魏伝 ~曹洪の章~ (碓氷)
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人物紹介

曹洪(ソウコウ) 字:子廉(シレン) 真名:夏焔(カエン)

本編の主人公。曹操の一族であり現在曹家に連なる人物では最長齡であり事あるごとに華琳(曹操)や春蘭(夏侯惇)、秋蘭(夏侯淵)らの同族の年下たちに苦言を呈し支える縁の下の力持ち。

普段は結構ノリのいい性格+酒好きなのだが調練に関しては才覚と威厳を発揮し、兵士たちからは『鬼教官』と呼ばれている。

武も指揮能力も『現状』曹操軍随一で、武力に関しては反董卓連合で呂布と互角の一騎打ちを繰り広げた事から『鬼神』と呼ばれ、戦術眼は群を抜き臨機応変に動かせる戦場を得意とする。

親と弟妹を賊に殺された過去を持ちそれ故か天涯孤独な子供などを見かけるとほおっておかない。

本作の歩く旗製造機一号(二号は一刀)、旗製造予定数は・・・・三本~七本。

旧友文欽の頼みで身寄りの無い少女涼夏を引き取り、曹真と名を与え育てている。

久龍、月夜と共に勢力の壁を超えた義兄弟の契を結んだ。

 

北郷一刀(ホンゴウ・カズト)

原作の主人公。ある日未来からやってきてしまった青年。当初は全く違う風習、生活に四苦八苦していたのだが夏焔たち周囲にいる者たちが親身に世話をしたためか割と早めに馴染んだ。

元々天性の明るさのようなものを持っており、それ故か兵士たちと打ち解けるのが早かった。

最近では夏焔の鍛錬により様々な才能を開花させ一人の将として頭角を発揮し始めており後に紫炎、迅と三人で三将星と呼び称される。

 

司馬懿(シバイ) 字:仲達(チュウタツ) 真名:隼(ジュン)

河内の富豪司馬家の次男。華琳を含めた誰が訪ねても仕官を決めなかったのだが何か感じる事があったらしく、夏焔の要請には応じ夏焔直属の軍師である事を条件に曹操軍へと参入を決めた。

商才も他を遥かに凌ぐのだが戦術、軍略も群を抜く存在感を発揮している。

礼儀正しい、のだが・・・・どこか常に他人行儀であり誰に対しても一歩距離を置いている、のだが夏焔に対してはその限りでは無く心を開いて・・・・いる?。

反董卓連合にて再会、河内で有名な美少女(煉次談)と婚姻し心なしか以前よりも明るい性格になっているが夏焔に対する忠誠心は変わらなかった。

 

荀攸(ジュンユウ) 字:公達(コウタツ) 真名:隗(カイ)

河北の名門荀家の出身で桂花(荀彧)の兄。温厚篤実、自ら前に進み出て何かをするということは少ないが着実な成果を上げてみせる手腕を持つ隠れた実力者。内政担当、という位置づけではあるものの華琳は実は別の方向に本来の才能があるのではないかと考えている様子。

実は激しくシスコンで、技能的に留守居を任されやすく遠征に随行しやすい桂花と離れ離れになるたびに叫んでいる。

 

曹休(ソウキュウ) 字:文烈(ブンレツ) 真名:景(ケイ)

曹操の一族で華琳と幼馴染、故か春蘭から物凄い敵視されている。のだがちょっと天然な性格のため何故敵視されているかが分からず、詰め寄られるたびに怯え、それに華琳が萌え、萌えた華琳に春蘭が萌えるというわけのわからない一方通行(?)が成立してしまっている。

容姿は中性的で女装させるとそこらの女性より美人になってしまう。

能力的には全て上の下、得意不得意が無いので華琳からは人材としても重宝されている。

 

満寵(マンチョウ) 真名:煉次(レンジ)

夏焔の一番弟子を自称する夏焔の女好きな方の副官。根明で軽い性格、綺麗、もしくは可愛い女性とあらば割と年齢を気にせず口説くためか陳留城下の女性からは悪い意味で有名。

だが築城に関する知識と手腕は目を見張るものがあるのだがそれを女性陣が褒めると矢張り口説かれるためか誰もほめない。

最近はかなり真面目に仕事をするようになり以前のようにガッついて女性を口説くという事は無くなったが時折、箍が外れたように嫁とか彼女とかの単語に反応して暴走する。

 

徐晃(ジョコウ) 字:公明(コウメイ) 真名:円楽(エンラ)

夏焔の一番弟子を自称する夏焔のチンピラな方の副官。根は優しい奴なのだがリーゼントヘアー+凶相で一般住民からはかなり怖がられている・・・・のだが面倒見の良さは曹操軍随一であり兵士からの人気は高い。

気の使い手であり外見にそぐわぬ繊細な戦い方をする。

 

曹仁(ソウジン) 字:子孝(シコウ) 真名:冬莉(トウリ)

曹操の一族で夏焔の従妹。ある日突然出奔し行方不明となっていたのだが黄巾の乱にて再会し華琳らと合流することになる。

戦場にあって常に何があろうとも冷静でいる事が出来るため、非常に優秀な知将として華琳からは評価されており特に守備に関しては曹操軍随一の技量を発揮してみせる。

普段は飄々としているためそんな印象は受けないのだが恋愛ごとになるとひたすら弱い。

 

郭淮(カクワイ) 字:伯斉(ハクセイ) 真名:水華(スイカ)

将軍に昇格した煉次によって副官に任命された少女。やや寡黙だが疑問は直ぐに解消するように動き、上司の行動に異議があれば直ぐに申し出るなど積極的な一面もある。

普段は肩甲骨ぐらいまでの青い髪を帽子の中でまとめており、顔つきも中性的なため誰も本当の性別を知らなかった。

煉次に対する忠誠は人一倍で、故に色々と苦言を呈する事も多いが煉次自身はそれを好ましく思っている。

 

曹真(ソウシン) 字:子丹(シタン) 真名:涼夏(スズカ)

元孤児の夏焔の義娘。やや人見知りするものの基本は明るく一生懸命な娘なので将官や兵士、街の人々からの人気も高く、幼くして人を惹きつける才があり将来大成する、と華琳や夏焔は見ている。

不思議と夏焔を父と呼ぶ事に早く慣れ、今では違和感一つ感じさせない親子っぷりを発揮している。

 

張繍(チョウシュウ) 真名:紫炎(シエン)

董卓軍配下で法正曰く大陸で五指に入る騎馬兵を操る勇将。やや自分を卑下する傾向があるがそれでも将としての誇りは人一倍持ち合わせておりそれは仲間に救助される事を拒む程のものである。

騎馬での戦術は華琳、夏焔をはじめとした各実力者たちも認めているところであり自信を付ける事で更に伸びると夏焔らは見ている。

後に一刀、迅と共に三将星と呼ばれるまでの将へと成長を遂げる。

 

審配(シンパイ) 真名:迅(ジン)

元袁紹軍軍師で夏焔に憧れ袁紹軍を離れ曹操軍に。軍師ではあるもののそれなりの武術と戦場での指揮能力を持ち合わせるため軍師よりは知将に近い。

直情的で熱血系だが戦となればしっかりクールダウン出来る切り替えの速さも持っている。

後に一刀、紫炎と共に三将星と呼び称される軍師に成長する事になる。

 

張郃(チョウコウ) 字:儁艾(シュンガイ) 真名:雷(ライ)

元袁紹軍武将で虎牢関での戦いで袁紹軍に見切りをつけ、迅と共に曹操軍へと参入する事になる。

全体的な能力で秋蘭と互角であり命令に従い的確にそれを遂行出来る職業軍人的な性格。

 

文欽(ブンキン) 字:仲若(チュウジャク) 真名:藤(フジ)

元洛陽の鍛冶屋で元洛陽のゴロツキたちのまとめ役。一刀の持つ刀剣を制作した敏腕の鍛冶師。

それなりの教養と数年前の夏焔と互角に立ち回るだけの武力を持っており既に兵士たちの間では実力を認められかなりの数にしたわれている。

 

法正(ホウセイ) 字:考直(コウチョク) 真名:久龍(クリュウ)

劉備軍軍師、以前は益州にいたらしい。こと戦術に関しては右に出る者が無いと華琳を始めとし冥琳や朱里、雛里、稟、隼らが口を揃えて評価する実力者。夏焔、月夜と共に勢力の壁を超えた義兄弟の契を結んだ。

 

蒋欽(ショウキン) 字:公奕(コウエキ) 真名:月夜(ゲツヤ)

孫策軍の弓兵部隊担当の将。夏侯淵、黄忠、厳顔、黄蓋らと並ぶ弓の名手とされ、乱戦の最中でも数万の軍の奥にいる敵将を射抜く事が出来ると言われている精度と射程を持つ。

夏焔、久龍と共に勢力の壁を超えた義兄弟の契を結んだ。

 

徐庶(ジョショ) 字:元直(ゲンチョク) 真名:遊里(ユウリ)

僕陽軍所属の軍師見習い。かつて水鏡塾で朱里、雛里と共に学んだ学友であり攻める戦が得意らしい。政務の時には厳格な為政者として働くが普段はぽやっとした穏やかな娘でありお菓子作りが好きでありその腕前は華琳や流琉が認めている程である。

 

姜維(キョウイ) 字:伯約(ハクヤク) 真名:梓(アズサ)

僕陽軍所属の武官見習い。天水の麒麟児とあだ名される程の才能と実力を持ち、仕官先を求め各地を放浪していたところに『鬼神』曹洪の噂を聞き興味を持ち曹操軍の任官試験を受ける。

また試験の時に夏焔も梓に興味を持ち僕陽への異動に随行させる事を決めた。

 

鮑信(ホウシン) 真名:剛(ゴウ)

元僕陽太守、現僕陽軍副官。共に僕陽一帯を収めていた劉岱と共に華琳に領地と領民を委ねるという大胆な決断をして見せた壮年の将軍。将ではあるが内政にも通じており秋蘭に次いで全てを万能にこなせる貴重な人材。

 

劉協(リュウキョウ) 真名:陽華(ヨウカ)

献帝。洛陽が山賊や袁紹ら暴走した連合軍に焼かれ、産まれ育った地を追われ初めて自らの眼で国の現状を見て絶望し、そして国を蘇らせたいと考えそのために兗州を訪れた。

身に纏う雰囲気や威厳は正しく皇族と呼ぶに相応しいものを夏焔らは感じたがそれ以外は年相応の少女と何ら変わらない。




物語の進展と共に内容を更新&追加していきます。

8/16 曹仁:冬莉、郭淮:水華を追加
9/5  曹真:涼夏を追加
9/9  張繍:紫炎を追加
9/14 北郷一刀を追加
9/16 審配:迅、張郃:雷、文欽:藤を追加
9/22 法正:久龍、蒋欽:月夜、徐庶:遊里、姜維:梓、鮑信:剛を追加
9/28 劉協:陽華を追加


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第一話 物語の始まり、御使いとの出会い

今でも鮮明に覚えている光景--血に塗れた床、動かぬ骸となった父と母、弟妹たち・・・・ただただ、呆然とし膝をつく自分・・・・ふと見れば周囲と同じく血に塗れた己の掌、徐々に目に映る全てが血の色に染まり―――

 

「っ!!?」

 

そこで眼が覚める。

 

「ああ・・・・また・・・・か」

 

汗でベットリとしている、額の汗を拭いながらゆっくりと視線を部屋の外へと向ける。まだ外は暗く、今が夜だという事だけは分かる。

 

「・・・・何時まで引きずっていても仕方無いというのに・・・・」

 

理屈では分かっていてもそうもいかないという事もわかりきっているのだ。

 

-陳留城-

曹洪-夏焔(かえん)の朝は陳留城に用意されている自分の屋敷で部下たちの点呼を取るところから始まる。

 

「・・・・煉次はどうした?」

 

いつもなら自分が起床するまでには集合しているはずの副官、軍師、部隊長のうち副官一人がまだ来ていない事に気づく。

 

「煉次殿ならば先刻、曹操様へと言い寄っていたところを夏侯将軍に殴りとばされたのを目撃いたしました」

 

そういうのは夏焔の専属軍師である司馬懿-(じゅん)である。

 

「失礼します、曹将軍」

 

一礼した兵士二名が一人の男を担いで現れた。

 

「先刻夏侯将軍から『捨てて来い』と言われたのですが・・・・」

「流石にそれは忍びないとお届けに参りました」

 

取り敢えず、ため息を一つつけば「ご苦労」とだけ言って兵士二人に元の職務に戻るよう促す。

 

「うーん・・・・」

「起きたか煉次」

 

信頼(?)すべき副官の一人、満寵-煉次(れんじ)、実力は確かなのに女好きなのが唯一にして最大の弱点でもある。

 

「俺は・・・・そうだ、曹操様を口説こうとして・・・・」

「テメェまだ諦めてねぇのか?あぁ!?何連敗中よ!」

 

明らかに不良を体現したような髪型と顔、言葉遣いをするのがもう一人の副官、徐晃-円楽(エンラ)である。

この二人、意外と組み合わせが良いらしく二人で組ませると想定以上の結果を生み出す事があるのだ。

 

「挑まなけりゃ結果は生まれない!!」

「その意欲を仕事に発揮してくれ・・・・まぁ良い、今日の仕事の話だ」

 

それからいつも通りに仕事前の打ち合わせをする。部隊長ごとの仕事、人員の配備、本日の予定など。

 

「っつーわけだ、隼、煉次、円楽は夕方からの全体会議に参加してもらう」

 

ここ数年で勢力を伸ばしてきている賊がいるらしい、本日の議題は陳留領内に置けるその対応、そしてもう一つの案件-

 

「そういやぁ、あの話本当なんですかね?」

「分からん、今は憶測でしかない」

 

主君である曹操が東の原野にて保護した人物、かの者が易者管路により噂の広まっている『天の御使い』なる存在であるという話だ。

 

「全ては今日の会議で明かされる筈だ、それまでは憶測を控えろ」

「うーっす」

 

渋々現場へと出る煉次を見送ると椅子へと腰掛ける。

 

「・・・・荒れるか」

 

何となく、ではあるが数年前から感じていた予感、大陸は今動きつつある。それは主君曹操も感じているだろうし大陸各地にいる実力者たちも感じ取っているだろう。

 

-夕刻-陳留城・太守府

陳留の中枢である太守府、その一室に集うは陳留の主要人物と件の人物。

 

「さて、皆に集まってもらったのは他でも無いわ」

 

上座に座す金髪の少女、彼女こそが陳留の主曹操-華琳。

 

「近頃数を増してきた賊への対応策、及び・・・・先日東の原野にて保護したこの男の扱いについて」

 

華琳のとなりへと座る青年、華琳の話を聞けば彼の名は北郷一刀(ほんごうかずと)と良いこの中華より東の倭国、しかも遥か未来より現れたと言う。眉唾だと思いたくもあったのだが纏う衣や使う言葉などはこの時代の物では無く彼の主張が正しいものだと感じるにも十分なものである。

 

「それで、華琳様は彼をどのように扱いたいのでしょうか?」

 

スっ、と挙手し疑問を投げかけたのが荀攸-(カイ)。現在軍師職と内政担当を兼任する数少ない頭脳労働担当、元々は中央官吏だったらしいのだが権力云々でもめる中央の状況が気に食わないらしく辞職し旅をしていたところを華琳が勧誘したらしい。

 

「そうね、さしずめは夏焔・・・・貴方の隊で死なない程度に鍛えて頂戴」

「華琳様!それならば私が!!」

「駄目だ、姉者は鍛える振りをして始末してしまいそうだ」

 

華琳の言葉に食いついたデコっぱちが「誰がデコだ!!」夏侯惇「無視するな!!」-春蘭(しゅんらん)、猪「説明が適当すぎるだろうが!!」・・・・一応筆頭武官である。

それをたしなめたのがその妹、夏侯淵-秋蘭(しゅうらん)。数少ない常識人であり弓の名手、こちらは貴重な知将系の武将だ。

 

「ぼ、僕は華琳姉様がそうおっしゃるのでしたら・・・・」

 

女の子のようにも見えるが彼は曹休-(けい)、立派な男の娘である「え?漢字、おかしいですよね?」。

 

「・・・・分った、代わりといっちゃなんだが例の件、承認してくれ」

「抜け目無いわね、良いわ・・・・この場で任命してあげる」

 

華琳と夏焔のやり取りにほとんどが首を傾げる。

 

「満寵、徐晃、曹休、前へ出なさい」

 

首をかしげつつ一歩前へと進み出る三人。

 

「以上の三名を昇格、以後は一人の将として扱うものとする」

『!!?』

 

周囲の皆も驚いているが何より驚いているのは当の三名だ。

 

「ど、どどどどどどどどどういう事っすか夏焔さん!!?」

「俺らの事嫌いになったんすか!?」

「やめい!特に円楽!その言い方が気色悪いわ!!」

 

動揺しつつすがりついてくる二人を押さえつけながら叫ぶ夏焔。

 

「ぼぼぼぼぼぼぼぼくがしょ、しょ、将軍だなんて!!?」

 

そしてこちらも動揺する景。

 

「・・・・お前ら三人とも良く聞け」

 

すがりつく煉次と円楽を引き剥がしながら夏焔は語りだす。

 

「お前ら三人とも言える事だがな、とっくの昔に一軍の将としてやっていけるだけの力はあるんだ・・・・経験が足りないぐらいでな」

 

ゆっくりと歩きながら言葉を続ける。

 

「それでもお前らが副官待遇だったのはひとえに俺や秋蘭といった上官の影に隠れて目立った活躍をしなかったが故だ」

 

煉次と円楽は夏焔の、景は秋蘭の副官であり常に両者の補佐に徹していたはずだ。

 

「そこで先行投資とまでは言わないが俺と秋蘭でお前ら三人の将来性に賭けてみたいと考え華琳に昇格を働きかけてきた・・・・期待に答えろ、とは言わない・・・・自分なりに精一杯やってみせろ」

 

黙り込む三人から一度視線を切り今度は北郷の方へと体を向ける。

 

「さて、北郷一刀・・・・と言ったな」

「え、あ・・・・はい」

「緊張しているか?心配は要らない・・・・あそこのデコっぱちよりは優しく鍛え上げてやる」

「誰がデコっぱちだ!!」

「まぁアレは放置しておいてだ・・・・俺のことは夏焔と呼んでくれ」

『!!?』

「それ・・・・真名、だろ?いいのか?」

 

どうやら既に誰かに真名についての説明は受けた様子。

 

「だからこそ、だ・・・・」

「?」

「お前は今、不安で一杯だろう?知らぬ世界、風習にさらされ自らの明日をあんじている・・・・違うか?」

「・・・・」

「その沈黙は肯定と取ろう・・・・故にだ・・・・誰かが親身になり傍らにいることが肝要だ、何の縁か俺はお前の事を任された・・・・ならばその縁を大事にし尚且つ、この世界におけるお前の支えとなりたい」

 

突然知らない場所に放り込まれる恐怖と不安を自分は知っている、だからこその決断。

 

「全部あってる、だからこそ・・・・うん、宜しくな・・・・『夏焔』」

「ああ・・・・宜しく、一刀」

 

握手を交わす二人、それを見守る人々、ここより物語が始まった・・・・



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第二話 一刀初陣、猫耳軍師登場

―陳留城―練兵場

夏焔が一刀を鍛え始めて一週間ほどが経った、当初は若干の不安もあったものの予想以上に一刀の飲み込みが良く、基礎がそれなりに作られていたためか既に一般兵のそれを越え相応の実力を身に付けつつある。

 

「良いか、戦場にあって戦う時は常に全方位に気を配れ・・・・春蘭のように野生の勘で探りながら戦ってもいいんだがあれは特殊だ」

「うん、見てて分かるよ」

「だから今は仲間の兵士たちとの連携を大切にしろ、特にお前は兵士たちに馴染むのが早かったからその分連携は取り易いだろう」

 

不思議な事だと思う、異国から来たはずの一刀、兵士たちに馴染むだろうかと心配したのだがそれは杞憂だった。

華琳のそれとは真逆とも言える魅力を備えていた一刀はあっという間に兵士たちと仲良くなり、更に街の人々からも親しまれているようだ。

今は警備隊の隊長をやらせているのだがそれ故か中々に成果を上げている、更にあちらの国で得た知識だろうか時折こちらの予想の上を行く意見を出して見せ皆を驚かせる事もある。

 

「ああ、こちらにいたんですね二人共」

 

聞こえてきたのは景の声、それに反応して二人が振り向く。

 

「華琳姉様がお呼びですよ」

 

何かあるな、と思いつつ一刀を従え華琳の下へと向かう事にした。

 

―陳留城―太守府

 

「で?」

「小規模だけれども賊が出たらしいわ、そこで私と春蘭、秋蘭、貴方と一刀で討伐に出るわ」

 

恐らく一刀を連れて行くのは戦場の空気を見せるのとこれまでの鍛錬の成果を見るためだろう。

 

「留守居は」

「煉次と円楽、隗に隼と景がいるならば十分でしょう?」

「まぁ・・・・そうか」

「兵糧の手配をお願いするわ、と言っても既に担当官に準備はさせてあるから確認だけして頂戴」

「量は」

「往復で五日分よ」

「分った、一刀は練兵場に戻って俺の兵士に出陣の旨を話しておけ」

 

「分った」と返事をして駆けて行く一刀。

 

「で?どうかしら?」

「十分行けるだろう、俺らも、一刀も」

「そう」

 

聞きたいことはそれだけだ、とハッキリ感じ取れたので兵糧庫へと向かって歩き出す。

 

―陳留城―兵糧庫

華琳に頼まれた兵糧の確認、に来たのだが・・・・手元の書類と分量が明らかに五日分では無い、三日分しか無い。

 

「お前、名前は」

「荀彧、と申します曹洪将軍」

「言いたいことと聞きたい事は分かるか?」

「何故五日分用意していないのか、理由があるなら述べよ・・・・でしょうか」

 

不敵にも笑みを浮かべて語る目の前の猫耳をもしたかぶりもの(?をした)少女―荀彧、にわずかながら興味が沸いた。

 

「その通りだ」

「では単純に申し上げれば・・・・今の曹操軍であるならばこの量で十分と感じたからです」

 

確かに、本来陳留の精鋭部隊ならば日帰りで討伐出来る賊だし新兵でも十分三日で討伐出来る・・・・あくまで余裕を見ての五日という提示だった訳だが、一介の兵糧庫管理の文官にそこまで読める訳が無い。

 

「提示された分量を用意しなかった、この状況で討伐に赴いて量が足りなかった場合処分を受ける・・・・その覚悟はあるんだな?」

「はい」

 

力強い眼だ、そして一つ思い出した。隗の妹が数日前に仕官したというが・・・・同じ荀姓であるからして彼女なのだろう、並の人物ならば兄の名や家の名を使って安全を確保しつつ意見を述べるのだろうが目の前の少女は兄の名も荀家の名も使わずに己の意見を述べて見せた。

 

「・・・・今回の遠征、お前も来い」

「無論」

 

迷い無く随行する事に応諾してみせた、これも評価すべき事だ。

 

―陳留城―東門

先刻までのやり取りを華琳に説明する夏焔。

 

「というわけだ、俺の独断も過分に含まれるから何かあれば俺も責任をとるつもりだ」

「貴方がそこまで言うのならばその子の言うとおりにしてみましょう」

「了解、というわけだ荀彧・・・・まぁ取り敢えずは俺の部隊についておけ」

「はい」

 

ペコリ、と一礼する荀彧。

 

「っつーわけだ、今回うちは援護に回るぜ」

「まぁ妥当なところね」

「ふん!私がいるのだから安心して遊軍を勤めるがいい!!」

 

腰に手を当ててふんぞり返る春蘭。

 

「秋蘭、ちゃんと手綱握っておけよ」

「当然だ、それが私の仕事だからな」

 

仕方あるまい、と微笑みながら言う秋蘭。

 

―出発翌日―陳留南部の山岳地帯―

今現在、曹操軍の戦闘を切るのは二人の将だ。一人は春蘭、そしてもう一人その傍らに付きそう少女、名を許褚―季衣(きい)と言う。半日程前に出会ったばかりの少女だ。

最初は敵意を持って襲いかかってきた、どうやら前領主の悪政のツケがここに出たらしく季衣はまた領主の軍が税を強制徴収しようとしてきたものだと勘違いしていたようなのだ。

春蘭と打ち合っている最中、現れた華琳がその戦いに待ったをかけ土下座までして謝った事で誤解は解け更に非礼の侘びとして道案内を買って出てくれたのだ。

 

「荀彧、お前の意見を聞きたい」

 

馬上で体を揺らしつつ、振り向くことは無く夏焔は荀彧に声をかける。

 

「何を」

「賊との遭遇予測」

「・・・・あと半刻程で遭遇する予測です、討伐に二刻、帰還に一日半という予測でした」

「なら・・・・」

 

鞍にかけていた大刀へと手を伸ばす。

 

「実戦を経験して予測をもっと繊細にしろ」

『へ?』

 

首をかしげたのは荀彧だけではない、一刀もだ。

 

「緊急防御体勢!!!右から敵襲だぁ!!!」

 

夏焔の叫び声に付き従っていた曹洪兵が一斉に右へと向き直って槍を構える、と森の中から賊の一軍が現れる。

 

「そんな!?」

「当たり前だ、賊だってバカじゃねぇ・・・・テメェらの根城が襲われそうなら先手をとるぐらいはするだろうよ・・・・規模は500か、ってことはここに集中させて本隊襲撃、かな・・・・呂虔!本隊へ『応戦体勢を取れ』と伝令しろ!!」

「御意!」

「王忠!五十人で荀彧と一刀を護れ!」

「承知!」

 

流動的に動き始める曹洪兵三百名、そのうち50名に囲まれて後退する荀彧と一刀。

 

「無理に組合わず槍で距離を保ちつつ確実に仕留めろ!!力量はこちらが上だが慢心せず二対一の状況を作り出しながら押し返せ!!」

 

指示を出しながらゆっくりと馬を進める、と500の兵の先頭には将らしき男が一人。

 

「あれが将、か・・・・」

 

その姿をはっきりと認識すれば馬を一気に飛ばす。

 

「賊の将よ!!語るな!ただ・・・・」

 

相手もこちらに気づいた、が・・・・その時には既にすれ違っている。

 

「その首だけを置いて行け」

 

ぐらりと体が揺らぎ、倒れ付す賊の将。

 

『うわぁああああああ!!!孫仲様が討たれたぁああああ!!!』

『駄目だ!!逃げろぉおおおお!!!』

 

散り散りに逃げていく賊たち。

 

「追うな、無理におえば手痛い反撃を受けるぞ」

 

一瞬、追撃に出ようとしていた兵士たちを窘め通常陣形へと移行させる。

 

「一つ、良いですか?」

 

せわしなく兵士たちが陣形を戻しているさなかに近づいてきた荀彧。

 

「どうして、襲撃に気づけたのですか?」

「・・・・鳥だよ」

「鳥?どういう事だ?」

 

一刀も話に加わってくる。

 

「人の気配、殊更殺気に森の動物たちは敏感だ・・・・襲撃の少し前に鳥がそれなりの数、一気に飛び立つのが見えたからな・・・・それであたりをつけた」

「それはまた・・・・」

「・・・・」

「一刀、荀彧、覚えておけ・・・・戦とは眼で見て耳で聞き肌で感じるものだ、机上の兵法なんか無意味ーなんてどこぞのデコっぱちみたいな事は言わないが実戦と机上、両方を併せてこそ将足り得ると心得ろ」

 

荀彧と一刀は理解する、まさしく目の前の人物は『将軍』なんだろうと。

 

『将軍カッコイーっすね!』

『よっ色男!!』

『すけこましぃ!!』

「今すけこましっつったの誰だぁ!!!」

 

大刀を振り上げて兵士たちを追い掛け回す夏焔。

 

『ぎゃー!!将軍が切れたぁ!!』

『おっとなげねぇえええ!!』

 

そんな光景を唖然として見る一刀。

 

「な、なぁ・・・・荀い・・・・」

「・・・・素敵」

「へ!?」

 

思わず荀彧の顔を見た一刀、荀彧の表情は明らかに恋する乙女の顔になっている。

 

「・・・・そうか、これがフラグか」

 

後に、自分が歩く旗製造機などと呼ばれる事を全く知らない一刀は一人、そう呟いたのだ。



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第三話 猫耳参入、孤狼去る

―陳留城東門前―

さて、無事に賊の討伐に成功した曹操軍。味方の損害も怪我人はいるものの死者は無し、更に季衣が華琳の勧誘に応じ参加するという成果が上がった、すべてが上々である・・・・たった一つの問題を除けば。

 

「さて荀彧、私の言いたい事は分かるかしら?」

「・・・・はい、お咎めを受ける覚悟は出来ております」

 

結論から言えば兵糧が保たなかったのだ、いや普通ならば足りていただろうがあの小柄な体の季衣が並の兵士の十倍も食べるものだから必然量は加速的に減り陳留に戻るまでには底を尽きていたのだ。

 

「そう、なら・・・・」

「華琳」

 

とは言え、本当ならばその気になればあと二日分をちゃんと用意させる事が出来たのにこの少女に興味を持ち提案に乗ってしまったという自責が夏焔にはある。

 

「何かしら?」

「確かに、荀彧は指定された分量の兵糧を用意しなかったばかりかこちらに『この分量で十分』と提言した上で結果足りなくなるという失策は犯した・・・・だが先の賊との戦い・・・・襲撃に気づいたのは『荀彧』だ」

 

その言葉に眼を見開き口を開こうとした荀彧・・・・を夏焔の意図を察した一刀が制す。

 

「信賞必罰を明らかにするという陳留軍の軍規に照らすならば功績半分、失策半分で単純な成果無し・・・・違うか?」

 

とにもかくにも夏焔は荀彧という人材をここで潰す、死なせるというのは惜しいと考えている。季衣という不確定要素を除けば彼女の目測は間違っておらず、経験をこれから先に積ませたならば優秀な軍師として大成する、という確信があるからだ。

 

「成程、確かに貴方の言う通りね・・・・ならば荀彧」

「は、はいっ!」

「夏焔の言葉に従い貴女の功績と失策を帳消しとしましょう、以後は彼に従って仕事を覚えていきなさい・・・・夏焔」

「何だ」

 

夏焔に歩み寄る華琳、そっと耳元へと口を寄せ。

 

「庇い立てしたのならば責任を持って面倒を見なさいな」

「そのつもりだ、後な・・・・隼がちょっくら里帰りするそうだ」

「?何かあったのかしら」

「司馬郎が危篤だそうだ」

 

司馬郎と言うのは隼の兄であり今現在司馬家をまとめている一族の家長だ。

 

「そう、ならば彼女の参入は渡りに船という事かしら?」

「さぁな、だが一人育てるも二人育てるも同じだ」

「そうね、期待しているわ『鬼教官』」

「期待に出来る限りそえるように尽力するさ」

 

春蘭、秋蘭、季衣を従え城内に戻る。

 

「あ、あの・・・・曹しょ・・・・」

「夏焔」

「え?」

「俺の真名だ、お前に預けるよ荀彧」

「え?あ・・・・えぇ!?」

 

驚く荀彧、無理も無い。本来真名というものは神聖なものであり親族ですら不用意に呼ぶ事を許されないものなのだ。

 

「そ、そんなに簡単に預けて・・・・」

「良いんだよ、そこの一刀にも預けたしな。それにお前は今から俺の弟子だ」

「え、弟子!?」

「おう、まだ経験も少ないだろうしな・・・・しばらくのあいだは一刀と二人で俺に着いて副官業務をこなしつつ様々な事を学ばせる」

「でも・・・・それにしたって真名を・・・・」

 

納得がいかない、といった様子だ。まぁ荀彧は名門の出自、特に其の辺は厳しい世界にいたのだからだろう。

 

「華琳・・・・曹操に止められているからアレだがな、なんなら俺は自分の部隊の連中全員に真名を教えたって良いと思ってるぐらいだ」

『えぇ!?』

 

今度は一刀も一緒に驚いている。

 

「そんな風習(もの)よりも俺にとっては一人一人との絆が大事だ、それを繋げるためならばなんだってやってやろうじゃないか」

 

あくまで仲間との絆を優先する、それが夏焔の考え方であり生き様なのだ。

 

「『桂花(けいふぁ)』」

 

ぼそりと荀彧が呟く。

 

「私の真名です、お受け取り下さい夏焔様」

「おう、それと『様』付け無しな・・・・兵士たちはまぁしゃあねぇとしても形式上は同僚なわけだし」

「えっ///えぇええええええええ!?」

「そんなに驚く事か?」

「えと、その、えっと///」

 

頬を赤らめつつもじもじとする桂花。

 

「か、か・・・・夏え」

「桂花ぁあああああああああああ!!!!」

 

空気をぶち壊すように現れた隗が半泣きで桂花へと抱きつく。

 

「ちょっ!?兄さん!!」

「桂花ぁああああ!!!あんまり無茶をしないでおくれぇええええ!!!兄さん心配で心配で心配で心配で心配でもぉおおおおおお!」

「兄さ・・・・ウザイッ!!」

「―――っ!!?」

 

肘打ちの構え、だが問題なのは打点。真っ直ぐに隗の股間へと向かっていった肘は無慈悲にも直撃していた。

 

「ちょっ!!?隗さん、しっかりしてぇえええ!!!」

「ふんっ」

「おまっなんてことをするんだ!!!男のここはそんな手荒に扱っていい場所じゃないんだぞぉおおお!!??」

「ウルサイ!!兄さんだからそれでもいいのよ!!」

「良いわけないだろって!!」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を静かに見守る夏焔。

 

「良いな、新しい世代というものは・・・・」

 

自分だってまだ若い、だが次の若い世代が増えてくれば自分とて老兵となる日も遠くは無い、それ故に自分よりも下の世代たちには期待をしつつ出来る限りの事をしてやりたいのだ。

 

「うっ・・・・あぁあああああ・・・・」

「取り敢えず・・・・」

 

悶絶したままの隗を運ぶ事にした。

 

―陳留城―曹洪宅

隗と桂花を無事送り届けたその夜、自室にて隼と対面していた。

 

「やっぱり戻らなけりゃならないか」

「はい、兄の容態は想像よりも重い様子。場合によっては私が後を継ぐという事も有り得ます」

 

隼の兄司馬朗が流行病に侵され危篤、その報が届いたのはつい五日程前らしくその容態は想像以上に重く明日をも知れぬ身となっているらしい。

 

「夏焔様、私は・・・・」

「隼、敢えて言うがな・・・・」

 

ゆっくりと歩いて、窓を開け放つ。

 

「『曹操軍の軍師』は他にいても『曹洪隊の軍師』はお前だけだと思っている」

「・・・・荀彧嬢は」

「軍師よりも内政官、と見ている・・・・今は軍師を兼任させ戦と内政を結びつかせて動けるように育てたい」

「成程・・・・一つ、宜しいでしょうか」

 

すぅ、と眼を細めた隼。その眼の輝きはまるで狼のようで・・・・

 

「何時、動くとお考えか」

 

隼には自分や、時には華琳にすら見えていないものが見えているのでは無いかと思う時がある。

 

「少なくとも半年、遅くとも一年以内」

「承知、ではこちらもそれに併せて動いておきましょう」

 

ペコリと一礼し部屋を出ようとする隼。

 

「隼」

「?はい」

「張換を連れていけ・・・・念のため、な」

「・・・・お心遣い、感謝します」

 

張換は曹洪隊古参の一人であり武の力量も十人並みなのだが気配を感じる技術が並外れているのだ。

 

「では何れまた・・・・」

「ああ」

 

足音一つ立てずに去っていく隼、が家から出たのを確認してからどこからともなく酒瓶を取り出し盃へと注ぐ。

 

「一人入りては一人去りて」

 

グッ、と盃の酒を呷る。

 

「・・・・存外、寂しく思えるものだ」

 

自らの近くから、人が増えれば減る事もある、乱世再来と言っても過言ではない近頃の状況を見るならば当然と割り切ったつもりではいたのだが・・・・

 

「ふっ・・・・まぁいいさ」

 

喜ぶも悲しむも怒るも、思うがままに感じるとしよう・・・・一度しか無い人生なのだから。



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第四話 顔合わせ、遠征準備

―陳留城―練兵場

賊討伐からの帰還と隼が去ってから一週間、桂花に渡された正式な辞令は『曹洪隊軍師』の肩書きだった、それ故に夏焔は桂花を練兵場へと、曹洪隊兵士の集う場所へと集めていた。

 

「と言う訳で、本日より我が隊の軍師へと正式に就任した荀彧だ・・・・皆宜しくしてやってくれ」

「荀彧よ、宜しく頼むわ」

 

ペコリ、と一礼をする桂花・・・・の猫耳フードがピョコん、と揺れる。

 

『うぉおおおおおお!!!よっろしくお願いしっまぁああああああす!!!』

 

元気よく・・・・普段から有り得ないほどに元気よく挨拶をする。

 

「え!?な、何なの!?」

 

困惑する桂花、騒ぐ兵たちの言葉に耳を傾ける夏焔。

 

「猫耳軍師萌えぇええええ!!!」

「あれが噂のツンデレ軍師か」

「ツンデレとか萌えって何だ?」

「北郷隊長が言ってたんだが天の国の言葉らしい」

「よくわからんがしっくりくるぞこの言葉」

 

ふぅ、とため息を一つ吐き出し一刀の肩を掴んだ。

 

「諸悪の根源はお前か」

「えぇええええ!?俺ぇ!?」

 

ちなみに追記にはなるが一刀は部隊長へと昇格した、街の治安向上の成果を認められての事でありこれは曹洪隊の面々からも歓迎された。

 

「お前ら全員練兵場三十週だ!!」

『うぇえええええ!!?』

 

文句を言いつつ取り敢えず走り出す一同を見送る。

 

「さて、騒がしくてすまないな桂花」

「い、いえ・・・・大丈夫ですが・・・・」

「まぁあれも歓迎された証拠、その歓迎にはこれからの行動で返して行けば良い」

「・・・・はい!」

 

―同日夕方―陳留城―太守府

会議室に集まっているのは華琳、秋蘭、夏焔の主要人物三名。

 

「成程、で留守を春蘭、秋蘭に任せて華琳と俺を主軸に遠征って訳か」

 

事の始まりは朝廷より発せられた勅にある。近頃数を増してきた賊、全員が黄色の巾をまいている事から黄巾賊と名付けられたのだが・・・・今まではこの対応は各地方の刺史、太守、県令などに委任されてきたのだが総数が百万を超えたという情報が入った事により事態を重く見た朝廷側が董卓、盧植、皇甫嵩、朱儁などの将を各方面に派遣、各地の軍勢との連携を密にして事にあたるようにと勅令を発したのだ。

それで陳留軍もそれに即した動きをするために領内警戒と領外へと遠征する軍を編成する事に決まったのだ。

 

「ええ、そうよ・・・・守備及び陳留近域の警戒を秋蘭を中心として春蘭、景、隗、煉次、円楽で、遠征軍を私、夏焔、季衣、桂花、一刀で行うわ」

 

護りを古参中心で、攻めを新人中心で、ならば新しい人材を登用する事も考えているんだろう。

 

「ならば発表は早い方が良いだろうな、遠征に連れて行く兵士たちも長く家族と離れる事になる・・・・」

「そうね、ならば明日朝一で発表して頂戴」

「了解だ・・・・連れて行くのは・・・・俺の隊と虎豹騎(華琳の親衛隊)、後は・・・・新兵が500か?」

 

曹洪隊が500、虎豹騎が200、新兵が500で併せて1200・・・・現地登用などをする事を考えたならば最終的にはもう少し増えている予定だろう。

 

「そんなところね、多少春蘭と隗がゴネるでしょうが・・・・」

 

まぁあの春蘭(華琳命)(妹命)は最悪他の連中に抑え込ませよう。

 

「季衣の調子はどうだ秋蘭」

 

季衣の育成は春蘭と秋蘭で担当していたはずだが・・・・

 

「う・・・・む、武に関しては問題無い。姉者との鍛錬で洗練されつつある・・・・が問題なのは指揮傾向までそれに引きずられつつあるという事で・・・・」

「それは拙いぞ」

 

春蘭は放置していると「全軍一丸となって突撃すればなんとかなる」と言わんばかりの猪思考で戦う傾向がありそこに頭を悩ませている・・・・のだが季衣までそんな猪になられてはかなわない。

 

「仕方無い、遠征中に桂花と一緒に軍学講義をしておこう」

「うむ、頼む・・・・私はどうも教えるのが苦手なようでな」

 

苦笑する夏焔と秋蘭、そこで華琳が咳払いをする。

 

「此度の遠征、各将の実力向上や兵の練度向上、経験を積ませる機会となるわ」

「この後に待ち受けるは乱世か?」

「ええ、十中八九来るわね」

「それに備えたいってわけか・・・・将、兵どれほど揃えたい」

 

それによって自分の動きも変わってくる、と夏焔は見ている。特に将は数多く求められるならば色々と動き回らねばならないだろうし、少なく求められるならば腰を据えて今いるメンツに数人を加え鍛えなければならないだろう。

 

「来る者拒まず去る者追わず、かしらね」

 

増えるならばそれでも良し、離れる者がいるならばそれも良し・・・・つまりはその時その時で対応しろという事だ。

 

「じゃあ遠征軍の詳細な編成と発表は任せるわ」

 

華琳は華琳で他の仕事もあるのだろう、太守自らの遠征という事で不在中の対応も考えなければならないのだろうし。

 

「・・・・」

 

しかし、予感があったとは言え流れが早い・・・・何か得体の知れない力でも働いているかのような・・・・

 

「・・・・いや、今は良いか」

 

間違い無く乱世は近づいているのだ、そんな時に余計な事を考えていれば何時命を落すかもわからない・・・・今は今の事を考えよう。

 

「・・・・良し・・・・行くか」

 

取り敢えずは一刀と王忠、牛金あたりに出兵準備をさせて・・・・と遠征の事に考えを集中させるのだった。



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第五話 再会、新たなる出会い

―陳留南部―

陳留を出立した遠征軍、出陣の時にやや揉めたものの(主に春蘭と隗が)それ以降は賊との遭遇も無く後少しで許昌との境というところまで進んできていた。

 

「賊、ここら辺にはいないのかな」

「そうね、領内にはいないのかしら」

 

轡を並べる一刀と桂花が周囲を見ながら呟く、この二人当初は仲が悪そうに見えたが何かお互いに共感出来るところがあったらしく今では共に鍛錬と勉学をこなし一刀が鍛錬を、桂花が勉学をそれぞれ教え合いながら良き好敵手として研鑽しあっている。

 

「油断はするな」

 

基本、賊に兵法などは関係無い、となると常に無軌道で常道は無し、気を抜けない状況ではあるのだ。

 

「まぁ良いじゃない」

 

後方から名馬絶影に跨り華琳が追い縋ってくる。

 

「どうした、わざわざ中軍を離れて」

「今斥候が戻ってきたわ、この先の中牟城で義勇兵らしき一団が囲まれているらしいわ」

「・・・・助けるんだな」

「ええ、貴方の500で東と北をお願い。南は攻められていないらしいから西を私と季衣でなんとかするわ」

 

ふぅ、とため息をつけば息を大きく吸い込んで。

 

「全軍聞け!!!」

 

夏焔の掛け声に1200の兵全員がピシッと居住まいを正す。

 

「この先の小城にて義勇兵の一団が賊に囲まれている!我々はその援護、及び救援に向かう・・・・出征後最初の戦だ、初めての者もいるだろう・・・・だが怯えるな!!諸君がこれまで積んだ鍛錬を思い出せ!!臆せば死すぞ!!!勝って隣人を護り故郷の家族の下へと帰るのだ・・・・全軍・・・・進め!!!」

『応!!!』

 

殆どが歩兵で構成される一軍ではあるがその速度が自然と上がり始める。

 

「良し、一刀!俺に付いてこい、桂花は華琳の補佐に付きつつ間断なく情報を流してくれ!」

「わ、分った!!」

「御意!!」

 

華琳の下へと馬を走らせる桂花を見送れば一刀へと振り向く。

 

「行くぞ、一刀・・・・死ぬなよ?」

「俺の師匠は死ぬような鍛え方したのか?」

「・・・・してないな、なら行くぞ!!」

「応!」

 

曹洪隊は騎馬のみの500、駆け出せば矢の如く城を攻める賊の背後を突き始める。

 

「一刀!200をお前に任せる、上手く動かして東門から城内へ入れ!!」

「っ!!」

 

これは一刀への試練、以前一刀には文官としての道を示した事があった。その適正があったと思ったしその方が良いと感じたからだ、しかし武官の道を選んだ・・・・ならばその道を支えてやろうと様々な鍛錬を施し試練を与えてきた、これはその総仕上げだ、この程度の相手で手間取るようならば武官として生きていくのはハッキリいって無理だ。

 

「分った・・・・」

「良し、なら牛金と200連れてけ!」

「ああ!!」

 

牛金と共に東門へと向かう一刀の背を見送る。

 

「ここが正念場だ、一刀・・・・」

 

一刀ならば成す、そう信じ夏焔は正面、北門へと眼を向ける。賊の数は200程度、指揮官はここにはいないようだ・・・・対する義勇兵は一人の少女を基軸にかろうじて護りを保っている様子。

 

「良し、合図で突っ込む・・・・王忠」

「はっ!」

「突撃後の合図で賊を引っ掻き回せ、無理に討つなよ?追い散らすだけで良い」

「御意」

 

王忠は部隊長として優秀だと思っている、こちらの指示に異論を挟まず任務を確実に実行する。

 

「ならば・・・・行くぞ!!!」

 

右手に構える大刀を一度振り上げてから思いっきり下ろし、自身もその勢いで突撃して行く。

 

―半刻後―

曹洪兵に背後から突撃された賊は既に統制を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っている、他の東門と西門も同じようなのだが不思議だったのは南門が一切攻撃を受けていなかったというところだろうか。

 

「あの」

 

東門が無事制圧された、という報告を聞き安堵した頃に北門の義勇兵の指揮を取っていた銀髪おさげの少女が駆け寄ってきた。

 

「どちらの軍勢かは存じ上げませんがご助力、感謝致します」

 

深々とお辞儀をしながら謝礼を述べて来る、真面目な娘だという印象だ。

 

「構わない、俺は陳留太守曹操の配下曹洪だ」

「え?あの曹洪将軍ですか・・・・?」

「どの、かは知らんが曹洪だ」

 

なんでだろう、目の前の少女は眼を輝かせている。

 

「お噂は聞いております!厳格で冷静な知将でありながら兵たちの先陣を切る猛将でもある知勇兼備の良将だと!!」

「むず痒いな、そこまで手放しで褒められると・・・・そこまででも無いとは思うが・・・・」

「いえ!今の戦いを見て噂は真実だったのだと確信いたしました!」

 

何だろう、このノリは・・・・嫌いじゃないが。

 

「そ、曹洪将軍!お願いがあります!」

「?何だ?」

「そ、その・・・・私を!弟子にして頂けないでしょうか!!」

 

―一刻後―中牟城太守府

どうやら中牟の太守は黄巾が攻め入ってくるなり私財を持ち出し正規兵を護衛に連れ逃亡したらしく、元々この地で旗揚げするつもりだった義勇兵たちが残った民たちの力を借りて防衛を行っていたらしい。

義勇兵の数は400弱で指揮官は四名。

 

「此度の救援、誠に感謝致します!」

 

一人は夏焔に何故か心酔している銀髪おさげの少女、楽進。

 

「いやー、ホンマ危なかったで。おおきに」

 

一人は攻撃の無かった南門を固めつつ他の門を援護していた少女、李典。

 

「本当にありがとうなの」

 

一人は西門で四苦八苦しつつ民との連携を上手く取っていた少女、于禁。

 

「あっれぇ?華琳と夏焔兄じゃん」

 

一人は東門に現れた一刀の隊と初見とは思えぬ連携を取って見せた少女・・・・と言うか出奔していて行方不明になっていた曹洪の従妹曹仁―冬莉(とうり)だった。

 

「何故こんなところにいる冬莉!!」

「もー、良いじゃないのぉお互い無事に会えたって事でぇ」

「私も、詳しい話を聞きたいわね冬莉」

 

当初はのらりくらりと夏焔の説教を躱していた曹仁―冬莉も華琳が加わるとそうもいかないらしく、大人しく説教を受け、再び曹操軍に戻る事を約束した。

 

「あ、そーだ・・・・この娘らも一緒に連れてってダメかな?」

「その三人娘を?」

 

冬莉の背後に控えていた楽進、李典、于禁を順に見ていく。

 

「うん、この娘ら鍛えたら強いと思うんだー結構あたしも助けられてるしぃ」

「ふむ」

 

冬莉の人を見る眼は一族の中でも華琳と並ぶ程だ、それに先の戦いで楽進の力量はわずかながら垣間見ている。連れて行くにも十分な戦力となると思う。

 

「華琳はどう思う」

「私は構わないわ、むしろ歓迎するべきね」

 

その一言で全てが決した。

 

―夜―

伝令を飛ばし中牟には煉次と兵1000が駐屯する事が決まった、ので取り敢えずは煉次が到着するまでは滞在することになる。

 

「改めて、宜しくお願い致します師匠!!」

 

楽進―凪はビッと敬礼をしながら目の前に起立している。

 

「ああ、が・・・・師匠というのはどうにかならないか?」

 

凪を弟子にすることには異論は無い、一刀も一端の武官としてやっていけると判断したから手空きだ。

しかしその呼ばれ方はむずがゆい。

 

「では何とお呼びすれば・・・・」

「俺の真名、預けたろ?そっちで呼んでくれれば良い」

「そんな!私如きが師匠の真名をお呼びするなど・・・・」

 

今日だけで分った事だが凪は真面目だ、だが・・・・それがちょっとした壁に感じてしまう事もあるかも知れない、だからこの壁だけはとっぱらいたいのだ。

 

「凪」

「?はい」

「確かに俺とお前は師弟だ、だがそれ以上にこれからは背を預け共に戦う戦友だ」

「戦・・・・友」

「その背を預ける戦友に真名を呼んで欲しい、それは不自然な事か?」

「い、いえいえいえ!そのような事は!決して!」

 

首が取れるんじゃないかというような勢いで首を横に振る凪。

 

「では真名で」

「え、えと・・・・夏焔・・・・・・・・・・・・さん」

「ま、及第点か。改めて宜しくな凪」

「はい!」

 

がしっと握手を交わすとそこに桂花が歩み寄ってきた。

 

「夏焔、ご無事で何より・・・・」

 

多少、ぎこちなくではあるが桂花は『夏焔』と呼んでくれるようになった。多少ではあるが進歩した事は嬉しく思う。

 

「凪、改めて紹介しておく・・・・曹洪隊の軍師、桂花と・・・・」

 

ぐるりと首を横へと向ける、向こうでは一刀が李典―真桜と于禁―沙和、季衣にちょっかいをかけられまくっている。

 

「あれが部隊長の一刀だ」

「確か東門、冬莉の援護をしていた・・・・あの方はお強いのでしょうか?」

「武の力量はお前よか格段下だ、が・・・・指揮に関しては二段程上だ、互いに学び合い競い合い高め合え」

「・・・・はい!」

「ほら、交流を深めてこい」

 

そういって桂花と凪の背中をトン、と押し出すと二人並んで歩いていく。

 

「・・・・存外、あの二人は相性が良いかも知れないな」

「そうよねぇ」

「その見立ては間違ってはいないわね」

 

いつの間にやら両脇に並んでいた冬莉と華琳が同意を示す。

 

「あれらがこれからの曹操軍の中核を担うべき若手たちだ」

「あら、その言いようだと楽隠居でもするかのようね」

「あらまぁ、夏焔兄は隠居ですかぁ?」

 

からかうように笑う二人。

 

「バカを言え」

 

それを一蹴するように笑う夏焔。

 

「俺は死ぬまで現役だ、この先五年後も、十年後も、50を越えても、100の爺になろうが・・・・命ある限り現役で居続けるぞ俺は」

「らしい台詞ね、それでこそ四天王筆頭」

「なんだそれ?」

「さっき決めたのよ、貴方を筆頭に春蘭、秋蘭、冬莉の四人で四天王」

 

春蘭が攻め、夏焔が万能、秋蘭が遊撃、冬莉が護りとそれぞれ特色を持った四将をこれからの主軸にする、という事らしく。

 

「今のところはまだ一武将として動いてもらうけれどもいずれは各方面の長として動いて貰うわ」

「ふむ・・・・となると」

 

視線をゆっくりと、目の前にいる冬莉に向けてから陳留城の方角へと向ける。

 

「二人、色々と仕込まなければならないか」

「そこは頼むわ、手厳しくね」

「えぇー」

 

不満げな表情の冬莉の頭をくしゃくしゃと撫で始める。

 

「適度に鍛えてやる、覚悟する事だ」

「うへぇー」

「ふふふ、二人共しっかり頼むわ」

 

皆が皆、笑い合っている・・・・こんな時間が続けば良いのに・・・・そう思った日の事。




四天王の真名が春夏秋冬なのは春蘭と秋蘭の真名から連想して決めました。


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第六話 煉次らしさ、夏焔の話

冬莉、凪、沙和、真桜の四人が加入して五日が経った頃、この城に3000の賊が接近しているとの情報が入った。

 

「義勇兵を併せても1500弱、兵力差は二対一か」

 

やや慌て気味な季衣、凪、沙和、真桜や深刻そうな顔をする桂花、一刀、冬莉を横目に夏焔は平然と呟いた、そんなものかと言わんばかりに。

 

「どう出る?華琳」

「護りね、その上で徐々に相手を削りつつ指揮官を釣り出し討つ」

「じゃあそれだな」

 

華琳と夏焔のやり取りを他のメンツは呆然と見ている、こちらは新兵、義勇兵を含む1500であり昨日の戦闘により壊れた城壁の修理も完了していない、対する相手はこちらの倍数であり信仰の下に士気旺盛、こちらの不利は明らかなのに。

 

「んじゃ配置決めるぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

そこでようやく、桂花が口を挟む。

 

「どうして、そんなに落ち着いていられるんですか?不利な状況は目に見えているはずです!」

 

桂花の切実な訴えに、頭をボリボリとかく夏焔。

 

「じゃあ逆に一つ聞くが桂花、お前はここで死にたいのか?」

 

そう問いかけた夏焔の眼は酷く冷たいもので・・・・

 

「死にたいならば喚いていろ、だが生きたいならば戦え。少なくとも俺や華琳は座して死を待つつもりは無い、あと半日ぐらいで煉次も到着するだろうしな」

 

ハッ、として顔を上げる桂花。

 

「同じ死ぬなら限界まで抗え、『死』に対して、凄絶にな」

 

―二刻後―南門

東門を一刀と桂花が兵400、西門を華琳と季衣、冬莉が兵500、北門を凪、真桜、沙和が兵400、そして南門を夏焔が兵300で護る事になった。

 

「他の状況はどうだ」

 

眼前では1000程の賊を200程が門という狭地を上手く活かして少しづつ賊の数を削っている。

 

「北門が少し不利です」

「牛金、100連れて北の援護に向かえ」

「御意」

「王忠!西門の状況を見て余裕がありそうだったら100、東門に送るように言え!」

「承知」

 

兵力で負ける現状、夏焔が行っているのは四門の危機の均等化だ。報告では煉次が後半日程度で到着スるはず、ならばそこまで耐え切れば状況を見た煉次が上手く四方を背後から急襲するはずだ。

 

「南門に援護は割り当てられないか」

 

大刀を右手に持ちゆっくりと歩を進める。

 

「お前ら下がれ!!四半刻の間俺が一人で抑える、その間に休息を取れ!」

『応!』

 

優秀で、自分には過ぎた部下たちだと思う。ここに残る200は最古参の曹洪兵、旗揚げ当初から付き従って来た彼らは自分の命令に異論を挟まず全力でそれを遂行する、自分が死ねと言えば迷い無く死んでみせるだろう、そんな奴らだからこそ―――。

 

「さぁ・・・・この首!欲しければかかってこい!!!」

 

その期待には答えねばならないわけで。

 

―中牟北部―

中牟城へと駐屯、その命令がくだされて直ぐに建築資材を荷駄に組み込み進発したのが五日前。

 

「急げ急げ急げぇ!!!」

 

中牟城襲撃の報を受けたのがつい先刻、煉次は荷駄管理の200を切り離し残る800を全速力で行軍させていた。

 

「ま、満寵様!!これ以上の速度は無理です!脱落者も出始めていますし・・・・」

 

強行軍を諌めようと先日、満寵の副官に昇格したばかりの郭淮が帽子が飛ばないように抑えながら追い縋る。

 

「・・・・覚えときな郭淮」

 

普段から女性に声をかけてばかりで、滅多に聞くことのない煉次の真剣な声に郭淮が口を噤む。

 

「俺が一番怖ぇのは・・・・『出来たはずなのにやらねぇ』事だ」

 

既に煉次の視界には中牟の城を囲む賊の姿が映り始めている。

 

「ここで仲間や後輩や、大恩あるあの人見殺しにしちまったら『満寵』って将は、『煉次』って一人の人間は死んだも同然なんだよ!!」

 

腰に下げた長刀を引き抜き、眼前へと掲げる。

 

「眼前で窮地にある友を、仲間を、隣人を、家族を助けるぞ!!!突撃ぃいいいいい!!!」

『うぉおおおおおおおお!!!!!』

 

自ら先陣を切り突撃していく満寵の姿、を見て郭淮は戸惑う。何時もの飄々とした満寵と今の苛烈で厳格な満寵、どちらが本当の満寵なのだろうかと。

 

「・・・・今は・・・・!」

 

だが直ぐにそれを拭い払う、満寵の言う通り目の前の敵を討ち味方を救う事が優先だ。

 

―中牟城―

結果として救援は間に合った、負傷者は多いものの死者は無く、賊のほとんどを討ち取る事に成功した・・・・のだが。

 

「頼んますから大将、あんま無茶しねーで下さいよ」

「本当です!夏焔様にこれ以上何かあったら私・・・・」

「師匠、本当にご無事で何より・・・・」

 

最終的に、兵を全員他の援護にまわして一人で南門を護っていた夏焔。怪我も傷は浅いものばかりで大事には至らなかったのだが周囲の人々にかなり心配され、心配させた罰として呼び方の大多数を元に戻されていた。

 

「ま、心配って心配はしてなかったけどさ」

「一刀」

「そうですよねぇ、殺しても死ななそうですし夏焔兄は」

「冬莉」

「こんなところで死ぬようなら四天王筆頭になど指名はしないわ」

「華琳」

 

「ってわけで!」

『ん?』

 

ちょっとしんみりした空気になりつつあったその場、だったのだがその空気をぶった斬るように煉次が声を上げる。

 

「物資に酒も持ってきたんでぇー・・・・酒盛りだぁ!!」

『うぉおおおおおお!!!』

 

―夜―

何故か本城から春蘭、秋蘭までが参加した大宴会。城の護りは?と春蘭に聞いたら「隗と円楽、景に全て押し付けてきた」との事、秋蘭に更に聞けば「ちゃんと他の文武官に指示は出してきたから大丈夫だろう」との事だ。春蘭の言葉は信用ならないが秋蘭の言葉は信用出来る。

 

「そーいやすっかり忘れてた、大将!これ鍛冶屋のおっちゃんに頼まれてたモンっす!」

 

煉次が不意に思い出し、刃の部分を布で来るんだ長柄の武器を夏焔へと投げる。

 

「・・・・やっとか」

 

それをぞうさもなくキャッチする夏焔。

 

「新しい武器です?どないなんか興味あるなぁ」

「パッと見て大刀では無いようですが」

 

真桜と凪が興味深そうに、覗き込んでくる。

 

「ああ・・・・大刀じゃ無くて・・・・」

 

シュルシュルと布を剥がしていくと新品らしい輝きを放つ刃と刃の付け根に巻かれた群青の布が姿を現す。

 

「『矛』だ」

 

今までの大刀は「斬る」事を重視した武器だが今度の矛は「斬る」「突く」「払う」を自由に行える万能型の武器、徒歩と騎馬を兼用する夏焔が両面で自由に戦えるようにと選んだのだ。

 

「鍛冶屋のおっちゃんからの伝言で銘は『彗龍』だそうで」

「成程・・・・そういやぁおっちゃん引退するってのは」

「はい、それが最後の作。店ぇたたんで幽州の息子のとこ行って馬飼い手伝うとかで」

 

華琳の鎌や春蘭の七星餓狼、秋蘭の弓、煉次の長刀、円楽の狼牙棒を作ったのもその鍛冶屋だ。

 

「ふふふふふ・・・・ハハハハハハハ!!!」

 

突如、笑い出した春蘭に、大半が首を傾げ一部が嫌な予感を抱く。

 

「折角新調した武器だ!その試し斬りに私が!付き合ってやろう!!!」

「・・・・本音は?」

「お前をぶった斬りたいだけだ夏焔!!」

 

面白いほどすっぱりとした理由だ。

 

「まぁ良い」

 

彗龍を肩に担いで歩き出す。

 

「場所開けろ!!」

 

そんな夏焔の掛け声に兵士たちがほぼ一斉に動く、筆頭武官の夏侯惇と鬼教官曹洪の一騎打ち、曹操軍の武官二枚看板の戦いを、兵士たちも見てみたいのだ。

 

「ふふふふふふっ覚悟は良いか!!」

「それはこっちのセリフだ、筆頭武官の看板下ろす覚悟はできてるんだろうな」

 

二人の浮かべる笑いに、周囲の殆どが凍りつく。本来笑うという表情は攻撃衝動に基づいていると言う。

 

「華琳はどっちが勝つと思う?」

「そうね・・・・夏焔に1000銭」

「大きく出たわねぇ、じゃあ春蘭に500銭」

 

二人の賭けに全員が驚きを見せる、てっきり華琳が春蘭に、冬莉が夏焔に賭けると思っていたからだ。

 

「ね、ねぇ煉次。貴方は・・・・」

「無論大将だな、100銭で」

「しゅ、秋蘭様は・・・・」

「夏焔だな、300銭」

 

結果的に華琳、秋蘭、煉次、一刀、桂花、凪が夏焔に合計1800銭を、季衣、冬莉、沙和、真桜が合計1500銭を春蘭に賭ける事になった・・・・のだが。

 

「っぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

猛将夏侯惇の攻め、魏武の大剣の名は伊達ではなく並の将程度ならば一合で討てるであろう豪撃が既に何十発も叩き込まれている。

 

「初動悪し、切り返し悪し、足運び悪し」

 

それに相対する鬼教官曹洪の護り、最小限の動作で春蘭の刃を受け流し、回避し、防ぎつつ事もあろうに悪い部分を指摘している。

 

「春蘭、お前は確かに強いが・・・・細かい動作にムダが多すぎる」

「くっ!!」

「無駄な動作が多いから一撃が雑になり当たらなくなる、今は未だ良い・・・・お前は自分より強い敵とあたってはいないからな」

「ァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

神速の斬撃、ほぼ同時に両側から襲いかかるその攻撃を屈んで回避し・・・・

 

「だが今のままでは何れ壁に突き当たるぞ、夏侯惇」

 

夏焔の(きっさき)は、春蘭の喉を確実に捉えて寸止めされていた。

 

「それまで、ね」

 

パン、と華琳が手を叩き一騎打ちの終わりを告げる。

 

「今の一騎打ち、それを見た感想を述べなさい・・・・そうね、一刀と凪、それと桂花」

 

夏焔が今現在育てている知将、猛将、軍師の三名に感想を求める華琳。

 

「実は夏焔、まだ本気じゃ無い?」

 

コレは一刀。

 

「そうですね、かなり冷静、どころか・・・・まるで稽古でもつけるかのようでした」

 

一刀の感想を受け凪が続ける。

 

「そうね、しかも本来夏焔様は春蘭よりも更に数段上、違いますか?」

 

それを桂花がまとめあげる。

 

「正解、そう・・・・本来ならば夏焔の方が武の力量は総合的に上」

「ならなんで筆頭武官が春蘭なんだ?」

 

一刀の疑問、に答えたのは夏焔だ。

 

「俺の武が頭打ちだからだよ」

 

背後から桂花と凪の頭を撫でながらそう言う。

 

「それって・・・・」

「俺の武の力量は数年前から推移していない、現状春蘭にも少しづつ迫られている状況だ」

 

夏焔だって男である、武の才能を持って生まれた以上猛将として名を成したいと躍起になったものである。だが才能の頭打ちがそれを許さなかった、故に方向転換をせざるを得なかった、元々曹操軍には万能型がいなかった事もあったからこそ今の『曹洪』は完成したとも言えるのだ。

 

「それに比べ春蘭はまだまだ登り始めたところだ、俺よりも若い。基礎能力もずっと上だ」

 

天性の才能、とでも言うべきか。基礎能力だけは決して夏焔が上回る事は無かった、あくまで力量一つで春蘭を制しているのだ。

 

「荒削りだが磨けば何者にも負けぬはずだ・・・・そしてそれはお前らも一緒だ」

 

その視線は、一刀、桂花、凪だけでは無く秋蘭、冬莉、季衣、真桜、沙和、煉次らにも向けられている。

 

「俺はお前らを全力で鍛え上げる、だから付いて来て見せろ」

『はい!!』

 

元気よく返事をする一同、に背を向け歩き出す煉次。

 

「煉次」

「分かってますって、ただ・・・・俺は適度に頼みますわ。何かと忙しいですしね」

 

ヒラヒラと、背を向けたまま手を振る煉次。

 

「あの方は・・・・」

「全く、やる気の無い・・・・」

 

少し、不機嫌そうに言う凪と桂花。

 

「言ってやるな二人共、あれは・・・・」

「自分でもやることがあるから、という事かしらね」

 

微笑みながら言う華琳。

 

『?』

 

それに全員が首を傾げた。

 

―――

 

「満寵様」

 

歩く煉次に郭淮が追い縋る。

 

「郭淮」

「?はい」

「お前に俺の真名、煉次の名を預ける」

「!?」

「そしてお前に俺の全てを教え込む、無論俺も鍛え学びながらだから全力で追い縋れ」

 

その眼は何時ものでも、先の戦場で見たものでも無い、強い覚悟をおびた眼だ。

 

「・・・・私の真名は、水華(すいか)と申します」

 

バサリとかぶっていた帽子を外し胸元へと持ってくる。

 

「以後、改めて宜しくお願い致します」

 

帽子が外れた事によってまとまっていた透き通るような青髪がフワリと風になびく。

 

「・・・・・・」

 

ポカン、とした表情で水華を見る煉次。

 

「?何か・・・・」

「お前・・・・女だったのぉぉおおおおおおおおお!!?」

 

今日一番の雄叫びが、中牟城内に響き渡ったのだった。



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第七話 欲と実、夏焔の鬼気

中牟の城を出て四日が経つ、領内の事は残ったメンツでも十分との判断が下されると春蘭、秋蘭も遠征に随行が決まり。そして・・・・

 

「どうしてこうなったし」

「ま、まぁ煉次様気を取り直してください」

 

中牟の城には景が派遣され煉次と水華も遠征軍に随行させられる事になった、因みに同時刻、陳留の太守府で隗が全力で頭を抱えながら「むーりぃいいいいいいいいいい!!!」と叫んだらしい。

 

「夏焔、入ってきた情報を」

「ああ・・・・現在地は此処、許昌の東だ」

 

広げられた地図の一点を指差す。

 

「現在官軍と黄巾の激戦地は三つ」

 

ススッと指を動かす。

 

「先ず南部は汝南、朱儁率いる8万が馬元義率いる7万とガッチリ組合って両者動けずにいる。また此処には孫策、劉瑤、王朗、劉表ら南部諸侯が参戦している」

 

大陸南部、荊州、揚州の諸侯が主に参加するこの戦場は動きを見せずにいる、孫策が何かやっているらしいがそれらしい成果は未だ見られない。

 

「続いて北部は渤海、皇甫嵩率いる6万が張燕率いる8万と激戦を繰り広げている。此処には公孫賛、孔融、劉虞、鮑信ら北部寄りの諸侯と劉備と言う者が率いる義勇軍が参戦している」

 

幽州の公孫賛、劉虞に青州の孔融、鮑信らに加え公孫賛の学友だったという劉備が率いる義勇軍。本来決してまとまりがあるわけでは無いがそこは皇甫嵩が上手くまとめているらしい。

 

「最後に中央は頴川、盧植率いる5万が天公将軍張角率いる10万と接戦を繰り広げている。此処には袁紹、董卓、袁術、劉岱、孔伷、丁原らが参戦している」

 

盧植は軍学者であり他の方面の二将より優秀だ、董卓配下は優秀な騎兵が多く、袁紹、袁術は単純に兵数があり、他三諸侯に関しては実力は並だが粘り強い戦い方をする。

 

「どこに出る?」

「そうね、秋蘭、桂花、煉次・・・・意見を」

 

華琳の指名を受ければ先ずは秋蘭が前へと出る。

 

「名を売る、という意味でならば南部でしょうか。局面を動かし、尚且つ戦功を挙げ易い状況下ではあります、未だ他が動いていないのですから」

 

秋蘭が意見を述べると続けて桂花が口を開く。

 

「同じく名を売るならば激戦故に泥沼化しつつある北部かと、何より北には決定的な武名を持つ将は少なく我が軍の割り込む余地も十分あると思われます」

 

桂花の口上が終わると、ようやく煉次が口を開く。

 

「名を売るために動く必要は無し、最低限の手段と目的を達成さえすれば良い」

 

そう言って指差したのは中央、頴川だ。

 

「元々俺らの目的は黄巾の乱の鎮静のはずだ、ならば首魁張角を討つように動くべきだ。それにこちらが成すべきを成したならば名は着いてくる、違うか?」

 

名を売る事を前提に動けばそれは周辺の、私利私欲で動いている連中と同じになってしまう。今後の事を考えるならばそれらと陳留軍は違う、と明確に周囲に喧伝しなければならないのだ。それを考えるならば余計な功績には目もくれず、ただただ乱の中核である賊の首魁の首一つを狙う、それが上策だと煉次は考えたのだ。

 

「む・・・・」

「あ・・・・」

 

秋蘭も桂花も、そこでようやくその考えに至る。

 

「欲を前面に押し出せば要らぬ落とし穴に陥る」

 

今の今まで口を挟まなかった夏焔がここで口を挟んでくる。

 

「誰かを護りたい、とか誰かの役に立ちたい、とかそんな欲なら良い。だが名誉欲、自己顕示欲に囚われれば要らぬ迷いを生み、要らぬ後手を踏み、最後には要らぬ最期を遂げる事となる」

 

夏焔は今の立場になるまでに、様々な場所を巡り、様々な人物の下、様々な戦場で戦ってきた。強き者も弱き者も見てきた、そして得てして力有る者は要らぬ欲でその身を滅ぼすものだ。

 

「心せよ、華琳のためを思うのは結構。だが全体を見回せ、今必要なものが何であるかを見失うな」

 

―許昌北部―

方針決定から一週間、付近の賊を片付けつつ今や最激戦区へと変動した頴川へと曹操軍は向かっていた。

と言うのも北部の張燕と南部の馬元義がそれぞれに討たれ、主将を失った黄巾賊が頴川の本隊へと一斉に合流し天公将軍張角の本隊は既に20万規模に膨れ上がっている。

対する官軍も朱儁、皇甫嵩の両将は残存する黄巾崩れの掃討のために動く事が出来ず、一部の諸侯と軍勢だけを派遣するに留まっている。更に中央主将であった盧植が洛陽にいる宦官の最高権力者集団である十常侍の不況を買い更迭、現在は董卓が指揮を取っている状況であった。

 

「三軍で最小数の軍勢で黄巾本隊を抑えていた盧植を更迭とは・・・・」

「仕方無いでしょう?十常侍は自分の身が可愛いバカの集まりだし何進は所詮肉屋なのだから」

「歯に衣着せない物言いだな、正しくその通りなのだろうが・・・・」

 

と、かなり堂々と中央批判をする華琳と夏焔、のやり取りをハラハラしつつ聞いている周囲。

 

「斥候より、この先で官軍と黄巾が戦闘中!」

 

笑いながら話をしていた二人の表情が一変する。

 

「旗は」

「劉、孫・・・・それと袁・・・・旗色からすると袁術かと」

「劉と孫は劉備と孫策ね、何故袁術がいるのかはわからないけれども・・・・」

「恐らく袁術軍が襲われていたのだろう、劉備軍は知らんが孫策軍は隣領である事と恩を売るために加勢したのだろう・・・・戦力比は」

「劉、孫、袁が一万弱、黄巾が三万」

 

兵力差は三倍・・・・なのだが。

 

「袁術や劉備はともかく孫策がいて手間取るとも思えん」

「あら、面識あるの?」

 

夏焔が不思議そうに言うのを聞いて華琳が問いかけた。

 

「ああ、放浪時代に・・・・仕えないか、とも言われたがな・・・・」

「断ってくれたのね」

「当たり前だ、既にその時点でお前に従う事を決めていたのだからな」

「ありがとう、まぁという事は貴方が認めるのだから実力はあるはずだから・・・・他二軍が足枷なのかしら?」

「恐らくはな・・・・華琳」

 

加勢させてくれ、そう夏焔が言おうとした瞬間に・・・・

 

「加勢するわよ!春蘭、夏焔が先陣を切りなさい!!」

 

少しだけ、驚いたような顔をしてからフッ、と笑う夏焔。

 

「ああ、お前はそういう奴だよ」

 

普段は利を好むこの少女、だが時に利が絡まぬ時にまで首を突っ込む事もある。条理も不条理も併せてしまうのが華琳という少女なのだろう。

 

「着いてこい凪!!袁術の救援に回る!!」

「来い秋蘭!!ともかく黄巾を討って回るぞ!!」

 

恐らく袁術兵は袁術の行方が乱戦でわからぬ故に統制が取れないのだろう、ならば見つけてしまえば良い。なによりとある事情から袁術の顔は知っている。劉備、孫策への加勢は春蘭を中心とするだろうから自分と凪が中心になって袁術を見つけ、袁術軍を立て直せば良い。

その思惑で夏焔、一刀、凪、桂花、煉次、水華は兵300で、華琳、春蘭、秋蘭、季衣、冬莉、真桜、沙和は乱戦地区へと突撃していった。

 

――――――

 

「袁術様!!早くお逃げ―――っああああああ!!!」

「ひっ!?」

「袁術様!こちらへ!!」

 

本隊と離れた袁術は、残る僅かな護衛に護られながら戦闘区域を抜け出そうとしていた。しかし如何せん身なりも立派で容姿も良い袁術を賊が見逃すわけも無く、一人また一人と護衛は討たれていく。

 

「けけけ、コイツを捕まえてったら褒美がたっぷりでそうだなぁ」

「ってか可愛いじゃねぇか、上に差し出す前に俺らで楽しんでも・・・・なぁ?」

「だよなぁ・・・・くくくくくっ」

 

既に護衛は無く、周囲は賊だけ。捕まったら何をされるかわからない、だが抗う術も無い、袁術はただただ恐怖するばかりだった・・・・

 

「ほら来いよ!!」

「い、嫌じゃっ・・・・誰か・・・・誰か・・・・!!」

「誰も来ねぇよ!!」

「・・・・・・・・・・せ」

 

僅かに聞こえた声に、袁術に手をかけた賊が首を傾げた瞬間だった、手首から先が宙に舞う、今までそこにあったはずの手が。

 

「その手を離せ・・・・下衆が・・・・」

 

既に一刀と煉次、水華が袁術を庇い下がらせ、桂花が部隊を指揮し、凪が片っ端から賊を蹴散らし始めている。

 

「なっ!!?何だコイツラ!!!」

「構う事ぁねぇ!!こっちのが数が上なんだ!!あの嬢ちゃん奪い返せ!!!」

「他にも上玉がいるみたいだしな、そっちのも捕まえなぁ!!!」

 

先ずは目の前の男を殺そう、そんな軽い意気込みで飛びかかった賊たち。

 

『コロスゾ』

 

どこまでもどす黒い殺気をまとい、奈落の底より響くような低い声、どこまでも粘り付き付きまとう殺気に賊たちは片っ端から気絶し、味方の兵ですらその身より放たれる鬼気に或は竦み、或は膝を付いていた。

 

「落ち着け大将!!」

「師匠、己を見失わないでください!」

「夏焔!!」

「夏焔様!!」

 

そんな中動けたのは煉次、凪、一刀、桂花の四人だった。腰に凪が抱きついて両腕を煉次と一刀で抑え、真正面に桂花が立ち塞がる。

 

「・・・・っ・・・・俺は・・・・・そう、か・・・・スマン。手間をかけたな」

 

ようやく正気に戻った夏焔、周囲を見回せば既に他も決着が着いた様子だった。

 

―許昌北部―野営地

曹操軍首脳陣に加え劉備、孫策両軍の主要人物と袁術とその側近張勲がその場に集まっていた。

 

「本当に感謝するわぁ、あそこまで戦場がグチャグチャだと暴れようが無いもの」

 

ケラケラと笑いながら礼を言うのは孫策、褐色の肌と桃色の長髪が特徴的な女性。

 

「ありがとうございました!」

 

素直に礼を言うのは劉備、朱色の髪、少しばかりふんわりした雰囲気を持つ少女だ。

 

「本当に助かったのじゃ、幾ら礼を言っても足りぬ」

 

少しばかり変わった口調で礼を述べるのは先に夏焔が救出した袁術だ。

 

「無事で何より、と言うところね」

 

微笑みながら、華琳がそれらの礼に答える。

 

「うむ、劉備に孫策にも助けられたのじゃ・・・・その、曹洪にも・・・・」

 

ちょっとだけもじもじしながら言う袁術、を見て煉次が夏焔の肩を掴んだ。

 

「どうした煉次」

「『どうした煉次』じゃねぇですって!!何でアンタばっかり!!」

 

その涙には気のせいだろうか、先の夏焔以上の鬼気が漂っている気がする。

 

「・・・・煉次様」

「何だ水華!!」

「その・・・・恐らくがっつき過ぎているのが原因かと・・・・」

「ぐふぅっ!!?」

 

そのやり取りを全員が見て笑う中、孫策が口を開く。

 

先刻(さっき)の戦い」

『?』

「袁術ちゃんの陣の方からものすっごい真っ黒な気を感じたのよねー」

『!!!』

「・・・・あの気は・・・・貴方?曹洪」

 

孫策は、いわゆる戦いの天才だ。個人の武も、軍を率いるも、そしてそれは戦う事全てに及ぶ才能であり気の感じから相手を特定するぐらいは簡単にやってみせるわけだ。

 

「そうだ、と言ったら?」

「・・・・確認したかっただけよ、変わってないみたいで何よりだわ」

「人とはそうそう変わるものでは無い、例え外見が変わろうとも根幹は変わらぬものだ」

 

笑い合う二人、一瞬の緊迫した空気が薄れ周囲の空気も弛緩する、と孫策が一つの提案をする。

 

「そうだ、折角これだけ集まっているんだし飲まない?」

 

―野営地―夜

確かに、中牟の城では冬莉との再会と三人娘の参入を祝う意味で宴会はやった。

 

「もー!しけた顔してたらお酒は美味しくないわよー!?」

 

だがコレは想定外だった、既に四軍のほぼ半数以上を巻き込んだ大宴会。水華や袁術軍の紀霊、孫策軍の魯粛、劉備軍の周倉などは既に危険を察知し周囲警戒を自ら買って出た。残ったのは逃げ遅れた者と危険を知り尚酒の誘惑に勝てなかった者たちだ。

 

「孫策、程々にしておけと・・・・」

「んー♪聞こえなーい♪」

「くっ・・・・雪蓮!」

「分かってるわよぉ~♪」

 

なんて笑いながら孫策―雪蓮は去っていく。先ほど無理矢理真名を預けられたのだ。

 

「申し訳ないわね夏焔、姉様が・・・・」

「気にする事は無い蓮華、あれの奔放さは以前から知っている」

 

雪蓮の妹である孫権―蓮華が心から申し訳なさそうに頭を下げる、見た目はかなり似ているのに性格が姉とは真逆な娘だ。姉がアレなだけにこれからも苦労しそうだ。

 

「にゃへへへへ♪夏焔さんは飲んでますかぁ?」

「ああ、飲んでいるよ桃香」

 

劉備―桃香は何故か飲んで上機嫌になっている。

 

「おぉ夏焔、こんなところにいたのかえ?」

「ああ、美羽か」

 

袁術―美羽が膝にピョン、と飛び乗ってくる。

 

・・・・そう、酒の勢いもあったのだろうが四軍の主要人物たち全員がそれぞれ真名を交換するという訳のわからない事態に陥っている。いや、正直な話原因は分かっている・・・・・・・・『問題児(雪蓮)』だ。

黄巾賊の討伐を成すまでの間の同盟、それを受けた雪蓮が「信頼の証に」と華琳と夏焔に真名を預けたのが切欠だったのだと思う、そこから美羽が加わり何故か元気っ娘な張飛―鈴々が乱入し季衣が対抗意識を燃やし―――気がついたらこんな事になっていた。

 

「ちょっ!!?誰か助けて!?」

 

遠くを見れば一刀が数人に絡まれている。

 

「北郷殿ぉ、私はですねぇ」

 

酔って愚痴っている綺麗な黒の長髪を靡かせた少女が関羽―愛紗。

 

「分かってるんですか本郷さん、大体皆さんですねぇ」

 

同じく愚痴っている青い短髪に白が基調の制服に身を包む張勲―七乃。

 

「かずとぉー」

 

酔って一刀の背中で寝ている冬莉。

 

「くひゅー・・・・すぴー・・・・」

「すぅ・・・・すぅ・・・・」

 

同じく酔って寝ているのに計ったかのように一刀の両膝を占領している孫姉妹の末妹孫尚香―小蓮と我らが主君華琳。

 

「ふがー・・・・ふごぉ・・・・」

「んゅー」

「ふにゃー」

「う・・・・・ん」

 

爆睡しているせいで自分が常日頃望んでいる状況に置かれている事を知らない煉次と煉次の両腕や両膝、腹や胸を枕にして寝る諸葛亮―朱里、鳳統―雛里、陸遜―穏、真桜たち。

 

「・・・・」

 

だがこんな状況が楽しく思えてしまう、いい思い出だと思う。そんな今を大切にしたいのだ。




今回の美羽は良い子です、おバカではありません。


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第八話 夏焔の語る武の極み、一刀の全身全霊の叫び

さて、大宴会の翌日。いよいよもって激戦区頴川へと進軍を始めた四軍・・・・なのだが。

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃーーー!!!」

「お前も春蘭と同じだ、力はある、速さもある、だ・・・・が・・・・武器の取り回しが悪い!!」

 

今は鈴々に夏焔が稽古を付けているところである。既に隅っこでは甘寧―思春、季衣、春蘭、真桜、沙和、魯粛―咲季(さき)、紀霊―(がい)、周倉―(ばく)らが精根尽き果てて倒れている。

これもまた雪蓮の提案からだった、折角の同盟を活かさぬ手は無い、折角鬼教官がいるのだから武官連中は鍛えてもらえば良いと。

結果がこれである、既に残る武官は今戦う鈴々と愛紗、秋蘭、煉次、凪が残るだけとなっている。後は軍師や君主勢だけだ。

 

「ここまで・・・・だ!!」

「うにゃあ!!?」

 

焦りからの極端な大振りをしゃがんで回避し、そのまま距離を詰めて鈴々の両肩を掴んでからの・・・・そのまま引きずり倒した。

 

「次!」

『・・・・』

 

ここまで来ると残るメンツにちょっとした意地が生まれる、そう・・・・何がなんでも夏焔に土をつけたい、と。

 

「ならばここは!!」

「私たちで行くわね♪」

 

青龍偃月刀を構える愛紗と南海覇王を構えた雪蓮が同時に歩み出る。

 

「二人がかりか・・・・良いだろう」

 

そして華琳や桃香、蓮華、美羽たち君主勢や桂花、水華、朱里、雛里、周瑜―冥琳、陸遜―穏、七乃ら軍師勢たちの興味が集まる・・・・そう『各勢力の名の売れた武官たちを赤子のように扱った鬼教官は美髪公と小覇王二人を相手にどう立ち回るのか』と。

 

「・・・・どうした、来ないのか?」

 

様子見をしていた愛紗と雪蓮に、問いかけた夏焔。

 

「そちらが動きを望むならば・・・・」

「上等!!」

 

同時に武器を振り上げた二人。

 

「・・・・『振り上げた』な?」

 

夏焔の問いかけの狙いは二つ、一つは攻めを誘発する事。雪蓮は元々自らの武に自信を持つし愛紗もその武に矜持を持っている様子、ならば軽い挑発でも手合せ故に動くだろうと読んでいた。

そしてもう一つは読み、連携を意識して上下左右組み合わせての攻撃だったならば対処は難しくなった、しかし二人とも連携を意識せずに振り上げて来た、それこそが夏焔のねらいどころであり・・・・

 

「ふっ!!」

「あ!」

「え?」

 

夏焔の選んだ行動は『突き』、しかもそれは春蘭、思春、劾たち眼の良さに定評のある武将たちが対処しきれなかった神速の突きだ、常人のそれを遥かに超えた速度で放たれた二連の突きは青龍偃月刀の刀身と南海覇王の持ち手を全速力で弾く。

 

「先ず一つ」

 

青龍偃月刀は愛紗の手からは離れなかったものの大きく弾かれており、南海覇王は雪蓮の手を離れ遥か後方に弾き飛ばされている。

 

「・・・・そして、二つだ」

 

武器を手放すという選択肢を選べなかった愛紗の喉元に、彗龍の穂先が突きつけられる。

 

『・・・・』

 

やられた二人も、見ていた者たちも呆然とするしか無かった。愛紗も雪蓮も間違い無く大陸で五指に入る武を持つ者、その二人の行動をたった一言で誘発し、縛り、そして僅か三度の攻撃で全てを決してしまった。

 

―夜―

頴川まで後少しと迫った野営地で、夏焔は各勢力の武官たちに囲まれていた。昼の手合せを見て武官たちは尊敬と畏敬の念を、そして逆に曹操軍以外の軍師たちは恐怖を感じていた。

 

「夏焔殿は・・・・その、何と言いましょうか・・・・どこまで武を、極められたのでしょうか?」

 

愛紗のそんな質問だった、となりにいるのは春蘭、恐らくは夏焔の武が頭打ち、という話を聞いての質問だろう。

 

「どこまで、と言われたら難しい話だな・・・・明確な目標を持って鍛えたわけでは無い、ただただ上を目指し続けて鍛えていた」

 

静かに、周囲を見回す。今夏焔の周囲には左から順に思春、蓮華、咲季、劾、鈴々、獏、愛紗、雪蓮、春蘭、凪、真桜、沙和、桂花、秋蘭、桃香、華琳、一刀、冬莉、朱里、雛里、冥琳、穏が弧を描くように座っており、煉次と水華は夏焔の両隣だ。

 

「はっきりとした兆候があったわけじゃ無い、それでもある日突然自分の天井が見えてしまった」

 

勝てていた相手に勝てなくなったとかそういうわけじゃない、それでもこれ以上上には行けない。そうハッキリと感じたのだ。

 

「・・・・それでも鍛錬は止めなかった、武の力そのものが頭打ちならばそれ以外で・・・・気や技で凌いでやる。そう考え己を磨いて今の俺がある・・・・俺だって多分そこまで極めたわけじゃ無い・・・・それがハッキリ分かるのは・・・・自分より確実に強い相手とぶつかりあった時だけだろうな」

 

少なくとも、雪蓮も愛紗も春蘭も鈴々も、この場にいる誰一人として『今は』自分を超える者はいない・・・・何れは超えて行くのだろうがそれもまだ未来の話だ、遠くない、ではあるが。

 

「敢えて言うならな、武の極みなんてものは『一人一人の物差し』で決まる。同じ力量でも或はこれで極めたと満足し、或は未だ到らぬと己を鍛え続ける・・・・武の極みを目指すと言うのはそういう事なのだ」

 

自分との戦いなのだ、はっきりとした目標が見えていないだけにそれはとても不毛で終わりの見えない孤独な戦い。

 

「武将として名を成すならばそれはそれで良かろう、だが武人として名を成すならば、その事を肝に銘じる事だ」

 

そこまで言えば、全てを語り終えたと言わんばかりに立ち上がりその場をあとにする。

 

「・・・・優しいですなぁ、貴殿は」

「何れ敵となる人たちにまで助言とはー」

「後々の利害は考えていないのですか?」

 

皆から見えないところまで来た頃に夏焔に話しかける者がいた。

 

「・・・・誰だ」

「失礼、趙雲と申します」

「程立と申しますー」

「郭嘉です」

 

見慣れない顔だ、連れて来た兵や将官、文官軍師候補ならばほぼ全員分顔を覚えている。だが話しかけてきた三人の身なりは一般兵士のそれではなく趙雲と名乗った少女はどちらかと言えば武官のもの、程立、郭嘉と名乗った少女は文官の身なりだ。

 

「見慣れない顔だが・・・・他の、三軍の?」

「いえ、実は・・・・こちらを」

 

趙雲が差し出した一本の竹簡、ゆっくりと開けばその筆跡に見覚えがある。

 

「成程、隗・・・・荀攸からの紹介で仕官か」

 

筆跡も間違い無く隗の者だ。

 

「取り敢えず今日は夜も遅い、曹操や他の者には明日引き合わせよう・・・・取り敢えずは・・・・王忠、すまないが彼女らに幕舎を一つ宛てがってやってくれ。正式に処遇が決まるまでは俺の客人として扱うように」

「御意」

 

幕舎を用意しに駆け出していく王忠。

 

「・・・・宜しいのですかな?」

「何がだ?」

「その・・・・」

「そこまでしてもらうと流石に申し訳無い、と言いたいわけなんですがー」

 

趙雲が切り出し、郭嘉が言いよどみ、程立がしめた。

 

「構う事は無い、君らがこのまま仕官するにしろそうでないにしろ蔑ろに扱う理由は無い」

 

郭嘉と程立に関しては何とも言えないが趙雲に関しては武の才能がある、ハッキリとどの程度かは分からないが・・・・故に無碍に扱っては損しか無い、丁寧に扱う分には損は少なく精神的な恩を売れる分得もあるのだ。

 

―翌日―

趙雲、郭嘉、程立の三人を伴い夏焔は華琳の待つ幕舎へと赴いていた。

 

「・・・・成程、それで趙雲、郭嘉、程立・・・・貴方たちはどうするのかしら?」

 

隗からの紹介状には『仕官先を探している様子でしたので当人たちとの話し合いの上で、登用の程宜しくお願いします    追伸:桂花にお兄ちゃんが寂しがっているとお伝えください』と記してあった。まぁ後半の文面は無視するとしてだ、あくまで当人らの意思を尊重するように、と明記されている。

隗は基本無駄なこと(桂花関連除く)を書面には記さない、わざわざそれを書いてよこしたという事は無理矢理仕官させたりすれば他に流れる可能性のある人材、という事なのだろう。

 

「私に関しては・・・・そうですなぁ」

 

ちらりと夏焔へと視線を向けた趙雲は・・・・

 

「そちらの曹洪将軍に興味がわきましたので仕官させて頂ければ、無論・・・・曹操殿の事も見極めさせていただくつもりではありますが」

「率直な物言いは嫌いでは無いわ、ならばようこそ趙雲。私たちは貴女を歓迎するわ」

 

趙雲は仕官を決めたようだ、自分へ対する興味、というのが若干腑に落ちないがさほど気にする事でも無いだろう。

 

「私はお世話になりますよー?」

 

と、程立が当然と言わんばかりに言う。

 

「一つだけ、お聞かせ願えますか?曹操様」

 

真っ直ぐに、華琳の眼を見つめて問いかける郭嘉。

 

「答えられる質問ならば」

「曹操様は何のために戦うのでしょうか」

 

郭嘉の問いかける眼には強い光が宿る。

 

「国のために」

「それは漢の事でしょうか?」

「貴女は民を顧みぬものを国と呼ぶのかしら?」

 

華琳も、そして夏焔も共通の考えであるのが『国は民の信ありてこそ、民は国との和ありてこそ』と言う考えだ。上に立つ者と下を支える者が手を取り合わねば真の平和は訪れない。

 

「確かに、曹操様の仰る通りです」

 

片膝をつき頭を垂れる郭嘉。

 

「以後、曹操様のために全身全霊を尽くします」

 

―その頃―

幕舎の外で盗み聞きしていた一刀。

 

「何で曹操軍に趙雲が入るのぉおおおおおおおお!!!?」

 

唯一、三国の歴史を知る青年は、それこそ全身全霊で叫んだのだった。



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第九話 夏焔の失策、一路洛陽へ

拍子抜けした、と言う言葉が一番に口を突いて出てくる。道を塞ぐ黄巾を討ちつつ徐々に進んでいた四軍に届いたのは天公将軍張角を討ったという報だった、討ったのは董卓軍の猛将呂布。

 

「二、三手出遅れたか」

 

要因はわかりきっている、曹操軍の兵数だ。劉備軍は義勇兵のみだが3000いた、孫策軍も少数精鋭で3000、袁術軍が5000弱だった。それに対し曹操軍は2000程、しかも新兵と義勇がほとんどであり正規兵は僅かに300、連携不足と兵力不足。

そして連携はともあれ、兵力を補うために黄巾賊の中でも骨がありそうで尚且つ改心しそうな者たちを厳選しつつ加えていた、それが速さを失わせた。

 

「申し訳無かった」

 

四軍の首脳陣を前に両膝を付き頭を地面へと擦りつけ、土下座の体勢で謝罪する夏焔。当初は共に増兵策を提唱し中心となって動いていた桂花や郭嘉―稟も共に謝罪をと言ったのだが夏焔が一人、上官であるが故にと謝罪を敢行していたのだ。

 

「とは言うてものぉ・・・・夏焔は妾の命の恩人じゃ、あまり責める気にはなれんのじゃ」

「そうよねぇ、こっちとしても助けて貰った借りがあるわけだし」

「あ、頭を上げて下さいよ夏焔さぁん!」

 

しかしそれでも頑として頭を上げない、まさかの敵本隊との戦へ間に合わなかったと言う事に対し感じている責任は相当だった。

 

「まぁ顔を上げなって曹将軍」

 

不意に、声を上げたのは劉備軍の客将である法正だ。

 

「俺らだってアンタの案に乗ったんだ、その結果がこれなら仕方ねぇだろ?それに激戦区に突っ込まなかったおかげで兵たちも死なずに故郷(くに)に帰れるってもんだ・・・・なぁ皆さん方、遅参の要因を作った事を罪にするんなら兵士たちを生かした事を功にしてやるのはどうです?」

 

法正の提案は夏焔を責める気が無い一同にとっては渡りに船な提案であり・・・・

 

『異議なし!』

 

満場一致で採択されたのだ。

 

―夜―

当日の昼のうちに各諸侯、軍勢へとこの乱による功績に対する恩賞などが知らせられた。

美羽率いる袁術軍はさしたる功績は上げなかったものの現状維持で寿春を治める許可を得る事が出来た。

桃香率いる劉備軍は賊将三名を討った功績で平原の相に任命された。

雪蓮率いる孫策軍は賊将四名を討った功績で現状の秣陵に加え呉、会稽の二郡を与えられた。

そして曹操郡は賊将二名を討った功績で現状の陳留に加え任城の地を与えられた。

 

「・・・・隗の働きかけが上手く行ったようだな」

 

元来、主戦場への遅参となれば功績帳消しなどされてもおかしくなかった。だが他の三軍まで巻き込んだ場合を想定し隗に手回しを頼んでいたのだ。必死の嘆願(うらがね)を重ね、権力者に働きかけて最低限現状維持を要求したのだが隗はもう少し踏み込んだ交渉をしていたらしく劉備、孫策、曹操の三軍に関してはしっかりと領地を獲得するところまで持ち込んだのだ。

 

「そうね、流石は名門荀家・・・・繋がりは深く広いわね」

「先ずは一つ繋いだ、次の動きまでは時があるだろうから・・・・力を蓄えるところだな」

 

一刀、凪、沙和、真桜、水華、趙雲―星ら新人武官たちと桂花、稟、程立―風ら新人軍師の育成、春蘭、秋蘭、冬莉、煉次、円楽ら先任武官たちの強化、軍全体の兵士の練度向上などやらねばならない事はたくさんある。

 

「若い子たちはどうかしら?貴方から見て」

「武官たちは良いな、一刀、凪、星らは負けん気が強いから直ぐに実力を上げるだろうし沙和、真桜、水華も根性はある。桂花、稟、風は単純に実戦不足だから武官連中と一緒に暫しの間は賊の討伐に動かそうと思う」

「成程」

 

顎に手を当てて何かを考え込む華琳。

 

「夏焔、本拠に戻り次第貴方に任城の地を任せたいの」

「・・・・兵数、人員は」

「副将として煉次、軍師として桂花、武官は一刀、凪、星、水華、文官は風・・・・兵数は貴方の直属兵500、でどうかしら?」

「・・・・十分だ」

 

新しい領地を、古参は煉次のみで他は新人で治めろという事は育成と更に新人発掘、他もろもろしなければならないという事で・・・・

 

「暇には事欠かないで済む、か」

 

華琳の配下としてこれまで陳留を栄えさせる一端を担って来た、しかし今回は自分が長となり皆をまとめ上げながら栄えさせなければならない、職務的な事も増えるだろうが責任も増す事になる。

 

「となると先ずは洛陽か」

 

論功表彰と辞令を正式に受け取るために洛陽に赴かなくてはならないわけだが・・・・

 

「ああ、そのことなのだけれども・・・・」

「?」

「私は病気という事にして貴方に任せるわ、もう二、三人連れて行っても構わないわ」

 

頭を抱えつつため息を一つ。

 

「相変わらず洛陽は嫌いか」

「ええ」

 

華琳は洛陽に行く事を基本的に拒む、祖父である曹騰様が亡くなってからずっとだ。色々と思い出したくも無い事が多いのだろうが・・・・

 

「分った、俺が引き受ける・・・・煉次と星、一刀を連れて行く」

「じゃあ洛陽からは直接任城へ?」

「ああ・・・・桂花、凪、水華、風に任城の初動を任せてみようと思ってな、俺が洛陽から戻るまで・・・・約三週間でどこまで整えられるかが課題だな」

 

因みに現在の陳留に華琳が赴任した時は華琳と夏焔、秋蘭の三人だけで僅か一週間にして行政の基礎を整えた、その後三日で夏焔が治安維持の土台を作っていた。

 

「じゃあ宜しくね」

「非常に欝だな、特に袁家関連が」

「まぁそう言わないで頂戴な、アレは貴方には懐いているでしょう?」

 

アレ、とは美羽の族姉である袁紹の事だ。典型的な家柄重視のお嬢様なのだが何故か夏焔の事を気に入っているようで毎度会う度に自分のところへ来ないかと誘いをかけてくるのだ。

 

「・・・・まぁいい、という訳だから星。煉次と一刀を呼んどいてくれ」

「おや、お気づきでしたか」

 

スっ、と暗闇から現れた星。

 

「最初から気づいていた、分かったら早く行け。俺の兵に伝えるのも忘れるな」

「御意」

 

そして同じように暗闇へと消えていく。

 

「優秀ね、星は」

「今はやらんぞ、少なくとも暫し俺の副官として育てる。補佐を出来る将が少ないからな」

「じゃあ何れはくれるのね?」

「本人次第だ、そろそろ固定した副官も欲しいところだしな」

 

軍師の席は何れ戻ってくるであろう隼がいる、もう一人これから先に欲しいのは自分の脇をしっかりと固めてくれる副官だ。煉次、とも思っていたのだが既に一軍を率いるだけの力量と器量を持ち合わせている、アレを自分の下で扱うには勿体無い。

 

「一刀はどうかしら?」

「あれは優秀だな、本人の力量はやや不安だが周囲の人間がそれを懸命に支えようと尽力してくれるだろう」

 

一刀は不思議な魅力を持っている、沙和、真桜などはすでに一刀を認めて全幅の信頼に近いものを抱いているようだ。風も妙に懐いている節がある。

 

「夏焔殿、準備完了ですぞ」

 

いつの間にやら現れた星に、驚く事も無く振り返る。

 

「よし、では行くとするか」

 

面倒な事がなかったらいいな、なんてため息を吐きながら夏焔は一路、洛陽へと向かうのだ。



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第十話 旧き友、娘曹真

―洛陽―曹家屋敷

さて、一路洛陽へと赴いた夏焔、煉次、一刀、星の四人。連れて来た兵士は結局200ほど、当初の予定では500だったが太守の名代で余分な兵を連れて来ると色々と勘ぐられるためにこの数になった。

 

「・・・・疲れた」

 

本当に珍しい、夏焔が椅子に座ってグデーッとなった姿だ。

 

「大将が力尽きてるところなんて始めてみますね」

「本当に、いっつもこう・・・・ビシッとしている印象があるんだけど」

「ですなぁ」

「貴族連中の相手は苦手なんだ・・・・」

 

十常侍の連中に絡まれたり袁紹に勧誘されたり他、様々な権力者たちに絡まれるわけで・・・・

 

「あ・・・・そうだ、煉次」

「はい」

「城外で駐屯してる連中に酒を振舞ってやれ、一人三杯づつ回せるようにな」

「うっす」

 

酒の手配をするために先ずは煉次が屋敷を出る。

 

『すいませーん!!どなたかいらっしゃいますかぁー!!?』

 

うん、聞き覚えのある声だ。

 

「すまんが星、客のようだ・・・・案内してやってくれ」

「御意」

 

「お邪魔するわよー!」

 

雪蓮を先頭に蓮華、咲季、桃香、朱里、獏、美羽、七乃、劾がぞろぞろと入ってきた。

 

「揃って来たのか」

「なーんか疲れてそうに見えたからね」

「よく見ているな・・・・まぁ大したもてなしも出来ないがゆっくりしていってくれ」

 

美羽たち袁家組と曹家組以外は洛陽に泊まる場所がないため夏焔の提案で雪蓮たちと桃香たちが泊まる事に、それを聞いた美羽が一緒が良いと言い出したので美羽たちも泊まる事になったのだ。

 

「さて・・・・行くぞ一刀」

「?どこに?」

「お前の武器を作りに、だ」

「え?」

「今回の戦、お前はよく頑張った・・・・俺個人からの恩賞だ、受け取れ」

「えっと・・・・ありがとう」

 

フッ、と笑いながら一刀を伴い歩き出す・・・・と

 

「何でお前らまで付いてくる」

 

一緒に後ろを星、雪蓮、蓮華、桃香、美羽、七乃が付いて来ている。

 

「暇ですので」

「右に同じ」

「左に・・・・同じよ」

「私も暇なんです」

「妾もやる事が無いのじゃ」

「お嬢様が行くなら」

 

取り敢えず、ため息をつきながら。

 

「星と雪蓮は残れ」

『えー』

 

星の場合は自分も一刀も煉次も留守にするので、雪蓮の場合は連れて行くと面倒そうなので、が理由だ。

 

―洛陽―商店街

路地裏を歩く事僅かな距離にある鍛冶屋。

 

「久しいな、欽」

「おぅ、しばらく見ないと思ったが元気そうじゃないか」

「おかげさまでな、早速だが作って欲しい刀剣がある」

 

一刀を呼び寄せ形などを決める話し合いをし、他の四人が興味深そうにそれを見ている。

 

「珍しい形だな、片刃の刀剣とは・・・・」

「でもでも、なんかすっごい斬れそうですよ?」

「うぅむ・・・・なんかこう・・・・バサーっと」

「これって、一刀さんの国の刀剣なんですか?」

 

一刀が四人の質問に答えながら説明をしている。

 

「ちょっと明るくなったか?お前さん」

「?そうか?」

「ああ、あの頃のお前さんはちょいと荒んでたからなぁ・・・・」

 

鍛冶屋の欽と出会ったのは数年前だ、当時家族を失い荒んでいた夏焔は片っ端からゴロツキ連中を気の向くままに打ち倒していた、そんな時に当時洛陽で最も大きな勢力のゴロツキ集団を率いていた李に出会った。

結果としては相討ち、それからというものの仲が良くなり今では欽は洛陽の裏の顔、夏焔は一軍の将軍という訳だ。

 

「だがまぁお前さんが出世してくれるのぁ嬉しいねぇ」

「?」

「あの頃は一緒にバカばっかやってたからよぉ、そんな仲間がどんどん出世してくってのぁ嬉しいもんだ」

「・・・・」

「しばらくいるんだろ?」

「ああ、あと五日程は」

「ま、武器の仕上がりもそんなもんだ。皆お前さんに会いたがってるから顔見せてやってくれよ」

「出来る限りはする」

 

―四日後―

武器が仕上がった、と聞き欽の店へと赴いた夏焔と一刀。

 

「どうだい仕上がりは」

「すっご・・・・本当に注文通りだ」

「へへへ、腕に自信有り、って事よ」

「欽、代金は・・・・」

 

それなりに値は張っただろうが一刀の扱い易い武器だ、これで武の力量も伸び易くなるはずだ。

 

「まぁまぁ落ち着けよ洪」

 

ピッと夏焔が話をするのを止めるように掌を見せる。

 

「代金の代わりといっちゃなんだが頼みがあるんだ」

「ふむ、他ならないお前の頼みだ・・・・聞こう」

「ああ、実は子供を一人。引き取って欲しいんだ」

「子供、だと?」

 

想定外の頼みごとだ。

 

「ああ、先日他所から流れて来た娘なんだがな・・・・父母は無し、周囲にも中々馴染まなくてな」

「それで・・・・何故俺に」

「環境が変われば少しは違うんじゃねぇかと思ってな」

「・・・・先ずはその娘に会わせてくれ、当人が望まないのを連れて行く事はしたくない」

「分かってらぁ」

 

ちょいちょい、と手招きされるままに案内されたのはかつて皆で集まっていた集会所だ。今も尚変わらずにあることに僅かながら感動している。

 

「おぅ、入るぜ」

 

すだれを上げて中に入る欽に続いて中へと入る、とその奥で膝を抱える少女が一人。

 

「・・・・誰・・・・?」

 

チョコン、と小首を傾げて問いかけてきた少女の、真紅の瞳が印象的だ。

 

「・・・・今は・・・・」

 

ゆっくりと歩み寄って、少女の目の前で片膝を付き視線を合わせる。

 

「俺が誰か、はどうでも良い事だ」

 

ジッと、少女の眼を見れば、少女もジッと見つめ返してくる。

 

「俺と共に来ないか?いろいろなものを見て、学ばないか?」

「・・・・ん(コクリ)」

 

小さくだが、首を縦に振った少女。

 

「俺の名は曹洪、真名は夏焔だ・・・・君は?」

「・・・・真、真名は涼夏(すずか)

「姓は?」

「(ふるふる)・・・・分からない」

「そうか・・・・なら・・・・」

 

ゆっくりと少女の手を取り、立ち上がらせる。

 

「俺の養子にならないか?」

「・・・・貴方がお父さん?」

「まぁそうなるな、君が気に入れば・・・・だが」

「ん・・・・」

 

キュ、と夏焔に抱きつく涼夏。

 

「うん、お父さん」

 

突然に出来た娘の頭を、ゆっくりと自然に撫でるのだ。

 

―夜―曹家屋敷

屋敷に戻った夏焔と涼夏、そして一刀・・・・を出迎える一同。

 

「おや夏焔殿、その娘は?」

「あら、可愛いじゃない」

「わぁ♪お人形さんみたいですねぇ♪」

 

わらわらと皆に囲まれあたふたする涼夏。

 

「涼夏、自己紹介」

「ん(コクコク)」

 

取り敢えず雪蓮と桃香を引き剥がしてから自己紹介をさせる。

 

「曹洪が娘、曹真です・・・・えと、えと(わたわた)・・・・よ、宜しくお願い・・・・します」

 

ピョコん、と頭を下げてから夏焔の背後に隠れた涼夏。

 

『・・・・ぇ?』

 

全員があっけにとられた顔をする。

 

「そういうわけだ、宜しくしてやって欲しい」

『ぇええええええええええええええええ!!!!!!!!!?』

 

洛陽中に、その叫びは響き渡ったとか響き渡らなかったとか。




何のことはありません、璃々ちゃんに並ぶ娘成分が欲しかっただけなんです。涼夏ちゃんの相手でちょっと戸惑う夏焔に周囲がニヤニヤしたり桂花や凪、星がお母さんと呼ばせようとしたり・・・・アイディアが膨らみますね( ̄∀ ̄)


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第十一話 涼夏の歩む道、華琳と涼夏の出会い

論功行賞が終わり桃香、雪蓮、美羽らと別れた夏焔たちは一路新しい任地であ任城へと向かっていた。

 

「悪いな、涼夏が俺と共に歩くと言うのでな」

 

当初は、星や一刀と共に涼夏を先に一端陳留へと送るつもりだった。のだが涼夏が「おとーさんと一緒に」と言い出したため結局は全員が一緒に陳留経由で任城へと向かう事になったのだ。

 

「いやいや、気にする事ぁねーでしょう?」

「確かに、上官殿の大切な娘をお護りするならば・・・・」

「皆むしろ喜んでくれてるって、なぁ皆!」

『ぃ喜んでェえええええ!!!』

 

妙な気合の入り方はともかくとして受け入れられているようで何よりだ。

 

「・・・・(きょろきょろ)」

 

軍の行軍が珍しいのだろうか、あちらこちらを見回しながら歩く涼夏。途中休憩でも兵士たちのところに行って気になった事を一つ一つ聞いて回っている。

 

「・・・・好奇心旺盛ですねぇ」

「ああ、だがあれは将として必要な素質だ」

「・・・・涼夏ちゃんにも歩ませるんですかい?将としての道を」

 

ヘラヘラと笑いながら話しかけてきた煉次の眼が、鋭く光る。

 

「・・・・連れてに来る前に、聞いたんだ・・・・どんな道を歩みたいかと。知る限りの職の知識もあたえた・・・・その結果であの娘が選んだ」

「成程、なら口出しする事ぁ何もねーですや」

「・・・・ありがとうな」

 

突然言われた礼に唖然とした表情をする煉次。

 

「涼夏を心配してくれたんだろう?」

「・・・・まー、懐いてくれてますしねぇ?妹みたいなもんでしょ?」

「だからだ・・・・」

 

頭を僅かながら、下げた夏焔を見る煉次。

 

「・・・・最初は、大将が父親って・・・・どうかと思ったんですがねぇ・・・・思ったよか良い父親なれそうですねぇ」

「なら良いな」

「父様」

 

いつの間にやら夏焔に正面からすがりつく涼夏。

 

「煉兄と・・・・何、話してたの?」

「お前の将来が楽しみだな、と言う話だ」

「(ぐっ)頑張り、ます!」

 

気合は十分、本当に将来が楽しみだ。そんな事を考えつつ涼夏の頭を撫でる。

 

―五日後―陳留城

 

「・・・・今、何と言ったかしら夏焔」

 

華琳を中心に右側に春蘭、秋蘭、季衣、沙和と夏焔が留守の間に参入した季衣の幼馴染である典韋―流琉が、左側に隗、稟、景、円楽、真桜が、唖然とした表情をしている。

 

「うむ、ならば改めて紹介しよう・・・・『俺の娘』の曹真だ」

「よ、宜しくお願い・・・・します!(ペコッ)」

 

深々と頭を下げた後、夏焔の後ろに隠れている涼夏。

 

「・・・・ぐはっ!!?」

 

華琳が何故か倒れた。

 

『華琳様ーー!!!?』

 

春蘭、季衣、稟が華琳に駆け寄る、が物凄い幸せそうな顔で倒れている。

 

「だ、大丈・・・・ぶ?」

 

そろそろと近寄りながら首を傾げる涼夏。

 

「ええ!大丈夫よ!」

 

跳ね起きた、物凄い速さで。

 

「私の名は曹操、真名は華琳よ・・・・従兄である夏焔の娘である貴女だから預けるわ」

「え、と・・・・涼夏、です。宜しくお願いします・・・・華琳おねーちゃん///」

 

モジモジとしながら恥ずかしそうに言う涼夏。

 

「萌え死ぬ!!?」

 

とうとう訳のわからない事を叫びながら倒れた・・・・その後その場にいた全員と真名を交換した涼夏は、お兄ちゃんやお姉ちゃんが増えた事に、心なしか嬉しそうにしていた。




通算UAが10000を突破!お気に入り件数も気がつけば200を超えました。本当に皆さんありがとうございますm(_ _)m
華琳がやや暴走気味ですが・・・・時々こうなると思っておいてください。


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第十二話 任城の日常、夏焔の過去

任城に赴任してから既に三ヶ月が経過した、賊の数も割合少ない方であり市中も騒動は少なく、至って平和な日々が続く。陳留にいた頃は不真面目だった煉次も最近では後輩が増えたせいかすっかり真面目になってしまい任城の城壁補修と練兵に奔走する日々である。

 

「徴税も徐々に進んでいるみたいだな」

「はい、一刀の出した案が上手く回った結果ですね。それに伴って収穫量や各種商店の売上も向上、民の懐事情も良好なようです」

「こちらの領地に来る流民も多いようですねぇー、良い評判も広まっているようですしー」

「治安も良し、だな・・・・特に近頃洛陽から来た文欽が中心になっていー感じにゴロツキ連中を束ねててくれてますから大助かりです」

 

一刀の出した案と言うのは元来一律である税を収入などに応じて個別に変えるというもの。実際、コレは成功している。金持ちからは多く、貧乏な者からは少ない税をとる事で均衡を計り以前と同じ、いやそれ以上の税を集める事に成功している。

そして文欽が数人の商売仲間を引き連れ洛陽から転居してきた、実のところ文欽の影響力は洛陽だけに留まらず中原一帯のゴロツキたちに名が売れているらしく若干手荒な真似もしたが任城だけで無く陳留のゴロツキたちまでもが文欽に従い、これにより間諜への対策も兼用する事となった。

 

「で?文欽への勧誘はどうなってんです?」

「応諾は貰った、後は華琳からの返答待ちだな」

 

そもそも、文欽はゴロツキたちをまとめあげるだけの統率力と数年前とは言え夏焔に比肩していた武力があるわけでそれが仕官してくれるならば武将の補強とゴロツキを軍に取り込む事も可能となってくるのだ。

 

「えと、えと・・・・失礼、します」

 

トントン、と控えめに会議室の扉が叩かれると僅かに開いた隙間から涼夏が顔を覗かせる。

 

「む?涼夏・・・・どうした?」

 

がたん、と席を立ち涼夏へと歩み寄る夏焔。に涼夏もトコトコと歩み寄ってくる。

 

「これ、星おねーちゃんが皆にーって」

 

そう言って(すもも)を五つ、取り出して差し出す。

 

「そうか、では星に後から礼を言わないとな」

 

しゃがみこんで涼夏の頭を撫でながら微笑む。

 

―任城―城壁上

 

「ここにいたか星」

 

星を訪ね練兵場から行きつけの食堂から尋ねつつようやくその姿を見つける事が出来た。

 

「おや夏焔殿」

「・・・・李、ありがとうな」

「いえいえ、偶然取れ・・・・」

「涼夏のために、だろう?」

 

ピクッ、と動きを止めた星。

 

「涼夏は今日は一人だったはずだからな、寂しそうにしていたのを見てわざわざ取って来たんだろう?俺に会いに来る口実を与えるために、この辺だと李はかなり離れた山にしか生えていないからなぁ・・・・市場でも今日は入荷していないはずだしな」

 

少しばかり、恥ずかしげに頬をかく星。

 

「いやはや、反論の余地も無く・・・・まさしくその通りですよ」

「・・・・嬉しい事だな」

「?」

「皆が涼夏を気にかけてくれている」

「涼夏は・・・・頑張り屋でしてな」

 

星の話に耳を傾ける。

 

「常日頃から父さんの役にたつのだ、と学び、鍛錬にも励んでおります」

「・・・・」

「夏焔殿の娘だから、と言う事もありましょうが涼夏を見ていると皆応援したくなるのですよ」

「・・・・嬉しい事だ」

 

涼夏が娘になってからというものの最も不安だったのは環境に馴染めるかという事だった、しかしそれも杞憂でこうやって皆が皆涼夏に良くしてくれている。

だからこそ怖い、と思う事もある。『あの時』だって優しい父母と、自分を慕ってくれる弟妹たちと、何時までも仲良く、楽しくやっていけたら・・・・と。

 

「夏焔殿?」

「ああ、いや・・・・なんでも無い・・・・んだ」

 

ヒラヒラと手を振りながら城壁を降りる夏焔の背に、星は僅かながら違和感を感じていた。

 

―夜―満寵自宅

この場に集まっているのは煉次を含めた任城の主要人物たち、一刀、桂花や凪、水華、星、風が集まっている。

 

「で?何が聞きたいってんだ」

 

盃に手酌で酒を注ぎつつ、煉次は問いかけた。

 

「夏焔殿の過去について」

 

口元まで運ばれていた盃がピタリと動きを止める。

 

「聞いてどうすんだい?」

「いえ、ただ・・・・時折夏焔殿に違和感を感じるのですよ」

 

今日あった事を煉次に話す星。

 

「成程、それで違和感の正体を知りたい・・・・ってぇ訳か」

「はい」

「ここにいる連中は少なからずその違和感を感じ取っていた、って思って良いのか?」

 

全員が黙ったままに頷く。

 

「・・・・他言無用で頼むぜ、これ知ってんの軍中でも俺と華琳様ぐらいなんだからよ」

 

煉次の口から語られた夏焔の過去は重く、暗く、そして皆の違和感を解消するには十分過ぎた。

 

「でもさ、あの人ぁあの人なりに前に進もうとしてるわけよ、涼夏ちゃんを引き取ってからは昔より格段に良くなってる」

 

少し前までは酷い、なんていうものでは無かった。毎夜のように魘され、表情も心なしか暗く、それを払拭するかのように苛烈な訓練を兵に課すために鬼教官などと呼ばれていたのだ。

 

「涼夏ちゃんのおかげもあるけどよ、ここにいる連中のおかげだとも思っている」

 

直弟子である一刀、凪や好意を持って接する桂花と星、自分を通じてではあるが教えを乞う水華、いつも自由な風、ここ最近で増えた人材たちが良い影響を与えているのだと思う。

 

「俺から礼を言わせてくれ、ありがとよ」

 

深々と頭を下げる煉次。

 

「煉次さん、勘違いしないでくれよ?」

 

そう声を上げたのは一刀だ。

 

「俺たちはそこまで考えたわけじゃ無い、それぞれが様々な形で夏焔と関わりたいと思ったから一緒にいるんだ。そこに損得とか関係無い、一緒にいたいからいるの」

 

一刀の言葉に、周囲を見る煉次。あえて頷くなどはしていないが皆の眼を見れば分かる、その通りだと。

 

「だな・・・・良い同僚たちを持ったもんだ」

 

ケラケラと笑いながら戸棚を開き、人数分の盃を取り出す。

 

「皆、盃を取れ」

 

少し真面目な声を出す煉次の呼びかけに、全員が無言で頷いて盃を取る。

 

「少なくとも当面は俺らぁ曹洪麾下だしならばそうであり続けたい、と皆も思ってくれていると思う」

 

盃一つ一つに丁寧に酒を注いでいく。

 

「固めの盃、なんて堅苦しい事を言うつもりは無いがまーなんだ?これからも宜しくってー事で」

 

グイッ、と煉次が酒を飲み干せば先ずは迷い無く一刀、桂花、凪、星が飲み干し風、水華が続けて飲み干す。

 

「ふむ、上手い酒ですな・・・・もう少し、欲しいのですが?」

 

ニヤリと笑いながら問いかける星、にこちらもニヤリと笑う煉次。

 

「まだ瓶で五つある、今日は飲むとしようじゃないか」

 

結局、桂花、風、凪が真っ先に酔いつぶれ、意外に一刀と水華が保ち、煉次と星は明け方まで飲み続け、全員がもれなく二日酔いとなったのだそうだ。



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第十三話 反董卓連合、アイツの名は・・・・

二ヶ月に一度行われる全体会議、今回の参加者は華琳、秋蘭、冬莉、稟、夏焔、桂花、一刀の七名だ。

 

「夏焔、五錮からの報告を」

 

五錮とは夏焔が独自に使役している情報収集を専門とした集団だ。

 

「霊帝が崩御した、それに伴い洛陽の状況は泥沼化。現在何進一派と十常侍の一派がそれぞれ劉弁、劉協を担ぎ上げて争いを繰り返している」

「それぞれの派閥の主要人物を」

「劉弁派は何進を筆頭として袁紹を中心に名家連中が、劉協派は十常侍を筆頭に盧植、朱儁、皇甫嵩、董卓・・・・といったところか」

 

今は、まだ洛陽内で済んでいる政争だが何れ洛陽外にもこの影響は波及するだろう。

 

「それぞれどう動きそうかしら?」

「分からん、が・・・・・・・・!石岐か」

「はっ」

 

仮面で顔を覆い、黒い布で全身を覆う男が天井裏から降り立つ、名を石岐、五錮の長である。

 

「洛陽の部下より報告」

「構わん、話せ」

「劉弁、及び何進が暗殺され袁紹一派は洛陽を脱出、また同時に十常侍が討たれ洛陽の主権は董卓を筆頭にし盧植、朱儁、皇甫嵩らが握りました」

「了解、以後動きがあれば随時知らせろ」

 

僅かな影に溶け込むように消えた石岐。

 

「・・・・」

 

そんなやり取りを聞いた一刀の脳内に渦巻く一つの出来事、『反董卓連合』。今回は董卓はあくまで劉協擁護のために三将軍と組んだようだが・・・・

 

「一刀」

 

夏焔が一刀の様子が少しおかしい事に感づいて声をかけた。

 

「何か気になる事でもあるのか?」

「・・・・袁紹、と言うか袁家だけどさ・・・・結構影響力あるんだよな?」

「?ああ・・・・袁家は冀州を本拠とする名門だ、三公を排出しただけあり影響力は強い」

「袁紹って結構自尊心とか強かったよな?」

「・・・・!!?」

 

そこまで来て、気づいたのは夏焔、華琳、桂花、稟、の四名だ。

 

「ならさ、袁紹が他の連中を煽って董卓たちを潰そうとする可能性だって・・・・あるよな?」

 

―二週間後―陳留城

果たして一刀の言葉通り、袁紹が各地の諸侯、有力者たちに一通の檄文を飛ばした。『董卓は三将軍を抱き込み洛陽を私物と化し悪政を敷き民を虐げ全てを欲しいがままにしている、これを許すは漢王朝の臣に在らず、大義を取り戻し悪逆非道の輩を討て』と。

 

「全く、面倒事ばかり増やしてくれる」

 

結局、戦地が近領である事もあいまって曹操軍は参加を決意した。無論、別の思惑を抱えつつだ。

 

「正直驚きましたけどねぇ、あれは」

 

城壁の上から練兵風景を眺めていた夏焔の隣に煉次が立つ。

 

「華琳と董卓の関係性、か」

「全く、幼馴染だったとは・・・・」

 

檄文が届いた時の華琳の姿は普段見れないものだった。

 

『あの袁紹のバカを攻めるわよ!!』

 

「いやはや、後にも先にもあそこまでお怒りな華琳様はそうそう見れませんって」

「確かに」

 

キレた華琳を夏焔と隗、秋蘭、冬莉の四人でなんとかなだめながら事情を聞くと、何と二人は幼馴染であったらしい。董卓の父親が華琳の父曹嵩と古い付き合いであり、幼少の頃には董卓と二人で遊んだ事もあるらしいのだ。

 

「とは言え・・・・」

「面倒には変わり無いが面白い、ですか?」

 

曹操軍首脳陣は考え抜いた、連合に弓引かず、尚且つ董卓を助ける方法を。そして結果的に、連合には参加し劉備、孫策両陣営に事情を説明し助力を乞い隙を突いて董卓を助けるという案に至ったのだ。

 

「遠征組と留守居の編成は決まったんですかい?」

「ああ・・・・遠征軍は華琳自身が率いる二万、将は俺、春蘭、秋蘭、季衣、流琉、一刀、星、凪、真桜、でお前と桂花、水華、稟、留守居は冬莉が率いる一万二千、将は隗、景、円楽、風、沙和だな」

「・・・・成程、ハッキリと攻めと護りを分けて来ましたね」

 

春蘭は言うに及ばず、秋蘭も守りに向くわけでは無い、季衣、流琉も経験が浅い故に護りは不向きで一刀、凪、真桜も同様だ、星は基本万能にも思えるが護り続ける事を良しとする性分では無い、桂花も稟も水華も攻め重視の思考である。煉次とて築城が得意故勘違いされ易いが護りよりは攻めが得意なのだ。

対する留守居は冬莉は護りに関しては定評があり隗はやらせればどちらも出来る、円楽は見た目とは裏腹に繊細な用兵で緻密な守備を敷けるし風はのらりくらりと相手の攻めを回避する用兵を、沙和は発展途上ではあるが兵との連携を重視しておりそれも守りに必要な技能なのだ。

 

「桃香ちゃんとか雪蓮さんからも編成は届いたんでしょ?」

「ああ、雪蓮は美羽と合同で軍を出すそうだ、美羽もこの案件に関して飲んでくれた」

「そいつは頼もしい事で」

 

劉備軍は桃香に愛紗、鈴々、朱里、雛里、法正が兵八千を率いて、孫策袁術軍は雪蓮、美羽、蓮華、七乃、冥琳、黄蓋、程普、咲季、思春、蒋欽が兵三万を率いて来るのだそうだ。

 

「劉備軍は少ないっすね」

「むしろよく八千も出せた、治安が悪い土地と聞くからな」

 

桃香が現在居を構える平原は周囲に比べ比較的治安の悪い土地だ、こちらの陳留を避けた賊と北部の公孫賛を避けた賊が流れ込み易い場所にあるからだ。

 

「孫策軍は兵数少ないんすかね?合同ですけど」

「山越と江賊対策だろうな、韓当や朱治、祖茂といった歴戦の将三名を留守に残したのがそれだろう」

 

雪蓮の本拠秣陵は長江と隣接する都市だ、資源豊かであり水運に長けた土地ではあるのだが隣接地域に山越賊や江賊が出現するためにお世辞にも治安が良いとはこちらも言えない訳で。

 

「・・・・打てる手は全て打つべきか」

「・・・・『アイツ』を動かすんですね?」

「ああ、そろそろ復帰してもらうとするか」

「アイツ、とは?」

 

そこに現れたのは一刀、桂花、星、凪、水華ら任城からの遠征組だ。

 

「・・・・そっか、一刀以外知らねぇんだな・・・・一刀は覚えてねぇか?初代曹洪隊軍師」

「ああ!アイツ元気なの?」

「さぁな、だが便りが無いのがこの上なく元気である報せだ」

 

夏焔、煉次、一刀が思い出話に花を咲かせる。

 

「あの・・・・」

 

途中で、なんとか凪が口を挟む。

 

「それで・・・・その・・・・『アイツ』とは?」

「ああ・・・・初代曹洪隊軍師であり」

「河内の富豪司馬家・・・・だっけ?そこの当主で・・・・」

「後にも先にも、曹洪『の』唯一人の軍師」

 

三人が、口を揃えてその名を呼ぶ。

 

『司馬懿』




第三話以降出番の無かったあの司馬懿が次話・・・・かその次ぐらいから久しぶりに登場します。


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第十四話 董卓軍と法正、先鋒の振り分け

再び遠征により妹と引き離された隗の「なぜだぁあああああああああ!!?」という叫びを背で聞きながら一路、反董卓連合の集合地点である酸棗へと曹操軍は赴いていた。

連合軍参加諸侯らの軍議には、華琳の名代として夏焔、一刀、煉次、桂花の四名が参加していた。

 

「あら曹洪さん、相変わらず曹操さんの下にいましたの?」

 

幕舎の最奥、連合軍盟主が座る席には今回の連合を諸侯に呼びかけた袁紹の姿が。

 

「はっ、主君でありますが故」

「まぁその話はここまでにしましょう」

 

さすがの袁紹も場をわきまえているようで本題に入り・・・・

 

―半日後―

 

「うぅ・・・・申し訳ありませぇん・・・・」

 

曹操、劉備、孫策、袁術陣営の首脳陣を前に頭を垂れて落ち込んでいる桃香。結局、あの後袁紹が自らの立ち位置を周囲に明確に示すために誰が盟主に相応しいか?という話を持ち出したのだ、狙いは分かっていた、袁紹が盟主と言い出した者が推薦責任とかなんとか難癖つけられて先鋒を押し付けられるだけだ。

が・・・・それに乗ってしまった者が一人・・・・桃香だ、他の諸侯は少なからず利権を求めて参加を決めたのだが桃香は少数派な打算も無くただ義で立ち上がった、故に盟主を決めるだけではつまずいていられないと考えてしまったのだろう。

 

「気にする事は無い、どちらにせよ先鋒の方が都合が良かった」

 

果たして予想通り、先鋒を押し付けられた桃香を庇うべく口出しした夏焔と雪蓮、美羽だったが心配ならばとついでのように先鋒の補助を押し付けられたのだ。

 

「ま、初っ端から暴れられるならそれはそれで良し、よねー♪」

「うむ、麗羽姉様の鼻をあかしてやるのじゃ!!」

 

雪蓮は単純に戦いたいだけ、美羽は単純に袁紹の態度に怒っているだけ。

 

「まぁ良いわ」

 

そこでようやく華琳が口を開く。

 

「ところで夏焔、アレの準備は?」

「既に完了している、奴が運び込んでいるところだろう」

『?』

「知りたくば着いてくると良い」

 

―曹操軍幕舎―

そこに用意されていたのは大量の丸太と先端を鋭利に加工した鉄杭。

 

「ご無沙汰しておりました、華琳様、夏焔様」

 

恭しく一礼をしたのは変わらぬ姿の司馬懿―隼だ。

 

「ええ、本当に久し振りね・・・・?少し、憑き物が取れたかしら?」

「確かに、少し明るくなったか・・・・?」

「・・・・まぁ、その・・・・」

 

以前は決して無かった言い淀む姿に華琳と夏焔だけではなく、春蘭、秋蘭、煉次、一刀も首を傾げる。

 

「その、妻を・・・・娶りまして」

『゚Д゚)?』

「・・・・」

『・・・・ハァアアアアアアアアアアアッ!!?』

 

六人が、同口同音に叫んだ。

 

「待っ!!隼テメッ!?嫁だとぉおおおおおおお!!?」

 

先ずは煉次が半ばキレながら半ば驚き叫ぶ。

 

「え?アレ?お前が?アレ?」

 

続いて春蘭が混乱している。

 

「えっと、こういう時ってアレか?ご祝儀とか贈った方が良いのか!?でも・・・・」

 

軽い混乱と共に色々と呟く一刀。

 

「いつの間に・・・・ともあれおめでとう」

 

驚きつつも祝辞を述べる秋蘭。

 

「ふむ、もっと早くに知らせてくれれば良かっただろう」

 

少し、寂しげに言いつつも祝福するのは夏焔だ。

 

「それで?どこの誰を娶ったのかしら?」

 

興味津々に問いかける華琳。

 

「粟邑県令、張汪殿の娘で張春華と言いまして・・・・」

 

そこまで言った途端、煉次が胸ぐらを掴んだ。

 

「煉次・・・・殿?」

「きぃさぁあああまぁあああああああああ!!!張春華っつったら河内でも有名な超美少女じゃねぇかよ!!」

「あら、そうなの?」

「そうなんっすよ!!しかも頭脳明晰で告白して振られた男も数知れず・・・・・ちくしょぉおおおおおおおお!!!何でお前ばっかりぃいいいいいいいい!!!」

「・・・・凪、星、すまないが・・・・」

「了解いたしました、ほら煉次さん、行きますよ」

「これ以上は周囲から白い眼でみられますぞ」

「ふぅんぬぅうううううううううう!!!」

 

最後には訳のわからない叫びを残した煉次が連れて行かれる。

 

「何はともあれ、それがお前に良い影響をあたえたようで何よりだ」

「はっ」

「それで、今後はどうするつもりだ?」

 

以前、自分の下を去った時には、何時かまた必ず、自分の下に戻ってくるとは言っていたが嫁を娶り家庭を持ったのであれば事情も違ってくるだろう。

 

「無論、約定に従い夏焔殿と共に」

「実家はどうする」

「状況は落ち着きました故に弟、司馬孚に後は任せて参りました」

「妻女は何と」

「私の行くところ、どこまでも着いて行く、と」

 

決意は固いようだ、それさえ確認できたならば問題は無い。

 

「分った・・・・ならば」

 

スっ、と右手を差し出す夏焔。

 

「お帰り隼、また頼むぞ」

「はっ、不在の分の仕事はしかとこなして見せましょう」

 

ニヤリ、と笑い合う二人。

 

「と言う訳で改めて紹介する、俺の軍師・・・・司馬懿だ」

「司馬懿、と申します。以後お見知りおきを」

 

―四半刻後―

なんとか沈静化された煉次を連れ戻し早速作戦会議に入る。

 

「眼前のシ水関は正しく要害。関の横に繋がる隘路もあるが日数がかかる上に伏兵なども予想される、正面からの攻めが無難なのだろうが・・・・」

「あちらの兵力は五万、こちらも足して五万弱、同数で城攻めは幾らなんでも・・・・」

「無茶で無謀で無策、だな」

 

夏焔の言葉に朱里と冥琳が補足を付け足す。

 

「あちらの将はどうなっているのかしら?」

 

華琳の問いかけに対し淀みなく答えるのは隼だ。

 

「華雄と張遼を主将とし徐栄、張繍、李儒」

「あら、なら引きずり出せば良いじゃない・・・・華雄を」

 

でしょ?と笑いながら言う雪蓮。

 

「出来るのか」

「任せて頂戴よ」

「分った、主将の片割れを引きずり出せれば指揮の低下を防ぐために他の将も出ざるを得ないだろう」

「他の将の対応はいかがしましょう?」

「・・・・愚考、宜しいか」

 

ここで口をはさんだ法正。

 

「董卓軍の将ならば軒並み実力は分かるし顔見知りだ、対応は一任して貰えまいか」

 

この提案に、春蘭、思春ら武官が殺気立つ。

 

「何故、知っている?」

「・・・・俺は一時期董卓軍で軍師をしていた・・・・二年ほど前に離れはしたがな」

「どうして董卓軍を離れた」

「・・・・眩しかったんだ、ただ・・・・それだけだ」

 

静かに眼を閉じ、少しばかり深呼吸をして眼を見開く。

 

「俺は軍師だ、己の知に従い知に殉じる・・・・今はただ俺を信じて欲しい」

 

静まり返るその場、で最初に動いたのは軍師陣営だ。

 

「私は・・・・法正さんを信じます」

「わ、私もれす!」

「そうね、信じるわ」

「はい、それに値します」

「確かに、その言葉で十分だな」

 

それぞれが立ち上がり、法正を囲うように歩み寄る。

 

「・・・・然り、軍師とは知に生き知に殉じる者」

 

隼が、ゆったりとした足取りで幕舎内を週回する。

 

「武将が己の武に戦場での生死を賭けるように軍師は己の知に生死を賭ける、その軍師が知を引き出して信じろと言うのであれば・・・・」

「信じよう」

「ええ、その通りよ」

 

夏焔と華琳の言葉に、全員が頷いた。

 

「では改めて、だが・・・・華雄は勇猛果敢、苛烈な攻めを得意とする・・・・反面精神面が弱く挑発などにのり易い傾向がある。二年、という歳月でそこをどれだけ改善したかは不明であるが根本にはそれがある事を自覚して動いて欲しい」

「では、華雄は私が討って見せましょう」

 

華雄に相対する事を宣言する愛紗。

 

「次に張遼、騎馬の用兵に関しては間違い無く大陸で五指に入る実力者だ、個の武もかなりのもの。沸点は低いが華雄程挑発にのり易いわけでは無いが一騎打ちを好むので真っ向から打ち倒すが上策だ」

「ならばここは私が!!」

 

張遼の相手を春蘭が買って出る。

 

「徐栄の武力は華雄と同等、そして最も冷静沈着に任務を遂行するが故に一番厄介な相手だ。また配下の兵もその気質が蔓延しており最も相手をするのが難しい」

「では俺が相手をしておこう、俺の兵ならば均衡に持ち込める」

 

徐栄の相手は夏焔が請け負う。

 

「李儒は冷静だが時に情にかられやすい、しかしその用兵は能動的で軍師というよりは知将に近い」

「んじゃーその眼ぐらいは惹きつけておきますわ」

 

李儒に対する陽動を煉次が。

 

「最後に張繍、武の力量は張遼よりも下、だが騎馬の指揮に関しては張遼より上。これを捉えた上で騎馬の脚を殺す用兵が求められる」

「じゃあ私が貰うわね♪出番も欲しいし」

 

張繍を抑える役目を雪蓮が楽しげに笑みつつ引き受けた。

 

「そうねぇ、じゃあここは夏焔が音頭をとってちょうだい、出陣前の音頭を」

「・・・・承った」

 

息を一つ吸い込み、一同の顔を見回す。

 

「この戦は、恐らくだが良くも悪くも今の漢の状況を一変させる一戦だ・・・・各々、この戦への思惑があるとは思う」

「ただ今を勝ち、生き抜かねばその思惑も無いと思って欲しい。こちらは董卓の身柄さえ確保出来たならば後は良い、それぞれの思惑に力を貸そう」

「結局言いたい事はただ一つ・・・・生き抜け!!・・・・だ」

 

夏焔の号令、ここに三国志最大級の戦が幕を開ける―――



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第十五話 張繍捕縛、張繍の覚悟

―シ水関前―

未明に開戦したこの戦いは、限り無く混沌を極めていた。予定通り華雄の挑発に雪蓮が成功し、引きずり出したまでは良かった。張遼、張繍、徐栄、李儒らを引き付ける事にも問題なく成功した・・・・ただ、たった一つの誤算がここに在った。

 

「りょ、りょ、りょ・・・・呂布だぁああああああああ!!!」

 

飛将軍呂布の参戦、その一手により敵主力を釘付けにし、その隙にシ水関を陥落させるという策は一気に瓦解する。呂布の武勇は想像の数段上を行くものでありそれを抑え込むために秋蘭、季衣、流琉、凪、星、鈴々、思春、黄蓋、程普などの武官勢のほとんどが逆に釘付けにされる羽目になりシ水関も軍師陳宮が篭った事により攻めにくくなっている。

 

「・・・・」

 

相当な乱戦で本来、戦前に決めていた担当どおりに組み合う事も出来ずにいた・・・・のだが。

 

「っ・・・・くそ・・・・」

 

夏焔の脇に抱えられているのは張繍だ、そしてその周囲には馬を失い機動力を削がれ、夏焔の直属兵に捉えられた張繍兵がいた。

 

「騎馬の力を過信したな・・・・とは言え、本来虎牢関での呂布対策だったのだが・・・・な」

 

夏焔兵の合間に設置されていたのは尖った鉄杭を組み込んだ大量の丸太、それを綱で起こし兵の間に埋伏させる事が可能な拒馬槍を制作していたのだ。とは言え今言った通り、本来呂布対策でありここで張繍に使う事は想定外だったのだ。

 

―張繍side―

 

「へっ・・・・ざまぁねぇな・・・・」

「張繍ーーー!!!」

 

自分自身の迂闊さを後悔する張繍の耳に聞こえてきたのは聞き間違えようもない仲間の声、思わず視線を上げれば、遠くから連合の兵士を割って蹴散らしながら突撃してくる呂布と張遼の姿、更に遠くには城門を固める徐栄と華雄、城壁の上で陳宮と共に援護射撃をする李儒の姿。

 

「わざわざ俺を助けに・・・・かよ」

 

ギリッと唇を噛み締める、ここで助けてもらえたとしてどうする?きっと彼女らとて自分一人を助け出すことで精一杯だ、部下たちを置き去りにする事になるだろうし・・・・また足でまといになるのは嫌だ。

 

「恋!!霞!!来るなぁあああああああああっ!!!」

『!!?』

 

その叫びに助けに来た呂布と張遼はともかく、夏焔までも驚きの表情を浮かべた。

 

「俺に構うな!!」

「せやけど紫炎!!」

「俺には俺の責任がある!!俺だけしか助けられねぇなら直ぐに戻れ!!!」

 

張繍の言葉にこちらも唇を噛み締めた。

 

「・・・・霞」

「分かっとる・・・・全軍撤退や!!」

 

踵を返し全速力で撤退して行く呂布と張遼。

 

「な・・・・っ!仲間を見捨てたのか!?」

 

思わず声を上げたのは一刀だ。

 

「見捨てたくて見捨てたわけじゃ無い」

 

夏焔の声に、え?と声を漏らす一刀。

 

「張繍が武将の責任を引き合いに出した以上、あそこで無理矢理助けていたら張繍の将としての誇りを汚すと思ったんだろうな・・・・俺が彼女らの立場だったとしてもそうするだろう」

 

将としての誇りなど、と軽んじる者も多い。だが武に生きる者にとってはその誇りこそが生きてきた証なのだ。

 

「追撃は不要だ!他の連中にも伝令を出せ、今日はここまでだと!」

 

夏焔のその一言で初日の戦いが終了した。

 

―連合軍―曹操軍幕舎

連合軍先鋒軍総兵数五万八千人、初日の被害。兵士死者数千三百二十二人、負傷者数一万弱、将官死傷者十数名、とかなりの被害を被った。そしてその損害をあたえた董卓軍の将の一人が、曹操軍幕舎にて座していた、それを囲むのは夏焔、隼、煉次、一刀、桂花、凪、星、水華ら曹洪組のメンツだ。

 

「・・・・どういうつもりだ」

 

幕舎に連れてこられるまで手を縛っていた縄を解かれると、張繍は周囲を睨みつけながら問いかけてきた。

 

「必要が無いからだ」

 

夏焔が、答えると俯く張繍。

 

「だよなァ、仲間ぁ助けるって気張って周囲との連携を忘れて、それで突っ込んで挙句の果てに捕まるような奴を縛り付ける意味なんざ・・・・」

「一つ、はき違えているぞ張繍」

「?」

「俺はお前の事を高く評価している」

「はぁ!?」

 

当の張繍は何を言っている、という表情でいる。

 

「お前を捕まえた俺の部隊の前に配置されていたのは夏侯惇、夏侯淵率いる曹操軍の最精鋭だ。お前はそこを速度一つ落とさず配下と共に俺のところまで突き抜けてきた・・・・それは並大抵の将に出来る事では無い。将が兵を信じ兵が将を信じなければ成し得ぬ事だ」

「・・・・」

「己を卑下するな、お前の才能は敵として戦った俺が良く知っている。もしそれでもお前をバカにする者がいたならば俺がそいつを討つ」

 

一つの敬意だった、事実、春蘭、秋蘭の軍勢を断ち割った張繍の騎馬隊には舌を巻くと同時に思わず見蕩れてしまった。自軍にあれほどの騎馬の指揮をする者はいない、自分が一番で次点が意外と思うかも知れないが一刀だ。

 

「・・・・ありがとうな・・・・って待て、だったらなおさらだ。何で俺の縄を解いた」

「お前に力を貸して欲しい、董卓を助けるために」

「何だと?」

 

それから張繍に全てを話した、華琳と董卓が幼馴染であるということ、此度のことには華琳も激怒しておりそれ故に、敢えて参戦し袁紹の眼を欺きつつ董卓を助けるという選択肢を選んだということを。

 

「・・・・事情は理解した、だが・・・・少しだけ、アンタらを見極めさせて欲しい」

「見極めるとは?」

「今一時董卓を助けるために手を組む隣人なのか、或はこの戦より先も手を取り合い歩む仲間なのかを」

「ふふっ、私たちを推し量ろうと言うのね?」

「華琳」

 

陣幕を押し上げて華琳が春蘭、秋蘭、稟を率いて現れた。

 

「・・・・曹操」

 

思わず、張繍はその名を呟いた。

 

「良いわ、選ばれるだけでは無く自らの眼でも選ぼうという気概は嫌いでは無いわ、むしろ好ましいとすら思える・・・・張繍、思う存分に見極めなさい。曹操を、曹洪を、夏侯惇を、夏侯淵を、天の御使いを」

「・・・・」

「その結果で貴方がこちらに来る事を選ばなくとも私たちは何も言わないわ、それは私たちの実力、魅力が不足していたという事だもの」

「ああ・・・・見極めてやるさ」

 

その眼には、先ほどまでには無かった強い光が宿っていた。



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第十六話 一騎打ち、のちのちのこと

翌日、連合軍は信じられない光景を目の当たりにした。

 

「・・・・思い切ったものだな」

 

シ水関放棄、張繍曰く李儒の策らしい。突如護りの要の一つを放棄する事により拍子抜けさせあわよくば慢心を誘うための決断らしく、少なくとも曹操、劉備、孫策、袁術、公孫賛、馬超、鮑信の軍勢を抜いてかなり気を抜いている。

 

「シ水関という要を放棄するわけが無いと言う並の考えが全てを鈍らせるか」

「ああ、あれが李儒のやり口だ・・・・普段は熱血ぶっても一番冷静に相手が『そんな手を打つわけが無い』って手を打ってきやがるもんだ」

 

取り敢えず、張繍は現在曹操軍客将という立ち位置で様々な助言を与えてくれている。

 

「次は遠慮なしにほぼ全戦力を突っ込んで来るだろうな」

「董卓軍の総戦力はどれほどかしら?」

「総兵数は十万近くだが実際ここまででばってくるのは七万程だ」

「虎牢関を抜かれたら防備は無し、なのに全兵力を注ぎ込まないのは・・・・十常侍派の残党か」

 

夏焔の推量に無言で頷く張繍、十常侍は討ったとは言えその影響力は根深く残っており、董卓さえ討てば自分たちが取って代われると・・・・連合に囲まれている現状を考えもせずに考える連中が多いわけで。

 

「将も恐らくは呂布、張遼、華雄、陳宮、李儒、徐栄、高順ぐらいしか出てこれないはずだ、董卓は元より腹心の賈駆、朱儁、皇甫嵩、盧植の三将も出てはこれないだろうな」

「差し当たっては呂布対策かしら?他はなんとか出来そうだしね」

「うむ・・・・俺が呂布に当たる」

『!!?』

 

その場にいた全員が絶句する。

 

「お、お待ちください師匠!せめて数名で・・・・!」

「そうです夏焔様!!一人でなんて・・・・」

 

それを諌めようとした凪と桂花・・・・を制したのは一刀と星だ。

 

「駄目だ凪、桂花・・・・きっと・・・・止めちゃダメなんだと思う」

「うむ、あの夏焔殿がただ無謀な戦いを挑むわけが無い。何か理由があるのだろう」

 

無言のままに、彗龍を手に取る夏焔。

 

「いーや、すまないが・・・・俺の我儘だ」

『え!!?』

「・・・・無茶も無謀もこれで最後だ、一度だけ・・・・挑みたいんだ・・・・天下無双という奴に」

 

張繍の存在以上に自分を惹きつけたのが呂布の武だ、天下無双と呼ばれるに相応しいであろうあの力。個の武で戦況をひっくり返すような存在、純粋な武の結晶、棄てたはずの夏焔の武人としての魂に火を点けるには十分すぎるものであり、ただただ・・・・限界と断じた己の武がどこまで刃を届けられるのかを確かめたくなったのだ。

 

「ふぅ、結局は夏焔殿も一人の武人であり一人の男であるという事ですか」

 

星が、諦めたようにため息をついて呟く。

 

「ま、男なら最強と聞いたら黙ってられないのは分かる」

 

一刀が同意を示す。

 

「大将なら勝てはしなくとも遅れは取らんでしょうし・・・・ガンバって事で」

 

煉次が応援の言葉を送る。

 

「武人として、と言われては仕方ありません・・・・師匠、ご武運を」

 

凪が納得するしか無い、と言わんばかりの表情になり。

 

「元より、夏焔様がお決めになられましたら従うまで」

 

隼が拱手しながら一礼する。

 

「もう!皆が賛成したら反対出来ないじゃないの!」

「ですね、ただご無事を祈るまでです」

 

最後に、観念したように桂花と水華が賛成の意を示した。

 

「曹洪組が総員で賛成ならこちらが口出しする事は無いわ、ただ・・・・夏焔」

「む?」

「無様でも構わないわ、生きて戻ってきなさい・・・・貴方はこれからの時代に必要な人材で、何より・・・・」

 

華琳が、曹洪組の面々を見渡しながら。

 

「それが貴方を送り出す決意をしてくれた仲間たちに対する礼儀で義務よ」

「ああ・・・・分かっている」

 

―翌日―虎牢関前―

異様な光景であった、春蘭と張遼、煉次と華雄、凪と徐栄が組合い、秋蘭が高順を牽制、とことん将の相手は曹操軍だけであとの兵と軍師は他の三軍に加えて鮑信と馬超が抑え込む形になっている。

 

「・・・・尋常に、お相手願おうか」

 

そしてそのど真ん中、夏焔と呂布の一騎打ち。

 

「・・・・ん(コクン)」

 

何となく涼夏に似ている気がしないでもないな、と感じつつ彗龍を構える夏焔。

 

「いざ!!!」

 

出会い頭、先ずは右脇に抱えていた彗龍を小さく隙が少なくなるように振り払う。

 

「ん」

 

それを難なく回避しつつ方天戟を大きく振り払う・・・・相当な速度で。

 

「っ・・・・ぁあっ!!」

 

ギリギリの回避動作で方天戟の刃を避け、彗龍を真っ直ぐに、不安定な体勢からでも淀みなく最速で突き出す。

 

「!」

 

呂布の顔をかすめる矛先、僅かにだが、その無表情に揺らぎが生まれた。その事実に自然と夏焔は笑みを浮かべている。

 

――――――

 

最強の武人と至高の武人の一騎打ちは、結果として後方から功を焦り乱入した袁紹と形勢危うしと見た李儒、両軍の兵によって決着を付けぬままに終わる事になった。

結果、乱戦の最中で徐栄、華雄が愛紗と鈴々に討たれ事態の収拾を計って乱戦に身を投じた李儒が雪蓮に捕縛され呂布、張遼、陳宮、高順だけが洛陽まで撤退する事になった。

 

―夜―虎牢関外曹操軍夜営地

曹操軍首脳陣の前で、一人の文官風の男が両膝をつき頭を地に擦りつけていた。

 

「此度の事、誠に申し訳無い」

 

袁紹軍軍師審配、この男は袁紹の乱入を諌めたらしかった。軍師でありながら将でもある審配は夏焔と呂布の一騎打ちに水を差すのは無粋でありまた連合の結束に亀裂を生む、と提言したらしかったのだが・・・・

 

『だからこそ!この袁本初が戦に華を添えて差し上げるのでしょ?オーッホッホッホッホ!!!』

 

との事らしかった、恐ろしい事にそんな光景が鮮明に浮かんでくる。顔良、文醜、張郃らの将や田豊、沮授、許攸らの軍師も袁紹に基本的に逆らえないためあの攻撃が決行されたらしい。

 

「顔を上げてくれ、審配殿」

 

ポン、とその肩に手を置く夏焔。

 

「確かに、一騎打ちを妨害されたと言う憤りはある」

「っ・・・・」

「だが・・・・あのまま戦っていたとて勝てていたかは分からない、むしろあのままでは戦場に骸を晒していたかも知れない」

 

一撃一撃が必殺級の威力を持つあの豪撃を何時までも捌けていた自信は無く、こちらの攻撃も少しづつ、見切られていた。

 

「・・・・」

「お前がその事を恥じているならば尽くすべきは言葉では無い」

 

その言葉に眼を見開き、審配は顔を上げる。

 

「・・・・私、は・・・・」

「成すべきが分ったならば成せ」

「・・・・はっ!!」

 

一礼をし、幕舎を出る審配。

 

「あの顔、貴方に心酔したわね・・・・審配」

「・・・・そうするつもりは、無かったんだがな」

「そうね、でも・・・・あの審配は人材として欲しいわ」

「そうだな、一刀と組ませると良いかも知れないな」

 

既に経験だけなら曹操軍で五指に入る一刀と、愚直だが全体を見れる審配、それに武官をもう一人組ませたならばそれは強力な遊軍として仕上がる。

 

「色々と考え中のようね」

「ああ、これから先の事も考えねばならないからな」

「軍事方面で、かしら?」

「ああ・・・・先ずは今の事だがな」

 

洛陽近辺の地図に視線をやる。

 

「董卓救出だが・・・・張繍を道案内に星と一刀に行かせよう」

「一刀に?」

「あれは気配に敏感だ」

 

ここ数カ月で一刀の中にあった幾つかの才を発見した、一つは人を引き付ける才、一つは観察し戦場を広く見渡す才、そして・・・・気配を感じる才、どれも得難く貴重な才だ。

 

「分かったわ」

「その間・・・・こっちは前面を荒らしつつ・・・・張遼を捕縛するぞ」

「・・・・分かってるじゃない」

 

ニヤリと笑みを浮かべた華琳と夏焔だった。



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第十七話 新たな仲間、再編成

―翌日―

とにかく、曹操軍全体で袁紹の眼を引き付けるように派手に立ち回った。春蘭が張遼を包囲し降伏させれば袁紹がそれに触発されたように奮起し軍を動かした。

 

「春蘭様が右目を失ったそうです」

「・・・・そこらへんの事は華琳に任せておこう、今は・・・・彼女らの扱いだ」

 

今ここにいるのは曹洪組と張繍、稟のメンツだ。

 

「・・・・」

「・・・・」

「で?ウチらをどないする気なん?」

 

二人の少女を庇うように立つのが張遼、その背後に少女が二人・・・・董卓と賈駆である。

 

「董卓殿、我らが主君曹操は貴女を助けんがためにこの連合に参戦した。害意は無い」

 

少し、俯き気味だった董卓だったがその言葉に表情を明るくする。

 

「ふぇ?華琳ちゃんがですか!!?」

「然り、我が幼馴染が斯様な真似をする非道な人物であるわけが無い。よって袁紹らの牙にかけられる前に助け出す・・・・とな、最初は袁紹を討つと言って聞かなかったほどだ」

「そう、なんですか・・・・ちょっとだけ嬉しいです」

 

テレテレとしている董卓。

 

「俺もその話を聞き真実だと感じたから手を貸している、詠(賈駆)、霞(張遼)・・・・頼む・・・・月(董卓)のために共に降ってくれ・・・・」

 

土下座の体勢で二人を説得する張繍。

 

「・・・・うん、分かってる。一番ここが安全なことぐらいは」

「せやなぁ、捕まったっちゅうても縛られたりしたわけじゃなし・・・・むしろ高待遇やったしなぁ」

 

ちょっとだけ呆れ顔で、二人が応諾するのだ。

 

―五日後―陳留城―

あの後、董卓の存在を悟られぬために主力の武将二名の怪我(春蘭の右目と夏焔の傷)を理由にして桃香、雪蓮、美羽らに話を通してから連合軍より退去した曹操軍。

 

「では改めて、宜しくお願いします」

 

ペコリ、と董卓―月が丁寧なお辞儀をする。

 

「まぁ月も助けて貰ったことだし、世話になるわね」

 

ちょっとつっけんどんな態度を取るメガネ、賈駆―詠。

 

「ここ強いの多いからなぁ、ウチも楽しみや」

 

ケラケラと、実に楽しそうに笑う張遼―霞。

 

「ただ手を組むだけの隣人よりは、手を取り合う仲間でありたいと。ハッキリそう思ったわけだ」

 

そんな三人の様子に微笑みながら張繍―紫炎がヒラヒラと手を振る。

 

そしてここに他から二人。

 

「曹洪殿の御言葉は我が心に深く響き渡りました!何卒、私もこちらで世話になりたく!」

 

元袁紹軍軍師審配―(じん)、当初は出奔を疑われたが真っ向から辞表を提出してきたらしい。

 

「袁紹に未来は無し、節操無しと取られても仕方は無いが・・・・先があるのはここだと感じた」

 

元袁紹軍武将張郃―(らい)、こちらも真っ向から辞表を提出してきたとの事だ、意外と二人共律儀だ。

 

「先ずは諸君らの参入、歓迎する」

 

華琳からの指名で夏焔が挨拶をする事になった。

 

「其々が様々な合縁奇縁でここに来た、それには必ず意味があるのだと思う・・・・まぁ何はともあれこれよりは共に歩む友であり仲間であり家族だ。何か困ったならば誰かを頼れ、誰かが困っていたならば気にかけてやってくれ・・・・」

 

―任城―

迅と紫炎、霞が任城へと赴任する事になったため、三名と遠征に出た曹洪組を引き連れて任城へと戻る夏焔。

 

「・・・・っ、お父さん!」

 

結構な速さで駆け寄ってきて、夏焔の懐に飛び込んだ涼夏。

 

『お父さん!?』

 

例に漏れず驚きの表情を見せる迅、紫炎、霞。

 

「涼夏、元気にしていたか?」

「・・・・うん、冬莉おねーちゃんに、とっくんしてもらってた(むふー)」

「ほう、良かったなぁ・・・・暫くは俺も戦は無い。今度は俺が色々と教えてやろう」

「うん・・・・?」

 

涼夏の視線が背後の迅、紫炎、霞に注がれる。

 

「えと・・・・えと・・・・(あせあせ)んっ・・・・」

 

矢張り人見知りは解消されがたい様子で夏焔に隠れる涼夏。

 

「涼夏、自己紹介」

「(こくこく)そ、曹洪の娘の、曹真・・・・です。宜しくお願いーします」

「おーぅ、ウチは張遼っちゅーんや。これから宜しゅうな」

「・・・・ん」

 

おずおずと手を差し出して霞と握手をする涼夏。

 

「やや、久しぶりだね夏兄」

「冬莉か・・・・すまんな、涼夏の世話を焼いて貰って」

「いやぁ、ほら親戚っしょ?だったらお世話してとーぜんで」

「なら良い。武術を・・・・教えていたそうだな」

「まぁねぇ、ほら・・・・私ってば一生懸命な娘の味方だから・・・・ってひゅい!?」

 

ケラケラと笑う冬莉、の頭を撫でたのは一刀だ。

 

「冬莉は良い娘だなぁ」

「まぁそうなるな・・・・」

 

―後日―

人材も兵数も増えた曹操軍では、華琳、夏焔、稟、秋蘭、桂花、迅らのメンツによって再編が行われた。

 

主軍、本拠陳留に駐留するのは華琳率いる精兵五万。武官は春蘭、秋蘭、季衣、流琉、雷、景、円楽、真桜、沙和、軍師として隗と稟、文官として月、詠である。

副軍、支城任城に駐留するのは夏焔率いる混成の三万。武官は冬莉、煉次、一刀、星、凪、紫炎、霞、文欽―(ふじ)、軍師として隼、桂花、文官として水華、風、迅である。

 

大きな変動としては冬莉が任城に異動したぐらいで他に新規参入があった事以外は大した変化は無い。

 

「一刀、紫炎、迅の三人はこれから三人一組で動くように・・・・それぞれに長所と短所がある、互いにそこを観察し、補い合え」

 

また任城では一刀、紫炎、迅の三人が一組で編成され凪、真桜、沙和らを三羽烏と呼ぶのに対し三将星(三羽烏よりも位が上で経験もある三人組の敬称として)と後々呼ばわれる事になる・・・・がそれはもう少し後の話である。



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第十八話 濮陽参入、漢の誓い

反董卓連合後、陳留に戻った曹操軍の面々。反董卓連合で名が売れたためか様々な変化が起きた。

 

飛将軍呂布と互角の一騎打ちを繰り広げた『鬼神』曹洪

 

潰れた己が眼を抉り自ら喰らった『隻眼将軍』夏侯惇

 

華雄、高順、徐栄の三将の軍勢を一人で抑え込んだ『驍将』満寵

 

これらの将が存在しているという事に加え大陸各地に名の売れている軍師である司馬懿、荀彧、郭嘉、荀攸がいるという事、そして曹操自らの出自、身分よりも能力と人格を重んずると言う言葉に大陸各地から様々な人材が仕官して来ている。

徐庶、蒋済、鄧艾、鍾会、孫礼、姜維、賈充、王凌ら新進気鋭の人材。

そして濮陽を収めていた劉岱、斉南を収めていた鮑信が臣従を申し入れて来た。これから先荒れるであろう天下に立ち向かうためには実力のある者の下につく事が得策であり、その力となるべく配下として戦うべきであると考えたらしい。

 

結果、多数の人材と新たなる領地を手に入れる事になった曹操軍は一躍、荊州刺史劉表や冀州を制圧した袁紹、揚州を収めた孫策や益州の劉璋などと並ぶ勢力になった。

 

またこの領地増加を受けて、先に再編されたばかりの人事も再々編される事となった。

 

本拠である陳留含む兗州西部には華琳、春蘭、秋蘭、隗、景、藤、円楽、真桜、凪、沙和、季衣、流琉、稟、劉岱、鄧艾、鍾会、孫礼。

 

濮陽、斉南を含めた兗州東部には夏焔、冬莉、煉次、隼、一刀、迅、紫炎、霞、水華、鮑信、徐庶、姜維。

 

中継地点である任城には星、雷、桂花、風、賈充、王凌。

 

といった人材配置に決定した。

 

―濮陽―太守府

任城から僕陽へと異動になった夏焔は、早速鮑信―(ごう)から提出されたこれまでの統治計画と帳簿、農地開梱、治水などの計画書などなど・・・・改めて剛が有能な人物であったと思い知らされたわけだ。

 

「剛さん、城壁の状態は?」

「うむ、先月の大雨で多少脆くなった箇所もあったが先週には修繕が完了している」

「ならば良し、次に・・・・」

「夏焔様、こちらの陳情書なのですが・・・・」

「剛様、徴兵の計画に関してですが・・・・」

 

今現在、兗州東部の内政は夏焔、剛、徐庶―遊里(ゆうり)、姜維―(あずさ)の四名で執り行われている。

警備など治安関連に関しては陳留からの経験がある一刀を筆頭とし迅、紫炎、冬莉の四人組が執り行い、軍備は煉次、隼、水華、霞の四名に委任している。

 

「うーっす」

「遅れてゴメン」

 

シュタッと手を挙げながら会議室に入ってきた煉次と、頭を下げながら入ってきた一刀。

 

「疲れましたよ、ほんとに」

「遅参の程、申し訳なく」

 

あくびをしながら入室する冬莉に続いて拱手し一礼して隼が入ってくる。

 

「遅れた事は気にするな、早速だが始めよう」

 

僕陽へと赴任後初めて行われる会議、主な内容としては今回は各担当部署の現状報告だ。

 

「では早速だが内政担当より梓、報告をして欲しい」

「は、はいっ!」

 

ピシッ、と背筋を仰け反らせるように立ち上がり梓が報告を始める。

 

「農業、商業による収支に現状問題は無く税に関しても滞り無く徴収が出来ています。また冀州方面、擁州方面からの流民が増加傾向にあり日増しに領民が増えています」

 

冀州を治める袁紹が北の公孫賛、西の張燕、張揚潰しに躍起になっておりかなり無理な税収を強いているらしく、それが理由ですぐ南にある兗州へと民が流れ込んできているのだ。

 

「こちらに関しましては北郷様より提案された案により中継地点である任城や新たに建設されました定陶の支城付近の新規農地開拓に従事させております、現状開拓率は四割程度ですが以後領民も領地も増える事を考えたならば十分な数字であると予測されます」

「ご苦労、次に治安担当より一刀」

 

梓が緊張から解放されたように息を吐き出し座ると、入れ替わりで一刀が立ち上がる。

 

「僕陽の街だけど元々剛さんたちの統治が良かったせいか問題点はあんまり見当たらなかった、けど・・・・やっぱり領民の増加で地元民との間で小競り合いが起きているから今のところはその不満の解消法に関して検討中・・・・ってところかな」

「分った、最後に軍部より煉次」

 

一刀は最早なれたもので汗一つかかずにそのまま座り、今度は煉次が立ち上がる。

 

「元々の曹洪隊と比べると濮陽軍は多少練度が劣るがそれでもそこらの兵よりは上だったから今は濮陽兵の練度の水準を少しづつ上げる方に腐心している、で・・・・兵数も流民の増加に伴って増えてきたから今は指揮官候補の育成も始めてる」

 

元々の濮陽軍が三万、それに曹洪隊を中心とした任城守備軍一万も編入し四万、現地での募兵と流民からの募兵により併せて六万規模になっている。北に袁紹、東に孔融、南に陶謙と周囲を敵性勢力に囲まれた状況であるが故に軍備拡張が最も急がれている。

 

「ま、内政が充実している分で楽ができているな・・・・防衛線に関してもまずまずだ・・・・ま、それでも圧倒的に数が足りないのが問題なんだがなぁ・・・・」

 

本拠陳留にしても北に袁紹なのは変わりなく、東の洛陽近辺は無法地帯で賊が跋扈し、南に劉表と気の抜けない状況には違いないのだ。

 

「失礼致します」

 

扉の外から水華の声が聞こえてくる。

 

「構わん、入れ」

「じゃあお邪魔するわね」

 

いるはずのない人物の声に、全員が思わず開いた扉の向こうを仰ぎ見れば水華の前に華琳が立っている。

 

「華琳、何故ここにいる」

 

華琳が陳留から本拠を変えないのは西方への備えの意味もある、その華琳が気軽に本拠を離れると言うのは割と大問題なのだ。

 

「客を連れて来たのよ」

 

そういって華琳が合図をするとその背後に法正と蒋欽が現れた。

 

「桃香と雪蓮から同盟の話を持ち込まれてね、陳留側の意見はまとまっているから両者の領地と隣接する濮陽組の意見を聞きに来たわけ」

「成程」

 

確かに、劉備軍のいる小沛と孫策軍の揚州と近いのはこちら僕陽だ。

 

「俺は賛成しよう、防衛の観点から考えても必要であり両者共に信じるに値する」

「他の皆も同意、かしら?」

 

華琳の言葉に全員が首を縦に振る。

 

「ならば、法正、蒋欽・・・・桃香、雪蓮に伝えなさい・・・・返答は応諾、後日正式な席を設け正式な調印を行う、と」

『はっ!!』

「夏焔」

「む?」

「二人は今日はここで泊まらせなさいな」

「帰るにもここからの方が楽だろうしな、分った・・・・丁度会議も終わる」

 

―曹洪屋敷―

卓を囲み盃を交わすのは夏焔、法正、蒋欽の三名だ。互いに別の勢力ではありながらも不思議とそれぞれの勢力で似たような立場で仕えている三人はすぐに気が合い、様々な話に花を咲かせていった。

 

「不思議なもんだな」

「ん?」

「何がだ」

 

蒋欽の言葉に、夏焔と法正が首を傾げる。

 

「違う主君に仕え、違う道を選んだ三人で呑むのが今までの人生で一番酒を美味いと感じるってのはさ」

「確かに、私もあまり他人と呑む事はしなかったがそれでも今飲んでいる酒はかなり美味いと感じる」

「・・・・確かに、不思議な事だ」

 

自然と、三人が笑みを漏らしながら顔を見合わせる。

 

「法正、確かお前のところの主君たちってさ・・・・義姉妹の誓いを結んでるんだよな?」

「ん?ああ・・・・」

「成程、そういう事か」

 

それぞれが、ゆっくりと盃を掲げる。

 

「それぞれが違う主君に仕えてはいるが・・・・」

「そういう事もまた一興・・・・」

「何より、先を見た良い誓いだ」

 

空の盃を一つ取り出し、それぞれが小刀で指先を傷つけ、滴る血を盃におさめる。

 

「曹洪、字を子廉・・・・真名を夏焔」

 

仕える主君もバラバラで

 

「蒋欽、字を公奕・・・・真名を月夜(げつや)

 

主義も理想もバラバラで

 

「法正、字を考直・・・・真名を久龍(くりゅう)

 

それでもたった一つの共通点を頼りとし

 

「我ら三人、義兄弟の誓を立てたからには」

 

たった一つの誓いを立てる

 

「思想、仕える主君は違えども」

 

三人が揃って、否・・・・

 

「この乱世を生き抜き、また再び」

 

仲間の誰一人として欠ける事無く

 

『揃いて盃を交わす事を誓う!!!』

 

乱世を無事戦い抜ける事を・・・・




曹洪、蒋欽、法正はゲームの三国志でも気に入って使っている武将ですね。


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第十九話 同盟本格始動、保護されたのは・・・・?

劉孫曹の同盟が正式に成立した事で、にわかに三勢力の動きが忙しなくなってきた。

 

先ずは劉備が幽州の公孫賛の援護のための袁紹攻めの要請を出した。

 

次に孫策が揚州南部の統一のため揚州の北、徐州にいる陶謙の牽制を要請。

 

最後に曹操が目的は別ではあるが袁紹攻めのために援軍を要請。

 

―濮陽城―太守府

三勢力の首脳陣が今ここに集っている。曹操軍より華琳、夏焔、稟、隼、景、煉次、遊里、梓が、劉備軍より桃香、愛紗、朱里、久龍、麋竺が、孫策軍より雪蓮、蓮華、月夜、穏、思春、咲季が会議に参加している。

 

「奇しくも三者の要請が被った訳だが・・・・」

「どの案件も確かに各勢力にとって急を要するもの」

「ではあるが・・・・むぅ・・・・」

 

会議の主導権を握っている夏焔、久龍、月夜がそれぞれ頭を抱えている。

 

「んー別に私たちのは後回しで良いわよ?」

 

二進も三進も行かなくなったその場の空気をたたいて壊すように、雪蓮が言い放った。

 

「なっ!?待て雪蓮!!」

「だってー、誰かが折れないと話は進まないでしょ?そしたら目的地が被ってる袁紹攻めを先にやった方がいいでしょ?」

「だが・・・・」

 

なおも食い下がる月夜、それほど孫策軍にとっては会稽、呉を抑えるという事は急務なのだ。

 

「そ・れ・に・・・・こういう時のための同盟でしょ?抑えのために人材を数人貸して頂戴、そうしたら南部をもたせてる間に総力で袁紹を潰して返す手でこっちの手伝いもしてもらう・・・・良いでしょ?」

 

確かに、孫策軍の数名に加え各勢力から数名づつ出し必要最低限の牽制を行う事で袁紹対策にほぼ全戦力を注ぎ込めるならば問題は無い。

 

「では各方面に配置する人材を相談しましょう」

 

華琳の言葉で全員が大陸地図と各地方の地図とにらみ合いになる。

 

―半日後―

半日かかってようやく、各方面の編成が完了し一同が安堵していた・・・・まさにその時だった。

 

「し、失礼致しますっ!!?」

 

大慌てで迅が駆け込んで来た。

 

「迅、今は会議の最中で入室時には許可を仰ぐようにと・・・・」

「申し訳も無く!ですが火急の用につき!」

 

そこで、不意に夏焔は違和感を覚えた。ついつい叱責したものの、迅は多少の事でここまで動揺するような気の小さい男では無い、それこそ今ここに袁紹が全軍で攻めて来たとしても粛々と防衛準備を整えてからシレッと報告してくる大胆不敵さを持つ軍師だ。では何故慌てているのか?

 

「・・・・話せ」

「はっ!」

 

片膝をつき迅から話された内容は二つ。

 

「先ずは一つ、袁紹軍が公孫賛攻めに向けていた軍を半分に割りこちらへと進軍中・・・・現在黄河流域まで攻め寄せております」

 

ある程度は予想がついた、袁紹はバカだがその配下たちは優秀だ。誰かがこちらの同盟の話を掴み先手を打つように袁紹に進言したのだろう。

 

「そしてこちらが重要です・・・・」

 

この時語られた言葉は、この場にいた誰もが予想だにしなかった一言だった。

 

「領内警戒中の隗殿と円楽殿が・・・・『献帝陛下』を保護したとの事です」




やや短めに終わってはしまいましたがここらでキリが良いと考えぶった斬りました


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第二十話 『献帝』劉協、新たなる国『晋』

献帝の保護、兗州に突然現れた大きすぎる存在に対しその場にいた大陸屈指の頭脳たちは頭を悩ませた。或はその真意を測りかね、或はその存在を測りかね、或はここから先を測りかね・・・・しかし「会って何故訪れてきたのか」を尋ねねば始まらないだろうと言う夏焔の言葉を受け各勢力の朝廷での官職所持者である華琳、隗、夏焔、桃香、雪蓮、美羽らのメンツで謁見をする事になった。

 

「面を上げて欲しい」

 

元洛陽官吏であった隗が場を誂え、本来取次役としている者の役目を担う形での謁見である。

 

「では皆様、面をお上げ下さい」

 

それまで床を見ていた視線をようやく上げたならば、そこには一人の少女。儚げで、しかしえも言われぬ威風を漂わせる。

 

「先ずは突然の来訪、皆を驚かせた事と思う・・・・それに関して詫びよう」

 

頭を下げる献帝の姿に、一同が一瞬唖然とし華琳ですら動揺する。皇族とは本来何者よりも尊く貴いものでありそれが誰かに対し頭を下げ謝罪するなど有り得ないことなのだ。ことさら霊帝と幼帝という暗愚な皇帝二人を見てきた華琳からすればその思いは強い。

 

「早速ではあるが本題に入ろう」

 

こちらが何か言おうとする前に、それを手で制して本題へと入った。

 

「ここへと参ったのは他でも無い、兗州牧曹操・・・・貴女の力を借りに来たのです」

 

献帝は語った、今の大陸の現状は自分たち劉氏一族が抑えるだけの力があったのに何進や十常侍をはじめとした者たちに好き勝手にさせた事やその力を瞬く間に衰退させてしまった事が原因であると考えた事。

既に洛陽は燃え尽き、寄る辺も何も無くなったのだが自分は未だこの国を助けたいと思っている事。

そして・・・・そのために、力を借りに来たのだ・・・・と。

 

「僭越ながら、お一つ・・・・お聞きしても宜しいでしょうか」

 

ひとしきり話の終わったところで声を上げたのは夏焔だ。

 

「構わない、申してみよ」

「では・・・・陛下の覚悟はそれだけか」

「!?」

「他者の力に縋るだけ縋って治めた天下に何か見いだせるとお思いか?ならばそれは大いなる勘違いであらせられると心得て頂きたい、陛下が考えるよりも天下とは重いのです。他者の力を借りようとするならば陛下自信もそれ相応の覚悟が必要です」

「・・・・朕は・・・・いえ、私は・・・・」

 

「例え傀儡でも構いませぬ、全てにおいて貴方がたに従い、どのような辱めを受けようとも、例えこの命失おうとも、最後のその刻まで貴方がたと運命を共に致します・・・・これが私の覚悟、それでは・・・・いけませんか?」

 

『献帝』としての言葉では無い、ただ漢の現状を憂い何かしたいと切に願う『劉協』としての言葉。

 

「十分かと」

 

珍しく、笑みを浮かべながら拱手すれば振り返る。

 

「皆は如何か、今の陛下の御言葉に・・・・思う事は無いか?」

 

そして静かに問いかける、一人の武人として、一人の軍師として、一人の主君として、よりも・・・・『漢の臣』としての自分に思うところは無いのか?と。

 

「・・・・陛下、この曹孟徳・・・・」

「待ってほしい、曹操」

 

華琳の言葉を、劉協が遮る。

 

「『献帝』としての私では無く、ただ一人の『劉協』として・・・・力を貸して欲しい」

 

その言葉と、その眼を見て夏焔は悟る。一個人の持つ魅力で、この少女に人物は恐らくこの国にはいないだろう、そして華琳も・・・・それを悟っただろうと。

 

「分かりました」

 

心なしか、口調が僅かに砕けたものとなる。

 

「この曹操、劉協殿のお力となりましょう」

「ええ、宜しくお願いするわ」

 

劉協の言葉遣いも砕けたものとなる。

 

「えっと!その!」

 

緊張した面持ちで桃香が前へと進み出る。

 

「私も同じ劉姓としてお力添えします!」

「ふむ、劉備は私よりも年上なのだな」

「えっと・・・・はい。多分そうだと思いますけど・・・・」

「ならば義姉上と呼ばせて貰おう」

「ふぇええええええええ!!?」

 

微笑む姿はその年代の少女そのものだ。

 

「この袁公路、漢の名門として力を貸すのは当然なのじゃ!思う存分、頼るが良い!」

「うむ、袁術にも期待しておるぞ」

 

そして美羽の事は妹でも見るかのように微笑ましげに見ている。

 

「・・・・」

 

そして雪蓮は、葛藤しているのだろう。気づかなかったわけでは無い、野望とも言えぬ物ではあるが野心はあったはずだ・・・・恐らくは揚州を孫家の天下にしようという。

 

「この孫伯符も力を貸すわ・・・・野心、無かったとは言わないけれどね・・・・それより確実な道が見つかったならそれに縋るのも良いわね」

 

雪蓮の野心の原動力はあくまで民の幸せを慮っての事、それよりも良く、多くを救える手法があるのならばそちらのほうがいいのだ。

 

「ならば、新たな旗を立てねばならないだろう・・・・」

「?『漢』じゃダメなんですか?」

 

夏焔の言葉に首を傾げた桃香。

 

「言っては悪いが既にこの国の民にとって『漢』は力を失い形骸化した存在だ、新たに国を建て直すならば国の名も改める必要がある」

「ああ、その言もまた然りだ・・・・ならば曹洪よ、新たなる国の名を何とする」

「・・・・ならば・・・・『晋』ではどうでしょう」

「『晋』・・・・ふむ、不思議だな・・・・良い響きだ」

 

静かに眼を閉じる劉協。

 

「では改めて、私劉協と共に新たに晋の国を作り上げるために!力を貸してくれ!」

『御意!!』

 

新たなる国、平和な国を夢見た者達が今、願いを一つに立ち上がった―――




歴史崩しもいいところですがここからだと思うんですよね、この作品は。
「えー!?こんなんアリ!?」と思われた読者の方もいるかも知れませんがこれが碓氷流恋姫です(断言)。


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第二十一話 再編成、晋の始まり

献帝劉協に従う事を決めた四勢力、そうなって来ると下手に動くのは命取りとの意見が出てきた。

 

「今下手に動いて劉協様の存在を疑われるのは愚策だろう、ならば外向きの手を幾つか打つべきだ」

 

そう提案したのは久龍だ、袁紹攻めを急がずに先ずは事前の策を打つべきだと。

 

「先ず公孫賛だが事情を説明すればこちらに手を貸してくれるはずだ、ならば使者と共に援軍を送り込み暫くは耐えて貰おう」

 

元々公孫賛は漢王朝に対する忠誠心はある、ならば劉協存命の報と劉協の書状があったならば二つ返事で協力してくれるだろう。

 

「次に外部の味方だが・・・・馬騰を頼る、西涼軍を味方に出来れば益州側の牽制と荊州の陽動を同時に行える」

 

馬騰、馬超の親子は義心に厚いと聞く、ならば利と義を説けば合力してくれるだろう。

 

「最後に袁紹だが・・・・二、三度奇襲をかませば勝手に退くだろう」

 

袁紹の兗州侵攻は恐らく牽制が目的、ならばその出鼻をくじけば無茶はせずに退くだろう。

 

「先の編成案を全訂正する」

 

との言葉と共に久龍がその場で再編成を開始する。

 

「公孫賛への使者兼援軍に曹仁を総大将とし軍師に程昱、将として鮑信、周倉、紀霊の三将に随行していただく、兵数は五千。ひたすらに強行軍で袁紹領内を駆け抜けていただきたい」

「んー、まぁ承りますよぉ?」

「はいはいー、お任せあれー」

 

気の抜けた返事で冬莉と風が応諾する。

 

「続けて馬騰への使者だが・・・・荀攸にお願いしよう、護衛として徐晃」

「えぇ、お任せ下さい」

「おぅ、バッチリやってやんぜ!」

 

丁寧に隗が応じ、気合十分に円楽が応じる。

 

「荊州方面の備えだが周瑜を総大将に軍師に郭嘉、将は蒋欽、夏侯淵、満寵、黄蓋で水上戦に備えて頂きます」

「ふむ、直々のご指名だ・・・・過不足無く期待に答えて見せよう」

「はっ、精神鋭意励ませて頂きます!」

 

余裕を持った態度で冥琳が、やや固くなって稟が応じた。

 

「呉の南部だが・・・・総大将に孫権、軍師に荀彧、将に夏侯惇、曹休、鄧艾、王凌、関羽、張飛、呂蒙、陸遜・・・・基本は防衛だが可能ならばそのまま南部平定に乗り出して欲しい」

「任せて頂戴!」

「ご期待に答えて見せます!」

 

両者共に気合満点な蓮華と桂花。

 

「最後に袁紹軍への奇襲部隊だが・・・・曹洪を大将とし軍師に司馬懿、将に張遼、趙雲、張繍、姜維、孫策、甘寧だ・・・・裁量は任せるぞ夏焔」

「そうだな、暫く攻める気を起こさなくなる程度に叩いておこうか」

「ふふふふふ、お任せを」

 

鬱憤でも溜まっているのだろうか、二人が不敵な笑みを浮かべながら応諾する。

 

「劉協様には四勢力中心の地、許昌に移って頂きます」

「うむ、よきにはからえ」

 

是非もなしと劉協―陽華(ようか)が頷く。

 

「曹操、劉備、李典、審配、董卓、賈駆、諸葛亮、鳳統、魯粛らには劉協様に随行していただく・・・・それと北郷」

「へ?」

「天の御使いの名、そろそろ役立てて貰うぞ」

「どういう事だ?」

「劉協様は文の象徴として、そして北郷・・・・君を武の象徴として。軍部の頂点に立ってもらう」

 

その言葉にはその場の全員が驚く。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!俺何かが・・・・」

「ああ、今の君に地位に見合う活躍など期待していない・・・・だが何れは地位に見合う男になって貰う・・・・やってくれるだろう?」

「・・・・分った、やってやるよ・・・・自力で軍部の頂点の名に見合う実力を身につけてやる」

「ああ、その意気だ・・・・とは言え今はまだ実力不足だから審配、張繍を補佐にして更に最終的に部下を数名配属するようにする。また今名を呼ばれなかった将に関しては後々要所の守備に就いてもらう、が状況に応じて今編成された部隊に援軍などで参加する可能性もあるため留意しておいて欲しい」

 

カラカラと今の編成を記した竹簡を丸め久龍が一同を見る。

 

「漢は終わるが晋が始まる、皆の尽力に期待する」

 

その言葉、その姿に不思議と全員が陽華に似た雰囲気を感じ取る。

 

「ならば、貴方も己を偽る事を止め新たなる国と共に歩むべきでしょう?」

 

その背に言葉を投げかけたのは陽華だ、その言葉と同時に久龍の動きが固まる。

 

「今は・・・・その話はいいのではないだろうか?」

 

そのやり取りの真意を知る者は陽華と久龍だけであり、何かを感じ取ったものも僅か数名だ。

 

「まぁ良いであろう・・・・曹洪・・・・夏焔よ、貴方の号令で全てを始めるとしよう」

「俺・・・・ですか?」

 

夏焔の問いかけに、静かに頷く陽華。

 

「私の覚悟を引き出したのは貴方です、そしてこの場にいる者たちをまとめ切れるのもまた貴方」

 

少しの間を置いて静かに前へと出る夏焔。

 

「新たなる国の始まりではある、だがしかし!現状を打破せねば未来は無い!袁紹や劉表、劉璋といった群雄や他にも俺たちの動きに或は賛同し或は忌避するだろう、それを打ち破って初めて晋は始まりを迎える」

 

掲げられた彗龍。

 

「始まりから終わりまで全て正念場と心得よ!!」

『応!!!』

 

その場にいた全員が或は拳を、或は腰に下げた武器を掲げる。

 

そう、ここから始まりなのだ・・・・・・・・




次回からはちょくちょく視点が入れ替わります・・・・が主に夏焔、隗、冬莉、煉次、一刀、景の六人の視点になると思います。


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第二十二話 馬騰登場、隗と円楽

―濮陽城―

公孫賛への使者と援軍、馬騰への使者、この二つを隠蔽するためにはこの奇襲を成功させる必要がある。

 

「さて、彼我の兵力差は二万と八万・・・・」

 

奇襲担当である夏焔に充てられた軍勢は二万、元々の曹洪隊が三千に孫策隊が五千、魏軍、呉軍の兵士が六千ずつと言う内訳になっている。

 

「ならば囮と背後よりの奇襲、ですな」

 

手に持った扇子をポンポン、としていた準が呟いた。

 

「幸いにもこちらには優秀な騎馬兵を率いる霞と紫炎、星、歩兵ながら足の疾い思春が配属されている」

 

目の前の地図の、濮陽北部をトントン、と扇子でつつく。

 

「真っ向を夏焔様、雪蓮殿、私と梓で撹乱しつつ守りに徹するならば・・・・だが・・・・雪蓮殿はただ護るだけでは退屈だろう?」

「ま、そういう作戦だと分かってても・・・・ね」

「ならば正面は攻撃的に護りましょう、尚且つ背後を攻撃的に脅かしてもらいたい・・・・できるな?紫炎」

 

暗に奇襲組のトップは紫炎だ、と任命する一言。

 

「・・・・ああ、やって見せよう」

 

静かにだが、確かな闘志を秘め頷く紫炎。

 

「雪蓮、俺と準の指示を違うなよ?」

「念のため聞くけど無視したらどうなるの?」

「蓮華と祭(黄蓋)殿、冥琳に月夜を呼び出して説教してもらう」

「全力で指示に従うわ」

 

二つ返事、矢張り雪蓮を黙らせるにはこれが一番なのだろう。

 

「いやーさっすがは夏焔の義兄弟やなぁ!うちらにこーんなええ役目宛てがってくれるんやもん」

「ですなぁ、良く分かっている」

「うむ、我らが研ぎ澄ました刃・・・・あの金色に突き立ててくれよう」

 

戦う気満々でいる三人。

 

「・・・・やれたら、いいなぁ・・・・」

 

紫炎がちょっとだけ弱気になった。

 

「まぁ・・・・それぞれがしかと役目を果たせば何ら問題はなく成功する、気負わずに、袁紹に吠え面かかせるつもりで行こうか」

『応!』

「お、おー」

 

気合満点に気勢を上げる一同と、控えめに声を上げる梓だった。

 

―同刻―武関―

兗州領内での大規模な軍の動きにまぎれ、出立した隗と円楽。

 

「ってか話し合いっしょ?何で護衛が要るんっすか?」

 

隗と円楽以外にも影から五錮の手の者や後々合流する形で兵士200名が合流地点目指し各々進軍して来ている。

 

「一つは洛陽、長安付近に出没する白坡賊へ対する備え・・・・もう一つは決して馬騰やその参謀の韓遂、そしてその地盤を支える関中十部軍が協力的であるとは限らないと言う事」

「でも使者に手ぇ出すのはダメだっつーのは暗黙の了解っしょ?」

「そう、あくまで暗黙の了解であって敢えて手を出すのを禁止しているわけではないんだ」

 

だからこそ可能性を考えなければならない、自分たちを人質に取り天子の、劉協の身柄を要求される可能性というものを。何せ馬騰にあるのは漢王朝に対する忠義心なのだ、あちらからすれば下手をすると漢の名を滅ぼした逆臣と取られている可能性もあるのだ。

 

「んー、まぁ難しい事はわかんねーんで・・・・・」

「?」

 

急にしゃべるのを止めたのを見て首を傾げる隗。

 

「誰かいる」

「五錮、では無いのか?」

「違うっす・・・・コレは・・・・」

 

手に持つ狼牙棒に力を入れる円楽。

 

「隗さん!!伏せるっすよ!!!」

 

その言葉に異論を挟まず地べたに伏せる隗。

 

「ぉおらぁああああああっ!!!」

 

草むらから飛び出した賊らしき格好の男たちが狼牙棒のひと振りで吹き飛ばされていく。

 

「コイツラっすかね、白坡賊って」

「分からんねぇ、味方と合流しない事には手も打てないし・・・・」

「荀攸様」

 

音もなく現れた黒ずくめの男、隗は見覚えがある。

 

「確か君は石岐だったね?」

「はっ」

「兵の状況と相手の情報はあるかい?」

「兵たちは既に合流地点に集合しております、相手は恐らく白坡賊かと・・・・推察ではありますが」

「うん、それで十分だ」

 

立ち上がって土や砂をパッと払う隗。

 

「ともかく兵と合流しよう、石岐・・・・すまないがもう少し情報を集めてくれるかい?」

「御意」

 

現れた時のように音もなく消える石岐。

 

「隗さん・・・・」

「先ずは兵たちと合流しよう、話はそれからだよ」

「・・・・うっす」

 

嫌な予感もあるがまた別の予感もある、とにもかくにも前に進もう。

 

―合流地点―

隗と円楽は思わず絶句していた、何故かと言うと・・・・

 

「やっほー」

 

合流地点にたどり着くと、何故か兵士たちが円を組んでいた、何事かと思えばそのど真ん中には小さな女の子。

 

「あー、ごほん」

 

固まる円楽をよそに咳払いをする隗。

 

「今正直に言うならば罪に問わないと約束しよう」

 

兵士一同が「は?」という顔になる。

 

「どこから攫って来たんだい?」

「ちょっと待ってください荀攸様!!」

「濡れ衣ですってマジで!!」

「俺たちが来た頃にはここにこの子いたんですから!!」

 

隗の言葉に全力で自己弁護をする兵士たち。

 

「まぁ君らの言葉を信じるとして・・・・」

 

少女に視線を向ける。

 

「君は何者だい?」

「あら?名乗ってなかったかしら?ゴメンなさいねぇ」

 

ケラケラと笑う姿に、不思議と祭の姿を思い浮かべる。何故だろう?と言う疑問は次の一言で氷解する。

 

「私は馬騰よ、宜しくぅ」

『え?』

 

その言葉に、殆どが口をポカーンと開けたままになる。

 

『どぇえええええええっ!!!?』

 

皆が慌てふためくなか隗はかつて聞いた噂を頭の中で反芻している。曰く「馬騰には三人の娘と姪が一人いる」「馬騰は勇猛であり一騎当千の猛者である」「馬騰は既に齢○○歳だがその姿はまるで少女のそれである」などなど・・・・

 

「何故貴女がここにいらっしゃるのかは敢えて問いません、ですからこちらの要件をお聞き届け願えないでしょうか?」

「ふぅん?十常侍を相手に毅然と立ち向かったと有名な荀攸君がわざわざ来るとはねぇ・・・・良いわ、聞いてあげる」

「感謝致します、先ずはこちらの書状を」

 

陽華が自ら馬騰に宛てて認めた書状を先ずは手渡す。

 

「献帝陛下・・・・が、ね」

「馬騰殿、お願いです。どうか・・・・」

「ちょっと待って」

 

ピッ、と指で隗の言葉を制す馬騰。

 

「残念だけどね、今の西涼軍の実権は私じゃなくて娘が握っているの。私は隠居なのよね」

「娘、と言われますと・・・・『錦馬超』ですか」

「そうよ、西涼軍の力を欲するならば娘を口説き落として頂戴な」

「馬騰殿は」

「そうねぇ、劉協様の衛尉(警護)でもやろうかしら?」

 

ケラケラと笑う馬騰の姿に半ば呆然としていた。

 

「・・・・隗さん、馬の足音っす」

「何?」

 

ふと正気に戻った円楽が呟いた。

 

「数は」

「100・・・・200ぐらいっすかね」

「ああ、心配要らないわ」

『へ?』

「件の娘よ、きっとね」

 

自信満々に語る馬騰。

 

「母さん!!」

「叔母さま!!」

 

現れた二人の少女と騎馬兵たち。

 

―四半刻後―

現れた少女、馬超と馬岱に話を聞けば両者も白坡賊の討伐へと軍を出していたらしい。それで奇襲を仕掛けるために騎兵500を率いて行軍していたところ、本営から馬騰が行方を晦ましたとの話を聞き急ぎで探していたらしいのだ。

ともあれ、この状況は幸いであると馬超にここにいる経緯を話した。

 

「成程なぁ・・・・うん、分った・・・・その申し出受けるよ」

「感謝致します」

 

馬超は快諾してくれた、となれば先ずは・・・・

 

「と言う訳で、これからは仲間です。白坡賊の掃討、お手伝い致しますよ」

「良いのか!?助かるぜ!」

 

ともかく、馬超から今現在判明している情報を引き出す。白坡賊は幾つかの拠点を持っていると言う事、その幾つかは潰したのだが本隊を潰しきれず直ぐに次の拠点を作られていると言う事、だ。

 

「ふむ、潰した拠点の場所をお教え頂けますか?」

 

隗が持っていた地図に、馬超の証言を元に潰した拠点を書き込んでいく。

 

「あちらも能なしでは無いようですね」

 

候補地を絞ることは出来ても明確な位置が判別出来ない。

 

「隗さん」

 

不意に、円楽が声を上げた。

 

「どうしました?」

「多分っすけどね、ここだと思います」

 

そう言って指差したのは候補地以外の場所。

 

「どうして、ここと?」

「何となく、としか言えないんっすけど・・・・」

 

隗が円楽と組んだのは黄巾の乱の頃だ、軒並み主力の将が出払い隗と円楽だけで領内の賊掃討を担当していた。その頃も、円楽はしばしば「何となく」で賊の潜伏箇所などを的中させている。

 

「分った、では西涼軍の皆さんにもお力添え頂きましょう」

 

その頃の経験からか、隗は円楽の「何となく」を信頼している。

 

「さぁ、行きましょうか・・・・」

 

バッと両手を開いて先頭を切って歩き出す。

 

「このような所で、賊相手に手間取っているわけには行きませんから・・・・ね?」

 

荀公達は行く、友のため、仲間のため、そして何より・・・・

 

「待ってて下さいね、直ぐにもどるよ桂花!!!」

 

妹のために。

 

「なぁ、荀攸って・・・・」

「わり、ツッコまねーでやってくれ」

「なんか触れちゃダメっぽい?」

「ダメ」

「まぁまぁ、兄妹仲が良いのは良い事よ」




某アニメを見てて「母親なのにロリ・・・・アリだ!!」と思って馬騰が誕生しました。


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第二十三話 十面埋伏、煉次の思惑

―擁州天水―

白坡賊の駆逐に成功した隗と円楽、馬超、馬岱、馬騰は涼州軍参謀である韓遂の居城天水城へと赴いていた。擁涼二州の最大豪族連合である関中十部軍の長であり華琳に並ぶ才知を持つとまで噂される男、隗は韓遂と一対一での会見に臨んでいた。

 

「成程、要件は分った」

 

書状をゆっくりと畳み込む韓遂、齢は50近くと聞くが見た目は30前半程に見える。

 

「条件がある」

「条件、ですか・・・・」

「然り、世の中義理と人情だけで動くわけにはゆかぬ。何より私の判断が涼州軍十万と関中十部軍二十万の行く末を決めるのだ」

「承知致しました、先ずはお聞かせ願いましょう。可能な限り、身命を賭して叶えます」

 

うむ、と一度頷いてから隗の目を見る韓遂。

 

「一つ、戦後・・・・晋が大陸を制覇した場合の擁涼二州、こちらの統治者を必ず擁涼二州出身者から出して貰いたい・・・・具体的に言うならば私、馬騰、馬超、馬岱、董卓、超繍あたりとなるな」

 

矢張り油断ならない、月が生きている事を知っていて平然とその名を口にしている。

 

「一つ、擁涼二州の自由統治の認可だ。無論年間で決められた年貢は納めよう、だが基本的に二州の運営は先に挙げた人物たちに一任して欲しい・・・・この二つだな」

 

韓遂の出した条件は一見、利己的に見えて理にかなっている。擁涼二州の出身者から統治者を出せ、と言うのは元々異民族出身やその血が混じる者が多く住まう土地であり他所の土地から来た統治者が認められるには莫大な時間を要する。ならば元々の土地の者を使えばその手間が省け早くに統治活動を進められる、と言う事だ。

 

「委細承知致しました、尚書令荀攸の名に賭けて・・・・そして、一人の人間隗としてその約定、果たす事を約束致しましょう」

「・・・・君は真っ直ぐな人物だな、正直羨ましいよ」

 

隗の言葉に意外そうな顔をしてから笑う韓遂。

 

「貴殿が約定を果たすならば私・・・・凍雨(とう)の名に賭けて、全力で働く事を誓おう」

 

韓遂―凍雨が拱手する。

 

「(私の成すべきは成した、次は君らの番だぞ・・・・夏焔、冬莉)」

 

―平原南部―

袁紹軍八万を前に相対するのは曹洪隊三千のみ、将は夏焔一人。

 

「全く、風も無茶苦茶な策を提示して来るものだ」

 

少しばかり前の話だ、冀州西部を強行突破し北平へと向かう部隊にいるはずの風がこの陣を訪れた。

 

『奇襲する方法に関して献策がありまして~』

 

そんな何時もと変わり無い口調で風が述べた策は、雪蓮の欲求不満を満たしここにいる将全員を効率的に運用出来る最善の策であった。

『十面埋伏』、一部の兵と「大将首」を囮として相手を引きずり出し残る全兵を伏兵として使う。大将をのっけから危機に晒す異端の策。

 

「だが、それが最善なのだから仕方あるまい」

 

伏兵は各隊1700づつ、それぞれの部隊に紫炎、霞、星、雪蓮、思春、準、梓ら主力の将と急遽ではあるが副官階級から李通、王双、韓徳の三名を抜擢、昇級させ伏兵の指揮を行わせている。

 

「曹洪様、伏兵配置の完了、及び袁紹軍が所定の位置へ進軍を開始したと報告が入りました」

「また主軍各兵も準備完了です」

 

王忠と呂虔、この二人も随分と長くこの隊にいる。彼女らに転属や昇格を勧めたのも二度や三度では無いがその都度自分たちは曹洪隊で戦いたいのだと断られている。

 

「分った・・・・各部隊に合図を送れ・・・・作戦、開始だ」

『御意!』

 

―荊州宛城―

荊州防備の軍勢は現在、軍を二つに割っていた。一つは総大将冥琳と軍師稟、他主力の将のほぼ全てが編成された軍、こちらは現在蘆江に兵五万が駐屯、そしてここ煉次がいる宛城には兵一万が篭っている。

 

「煉次様、一つ宜しいでしょうか・・・・」

 

城壁から長江を眺める煉次、の背後に控えていた水華。

 

「ん?何だ?」

「何故、ほぼ全ての主力をあちらに?」

 

総大将と軍師に月夜、秋蘭、祭ら三将まであちらに行かせた、それが解せないのだろう。

 

「良いんだよ、俺らの仕事はここで劉表を釘付けにする事だ」

 

身を翻し、水華へと向き直る。

 

「現状対応を急がなけりゃならねぇのは北の袁紹と東南の山越だ、劉表あたりはむしろ状況を静観『せざるをえない』状況を作り出してどう動くかを示してもらわなけりゃならん」

 

何せ荊州を一代で統合して見せた実力者で有力者なのだ、下手に排斥すればそれは荊州の豪族たちを敵に回すことになるわけでそれよりも、劉表に臣従、或は協力体制を申し出させる状況を作り出し味方に引き入れたほうが何倍も良いのだ。

 

「新人連中はどうだ?」

 

宛城へと来る前に、文聘と凌統という若い士官を昇格させ部隊長としたのだ。

 

「はい、特に問題は無いですね。部隊指揮も思ったより淀みは無く戦闘時も落ち着いた戦いをしています」

「だろうな」

 

文聘は元々曹洪隊時代からの煉次の部隊にいた少女でその頃から、その才能と手腕には眼をつけていたのだ。そして凌統は今回の配置に就く前に一度蘆江で募兵をしたのだがその時に応募してきた少女、荒削りな面もあったのだが冷静に、自分のするべきことを分析して動ける。

 

「さてさて・・・・さっきの質問だが・・・・もう一つ理由があるんだ」

「?」

「劉表と言う英傑を計る餌、さ」

「餌、ですか?」

 

水華の言葉に、無言で頷く。何しろ劉表と言う人物をハッキリと評価する言葉は少ない、荊州統一の英傑・・・・それ以外の評価がほとんどと言っていい程無い。つながりがあったであろう陽華ですら語る言葉は少ないと言っていた。

 

「満寵将軍!」

 

かなり焦った様子で城壁へと上がる階段を駆け上ってきたのは凌統だ。

 

「どうした、敵が来ても粛々と落ち着いて対応しろと・・・・」

「ち、違います・・・・」

 

煉次の目の前まで来て息を整えている。

 

「荊州牧劉表より使者が参りました!!」

「来たか」

 

荊州牧劉表動く、それは吉なのか凶なのか、それはまだ定かでは無い・・・・



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第二十四話 劉埼到来、満寵起つ

―荊州・宛城―

太守府の一室、迎えるは煉次、そして背後に水華と文聘、対面には一人の少女と背後に偉丈夫が一人控えている。

 

「お初にお目にかかります、劉荊州が娘の劉埼です」

「晋の荊州方面軍所属、満寵だ」

 

劉表からの使者として現れたのは劉表の娘である劉埼とその護衛である黄祖の二人だった。

 

「さて、状況は存じ上げているだろうから・・・・要件を、単刀直入に述べて欲しい」

 

煉次が早速要件を切り出す事を促す。

 

「はい、お力添えを頂きたく参りました」

「?力添え・・・・だと?」

 

訝しげな表情になる煉次、一体何に力を貸せと言うのだ。

 

「父、劉表が現在危篤状態にあります」

「劉表が・・・・」

 

劉表が危篤、ならば自ずと答えは出る。

 

「内乱か」

「はい」

「姫、ここからは私が」

 

顔を青くして頷いた劉埼の心情を察してか、黄祖が前へと進み出る。

 

「劉表様が病床に伏されましたのは三日ほど前、貴殿らがこちらに駐屯した頃でした。お倒れになる前の劉表様の晋へと対する対応は『関与せず』でした」

 

恐らくは情勢を見て、可能な限りの条件を引き出した交渉を考えていたのだろう。

 

「ですが昨日、病状が悪化・・・・劉表様はもしもの時を考え後継に姫を、劉埼様をご指名なされました」

 

自らの快癒には賭けずに死した後の事を考えすぐに後継の指名、自分が死ぬ前提での判断など並大抵の凡人には出来ない。矢張り劉表は傑物のようだ。

 

「が、その事に反発した一団がおりました。異母弟の劉綜様とその叔父である蔡瑁を始めとした荊南の豪族連合です、彼らは我ら劉埼様の周囲の人物が病床の劉表様を脅し劉埼様を後継に付けたのだと、劉埼様は正当な後継では無い、従う理由は無いと」

 

恐らくその図面を描いたのは蔡瑁だ、以前から狡賢く財貨に目のない男だと聞いている。自分の甥である劉綜が荊州を収めれば好き放題できると踏んだのだろう。

 

「結果として現在、劉埼様に従う私をはじめとした三万ばかりが襄陽に籠城している状況です」

 

荊州軍全軍で十五万と聞いている。

 

「そこまで悪化していたか、間諜は放っていたが命からがら逃げ戻ってくる始末でな」

「伊籍と陳宮が張り切っておったのだろうな」

 

そうか、と頷きかけて一つの違和感に気づく。

 

「・・・・待ってくれ、何で陳宮がいるんだ?」

 

虎牢関以来行方知れずになっていたはずの董卓軍の一人である陳宮が、という事は・・・・

 

「陳宮だけでは無い、呂布、高順、李儒、徐栄と今こちらに力を貸してくれている」

 

驚いたものだ、呂布軍がいた事もだがそれをかくしおおせるだけの情報統制を敷ける事に驚いた。

 

「水華、許昌に伝令を出して詠と・・・・可能なら月ちゃんもこっちに来るように伝えてくれ」

「はっ」

「文聘、武関にいる陳武と潘璋に伝令出してどっちか一人をここの防備につかせろ」

「御意」

「凌統!どうせそこにいるだろ!?直ぐに軍備を整えて兵一万で出るぞ!」

「御意です!」

「えっと・・・・」

 

突如、指示を出し始めた煉次に戸惑う劉埼。

 

「手ぇ貸してやるよ」

「え?」

「ったく、荊州の英雄が死ぬかもしれねぇ時にお家騒動なんざ引き起こしやがって・・・・しかも姉弟喧嘩なんて一番病人に良くねぇだろうが」

 

せめて劉表が身罷るまでぐらい仲良く出来ないのだろうか、父親が快癒する事を信じ、争いを控えようと考えはしなかったのだろうか。

 

「ま、それに可愛い女の子の求めを断るのぁ俺の信条に反するってね」

「ふぇ!?」

「若いのぉ・・・・」

 

煉次の言葉に顔を真っ赤にする劉埼、とそれを見て呑気に笑う黄祖。

 

「ああ、矢張り煉次様は煉次様ですね」

「え?どういうこったい?」

「いえ、最近あまり真面目に働かれますので・・・・てっきり頭がおかしくなったのかと」

「・・・・酷くね?」

「いえ、全く」

 

水華の言葉に煉次が膝をついて項垂れている。

 

「ああ、そう言えば・・・・」

「?」

「冥琳様にはどう報告を?」

「あー、大丈夫だ・・・・」

 

項垂れたまま手をヒラヒラと振る煉次。

 

「あの(アマ)がただ暇してるタマかって、どうせ宛城内にも大量に間諜がいるだろうさ」

「それは・・・・味方を疑っていると?」

「違ぇーよ、俺の失策でここが陥落した時の事を考えてあらかじめ放ってたんだろうよ」

 

相当現実主義だ、例え味方と言えどその力を手放しで信用したりはしないわけだ。

 

「んでもってそろそろ・・・・」

「将軍!?」

 

扉を開けて凌統が駆け込んでくる。

 

「ほ、北門に味方の軍が!!」

「旗は?」

「『北』『李』『徐』です」

「んじゃあ一刀と真桜、遊里だな。直ぐ行く」

 

―宛城北門―

 

「よう、援軍ご苦労」

「ああーまぁ、冥琳から要請があってさ・・・・」

「『煉次一人では大変そうだ』ってか?」

 

苦笑しながら肩をすくめる煉次。

 

「そんなところかな」

「なら丁度良い、襄陽の救援に向かうから連れて来た軍勢置いていけ。指揮は凌統にやらせる」

「は?何でまた」

 

一刀の疑問を受け、劉埼に引き合わせつつ事情説明をする煉次。

 

「成程ね、分った・・・・で宛城軍ってどれぐらいいるんだ?」

「一万」

「・・・・一万で三万の救援・・・・相手は?」

「概算十二万、もうちょい多いかもな」

 

唖然とした表情の一刀、と真桜、遊里。

 

「ほれほれ、とっとと行くぞ!襄陽軍も呂布軍も長くはもたんぞ!!文聘、準備は良いか!?」

「はっ、既に完了しています。既に陳武様、潘璋様への伝令も出しましたので一両日中に到着するでしょう」

「良し、凌統!陳武か潘璋が到着したら賈駆の到着を待って追いかけて来い!兵は賈駆が連れて来たのをそのままだ!」

「了解です!」

 

文聘、凌統の言葉を聞き、先ずは一息付く。

 

「なら行くぞ、出陣だ!!!」

『応っ!!!』

 

 



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第二十五話 十面埋伏成る、思案

―平原南部・・・から西の小山―

夏焔が配置した伏兵の更に外側、戦場を一望出来る小高い山に袁紹軍の沮授は部下数名を連れて陣取っていた。本来潘鳳と共に進軍すべきであった沮授がここにいるには理由がある。

 

「良かったんでしょうか・・・・」

 

となりにいるのは袁紹軍の二枚看板である武将、顔良。

 

「構わない、自分一人で十分と豪語したのは潘鳳殿だ・・・・それに事を構えるにしても実力を知らねばなるまい」

 

独力で立てず手を結ぶような柔な連中の相手など自分がいれば十分、頭でっかちと小娘は引っ込んでいろ。潘鳳にそう言われた沮授と顔良は敢えてその言葉に従い戦場を離れ、こうやって見学することにしたのだ。

 

「明らかに本陣が少ないですよね、伏兵ですか?」

「恐らくな、しかもこれは・・・・」

「あっ・・・・沮授様!アレ!!」

 

僅か三千ながら沮授が連れて戻った三万を除く五万を地形を上手く活かし罠を張り押し返す夏焔の隊。隊列をボロボロに崩されて成す術なく退がり始めた潘鳳の軍に二千弱の部隊が左右から襲いかかる。

 

「うわ・・・・更に崩されていきますね・・・・」

 

最初の二部隊は雪蓮と霞だ、血気盛んな二将を初撃とする。

 

「あれだけでは、あるまいよ」

「え?」

 

更に眼下で二部隊が突撃する。忠実に仕事をこなす紫炎と李通。

 

「うわ・・・・伏兵四枚」

「で、済めば御の字だな」

 

更に四枚、星、思春、王双、韓徳が果敢に襲いかかる。

 

「ちょっ・・・・」

「で、私ならばもう二枚だが・・・・やはりか」

 

止めと言わんばかりに隼と梓が蓋をして完全に包囲されていく。

 

「・・・・これは・・・・」

「約二万、と言うところか・・・・少数の本隊を囮に相手を釣り出し残る全兵で伏兵、包囲殲滅と・・・・この策を思いつく方も思いつくほうだが実行する方も実行する方だ」

「それは馬鹿にしてるんですか?」

「いや、褒めている・・・・」

 

そして沮授の胸には一つの思いが到来している。今現在、袁紹軍に軍師はいるが策が取り入れられることは少ない。袁紹が恥知らずに王道とやらを基準とし正々堂々とか言いながら真っ向からの攻め以外を下策と断じてしまうからだ。

軍師の存在は希薄なものになってしまっている、対して目の前の晋軍はどうだろう?奇抜な策を是とすれば直ぐに実行し、それが可能なだけの人材がいる。

臣下としては袁紹に従う他無い、だが軍師としての自分はどうなんだろう?

 

「・・・・俺は・・・・」

 

戦ってみたい、己が知の全てを尽くして、精兵を操り、将に指示を飛ばし、あのような強敵と・・・・

 

「顔良」

「はい?」

「すまないが・・・・少し、手伝ってくれ」

 

そう言いながら沮授が身を翻した頃、潘鳳は討ち取られていた・・・・

 

―同刻・戦場―

霞が袁紹軍の将、潘鳳を討ち取ったと言う報せを受けた時・・・・夏焔は西の方にそびえ立つ小山へと視線を向けていた。

 

「・・・・曹洪様、あちらに・・・・何か?」

 

傍らに控えていた呂虔が首を傾げ問いかけてきた。

 

「いや、なんでも無い」

 

嘘だ、感じ取ったのは視線だ。熱い、こちらを射抜いてくるような視線、ただ不思議と敵意と言う敵意では無い・・・・むしろ、敬意、そしてその後に熱意。

 

「・・・・王双と韓徳、李通に一万五千を預けこの周囲に駐屯。哨戒と警戒をさせる」

「はっ!!」

「良し、帰還する!!」

「ちょっと!!」

「待って貰おうか!!」

 

帰還の命令を下した直後に夏焔のところまで駆け込んできて待ったをかけたのは雪蓮と霞だ。

 

「どうした」

「いやー、ほら・・・・こっから戻ったら多分直ぐにまたバラバラでしょ?それぞれの任地とかあるだろうし夏焔も対袁紹戦線に行かなきゃだし」

「まぁそうなるな」

「せやったらこの面子揃っとるうちにちょーっと飲まへんかなーって」

「・・・・隼、どうだろうか?」

 

軍師の隼へと問いかけてみる。

 

「宜しいかと、兵士の士気高揚にも繋がります」

「梓」

「は、はいっ!私も隼様と同意見です、戦後の慢心は時に致命傷を招きますが今はとにもかくにも敵性勢力に囲まれてる現状ですっ!長きを戦うためにも一時の生き抜きも肝要と思われます!」

 

隼の回答は矢張りと言うべきか簡潔に、結論だけを述べた。そして新人である梓は理論立てて来た、しかし正論である。

 

「よし、ならば直ぐに夜営と宴会の準備を!!明日朝一で帰還する事を考え飲みすぎないように通達しろ!!」

『御意!!』

 

―夜―

皆が酒に浸り、兵士たちのほとんどが眠りについた頃、一人酔いつぶれないまま手酌で飲んでいた夏焔。

 

「・・・・石岐か」

「はっ」

 

何時ものように、音もなく現れた黒子のような石岐。

 

「各方面の状況を」

「はい」

 

先ず伝えられたのは冬莉ら公孫賛への援軍が無事に到着した事、続いて隗らが無事に西涼軍の協力を取り付け共に漢中、益州軍の牽制に移った事。そして荊州の騒乱、煉次が劉表の娘劉埼に請われ援軍を請け負った事とそれに一刀、真桜、遊里からなる援軍が合流し共に行軍中であると。

 

「成程、ならば冥琳は動かんな」

 

煉次が一刀らの援軍と合流し十分な兵力を確保したならば冥琳ら荊州方面の本隊が無理に動く必要は無い、側面を脅かすと同時に揚州方面の部隊の側面援護を同時にこなすぐらいは簡単にしてみせるだろう。

 

「揚州方面軍の様子は?」

「はっ・・・・なにやら動いているのは分かるのですが・・・・ハッキリとした情報は掴めず」

 

揚州方面軍の軍師は桂花だったはずだ、しかしそこまでの情報統制を敷けるのは想定外、ならば相応に策も用意しているはずだ。

 

「分った・・・・石岐、荊州に飛んでくれ」

「・・・・あちらが動く、と?」

「今情報の力が欲しいのは別動軍と化した煉次だ、力を貸してやってくれ」

「御意」

 

音もなく、影に溶け込むように消えた石岐。

 

「・・・・俺も、だな」

 

まだ足らない、次は袁紹を叩かねばならない。そのための策、そのことを頭に思い浮かべながら・・・・ゆっくりと盃へと酒を注いでいく・・・・




いやいや更新が遅くなってしまいました(^_^;)
新しくもう一本作品書いてみよーかなー?なんて事を考えてしまっているうちに気がつけば二週間が経過・・・・やっべ(ーー;)と思って途中まで書き進めていたのを急ぎで完成させ投稿した次第です。

さてさて、次回は煉次と袁紹軍の沮授にスポット当ててみたいと思いますヨ。


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第二十六話 袁紹軍の備え、張春華との邂逅

―平原―

先の潘鳳の敗死を受けた袁紹軍、その様子を見ていた沮授から出された提言は『先手、或は確実に迎撃するための準備を行っておく』。沮授は過大評価も過小評価もせずただありのままの事実だけを見る人物だ、と言う事は袁紹軍の、袁紹以外の全員が知っている。故に田豊や郭図、許攸と言った他の軍師や文醜、高覧、周昴と言った武官たちもその言に賛成し袁紹を説き伏せ先手、もしくは迎撃の体勢を整える事を承諾させたのだ。

 

現在、ここ平原に駐屯する軍は兵数10万、総大将に袁紹の一族袁遺、軍師に沮授、将として顔良、文醜、高覧、睦元進、韓莒子となっている。

 

「私には軍の事は分からんよ、だから沮授殿・・・・君の好きなようにやってくれ」

 

基本、袁家の血筋は無能が多いなどと世間から言われているが少なくとも袁遺に関してはそうでは無い。己に軍才が無い事を知っており己が無闇に口出しをすれば全体の混乱に繋がる事も知っている。暗愚ではなくむしろ聡明とすら思われるが当人に自信が無いためか彼を知らぬ者からは他の袁家と一括りにされている。

 

「とは言え・・・・どうなさるおつもりですか?」

 

傍らに控える顔良が、心配そうな表情で問いかけてくる。潘鳳が敗れた戦い以来、顔良が沮授の副官として就く事が多くなった。そして顔良が心配しているのは二万で五万を破る相手に勝算はあるのだろうか?と言ったところだろう。

 

「相手はまだ動きを見せていない、いかなる将、軍師が出てきたかで対応を変える・・・・」

「でもさぁー?ただ待ってんのも退屈だろー?」

 

袁紹軍の二枚看板のもう一枚である文醜が文句を言っている。

 

「敵を今までの雑魚らと同じと侮るな、少なくとも軍神関羽や燕人張飛、隻眼の夏侯惇や鬼神曹洪、驍将満寵、神速の張遼、小覇王孫策、鈴の甘寧らは並の将のそれではない。張郃や審配もいる事だしな」

「然り、軍師にも臥竜諸葛亮、鳳雛鳳統、美周郎、十常侍に真っ向より立ち向かった荀攸などもいる、戦力としては未知数過ぎる」

 

その二枚看板に続く武将である高覧が言葉を続ける。

 

「特に曹洪を侮るな、虎牢関での戦いも見ていたがあれは他の将とは一線を画している・・・・用兵、武の力量はことさらだ」

 

高覧の脳裏に浮かぶは虎牢関での曹洪と呂布の一騎打ち、あの場そのものが芸術だった、武人であるならばあの光景に見惚れずにはいられない。そう断言出来る程のものだった。

 

「負けるつもりは無い、来るならば・・・・来い」

 

一人、誰にも聞こえぬつぶやきを漏らす沮授のその眼には確かな、意思の炎が宿っていた。

 

―濮陽城―

現在、此処には先の曹洪軍二万に華琳率いる三万が合流し合計五万の兵が駐屯している。現状、雪蓮が一時許昌に下がったので華琳がここの総大将と言う事になっている。

 

「で?どうだったかしら袁紹軍は」

「少なくとも、今回干戈を交えた潘鳳は武はあるが知はなく、勇あれど謀なしと言ったところだった」

「他ならばどうかしら?」

「・・・・一人、誰かは分からんが先日俺の戦を覗いていた奴がいた」

 

忘れもしない、まるでこちらの一挙手一投足を覗き見られているような視線。まるでこちらの戦全てを見透かしているような・・・・

 

「恐らくは、軍師だ・・・・もしあれが袁紹軍の者だったならば厄介な戦となるだろうな」

「あら、望むところじゃない」

 

凛と光を放つその眼は、未だ見ぬ強者との戦を楽しむ眼だ。

 

「・・・・雪蓮の戦好きでも感染(うつ)ったか?」

「貴方は楽しみでは無いの?夏焔」

「・・・・無神経な事を言うなら正直、楽しみではあるよ」

 

将としては確かに不謹慎であろうが一人の武人としては正しい感覚だと思うのだ。

 

「失礼」

 

部屋の外から響いた声は隼のものだ。

 

「どうした」

「はっ」

 

部屋へと入ってきた隼はどこか動揺しているように見える、なぜだか分からないが。

 

「実は・・・・妻が訪ねて来ておりまして」

「ほぅ」

 

話には聞くが実際に顔を見た事は無い、煉次が我を忘れてキレるぐらいだからかなりの美人なのだろうが・・・・

 

「それで・・・・華琳様や夏焔様にご挨拶したい、と・・・・」

「ふむ、断る理由もなし」

「そうね、何より出来た奥方ではなくて?わざわざ夫の主君と上司に挨拶を、なんて」

「は・・・・ともかく、分かりました・・・・こちらに連れて・・・・」

「旦那様、それには及びませんわ」

 

室外より聞こえてくる良く透る声に、隼がビクッとする。

 

花凪(かな)、呼ぶまで待てと・・・・」

「世に名高き曹操様と曹洪様のお二方が部下の妻女との顔合わせをお断りなされるわけはございません」

 

隼の言葉をピシャリと遮った声、と同時に扉が静かに開け放たれる。

 

「お初にお目にかかります曹操様、曹洪様・・・・私が司馬仲達の妻、張春華にございます。以後お見知りおきを」

 

立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合のよう、と言った風情がある黒い長髪の少女。成程、ただの女好きに見えて相当選り好みする煉次が騒ぐだけはある・・・・

 

「丁寧な挨拶は不要だ、俺は隼は優秀な片腕と思うと同時に弟のような者とも思っている。その弟の妻であるならば妹も同然だ・・・・」

「そうね、我が従兄の妹であるならば私にとっては従妹も同然・・・・遠慮は要らないわ」

「夏焔様、華琳様・・・・」

 

隼が感動している、まぁ上司はともあれ主君からそんな事を言われるのは並の軍師ならば調子に乗ってしまうほど破格の厚遇とも言えるわけだ。

 

「曹操様、曹洪様、ありがとうございます」

 

深々とお辞儀をする春華の姿に隼が慌て始める。

 

「なっ!?」

「旦那様?お静かに」

 

角度的にこちらから見えないのだが振り向いた春華と眼を合わせた隼が蛇に睨まれた蛙のように固まっている。

 

「私の真名は花凪・・・・と申します、どうかお受け取り下さい」

「しかと、受け取ろう・・・・夏焔と呼んでくれ」

「華琳よ、花凪」

「はい、華琳様、夏焔様・・・・以後、よしなに」

 

晋と袁紹軍が大きく戦端を開く少し前の、一幕である。




ゴメンナサイ、軽く嘘をつきました。今回煉次の出番はありません、次回に持ち越しになります。


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