仮面ライダーリミット (甘々胡麻ざらし)
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エピソードファースト
その名はリミット


少し書き方を変えたのと、一部の補足。
いつものが良かったのならコメントで教えてください。


とある国の軍事基地で隊長と思われる人物がコーヒーを飲んでいた。だが次の瞬間、警報が鳴りコーヒーを溢す。

 

「どうした!」

「大変です隊長!我が国の全軍事システムがハッキングされてしまいました!」

「なんだと!?」

「それ以外にも11ヵ国、計12ヵ国の軍事システムがハッキングされ、日本に向けてミサイルが発射されました!」

「そんな馬鹿な!軍事システムは独立したネットワークで管理しているのだぞ!?ハッキングされることなどあるはずがない!」

「でも実際に起きてますよ!」

 

隊長はすかさずテレビを点ける。そこには日本を射程範囲とする12ヵ国のミサイル、計2341発がハッキングされ、日本に向けて発射されたと映し出されていた。隊長は拳を握りしめ机を叩いた。

 

「今すぐ軌道を変えるとは出来ないのか!」

「む、無理ですよ…。」

「くそっ!」

「あ!隊長!テレビを見てください!」

「どうした!?」

 

テレビを見るとそこには白銀の騎士が空中に浮かんでおり、片手に持った剣でミサイルの半分ほど破壊したのだ。

 

「なんだあれは…!」

 

これが後に白騎士事件と呼ばれることになった。

日本を射程範囲とする軍事ミサイル、計2341発を白銀の機体が打ち落とし、それを捕獲しようとした各国の戦闘機207機、巡洋艦7隻、空母5隻、監視衛星8基を全て一人の死者を出すことなく破壊したのだ。

そしてその後篠ノ之束と呼ばれる科学者がIS《インフィニット・ストラトス》を発表し、ISは「究極の機動兵器」として一夜にして世界中の人々が知るところになった。

そして「ISを倒せるのはISだけである」という束の言葉と、その事実を、敗北者たる世界は無抵抗に受け入れた。

しかしこのISには欠点があった。それは女性にしか動かせないことだ。そして世界は瞬く間に変わった。

女尊男卑という腐りきった世の中へと…。

 

-八年後-

 

「うーん…。場所はこの辺りのはず…。」

 

スマホとチラシを片手に街中をウロウロしている少女、更識簪は日本人にしては珍しい水色の髪の毛を揺らしながらある場所を探していた。

 

「早くしないとヒーローショーに遅れる…。」

「ねぇそこの君!」

「はい?」

「ちょっと俺たちと遊ばね?」

 

簪が振り返るとそこにはチャラそうな見た目をした三人の男がいた。俗に言うナンパと言うものだ。だが簪は結構ですとその場を立ち去ろうとしたが、男の一人に腕を捕まれてしまった。

 

「離してください。」

「まぁまぁ、そんなこと言わずに俺たちと遊ぼうぜ!」

「っ!」

 

簪は思わず男の頬をひっぱたいた。男は叩かれた頬を押さえて簪を睨み付ける。

 

「てめぇ!調子のってんじゃねーぞ!」

 

男は簪を殴ろうと拳を振り上げるが、その手を掴まれ後ろを振り返る。そこには簪と同じくらいの年の少年が男の手を掴んでいた。

 

「なんだてめぇ!」

「何って?ただの一般市民ですよ。それに女の子を殴るなんて趣味悪いですよ?」

「ああ?てめぇふざけてんのかよっ!」

 

男は少年を殴りかかるがあっさりと片手で受け止められる。男はその様子に驚愕の表情を浮かべる。

 

「出来ればこのまま立ち去ってくれませんか?」

「ふざけんな!」

「じゃあ交渉決裂ってことで。」

「ガハッ!」

 

少年に激情した男は殴りかかるが、今度は拳をかわされ、カウンターを顔面に喰らう。仲間がやられたことにキレた男たちは一斉にかかるが、瞬く間に全員返り討ちにされた。

 

「いってぇ…。」

「な、なんだよこのガキ…。」

「うう…。」

「まだやりますか?」

「クソッ!覚えてろ!」

 

一体いつの時代だと思うほどの捨て台詞を吐いて男たちは逃げていった。

 

「大丈夫?」

「え、あ、はい。助けてくれてありがとうございました。」

「いいよいいよ。ん?それって大空戦隊バードマンのヒーローショーのチラシ?」

「あ、はい。場所がわからなくて…。」

「…それ昨日のショーのだよ。」

「え!?」

 

簪はチラシを見るとそこには昨日の日付が書かれていた。

 

「ま、間違えちゃった…。」

「今日の方はこっち。」

 

少年は懐から簪と同じイラストがプリントされたチラシを渡す。そこには今日の日付と開催場所が書かれていた。

 

「あ、ありがとうございます!」

「ちょうど俺も見る気だったからよかったよ。」

 

『ピーンポーンパーンポーン。迷子のお探しをお知らせをします。天地海君、天地海君、ご家族の方が探しておられます。近くに居ましたら、迷子センターまでお越し下さい。』

 

簪は迷子センターのアナウンスに迷子のことを心配するが、目の前の少年は何故か頭を押さえていた。

 

「ど、どうしたんですか?」

「あのバカ…。迷子はお前だろ…。」

「え?え?」

「あ、ごめん。妹がはぐれたから探していたんだよ。じゃ!」

「え、あ、はい…。」

 

そのまま少年はそそくさと走り去ってしまった。

 

 

「面白かったなぁ。」

 

簪はヒーローショーを見たあと近くのベンチでさっきのヒーローショーを思い出していた。すると少し離れた所でギャーギャー騒ぐ声が聞こえてくる。

 

「まったく、兄ちゃんはすぐ迷子になるんだから。」

「迷子になっていたのはお前だろ!中学生にもなって迷子センター行くなっての。ったく、おまけに変なアナウンスしやがって。迷子センターの人に変な目で見られたじゃねーか…。」

「あ。」

「ん?君はたしか。」

「あ、更識簪です。妹さん見つかったんですね。」

「あはは…。あ、自己紹介まだだったな。俺は天地海。こっちは妹の七海だ。」

「七海です。兄ちゃん、この人誰?」

 

簪を助けた少年こと海は妹の七海にさっきの事を説明した。

 

「へー。よかったね。兄ちゃんが迷子になってて。」

「だから迷子になってたのはお前だ!ラブキュアのおもちゃ見てくるって言ってすぐはぐれやがって…。」

「仲良いんですね。」

「ん?まぁな。あと敬語使わなくていいぞ?」

 

そう言って海は七海の頭をワシワシと撫でる。

 

「さて、ヒーローショーも終わったし帰るぞ七海。」

「はーい。」

「またね更識さん。」

「あ、うん。」

 

海は七海と手を繋いで空いた手で簪に手を降りながら去っていった。だが簪は海の言った言葉に疑問を浮かべる。

 

「"またね"?どういうことなのかな?…私も帰ろ。」

 

簪も家に帰ろうとしたとき、外で大きな爆発音が鳴り地面を揺らした。

 

「な、何!?」

 

思わず外の方を見ると、そこにはヒーロー物などに出てきそうな蜂のような姿をした怪物がいた。それも三体。

 

「な、なんだこの化け物!」

「皆さんは早く避難してください!」

 

警備員の指示に人々はパニックになりながらも避難を開始する。だが蜂の化け物は警備員を殴り飛ばし、辺りを破壊し始めた。すぐさま近くの警察官たちが到着し、一斉に拳銃を向ける。

 

「そこの化け物、止まりなさい!止まらなければ撃つぞ!」

 

だが化け物は止まるどころか一斉に警察官たちに襲いかかる。警察官たちは拳銃を撃つが、少し怯むくらいであまり効いている様子はなかった。

 

「私も早く逃げないと!」

「うえーん!お母さんどこー!」

 

簪も避難しようとしたが近くで男の子が泣いているのを発見する。恐らくはぐれたのであろう。簪はその男の子の手を引いて逃げようとしたが、三体の化け物の内、一体に見つかり目の前に立ち塞がれた。

 

『お!お前さっきの女じゃねーか!』

「さっきの?まさかあなたナンパ男!?」

『ケヒヒヒ!さっきビンタされたお返ししてやらないとなぁ!』

 

化け物は簪を殴ろうと手を振り上げた瞬間、化け物から火花が飛び散り数歩下がった。

 

『な、なんだ!?』

「はいドーン!」

『ギャッ!』

 

化け物は突如現れた、やたらと機械的なスケボーに乗った。何者かによって吹き飛ばされた。よく見るとその正体は先程合った少年、海だった。

 

「大丈夫、更識さん?怪我はない?」

「あ、うん。大丈夫。」

「ここは俺に任せてその子を連れて逃げろ。」

 

海はそう言って乗ってきたスケボーを降りると、変形して腕に巻き付けられる。そして海がしようとしている行動は無茶だと簪は思った。警察でも対処できなかったこの化け物を倒せるわけがないと。だがそんな簪の表情を理解したのか、海はニシシと笑い化け物の方を向く。

 

「大丈夫。俺にはこれがあるからさ。」

 

そう言って海は懐からバックル《クロスドライバー》を取り出して腰に当てる。するとベルトが射出され、腰に巻き付けられる。

 

『よくも邪魔したなぁ!』

「うるさいからちょっと黙ってろ。」

『クギャッ!』

 

海は右手に持っていた独特の形をした銃《ホルダーショット》を化け物に向かって撃つ。先程と同じように効いていたから恐らくこれで撃ったのだろう。

 

「さてと。ほら、危ないから逃げて逃げて。」

 

《スタンバイ ライダー!》

 

海はホルダーショットのトリガーを引くと、銃から音が鳴り、親指で銃のハンマー部分を下げる。すると銃身の上側が上がり下側と垂直になる。そして中に入っていた白に近い銀色のクリスタル《リミットライダーコア》をクロスドライバーの真ん中に挿す。

 

《リミット ライダー コア!》

 

今度はクロスドライバーから同じ声色の音声が鳴り、海はホルダーショットからリミットライダーコアの左右にあった四角錐を左手に持ち、畳んで右腰に下げる。

そして右手に開き手の絵が埋め込まれている黒に近い銀色の四角錐《ハンズSコア》を、左手に人のシルエットの絵が埋め込まれている右手に持った四角錐と同じ色の四角錐《ヒューマンTコア》を持ち、四角の面が互いに向き合うようにバックルの左右のスロットに入れる。

クロスドライバーから待機音が流れ始め、海の頭を頂点に全身を覆う八面体が現れる。そして海は両腕でSを描くように腕を回し、両腕を胸の前でクロスさせる。

 

「変身!」

 

そしてベルトの右側のネジ《Sボルト》と左側のネジ《Tボルト》を押し込むと、左右のスロットが真ん中に寄り、真ん中を挟み込む。するとバックルの真ん中がひし形の様なエンブレムになった。

 

《クロスアップ!》

 

そして両腕を左右に広げると、バックルのひし形と同じように両肩から腕にかけて八面体の左右がバックルの左右の四角錐と同じ黒に近く銀色になり、胴体の所が白に近い銀色になる。

 

《ハンズ!ヒューマン!》

 

クロスドライバーからメロディが流れ、海の体を黒いスーツに白銀の装甲が装着され、両腕にはガンメタリックのアーマーが装着された。そして最後に顔を仮面で覆うと、海を包んでいたクリスタルが弾けとんだ。

 

《リミット ファースト!》

 

最後にクロスドライバーから自分の姿を表している様な音声がなった。そして海の姿はまるで特撮ヒーローの様な見た目になっていた。

 

『なんだお前!』

『俺か?俺はリミット。』

 

そう言って海はボクシングの様な構えをとり、仮面の中では笑みを浮かべる。

 

『お前のリミットを見せてみろよ!』

 

そう決め台詞を言い、変身した海は化け物に殴りかかった。化け物は海に腕に装着された針で刺そうとするが、素手で弾かれ拳の連打を喰らう。

 

『クソッ!』

『まだまだ!』

 

《ハンズアタック!》

 

海はTボルトを一度引き、再び押し込む。すると右手の拳が巨大化し、そのまま殴り飛ばす。

 

『クソッ!こんな変なやつに!』

『変なのって言うな!格好いいじゃねーか!』

『隙あり!』

『うおっ!』

 

隙を見た化け物は海に針を飛ばす。海は素手で掴もうとしたが何か危険を察知して慌ててかわす。すると針が刺さった壁がドロドロに溶けた。

 

『あ、あっぶねー。』

『まだまだ!』

『くらえ!』

『おらおらおら!』

 

一体がやられているのを見て駆けつけた化け物たちに海は苦戦する。

 

『チッ!』

 

海はヒューマンTコアの能力により自身の五感全てが上昇しているため、なんとかかわせている。だがこのままではいつかは当たってしまう。そう考え海はホルダーショットを抜き、トリガーを引く。

 

《スタンバイ コア!》

 

海はSボルトを引き、ハンズSコアをホルダーショットにセットしていた紫色の四角錐《ウィップSコア》と入れ換えて再び押し込む。

 

《クロスアップ!》

 

『アームチェンジ!』

 

すると先程の八面体が現れ、右側の色が紫色に変化する。

 

《ウィップ!ヒューマン!》

 

右腕の武装が粒子となり消え、新たに紫の装甲に紫の鞭が装備された。

 

《リミット パッチワーク!》

 

八面体が弾け飛び、化け物たちはその衝撃で一瞬だけ怯んだ。

 

『腕が変わった?』

『関係ねぇ!やれ!』

『おらおら死ね!』

 

化け物たちは再び針を飛ばしてくるが、海は装備された鞭をしならせて、針を全て化け物たちに弾き返した。すると化け物たちに刺さり、体に一部を溶かす。

 

『ギャアアアアア!』

『いてててててて!』

『染みる染みる!』

『さて、お前らのリミットは理解した。』

 

化け物たちはのたうち回り地面をゴロゴロと転がり、海はすかさずウィップSコアからハンズTコアに変え、今度はSボルトとTボルトを同時に引く。すると足元にエネルギーが集まる。

 

『ハァァァァァァ…。』

 

《リミットエンド!》

 

再び押し込むとクロスドライバーから音声が鳴り、海は背中から機械の羽を生やし、化け物たちを外に連れ出す。そして上空で放し、エネルギーを纏った右足を落下している化け物たちに向ける。

 

『おりゃあああああ!』

 

そして必殺の蹴り《リミットエンド》を放ち、地面に着地する。すると化け物たちは空中で大爆発し、地面に落ちた。

 

『ふぅ。さてと、回収回収。』

 

海はホルダーショットを抜き、化け物たちに向けると化け物たちは元の人間の姿に戻った。そして海はそのまま変身を解除しようとした瞬間、周りをISを武装した者たちに囲まれる。

 

『そこのIS!今すぐISを解除して投降せよ!』

『はぁ…。』

 

海はため息を吐いてTボルトを引き、水色の四角錐《スクイッドTコア》と交換して押し込む。

 

《クロスアップ!》

 

『はぁ…。アームチェンジ。』

 

《ハンズ!スクイッド!》

《リミット パッチワーク!》

 

『なっ!武装が変わっただと!?』

 

《スクイッドアタック!》

 

海はTボルトを操作して左腕からイカスミの様な黒い煙幕を放射する。ISを纏った女たちは咳き込んだりして、煙幕が晴れると海の姿はなかった。

 

 

「昨日は凄いことがあったなぁ。」

「かんちゃん大丈夫?昨日の現場居たんでしょ?」

 

翌日簪は学校で昨日の出来事について振り返っていた。そして昨日のことはニュースになっており、何故か化け物のことなどは報じられず、代わりに別の事故にすりかわっていた。そして今簪を心配していたのが幼馴染みの布仏本音である。

 

「あ、うん。大丈夫。」

「あ、そう言えば昨日の事故現場に他のクラスでもう一人居たんだよね~。」

「そうなんだ。」

「あ、いたいた。お~い。あまみ~。」

 

本音はちょうど廊下を歩いていた一人の男子生徒に話しかける。

 

「どうしたの本音?おや?」

「え?ええ!?」

「昨日ぶりだね。おはよう更識さん。」

「えええええええ!?」

 

それは昨日知り合い、自分を助けてくれた海だった。




本日友達との突っ込み話。
アーキタイプブレイカープレイ中のとき、簪の親密度イベント会話で…。

一夏視点だと思ったら会話の選択肢がまさかの簪の台詞の方だったので友達と爆笑してましたw


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対流圏

はい、という訳で第二話です!
まぁ多分次回辺りでエピソード0は完結すると思います。あとはゲンムの小説を完結させた後、本格的に連載をスタートします。


簪は何故海がここに居るのかわからず、目を白黒させている。

 

「あれ~?あまみーはかんちゃんと友達だったの~?」

「いや、このクラスに居るのは知っていたけど知り合ったのは昨日だよ。ちょっと困っていたから手助けをしただけさ」

 

簪は海の言葉を聴いて何故昨日またねと言ったのかを理解した。それは既に同じ学校に在学していたためまた会うということだったのだ。

 

「改めて二年三組の天地海だ。よろしく更識さん」

「え、あ、二年四組の更識簪です。昨日はその…助けてくれてありがとうございました」

「あはは。同じ年なんだから敬語なんていらないよ。あ、それとも俺が馴れ馴れしかったかな?そうだとしたらごめんなさい」

「あ、大丈夫です!ちょっと驚いたので…。タメ口で大丈夫です」

「そう?じゃあ俺もタメ口で良いよ。」

 

そう言って海はニシシと笑う。明るい人だなぁと簪は思い、ふと昨日のことについて質問してみようとした。

 

「あの、昨日のことだけど…」

「昨日?ああ、助けたことなら気にしなくていいよ。あ、そうだ!もしよかったら今日の放課後空いてる?よかったら色々話さない?」

「あれ~?あまみーさっそくナンパ~?」

「違うよ。昨日の大空戦隊バードマンのヒーローショーについて語りたいなぁと思ってさ」

「お~!かんちゃん話してみたら~?あまみー結構特撮オタクだよ~。かんちゃんと話合うよきっと!」

「あ、うん。じゃあ放課後で…」

「じゃあ放課後に校門で集合!またね!」

 

そう言って海はチャイムが鳴る前に教室を出ていった。そして時間が流れ、放課後、簪は校門に向かうと海が既に待っていた。だがそこには七海も居た。

 

「やぁ、急な誘いを受けてくれてありがとう」

「ううん、大丈夫だよ」

「それで君が聴きたいのは昨日の事件についてだろ?」

「え、うん」

 

簪は自分の思っていたことを当てられて驚く。すると七海が簪をじーっと見ながら自己紹介をはじめた。

 

「私は二年二組の天地七海だよ。よろしくね」

「え!?二年生!?」

「ああ、俺と七海は同じ年なんだよ」

「そ、そうなんだ」

「ねぇ、ここで昨日のことを話すのは不味いでしょ?他の人に聴かれるかもしれないし」

「あー、確かにそうだな。じゃあ俺たちのアジトにでも行くか?」

「アジト?」

「秘密基地ってやつさ」

 

簪は秘密基地という言葉に少し魅力を感じた。そして海は特殊な形をした腕時計に紫色の四角錐《スネークTコア》を射し込む。すると腕時計が巨大化してスケボーに変わる。

 

「す、凄い!」

 

簪は目をキラキラさせながら海のスケボーをペタペタ触る。

 

「じゃあアジトに行くから乗って」

「え?う、うん」

 

海はスケボーに乗り簪に手をさしのべる。そして簪が乗ると足元が固定される。そして七海は色違いの腕時計に《スワローTコア》を射し込むと飛行機の羽のような形に変形して背負う。

 

「じゃあしっかり捕まっててね」

「え?」

「レッツゴー!」

 

海がスケボーを踏み込むとスケボーは地面から浮遊する。そしてゆっくりとスピードを上げながら空を飛び始めた。

 

「わ!わ!わぁぁぁぁぁ!」

「じゃあ私は先に行くねー」

 

七海はそう言うとスピードを上げ、あっという間に見えなくなった。

 

「大丈夫、更識さん?高いところ苦手だった?」

「ううん!すっごく楽しい!ねぇ、もっとスピード出せる?」

「え、出せるけど」

「じゃあお願い!」

 

簪の満面の笑みに海は思わずドキッとしたが、すぐに思考を切り替えて、スケボーのスピードを上げる。簪が気持ちいい!と喜びの声を上げながらそのままアジトへと向かった。

 

「さて、アジトに着いたよ」

「ここ?」

「そうだけど?」

「ええっと…」

 

着いた場所はアジトと言うにはまったく似合わない建物だった。何故ならファンシーな感じの建物で屋根の上には《ペットショップ天地(隣に動物病院もあるよ)》と書かれていた。海は入っていいよと言って店の中に入る。すると猫や犬などの一般的な動物からイグアナやヘビなどマイナーな動物が数多く居た。

 

「母さん居るー?」

「はいはーい。あれ?海君彼女連れてきたの?」

「違うよ!この子が昨日の話していた更識簪さんだよ」

「あー、君が更識ちゃんね。ちょっと待ってね」

 

そう言って店の店主と思われる女性がドアにcloseの立て札をかけ、店の鍵を閉めた。

 

「ここは狭いから病院の待合室で話したら?」

「うん。ところで七海は?」

「七海ちゃんならお父さんの所に行ったわよ?そろそろあれが完成するからって」

「わかった」

 

そう言って海は病院はこっちと書かれたドアを開けて、待合室の椅子に座る。簪もそれに連れられ椅子に座ると女性がいつの間にか用意したお茶を机の上に置く。

 

「あ、自己紹介しないと!あたしは天地渚。海君と七海ちゃんのお母さんよ」

「あ、更識簪です」

「かたっくるしいわねぇ。気軽に渚さんでいいわよ。じゃああたしは店の掃除行ってくるからごゆっくり」

「あ、はい…」

「さて、まずは君が見た化け物についてだね」

 

そう言って海はスマホのアルバムからいくつかの写真を見せる。そこには昨日見た化け物とは違う化け物が写っていた。

 

「こいつらは《トロポス》と呼ばれる怪人だ。人間に寄生して乗っ取る恐ろしいやつらさ。そして寄生されて狂暴性が増すのが第一段階(ステージ1)

第一段階(ステージ1)?」

「そう。その状態はまだ理性が少しだけ残ってるんだ。昨日のナンパ男たちが君を覚えていたのも第一段階(ステージ1)だったからなんだ。その程度ならまだ大丈夫なんだけど、厄介なのが完全に乗っ取られた状態を表す第二段階(ステージ2)だ。この状態だと第一よりも能力が格段に上がり、ある目的のために行動する」

「目的?」

「自分のISのコアを喰らうのさ」

「…どういうこと?」

 

簪は何故トロポスがISと関係あるのか疑問に思ったが、海の口から衝撃的なことを告げられた。

 

「トロポスはISのコアから産み出された化け物だ」

「え…?」

「ISが女にしか動かせないのは知っているよな?トロポスはその逆。男にしか寄生しないのさ。そして恐ろしいことにトロポスはISの天敵となる存在だ」

「ど、どういうことなの?」

「ISにはSE(シールドエネルギー)と操縦者を守るための絶対防御と呼ばれるエネルギーバリアがあることは知ってるよな?」

「う、うん。絶対防御がある限り操縦者は死なないよね」

「だがトロポスは絶対防御を無視して攻撃することが出来る。つまりISの唯一の強みが消えるんだよ」

「そ、そんな!」

 

ISことインフィニット・ストラトスは絶対防御と呼ばれるバリアによってあらゆる兵器が効かないことから女尊男卑が生まれた。そして全身装甲(フルスキン)の第一世代型から絶対防御があることから第二世代型からは装甲が余分と思われた一部の装甲が減り、現在開発が進められている第三世代型も第二世代型と同じく一部の装甲がないのだ。

 

「じゃあ今のISだったら!」

「ああ。装甲がある場所ならまだ多少の安心は出来るが、装甲がない所は裸も同然。刺されたり射たれたりすればひとたまりもない。特に一番重要な心臓の装甲もないしな」

「ねぇ、どうしてあなたがそんなことを知ってるの!?」

「…」

 

海は何も言わず、懐からクロスドライバーとホルダーショットを取り出し、机の上に置いた。

 

「…このクロスドライバーとホルダーショットは一年前、突然俺の元に届けられたんだ。それも設計図でな。その時の添えられていた紙にトロポスとこのドライバー等について色々書かれていたんだよ。そして父さんに事情を説明して造らせてもらった」

「じゃあどうして沢山造らないの?」

「造ろうとしたさ。でもドライバーが出来ても肝心のコアがなかった」

「コア?」

 

海は今度はホルダーショットからリミットライダーコアとハンズSコア、そしてヒューマンTコアを取り出して、簪に見せた。

 

「これがコアだ。このクリスタルの様なものはライダーコア。これがドライバーを起動させる鍵になる。そしてこの二つの四角錐はSコアとTコア。Sコアは武器や戦い方のデータ。Tコアは動物のデータが入っているんだ。そしてこれを組み合わせると」

 

そう言って海はリミットに変身した。

 

「こんな感じになる」

「それがリミット?」

「そう。まぁ造ったのは俺じゃなくて七海なんだけどさ」

「妹さんが!?」

「うん。七海はそういうの得意だからねぇ。俺も父さんの仕事を見て造ろうと思えば造れるけど、七海には負けるよ」

「妹さん凄いね…。ところでお父さんは違う仕事なの?」

「まぁね。天地コーポレーションって知ってるでしょ?ISの日本有数の会社。父さんがそこの社長なんだよ」

「ええ!?」

 

簪もかなりの家の者だが、目の前に居る海も中々の坊っちゃんだと言うことを知り、驚きのあまりしばらく口が塞がらなかった。そして海は変身を解除して椅子に座る。

 

「さて、話を戻すね。俺は七海や父さんの協力のお陰でトロポスと戦う力を得たんだ。そして俺は出来る限りの人をトロポスから守りたい。そう思った」

「そうなんだ。でもやっぱり不思議。トロポスについてテレビやニュースで何にも報道されていないのはどうして?」

「それは…なんでだろ?」

 

海の言葉に簪はガタッと椅子から落ちそうになった。

 

「し、知らないの?」

「ああ。俺は正体を隠す気はないけど、トロポスのことがニュースで出ないのは俺も不思議に思ってる」

「そりゃあ政府が隠蔽しているからよ」

「あれ、七海?」

 

いつの間にか居た七海は何故か大きな袋を背負っており、それを海に渡す。袋を開けると銀色の剣が入っていた。

 

「これはまさか!」

「そう。昨日のビートロポスのデータから針の構造を解析して完成したの!名付けてクロスソード!」

「おおー!ありがとう七海!お前は最高の妹だ!」

「ふふーん。そしてそのクロスソードを呼び出すための新作Sコアがこの銀色のソードSコアだよ。他のコアでも使えるようにしたかったけどソードSコアからしか呼び出せなかったの…」

「それでも十分だよ!いや~、正直素手と鞭だけだと戦法がさぁ」

 

キャッキャと話している二人を見ながら簪は仲違いした姉を思いだし顔をしかめた。それを見た二人は何を思ったのかあわてふためく。

 

「え、えっと更識さん大丈夫?」

「に、兄ちゃんが悪いんじゃ?」

「え、俺!?ご、ごめん更識さん!」

「え?あ!大丈夫!ごめんね、なんか変な空気にさせちゃって。話続けてくれる?」

「あ、うん」

 

海はこれ以上聴くのは野暮と判断し、話を続けた。

 

「えーっと、と言っても話すことは全部話したし…」

「じゃあひとつ教えて。どうして私にこの事を話したの?」

「えっとそれは…」

海は苦笑いをして視線を反らす。だがチラリと簪を見ると真っ直ぐこちらを向いていて、ため息を吐いて口を開いた。

 

「本音ちゃんから聴いたんだよ。君が日本代表候補生を目指してるって」

「それが何か関係が?」

「えーっと…」

「はぁ…。兄ちゃんハッキリ言ったら?代表候補生になったら専用機をウチで造らせてくれって」

「お、おい!」

「え?どうして?」

「…さっきのトロポスの特性についてはわかったよな?だからウチで対トロポスに対応したISを造らせて欲しいんだ。君がISの操縦者を目指している以上、君の専用機のコアから産まれたトロポスも君を狙う。君に今日のことを話したのもそのためだ。出来ればISに乗ってほしくないが、本音から君の努力を聴いてしまった以上それを無視することは出来ない。ならばせめてと思ったんだ…」

 

ああ、この人は私の好きなヒーローに似ている。この人は自分の出来る範囲で誰かを助けようとしている。簪はそう感じた。そして海の椅子に回り手を握り、海の目を真っ直ぐ見て。

 

「私もトロポスと戦う!だから代表候補生になった暁には専用機をお願いします!それで貴方が守れない場所を私が守る!」

 

そうハッキリと伝えた。




長い文だったのでトロポスについて簡単に説明

トロポス…(命名は成層圏(ストラトスフィア)と対をなす対流圏(トロポスフィア)から(もうひとつあるがそれは本編をお楽しみに))

ISのコアから産まれた存在。ネットワークの海を漂い自分ともっとも適合する男に寄生する。そして侵食率が上がるほど次の段階へと進む。

第一段階(ステージ1)…寄生され怪人の姿を得た状態。このときは理性が少しだけ残っている。

第二段階(ステージ2)…侵食が進みトロポスに乗っ取られた状態。狂暴性が増し、自分が産まれたISのコアと再びひとつになるため探し始める。

特徴…機械のISと対になるように怪人態は肉体が変化した状態。そして何かの動物の姿をしている。海は寄生したトロポスを抜き出して、七海の技術で採取したデータから新しいコアを造っている(この設定はビルドの戦兎と美空を意識)。そして絶対防御を無視して攻撃することが出来る(要するに常に零落白夜をしている状態)。


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秘密のラッシュ

改めて明けましておめでとうございます!
去年のラストはゲンム。そして新年のスタートはこちらです!
これからも二つの作品をよろしくおねがいします

ちなみに新年は…

作者「新年開けたしガチャをブン回すぜ!」

新年ガチャやチケット10連などの結果→乱音とベルベットさんの星五ゲット並びに数々の星五シーンもゲット

作者「………ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

あと非ログインユーザー様からも感想を受け付けるようにしました。

1月九日に少しだけ描写を変更しました


簪が仲間になってから月日が流れた…。海たちは中学三年生となり、現在は夏。強い日差しの下で海は胸にドリルを持ったサイの怪物"ライノストロポス"と戦っていた。だがサイの硬い皮膚を持つため中々攻撃が通らず苦戦していた。

 

『いって~!こいつ固すぎだろ!?』

『グォォォォォォォォ!』

 

海が手の痛みを押さえている隙にライノストロポスは胸のドリルで突き刺そうと突進してくる。しかし海はかわさずギリギリまで引き付けると大きくジャンプをしてかわす。そして空中で素早くベルトの中のハンズSコアをウィップSコアに交換して、右手に装備された"クロスウィップ"を使って足を引っ掻けて転ばした。そのままライノストロポスは地面をスライディングして壁に激突する。

 

『サイの最高速度は時速45kmだからかなりそのままスライディングはかなり痛いだろ?』

『グォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

『うぐっ!うるさいなぁ。さっさと決めるか』

 

海はベルトを開き、ウィップSコアから銀色の四角錐"ソードSコア"と交換してベルトを閉める。

 

《クロスアップ!》

 

『アームチェンジ!』

 

《ソード!ヒューマン!リミット パッチワーク!》

 

右腕が銀色に変わり、専用武器の"クロスソード"を構える。

 

『グォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

 

ライノストロポスは怒りの声をあげて突進してくる。そして海はベルトからライダーコアを取り出してクロスソードの真ん中にある窪みに挿して捻る。

 

《リミットチャージ!》

 

クロスソードから声が聴こえ、待機音が流れるのと同時に刀身が銀色に輝く。そして腰を落とし居合い切りの構えをとる。

 

『グォォォォォォォォォォォォォォォォ!』

『ふぅ…』

 

《リミットスラッシュ!》

 

『ハッ!』

 

少し息を吐きトリガーを押した後、剣を振り抜くと突進してきたライノストロポスに刃が食い込み、左の脇腹から右の肩に向かって一気に振り抜いた。そしてライノストロポスはそのまま過ぎていき急にピタリと止まると火花を散らして爆発した。

 

『ふぅ…。疲れた…。それにしても流石は七海だよなぁ。あんな硬い敵も斬れる剣を作ってくれるとは。さて、回収回収』

 

海がホルダーショットを向け、データを回収するとライノストロポスは元に人の姿に戻った。

 

『ISの警備が来る前にさっさと退散!』

 

そう言って海はいつものように空を飛んでその場を去った。そしてその様子を遠くから眺めている人が居た。

 

「どうやら今回のも外れだったな」

「そうね。第二段階(ステージ2)の手前だったし」

「私の…友達が…増えると…思ったのに…。残念…」

「でもあのリミットって言うやつ強いよね!僕強いやつ大好き!戦ってみたいなぁ!」

「確かに戦っていたみたいものだな」

「じゃあ小手調べに私が相手をしてもいいかしら?」

「あー!■■■■■■ずるーい!僕が先だよ!」

「■■■…、次の…番は…■■■■■■だから…順番…守って…」

「ちぇ~。わかったよ。じゃあ僕は先に帰るね」

 

そう言って緑色の髪の少年は突風を起こすと姿を消した。

 

「俺たちも帰るぞ。あのリミット…いや、天地海。戦える日が来るのが楽しみだな」

 

赤髪の青年がニヤリと笑うと炎に包まれながら姿を消した。

 

「じゃあ私たちは少しお買い物をして帰りましょうか?」

「うん…」

 

残された青色の髪の女性は茶髪の少女の手を握りその場から去っていった。

 

 

「でかい…」

 

ある日の土曜日に簪は大きなビルの前に立っていた。そしてあまりにも巨大な建物であるため驚きのあまり立ち尽くしていた。そして看板には《天地コーポレーション(見学はご自由に!)》と書いていた。そう、ここは海の父親が経営する大手機械工業の会社なのだ。そして簪は海に呼ばれてここに来ていた。少ししてドアが開き、白衣を着た渚が現れる。

 

「待たせてごめんね~!」

「あ、いえ。大丈夫です。ところで海と七海は?」

「あーあの二人ねぇ…。まぁ着いてきて」

「?」

 

簪は頭に疑問を浮かべながら渚に着いていく。そしてエレベーターの中に入ると、渚は首に下げていたカードを階のボタンの下にあるパネルにタッチする。すると一階であるはずなのにエレベーターは下に降りていく。

 

「あ、あの…。どうして地下に?」

「怖がらなくても大丈夫よ。これから行くのは本当のアジトだからね。さ、着いたわよ」

 

チーンと音がなりドアが開くと広々とした空間に様々な機械が置いてあった。そして部屋のど真ん中で海と七海が…。

 

「だぁかぁらぁ!絶対亀だって!サイのトロポスから採取した硬い皮膚のデータを応用して、亀の甲羅部分を作ってクロスソードと組み合わせるんだよ!」

「い・や・よ!ライノストロポスから採取したデータにはドリルのデータもあった。つまりここはドリルよ!もしくはサイの角を生かした槍!」

 

絶賛喧嘩していた。

 

「えっと…。これは?」

「いつものことよ。十分なデータが集まるとどっちを作るかで毎回もめてるの」

「「あ、簪!なぁ(ねぇ)、簪はどっちがいい!?」」

「え?私?」

「絶対亀だよな!あの亀の硬い甲羅の防御だよな!?」

「兄ちゃんはわかってない!百歩譲ってドリルがなしでも硬い皮膚を利用するならシールドよ!」

「それだとクロスソードが使えねーよ!あれか?盾で殴れって言ってるのか!?」

「そっちこそ亀ってこの前もワニのコアを作ろうとしたじゃない!その前は蛇!いくら爬虫類が好きでもそれはない!」

「ワニはお前に却下されて止めただろ!」

 

簪に意見を求めたはずがまたしても兄妹喧嘩へと発展していき、ギャーギャーと騒いでいると渚が一歩前へ出て息を吸い込む。

 

「あんたたちいい加減にしなさい!」

「「か、母さん…?」」

「ふん!」

 

渚が二人の頭に拳骨を落とすと二人揃って頭を押さえて床を転がる。

 

「あ、頭がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「き、強烈…。これはまさに…」

「「ゴリラだ(ハンマーね)…。はぁ?」」

 

またしても意見の食い違いでお互いに睨むと再び拳骨を落とされた。

 

「まったく!すぐ喧嘩するんだから。罰として今回は簪ちゃんに決めてもらいなさい!」

「「えー!「ナニカイッタ?」いえ何も!」」

「ということで簪ちゃんが決めてね」

 

先程の般若のようや顔からいつもの綺麗な顔に戻った渚に簪は少し顔を引きずった。

 

「じゃあここは二人の意見を取り入れてライノストロポスから採取したデータでサイのコアを作ったらどうかな?サイの皮膚は固くて盾にもなるし、頭の角は攻撃にも使えるよ。こんな感じでどうかな?」

 

簪がイメージしたイラストはサイの顔が盾となり、顔の上に角が付いている絵だった。絵を見せると二人はそれをじっくりと眺める。

 

「なるほど。攻撃にも防御にも使えるのか」

「それにサイの角で相手を刺すことも出来るね」

「じゃあ…」

「「うん、採用!」」

「ほっ。よかったぁ」

 

簪はほっとすると今までの喧嘩は何処へ言ったのかと言うレベルで海と七海は作業を始める。それを眺めていると渚が簪にお茶を渡しお礼を言って飲む。

 

「変なところ見せちゃったね」

「あ、いえ」

「あの子達はあたしと旦那の影響をモロに受けていてね。海君は生物、七海ちゃんは機械や武器が大好きでいつもどっちを作るかで喧嘩しているのよ。あのバカ息子が居たらすぐに止めてくれたのに、今はどこに行ってるのやら…」

「もう一人息子さんが?」

「うん。あの子達よりかなり年が離れていて、二人が喧嘩を始めると両成敗!って感じで止めていたのよ。でも三年ほど前に突然姿を消したの」

「すみません…。暗い過去を思い出させてしまって…」

「あ!大丈夫!大丈夫!流石に最初はショックだったし怒りも沸いたけど今はもう大丈夫!帰ってきたら100発ほど拳骨を落とすだけだから」

 

渚は握りこぶしを作りオホホホと笑っているとアラーム音が鳴り、音のする方を見ると海と七海がハイタッチしていた。

 

「「出来たー!」」

「え、もう出来たの!?」

「まぁデータを打ち込んで時間が経てば完成するからな」

「今回はデータが多く集まっていたし簡単だったの」

「じゃあこれ、簪にあげるよ」

 

海は簪に近づくと完成したばかりの銀色の四角錘"ライノスTコア"を差し出す。

 

「え?いいの?」

「ああ。せっかく簪がデザインしたコアだ。是非受け取って欲しい」

「でも私使えないよ?」

「その点は大丈夫!これを使えばコアの力を使うことが出来るよ」

 

七海はそう言って机から四足歩行の動物の形をしたガジェットを渡す。

 

「これは?」

「ここ最近開発を進めていたサポートメカ。その名もリミットガジェット!ちょうど四足歩行の動物のコアが完成したからこっちも完成させてみたの」

「さっそくだけどそのライノスTコアをセットしてみて」

「うん」

 

簪はガジェットの頭を割ると中にコアが入る穴があり、そこに射し込み頭を戻すと形状が変わり、顔に角を生やしたサイの形になった。そして簪を見ると彼女の肩に飛び乗り鳴き声をあげた。

 

「可愛い」

「気に入ってくれてよかった」

「でもどうして私にこれを?」

「そりゃあ俺たちと一緒に戦ってもう半年過ぎたでしょ?だからそのお礼と今後ともよろしくという意味を込めてプレゼント」

「これからもよろしくね」

「うん!」

「ちなみにそっちの後々渡す予定だったんだ。そしてこっちが本当は渡すはずだったプレゼント。まぁプレゼントは何個でも良いだろ?」

 

そう言って今度は海が懐から海と七海が身に付けている腕時計と同じものを渡した。

 

「これって二人がいつも使っている空飛ぶマシンに変わる腕時計だよね?これもくれるの?」

「うん。移動手段も増えればそれだけ迅速に現場に着けるだろ?いつまでも俺の後ろに乗っかるのは嫌だろうし…」

「そ、そんなことはないよ!むしろ風が気持ちよかったよ!」

「え、あ、そう?それならよかったけど…」

「おやおや?なんか良い雰囲気だねお二人さん。簪ちゃんが海君のお嫁に来るならあたしは大歓迎よ?」

 

照れている二人に渚がちょっかいを出すと二人はさらに顔を真っ赤にする。

 

「母さん調子に乗らないの。そのオバサンモードやめて」

「もう七海ちゃんは連れないなぁ。それじゃああたしは旦那の所に戻るわね」

「はーい」

 

渚がエレベーターに乗りアジトから出ると七海はパンと手を叩く。

 

「ほら、今日呼んだのはプレゼントと今後の作戦及び簪の飛行訓練でしょ。さっさとはじめるよ」

「「あ、うん…」」

 

こうして夕方頃まで今後の戦いについてと、安全を考慮しながら簪の飛行訓練をした。そしてもう暗いからということで今は海が簪の安全を確認しながら空を飛んで帰っていた。ちなみに簪は海と同じスケボータイプであり何度も一緒に乗ったことがあったためすぐに慣れた。

 

「そう言えばこのサーチボードだっけ?は海が考えたの?」

「いや、考えたのは七海だよ。デザインは俺だけど」

「そうなんだ。ところで海と七海って双子なのに全然似てないね。二卵性なの?」

「いや、俺と七海は血が繋がっていないんだ。というより俺は拾われたんだよ」

「ええ!?」

 

あっさりと重大なことを暴露した海に簪はサーチボードの操縦を誤ってしまいそうだったがなんとか踏み留まった。

 

「俺の家は古い家系でさ。代々女しか産まれなかった家だったらしく、男として産まれた俺は周りから奇跡の子だのなんだのと言われてきたんだ。でも白騎士事件以降母親が女尊男卑に染まってな。元々女が欲しかった母親は俺を憎んでいたし、妹が産まれてからはそっちを当主にしようとしていたよ。そして白騎士事件を切っ掛けにさらに酷くなった。挙げ句の果てにある日聴いちまったんだよ。昔から因縁のあった家の娘と政略結婚させて乗っ取るってさ。」

「酷い…」

 

簪はあまりにも酷いと思った。いくらなんでも実の息子を道具のように使おうとしていた海の親に怒りが沸いた。

 

「だから俺は逃げた。それも婚約の見合いの日にな。風の噂によれば乗っ取ろうとした家と溝が深くなったとか」

「でもよく逃げ出せたよね?普通なら逃げられないし、逃げてもすぐに見つからなかったの?」

「…父親が逃がしてくれたんだよ」

「父親って産みの?」

「ああ。厳密に言えば父親と女尊男卑反対派の人たちだ。色々策を巡らしてくれて俺が安全に逃げれる道を教えてくれたんだ。そして当時父親の友人だった今の父さんの家に転がったって訳。向こうも事情を知っていたらしくすぐに迎え入れてくれたよ」

「…お父さんに会いたいとは思わなかったの?」

「そりゃあ思ったよ。でも会ったら母親にバレる。そうしたら俺の家族や友達にも迷惑がかかるし、せっかく逃がしてくれた父親たちの努力を無駄にしてしまう」

「そっか…。海は強いね」

 

簪はポツリと呟くと海は少し頭を振った。

 

「…俺は弱いよ。目の前の人を助けることで精一杯だし、それに俺はあの家から逃げたままだ。いつか決着を着けてやる。あ、この話は周りには内緒な?周りには二卵性って言ってるし」

「…え?じゃあなんで私に話したの?」

「そりゃあ俺たち仲間じゃん。それに俺だけ秘密を持っているのは駄目だろ?"暗部"の更識家の娘さん」

「え!?」

「じゃあお互いに秘密を知ったし簪の家までレッツゴー!」

「ちょ!どこで知ったのよぉぉぉぉぉぉ!」

 

その日の夕方、空に二つのUFOが現れたとネットニュースで話題になり海は渚から拳骨を落とされた。




はい、という訳で今回は海の暴露回とアンケートの敵キャラの登場です。

今回は疾風の警備員さんのライノストロポスです。

ライノストロポス…サイのトロポス。強固な皮膚に覆われ胸に大きなドリルが付いている。相手の攻撃に怯まず突っ込んできて、胸のドリルを突き刺す戦法を得意とする。

そしてライノスは簪が主に所有します。
また、アンケートは活動報告にてまだまだ募集中なので是非是非ご応募お待ちしております。


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水の精霊

えー、待たせてしまって大変申し訳ございませんでした。
理由は作者の体調不良により執筆するほどの元気がなかったからです…
正直ノロかな?って思うほど苦しんでいました…


簪にリミットガジェットとサーチボードを渡してから数日後。未だに夏の日差しが照りつける中、海と七海は街の魚市場で買い物をしていた。

 

「アジ…イワシ…。あータチウオもいいなぁ」

「兄ちゃん悩みすぎ…。パパッと決めてアイス買おうよ~」

「何を言う!今日は旬の魚が沢山入ってきたって魚屋のおっちゃんから電話があったんだぞ!?これを買わずにいられるか!あ!トビウオもある!」

「はぁ…」

「がっはっは!相変わらず七海ちゃんは魚に興味がないねぇ!」

「あ、坂又(さかまた)さん」

 

七海たちに話しかけてきた男性はこの魚市場で魚を売ったりしている魚屋の坂又だ。漁師であり自分で釣った魚をこうして市場に卸したり、この魚市場では店を構えることも出来るため、そこの自分の店で売ったりしている。ちなみに海に連絡したのもこの人である。昔海が魚に関しての知識を七海に話していたところを坂又に見られそれ以降安く売ってくれたり、新鮮な魚が入れば連絡をくれたりしている。

 

「あ、おっちゃん。いや~ここの魚市場は良い魚が多くて迷っちゃうよ。オススメある?」

「おう!今日なんて暑い日はハモを茹でて、氷水で冷やしておろしポン酢でさっぱりいただくってのはどうだ?」

「おおー!良いなそれ!ってそう勧めてくるってことはおっちゃんの所にハモが入ったね?」

「察しがいいねぇ。安くしとくぜ?」

「おっちゃんも悪いねぇ」

「「あっはっはっは!」」

「はぁ…」

 

七海はこの光景にため息を吐くが、正直なところこの光景が嫌いなわけではない。むしろこうした楽しそうな雰囲気が好きであり、戦いの日々の中にあるこうした日常に安心感を抱いている。だが、そんな楽しそうな雰囲気を壊すかのように少し離れた所で女の怒鳴り声が聴こえた。少し様子を見てみると魚市場にある一つの魚屋で若い女が騒いでいた。

 

「さっさと寄越しなさい!」

「ふざけんな!値切るならともかくタダで魚を寄越せなんざ失礼にもほどがある!冷やかしなら帰れ!」

「なんですって!私は女よ!いい!?男なら女の言うことに従っていれば良いのよ!」

「チッ!女尊男卑のやつか。しかも俺の店じゃねーか。おい、お前!俺の店でなにしやがる!」

「あら、店長さん?だったら話が早いわね。この魚渡してくれる?」

「へっ!タダで魚を渡すもんか!こっちは生活のために貴重な命を頂いているんだよ。そんなこともわからない女に売る魚はねぇ!」

「なんですって!私が警察に通報してもいいのかしら?」

 

ISの影響でこのような女尊男卑の女たちが増え、この魚市場でもこのようなことがたまに起きている。坂又がどうやってこの女を追い返そうかと悩んでいると、向こうからこの魚市場には場違いな青いドレスを着た青髪の美しい女性が歩いてくる。その姿はまるで海から陸へと上がってきた人魚姫のようだった。

 

「ちょっとよろしいかしら?」

「あら?そこのあなたからもこの魚臭いおっさんに一言言ってくれないかしら?」

「ふざけたことを言うわね?あなた何様のつもり?」

「へ?」

 

自分を援護してくれると思っていた若い女は青髪の女性の言葉に驚く。

 

「まさか自分が偉いとでも思っているのかしら?」

「そ、そうよ!女は男より偉いじゃない!ISを動かせるのは女だけ。男なんて女より下!常識じゃない!」

「そう。なら今から男の格闘家でも呼んで生身で戦ってみる?」

「え…?そ、そんなの出来るわけないじゃない!」

「あら?男なんて女より下。つまり男より強いのでしょ?なら簡単に勝てるでしょ?」

「あ…えっと…」

「それにISがあるから男より強いなんて言っているけど、言い方を変えればISがなかったら男に女はだいたい負けるわ。それにISに勝つ方法なんていくらでもあるわ。そんなことも理解できないようなお馬鹿さんなのかしら?それにあなたどこかの代表候補生でもなくただの一般市民でしょ?あまり変な行動はしないで。同じ女性として恥ずかしいわ」

「っ!」

 

若い女は何も言い返せなくなり悔しそうに走り去っていった。その光景を見た周りの人たちからは拍手がされ、坂又は女性に頭を下げた。

 

「ありがとう!いや~助かったよ。この世の中にもあんたみたいな良い人が居るなんて!」

「私は女尊男卑が嫌いなだけですよ。それにこの市場は素晴らしいわ。どれも新鮮で皆さんの腕が良いことを証明していますね」

「いや~なんだか照れるなぁ」

「これも何かの縁。せっかくですしお魚を売ってくださいな」

「おうよ!」

 

その光景を見ていた七海はホッと胸を下ろすが海は不思議そうに青髪の女性を見ていた。

 

「いい人で良かったね、兄ちゃん」

「あんな見た目の人ほど女尊男卑が強いイメージだったけど、偏見はよくないな」

「そりゃそうでしょ」

 

青髪の女性が魚を買い終えると海たちとすれ違ったが、すれ違った瞬間海はとてつもない寒気を感じ振り替える。

 

「どうしたの兄ちゃん?」

「い、いや…。なんでもない…」

「?あ、ほら!ハモ買うんでしょ?」

「あ、ああ…。(なんだ今の底知れないプレッシャーは!)」

 

海は七海に手を引かれ坂又の元に行くが、チラリと後ろを見たとき青髪の女性がニヤリと笑っていたような気がした。

 

 

「あ~今日も疲れたなぁ」

 

その日の夜、坂又は店を閉めて日課の散歩をしていた。暗い海に映り込む揺らめく月を眺めながら歩いていると、近くの茂みに誰かが倒れているのを発見し、慌てて近づく。

 

「おい!大丈…夫…か…。う、うわぁ!」

 

坂又が倒れている人を見ると、それは昼間の女尊男卑の女の死体であった。ただ、まるで海に溺れたように全身が濡れていた。

 

「と、とにかく警察に連絡を!」

「ダ・メ・よ」

「え?」

 

次の瞬間坂又は何者かに襲われ、現場には坂又の携帯が転がっていた。

 

 

翌日、海は布団の上でゴロゴロと眠っていた。だが七海に叩き起こされ眠たい目を擦っている。

 

「兄ちゃん!起きて!」

「うーん…。なんだよ七海…。夏休みなんだから寝かせろよ…」

「トロポスが街で暴れているのよ!」

「なんだと!?」

「ほら、これ!」

 

流石の海も七海の発言に驚き眠気が吹き飛んだ。そして七海がテレビを点けるとそこには街で暴れているトロポスとそれを止めようとしているIS部隊だった。

 

「現場に向かおう!」

「うん!」

 

海は急いで着替えてサーチボードで七海と一緒に現場に向かうとそこにはシャチの姿をしたトロポス。"オルカトロポス"が五人のIS操縦者と戦っていた。

 

「ほらほらほら!」

「さっさと死になさいこの化け物!」

 

だが数の多さからオルカトロポスが押され、地面に倒れて動かなくなった。

 

「ふぅ。まったくISには勝てないのよ!」

「さっさと捕まえて調べましょ」

 

IS乗りたちがオルカトロポスに近づいた瞬間オルカトロポスの指がピクリと動き、海は叫んだ。

 

「不味い!さっさと離れろ!早く!」

「はぁ?何言ってるの?」

「いいから早く!」

 

だが次の瞬間オルカトロポスは起き上がり一人のIS操縦者に飛びかかった。そして次の瞬間IS操縦者の腕を爪で引っ掻いた。そしてIS操縦者の腕から血が流れ始める。その光景に他のIS操縦者は驚きを露にする。

 

「な、なんで血が!?どうして絶対防御が発動しないの!?」

「な、なんなのよこいつ!」

「ね、ねぇ。そう言えば前に怪物は絶対防御を貫通するって報告あったよね…?」

「う、嘘よ!あんなのデタラメだったはず!」

「ほら、やっぱり本当だったじゃない!」

 

そう、過去にもIS部隊がトロポスと戦った際にリミットに変身した海がそのことをIS委員会に伝えていたのだ。だがIS絶対主義の女たちはそのことを嘘だと思い信じていなかったのだ。

 

「ちっ!これだから女尊男卑は!」

 

海はオルカトロポスを蹴り飛ばし距離を取るとクロスドライバーを腰に巻き付ける。

 

《スタンバイ コア!》

 

ホルダーショットのトリガーを長押しして中にあるライダーコアをベルトに挿す。

 

《リミットライダーコア!》

 

そしてホルダーショットからハンズSコアとヒューマンTコアをベルトに挿し、変身ポーズをとって左右のボルトを押し込んだ。

 

「変身!」

 

《クロスアップ!ハンズ!ヒューマン!リミット ファースト!》

 

海はリミット ファーストシフトに変身してオルカトロポスにタックルする。

 

「あ、あれってリミットよ!」

「あんな子供がリミットだったの!?」

 

IS操縦者たちは驚きのあまりその場に立ち尽くしていた。

 

 

『おらっ!』

 

場所を街中から港へ変えた海はオルカトロポスと戦っていた。オルカトロポスの眼は赤く輝き狂暴な様子へと変貌していた。

 

『赤い眼ってことは第二段階(ステージ2)ってことか。さっき一人に襲いかかったってことは多分あのISのコアがお前のコアってことか』

 

オルカトロポスは雄叫びを上げると海へ飛び込み水中から勢いよく飛び出し海を襲う。

 

『うわっ!ぐはっ!ちっ!港に変えたのが間違いだったか!うわっ!』

 

まさに水を得た魚の如くオルカトロポスは海を翻弄する。さらに地面すらも水中のように潜りより一層海を翻弄する。

 

『このままじゃやられる…!』

 

オルカトロポスが再び水中から飛び出し、海に噛みつこうとした途端、横腹に何かが飛び込みオルカトロポスを吹き飛ばした。

 

『な、なんだ?』

 

オルカトロポスに突撃したのは尻尾が剣になっている機械のサイだった。それは簪にあげたリミットガジェットであり、海が後ろを見たとき向くと簪がサーチボードに乗っていた。

 

『簪!』

「間に合った!そのライノスTコア使って!」

『サンキュー!』

 

海はリミットガジェット"スラッシュライノス"の頭を折り、中に入っていたライノスTコアを取りだし、ベルトのヒューマンTコアと交換する。

 

《クロスアップ!》

 

『アームチェンジ!』

 

《ハンズ!ライノス!リミット パッチワーク!》

 

左腕が銀色に変化しサイの頭をした盾"ライノスシールド"が肩に装備された。

 

「『おおー!』」

 

海と簪が揃って声をあげるとオルカトロポスは再び水中に潜り攻撃を仕掛けるが、タイミングを合わせて海は肩からライノスシールドを外し、ガードをして先程スラッシュライノスが突進した所に右腕のフックを叩き込む。するとオルカトロポスは苦痛の声をあげ地面を転がる。そして潜る作戦をやめ、今度は水を固めて造り出したモリで刺してきた。海は再びライノスシールドでのカウンターを狙おうとするが、腕とモリではリーチに差があるため防戦一方になってしまう。さらには腕を変えようにも止まらない突きのせいで思うように変えることも出来ない。

 

『くそっ!さっきよりもピンチじゃねーか!』

 

海がどうするか悩んでいるとオルカトロポスに弾丸がいくつか被弾した。海が何事かと弾丸の飛んできた方を見ると先程助けたIS操縦者たちが居た。

 

『あ、さっきの!』

「さっきは助けてくれてありがとね!あたしたちが隙を作るから止めを頼むよ!」

 

海に声をかけたIS操縦者は先程オルカトロポスに腕を傷つけられた人であり、傷口には可愛らしいハンカチで止血がされていた。

 

『それって七海のハンカチ』

「ああ、あんたと一緒にいた子から止血してもらったよ。まったく、子供にこんな危ないことさせておいて大人が黙っていられるわけないわよ!」

『ありがたいけどあのトロポスの狙いはあんたのISのコアだ』

「じゃあ死なないように戦うよ!」

 

そう言ってIS操縦者はオルカトロポスに攻撃を仕掛ける。

 

『このチャンス逃すわけにはいかないな』

 

海はホルダーショットを抜き、トリガーを長押する。

 

《スタンバイ コア!》

 

そしてベルトからハンズSコアを抜きホルダーショットのソードSコアと交換してボルトを押し込んだ。

 

《クロスアップ!》

 

『アームチェンジ!』

 

《ソード!ライノス!》

 

するといつもとは違うメロディが流れ両腕が銀色に変化する。

 

《リミット ナイト!》

 

最後に音声が流れると背中に畳まれていた機械の羽が消え、銀色のマントに変わった。

 

『な、なんだこれ!力が溢れてくる!』

「姿が変わった!?」

「といってもちょっとだけだね」

『援護感謝します!あとは任せてください!』

 

海はマントを翻すとオルカトロポスに向かって走り、右手に持ったクロスソードでオルカトロポスを切り裂く。するといつもよりも遥かに上回るパワーで切り裂いた。

 

『つ、つぇえ…!いつも以上のパワーだ!』

 

オルカトロポスはモリで突いてくるがそれよりも早くライノスシールドでガードし、剣で弾き、盾で殴る。

 

『とどめだ!』

 

海はライノスシールドを肩に戻し、ベルトからリミットライダーコアを抜こうとすると、スラッシュライノスが肩に飛び乗る。何やらクロスソードをじっと見ている。

 

『なんだ?使えってことか?』

 

どうやら正解らしくスラッシュライノスは足を折り畳み、海の手に収まった。そして海はライダーコアを挿す窪みに顔が握り手にくるように挿し込み捻る。

 

《ライノスチャージ!》

 

クロスソードから音声が鳴ると肩に装備しているライノスシールドからエネルギーがクロスソードに流れる。

 

『ハッ!』

 

海は腰を少し落とし、ライノスシールドをブーメランのように投げ、オルカトロポスに当てるとライノスシールドがエネルギー状に変わり、オルカトロポスを拘束する。

 

《ライノスラッシュ!!!》

 

『ハァァァァァァァァァァァァァァ!』

 

海がトリガーを引くと音声が鳴り、そのまま走りだしオルカトロポスを切り裂いた。そしてオルカトロポスは爆発し、地面に倒れ込んだ。

 

『ふぅ。さて、回収回収』

 

海がデータを回収するとオルカトロポスが消え、中から坂又が出てきた。

 

『さ、坂又さん!?』

 

海は急いで駆け寄るが坂又は気絶しているだけで海はホッとした。その様子を見ていた腕にハンカチを巻いたIS操縦者が駆け寄る。

 

「知り合い?」

『え、あ、はい』

「ならそいつは君に任せるわ」

「ちょっと!あの化け物の正体を知るチャンスを振るの!?」

「この人が知っているかなんてわからないでしょ?それに正体なら君が知ってるのでしょ?」

『は、はい』

「なら正確な情報を頂戴。これでも私のIS委員会の一人だから。今回の件で女尊男卑のアホも理解しただろうしね」

 

そう言って懐から名刺を差し出した。海はそれを受け取り変身を解除した。

 

「あたしは烏山 雛(からすやま ひな)よ」

「天地海です」

「天地ってことは天地コーポレーション?」

「あ、はい」

「そう。君の正体は私たちの秘密にしておくから安心して。あとさっきの女の子にハンカチありがとうって伝えてね」

 

海が周りを見ると他のIS操縦者たちも頷いていた。そしてそのままISを纏って去っていった。それと同時に七海がやって来た。

 

「あ、七海」

「兄ちゃん!終わったみたいね。あ、簪に坂又さん…坂又さん!?」

「あのオルカトロポスの正体だよ。第二段階(ステージ2)まで進んでいたからヤバかったけど、なんとか無事だった」

「お見事。流石はリミットね」

「「「!?」」」

 

三人が振り替えるとそこには先日女尊男卑の女を追い払った青髪の女性だった。

 

「あ、昨日の人…」

「…あんたいったい何者だ?」

「ちょっと兄ちゃん!失礼でしょ!」

 

だが海の顔は険しく簪のスラッシュライノスも威嚇をしていた。

 

「あら?そこのお嬢さんたちにはわからないのね」

「あんたからトロポスと同じく力を感じる。いったいどういうことだ?」

「ふふ。トロポスはトロポスでも第三段階(ステージ3)のトロポスだけどね」

 

そう言って青髪の女性は懐から水色の波の形をした機械を取り出した。そして眼が青色に光ると体を水が包み込み動物ではない"何か"の姿をしたトロポスに変わった。

 

「なっ!?女がトロポスに変わっただと!?」

「そ、そんな!トロポスは男にしか寄生しなかったはず!」

「しかも普通のトロポスと違う…!」

『その認識は"ほぼ"間違ってないわ。正確にはIS適正のない人間にトロポスは寄生するのよ』

 

そう、女の中にもIS適正が低く、ISを動かせない女も存在するのだ。

 

「つまりあんたは適正がなかったってわけか。一つ聴かせてほしい。さっきあんたは第三段階(ステージ3)と言ったがそれはどういうことだ」

第二段階(ステージ2)は自分のISのコアを求めることは知ってるわよね?第三段階(ステージ3)はその自分のコアを探しだし、一つになった姿のことよ。つまり私はISのコアを食ったって訳。そして第三段階(ステージ3)はトロポスを好きな相手に寄生させることが出来るの。ちょうど坂又さんのようにね』

「つまりお前が坂又のおっちゃんをトロポスにしたのか!」

『そうよ。元々する気はなかったけど坂又さんが私の殺した死体を見ちゃったから記憶消去を目的として寄生させたの。あとは坂又さんのこと気に入っていたから仲間になってもらおうかなって』

「…お前だけは絶対許さねぇ!」

 

海はクロスドライバーを腰に巻き付けたが女性は首を振り人間の姿に戻る。

 

『怒らせたのならごめんなさい。でも今日は挨拶だけだから。私の名前はウンディーネ。ついでに言っておくけど第二段階(ステージ2)はトロポスの記憶消去と長くその状態でいると死ぬ可能性があるわ。死ぬ可能性の方は知っていたようだけどね。それじゃあまたね』

 

そう言ってウンディーネは水と共に姿を消した。

 

「あんなやつが居たとはな…」

「兄ちゃん(海)?」

「…ひとまず坂又さんを安全な所に運ぼう。あとは帰って今までのデータの整理をしないとな」

「「う、うん」」

 

海の切り替えの早さに二人は戸惑ったが、すぐに表情を戻し坂又の元へと駆け寄った。だが、海の拳は強く握られ震えていた。




なっが!
7000近くのいったのはじめてだよ!
正直ゲンムより気合い入ってるだろ!って思っているかもしれませんが、キリの良いところまで書くといつもこうなんです!
あとは更新が遅くなったお詫びの気持ちです!

さて、今回は覇王龍さんからのトロポスです(一部設定変更。変更点は→です)

オルカトロポス
シャチのトロポス。地面→地面と水中を泳ぐように移動し、自慢の牙で噛みつく。また、三ツ又→モリの矛を持っている。乾燥が弱点→なし。

アンケートはまだまだ募集しております。あと仮面ライダーにおいて新フォームの活躍ってワクワクしませんか?


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姉妹の溝

何故こうも執筆が進むんだぁぁぁぁぁ!


ウンディーネの出現から数ヵ月の時が流れ現在は11月。海はアジトの中で設計図を見ながら何かを造っていた。

 

「ねぇ兄ちゃん。いったい何を造ってるの?あのウンディーネが現れて以来ずっとアジトでリミットに変身しては戦闘データを採っていたけど。それに今日は簪の代表候補生が決まるかどうかの日でしょ?よく作業に熱中できるね」

 

そう、今日は簪が日本代表候補生になれるかどうかという日なのである。七海は簪の努力を知っているため受かるとは思っているが、やはり心配なのである。しかし海はそんなことを気にしていないかのような雰囲気で作業を進めていた。

 

「簪は絶対に受かる。あいつの強さは俺が保証している。だからこうして"専用機"を造っているんだよ」

「え?専用機ってことは兄ちゃんIS造ってるの!?だとしても気が早いよ!?」

「受かれば日本代表候補生の専用機、アウトなら父さんの会社で企業代表として持たせる。父さんからの許可も貰ってるぞ?それにリミットのデータをベースに造っているからあとは外装だけなんだよ」

 

そう言って海がモニターを操作すると、一つの扉が開き中には全身装甲(フルスキン)のISが2台ISハンガーに掛けられていた。2台ともシルエットは同じだが、何故か頭部と左腕欠損していた。

 

「ねぇ兄ちゃん。このIS頭と左腕がないよ?」

「ああ、頭部は七海と簪のデザインに任せるよ。それと左腕がないのは」

 

そう言って海は造っていた機械にヒューマンTコアを挿し込むと2台の内1台にリミットがヒューマンTコアを使ったときに出現する左腕と同じものが出現した。

 

「こういうこと」

「つまりこのISはTコアの力を使うISってこと?」

「その通り。七海は企業代表としてIS学園に通うのはわかっているけど、トロポスが大量のISを所持しているIS学園を逃さないはずがない。それに一度に二体来る可能性もある。そこで対トロポス用のISが2台必要って訳だ。烏丸さんにトロポスの情報を教えたけど世界各国のほとんどは未だにISを全身装甲(フルスキン)に変える気はないってさ」

「アホだね。死にたいのかな?」

「だろ?烏丸さんもそう言っていたよ。と言っても事実を認めればIS絶対主義の自分達の立場が危うくなるからな」

「つまり自分達の地位が優先って訳ね。はぁ…。で、私と簪にIS学園の防衛をしてほしいって訳ね?」

「ああ。正直二人を戦わせるのは嫌だけどな」

「大丈夫よ。と言うよりむしろ感謝してるよ。これで兄ちゃんの負担が減るからね。きっと簪も同じ気持ちだよ」

「…そっか。よし!そうと決まったら作業を再開するとしますか」

「あ、私も手伝うよ。兄ちゃんより機械得意だし」

「あー、じゃあ頼む。そいつを纏って動作チェックとかしたいからさ」

 

 

「「出来たー!」」

 

数時間後、二人の目の前には大きめの変身ブレスが置かれていた。それと同時に海のスマホが鳴り画面を見ると簪と表示されていた。そして電話を出ると電話の向こうから泣いている声が聴こえてきた。

 

「ど、どうしたんだ簪!?」

『受かった…私…受かっていたよ!』

「うぉ…。うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ど、どうしたの兄ちゃん!?」

「簪受かったって!」

「え…。やったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「おめでとう簪!」

『うん…ありがと…!とりあえずそっち向かうね』

「おう!」

 

電話を切ると海はガッツポーズをして喜びを露にしていた。それを見ていた七海はやっぱり心配だったのかと少し呆れてその様子を見ていた。そして簪がアジトに入ってくると二人はクラッカーを鳴らして簪の代表候補生になったのを祝った。

しかし現実はそうではなかった。

後日彼等の元に届いたのは"更識簪の専用機は倉持技研が造る"という報告だった。

 

「「どういうこと(よ)だよ父さん!」」

 

報告が届いたその日、海と七海は社長室に飛び込んだ。そこには二人の父親である天地凪十(あまち なぎと)が眉間にシワを寄せて社長室の椅子に座っていた。

 

「とりあえず部屋に入るときはノックをしろ。それに俺も抗議したさ。だがIS委員会と女権が聞く耳を持たなくてね」

「あたしも抗議したけど無駄だったよ」

「あ、烏丸さん。ご無沙汰です」

「ああ。で、理由を聴いたところ天地コーポレーションが男女平等を掲げている会社だからそんな奴等に神聖なISを造らせるわけにはいかないってさ」

「「はぁ!?」」

 

あまりの暴論に海と七海は揃って呆れた顔をした。

 

「しかも専用機が打鉄の発展機だってさ。おまけに装甲はかなり薄いわ」

「つまり簪は倉持のネームバリューのために利用されるって訳かよ!」

「落ち着け海。起きてしまったことは仕方がないのだ」

「なんだよ父さん!このままで良いのかよ!

「落ち着けと言っているだろ!」

「っ!…ごめん」

「お前はここ最近怒りで前が見えなくなっている。落ち着かなければ見えるものも見えないぞ」

「…」

「簪君の専用機の製作は倉持に任せる」

「っ!」

「だが、その専用機を使用するかは簪君の自由だ」

「え?」

 

凪十の言葉に海は頭に?を浮かべる。そしてしばらく考えると納得したかのように顔をあげた。その顔を見た凪十はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「つまり対トロポス用のISも簪に渡すって訳か!」

「そう言うことだ」

「え?ど、どういうのこと?」

 

七海は何のことだかさっぱりわからず二人に説明を求めた。

 

「つまり簪には表向きは倉持が造ったISが専用機として支給される。でもそれを使うかは本人が決めることだ。そこでこっちの対トロポス用のISも渡せばいいんだよ」

「なるほど!それなら簪がどちらを使うかは本人次第。仮に倉持のISが使われなくても本人の意思で使用するか決めているから横やりを入れられる心配もない!」

「そうと決まれば早速簪に…」

 

海は簪には連絡を入れようとしたとき腕に巻き付けていたサーチボードが鳴り響いた。それはトロポスの出現を意味していた。

 

「っ!とりあえずトロポスが先だな」

「ついでにこの"クロスブレス"の性能も確かめないとね!」

 

そう言って二人はトロポスが出現した場所。"IS学園"へと向かった。

 

 

「皆、早く避難して!」

 

IS学園では簪の姉、更識楯無が学園に突如現れたイーグルトロポスに苦戦していた。何故ならイーグルトロポスの目は赤く光っており、第二段階(ステージ2)を示していたからだ。

 

「あれが報告書にあったトロポスね。なかなか厄介ね…」

 

楯無はイーグルの攻撃をランスで防いだり、交わしたりしていた。何故なら楯無はトロポスの絶対防御貫通を警戒していたからだ。そのため絶対防御には頼らず暗部で培ってきた技術でかわしていた。しかしイーグルトロポスは鷲の力を持つトロポスであり、その機動力で楯無を的確に攻撃していた。

 

「このままじゃ殺られる!」

 

楯無が殺られることを覚悟したとき何処からか動物の鳴き声が聴こえ、イーグルトロポスに突進した。そして何かが戻っていくとそこにはサーチボードに乗った簪が居た。

 

「か、簪ちゃん!?どうして!?」

「…姉さんには関係ない」

 

そう言って簪はスラッシュライノスを操作してイーグルトロポスを攻撃した。現在簪はイライラしていた。理由は二つ。一つは倉持のことだった。あまりにもふざけたことを言っていた倉持に対して簪はイライラしていたのだ。そして二つ目はトロポスの反応があり現場に駆けつけると、そこには昔自分に無能の烙印を押し付けた姉が居たのだ。この二つのことから簪のイライラはピークに達していた。

 

「ハァァァァァ!」

 

簪は隙を見るとサーチボードでイーグルトロポスに突進などをしていたが、眼が良いイーグルトロポスにガードされ、弾き飛ばされた。近くの木にぶつかる直前、楯無によりなんとか怪我はなく済んだが、簪は楯無に助けられたということにまたしても苛立ちを覚えた。

 

「放して!」

「危険よ簪ちゃん!」

「うるさい!姉さんには関係ない!"無能"な私はどこで何をしようと関係ないでしょ!」

「っ!」

 

楯無は自分と簪の溝を作ってしまった言葉を思い出した。"あなたは何もしなくて大丈夫よ"と。その言葉は楯無にとっては危険な暗部の仕事に可愛い妹を巻き込みたくなかったからであった。しかし簪にとっては優秀な姉に追い付くために努力した自分を否定する言葉であった。結果簪には無能なままでいろと勘違いしてしまったのだ。こうして二人に溝が出来、さらに楯無が家を継いだことにより簪が周囲からも無能と呼ばれ二人の溝が深まってしまったのだ。

 

「…ごめんなさい」

 

楯無は自然とその言葉を口にした。

 

「え?」

「ごめんね簪ちゃん。今更何を言ってるのって思うけど、あのときは簪ちゃんを暗部なんて危険な仕事に巻き込みたくなかったのよ。でもそれが簪ちゃんの努力を否定していたわ…」

「今更…今更遅いよ!あのとき私がどれだけ傷ついたかわかる!?どれだけ悲しかったか!どれだけ辛かったか!」

「ごめんね…ごめんね…!今更仲直りしたいなんて都合の良いことは言わないわ。でもせめて、可愛い妹は守るわ!それが今の私に出来ること!それと、日本代表候補生おめでとう。流石、自慢の妹ね。これから頑張って」

 

そう言って楯無はランスを構えてイーグルトロポスに向かっていった。イーグルトロポスは楯無を殺そうと襲いかかったが、楯無の動きが先程よりも動きが鋭くなっており、イーグルトロポスは驚きを露にした。今の楯無の中にあるのは妹を守りたい。ただ、その思いだけが楯無を強くしていた。

 

「お姉ちゃん…」

 

簪は自分のために戦っている姉の姿を見ていた。そして一筋の涙を溢していた。

 

「私バカだ…。お姉ちゃんの気持ちを理解しようとしないで、ただ恨んでいた…。今も私のために…。危険なのに戦って…」

『じゃあお姉さんを簪が守れば良いんじゃないかな?』

 

簪が横を向くとそこにはリミットに変身した海とサーチジェットを背負った七海が居た。

 

「でも私には専用機が…」

「じゃじゃーん!これ使ってみて」

 

七海が大きめのトランクケースを簪に渡し、中身を開くとそこには大きめのブレスが入っていた。

 

「これって?」

「新アイテム!変身ブレス クロスブレスだ。対トロポス用に造ったIS。これを使ってお姉さんを助けてあげたら?」

「うん、ありがとう。海。七海ちゃん。私も逃げるのは止めた!正面からぶち当たる!来て!ライちゃん!」

 

簪がクロスブレスを腕に当て、グリップを握るとベルトが射出され腕に固定された。そしてスラッシュライノスからライノスTコアを抜き出しブレスのカバーを開け、下側が欠けているひし形の窪みにセットし、カバーを閉じる。

 

《ライノス!》

 

「展開!」

 

《トロポスアップ!》

 

ライノスTコアが左側に来るように真ん中のひし形を回転させるとブレスから音が鳴り、簪の体を銀色の装甲が包み込んだ。そして左腕にはライノスアーマーが装着され、最後に簪の顔を銀色の仮面が覆った。

 

『凄い…!これならいける!』

 

簪はサーチボードから降り、足のブースターを飛ばして薙刀を出現させてイーグルトロポスを切り裂いた。

 

『お姉ちゃん大丈夫?』

「その声簪ちゃん!?」

『うん。お姉ちゃんが私を守るなら、私がお姉ちゃんを守る!』

「簪ちゃん…。ええ、任せるね」

『うん!』

『「ハァァァァァァ!」』

 

簪と楯無は絶妙なコンビネーションでイーグルトロポスにダメージを与えていく。イーグルトロポスが翼から羽を飛ばして攻撃するが、楯無が水をナノマシンで操り、水の壁を作り防ぐ。そしてその壁から簪が飛び出しイーグルトロポスにライノスシールドで突進する。イーグルトロポスは空を飛んで逃げようとするが、思うように飛べず地面に落下した。何故なら楯無が水を操りイーグルトロポスの羽を濡らして重くしたからだ。

 

「とどめよ!」

『うん!』

 

楯無はランスに水を纏わせ、簪はクロスブレスに手をかざす。

 

《ライノスエンド!》

 

『「ハァァァァァァ!」』

 

二人はそのままイーグルトロポスに向かって行き、慌てて逃げようと背を向けたイーグルトロポスの背中をランスと薙刀が貫いた。そしてそのままイーグルトロポスは地面に倒れ爆発した。そして自動的に簪のクロスブレスにデータが回収され、中から男性が出てきた。

 

「中から人が。報告書通りね」

「あ、あれ?ここは?」

 

眼が覚めた男は辺りをキョロキョロ見渡す。

 

「ここはIS学園よ。あなた酔っぱらっていて間違って入ってきたみたいね。今の内に早く出た方がいいわよ?」

「あ、はい」

 

そう言って男はそそくさと帰っていった。

 

「簪ちゃん…」

「お姉ちゃん…」

 

二人はISを解除してお互いに近づくと抱き締めあった。そしてお互いに泣きじゃくり海と七海はその光景を優しく見守った。

 

 

そしてその週の土曜日。

 

「で、なんで簪のお姉さんが居るんですか!?」

「あら、せっかくの休日に可愛い妹と居て何か問題でも?」

「ごめんね。お姉ちゃんにバレちゃったみたい…」

「これから私も君たちに協力するわね。じゃあ早速生身の戦闘訓練しましょうか!」

「か、勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「頑張って、海…」

 

こうして簪と楯無の溝は少しは埋まり、新たに仲間が一人増えたのであった。




はい、という訳で原作介入前に簪と楯無先輩の溝を少しだけ埋めました。
ちなみに簪のあれは"変身"ではありません。ISを展開しただけです。
では次回もお楽しみにー


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風を撃ち抜け!

あー…。なんでだろう…。なんでこんなにもこっちのネタが思い付くのだろう…。


「ぜぇ…ぜぇ…」

「はぁ…はぁ…」

「つ、疲れた…」

「はい、今日はここまでね。皆ここ数ヵ月で凄い成長ね。お姉さん嬉しいわ」

「「「あ…ありがとう…ございました…」」」

 

楯無が仲間に加わってから数ヵ月が経ち、海、七海、簪の三人は週に一度の楯無との稽古に励んでいた。トロポスとの戦いを続ける中で新たなアイテムの開発を進めていた海と七海に対し、楯無はまずは自力を上げることが大事だと教え、こうして時間を見つけてはIS学園からアジトまでやってきて稽古をつけてくれていた。なお、七海と簪はISの操縦訓練と生身の稽古を行い、海は楯無との実践を想定した生身の戦闘訓練を行っていた。戦いにはそれなりの経験があった海ですら暗部の当主である楯無には敵わず、現在もこうして打ち負かされていた。

 

「簪ちゃんと七海ちゃんはISの操縦にもかなり上達したし、海くんにも私が教えてあげれることは全部叩き込んだわ。なんとか一月までには間に合ったわね」

「楯無さん強すぎる…」

「お姉ちゃん容赦なさすぎ…」

「二人はまだマシだろ…。俺なんて夏のときから"私を倒してみなさい"って言われて…」

「あら?そう言いつつも今日は私の70%本気と戦えたじゃない。確実に強くなっているわ。でもまだまだね」

「そりゃどうも…」

 

あれでまだ70%かよと思いつつも楯無の額にも少しだけ汗が流れていた。海たちが息を切らしながらトレーニングルームの床に倒れているとドアが開き二人の女性が入ってくる。

 

「皆さんお疲れさまでした。お嬢の言うとおり確実に実力は上がっていますよ」

「皆お疲れだ~。これ差し入れだよ~」

「あら虚ちゃんに本音ちゃん。わざわざありがとね」

 

入ってきた女性の内一人は海や七海、簪の友人の布仏本音であり、もう一人の眼鏡をかけた女性は本音の姉の虚である。二人とも更識に仕える家系であり、本音は簪の。虚は楯無のメイドとして仕えているのだ。ちなみに何故アジトに居るのかというと楯無が二人をスカウトしたからである。その事を聴いた海たち三人はもう反対したが本音が海の正体を知っていたことから渋々納得し、海たちのアイテムのメンテナンスとして仲間に加えたのである。姉である虚も同じ理由である。

 

「それで虚ちゃん。何かトロポスについて情報は入ったの?」

「いえ、ここ最近はそれらしい情報がありませんね」

「そう…。本音ちゃんはどう?」

「えーっとねぇ~。最近海外でスーパーヒーローが現れたって話なら聴いたよ~」

「スーパーヒーロー?」

「これこれ~」

 

そう言って本音が取り出したスマホを見ると、そこには"正義の味方?謎の全身装甲(フルスキン)現れる!"と言う見出しといくつか画像と動画が添付されていた。そして動画をクリックするとそこには羊のような怪人と戦っている全身装甲(フルスキン)が映っていた。だがその姿はISよりも小さく人と同じサイズであった。

 

「これって羊のトロポス?」

「それにこの戦っている全身装甲(フルスキン)って」

「…クロスドライバーシステムのライダーだ」

 

海の言葉にその場に居た全員は驚愕を露にする。だが海は冷静な表情のまま言葉を続けた。

 

「今までおかしいと思っていたんだよ。ISは世界中に存在するならトロポスだって世界中に居てもおかしくはない。だが、海外にも俺以外にクロスドライバーを持つ者が居たら納得できる」

「でも画像は荒いし、動画も遠くだから判別するのは難しいんじゃないの?他国がリミットを真似して造ったISかもしれないし」

 

楯無の言葉に海はトレーニングルームから出て、他の皆も後を追うように部屋を出る。そして海はコアを作っているモニターを操作した。

 

「急にモニターを操作してどうしたの?」

「前に七海がシールドのコアを造る案を出していたから、データが余っていたし造ろうとしたんだよ」

「あーそう言えば言ってたねぇ」

「それで造ろうとした結果が…」

 

海がエンターを叩くと画面にはERRORと表示された。

 

「エラー?データが足りなかったとかじゃないの?」

「俺もそのときは納得したんだよ。でもエラーはデータが足りない以外に、"同じものを造る"ときにも発生するんだよ」

「同じものってまさか!」

 

七海の言葉で全員が本音のスマホの動画を再び見る。そこには遠くだが右腕に茶色の盾を装備し、左腕には茶色の動物の頭部のような肩にアーマーがあり、同じ色のクローが装備されていた。

 

「遠くだけど盾を持ってるね…」

「それに左腕には動物…」

「武器の右腕に動物の左腕…」

「それに腰には見えにくいですがクロスドライバーと同じ色の帯が…」

「リミットと一致してるねぇ~」

 

五人の女子たちは納得した表情を浮かべる。

 

「ここまで判断材料が揃っているならほぼ確定だ。楯無さん、虚さん。忙しい所申し訳ないのですが、この動画の全身装甲(フルスキン)を調べてくれませんか?」

「ええ、任せて頂戴。ただ、時間はかかるわよ?」

「構いません」

「わかったわ。それじゃあ私と虚ちゃんは先に帰るわね。…美少女が居るからって獣になっちゃダメよ♥」

「なりませんから!と言うより簪に手を出したら楯無さんにボコボコにされますよ!」

「あら?私は簪ちゃんだなんて一言も言ってないわよ?」

「なっ!た~て~な~し~さ~ん!!!」

 

海が顔を赤くして拳を震わせると簪が眼鏡をキラリと光らせ楯無の肩を掴む。

 

「お姉ちゃん…?あまり海を困らせないで」

「あ、あはは…。冗談よ冗談。だからそんなに怖い顔しないで!?」

「さぁお嬢様。帰りますよ」

「ああ!ここに救う神が!」

「簪様、お嬢様は後で私がキツ~く言っておきますから」

「悪魔だったぁぁぁぁぁぁぁ…」

 

そのまま楯無はズルズルと虚に引きずられながらアジトのエレベーターに乗り、地上へと向かった。

 

「ごめんね、お姉ちゃんが変なことに言って…」

「いや、大丈夫だ…」

「兄ちゃんのスケベ!」

「だからしないって!」

 

海と七見がまた騒いでいると海の携帯が鳴り電話に出る。

 

「烏丸さんから?もしもし?」

『やぁ君がリミットだね』

 

しかし電話からは烏丸の声ではなく少年のような声が聴こえてきた。海はその声に顔をしかめる。

 

「お前は誰だ」

『それは後で教えるよ。今から送る場所に一人で来てくれるかな?来なかったらわかるよね?』

「…わかった」

 

海は電話を切るとドライバーを持ちエレベーターのドアを開けた。

 

「どうしたの兄ちゃん?」

「…烏丸さんが拐われた。恐らく俺を狙った人物の仕業だ」

「それなら!」

「向こうは俺を指名してきた。絶対助けてくる」

 

そう言って海はエレベーターに乗って外へ向かった。

 

 

海が呼び出された場所は使われなくなった廃工場であり、海はドライバーを巻き付け辺りを警戒する。

 

「約束通り俺一人で来たぞ!姿を見せろ!」

 

海がそう言うと風が吹き荒れ、頭に帽子を被り、緑色のシャツを着た緑色の髪をした少年が姿を現した。

 

「お前が電話の相手か」

「そうだよ。来てくれてありがとうね」

「それより烏丸さんはどこだ!」

「大丈夫だよ。彼女は別のところで気持ちよく眠っているよ。まぁ僕の友達が見張っているけどさ」

 

少年が指をパチンと鳴らすと風のモニターが現れそこには2体のトロポス監視されている烏丸が居た。

 

「烏丸さん!」

「大丈夫だって。君が僕のお願いを聴いてくれたら彼女は解放するよ」

「お願いだと?」

「そう」

 

少年がポケットから緑色の風の形をした機械を取りだす。そして眼が緑色に光ると少年の体を突風が包み込み怪人の姿に変わった。

 

『僕と戦ってもらうことさ』

「トロポスか!」

『正解!僕の名前はシルフ』

「シルフ…。お前もウンディーネと同じ第3段階(ステージ3)ってことか」

『またしても正解!で、どうする?戦う?』

「言われるまでもない!お前を倒して烏丸さんを助ける!」

 

《スタンバイ コア!》

《リミットライダーコア!》

 

「変身!」

 

《クロスアップ!ソード!ライノス!リミット ナイト!》

 

海はリミット ナイトシフトに変身する。

 

『お前のリミット、見せてもらうぜ!』

『いくよ!』

 

シルフは風を纏って突撃するが、直線的な動きのため海はライノスシールドでガードし、カウンターを狙おうとした。しかしシルフが指を動かすと下から風が吹き荒れ左手に持っていたライノスシールドを吹き飛ばす。そしてがら空きになった海の胸にめがけて突撃し吹き飛ばした。

 

『いてて…。ただの突撃バカじゃないってことか』

『ふふーん!僕は普通のトロポスとは違うからね。特性も熟知しているよ』

『意志があるってのが厄介な所だな…』

『それにしても意外だねぇ。あの攻撃で僕の肩にダメージを与えるなんてさ』

 

そう言ってシルフが肩を見るとそこには5㎝ほどの切り傷がつけられていた。

 

『普通人間って自分を守るはずなのに、君はあえて持っていた剣をガードに使わず攻撃に使った』

『相手が接近したときほどチャンスはないからな。こいつの固さを信じてあえてカウンターをさせてもらったよ』

『ふふふ。君面白いね!』

 

シルフが手を広げると風が集まり一つの鎌になり降り下ろしてくるが、海は咄嗟に避けて地面に転がっていたライノスシールドを回収し、ブーメランのように投げつけた。そしてドライバーを操作してソードSコアからウィップSコアへと変更する。

 

『アームチェンジ!』

 

《クロスアップ!ウィップ!ライノス!リミット パッチワーク!》

 

シルフがライノスシールドをかわすとすかさずクロスウィップでシルフを縛る。しかしシルフは風となりクロスウィップから抜け出し、鎌鼬となり海を襲う。

 

『ぐっ!このやろっ!』

 

《ウィップアタック!》

 

海はベルトを操作してクロスウィップを振り回し鎌鼬を全て弾いた。そして弾かれた鎌鼬が集まりシルフの姿に戻る。

 

『あれを全部弾くなんて凄いね!』

『自慢の師匠に鍛えてもらってるからな!』

『でもこれで終わりだよ!』

 

今度は竜巻に変わり海を包み込んだ。

 

『動けねぇ…!』

 

海が拘束を振りほどこうとしてもまるで竜巻の中にいるかのように思うように動けずかなりの高さまで連れてこられる。

 

『バイバイ!』

 

そのまま竜巻は地面へと急降下し地面を揺らした。そして地面には海が倒れ伏せ、シルフはその姿を見て海に背を向ける。

 

『あーあ。熱くなりすぎちゃった…。せっかく楽しかったのになぁ』

『…待てよ』

『!?』

 

突然後ろから海の声が聴こえ慌てて振り替えると、ライノスシールドが飛んできてシルフを吹き飛ばした。

 

『う、うそ…』

『危なかったぜ。数ヶ月前の俺だったら負けていただろうな』

 

だがその姿は危なく、片足がふらついていた。

 

『ふ、ふふふふ…。やっぱり君は最高だよ!でもそんな足で僕を倒せるの?』

『倒せるさ』

『え?』

 

《スタンバイコア!》

 

海はドライバーを開き、ホルダーショットのトリガーを押し、中から暗めの茶色の二つのコアを取りだしドライバーのコアを入れ換える。そしてそのままドライバーを閉じた。

 

『アームチェンジ!』

 

《クロスアップ!ガン!イーグル!リミット ガンマン!》

 

両腕が暗めの茶色に変化し、左肩に鷲の頭、指先には鷹の鋭い爪を持つ左腕には変わり、右肩にはポンチョのような布が垂れ、右手には独特な形をした大きめのハンドガン"クロスガン"が握られた。そして最後に背中の機械の羽が鷲をイメージした巨大な翼に変わった。

 

『新しい姿!?』

『ガンマンシフト…。さぁ、今度はこっちの番だ!』

 

海は翼を広げて空からクロスガンの弾丸を浴びせる。

 

『ぐっ!でもこんな弾丸ISで慣れてるよ!』

 

シルフは突風を操り弾丸の軌道を海へと向ける。しかし海は仮面の中ではニヤリと笑う。

 

『そいつはどうかな?』

『何?』

 

《イーグルアタック!》

 

海がドライバーを操作すると弾丸が鷲へと姿を変え、突風に乗り旋回してシルフに突撃した。

 

『じ、自由に動く弾丸なんて聴いたことないよ!』

『まだまだ弾はあるぜ!』

『くっ!こうなったら!』

 

シルフは再び竜巻に変わり海を拘束しようとしたが、海は背中の翼を広げて竜巻の気流に乗り、一瞬の隙間を発見して脱出した。

 

『あれを抜け出せるなんてね…。でも今の僕は竜巻の姿!どんなに撃ってこようと当たらないよ!』

『だったらその竜巻ごと飲み込めばいい』

 

海はドライバーからリミットライダーコアを外し、クロスガンの窪みに挿して捻る。

 

《リミットチャージ!》

 

『はぁぁぁぁ…』

 

《リミットバレット!》

 

そしてトリガーに手をかけ一発の弾丸を放つ。それはどんどんと大きくなり最後には巨大な鷲の頭へと変化した。

 

『な、なにこれ!?』

 

危険を察知したシルフは逃げようとするが、巨大な鷲の頭から逃れられずそのまま食べられ爆発した。その光景を見終えた海は地面には降りるが足に力が入らずしりもちをついた。

 

『いてて…。楯無さんの言うとおりまだまだだなぁ…』

「君ってとても面白にねぇ!」

『っ!』

 

シルフから愉快な声が聴こえ、まさか今の一撃が効いていなかったのか思い焦ったが、シルフは少年の姿に戻っており、所々傷だらけで服もボロボロになっていた。

 

「僕君のこと気に入っちゃったよ!僕も強くなってまた遊びに来るよ!今度は人質なんて使わないで正面からね」

 

ニヤリと笑ったシルフはそのまま風と共に姿を消した。

 

『早く烏丸さんを助けないと…!』

『その必要はありませんよ』

 

海が翼を広げて飛ぼうとしたとき正面からコツコツとブーツを鳴らして何者かが歩いてくる。その姿は左腕には茶色の犬の顔の形をした肩アーマーとクローを持ち、右腕には同じ茶色のシールドを装備しており、胴体はまるで執事服のようなデザインの装甲を持った全身装甲(フルスキン)だった。その姿は本音が見つけた動画の全身装甲(フルスキン)と酷似していた。そして極めつけに腰には海と同じクロスドライバーが巻かれていた。

 

『あのトロポスが拐った女性は私が保護し、あなた様の仲間に預けましたよ』

『あんたはいったい…』

 

海は少し警戒しながら目の前の全身装甲(フルスキン)を見つめる。すると目の前の全身装甲(フルスキン)は変身を解除した。そして変身が解除されると中から海と同じ年くらいの執事服を着た眼鏡の少年が現れた。

 

「私の名前は犬橋(いぬばし) 誠也(せいや)。そしてクロスライダーセバスです。よろしくお願いしますね。クロスライダーリミットこと天地海様」

 

これが海と誠也の出会いであり、この出会いが海の物語を加速させる。




さて、二号ライダーが出たところでこの話はここで完結です!
いや、打ち切りじゃないよ?
次回からは仮面ライダーリミットとして数ヶ月後の高校生になった海の話が始まります!
もちろん募集はまだ終わってませんし、じゃんじゃんアイデア募集してます!
※二号ライダーの名前を少しだけ変えました。
すみません。


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原作介入
土の竜と幼女


ダメだ…こっちのネタはすぐに思い付くのにゲンムの方は全然思い付かない…


4月の暖かい春の日差しを浴びながら、高校生になった海は窓際の席で外の景色をぼんやりと眺めていた。

 

「相変わらずぼんやりと外を眺めてるな」

(あきら)か」

 

海に声をかけた少年は、雪のように白い肌を持ち、透き通るような白髪と、まるで汚れのない純白の瞳を持つ少年。内森(うちもり) (あきら)であった。彼との付き合いは中学の三年の後半からであり、海のクラスに転入して以来、会話をしていく内にお互い気が合い親友並みの仲になっている。

 

「あんまりこっち寄らない方がいいぞ?お前アルビノで紫外線弱いんだからさ」

「悪いな、心配してくれて。ほんと、海はいつでも優しいな。俺の体がアルビノって知ったときは翌日に日傘くれたし。高校も一緒で助かったよ」

「まぁ、クラスのやつらもお前のこと受け入れてくれているし、よかったよ」

「まぁな。あ!ところでこの記事見てくれよ!」

 

そう言って明は懐からスマホを取り出して海にあるネットの記事を見せる。そこにはトロポスと戦っているリミットの画像がいくつもあった。

 

「ああ、ネットで話題の全身装甲(フルスキン)か」

「ここ最近よく出現するって話だ。俺も一度は会ってみたいぜ」

「謎の敵と戦っている時点で危険だろ」

「確かにな。でも男としてこう、くすぐられる何かがあるだろ?」

 

二人が談笑していると休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、教師が入ってきたことにより明は自分の席へと戻っていった。そしてその日の放課後、海は明と一緒に帰り道を歩いていたが、海のサーチボードからアラームが鳴り響きトロポスの出現を察知した海は明に用事が出来たと伝えてトロポスの出現した場所へと向かった。そこは楯無と出会った場所。IS学園であった。

 

 

一方IS学園では突如現れた土竜のトロポス"モールトロポス"に生徒たちはパニックに陥っていた。

 

「皆、こっちよ!」

「はやくはやくー!」

 

楯無と本音は教師と共に生徒たちを避難させていたが、その中の一人が足を引っ掻けて転んでしまった。そしてモールトロポスがその女子生徒に近づいたとき、後頭部に衝撃が走りモールトロポスは地面を転がった。

 

「ふぅ、危ない危ない。大丈夫?」

「あ、うん。ありがと」

「さぁ、早く逃げて」

 

モールトロポスを蹴り飛ばした七海は転んだ女子生徒の手を引いて立ち上がらせると逃げるように言い、そのまま女子生徒は去っていった。

 

「さてと。兄ちゃんが来るって言ってたけど、その前に片付けるか」

 

そう言って七海は腕に装着しているクロスブレスを構えて、カバーを開きスワローTコアをセットし、カバーを閉じる。

 

《スワロー!》

 

「展開!」

 

《トロポスアップ!》

 

真ん中のひし形を回転させスワローTコアを左側に持ってくると音が鳴り、七海の体を藍黒い装甲が包み込み、左腕にはツバメの頭部の形状をした肩アーマーが装着され、腕にはツバメの翼のようなブレードが装着される。そして最後に同じ藍黒い仮面が七海の顔を包み込んだ。

 

『行くよ!』

 

七海は足のブースターで浮遊し、モールトロポスを掴むとそのまま開けた場所に放り投げた。モールトロポスが地面に着地すると七海は超低空飛行でモールトロポスの懐に入り込むとそのまま右手の拳でアッパーを喰らわせ、そして浮かび上がった体にミドルキックを叩き込む。モールトロポスは起き上がると七海を睨み付けながら口を開いた。

 

『いきなり何するの!?』

『はあ?あなたが人を襲ったからでしょ?』

『襲ってないよ!ただ、地面をのんびり掘っていたらあの場所に出てきて、女の子が倒れたから怪我してないか近づいただけだよ!』

 

確かによく見るとモールトロポスからは殺気を感じず、むしろ穏やかな気配が感じられるほどだった。

 

『あー…。ごめん…。でも不思議だよ。トロポスに変化した人は狂暴な性格を露にするのに』

『そうなんだ?でも僕は特になんともないよ。でも人の姿に戻れないのは残念だったな…』

 

モールトロポスがショックで肩を落としている様子を見て、不思議なことがあるのだなぁと七海は思いながら、もしかしたら今後こういうトロポスが出現するのではないかと思い、協力を持ちかけようと変身を解除して自分に敵意がないことを伝える。

 

「ねぇ、もしよかったらあたしたちに協力してくれない?」

『協力?蹴り飛ばしておいて?』

「それは本当にごめん…。でも今のあたしは丸腰。敵意はないでしょ?それにあなたを人間に戻せる方法もあるし」

『ほんと!?』

「うん!それで協力について…」

「天地さんから離れろぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

七海が協力の内容を言おうとしたとき、空から声が聴こえ振り返ると白いISに乗った少年が持っていた刀でモールトロポスを切りつけた。

 

「大丈夫か、天地さん!」

 

モールトロポスを切りつけた少年"織斑一夏"は世界で唯一ISを動かせる男。つまり男性操縦者なのだ。彼は高校受験の時道に迷い偶然あったISに触れて動かしてしまったのだ。その後世界各国で男性によるIS適性検査を行ったが、彼以外には動かせる者が居なかった。こうして彼は各国の刺客から保護するためこうして女子しか居ないIS学園に通うことになったのだ。そして彼は専用機を持ち、七海の所属する一年一組のクラス代表でもある。その経緯についてはまたの機会に語ろう。

で、その織斑一夏は自身の専用機"白式"に装備された唯一の武器"雪片弐型"を奮いモールトロポスを吹き飛ばしたのだ。

 

「ちょっと織斑!何しているの!?」

「何って、助けたのにその言い方はないだろ?」

「今あたしは彼との話をしていたのよ!」

「はぁ!?あんな化け物とか?」

 

化け物と言う言葉に七海はカチンと頭にきて言い返そうとしたが、ガラガラと音を立てながら瓦礫からモールトロポスが現れた。

 

『いてて…』

「まだ生きていたか!喰らえ!」

「ちょっと待ってよ!」

 

一夏は七海の制止を聴かずモールトロポスに再び剣を振り上げ切りつける。

 

『ぐぅぅぅ!いきなりないするんだよ!』

「ぐあ!」

「(不味い!あのままじゃ!)」

 

実はIS並びに通常兵器でトロポスを倒すことは基本可能なのだ。しかしデータを抜かなければ第一段階(ステージ1)から第二段階(ステージ2)へと変化し、コアを喰らうまでは破壊の限りを尽くす。そしてモールトロポスを見ると少しだけ目が赤く光っており、第二段階(ステージ2)の兆しが現れていた。

 

「やめて!」

 

七海は専用機"ツバメ"を展開させ左腕のブレードで雪片を止める。

 

「なんで止めるんだよ!」

『いいから話を聴いて!彼は!』

「総員あの化け物を撃ち殺せ!」

 

突如銃弾の嵐がモールトロポスを襲う。銃声の方を見るとISを纏った数名の教師がアサルトライフルを構えていた。その内の一人が七海と一夏に心配そうな顔をして近づいてきた。

 

「二人とも無事ですか?」

『山田先生!』

 

近づいてきた眼鏡の女性は七海たちの副担任である山田(やまだ) 真耶(まや)であった。七海はすぐさま真耶の腕を掴み必死に訴えかける。

 

『今すぐ攻撃を止めたください!彼は私たちに危害を加える気はないんです!』

「ええ!?」

「何言ってるんだよ天地さん!あいつは俺を攻撃してきただろ!」

『それはあんたが攻撃したから…。っ!』

 

ユラリと背後からとてつもない殺気を感じ、まさかと思い振り返ると。

 

『…』

 

モールトロポスの眼が真っ赤に光っていた。つまり第二段階(ステージ2)となってしまったのだ。モールトロポスは地面を掘り姿を消すと地面から飛び上がりIS操縦者の内一人を地面の穴に向かって叩きつけた。

 

「う、動けない…!」

 

モールトロポスは鋭い爪で教師を攻撃しようとするが、その瞬間腕を捕まれた。

 

『女の子…?』

 

腕を掴んだのは10歳より低く見えそうな茶髪の幼女であり、少女はモールトロポスの顔を覗き込んだ。

 

「微かに…理性が…ある…。あなた…面白い…。だから…戻す」

 

少女がそう呟くとモールトロポスの地面から土の壁が出現し、モールトロポスを覆うとしばらくして中からモールトロポスが倒れ出てきた。どうやら眠っているようだ。

 

「この子は…あなたに…預けるね…。あなた…良い人…だから…」

 

幼女が七海に向かってニッコリと笑みを浮かべると肩に下げていたバッグから茶色の土の形をした機械を取り出す。そして眼が茶色に光ると地面から土が盛り上がり少女の体を包み込む。そして土が崩れると先程の幼女とは思えない高身長の怪人へと姿を変えた。

 

「あの女の子も化け物だったのかよ…」

 

一夏がそう言うと幼女だった怪人は一夏の腹に拳を撃ち込んだ。その衝撃はまるで岩で腹を殴られたのように一夏は腹を押さえ胃の中の物をぶちまけた。

 

『私は…化け物…じゃない!私は…ノーム!化け物…じゃない!』

「くっ!総員あの土竜の化け物と土の化け物を殺せ!」

『化け物…化け物…うるさい!皆…土に…帰れ!』

 

ノームが両腕をあげると空に浮かんでいた教師たちを地面から盛り上がった土が多い始めた。

 

「ちょっ!放しなさいよ!」

「いや…いや!」

『このままじゃ先生たちが死んじゃう!』

 

《リミットスラッシュ!》

 

どこからか光の刃が飛んできてノームに当たると、ノームは少しよろめきそれと同時に教師たちを飲み込もうとしていた土が崩れた。

 

『なんとか間に合ったな…』

『兄ちゃん遅いよ!』

『リミット…』

 

現れたのはリミットに変身した海であり右手にクロスソード、左腕はイーグルアームとなっていた。どうやらイーグルTコアの能力で命中率を上げて、クロスソードの斬撃を飛ばしたようだ。

 

『今日は…帰る…』

 

ノームはそう言うと七海に指をさす。

 

『名前は…教えて…?』

『えっ…。天地七海だけど』

『じゃあ…七海に…この土竜さん…預けるね…』

 

そう言ってノームは土に埋もれて姿を消した。

 

『とりあえずこのトロポスを連れて帰りたいが…』

 

海が辺りを見渡すと先程より多いISを纏った教師たちに囲まれていた。

 

『あー…。この数じゃ逃げれねーな…』

 

海は両手を上げて降参を伝えると周りの教師たちに取り押さえられた。




今回のモールトロポスはKOYA様からのアイデアです。
が、スペックや変更点はまだ出しません。
だって全然活躍させれなかったから…。
そして次回どうなる主人公!
…アンチタグつけるか


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進む物語

今回ちゃんと伝わっているか心配…


IS学園の教師たちに捕らえられた海は現在IS学園の尋問室で椅子に縛られ両手には手錠をかけられていた。海の両脇には銃を携帯した女性教師がおり、下手な抵抗をすれば銃で鎮圧しようとしている。そしてドアが開かれ中に入ってきたのは黒髪の凛とした女性。世界最強のIS操縦者"織斑(おりむら) 千冬(ちふゆ)"である。千冬は椅子に座ると海の両脇に居た教師に海の身体の自由を命令した。

 

「手荒な真似をしてすまない。私の名前は織斑千冬だ。この学園で教師をしている。君が天地海だな」

「ええ、確かにあなたは七海の担任でしたね。妹がお世話になってます。何か迷惑になるようなことしてませんか?」

「いや、彼女はクラスの中でも明るく周りを楽しませている人だ」

「そうですか」

「…さて、話の本題に入りたい。君がトロポスと戦っているリミットで間違いないな?」

「はい」

「助けてもらっておいてこう言うのはおこがましいが、一つ頼みがある」

 

千冬は懐からクロスドライバーとライダーコア、Sコア、Tコアを机の上に置いた。

 

「これらを我々に提供してほしい」

「お断りします」

 

まさかの即答に海の両脇に居た教師たちは銃を突きつけるが千冬に止められ下ろした。

 

「理由を聴かせてほしい」

「単純にあなたたちでは使えないからです」

「使えないとは?」

「まず、このクロスドライバーはIS適正が無いものにしか装着することが出来ません。適正が大きい者ほどこいつから電撃が流れ、装着を拒絶されます。次にこのライダーコアと呼ばれるクリスタルには変身者の個人情報、つまりDNAが入っており、例えドライバーを装着出来ても自分のライダーコアを使用しないと変身できません」

「なるほど…」

 

千冬は顎に手を当て何かを考えると周りの教師たちに海と二人きりにさせて欲しいと言い、周りに居た教師たちは部屋から出ていった。

 

「今は私と二人だけだ。リラックスしても構わないぞ」

「ではお言葉に甘えて。ふぅ~」

 

正直な所海は後ろに居た教師たちに内心ビビっていた。数々の戦いをしてきた海だがそれはリミットの装甲があってこそ。生身の今では銃弾一発で死んでもおかしくはないのだ。楯無直伝の武術の心得があるものの、ぶっつけ本番で銃を持った相手に通用するかわからないところだ。

 

「ところであの土竜のトロポスは今どうしていますか?」

「彼は天地が…あー、妹さんがデータを抜いたことで人間の姿に戻っている。今は保健室で眠らせているがな」

「それで俺はどうなるのですか?首を縦に降るまで拷問されるのですか?」

「いや、そこ心配はない。恩を仇で返すほど私は腐ってはない」

「いやはや、お待たせしました」

 

ドアが再び開けられ中に入ってきたのは初老の男性であった。何故男性がIS学園に居るのか疑問に思っていると、千冬が席を立ち男性に頭を下げる。

 

「わざわざありがとうございます。学園長」

「学園長!?」

「はい、私はこのIS学園の学園長である轡木(くわつぎ) 十蔵(じゅうぞう)です」

「え?でも学園長って女性なのでは?」

「それは表向きですよ。なにぶんこの時代ですからねぇ」

「あー、なるほど」

 

海が納得すると千冬は十蔵に席を譲り、十蔵は椅子に座ると真剣な表情で海を見る。

 

「それでやはり提供することは無理なのでしょうか?」

「はい。さっき織斑先生に言った通り適正が無いものにしか使えず、DNAが入ったコアの二重ロックで不可能です」

「では設計図を我々に渡してもらうことは?」

「それも無理です。それに設計図はこれを一つ造ったときに完全に削除したのでもう造れませんよ」

「何故削除したのですか?それにあなたが考えたのでしたらまた造れるのでは?」

「まぁ普通はそうですよね。でもこのドライバーを考えたのは俺じゃないんです」

「どういうことですか?」

「このドライバーは設計図として俺の元に送られてきました」

 

海は十蔵と千冬に設計図が送られてきた経緯を話し、各コアについても話した。

 

「…なるほど。あなたの眼は嘘を言っているわけではないですね。しかしやはり設計図を削除したことには疑問を感じます。わざわざ設計図を削除する必要があったのですか?」

 

海はギクリと思いシラを切るが少ししてため息を吐き本音を話すことにした。

 

「正直なことを言います。俺はこのドライバーを造った瞬間に感じてしまったんです。これは造るべき物じゃないと」

「どういうことですか?」

「このドライバーはIS適正が無いものにしか使えない。つまり男とIS適正の無い女性しか使えないということです。もし仮にこのデータが流出すれば女尊男卑で苦しむ男たちが反旗を翻します。それにISを動かせない女たちもこれを使い男対女の戦争が起こる可能性もあります」

「それは…」

「無いとは言えませんよね?白騎士事件によりISは兵器として扱われ女尊男卑が生まれた。アラスカ条約で兵器利用されてなくても抜け道なんて沢山あります。このドライバーだって本当にトロポスと戦う手段として使われるかなんて疑問です。だったら最悪のことが起こるかもしれない前にデータを消したんですよ。それにドライバーを解析されないために解析されたときは爆発するように仕組みましたしね」

 

十蔵と千冬は海を見ながら彼はどこまで先を見据えているのかと驚きを露にしていた。しかし突然海は机に頭をぶつけた。いや、厳密に言えばふらりと体が倒れ頭を打ったのだ。何事かと思い十蔵と千冬は海に心配の言葉をかけるが、海はユラリと体を起こし少し息を荒くしながら顔をあげた。

 

「すみません…。今のはこのヒューマンTコアの能力で脳の回転を上げて話していたので疲労が来ただけです…」

 

そう言って海はいつの間にか回収していたヒューマンTコアを見せる。千冬は海からヒューマンTコアを取り上げ体を支えた。

 

「無茶をするな。お前の言いたいことはよく理解した」

「ありがとうございます…。あまり長く使ってないので話はつづけれます」

「…わかりました」

「このドライバーは先程言った通りもう量産が不可能で、手に入れるには俺に設計図を送った人物に会う以外ないでしょう。でも俺も差出人は知りません。そしてもう一つ理由があります。どちらかと言えばこっちの方が造るのを止めた理由です」

 

海は口を開きその理由について述べた瞬間、十蔵と千冬は驚愕の表情を露にした。それはあまりにも恐ろしく15歳の子供には過酷すぎると感じたからだ。

 

「何故君は危険を犯してまで戦うのですか?」

「…守りたい人が居るからですよ。家族や友達。あとは目の前で助けられる人を助けたい。そんなわがままで戦っているんですよ」

「…そうですか」

 

十蔵は少し沈黙し、海を真っ直ぐ見つめ口を重く開いた。

 

「…君にこういうのは酷な話ですが、もしよろしければIS学園でトロポスから我々と共に戦ってもらえませんかね?」

「学園長!いったい何を!」

「わかってますよ千冬くん。どれほどおこがましいかよくわかってます。しかし彼が戦うことを止めない以上、少しでも危険を下げるべきなのでは?」

「しかし彼のドライバーを狙う者たちがきっと現れます!」

「それは彼がここに来なくても同じなのでは?ならば彼を全力を持って安全を保護する方が最適だと思います」

「しかし…」

 

十蔵と千冬は海の方を見る。来るか来ないかは海が決めることである。

 

「少しだけ時間をください…」

 

海はそう言うしかなかった。

 

 

「IS学園かぁ…」

 

その日の夜、海はアジトで椅子に座りながら考えていた。ここ最近トロポスの出現は中学のときより何故か何倍も多くなり、その半数はIS学園を中心に狙いを定めていた。そして第三段階(ステージ3)のシルフ、ノーム、ウンディーネはいずれも日本におり、寄生させる人物を選べることから恐らくまずは日本を手中に納めるのだろう。それを裏付けるように海外でのトロポが出現したとの情報はない。正直な所今後また第三段階(ステージ3)がIS学園に現れないとは限らない。海ですら苦戦しているのに七海たちで倒せるかと聴かれたら無理に等しい。ならば自分が在学することですぐに対応できることになる。しかし他の場所はどうなるのかと聴かれると答えづらい。もしかすればそっちにトロポスが出現する可能性もあるからだ。

 

「どうすればいいんだよ…」

「IS学園に行けば良いんじゃないですか?」

「誠也…」

 

紅茶を飲んでいた誠也は海に紅茶を注ぎながらそう言った。

 

「私は高校に在学してませんし、比較的自由に動けます。高速系のコアもありますし全国くらい守れますよ」

「でも…」

「シャキッとしなさい!」

 

海は渚に背中を蹴られ地面に倒れる。

 

「何すんだよ!」

「顔に書いてるわよ、IS学園に行きたいって。心配なんでしょ?七海ちゃんたちが」

「母さん…」

「男ならウジウジ考えないで自分のしたいことをしなさい!あんたはまだまだ子供なんだから!」

「そうですよ。こっちは私でなんとかしますから海様は安心して七海様たちを守ってください」

「…なんかあったらすぐに駆けつけるからな」

「その前に片付けておきますよ」

「言ってろ」

 

少しだけ気分が軽くなった気がした。

 

 

「今日はお前たちに転校生を紹介する」

 

IS学園の一年一組では昨日二組に転校生が来たということでまた転校生なのかと騒がしくなるが千冬の一喝で静かになった。

 

「よし、入ってくれ」

 

扉が開くとそこには白を基調としたIS学園の制服とは対になるように、白い生地は暗めのグレーになっており、赤いラインは青緑のラインへと変化した制服を着た男子であった。

 

「今日から特別編入生として君たちと共に学ぶ者だ。IS適正はないが、今後男女共学を考えた整備科を作るための被験者だと覚えておいてほしい。では自己紹介を頼む」

「はい。今日から皆さんと一緒に学ぶことになった天地海です。被験者と言われていますが気軽に接してくれるとありがたいです。これからよろしくお願いします」

「「「き、」」」

「き?」

「「「キャアアアアアアアアアアアアアア!」」」

「うおっ!」

「織斑君以外の男子だ!」

「しかも黒い制服格好いい!」

「これは一×海ね!」

「いや、海×一よ!」

「今年の夏は捗るわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

海が女子の歓喜(ソニックブーム)に耳を塞ぎながら転校することをクラスメイトに伝えたとき、中学からの親友の明に耳元で言われた言葉を思い出していた。

 

「(そう言えば"白騎士"に気を付けろってどういうことだ?)」

 

しかしその疑問は千冬の一渇により消えていった。




はい、という訳で海はIS学園に入学することになりました。
適正が無いのにどうやったら入学出来るのか悩んでいたら「あ、そう言えばフォーゼのメテオも交換留学だったな。それなら似た感じにしてみよう!」と思いこんな感じになりました。
入学した時期は簡潔に言えば鈴が転入してきた翌日です。


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IS学園に入学!

お気に入り登録者が20人越えたのと、UAが2000越えたことに大きな感謝を!


朝のホームルームが終わると廊下には生徒たちが一目海を見ようと集まっていた。だが海はそんなことを気にせず周りをキョロキョロ見渡すと一人の女子生徒が近づいてきた。

 

「ちょっと兄ちゃん!いったいどういうことなの!?」

「お、七海か。久しぶり」

「そうじゃなくてなんでここに居るのよ!しかも特別編入生ってなに!?それに兄ちゃん整備士目指していたの!?」

「落ち着け七海。それについては昼飯の時くらいに簪たちにも話すから」

「はぁ…。わかった」

 

久しぶりに七海と会話をしていると周りの女子はまたヒソヒソと話し始める。

 

「あの二人って兄妹だったの!?」

「苗字が同じだからもしかしてって思ったけど…」

「天地さんって確か天地コーポレーションの社長の娘ってことは、あの特別編入生も天地コーポレーション社長の息子ってことだよね!?」

「うっそ!じゃあ玉の輿じゃない!」

「でも織斑君よりは微妙だよねー」

 

聴こえてるぞと思いながらも七海をチラリと見ると、こめかみの所に心なしか怒りマークが見えていた。

 

「おーい、七海落ち着けー」

「まったく!兄ちゃんは確かに顔と趣味は微妙だけど良い人だもん!」

「おいこら、お前が一番失礼だぞ」

「やっほ~あまみー」

「あ、本音。って本音もこのクラスだったな」

「そ~だよ~。それにしてもあまみーモテモテだねぇ~」

「玉の輿狙いのモテ期は勘弁だよ…」

「確かに~」

 

あははと笑いながら久しぶりの友人たちとの会話に花を咲かせていると休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、二人は席に戻っていった。その後一時間目を受けたあと、海は本音から簪のクラスを聴いて会いに行っていた。

 

「すみませーん。更識簪さんいますか?」

 

四組のドアを開けて簪を呼び出すと四組の生徒の一人が簪を呼びに行ってくれた。少しして奥の席から見慣れた水色の髪を揺らしながら簪がやってきた。

 

「更識簪ですけ…ど…」

「よっ!久しぶりだな。代表候補生で忙しかったから2ヶ月ぶりかな?」

「海!?どうしてここに!?」

「どうしてって特別編入生としてここに入学…というか編入してきたんだよ」

「あ、海がホームルームで言ってた特別編入生だったんだ」

「そういうこと。ってまだその眼鏡型の携帯用ディスプレイ使ってるのかよ…。いい加減投射型買ったらどうだ?」

「あれ高いの知ってるよね?」

 

実は簪の眼鏡は眼鏡型の携帯用ディスプレイであり、投射型が高価なのでこれを仕方なく使っているのであり、実際の視力は良い方なのだ。しかし投射型ディスプレイが高価といっても海の会社からの援助でそれ相応の報酬は貰っていて、買おうと思えば買えるのだ。しかしここで海はあることに気付いた。

 

「まさかまた古い玩具買ったのか!?」

「この間珍しく売ってたからつい…」

「はぁ…。まぁコレクターとしてわからなくもないから強く言えないけどさ…」

「それで話って?」

「あーそうそう。昼飯の食べてながら色々話そうぜって伝えに来たんだよ」

「皆も一緒?」

「そうだけど、駄目だった?」

「ううん。全然大丈夫だよ?じゃあそろそろ授業が始まるからまたね」

「おう!じゃーな!」

 

タタタと海が去っていくと簪はクラスメイトに囲まれる。

 

「ね、ねぇ今のどういうこと!?」

「中々良い雰囲気だったけど!?」

「あの特別編入生と付き合ってるの!?」

 

どうやらさっきの会話についての質問のようだ。だが簪は首を横に振った。

 

「付き合ってはないよ?ただ、中学が一緒で仲が良いだけ」

「いや、でもさっきの顔はかなり良い笑顔だったよ?」

「うーん…。それはどうかな?」

 

簪は含みのある笑みを浮かべると教師が入ってきて、クラスメイトは頭に疑問を残しながら席に戻っていった。

 

 

時間は少し飛んで昼休み。二時間目は楯無の元へ行き、昼休みに屋上で集まってほしいと伝え、三時間目は虚の元へと大忙しだった。ちなみに虚に伝えて帰って来たとき七海からメール送ればよかったのでは?と言われorzの体勢になっていた。

 

「さてと。昼休みになったし行くと…」

「えっと、ちょっといいですか?」

「うん?」

 

くるりと振り替えるとそこには黒髪の少年"織斑 一夏"がいた。海は七海たちに先に行ってくれと言い一夏に目を合わせる。

 

「確かに織斑一夏君だったね」

「はい。天地さんのお兄さんですよね?」

「おう。って七海とは双子だから同じ年だぞ?」

「あ、そっか。じゃあ俺のことは一夏って呼んでくれ」

「じゃあ俺のことは海で良いぞ?七海と間違えやすいしな。それで何の用だ?」

「あーいや。同じ男同士仲良くしようぜってことを言いに来たんだよ。せっかく二人しか居ないしさ」

「まぁそれはそうだな」

 

海はチラリと時計を見てそろそろ全員集結しているかもしれないと思い席を立つ。

 

「そろそろ昼飯食べに行くからまた後でな」

「じゃあ一緒に食おうぜ?一人だと寂しいだろ?」

「あー、悪いけど七海たちと食べるんだよ」

「それなら七海さんたちも一緒に俺たちと食べようぜ。大勢で食べた方が旨いだろ?」

「えーっと…」

 

正直な話、こういった大勢で食べるという意見は海は肯定派だ。確かに会話も弾むし仲良くなるきっかけとしては良い方だ。しかし今は久しぶりの仲間たちだけで会話をしたいし、一夏のような一般人には話せない内容も話すつもりなのでどう断ろうか悩んでいると、ショートカットの女子生徒が一夏を止めた。

 

「えーっと君は?」

「私は日本代表候補生の篠ノ之(しののの) (ほうき)だ。よろしく頼む」

「あ、うん。よろしく」

「それと早く行ったらどうだ?七海たちが待っているのだろう?」

「おい、箒。仲間外れは良くないだろ」

「はぁ…。一夏、少しは察してやれ」

「悪いな篠ノ之さん」

「箒でいい。では一夏。私たちは食堂で食べるとしようか」

 

そう言って箒は一夏の手を引きながら去っていった。

 

「気を遣わせちゃったな…。ってやべ!そろそろ行かないと!」

 

 

「で、呼び出しておいて遅刻?」

「すみません…」

 

結局待ち合わせの屋上に着いたのは少し時間が経った後であり、海が着いたときには既に全員揃っていた。理由を説明するべきかと思ったが、それでは話しかけに来てくれた一夏に失礼だと判断して素直に謝罪だけにした。

 

「まぁまぁたっちゃんもそのくらいにしてお昼ご飯を食べよ~う」

「そうね。食べながらでも話は出来るし」

「あれ?兄ちゃん弁当持ってきてたんだ」

「一応初日に話をしようと思って作っておいたんだよ」

「海のお弁当炒飯でパンパン…」

「おかずすらありませんね…」

「何を言ってるんだ?炒飯には米、肉、卵、そして野菜が入った完全食だぞ?」

「野菜ってネギだけじゃん…」

 

海が持ってきた弁当には二段弁当なのに両方とも炒飯がぎっしりと詰まっていた。結局バランスが悪いとのことで皆からおかずを少しだけ分けてもらい、お礼に炒飯を分けた。

 

「それでどうして兄ちゃんがここに居るの?」

 

食べている途中で七海が海に聴くと、海は事の経緯を話した。

 

「と、言うわけでこの学園は俺。日本は悪いけど誠也に任せてるよ」

「なるほどねぇ。海くんがここに来るのは私と虚ちゃん、それに本音ちゃんも知ってたけどそんな理由だったのねぇ」

「え!?お姉ちゃん知ってたの!?じゃあどうして教えてくれなかったの!?」

 

楯無の言葉に簪は反応して肩を掴んで揺する。

 

「それ、は、サプ、ライ、ズで」

「言ってくれたら海のお昼ご飯作ったのに!」

「簪ー。その辺にしといてやれ。話してなかった俺も悪いし。それに弁当なら今度作ってくれよ」

「あ、うん!」

 

簪がニッコリと笑うと楯無と本音はニヤニヤした。

 

「おやおや~?これは私たちはお邪魔かしら?」

「あまみーとかんちゃんラブラブ~」

 

二人の言葉に海たちはため息を吐いた。

 

「楯無さん、俺はともかく自分の妹にそう言うのは良くないですよ?」

「うん。海が困ってる」

「いやいや、二人とも他の人から見たらりムグッ!」

「お嬢様、ここは静かに見守るべきですよ」

「えー!いやよ!海くんにはお義姉ちゃんって呼んでもらいたいもん!そしてあわよくば将来の二人の子供をこの腕に抱くのよ!絶対可愛いもん!」

 

楯無はいやいやと駄々をこねるが虚から拳骨を喰らい収まった。

 

「ではお嬢様が屍…もとい沈黙したのでそろそろ本題に入りましょう」

「今屍って言った!?言ったよね!?」

「その前に楯無さん。この付近に誰も居ませんよね?」

「え?ええ、この屋上付近には誰も居ないわ」

「よし。ではまず俺たちの戦力把握から」

 

海は腕時計状態のサーチボードを操作してホログラムを出現させた。

 

「まずIS学園にクロスライダーの俺、そしてクロスブレスを所持している七海と簪。あとはISを所持している楯無さんと、情報収集並びに整備の本音と虚さん。次に全国にはクロスライダーの誠也が居ます」

「これだけ見ると誠也くん一人で大丈夫なの?」

「今のところトロポスの出現率は半々で、片方はIS学園、そしてもう片方は全国と言っても関東地方が大半を占めています」

「つまりトロポス側の狙いはIS学園並びにその周辺の制圧ということでしょうか?」

「確かに攻めるところとしては利になってるわね。コアを世界で一番多く所有しているIS学園を落とせば、それだけ第三段階(ステージ3)のトロポスが生まれやすい」

「そして次は着々と世界を落としていく…」

「かなり恐ろしいねぇ~」

 

女性陣はどうするべきか悩みはじめる。

 

第三段階(ステージ3)は今のところ三人わかっているけどあとどのくらい居るのか検討もつかないね」

「…これはあくまで予想に過ぎないけど、最低でも第三段階(ステージ3)はあと一人居ると思う」

「どうして?」

第三段階(ステージ3)はシルフ、ノーム、ウンディーネの三人。このことから推測するに…」

第三段階(ステージ3)は四大精霊に基づいているって訳ね」

 

楯無の言葉に海は頷く。しかし神話などに詳しくない七海と本音は首を傾げた。

 

「四大精霊ってのは風、土、水、火の四つの四大元素の中に住んでいる精霊たちのことだ。そして名称は風はシルフ、土はノーム、水はウンディーネ、そして火はサラマンダー」

第三段階(ステージ3)と同じだ!」

「ただ、この予想が正しいと仮定すると1つおかしな点が出てくるんだよ」

「おかしな点?」

「今までのトロポスをざっくり分類すると空、大地、海の三つに分かれる。これがシルフ、ノーム、ウンディーネが造り出しているとすればサラマンダーの造り出すトロポスがわからないんだよ」

「ノームが飛行型を造っているとかはないの?」

「それはないんだよ」

「どうして?」

 

七海がそう聴くと海は懐からイーグル、ライノス、スクイッドの三つのTコアを取り出した。

 

「七海たちがIS学園に通っていたときに誠也と互いのTコアやSコアが使えるか試してみたんだよ。そして意外なことが起きた」

「意外なこと?」

「誠也が変身するクロスライダーセバスにはライノスやスネークなどの肺呼吸をする生物は使えたが、スクイッドなどのエラ呼吸のコアは使えなかった。さらにイーグルなどの飛行する生物も駄目だったよ。そして色々と試している内にどうやらクロスライダーには属性が存在し、その属性をSコア、つまり武器に纏わせることができるんだ。そしてシールドSコアなら土の壁、ウィップSコアなら岩石を纏った鞭という形で性質変化が生じた。これらから考えてクロスライダーセバスの性質は土、つまりノームに近いものだと考えられる」

「でもそれだけじゃ確信とまではいかなくない?」

「まぁ普通はそうだよな。でもこれを見てくれ」

 

そう言って海はサーチボードを切り、スマホを取り出してある画像を見せる。どうやらネットアイドルのホームページみたいだ。

 

「バトルアイドル…マジカルちゃん?」

「何これ?海くんの趣味?」

「…兄ちゃんこんなの好きなの?」

「違うよ!肝心なのはここ!」

 

海がスマホをスクロールし、とある動画をタップした。そこにはフリフリのどこか魔法少女と思わしきコスプレをした女の子がクロスドライバーを持ってカメラに向かって手を振っていた。

 

「あれってクロスドライバー!?」

 

七海が驚きを露にしていると女の子は腰にクロスドライバーを巻き付け、左腕の肩にはイルカの頭の形をしたアーマーを装着し、右腕には青いメカメカしい杖を持ち、腰にスカートを履いたまさに魔法少女と呼べる全身装甲(フルスキン)に変身した。

 

「見ての通りこのネットアイドルのマジカルちゃんと呼ばれている女は自分のホームページで自撮りを上げてたらしいけど、ここ最近はトロポスと戦う動画を上げている。他にもいくつか動画がアップされていたけど使うコアは全部海に関係のあるコアだった。それにさっきの杖から水を産み出せていたしな」

「と言うことはどこかにシルフに近い性質、つまり飛行系のコアを専門とするクロスライダーが居る可能性がありますね」

「じゃあ兄ちゃんはどうして全部使えるの?」

「そこは俺も疑問なんだよ。もしかしたらサラマンダーに近い性質かもしれないし、そうだとすればサラマンダーは全種類の動物を造れるって仮定できる。でも俺は今まで属性が出てきたことなんてないし、試してみたけど火の壁なんて出てこなかったんだよなぁ」

「「「「「「うーん…」」」」」」

「まぁ今は考えていても仕方ないわ。それにサラマンダーが既に居るとは限らないし、そろそろお昼休みも終わっちゃうしね。それじゃあ解散」

 

全員が考え込むなか楯無が手を叩きそれぞれクラスへと戻っていった。途中海は七海を呼んで歩きながら明に言われたことを話した。

 

「白騎士に気をつけろって本当に言われたの?」

「ああ、ゲームのイベントの話かなって思ったけど今回はなんか違和感があったんだよ…。だから白騎士に心当たりがないかなって思ったけど」

「白騎士かぁ。まさか白騎士がこの学園に居るのかな?それともあいつか…」

「あいつ?」

「織斑一夏よ。あいつの使っているISも白いし剣を使ってるから可能性としてはあるかもね」

「一夏か…。見たところそこまで脅威とは感じられなかったし大丈夫かな?」

「とりあえず頭の片隅にでも置いておいたら良いんじゃない?」

「そうだな」

 

とりあえず事が起きれば対処しようと思った海であった。




うわぁ…。海の部屋まで書こうと思ったのにこれだけで5000越えたよ…。
次回こそは書いてみせる!


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放課後(なんの捻りもねぇ!)

午後の授業を終え、現在放課後。海は教科書を鞄に詰め込み帰る準備をしていた。忘れ物がないか確認を済ませたあと教室を出ると一夏とバッタリ出会った。

 

「あれ、まだ帰ってなかったのか?」

「そういう一夏こそ教室に忘れ物か?」

「ああ。あっ!そうだ!せっかくだし一緒に帰ろうぜ」

「良いけど一夏は自宅通学なのか?」

「いや、学園の寮に入ってるけど、海もだろ?」

「俺は自宅通学だけど?」

「え、なんでだ?」

「俺は男性操縦者じゃないから自宅通学でも大丈夫なんだよ」

「海だけ寮に入ってないとか不公平じゃないのか?」

 

海の立場を分かっていない一夏に海は少し呆れるとドアが開き担任の千冬が入ってきた。

 

「織斑先生どうしたんですか?」

「ああ、天地兄か。丁度良かった。お前の寮が決まったから鍵を渡しに来たんだ」

「え?自宅通学の話だったんじゃ」

「その事については部屋まで案内しながら説明する。織斑は先に帰っておけ」

「なんでだよ千冬姉。あたっ!」

「織斑先生だ馬鹿者。放課後でも学校では先生と呼べ」

 

千冬は軽く出席簿で一夏の頭を叩くと一夏は少し残念な顔をして教室を出ていった。千冬は海に行くぞと伝え寮までの道を歩く。

 

「…それで話ってなんですか?」

「ここで聴かれるのは不味い。私の部屋で話そう」

 

寮に着くと千冬の部屋に案内され、少し前とドアの前で待たされた。中からガタガタと明らかに片付けている音が聴こえしばらくすると入れと言われ中に入る。だが入った瞬間酒臭い臭いがし、一瞬飲んでもないのに酔った気分に陥った。

 

「…織斑先生酒飲み過ぎじゃないですか?」

「…すまない。少し換気をしよう」

 

千冬は窓を開け酒の臭いを逃がすと椅子を差し出し座れと言った。

 

「で、なんで寮生活なんですか?」

「IS委員会からの通達だ。表向きは特別編入生にIS学園を体験させるために寮生活と言われているが、実際は監禁並びにクロスドライバー等の製造方法を探ることだ」

「…帰っていいですか?」

「まてまて。今は同居人がいるがしばらくすれば一人部屋になる。それまで耐えてくれ」

「同居人…。はぁ…。わかりました」

「すまないな。これが寮の鍵だ。荷物は既にお前の親が用意してくれた。それと大浴場もあるがしばらくは部屋のシャワーで我慢してくれ」

「わかりました。では失礼します」

 

海は鍵を受け取り千冬の部屋を出る。鍵を見ると1000と刻まれたタグが付いており、寮の案内図を頼りにその部屋の前にたどり着く。

 

「同室は多分一夏だろうけど一応ノックしておくか」

 

コンコンとドアをノックすると部屋からはーいと女子の声が聴こえ、ガチャリとドアが開くと中から簪が現れた。

 

「あれ、どうしたの海?私部屋教えたっけ?あ、でも今日は同室の人が来るってお姉ちゃんが言ってたからまた明日でもいい?」

「…ちょっと待ってくれ」

 

海は再び鍵を確認すると部屋のネームプレートと同じ1000と刻まれており、海は頭を押さえてため息を吐き簪に鍵を見せた。

 

「ごめん、同室は俺だ」

「え!?」

「とりあえず入っても良いか?」

「あ、うん。どうぞ」

 

部屋の中へ案内されるとベッドが二つあり、奥の方の枕元に戦隊のフィギュアが置いてあることから恐らく奥が簪のベッドなのだろう。

 

「とりあえず座ったら?」

「そうさせてもらうよ」

 

海は手前のベッドに座るとここまでの経緯を話した。それを聴いた簪は気まずそうな顔を浮かべる。

 

「ごめん…。多分部屋割りはお姉ちゃんの指示」

「だと思うよ…。七海なら分かるのになんで簪にしてんだよあの人…」

「…やっぱり七海ちゃんの方がよかった?」

「そうじゃねぇよ。ただ、簪が迷惑するだけだろって話だよ」

「め、迷惑じゃないよ!」

 

簪が勢いよく立ち上がると海は一瞬驚くが、落ち着けと言い座らせた。

 

「とにかくしばらく一人部屋が出来るまでよろしくな」

「うん、よろしく」

「じゃあちょっとシャワー浴びてくるよ。今日変に緊張してたから汗かいたし」

「いってらっしゃい」

 

海はベッドの手前に置いてあった自分のボストンバッグを開けてジャージを取り出し脱衣場へと入る。そしてドアを閉めると床に座り込み頭を押さえた。

 

「(ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!マジか!マジで簪と一緒の部屋かよ!超嬉しいんだけど!)」

 

海は自分の顔を確認するため鏡を見ると耳まで真っ赤になっていた。

 

「(うわっ…。耳まで真っ赤じゃねーかよ…。簪にバレてないよな?それにしても楯無さん何考えてんだよ!ただでさえ久しぶりに簪に会っただけでも可愛くなっててドキドキしたのに、それに加えて同室とか超ありがたい!じゃなくて超ピンチだよ!くっそー!今度お礼と言って苦手な編み物セット送りつけてやる!)」

 

こうして海は火照った体を静めるために冷たい水でシャワーを浴びた。そして簪はというと…。

 

「(か、かかかかかかかか海と同室!?どうしよう!さっきからニヤニヤが止まらないよ!)」

 

海と同じく顔を真っ赤にして枕に顔を埋めていた。

 

「(ううー!顔が熱いよ…。海にバレてないよね?もうお姉ちゃん何考えてるのよ!久しぶりの海にかっこよくなっててドキドキしたのに、同室なんて…!それに今は海がシャワーを浴びてる…。ハッ!何考えてるのよ!もう!今度お姉ちゃんの苦手な編み物セット渡してやる!)」

 

こうして簪は高ぶった気持ちを静めるためにヒーローアニメを見始めた。

その後海がシャワーを浴び終え出てくると、簪は汗をかいてないか気になり自分もシャワーを浴びることにした。そして二人で夕飯を食堂で食べ終え眠ることにしたが、お互い緊張してうまく眠れなかった。

 

 

「どこだここ?」

 

空が紅く、全てが紅い世界を海は歩いていた。しばらく歩いていると七海の姿が見えて声をかけるが反応がなかった。再び近づくと七海は突然倒れ海は慌てて駆け寄った。

 

「おい、大丈夫か!七…海?」

 

七海の顔を見ると口から血を流し目は虚ろになっていた。

 

「七海…?いったいどうしたんだよ!」

 

何かを感じ周りを見渡すといつの間にかそこは紅い血の海へと変わっていた。本音、楯無、虚、誠也、他にもIS学園でのクラスメイトや自分の両親も所々から血を流し死んでいた。

 

「な、なんだよ…これ…!」

 

どこかで声が聴こえ海はその場から逃げるように立ち去り、声のする方へ向かった。そこには死体の山がいくつもあり、その上にはクロスドライバーを巻いた何者かが簪の首を掴み息の根を止めようとしていた。

 

「簪!てめぇ簪に何するんだ!」

 

海は走りだし手を伸ばした瞬間目の前に簪が現れた。

 

「…どう…して?ゲホッ!」

「…え?」

 

伸ばした手は簪の腹を貫き紅く染まっていた。足には人の感触。そして自分の腰には簪を殺そうとしていた者のクロスドライバーが巻かれていた。

 

「俺が…殺したのか…?」

 

海は足を滑らせ血の海に落ちる。そして見てしまったのだ。血の海に映る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮面を着け、その奥で狂気に笑う悪魔(自分)の顔が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ(ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…。なんだ今の…?」

 

夢から目覚めると時計は午前5時を指しており、隣のベッドでは簪が気持ち良さそうに眠っていた。

 

「あんまり思い出せない…。すっげぇ嫌な夢だったってことは覚えてるけど…」

 

簪を起こさないようにゆっくりと部屋を出て外で軽く準備体操をしたあと日課のランニングを開始した。軽く5キロほど走ったあと基礎トレーニングを行っているとジャージ姿の千冬がやってきた。

 

「ほう、朝から鍛練とは精が出るな」

「おはようございます。織斑先生もトレーニングですか?」

「そんなところだ。そうだ、少し手合わせをしてみないか?」

「いや、世界最強に勝てるわけないじゃないですか」

「なぁに、手加減はしてやる。どうだ?元とは言え世界最強と戦えるなどまたとないチャンスだぞ?」

「…」

 

海は置いていたスポーツドリンクを飲むと、落ちていた木の棒を手に取り、千冬も木の棒を拾い上げ構える。

 

「さぁ、何処からでもかかってくるがいい」

「…行きますよ!」

 

 

「ふぁぁぁぁぁ…」

 

海がトレーニングに出掛けたあと、簪は目を覚ましあくびをしながら背筋を伸ばした。しかしキョロキョロと見渡すと明らかに自分のベッドが隣にあり、昨日のことを思い出す。

 

「海と一緒の部屋で寝ちゃった…」

 

簪はほんのり顔を赤らめしばらくボーッとしていた。

 

「しばらく一緒かぁ。このまま付き合ったりでもしたら…」

「ただいま~」

「うひゃ!」

 

邪な考えになりかけていた簪はビックリして変な声を上げてしまい顔を赤くする。しかし振り向いた先にはボロボロの海が立っており慌て始める。

 

「ど、どうしたの海!?ボロボロだよ!?」

「ちょっと世界最強と戦ってきた」

「世界最強って織斑先生と!?」

「トレーニングしてたら手合わせしてみないかって誘われて惨敗だよ…」

 

結果として海は千冬に惨敗だった。流石は元世界最強のIS操縦者。少し年齢を重ねようともその力は健在であった。

 

「次は一本喰らわせてやる!」

「もう…。あんまり無茶しないで」

「はいはい。あ、ところで簪。白騎士って知ってるか?」

「最初のISのこと?」

「いや、そっちじゃなくてこの前明が白騎士に気をつけろって言ってきたんだよ」

「…それってこれのことかな?」

 

簪がパソコンを操作してあるページをクリックするとそこには"ISを狩る白騎士!?これは今のIS操縦者達への挑戦状か!?"と書き込まれていた。

 

「海がここに来る前に各国でIS操縦者が襲われる事件が多発していたんだ。そして襲われた人の証言ではその姿は純白の全身装甲(フルスキン)で、まるで白騎士のようだったみたい」

「トロポス関連ばかり見ていたから気づかなかったぜ。なるほどな、だから明はIS学園に在学するならこの白騎士が学園に襲ってくる可能性があるから気をつけろって言ったのか。結局一夏とは何の関係もなかったか」

「一夏ってあの織斑一夏?」

「ああ、そうだけど知り合いか?」

「…彼の専用機は倉持が造ってるの」

「倉持…え、倉持が!?簪のISも造ってただろ?」

「この前電話が来て織斑一夏の開発に総員回すって連絡が来たの」

「はぁ!?勝手すぎるだろ!」

 

この前は勝手に造ると言い出し、今度は男性操縦者の一夏のためにISを造り、簪のは凍結。明らかに横暴だ。

 

「だから嫌がらせとISが可哀想だったから私で引き取ったの。実際無所属扱いになってるからどう造ろうとも私の自由」

「だったらそのISウチで造ってみるか?だとしても操縦者がなぁ…」

「それなら本音に渡してみる?」

「本音に?うーん…。そこは相談だな。あとで聴いてみるよ」

「じゃあ朝ごはんのときに聴く?本音と七海は同室だし」

「そうだな」

 

その後軽くシャワーを浴びて制服に着替え七海たちを誘って食堂へと向かった。その途中に楯無と虚に出会い楯無はニヤニヤしながら昨日何かしたか聴いてきたが特になにもなかったのでつまらなそうな顔をしており、手に持っていた扇子を開くと"このヘタレ"と書かれており、またしても虚に叱られていた。




IS学園に入る前に付き合わせるか悩んだんですけど、今後の展開を考えて今はこんな感じにしました。


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集え!代表候補生たちよ!

リアルが忙しく更新が遅くなりすみませんでした。


朝食を食べたあと海は先に教室の窓から外をぼんやりと眺めていた。結局のところ本音に専用機を渡すかどうかについては楯無の助言から放課後に詳しく生徒会室で話そうと言うことになり、時間を持て余した海はこうしてぼんやりと外を眺めていたのだ。

 

「良い天気だなぁ…。海は綺麗だし、樹が茂っているし、お茶が欲しくなるなぁ」

「天地はなかなか古風な事を言うな」

「あ、篠ノ之さん。おはよう」

 

海に話しかけに来たのは昨日知り合った日本代表候補生の篠ノ之箒である。

 

「ああ、おはよう。箒で構わないぞ。むしろ下の名前で呼んでくれ」

「了解。俺のことは海で良いぞ」

「わかった。そう言えば先程簪たちと食事をしていたが仲が良いのだな」

「まぁね、簪たちとは中学からの付き合いだし」

「なるほど、道理で仲が良いわけだ」

「そういう篠ノ之…じゃなかった。箒はそういう中学からの友達とかこの学園に居るの?」

「中学からはいないな。小学五年の頃から引っ越しが多く、長い付き合いでIS学園での友人は一夏くらいだ」

「あ、ごめん…。なんか聴いちゃいけないこと聴いたな…」

 

しまったと思い海は頭を下げると箒は慌てながら頭を上げてくれと言った。

 

「そこまで気にしていないさ。今思えば仕方のないことだったからな」

「そっか。あ!そう言えば箒の名字って篠ノ之だよね?ということはもしかして!」

 

海は箒に何やらキラキラした目を向ける。

 

「箒って篠ノ之神社の娘なの?」

 

海がそう聴くと何故か箒や既に教室に居た生徒たちがズッコケタ。

 

「あれ?もしかして違った?」

「いや…合ってるが…」

「うおー!マジで!?あそこの神社俺好きなんだよ!祭りの日とかはよく行くんだ!」

「そ、そうなのか。ではなくだ!」

「え?他に何かあった?」

「…まさか本当に分からないのか?」

「何が?あ、もしかしてIS開発者の篠ノ之束博士と名字が一緒だから親戚とか?」

「普通そっちを聴かないのか?まぁ姉妹なのだが…」

「へー」

 

しばらく沈黙が流れる。そしてポクポクポクチーンとどこかで鳴りまたしても教室が騒がしくなる。

 

「そ、それだけなのか!?」

「え?それだけだよ?」

「いや、なにかこう…。驚きやリアクションはないのか?」

「ないよ?だって箒は箒じゃん。あ、驚いたと言えば代表候補生だってことかな?」

 

周りは口をあんぐりと開けまるで信じられないものでも見たような様子だった。すると箒は肩を震わせ突然笑いだした。

 

「え?ど、どうしたの?」

「あははははははは!いや…すまない…。あまりにも海の反応が予想の斜め上だったものでつい…。ククッ!」

「どういうこと?」

「私の姉を聴いて驚く奴は沢山居たが、無反応だったのは海が初めてだ(笑)」

 

今まで箒は篠ノ之束の妹ということで失踪した姉のせいで重要保護プログラムという保護並びに、束に対しての人質として家族と離れ離れになり、各地を転々としながらも周りからは"篠ノ之束の妹"として評価され、誰も自分を"篠ノ之箒"として見てくれなかった。結局色々あったものの、姉の心理を知るために代表候補生になってもそれは変わらなかった。この学園に入学してもまず名字の珍しさから束との関係を聴かれ、答えればやはりそう言う風潮になっていたが目の前の海は全く違っていた。自分を一人の人間として、"篠ノ之箒"として見てくれたのは家族を除き、一夏など数人居たが無反応だったのは海が初めてだったのだ。

 

「まぁなんにせよ、改めてよろしく頼むぞ」

「こちらこそよろしく」

 

キーンコーンカーンコーンとHRを告げるチャイムが鳴り海は箒にじゃあなと言い席に戻っていった。そして授業が始まるが一夏はうーんと悩みながらも何とか食らいついていた。授業が終わると海は一夏に元へ行く。

 

「大丈夫か一夏?」

「海か…。まぁなんとかな。というよりは海こそ質問しなくていいのか?後から聴いて恥ずかしくなる前に聴く方が良いぞ?」

「ご忠告どうも。生憎俺は特別編入生だからそれ相応の知識は持ち合わせてるよ」

「マジか!?」

「マジマジ。俺の家IS関連の仕事もしてるから少しは知識あるし、なんならさっきの所教えようか?」

「あーいや、後で箒に教えてもらうよ」

「そうか?というより七海たちから聴いたけどお前クラス代表なんだろ?なんか五月にクラス対抗戦があるらしいし、相手は二組の代表候補生で専用機持ち。ここで躓いていたら負けるぞ?」

「大丈夫さ!鈴には絶対負けない!」

「(その自信はどこから沸くのだろう…)」

「少々よろしいでしょうか?」

「あ、はい」

 

海が振り向くとそこにはフリルの付いたロングスカートを履き、金髪の縦ロール髪のいわゆるお嬢様が立っていた。

 

「はじめまして。(わたくし)はイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。以後お見知りおきを」

 

スカートを少し摘まみペコリとお辞儀する姿はまさに淑女と呼ぶに相応しかった。

 

「あ、どうも。ってセシリア・オルコット!?」

「ええ、そうですわ?」

「これはとんだご無礼を!」

 

海は騎士のようにその場に跪いた。その光景に周りはざわめく。

 

「おい海?お前なにしてんだ?」

「頭を上げてくださいな。その姿には感心しますが、ここでは一生徒として接してくださいな」

「…かしこまりました」

「敬語も結構ですわ」

「はい」

 

海は腰を上げて立つとセシリアはクスリと笑みを浮かべた。

 

「ふふ。面白い殿方ですわね。私のことはどうぞセシリアとお呼びくださいませ」

「かしこまり…じゃなかった。わかりました…でもなくて、わかったよセシリア」

「ところで先程のはいったいどなたから教えてもらったのですの?」

「知り合いに君の熱狂的なファンが居てさ。是非君に会ったときは無礼の無いようにって言われたんだよ」

 

海の頭の上では誠也が鬼のような形相で「絶対無礼のないように!」と訴えている姿が浮かんだ。

 

「まぁ、それは是非お会いしてみたいですわね」

「今度時間があればいいよ」

 

始業のチャイムが鳴り、セシリアは少し残念な顔をした。

 

「楽しい時間とはすぐに過ぎますわね。ではまた後で。ごきげんよう」

「ごきげんよ~」

 

その後も授業が進み、昼休みに一夏に誘われて食堂へと向かうと既に食堂には七海や箒たちがワイワイと話しており、席が二つほど空いていたが海は気を遣って他の席に行こうとする。しかし一夏はおーいと声をかけ相席良いか?とその女子の花園へと向かった。

 

「一夏か。私は構わないが皆はどうだ?」

 

箒がそう聴くと七海と簪は少し嫌そうな顔をするが海が居ることに了解した。

 

「なんかごめんな。ガールズトーク中だったのに」

「構いませんわ。せっかくですし私たちも貴方と友好を深めたいですわ」

 

よく見ると席にはセシリアもおり、席順は

 

一夏 箒 セシリア ツインテールの少女

 

海 簪 七海 本音

 

であった。

海は同席していたツインテールの少女を見ると少女はこちらに気づき口を開いた。

 

「あんたが特別編入生の七海の兄貴なの?」

「え?ああ。俺は天地海。好きなように呼んでくれ」

「あたしは(ファン) 鈴音(リンイン)。鈴で良いわよ。それと中国の代表候補生で二組のクラス代表よ」

「代表候補生ってマジかよ」

 

周りを見渡すと日本代表候補生が二人(簪と箒)イギリス代表候補生が一人(セシリア)中国代表候補生が一人()、そして企業代表が一人(七海)後の企業代表の候補が一人(本音)。更に世界で唯一ISを動かせる男(一夏)共学に向けた研究生が一人()とかなりレア過ぎる席となっていた。

 

「なんかこの席だけ豪華なメンバーだな」

「あ、確かにそうね」

「代表候補生ってそんなに居るのか?」

「うーん。居るっちゃ居るけど専用機持ちは少ないわね。コアが限られてるし」

「なるほど」

 

その後昼飯を食べながら話しているとどうやら箒と鈴は一夏の幼馴染みで鈴は箒の転校と入れ替わるように入って来たそうだ。一夏曰く箒がファースト幼馴染みで鈴がセカンド幼馴染みらしい。幼馴染みにファーストもセカンドもないだろうと海は内心ため息を吐いた。これで一夏にため息を吐いたのは何度目だろうと、少なくとも海の中で一夏の印象はそこまで良くはなかった。良い奴なのは確かだが、少しデリカシーが欠けているというのが海にとっての一夏の印象だった。

 

「ところで対戦相手同士がこんな所で一緒に食べててもいいのか?」

「うん?別に良いだろ?鈴とは友達なんだからよ」

「あたしも別に良いわよ。手札を見せてる訳じゃないし、ただ普通に喋ってるだけだもん」

「なるほど」

 

その後も色々と話していると女子特有なのか恋ばなへと発展し、何故か海と簪が付き合ってるのか質問された。

 

「で、実際どうなの?」

「あまみーとかんちゃんはラブラブだよ~」

「「本音、そんなことないから。ただの友達だよ」」

 

海と簪がそう否定するとお互いに小声でそうなのか…と落ち込み、箒たちからはそういうことかとニヤニヤしていた。しかしこれで終わるはずもなく海と簪はお返しに箒たちには居ないのかと聴いた。

 

「私は…そうだな。今は居ないな」

「あたしも居ないわねぇ。はぁ…どこかに良い出会いないかなぁ」

「私はいますわ」

 

セシリアの爆弾発言に海たちは一斉にセシリアに注目した。

 

「ずっとお慕いしている殿方なのですが、今はどこか旅に出ていますわ」

「旅?」

「ええ。ただ、その旅が終われば私の元へ戻ってくると仰っていたのでこうして待ってますの」

「どこかの貴族の人なの?」

「いえ、普通の一般人ですわ」

 

女子組はロマンチックだの身分違いの愛だのと盛り上がっていて、ふと一夏を見ると何やら少し苛立った顔をしていたので軽く足を蹴る。

 

「眉間にシワがよってるぞ」

 

そう一夏にしか聴こえない声量で言うと悪いと言い、いつもの爽やかな顔に戻った。

 

「もしかしてセシリアのことが好きだったのか?」

「いや、そんなんじゃねーよ。ただ、考え事していただけだ」

「そっか。まぁあんまり考えすぎるなよ?」

「ありがとな」

 

こうして昼休みは穏やかに過ぎていき、放課後。海は楯無の指示で生徒会室の前に来ていた。

 

「ここが生徒会室のかぁ」

 

コンコンとノックをすると扉の向こうからどうぞと声が聴こえ、ガチャリとドアを開けた。そこには七海たちが既に集結していた。

 

「ようこそ生徒会室へ。私が生徒会会長の楯無よ」

「私は会計の虚です」

「そして私が書記の本音だよ~」

「で、私と簪が二人で副会長をしてるよ」

「七海…。お前副会長っていうキャラだったか?」

「いいじゃん別に!」

 

七海は頬を膨らませムスっとすると海はその膨らんだ頬をムギュッと両手で潰した。

 

「なにするのよ!」

「いや、つい」

「はいはい、兄妹仲良くするのは後にして簪ちゃんが手に入れた倉持のコアについて話し合いましょう」

「そうですね」

「とりあえず海くんの考えを聴かせてくれないかしら?」

「はい。これは本人次第なんですが、俺はこのコアを使って本音に専用機を渡したいと思ってます」

「ほえ?私ぃ?」

 

本音は小首を傾げてポヤンとした顔をする。海はホログラムを展開するとそこにはISの設計図が記されていた。

 

「この機体は戦闘を目的としておらず、避難誘導やサポート用に設計したものです。今後トロポスの戦いがさらに激化するなら避難誘導も難しくなる。ならば一人でも多くの人を助けられる用にとデザインしました」

「なるほどねぇ。確かに本音ちゃんってパニックを抑えることは上手だし、この前の土竜のトロポスのときも迅速に避難させていたわね」

「あたしも本音なら大丈夫だと思うよ」

「私は反対です」

 

突然虚が手を上げ異議を唱えた。虚はキッと海を睨み付ける。

 

「今までは避難をさせるということでサポートしてきましたが、専用機を持たせるとなると話は変わります。専用機を持つということはISのコアを所持すること。つまりトロポスに狙われる危険性があります。私は大切な妹に更なる命の危険を晒したくありません。専用機を持たせるなら私に渡してください」

「確かに虚さんの言う通りです。でも虚さんは三年生。たった一年でトロポスとの戦いが終わるかなんてわかりません。俺も悩みましたけど悩んだ結果本音に渡すべきだと判断しました」

 

海と虚は互いの言葉ににらみ合い段々険悪な雰囲気へと変わっていく。

 

「まぁまぁ二人とも落ち着いて。ここは本音ちゃんに聴いてみましょ」

 

楯無の言葉に二人は一旦落ち着くと本音の方を見る。本音はしばらく考えると小さく口を開いた。

 

「私は…専用機を受けとるよ~」

「本音!自分が何を言ってるのかわかってるの!?」

「うん…。お姉ちゃんの気持ちは嬉しいし、正直ちょっと怖いよ…。でも、私はかんちゃんやあまみー達の力になりたいのだ!それに直接戦う訳じゃないし、これでも暗部の従者、布仏の娘だよ~?私も強くならなくちゃ!」

「本音…」

 

虚はおもわず本音を抱き締める。本音はわたわたと慌てるが、やがて抱き締め返した。

 

「くれぐれも無茶はしないでね」

「大丈夫大丈夫~」

「ええ。安心して虚ちゃん。本音ちゃんは何があっても海君が守ってくれるわ。ね?」

「はい!でも本当に無茶はしないで避難誘導を率先してくれよ?あと何かあったらすぐに連絡してくれ」

「了解なのだ~」

 

こうして無事本音が専用機持ちになることが決定した。ちなみに虚とは誓約書付きで本音を必ず守るということが約束された。少しでも危ない目に合わせたらフルボッコという約束で。




今回でかなり原作とは異なってます。


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アンノウンは突然に

すみません!
書くのがかなーり遅れました。
ぶっちゃけるとネタが浮かばなかったのと色々慌てていたからです。
投稿は今後もちまちまと続けるので本当にすみませんでした!


本音との一件からしばらくしてクラス対抗戦の当日となった。各クラスからそれぞれ代表で選ばれたクラス代表がISに乗って戦うイベントであり、一年のときはあまり差がないが、今年は一組、二組、四組に専用機持ちが居るためかなり見応えがあるだろう。一組には世界で唯一の男性操縦者の一夏、二組には僅か半年で代表候補生に登り詰めた鈴、そして四組には現在では珍しい全身装甲(フルスキン)に乗る簪。この三名に注目が集まっていた。そして一回戦は一夏対鈴の試合であり、海たちは観客席の方に集まっていた。他にも立ち見している人などもいることからかなり二人に対しての期待度が高いのだろう。

 

「一回戦は一夏と鈴の試合か。なぁ七海、ハッキリ言って勝敗はどちらに転ぶ?」

「一夏が10%、鈴が90%ね」

「なるほど。箒やセシリアは一夏の特訓に付き合ってるらしいけど、勝敗はどう感じる?」

「そうだな…。七海と同じだな」

「私もですわ。織斑さんの飲み込みの早さはかなりの物ですが、それでも鈴さんの方が上だと思いますわ」

「まぁ周りの女子は一夏に声援を送ってるけどな」

「おりむーモテるからねぇ~」

「お、二人が出てきたな」

 

アリーナのピットから一夏と鈴が飛び出してきた。一夏のISは白を基調とした期待であり、その右手には一本の刀が握られていた。

 

「あれが白式…。確か織斑先生の後継機で零落白夜持ちで、シールドバリアを切り裂いて絶対防御を強制発動だったよな?」

「うん。でもそのかわり自分のSE減るから諸刃の剣だけどね」

「なるほど。つまり燃費が悪いピーキーな機体ということか」

「それに比べて鈴の機体は燃費を重視したバランスタイプのIS。一夏はどう対処するかな」

 

七海と話しているとドンッ!と何かが聴こえ音のした方を見ると鈴が左手を構えており、一夏が地面に叩きつけられていた。

 

「なんだ今の!?」

「衝撃砲ですわ。空間自体に圧力をかけて砲身を生成し、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して放つ第三世代型兵器ですわ」

「えーっと…、要するに空気砲ってこと?」

「それに近いですわね。簡潔に言いますと見えない大砲と言った所ですわ」

「なるほど。それにしても流石代表候補生だな。かなりの腕前だ」

「でも左腕から発射しているってことは軌道も丸分かりだし、背後なんて撃てないよ?」

「だが一夏のやつまだそこまで気づいてないな」

 

 

「くそっ!」

 

一夏は衝撃砲をハイパーセンサーによる空間の歪みをを頼りになんとかかわしているが、未だに突破口が見いだせず防戦一方となっていた。

 

「どう一夏?この龍砲の力」

「左腕さえ意識していればかわせるさ!」

 

一夏は雪片で斬りかかろうとするが、鈴は装備されている青竜刀を両手に一本ずつ持ち相手をしている。時々龍砲を撃つため武器を手放すが、その動作は撃つことを表しているため一夏はだんだんとかわし始めていた。

 

「チッ!やっかいね!」

「だいぶ慣れてきたぞ」

「じゃあこれならどう!」

 

鈴は二本の青竜刀を連結させブーメランのように投げ飛ばした。突然のことで一夏は驚くが、雪片でそれをいなし一気に近づく。

 

「このっ!」

「いまだ!」

 

一夏は龍砲をギリギリでかわし、遂に鈴から背後を取り斬りかかろうとしたとき、まるで見えない砲弾に当たったかのように吹き飛ばされてしまった。よく見ると鈴は背中を向いたままであり、左腕は構えてなかった。

 

「な、なんで龍砲が!?」

「本当の龍砲はこっち」

 

鈴はくるりと一夏の方を向くとニヤリと笑い肩のスパイクアーマーを指差した。

 

「龍砲はこっちの肩アーマーから撃ってるのよ。左腕を構えていたのはただのフェイク。こうしていると左腕が空いてなかったら使えないって思わせる戦法って訳」

「な、なんだよそれ…!セコい真似しやがって!」

「戦い方は色々あるのよ!第一左腕ばかりに注意を向けすぎなのよ。明らかに肩のスパイクアーマーが動いているのに、それを見抜けなかったあんたが悪いのよ。さぁこれで終わりよ!」

 

鈴が龍砲で一夏に止めを刺そうとしたとき、空からレーザーが落ちてきて、アリーナのシールドが突き破り腕が異様に長く、肩と頭が一体化したような全身装甲(フルスキン)のISが現れた。

 

 

「侵入者か!?」

「と、とにかく一旦避難した方がいいよね?」

 

海たちは避難しようと出口に向かったが、出口には生徒が溢れ帰っていた。

 

「どうなってんだ?」

 

すると海のスマホから着信があり、画面には"シスコン会長(楯無師匠)"と表示されていた。ちらりとそれを見た簪は笑いそうになったが状況から判断して抑えた。

 

「もしもし楯無さん?これはどういうことですか!?」

『今アリーナの扉がロックされて避難が出来ないのよ。こっちでも急いでロックを解除してるわ』

「どのくらいかかりますか?」

『最低でも5分はかかるわね…』

「マジかよ…」

 

海はクロスソードで斬撃を飛ばして扉を破壊しようかと思ったが、生徒が混乱している状況では危険と判断し悔しそうにスマホを握る力を強めた。ちらりとアリーナを見ると鈴が謎の侵入者と対峙しているが、鈴の方が不利なのが目に見えている。すると侵入者は観客席をぐるりと眺めて海たちの方をを見ると突然片手をこちらに向けてエネルギーをチャージし始めた。

 

「なっ!?簪!七海!展開して生徒たちを守ってくれ!」

「兄ちゃんはどうするの!?」

「俺があの侵入者を止める!っ!?」

 

海がクロスドライバーを取り出そうとしたとき空から白い羽根がひらりひらりといくつも落ちてくる。そして羽根が侵入者の不規則に並んだむき出しのセンサーレンズを覆うと視界を奪われた侵入者は何故か明後日の方向にレーザーを発射した。

 

「た、助かったの?」

「あ!ドアが開いた!」

 

タイミングよく扉が開き生徒が逃げ始めるが、海は何かを感じて空を見上げる。そこには天使のような翼を持ち、純白の装甲に身を包んだ全身装甲(フルスキン)がアリーナを見下ろしていた。そして極めつけに腰にはクロスドライバーを巻き付けていた。

 

「四人目の…ライダー…」

 

そのまま純白の全身装甲(フルスキン)は翼を羽ばたかせ地面へと降り立つと翼は無数の羽根となり周りに散らばりその美しさを表していた。侵入者はこちらに興味がなくなったのか純白の全身装甲(フルスキン)に襲いかかるが、ヒラリとかわし擦れ違い様に持っていた大型のブレードで一太刀入れる。一瞬怯んだ所に更にもう一太刀とその動きはまるで舞台でも見ているかのように美しかった。

 

「兄ちゃん!皆避難したよ!」

「どうしたの海?」

「なぁ簪。あの白いやつネットに載ってた白騎士擬きに似てないか?」

「え?…確かに似てる」

 

会話している内に白騎士擬きが侵入者の腕を切り落とす。すると中からオイルと配線が現れた。

 

「機械だと!?」

「まさか…無人機!?」

「嘘…」

 

ISは人が乗らなければ動かない。それは鉄則であった。しかし目の前の侵入者はそれを見事に打ち砕いていた。そして白騎士擬きは見事な剣舞で無人機を倒すとコアを抜き取りどこかに仕舞った。やはり中も機械とコードで埋め尽くされており、中には人の姿は見当たらなかった。

 

 

『ふぅ…』

 

白騎士擬きはくるりと辺りを見渡し一夏を見つけると、剣を肩に担いで彼に向かっていく。しかし後ろから何かを構える音が聴こえ、振り返るとISを纏った教師たちに銃を向けられていた。

 

『おいおいマジかよ…』

「そこのIS!大人しく投降しなさい!」

『嫌だね。俺には目的がある。邪魔するなら斬るよ?』

「なっ!男の声!?」

「男がISに乗るなんて!しかも我々の象徴の白騎士の姿を真似るなんて許されないわよ!」

 

女尊男卑に染まっている教師たちは女尊男卑を作り出した元凶である白騎士を崇拝しており、それを真似ている白騎士擬きに罵声を浴びせるが、すぐに静まった。何故なら白騎士擬きは左手から電磁砲(レールガン)を放ち、一瞬にして教師たちをねじ伏せたのである。

 

『弱いな。これが天下のIS学園の教師かよ…。さてと…』

 

白騎士擬きは一夏の方を見ると右手に持っていた刀を降り下ろした。しかしそれを咄嗟に察知した鈴によって防がれる。

 

『そこ、退いてくれないかな?』

「いやよ」

『貴重な男性IS操縦者を失うわけにはいかないからかな?』

「そんなんじゃないわよ。ただ、あたしは目の前で人が危ない目にあっているから助けるだけ」

『…ふっ。いいな。"おまえ"らしいよ。"鈴"』

「っ!?」

 

突然白騎士擬きの雰囲気が変わったことに鈴は驚く。どこか懐かしいような、まるで久しぶりに出会った友達のような感じがしたのだ。

 

『でもごめん』

 

しかし白騎士擬きはその隙を突いて剣で切り裂き鈴のISを解除させた。

 

「あ、あんた…誰なの…?」

『不意打ちして悪いな。俺の目的のために織斑一夏が邪魔なんだよ』

 

そう言って白騎士擬きは電磁砲(レールガン)を自分の背後に放った。後ろで白騎士擬きに攻撃を仕掛けようとしていた七海と簪は咄嗟にかわすと冷や汗を浮かべた。

 

「まさかあたしたちの気配を察知するなんて…」

『こう見えても視野が広いからね』

 

白騎士擬きは肩をすくめると剣先を七海たちに向ける。

 

『どうやら君たちはTコアを使ってるみたいだね。他にもあるなら渡してほしいな』

「「渡すわけないでしょ!」」

『それなら無理やり貰おうかな?』

「やってみなさいよ!」

「倒す…!」

『その勝負待ってくれ』

 

リミット パッチワークシフト(ソード・イーグル)に変身した海はそう言うと二人を下げさせた。

 

『へぇ、"彼"の言った通りこの学園にリミットが居たんだ。それならなんで無人機が襲撃したときに出てこなかったのかな?』

『こっちにも事情があるんだよ』

 

海はめんどくさそうに頭を掻いた。白騎士擬きの言うとおり無人機と自分が戦うことも出来たのだ。しかし海はこの学園に入る前に学園との約束でIS関連に関しては緊急時以外非干渉と決めてしまったのだ。何故ならリミットはISではなく、対トロポス用の兵器なのであり、もし仮に襲撃者が現れ戦うと下手をすれば相手を殺しかねないのである。あくまで緊急時と定めているが、許可が降りるのは学園長もしくは千冬からの連絡のみである。

 

『さて、助けてくれたことには感謝するけど、流石にこれ以外被害は避けたいんだ。出来ればこのまま去ってほしいけど…』

『それは無理だね』

『はぁ…。オッケー。なら力ずくで邪魔させてもらうぜ。七海たちは鈴たちの避難を頼んだ。』

 

そう伝えると海は走りだし白騎士擬きも走り出すと互いの剣を交えた。




はい、四人目のライダー登場でーす


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