真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』 (雪虎)
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第一話:鄧艾

俺の両親は貧しい、どこにでもいる農民だった。

 

毎日田畑を耕し、家畜を育て、代わり映えの無い毎日だった。

 

そんなある日出会ったのは、一人のオッサンだった。

 

『み・・・・み、水をぉ・・・・』

 

そうやって、水どころか俺の昼飯まで平らげやがったオッサンは「太公望」と名乗っていた。

 

『お前さん、見所ありそうだな。うむ、飯の礼だ、オジさんの全てをお前さんに叩き込んでやろう』

 

その日から、俺の日課に自称太公望のオッサンとの授業が組み込まれた。

 

軍事的なものから政治、農耕、治水に築城と多岐に渡るオッサンの授業は俺を飽きさせる事は無い。

 

しかも武術の鍛錬までさせられた、オッサンメッチャ強かったけど。

 

そして二年が経ったある日、オッサンと突然の別れとなった。

 

『いやー、居心地良いからついつい居着いちまったが俺は風来坊だからよ』

 

なんて、ワケの分からない事を言いながら再び旅立っていった。

 

 

 

 

その翌年、両親が流行病で揃って亡くなり天涯孤独になった。

 

・・・・まぁ、孤独とは言い切れなかったな。

 

村には俺を何故か「アニキ」とか「親分」と呼んで付き従ってくれていた連中がいた。

 

んで近隣の村の若衆をぶっ飛ばしている間に気がついたらそこら一帯をシメる結果になったわけだが。

 

 

 

さらに翌年、近年まれに見る大飢饉。

 

しかし朝廷からは増税の布告、食うに困った民が暴動を起こすのも時間の問題だった。

 

『やってられるかオラァ!!』

 

というより、俺が先頭に立って暴動を引き起こした。

 

いやぁ、まぁホラ?周りから祭り上げられて、勢いで「やったるぜ!」って二つ返事しちゃって。

 

んでもって世の中、計画的犯行よりも勢い任せの方が上手く行くと言う不思議な事象がある。

 

結論から言おう、まさかの官軍を撃破しちまったんだなコレが。

 

数年前にオッサンから習ってた兵法とかそう言うのがモロに嵌った。

 

『良いか?極論、相手が嫌がる事をしろ。戦ってのはそんなもんだ。一に嫌がらせ、二に嫌がらせ、三四が無くて五に嫌がらせだ』

 

何ともゲスい発想だが、至言だとも思う。

 

それからと言うものの、どうやら俺が撃破した太守が恥も外聞も無く近隣の諸侯に援軍を頼んだらしく。

 

片っ端からそれを撃破し続けた、俺もきっとあまりの絶好調さに有頂天になっていたんだろう。

 

その絶好調が、ある日突然終わるなんて思わなかったんだ。

 

 

 

 

太守はとうとう、郡をまたいでの援軍を要請した。

 

陳留太守、曹操。

 

隣の郡でも評価の抜きん出ている新参の太守。いつもと同じ調子でそれとぶつかったのが間違いだった。

 

先鋒の軍に罠と言う罠を真っ向から喰い破られて。当然ながら真っ向勝負は通用せず、搦手も後詰の軍に見破られ。俺の方も村のゴロツキ時代からの付き合いの連中は最後の最後まで踏ん張ってくれたが。それ以外の、途中で吸収した連中や勝ち馬に乗ろうと合流した野郎共が逃げ始め。俺が捕まった時、五百人もいた手勢が俺の周りには三十人ぐらいしか残って無かった。

 

「貴方が賊の首魁?」

 

捕らえられた俺の前に現れた少女は、一言で表すなら焔。敵対する全てを焼き尽くし、付き従う者の道を明るく照らし出す焔。一目見たその瞬間に、俺はその焔に魅入られていた。

 

「ここまで貴方が追い払った官軍の中には決して無能では無い者もいた。この私でさえも、貴方の兵がもう少しまともだったなら危うかった事を認めざるを得ないわ。それだけの手腕を持ちながら、何故賊になど身を堕としたのかしら?」

 

俺は全てを語った。身の上、ここまで至った経緯、そして師匠の事。

 

「面白いわ、『太公望』を名乗る者の弟子とはね。でも私は手の届かぬ『太公望』よりも貴方を欲するわ。兵数、質、共に差があるこの状況で二刻もの間耐えて見せた、その手腕を私は買うわ」

 

次の瞬間に、俺の口からは一つの疑問が投げかけられていた。

 

「アンタは、何をしようってんだ?例え才があったとしても、俺みたいな賊まで手中に収めて」

 

少女は、笑みを浮かべながら返答をする。

 

「天下統一、私はこの国を一つに統べる事で泰平の世を創る。そのためならば身分など些事でしか無いわ、それに・・・・貴方は私欲で立ち上がった俗物では無い、それだけで我が旗下に加えるに十分よ」

 

少女がその手に持つ大鎌で、俺の手を縛っていた縄を断ち切り言葉を続ける。

 

「貴方が私を主足りえんと思うならば今直ぐにここを去りなさい、今ならば見逃しましょう。でも、もし私と共に来る気があるならば・・・・私は歓迎するわ」

 

戒めの解かれた手をじっと見つめてから、俺は再び顔をあげる。

 

「既に、この身は無かった筈の命」

 

片膝を付き、拱手しつつ俺は口上を述べる。

 

「我が名は鄧艾!我が真なる名は吼狼!この身、この魂、これより曹操様の刃であり盾であり続けましょう!」

「宜しい。我が真名、華琳の名を信頼の証として貴方に預けましょう。吼狼、貴方の知勇に期待するわ」

「はっ!!!」

 

俺の新たな道は、ここより始まるのだと。俺ははっきりと実感していた。

 

SIDE 太公望

 

弟子が歩むと決めた新しき道の始まりを、遠くから眺めていた。

 

「珍しい事もあるものだな、貴様が一人の・・・・しかも介入者ですら無い人間に入れ込むとは」

「オジさんだって生きてる、気まぐれの一つや二つはあるさぁ」

 

いつの間にやら傍らに並んで座っている青年、左慈を横目に見ながら俺は更に続ける。

 

「世界の変え方は一つじゃあない、外からの力だけじゃなくて中からも変えなけりゃ流れは変えられない」

「・・・・本当に意外だな」

「天の御使いの少年、その一人の肩に重荷を背負わせちゃあかわいそうでしょうよ。意識的にしろ無意識にしろ、荷を背負う手数は多い方が良い。直接介入して世界そのものを消そうとした誰かさんや、当たり前みたいに紛れ込んでるバケモノ二人よりはマシだと思うがね?」

 

俺の言葉に、左慈がしかめっ面になる。付き合いの長さは俺も忘れたが、ずっと昔から『こう』だ。感情的で、それが顔に出やすい。

 

「誰かを愛し護るために奔走し、皆から愛された者がただ一人。その行く末を見る事なく消えていく、そんなのは俺の趣味じゃない。折角この『外史』は俺に任されたんだ、俺なりのやり方を貫かせてもらおう」

 

弟子にも重荷を背負わせる事になった。

 

鄧艾、本来の歴史ならその名は何十年も後。三国も末期に至ってより煌く将星の名。だが、何の因果かかの者は三国の始まりへと現れた。なれば彼も、あの少年とは違えど『特異点』とも言うべき存在なのだろう。『鄧艾』と言う輝星がこの外史にどれだけの波を巻き起こすかは私も予見出来ない、だが彼ならば何かを成してくれる気がするのだ。

 

「世界の有り様を変えるのは何時だって人の力だ、人の持つ無限の可能性、人と人との絆の力。俺はその可能性の限界を見てみたいのだ」

 

さぁ、下らぬ世界(管理者)の思惑を乗り越えて見せろ・・・・弟子よ。




第一話でした。

かなり短めで終わってしまいましたがいかがだったでしょうか?

多分ですが太公望に出番は以後、殆どありません。主人公に様々な知識と技能を授けるためだけの登場だったので。左慈も同様、ここだけの登場です。

次回から原作キャラばんばん出ます・・・・・・・・・・・・多分。


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第二話:曹操幕下での日常

「西の城壁の修理状況を直ぐに報告するよう監督官に伝令、それと先日引き入れた流民の名簿を急ぎで作成しろ。名簿が揃い次第で基準に従い仕事と住居を配分、それが済んだら曹洪に予算案を出せ。また手の空いた者は夏侯惇、曹仁を探し出し報告書を速やかに提出するように警告しろ。出さずばどうなっても知らんぞ、と伝えろ」

 

俺が華琳様に従う事を決めてから一年、俺は陳留軍の軍師と言う立場になっていた。とは言え現在の陳留は慢性的な人材不足、そのため実質的に内務の総責任者も兼任する形となっている。以前は華琳様の一族である曹純が一人で調整役を勤めていた、と言うがよくもまぁ一人でこれだけの仕事をやっていたものだと素直に尊敬したのを覚えている。

 

「昼過ぎに届く新しい弓は夏侯淵隊に優先的に配分、残りは曹純に数を報告してから蔵へ収めろ。五日後の遠征の兵糧だと?郭淮に直ぐに確認させろ、ついでに武具や他の携行品についても確認を行え」

 

とにかく、今の俺の手元には育成と言う名目で新人の武官、文官が一手に集められている。とにかく多方面で作業を請け負う俺の下で適正を見繕い、そこで見出した能力を元に配置を決定。と言う形を取っている。

 

「・・・・そっちの仕事はどうだ?荀彧」

「はい、概ね終わりそうです」

 

その中で、最近俺の補佐に昇格させた少女がいる。

 

荀彧。名門荀家の娘。元は南皮の袁紹の下で軍師をしていたらしいが、まぁ価値観の相違とかで辞めてきたらしい。華琳様の噂を聞き、華琳様の軍師となるために来たらしい。のだが、正式に配属を決める時に華琳様直属の軍師として俺は推薦しようとしていた。実際それだけ優秀だし、表に立って動くならそれなりにハッタリが効く彼女の方が適任だと思っていた。だが、彼女からは思わぬ返答が帰ってきた。

 

『今暫くは、鄧艾様の下で働きとうございます』

 

詳しい理由は話して貰えなかったが、それが当人の希望なら仕方ない。と言う事で、俺の補佐になったわけだ。

 

「なら昼休憩にしよう。昼の後は俺は隊の訓練に顔を出す、曹洪、曹純がそれぞれ城壁改修の見積もり、新規に届く装備の目録を持ってくる筈だ。何時もどおりに対処、それ以外の緊急の案件があれば第二練兵場に来るように」

「分かりました」

 

さて、三日ぶりの鍛錬だ。書類仕事で溜まった鬱憤を晴らす意味でも、張り切って行きますか。

 

SIDE 荀彧

 

私は男が嫌いだ。グズで、だらしがなくて、女と見れば色目を直ぐに使うヤツばっかり。その意見は昔から一寸たりとも変わらない、変わらないけれど最近は例外的な存在がいるのだと知る事になった。

 

鄧艾様。

 

曹操様の軍師であり、陳留の舵取りを任されている重臣。調べさせてはみたが、元は任城方面に出現した暴徒の首魁だと言う。ただし、兵糧庫の役割を持たせていた支城を制圧し、都合七度に渡り官軍を撃退し続けたという。八度目に援軍として現れた曹操様に敗北、どのようなやり取りがあったかまでは分からないが鄧艾様は華琳様に降伏。以降、将としては勿論、文官としての才能も発揮し僅か三ヶ月で軍師を任せられるまでに至る。

 

『曹操様の軍師に相応しいのは私だと、証明してみせます』

『へぇ?まぁ良いんじゃねぇの?俺を越せるんならな』

 

粗野な言葉遣い、だが新参が『貴方に取って代わる』と言う宣戦布告をしたにも関わらずそれを笑って受け流すだけの器量もある。そしてその下で働きを見たからこそ、その異常な程に際立った手腕にも気が付く。城壁の修繕、物資の管理、治水事業に農耕政策、更には流民の受け入れと仕事の斡旋。正しく『何でも屋』とでも言うべき手広い働き、更にその中で新人の武官、文官たちの適性を見極めて配属を決める人事の方面も任されている。その上で一軍の将として戦場に出る事もある、まるでもう一人の曹操様を見ているかのような働きに、私は純粋に興味を惹かれていた。

 

『さて荀彧、お前を曹操様直属の軍師に推薦しようと思うんだが・・・・』

 

願ってもない事だ、元々そのために南皮を出て陳留に来たのだ。その立場を務めるに十分な研鑽を積み、またその責務に耐えうるだけの自負もある。だが・・・・

 

『その事ですが鄧艾様、今の私にそのお役目は重く感じます。今暫くは、鄧艾様の下で働きとうございます』

 

反射的に、鄧艾様の言葉を抑え込んでそう言葉を紡いでいた。

 

『そうか、なら今後は俺の補佐を頼む』

 

鄧艾様は笑いながらそう言った。私の中にあったのは間違いなく敗北感、今のままでこの人を押し退け曹操様直属の軍師になったとしても、胸を張れない。ただ、その敗北感を悪くはない、と思ってしまっている部分もある。

 

『はい!』

 

らしくない、本当にらしくない。

 

 

―――――――――

 

「あ・・・・全員整列!!」

 

俺が練兵場に到着すると、不在時に軍権を一任している副官の掛け声で隊の連中が整列する。

 

「あぁ、楽にして構わんさ。由空(ゆら)、訓練を続けさせてくれ」

「はっ!!」

 

陳泰、真名を由空。元々は華琳様の近衛部隊『虎豹騎』の兵長。俺が華琳様の下へと降って、一番最初に預けられた部下。何事にも真面目で精鋭部隊出身の名に恥じぬ実力を持ち、今の俺には無くてはならない補佐役である。当初は夏侯惇、夏侯淵を筆頭とした華琳様の一族出の将たちが付けた監視としての役割が大きかった。今では監視役の役割は無くなり、むしろ何というか・・・・アレだ、村で俺を慕ってくれてた連中みたいな目をしてる。

 

「増員された新兵の様子はどうだ?」

「悪くはありません、新兵の中から選りすぐった二十名ですので。あと二ヶ月もあれば無理なく連携が取れるぐらいにはなるかと」

「なら任せる、それと五日後に華琳様の私物を盗んだ小規模の賊を追い華琳様自ら赴くそうだ。その際の護衛として俺たちの隊をご指名だ、万事抜かり無く準備を済ませろ」

「はっ!!」

 

確か太平要術の書、って言ってたか。どこぞの自称仙人が記した書物で、様々な方術が記載されているそうな。華琳様も眉唾モノだとは思っているらしいが、万が一と言う事もある。効能云々を差し引いたとしても、貴重な古書であることには変わりないし。で、それを取り返すために一部隊を率いて自ら赴く、との事らしい。まぁ、名が力を持つ事もある。厄介事の種は除いておいた方が良い、ってワケだ。

 

「くーろーぉおーっ!!!」

 

・・・・除けない厄介事もあるよな。

 

「どうした春蘭」

「どうしたではない!!」

 

夏侯惇、真名を春蘭。陳留の筆頭武官。俺が捕まった時に真っ向から打ち破ってきたのもコイツ。個の武では大陸でも五指に入るんじゃないか、と思える実力者。脳筋で猪なので、扱いやすい時と扱いづらい時がハッキリ別れる。華琳様至上主義、ぶっちゃけ華琳様以外の事は割とどうでもいいと言いかねないぐらい。

 

「何故華琳様の護衛が私では無くお前なのだ!!」

 

軍の再編中で、その責任者がお前だからだ。と言い切るのは簡単だが、そんな当たり前の理屈が通じてくれないのがコイツだ。であれば・・・・

 

「そうか、華琳様が『留守を任せるなら春蘭しかいない』と言っていたのだが無理か」

「え?」

 

俺の言葉に、春蘭が反応した。

 

「ならば仕方無いな、華琳様が『とても重要だからどうしても春蘭』にと言っていたのだがなぁ?」

 

春蘭が、わかりやすくそわそわし始めた。

 

「さて?春蘭は何用だったかな?」

「いやいや!華琳様が私にしか出来ないと言っているのであれば私は喜んで華琳様の留守を護ろうではないか!!その代わり吼狼!しっかり華琳様をお守りするのだぞ!!」

「あぁ、わかっている」

 

春蘭は正論とかで頭ごなしに説得するよりも、華琳様の名前を出して説得した方が確実にこちらの言葉を聞いてくれる。

 

「吼狼、姉者はこっちには来ていないか?」

「あぁ、いるぞ?」

 

夏侯淵、真名を秋蘭。春蘭の妹で、俺が捕まった時に搦手を潰してきたのがこっち。弓の名手で、乱戦の最中でも的確に敵将を射抜く腕前を持つ。指揮官としても優秀で、華琳様が戦場に出る際、高確率で補佐に選ばれる。姉とは正反対な性格ではあるが、華琳様至上主義と言う点では同じ。普段は冷静なのだが、華琳様や姉が絡むと冷静じゃ無くなる欠点があるので、そこを改善してもらえればと思う。

 

「・・・・まさかとは思うが報告書か」

 

秋蘭が春蘭を探していた理由に思い至った俺は、秋蘭へと問いかける。と、無言で頷いている。

 

「どうもお前のところから来た伝者を振り切って逃げたらしくてな、お前に叱られると半泣きになっていたところを私が見つけてこうやって探しに来たのだ」

「あー」

 

そう言えば春蘭探しを任せたのは新人だったか?ちょっと荷が克ちすぎたか。

 

「俺の人選が悪かったな、スマン。余計な手間をかけさせた」

「構わんさ、姉の失態は私の失態でもある」

 

二人で顔を見合わせながら苦笑いし、視線を春蘭へと向ける。今この一瞬は思いは一緒だ、どうあの猪を説教してやろうか、と。

 

―――――――――

 

「すみません、いつもいつも姉さんが・・・・」

「気にすんなよ、お前だって忙しいし。それよりも・・・・何度言えば分かるんだ?華侖」

「むー、柳琳も吼狼も真面目過ぎるっすよー」

 

夕方、訓練を終えた俺の前には曹操軍のもう一つの姉妹が揃って頭を・・・・正確には下げているのは妹の頭だけだが、まぁ頭を下げていた。

 

曹純、真名を柳琳。華琳様の近衛部隊『虎豹騎』を率いる指揮官。指揮官としても堅実な手腕で優秀だが、俺が来るまで今の俺の役目を一人で担っていた文官としても優秀な人材。人が良すぎるせいか、何でもかんでも引き受けてしまう癖があったようだ。最近は俺がその役目の大部分をになっているので、それなりに負担が減っている、と信じたいが。自由奔放な姉に振り回されるのは、曹家に連なる妹の宿命らしい。

 

曹仁、真名を華侖。柳琳の姉。自由奔放と言う文字が自我を持ったような性格。勘と経験で戦場を自由自在に駆け回り、相手の虚を突く用兵で翻弄する事を得意としている。書類仕事から逃げる、屋根に登る、脱ぐ、と妹を片っ端から困らせ続けている。

 

「報告書を忘れず提出、それと内容は簡素で構わないから明瞭に、そう言ったはずだ。自分を支えてくれる隊の連中皆を平等に、と言う気持ちは分からないでもない。だがそれはそれ、これはこれだ。他所の隊の連中にお前の隊の奴らがいじめられても良いのか?」

「え?どう言う事っすか?」

「曹仁様の隊の連中は活躍なんて出来なくても恩賞がもらえてズルい、ってなっちまうのさ。上がどれだけ抑えても必ずそういうのは出て来る、お前が庇える間は良いが常に護ってやれるワケじゃない。差別しろって言ってるんじゃあない、締めるところは締めろってんだ。分かるな?」

 

理解はしたが、それでも納得はしていない。そんな表情だがうなずいてくれたので、ここは良しとしよう。

 

―――――――――

 

「吼狼さん、いらっしゃいます?」

 

夜も深まった頃。扉の外から聞こえてくる声に、俺は直ぐに反応し返事を返す。

 

「あぁ、いるぞ。入ってくれ」

「では失礼しますわ」

 

曹洪、真名を栄華。陳留の財政管理を一手に担い、『金庫番』なんて呼ばれている。役目の関係で俺と一緒に仕事をする割合が多く、陳留に来て一番最初に打ち解けたのがこの娘かも知れない。仕事では厳しい事も言うが、平時は至って普通の女の子。趣味も一番らしいかも知れない。

 

「何かあったか?」

「ええ、五日後の件で少々」

 

そう言って竹簡を一つ、俺の机の上へと広げる。

 

「兵糧ですけれどもこちらの量で本当にいいんですの?最長一週間の滞在とは言え三百の兵を賄うには少々、量が少ないように思えるのですけど?」

「知り合いの商人がその辺りに拠点を構えていてな、今後のためにもソイツから一度兵糧を購入したいんだ」

 

普段は馬を中心に商っているらしいのだが、この間久しぶりに会って話をしたところ食料やその他資材関連の商いも始めたいのだと言う。それで細かいところを詰めた上で、一度こちらの指定した量の兵糧を準備してもらい、こちらの・・・・というより華琳様の満足が行く仕事をしてもらえるならば今後とも、ってワケだ。

 

「そこまで話がついているのでしたら分かりましたわ」

「俺が不在の間は柳琳に取りまとめを頼むつもりだ、武官側は秋蘭、文官側は荀彧にそれぞれ引き継ぎをしておく。それで問題無いでしょうよ?華琳様」

 

え?と思わず声を出す栄華。それに少し遅れて扉が開き、その少女は姿を表す。

 

「あら、面白くないわね」

「勝手におもしろがらんで下さいや」

 

曹操、真名を華琳。俺の主君。奇妙なぐらいの信頼感と共に、俺をあっという間に昇格させて軍師にまで押し上げた張本人。やろうと思えば何でもできる、の典型。何事にも手を抜かないが、遊びを忘れない姿勢は尊敬すると同時に危うさを感じている。

 

「なぁ華琳様、俺もそろそろ軍部一本で行きたいんですがね?」

「無理よ」

 

基本休みなく、万事をこなしてきた俺のちょっとしたお願いをバサッと斬って捨てるような容赦の無さもある、と追加しとこうか。

 

「貴方にはいずれ一方面の総指揮官として動いて貰うつもりだもの、その手腕を鈍らせてもらっては困るのよ」

「一方面、ねぇ?何を考えてんです?」

 

これは答え合わせみたいなものだ、話についていけず蚊帳の外な栄華に説明をするための。

 

「貴方と秋蘭、それに・・・・そうね、華侖ともう一人ぐらい。一方面を任せられるような人材を育てる事が出来れば、多方面作戦が可能になるわ」

 

そうすれば華琳様の掲げる覇業の完遂が早まる・・・・だけじゃねぇな、コレ。栄華なんか急に大規模な話をしたもんだから、完全に話についていけなくなってるし。

 

「ま・・・・そういう事にしときましょうか」

 

今はそれで良いさ、今は。先々の事を考えるのも大事だけど、一番大事なのは目の前の事だもんなぁ。

 

「まぁだいぶ話が逸れたところで、五日後の件での話でしょ?」

「そう言えばそうだったわね、丁度良いから栄華も話に参加して頂戴」

「え?あ・・・・はい」

 

俺たちの夜はまだ更けない。




第二話でした。

なんだか説明回になった気がして・・・・

当作品の桂花はツン少なめデレ多め(主人公限定)となっております。用法用量を護って、正しくお読み下さい。

そして気がついたらお気に入り登録が五十件突破してました!登録者の皆様、ありがとうございます!今後とも宜しくお願いします。


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第三話:御遣い

太平要術の書を盗んだ賊を追いかけて豫州との州境、任城へと俺たちは来ていた。華琳様と由空が兵を引き連れて追跡へと向かい、俺は街に残って知り合いに会う事にしていた。

 

「いやぁ、しかしアニキが本当に官吏に。しかも軍師とは、世の中分からないもんですねぇ」

「抜かせ、テメーも良くもまぁ素性を隠して俺の下にいたもんだ」

「あ、やっぱ調べちゃいました?」

 

ペロッ、と舌を出してテヘッ、とかやってる。俺の周りにいた連中は騙されてたが、俺は騙されん。コイツがこれをやる時はたいして悪いと思っていない時だ。本当に悪いと思ってる時のコイツは極端に無口になる。

 

「当たり前だろうが、えぇ?河内司馬家の司馬懿さんよ」

「やだなぁ、今も昔も変わらない立夏ちゃんですよぉ」

 

司馬懿、真名を立夏。暴徒時代の俺の参謀にして、華琳様との戦いで真っ先に手勢を連れて遁走した薄情物。性格はあざとい腹黒。当時、俺に付き従って一緒に捕まった奴ら、逃げて近隣に潜伏してた奴ら、死んだ奴らと出たわけだがどうしても数が合わなく、後々に調べて見ればこの事が発覚したわけだ。更に調べれば河内有数の豪商、司馬家の娘と言う事が発覚。

 

「まぁ堂々と不義理を働いといて商談を持ち込んでくる辺り、だいぶ肝が据わってるとしか言えねぇな」

「お仕事ですから。それにお姉ちゃんに匕首突きつけられて『そろそろ働かないと・・・・そうね、司馬家の娘が一人減るけれども良いわよね?』ってニッコリ笑顔で言われたんですよ?」

 

なにそれ、怖い。

 

「んでまぁ、兗州での事業拡大を手伝えーなんて言われまして?そしたらアニキが陳留で軍師になってるって聞きまして、ひとしきり大爆笑した後に考えて、それで来てみようと」

「そこを堂々と言うところも流石としか言えんよ・・・・で?」

 

コイツは昔から抜け目の無いところがある。確実に一石で一鳥を仕留め、可能なら二鳥、三鳥を迷わず狙うような性格だ。家業のためだけに俺に接触する、なんて殊勝な考えは持ち合わせちゃいまいよ。

 

「そういうところ、アニキにはかないませんねぇ・・・・それでは単刀直入に、陳留で私を雇って下さい♪」

 

そして思わぬ要求が来たもんだ。

 

「ぶっちゃけ・・・・今のまま実家に寄生しててもお姉ちゃんにいずれ放逐されそうな予感が」

「・・・・お前のところの姉妹関係が心配になってきたよ俺は。まぁ良い、お前は油断ならねぇヤツだが優秀なのは知ってる。曹操様はむしろそう言うヤツは大好きだから、まぁ大丈夫だろ」

「あはははは♪アニキもそこらへん大概ですよねぇ?」

 

うん、優秀には違いないし、極端に形勢不利になんなきゃ逃げないし。むしろコイツが逃げ出すって事はよほどヤバイ状態なんだ、と判断出来るしな。コイツの観察眼と判断力は俺が最も評価していたところだ。

 

―――――――――

 

「で?そこの少年は?」

 

その日の、夕暮れも近くなった頃に華琳様は戻って来た。少年と少女を一人ずつ、加えた状態でだ。少女の方の説明は概ね理解出来た、だが少年の方がイマイチ理解しきれなかったので再度、質問しなおす事にした。

 

「そこの荒野で拾ってきたのよ」

「拾ってきたところに戻して来い」

「吼狼様、犬猫と同じ扱いにするのは如何なものかと」

 

俺と華琳様のやり取りに、冷静にツッコミを入れてくる由空。ったく冗談だってのに、通用しないね。

 

「んじゃまぁ、これから色々と質問するが気を楽にして答えてくれ少年」

「あ、あぁ・・・・」

「ちなみに俺は鄧艾、ってんだ。一応、陳留の軍師を勤めている」

「あ、北郷一刀です。よろしく」

 

ふむ?変わった名前、と言うべきか。

 

「生国は?」

「日本の東京」

 

やはり聞いた事の無い土地の名だ。

 

「この国へ来た目的、方法は?」

「分からない、香風の話に従うなら空から落ちてきたらしいんだけど・・・・」

「うん、流れ星を見てたら空からお兄ちゃんがひゅーって落ちてきた」

 

一刀の説明に補足(?)を加える少女。

 

徐晃。元洛陽の騎都尉で、今は下野して旅をしていたらしい。んで、一刀が空から落下してきた時に受け止めた(?)のが彼女であり、一刀が眼を覚ましてからの行動を弁護するために今まで旅をしていた仲間と別れて戻って来たとの事。ちゃっかり華琳様と意気投合し、後ろで腹黒い話をしているヤツに見習わせたいぐらい良い娘だよ、この子。

 

他にも色々と一刀に聞いてみたのだが、興味深い話を聞けたものだ。どうやら彼は千年以上先の未来から来たと言う事、その未来では俺はよく分からんが、曹操の名が『魏』の王として広く知れ渡っていると言う事、その未来では国が大規模な私塾を経営し、分け隔てなく子供たちに学問を教えている事など様々な話を聞かせてもらった。

 

「未来から来た、と言うのも納得した」

 

また例の太平要術の書を盗んだらしき賊も一刀が目撃した、と言うことであり捜索の協力を要請。徐晃と二人併せて客将と言う形で雇う事にしたらしい。

 

「俺の事は吼狼で良いぜ」

「それ真名だろ?いいの?」

 

どうやら徐晃・・・・香風(しゃんふー)の連れとそこでモメたらしい。

 

「構いやせんさ、お前には『一刀』以外の名が無いんだろ?ならそのお前に名乗り、呼んでもらう対価として相応しいのは真名の方さ」

「じゃあ・・・・宜しく、吼狼」

「おぅよ」

 

―――――――――

 

「華琳様、アニキ。豫州側からの返答来ましたよ、大体中身は予想つきますけど読みます?」

「えぇ」

「まぁ、読まないと礼儀には反するからなぁ」

 

結局、華琳様たちが追いかけていた連中は豫州方面に逃げたとの情報が入った。州境を跨いでの追跡、となれば向こう側の許可を貰わねばならない。返答の内容は、まぁほぼほぼ予想が出来るわけだが。

 

「『曹陳留太守の越境罷りならない、件の賊に関しては豫州内部で対処する』だそうです。まぁーですよねぇ?」

 

他領の軍勢を、それこそ勅令でも無い限り招き入れると言うのはありえない。俺の時みたいにバンバン招き入れる、ってのは例外中の例外ってワケだ。

 

「であれば長居は無用よ。吼狼、ここを引き払う準備を進めなさい。立夏、一刀の二人の扱いは吼狼に一任するわ」

「最近は面倒事を投げつけてくる確率高くありませんかねぇ?」

「慣れてるでしょう?」

 

否定できねぇ。昔っからそういうの(面倒なヤツ)多かったし、その筆頭(立夏)がここにいるわけだし。

 

「ってぇワケだが・・・・仮人事に不満はねぇか?あるなら今のうちだぞ?」

「無いですよぉ?って言うか気心しれた上司の下の方が色々やり易いですし?」

「俺も無いかな。今のところ華琳と吼狼以外の人を知らないわけだし」

 

うん、共に正直で宜しい。だがまぁ立夏はもう少し、本音を建前で隠す事を覚えてほしいな。切実に。

 

「よし分かった、立夏は覚悟しとけ。ありえないぐらいに気難しい上司(春蘭)のところに配属してやる」

「なんか不穏な気配があるんですけど?」

 

ブーブーと文句をたれる立夏、から視線を今度は一刀へと向ける。

 

「お前の方は・・・・最低限の生存能力と一般教養を身につけさせるところから、かな」

「あ、うん。宜しくお願いします」

「畏まるな畏まるな、戻ったら荀彧にそちら向きの書物を用意させて、武術の方は俺が見れば良いか。まぁ最低限死なない程度に色々と叩き込むつもりだ」

 

一刀の話を聞いていた限りだと、この国とはかけ離れた環境で育ったようだ。戦なんて無い、ましてや飢え死にや行き倒れなんて縁の無い平和な国の生まれだと言うことだ。それはそれで良い、だがそんな平和とかけ離れた国に来てしまったのだ。ならばここで生きていけるようにしてやらなければならないだろう、それが受け入れる事を決めた側の義務だ。

 

「お、お手柔らかに宜しく」

「おぅさ」

 

さて、陳留へ戻る・・・・戻らにゃならんのだが・・・・

 

「嫌ーな予感、すんだよなぁコレ」

 

暴徒になる少し前の税金の過剰な値上げ前とか、華琳様と戦う前とか、俺の嫌な予感ってのはワケが分からんぐらいに当たるんだよなぁ・・・・

 

「当たらなけりゃ良いが・・・・無理か」




第三話でした。

気が付けばお気に入り登録も三桁近く、本当にありがたい話です。

次話でオリキャラは出し切りになるかと、名前だけでてた郭淮が。


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第四話:豫州遠征

俺たちが一刀、立夏、香風の三人を連れ帰って一ヶ月が経とうとしていた。ぶっちゃけ、件の賊の事なんか完全に忘れかけていた頃に思わぬ来訪者が陳留にあった。

 

豫州の相、陳珪。

 

この時、俺は新兵訓練を兼ねた賊の討伐で留守にしていて詳細なやり取りはまた聞きする事になったが、どうやら件の賊は今や千人を越える規模にまで膨れ、今もなお更に増加する傾向を見せているらしいのだ。んで、自分らでどうにもならなくなった、って事でこっちに救援要請ってより『逃がした責任取れやコラァ』みたいな感じで討伐を押し付けに来たらしいのだ。

 

「んで、費用全部持たせる事を条件に引き受けたワケね」

「当然でしょう?」

 

ってのを討伐から戻って直ぐに聞かされて、思わず頭を抱えたのは内緒の話だ。

 

だがこれは異例の事態だ。太守や県令が州を跨いで、ぐらいならば表立ってやらないだけでままある事だ。だが相が、しかも正式に使者を立てて訪問して、となると異例中の異例。何か裏がある、と見なければなるまいが華琳様をはじめとして俺以外の幹部格は「罠があるなら喰い破れば良い」ぐらいに思ってるから困る。俺が打てる手は万事に対処が可能な編成を考える事ぐらい、だな。

 

今後の事を考えれば、華琳様自らが率いた方が貸しを作ったと言う印象を相手方に強く植え付ける事が出来る。今回は春蘭も止まらんだろうから、秋蘭と一緒に行かせるべきだろう。一刀にも実戦を経験させたいから一刀、それに香風も十分に戦果を上げてくれるだろう。近衛部隊を率いる柳琳も確定、立夏に由空も行かせれば磐石だろう。

 

逆に護りは俺が指揮を取り、補佐に荀彧、栄華。将として華侖、郭淮で十二分だ。兵も俺の部隊から百残し、栄華、華侖、郭淮の直下の兵と訓練中の新兵。併せて五千にはなるだろうし十分過ぎる。

 

「今回の遠征は吼狼、貴方が軍師として随行なさい。留守は栄華がいれば十分でしょう?貴方預かりで経験を積ませていた二人も連れて行くのよ」

 

そんな俺の考えは主君の一声であっさり覆される。しかも荀彧、郭淮も連れて行けと申すか。と言うか栄華の負担が半端無い気がするのだがそれは。

 

「新人を見極め、経験を積ませるには良い機会でしょう?」

「まぁそうですがねぇ・・・・」

 

軍師の荀彧に武官の郭淮、どちらも実戦での経験は少ない。実際の戦いでどの程度、二人の実力が通用するか確かめるには丁度いいといえば丁度いいだろう。たかだか千の賊相手に手間取るようでは、ってワケだ。

 

「どっちみちそうだと決めてるなら俺の反論は聞かんのでしょう?」

「あら、私を納得させられるだけの理由があるなら聞くわよ」

「じゃあ無理ですな・・・・承知しましたよ、直ぐに全体の手配に移ります」

 

となれば先ずは出陣予定の将兵に通達を出さないとな。後は荀彧、郭淮を呼び出し今回の出征に随行させる旨を伝えて、栄華、華侖の二人と俺たちが留守にしている間の諸事を予め決めといて。後は兵糧の手配、立夏経由で司馬家に話を通して豫州方面での緊急時の物資補給の手筈を整えておいて、あとは・・・・

 

「吼狼、やっぱり貴方は政務よりも戦の時の方がいい顔をしているわ」

 

色々と思案していると、唐突に華琳様がそんな事を言い始めた。

 

「じゃあ軍師の職を降ろして・・・・」

「ダメよ」

 

ですよねー

 

―――――――――

 

出陣の三日前、そこで行われた軍議で華琳様がとんでもない事を言い出しやがった。

 

『軍を二つに分け、それぞれが独自の進軍路と戦術を取り、どちらの軍勢が先に標的となる賊を壊滅させるか。競いましょう?右軍は私が、左軍は吼狼が総大将よ』

 

右軍の編成が華琳様を総大将に春蘭、秋蘭、柳琳、荀彧、華侖で兵千二百。左軍の編成が俺を総大将に一刀、香風、由空、立夏、郭淮で兵八百。将兵の練度そのものでは比べるまでもなくこちらが不利、だがこちらには気心の知れた立夏と『郭淮』がいる。

 

「迅、俺の副将として本格的に表舞台に立って貰うぞ」

「いやいやいや、俺を驚かせようとしたってそうは・・・・嘘でしょ?」

「マジだ」

 

郭淮、真名を迅。暴徒時代の俺の仲間で、華琳様と戦った時は一番槍で春蘭に粉砕され行方不明となっていた。んだが、それが数ヶ月前にシレっと陳留軍の兵卒に混じっていたのを発見。取り敢えず殴ってから事情を聞き、俺の補佐の一人へと格上げし軍事関係の諸用を任せていた。ここ一番で踏み止まる粘り強さがウリ、防衛とか籠城とか護りの戦いでこそ実力を発揮すると俺は思っている。態度は軽薄、だが職務に忠実、だからこそ信用してる。

 

「やれ、って言われれば取り敢えずまぁーやりますけどね?でもダンナ、あんま過度な期待はしないで下さいよ?」

「ああ、過不足の無い期待はしてるさ」

 

やれやれ、と首を横に振りつつもその眼には確かな光がある。

 

「しかし兵数の差、将兵の練度の差。それだけ差を付けた上で競え、とは御大将は非常に性格が悪いようだ」

「本当に性格が悪いなら俺と立夏、お前を一緒の軍にはしねぇさ」

 

華琳様には俺、立夏、迅の関係は教えてある。当然、俺たち三人が連携を取れるって事も想定するのは簡単だろう。だが一緒にした、実戦経験皆無の一刀もいるがそれを補うように香風もこちらに寄越している。俺には迅が言うほど性格の悪い編成には思えねぇ、むしろ五分五分ぐらいになってんじゃねぇかと思う。

 

「まぁ俺の隊の三百は丸々連れて行ける、残り五百も質としては悪くない。それに豫州の、今から行くのは『俺たちの庭』みたいなもんだろ?」

「まぁ・・・・ですね」

 

件の賊が根城にしていると言う城があるのは、俺たちが暴れまわった区域に含まれている。豫州に一定の距離を踏み込むまではあちらの方が速いだろう、だがある距離を越えればそこからは俺たちの方が必ず速い。向こうは歩兵、騎兵、弓兵を均等に組み入れた混成部隊だ、足取りにはどうやったってバラつきが出る。まぁ足、と言う点では十割歩兵のこっちも似たようなモノか。

 

「そう言えば、天の御遣いだってぇ小僧。使いものになるんすか?」

「分からん」

「分からん・・・・て」

 

この数週間、一刀には稽古を付けながら色々と推し量っていた。

 

武に関してはそれなりに心得があったようで、本気で無いとは言え春蘭の剣戟を避け続ける眼があった。知識の方だが、字は読めない、書けない。だが生まれた国の差か、時代の差か、時折俺たちでは思いつかないような事を思いつく。一刀が現在着手している警備態勢の改善業務などは、斬新で実用的な手法が用いられている。偏りは激しいが口だけの文官連中よりも余程使い物になる。

 

「ただまぁ・・・・この戦次第で、少なくとも俺の中での評価は一旦定まる」

 

現況の警備隊隊長程度の器なのか、一軍の将としての器量があるのか、或いは・・・・

 

 

 

SIDE 華琳

 

「あの・・・・少々宜しいでしょうか、華琳様」

 

軍議を終え、大まかな指示を出し終え、自室で休んでいた私を訪ねてきたのは先ほど真名を交換した軍師候補、荀彧・・・・桂花だった。

 

「えぇ、構わないわ」

 

入って来た桂花は、浮かない表情をしていた。

 

「あの場での質問は吼狼様も避けておられたようですが・・・・なぜ軍を二つに、しかもそれで功を競い合おうなどと」

「・・・・私はね、吼狼の実力を知らないの。武力も、用兵も、本気を出したのを見た事が無い」

 

賊の討伐が主だったのだから、本気を出すまでもない。と言ってしまえばそれまでだが、吼狼に関してはそこに輪をかけるように自ら功を挙げるよりも、他者の補助に徹し功を挙げさせる戦を得意としている。

 

「賊程度で吼狼の本気を見れるとは思っていない、でも迅、由空、立夏だけならともかく一刀と香風を連れて行くなら二人のために。自分の隊以外の兵を多く連れて行くならその兵のために、吼狼は相応にやる気を出して戦うでしょう?」

「そう・・・・ですね」

 

初めて吼狼と戦った時もそうだった。個の力、集の力、共に勝てないと悟るやいなや『耐えて反撃の機会を伺う』戦い方だったのが、『可能な限り被害を減らし味方を逃がす』戦いに切り替わっていた。不必要な犠牲を強いず、功に固執せず、見切りを早く。それが現状での吼狼の用兵に関しての評価、一軍の将程度で運用するならばそれで構わない。むしろ内政方面、為政者としての手腕が優秀なのだからそちらを重視してもらうだけ。でも・・・・

 

「桂花、軍師となる貴女には話しておくわ」

 

魏国の建国、天下統一により泰平の世を実現させると言う目的。そしてそのために、領土が拡大されたら信頼の置ける人材数名に一方面を任せ、多方面作戦を行う事で覇業の完遂を早めるつもりだという事。そしてその人材の筆頭が、吼狼であると。

 

「貴女の事は吼狼も評価していた、私自身も貴女の仕事を見ていて評価している。だから忌憚なく意見を聞かせて頂戴」

「では。確かに、華琳様の身は一つであり華琳様がいなければ戦端が開けない。と言うのは片手落ちどころではありません、信頼出来る重臣に戦線一つを任せると言うのも理に適うでしょう。ですが華琳様の仰り様では一州、事によっては一地方の『運営そのもの』を任せると言う事。吼狼様が非常に優秀なのは認めます、ですが・・・・」

「そこまで信用する理由、かしら?一族の、それこそ吼狼同様に適正がある秋蘭たちを差し置いてまで」

 

無言で頷く桂花。

 

「少し長くなるわよ?」

 

再び無言で首を縦に振った桂花に、私は吼狼自身から語られた彼の身の上話から語り始めた。かつては吼狼も農民であった事、そしてそこで太公望と名乗る男に師事した事。

 

「自称太公望・・・・」

「そこだけ聞くと胡散臭いのだけれども、その男から吼狼は万事を学んだと言うわ。その名が騙りであろうとも、師として教える才能とその男自身の才覚は確かだったのでしょうね」

 

州刺史による過度な増税命令、その結果で起きた暴動。汝南近隣だけで、暴徒の数総勢五百名。それを瞬く間にまとめあげ、一般人のいない城砦を占拠。都合七度に渡り官軍を打倒し、私に破れ私の配下に降った。

 

「そこまでは私も調べ上げました」

「取って代わるつもりだったから、かしら?」

「・・・・はい」

 

そこまでは吼狼からも聞かされていた、『やれるものならやってみろ、って言ってやりました』なんて笑いながら言っていた。地位や名誉に固執しない、吼狼だからこそ言える言葉なのでしょうね。

 

「私が最も吼狼を信頼する理由はね、民としての目線を持っていて、その上で特定の分野において私を凌駕するだけの才を持っているからよ」

 

『俺はね、華琳様が理想を忘れぬままに現実を見据え。大義のために小義を切り捨てず、変わらぬままでいればどこまでも貴女の下にあり続けますよ』

 

私が、吼狼を軍師に任じた時に吼狼が語った言葉。

 

「吼狼が私を信頼しているように私も吼狼を信頼する、春蘭、秋蘭たち一族の者とは違う絆が私と吼狼の間にあると私は信じているわ。だから桂花、貴女も吼狼の事を支えてあげて頂戴。あんな風にちゃらんぽらんに見えて、存外繊細なのよ」

「え?」

「吼狼の知識は一人でも多くの者に広めて欲しいの、だから桂花。貴女は吼狼に師事しなさい」

 

吼狼のように武も智も、なんて人材は探したとしても見つけられるものではない。ならばどちらか片方づつに吼狼の後継となる人材を充てがえば良い。武は由空がいる、ならば智は桂花が適任だろう。これからも、吼狼の下にはどんどんそんな人材を充てがおうと思う。

 

「さぁ桂花、話はここまで。直ぐに準備に移りなさい」

「はっ!!」

 

先ずは、吼狼の本気を少しでも引き出せるようにしなくては・・・・ね?




第四話でした。

気が付けばお気に入り登録が五百を突破していました。プレッシャーを感じる一方、これだけの方に読んでもらえている。そんな嬉しさで一杯です。これからも頑張って書いて行きたいので、引き続き読んでいただけたらな、と思います。


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第五話:一刀

「・・・・ここら辺、ちょっと地形変わったか?」

「ですねぇ、先月大雨があったようですし?もしかしたらそれが原因かも知れませんねぇ」

「あれから一年、結構長いもんだねぇ」

 

豫州に軍を入れて三日、俺、立夏、迅は各所地形が変化したところ、村の変遷などを調べつつ進軍していた。悠長とも思われるかもしれないが、先々の事まで考えての事。陳留に隣接するここいら一帯は特に調べなければならない。

 

「一刀、香風、由空、そっちはどうだ?」

 

地形の下調べ、地図の手直しを俺たち豫州で暴れまわっていた組が。斥候の取りまとめと右軍の動向を探るのが一刀、香風、由空の組が行っている。

 

「華琳たちの方も順調に進んでるみたいだ・・・・地元の協力者がいるみたいで、昨日からの行軍速度は上がってるって報告だ」

 

一刀からの報告を聞き、地図に記していた華琳様たちの進軍路を再び指でなぞる。昨日の位置、本来の予測進路をなぞってから、山越えをする進路をなぞる。千二百、その規模程度なら進める程度の隘路があったはずだ。しかも標的となる廃砦の近くに出れる、こっちが少し遅れて到着する形になるかな。

 

「分かった、こちらも行軍速度を二割程度上げるぞ」

「・・・・」

 

一刀が、少し難しい顔をしている。

 

「いくら功を競い合う、っつっても何で密偵まで入れなきゃならないんだ。って顔してるな?」

 

俺の指摘に、一刀は素直に頷く。

 

「まぁ華琳様は競い合い、ってだけ言ったがこの二手攻めには他にも意味がある」

「え?」

「不慮の事態、まぁ例えば敵の奇襲なんかで味方がバラけたとしよう」

 

俺が話を始めると、一刀は眼を瞑り思考を張り巡らせている。

 

「味方と合流するにしても手探りで動いてちゃあ危ない、残党刈りしてる敵軍に見つかったりしたら目も当てられないからな。だから兵数が少なくても斥候を出し周囲の状況を把握しなくちゃいけない、敵の情報と同じぐらいに友軍の事もな。これはその訓練も兼ねている、だから向こうでもこっちの動向は探ってるハズだ」

 

秋蘭か柳琳、そこら辺がやらなくても桂花が必ずやるだろう。むしろ意図を読んで、そこまでやってくれなくちゃ軍師失格だ。戦場ではありとあらゆる情報こそが生命線となる、無駄な犠牲を出すのも、被害を最小限に抑えるのも、全て情報があってこそだ。

 

「香風と立夏は其の辺分かってるみたいだな」

「うん、情報は大事」

「ですよねぇー、周囲の状況が分からないままで戦うとか自殺行為ですって」

「つまりはそういうことだ、そこら辺を理解するための今回の二手攻めだ」

 

ようやく一刀が納得した表情になる。

 

「吼狼様!!!」

 

と、由空が走ってきた。

 

「華琳様の軍が件の賊と接敵した様子!」

「おいおい本気で手が速ぇな」

 

多少なりとも様子見をすると思っていたが・・・・アレか?『何時もどおり』の戦をしてたら『部下たちが食いっぱぐれるぞ』ってか?俺を煽るためにやったのだとしたら随分と安い挑発をしてくれたもんだ、だが・・・・

 

「乗ってやろうじゃねぇか・・・・誰か!俺の槍を持って来い!!」

「はっ!!」

 

直ぐに由空が兵から槍を受け取り俺に差し出す。

 

「鄧艾隊全兵で戦場に割り込む、徐晃、郭淮は俺と一緒に来い!」

「うん、分かった」

「あいよ」

「陳泰、司馬懿、北郷は残り五百に弓を準備させろ、どこに陣取って、どの機で射つか、全て司馬懿に一任する!」

「御意!」

「はいはーい」

「あぁ!」

 

俺の隊は基本軽装だ、遊軍として動いたりする事が多いからだ。だからこそ、こう言う足場の悪い山道や森の中を抜けるなら陳留軍最速であるという自負がある。

 

「迅と香風!俺の両脇を固めろ!俺が先陣を切る!!」

「おっ、ダンナがやる気満々ときましたか」

「吼狼がやる気満々、初めて見た」

 

最近は立場上、そういうの控えてたけどさ。今回は何らかの功を挙げなけりゃ兵たちに褒賞の分配もしてやれねぇもんな。

 

 

SIDE 華琳

 

戦端を開いたのは僅か一刻前。私と柳琳、桂花に先日加わった許褚・・・・季衣が本隊を率いて囮となって、釣りだした賊を横合いから春蘭、秋蘭、華侖が叩くと言う簡素な策。簡素だからこそ効果はあり、賊を引きずり出す事には成功した。だが計算違いがいくつか発生していた。

 

賊の数が五千近くに膨れ上がっていたと言う事、そして思っていた以上にここの指揮官が優秀であり想定以上に持ち堪えていると言う事。

 

「姉様、このままでは・・・・」

「せめて・・・・せめてもう一手・・・・」

 

春蘭が奮戦し、華侖が自由自在に駆け回り、秋蘭が矢継ぎ早に矢を打ち込むがそれでも決定的に崩れる寸前で持ちこたえ、別の部隊が補助に入り立て直し続けている。季衣も踏ん張っているが、柳琳や桂花の言うとおり、もう一手無ければ・・・・

 

「華琳様!」

 

桂花の声に我に帰る。

 

「援軍です!吼狼様の軍が!」

 

戦場東部の崖から下ってくる三百の軍勢、『鄧』の旗印、そしてその先陣を切るのは・・・・

 

「ようやくやる気を出したわけね、吼狼」

 

武芸も優秀なのは知っていた。春蘭が力ならば吼狼は技、その技一つで身体能力の不利を覆し春蘭と拮抗する武力を誇る。遠目ながらもその槍捌きは眼をひく。一突きするごとに直線上の二、三人が同時に突き飛ばされ、そんな光景が瞬く間に五度、六度と繰り返される。そして出来た隊列の綻びを大斧を振り回す香風と二振りの鉤剣を操る迅が筆頭となって歩兵が突き崩していく。

 

「あれが・・・・」

「吼狼様の、本気」

 

一見ガムシャラに攻め込んでいるように見えて、細かな連携はしっかり取れている。誰かが突出する事はなく、常に二対一以上の状況を作り出す。それでいて数を最大限活かし、面制圧を効果的に行うその戦い方は他の隊ではマネが出来ない。

 

「っ!崖上から・・・・あれは立夏の指示ね」

 

吼狼たちが駆け下りてきた崖上からの矢による一斉射撃。下りてきた兵数からすれば残る五百での斉射なのだが、吼狼たちが突き崩した影響を受けているかいないかギリギリの辺りを狙って射たせている。吼狼も言っていた立夏は性格が悪い、と言うのは至言なのかも知れない。

 

「鄧艾隊が流れを変えたわ!今こそ逆撃の好機!遅れを取るな!!」

 

―――――――――

 

賊の討伐も終わり、残党刈りには春蘭、華侖に新たに加わった季衣の三人が出撃していった。

 

許褚、真名を季衣。どうやら華琳様をここいらの太守の軍勢と勘違いして襲いかかったらしい、が全ては朝廷の腐敗が原因であり、その責任の一端は自らにもある、と華琳様は謝罪したらしい。春蘭が守勢に回ったとは言え、圧倒していた武勇、そして官への純粋な憤りを評価し勧誘。彼女も二つ返事で応諾し、ここまでの道案内を買って出てくれたとの事だった。純粋で素直で腕白で、大食らいなのはまぁ元気な証拠と言う事にしておこう。

 

さて、今回の第一功は季衣となった。右軍が取った囮作戦で、何度か綻びかけた本隊の前衛を彼女が武力で押しとどめた事。それに加え、右軍をここまで道案内し導いた功績を評価しての結果である。

 

「おぅ一刀」

「吼狼・・・・」

 

追撃部隊を待つ間は待機、となったワケだ。んで小高い丘から戦場跡を見下ろす一刀を見て、俺は声をかけた。

 

「どうだった?初めての戦は」

「怖かったよ・・・・目の前であれだけ沢山の人が死ぬのなんか初めて見た、敵も、味方も」

 

その光景を思い出したのだろう、カタカタと全身を震えさせている一刀。その肩を俺は叩き・・・・

 

「でも逃げなかっただろ?最後まで」

「それは・・・・」

「それだけでも上出来だ。有利なのに戦う事が怖くて脇目も振らずに逃げるヤツ、心の均衡が壊れて狂ったように敵味方お構いなしに刃を突き立てようとするヤツもいる。お前は恐れたが、それでも逃げなかった。慣れろ、だが当たり前に思うな、忘れるな・・・・俺が言えるのはそれだけだ」

 

一刀の震えが止まった、遠くを見ていた眼がこちらを向いた時。一刀の眼には以前よりも強い光が宿っていた。

 

「なぁ吼狼、戻ったらもっと厳しく武術を教えてくれ。兵法も、色んな事を前よりも教えてくれよ」

 

今、一刀の中で本当の意味で『この世界で生きていく覚悟』が確立された。今までも無かったワケでは無い、だが現実として『死』に触れる事が無かった。今回の戦いで死んだ兵の中には、一刀と仲が良かったヤツもいた。戦う術を得なければ自分もそうなる、誰を守れる事もなく、何を成す事もなく、無為に死ぬ。その事を実感したのだろう。

 

「・・・・あぁ、そうだな。死んだほうがマシだと思えるぐらいに厳しくしてやる」

「・・・・・・・・お手柔らかに」

 

そう答えた一刀は、顔は引きつっていたがハッキリと頷いてくれていた。

 

「さぁ、追撃に出た連中も戻って来た。成果は上々、陳留に凱旋するとしようや」

 

 

SIDE 一刀

 

俺には覚悟が足りなかったんだと思う。何の因果か、突如飛ばされてきたこの三国志の世界で。俺は生きていく覚悟を決めたつもりになってたんだと思う。

 

誰かが死ぬ。そんなのは俺からは遠くの話で、そう言う世界だって、そう言う時代だってわかってたはずなのに。

 

敵が死んでいく。

 

味方も死んでいく。

 

いっそのこと、ショックで意識でも失えば楽だったかもしれない。逃げ出してしまえば、少しでも見なくても済んだかも知れない。そんな俺の意識と身体を押しとどめたのは、由空さんと立夏の二人だった。

 

「現実から眼を背けるな!北郷一刀!!」

「あれれぇ?逃げちゃうんですかぁ?まぁそれでも良いですけど・・・・本当にそれでいいのか、よぉーく、考えて下さいねぇ?」

 

そう言われて真っ先に浮かんだのは吼狼の顔だった。右も左も分からなかった俺にありとあらゆる事を教えてくれた師とも言うべき人。

 

香風、俺の事をお兄ちゃんと慕ってくれる子。たった一度だけ、しかも頭をぶつけただけの縁なのに俺のことを心配してくれた優しい子。

 

迅。この行軍の間に仲良くなった吼狼の部下。妙にウマが合って、戻ったら現代の、『天の国』の事で色々と教えることを約束した。

 

それだけじゃない、吼狼の隊の人たちとはかなりの確率で顔見知りだ。最近じゃ隊内での飲み会があったりすると結構な割合で誘われて、参加させてもらったりする事もある。皆、皆気の良い人たちばかりだ。

 

その皆が死地に向かっている。もしかしたら当人たちにそんな認識は無いかもしれない、皆強いし。でも・・・・それでも・・・・

 

「っ!」

 

 

 

それからの事はあまり覚えてない。戦いが終わって、春蘭たちが追撃に出て、吼狼の隊にいた知り合いが何人か死んだことを知った。そのうちの一人は良く覚えてる、吼狼の隊でも最年長で、俺を甘味処に誘ってくれた事もあるぐらい甘党な人だった。それが、死んだ。

 

「おぅ、一刀」

「吼狼・・・・」

 

華琳たちが既に戦っている、って聞いて昼を抜いていたのがよかったのかもしれない。思わず催していた吐き気も、吐き出すモノが無くては気配だけで終わる。そうでなきゃ、吼狼に声をかけられた今も吐いていたに違いない。

 

「どうだった?初めての戦は」

「怖かったよ・・・・目の前であれだけ沢山の人が死ぬのなんか初めて見た、敵も、味方も」

 

知っている人が死んだ。俺にとってはそのダメージが一番大きかったかもしれない。自分でも身体中が震えるのが分かる。今回は良かった、崖上からの援護射撃だけだったから。だけど、これから先、直接敵と切り合う事があるかもしれない。そんな事になった時、俺は戦えるのか?また震えて、動けなくなって、何も出来ないまま死んだりしたら。それは・・・・

 

「でも逃げなかっただろ?最後まで」

「それは・・・・」

「それだけでも上出来だ。有利なのに戦う事が怖くて脇目も振らずに逃げるヤツ、心の均衡が壊れて狂ったように敵味方お構いなしに刃を突き立てようとするヤツもいる。お前は恐れたが、それでも逃げなかった。慣れろ、だが当たり前に思うな、忘れるな・・・・俺が言えるのはそれだけだ」

 

ポン、と肩を叩かれた。続く言葉を聞くうちに、震えが止まるのが分かった。吼狼の言葉を頭の中で冷静に考えられる程度には落ち着けた気がする。

 

「なぁ吼狼、戻ったらもっと厳しく武術を教えてくれ。兵法も、色んな事を前よりも教えてくれよ」

 

死にビビってたら自分も死ぬ、だからこそ『慣れろ』。そしてそんな状況に慣れすぎると感覚が麻痺して逆に死ぬ確率が上がる、だから『当たり前に思うな』。死んでいった味方の、敵の、その姿を『忘れるな』。

 

「・・・・あぁ、そうだな。死んだほうがマシだと思えるぐらいに厳しくしてやる」

「・・・・・・・・お手柔らかに」

 

帰ってきた吼狼の返答に、答えた俺の顔はきっと・・・・引きつってたと思う。




第五話でした。

一刀君の一人称視点を入れてみましたがどうだったでしょうか?

次回あたりで三羽烏を出せたらいいな、と思いつつ年を越しながら執筆を続けようと思います。皆様も来年良いお年でありますように。


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第六話:鄧艾出撃

あの遠征の後、桂花と立夏が華琳様の正式な専属軍師となり、迅も由空も将軍に格上げ、一刀は相変わらず俺の下だが陳留の警備責任者になった。それとどう言うつもりかは知らんが、華琳様が陳珪の推薦で兗州の州牧に、あと興味が無かったんで聞き流したが俺にも官位がつけられた。

 

まぁ本気で俺の官位はどうでも良いが、問題は華琳様の方だ。有り体に言えば、今回の人事によって華琳様の益が『大きすぎる』。そして逆に陳珪の利益が『無さ過ぎる』。一体全体、何を考えているのかが分からんだけ質が悪い。

 

「まぁ今はその事は些事だ、問題はこっちだな」

 

黄色い巾を身につけた賊の出没情報、それも一つや二つじゃない、直近のほぼ全てがその黄色い巾を身につけた賊のものだ。一刀により『黄巾党』と命名されたコイツらは、兗州だけではなく、豫州、青州、冀州、幽州、併州、司州で総数は五十万とも百万とも聞く。軍の殆どがその対応に奔走する日々、あの春蘭ですら辟易している、となれば相当なものだろう。俺か?俺は秋蘭や柳琳、桂花に立夏、一刀までが駆り出されてるからその穴埋め作業中だ。

 

恐らくだが、未来から来た一刀は正解に近い答えを知っている。聞いてしまえばもう少し負担の軽減になるんだろう、だがそれはやってはいけない。一刀もそれを理解しているから『黄巾党』の名前を出しただけにとどめ、それ以降は皆と同じ視点で対策を考え、動いている。

 

「吼狼さん、少し休まれてはいかがですの?」

 

陽も落ち切った頃に、俺がボーッとしていて気付かなかったのか何時の間にか栄華が来ていた。心配そうに、俺の顔を覗き込みながらそう言われて、俺は首を横に振る。

 

「んな事言ってる場合じゃあねぇだろ」

 

今も軍部の連中は昼夜を問わず、何日も城に戻らず行軍を繰り返しているような状況だ。それを支える俺たちが休む暇なんか無い、少なくとも様々な目処が立つまでは。

 

「敵の本拠地、正確な規模が分かればな・・・・」

 

既に農民反乱などと言う可愛げのあるものではない、だが未だに鈍重で愚図な朝廷は討伐令を下していない。無駄に有り余っている矜持がそれを許さないのか、事が正確に伝わっていない・・・・いや『伝えていない』のかもしれない。

 

「華琳様たちは?」

「はい、お姉様たちも一通り賊を追い払えたと言う事で帰路についていますわ。比較的消耗の少ない由空さん、迅さんの隊が外周警戒を、他の将兵は一度陳留に帰還するそうですわ」

 

それしかないだろうな。目処が立たないままに駆け巡っても何も解決などしやしない、むしろ功を焦るようなマネをするヤツが出て来るかもしれん。そうなる前に一度本拠へと戻り、一息入れるのは重要な事だろう。

 

「分かった、直ぐに補給の手配を頼む」

「えぇ」

 

―――――――――

 

三日後、本来ならば謁見の間でその帰還を待ち受けるべきなのだろうが、緊急の案件が発生したため俺は城門で華琳様たちを待ち受けていた。

 

「特に何事も無かったようで」

「ええ、そっちは・・・・何かあったようね?」

 

数名を伴い二人で城壁への階段を上りながら。昨日、朝廷から訪れた使者が置いていった書簡を華琳様へと差し出す。

 

「ようやく朝廷の愚図共が鈍って重くなった腰を上げました」

 

俺が待っていたのはコレだ。朝廷お墨付きの討伐令となれば州や領地の越境が公然と、面倒なやり取りを省いて行える。まぁそれでも限界そのものはあるが、やれる事、打てる手は多くなる。

 

「そう、ようやく・・・・それで?他に言うべき事があるから、ここで待っていたのでしょう?武装をして」

 

そう、俺は鎧を身に付け槍を携え出る気満々ってワケだ。

 

「はっ!本隊が装備と補給を整え、息をつくまでの間。俺が率いる二千が先遣隊となり偵察と補給路の確保、拠点建造を済ませようと思います」

「なる程・・・・確かに貴方ほどの適任もいないものね、それで?その傍らに控えている子は?」

 

華琳様が視線を向けたのは、俺の斜め後ろで待機していた少女。俺が合図を送れば、一歩前へと進み出て堂々と口上を述べる。

 

「張郃、真名を緋那(ひな)と申します!先日より吼狼様の下でお世話になってます!」

 

張郃、真名を緋那。五日ほど前に突然、陳留を訪れてきた少女。主君のアホさ加減に耐え切れず出奔、んで華琳様の噂を聞きつけて仕官すべく陳留へ。だが華琳様は留守でいない、忙しさ故に募集も兵士のみ。そこで悠長にしていられない、とまさかの俺のところへと直接押しかけてきた。そのやる気を買って仕事を与えたところ、結構な働き者であり、しかも有能。迅に立夏に由空と一時的に手伝っていた腹心が昇格し、手元を離れたと言う事もあり迷わず内定。その明るさからか、周囲の雰囲気も改善されたので良い拾い物をしたと思っている。

 

「袁紹被害者の会、会員その二だな」

 

俺が付け足すと緋那は笑顔を引っ込め、露骨に嫌そうな顔をする。

 

「吼狼様、アレの話はしないでくださいよ!思い出すだけでイラッとします!」

 

元、とは言え主君をアレ呼ばわりである。どんだけ嫌だったんだよ袁紹、華琳様とその後ろに何時の間にか控えてた桂花まで頷いてるし。

 

「俺と緋那に迅を合流させて二千五百が先陣。由空が戻って立夏と留守居で兵五千。残り全員が本隊として出陣、兵は七千・・・・問題は?」

「無いわ、貴方なら万に一つも無いもの・・・・なんだか嬉しそうね?」

「いやー思ってませんよ?書類から開放されたーとか」

 

ジト目で見られるが仕方あるまい、久しぶりに現場だ現場。

 

「華琳姉ぇ!吼狼!大変っすー!!」

 

勢いですっ転びそうなぐらいに華侖が走って階段を登ってきた。

 

「陳留の隣の郡に今までに無い規模で黄色い布の人たちが向かってるって報告があったっす!!」

「正確な数は!」

「約五千!」

 

華侖の後ろから追いかけてきた立夏が、息を切らしながらも俺の質問に答えを返してくれる。

 

「緋那!直ぐに兵に号令をかけろ!直ぐに向かう!」

「はい!」

 

俺は直ぐに駆け出しながら緋那に指示を出す。

 

「待ちなさい吼狼!!」

 

それを制止したのは、華琳様だった。

 

「今回の敵はいままでに無い規模にまで膨れ上がっているわ!貴方が連れて行くのは二千、向こうには千に満たない兵しかいないわ!」

「それがどうした!今すぐに動けるのは俺しかいない、行くしかねぇだろうが!」

「こんなところで貴方を失うわけにはいかない、せめてもう一人か二人・・・・」

 

俺は華琳様の言葉を遮るように手を突き出し、笑いながら言うべきことを言う。

 

「俺を誰だと思ってんだ?豫州汝南にて都合七度、官軍と渡り合った『暴徒』の首魁だぜ?昨日今日、俺より安易な考えで暴徒になり下がったヒヨっ子どもに負けるワケねぇだろうが。兵力差が倍だろうが『俺なら』耐えられる、だからとっとと軍備を整えて追いかけて来いよ!」

 

身を翻し、再び歩き出しながら俺は言葉を続ける。

 

「俺たちはこんなところで止まってる暇はねぇ、そうだろ?」

 

俺たちが目指す場所はこの遥か向こうにある、この程度で立ち止まるわけにはいかない。

 

「しっかりしろよ、アンタが信じると決めた(軍師)はそこまで頼りねーか?」

 

階段を下り始める一歩手前で、足を止める。

 

「いえ・・・・ならば成すべきことを成しなさい!私が、私たちがたどり着くまで死ぬ事はおろか傷一つ負う事も禁ずるわ!!」

 

面倒なことを当たり前のように言ってくれる、だがまぁ・・・・だからこそか。

 

「御意」

 

俺はそう短く答え、階段を下り始める。

 

「吼狼様ぁ!!準備万端!いつでも行けます!!」

「おぅ、なら出るぞテメーらぁ!!」

「「「「「「応っ!!!」」」」」」

 

SIDE 華琳

 

朝廷がようやく重い腰を上げ、討伐令を出した。遅すぎる、とも思いはしたけれどもそんなものかとも思った。軍事の頂点が肉屋では地方からの賂を数えるのに手一杯でしょうもの。

 

そのことを伝えてきた吼狼は、既に出陣する気で待ち構えていた。まぁ、本来『出来る』だけで書類仕事は『好きではない』らしいし、こんな時こそ吼狼の『眼』と『軍才』が必要になると考えた私は吼狼の提案を応諾した。ちょっと聞き捨てならないことを言ってた気もするけど、ここは大目にみましょう。

 

「華琳姉ぇ!吼狼!大変っすー!!」

 

華侖と、その後ろから息を切らした立夏が走ってきて告げた内容は想定外のものだった。

 

「陳留の隣の郡に今までに無い規模で黄色い布の人たちが向かってるって報告があったっす!!」

「正確な数は!」

「約五千!」

 

吼狼が連れて行くと言った兵数は二千、将も吼狼と緋那だけ。吼狼が向かう定陶の駐屯兵は千に満たないはず、しかも定陶は護りに向かない。以前のように定陶に着く頃に軍の数が膨れ上がっている可能性すらある。

 

「緋那!直ぐに兵に号令をかけろ!直ぐに向かう!」

「はい!」

 

だが吼狼は迷わず行くことを選んだ。

 

「待ちなさい吼狼!!」

 

既に走り出していた吼狼を、私は呼び止めていた。

 

「今回の敵はいままでに無い規模にまで膨れ上がっているわ!貴方が連れて行くのは二千、向こうには千に満たない兵しかいないわ!」

「それがどうした!今すぐに動けるのは俺しかいない、行くしかねぇだろうが!」

「こんなところで貴方を失うわけにはいかない、せめてもう一人か二人・・・・」

 

いくら無傷でも向こうに向かうまでに消耗はする、迅が合流するとしてもその五百もそれなりに消耗している。万が一もある、消耗の少ない秋蘭や柳琳の隊をせめて・・・・

 

「俺を誰だと思ってんだ?豫州汝南にて都合七度、官軍と渡り合った『暴徒』の首魁だぜ?昨日今日、俺より安易な考えで暴徒になり下がったヒヨっ子どもに負けるワケねぇだろうが。兵力差が倍だろうが『俺なら』耐えられる、だからとっとと軍備を整えて追いかけて来いよ!」

 

本当に・・・・この男は私が面と向かって言うことを躊躇うことを、平然と言ってのける。消耗が少ない、と言っても秋蘭の隊も、柳琳の隊も満足な働きを期待するには休息、補給を併せ一晩は必要になる。吼狼の時を稼ぐ、と言う申し出は渡りに船だ、それでも・・・・

 

「俺たちはこんなところで止まってる暇はねぇ、そうだろ?」

 

天下統一・・・・そう、そこにたどり着くには確かにここで足を止めている暇は無い。

 

「しっかりしろよ、アンタが信じると決めた(軍師)はそこまで頼りねーか?」

 

そんな事は無い、春蘭や秋蘭、華侖、柳琳、栄華ら親族以外で初めて信を置くに相応しいと見定めた、しかも男である。

 

「いえ・・・・ならば成すべきことを成しなさい!私が、私たちがたどり着くまで死ぬ事はおろか傷一つ負う事も禁ずるわ!!」

 

今から準備をさせたとして、軍を動かせるのは明朝。腹心を死地に送り込み、それを見送る事しか出来ない。その事がもどかしく、腹立たしい。だがこれから先、多くの領地を得て、勢力を拡大させていけばそんな事も多々あるのでしょう。ならば、やるしかない。

 

「御意」

 

短く返事を返し、階段を降っていった吼狼。その後に聞こえてくる兵たちの声、その声の全てが、『鄧艾』と言う将に率いられる事に嬉しさすら滲ませているようで。

 

「桂花」

「はっ!」

「栄華や秋蘭、柳琳、一刀らと直ぐに準備に移りなさい。可能な限り最速で、吼狼の後を追うわよ」

「御意に!」

 

桂花が一礼し、階段を駆け下りていくのと同時に城門が開き、吼狼を先頭にして二千の兵が一斉に駆けていく。

 

「貴方を迎え入れた事は間違いじゃなかった」

 

ありとあらゆる面で、吼狼を引き入れた事により目に見える形で良い結果を出し続けた。

 

「これから先、貴方の力はもっともっと必要になってくる」

 

その才は、今も、そしてこれから先も、遥か未来にも必要になる。

 

「死なせはしないわ」

 

そのためにも、最大限出来ることをしましょう。




第六話でした。

どうも明けましておめでとうございます雪虎です。今年もなんやかんやで宜しくお願いします。

前話で三羽烏登場予定と言ったな・・・・・・・・あれは嘘だっ!

という訳で、季衣の下りから一刀、華琳たちの三羽烏との出会いフラグまでを綺麗にへし折っての進行。やってから「どうすんべ、これ」と思っている次第。まぁ書いてしまったものを一から書き直すのも億劫なので、このまま、何とか無理なく書いてみようかなと思います。


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第七話:定陶防衛戦

そう言えば、俺の直属兵は前回の遠征が終わってから待機中の間に歩兵隊から騎馬隊に転向した。なのでいつもの倍速ぐらいで定陶へと向かっている。

 

「吼狼様ぁ!!前方に砂塵!なんか戦ってるみたいですー!!」

「適当な報告をすんじゃねぇ!!簡素で良いから明瞭にしろって言っただろうが!!」

 

俺の傍らを走る緋那の報告に、頭を抱えながら訂正を要求する。緋那は眼が良い、だから物見としては最適なんだが春蘭や華侖みたいに大雑把な報告しかしてこない。状況が落ち着いたら一刀と一緒にそこら辺を学ばせても良いかもしれない。

 

「んと!かたっぽは賊です!黄色いの!」

「それだけ分かれば十分!このまま速度をあげて黄巾の横っ腹をぶち抜くぞ!!」

「「「「「応!!」」」」」

「緋那は一端下がって歩兵と共に迅と合流、それから定陶に入れ」

「はい!!」

 

―――――――――

 

「いやー、助かったでホンマ!」

「ありがとうなのー」

 

黄巾と戦っていたのは義勇軍だった。んで義勇軍と戦っていた黄巾も五百程度、こっちの騎馬隊も五百。一当てしただけで逃げ去っていった黄巾を一旦放置し、義勇軍の将と会見ってワケだ。

 

「真桜!沙和!」

「あー、気にすんな楽進。俺も堅っ苦しいのは苦手だ・・・・それと李典、于禁。今から黄巾の部隊が攻め寄せてくる、俺らと一緒にこの街ぃ護ってくれねぇか?」

 

義勇軍の数は三百、将は三名。

 

「はい!」

 

楽進。三人の中で最も武術に長け、何事も生真面目にこなすようだ。俺が援護に入って、乱戦の中でも直ぐに近寄ってきて一言礼を述べてきたぐらいだ。気功を使えるようで、気弾を使っての面攻撃が出来る。

 

「まぁウチらはそのつもりやったし」

 

李典。武はそこそこだが、即席で防護柵を作ったりするなど絡繰に対する造詣は深い。また兵の指揮にもそれなりに才を発揮しているようなので、こちらも即戦力になりそうだ。

 

「う・・・・よろしく、なの」

 

于禁。正直コイツが一番心配だ。自分のところの兵たちに優しいのは良い、だが過ぎる優しさは急場での判断を鈍らせる。同じくお人好しで優しすぎる一刀は其の辺、上手く割り切っていたがこの子はどうだろうか。

 

「ダンナ」

「吼狼様!」

 

っと、迅と緋那が合流したか。

 

「コイツラは楽進、李典、于禁だ。んで郭淮と張郃、まぁ仲良くやってくれや」

 

顔合わせも済ませたところで割り振りだなぁ。

 

「李典、柵の補強にどれぐらいかかる?」

「一刻ぐらいあれば即席で出来るけど・・・・それが限界や」

「即席で十分だ、于禁と郭淮を付けるから四方全てに急ぎで備えてくれ」

「んー、頑張ってみますわ」

 

篭るにしても最低限の防護柵が無ければ話にもならない、せめて脆くても門扉があれば話は別だったんだろうが。

 

「張郃隊は東門、楽進隊は西門、郭淮隊を北門、俺が南門を受け持つ。李典、于禁には予備の兵を預ける、防護柵を少しでも保つように修繕しつつ、各所に援護の兵を振り分けてくれ」

「お待ちください鄧艾様!賊が最も押し寄せるであろう南門を貴方が受け持つ必要は・・・・」

「せやで!それにウチにいきなり正規兵なんぞ預けられても・・・・」

「自信がないのー!」

 

迅と緋那はおとなしく配置に着こうとしていたが、楽進、李典、于禁が抗議の声を挙げる。

 

「なら俺の代わりに兵数二百で南門を抑えてみるか?」

 

南門には俺の隊から更に選別した二百、東門には五百、北門にも五百、西門には義勇兵の二百に加えて俺の隊の残る三百を配置。残る千人で状況に応じた穴埋めと休息する間を作る役目を持たせ、華琳様率いる本隊が来るまで持ちこたえさせる。その要となるのが最小の兵数で、恐らく最多の敵を受け持つのが南門なのだ。

 

「捨て鉢にならねぇで、生き延びることを考えながら護り抜く・・・・最も過酷だからこそ、玉砕なんて『逃げ』を選ぶ事は許されねぇ。その覚悟がお前らに・・・・あんのか?」

 

味方のために、護るべきもののために玉砕する。聞こえは良いが、それは全てから逃げる事だ。そんな事は許されない、許さない。

 

「無いなら今は大人しく言われたとおりに動け、それ以上の文句は全部終わったら聞いてやらァ」

 

まぁ、そこまで死地ってワケでもねぇんだろうがよ。

 

―――――――――

 

「何時もどおりだ!面での攻撃を意識しろ!一対一ではなく二対一で当たれ!!」

「「「「「応っ!!」」」」」

「鄧艾様ぁ!こっちはどないです!?」

「まだ余裕はある!他が危ないならそっちに回せ!!」

 

既に夜を跨ぎ、陽も登り始めていた。こちらの想定よりも多い兵数の襲撃、であるにも関わらず皆よくやっている。特に義勇軍とそれを率いる楽進が、こちらの期待を上回る士気の高さで戦ってくれている。幾度となく李典がこちらの状況を確認しに来ているが、今のところここは数名の負傷者で済んでいる。

 

「今のうちに二番隊は二段目まで下がり弓の準備だ!一番隊が下がり始めたら後退を援護しろ!一番隊は二番隊が準備を終えるまで耐えろ!」

「「「「「応っ!!」」」」」

 

兵が無事でも柵がもたない、既に他も二段目、三段目の防護柵まで下がってしまっている。

 

「ジリ貧か・・・・」

 

李典経由での情報だと、矢張り敵が集中しているのは此処だ。相手の強弱は読めなくても、兵数の多寡を見て攻める程度の頭はあるようだ。

 

「李典!他の状況はどうだ!」

「凪と張郃様のところは何とか!でも・・・・」

「迅・・・・郭淮が圧されかけている、か?」

 

俺の言葉に、李典が無言で頷く。アイツは攻めは強い、野戦でなら相手を『いなして』躱す事も得意だ。だがこう言う、真っ向から組み合っての護りは極端に弱い。言ってしまえば受身になった場合、ここ一番で踏み止まる事が出来ないのだ。だからこそ、援兵の割り当てを任せていた李典にも仔細は伏せたままだが迅のところには少し多めに兵を割り振ってくれるようにと頼んでおいたのだ。

 

「・・・・とにもかくにも後半日、昼頃まで耐えきれば援軍が来る」

 

楽進は俺の直属兵がいる分、比較的余力を残して守れているようだ。緋那も、正直ここまでやってくれるとは思っていなかった。率いた事の無い兵数を唐突に預けられたにしては堅実で、落ち着いた指揮をしている。

 

「それまでは・・・・」

「大変なのー!!」

 

こちらへと駆けてくる于禁、少し嫌な予感が・・・・

 

「郭淮様のところが突破されたのー!!」

 

それ以上か!

 

「直ぐに楽進と張郃に伝令を飛ばせ!!この街を放棄する!!」

「「!」」

 

俺の宣言に、二人が一瞬困惑する。

 

「放棄って・・・・」

「それはダメなの!!街の人を避難させる時にここは必ず護るって・・・・」

 

人として、それは正しい判断なんだろう。約束は護る、まぁ必要な事だよな。だが・・・・

 

「死んだら終いだろうが!!」

 

俺は軍人であり為政者だ。理想論で物事を語る事は許されず、現実を見ずして指図する事を許されない。

 

「街ならまた作り直せば良い!だが死んだ命は戻らん!!・・・・今は生き延びる事を最優先としろ。李典、于禁・・・・直ぐに楽進と合流、民を護りながら陳留方向へ向かえ。州牧曹操の本隊が向かってきてるはずだ」

「鄧艾様はどないするんです!?」

「責務を果たす、それだけだ」

 

それでも最終的に迅と緋那は逃がし、俺が華琳様たちの到着まで賊を引き付けるだけだ。

 

「安心しろ、言っただろう?捨て鉢にならねぇで生き延びる、ってよ」

「・・・・さよか、ほんなら行くで沙和!!」

「でも・・・・」

「でももへったくれもあるかい!ウチらがおったところで役にたたへん!」

 

躊躇う于禁を李典が無理やり引きずっていく。それで良い、それで。

 

「二番隊は迅のところに行け、俺がダメだったら死に物狂いで義勇軍と民を護れ」

「御意!直ぐに行動を開始するぞ!!」

 

何かを言いたそうな若手を抑え込みながら、古参の兵たちがそれをまとめあげ、迅の方へと向かっていく。後に残るのは一番隊の面々と俺、俺は笑いながら隊の皆へと声をかける。

 

「悪ぃな、貧乏くじをひかせる事になっちまった」

 

残った一番隊の面々は、或いは笑い、或いはため息をつき、或いは覚悟を決めた顔つきとなった。

 

「何を今更」

 

俺が直接率いる事が多い一番隊は、無頼の者を中心として構成されている。暴徒時代の配下、陳留に来てから降した賊、街の不良、そういった面々から腕っ節に自信のある者を選び鍛え上げた隊だ。だがその中にも毛色が違うヤツもいる、今進み出てきた牛金がそうだ。

 

「吼狼様がそう言う性分なのは皆知っている、それに貴方の『本気』はある種の『蠱毒』だ。無闇矢鱈に若者に見せるべきでもないでしょう」

 

牛金、真名を(ゆう)。元曹仁隊所属、四ヶ月ぐらい前に志願して転属して来た。一時は華侖の副官を務めたほどの手練だが、曰くあまりに自由過ぎる曹仁隊の雰囲気が身に合わなかった、との事。こっちに転属して来てからは一兵卒として出直し、派手さは無いが堅実な手腕で功績を積み重ね、唯一所属半年未満で一番隊に所属する事になった。真面目だが融通を利かせる程度に柔軟な思考と無頼の連中を納得させるだけの腕っ節を持ち、今では一番隊のまとめ役をも任せている。

 

「・・・・だな、迅と緋那の隊が退去。賊が流れ込んできたら始めるぞ、『片っ端から喰らい尽くせ』」

「「「「応!!」」」」

 

俺の直属兵はそれぞれ特色を持たせて更に五つの隊に分けている。二番隊は『堅牢』な護りを、三番隊は騎馬を中心とした『機動力』、四番隊は集で戦う『連携』、五番隊は一通りをこなせる『汎用性』。そして一番隊は手向かう全てを喰らう『破壊力』、その一点においては虎豹騎にも夏侯惇隊にも負けない。

 

「・・・・あー、吼狼様」

「あ?」

「その必要は無さそうです」

 

眼を細め、遠くを見ている犹。賊の更に向こう、そこに見える『曹』の旗。

 

「・・・・・・・・予定変更、このまま押し返して本隊と挟撃するぞ」

 

 

―――――――――

 

「随分と速く到着したもんで」

 

本隊の介入により兵数の有利不利が逆転すると、賊が崩れるのは直ぐだった。春蘭、華侖、季衣、香風に叩かれ、追い回される賊をちょっとだけ憐れみながら華琳様と合流を果たしていた。

 

「本気を出して準備を整えてくれた娘が何人かいたもの、その健気さには報いなければならないと思うのだけれど?」

 

ニヤリと笑う華琳様、の言葉に反応して何人かが視線を逸らす。桂花に栄華、柳琳の三人が、一斉にだ。

 

「ま・・・・『本気』にならなくて助かりましたよ」

 

華琳様と、互いに笑みを浮かべながら、俺は視線を楽進、李典、于禁の三人へと向けて一つの提案をする。

 

「華琳様、今回の定陶の防衛。この楽進、李典、于禁の三名率いる義勇軍にかなり助けられました。俺はこの三名を推挙します」

「あら、それ程に優秀なの?」

「それぞれに課題はありますが即戦力かと、しかるべき上官につけてこの乱の間に鍛えれば今後の『魏』の根幹を担う将となってくれるはずです」

 

楽進には指揮官としての能力が足らず、于禁には戦うと言う意思が欠けている。そういう意味では即戦力に最も近いのは李典か、武力、指揮能力ともに水準以上でありまた物事に割り切った判断を下す事が出来る。

 

「楽進、李典、于禁。貴方たちさえ良ければ、先ずはこの乱を治めるために力を貸して頂戴」

「はっ!」

「まぁ・・・・そうするしか無いわなぁ」

「うぅ、自信無いけど頑張ってみるの」

 

よし。となれば後は誰の下につけるかだな・・・・

 

「というわけで吼狼、三人とも貴方の下につけるわ」

「またですかぃ!?」

「あら、貴方が即戦力級だと言ったのでしょう?」

「そろそろ他の連中にも人を育てる事を覚えさせましょうや!」

 

今のところ俺だけじゃねぇか!

 

「なら誰が誰の下につくのが良いかしら、貴方の意見を聞かせて頂戴」

「楽進は柳琳、于禁は桂花、李典は俺が受け持つ」

 

先の防衛、楽進は確かに良く戦っていたがあくまで『楽進が』だ。そっちに行かせてた俺の隊の奴らに話を聞くと、楽進個人の武勇で無理やり流れを変え続けてたらしい。春蘭みたいな天賦の才があるならばそれでも良いが、楽進のは恐らく努力の末に手に入れた力だ。それでは限界が来る、だから柳琳のところで兵たちと連携を取る事を覚えて欲しい。まぁ・・・・『虎豹騎』はちょっと特殊だが。

 

于禁は優しい、優しいが故にあれもこれもと切り捨てる事ができずに戸惑ってしまう傾向があるように思える。だから軍師である桂花の下で、様々な知識と使い方と言うのを覚えて欲しい。切り捨てなくて良い方法も、最も犠牲無く済ませる方法も、それらを頭の中で割り切る方法も、今の桂花なら教えてくれるはずだ。

 

そして李典。急造とは言え一昼夜耐える防護柵を作り、また援兵の振り分けも中々悪くは無かった。俺の指示を必要な事だと割り切って躊躇う于禁を引きずってでも撤退する、その気性を俺は買う。特殊な技能なら、学び、鍛えれば身に付ける事はいくらでも出来る、だが精神的なものは身に着けようとして身につくことではない。最初からそれを備えている、と言うのはそれだけで貴重なのだ。

 

「わかったわ、貴方の案を受け入れましょう。もう一人の方も・・・・任せるわよ」

「ああ」

 

 

SIDE 迅

 

「よぉ、何してんだこんなところで」

 

俺はやってはならない失敗を犯してしまった。定陶防衛、北門を割り当てられた俺は他よりも多めの援兵をもらっておきながら最後の最後で突破されちまった。しかも賊程度に、だ。最終的に元々割り当てられてた五百に加え援護でもらったのが五百、併せ千もいたのに本隊が助けに入った時には四百にまで減っていた。途中から、ハッキリと目に見えて俺のところに兵が多く攻め寄せてきていた、賊の目から見たって俺のところが穴に見えてたんだ。

 

「ダンナ・・・・俺は・・・・」

「・・・・迅、この遠征が終わるまではお前から指揮権を剥奪。秋蘭の指揮下に入って動け」

 

頭を殴りつけられたような衝撃、いやわかりきっていた事だ。最低限の任務も果たせず、多くの兵を死なせ、それでいて将としてそのままなんて虫が良すぎる。

 

「俺はこれがお前の実力だ、なんて思っちゃいない」

 

一瞬、困惑する。

 

「だから学んで来い、秋蘭は守勢じゃ今のところ陳留軍随一だ。学ぶ事は多いだろ・・・・だからんな辛気臭ぇツラすんな、悔しいなら這い上がって来い」

「分かってますって・・・・」

 

涙で目が滲む、何時以来かな、泣くのは。

 

「一から、出直して来ます」

 

全体としては勝ちだ、だが間違いなく俺は負けた。負けたまんまでいられるか、今回の負けは俺だけじゃねぇ、ダンナの顔に泥塗ったのとおんなじだ。それが何より悔しい、ダンナは昔も今も俺の憧れの、中華一の将だと信じてる。その人が信じた俺が、こんな程度で終わっていいわけが無い。

 

「次はうまくやってみせますって」

「あぁ、待ってるぞ」

 

終わってたまるかよ。




第七話でした。

んー、気のせいか一話に話の流れを詰め込みすぎている気がしないでも無いんですが・・・・どんなもんなんでしょう?

とまぁ、三羽烏も出ました。これ以上は出ないって言ってたオリキャラもサラッと出ました。

あと、お気に入り登録がとうとう千件を突破しました!本当に皆さん、ありがとうございます!


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第八話:救援要請

賊の大軍が沛を襲撃、救援求む。

 

定陶での戦が終わり、避難していた民を戻らせ、一通り居住するのに必要な最低限の復旧作業と防護柵の製造を済ませ。定陶の住民に食料を配って足りなくなったので、陳留からの補給を受けてから次の行動を。そう考え一時休息していた俺たちの下に、その報は届いた。

 

図らずとも、華琳様は州牧就任の件で陳珪に借りを作っている。押し売りされた、とも言うが。まぁともかく、それを返す必要は必ずあり、そうでなくともこれを断れば陳珪が生きようが死のうが評判ガタ落ち、行く以外の選択肢は無いわけで。

 

「で、まぁ今回は遊軍として動く事になった」

 

元々連れていた緋那に加え、急遽迅が抜けた穴を埋めるために昇格した犹、後から合流した一刀。更には先の戦の後に加わった真桜(李典)を加えて五名、俺の直属兵約五百で別働隊として沛を目指す事になった。

 

「本当は桂花、栄華、柳琳が『吼狼様(さん)はここに待機させるべきです!』って言ってたんだけどさ、華琳が最大戦力を遊ばせるわけにはいかない・・・・って」

 

以前の豫州遠征以来、一刀は目に見えて成長を見せた。武術は一般兵より上、親衛隊より下。部隊を指揮する能力は高く、その点で現状では季衣や真桜、凪(楽進)、沙和(于禁)よりも将としての技量は上に立っている。文字の読み書きも覚え、少なくとも書類仕事を貯める春蘭や内容が大雑把な華侖よりも良い、かなり良い。またその人柄で兵や民からの人気もあるため、最近の華琳様の領内では『仁将』なんて呼ばれ方が生まれ、定着しているぐらいだ。

 

「流石は吼狼様です!」

「ですが遊軍とは言え気は抜けませんな、一刻を争う案件でしょうし」

「せやなぁ・・・・けどどないします?」

 

真桜の「どないします?」は機動力的な問題の事を言ってるんだろう。ウチの騎馬は三番隊の百だけ、残りは全部歩兵だ。

 

「犹」

「はい?」

「騎馬に二人乗りで通常行軍の倍速、可能だと思うか?」

 

俺の言葉に、顎に手を当て考え始める牛金。

 

「可能か、と問われれば可能でしょう。ですが現地到着後、騎馬隊としての戦力は期待出来ませんが」

「構わん、騎馬だけを急がせて百を送り込むぐらいなら多少の脚の犠牲を覚悟してでも二百を送り込むべきだ」

 

そもそも、遊軍として行く俺らがやるべきは沛城に既に賊が入っていた場合、陳珪と娘の陳登、この二人を救出するのが優先だ。だからこそ華琳様も俺に直属の部隊以外は寄越さなかったんだろう。市街地で動きづらい三番隊の騎馬百では不利、むしろ『戦う場所を選ばない』一番隊の百が行く方が良い。

 

「承りました、人選は?」

「俺と犹が行く。一刀を指揮官に補佐は緋那と真桜で歩兵部隊を任せる、現地に到着したら一刀の判断で隊を動かせ」

「ちょっと待って、俺!?」

 

俺の人選に待ったをかける一刀。

 

「一刀、太公望流用兵術の心得は?」

 

つい最近、師匠から教わった用兵術に俺は『太公望流』と敢えて名を付けてみた。華琳様のところに仕官してから師匠の行方を探ってみたのだが一向に見つける事が出来ず、もし俺と『太公望流』の名が広がれば何時か、生きているなら師匠の耳にも入るんじゃないかと考えたワケだ。

 

「『一に嫌がらせ二に嫌がらせ、三四がなくて五に嫌がらせ』」

「何やねんそのゲスい心得」

 

思わず真桜がツッコミを入れるような心得だが、師匠の教えを一つ一つ理解し、俺も結局その結果に行き着いてしまった。

 

「それさえ覚えてりゃ大丈夫だ」

 

犹が引いてきた馬に飛び乗り、俺は槍を携え、犹は斬馬刀を提げ俺の後ろへと乗る。

 

「まぁ一つだけ助言するならよ、『お前なりの眼で戦場を見ろ』だ」

 

―――――――――

 

「吼狼様、一つだけお伺いしても?」

 

一糸乱れず目的地に向かい駆ける百騎、その最中に犹がそんな事を言う。

 

「何だ?」

「北郷への助言の意味を」

 

多分、コイツも生真面目だからずっと考えていたんだろう。

 

「俺の持論だがな、ある程度の実力と実績を持つ将ってのは独自の『戦』を持っている。『勘』と言い換えても良いかも知れん、一種の捉え方だな」

 

俺が知る中では、華琳様は戦場を『俯瞰した盤面』と見ている、華侖も独特な感性で部隊を動かす。

 

『俺にとって戦場は釣りさ。標的が食いつく餌を用意し、食いつかざるを得ない状況を作り出し、最後には釣り上げる。それが俺の戦だ』

 

ってのは師匠の言葉だ。

 

「北郷にもその才がある、と?」

「分からん」

 

知識の偏りもそうだが、鋭いと思えば妙な鈍さを見せる時もある。甘っちょろい事を言いながらも、現実主義なところもある。

 

「だが他の誰よりも化ける可能性がある、それは華琳様が見据える未来に必要なモノだ」

 

俺と華琳様の中にある構想、それに必要な欠片が埋まるかもしれない。

 

「さてと・・・・おーおー、随分と押し込まれてんじゃねぇの。華琳様たちも到着してねぇみたいだな」

 

眼前には沛城、既に四方の外門は抜かれ、内門にまで敵が殺到している状況だ。

 

「全騎外門に入る前に馬を捨てて徒歩!俺と犹が先頭を走るから討ち漏らしを片っ端から討て!真っ直ぐに内門を確保!以降は各門に五十づつで内門全部を確保し本隊の到着までもたせる!異論反論があるなら今のうちだぞ!?」

「「「「「ありません!!」」」」」

「ならガムシャラに突っ走れ!!遅れるヤツぁ蹴っ飛ばせ!転んだヤツを踏み越えろ!!」

「「「「「応!!」」」」」

 

 

SIDE 一刀

 

「俺と犹が行く。一刀を指揮官に補佐は緋那と真桜で歩兵部隊を任せる、現地に到着したら一刀の判断で隊を動かせ」

「ちょっと待って、俺!?」

 

突然の指名に、俺は思わず吼狼に待ったをかけていた。確かに華琳の臣下、って枠組みで吼狼と犹さんがいなくなったら古参なのは俺だ。でもイキナリすぎやしないか?俺じゃなくたって緋那に任せた方が無難だと思うんだけど。

 

「一刀、太公望流用兵術の心得は?」

 

以前の遠征が終わってから俺は吼狼にいろいろな事を教わり始めた。その最たるものが吼狼が『太公望流』って名付けた用兵術。なんでも吼狼の師匠が自称『太公望』だった事から名付けたと言う用兵術だ。

 

「『一に嫌がらせ、二に嫌がらせ、三四がなくて五に嫌がらせ』」

「何やねんそのゲスい心得」

 

ゲスい、と言う真桜の言葉ももっともだが華琳や秋蘭、桂花、立夏たち俺の知る三国志でも有数の将や軍師たちが口を揃えて『最も効果的に、最小手で最大の成果を出せる』と評価した用兵術だ。

 

「それさえ覚えてりゃ大丈夫だ」

 

犹が引いてきた馬ひ吼狼が飛び乗り、犹は斬馬刀を提げ吼狼の後ろへと飛び乗る。

 

「まぁ一つだけ助言するならよ、『お前なりの眼で戦場を見ろ』だ」

 

その言葉だけを残して、二百を連れて駆け出す吼狼。

 

「俺なりの眼で・・・・」

 

吼狼の言葉を、頭の中で噛み砕く。

 

「さて、どうします副長さん?」

「せやな、どないすんねん副長?」

「ふ、副長!?」

 

急に副長呼び!?

 

「指揮官は一刀さんです。将軍はあくまで吼狼様です!ですからその下で隊を預けられた一刀さんを副長と呼ぶのは当然だと思います!」

「せやで!ほら気張りぃ副長!」

 

そうだよな、俺は陳留でも最強な吼狼の隊を預けられたんだ。他ならぬ吼狼当人に、預けられたんだ。気負っちゃいけない、だけどやれるだけの事をやらなきゃな。

 

「分かった・・・・取り敢えず斥候を出しながら通常速度で行軍、緋那は本隊に伝令を出して。本隊と足並みを揃えながら現地に向かおう、真桜は斥候の指揮を取って。些細な事でも逃さないように」

「はい!分かりました!」

「任しとき!」

 

・・・・歴史は俺が覚えているものより確実に反れて行っている。少なくとも俺の知る魏、呉、蜀の三国が鼎立していた時期に『鄧艾』と言う武将が活躍していた記憶は無い、『郭淮』も『司馬懿』も、もう少し後の人物だったはずだ。『張郃』だってこの頃はまだ『袁紹』の配下だったはず。もう未来の知識はあてに出来ない、俺自身の考えと眼で、全てを決めるしか無い。

 

「じゃあ通常行軍で行こう!場合によっては倍速、それ以上もあるかも知れない!その時まで決して無理をしない事!」

「「「「「応っ!!」」」」」

 

『曹操』の『臣下』である事に恥じぬように、『鄧艾』の『弟子』である事を嘲笑われぬように。

 

気合、入れていこう。




第八話でした。

この作品の一刀君は通常の三倍強い(当社比)一刀君です。

そして三羽烏がバラけた事により一刀君の呼称が『副長』に。そのうち『将軍』とか呼ばれる日が来るかもしれない。


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第九話:一刀の目覚め

「南内門確保!」

「東内門、確保」

「西内門確保しやした!」

「北内門確保、全内門を抑えました」

 

次々に上がってくる報告。

 

「夏侯惇将軍の隊が東外門より突入!」

「続けて曹仁将軍が西外門から!」

「許褚将軍が北外門を抜きました!」

「北郷『副長』が南外門から突入」

 

いつの間にやら『副長』と認められちまった一刀も、市街地と言う地形と少数の利を活かしながら上手く戦ってるようだ。それを補佐する緋那、真桜がまた良い働きをしている。

 

「ならこのまま内門の守備を継続、指揮は犹に任せる」

「吼狼様は?」

「陳珪、陳登母子のところへ、どうせ春蘭と共に華琳様も突破して来るだろう。数人着いて来い、念のため護衛に向かう」

「分かりました」

 

―――――――――

 

「意外といえば意外な組み合わせだな?」

 

確かに、俺とほぼ同時に陳珪、陳登がいる部屋の前まで来た華琳様。だが意外だったのは、一緒にいたのが春蘭では無く一刀だった事だ。

 

「春蘭よりも一刀の方が内門到達が早かったもの、であれば一刀と一緒にいてもおかしくはないでしょう?」

「ほぉ?」

 

頬をかきながら照れるように笑う一刀。緋那や真桜の補佐があったり、春蘭が具体的な命令や華琳様の直接的な指示がなければただの猪である事を差し引いたとしてもそれより速いとは。俺が思っている以上に、一刀には才能があり、それを開花させつつあるのかもしれない。弟子の才能に歓喜したい気持ちと、本来一刀が生きていた時代なら不必要な才能であったと思う気持ちが俺の中でまぜこぜになっている。

 

「あー・・・・華琳、そろそろ隊の皆のところに戻って良いかな?」

「あら、陳珪と陳登には会わないの?」

「初めて吼狼の部隊を任されたからさ、最後まで仕事を果たしたいんだよ」

 

俺と華琳様は、思わず顔を見合わせながら頷く。

 

「なら行ってこい」

「あぁ!」

 

駆けていく一刀、その背中を見ながら先に口を開いたのは華琳様の方だった。

 

「一刀が最後の一欠片、そう貴方は見定めたの?」

「本当は気が進まねぇんだがよ、仕方ないでしょうさ。アイツが選び取った道の先に、その可能性が見いだせたならやらせるしか無い」

 

一刀には戦いに首を突っ込まない道も用意していた、そのために書類仕事を覚えさせたし、一刀の未来の知識からの発想には俺たちの視点からじゃ見えないものもあった。だからこそ、俺は内心一刀には文官としての将来を嘱望していた。だが華琳様が「一刀に選択肢は選ばせろ」と言った、そして一刀は自ら武官としての道を選び、確かな軍才を発揮しつつある。

 

「道を選んだなら、俺たち先達に出来るのはその後押しだけだ。そうは思わないか?陳珪殿」

「あら、気づいていたの?」

 

扉が開かれると、そこには陳珪が笑みを浮かべていた。

 

「曹操殿、此度は要請に応じ救援いただき感謝致します」

 

恭しく一礼し、澱みなく定型的にそう述べる陳珪。

 

「一方的に貸しだけを押し付けられるのも癪だもの」

 

対して華琳様の返答は実にらしいものだ。

 

「ええ、そうでしょうね。そして今回の事で、逆にこちらは貴女に借りを作ってしまった」

「そうね、今度はどんな対価を返して貰えるのかしら?」

 

華琳様の問いに、陳珪は真顔になって少しだけ考える素ぶりを見せた。そして次に、顔を上げた時には先ほどと同じ笑みを浮かべ・・・・

 

「『豫州』、ではどうでしょうか?」

 

桂花あたりなら「国を売る気か」と怒鳴っていたかもしれない、立夏あたりは笑って「なるほどぉ」とか頷いていたかもしれない。俺も華琳様も、この場合は後者だ。

 

「一応聞くがよ、『それで良いんだな』?」

「えぇ、私は寄る辺として枯れかけた大樹である『漢王朝』よりもこれから成長するであろう若木の『曹孟徳』を選んだ。それは私のためでもあり、領民のためでもある」

 

それが陳珪と言う人間の生き方なんだろう、折れないように、潰されないように、健かにしなやかに。だからこそ朝廷と離れた豫州にあっても、朝廷を牽制しつつ権勢を保ち続けられたのだろう。そんな彼女が、『漢王朝』に見切りをつけて寄る辺として華琳様を選ぶと宣言した。

 

「だ、そうですが華琳様?」

「なら陳珪、これからは私のために働きなさい。陳登もよ」

 

陳登は、一時期農業指導のために陳留に派遣されてきていた時期があった。その頃から、華琳様は陳登の才能に眼を付けていたんだと思う。朝廷にも顔が広い陳珪、農業関連に関して相当な知識と実績を持つ陳登。この二人の加入はここから先に必要な事だ。

 

「一先ずは陳珪、このまま豫州は貴女に任せるわ。細かい話は後日でも構わないでしょう?」

「はい、仰せのままに」

 

SIDE 華琳

 

「何か言いたそうね?吼狼」

 

陳珪と別れ、次の行動に移るべく城内を移動する最中。私は吼狼へとそう、問いかけていた。普段は相手をけむに巻いたりするのが得意なくせに、こういう時だけ妙に顔に出すんですもの。

 

「随分あっさりと燈(陳珪)の申し出を受け入れたな、と思っただけですよ」

「そうね、かつての私ならばもう少し疑ったでしょうし、燈に『為政者としての誇りは無いのか』と詰る事もしたでしょうね。でもそんな考え方を変えてくれたのは貴方よ、吼狼」

 

吼狼からの問いに、私は迷わずそう答えていた。

 

「『誇りのために死ねるのはほんのひと握りだけ、普通の兵や民草はそこまで出来ない。だからこそ、為政者の務めとは一人でも多くの民を生かし、先へと繋ぐ事』。これは貴方の言葉よ」

 

私や、私に仕える事を誇りだと言ってくれている吼狼や春蘭、秋蘭たちをはじめとした将や桂花、立夏のような軍師、文官たちは自らの仕事に誇りを持ち、そのためならば死ぬ覚悟も出来ている。でも兵や民はそうではない、彼らの大半はその日その日を生きられれば良いのだ。吼狼は、農民の出であり、また国のやり方に憤慨し暴動を引き起こした事もあった。そんな経歴があったからこその言葉なのだ。

 

「国と民を巻き込みくだらない誇りと共に散るぐらいならば国と民を活かすために誇りを捨てる、そういう生き方もあるのだと理解しただけよ。天下を一つに統べる過程、当然私の懐の中にも様々な考えを持つ者が集まるでしょう。貴方や燈の思想は理解の範疇、そう思っているだけの事よ」

「さいですか」

 

ならいい、と言わんばかりに視線を廊下の奥へと向ける吼狼。その先からは、一刀がこちらへと駆けてきていた。

―――――――――

 

「華琳!吼狼!早馬が来た!」

「どこからだ?」

「官軍の賈駆って人から!」

 

賈駆、あまり聞かない名だな。

 

「要件は?」

「豫州に出陣中の官軍の救援を頼むって」

 

どう言う事だ?豫州に遠征中と言えば盧植、張遼、華雄の三将のはずだ。何れも知勇、武勇に優れた将のはずだがな。

 

「なんでも冀州で袁紹との連携を取れなくて、作戦を失敗させた責任を取らせるってまともに補給も出来ない状態で転戦させられたらしくて」

 

そう、説明する一刀の言葉を聞いてから華琳様を見れば渋い表情をしていた。

 

「どうせ麗羽が作戦を無視して勝手に動いたんでしょうけど・・・・音に聞こえた将たちを見捨てるのは性に合わないわね、吼狼!」

「分かってますよ・・・・春蘭、秋蘭、華侖、香風、凪、季衣、迅で半分引き連れて救援に向かえ!」

 

今回の戦いじゃ不完全燃焼だった春蘭を行かせるとしよう。アレでも官位持ちだし家柄的にも問題は無い、十分に華琳様の顔を立てた上で成果を残せるだろう。

 

「残りは一度陳留に帰還、補給などを済ませ次の戦いに備える。桂花と栄華には立夏と連絡を取り合い、補給の手筈を整えるように伝えろ。一刀、柳琳、緋那、沙和で行軍指揮を、真桜は俺と後詰だ」

 

俺の指示に、直ぐに皆が動き出す。と、俺は華琳様へと一つの疑問を投げつける。

 

「ところで・・・・袁紹とはどう言う関係で?真名を呼べる程度には仲は良かったんでしょう?」

「悪友兼好敵手、と言ったところかしら」

 

悪友だけど好敵手ってどんなんだよ。

 

「洛陽にいた頃には色々とやったわ。気に入っていた娘が嫁入りすると聞いて二人で攫いに行ったり」

 

華琳様は割とヤンチャだった、と栄華や柳琳が言っていたが本当だったようだ。

 

「それでもね、私と麗羽は決定的に性格も思想も合わないの。利害が一致すれば協力するだけの器量はお互いに備えている、でも心の底から理解しあう事は無い」

 

なる程ねぇ。

 

「そして私が今現在、同世代の中でも最も危険視しているのが麗羽よ」

「参考までに・・・・理由を聞かせちゃくれませんかね?」

「麗羽自身の自尊心を省けば無駄が無いのよ、『袁紹』と言う『器』にはね。潤沢な『資金』に加え名家と言う『箔』、その名前に集う『人材』、ハッキリと断言しても良い。私の覇業に最初に立ちはだかるのが麗羽で、麗羽を打ち倒さない限り天下には手が届かない。だって麗羽こそが『旧き漢王朝』の集大成とでも言うべき存在ですもの」

 

『袁紹』と言う『漢王朝』最期とも言える傑物を討つ事で旧き時代の終わりを告げ、新しい時代の到来を伝える。そこから、ようやく『曹孟徳』の『覇道』が始まるのだと。華琳様はそう思っている、いや『確信』しているのだろう。

 

「ま・・・・何とかなるでしょうよ」

「あっさり言うわね」

 

訝しげな表情の華琳様に、俺は笑いながら答える。

 

「確かに袁紹との決着はそう遠くない未来でしょうよ、だが華琳様には春蘭や秋蘭、栄華に華侖、柳琳たちがいる。桂花や立夏、香風、迅、由空、緋那たちもいる。凪、沙和、真桜たちもいれば一刀もいるしこれからも新しい『力』がどんどん集まってくる、そして何より・・・・・・・・俺がいる。どうです?」

 

一瞬、ポカンとした表情をする華琳様。だが次の瞬間、大声をあげて笑い始める。周囲にいた兵たちや、真桜、桂花、栄華らが唖然とした表情をする。

 

「アハハハハハハハハッ!!そうね、そうだったわ!貴方は正しく私にとっての太公望よ!」

 

一頻り笑い、そして息を落ち着かせてから華琳様は言葉を続ける。

 

「私が迷ったなら叩いてでも前に進ませて、私が間違っているなら殴ってでも正して。貴方だけが、私にそうする事を許すわ」

「仰せのままに、華琳様」

「あとそれ!」

 

ビッ、と俺を指差す華琳様。

 

「臣下でありながら私と対等に接する事を許すのは貴方だけ、なのにいつまでそんな畏まった呼び方をするつもり?元々言葉遣いもそこまで丁寧では無いのだから今更でしょう?」

「とは言いますがね、イキナリ改めろと言われても・・・・まぁ、努力はする」

 

ニィッと口角を釣り上げ笑みを浮かべる華琳様。俺はこれ知ってるぞ、春蘭や一刀を弄る時と同じ顔だ。

 

「あら、私が最も信頼を置く忠臣はこの程度の事すら出来ないと言うのかしら?」

「―――っ」

 

いちいち言い方がズルいんだよなぁ、この人は。

 

「分ぁったよ!」

 

「これまでは多少、遠慮してたがもう一切それは投げ捨てる!覚悟しろよ華琳!!」

「えぇ、望むところよ」




第九話でした。

今作の一刀君は萌将伝verの万能型な能力値に加え、更に吼狼の修行と指導により底上げされてます。これまでの魏の種馬とは違うのだよ!

もう一話か二話ぐらいで黄巾編は終わる予定です。


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第十話:表舞台へと

燈と喜雨(陳登)の救援を終えて後、俺たちは一度陳留へと戻り補給と休息を取る事にした。途中で吸収した義勇兵や賊の降兵の事もあるし、州牧としての業務の事も考えれば戻る必要性もあるとの判断だった。

 

それにだ。

 

今は『下準備』をすべきだ、と言うのが俺、華琳、桂花、立夏の共通の見解だった。洛陽方面でのキナ臭い噂も燈から伝えられている。黄巾討伐の軍とそれに備える軍を分けるべきだ、となったのだ。

 

「なら華琳が陳留に残り備えを、俺が黄巾討伐に、それで良いんだな?」

「えぇ、本来ならば私がこの乱の終止符を打ちたいのだけれども。『鄧艾』と言う才を大陸中に知らしめるには絶好の舞台だもの」

 

舞台袖じゃなくて舞台に上がれ、ってことね。

 

「一刀、由空、立夏、犹はこっちに欲しいんだがな」

「あら?迅はいいの?」

「・・・・今しばらくは秋蘭の下で学ばせる、その方が良いんだよ。迅にとっても、秋蘭にとっても」

 

どういう事だ、と華琳の目は問いかけてきていた。だが俺は首を横に振り、今は説明出来ない、と意思を示す。だってあくまで俺の感覚なんだもんよ。

 

「そう・・・・なら華侖、柳琳、凪、真桜、緋那もそれに付け加えるわ。兵数は一万、他の官軍も直に現状を嗅ぎ付けてくるわ」

「分かってる、『このために作り出した状況』だ」

 

陳留に戻って直ぐ、俺の進言で華琳は州牧として兗州全域の関所にとある命令を出した。

 

『兗州に入る者は自由に入らせろ、ただし出ようとする者は厳しく精査すべし』

 

入るのは簡単、出るには難解。それにより、他州で敗走した黄巾が分散しながらも兗州領内に集まっている。今はまだ二万、三万程度だ。だがそれが次第に膨れ上がってくれば?黄巾が集まるであろう地点付近には兵力を集め、劉岱、張邈、鮑信ら兗州東部の諸侯にも協力を仰ぎ徹底的に警戒態勢を敷いて貰っている。このまま膨れ上がり続け、糧食の補給もままならなくなってくれば、自然と士気は落ち、立て直しが効かなくなってくる。

 

「それよりもだ、あの件はどうする?」

「今はどうしようも無いわね、救いは孫策がこの事を袁術に報告していないらしい、と言う点だけれども」

 

官軍の援護に赴いていた春蘭が急に後退した賊を負う最中に淮南へと侵入、淮南太守である袁術配下の客将孫策と協力し賊を一掃。これが袁術側、もしくは孫策からの申し出によるモノならば良かった。だが春蘭が『釣られた』のだ、それぐらいの事をやってのける指揮官が黄巾にはいる・・・・と言うのは割とどうでも良い、春蘭が釣られるのはよくある事だ。だがその結果、孫策に助けられたと言うのが問題だ。

 

「向こうも今すぐにどうこうしろ、ってつもりは無いらしいな」

 

ちなみにその春蘭だが、お仕置きとして今は『私は馬鹿で猪な筆頭武官(笑)です』と言う札を首から提げさせて太守府の廊下に立たせている。

 

「まぁ、当人もマズイ事をしたと言う自覚はあるようだしな。あとは戦働きで失態を取り戻すようにさせとこう」

「そうね」

 

『江東の虎』と呼ばれた孫堅、その娘の孫策。田舎者だった俺だって知るような英傑の娘だ、今は諸事情により袁術に従属してはいるがそのままの境遇に甘んじる程大人しい気性では無いだろう。

 

「それで?黄巾を膨れさせ、統制を自壊させ、最後の一手は?」

「見てみなけりゃなんともな、まぁ『火』だろうがな」

 

少数で多数を叩くには古典的だが最も効果的だ。一刀たちに火計の効果と怖さというのを教えるのにも良い機会だろう。

 

「ともかく、補給は一日かけて入念に。その分だけ連れて行く連中を休ませるつもりだからよ」

「ええ、分かっているわ」

 

―――――――――

 

その日の夕方、俺は出陣予定の将全員に招集をかけていた。場所は俺の屋敷、そこに設けた会議室。一刀の『会議だったらこれだろ!』と言うワケの分からんノリで設置された円卓には俺を基準に左回りで一刀、立夏、犹、緋那、由空、真桜、凪、柳琳、華侖の順番で席に着いている。

 

「まぁ察しはついているだろうが、黄巾本隊との戦いにはこの面子で行く事になった。兵数は一万、俺が総大将で副将として一刀、華侖、柳琳の三人だ」

 

一刀の表情に緊張が走る。これは予め、一刀には予告していた事だ。先日の沛城救援において一刀は第一功となり、正式に将として直属部隊をあずけられる事になった。現在は、立夏と凪を補佐として部隊の運営を行っており、春蘭、秋蘭、華侖、柳琳に続く直属部隊持ちとして武官で上から五指に入る存在となったワケだ。

 

「出陣は明後日、再編と補給が終わり次第だ」

 

質問はあるか?と問いかければ、緋那がシュタッと手を上げる。

 

「編成はどうなるんですか?」

「臨機応変、ただし接敵する必要がある場合は・・・・」

 

「右翼を一刀、立夏、凪で北郷隊を中心とした二千」

「宜しくな、立夏、凪」

「えぇ、お任せくださいな」

「はっ!」

 

北郷隊は新設されたばかりの部隊で兵数五百、練度は低いが元々は凪、真桜、沙和が率いていた義勇軍が中心となっており、兵卒間の親和性はかなり高い。指揮するのも最近軍才を発揮しはじめた一刀に、武力では軍内で五指に入る凪、そして視野の広さと抜け目のなさがウリな立夏。安定感はかなり高いだろう。

 

「左翼を柳琳、由空、緋那で虎豹騎を中心とした二千」

「お二人とも、よろしくお願いしますね」

「はっ!柳琳様のために!」

「由空さんってもしかして・・・・」

 

曹操軍最強、との定評がある虎豹騎。それを指揮するのは万能な柳琳と、元虎豹騎兵長のであり武勇、智謀両方に定評がある由空に堅実な手腕を持つ緋那。一番心配が要らないのはここだと思う。

 

「前衛は華侖と犹で曹仁隊を中心とした二千」

「犹っちと組むのは久しぶりっす!」

「・・・・・・・・そうですね」

 

曹操軍で最も自由奔放な将である華侖と数ヶ月前まではその補佐をしていた犹、華侖が突拍子もない事をやりそうではあるが、犹がしっかりその穴埋めはしてくれるだろう。犹が心なしか死んだ目をしているがそこは耐えて欲しい、他に華侖に対して満足な補佐が出来る人材がいないんだから。

 

「本隊、兼後詰として俺と真桜で鄧艾隊を中心とした四千となる」

「ウチかいな!?」

 

そして鄧艾隊を中心とした四千は他隊への予備兵を内包し、いざとなれば真桜や武官候補たちに兵を率いて迅速に走ってもらわなければならない。場合によっては俺が出なければならない、その時に人員と予備兵の割り振りを的確に、冷静に、やってくれるのは真桜だろう。

 

正直言ってここ最近の新人の中で一刀の次に俺は真桜を評価している。単純な手腕だけなら俺の直下では緋那や由空の方が上だ、だが先日まで庶人だったと言うのが信じられないくらいに真桜の精神は完成している。必要な事を必要だからと割り切り、公平な目で優先順位を定め動く事が出来る。熟練の将でもそこまで完成した思考を持っている者は少ない。もしかすれば一刀とは違う方面で、将として大成する事が出来るかもしれん。

 

「この陣容は確定事項だ、異論、反論は認めるが俺を論破しなければ要望は通らないものと思え」

 

俺の宣告に、口を噤んだのは犹と真桜だった。真桜は予想していた、やろうと決めればちゃんとやるが普段は割とだらけてるところがあるからだ。だが犹だけは予想外だった、確かに華侖の隊の気風が合わなくて異動を願い出た、と当人は言っていたがそこまで嫌か。まぁ今更変える気はさらさら無いが。

 

「今回は何よりも速さが求められる、()く黄巾の討伐を完遂し『次』に備えなければならない」

 

黄巾による乱など始まりでしかない、俺や華琳はその先に更なる乱が待ち受けていると予想している。その乱に備えるためにも、今ここでつまづくわけにはいかない。そして先を見据えたからこそ、春蘭、秋蘭の二枚看板を待機に回したのだ。俺に華侖、柳琳を除けば将になって、あるいは曹操軍に入って日が浅い者ばかりを連れて行くのだ。今でなければ、将としての経験を積ませるような運用はできないのだ。

 

「俺はお前らの中にある『可能性』を信じて采配を振るう、感じるがままに駆けろ、思い描くがままに兵を操れ、本能のままに武を奮え」

 

「俺たちの目指す場所は遥か先にある、立ち止まってる暇はねーぞ!!」

 

―――――――――

 

曹操の四天王、後にその筆頭とされる『鄧艾』。

 

その名前が中華全土に、確かな形で知れ渡る日は近い。




第十話でした。

今までの吼狼はどちらかといえば裏方でした、気づく人は気づく縁の下の力持ち的な。それが表舞台へと名を挙げるのが次回となります。そして黄巾党編も後一話か二話、その後閑話を挟んで反董卓連合編へと突入したいと思います。


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第十一話:雷鳴

「黄巾の本隊はおよそ十万、ですがその殆どが食うに困った飢民のような状態です。装備もロクに無く、また烏合の衆の様相も極まり集団同士の小競り合いが頻発。実質上戦えるのは一万か二万そこそこ、と言ったところでしょう」

 

由空からの報告を聞いて、俺は華琳と共に描いた図面が現実となっていることを確認する。

 

兗州へと入る事を一切制限せず、代わりに出る際には厳しすぎるぐらいの精査を課す。身に覚えの無い者は渋々ながらも精査を受けるが、身に覚えのある者は挙動不審だったり、強行突破を計ったりと様々な手段で州境を越えようとし失敗し続けた。その結果として、黄巾や、黄巾とは関係なかったはずの盗賊、山賊の類までもが兗州へと閉じ込められる。そこに『黄巾本隊は今までに略奪したりした食料や物資を溜め込んでいる』『本隊に合流すれば食いっぱぐれない』と言う噂を流す。それにより黄巾を含めた賊が、持ち合わせの食料、物資では賄えないほどに膨れ上がる。元々の黄巾本隊に属する連中は何らかの意思で統一され動いている、それはこれまでに捉えた黄巾兵の中には頑なに情報を出すことを拒み、自害を目論んだ者もいた事からはっきりしている。その意思をもった者と、意思もなく惰性で合流した者。そこには連携も何も無い、黄巾本隊からすれば言い方は悪いが大量の爺婆を背負って動くようなモンだ。

 

「ならすぐに動こう」

 

取り出した地図を全員で囲み、俺は指示を出す。

 

「各所から兵を少数で入らせ片っ端から火を点けさせる、その指示は立夏と凪に任せる」

「はぁーい」

「はっ!」

 

『火』による攻めは原始的だが最も効果的である。『熱』は人から水分を奪い、『煙』は呼吸を阻害する、『火』そのものによる傷は癒え難く、総じて正常な判断能力を奪う。殊に統率のとれていない烏合の衆が標的ともなれば、その効果は覿面だ。着火箇所の見極めは立夏が、いざとなれば気弾で炎を散らして退路の確保をするために凪。

 

「火が燃え広がったら北側は俺、由空、真桜で、南側を一刀、柳琳、緋那で半包囲する。無理に全てを討ち取る必要は無い、逃げる奴らは逃がせ。州境の戒厳令も解いてある、精々生き証人として大陸各地に散ってもらおう」

「御意!」

「了解や」

「あぁ」

「分かりました、お任せ下さい」

「はいっ!!」

 

無理に全てを討ち取る必要は無い、窮鼠が猫を咬み殺す事だってあるのだ。それよりも『十万の黄巾を二万の曹操軍が破った』と言う風評を流してもらう事に一役買ってもらうとしよう。北側を俺が担当、ただし出来る限り冀州方面には逃がさないようにしなければならないので能動的な動きが可能な由空と真桜。南側は一刀が担当、こちらは味方の損害を抑える事が重要なので堅実な指揮を行える柳琳と緋那。

 

「華侖と犹は火に巻かれないように陣内に突入、将を片っ端から討ち、張角、張梁、張宝と思しき者を見つけたら捕縛しろ」

「任せるっす!」

「仰せのままに」

 

雑兵ならいくら逃げてくれても構わない、だが将として動いていたものは逃がす必要は無い。半端に人を集め、操る力がある分、生き延びられては何をされるか分からない。何より扱いが難しいのは首魁であると『思われる』張角たち『三姉妹』である。・・・・正直、正体を掴み損ねていたが一刀と華侖、季衣、凪、真桜、沙和らからの証言で旅芸人の三姉妹と名前が同じである事が判明した。忍び込ませた密偵からも同様の情報が戻って来た。俄かには信じ難いが彼女らは『歌』一つでこの乱を起こしてみせた、もしかすれば行方不明の『あの書』が関わっている可能性もある。それに華琳が彼女らに、正確に言うならば彼女らの『技能』に興味を持っている。場合によっては庇護しようと考える程度には。だから捕縛、そしてそういうのに妙な嗅覚を働かせてくれる華侖と武力で五指に入る犹ってわけだ。

 

「全て叩き込んだな?なら後は各自の尽力に任せる」

 

―――――――――

 

今回の出陣前に、実は曹操軍所属の武官、文官全員が集められた。

 

華琳の目指すべき未来、その在り方の全てを敢えて語り、そのために今回、後事に備える華琳と黄巾討伐に動く俺で軍を割って動く事。

 

そして最後に去るならば今だと、華琳が付け加えていた。

 

誰一人として去る事は無かったその場で、俺は皆の前へと出させられた。

 

『鄧士載を今後は軍部の最高責任者『元帥』とする!!』

 

『元帥』の位は一刀からの提案だったらしい、なんでも一刀の時代で軍の最高責任者をそう呼んでいたそうな。語感を気に入ったのか、春蘭が羨ましがっていたが・・・・まぁそれはともかくだ。この戦いが終われば『曹操』の名の下に集う全てが、『中華統一』と言う目的に向かって動く事になる。その初戦とも言えるこの戦い、万に一つもしくじるわけにはいかない。

 

「陳泰、李典の隊はどうなってる?」

「既に二将共に配置についています」

 

んでまぁ、実は今まで俺って一般兵と同じ槍と馬で戦ってたんだよな。予算無かったし、あんまり前に出て戦う事無かったし。だが今回の出陣前に『我が軍の頂点に立つ貴方が何時までも兵卒と同じ装備で良いわけが無いでしょう?』と、新たに槍と馬を拝領しちまったワケだ。

 

槍の銘は『天雷』、馬の名は『飛電』。しかもそれに併せて俺の隊の装備が従来の曹操軍の鎧を紫と黒で塗り直し、全体的な意匠が『雷』を想起させるモノになった。

 

「北郷の方は?」

「北郷、曹純、張郃の三将からも準備が整ったと伝令が。曹仁、牛金、司馬懿、楽進も順次行動を開始すると」

「事が始まれば俺は前に出る、指揮と予備隊の扱いはお前に一任するぞ趙儼」

「御意」

 

趙儼は栄華から紹介されて従軍させた少年だ。ここまでの行軍の最中で色々と試してみたが、知識、実戦ともに相当なものだ、栄華が評価し紹介してくるだけの事はある。正直、歳の割には顔つきが険しく妙な威厳みたいなものがあるので単純に栄華の好みにあわなかっただけなのでは?とも勘繰ったがそんな事は無かったようだ。

 

「『飛雷騎』は全兵連れて行かれるので?」

 

そして俺直属の兵士三千名には『飛雷騎』の名が冠された、これもまた華琳の命名。「私に並び立つ者の近衛隊とも言うべき部隊、名が無ければ格好もつかないでしょう?」と。一刀や華侖、緋那ら子供心を忘れない連中がカッコいい、と眼を輝かせながら言っていた。不覚にも俺も同じ事を心の中で思ったのは内緒だ。

 

「当たり前だ、華琳の意向は『鄧艾の名を大陸全土に広める戦い』。俺の手足である『飛雷騎』も共に、でなけりゃ意味がねぇだろ?」

 

俺が笑いながら言えば、『飛雷騎』の面々から様々な声があがる。「流石アニキ、俺一生着いて行くぜ!」「アニキはやっぱり最高の男前だぜ!」「俺、アニキになら抱かれても良い!」「陳泰様がいないだけでやる気が出ねぇ・・・・」・・・・うん、後者は後で入念に半殺しだな。

 

「んじゃま、行くぜ野郎共!!」

「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」」」」」

 

SIDE ???

 

近頃、表立ってはいないがとある人物の名がその筋で囁かれ始めていた。

 

『鄧艾』

 

兗州州牧曹操の臣下。かつては豫州で暴徒を指揮し、都合七度に渡り官軍を撃退。その後に曹操へと臣従し、以後陰ながらその手腕を発揮。沛の相、陳珪の要請に応じての豫州遠征や定陶救援、沛城救援など着実に戦果を挙げてきた。その人物が、総勢一万の手勢をもってして黄巾十万の軍と戦うと言う。単純な数字の差は十倍、堅牢な城に籠もっての籠城ならばともかく野戦でそれを討ち果たそうと言う。

 

「・・・・どこだ」

 

見ずにはいられなかった。困りものな主君には狡いと駄々を捏ねられ、苦労性の軍師殿にはため息もつかれたが。十倍の敵に敢然と立ち向かおうとするその大馬鹿者の顔を、一目見ずにはいられなかったのだ。

 

眼下では徐々に黄巾の陣内で火の手が上がり始めていた。陣を半包囲する鄧艾の軍勢、どうやら『殲滅』ではなく『壊滅』と言う選択肢を取るようだ。曹操と鄧艾、この二人の英傑はいったいどれだけ『先』を見ていると言うのだ。二人にとって恐らくはここは『通過点』、目指す場所はずっとずっと先の事。

 

北側の戦線、その中央を黒と紫の一軍が正しく言葉通り蹂躙劇を成している。その要となっている将、漆黒の柄と紫色の刃の槍を自在に操り、黒一色の汗馬にて迫る全てを圧している。私とて軍を操る者、武術の心得は無くともあれ程の『武将』と『軍』が『噛み合う』事の脅威は知っている。今はまだ三千程の軍勢だが、それがもし万になれば?十万ともなってしまえば、どれほどの軍と策略を弄しても万に一つの勝目すら見えない化物になるだろう。

 

「十重二十重の策略に偶機、天運、ありとあらゆる要素を重ねてようやく届き得る領域・・・・か。人を見る眼はある、と自負してるけどそれを恨めしいと思ったのは初めてだ」

 

だからこそ、と思ってしまうのは男と言う生き物の(さが)なのかも知れない。

 

「何れ打ち勝ってみせよう」

 

目の前で炎の中に次々と消えゆく黄巾、それを眺めながら、今まで空虚だった『己』の中に『焔』が燃え上がるのを感じ取っていた。




第十一話でした。

『キングダム』を読んでいたら「直属部隊持ちの将軍ってカッコいいよね」と言う結論にいたり、本来官都辺りで出す予定だった『飛雷騎』を前倒しして登場させる事になりました。

そして最後に出てきた謎の人物、史実で関わりなんて殆ど無いにも関わらず吼狼のライバル枠になります。いったい誰なのか、適当に妄想して見て貰えればと思います。

次回で黄巾編終了になります。


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第十二話:戦後処理

「以上が此度の論功行賞の全てだ!昇格の辞令は後日各自に通達する、人事異動、再編もそれにともなって行われる。現時点で異動が決定しているものは前任者から、或いは後任者に引き継ぎを、万事抜かりなく済ませるように!」

 

張角、張梁、張宝の三姉妹を捕縛。黄巾軍の殆どは散り散りになり、また適当に討った賊将の首級を朝廷には張角、張梁、張宝であると報告。華琳と三姉妹との話し合いの末、三姉妹は曹操軍の庇護下にて旅芸人としての活動を続ける事になった。喜雨は、少々思うところがあったようだが。

 

大まかな人事だが俺が元帥の地位なのは変わらずだが、定陶が俺の直轄領として拝領された。今後は定陶を『飛雷騎』の活動拠点とする事が決定した。また、『飛雷騎』所属、と言う事で俺の下に四人の部下が固定で配属される事になった。犹、真桜、由空、趙儼の四人だ。華琳の話では今後、勢力を拡大し人材が増えれば兵数と共に増員をする、との話だ。

 

他にも一刀の下に立夏、凪、沙和の三人が部下として配属され、『北郷隊』が正式始動する事になった。通常時は陳留の治安維持と新兵訓練を主業務とし、非常時に陳留を護るための備えとしての色合いを強くするとの事だ。そのため、今後は隣接している定陶との連携を密にする必要性があるので必然的に一刀と共に仕事をする事も多くなるわけだ。字の一つも満足に読めなかった一刀が今では曹操軍の基幹を担う要職に就いている、純粋に短期間でここまで成長してくれたのが嬉しくもあるわけだ。

 

また戦時中の暫定処分で秋蘭の下に配属されていた迅が正式に秋蘭の部下となった。と言うのも、秋蘭は曹操軍内でも指折りの優秀さを持ち、今は一軍の将だが何れは一方の長を、と言う話を華琳から直接したらしい。それで自らの戦術や武将としての在り方を継いでくれる後継を育成する、と指名されたのが迅だったと言うワケだ。迅もそれを応諾、現在は秋蘭の副官として仕事をしつつかなり厳しめに鍛えられている日々だ。

 

他にも春蘭の下に季衣、華侖の下に緋那がそれぞれ部下として配属される事になった。

 

文官側だが桂花が筆頭として纏め上げる事が決定した。沛から経験豊富で中央に顔が効く燈を呼び寄せ常駐させる事になった。喜雨も、本格的に陳留での農業政策に従事するとの事で、親子揃っての異動になった。人手が足りない事に変わりは無いので、まぁ暫くの間は武官も総出で書類仕事を手伝って貰うことになるだろう。・・・・・・・・と言ったら春蘭と華侖、季衣、緋那の四人が顔を真っ青にしていた。

 

「と言う訳で、定陶の住民への説明も犹様のご協力があり恙無く済ませる事が出来ました。以前の事もあり吼狼様の赴任に関しても好意的に受け入れて頂けたようです」

「進捗状況は?」

「商業組合と各区長とは話がついています、現在由空と真桜が先行し兵舎の建造を進めています」

「そのまま話し合いは任せる、必要があればすぐに俺を呼べ」

 

それと趙儼から景の真名を預けられた、「正式に配下となるからには」との事だ。ちなみに俺と犹が様で、由空と真桜が呼び捨てなのは人間として尊敬出来るかどうか、が基準となっているらしい。

 

「ああ、それと向こうに行ったら真桜に伝言を二つ。防備の強化を優先させろ、あと全自動竹籠編み装置に予算は出さない、以上だ」

「承知しました」

「あと由空にも伝言が二つ。兵舎の建造が終わり次第北郷隊に協力を仰ぎ警備態勢を整えろ、あと柳琳に会うためだけに休暇を与えてやる程暇は無い、以上だ」

「そちらも、承知しました」

 

真桜も由空も優秀だ、優秀なんだが色々と残念なところがあるのが困りものだ。

 

―――――――――

 

各地に放っていた密偵から送られてきた報告書へと眼を通していた。今回の乱で勢力を伸ばした者、際立った活躍を見せた者、そしてそれとは真逆に沈黙を保った者。

 

義勇軍を率いた劉備は平原の相に、その支援者として動いていた公孫賛も幾つか領地を加増し幽州の大半を獲得した。またこちらと一悶着あった孫策を抱えている袁術も淮南一帯に加えて揚州北部の一部を領地に加えたようだ。他にも涼州の馬騰、併州の丁原、擁州の董卓、徐州の陶謙らの諸侯が各地で戦果を挙げ、何れも領地や爵位、金などによる報奨を受け取っている。

 

逆に全くの静観を貫いたのは荊州の劉表、益州の劉焉、漢中の張魯らだ。州境の防衛を徹底させ、黄巾の侵入を阻止する事だけに全力を注いでいた。劉表あたりはこのあとの『流れ』を読んで静観していたのだろう。張魯は漢中で流行り始めた宗教の教主を勤めている、教義だなんだと縛られて外へ打って出る事が出来なかったのだろう。劉焉は近頃では体調を崩しがちで子の劉璋が実権を握りつつあるという。その地固めで動けなかったか、或いは・・・・だ。

 

後は洛陽の動きだが・・・・

 

「何進か十常侍か、どちらかが痺れを切らして動くだろうな」

 

何進は俗物の塊だ、この乱の間とて密偵から入ってきた何進の動きと言えば各討伐軍の将に使者を出し賄賂を要求。要求に応じれば戦果が上がらずとも戦後の報奨と地位を約束し、応じなければ更迭、最悪の場合領地や私財まで没収。これにより黄巾本隊を相手に半分以下の兵力で徐々に優位を確保し、押し返す寸前まで戦局を作り上げた盧植が更迭。他にも各地で戦果を挙げていたが要求を拒否したがために、先述のような扱いを受けた者も多かった。

 

十常侍はその筆頭である趙忠があくまで帝至上主義。それ以外はどうでもいい、と言う立ち位置を貫いており。僅かなりとも帝の心中を騒がせれば自分たちが殺される、それが分かっているから他の九人も大っぴらに動く事はしない。

 

なので事を起こすなら、何進側だろう。ただ・・・・何進にはビックリする程人望が無い。何進の事を調べに洛陽に潜入させた密偵から、わざとやっているのかと聞き返したくなる程不評悪評しか送られてこなかった。何度送っても同じだった、華琳に聞いても似たような返答しか帰ってこなかったのでそこで確信した事だが。

 

「そこからの動きを見てから、だろうなァ。賢者の熟慮した動きなら読むのは容易いが、愚者の短慮な動き程読めないモノは無いからな」

 

賢い、小狡い、抜け目がない、そこからの考え抜かれた動きには必ず理由がある、だからこそ読む事は可能だ。だがバカが突発的、短絡的に起こした動きは読めない。そこに理由も、意思も存在しないからだ。

 

「吼狼様、少々宜しいでしょうか?」

「あぁ、入れ」

 

扉の外から聞こえてきたのは犹の声、すぐさま返答を返せば扉が開く。と、犹と共に由空、景、真桜が入室して来た。

 

「どうした?ゾロゾロと」

「いえ、本日の業務も終わり頃だと思いまして・・・・コレを」

 

そう言って犹が酒壺と盃を五つ、取り出す。

 

「珍しい事もあるもんだ、お前からそういう誘いが来るとはな」

 

差し出された盃を受け取り、犹がその盃へと酒を注ぐ。

 

「固めの杯、ですよ。なので皆で一杯づつ飲む分しかありません」

 

全員への杯へと、酒を注いでから酒壺を逆さまにして振る。確かに一滴も落ちてこない。

 

「ったく、古風な事しやがって。そもそもだ、俺がお前らに求めるのは『働き』であって『忠誠』じゃねぇんだぞ?」

 

臣下が臣下を持つ事は、古来より不和の切欠となる事が多い。殷の紂王と文王姫昌、秦王嬴政と相国呂不韋。その結末は様々だが、ロクな事にならない事の方が多い。

 

「無論、『忠誠』は華琳様へと捧げます。ですがそれは『曹孟徳の家臣』として、『飛雷騎の将』として我ら四名、『背を預ける仲間』として戦いたいのです」

 

犹が杯を掲げれば、由空も、景も、真桜も、その言葉に同意するように杯を掲げている。

 

「・・・・本当、俺には勿体ねぇ連中だ」

 

杯を手に取り、俺も合わせるように掲げる。

 

「遠くねぇ未来、確実に乱は起きる。『飛雷騎』と言う括りには入ってるが、ばらけて動く事もまぁあるだろう」

 

『飛雷騎』の役割は元帥直属の独立遊軍。俺の指示で魏領各地へと動き回ると言う運用方法のため、全員が集まる、と言うのはほぼほぼ無くなると言ってもいいだろう。

 

「だが俺らは仲間だ。私情を前面に出す事は出来ねぇが、誰かが危なくなったら俺は状況が許す限り助ける。だから俺が危なくなったら状況が許す限り、助けてくれ」

「無論」

「当然です」

「御意に」

「あったりまえやん!」

 

四人が笑いながら答えるのを聞いて、俺も笑みを浮かべながら・・・・

 

「俺たちのこれからに・・・・乾杯!!」

「「「「乾杯!」」」」

 

これからの事に、思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この数ヵ月後、漢王朝の終幕を告げる戦いが始まった。




第十二話でした。

かなり投稿が遅れて申し訳ありませんでした。もう先週までひたすら残業だらけで・・・・三月に至っては二日しか休んでいないと言う超超過労働。

取り敢えず黄巾編はこれで終わりになります。

以前から要望があったキャラマテリアルと数話、日常編みたいなのを投稿してから反董卓連合に入ると思います。

キャラマテリアルは簡単なプロフィール、KOEI風能力値、それと容姿に関しては上手く説明出来る程文章力が無いので、イメージが近いキャラクターで表記させて頂きます。


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人物紹介:魏編

名前と真名、髪と眼の色を除く主な容姿に関しては作者の描写能力が貧弱なためイメージに沿う他作品キャラ(外見のみクロスオーバーのタグはこれが理由)で表記。後は簡単なキャラ説明とKOEI的能力値を添えてあります。


名前:鄧艾 字:子載 真名:吼狼

性別:男 年齢:23

容姿:灰髪、青眼(キングダム:昌平君)

能力

統率:97 武力:93 知力:96 政治:85 魅力:77

所属:暴徒集団『暴威』頭領→陳留軍武官→陳留軍軍師→曹操軍元帥

 

『一に嫌がらせ二に嫌がらせ、三四がなくて五に嫌がらせ。それが太公望流用兵術の基本にして真理だ』

 

元は豫州北西部を中心に暴れていた暴徒集団『暴威』(当人は名称を知らなかった)の頭領。度重なる増税による過度な重税に耐え切れなくなり、近隣の若者とならず者をまとめあげて城砦を占拠。七度に渡り官軍の軍勢を撃破し続け、ちょっと調子に乗った頃に援軍として現れた曹操に敗北、降伏。

曹操に仕えて最初は武官として、技量一つで大陸でも五指に入るであろう実力者夏侯惇と互角に戦い、師から教わった用兵術を駆使し戦果を徐々に積み重ね信頼を勝ち取っていった。

その後、内政方面でも才能を発揮しあれよあれよと言う間に軍師に昇格。以降、その手腕を振い密かにではあるが中華全土に『鄧艾』の名は知れ渡っていく。

また人材育成に定評があり、荀彧、北郷一刀、張郃、李典らの新人の育成は勿論、陳泰、徐晃、郭淮、司馬懿、牛金ら相応に経験を積んだ者からも更なる才を引き出した。

黄巾との決戦を前に特注の槍『天雷』、黒い汗馬『飛電』、そして直属部隊には新装備と共に『飛雷騎』の名を与えられた。

 

名前:陳泰 字:玄白 真名:由空

性別:女 年齢:17

容姿:黒髪、黒眼(Fateシリーズ:アタランテ)

能力

統率:80 武力:71 知力:82 政治:55 魅力:62

所属:夏侯淵隊兵卒→『虎豹騎』兵長→鄧艾隊副将→『飛雷騎』第二将

 

『華琳様は主君、柳琳様は尊敬すべきお方。そして吼狼様は身命を捧げ、支えるべきご主人様です』

 

数年前に夏侯淵に見出され、夏侯淵の直属部隊に。その後戦歴を重ね、夏侯淵の推薦により新設された近衛部隊『虎豹騎』の兵長に抜擢。以降、鄧艾の参入まで最古参の兵長として曹純の補佐役を勤め上げる。

鄧艾の参入と同時に、名目上は直属部隊の副将として、監視役として着くために転属。夏侯淵、曹洪の両名から言い含められた通りに監視役としての役目を務める。

その後、曹操軍の面々に鄧艾が認められた頃には忠誠の対象が鄧艾へと移っており、以降はその旗下で手腕を発揮し、また磨かれていく事になる。

 

名前:司馬懿 字:仲達 真名:立夏

性別:女 年齢:13

容姿:白髪、赤眼(物語シリーズ:阿良々木月火)

能力

統率:91 武力:32 知力:94 政治:88 魅力:73

所属:暴徒集団『暴威』参謀→曹操軍軍師

 

『こんなんで死ぬのとか馬鹿ですよねぇ。私は誰かのために命懸けとか真っ平御免です、だから私が命を賭けるのは私のためだけなんですから』

 

元暴徒集団『暴威』の参謀。曹操軍との戦いで真っ先に不利を悟り、手勢を連れて逃走。その後、生家である司馬家に身を寄せる。

一年後、平然と鄧艾の前へと姿を現し商談を持ちかける。その際曹操軍への仕官を申し出、曹操と意気投合した事もあり採用され曹操直属軍師の最初の一人となる。

鄧艾曰く、腹黒だがその観察眼と危機管理能力は特記すべき点であり、彼女が逃げ出さない限りは問題無い、との事。

 

名前:郭淮 字:伯済 真名:迅

性別:男 年齢:19

容姿:赤髪、黒眼(三国無双シリーズ:夏侯覇)

能力

統率:72 武力:87 知力:76 政治:73 魅力:69

所属:暴徒集団『暴威』特攻隊長→陳留軍兵卒→陳留軍武官→鄧艾隊副将→夏侯淵隊兵長

 

『いやいやいや、俺を驚かそうとしたってそうは・・・・嘘でしょ?』

 

元暴徒集団『暴威』の特攻隊長。曹操軍との戦いで真っ先に夏侯惇と当たり、結構な重傷を負うが部下に庇われ何とか戦線離脱。

その後、何とか怪我を癒し、さり気なく曹操軍に仕官し兵卒に混じっていたところを鄧艾に発見され、思いっきり殴られるも鄧艾の補佐に登用される。

攻守を過不足なくこなせ、粘り強い用兵が持ち味・・・・と鄧艾も思っていたのだが後に踏み止まって戦う事が苦手である事が判明。定陶防衛にてその欠点がハッキリと浮き彫りになり、守備していた北門を落とされる。戦後、その責任を取る形で降格。夏侯淵隊に転属する事になる。

 

名前:牛金 真名:犹

性別:男 年齢:23

容姿:紫髪、青眼(Fateシリーズ:ガウェイン)

能力

統率:87 武力:88 知力:85 政治:72 魅力:74

所属:曹仁隊副将→鄧艾隊兵長→『飛雷騎』第一将

 

『何を今更』

 

一兵卒から曹仁隊副将にまで成り上がった叩き上げの軍人。だったのだが、気風が合わない、と言う理由から新設の鄧艾隊に転属。再び一兵卒から出直し、一分隊を任されるまでになる。鄧艾とは付き合いこそ短いものの互いを理解しあう相棒のような関係となっている。

曹仁隊と鄧艾隊、どちらもかなり自由な気風ではあるのだが、曹仁隊がダメで鄧艾隊が大丈夫な理由は両指揮官の性格と用兵のやり方が原因との事。

 

名前:張郃 字:儁乂 真名:緋那

性別:女 年齢:16

容姿:緑髪、紫眼(シンフォギアシリーズ:立花響)

能力

統率:83 武力:82 知力:71 政治:60 魅力:75

所属:袁紹軍武官→鄧艾隊副将→曹仁隊副将

 

『吼狼様、アレの話はしないでくださいよ!思い出すだけでイラッとします!』

 

元袁紹軍武官。後々発足されるであろう袁紹被害者の会副会長(予定)。斥候などをさせると報告は大雑把だが、核心を突ける観察眼を持っている。兵を率いさせれば、普段の大雑把さが嘘のようなマメで堅実な手腕を発揮する。ので、若干、夏侯惇に感化されて書類仕事から逃げ始めたのを鄧艾はどうにかしなければならないと思っている。

袁紹軍を抜け、曹操に仕官すべく真っ直ぐに陳留へ。曹操の不在を知ると鄧艾の屋敷へ直接交渉に赴くと言う行動力がある。

 

名前:趙儼 字: 真名:景

性別:男 年齢:15

容姿:青髪、緑眼(Fateシリーズ:ロード・エルメロイII世)

能力

統率:75 武力:72 知力:81 政治:80 魅力:63

所属:曹洪配下文官→『飛雷騎』第四将

 

『私は覇者ではなく、覇者の右腕を支える存在となりたいのです』

 

元曹洪配下の文官。曹洪が部下の中で認めている数少ない性別男。鄧艾の優秀な文官が手元に欲しい、と言う要望に対し曹洪に推薦され結成されたばかりの『飛雷騎』へと転属。文官としても優秀だが、武官としての能力も高かったため『飛雷騎』の正式な編成に伴い第四将に任命される。

曹洪の事は上司として尊敬していたが、鄧艾は目指すべき目標と定めている。

尊敬すべきところがある人物(鄧艾、曹操、曹洪、曹純、夏侯淵、牛金、北郷)と上長(夏侯惇、曹仁)に対しては様付けをするが、そうでもない人物(陳泰、李典etc)は呼び捨てにする。

常に仏頂面で、融通が利かないと言う印象を周囲から抱かれているが、当人はあまり気にしていない様子。



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第十三話:新人たち

今日も今日とて机仕事だわーい!・・・・・・・・これっぽっちも嬉しくねぇよ。

 

「南壁の修繕は李典と第三軍で応急処置を。本復旧に関しては後日、職人と相談するように伝えるんだ」

 

「北部に現れる賊の対処は陳泰に任せろ、それと郊外の物見櫓建築の進行状況を牛金から確認してくれ」

 

「陳留にいる荀彧にこの書簡を届けてくれ、それと曹洪から今季の予算案を受け取って来てくれ」

 

色々と言いたい事はある。

 

「夏侯惇隊の鎧と夏侯淵隊の弓、それに幾つか建設する予定だった孤塁の設計図と予算案を司馬懿へ届けろ」

 

「陳珪から上がってきた洛陽周辺の情報を趙儼に依頼しまとめさせろ」

 

だが・・・・定陶常駐の俺に!なぜ陳留側の案件や軍全体の仕事が来るんだ!?いや確かに軍部の頂点だけど!!誰か直属の補佐を寄越せ!!!

 

「鄧元帥、こちらの書類ですが・・・・」

 

どれどれ・・・・全部陳留側の陳情書じゃねぇかぁああああああああ!!!!

 

「■■■■■■■ーーーーー!!!!!」

 

「うわぁあああああ!!?鄧元帥がご乱心なされたぞぉ!!」

 

 

SIDE 景

 

「と言うわけで吼狼様の超過労働が深刻な状況に達しております。我ら飛雷騎の四将は各々持ち場があります故、吼狼様を満足に補佐する事がかないません。吼狼様専属で補佐する者の登用、もしくは陳留よりの異動を我ら飛雷騎総員の連名にて嘆願致します」

 

吼狼様は優秀なお方だ。武においては春蘭様と互角、兵を操れば比肩するのは華琳様のみ、内政においてもありとあらゆる事案を一人で片付けてしまえる。だが、吼狼様も人間だ。身は一つしか無く、限度と言うものが存在する。本来はそういう目的で栄華様の下から私が異動したハズだったのだが、吼狼様から「お前の力は補佐だけで使うのは勿体無い、俺に構わず自分の力を発揮してくれ」と望外の評価を頂いてしまっているがためにその役目を外れてしまった。

 

「そう・・・・思っていた以上に吼狼にかかる負担は大きいようね」

「はっ・・・・」

 

私は吼狼様は苦労性なのだと思う。どれだけ優秀な補佐を付けられても、その能力を認めてしまえば『能力を振るうに相応しい』場を用意し手放してしまう。『自分』が楽をするよりは『曹操軍』全体の益になるように、意識的にしろ無意識にしろ動いてしまっている。

 

「それにしても・・・・飛雷騎総員の連名、とはどこまでを指すのかしら?将官だけ?それとも・・・・」

「末端の兵、それと飛雷騎では無いのですが派遣されて来ている本隊の兵、北郷殿をはじめとした北郷隊もかなり名を連ねております」

 

そう、そして問題なのは過労気味である事をを直轄である飛雷騎だけでは無く一時的に本隊から派遣された者や不定期ではあるが出入りを繰り返している北郷殿、その配下にまで悟られていると言う事だ。

 

「ただ、吼狼様の性格上一度手放した者をもう一度補佐として・・・・と言うのは否とお答えになるでしょう」

「そうね、となると・・・・丁度良い子が先日入ったばかりなの、香風と季衣の推挙で併せて四人。定陶へ戻る時に連れて行くと良いわ」

 

香風殿と季衣の推挙、か。どちらの推挙もどのような人物か、予測は付けがたい・・・・と言うか季衣の方に関しては全く検討がつかない。あの武辺者からどのような人物が推挙されたのだろうか、と疑問しか浮かばない。

 

―――――――――

 

『と言う訳で華琳様から新人の武官二名、文官二名を預かって参りました。暫くはこの四名を補佐としつつ、育成を進めて欲しいとの事でした』

 

どういう訳だ、と言いかけてそれを飲み込んだのを覚えている。陳留から戻って来た景が、三人の少女を連れて戻って来た。んでどうやら香風推挙の文官二名と、季衣の幼馴染の少女をこちらへと寄越したみたいだ。その三人を部下として迎え、色々とあったが一ヶ月が経過した。

 

「吼狼様!真桜さんが!」

「あーほっとけ、どうせまた絡繰が爆発したんだろ?該当箇所の修繕費用の請求書を叩きつけとけ」

「えぇー・・・・」

 

典韋、真名を流琉。季衣の幼馴染であり、季衣からの誘いを受ける形で陳留へ。定陶に来るまでは秋蘭の下で兵法の基礎を学んできたとの事。今は俺の代わりに定陶の警備を務めてもらっていて、割と最近は見ることの少なかった新鮮な反応をしてくれるのでちょっと癒されてる。あとたまに作ってくれる料理が美味い、マジで。二日に一回は季衣が陳留から馬を飛ばして食べに来て、一ヶ月に一回は華琳が馬を飛ばして食べに来るぐらい美味い、両方とも一緒に飯食って説教してから帰らせてるけど。

 

「慣れる事が一番ですよ、流琉」

 

郭嘉、真名を稟。噂で聞いていた(どんな噂かは知らんが)華琳を慕い、友人の香風を頼って陳留へ。華琳もその才覚を気に入り登用、桂花の下に付けていた・・・・のだが。妄想癖が凄いようで、華琳との事を妄想すると洒落にならないぐらいに鼻血を吹き出すとの事。仕事が出来るだけに毎度毎度鼻血を吹き出して倒れられるのは勿体無い、だからと俺のところに寄越したらしい。まぁ華琳は月に二、三度しか来ないからな。その二、三度で鼻血吹いて倒れるけど。

 

「稟ちゃんの言う通りですよー琉琉ちゃん」

 

程昱、真名を風。稟と共に友人の香風を頼って陳留へ。悠々自適に振舞ってはいるが、何を成すにも抜け目無く、決断も速い上に空気が読める。稟との付き合いは長いようで、鼻血を吹いた稟の介抱をする風の動きは慣れた手つきである。見かけによらず交渉事も得意なようなので、かなり重宝してる。

 

「まぁいい、練兵場に行くついでに真桜に説教してくらぁ」

 

―――――――――

さて、黒焦げになった工房で黒焦げになった真桜に説教し、俺は練兵場へと来たわけだが・・・・

 

「おや、吼狼殿。何か御用で?」

 

白を基調とした装束を身にまとい、槍を片手に立つ少女。その周りには『飛雷騎』の、その中でも俺の隊の部隊長たちが打倒され、あちらこちらに転がっているような状況だった。

 

「訓練の様子を見に来たんだがな・・・・調子はどうだ?星」

「いやはや、流石は音に聞こえし『雷公』の直属。十把一絡げの自称精鋭とは違う、紛う事なき精鋭ですな」

 

趙雲、真名を星。仕官先を求め香風、稟、風と共に旅をしていたと言う。飄々とした態度で相手を煙に巻いたりする事も多いが、その内には確かに通っている一本の芯があるように思える。槍を握れば膂力では春蘭に叶わぬが速さで翻弄し食い下がるだけの実力があり、兵を操れば秋蘭のような鋭さは無いが臨機応変に動き軽々に崩されないだけの粘り強さをも併せ持っている。華琳と言う英傑を見極めるまでは手を貸す、と言う契約で仕官したようだ。今は俺の直属部隊を預かって貰っている。

 

「そう言ってもらえるなら何よりだ・・・・兵の方は?」

「ご指示通り、郊外へ走り込みに行っておりますよ」

「そうか・・・・お前ら立てるか?」

 

倒れふしていた奴らに声をかければ、何とか、と言った感じではあるが一人、また一人と立ち上がってくる。

 

「全員立てるな?郊外にいる兵と合流後、第三軍のいる砦へ。李典の指示で堤防の補強作業を手伝いに行け」

「「「「「はっ!」」」」」

「思っていた以上に頑健ですなぁ・・・・」

 

さっきまでは声一つあげられず、息を切らしていた連中が既に息を整え直し駆けていったのを見て星が呟いた。

 

「あいつらは俺の隊でも古参の連中だからな」

 

と言うよりも、暴徒時代から付き従ってくれてる連中だ。暴徒時代から始まり、定陶防衛戦、沛城救援、黄巾本隊との決戦。『鄧艾』と言う旗の下でずっと戦ってくれてきたヤツラだ。単純な武力は星のような手練にはまだまだ劣るが、生き残る事、耐える事に関しては劣る事は決してないはずだ。

 

「不思議なお方ですなぁ、吼狼殿も華琳殿も北郷殿も」

「俺もかい」

 

華琳と一刀が不思議なのは認めるが。

 

「それ故に興味が尽きない、それ故に中々に見定めきれず、ここを離れる事が出来ずにいるのですよ」

「なる程」

 

つまりはだ。

 

「俺と華琳、一刀が見定めきられない限りは確実に星はここにいる。ってぇワケだ?」

「まぁ・・・・そうなりますなぁ」

「なら簡単には見定められんようにしなけりゃなぁ」

 

星は武術も指揮も非凡なものを持っている、香風、稟、風の三人よりも以前から大陸を旅していただけあり広い見識もある。また真桜と同じく、将としての完成された精神を持っている。これだけの逸材は手放すのが惜しい、いや・・・・だからこそ華琳もこっちに寄越したのか?

 

「というわけでだ、俺はこのあと非番なんだが・・・・ちゃんと仕事をした部下には酒を奢ろうと思うんだが?」

「この趙子龍、一生涯忠誠を誓いましょう」

 

うん、今までにないぐらい気安い関係だが・・・・まぁ嫌いじゃあ無い。と言うか悪くない。そこそこに上下関係を保ちつつ、軽口を叩き合える。

 

立夏は若干、上下関係を投げ捨ててる部分があるし。

 

犹や由空、景はそこらへん堅いし。

 

近しいのは真桜だが俺の前だと比較的、上下関係を気にしてるみたいだし。

 

「さぁさぁ、近頃見つけたメンマの美味しい店があるのですよ」

「メンマねぇ・・・・ま、たまには変わったツマミも良いだろうさ」

 

うん、本当に悪くない。




第十三話でした。

星の魏参入フラグと星√フラグが立ちましたw

星は本家キャラの中でも一番の、無印時代からのお気に入りでして・・・・因みに二番目は栄華、三番目は霞姐さんですが。ですが革命シナリオが基点なので本来は星はヒロイン候補にすら上がらない・・・・なら、やってしまえ!と言う事でやってしまいました。反省も後悔もしていません(断言)。

そして吼狼のバーサーカー化案件。鯖化したら槍兵、騎兵、狂戦士と適正がありそうな気がする。槍と馬と軍勢召喚が宝具みたいな・・・・これどこの征服王?

と言うわけで・・・・次話あたりから徐々に反董卓連合編に入っていきたいと思います。思っている以上に日常編が苦手な事に気づく今日このごろ。


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第十四話:階

「・・・・キナ臭い話だなオイ」

 

洛陽近辺に潜ませていた密偵、そして燈から流されてきた情報。十常侍が涼州の董卓を、対抗するように何進が冀州の袁紹を、それぞれ仲間に引き入れ裏で色々と画策していると言うモノだ。董卓の思惑は分からん、袁紹は確実に周囲にノせられた結果だろうが・・・・今のところそれ以外の諸侯に動きは無い。働きかけ自体はあったのだろうが、様々適当に理由を付けて状況を静観、と。それが本来は正しい対応なんだろうがなぁ・・・・

 

「華琳様はどう対応なされるのでしょうか?」

 

稟が報告書を覗き込みながら、問いかけてくる。

 

「静観、だと思われます。我らは洛陽から近い、十常侍であろうと何進であろうと、どちらかが軍を動かせば否応無しに巻き込まれる位置にあります。ギリギリまで状況を見極めなければ最悪の事態も考えられます」

 

景の言も最も。周囲を他の諸侯に囲まれている状況だ、選択肢を間違えて袋叩き、なんてなったら目も当てられない。

 

「吼狼殿は・・・・どうなると思いますかな?」

 

星の一言に、一斉に視線が俺へと向けられる。今定陶に駐屯している武将、軍師たち。犹、景、由空、真桜の飛雷騎の将、星、稟、風の新参組、一刀、凪、立夏、沙和の北郷隊の面々が、息を飲むのが分かる。

 

「間違いなく一波乱起きるな」

 

董卓は知らんが、華琳から聞いていた袁紹の人となり、十常侍と何進の現状を鑑みれば一目瞭然。そしてそれは俺と華琳の共通見解だ。

 

「よもや、とは思いますが・・・・『飛雷騎』は初めから『こうなる事を見越して』作られたのですかな?」

「・・・・俺たちが見越したのは『これ』じゃねぇよ」

 

その発想に至って発言した星、あたりを付けていたであろう犹、稟、風、立夏らも流石だ。だが俺や華琳からすれば『まだまだ』だ。

 

「『飛雷騎』を作ったのはこの『後の後』のため、まぁ・・・・相応の働きはするがよ」

 

この後に確実に来るだろう一波乱で『飛雷騎』としての活躍をするつもりは無い。個々人での活躍が出来るように差配はする、だが『飛雷騎』は『曹操』にとっての『切り札の一つ』として作られた。未だにその完成を見せていない以上、まだ切れる札では無いのだ。

 

「とにもかくにも、先ずは目の前の事を片付けていこうや」

 

―――――――――

 

槍と槍がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。初めは互いに探り合うように、そしてそれは徐々に速度を上げ、音を置き去りにするかの如く打ち合いとなる。

 

「オラァっ!」

「ぬ!?」

 

互いの槍が弾けた刹那に、俺はつま先で土を対峙する星の眼を目掛けて蹴り上げる。無論、それを避けれない星では無い。だがその身動ぎ一つが俺たちの戦いでは致命的な隙となる。

 

「俺の勝ち、だろ?」

「むぅ・・・・」

 

俺の槍が、星の喉元へと突きつけられている。星は俺を、頬を膨れさせながら納得がいかない、と言う眼で睨んでくる。

 

「綺麗に戦おうとするな、それが許されるのは突出したひと握りのバケモノ連中だけだ」

 

天賦の才や圧倒的な実力、それがあって初めて正々堂々に勝負、ってのが許されるんだと俺は思う。そうでないなら、今ある手札を十全に使い、小技、小細工、不意打ちとやれる事を全てやってでも戦うべきだと俺は思う。『誇り』を重んじるのは構わない、だが俺たち将は部下を、兵士を生かして還す責務もあると言う事を忘れてはならない。

 

「ただの流浪の武人でいたいならその『誇りを重視する武』のままでいれば良い、だが・・・・仕官し、将としての生き方を望むなら『武人としての誇り』なんてものは投げ捨てろ。将であるという事は、将が背負うべき責務は、そんなものよりも遥かに重いんだからよ」

「・・・・」

 

 

SIDE 星

 

『見定める、か・・・・ならそれに相応しい働きをして見せなけりゃあなぁ』

 

曹操軍へと仮仕官してからそれなりの期間が経とうとしていた。春蘭や秋蘭をはじめとした幕下の殆どは大よそ掴めた、と言って良い。だが未だにその人となりを、実態を、掴みかねている者がいた。

 

吼狼殿。華琳殿が血族を除けば最も信頼する家臣であると言う、その出自を聞けば元は農民、しかも一時期は農民反乱を指揮していた立場だと。当人に聞いてみてもそうだ、と否定は無く。だが実力は確かだ。私が過去に相手にした者の中で最も手強い、単純な武力もそうだが勝つために手段を選ばない。それが顕著に現れるのは軍を指揮する時。例え相手が一山いくらの賊だろうとも、手を一切抜かない、ありとあらゆる策と戦術を駆使し須らく討つ。

 

『俺たちには兵を生かして帰す責務がある、どれだけ勝ちを拾おうとも犠牲だらけじゃあ次が無くなるからだ』

 

そんな事を言う人を初めて見た。部下も、末端の兵士に至っても吼狼殿を悪く言う者はおらず、それどころか周辺諸侯にその配下の才ある者たちがこぞって警戒と共に評価しているだけの逸材。

 

「ただの流浪の武人でいたいならその『誇りを重視する武』のままでいれば良い、だが・・・・仕官し、将としての生き方を望むなら『武人としての誇り』なんてものは投げ捨てろ。将であるという事は、将が背負うべき責務は、そんなものよりも遥かに重いんだからよ」

「・・・・」

 

その強さの芯にあるのは、『誇り』では無かった。『上に立つ者としての責任』、それが吼狼殿と言う一個人の芯であり、鄧艾と言う将を作り上げた『信念』。ハッキリと今理解出来た、『分からない』のではなくて、『分かる事を拒んでいた』のだ。負けず嫌いな性根が、理解する事を拒否していたのだ。

 

「・・・・・・・・今宵、華琳『様』と吼狼『様』は時間がおありですかな?」

「・・・・職務や閨程度の用事しか無いのならば華琳にも時間を空けさせよう」

 

今、『趙雲と言う将』と『星と言う武人』は揃って生まれ変わった。

 

かつての『愉悦』と『居心地』だけを求めていた己ではない。吼狼を『支え』『観る』事に今は全てを注ぎたい。一人の将として、この人の采配で戦い、一人の女として、この人と傍らで支えたい。

 

―――――――――

 

「どう言う手練手管を弄せば星を誑かせるのかしら?」

「俺に聞くな」

 

『趙雲子龍、真名を星。これより正式に華琳様の旗の下、この槍を振るいとうございます』

 

夜半、夜回りの兵ぐらいしかいないだろう太守府の謁見の間で星からそんな宣言をされたのがつい先程の話。

 

『願い叶うならば、吼狼様の矛として戦わせて頂きたく』

 

華琳が所属に関して希望はあるか?と問えば帰ってきたのはそんな答え。そこでさきの華琳のセリフが出た、と言うわけだ。正直、俺も華琳も星が出て行く確率の方が高いと予想していた。それはそれでいい、元々そういう約束で手を貸して貰っているのだから、せめて舐められないように、敵対する事がある場合は畏怖を覚えるようにと色々見せつける程度で済ませるつもりだった。

 

「だがあれは原石だ、それが留まる事を決意したならば重畳だろうよ」

 

それが何の因果か残ると言うなら結構、将として鍛え上げたならば相当な逸材だ。資質と言う点では真桜と同等、総合的に見ればかなりの有望株。得こそあれど損は無し、何より香風、稟、風が両手を挙げて喜ぶだろう。知人、友人と敵対する、何ていうのが当たり前の時代ではあるが、そうならずに済むならそれに越したことは無い。身体の傷は時間をかければ快癒する事が多いが、心の傷は往々にして癒えない。心腹、竹馬とも言えるような友を斬ったともなれば芯の弱い者は壊れ、強くても幾ばくかの不具合が出るのは間違いない。

 

「当人の要望通り、星は『飛雷騎』へ配属するわ。他に要望はあるかしら?」

「軍師を一人、今すぐでなくとも良い」

「分かったわ」

 

これから『飛雷騎』は徐々に規模が大きくなってくる。そうなってきた時、『図面を描く』のが俺だけじゃあ必ず限界が来る。だから俺以外に、俺とは違う角度からモノを見れるヤツが欲しい。

 

「予定が早まりそうね」

「真桜の発明品とはワケが違う、未完成品をぶつけるつもりはねぇぞ」

「いいえ、ぶつけてもらうわ。『切り札』を隠し持つ事も大事だけれども・・・・『見せ札』も必要でしょう?」

 

『鬼札』となる『前』を見せつける事により錯誤させる、って事か。俺はできれば温存したかったが、それも面白いかも知れないな。見せつけた後は周囲の予想を上回れれば俺の勝ち、下回るかドンピシャなら俺の負けってわけだ。

 

「わぁったよ、事が起こるまでには仕上げておく」

「えぇ」

 

束の間訪れる静寂、先に口を開いたのは俺だった。

 

「いよいよ・・・・だな」

「そうね、ようやくよ」

 

俺が華琳の傘下に入って以来、幾度となく話し合った。俺と華琳で画く『天下統一』と言う『夢』を、その先の『天下泰平』と言う『未来』を、ようやくその始まりが訪れたのだ。

 

「覇道の完遂するその日まで、俺は矛となり盾となりて手向かう全てを打ち払おう。我が王よ、何があろうともその歩みを止めるな」

「私は私の覇道を完遂するまで止まらない、だから死ぬ気で私の障害を打ち払いなさい。そして必ず生き延びなさい、貴方の舞台はその先にも続いているのだから」

 

妙に芝居がかったやり取りに、二人揃って笑みを浮かべる。

 

『覇王』曹操とその右腕、『雷公』鄧艾。その名が誰もが知るものになる・・・・その時は近い。




第十四話でした。

星が曹操軍に入りました。いやー・・・・勢いに任せてやったものの、どうやって呉蜀とのバランスを取ろうかと迷ってます。

更新がかなり遅れてます。と言うのもまぁ、職場で昇格しちゃったもので仕事が増えると言う・・・・。出来る限り、最長一ヶ月更新で行きたいと思いますのでどうか、飽きたり呆れたりせずに読んで貰えればなと思います。


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第十五話:出征前

『逆臣董卓、暴政の限りを尽くしたる非道、相国を名乗る不遜、帝や漢王朝を蔑ろにするその振る舞いはあまりにも目に余る。漢王朝に忠誠を誓う諸侯よ、帝を董卓の手より救い出し、天下に泰平を齎す為、この袁紹の名の下に集え』

 

まぁ、ぶっちゃけ実物はもっと稚拙で見るに堪えない内容だったワケだが・・・・袁紹が天下に向かって広めた檄文の内容を要約するとこんな感じだ。

 

まぁ、もっと要約すると「董卓に権勢を握られて悔しいから袋叩きにして取り返すぞ」って事なんだが・・・・俺たちはこの檄に乗る事にした。今回間違いなく一番の被害者である董卓には申し訳ないとも思うが・・・・間が悪かった、と思ってもらうしか無い。

 

「我ら曹操軍は此度の『反董卓連合』へ参加する事を決定した、ついては今から遠征軍と留守居の編成を発表する。二度は言わないので聞き逃す事の無いように」

 

太守府の謁見の間で、群臣たちを集め俺と華琳、桂花、立夏、稟、風で徹夜で考えた編成を俺が読み上げていく。

 

「先ずは遠征軍!総大将は言わずもがな華琳が務め、副将に俺と春蘭」

 

この戦いで、中原に曹操ありと知らしめなければならない。だから長である華琳と、朝廷での爵位も持つ俺と春蘭は当然参加する事になる。

 

「春蘭率いる本隊は兵数二万、将として秋蘭、華侖、柳琳、栄華、一刀、凪、沙和、季衣、香風。軍師として桂花、立夏、稟。遊軍として俺率いる飛雷騎の五千。将として犹、由空、景、真桜、星、流琉」

 

先日、正式に仕官した星と共に流琉も飛雷騎に配属された。歩兵を率いて前線で戦う将も欲しい、と華琳に言ってみたら「育てろ」と言われたのだ。犹と星は騎馬、真桜は工兵、由空と景は兵は率いるがどちらも後方にいる事が殆どだ。兵を鼓舞し、共に戦う将が必要だった、ってワケだ。

 

「留守居の主将は迅、副将として緋那、軍師として風。内政と全体の調停役として燈、兵数は八千」

 

主将が迅、と言う宣言に響めきが起きる。迅が定陶での失敗を機に降格させられたのは皆が知るところだ。総合的な功績で言うなら緋那が、地位や経験と言うなら燈が本来は主将を務めるべきなのだろう。だが迅にもここら辺で成果を見せてもらわなけりゃならない、俺はアイツには一軍の将としての活躍を期待したいのだ。

 

「既にこの編成は決定稿だ、相応の事態が起こらない限りは変更は無い。各自の活躍に期待する」

 

―――――――――

 

陳留では出兵準備で大忙し、なのだが・・・・俺は定陶で華琳と共に来客を迎えていた。

 

「お初にお目にかかります。立夏の姉、司馬朗です」

 

河内司馬家の現当主、立夏の姉、司馬朗だ。反董卓連合への参加を決めた当日に書状が届き、一度会って話がしたいと言う事だった。なので元々常時出撃準備を済ませていた俺たち飛雷騎が出迎えと護衛を兼任し、今回の準備を秋蘭と栄華、桂花に押し付けてきた華琳と単純に暇をしていた俺が応対をすることになったのだ。立夏?割と暇だったはずだが「いやー、私超忙しいんですよ?」とか言いながら逃げられた。

 

「先ずはこちらを・・・・」

 

差し出された竹簡を広げれば、司馬家に頼んでいた今回の遠征で必要となる資材、馬、武具、兵糧などの目録だ。

 

「おい司馬朗、商人が桁を間違えるなよ。相場の半値近くじゃねぇか」

 

新人にでもやらせたのか、額面が相場の半値近くになっている。普通はこんな事はありえない。

 

「間違っておりません」

 

俺と華琳が、同時に視線を向ける。

 

「司馬家は本拠を陳留へと移し、曹操様へとお仕え致します。此度の物資は臣従の証として、実費だけを計上させて頂いております」

 

商人とは利で動くもの、それが一つの勢力に臣従する事を宣言した。

 

「どう言うつもり?利で動く商人が利を捨てた、とでも?」

「まさか・・・・曹操様に付き従った方が後々利が大きい、と見当を付けたまで。相国に登り詰めた呂不韋のようになるつもりはありません、ですが誰でもない司馬家の未来のために。私は、司馬家は曹操様に付く事を決めました。似たような事は陳珪様も仰られたはずですが?」

 

ああ、立夏が姉の話になるとよく怯えていた。その理由が分かった気がする。司馬朗は確か歳は立夏より一つだけ上、と聞いている。それ程の若さなのに、燈に通じる雰囲気を持っている。そして立夏の姉、と言う情報。

 

間違いない、こいつは立夏以上の腹黒だ。

 

「分かった」

 

一瞬、華琳と眼を合わせてから俺は司馬朗へと向き直る。

 

「司馬朗、貴女の臣従を受け入れましょう。今後は我が臣として、その手腕を振るいなさい」

「御意に」

 

―――――――――

 

「では真冬(司馬朗)も連れて行くのね?」

「あぁ、洛陽は司馬家の地盤だった河内から近い。真冬がいる事で取れる行動の選択肢も少なからず増える」

 

真冬の仕官が決まった。

 

『立夏?どうして姉さんが来ているのに逃げたのかしら?』

『いやいやお姉ちゃん、私は忙しくてですね?別に会いたくなかったワケじゃなくて・・・・』

『立夏、貴女は嘘をつく時左上を観るクセがあるのよ?』

『え!?マジ!?』

『嘘よ』

『騙された!!?』

『騙されるほうが悪いの・・・・よっ!!』

『ニギャァアアアアアアッ!!?』

 

歳頃の少女が上げるにはどうか?と思うような断末魔も聞こえてきたような気もするが気にしない事にしよう。

 

「『飛雷騎』の仕上がり具合はどう?」

「一先ず及第点、と言ったところだ」

 

部隊同士の連携には未だ多少の難がある。一定水準の事はこなすが、犹、由空の率いる古参部隊と真桜、景、星、流琉の率いる新兵中心の部隊で温度差があるのだ。古参の連中には俺がヒラ武官だった頃から俺を支えてきたと言う自負があり、また犹、由空の堅実な手腕を認めて付き従ってくれてる。だが工兵を率いる真桜、中衛で万能な働きをする景、流麗な騎馬運用をする星、力強く隊を引っ張る流琉、それぞれの『華』に魅せられ付き従う者が多い。双方ともが、自分たちの将こそが『飛雷騎』の要なのだと水面下で主張し、それが僅かに連携の差異を生む。

 

だがまぁ、何かの切欠があれば、割と簡単になんとかなるとは思っているんだが・・・・

 

「まぁ・・・・貴方の及第点ならば十二分な働きを期待出来るでしょう」

「善処するさ」

 

俺が笑みを浮かべれば、華琳も笑みを浮かべ、二人の視線は一枚の地図へと向けられる。主戦場だろうと、予測される『虎牢関』『汜水関』を中心とした地形図だ。真冬によって提供されたモノであり、実際の開戦までに董卓軍によって様々な工作は成されるだろうが大まかな指針を決めるのには使える。

 

「改めて見てるだけでも嫌になるぐらい攻め難いな」

「そうね。特に『虎牢関』はかつての秦の国門、『函谷関』と比肩する護りを有するでしょうね」

「なる程ねぇ・・・・」

 

関高く一般的な攻城兵器は使いづらく、両側を峻厳な山々に護られていて迂回するのにも一苦労。その上董卓軍の主力は五胡、羌族、匈奴の異民族を相手に長年戦い続けてきた歴戦の雄ばかり。更に率いるは黄巾三万を単騎で打ち払ったと言う呂布、騎馬民族をも圧倒した驍将張遼、率いる軍の突破力が大陸五指に入る華雄。何れも一筋縄ではいかない相手だ。

 

「各諸侯が乱の後、どれだけ力を付けて来たか・・・・にかかってくるな」

 

正直なところ、功の奪い合いになるだろうから連携を期待するつもりは無い。だが一定水準以上の地力が各勢力に備わっているならば、分担しているのだと思って動くだけで済む。だがそうでないのならば・・・・想定よりも数段、厳しい戦になってしまうだろう。

 

平原の劉備、袁術配下の孫策・・・・この辺りは確実に力をつけているはずだ。乱の最中でも一際目立った活躍をしていた諸侯でもある。未知数なのが劉表、当人は出て来ずに息子の劉埼が軍を率いて来るようだ。際立った強さは無いはず、だが今現在荊州領内が安定しているのは劉埼の軍事的手腕によるところが大きいらしい。のだが・・・・俺の勘じゃあ、劉埼だけの力じゃ無い気もするんだがねぇ。

 

「何にせよ、各諸侯がある程度手の内を晒して来る。晒してない手までは読み切れんが晒して来た分はキッチリ読みきらにゃならん」

「そうね、この後のためにもね」

 

曹孟徳の覇道、その二歩目。

 

見事に飾って見せなければ。




第十五話でした。

ネット環境の都合上、投稿が遅れまして申し訳ありませんでした。なんとか月一投稿をキープできたかな?と思う反面、内容が雑になっていないかと心配に思う事も。

次話より反董卓連合編になります。主人公の活躍を乞うご期待!


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第十六話:連合

「雑多過ぎるし裏で色々あったのが眼に見えすぎだ・・・・もう少し考えやがれってんだ」

 

俺たち曹操軍はほぼ最後尾で到着した・・・・のだが、陣の並びがおかしい。発起人であり、三公を排出した家柄でもある袁紹が中央に陣取るまでは良い。だがその周囲を固めるのが公孫賛と劉備を除いた河北四州の諸侯たち、荊州刺史(劉表)の名代である劉埼、涼州太守(馬騰)の名代である馬超、幽州太守公孫賛と平原相劉備、淮南牧袁術ら袁紹に阿らない連中が外周に配されている。自分たちの思い通りになる連中を傍に、ならない連中を遠くにってのがアリアリと出過ぎている。

 

袁紹にその配慮が出来なくとも、その側近が最低限の配慮をするべきだろうに。

 

「私と春蘭、秋蘭、一刀、桂花で軍議に。その間の采配は吼狼に任せるわ」

「俺が行った方が良いんじゃあないのか?」

 

秋蘭や桂花に設営や他陣営の情報収集をやらせて、俺が軍議に参加した方が良いとは思うんだがな。

 

「いいのよ、覚えておきなさい。例え貴方が正論や良策を振り翳したとしても身分がどうのと正論にもならない幼稚な論理を家柄の力で圧してくるのが袁紹よ。普通なら愚挙と取られるそれを力で正しい行いにしてしまうのが厄介なところなのよ」

「そいつはまた面倒な事だ・・・・なら俺はこっちで色々やっときますよ。なんで一つ進言を」

「聞きましょう」

「汜水関では先鋒は避けて、助攻辺りを貰えれば御の字だ」

 

春蘭は納得がいかない、と言う表情をしながらも俺を信頼してくれているのか、何か理由があるのだろうと言う感じでいる。秋蘭、桂花は俺が言った狙いを読みきれていないのか、思案顔。華琳と、これまた意外な事に一刀だけが狙いが分かったようで無言で頷き返してきた。

 

「じゃあ任せるわね」

「御意に」

 

一行を見送り、俺は直ぐに指示を飛ばし始める。

 

「稟、立夏、景、真冬は直ぐに他の諸侯の陣容、規模の把握に務めろ。犹、星、由空、季衣、凪、真桜、沙和は陣を張れ、全体の指図は犹に任せる。流琉と華侖で各隊への兵糧の振り分けを頼む。柳琳、栄華、香風は俺と来い、作戦会議だ」

 

俺の指示で、直ぐに動き出す面々。

 

「作戦会議・・・・との事ですが、御姉様たちがそこはやってくるのではありませんか?」

 

残った栄華が、首を傾げながらそう問いかけてくる。

 

「多分主導権争いでまともな軍議になどならんだろうさ、それに華琳から聞いた袁紹の人となりがその通りならまともな作戦を決めるまではならん。だからこっちで、どの配置でも動けるように素案ぐらいは練っといた方が良いのさ」

 

栄華と柳琳はまさか、と言わんばかりだが香風は「分かる」と一言呟いて頷いている。

 

「さて、こいつが真冬が用意してくれた戦場予定地付近の地図だ」

 

広げた地図は真冬が伝手と人手を使って作らせたと言う詳細な地図だ。大きな街道から獣道、正確な道幅、遮蔽物の有無、等など。

 

「俺がこれから思いつく限りの攻め手、守り手を打つ。お前ら三人で対処法を考えてみろ」

 

俺が対処を考えても良いんだが柳琳、栄華、香風は何れは万軍の長足り得る器だと俺は思っている。一方面の長のような『思い描いた図面を現実にする』だけの力は無くてもいいが、『指し示された盤面を実行する』ぐらいの実力は身につけて欲しい。だからやらせてみる。

 

―――――――――

 

「随分と厳しい教え方をしたようね?」

 

全体の軍議(笑)から戻って来た華琳が笑みを浮かべながら椅子へと座り込み、その対面へと俺が座る。

 

「こと戦術面に関しちゃあ軍内五指に入るぜ?今の一刀はよ」

 

俺の編み出す攻め手に対し、とうとう対処しきれなくなった三人。二進も三進も行かなくなったその空気を、動かしたのは軍議(嘲)から戻って来た一刀の一言だった。

 

『この隊を右翼に寄せれば防げるんじゃないか?』

 

その一手こそ、俺が三人から引き出したかった解。驚愕の表情を浮かべる三人と桂花、秋蘭。心の底から愉快そうな笑みを浮かべる華琳の対照的な姿が忘れられない。

 

「五指、の内容が気になるところなのだけれども?」

「一が俺、二がお前、三に秋蘭、四に一刀、五に犹。これで五指だ、妥当なところだろう?」

「あら、一番は譲ってはくれないのね?」

「譲らんよ」

 

元帥たる俺が主君に劣る、となっちゃあ大問題だろうし。

 

「主攻は公孫賛、劉備の両名。袁術配下の孫策と劉琦、そして私たちが助攻を務める事になったわ。劉備が押し付けられて、公孫賛がそれを庇って巻き込まれた形になるわね」

 

助攻は一つか二つ居れば足りるもんだが・・・・あれか、前線が壊滅したら盾になれって事か?ここまで露骨だと怒る気にもなれんな。

 

「苦労性なのか不運なのか、或いは狙ってやったのか」

 

前者ならご愁傷様、としか言えないが後者なら厄介な相手としか言いようが無い。

 

「私たちは右翼側になるのだけれど・・・・劉備軍の軍師から『本陣との直線上には入らないように』って言われているのよね」

「・・・・なる程、随分と性格の悪い軍師のようだな」

「見た目は随分と愛らしいのだけれどね」

 

何を考えているかが分かってしまった。自分たちから狙ってその配置をやった上で、ちょっとした意趣返しまでするつもりたぁとんだ腹黒だ。どんなツラしてんのか拝んでみたいもんだが。

 

「私たちは劉備、公孫賛の後詰よ。右翼が孫策、左翼が劉琦」

「・・・・事が成る前に劉備と公孫賛が崩れないように俺たちが支える、って事か」

「正確には私たちと劉琦で、よ。孫策は劉備、公孫賛と共に前に出るそうよ」

 

こっちの想定以上に雑多な盤面になりそうだな。便宜上、主攻、助攻を決めはしたがこう言う義よりも権益を求めるような戦いになれば、必ず抜けがけ、横入りをする連中が現れる。そういった連中への対処も考えなけりゃならないし、そういう真似をされても動じない体勢を作っておく必要がある。

 

そう思って、俺が取り出したのは稟、立夏、景、真冬が集めさせた他陣営の情報を記した竹簡。数十本にもなった束の中から、劉備、公孫賛、孫策、劉埼の名が記されたモノを引き抜いて机上に開く。

 

「これが各軍の陣容、ってワケだが・・・・」

「心配なのは劉埼、かしらね」

 

劉備、公孫賛の連合軍。兵数は合計二万、劉備側は将として関羽、張飛、陳到、簡雍、軍師に諸葛亮、鳳統。公孫賛側は軍師がおらず、将に田楷、関靖、単経。兵の割合は公孫賛が一万五千、劉備が五千。兵の割合には開きがあるが、劉備側の将の殆どが黄巾討伐にて功績を挙げた者たちだ。頭脳となるであろう、劉備側の軍師たちの戦術、そして他所の軍師の指示をキッチリ守らせると言う簡単でいて難しい事を公孫賛がどこまで兵たちに徹底させられるかにかかってくるだろう。

 

孫策軍は八千。軍師に周瑜、陸遜、諸葛瑾、将として孫権、程普、黄蓋、韓当、甘寧、周泰、蒋欽。いわゆる少数精鋭と言うヤツで、ここ数年の袁術の軍事的功績の九割が彼女らの手によるものであり、長年江賊や山越族と戦い続けたその兵たちも練度が相当高いと予想される。何より軍の長たる孫策があの『江東の虎』孫堅の娘、その資質を受け継いでいるか否かで今後の事を色々と考えなければならない。

 

劉琦軍。兵数は三万、単独での兵力は袁紹、袁術に次ぐが問題は人材不足。軍師に徐庶、将が王威、文聘、李厳の三将のみ。兵の練度は並より少々上程度、明らかな過剰兵力。どうやら異母妹劉綜の叔父蔡瑁が現在は荊州で幅を効かせており、その蔡瑁が諸侯への面子を通しつつ、自分の姪が劉表の後継になるのに邪魔な劉埼を追い落とすべく今回の兵力を持たせたらしい。蔡瑁の権勢を恐れ、着いて来たのも反蔡瑁派筆頭の王威、その側近の若手三名だけだったと言う事らしい。

 

「大筋の指揮は頼まぁ、俺はいざとなったら劉備、公孫賛、劉琦の三軍を援護して回る」

「あら、イキナリ大立ち回りをするつもりなのかしら?」

「まぁ、そろそろ『本気』出しても良い頃合だろ。俺と犹が久々に最初から揃うワケだしな」

 

軍を率いての『本気』。昔からの付き合いになる迅と立夏ではダメ、俺がまともに軍を率い、育てた頃から戦場を共にしている犹とだからこそ出来る戦い方がある。

 

「それなのだけれど・・・・もう一人ぐらい加えられないのかしら?貴方のその戦い方、後世に伝え、可能ならば伝授し、乱あらば鎮静に役立ててもらいたいものなのだけれども?」

「・・・・ぶっつけ本番は厳しいんだがなぁ、騎馬前提だから星だろうな」

 

そう、俺と犹の戦いは部隊が騎馬である事が前提。となれば、騎馬の扱いに慣れ、率いる兵も騎馬隊である星が候補となるだろう。今後も、上手く騎馬の扱いに長けた将が入ってくれれば俺もそういう事を考えるが。

 

「幾つか試したい事もあるしな」

「ふふっ、期待するわ我が『太公望』」

 

何かその呼び方、久しぶりに聞いた気がするな。

 

「仰せのままに、我が『文王』」

 

だから、俺もこう返しとこう。




第十六話でした。

思ったより早く書けちゃいました。毎回これぐらいで書ければ良いんですけどねー。

という訳で、次話から汜水関攻略戦。呉蜀の新キャラたちも本格的に登場しますよ!

そう言えば呉革命が出ましたね、早速買ってプレイしてました。本作では黄巾より前に孫堅は故人、という事でひとつ。


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第十七話:諸葛瑾

「と言う訳で、まぁ宜しく頼まぁ大将。あ、俺あんまり前に出るのは得意じゃないんでそこんとこヨロシク」

「かの『雷公』と轡を並べられるとは光栄の極み、その手腕。傍らにて拝見させて頂こう」

「よ、よよよよよ宜しくお願いします!!」

 

今朝方執り行われた軍議で、『飛雷騎』が独立した遊軍として動くという事を宣言すると劉備軍の諸葛亮、孫策軍の周瑜、劉埼軍の王威より「それだけの重要な役割を鄧艾殿だけに押し付ける訳にはいかない、各勢力からも幾ばくかの人員と兵を出すから上手く使ってくれ」と。

 

手柄は独り占めさせん、なのか。噂の『雷公』を見極めんがためなのか。他に真意があるのか、わ良くわからない。だが援護を受けられるなら願ったりだ。

 

「んじゃあ改めて。劉備軍の簡雍ってんだ、手勢は五百」

 

劉備軍の簡雍。将、とは言うが軍事的手腕は一切聞こえてこなかった。むしろ平原で起きた農民反乱を交渉だけで解決した、と言う噂も聞こえてきている。単純に弁舌に優れているのか、それともそれ以外の何かがあるのか。ニコニコと浮かべている笑顔からは垣間見る事が出来ない。

 

「孫策軍の諸葛瑾、手勢は三百」

 

孫策軍の諸葛瑾。噂は聞いてる、孫堅が亡くなって間も無く孫家に仕官。孫家が袁術の下に付き、軍師に将にと袁術に良いように使われてしまい手足が足りない中で孫家領内の賊の討伐、豪族の調停、各所への根回しをこなし続けたと言う。その諸葛瑾を俺の方に送って寄越す、と言うあたり孫策、周瑜共に油断ならない。

 

「りゅ、劉埼様配下の文聘です!!兵は三千です!!」

 

劉埼軍の文聘。若い、立夏よりも少し上ぐらいだが・・・・あれだ、精神的に若い。立夏や景あたりが熟成し過ぎているだけかも知れないが。今回は自ら志願して来たらしく、しかも俺に憧れてるだのなんだのと・・・・すっげぇむず痒い。

 

 

だがまぁ併せ三千八百の援軍だ。飛雷騎の八千と足して約一万二千、これなら色々と打てる『手』が増える。

 

「俺たちの役目は遊軍だ、とは言え攻城戦じゃあ何も出来ねぇから特に今のところやるべき事は無ぇ」

 

なにぶん大部分を占める『飛雷騎』が騎馬主体、敵が関門からうって出る、なんて珍事がなけりゃあ俺たちの出番は無いんだよな。

 

―――――――――

 

「そう思っていた時期が俺にもありました・・・・だ」

 

攻勢が始まって間も無く、孫策と関羽、二人の行った挑発。戦前の挑発なんてのは開戦の儀式みたいなもんだ、お互い売り言葉買い言葉で自軍の士気を上げ、その上で戦に突入する。間に受けるようなバカはそうそういない、そう思っていたんだが・・・・

 

「華雄に続けて呂布、張遼、高順も出てきましたな」

「違うな、出てこざるを得なくなったのさ」

 

間に受けた華雄が手勢五千を引き連れ門を開け放ち出陣、勝手をするバカは見捨てるのが普通だが・・・・兵力に劣る董卓軍にとって五千の喪失は痛手であり、また華雄軍の破壊力は中華屈指のもの。見捨てると言う選択肢を『選ぶことが出来ない』、故に取るべき最適解は『精鋭部隊の投入』による『華雄軍の救援』と言う悪手になってしまう。

 

「強過ぎる忠誠、ってのも考えもんだよな。要らねぇ暴走を生み出し、意図せずとも味方に不要な被害を出しちまう」

 

味方にその暴走を抑えるだけの存在や、その暴走による失点を回復するような支援を行えるだけの態勢があれば問題では無い。同じく忠誠心からの暴走がある春蘭が曹操軍の『穴』に成り得ないのは華琳や秋蘭や柳琳と言う「そうなるであろう事を踏まえたうえで動く」と言う壊れ性能な面々が複数いるからだ。

 

「さて、想定外過ぎるが出番がありそうだ。状況に合わせて対処するために隊を分ける」

 

待っていました、と言わんばかりに犹、星、由空、真桜、景、流琉と簡雍、諸葛瑾、文聘が集まってきている。

 

「由空と簡雍は公孫賛、劉備連合、真桜、景、諸葛瑾は孫策軍、流琉と文聘は劉埼軍の、それぞれ援護に回ってくれ。犹と星は俺と来い、華雄と高順を狙い撃つ」

「一つ、宜しいか?」

 

手を挙げたのが諸葛瑾だ。俺は頷いて、続けるように促す。

 

「武名が大陸に広まっているのは呂布と張遼の二将だ、その二将に劣る華雄、高順から狙い撃つ・・・・その真意を後学のためにお聞かせ願いたい」

 

成る程ね。俺がどう答えるか、そこから俺を・・・・『鄧艾』と言う将来の仮想敵を推し量ろうとしている。

 

「呂布と張遼はそれぞれ騎馬隊が中心でありその威名はお前のいう通り、遍く天下の万民が知る事実だ。だがそれらは山岳民族や騎馬民族との戦いに強いと言うだけであり、篭城戦などの『踏み止まる戦い』に強いと言う事では無い。華雄の暴走に対し主力の殆どを注ぎ込んできたのがその証拠だ」

 

篭城戦において、梯子などの手段を用いて城壁上まで攻め込まれると言う事がある。そうなった時、機動力を活かせない騎馬隊では活躍の場は少なく、馬を降りて戦ったとしてもなれぬ地上戦に苦しめられる事が多い。となると、そうなった場合に活躍出来るのが歩兵である。ことに華雄軍や高順軍のような重装歩兵ともなれば、攻め込む側にとっては相当な驚異となる。

 

「後の優位を取るために、俺はここで華雄と高順の軍の力を削ぐ事を選んだ。それだけだ」

「では、援兵として来た我らを差し置き自らの手勢だけを動かす理由は?」

「それも簡単、呂布と張遼に邪魔されないためだ」

 

そして重装歩兵を排除している最中に、呂布、張遼らの騎馬隊から横槍を入れられた時、対処を間違えた時は壊滅は必至。故に、いざという時に退くための『脚』が必要。その『脚』があるのは俺、犹、星の三隊だけ。

 

「以上が俺たちが動く理由だ。他に質問はあるか?」

「・・・・いえ、概ね疑問は解決しました。時は金なり、とも言います。直ぐに動きましょう」

 

SIDE 諸葛瑾

 

妹が仕える劉備もまた我が主孫策にとって大きな障害となる事は間違い無い、しかしそれ以上に危険過ぎるのがこの鄧艾と言う男だ。流れてくる噂に一切の誇張無し、かつての黄巾本隊との戦い、領内での賊に対する討伐の手腕、内政的手腕。その全てが曹操との互換性を持ち、『どちらかがいなくともどちらかがいれば何とかなる』状況を作り出している。

 

本来ならば長の不在は襲撃の好機となり得る。

 

だがこの陣営だけはそうならない。『鄧艾』がいるからだ。董卓軍の呂布は、単騎で三万の賊を討った事もある化物だと言う。だが私からすれば鄧艾はそれをも超える化物だと思える。

 

間違いなく、この戦いで中華は認識せざるをえない。鄧艾と言う傑物を、その傑物を従える曹操と言う英傑を。

 

だが、我が王の道を切り拓くと決めた以上。その英傑と傑物を乗り越えなければならない、だからこそ私は彼の戦いから目をそらそうとは思わない。そんな暇は与えられていない。自らの為すべきを成し、尚且つ総てをこの眼に、脳裏に刻み込む。

 

「鄧艾殿」

 

今まさに、漆黒の馬に跨り行かんとする鄧艾を私は呼び止める。

 

「この戦いが終わったならば、一杯如何か?揚州の新酒を持って来ているのですが」

 

私の申し出に、鄧艾はキョトン、とした表情をして直ぐに笑い出す。

 

「ソイツぁ良い!俺も青州で創られた上物の酒を持って来てんだ、大陸の南と東の飲み比べと行こうや」

「ええ、ご武運を」

「ああ」

 

駆け出す鄧艾の背を眺めつつも、私は脚と口を動かしていた。

 

「では参りましょう、大外を廻り込むように移動します。我らが殿は大人しくする、と言う言葉が辞書から抜けているお方ですので。側面からの援護に徹します」

「心得た」

「任しとき!!」

 

私は、私の戦いをするとしましょう。




第十七話でした。

更新が大変遅れて申し訳ありませんでした。間を空けすぎて正直、キャラの口調やら何やらがうろ覚えな部分もありましたが徐々にアクセル上げて執筆していこうと思いますので、また宜しくお願いします。


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第十八話:雷公VS陥陣営

「状況はどうだ」

「牛金様、趙雲様、共に損耗少なく打ち合わせ通りに動いています」

「なら俺らもこのまま突っ込んで、もう一当てしたら西側に抜ける。抜けきったら合図を出せ」

「はっ!!」

 

かなり大乱戦の様相を呈し始めていた。劉備軍の腹癒せの策により、後方へといなされて袁紹軍とかち合いながら公孫賛、劉備の連合軍による攻勢に晒されている華雄。孫策軍と曹操軍に挟まれる形で削られている高順、張遼。劉埼軍の数的優位を武勇一つで均衡へと持ち込む呂布。そこに横槍を入れようとしていた鮑信、劉岱、孔融ら諸侯が繰り出した少数部隊がこれらの戦闘に巻き込まれて磨り潰されている。

 

 

「ったく!これが匈奴と長年やり合ってきた董卓軍か・・・・」

 

強い。

 

俺らの兵も相応に鍛えて、そんじょそこらの精兵に負けないと言う自信がある。だが相手は長年匈奴を中心とした五胡に与する山岳民族や騎馬民族とやり合ってきた精兵中の精兵。軍の持つ『圧力』、それを指揮する各部隊長の『質』、悔しいが俺たちの方が劣っている。

 

「だからって白旗は上げらんねぇからよ・・・・オラァ!!合図出せぇ!!」

「はっ!!」

 

大きく振り回される『飛』の旗。この合図の意味は『集合』。

 

「訓練通りにやりゃあ上手く行くさ、全力で、総てを絞り尽くして行くぞ!!」

「「「「「応っ!!!」」」」」

 

SIDE 高順

 

「えぇい!!あのように虚仮にされて黙っていられるかっ!!!」

 

周囲の静止を振り切って華雄とその直属部隊が門を開き、威勢良く出陣する。

 

「・・・・・・・あー、どうする?」

 

篭城を主体とし、別働隊による兵糧部隊や兵糧庫への攻撃を重ね、兵糧不足による撤退へと追い込む。賈駆と李儒、陳宮の三軍師が出した結論がそれであり、直前の軍議でもその大方針に従うことが決定していた。していたハズなのに、敵将からの挨拶代わりの挑発を間に受けて出陣してしまった華雄。

 

「どうするもこうするもあるかぃ!!助けなアカンやろ!?」

「・・・・そうなるよな」

 

怒り心頭な様子で配下に出撃を急がせる張遼。その向こうで既に呂布も動き出している。

 

「準備は出来ているか?」

「既に」

 

ウチの隊の連中も優秀なことだ、張遼はもはや華雄の首根っこを掴まえて連れ戻す事しか頭にないし呂布もその間の時間稼ぎに徹するつもりだろう。

 

「俺の隊が門を潜ったなら直ぐに閉めろ」

「分かっているのです、いるのですが・・・・」

 

後事を託そうとした少女、陳宮は納得がいかない、とアリアリと表情に出している。

 

「アイツの武力と直属兵五千の戦闘力、見捨てるわけにはいかん。と言うのは分かりきってることだろう?」

「ですが!」

「どのみちあっちの二人には見捨てる、と言う選択肢は無いらしいしな」

 

門が開くと同時に全力で馬を走らせている二人へと視線をやる。

 

「三人とも生かして連れ戻す、帰る場所(ここ)を護るのは任せた」

「・・・・・・・・きっとですぞ」

「おぅ・・・・お前ら行くぞォ!!」

「「「応!!」」」

 

俺たちが門をくぐり、開けた門前へと出ると同時に門が閉められる。

 

「左だ!!」

「はっ!」

 

呂布なら倍以上の敵相手でも何とかするだろうし、華雄は敵陣の奥深くまで誘い込まれているため直ぐには助けられない。今優先すべきは『孫』と『曹』、李儒が危険視していた両雄と噛み合っている張遼だ。騎馬と徒歩、その差で距離は開いているが、遠目で見ても分かる。あの二軍は『別格』だ。兵も、それを動かす将も、その頂点に立つ『主君』も。ウチの『主』が劣るとは思わない、だがそれでも『曹操』と『孫策』は『別格』だ。

 

「隊を二つに分ける!徐栄は左!俺が右を行く!」

「御意にっ!!」

 

俺の合図に応じ、副官の徐栄が気勢をあげて張遼軍の左を攻める孫策軍との間に割って入る。それを見てから俺も右側、曹操軍との間に割って入る。両側を締め上げていた敵を抑えさえすれば、張遼ならば立て直し、本来の調子を戻し動けるだろう。

 

「厄介な敵だ」

 

一人斬り、二人斬り。普通なら雑作もなく行えるであろう作業として処理するのに、この敵はそうはいかない。二人に一人は、俺の剣撃を受け止めてくる。

 

「高順様っ!!」

 

部下の金切り声に、反射的に視線を向けたのは背後。俺、徐栄、張遼の隊に後方から切り込んでくる三つの騎馬隊。『飛』の黒旗と共に『鄧』『牛』『趙』の三つの旗を掲げているうちの俺の背後を攻める『鄧』と徐栄の背後を攻める『牛』、この二隊はヤバい。護る、と言う一点において俺の隊は董卓軍内で最強だと言う自負がある。その俺の兵が見る影も無く削られていく。

 

「曹操様が一の家臣、夏侯元譲!そこの敵将に一騎打ちを申し込む!!」

「曹兗州牧が臣、『雷公』鄧子載!そこにいるは董卓軍が将、『陥陣営』高順と見た!尋常なる勝負を求む!!」

 

 

最悪だ。夏侯惇に鄧艾、兗州方面から聞こえてくる武名を二分する二将に囲まれた。どちらかと戦い、勝ち、活路を見出す他に選択肢は無い。そしてどちらと戦うかと言えば・・・・

 

「鄧子載の申し出を受けよう!この高順がお相手致すっ!!」

 

背後に曹操軍本隊を控えさせている夏侯惇よりも、最終的な突破に兵数の差が少ない鄧艾だ。

 

「お前らは耐えて突破の機を伺え、決着がつくまでは決して無理をするな」

 

鈎剣を構え、俺が駆け出すと同時に鄧艾も漆黒と紫銀に彩られた矛を構え馬を走らせる。不利も不利、そもそもの間合いの差がある上に俺は徒歩、相手は馬上。格段の差が存在するならばまだしも、互角かそれ以上の相手が間合いでも有利を取るとなれば・・・・

 

「っ!このぉっ!?」

「ぁぁああああぃっ!!」

 

圧される、なんて結果は目に見えている。眼に見えるような、強さをアリアリと見せつけるような派手さは無い。だが突き一つ、払い一つ、薙ぎ一つ、その全てが俺を確実に殺りに来ている。最短で、最速で、無駄の一切無い挙動は職人の作り出す逸品を想起させる程。そして驚嘆すべきはその『膂力』、俺の受けがその都度弾き飛ばされている。

 

「噂と見た目からは想像出来ないな、この眼に見えぬ苛烈さ・・・・はっ!」

「ったりめーだ。眼に見える札は然程怖かねぇ、眼に見えない札の方が気味が悪くて手に負えねぇってもんよ!」

 

そして『深い』。派手さ、聞こえる武名、勇名、威名。それらを鑑みても、普通なら呂布か張遼、華雄を潰すもんだ。だが間違い無い、曹操と孫策は流れで俺を潰しに来たが、鄧艾は迷いなく『篭城戦』の要である俺と俺の隊を潰しに来ている。

 

騎兵中心の呂布と張遼、歩兵中心の俺と華雄。今後の城攻めを考えれば潰しておきたいのは後者、その中でも守勢に長けるであろう俺の方を迷わずに。

 

この武は、その判断力は、どこからやってくるんだろう?

 

「なぁ・・・・アンタはなんでそんなに強いんだ?」

 

打ち合いの間に生まれた刹那、俺は思わずそんな問いかけをしていた。時間稼ぎのつもりだったのか、本心からの問いかけだったのか、俺も良くわかってない。

 

「後悔してねぇからさ」

「は?」

 

当たり前のように返って来た答えに、俺は思わずそんな反応をしていた。

 

「俺の道に、俺の生き方に、俺の選んだ主君に、何一つ俺は後悔してねぇ。戦う事に、生まれた結果に、全てに後悔をしねぇ。それが俺を選んでくれた主に、俺を信じ従うバカ共に、報いる唯一の方法だと俺が思っているからだ」

 

俺は・・・・

 

「お前はどうだ?高順。何一つ、後悔しねぇ生き方を出来てるか?」

 

どうして、今になってこの人と出会ってしまったのだろう。

 

「・・・・さ、おしゃべりはここまでだぜ?息も戻っただろ?」

「ああ」

 

もっと早くにこの人と出会えてたなら俺は・・・・

 

―――――――――

 

倒れ伏す高順、俺の眼に焼き付いているのは俺に斬られ、倒れる直前の姿だ。

 

『張遼ぉっ!』

 

真っ直ぐに指差した先は、虎牢関ではなく、その先の・・・・

 

『火を絶やすなァっ!!』

 

俺に斬られると同時に発したその一言で、拮抗していたハズの張遼は一気に包囲を振り切り、呂布、華雄と共に虎牢関へと引き上げていった。

 

「・・・・軍医を呼べ、コイツを死なすな」

 

高順の助命を条件に降伏を申し出たのが三百、張遼に付き従い離脱したのが四百、曹操軍との戦線(こちら側)で戦死したのが三百。孫策軍と戦った方の兵は、将も討たれ、兵もほぼ壊滅となったようだ。

 

「吼狼様」

「吼狼殿」

 

犹と星が、馬を寄せてくる。

 

「敵将兵の殆どを孫策に持って行かれました、が最低限の助攻としての役目は果たして来ました」

「それなりの損害は与えましたが張遼には逃げられてしまいました、申し訳なく」

 

二人の報告を聞きながら、俺は前線へと目を向ける。上手く動かされたのか、袁紹軍が虎牢関前へと進み城攻めを開始している。

 

「兵の損耗は?」

「死者は無し」

「こちらも、負傷者は幾人おりましたが」

「なら構わん」

 

まだ初戦だ、そこで功を焦って要らぬ犠牲を出すよりも、将軍首を取り逃してでも被害を最小限に抑える方が肝要だ。

 

「戦利品、と言ったところかしら?」

「そうなってくれれば良いがな」

 

兵力の損耗が最も激しい城攻めを袁紹軍が担ってくれているし、釣られて袁術も本隊を動かす気配がある。全諸侯の中で最大の兵力を誇る二軍が前に出るなら無理をする必要は無い。公孫賛、劉備、劉埼、孫策らもそれぞれ後方へと下がり始めている。

 

「もし、コイツが・・・・」

「良いわよ、貴方の戦利品ですもの。それをどうするかは、貴方に委ねるわ」

「感謝」

 

高順の隊は役目を果たした、張遼を離脱させるという役目を、だ。その役目に殉じたのが二千三百、果たした上で生きて次の戦場に向かう事を選んだのが四百、将と運命を共にする事を選んだのが三百。何れも共通点は役目を果たしたと言う結果。そして何れの道を選んだにせよ、これだけの兵を鍛え上げる手腕、乾坤一擲で突破の可能性がある俺へと挑んでくる胆力、自らの生還が難しいと分かるやいなや迷わず自分を見捨てさせるという判断力、ここで死なせるには惜しい。

 

もしかすれば、敗北と言う恥辱に塗れたままに生きる事を拒否し死を選ぶかも知れない。だが、俺にはコイツが生きる事を選ぶと言う確信に近い予感がある。

 

コイツは『俺』だ。

 

師匠に出会わず、華琳にも、仲間にも出会う事の無かった俺だ。

 

「マジで死なせるなよ!」

 

駆けつけた軍医に、重ね重ね言い募ってから俺は虎牢関へと視線を再び向ける。

 

高順が生きて立ち上がる事を信じ、俺の脳は再び董卓軍攻略へと向けられていた。




第十八話でした。

実は高順はKOEI三国志でも割と気に入って積極的に登用している武将の一人でして、最初は第一犠牲者になってもらおうかな、とも思いましたが理性に本能が勝って生存ルートを進ませる事と相成りました。

そして、とうとうお気に入り登録数が二千を突破しました!

連載始めた当時はここまで増えるとは思ってなかったんですけどねー。

というわけで、これからも皆様のご期待を裏切らない程度に、コツコツ執筆を続けて行こうと思っています。


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第十九話:洛陽にて

虎牢関はもぬけの殻。

 

その知らせがもたらされたのは袁紹、袁術が前に出て二日目の事だった。袁紹、袁術は自分たちに恐れをなして退がったのだ、と自慢げに言っていたがそんなのを信じるたり喜んだりするのは同等のバカか阿るバカのどっちかだ。ちょっとでも考える頭があれば、誰しもそうは思わない。

 

一応は、状況の変化に対処するという名目で華琳と二人、頭を突き合わせてはいるが・・・・

 

「洛陽に変事有り、と思うのが妥当なんだがな」

「そうね、戦略的にも戦術的にも虎牢関、巳水関の二関を放棄する意味が無いもの」

 

斥候によれば巳水関も敵影は無いと言う。洛陽を守護する二つの堅牢な関門を放棄する、と言うのは通常有り得ない事だ。諸侯の殆どが兵数差を埋めるために洛陽守備軍を併合し、洛陽にて決戦を行う腹積もりなのだろう、と宣っているがそれも俺は有り得ないと思っている。となれば、二関を放棄してでも優先して対処しなければならない変事が起きた、と言うのが妥当だと思う。恐らくは大将軍何進と派閥争いをしていた十常侍が何らかの動きを見せた、と言うのが本筋だと思っている。

 

出来る事なら、先の虎牢関の面々で協力体制を敷き対処を考えたいところなのだが孫策軍は前に出た袁術の代わりに連合軍の兵糧管理、劉備・公孫賛軍と劉埼軍は兵の損耗が大きく十分な働きが難しいだろうからと言う本営の指示で後方待機、俺ら曹操軍は擁州方面からの援軍を防ぐと言う名目で洛陽西方で待機。

 

洛陽攻めは袁紹、袁術、他ここまで兵力の損耗が全くない諸侯たちで行われることになった。

 

「呂布、張遼、華雄を退け高順を『討ち取った』、その功績を妬んだんだろうな。ロクな能力もねぇくせに自尊心だけは一人前と来たもんだ」

「そうね、でもこれが『漢』と言う国の今の姿よ」

 

華琳の言葉に俺はため息を一つ。手柄の独り占めだけはさせない、と。本当に器の小さい連中だ。

 

「だがまぁ、このまま端っこでおとなしくしておく必要も無ぇな。春蘭と秋蘭を行かせよう」

「仕掛けるの?」

「機を見計らって、な」

 

高順を失った以上、董卓軍の篭城はかなり厳しくなっている。ともなれば、包囲している軍を見てむしろ引っ掻き回しに出てくる可能性も高い。恐らくではあるが、ギリギリ対処出来るのは将がそれなりにいて兵の練度も幾分マシな袁紹軍か董卓軍と同じく異民族相手に長年戦ってきた西涼軍ぐらいなものだろう。他は総崩れになる可能性が高く、他の三軍もそこを狙って精鋭部隊を『救援と言う名目』で投入するはずだ。

 

「欲しいのがいるなら言っとけよ?じゃねぇと春蘭なら全部ぶった斬っちまうぞ?」

「分かってるわよ、あの娘らとの付き合いは貴方より長いもの」

「なら良い」

 

―――――――――

 

「よぉ、眼は覚めたか?」

 

幕舎で寝かせていた高順が起きた、そう知らされた俺は直ぐに赴いていた。

 

「あぁ・・・・」

 

起き上がっていた高順は、思っていたよりも落ち着いた受け答えをしている。

 

「俺は・・・・どうなる?」

「三つ、選択肢をやる」

 

俺が指を三本立てると、驚いた顔をしている高順。

 

「一つ、このまま降る。二つ、装備と兵を受け取り激戦区になっている洛陽へと戻り董卓軍として最後まで戦う。三つ、劉備、孫策、劉埼の何れかに仕官する。俺としてはお前がどれを選んでも便宜は図る」

「・・・・一つ目は分かる、だが二つ目と三つ目はなんだ?俺を試しているのか?」

「ある意味ではそうかもな」

 

椅子を引っ張り出し、寝台の脇へと座り込む。

 

「あの時はそのままお前を死なせるには惜しいと思った、だからあの時は助けた。だが無理強いをするつもりは無い、恩着せがましく配下に降る事を強要したくはねぇ。かと言って他のアホ共にお前の身柄を引き渡すつもりもないし、主に殉じて死を選び、死線に身を投じる事を是とする生き方がある事も知っているし理解している。だから先の三つから選べ、と言った」

 

俺が助けたことに恩義を感じ降伏するも良し、洛陽へと戻り董卓に殉じ最後まで戦うも良し、どちらも選びたくないと言うならその力を活かせる場を紹介してやるだけだ。

 

「・・・・俺は、今の今まで董卓様には抜擢していもらった恩義を返そうと思って仕えてた。あの人はあの人なりに、()を思い、民を思い動いた。その結果として失敗した、呂布、張遼、華雄の武勇や賈駆、李儒、陳宮の智謀があろうとも状況は覆せない。今ここで俺が洛陽に戻って加わったところでそれは変わらないし、相応の動きはして来たつもりだ」

 

寝台から降り、膝を屈する高順。

 

「装備と兵、と言っていた。どれぐらい、残った」

「三百弱だな、四百ぐらいは張遼に付き従って、左翼に向かった二千と残りの三百はまるまんま戦死したよ」

「・・・・降る、だが条件がある」

「言ってみな」

 

少しだけ躊躇いを見せながらも、口を開いた。

 

「部下たちと共に、一度擁州へと行かせて欲しい。俺に付き従い、命を落とした者の弔いをしたい」

 

ここから逃げ出すための方便、普通ならそう捉えて否とするだろう。だが・・・・

 

「構わねぇよ、行って来な。おぅ!!誰かいるかぁ!?」

「はっ」

「話ぁ聞いてただろ?行き帰りの兵糧を手配してやれ!」

「御意に」

 

外から聞こえてきた返事は景のもの。疑問も反論も挟まずに、直ぐに駆けていく音が聞こえてくる。

 

「・・・・逃げるとは、思わないのか?」

 

訝しげに、問いかけてくる高順に俺は笑って返す。

 

「そうなったら俺の見る目が無かった、ってぇだけさ。次に戦場であったなら問答無用で殺す、それだけさ」

 

当然、それで失った兵糧の分は俺の私財から賄うし、二度も慈悲をかけてやれる程俺は善人じゃあない。

 

「さ、お前さんの部下も今頃待ってるはずだ。とっとと済ませてきな」

 

SIDE 高順

 

張遼を助けると、俺が判断し、降した指示で徐栄と二千三百が死んだ。俺の連れていた兵の殆どは同郷、故に以前から死者が出るたびに郷里の風習に従い弔ってきた。だからこそ、徐栄と二千三百の兵を弔いたかった。許可など降りるはずもない、無理な願いであると理解しながらも俺は鄧艾へと願い出た。

 

「部下たちと共に、一度擁州へと行かせて欲しい。俺に付き従い、命を落とした者の弔いをしたい」

 

断られて当然、その場合は別のやり方もあるだろう。と、半ば諦めていたのに。

 

「構わねぇよ、行って来な。おぅ!!誰かいるかぁ!?」

「はっ」

「話ぁ聞いてただろ?行き帰りの兵糧を手配してやれ!」

「御意に」

 

返答と、配下の動きは俺の理外だった。

 

「・・・・逃げるとは、思わないのか?」

 

有り得ない、あってはいけない。だからこそ、俺は問いかけていた。

 

「そうなったら俺の見る目が無かった、ってぇだけさ。次に戦場であったなら問答無用で殺す、それだけさ」

 

一気に興味が沸いてきた。これだけの大器の下で戦う未来に、これだけの大器を従える曹操と言う英傑に。

 

「さ、お前さんの部下も今頃待ってるはずだ。とっとと済ませてきな」

 

裏表の感じられない、屈託のない笑みを浮かべ促す鄧艾。

 

「感謝する」

 

素直に、その一言を発していた。

 

幕舎を出て、部下たちの下へと案内されながら。部下たちを如何に説得すべきか、死んだ部下たちになんと言おうか、俺は考えを張り巡らせていた。

 

―――――――――

 

「そろそろケリが着きそうな感じだな・・・・一刀たちを洛陽に向かわせろ」

 

次々と董卓軍所属の旗が倒されていく、城外の戦線も収束に向かっているようだ。恐らくは城門も破れば利権がらみで城内は大混乱となるだろう。その中に潜り込ませるなら確かな眼を持つ者を向かわせるべきだ。であれば、その眼がある一刀と護衛の凪、知恵袋の立夏、軍師たちとは別視点を持つ紗和と良い組み合わせではある。

 

「吼狼様、宜しいでしょうか」

「おぅ、入れ」

 

幕舎の外からの犹の呼びかけに、俺はすぐさま招き入れる。

 

「春蘭様、秋蘭様が張遼と配下の兵を引き連れて戻ったようです」

「流石、と褒めとこうか」

「ですが・・・・春蘭様が左目を失いました」

 

不覚傷、で済ますには痛い損失だ。まぁ・・・・アイツならどうとでもするだろう、主に華琳への愛で。そもそもアレは『視覚』よりも『嗅覚』で戦っているフシがある。片眼ぐらいなら、勝敗に関わらないぐらいだろう、きっと。

 

「他の情報は入ってるか?」

「董卓、賈駆、李儒の行方は不明。呂布、陳宮の両名は堂々と敵中突破を果たし逐電した模様。洛陽では袁紹と袁術が醜く、浅ましく利権争いを行っています」

 

董卓、賈駆、李儒に関してだが・・・・三者の事情を知った『誰かさん』が懐に招き入れた、と言う可能性が大と考えられる。呂布に関しては・・・・流石、としか言えない。連合諸侯にもマシなヤツらはいる、袁紹、袁術配下にだって顔良、文醜、紀霊と優秀な将はいる。それをものともせず、突破するとは。味方に出来れば心強く、敵に回したら如何に戦わずに済ませるかに腐心したくなるような相手だな。

 

「鄧艾様、諸葛瑾殿が訪ねてお出でです」

 

・・・・・・・・確かに洛陽と言う『盤面』は詰んだ。主な戦闘は終わった、だが本当に即座に来るとは思いもしなかった。いや、陽も暮れてきたし、飲み始めるには良い時間だなとは思うが。

 

「通せ。それと・・・・俺の幕舎から黒い封をした酒壺がある、ソイツを持ってきてくれ」

「はっ!」

 

だがまぁ、揚州の新酒にもそそられるのも事実だ。諸葛瑾と酌み交わしつつ語らう事も楽しみにしていた。

 

一仕事終えたのだ、それぐらいは・・・・構わないだろう。




第十九話でした。

キッチリ予定通りに夏侯惇は左目を失い、張遼捕縛、その他もろもろ原作的なフラグは回収しました。

次話はただの飲み会です。


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第二十話:終戦

「頭痛ぇ・・・・・・・・」

 

あの後、諸葛瑾と飲んでいるとどこから嗅ぎつけたのか先ずは孫策、黄蓋が乱入して来た。

 

『とーう艾!二人だけで良いお酒を飲もうなんて・・・・ズルいわよ!』

『うむうむ、酒宴とは大人数で、酒の味を分かち合うことに醍醐味があるわけであってな・・・・』

 

来客対応をしていた景に後々話を聞いたところ、拒否すれば斬られかねない覇気を放っていたと言う。

 

『吼狼様、華琳様のためならば全身全霊を尽くした働きを捧げ、この身を文字通りに盾とし守護する覚悟が御座います。ですが・・・・欲に眼が眩んだ虎二匹を相手に命を落としたくはありませんでした』

 

珍しく、未だかつて見せたことのない程に申し訳なさそうな顔をしてそう弁明した景を、俺は咎める事が出来なかった。

 

次に現れたのは春蘭、秋蘭、桂花、華侖、栄華、柳琳を伴った華琳だった。

 

『孫策が来ているのでしょう?江東の虎の娘と語り合う機会、逃したくはないわ』

 

更に。

 

『申し訳ありません!!姉様が失礼な事を・・・・』

『アレに悪気は・・・・恐らく無いとは思うのだが・・・・』

 

孫権、周瑜が程普、蒋欽、甘寧、周泰を伴って謝罪に現れた。もうこの時点でヤケになっていたので、俺は兵に席を用意させ、謝罪を受け入れる代わりに共に盃を重ねる事を勧めた。

 

『はわわ!?』

『あわわ!?』

『・・・・これは何?』

『宴会ですか!?』

 

諸葛亮、鳳統、徐庶、文聘が保護者役の簡雍、李厳の二名を伴い現れた。俺と話がしたかった、との事であり俺は更に席を用意させると共に劉備・公孫賛軍、孫策軍、劉埼軍に留守で残っているであろう陳到、韓当、王威ら宛に酒を運ばせると同時に残る劉備と公孫賛、劉埼の三名にも招待する使者を送っていた。もう、このあたりで自棄酒でかなり酔っていたんだと思う。

 

結局、劉備と公孫賛、劉埼が関羽、張飛を引き連れて合流。四勢力による大宴会へと発展し、明け方まで飲めや歌えやの大騒ぎとなった。

 

「オラァ、二日酔いだからって腑抜けた行軍した部隊は『司馬飯』食わせんぞぉ!」

 

洛陽の復興に関しては、袁紹、袁術を煽ってやらせているようで、孫策と周瑜、劉埼、徐庶が上手く手を回して最後までやらせるようにするそうだ。なので、それぞれ降将を引き入れたり、色々と後暗いところがある俺らと劉備軍は真っ先に撤収する事が決定。

 

で荷造りは終わり、後は陳留まで撤退するだけ。なのだが、今朝方まで続いた大宴会の影響か将兵の大半が二日酔い等の症状に悩まされているのが現状。だが撤収時にこそ、気を張って他勢力に堂々たる姿を見せなければならない。故に発破をかけるための、俺の一言だった。

 

「「「「「!!!!!?」」」」」

 

だが、俺のその一言で場の空気に緊張感が走る。

 

『司馬飯』

 

その単語は、曹操軍に所属する者にとって『死』を意味する。

 

「鄧元帥は正気か!?」

「死にたくない!死にたくなぁあああぃ!!」

「死力を尽くせ!!呂布と戦う気概にて望むのだ!!」

「司馬姉妹の手料理とあらば俺は死んでも一向に構わん!!」

 

悲喜交々、様々な台詞が飛び交うが・・・・有り体に言えば立夏、真冬の作る飯は『不味い』。どれぐらいかと言えば、体だけは丈夫な春蘭が五日間寝込み、一刀は一週間もの間意識を失っていた。最大の問題は司馬姉妹はそれを自覚しておらず、事あるごとに華琳を筆頭に秋蘭、流琉ら特級料理人たちが矯正を試みてはいるが未だ改善の兆しは見えていないらしい。

 

「さぁ、死にたくなけりゃあ死ぬ気で駆けろぉ!!」

「「「「「うぉおおおおおおおおおぉっ!!!」」」」」

 

おかしいな、虎牢関攻めとかよりも士気が高い気がする。

 

―――――――――

 

「『飛雷騎』の人員枠数の固定?」

「ええ」

 

陳留への帰途、華琳と馬を並べ今後の方針やらなんやらについて話し合う中で突如言われたのが『飛雷騎』の将、軍師、他役付の枠数上限や総兵数を固定すると言うモノだった。

 

「私が貴方と『飛雷騎』に求めるのは『切り札』としての運用。将も軍師も兵ものべつまくなしに増えられたらその価値観は薄れるでしょう?」

「言ってる事は分かるが・・・・」

「既に今いる人材では無く、将来台頭して来るであろう人材たちに『飛雷騎』の人員に名を連ねる事が『名誉』。そう思われるようになって欲しいのよ」

 

つまりは今後の俺の手腕にもかかってくるワケだ。名実共に曹操軍最強の部隊で在り続けなければならない、敵対する全ての勢力から『飛』の旗を見ただけで畏怖されるような存在にならなければならない。まぁ、元々の結成意義が『それ』だったんだ。何を今更、と言うところだろう。

 

「将は五名、軍師一名、それに俺で合わせて七部隊、総兵数四万・・・・でどうだ?」

「貴方が一万、他各将の直属兵が五千ずつ、まぁ妥当な数じゃないかしら?」

「当然、選定条件は今までよりも厳しくする。今、飛雷騎に名を連ねている将、士官が外れる可能性も出てくるだろうよ」

 

正直、現状を鑑みれば妥協も必要かと思っていたが華琳の言い様を聞いている限りではそれは許されないらしい。ならば、やるなら徹底的にだ。

 

「それでこそよ、構わないわ。一分の妥協も許さず、貴方の思い描く『最強』を創り上げなさい」

「御意」

 

と言っても、現段階で『残せる』とすれば犹と星だけになるだろうな。由空も、景も、流琉も、真桜も優秀ではあるが俺が『本気』で創り上げようとする『飛雷騎』とは方向性が異なる。逆に、現在は員外だが候補に上がってくる者もいる。

 

「どちらにせよ人選は貴方に任せるわ、可能な限り便宜も図りましょう」

「ありがたいこって・・・・」

 

既に将の候補は一人、見繕ってある。後は将二人と軍師、か・・・・

 

「そう言えば・・・・この戦いに対して朝廷から恩賞が下されたわ」

「『朝廷』の名を『騙る』アホウ共からの恩賞に意味がありますかね?」

 

少帝も陳留王、張譲も洛陽から姿を消したと言う話だ、大将軍何進と何太后も『行方不明』。となれば、洛陽に残った財を動かす口実として十常侍の残党やら何やらが形ばかりの恩賞をばらまいているのだろう。

 

「騙りとは言え『国璽』の押印された『書面』だもの、既成事実と言う事もあるわ」

「中身が空でも使い様、って事か」

 

頷いてから、華琳が書状を一通俺へと差し出す。

 

「そこに今回の全てが書いてあるわ」

 

無言で開き、先頭に書かれていたのは『大将軍 袁紹』の文字。もしかすれば、袁紹が裏で糸を引いていた可能性もあり・・・・と。

 

「『威東将軍』曹操、『牙門将軍』鄧艾・・・・ま、他も見る限り『私への協力ありがとう、他の皆さんにもお情けで官位を差し上げます』って感じだな」

「それが袁紹なのよ」

 

単純な戦功なら俺らや劉備、孫策、劉埼の四軍と馬超、公孫賛あたりの方がよっぽど上だ。だが劉備、公孫賛、馬超、劉埼に関しては少々の金品が贈られた程度、功績の殆どを袁術に奪われた孫策には何もなかった。そう考えれば、俺たちは幾分かマシと見るべきなのか。

 

「名が力を持つと言う事もある、って言ったのはお前だぜ?『名門袁家』と『大将軍』の相乗効果は思っている以上に面倒だぞ?」

「わかっているわ、河北に放つ間諜を増員。州境にも兵の増員を・・・・」

「兵の増員は暫く待とうや」

 

俺がそう言えば、華琳が続きを促すようにこちらを見ている。

 

「袁紹の侵攻に対する備えなら現状でも十分、対応が可能だ。順当に動くなら幽州、併州を抑えるのが先。ならそっちの制圧と地固めに袁紹が時間を取られている合間にこっちも足元を固めつつ準備を整える」

「公孫賛を捨て駒にする、と?」

「いんや?」

 

その返答に、首を傾げる華琳。

 

「見捨てるつもりはねぇさ、ただし俺たちが袁紹を崩すまで耐え切れれば、だがな」

 

公孫賛は烏丸族の領地と接している幽州を任せられるだけあって、優秀な騎馬戦術を持っている。その旗の下で戦い続けた精兵『白馬義従』と公孫賛自身の経験は得がたい戦力であり、可能ならば組み入れたいとも思う。だが無理に俺たちが攻めに出ても、二方面作戦を敢行し、尚且つ押し切れるだけの『物量』を袁紹は揃える事が出来る。ならば、最低限『物量』と拮抗するだけの『質』が必要となる。袁紹が洛陽から戻って、河北四州の制圧に乗り出せるまで、俺の見積もりでは約半年。その間に準備を整え、『公孫賛』と言う餌に食らいついている間に後方から電撃作戦で突き崩す。

 

「帰還後の休養が終わったら再編と練兵だ、少なくとも『飛雷騎』を完成形の五割にまで持っていく。将は俺の要望さえ通るなら『四人』揃う、最後の一人と軍師、そして兵全体の練度・・・・そこをどうするかだな」

 

自己流の『戦』の形を持っていて、瞬時に優先順位を定める観察眼を持ち、己の為すべき事に殉じる覚悟を持つ将。

 

俺や華琳に近しい視界の広さと俺とは違う視点、俺と同等かそれ以上の事務処理能力を持つ軍師。

 

高望み過ぎる事はわかっている。

 

そんな人材は大陸を見渡してもそれぞれ五人いるかどうか、それを求める事の難しさも理解している。

 

だが。

 

やらねばならぬ、俺が望む『未来』のために。

 

『覇王』曹操が中華を統べ、泰平の世を創り上げ、漢王朝四百年を遥か上回る永き治世の祖となるその日を。




第二十話でした。

リアルが忙しく、まさかの十八連勤。なかなか投稿出来ず、読者様には申し訳ないと思っています。

次回から、多分しばらくは日常回になると思います。


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第二十一話:再編

「兵法の理を学ぶ、その事自体は間違いじゃあ無い。だが戦場とは思い通りにはいかないものだ、だからこそありとあらゆる手段を用いて自分の思い描く戦場を作り上げる『力』が将には要求される。それは洗練された『武芸』であったり、何者をも寄せ付けない『破壊』であったり、見えぬものを感じ取れる『第六感』であったり、何者にも想像のつかない『知略』であったり・・・・それは人それぞれだ」

 

俺の前で並んで座っているのは校尉、都尉、軍師候補たち併せて百人近くになるだろうか。最後方には華琳、桂花を初めとした曹操軍の頭脳派集団。

 

それらが俺の講義に聞き入っている。

 

そもそもの始まりは洛陽から戻って一月ほど経った頃の事だった。

 

『結構な量の嘆願書が出ているんです、吼狼様の講義が受けたい・・・・と』

 

そう、桂花から告げられ、華琳と一刀に舞台を誂えられ、凛と風と立夏に退路を絶たれ、真冬と燈に追い込まれた俺はやむを得ず教壇に立つ事になった。今思えば、桂花から陳情として上がってくるところからが俺をここにたたせるための罠だった気がした。だって今言った、俺をここに押し上げた奴ら真冬と燈を除いて漏れなく座ってるもん。

 

「故にだ、諸君には唯々諾々と指揮官の命令に従うだけではない・・・・その命令に込められた意図を読み取ったり、その場で状況に合わせた最適解を選び取ると言う事を少しづつでも構わない。出来るようになっていって欲しい」

 

命令通りに動くだけなら誰にでも出来るし、それだけの校尉、都尉なら直ぐに据えられる。だが人材もまた物資、有限である以上は一人一人に生き延びてもらい、戦歴を重ねてもらう必要がある。

 

「今日の俺の講義をどう活かすかは諸君ら次第だ。もしかしたら、この中から次代の曹操軍の根幹を担う人材が現れるかも知れない。むしろ・・・・」

 

「俺は、そうなってくれる事を願う」

 

―――――――――

 

「それで?」

 

半日もかけた講義が終わり、実践だと銘打って臨時の模擬戦へともつれ込む。俺と華琳、桂花、立夏は観覧席へ。凛と風は分けられた東軍、西軍にそれぞれ参謀役兼人材見極めのために参戦している。

 

「貴方のことだもの、不特定多数にああいった『激励』をする事は無いでしょう?既に目星をつけている、と私は思っているのだけれど・・・・どうかしら?」

 

練兵場から引っ張り出された星と迅をそれぞれ総大将として、陣立を済ませた両軍。それを見下ろしながら、華琳が問いかけてくる。

 

「・・・・東軍の先鋒騎馬隊と西軍本営の騎馬隊」

 

東軍先鋒にいる方は定陶で『飛雷騎』に入った志願兵で名を姜維、西軍本営の方は華琳の一族で曹休。ともに他の若手将校たちよりも一歩抜け出た感じ、ではあるが後一歩なヤツらである。

 

「華那と・・・・もう一人の娘は見た覚えが無いわね、でも・・・・好みだわ」

 

じゅるり、と。

 

「オイ」

「大丈夫よ、眼をつけたのは貴方が先だもの。貴方が駄目だった時に私がいただくわ」

 

どっちの意味でだ、と思わず聞きたくなったが飲み込む。戦闘開始の銅鑼が鳴ったからだ。

 

「もののみごとに分かれたわね」

 

恐らく、四人ともこの模擬戦の意味を理解している。だからこそ口出し、指示出しは最低限で若手連中の大方針に従う形で動くだろうとは思っていた。だが・・・・

 

「錘行陣と方円陣、示し合わせたような攻めと守りの構図だな」

 

これは星も迅も面白がってやってるな?互いに矛を交えた事は無く、模擬戦ですら敵対した事は無いはずだ。この機に一度やりあってしまおう、ってワケか。しかも若手たちに一線級の将の戦いを見せる、と言う大義名分まである。やり過ぎなければ、誰かから文句を言われる筋合いも無いわけだ。

 

「ってオイオイオイ・・・・」

「ふふっ・・・・派手にやるわね、二人とも」

「イキナリすぎる気もしますけど・・・・」

「星らしく迅らしい、良いんじゃないですか?」

 

突撃の合図とともに隊を四つに割る星、『四錘』と呼ばれる波状攻撃による突破を目的とした陣形。対する迅は方円の後方を解除し半円を二つ重ね、前衛は盾を、後衛は弓矢を装備させ堅く護りつつ削りに入る姿勢だ。星が初っ端から超攻撃的なのにも驚いたが、迅がここまで『踏み止まる』戦をするようになったことにも驚いている。秋蘭の下で守勢を学ばせたのは、どうやら正解以上の成果をもたらしているようだ。

 

「まさか・・・・とは思うがな」

 

そもそも、俺は今回の指揮官役を指定してはいない。選定と日程調整は全て一刀に任せていた、と言う事は一刀がこの光景を見せるべく仕組んだ、と言う事か?そう言えば両陣営に所属する校尉、都尉も所属する側に沿った傾向を持つ者ばかり。

 

「良い戦いをするじゃない」

 

そう呟く華琳の言葉に、無言で俺は頷き返す。

 

「あぁ」

 

一進一退、大方針は若手に決めさせたとは言え実際の指揮をするのは間違いなく一線級の実力を有する二人。

 

元帥府直轄部隊『飛雷騎』第二将 趙雲

 

夏侯淵隊副将兼統括軍政官 郭淮

 

洛陽からの帰還後に行われた再編で数々の新参武官、文官が要職へと付けられていく中、二人に与えられた立場がそれだった。共に再編前の所属に残留、と言う形ではあるが星は臨時編入から正式編入な上に都尉、校尉を段飛ばしして将軍へ、迅は曹操軍全体の軍政官の統括と言う役割を付随される事になりぶっちゃけ挙げていた功績からすれば異例の昇進と言っても差支えは無い。だが俺は、囁かれるであろう陰口、周囲からの奇異の眼を実力でもって二人が払拭してくれるであろうと『確信』したからこそそう配置したのだ。

 

「見せてみろ、『お前らの今』を」

 

―――――――――

 

さて、元帥府直轄部隊『飛雷騎』総兵数一万。所属しているのが犹、星、霞、香風、由空の五人。と言うのが現在の編成である。景は栄華の下へ出戻り、真桜は香風と入れ替わりで一刀の隊へ、と言った具合でだ。

 

「っつーわけでだ、うちの騎馬隊はどうだ?」

 

『飛雷騎』の騎馬隊は強い、だが先の虎牢関での戦いでも痛感した通り騎馬民族出身であったり、異民族と戦い続けてきた騎馬隊と比べればまだまだ弱い。と言う事で、騎馬隊の見直しの一環として元董卓軍として永らく羌族と戦い続けてきた霞にここ数日、『飛雷騎』全ての騎馬隊を預けて見てもらっていたのだ。

 

「ウチらみたいに小ちゃい頃から乗っ取るワケや無いのに馬に振り回されんと乗れてる、十分過ぎるぐらいや」

「『神速』の張遼にそう評価してもらえるなら十分な及第点だな」

 

山岳で戦い続けてきた霞に合格点を貰えたなら平地で戦う騎馬隊としては十二分過ぎる。俺、星、霞の隊で騎馬、犹、香風、由空が軽歩1、重歩2と。もう一隊、弓隊がいると良いな。軍師も中々に見つからない。立夏か凛、とも思ったのだが何かが違う気がする。果断と慎重を併せ持つようなヤツが、もう一歩踏み込んで言うなら心の臓が鋼で出来ているようなヤツの方が良い。

 

「歩兵隊の方はどうだ?」

「概ね問題は無く、各隊同士の連携も滞りありません」

「良く纏まったな?」

「少し・・・・厳しく指導しましたので」

 

ニコリと笑う犹、の背後で香風と由空が顔を真っ青にしてガタガタと震えている。何をどうやった、とか無粋な事は聞くまい。何よりも結果が出ているのだ、よほど非人道的な手段で無い限りは問題視する必要性は皆無だ。

 

「・・・・良し、今日来れる奴らは東地区の店にこの後集合だ。飲むぞ」

 

星と霞が目に見えて喜色満面になる。

 

「無論俺の奢りだ」

「一生涯の忠誠を誓いましょう」

「ええやんええやん!景気のええ上司はウチ大好きやで!抱かれてもええ!!」

 

やっすい忠誠心だなぁオイ。

 

「はいはい、心置きなく飲むためにもキッチリ仕事を済ませろよ!!」

「「「「「応っ!!!」」」」」

 

こうやって皆揃って・・・・なんつーのも、後何回あるか分からんからよ。だから・・・・だから、この一時を大事にしたい。




第二十一話でした。

どんどん頭の中がごっちゃになってきています。たまに書いてる事もごっちゃになってるかもしれません。でも多少の事は見逃して!全部忙しすぎるリアルが悪いの!

もう二、三話ぐらい書いて、反董卓連合編の登場人物マテリアルを書いて、それから官都編に移ろうかと思います。


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人物紹介:反董卓連合編

 

名前:諸葛瑾 字:子愉 真名:??

性別:男 年齢:21

容姿:金髪、碧眼(真三国無双シリーズ:諸葛亮)

能力

統率:83 武力:37 知力:92 政治:89 魅力:69

所属:張昭直属文官→孫家軍師補佐→孫権隊軍師

 

『いずれは越えなくてはなりません、あの壁を』

 

劉備軍軍師諸葛亮の実兄。妹の諸葛亮を水鏡塾に預けて後、叔父の諸葛玄を頼って仕官のために揚州へ。叔父の紹介により張昭直属の文官として仕官し、その才能を見出され重用される事に。以後も際立ったものは無いが、実績を積み重ねて行き、錦帆賊との戦いで陸遜の補佐として初陣を飾る。

その後、軍師としての将来を嘱望され周瑜、陸遜の二軍師と張昭の三者による指導を受け、直属軍師として甘寧と共に孫権を支える立場となる。

 

名前:簡雍 字:憲和 真名:??

性別:男 年齢:30

容姿:黒髪、黒眼(Fateシリーズ:カエサル)

能力

統率:53 武力:62 知力:74 政治:76 魅力:79

所属:劉備軍

 

『戦もダメ、政治もダメ・・・・俺ってばもしかしてダメ人間?』

 

劉備軍立ち上げ時から付き従う劉備三姉妹の兄貴分。腕っ節は兵卒並、知力そこそこ、政治力中の上とビックリするほど特筆すべき点が存在しない。だが、交渉事に関する手腕は諸葛亮、鳳統の両名をして大陸三指と言われ、幾つかの農民反乱を弁舌一つで治めたという噂もある。

 

名前:司馬朗 字:伯達 真名:真冬

性別:女 年齢:17

容姿:白髪、赤眼(Fateシリーズ:玉藻の前)

能力

統率:63 武力:47 知力:82 政治87 魅力:72

所属:河内司馬家当主→陳留太守府文官→曹洪隊主簿

 

『司馬家の娘が一人減るけれども・・・・・・・・イイわよね?』

 

司馬懿の姉、司馬家の現当主。確かな商才と知識量を認められ、仕官後僅か数ヶ月で曹操軍中枢に(出世スピードとしては鄧艾に次ぐ二位)。妹に対しては辛辣な接し方をするが、そこには確かな愛がある(と言うのは本人談)。最近では出戻りして来た趙儼と共に動く事が多い。

 

名前:徐庶 字:元直 真名:???

性別:女 年齢:12

容姿:黒髪、紫眼(鬼武者シリーズ:柳生茜)

能力

統率:76 武力:22 知力:93 政治:76 魅力:61

所属:劉表軍軍師

 

『かの雷公の手腕、間近にて見学させていただきましょう』

 

水鏡塾出身。劉埼派閥として助力こそしているが、機会があるならば曹操の(正確に言えば鄧艾の)下で働きたい、と言う願望もあるらしい。当人曰く、『臥竜鳳雛に私は遥か劣る』とし、諸葛亮、鳳統曰く『王佐の才足り得る』とのこと。現在、荊州領内の御家騒動に巻き込まれ中。

 

名前:文聘 字:仲業 真名:???

性別:女 年齢:16

容姿:青髪緑眼(Fateシリーズ:ブラダマンテ)

能力:

統率:71 武力:82 知力:67 政治:31 魅力:55

所属:劉表軍武官

 

『よ、よよよよよ宜しくお願いします!!』

 

劉表軍武官。様々な鄧艾の武勇伝を聞き、盲目的な憧れを抱く。仲の良かった徐庶に付き従う形で劉埼派閥で武官として活躍することに。現在は劉埼と共に黄祖がいなくなった江夏に駐屯、水面下の争いを王威と徐庶に任せ上官の李厳と共に袁術と劉綜の警戒に当たっている模様。

 

名前:高順 真名:銕(くろがね)

性別:男 年齢:25

容姿:黒髪、青眼(キングダム:尚鹿)

能力

統率:83 武力:91 知力:73 政治:42 魅力:56

所属:董卓軍武将→夏侯惇隊副将

 

『火を絶やすなぁあっ!!!!!』

 

元董卓軍第四将。堅実な指揮と確かな戦術眼から董卓軍軍師たちから最も信頼された良将。反董卓連合初戦の虎牢関にて張遼を無事に帰還させるために曹操、孫策の包囲に割って入り鄧艾と戦闘。一騎打ちに敗北し、兵三百と共に捕縛され投降。後に戦死者の弔いのために一時離脱するも、鄧艾の寛容さに心服し改めて臣従を申し出る。

臣従後の再編によって夏侯惇の副将に配置されると、華雄の相方と言う前歴があったからか突拍子もない動きをする夏侯惇を絶妙に補佐してみせる手腕を発揮している。

 

名前:曹休 字:文烈 真名:華那

性別:女 年齢:13

容姿:金髪のボブカット、顔立ちは華琳寄り

能力

統率:74 武力:72 知力:76 政治:65 魅力:67

所属:曹仁隊兵卒→曹純隊兵卒→夏侯淵隊兵長→『飛雷騎』兵長

 

『るー姉様以外はみんなどこかおかしいですから』

 

曹操の一族。以前は然程目立たなかったが、近頃頭角をあらわして来た模様。自称『器用貧乏』と語るが、曹操、鄧艾からは一定以上の評価を得ている。一族の中で最も仲が良いのが曹純、ソリが絶対に合わないと思っているのが夏侯惇。再編後に異例の転属で『飛雷騎』へ、現在は『飛雷騎』の幹部候補として牛金からの指導を受けている。と共に、同隊所属の姜維と共に鄧艾の補佐としての役割も与えられている模様。

 

名前:姜維 字:伯約 真名:累

性別:女 年齢:14

容姿:赤髪、赤眼(Fateシリーズ:清姫)

能力

統率:82 武力:76 知力:85 政治:51 魅力:47

所属:『飛雷騎』兵卒→『飛雷騎』兵長

 

『ほほぅ・・・・あれが『ツンデレ』ですか』

 

『飛雷騎』創設当時に募兵に応じ軍属になり、以後は現在に至るまで所属し続けている古参。目立つような活躍こそなかったものの、堅実な手腕で実績を積み重ね、再編で兵長へと昇進。昇進直後、鄧艾から直接『期待している』と声をかけられた時はあまりの出来事に気絶したとの噂もある。

最近では曹休と共に鄧艾による軍略講義を受ける回数が増加し、また武術に関しての手ほどきも鄧艾本人から受けている事から鄧艾の直弟子、後継者の有力候補として名が上がるようになっている。




諸葛瑾なのに諸葛亮と言う不思議。

魏勢の追加はこれで終わりになります。これ以上足すと幽霊になるキャラが出始めかねないので。出来れば官都前に荊州勢とかにもスポットを当ててみたいな、と思うんですけどね。


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お知らせ

読者の皆様お久しぶりです雪虎です。

 

当作品の更新が止まってから二年。ちょっと仕事にも余裕が出来てきたのでいい加減に続きを書こうか・・・・と思ったのですが、あまりにも久しぶりすぎて色々とキャラの口調やら何やらがかなりこんがらがってしまいました。

 

そこで、誠に勝手ながら一から作品を書き直そうと考えました。

 

久しぶりすぎて作風とか変わっちゃうかも知れませんけれど、色々と浮かんできた構想もあって別の恋姫作品を新たに書くよりこの作品をベースに書き換えた方が上手くいきそうな気がしたのが理由です。

 

呆れずにまた私の作品を読んでくれれば幸いと思います。

 

この土日の間には投稿したいと考えていますので宜しくお願いいたします。

 

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