片手を伸ばし、

 

「ゆっくりいけばいいんじゃないかな?10組カップルがあったら10組違う付き合い方があるんだもん。私達は、私達のペースでいこっ、ね?」

「・・・ありがと」

 

そう微笑んでくれた有希子の手を、俺は受け取った。そうだな・・・太陽達みたいなカップルとは違うかもしれないけど、俺達らしく付き合っていこう。

 

ギュッ 「行こう、有希子!!皆、待ってるしさ!!」

「うん!!」

 

俺達は恋人らしい握り方に変えながら、洞窟の外へと再び歩き出した。洞窟の外で冷やかされまくったのは言うまでもない。




いかがだったでしょうか。

いやぁ、とうとうきましたね!!ここまで長かった~!!

初々しさが書けてたらいいなと思ってます(笑)!!

只、真剣に書きすぎて7000文字超えちゃいました(笑)太陽の時に比べて大分長くなっちゃったなー・・・と思ってます。

ま、後悔はしてませんが(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十五時間目 過去の時間

皆さんどうも籠野球です。

やっと休みだー!!この1か月、マジでキツかった・・・

この休み中、何話投稿出来るかは分かりませんが、最低でも今あるストックの分は出そうと思ってますので、暇な時にでも読んで下さい!!

それでは、どうぞ!!


登志side

 

「ハァ・・・」

「まあ落ち込むなよ、杉野」

 

 殺せんせーの準備が済むまでの間、僕達は洞窟の入り口で待機していた。

 

そんな僕達の話題は大賀と神崎さんの事だった。大賀は気づいてないみたいだったけど、どう見ても神崎さんが大賀に好意を抱いているのはすぐに分かった。

 

今も大賀が調理器具を厨房に返しに行くのにも、自分から手伝ったしね。

 

(というか、あれで気づかない大賀も凄いな・・・)

「いや、落ち込んでるんじゃ無くて、悔しいんだよ。

・・・でもさ、1番悔しいのは、」

「ん?」

 

杉野君は苦笑いを浮かべながら、

 

「あんま悔しくねーんだよ」

「え?」

「大賀ってすげー良い奴じゃん。だからさ、アイツに負けるならしょうがねえのかなって思えてくんだよ」

 

杉野君・・・

 

「かー!!漢だぜ、杉野!!」 バンッ!!

「痛って!!強すぎだろ、威月!!」

 

威月にしては珍しく、テンション高く杉野君の背中を叩いていた。そう言う杉野君も笑ってるし、本当にそこまで落ち込んで無いんだろうな。

 

「杉野君にも、いつか好きになってくれる女の子が出来る筈だよ。自信持って!!」

「おう!!サンキューな、伊勢」

 

さて、とりあえず僕もペアを決めないと。

 

「威月、ペアにならない?」

「ああ悪い、俺は中村と行くよ」

「あ、そうなんだ。じゃあ・・・「伊勢くん」え?」

 

振り返ると、そこには矢田さんが立っていた。

 

「矢田さん」

「伊勢くん、ペアいないなら私と一緒に行かない?」

「・・・はい、いいですよ」

 

矢田さんからの誘い、勿論嬉しかったけど矢田さんの顔がこれ以上無いくらい真剣だったのが気になった。

 

 

 

「・・・そろそろ行きましょうか、矢田さん。僕らが最後ですし」

「うん、あんまり待たせちゃうと悪いもんね」

 

 威月と中村さんが入ってから10分は経ってるし、そろそろいいだろう。

 

「結構涼しいですね、中は」

「何か雰囲気不気味-・・・」

 

確かに何か出そうな雰囲気ではあるかな。

 

「まあ、お化け役は殺せんせーだし、僕がぶった斬りますから大丈夫ですよ」

「アハハ、ありがとう」

 

そんなやりとりと共に僕達は中を進んでいった。

 

 

 

「・・・何にも出てこないね」

「殺せんせー何やってるんですかね・・・?」

 

 恐らくは半分くらいは歩いてきた筈なのに、殺せんせーは1回も出てこなかった。これじゃあ、只の洞窟散歩だよ・・・

 

(・・・龍志)

 

・・・こんな暗い雰囲気で無言で歩いていると、どうしても考えてしまうな。

 

(今、どこにいるんですか・・・?「・・・そういえば、傷は大丈夫?伊勢くん」・・・僕は、もう一度貴方と会って止める為に強く「伊勢くん?」・・・!!)

 

その時、矢田さんに声をかけられている事に気づいた。

 

「あ・・・すいません、何でしたか?」

「あ、いや、肩の傷はもう大丈夫かなって・・・」

「ああ・・・問題ないですよ、肩を刺された訳では無いですからね」

 

右肩を触りながら、僕は心配かけないように笑顔で答えた。でも、矢田さんの顔は優れなかった。

 

「矢田さん?」

「・・・ねえ、伊勢くん。よかったら話してくれないかな?龍志って人について」

「!!」

 

そういう事か・・・

 

「・・・だから、僕とペアになったんですね」

「うん、ごめんなさい。でも伊勢くん、あの時から時々様子がおかしいから・・・」

「・・・」

「話したくないって言ってたのに、無理に聞き出そうとしてゴメンね。でも・・・伊勢くんは私を助けてくれた。だから、私も助けてあげたいんだ。どうかな?」

「・・・」

 

恐らくは、ここで絶対に話したくないって言ったら矢田さんは納得してそれ以上は聞いてこないだろうし、適当に誤魔化す事も出来た。

 

(・・・でも、)

 

理由は分からない。でも、真剣な顔で向き合ってくれるこの人に僕は何故か隠し事をしたくなかった。

 

「・・・分かりました、いいですよ」

「!!・・・ありがとう。ちょうどあそこに椅子あるし、座ろっか」

 

指差した先を見てみると、何やらハートマークの付いたベンチがあった。・・・何であんな所にポツンと置いてあるんだろう。

 

(まあ、座れるならデザインはどうでもいいか)

 

そう思いながら僕と矢田さんはベンチに座った。

 

(さてと、まず何から話せばいいのかな・・・)

「・・・やっぱり、5年前の事件からかな」

「一族が全滅した・・・って言ってたよね、悪鬼さんは」

 

僕は矢田さんの言葉に頷いた。

 

「5年前、1人の男が最後の飛天御剣流の一族を斬殺して、そして・・・姿を消したんです」

「それが・・・龍志さん?」

「はい・・・そして、僕がこの世で最も尊敬している人でもあります」

「!?・・・伊勢くんは、龍志さんって人とどういう関係なの?」

 

恐る恐る聞いてきた矢田さんに、僕はその言葉を吐き出した。

 

「伊勢 龍志は、僕の()()()で、僕や兄貴にとっての両親を殺した人です」

 

 

 

5年前・・・

 

(僕のご先祖様は、日本最強の剣士だったらしい)

 

床の間に飾られた2本の刀を見ながら、僕はそう唱えた。

 

(でも、見た事も無い人のことなんて僕はどうでもいいんだよね)

 

正直、僕は剣術自体は好きな訳では無かった。・・・けど僕は剣術をする事は大好きだった。

 

何故なら・・・

 

「登志はその刀を見てるのが好きね」

「あ、母さん」

 

その時、襖を開けて()()()を持った母さんが入ってきた。確かに、この刀を見てるのは好きなんだよな。

 

「お父さんが稽古の時間って言ってるわよ」

「あ、もうそんな時間だったんだ!?」

 

早く行かないと!!そう思いながら、僕は玄関へと駆け出し家のすぐ横に建てられた道場へと走った。

 

ガラッ 「・・・来たか、登志」

「また刀を見てたのか。好きだな、登志は」

 

そこにいたのは、同じく黒髪のお父さんと・・・

 

「よろしくお願いします!!お父さん、()()()!!」

 

僕と同じ()()()()()()()()の兄さんが立っていた。

 

 

 

タンッ 「飛天御剣流 龍槌閃!!」

 

 僕は思いきり跳躍すると、真下にある藁を丸めた目標に竹刀を振り下ろした。

 

スカッ!! 「あっ!?」

 

しまった!!振り下ろすのが早すぎた!!

 

ゴンッ!! 「へぶっ!?」

 

バランスを崩した僕は、顔面から床へと落下した。

 

「と、登志、大丈夫か!?」

「うう・・・痛い」

 

そんな僕を見て、兄さんが慌てた様子で駆け寄って来てくれた。兄さんはそのままペタペタと僕の顔を触り、

 

「・・・鼻血とかは出てないな、よかった・・・」

「ありがとう、兄さん」

「登志、少し休んでなさい。龍志、次はお前の番だ」

 

父さんに僕達は頷くと僕は道場の端っこに、兄さんは自分の木刀を持って真ん中へと歩くと・・・

 

タンッ 「飛天御剣流 龍槌閃!!」 ドカンッ!!

 

思い切り跳躍して、同じように目標に木刀を振り下ろした。

 

兄さんの一撃を喰らった俵は大きく揺れた後、ゆっくりと時間をかけて止まった。

 

(やっぱり兄さんは凄い・・・)

「うむ、完璧だ。やはり龍志は、人斬り抜刀齋に1番近いかもしれんな」

 

兄さんは、僕達が使用する飛天御剣流を作り出したご先祖様――人斬り抜刀齋と呼ばれた最強の剣士の生まれ変わりとまで言われるくらい強かった。

 

「龍志が登志くらいの年には、一通りの飛天御剣流を使えたが・・・やはり登志には難しかったか」

(うぅ・・・)

 

父さんの言葉に僕は思わず俯いた。確かに兄さんには勝てないからな・・・

 

「父さん、そんな言い方は無いだろ。登志は俺よりも抜刀術は上手いし、ちゃんと真面目に頑張ってるじゃないか。いつか、ちゃんと出来るようになるよ」

「む・・・そうだな。すまない、登志」

 

しかし、それを否定した兄さんの言葉に、父さんはちゃんと謝ってくれた。

 

「ありがとう、兄さん」

「(ぽんっ)大丈夫さ、登志。お前は強い、自信を持て」

 

僕が剣術をする理由、それは今も僕の頭に手を置いて笑ってくれる兄さんがいたからだった。

 

「ほら、登志。もういけるか?」

「うん!!」

 

―――兄さんは、僕にとって憧れそのものだった。強くて、優しくて。

 

 

 

・・・あ、剣術を続ける理由はもう一つあった。それは・・・

 

「はい、お待ち。龍志君、登志君」

「ありがとう、田中さん」

 

月に1回、他の剣術道場への出稽古の帰りに兄さんと食べる蕎麦、これが僕は何よりも大好きだった。

 

「「いたただきまーす」」 パチンッ

ズルズル・・・ 「美味いか?登志」

「うん!!」

 

兄さんも僕と一緒に食べるこの蕎麦は大好きらしく、いつもよりも機嫌は良くなるのだった。

 

「(モグモグ・・・)しかし、兄さんには何回やっても勝てないなぁ。今日も何本も試合取ったのに、1本も取れなかったし」

「(ズーッ・・・)確かに俺には勝ててはいないが、道場の他の奴らには全員勝てるじゃないか。中学生相手でも、あっさり勝ててるしな」

 

中学生で道場主にも圧勝出来る兄さんに言われてもな・・・

 

(・・・僕も兄さんみたいな髪色(どうやら、ご先祖様の髪の毛もこんな色だったらしい。)なのに、何でこんなに違うのかなぁ・・・)

「(ぽんっ)お前は、きっと強くなれる。大丈夫さ」

「兄さん・・・うん!!」

 

―――兄さんと一緒に父さんに稽古をつけてもらい、兄さんと一緒に出稽古に行き、兄さんと一緒に蕎麦屋で蕎麦を食べる。こんな生活がずっと続いていくものだと、僕は頭を撫でられながら当然思っていた。

 

 

 

「(ブンッ)484・・・(ブンッ)485・・・」

 

 月日が流れて、僕の10歳の誕生日まで20日となった3月1日。僕は家の道場の中で、日課の素振り500回を1人で行っていた。

 

「(ブンッ)499・・・(ブンッ)500!!ふー・・・終わりっと」

 

脇に置いてある手拭いで汗を拭いながら僕はひと息ついていた。身体を動かすのはやっぱり気持ちいいな。

 

「・・・さて、兄さんの誕生日プレゼント、何にしようかなあ・・・」

 

僕は草鞋を履きながらそう呟いた。

 

実は兄さんは3月3日が誕生日なのだ。雛祭り(女のこの日)が誕生日なのを兄さんは気にしてるけど、僕は別にいいと思うけどな。

 

(・・・でも、兄さんも15歳なんだ。「元服」って言うんだっけ、確か)

 

父さん曰く、昔の武士は15歳で一人前扱いされたらしく、兄さんも楽しみにしているもんなあ。

 

ガラッ 「・・・ま、蕎麦でも御馳走しようかな、僕は」

 

道場の扉を開けながら僕はそう決めた。3日は土曜日で学校は昼までだし、昼ご飯に食べに行こっと。

 

カラリ 「・・・

・・・

(・・・ん?茶室で誰かが話し合ってる?)

 

玄関の扉を開けたその時、奥の茶室から話し声が聞こえてきた。お客さん来るなんて父さん言ってなかったけどなあ。

 

スタスタ (いったい誰が・・・)

 

お客さんならとりあえず挨拶しておこうと、僕は茶室の入り口へと近づいて襖を開ける為に取っ手に手を掛けようとした。

 

「何でですか!?」

「!?」 ビクッ

 

その時、中からそんな怒鳴り声が聞こえてきて、僕は思わず硬直した。この声、兄さん!?

 

「誰だ!?」 ガラッ!!

「あ・・・えっと・・・」

「!! 登志・・・」

 

いきなり襖を開けながら兄さんは、立ちすくむ僕を見て息を呑んでいた。茶室の中では、父さんが座って僕を見ていた。

 

「・・・驚かせてゴメンな、登志(ポンッ)」

 

兄さんはいつもの様に頭に手を乗せた後、歩いて部屋へと戻っていった。

 

「・・・あ、邪魔をしてすみませんでした、父さん」

「こっちこそ驚かせてすまんな、登志」

「いえ・・・じゃあ、僕も戻ります。」

 

何を話していたのかは気になったけど、恐らくは話してくれないだろうし僕も部屋に戻ろうとした。

 

「・・・登志」

「はい?」

「・・・少し、話せるか?」

 

父さんは、少しだけ笑みを浮かべながら僕にそう言ってきた―――――

 

 

 

カラリ 「・・・ん?」

 

 兄さんの部屋の襖を開けると、兄さんは部屋の真ん中で座禅を組んでいた。僕の存在に気づいた兄さんは、優しげな笑みを浮かべながら僕に話しかけてきた。

 

「どうした、登志?」

「さっきはゴメンね、兄さん。お話、邪魔しちゃって・・・」

「わざわざ謝りに来てくれたのか?気にしなくて大丈夫さ」

 

本当に怒ってないみたいだな、よかった・・・

 

「・・・」

「? まだ何かあるのか?」

「兄さん、さっきは父さんと何を話してたの?」

「!!」

 

僕のそんな質問に、兄さんは一瞬だけ目を見開いた後・・・

 

「(クシャッ)・・・たいした事じゃ無いさ、気にするな」

 

いつもと同じ様に笑いながら僕の頭を撫でてくれた。いつもと変わらないそんな兄さんの行動に、僕は安心して撫でられ続けた。

 

―――今でも僕は、この時の事を悔やんでいる。

 

―――もしもこの時・・・兄さんの僕の頭を撫でる力がいつもよりも強い事に気づけていたら・・・

 

―――もし、兄さんの心の内を少しでも理解できていたら・・・後の悲劇は起こらなかったのかもしれない・・・と。




いかがだったでしょうか。

というわけで、登志の過去でした。過去は次回で終わりですが果たして、どうなっていくのでしょうか・・・

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十六時間目 否定する時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は登志の過去の続きです。

なかなか最新話が書けなくて苦戦してますが、頑張っていきたいと思います!!

それでは、どうぞ!!


登志side

 

3月3日 兄さんの誕生日・・・

 

キーンコーンカーンコーン・・・ 「終わった~!!」

 

 四時間目が終了した事を告げるチャイムに、僕は伸びをした。

 

「さーて、早く帰らないと」

「ずいぶんご機嫌だな、伊勢」

「あ、九澄君」

 

ランドセルに教科書を放り込んでいると、クラスメイトの九澄君が笑顔で話しかけてきた。

 

「今日ずっと機嫌が良いし、何かあったのか?」

「へへー、分かる?実は今日、兄さんの誕生日なんだ」

「へー、いいなー!!俺、お兄ちゃんとかいないから羨ましいよ」

「おーい、大賀」

 

その時、教室の扉付近からそんな声が聞こえてきた。

 

見てみると、そこには別のクラスの神木君と水守君が立っていた。

 

「何、話してんだ?」

「いや、伊勢が機嫌良いから理由聞いたら、今日お兄さんが誕生日なんだってー」

「そうか、おめでとう」

「うん、ありがとう!!それで今日のお昼ご飯にお蕎麦を御馳走してあげるんだー!!」

「伊勢はお兄さんが好きなんだな」

「そりゃ勿論!!」

 

兄さんは僕の憧れそのものだって自信持って言えるもんね。

 

「ま、邪魔しちゃ悪いし、俺達も帰ろうぜ。昼飯は何だ?大賀」

「うーん・・・手っ取り早く炒飯とかかな?」

「おー、そりゃいいな!!」

 

九澄君達3人は同じ孤児院で暮らしているらしい。この3人も僕と兄さんと同じくらい仲良いなぁ。

 

「っと、急がないと!!またね、皆!!」

「おー」

 

僕はランドセルを背負って帰り道へと急いだ。

 

―――この時は、この後すぐに3人と一緒に暮らす事になるとは当然思ってなかった。

 

 

 

タッタッタ 「ハァ・・・ハァ・・・フゥ」

 

 家の敷地内に着いて、僕は走るのを止めた。少しだけ疲れたな。

 

キョロキョロ (兄さんは・・・自分の部屋かな?)

 

お昼ご飯食べに行こうって言っておいたし、流石に稽古はしていないだろう。

 

ガラッ!! 「ただいま、兄・・・え?」

 

家の扉を開けながらの僕の言葉は、床に付いている赤い液体が目に入った事で自然と失われた。

 

「これって・・・血?」

 

よく見ると、血の跡は家の中から外に出ているのだった。まさか・・・泥棒!?

 

僕は玄関に立てかけられた木刀を手に家の中へと入ると、血の跡にゆっくりと付いていった。やがて血の跡は、刀の飾ってある部屋に入っていった。

 

「・・・」 スゥ

 

僕は、恐る恐る襖を開けた。そんな僕の目に飛び込んできたのは―――

 

うっ・・・

「!? 母さん!!」

 

血まみれになって仰向けで倒れている母さんの姿だった。

 

「しっかりして、母さん!!」

と、登志・・・

 

よく見ると、母さんの身体は刃物で斬られた様な傷が肩から1つだけあった。こんな大きな傷は、日本刀の様な物じゃなきゃ付く筈が無い!!

 

「誰にやられたの!?」

「りゅ、龍志が・・・」

「えっ・・・」

 

に、兄さんが?何で!?

 

「龍志はあの人と道場に・・・急いで・・・登・・志・」 

「か、母さん!?っ!!」

 

そう言い残して母さんの身体からは力が抜けた。奥歯を噛みしめたが、僕は母さんの言い残した通り道場へと急いだ。

 

(嘘だよね・・・兄さん!!兄さんがそんな事するわけ無いよね!?)

ガラッ!! 「兄さん!!」

 

―――そう考えながら道場の扉を開けた僕の目に入った光景を、僕は忘れた日は無かった。

 

「「・・・」」

「兄さん、父さ(ブシャァ!!)!?」

 

お互いに真剣を持って背中を向け合っている2人に声をかけた次の瞬間、父さんの身体の様々な場所から血が勢いよく噴き出した。

 

「父さん!!」

「(キンッ)・・・登志」

 

慌てて父さんに駆け寄った僕を、兄さんは刀を鞘に収めながら呟いた。

 

兄さんの手に握られていた刀は、床の間に飾られていた2本の内の1本だった。

 

「に、兄さん・・・何で・・・!?」

「・・・」

 

何で黙ったままなの・・・いつもみたいに笑って頭を撫でてよ・・・兄さん!!

 

「すまない・・・」

「ま、待って兄さ(がしっ)「待つんだ、登志・・・」と、父さん!?」

 

そう言い残して道場をを出ていった兄さんを追いかけようとした僕の腕を、父さんが掴んで止めた。

 

「今のお前では、龍志には勝てない・・・絶対にだ」

「っ!!」

 

そ、そりゃ、兄さんに勝てる自信は無いけど・・・

 

「剣の腕の問題じゃ無い・・・飛天御剣流の在り方、人斬り抜刀齋の血が流れる自分自身の生き方を龍志なりに定めているからだ。今のお前では、人斬りとして生きる事を決めた龍志に勝つのは不可能だ」

「じゃ、じゃあ、僕はどうすれば・・・!?」

「・・・一昨日、話した事を覚えているか?登志」

 

一昨日の話って・・・確か、兄さんが怒鳴って出ていった後での話か・・・

 

「あの時のお前の考え方。あれこそが、飛天御剣流の正しい在り方そのものだと思っている」

「えっ・・・」

 

僕の考え方が、飛天御剣流の正しい在り方・・・

 

「ゴホッ・・・もう時間が無い・・・よく聞け、登志」

 

血を吐き出しながらも、父さんは真っ直ぐ僕を見据えると、

 

「床の間に飾ってあった2本の内、龍志が持っていった刀は人斬り抜刀齋が使ったとされる刀だ。そして、もう1本の刀。あの刀の名は「登龍(とうりゅう)」と言って、人斬り抜刀齋が後世に残したとされる伝説の刀だ」

「登龍・・・?それって僕と兄さんの・・・」

「そうだ・・登志(お前)と龍志の名前は、その刀から一文字ずつ取ったんだ・・・あの2本の刀のどちらを渡すか、それがあの時の龍志との話だったんだ」

「!!」

「正直あの時は迷っていた。だが、すぐ後のお前との会話で確信した。「登龍」は登志、お前が持つのがふさわしい」

 

僕が・・・人斬り抜刀齋が残した刀を・・・

 

「だが登志。お前があの刀を抜く為には、2つの条件がある」

「2つ・・・?」

 

父さんは頷くと、

 

「1つは、大切な人を守りたいと思った時。そして、もう1つ。こっちの方が、重要だ」

「な、何ですか?」

「・・・それは―――」

 

 

 

桃花side

 

「・・・そこで僕は気を失い、次に気がついた時は「ひまわり」の布団で寝かされていたんです」

 

 伊勢君の壮絶な過去に私は言葉を失いながらも恐る恐る聞いた。

 

「・・・伊勢くんのお父さんが言ったもう1つの条件は何だったの・・・?」

 

伊勢君は私の質問に答えなかった。どうしたんだろう?

 

「伊勢くん?」

「・・・覚えてないんです」

「覚えてない?」

「はい・・・聞いたのは間違いないんですが・・・」

 

伊勢君はその時9歳だったんだし、ご両親が目の前で死んじゃったショックで忘れててもおかしくは無いかも・・・

 

「兄貴と呼ぶようになったのはその頃からです。憧れてるだけの存在じゃ止める事なんて出来ませんから」

「そうなんだ・・・」

「僕は兄貴を止めたくて、飛天御剣流は人斬りの道具じゃ無いって否定したくて剣術を続けてきました・・・何より、僕達は人斬りとして生きる必要は無いって証明したくて・・・」

「・・・伊勢く「でも、やっぱり無理なのかもしれませんね」え?」

 

私の言葉を遮った伊勢君の顔は、悲しげな顔を浮かべていた。

 

「太陽達を傷つけてから、2度と人斬り抜刀齋の血を呼び起こさない。そう決めていたのに、僕は・・・」

「そんな・・・伊勢くんは、私を助けようと!!」

「どんな理由でも、僕が人斬り抜刀齋の血を呼び起こしたのは変わらないですよ。あの時・・・矢田さんが声をかけてくれなければ僕は恐らくは悪鬼さんを・・・」

 

私の言葉を否定しながら伊勢君は椅子から立ち上がると、

 

「太陽達は、「僕にも平穏な暮らしが出来る」・・・そう言ってくれたけど、僕の流れる血は平穏に生きるには余りにも危険すぎる。悪鬼さんの戦いで僕はそう思っちゃいました」

「伊勢くん・・・」

 

振り返った伊勢君の顔は困った様な、諦めた様な笑みを浮かべているけど・・・

 

「簡単に人斬り抜刀齋の血を呼び起こしてしまう僕じゃ、やっぱり人斬りになるしか「伊勢くんは人斬りなんかじゃ無いよ」・・・え?」

 

そんな伊勢君を見るのが辛くて、何よりもそう思う()()()()()()()()()()・・・私は伊勢君の言葉を遮った。

 

当然、伊勢君は私を見てきたので、私は笑顔で自分の考えを告げた。

 

「確かに伊勢くんには人斬りの血が流れているかもしれない。でも、今こうやって目の前で話す伊勢くんが人斬りなんかじゃ無い事を私は知っているよ」

「矢田さん・・・」

「私はそんな優しい伊勢くんにこのE組にいてほしいな。それに、もしまたああなっても、今度は私が止めてみせるから!!」

 

・・・言ってて気づいたけど、何の根拠も無いなあ。恥ずかしさから伊勢君の顔を見れずにいると・・・

 

「・・・ありがとございます、矢田さん」

「え?」

 

顔を上げた私の目に入ったのは、さっきまでの笑い方とまるで違う安心した様子で微笑む伊勢君だった。

 

「僕は誰かから、その言葉を言ってほしかったのかもしれません」

「よかった・・・本当に止められるかは自信ないけど・・・」

「いえ、その言葉だけで充分です」 スッ

 

そう言うと、伊勢君は私に片手を出し、

 

「そろそろ行きましょう。僕達が最後ですし、皆、待ってますよ」

「そうだね、行こうか」

(ゴメンね、伊勢くん。私、伊勢くんの事、何にも知らなかった・・・伊勢くんの悩みも、目的も)

 

私なんかが伊勢君を止められるかは分からない・・・でも、頑張ろう。

 

そう心の中で唱えながら、私は伊勢君が差し出してきた手を受け取った―――

 

 

 

登志side

 

「・・・あ、やっと外が見えてきましたね」

 

 矢田さんに聞いて貰ったお陰か、スッキリした状態で歩いていたその時、弱い光が差し込んでくる穴があった。

 

「結局、殺せんせー1回も出てこなかったね」

「そうですね・・・どうしたんでしょう?」

 

僕達はそんなやりとりと共にその穴から外に出た。するとそこでは・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

「「「「・・・」」」」

 

荒く呼吸をしながら地面に突っ伏している殺せんせーを、皆が呆れた様子で見下ろしていた。

 

「・・・何、この状況?」

「おー、2人共。遅かったな」

「うん、ちょっとね。それより、どうしたの?」

「聞いてりゃ分かるよ」

 

僕にそう返しながら、太陽は再び殺せんせーを見つめた。

 

「要するに・・・怖がらせて吊り橋効果でカップル成立を狙ってたと」

「結果を急ぎすぎな上に、狙いがバレバレなんだよ」

「だって・・・だって見たかったんだもん!!手ェ繋いで照れる2人とか見てニヤニヤしたいじゃないですか!!」

 

泣きながらキレた・・・どれだけゲスいんですか、殺せんせー・・・

 

「というか、威月君!!何で大賀君と神崎さんの観察を邪魔したんですか!?あの後、お2人はお付き合いし始めたみたいですし、絶好の小説のネタになったのに!!」

「アンタがそんな考えだと思ったからだよ・・・そうじゃなくても、家族の大事な状況に茶々入れられてたまるか」

 

殺せんせーの非難に威月は額に青筋を浮かべながらそう返した。確かに僕も威月と同じ考えかなぁ。

 

その時、中村さんが諭す様に話し出した。

 

「・・・あのさぁ、殺せんせー。うちら位だと色恋沙汰とか変にちょっかい出されるの嫌がる子多いんだし、そっとしときなよ。皆が皆、ゲスい訳じゃないんだからさ」

「うう・・・分かりました」

(やれやれ・・・まあ、とりあえず一段落「何よ、結局誰もいないじゃない!!怖がって歩いて損したわ!!」・・・ん?)

 

その時、洞窟の方からそんな声が聞こえてきて、僕達は洞窟の方を向いた。そこから出てきてたのは、

 

「だからくっつくだけ無駄だと言ったろ・・・徹夜明けにはいいお荷物だ」

「うっさいわね、男でしょ!!美女がいたら優しくエスコートしなさいよ!!・・・『Stupid』」

 

烏間先生の腕に抱きついているビッチ先生だった。ビッチ先生は最後に何かを呟いた後、僕達の視線に気づいて無言で烏間先生から手を放した。

 

(・・・ビッチ先生のあの反応・・・まさかビッチ先生)

「・・・なあ、やっぱりビッチ先生って・・・」

「・・・うん」

 

皆の反応からしても、やっぱりそうなんだなぁ。

 

「・・・どうする?」

「明日の朝までまだ時間あるし・・・」

((((くっつけちゃいますか!?))))

「結局、全員ゲスいのかよ・・・」

「ハハ・・・」

 

目を光らせる僕達に、威月が呆れた様子で呟き、太陽が乾いた笑いを漏らした。




いかがだったでしょうか。

前話と今話の話は、登志を書くに至って1番最初に思いついた話です。

両親を殺されても、誰よりも尊敬する兄を止めるために戦う弟、それが登志の基本的な設定です。

矢田さんに支えてもらいながら、登志がどう進んでいくか楽しみにしていただけたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十七時間目 終わり&始まりの時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ、南の島編終了です。

何とか書き終えた・・・全部で19話になりました(笑)

お盆も終わってしまい作者はテンション下がりっぱなしですが、読んでくれる方々の為にも頑張っていきます!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

あの後、俺達はビッチ先生を連れてホテルのロビーへと戻ってきた。

 

「意外だよな~あんだけ男を自由自在に操れんのに」

「自分の恋愛にはてんで奥手なのね」

 

木村や茅野の言葉に、ソファーに座っているビッチ先生が噛みついた。

 

「仕方ないじゃないのよ!!アイツの堅物ぶりったら世界(ワールド)クラスよ!!」

(まあ、烏間先生だからなー・・・)

「私にだってプライドがあるわ。男をオトす技術だって千を超える。ムキになって本気にさせようとしている間に・・・そのうち・・・こっちが・・・///」

 

おー・・・何か恋する乙女そのものって感じだな。

 

「・・・何か一瞬だけ可愛いと思っちまった」

「ああ、屈辱だな」

「何でよ!!」

 

まあ、ビッチ先生は口を開かなければ美女だからな。色気にやられるのは仕方ない。

 

(ま、今回はその経験が邪魔して素直になれないって所か)

「俺等に任せろって!!2人の為にセッティングしてやんぜ!!」

「南の島で告白とかロマンチック~」

「あんた達・・・」

 

前原の言葉で夕食の時間に作戦決行する事が決まり、全員がやる気満々な様子だった。

 

下手に手助けしない方がいいと思うんだがな・・・

 

あ、威月だけは反対みたいだな。俺も正直やめといた方がいい気もするが・・・

 

ほっといたらどうなるか分かんないし、俺らも行こうや

・・・ま、そうだな

 

 

俺の言葉に、威月もその重い腰を渋々上げた様子だった。

 

 

 

「では、恋愛コンサルタント3年E組の会議を始めます」

 

 いつの間にか、スーツに着替えた殺せんせーが眼鏡を上げながらそう言った。

 

「ノリノリね、タコ」

「同僚の恋を応援するのは当然です。女教師が男に溺れる愛欲の日々・・・甘酸っぱい恋愛小説が書けそうです」

「明らかにエロ小説を構築してる!?」

 

 

・・・この人が先導している以上、やっぱりほっといたらどうなるか分かんないな・・・

 

「まずさあ、服の系統が悪いんだよ。露出しときゃいいや的な」

「烏間先生みたいなお堅い日本人のタイプじゃないですし、もっと清楚な感じで攻めた方がいいと思いますよ?」

 

登志の言う通りかもなー・・・少なくとも烏間先生の好みでは無さそうだ。

 

「む、むう・・・清楚か」

「清楚つったら、やっぱり神崎ちゃんか。昨日着てた服、もう乾いてる?」

「あ、うん。持ってくるね!!」

 

 

 

数分後・・・

 

「ほら、服1つで清楚に・・・」

 

 着替えが終わって部屋から出てきたビッチ先生は・・・当たり前だが神崎とは服のサイズが違う為、全身パツパツで何ともいえない色気が漂っていた。

 

「「「「何か逆にエロい!!」」」」

「サイズの事、何にも考えてなかったですね・・・」

「あんな服、神崎さんが着てたと思うと(ドゴォ!!)グボァ!?」

 

登志の後に岡島がそう言った途中で思い切り横へと吹っ飛んだ。

 

どうやら、大賀が後ろ蹴りを放ったみたいだ。

 

「な、何すんだ・・・大賀」

「あ・・・悪い、つい反射的に」

 

今の一撃、かなり威力高そうだったしな・・・大丈夫か?岡島。

 

「気にするこたねえよ、大賀。今のはどう考えても岡島が悪い」

「そーそー。目の前で彼女をエロい目で見られて怒らない彼氏なんていないしね」

 

・・・岡島の味方は誰もいないみたいだった。

 

「もーいーや、エロいのは仕方ない!!大切なのは乳よりも人間同士の相性よ!!」

「(コクコクコクコク・・・)」

 

岡野の言葉に茅野が壊れた人形みたいに頷いている・・・

 

「誰か烏間先生の好みを知っている人は?」

「・・・あ!!そういえばさっきテレビのCMのあの(ひと)を見ながら言ってたよ!!「俺の理想のタイプだ」って!!」

 

矢田の言葉で、俺達は一斉にテレビに見た。

 

・・・そこには、レスリングのあの人が出てくるCMが映っていた。

 

「「顔つきも体つきも理想的だ。おまけに3人もいる」って」

「「「「いやそれ、理想の戦力としてじゃね!?」」」」

「仮に強い人が好きだとしても、それなら尚更ビッチ先生の筋肉じゃ絶望的だね」

 

うーん・・・竹林の言う通りだよな。何か他の方法でいくしかねえな。

 

「じ、じゃあ手料理とかどうですか?ホテルのディナーも豪華ですけど、そこをあえて2人だけは烏間先生の好物とか・・・」

「奥田さんの案もありかもな」

「誰か烏間先生の好物を知っていますか?」

 

そんな殺せんせーの質問に大賀が手を挙げた。

 

「えっと・・・一応、知ってます」

「? 一応ってどういう事だ?」

「その・・・今日の昼、皆が起きる前に烏間先生にスープを差し入れに行った時に何気なく聞いてみたんだ」

「おお、良いタイミングじゃん!!で、何だったんだ?」

 

前原の言葉に大賀は珍しく何ともいえない顔をしていた。どうしたんだ?

 

「・・・ハンバーガーだって。マ〇クのが特にお気に入りって言ってた」

「「「「・・・」」」」

「・・・他は?」

「・・・・・カップ麺も大好きって言ってた」

「「「「・・・・・」」」」

 

2人だけそんなの食ってたら、逆に惨めすぎる・・・

 

「・・・なあ、これ烏間先生の方に問題あるんじゃねえのか?」

「でしょでしょ!?」

「先生のおふざけも、何度、無情に流された事か・・・」

 

威月の発言を口火に、遂に烏間先生がディスられ始めたな・・・

 

「と、とにかくディナーまでに出来る事は整えましょう!!」

(どうなるか全く予想はつかんが・・・やってみるか)

 

 

 

「・・・何だこれは?」

「烏間先生の席ありませーん」

「E組名物、先生いびりでーす」

 

 夕食の時間、後から入ってきた烏間先生に岡野や中村が複数の椅子を占領しながらそう言った。

 

「外の席なら開いてますよ、烏間先生」

「あ、ああ・・・分かった」

 

外に置かれた椅子を指差しながらの威月の言葉に、烏間先生は納得がいってなさそうではあったが、とりあえずは外に向かった。

 

(とりあえず、第1関門突破と)

「「「「・・・」」」」 ばばっ

 

烏間先生が外に出たのを確認すると、皆は一斉に窓際へと近寄った。外の席には、既にオシャレしたビッチ先生が座っている。

 

「ビッチ先生のショールどうしたの?」

「九澄君と私が作ったんだ。ネットでブランド物を参考にしてね」

「原さんも家庭科強いもんな」

 

流石だなー・・・2人共。

 

「フィールドは整った。いけ、ビッチ先生!!」

(ま、こっから先はビッチ先生次第だな)

 

そう思いながら俺は耳を澄ませた。距離があるから声はかなり小さいけど、何とかギリギリ聞こえるな。

 

・・・色々あった旅行だったが、思わぬ形で生徒達に基礎が身についているのが分かったという収穫があった

 

そう言ってから烏間先生はじっとビッチ先生を見つめ、

 

この調子で二学期中に必ず殺す。イリーナ、お前の力も頼りにしているぞ

(堅いなー・・・こんな時でも仕事の話か「・・・」? ビッチ先生?)

 

その時、ビッチ先生の顔がいつもと雰囲気が違う事に気がついた。

 

どうした?

・・・昔話をしてもいい?私が初めて人を殺した時の話

 

そう言って話し出した内容によると、ビッチ先生が初めて人を殺したのは12歳の頃で、殺したのは紛争の激化によって略奪に来た敵の民兵だったらしい。両親を目の前で殺され、殺さなければ殺されると思ったビッチ先生は迷わず父親の拳銃で撃ったらしい。

 

死体を地下の蔵に押し込んで・・・奴等が去るまで死体と一緒にスシ詰めになって難を逃れた。一晩かけてぬるくなっていく死体の温もり、今もはっきり覚えているわ

(・・・平和な日本じゃ考えられない話だな)

ねえ・・・カラスマ。「殺す」ってどういう事か、本当にわかってる?

 

殺す・・・口に出すのは簡単だけど、それはとてつもなく重いんだよな・・・

 

「湿っぽい話しちゃったわね(ガタッ)それとナプキン適当につけすぎよ」

 

そう言うと、ビッチ先生は烏間先生のナプキンの端っこを手に持ち・・・

 

チュッ・・・ 「好きよ、カラスマ。おやすみなさい」

 

ナプキンにキスをしてから烏間先生の口を拭くと、そう言い残してビッチ先生は席を立った。

 

 

 

「何よ今の中途半端な間接キスは!!」

「いつもみたいに舌入れろ、舌!!」

「あーもーやかましいわ、ガキ共!!大人には大人の事情があんのよ!!」

 

当然そんな中途半端な告白に、全員がブーイングを浴びせた。まあ、そんな空気じゃ無かったからなー・・・

 

「いやいや、彼女はここから時間をかけていやらしい展開にするんですよ。ね?」

「ね?じゃねーよ、エロダコ!!」

 

殺せんせーとビッチ先生のやりとりを無視して俺は烏間先生を見た。すると・・・

 

「・・・何だ?最後のは。新しい技の練習なら感心だな」

 

・・・2人の恋路は、まだまだ時間がかかりそうだな・・・

 

 

 

威月side

 

♩~~♫~~~♪~

 

 夜11時頃、俺は太陽と倉橋がイルカを手懐けていた桟橋の先に座ってバイオリンを弾いていた。こいつはホテルのフロントにあったのを借りてきた物だ。

 

(・・・父さん、母さん。俺には家族も、仲間もいます。だから、安心して下さい)

 

そう唱えながら、俺は演奏を続けていた。すると・・・

 

「中学生がこんな夜遅くに出歩いて、いーけないんだー」

「・・・お前も外に出てる時点で一緒だろうが、中村」

「アハハ、まあねー」

 

振り返った俺の目に入ったのは、笑っている中村だった。

 

「んで、お前は何しに来たんだ?」

「いやー夕方まで寝ちゃったせいか、目が冴えちゃってね~。ちょっと散歩に」

 

なるほど、中村の格好はゆったりとしたスウェットだった。寝れなかったっていうのはホントみたいだな。

 

「で、外に出てみればアンタがバイオリン弾いてるのが見えてさ。隣、座っていい?」

「・・・ダメっつっても座んだろ?」

「当たり~」

 

そう言いながら、中村は俺の横へと座った。

 

「弾くの止めようか?隣だとうるせえだろ」

「いいよ、私アンタのバイオリン好きだし」

「そうか」

 

一応、確認した後、俺は演奏を再開した。

 

♩~♫~~♪~~~

「懐かしいね、アンタのバイオリン」

「両親の教えの産物だよ」

「アンタの図体でバイオリンって笑いにしかなんないけどねー」

「ほっとけ」

「ゴメンって」

 

中村は楽しそうに笑っていた。ったく、コイツは。

 

「それ何て曲?」

鎮魂歌(レクイエム)。この日はコレを弾くのが毎年の行事なんだ」

「!! そっか・・・今日がアンタの両親の・・・」

「ああ」

 

それ以上は気を遣ってか、その話題には触れなかった。こう見えて、コイツは気が利くんだよな。

 

「・・・久しぶりだね、こんな風に2人きりで話すのって」

「・・・まあな」

 

もう9年前だもんな、2()()()()()()()のは。

 

「威月あん時、私にすら何にも言わずに転校しちゃったんだもん。ホント寂しかったよ?」

「う・・・それはマジですまんかった」

 

いきなり「ひまわり」で暮らしだしたからなー・・・コイツに告げる暇も無かった。

 

「・・・ま!!今こうしてまたアンタと一緒のクラスなんだし、気にしてないよ」

「・・・そうか、サンキューな」

 

笑顔で言ってくれてるし、ホントに気にしちゃいないみたいだな。よかった。

 

♩~~~♫~♪~~

 

少しの沈黙の後、俺は中村に話しかけた。

 

「・・・昨日はありがとな、中村」

「?」

「ボマーって野郎を殺そうとした俺を止めてくれた事だよ。お前がいてくれて本当によかった」

「ああ、あん時の。別に幼馴染みを止めただけだよ」

 

コイツからしたらそうなのかもしれんが・・・俺はホントに感謝してるんだよな。

 

「その・・・何か1つ俺にやってほしい事ないか?」

「へ?」

「お礼と、あの時、何も言わずに引っ越しちまったお詫びだ」

「そっか~、んー・・・」

 

俺の言葉に少し考えるような素振りを見せ、

 

「・・・あ!!じゃあさ~昔みたいに莉桜って呼んでよ。アンタに中村って呼ばれるのあんま慣れな「却下」えー!?」

「中学生になって、いくら幼馴染みとはいえ女子の事を名前で呼ぶなんて小っ恥ずかしくて出来るか」

「むー・・・」

 

不満がありありなのが見てとれるが、流石に無理だ・・・

 

「じゃあ取っとくよ。好きな時に使う」

「そうか?まあお前がそうしたいなら」

フッフッフ、これで弱み1つゲット

(・・・あ、マズい権利与えちまったかも)

 

悪い笑みを浮かべる中村にそう思ったが、仕方ねえか。

 

♩~~~♫~~~♪~~~

「・・・アンタって、ボマーって人を殺す為に生きてきたんだよね?」

「何だよ、藪から棒に。確かにそうだが」

「じゃあ、その復讐が終わったアンタは、これからどうするの?」

「っ、そうだな・・・」

 

そんな何気ない質問に俺は黙った。今までは、それ以外にやりたい事なんて考えた事も無かったからな・・・

 

「・・・ま、しばらくは好きに生きるさ。すぐに決める必要なんかねえしな」

「・・・そ」

「それに、どのみちタコを殺せなかったら、これからもくそもねえだろ」

「アハハ、言われてみれば」

 

中村のそんな笑い声をバックに、俺は演奏を続けた。これからは、俺の新しい人生が始まるんだ―――

 

 

 

♩~~・・・

「ふぅ。そろそろ戻るか?中村(とんっ)?」

 

5分後、曲が終わり中村にそう声をかけたその時、肩に何かがのしかかった。

 

「スー・・・スー・・・」

「・・・寝ちまったか」

 

まだ疲れが完全には取れていなかったんだろう。俺に寄りかかりながら中村は寝息を立て始めていた。

 

「全く・・・普段は大人っぽいくせに、こういう時は年相応って感じだな」 スッ

 

俺は中村の頭を膝を上に載せた。いわゆる膝枕って奴だな。

 

「スー・・・スー・・・」

「・・・」

(こうして見ると、ホント綺麗だよな。コイツは)

 

顔だって整ってるし、根も真面目だしな。

 

「・・・どうせ気づいてないよな、()()()()()()」 くしゃっ

「んっ・・・んん~・・」

 

思わず本音を呟きながら頭を撫でてやると、むず痒そうに身をよじらせながらも嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「・・・」

 

普段呼ぶのは無理だけど、心の中では・・・いいか。

 

(おやすみ、莉桜・・・)

 

そう唱えながら、俺は静かな曲を選んで演奏を始めた。夜空には殺せんせーが壊した月の残りが、鈍い光を放っていた―――

 

 

 

翌日、俺と莉桜が烏間先生に怒られたのは言うまでもなく、殺せんせーは何やらネタ探しに奮起していたのを2人でサクッと撃退した。




いかがだったでしょうか。

ここで今作のオリジナル設定です。

威月と中村さんは、威月が両親の事件で転校するまでは幼馴染みでした(中村さんが威月の事を名前で呼ぶのは、その名残です)

そして、威月の発言でも匂わせてますが、威月は中村さんに恋心を抱いています。中村さんが威月の事をどう思っているかは・・・ご想像にお任せします(笑)

この2人のタグが入ってない理由は、この2人はあんまりイチャイチャとかするイメージがあんまり無かったからです(作品を書く前から、カップルにするのは決めてました)

他の3組みたいな恋愛描写をガッツリ入れる気はあまり無いですが、見てみたいと言うのであれば、メッセージをくれたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十八時間目 Wデートの時間 前半

皆さんどうも籠野球です。

まずは、謝罪を・・・日曜日に投稿出来なくて申し訳ありませんでした。
m(_ _)m

会社の都合で、今日まで8連勤で投稿する気力がありませんでした(笑)

そしてタイトルからも分かる通り、オリジナル回です。カップルらしく書けてれば幸いです。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

 南の島での出来事から1週間が経った今日、俺は大賀と一緒に商店街を歩いていた。

 

「大賀~後、買う物は?」

「えっとな・・・」

 

俺と大賀は「ひまわり」の食料品の買い出しに来ていた。ちなみに威月は留守番&華達の子守、登志は稽古だ。

 

「米はまだあったし・・・せっかく2人なんだし、醤油とか味噌も買い込んどきてえな」

「あいよー」

 

重たい物は1人じゃ大変だもんな。2人の時とかに買っとかないと。

 

「んじゃ、さっさと行こ・・・ん?」

「どした?大賀」

「ほら、アレ」

 

大賀が指差した先を見てみると、そこには陽菜乃と神崎がいた。

 

(珍しい組み合わせだな、何してんだろ) スタスタ

「よっ陽菜乃」

「あっ、たーくん!!」

 

俺の呼びかけに、陽菜乃は嬉しそうな顔で返してくれた。神崎も大賀に気づいた様子だった。

 

「大賀くんも一緒だったんだ」

「有希子も久しぶり。随分、変わった2人組だな」

「うん、ちょっとそこの本屋で偶然ね」

 

なるほど、確かに2人の手には紙袋が握られているな。

 

「たーくん達はどうしたの?」

「食料品の買い出しに来たんだ。調味料とかは1人じゃ大変だからな」

「そっか・・・大変だね」

「まあ、もう慣れたからな」

 

神崎に大賀は笑って返した。低学年の頃から当たり前のようにやってきた事だしな。

 

「せっかくだし、私もついていこうかな。いいかな?」

「ああ、勿論。倉橋さんは?」

「うん、私も~!!」

 

というわけで、俺達は4人でスーパーに向かった。

 

 

 

「たーくん、お醤油ってこれでいいの?」

「おー、サンキュー」

 

 味噌を手に取りながら、俺は戻ってきた陽菜乃にそう返した。

 

「・・・うし!!頼まれた物はこれで全部だな。レジ行こうぜ、陽菜乃。」

「うん!!」

 

俺と陽菜乃は、大賀に頼まれた調味料とかを買い込み、大賀と神崎は普段を食材を見て回るという役割分担だった。

 

「・・・しかし、夏休みも後2週間かー・・・」

「うん、終わりに近づくと短く感じるよね~」

 

最初は長く感じるのにというあるあるだよな。

 

「・・・1日くらい、どっか陽菜乃と一緒に行きたいんだがなあ」

「でも、たーくんあんまりお金、沢山は使えないでしょ?」

「まあな」

 

椚ヶ丘(うち)バイト禁止だからなー・・・中学生じゃまともなバイトも出来ないけどな。

 

「私はこうやってたーくんと一緒にいれるだけで嬉しいんだから、気にしなくていいよ」

「うう、ありがとな」

 

俺に気を遣ってる訳じゃ無いんだろうが・・・

 

(単純に俺が行きたいだけだしなー・・・)

「(ピッ)以上で〇円になります」

「あ、はい」

 

そう考えていたその時、レジのお兄さんが値段を言ってきた為、俺は財布からお金を出した。

 

「・・・はい、ちょうどお預かりします。こちら、レシートとくじ引き券になります」

「くじ引き券?」

「只今、夏休みくじ引き大会を実施しており、一定金額をお買い上げのお客様全員にお渡ししております」

 

店員の指した方向には、確かに何人かが集まっていた。

 

「へ~・・・どうも、行ってみます」

「いえいえ、ありがとうございました」

「大賀達と合流する前に行くか?陽菜乃」

「うん、そうだね!!」

 

何が貰えるのかなー・・・そう思いながら、俺達は若い女性の店員さんに話しかけた。

 

「すいません、くじ引きってここですか?」

「あ、はい!!・・・はい、では1回どうぞ!!」

「陽菜乃、悪いが引いてくれるか?俺、袋で手が塞がってるし」

(重くはねえが、陽菜乃は両手開いてるしな)

「いいの?じゃあ任して!!」

 

陽菜乃はそう言って箱に手を入れると、その中の1枚を取り出した。

 

「はい、お願いします!!」

「ありがとうございます(ペラッ)・・・これは!!」

「「?」」

「おめでとうございます、2等です!!」

「お、マジか!?」

「やった~!!」

 

凄えな、陽菜乃!!俺こういうの全く当たった事ねえからな。

 

「ありがとな、陽菜乃」

「えへへ~///」

 

頭を撫でてやると、陽菜乃は満面の笑みを見せてくれた。うん、やっぱり陽菜乃の笑顔は落ち着く。

 

「フフフ、仲が良いですね」

「「はっ!?」」

 

そんな俺達を見て、店員さんは微笑ましい物を見た様な感じでそう言った。

 

「「す、すいません」」

「いえいえ、羨ましいですね」

「えっと・・・それで何が当たったんですか?」

 

恥ずかしさを紛らわす為に、俺は店員さんにそう尋ねた。

 

「はい、お2人は最近、港近くにオープンしたアクアパークをご存知ですか?」

「? ええ」

 

確か新しく出来た水族館だったな。綺麗な造りらしいし、興味あるんだよなあ。

 

(・・・ん?わざわざそれを言ったって事は・・・)

 

そう考えていると、店員さんは俺の予想通りの言葉を言った。

 

「2等はアクアパークオープン記念の割引券、4名様分です!!」

 

 

 

明後日・・・

 

「「着いたー!!」」

 

 電車に乗って1時間程、目の前に見えたアクアパークに俺と陽菜乃はそんな声を上げた。

 

「結構遠かったなー」

「うん、でもすっごく楽しみ~!!」

「陽菜乃が当ててくれたから来れたんだよ」

 

陽菜乃も嬉しそうだな。いやー、来てよかった。

 

「でも、2人共。ホントに俺達も来てよかったのか?」

「うん、せっかく倉橋さんが当てたのに・・・」

 

俺達の後ろでは、大賀や神崎が不安そうな顔をしているが・・・

 

「せっかく4人分なんだもん、皆で楽しもーよ!!」

「陽菜乃がいいなら、俺も歓迎だぜ!!」

「ありがとう、2人共!!」

「・・・じゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

そうそう、せっかく来たんだし楽しまないとな。

 

「そういえば、たーくんに九澄君。華ちゃん達は大丈夫だったの?」

「あー・・・流石にちょっとは不満そうだったかな」

「でも、好きなおやついっぱい買ってきてあげるって言ったら、ニコニコ顔で「いってらっしゃい!!」って言ってくれたよ」

「いいな~、私も華ちゃんみたいな妹欲しい!!」

 

とりあえず俺と大賀の今月の小遣い全部使うくらい買って帰ろっと。

 

「ま、とりあえずは中、入ろうぜ」

 

俺の言葉に3人は頷き、俺達は入り口へと向かった。

 

 

 

「うわぁ~!!」

「へえ、こりゃ凄えや!!」

 

 中に入った俺達の目に飛び込んできたのは、円柱の形をした水槽の中を100匹以上の小魚が群れで泳ぐ光景だった。

 

「えーっと・・・海の回遊魚だって」

「なるほどなー・・・あの水槽は(アジ)で、こっちのは(イワシ)かな」

 

小魚もこんだけ多いと圧巻だなー・・・

 

「凄いね、大賀くん」

「・・・」

「大賀くん?」

 

? どうしたんだ、大賀は。神崎の呼びかけにも返さずにじっと水槽を見つめて・・・

 

「・・・鯵は大きいのはたたきにして、小さいのは南蛮漬けに・・・鰯はフライが・・・」

「「「・・・」」」

 

もう完全に主婦の目線だな・・・

 

「と、とりあえず・・・ここからは別行動にするか?神崎」

「あ、うん。そうだね」

「(ペラッ)じゃあ、ここで待ち合わせようか?」

 

陽菜乃はパンフレットのある部分を指差しながら俺達にそう言った。

 

「おーいいな。じゃあ、そこに1時くらいに合流でいいか?」

「うん。じゃあ後でね、2人共」

「行こ、たーくん!!」

 

そんなやりとりの後、俺と陽菜乃は歩き出した。まあ、神崎はしっかりしてるし大丈夫だろう。

 

 

 

 俺と陽菜乃は熱帯魚のエリアへと歩いてきていた。

 

「わ~!!やっぱり熱帯魚って綺麗だね~!!」

「だな、こういうのを家で飼ってみたいよな!!」

 

鮮やかな色とりどりの熱帯魚が泳ぐ水槽に俺も陽菜乃も興奮が止まらなかった。

 

「たーくんは熱帯魚は飼わないの?」

「バイトとかして、金に余裕が出来るまではキツいかな。いつか飼ってはみたいけ。」

「殺せんせーを殺せれば、大っきい水槽で飼えるよ!!」

「その手があったか!!」

 

周りに人がいない為、俺達は国家機密を交えながらテンション高く話し合っていた。

 

(・・・でも、いいよな、こんな雰囲気)

「これも綺麗だな~。」

 

唐突にそう思いながら、今も水槽を見つめながら呟く陽菜乃をチラリと見た。

 

(こんな可愛い彼女と一緒に水族館を歩くなんて、これってやっぱ「こういうのって、やっぱり"デート"って言うのかな?たーくん」 !!)

 

俺と同じ事を考えていたのか、少しだけ期待した様子で陽菜乃は俺を見てきた。

 

「ああ、立派なデートだと思うぜ。

・・・そう思うと、これが俺と陽菜乃の初デートだな」

「!! えへへ、そっか///」

 

俺の言葉に、陽菜乃は本当に嬉しそうな顔をしてくれた。

 

「私、デートなんてしたこと無かったから、すっごく嬉しい!!」

「ありがとう、俺もだ」

「(ギュウッ)行こ、たーくん!!初デート、思う存分楽しもーよ!!」

「ああ!!」

 

手を握りながら満面の笑みを浮かべる最愛の彼女に、俺は笑顔で返した。

 

 

 

大賀side

 

「すっげえー・・・ここが待ち合わせた場所なのか?有希子」

「うん。もうすぐ1時だし、2人ももう来てるかも」

 

 ペンギンとかアザラシなどを見ながら(有希子は可愛い生き物が好きらしい、やっぱり女の子だなぁ)時間を潰した後、俺達は待ち合わせた海中広場と称された周りがガラスで覆われた空間へと来ていた。

 

(ガラスの向こうでは魚達が泳いでるし、本当に海中の中にいるみたいだなー・・・)

「んー・・・あ、いたよ大賀くん」

 

有希子が指差した方向には、太陽や倉橋さんが俺達を探すようにキョロキョロしていた。

 

「お待たせ、2人共」

「ん?おう大賀、神崎」

「ゴメンね、待たせちゃったかな?」

「ううん、全然」

「・・・あ、あそこベンチ2つ空いてるぜ皆」

 

お昼時なだけあって、かなりの人がいるが運良くベンチ2つが空いていた為、俺達は2人ずつ座った。

 

「ほい、太陽の弁当」

「サンキュー・・・ん?お前、自分のは無いのか?」

 

ここでなら飲食は大丈夫だったので、俺達は弁当を持ってきたのだ。なのに、俺の分が無い事に太陽は疑問に思ったらしい。

 

「大丈夫だよ。実は今日の朝、有希子から電話がかかってきてな」

「大賀くんの分は、私が作ったんだ」

「あ!私も作ってあげればよかった・・・」

 

有希子が2人分の弁当が入った重箱を見せながらそう言った事で、倉橋さんがハッとした様子でそう言った。

 

「また今度、作ってくれよ。とりあえず腹減ったし食おうぜ」

「そうだね。どうぞ、大賀くん」 パカッ

「うお、すっげえ!!」

 

そう言いながら蓋を外した重箱を見て、俺は思わずそんな声を上げた。

 

中には、色とりどりのおかずが入っていた。

 

「お母さんにも手伝ってもらったんだ。大賀くんが作った物より美味しいかは自信ないけどね」

「有希子が作ってくれた時点で美味いに決まってるさ!!」

 

いやあ、誰かに作ってもらったご飯食べるのって久々だなー。

 

「いただきまーす!!」

「召し上がれ。」

「えっと・・・箸もらえるか?」

「あ、そうだね」

 

流石に手で食べるような真似は俺でもしない。

 

「大賀くん、どれが食べたい?」

「へ?・・・じゃあ、玉子焼きで」

「うん、分かった」

(何でわざわざ聞くんだろ・・・?)

 

そう考えていると、有希子は箸で玉子焼きを掴むと・・・

 

「はい、あーん」

 

そう言いながら、俺の口元へと箸を差し出してきた。

 

 

 

 

 

(えっ!?こ、これって俗に言う「あーん」ってやつか!?)

「あのー・・・有希子?」

「えっと・・・実は私、好きな男の子に食べさせてあげるのにちょっと憧れてて・・・///」

 

恥ずかしさは感じているのか少し赤くなりながらも、有希子は箸を差し出したままだった。

 

「いや・・・こういうのは恋人同士でやるものじゃ・・・」

「私と大賀くんって恋人じゃないの?」

「・・・あ」

 

恥ずかしさから的外れな事を言ってしまった・・・

 

「ほーら、大賀くん」

「う、うん」

(ま、まあ減るもんじゃないよな)

 

それに、有希子から食べさせてもらえるなんて、凄い嬉しいしな。

 

そう思い、俺は恥ずかしさを感じながらも口を開け、

 

パクッ モグモグ・・・

「どう・・・かな?」

「・・・美味しい」

 

当然、俺の味つけとは違ったが、それでもかなりの美味しさだった。

 

「ホント?フフ、ありがと///」

「・・・でも、恥ずかしいから俺にも箸くれ」

「アハハ、ゴメンね、はい」

 

俺の言葉に、今度こそ有希子は俺に箸を渡してくれた。有希子め、ちょっと楽しんでるな。

 

(・・・やられっぱなしは、癪だよな)

 

俺にしては珍しく、仕返しをしてみようと俺は受け取った箸で煮物を掴むと、

 

「有希子、あーん」

「え?」

 

有希子にしてもらった様に、箸を差し出した。突然の俺の行動に、有希子は驚いた様子だった。

 

「有希子が俺にやってくれたんだし、俺にもやらしてくれよ」

「あー・・・そうだね。じゃあ・・・」

 

そう言うと、有希子はスッと目を閉じながら小さく口を開き、

 

「あーん・・・」

「!?」

 

な、何でだ!?俺の方がドキドキしてるような・・・!?

 

(お、おかしいな。仕返しのつもりだったのに俺のがやられてる気が・・・)

「大賀くん?」

「あ、ああ。はい」

 

俺は小さく深呼吸をしてから、有希子の小さな口に煮物を入れた。

 

モグモグ・・・「ありがとう、大賀くん///」

「・・・おう」

 

少し照れた様に笑う有希子は桁違いに可愛かった。こんな顔が見れたし、仕返しとかどうでもよくなったな。

 

 

 

「たーくん、それ何?」

「これか?ちくわの磯辺揚げって言うんだ。食べてみるか?」

「うん!!あーん・・・」

「はいよ」

 

そんな俺達の横では、太陽が当たり前のように倉橋さんに自分のおかずを食べさせていた。凄いなー・・・あの2人は。




いかがだったでしょうか。

大賀どんだけ羨ましい事されてんだよ!?(自分で書いといて何ですが(笑))

ちなみに何故、水族館にしたのかというと、単純に作者が子供の頃、大好きだったからです(笑)

また行ってみたいなー・・・



だったらまず彼女作れや(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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五十九時間目 Wデートの時間 後半

皆さんどうも籠野球です。

今回はデートの後半です。

そしてお知らせです。最近仕事が忙しすぎて、ストックもまともにありません。

もしかしたら、来週から投稿が遅れる事があるかもしれませんが、気長に待って頂ければ幸いです(夏休み終わりまでは、とりあえずは休まずに頑張りたいのですが・・・)

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

 恥ずかしい思いをした昼食も終わり、俺達は4人で館内を少しぶらぶらした後、唯一の外のエリアへと出てきた。というのも・・・

 

バシャーン!! 「凄ーい!!あんなに高くジャンプ出来るんだ~!!」

「ホントだな、初めて見た」

 

飛び跳ねた()()()を見て、少し離れた位置に座っている太陽や倉橋さんが興奮した様子で話し合っていた。

 

2人の話からも分かる通り、俺達はイルカショーを観に来ていた。こんなの初めて観るな~。

 

「可愛いね、大賀くん」

「ああ!!」

(こんなの初めて観るな~。ホント凄え!!)

 

今も飼育員のお姉さんの笛に反応して動くイルカに、俺も目を奪われていると、

 

「・・・あ、そういえば大賀くん」

「ん?」

「(ぼそっ)・・・さっきはからかっちゃってゴメンね。大賀くんの面白くてやっちゃった。怒ってないかな?」

 

少しだけ申し訳なさそうな顔で笑いながら、俺の耳元に近づいてそう囁いてきた有希子に思わずドキッとなった。

 

「い、いや・・・怒ってなんか無いよ。むしろ嬉しかったというか・・・」

「そっか、よかった」

「・・・あのさ、有希子」

 

安心した様子でそう言った有希子に、俺の考えを伝えようとしたその時だった。

 

「それでは、イルカさんの大ジャンプでーす!!最前列のお客様はお気をつけくださーい!!」

「へ?」

 

お姉さんの声に思わず目を離していた水槽に目を向けると、イルカは大きく水槽の中を泳いで勢いをつけると・・・

 

バッシャーン!!

 

俺達の座っている目の前でイルカはさっきよりも高く飛び跳ねた。当然だけど高く飛び跳ねれば、それだけ水しぶきも上がる訳で・・・

 

 

 

 

 

「ぺっぺっ・・・やっぱりしょっぺえなー・・・」

「た、大賀くん。」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、当然だけど水しぶきをもろに喰らった。

 

「有希子、濡れてない?」

「あ、うん。大賀くんが守ってくれたから・・・」

「そりゃあ、有希子は俺の彼女だからな」

「!!そっか、フフ///」

 

俺の言葉に有希子は嬉しそうに微笑んでくれた。

 

「・・・あ!!ゴメン、濡れたままだったね。ハンカチくらいしか無いけど・・・」 スッ

「サンキュー・・・さっき言おうとした事だけどさ」

 

有希子から受け取ったハンカチで顔を拭きながら、俺の考えを口にした。

 

「俺は有希子にからかわれたりするのは好きだぜ」

「えっ?」

「有希子の嬉しそうな顔や笑った顔が見られるしな。それに何より・・・そんな顔を見れるのが俺だけってのが、とてつもなく嬉しい」

「大賀くん・・・」

「まあ・・・常にからかわれるのは流石に嫌だけど、たまになら構わないかな。

「フフ、ありがとう///」

 

照れたように、しかし嬉しそうに笑う有希子が愛おしくて抱きしめようとした―――

 

 

 

彼女さん守るなんて格好いいね~、あの子!!てか、顔も結構良いし!!

彼女さんもかなり可愛いよね!!美男美女のカップルとか羨ましい~!!

「「!?」」

 

周りからのそんな声で俺達は我に返った。そ、そういえばイルカショー観てるんだった・・・

 

「「す、すいません」」

「いいぞー、兄ちゃん!!」

(うー・・・はっず・・・)

「アハハ・・・」

 

時と場所を考える事の大切さ。それが身にしみて分かった瞬間だった。

 

 

 

太陽side

 

(ああいう所が大賀の良い所なんだよな)

 

 真っ直ぐで大切な人の為になら身体を張れる奴―――ベンチに恥ずかしそうに座る大賀に俺は心からそう思った。

 

(・・・ま、真っ直ぐすぎるのがたまに傷だけどな)

「どうしたの?たーくん」

「いや・・・俺の家族は良い奴だなーって思ってたんだ」

 

苦笑しながらそう言った俺に、陽菜乃が「?」を浮かべたその時だった。

 

「では次は、お客様の中の誰かにお手伝いして頂こうと思いまーす!!誰かお手伝いしてくれる方はいませんかー?」

(へー・・・やっぱりそういうのあるんだ)

「面白そー!!やろうよ、たーくん!!」

「俺らが・・・?」

 

普通ああいうのってもっと子供の子達がやるんじゃねえのか・・・?

 

「いいじゃん、私達だってまだまだ子供だよ!!」

「いや、そういう問題じゃ「はいはーい!!やりたいでーす!!」話、聞けよ!?」

「・・・じゃあ、そこの女の子にお願いしようかなー!!」

 

元気よく手を挙げる陽菜乃が飼育員のお姉さんの目に止まったみたいだった。

 

「やった~!!行こうよ、たーくん!!」

「俺もかよ!?呼ばれたの陽菜乃だけじゃ「すみませーん、この人も一緒にいいですかー?」だから話を聞けって!!」

「構いませんよー、どうぞー!!」

 

そしてノリ良すぎだろ、アンタも!?

 

「ほーら、行こうよたーくん!!」

「あーもう、分かったよ!!」

 

こうなったらヤケクソだ!!

 

「はーい、それではまずお手伝いしてくれるお2人に自己紹介してもらいましょうか!!」

「こんにちは〜、倉橋 陽菜乃です!!」

「えっと・・・神木 太陽っす。それと陽菜乃、こんな場所であんまり名前とか言わねえ方がいいと思うぞ」

「あ、そっか〜。ゴメン、うっかりしてた」

「仲良いですね〜お2人は恋人同士ですか?」

「えっと・・・まあ、そうです」

「やっぱり!!仲良いし、お似合いですね〜!!」

「えっへへ〜、ありがとうございます!!」

「「「「・・・チッ」」」」

 

そんな陽菜乃の可愛らしい笑顔を見た観客達(若い男達)からは嫉妬混じりの舌打ちをされた。

 

(まあ、俺も陽菜乃がいなかったらあっち側の人間か・・・)

「それではお2人には、ジャンプの芸をやって頂きまーす!!」

「いや、レベル高くねっ!?」

 

いきなり素人にやらせる芸じゃ無い気が・・・

 

「よーし、頑張るぞ〜!!」

「つーか、何で陽菜乃はやる気満々なんだ!?いくら何でも無理だろ・・・」

「? たーくんこそ、何で出来ないって思ってるの?」

「え?」

 

思わず聞き返した俺に陽菜乃はキョトンとした顔をしながらこう続けた。

 

「だって私達、南の島でイルカさん達と遊んでたんだよ?」

 

 

 

ピー!! バシャン!! 「わー、凄い凄い!!」 パチパチ

(・・・そういや俺達、イルカに芸を仕込んでたんだったな・・・)

 

今も笛に反応してジャンプをやってみせたイルカに拍手してる陽菜乃を見ながらそう思った。野生のイルカに芸を仕込むよりは、水族館のイルカにジャンプさせる方が簡単だわな。

 

「可愛い〜!!ありがとね、イルカさん!!」 キュイキュイ!!

「陽菜乃さんありがとうございます!!皆さん、陽菜乃さんにもう一度大きな拍手を!!」

 

そう考えていると、陽菜乃の番が終わったみたいだった。イルカを撫でる陽菜乃に観客から拍手が降り注いだ。

 

「お疲れ様、陽菜乃」 クシャクシャ

「えへへ、ありがとう。たーくんも頑張ってね!!」

 

頭を撫でられ、嬉しそうに笑う陽菜乃に頷きながら俺はお姉さんから笛を受け取ると、

 

ピッ!! ザバァ!!

 

教えられた通りに笛を吹いた。俺の笛の音に反応したイルカは水槽の真ん中まで泳ぎだし、

 

(すぅ・・・) ピーッ!! 

 

そのタイミングで俺は息を吸い込むと、思い切り笛を吹いた。そんな俺に応えるかの様に、イルカは跳躍した!!

 

ザバアァン!! 「ええっ!?」

 

さっきお姉さんがジャンプさせた時と同じくらいの高さに跳んだイルカに、お姉さんを含め全員が驚いた様子だった。

 

「すっげえなぁ!!お前!!」 

「キューン!!」

 

褒めて褒めて、と言わんばかりにステージ際に戻ってきたイルカを撫でてやると嬉しそうに鳴いた。うん、究極の癒やしだ。

 

「は、初めてで凄いですねー・・・飼育員になりますか?」

「あ、いえ・・・俺の夢は獣医ですから」

「そうですかー・・・残念です」

 

でも獣医になれなかったら飼育員ってのも悪くないかもなー。

 

「素晴らしいジャンプを見せてくれたイルカさんと太陽くんにもう一度大きな拍手をお願いしまーす!!」

「ありがとな、楽しかったよ」

 

拍手の中、俺はもう一度イルカを撫でた。これで終わりかー・・・やっぱり寂しいな。

 

ザバン!! 「へ・・・」

 

 

 

チュッ・・・ 「うおっ!?」 

 

その時、イルカはしゃがんでいた俺の頬にキスをしてきた。痛て・・・ビックリして思わず尻餅着いちまった。。

 

「す、すいません!!こんな事になったのは初めてで・・・大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫です。ちょっと驚いただけなんで」

 

イルカにキスして貰うなんて滅多に経験できる事じゃ無いしな。

 

「・・・」

「? どうした?陽菜乃」

「ううん、何も」

 

? 何か一瞬だけ陽菜乃の顔が曇ってた様な・・・気のせいか?

 

「コホン・・・では改めまして、素晴らしい芸を見せてくれたイルカさんと2人にもう一度、盛大な拍手をお願いしまーす!!」

 

お姉さんのそんな言葉と観客の拍手と共に、イルカショーは終わった。結構、楽しかったな!!

 

 

 

「楽しかったね、たーくん!!」

「だな、はしゃぎすぎて全員帰りの電車は寝ちまってたし」

「だね~」

 

 空が赤くなり始めてきた夕方、俺は陽菜乃を家まで送るために帰り道を一緒に歩いていた。当然、大賀は神崎を家まで送っていってる。

 

「華ちゃん達も喜んでくれるといいね~、それ」

「可愛いから食べないって言うかもな」

「アハハ、確かにねー」

 

皆の土産として、俺は海の生き物達の形をしたクッキーを買ったのだった。華や彩子は可愛いの大好きだからな。

 

勿論、土産だからそれなりの値段はしたけど・・・

 

(・・・ま、喜んだ顔が見られるならいいか!!)

「たーくんは宿題はもう終わってるの?」

「まあな、後は日記くらいかな」

「いいな~、私まだあるんだよねー・・・」

 

「ひまわり」では全員に俺と威月が早めにやらせるからな・・・終わった瞬間、大賀や裕樹は燃え尽きてたけど。

 

「いざとなったら教えてやるから、いつでも来たらいいぜ」

「本当!?じゃあ、また今度行こうかな~」

「華やさくら達も喜ぶと思うぜ」

「助かるな~、ありがとう!!」

(・・・やっぱ、陽菜乃の笑顔が俺は1番癒やされるな)

 

ショーの時にも感じてたけど、この笑顔を近くで見れるのが1番嬉しいな。

 

「・・・たーくん、ここまででいいよ。ありがとう」

「お、そうだな」

 

・・・話してたら帰り道も短く感じるなー・・・もう陽菜乃の家が見えてきた(家の場所は虫取りの時に送ってきたから知っている)

 

(まあ、すぐ学校で会えるか)

「じゃあな、陽菜乃」

「・・・」

「? どうしたんだ、陽菜(ぐいっ) え・・・」

 

俺の問いに、陽菜乃は無言で繋いでいた俺の手を引っ張った為、俺の身体は前のめりになった。

 

 

 

チュッ・・・ (!!)

「ん・・・」

 

そんな俺の唇に陽菜乃はいきなりキスをしてきた。いきなりの不意打ちに、俺は思わず固まっていると・・・

 

「・・・プハァ。」

「ひ。陽菜乃・・・」

「えへへ、イルカさんが羨ましくてやっちゃった///」

 

陽菜乃はそう言ってから家の方へと走り出したと思ったら1度だけ振り返り、

 

「今日はありがとう!!じゃあね、たーくん!!」

 

そう言ってから陽菜乃は家へと走っていった。夕陽を背に笑う陽菜乃は、今までで1番綺麗だった。

 

「・・・それは反則だって・・・陽菜乃」

 

俺は唇に触れながらそう呟いた。自分でも顔が赤くなってるのが分かった。

 

 

 

―――こうして、俺と陽菜乃。そして大賀と神崎の初デートは終わった。・・・今度は2人きりでどっか行ってみようかな。




いかがだったでしょうか。

イルカショーって水族館では定番ですよねー!!・・・でも書いといて何ですが、観客に芸はさせない気もしますが・・・フィクションなんでいいでしょう(笑)

とりあえず後、1、2話で夏休みも終わると思います!!読んでくれる皆さんの為にも、頑張っていきたいと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十時間目 祭り+αの時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよ夏休みも終わりです。

最近は忙しすぎてまともに書けておりませんがもう少しだけ休憩無しで頑張るので是非読んで下さい。

それでは、どうぞ!!


烏間side

 

 夏休み最終日の夕方、俺はある人と待ち合わせたカフェの一席に座っていた。

 

(・・・約束の時間まで後、少しか)

 

本来なら標的(ターゲット)から祭の誘いがあった。生徒達と会える事には魅力を感じたが、今はそれより大事な事がある。

 

(・・・太陽君達がイトナ君の時や南の島で見せてくれたあの技・・・俺が知る限り、あれを使いこなせる者はたった1人だけだ)

 

何故それを太陽君達が・・・そう疑問に思った俺は、太陽君達が暮らす孤児院「ひまわり」について調べた。そして・・・

 

「烏間君かい?」

「!!」

 

突然そう声をかけられ、俺は声のした方を向いた。

 

そこには、黒髪を中分けにしたスーツ姿の男が立っていた。

 

「すまない、待たしてしまったようだね」

「いえ、構いません」

(何て独特な雰囲気の人だ・・・だが、隙を全く感じない)

「フゥ・・・すまない、コーヒーを頼むよ」

 

対面の席に座りながらそう言った後、俺に視線を戻しながら、

 

「改めて名乗ろうか、本名は分かっているだろうし"恐神"とだけ言っておこうか」

「・・・防衛省の烏間 惟臣と申します。お会いできて光栄です」

「ああ、太陽君達から聞いているよ。実に真面目で自分達にもプロとして接してくれる、素晴らしい人だとね」

「いえ・・・私など、まだまだです」

 

俺の言葉にも、恐神は微笑むだけだった。

 

「なるほど・・・実に謙虚だ。どうやら、若い芽も順調に育っているみたいだな。そろそろ私みたいな老害は引退するべきかな」

「老害だなんて・・・まだまだお若いじゃないですか。それに、日本政府にはまだまだ貴方の力が必要ですよ」

「私みたいな人間がいる様じゃ、平和にはならないさ。「お待たせしました(カチャッ)」ああ、ありがとう」

 

出されたコーヒーを一口飲んだ後に、恐神は軽く息を吐くと・・・

 

「さて・・・じゃあ本題に入ろうか。とはいえ、大体は予想が付いていると思うがね」

「では・・・やはり貴方が太陽君達に?」

「ああ、私の()()()()()を授けた」

 

恐神は特に変わった様子も無く平然とそう言い切った。

 

「何故そんな事を・・・あれは貴方が開発した、人を殺す為の技なんでしょう?」

「確かにそうだ。だが彼らなら、別の正しい使い方をしてくれる・・・そう信じたからさ」

「ですが、威月君は両親を殺した相手とはいえ、殺す気で技を放っています!!」

 

中村君や大賀君の説得のお陰で何とか思い留まったくれたが、危険な状況だったのに変わりは無かった筈だ。

 

「それは仕方ないだろうね。威月君はそれだけの為に生きていた。それこそ、全てを捨ててでも」

ドンッ!! 「たとえそうだとしても、人を殺していい理由にはならない!!おまけに彼らはまだ中学生だ!!精神的にもまだまだ未成熟な筈だ!!」

「お、お客様・・・?」

「っ!!申し訳ない・・・」

 

衝動的にテーブルを叩いてしまった事で、他の客や店員が俺に注目を集めてしまったようだ・・・

 

そんな俺を見ても、目の前の恐神は変わらずに少しだけ笑うだけだった。

 

「・・・彼らの事をそこまで考えてくれる事、本当に感謝するよ。・・・1つ聞くが、烏間君は太陽君達がどんな思いで力を欲したか知っているかい?」

「?」

 

どんな思いで・・・?

 

「大切な者を守りたいと思ったから。両親の敵を討つたいと思ったから。皆と共に戦いたいと思ったから。兄を止めたいと思ったから。それぞれが違う理由で力を欲した。でも、そんな彼らの根底にあるもの・・・それは間違いなく、「ひまわり」の皆と共に歩もうとする思いだ」

 

確かに、彼ら4人の絆は本物だ。それを破る事は出来ないだろう。

 

「確かに君の言う通り、まだまだ未成熟なのは認めよう。だが、クラスメイト達と彼らの家「ひまわり」がある限り、きっと大丈夫さ。それでも危険な時・・・そういう時に、私達大人が支えてあげればいいのでは無いかな?」

「・・・そう、ですね」

 

私の返事を聞いた後、真剣な顔になりながら恐神は姿勢を正し、

 

「・・・1度、子育てを失敗してしまった私に父親代わりをする資格は本来は無い。でも、彼らは私を父親として思ってくれている。彼らを、私の子供達を頼む」

 

そう言って恐神―――実徳さんは頭を下げてきたのだった。

 

「出来る限り、尽力させて頂きます」

「ありがとう。では、今日はこれで失礼させてもらうよ」

 

実徳さんはそう言いながら席を立ち、俺の横を通る途中・・・

 

ああそれと・・・万屋の事ならもう心配いらないよ。鷹岡君の事件からマークしてたからね

「!! ・・・感謝します」

「私の仕事だ、気にしなくていい。また彼らに何かあった時は、連絡してくれ」

 

そう言い残して、実徳さんは外へと出ていった。

 

「・・・フー」

(お見通しという事か・・・流石、最強の一角だ。情報収集能力に戦闘能力の高さは桁違いだな)

 

恐神・・・あの方が味方でいてくれる事が何よりも有り難い。

 

(!! しまった・・・死神について少しは聞いておくべきだった。うーむ・・・)

「・・・久しぶりに、ロブロさんに連絡を取ってみるか」

 

そう思いながら、俺はロブロさんに電話をかけた。しかし・・・

 

プルルル・・・ 「ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーッ・・・」

「ん?珍しいな。いつもはすぐかかるんだが・・・」

 

まあ、いい。着信に気づいたらすぐかけ直してくるだろう。

 

そう思いながら、俺は席を立った。これから、緊急会議の時間だ。

 

 

 

―――この時の俺は当然知らない。今まさにこの瞬間、ロブロさんが死神の攻撃に倒れた事を。

 

―――最強の殺し屋、死神。その魔の手が、E組に徐々に迫ってきている事を。

 

 

 

渚side

 

 最終日の夜、殺せんせーの呼びかけで僕達は夏祭りに集まっていた。

 

「いやぁ、思いの外集まってってくれました。誰も来なかったら先生、自殺する所でした」

「じゃあ来ない方が正解だったか」

 

殺せんせーの安堵の声に、浴衣を着た茅野がツッコんだ。やっぱり女の子は浴衣が似合うな。

 

「あーあ、たーくん達も来ればよかったのにな~・・・」

「仕方ないよ、陽菜乃ちゃん。用事って言ってたし」

 

僕の後ろでは同じく浴衣を着た倉橋さんや神崎さんがそう話し合っていた。2人は当然、太陽や大賀を誘ったらしいけど用事があると言って断られたらしいけど・・・

 

(太陽や大賀が2人との約束を蹴ってまで行う用事っていったい何なんだろう・・・?)

「「はぁ・・・」」

「千葉君に速水さん、何で凹んでんの?」

 

何か景品、大量に抱えてるし・・・

 

「あぁ・・・射的で出禁食らったんだ」

「イージーすぎて調子乗った」

 

そりゃあ、本物の銃で殺し屋相手に勝った2人からすればそうだろうね・・・

 

「ねえねえ、おじさん」

「ん?」

 

その時、カルマ君がくじ引きのおじさんと何やら話してるのが見えた。どうしたんだろう?

 

「俺、五千円使って全部5等以下じゃん。糸と賞品の残り数から計算して4等以上1回が出ない確率は・・・何と0.05%。ホントに当たりの糸あるか、おまわりさんに確かめてもらおっかな~」

「わ、分かったよ。金、返すから黙ってろよ坊主」

「いやいや、そんな事の為に五千円も投資したんじゃ無いよ。俺ゲーム機が欲しいな~」

(カルマ君、最初から当たり入ってないの見抜いてたんだろうなー・・・カルマ君らしいなー「なあなあ、お前ら」・・・ん?)

 

その時、少し年上のガラが悪そうな人達が倉橋さん達に声をかけていた。

 

「可愛いじゃん。俺等と少し回ろうぜ」

「私達、彼氏がいるんで。ごめんなさい」

「彼氏ねぇ。こんな所に彼女放置する辺り、碌な彼氏じゃねえんだろ?ちょっとでいいからよ」

 

悪そうな笑みを浮かべながら、男達の中の1人が倉橋さんに手を伸ばそうとした―――

 

 

 

ガシィ!! 「・・・少なくともコイツの彼氏は、テメエらみてーなカス共に比べたら百倍マシだぜ」

「・・・なっ!?」

 

その腕を掴みながら、後ろに祭と書かれた法被を着た威月がそう言った。




いかがだったでしょうか。

はい、というわけで1話で終われませんでした(笑)

主人公4人いると話数が多くなるという欠点を今更ながら噛みしめてます(遅くね?)

まあ、素人の物好きなんで、温かい目で見守って下さい(笑)

次話で本当に夏休み終了のなると思います。出せたら週の途中で出すつもりなので、気長に待って下さい!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十一時間目 花火と夏の終わりの時間

皆さんどうも籠野球です。

フー・・・何とかここまでは休まずにここまでは投稿出来ました!!

只、書きすぎて(恐らくは)過去最長です(8000字超えました(笑))

それでは、どうぞ!!


威月side

 

「コイツら、俺のクラスメイトでな。悪いが他当たってくれや」

「なっ・・・いきなり出てきてふざけんじゃ「あぁ?」・・・わ、分かった」

 

 俺の威圧にビビったのか、そう言い残して男達は去って行った。けっ、雑魚共が。

 

「大丈夫か?おめえら」

「うん。ありがとう、水守君」

 

ま、掴まれる前に防いだし、大丈夫か。

 

「威月、そんな格好して何してんの?」

「ん?」

 

その時、莉桜(浴衣を着てなかったのが少しだけ残念だったのは内緒だ)が俺の格好に疑問を持ったみたいだった。確かに普通ならこんな法被着ねえわな。

 

「実は俺達4人、毎年この祭の手伝いしてんだ。1日限りのバイトって訳だ」

「・・・あ!!じゃあ、たーくん達の用事って・・・」

「そ、これの事。今年は俺と登志だけでいいから彼女と行ってこいって言ったんだが・・・アイツらクソ真面目だからよ」

「まあ・・・そんな優しい2人だから好きになったんだけどね」

 

ま、神崎の言う通りか。

 

「んで、あの3人は屋台の手伝い。俺は右手がまだ心配だからパトロール兼お出迎え」

「? 誰を?」

「俺らのアイドルだよ」

「あ、いつきおにいちゃんだー!!」

 

皆が頭に?を浮かべたその時、少し離れた場所からそんな声が聞こえたと思ったら、

 

タタタッ「いつきおにいちゃーん!!」 ピョーン!!

ぼふっ 「おっと。よく来たな、華」

「えへへ~」

 

小さな浴衣を着た華が、全速力で俺に飛び込んできた。そのまま頭を撫でてやると、華は嬉しそうに笑っていた。

 

「華ちゃん!!久しぶり~!!」

「あ!!なぎさおにいちゃんにかやのおねえちゃん!!それにひなのおねえちゃんも!!」

「か、可愛い・・・威月、何この可愛い生き物・・・?」

「生き物って・・・まあ、小動物みたいな気がしなくも無いが」

 

莉桜にそう突っ込みながら、俺は華を下ろした。そのまま華の頭に手をやりながら、

 

「「ひまわり」で暮らす子供の1人だ。華、名前言えるか?」

「うん!!えっと、かみき はなです。こんばんは!!」

「よし、良い子」 くしゃくしゃ

「華ちゃんって言うんだ~!!可愛い~!!」

「よろしくね、華ちゃん!!」

 

華の可愛いさに、早くも女子達はメロメロだった。まあ、気持ちは分かるがな。

 

「・・・ふむ、将来性ありだな。これからの成長が楽しみだ」

「ほう、危険人物がいるみたいだな」 ゴキッ

「ジョ、ジョークだって!!指を鳴らしながら近づくな!!」

 

ったく、この女たらしは・・・

 

「華、岬さんや裕樹達は?」

「えっとね、はなだけはしってきたの。だからもうすぐ!!」

「あ、いた!!威月兄ちゃんも一緒だ!!」

 

お、裕樹の声だな。隣には彩子もいるな。2人も浴衣で来たのか。

 

「こら、華。威月兄さんはお仕事中なんだから、邪魔しちゃダメだよ」

「悪いな、裕樹、彩子。岬さんは?」

「いますよ、威月君」

「うわ~、綺麗・・・」

 

そう言いながら最後に現れた岬さんを見て、女子達はそんな声を上げた。岬さんは綺麗だし、性格も優しいからな。

 

「お姉さん、この後俺と一緒に祭を回りませんか?」

「は、はい?」

「だから人ん家の家族ナンパしてんじゃねーよ、前原・・・」

「やだ!!はな、おにいちゃんたちといっしょにおまつりいく!!」

 

そう言うと、華は再び俺にしがみついてきた。うーん、どうすっかな・・・

 

「威月、華ちゃん達も私達と一緒に回ればいいんじゃない?んで、アンタもパトロールついでに一緒に来なよ」

「いいんじゃないですか?威月君。私の事は気にしなくてもいいですよ」

「そっすか?まあ、岬さんがいいなら「いこうよ、おにいちゃん!!」(グイッ!!)おわっ!?引っ張んなって、華!!」

「お気をつけて、皆さん」

 

手を振る岬さんを残し、俺達は歩き出した。まあ、たまには岬さんもノンビリしたいだろうし、いいか。

 

 

 

「うわ~!!すごいすごい!!」

「元気だね~華ちゃん」

「恐らく、祭なんて初めてだろうからな」

 

 女子の皆に囲まれながら、大はしゃぎの華に莉桜は笑いながらそう言った。普段見れない物ばっかりだろうしな、華には。

 

「威月兄ちゃん、太陽兄ちゃん達はどこの屋台にいるの?」

「ん?ああ、何か小麦粉運んでたから、粉物だと思う「いらっしゃいませー!!」と、噂をすれば」

 

裕樹にそう返してたその時、前から大賀の声が聞こえてきた。見てみると、お好み焼きと書かれた屋台の中で焼く大賀や、客引きをしてる太陽の姿があった。

 

「たいようおにいちゃーん!!たいがおにいちゃーん!!」

「ん?・・・!! おー、華に裕樹に彩子。おまけに陽菜乃達まで」

「うん。さっきそこで一緒になったんだ~!!」

「そっか、せっかく誘ってくれたのにゴメンな」

「ううん、気にしないで」

 

太陽と倉橋がそう話す中、大賀がヘラを両手に持ち、

 

「よっと(クルン ジュウ・・・)せっかく来たんだし、皆どうだ?安くするぜ」

「へー・・・やっぱり大賀って料理上手いんだな」

 

磯貝が大賀の手元を覗き込みながらそう言った。見てみると、全てのお好み焼きが綺麗に焼かれて、かなり美味そうだ。

 

「磯貝の家って確か母子家庭だったよな?」

「まあな。でも、俺は弟妹いるから大変だけど、寂しくはねえよ」

「そうか、お互い大変だな。んじゃ、磯貝は1枚三百円でいいぜ」

「えっ、嬉しいけどそんなの勝手に決めていいのか・・・?」

「平気平気、ちょっと待ってな」

 

太陽は心配そうな磯貝をよそにお好み焼きを詰め始めたが、

 

「おい太陽!!」

ビクッ!! 「お、おい太陽・・・やっぱりマズかったんじゃ?

「何すか?おっちゃん」

 

いきなり現れたガタイの良い親父さんが出した大声に全員が思わずビクッとなる中、太陽は平然とそう聞いていた。

 

「お前、何ケチケチしてんだよ」

「「「「・・・えっ?」」」」

「せっかくクラスメイト来てくれたんだ、3枚三百円にしとけ」

「へーい」

「い、良いんですか!?そんな安くしちゃって」

 

磯貝の驚き混じりの質問に、親父さんは笑いながら、

 

「小学生の頃から面倒見てっからな。コイツらは俺の息子みたいなもんだ。息子が友達連れてきたなら、サービスしてやらんとな」

「はいよ、磯貝」

「ありがとうございます!!」

 

こうやって俺達を息子だと思ってくれる人がいるのは本当にありがてえな。

 

「それと、ほらお前ら」 スッ

「? 何すか?コレ」

 

その時、親父さんが太陽や大賀に封筒を差し出した。思わず聞き返した太陽に、親父さんは笑みを浮かべながらこう言った。

 

「バイト代だよ。もういいから彼女さん達と祭、行ってこい」

「えっ・・・」

「真面目なのもいいが、せっかく出来た彼女さんを寂しがらせちゃ男が廃るぞ。毎年手伝ってくれてんだ。1年くらい構わねえよ」

「おっちゃん・・・」

「おら、邪魔だ!!さっさと行ってこいや!!」 ポイッ

 

そう言いながら、親父さんは大賀と太陽の首根っこ掴んで俺達の方へと放った。

 

 

 

登志side

 

(あんな外見なのに、優しいんだよね。おじさんは)

 

多分、ずっと見てたんだろうな。不器用な優しさなんだよね。

 

ドンッ 「よいしょっと・・・おじさん、次は?」

「・・・あ?登志、お前は行かなくていいのか?」

「はい、僕は別に誰かとお付き合いしてるわけじゃ無いですし」

「ん?そうなのか?」

 

確かにクラスメイトの皆や裕樹達とお祭りを回るのは魅力的だけど、太陽達がいなくなった分、僕が頑張らないとね。

 

「でも、そこの嬢ちゃんはお前と行きたそうだぞ?」

「へっ・・・っ」

 

僕はおじさんの指差した方を向き・・・息を飲んだ。

 

そこには、青色に白い花が散りばめられた浴衣を着た矢田さんが何かを言いたげな表情で立っていた。

 

(凄い・・・こんな綺麗な人がいるんだ・・・)

「えっと・・・よかったら伊勢くんも一緒に行かない?」

「あ、えっと・・・(ガシッ)・・・え?」

 

思わず見とれて、言葉に詰まった僕の首根っこをおじさんは掴んできた。そのまま僕のポケットに封筒を突っ込むと、

 

「その顔見りゃあ充分だっての。とっとと行ってこいや!!」 ブンッ!!

「うわっ!!」 

 

そのまま僕を放り投げ、僕は矢田さんの近くに落ちた。

 

ドテッ!! 「痛て・・・」

「だ、大丈夫?伊勢くん」

「はい・・・何とか」

(おじさん、優しいけど乱暴なんだよな・・・)

「よかった・・・立てる?」 スッ

「は、はい・・・」

 

安心した表情で僕に差し出してくれた手を僕はしどろもどろになりながらも受け取った。

 

(うぅ、やっぱり綺麗だな・・・)

「桃花ちゃーん、華ちゃん達が金魚すくいやりたいって~!!早く行こうよ~!!」

「あ、うん。行こ?伊勢くん」

 

僕に笑いながらそう言ってくれた矢田さんにドキリとなりながらも頷いた。

 

カランコロン・・・ 「フー、緊張したー・・・」

 

矢田さんの下駄の音が遠ざかっていくのを確認してから、僕は思わず息を吐きながら呟いた。元々、矢田さんは綺麗なのに、今日は浴衣着てるからなー・・・

 

「へー・・・」

「・・・その笑みは何だよ、威月」

「いや、別に」

 

普段、頼りになる威月だが、こういう笑みを浮かべる時は要注意なんだよな・・・

 

「しかしまあ、こんだけ綺麗どころがいると目の保養だよな」

「? うん、そうだね」

 

いきなり話題を変えてきた威月に疑問を抱きながらも僕は頷いた。やっぱり女の子には浴衣が似合うよな。

 

「ん~・・・でも、矢田はイマイチかな」

「・・・えっ?」

「なーんか、無理してる感じがあるな」

「そ、そんな事、無いんじゃないかな?」

 

僕はムッとなりながら、威月に反論した。しかし、威月は・・・

 

「そうかー?あんまり似合ってない気がすんだよなー。正直微妙「そんな事、無いって!!」 ん?」

 

僕の声に威月が少しだけ笑った気がしたが、僕はそのまま続けた。

 

「矢田さん凄く似合ってるし、凄く綺麗だよ!!こんなに綺麗な人、僕は見た事無いよ!!・・・・・ハッ!?」

 

そこまで言って、僕は思わず大声で反論してる事にようやく気づいた。

 

「ア、アハハ・・・ありがとう、伊勢くん///」

「う、うん」

(威月め・・・これを言わせようと・・・)

 

恐る恐る皆を見てみたが、バッチリ聞かれてたみたいで、矢田さんは照れた様に笑いながらそう言ってくれて、皆は温かい目で僕をみてきた。は、恥ずかしい・・・

 

僕の文句交じりの恨めしそうな視線に気づいた威月はほんの少しだけ笑うと、

 

「言ってやらんと気づいて貰えん事だってあるんだぜ?登志」

「うう・・・」

「とうしおにいちゃん!!いつきおにいちゃん!!はやく~!!」

「はいはい、行くぞ登志」

「・・・うん」

 

とりあえず僕も楽しも・・・

 

 

 

桃花side

 

ポイポイ 「何かナイフで斬る感覚に近いな」

「あいかわらずそつなくこなすな、磯貝」

 

連続で金魚を掬い続ける磯貝君に前原君がそう言った。何でも出来るな、磯貝君は。

 

「こんなもんかな、お好み焼きと合わせて2食分が四百円で済むのはありがたいな」

((((・・・えっ、食べるの!?))))

 

袋一杯の金魚を掲げながらの磯貝君の言葉に、全員が心の中でツッコんだ。味が想像できない・・・

 

「ほう・・・磯貝、是非作り方を(ガシッ)「俺の小遣い無くていいから、それだけは止めてくれ、大賀」えー・・・しょうがないな」

 

何か太陽君の気持ちが分かるなー・・・

 

「うー・・・えいっ!!」 バシャッ!!

「お、凄い!!」

 

そう考えていたその時、華ちゃんがそんな声を上げながら、1匹の金魚を掬った。

 

ビリッ パチャン!! 「あーーーっ!?」

「あー、惜しいー・・・」

 

しかし、器に入れるよりも先にポイが破れ、金魚は水槽の中に戻ってしまった。華ちゃんみたいな小さい子が掬うのって難しいんだよね・・・

 

「ふえっ・・・うぅ・・・」

「あ!?華ちゃん、えっと・・・」

 

目に涙が溜まっていく華ちゃんに私達は慌てた。ど、どうしよう!?

 

ひょい 「ほら、泣かないで華」

「!! 伊勢くん」

 

その時、伊勢君がそう言いながら華ちゃんを抱っこしてあげていた。

 

「じゃあ、華が泣き止んだら、お兄ちゃんが捕れる方法、教えてあげる」

「えっ!!ほんとう?」

「うん。だから涙拭いて、もっかい頑張ろう?」

「うん!!」

 

伊勢君は慣れた手つきでそう言いながら華ちゃんを泣き止ませると、おじさんからポイを1本受け取って華ちゃんに持たせると、

 

「いい、華。まずはポイをそーっと水の中に入れてみな」

「うん」 ぽちゃん

「そしたら、真っ直ぐ水槽の隅っこに動かして」

「うん」 スーッ

 

華ちゃんは伊勢君に言われた通りに隅っこに近づいた。

 

「後は、水から顔を出してる金魚を掬って、素早く器に入れるんだ」

「うん。そーっと・・・えいっ!!」 ぱしゃっ!!

 

次の瞬間、華ちゃんは1匹の金魚を掬って・・・

 

チャポン!! 「やった~、とれた!!」

「うん、上手」

(お兄ちゃんなんだな・・・伊勢くん)

 

嬉しそうに笑う華ちゃんの頭を撫でてあげてる伊勢君に、私はそう思った。とても血が繋がってないとは思えないな。

 

 

 

「えへへ~」

「よかったな、華」

「うん!!とうしおにいちゃん、ありがとう!!」

 

 結局、1匹掬った後ポイはすぐ破けてしまったが、華ちゃんはご機嫌だった。右手に持った袋の中には、金魚が1匹泳いでいた。

 

「明日、帰りに金魚鉢、買ってきてあげるな、華」

「ありがとう!!たいようおにいちゃん!!」

「・・・あ、後10分くらいで花火だよ。華ちゃん、たーくん」

 

その時、陽菜ちゃんが広場の時計を見ながらそう言った。

 

「どうせだし、高台に行かねえか?そこのが花火がよく見えるんだ」

「そうなんだ、じゃあそこに行こうよ」

(花火なんて久しぶりだな~凄い楽しみ・・・)

ブチッ!! 「えっ」

 

九澄君と有希子ちゃんのやりとりにそう考えていたその時だった。私の足元から突然そんな音がして、私は前のめりに倒れそうになった。

 

ぼふっ 「大丈夫ですか!?矢田さん」

「あ、ありがとう。伊勢くん」

 

そんな私を、伊勢君が受け止めてくれた。お礼を言いながら 足元を見てみると下駄の鼻緒が切れていた。

 

「あちゃ~・・・」

「鼻緒、切れちゃってますね」

「慣れない物、履いてくるんじゃ無かったかな・・・」

 

これじゃあ歩けないな・・・どうしよう。

 

「僕が直しますよ」

「えっ、伊勢くんそんな事出来るの?」

「僕、草鞋履いてますから。たまにあるんですよ」

 

確かに、伊勢君は今も草鞋を履いていた。それなら出来るかな。

 

「じゃあ、お願いできるかな?」

「はい・・・とりあえず、あそこのベンチに座りましょうか。立ったままだと大変ですし」

「ああ、うん。じゃあ伊勢くん、悪いけど・・・」

 

 

「肩を貸してくれる?」と言おうとした私の言葉は、

 

ひょい 「よいしょっと」

「!? い、伊勢くん!?///」

 

伊勢君がお姫様抱っこしてきた事で遮られた。恥ずかしさから、思わず赤くなりながら尋ねると、

 

「あ、すいません。こっちの方が早いんで、少し我慢して下さい」

「う、うん///」

 

私を抱え上げながら、平然と話す伊勢君にドキドキしながらも私は頷いた。

 

スタスタ 「お、重くないかな?伊勢くん」

「矢田さんが重かったら、大体の物が重いですよ。それに、これでも剣士ですから、鍛えてるんです」

 

私を見下ろしながら笑う伊勢君に、ドキリとなった。

 

「よいしょっと(ストン)じゃあ、見せて下さい」

「あ・・・うん」

 

ベンチに下ろされた事を少しだけ残念に思いながら、私は下駄を差し出した。

 

「んー(ごそごそ・・・)あった。はむっ」 ビリイィィ!!

「!!  伊勢くん、手拭いを・・・」

「大丈夫です、所詮は安物ですから」

 

いきなり懐から取り出した手拭いを引き裂いた伊勢君に驚いたが、伊勢君は平然とそう返すだけだった。

 

クルクル スッ 「・・・」

(・・・あんまり意識した事、無かったけど、伊勢くんって結構格好いいんだな・・・)

 

私の前にしゃがみ込み、無言で私の下駄を直す伊勢君の真剣な表情に、私は思わずそう思った。

 

(それに、すっごく優しいしな・・・)

「・・・よし、出来た!!どうですか?」

「わあ・・・凄い」 スッ

 

伊勢君が差し出してきた下駄を履いてみると、ちぎれる前と殆ど変わりなかった。

 

カタン 「ありがとう、伊勢くん」

「どういたしまして。じゃあ、行きましょうか。皆はもう行っちゃいましたし」 スッ

「あ・・・」

ギュッ・・・ 「・・・へ?」

 

あ・・・思わず手を掴んじゃった。ど、どうしよう。

 

「・・・矢田さん?」

「その・・・直ったばっかりの下駄で歩くの怖いし、よかったら・・・・私とここで花火見ない?」

「へ・・・僕とですか?」

「う、うん。伊勢くんが良かったら・・・だけど」

 

淀みながらも反射的に口から出た私の言葉に、

 

「・・・僕で良ければ、喜んで」

 

あの時と同じように、笑いながらそう言ってくれた。

 

 

 

「・・・うん。だから、伊勢くんと一緒にいるから心配しないでって伝えといてくれる?陽菜ちゃん」

「うん、たーくん達に伝えとくね。ばいばい~」 ピッ

 

 陽菜ちゃんへと連絡して、私は電話を切った。太陽君達に心配かけてなければいいけど。

 

「殺せんせー・・・皆が稼いで早じまいしちゃった店のスペースで小遣い稼ぎ・・・教師がバイトしていいのかな・・・」

「あ、おかえり、伊勢くん」

 

その時、伊勢君がかき氷を持ちながら帰ってきた。ってか、姿見えないと思ったら、そんな事してたんだ殺せんせー・・・

 

「矢田さん、イチゴでしたよね?」

「うん、ありがとう。」

 

私に片方の器を渡すと、伊勢君はもう片方を持ちながらベンチに座った。

 

シャクッ 「ん~!!冷たくて美味しい!!」

「かき氷なんて久しぶりだな~」

パクッ 「「ひまわり」でかき氷は食べないの?」

「かき氷機が去年壊れたんですよ。このバイト代で買おうかなって思ってるんです」

パクパク 「へ~そうなんだ(ズキッ!!) うっ!?」

 

私の言葉は、いきなりの頭痛で遮られた。

 

「うう、頭痛い・・・」

「大丈夫ですか?」

「アハハ、慌てて食べ過ぎちゃ(ぴとっ) っ、冷た!?」

 

すると伊勢君は、自分のかき氷を私のおでこに当ててきた。

 

「そういう時は、頭を冷やしてあげるとすぐ直るんですよ」

「へ~・・・そうなんだ」

 

そのままの体勢でいると、確かに痛みが引いてきた。

 

「・・・もう大丈夫だよ、ありがとう」

「すいません、勝手にこんな事しちゃって」

「ううん、気にしないで。・・・でも、伊勢くんって優しいし、ホントに良いお兄ちゃんだね」

「・・・全部、兄貴がやってくれた事なんです」

「!! 龍志さんが?」

「はい。金魚の捕り方、鼻緒の直し方、頭が痛くなった時の対処・・・全部、兄貴が僕にやってくれたんですよ」

 

「だから、」と伊勢君は照れた様に笑いながら、

 

「僕を良いお兄ちゃんって思われる事が、僕は何よりも嬉しいです。兄貴を褒められてる気がして」

「そっか・・・伊勢くんはホントに龍志さんを尊敬してるんだね」

「はい、誰よりも」

 

そこまで言ってから、伊勢君は一瞬だけ真剣な表情になりながら言い切った。

 

「だからこそ・・・止めたいんです」

「伊勢くん・・・(ヒュウゥゥゥ・・・)あっ」

 

その時、そんな音と共に光の玉が空に飛んでいき・・・

 

ドーン!! パラパラ・・・

「・・・始まりましたね」

「綺麗ー・・・」

 

1発目の開始を告げる花火に、私達はそれぞれそう言った。夏といえば、やっぱり花火だよね。

 

ドーン・・・ドーン・・・

「・・・今日で終わりなんだね、夏休み・・・」

「今年の夏休みは何か疲れました」

「アハハ、確かにね」

 

南の島で殺せんせーを暗殺したり、その後も大変だったもんなー・・・

 

「・・・でも、二学期からはもっと大変になるかもね」

「はい・・・この先、鷹岡さんみたいに僕らを巻き込んででも殺せんせーを殺そうとする人が来るかもしれません」

「怖いな・・・」

 

悪鬼さんの時みたいに、また助かるとは限らないからな・・・

 

「・・・大丈夫ですよ」

「えっ?」

「太陽達も、僕もいます。必ず守ってみせますよ、E組の皆は」

「っ・・・ありがとう」

 

誰よりも真剣な表情で私にそう言い切った伊勢君に、ドキッとしながら私は笑顔で返した。夏休み最後の夜は、夜空を鮮やかに彩る花火とそんな伊勢君の決意と共に過ぎていった―――




いかがだったでしょうか。

というわけで、夏休み終了です。

あえて登志と矢田さんに注目しましたが・・・登志イケメンかよ!?って書いてて思いました(笑)

作中の2人の心境からも分かると思いますが、少しずつお互いを意識し始めてます。

これが、恋に変わる瞬間はいつになりますかねー(笑)

それと、重要な話ですが、しばらくの間、投稿を休憩します。

一応活動報告に書かせて貰うので、良ければ見て下さい。

いつになるかは分かりませんが、必ず戻ってくるので気長に待っていて下さい!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十二時間目 呪いの時間

皆さんどうも籠野球です。

いや、もう結構なレベルでお待たせしました!!(結局2か月以上、経っちゃいました・・・)

意外と編集に時間が掛かったのと、仕事の忙しさからモチベーションが上がらないのが主な理由です。

またノンビリと再開していくので、よろしければ読んで下さい!!

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

トントントン・・・

グツグツ・・・

 

 祭りの翌日の始業式当日の朝、俺はいつも通り台所に立っていた。今日は弁当がないから楽だな。

 

「(ブンッ)472・・・(ブンッ)473・・・」

カカカッ ジュウゥ・・・ 「ふわぁ・・・そろそろ帰ってくる頃かな」

 

庭先から登志の日課の素振りをする声が響く中、玉子焼きを作りながら、俺は時計を見た。

 

時刻は朝の7時前、いつも通りならそろそろ・・・

 

ワンワンッ!! 「・・・あ、帰ってきたな」

 

同じく毎朝の日課の散歩から太陽が帰ってきたらしく、庭からさくら達の鳴き声が聞こえてきた。

 

ずずっ 「・・・よし、と」

ガラッ 「フー、ただいまー」

「僕も終わったよ」

「おかえり、登志もお疲れ」

 

味噌汁の味を確認しながら、俺は2人にそう返した。毎日毎日よくやるなー・・・2人共。

 

「ういーす・・・」

「おはよー・・・」

「おはようございます・・・」

 

その時、裕樹や彩子と一緒に威月が起きてきた。太陽や登志みたいに朝早くない威月は、2人や華を起こすのが毎日の日課だ。

 

「おはよう、皆。もうすぐ出来るから、さっさと準備しろよー!!」

「「「「へーい(はーい)」」」」

 

そんな俺の言葉に皆が返す、いつも通りの「ひまわり」の朝だ。

 

 

 

「そういや大賀、お前神崎と一緒に学校行かないのか?」

「え?」

 

 朝ご飯を食べている途中、威月が俺にそう聞いてきた。思わず聞き返すと、

 

「いや、太陽は初日、倉橋と一緒に行ったじゃねえか。神崎も行きたがったんじゃねえのか?」

「ああ、そういう事か」

 

まあ、確かに行きたかったかと聞かれたら行きたいけど・・・

 

「お付き合いを始めたからって「ひまわり」の家事は疎かには絶対したくねえからさ。そこだけは譲りたくないって俺の考えを尊重してくれたんだ」

「真面目だな、お前は」

「らしいっちゃ、らしいけどな」

 

そんな俺に威月や太陽はそれぞれ苦笑しながらそう言った。まあ、学校行けば会えるんだしな。

 

ガララッ 「お兄ちゃん達、いってくるね!!」

「いってきまーす」

「おー、いってらっしゃーい」

 

その時、玄関先からそんな声と共に裕樹達が出ていく音が聞こえた。小学校は椚ヶ丘よりも遠いから微妙に早く出るのだ。

 

「ごちそうさま。というか、華は寝かしたままでいいの?」

「別にいいだろ。昨日は祭りではしゃいで疲れただろうからな」

 

手を合わせながらそう聞いてきた登志に俺はそう返した。普段なら華も一緒にご飯を食べるが、今日はまだ布団の中で寝てるし、いいだろう。

 

「さーて、後10分もすれば岬さんも来てくれるし、俺は食器でも軽く洗って(ガラッ!!)ん?」

 

玄関が開いた?岬さんにしては早い気が・・・

 

ドタドタ・・・スパンッ!! 「どした?裕樹。忘れ物か?」

「に、兄ちゃん!!すっごく綺麗なお姉さんが来たよ!!」

「? 誰だ?」

「兄さん達と一緒の制服でしたよ。確か・・・昨日、大賀兄さんと一緒にいた人です」

「!!」

 

まさか・・・俺は慌てて玄関へと走り、扉を開けた。

 

・・・そこには、俺の彼女の有希子が立っていた。

 

ガラッ!! 「・・・あ、おはよう、大賀くん」

「有希子!?え、何でわざわざ!?」

 

ビックリしながらも尋ねるのと、有希子はニコッと笑うと、

 

「「ひまわり」の家事が終わるまで待ってから、一緒に行くのはいいよね?」

「有希子・・・「大賀」・・・え?」

 

その時、後ろから呼ぶ声がして振り返った俺に、何かが飛んできた。

 

「うおっと!?・・・て、俺の鞄?」

「彼女を待たすモンじゃねえぞ。岬さんには俺らが言っとくから、とっとと行け」

「片付け位、俺らでもやれるさ」

「大賀をお願いします。神崎さん」

「いいな~大賀兄ちゃん」

「うん、羨ましいね」

 

って皆いる!?

 

「フー・・・ありがと、皆」

 

とはいえ、その気遣いは素直に嬉しかったので甘える事にした。

 

スッ 「行こうか、有希子」

「うん!じゃあ太陽君達も後でね」

 

俺が差し出した手を、有希子は嬉しそうに握り返してくれた。

 

―――そうして俺は有希子との2人きりの登校を満喫した。やっぱり嬉しいなぁ。

 

 

 

 2学期最初は始業式が行われる為、荷物を置いた後、俺達E組は本校舎へと来ていた。

 

「お、ういっす大賀、神崎さん」

「おはよう、杉野君」

「早えな、友人」

 

最後の方に着いた為か、皆はもう殆ど来ているみたいだった。

 

(しっかし朝っぱらから本校舎に行かなきゃならねえとか、ホント面倒くさ「久しぶりだな、E組共」ん?)

 

その時、E組の並んでいる所にわざわざ歩いてきた4人組の内の1人がそう話しかけてきた。

 

「ま・・・2学期はお前らも大変だとは思うが・・・」

「キシシシ、めげずにやってくれ」

「ふっ、僕に勝つほどの君だ。その気になればすぐにこっちに戻れると思ってるよ」 ギュウ

(んな!?)

 

4人の中で1番キザそうな奴が有希子の手を握りながらそう言った事で、俺は思わず掴み掛かりそうになったが、

 

「・・・すみませんが、私がこの学校にいる理由の全てがE組にあるので、本校舎には戻るつもりはありません」 スッ

「・・・ほう、美しい花には棘があるとはよく言ったものだ」

 

有希子のそんなはっきりとした拒絶に、男は髪をかき上げながら去っていった。

 

「大丈夫?有希子・・・何だアイツら」

「五英傑だよ。テストの時に言ってた」

「奴らが・・・」

 

正直、気に食わんが・・・俺なんかよりもずっと出来る奴なんだろうな・・・

 

ギュッ 「大丈夫だよ、大賀くん」

「えっ」

「私には、大賀くんの方がずっと魅力的に見えるもの」

「・・・っ」

 

満面の笑顔でそう言いきってくれた有希子を思わず抱きしめそうになったが、

 

「(コホン)はいはい、いちゃつくのはそこまでな」

「!! そ、そうだね、並ぼっか」

「お、おう」

 

いつの間にか来ていた威月の咳払いの音で、俺達は慌てて自分達の場所へと並んだ。相変わらずだな・・・俺って。

 

 

 

「・・・さて、式の終わりに皆さんにお知らせがあります」

 

始業式も終わりに近づいてきたその時、司会を務める五英傑の1人がそう言った。

 

(あれ?いつもなら、もう終わりの筈なんだけどな・・・)

「今日、E組から新たにA組へと加わる仲間がいます」

「「「「!?」」」」

 

い、E組から!?

 

「彼はたゆまぬ努力を続けて好成績を勝ち取り、本校舎へと戻る事を許されました。竹林 孝太郎君!!彼に喜びの声を聞いてみましょう!!」

 

そう呼ばれて壇上に現れたのは、間違いなく竹林だった。

 

「僕は、約4か月E組という地獄で過ごしました。やる気ないクラスメイトに劣悪な環境、自分の愚かさを思い知りました。ですが、本校舎に戻りたいと必死に勉強し、またこうして戻って来られた事、非常に嬉しく思います。2度とE組に堕ちる事なく頑張りたいと思います」

 

本校舎の連中の拍手に包まれている竹林が今までとは別人に見えた・・・

 

 

 

「なんなんだよアイツ!!百億のチャンス捨ててまで抜けるなんて!!」

「しかもアイツ、ここを地獄とかほざきやがって!!」

 

 当然、E組に戻ってきてからの俺らの話題は竹林の事だった。

 

「確かに言わされたとしても言い過ぎですね」

「竹林君の成績が上がったのは事実だけど、それはE組(ここ)で殺せんせーに教えて貰ったからだと思う。それさえも忘れたなら、私は彼を軽蔑するな」

(片岡がそこまで言うくらいだもんな・・・)

 

温厚な登志ですら複雑な表情してるし・・・まあ、俺もアイツじゃなかったら蹴り飛ばしてる所だしな。

 

「とにかく言われっぱなしは気にくわねー!!放課後一言、言いに行こう「おう、行って気が済むなら行ってこいよ」!!」

 

前原の言葉を遮った事で、全員が今も外国語の小説を読んでいる威月へと目を向けた。

 

「・・・威月、お前行かないのか?」

「ああ、別に興味ねえし」

「で、でもお前だってムカつくだろ!?あんだけ言われっぱなしなんだぞ!!」

「・・・何か勘違いしてねえか、お前ら」

 

そう言われた威月は面倒くさそうな顔を前原に向けながらそう言った。

 

「何?」

「本校舎の連中は、殺せんせーがいる事も全く知らねえんだ。だから、あくまで竹林の努力だと思うのは当然だろ?」

「うっ・・・」

「俺達は殺せんせーの事を知ってるからE組を抜けたいなんて思わねえけど、本校舎の連中からしたら、E組(ここ)はあくまで落ちこぼれの集まりで侮蔑の対象でしか無い。お前らだって殺せんせーがいなかったら、こんなに真剣になんかならなかったんじゃねえの?」

「それは・・・」

 

確かに、殺せんせーがいなかったら俺もこんなに頑張ってはいないかもな・・・

 

「というわけで、俺はアイツがE組を抜けた事には文句は言わねえし、詫びもいらねえ。来る者は拒まず去る者は追わず、お前らがそうしたいなら好きにすりゃいいさ。俺は行く気はねえし、止めもしねえよ」

(・・・こういう時の威月はドライだ)

 

再び小説に目を落とした威月に俺はそう思った。威月は馴れ合いは好きじゃないからな・・・

 

「・・・ねえ、威月」

「ん?」

 

そんな中、中村さんに話しかけて、威月はチラリと中村さんを見た。

 

「アンタの考えは分かんなくは無いけど、4か月一緒にいた竹ちゃんが、いなくなったらもう関係無しは寂しいじゃん。行くだけ行ってみようよ」

 

そんな説得に威月は軽く息を吐き、

 

「分かったよ」 パタン

 

苦笑しながら小説を閉じた。良かった・・・でも、ホント威月って中村さんの言う事には比較的、素直なんだな。

 

 

 

登志side

 

 放課後・・・僕達は急いで本校舎の玄関へと来ていた。竹林君、まだいるといいけど・・・

 

ザッ・・・ 「・・・!!」

 

が、丁度玄関から竹林君が出てきてくれた。向こうも僕達に気づいたみたいだな。

 

「説明してくれ、竹林。何で俺等に何も言わずに本校舎に戻ったんだ?」

「な、何か事情があるんですよね!?夏休みの旅行では竹林君がいてくれて凄く助かったし、普段だってメイドについて熱く語ってくれたし、律さんにメイドについて教えてあげてたり、メイド喫茶に行ってたりと皆で楽しく過ごしてたじゃないですか!!」

「いや、全部メイドじゃねえか」

 

奥田さんのそんな言葉に太陽がツッコんでいた。竹林君との思い出、メイドだけ?

 

「賞金百億、殺りようによっては更に上乗せされんのに分け前いらないなんて、無欲だね~」

 

カルマ君のそんな言葉に、ずっと黙っていた竹林君は口を開いた。

 

「・・・せいぜい十億円」

「十億円?」

「僕1人での暗殺は絶対無理だし、皆でやったとしても僕の取り分はぜいぜいそれ位だろうね」

「それが不満なの?十億も貰えれば僕は充分なんだけど・・・」

「僕個人で考えればね」

 

僕の言葉に、竹林君は眼鏡をクイと上げながらそう返してきた。僕個人なら?

 

「どういう事?」

「僕の家は代々病院を経営してる。僕の家族達にとって、十億なんて働いて稼げて当たり前な額で、出来ない僕は家族として扱われないんだ」

 

じゅ、十億が稼げて当たり前なんて・・・やっぱりお医者さんって凄いんだな・・・

 

「「ラッキーで人生救われて良かったな」・・・嘲笑交じりでそう言われるのがオチだろうね。

・・・昨日、親にトップクラスの成績取れて、E組を抜けれる事を伝えたら、「頑張ったな、首の皮一枚繋がったな」・・・()()一言の為に、どれだけ血反吐吐いて勉強したか!!」

 

握り拳を作りながら珍しく感情的になる竹林君に、誰もが無言になった。

 

「僕にとっては家族に認められる方が、百億なんかよりもずっと大事なんだ」

「竹林君・・・でも・・・「両親がもういない君に、何が分かるんだ!?」・・・っ!!」

 

その言葉に、僕は何も言い返せなかった。思わずうつむいた僕に、竹林君はハッとなり、

 

「ご、ごめん。今のは言い過ぎた」

「ううん、気にしないで」

(・・・僕に、竹林君の気持ちは分かってあげられないのは事実だしね・・・)

 

そう考えていると、竹林君は僕らに背を向け、

 

「恩知らずなのも分かってるし、軽蔑してくれても構わない。君達の暗殺が成功するのを祈ってるよ」

「待ってよ、竹ば「待って、渚君」! 神崎さん」

「竹林君の気持ち、私には良く分かるんだ。大賀くんがいてくれなかったら、私も親の鎖に縛られたままだったから」

(親の鎖・・・僕は分からないけど、時にそれは一種の呪いになるんだろうな・・・)

 

学校では、そんな呪いの解き方は教えてくれない・・・竹林君は呪いを解けるのかな・・・?

 

「・・・」

 

無言でいる僕達や去っていく竹林君を、威月は最後尾からジッと見ていた。




いかがだったでしょうか。

久しぶりだから、4人の口調とかが変わってるかもしれませんね(笑)

改めて、ここまで遅くなってしまい申し訳ありません!!
m(_ _)m

休み中に、「つまんねえ」というどストレートな感想を頂いたりもして、やっぱりつまらないのかな・・・と一時は投稿を辞める事も考えてました。

しかし、毎日UAが0になる事も覚悟していたら0になるどころかお気に入り登録数も増えてるのを見ていたら、悩んでるのがバカらしくなり(笑)好きで書き始めた小説なんだし行ける所までやってみようと思いました!!

仕事も忙しくなり毎週投稿は出来なくなるかもしれませんが、それでも書いていくのでこれからも読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十三時間目 竹林の時間

皆さんどうも籠野球です。

しばらくの間は1~2週間に1話のペースで頑張っていきたいと思います。

昔の俺、よく1週間に2話とか投稿出来てたな・・・

ま、ノンビリと読んでいって下さい。

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「「「「いただきまーす」」」」

 

 竹林がE組を去った翌日の朝、「ひまわり」ではいつも通りの朝を迎えていた。

 

(・・・はあ)

 

だが、俺の内心は正直いつも通りでは無かった。理由は言うまでも無いだろう。

 

(あんだけ頑張ってE組トップの成績取った竹林がA組に簡単に移っちまった・・・)

 

俺達は結局、本校舎の奴らの二軍でしか無いって事なんだな・・・

 

(やっぱ俺らは暗殺頑張るしか無いのか「(ガリッ!!)痛っ」・・・えっ?)

 

そんな事を考えていた俺の耳に聞こえてきたのは、そんな何かを噛み砕いた音と彩子の声だった。

 

「ん・・・卵の殻?」

 

彩子の口から出てきたのは、間違いなく卵の殻だった。恐らくは弁当に作った玉子焼きの余りの中に入ってたんだろう。

 

「わ、悪い!!怪我無かったか、彩子?」

「あ、うん。大丈夫」

「大賀兄ちゃんが失敗なんて珍しいね」

「ねー」

「アハハ・・・今日はちょっと考え事しててさ」

 

裕樹や華のそんな無邪気な笑い声に、俺は苦笑いで返すのが精一杯だった。いくら何でも2人に話して解決するような話じゃないしな。

 

ポリポリ・・・ 「・・・」

 

そんな俺を見て、沢庵を囓りながら威月が嘆息を漏らしたのに誰も気づかなかった。

 

 

 

太陽side

 

ガラッ 「おはようございます」

 

 HR前・・・珍しく口数が少ない俺達の前に、全身真っ黒の殺せんせーが現れた。

 

「何で真っ黒なんすか?」

「昨日アフリカで日焼けしてきました。ついでにマサイ族とドライブしてメアド交換も」

「どんな旅行だ」

 

ローテクなんだかハイテクなんだか良く分からん旅行だな・・・

 

「これで先生は完璧に忍者!!人混みに紛れても目立ちませんよ~」

「「「「いや、モロバレだろ!?」」」」

 

寧ろどこに目立たない要素があんだよ・・・

 

「てか、そもそも何の為だよ?」

「勿論、竹林君のアフターケアの為です」

「! ・・・意味あるのか?もうE組抜けちまったんだぜ?」

「確かに彼はもう抜けてしまいました。それを引き留める事はしません。ですが先生には、彼が新しい環境に慣れているか見届ける義務があります」

 

・・・ホント教師の鑑だな、殺せんせーって。

 

「勿論これは先生の仕事、君達は普段通り過ごしていただいて結構「いや、俺等もやっぱり行くよ」にゅや?」

 

そう言った殺せんせーの言葉を前原が遮った。

 

「暗殺も含めて危なっかしいしな、あのオタクは」

「ま、ここまで一緒に頑張ってきた仲間だしな」

「抜けられるのは仕方ないですけど、竹林君が理事長さんの洗脳受けて変になられるのはちょっと困りますしね」

「ヌルフフフ、殺意が結ぶ絆ですねぇ」

 

そんな俺達を見て、殺せんせーは満足げな笑みを浮かべた。

 

 

 

 放課後・・・俺達は、再び本校舎へとこっそり向かっていた。

 

「んで結局、威月は来なかったのか?」

「「昨日で奴の決心が固い事は分かったし、行くだけ無駄だ」だってよ」

「まあ、殺せんせーも普段通り過ごしてればいいって言ってたし、しゃあないね」

 

杉野の問いに大賀がそう答え、中村が苦笑いを浮かべていた。

 

「皆・・・一応、言っとくんだが・・・」

「分かってるって。別に威月を薄情だなんて思う奴はいねえよ」

「威月の考えは間違っちゃいないと思うし、これは私達が勝手にやってるだけだしねー」

「・・・サンキュー」

 

俺の呟きに、全員が頷いてきてくれた。その厳しさから威月は意識してないのに敵を作っちまうからな。ありがてえ。

 

「というか、話変わるんだけど・・・この擬態ってバレてない?」

 

その時、登志が頭に付けている葉っぱを触りながら聞いてきた。

 

俺達全員が付けている()()は、烏間先生が教えてくれた擬態の方法だ。まあ、確かにE組と本校舎じゃ生えてる植物が違うからな・・・

 

「つーか、そもそもこんな目立つ化けモンと一緒にいんのに擬態する意味あんのかよ?」

「ま、まあ・・・気休め程度にはなるんじゃねえの・・・と」

 

殺せんせーを指差しながらの寺坂の問いに苦笑いを浮かべたその時、ようやくA組の教室が見えてきた。

 

よし・・・とりあえず植え込みに隠れるぞ

「「「「(コクッ)」」」」 ガサガサ・・・ひょこっ

 

俺の合図で全員がゆっくりと植え込みに入っていき、少しだけ顔を出しながら中を伺った。

 

えーっと・・・あ、いたよ皆

お、ホントだ

 

陽菜乃が指差した方を見てみると、竹林がA組の奴らに話しかけているのが見えた。

 

へー、結構打ち解けてんのかな?

普段よりも愛想良さそうだな

ケ、だから放っときゃいいって言ったんだ、あんな眼鏡よ

え、でも寺坂君って竹林君とメイド喫茶行ってるんじゃそれを言うんじゃねえ、伊勢ぇ!!」」

 

そんな俺達を竹林は一瞬だけチラリと見た気がしたが、まあ邪魔してる訳じゃねえしいいだろう。

 

(ま、あの様子なら上手くやっていけそうだな)

眼鏡の色艶も良さそうだな

眼鏡の色艶!?そんなもんあんのか、磯貝!?

え?ああ、まあ何となく分かるってだけ・・・!! 浅野?

 

磯貝に呼ばれて再び教室に目を向けてみると、確かに浅野が竹林に声をかけていた。

 

(何だ?初日だから心配で最後に声をかけた・・・っていう奴じゃねえな、アイツは)

 

そう考えていると、予想通り浅野は竹林と共に教室を出て行った。どこに向かうのかこっそりと追ってみたが、

 

「・・・どうやら理事長室に入っていきましたねぇ」

「くそ、カーテンで全く見えねえ」

「中、見るとか出来ないんですか?殺せんせー」

「先生にも出来ない事はあるんですよ、大賀君」

 

今日はこれ以上は無理だな・・・しゃあねえか。

 

(にしても、A組に行ってすぐの竹林に理事長が用事か・・・何かありそうだな)

 

 

 

竹林side

 

 僕は帰り道を1人で歩いていた。帰るのが遅くなってしまった為、辺りはすっかり暗くなってしまっている。

 

「どうするべきだろう・・・」

 

僕は理事長に渡された紙にもう一度、目を落とした。そこには、E組の皆のあること無いことを悪意満載で書かれていた。これを明日の集会でスピーチし皆を監視・再教育する"E組管理委員会"を立ち上げる賛同を貰う、それがさっき理事長に言われた事だ。

 

(こんな物を読んでしまえば、彼らは只じゃすまないだろう。いくら抜けたからって、かつての仲間達にそんな事をしていいのか・・・!?)

 

おまけに今日1日行っただけでも分かったが、A組の授業レベルは殺せんせーの教えるE組よりも遙かに質や効率が劣っている上、クラスメイト同士の繋がりも殆ど無いみたいだった(今日も放課後、遊びに誘ったんだが断られてしまった)

 

(信頼出来る仲間達を裏切ってまで来たA組は予想以下のレベルで、あろうことかその仲間達を落とそうとする・・・これが、本当に僕のやりたかった事だったのだろうか「おー、竹林」!!)

 

その時、前方から名前を呼ばれて思わず前を向いた僕の目に入ったのは、電灯にもたれながら小説を読む水守の姿だった

 

「偶然だな、お前も帰る途中か?」

「・・・君の住んでる孤児院は、ここから反対方向なんじゃ無かったかい?」

「へー、よく知ってんな」

 

僕の批判混じりの言葉にも水守はいつも通りの平然とした様子で返してきた。そんな水守の態度をいぶかしみながらも僕は尋ねた。

 

「・・・まさか君が僕を引き留めに来たのか?}

「・・・ん?」

 

今日の放課後、E組の皆が僕の様子を見に来ていたのは分かっていた。というか、あんなバレバレで皆にバレなかったのが不思議な位だった。あの中に水守はいなかったみたいだったが・・・

 

「・・・プッ、ハハハ!!」

「!! 何がおかしいんだ!?」

 

いきなり笑い出した水守に驚きながら尋ねると、

 

「いや・・・俺がそんな殊勝な事する奴だと、お前が思ってたなんてな」

「えっ?」

「俺ぁ別にお前がA組行こうがどうでもいいんだが、あんまし薄情と思われんのも困っからな。止める真似事しにきただけだよ」

 

笑みを浮かべながら僕にそう返す水守らしい言葉に、僕はどこか安心した。

 

「ハハ、そうか。いや、どこか安心したよ。君がそんな事する訳ないな」

「・・・竹林」

「ん?・・・!!」

 

その時、さっきまでの顔とは裏腹に真剣な顔をしながら僕を呼んだ。思わず身構えていると、

 

「お前・・・A組に行って後悔してねえか?」

「!! ・・・何故そう思うんだ?」

「いやあ、念願のA組に行ったワリにゃあ、随分暗い顔してっからさ」

 

いきなり今の心の迷いを突かれ、僕は言葉に詰まりながらも切り出した。

 

「僕はE組を抜けたんだ。今更、君が気にする必要は無いんじゃないか?」

「まあそうだが、一応かつての仲間が不便な環境にいるってんなら黙って見てるのは出来ねえな。そこまで俺も冷たくはねぇ」

「・・・仮に後悔してると言ったら、どうするつもりだい?」

「決まってんだろ。お前の首根っこ引っ掴んででも、E組に連れて帰る」

 

そう言いきった水守の目は少しの迷いが感じられなかった。

 

「そんな事をしたら、君も只じゃすまない。最悪、退学もあるぞ?」

「知るか、んなもん。それに、あくまでお前が後悔してるって言ったらだしな」

 

そこまで言った後、水守は再び聞いてきた。

 

「どうなんだ?後悔してんのか、してねえのか」

「・・・」

 

嘘をつくのは、許さないと言わんばかりの全てを見透かす様な目で僕を見る水守を見つめ返しながら、

 

「・・・するわけ無いだろう。僕が望んだ事なんだからな」

「・・・」

 

そう答えた僕をジッと見つめると、

 

「・・・そうか(パタン)ならいいんだ」

 

小説を閉じながら、フッと笑みを浮かべた。そんな水守の言葉に、僕は身体から力を抜いた。

 

「いやあ、安心したよ。昨日のお前の言ってた事が、俺にはそうも納得いかなかったからさ」

「・・・え?」

 

電灯から身体を起こしながら心底、安心した様子でそう言う水守に思わず聞き返すと、

 

「両親に認められる、そりゃあ勿論、大事な事なんかもしれねえ。でも、それはお前自身の良さを殺してまでやらなきゃいけねえ事とは、俺は思えねえな」

「!! 君は両親がもういないからだろう。だからそんなにあっさり出来るんだ」

「それは否定しねえ。でも、両親がいようがいまいが、結局最後に決めるのは自分自身じゃねえか?」

「・・・っ」

「大事な事は両親のレールを進む事じゃねえ。自分でどう考え、自分でレールを敷いて進んでいく事。俺はそう思ってる」

 

そこまで言うと、水守は僕に背を向け、

 

「自分の気持ちに嘘はつかず、やりてえ事をやったらいいんじゃねえの?

・・・ま、これ以上はE組を抜けたエリート様に口出しする気はねえよ。じゃあな、もうお前の前に姿は見せねえ」

 

そう言い残し、左手を振りながら水守は夜の道へと消えていった。

 

「・・・僕が、やりたい事・・・か」

 

再び静寂に包まれた道の真ん中で、水守が言った事を、僕は思わず呟いていた―――

 

 

 

登志side

 

 翌日・・・僕達は再び本校舎の体育館へと来ていた。というのも、今日はこの学校の創立記念日で、この日は集会を行う決まりなのだ

 

「(ペコリ)」

「・・・あれ?竹林君がまたスピーチをするんだね」 

「ホントだな、まだ何か言う事あるのか?」

 

壇上で頭を下げる竹林君を見て、片岡さんや磯貝君がそう話し合う中、僕は胸騒ぎを感じていた。

 

「・・・何だか不吉な感じがします」

「何がですか?伊勢君」

「竹林君から殺気を感じます。何か・・・大事な物を壊してしまいそうな」

 

奥田さんにそう返す中、竹林君は口を開いた。

 

「・・・僕の、やりたい事を聞いて下さい。僕のいたE組は・・・弱い人達の集まりです。彼らは落ちこぼれで、学力が無い弱者の集まりという、どうしようもない人達です」

(・・・まさか、僕達を貶めようと!?)

 

 

昨日、理事長と話し合ってたみたいだし、あの人なら・・・

 

「でも、僕はそんな皆が、E組がメイド喫茶と同じくらい居心地がいいです」

(・・・えっ?)

 

そう考えていた僕と真逆の事を言った竹林君に思わずキョトンとなった。どうやら僕以外の皆も驚いて言葉を失っていると、

 

「こんな裏切りをした役立たずな僕を、級友(クラスメイト)達は何度も様子を見に来てくれた。先生は、僕みたいな要領の悪い生徒にも分かるように、工夫して教えてくれました。やりたい事をやれば良いと説いてくれたりする等、E組の皆は家族よりも同じ目線で接してくれました」

 

生き生きと話す竹林君に体育館がざわめいた。でも、嬉しいなあ。竹林君がそんな事、思ってくれてたなんて。

 

「強者を目指す本校舎の皆さんを、正しいとも思ってますし尊敬もしています。

・・・でも、僕はまだ弱者でいいです。弱い事に耐え、弱い事を楽しみながら、強者の首を狙う生活に戻ります」

イかれたか・・・雑魚が!!

 

そこまで竹林君が言ったその時、舞台袖から浅野君が出てきた。当然、浅野君からしても竹林君の行動は予想外だったのだろう。彼からは焦りが感じ取れた。

 

訂正して謝罪しろ、竹林!!さもないと・・・(スッ)!!」

 

何かを話しかけている浅野君の言葉を、竹林君が何かを出して遮った。何だろう、アレ?

 

「理事長室からくすねてきました。私立学校のベスト経営者を表彰する盾みたいです。

・・・理事長は本当に強い人です。全てにおいて合理的だ」 ガシャアァァァン!!

(なっ!?)

 

そう言いながら竹林君は盾を、もう片方の手に持った木で出来た訓練ナイフを鉄で覆った物で叩き割った。

 

いきなりの暴挙に全員が驚く中、竹林君は平然とした様子で続けた。

 

「浅野君が言うには、過去に同じ事をしてE組行きとなった生徒がいたとか。合理的に考えれば、これで僕も再びE組ですね」

 

 

満足気にそう言うと、竹林君は舞台袖に消えていった。

 

(・・・と、とりあえず竹林君はE組に戻ってきてくれたみたいだけど、どんな心境の変化「フッ・・・そうか・・・それが、お前のやりたい事か・・・」・・・!!)

 

後ろから辛うじて聞こえてきたそんな呟く様な声に、僕は思わず後ろを振り向いた。当然、姿は見えないけど、聞き慣れたその声は間違いなく威月の声だった。

 

(まさか・・・威月が竹林君に何かを・・・?そういえば昨日、何故か帰りが遅かったな・・・ちょっと用事がって言ってたけど)

 

・・・やっぱり頼りになるなぁ、威月は。

 

 

 

太陽side

 

 翌日・・・俺達は校庭に出て、烏間先生の話を聞いていた。

 

「二学期からは、新たな要素を入れていきたいと思う。その1つが、火薬だ」

 

火薬・・・確かに普通じゃ得られないパワーを生み出す()()は魅力的だよな。

 

 

「ただし、一学期の最初に寺坂君が行った様な危険な方法は勿論、厳禁だ」

「うっ・・・」

 

名指しを受け、寺坂が冷や汗を浮かべた。まあ、俺もそれを微妙に利用しちまったし、何とも言えんな。

 

「その為にも、この中の1人に火薬の扱い方を完璧に覚えて貰う」 どさどさっ

(うわぁ・・・多い。てか、分厚いなぁ)

「俺の許可と、その1名の監督が、火薬を使う時の条件だ。さあ、誰か覚えてくれる者はいるか?」

(うーむ・・・やろうと思えばやれっけど・・・わざわざ国家資格、覚える必要もねえっちゃねえんだよな・・・)

 

そう考えていたその時、そいつが教材を受け取りながら口を開いた。

 

ひょい 「勉強の役に立たない知識ですが、何かの役には立つかもね」

「暗記できるか?竹林君」

「ええ、二期OPの替え歌にしてくれればすぐですよ」

 

烏間先生の問いに、竹林は眼鏡を上げながら答えた。アイツなら大丈夫だろうな。

 

スッ 「烏間先生、俺も覚えてみたいんですけどいいすか?」

「む」

 

すると、俺の横に座ってた威月が手を挙げながら立ち上がった。

 

「こういう知識も、覚えておいて損は無いと思うんで」

「・・・いいだろう。では、竹林君か威月君のどちらかの監督という事にしよう。2人共、頑張ってくれ」

「はい(うす)」

 

烏間先生の言葉と2人の返事で、俺達は解散した。

 

「ほらよ、竹林。俺は後でいいからお前から覚えろ」

「ああ・・・ありがとう、威月」

「ん?」

 

皆が散り散りになる中、俺はそんなやりとりをしている2人に注目していた。

 

「君がああ言ってくれなければ、僕はここに戻っては来ていないだろうからね」

(やっぱ威月が竹林に何か言ったのか。そうだとは薄々、思ってたが)

「・・・何の話だ?」

「えっ?」

 

そう聞き返した竹林に威月は笑みを浮かべ、

 

「俺は只、大賀の美味い飯を食いたかっただけだ。お前がいねえと、アイツが気にするんでな」

「威月・・・」

「おら、さっさと覚えろや、弱者の皮を被った強者さんよ!!あの最強を殺すんだろ?」 バチン!!

「・・・ああ!!」

(・・・ホント、素直じゃねえな、威月は)

 

笑いながら竹林の背中を叩いて激励する威月の姿に、俺は苦笑しながらそう思った。




いかがだったでしょうか。

いやぁ威月のキャラってこういう時、めっちゃ助かりますね!!

それで、威月も監督にしましたが正直あんまり関係ないかもしれませんね(笑)

まあ、これからの展開次第です。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十四時間目 プリンの時間

皆さんどうも籠野球です。

連休前の魔の7連勤終了です・・・しかも明日も仕事・・・夜勤明けはキツいなあ。

皆さんも風邪などに気をつけてお正月をお迎え下さい!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

ポチャン・・・ポチャン 「いっぱいたべてね~きんちゃん!!」

 

 居間の窓際に置かれている金魚鉢の中で泳ぐ金魚(きんちゃん)(命名 華)に、華は餌を嬉しそうにあげていた。金魚のお陰か、華も最近は今日みたいな休みの日にも少し早起きだな。

 

スッ 「華ー、もうすぐご飯だから手を洗ってきな」

「はーい・・・あー!!オムレツだー!!」

(・・・えっ)

 

その時、大賀が襖を開けながら入ってきて、華がお盆の上に載っている皿の中身を見てそんな声を上げた。・・・また?

 

 

 

「大賀兄ちゃんのオムレツって、いつ食べても美味しいなー!!」

「ホント、すっごく美味しい!!」

「ありがと、2人共」

「「「・・・」」」

 

 その後、起きてきた裕樹や彩子が嬉しそうにそう言いながらオムレツを食べる中、俺達3人は頭に疑問を浮かべていた。

 

「・・・ん?どうしたんだ、お前ら」

「いや・・・ちょっと気になる事があってな」

「ま、まさか何か味がおかしいか!?」

「あ、いや・・・いつも通り美味いんだけどさ・・・」

 

テンパる大賀にそう返しながら、俺は数日前から感じていた疑問をぶつけた。

 

 

 

「何で最近、卵料理ばっかりなんだ?」

 

そう、一昨日の朝は目玉焼き、夜はカニ玉。昨日の朝は卵かけご飯で夜は親子丼。当然、昼の弁当には玉子焼きが入っていたりと、こんなに大賀って卵大好きだったっけ?と思える様な内容だ。

 

「あ、ああ、なるほどな。あ、ひょっとして飽きちまったか?」

「いや、味も食感も全く違う物にしてくれてるから大丈夫だよ。只、急に何でかなって思っただけだ」

「それがなー、最近、卵が異常に安くて・・・ついまとめ買いしちまったんだー」

 

それはありがたいが、急に何でだ?

 

スッ 「それは恐らくコレが原因だろうね」

「あ、実徳さん」

 

その時、珍しく「ひまわり」に朝からいる実徳さんが、新聞を片手に入ってきた。

 

「「「「おはようございます」」」」

「うん、おはよう」

「実徳さん。原因って?」

「ああ、これさ」

 

威月の問いに、皆の挨拶に返しながら実徳さんは俺に新聞を渡してきた。そこには・・・

 

「供給過剰により全国で鶏卵廃棄か・・・」

「なるほど。ま、生鮮食品ならあり得る話だな」

「とはいえ、勿体ない話だね・・・」

 

まあ、仕方ねえな。売れば売るほど赤字になるなら棄てるしかねえ。

 

「俺は大助かりだな。冷凍しとけば日持ちするし、まだまだ食費が浮きそう」

「ハハ・・・ほどほどにしてくれよ(プルルル)ん?」

 

嬉しそうな大賀に乾いた笑いを浮かべたその時、居間に置かれた電話が鳴った。

 

(誰だ?こんな休みの日の朝早くに)

ガチャッ 「はい、「ひまわり」です・・・ああ、いるよ。変わろうか?」

 

電話を取った実徳さんを見ながらそう考えていると、実徳さんは俺に電話を差し出してきた。

 

「茅野君という子からだ」

「茅野?」

(連絡網って訳じゃないし、何だ?)

 

訝しみながらも、俺は電話を受け取った。

 

「もしもし」

「あ、もしもし。太陽君?ごめんね、朝早くに。番号は神崎さんに教えて貰ったよ」

「いや、構わねえ。何か用事か?」

「えっとね、今日皆時間あるなら、10時くらいに学校に来てくれない?」

「は?学校?」

 

何で休みの日に・・・?まあ、今日は暇だけどさ。

 

「分かった。全員で行けるかは分かんねえが、俺は必ず行くよ」

「ありがとう!!じゃあ、また後でね」 

「(ピッ)茅野が10時頃、学校に来てくれって」

「? 休みの日に何の用事だ?」

「さあな・・・行ってみるっきゃねえな」

 

 

 

「「「「卵を使った暗殺?」」」」

 

 全員揃った教室で、茅野が言ったのはそんな暗殺計画だった。

 

「うん!!廃棄される卵を救い、暗殺も出来るっていう一石二鳥の計画だよ!!」

「ケッ、飯にコレ混ぜるってか?そんなんすぐに気づかれんだろ」

 

対殺せんせー弾を弄びながら寺坂はそう言った。まあ、普通にやったら無理だわな。

 

「フッフッフッ、その点は大丈夫。皆、校庭に出て!!烏間先生に準備してもらってるから!!」

 

外に手を向けた茅野に着いていくと、

 

「「「「何じゃこりゃ!?」」」」

 

巨大なプラスチック製の容器があった。でもあの形、どこかで見覚えが・・・

 

「コレって・・・プリンの容器?」

「そう!!名付けて、巨大プリン爆殺計画!!プリンの底に対殺せんせー弾を敷き詰め、タイミングを見計らって竹林と威月君の判断で発破!!」

(と、とんでもねえ計画、思いついたな・・・)

「でも、茅野さん。何でこの計画を?」

「よくぞ聞いてくれたね、伊勢君!!」

 

登志の問いに、茅野は思い出すかの様に話し出した。

 

「この前、殺せんせーとプリンの食べ比べしてた時に言ってたんだ。"いつか自分より大きなプリンに飛び込んでみたいって"ええ、叶えましょう、その夢とロマン!!ぶっちゃけ私も食べたいし!!」

「そ、そうですか・・・」

 

茅野の勢いに、登志も押されっぱなしだな・・・

 

「・・・でも、計画としちゃあ面白いかもな」

「ああ、殺せんせーはエロとスイーツには弱い。やる価値は充分あるな」

(普段、後方支援ばかりやってる茅野が計画したっていうのも珍しいしな)

「よし皆。殺せんせーもいないこの三連休、やってみようぜ!!」

 

磯貝の号令に、全員が殺る気になった。

 

 

 

ブオオオ・・・ 「大量の卵は、マヨネーズ工場の休止ラインで混ぜて貰った。それに牛乳、砂糖、バニラオイルが基本の材料だよ」

「でもカエデちゃん。前に巨大プリン作るってテレビで見たんだけど、大きすぎて自分の重さで潰れてたよ?」

 

巨大なボウルに溶き卵を入れながらそう言った茅野に、陽菜乃がそんな疑問をぶつけていた。まあ、こんだけデカいとな。

 

「その対策としてコレを凝固剤として混ぜるんだ」

「寒天?」

「なるほど・・・寒天はゼラチンよりも強度が強いし融点も高いからな。まだ暑い9月の屋外でも、崩れにくくなるって訳か」

「流石、大賀君!!よく知ってるね!!」

 

大賀・・・お前って、こういう家庭科に関係ある事は良く覚えてるんだよな・・・

 

「だが茅野。こんなデカいプリン、いくら殺せんせーでも飽きちまうんじゃねえか?」

「うん、だから大賀君にちょっと作って貰いたい物があるんだ」

「俺に?」

「えっとね・・・」 

 

威月の問いにそう答えた後、茅野は大賀に何か耳打ちを始めた。

 

「・・・へえ!!そりゃあいいな!!勿論やるよ」

「ありがとう!!材料は空き教室に運んで貰ってあるから、よろしくね!!」

「おう。じゃあ出来たらまた戻ってくるよ」

 

そんなやりとりの後、大賀は校舎へと戻っていった。

 

「大賀に何、頼んだんだ?茅野」

「フフフ、それは後のお楽しみ!!さあ、大賀君の準備が終わるまでに生地を作り上げちゃわないと!!」

 

俺の問いに、茅野は楽しそうな笑顔でそう返してくるだけだった。何だろう、気になるな。

 

「太陽、こっちに砂糖持ってきてくれねえか?」

「おう、分かった」

(・・・ま、すぐ分かる事だし、今はコレを完成させねえとな)

 

 

バシャー 「そうそう、その調子!!1班から順番に注いでいってね!!」

 

 俺達1班が作った生地を最初に入れるらしく、俺達は型の上に上がりながら生地を流し込んでいった。

 

「茅野、コレってそれぞれの班で生地が違うのか?」

「うん、上に行くほどゼラチンより生クリームを多目にしてるの。自重を支えつつ、上はふんわりって事!!」

「へぇ、良く考えてあるんだな」

 

磯貝と茅野のやりとりにそう呟きながら、俺は梯子を下りた。次は2班だな。

 

「・・・あ、2班の皆が入れるのは、もうちょっとだけ待ってて」

「え?何でですか?」

「んー・・・大賀君、もうそろそろ出来ると思うんだけど・・・」

 

ん?大賀を待ってるのか。そういや結局、何だったんだろ?

 

タッタッタ 「ゴメン、茅野さん!!時間掛かっちゃって」

「大賀」

「ううん、丁度良いタイミングだよ。ありがとう」

 

その時、大賀が段ボールを抱えながらこっちに走ってきた。

 

「大賀に頼んだのってそれか?」

「ああ、はいよ登志。時々、適当に投げ入れてくれ」

「・・・何?この変なブヨブヨしてる物」

 

段ボールを受け取った登志が中から出したのは、四角い変な物体だった。全員の疑問を代表して聞いた登志に茅野が答えた。

 

「フルーツソースやムースクリームをオブラートに包んだ物だよ。中で溶けて味が変化して飽きないようにするためにね。大賀君の方が上手に作れるからお願いしたんだ」

「なるほど・・・」

「コレを入れながら生地を全部、流し込んだ後は、カップの中に冷却水をパイプから流すの。これだけ大きいと簡単には冷やせないからね」

(凄えな・・・茅野)

 

科学的にもかなり根拠があるし、味も損なわずに作ろうとしてやがる・・・プリンについて相当熟知してないと出来る芸当じゃねえ。

 

「1回作ってみたかったってのもあったし、卵が余ってるって聞いて最高のチャンスだと思ったんだ。暗殺に関係あったらお金も防衛省が出してくれると思ったし・・・私って1度決めたら一直線なんだー」

「結構、意外だな。茅野って後方支援ばっかだから」

「威月の言う通りだな。好きな物がテーマだとこんなに行動力あんだな」

「お前だけには言われたかないと思うぞ」

 

・・・あれ?威月のツッコミに、皆温かい目で俺を見てる・・・何でだ?

 

―――その後、生地を入れ終わったプリンは、どうやら1日置くらしいから今日は解散となった。

 

 

 

「クオーン」

「あー、可愛いな~!!何でこんなに可愛いんだ、この子は~」

 

 翌日・・・一足先に学校に来てしまった俺は、偶然見かけた野良犬の親子に心を奪われた。

 

「拾って帰りてえけど・・・これ以上増えたらなー・・・あーでも、こっそり連れて帰れば「やっぱ、お前も我を忘れるタイプじゃねえか」(ペシン)痛っ」

 

その時、後ろ頭を軽く叩かれた。振り返ると、呆れ顔の威月が立っていた。

 

「先に行ったと思ったら何やってんだか・・・もう皆、来てんぞ」

「もうそんな時間か。30分は遊んでたな」

「好きだな、お前も」

「ありがとな、楽しかったよ」

「ワンッ!!」

 

最後に頭を一撫でした後、俺はその場を離れた。いやーやっぱいいなぁ。

 

「・・・あ、おはよー、たーくん!!」

「何やってたんだよ、もうパイプ抜くとこだぜ」

「わりいわりい、これからどうすんだっけ?」

「えっとね、まずはパイプを抜いて型を外した後、表面を整えるんだ。さあ皆、もう一頑張りだよ!!」

(いよいよか・・・楽しみだな!!)

 

その後、言った通り表面を整え、カラメルをかけて表面をバーナーで炙れば遂に・・・

 

「「「「出来たー!!」」」」

「おぉー・・・すっげえ美味そうだな!!」

(これなら・・・殺せんせーも引っかかるかもな!!)

「んー・・・」

 

そう考えていた俺は、大賀が首をかしげているのに気づかなかった。

 

 

 

「こ、これを先生が全部食べていいのですか!?」

「はい、廃棄卵を救いたかっただけですから。全部、残さず食べて下さいね」

「勿論!!ああ、夢が叶った!!」

 

皆を代表した登志の返しに、興奮した様子でスプーンを構えながら殺せんせーは文字通り巨大プリンにダイブしていった。

 

そんな殺せんせーを残して、俺達は教室へと入った。流石に火薬を使うから離れてないとな。

 

「(バクバクバクバク・・・)」

(・・・すげー勢い、こりゃあ底に辿り着くのも時間の問題だな)

「威月、タイミングは?」

「底に仕掛けたカメラに光が入った瞬間だな。判断はお前に任す」

「分かった」

 

俺の横では監督の2人が最終確認をしていた。竹林の手にあるリモコンのボタンを押した次の瞬間、底に仕掛けた爆弾が爆発して、対殺せんせー弾が炸裂するだろう。

 

「プリン・・・爆破・・・」

(恐らく・・・もう1分もねえな。さあて、どうなる「んー・・・」ん?)

 

そう考えていたその時、大賀が首をかしげているのに気づいた。

 

「どうした?大賀」

「いや・・・茅野さん、本当にいいのかなって」

「「「?」」」

 

その言葉の意味が威月や登志も分からなかったらしいな。

 

「どういう意味だ?」

「茅野さんってさ・・・あんだけプリンに情熱燃やしてんだよな。それなのに・・・うーん・・・」

「んだよ、気になる言い方しやがって。ハッキリ言えよ」

「いやー・・・」

 

威月の問いに、大賀は少し言い淀んだ後・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくら殺せんせーを殺す為とはいえ、あんなに愛情込めたプリンを爆破しちゃって、茅野さん平気なのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「・・・あっ!?」」」

(い、言われてみれば、仮に俺なら動物を使った暗殺は死んでも止める。茅野のプリンへの思いが俺の生き物に対してのと同レベルなら・・・)

 

そう考えたその時だった。

 

「ダメだーーーーー!!!!!!」

「「「「!!??」」」」

「あんなに愛情込めたプリンを爆破しちゃうなんて絶対ダメー!!」

 

ご、号泣してる!?

 

「お、落ち着いて下さい茅野さん!!」

「そもそもお前が計画したんだろ!?今更、中止してどうすんだ!?」

「うるさーい!!ダメったらダメなんだー!!リモコンをよこせぇ!!!!」

 

登志がなだめ、威月が後ろから羽交い締めにしても、茅野は全く止まる様子がなかった。

 

「・・・って力強っ!?どんだけ情熱あんだよ!!」

「このままずーっと、校庭にモニュメントとして飾るんだぁ!!」

「いや茅野さん、それは無理!!100%腐るって!!」

(いや大賀、そういう問題じゃなくね!?)

 

最早、暗殺どころではなく、俺達は茅野を止めるのに必死だった。てか、威月でも止めるのがやっとって凄えな・・・

 

「フゥ、ちょっと休憩」

「「「「・・・えっ?」」」」

 

その時、殺せんせーがそう言いながら俺達の背後に現れた。その手には爆弾が握られている。

 

「地面に潜って外してきました。プラスチック爆弾の材料にはかなり強い匂いを放つ物があります。竹林君も威月君も、次は先生に分からない成分を研究して下さいね」

「・・・はい」

「ちっ・・・」

 

失敗か・・・まあ、今回は良かったような、悪かったような・・・

 

「それと、プリンは皆で食べる物ですよ。綺麗な部分を分けておきましたから、皆で食べましょう」

 

そう言うと、殺せんせーは俺達にプリンの入った容器を渡してきた。おお、嬉しいな。

 

「ただし、厳密には廃棄される予定の卵を食べるのは経済のルールに反します。食べ物の大切さと合わせて、次の公民で考えましょうね」

 

 

 

「(パクパク・・・)美味い!!茅野のプリン最高だな」

「ああ、凄え美味え」

 

 茅野のプリンは店で売ってるレベルと遜色ない味だった。あんだけ情熱、燃やすだけあるわ。

 

「でも惜しかったね、茅野。ホッとした?」

「アハハ・・・ゴメンね、皆」

「ま、仕方ねえな。誰だって大事にしてるモン壊されそうになったら取り乱しちまうのは仕方ねえよ」

 

威月の言う通りかな。やっぱり今回は失敗して良かったのかもしれねえ。

 

「でも茅野さんが提案したのも面白かったし、意外でしたね」

「フフン、本当の刃は簡単には見せないものよ」

 

登志にそう返しながら、茅野はプリンを高く掲げ、

 

「また殺るよ。ぷるんぷるんの刃ならまだ持ってるしね」

 

楽しそうにそう言った。E組(ここ)じゃ、只のスイーツ好きも立派な暗殺者だな。




いかがだったでしょうか。

この話はかなり好きですね(笑)茅野の表情に笑わせて貰いました。

それと話は変わりますが、この「太陽とひまわりの仲間達との暗殺教室」を投稿し始めてから1年が経ちました!!

正確には先週ですが、日曜日から仕事だったので投稿出来ませんでした(笑)

ここまで投稿を続けてこれたのは、毎日読んでくれる方々のお陰です。本当にありがとうございます!!

これからもコツコツ頑張っていくので、是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十五時間目 ケイドロの時間

皆さんどうも籠野球です。

いや、もう本当に遅れて申し訳ありません・・・

年末の忙しさをそのまま年始に持ち込んだ形で滅茶苦茶仕事が忙しかったり、家族2人がほぼ同時にインフルエンザにかかって看病したりとばたばたした1か月でした。

作者はメンタル的に疲れた場合はゲームに逃げてしまうので、その小説を書くのが遅れたというのが1番の理由です。

ノンビリとした小説ですが、これからもノンビリとお待ち頂けたら嬉しいです。

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「・・・二学期最初に言った通り、これからは新しい技術も暗殺に取り込んでいく。今日からは新たにフリーランニングの技術を教えていこう」

「フリーランニング?」

 

 体育の時間、烏間先生が俺らに言ったのは、聞き慣れない単語だった。

 

「例えばそうだな・・・三村君、もし君があの崖下の一本松まで行くとしたら、どれくらいかかる?」

「・・・んー、まずこの崖這い下りて、途中の小川は狭い所通って、茂みを迂回した後、最後に岩をよじ登る・・・1分で行ければ上出来ですかね」

 

ま、そんなもんだわな。俺や大賀が月歩を使うなら話は別だけど、普通に行ったらそれくらいは掛かるだろう。

 

「では、タイムを計っておいてくれるか?」

「え?あ、はい・・・」

 

三村にストップウォッチを渡した後、烏間先生は崖の方へと歩き、

 

「フリーランニングに必要なのは、身体能力の把握、受け身の技術、目の前の足場の距離や危険度を正確に見極める事だ」

(・・・崖に背を向けた・・・って、まさか!?)

「これが出来れば、全てのフィールドで暗殺可能になる。必ず、暗殺の力になる筈だ」

 

俺がそう考えるのと、烏間先生が崖に身を投げたのは同時だった。

 

バババババッ!! 「すげ・・・」

 

焦った俺達を余所に、烏間先生は空中で1回転してから後ろ回りで衝撃を殺してみせた。そのまま烏間先生は小川の横の岩を三角跳びで跳んで小川を超えると、木に2歩でよじ登り岩場を凄まじい速度で駆け上がり一本松の枝を掴んでいた。その早業に、俺は思わずそう呟いていた。

 

「タイムは?」

「じゅ・・・10秒です」

「ふむ、まあ、そんなものだろうな」 

 

てか、革靴にスーツ着た状態であの速度は異常だろ・・・やっぱあの人、人類トップクラスだよな・・・

 

「見ての通りだ。道無き道を進む体術、これをマスターすれば、ビルからビルへと自由自在に飛び回る事が可能だ」

「凄い・・・」

「あんなん出来たら超カッケエじゃん!!」

 

皆もやる気だな、まあ俺もうきうきしてるしな。

 

「ただし、これも火薬同様に扱いを間違えたら危険な物だ。この裏山なら地面も柔らかいからトレーニングに向いている。危険な場所や裏山以外では使用しない事、いいな!」

「「「「はい!!」」」」

(いやー、楽しみだな「んー・・・(スタスタ)」大賀?)

 

その時、大賀が崖に近づきながら指を手に当てていた。何か、崖の高さを確かめてる様な・・・

 

「太陽・・・何か俺、嫌な予感がするんだが」

「奇遇だな、威月。俺もだ」

「む?どうしたんだ、大賀く」

 

烏間先生が大賀に不思議そうに声をかけたその時だった。

 

「とうっ(ピョン)」

「「「「なっ!?」」」」

「大賀君!!」

 

そんな声と共に、大賀は崖下へと飛び降りた。その突拍子もない行動に全員が驚く中・・・

 

「よっと(クルン)」 タッタッタ!!

「なっ・・・」

 

空中で一回転し、絶妙な前転での受け身で衝撃を殺した後、大賀は烏間先生とほぼ一緒のコースで一本松へと辿り着いてみせた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・出来た!!」

「約30秒・・・烏間先生よりは当然遅いが、やろうと思って簡単に出来る芸当じゃねえってのに・・・」

「何で大賀って経験も無いのに完璧な受け身が取れるんだろうな・・・」

 

無邪気に笑う大賀を見ながら呟いた威月に、俺は苦笑いで返した。あんなの出来るのは大賀だけだろうな・・・

 

「でも、危険なのにいきなりやっちゃったら・・・」

「大賀君?」 ゴゴゴゴゴ・・・

「あ!?えっと・・・す、すいません」

 

登志がそう言いかけたのと同時に、烏間先生が大賀に凄んでいた。額に青筋を浮かべているし、かなり怒っているだろう。

 

「ふぅ・・・君の身体能力の高さは分かっているが、いきなりは止めてくれ。さっきも言ったが、これはかなり危険だからな」

「はーい、もうしません」

「よし!!じゃあ早速始めよう。まずは基本の受け身からだ!!」

「「「「はい!!」」」」

(大賀みたいな動きは無理だが、頑張ってみっか!!)

 

そんな決意と共に、俺達E組は新たな訓練を始めた。

 

 

 

スタタタッ!! 「はー・・・はー・・・ギリギリだな」

 

 フリーランニングの訓練を始めてから数日後の朝、俺はE組校舎への山道を全力疾走で駆け上がっていた。

 

(俺とした事が・・・散歩中に可愛らしい犬ちゃんに目を奪われたせいで遅刻だなんて)

「・・・やっと見えてきた(タタタ)ん?」

 

校舎が見えてきて息を整えていたら、後ろから不破が走ってくるのが見えた。

 

「せ、セーフ・・・あれ?太陽君もギリギリ?」

「おう、お前もか?」

「いやー、いつものコンビニでジャンプ売り切れててさ。それで遠回りしたんだ」

「なるほど・・・って、ノンビリしてる場合じゃねえな。とっとと行くぞ!!」

「う、うん!!」

 

後、1分くらいだからな・・・間に合うか!?

 

ガラッ!! 「(キーンコーンカーンコーン・・・)あ、危ね・・・ギリギリ(ガチャン)・・・えっ?」

「遅刻ですねえ、2人共。逮捕します」

 

チャイムと共に教室に駆け込んだ俺達に、警官の格好をした殺せんせーが手錠をかけてきた。何かムカつくし、嵐脚撃とうかな・・・いや、躱されて終わりか。

 

「おっせえぞ、太陽。だから学校前に羽目外し過ぎんなよって言ったんだ」

「ワリいな、威月。んで、殺せんせーのその格好は何すか?」

「ヌルフフフ。何やら最近、面白そうな訓練してますねぇ皆さん。どうでしょう、今日はそれを使った遊びをしませんか?」

 

面白い遊びって・・・フリーランニングの事か。

 

「ズバリ"ケイドロ"!!裏山全部を使った鬼ごっこです!!」

「ケイドロを裏山で?」

「ルールは簡単、泥棒役の皆さんは身につけた技術を使用して裏山を逃げて下さい。それを警官役の殺せんせーと烏間先生が捕まえます」

「おい!!何で俺まで!?」

 

巻き込まれて噛みついた烏間先生をスルーしながら、殺せんせーは話を続けた。

 

「制限時間は1時間。制限時間以内に君達全員を逮捕(タッチ)出来なければ烏間先生の奢りでケーキを買ってきましょう」

「貴様、勝手に・・・」

「ただし、全員が捕まったら宿題を2倍にします」

 

そんな宣言に、全員がブーイングをかました。そんな皆を代表して威月が口を開いた。

 

「冗談じゃねえ、殺せんせーから1時間も逃げれっかよ」

「その点はご安心を。最初は烏間先生だけが追いかけます。先生は牢屋スペースで待機して、残り1分で動きます」

「・・・それなら何とかなるんじゃねえ?」

「そうだな、やってみようぜ皆!!」

(・・・)

 

大賀の言葉に、磯貝が声をかける中、俺は1人考えていた。一見簡単そうだが・・・追いかけるのが烏間先生じゃなぁ・・・

 

(・・・ま、足りねえ能力は頭使ってナンボだな!!)

「何で俺が、全く・・・まあ、彼らがレベルアップ出来るなら仕方ないが・・・」

 

・・・にしても、この2人って息合ってんのかないのか分かんねえな。

 

 

 

大賀side

 

ガシッ 「ひゃっほう!!」 スタッ

 

 木から木へとそんな声を上げながら俺は飛び移った。風が気持ちいいなぁ。

 

「本当に凄い身体能力ですね、大賀君って」

「うん、僕達じゃまだ半分の距離も飛び移れないよ」

 

そんな俺を見上げながら、奥田さんと渚はそれぞれそう言った。ちなみに俺は4班の皆と行動している。

 

「しっかしケイドロって懐かしいよなー。しかもこんな広いフィールドでやれるなんてワクワクしちまうな!!」

「うん、烏間先生は私達が飽きないように訓練を工夫してくれるし、殺せんせーはそれを利用した遊びにしてくれる。ああ見えて、良いコンビなのかもね」

 

友人や有希子の言う通りだな。まあ、実際は敵同士だけどな。

 

「・・・! 始まったよ、皆」

 

その時、携帯を見ていた茅野さんがそう言った。いよいよか・・・

 

「つってもよ、警官役はたった2人だし、殺せんせーは残り1分まで動かない以上、実質今鬼は烏間先生1人だろ?余裕じゃん」

「それまで隠れて、殺せんせーが追いかけてくる残り1分に備えるのが理想的ですね!!」

「それなんだが太陽から伝言を預かってんだ」

「何?大賀くん」

 

有希子が聞き返すのと同時に全員が俺の方を向いてくる中、俺は口を開いた。

 

「"烏間先生を甘く見るな"だって「(デデーン!!)岡島君、速水さん、千葉君、不破さん、アウトー」」

「「「「・・・はっ(えっ)!?」」」」

 

突然、茅野さんの携帯から聞こえてきた警告音と律の声に、全員が固まった。

 

(嘘だろ!?まだ開始して1分も経ってねえぞ!?)

「(デデーン!!)菅谷君、アウトー、ビッチ先生、アウトー」

「ヤバい・・・どんどん殺られてく。殺戮の裏山だ」

「逮捕じゃなかったっけ」

「つーか何でビッチ先生が参加してんだ?」

 

太陽の言った通りだな・・・桁違い過ぎる。

 

(てか、そもそもこれケイドロじゃ・・・ん?)

「・・・そうだよ!!ケイドロなんだし牢屋の泥棒タッチすりゃ助けられんじゃん!!」 ダンッ!!

「さっさと助けて、また振り出しに戻してやる!!」 ババッ!!

「・・・バカだね~2人共」

 

牢屋へと向かう俺と友人の後ろから、カルマがそう呟いた気がするが、今は速度重視だ!!

 

 

 

 

 

「「・・・」」

 

 牢屋近くの草むらへと辿り着いた俺達だったが、そこから微動だに出来ずにいた。何故なら・・・

 

ザザッ 「やっぱり・・・ラスト1分まで動かないって言ってたじゃん。誰があの音速タコの目を盗んで救出(タッチ)出来んのさ?やれるならとっくの昔に殺せてるって」

「ヌルフフフ」 ぱしっ・・・ぱしっ・・・

 

牢屋スペースのど真ん中で警棒を弄ぶ殺せんせーを見ながら、追いついてきた4班の皆の先頭にいたカルマがそう呟いた。このコンビ無敵すぎんだろ!?

 

「ハァ・・・ハァ・・・どうする、大賀くん。救出は諦めて隠れる?」

「「竹林君、原さん、アウトー」いや・・・このままじゃ30分も持たねえよ。何としても助けねえと」

「・・・!」

(! 岡島の奴、俺達に気づいたな。殺せんせーを何とか出来ねえか!?) サササッ!!

 

そうサインを送ってみると岡島は何かを思いついた様子でポンと手を叩いた後、懐に手を入れると、

 

スッ 「にゅや?・・・・・(スッ)」 ちょいちょい

「な、何だ!?殺せんせーに何かを渡した途端に許可が出たぞ!?何、渡したんだ!?」

「分かんねえけど、行くぞ大賀!!」 

「おう!!」

 

そのまま俺達は牢屋にいた全員を救出して、素早くその場を後にした。

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・す、すまん。助かったぜ」

「気にすんなよ。

・・・ところで、さっきは何を渡したんだ?」

「ふっふっふ・・・俺、秘蔵の水着グラビア写真だ!!

「・・・カッコつけたつもりだろうが、普通にダサいぞ」

 

ていうか、警官があっさり買収されるなよ・・・

 

 

 

登志side

 

「ハァ、油断しちゃったなぁ」 カリカリ

 

ケイドロが始まってから30分くらい経った今、僕は牢屋で警務作業(という名のドリル)を行っていた。警戒していたのにアッサリ捕まえられるなんて、烏間先生速すぎるよ。

 

おい、タコ!!お前、今度は物なんかに釣られるなよ!!

「分かってますって・・・ぬっひょお!!何て素晴らしい乳!!」

刺身にするぞ、あほタコが!!

 

さっきから電話の先では烏間先生が岡島君の賄賂で逃がした殺せんせーを怒鳴っていた。そりゃあ普通警察が牢屋にいたら逃げられる筈ないもんなぁ。

 

(僕も岡島君みたいにエッチな写真持ってたら逃げれたのに・・・)

「どうしたの?伊勢くん」

「矢田さん」

 

そう考えていたその時、横でドリルをしていた矢田さんが声をかけてきた。そのまま僕の考えを話してみると、

 

「ちょっと任せてくれない?私も1つ思いついたんだ」

「え?あ、分かりました」

 

何をするんだ?と思っていると、矢田さんはいきなり悲痛な表情を浮かべ、

 

「・・・グス」

「にゅや?ど、どうしました?矢田さん」

「・・・実はね、殺せんせー。私の弟、重い病気で寝込んでるの。さっきケイドロやるって言ったら「絶対に勝ってね!!」って・・・捕まったなんて知っちゃったら、あの子きっとショックを・・・」

 

そう言いながら矢田さんは涙を浮かべた。そんな弟さんが・・・

 

「行け」

「(えっ)」

「本官は泥棒なんて見ていない、さっさと行け」

 

僕達に背を向ける前に一瞬見えた顔からは涙が流れていた。殺せんせー、ドラマ見過ぎじゃ・・・

 

「ありがとう・・・行こう伊勢くん、皆」

「あ、はい」

 

矢田さんに促され、僕を含めた牢屋の全員がその場を離れた。そのまま近くの木々の中に僕と矢田さんは飛び込むと、

 

「・・・ふー、上手くいってよかったぁ」

「・・・え!?まさかと思ってましたけど、本当に嘘泣きだったんですか!?」

「アハハ、殺せんせーってああいうのに弱そうだからね。効くと思ったんだ」

 

お、女の人って恐ろしいなぁ・・・彩子や華もこんな風になるのかな・・・?

 

「まあ、弟の所はそこまで嘘じゃないけどね」

「え・・・病気なんですか?」

「うーん、そこまでじゃないけど、昔から身体が弱くてね。実はE組になったのは、テスト日に熱が出て看病してたからなんだ」

「・・・優しいですね、矢田さんは」

 

いくら弟の為とはいえ、自分が損をする事が出来る人なんてそうはいないと思うな。

 

「そんな事ないよ、伊勢くんだって充分優しい「おい!!何でまた泥棒が逃げてんだ!?」・・・!!」

こっち、矢田さん!!」

 

当然聞こえてきた大声に、僕達は慌てて草むらに隠れた。そのまま覗いてみると、烏間先生が電話に怒鳴っているのが見えた。幸い僕達は気づかれてはいないらしい。

 

「聞こえますか、烏間さん!!どうして牢屋から犯人が逃げ出すんだ!?」

「それはこっちの台詞だ、無能警官!!」

 

烏間先生・・・お気の毒に。

 

 

 

 その後・・・僕達は何回か捕まったけど、賄賂を渡して大賀達が助けるか、殺せんせーが居眠り等をしている間に逃げ出すのを交互に繰り返し、制限時間は残り15分位になっていた。

 

「あのアホタコはどこだぁ!?出てこい!!」

「さっき長野県に信州蕎麦食べに行きました」

 

牢屋から逃げて行く僕達に目もくれずに、額に青筋を浮かべながら完全武装の烏間先生は声を張り上げた。何か見た事ある格好だな・・・

 

「あの2人、やっぱ噛み合ってねえな」

「性格的に合ってないんだろうね」

 

助けに来てくれた大賀の呟きに僕はそう返した。殺せんせー(いい加減)烏間先生(堅物)の塊の2人だもんなぁ。

 

「・・・それにしても、1回も捕まってねえな。あの3人は」

「それどころか、誰も見てないって言ってるね」

 

再び林の中へと入りながら杉野君や神崎さんが話していたのは、他でもない太陽の事だった。ケイドロが始まってから45分、全員が最低1度は捕まっている中、太陽、威月、倉橋さんの3人は捕まる所か、姿を見せすらしていなかった。よっぽど上手に潜伏してるのかな?

 

「でもよ、烏間先生って凄えよな。上手に隠れたつもりだってのに俺達の事、すぐに見つけてくるしよ」

「確かに・・・烏間先生には何か特別な能力があるのかも「んな訳あるか」・・・えっ?」

 

大賀にそう返している渚の言葉を呆れた様子で遮ったのは、間違いなく威月の声だった。

 

「威月!!それに太陽に倉橋さんも!!」

「まさか3人共ずっとそこに?」

「うん、たーくん達が引っ張り上げてくれたんだ~」

 

3人がいたのは、高さ10メートル以上の高さの太い枝の上だった。確かにあれ位高ければ烏間先生も簡単には気づけなかっただろうな。

 

「渚、烏間先生は恐らくお前らが残した痕跡を追ってるんだぜ」

「僕達の?」

「ああ、例えば今もお前らがくっきりと付けてきた足跡とかな」

 

後ろを振り返ってみると、確かに僕達の足跡が付いていた。これはバレて当然だなぁ・・・

 

「ここにも、もういれねえな。流石にバレちまう」

「あ、僕達のせいでゴメン・・・」

「気にすんな、もうそろそろ作戦準備を始めようとしてた所だからな」 スタッ

(作戦・・・?)

「ほら、陽菜乃」

「うん(ぼすっ)ありがとう、たーくん!!」

 

飛び降りてきた倉橋さんを受け止めた後、太陽は僕達の方へと振り返り、

 

「皆、この勝負はどうすれば勝ちだと思う?」

「え?んー・・・そりゃあ烏間先生に見つからないようにやり過ごして殺せんせーに備えるんじゃないの?」

「いや、いくら何でも殺せんせー相手じゃまともに逃げても無駄だ。1分ありゃあ、この裏山何十周するか分かんねえ」

 

言われてみれば確かに・・・

 

「この勝負に勝つ為には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が重要なんだよ」

(連携を取らせない・・・?)

「その為に俺は今まで烏間先生を観察してたんだ。これまで見てきた烏間先生の身体能力の高さや走力を考えると・・・・・大体2、300メートルって所か」

 

その時、威月がおもむろに倉橋さんの方を向き、

 

「倉橋、悪いが携帯で太陽が今から言う事を皆に伝えてくれるか?この為にお前には俺達と一緒にいてもらったんだ」

「うん、任せて!!」

「それと大賀、お前にはやってもらう事がある」

「俺?」

 

いきなり名指しで呼ばれた大賀は首をかしげた。

 

「大賀の役割はかなり重要な役だから、頼んだぜ」

「フーン・・・ま、何やんのかは知らねえけど、分かったぜ!!」

「よし、皆。今から話す作戦通りに動いてくれないか?」

 

・・・どうやら太陽には作戦があるみたいだな。一か八か、やってみるか!!

 

 

 

烏間side

 

タタタ・・・ 「・・・どういう事だ?」

 

 さっきからどうも生徒達の気配を感じ取るのが難しくなってきているのに気づき、俺はそう呟いた。

 

(先程、あのタコが「これからは簡単には捕まりませんよ」と言っていたが・・・なるほど、彼らに何か吹き込んだな)

 

木の折れた後や、足跡が極端に減っているからな。俺の索敵の仕方を教えたな。

 

だが、それにしてもさっきまでみたいに1人で行動している子が全くいなくなっていた。何故だ?

 

「(ザッ!)むっ!!」

「!! いたぞ、太陽の指示通りに!!」

「「「おう!!」」」 ババッ!!

(! なるほど・・・4方向を4人で見張り、俺を発見したら4方に散る・・・これをやられては、俺はかなり時間をかけなければならないだろう)

 

流石は恐神の教えを1番受けているだけの事はある。彼の作戦はかなり実用的な物が多い。

 

「・・・こういった作戦を生徒に自主的に思いつかせて実行させるのも奴の狙い通りという事か」

タンッ 「ちくしょー!!やられた!!」」

 

4人の最後の1人の中村さんをタッチしながら俺は独りごちた。俺と奴は教え方は違う、だからこそ別の観点から教えられるという事か。

 

(まあ、だからといって奴と組む気もないがな)

「(ガサッ) ん?」

 

そう考えていた俺の目の前に現れたのは、大賀君、木村君、片岡君、前原君、岡野君の5人だった。

 

「E組最速の5人っす、言いたい事分かりますよね?烏間先生」

「フッ・・・真剣勝負と言う訳か。いいだろう、ただし左前方の崖は危ないから入るなよ」

「「「「「はい!!」」」」」 ババッ!!

 

俺の言葉に、5人は一斉にバラバラの方向へと散っていった。

 

(流石はE組最速・・・全員かなりのスピードだな)

「だが・・・」 ぐっ・・・ドンッ!!

 

いくら一学期から訓練を続けている彼らとはいえ、中学生に遅れを取る気はない!!

 

シュバババッ 「(タンッ) うおっ!?」 

サササッ!! ビビッ!! 「うっ!?」「速っ!?」

ダダダッ!! 「(スタッ) なっ・・・」

 

追いかけて始めてから3分、大賀君以外の4人を捕まえる事に成功した。そんな俺の姿を大賀君は少し離れた木の上に立って見ていた。

 

「大賀君は遠く逃げなかったのだな」

「直線で逃げても勝てない以上、立体的に逃げるしかないでしょ。ここら辺は障害物も多いんで!!」 タンッ!!

「いい読みだ、いくぞ!!」 ドンッ!!

 

大賀君が別の木に飛び移ると同時に、俺は地面を蹴った。

 

バババッ!! スタタッ!!

「凄えな、大賀・・・烏間先生に食らいついてるよ」

「大賀君の動きは参考になるね、よく見とこっと」

「いけえ、大賀!!」

 

彼は即席で俺の動きを再現してみせた程だからか、やはり他の皆とは頭1つ抜けてるな。

 

(俺も少し、本気を出そう) ドドンッ!!

「!!」

「貰った!!」

 

木に着地しようとしてる瞬間の空中では身動きは出来ないだろう!!

 

「甘いっすよ!!」 ぐるん!!

スカッ 「何っ!?」

 

すると大賀君は着地せずに、枝をぶら下がって俺の手を躱した。

 

タッ 「くっ・・・何て機動力だ。あのタコからもかなり脅威になるだろうな」

「ハァ・・・ハァ・・・後1分だな

 

・・・? 時計を気にしてるな。制限時間までは・・・後2分か。

 

スタタタッ 「ぜぇ・・・ぜぇ・・・キツいけど負けるかあぁ!!」

「!! ここまで体力が持つのか・・・」

 

マズいな、彼1人に時間をかけ過ぎる訳には・・・

 

タタタッ 「ハァ・・・ハァ・・・ !!」 ピタッ!!

(何だ?大賀君の動きが急に止まって・・・!!なるほど・・・)

 

大賀君が止まった先には、さっき入るなと言った崖が広がっていた。

 

「・・・よく堪えたくれたな、大賀君」

「ハァ・・・ハァ・・・どんな時でも、約束だけは守りますよ。俺は」

「フッ・・・君はまだまだ成長できる。これからもビシバシ行くから覚悟しておけ」

「はい!!」

(・・・この素直さが、彼の成長速度を底上げしてくれているのかもしれないな)

 

そう思いながら、俺は彼の肩に触れた。

 

 

 

「・・・しかし、随分かかってしまったな。もう残り1分か」

 

 大賀君と4人の前に戻りながら、俺は携帯を見た。まあ、今からは奴も捕まえだす。もうほぼ勝ちは決まりだろう。

 

その時、息を切らしながら大賀君が口を開いた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・へへ、俺達5人の勝ちっすよ、烏間先生」

「何?」

「だって烏間先生、殺せんせーの上に乗って空飛んだりしませんよね?」

「当たり前だ。そんなチャンスあったら殺してる」

 

岡野君の問いに即答した。というか、奴の協力するなんて死んでもゴメンだ。

 

すると、片岡君が笑みを浮かべながら、

 

「じゃあ、烏間先生が()()()()1()()()()()()()()()()()、流石に無理ですよね?」

「・・・!! まさか、君達は・・・」

 

しまった!!その可能性を忘れていた!!

 

 

 

太陽side

 

(今頃、烏間先生も気づいてんだろうな。もう遅いがな)

 

 プールサイドで呆然とする殺せんせーを見ながら、俺はそう考えていた。

 

プールの底には、渚、杉野、カルマ、登志の4人が武器を持って沈んでいた。訓練してきた俺達なら、1分潜る位どうってこたぁない。

 

(もし時間稼ぎが上手くいかなかったら烏間先生が戻ってきちまったが、よく持ちこたえてくれたな、大賀達)

「どうする?殺せんせー。烏間先生が戻ってこれない以上、渚達を捕まえる為には先生自らプールに入るしかない。だが、水を含んだ触手を登志がぶった斬れるのは知ってる筈だし、渚達もいる」

「そして俺達も、そんなチャンスを逃す気は当然ねえよ」

「ヌルフフフ、見事な作戦です。完敗ですねぇ」

 

銃を突きつけながらの俺や威月の言葉に、殺せんせーは楽しそうに負けを認めた。

 

 

 

「時間切れにより、泥棒側の勝利です!!」

「よっしゃあぁ!!」

「ケーキいただきぃ!!」

 

 律の言葉に全員が歓声を上げた。フゥ・・・作戦通りいってよかった。

 

「見事な作戦だ、太陽君。完全におびき出された」

「烏間先生」

 

その時、烏間先生が笑みを浮かべながら声をかけてきた。

 

「俺は何もしてませんよ。烏間先生をおびき出してくれたのは大賀達ですし、登志の戦闘力あっての作戦です」

「確かにそうだが、彼らに小隊を組ませてなるべく俺が時間がかかる逃げ方に切り替えさせたりする能力は、流石恐神の教えを受けていると言わざるをえないさ」

「あれ?実徳さんと話したんですか?」

「ああ、夏休みにな。君達のその戦闘力、その作戦立案力、指揮能力の高さはやはり貴重な存在だな」

 

うーむ、そんな真っ直ぐに褒められると少し照れるな。

 

「奴を殺すのには君達のその力が必要不可欠だ。これからも頼むぞ」

「はい!!」

 

俺の返事を聞くと、烏間先生は再び皆の元へと戻っていった。これからも頑張らねえとな!!

 

「でもふしぎ~2人共、全く逆なのに教える時は息ピッタリなんだね~」

「ヌルフフフ、当然ですよ倉橋さん。目の前に生徒がいたら育てたくなる、それが教師の務めですから」

「ふーん、でも岡島秘蔵の水着写真に買収されてるしなぁ」

「ホントに泥棒に向いてんのテメエなんじゃねーのか?」

「にゅやっ!?何を言うんですか威月君に寺坂君!!先生がそんな事する訳・・・」

 

―――冗談交じりにそう言った2人の言葉が波乱を招く事になるのは、これから数日後の事だった。




いかがだったでしょうか。

このケイドロかドロケイかの議論はかなりありそうですね(ちなみに作者は引っ越す前はドロケイで引っ越した後はケイドロで困惑しました(笑))

殺せんせーの台詞の本家を聞いた事はないですが、かなり笑いました(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十六時間目 泥棒の時間

皆さんどうも籠野球です。

あー・・・寒い・・・作者の職場は夜勤中はかなり冷え込む為、かなりしんどいです。



・・・ま、だからこそ家に帰ってからのコタツが格別なんですけどね(笑)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

ペラ・・・ペラ・・・ 「んー・・・やっぱり高いな」

 

 夕飯も終わった夜9時頃、俺は自室で雑誌を読んでいた。

 

スッ 「太陽、お風呂空いたよ・・・って、珍しいね。太陽がそんな若者向けの雑誌読んでるなんて」

「まあな」

 

その時、頭を拭きながら部屋に入ってきた登志が、俺が手にしている雑誌を見て目を丸くした。確かに俺も普段はこんなのは読まないんだが・・・

 

(後1ヶ月ちょっとしか無いからな・・・せっかくこんな良い物くれたんだもんな)

 

首元のペンダントに触れながら俺はそう考えた。つっても夏休みのバイト代はまだ残ってるけど、手持ちじゃちょっと不安だなー・・・

 

(バイトすりゃいいんだが、普通にやったらバレちまうし・・・うーん・・・・・)

「どうしたの?太陽」

「いや、何でもねえよ」

 

黙り込んだ俺を不思議に思ったのか登志が声をかけてきたが、俺は笑いながらそう返した。まあ、また考えればいいや。

 

 

 

「ふあぁ・・・あー、ダリい」

「ま、月曜日はそんなもんだろうよ」

 

 翌日・・・欠伸をしながらそう呟いた威月に俺は下駄箱に靴を入れながらそう返した。今日は4人での登校だ。

 

「また1週間頑張れば休みなんだし、頑張ろうよ」

「へいへい、分かってるさ」

ガラッ!! 「皆、おはよー・・・!?」

 

教室の扉を開けると同時に固まった大賀を不思議に思いながら教室を見てみると、無言で集まっている皆の姿が見えた。

 

「・・・? どうしたんだ?皆、やけに殺気立ってるが・・・」

「あ、おはよう4人共。これちょっと見てくれないか?」

「新聞?」

 

磯貝に手渡され、訝しみながらめくる威月の横から覗くと・・・

 

―――多発する下着ドロ!!

 

―――犯人は黄色い頭の大男!!

 

―――ヌルフフフ・・・と笑い、現場には謎の粘液を残す!!

 

「「「「・・・」」」」

 

そう書かれた記事に、俺達は皆と同じ様に無言になった。この特徴にバッチリ当てはまる人物(?)を1人、俺達は知っているからだ。

 

「ふっふふふ~ん、二学期も順調ですねぇ。ますます生徒達との信頼関係も強固になってますし(ガラッ!!)おはようございます!!皆さ・・・って何で皆さん汚物を見る目で私を!?」

 

とその時、鼻歌を歌いながら入ってきた第一容疑者候補(殺せんせー)は俺達の視線にテンパりながら聞いてきた。

 

スッ 「3枚目の右上見てみな」

「にゅや?(パラッ)・・・・・」

 

威月によって突き出された新聞をめくった殺せんせーは、冷や汗を流しながら震え始めた。

 

「それ、殺せんせーだよね?」

「そんな事してたなんて・・・」

「ちょ、ちょっと待って下さい皆さん!!先生、全く身に覚えがありませんよ!!」 ブンブン!!

 

三村や岡野の問いかけに、殺せんせーは慌てて手を振りながら否定した。まあ、どんな犯罪者も最初は否定するしな。

 

「じゃあ一応聞くんすけどアリバイはあるんすか?」

「アリバイ?」

「この事件があった昨日深夜、殺せんせーどこで何をしてたの?」

 

クラスを代表して、俺と速水が尋ねた。アリバイがあれば無実だしな。

 

「何って・・・高度1万メートルから3万メートルの間を上がったり下がったりしてましたよ。シャカシャカポテト振りながら」

「それがどうやったらアリバイになると思うんだ!?つーか、誰が証明すんだよ!!」

 

わざわざシャカシャカポテトの為に宇宙に行くのはアンタぐらいだっての・・・

 

「てか、そもそもアリバイなんざ、あってないようなもんだろ」

「どこいても、一瞬でこの町に大体は戻って来れんだしね」

 

吉田や狭間の言う通り、今回は殺せんせー自慢の速さが仇となったな。

 

「ちょ、ちょっと落ち着けよ、皆!!」」

「そうですよ、いくら何でも決めつけるのは可哀想ですよ!!」

「おお!!磯貝君に登志君!!」

 

E組の良心とも言える磯貝や登志の制止に、殺せんせーは感動した様子だった。劣勢の殺せんせーにとっては、この2人が頼りだろうな。

 

「殺せんせーは確かに小さな煩悩ありますけど、今までやった事なんて・・・」

 

「エロ本拾い読みしたり・・・」

 

 

 

「水着写真で買収されたり・・・」

 

 

 

 

 

「「手ブラじゃ生ぬるい。私に触手ブラをさせて下さい」って応募ハガキ出したり・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「・・・・・」」

 

ダメだ・・・聞けば聞くほど殺せんせーが犯人としか思えなくなってくる。2人もそう思い始めているのか、苦しそうな表情を浮かべ始めていた。

 

「えっと・・・えっと・・・」

「(ぽんっ)もういいんだ、2人共。お前らだけ苦しむ必要はない。思いきり、ぶちまけちまえ」

「・・・先生、自首をお勧めします」

「今なら罪は軽くて済むかもしれません・・・」

「ふ、2人まで!?」

 

威月に肩を叩かれ、2人はそれぞれそう呟いた。いやー・・・よく頑張った方だと思うぞ。この2人は。

 

「先生は潔白です!!準備室に来なさい、机の中のグラビアを全て捨てて、先生の理性の強さを証明してみせましょう!!」 

(教師が学校にグラビア持ってきてる時点でおかしい・・・ってツッコミは無駄だな)

 

教室の扉を開け放って出ていった殺せんせーを、内心溜め息をつきながら追いかけると、殺せんせーは既に捨て始めていた。

 

ばさばさっ!! 「見なさい!!机の中身全部出し・・・て・・・・・」

「なっ!?」

「おいおい・・・マジか・・・」

 

そんな殺せんせーの手に握られていたブラジャーに、俺達は驚きを隠せなかった。まさか・・・本当に!?

 

「ちょっと皆!!これ見てよ!!」

「クラス名簿?」

 

その時、岡野がそう言いながら見せてきた()()の正体を威月が聞き返した。

 

「女子の胸のカップ数調べて、横に書いてある!!」

「テメェ何、教師の分際で人の彼女エロい目線で見てんだ!?エロタコ!!」

「てか、何で私の所は永遠の0なのよ!!」

 

俺と茅野の怒りのツッコミに、殺せんせーは今までに無い位テンパっていた。

 

「いいい、いや違うんです太陽君!!これは教師として生徒の成長を確認しようと・・・」

「どんな確認だ!?つーか、教師が何で生徒の胸のサイズを知る必要があんだ!!」

「うぅ・・・たーくんにそんなの知られるなんて・・・」

「殺せんせー酷いです・・・」

「・・・タコはまず急所の眉間の間を刺して締め、内臓を取った後塩でぬめりを・・・」

「ひいぃぃぃ!?落ち着いて下さい、大賀君!!」

 

犯人かどうかなんて関係なく、やっぱりコイツは殺しとかなきゃいけないな・・・

 

「(パラッパラッ)・・・しかもコレ、最後のページには街中のFカップ以上の女性のリストがあるぞ」

「「「「・・・」」」」

「え・・・いや・・・・・その・・・・・・・ああ、そうだ!!」

 

名簿を見ていた威月のそんな言葉に、全員が一斉に殺せんせーを冷ややかな目で見た。そんな俺達の視線に耐えられなくなった殺せんせーは、何かを思い出した様子でクーラーボックスを机の上に置いた。

 

「今からバーベキューしましょう!!放課後やろうと準備してたんです。ほら、見て下さい!!美味しそ~・・・で・・・しょ」

「うわー・・・」

「さいてー・・・」

 

クーラーボックスから出てきた串に刺さったブラジャーを見て、今度こそ全員がドン引きしたのだった。

 

 

 

登志side

 

キーンコーンカーンコーン・・・ 「き、今日の授業はここまでです・・・」

 

 元気なくそう言い残して、殺せんせーは教室を出て行った。ここまで元気ない殺せんせーは初めて見るなぁ。

 

「アハハ、今日1日針のムシロだったね」

「居辛くなって逃げ出すんじゃねえか?ありゃ」

 

そんな殺せんせーを見て、カルマ君や威月はそんなやりとりをしていた。そんな2人に渚君が何とも言えない表情をしながら入ってきた。

 

「でも、本当に殺せんせーやっちゃったのかな?」

(確かに・・・どう考えても犯罪だよね)

「地球破壊よりは可愛いっしょ」

「まあそれはね・・・」

 

カルマ君のそんな返しに、渚君は苦笑いを浮かべていた。そりゃあテロ行為に近い行動に比べたら、下着ドロは小さいけどさ・・・

 

「だが・・・正直、引っかかるな。お前はどう思う?太陽」

「・・・まあ冷静になってみりゃあ確かに疑わしい点は沢山あるが、そもそもマッハ20がそんなあからさまな証拠残す筈ねえわな」

(うわあ、太陽すっごい嫌そうな顔してる・・・)

 

と、とりあえずは無罪の可能性を信じてくれてるんだし、いいか。

 

「さっきさあ、コイツを体育倉庫で見つけたんだけどさ(スッ)」

(バスケットボールに女の人の下着が巻いてある・・・)

「こんな事したら、先生として死ぬ位分かってる筈じゃん」

「ああ、殺せんせーからしたら俺達からの信頼が無くなる事、そんなの殺される位辛え筈だからな」

(・・・僕も同意見だな。やっぱり殺せんせーがやったとは僕には思えない)

 

カルマ君や威月のやりとりを聞きながらそう考えていると、

 

「フフフ・・・なら、考えられるのは1つだけね」

「不破さん?考えられる事って・・・」

「ズバリ偽殺せんせーよ!!ヒーロー物お約束、偽者悪役の仕業だわ!!」

「殺せんせーの姿や話し方を真似してるって事は、犯人は殺せんせーについて詳しい奴で間違いない。

・・・律、何か手がかりや次に犯行が起こりそうな場所を調べておいてくれ」

「はい、太陽君。お任せ下さい!!」

「偽者のせいで、あのタコにE組去られて百億パアは困るし、ここは1つ貸しを作っとこーじゃん?」

 

寺坂君の肩に腕を載せ、カルマ君は不敵な笑みを浮かべながらそう言った―――

 

 

 

太陽side

 

タンッ 「(スタッ)フフフ、身体も頭脳もそこそこ大人の名探偵参上!!」

「やってる事は只の不法侵入だがな」

 

 夜・・・イキイキとした顔で壁を乗り越えた後そう宣言する不破に、俺は呟いた。つーか、烏間先生もこんな事させる為にフリーランニング教えたんじゃ無いと思うがな・・・

 

「んで、不破。何で真犯人はこの建物を選ぶと?」

「律に聞いたんだけど、ここ某芸能プロ合宿施設なんだ。しかもここ最近は巨乳の子ばかりのアイドルグループが練習してる。しかも合宿の終わりは明日、その洗濯物は極上の獲物の筈よ!!」

(なるほど・・・殺せんせーの偽者なら、逃すわけ無いな)

 

寺坂と不破のやりとりを聞きながらそう考えていると、最後の見張り役の登志が壁を越えてきた。

 

タッ 「大丈夫、皆が侵入した所は誰も見てなかったと思うよ」

「サンキュー、登志」

 

ちなみにメンバーは渚・茅野・カルマ・寺坂・不破に俺と登志の7人だ。俺と登志はもしも犯人が逆上して襲いかかってきた時に皆を守る為に付いてきたのだ。ま、カルマと寺坂で充分だとは思うが、念の為だな。

 

「ま、とりあえずはここに犯人が現れる事を祈るしか・・・ん?」

「どうしたの?太陽君」

「あれ見ろよ」 スッ

 

聞き返してきた茅野に、俺はある草むらを指差した。そこには、ほっかむりにサングラスをした殺せんせーが洗濯物を見張っていた。

 

「殺せんせーもここが怪しいって思ってたんだね」

「いや、どー見ても盗む側のカッコだろ」

 

渚の呟きに、寺坂がツッコんだ。どう見ても不審者だよな・・・

 

「見て!!真犯人への怒りのあまり、下着を見て興奮してる!!」

「不審者よりもやべぇ奴じゃねえか!!」

 

やっぱ殺せんせー犯人でいいんじゃ・・・そう考えていたその時だった。

 

「・・・!! 来たよ、皆。向こうの壁」

 

カルマが指差した方向の壁から、今まさに黄色いヘルメット()の大男が侵入してきた。

 

スタタタッ!!

(速い・・・相当慣れてんな)

「あの身のこなし、ただ者じゃ無いですね」 ガシッ

「みたいだな、奴が下着手に取った瞬間に行くぞ」

 

竹刀に手を掛けた登志にそう返しながら俺達は男を観察していると、男は迷いなく洗濯物へと近づき手を伸ばし、俺は男に声をかけようとした。

 

「おい、アン「捕まえたー!!」 って、いきなりかよ!?」

 

しかし、そんな俺の制止よりも早く、殺せんせーが男に飛びかかっていた。だからお前はいい加減自分が国家機密な存在だって自覚しろ!!

 

「よくも私に罪を擦り付けようとしてくれましたね!!押し倒して隅から隅まで手入れしてやりますよ、ヌルフフフ!!」

「・・・何か下着ドロよりも危ない事してるよね」

「笑い方も新聞通りになってますしね・・・」

 

犯人と取っ組み合いしている殺せんせーを見て、渚と登志がそれぞれ呟いた。これ大丈夫か・・・?

 

「顔を見せなさい!!偽物(ガボッ)・・・えっ?」

「!! 鶴田さん!?」

 

ヘルメットの下から出てきたのは、間違いなく烏間先生の部下の鶴田さんだった。どういう事だ!?

 

バッ!! 「何っ!?」

 

その時、洗濯物を干してあった竿が上へと伸びながら白い布が垂れ下がってきた事で、殺せんせーはその中に取り残された。

 

「これはいったい・・・「君達が南の島でやった戦法さ、当てるよりまずは囲う」 !! シロ!!」

 

思わず立ち止まった俺達の前に現れたシロはそう言った。コイツがいるって事は・・・

 

「さあ、最後のデスマッチを始めようか。殺せんせー」 バッ

「! イトナ!!」

ドドドドッ 「うおおおっ!?」

 

布の上に現れたイトナは、そのまま殺せんせーへと奇襲を仕掛けた。そんな突然の攻撃に、殺せんせーは防御で手一杯の様子だった。

 

「なるほどな・・・今回の下着ドロ、テメエらの仕業だったって訳か」

「彼には感謝しないとね。計画の仕上げとなるこの場所(ポイント)への誘導だけは他の人物を使う必要があったから」

「すまない・・・手伝いたくはなかったが、烏間さんの更に上からの命令では断れなかったんだ」

「生徒からの信頼が落ちそうなら、あの怪物はすぐに動く。そこへ合宿という偽情報を流せば、見ての通りというわけだ」

 

チッ・・・またしてもコイツの想像通りって訳か。

 

「クソ・・・俺らの標的(エモノ)だぞ」

「いつもいつも裏から手を回して、褒められた物じゃないですね」

「それが大人というものさ。そうだ!!中の様子が分からないだろうし、私が細かく説明してあげよう」

 

寺坂や登志の批判混じりの物言いにも、どこ吹く風と言った様子でシロは語り出した。

 

「あの布は対先生繊維を強化した物で、戦車の突進でも破るのは不可能だ。独特の臭いは洗剤でごまかした」

(嗅覚の対策もバッチリって訳か・・・)

「そしてイトナの触手には、刃先が対先生物質で出来たグローブを装着してある。高速戦闘に耐えられる様に混ぜ物をしてあるから君達が使うナイフとよりは劣るが、触手同士がぶつかるだけで、こっちが一方的にダメージを与える事が出来る」

「・・・本当だ。イトナ君、触手の先に何か付けてる」

 

イトナの髪を見ながら登志がそう呟いた。一方的にダメージを与えられたら、確かに有利だわな。

 

「そしてイトナに常に上を取らせて標的を逃がさないようにする。これで仕留められないのではね、ククク・・・」

「・・・なぁ、アンタ」

「ん?」

 

今も攻撃を続けるイトナを見ながら愉快そうに笑うシロに、俺は声をかけた。確かに凄え巧妙な作戦だとは思う。だけど・・・

 

「アンタさ、殺せんせーの事舐め過ぎちゃいないか?」

「何?」

「これでも俺、殺せんせーと5ヶ月以上一緒にいるから分かるんだ。殺せんせーは煩悩の塊だし、そう言った部分は何も信用してねえけどさ・・・俺達を裏切ったりするような真似はしないし、何よりこんな程度で殺せやしないってな」

「何だと(キュウゥゥン!!)!! な、何だこのパワーは!?」

 

その時、布の中がそんな音と共に眩しく光り始めたと思った次の瞬間、とてつもない衝撃と轟音が辺りに響き渡った事で俺達は思わず目を覆った。

 

「う・・・って、何だこりゃ!?」

 

ようやく視界が回復した俺の目に飛び込んできたのは、殺せんせーを覆っていた布が吹っ飛ばされ、建物の窓ガラスも割れた庭の真ん中でイトナを抱えた殺せんせーの姿だった。

 

「殺せんせー!!今のは・・・?」

「皆さんに注意を促す前に使用してすみません。触手のエネルギーの一部を圧縮して取り出しました。要するに、南の島での完全防御形態を応用したのです」

 

すっげえ破壊力だな・・・やっぱり殺せんせーの強さは底が知れねえな・・・

 

そう考えていると、殺せんせーはイトナを下ろした後、シロの方へと向き直り、

 

「分かりましたか、シロさん。彼らに教えれば教える程、先生も強くなっていくのです。もうこの手の奇襲は、先生には通じませんよ。今すぐイトナ君をE組に預けて大人しく去りなさい、私が下着ドロという誤解を解くのもお忘れなく」

「わ、私の胸も正しくはBだから!!」

「それ今言う事かよ・・・茅野」

「何言ってるの、寺坂君!!殺せんせーの下着ドロ疑惑なんかよりもよっぽど重要でしょ!!」

「にゅやっ!?何かとは酷いですよ、茅野さん!!」

 

・・・敵を目の前に、こんなにギャーギャー騒いでていいのか・・・?

 

「う・・・ぐ・・・」

「・・・?」

「あ、頭が・・・痛い・・・脳みそが裂ける・・・!!」

「い、イトナ君!!大丈夫!?」

 

その時、いきなり頭を抑えながら苦しそうに呻きだしたイトナを見て、登志が慌てて駆け寄った。どうしたんだ!?いきなり・・・

 

「・・・ここいらが限界かな、ここまでやっても殺せないのではね」

「おい、テメエ!!イトナに何が起こってんだ!?」

「度重なる敗北のショックで触手が精神を蝕み始めたのさ」

「な、何だと!?」

 

触手ってそんな危険な物だったのか・・・つーか、何でコイツはこんな平然としてんだ?

 

「さよならだ、イトナ。ここまで結果を出せない以上、1ヶ月維持するのに火力発電所3台分のエネルギーがかかる君の触手なんかに、組織は金を出してはくれないよ。私自身、次の素体を運用する為にも、どこかで見切りをつけないとね」

「なっ!?」

 

こ、コイツ・・・こんな状態のイトナを放置するってのか!?

 

「待てや!!こんな状態のイトナほっとくなんて、それでも保護者か!?」

「壊す事しか能のないモンスターに教えられてる君なんかの説教に、耳を傾ける気なんて無いよ」

「んだと、テメエ・・・!!」

 

そのあんまりな言い方に思わずキレそうになった俺をシロは見据え、

 

「私は認めないし許さない、殺せんせー(そいつ)の存在そのものを。どんな犠牲を払ってでも、そいつが死ぬのだけが私の望みだ」

「ま、待ちなさい!!」

「いいのかい?大事な生徒をほっといて。教育ごっこして楽しんでるモンスターさん」

ドンッ!! 「ぐあっ!?」 

 

その時、俺達の後ろからそんな音が聞こえて思わず振り返ると、イトナに吹っ飛ばされて地面を転がる登志の姿があった。

 

「伊勢君!!大丈夫!?」

「ゲホッ・・・な、何とか大丈夫です、不破さん・・・」

「イトナの様に人体に触手細胞を植えつけた者は、毎日適合処置を行わなければ地獄の苦しみを味わう。まあ、せいぜい3日程だ。それ以上経てば、常人なら狂い死ぬから気をつけな、殺せんせー」 タンッ

があああぁぁぁ!!」 ドンッ!!

 

シロがそう言い残して壁を乗り越えるのと同時に、明らかに普通の目じゃないイトナは、そう叫び声を上げながら去っていった。

 

「待ちなさい、イトナ君!!」 ブオン!!

 

そんなイトナを殺せんせーは追いかけていき、辺りは静寂へと包まれた。

 

「うっ・・・僕はいいから、太陽はシロさんを・・・」

「バカ言うな、そんな状態のお前を置いていけるかよ。それに、こんだけ騒音出したんだ。俺らも此所を離れた方がいい」

 

傷が痛むのか、登志は顔を歪ませていた。とりあえず、早く手当てしてやらねえと・・・

 

「まあ、そうだね。今警察に見つかったら厄介だし」

 

カルマも同じ事を考えていたらしく、他の皆もすぐに頷いてくれた。

 

「ゴメン、太陽・・・」

「気にするな。

・・・それに、もっと厄介な事が起こっちまったしな」

 

背負った登志にそう返しながら、俺は心の中で舌打ちした―――




いかがだったでしょうか。

というわけで、イトナ回での始まりです。

作者も仕事が忙しく、これからしばらく6連勤が続きそうですが、何とか地道に書いていこうと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十七時間目 駒の時間

皆さんどうも籠野球です。

お待たせしてすみませんm(_ _)m
日付が変わる前に投稿したかったのですが、こんな時間になっちゃいました(夜勤明けで昼寝が長くなっちゃいました(笑))

ゴールデンウィーク位までは少なくとも多忙な毎日ですが、頑張っていきたいと思います!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

シロ達の襲撃から一夜経った朝、「ひまわり」の登志の部屋で俺は登志に声をかけていた。

 

「どうだ?登志」

「うん、打撲と擦り傷程度だから1日あれば治るよ」

 

腕に包帯は巻いてるが、特に大丈夫そうだな。よかった・・・

 

「しかし、いくら油断してたとはいえ動体視力の優れるお前がまともに喰らうなんてな・・・」

「正直、並のスピードじゃなかったよ。イトナ君の触手」

 

あの時のイトナ、とても普通の様子じゃなかったからな・・・

 

昨日の事を思い出していると、大賀が部屋の外から覗いてきた。

 

「登志、飯出来たけど学校行くか?」

「うん、行くよ。イトナ君がどうなったかも知りたいし」

「了解」

「無茶はすんなよ、登志」

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。過保護過ぎるよ、太陽は」

 

まあ、笑う余裕があるなら大丈夫か。おっと、俺も急いで準備しねえと。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか?鶴田さん」

「ああ・・・太陽君。いや・・・ちょっと烏間さんに軽率にシロに協力した事を叱られてね」

 

 E組に着いた俺達の前に現れたのは、頭に漫画みたいなたんこぶを作った鶴田さんだった。

 

「すまない、用事があるのでこれで」

「あ、はい」

「烏間さんの殺人げんこつ・・・直径4センチに渡って頭髪が消し飛び、頭皮が内出血で2センチも持ち上がる恐ろしい技です・・・」

 

俺らの後ろから園川さんが身体を震わせながら解説をしてきた。漫画みたいなたんこぶ作れるなんて、人間辞めてるよな・・・烏間先生は。

 

「・・・ま、それよりも面倒くさいのが今は残ってると思うぞ」

「何が?威月」

「(ガラッ)やっぱりな」 クイッ

 

登志の問いに答えずに教室を開けた威月はそう呟くと、俺達に親指で教室を見るように促してきた。見てみると、

 

「(つーん)・・・」

「わ、悪かったってば!殺せんせー」

「俺等もシロに騙されて疑っちゃってさ」

 

文字通り、口を尖らせた殺せんせーをクラスの皆がご機嫌取りをしていた。どう見ても拗ねてるな・・・

 

(なるほど・・・確かにあれは面倒くせえ)

「先生の事はご心配なく、どーーーせ体も心もいやらしい生き物ですからね」

 

そう言うと、殺せんせーはより一層口を尖らせた。子供みたいだな・・・

 

「ったく・・・元はと言えば、アンタが普段から勘違いされてもおかしくない行動ばっかしてっからだろうが。これに懲りたら少しはまともな生活送りやがれクソタコ」

「なっ!?何を言うんですか、威月君!?今回の事件もシロさんがやった事でしたし、先生の真面目さは証明されたでしょう!!」

「ほう・・・真面目な先生は、クラスの女子のカップ数調べたり、街中の巨乳の女性リスト作ってもいいと?」

「にゅ、にゅや?」

「あ、エロ本拾い読みしてもいいのか」

「あ、あの・・・」

「触手ブラさせて下さいなんて手紙出してもいいんだもんなぁ。いやあ、良いご身分っすよねぇ、真面目な殺せんせー」

「・・・威月君、もうそれ位でご勘弁を・・・」

(うわぁ・・・威月の奴、古傷抉りまくってる。殺せんせーも遂に顔を覆い始めたな)

 

やっぱり威月だけは敵に回したくないな・・・

 

「てか、今は殺せんせーよりもイトナの心配するべきだ。結局捕まえられなかったんでしょ?」

「・・・えぇ。シロさんが言った通り、触手(この)細胞は人間に植えて使うのはあまりにも危険すぎます。おまけに、今の彼はいつ暴走してもおかしくありません。早く見つけないと・・・」

「奴の言い方じゃ、タイムリミットまで・・・長くて後2日弱ってとこか」

 

だが触手持ってる奴相手じゃ、警察も歯が立たないだろうし・・・触手についてある程度知ってる俺達が動くしかねえか。

 

「どっちにしろ、雲隠れしちまって情報が何一つ入ってきてねえし、律にネット潜って貰って情報集めるしか今は手がないんじゃないか?」

「だな、何回も悪いが任していいか?律」

「いえ!!お任せ下さい!!」

 

今日の内にイトナが何かしら行動を起こしてくれればいいんだが・・・

 

 

 

太陽side

 

「椚ヶ丘市内の携帯電話ショップが何者かに破壊される事件が2日間で数件発生しています!!どの現場もあまりにも損傷が激しい為、警察では複数人による犯行の線で調査を・・・」

 

 イトナがいなくなってから2日後の朝、俺達は律のモニターに映し出されたニュースに釘つけになっていた。

 

「この壊れ方・・・普通に殴っただけじゃ無理だよな?」

「ええ、先生には分かります。これは触手でなければ出来ない」

「・・・イトナの仕業か」

 

相当暴走してんな。早いとこ止めねえと、被害が増える一方だな。

 

「でも、何で携帯ショップばっかり?」

「恐らくは、そこに奴が力を求める理由があるんだろうな」

 

不破の呟きにそう返した事で、皆が腕を組んで壁にもたれかかっている威月を見た。

 

「どんな人間にも、強さを求める何かしらの理由があるもんさ。俺が両親の仇を取ろうと思ったようにな」

「威月・・・」

「んで、どうするんすか?殺せんせー。今日の夜がタイムリミットなんすよね?」

 

確かに今日で3日目だ・・・シロの言ってる事が本当なら今日中に捕まえないと。

 

「勿論、先生が責任持って彼を見つけ出して止めてみせます。あの子の担任として」

「でもよお、わざわざそこまでやる義理あんのか?」

「あいつの担任なんて形だけじゃん」

「シロが絡んでる以上、裏でまた何企んでっか分かんねえぜ?」

 

そう言いきった殺せんせーに、全員が何とも言えない顔でそれぞれそう言った。

 

「あのシロって奴、自分以外の全てが使い捨ての駒って性格みたいだし、放っといた方が賢明だと思うけどね」

(正直、俺もカルマと同意見だな。ああいう奴は何をしてくるか分からないからこそ厄介だ)

「・・・それでも、先生は彼の担任です」

 

そう言いながら、この殺せんせーは窓をガラリと開けた。

 

「殺せんせー・・・」

「先生になる時に誓いました。「どんな時でも自分の生徒から絶対に触手を離さない」と」

 

チッ・・・ホントそういう所は真面目過ぎんだよ、殺せんせーは。

 

「なら殺せんせー、俺達も行きます。俺らにとっても、奴は一応クラスメイトなんで」

「にゅや・・・ですが、危険ですよ?」

「んなもん、全員百も承知です。別に殺せんせーの邪魔をしたいわけじゃないですし、危険な行動はしませんよ。な?」

「連れてかないって言われても、勝手についていくだけっすね」

「うん・・・やっぱり今のイトナ君を放っておくなんて出来ないですよ」

 

俺の問いに、威月や登志が皆の気持ちを代表してそう答えた。

 

「・・・分かりました。ですが、基本的には彼は先生が説得します。なるべく皆さんは前に出ない事を約束して下さい」

「「「「はい!!」」」」

 

 

 

タッタッタッ・・・ 「椚ヶ丘市内にある携帯ショップで、まだ被害を受けてないのはこの先の一店舗だけなんだな?」

「うん、律が確認済みだって」

 

 同日夜・・・携帯ショップへと向かう途中、俺はそう不破に確認していた。

 

「イトナがまだ市内にいるなら、そこを狙う可能性は高いな」

「そうだね、これだけ椚ヶ丘市内の携帯ショップを狙って、今更他の場所に向かうとは考えにくいし」

 

とりあえずは、そこに現れるのを祈るしかねえな・・・

 

威月や渚のやりとりを聞きながらそう考えていたその時だった。

 

ガシャアァァァン!! 「「「「!?」」」」

 

突然、前方からそんなガラスが大量に割れた様な轟音が聞こえてきた。

 

「何だ!?今の音」

「今の・・・今から行こうとしてた携帯ショップの方向からじゃ・・・」

(まさか・・・もうイトナが!?)

「急ぐぞ、皆!!」

 

俺達は急いでその携帯ショップを向かった。すると・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・負け惜しみの強さなんてヘドが出る。勝てる強さが・・・欲しい・・・」

 

滅茶苦茶に破壊された携帯ショップの真ん中で苦しそうにそう呟くイトナの姿があった。周りに警備員らしき人が気を失って倒れている辺り、多分この店を警備していたのだろう。

 

「イトナ!!」

「!! ・・・お前ら」

 

前見た時に比べたら、相当やつれてんな・・・今日がタイムリミットってのは間違いじゃなさそうだ。

 

「・・・やっと、君の人間らしい顔が見れましたよ」

「殺せんせー」

 

いつの間にか殺せんせーも到着してたみたいだな・・・約束だし、ここは任せるか。

 

「・・・兄さん」

「私は君の担任です。殺せんせーと呼んで下さい」

「甘ったれてんじゃねーっての、クソヤロー。ま・・・とりあえず今までのこたぁ水に流してやっから大人しくついてこいや」

 

寺坂・・・確かに俺等も気にしてないが、仮にもシロやイトナに加担したお前が言うか・・・?

 

「うるさい・・・勝負だ・・・今度は勝つ・・・」

「勝負は勿論構いませんが、お互い国家機密の存在ですし、どこかの空き地でやりませんか?」

 

あ、自覚あったんだ。

 

「その後は、皆で楽しくバーベキューでもやりながら、先生を殺す方法を皆で楽しく考えたらいいですよ」

「う・・・」 グギュルルル・・・

 

この数日間まともな物を食べていないのか、殺せんせーのそんな提案にイトナのお腹は鳴った。

 

「そのタコしつこいよ~。担任になったら地の果てまで追いかけてくるしね」

「勿論です。目の前に生徒がいたら、教えたくなるのが教師の(さが)ですから」

「・・・」

 

カルマや殺せんせーの言葉に、イトナの目の色が穏やかになっていき、さっきまでの殺気が消えていくのが分かった。恐らくこれがイトナの本当の姿なんだろうな。

 

(この様子なら上手く説得すりゃあいけるんじゃ「!! やべえ、皆!!」何っ!?)

 

その時、威月のそんな焦った様子の声と同時に何かが数個、店内へと投げ込まれてきた。丸い形にレバーが付けられたそれは、

 

「なっ!?手榴だ・・・」 ボシュゥ!!

「うわっ!?」

「ゲホッ・・・!!」

 

いきなり爆発したそれから、勢いよく粉塵が飛び散ってきた。何だこりゃ!?煙幕って訳じゃないみたいだが・・・

 

「うっ・・・」

「!! 触手が溶けている・・・対先生物質の粉爆弾(パウダー)か!!」

 

姿は見えないが、イトナの呻き声と殺せんせーのそんな呟きが聞こえてきた。対先生物質って事は・・・!?

 

「・・・これが今回第2の矢。その為にイトナを泳がしたのさ」 ピッ

ボッ!! 「(バサッ)! うあっ・・・」

(!! この声・・・!!)

 

イトナのそんな声の後、俺は素早く店の外へと飛び出した。そこには、

 

「さあ、イトナ。君の最後の奉公だ。追ってくるんだろ?担任の先生」

「やっぱりテメエか、シロ!!」 

 

シロがトラックの後ろにネットで包んだイトナを引きずりながら、走り去っていくのが見えた。

 

「待てや、シロ(バッ)「死ねえ!!(ブオン!!)」!!

 

反射的にトラックを追いかけようとした俺の目の前に、1人の男がそう言いながら鉄パイプを振り下ろしてきた。

 

(舐めんなよ・・・!!) 

スカッ!!「何っ!?」

「らぁ!!」 

「(ゴッ!!)ぐっ・・・」

 

俺は素早くその攻撃を躱すと同時に、左拳を腹へと突き刺した。カウンターを無防備に喰らった事で動きが止まった男を俺は見逃さず、

 

タンッ 「どぉりゃあ!!」

ドカッ 「ガッ・・・」 どさっ

「よっと・・・お前程度、銃弾(ブレッド)使うまでもねえんだよ」

 

男の側頭部分に渾身の力を込めて延髄斬りを叩き込んだ事で、男はそんな呻き声と共に倒れた。だが・・・

 

「フゥ・・・くそ、もう見えなくなっちまった」

「大丈夫ですか!?太陽君」

「たーくん、平気!?」

 

その時、ようやく店内の粉塵が収まったらしく、皆が慌てて外へと飛び出してきた。

 

「大丈夫だよ、陽菜乃。殺せんせー、シロは向こうへと走り去っていきました」

「先生はイトナ君を助けてきます!!」 ドシュッ!!

「・・・普段の殺せんせーなら、多分イトナを逃がさなかったな」

 

飛び去った殺せんせーを見ながら威月が全員に聞こえる様に呟いた。俺らを気にしたせいで、回避反応が遅れちまったんだな・・・

 

「あの白づくめ野郎・・・とことん俺達を駒にしてくれやがって・・・」

「骨の1、2本へし折ってやんねえと、気がすまねえな」 ボキボキッ

「・・・」 パンパン

 

俺の呟きを筆頭に、それぞれが怒りの表情を浮かべていた。威月がぶちキレた様子で拳を鳴らしているし、登志も無言で制服に付いた粉を払っているが表情は珍しく怒った様子だった。

 

「・・・で、どうやって奴らの場所見つける?ソイツ拷問でもして聞き出してみよっか」

 

同じく粉を払い終わった後、カルマは俺が倒した男を親指で指差したが・・・

 

「どうせシロの息がかかった奴だし、大した事喋りゃしねえさ」

「まあそうだけどさ、今それ位しかやれる事なくない?」

 

普通なら・・・な。

 

「威月、悪いけど俺は1回「ひまわり」に戻る。皆を頼む」

「あ?いいけど、何すんだよ?」

 

威月の問いに俺は粉を払うと、

 

「奴が駒を使ってくるんなら、こっちも更に優れた駒で対抗するだけだ」

 

 

 

大賀side

 

(もう8時過ぎたな・・・大丈夫かな、皆)

 

 居間の時計を見ながらそう心の中で唱えた。俺もホントは行きたかったけど、「ひまわり」の皆の飯作ってあげないといけないしな。

 

「どうしたの?大賀兄さん」

「え?ああ、何でもないよ」

 

そんな俺を見て、晩ご飯のカレーを食べていた彩子が不思議そうに聞いてきた。まあ、流石に彩子達に言って解決する事じゃあないしね。

 

「大賀兄ちゃん、おかわりー!!」

「はなもたべるー!!」

「はいよー」

 

2人からお皿を受け取り、そのままよそって2人の前に運んでやった。

 

「ちゃんと野菜も食べなきゃダメだからな、2人共」

「だって、大賀兄ちゃんのカレー美味しいんだもん」

「はなも、だいすき!!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、野菜食べないと風邪引いちまうぜ?」

「「はーい・・・」」

 

ま、実はカレーにも野菜多めにしてるんだけどね。

 

「大賀兄さん、私ももう少しいいかな?」

「おう・・・はい」

「ありがとう」

「大賀ー、俺も腹減った-」

「はいはい、分かってるって。太・・・陽・・・」

 

 

 

太陽side

 

「のわあぁぁぁ!?」

「うわあぁぁぁ!?」

「きゃあぁぁぁ!?」

「・・・気持ちは分かるけど、落ち着けよ」

 

いきなり現れた俺に対して、大賀・裕樹・彩子がそれぞれそんな悲鳴を上げた。ま、確かにいくら家族でも物音立てずに卓袱台に座ってたら驚くわな

 

「たいようにいちゃん、おかえり~!!」

ぼふっ 「おっと。まだちょっと用事があるけどな」

 

飛びついてきた華の頭を撫でながら俺は大賀の方へと向き、

 

「大賀、緊急事態だ。悪いが今すぐ出れるか?」

「え?別に構わないけど・・・華達置いていけねえだろ」

「大丈夫だ、俺が残る。ちょっとやる事もあるしな」

「お、おう」

 

不思議そうな顔をしながらも普段着に着替え始める大賀と尻目に、俺は実徳さんの部屋の鍵を開けた。実徳さんの部屋は、唯一鍵がついていて、その鍵を持っているのは実徳さん以外は俺だけだ。

 

ガチャッ 「えっと・・・あった。今からE組戻ってる時間ないんで実徳さん、ちょっと借ります」

 

実徳さんの部屋は、校長室にありそうな机とその後ろに大きな本棚がある部屋だ。俺は机の引き出しから無線機を2つ手に取り、急いで玄関へと戻った。大賀は既に靴を履いて、いつでも行けるみたいだな。

 

タタッ 「大賀(シュッ)!!」 

「(パシッ)おっと」

「皆、3丁目の携帯ショップの前にいると思うから事情は威月達から聞いてくれ。イトナの場所が分かったら、すぐ連絡する」

「分かった!!」 

 

無線を耳に付けた後、大賀は勢いよく扉を開けて飛び出していった。さてと・・・

 

「裕樹、俺実徳さんの部屋にいるから、何かあったらノックしてくれるか?」

「うん、分かったよ」

(実徳さんの部屋には、基本的に入ったらいけないって伝えてるから大丈夫だとは思うけどな)

 

そう思いながら俺は再び実徳さんの部屋へと入って、本棚に1冊だけある赤い本を手に取り、

 

ピッピッピ・・・ぽちっ 「(ゴゴゴ・・・)・・・ホント、こんな仕掛けがある孤児院なんて普通ねえよな」

 

中のタッチパネルにパスワードを打ち込んでからボタンを押すと、そんな音と共に本棚が横に動き始め、下へと続く階段が現れた。この仕掛けは威月達ですら知らないものだ。

 

カンカンカン・・・ガチャッ 「(コキッ)・・・さーて、やるか」

 

階段を降り、扉を開けた先にあるいくつもあるモニターを見ながら、俺はそう呟きながら指を鳴らした。

 

 

 

大賀side

 

タタタッ (・・・いた!!)

「皆!!」

「!! 大賀」

 

 フゥ・・・何とか5分くらいで着けたな。

 

「・・・って、皆やけに粉まみれだけど、何かあったの?」

「ああ、またシロがちょっかいかけてきたんだよ。で、イトナを車で連れ去っちまったんだ」

「シロが・・・」

「だが、シロがどこ行ったのか分かんなくてな。殺せんせーが1人で行っちまったし、さっさと行かねえと奴の事だから何企んでっか分かんねえ」

 

なるほど・・・足速い俺をわざわざ連れてきたのはその為か。

 

「(ガガッ・・・)・・・大賀、聞こえるか?」

「! おう、太陽」

「え?・・・って、それ無線か?」

 

前原が俺の耳に付けられた無線を指差すながらのそんな問いに頷きながら、俺は太陽の言葉に耳を澄ませた。

 

「イトナを見つけた。そっから西に500、北に200程行った先の道路に止まった。でも、シロみたいに対殺せんせー繊維で作った服を着てる奴らがかなりいる。急いでくれ」

「了解」

 

太陽との無線を切った後、俺は皆にその事を伝えた。

 

「なるほど・・・となると、シロはイトナを囮に殺せんせーを本気で殺ろうとしてるな」

「あのタコ、どーせイトナ人質にされてちゃまともに動けないし、急いだ方がいーんじゃない?」

「だな。大賀、悪いが先に行っといてくれ。俺らも急ぐが、お前の足には勝てん」

「あぁ」

「でも、何でたーくんイトナ君の場所分かったのかな?」

 

うーん、確かにそれは俺も気になってはいるけど・・・

 

「悪いが、それは俺ら3人も知らねえんだ。多分アイツしか知らない方法なんだろうな」

「へー・・・」

「さ、無駄話は終わりだ。頼むぞ、大賀」

「おう!!」 タンッ!!

 

威月に頷くと、俺は駆け出した。とはいえ、普通に走ったら時間かかりそうだな・・・

 

「・・・しゃあねえな」 タタタッ

 

そう呟きながら、俺は曲がり角を曲がってから誰も見てない事を確認すると、

 

トントン 「(ぐっ・・・)月歩!!」 ドンッ!!

 

マジシャンと戦ったあの時と同じように跳躍した―――!!

 

 

 

ダンッ!! 「フゥ・・・この辺りの筈だけど」

 

 ビルの屋上に着地しながら、俺はそう呟いた。

 

パパパパパ・・・ 「!! この音・・・銃の音だ!!」

 

咄嗟に辺りを見渡した俺の目に、1ヶ所だけやたら眩しい場所が見えた。

 

「あの光って・・・確か殺せんせーの動きを一瞬止める奴だ!!」

 

間違いなくあそこにいる!!反射的に俺はその方向へと跳んでみると、

 

「!! 見つけた!!」

 

パパパパパッ!! 「くうっ・・・」

 

今も白づくめの男達の集中砲火を浴びながら、ネットに包まったイトナを助けようとしている殺せんせーの姿が見えた。でも、やっぱり光のせいで動きが鈍いし、何故かイトナのネットを鋏で切ろうとしてるから、どう見ても劣勢なのは間違いないだろう。

 

(こうなったら、ひと暴れすっか!!)

パパパンッ!! 「腰肉シュート!!」

「(ドガン!!)ごはっ!!」

 

空中から猛スピードで奇襲を仕掛けた事で、喰らった男は横に勢いよく吹っ飛ばされた。

 

ザザッ 「大丈夫ですか、殺せんせー!?」

「た、大賀君!!何故ここに!?」

「いきなり何しやがる、クソガキ(ガッ)ガッ!?」

 

そう言いながら掴み掛かろうとしてきた男の首に足を引っかけ、

 

「確かに殺せんせーを殺したいのは俺らも一緒だけど、こんな卑怯な手使ってまで殺したいなんて思わねえよ!!―――受付(レセプション)!!」

「(ゴン!!)んぐっ・・・」

「この・・・」 ブンッ

 

そのまま床に顔面から叩きつけた。そのまま別の男が殴りかかってきたが、俺は素早く手を着いて、そのまま男を後ろ足で蹴り上げた。

 

「首肉フリット!!」

「(ドンッ!!)ガハッ・・・」

「な、何だこのガキ!?滅茶苦茶強え!!」

「ほう・・・やはり君も中々の強さみたいだな」

 

そんな俺の目の前に、感心した様子でそう言いながらシロが姿を見せた。

 

「シロ・・・」

「皆、木の上のいる者はそのままモンスターに狙撃を。他の者は少々手荒になっても構わないから排除しなさい」

「「「「はっ!!」」」」

「くそっ・・・何とか時間稼がないと」

 

とはいえ、この人達相手に1人で戦うのは・・・

 

「(カチッ)フッ!!(ブンッ!!)」

「うおっと(スカッ!!)この・・・」 

「(ガッ!!)う・・・」

 

警棒の様な物で殴りかかってきた男の攻撃を躱しながら蹴りを放って1人倒したが・・・

 

「貰った!!」

「やべっ・・・」

 

背後からもう1人の男が同時に殴りかかってくるのが見えた。

 

(ダメだ!!避けきれな・・・

 

 

 

「そっちがそんなに人数集めてるなら、俺が助太刀するのも文句言うなよ」・・・えっ?)

ガキィ!! 「何ぃ!?」

 

そんな俺の前に現れた太陽は、そう言いながら男の攻撃を腕で受け止めていた。様子を見る限り鉄塊使っただろうし無傷だろう・・・って、

 

「太陽!?えっ、「ひまわり」の皆は!?」

「後で話すよ、まずはコイツら片づけてからだ」

「ガキが調子に乗ってんじゃ(ゴッ!!)ぐぁ・・・」 

「大賀とタイマンで勝てねえような連中、俺ら2人の相手じゃねえんだよ」 

 

俺を攻撃しようとしていた男を、太陽は頭突き一発で黙らせると、

 

ブンッ 「大賀、後ろ頭を蹴っ飛ばせ!!」 ぐっ・・・

「おう!!」

 

俺の方へ男を投げ飛ばしながら右拳を握った。そしてそのまま俺のハイキックの動きに合わせて・・・

 

「「首肉銃弾(コリエブレッド)!!」」 ドガンッ!!

 

俺と太陽の合体技を喰らった男は、何一つ発する事も出来ずに崩れ落ちた。

 

「フー、合体技なんて久々だな」

「まあな、お互いそれなりに強くなってそれぞれ1人で戦えるからな」

「く、クソ・・・ガキ共が」

「いいのか?俺らだけ構ってて。E組(うちのクラス)は一筋縄じゃいかねえよ?」

「ひゃっほう!!(ドガッ!!)」

「おりゃっ!!(バキッ!!)」

「なっ!?」

 

太陽がそう言ったのと同時に、木の上からそんなかけ声と共にカルマや前原達が射撃を続けていた男達を木の下に叩き落していた。やっと来てくれたか!!

 

「はーい、簀巻き簀巻きっと」 グルグルー

「んだよ、やっぱあのタコ対策の服着てっし俺らが落とさなきゃいかねえじゃねーかよ」 がばっ!!

「最近、烏間先生に一方的に追いかけられてムシャクシャしてたとこだし、このケイドロはアンタ達が泥棒って事で」 ブンッ!!

「俺達4人が地上の奴らは片づけるから、木の上にいる連中は任せるぜ皆!!」

「「「「おーう!!」」」」

 

そう言いながらこっちへ歩いてきたのは威月と登志だった。

 

「ズルいぜ、2人共。俺らだってコイツらにはムカついてたんだ。獲物を俺らにも分けてくれねえと」 ゴキッ

「なっ・・・随分舐めた口聞くじゃねえか」 シュッ!!

 

笑みを浮かべながら拳を鳴らす威月に、1人の男が警棒を突き刺した。・・・が、

 

パシッ 「ば、バカな・・・」

「俺さあ、アンタらみてえにバカみたいに殴りかかるしか能のない単細胞と思われがちだが、」

 

威月は拳をあっさりと受け止めた後、そう言いながらその腕を捻り上げた。余りの早業に、男は為す術ないみたいだった。

 

「(ミシッ)があ・・・」

「こういうのも得意なんだ。いざとなりゃあ、アンタの腕くらいなら簡単にへし折れるから覚えときな」

「(ゴキンッ)ぐああぁ!!」

 

うわあ・・・何かえげつない音したぞ・・・

 

「威月・・・まさか折ったのか?」

「こんな雑魚相手にそんな事しねえよ。関節外しただけだ」

 

いや、それも充分恐ろしいが・・・何はともあれ、俺達が只の中学生じゃない事に今更気づいたのか、男達は明らかに動揺してるみたいだった。

 

「うし!!皆が頑張ってくれてるし、俺らもさっさと終わらすぞ!!」

「おう!!」

「あぁ!!」

「うん!!」

 

 

 

タンッ!! 「粗砕!!」 

「(ゴカン!!) ガハッ・・・」

 

 男が倒れたのを確認した後、俺は軽く息を吐いた。ったく、どんだけいんだか・・・

 

「この・・・放しやがれ!!」

「大賀!!俺らはコイツで最後だ。決めちまえ!!」

「分かった!!」

 

俺の前では、威月が1人の男と組み合っていた。が、どうやら威月の力には全く歯が立たないらしい。

 

「どおりゃあ!!(ぐいっ!!)今だ!!」

タタッ 「腹肉!!」 

ドカッ!! 「(バアン!!)ゴフッ・・・」

 

威月は素早く男をブレーンバスターの要領で担ぎ上げ、その途中で放った俺の腹への蹴りの勢いそのまま地面に叩きつけた。

 

「へへ、名前付けるなら"フランシェバスター"ってとこか」

「ああ、太陽達は・・・ってあの2人相手に勝てる奴なんてそうはいないわな」

 

威月のそんな呟きで俺も2人を見てみると、既に二桁近くの男達が倒れており、最後の1人が苦し紛れに攻撃を続けているだけだった。

 

「クソッ!!」 ブオンッ!!

「フン(スカッ)せいっ!!」 バキッ

「うっ・・・」

 

当然そんな攻撃があの2人に当たる筈なく、逆に太陽の足払いで身体が一瞬だけ宙に浮いた。

 

「飛天御剣流 龍槌閃!!」 ドカンッ!!

・・・ピク・・・ピク・・・

 

そして勿論そんな隙を登志が見逃す筈がなく、竹刀を顔面に叩き込まれた事で、男は少しだけ痙攣した後動かなくなった。

 

「フゥ・・・殺せんせー、イトナを!!」

「ええ!!」

「・・・」

 

殺せんせーがイトナを包んでいるネットを外し始めるのと同時に、太陽と威月はシロの方へと向き直り、

 

「後はテメエだ、白づくめ野郎。だが、もうお前に手はねえ筈だ」

「それでもまだ邪魔しようっていうなら、俺ら4人・・・いや、俺達全員が相手してやるぞ」

 

全員グルグル巻きにし終えたE組の皆も、俺達の後ろに立っていた。もう誰が見ても勝敗は決まっただろう。

 

「去りなさい、シロさん。貴方はこのクラスには不要です。貴方の計画では、生徒達には通用しない。そんな当たり前に、早く気づきなさい」

「・・・モンスターの周りに群がる雑魚共が少々鬱陶しいね。だが、どうやら計画を根本的に見直さなきゃいけないのは確かだな」

 

殺せんせーの言葉に、そう返しながらシロはトラックに乗ると

 

「くれてやるさ、その子は。まあ、精々頑張ってみるといい」 ブオォォォ・・・

 

そう言い残してシロは走り去っていき、俺達はようやく安堵の表情を浮かべた。

 

「ケッ、負け惜しみ言いやがって」

「ほっときゃいいさ、あんな奴。それより、大賀。大丈夫だったか?1人で今回は無茶させちまったし」

「大丈夫、太陽が来てくれたしな。って、そういや「ひまわり」は?」

「ああ、悪い。実は実徳さんが丁度帰ってきてくれてな。そのまま任せて飛び出してきたんだ」

(なるほど・・・まあ、今回は良いタイミングで来てくれたよ)

 

そんな中、登志がイトナを見ながら口を開いた。

 

「それで殺せんせー。イトナ君はどうなんですか?」

「ええ、かなり衰弱してます。何せ、触手は自らの意思で動かす物です。そして触手細胞は、その人に病的な執着がある限りは強く癒着して離しません。そうこうしてる間に、肉体は強い負荷を受け続け、最後は触手もろとも蒸発して死んでしまいます」

「そんな・・・」

 

それは流石に気の毒だな・・・てか、一応クラスメイトがそんな風になっちゃうのは決して見たくねえ。

 

「でも、後天的に植えつけられたんだろ?なら、取り除く事だって出来んじゃねえのか?」

「勿論可能です。ですが、その為には・・・まず彼が力を欲する原因を探らなくては・・・」

「でもな~・・・この子私達に心閉ざしてるしね・・・」

「言っといて何だが、素直に身の上話をするとは思えんな」

 

うーん、力を欲する原因か・・・

 

「それなんだけどさ、皆」

「「「「?」」」」

 

その時、不破さんがおもむろに口を開いた。

 

「律にさっきから調べて貰ってたんだ。何でイトナ君が携帯ショップばかり狙ったのか。んで、戸籍とか機種とか調べたら、イトナ君ってここの会社の社長の息子だったらしいんだ」

 

不破さんが見せてきた画面には、堀部電子製作所と書かれた看板の小さな工場が写っていた。

 

「町工場の小さな工場だったけど、世界中にスマホの部品を提供してたんだって。でも、おととし負債抱えて倒産しちゃって、社長夫婦は息子を残して雲隠れっだって」

「・・・大方、海外で安く作れる様になったとか、そんなとこだろうな。小さな工場じゃ、大企業には簡単に勝てねえからな」

「「「「・・・」」」」

 

威月のそんな推理を聞きながら、俺達はもう一度イトナを見た。俺には、イトナの気持ちが何となく分かるな・・・

 

「・・・ケッつまんねー、それでグレたってか?」

「寺坂、そんな言い方は・・・」

「どんな人間でも悩みってもんはあんだろーが。そんなんでいちいち拗ねてられっかよ」

 

・・・確かに、寺坂の言う通りでもあるんだよな。俺も両親に拗ねてたら待つ事なんて出来なかっただろうし。

 

「・・・それによ、そーゆう悩みとか苦労とかってどうでも良くなったりする時ってあんだよ」

 

そう言いながら、寺坂は吉田と村松の肩を叩き、

 

「おいタコ、コイツ俺達に面倒見させろや。そんで死んだらそこまでだろ」

 

自信満々な様子でそう言いきったのだった。




いかがだったでしょうか。

うーん、どうも最近文字数が多くなってきましたね(今回は初めて1万字超えちゃいました)

素人ながら、やっぱり戦闘シーンは文字数増えちゃいますね(笑)

これからも長くなっていきそうだったら、2話に分けるのも考えたいと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十八時間目 バカの時間

皆さんどうも籠野球です。

今週は途中から何か寒くなったなぁ・・・早く夜勤中に暖かくなってほしいですね。

それでは、どうぞ!!


登志side

 

「イトナ君が頭に巻いているのって、さっきの対殺せんせー繊維入りネットを改良した物なんだっけ?」

「あぁ。でも、あんなの気休め程度だから、暴走したら止められねえと思う」

 

 大賀とそうやりとりをしながら僕は10メートル位前をフラフラと歩くイトナ君と、そのすぐ後ろを歩く寺坂組の4人に視線を戻した。

 

(さっき寺坂君は自信ありそうな感じだったけど・・・どうするつもりなんだろう?)

「さて、おめーら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・どうすっべ?これから」

「「「「・・・」」」」

 

寺坂君のそんな問いに、その場にいた全員が無言になった。まさか・・・何も思いついてないのにあんなに自信満々だったの?

 

「もしやと思ったが・・・大丈夫なのか?アイツ。今のイトナはかなりヤバいってのに」

「とりあえず今は、寺坂の行動力に任せてみようや」

 

だ、大丈夫なのかな・・・威月と太陽のやりとりを聞きながら、目の前でギャーギャーと喚き合う寺坂君達3人に内心ハラハラしていると、

 

「村松ん家、ラーメン屋でしょ?一杯食べてお腹膨れたら落ち着くんじゃない?」

「お、おう・・・そうだな、狭間」

「・・・いいですね、まずは彼の肩の力を抜かせなければ。彼が触手に固執し続けている今のままでは、触手を引き剥がす事は不可能です」

 

確かに、お腹がいっぱいになったら冷静になれるかもな。

 

 

 

 

 

ズズズ・・・ 「・・・」

「マズいだろ?親父に何回言っても改良しねえんだよ」

 

 「松来軒」という看板を掲げた村松君の家兼店舗のラーメンを無言で啜るイトナ君に、村松君が麺の湯切りをしながらそう言った。イトナ君の顔を見る限り、本当に美味しくないのかも・・・

 

「・・・マズい上に古い。手抜きの鶏ガラを化学調味料で誤魔化している。トッピングに自慢げにナルトがおかれている辺り、何世代も前の昭和のラーメンだな」

「こ、コイツ・・・意外と分かってやがる!?」

 

へー・・・僕お蕎麦の事は分かるけど、ラーメンの事は全く分からないから凄いなぁ。

 

ズー・・・ 「麺も寝かせすぎだし、とても金取れる物じゃないな。村松が作ればいいんじゃね?」

「おお、流石大賀だぜ!!何だったらお前も一緒に新しいラーメン考えてくれよ」

「ああ、いいぜ。まずは・・・」

 

意気揚々と腕まくりをしながら厨房に入ろうとした大賀を見ながら、威月がポツリと呟いた。

 

「・・・何でもいいが、今はイトナの方が先決じゃないのか?2人共」

「「・・・あ」」

「・・・俺の親は勉強してても負けたんだ。こんな店じゃ、近くにチェーン店でも出されたらあっという間に潰れてしまう。力が無ければ・・・」

 

うーん・・・完全に逆効果になっちゃってるな・・・何か別の方法を考えないと。

 

「うし!!次は俺ん家、来いよ。こんな化石みてえなラーメンと違って、現代の技術見せてやらぁ」

「んだと、吉田!?」

 

・・・現代の技術?

 

 

 

ブオオオォ・・・!! 「どーだ、イトナ!?ヤな事なんざ、スピード上げて吹っ飛ばしちまえ!!」

「へー・・・吉田君の家ってバイク屋さんだったんだ」

 

 猛スピードのバイクで走行する吉田君とイトナ君を見ながら、僕はそう呟いた。だからバイクについてあんなに詳しかったんだな。

 

「てか、中学生がバイク運転していいのか?」

「まあ、アイツん家の敷地内だしな」

吉田(アイツ)、たまにサーキットにも行ってるらしいぜ」

 

前輪を上げて走行したりと時々アクロバティックな動きを見せる吉田君を見ながら、威月達はそんなやりとりをしていた。うう・・・僕だったらあんな動きされたら、すぐに気持ち悪くなっちゃいそうだな。

 

「ちっとはテンション上がってきたか?」

「・・・あぁ、悪くない」

 

でも、イトナ君は今までで1番機嫌良さそうだな。やっぱり機械部品を扱う工場だったからか、ああいうのも好きなんだろうな。

 

「おっしゃ!!じゃあ、とっておきだ!!必殺、ドリフトリターン!!」 ブオォン!!

 

そう言いながら吉田君はアクセルを吹かせると、猛スピードのままバイクを180度回転させ・・・

 

 

 

ビイィィィン・・・ 「・・・・・あ」

「事故が起きたー!?」

 

その勢いによって、イトナ君が近くの草むらに突き刺さっていた。あれ大丈夫なの!?

 

ガサガサッ 「何やってんだ、バカ野郎!?この衝撃で暴走したらどーする!?」

「い、いや・・・これ位ならヘーキじゃね?」

 

吉田君とそう言い合いながら、寺坂君がイトナ君を引っ張り出していた。ど、どうやら・・・無傷ですんだみたいだな。

 

「・・・ホントに何にも考えてないみたいですね」

「というか・・・只、遊んでるだけなんじゃ・・・」

「ま・・・アイツら基本バカだから仕方ないよ」

 

イトナ君に活を入れたり水を掛けたりしている寺坂君達3人を見ながらの僕や矢田さんの呟きに、カルマ君が笑みを浮かべながらそう言った。

 

「あ、でも狭間さんは頭良いですし、何かあるかも・・・」

(確かに狭間さんなら、何か案を思いついてくれてるかもな)

 

奥田さんの呟きにそう考えていると、狭間さんはイトナ君の前にドサッと大量の本を置いた。

 

(・・・何だろ?アレ)

「名作復讐小説「モンテ・クリスト伯」全7巻2500ページ。コレを読んで暗い気持ちを増幅させなさい。あ、最後の方は復讐やめるから読まなくていいわ」

(重いし、難しいよ!!)

「狭間!!テメーは小難しい上に暗いんだよ!!」

「何よ、誰にでも負の感情は必要でしょ?」

 

分からなくはないけど・・・もっと分かりやすい物はなかったのかな・・・?

 

「もうちょっと簡単なモンねーのかよ!?コイツどーみても頭悪そう・・・あ?」

 

その時、イトナ君がいきなりプルプルと震えだした。突然の状況に言いかけた寺坂君も話を切ってイトナ君を見ていた。

 

「お、おい・・・どうしたんだ?」

「寺坂に頭悪ィなんて言われてキレたんじゃねえのか?」

ビリィ・・・ブチッ・・・ 「ぐうぅぅぅ・・・」

「いや・・・コレは・・・!!」

(!! バンダナから触手が!?)

 

バンダナを突き破った触手は、最初にあった時と同じく真っ黒に染まっていた。完全に暴走しちゃってる・・・!!

 

「俺は・・・お前らみたいに適当にやってる奴らとは違う・・・!!今すぐにでも・・・奴を・・・!!」

「皆!!とりあえず離れて・・・!? 寺坂君!?」

 

僕の注意で3人は逃げ出す中、寺坂君だけがジッとイトナ君を見据え、

 

「・・・イトナ、お前俺に前言ったよな。俺にはビジョンがねえって。へっ、お前こそ出来もしねえビジョンなんざ捨てちまった方が楽になんぜ?お前にゃ、今すぐあのタコ殺すなんざ不可能だかんな」

「うるさい!!」 ブオッ!!

 

寺坂君のそんな挑発じみた説得に、イトナ君は怒った様子で触手を寺坂君に振るった。

 

「(ガシィ・・・) ()ー・・・吐きそーなのは相変わらずだけど、2回目だし弱ってるからチョロいわ」

 

しかし、そんな触手を寺坂君はあの時と同じようにお腹で受け止めながら肘と腿で挟み込んでいた。凄い・・・

 

「寺坂君、大丈夫!?」

「おう、俺はお前と違って頑丈だかんな。

・・・そういや、吐きそーといやあ村松のラーメンだけどよ」

「てめ、何で思い出してんだ!?」

 

寺坂君はそんな村松君のツッコミをサクッと無視すると、

 

「アイツよお、あのタコから経営の勉強させられてんだ。今はマズくても、いつか店継いだ時に新しい味と腕で繁盛させりゃいいってよ。吉田も同じ事言われてたよ、()()()役に立つかもしれないって」

 

いつか役に立つか・・・殺せんせーらしいな。

 

「1度や2度負けたぐれーで拗ねてんじゃねーよ(ゴンッ!!)おめーも()()()勝てりゃいいじゃねーか」

「いつか・・・?」

 

そんな説教と共に頭を殴られ、イトナ君はそう聞き返した。

 

「そうだ、今から何百回失敗したって構わねえ。それでも、卒業する3月までに1回殺せりゃあ俺らの勝ちだ。親の工場だってそん時の賞金で買い戻しゃあいいだけの話だろーが、いつまでもグレてんじゃねーよ!!」

「・・・それまで耐えられない・・・俺は何をしていれば・・・」

「はぁ?決まってんだろ」

 

そんなイトナ君の問いに、寺坂君は迷いなく自分を親指で指差し、

 

「今日みてーにバカやってりゃいいだろ。その為にE組(おれら)がいんだろーが」

「寺坂君・・・」

「あーいうバカの適当な言葉ってさ、こういう時に1番力抜いてくれるモンなんだよね」

 

カルマ君が再び笑みを浮かべながらそう言うのと同時に、イトナ君の目からさっきまでの狂気が失われていくのが分かった。

 

「そうか・・・俺は、焦ってただけだったのか」

「・・・おう、そうだと思うぜ」

「・・・目から執着の色が消えましたね、イトナ君」 ザッ

 

そう言いながら殺せんせーが2人の前に出た事で、全員が殺せんせーの方を向いた。

 

「今なら君の触手を取り除けます。それによって君は力を失うかもしれない。ですが・・・もっと大きな物を手に入れられる筈です」

「一緒に殺ってやろうぜ、イトナ」

 

クラスを代表した太陽のそんな誘いにイトナ君は・・・

 

「・・・好きにしろ。この触手も兄弟設定にも、飽きてきた所だ」

 

今まで見た事がない穏やかな顔でそう軽口を叩くのだった。

 

 

 

実徳side

 

カタカタ・・・ 「・・・どうやら、上手くいったみたいだな」

 

 沢山のモニターの中の1つに映し出された太陽君達の姿を見ながら私は安堵の息を吐いた。全く・・・伏魔島での一件といい、無茶をするクラスだ。

 

「しかし・・・まさか触手持ちが、あの標的の他にもいるとはな・・・それにあの子」

 

初めて会った時も当たり障りない対応だったが、何かを感じさせる子だった・・・それに今でこそあの見た目だが、あの子はまさか・・・

 

「・・・いや、これ以上は私が口を挟んではいけないな」

コンコンッ 「おじさーん!!ちょっときてー!!」

 

その時、上の部屋のドアを叩きながらの華のそんな声が聞こえてきた。

 

「おっと、行かないと」 プチッ

 

私はモニターの電源を切ると椅子から立ち上がり、

 

「・・・君達がいるクラスは、かなり問題を抱えたクラスだ。気をつけてくれよ・・・太陽君、威月君、大賀君、登志君」

 

部屋が再び暗闇に包まれていく中。私はそう呟きながら部屋の扉を閉めた。

 

 

 

太陽side

 

ガラッ 「お、ういっすイトナ。今度は壁破壊せずに来たな」

 

 翌日・・・教室に入ってきたイトナに、俺はそう挨拶をした。頭には大賀が縫い直した昨日のバンダナが巻かれている。

 

「おはよー」

「やっぱりイトナには、そのバンダナ似合ってるな。作り直したかいがあったぜ」

「おはようございます、イトナ君。どうですか?気分は」

「最悪に決まってるだろう。力を失ったのだからな」

 

皆が口々にそう言う中、最後に入ってきた殺せんせーにそう返したが、

 

「でも弱くなったつもりもない。いつでも殺す気だから覚悟しとけ、殺せんせー」

 

指を突きつけながら自信満々にそう言ったのだった。ようやく、全員揃ったな!!

 

 

 

 

 

「村松、大賀を呼んでラーメン作らせろ。お前の吐きそうになるラーメンの具材でも、アイツなら美味く作れるかもしれん」

「否定はしねえが、何で俺の店のラーメンタダで食わせなきゃいけないんだよ!?」

「金がない」

「直球だな、おい!?」

 

・・・ちなみに、寺坂に気を許したのか寺坂グループに入ったみたいだった。。




いかがだったでしょうか。

というわけで、イトナ加入です。寺坂って面倒くさそうだけど、いざという時頼りになるっていう、まるっきりジャイアンみたいなタイプだから書きやすくていいですね(笑)

それで、話は変わりますが、前話の投稿で、この「太陽とひまわりの仲間達との暗殺教室」のUA数が20,000を突破しました!!

10,000を超えるのに50話掛かったので、放置の期間があったとはいえ、実に半分以下の話数で10,000達成したという事にとてもテンションが上がってます!!

これ、このペースなら完結までに50,000位行くんじゃないかな!?





・・・はい、すいません。調子乗りました。
m(_ _)m

ま、まあこれからも読んでくれる方々への感謝を忘れずに頑張っていきます!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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六十九時間目 紡ぐ時間

皆さんどうも籠野球です。

今週は久しぶりに土日休みでゲーム三昧でした(笑)

いやー、やっぱり2連休はテンション上がりますね!!

GWまで後1か月ちょっと、皆さんも体調に気をつけて頑張って下さい!!

それでは、どうぞ!!


威月side

 

「な、何それ?イトナ君」

「ん?」

 

 イトナが本格的にE組に登校し始めた翌日の放課後、自分の席で小説を読んでいた俺の耳に聞こえてきたそんな渚の問いに顔を上げた。

 

「(ジジジ・・・)見ての通り、戦車のラジコンを作っている。昨日1日、奴に勉強漬けにされてムシャクシャしてるし、コイツで殺してやるんだ」

「・・・って、まさかラジコンを自作出来るの!?」

「・・・へえ、結構本格的だな」

 

イトナの机の上には、組み立てられる前のラジコンの部品が並べられていた。細かいパーツも多いし、よくこんなの作れるな・・・

 

「凄いな、イトナ・・・自分で考えて改造してるのか?」

「親父に小さい頃から一通りの電子工作は教わっていたからな。この程度、寺坂以外なら誰だって出来る」

「おい」

 

集まってきた男子達の磯貝の問いに返しながらの皮肉に寺坂が青筋を浮かべたが、イトナは視線を向けもしなかった。寺坂の扱い方が分かってるな、イトナの奴。

 

「(ジュジュ・・・)・・・よし」

「「「「おぉー・・・」」」」

 

5分程でラジコンの形になったそれに、俺達は歓声を上げた。すげえ・・・

 

がちゃっ ぐっ・・・

ヒュウゥゥゥン!! 「おお、動いた!?」

「すげー!!」

 

イトナがコントローラーのレバーを傾けると、ラジコンは勢いよく走り始めた。

 

ウイィィィン・・・ パパパッ!! 「(カカカンッ!!)凄い出来だな・・・これなら使えるな」

「走ってる時も撃つ時も随分と駆動音が小さいんだな」

「電子制御を多用して抑えている。ガン・カメラは最新のスマホのを流用して、コントローラーに銃の照準と連動した映像を送っている」

 

ハイテクだな・・・店に売ったら金取れるレベルだぜ、こりゃ。

 

「バカ面で寺坂が言ってきたからな。「何回失敗してもいい」と。だからダメ元でいいから挑戦してみる」

(フッ・・・初めて会った時とは大違いだな)

 

毒舌なのは変わっちゃいねえが、雰囲気が随分と丸くなったな。

 

「・・・それと、お前らに教えといてやる。奴の身体の弱点についてだ」

「!! 弱点だと!?そんな場所があるのか!?」

「ああ、奴が着けてるネクタイの真下。その位置にある心臓に当てれば一発で絶命させられるらしい。これはシロから教えて貰った」

 

奴からか・・・なら確かな情報だな。

 

(チッ・・・太陽もいてもらっときゃあよかったな。何か用事があるって先に帰っちまったからな・・・)

「・・・あれ、殺せんせーいねえぞ」

「しょうがねえ、このまま試運転続けようぜ」

(ま、俺が教えときゃいいし、今日失敗しても何か考えてくれるだろ)

「「「「・・・・・!!」」」」

「あ?」

 

考え事をしていた俺は、男子の殆どがイトナの持つコントローラー画面に釘付けになっているのにようやく気づいた。

 

「どした?皆」

「・・・見えたか?おい」

「いや・・・カメラが追いつかなかった。視野が狭すぎる」

(何の話してんだコイツら「いえー、いちばーん!!」・・・莉桜の声がカメラから?)

 

てことは、今戦車の近くを莉桜が通ったって事だよな・・・

 

(それからすぐの岡島と前原のやりとり・・・コイツらまさか・・・)

「カメラもっとデカくて高性能のに変えれねーのか?」

「・・・それだと重量が増えて機動力が落ちるし、標的の補足が難しくなる」

 

村松やイトナの言葉で俺は確信した。コイツら・・・女子のスカートの中、覗こうとしてやがる!?

 

「なら・・・レンズを魚眼に変えてみたらどうだろう?魚眼は画面が歪むが視野は広がるし、それをCPUで補正すればいい筈だ」

「分かった・・・レンズは俺が調達する」

「律!歪み補正のプログラムは組めるか?」

「はい!!用途は分かりませんがお任せ下さい!!」

「ちょっと落ち着けよ、お前ら・・・」

 

竹林や岡島がそう話し合う中、俺は呆れながら割り込んだ。ったく・・・

 

「そんな事してたって女子の連中に知られてみろ。半殺しじゃすまなくなるぞ?」

「何だよ、お前だって見てみたくなんだろ?」

「俺も男だし気にならないとは言わんが、盗撮してまで見たいとは思わねえよ」

「・・・男には、やらなきゃならねえ時がある」

「カッコ良く言ってるが、普通に犯罪だろ・・・」

 

キランと聞こえそうな位、真剣な顔で言いきった岡島にそう返しながらため息をついていると、今日日直で日誌を届けていた登志が教室に戻ってきた。

 

「ゴメン、威月。ちょっと烏間先生の手伝いしてて遅くなっちゃった。

・・・って、皆集まってどうしたの?」

「実はな、登志・・・」

 

不思議そうな顔で近寄ってきた登志に、事情を説明すると、

 

「えっ・・・それって盗撮じゃないの?ダメだよ、そんな事しちゃ!!」

(流石・・・殺せんせーを弁護しようたしただけの事はある)

「固い事言うなよ、伊勢。お前だって、スカートの中見てみたい女子とかいんだろ?」

「へ?んー・・・」

 

前原にそう反論されて考え込んだ登志は、

 

「(ボッ!!)や、やっぱりそういうのって、よくないですよ!!」

(分かりやすい奴だなぁ・・・ま、本人はまだ微妙に無自覚っぽいが)

 

一瞬で火がつきそうな位、顔を真っ赤にしながらそう言った。誰を想像したかは言うまでもないな、こりゃ。

 

「ケッ、ビビりめ。いいよもう、見えても教えてやんねえから。

・・・そういや、録画機能も必要だよな」

「ああ・・・効率的な改良の分析には必要不可欠だな」

(コイツら殺せんせーの事バカに出来ねえな・・・)

 

最後の説得も無駄と判断し、俺はため息をつきながら登志・渚・磯貝の元へと歩いた。この2人は恐らく積極的に参加しないと思ったからだ。

 

「皆、下着ドロにはドン引きしてたのに・・・」

「あぁ・・・エロの事だと我を忘れるのは殺せんせーと同じだな・・・」

「ほ、放っといていいの?威月」

 

予想通り、皆を見ながら苦笑いを浮かべている2人の横で、不安そうに登志が俺に聞いてきた。

 

「まあ、とりあえずほっとくしかねえだろ。変に止めて、こっちも巻き添え喰らうなんてゴメンだ」

「・・・そうだな、いざという時に止めようぜ」

「登志も後は俺に任せてくれりゃいいぞ。太陽達には俺が説明する」

「う、うん」

 

こんなのに真面目な登志を巻き込む訳にいかねえし、彼女持ちのあの2人を巻き込みたくねえし、俺がやるしかねえな。

 

「んじゃ、それぞれ担当の物を今日中に準備して、明日の朝また集合だ!!」

「「「「おう!!」」」」

 

・・・明日は早起きだな。

 

 

 

「学校迷彩、こんなのでどうだ?」 ゴトッ

「ああ、完璧だぜ菅谷。俺も学校周りのロードマップを作ってきた」

「イトナ、段差にも強い足回りパーツを持ってきたが、すぐに組むか?」

「朝飯を作ってきた。順番に食ってくれ」

(ふわあ・・・眠い。つーか何でコイツらこういう時は早いんだか・・・)

 

 翌日・・・朝6時半にちゃんと集合している皆を見ながら俺は欠伸を漏らした。エロの力は偉大だな。

 

「てか、何で威月来てんだよ?お前、反対してたじゃねえか」

「俺だって好きで早起きしたくは無かったが、太陽達からの伝言を預かっててな」

「伝言?」

「そのまま伝えるぞ・・・威月が止めても無駄だった以上、今更止めたりはしないしクラスメイトの情けで、陽菜乃達には何も言わないでおいてやる。ただし・・・」

「「「「ただし?」」」」

「陽菜乃覗いたら殺す・・・ってよ。大賀は、有希子覗いたらすり砕くって言ってたぞ」

「「「「・・・」」」」

 

俺の言葉に全員が青ざめた。あの2人の強さも、どんだけ彼女を大切にしてるかも、よーく知ってるんだろうしな。

 

「んで、俺はそれの監視役として来たんだよ。つーわけで、俺も女子に告げ口はしねえが、2人の伝言は守るからな」

「・・・2人には手を出さない方向で行こう。それに、律が起動するのは8時丁度だ、彼女を傷つける訳にもいかない」

「「「「おう」」」」

 

竹林・・・律に気遣い出来るならやめるという選択肢は無かったのか・・・?

 

「分かってるんだろうな、皆・・・あくまで最後は殺せんせーを殺す為の道具として使うんだぜ?」

「まあ、そう言うなって磯貝。ちゃんと全員分かってるし。その為の実験のついでだって。

・・・んじゃ、始めるか!!」

 

ハア・・・もうどうなっても知らねえぞ。ったく・・・

 

「これも殺せんせーを殺す為!!行け、えーっと・・・試作品1号!!」

ヒュオォォォ・・・

 

そんな皆を代表した前原の号令と共にラジコンは勢いよく走り出し・・・

 

 

 

コテンッ (・・・ま、いくら足回り強くしても、あのスピードじゃあれだけの段差は厳しいわな)

「復帰させてくる」 ダッ!!

 

昇降口の段差であっけなく横転し、木村がラジコンの元へと走っていった。

 

「バカ、お前スピード出し過ぎだ。変われ、俺が運転する!!」

「寺坂が運転した方が事故るっての」

「んだと、こら!?」

(・・・にしても、ホントに打ち解けたな、イトナの奴)

 

復帰後、再び走り出したラジコンの画面を見ながら、和気あいあいと話す皆の真ん中で楽しそうに笑うイトナの姿に俺はそう思った。イトナの技術にエロが加わって、皆の心をガッチリ掴んでみせたな。

 

(あんな奴に頼らなくても、最初から俺達と一緒に始めればよかったんだよ)

「そーいやさ、こんなに改良に参加してんだし、機体に開発ネームでも付けてみたらどうだ?」

「あぁ・・・考えておく・・・ん?」

 

三村にそんな提案をされていたイトナは画面に釘付けになっていた。

 

(? おかしいな、まだ皆が来るには微妙に早い筈だが・・・)

 

そう思いながら最後尾から覗いた俺の目に入ってきたのは、巨大な化け物・・・もといイタチの姿だった。

 

「「「「化けモンだー!?」」」」

(まあ、サイズは普通だとは思うが、いかんせんラジコン目線じゃなあ・・・)

「逃げろー!!いや、撃てー!!」

パパパンッ!! ぴしぴし・・・ 「主砲の威力が全然足んねぇ!!ここも要改造だ!!」

「シャァァァ!!」

「「「「う、うわあー!?」」」」

 

 

 

「くっそー・・・イタチは想定外だったなー・・・」

 

 数分後・・・イタチから救出したものの、ボロボロに破壊された機体を見ながら前原が悔しそうに呟いた。ここまでボロボロじゃ、修理するのは無理だな。

 

「今度からは運転手と狙撃手を別々にしようぜ。頼むな、千葉!!」

「お、おう」

「開発には、失敗がつきものだ」 キュポ

 

岡島が千葉の肩を叩きながらそう言うのと同時に、イトナが機体に文字を書き始めた。

 

サラサラ・・・ 「・・・"糸成Ⅰ"・・・それの名前か?」

「へー・・・イトナって漢字でそうやって書くんだね」

「ああ。"最初は細くて弱くても、徐々に紡いで強くなれ"そういう意味らしい。糸成1号は失敗だったが、これから紡いで強くする。そして・・・最後は殺す」

 

渚にそう返した後、イトナは俺達を見渡し、

 

「よろしくな、お前ら」

「おうよ」

「ああ」

 

この技術が進化していけば、必ず大きな力になるだろうな・・・楽しみだ。

 

「よーし、卒業までに女子達のスカートの中、コイツで偵察してやろうぜ!!」

(いや・・・だから目的が変わって「「「「・・・」」」」 !?)

 

岡島がそう気合を入れているのを呆れながら見ていた俺は、後ろからの女子達の冷たい視線に凍りついた。

 

「お、おい・・・岡島」

「ん?何だよ威月「誰を覗くって?岡島君(ゴゴゴゴゴ・・・)」!? か、片岡!?」

 

や、ヤバい・・・片岡の奴、目が本気だ!!

 

「え、えっと・・・これはその、殺せんせーを殺す為の実験で・・・」

「(プッ・・・ウイィィィン)おはようございます!!竹林君、昨日頼まれた歪み補正プログラム、完成しています!!」

「ふーん・・・律まで巻き込んだの」

 

あーあ、律にそんな意図は無かったんだろうが、タイミング最悪だな。

 

「首謀者は誰?まさかイトナ君じゃないわよね」

「岡島だ」

(イトナの奴、あっさりと岡島を捨てやがった!?)

 

・・・まあ、確かにイトナはラジコンを提供しただけで、それを岡島達が勝手に利用しただけだしな。

 

「いやいや、俺だけじゃねえって!!皆、加担してたし!!」

「・・・まさか磯貝君達も!?」

「いや、渚と磯貝は何にもしてねえよ。俺達「ひまわり」メンバーと一緒で反対派だったからな」

「そう。まあ、磯貝君や渚はね」

 

納得した様子の片岡に安堵していたその時、岡島が爆弾を投げ込んできた。

 

「いや、違うぞ片岡!!威月もノリノリだったぞ!!」

(なっ!?)

おい!!お前、何俺まで巻き込んでやがる!?

うるせえ!!どうせやられんなら道連れ増やしてやらあ!!

 

こ、この野郎・・・遂にクズになりやがったな!!

 

「・・・本当なの?水守君」

「俺はやってねえよ、岡島の嘘だ」

「騙されるな、片岡!!威月はこう見えて結構スケベだからな!!」

 

そんな俺らの言葉に、片岡は俺と岡島をそれぞれ見ると・・・

 

「・・・じゃあ、水守君も磯貝君の方に来て」

「お、サンキュー」

「ちょ、ちょっと待て!!何で水守の事はあっさり信じんだよ!?」

「水守君と岡島君だったら、誰に聞いたって水守君を信用するに決まってるでしょ!!」

 

片岡のそんな返しに、女子全員がうんうんと頷いてくれた。俺なんかを信じてくれるとは、有り難いな。

 

「そ、そんなの差別じゃねえか!!皆も何か言ってやれよ!!」

「「「「・・・」」」」

「え・・・何でお前ら、目を逸らすんだ?」

 

男子全員が無言になる中、代表して前原が口を開いた。

 

「すまん、岡島・・・それだけは俺らも否定出来ねえわ・・・」

((((うんうん))))

「・・・・・」

(あ、仲間に裏切られて白目向き始めたな)

 

まあ、俺も巻き込まれそうになったし、同情は一切しないがな。

 

ガラッ 「んー?皆、何やってんの?」

「良い所に来た。カルマ、今日サボりたい。良い場所知らないか?」

「お、話せんじゃんイトナ。オッケー、ついてきなよ」

(((逃げた!?)))

 

教室に入ってきたカルマに連れられて、ナチュラルに修羅場から逃げたイトナに、磯貝・渚・俺の3人はそう思った。余りにも自然な逃げっぷりに、気づいた奴はいないみたいだ。

 

「さて・・・覚悟はいいかしら?覗き未遂の現行犯よ。まずは主犯の岡島君からね」 

「嫌だー!!まだ死にたくねえ!!」

「安心して、そこまではしないわ。只、生まれてきた事を少し後悔するだけだから」

「死ぬよりも怖え!?」

「問答無用!!」

「や、やめろ片岡・・・痛ててて!!か、関節は、関節はそっちには曲がらな・・・ギャー!!」

 

―――こうして、イトナのラジコンを用いた覗き騒動は、主犯の岡島の悲鳴と共に終わった。その後、ボロボロになった男子達の姿に、チャイムギリギリで入ってきた太陽達がドン引きしたのは言うまでもない。




いかがだったでしょうか。

日頃の行いはこういう時に生きてくるもんですね(笑)

・・・やっぱり真面目に生きるのが1番だなあ。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十時間目 名前の時間

皆さんどうも籠野球です。

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
m(_ _)m

アイディアは浮かんでいるのですが、仕事の疲労からパソコンに打ち込むやる気が起きませんでした・・・

でも後2週間でGWですし、気合入れていきたいと思います!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「ふわ・・・おっと」

「たーくん、随分眠そうだね」

 

朝、欠伸が漏らしそうになった俺に、陽菜乃が不思議そうに聞いてきた。今日は2人きりでの登校だ。

 

「ああ、ちょっと昨日は遅くまで勉強してて、寝るのが遅くなっちまったんだ」

「へ~!!私も勉強しなきゃなあ。テストまでもう1か月位しかないし」

「俺で不満がないなら、また今度教えるよ」

「ホント!?

・・・って1学期の中間テストで1位のたーくんに不満なんて私が言えないよ!!」

(フー・・・何とか誤魔化せた)

 

頬を膨らませながら返す陽菜乃に笑みを浮かべながら、俺は心の中で安堵した。勉強してたなんて嘘だしな。

 

(威月達にもバレたくもねえが、何より陽菜乃にだけはバレる訳にはいかねえからな)

「? どうしたの、たーくん」

「いや、俺の彼女は可愛いな~って」

「!! えへへ」

 

本心100%の誤魔化しをしながら頭を撫でてあげると、陽菜乃は嬉しそうにはにかんでくれた。うん、やっぱり可愛い。

 

「おーい、そこのバカップル。イチャつくのは勝手だが、遅刻してもしんねーぞ」

「!! そ、そうだな。行こうぜ、陽菜乃」

「あ、ありがとね。水守君」

 

威月は鋭いからな・・・話してる最中にボロ出さねえ様にしねえと。

 

 

 

え!?そうやって読むんだったの!?

「ん?」

「何か盛り上がってるね~」

 

 教室の近くまでやってきた俺達の耳に、そんな驚いた様子の話し声が聞こえてきた。どうしたんだ?

 

ガラッ 「おは~」

「おはよう。何か盛り上がってるけど、どうしたんだ?」

「おう、2人共。お前らさ、木村の下の名前って知ってるか?」

 

? 何だ前原の奴、いきなりそんな質問してきやがって。

 

(えーっと、確か"正義"って書くんだったよな)

「確か・・・"まさよし"じゃなかったけ?最初の日にそう言ってたと思うけど」

「あー・・・実は、それ読み方違うんだ倉橋」

「え?」

「読み方が違う?てことは・・・"せいぎ"か?」

「あ、いや・・・それも違え」

 

あれ?でも、他に読み方なんてあんのか・・・?

 

「うーす」

「威月、丁度良い所に来てくれた。木村の名前の呼び方って何か分かるか?」

「あ?んだよ、入ってきたとこだってのに。んーと、確か正義って書くんだったな」

 

入ってきた威月は、そのまま顎に手をやると、

 

「太陽も分かんなくて問題になるって事は、普通の呼び方じゃないんだから・・・まさか英語読みの"ジャスティス"とか言わねえだろうな?」

「いや、流石にそれはねえだろ威月「・・・正解だ」・・・は!?」

 

思わず俺は木村の方を向き直った。威月も半分冗談だったのか驚いた様子で木村を見ていた。

 

「嘘だろっ!?じゃあお前って本名"木村 正義(ジャスティス)"だったのか!?」

「おー・・・俺の親って警察官でさ。正義感で突っ走ったみたいなんだよ。

・・・公共の場所じゃ変えられねえから、せめて学校では武士の情けで"まさよし"って呼んで貰ってんだ」

「それはきっついな・・・」

 

病院の待合室で「木村 ジャスティスさーん」って呼ばれてるって事だもんな・・・

 

「親の付けた名前が不満なんて何事だ!!なんて言うけどよ、その名前のせいで子供にどんな迷惑掛かってるか考えた事もねえんだろうな・・・」

「そんなモンよ、親なんて」

 

その時、珍しく狭間が会話に入ってきた。

 

「私なんてこの顔で"綺羅々(きらら)"よ。全然合ってないでしょう?」

「お、おう・・・」

「メルヘン脳のくせに気に入らない事があったらヒステリックに喚き散らす。そんな母親の家庭で、名前通り可愛らしく育つ筈がないのにね」

「皆、大変だねー。変な名前付けられてさ」

 

そう言いながら入ってきたカルマに、全員が顔を向けた。お前が言うのか・・・

 

「あー、俺?俺は結構自分の名前気に入ってるよ。ま、たまたま親のヘンテコなセンスが子供に遺伝したんだろうね」

「先生も名前には不満があります」 ずいっ

「うおっ!?ビックリした!!」

 

カルマの背後にいつの間にか立っていた殺せんせーは、不満げにそう言った。

 

「殺せんせーは茅野が付けたその名前、気に入ってるんだろ?」

「だからこそですよ。気に入ってるのに、未だに2名、私を名前で呼んでくれない方がいるんです」

((ギクッ))

 

殺せんせーに恨みがましい目で見られ、烏間先生とビッチ先生は言葉に詰まった様子だった。

 

「烏間先生なんて「おい」とか「お前」とか・・・熟年夫婦じゃないんですから・・・」

「だって・・・大人が「殺せんせー」って、正直恥ずいし」

 

まあ、気持ちは分からなくはないかなー・・・

 

「あ!!じゃあさ、コードネームで呼び合うってのは?」

「コードネーム・・・ですか?矢田さん」

「うん、南の島の殺し屋の人達は皆コードネームで呼び合ってたじゃん。私達もやってみない?」

「確かに、殺し屋っぽくていいかもしれませんね」

「ええ、あの頭の固い2人に仇名を呼ばせる良いきっかけになるかもしれません」

 

登志同様、殺せんせーも賛成な様子だった。まあ、面白そうだし、たまにはいいか。

 

「では、クラス全員分のコードネームを皆がそれぞれ書いて、それを先生が無作為で引いたのが皆さんの今日のコードネームとしましょう」

 

クラス全員分か・・・大変だな。

 

 

 

 

 

「"野球バカ(杉野)"!!標的に動きはあるか?」

「まだだ、"美術ノッポ(菅谷)"。堅物(烏間先生)は今一本松の近くにいる。"貧乏委員(磯貝)"達、いつでもいいぜ」

「了解!!」

 

 1時間目・・・今日は実践を想定した射撃訓練だ。背後から貧乏委員達が距離を詰めて、飛び出した所を"ツンデレスナイパー(速水)"が狙撃する計画だ。

 

ジリジリ・・・ バッ!! 「「なっ!?」」

「甘いぞ、2人共!!包囲の間を抜かれてどうする!!特に"女たらしクソ野郎(前原)"!!銃は常に撃てる高さに構えておけ!!」

「クソッ!!悪い、アニマル太陽()!!」

「任せろ!!陽菜・・・"ゆるふわクワガタ(陽菜乃)"に"キノコディレクター(三村)"!!左から来るぞ!!」

「おう!!」

「うん!!」

 

2人に指示を出しながら俺も堅物に向けて銃を構えて、引き金を弾いた。・・・が、

 

パンッ!! 「フッ!!」 ダダンッ!!

「あっ!?」

(クソッ!!方向転換が早すぎる!!)

 

崖上に跳んで、俺の銃弾を躱しながら逃げていった堅物に、俺は舌打ちをしながら毒づいた。余りにも速い動きに、2人も反応すら出来なかったみたいだな。

 

(やっぱり単発で当てられる人じゃねえ、複数人で狙わねえと・・・)

「そっち行ったぞ、"マッチョで賢いお助けマン(威月)"!!」

「あいよ!!"ホームベース(吉田)"!!"へちま(村松)"!!"コロコロ上がり(イトナ)"!!」

「「「おうっ・・・(あぁ)」」」

 

・・・!! 3人が囮になってる間に、木の上から・・・

 

パンッ!! ビシィ!!「む!!

・・・やるな、"鷹岡もどき(寺坂)"!!だが、俺相手に1発当てた程度じゃあ、奴には当たらんぞ!!」

 

ガッツポーズをしている鷹岡もどきにそう返しながら堅物は近くの茂みに目を向け、

 

「"毒メガネ(奥田)"!!"永遠の0(茅野)"!!射点が見えてしまっては避けられて当然だぞ!!」

「くっ・・・バレてたか。そっちでお願い、"凜として説教(片岡)"!!」

「オッケー!!行くよ、"ギャル英語(中村)"に"性別()"!!」

「「了解!!」」

 

凜として説教の指示で、射撃の場所を悟られないように堅物に対しての射撃が始まった。やはりアイツは指揮能力が高い、1番重要なポジションを任せて正解だったな。

 

("変態終末期(岡島)"や"このマンガがすごい!!(不破)"に背後から距離を保って隙を窺わせる事で確実に堅物の選択肢を奪っていってと・・・)

「行こう"神崎名人(神崎)"!!"チビ剣士(登志)"!!ポニーテールと乳(矢田)!!」

「うん!!」

「う、うん・・・!!」

「えぇ・・・」

 

"中二半(カルマ)"の指示の元、"専業主夫(大賀)"達が完全に退路を塞いでみせた。チャンスだ!!

 

(出番だぞ、"ギャルゲーの主人公(千葉)"!!) パンッ!!

ビシッ 「・・・」

「っ!!」

 

何っ!?狙い通りの完璧なタイミングだったってのに、木の板で防いでやがる!!

 

「ギャルゲーの主人公!!君の狙撃は常に警戒されているという前提で動くように!!」

(そうか・・・アイツからは常に警戒を外してなかったのか・・・だが、)

 

甘いっすよ、堅物。アンタなら、ギャルゲーの主人公の狙撃でも無理かもしれないのは全員想定済みだ!!

 

(だから・・・今回トドメは別の奴!!頼んだぞ・・・)

 

「―――"ジャスティス(正義)"!!」 ガサァ!!

「なっ・・・」

 

木の上から飛び降りたジャスティスが背後から突きつけられた2丁の拳銃に、堅物は反応する事は出来なかった―――

 

 

 

 

 

「・・・で、どうでしたか?コードネームで過ごした1時間目は」

「「「「何か・・・凄い傷ついた」」」」

 

 体育の時間が終わった2時間目、俺達は授業中にもかかわらず、教室でグッタリしていた。何か・・・すんげえ精神的に疲れた。

 

(やっぱ彼女は名前で呼びてえしな。何かむず痒いわ・・・)

「ひたすら"すごいサル(岡野)"って連呼されただけだし・・・」

「チビ剣士って・・・そのまんまじゃないですか・・・」

「誰よ!!永遠の0って書いたのは!?」

(ヒューヒュー)

 

・・・村松だな、書いたの。分かりやすく口笛吹いてやがるし。

 

「つーかさ、何で俺だけ本名だったんだよ?殺せんせー」

「今日の訓練内容なら、君の機動力はかなり生きると思ったからです。今日の様にカッコ良く決まれば、ジャスティスにも不満はないのではありませんか?」

「まあ・・・確かに」

 

確かにあの時は、ジャスティスがぴったりだったな。

 

「一応言っておきますが、木村君。君の名前は変更しようと思えば、比較的簡単に出来るでしょう」

「え?」

「極めて読み辛く、既に"まさよし"という名前で普段過ごしているという点からも、改名の条件はほぼほぼ満たしていると言えます」

「そうなんだ・・・」

 

殺せんせーの言葉に木村は安心した様子で胸をなで下ろしていた。

 

「でもね・・・木村君」

「?」

「もし、君が先生を殺したとしたら・・・「まさしく正義(ジャスティス)だ!!世界を救った英雄に相応しい名だ!!」と賞賛されるでしょう」

 

ま、分かりやすくヒーローって感じだもんな。

 

「親が付けてくれた名前そのものが重要な訳ではありません。大事なのは・・・その名で何を成したかです。名前が人を造るのではない、その人物が歩んできた人生の足跡に名前が残るのです」

(さっすが、良い事言うな、殺せんせーは)

 

そう思っていると、殺せんせーはさっきの訓練で標的が付けていた的を取り出した。そこには、木村が撃ったペイント弾の後が何発も残っていた。

 

「もう少し、その名前を持っていてはどうですか?少なくとも、暗殺に決着が付くまでは・・・ね?」

「・・・そうしてみっか」

 

名前か・・・俺も太陽って名前には誇りもあるし、両親が残してくれたモンだからな。大事にしよっと。

 

「・・・さて!!今日1日コードネームで過ごすという事でしたね。皆さんが訓練の間、先生も自分のコードネームを考えておきました」

(・・・は?)

 

おもむろに何かを黒板に書き始めた殺せんせーに全員が?を浮かべていると、

 

「今日1日、先生の事はこう呼んで下さい・・・"永遠(とわ)なる疾風(かぜ)運命(さだめ)皇子(おうじ)" ・・・と」

 

「「「「・・・」」」」

 

 

 

 

 

「「「「・・・・・」」」」

 

 

 

 

 

「「「「・・・・・・・・・・(ブチッ!!)」」」」

 

キランッ!!という効果音が聞こえそうな程のドヤ顔で言いきった殺せんせーに、言うまでもなく全員がキレた。

 

「ふざけんな、このクソタコが!!何、自分だけスカした名前付けてやがる!!」

「竹林!!この前一緒に作った改造手榴弾持ってこいや!!このドヤ顔ごと木っ端微塵にしてやるぞ!!」

「にゅやぁぁぁ!?い、いいじゃないですか、1日位!!」

「じゃかあしい!!おいお前ら、さっさと木村を本物の英雄にしてやるぞ!!」

「「「「おう!!」」」」

「にゅ、にゅやああぁぁぁぁぁ!?」

 

その後、殺せんせーは1日中"バカなるエロのチキンのタコ"と呼ばれた。




いかがだったでしょうか。

前話と今話みたいなほのぼのした回はかなり好きですね(笑)

実は4人のコードネームは正直パッと思いついたのをそのまま使って感想で聞かれるまでは理由も考えていませんでした(笑)

せっかくなので、感想に書いたのをここに書かせて貰います。

太陽→寺坂(何かこんな名前の元プロレスラーいたろ。アニマルって付くくらいだし、ソイツも動物好きなんじゃねえの?)
威月→中村(昔と今のアイツ、組み合わせたらこんな感じっしょ)
大賀→原(九澄君の家事能力なら将来こうなってもおかしくないわ。私も負けてられないね)
登志→イトナ(アイツは俺よりも小さいのにずっと強い。俺の触手を斬った程の剣の腕、少しだけ憧れる)

ところで・・・話が変わるのですが、今話で暗殺教室の巻数の内、約半分の11巻に到達する事が出来ました!!

いやあ、ここまで続けられたのはホント読んでくれる方々のお陰です!!これで何時でも失踪出来ますね(おい)

これからも頑張って書いていくので、是非読んで下さい!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十一時間目 イケメンの時間

皆さんどうも籠野球です。

いよいよGWですね!!大した予定はありませんが(笑)

何話か投稿出来ればいいのですが、サボって書かないかもしれません・・・

まあ、出せたら読んで下さい!!

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

カララ・・・ぴしゃん「ん・・・」

 

 深夜2時・・・俺は玄関の扉が閉められた音で目を覚ました。気を遣われた、かなり小さい音だったけど、何日も続けば流石に分かる。

 

「・・・太陽だな、やっぱり」

 

華を起こさないよう部屋から出た俺は、玄関の1人だけない靴を見て、それの主の名前を呟いた。

 

(まさか1週間連続でやってるのかな・・・ホントに何やってるんだろう?)

 

1週間前・・・トイレに立った俺は、太陽が玄関から出ていったのが見えたのだ。でも、朝には太陽は何事もなかったかの様子で部屋から出てきたから気のせいかと思ったんだけど・・・

 

(3日前に気になって起きてみたら、やっぱり出かけていったし・・・一昨日も昨日も・・・)

「何やってるのか気になる「確かに気になるな」へ!?」

 

独り言を遮られて思わず振り返ると、そこには威月と眠そうに目を擦る登志の姿があった。

 

「2人共、気づいてたのか?」

「ああ、数日前にだけどな。登志は気づいてなかったけど、念の為に起こした。悪いな」

「んんー・・・大丈夫」

 

威月にそう返すと、登志は何とか目を覚まそうと自分で顔をペチペチと叩き始めた。登志は寝たら基本的に朝まで起きないからな・・・

 

「まさか、何か悪い事してるとか・・・」

「そりゃねえな。アイツがそんな事出来る性格かよ」

「確かに」

 

俺が言うのも何だが、あのクソ真面目な太陽だもんな。

 

「とりあえず、もう少し様子見てみようぜ。俺らにすら何も言わねえって事は、アイツも知られたくないんだろうしな」

「分かった、威月がそう言うなら従う」

「うん、僕も・・・ふわぁ」

 

威月の提案に、半分寝ぼけた登志と俺もとりあえず頷き、俺達は再び自分の部屋へと戻った。

 

 

 

威月side

 

「へー・・・アンタ達でも内緒事って結構あんだね」

「まあ、家族だからって、秘密がある訳じゃねえよ」

 

 翌日・・・意外そうにそう言う莉桜に、紅茶を飲みながら俺はそう返した。普通の家でも家族に内緒事位、あんだろうしな。

 

「つーか、威月。お前喫茶店に来れる金あったんだな」

「俺はあの3人と違って特に使う理由無いからな。たまに喫茶店に来る位には貯めてるよ」

 

前原の言う通り、今俺は渚・茅野・前原・片岡・岡島、そして莉桜と一緒に喫茶店に来ていた。とはいえ、俺はこんな所に用も無く来る気は無い。というのも・・・

 

「原田さんモカで伊藤さんエスプレッソWでしたよね。本日店長オススメでシフォンケーキありますけど、いかがですか?」

「あ、じゃあ2つ貰うわ。もー、コーヒーよりも悠馬ちゃん目当てでこの店来てるようなものよ」

「いやいや、そんな事言ったら店長グレちゃいますよ。店長ー、モカとエスプレW、それとシフォンケーキ2つお願いします」

 

今も慣れた手つきでオーダーを取るウエイター姿の磯貝を見に来たのだ。しっかし、様になってんなぁ。

 

「うーむ・・・イケメンだ」

「あぁ、一周回って殺意沸いてくるレベルだわ・・・」

 

余りのイケメンっぷりに、前原と岡島がそれぞれ呟いた。ま、気持ちは分かる。

 

(目上の人には礼儀正しく、友達には優しい。オマケに何でもそつなくこなすとか、ゲームの主人公かよ)

「お前ら粘るなぁ、紅茶1杯で」

 

内心苦笑していると、少し落ち着いたのか磯貝が頬を掻きながら苦笑いで近づいてきた。

 

「いーじゃねえか、バイトしてんの黙っててやってんだからよ」

「はいはい、ゆすられてやりますよ。紅茶出がらしだけど、サービスな」

((((イケメンだ!!))))

 

笑みを浮かべながら全員のカップに紅茶を注ぐ磯貝に、全員が心の中でツッコんだ。どんだけ良い奴なんだよ。

 

「お前って確か、バイト見つかってE組行きになったんだよな?」

「まあな。俺の母さんちょっと身体弱いから、ちょっとでも家計の助けになればと思ってさ」

「い、イケメンだ!!」

 

茅野が号泣する理由も分かるな。ある意味、俺達4人よりも苦労してるんだろう。

 

「悠馬、コーヒー運んでくれ!!」

「あ、はーい。じゃあ、ごゆっくり」

「・・・ホント、アイツの弱点って貧乏位だけどさ、それすらイケメンに見えてくんだよな」

 

前原の言う通り、アイツからは全然そんな雰囲気感じねえもんな。

 

「私服は激安店のを清潔に着こなしてるし、この前大賀と一緒に金魚料理食わせて貰ったし、料理も結構上手いんだよ」

「あぁ・・・だから大賀も本気で金魚料理1回作ろうか悩んでたんだな」

 

華が金魚飼ってるから道徳的にダメだろって言ったら、2度と作ろうとはしなかったが。

 

「後アイツがトイレ行った後よ、必ず紙が三角に畳んであんだよ」

「「イケメンだ!!」」

「さっすが磯貝だねー」

「あ、俺も畳んでるぜ。三角に」

「「汚らわしい!!」」

「岡島は無いわー」

「何でだよっ!?」

 

同じ行動してんのに、この反応の違い・・・人間としての問題だろうな。

 

「見ろよ、あのマダム達に可愛がられてるあの感じ、天性のマダムキラーだよな」

((((イケメンだ!!))))

「・・・僕も近所のおばさん達に玩具にされてるなぁ」

((((お前は少しはシャンとしろ、渚!!))))

「おまけにまだ、本校舎の女子からラブレター貰うみたいだぜ」

((((イケメンだ!!))))

「あ・・・私もまだ貰うなぁ・・・女子に「お姉さま」って呼ばれながら」

(それは完全にアウトだろ、片岡!?)

「(もぐもぐ・・・)イケメンにしか似合わない事はあるんですよ。磯貝君や先生みたいなね」

((((・・・何やってんだアンタは!?))))

 

突然会話に入ってきた、デザートを食べている殺せんせーに全員がツッコんだ。

 

「いやぁ、このハニートーストは絶品でしてね。これを食べる代わりに磯貝君のバイトにも目を瞑ってるんですよ」

「悪徳教師だな・・・まぁ、黙認してくれて、金もちゃんと払ってんなら俺らも何も言わねえけどさ」

「それはそうと皆さん、磯貝君があれだけイケメンだというのに。そこまで腹が立っている様子ではありませんね」

「え?そりゃ当然じゃん。アイツ単純に良い奴だもん。何で腹立つんだよ?」

 

きょとんとした様子で返す前原に全員が平然と頷いた。

 

「確かにあまりのイケメンっぷりにイラッとくる時はあるけどさ・・・」

「それでもアイツを嫌いになる理由にはならねえな。てか、E組の中で磯貝が嫌いなんて話、聞いた事ねえし」

「・・・そうですか」

 

悔しそうに言う岡島を引き継いだ俺の言葉に、殺せんせーは満足そうな笑みを浮かべながらそう言った。何だ?いきなり。

 

「あぁ、それと威月君。先程言っていた太陽君の事ですが、先生は少し心あたりがありますよ」

「!! マジっすか、教えてくれよ」

「えぇ。ですが、威月君の家族の秘密を他の方に聞かせる訳にはいかないので、こちらへ来てくれますか?」

 

その言葉に頷きながら横へと移ると、殺せんせーは俺の耳へと顔を近づけると、

 

「実はですね、2.3週間程前に・・・(ゴニョゴニョ)・・・」

「・・・!! ホントっすか?その話」

「えぇ。矢田さんと太陽君がそう話していましたよ」

 

殺せんせーは生徒のプライベートは良く見てる。そんな殺せんせーの情報なら間違いは無いだろう。

 

(太陽は自分の時は結構値が張りそうな物を貰ってたからな・・・もしかしたら、アイツ「おやおやおや~」あ?)

「情報通りバイトしてる生徒がいるじゃないか」

「いけないな~磯貝君」

 

その時、そんな小馬鹿にするような話し声が聞こえてきて顔を上げてみると、いつの間にか浅野を覗いた五英傑のメンバーが店の中へと入ってきていた。

 

「何だお前ら?わざわざ椚ヶ丘トップが噂ごときで確認たあ、随分と暇なんだな」

「1回目ならともかく、2回目だからね。君も、他人事では無い筈だ」

「浅野・・・」

 

コイツまでいるのか・・・厄介だな。

 

「これで二度目の重大校則違反。見損なったよ、磯貝君」

「う・・・」

「おい、ここには他の客もいんだ。別の場所に移す配慮くらいねえのかよ」

「学校内の話だ。それ位分かってるさ。店の外に出ようか」

「あ、あぁ・・・」

 

チッ・・・現行犯で誤魔化しが効かねえ以上、磯貝は従うしかねえな。

 

 

 

「・・・頼む、浅野。黙っててくれないか。今月いっぱいで、金は稼ぎ終わるんだ」

 

 金を払い、店を出た俺達の前では、磯貝がそう言いながら浅野に頭を下げていた。

 

「・・・ふむ、まあ出来れば僕もチャンスはあげたいな。そこまで僕も鬼ではないつもりだ」

(ケッ、そんだけ悪そうな顔しておきながら、よく言うぜ)

 

人の事は言えんが、コイツの悪巧みしてる顔は、理事長そっくりだからな・・・

 

「・・・なら1つ条件を出そう。闘志を示したら・・・今回は黙認してあげよう」

「闘志・・・?」

椚ヶ丘(うち)の校風は、"社会を出て()()()()を持つ者を何より尊ぶ"・・・だ。違反行為を帳消しに出来る程を闘志を持っている事を示す事が出来れば構わない」

「・・・んで、それはどうやって示せばいいんだ?」

「あぁ、それは―――」

 

 

 

「棒倒し・・・だと?」

「あぁ、来週の体育祭で行われる()()で、A組に勝ったら目を瞑るってよ」

 

 翌日の朝、皆が集まった所で、俺は昨日起こった事と出された条件を説明した。

 

「でもよ、E組ってそもそも球技大会同様にハブられてっから棒倒しもそもそも参加しねえじゃん」

「おまけにE組とA組の男子の人数は10人近く違う。とても公平な勝負とは思えないな」

 

木村も竹林も、渋い顔をしながらそう言った。・・・まあ、当然っちゃ当然か。

 

「あぁ、だから俺達から挑戦状を叩きつけたって事にしろってよ。それもまた、勇気ある行動として賞賛されるって」

「・・・けっ、俺らに赤っ恥かかそうって魂胆が見え見えじゃねーか」

「でも、どうするの?寺坂君の言う通りだけど、受けなきゃ磯貝君はペナルティ受ける訳だよね?」

「E組に落ちてる以上、下手すりゃ退学だな・・・」

 

登志や太陽の言う通りだな・・・クソッ、こっちが受けるしかない状況を既に作られてるからこそ厄介だ。

 

「すまねえな、磯貝。俺に現場にいたってのに・・・」

「・・・いや、バイトしてたのは俺なんだし、威月は悪くねえよ。それに、こんな無茶苦茶な条件、受けなくてもいいよ皆」

「は?」

 

今まで自分の席に座っていた磯貝は、そう俺に返すと、

 

「俺が播いた種だから俺が責任持つのが当然さ。大丈夫だって!!退学になっても、暗殺は校舎の外からでも狙えるしよ!!」

「「「「い、イケメ・・・」」」」

 

笑みを浮かべながらそう言いきった磯貝に全員がそう思・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて言うと思ったかボケ!!」

「全然イケてねーわ!!」

「自分に酔ってんじゃねーぞ、このアホ毛貧乏が!!」

「えぇ!?あ、アホ毛貧乏!?」

 

・・・う筈がなく、登志を除いた全員がブーイングをかましながら物を投げつけた。登志も優しいからやらないだけで、表情は完全に怒ってるしな。

 

「俺、難しい事はよく分かんねえけどさ、磯貝」

「え?」

 

一旦落ち着いた中、大賀がおもむろに磯貝へと近づき、

 

「要するに、正攻法でA組の連中をボコボコに出来るって事だよな?」

「大賀の言う通りだぜ、磯貝。難しく考える必要なんかねえよ」

 

そう言いながら、前原は対殺せんせー用ナイフを磯貝の机にドンと立て、

 

「A組のガリ勉共、棒倒しで倒しゃあいーんだろ?簡単じゃねーか」

「そうそう、寧ろバレて良かったじゃん」

「日頃の恨み、纏めて返すチャンスじゃねーか」

 

三村や寺坂がそう言いながらナイフを握り、

 

「あんな連中に俺らのチームワークが負ける筈ねえって」

「磯貝君がいないE組なんて、考えられないですよ」

「殺し屋にだって勝ってみせた俺達だぜ?ビビるこたぁないさ」

 

大賀・登志・太陽の順でそう言いながらナイフを握ったのを皮切りに俺を除いた男子全員がナイフに手を重ね、

 

「奴らのお高く止まった鼻っ柱、へし折ってやろうや。イケメン!!」

「威月・・・皆・・・よっし、やろう!!」

 

そう言いながら重ねた俺の言葉に覚悟を決めたのか、磯貝はそう言いながらナイフを手に取りながら立ち上がった。

 

「ヌルフフフ、日頃の行いですねぇ」

 

殺せんせーの言う通りだな。浅野は闘志が大事とか言ったし、それが間違ってるとは思わないけど・・・

 

(いざという時に助けてくれる友人や仲間、それを得る"人徳"こそが1番得がたく、重要な事なんじゃねえかな)

「・・・とはいえ、そう簡単にはいかねえだろうな」

「あぁ、このタイミングで言ってきた辺り、何か狙いがあるのかもしれねえな」

 

俺の呟きに、太陽が同意してきた。

 

(浅野だからな・・・何かしらの考えがあるのは間違いない筈だが・・・)

「・・・なら俺に任せろ。丁度良い物がある」

「えっ?」

 

そう考えていると、イトナはおもむろに鞄から何かを取り出した。

 

「・・・車のラジコン?」

「糸成2号だ。今回は偵察用に録音機を搭載してある。これを奴らのクラスまで行かせて、盗聴しよう」

「・・・まあ、今回は磯貝を助ける為だし、女子も今回は大目に見てくれ」

「・・・しょうがないね」

 

よし!!女子からも許可が出た事だし、いっちょやるか!!

 

 

 

・・・そんな風に呑気に構えていた俺達は、浅野の考えを聞いて凍りつく事になる―――




いかがだったでしょうか。

というわけで、体育祭開始前でした。一気に体育祭まで書いてもよかったのですが、中途半端になっちゃいそうで、やめました。

体育祭も原作ではかなり好きな場面なので、頑張って書いていこうと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十二時間目 体育祭の時間

皆さんどうも籠野球です。

申し訳ありません・・・色々あって完全にスランプに陥ってました・・・

ようやくスランプ脱出・・・って訳ではありませんが(笑)読んでくれる方々の為にも頑張っていきたいと思います!!

それでは、どうぞ!!


有希子side

 

 磯貝君の一件で男子の皆が1つになってから1週間経った今日、本校舎のグラウンドでは体育祭が予定通り行われていた。

 

「100メートル走は、A組・B組・C組・D組がリードを許す苦しい展開となっています!!我が校のエリート、頑張れ!!」

「うーむ、相変わらずのアウェイ感」

「E組を素直に応援する気持ちは無いのかねー」

 

2位以下の他の選手達に大差をつけている木村君に対してのそんな実況に、杉野君や中村さんがそれぞれ苦笑いをしながらそう言った。私達には本当に厳しいな、この学校は。

 

「ふぉおぉぉぉ!!格好いいですよ、木村君!!もっと笑いながら走って下さい!!」 パシャパシャ!!

「・・・ここに保護者以上に熱狂的に応援してくれている人がいますけどね」

 

木村君に対して夢中でシャッターを切り続ける殺せんせーを指差しながら、伊勢君は呟いた。でも、こんなに一生懸命応援してくれる人がいてくれるのは嬉しいな。

・・・親バカじゃなくて、先生バカだけど。

 

「ヌルフフフ、この学校の体育祭は観客席が近くていいですねぇ。目立つ事なく、生徒の晴れ舞台をカメラに収める事が出来ます」

「あ、うん。目立ってないかどうかで言えば、ギリギリだけどね」

 

渚君の言う通り、さっきから結構他のクラスの生徒や保護者の人達にチラチラ見られてるからな・・・今の所は何とか熱狂的な親だと思われてるんだろうけど。

 

「でもさ~烏間先生。木村君以外、今んとこトラック競技勝ててないね。桃花ちゃんも2位だったし、訓練でそれなりに自身ついてたんだけどな~」

 

そんな中、今まさにゴールした矢田さんを見ながら、陽菜乃ちゃんが呟いた。確かに、陸上部の人達には全く勝ててないなぁ。

 

「当然だ、訓練した所で100メートルが速くなる訳ではない。山道を100メートル走るならともかく、平坦な道を走るのには、やはり筋力と技術がものを言うからな」

 

なるほど・・・訓練も完璧じゃないって事かぁ。

 

「だが、しかし、訓練はどんな時に生きてくるかは分からないからな。思いがけない所で生きてくる事もあるだろう」

「フッ!!(バクゥ!!)」

「おぉ、凄え原!!足の遅さをカバーする正確無比なパン食いだ!!」

「・・・まあ、あんな風にな」

 

別のトラックで行われていたパン食い競争で、他が苦戦するパンを一発で取って見せた原さんに岡島君が興奮した様子でそう言った。・・・烏間先生はもの凄く不本意そうだけど。

 

「でも、まだパンを咥えたままだ!!あれじゃあ、ゴール出来ねえ「(シュッ!!ゴクン!!)飲み物よ、パンは」丸飲みしやがった!?」

「フゥ・・・訓練してるからか最近どれだけ食べてもお腹が空いて、パンなんて飲み物に等しいわ」

 

悠々とゴールテープを切る原さんの後ろ姿から、貫禄が滲み出てる・・・

 

「おい、あのチビやべえぞ!!」

「えっ?」

 

その時、そんな大声が聞こえてきて思わずそっちを見てみると・・・

 

「何でかアイツ、網抜けが滅茶苦茶速えぞ!!」

「身体に凹凸が少ないからだ!!」

「・・・」 スルスル・・・

 

障害物競走の網抜けを桁違いの速度で匍匐前進をしている茅野ちゃんに、別のクラスの生徒が驚愕の表情を浮かべながらそう言っていた。茅野ちゃん、もしE組の誰かが言ってたら許してなかっただろうな・・・

 

「あのような意外性は殺し屋ならです。各自の個性という武器を棒倒しにどう生かすかは、君次第ですよ。磯貝君」

「・・・はい!!」

 

殺せんせーにそう言われ、磯貝君は緊張した面持ちでそう言った。頑張ってね・・・皆。

 

「んー・・・あ!!次、大賀が走る番だよ!!」

「!!」

 

伊勢君のそんな声で、私も100メートル走のスタート地点に見てみると、大賀君が腕を軽く伸ばしてストレッチをしていた。

 

「グー・・・グー・・・」

「ほら、威月ー。起きてよ、大賀走るよ?」

「・・・あぁ?言ったろ、俺は棒倒しまで寝てるって」

 

伊勢君に起こされて、不機嫌になりながら水守君はそう返していた。

 

「てか、何で威月寝てんの?大賀や伊勢が出るんだったらアンタ応援しそうなのに」

「興味ねえよ」

 

中村さんの問いにも、水守君はバッサリそう言い捨てた。その様子に少しだけ全員が薄情と感じていると、

 

「ああ、悪い。言葉が足らなかったな。正確に言うなら、勝ちが決まってる勝負なんぞに興味はねえ」

「へ?」

「冷静に考えてみろよ。いくら相手が陸上部の連中だからって、大賀が負けると思うか?」

「「「「・・・」」」」

 

中学生離れした身体能力を持ち、スピード勝負で殺し屋に勝ってみせた大賀君・・・あれ?確かに負けると思えない・・・

 

「納得したろ?てわけで、応援はお前らに任すわ。俺は棒倒しの為に体力温存しとく」

「・・・ま、威月はE組の要だし、いいか。

・・・頑張れよー、大賀!!」

「そだね、私達だけで大賀達は応援しよっか。

・・・1位で帰ってきなー!!」

「・・・おー、任せろ!!」

 

そう言って再び寝始めた水守君に、前原君や中村さんは苦笑いを浮かべながらも納得して大賀君に声を張り上げ、大賀君は笑顔で手を振りながらそう返してきた。

 

「有希子も見ててくれよー!!俺、頑張るからさー!!」

「!! うん、頑張って!!」

 

満面の笑顔で私にそう言ってくれた大賀君に私も笑顔で返していると、その場にいたE組の皆や保護者の人達が微笑ましい物を見る目でそんな私達を見ていた。ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいかな。

 

「位置について・・・よーい」 パンッ!!

「な!?速・・・」

 

ピストルの音で一斉にスタートした各クラス代表の5人だったが、やはり陸上部の人達よりも大賀君の方が圧倒的に速かった。その余りの速さに、実況係の子も言葉を失う中、大賀君はそのままぶっちぎりでゴールテープへと駆け込んだ。

 

「(パァン!!)1位・・・E組。

・・・な、10秒98!?」

「速え・・・練習無しで10秒台って流石、大賀だな」

「っしゃあ!!」

 

実況係のそんな驚愕の結果発表に三村君が呟く中、私は嬉しそうにはしゃぐ大賀君に目を奪われていた。

 

(・・・スポーツには興味無いみたいだけど、やっぱりああやって楽しそうにしている大賀くんは格好いいな)

 

明るいのはいつも通りだけど、何ていうか・・・凄くいきいきとしているんだよね。

 

「ふむ・・・落ちこぼれのクラスにしては中々やるようだね」

「・・・げ、榊原」

 

すると、いきなりそんな声と中村さんの嫌そうな呟きが聞こえて振り返ると、確かに五英傑の榊原君がいた。

 

「しかし、本当に惜しい。こんな掃き溜めの中に、君の様な可憐な少女がいるなんて。どうだい、やはり僕の家に小間使いとして来ないかい?」

「は、はぁ・・・」

「神崎さんってホント男運無いね・・・」

「うん、大賀を見てるから尚更そう思う・・・」

 

そんな茅野ちゃんや渚君の呟きに榊原君は反応した。

 

「ん?・・・誰だい、大賀とは」

「・・・E組の生徒で、私がお付き合いしている人です」

「・・・なっ!?何故そんな馬鹿な事をしてるんだ!!」

「!! ・・・どういう意味ですか?」

 

無視できない言葉が聞こえてきて、思わず聞き返した私に、榊原君はさも当然といった顔で、

 

「当たり前だろう。君の様な素晴らしい女性が、わざわざ貧乏くじを引く必要なんて無い。E組なんかにいる男子に、ロクな奴はいない」

「・・・」

「何か弱味でも握られているのかい?ならば、僕が浅野君に特別に掛け合ってあげても構わな「いい加減にしてくれますか」・・・え?」

 

急に遮られた事で、榊原君は驚いた表情で私を見てきた。でも、私も我慢の限界だった。私はいくらでも悪口を言われても構わないけど、大切なE組の皆を・・・そして何よりも大賀君を侮辱されるのだけは、流石に許せない。

 

「大賀くんは、誰よりも私の事を大切に思ってくれる、決して貧乏くじなんかじゃない素晴らしい人です。それを貴方なんかに侮辱されて心外です」

「な・・・」

「大賀くんは、私の上辺だけを見ずに、弱さすらも全て受け入れてくれました。貴方みたいに、私達の上辺だけしか見ていない人に心配されても不愉快でしかありません」

 

言い返される事に慣れていないのか、榊原君は言葉を失っていた。お父さんみたいに今まで反撃された事が無いんだろうな・・・と思ったその時だった。

 

「・・・? どうかしたのか?有希子」

 

 

 

登志side

 

 神崎さんと榊原君が言い合う中、100メートル走を走り終わって僕達の陣地に戻ってきた大賀が、キョトンとした顔をしながら声をかけた。

 

「大賀くん」

「! 君が・・・」

 

神崎さんが名前を呼んだ事で、榊原君は大賀だと気づいたみたいだった。

 

「ちょっといいかな、君が彼女と付き合ってるというのは本当かい?」

「え?おう。まあ、俺には勿体ないって今でも思うけどな。アハハ・・・」

 

そんな照れ笑いを浮かべながらの大賀の即答の返しに、榊原君グッと一瞬言葉に詰まっていたがすぐに持ち直すと、

 

「さっき100メートルを走っていた辺り、君は運動が得意なのか?」

「んー・・・得意なのかは分かんないけど、体動かすのは好きだな」

「・・・なら、僕と賭けをしないか?」

「賭け?」

 

そんな事を言われ、頭に?を浮かべる大賀に畳みかける様に続けた。

 

「この後に行われる棒倒し、君達E組が負けたら君は彼女と別れる。その代わり、僕達A組が負けたら僕はもう2度と口を挟まない」

「・・・へ?」

「なっ・・・」

 

いきなりの爆弾発言に、大賀が再びキョトンとなり、僕は言葉を失った。そんな僕達の代わりに、前原君が異議を唱えた。

 

「待てよ!!何でお前にそんな事決められなきゃいけねえんだよ!?大賀と神崎が付き合おうがお前には関係ねえだろうが!!」

「これは彼と僕の問題だ。君こそ口を挟まないで欲しいね。

・・・僕は君が彼に相応しいとは思えない。僕が彼女を救ってみせる」

(・・・言っちゃ悪いけど、A組の人って実は僕達よりも頭悪いんじゃ・・・)

 

どうやら榊原君の中では、大賀が無理矢理神崎さんとお付き合いしてるっていうのは変わらないらしい。その証拠に目が真剣だもんね・・・

 

「・・・」

「どうだい?別に受けなくても構わないけど、もし君が本当に彼女の事を大切に思っているのなら受けると思うけどね」

 

得意げな顔でそう言った榊原君に、無言で考えていた大賀が口を開いた。

 

「えっと・・・悪いんだけど、それは受けられないわ」

「「「「・・・えっ!?」」」」

 

大賀なら受けると思っていたのか、僕や神崎さん以外のE組の殆どが驚きの表情を浮かべた。

 

「フッ、やはり君の覚悟はその程度という事か。彼女を守ろうという気すらないとはな」

「あ、いや・・・勿論その覚悟はあるんだけどさ・・・」

 

榊原君の挑発じみた言葉に、大賀頬をポリポリと掻くと・・・

 

 

 

「その・・・俺は彼女を賭けの対象にする事は出来ない」

「・・・えっ?」

 

さっきの榊原君位、真剣な表情で大賀は言いきった。その言葉に、榊原君やE組の皆がキョトンとなる中、

 

「こういう時、彼女を賭けて勝負ってのは良くあるけどさ・・・ホントに彼女が大切なら、そんな事出来ないんじゃないかって俺は思うんだ。彼女を自分が満足する為の道具みたいな扱いしちゃったら、それは彼氏失格なんじゃねえのかな」

(・・・大賀らしい考えだな)

「だから、俺はその賭けは受けられない。

・・・俺のこの考えが間違ってるなら負けを認めるし謝るわ、ゴメン。でも有希子の事を大切に思ってるのは嘘じゃないから」

 

そう言った後ペコリと頭を下げた大賀に、僕は心からそう思った。大賀みたいに彼女さんの為に頭を下げる方が、誰よりも大切にしてないと出来ない筈だよね。

 

「・・・・・なるほど、すまない。さっきの話は忘れてくれ」

 

言葉を失っていた榊原君はそう大賀に言った後、神崎さんに向き直り、

 

「さっきはすまなかった。もう2度とこんな事は言わない。

・・・良い彼氏だ。E組にもこんな男がいるんだな」

 

そう頭を下げながら言った後、榊原君は去っていった。

 

「・・・え?あれ?・・・いいのかな?俺負けたのに・・・(ギュウ)・・・?どうしたんだ?有希子」

「ううん、何も。ただ、こうしたくなったの」

(うわぁ、神崎さんすっごく嬉しそうな顔)

 

不思議そうに呟く大賀の腕を抱えた神崎さんは満面の笑みを浮かべていた。まあ、彼氏が自分の事をどれだけ想ってくれてるか知ったら嬉しくもなるよね。

 

「くそ・・・大賀の野郎見せつけやがって・・・」

「いや・・・あれは大賀にしか無理だろ。岡島では不可能だ」

「・・・言い返せねえ」

(大賀ほど優しい人なんてそうはいないからなぁ「借り物競走に出場される生徒は準備エリアにお願いします!!」・・・あ、僕の番だ)

 

そんなアナウンスを聞こえてきて、僕は準備エリアへと向かった。えっと・・・確かE組から出場するのは僕と・・・

 

「ん、伊勢か」

「イトナ君」

 

そっか、イトナ君だっけ。

 

「頑張ろうね、イトナ君」

「あぁ」

「「・・・」」

 

うーん・・・イトナ君って結構無口だから会話が弾まないな・・・ちょっとだけ気まずい。

 

「・・・お前は」

「え?」

「確か飛天御剣流という流派の使い手だったか?俺の触手を斬った剣術は」

「う、まあね」

 

思わずギクリとなってしまった。いくら当時は敵だったとはいえ、今となってはクラスメイトを斬っちゃったんだもんな・・・

 

「ご、ゴメン。そういえば僕ちゃんと謝ってなかったね」

「? 別に気にしてはいない。あの時はあのタコを殺す事しか考えてなかったしな。それに、俺もお前を弾き飛ばしたからな。お互い様だ」

「そっか、ありがとう。

・・・でも、だからって負けないよ」

「あぁ、勿論だ。手を抜くなよ」

「次のレースの方、準備して下さい!!」

 

イトナ君がフッと笑いながらそう言ったその時、スタートの係の人に呼ばれた。よーし、頑張るぞ!!

 

「位置について・・・よーい」 パンッ!!

 

お馴染みの号令と共に鳴ったピストルの音を合図に僕達や本校舎の人達は一斉に走り始めた。借り物競走だけは参加者全員が一斉にスタートするんだよね。

 

「んー・・・これだ!!(パシィ)えーっと、何だろう・・・」

 

1番最初にお題の紙が落ちている場所に着いた僕は、迷いつつも1枚を手に取った。

 

「(パラッ)・・・え?随分ざっくりとしたお題だなぁ・・・こんなの係の人のさじ加減じゃあ・・・」

 

とはいえ、イトナ君や他の人はすぐに行っちゃったし、僕も急がないと。うーん・・・

 

「・・・やっぱりあの人かな」

 

 

 

桃花side

 

「・・・あ、イトナ君がこっちに向かってくるよ」

 

 渚君がイトナ君を指差しながらそう言った。借り物競走だし、誰かに借りにきたのかな。

 

「おいビッチ。お前に用があるから来てくれ」

「あら、私を選ぶなんてアンタも結構見る目あるわね~」

「いいから来い、さっさと行くぞ」

「あん、強引なんだからぁ」

 

語尾にハートマークが付きそうな位の感じで、ビッチ先生はイトナ君に引っ張られていった。ビッチ先生が必要なんてどんなお題だったんだろう?

 

「・・・ん?伊勢もこっちに来るぜ」

(ホントだ。伊勢君、1番最初にお題見たのに何か戸惑ってたもんな)

 

前原君が言った通り、伊勢君は私達の元へとやってきた。そのまま伊勢君はキョロキョロと辺りを見渡し、私と目が合った。

 

「すみません、矢田さん。僕と一緒に来てくれませんか?」

「え、私?」

「はい、矢田さんが1番似合いそうなんです」

 

似合いそう?

 

「とにかく来て下さい!!ちょっと遅れちゃったけど、まだ1位になれるかも分かんないんで!!」

「(ぐいっ)うわっ!!」

 

伊勢君は座っていた私を片手で立たせて、そのまま走り始めた。

 

タタタッ (祭りの時も思ったけど、私よりも背が低いのに伊勢くんって結構力あるんだな・・・)

 

私の手を掴んだまま走る伊勢君の横顔をチラリと見ながら私はそう思った。やっぱり伊勢君も男の子なんだな・・・

 

「ハァ・・・ハァ・・・何とか間に合った」

 

ふぅ・・・イトナ君以外はまだ来てないみたい。

 

「・・・あ!?ご、ごめんなさい!!僕、矢田さんの腕掴んだまま走っちゃって・・・」

「アハハ、いいよ。気にしないで「ちょっとどういう事よ!!」・・・へ?」

 

と、その時ゴールの借り物を確認する場所でビッチ先生が騒いでいた。確認係の生徒も困ってるし、どうしたんだろ?

 

「えっと・・・」

「何よこのお題!!"賞味期限が近い物"で何で私なのよ!!」

「女盛りなんてすぐに終わる。お前はもう終わりに向かう一方だ」

「何ですって!?」

(そりゃあ、ビッチ先生も怒るよ・・・イトナ君)

「伊勢くん、まさか私も酷いお題じゃないよね・・・?」

「そんな酷いお題じゃ無いとは思ってるんですけど・・・すいません、お願いします」

「あぁ、はい。

・・・えっと、その人でいいんですね?ではコレを」

 

ギャーギャーイトナ君に噛みつくビッチ先生を横目に、伊勢君はお題の書かれた紙を差し出した。係の人はそんな伊勢君が差し出したお題が書かれた紙と私を見比べると、何かを手渡してきた。赤と黒のチェックのそれは・・・

 

「リボン?え、伊勢くん、お題って何だったの?」

「あ、コレです」

「・・・"リボンが似合いそうな人"?」

「はい。矢田さんみたいな髪が長くて綺麗な人なら絶対似合うかなって思ったんです。

・・・迷惑でしたか?」

「あ、ううん、そんな事ないよ。ちょっと待っててね」

(褒めてくれたのは素直に嬉しいし)

 

不安そうな伊勢君に笑い返しながら、私はヘアゴムを取って変わりにリボンを結びつけた。んー・・・結構難しい・・・

 

(・・・よし、出来た)

「・・・どうかな?変じゃない?」

「・・・・・」

「伊勢くん?」

「あ!!えっと・・・その・・・凄く綺麗で、思わず見とれちゃいました・・・」

「そ、そっか・・・ありがとう」

 

うぅ・・・伊勢君って正直に言ってくれるから嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。顔赤くなってるかも・・・

 

「コホン・・・えっと、どうですか?」

「はい、1位ゴールおめでとうございます!!」

「やった!!ありがとうございます、矢田さん」

「うん、良かったね。あ、コレ返します」

 

解こうとした私を、係の人は止めた。

 

「あ、それは貴方が貰って構いません。捨てるなり使うなり、お好きにどうぞ」

「へ?そうなんですか・・・じゃあ、貰っておきます」

「全く・・・お前のせいで伊勢に負けた。それでも大人か」

「うっさいわね!!アンタこそ、もう少し年上の女を大事にしなさいよ!!」

 

・・・まだやってるよ、あの2人・・・何か徐々に注目され始めちゃってるし。

 

「いい加減落ち着いて下さいよ、2人共。何の為にイトナ君をこんな目立たない競技に参加させてると思ってるんですか・・・」

「そうだよ、男子の皆はこれからが本ば「うおおおっ!!」 !!」

 

 

本番なんですから、そう言おうとした私の言葉は空気が震える程の歓声にかき消された。確かあっちでは、綱引きが行われてた筈・・・

 

「!! 実際に見てみると、本当に大きいですね・・・」

「ホントに中学生なの・・・?」

「つ、強いぞA組!!偶然、研修留学に来ていた外国の友人達の独壇場だぁ!!」

 

そこには、明らかにA組の生徒達よりも大きい外国人が4人立っていた―――

 

 

 

登志side

 

『・・・』『・・・』

「コイツらどこの国の奴らだ?最初の奴は英語だけど、他の3人は何語かも分かんねえ・・・」

 

 盗聴器付きのラジコンから聞こえてきたのは浅野君が何やら外国語でやりとりをしている音だった。そんな前原君の疑問に、威月が答えた。

 

「フランス語に韓国語に、コレはポルトガル語・・・ブラジル辺りだな。全員軽い挨拶程度の会話だよ」

「サンキュー、威月。

・・・にしても、4ヶ国語操って外人の助っ人呼べる辺り、相変わらずスペック化け物だな、浅野は」

 

太陽の言う通りだ・・・威月も通訳は出来るけど、外国人の知り合いなんていないだろうし。

 

・・・年齢を誤魔化せばまだ呼べるけど、それ位のルールは守るさ

「ケッ、よく言うぜ。アメフトやバスケのエースに、レスリングや格闘技の選手呼ぶ辺り分かりやすいな」

 

浅野君のそんな言葉に、威月が毒づいた。まず助っ人を、しかも運動神経抜群で身体も日本人よりも大きい外国人を呼んだ時点で何か企んでるよね・・・

 

「さて、皆。僕はこの棒倒し、勝つのが目的じゃない。助っ人を入れれば倍近くの人数、棒を倒すのは何時でも出来るからね。なら何故、僕はこの勝負を選んだか・・・僕はね、()()を機にE組の皆に反省してほしいんだ」

(反省・・・?)

これだけ注意しているにも関わらず、未だに校則違反を繰り返す者がまだいる。とはいえ、いくら素行不良な彼らでも見捨てるのは流石に気の毒だ。だから棒倒しを通してしっかり反省してもらおうと思っている。勿論、棒倒しのルールに則って正々堂々とね。それに、君達の期末テストの借りを返しておきたいという気持ちも分からなくはないからね

「ふん、相変わらず口が上手え野郎だ」

「清々しい位、分かりやすいな。つまり"中間テストに影響ある位に俺達を合法的に痛めつける"それが奴の狙いか」

 

とはいえ、磯貝君の退学がかかっている以上、受けないって選択肢は僕達にはない・・・

 

「「「「・・・」」」」

「そんな不安そうな顔する必要はねえよ、お前ら」

「そーそ、敵さんの狙いが分かったってのは有利だよ」

「威月やカルマの言う通りだ。俺らを潰す事が目的のエリート共の鼻っ柱へし折ってやる」

 

 

 

(太陽は自信満々だったけど、本当に大丈夫なのかな・・・?いや、確かに僕も負ける気は無いけどさ)

「・・・」

「大丈夫?磯貝君」

 

 かなり不安そうだな・・・大丈夫かな?

 

「あぁ・・・今更だけどさ、俺じゃ浅野には遠く及ばない。そんな俺なんかの為に皆が傷付いたらって思ったら・・・な」

「磯貝君・・・」

 

マズいな・・・女子の皆もかなり心配そうになってるし、何て声をかければ・・・

 

「(ポコン)いてっ!?」

「今更、何気後れしてんだよ。磯貝」

「たーくん、華ちゃん!!」

 

その時、華を抱っこしながら、手刀を頭に軽く振り下ろした太陽が笑いながらそう言った。

 

「こんにちは、ひなのおねえちゃん!!」

「遅くなってごめんなさい、華ちゃんの準備に手間取って太陽君にも迷惑をかけちゃって」

「気にしないでいいっすよ、岬さん。俺が迎えに行くって言ったんですから。棒倒しの間、華を任していいんだよな?女子の皆」

「うん、任して!!たーくん」

 

太陽は個人競技参加しないから、見てみたいって言った華を迎えに行く係になってくれていたのだ。この学校、結構複雑だからなぁ。

 

「磯貝、お前が自分に自信もてねえのかもしれねえが、俺は浅野がお前だったら手伝ってなんかない。俺達は、あくまでお前だから協力するんだ」

「太陽・・・」

「その通りですよ、磯貝君」

 

すると、殺せんせーが磯貝君に鉢巻きを結びつけながら続けた。

 

「確かに一言で言えば"傑物"の彼に勝つのは容易では無いです。ですが、皆を率いて戦う力、その1点において、君は浅野君を遙かに凌駕しています。ピンチに助けてくれる仲間がいる、先生はそんな君の担任な事が何よりも誇らしいです」

「殺せんせー・・・」

「すー・・・すー・・・「起きろ、威月。出番だ」・・・ようやくか、待ちわびたぜ」

 

太陽に声に反応して、威月は獰猛な笑みを浮かべながら立ち上がった。そんなやる気満々の僕達に、磯貝君は1度だけ深呼吸すると、

 

「よっし、皆!!いつも通り、殺る気で行くぞ!!」

「「「「おう!!」」」」

 

いつも通りの明るい表情を浮かべながら号令をかけたのだった。

 

 

 

太陽side

 

「只今より、E組対A組の棒倒しを始めます!!ルールは相手側の棒を先に倒した方の勝利となります!!また、相手を掴むのはいいが、殴る蹴るは原則禁止!!武器の使用も当然禁止です!!例外として、棒を支える者が足で追い払うのや、腕や肩を使ってのタックルはOKとします!!」

(まぁ、ここら辺は予想通りだな)

「なお、チームの区別をハッキリする為、A組は帽子と長袖を着用します!!」

(・・・どう見ても帽子じゃ無くてヘッドギアだな)

 

 ま、今更そんな程度じゃ驚かねえよ。実況のそんなアナウンスにそう思っていると、陣地から可愛らしい応援が聞こえてきた。

 

「おにーちゃん!!みんなー!!がんばれー!!」

「・・・さっきから気になってんだが、誰だあのガキ?」

「華だ。口のきき方に気をつけろ、寺坂。次、俺ら「ひまわり」の妹をガキ呼ばわりしたら許さねえから」

「お、おう」

 

これからだってのに、怪我人増やすなよ威月・・・

 

(とはいえ、華の前で格好悪いとこ見せる訳にはいかねえな)

「とりあえず作戦通りで良いんだよな?磯貝」

「おう、頼む!!」

 

リーダーの磯貝の指示で、俺達はある形を組み始めた。全員で棒を囲むそれは・・・

 

「な、何だE組・・・攻める者が1人もいないぞ!?」

―――E組初期陣形―――完全防御形態!!

(さあて、始めるか!!)

 

そんな驚いた様子の実況を聞きながら、俺は浅野をジッと見据えた。




いかがだったでしょうか。

大賀ならこう言うんだろうなって想像はずっとありました(笑)

あ、それとリボンの流れは単純な作者の好みです(笑)現実にはあんまり見ないですけど、髪の毛リボンで止めてる女性の方って好きなんですよね(笑)

次回はいよいよ棒倒しです。果たして4人を含めたE組はどんな戦いを見せるのでしょうか・・・

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十三時間目 棒倒しの時間

皆さんどうも籠野球です。

あー、きっつい・・・最近仕事が滅茶苦茶忙しくて作者のメンタル低下により、投稿ペースが上がりません・・・

とはいえ、決して投稿を止めようとは思っていないので、是非気長に待っていて下さい!!

・・・そんなに、良い作品でも無いとは思いますが(笑)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「E組から挑戦状を叩きつけたこの勝負!!何とE組の最初の陣形は完全防御!!A組との戦力差に今更ビビったのか!?」

(・・・流石に、油断して攻めてきたりはしないな。ま、そこまで甘い相手じゃねえか)

 

 とはいえ、様子見はしてくるだろう。恐らく、誰か1人切り札カード切って確実に潰しにくるな。

 

SHU(シュ)~~~・・・

「・・・何だ、あの筋肉まみれの化けモンは・・・あれで中学生か?」

「さっき華と岬さん迎えに行く時見えたんだけど、アイツ弁当食う時変な薬も食ってたぞ」

「・・・それはドーピングなんじゃねえのか?」

 

予想通り、向かってくる相手の攻撃部隊には筋肉質のやたらデカイ男が1人混じっていた。てか、威月の言う通りだよな・・・アイツスポーツ選手だろ?

 

「A組が少数の精鋭でE組の陣地へと迫る!!こんな棒倒しは見た事が無いぞ!?」

(だろうな、俺だって見た事ねえよ)

『・・・』

「? 悪い、威月。何て言ってんだ?英語だけど、聞いた事ねえ単語だから分かんねえ」

 

言葉の意味が分からなかったのか、前原が聞いていた。いや・・・これは聞かねえ方がいいんじゃ・・・

 

「んー・・・まあいいか。そのまんま伝えると、「お前らの様な、脆い民族共に俺が負ける筈が無い。何なら全員で来ても構わんぞ」・・・だってよ」

「んだと、コラァ!!」

「舐めんじゃねえぞ、クソ外人!!」

「ちょ!?待て、吉田、村松!!」

 

その挑発に分かりやすく乗ってしまった2人が、磯貝の制止も聞かずに飛び出した。当然、そんな2人を男が見逃す訳無く・・・

 

GUO(ぐお)ooooo!!

「「ぐあっ(ガハッ)!!」

「ふ、2人纏めて観客席へと吹っ飛ばされたー!?何て破壊力だ!!」

「チッ・・・流石にあの筋肉は伊達じゃねえな。E組の中でも身体能力は上位の2人のあっさり倒しやがった」

「ほ、本当に大丈夫なのか?太陽・・・」

「心配すんな、磯貝。まずは俺ら4人に任せろ」

(確かに奴の攻撃力は桁違いだ。

・・・だからこそ、それを潰されたら脆くなる)

 

そう考えている最中も、男はコキコキと首を鳴らしながら近づき、再び挑発してきた。

 

『フン、やはりこの程度か。亀みたいに集まってないで、攻めてきたらどうだ?

・・・とは言っても伝わらんか『いいんだよ、別に』・・・ん?』

 

流石カルマだな。英語で男に返してやがる。返されるとは思ってなかったのか、男は目を丸くしていた。

 

『アイツらはE組(うち)の中じゃ最弱だし~、あの2人倒しただけじゃ大した事無いね~』

『・・・ほう、クズの集まりと聞いていたが、標準語を使える奴もいるみたいだな』

『・・・それともう1つ。アンタはデカイ国に住んでる割には、随分と視野が狭いぜ。何せ目の前にいるアンタを超える男にも気づけないんだからな』

『? どういう意味「・・・」・・・!!』

 

俺の言葉に聞き返そうとした男の言葉は、無言で肩を回す威月が前に出た事で止まった。

 

「球技大会じゃ全く出番無かったからな。ようやく暴れられる」

「頼むぞ、威月。ここがお前が勝つかどうかで、作戦が大きく変わっちまう」

「あぁ、任せろ」

 

威月は振り返らずに俺にそう返すと、人差し指をクイッと曲げながら男同様に挑発してみせた。

 

「な、何とE組。たった1人であのタックルを受け止める気か!?先程の惨劇を目の当たりして何故に挑むのか!!」

『来いや、筋肉バカ。力勝負がお好みなんだろ?』

『・・・ほう、良い度胸だ(チラリ)』

『・・・好きにしろ、ケヴィン。奴らに力の差というものを教えてやれ』 クイッ

 

ケヴィンと呼ばれた男は、浅野が出した許可に頷くと、

 

『死ねえ、愚かな民族!!』

 

そう咆吼を上げながら威月へと突進した―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うおおおぉぉぉ!!」 

「何っ!?」

 

しかし、そんな突進を同じく咆吼を上げながら威月は真っ正面から受け止めてみせた。地面を削りながらも、がっぷり四つで組むその光景に浅野も目を見開く中、実況係も衝撃を受けた様子の声が聞こえてきた。

 

「と、止めたぁ!?何とE組、たった1人でタックルを止めてみせました!!」

『ば、バカな!?俺を1人で止めるだと・・・!!』

「流石だぜ、威月!!

・・・磯貝!!」

「あぁ!!作戦通り、行くぞ!!」

 

そんな磯貝の合図で、俺・大賀・登志が呆然としているA組の他の連中の後ろへと素早く回り込み、

 

「威月!!」

「おう!!『おい、ケヴィンとやら。確かに日本には、お前らアメリカのプロレスみたいな派手な格闘技は無い。

・・・だがな、日本には日本の、誇るべき柔道って武術があんだよ!!』

『うおっ!!』

 

そう言いながら威月は男の腕を取ると、そのまま背負い投げの体勢に入った。そんなとんでもない状況に致命的な隙が生まれた。

 

『け、ケヴィンはん!!大丈夫「お前A組のくせに英語訛ってんぞ。気をつけろ」・・・え、おわっ!!」

「えいっ!!」「いっ!?」

「おりゃぁ!!」「げっ!!」

 

その一瞬の隙を突き、俺達3人は五英傑の1人を含めた残りの攻撃部隊全員をE組の方へと突き飛ばした。

 

「皆、今だ!!"触手"!!」

 

俺達4人によってE組の棒付近に攻撃部隊全員が集まったその瞬間、磯貝の指示で棒を支える数人を除いて全員が上に跳んだ。奴らもその光景に慌てて避けようとはしていたがケヴィンは投げ飛ばされて身動き取れないし、他の連中は突き飛ばされていたので当然動ける訳無く、

 

―――E組陣形―――触手絡み!!

『(ドスッ!!)ごふっ!!』

「おりゃっ!!」 ズンッ!!

「何と!?E組、上から全員で押さえ込むと、更に棒をわざと半分倒し、その重みでガッチリ固めました!!」

(フー・・・棒を使っちゃいけないってルールは無いからな)

 

アレなら流石に抜け出すのは無理だろう。何とか上手くいったな。

 

「よし、完璧だ!!威月もありがとう!!」

「気にすんなよ、リーダー。大将は勝つ事だけ考えな、勝たすのが俺達の仕事だからよ」

『け、ケヴィンはん!!何とかしてくれやす、全く動けへん』

『じゃあ、まずテメーがどけ!!重いし訛りも腹立つんだよ!!』

(・・・つっても浅野の野郎、やられた時は焦ってたみたいだが、今は冷静になってやがんな)

 

まあ、A組の被害は5人だけなのに対し、俺らは押さえ込むのに7人に吉田と村松を合わせて9人使っちまってるから、普通に考えたら不利になってるだけだしな。

 

指示(コマンド)K、両翼に広がれ!!」

「おっと、A組の攻撃部隊が浅野君の指示ですかさず援軍に向かう!!果たしてE組はどうするのか!!」

「来たぜ!!どうすんだ、磯貝!?」

「・・・敵の真ん中は空いてる。よし、こっちも出よう!!作戦は"粘液"!!」

「「「「おう!!」」」」

 

そんな磯貝の指示でE組の攻撃部隊(太陽()・大賀・カルマ・磯貝・前原・木村・杉野・岡島)が敵の中央を走り抜けようとした。

 

(磯貝の読みは確かだし、俺でもそうする。

・・・だが、アイツなら)

クルッ 「あっと、それを見たA組攻撃部隊が棒の守備へと戻る!!」

「げっ!?攻撃はフェイクかよ!?」

「あの野郎・・・やっぱり孤立した俺達を先に潰しに来やがったな!!」

『『・・・』』 ボキボキ

 

・・・包囲網の先にはレスリングと格闘技の2人を配置か・・・完璧だな。

 

(アイツにとって、これは詰め将棋みたいな物だからな。普通にやったら確実に負ける勝負・・・なら、その普通をぶち壊すだけだな)

「皆!!」

ダダダッ!! 「・・・おや?E組の攻撃部隊が急に方向転換・・・って」

 

実況が言葉が失うのも無理はない。何故なら俺達は磯貝の合図で観客席へと一直線に向かっているからだ。

 

「な、何でお前らこっちに(ドカッ!!)ふぼっ!?」

「ご、ゴメン。これも作戦なんだ」

「(ガタッ)場外使っちゃいけないってルールは無い。来なよ、こっからは全てが戦場だからさ」

 

大賀が吹き飛ばされた本校舎の奴に謝る中、カルマがそう言いながらA組の連中に手招きした事で、外人2人が真っ先に向かって来た。

 

―――E組陣形―――粘液地獄!!

「い、いきなりの観客席での戦いが始まった!!観客席に逃げ込んだE組を追いかけてA組までも混じり、観客席はパニックになっています!!」

「このっ・・・」

「へ!遅えぜ!!」

「よっと!!」

 

いくら人数で負けてても、椅子と観客を上手く使えばE組の中でも身体能力で上位に入る俺達8人は簡単には捕まえられねえよ。その証拠にさっきからA組の連中、苦戦しまくってるしな。

 

『―――!!』

「フッ!!悪いね、威月じゃねえから英語以外は分かんねえんだ」

(・・・とはいえ、裏を返せばE組の主力の殆どが今こうして身動き取れねえ状況なんだよな)

 

フランス人の掴もうとする腕を躱しながら心の中でそう唱えた。こっからは、磯貝と浅野、それぞれの判断力の勝負だな。

 

「橋爪!!田中!!横川!!無理に深追いするな!!飛び出した奴を確実に仕留めろ!!

・・・赤羽、磯貝、木村、神木には特に注意!!九澄には常に2、3人張り付いて動きから目を離すな!!」

(チッ・・・体育祭で俺達の身体能力を完璧に把握してやがるな)

 

棒倒しでは、先端に飛びつかれると大きくバランスを崩してしまうからな。岡島や杉野、前原にはそれが出来ないって判断したんだろう。

 

(後もう少し時間を稼げれば・・・急いでくれよ・・・!!)

「おわっ!!やべえ!?」

「!? 岡島!!」

 

その時、岡島が1人に腕を捕まれていた。あのまま放っといたら、すぐに囲まれてやられちまうだろう。

 

「手ぇ放しやがれ!!」

「ぐはっ!!」

 

俺はすぐさま岡島の腕を掴んでいた奴にタックルをして、ふりほどく事に成功した。・・・が、

 

ガシッ (!! しまった・・・)

「おにーちゃん!!」

「たーくん!!」

 

 

一瞬の隙を突かれて、俺がブラジル人の奴に掴まれてしまった。チッ・・・振り解くのは無理か!!

 

ニヤリ・・・ 『―――「おらぁ!!」(ドゴッ!!)!!」

 

その時、威月が気合の共にラリアット気味に放ったタックルを喰らって、男は吹っ飛ばされた。

 

「助かったぜ、威月」

「ったく、このバカ!!助けに行くなら、自分の安全を考えてから行けや!!」

『・・・』

 

おっと、ブラジルの野郎、かなりキレてんな。まあ、いきなり殴られたら当然か。

 

『・・・』

(フランス人も来た・・・俺1人なら逃げるが、威月もいる今なら・・・)

「・・・威月、奴らに通訳してくれよ。お前らの相手は、俺達がしてやるってな」

「大丈夫か?いくらお前でも、パワーじゃコイツらには勝てねえだろ」

「ああ、でもやらせてくれ。やられっぱなしは癪だし、何より・・・」

 

言いながら俺はチラリとE組の方を見た。そこには心底ホッとした様子の陽菜乃や岬さん、泣きそうな顔の華が見えた。

 

(あんな顔させちまって情けねえ・・・E組として、1人の男しても負けられねえ!!)

「ハァ・・・分かりやすいな。その顔見て理由がすぐ分かったよ。なら死んでも勝つぞ」

「おう!!」

 

とか言いつつ、威月も乗り気じゃねえか。さっきから笑みを浮かべてやがる。

 

『・・・』

『『・・・!!』』

「かかったな。フランスの野郎は俺が相手すっから、お前はもう1人頼んだぞ」

「サンキュ・・・うおっと!!」

 

そう返そうとした俺の言葉を遮りながら伸ばされた手を、俺はバックステップで躱した。てか、凄え青筋立ててやがる!?

 

「ちょっ!!威月、お前いったい何言いやがった!?」

「ん?ちょっとばかし挑発してやっただけだ。どうせ負ける気無いんだからいいだろ?」

「こ、この野郎・・・自分はパワーで勝てるからって・・・」

 

つっても、他のA組の連中も怖くて入れないみたいだし、タイマンでなら・・・!!

 

 

 

威月side

 

『はあぁぁぁ!!』

「らあぁぁぁ!!」

 

 お互い咆吼を上げながら、俺はさっきと同じく真っ正面から組み合った。

 

(レスリングは組み技や寝技の達人・・・だが、それは柔道だって変わらねえ!!)

『ぐっ・・・何て体格だ。浅野以外にも、こんな強者がいるのか・・・!!』

(チッ・・・力は互角か・・・少しでも力緩めた方が負けだな・・・!!)

 

膠着状態の中、俺はチラリと太陽を見た。多分、4人の中でも格闘技を扱うブラジルの野郎が1番強い筈だからな。

 

『くたばれ!!』

「・・・」

 

おぉ、流石だな。太陽の奴、あの連打を余裕で捌いてやがる。不意打ちされなきゃ、アイツは簡単には倒せんな。

 

『うざってえ・・・死ねやぁ!!』

「っ!!」

 

そんな太陽に痺れを切らした野郎は、太陽を地面に押し倒そうとラリアット気味に腕を直撃させ、それを喰らった太陽は後ろへと倒れ・・・

 

 

 

 

 

『(ダンッ!!)・・・え』

「フー・・・」

 

しかし次に見えたのは、太陽が奴に腕ひしぎをしながら押さえ込む姿だった。は、速すぎんだろ・・・全く見えなかったぞ。

 

『な・・・どういう事だ・・・』

(!! 力が緩んだ、ここだ!!)

「はあぁぁぁ!!」

『! しまっ・・・』 

 

 

その隙を見逃さすに俺は奴の体勢を崩しながら払い腰の要領で投げ、そのまま寝技へと持ち込んだ。

 

ぐぐっ・・・ 『く、くそ・・・』

『俺らの勝ちだ。悪いけど、終了まで大人しくしててくれ』

『ふざけるな!!俺がこんな雑魚なんかに(ミシッ)ぐっ・・・』

「動かないでくれよ。アンタらは俺らを潰すつもりだったんだろうけど、俺達はそんな事したく無いからさ」

 

太陽に腕を極められた事で、ようやく男は身体から力を抜いた。

 

『・・・な、何でだ?俺だって向こうでは喧嘩で負け知らずだったんだ。何で平和な国で生きるお前に負けるんだ・・・』

「・・・威月、俺の言う事、直訳してやってくれ」

「?」

 

思わず俺自身も?を浮かべる中、太陽は軽く息を吐くと、

 

「お前がどれだけ喧嘩が強いのかは分からねえ。でもな、俺達がやってるのは喧嘩じゃない、()()なんだよ」

『何だと・・・』

 

男は意味が分かってないみたいだったが、俺は納得してしまった。

 

(言われてみりゃ、その通りだな。あくまで競技の延長の喧嘩でしかないコイツらと、戦闘に特化してる俺達の違いの差が、この結果って事・・・か)

「おぉっと、E組!!何と留学生の2人を完全に押さえ込んだ!!こ、これは凄いぞ!!」

 

へっ、どうやら実況係も密かに興味があるのかもな。この劣勢から俺達がどんな風に勝つのかを。

 

「カミーユとジョゼを助けに行け!!あの2人を救出してしまえば問題ない!!」

「おっと、いいのかね?アイツらの足止めしてる人数裂いちゃって」

「あぁ、そろそろだな」

 

浅野、お前は少し遅かった。この2人だけに俺達を潰させるべきじゃあ無かったよ。

 

ダダダッ!! 「(ドカカッ!!)な、何!?」

「こ、これは!?何と最初に吹っ飛ばされた2人が、A組の棒へ飛びついたぁ!!」

「ようやく来たか!!」

「受け身の練習は嫌って程してるからな。吹っ飛ばされる芝居をする位、俺達E組にとっては造作もないな」

 

序盤にリタイアした2人が観客席を遠回りして背後からの奇襲。これは流石の浅野も読めないだろう。

 

「磯貝!!」

「あぁ!!逃げるのは終わりだ!!作戦変更、"音速"!!」

「「「「うっしゃあ!!」」」」

 

A組全員が動揺する中、磯貝の合図で7人が追っ手を振り切りながら棒へと飛びついた。

 

(あれだけ密着しちゃえば人数差なんて関係ねえ!!)

『降りろ、クソチビ!!』

「うわっ!!」

「あ、危ない!!棒が揺れているぞ!!」

 

無駄無駄、重心が高くなっている今、無理に振り解けば確実に棒は倒れる。実際、杉野を落とそうとした韓国人の力で倒れそうだしな。

 

(もう殆ど打つ手はねえ筈・・・なのに、相手が浅野じゃ勝った気にどうもなれない)

『・・・棒を支えていろ、サンヒョク。コイツらは僕が片づける』

 

・・・何だと?俺が疑問に思う中、浅野はヘッドギアまで外し、

 

「(ガシッ)痛っ!?(ぶわっ)・・・は?ごふっ!!」

「(タンッ、ドカッ)へぶっ!?」

「凄い、浅野君!!一瞬で2人を叩き落したー!!」

 

片腕1本で吉田を捻り落として、そのまま棒を支えに身体を捻りながらの跳び蹴りで岡島を・・・アイツ、あんな芸当も出来たのか。

 

「君達如きが僕のステージに上がろうなんて、蹴落とされる覚悟はあるんだろうな?」

(何か悪魔の翼が浅野の背中に見えるな・・・)

「A組浅野君!!何とたった1人で棒を守っています!!」

 

棒の先端を支えに、浅野は次々とE組の皆へと蹴りを落としていった。チッ・・・高さのせいか、全員防戦一方だな。やはり、アイツの蹴りはたいしたモンだな。

 

「うっ・・・「(ガシッ)背中借りるぜ、友人」えっ」

「(バチィ!!)!! 何っ!?」

(まぁ・・・あくまで()の中ではだけど)

 

その時、蹴り落とされそうになった杉野を支えた後、そのまま逆立ちの要領で浅野の足に蹴りを合わせた大賀の姿に俺は心からそう思った。アイツ・・・あの身体能力は最早怪物だろ。

 

「俺はお前の足を弾いてるだけ。お前には当てないから安心しな」

「くっ・・・」

「さ、逆立ちの状態で浅野君と互角に戦っているぞ!?E組に何故あんな生徒が!?」

 

芸術とも言える2人の蹴りの攻防に、実況も興奮を隠せない様子だった。いや、互角じゃ・・・

 

「(ドカッ!!ぐらっ・・・)・・・ぐぅ!!」

「おっと、E組の方が徐々にぐらつき始めたぞ!!」

 

チッ・・・いくら大賀でも、足場が不安定で尚且つ上から攻撃されちゃあ流石に勝てねえか。

 

「A組攻撃部隊も徐々に戻り始めている!!E組、万事休すか!?」

「うわっ!!」

「磯貝!!・・・うおっと!!」

(・・・やっぱ、アイツ程1人で大局を変えられる奴はいないな)

 

続け様に磯貝と大賀を棒から吹き飛ばした浅野に、俺は敵ながら尊敬してしまった。多分、磯貝やカルマや太陽、E組の天才3人もアイツ程の能力やカリスマ性は持つ事は不可能だろう。

 

(・・・でも、だからこそ俺達は1人で戦う必要なんて無い。タイミングバッチリだぜ、大賀!!)

「(ドカカッ!!)な、何っ!?」

「このタイミングでE組に増援!!だ、だがあれは棒の近くにいた守備部隊の筈だぞ!?」

 

吹き飛ばされた磯貝の背中を使って飛び移った渚達を見て、実況係はそんな疑問をぶつけた。当然だが、俺達に殺せんせーみたいな分身能力なんて無いので、

 

「E組の守備はたった2人!?あれでどうやって棒を・・・」

()()の原理さ」

「・・・て、てこか」

「てこなら・・・可能なのか・・・?」

 

自信満々に言いきった竹林や余裕たっぷりに鼻をほじる寺坂の姿に、観客も納得した様子だった。へー、意外と納得するもんだな。

 

「てこって凄えなぁ。いくら何でも5人を2人で押さえ込むなんて不可能に決まってるのに」

「だな。だが、奴らに2人は潰せない。何故なら、A組の目標は俺達を潰す事・・・浅野の指示も無しに勝手に棒を倒す事は出来ないからな」

「その浅野は、ちょっとばかし手が離せねえみたいだしな」

 

太陽とそんなやりとりをしながら、渚達にまとわりつかれて、てんやわんやしている浅野に目を向けた。指示さえ出させなきゃ、後はどうにでもなる。

 

「あ、慌てるな!!棒を支えながら1人ずつ落とせ!!」

「A組も防御の態勢を整える!!ここを凌げば、A組の勝ちだぞ!!」

 

んなこたぁ俺達全員分かってる。だからこそ、このチャンスは逃さねえよ!!

 

(何せ、最後決める為に隠し続けてきたんだからな)

「大賀、今だ!!行くぞ、来いイトナ!!」

「右足だぜ、登志」

 

磯貝の合図で、イトナが軽く身体を跳躍させ、登志は右膝をポンポンと叩く大賀に頷いた。

 

「奥の手は取っておく、戦いの基本だな」

「(タタタ・・・ダンッ!!)おりゃ!!」 

空軍(アルメ・ド・レール)ソードシュート!!」

 

太陽がそう呟く中、磯貝と大賀の助けで大きく跳躍した2人は、そのまま一直線に棒の先端へと飛びつき、

 

「「「「いっけえぇぇぇ!!」」」」 ぐらっ・・・だあぁん!!

 

そんなE組全員の叫びと共に、A組の棒はそんな音を立てながら倒れ、辺りに地響きが起きた。

 

「・・・あ、圧倒的数の差を覆し、何と勝ったのはE組だー!!!」

「「「「わあぁぁぁ!!」」」」

「「「「しゃあぁぁぁ!!」」」」

 

ようやく収まると時が動き出しかの様に、実況と観客、そして俺達の魂の叫びがグラウンドに響き渡った―――

 

 

 

「カッコ良かったです、磯貝先輩!!」

「おー、ありがとう。でも危ないから真似すんなよ」

「くっそー・・・イケメンめぇ・・・」

「やっぱり助けねえ方がよかったか・・・」

 

 体育祭終了後の片付けの最中に下級生の女子にそう声をかけられている磯貝を見て、菅谷や木村が呟いた。ま、気持ちは分かる。

 

「ううう・・・」

「ご、ゴメンゴメン華。心配掛けちゃったな」

「ホントだよー、たーくん。私も不安だったんだから」

「面目ねえ・・・」

 

俺の横では、泣きそうになってる華を必死に宥める太陽がいた。まあ、俺もアレは無鉄砲すぎると思ってっから助ける気は0だけど。

 

「・・・でもよ、俺達あんだけ不利な条件だってのに勝っちまったよな」

「あぁ。下級生中心に、俺達E組を見る目も少しずつ変わってたよな」

 

ま、これだけの劣勢だったんだ。そりゃあ空気も変わるに決まってる。

 

「さっきも浅野「次は叩きのめす」とかほざいてたけどよ、俺にゃあタダの負け惜しみにしか聞こえなかったぜ」

「私もー、あんなの負け犬の遠吠えじゃん」

 

さっき俺達は浅野に磯貝の事を確認しにいったのだ。確かに勝ってる以上はそう思うのは当然だが・・・

 

「当然だって!!もう俺達、一般生徒とは段違いなんだよ。今更あんな連中に負けねえって!!」

「おいおい、お前ら。あんまり調子に乗りすぎねえ方がいいぞ?どこで痛い目に遭うか、分かったもんじゃねえんだからよ」

 

寺坂や莉桜、岡島のそんな発言に、俺は思わず釘を刺した。いくら何でも浮かれすぎだぜ・・・

 

「心配すんなって、威月!!俺達はもう強くなったんだからさ!!」

「心配性だね~威月は。ちょっとばかし肩の力抜きなよ」

「!!」

 

しかし、俺のそんな忠告も岡島や莉桜は何も聞いてない様子だった。

 

(・・・強さってのは武器でもあるが、同時に凶器にもなる。コイツら、それを理解しているのか・・・)

 

そんな俺の心配が現実になるのは、これから2日後の事である―――




いかがだったでしょうか。

作者の中でやっぱり喧嘩と戦闘はやっぱり違うってのが頭にあったので、こういう形にしました。

とはいえ、やっぱり文章で書くのは難しいですね(笑)漫画で好きな所を書く時とか、特に思います。

しかし、いよいよあの戦いが近づいてきてるなぁと思います。今から上手く書けるのか!?と結構胃が痛いです(笑)

まあ、自分らしく書いていこうと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十四時間目 間違う時間

皆さんどうも籠野球です。

うーん・・・どうもモチベーションが上がりません。

最近忙しいし、投稿止めようかなーという気持ちと、でも1度始めたんだし、最後まで続けたいなーという気持ちが揺れ動いてる感じです(笑)

でもまあ、とりあえずは頑張らして頂けたらと思います(何の間違いか、お気に入り登録数も100人に届くか届かないかって所なので(笑))

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「はいよ、太陽。1ヶ月お疲れさん」

「ありがとうございます!!」

 

 深夜3時、俺は新聞屋のおじさんから封筒を受け取っていた。やっと貰えた・・・

 

「また今度、金稼ぎたくなったら何時でも来な。ただし、今度は高校生になってからな」

「無茶聞いてもらってすみません・・・じゃあ、お休みなさい」

「おーう」

 

俺はおじさんに頭を下げると、扉を開けて外に出た。当たり前だが、外は真っ暗で皆寝静まっている。

 

「フー・・・しかしこの1か月、マジで疲れたなぁ」

 

街灯の淡い光を頼りに帰る途中、思わず俺は呟いた。

 

(何せ、普通のバイトじゃ磯貝の二の舞だから、わざわざバレにくい深夜を選んだせいで生活リズムがガタガタになっちまったからなぁ。だからといって成績も落とせないから勉強量を維持しなきゃならない以上、必然的に睡眠時間削るしか無かった・・・)

 

つーか、体育祭の翌日が最終日とはいえ、やっぱ無理せずずらしとけば良かった・・・身体が超痛え・・・

 

「(ぺらっ)・・・へへ、それも全てコレの為。頑張ってよかった・・・」

 

まあ、とりあえず明日からはぐっすり眠れるな。んー・・・もうすぐテストもあるし、さっさと元の生活に戻らないと。

 

「にしても、珍しく今回は気づかれなかったな。大賀や登志、裕樹達はともかく、威月の勘の鋭さは以上だからな・・・いつかバレないかヒヤヒヤ「よ、お疲れ」そうそう、こんな感じで声を・・・」

 

角を曲がれば「ひまわり」に着くという十字路で、電柱にもたれかかりながら小説を読む威月のそんな声かけに、俺は言葉を失った。

 

「ほらよ、バイトしてる奴に奢るってのもおかしい話だがな」

「・・・おう、サンキュー」

 

バイトしてた事も知られてる以上、誤魔化す必要も無いだろうと思い、投げ渡してきたジュースを開けて一口飲んだ。うん、甘い。

 

「プハァ・・・で、いつから気づいてた?」

「きっかけは殺せんせーさ。矢田と話をしてるって教えてもらった瞬間にピンと来たんだよ。てか、「ひまわり」の中で最初に気づいたのは大賀だぜ?」

「そっか、まあ大賀は1番遅くまで起きてるからな」

 

一応、大賀も寝たのを確認してから出たつもりだったが・・・アイツは寝起きも凄い良いからな。

 

「・・・威月、悪いんだが・・・」

「分かってる。お前がバイトしてた理由は何となく想像出来るからな。あの2人にも、訳は話さずに俺に任してくれって言ってあるよ」

「サンキュ、どっちみち今日で終わりだ。1か月分で何とかなりそうだからな」

「そうか、ならあの2人にも解決したとだけ伝えとくよ」

 

威月なら、本当に誰にも言わずに黙っていてくれるだろう。こういう時、やっぱり威月が1番信用できるな。

 

「ただし、俺達に何の相談も無しに行動するのはもうこれっきりにしてくれよ?今回はたまたま俺達3人しか知らずに済んだからいいけど、華達に知られたら誤魔化せねえよ」

「う・・・確かに」

 

そういや、必死すぎてそんな事を考える余裕も無かったな・・・危なかった。

 

「何なら俺にだけでも言やあ良かったんだぜ?そうしたら少し位、金貸してやったんだからよ」

「・・・嬉しい話だけど、やっぱりそれは断るよ」

「は?何で?」

 

不思議そうに聞き返す威月に、俺は苦笑しながら答えた。

 

「自分の大切な人に渡す物の為に、家族から金は借りられない。そういうのは、やっぱり自分の力で渡したかったんだ。ま、まあくだらないプライドなんだが・・・」

「・・・」

「? 威月?」

・・・フゥ、こういう所なんだろうな・・・倉橋や俺達がコイツと一緒にいるのは

 

何かを呟きながら呆れた様子で、そして楽しそうに笑う威月に?を浮かべていると、

 

「何でもねえ、ほら、さっさと帰んぞ。もうすぐ中間テストだってあんだからな。バイトしてたから勉強できませんでした、なんて言い訳すんなよ」

「・・・あぁ!!」

(分かってるさ・・・もう負けねえ!!)

 

「ひまわり」の方へと歩きながらの、威月のそんな発破に俺は心の中でそう唱えた。

 

 

 

大賀side

 

「はいはい頑張りましょう皆さん!!2週間後には、待ちに待った中間テストですよ!!」

 

 浅野の企みを退けた2日後、俺達の前で分身マンツーマンをしている殺せんせーは鼻息を荒くしながらそう言った。

 

「熱くいきましょう、熱く!!今こそ、A組を超える時ですよ!!」

「「「「いや、暑苦しいわ!!」」」」

「アンタが1番気合入っててどうすんだよ・・・テスト受けんのは俺達だってのに」

 

確かに威月の言う通り、必勝と書かれた鉢巻きを巻いた殺せんせーは受験生並の気合を入れていた。何か分身の数も滅茶苦茶、増えてるし・・・

 

「(カリカリ・・・)殺せんせー、ここってどうするんでしたっけ?」

「おぉ、太陽君!!皆さんも太陽君を見習いなさい!!勉強しないと将来ロクな大人になれないんですからね!!」

「「「「オカンか!!」」」」

(・・・太陽、ホントに大丈夫みたいだな)

 

昨日の朝、「もう解決したから、心配しなくていい。これからはもう出歩かないって太陽も言ってる」って威月が俺と登志に言ってきたから本当なのか心配だったけど、

 

(昨日からテスト勉強もクラスで1番頑張ってるし、いつも通りの太陽に戻ってくれてよかった)

「にゅや?手が止まってますね。分かりませんか?大賀君」

「・・・あ!すいません、大丈夫です」

 

いかんいかん、俺は3人よりも勉強できないんだし、集中集中っと!!

 

 

 

キーンコーンカーンコーン・・・ 「今日はここまでにします、皆さん家でしっかり復習を行って下さいね」

「「「「はーい」」」」

 

 放課後・・・そう言いながら教室を殺せんせーが出ていったのを確認してから、俺は机にもたれかかった。

 

「うへー・・・もう限界」

「大丈夫?大賀」

「おう、疲れただけ」

 

ハァ・・・テストまでこれが毎日か・・・いくら成績上げる為って分かってても気が重い・・・

 

「でも確かに殺せんせー、はりきってるよなー。今日なんか分身使って立体視まで活用してきたし」

「あれは完全に能力の無駄遣いな気もするがな・・・」

 

木村の呟きに、威月がそうツッコんだ。どんどん進化していくなー、殺せんせーって。

 

「でもさぁ、こんな風に勉強ばっかしてて大丈夫かな?もう期限半分切っちゃってるし、暗殺の技術磨いた方がいいんじゃない?」

「「「「・・・」」」」

 

その時、矢田さんがポツリと言ったその言葉に、全員が無言になった。確かに・・・もう10月だ。後5か月しか無いんだよな・・・

 

「・・・しゃあねえだろ。勉強もしとかねえとあのタコいなくなっちまうんだからよ」

「焦っても仕方ねえよ。とにかく今は、目先の中間テストだけを考えた方がいい」

「・・・そうだね」

 

まあ、確かに寺坂や太陽の言う通りだな。俺なんて特に頑張らないといけないんだし・・・

 

「・・・」

「・・・? 何か用?伊勢くん」

 

そんな中、自分を残念そうな目で見つめる登志の視線に気づいた矢田さんが声をかけた。

 

「あぁ、すいません。髪の毛リボンで縛るの止めちゃったんだなと思って」

「アハハ、ゴメンね。あれ、結構大変だったからさ」

・・・僕はあっちの方が好きだったな

「? 何か言った?」

「い、いえ!!何でも無いです!!」

 

確かにあれは似合ってたけど凄い時間掛かりそうだもんな。・・・それにしても、何で登志はここまで慌ててるんだろ?

 

「フッフッフ、俺に任せろよ。実はな、良いストレス発散方法を思いついたんだ。放課後一緒にやろうぜ」

「は?何する気だよ、岡島」

「それは後の楽しみって奴だ」

 

前原の問いに、得意げに笑みを浮かべながら岡島はそう返した。・・・何する気だろ?

 

「何する気か知らねえが、無茶苦茶すんなよ。行こうぜ、太陽」

「ん、おう威月。じゃあな、皆」

「あ、待ってたーくん。私も一緒に帰る」

「悪い、かなり遠回りしなきゃならねえんだ。時間掛かるから来ない方がいいよ」

「え?うん、分かった。でも、何か用事なんて珍しいね」

 

そんな太陽の返しに、倉橋さんは不思議そうに聞き返していた。まあ、俺達買い物以外で寄り道なんて基本的にしないからな。

 

「実は今日から2,3日、岬さんがお友達と旅行に行くらしくてな。「ひまわり」の事も全部俺達でやらなくちゃならねえんだ」

「え、そうなの!?」

「つーわけで、威月が先に「ひまわり」に帰って雑用、大賀と登志は夕飯の買い出しに行くんだよ」

「へー・・・あれ?岬さんがいないって、華ちゃんは誰が面倒を見てるの?」

 

まあ当然の質問だよね。3歳の華が1人で留守番出来る訳無いし。

 

「おう、だから2,3日だけ保育施設に預けてるんだ。裕樹や彩子も含めて一緒に迎えに行くって言ってあるから、急いで行かねえとだめなんだ。

・・・て訳で、じゃあな!!大賀、登志。後は頼んだ!!」

「・・・って、置いてくなよ!?」

 

そう言いながら出ていった太陽をそうツッコミながら、威月が追いかけていった。太陽ってホント裕樹達想いだな。

 

「・・・じゃあ僕達も行こうよ、大賀。あんまり遅くなっちゃ悪いしね」

「何だよ、お前ら全員やらないのか?訓練にもなるし一石二鳥だぜ?」

「うーん・・・何かは気になるけど、悪いけど俺達もパスするわ」

「大賀がやらないんなら僕も。ゴメンね、せっかく誘ってくれたのに」

「まあ、お前等4人は元々強いし、いいか」

 

俺と登志が同時に断ったから、岡島もようやく諦めたみたいだった。

 

「行こうよ、大賀。またね、皆」

「じゃあなー」

 

 

 

―――今思うと、この時俺達も岡島に付いていっていれば、あんな事は起きなかったのかな・・・

 

 

 

太陽side

 

「おーい!!裕樹、彩子!!」

「・・・あ!!太陽兄ちゃん!!」

 

 学童保育「わかばパーク」に到着した俺は、建物前のグラウンドで他の子達と遊ぶ裕樹達の姿を見つけて声をかけた。

 

「(タタタッ)おかえり、太陽兄ちゃん!!」

「おう、ちゃんと良い子にしてたか?」

「大丈夫だよ、俺だってもう10歳なんだからな!!」

「フッ、そうだな」

「へへーん」

 

・・・頭撫でられたら凄い嬉しそうな顔する辺り、まだまだ子供だけどな。

 

「こんにちは、太陽君」

「どうも、田中さん。裕樹、ちょっと俺話してるから、彩子と一緒に学校の荷物持ってきな」

「はーい」

 

田中さんはここの職員の1人で、俺達が小学生の頃からたまにお世話になっている人の1人だ。

 

「すいません、急にお願いしちゃって。華達、迷惑かけませんでしたか?」

「ううん、寧ろ全然良い子で手が掛からなかったわよ。流石、大賀君ね。良いお父さんになりそう」

「まあ、アイツの主夫力は中学生離れしてますからね」

「お待たせしました、太陽兄さん」

 

と、その時、裕樹達が荷物を戻ってきた。が・・・

 

「あれ?華はどうしたんだ?」

「あぁ、華ちゃんなら寝てるわ。お友達と遊んで疲れちゃったのね。太陽お兄ちゃんが迎えに来るまで起きてるって言ってたけど」

「じゃあ背負って帰ります。上がっていいですか?」

「えぇ、勿論」

 

許可も出た事だし、さっさと行くか。そう思いながら俺は玄関で靴を脱ぐと、そのままスタスタと廊下を歩いた。何回も来た事あるから、どの部屋で何するかはだいたい分かってるしな。

 

「・・・おっと」

「スー・・・スー・・・」

 

お昼寝したりする時に使う少し小さな部屋、予想通りその部屋の真ん中で、華はタオルケットに包まりながら寝息を立てていた。・・・やっぱり華は贔屓目に見てもやっぱり可愛いと思う。

 

(こういうのを親バカって言うんだろうか・・・いや、この場合は兄バカか)

待たしたな、華。裕樹、ちょっとだけ鞄持っててくれるか?

うん

よいしょっと・・・

「んん・・・」

 

背負った瞬間、華は一瞬だけ身じろぎしたが、すぐにまた寝息を立て始めた。

 

「じゃあ、また明日お願いします」

「さようなら-」

「はい、さようなら。明日の朝、待ってるわね」

 

田中さんとそんなやりとりをした後、俺達4人はわかばパークを後にした。

 

 

 

「それで、俺シュートしたらゴールしたんだぜ!!」

「へー、裕樹がホントにサッカーが好きだな」

「うん!!将来サッカー選手になりたいなあ」

 

帰り道、楽しそうに話す裕樹に、俺は笑いながらそう返した。サッカーの事になると、裕樹は本当に楽しそうだな。

 

「もう裕樹、そろそろ止めなよ。太陽兄さん、華をおんぶしてるんだから疲れちゃうよ」

「あ、ゴメン・・・」

「別に話してる位なら大丈夫だよ。2人が楽しそうなのが、俺達4人は嬉しいからさ」

「本当!?」

「うん、だから彩子も遠慮しなくて「・・・」・・・?」

 

と、その時、彩子が前を羨ましそうな表情で見ているのに気づいた。見てみると、そこには・・・

 

「ねーえ、お母さん。今日の晩ご飯何ー?」

「今日は美奈の好きなハンバーグにしようかな」

「やったー!!じゃあ、早く帰ろうよ!!お母さん」

「はいはい」

 

彩子と同い年位の女の子が、そんなやりとりをしながら母親と手を繋いで帰る姿があった。なるほどな・・・

 

「裕樹、悪いんだけど、ちょっと俺の鞄持っててくれるか?」

「? うん」

 

俺は後ろ手に持っていた鞄を裕樹に預け、華を右手1本でおんぶすると、

 

「(スッ)ほら、彩子」

「・・・え?」

 

空いた左手を彩子に差し出した。いきなり差し出された手にキョトンとする彩子に言った。

 

「別に華がいるからって無理にお姉ちゃんらしくしなくてもいいんだぜ?そういうのは、俺達4人の役目だからな」

(華が来る前は、彩子も結構俺達にべったりだったからな。呼び方もお兄ちゃんだったし)

「兄さん・・・ありがとう、えへへ」

 

嬉しそうな顔をしながら、彩子は俺の手を握ってきた。いくら妹が出来たからって、まだ9歳なんだし思う存分甘えてくれていいんだよな。

 

「あ、彩子ばっかりズルい!!兄ちゃん俺もー!!」

「はいはい、裕樹は明日やってあげるから今日は我慢してくれ「相変わらず騒がしい奴だな」・・・ん?」

 

まとわりつく裕樹にそう返したいたその時、前から苦笑交じりのそんな声が聞こえてきた。

 

「(キッ)久しぶりだな、太陽」

「松方さん!!お久しぶりです!!」

 

自転車に乗りながら現れたのは、わかばパークの園長の松方さんだった。俺達4人にとって、実徳さんと岬さん以外で頭が上がらない数少ない恩人の1人だ。

 

「「こんにちは」」

「んむ。

・・・何じゃ、華ちゃんはまだ寝とったか」

「今日はありがとうございました。急なお願いだったのに」

「なあに、この3人はお前達みたいに問題ばっかり起こさんからな。懐かしいわい、野良猫追いかけて勝手に抜け出したり、台所に入っていつの間にか他の子達に料理作ったりと他にも様々な事で手間ばっかり掛かりおったわ」

「・・・あの、それ以上はちょっと・・・兄としての威厳に関わるんで」

 

この人は俺達の小さい頃を知る数少ない人でもあるからな・・・

 

「フッ、そんな子達が、今は兄貴分なんだからな。世の中、分からんものだ」

「コホン・・・それにしても、そっちも相変わらずの大荷物ですね。運ぶの手伝いましょうか?」

 

松方さんは、いつも通り多くの生活用品や食料品を自転車に積んでいた。自転車いつかパンクしそうだな・・・・

 

「フン、年寄り扱いするな。それに、裕樹君達を家に連れて帰る途中だろう。早く連れて帰ってやれ」

「了解です、じゃあまた明日お願いします」

「あぁ、待っとるぞ。それと、あの3人にまた遊びに来いと伝えといてくれ。お前も含めて「ひまわり」の子達は人気だからな、職員にも子供達にも」

「ハハ、まあ受験勉強もあるからそんなには行けないですけど、必ず行きますよ」

「うむ。じゃあ、裕樹君達もまた明日な」

「「はーい」」

 

裕樹達に優しげな笑顔で浮かべながらそう言うと松方さんは俺達が通ってきた道を曲がっていった。相変わらずちょっとばかし声かけ辛い人だけど、子供には優しい人だな。

 

「さ、とりあえず俺達も帰るか。威月が1人で待っててくれてるし、もしかしたら大賀達も帰ってるかもな」

「お腹空いたなー、大賀お兄ちゃん今日のご飯何だろ?」

「さあなー・・・まあ、大賀ならどんなのでも美味く(ガシャアァァァン!!)!?」

 

その時、いきなり後ろからそんな大きな音が聞こえ、俺達は思わず振り返った。何だ今の!?

 

(確か今・・・松方さんが曲がっていった方から聞こえた様な・・・)

「(ダッ)ま、待って太陽兄さん!!」

 

俺は反射的に音がした方へと走り、松方さんが曲がった方に目を向けた。そんな俺の目に飛び込んできたのは、

 

「ぐ・・・ぐうぅぅぅ・・・」

「松方さん!?」

 

自転車が横倒しになり荷物が散乱する中、脚を抑えて苦悶の表情を浮かべる松方さんの姿だった。

 

「大丈夫ですか!?いったい何が・・・」

「た、太陽・・・」

「えっ・・・岡島、木村!?」

 

声をかけられた事で、俺はようやく2人の存在に気がついた。2人はかなり青ざめた表情で呆然としていた。

 

「そんな・・・」

「なっ・・・」

「は・・・?」

 

そんな中、E組の皆が次々と塀の上から現れて、2人と同じように顔を青ざめていった。何で皆、上から・・・

 

(まてよ・・・確か岡島の奴、良いストレス解消があるって言ってたよな・・・暗殺技術の向上も兼ねたて、塀の上から・・・!!)

「まさかお前ら、街中でフリーランニングを!?」

「う・・・」

「えっと・・・」

 

言い淀んだ皆の様子で、俺は確信した。何つー馬鹿な事を!!

 

「裏山以外では絶対に使うなって烏間先生が言ってただろうが!!それを・・・って今はそれどころじゃねえ!!」

「・・・!! どうしたんだい!?」

 

その時、遠くから音を聞いて花屋のお兄さんらしき人が何事かと駆け寄ってきた。

 

「すいません、救急車を呼んであげてくれませんか?俺、電話持ってないんです」

「あ、ああ分かった!!」

 

よし、とりあえずこれで良いな・・・

 

「磯貝、俺は急いで華達を「ひまわり」に連れて帰る。松方さんの搬送先が分かったら「ひまわり」に電話してくれ。威月がいる筈だ」

「分かった・・・」

「行くぞ。裕樹、彩子!!」

(クソッ!!とんでもねえ事になっちまった!!)

 

心の中で舌打ちしながら、俺は呆然とする2人を宥めながら極力「ひまわり」へと急いだ。

 

 

 

「磯貝、皆!!」

「!! 太陽・・・」

 

 1時間後・・・俺と威月は病院入口で待機していた皆の元へ着いていた。

 

「松方さんの容体は!?」

「分からない・・・今、烏間先生が中に入っていった所だ」

「そうか・・・」

「ったく、お前等は・・・禁止されてたフリーランニング街中で使ったあげく、松方さんに怪我させただぁ?呆れて物も言えねえよ」

 

「ひまわり」に着いた時には既に磯貝達から連絡があったらしく、大賀達も帰ってきてたのもあって、威月が自分から付いてきてくれたのだ。そんな威月の怒りの籠ったそんな言葉に、磯貝達は何も言い返せないみたいだった。

 

「(ウイィン)! 太陽君、威月君。何故ここに?」

「えっと・・・実は俺、その現場近くにたまたまいたんです」

「松方さんは俺らの知り合いなんです。昔からお世話になってるから心配だったんで」

「そうか・・・」

「怪我の具合はどうだったんですか?」

「あぁ・・・右大腿骨の亀裂骨折だ。転んだ拍子にヒビが入ったらしい。2週間程で歩く位には回復出来るみたいなんだが・・・何しろ君達の状況は特殊だからな」

 

無理もねえな・・・俺達は国家機密の存在だ。公にされる訳にはいかねえ・・・

 

「今、口止めと示談の交渉を部下が行っているが、正直芳しくないな」

「でしょうね、松方さんそういう所は凄い頑固だから」

「あぁ、簡単に応じてくれるとは思え「・・・」! 殺せんせー」

 

俺の言葉を受け継いだ威月は、真っ黒になった殺せんせーが現れた事で喋るのを止めた。今の殺せんせーからは殺気が噴き出していた。他の皆もその殺気を恐れているのが分かった。

 

「・・・だってよ、しゃあねえだろ殺せんせー!!あんな所に荷物抱えたじーさん来るとは思ってなかったんだよ!!」

「悪い事したのは分かってるけど・・・暗殺の技術磨きたかったんだよ」

「地球救う重圧と焦りが、標的(ターゲット)のお前なんかに分かってたまるかよ」

「お前ら・・・」

 

自分達の行いを正当化しようとするようなそんな言葉に、俺は思わず・・・

 

 

 

パパパンッ!! 

パシィ!! 「どうするつもりだ、太陽?その握った右手」

「あ・・・」

 

次の瞬間、殺せんせーは俺と威月以外の全員をビンタし、俺は威月に腕を掴まれていた。

 

(お、俺何しようと・・・)

「生徒達への暴力行為です。報告しても構いませんよ、烏間先生」

「・・・今回は、見なかった事にする」

「威月君はどうですか?」

「助かりました。俺も太陽も、流石にクラスメイト、ましてや女を殴る趣味は無いんで」

 

慌てて威月から腕をパッと放して、反射的に右手を左手で掴む中、殺せんせーの問いに2人はそう返すだけだった。

 

「期限の無さに少しばかり焦って高度な技術を取り入れてきたが、やはり少し早かったかもしれん・・・俺の責任だ」

「「「「・・・ごめんなさい」」」」

 

病院に入っていく烏間先生の耳に、全員の謝罪は聞こえたのかは分からなかった。

 

「ありがとう威月。威月が来てくれてなかったら、俺・・・」

「カッとなってってのは良くあるこった、気にすんな。寧ろ、俺の方が早く殴ってたよ」

 

威月が平然とそう返してくる中、殺せんせーがゆっくりと口を開いた。

 

「君達は、強くなりすぎてしまったのかもしれません。力に溺れ、弱者の立場になって考える事を忘れてしまった。それでは、君達が嫌っていた本校舎の生徒達と何一つ変わりません」

「「「「・・・」」」」

 

そんな殺せんせーの言葉に、誰も何も言えないみたいだった。そっか・・・これが失敗か・・・

 

(こんな気持ちになっちまうから、俺に殺しの技術は教えなかったんですね・・・実徳さん)

「話は変わります。皆さん、今日からテストまでの勉強する事を禁止します」

「は・・・?」

 

そう考えていた俺の予想外の殺せんせーの宣言に、全員が頭に?を浮かべた。あんだけ、テストテストって言ってたのに・・・

 

「テストよりも、優先すべき勉強が出来ました。まずはそれを行います。教え忘れた先生にも責任はありますしね。皆さんはここで待機を、先生が穏便に説得してきます」

 

そう言い残すと、殺せんせーはどこかに飛んでいき、辺りは再び静寂に包まれた。

 

「テストよりも大事な事って・・・何する気だ?殺せんせー」

「さあな。ま、松方さんに俺らも謝っとかねえいかねえし、このまま残っとくか」

「・・・すまねえ、2人とも」

 

そんなやりとりをしていると、岡島が申し訳なさそうに口を開いた。

 

「さっきはゴメンな。2人の知り合い怪我させちまったのに、いい加減な事言っちまって」

「あ、いや・・・俺達もカッとなって殴ろうとしちまったんだし、一緒だよ」

「強さってのは怖えモンだ。戦う武器にもなれば、人を傷つける凶器もなる。それが分かっただけでも、1歩前進だろ。

・・・ま、人殺ししようとした俺が言えたもんじゃねえがな」

「それはホントにな」

「・・・太陽、そこは冗談でも否定するとこだろ・・・」

 

そんな俺達の漫才に、皆も少しだけ笑ってくれた。いつまでもしょぼくれてても仕方ない。

 

(俺達は間違っちまったし、時間は戻らねえ。でも、やり直す事は出来る筈だよな!!)

 

 

 

この度は申し訳ありませんでしたぁ!!

ぬわあぁぁぁ!?何だ貴様ー!?

 

 

と、その時、聞き慣れた2人の声が上の病室から聞こえてきた。穏便に・・・?




いかがだったでしょうか。

華達が出てる回って、太陽達がお兄ちゃんらしく見えてくるから書いてて楽しいです!!

・・・まあ、この話は原作でもかなり重かったので、少しでも明るくしたかっただけです(笑)

まだまだ暑いですが、皆さんも体調管理気をつけて、お互い夏を乗り越えましょう!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十五時間目 ビフォーの時間

皆さんどうも籠野球です。

いやー・・・仕事の忙しさ+DBDというゲームにドはまりしている結果、どうしても投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
m(_ _)m

担当変えに慣れてきた所での再び担当変えで、また対応に一苦労ですが、ノンビリ頑張っていこうと思います!!

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「皆ー!!今日から少しの間、このお兄ちゃん達が園長先生の代わりになってくれまーす!!」

「「「「はーい!!」」」」

 

 松方さんが怪我をした翌日の朝、俺達E組はわかばパークへと来ていた。というのも今、田中さんの言った通り、俺達がここでの松方さんの代役をするからだ。何故こんな事になったか・・・それは昨日の夜に遡る・・・

 

 

 

「保育施設を経営してる松方さんです。まずは、しっかりと謝りましょう」

「・・・ごめんなさい」

「すいませんでした・・・」

 

 殺せんせーのそんな紹介の後、皆はそう言いながら頭を下げた。俺と威月は実際には関わってないが、仲間を止めれなかった責任で付いてきたのだ。

 

「・・・ん?ちょっと待て、何でお前達がいるんだ?」

 

が、そんな俺達の姿を見て、怪訝そうに松方さんは尋ねてきた。まあ、当然の反応だわな。

 

「すいません、松方さん。実はコイツら、俺ら4人のクラスメイトなんですよ」

「! そうなのか」

「注意出来なかった俺らにも責任はあります。ホントにすんませんでした」

「・・・そうか、お前達の・・・」

 

威月が言い終わると同時に俺も頭を下げた。そんな俺達を見て、何やら松方さんは考えていたが・・・

 

「・・・いいじゃろう、殺せんせーとやら。さっきの条件、受けてやろう」

「にゃや?よろしいのですか?」

「フン、さっきの貴様の言った事は同業者としちゃ聞いたら断われん。それに、コイツら「ひまわり」の連中には、ワシも何かと世話になっておるからの」

 

どうやら、俺達が付いてきたのはある意味、正解だったみたいだ。にしても・・・条件?

 

「何すか、その条件って?」

「君達はプロを名乗る以上は、自分で責任を取らなくてはいけません。なので当然、訓練中に起きた過失は自分達で責任を負うべきです」

(ま、当然の理屈だな。今回は完全に自業自得だし)

「治療費ばかりは烏間先生に支払って貰うしかありません。

・・・が、慰謝料と仕事を休む分の損害は君達が支払うべきだ」

「・・・支払うって、どうやって?」

 

千葉の皆を代表しての問いに、殺せんせーは松方さんを指差し、

 

「要するにタダ働きです。クラス全員、松方さんの職場を手伝いなさい。2週間後、賠償分の働きをしたと認められれば、松方さんは今回の事は公表しないでくれるとの事です」

(殺せんせー、簡単に言ってるけど・・・)

「それ相当キツいぜ殺せんせー。松方さん、保育所から学童保育まで手広くやってんだ。そう簡単に務まる仕事じゃねえよ」

 

唯一、俺の他に知っている威月が殺せんせーに異議を申し立てた。・・・が、

 

「それだけの事をした・・・という事ですよ、威月君」

「・・・」

 

ぐう・・・そう言われちゃ流石に言い返せねえ。威月もそう思っているのか、それ以上は何も言おうとはしなかった。しょうがねえ、やるしかねえな・・・

 

「あ、松方さん。ちなみになんですけど、華も連れて行って構わないですか?特別扱いはなるべくしない様に気をつけるんで」

「フン、元々約束されてたんだ、構わんさ。お前達は基本的にどこに何があるのかは把握してるだろうが、分からん事があったら田中君達にでも聞け。頼んだぞ」

 

 

 

「・・・全く、いくら連帯責任だからって関係ない私達まで何でこんな事を・・・」

「面目ねえ・・・いてて、坊主噛みつくなって」

 

 子供達にまとわりつかれて疲れている狭間のそんな呟きに、寺坂が肩を噛みつかれながら弱々しく返した。寺坂の奴・・・嫌われるオーラでも出てるのか?

 

「まあ、仕方ないですよ。止められなかった僕達にも責任ありますしね」

「私達ももっちりとビンタはされたし、それで終わりにしとこーよ」

 

登志や原の言う通り俺や威月は昨日、他の皆は今日の朝に滅茶苦茶弱くビンタされた。「PTAにはどうか黙ってつかあさい」て言いながらの世間体気にしまくりで、昨日の威厳のある感じはどこにいったのかと思ったが。

 

「はいはい、辛気臭い話は一旦そこまで。

・・・ほら、華。俺達もここにいるから、好きに遊んでおいで」

「あ、はなちゃん!!」

 

大賀はそう話を打ち切りながら、抱っこしてた華をひょいと降ろした。と、同時に華と同い年位の女の子が近寄ってきて、

 

「いっしょにあそぼーよ、はなちゃん!!」

「うん!!」

 

2人は手を繋いで遊び場へと走っていった。・・・普段は何にも文句言わないけど、やっぱ華も同い年位の子達と一緒に遊びたいんだろうな。

 

と、その時、岡島が離れていく華をジッと見つめているのに気づいた。何かと思っていると、岡島は手を顎に当てながらキリッとした顔で呟いた。

 

「・・・ふむ、中々のレベルだ。将来が楽しみな顔立ちだな」

「・・・おーい華ー。もう1個お兄ちゃん達との約束して欲しいからちょっと来てくれるかー?」

「はーい」

 

遊ぼうとしてたにも関わらず、華はトタトタと音を立てながらこっちに戻って来てくれた。

 

「華、両手を思いっきり横に伸ばしてみて」

「うん。ん~・・・」

「まだまだ、もっともっと」

「ん~・・・!!」

 

顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら、華は両手を目一杯横へと伸ばした。そんな華に俺は岡島を指差しながら、

 

「いいか、華。この手が当たる位にこのお兄ちゃんが近づいてきた時はすぐに俺達を呼べ。分かった?」

「? うん、わかった!!」

「よーし、良い子。じゃあ、遊んできていいよ」

「はーい!!」

 

元気よく返事をすると、華は再び友達の方へと向かっていった。よしよし、これでもう大丈夫だな。

 

「おい、太陽。何だよ今のは・・・」

「いや・・・お前の華を見る目が怪しかったから念の為に」

「!! お前・・・」

 

その言葉に大賀は珍しくジロリと鋭い目つきで岡島を睨み、登志もムッとした表情で岡島を見ながら口を開いた。

 

「岡島君・・・華に手を出したら僕達、容赦しないですよ?」

「え!?いや、俺だって流石にクラスメイトの妹に手出さないって!!」

「まあまあ、待てよお前ら。流石にクラスメイトを信用しておこうや」

 

そう言いながら、威月は登志達と岡島の間に(にこ)やかな表情を浮かべながら割り込んだ。う・・・あの顔は、逆に怖えな・・・

 

「お、おぁ威月!!ありがとう、お前は信じて「いざとなったら俺が殺るから心配すんな」・・・あれ!?何か逆に危なくなった!?」

 

まあ、普段は隠してるだけで、威月も結構家族想いだからな。

 

「(ガラッ)おはようございまーす・・・って、大賀お兄ちゃん!?」

「ん? おう隆史君、おはよう」

 

と、その時、玄関からそんな元気の良い声が聞こえてきたと思ったら、大賀に気づいて更に大きな声を上げながら近づいてきた。

 

「どうしたのー!?何でここにいるの?」

「えーと・・・実は今日から2週間ここで松方さんの変わりに皆のお世話をするんだ」

「えっ、本当!?じゃあさ、今からサッカーしようよ!!」

「ああ、いいよ・・・って引っ張らなくても行くって!!」

 

そう言いながら大賀は隆史君に引っ張られて外に出て行った。まあ、予想通りといえば予想通りだな。

 

「アハハ、大賀はここに来たら何時でも引っ張りダコだね。まあ、大賀は優しいし運動も出来るから当然だけどね「ねえねえ、とうしおにいちゃん」 ? どうしたの、華」

「はなたちに、えほんよんで!!」

「え?んー・・・良いのかな?華ばっかり特別扱いになっちゃわない?」

 

服を引っ張られながらの可愛らしいおねだりに、登志は困った様子でこっちを向いた。登志凄えな・・・

 

(俺だったらあんな風にねだられたらあっさり読んじゃいそうだ・・・)

「別にいいだろ。華だけに読むんじゃねえし、松方さんも相手するなとは言ってなかったんだしな」

「分かった。いいよ2人共、どれがいい?」

「えっとねー・・・」

 

威月のそんな返しに頷くと、登志は笑いながら2人と一緒に歩いていった。

 

「太陽君、ちょっと後で来てくれる?一応、大体のスケジュールを確認したいから。それと威月君も悪いんだけど後で買い出しに行ってくれるかしら?」

「了解です、田中さん」

「うす」

 

そんなやりとりをする俺達を、皆が少しだけ驚いた様子で見ているのに気づいた。

 

「どうした?皆」

「いや・・・4人、慣れてるんだなと思ってさ」

「まぁ、小学校の頃とかは今よりも世話になってきたからな。中学校になってからもよく手伝いに呼ばれてるしな」

「俺達「ひまわり」にとっちゃ、第2の家と言っても過言じゃねえよ」

「ふむ、偶然とはいえ、これだけ頼りになる仲間がいたのが不幸中の幸いだね。2週間の労働・・・百億失う位なら秘密を守る為の必要なコストと思えば安い物だな」

「めがねー!!」

「キランてしたー!!」

 

竹林・・・ズボン下ろされながらじゃ、しまらねえな・・・

 

(まあ、基本的には全員良い子で俺達の言う事、聞いてくれる子達ばっかりだからやりやすいんだよな)

「んで、おたくらは結局何してくれる訳?」

(・・・ほんの一部を除けば)

 

心の中で苦笑しながら、俺は声のした方へと振り返った。するとそこには、予想通り1人の女の子が立っていた。

 

「「ひまわり」の人達以外は全く知らない連中だけど、役に立つんでしょうね?」

・・・威月、この中々とんがった子は誰?どう見ても小学生だけど

「あぁ、ここの1番の最年長のさくらちゃんだ。2年位、学校の支配を拒み続けてる」

「・・・カッコ良く言ってるけど、それって不登校じゃねーの?」

 

中村の問いに対しての威月のそんな答えに吉田がツッコむ中、さくらちゃんは「フン」と鼻を鳴らしながら壁に立てかけてあった箒を手に取ると、

 

「じゃあ、まずは働く根性があるのか試させて貰おうじゃ「あ!さくらちゃん!!そこは・・・」・・・へ?(ズボッ)ブゲェッ!?」

(あー・・・遅かった)

 

俺の制止は間に合わず、さくらちゃんは傷んでいた床の上に乗ってしまい、床下に下半身を埋めながらそんな声を上げた。

 

「痛~・・・」

「ほら、さくらちゃん。大丈夫?」

「改装とかしないんですか?よく見たらこの建物、結構ガタが来てるんじゃ・・・」

 

痛がるさくらちゃんを引っ張り出していると、周りを見ながら磯貝が田中さんにそう尋ねた。まあ、至る所に修復した跡が山ほどあるからな。

 

「お金がね・・・園長、待機児童や不登校な子がいれば片っ端から格安で預かってるから。そのせいで職員すらまともに雇えないから自分が1番働いてるわ」

「確かに口も悪いし、気難しい所もある。でも、誰よりも子供の事を最優先で考えてくれる人なんだよ、松方さんは」

「「「「・・・・」」」」

 

威月のそんな言葉に、どうやら改めて重大な事をしたのかが分かったみたいだな。

 

「起きた事を今更後悔しても始まらねえ。これからどう挽回するかが重要だろ」

「・・・だな。32人で2週間ありゃ、色んな事出来るしな」

「よし、それぞれの担当を決めて、実行しよう」

「おう、慰謝料の倍額分は仕事してやろうぜ!!」

 

松方さん、ゆっくり休んでて下さい。俺達でバッチリ仕事やっときますから!!

 

 

 

威月side

 

「騎士カルマ!!もうこれ以上は誰も傷つけないで!!」

「(ボカッ・・・ボカッ・・・)甘えを見せてはダメですよ姫。コイツを倒せば王国は平和になるんです」

「ごふっ・・・ちょっ、カルマてめ・・・殴るフリだけっつったろうが!!があぁ!!このクソ騎士、ぶっ殺してやらぁ!!」

「すっげえ・・・本格的なアクションだ」

(カルマの奴・・・端から殴るつもりだったな)

 

 まあ、その後に始まった寺坂とカルマの殴り合いをアクションと勘違いして皆も興奮してるから、結果オーライだな。

 

「ま、魔物よ眠れ!!」

「(ぼふっ)んぐっ・・・奥田・・・それは・・・反・・・・・則・・・・・」 バタッ

「魔法使いが持っていたクロロホルムによって、魔物は簡単に倒す事が出来ました。いやー、科学の力は凄い!!

・・・はーい、これにてめでたしめでたし!!皆、面白かったら拍手ー!!」

(・・・何だ、この劇?)

 

買い出しから帰ってきたと思ったら、何やら謎の劇が繰り広げられていたのだ。まあ、子供達には大ウケみたいだし、いいか。

 

(にしても茅野の奴、やけに子供受けいいんだな。空気の掴み方も分かってるな。ああいうの、得意なんだな)

「ただいまーッス」

「あ、お帰りなさい威月君。ごめんなさいね、いきなりそんな雑用させちゃって」

「いいっすよ、そういう約束なんで」

 

田中さんにそう返しながら、俺は荷物を置いた。別にここの手伝いするのはそもそも嫌いじゃねえし。

 

「威月ー、帰ってきたならちょっと手ぇ貸してー」

「おう分かった」

 

莉桜に呼ばれて行ってみると、莉桜や渚達の子供達に勉強を教える場に着いた。

 

「威月君達が来てくれて助かるわ~。何たってあの椚ヶ丘の生徒さん達なんだもんね」

「まあ、俺らはその中の底辺なんすけどね。何か用か?中村」

「うん、ちょっと人数足りないから手伝ってよ」

「はいよ」

 

外では、烏間先生の部下の鵜飼さんの監督の下で千葉を中心に力仕事を頑張ってくれてるしな。俺も頑張らねえと。

 

 

 

「どうだ?分かったかい」

「うん、ありがとう!!」

 

 ふむ、まだ小学校前とはいえ、ある程度は分かるみたいだな。根気強く教えれば大丈夫そうだな。

 

「ホント頼りになるよね、アンタって」

「あ?いきなり何だよ」

 

その時、隣で別の子に教えていた莉桜が苦笑しながらそう話しかけてきた。

 

「いやー、昨日もさ結局はアンタ達2人がいたから園長さんもこの話、受けてくれた訳じゃん。それに世話をするのとか面倒くさがりそうだけど、何だかんだいって面倒見もいいしね」

「フッ、そりゃあ「ひまわり」でずっとやってきたからだろうな。あのお人好し達と一緒に暮らして、自然と身についたんだよ」

「アンタだって優しいよ。今も昔もね」

 

机を支えに頬杖を突きながら、莉桜は微笑んでそう言った。思いがけない可愛らしい姿に、思わず目線を外しながら返した。

 

「・・・んだよ、らしくねえぞ」

「アハハ、確かに。

・・・でも、こんな風に並んで座って勉強してると幼稚園の頃を思い出してね。あん時は、アンタ位しか友達いなかったからさ」

「・・・あぁ、そうだな」

 

懐かしいな・・・あの頃は2人で遊び回ったり、勉強を教え合ったりしたな・・・そのお陰で2人共、小学校一年で高学年の問題が解ける程にまでなれたんだっけ。

 

「・・・そういった意味では」

「え?」

「お前は俺にとって、「ひまわり」の皆と同じ位信頼してる数少ない相手かもな」

「威月・・・うん、お互いにね」

 

・・・むー、何かハズいな。莉桜もどこか嬉しそうだし。・・・まあ、これだけは紛う事なき俺の本心だからな。

 

「ねー、まだなの渚?あたしを東大連れてってくれるんでしょ!!」

「ちょ、ちょっと待ってて。えーと・・・コレを分かりやすく教えるには・・・

 

ん?さくらちゃんを渚が教えるみたいだけど、結構大変だろうな。不登校のさくらちゃんじゃ、どうしても勉強が遅れてるからな。

 

「そ、そういえばさ、さくらちゃんはどうして学校に行かなくなったの?」

「・・・イジメだよ、典型的なレベルの低い。まったく・・・何で人ってちょっとばかし力を付けたら、簡単に人を見下したり傷つけたりするのかね」

「うっ・・・」

「たはは・・・」

 

・・・さくらちゃんはそのつもりは無いんだろうが、今の渚や莉桜達には耳が痛い話だな。その証拠に、何も言えないみたいだしな。

 

「どーせアンタも親みたいに「逃げるな」って言うんでしょ?「悔しかったら自分も学校行って力を付けろって。

・・・まったく、何も知らないくせにホントいい迷惑「(ボカッ!!あ!?やべっ!!」ん?」

 

何だ?いきなり外からそんな音と声が聞こえてきて、全員が外を見た。そのまま皆を代表して、窓を開けた俺の目に飛び込んできたのは・・・

 

ぷしゅ~・・・ 「す、すまん!!太陽、大丈夫か!?」

 

後頭部から煙を出しながらうつ伏せで倒れる太陽と、心配そうに揺さぶる大賀の姿だった。・・・何だ、この状況・・・?

 

「どうした?何してんだよ」

「あ、威月。それがよー・・・隆史君がこの前アニメで見た空中で身体を回転させてシュートするって技を俺にやってほしいって言ってきたからやってみたんだ。そしたら・・・思ったより上手く出来て、太陽の頭にクリーンヒットしちまった」

「ホントに何してんだよ」

 

いや、確かにそんな曲芸やってのけたお前が凄えんだろうけどさ。

 

「んー・・・痛て、何すんだよ大賀、いきなり」

「ご、ゴメン。

・・・て、あれ?ボールどこ行った?」

 

よかった、頭は抑えてるが、意識はハッキリしてるな。だが、確かに太陽に当たったらしいボールが無いな。

 

「・・・あ、大賀。あの木の上」

「げ、あんな所に」

(10メートルはあるな・・・こりゃ子供達じゃ取れねえぞ)

「(ミャア)・・・! 何だあの子?」

 

その時、太陽がすぐ横の木の枝に丸くなる子猫を見つけた。あの様子を見るに、怖がってるのか?

 

「あー、たーくんあの子、まだ木登り経験少ないから降りられなくなったみたい。人にもそこまで慣れてないみたいだし」

「フン、見なよ。頑張って登ったのに全て無駄。高い場所行って危険になる位なら、地べたで安全に安心に生きて何が悪いのさ」

 

さくらちゃん・・・それは違えぜ。確かに全てが報われるなんて俺も思わねえ。だが、挑戦した事が全く無駄だなんて、俺は思わねえ。

 

「(コキコキッ)大賀、人にぶつけた詫びに足貸せ」

「ん、分かった」

「ボールは俺が行くよ。岡島、棒倒しのアレでいこう」

「今度は下の安全見とかないのな」

 

首を鳴らしながら太陽がそう言う横で、木村がボールを見ながら言いきった。子供達が不思議そうにする中、同じく?を浮かべるさくらちゃんの横に並んだ渚が口を開いた。

 

「例えばさくらちゃん、あの木の上が学校で地べたがそれ以外だとしたら、僕達は地べたで力を付けてきたんだ」

「(ぐっ・・・)フッ!!」 

空軍(アルメ・ド・レール)サニーシュート!!」

ブオンッ!!

 

次の瞬間、岡島と大賀の助けを得て、木村と太陽は一瞬で木の上に飛び移った。目の前の光景にさくらちゃんを含めた子供達全員が唖然する中、

 

「木の上の人と見上げ見下ろされあいながら、怖さもいっぱい学んでから登り始めたんだ。だから、あんな風に自由に動き回れる。

・・・まあ、いつの間にかその怖さも忘れちゃって、地べたに落ちちゃったんだけどね」

スルスル・・・ 「よーし、取れた」

「怖くねえよ、おいで」

「(ペロペロ・・・)ミャア!!」

「くすぐってえよ、よしよし」

 

苦笑いを浮かべながら渚がそう言いきるのと同時に、2人はそれぞれ目的を達成していた。しっかし太陽の奴・・・相変わらずすぐに懐かせてるな。生き物が好きなフェロモンでも常に出てるのか?

 

「あ、あの4人以外にもこんな動きが出来るなんて、アンタ達いったい・・・(スッ) !!」

「無理に行かなくていい、僕が力を付けてあげる。わかばパーク(ここ)でしか秘密の勉強でね」

「う、うん・・・」

 

手を取りながらの渚の言葉に、さくらちゃんは頷いてみせた。さーて、ここから2週間、骨の分きっちり利子付けて返しますよ、松方さん!!

 

 

 

「しっかし、渚ちゃん。あれ無自覚かね?だとしたら超恐ろしいけど」

「だろうなぁ、天賦の才って怖えな」

 

 顔を赤くしているさくらちゃんに全く気づいた様子がない渚を見て、莉桜と俺はそれぞれ呟いた。アイツ、詐欺師もやれるんじゃ・・・




いかがだったでしょうか。

威月と中村さんのこんな関係って良いですよね。お互いを本当に信頼し合っている感じがして。

それと話は変わりますが、最近忙しさから昔の様に感想に返事を書けずにいますが、感想自体はちゃんと有り難く読ませて貰っています。

批判は少し凹みますが(笑)貴重な意見として受け止める覚悟はあるので、気軽に書いて頂けたら幸いです!!

中々投稿ペースを上げられませんが、約1か月に1話の今のペースは最低限、守っていくので、これからも気長にお待ち頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十六時間目 アフターの時間

皆さんどうも籠野球です。

申し訳ありません・・・何故か急にアイディアが全く浮かばなくなってしまい、ここまで時間が掛かってしまいました(前話で1か月のペースを守ると言っときながらすみません
m(_ _)m)

年末までにもう1話頑張って投稿出来たらいいなぁ・・・

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「こんなのでいいのかしら?太陽君。うちの子が読まなくなったお古なんだけど・・・」

「いえいえ、充分ですよ」

「ありがとうございます!!」

 

 わかばパークで働き始めてから1週間程経った日曜日・・・近所のお母さんから絵本を受け取りながら、俺と陽菜乃は頭を下げた。全然綺麗だし、まだまだ読めそうだしな。

 

「結構一杯になったね、たーくん!!」

「あぁ、交渉上手な陽菜乃や矢田のお陰だよ。ありがとな」

「ううん、たーくん達が過去にわかばパークに通ってた子供達の家を知っていたからだよ。お陰でいらなくなった物とはいえ、皆さんすぐにくれるんだもん」

 

段ボールを抱えて帰る途中、俺達はそんなやりとりをしていた。まあ絵本とかって結構重いから捨てにいかないんだよな。俺達も裕樹達が来るまでは居間の隅っこに山積みになってたし。

 

「・・・あ、太陽と倉橋さん」

 

と、わかばパークの入り口に着いた俺達に、同じく段ボールを抱えた矢田と一緒の登志が声をかけてきた。

 

「登志、それに矢田も。その様子だと、そっちも順調だったみたいだな」

「うん、これだけあれば充分かな」

 

ま、金を使わずに段ボール4箱なら上等だろう。とはいえ、別に古本屋に売りに行く訳ではない。

 

(まさか、近所から絵本をかき集めて図書館もどきを作ろうと考えるなんて、良い考えしてるな千葉の奴)

「おー!!」

 

そう考えながら中に入った俺達の耳に、そんな興奮した声が聞こえてきた。その方向を向いた俺達の目に入ってきたのは、

 

「いつきにいちゃんたち、そんなおもそうなのにすげー!!」

「危ねえから近づくなよ。どこに置けばいい?皆」

 

丸太3本を右肩で担ぎながら上を見上げる威月の姿だった。流石の怪力だな、威月は。

 

「よいしょっと(ドサッ)フー・・・後、何往復だろうな」

「お疲れさま、威月」

「ん?おう、帰ってきてたのか」

「無理すんなよ、威月。いくら金を使えないとはいえ、E組の裏山から木を伐採してここまで運んでくるのは骨が折れるだろう」

 

まあ、そうしないと材料費を抑える事が出来ないからな・・・

 

「構わねえさ、松方さんにはずっと世話になってきたんだ。それに、俺にとっちゃ筋トレやってるのとそんな変わらねえよ」

「威月、そろそろ行こうぜ」

「はいよ。んじゃ、また昼飯前に戻ってくるわ」

 

村松や寺坂に促され、威月は再び裏山へと戻っていった。手が空いたら、俺も手伝いに行くかな。

 

「それにしても、だいぶ形になってきたな。枠組みは終わってるし」

「松方さん、ビックリするだろうね。帰ってきたら2階建てになってるんだもん」

 

千葉を中心にドンドン完成に近づいていく新建物を見上げながら俺と登志はそれぞれ呟いた。今回、俺達が作り上げたのは他でもない、ここわかばパークの新しい家だ。廃材と威月達が取ってきてくれた木材を利用した、律のコンピュータによる計算で元の母屋を補強する形に作られた物だ。

 

(ホントの鳶職人を使ったら金もかかるが、俺達E組ならこの程度、簡単だな)

「鵜飼さんのお陰だよね。建築士の資格を持ってくれてるあの人がいてくれなかったらここまでは上手く出来なかったし」

「あぁ、烏間先生の部下の人達もホントに多彩だな」

「4人共、とりあえず集めてきた本は中に置いといてくれるか?図書館が完成次第、運び込もう」

 

紙を片手にそう言ってきた千葉に俺達は頷き返し、中に入った俺達の前ではイトナと吉田が何やら自転車を前に話し合っていた。

 

「チッ・・・前輪が完全に曲がっちまってんな。荷物、積み過ぎだぜ、あの爺さん」

「いっその事、前輪を2輪をしてみるのはどうだ?3輪ならば安全性も向上するし、積載量も上がる筈だ。電動アシストのシステムは俺が作る」

(なるほど、松方さんの自転車を・・・確かにあの自転車は限界ギリギリだったし、名案だな)

 

・・・中学生でそんな修理&改造を考えて実践出来る奴がいる辺り、何だかんだいってE組(俺達)もそれぞれ尖った能力持ってるよな。

 

「・・・お前達か。悪いが、今からコイツの修理を行うから此所には立ち寄らないでくれ。部品がどこかに転がってしまっては困る」

「おう、悪い。皆にも伝えとくよ」

 

振り返ったイトナにそう返しながら、俺達は勉強を教えている部屋の隅へと本を4つ並べて置いた。

 

「・・・ここまでは大丈夫?さくらちゃん」

「う、うん。大丈夫!!」

「分かった、じゃあ次は・・・」

 

おっと、渚とさくらちゃんが勉強中だったか・・・にしてもさくらちゃん、渚の言う事を素直に聞くようになったな。俺らですらまともに言う事、聞いてくれるようになるのにかなり掛かったのに凄えな。

 

「・・・あれ?ねえ渚君。教科書、算数しか無いけど、他の教科は教えないの?」

 

登志の疑問に改めて見てみると、確かに2人の周りには算数の教科書やドリルしか置いてなかった。いくつかの教科を教えるつもりは無いのか・・・?

 

「あぁ、うん。僕にちょっと考えがあるんだ。さくらちゃんは僕に任せてくれないかな?」

「そうなんだ、分かった。さくらちゃんはお願いね、渚君」

(まあ、渚なら上手い事やってくれるだろう。後は手が空いた奴がそれぞれを手伝っていけば松方さんが戻ってくる頃には全部終わらせられ「♪~」お、もう昼か)

 

もうそろそろ来る頃かな・・・そう思っていると外から元気の良い声が聞こえてきた。

 

「太陽兄ちゃーん!!」

「お、来た来た。ベランダから入ってきなー」

ガララッ 「あー、お腹すいたー!!」

 

予想通り、そう言いながら中に入ってきたのは裕樹だった。 その後ろには手を繋ぐ彩子と華の姿があった。

 

「彩子ちゃんもこんにちは!!」

「こ、こんにちは」 ススッ・・・ギュッ

 

この前、手を握ってあげてから、彩子は少しだけ昔の様に甘えてくるようになってきたのだ。今も俺と自分から手を繋いでくるし。

 

(ま、別に嫌な訳じゃ無いし、別に構わないけどさ)

「よいしょ、実徳さんがいてくれて良かったね。洗濯物とかもやってくれたし」

「何だったら別に実徳さんにご飯作って貰えばよかった「「「やだ!!」」」・・・そっか」

(実徳さん・・・今更だけど、大賀か岬さんに料理本格的に習った方がいいんじゃ・・・)

 

登志に抱っこされた華にすら即答で断られるなんて・・・・・いや、実徳さんのあのレベルじゃ当然か・・・

 

(何せ、大さじと小さじの判断が付いてるのかも不安だからな・・・)

「2人共、そろそろ出来るから準備してくれるか?」

「「はい!!」」

 

その時、台所から大賀の声が聞こえてきたと思ったら、小学校高学年の1番年上の男の子2人がご飯を食べる部屋へと走っていった。そのままバタバタと音がしたと思ったら・・・

 

「「終わりました!!」」

「ありがと。皆に声をかけてきてくれるか?2人にはちょっとおまけしとくよ」

「「ありがとう!!行ってきます!!」」

「・・・何で「ひまわり」の皆が良い子なのが何となく分かったかも・・・」

 

全員が無言になる中、ポツリと呟いた矢田の言葉に全員が同意した。というか、たった1週間でどんな躾をしたんだ、大賀の奴・・・

 

 

 

「太陽、しっかり抑えとけよ」

「おう」

 

 1週間後・・・完成した新建屋に上り、俺は寺坂が打ち付けようとしている屋根材を押さえていた。

 

トンッ・・・バンッ・・・ 「・・・うし、こんなモンだろ」

「「「「出来たー!!」」」」

 

汗を拭う寺坂のそんな呟きに、下で見ていた子供達を含めた全員が歓声を上げた。フゥ・・・何とか間に合った。

 

「結構良い感じじゃねーか。こりゃああの爺さんも驚くだろ」

「殺せんせーの話じゃ、もうこっちに向かってるらしいが「何という事でしょう!?」・・・お、来た来た」

「どうだよ?爺さん。怪我した分の慰謝料くれーにはなってねえか?」

 

どこかのリフォーム番組のナレーションみたいなツッコミを入れた松方さんに、横の寺坂は得意げにそう言った。

 

「こ、コレは・・・」

「素人だからって手抜きじゃ無いですよ。ちゃんとプロやコンピュータに基づいた設計ですからね」

「とりあえず中へどうぞ。色々、紹介しないといけないですしね」

 

威月や登志達に促されて松方さんは中へ入っていった。さて、俺もさっさと降りて加わるか。

 

「・・・たった2週間でここまで・・・」

「凄かったですよ、皆。あちこち飛び回って」

 

二部屋ある2階の内の1つ、図書室もどきの部屋を見渡しながら呟く松方さんに、田中さんが感心した様子で相づちを入れていた。しっかし、改めて見てもシンプルだけど分かりやすい設計だな。千葉のセンスは凄いな。

 

「ここは室内遊技場。床にマットやネット敷き詰めてますし、室内だから錆や腐食も心配いらないですよ」

「・・・っ「あぁ、あの遊具覚えといてくれな」・・・何じゃと?」

 

そう言いながら吉田が指差したのは、公園とかでよく見る回転遊具だった。吉田とイトナが何か細工してたみたいだったが、何をしたんだ?

 

「さ、次はガレージ兼職員室へどうぞ」

「ガレージ・・・じゃと?」

「えぇ、今回のリフォームの目玉です」

 

磯貝に促され、1階に降りた松方さんの目に飛び込んできたのは・・・

 

「―――何という事でしょう。前輪が曲がった自転車を3輪に改造、電動アシストを搭載した安全性や積載量を両立する事に成功しました。しかも自転車の充電器は上の回転遊具と繋がっており、その動力で補えます。つまり子供達が遊べば遊ぶ程、園長さんが助かるというシステムとなっています」

「う・・・上手く出来すぎて逆に気持ち悪い!!何なんじゃ、お前さん達は!?そんなビックリ人間は太陽達だけで充分じゃわい!!」

 

律のそんな説明に遂に松方さんはキラキラとした顔をしている皆にツッコんだ。まあ、普通とは言えないからな。後、誰がビックリ人間っすか、松方さん。

 

「あ、松方さんが大事にしてた前の入れ歯は、イトナ達に頼んでベルに再利用して貰いましたよ。いわゆる匠の粋な気遣いですね」

「要らん、そんな気遣い!!というか、若干、馬鹿にしとるじゃろ威月!?」

(そりゃそう言うだろうよ、威月・・・いくら松方さんでも怒るって言ったじゃねえか・・・)

 

内心、笑いを堪えているであろう威月にツッコんでいると、松方さんがフンと鼻息を立てながらベルを鳴らした。

 

「(チリン)そもそもここで大事なのは子供達とどれだけ心を通わせ正しい躾をしてあげられるか。いくら物を充実させようが・・・それが出来なきゃ何の意味も無いと言う事じゃ」

(まあ、松方さんならそういうわな)

 

確かに俺もそうだとは思うが、ここまでハッキリ言いきってくれる人なんてそうはいないだろう。

 

「「園長先生、お帰りなさい!!」」

「お、おぉ!?」

 

と、その時、大賀の僕とも言える2人の男の子が松方さんの横で気をつけをしながら口を揃えてそう言った。

 

「ど、どうしたんじゃ2人共?何か性格が変わっとるような・・・」

「今まで我が儘言ってすいませんでした!!」

「これからもどうかよろしくお願いします!!」

「うーん・・・いくら「問題ばっかり起こすから躾けて構わない」ってお母さんに言われたからってちょっと厳しくし過ぎちゃったかな・・・」

「ま、感謝されてっしいいだろ」

 

頭を下げながら口々にそう言う2人の姿に、大賀は頬を掻きながら呟いた。でも、威月の言った通りだし、優しい大賀の躾だったからあそこまで素直になったわけだし、結果オーライだろうな。

 

「た、確かに良く躾けられてはおるが、大賀ならこれくらい出来る事は知っとる。まさか他の者は何もやっとらん訳じゃ(ガララ・・・タタタッ)ん?」

「渚!!見て見て!!」

 

と、その時、玄関が開く音がしたとと思ったら、さくらちゃんが紙を掲げながら現れた。

 

「テスト、クラスで上から2番目だったよ!!」

「おー、凄い!!頑張ったね」

「渚の言った通り、算数のテスト()()出て、終わったらソッコー帰ってきた!!先生以外は誰にも行くって言ってないし、いじめっ子達もテストの最中じゃ手ぇ出せなくて、私に動揺したのか点数悪かったみたい」

「これがE組(僕等)の戦い方だよ。自分が最も得意としている一発を相手が無防備な内に叩き込む。今回は算数だけしか教えられなかったけどさ、これから少しずつ武器を増やしていこう」

「だ・・・だったら、またアンタが教えなさいよ・・・?」

「うん、勿論!!」

(なるほど・・・1教科だけを徹底的に教えたのはこの為だったのか。これなら自信も付くし、無理に学校に行く必要も無い。渚の奴、教える才能があるみたい「・・・くく」! 松方さん)

 

誘いを即受けした渚にパアッと顔が明るくなったさくらちゃんを全員が微笑ましく思う中、突然松方さんは笑うと、俺の方へと向き、

 

「最初の出会いから思っとったが、お前達の級友は面白いな、太陽。これじゃあ文句の付けようが無いわい」

「松方さん」

「ワシは子供達の世話で忙しい、お前達の秘密なんぞ気にしてる暇なんぞ無い。さっさと学校に戻れ、学生の本分は勉強だぞ」

 

松方さんは自慢げにテストを掲げるさくらちゃんの頭にポンと手を載せると、穏やかな笑みを浮かべながらそう言ってくれた。フゥ・・・何とか一件落着だな。

 

 

 

―――こうして、俺達の事故騒動からの、2週間の特別授業は幕を閉じた。俺達も自分を見直すいい機会ではあった・・・しかし忘れてはいけないのが、今日が中間テストの前日だという事で・・・

 

 

 

大賀side

 

「ぐぬぬ・・・」

 

九澄 大賀

 

英語 62点

国語 62点

数学 64点

理科 60点

社会 61点

総合 309点 (クラス32位)(学年131位)

 

 テストが終わってから1週間経った今日、俺は思わず返されたテスト用紙とにらめっこしながら呻き声を上げた。ま、まさかクラス最下位になっちまうとは・・・

 

「し、仕方ないよ大賀。僕達、中間テスト前にまともに勉強しなかったんだもん。オマケにA組の皆は今まで以上に勉強してたんだし、勝てる訳無いよ」

 

伊勢 登志

 

英語 62点

国語 78点

数学 70点

理科 71点

社会 80点

総合 361点 (クラス19位)(学年90位)

 

「だね・・・丸腰で猛獣と戦うのと殆ど変わんないよ」

「その証拠に・・・E組の半分以上が50位圏外に弾き出されてっしな・・・はぁ。改めてマジですまねえ」

「今更、謝らなくていいですよ。もう皆気にしてなんか無いですし「ぎっしし、しっかし拍子抜けだなぁ」・・・う」

 

一緒に帰る渚や岡島、杉野の申し訳なさそうな声に返す登志の声を遮ったのは、後ろからニヤニヤとした笑みを浮かべて近づいてくる五英傑の皆だった。

 

「やっぱり前回はマグレみたいだね。棒倒しで潰すまでも無かったか」

「ふーむ、彼女の前であそこまで言いきった君には少しは期待していたんだがな」

「「「「う・・・」」」」

「言っておくがこの学校じゃ成績が全て、下のお前等じゃ上の俺等には口出しする権利なんざ「ふーん、なら俺達は少なくともアンタら4人には口出ししていいんだ?」・・・っ」

 

何も言えなくなってしまった俺達の代わりに後ろから近づいてくる3人が異議を唱えた。

 

赤羽 業

 

英語 98点

国語 98点

数学 100点

理科 98点

社会 98点

総合 492点 (クラス2位)(学年3位)

 

「ま、どーせE組(うち)の担任は「1位じゃ無いならまだまだですねぇ」って抜かすだろーけどね」

 

神木 太陽

 

英語 97点

国語 98点

数学 100点

理科 100点

社会 98点

総合 493点 (クラス1位)(学年1位タイ)

 

「つーか、同率でも文句言ってきそうだけどな・・・くっそ、ケアレスミスが痛かった」

 

水守 威月

 

英語 100点 (学年1位)

国語 89点

数学 80点

理科 81点

社会 83点

総合 433点 (クラス7位)(学年24位)

 

「確か英語は100点俺だけだったよな。なら、1教科分位は俺も偉そうにしていいって事だ」

 

そう・・・確かに俺達は殆どが成績を落とした・・・しかし威月は1教科だけだが単独1位を獲得し、この2人に関しては現状維持か大きく順位を伸ばしていたのだ。

 

(太陽は勿論、カルマも期末から毎日欠かさずに勉強してたみたいだし、2人共桁違いの集中力でテスト受けてたもんな・・・)

「てか、今回は俺達が皆に頼んでたんだよ。中間テストは手加減してくれってな」

「そーそ、お前等に花を持たしてやっただけ。毎回負けてばっかじゃエリートの面子が立たないっしょ」

「な、何ぃ?」

 

五英傑の皆を小馬鹿にしたような口調で挑発する太陽やカルマに、五英傑は分かりやすく怒りを露わにした。

 

「・・・だが、それも今回だけ。2学期の期末テスト、E組が同じ条件のテストを受けられるのは、もうそれだけしか無い」

「つまり、次が正真正銘ラストの勝負。2か月後、全ての決着(ケリ)つけようよ」

「・・・いいだろう」

(2人共・・・)

 

間違いなくあの2人は、俺達を庇ってくれたんだろう。俺達みたいな足手まといにも寄り添ってくれる、だからあの2人は信頼できるんだよな。

 

「おーい、何してんだ?早く行こーぜ」

「え?どこに?」

「いやいや、俺らまだちゃんと謝ってないじゃん。テスト終わったし、もっかい行っとこーよ」

 

・・・あ。そっか、わかばパーク行ってる間は会わなかったし、テスト中は職員室に行かなかったもんな。

 

 

 

太陽side

 

「「・・・迷惑かけてすいませんでした、烏間先生」」

「これも仕事だ、気にしなくていい」

 

 クラスを代表した磯貝の片岡の謝罪に合わせて頭を下げた俺達に、烏間先生はいつも通りパソコンに向き合ったままそう返した。・・・正直かなり怖いが、やっぱり烏間先生に許しを貰わないと完全に解決したとは言えないからな。

 

「・・・それで、思いがけないロスにはなったが、君達自身に何か得る物は無かったか?」

「・・・強くなるのは、あくまで自分達の為だと思ってました」

 

烏間先生の問いに少しだけ言い淀んだ後、ゆっくりと渚が自分の言葉を噛みしめるように口を開いた。

 

「お金の為、未来の為、成績の為、その為に身につけてきたと・・・でも、その力は他人の為にも使えるんだって、今回の一件で強く思いました。殺す力は地球を救える為に、学力は誰かを助ける為に」

「・・・さー?どーだろうね」

 

苦笑しながらの渚の言葉に、カルマは飄々とした様子でそう相槌をうった。カルマに向けて言ったんだろうな、最後の言葉は。

 

「もう調子乗ってあんな使い方、2度としねえっすよ」

「あんな事がもう起きないように気をつけます。なので、また訓練をお願いします」

「ふむ・・・君達の考えは分かった。

・・・だからこそ、今の君達では高度訓練は再開させられないな」

 

椅子から立ち上がりながそう言った烏間先生に全員が表情を強張らせた。ま、まだダメなのか!?

 

「何せ、この有様じゃな」 バサッ

「・・・あ、それ俺のだ。股が裂けて使い物にもうならねえ奴」

「岡島君だけじゃなく、他の皆のもかなりガタがきている。これから更に訓練は過酷さを増していく中、学校のジャージの強度ではもう訓練を続けるのは不可能だ。ボロボロになっていくジャージを見れば、親御さんも流石に黙っていないだろうからな」

 

確かに・・・俺らは大賀が縫い直してくれるし実徳さんや岬さんだから特に言われないが、普通は怪しまれて当然だろう。

 

「そこで、君達に防衛省(くに)からのプレゼントだ。今日からまた君達は心も身体も強くなる」

 

そう言った烏間先生の後ろから、鶴田さん達が段ボールを抱えて入ってきた。

 

「コレは・・・」

「先に言っておこう。それより強い体育着など、この世には存在しない」

 

手渡された服を見て呟いた俺達に、珍しくニヤリと笑みを浮かべながら烏間先生がそう言った。




いかがだったでしょうか。

テストの点数を決めるのって何回もキャラクターブックを見直して順位を調べてと、結構大変ですね(そう言った意味では、太陽が1番楽です(笑))

まあ、それが楽しいんですが(笑)

そして改めて、投稿が遅れて申し訳ありませんでした!!
m(_ _)m

2か月もの間、何も言わずに投稿もしていない中、お気に入り登録を解除せずに気長に待ち続けてくれた方々や読んでくれている方には、本当に頭が下がります!!(いつの間にか100人になっていて、リアルに目玉が飛び出ました(笑))

完結までまだまだ掛かりそうなとんでもない亀投稿ですが、是非読んで頂けたら嬉しいです!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十七時間目 プレゼントの時間

皆さんどうも籠野球です。

あけましておめでとうございます!!
m(_ _)m
毎年お馴染みで、3日まで里帰りでパソコンが触れませんでした。

作者と同じで明日から仕事や学校、部活ででかなーーーり憂鬱な方もいると思いますが、お互い頑張って寒い冬を乗り切りましょう!!

それでは、どうぞ!!


大賀side

 

「フフフ~~~ン、給料後のささやかな贅沢。フランスの直売所で買ったフォアグラでバーベキュー、皆さんには内緒ですねぇヌルフフフ」

「・・・」

 

 俺の視線の先では、殺せんせーがバーベキューコンロの前で串を片手に鼻歌を歌っていた。・・・俺はフォアグラよりも普通のお肉でいいなぁ・・・おっと、今はそんなのどうでもいいや。

 

((・・・コクッ)) ババッ!!

 

横にいる中村さんと頷きあうと、俺達2人は1()0()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

ヒュウゥ・・・ガシャン!!「(スカッ)にゅやーっ!?い、いきなり何ですか、中村さんに大賀君!!何で崖から落ちてくるんです!?」

「・・・うっわ、ホントだ。マジであの高さから飛び降りても痛くない」

「それに全く熱くねえや。

・・・あ、殺せんせー。それ焦げてますよ」

「え・・・にゅやあぁ!?」

 

殺せんせーの絶叫を聞きながら、俺はさっきの烏間先生の説明を思い出していた。

 

 

 

「軍と企業が共同開発した強化繊維だ。衝撃性、耐火性、切断にも引っ張りに強い優れ物だ。世界最先端の技術故に性能テストのモニターを探していてな、丁度良いと思って君達用に作らせたんだ」

「凄えな・・・靴込みでジャージよりも軽いぜ」

「(タンッ・・・くるん)うおっ、この靴めっちゃ跳ねる!!」

 

 木村の呟きを聞きながら、俺はその場でバク転をした。手も着かずに空中で1回転出来るなんて・・・普段のジャージじゃ無理だぜ。

 

「驚くのはそれだけじゃ無い、その服の機能はそれだけじゃ終わらないぞ」

 

 

 

全く油断も隙も無い。

・・・気晴らしに、ここでジャンプでも読みますかねぇ

「菅谷、頼む」

「おう(シャカシャカ・・・プシュー)」

「揮発性物質を噴射すりゃ、すぐに繊維が反応して色が変わるとはな・・・」

「あぁ、5色組み合わせりゃ、紛れる事が出来ない環境なんてねえぜ」

 

 草むらに擬態して進んでいく千葉と速水さんを見ながら、威月や太陽はそんなやりとりをしていた。注意深く見てないと、俺達も見失いそうだ。カメレオンみたいだな・・・

 

パパパン!!)「ひぃ!?ち、千葉君ですか!?

・・・あぁ!?せっかく不破さんに中古で売って貰ったというのにペイント塗れに!!

 

その時、遠くから銃声と共に殺せんせーのそんな叫び声が遠くから聞こえてきた。というか、教師が生徒から金で物を買っちゃっていいのか・・・?

 

 

 

「・・・・・フゥ・・・このロケットおっぱいの再現の難しさときたら、もう1時間は経っています。ですが、先生は芸術にも手を抜きません!!もう一頑張りですね」

(えーと・・・確かフードを被って首にエアを入れるっと) ぐいっ

 

空き教室で何やらブツブツと呟きながら本を片手に粘土細工中の殺せんせーを尻目に、俺はフードを被り直した。烏間先生曰く、この服にはありとあらゆる場所に衝撃を吸収する素材が組み込まれているらしい。フードを被れば頭や首までもが完全防御出来るって事だから・・・

 

(つまり、危険な暗殺も可能って事だよな!!)

「こっちはオッケー、大賀は?」

「大丈夫、いいよ皆!!」

 

横にいるカルマに返しながら、俺達は勢いよくワイヤーで滑り始めた。着地地点は殺せんせーのいる教室!!当然、窓にはガラスがあるのだが・・・

 

(さっきあれだけの高さから飛び降りたんだ、こんぐらいじゃビビらねえよ!!) バリィン!!

「(ビシッビチュ)いやーッ!!先生の力作が!?き、今日はいったい何ですか!!息つく暇も無い!!」

 

俺とカルマの銃撃によってボロボロになった粘土を大事そうに持ちながら、殺せんせーは涙を流して問い詰めてきた。まぁ、確かに3連続で想定外の暗殺されたらこうなっちゃうよな。

 

「わざわざ手の内を晒す必要は無いと俺は止めたんだが、どうしても彼等がお前に見せたかったらしくてな」

 

腕を組みながらそう言った烏間先生に気づいたらしく、殺せんせーは?を浮かべる中、

 

「ここじゃあ、暗殺の教えは暗殺で返すのが流儀だろ」

「あれだけ怒られたんだし、真面目に殺らないとね」

「でも、安心して下さいよ。新しいこの(ちから)、今度こそ必ず正しく使ってみせますから」

「ま、殺す力が誰かを守る力ってのは矛盾してるかもだけどな」

 

寺坂、不破さん、俺が代表して言い、烏間先生の様に腕を組んだ威月が締めくくった宣言に、殺せんせーは満足気な顔を浮かべ、

 

「素晴らしい答えです。では、明日から通常授業に戻ります。殺せるといいですねぇ、卒業までに」

 

久々にしましま模様の(舐めてる)顔になりながらそう言った。よーし、気合入れっか!!

 

 

 

「それにしても、凄えプレゼントくれたよな烏間先生。大賀がアレ着たら大抵の暗殺、可能っぽいし」

「おう、任しといてくれよ友人。E組の特攻隊長になってみせるからさ」

 

 校舎を出た俺達はそんな事を話し合いながら歩いていた。とりあえずテストも終わったし、プレゼントも貰ったし、良かった良かった。

 

「お前の場合、只の無謀な突撃にならないか心配だがな・・・」

「ひっでえな、威月。俺がそんな考え無しに突っ込んでばっかりと思わないでくれよ、なあ皆?」

「「「「・・・・」」」」

「・・・え?俺ってそんなに無鉄砲だと思われてたのか!?」

「・・・気づいてなかったんだ」

 

むぅ・・・渚まで苦笑いしてるし・・・

 

「ま、心配すんな。そうならない様に、俺らがいるんだしな」

「そーそ、あんまり気にすんなよ。んじゃ、ワリいけど先帰るわ」

「あ、待ってたーくん。私も途中まで一緒に「!! それはダメ!!」・・・へ?」

 

太陽にしては珍しい大声での遮りに倉橋さんがキョトンとなる中、太陽は慌てて弁解を始めた。

 

「え、えっとな・・・そう!実は今日ちょっと寄らなきゃならない所があってな。かなり遠回りになっちゃうから付いてこない方がいいぜ」

「う、うん。分かったよ」

くく・・・

 

太陽の怒濤の勢いに押されて倉橋さんが思わず頷いた。そんなやりとりをする2人の姿を、威月が何やらニヤニヤとした笑みを浮かべながら見ていた。・・・威月、何か知ってんのかな?でも、聞いても教えてくれだろうしいっか。

 

「太陽、俺も行くわ。図書館に行きてえから俺も急いでんだ」

「お、おぉそうか。じゃあ、行こうぜ」

「というわけで、後は頼むな登志、大賀。んじゃお疲れ皆」

 

そう言い残して2人は山道を下っていった。つってもなぁ・・・今日は特にスーパーに寄らなくてもいいし、普通に帰るか。

 

全くあの堅物は・・・ホント女心が分かってない「・・・あ、久しぶりビッチ先生!!」・・・あら、アンタ達」

 

その時、太陽達と入れ違いに、何かをブツブツと呟きながらこっちへ向かってきた。矢田さんの声で、向こうもこっちに気づいたみたいだな。

 

「久しぶりね。まだいるって事は、アンタ達もうプレゼントは貰ったの?」

「体育着の事?それなら貰いましたよ」

「そう。ちなみにあの服、女子のは私がデザインを考えたのよ。烏間ったら男子と女子、一緒のデザインにしようとしてたから。まあ、私としてはもう少し男受けするような肌を露出させたデザインでも良かったんだけどね」

「何の為に良い素材使ってると思ってるんですか・・・」

 

得意げに言うビッチ先生に登志がツッコんだ。今のでも充分、可愛いとは思うけどな。

 

・・・にしてもアイツってば・・・皆にはプレゼントあげて私には何にもくれないんだから・・・タコだって分かってたのに

「え?あの・・・どういう意味「あー!!思い出したらまた腹立ってきた!!」あ・・・」

 

さっきの様にブツブツと呟いたが、今度は距離が近かったお陰で、全員が聞き取れた。意味が分からず奥田さんが聞き返すが、ビッチ先生はそんな風にプンスカしながら職員室の方へと歩いていってしまった。

 

「? 何でビッチ先生に烏間先生がプレゼントあげなきゃならないんだ?」

「・・・あ、そういえば4日前の10月10日って確かビッチ先生の誕生日だよ」

「そっか・・・僕達のテスト期間中に終わっちゃったんですね。その前にも課外授業でゴタゴタしちゃってたし」

 

なるほどな・・・俺は有希子と付き合った時には自分の誕生日は過ぎてたから気にしてないけど、確かに好きな人に誕生日を完全に無視されたら凹むよな。

 

「ビッチ先生プライド高えからなぁ・・・自分では言い出せず、烏間先生が何かくれるのを期待したけど案の定・・・ってとこか」

(岡島の想像が目に浮かぶな・・・)

「とはいえ、僕達が原因の1つですし、いくら何でもビッチ先生がかわいそうですよね」

「・・・うし、また俺等がちっとばかし背中押してやっか!!」

 

登志や前原の言葉に、全員が笑みを浮かべながら頷いた。ビッチ先生にお詫びは必要だし、これで少しは進展するといいな!!

 

 

 

「・・・て、言ったはいいけどよ・・・ビッチ先生って大抵のモン貰ってる筈だしな」

「ねー。かなり難しいよ」

 

 今、俺達4班は他の班の皆がビッチ先生の気を引いてる隙に買い出しに出ていた。でも友人の言う通りだよなぁ。殺し屋としての付き合いで山ほどあるだろうし。

 

「(ピラッ)E組全員が出せる金の合計が5000円。安くはねえが、高額な物は無理だし・・・」

「オマケに大人っぽいプレゼントじゃないといけないし・・・うーん」

 

金の入った封筒を扇ぎながらの俺の言葉を渚が継いだ。かなりハードルが高い・・・

 

「あ、じゃあ例えば皆が欲しい物を参考にしてみるとかどうですか?それなら良い案でるかもしれないですし」

「流石、奥田。うーん・・・最近古くなってたし、俺はグローブだな」

「んー・・・烏間先生が上げても何の事か分かんねえな。カルマは?」

「俺?・・・新しい悪戯の道具が欲しいな」

 

それは完全に嫌がらせだろ・・・好きな人から貰っても複雑なだけだ。

 

「じゃあ奥田さんは?」

「あ、えっと・・・新しい道具や参考書ですかね。

・・・すいません、言い出しておきながら何の参考にもならなくて」

「いや、やっぱり好きな物が欲しいって事だろ。充分、参考になるよ」

「ありがとうございます。あの、じゃあ神崎さんはどうですか?九澄さんがくれたら嬉しい物とかあるんじゃないです?」

(!! コレは気になる)

 

皆もそう思っているのか、全員が有希子の方を見た。そうじゃなくても、唯一の彼氏がいるんだもんな。

 

「んー・・・特に無いかな」

「え!?そうなんですか?」

「うん。だって、」

 

そう言いながら有希子は俺を見ると、

 

「大賀くんが私を喜ばせたいって思って選んでくれた物なら、私は何でも喜んじゃうと思うから」

「っ・・・」

 

ニコニコと笑いながらそう言いきってくれた。嬉しさと恥ずかしさが混じっって何とも言えなくなった俺は思わず立ち止まってしまった。

 

「ほわあー・・・」

「神崎さんが凄く乙女に見える・・・」

 

女子2人もそんな風に呟きながら、目をキラキラさせていた。・・・俺って本当に良い彼女に好きになってもらえたんだな・・・何か凄え嬉しいや。

 

「・・・つまり1番大事なのは渡す人の気持ちだってのはよく分かったけどよ・・・それじゃ結局ふりだしに戻っちまうぜ?」

「ご、ゴメンね。私のあんまり参考になってなかったね」

「コホン・・・じ、じゃあ渚や茅野は?」

 

友人のツッコミに赤くなりながら笑う有希子がそう言ったのを聞きながら、俺は同じく赤くなった顔を誤魔化す様に咳払いをしながら2人に尋ねた。

 

「「・・・」」

「? ど、どうしたんだ2人共?」

 

何かもの凄い暗くなってんぞ、この2人!?どうしたんだ・・・

 

「・・・身長が欲しいな。僕、色んな人に小学生や女の子と間違えられるし」

「・・・スタイルの良い身体かな。E組以外の皆に馬鹿にされないように」

「切実過ぎだろ!?2人共!!」

 

余りにも真剣な声色に、思わず杉野がツッコんだ。

 

「それはいくら何でも現実味が無さ過ぎだって、2人共。ビッチ先生にあげる物の参考にしてるんだから、せめて物にしてくれねえと」

「う・・・確かに」

「そ、そうだね。じゃあ、最後に九澄君は?」

 

うーん・・・俺が欲しい物か。

 

「・・・! 最新の調理器具が欲しい!!」

「お前は現実的過ぎだろ!?」

「大賀くん、それじゃあ母の日だよ・・・」

 

閃いた俺の言葉に、杉野と有希子はそれぞれがそうツッコんできた。・・・俺的にはかなり真剣に考えたのに。

 

(・・・他には・・・安売りの食材、いや何だったら激安スーパーのチラシでも「・・・あれ?君達は確か・・・」・・・ん?)

 

その時、俺達に向けてそんな声が聞こえてきてきた。見てみると、そこには横に大きく「花」と書かれた車とその前に俺達を指差している若い男性が立っていた。誰だ?向こうは知ってるみたいだけど・・・

 

「やっぱりそうだ!!大丈夫だったかい?あの後。ほら、お爺さんの脚の怪我」

「・・・あ、あの時、太陽が話しかけてた花屋さんだ!!」

 

へー・・・松方さんの時の。確かに太陽も携帯持ってないんだし、誰かに救急車を呼んで貰う可能性も言われてみればあるわな。

 

「まぁ・・・2週間ほどのタダ働きで何とか許して貰えました」

「それは良かった、心配してたんだ。

・・・それはそうと今の様子だと何やらプレゼントを探しているみたいだね。大人にあげる為の」

「あ、はい。でも、いったい何をあげたらいいか「(スッ)コレなんて、どうかな?」あ・・・」

 

1輪の綺麗な花を有希子に差し出しながら男はそう言った。むぅ・・・有希子も少しだけ赤くなってるし、何か複雑な気分。

 

(でも、花か・・・悪くないかも。皆も顔が明るいし)

「実は花ってブランドバッグや指輪とかに比べてずっと高額なんだ。ほんの1週間前後で枯れてしまうのに数千円から数万円するのもあるしね」

「言われてみれば・・・確かに」

「(スッスッ・・・)人の心なんて色々あるし、今時プレゼントなんて選び放題だ。なのに未だに第一線で花が通用しているのは何故だと思う?

 

 

 

心じゃないんだ。色や形が、香りや儚さ、それら全てが人の本能にピッタリ当てはまるからなんだ」

 

そんな演説を終えた男の手の中では、見事な花束が出来ていた。凄い手捌き・・・プロだな。

 

「うわー、凄い説得力ありますね!!」

「だねー、右手に電卓持ってなけりゃ」

「う!!ま、まあ一応、商売ですから。どうだい?これも花の縁だし、特別価格にしておくよ」

 

そんな有り難い提案を断る気は全員無かった。

 

 

 

「良い買い物出来ましたね!!値段以上の輝きですよ!!」

「うん、これならきっと喜んで貰えるね」

 

 大きな花束を抱えた有希子と奥田さんがそんなやりとりをしながら学校へと向かっていき、皆も付いていった。俺は金を払わなきゃならないから残っている。

 

「あ、すいません。俺ら今手持ちがこれだけしか・・・」

「あぁ、大丈夫だよ。()()5()0()0()0()()分の料金で作ってあるからね」

「へ?あ、どうも・・・」

 

あれ?おかしいな・・・俺、金額を指定した覚えないんだけど・・・

 

(・・・まあ、無意識に言ってたのかもな)

「じゃあ、はい丁度です」

「あぁ、ありがとう。そういえば、さっきは悪かったね」

「え?何がです?」

 

言葉の意味が分からず聞き返した俺に、男は悪戯っぽい笑みを浮かべながら近づくと、

 

()()()()をナンパしたみたいになっちゃったからさ。ゴメンね」

「!! いえ、大丈夫です」

「大賀ー、何してんだよ?早く戻ろうぜ」

 

耳元で囁かれた言葉に思わず目を見開いてしまったが、俺は何とか冷静を装いながら返した。偶然だけど、杉野がタイミング良く呼んでくれて良かった・・・

 

「悪い、すぐ行くよ。ありがとうございました」

「毎度ありがとう。また今度、機会があったらよろしくね」

タッタッタ (何だろう・・・この違和感)

 

前を歩く皆に追いつく為に小走りしながら、俺はさっきよぎった疑問に、頭を働かせていた。俺が有希子と付き合ってるなんて一言もあの人の前で一言も言ってない筈なのに・・・

 

(まるで・・・俺達の会話をずっと聞いてたかの様な)

「大賀くん、どうかしたの?何か変な顔だけど」

「あ、いや別に大丈夫」

 

まあ。もしかしたら俺さっき有希子に花を渡してた時しかめっ面してて、それを見て予想したのかもな。

 

「にしても、花なんて俺には良く分かんねえや」

「確かに、俺も食べ物なら植えるけど、花は食べれないからな-」

「ま、あの純情ビッチには効果てきめんっしょ」

 

後はこれを烏間先生に渡して貰うだけ。カルマの言った通り、ビッチ先生喜んでくれるといいなぁ。

 

 

 

登志side

 

「で、それでそれで?フランスの男はどんな口説き文句で落としてみせたの?」

「・・・どしたの?桃花(とーか)。今日はいつにも増して興味津々だけど」

「だーって気になるんだもーん」

(流石、矢田さん。もう10分以上は1人で時間稼ぎしてるよ)

 

 大賀達が行ってから20分程、片岡さんが上手く連れ出したビッチ先生を僕達は草むらで相手をしてもらっていた。1時間くらいって言ってたし、後30分ちょっとか。

 

(とはいえ、いくら矢田さんでも1人ではそろそろ限界かもしれないな) チラッ

「(こくっ)ビッチ先生ーこの前みたいにさ、ピアノ弾いて見せてよ。私上手く弾けなくてさ」

「僕もちょっと世界史とか教えてくれませんか?ビッチ先生そういうの詳しそうですし」

「おいおい伊勢、勉強終わったばっかりなんだからそんなの後にしろよ。ビッチ先生、いつもみたいに悩殺ポーズとってくれよ」

「じゃあその次、私ねー!!」

 

助かった・・・僕、剣以外はお蕎麦しか詳しくないから5分も無理だったよ・・・

 

な・・・何よ・・・今日の私、引っ張りダコじゃない・・・よーし、上等よクソガキ共!!片っ端からやってあげるから、せいぜい発情するんじゃないわよ!!」

「「「「おーう!!」」」」

(それにしてもビッチ先生、最初の取り付く島も無かった雰囲気だった頃とは全然違うなぁ)

 

今も笑顔でピアノを弾きながら歌うビッチ先生に心からそう思った。僕達の事も段々、名前で呼んでくれるようになったし、何かお姉さんみたいなんだよね。

 

(普通の先生とはちょっと違うかもしれないけど、僕達にとっては自慢の先生だ)

「(くいくいっ)待たしたな、皆

!! 大賀

 

その時、僕の袖を引っ張りながら大賀が小声でそう声をかけてきた。買い出し班の大賀がいるって事は・・・

 

烏間先生にちゃんと渡すように言った?

あぁ、烏間先生は今、教室にいる。さっさと向かわせよう

うん!

・・・退散しよう皆!!

((((こくっ))))

「さーて、じゃあ次はいったい誰の相手を「わり、ビッチ先生!!俺等ちょっと用事が出来ちまった!!じゃあな!!」「準備完りょ・・・いや特に何も無いけど私達も!!」・・・は!?ちょっいきなり何よ!!」

 

驚くビッチ先生を残し、僕達は一斉にその場を離れ、渚君達がしゃがんでいる教室の外の草むらへと同じようにしゃがみ込んだ。中では、烏間先生が片手に花束を持って立っているのが見える。

 

(花束をプレゼントにしたんだ。美人さんには花が似合うし、ビッチ先生にはぴったりかも)

「にしても、よく烏間先生に渡すように出来たな。あの人なら俺等が渡せとか言いそうだけど」

「ま、まあそこは無理矢理ね「全く何なのよ、どいつもコイツも」! 来た」

 

前原君の問いに渚君が苦笑いで返したその時、何やらそんな声で聞こえてきた。窓の外から聞こえてくるなんて、相当な大声で喋ってるんだなぁ・・・

 

「(ガラッ)! ここにいたのね、カラスマ!!ちょっと聞いてよ、ガキ共が・・・「イリーナか、今向かおうとしてた所だった」・・・は?どういう意味・・・」

「(バサッ)誕生日おめでとう」

「・・・え?」

 

愚痴を花束で遮りながらの烏間先生の言葉に、今度こそビッチ先生は言葉を失っていた。格好いい・・・やっぱり烏間先生は絵になるなぁ。

 

「うそ・・・アンタが、私に?」

「遅れてすまなかった。色々と忙しくてな」

「べ、別にいいわ。ありがと・・・超嬉しい」

 

・・・何とか、上手くいったかな。これでちょっとは仲良くなるといいんだけど・・・

 

「にしても、アンタにしては上出来ね。何か狙いでもあんの?」

「バカを言え、祝いたかったのは本心だ。何せ()()()()()()誕生日祝いなんだからな」

(・・・へ?)

 

か、烏間先生、何を言って・・・!?

 

「・・・どういう事よ、最初で最後って」

「当然だろう。依頼が完了するか地球が消滅するか、どちらに転んでも残り半年で終わりなんだからな」

「おいおい・・・!!何、言ってるんだよ烏間先生!!そんなのビッチ先生に脈が無いって言ってる様なモン(ガタッ)! やべっ!?」

 

烏間先生の余りにも冷たいその言葉にツッコんでいた岡島君だったが、動揺していたからか窓枠を鳴らしてしまった。当然、一流の2人がその音に気づかない訳が無くて・・・

 

「・・・(スタスタ・・・ガラッ!!)フーン、そういう事だったのね。ま、こうでもしなきゃあの堅物が誕生日祝いをくれる訳無いものね」

「あ、あの・・・ビッチ先生、騙したのはすいません。でも僕達、ビッチ先生のお手伝いがしたくて(チャキ・・・)え?」

 

何とか取り繕うとした僕の頭に、ビッチ先生は拳銃を向けてきた。当然だが、ビッチ先生の持ってる銃は対殺せんせー弾ではなく普通の弾丸を撃つ訳で・・・

 

 

 

ドガン!!「!! と、登志!?」

「(シュウゥゥゥ・・・)し、死ぬかと思った・・・」

 

南の島以来の轟音を出しながら発射された弾丸は、瞬時にしゃがんだ僕の頭のてっぺんの髪の毛を何本か焦がしながらすぐ後ろの地面に突き刺さった。な、何とかギリギリ躱せた・・・

 

「・・・流石ね、伊勢。この至近距離で躱す事なんて私には出来ないわ。

・・・でも、そうだったわね。ロブロ(センセイ)にも認められた位、アンタは強かったのよね」

「び、ビッチ先生・・・」

 

余りにも寂しそうに笑いながらビッチ先生に、急に狙われた事に怒る気にもなれずに呟く事しか出来ずにいると、ビッチ先生はフッと自虐的な笑みにを代わりに浮かべ、

 

「皆、楽しめた?プロの殺し屋が、アンタ達みたいなガキの描いたシナリオに振り回されるのを特等席で見られて」

「それは違いますよビッチ先生。生徒達は純粋な好意で動いていました。私が保証しま「アンタはもう何も喋るな!!」・・・・・はい」

 

大賀の言う通りだよ・・・そんなカメラやメモ用紙持った人が言ったって1番説得力無いって。

 

・・・何で忘れてたのかしら。コイツらと私はあくまで利害が一致してただけ。

・・・そう、只の先生ごっこをしてただけだったのよ

最高のプレゼントだったわ、ありがとう。私の目を覚ましてくれて」

 

小声で何かを呟くと、ビッチ先生は花束を烏間先生に突き返して去っていってしまった。その顔は、初めて会った時と同じくとても冷たい、殺し屋そのものの目だった。

 

「ちょ・・・ビッチ先生!!」

「そっとしておきましょう。寧ろ今は何を言っても逆効果でしかありません」

「・・・(クルッ)」

「!! 待って下さい、烏間先生!!」

 

そんなビッチ先生をしばらく見つめた後、何事も無かったかの様に踵を返す烏間先生に僕は思わず声をかけてしまった。勿論、僕達のお節介だった事は認める・・・でも!!

 

「あれは・・・あれはいくら何でも酷すぎますよ、烏間先生!!」

「まさか、まだ気づいてないんですか!?」

「・・・そこまで、俺が鈍いと思うか?」

「え・・・」

 

僕や岡野さんの問いかけに、烏間先生は短くそう聞いてきた。その言い方・・・じゃあ、気づいてて?

 

「確かに薄情かもしれん。だが、あれで冷静さを失う程度なら別の暗殺者を雇う。どれだけ非情に思われようと、色恋で鈍るような刃ではここでは役には立たない」

「「「「・・・」」」」

 

僕達は何も言い返せなかった。何故なら、烏間先生の言っている事はプロとして当たり前の事だから。

 

(僕達が余計な事をしたばっかりに・・・すみません、ビッチ先生)

 

当然だけど、心の中での謝罪がビッチ先生に聞こえる筈がない・・・それでも、僕は謝らずにはいられなかった。




いかがだったでしょうか。

ここは辛いですねえ・・・最近、原作で書くのが辛い場所が多くて大変です。

まあ、根気強く書いていこうと思います。

それはそうと、去年の12月でなんとこの小説も書き始めて3年目に突入しました!!

去年から仕事の忙しさからの投稿ペースが極端に遅くなってしまっている中、ここまで読んできてくれた方には本当に感謝しかありません。

これからも頑張って書いていくので、是非読んで頂けたらと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十八時間目 死神の時間

皆さんどうも籠野球です。

お待たせしました。やっと仕事が一段落つきました。

最近少し投稿ペースが落ちてきていましたが、ここから頑張っていけたらなと思います!!

・・・まぁ、結局はモチベーション次第なんですが(笑)

それでは、どうぞ!!


太陽side

 

「はぁ~~~~~・・・」

 

 烏間先生からプレゼントを貰った翌朝、いつもなら時間ギリギリに登校する俺ら「ひまわり」のメンバーだったが、大賀と登志からあの後の出来事を聞いた俺と威月は詳しい話を聞く為に学校へと早めに来たのだ。そこでクラスの皆から聞かされた詳細によって、威月が大きなため息をつきながら頭を抱えた。まあ、気持ちは分かる。

 

「あの・・・ゴメン、威月。僕達が勝手な事しちゃったばっかりに・・・」

「あぁ・・・いや、今回は身内の問題なんだし別に怒っちゃいねえ。

・・・しっかし、何でお前等はこうも連続でトラブルを・・・はぁ・・・」

 

俺も皆の考えが間違ってる訳ではなかったとは思うが・・・結果的に大失敗になった以上、余計なちょっかいだったと言わざるを得ないな。

 

「でもよぉ、お前だって太陽や大賀の時には、お節介してたじゃねえか。

・・・まあ、お前は上手くいったけどよ」

「それは俺がこの2人の性格や考えをちゃんと把握してたからだっての。全く理解していないビッチ先生の手助けは端から反対だったしな」

 

岡島の異議をバッサリと切り捨てた威月の言葉に、中村が食い下がった。

 

「威月ー、それは冷たいっしょ。あたしらだって半年近くビッチ先生と過ごしてきたんだし、全く理解してない訳じゃないっしょ?」

「あくまで、先生としてのあの人ならな」

「? どういう意味よ」

 

意味が分からず皆を代表して聞き返した中村に、威月は自分の席に腰を下ろしながら言葉を続けた。

 

「確かに最初の頃に比べたら、この半年であの人は変わった。でもそれは、E組の英語教師"ビッチ先生"としてだ。あの人の本来の姿は世界ナンバーワンの色仕掛け(ハニートラップ)の達人、殺し屋"イリーナ・イェラビッチ"なんだよ。何故殺し屋になったのか?何人殺してきたのかも知らねえんだ。

・・・誰かを殺す覚悟を持つってのは、意外と難しいもんだぜ?」

 

・・・威月は両親の敵討ちの為に生きてきた。そんな威月だからこそ、殺しに対しての考え方や覚悟を重さをよく分かっている。皆も何も言えずに黙ってしまっていた。

 

「「「「・・・」」」」

「ワリいな、少し言い過ぎた。起こっちまった以上は仕方ねえ、その後に何とかする。そうやってここまでE組はやってきたんじゃねえか。今回もそうすりゃいいだけさ」

「威月の言う通りだぜ、皆。どのみち今更、後悔しても始まらないんだからな」

 

そんな威月や俺の言葉に、皆も一応は納得してくれたみたいだった。ま、どちらにしろビッチ先生が来ないと謝れないんだし、早く来てもらわないとな。

 

 

 

―――この時の俺はまだ、そんな風に軽く考えていた、しかし、事態はそんなに簡単ではなかったみたいで・・・

 

 

 

1週間後・・・

 

(今日で1週間・・・ビッチ先生は1度も学校に来ちゃいねえ)

「たく、あの人は・・・俺達が悪いのは分かってるが、いつまで拗ねてんだか」

 

 俺の横で威月が頭の後ろで手を組みながら呟いた。まぁ、自分の恋愛をネタに楽しまれたんだし、そんな事されたら俺もガチで凹むからなぁ・・・

 

「あ、あのですね烏間先生。任務が大事なのは勿論、分かっておりますが・・・少しは彼女を気持ちを考えてあげては?」

「・・・悪いが先に失礼する。次の殺し屋との面接があるんでな」

 

殺せんせーの恐る恐るといった言葉に全く反応せず、烏間先生はそう言いながら扉の方へと歩いて行った。もう新しい殺し屋に目星つけてるのか・・・

 

ガラッ 「これは地球を救う重要な任務だ。君達はあくまで中学生だが、俺や彼女は経験を積んだプロフェッショナル。プロに情けなんて必要ない」

(・・・烏間先生の言ってる事は別に間違ってはいない。寧ろプロとして相手をリスペクトしていれば当然の事だ)

 

まぁ・・・烏間先生は一人前の大人には特に厳しいきらいがあるけど。

 

「うぅ・・・やっぱり僕達のせいで」

「今更だっつってんだろ、登志。それにいくら失恋したからって、大の大人が1週間も無断欠勤したら普通なら即クビになってもおかしくねえんだ。寧ろ1週間も待ったのも烏間先生なりの気遣いなんじゃねえか?ホント、そういう所が不器用なのはそっくりだな、あの2人は」

 

確かに・・・恐らくはこんな状況で無ければ、とっくに恋人関係になっていたのかもな。

 

「・・・とりあえず俺はもう帰るわ。恐らくは今日も来ねえだろうし、また図書館に行きてえしな。太陽も用事があるんじゃねえの?」

「あ、おう」

(流石・・・威月にはお見通しか)

 

鞄を肩に掛けながら席を立った威月の問いに心の中で苦笑しながら俺も立ち上がった。目星付けてたのがたまたま店に無くて、1週間にまた来て下さいって言われたから行こうとしてたんだよな。

 

「俺も帰ろっと。味噌に醤油に・・・あ、洗剤も安売りしてたんだった」

「そんなに1人じゃ無理だし僕も行くよ。皆、もし何かあったら「ひまわり」に電話して。じゃあ、またね」

「おう・・・」

「じゃあね・・・」

 

元気が無い皆の返事が少し心配だったが、今はどうしようもないだろう。こういう気分が沈んだ時に、いつもならビッチ先生が明るくしてくれるんだがな・・・

 

 

 

「・・・にしてもビッチ先生、いったいどこに消えちまったんだろうなぁ」

「んー、そうだなぁ・・・純情なあの人の事だから、失恋旅行とかか?」

 

山道を降りた所での俺の呟きを、威月が苦笑いしながら拾った。・・・実際にありえそうだ。

 

「・・・僕達ってやっぱりビッチ先生達みたいなプロの殺し屋からしたら足手纏いなのかな・・・?」

 

その時、登志が不安そうに呟いた。登志は優しいからな・・・そう思ってしまうのも仕方ねえか。

 

(だが・・・)

「そんな事はねえと思うぜ?」

「へ?」

「確かに威月の言う通り俺達は殺し屋として本来の姿は知らねえから何とも言えねえけどさ、少なくとも俺達と半年間いたビッチ先生が仮の姿だったなんて思わねえよ」

「・・・ま、それは俺も同意だな」

「・・・うん、そうだね。

・・・ありがとう、2人共」

(やれやれ、やっと笑顔になったか。この1週間、大賀と登志も元気なかったからなぁ「(ブーン・・・キキッ)おや、君達は」)

 

その時、俺らの横を通った車からそんな声が聞こえてきた。

 

「(ガチャッ バンッ!!)やっぱり、また会ったね」

「・・・あ、あの時の花屋さん。こちらこそ電話ありがとうございます」

へぇ・・・この人が

「いやいや、こっちこそあんな買い物してくれたお客様になってくれたんだ。お互い様だよ」

「そっか、この人にあの花束を・・・」

 

皆から花束を渡したってのは聞いてたが・・・この人から買っていたのか。

 

「プレゼントは上手くいったかい?僕も結構気になってたんだよ」

(う・・・この人は悪くないんだが、今の俺らには痛い所だ)

「えっと・・・実は失敗しちゃって、今はギクシャクしちゃってます」

「え!?そ、それは悪かったね・・・」

「あ、いえ・・・俺達が悪かっただけですから気にしないで下さい」

 

まあ、こればっかりは俺達E組の問題だからな。

 

「・・・でも、大丈夫さ。絶対なんて無い、君達も必ず仲直り出来るさ」

「・・・ありがとうございます。頑張ります」

「あぁ。じゃあ、僕はここで。わざわざ引き留めてすまないね」

「いえ、お仕事頑張って下さい!!」

 

そう返した俺にも男の人は手を振りながら車に乗り込むと、そのまま走り去っていった。

 

(んー・・・やっぱり良い人だな。あの人は「・・・」)

「? 難しい顔してどうしたんだ?大賀」

 

走り去っていったあの人を方を見ながら険しい顔になっている大賀に、威月が問いかけた。何だ?大賀にしては珍しいな。

 

「いや・・・あの人からずっとおかしな感覚がするんだ。何て言うか・・・常に仮面を被って生活してるような違和感がさ」

「? 別に俺は感じなかったが・・・2人はどうだ?」

 

威月の問いに俺も登志も首を振った。殺気に敏感な登志も特に何も感じてないのか・・・

 

(だが・・・大賀は所謂(いわゆる)野生の勘が異常に働くからな・・・)

「まあナーバスになってるから疑い深くなるのはしゃあねえし、注意するに越した事はないな」

 

威月のそんな引き締めに、俺達は頷き返した。ま、所詮は只の勘だしこれ以上は推測になっちまうしな。

 

「さーて、んじゃそろそろバラバラになるか。また「ひまわり」でな」

「おーう」

「じゃあな」

「またね」

 

そう話を打ち切ると、俺達は3手に別れた。俺もさっさと買って帰ろっと。

 

 

 

―――その時の俺達は当然知らない。こんな風に呑気に話し合う数時間後に、E組にとって・・・そして俺達4人にとって過去最大の死闘が待っている事を。

 

 

 

渚side

 

「すみませんが、先生はこれからブラジルにサッカー観戦しにいかなければならないので失礼します。もしイリーナ先生に動きがあれば伝えて下さい」

「・・・殺せんせーってそんなにサッカー好きだったっけ?今日の決勝戦は絶対に見に行くって言ってたけど」

「いや・・・典型的なにわかワールドカップ信者だよ。4年に1度だけサッカー好きで、普段は野球派」

 

 太陽達が帰ってから数十分後・・・殺せんせーが飛んでいった方角を見ながら、茅野と杉野がそんなやりとりをしていた。そういう人って結構いるよね・・・

 

「うーん・・・やっぱり電話も繋がんないなぁ」

「本当に大丈夫かな・・・・ビッチ先生」

 

携帯を手にしながらの矢田さんと片岡さんがそれぞれそう呟いた。どこに消えちゃったんだろう・・・

 

「まさか・・・これでお別れとかじゃないよな?」

「そんな事はないさ。彼女にはまだまだやってもらう事があるからね」

 

千葉君のそんな呟きに、大きな花束を抱えながら教室に入ってきた花屋さんがそう答えた。

 

「だよねー、なんだかんだでいないと物足りないし、いると楽しいもんね」

「そう、彼女と君達との間にはかなりの絆があるのは下調べ済みだ。だからこそ、僕はそれを利用させて貰うだけだ」 バサリッ

 

岡野さんの笑いながらの言葉に、教壇に花束を置きながら花屋さんはそう言った。利用って・・・この花屋さんいったい何を言って・・・・・・・・・・え

 

 

 

「「「「なっ・・・!?」」」」

 

その時になってようやく、僕達はこの人が入ってきた事に気づいた。誰にも気づかれないくらい、平然と・・・!!

 

「皆さん初めまして。僕は"死神"と呼ばれている殺し屋です。今から君達に授業をしたいと思います」

(な・・・何だろう・・・この感じ。今まで感じた事もない・・・不気味な感覚だ)

「花はその美しさによって人の警戒心をなくし、人の心を開く事が出来ます。渚君、君達に言った様にね」

 

花を持ちながら唐突に名前を呼ばれた事でビクッとした僕を気に止める事なく、男は話を続けた。

 

「ですが、花がそういった美しさや儚さを手に入れる為に進化を遂げたのは、ある目的があったからです」

「(ピコンッ)・・・!!」

「その画像を開いてくれるかい、律さん」

 

送られた画像を見て珍しく顔に冷や汗を浮かべた律に、男はそう促した。律のあんな風になるなんて・・・何の画像なんだろう?

 

「その目的とは、ずばり"虫を呼び寄せる事"なのです」

ブンッ!! 「「「「!!」」」」

「び、ビッチ先生!!」

 

誰か呟いた通り、律のモニターに映し出されたのは手足を縛られて箱に中に入ったビッチ先生だった。

 

「手短に言います。彼女を助けたければ、今から僕が指定する場所に先生に知らせずに君達全員で来なさい。

 

 

 

あぁ、別に来なくてもいいけど、もしそうなった場合は、彼女の身体を均等に小分けして、君達に送り届けるよ。

・・・そして、また新たに君達の誰かを「花」にするだけだからね」

「「「「・・・」」」」

 

皆が無言になる中、僕は間違いなくこの人がロブロさんが言った死神だと確信していた。だってこの人、こんなに恐ろしい事を平然と口にして、それが冗談じゃないって分かるのに・・・

 

(こんなにも・・・安心出来るなんて・・・こんな得体のしれない雰囲気を出せる人が普通な筈がない!!)

「あのよぉ、アンタ好き勝手に喋ってくれてるけどよぉ、別に俺達ぁあんなくそビッチ助けに行く必要なんかねーんだぜ?俺等に対しての危害もちらつかせてっが、んな事あの2人が許すわけがねえ。

・・・つーか、わざわざ1人で乗り込んできたって事は、俺等に袋だたきにされちまってもいいんだよな?」

「残念ながら全て不正解です、寺坂君」

 

そう言いながら詰め寄った寺坂君達に、死神は全く変わらない様子で否定した。

 

「何故なら君達と彼女との間には既に強固な信頼関係がある。間違っても見捨てるなんて決断は君達には出来ないだろう」

(優れた殺し屋程、万に通じる・・・烏間先生の言った通りだ)

 

ましてや世界最強って言われるこの人からしたら、僕達の思考を読むなんて朝飯前だろう。

 

「そして、いくら強かろうと誰も僕を倒すなんて出来ない。何故なら、人間が死神に勝つ事なんて不可能だからだ」

 

そう言いながら死神は手に持っていた花束をバサッと上に放り投げたと思った次の瞬間、彼の姿は跡形も無く消えてしまっていた。

 

―畏れるなかれ。人に死神は刈り取れない、死神が人を刈り取るのみだ―

 

全員が驚く中、そんな声が聞こえると同時に地図がパサリと音を立てた。

 

 

 

「花束の中にあるこの機械・・・まさか盗聴器か!?」

「なるほどね・・・それでビッチ先生が1人になった時に誘拐して、なおかつ殺せんせーや烏間先生がE組を離れた瞬間を狙って大胆に単独で乗り込んで来たって事ね」

「クソッ!!」

 

 片岡さんの分析を聞きながら、前原君は盗聴器を叩き壊した。あの時にはもう既に殺しの下準備を始めてたんだ・・・

 

「でもさ~、殺し屋にしてはあんまし怖くなかったよ?実は良い人でしたってオチはない?」

「スゴいよねぇ・・・()()錯覚させてくるんだから」

 

そんな倉橋さんの問いに、カルマ君が冷や汗を流しながら否定した。

 

「恐らくアイツの前では皆がそう思う。それこそ殺される瞬間までね」

「・・・うん、ビッチ先生もそう思って攫われちゃったのかも」

 

確かに対峙したあの瞬間に恐怖は全く感じなかった。あれが・・・最強の殺し屋だというのに。

 

「「・・・今夜18時までに地図に指定された場所にクラス全員で来て下さい。先生方や親御さんは勿論・・・外部の誰かに漏れたその瞬間、君達やビッチ先生の命の保障は致しません」・・・か」

「シロや鷹岡の時と同じパターンだな。まず俺等を人質に殺せんせーを誘き出す」

「畜生!!厄介な奴ほど真っ先に俺達を標的にしやがるな!!」 ガンッ!!

 

木村君や千葉君の呟きに、杉野がそう毒づきながら壁を叩いた。

 

「そりゃそーでしょ。何たって私等、大金稼ぎの一等地にいるんだから。一流の殺し屋ならそーするに決まってる」

(狭間さんの言う通りだ・・・殺せんせーもいないのに)

「・・・使うか、コレ」

 

その時、寺坂君が机にある物を置いた。・・・これは、超体育着!!

 

「守る為に使うって決めたばかりじゃん。今、着ないでいつ着るのさ」

「ま、あんなビッチでも世話になってるし、まだ謝ってもねえしな」

「最強だか何だか知んねーが、簡単に計画通りにいかせるかよ」

 

中村さんや岡島君、そして寺坂君の言葉に全員が頷いた。

 

「で、でもよ・・・アイツらに声かけなくていいのか?コイツ、全員でって書いてあるぜ・・・」

「「「「・・・」」」」

 

杉野が誰等の事を言っているのかは全員がすぐに分かった。僕達が今から向かうのは世界最強の殺し屋の罠が張られた場所、そんな場所に潜入するのに太陽達4人の戦闘力は大きな頼りになるだろう。

 

「・・・いや、太陽達を呼びにいったら18時には間に合わない。ここは俺達だけで行こう」

「うん、たーくん達にはいざとなったら律に連絡してもらおうよ」

「アイツらには最近迷惑かけっぱなしだ。これ以上、足手まといになりたくねえ」

 

寺坂君の言うとおりかもな・・・僕達だって訓練してきたんだしきっと大丈夫!!

 

「よし!!着替え次第、すぐに行こう!!」

「「「「おう!!」」」」

 

そんな磯貝君の号令に、全員がそう答えた。ビッチ先生、待っていて下さいね!!




いかがだったでしょうか。

今回は始まり的な場面なので少し短めです(だと言うのに遅れてしまい、本当に申し訳ありません
m(_ _)m)

いよいよ死神編が始まりましたね・・・ちゃんと書き切れるか不安ですが、頑張っていこうと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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七十九時間目 奪還の時間

皆さんどうも籠野球です。

今回は何とか1ヶ月で書き上げる事が出来ました!!

やっぱり、書き始める前から何となく頭の中でこういう風に書こうって思ってた所は比較的スムーズに書けますね(松方さんの辺りから前話位までは、特に何も考えてなかったので大苦戦しました(笑))

まぁ、クオリティはいつも通りなんですが(笑)

それでは、どうぞ!!


渚side

 

「指定されてるのは、あそこか・・・」

 

前原君の呟いた通り、僕達は死神が指定した倉庫の様な建物の近くの林に潜伏していた。あそこにビッチ先生が・・・

 

「・・・建物を周りを1周してみたが、屋上を含めて特に人影は無いな」

「いいか皆。いくら死神といえど、この超体育着や殺せんせーを殺す為に俺達が作った道具までは完璧に把握できていない筈だ。そのアドバンテージを活かして、捕まりにきたフリをして敵が油断した一瞬の隙にビッチ先生を救出する。あのサイズなら死神の手下がいたとしてもそこまでは多くないからな」

 

飛ばしていた糸成3号(偵察ヘリ)をキャッチしながらのイトナ君の言葉に続いて、磯貝君が作戦の最終確認を告げた。

 

「あ、あのさ・・・」

「? 何だ、渚?」

「もし死神と戦闘になって劣勢になったら、()()使ってみてもいいかな?」

「・・・それって、あの時の」

 

合わせた僕の手を見て、茅野は僕の考えに気づいたみたいだった。そう僕が狙っているのは鷹岡に使った猫だましだ。

 

「勿論、死神なら僕の技も知ってるかもしれない。だからそれを踏まえて2択に追いこもうと思う。右手にナイフ、ポケットにスタンガンを入れて」

 

もしスタンガンに注意が向いたらナイフをそのまま、ナイフに向いたら猫だましからのスタンガンを。

 

「どちらにせよ、一瞬だけでも隙は作ってみせる。皆にはそこを突いてほしいんだ」

「・・・いいんじゃねーの?無策で突っ込むよか百倍マシだ」

「ま、最強の殺し屋相手に変に策を練っても無駄だろーし、単純な方が効くかもね」

 

寺坂君やカルマ君も始め、皆が賛成の意味を込めて頷いてくれた。勿論不安が全くない訳じゃない・・・でも、

 

(フゥ・・・大丈夫、皆ならきっとやってくれる!!「ポツッ・・・」 えっ?)

「(サアァァァ)チッ・・・雨かよ。ま、結構強いし音が紛れっから丁度良いか」

 

いきなり強く降ってきた雨に、吉田君が悪態をつきながら空を見上げた。確かにそうだけど・・・今日は降水確率0%だったのに・・・

 

「律、もしも私達が12時を過ぎても戻ってこなかったら殺せんせーと烏間先生に連絡して」

「・・・分かりました、原さん。どうか皆さん、ご無事で」

「・・・そろそろ時間だ、行くぞ皆!!」

「「「「おう!!」」」」

 

磯貝君の号令で僕は胸に抱いた不吉な感じを振り払った。今更そんな事を考えても仕方ない!!

 

 

 

「敵は・・・いないな」

 

 中に入った僕達はとりあえずそれぞれバラバラに散らばった。そうすれば敵がどこから現れても一気に全員捕まるリスクが避けられるからだ。

 

(にしても、死神の姿も見えない・・・あるのはスピーカーとカメラだけ「全員来たね。まあ、あの4人は来ていないけど・・・連絡もしていないみたいだし構わないか。じゃあ閉めるよ」 !!)

 

その時、スピーカーからそんな声が聞こえてくると同時にギギィと音を立てながら扉が閉まった。やはり太陽達の事も知ってるんだ・・・でも大賀とは会ってるんだし、知っていてもおかしくないか。

 

「ふーん、そっちの姿は見せずに、こっちの動きはカメラで見てるって訳ね。殺し屋っていうよりは覗き魔だね」

「ふむ・・・何やら格好いい服を着ているね。隙があれば、僕と一戦交えようって所かな」

 

カルマ君の挑発にも死神は柳に風といった具合に、僕達を観察していた。やっぱり、超体育着の事は知らないらしい。

 

「あの時、教室にいた全員で来たし、約束通り誰にも知らせてないわ!!後はビッチ先生を返して貰えばそれで全て終わりよ」

「なるほど・・・中学生とはいえ散らばり隙を無くしている辺り、基本はしっかり身についている。実に興味深い」

「(ガクンッ!!)!? へ、()()()()が下に!?」

 

片岡さんと死神がそれぞれそう言った次の瞬間、機械が動く音と共に僕達が立っている床が下がり始めた。いきなりの状況になすすべなく僕達はその場に立っている事しか出来ず・・・

 

「(ガシャン!!)はい、捕獲完了。流石に予想外だったかい?」

「死神・・・それに、ビッチ先生!!」

 

矢田さんの言った通り、鉄格子を挟んだ先には死神と両手を上で繋がれて気を失っているビッチ先生の姿があった。

 

(まさか・・・地下にこんな空間があったなんて!!)

「君達を全員纏めて捕まえる為に、わざわざ部屋丸ごと昇降(エレベーター)式に改良したのさ。1人1人だと時間が掛かるし想定外のリスクがあるかもしれないからね」

「くっ・・・」

「クソがぁ!!出しやがれ!!」

 

三村君や寺坂君を始めが何人かが壁をガンガンと叩く中、死神はにこやかな様子で続けた。

 

「まぁまぁ落ち着きなよ。別に君達を殺そうって訳じゃない。僕が用があるのは、あくまで標的(ターゲット)だけなんだ。君達にはあのタコを誘き出す為の人質になって貰うだけさ」

「くぅ!!」

「このっ・・・」

 

死神の言葉を聞きながらも僕達はバラバラに壁を叩き続けたが、人間の力じゃ壁は当然びくともしなかった。

 

「・・・じゃあ、ビッチ先生も今は殺す気は無いって事なの?」

「人質は多い方が良いからね。奴を狩り場に誘い込もうとすれば、何回も見せしめに使う必要があるかもしれない。場合によっては、30人近く殺せる命が欲しい所だ」

 

・・・諦めるな、出口が全くない訳じゃない。片岡さんが時間を稼いでくれてる間に・・・

 

「・・・じゃあ今は殺さない、本当だな?も、もしも俺達が反抗的な態度をとったりしても・・・?」

「しないよ。何でわざわざ交渉材料を自分で減らすんだい?子供だからってビビり過ぎ「いや、少し安心しただけだ」・・・?」

 

震えていた岡島君がニヤリと笑いながら言った言葉に、死神は不思議に思い意味を尋ねようとしたみたいだったが、それよりも壁を叩いていた三村君が声を張り上げる方が早かった。

 

「(ガンガン・・・ガアァン!!) !! ここだ、竹林!!この先に空間がある!!」

「離れてくれ!!奥田、煙幕を!!」

「は、はい!!」 ボンッ!!

 

三村君の示した位置に竹林君が素早く小さい物体を貼り付けるのと同時に、奥田さんが投げた煙幕カプセルがもうもうと白い煙を立てて広がっていき・・・

 

 

 

ドカン!!

 

もの凄い炸裂音を立てて爆発した物体は、壁に大きな横穴を開けた。その先には三村君の言ったとおり、道が広がっている。

 

「煙が出てるうちに行くぞ!!」

 

磯貝君の号令で、僕達は素早くその横穴から脱出した。煙で逃げ先が分からなくしてるとはいえ、いつ死神が追ってくるか分からないからだ。

 

「フゥ・・・何とか上手くいってくれたみたいだ。威月のお陰で完璧な火薬の調合が出来た」

 

逃げる途中でそう言いながら竹林君は眼鏡をクイと上げた。そう、僕達は最初から怯えていたいた訳じゃ無かった。例え見た目で出口が無くても、どこかに脆い場所もしくは空間がある、そう予測を付けて全員で壁を叩いていたのだった。

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・よし、とりあえず追っ手はいないな。助かったよ竹林、奥田」

「あぁ、試作品だったが、問題なく起動したよ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 入り組んだ通路をしばらく走った後、前後ろの安全を確かめてようやく僕達はひと息つく事にした。勿論、ここは敵地だし警戒は怠らないけど。

 

「にしても、まさか地下にこんな入り組んだ通路があるとはな。こんな場所を半年で死神は作ったのか?」

「分かんないよ。世界最強の殺し屋なんだし、元々いくつかのアジトを持ってるのかも」

 

汗を拭いながらの前原君の言葉に、片岡さんが返した。確かに世界中にアジトを持っていても、おかしくは無いもんね・・・

 

「・・・聞こえるかい?E組諸君」

「「「「!!」」」」

 

その時、近くのスピーカーから死神の声が聞こえてきた。全員が身構える中、死神は淡々とした様子で話し出した。

 

「君達がいる地下空間から出る為の扉には、全て電子ロックが掛けられている。ロックを解除する(キー)は、僕の眼球の虹彩認証のみ。これがどういう意味かは・・・言わなくても分かるね」

 

・・・つまり、死神を倒す以外にここから出る方法は無いみたいだな。

 

「実を言うと竹林君、君の爆弾で逃げてくれたのは好都合だったよ」

 

好都合って・・・せっかくの人質に逃げられたのに?

 

「幸か不幸か、地球を破壊する怪物を殺す使命を負い、特別な訓練を受けた27人の暗殺者。1度にそんなに大勢を相手するのは滅多に無いからね。ただ人質として使うだけじゃ勿体ない。未知の化け物を相手する前の肩慣らしになって貰う。どこからでも殺しに来るといい。楽しみに待っているよ」

 

言いたいだけ言うと、死神は一方的にマイクを切ってしまった。鷹岡先生の時の様な単純な狂気は感じられない。・・・でも、だからこそ本当の顔が一切分からない・・・

 

「あっちからしたら、ゲーム感覚みたいね」

「舐めやがって・・・あのクソ野郎」

「落ち着けよ、キレたら相手の思うつぼだぞ」

「・・・分かってるよ」

 

速水さんや寺坂君の気持ちは分かるけど、木村君の言うとおりだ。こんな時だからこそ冷静にならないと・・・

 

「よし、どのみち大人数で動いても狭い屋内じゃ満足に動けない。役割を決めて、3班に分かれて行動しよう」

 

 

 

「いいか、皆。死神は必ず奇襲を仕掛けてくる筈だ。絶対に警戒を怠るなよ」

 

 皆と分かれた後、前方に注意を向けながら磯貝君は口を開いた。ちなみに今いるA班(僕、カルマ君、茅野、磯貝君、前原君、木村君、岡野さん、千葉君、吉田君、村松君)が実質的な戦闘要員だ。茅野もいるにはいるけど、茅野は連絡要員だから実際は9人だけど。

 

「分かってるぜ、磯貝。殺し屋ってのは基本的に真正面からの戦闘は得意じゃない。人数使って戦えば、俺達でも戦えるのは南の島でお前達が証明済みだ」

 

僕達は太陽達ほどに戦い慣れてる訳では無い。でも、前原君の言う通り10対1でなら勝機はある筈だ。

 

「不意打ちさえ躱しちまえば、後は俺達の中の誰かがコイツを喰らわせて勝ちだ」

 

バチチッと全員が持ったスタンガンから音と共に電流が流れた。

 

(いくら死神でも、僕達10人を一斉に不意打ちで倒せる筈が無い。対して僕達はたった1人でも当てればいい。これなら、僕達でも「カツン・・・」・・・え)

 

その時だった。前から得体のしれない何かが音を立てて近づいてきたのは。

 

「な・・・」

「うそ・・・何で正面から・・・?」

「さて・・・じゃあ、始めようか」

 

信じられないと言った様子で呟く僕達を尻目に、感情すら掴めないほどあっさりと死神は呟いたのだった―――

 

 

 

陽菜乃side

 

「・・・大丈夫、敵はいないわ」

 

 戦闘に立って曲がり角の安全を確認したメグちゃんは、ほっと息を吐きながらそう言った。

 

「くっそ、ビッチ先生を急いで助けなきゃってのに時間かかるな・・・」

「仕方ないでしょ。そもそも私達は戦闘目的のA班じゃ無いんだから」

 

凛香ちゃんの言った通り、私達B班(私、桃花ちゃん、有希子ちゃん、メグちゃん、凛香ちゃん、莉桜ちゃん、三村君、岡島君、杉野君)の9人の目的は、ビッチ先生の救出だった。壁を壊しちゃったから正確な場所は分からないけど、今はさっきビッチ先生が捕まっていた部屋を目指していた。

 

「まだマップが分かればもっと楽に進めるんだが、何せ律がこんな状態じゃあな・・・」

「働くのだりぃ・・・つーか、死神さんと戦うとかマジでアホじゃん」

 

・・・三村君が手に持っている携帯には、普段からは考えられない言葉遣いで喋りながら横に寝転がっている律の姿があった。律でもこんな格好するんだ・・・

 

「電波が届かない上に、モバイル律は本体よりは簡単とはいえ、まさかこんな短時間で無効化(ハッキング)されるなんて・・・まさに万に通じるって事なのかもね」

 

律の様子に苦笑いを浮かべながら、桃花ちゃんはそう呟いた。烏間先生が南の島でそう言ったみたいだけど、本当にプロって凄い・・・

 

「トランシーバーが無かったら、まともに連絡すら出来なかったね。他の皆も無事だといいんだけど「何ですって!?」 !!」

 

有希子ちゃんが笑いながら呟いたその時、メグちゃんが大きな声でトランシーバーに話しかけていた。な、何だろう・・・メグちゃん、凄く慌ててるけど。

 

「ど、どうしたんだよ?片岡。そんな大きな声だして」

「・・・今、吉田君に持たせたマイクを聞いてた原さんから、A班が全滅したって知らせがあったわ」

「「「「!?」」」」

 

そ、そんな・・・まだ分かれてちょっとしか経ってないのに!!

 

「とんでもない強さね・・・A班を中心に据えた作戦だったのに、こうもあっさりとやられるなんて」

「くそ・・・やっぱ大賀達に声をかけるべきだったか」

 

・・・杉野君が悔しそうに呟くのが私にはよく分かる。こう考えちゃダメだけど、たーくん達4人なら死神にも負けたりはしなかったのかも。

 

「無い物ねだりをしても仕方ないわ。とにかく今は私達の目的を果たしましょう」

「でもよ・・・A班もいないってのにどうやって・・・」

 

不安そうな岡島君の呟きを遮るように、メグちゃんが竹林君と水守君が作った爆弾を見せた。

 

「この爆薬、人に向けちゃダメだけど脅しには充分だわ。それに、奥田さん特製の催涙液入りのペイント弾。顔の近くに当てるだけで効果はあるみたいよ」

「・・・そうだな、俺達だって戦う手段が無い訳じゃない」

 

杉野君がスタンガンのスイッチを入れると同時に、凛香ちゃんが弾を入れたエアガンを構え直した。私達もA班と同じ装備は持ってるもんね。

 

「死神の奴、生け簀に小魚を泳がして楽しんでるだろうけどよ、俺達は小魚でもピラニアだって事を分からせてやろうぜ!!」

「えぇ、そうね・・・! ここね、ビッチ先生がいたのは」

「俺が開ける。下がっててくれ」

 

そう言うと、三村君はドアの鍵穴に爆薬を取り付け、ボンッと音を立てながら爆薬は鍵を吹き飛ばした。

 

ガンッ!! 「!! ビッチ先生!!」

 

蹴破ったドアの先にいたのは、間違いなくビッチ先生の姿だった。鉄格子と奥には竹林君が開けた穴が見えるし、間違いなくさっきの部屋に戻って来られたんだ。

 

「・・・大丈夫よ、気を失ってるだけで息もあるわ」

「うし、とりあえず第1目標はクリアだな」

 

よかったぁ・・・ようやくビッチ先生に会えた。

 

「じゃあ、まずはC班の皆と合流しましょう。何か見つけてくれてるかもしれないし、ダメだったら協力してA班を救出しながら死神をぶっ飛ばしましょう!!」

 

C班(寺坂君、イトナ君、竹林君、菅谷君、奥田さん、狭間さん、原さん、優月ちゃん)の8人はここの情報収集を担当していた。狭間さんや竹林君達は頭の良いし、何か見つけてくれているかもな。

 

「私が後方を守るから杉野君はビッチ先生を背負ってあげて。三村君と岡島君が先頭をお願い。ここまで死神以外とは出会ってないし、1人ならまだ何とか出来るわ!!」

 

メグちゃんの檄に、全員が頷いた。勿論、簡単に勝てる訳じゃないけど、諦めたりなんて出来ないよ!!」

 

「でも、ホント良かったね。ビッチ先生に怪我がなくて」

「うん、まだまだ教えて貰いたい事もいっぱいあるしね」

「ま~どっちかと言えばダベり友達って感じのが強いけどね「ぐ・・・(うっ・・・)」 ? どったの、2人と・・・も」

 

そんな風に話していた私達は、後ろから杉野君とメグちゃんの呻き声が聞こえてきて後ろを振り返った。そんな私達の目に飛び込んできたのは・・・

 

「フー・・・6か月位、眠ってたわ。アンタ達といたせいでね」

「ビッチ・・・先生?何やってんのさ」

「何って、これが本来の私よ。死神(カレ)のお陰で呼び起こす事が出来たわ。

・・・かかってきなさい、全員纏めて逝かしてあげるから」

 

倒れた2人の前で、両手に注射器の様な物を持ったビッチ先生の姿だった。動揺する私達に、ビッチ先生は初めて会った時の様な鋭い目つきでそう宣言してきた。うそ・・・まさかビッチ先生・・・裏切ったの?

 

「本気なの・・・ビッチ先生?」

「当然でしょ?強い方と組んだ方が可能性は上がるもの。カレの命令で商売敵は黙らせろって言われてるのよ」

「・・・見損なったよ、ビッチ先生。そんな人だとは思えなかった」

「元々そんな人よ。どんな人だと思ってたのよ?」

 

平然と返され面食らった様子の莉桜ちゃんは、

 

「え・・・言われてみれば、身勝手で欲望まみれで・・・男がいないと性欲が爆発して死ぬ人・・・あれ、わりと予想通りか」

「どこがよ!?ていうか、変な設定を付け加えるな!!」

 

あ、確かにいつも通りのビッチ先生だ。

 

「あ、あのさビッチ先生」

「ん?」

「死神に寝返ったのはショックだったけどさ、その・・・1人で俺達、全員を相手にするつもり?」

「俺等だって半年間ずっと訓練してきたんだぜ。ビッチ先生じゃ、もう勝負になんねえと思うけど・・・」

 

三村君と岡島君が言った通り、確かにこの中で最も強い杉野君とメグちゃんが倒されたけど、まだ7人もいるんだし全員でなら、いくらプロの殺し屋のビッチ先生相手でも負けるつもりは無かった。

 

「クス、そうかしら?なら・・・見せてあげるわ。これが最後の授業よ」

 

そういいながら、ゆらりと動きながらビッチ先生はそう告げた。思わず身構える私達の前で、

 

「・・・痛ァッ!?」

「「「「ビクッ」」」」

「つー・・・裸足で石踏んだー・・・」

「「「「・・・」」」」

 

片足を押さえながらうずくまってしまった。・・・だ、大丈夫なのかな?

 

「もー、大丈夫?ビッチ先せ(プシュッ)うっ!?」

「(ドサッ)えっ・・・」 プシュッ

 

次の瞬間、思わず心配しながら近づいた桃花ちゃんと三村君の首筋に注射器を打ち込むと、そのまま岡島君と莉桜ちゃんに寄りかかって2人の腕に同じように打ち込んだ。あっという間に4人を倒され私と有希子ちゃん、凛香ちゃんは慌ててビッチ先生にエアガンを構えた。

 

「(バサァ!!) なっ!?」

 

そんな私達に、ビッチ先生は足元に落ちていた毛布を投げつけてきた。ま、前が見えな・・・

 

(パパシュ!!)「え・・・」

「毛布ごし・・・に」

「有希子ちゃん、凛香ちゃ「終わりよ、陽菜乃」(ピシュゥ!!) あうっ・・・」

(か、身体が痺れて動けな・・・)

 

首に注射器を打ち込まれ、私は全く動けなくなってしまった。そしてそれは皆も一緒で・・・

 

「ず、ずりいよ・・・」

「いきなり倒れるなんて・・・敵なのに思わず心配しちゃったじゃん・・・」

「訓練なんかじゃこんな動きはないでしょ?殺し屋の世界じゃ結果こそが全て、アンタ達とは潜ってきた修羅場の質も数も違うのよ」

(ゴメンね・・・たー・・・くん・・・・・)

 

次々と皆が倒れていく中、大好きな男の子へ謝りながら・・・私は意識を失った。

 

 

 

太陽side

 

「・・・!!」

「どうした?太陽」

 

 今日は実徳さんが帰ってくるらしく、いつもよりも早く晩飯を食っていた最中、いきなり後ろの壁へと振り返った俺に威月は不思議そうに問いかけてきた。

 

「あ、いや・・・何か今、陽菜乃に呼ばれた気がしたんだ」

「「「「・・・」」」」

 

・・・あれ?何で皆、心配そうな目で俺を?

 

「誰か救急箱を持ってきて!!んー・・・熱はないみたいだけど」

「いや、別に頭がおかしくなった訳じゃねえよ!?」

「あ、風邪薬切らしてる!!急いで買ってくるよ!!」

「行かないでいいって、上着を着ようとするな登志!!」

「お、おにいちゃん・・・おいしゃさんいかないと!!」

「だ、大丈夫!!大丈夫だから泣かないで華!!」

 

自分の体温と比べている大賀を筆頭に、慌てて動き出そうとしている威月以外の全員を俺は必死に止めた。

 

「兄さん・・・いくら陽菜乃さんが好きだからって遂に幻聴まで聞こえちゃったんですか?」

「き、キツい事言うな・・・彩子。別にそんなんじゃねえからさ」

ま・・・楽しみなんだろうな

「何か言った?威月兄ちゃん」

「いや、別に。

(プルルル・・・)お、電話だ。はいはいっと」

 

この中で原因を知っている威月だけが苦笑しながら呟いた。危ねぇ危ねぇ・・・確かに浮かれてはいたからな。

 

(でも・・・やっと良いプレゼントも買えたしな。陽菜乃・・・喜んでくれるといいんだがな)

「・・・え? いや・・・俺は何も聞いてねえッスけど・・・はい」

「?」

 

明後日の23日まで部屋に隠してある箱を思い浮かべていたその時、威月が何やら電話相手に戸惑っているのが見えた。何だ?威月があんな風になるなんて珍しいが・・・

 

「分かりました。俺も探してみます(ガチャリ)

・・・太陽、どうやらお前の勘、只の気のせいじゃねえかもしれねえ」

「どういう意味だ?てか、今の誰からだよ?」

「中村の母親だ。どうも中村がまだ家に帰ってないみたいで。携帯に電話しても繋がらないらしい」

「でも、まだ6時半だよ?この時間なら何人かは学校で遊んでるよね。僕達もたまにこれ位まで学校にいる時だってあるし、充電が切れただけなんじゃない?」

 

登志の問いにも、威月は渋い顔を崩さないまま返した。

 

「それが、連絡先を知ってる片岡、矢田、倉橋、おまけに磯貝の家に聞いても全員同じらしいんだ」

「・・・それは確かに妙だな」

 

いくら何でも、そんなに何人も充電が切れる筈がない。それに、何かしら俺達に連絡があるに決まってる。もしかして俺達が帰った後に何かあって、それで連絡が出来なかったとかか・・・?

 

ガラッ!! 「皆、無事かい!?」

「うわっ!?お、お帰りなさい実徳さん。そんなに慌ててどうしたんですか?」

 

その時、勢いよく襖を開けながら実徳さんが部屋に飛び込んできた。ビックリしながら問いかけた大賀に反応して、実徳さんは俺達全員が揃っている事を確認して大きく胸をなで下ろすと、

 

「良かった・・・悪いが太陽君達はすぐに私の部屋に。裕樹達は大人しくご飯を食べててくれるかい?」

「「「はーい」」」

 

俺達だけを部屋に・・・E組に何かあったって事か。

 

 

 

「ロブロさんみたいな元を含めた世界中の有望な殺し屋が死神に!?」

「あぁ、運良くロブロ君は一命を取り留めたが、最近までは昏睡状態が続いてたらしい。私ですら情報を集めるのに苦労したよ」

 

 部屋に集まった俺達4人に実徳さんが告げてきたのは、衝撃的な話だった。

 

「基本的に死神は殺しは1人で行う。準備には人を使っているかもしれんが、実際の暗殺は1人で全て実行し成功している。これまで何十人も一流の殺し屋達を仕留めてきたのも、死神だからこそ出来る芸当だろう」

「つまり商売敵を全部始末して、いよいよ百億獲得に乗り出したって事ですか」

「じゃあ、E組の皆に連絡が取れないのって・・・まさか」

「殺しの為なら子供ですら容赦しない男だ。流石に殺しはしないだろうが・・・人質ぐらいには使ってくるだろうね」

 

チッ・・・偶然だろうが、俺達4人がいない時に限って!!

 

「その話、烏間先生達は?」

「あぁ、先程ロブロ君が伝えたよ。とはいえ、君達が帰ってすぐにE組に現れたとしたら・・・いくら鍛えていても、只の中学生じゃ勝ち目はないだろう」

(て事は、全員もう捕まっちまってると考えるのが無難か・・・)

 

そう考えていると、実徳さんは俺達を見回し、

 

「私が動く事も可能だが、それだと死神を刺激しかねない。彼等の安全は保障できなくなってしまうのは、国との契約に反してしまう。つまり今回私は国の命令なしには動けない。さて・・・それが分かった上で、君達はどうするんだい?」

「・・・勿論、皆を助けに行きます」

 

代表した俺の決断に、威月達も迷いなく頷いてくれた。実徳さんもそう答えると分かってたみたいで、苦笑しながら頷き返した。

 

「分かった。せめて私の無線を持っていくといい。特殊な電波を使って盗聴は出来ない。いいかい?君達に教えた技はたとえ死神にも通用する。とはいえ、乱発はなるべく避ける事。登志君もくれぐれも気をつけるんだよ」

「「「はい!!」」」

「・・・とはいえ、どうするよ?俺達、皆の居場所も知らねえけど」

 

無線を受け取りながら、威月は口を開いた。その点は俺は考えがあった。また使わせて貰うか・・・

 

「3人はすぐに超体育着に着替えてすぐに出てくれ。居場所は俺が見つけ出す」

「・・・分かった、頼んだぞ」

 

そう言い残し、威月達は部屋を出て行った。いくら威月達でも、こればっかりは俺と実徳さん以外は秘密だからな。

 

「いいですか?実徳さん」

「構わないよ、私も後で見に行く」

 

俺はイトナの時と同じ様にパスワードを打ち込み、地下への扉を開けた。雨が降り出してたし、殺せんせーが匂いで追うのも厳しい・・・急いで皆の行き先を見つけねえと!!

 

 

 

陽菜乃side

 

 ビッチ先生に負けて気を失った私が次に気がついたのは、前が鉄格子になった牢屋みたいな部屋だった。もうE組の皆は集められていて、ビッチ先生によって順番に後ろで両手を縛られていた。

 

「はーあ・・・ビッチ先生に裏切られて捕まっちゃうなんて悲しい」

「フン、殺し屋に裏切りは付き物って事よ」

 

私の愚痴にも、ビッチ先生はあっさりと言いながら私に手錠をはめた。うぅ・・・両手が自由に動かせない。

 

(それに、何か首に輪っかみたいなのが着けられてる・・・コレ何だろう?)

「ここはさっきの部屋みたいに脱出するのは不可能。もう練習台にはならなくていいよ、人質でいればいい」

 

鉄格子の先には少し広めの空間の中で死神・・・教室にいた花屋さんの雰囲気に戻りながらそう言った。

 

「でもさ~アンタここまでは殆ど予定通りみたいだけどさ、ホントにあのタコを簡単に殺れるかな?」

「?」

 

その時、壁にもたれかかってたカルマ君がいつもの感じで問いかけた。

 

「だってさ、ここまでアンタ俺等に対してダメージを与えられてないじゃん。超体育着も知らなかったみたいだし」

 

A班との戦闘中、カエデちゃんが死神を蹴りをお腹に当てられて、死神は骨を折っちゃったと勘違いしたらしい。ホントは超体育着のお陰で怪我もしてなかったけど。

 

「そういった計算違いが、殺せんせーに対してじゃ致命傷になるっしょ?」

「何だ、そんな事か」

 

カルマ君の挑発に死神は鼻で笑うと、

 

「それで、結果はどうだい?君達は為す術なく捕まって牢屋(そこ)にいるだろう?彼はどうやら策を持っていたみたいだが、使う事すら出来なかったしね」

「・・・」

「大丈夫?渚・・・」

 

渚君は猫だましが成功しなかったみたいで、さっきから意識がはっきりしていなかった。隣のカエデちゃんも心配そうに見てるし、大丈夫かな・・・

 

「情報の不足や計算違いなんてあって当然さ。相手はどんな能力を隠してるか分からない未知の怪物だからね。

・・・どんな状況でも必ず殺す。世界一の殺し屋とはそういう事さ」

 

・・・確かに死神もビッチ先生もこれが本当の暗殺なら、私達はもう死んじゃっているだろう。渚君達もあっさり倒しちゃったし、ビッチ先生も簡単に味方にしちゃった。今の私達とはレベルが違う・・・絶対に勝てないのが今はよく分かる。

 

「さて・・・次は烏間先生だな。彼も人質にしてしまおう」

「「「「!!」」」」

 

か、烏間先生も・・・いや、この人なら本当に!!

 

「彼もかなりの能力みたいだけど、驚異のレベルじゃない。それに彼を捕らえておけば、色々とメリットがありそうだ」

(このままじゃ・・・どうしよう「・・・そういやよ、イトナ」 寺坂君?)

 

その時、壁際で隣のイトナ君に寺坂君が声をかけた。

 

「あの時、死神に向かっていこうとした俺を何で止めたんだ?前のオメーなら、俺と一緒に奴に挑んだろ?」

 

寺坂君の言う通り、C班の皆は戦う前に降伏した事で無傷でここに来たみたいだった。イトナ君なら、戦ってもおかしくないのに何でだろ?

 

「・・・触手を失ってから、俺の身体能力は普通のレベルにまで落ちてる。前みたいな跳躍も出来ない位にはな。それに今の俺はE組の生徒だ」

「あ?どういう意味だよ?」

「・・・タコが言った。"生徒が超せない障害(かべ)は先生が超えればいいだけです"ってな。それに、俺なんかよりもずっと強い奴はこのクラスにはいる。そいつ等が勝てないような奴なら、端から俺達が勝てるレベルじゃない」

(私達よりも強い人・・・それは当然)

 

そう考えていたその時だった

 

「・・・!! 死神さーん、モニター見てみ。あれも計算違いじゃないの?」

「・・・何故、彼がここに?」

 

カルマ君がそういった事で、私達は牢屋の近くにある監視カメラの映像が全て映された沢山のモニターに目を向けた。

 

「・・・あークソ、雨が冷てえな。ホントにこんな所にいるのか?アイツら」

「「「「威月(水守君)!!」」」」

 

そこには・・・雨に濡れた頭を掻きながら、私達が侵入した扉の前に立つ水守君の姿が映っていた。




いかがだったでしょうか。

いよいよ死神とのバトルです。やべえ・・・めっちゃ緊張します・・・

一応、大体の戦闘の流れは書く前から考えていたのですが・・・上手く書けるといいなぁ。

家の中から出られない方も多い中、こんなポンコツ小説でも少しでも皆さんの暇つぶしになればなと思っています!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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八十時間目 実力の時間

皆さんどうも籠野球です。

ちょっとだけ遅れました・・・本当は日曜日に投稿したかったのですが、間に合いませんでした・・・m(_ _)m

また、今回はタイトルがしっくりくるのが無かったので、もしかしたら後でタイトルも変えるかもしれないです。行き当たりばったりですいません(笑)

それでは、どうぞ!!


陽菜乃side

 

「・・・特に何か仕掛けられてる違和感は無しと。ま、世界最強の殺し屋が呼び出した場所のトラップなんて端から俺に見破れる訳ねえけど」

 

 雨に濡れながら水守君は私達が入ってきた扉に触れながら呟いた。

 

「威月・・・何でここが分かったんだ?誰か伝えたか?」

「「「「・・・・」」」」

 

皆を見渡しながらの磯貝君の呟きに、全員が首を横に振った。私達は全員で来たし、律はあんな風になっちゃってるし・・・

 

(・・・あ、そういえばイトナ君が攫われた時たーくんだけが使える何か方法があるって言ってた。じゃあたーくんが見つけてくれたのかも!!)

「まいったな・・・流石に相手をしてる時間はない。とはいえ、余り自由に動かれても困るな。

・・・仕方ない。イリーナ、彼を捕らえてきてくれ」

「えぇ、分かったわ」

「・・・!! やべえぞ、威月はビッチ先生の裏切りを知らねえんだ!!」

 

前原君の言った通りだ・・・でも、どうすれば・・・私達はここから動けないし・・・!!

 

「(ガチャ・・・ギギィ) ・・・へ、入ってこいって事か。上等だ」

(ダメ、水守君!!)

「来んな、威月!!」

 

当然、私達の叫びは水守君に届く筈がなく・・・私達と同じ様に地下へと降りてきてしまった。

 

「・・・!! 大丈夫っすか?ビッチ先生」

「う・・・威月?」

 

水守君の目の前には、うずくまったビッチ先生がいた。誰が見ても、ビッチ先生が敵に回ったなんて思えない完璧な演技だった。

 

「先生だけですか?E組の皆も来てる筈なんですが」

「えぇ・・・死神と戦闘になって全滅してしまったわ・・・私は隙を見て何とか逃げ出したんだけど、どこに逃げたらいいのか・・・アンタに会えてよかったわ」

「はい、俺も久々にビッチ先生に会えて良かったっすよ。ま、こんな状況じゃなければ尚更ですけど」

(・・・あれ?)

 

笑顔を浮かべながら安心した様子で話す水守君に、私は何か変な感じがした。水守君、心配しているのに1メートル位離れて、それ以上ビッチ先生に近づこうとしていない・・・?

 

「にしても・・・アンタはホント頼りになるわね。助けに来てくれた礼に先生がハグを(スカッ)・・・あれ?」

「今はそんな事してる場合じゃないっしょ。いつ死神が先生を捕まえにくるか分かんねえんですし」

 

今も抱きつこうとしたビッチ先生の横をあっさりとすり抜けた。確かに水守君の言う通りだけど、私には何だかビッチ先生を避けているように見えた。

 

「とりあえず俺は皆を探してきます。先生は脱出か烏間先生に連絡する方法を見つけといて下さい」

「え、えぇ・・・」

「んじゃ、頼みました」

 

そう言い残して水守君はビッチ先生の背後の扉へと歩いていこうとした。背中を見せちゃ危ない!!

 

「・・・(スッ)」

「威月、危ねえ!!」

 

当然その隙をビッチ先生は見逃さずに素早く注射器を突きつけ、誰かのそんな叫び声を上げた―――

 

 

 

 

 

ガシィ!! 

「・・・な!?」

「・・・!」

「「「「・・・えっ!?」」」」

 

 次の瞬間、私達が見たのは、注射器が身体に刺さるよりも先に視線も向けずに腕を掴んだ水守君の姿だった。

 

「・・・あんまし俺を舐めんなよ、クソビッチが」

「・・・うぐっ!?」

 

私達、全員が驚きで固まる中、水守君はため息混じりにそう呟きながら身体を捻り、ビッチ先生のお腹にもう片方の腕でパンチを叩き込んだ。無防備のビッチ先生は躱せずに衝撃で思わず手から注射器を離しながら蹲った。

 

(え・・・まさか水守君、裏切りに気づいてたの!?)

「フーン、注射器か。中身は・・・恐らく麻酔薬で、油断して近づいてきたアイツらに不意打ちで叩き込んだって所か」

 

そんなビッチ先生を気に止める事なく、冷静に分析しながら水守君は手に持った注射器を遠くに放り投げた。

 

「ゴホッ・・・ゴホッ・・・あ、アンタ・・・何で分かったのよ?」

「カルマや寺坂、それに渚達までもが捕まったてのにアンタだけ逃げ出せた?そんなのありえるかよ」

 

咳き込みながらのビッチ先生の問いに、水守君はあっさりと返した。

 

「それにな、そもそも俺はE組の皆程お人好しじゃねえんだ。基本的に俺は1度、敵の手に落ちた野郎を簡単に信じる気はねえ」

 

やっぱり水守君はビッチ先生がいた時点で警戒してたんだ!!

 

「アイツらはどこにいる?言っとくが、俺はかつての仲間でも敵に回った奴に容赦する気は一切ねえ。アンタの手足の骨、全部折ってでも吐かせるぞ」

「う・・・」

 

ビッチ先生の胸倉を掴む水守君の目は少しも笑っていなかった。水守君のあんな目を見たのは南の島の時以来だった。

 

「・・・そこまでだ、イリーナ、水守 威月君」

 

その時、いつの間にか死神がマイクで水守君に向かって話しかけていた。その声に反応して、2人はスピーカー横のカメラへと顔を向けた。

 

「!! アンタが死神か?見ての通り、俺に情に訴えた攻撃は効かねえぞ。とっとと姿を見せやがれ」

「ふむ・・・そうみたいだね。いいよ、イリーナを倒したご褒美に皆に会わしてあげよう」

 

そう言うと同時に、水守君達の正面の扉からカチリと音が鳴った。多分、鍵が開いたのだろう。

 

「・・・いった!!」

「・・・悪かったな。ああ言ったが、流石にアンタを殺す気にはなれん。だが・・・もう一回、俺に刃を向けてきたら今度こそ容赦しねえからな」

 

み、水守君。平然とビッチ先生を放り投げてる・・・ものすっごくカッコ良く言ってるけど。

 

「・・・アンタ、ホントに勝てると思ってる訳?」

「・・・あ?」

 

ビッチ先生の問いかけに、扉に向かおうとしていた水守君は脚を止めた。

 

「アンタの強さはよく知ってるし、中学生離れしてると思うわ。でもアイツは、はっきり言ってバケモノよ。人間離れした、本当のね」

「・・・」

 

・・・確かにA班の皆を簡単に全滅させたり、ビッチ先生を簡単に裏切らせたりと、誰が見てもあの人は化け物だと思えた。

 

「はっきり言って勝ち目なんて0に近いわよ。いや、そもそも0かもしれない。それなのに戦うなんて、どう考えても無謀じゃない」

「・・・アホくさ」

「なっ・・・」

 

ビッチ先生の言葉にフンと鼻で笑いながら水守君はそう呟いた。思わず目を見開いたビッチ先生に水守君は返した。

 

「勝てるかどうかなんて関係ねえよ。俺には勝つしか道はねえんだ。

・・・何より、もしここでアイツらを見捨てて殺せんせーを含めた誰か1人でも死んじまったら、俺はこの先の人生を一生、後悔して生きる事になる。南の島までの俺ならそれで良かったが、()()()には耐えられねえ」

 

水守君・・・

 

「そんな事を心配する暇があったら、俺が大番狂わせを起こして勝った時の皆への言い訳でも考えとけよ。

・・・俺みたいな薄情者と違って、アイツらはアンタの事を最初から最後まで仲間だと思ってるんだからな」

 

水守君はフッと笑いながらクールにそう言い残して今度こそ扉へと歩いていった。か、格好いい・・・流石たーくんが信頼してる水守君だなぁ・・・あれ?

 

(そういえば・・・たーくん達3人はいないのかな?水守君1人で突入する作戦なんてたーくんらしくないなぁ)

「(ガチャリ) ・・・ここか?」

 

その時、私達の前の広めの監視部屋へと入ってきた水守君を、椅子に座った死神が出迎えた。

 

「やあ、よく来たね水守君」

「!! アンタ、さっきの花屋!?

・・・そうか、何でこんなベストタイミングでと思ったが、合点がいったよ」

 

そんなやりとりの後、水守君は私達のいる牢屋を見渡した。

 

「ゴメン、威月」

「この馬鹿共が。何で俺らに知らせねえんだ、仲間だろ?

・・・ま、説教は後回しだな。そんな状況じゃあねえし」

 

莉桜ちゃんの代表した謝罪に、呆れ顔で返しながら再び死神へと目を戻した。

 

「ふむ・・・僕と戦う気は変わらないようだね。

・・・にしても、君1人かい?残りの3人は来ていないみたいだけど」

 

確かに・・・戦うのであれば4人で戦えば勝てる可能性も上がるのにどうして水守君だけなんだろう?

 

「簡単な話だ。いくら俺達であっても、お前に確実に勝てる可能性は無い。だったら余計な人質の数を増やす位なら、殺せんせーや烏間先生達が駆けつけるのを待った方がいいに決まってるからな。

・・・ま、将棋でいう犠牲駒かな?正直、不本意で、勝つ為なら何だってやってやるさ」

「い、威月・・・」

 

水守君には自分が負けてでも死神に勝つつもりみたいだった。私達よりも覚悟が全然違う・・・だから水守君は強いのかもしれないな。

 

「ただし・・・」

「ん?」

「俺はただの歩なんかじゃねえ。立派な大駒だって事、教えてやるよ」

 

そう笑みを浮かべて宣言すると、水守君は構えた。自信満々で言いきる水守君からは犠牲駒なんて雰囲気は全くなかった。

 

「いいよ。伏魔島でボマーを倒した程の実力、見せて貰おうか」

「・・・あぁ、ただし一発でのされなきゃ良いけどな!!」

 

余裕綽々で椅子に座る死神相手に水守君は握り拳を作りながら突進して、

 

「せいっ!!」

 

死神の顔に向けて正拳突きを放った。水守君の力なら、当たったらただじゃ済まないよ!!

 

「・・・」

「!! チィ!!」

 

しかし、水守君の拳は死神はスッと顔を傾けただけで躱してみせた。水守君は舌打ちを1度と共に腕を戻しながら身体を捻り、今度は脇腹に向けて左腕を叩き込もうとした。

 

「おらぁ!!」

「ハッ!!」

 

み、水守君のパンチをあっさりと受け止めた!!そんな事たーくんにだって出来ないのに・・・」

 

「くっ・・・!! 危ね!?」

 

歯軋りをする水守君に、死神は蹴りを放った。お腹を狙った蹴りを、水守君は素早く腕でガードしたお陰で吹き飛ばされながらも、何とか無事みたいだった。

 

「良いパワーだね。それに反応も悪くない。ボマーを倒したのは伊達じゃないみたいだ」

「椅子に座りながらあっさり返してくる様な化け物に褒められても皮肉にしか聞こえねえよ」

 

感心している様子の死神とは反対に、水守君は険しい顔をしたままだった。多分、予想を簡単に上回った強さなんだと思えた。

 

「とはいえ、別に驚異というレベルではない。死神には遠く及ばない。

・・・今度はこちらから行くとしよう。せめて一撃でやられないでくれよ?」

「・・・安心しろよ。頑丈さが取り柄だから・・・っ!?」

 

私達は目を見開いた。何故なら、さっきまで椅子に座っていた死神が立ち上がったと思った次の瞬間、水守君の後頭部へと手刀を振り下ろしていたのだ。

 

「くっ・・・舐めんな!!」

「むっ」

 

間一髪しゃがんで躱した水守君は、そのまま腕を掴んで強引に1本背負いを繰り出そうとした。

 

「甘いよ」 

「なっ!?・・・ぐっ!!」

 

しかし死神は腕を掴まれながらも空中で体勢を入れ替え着地してみせた。驚く水守君の顔に繰り出されたパンチは、直撃こそしなかったものの頬を掠めた。

 

「ほう・・・さっきの手刀か今の拳のどちらかで昏倒させたつもりだったんだが、大した実力だ」

「ハァ・・・ハァ・・・テメエ殺し屋だろうが。何でそんなに強えんだよ?」

「暗殺者になって1番最初に身につけたのが正面戦闘の技術(スキル)だからさ。確かに殺し屋には99%必要ないが、これが出来ないと残り1%の標的を殺し損ねてしまうからね」

 

水守君のパワーも柔道技も通用しないなんて・・・これが最強の死神の実力なんだ・・・

 

「君も不運だね。仲間や教師、明らかに足手纏いにしかならない連中の為に死地に来たと思いきや、最強の相手をしなきゃならないなんてね」

「「「「・・・」」」」

(確かに・・・少なくとも水守君は私達と違って死神にもビッチ先生にも簡単には倒されてない。そう思われても仕方ないよね・・・)

「・・・あ?何、言ってんだテメエ」

「ん?」

 

そんな死神の嘲笑混じりの問いに、水守君はニヤリと笑った。

 

「このクラスに足手纏いな奴がいるなんて、俺は思った事ねえよ。こんな戦うしか能がねえ筋肉バカを仲間だと思ってくれてる皆を侮辱してんじゃねえよ。殺すしか能のねえくそ野郎が」

「威月・・・」

 

水守君の声色からも、本心からそう思ってくれてるのが分かった。クラス1厳しそうな水守君がそんな風に思っていてくれたなんて嬉しいな。

 

「それにアンタ、俺を気絶させる事すら出来てねえじゃねえか。たかが中学生1人相手に苦戦し過ぎなんじゃねえの?」

「・・・む、言ってくれるじゃないか」

「ちょ、威月!?」

 

な、何でこんな場面で挑発を!?全員が慌てて水守君を止めたが、既に遅かった。

 

「なら少し本気を出すよ。これでも立ってられるかな」

「あぁ、いいぜ。この程度じゃあ最強なんて語っていいとは思え・・・がはっ!?」

 

次の瞬間、水守君のお腹に死神の拳が突き刺さっていた。私達は勿論、水守君すら気づけない程の速さだった。

 

「ぐっ・・・があぁぁぁ!!」

「・・・何て子だ。これでも倒れないのか」

「おらぁ!!」

 

地面を踏ん張って堪えた水守君は左拳を握り締め、感心している死神の顎にアッパーを返した。

 

「だが・・・」

「く・・・うっ!!」

「反面、スピードは平均以下。せっかくのパワーが勿体ないね」

 

そんな水守君の反撃も死神は首を後ろに反らすだけで避けると、お返しと言わんばかりにお腹に前蹴りを打ち込んだ。その衝撃で水守君はよろめきながら後ろへと下がってしまった。

 

「ゴホッ・・・ちっくしょ・・・掠りすらしねえ」

「君の実力は大体、分かった。基本戦術はその頑丈さ、武術の捌きや受けの上手さを活かして致命傷は避け、中学生離れの怪力を持って一撃で大ダメージを与える・・・といった所だろう。だが、それも攻撃が当てられないのであれば、せっかくの耐久力も水の泡だ」

 

ダメだ・・・強すぎる。水守君でもまるで歯が立たないなんて!!

 

「さて・・・いい加減、僕も標的や烏間先生を迎え撃つ準備をしないと。これ以上、君に構う理由もない。これで終わりにしよう」

「!! くっ・・・」

 

そう宣言すると、死神は水守君に向けて突進した。左手を突き出され、水守君は両腕を顔の前で交差させて防御の構えを取った。

 

フオンッ!!

「・・・? どこ・・・(ダンッ!!) 上!?」

 

そんな音と共に死神が突然、消えたと思った次の瞬間、そんな音と共に天井から水守君へと向かっていった。両腕によって水守君が一瞬だけ目を離した隙に!?

 

「「「「危ねえ、威月(水守君)!!」」」」

「終わりだ!!」

 

あんな攻撃が当たっちゃったら水守君も!!・・・でも、水守君も防御が間に合わな・・・

 

・・・塊!!

 

 

 

「(ゴッ!!)・・・がっ」

 

 勢いをそのまま利用した死神の手刀は、水守君の首へと鈍い音を立てながら突き刺さった。

 

「くっ・・・そが・・・」

 

タフな水守君でも致命的な一撃に、前のめりに倒れてしまった。目の前で起きた衝撃的な光景に言葉を失う私達の中、竹林君が呟いた。

 

「う、嘘だろ?威月・・・」

「流石に死んではいない。だが、2度と意識は戻らないかもね。死神を甘く見た報いだ」

「そんな・・・威月、起きなよ威月!!」

 

死神の言葉に、莉桜ちゃんが必死に水守君に呼びかけていた。そんな莉桜ちゃんを気に止める事もなく、死神は出口に向けて歩き出した。

 

「さて・・と、以外と時間を食ってしまった。早く取りかからないとね」

(水守君・・・私達なんかのせいで・・・本当にごめんなさい・・・

 

 

 

 

 

「死神ってのは、結構隙だらけなんだな」・・・え)

 

ドンッ!! 「・・・何だと!?」

 

 そう呟いた次の瞬間、水守君は一瞬で死神へ詰め寄っていた。ど、どうして・・・さっきまで倒れてたのに!?

 

「くっ・・・」

「遅えよ!!」

 

慌てて振り返った死神だったが完全に油断していた上、既に肉迫されていてはどうしようもなく・・・

 

「二重の極み・滅!!」

 

水守君はそう声を張り上げながら、振りかぶった右拳を死神のお腹へ打ち込んだ!!




いかがだったでしょうか。

威月、頑丈すぎね?とも思いましたが、4人の中では防御力だけなら威月が1番上のイメージなので、いいかなと思いました。

(作者の中では

太陽→オールラウンダー
威月→防御特化
大賀→機動力特化
登志→攻撃力特化

のイメージです)

次回は死神VS威月に決着です。

・・・しかしストーリー的に死神が勝たなきゃおかしいんですが、威月が勝ちそうな雰囲気が出てくるから不思議ですね・・・というか、キャラを作った本人的には威月に勝たせてあげたいです(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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八十一時間目 覚悟の時間

皆さんどうも籠野球です。

威月の戦闘を分けた為、どちらも6000文字位になっちゃいました。

いっそ合体させようか迷ったのですが、このタイトルを威月VS死神で絶対使いたかったのでこのままでいこうと思います。

それでは、どうぞ!!


威月side

 

「ぐっ・・・」

「!!」

 

 俺の必殺の一撃は手応えはあったが、死神は倒れずに後ろへと大きく跳躍して距離を取った。

 

(コイツ・・・自分から後ろに跳んで衝撃を殺しやがったか。お陰で、2撃目が完全に当たりきる前に避けられちまった)

「ボマーは今ので完全に動きを止めれたんだが・・・流石は世界最強だな」

 

そんな俺の言葉にも耳を貸さずに、死神はお腹を撫でながら尋ねてきた。

 

「・・・何で立っていられるんだい?まさか、今の攻撃が効いてなかったのか?」

「いや?滅茶苦茶、痛かったよ。俺自身、ギリギリ防御できただけだし。

・・・ま、流石のアンタも鉄の身体を素手で壊すのは不可能だって事だ」

「鉄の身体・・・だって?」

 

首をゴキリと鳴らしながらの返しに、死神が呟いていた。・・・流石に知ってるか。そりゃそうだわな。殺し屋からしたら、あの人は天敵の1人だもんな。

 

「君のその技・・・誰に教わったんだい?君は「ひまわり」という孤児院で暮らしているという情報は掴んでいるが、それ以上の情報は一切掴めなかった。只の孤児院じゃないみたいだな」

「・・・院長、神木 実徳からだよ」

「!! ・・・なるほど・・・まさか()()にこんな若い教え子がいたなんて」

 

ここまできたら、隠し通すのは不可能だろう。俺の答えに、死神は一瞬だけ目を見開くと楽しそうに笑いながらそう言った。

 

「き、恐神?水守君、実徳さんの事だよね?恐神って・・・何?」

「おや、クラスメイトに言ってなかったのかい?」

「国家機密の存在を、そんなべらべら喋っていい訳ねえだろ」

「なるほどね」

 

俺の返しに納得した様子の死神は聞いてきた倉橋の方に向き直り、

 

「君が知っている孤児院「ひまわり」の院長の神木 実徳はあくまで表の顔。彼の裏の顔は、恐神と呼ばれ日本に所属する世界最強の諜報員だ」

「ちょ、諜報員?」

「諜報・暗殺・交渉・・・数々の極秘任務をこなす、まさに裏世界の安全を守る闇の番人・・・とでも言うべきかな」

 

チッ・・・遂に知られちまったか。まぁ、世界最強の殺し屋なら、いつかは知り得たことだしな。

 

「威月・・・お前らってそんな凄い人に育てられたのかよ」

「まあな」

 

驚きながら尋ねてきた前原に、俺は何て事ないと言わんばかりに平然と返した。そもそも殺せんせーなんてイレギュラーが無ければ知られなかったんだし。

 

「その中でも、恐神が最強と呼ばれる決定的な理由は、彼が独自に編み出した6種類の特殊体術があるからだ。恐神にしか使えないその技は、他の追随を許さない程に圧倒的な殺傷力を持った最強の体術だ」

「体術・・・」

「その名は―――六式(ろくしき)。彼がさっき、僕の技を食らいながらも立ち上がったのも恐らくは()()のお陰だよ」

 

その言葉で、全員が俺の方を見てきた。その中から、岡島が皆を代表して聞いてきた。

 

「ま、マジかよ?威月」

「・・・あぁ、六式の1つ"鉄塊(テッカイ)"。全身の筋肉を硬直させ、一時的に肉体を鉄に匹敵する程に防御力を高める技だ」

「おまけに彼自身の優れた筋力を考えれば、まさしく絶対防御とも言っても過言ではない」

「す、すげ・・・」

 

そんな中、死神は俺へと向き直った。

 

「楽しめそうだ。六式の使い手との戦いなんて、出来る事じゃあない」

「・・・とりあえず後で皆には詳しく説明するよ。今から第2ラウンドみたいだしな」

 

俺は指をボキボキと鳴らした。あくまで不意打ちで当てただけだ。あんなモンで倒せるなんて、思っちゃいねえよ。

 

(確かに滅以外の攻撃は全く当たってねえし、実力差は明確だ。でも・・・俺が倒れねえ限り、必ず勝機はある!!)

「来いよ、最強。お前の攻撃、俺が全部受け止めてやる」

「・・・面白い」

 

指で手招きすると、死神は獲物を狩る狩人の様な目を向けてきた。一発、殴った事でスイッチ入ったか。上等だ!!

 

「フッ!!」

「はぁ!!」

 

突きだしてきた右腕を背負うように絡め取ると、そのままアームブリーカーの要領で自分の肩に打ち付けようとした。これならどうだ!!

 

「むんっ!!」

「!! 鉄塊!!」

 

しかし死神は、俺が絡め取った腕を支点に空中で身体を回転させると、そのまま俺の顔面に蹴りを直撃させてきた。危ねえ・・・鉄塊、使ってなかったらアウトだった。

 

「こっの・・・おらぁ!!」

 

俺は素早く鉄塊を解くと、お返しと言わんばかりに死神の脚を払って床に押し倒し、馬乗りになりながら顔面に拳を繰り出した。

 

バシッ・・・グルンッ

(受け止めた俺の腕を掴んでそのまま腕ひしぎに!?)

 

させるかよ・・・!!俺は完全に極められる前にもう片方の腕で掴む事で防いだ。

 

グググググ・・・

「くうぅぅぅ・・・」

「ぐおおおぉぉぉ・・・」

 

極めようとする死神と、渾身の力を込める俺の入り混じった咆吼が響いた。いくら最強だからって・・・純粋な力比べなら俺だって負けねえよ!!

 

「おおおぉぉぉらああぁぁぁ!!」 バチィン!!

 

強引に腕を振り解き、俺は死神から距離を取った。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

「全く恐るべき存在だ。確かに僕は力にはそこまで自信があった訳じゃあ無いが、それでも常人よりも遙かに上なんだが」

「そりゃどうも。伊達に小1からずっと人間離れした人から鍛錬を受け続けてきちゃあいねえよ」

 

とはいえ・・・コイツは息すら乱れてねえ・・・それに捌きや受けの技術は、俺の何倍も上手い。

 

(コイツ相手じゃ関節技や投げ技は通用しない・・・打撃技しかねえな。壊を叩き込む、俺にはそれしかない)

 

改めて方針を固め、俺は構えを取った。こっちから攻めても通用しねえ・・・鉄塊で防いだ所に叩き込んでやる!!

 

「ほう・・・防御主体の構えか。良い戦術眼をしている」

 

コイツ・・・俺の作戦を完璧に見抜いてやがるな。

 

「確かに君の鉄塊はかなりのレベルだ。だが・・・殺し続けて死なない訳では無いだろう。いつまで持つだろうね」

「・・・勝ち目がそれだけなら、死んでも縋りついてやるよ」

「大した度胸だ。では試してみよう」

 

そう言うと、死神は再び高速で近づいてきた。っ・・・落ち着け、攻撃を見て確実に鉄塊を合わせるんだ。

 

「鉄塊!!」 ドカァ!!

(ぐっ・・・いきなりこめかみを・・・だが!!)

 

容赦ない拳に少しだけ痛みを感じたが、このチャンスを逃す理由はない!!俺は素早く鉄塊を解除しながら右拳を振りかぶり、

 

「二重の極み・・・うっ!!」

「・・・良く止めたね。もし振り抜いていたら、確実に蹴り抜いていたよ」

 

途端に桁違いの殺気を感じて、俺は思わず腕を止めた。嘘だろ・・・もう片方の腕で逆のこめかみを狙ってやがる・・・!?

 

「その攻撃の厄介さはもう分かっている。1度、攻撃を当てたからって見くびらない方がいいよ」

「うっ・・・鉄塊!!」

「そして、僕はもう君に隙なんて見せる気はない。確実に仕留める」

 

肋骨をへし折りにきた蹴りを受け止めながら、自分の考えの甘さに気づいた。マズいな・・・

 

「こんなものじゃあ終わらせないよ。いつまで立っていられるかな?」

「チッ・・・」

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

 くそ・・・数分間、何とか粘ってるが・・・全くといっていい程、隙が見当たらねえ・・・

 

「はあっ!!」

「・・・鉄塊!!」

(しかもコイツ、殺し屋なだけあって徹底的に俺の急所しか狙ってこねえ!!)

 

今も鳩尾めがけての膝蹴りを受け止めながら歯軋りした。鉄塊が無かったら、俺はとっくの昔に気絶しているだろう。

 

「くっそ・・・二重の極」

「・・・」

 

何回目になるかも分からない鉄塊を解除すると同時の右腕の拳を振りかぶったが、死神はバックステップで離れていってしまった。コイツ・・・さっきから俺が右拳を握ったら後ろに下がりやがる・・・

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・死神ってのは結構ビビりなんだな。一発、殴っては躱しの繰り返しなんてよ」

「当たったら危ない攻撃を食らう必要なんて無いからね」

 

受け止めきれないダメージで少しずつ削られていく俺とは違い、死神はノーダメージだ。攻撃が当たってなければ当然だが・・・

 

「それに、この数分で分かった。どうやらその鉄塊という技、使用している最中は動く事が出来ないみたいだね。つまり解除するまでの間に一瞬のタイムラグがあるんだろ?」

「・・・ご名答」

「そして何より、その二重の極みはどうやら()()()()()()()()()んじゃないかい?何回か試してみたが、君は左腕で殴れる時には鉄塊を解除しようともしなかったからね」

(・・・そこまで見抜いてんのか)

 

確かに二重の極みは拳に絶大な負荷がかかる。利き腕じゃない左拳では、どうしてもそれに耐えられないのだ。

 

「つまり、鉄塊を解除しないと僕に攻撃が出来ない上、右腕でしか必殺の一撃は撃てない。それに注意して殴り続ければ、君に勝つのは簡単だ」

「ハー・・・ハー・・・フゥ」

 

そう宣言する死神の尻目に、俺は呼吸を整えながらチラリと皆の方に目だけを向けた。

 

「・・・」

(・・・何だよ、莉桜。その心配そうな顔は?らしくねえっつーの。

・・・いや、違うな。俺があんな顔させちまう程、追いこまれちまってるって事・・・か)

 

普段は余り見せない不安そうな顔をする幼馴染みに、心の中で苦笑しながら俺は視線を死神に戻した。確かに、普通にこのまま続けても、一方的に俺が削られて負ける未来しか見えねえ。この状況で俺が勝つには・・・

 

・・・ま、やっぱりそうするしかねえか。そうしなきゃ当たんなさそうだし

(つーか、それくらいやらなきゃ俺が世界最強に勝てる訳がねえし。そもそもそれくらいはやる覚悟でここに来たんだしな)

「? 何か言ったかい?水守君(ガッ!!)」

 

死神の言葉を遮るように俺は両拳を打ち鳴らした。

 

「来いよ。アンタのそんな予想なんざ、俺がぶっ壊してやるさ」

「ふむ・・・勝負を諦めていないようだね。誰がどう見てももう勝敗は決したと思うけど」

「確かにな。アンタみたいな一流のプロの計算じゃ、俺みたいな二流に負ける筈がねえ」

 

「でもよ」と言いながら俺は構え直した。

 

「格下ってのはよ、予想も出来ない事をやってのける時があるから恐ろしいんだぜ?」

(チャンスは1回だけ・・・次の一撃が勝負!!)

「いいだろう、次で終わりだ」

 

そう言うと、死神は左腕を構えて射程距離に入ってきた。この数分で俺もコイツの動きに辛うじてついていける位にはなっている・・・確実にガードする!!

 

「(ダンッ) フッ!!」

(!! 上に跳んだ!!)

 

腕でガードした俺を見て、死神は最初に一撃を食らった時と同じ様に天井に向けて跳ぶと、勢いを利用して俺に突進しながら左腕を振り下ろしてきた。それに合わせて俺は鉄塊を発動―――

 

 

 

(・・・すると思ってんだろうな)

「!!」

 

 俺は鉄塊を発動せずに、死神に向けて左手を差し出した。そんな俺の行動は予想外だったのか、死神は目を見開いていたが既に跳んでいては逃げるすべも無く・・・

 

バキィッ・・・

 

死神の攻撃をもろに食らい、左腕からはそんな鈍い音が聞こえた。最強のトドメにしようとした一撃だ、恐らくは・・・いや、間違いなく折れているだろう。

 

(だが・・・)

「ようやく捕まえたぜ」

 

俺は強引に左腕で死神を手繰り寄せながら、右拳を握りしめた。もうここまで至近距離に近づくチャンスは訪れねえ・・・痛みを感じる前の、この一瞬で仕留める!!

 

「まさか・・・あれだけ鉄塊を連発していたのは、この瞬間を作り出す為に・・・」

「こちとら・・・世界最強を相手に五体満足で勝てるなんて甘い幻想、端から抱いちゃいねえんだよ!!」

 

最強に勝つ為なら俺の腕の1本や2本、捨てる覚悟なんざとっくに出来てるっつーの!!

 

(俺の全てを・・・この一撃に込める!!)

二重の極み・壊!!

 

そう叫びながら、俺は右拳を死神に叩き込んだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュウゥゥゥ・・・ 「危なかったよ・・・その一撃、僕じゃ無ければ決まっていただろう」

「!!」

 

 な、何っ!?俺の壊を食らって立ってられる訳が・・・

 

「その二重の極み・壊という技・・・さっきの滅と仕組みは同じなんだろう。一撃目の衝撃が伝わる前に二撃目を放つ事で完璧に衝撃を伝えるという見た目の豪快さとは裏腹にとてつもなく繊細な技術が必要な技だ。つまり裏を返せば、一撃目で衝撃を殺すか間合いを微妙に外すだけで、その技は只の二連撃に成り下がる・・・だろ?」

 

こ、コイツ・・・この短時間で、しかもたった一発食らっただけの技のメカニズムを!?・・・俺が・・・血反吐を吐く思いで編み出した二重の極みを簡単に・・・

 

ズキッ・・・ (ぐっ・・・やべ、痛みが出てきやがった・・・)

「腕をへし折られてでも僕に勝とうとしたその覚悟、そして僕の攻撃を受けても倒れなかったその鉄塊・・・君は充分に強い。そんな君に敬意を示し、僕も死神の技を見せよう」

 

動揺と腕の痛みで隙が出来た俺に、そう宣言しながら左の手刀を振りかぶった。

 

「・・・っ、鉄塊!!」

(大丈夫だ・・・左腕は壊れたが右腕はまだ生きてる!!この一撃を防いでお返しに・・・

 

 

 

バアァン!!

「・・・がっ!?」

 

右腕で防いだと思った次の瞬間、とてつもない轟音が目の前で起こった。くっ・・・何がおこっ

 

がくっ・・・ (!! な、何だ・・・?身体が・・・動かね・・・)

 

 

動きを止めた俺の目の前では、死神が驚いた様子で両手を戻していた。

 

「大した子だ。今ので意識を失わないとは。

・・・だが、今ので脳振盪は起きただろう。しばらくはまともに動く事すら出来ない筈だ」

「今のは・・・猫だまし・・・・・か?」

「少し違うね。彼のは只の猫だましに過ぎない。僕のは"クラップスタナー"という立派な技さ」

 

クラップスタナー・・・だと?

 

「人間の意識には波長がある。波が大きい山な時程、刺激にはとてつもなく敏感になる。この技術は相手の意識が1番大きな山の時に、1番大きな音波の山を当てるんだ。これを食らえば衝撃で怯む所では無い。相手は神経が麻痺してしばらくは動く事すら出来なくなる」

「ちっくしょ・・・まだ・・・そんな技が使えるなん・・・て」

 

そう言うと同時に、俺は鉄格子に背中を預ける様に尻餅をついてしまった。ダメだ・・・もう立てねえ・・・

 

「威月、大丈夫!?」

「何とか・・・だが、もう無理だ。すまねえな・・・皆」

 

声をかけてきた中村に返しながら、俺は死神を見た。

 

(まさか・・・ここまでとは・・・やっぱ、俺じゃあ勝てねえか)

「侮るなかれ、死神の技を。

・・・さて、ここまで長引くとは思わなかった。すぐに向かわなければ

 

 

 

ドオンッ!!

むっ!!」

「うわっ!!」

(・・・でもよ、死神。俺は・・・アイツらの中じゃあ、1番弱えよ・・・!!)

 

 いきなり聞こえてきた轟音に全員が監視カメラの方を向いた。通路の1つを写したカメラからはもうもうと煙が立ちこめる中、1つの影がバッと飛び出してきて・・・

 

「仲間のピンチに九澄 大賀、見参!!」

 

どこかの戦隊ヒーローの様なポーズを取りながら大賀はそう言った。アイツ・・・状況、分かってんのか?




いかがだったでしょうか。

いよいよ実徳さんの正体も判明しました(こんな職業が本当にあるのかは知りませんが(笑))

ちなみにですが、クラップスタナーは原作を読んだ方なら当然分かってると思いますが渚を倒した技です。

何故この技にしたかというと、単純な攻撃じゃ鉄塊持ちの威月は倒せないと書き始める前からこうしようと決めてました(A班の戦闘を書かなかったのはその為です。もし期待していた方がいたらすみません。
m(_ _)m)

・・・それにしても、実徳さんの正体が判明するまで何だかんだ84話もかかったんですね(よくそこまで投稿出来たなと思います(笑))

これからも気が向いた時にでも見ていって下さい!!



最後の大賀の天然な雰囲気が最近は書けてなかったので懐かしいです(笑)

それでは、また次回お会いしましょう!!


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八十二時間目 極める時間

皆さんどうも籠野球です。

お待たせしました!!ここ2、3週間、仕事が上手い事いかず、モチベーションがもの凄いレベルで低下していました・・・
m(_ _)m

というか、純粋にオリジナルで戦闘シーン書くのが難しすぎました(じゃあ何で創作小説書いてんだよってツッコミはスルーします(笑))

素人なりに頑張って書いていくのでこれからも温かい目で見てくれたらと思います!!

それでは、どうぞ!!


威月side

 

「・・・う、ゴホッ・・・ゴホッ!!うー・・・いくらコンクリを吹っ飛ばす用とはいえ、威力強すぎだぜ2人共・・・」

 

 コンクリートの破片か粉を吸い込んだのか、涙目になりながら大賀は咳き込んだ。あんだけ粉が舞い上がる中、あんだけ喋るからだっての・・・

 

「大賀くん、来てくれたんだ・・・」

「威月、大賀ってどっから来たのさ?通路の床を爆破するなんて」

「あぁ、マンホールこじ開けて下水道から入ってきたのさ。そんでもって俺達がいる場所の目星を付けてぶっ壊したんだよ」

「え・・・!?そ。そんな事やっちまっていいのか?」

 

俺の返しに、前原がギョッとした様子で聞いてきた。まあ、確かに大問題ではあるが・・・

 

「・・・ま、いざとなったら実徳さんが何とかしてくれるさ」

「・・・どんな権力、持ってんだ?お前らの院長って・・・」

「さぁ?俺達3人はそこら辺の事は知らねえからな」

 

そういった実徳さんの裏を1番よく知ってるのは太陽だし。

 

「次から次へと・・・わざわざ1人ずつ来るのは何か狙いでもあるのかい?」

「・・・へっ、言った筈だぜ?殺せんせーや烏間先生が駆けつけてくれるまでの時間稼ぎだって。それが分かってても、アンタは無視する訳にいかねえんじゃねの?」

「・・・いいだろう」

 

俺の笑みを浮かべながらの挑発に、死神は険しい顔をしながら大賀にスピーカーで語り始めた。

 

(・・・恐らく、死神も何かを俺達が企んでいる事は気づいてはいるだろう。だが、それが何か分からない以上は、大賀の相手をするしかねえわな)

 

後は・・・大賀の脚次第だな。

 

(任せて悪いが、大賀・・・くれぐれも致命傷だけは避けてくれよ・・・!!)

「ここか!?」

 

その時、死神に呼び出された大賀が勢いよく扉を蹴り開けて飛び込んできた。

 

「大賀くん!!」

「!! 有希子、皆!!大丈夫・・・って、貴方は!?」

 

神崎の呼びかけで俺達を見渡した大賀は、最後に死神を見ながらそう言った。まあ、そりゃそんな反応になるわな。

 

「何でこんな所に!?まさか、死神に攫われて!?」

「「「「・・・え?」」」」

 

・・・この状況で何でそうなるんだ!?

 

「アホ!!どう考えても、コイツが死神以外ありえねえだろうが!!こんな時に天然かますな!!」

「・・・なっ!?じゃあ俺がこの人に感じてた違和感は・・・」

「へえ、良い観察眼をしているね。いや、君の場合は野生の勘・・・とでも言うべきか」

「・・・!! 威月、その腕・・・」

 

その時、大賀が変な方向を向いた俺の左腕に気づいたみたいだった。固定したいが手元に手頃な木片が見当たらねえし、何よりダメージとクラップスタナーのせいで身体が動かせそうにねえ・・・

 

「見ての通りさ、彼は僕に及ばなかった。さて・・・君はどうするんだい?とはいえ、君はかなり純粋そうだし答えは決まってるよね」

「・・・威月が勝てなかった様な人に、俺が勝てるなんて思わねえけど・・・やるだけ、やってみます」

「大賀、俺が言うのも何だが、くれぐれも無茶だけはするなよ」

「了解!!」

 

俺の返すと、大賀は1度ゆっくりと深呼吸し、

 

「先手・・・必勝!!」

 

勢いよく死神に向けて駆け出した。その勢いをそのまま利用して・・・

 

薄切り肉のソテー(エスカロップ)!!」

「むっ」

 

跳躍しながら水平蹴りを死神に繰り出した。だが、そんな単純かつ単発の攻撃が当たる訳がなく、死神はあっさりとしゃがんで躱してみせた。

 

もも肉(キュイソー)すね肉(ジャレ)!!」

「フッ!!」

「いって!?」

 

素早く着地しての2連撃を死神に相殺され、大賀はそんな声を上げた。

 

「くっ・・・首肉(コリエ)フリ「遅いよ」・・・おわっ!?」

 

!! 蹴り上げた大賀の軸足を払いやがった!!いくら大賀でも軸足を払われては厳しいらしく、宙に浮いて無防備になってしまった。

 

「ハッ!!」

「がっ・・・」

「大賀!!」

 

お腹に強烈な蹴りを喰らい、大賀は地面に叩きつけられた。速え・・・相変わらず身のこなしのレベルが異常だぜ・・・

 

「君の言い方を借りるなら、腹肉(フランシェ)かな?」

「大賀くん、大丈夫!?」

「うー・・・ゴホゴホッ・・・」

 

ダメージがデカいのか、神崎の問いかけにも返さずに大賀は四つん這いになって咳き込んでいた。

 

「良いキレではあるが、それなら威月君の方がパワーで押し切れる。終わりだ!!」

「大賀、危ねえ!!」

 

死神はそう言いきると、大賀の後頭部に向けてトドメの踵落としを放つのと、杉野が叫ぶのは同時だった。

 

 

 

(ソル)!!」

「「「「!!」」」」

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 次の瞬間、大賀は死神から10メートル以上、離れた場所で片膝を立てて呼吸を整えていた。使ったか・・・まあ、そうしなきゃ勝てる相手じゃねえよな。

 

「今のは・・・そうか、君も六式の使い手か」

「フゥ・・・えぇ、剃と月歩(ゲッポウ)だけですけど」

「・・・瞬間的に超加速して消えたかの様に移動する剃と、空中を自在に飛び回る月歩か。なるほど・・・マジシャンの機動力に追いつける筈だ」

「!! じゃあ、南の島とかで使ってたアレもそうだったのか・・・」

「へへ、ゴメンな。六式も実徳さんの事も絶対に喋るなって言われてたからさ」

 

杉野の呟きに、大賀らしい笑みを浮かべながら答えた。苦戦の中、ああいう顔が出来るのは大賀の良い所だな。

 

「・・・ところで、大賀君。君に1つ尋ねたいんだが、君は何故、蹴り技しか使わないんだい?」

「えっ?」

「君の蹴りは威月君の様に型にはまった物ではない完全な我流、それに明らかに戦闘経験が少なそうだ。普通、素人なら簡単なパンチを用いた戦法を取りがちだが、何故わざわざ難しい蹴り技を使うんだい?」

(・・・普通なら死神の言う通りなんだが・・・大賀の単純さをまだ分かってねえみたいだな、アイツ)

 

死神の問いに、俺は心の中でそう思った。そんな俺に気づく事なく、大賀は平然と答えた。

 

「え?だって脚の方が力が出るんだろ?だったらそっちで攻撃した方がいいに決まってんじゃん!!」

 

 

 

「「「「・・・・」」」」

(そりゃ、そんな反応になるだろうよ・・・)

 

死神を含めた全員が無言になる中、俺はため息をついた。そんな理由だけで戦闘スタイル決める奴なんて、お前以外に知らねえっての・・・

 

「君・・・どこまで本気なんだい?」

「? 最初っから大真面目ですけど?」

「・・・」

 

真顔で言いきる大賀に、死神はようやく大賀の単純さに気づいたのか再び無言になってしまった。

 

「な、なあ威月。大賀、ホントに大丈夫なのかよ?大賀の蹴りが強えのは知ってるけどよ、当たんなきゃ何の意味もねえだろ?」

「・・・確かにな。大賀は俺達の中じゃ身体を鍛えだしたのは1番遅かった。オマケに大賀自身、頭で考えるのが苦手だからただ愚直に直線的に突っ込む事しか出来ない。多分そういう奴を相手にするのは、死神にとって造作もないだろうな」

 

心配そうな杉野に、俺は肯定の意味を込めた持論を述べた。俺は関節技や頭で考えて追い詰める手段があるのに対し、そういった搦め手を全く使えないのが大賀なんだ。

 

「でもな・・・()()()()()、大賀は強いんだ。ポテンシャルだけでいえば、大賀は俺達の中じゃ1番上だよ」

「え・・・」

「フゥ・・・」

「見てな、大賀の真骨頂が出るからよ」

 

息を吐きながらつま先でトントンと地面を蹴る、大賀が本気を出す時の癖だ。

 

「行きますよ、死神さん!!」

「む」

胸肉(ポワトリーヌ)!!」

「甘いよ!!」

 

大賀は勢いよく突進すると、死神に向けて蹴りを放った。そんな一撃を死神は躱しながらカウンター右ストレートを大賀の顔面へと合わせた。普通ならこの一撃で終わりになってもおかしくない、そんな完璧なカウンターだった。

 

「剃!!」

「むっ・・・!!」

切片(スライス)シュート!!」

「は、速え!!」

 

次の瞬間、大賀は死神の背後から側頭部へと跳び蹴りを放っていた。驚くのはまだ早えよ、岡島。

 

「フッ!!」

「な・・・「首肉!!」くっ!!」

「また!?」

「・・・エンジンがかかってきたな」

 

再び消えた大賀の蹴りを死神は何とかブロックしたが、加速し始めた以上もう大賀を止める事は不可能だ。

 

肩肉(エポール)!!背肉(コート・レット)!!鞍下肉(セル)!!胸肉!!もも肉(ジゴー)!!」

「・・・剃を使い、どんどん加速してるだと!?」

「す・・・凄え・・・速すぎて目で追えねえ。あれが大賀の本気かよ」

「そうだ。大賀は蹴り技しか使えない。だからこそ、蹴り技のみに特化し、蹴り技のみを極めてきた。単調だが読みで対応できなくさせる程のハイスピードの高速蹴撃!!

・・・それが、九澄 大賀の真の戦闘スタイルだ」

羊肉(ムートン)ショット!!」

「ぐぅ・・・!!」

 

ソバットを放ち後ろによろめいた次の瞬間、大賀は剃で上に跳躍すると、

 

粗砕(コンカッセ)!!」

「(ゴガンッ!!) がっ・・・」

「あ、当たった!!」

 

勢いを利用した踵落としは、死神の後頭部を見事に捉えてみせた。

 

「・・・やるね」

「ハァ・・・ハァ・・・いーや、まだまだっすよ!!」

 

距離を取っていた大賀は再び死神に突進すると、

 

二級挽き肉(ドゥジェム・アッシ)!!」

「っ、剃じゃないのか!!」

 

剃をせずに連続蹴りを放つ大賀の動きは予想外だったのか、死神は少し遅れながら全てを捌ききった。

 

木犀型斬(ブクティエール)シュート!!串焼き(プロシェット)!!」

「くっ・・・」

(剃を囮に普通の攻撃を混ぜられては、流石の死神も簡単には対応できないだろうな)

 

常に剃を警戒しなければならない為、逆立ちの要領で飛び上がりながらの蹴りと、空中から突き刺す2連撃と死神は少しずつ対応が遅れていった。

 

(いくら死神が最強でも、1つの行動に警戒し続けなければならない状況なら少しずつ反応は遅れる。普通ならごく僅かな隙にしかならない()()を、少しずつ拡大していく大賀の波状攻撃は、例え分かっていても追いつけねえさ)

「腹肉!!」

「ハ・・・ !! ここで・・・か!!」

 

続け様に攻撃を防御し続ける死神だったが、唐突に消えた大賀に遂に大きく体勢を崩された。

 

 

「腰「・・・後ろだ!!」・・・!!」

(!! あの状況でまだ反応出来るのかよ!?)

 

次の瞬間、死神は振り返りながら裏拳を死神の背後から回し蹴りを放っていた大賀へと繰り出した。

 

「・・・剃!!」

「なに・・・くっ・・・」

 

んな!?大賀の奴、もう1回剃を使って躱しやがった!!どっちも化け物かよ・・・

 

ほほ肉(ジュー)シュート!!」

「ぐほっ・・・ガハッ!!」

 

前に回り込んでの顔面への蹴りに、完全に体勢が崩された状態では死神でも対応しきれる訳がなく、蹴り飛ばした勢いでコンクリの壁へと叩きつけられた。

 

「凄え!!あの死神相手に押してるぜ!!やっぱお前は強えな!!」

「ゼェ・・・ゼェ・・・」

(!! 脚が痙攣してやがる・・・大賀の戦闘スタイルは、脚に相当な負担がかかるからな)

 

杉野の言葉に返す余裕もないのか、大賀は震える脚に手を添えながら息を整えていた。そもそも六式は強力な分、人体にとんでもない負荷がかかる諸刃の剣。オマケにその中でも剃と月歩は桁違いだからな・・・中学生離れの身体能力を持つ大賀だから辛うじて耐えられるだけで、本来は身体の出来上がってない中学生が連発出来る代物じゃないのだ。

 

「・・・大した動きだ。まさかここまで僕に攻撃を当てられる中学生がいるなんてね」

「ハァ・・・ハァ・・・手応えはあったってのに、余裕がまだまだありそうだな・・・」

 

パラパラと砕けたコンクリをはたき落としながら、死神はそう独りごちた。全くの無傷という訳では無いだろうが・・・大賀の言う通り決して致命傷になってはいないだろう。

 

「大賀、コイツ相手にお前のスタイルで長期戦は危険だ。短期決戦でケリをつけろ」

「分かってる・・・とっておきでいくさ!!」

 

俺の忠告に、大賀は脚をストレッチしながらそう言った。室内でしか使えない大賀の必殺技のアレか・・・

 

「これで決める・・・剃!!」

「むっ・・・何を」

 

剃の勢いを利用し、一瞬だけ大賀は壁に張り付いた。死神がその行動に訝しむ中、

 

「剃!!」

「!! 「剃!! 剃!!」また加速を・・・しかも壁を蹴って速度を更に上げて・・・」

 

壁や天井、そして地面を同じ様に蹴って加速しながら縦横無尽に動き回り、さっき以上の超スピードで大賀は死神をかく乱し始めた。

 

「フッ!!」

「(ドカッ!!)ぐっ・・・」

「ハァッ!!」

「(バキィ!!)くぅ!!」

 

そのスピードを利用して、大賀は飛び回る最中に死神に蹴りを放った後に着地し、また加速して蹴りを放った。こうなった大賀を止められる奴なんてそうはいない。

 

(これが大賀の奥の手。剃を使った最高速度で蹴りを連打する。蹴る為の足場がある室内でなければ真価を発揮しないが、使えば敵は()(すべ)なく倒れていく殲滅技。名づけて・・・)

「無双 飛影(とびかげ)!!」

ドカカカカッ!!

 

目にも止まらぬ速度で、大賀は連続蹴りを死神に叩き込んでいった。あの攻撃速度を簡単に捕まえられる奴はいねえ・・・攻撃し続ければ必ず隙は出来る!!

 

「うっ!!」

(!! 膝をついた・・・ガラ空き!!)

「決めろ、大賀ぁ!!」

 

その時、大賀の蹴りが偶然後頭部を掠め、死神は思わず片膝をついた。俺の魂の叫びに応える様に、大賀は素早く壁を蹴って加速し直し・・・

 

「首肉ショット!!」

(脳を揺らされた後で、首を蹴られりゃ死神だって只で済むはずがねえ。勝った!!)

 

加速した勢いをそのまま利用した大賀の渾身の蹴りは、確かに死神の首を捉え・・・

 

 

 

「良い蹴りだ。彼の言う通り君には複雑な搦め手は必要ないね」

「・・・!!」

(・・・な、何だと!?)

 

 そんな俺の予想は、大賀の足を背中越しに掴む死神の姿で甘いと気づかされた。

 

「この・・・放せ・・・!!」

「ただし、少し攻撃が直線的すぎる。もう少し突進中に動きを変える事が出来ると良いかもね」

「おわっ・・・がっは・・・」

 

そのまま大賀は顔面から床に叩きつけられた。60キロ以上ある大賀を軽々と・・・

 

「いってぇ・・・俺の飛影がこんな簡単に負けるなんて・・・」

「確かにあれは脅威だった。しかし、速さを上げるという事はどうしても威力が犠牲になる。普通なら問題ないだろうが、僕が相手ではそれは致命的だ」

「うぐっ・・・ハァ・・・ハァ・・・痛っ・・・」

 

解説しながら死神は思いきり大賀を蹴り飛ばした。マズい・・・大賀の奴、飛影でもう脚が!!

 

「何より、マッハ20の怪物を殺そうというんだ。いくら君が速くても、マッハ20を超えない以上は僕には勝てないよ」

「うっ・・・」

「とはいえ、君が弱い訳ではない。僕ほどの動体視力の持ち主じゃなければ君を捕まえる事すら出来なかった筈だ。だからこそ、見せてあげよう、死神の強さをね」

「!?」

 

次の瞬間、死神は姿を消した。な、何てスピードしやがる!!大賀よりも速いのか・・・

 

「大賀やべえ!!今喰らっちまったら・・・」

「・・・・剃「もう遅い」・・・あ」

 

俺の声に反応して何とか剃を使おうとした大賀から最後に聞こえたのは、そんな呟きだった。

 

 

 

ゴガンッ!!

 

 次に俺の目に飛び込んで来た光景は側頭部を蹴られ、地面に頭から叩きつけられた大賀の姿だった。切れたのか口から一筋、血が垂れてるし、完全に気を失っている様子だった。

 

(人体の急所を知り尽くしてる死神だ・・・やってのけてもおかしくはない・・・にしても)

「た、大賀が、たった一撃で・・・」

「た、大賀くん!!そんな・・・」

 

杉野が呟き、神崎は思わず口元を押さえた。俺自身、大賀が負ける所なんて想像もつかなかった。何て強さだ・・・この化け物め。

 

「フゥ・・・威月君の覚悟といい彼の才能といい、中学生にしては本当に恐ろしい子達だ。だが、死神と戦うには少し早かったね」

(俺や大賀の力で勝てねえなんてな・・・こんな奴が実徳さん以外にいるなんて、思ってなかったぜ・・・)

「さて・・・威月君。大賀君は倒したが、次はどうするんだい?登志君か太陽君を出してくるのかな」

 

・・・まぁ、普通ならそう思うだろう。だが、コイツ相手にやりあっても勝てる保障がない戦いだ。あの2人の力は下手すりゃ大賀以上に身を滅ぼす・・・それに、幸いにも大賀が注意を引いてくれてたお陰でコイツは気づいてないからな。太陽なら、何とかしてくれんだろう。

 

(・・・それにだ、ようやく来てくれたな、()()()

「・・・いーや、残念だが時間切れみたいだぜ、死神さんよ。外のカメラ見てみろよ」

「・・・むっ!!」

 

俺の言葉に、全員がモニターに視線を向けた。そこに映っていたのは・・・

 

「(クンクン・・・)ふむ・・・雨の中ですが、僅かに威月君の匂いがしますねぇ。いやぁ、犬に変装してるお陰でスムーズに臭いを辿れましたね」

「どこの世界にこんな巨大な犬がいるんだ」

 

・・・犬の着ぐるみに身を包んだ殺せんせーと、リードを持つ烏間先生の姿だった。・・・烏間先生はともかく、何であの人は無駄なコスプレをしたがるんだ・・・自然界にもあんな犬はいねえだろうよ。




いかがだったでしょうか。

ちなみに無双 飛影という技は、作者の好きな漫画「BLACK CAT」に登場する暗殺拳法のを使用する殺し屋"ルガート=ウォン"が使用する技です(正確には無双流 飛影ですが、大賀は我流だから流はいらないかと思ってつけてません)

実を言うと大賀が蹴り技と剃、月歩しか使わないのは、"サンジ"と"ルガート=ウォン"が中学時代大好きで、この2人が組み合わさったらどうなるんだろう?とずっと思ってて、折角オリジナルキャラだしやってみようと思ったからです(その為に、あえて大賀には嵐脚は使わせませんでした)

上手く書けてればいいのですが・・・まぁ、もしかしたら「BLACK CAT」を読んだ事が人も結構いるかもしれないので、誤魔化せてれば幸いです(笑)

投稿がこんなにも遅いというのに読んでくれたりお気に入り登録してくれる方の為にも投稿は辞めずに続けていくので、これからも気長にお待ち頂けたらと思います!!

それでは、また次回お会いしましょう!!


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八十三時間目 判断の時間

皆さんどうも籠野球です。

上手く書けねえぇぇぇ!!どうすりゃいいんだあぁぁぁ!?と悩み倒し、全く書けずに1ヶ月経った2週間程前、何気なくこの小説の情報を見たら今まで0.00の平均で無色だったバー?に、数字と色が付いていて一瞬リアルに目玉が飛び出ました・・・

本当にありがとうございます!!まさか、そんな事になるとは夢にも思っていませんでした。

それを見たらこんな小説でも評価してくれる方がいてくれるのにうだうだしてられねえ!!と頑張らせて頂きました。

それでは、どうぞ!!


威月side

 

「殺せんせー、それに烏間先生も!!殺せんせーってブラジルに行ってたんじゃ・・・」

「いきなりの登場で忘れてると思うが・・・お前ら、そもそも俺達が何で知ったと思う?死神と戦ってるって」

「・・・!! そういえば・・・どうやって」

 

 原の呟きに対しての俺の返しで、磯貝がハッと思い出した様に尋ねてきた。

 

「俺達はな、実徳さんから世界中の殺し屋達が死神にやられてるって知らされたのさ。昏睡から目覚めたロブロさんの報告でな」

「・・・息の根を止めたつもりだったが、腐っても元殺し屋なだけはあるね」

 

それにこの速さ・・・恐らく殺せんせーはワールドカップを見ずに最速で戻って来たんだろう。全てにおいて死神の想定外な筈だ。

 

標的(タコ)、恐神殿が言うには、威月君と大賀君がもう侵入しているらしい。さっさと行くぞ」

「えぇ。出来れば危険な戦いは避けてほしいですが、あの2人の性格を考えると難しいでしょう。ですが2人と戦っている時間を加味すれば、死神が迎撃態勢を整える暇はありません。突入しますよ、烏間先生!!」

「参ったな、2人に時間を食ってしまったとはいえ、ここまで早いとは」

 

素早く着ぐるみを脱ぎ捨て普段の格好に戻った殺せんせーは、俺が入ってきた扉を開け烏間先生も続いて中に入った。あの2人は死神だって簡単には勝てる相手じゃねえ。ま、どのみち俺も大賀も動けねえし、先生方に任せるしかねえな・・・

 

「仕方ない、計画(プラン)16だイリーナ。まずはエレベータで下まで降りてきて貰おう」

「えぇ、私の出番ね」

「チッ、マズいな・・・あの2人もビッチ先生の裏切りをまだ知らないからな・・・」

「え?何でさ威月。アンタだってビッチ先生の不意打ち見抜いてたんだし、殺せんせー達だって」

 

ビッチと共に出ていった死神に思わず舌打ちした俺を見て、そう聞こうとした莉桜を遮りながら俺は続けた。

 

「俺と違って殺せんせーは基本的に甘いからな・・・というより、殺せんせーは自分が殺される筈が無いって常に高をくくってるから、そういう搦め手に弱いのはお前だって知ってんだろ?」

「・・・っ!!」

「どっちにしろ、今は殺せんせー達に託すしかねえよ」

 

息を呑んだ莉桜に、俺はそう返しながらモニターに視線を向けた。モニターの先ではエレベーターが下がりきり、いよいよ2人が死神と手を拘束され人質のフリをしたビッチと対面していた。

 

「!! お前・・・さっきの花屋!?お前が首謀者か!!」

「やあ、さっきの花、大事にしてくれよ烏間先生。防衛省の人間だし、聞いた事あるよね?"死神"という異名くらいは」

「・・・他のE組の皆さんも、ここにいらっしゃるのですか?」

「そうだよ、まあ安心していいよ殺せんせー。君さえ死んでくれたら、この娘も生徒の皆も殺す気は無いさ」

「・・・うっ」

「イリーナ!!」

 

恐ろしい事をサラッと言いながら、死神はビッチを放り捨てた。それを見て烏間先生は駆け寄ろうとしたが、

 

「触らない方がいいよ、烏間先生。彼女が付けてる首輪と手錠には爆弾が仕込まれている。僕が持っているリモコンですぐに起爆出来るタイプのね」

「何っ!?」

「あぁ、勿論だけど生徒の皆にも全く同じ物が付けてあるからね」

 

・・・そうか、コイツら首に何か輪っか付けてると思ったが、爆弾か。

 

「・・・随分と強引ですねぇ・・・そんな手で私が簡単に死ぬとお思いですか?」

「・・・さぁ?でも、君はあの子達を大切にしてるみたいだし、結構効果はありそうだけどね」

 

・・・ヤバい、殺せんせーはどう見ても死神にしか眼を向けていない。この状況は死神の計算で作り出した環境だ!!

 

 

 

パシュゥ!! 「なっ・・・!?」

 

 次の瞬間ビッチは手錠に仕込まれた銃で殺せんせーの触手を1本撃ち抜いた。

 

「覚悟しなさい、タコ。死神(カレ)は凄いから」

「イリーナ先生・・・何故・・・(バカッ!!)にゅやっ!?」

 

体勢を崩されるのと身内が裏切った事が重なって思わず呆然となった殺せんせーを見逃さずにビッチがスイッチを押した次の瞬間、殺せんせーの足元の床が一瞬で抜けた。

 

(落とし穴だと!?殺せんせー相手にそんな単純な作戦で・・・)パパパパンッ!!

 

その時、殺せんせーが消えた穴に向けて、死神がサブマシンガンを両手で構えて乱射していた。音的に・・・対殺せんせー弾じゃなくて実弾?殺せんせーに効果は無い筈なのに何故・・・

 

ヒュウゥゥゥ・・・ダンッ!! 「にゅやあぁぁぁ・・・」

「「「「こ、殺せんせー!!」」」」

「!! 皆さん!!それにここは・・・」

 

いきなり皆が閉じ込められている牢屋へと殺せんせーが落下してきた。殺せんせーをこんな簡単に・・・!!

 

「殺せんせー、アンタなら触手で掴まれた筈だ。何であっさり落ちてんだよ?」

「・・・勿論それを試みたのですが、掴もうとした全て触手を実弾で叩き落されてました。確かに触手の初速はマッハ20に比べたら格段に遅いですが・・・まさか全てを見切られるとは」

 

・・・マッハ20の初速って事は最低でも時速数百キロ・・・くそっ、大賀の飛影が見切られる筈だ。

 

「意外とあっけなかったね、人質を使うまでも無かったよ」

「死神さん・・・」

「気に入ってくれたかい?殺せんせー。君を殺す場所さ」

 

その時、扉がギギィと音を立てながら開き、死神がそう言いながらビッチと烏間先生と共に入ってきた。

 

「!! 威月君、水守君!!大丈夫か2人共!!」

「すんません、烏間先生。ちょっとばかし死神を見くびってましたわ」

「・・・おい、死神。ここが奴を殺す場所とはどういう事だ?」

「ここは洪水対策で国が造った地下放水路さ。密かに僕のアジトへと繋げたんだ。この程度の雨ならば使用される事は無いんだが、地上の操作室で指示を出せば近くの川から毎秒200リットルの水が一斉にこの水路に流れ込んでくる」

「!! まさか・・・貴様」

「そうさ。いくら超生物でもその水圧には耐えられない。対先生物質の檻に叩きつけられ、あっという間にところてん状にバラバラになってお終いって寸法さ」

 

・・・エグい方法を使いやがる。流石、世界一の殺し屋だな。

 

「バカを言うな!!それだと生徒達も巻き添えになる!!」

「当然さ、それも計画だからね。乱暴に脱出しようとすれば、ひ弱な生徒達では耐えられない」

(チッ・・・端から俺ら事、殺そうってか。この外道が)

 

・・・つっても、E組も皆は手錠に爆発する首輪が付けられてるし、俺はともかく大賀はまだまともに動く事すら出来ねえ・・・状況は悪いな。

 

(・・・ま、でも最悪ってだけで、詰みじゃねえよ)

・・・聞こえたか?

「(ガガッ・・・)・・・あぁ、とりあえずそこに向かってみた方がいいな。首輪を解除する方法も見つかるかもしれねえし。また何か分かるかもしれねえからスイッチ常に点けといてくれ

おう、気をつけろよ

(さて・・・どうなるかは分からんが、あの2人なら何とかなんだろ)

 

誰にも気づかれない様に小声で会話を終え、再び烏間先生達に視線を向けた。

 

「イリーナ!!お前はそれを知ってて奴に付いたのか!?」

「・・・プロとして結果優先で動いただけよ。アンタの望んだ通りでしょ」

「!! お前・・・」

 

確かにプロなら結果が全てだ。だが・・・それでいいのか?ビッチ・・・それをやったらアンタは・・・

 

「ヌルフフフ、それで勝ったつもりですか?死神さん」

「・・・何だって?」

「先生だって成長しているのです。確かに対先生物質は厄介ですが、私はそれすらも克服しているのです」

 

おぉ・・・何か殺せんせーから貫禄が滲み出てやがる!!てか、弱点をいつの間に克服してやがったんだ!?

 

「へぇ・・・それは知らなかった。本当に?」

「見せましょう、初めて見せる奥の手を!!これが、私のとっておきの体内器官です!!」

 

そう高々と宣言すると、殺せんせーはバッと檻に近づき・・・

 

 

 

ペロペロ・・・ペロペロ・・・ (ジュワァァァ・・・)

「「「「・・・」」」」

 

 いきなり舌を使って檻を舐め始めた。いや・・・確かに檻は溶けてるみたいだけどよ・・・

 

「何してんだよ、殺せんせー!!確かに殺せんせーのベロ初めて見るけどさ!!」

「消化液でコーティングして造りました。しばしお待ちを、ほんの()()もあれば充分通れる位まで溶けるです」

「「「「長すぎるわ!!」」」」

 

こんな状況にも関わらず、俺達は思わずツッコんだ。半日後には俺達全員死んでるわ!!

 

「言っとくけど、それ続けたら生徒達の首輪を爆破するよ」

「にゅやっ!?そんな無慈悲な!!」

「当たり前だ、ドあほ!!どこの世界に人質が逃げようとしてるのを黙って見てる殺し屋がいるんだ!!」

 

大賀といいタコといい大ボケかまさなきゃならんのか天然共が!!

 

「・・・さて、お遊びに付き合う必要も無いし、そろそろ始めようか。他にもどんな能力を隠し持ってるかも分かんないしね。来い、イリーナ。今から水を流す」

 

くっ・・・やべえ・・・もう少し時間を稼がねえと。

 

ぐっ・・・ (まだ半分も回復しちゃいねえ・・・だが、ここは無理にでもやるしかねえ!!)

ガシィッ!! 「っ、烏間先生」

 

しかし握り拳を固めた俺よりも先に、烏間先生が扉に向かおうとした死神の肩を掴んで止めた。

 

「・・・何だい?この手は。日本政府は僕の暗殺を止めるというのかい?少々、手荒なのは認めるが、地球を救える絶好の好機(チャンス)を見逃す理由が見当たらない。何より多少の誤算があって実行できなかったが、元々は君も倒して人質に加える予定だったんだ。君では僕に勝てない、それでも君は挑む気かい?この僕に」

「・・・日本政府からは緊急の事態が起き政府に判断を仰ぐ事が困難な時、全ての方針は現場の俺に委ねると言われている。だからこれは、俺ではなく政府の見解だ」

 

 

 

ドカッ!!

 

 そう言ったと思った次の瞬間、烏間先生の放った裏拳によって死神は大きく吹っ飛ばされた。

 

「日本政府の見解は・・・"椚ヶ丘中学3年E組31人の命は・・・地球の命運よりもずっと重い"それでも彼等を巻き込んででも計画を実行しようと言うのであれば、俺がお前を止める」

(か、かっけぇ・・・タコに比べたら天と地の差があるぜ)

「イリーナ、プロはそんな単純では無いぞ」

 

そう言いきると、烏間先生はスーツの上着を脱いだ。烏間先生も本気だな・・・

 

「どうする死神。生徒達を溺死させるお前の計画、野放しにしておくわけにはいかないぞ」

「ふーん・・・」

 

死神は分析するような眼で烏間先生を観察していた。これから起こる決戦前の静寂だな。

 

「・・・(ダッ!!)」

「なっ!?」

 

しかし死神は烏間先生と戦う気は無いと言わんばかりに、猛ダッシュで部屋の外へと逃げていった。そんな予想外の行動に烏間先生も不意を突かれてしまった。

 

(・・・まさかアイツ、烏間先生とまともにやりあうと面倒だから計画遂行を優先しやがったのか!!)

「チィッ!!」 タッ!!

「烏間先生!!トランシーバーをONにしておいて下さい!!」

「あぁ!!」

(・・・このっ・・・根性のねえ身体が・・・!!)

 

・・・ダメだ、2人を追いかけようにも、そもそも俺の脚じゃ追いつけねえし痺れが残る状態じゃあ足手纏いになっちまう。烏間先生に託すしかねえか・・・

 

「・・・フン、カラスマも無謀ね。死神(カレ)に勝とうなんて。確かにカラスマも人間離れしてるけど、あの人はそれ以上よ。現に殺し屋相手に勝った大賀も威月も致命傷1つ与えられてないし、タコだってあっさり捕まえて見せたじゃない」

 

首輪を外しながら、ビッチは得意げにそう言った。チッ・・・現に俺も負けちまってるから、それに関しては言い返せねえな。

 

「・・・本当に俺達事、殺すつもりだったのかよ?ビッチ先生」

「最後の日は私達が悪かったけどさ・・・でも、ずっと一緒にやってきたじゃん。なのに何でさ?」

「・・・」

 

前原や岡野の問いに、ビッチは何も答えなかった。まぁ・・・最終日の流れから推測したら恐らくは・・・

 

「怖くなったんでしょ。プロだプロだって散々言ってきたのに、ゆる~い学校生活で殺し屋の感覚を忘れかけてる自分がさ」

「だから俺らを巻き込んで殺して再認識したかったんだろ?自分はあくまで冷酷な殺し屋・・・てな」

「・・・っ」

 

カルマの後を継いだ俺の言葉に、ビッチはギリッと歯を鳴らした。やっぱりそうか・・・

 

「アンタらなんかに・・・アンタらなんかに私の何が分かるってのよ!?えぇそうよ、アンタ達と過ごしてきたこの半年間ホントに楽しかった。弟や妹みたいな子達としょーもない事で遊んだり、恋愛について悩んだり・・・でも、そんなフツーな世界では私は生きていけない。私の生きてきた世界は・・・そんな眩しいモンなんかじゃないわ」

「ビッチ先生・・・」

 

今まで見てきた中で一番、感情を剥き出しにするビッチの姿に、倉橋や皆はそう呟くだけだった。確かに俺達は本当の殺し屋の世界って奴は全く分かんねえ。だから、ビッチの生き方や考え方が間違ってるとは死んでも言えない。

 

(だが・・・)

「だから何だよ」

「えっ・・・」

「人は変われる。どんな人間でも1日1分、全く変わらない人間なんていない筈だ。確かにアンタが半年前のあの頃から失った物は多い。でも、それ以上の物を得てきたんじゃねえのか?それを糧に、今のアンタの新しい生き方に変わればいいんじゃねえのか」

「それは・・・」」

「それに、今ここで俺達全員を殺しちまったら、アンタはまた1人になるんだぜ。家族の様な存在を1度味わっちまったアンタが、1人でやっていけるのかよ?」

「・・・!!」

 

俺も一緒だから分かる・・・多分この人は耐えられない。それでもアンタは乗るのか?人を人と思わねえアイツの非情な計画に。

 

「・・・!! えぇ・・・分かったわ。

・・・話は終わりよ、アンタ達はそこで指くわえて見てなさい」

 

死神から指示が入ったのか、ビッチは耳に手を当てながらそう言い残して部屋を出て行こうとした。

 

「おい、ビッチ」

「・・・何よ、威月」

「負けた俺が言っても説得力がねえのは分かってる。だが今ここで約束しろ。もし俺達E組の誰かが奴を倒した時には、必ず俺達の元へ戻ってくると」

「・・・もしホントにそんな事が出来たなら、考えといてあげるわ」

 

そう言うと、今度こそビッチは出ていってしまった。俺に出来るだけの事はやった・・・後は頼んだぞ。

 

「お疲れさまです、威月君。それと遅れたせいで、お役に立てず申し訳ありません」

「いや、死神も倒せずに骨を折られる様だし、ビッチも説得できなかったから役に立ってないのと一緒ッスよ。プロをかなり甘く見てました」

「はい、流石は歴戦の殺し屋達です。味方と思っていた彼女が既に敵の手に落ちていた。それは先生が最も苦手とする急激な環境の変化です。ですが、彼女の演技はそれを全く悟らせませんでした。お2人共、文句なく強者と言い切れます。まだ、君達が彼らに勝つのは不可能でしょう」

 

まぁ、俺自身ビッチはともかく死神にはこてんぱんに叩きのめされたしな。

 

「・・・皆さん、モニターを見て下さい。断片的にですが、強者VS強者の戦いが見られそうです」

(タタタッ) 「(ガチャッ)! ・・・」

 

? ドアを開けようとした烏間先生が止まった。鍵でも掛かってるのか?

 

「・・・まぁ、いいか」 ガチャッ・・・

 

ボンッ!!

 

「「「「なっ!?」」」」

 

烏間先生がそう呟きながら扉を開けた次の瞬間、爆音を立てながら扉が吹っ飛んだ。ば、爆弾かよ!!あの野郎、この短時間でなんちゅう罠を・・・・

 

(あんな至近距離で爆発を喰らって大丈夫なのか!?烏間先生・・・)

 

 

 

「・・・チッ、思ったより強力だったな」

「「「「・・・」」」」

「あ、あれ?今、何が起こった?」

「爆発に巻き込まれた烏間先生が・・・何事もなく進んでいったな」

 

 身体は煤で汚れているし、巻き込まれたのは間違いない筈だが・・・

 

「烏間先生はドアノブに罠が仕掛けられている事も、その内容すらも把握していました。この短時間で仕掛けられるのはせいぜい爆薬、それも建物を壊す程の威力は無い。それを見越してあえて扉を開けて起爆させ、爆風と同じ速度で後ろ受け身を取ったのです。吹き飛ばされたドアを盾にする事で、恐らく烏間先生にダメージは殆ど無かったでしょう」

「あ、あの一瞬でそんな判断を・・・」

 

殺せんせーの解説に磯貝が思わずそう呟いた。判断速度も実行速度もありえねえ・・・化け物かよ。

 

「!! 行っちゃダメ、烏間先生!!多分その角に・・・」

ドガガガガッ!! 「!! くっ・・・」

 

原がそう声を張り上げるのと同時に、廊下の先からいきなり銃を乱射され、烏間先生はバク転で物陰に隠れた。銃声の数からして何人かで撃っているのかと思ったら・・・

 

「「「「グルルルル・・・」」」」

「・・・犬!?」

「銃が撃てるように調教されたドーベルマン・・・銃を撃つ為の機械の作製、ならびにあれだけの数の犬を完璧に仕込むとは、流石の手腕と言わざるを得ません」

(太陽が見たら激怒するな・・・)

「・・・卑怯だな」

 

その時、そんな呟きと共に満面の笑みを浮かべた烏間先生がヌッと犬の前に姿を見せた―――画面越しにも分かるどす黒い妙な気配を纏いながら。

 

((((・・・ビクッ))))

「俺はな、犬が大好きなんだ。だからじっとさえしてくれたらお前達を傷つけたりなんかしない。お前達の主人には悪いが・・・優しく通らせて貰うぞ」

((((ガタガタガタガタ・・・))))

 

こ、怖えぇ!!笑顔1つでアッサリ通ってみせたやがった!!死神が調教した犬があそこまで怯えてるし・・・

 

「・・・いやー、でも犬の気持ち分かるわ。あの人が笑顔浮かべてる時って、殆ど人を襲ってる時だし」

((((確かに!!))))

 

鷹岡に南の島のガス野郎・・・殴られちゃいないが、ケイドロの時にも笑顔だったもんな・・・

 

「そう、普段は強い理性で押さえ込んでいるのですが、彼の奥底に眠るのは紛れもない暴力的な野生!!」

ズドンッ!!「・・・フン(ヒュンッ・・・パシィッ!!)単純だな。こんなのでは俺は殺れんぞ」

「この暗殺教室に引き寄せられた、比類なき猛者なのです」

 

今も死角から襲ってきた鉄骨を受け止めると同時に飛んできた矢を片手で止める烏間先生を見ながら、殺せんせーはそう言った。て、鉄骨を・・・俺でも鉄塊ありでギリギリ止めれるか分かんねえのに。

 

「ですが、この短時間であれだけの罠を用意する辺り、死神もやはり怪物といえます。いえ、技術・知識の豊富さなら烏間先生をも上回っているかもしれません」

「なるほどな・・・そりゃ俺が勝てる相手じゃないわな」

 

ムカつくけど死神に比べちゃ、俺は実力も経験も足りてねえや・・・

 

「そんな事はありませんよ威月君。いえ、君だけじゃなく大賀君も、"恐神"神木 実徳さんに幼い頃から六式を教え込まれ、中学生ながら死神に肉薄してみせたその力は流石です」

「!! 実徳さんの事、知ってたのかよ?殺せんせー」

「はい、担任についた時に調べさせて貰いました」

「・・・そう思うと、やっぱ凄えよ威月達は。あんな化け物みたいな奴と1対1で攻撃を当てるなんて俺達には出来なかった」

 

木村のそんな呟きに皆は再び表情を曇らせた。落ち込む必要なんかねえと思うがな。俺と大賀が特殊なだけで、本来なら俺達も皆と一緒な訳だし。

 

「・・・そう、威月君や大賀君を含めて彼らは強い。普通にぶつかっては君達で勝てる相手ではありません。なら君達はどうします?今この瞬間に彼らと同じ位、強くなるか。諦めて戦いの土俵から降りるか。

・・・答えはどちらでもありません―――弱者には弱者なりの戦い方があります。いつもの暗殺の発想で挑めばよいのです」

「・・・でもよぉ、俺らはまともに動けねえし威月も大賀も動けねえこの状況でどうすりゃ・・・」

「俺が壊を檻に叩き込めりゃあいいんだが・・・完全に回復するのがいつになるか分かんねえし、金属相手じゃ上手くいっても拳が砕けちまう」

 

岡島に返したその時、周りを見渡していた三村が口を開いた。

 

「・・・全部が上手くいけばだけどさ、いけるかも。死神にひと泡吹かせるの―――」

 

 

 

烏間side

 

「フンッ!!ハアッ!!甘い!!」 

バキッ!!ボオァァァ!!ガキィ!!

 

 鎖を引きちぎり、毒ガスを吹き飛ばし、ナイフを歯で受け止めながら 俺は速度を落とさずに走り続けていた。少しずつだが・・・罠の仕掛け方が雑になっている。これなら追いつける!!

 

「(ぞわっ・・・)むっ!!」

 

その時、廊下の端から得体の知れない雰囲気を感じ、俺は反射的に身体を壁に隠しながら銃を手に持った。ほう・・・追いかけっこは終わりか。

 

「殺気に対してもかなり敏感みたいだね。正直見くびっていたよ、烏間先生」

「それはこっちの台詞だ。まるで見本市の様な多彩なトラップを短時間で仕掛けられるとはな」

技術(スキル)を覚えれば使ってみたくなる。殺し屋として当然の考えだろ?(パチンッ)」 

ズキュンッ!!

 

死神が指を鳴らした瞬間、そんな音を立てながら背後から飛んできた銃弾が俺の頬を掠めた。誰か撃ったかなんて確認するまでもない。今この場にいて、実銃を撃った事がある人物なんて1人しかいないだろう。

 

「・・・イリーナ」

「ちゃんと当てなよ、イリーナ」

「ゴメンね、次は外さないわ」

 

俺の予想通り、後ろから髪を掻き上げながら銃を構えるイリーナが現れた。2対1か・・・

 

「分かっているのか、イリーナ。奴は基本的に自分以外を信じてなんかいない。この仕事が終わったら、お前は殺される可能性は高いんだぞ」

「死ぬのなんて覚悟の上よ。初めて殺した時からね。アンタには理解なんて出来ないでしょうけど、死神(カレ)だけが理解して(わかって)くれたのよ。私は僕と同じってね」

 

・・・一流の色仕掛け(ハニートラップ)の達人のイリーナの心をここまで支配するとは・・・何を言ったんだ、この男。

 

「なあに、只の昔話をしてあげただけさ。テロの絶えない貧困街のスラムに生まれ、命なんて紙の様にアッサリと吹き飛んでしまう世界で、信用できるのは金と自分の技術のみ・・・そんな環境で分かった1つの定理―――それは"人は殺せば死ぬ"という簡単な事実だ」

「・・・」

「イリーナだけは、僕の気持ちを分かってるくれるのさ。そう、たとえ・・・」 ピッ

 

 

 

ドオォン!!

「なっ!?」

「えっ・・・」

「君を僕が捨て駒に使ってもね」

 

死神が手元の端末で何か操作した瞬間、俺とイリーナの上の天井が爆発し、バラバラになった瓦礫が一斉に落下してきた。ば、バカな!?

 

ドカドカッ・・・ 「うおおぉぉ・・・!!」

 

反射的に両手を頭の上に構え膝に力を込めた俺の上に大量の瓦礫が降り注いだ。舐めるな・・・

 

パラパラ・・・ 「ハァ・・・ハァ・・・くっ・・・出口が瓦礫で塞がれたか」

「生きてる所か、ほぼ無傷とは流石だな。だが、それではもう追って来られまい」

 

油断した・・・まさかこんな手を使ってくるとは。

 

「恐らく君やタコが単独なら、こんなトラップも抜けれただろう。だからこそ、僕は彼女を雇ったのさ」

「!! ・・・っ」

 

その言葉で爆発に巻き込まれたのが俺以外にもう1人いた事を思い出し、俺は辺りを見渡した。そんな俺の目に飛び込んできたのは・・・口から血を流しながら瓦礫の下敷きにされたイリーナの姿だった。

 

「可愛らしい位、迷ってたねぇ彼女。仲間でもあり、自分が好意を向けた男を攻撃していいものか。そしてそれは伝染した。君程の優秀な男が、彼女を攻撃するのを躊躇ってしまうまでにね。結果、君は・・・彼女に気を取られ判断が遅れてしまった」

ハァ・・・ハァ・・・

(!! まだ息がある。助け出せばイリーナは無事だろう・・・だが、)

「さて・・・ようやく邪魔者が消えた。これで遠慮なく最後の仕上げに入れるよ」

 

そう言い残して、死神は余裕綽々と歩いて立ち去っていった。・・・追いかける為にはイリーナを助ける時間は無い。

 

「烏間先生!!モニターでは爆発した様に見えましたが、2人共ご無事ですか!?」

「タコか・・・俺は無事だがアイツは瓦礫の下敷きだ」

「「「「!!」」」」

「だが構ってる場合はない。至急、瓦礫をどかして奴を追う「ダメ!!」!!」

 

瓦礫を掻き分けようと手を掛けたその時、レシーバーから大声で否定された。声から察するに倉橋君か。

 

「どーして助けないの!?烏間先生。ビッチ先生は仲間なんだよ!?」

「・・・どんな理由であれ、アイツは死神と組んだ。その結果ああなった。俺は別にそれを責めたりはしないが、助ける気も無い。プロなら、自分が選択した事による責任は自分で取る物だ」

「そんなの関係ないよ!!私達だって十五だけどさ、ビッチ先生もまだ二十歳なんだよ!?」

「経験豊富な大人なのにちょいちょい子供っぽくなる時もあるけどね」

 

倉橋君の返しに、矢田君がそう付け加えた。・・・まあ、だからこそ彼女達にとって気心が知れる仲になれたんだろう。

 

「ビッチ先生はさ、私達みたいに安心できる環境が無かったせいで、大人になる途中の欠片をいくつか取り忘れたんだよ」

「・・・」

「助けてあげてくれませんか、烏間先生。間違えた私達を許してくれた様に、ビッチ先生の事も」

「だが・・・1分1秒のロスで君達が死にかねないぞ?」

 

助けられる命があるなら助けるに越した事はないが・・・君達の命と引き換えでは何の意味も・・・

 

「・・・!! 大丈夫っす、烏間先生」

「威月君」

「恐らく死神は水を流す事はできねえ。爆弾も何とかなるかもしれないです。だからそこにいてあげて下さい、烏間先生」

「・・・」

 

威月君がいきなりそんな事を言い出した理由は分からないし、政府の人間としては意地でも死神を追うべきだろう。

 

(だが・・・)

「分かった、頼んだぞ」

 

気がつけば俺はそう答えながらイリーナに近づき、

 

「ふっ!!」 ぐぐっ・・・

「うっ・・・カラ・・・スマ?」

「いつまで寝ている。さっさと出てこい、持てない物は俺が背負ってやる」

 

瓦礫からイリーナを引っ張り出していた。もし・・・威月君に秘策があるとしたら、それを握っているのはまだ見ぬ「ひまわり」の2人だろう。俺も必ず後で向かう。だから・・・出来れば無茶はしないでくれよ・・・!!




いかがだったでしょうか。

最後の方がちょっと雑になってしまいましたが、ここら辺はこの後の話の流れで少し調節するかもしれません。

いよいよあの2人が登場してきます。それぞれの戦いを楽しみにして頂けたら嬉しいです。

そして話は戻りますが、この作品に評価をくれた方、本当にありがとうございます!!どうも書く気が起きずにダラダラとしていた最近ですが、再びこの小説を完結させたいという思いが芽生え始めました。

とりあえず1ヶ月以内を目標に書いていくので。是非お待ち頂けたらと思います。

それでは、また次回お会いしましょう!!


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