ダンジョンで神様を嫁にする為に神を目指すのは間違っているだろうか (白人)
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運命の出会い

それは、僕にとって、運命の出会いの出会いだったんだ。

 

 

 

僕が初めてこの街に来たあの日、長旅で疲れていた僕は丁度その匂いにつられて、たまたま君のいた屋台に寄ったんだ。

 

君は覚えているかな?

 

まぁ覚えているよね。

 

だって、僕らの出会いはそれぐらい劇的で、衝撃的なものだったから。

 

僕にとって、そしてまた君にとって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一目惚れしました‼︎ 僕と結婚してください‼︎」

 

 

 

 

 

その(ひと)を見て最初に思ったことはまるで太陽みたいな(ひと)だなってことだった。

 

笑顔がキラキラしていて、元気いっぱいに客を呼びこんでいて、その姿を周りのみんなが優しい表情で見ていて、彼女は、周りのみんなから見られていると気づくと少し恥ずかしそうに笑った。

 

僕は、その姿を見てすぐに恋に落ちちゃったんだ。

 

チョロいと思うかな?

まぁ確かにその通りではあるんだけど、でもね、仕方ないと思うんだ。

あの時僕はこの街に来たばかりで、長旅の疲れがたまった中、匂いにつられていったら、あの天使のような女神様だ。

そりゃあ惚れるよね。

まぁ僕も男だ。あの身長に似合わない大変立派なお胸様にもほんのちょっぴり…、少しは………、多少……心を動かされたことは認めよう。

 

まぁそれは置いといて、先程も言った通りその時僕は疲れていた。

今思えば、何故あんなことをしたのかと自分をぶん殴った後、良くやったと褒めてやりたい。

本来の僕ならきっと君に思いを伝えるのはもっとずっと先になる筈だろうからだ。

しかし、もう少し時と場所を考えるべきだったと今でも思う。

 

そして、冒頭のあの言葉だ。

 

 

 

 

「…………なっ⁉︎〜〜〜なっッ何を言ってるんだ君はあああぁぁ〜〜〜〜〜〜」

 

彼女は、顔をリンゴみたいに真っ赤にしてそう言った。

僕は続けて捲し立てる。

 

「貴方に恋に落ちました。僕にはもう貴方しか見えません。」

 

彼女の顔は、先程よりもっと赤くなり今では茹でダコのようだ。

 

「っッ⁉︎きっ君には恥じらいというものが無いのか⁉︎こっこんな公衆の面前でッっ‼︎」

 

「この気持ちに一片たりとも恥ずべきところなど有りません。」

 

「っッ〜〜〜〜⁉︎そっそういうことを言っているんじゃないっッ‼︎だっ大体なんだいきなり店の前に現れたと思ったらそんなことを言ってっッ!それに僕らは初対面じゃないか。揶揄ってるなら他を当たってくれっッ‼︎」

 

揶揄ってなど居ない。僕は本気だ。

本気で彼女と結婚したいと思ってる。

 

「揶揄ってなど居ません。僕は本気です。本気で貴方のことが好きなんです。それに初対面だっていうのも一目惚れだって言いましたよね?」

 

「んもう‼︎(ひと)の揚げ足を取るんじゃない‼︎取りあえずこんな人目のあるところじゃおちおち話も出来ない。こっちに来るんだ!」

 

揚げ足を取られたのが恥ずかしいのか彼女はもういつ倒れてもおかしくないくらい顔を真っ赤にしながら僕の手を取り走る。

 

 

しばらくすると、僕は先程よりひと気の少ない場所へ連れて行かれた。

 

「さっきのはどういうつもりだいっ‼︎僕とけっ結婚したいとか」

 

先程の告白の場面を思い出したのか彼女は再び顔を赤くする。

 

「どういうつもりも何もそのままの意味です。一目見たときに僕は貴方の虜になったんです。結婚は少し話を急ぎ過ぎたかもしれないですけど、僕の気持ちは先程と変わりありません。貴方のことが好きです。」

 

「っッ⁉︎本当に僕のことを揶揄っているわけではないんだね?」

 

「はい。誓ってその様な事はありません。」

 

僕は、そう即答する。

 

しばらく彼女は何か考えると再び僕と向き合ってこう口を開いた。

 

「君が真剣だってことはわかった。でも、さっきのことは断らせてもらうよ。」

 

僕は、その言葉を聞いた瞬間、世界がバラバラに崩れ落ちる音を聞いた。

ヤバイ ちょっと泣きそう。

それでもなんとか堪えて僕は言った。

 

「あの、もし良かったら理由を聞かせてもらえませんか?」

 

彼女は少し考えるような素振りを見せた後、こう言った。

 

「まず、第一に僕らはまだ会ったばかりでお互いのことを何も知らない。」

 

「確かその通りですけど、それはこれから知っていけば……」

 

「まぁ待つんだ。これから言うことが一番の理由だ。」

 

そう前置きして彼女は語る。

 

「いいかい?もう気づいていると思うけど、僕は神だ。君たち下界の子供たちと比べるととても長い時を過ごしている。これまでも、そして、これからもね。だから基本的に神は人の子を可愛がったりすることはあっても恋したり恋愛的な意味で愛したりすることは少ないんだ。かく言う僕だって、大切な人に先に旅立たれて、その後、僕だけが変わることなく生き続けるなんてのは勘弁して欲しいものさ。だから、君の気持ちは嬉しいけど、今回の話はなかったことにしてくれないか?」

 

「はぁ。何だそんなことですか。」

 

「へ?」

 

本当に勘弁して欲しい。

断られた時は、生きた心地がしなかった。なのに、実際話を聞いて見たら僕のことが嫌いな訳でも無く、彼女よりも早く死んでしまうから断られただけだったなんて。

 

「そんなこととは何だ‼︎僕はこれでも君が真剣だと思ったから、僕も真剣に答えたっていうのに‼︎君は、永遠と言うものを知らないからそんなことを言えるんだ‼︎もし、僕が君のことを好きになったとしたら、僕は絶対に君が居ない永遠なんて耐えられる筈が無い‼︎」

 

何ということだ。奇跡だ。僕は今猛烈に感動している。

 

「あの、今のセリフ君のことを好きになったとしたら…の辺りからもう一度言ってもらっていいですか?」

 

「っッ‼︎ ふざけるな‼︎やっぱり僕を揶揄っていただけなんじゃないか‼︎僕はもう行くよ‼︎」

 

どうやら僕はまたこの滅多に怒りそうにない彼女を怒らせてしまったらしい。僕はこの場を離れようとする彼女を慌てて引き止めた。

 

「あっ!待ってください‼︎怒らせてしまったなら謝ります。でも、本当に揶揄っていた訳じゃ無くて、ただ神様が変なことに気づいてないんだなぁと思って…」

 

「はぁ⁉︎ 僕が何に気づいてないって言うのさ‼︎」

 

「だって神様。僕は冒険者になる為にここに来たんです。」

 

「はぁ? それがどうしたって言うのさ?」

 

「いいですか?神様。僕の父さんは昔ここの冒険者だったので、神の恩恵のことを少し聞きました。」

 

「??それが何だって言うのさ?」

 

神様は、本当に気づいてないようだから僕は続けて言った。

 

「神の恩恵とは、神々が下界の子供たちに与えられる神としての唯一の力です。その効果は、下界の子供たちの潜在能力をステイタスという形で表し、通常では考えられない速さで圧倒的な力を僕らに与えます。でも、その副次的な効果として、風邪などの病気にかかり難くなったり、寿()()()()()()()、更にはランクアップする事で器の格が上がり()()()()()()と言われています。」

 

「っッ⁉︎ まさか君は‼︎」

 

おっ!ここまで言われたら流石に彼女も気づいたようだ。

 

「はい。きっと今、神様が考えている通りですよ。僕はどんどんランクアップしていずれ神様と同じ存在になって、貴方と永遠に一緒に居ますよ。だから、とりあえず僕を貴方の家族(ファミリア)に入れてください。」

 

彼女は、それを聞いて惚けたような顔をしていた。

 

あっ!この顔すごい可愛い!



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ファミリア

「ようこそ!ここが僕たちのホームだぜ‼︎」

彼女はボロボロの教会の前で、満面の笑みを浮かべながら言った。



「あっ!そういえば自己紹介がまだでしたね。僕ノヴァ・イグニスって言います。神様の名前も聞いてもいいですか?」

 

「えっ!あぁ僕の名前はヘスティアだよ。」

 

ヘスティア……良し覚えた。それと同時に、僕の好きな言葉ランキング1位ヘスティアがランクインした。

 

「どうしたんだい?急に黙って…」

 

「うわぁ⁉︎何でもないです。何でもないですよ〜。」

 

今のは、危なかった。

考え事をしていたら、いきなり目の前にあの巨大なお胸様が飛び込んで来るなんて…。

僕じゃなければ、死んでいたぜぇ〜〜(もちろん、僕が物理的に殺すという意味だけど…)。

 

「えっと、確か僕のファミリアに入りたいんだって?」

 

おや?鮮やかな手のひら返しを見た気がするぞ?

さっきまで、僕に怒鳴り散らしていたにもかかわらず…。

これは、僕も少し文句を言うべきだろうか?

そう思って、こちらを嬉しそうにチラチラ見る神様を見る。

………まぁ…。うん…。可愛いから許す。

 

「はい、神様。僕を貴方のファミリアに入れてもらえないでしょうか?」

 

「っッ(๑>◡<๑)!ほっ本当に僕のファミリアに入りたいんだね?一応言っておくけど、僕のファミリアはオラリオトップのファミリアと比べると少ぉ〜〜しばかり貧乏だぜ?それでもいいのかい?」

 

もちろん良いですとも、まぁ、少しが何故か長かったのは気になるけど…

 

「はい。もちろんです。たとえ僕たち二人しか居なかったとしても貴方のファミリアが良いんです。」

 

って言うか、むしろその方がいい。

神様と二人っきりでの生活なんて最高じゃないか!

 

「(-.-;)y-~~~ そっソウカ。ソレハヨカッタ。」

 

あれ?どうして、変な顔をしているんだろう?

 

「じゃあ。ホームに案内してもらえますか?」

 

「(ビクッ‼︎)あっあぁ。そうだ!その前に君はオラリオに来たばっかりなんだろう?僕がこの辺を案内してあげるよ。:(;゙゚'ω゚'):」

 

「本当ですか⁉︎ ありがとうございます‼︎」

 

よっしゃゃゃぁぁぁああーーー〜〜〜〜ー‼︎

デートだ‼︎デート‼︎神様とデート‼︎ただの案内役だって?バカ言っちゃあいけない。若い男女が二人っきりで一緒に街を歩いたらそれはもうデートだ‼︎異論は認めないっ‼︎(キリッ(`・∀・´))

ただ神様がものすごい勢いで汗をかいているのは気になるなぁ〜。今日そんなに暑かったっけ?

ハッ!もしや僕と一緒でデートだと思って緊張しているのか?

なるほど〜。お兄さんに任せなさい!ちゃんと完璧なエスコートをしてみせるさ!フフフ僕は今、天国に最も近い位置にいる‼︎

 

「よしっ!(大丈夫かな〜。バレてないよね?)そっそれじゃあ出発だぁ〜。」

 

 

 

 

 

 

「ここは、僕がバイトしてる屋台だよ!じゃが丸くんを売っているんだ。」

 

「あ、はい。知ってます。というかさっきここで働いてましたよね?」

 

あれ?どうしたんだろう?この事は、神様だって知っているだろうに…、もしかして、僕は明らかに働いていたのに分からないバカだと思われているのかな?

それとも、さっきじゃが丸くんを買わなかったのを責めているのかな?

何それ泣きそう。

 

「アハハ、そうだったね〜。うっかり間違えちゃたよ〜〜。」

 

そうか。間違えただけか。それは良かった。

それにしても神様は、結構うっかり屋さんだったんだね。

とても可愛いです。ごちそうさまです。

 

 

「次は、ギルドだよ!ここで冒険者たちは魔石を換金したりするんだ!」

 

「へぇ〜。そうなんですか〜。」

 

ここで、僕は神様の為に冒険者になるのか〜。

 

 

「お次は、バベルだ!ここには、僕の神友(しんゆう)であるヘファイストスのファミリア、ヘファイストス・ファミリアなんかの冒険者向けのテナントが沢山置いてあるよ!」

 

「そうなんですか〜。 ところで神様?神ヘファイストスは、女性ですか?それとも男性ですか?(ニッコリ)」

 

「ん?どうしてそんなことが気になるのかわからないけど、ヘファイストスは女神だよ?」

 

「そうですか。ありがとうございます。」

 

いや〜。良かった。強力なライバル出現かと思ったよ。場合によっては、事故に見せかけて天界に送還させなくちゃいけなくなるところだった。

 

「君は変な事が気になるんだね〜。あっ!あとバベルの下がダンジョンになっているよ。僕からの説明は以上だ!」

 

へぇ〜。この下にダンジョンがあるのか〜。僕がずっと神様と一緒にいるには、避けては通れない道だ。頑張るぞ〜って、ん?

 

「あの〜。神様これで終わりですか?」

 

「あぁ、終わりさっ!」

 

「それなら、そろそろホームに向かいませんか?ほら、他の団員の方々との顔合わせなんかもあると思いますし…。」

 

「ソウダネ。デモ、ソウイウノハ、全然キニシナクテモイインダ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ソウナンデスヨ。」

 

「大丈夫ですか?神様。少し顔色が悪いですよ?」

 

もしかして、疲れちゃったのかな?

だったら、尚更早くホームに帰らなくっちゃね。

 

 

 

 

「神様。本当にこっちで合ってるんですか?何かだんだん人気が少なくなってるんですけど…。」

 

「あぁ、間違いないさ!この先だよっ!」

 

神様言うならきっと合ってるんだろう。それにしてもこんな人気の少ない場所で神様大丈夫かな?

特殊な性癖の人に襲われなければ良いけど…。

あっ僕は別だよ!

僕は性癖が特殊なんじゃなくて神様だから好きなんだから。

 

「ツイタヨ。ココガボクタチノホームダ。」

 

「へぇー」

 

そこは、お世辞にも立派とは言いがたいほどにボロボロで、でも、僕は上手く言えないけど、夕日に照らされている光るその廃教会にすごく感動したんだ。

 

「ごめんなさい‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

「実は、僕のファミリアには団員はいなくて、ホームもこんなボロボロの教会の地下しかないんだ。なのに、僕は君を騙してこんなに連れ回しちゃったんだ。本当にごめんなさい。僕のせいで1日無駄にしちゃったね。明日からは、ギルドに行って、もっと大きなファミリアを紹介してもらうと良いよ。お詫び出来るものは、あいにく持ち合わせていないけど、いつか必ず返すから‼︎今日は、本当にごめんなさい‼︎」

 

僕はいきなり頭を下げた神様に困惑した。

確かにボロボロだけど、僕はこの廃教会を一目見て気に入ったし、団員のことに関しては、僕が勝手に勘違いしただけで神様は、何も悪くないのに…。

 

「頭を上げてください。神様。僕はこの廃教会を一目見て気に入りましたし、団員の事は、僕が勝手に勘違いしただけです。」

 

「でっでもっ!」

 

「それに、団員の数は一人ですよ?神様。間違えないでください。」

 

「間違えてなんかないさ!僕のファミリアに団員はいないんだよっ!」

 

「酷いですね〜。神様。ここにいるじゃないですか。ヘスティア・ファミリア団長ノヴァ・イグニス。僕が貴方の最初の眷属ですね。」

 

「っッ⁉︎そっそんなっ!本当に僕なんかが君の主神で良いのかい?」

 

()()()じゃありません。ヘスティア様()()()良いんです。ヘスティア様じゃなきゃダメなんです。」

 

我が主神、神ヘスティアへこの身も心も魂の一欠片でさえも全て捧げます。僕を貴方の家族(ファミリア)に入れてください。」

 

「うっうぅっ、ぼっぼぐのっファミリアにぃっ入っでくだざい。」

 

「はい。もちろん、喜んで。」

 

「うっうわわぁぁぁぁああ〜〜〜〜〜〜ん」

 

こうして、僕は、世界一可愛い神様のいる最高のファミリアに入ったんだ。

 

 

 

 

「では、改めまして、ようこそ。ここが()()()のホームだぜ‼︎」

 

彼女はボロボロの教会の前で、満面の笑みを浮かべながら言った。



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約束


必ず僕の元へ帰って来ること。
ちゃんと僕からの約束、守ってくれるかい?

「はい‼︎分かりました神様!その約束、絶対に守ってみせます‼︎」

僕は、確かな意志を持ってそう返した。


…………気まずい。

 

さっきまでは、なんかずっとテンション上がっていたから、何も思わなかったけれど、少し冷静になった今、思い出してみるとめちゃくちゃ恥ずかしい。

何が「我が主神、ヘスティア様へ僕の全てを捧げます。」だ。

誰だよ、お前。

大体、僕あんな公衆の面前で、神様にけっ結婚を申し込んでしまうなんて何をやってるんだ。

恥ずかし過ぎる死にたい。

それに、さっきから神様も様子が少し変だ。

僕の方をチラチラ見て、目が合うと顔を真っ赤にしてものすごい勢いでそっぽを向く、可愛い……コホン。全く、さっきからずっとそれの繰り返しで一向に話が進む気配がない。

もしかして、あんな恥ずかし過ぎる僕に呆れているんだろうか?

はぁぁ〜〜〜。

これからどうしよう。

すると、そのときクゥーというとても可愛いらしい天使の歌声が聞こえる。

 

「あの〜神様。とりあえず夕飯にしましょうか。」

 

僕が少し苦笑いをしながらそう聞くと、顔を茹でダコみたいに真っ赤にして固まっていた神様は、コクリと一度頷き、こう捲し立てた。

 

「あの、ノヴァ君!君は決してさっき鳴った音を聞いて、それを提案した訳じゃないよね?」

 

神様が真っ赤な顔で俯きがちにそう尋ねるてくる。

 

「はい、神様。僕は、決してさっきの天使の歌声のような可愛いらしい音が聞こえたから夕飯にしようと提案した訳ではありません。」

 

僕は、キメ顔でそう言った。

 

「なっ何を言っているんだ君はぁぁぁああーーー‼︎」

 

神様がまた顔を真っ赤にしてそう叫ぶ。

 

「君は恥じらうポイントが可笑しい!さっきまで、一丁前に恥ずかしがっていたかと思ったらすぐこれだ‼︎大体、あの時だって、まだバイト中で昼間だから周りにもたくさん人がいたのに全く気にせず、僕にけっ結婚を申し込んで来るし、今だってそうだ‼︎僕のお腹の音をててっ天使の歌声だとか平気で言って来るし、僕はもう君と一緒にいるだけで心臓が保たないよ。」

 

僕の頭は、真っ白になる。

だって、ちょっと聞きました〜奥さん?

神様が僕と一緒にいるとドキドキして心臓が保たないだなんて、そんな最高に可愛い事を言ってくれたんですよ〜。

いや〜。僕は幸せ者だなぁ〜。

だって、あんなに可愛い僕の神様があんなに可愛い事で僕に怒っているんですよ〜。

そんなの完全にご褒美じゃないですか〜。(ニヤニヤ)

 

「ちょっとノヴァ君!僕の話をちゃんと聞いているのかい?」

 

「はい、もちろん聞いてますよ神様。ところで神様、本当に夕飯はどうするつもりなんですか?」

 

「実はね、ノヴァ君。いつもは屋台でのバイトが終わったら、余ったじゃが丸くんをおばちゃんが僕にくれて、ほとんどそれを食べているんだ。でも、今日は、誰かさんのせいでお店を勝手に抜けて来ちゃったからそれが無いんだ。」

 

………それって、もしかしなくても僕のせいで夕飯が無いということでは?

 

「ごめんなさい。神様。それじゃあ、あっあのッ!もしよければ、僕と一緒に外しょk「って⁉︎ああぁぁーーーーーー。僕勝手にお店を抜けて、来ちゃってたじゃないか!すぐにおばちゃんに謝りに行かないと。」」

 

神様は、そう叫ぶとすぐに飛び出そうとした。

 

「ちょっと待ってください。神様。もうこんな時間ですから、女の子が一人で出歩いちゃいけませんよ!それに屋台の人にも迷惑ですよ!謝りに行くのは、明日にしましょう!」

 

僕は、飛び出して行こうといた神様を必死に引き留める。

 

「それもそうだね。分かったよ、ノヴァ君。謝りに行くのは、明日にするよ。ところで、さっき何か言いかけていたようだけど、何を言おうとしてたんだい?」

 

「えっ!ええっと、神様。僕、旅して来たので、もう殆ど残って無いですけど、一応路銀が残っているんです。」

 

「そうなのかい?」

 

神様は、何を言っているんだ?とばかりに心底不思議そうに首を傾げる。

 

「はい。そうなんです。だッだから、えっと…ぼっ僕と外食しませんか?」

 

言ったああぁぁーーーーーー‼︎言ったぞ、僕!ついに、自分から夕食デートに誘うことができたぞーーーー!

 

「あの、誘ってくれたのは嬉しいんだけど、今日はダメだね。」

 

逝ったああぁぁーーーーーー‼︎逝ったぞ、僕!調子乗ってすいませんでしたああぁぁーーー!嗚呼ぁ、神様に夕食デートを断られるなんて‼︎もう生きる希望が消え失せた。死のう。

 

「ああっ!ノヴァ君⁉︎そんなに落ち込まないでおくれよ!断ったのには、ちゃんと理由があるんだ!」

 

その言葉に僕は少しだけ顔を上げる。

 

「いいかい?ノヴァ君。君は、明日から冒険者になって、ダンジョンに潜るんだろう?それなら、その為に必要な大事なことがまだ残っているだろう?」

 

大事なこと?何だろう?装備とかかな?

 

「はぁ〜。全くそんなことで、明日からちゃんとダンジョンに潜れるのかい?僕は心配だよ。それでね、ノヴァ君。冒険者になる為に一番重要な事、それは、神の恩恵(ファルナ)だよ。」

 

ああ。

そりゃあそうだ。

神様が呆れるのもよく分かる。

神様の言った通り、僕はまだ冒険者になる上で最低限貰っておかなければならないものを忘れていた。

神様と二人きりになれたことで少し気が緩みすぎていたのかもしれない。

こんなことじゃあ、ダメだ。

僕は、神様とずっと一緒に居る為にこのオラリオで一番の冒険者にならないといけないんだ。

それもきっと、ぶっちぎりの。

なのに、僕は今、何をやっていた?

本当にこんなことをやっている暇はあるのか!

もっと気を引き締めないといけない。

 

「ノヴァ君?急に恐い顔して、どうしたんだい?」

 

「いえ、何でもありませんよ。神様。少し気合いを入れ直していただけです。」

 

そうだ。

気合いを入れ直さないと、僕に才能が有ろうが無かろうが、きっとそれほど時間に余裕がある訳ではないんだから。

 

「本当かい?」

 

「本当ですよ。」

 

僕は、少し不安そうにそう聞いて来る神様にそう返す。

 

「ノヴァ君。大事なことだからちゃんと聴くんだ。」

 

「えっ?」

 

僕は、急に真剣にそう切り出した神様の雰囲気に戸惑いながらも真剣に聴こうと、背筋を伸ばす。

 

「いいかい?君があの時言ったことは、本当に生半可なことじゃ達成出来ないくらい難しいことだってことはわかっているよね?」

 

分かっている。

人の身で()()()()()ということは、それ程に困難なことだ。

今までそんな人が一人もいないことからも十分にわかる。

僕は、神様の言葉にしっかりと頷く。

 

「うん。分かっているみたいにだね。だから君は、これから多くの困難に立ち向かわなくちゃいけないんだ。そして、僕はそんな君を応援する。でもね、一つだけ約束して欲しんだ。()()()()()()()()()()()()()()ちゃんと僕からの約束、守ってくれるかい?それだけを守ってくれるなら、僕から言うことは何もないよ。」

 

そうか。

この(ひと)は、本当に優しいんだ。

きっと優しいこの(ひと)のことだ。

本当は、自分の為に僕が無茶をするかもしれないから、何としても止めたいんだろう。

でも、僕が覚悟を決めた表情をしたことによって、彼女は僕をどうやっても止められないと悟って、こんな約束を言い出したんだろう。

 

ハハハッ!

 

なんてお人好しなんだろう。

こうして僕に約束させることで、たとえ僕がダンジョンの中で死にかけても絶対に生きることを諦めることが出来ないようにしたかったのだろう。

ここまで言われてそう簡単に生きること諦めるなんて絶対に出来ないだろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

こんなにも優しい彼女のことを裏切ることになるからだ。

そう決意すると、僕はさっきまで無意識のうちに感じていたプレッシャーが少し和らぐのを感じた。

 

「はい‼︎分かりました神様!その約束、絶対に守ってみせます‼︎」

 

僕は、確かな意志を持ってそう返した。

 

「よし‼︎それじゃあ、少し話をして遅くなったけど、夕飯にしよう!ってそういえば、食べるものが何もないじゃないか‼︎それにもうこんな時間になっちゃったから、やってるお店もあんまりないだろうし、どうしよう?ノヴァ君‼︎」

 

ほんの少し前まであんなにカッコ良かったのに、また普段通りの元気で、少しそそっかしい神様に戻ってしまって、そんな神様の姿に自然と笑みを浮かべる。

 

「実は、僕のカバンの中に旅の非常食として取っておいた黒パンと干し肉がありますよ?」

 

「何⁉︎肉だってッっ⁉︎何でそれを早く言わないんだ‼︎今すぐ、夕飯にしよう!」

 

そう言って、神様はソファの上に置いてあった僕のカバンを漁る。

その姿はまるで、スラムの浮浪児のようだ。

その姿を僕は微笑ましいものを見るような目で見た。

 

「って神様⁉︎それパンじゃなくて、僕のパンツですよ‼︎」

 

「ええっ⁉︎うわぁ⁉︎ごごっごっごめん‼︎すぐに戻すから‼︎」

 

流石に僕も恥ずかしかったけど、顔を真っ赤にして慌てている神様を見て、少し悪戯心が湧いた。

 

「あれぇ〜?神様、もしかして僕のパンツが欲しかったんですか?大丈夫ですよ。僕が神になって神様と夫婦になったら、そんなものすぐに必要無くなりますよぉ〜。」

 

「@#&〆☆♪〜〜〜〜〜‼︎」

 

「あれぇ〜。今何て言ったんですぅ〜?」

 

「ノノッノヴァ君のバカあああぁぁぁーーーーー‼︎」

 

 

僕の世界一可愛い女神様は、自分の顔を真っ赤にしてそう叫んだのだった。

 

 





すいません。次回には、神の恩恵を与えたり、初のダンジョン探索に入るつもりです。


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神の恩恵

 

夕食を食べ終えてしばらく経ったとき、何でもないように神様は言った。

 

「それじゃあ、ノヴァ君。服を脱いでくれるかな?」

 

 

「……………ファッ⁉︎」

 

ちょちょちょちょっと待て、おおおっ餅つけっじゃなくって落ち着け僕。

今、神様から服を脱げなどというあり得ない言葉を聞いた気がするぞ?

だだだ大丈夫だ。問題無い。

少し冷静に考えてみよう。

あの、神様だぞ?

いつもニコニコ笑顔で、僕が少し揶揄うとリンゴみたいに顔を真っ赤にしてしまって、僕をポカポカ殴って来たり、ものすごく慌てて僕に怒って来たりする可愛いすぎる僕の女神様だぞ?

本当にそんなことがあり得るのか?

いいや、あり得ないだろう。

きっとあれは、若い僕の迸るパトスが暴走してしまって、幻聴が聞こえただけだろう。

そうに違いない。

フッ。そうと分かったなら、僕がこれからやることは簡単だ。

さっさと寝てしまって、煩悩を抑えよう。

ふぅ、やれやれだぜ。

 

「どこ行くんだノヴァ君。早く服を脱いでベッドに来なよ!」

 

うわあああぁぁーーーっ幻聴じゃなかったああぁぁーーーーーー‼︎

しかも、ベッドとか‼︎

そんなのもうあんなことやこんなことをやるしかないじゃないか‼︎

それにしても、どうして神様は平気なんだ?

ややっやっぱり長く生きているんだし、そういう経験も豊富なんだろうか?

ちょっと悲しいな…。

ってそんなことよりっ!

これからどうするかだっ!

大体僕は、故郷でもそんなに女の子にモテたりはしなかったから、そんな素晴らしい経験はしていないんだ‼︎

 

「もうっ!」

 

あわわわわわああぁぁーーーーーー⁉︎

かかっ神様がこっちに来るぅぅーーー‼︎

まままっ待ってください!まだ心の準備がぁぁぁああーー!

 

「ふんっ!」

 

「キャーーャーーアアァァーーーッーーーーー⁉︎」

 

かかかかっ神様⁉︎そんな服を脱がすなんて!

いいっいや待て!

そうだ!下は死守すれば良いんだ!

幸い、神様は下界いる間、神の力(アルカナム)を封じられているから、男の僕が本気で死守すれば早々脱がされることはないだろう。

よしっ!それで行こう‼︎

 

「もうっ!早くこっちに来ないともうやめちゃうよ。君に神の恩恵(ファルナ)を授けるの。」

 

「へっ?」

 

神の恩恵(ファルナ)

神様は一体何を言っているんだろうか?

 

「もしかして、分かってなかったのかい?てっきり僕は君が君のお父さんに教えてもらって、知っているものだと思っていたんだけど…。」

 

「いいかい?ノヴァ君。ファルナは基本的に身体中どこにでも刻めるけど、大体の人は、背中に刻むんだ。まぁ。その方が見やすいし、更新もしやすいからね。ここまでで質問あるかい?」

 

「あっあの〜〜。じゃあさっき言っていた服を脱げって言うのも」

 

「うん?上の服を脱がないと背中が出ないだろう?」

 

なっなっっなっっっ何いいぃぃぃーーーー⁉︎

じゃっじゃあ僕はさっきまで盛大に勘違いしていたのか⁉︎

はっ恥ずかしすぎるぅぅーーー‼︎

 

「ん?どうしたんだい?そんなに顔を真っ赤にして……まぁ、いっか!それじゃあ、ベッドにうつ伏せになって転んでくれるかい?」

 

僕は、なんとかそう言った神様の言葉に黙って従う。

 

「よしっ!それじゃあ、始めるよ‼︎あっ、一応最後に聞いておくけど、神の恩恵(ファルナ)を授けてしまったら、もうそう簡単に他のファミリアには変われないけど、本当に僕のファミリアで良いんだね?」

 

やっと少し落ち着いた僕は、その言葉にしっかりと答える。

 

「はい。僕は、ヘスティア・ファミリアに入団したいです。このファミリアじゃないと可愛い可愛い女神様と離ればなれになってしまいますから…。」

 

「ッっ〜〜〜〜‼︎もうっ!そんなことばかり言ってるといつか後ろから刺されるぞ!」

 

顔を真っ赤にしてそう言う神様に僕はこう答えた。

 

「大丈夫ですよ、神様。僕がこんなこと言うのは、神様だけですよ。だから刺されるとすれば、神様からですね。でも、優しい神様にそんなことをさせるようなら、その時はきっと僕が悪いんです。もし、そうなってしまうなら、僕は黙ってその刃を受け入れますよ。」

 

それを聞いて神様は、さらに顔を赤くする。

 

「まっッ!また君は恥ずかしげも無くそんなことを言って‼︎僕を揶揄っているんならやめなよ‼︎」

 

「揶揄ってなんかいません。本心です。」

 

僕は即答する。

 

「っッ〜〜〜〜‼︎分かっているさ‼︎僕だって神だ!神に子供たちは嘘をつけないんだぞ!君が嘘をついていないことぐらい分かっているさっ!コンチキショーーーー‼︎」

 

神様は自分でそう言って恥ずかしくなったのか、ますます顔を真っ赤にする。

 

「それじゃあ、そろそろ神の恩恵(ファルナ)を頂けませんか?神様。」

 

「ハッ!そっそうだったね。それじゃあ始めようか。」

 

そう言って神様は、うつ伏せになった僕の上に乗る。

その時、僕のお尻から裏ももに掛けて柔らかい感触が…。

ハッ!こっこれはまさかっ!ゴット・ザ・OSIRIでは‼︎

耐えろ‼︎耐えるんだ!僕‼︎

今耐え無ければ、ステイタスに【お尻狂】とか大変、不名誉なスキルが発現するかもしれないし、大体神様に馬乗りになられた状態で興奮する変態として、神様に永久にステイタスを更新してもらえなくなるかもしれない‼︎

そうなったら、僕はもう生きていけないぞ‼︎

 

「っッ⁉︎%#*$€^〜〜〜‼︎」

 

なっ‼︎何だ⁉︎神様が今、形容しがたい言葉を叫んでいたぞ‼︎

まっまさか本当にそんな変態スキルが発現してしまったのか‼︎

そして、それを神様に見られたと。

よしっ!

死のう。

今、死のう。

すぐ死のう……って待て‼︎

まだ、そうと決まったわけじゃない‼︎

まだ、挽回のチャンスはあるはずだ!

 

「ええっと、ノヴァ君?(ビクッ⁉︎)こっこれが君のステイタスだ。」

 

ノヴァ・イグニス 男 16歳

 

Lv. 1

 

力: I0

 

耐久: I0

 

器用: I0

 

敏捷: I0

 

魔力: I0

 

≪魔法≫

 

【】

 

【】

 

【】

 

≪スキル≫

 

【】

 

 

あれっ?

別に可笑しなとこ無くないか?

まぁ、僕が弱過ぎると言うことを抜きにして……。

 

「あの〜、神様?これが僕のステイタスですか?」

 

僕は少し不思議に思って尋ねる。

 

「あっああ、そっそれが君のステイタスだよ。」

 

神様は少し顔を赤くしてこちらを見ようとはしないが、そう言った。

 

………良かったぁぁぁああーー‼︎

本当に良かった!

怪しげな変態スキルなんかが発現して居なくて本ッ当に良かった。

神様の様子がおかしかったのは良く分からないけど、きっと僕に馬乗りになって、恥ずかしかったとか、そんなことだろう。

よしっ!

明日から、ダンジョン探索頑張るぞぉーー!

 

「それじゃあ、神様。僕明日からダンジョンですし、もう寝ますね!お休みなさーい。」

 

「ぁっ!」

 

うん?

神様が何か言いかけたような気がするけど、まぁ、いっか。

今日は、安心して良い夢が見られそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁーーー。

ノヴァ君はもう勝手にソファに行って寝ちゃったけど、あんなものを見てそう簡単には寝られないよね〜。

 

≪スキル≫

愛情一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

愛情(おもい)を遂げるまで、効果持続。

愛情(おもい)の丈により、効果向上。

・一定条件で、ステイタス超向上。

 

こんな明らかに僕のこと大好き過ぎて発現したみたいなレアスキル言える訳無いじゃないか。

それに、[一定条件]って、つまりそういうことをしろってことだよね?

そんなのムリッ!

絶対ムリー‼︎

 

いや、べべっ別にノヴァ君が嫌いだからとかじゃなくて、むしろハッキリと僕に想いを告げてくれる男らしさは、カッコいいと思うし……。

でっでもそれとこれとは、話が違うって言うか何というか…。

 

だってほら、僕ってば天界でも有名な処女神の一柱(ひとり)だし、だからそういう経験は、周りから聞いたことがあるってだけで全然無いし、だからあの場で咄嗟に隠してしまったのも仕方ないと思うんだ!

 

それに、あんなスキルを持っている事が他の神にバレたら、僕はめちゃくちゃ揶揄われるだろうし、ノヴァ君だって面白がられて、大変な目に遭ってしまうに違いない!

そうだ!

そうだよ‼︎

だから僕は、あの時々、本音がポロポロ溢れちゃうノヴァ君には秘密にしたんだ‼︎

だから決して、僕が恥ずかしかったから伝えなかった訳じゃ無い‼︎

無いったら無い‼︎

 

ああもう!

こんなに僕が君の事を考えて心を乱しているって言うのに、なんて幸せそうな顔で寝ているんだ!

君って奴は‼︎

ハッ!そうだ‼︎

いつも僕が揶揄われてばかりだから、今回は僕から悪戯を仕掛けてやろう!

フフフッ、起きたときに君の驚く顔が目に浮かぶようだっ!

よしっ!

そうと決まれば、顔に落書き…ってペンが無いな…。

なら、トマトジュースで死んだように見せかけて……ってこれもトマトジュースが無いし、大体そんなことをしたら、ノヴァ君が早まって自殺しちゃいそうだし……。

あっそうだっ!

何だかんだ言って、ノヴァ君も男の子だ!

僕が添い寝してあげたら、きっと驚くに違いない!

そうと決まれば、早速、作戦決行だ!

よしっ!ノヴァ君めっ!

明日起きたら、驚いて変な声を上げるがいい‼︎

あれっ?近くで見ると結構可愛い顔をしてるなぁ。

それに身体はやっぱり男の子なんだって思うくらい固いし、身体がとってもあったかいし、なんだかとっても安心するなぁ。そういえば今日は、色々あって疲れたし、なんだか眠くなってきたなぁ〜zzz。

 

 

 

 



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冒険者になるということ

 

今、僕は朝起きて、夢を見ているらしい。

矛盾してるって?

でも、そうとしか言えない事態に陥っているんだ。

まず、記憶を整理しよう。

昨夜、僕は未曾有の大危機を回避したことに大喜びして、そのままソファに行って寝ったはずだ。

そして、僕は今ソファにいる。

うん。ここまでは何も問題ない。

むしろここからが大問題だ。

今、僕の上に天使がうつ伏せで眠っている。

寝顔が可愛い…っじゃなくて!

うつ伏せ、ここ重要だ。テストに出るよ。って何言ってるんだ‼︎僕は!

 

…コホン。

というのが、僕の今の状況だ。

というか、神様?

何でベッド空いてるのにここで寝てるんですかね?

えぇ?なになに?

ノヴァ君もうじゃが丸くんはいらないよ〜。だって?

フッ、可愛い過ぎるじゃないか。

とっても名残惜しいけど、そろそろ僕もいかないと、すみません、神様。

行ってきまーす!

 

 

 

所変わって、ギルドにて、

 

「あの〜、すいません。僕、冒険者になりたいんですけど。」

 

エルフであるらしいキレイな受付嬢さんにそう話しかける。

 

「あっ!はい。ただ今!えーっと、君が冒険者になりたいって言ったのかな?」

 

何故か少し心配そうな目で見られる。

 

「はい。僕がそう言いました。」

 

「君は、どうして冒険者に?」

 

何でそんなこと聞くんだろう?

いや、もしかしたら冒険者になる上で、重要なことなのかもしれない。

 

「はい。僕は、神様と結婚する為に、冒険者になりに来ました。」

 

「へっ?」

 

?何か可笑しなことを言っただろうか?

いや、待て!

ここは、冒険者ギルドだぞ!

ダンジョンで一攫千金とか、そういうことを言うべきだったんじゃないか⁈

クソ!失敗した!

これで、冒険者になれなかったら、神様に合わせる顔がないぞ…。

 

「ウフフッアッハッハハハーーーハアー可笑しっ。」

 

僕は、その夢を笑われて少しムッとしていると、

 

「あぁ、ごめんごめん。今何度か聞いてきて、そんなこと言った人は初めてだったからついね?」

 

それでも納得出来なかったけど、悪気は無さそうなので黙っておく。

まぁ、冒険者になるのにこんなことを言う人は、僕以外に居ないだろうし…。

 

「あっ、本当にごめんね?」

 

「いえ、気にしてませんよ。まぁ、僕以外にこんなことを言う人は居ないでしょうから。」

 

「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ、冒険者登録に移るね?まず、君の名前から聞いていこうか。」

 

いや、まぁ…いいんだけど、さっきの笑い声ですごい周りから見られてるんだけど、いいんだろうか?

 

「はい。僕の名前は、ノヴァ・イグニスです。」

 

「ノヴァ・イグニス君だね?じゃあ次は、年齢と所属ファミリアを教えてくれるかな?」

 

さっきまでとは打って変わって、淡々と必要なことを聞いてくる。

 

「はい。歳は16歳で、ヘスティア・ファミリアに所属しています。」

 

「そっそう。(14歳ぐらいかと思った。)ヘスティア・ファミリアって、聞かない名前だね?どんなファミリアなの?」

 

あぁ、そうかそう言えば、団員、僕一人だったな。

 

「えっと、最近出来たばっかりで、団員も僕一人しか居ないんです。」

 

「そっそうなんだ〜。(この子、本当に大丈夫かな〜?)それじゃあ、武器は、何を使うの?」

 

武器?かっ考えていなかったな。

やっぱり剣だろうか?

うん。剣だな。

 

そのとき、何故か僕にはそれが、すごくしっくりくるような気がした。

 

「剣を使おうかな?って思ってます。」

 

「剣?本当にそれで良いの?確かに新人の冒険者は、剣で戦うことに憧れを持ってたりするけど、剣は扱いが難しいよ?」

 

この人の言うことは、正しいんだろう。

でも、何故か僕は、剣以外で戦う自分の姿が想像できなかった。

 

「はい。別に、剣で戦うことに憧れがあるわけじゃないんです。ただ、それが一番しっくりくる気がして…。」

 

「そう?そこまで言うなら良いんだけど…。でも、見た感じ今、剣を持って無いよね?一応、ギルドから初心者の為に、装備の貸し出しをやっているけど見てみる?」

 

そう聞いてくるので、僕は素直に頷く。

 

「それじゃあ、こっちにおいで、新人冒険者さん。」

 

僕は、言われるままに着いて行く。

 

「ノヴァ君って、呼んでも良いかな?君は、この後すぐにダンジョンに行くの?」

 

「はい。行きますよ。ええっと……」

 

「あぁ、ごめん!色々聞いておいて、自分が名乗るのを忘れてたよ。私は、エイナ・チュール。多分、君のアドバイザーを務めさせてもらうことになるかな。」

 

そう彼女、もとい、エイナさんは答える。

 

「そうですか、よろしくお願いします。エイナさん。ところで、アドバイザーって何ですか?」

 

「こちらこそよろしく、ノヴァ君。後、アドバイザーって言うのはね?冒険者の人たちに色々とアドバイス、つまり助言したりする人のことだよ。具体的には、ダンジョンの性質や危険性、冒険する上で気をつけないといけないことを教えると言ったところだね。そうすることで、少しでもダンジョンで命を落とす人を減らせれば良いなって思うよ。」

 

そこで、少し彼女が顔を暗くしたのを僕は見逃さなかった。

 

「そうですか。なら、僕は安心ですね。」

 

「えっ?」

 

「だって、こんなにも真剣に冒険者の人のことを考えている人が、アドバイザーをしてくれるんですから。最初に、何で冒険者になりたいのか聞いたときだって、僕のことを心配してくれてたんですよね?それでも、僕の目を見て、冒険者になることを認めてくれた。貴女は、優しいくて信用に値する人だ。」

 

僕がそう言うと、彼女は顔を赤く染める。

 

「うぇっ⁉︎あの、えっと、」

 

「だから、これからもよろしくお願いします。アドバイザーさん。」

 

「っッ〜〜〜〜!はっはい、こちらこそよろしくお願いします。」

 

顔を赤くして俯く姿は、僕が愛するあの(ひと)に少し似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そっそれじゃあ、またね、ノヴァ君。」

 

「はい。行ってきます、エイナさん。今日は色々ありがとうございましたー。」

 

僕はそう言って、ギルドを後にする。

 

 

 

「へぇー。これが、ダンジョンか〜。」

 

僕は、とても高いバベルの下にある大きな穴の前にいる。

 

「とりあえず、装備も貸してもらったし、中に入ってみるか。」

 

ダンジョンにいるモンスターは、基本的にダンジョンの外にいるモンスターとは、比べものにならないくらい強い。

僕も旅の途中で、何度かゴブリンなんかの弱い魔物を見たことはあるけど、実際に戦ったことはないので、十分に気をつけていかないとダメだろう。

幸い一階層には、ゴブリンとコボルトしか出ないらしい。

かと言って、新人冒険者の僕が油断出来る相手ではない。

しっかりと警戒していかないと。

 

そして、しばらくすると一匹のゴブリンを見つけた。

まだ、こちらに気づいていない。

僕は、気付かれないようにゴブリンに近づく。

 

「ガァ?グワッ⁉︎」

 

「ッ‼︎」

 

気付かれた!

僕はすぐに、上段に構えていた剣を振り下ろす。

 

「ギャァ‼︎」

 

一応、当たったが、致命傷には至らないようだ。

僕はすぐに、今度は腰だめに構えていた剣を振り抜く。

 

「ギャッ!」

 

ゴブリンは、短い悲鳴を上げると、そこで動かなくなる。

 

「はぁー。」

 

そこで、僕はやっと一つ息を吐いた。

 

ゴブリン一匹倒すのに、この疲労感か。

これは中々堪えるな。

 

肉を断つ感触が手に残る。

 

「おっと、魔石を回収しないと。」

 

僕は倒した…いや、()()()()()()ゴブリンの胸から、魔石を抉り出す。

この作業にも慣れないといけない。

僕は、冒険者になったんだ。

これからも、もっと多くの生き物を殺していくことになる。

躊躇うことは、即自分か仲間の死に繋がる。

 

僕はこれで一つ冒険者になるということを理解できた気がした。

 

 

 

 

 

「はぁー。お腹空いたなぁー。」

 

僕は、あれからずっとダンジョンに潜ってモンスターと戦っていた。

その後、ギルドに魔石を換金しに行ったんだ。

ダンジョンの中は、常に薄暗いので、思っていたよりもずっと長くダンジョンに潜っていたらしい。

道理でお腹が空く訳だ。

 

すると、またあのときの様にとても良い匂いが漂ってくる。

僕は匂いにつられて、フラフラとその屋台に近付いていくと、

 

「いらっしゃ〜い!ご注文は何だい?お客様って、ノヴァ君じゃないか⁉︎どうしてここに?」

 

そう言って慌てた後、ニッコリと僕に微笑む僕の女神様にダンジョンに行っていた疲れを少し癒やされながら、僕は言う。

 

「ただいま、神様。今日はダンジョンに行ってたんですけど、出てきたらすっかり夕方になっていて、お腹が空いたので、匂いにつられてフラフラしていたら、ここに着いたんです。なので、じゃが丸くん一つください。」

 

「えっ!今までずっとダンジョンに潜っていたのかい⁉︎大丈夫だったかい⁈怪我は無いかい?」

 

僕が今まで、ダンジョンに潜っていたと知ると急に慌て始める神様にホッコリする。

 

「はい。大丈夫ですよ、神様。何度かモンスターの攻撃も食らったけど、全部、軽傷です。それに、もし重傷を負ったりしたら、僕はここにはいませんよ。」

 

僕は、そう冗談混じりに言う。

 

「ノヴァ君。君、少し雰囲気が変わったね。下界の子は凄く成長が早いって聞くけど、まさかこんなに早く君が変わってしまうとは思わなかったよ。」

 

神様は少し驚いたようにそう言ったけど、僕に心当たりは無かった。

すると、不思議そうにしている僕を見兼ねたのか、神様は僕にこう言った。

 

「君は変わった…いや、成長したと言って良いかもしれないね。朝までの君なら、さっきみたいな自分が死んでしまうなんて冗談、絶対に言わなかっただろうから。きっと、それだけ君は今日、死というものを身近に感じていたんだろうね。それに、僕に対する態度が少し柔らかくなったし、僕に会って一番最初にただいまって言ったのも、それだけ帰って来れたということを実感したかったんだろう。」

 

そうか。

そうだったのかもしれない。

僕は、あそこで初めて命のやり取りをした。

何度か危ない場面もあった。

でも、絶対に神様の下に帰って来るんだって、必死になってモンスターと戦った。

神様との約束をちゃんと守りたかったから。

 

「君はちゃんと僕との約束を守ってくれた。自分が死ぬかもしれないって本気で思ったんだろうけど、ちゃんと僕の下に帰って来てくれたんだ。だから僕は、たとえ誰が君のことをバカにしたって、君のことを誇りに思うよ。」

 

僕のことをしっかりと見て、そう僕に真剣に語りかける神様に僕は言葉が出てこなかった。

そんな僕の様子を見て、ニッコリ微笑むと神様は屋台の奥の方に向かって言った。

 

「おばちゃああぁーーん!今日は、僕のファミリアの子が迎えに来てくれたから、先に上がるねぇーー!」

 

すると、屋台の奥から声が聞こえてくる。

 

「ああ良いよ、ヘスティアちゃん。今日は、いつもより早く来ていたし、どうせもうすぐ店仕舞いだ。一緒に帰ってやんなよ。それじゃあ、今日も余り物のじゃが丸くん持っていきな。」

 

「ありがとう、おばちゃん!お疲れ様ぁーー!」

 

「ああ、ヘスティアちゃんもお疲れ様。」

 

 

「それじゃあ、帰ろうかノヴァ君。僕たちのホームへ!」

 

そう言って、満面の笑みでこちらを向く神様に僕は、今度こそしっかりと答える。

 

「はい!帰りましょう、神様!僕たちのホームへ!」

 

僕は、ここに来たときとは違った晴れやかな気分で、じゃが丸くんの屋台を後にする。

 

「あれっ?そういえば、神様。僕、じゃが丸くん頼んだ筈なのに、もらってませんよね?」

 

それを聞くと、神様は急に慌てだす。

 

「そっそれは、アレだよ、ノヴァ君。そう!夕飯が食べられなくなるからね。」

 

そう今思い付いた様な言い訳をドヤ顔で言い放つ神様に僕は突っ込む。

 

「えっ、でも、夕飯ってそのじゃが丸くんですよね?」

 

………微妙な沈黙が僕たちの間に流れる。

 

「そっそう!僕たちのファミリアは、まだまだ貧乏だからね。君に無駄なお金を使わせないようにしたのさ!」

 

そうまたしても、今思い付いた言い訳をドヤ顔で言い放つ神様に僕は今度は、ただ普通に感謝の言葉を述べた。

 

「そうですか。僕のことだけでなく、僕たちのファミリアの財布事情まで考えてくれるなんて流石、神様です!いつもありがとうございます。」

 

本当にいつもありがとうございます。

僕はそう言って、先程のことへの感謝も言葉の裏にこっそりと込めた。

 

「ふふん!そうかい、そうかい!僕のことをもっと褒めると良いよ。僕は、褒めたら伸びる子だ!」

 

そう言って自信満々に胸を張る神様を僕は、更に褒めた。

 

「はい!流石、神様は凄いです‼︎僕は貴女の事をもっともっと好きになりましたよ!」

 

そう言うと、神様の顔はみるみると赤くなる。

 

「だっだから君は、公衆の面前でそういうことを言うんじゃなあぁぁーーい‼︎」

 

 

ふふふっ、そうやって恥ずかしがっているところも好きですよ。神様。

 

 



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炎の試練

ミノタウロスとの戦闘描写が短い!という感想があり、自分もそこについては、少し物足りなさを感じていたので、編集しました。
もしよければ、読んで下さい。

これからも、おかしなところがあるとご指摘頂けましたら、幸いです。


僕は今日もまた、ダンジョンに潜っている。

 

あの初めてのダンジョン探索の日を乗り越えて思ったことは一つ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ダンジョンの性質,モンスターと正面から戦うことの難しさ,自分がいつ死ぬか分からないという恐怖,それら、様々な実際にダンジョンに一人で潜らないと分からない多くのことを学んだ。

 

新人冒険者の何割かが、最初のダンジョン探索で命を落としていると、後からエイナさんに顔を青くされながら聞いたのは、妙に納得出来た。

そして、一番最初のダンジョン探索を終えると重傷を負ったり、帰って来ない新人冒険者が目に見えて減るそうだ。

この()()()()()()()を乗り越えることが冒険者になる上で、一番最初の試練になるらしい。

 

こうして僕は、知らないうちに、冒険者最初の試練を突破した。

 

 

でも、この時の僕は知らない。

本当の()()()()()()()()というものの恐ろしさを、

 

 

「ギィャ⁉︎」

 

「よし、これで16匹。」

 

この一週間で、だいぶダンジョンの雰囲気にも慣れてきた。

今では、5階層に潜っている。これは、本当ならかなりのハイペースなのだが、僕のステイタスは何故か異常な伸びを記録しているので、エイナさんからも渋々、許可が下りたのだった。

かと言っても、日々の収入はまだまだ余裕のあるものではなく、毎日ダンジョンに潜っても全然神様に楽をさせてあげることは出来ない。

そんなことを考えて少し落ち込んでいると、凄まじい叫び声が聞こえて来た。

 

「ブモオオォォーーーー‼︎」

 

ッっ‼︎

僕はすぐに叫び声の聞こえて来た方に武器を構える。

 

「なっ⁉︎」

 

大きい。

僕の倍ぐらいの大きさの牛頭の怪物に、僕は息を飲む。

 

「ミノタウロスッ!」

 

エイナさんから聞いたダンジョンの知識の中には、その魔物の名前と出現階層しか入っていなかったけど、数多の題材で取り上げられるその怪物だと、僕は一目で分かった。

 

どうする⁉︎逃げるか?いや、ここまで近付かれたら、もう無理だ。

何故、僕はあの叫び声が聞こえたとき、すぐに全力で逃げ出さなかったんだ‼︎

そう、舐めていたんだ。

この階層にもう単体で自分が対処出来ないモンスターが出て来ることは無いと。

その結果が、これだ‼︎

って今は、そんなことを考えている暇は無い!

 

「ブモォー‼︎」

 

ミノタウロスがその巨大な拳を僕に叩きつける。

 

「なっ⁉︎」

 

咄嗟に避けることが出来ず、受け止めようとした僕の身体がゴムのように吹っ飛び、ダンジョンの壁に叩きつけられる。

 

「ガハッ‼︎」

 

今の一撃で、剣が折れ、剣を持っていた右腕も骨が折れたのか、指先一本動かそうとするたびに激痛が走る。

 

逃げるのは、無理。

戦局は、絶望的。

傷を与えて逃げるのも、僕の攻撃じゃあ相手をイラつかせるだけだ。

武器は、壊れた。

それにもう、腕が上がらない。

しかも、さっきの衝撃でポーチの中に入れていたポーションの瓶が割れてしまった様で、近くにガラスの破片が散らばっている。

こんなのどうすれば……。

僕は…、ここで死ぬのか?

 

そこで、神様との約束がふと頭をよぎる。

 

いいや、まだだ‼︎

まだ、戦える‼︎

神様と約束したんだ‼︎

必ず生きて帰るって‼︎

まだ、身体は動く‼︎

まだ、僕の心臓は、止まっていない‼︎

ならば、生きる為に戦え‼︎

 

逃げるのは、不可能。

戦局は、絶望的。

だから、どうした‼︎

 

そこで、ミノタウロスがこちらに突進して来る。

 

よく見ろ‼︎頭をまわせ‼︎

タイミングは一瞬!外せば死あるのみ‼︎

僕は、右腕の激痛を何とか堪えながら、左に思いっきり跳ぶ。

受け身取る暇は無く、着地の衝撃が直に右腕に伝わる。

 

「うぐぁッ‼︎」

 

激痛に悲鳴が漏れそうになるが、奥歯を噛み締めて堪える。

そして、直ぐさま立ち上がって次の攻撃に備える。

どうやら、一応回避出来たみたいだ。

 

僕は、生きなくちゃいけない。

 

ならば、戦え。

 

僕は帰らなくちゃいけない。

 

ならば、闘え。

 

その時、背中が燃える様に熱くなる。

 

なんだ?背中が熱い。

でもこの熱さは、何処か覚えがある。

そうか!

これは神様が、僕のステイタスを更新するときの熱さだ。

なら、これは神様の熱さだ。

神様が僕に力をくれる。

神様との約束を守る為の力を…。

 

背中の熱が増す度に、身体から力が溢れて来る。

 

再び、ミノタウロスが突進して来る。

今度はさっきよりも余裕を持って、避けることが出来た。

 

突進を2度躱されたミノタウロスは、その巨大な拳での攻撃に切り替える。

さっきは、全く反応出来なかった攻撃が見える。

さっきは、まるで動かなかった身体が動く。

 

ミノタウロスが攻撃し疲れたのか、息を荒くさせながら距離を取る。

 

僕もすかさず、思考を纏める。

 

何故かわからないけど、きっと神様のおかげで、攻撃は一応躱せる様になった。

だけど、このまま攻撃を避け続けたってジリ貧だ。

僕の体力だって無限に保つ訳じゃない。

大体、血を流し過ぎたのか意識が朦朧とする。

それに、右腕はまだ全く動きそうに無いし、剣はへし折れたままだ。

 

せめて、剣さえあれば……。

 

そのとき、自然と僕の頭の中に言葉が浮かぶ。

何故か僕は、それを不思議に思う事は無く、頭に浮かんできた言葉を唱えた。

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

其は、世界を照らす者。(其は、世界を滅ぼす者。)

 

其は、全てを包み込む聖剣の担い手。(其は、全てを燃やし尽くす魔剣の担い手。)

 

我が敵を、打ち倒せ。(我が敵を、薙ぎ払え。)

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

熱い炎が、僕の身体から噴き出す。

 

身体が、焼けるように熱い。

 

炎が、僕の手に収束して、一本の燃える様な赫色の剣になる。

 

そして、手元に残ったその剣はまるで、全てを焼き尽くす地獄の業火の様にも見えたし、また、全てを照らす暖かな太陽の光の様にも見えた。

 

凄い。この剣なら、目の前にいるアイツにも通用するかもしれない。

僕は、静かにその剣をミノタウロスに向けて構えると、ヤツは何処か怯えている様だった。

その姿は、ついさっきまでの自分を見ている様で、少し可笑しかったけれど、僕は静かにその剣を振り下ろす。

 

「うおおおぉぉぉーーーーーー‼︎」

 

ドオオォォーーーン‼︎

 

地響きが鳴り、目の前を真っ赤な炎が覆い尽くす。

 

「ブモオオォォーーー‼︎」

 

放たれた炎は、瞬く間にミノタウロスを包み込み、その身体を全て燃やし尽くした。

 

「ハハハッ…勝ったぞ、この野郎。」

 

そこで僕は、強敵に勝った達成感からか直ぐに意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い。」

 

 

私が、15階層から逃げ出したミノタウロスを追っていると、如何にも駆け出し冒険者といった格好の少年がミノタウロスと対峙していた。

直ぐに助けようと駆け出すも、少年は何か詠唱しているようなので、直ぐに射線から離れる。

すると、そこへ物凄い熱量の炎が通り抜ける。

それこそ自分もまともに喰らえば、タダでは済まないと思わせるほどのものだ。

それを放った少年はその後、精神疲弊(マインド・ダウン)を起こしたようで、直ぐに倒れてしまった。

一部始終見ていた私は、そのことに先程の感想が漏れた。

 

「オオッ!アイズゥー、ミノのヤロウは、ヤッたかぁー?」

 

私は、その声に振り向き答える。

 

「あの子が、魔法で倒した…。」

 

そこで、ベートさんが倒れている少年の方を見る。

 

「ああん?あそこで、ぶっ倒れてるガキがミノタウロスを倒しただぁ〜?んなワケねぇーだろ!大体、その倒したミノが何処にも居ねぇーじゃねーか。」

 

「それは、跡形も無く燃え尽きたからで……。」

 

「ブワッハッハッ‼︎それこそあり得ねーだろ!んなガキにミノタウロスが消し飛ばされんなら、今頃オラリオにLv.1冒険者なんて存在しねーよ!」

 

「でも、私は…。」

 

「良いかぁ〜アイズ。いくらもうすぐオラリオに帰れるからって、ダンジョンの中で夢見てたら死んじまうぞぉ〜!ククッ!」

 

そう言って、私の話を全く信じようとしないベートさんを睨む。

 

「ああ、分かった分かった。ほら、さっさとフィン達のトコに戻んぞ。」

 

そう言って、彼はさっさと先に仲間の下へ戻って行った。

私もすぐに後を追うと思って、ふと気づく。

 

あの子、上に連れて帰ってあげないと…、

 

そうして私は、倒れている少年の下へ行こうとして、ふと足に何か当たったのに気づく。

 

魔石?何故こんなところに?

それにこの大きさは……

ふと少年が倒したミノタウロスのことが頭をよぎる。

 

「これは、君が倒したものだから、君のものだよ。」

 

そうして、少年の腰についているポーチに魔石を入れる。

すると、そこで少年が右腕からかなりの量の血を流していることに気づく。

私は、直ぐポーションを出し、傷口にかける。

すると一応、傷は塞がった様で流れていた血は止まる。

私は、直ぐさま少年を背負って、地上を目指して走る。

 

「それじゃあ、地上に帰ろうか。」

 

途中、意識を失っている少年にそう話しかける。

そう言ったとき、少年は少し微笑んだ様な気がした。

 

 



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試練の結果

前回の話をミノタウロスとの戦闘描写が短い!という感想があり、自分もそこについては、少し物足りなさを感じていたので、編集しました。
もしよければ、読んで下さい。

これからも、おかしなところがあるとご指摘頂けましたら、幸いです。


 

「ノヴァくぅぅーーん‼︎心配したんだよぉ〜僕は!君が倒れて、ギルドに運ばれたって聞いた時は、生きた心地がしなかったよ〜〜!」

 

「ただいま、神様。心配かけてすいません。でも、ちゃんと貴女の下へ帰って来ました。」

 

あの後、ギルドの医務室で目を覚ました僕は、エイナさんにここに運ばれてきた経緯を聞いて、その後、直ぐに神様が心配して待っているだろうホームへ帰還した。

 

あのミノタウロスを倒した後、僕は初めて魔法を使ったことによって、精神疲弊(マインド・ダウン)を起こし、倒れていた所を他のファミリアの人が見つけて、僕を連れて帰ってくれたらしい。

その時、怪我の応急処置もしてくれたらしい。

その人には、いつかちゃんとお礼を言わないといけない。

確か名前は…アイズさんだったかな?

結構大きなファミリアの人らしい。

まぁ、それは今は置いておいて…、

 

「あのっ、神様。僕、魔法が使えるようになったみたいなんですけど……」

 

「何を言ってるんだい!ノヴァ君、そんな訳無いだろう!最後に、ステイタスを更新した時には、そんなことこれっぽっちも書いてなかったじゃないか!」

 

確かに、神様の言うことは最もだけど、それじゃあ、あの現象に説明がつかない。

 

「でも、神様。突然背中が熱くなったかと思ったら、頭に詠唱が浮かんできて、それを唱えたら身体中から炎が噴き出してきて、剣になったんですよ?そんなこと、魔法以外であり得ますか?それに、精神疲弊(マインド・ダウン)も起こしてますし……。」

 

「そっそうなのかい?それじゃあ、ステイタスを更新してみよう!そうしたら、きっと何か分かるはずだ!」

 

流石に僕の説明を聞いて不思議に思ったのか、神様はそう提案する。

 

「そうですね。とりあえずそうしてみるのが、一番早いですね。」

 

「それじゃあ、服を脱いでベッドにうつ伏せで、転んでくれるかい?」

 

このやり取りにも慣れたもので、初めてステイタスを更新した時のことを思い出すと、あんなに慌てていた自分が馬鹿らしくなる。

 

「それじゃあ、更新するよっ!」

 

「はいっ!お願いします、神様!」

 

僕は、特に断る理由もないので、直ぐに了承する。

それにしても、今回は、あのミノタウロスと戦ったんだ。

ステイタスの伸びにも期待して良いだろう。

 

「はああぁぁ〜〜〜〜ぁ〜ぁ〜ぁああ⁉︎」

 

突然、神様が背中で叫び声を上げる。

 

「どうしたんですか!神様‼︎」

 

僕は、慌てて立ち上がろうとする。

 

「うわぁ〜〜⁉︎ふぎゅう⁉︎」

 

そうなると、今僕の上にいる神様はひっくり返る訳で…。

 

「すっすいませんッ‼︎神様!お怪我はありませんか⁉︎」

 

僕は、慌てて神様の無事を確かめる。

 

「痛っててて。心配しなくても僕は大丈夫だよ。ノヴァ君。ってそれより君のステイタスだよ‼︎」

 

神様は、驚きと興奮が混ざった様な声音で僕に言う。

 

「そんなに凄かったんですか?僕のステイタス…。」

 

すると、また興奮気味に神様は言う。

 

「凄いなんてものじゃないさ‼︎だって、君はもうこの短期間でランクアップ出来るようになったんだから‼︎」

 

それを聞いて、今度は僕が驚く。

 

「はああぁぁ〜〜〜〜ぁぁぁああ⁉︎らららっランクアップって、あのランクアップですか⁉︎」

 

僕は、驚きの余りもう一度、神様に聞き返す。

 

「ああ‼︎そうさ!あのランクアップだ‼︎このオラリオで最も早くランクアップしたあのアイズ・ヴァレンシュタインでさえ、半年の月日が掛かったあのランクアップさ‼︎」

 

堪らず、僕は叫ぶ。

 

「うっそぉぉ〜〜〜〜‼︎」

 

神様は、興奮しながら続ける。

 

「嘘じゃないよ!本当さ‼︎君は今日、このオラリオで最も早くLv.2に到達した冒険者になったんだ‼︎」

 

そう神様に言われると、徐々に嬉しさが込み上げて来る。

 

「やったああぁぁーーーーーー‼︎やりましたよ、神様‼︎僕!やりました‼︎」

 

僕がそう言うと、

 

「うんっ‼︎やったね!ノヴァ君!流石は僕の子だ‼︎君は、いつか大変な事を成し遂げると思ってたけど、こんなにも早く成し遂げるなんてっ‼︎」

 

神様も自分のことの様に喜んでくれる。

まぁ、僕は()()()()ではなくて、()()()()になりたいんですけどね?

 

「ところで、神様。魔法の方は、どうでした?」

 

「ああっ!そっちの方は、今書き写すから…。」

 

そう言って、書き写されたものを見て僕は、唖然とする。

 

 

 

ノヴァ・イグニス 男 16歳

 

Lv. 1

 

力: F324→B706

 

耐久: G278→B720

 

器用: F387→A842

 

敏捷: F356→A812

 

魔力: I0→E429

 

≪魔法≫

 

【 フィアンマ・エスパーダ・コンヴォカツィオーネ】

 

・装備魔法

 

・詠唱

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

其は、世界を照らす者。(其は、世界を滅ぼす者。)

 

其は、全てを包み込む聖剣の担い手。(其は、全てを燃やし尽くす魔剣の担い手。)

 

我が敵を、打ち倒せ。(我が敵を、薙ぎ払え。)

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

 

【】

 

【】

 

 

 

 

《スキル》

 

【】

 

 

 

 

アビリティの矢印の左がミノタウロスと戦う前、最後に更新してもらった僕のステイタスだ。

まだ、ダンジョンに一週間しか潜っていないのに、こんなステイタスだと言う時点でおかしい!って言うのは、神様と僕のアドバイザーをしてくれてるエイナさんの言だ。

 

だけど、右‼︎

どうなってるんだ‼︎

アビリティ上昇率合計2100オーバーってなんだ!

お小遣いが2100ヴァリス増えるのとは、訳が違うんだぞ!

何だよッ、それっ!

僕が、一週間毎日欠かさず朝から晩まで、ダンジョンに潜って上げてきたアビリティの合計を軽々しく超えやがって‼︎

 

そして、魔法‼︎

何?装備魔法って!

僕、聞いた事無いんだけどッ⁈

何で、詠唱の最後に魔法名が来ないのッ⁈

もしかして、まだ続きがあるのッ⁈

あの威力でこれ以上何を出すつもりだよ‼︎

何を目指してるの〜〜?

世界でも、滅ぼすの?

 

僕が頭の中で、自分のステイタスに向かってよく分からない怒りをぶつけていると、神様から声を掛けられる。

 

「え〜っと、大丈夫かい?ノヴァ君?」

 

僕は、そう言った神様に飛び付いて言う。

 

「これがっッ‼︎大丈夫でッ!いられますかああぁぁーーーーーー‼︎」

 

「ひゅいいぃぃーーーー⁉︎ちッ近いよ!ノヴァ君‼︎」

 

錯乱した僕はそのまま続けざまに言う。

 

「だって!神様‼︎アビリティ上昇率合計2100オーバーですよ‼︎何ですかッ!2100って‼︎神様のお小遣いじゃないんですよ‼︎」

 

「まッ待つんだ!ノヴァ君‼︎僕は、そんなにお小遣いを貰って無いよっ‼︎」

 

神様が頓珍漢な所に突っ込む。

 

「そこに、突っ込んでる場合ですかああぁぁーーーー‼︎」

 

そこまで言って、漸く少し落ち着きを取り戻す。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、あっあのさっきは取り乱してすみません、神様。」

 

「ハァー、ハァー、あっああ良いよ(離してくれるのがもう少し遅かったら、天界に送還されるところだったけどね。)、落ち着いたみたいだね、ノヴァ君。」

 

「はい、お陰様で…。」

 

今考えると自分は大分、錯乱していたらしい。

まさか神様に掴みかかるなんて……、

 

「それじゃあ、ノヴァ君。落ち着いたところで、そろそろ本題に入ろうか。」

 

そう言って、神様は表情を真剣なものにする。

 

「まず、君の頭の可笑しいアビリティのことだけど……」

 

ゴクリッ。

 

そう、真剣な声音で話す神様の言葉を僕は、息を呑んで待つ。

 

「原因は、わからない‼︎(キラッ!)」

 

「えええぇぇぇ〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

えっ⁉︎神様でも分からないの⁉︎

ってそんなことよりッ‼︎

何だ今の‼︎

いつもは優しい天使かと思ったら、今日は悪戯っ子な小悪魔ですかッ‼︎

素晴らしい‼︎

最高ですッ‼︎神様!もっとやって下さい‼︎

 

「(えっと、今ので誤魔化せたかな?)えっとね?ノヴァ君。君の異常なアビリティの伸びは、原因不明なんだ。まぁ最初は、どの冒険者もアビリティの伸び幅は高いものさ!(君のは、それにしても異常だけど…)それが君は偶々、人よりも多く伸びただけでそこまで特別なことじゃないさ!それに今回、君は()()()()()をしてきたんだろう?なら、この伸びも納得できるというものじゃないか!(これで、なんとか誤魔化せていてくれ!)」

 

さっきから神様が急に饒舌になったけど、どうやら僕のアビリティの異常な伸びは、色々な偶然が重なり合って出来たものらしい。

 

「そうですか、そういうことだったんですね。」

 

「(よしっ!チョロいぞ、ノヴァ君。)それじゃあ、次に魔法について考えていこうか!」

 

なんだかさっき、神様が僕のことを馬鹿にしたような気がしたけど、まぁいっか。

 

「まず、君の魔法【フィアンマ・エスパーダ・コンヴォカツィオーネ】なんだけど、これについてもさっぱりわからない。」

 

「えええぇぇぇ〜〜〜⁉︎これもですか⁉︎神様!」

 

僕がそう言うと神様は、少し不貞腐れたようにこう言う。

 

「しっ仕方ないじゃないか!僕だって、こんな変な魔法見たことも聞いたこともないんだからッ!」

 

へっ変ッ⁉︎

その言葉に僕の心が痛恨の一撃を受ける。

 

「ああっ‼︎ゴメン!君を傷付けるつもりは、無かったんだ!それに僕が知らないってことは、前代未聞のレア魔法だってことさッ‼︎凄いだろう?」

 

そうやって神様は、変な魔法を発現した僕を励ましてくれる。

 

「それで、この魔法ってどんなものなんです?」

 

変な魔法を発現した変な僕がそうやって聞くと、

 

「それは、君の方が知ってるはずだぜッ!なんたって君は一度それを発動したんだろう?」

 

そうだ。

そういえば、僕は一度あのミノタウロスを倒すときにこの魔法を使った。

でもあのときは、直ぐに精神疲弊(マインド・ダウン)で倒れてしまったし、どのような魔法かは、ほとんど分からなかったりする。

 

「はい。一応発動しましたけど、炎が身体から噴き出して手元に集まって一本の剣になったんです。それをミノタウロスに向けて振ると、ものすごい炎が出て来て、ミノタウロスを消し炭にしたんです。」

 

あれっ?ここまでで已に色々可笑しいぞ?

 

まず、何で炎に包まれて僕は平気だったんだ?

それは、まぁ魔法の性質だって言ったら、それまでなんだけど…。

 

次に、僕は確かギルドでミノタウロスの魔石を換金した。

これが可笑しい、だって僕は間違いなくミノタウロスを()()()()したんだ。

その時点で魔石が残っている訳が無い。

なのに僕はミノタウロスの魔石を換金した。

まぁ僕を助けてくれた人が自分の持っていたミノタウロスの魔石を僕のポーチに入れてくれたという可能性も無くはないが、流石にそれはあり得ないだろう。

ならミノタウロスの魔石は、あの炎の中でただ一つ燃えなかったということになるけど、それもどうなんだろう?

まぁこれも、後で検証してみるしか無いか。

 

っと、そこまで考えていた僕に声がかかる。

 

「どうしたんだい?ノヴァ君。さっきからずっと()()()考えごとをしてッ!」

 

神様が、少し怒ったようにそう言うので、僕は慌ててさっきまで考えていたことを神様に言った。

 

「そうか!君の言う通りなら、もしかしたらこの魔法には、自分が燃やしたいものを選択できる特性があるのかもしれないよ!」

 

「えっ、本当ですか⁉︎」

 

だとしたら、ものすごい便利な魔法なんじゃないか?

 

「うん!あくまでも推測だけどね。その辺は実際に何度か使ってみて、試してみるしかないんじゃないかなぁ〜。」

 

神様の言う通り、また今度ダンジョンで、色々試してみるしかないだろう。

 

「それじゃあ、最後に一番重要なこと、ランクアップについてだ。」

 

いつ神様はその話をするんだろうと、さっきからずっと待っていた話に遂になった。

 

「僕としてはこのランクアップ、今はまだしない方が良いと思うんだ。」

 

「えっ⁉︎」

 

僕は、てっきりランクアップした後の話をすると思っていたので、その一言にかなり驚く。

 

「理由としては、いくつかあるんだけど、やっぱり一番は、注目を集めすぎるということかな。」

 

僕は、漠然としたその一言にあまりピンと来なかったけど、それを察した神様が話を続ける。

 

「特に、他の神々に気付かれるとね。ただ揶揄われたりするだけなら良いんだ。でも、きっとそうはいかない。強引に君を引き抜きにかかったり、最悪、人質を取られるかもしれない。それが、僕らと同じような零細ファミリアなら良いけど、もっと大規模なファミリアが相手になるときっとなす術なく、君を奪われるだろう。そうなったら僕は……ッ!」

 

僕は、不安そうにする神様を落ち着かせようと、できるだけ優しく神様に語りかける。

 

「大丈夫ですよ、神様。僕は、何処にも行きません。」

 

そして僕は、何でもないことに聞こえるように、明るい声で話す。

 

「神様、僕をランクアップしてください。」

 

その一言に、神様は目を見開いて驚く。

 

「君は、僕の話を聞いて居なかったのかい!それじゃあ、君が「神様。」ッ!」

 

僕は、神様の言葉を遮り、神様に理由を説明する。

 

「ここでランクアップしなかったら、次はどうするんですか?問題を先送りにしたところで解決はしません。」

 

神様は、僕の言葉に直ぐに反論する。

 

「だとしてもだッ‼︎これじゃあ、幾ら何でも早すぎる!こんな早さでランクアップしたら、君はきっと要らない誹謗中傷を受けるだろう。やれ、神の力(アルカナム)を使っただの、やれ、どんなズルをして強くなったんだだのと、君の努力を、君が僕の約束を守ってくれる為に、どれだけ頑張ってくれたのか、何も知りもしない奴に君がそんなことを言われるのは嫌なんだよッ‼︎」

 

「そこまで、神様が僕のことを想ってくれていたなんて、凄く嬉しいです。でも、神様。これは、僕の我儘なんです。今、歴代最速でランクアップした記録は、確か半年なんですよね?」

 

神様にそう問うと、神様は直ぐに頷いてくれる。

 

「なら、ほとぼりが冷めるまで待つとすると、僕は、最低でも半年はランクアップ出来なくなります。」

 

「そうだね。何も手を打たなければ、最低でもそれぐらいになるだろう。」

 

神様は、僕の言葉の意図が読めないのか、少し訝しそうにそう答えてくれる。

 

「僕は、そんなに待てません。だって、そうなると貴方との結婚も半年遅れることになるんですよ?本当なら、今すぐにだって結婚したいのに…。」

 

神様の顔が、見る見ると赤く染まる。

 

「知らなかったんですか?下界の子は、気が短いんです。」

 

そこで一度言葉を切り、ありったけの想いを込めて、僕は言う。

 

「だから、僕の我儘を聞いてくれないかな?()()()()()、僕の一番大切な人。」

 

その言葉に込めた想いを感じ取ったのか、神様は、顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

 

「っていうことなんですけど、どうですか?ランクアップすること考えてくれませんか()()?」

 

僕は、今度は顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった神様にそう尋ねてみる。

 

「ヘスティア」

 

「へっ?」

 

「ヘスティアって呼んでくれないと、もう返事してやらない。」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべたまま神様は、僕にそう言って来る。

 

「なッ⁉︎」

 

その言葉に今度は僕が面食らう。

 

「君は、神になるんだろう?それに、最終的に僕の夫になるって言ったんだ。なら、いざそのときになったら、ちゃんと僕の名前を呼べるように練習しておいて損は無いだろう?」

 

そんな少し揶揄うような神様の言葉に僕は、顔を真っ赤にしながらも頼んだ。

 

「ランクアップさせて下さいよ。ヘスティア…様。」

 

さっきまでとは違って、そんな中途半端なことを僕は言った。

 

「う〜ん、ちょっと惜しいけど、まぁいっか。君をランクアップさせるよ。それにしても君は、攻めるのは強いけど、攻められるのは弱いよね?」

 

神様は、悪戯っぽくそう言った。

 

「のっノーコメントで、」

 

神様に揶揄われ続けて、僕はついに口を閉ざした。

 





アビリティの表記に誤りがありましたので、修正致しました。
今後は、この様な事が無いようにしたいと思います。
よろしければ、今後ともよろしくお願います。


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装備魔法


前回の後書きにも載せましたが、アビリティの表記に誤りがございましたので、修正致しました。
今後は、この様な事が無いようにしたいと思います。
今後とも、よろしくお願いします。


 

あれから直ぐに、神様にランクアップしてもらった僕の今のステイタスはこうだ。

 

ノヴァ・イグニス 男 16歳

 

Lv. 2

 

力: B706→I0

 

耐久: B720→I0

 

器用: A842→I0

 

敏捷: A812→I0

 

魔力: E429→I0

 

剣士: I

 

≪魔法≫

 

【 フィアンマ・エスパーダ・コンヴォカツィオーネ】

 

・装備魔法

 

・詠唱

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

其は、世界を照らす者。(其は、世界を滅ぼす者。)

 

其は、全てを包み込む聖剣の担い手。(其は、全てを燃やし尽くす魔剣の担い手。)

 

我が敵を、打ち倒せ。(我が敵を、薙ぎ払え。)

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

 

【】

 

 

【】

 

 

《スキル》

 

【】

 

 

 

 

発展アビリティの剣士は、それしかなかったので、仕方なく取ったんだ。

まぁ、たった一週間と少しで剣士の発展アビリティがあっただけでも、結構ましなんだろう。

 

それで、ギルドへのランクアップの報告なんだけど…。

全然信じてもらえなかった。

いや、気持ちは分かるんだ。

現在の最速ランクアップが半年で、いきなりポッと出の僕が一週間でランクアップしたって言うのは、僕だって信じないと思う。

でも、エイナさんに信じてもらえなかったのは、ちょっとショックだった。

まぁ、そのおかげで僕のランクアップは、ギルドの一番奥で、ギルドの主神ウラノス様が直々に僕のステイタスのレベルの部分が2になっていることを確認してもらったんだけど…。

その後ウラノス様は、このことを発表しないことにして下さった。

理由は、あまりにも早すぎてオラリオに混乱を招く恐れがあるからだそうだ。

これについては、全面的にこちらの思惑に沿っていたので、直ぐに了承したんだけど、その後ウラノス様は、もしギルドからの依頼があれば、積極的に協力するようにと言われた。

僕は、自分に出来る事であれば…と、少し曖昧な返事を返して、その日はギルドからホームへ帰った。

 

何にせよ、騒ぎにならなかったのは良かった。

あのままだと、他の神々に目をつけられるところだったから…。

 

 

「それじゃあ、()()()()()様。行ってきま〜すっ!」

 

「ああ、行ってらっしゃいっ!ノヴァ君!」

 

そして、僕は今日もダンジョンに潜る、少しでも早く彼女の隣に立てるようになるために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったか…」

 

僕は、そう小さく言葉を漏らす。

僕はこないだからずっと僕の頭を悩ましている、彼のスキルについて考える。

 

愛情一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

愛情(おもい)を遂げるまで、効果持続。

愛情(おもい)の丈により、効果向上。

・一定条件で、ステイタス超向上。

・緊急時、ステイタスの自動的更新。

 

 

 

ランクアップする直前に見た彼のスキルがこれだ。

まず、新しい効果が二つほど増えている事に突っ込みたいが、問題はランクアップした後のことだ。

 

 

愛情相関(リアリス・ベーゼ)

・早熟する。

・互いに愛し(おもい)続ける限り、効果持続。

・互いの愛情(おもい)の丈により、効果向上。

・一定条件で、ステイタス超向上。

・緊急時、ステイタスの自動的更新。

・愛する人が近くに居ればいるほど、ステイタス及び、ステイタス上 昇率に高補正。

 

僕は、どうせランクアップしてしまうなら、本当はこのスキルについてノヴァ君に言ってしまうつもりだった。

でも、こんなはっきりと書かれたら、誰だって言いたくなくなるだろう、僕だってそうだ!

あの日は、僕も恥ずかしがっているノヴァ君が可愛くて、ついあんな事を言っちゃったけど、冷静になってこんなモノを見たら、言える訳が無いじゃないかッ!

 

そして、僕はこのスキルのことをまた見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は、ダンジョンに行く前に武器屋に寄って、一番安いナイフを買う事にした。というのも、前回ミノタウロスと戦ったときに使っていた剣がへし折れたからだ。

新しい剣を買わないのは、主に金銭的な事情があるからだけど、一応、他にも理由がある。

 

昨日僕は、自分のステイタスに記された魔法を見て疑問に思ったことがあった。

特に一番疑問に思ったのは、装備魔法という点について。

いや、だって可笑しいだろう。

普通、装備というものは振っただけで火を噴き出したり、一発撃っただけで精神疲弊(マインド・ダウン)したりしない。

 

だから、僕は思った訳だ。

もしかしたら僕は、この魔法の使い方を間違えたのかもしれないと。

 

まぁ、あの時は、そんなことを考えている暇は無かったから仕方ないけど、いちいち一発で精神疲弊(マインド・ダウン)になる魔法なんて、危なくて使えやしない。

それにそれほどの魔法を持っているにも関わらず、魔導の発展アビリティが発現しないのは可笑しい。

 

そこで僕は、この魔法の詠唱の部分に注目した。

まあ、それしか書いてなかったから、注目せざるを得なかったんだけど…。

すると、そこにはこう書かれていた。

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

其は、世界を照らす者。(其は、世界を滅ぼす者。)

 

其は、全てを包み込む聖剣の担い手。(其は、全てを燃やし尽くす魔剣の担い手。)

 

我が敵を、打ち倒せ。(我が敵を、薙ぎ払え。)

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

これについても、少し可笑しい。

普通なら、態々一つの文章毎に区切る必要は無い。

何故なら魔法とは、()()()()()を最初から最後まで言うことで、発動するからだ。

なら、途中で区切るというのは、意味の無いことだ。

けど、ステイタスというものに関して、そんなことはあり得ない。

仮にも、神の奇跡である神の力(アルカナム)を使っているんだ。

意味の無いことなんてしないだろう。

 

そこで僕は、一つの仮説を立ててダンジョンに来た訳だけど…。

 

「さて、どこで実験するか…。」

 

今いるダンジョンの入り口付近はあり得ない。

こんな超弩級の秘密を、いつ誰が人が来るかわからない場所で試すなんて絶対に出来ない。

僕もレベル2になったんだから、一応中層にも行けるはずなんだけど、エイナさんには、まだダンジョンでの経験が全然足りて無いからダメって言われてるし、どこか良いところは無いかなぁ?

そうよく考えてみると、一つ思い出した。

確か中層直前の12階層は、深い霧に覆われているらしい。僕の場合、顔がバレなければ良いので、そこなら良いだろう。

 

 

「ここが、12階層か…。」

 

僕もレベル2になったので、ここまでこれといって苦戦することは無く、ここまで来ることができた。

ナイフも案外、手に馴染んだし…。

 

「11階層も結構霧が凄かったけど、ここは桁違いだなぁ。」

 

とりあえず、ここならあまり周りを気にせず、自分の魔法の実験ができそうだ。

それでも今度からは、顔を隠せるフード付きのマントを付けて来よう。

 

それから僕は、少しでも遮蔽物の多い場所をナイフでモンスターを倒しながら探した。

 

「おっ!ここは、良いかもしれない。近くに大きな岩があって周りから見えにくいし、それなりの広さもある。」

 

僕はそこでやっと、今日の実験を開始する。

 

「それじゃあ、誰も来ないうちにやっておくか。」

 

まず、精神疲弊(マインド・ダウン)になる危険性が高い、全文詠唱はマインド・ポーションを手に入れるまで、絶対にしない。

 

となると、一番使用魔力が少なそうな一文のみの詠唱をしてみるしかない。

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

 

…………………………よしっ‼︎

 

仕切り直しだ‼︎

 

いや、別に全然気にして無いから‼︎

むしろワザとだから‼︎

全然、恥ずかしくなんか無いから‼︎

 

と、僕は誰にかわからないが、見苦しい言い訳をして考え直す。

 

そう、実験に失敗は付きものだ!

なら、次の案を試そう。

大体、考えが浅はかだったんだ。

この文だけでは、意味が成り立たない。

一文だけで意味があるとすれば、第四文と第五文だろう。

ここで、この魔法が装備魔法であることを考えると、第五文を詠唱することで、何かしらの効果が得られるはずだ。

そうと決まれば、すぐ実行しよう。

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

すると、身体から炎が上がり、手元にあの時の赫い剣とは、少し違う赤い剣が現れる。

身体から、魔力もそれほど減った感じはしない。

 

「やった‼︎成功だ!」

 

僕は、あの時と少しだけ見た目が違う剣を見る。

 

あの剣は、もっと赤いというよりも赫いといった方が似合う感じの剣だった。

やはり、消費魔力の少なさから、質の方もグレードダウンしているようだ。

僕は、とりあえずその剣の威力を確認する為、さっきの大岩を斬って見る。

 

ジュッ‼︎

 

短い何かが溶けるような音がして、剣が大岩に埋まる。

 

なっ何を言ってるのか分からないと思うが、僕にも何が起こったのか分からない。

手品とか、幻覚とか、そんなチャチなもんじゃ断じて無いぜ。

もっと恐ろしいモノの片鱗を味わったぜぇ。

 

っと、思考停止してる場合じゃなかった。

大体さっきから、普通にモンスターがやって来ている。

さっき上がった炎の所為だろう。

とりあえず、この剣?魔法?の威力を試させて貰おう。

 

 

 

 

………あえて言おう。この剣ヤバい。

 

さっきから現れる全てのモンスターが一撃で溶けたり、燃えたりして、死んでいく。

オークなんて、この剣に当たっただけで、身体の脂肪が燃焼(物理的に)して、一瞬で全身火だるまになって死んでしまった。

しかも、何故か魔石が残る謎仕様。

このお陰で僕の今日の収入は、今までになく、大漁になることが間違いない。

更に、一度出すと次に出すまで、魔力を消費しないという親切仕様。

もう至れり尽くせりすぎて、言葉が出ないよ。

でも、これじゃあ全くステイタス延びないよなぁ〜。

僕は、赤い剣を左手に持ち替えて、右手にナイフを構える。

これは、僕の身体から離れると、恐らくこの赤い剣が消えてしまうからであって、断じて、ナイフと片手剣の二刀流って、ちょっとカッコ良くね?などと言った不純な動機ではないことを理解してもらいたい。

 

おっ‼︎構えてみたら意外としっくり来るぞっ!

これからは、こうやって戦うのも良いかもしれない。

 

あっ!また次のモンスターがやって来た。

フッ、この剣?(右手ナイフ、左手魔法)の錆にしてやろう。

 

 

はあぁ〜〜。

今日は、有意義な実験をすることが出来た。

帰ったら、ヘスティア様にも伝えよう。

彼女もきっと驚くに違いない。

 

僕はそんなことを考えながら、その場を後にした。



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神様

 

「ただいまぁ〜、かっじゃなかったヘスティア様。」

 

僕は、最愛の彼女に帰りを告げる。

 

「おかえり、ノヴァ君‼︎何時もより帰りが遅かったから、心配してたんだぁ〜。無事でなによりだよ!」

 

彼女は、そう言って満面の笑みを浮かべる。

 

何この子超可愛い‼︎

 

僕は何度目かわからないが、また彼女に惚れ直す。

 

「心配してくれて、ありがとうございます。今日は、魔法の実験をする為に霧の深い12階層に行ったんです。だから、帰りが少しだけ遅くなっちゃいました。」

 

僕がそう言うと、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まっていた。

 

「じゅっ12階層ぅぅぉぉーーー⁉︎何をやってるんだ‼︎君は‼︎怪我は無かったのかい?冒険者になって一週間でそんな深くまで、潜る奴が有るか‼︎危ないじゃないか‼︎」

 

再起動すると、今度は鬼の様に怒り出した彼女を、僕は必死で宥めようとして、慌てて言い訳をする。

 

「でも、()()!」

 

ギロリッ!

 

ひっ!

 

「へっ()()()()()()。」

 

僕は一瞬死を予感したけど、なんとか一命を取り留めた様で、彼女は僕の話を聞く態勢になる。

 

幾ら慌てて居ても、もう二度とヘスティア様のことを神様と呼ぶのは、止めにしよう…。

 

「実は、今日は、僕の魔法について実験しようと思ったんです。」

 

「実験?」

 

ヘスティア様は、訝しげに僕を見る。

 

「はい。それで、僕の魔法を周りの人に見られない様にしたくて、その為に12階層に行ったんです。」

 

「だからって、君が危険を冒したら、意味が無いだろう!」

 

僕は、怒る彼女を宥める様に言った。

 

「ヘスティア様、落ち着いてください。僕も何だかんだでレベル2ですよ?上層のモンスターに、そう簡単にはやられたりしません。」

 

その言葉に彼女も少しは納得したのか、先程の怒りが少し治まった様に感じる。

すると、今度は罰が悪そうに彼女は言う。

 

「ゴメン、今のは殆ど僕の八つ当たりだ。僕は、君に何もしてあげられないから……」

 

その言葉に今度は僕が怒る。

 

()()()()()、そんなこと言ったら怒りますよ?貴女は僕に生きる希望を与えてくれた…。貴女が居なければ、僕はあのミノタウロスと遭遇したときに死んでいました。貴女が居てくれたから、僕は今、ここに居るんです。貴女が言ってくれた言葉が有ったから、僕は今、貴女に話し掛けて居られるんです。だから僕は、僕を救ってくれた貴女が、僕に何もしてあげられないなんて、言って欲しくないです。貴女には、既に色々なものを貰ってますよ。」

 

貴女に出会って、僕の世界は煌びやかに色付いたんだ。

そんな貴女だから、僕は好きになったんだ。

 

そう伝えるのは、少し恥ずかしくて僕はその言葉を呑み込む。

 

「ッ‼︎君は、いつも僕が一番言って欲しい言葉を平気で言う。でも僕はね?もっと直接的な形で君の力になりたいんだ。だから…」

 

そこまで言って、ヘスティア様は言葉を切る。

 

「これから数日、僕は出掛けて来るよ。必ず帰るから心配しないで待っていて欲しい。」

 

ヘスティア様は、僕の目を見て真剣な表情でそう言った。

 

「はい、分かりました。いつまででも待ちますよ。ここで…、」

 

僕は、即答した。

彼女がここまで真剣に言ったんだ。

きっととても重要なことなんだろう。

僕はついて行っては駄目なんですか?とは、聞かない。

彼女が待っていて欲しいと言ったんだ。

なら、僕にできることは、ここで彼女の帰りを待つことだけだ。

 

「でも、今すぐではないんですよね?」

 

僕は、半ば確信して言う。

 

「えっ?ああ。別に今すぐって訳じゃないさ。明日の夜からかな?」

 

「そうですか。なら、今日は沢山色んな話をしましょう。今日だけでも、貴女に話したいことがたくさんあるんです。」

 

それから夕飯を食べた後、僕らは色んな話をした。

まず、始めに今日の実験で分かった僕の魔法のこと。

僕の一番好きな物語の話。

ヘスティア様が、天界で過ごして来た日々の話。

彼女が下界に降りて来た理由。

僕らは眠くなるまで、お互いの話をし続けたんだ。

 

そして、明くる朝…。

 

「それじゃあ、行ってきます。ヘスティア様。それと、行ってらっしゃい。」

 

「ああ、ノヴァ君、行ってらっしゃい。それと、行ってきます‼︎」

 

そんな可笑しなやり取りに、僕らは顔を見合わせて笑う。

その時のヘスティア様の笑顔は、昨日までとは見違える程優しく、それでいて、野に咲く一輪の花のように可憐で、僕は、自分の顔が赤くなるのを誤魔化す様に、ダンジョンへ向かった。

 

 



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豊饒の女主人

 

ゾワッ‼︎

 

僕は、すぐに振り返る。

 

今、誰かから見られていた様な…。

 

「あの〜、魔石落としましたよ。」

 

その時、僕にそう声を掛けて来たのは、銀髪のヒューマンの女の子だった。

 

「えっ?僕ですか?」

 

「はい、貴方です!この魔石、落としましたよ?」

 

おかしいなぁ〜。

僕は昨日、全部換金したはずなんだけど…

 

「本当に僕が落としました?」

 

「はい、貴方が落としていましたよ?」

 

ここまで言われたなら、きっと昨日の換金したと思って残っていたのを落としたんだろうと思い直す。

 

「えっと、ありがとうございます。と言っても、お礼出来そうなこともないんですが…」

 

僕が少し気まずげにそう言うと、

 

「なら今夜、あそこでやっている"豊穣の女主人"という店に来てくれませんか?私、あそこで働いてるんです。」

 

すると、少し離れたところにそう書いてある酒場らしきものがある。

 

「あっはい、分かりました。必ず伺わせて頂きます。」

 

「あははっもうっ!堅いですよ〜。あっ、私シル・フローヴァと言います。シルって呼んでください。」

 

良く見ると、この人も綺麗な人だなぁ。

まぁ、ヘスティア様には、負けるけど…。

 

「ああ、僕はノヴァです。ノヴァ・イグニス、えっと、よろしくお願いします。シルさん」

 

「ノヴァさんですね。こちらこそよろしくお願いします。ところでさっき失礼なこと考えませんでした?今夜の私のお給金の為にも、お仕事頑張って来てくださいね!」

 

「ハハッ、頑張ります。それじゃあ、また後で、」

 

僕はそう言って、逃げる様にその場を後にする。

アレが世に聞く、女の勘というものなんだろうか?

ヘスティア様も装備してるのかな?

でもなんとなく、シルさんのものと比べたら鈍そうな気がするなぁ〜。

 

 

一方その頃、

 

「ぶぇーくしゅん!誰か僕の噂でも、してるのかなぁ?」

 

などと、廃教会の地下で言う声が聞こえたとか、聞こえなかったとか…。

 

 

 

 

 

「35匹」

 

ふぅ、今日もそろそろ帰ろうか。

ヘスティア様も、もう出掛けただろうか?

これから数日、ホームに帰ってもあの(ひと)が居ないのかと思うと、凄く憂鬱な気分になる。

って、ダメだダメだ。

彼女のことを待つことに決めたんだから、彼女が居ない間、ステイタスの延びが悪くなって、サボっていたと思われるのは避けたい。

それに今日は、約束もあることだし、しっかりしないと!

はぁ、とりあえず帰るか。

 

 

 

「こんばんは〜。」

 

僕は、初めて入る酒場に少しだけ緊張しながら入る。

 

「いらっしゃいませー‼︎あっ!ノヴァさん来てくれたんですか!」

 

店に入ると、すぐにシルさんが迎えてくれる。

 

「アンタが、シルの言ってた大食らいの冒険者かい?」

 

店の奥に行くと、恰幅の良い女将さんが僕にそう問いかける。

って、えっ⁉︎

 

「あの〜、僕は何時から大食らいになったんでしょう?」

 

恐らく、元凶と思われるシルさんにそう問いかけると、

 

「テヘっ。」

 

「テヘっじゃねぇぇーーーー‼︎何時から僕は大食らいになったんですか!僕そんなに食べれなぃ「ゴンッ!」すいません、食べます。」

 

怖えぇぇーーー‼︎

何だここ‼︎

もしかして、ここはそういうヤバい店だったのでは?

だとしたら、あの魔石も全て罠‼︎

ヘスティア様‼︎

僕は今、ピンチです!

 

「あの〜、ちょっと奮発してくれたら良いんです。」

 

「ヒッ⁉︎わわわ分かりました。ふふ奮発すすすすれば、イインデスネ!」

 

ヤバい、ヤバい、ヤバい、どうする?逃げるか?

いや、無理だ。

見たところ、あのドワーフの店主は相当強い。

逃げようものなら、殺され兼ねない。

ここは、大人しく従うしか…。

 

「ノヴァさん?大丈夫ですか?」

 

ヒィィィィイイイーー⁉︎

「だだだだだ大丈夫ですよ。ししシルさん。」

 

「本当に大丈夫ですか?顔色が悪いですよ?」

 

きっ気付かれた⁉︎

 

「ええ、大丈夫ですよ。シルさん。」

 

僕は、仮面を被り直す。

 

「ところで、おススメのメニューは、なんですか?」

 

ドンッ‼︎

 

「食いなッ‼︎」

 

はい、分かりました。はい。

どうやらこの店で、僕に自由は無いらしい。

 

「ありがとうございます。頂います。」

 

それでも僕は、一応礼を言う。

食べものを出してもらった以上、例え、どれだけ法外な値段を吹っかけられようと、作ってもらった人への感謝を忘れてはいけない。例え、どれだけ法外な値段を吹っかけられようと……

 

「あのコレ、何万ヴァリス何でしょうか?」

 

「はあぁああ?」

 

「ヒィッ!すいません。すいません。下らないこと聞いて。」

 

ヤバい死ぬ‼︎

やっぱり、こういう店で値段を聞くのは、タブーだったか…。

こうなったら、コレ一皿で、何億ヴァリスとか、取られるんじゃあ…、

 

「あの、ノヴァさん本当に大丈夫ですか?凄く顔色悪いですよ?」

 

「はいいぃぃーーー‼︎大丈夫です!有り金全部置いていくので、殺さないでください‼︎」

 

「えっ?」

 

ふと、店内が急に静かになる。

 

あれっ?もしかして僕、また何かやっちゃった?

ああ、ヘスティア様。

僕は、どうやらここまでの様です。

まさかダンジョン以外で、この生涯を終えることになるとは、思ってもみませんでしたが、ここの魔王には、勝てそうもありません。

どうか先立つ不孝をお許しください。

 

「ブワッハッハハハハ‼︎」

 

突然、周囲の人間の笑い声が聞こえだす。

 

「流石、豊穣の女主人だ!初めての客に土下座されて許しを請われるなんてなぁーぁあ‼︎ガッハッハ!」

 

ズガン‼︎

 

フライパンが、今笑った男の顔面に吸い込まれる。

 

「ヒィィーーー‼︎」

 

「ワッハッハッハ!」

 

周りの笑い声が、一段と大きくなる。

 

「坊主。」

 

ドワーフの店主が、僕に話し掛けて来る。

 

「はいいぃぃーーー⁉︎殺さないでください‼︎」

 

僕は恥も外聞もなく、土下座する。

 

「はあぁぁ〜〜。シル、後は頼むよ。」

 

ドワーフの店主は、そう溜め息をついて奥へ消えた。

 

「やっ、やった!僕は生き残ったぞ!」

 

そう言うと、周りから又も、大きな笑い声が出る。

気になって周りを見ていると、みんな僕の方を見ていた。

 

「あの〜ノヴァさん。」

 

「はいいぃぃーーー!何億ヴァリス払えば、許してもらえますか‼︎」

 

「勘違いしておられる様ですが、ここは普通の酒場です。」

 

「分かりました‼︎ここは普通の酒場!外では、そう言って周れということですね!分かります、はい!」

 

「そっそうでは無くってですね。」

 

「ハッ!余計なことは、言うなということですね!分かりました。ここでのことは、絶対に他言しません‼︎だからホームに帰らせてください!」

 

「そうじゃなくって‼︎」

 

 

この後、僕の誤解が解けるまで、小一時間ほど掛かることになったのだった。

 



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ギルドにて

 

ふぅー、昨日は酷い目に遭った。

いや、アレは唯、僕が、馬鹿な勘違いをしてしまったから何だけどさぁ〜。

それでも、あの怪しげな縁で店に連れて来られて、初めて来た店で、いきなり怖そうな女主人と普通の従業員のフリをした悪女に囲まれたら、普通、誰だってヤバい店だと勘違いすると思うんだ。

だから、僕は悪くない…筈だ。

でもあの後、実際に食べた料理の数々は本当に美味しくて、何時かヘスティア様と一緒にあの料理を食べに行きたいなぁ〜。なんて思うくらいには、あの店が気に入ってしまった。

 

フフフッ。

いつかは断られてしまった、ヘスティア様とのデートの予定が今決まったな。

そうと決まれば、その時の軍資金稼ぎの為にもダンジョン探索、益々頑張っていかないとなぁ〜。

 

そして、僕は今日も元気にダンジョンに潜る。

 

 

 

 

 

 

いや〜。

大漁、大漁。

 

今日は、ダンジョン12階層で荒稼ぎしたお陰で、過去最高の買い取り額を記録した。

うんうん。プロメテウス君様様だなぁ〜。

あっ、プロメテウス君っていうのは、僕の魔法で出て来る魔法剣のことさっ!

プロメテウス君は凄いんだ!

なんたって、12階層のモンスターがまるでバターの様に真っ二つに斬れるんだ。

それに一度仕舞って、また出すとあらっ不思議。

常に、最高の状態で出て来るんです。

まぁ、モンスターの血は触れた側から蒸発するし、岩を斬っても傷一つ着かないという化け物性能なんだけど…。

 

僕はプロメテウス君をあまり多用したくない。

この剣は、僕の身の丈に合ってなさ過ぎる。

今は、実験と実益を兼ねて使っているけど、もしこの剣をずっと使っていくなら、僕が次のランクアップをするのは、きっと遥か先のことになるだろう。

いや、もしかすると、この剣に頼ることで、ダンジョンで余裕が生まれ、余裕は油断や慢心に変わり、いつか僕の身を滅ぼすことになるかもしれない。

余裕がある時だからこそ、もっと緊張感を持つ必要があるのかもしれない。

 

僕は、そう決意を新たにする。

 

「ん?何だアレ。」

 

檻の中に、何体かのモンスターが鎖に繋がれて入っていた。

 

「ああ、もうそんな時期か。」

 

周りの冒険者たちが、それを見てそれぞれの反応を見せる。

 

それを少し盗み聞きすると、どうやら暫くすると怪物祭(モンスター・フィリア)と呼ばれる祭りが開催されるらしいことが分かった。

 

ヘスティア様と一緒に周れたらなぁ〜。

でも、彼女は今、所用で出かけてるし、僕には関係無いかな。

僕はすぐにそう考えて、魔石の換金をしにギルドへ向かった。

 

 

 

 

 

「ノヴァ君、怪物祭(モンスター・フィリア)に行って来なさい。」

 

これは、ギルドに来た僕に僕のアドバイザーであるエイナさんが発した第一声である。

 

「えっと、エイナさん?一応、理由を聞いても良いですか?」

 

僕は、少し怒った調子で言ったエイナさんに恐る恐る理由を問う。

 

「だって、ノヴァ君。全然お休みを取って無いでしょう!前にミノタウロスのときに倒れてから、数日ギルドに来なかったことはあったけど、それ以外全然休んで無いじゃない!」

 

確かに、エイナさんの言う通りかもしれない。

僕は、このオラリオに来てからと言うもの、殆ど、ホームとギルドとバベルの往復しかしてない。

昨日の豊饒の女主人が唯一、僕がオラリオに来て、先の三つ以外に訪れた場所と言っても過言ではないかもしれない。

 

「良い?ノヴァ君。冒険者は無理をしちゃいけないの。ノヴァ君だって、疲れのせいで何時もより動きが悪くなって、大怪我なんてしたくないでしょ?だから、これからもちゃんと定期的に休むこと、良い?」

 

エイナさんは、懇切丁寧に冒険者が疲労することの危険性を僕に教えてくれた。

そんな彼女の言葉を無視出来ようか、いや、出来ない。

彼女の言う通り、明日は、1日休むことにしよう。

 

「分かりました、エイナさん。いつも僕のことを心配してくれて、ありがとうございます。僕はまだまだ駆け出しですから、これからも何かと、よろしくお願いします。」

 

僕は、いつもお世話になっているエイナさんに頭を下げる。

 

「うぇッ⁉︎だっ大丈夫だよ!頭を上げてノヴァ君。私は、貴方のアドバイザーとして、当然のことをしたまでなんだから。」

 

すると彼女は、顔を赤く染めてそう言った。

 

「いえ、いつも貴女には助けてもらっています。やはり、貴女の様な優秀なアドバイザーさんに着いてもらって僕は幸せ者です。それじゃあ、今日もありがとうございました。」

 

僕はそう言って、ギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、私エイナ・チュールには悩みがある。

その悩みとは、彼のことだ。

ノヴァ・イグニス君。

彼は、公式には発表されていないながらも、冒険者になって、僅か一週間でレベル2に到達した。

 

本当に現実は、何が起こるかわからない。

自分の主神と結婚する為に冒険者になると言ってたあの子が、こんなにも早くランクアップするだなんて、思いもしなかった。

 

最初は、只の興味本位だった。

可愛いらしくも真面目に頑張るあの子を応援したいと思った。

でも、何時だろう。

何時も頑張っているあの子を見ると少し胸が痛むようになった。

あの子が、頑張る理由に私がなれたら、なんて考えるように…

 

「どうしたの〜?エイナ。」

 

「うひゃぁぁぁああ⁉︎」

 

「うおッ⁉︎大丈夫⁉︎エイナ‼︎」

 

「ごっ、ゴメンゴメン。考え事しちゃってて…、」

 

彼女は、ミィシャ・フロット。

私の同僚で、同時に私の親友である。

何時も私のことを気にかけてくれる。

きっと、さっきまで上の空だった私を気にして、声を掛けてくれたんだろう。

 

「本当に〜?エイナは時々おっちょこちょいだから、お姉さん心配だよ〜。」

 

「何言ってるの、私は大丈夫だよ。」

 

彼女には、何時も感謝している。

でも、今回の事は、別に良いんだ。

そう、彼が幸せなら…、

 

「そう〜?まぁ、頑張れ!恋する乙女!」

 

その一言で、私は固まる。

そして、自分の顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。

 

「ちょっ⁉︎そっそんなんじゃないってばぁぁぁああーー‼︎」

 

「ニヒヒヒ。」

 

 

わっ私は、別にノヴァ君のことなんて…って、何でここで彼が出て来るのよぉ〜〜〜‼︎

 

 

 



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怪物祭

 

怪物祭(モンスター・フィリア)

 

それは、迷宮都市であるオラリオでのみ開催されるお祭りだ。

このお祭りは、大手ファミリアであるガネーシャ・ファミリアが主催しているもので、ダンジョンで捕獲して来たモンスターを実際に観客の目の前で調教することで、実際には、モンスターを見た事の無い一般市民にとってとても迫力あるイベントとして、人気があるらしい…。

らしいというのは、僕がこのお祭りのことを知ったのが、ついこないだの事で、僕自身が参加した事が無いどころか、存在すら全然知らなかったからである。

 

しかしながら、このオラリオ一大イベントでの(ヘスティア様)の不在である。

 

僕の心中をお察し頂けただろうか?

もうね?

何か面白いものや楽しそうなものを見つける度に思う。

何故、僕は今一人なんだろう。と…、

 

大体、身体を休める為とは言え、態々こんな催しに参加する必要なかったんだ!

いや、エイナさんが参加しろって言うし、シルさんの財布も預かってるから、始めから参加しないっていうのは、あり得なかったんだけども!

それでも、言わせてもらいたい‼︎

 

神は死んだ‼︎

 

くそ〜〜‼︎

何でよりによって、ヘスティア様が居ないこの日にこんな催しを開くんだ‼︎

もう少し有っただろう‼︎

例えば、明日とか明後日とか明々後日とか‼︎

何時になったら、(ヘスティア様)はご帰還なされるのだろう。

 

まさか⁉︎

何かトラブルに巻き込まれて帰って来られないんじゃ‼︎

だとしたら、マズイ‼︎

アレから何日が経った?

もし、ヘスティア様の身に何か有れば、僕は犯人を永遠に殺し続け、そして最後に、ヘスティア様を守ることが出来なかった自分自身を最も惨たらしく殺すぞッ⁈

 

そうと決まれば、すぐにでも、我が愛しのヘスティア様を見つけないと‼︎

 

財布?何それ?知らない子ですね。

 

そして、僕が走り出そうとした、その時…

 

「ノ〜ヴァくぅ〜〜ん!」

 

とても聞き覚えのある、天使の僕を呼ぶ声が聞こえる。

 

「はい。何でしょう?我が神よ。」

 

僕はこの時、瞬間移動を体得した。

 

「あっ!聞こえたんだね?周りもうるさいし、結構遠かった(約400M)から、まだ、聞こえてないと思ってたよ。」

 

フッ、ナメてもらっちゃあ困る。

僕は、ヘスティア様の声なら、どれだけ遠くにいても聴き取れるし、呼ばれたら一瞬で駆けつけるさ。

 

「それより、ヘスティア様。今まで何処に行ってたんですか?僕は、ずっと貴女の帰りを心待ちにしていましたよ。」

 

僕がそう問うと、彼女は自分の口元に人差し指を立てながら、悪戯っぽく微笑んでこう言った。

 

「まだ、内緒だよ?」

 

主は、おられた‼︎

 

今現在、ここに世界最高の女神が降臨されている‼︎

何だアレ!何だアレ‼︎何なんだアレッッ‼︎

可愛いさが、天元突破している‼︎

素晴らしい!最高だ‼︎

僕は、天国にいる‼︎

 

おっと、僕が反応を示さないから、女神が首を傾げている。可愛い。

じゃなくて!

 

「ヘスティア様。まだってことは、何時かは聞かせてもらえるんですよね?」

 

「うん!もちろんさ!だけど、今はそんなことより、大事なことがあるだろう?」

 

大事なこと?

何だろう?

ヘスティア様が可愛い過ぎて、僕の心臓がヤバいということかな?

 

「デートしようぜ!ノヴァ君‼︎」

 

そう言ってヘスティア様は、僕に手を差し伸べた。

 

「ゴフッ‼︎」

 

「なっ⁉︎大丈夫かい?ノヴァ君‼︎」

 

「大丈夫です。目の前に女神が見えるだけですから。」

 

「本当に大丈夫かい⁉︎確かに僕は女神だけど!」

 

本当に大丈夫です。

ただ今、天国に着いたと思ったら、ウェディングドレス姿のヘスティア様が、僕に微笑んでくれたぐらいの幸せの絶頂にいるだけですから。

僕は幸せです。

思い残すことは何もありません。

 

「ノヴァ君!ノヴァくぅ〜〜ん‼︎」

 

と、まぁ、小芝居はこの辺にして、

 

「ヘスティア様!それじゃあ、行きましょうか‼︎デートに!」

 

そう言うと、彼女は満面の笑みで言った。

 

「うん!エスコートしてくれるかい?ノヴァ君。」

 

「もちろんです‼︎」

 

僕たちは、二人仲良く手を繋いで、露店を周る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「キャーーー‼︎」

 

僕たちが、しばらく幸せの絶頂にいると、突然、遠くから悲鳴が聞こえてきた。

 

「モンスターが逃げたぞー!」

 

僕は、その声を聞いて、すぐ行動に移す。

 

「ヘスティア様!逃げてください‼︎僕は、モンスターを倒して来ます。」

 

「何を言ってるんだい!逃げたモンスターが、もし深層のモンスターだったら、どうするつもりだい?君も一緒に逃げるんだ!」

 

ヘスティア様の言うことも最もだ。

大体、僕は今、武器を持っていない。

そんな状態で、深層のモンスターに殴られたら、レベル2になったばかりの僕じゃ、一溜まりもないだろう。

 

だけど、一つ言わせて欲しい。

僕らはついさっきまで、幸せの絶頂だったんだ。

それを、邪魔してくれた不粋な獣を許してやる必要があるだろうか?いや無い。

むしろ、万死に値する。

 

そこで、やっとモンスターが現れる。

 

あれっ?アイツどこを見て……

 

ブチッ‼︎

 

ゴウッ‼︎

 

身体から炎が吹き上がる。

 

「ヒュイ⁉︎」

 

その声は、誰のものだったのか、彼の最愛の女神のものだったのか、周囲にいた一般市民によるものだったのか、はたまた今し方現れたモンスターのものだったのか、少なくともその時の彼の表情を見た者は、一様に同じ事を思った。

ああ、これは死んだな。と、

 

「ほう。クソ猿風情が、()のヘスティアに色目を使うとは、良い度胸だ。あとさっきから、俺を見てやがる野郎も覚えておきやがれ!テメェら全員、ブッ殺してやる‼︎」

 

視線の野郎も、うぜぇ事この上ねぇが、まずは、目の前にいるクソ猿からだ。

 

()は、とりあえず、クソ猿に裁きを下す事にして、手に剣を出す。

 

その剣は、今まで出した全ての剣と違って、血の様に赫い十字剣だった。

 

「うわぁ〜⁉︎」

 

そこまでしたところで、今度は別のところから、牛頭のあのモンスターが現れてヘスティアを攫っていった。

 

そのモンスターと一緒に、クソ猿も逃げる。

 

はっ?

 

俺の最愛を視姦しておいて、逃すとでも思ってんのかよ?

俺の最愛に触れたテメェもだぞ?クソ牛。

 

テメェらまとめてブッ殺す。

 

断罪(裁き)の時は、来た。

其は、法を敷く者。(其は、法を犯す者。)

 

其は、罪を赦す聖剣の担い手。(其は、罰を与える魔剣の担い手。)

 

罪人を、裁け。(咎他人を、焼き殺せ。)

 

来たれ!()()()()()()断罪剣(だんざいけん)サクリファイス‼︎

 

炎がクソ猿とクソ牛を包み込む。

だが、クソ牛の手の中にいたヘスティアは、無傷だ。

俺は、手に持っている剣をズボンのベルトに引っ掛けて、クソ牛の手の中から落下するヘスティアの下へ行き、その身体を抱きしめる。

 

「怪我は無いか?」

 

「うっうん。だっ大丈夫だよ。(ちょっと何時もより雰囲気が荒い感じのノヴァ君、滅茶苦茶カッコいいぞ!どどど、どうしよう!自分の顔が、どんどん赤くなってるのが分かるよ。)」

 

へっ、俺に抱かれただけで、顔を真っ赤にしやがって、つくづく可愛い奴だ。

 

「ガグォォォーーー!」

 

その時、また複数のモンスターの唸り声が聞こえてくる。

 

「何だ、何だ?コイツらを送ってくる奴は、俺に恨みでもあんのか?全部こっちに向かって来やがる。」

 

俺がそう言うと、ヘスティアは驚いた様に声を上げる。

 

「えっ!これは、誰かの差し金なのかい?ノヴァ君。」

 

「ああそうだぜ、ヘスティア。だから、しっかり掴まってな‼︎」

 

そう言って、俺はヘスティアを抱き、出来るだけ人気のない方へ走り始める。

 

「うひゃあ‼︎どっどうしよう、ノヴァ君!僕はこんな状況なのに、心から幸せを感じてしまっているよ‼︎」

 

「黙ってねぇと、舌噛むぞッ!」

 

そんなやり取りをしていると、急に、モンスターの数と勢いが増した気がする。

 

クソッ‼︎

あの数を相手にすんなら、もっと広い場所に出ねぇーと、周りへの被害が馬鹿に何ねぇぞ!

 

俺は、何とか少しでも時間を稼ぐ為に、迷路の様なダイダロス通りに飛び込んだ。

 

何処かねぇか?

少しで良いから、時間を稼げる様なトコ!

 

それを見つけるより早く、多数のモンスターが俺たちに追いつく。

 

ドゴッ‼︎

 

「うおっ!」

 

バギッ‼︎

 

「ひゃあ⁉︎」

 

俺たちが、変な声を上げながらも何とか逃げていると、奴らも少しは学習したのか、俺たちを取り囲もうとする。

そこで、俺は階段を見つけて、迷わずそこを飛び降りた。

 

「うわぁ〜〜‼︎」

 

ヘスティアが、突然の浮遊感に思わず悲鳴を上げる。

 

「うぐッ!」

 

着地と同時に、俺の口からくぐもった呻き声が漏れる。

 

「大丈夫かい⁉︎ノヴァ君‼︎」

 

ハッ!自分だって、こんな状況だってのにこの神様は…、

 

「ああ、ちょっと打っただけだ。」

 

「でも、血が‼︎」

 

「うるせぇ。こんなモン、ダンジョン潜ってたらよくあることだ。」

 

しっかし、ヘスティアに怪我させねぇ為に、頭打ったのはしくったな。

お陰で頭から血が出て、意識が朦朧としてやがる。

 

「グォォォーーー‼︎」

 

チッ、ちったあ休ませろよ!

クソが!

 

「ほら、行くぞ。今ので少しは、時間を稼げただろうが、頭打ったから、もっと時間を稼がなくちゃならなくなった。」

 

「時間を稼ぐ?なら、あそこに隠れたらどうかな?」

 

そう言って、ヘスティアが指定したのは、絶妙に全方位から隠れ易そうな細い路地だった。

 

「よし、あそこで時間を稼ぐぞ!」

 

「うん!」

 

そして、俺たちは時間稼ぎの為に、その細い路地へと足を踏み入れた。

 





一体、何イヤさんの差し金でしょうね〜。

自分のお気に入りとイチャイチャする姿に嫉妬するなんて、まさかあの美の女神であるフレ何とかさんがする訳無いですよね〜笑笑。


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神様の刃(ヘスティア・ナイフ)

 

 

「グォォォーーー!」

 

 

 

 

少し離れたところで、さっきまでのモンスターたちが吠えている声が聞こえる。

 

断罪剣サクリファイスを消した影響か、先程まで、僕の心を支配していた怒りなんかの感情が霧散していた。

かと言って、先程までの事を忘れている訳では無いので、自分がヘスティア様にかなりの態度を取っていたこともしっかりと覚えている。

まぁ、今はそんな状況ではないので、謝るのは、また後にする。

 

「良いかい?僕は、君と離れてから今まで、神友(しんゆう)のところで、君の武器を作る手伝いをしていたんだ。」

 

僕が、頭を止血しを終えると、ヘスティア様は言った。

 

「僕の武器?」

 

「うん!君の…いや、僕らの武器さ!君はあの時、僕が君の為に何も出来ないって言ったら、僕のことを凄く怒ってその言葉を否定してくれたよね。僕は、本当に嬉しかった。でも、やっぱりダンジョンに潜る君の力になってあげたいって、ダンジョンに潜っている君を守ってあげたいって、より強く思う様になったんだ。」

 

ヘスティア様は、あの時、そんなことを思っていたらしい。

僕のことを、こんなに考えてくれる貴女に、僕は感謝しか無いって言うのに…。

 

「だから、僕は作ったんだ。いつでも側で、君を守る為の武器を……神様の刃(ヘスティア・ナイフ)を!」

 

そう言って、ヘスティア様は会った時から、ずっと背中に背負っていた包みを開いて、中から黒いナイフを出した。

 

「これが、神様の刃(ヘスティア・ナイフ)……。」

 

これが、ヘスティア様が僕の為に作ってくれた剣。

今まで、僕が貰ったものの中で、一番嬉しい贈り物だ。

 

「このナイフは、生きてるんだ。僕の神の血(イコル)を編み込んで、神聖文字(ヒエロ・グリフ)を刻んでいる。だから、このナイフは、装備者の熟練度に応じて、どんどん強くなっていく…。まだまだ、駆け出しの君にピッタリの装備さ!どうだい?喜んでもらえたかな?」

 

その一言で、僕は遂に、涙を堪えきれなくなる。

 

「うッ、うう‼︎」

 

「なっ⁉︎どうしたんだい⁉︎何で泣いているんだい⁉︎僕のプレゼント気に入ってもらえなかったかな?」

 

彼女は、涙目でそう言う。

 

「だっだって、こんなにも嬉しいプレゼントもらったことがなかったから、一番大事な貴女にこんな物を貰ったら、そりゃあ、嬉しくて涙も出ますよ。ありがとう、ヘスティア。」

 

「そっか、喜んでくれて何よりだよ。ノヴァ君。」

 

ヘスティア様は、この大地の母であるかのような母性溢れる表情で、僕に微笑む。

 

「グォォォーーー!」

 

すると、そこで空気の読めないモンスターの唸り声が聞こえる。

 

「おっと、こうしちゃいられない。すぐに、ステイタスを更新しないと。それじゃあ、寝転がってくれるかい?ノヴァ君。」

 

僕は涙を拭き、ヘスティア様に言われた通りに寝転がる。

 

「すっ凄いじゃないか‼︎ノヴァ君!ステイタスの延びが凄い事になっているよ‼︎特に、敏しょッ⁉︎(これってもしかしなくても、さっきまでモンスターから逃げていたからだよね?僕もずっとあの子の腕の中だったし…、)」

 

「どうかしました?ヘスティア様?」

 

僕は、喜んだかと思ったら、突然静かになったヘスティア様に疑問を告げる。

 

「いや、大丈夫さ!君のアビリティはいつも頭の可笑しい上がり方をするね。」

 

「ええっ⁉︎また、ですか⁉︎」

 

僕は、驚きの声を上げる。

 

「ああ、またさ。でも、その方が良いだろう?僕を守ってくれるって信じてるよ。旦那様。」

 

チュッ!

 

僕の頬に、何か柔らかいものが当たる。

 

「うおおおぉぉーーーー!」

 

僕の身体中から、力が溢れ出る。

 

何だコレ?

それよりも今、旦那様って‼︎

あと、僕の頬に当たったあの柔らかいものって‼︎

 

キタァァああぁぁーーーーーー‼︎

 

「行ってきます!ヘスティア‼︎」

 

「行ってらっしゃい!ノヴァ君‼︎」

 

僕が、隠れていた路地から飛び出すと、直ぐそこに、僕を追っていたモンスターたちを見つけた。

 

「グォォォーーー!」

 

向こうもこちらに気づいたのか、僕を見て唸り声を上げる。

 

【来いッ‼︎()()()()()()‼︎】

 

僕は、ある確信を持ってそう言った。

 

すると、神様の刃(ヘスティア・ナイフ)を持っていない方の手に、赤い剣が現れる。

 

心無しか以前より、煌びやかに光っている。

 

「さあ!勝負だ‼︎ここを通りたければ、()()殺して行け‼︎僕が生きてる限り、ここから先には行かせない‼︎」

 

僕は、やって来る数多のモンスターにそう叫ぶ。

 

「グォォォーォォオオオーー‼︎」

 

奴らは、吠えてこちらを威嚇しながら、僕に襲い掛かって来る。

 

一体目の猪型のモンスターが僕に突進して来る。

 

「ここから先にには、行かせねぇって言っただろうがッ‼︎」

 

僕は、プロメテウスの腹で猪のツノをかち上げて、開いた首を神様の刃(ヘスティア・ナイフ)で切り裂く。

一体目。

 

凄い、このナイフ物凄い手に馴染む。

まるで、最初から身体の一部だったみたいだ。

 

とりあえず、試し斬りは済んだ。

だったら後は、全て片付けるだけだ!

 

「うおおぉぉーーー‼︎」

 

身体が、まるで羽のように動く。

何故か、どんどん力が湧いて来る。

思えば、さっき猪型のモンスターのツノをかち上げたのも、ちょっとあり得ないぐらい上手くいった。

力も器用さも思ったよりずっと、上がっているようだ。

 

「グァァアアアーーー‼︎」

 

次から次へと、明らかに格上のモンスターたちが、僕を圧し潰す勢いで迫る。

 

「くッ、がぁッ!」

 

虫型のモンスターの鎌が、僕の肌に切り傷を与え、蛇型のモンスターの牙が僕に刺さる。

 

「ぐうッ⁉︎」

 

蛇型のモンスターに噛まれて少し経つと、急に身体に寒気がはしる。

 

これは、毒か!

毒に侵された時に、突然、僕の背中が熱くなり、幾らか症状がマシになる。

前から思ってたけど、何なんだろうなコレ。

まぁ。今は唯、助かるだけだから、理由なんてどうでも良いか。

 

虫型のモンスターの鎌を神様の刃(ヘスティア・ナイフ)で受け止め、プロメテウスで蛇型のモンスターの首を跳ねる。

あと3体。

 

「キシャーー‼︎」

 

鎌を受け止められた虫型のモンスターが、再び僕に襲い掛かって来る。

僕は、その鎌を神様の刃(ヘスティア・ナイフ)で受け流して、プロメテウスで胴体を両断しようとしたところで、その場から飛び退く。

 

寸前で、溶解液の様なものが飛んできた。

それは、どうやら植物型のモンスターが、飛ばしてきた様だ。

 

見ての通りコイツらは、さっきから連携して、僕に襲い掛かって来る。

コレは、裏で指示している者がいるからだろう。

モンスターに指示が出来るって、一体どんな奴だよ!

 

僕は、植物型のモンスターに向けて、プロメテウスを振り下ろす。

 

「燃えろぉぉー‼︎」

 

すると、刀身から炎が迸り、植物型のモンスターを焼き払った。

 

あれ〜?

普通に、避けられたと思ったんだけどなぁ〜。

 

僕は、いい加減、非常識に強いプロメテウスは、望めば大体、何でも出来るんじゃないかと思った。

 

さっきの炎に驚いた虫型のモンスターが、僕から距離を取る。

 

すると、今度は、犬型のモンスターが僕に向けて火を吐いてきた。

 

「うおっ⁉︎」

 

僕は、炎に包まれる。

 

あれっ?

全然、熱く無い。

………どうやら僕に炎は効かないらしい。

 

僕は、直ぐさま犬型のモンスターに近づいて、念のため神様の刃(ヘスティア・ナイフ)で、首を斬る。

 

あと1体。

 

僕は、最後に残った虫型のモンスターに近づこうとして、息を呑む。

 

何だ、急に雰囲気が変わった。

先程までとは打って変わって、まるで王者の様な風格を感じる。

 

「シャッ‼︎」

 

速い⁉︎

先程までとは、段違いの速さで、虫型のモンスターが僕に迫る。

 

ギンッ!

 

「ぐッ‼︎」

 

重っ‼︎

僕は、その一撃を何とか受け止める。

何で急に、こんなに鎌が重くなったんだ?

 

続けて、2撃目が来る。

 

「ぐあッ‼︎」

 

堪らず僕は、近くにあった建物の壁に叩きつけられる。

 

「ガハッ‼︎」

 

背中を叩きつけられ、僕はプロメテウスを手放してしまう。

すると、プロメテウスはまるで、其処には最初から何も無かったかのように消えた。

 

くっ!神様の刃(ヘスティア・ナイフ)は‼︎

 

神様の刃(ヘスティア・ナイフ)は、僕の足元に転がっていた。

僕は、直ぐにそれを掴み、敵を見る。

すると奴は、さっき僕を吹っ飛ばしたところから、一歩も動かずにこちらを見据えていた。

まるで、王者としての余裕を見せつけるかの様に…。

 

何故、急に強くなったのかは、分からないけど、アイツは明らかに、今の僕より格上だ。

それでも、やるしか無いだろう。

あの、ヘスティア様の事だ。

今も路地から、僕を見ているかもしれない。

なら、あまりカッコ悪いところを見せられない。

せっかく神になっても、カッコ悪いから無理。とか言って断られたら、自殺し兼ねない。

ああ、怖い怖い。

その恐怖と比べたら、こんな格上と戦う恐怖なんてたかが知れてるな。

 

一歩、奴に近づく。

 

本当に参っちゃうな。

きっと、僕が攻撃される度に、悲鳴を上げていたんだろう。

 

二歩、敵を見据える。

 

それなら、きっと僕が死んじゃったら凄く悲しんで、泣いてくれることだろう。

 

三歩、神様の刃(ヘスティア・ナイフ)を握りしめる。

 

僕は、あの(ひと)の泣き顔より、

 

四歩、脚に力を溜める。

 

笑った顔の方が好きだな。

 

五歩、僕は奴の身体を()()()

 

「キシャ?」

 

奴はまだ、自分の身に何が起こったのか、気付いていないらしい。

 

それにしても、奴の身体を貫いた瞬間、さっきまでの格上の気配が消えてしまったな。

まぁ。とりあえず、ヘスティア様を守れた。

これだけ出来れば、大じょう……

 

バタッ‼︎

 

僕がそこまで考えたところで、意識が途切れた。

 



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豊饒の女主人にて

 

「うっ、こっここは?」

 

「目が覚めましたか?ノヴァさん。」

 

目が覚めると、何故か、シルさんが居た。

 

「ああ、シルさん。ここは何処ですか?あと僕は、どうしてここで寝て居たんですか?」

 

「ここは、豊饒の女主人の2階にある従業員用の休憩室ですよ。貴方が、モンスターと戦って、倒れたところを連れて来たんです。」

 

そう言われて、やっと何があったのか思い出す。

 

「ヘスティアは!ヘスティア様は、何処ですか‼︎」

 

直ぐに、僕はあの時結局、安全な場所に逃がすことができなかった彼女のことを聞く。

 

「ふふふっ、安心してください、ノヴァさん。彼女なら、貴方の隣に寝ていますよ?」

 

「えっ!」

 

僕は、隣のベッドを見る。

そこには、僕に掛けられているものと同じ、フカフカの布団と真っ白なシーツだけがあった。

 

「あれっ?居ませんけど…、」

 

再び僕は、シルさんに問うと、彼女は何が面白いのか、必死に笑いを堪えながら言った。

 

「ふっふふ、ノッノヴァさん、もう少し下です。」

 

下?下って何だろう?

 

僕は、そう思いながらも視線を少し下げる。

 

「%$€~^#%*〜〜〜〜〜〜‼︎‼︎⁉︎」

 

なんと、そこには天使がいた。可愛い。

安心しきった顔で、僕の服の裾を掴んで眠っているようだ。凄く可愛い。

寝顔が愛らしい。果てしなく可愛い。結婚しよう。

 

おっと、思考が逸れてしまった。

そろそろ、そこで笑い死に掛けている、この酒場の従業員に詳しい話を聞こう。

 

「あの、シルさん。そろそろ良いでしょうか?」

 

「あはっえはっうっ、ははい、良いですよ〜ふふっ、」

 

この人、流石に失礼過ぎやしないだろうか。

まぁ、これだけ笑われても、何故か怒る気にならないのが、彼女の長所なのだろう。

 

「ふう〜、それで、ノヴァさん?何が聞きたいんですか?」

 

ひとしきり笑ったシルさんは、まるで、何事もなかったかのように話を進める。

 

「えっと、僕はダイダロス通りで、意識を失った筈なんですけど、どうやって僕をここに?」

 

「それは、私がノヴァさん達を見つけた時に、偶然、逃げたモンスターを追ってきた他のファミリアの冒険者の方が来て、ノヴァさんとヘスティア様をここまで運んでくださったんです。」

 

そうなのか、親切な人もいるものだ。

 

「そうなんですか、その冒険者の方には、いつかお礼しなきゃなぁ〜。僕らをここまで運んでくださった冒険者の方って、誰だか分かりますか?」

 

その人にも、前に僕を助けてくれたアイズさんと一緒で、お礼を言いに行かないと…。

 

「ふふっ、驚かないで聞いてくださいよ〜?なんと!あの、【剣姫】です!」

 

ケンキさんか、よし、覚えたぞ!

これなら、何処かでバッタリ会っても、直ぐにお礼を言えるな。

 

「へえ〜。」

 

「何ですか!その反応は‼︎」

 

僕は、なんで怒られてるんだ?

 

「あの、その方って有名なんでしょうか?」

 

僕は、とりあえず聞いてみる。

 

「えええぇぇぇ〜〜〜〜⁉︎【剣姫】を知らないんですか⁉︎」

 

「はい、すみません。何分オラリオに来て、まだ日が短いんです。」

 

知らなかっただけで、この反応だ。

きっと凄く有名な人なんだろう。

 

「良いですか?【剣姫】の偉業は数多く有りますが、一つ挙げるなら、まず、僅か半年でランクアップした現在のレコード・ホルダーであることです。」

 

レコード・ホルダー………。

その言葉を聞くと、凄く微妙な気分になるんだけどなぁ〜。

だって僕、一週間だし…。

 

「次に、挙げられるのが、18階層の迷宮の孤王(モンスター・レックス)であるゴライアスの単独討伐でしょうか。この他にも数々の偉業を成し遂げられた、まさに生ける伝説です!」

 

それは、素直に凄い!

迷宮の孤王(モンスター・レックス)っていうのは、確かレイドを組んで、複数のパーティーで同時に戦って、やっと、ギリギリで勝てるという正真正銘の化け物みたいな奴だったはずだ。

それを、一人で倒すなんて…凄いな!ケンキさん。

 

「うっ、ううぅん。」

 

話し声が大き過ぎたのか、眠っていたヘスティア様を起こしてしまう。

 

「すみません、ヘスティア様。起こしちゃったみたいで、」

 

「ノヴァ君?あれっ?僕は何でこんなところで寝てるんだ?」

 

ヘスティア様は、寝惚け眼で状況を確認しているようだ。

 

「僕は、確かノヴァ君を送り出して、その後、力尽きて路地で眠った筈じゃあ…。」

 

ショォォッックッ‼︎

まさか、ヘスティア様。

あの後、眠っちゃってたんですか⁉︎

じゃあ、僕があの時、頑張った意味って……。

 

僕が一人で項垂れていると、

 

「ノヴァ君‼︎無事だったんだね‼︎僕は、心配してたんだよ〜!怪我は⁉︎怪我は無いかい?ノヴァ君⁉︎あと一体ここは、何処なんだ〜〜‼︎」

 

「おっ落ち着いてください。ヘスティア様!僕に大きい怪我があったら、傷が開きますよ!」

 

僕は、慌ててヘスティア様を落ち着かせる。

 

「おおっと、ゴメンよ。ノヴァ君、大丈夫かい?」

 

この慌て様を見ると、やっぱりあの時、頑張っておいて良かったと思う。

でも、結構な怪我をしてたと思うんだけど…。

ケンキさんがポーションを使ってくれたのかな?

だとしたら、本当に頭が上がらないな。ケンキさんには…、

 

とりあえず僕は、ヘスティア様の疑問に答えていく。

 

「ここは、豊饒の女主人っていう酒場の従業員用の休憩室らしいですよ?」

 

「何でそんな所に?」

 

ヘスティア様の疑問も最もだろう。

起きたらいきなり、知らない酒場の一室で眠っていたんだから。

 

「それは、こちらのシルさんが、他のファミリアの冒険者の人と一緒に運んできてくださったからです。」

 

「?こちらって、どちらだい?」

 

何言ってるんだ?

ここに、シルさんが…っていない⁉︎

一体、何処に?

 

「あっ!」

 

其処には、床に転がって大笑いしながら、死に掛けているシルさんの姿があった。

 

「ハァ、ハァハァ、おおっお二人は、私を笑い殺されるおつもりなんですか?」

 

「全然、そんなつもり有りませんけどぉ‼︎」

 

薄々感じてたけど、シルさんってもしかして…笑い上戸?

 

「はじめまして、ヘスティア様。この酒場の従業員の一人で、シル・フローヴァと申します。」

 

変わり身早ッ‼︎

さっきまで大爆笑してたのに、もう普通に自己紹介してる…。

 

「あっああ、よろしく!僕は、ノヴァ君のファミリアの主神であるヘスティアさ!」

 

ヘスティア様も、あまりに変わり身の速さに驚いてるようだ。

 

「ところで、()()ノヴァ君とはどういう関係なんだい?」

 

あれ?あれあれ?

コイツはもしかして、噂に名高い、YAKIMOCHIでは有りませんか?

そうかそうか。

ついに、ヘスティア様も僕との間に、ヤキモチを妬いてくれる様になったのか…。

結婚までの道は近いぞ‼︎

 

「あら〜‼︎()()大切なお客様であるノヴァさんに、()()ファミリアの主神様が、一体何をお聞きしたいのでしょうか〜?」

 

うわぁ〜。あの人、性格悪ッ‼︎

あの反応、明らかにヘスティア様を揶揄って、面白がってるじゃないか。

でも、そう言われてちょっと涙目になるヘスティア様、超可愛いぞ!良いぞ!もっとやれ!

 

「なッ⁉︎ぼっ僕とノヴァ君の関係は、唯のファミリアの主神と眷族の関係とは違うぞ!そっそう、しっ将来を誓い合った仲だ‼︎」

 

「んなッ⁉︎」

 

その言葉に、今度は僕らが驚く番だ。

 

「そう!彼は、初めて僕と会った時にこう言ったんだ。『一目惚れしました‼︎ 僕と結婚してください‼︎』ってね!僕もあの時は、いきなりでびっくりしたけど、今なら…「ストォォォォ〜〜〜〜ッップ‼︎待って!待つんだ‼︎落ち着いて‼︎」」

 

全く。こんな場所でいきなり、何てことを口走ろうとするんだ‼︎

このチビ神様はッ‼︎

危うく、僕らの関係がシルさんに……

 

「あっあのッ‼︎だっ大丈夫ですよ‼︎私、口固いですから!ホント、絶対誰にも言いませんから〜〜〜〜‼︎」

 

彼女は、顔を真っ赤にしてそう叫びながら、部屋を飛び出して行った。

 

「あっ、ああぁぁ〜〜。」

 

行ってしまった。

どうしよう、コレ……。

いや、別にどうもしなくても、良いんじゃないか?

そうだ!ヘスティア様との事で、恥ずかしがる事もない‼︎

むしろ周りに周知される事で、ヘスティア様に寄って来る悪い虫を払うことができるかもしれない!

大丈夫さ!

これは、良いことだったんだ‼︎

例え、豊饒の女主人に相当、来づらくなったとしても‼︎

 

そうと決まれば、僕の腕の中で真っ赤になって、先程、自分で言いそうになったことを思い出し、更に、赤くなっている我が主神様を落ち着かせよう。

 

「ヘスティア様?」

 

ビクッ⁉︎

 

凄いな。

僕が声を掛けただけで、さっきよりもっと顔が赤くなって、今では茹でダコの様だ。

 

「大丈夫ですよ?さっきのは、そうですね。素直に嬉しかったです。貴女も僕と同じ気持ちだって思えるから…。」

 

其処まで言うと、彼女は恥ずかしそうだが、少し緊張を解いた様だ。

 

「僕は、貴女のことが好きですよ。例え…、誰が何と言おうと…。」

 

そう言うと、僕の可愛い女神様は、顔真っ赤にしたまま…

 

「うん。」

 

と、ただ小さく一度、頷くのであった。

 

 



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ステイタス異常


過去のステイタスで、アビリティのランクに誤りがありました。
今後は、こういったことのない様にします。
それでは、今後とも、どうぞ宜しくお願います。


 

あの後、僕はミアさんに感謝を述べて、お礼に今度は客として、またここに来ることにして、ヘスティア様と一緒にホームに帰った。

 

それでもしばらくは、ヘスティア様の様子は可笑しいままだったけど、夕食を食べ終わったら、すっかり元の元気を取り戻した。とても可愛いです。

 

そこで、ヘスティア様が、僕のステイタスを更新してくれたんだけど……、

 

 

ノヴァ・イグニス 男 16歳

 

Lv. 2

 

力: C612→A823

 

耐久: B712→S999

 

器用: C624→S924

 

敏捷: A827→SSSS1235

 

魔力: D534→B762

 

剣士: H

 

耐異常: I

 

≪魔法≫

 

【 フィアンマ・エスパーダ・コンヴォカツィオーネ】

 

・装備魔法

感情(おもい)に呼応する。

・詠唱

 

[始炎剣プロメテウス]

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

其は、世界を照らす者。(其は、世界を滅ぼす者。)

 

其は、全てを包み込む聖剣の担い手。(其は、全てを燃やし尽くす魔剣の担い手。)

 

我が敵を、打ち倒せ。(我が敵を、薙ぎ払え。)

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

[断罪剣サクリファイス]

 

断罪(裁き)の時は、来た。

其は、法を敷く者。(其は、法を犯す者。)

 

其は、罪を赦す聖剣の担い手。(其は、罰を与える魔剣の担い手。)

 

罪人を、裁け。(咎他人を、焼き殺せ。)

 

来たれ!()()()()()()断罪剣(だんざいけん)サクリファイス‼︎

 

 

【】

 

 

【】

 

 

 

《スキル》

 

【】

 

 

 

 

無限加速(アクセラレーター)

・加速する。

任意発動(アクティブトリガー)

・敏捷と敏捷の成長率に超高補正。

・敏捷が限界を超える。

 

 

 

 

ふむ…。

アビリティは、概ね異常有り。

地味に発展アビリティも増えている。

魔法は予想通りだけど、なんか増えてるし…、

やったね!初スキルだ!

効果がヤバいけど…。

 

ハハハッ!………………

 

「異常しかねぇぇぇぇええ〜〜〜〜ーーー‼︎」

 

まず、僕はあの戦いに行く前に一度、ステイタスを更新している。

だから今回は、各アビリティの延びは少なく、唯の確認の意味を込めてのステイタス更新だったはずだ。

 

なのに、何故こんなことにッ⁉︎

 

まずは、アビリティ‼︎

一回の戦闘で、アビリティ上昇率1400オーバーって、冒険者舐めてんのか‼︎

特に、敏捷!

貴様、何故そうなった‼︎

SSSSだとぅ⁉︎多いわ‼︎

Sがちょっと多過ぎるわ‼︎

限界突破どころの騒ぎじゃねぇ〜〜‼︎

 

次に、発展アビリティ‼︎

ランクアップの時以外、ほぼ発現しないんじゃなかったのか‼︎

"ほぼ"って、こんなに簡単に、起きて良いものじゃないよ⁉︎

 

更に、魔法‼︎

コレは、別に良い。

何となく予想出来てた。

 

最後に、スキル‼︎

やった〜!

念願のスキルですよ、スキル!

効果は、えーっと何々、【加速する。】ですか、へぇ〜〜。……………

 

………お前のせいかッ‼︎

 

可笑しいと思ってたんだ!

なんだかんだで勝てたけど、4歩目まで普通だったのに、5歩目でいきなり敵を貫いていて、凄いびっくりしたんだ‼︎

あれっ?何か穴空いてら〜って、感じになったんだぞ‼︎

 

えっ?他にも効果があるって?

何々、【敏捷と敏捷の成長率に超高補正。】【敏捷が限界を超える。】だって?………………

 

…………お前のせいかッ⁉︎(2回目)

 

あの可笑しなアビリティの一番可笑しい所は、お前のせいなんだな‼︎

 

総じて、言おう。

許容オーバーです。

誰か助けてください。

 

 

「ああっ⁉︎ノヴァ君⁉︎大丈夫だよ!僕が着いてるさ!だから、現実に帰って来るんだ‼︎そっちは、まだダメだよ!」

 

天使の声が聞こえる。

どうやら僕の旅は、ここまでの様だ。

 

ありがとう、ヘスティア様。

貴女のことが、ずっと大好きですよ。」

 

「なななな何を言ってるんだ、君はああぁぁーーーーーー⁉︎」

 

ビクッ⁉︎

 

「ハッ、ヘスティア様。ここは…」

 

僕は、さっきまで何をしていたんだ?

 

「ままっまだ寝惚けてるのかい?ここは、僕らのホームじゃないか。」

 

ヘスティア様はそう答えるも、何故か顔が赤い。

 

「あの、大丈夫ですか?ヘスティア様、顔が赤いですよ?」

 

本当に大丈夫だろうか?

風邪などひいてないと良いけど…、

 

「だだだっ大丈夫さ!それよりも、ノヴァ君のステイタスのことだ。」

 

ステイ…タ……ス……。

 

「ステイタス……あばばばばばばば。」

 

ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。ステイタス怖い。

 

「大丈夫かい⁈しっかりするんだ‼︎」

 

ハッ‼︎

 

「いえ、ヘスティア様。変な夢を見ただけです。きっと大丈夫です。大丈夫に決まってます。」

 

そうだ!そうだとも、夢に決まっている‼︎

僕は、悪い夢を見ていたんだ。

 

「因みに、君のステイタスなんだけど、この通りだ!」

 

「ぎぃややああぁぁーーーー⁉︎目がああぁぁ〜〜〜〜‼︎」

 

「だっ大丈夫だ!ノヴァ君!僕が着いているよ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

はあ、はあ、はあ、…………。

 

「やっ、やっと落ち着いた様だね。ノヴァ君。」

 

「はい。ご迷惑をお掛けしました。それにしても…、僕ステイタス恐怖症になりそうですよ。」

 

「そっそれはまた、随分と局所的な恐怖症だね…。」

 

本当にその通りだ。

何で、自分のステイタスを更新するだけで、こんなことになるんだ。

僕のステイタスは、大体いつも可笑しい。

このままでは、本当にステイタス恐怖症になり兼ねない。

 

「そっそれでね、ノヴァ君。少し言いにくいんだけど……、」

 

なんだろう?

ヘスティア様が、言い淀むなんてきっと相当のことだ。

 

「何ですか?ヘスティア様。」

 

「えーっと、その…ね?どうやら…君、また、ランクアップが出来る見たいなんだ。」

 

「へ?」

 

oh…今、ヘスティア様は、なんと言った?

ランクアップがどうとか、言わなかったか?

いいや、気の所為に違いない。

きっと、今夜の夕飯がランクアップしたとかそういうことだ。(さっき食べたけど、)

大丈夫だ。大丈夫。大丈……。

 

「えーっと、何のランクアップの話ですか?」

 

「何を言ってるんだ!君のステイタスのランクアップ以外に何も無いだろう!」

 

そこで、僕の意識は途絶えた。

 

「うわぁ〜〜‼︎ノヴァ君!しっかりするんだ‼︎」

 

 

最期に一つだけ言いたい。

ステイタス怖い。

 





サブタイトルのステイタス異常はどちらかと言うと、ステイタス、異常。という意味です。


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二度目のランクアップ

 

ランクアップした。

今度は5日で…、

 

最近、少し思うことがある。

 

僕は、本当に人間なのだろうか?

 

僕が、自分は人間であると思っているだけで、実は、全く別の生命体なのではなかろうか?

 

誰しも、自分が人間であると正しく証明できるものは少ないだろう。

だから、僕らは自分に一番近いものを見て、自分がそれと同じであると定義するのだ。

 

ところで、僅か一週間で、Lv.2になり、その5日後にLv.3になったヒューマンを名乗る者がいる。

 

現在、最速でLv.2になった人は、半年がかかったという。

レベルというものは、往々にして、高くなればなるほど、上がり難くなるものだ。

それは色々理由があるだろうが、その一つとして、レベルが上がるに連れて、試練足り得る出来事が起き難くくなるからだろう。

ランクアップには、試練が必要だ。

しかもそれは、神々が偉業を成し遂げたと認めることで成るという。

 

ならば、約二週間で二度、特に二度目の方が短い期間で、其れを成し遂げた者が居たとする。

 

これは、果たして本当に人間と呼べるのだろうか?

 

 

 

 

「ノ〜ヴァぐぅ〜〜ん‼︎帰って来てよ〜〜‼︎ぼぐが、ぼぐがわるがっだがら〜〜‼︎ぞっぞんなッ、釈迦みたいな顔で遠くを見つめるのは、やめてよ〜〜‼︎」

 

ハッ⁉︎

 

僕は、一体何を⁉︎

 

ッ⁉︎

 

ヘスティア様が泣いている⁉︎

誰だ‼︎ヘスティア様を泣かせた奴は‼︎

僕が、ぶっ殺してやる‼︎

 

「ノヴァぐん?」

 

ヘスティア様が、涙と鼻水で顔を濡らしながら、僕の名前を呼ぶ。

 

「はい、何でしょう?ヘスティア様。」

 

「うっ、ノ〜〜ヴァぐぅぅ〜〜〜〜ん‼︎」

 

「グホォッ‼︎」

 

何だ何だ⁉︎

ヘスティア様が、僕のお腹に突進して来たぞ⁉︎

新しい愛情表現の在り方かッ⁉︎

なるほど、最近の愛情には攻撃力があるんですね、初めて知りました。

 

「ノヴァぐん‼︎君が無事で、僕は本当に良かったよぉ〜〜〜‼︎」

 

何だか良くわからないけど、ここは一つ頷いておこう。

 

「はい。僕は無事ですよ?ヘスティア様。」

 

「びぃえぇぇ〜〜〜〜ん‼︎」

 

僕がそう言うと、ヘスティア様は本気で大泣きし始める。

 

どうやらコレ、僕のせいらしいな。

少し記憶が飛んでいるんだが、もしかして、その間に何かあったんだろうか?

 

そこで、僕はふと、僕が何故かいるベッドの上に紙があるのを見つけた。

 

もしかすると、コレが原因なのかもしれない。

 

僕は、それを手に取って見た。

 

 

 

ノヴァ・イグニス 男 16歳

 

Lv. 3

 

力: A823→I0

 

耐久: S999→I0

 

器用: S924→I0

 

敏捷: SSSS1235→I0

 

魔力: B762→I0

 

剣士: G

 

耐異常: H

 

幸運: I

 

≪魔法≫

 

【 フィアンマ・エスパーダ・コンヴォカツィオーネ】

 

・装備魔法

感情(おもい)に呼応する。

・詠唱

 

[始炎剣プロメテウス]

 

・原初の炎を纏う。

 

覚醒(目覚め)の時は、来た。

其は、世界を照らす者。(其は、世界を滅ぼす者。)

 

其は、全てを包み込む聖剣の担い手。(其は、全てを燃やし尽くす魔剣の担い手。)

 

我が敵を、打ち倒せ。(我が敵を、薙ぎ払え。)

 

来たれ!()()()()()()始炎剣(しえんけん)プロメテウス‼︎

 

[断罪剣サクリファイス]

 

・精神汚染(微小)

 

断罪(裁き)の時は、来た。

其は、法を敷く者。(其は、法を犯す者。)

 

其は、罪を赦す聖剣の担い手。(其は、罰を与える魔剣の担い手。)

 

罪人を、裁け。(咎他人を、焼き殺せ。)

 

来たれ!()()()()()()断罪剣(だんざいけん)サクリファイス‼︎

 

 

【】

 

 

【】

 

 

 

《スキル》

 

愛情相関(リアリス・ベーゼ)

・早熟する。

・互いに愛し(おもい)続ける限り、効果持続。

・互いの愛情(おもい)の丈により、効果向上。

・一定条件で、ステイタス超向上。

・緊急時、ステイタスの自動的更新。

・愛する人が近くに居ればいるほど、ステイタス及び、ステイタス上 昇率に高補正。

 

無限加速(アクセラレーター)

・加速する。

任意発動(アクティブトリガー)

・敏捷と敏捷の成長率に超高補正。

・敏捷が限界を超える。

 

 

 

 

なっ⁉︎

何だコレ⁉︎

 

れられらららレベル3⁉︎

誰が?僕が‼︎

発展アビリティが増えてるッ⁉︎

魔法の効果も増えてるッ⁉︎

あと、このスキル何ぃぃぃ〜〜〜〜〜⁉︎

 

「ヘッ、ヘスティア様ぁ〜〜〜〜‼︎こっ、コレは一体ッ⁉︎」

 

僕は、とりあえず色々と聞いてみることにした。

 

「グスンッ、それは、今の君のステイタスだよ。ランクアップした後、何故か君は、僕の天界での知り合いみたいな顔になって、ずっと考え事をしていたんだ。ざっと8時間ぐらい。」

 

ハッ?

 

「はっ、8時間ッン〜〜〜⁉︎そっ、そんなにも長い間、僕はずっとここで考え事をしていたんですかッ⁈」

 

「そうさ!君は8時間もの間、飲まず食わずでずっと考え事をしていたんだ!だから僕は、君がこのまま死んじゃうんじゃないかって…心配でッ……。」

 

そこで、ヘスティア様が急に黙る。

 

「うっ、うわぁぁああ〜〜〜〜ん‼︎ノヴァぐんのバガァァ〜〜‼︎ぼぐは、本気で君が死んじゃうんじゃないかって心配してたんだぞぉぉ〜〜〜〜‼︎」

 

そして、急に泣き出した。

 

「うわあああぁぁぁ〜〜〜〜‼︎すみません!すみませんでしたぁ〜〜‼︎謝るので、どうか泣き止んで下さぁ〜〜い‼︎」

 

僕はとりあえず、心配を掛けたことを必死で謝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、グスンッ。」

 

「ヘスティア様、落ち着きました?」

 

僕は、さっきまでと比べたら、大分落ち着いた様に見えるヘスティア様に、話を聞こうと試みる。

 

「ああ。もう大丈夫だよ、ノヴァ君。さっきは、何処まで話したんだっけ?」

 

僕は最近、全然信用ならない記憶を頼りにこう言った。

 

「さっきは、確か8時間ぐらい、僕が瞑想していたとか何とか。」

 

「ああ、そこからか…。じゃあ、その間、飲まず食わずだったって言うのは?」

 

「それも聞きました。あとは、僕のレベルの事、発展アビリティの事、魔法の欄に新しく出ていた追加効果?又は、其れに準ずる何か、あと最後に、僕のスキルの一番上に何時の間にかある【愛情相関(リアリス・ベーゼ)】ってスキルの事ですかね?」

 

僕が、そこまで言うと、突然ヘスティア様が驚きの声を上げた。

 

「えッ⁉︎」

 

「えっ?」

 

「なななっ何で、君がそのスキルの事をッ⁈」

 

何を言ってるんだろうか?

普通にステイタスに書いてあったのに、知らないも何も無いだろう。

 

「ハッ‼︎まさかッ⁉︎」

 

突然、何か思い当たったのか、神様がベッドにあった僕のステイタスを食い入る様に見る。

 

「あっ‼︎嗚呼ぁ、うわあぁぁぁ〜〜〜〜〜‼︎」

 

「大丈夫ですか‼︎ヘスティア様‼︎」

 

いきなり叫び出したヘスティア様の下へ、僕が直ぐに駆けつけると…。

 

「見たのかい?」

 

えっ?多分、ステイタスのことだよね?

 

「そりゃあ、見ましたけど…、」

 

「#$+**^%^€〜〜〜〜‼︎」

 

えっ⁉︎何で⁉︎

僕、何か悪いことした⁈

 

ヘスティア様は、顔を真っ赤にして涙目で、僕のことを睨んで来る。

 

えっ!可愛い。

じゃなくて‼︎

 

「みっ見たんだよね?あのスキル…。」

 

スキル?

 

「あぁ、あの【愛情相関(リアリス・ベーゼ)】っていうスキルのことですか?」

 

「ッ⁉︎」

 

何だ?

あのスキルに何かあるんだろうか?

正直、あのスキルは一瞬見ただけで、効果なんかは、全く見てなかったんだけど…。

 

「そっそうかい。みっ見たんだね?そっそれで、あのスキルを見て、何か思うことは無いかい?」

 

どうして、こんなに動揺してるんだろう?

そんなに凄い効果だったのかな?

それにしてもヘスティア様、顔を真っ赤にして可愛いなぁ〜。」

 

「ビクッ⁉︎ なっななななッ⁉︎何を言ってるんだ君はああぁぁーーーーーー⁉︎」

 

ビクゥッ⁉︎

 

ななッ何だ?

急に怒られたぞ?

僕が何かしただろうか?

 

「べべべッ別にあのスキルのことは、その〜、なんて言うか…、そう!親愛という意味でね?べべッ別に君のことが、すすすっ好きだとかそういう…「えっ⁉︎僕のこと好きじゃなかったんですかッ⁉︎」ッ⁉︎そっ、そんなこと言って無いだろうッ‼︎とにかく‼︎あのスキルの効果については、絶ッ対に誰にも言わないこと‼︎分かったね?」

 

これは、ちゃんと返事をしないとヤバい気がする。

 

「はい、分かりました。」

 

「返事が小さいッ‼︎」

 

「はい‼︎分かりました‼︎最愛の神、ヘスティア様に誓います‼︎」

 

「だっ誰がそんなことを言えと言ったぁああーーー‼︎」

 

僕がそう言うと、顔を真っ赤にして怒りだす。可愛い。

 

「はい‼︎申し訳ございません‼︎ヘスティア様‼︎」

 

「よしっ‼︎それで本当に分かったんだね?」

 

「はい!他の人には、このスキルのことは言わないってことで、良いんですよね?」

 

僕は一応、ヘスティア様に確認を取る。

 

「あぁ、そうだ。」

 

ここまで来ると、僕もそろそろそのスキルの効果が知りたくなる。

 

「ところで、ヘスティア様?そんなに知られたくない、このスキルの効果って、一体なんなんですか?」

 

「ハッ?何を言ってるんだい?あんなの他の神に知られたら、僕が揶揄われるのが、目に見えてるじゃないか。」

 

他の神様にヘスティア様が揶揄われる?

僕のスキルで、どうしてそんなことになるんだろう。

 

「へぇ〜、そうなんですか。」

 

「……ちょっと待って、ノヴァ君。まさか君、あのスキルの名前だけ見て、効果の部分は全く見て無いとか言わないよね?」

 

「えっ、はい。その通りです。」

 

…………僕らの間に、妙な沈黙が流れる。

 

「なああぁぁ〜〜〜にいぃぃぃ〜〜〜〜⁉︎」

 

彼女は、突然とり返しのつかないことを仕出かした様な叫び声を上げた。

 

「どっどうしたんですかッ⁈ヘスティア様?」

 

「ノノっノヴァ君⁉︎そそそっそのスキルのこと何だけどね?えーっと…、あのぉ〜……、その〜〜………、コレッ‼︎」

 

ヘスティア様は、そう言って顔を真っ赤にしながら、僕にステイタスの紙渡した。

 

ラブレターだったら良かったのに……、

 

僕は、直ぐにスキルの効果の欄に目を通す。

 

 

愛情相関(リアリス・ベーゼ)

・早熟する。

・互いに愛し(おもい)続ける限り、効果持続。

・互いの愛情(おもい)の丈により、効果向上。

・一定条件で、ステイタス超向上。

・緊急時、ステイタスの自動的更新。

・愛する人が近くに居ればいるほど、ステイタス及び、ステイタス上 昇率に高補正。

 

 

…………えーっと、うん。

 

「ヘスティア様。僕も貴女の事、好きですよ?」

 

「#€$*^<€€%%$〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

彼女は、声にならない悲鳴を上げる。

顔が真っ赤だ。

 

かくいう僕も自分の顔が、だんだんと赤くなっていくのがわかる。

こんなスキルが発現するんだ。

彼女に直接好きと言われるのとは、また違った嬉しさがある。

 

そう、例えるなら、僕と彼女の想いが世界から認められた様な…。

 

僕のこの想いは、間違いではないと…、

 

僕のこの願いは、間違えてなんかいないと…、

 

どれだけ無謀な挑戦だとしても、決して間違いなんかではないと、認められた様な気がする。

 

「のっノヴァ君⁈」

 

「えっ?あっ!」

 

気づくと、僕の頰を冷たい雫が伝っていた。

 

止まらない、止まらない。

 

どうして?どうして、涙が止まらないんだ?

 

「ノヴァ君!」

 

すると、いきなり彼女に抱きしめられた。

 

「わっ⁉︎へっヘスティア様っ?」

 

彼女は、さっきまで真っ赤になってたのに、優しく僕の手を取って、こう僕に語りかけた。

 

「ノヴァ君。君の道は、永く険しい道だ。前代未聞、前人未踏の偉業と後に、語られるようなとても厳しい道だ。あらゆる困難が、君の前に立ちはだかることだろう。でもね?ノヴァ君。僕は君の道が、間違いなんかじゃないってことぐらい分かってるぜ?()()の大事な未来の為にも、君には頑張ってもらわないとね!」

 

最後に彼女は、冗談めかしてそう締め括った。

 

救われた様な気がした。

彼女はいつも、僕が一番欲しいものをくれる。

彼女は否定するだろうけど、僕は彼女に貰ってばかりだ。

なら、返さなちゃいけない。

僕の全身全霊をもって…、

 

「はい‼︎ヘスティア様!僕、これからも頑張ります!」

 

やっと止まった涙を拭きながら、僕はしっかりとそう答えた。

 

「ああ、頑張るといいさ!それにしても、君は結構、泣き虫だね。」

 

「僕が泣くのは、ヘスティア様に関してのことだけですよ!そういうヘスティア様だって、さっき泣いてたじゃないですか!」

 

「なっ!ぼっ僕だって、君に関してのことだけさ!」

 

「嘘ですね。ヘスティア様は、もっと色んなところで泣いてますよ。だから、ヘスティア様の方が泣き虫です。」

 

「何だとぉぅ‼︎僕は、泣き虫なんかじゃない‼︎」

 

「アハハッ!」

 

「なっ⁉︎何が可笑しい‼︎」

 

こうして笑える日々が、ずっと続けば良いのに…。

いや…こんな日々を永遠のものにする為に、僕は戦うんだ。

 

そう決意を新たに僕は、今日もダンジョンに………ってアレッ?

もう真っ暗だ…………うん。明日から頑張ろう。

 

「ノヴァ君!聞いてるのかい‼︎」

 

「えっ?」

 

「やっぱり聞いてなかったのか。さっきの話はもういいから、君のステイタスについて話していくよ。」

 

「はい、分かりました。ヘスティア様。」

 

 

 

そして、僕はヘスティア様にたっぷりと、僕のスキルや魔法についての説明と注意を聞かされることになった。

 

 

 

 



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