ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道 (肉球小隊)
しおりを挟む

プロローグ  欠陥砲弾

初めまして、肉球小隊と申します。
小説の投稿はこれが初めて。
文章力も無い癖にやらかした気もしますが、お付き合い頂ければ幸いです。
ストーリー的には本編と劇場版を挟んだその前後といった感じです。
前提として本作オリジナル主人公 厳島恋(いつくしまれん)と主要登場人物達は昔からの付き合い。
その交流をオリジナルストーリーで展開して行きます。


「ん~?やっぱり微妙にずれるなぁ……」


 形の良い唇から甘く色気のあるハスキーボイスで零れる呟き。

 雑木林に囲まれた荒れ地で、一両のパンターG型戦車が散発的に砲撃を繰り返している。
 ここは横須賀市立臨海中学校戦車道の地上射撃演習場。
 先程から砲撃を行なっているパンターの車内に居るのはたった一人の少女。
 ポニーテールにして尚腰に届く緩くウェーブした長い髪は燃える様に赤い。
 切れ長の美しい目には勝気な光が宿っている。
 そしてそのプロポーションはと見れば、大凡中学生とは思えないスタイルだ。


 彼女の名前は 厳島恋(いつくしまれん)

 
 横須賀市立臨海中学校の三年生であり戦車道チームの隊長の職にある。
 今日は日曜日で本来なら何も活動予定は無い筈だが、独り砲撃を繰り返すには訳がある。
 前日の土曜に行った練習試合に措いて、彼女たちのチームは恐ろしく命中率が悪く、本来な
らその射撃技術の高さに定評のあった恋に対し、対戦相手チームの隊長はじめ他の選手達も首を捻る程の命中率の悪さであった。
 勿論突然恋の腕が落ちた訳など無く理由がある。
 それは先程から撃っている砲弾に起因する。
 実はこの砲弾それまで使っていた砲弾とはメーカーが違う。

 少々時間を遡る事数年前、ある新興メーカーが戦車道連盟に対し戦車道専用の新砲弾の売り
込みを掛け、連盟並びに陸上自衛隊により約一年の評価試験の結果採用が決定された。
 通常より速い決定とも思われたが理由は単純、このメーカーの砲弾は安かったのだ。
 既存メーカーに比べ徹甲弾、榴弾共に一発辺りおよそ二万円強程安い。
 文字通り金を大砲でぶっ放す様な戦車道に措いてこれ程魅力的な話は無い。
 ただし既存メーカーとの関係もあり、まずは予算的制約の厳しい小中学校戦車道、それも公
立学校から中心に試験的な販売が開始され、中学戦車道履修校の中でもそれなりの強豪で公式
戦、練習試合等試合数も多く、偶々残弾が心許なかった恋の居る臨海中が納入第一号となって
いたのであった。


「う~ん、また外れたぁ……」


 前日の練習試合、どうにか勝てはしたものの、その結果はおよそ納得出来るものではなく、
今日はこうして一人で恋は黙々と独自の新砲弾のテストをしているのであった。


「ヨイショっと!」


 次弾を撃つべく徹甲弾を装填し照準を微調整していたその時、携帯の着信音に設定していた
パンツァー・リートが戦車内に鳴り響く。


「ん?誰だろ?」


 恋は手探りでイヤホンマイクを耳に入れつつ通話ボタンを押す。


「ハ~イ、どちら様~?」

『よお!ラブ、私だ』


 恋をニックネームで呼ぶ相手の声が聴こえた瞬間恋は発射ペダルを踏み込んだ。
 辺りの空気震わせる鋭い発射音。


『わぁっ!ってラブ!お前今撃ってるのか!?』

「なんだ~、千代美かぁ、久しぶり~、元気そうだねぇ♪」


 電話を掛けて来た相手は安斎千代美、大きな丸眼鏡にお下げの緑髪の少女の姿を頭に浮かべつつ、恋は微かに微笑みながらマイクに語り掛ける。


「先々月の練習試合以来かな?どうしたのよ突然、またやりたいの~?」

『いや、お前のトコに新しい弾導入されたんだろ?どんな感じかと思ってなぁ』


 苦笑しつつも恋は応える。


「相変わらず千代美は耳が速いねぇ、金曜に納入されて元の弾も残りが僅かだったから、昨日
の練習試合で早速使ったんだけどさぁ……」


 どこか歯切れの悪い恋の受け答えに千代美も何か感じる処があったのか更に問う。


『何か問題があったのか?連盟のHPでは感触が良い様だったけど』

「あ~、どうもその命中率がねぇ……何と言うかその今一つなのよ」


 答えつつも手は次弾を装填し照準を再度微調整、そして再び発射ペダルを踏む。


『だから電話しながら戦車砲を撃つな~!』


 千代美の抗議をヘラヘラ笑いながら受け流し結果を確認する恋。


「ありゃ~、とうとう的を飛び越えちゃったよ~」

『一体どれだけの距離で撃ってるんだ?照準狂ってないか?砲身が曲がってるとか』

「照準も狂ってないし砲身も曲がってなんかないわよ~」

『じゃあお前の腕が落ちたかwww』

「私がたった1,000mで外すと思ってるワケ~?」


 口を尖らせつつ恋が文句を言う。


『冗談だよ~、でもそんな酷いのか?』

「そうねぇ、ここまで行くとさすがにちょっと誤差の範囲とは言えないなぁ」

『それで日曜なのにわざわざ試し撃ちしてるって訳か』


 千代美のそんな問い掛けに恋も答える。


「いやね、ホントは今日は朝からファッション誌の撮影の仕事があったんだけどさぁ、スタジ
オの方でトラブルがあったらしくてキャンセルになっちゃったのよね~」


 恋はその中学生離れした容姿を活かし中一の頃からモデルの仕事も熟している。


「でまぁやる事無くなっちゃったし、昨日こっちで試合してそのまま停泊中だから一人でじっ
くりデータ取りしようと思ったのよ」

『なんだ、それじゃあ暇潰しでやってたのかぁw』

「あ!千代美それはちょっと酷くない~?」

『いやあスマンスマン』


 千代美は笑いつつも更に問う。


『それで徹甲弾も榴弾も同じ様な感じなのか?』

「取り敢えず今までの所は徹甲弾撃ってたけどね~、榴弾も撃ってみるか~」 


 そう言いつつ持ち上げた榴弾をグローブをした手を握り締め押し込む恋。
そして閉鎖機が閉まり掛けたその瞬間。


「!?」


 その一瞬に感じた違和感、その直後に生じた激しい閃光と爆発音。
 そしてそれに被さる恋の悲鳴……。


「きゃああああああぁっ!!!」 


 スピーカー越しにその爆発音を聞いた千代美は一瞬携帯を取り落とし掛けた。


『おいっ!ラブ!今の音は何だ!?』


 電話の向こうに居るはずの恋の返事は無い、聞こえるのはガリガリというノイズのみ。


『どうした!?ラブ!何が起きた!?応えろラブ!恋!』


 千代美が大声で問い掛けるが恋からの応答は無い。
 更に呼び掛けようとしたその時。


「ち‥よみ……こ‥この…弾……つ…使っちゃ……だ‥めだ……」

『まさか!?まさか暴発したのかっ!?しっかりしろ!おいっ!恋!』

 



 しかしそれきりいくら千代美が声を掛けても恋は一切反応しなかった。






多少書き溜めてますが初めて故この先どの位のペースで投稿出来るやら…。
う~ん、それにしても我ながら文章硬いなぁ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 涙の果て その先にある未来を信じて 第一話   千代美の頑張り

ストーリー展開的にどこで引っ掛かるのか解らないので、
必須タグに残酷な描写を追加しました。

ただ今回の話はこの先の展開の中で重要な部分になるので仕方ないとはいえ、
執筆していて自分でも非常に悲しい気分になりました。


 落ち着け、落ち着いて考えろ自分、冷静に考えろ千代美!
 通常の発射音とは明らかに違う爆発音とラブの悲鳴。
 そして途切れ途切れに聞こえた、この弾は使っちゃだめだという言葉。
 これは事故だ、榴弾が暴発したんだ!
 携帯はノイズ雑じりだがまだ繋がっているから切る事は出来ない。
 そうだ!家の固定電話から消防に通報だ!
 でもこちらは名古屋でラブがいるのは横須賀、どう伝えればいい?
 とにかくまずは119番だ!

 千代美は固定電話の子機を手に取り震える指で119をプッシュした。
 コール2回でオペレーターの対応する声が聞こえた。


『119番消防です、火事ですか?救急ですか?』

「きゅ、救急をお願いします!」

 
 少しどもりつつも千代美は応える。


『それでは救急車の向かう住所を教えて下さい』

「住所は……」

 
 一瞬どう伝えるか迷う千代美。


「住所は解りませんが場所は横須賀です!」

『ハイ?』

 
 消防オペレーターが戸惑いの声を上げる。


「神奈川の‥横須賀にある横須賀市立臨海中学校戦車道の地上射撃演習場に救急車をお願いします!お願いだから急いで!」

 
 そして千代美は極力簡素にオペレーターにこれまでの経緯を伝える。


『解りました、あまり例の無い事ですが、今現地の消防指令部に連絡して救急車とハイパーレスキューに出場指令が下されました』

「そ、それじゃあ!」

『ハイ、、もう既に出場しています、あなた偉いわね、これだけ冷静に通報出来る人は大人でもあまり居ませんよ』


 オペレーターの言葉に少し胸を撫で下ろしつつも千代美は更に懇願する。


「お願いします!携帯はまだ繋がってるけど応答しないんです!大事な友達なんです!ラ‥恋を、厳島恋を助けて下さい!」

 
 最後にはもう涙声で言葉を絞り出す千代美。


『バッテリーはまだ持ちますか?可能な限り呼び掛けを続けてあげて下さい、それではこの電話は切らせてもらいますね』

 
 通報に使った固定電話が切れた後、千代美は再び携帯を手に取りスピーカーに耳を澄ます。
 幸いな事にノイズ雑じりながらもまだ通話は途切れていなかった。


「おい!ラブ!聞こえているか!今救急車がそっちに向かっているからな!」


 しかし相変わらず恋からの反応は何もない。
 それでも千代美は勇気を振り絞って声を掛け続ける。


「頑張れ!ラブ!し‥死ぬんじゃないぞ!恋!」


 千代美が必死の呼び掛けを続ける間にも時間だけは経過して行く。
 不安ばかりが大きくなり始めたその時。
 ノイズ雑じりの携帯から微かに複数のサイレンの音が聴こえて来た。


「ラブ!もう大丈夫だぞ!救急車が来たからな!」


 徐々に近付くサイレンの音に負けじと千代美も声を掛け続ける。
 やがてサイレンが止まり複数の人の声が聞こえ始めた。

『おい!こっちだ!……急げ出血が酷すぎる!』


 救急隊員と思しき声に千代美の血も瞬間凍りつく。


『メインは駄目だ!スクープストレッチャーを後ろの丸いハッチの外に用意してくれ!』


 携帯の向こうで救急隊員の指示が飛び、堪らず千代美も携帯に叫びかける。


「恋は!?恋は大丈夫ですか!?」


 指示を出す傍ら漏れ聞こえて来た千代美の声に救急隊員が気付き携帯を取り応える。


『話は聞いている、君が通報して来た子だね?ここまでよく頑張ったね、後は我々に任せるんだ。これから救助活動に入るから電話を切るよ、君は本当によく頑張った。』


 その言葉に千代美の目からも大粒の涙が零れ落ちる。


「お願いします!恋をお願いしますっ!」


 そう泣き声で叫んだ後遂に手の中の携帯から聞こえる音が途切れたのだった。
 力尽き自室の床に座り込む千代美、その部屋には窓から初夏の風が吹き込んでいた。





話を創るのは楽しいけど書くのは難しいなぁ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話   千代美奔走

第二話目になりますが物語全体の前置きとも言うべきこのパート、
思ったより長くなりそうです。
でも大事な部分なのであまり削れません。

それにしてもチョビ子は本当に良い子だなぁ。


 学園艦が母港に帰港し、久し振りに自宅に戻った週末。
 昔馴染みの友人との電話中にそれは起こった……。


 千代美がハッと我に返った時、既に外の日差しは大分傾き始めていた。


 一体何がどうなっている?頭の中がシェイクされた様で考えが全くまとまらない……。
 そうだ!あの時ラブはこの弾を撃っては駄目だと言った!
 もし他でもこれと同じ事が起こったら?


 千代美の思考回路が一気に加速する。
 

 この事を連盟に連絡……駄目だ、今日は日曜日で誰も居ないはずだ。
 それではどこに、誰にこの事態を連絡すればいい?


 何となく手にした携帯の充電が残り僅かな事に気付き充電器に置いたその瞬間。


 そうだ!この間学校に指導に来てくれた新任の教導隊の蝶野教官!
 いつでも質問出来る様にとメアドと携帯番号を貰っていたじゃないか!
 蝶野教官に電話すればもしかしたら!


 直ぐにバッテリー切れしそうな携帯に充電ケーブルを繋ぐのももどかしく感じつつ、 千代美は目当ての番号を呼び出し発信ボタンを押す。


 お願いです、お願いですから出て下さい蝶野教官!


 千代美の願いも虚しく呼び出し音は鳴り続ける、そして諦めかけたその時。


『ハイ、お待たせ、安斎さんね?お電話貰えて嬉しいわ♪元気だったかしら?』


 蝶野亜美の快活な声が飛び込んで来る。


「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!ぎょ、ぎょ゛う゛がん゛~!!」


 亜美の声を聴いた瞬間堪えきれずに泣き出した千代美。


『ど、どうしたの?一体何があったの安斎さん!?』


 突然の泣き声に狼狽えつつも問い掛ける亜美。


『とにかく落ち着きましょう?まずは深呼吸よ、ハイ、吸って~、吐いて~』


 そしてどうにか落ち着いた千代美から事のあらましを聞き出す亜美。
 途中何度となく泣き出してしまう千代美をどうにかなだめつつ、時には語られる内容に息を飲みつつ状況を整理し、千代美に告げる。


『解りました、連盟、防衛省、文科省他関係各部への連絡は可及的速やかに私が行います、ですから安斎さん、今はあなたはゆっくり休むのよ』

「ハイ……」

『安斎さん、いえ千代美さん、本当によく頑張りましたね、ここまでのあなたの努力を決して無駄にはしませんからね』

「きょうかん……教官!」

『とにかく今はしっかり休んで恋さんの無事を祈ってあげてね、私は早速対応に移りますからこれで電話を切りますね』

「ハイ……ハイ!」

『あ、それからこれはとても大事な事なんですが、現段階でこの件に関して誰にも話をしない事。例えそれが大事なお友達であってもよ。こういった事が漏れ伝わると、尾ひれが付いて無用な混乱を引き起こしますからね。それは恋さんの為にも良く無い事なのは解るわよね?それと何か連絡が入る可能性もありますから携帯にはいつでも出られる様にしておいて下さいね、それじゃあ切りますよ』

「ハイ……解りました……」

『あなたは本当に立派よ、それじゃあね』


 そう言い残し亜美は千代美との通話を終了した。




 蝶野教官はまだ誰にも話すなと言った。
 それは私にも解る。
 だけど…だけどもうこれで私に出来る事は無いのか?
 アイツは、ラブはきっと今頃手術室で独りで闘っている。
 それならば、それならばせめて私だけでも傍に居てやりたい。


 そう考えるともう千代美は居ても立っても居られない。


 横須賀へ…そうだ横須賀へ行こう。
 行って少しでもラブの傍に居てやるんだ。
 例え何も出来なくてもせめて私だけでも傍に居てやるんだ!


 思い付いたが早いか立ち上がった千代美は、学園艦からの帰省時に肩に掛けて来たサブバックを引っ繰り返し必要になりそうな物を選んで詰め込み始める。


「ええと、携帯に充電器に…急速充電器は何処か途中のコンビニで買うか…あとは手帳にお財布に‥お金!新幹線いくら掛かるんだ!?手持ちと後はCD機で下せば何とかなるかな?」


 荷造りもそこそこに千代美は身動きのし易い服装に着替え始める。
 今は出掛ける為にやらねばならぬ全ての事がもどかしい。
 そしてどうにか身支度を整えバックを掴み部屋を飛び出し掛けた時に思い出す。


「っと、その前に!」


 今日は昼前から両親と弟は買い物に出掛けていた。
 心配されるだろうが横須賀に行く事を伝えなければならない。
 勿論蝶野教官に言われた事は守らなければならないが。
 どう伝えるか考えつつ取り敢えずお母さんの携帯を呼び出す。


「あ、もしもしお母さん?私、あのね…」


 名古屋駅に着いたバスを飛び下りた千代美は足早にみどりの窓口を目指す。
 駅構内図を確認しながら歩いていると携帯が鳴る。
 液晶画面を見ればお父さんからの着信表示。

 
「もしもし、お父さんどうしたの?」

『あぁ、千代美もうそろそろ名古屋駅に着いた頃かな?もし着いたら太閤通口の銀の時計の前まで来なさい』

「え?どうして?」

『いいから、待っているからとにかく来なさい』

「うん、解った……」


 言われるままに銀の時計に辿り着いてみれば両親揃って待っていた。
 弟の姿が見えないのは何処かで待たせているという事か。


「お父さん、お母さんどうしたの?」

「千代美これを使いなさい」


 手渡された封筒を見れば中には新幹線の指定券のチケット。


「お父さん!コレ!」

「千代美の電話のあと直ぐに駅に来たら幸い空席があったからね、品川まで買ってある、品川からは京浜急行を使いなさい、新横浜からだと乗り継ぎが悪い」

「お父さん!」


 また千代美の目から涙が零れ落ちそうになる。


「今は深くは聞かない、さあ、まだ時間は余裕があるが早めにホームに行きなさい」

「ありがとう…お父さん…」


 お父さんに深く頭を下げると今度はお母さんが声を掛けて来る。


「それから千代美、これも持って行きなさい」


 手渡されたのはデパ地下の小さな手提げ袋。
 中に人気のパン屋さんのメロンパンと紅茶のペットボトル。


「電話で話した時の様子だと今はこういう物の方が口に入れ易いでしょう、例えひと口でもいいから必ず新幹線の中で食べるんですよ、それとバックの口を開けなさい」


 バックを開くとお母さんがポチ袋を中のポケットに忍ばせる。


「お母さんこれは…」

「何処で入用になるか解りません、取られたり落とさない様に気を付けて」

「有難う…お父さん、お母さん!」


 改めて深く頭を下げる。


「さあ、早くお行きなさい、でも決して戦車道の様な無茶はしない様にね」

「…ハイ‥じゃあ…行ってきます!」


 両親の心遣いに感謝しつつ改札を抜けホームを目指す。
 そして程無くしてホームに滑り込んで来た新幹線に乗り込み指定席に腰を下ろす。


 待ってろよラブ!今そっちに行くからな!お前は独りじゃないぞ!


 心の中で独り言ちる千代美を乗せた新幹線は、一路東京に向け力強く加速を開始した。






亜美さん登場。

しかし主人公とはいえ恋には色々背負わせ過ぎかなぁ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話   千代美迷走

一度書き上がった原稿を見直して加筆修正しているうちに、
自分でも予期しなかった登場人物が独り歩きを始めてしまいました。
これは今後も活躍しそうな気がして来ました。

困った事にまだ当分の間お話に戦車が出て来ません。




 名古屋を出発して暫くして車窓へと目をやれば外はすっかり暗くなって来ている。
 それでもまだ横須賀へはそう遅い時間にならずに着けるだろう。
 

 そうだ、お母さんが持たせてくれたメロンパンを食べよう。


 思えば今日は少し寝坊して朝昼兼で軽く食べたきりだった。
 この数時間ですっかり消耗した体には紅茶とメロンパンの甘さが何よりも有難い。
 少しづつメロンパンをかじりながら恋の事に思いを馳せる。


 アイツは…ラブは本当にふざけたヤツだ。
 同い年と思えない位の美人で初めて会った時は本当にドキドキした。
 とても背が高くてスタイルが良い…特にあのおっぱい!
 少し私に分けてくれと真剣に思う事がよくある。
 モデルもやっていると聞いてファッション誌を見て、大人のモデルさんと一緒に何の違和感も無く一緒に写っているのを見た時は本当に驚いた。
 そしてあの甘いハスキーボイス。
 練習試合の後に行った打ち上げのカラオケでみんなウットリしてしまった。
 それだけでも凄いのにビックリする位に頭も良い。
 臨中の副隊長に県内の学力テストでも常にトップだと聞かされた時最初信じられなかった。
 だってそうだろう?いっつもヘラヘラしてて、ちょっとでも油断してれば物凄く下らない悪戯を仕掛けて来たりするんだから。
 そんなヤツが戦車に乗れば滅法強くて、あの黒森峰の西住もいつも苦戦させられている。
 だからラブを見ていると神様は不公平だなんて思ってもしまう。
 でもそんなラブの事を私は、私達戦車道の仲間達は好きなのだ。
 仲間想いで優しくて、伸び悩んでる選手には、それが例え対戦相手でも何の惜しみも無く持てる知識と技術をレクチャーしたりする。
 いつも陽気で楽しそうにしていて実際人生を心底楽しんでいるんだと思う。
 そんな雰囲気のままあっけらかんと、自分には両親が居ないと聞かされた時、私にはラブに掛ける言葉が見付らなかった。
 でもそんな事を気にもせず何でも無さそうにしていたラブ。
 しかしそんなラブが今は苦しんでいる、ただ独り闘っている。
 今は一刻も早くラブの傍に行ってやりたい。


 と、そこまで想いを巡らせて来たその時、千代美はある事実に気が付いた。


「…‥しまったぁ!!」


 思わず絶叫して席から立ち上がってしまう千代美に周りの乗客も何事かと視線を向ける。


「あ……スミマセン、スミマセン」


 慌てて周りに頭を下げ再び座席に腰を下ろす。


 ラブは、アイツは一体何処の病院に搬送されたんだ!?
 横須賀に駆け付ける事で頭がいっぱいで肝心な事を忘れていたじゃないかぁ!
 どうしよう?消防に事情を言って教えてもらうか?
 いやダメだ、そんな個人情報教えてくれる訳が無い。
 横須賀の病院をしらみ潰しに聞いて回るか?
 いや!病院だって同じ事だ!
 そもそも搬送されたが横須賀市内の病院だけとは限らないじゃないかぁ!!
 どうしようどうしようどうしよう!!!


 そんな考えで頭の中が全速力のハムスターの様にグルグルグルグル回っているうちに、新幹線はとうとう品川駅に到着してしまう。


「あぁぁ…降ります!降ります~っ!」


 荷物を抱え転がり落ちる様に慌ててホームに降り立つ千代美。


「あ、危なかったぁ!危うく東京駅まで行っちゃうとこだったぁ…でもホントどうしよう?」


 肩で息をしながら狼狽えて居る時サイレントにしてある携帯がサブバックの中で振動しているのに気が付き取り出してみると見知らぬ番号が液晶に表示されている。


 046って何処の市外局番だ?末尾の0110って…確か警察の使う番号だ!
 これってもしかしたら!


 慌てて着信ボタンを押し電話に出てみる。


「もしもし?」

『あ、もしもしこちらは安斎さん、安斎千代美さんの携帯番号で宜しいでしょうか?』

「ハイ、ハイ!私が安斎千代美です!」

『あぁ、繋がって良かったわ、私は横須賀警察署捜査課の敷島(しきしま)と申します』


 張りのある声が耳に飛び込んで来る、今の千代美にとってその声は天から届く救いの女神の声に等しかった。


『突然の事で申し訳ありませんが救急の通話記録から、厳島さんの件でお電話させて頂きました。いくつかお聞きしたい事があるのですが今お時間は宜しいでしょうか?場合によっては名古屋からという事なのでそちらにお伺いしたいのですが』

「あ、あの…実は私今…その‥品川駅に居るんです!」

『えぇ!?』


 事情を掻い摘んで説明する千代美。


『それはまた随分思い切った事したわねぇ、でも搬送先の病院まで解らないでしょ?』


 見事に図星を突かれる。


「はい…それでその、それを新幹線に乗ってから気が付いて、どうしようか考えてるうちに品川に着いちゃって困ってたトコにお電話頂いたんです」


 千代美の行動力に半ば呆れつつも敷島はこれからどうすべきか指示を出す。


『分かったわ、今品川なら京急ね、この時間ならまだ快特があるか…下り線の快特…快速特急に乗って横須賀中央まで来て頂戴、それなら乗り換え無しで直ぐにこちらに来られるわ、ただし乗り過ごさない様気を付けて、戻るのが大変になるから』

「はあ……」

『それで横須賀中央に着いたら西口改札口に来てね、頃合いを見て迎えに行くわ』

「それでしたら連絡先を…」

『大丈夫』

「え?」

『あなたの事なら解るから大丈夫よ』

「それは一体…」

『詳しい事はまた後で、今は一刻も早くこちらに来たいんでしょ?』

「はい、解りました、それでは後程、失礼致します」


 電話を切ると気を入れ替え千代美は京急の連絡通路を目指し移動を開始した。


 指示通り京浜急行の快速特急に乗って驚いた。
 その名の通り驚く程早くて停車駅も少ない。
 それなのに別料金も取られる事は無かった。
 実際聞いていた通りあっと言う間に電車は横須賀中央に着いてしまった。


 指定された西口改札口を抜け周囲を見回す千代美に、ダークグレーのビジネススーツにベリーショートの髪型が良く似合う女性が声を掛けて来る。


「あなたが安斎千代美さんね、私が先程電話でお話しした横須賀警察署の敷島英子(しきしまえいこ)です、今日は本当に大変だったわね」

「あ、ハイ、私が安斎です、お忙しいのにすみません」

「いいのよ、気にしないで」

「はあ…あの、でもなんで私の事が分かったのですか?」

「んふふ、だってあなたもそれなり有名人じゃない、何度となく月刊戦車道であなたの名前と写真を目にしているわ」

「あ……」

「さあ、今はとにかく車に乗って頂戴、話はそれからよ」


 迎えがパトカーだったらちょっとイヤだなと思ったけど、幸い来ていたのはセダンタイプの普通乗用車の覆面パトカーで少しほっとした。


「安斎さんは私と一緒に後ろに乗りましょう、あ、シートベルトを忘れずにね」


 後部座席に一緒に乗り込みシートベルトの装着を確認すると、敷島さんがドライバー役の刑事さんに車を出す様指示を出す。


「いいわ、伊藤君出してちょうだい」

「はい、了解です」


 車列の合間に覆面パトカーが滑り込み駅のガードを潜り三叉路の右折レーンに進む。


「私もね高校まで戦車道をやっていたのよ」

「え?」

「私、知波単に居たのよ、これでも三年の時には隊長を務めさせてもらっていたわ」

「え゛?え゛ぇ゛ぇ゛~!?」


 思わぬ処で衝撃的な事実


「えぇ、毎日ひたすら吶喊していたわ」

「は、はぁ…」

「それにね、私は臨海中のOGでもあるの」

「!」

「だから厳島さんは私にとっては可愛い後輩よ…‥」


 若干敷島刑事の声のトーンが落ちる。


「そ、それでラブの、いや恋は今何処の病院に居るんですか?」

「あら?あなた達仲間内ではラブって呼んでるんだ…そうね予定変更、伊藤君悪いんだけど署には戻らず一度新港総合病院に寄ってくれる?」


 今度は無言で頷く伊藤刑事。
 覆面パトカーはそのまま病院に向け夜の横須賀市街を進んで行く。


「あの‥ラブは今どんな状態なんでしょうか…?」


 正直これを聞くのはとても怖い。


「私達も初動からそのままなので詳しい事はまだ何も…でもとても危険な状態な事だけははっきりしているの、でもね安斎さん、あなたが冷静に対処していなかったら厳島さんは間違い無くあの場で命を落としていたわ」


 予想は付いていた事でも改めて聞かされると全身が硬直してしまう。
 思わず握りしめた膝の上の拳に、察した様に敷島がそっと手を乗せ優しく包んでくれる。


「だから安斎さん、あなたは自身の行いに誇りを持っていいの、そして今は厳島さんの強さ、心の強さを信じて彼女の無事を祈りましょう」

「ハイ…」


 ぎゅっと瞑った目じりからひとすじの涙が零れ落ちる。
 拳に重ねられていた敷島の手が今度は優しく千代美の頭をひと撫でする。


「あなたも強い子なのね、さあ、もう少しで病院に着きますからね」


 その言葉に顔を上げ前を見るとフロントウィンド越しに、大きな総合病院の建物が夜の闇の中に照明に照らし出され少し不気味にそびえ立っているのが見えて来た。






敷島刑事は今後も是非使いたいキャラクターになりました。

それと書いてて気になったんですが、
新幹線は時期的にこの頃品川に留まる様になってたのかな?

次の投稿はまた週末ぐらいかそれとも週中頃に出来るかな…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話   そして一日が終わる

予定より早く加筆修正が終わったので最新話をお届けします。

最初は名も無い一刑事のはずだった敷島刑事。
更に作者の想像を超えた存在になりました。


「まずいわね…」


 病院の敷地に近付くと敷島さんがそう呟いた。


「あの、何がまずいんですか?」


 そう問い掛けると敷島さんが少し難しそうな顔をして答える。


「マスコミよ、もう嗅ぎ付けて集まり始めてるわ、事件担当で何人か知ってる顔が居るわ」

「え?マスコミ…ですか?」

「ええ、現場の演習場にかなりの数の消防の車両が入ったし、当然今も封鎖中ですからね」


頤に拳にした右手の人差し指を当て考え込む敷島刑事。


「遅かれ早かれマスコミが来るのは分かっていたけれど…いいわ、伊藤君、車を裏手の職員通用口に回してちょうだい」


 敷島刑事は千代美の方に向き直り言う。


「マスコミもあなたの存在に気が付けば、取材に殺到するのは目に見えているから、何としてもそれは避けなければならないわ」

「…すみません」


 図らずも蝶野が危惧していた事が現実味をおびて来ている事を実感させられる。
 そうこうするうちに車は裏門から病院敷地内に滑り込み職員通用口に辿り着く。


「ちょっと待っててね、ここから入れる様手配してくるから」


 そう言うと敷島刑事は入り口にある守衛室に向かう。


「いいわ、許可は貰ったから行きましょう、伊藤君はひと足先に署の方に戻っててくれる?」

「伊藤刑事ありがとうございました」


 千代美は礼を述べ足早に通用口から病院内に隠れる様に滑り込んだ。



 病院特有の臭いを嗅ぐと否が応でも緊張感が高まってしまう。
 手術室近くのベンチに腰掛けるとそれを吹き払う如くひとつ小さく溜め息を吐く。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 敷島刑事がミネラルウォーターのペットボトルを差し出して来る。
 今になって気が付いてみれば口の中がカラカラだ。


「厳島さんの手術はまだ続いてるそうです、そして後どれ位掛かるかも、まだ全く見通しが立たない状態だそうよ」

「そうですか…‥」


 また目頭に熱いものが込み上げて来る。


「ラブ…」


 左隣に座った敷島刑事が千代美の小さな肩をそっと優しく抱き寄せ言う。


「本当に大事なお友達なのね」

「…!う、うあぁぁぁーっ!!!」


 遂に堪え切れなくなり泣き声を上げる千代美。
 その大きな瞳から流れ出る大粒の涙の雫が大きな丸眼鏡のレンズを濡らす。


「ごめんなさい、余計な事を言ってしまったわね」

「いえ…すみませんでした…」


 少し落ち着いたのを見計らって声を掛ける敷島刑事。
 千代美も時々しゃくり上げつつも答える。


「それでね、安斎さん、本来なら署の方で話を聴くべきなんだけど、まだあなたもここを離れたくないでしょうからここで少し事故発生時の状況を教えて貰えないかしら?」

「ええと…」


 千代美は覚えている限りの事を、時々考え込みつつも敷島刑事に伝えた。


「そう、解りました…ただね、暴発の瞬間というかその直前の事をもう一度確認したいの」


 手早く手帳に書き込む手を止めそう問うて来る敷島刑事。


「安斎さんは会話の後ろで装填音を聴いているのね?」

「はい、音だけでの判断ですが、おそらく榴弾を押し込み閉鎖機が閉まるか閉まらないかのタイミングで暴発したのではないかと私は考えます…」

「それでか…いえね、爆発の規模に比べて砲塔内の被害はあまり大きくないの、もっとも閉鎖機は吹き飛んでいたんだけど…」


 ひとつ息をつき敷島刑事は話を続ける。


「私は今日たまたま当直明けで自宅で休んでいて、うちの署に戦車に詳しい者が私しか居ないものだから直接現場に向かったのよ。そして簡単にだけど砲塔内部を確認して現段階での検証の中止を決定したの。何故ならまだ十数発の砲弾が残ってるの、あれが誘爆を起こさなかったのが不思議な位だわ」


 そこまで話すと自分もミネラルウォーターで喉を潤し更に話を続ける。


「残念ながら警察の力では残ってる砲弾の処理は出来ないの、それで陸自に連絡して今は処理班待ちという状況よ。おそらく作業は明日になってからになると思うの、だから今夜一晩は現場周辺非常線を張って現状維持というのが精いっぱい」


 敷島刑事の表情には少し忸怩たる思いが滲み出ている。


「それにしてもあの状況下で救助作業に従事したハイパーレスキューの隊員には頭が下がるわ、それに引き替えうちの署の男どもと来たら、私が現状確認した時まだ砲弾が残ってる事を伝えたら腰が引けて遠巻きに見てるだけなんだもの。これが知波単なら鉄拳制裁モノよ」


 それはさすがにと思ったが千代美もそこは敢えて口には出さない。


「そうなんですか、それではラブのパンターは演習場にそのまま…」

「ええ、マスコミのヘリの事もあるから一応ブルーシートで覆ってはいるけれど」

「…あのパンターは、ラブのパンターはお母さんの形見なんです……」

「え?どういう事?」

「厳島流ってご存知ですか?物凄く人数の少ない流派でラブはその家元の家系でも直系なんだそうです。尤も殆ど身内だけで受け継いで来た様な流派と言ってましたけど、その厳島流で代々受け継いで来た物だそうです。それでラブの両親は彼女が幼い時に亡くなっていてラブはよくママのパンターって呼んでいたんです」

「いえ、そういう事では無くて彼女のお母様とはあなたに電話する少し前に連絡が着いているわよ。何でも今は仕事でアメリカに居るそうで直ぐに社用機で日本に戻ると仰ってらしたわ」

「それはいったい…‥?」


 ちょっと訳が解らない……。


「まあこれに関してはお戻りになられれば解る事でしょう。それより安斎さん、あなた今夜の宿のあてはあるのかしら?こちらに来た経緯を考えるとそうは思えないんだけど」

「それは…今夜は病院に詰めて長くなるなら改めて考えようかと……」

「やっぱり…」


 敷島刑事は溜め息をひとつ吐くと呆れた顔をしつつこう続けた。


「いくらなんでも中学生の女の子一人にそんな事させられないわ。決めた、安斎さん、あなた今夜は私の部屋にいらっしゃい、独り者の部屋でたかが知れてるけれどあなた一人位なら何とでもなるわ」

「いや!そこまでご迷惑を掛ける訳には!」

「知波単の元隊長、戦車道の先輩として言わせてもらうわ。駄目」

「そんなぁ…」

「気持ちは解るけど駄目よ。手術もいつ終わるとも解らないし、第一そんな疲れた顔をしていてあなたまで倒れたらどうするの?私は一度署の方に戻らなければいけないし、警備が居るとはいえいつマスコミの連中が院内に潜り込むか解らない。そんな場所にあなた一人を置いておく訳にはいかないわ。もうこれは命令よ、私の部屋に泊まりなさい、病院の方には何かあった場合時間に関係無く私の方にまず連絡を貰える様手配しておくから」

「はい…解りました‥それではお言葉に甘えさせて頂きます」

「ヨシ!」


 敷島刑事は笑顔になってそう言うと夜間救急受付窓口に向かって行った。


「お待たせ、ついでに署にも連絡しておいたから迎えも直ぐ来るわ」

「それではそれまでに私も家の方に連絡して来ます」

「あぁ、それは大丈夫、私の方から署に掛けるついでにしておいたから」

「え?家の番号解るのですか?」

「少し説明が足りなかったわね、あなた自宅から通報したでしょう?だから最初お家に電話して出られたお母様にあなたの携帯番号頂いたのよ。尤もこちらに向かってるのまで聞いて無かったから私も驚いたけどね」

「何から何まですみません」

「そんな気にしなくていいわ、さあ、もう迎えも着くから通用口に行きましょう」


 そして警察署に戻った敷島刑事は簡単な報告を済ませると私を連れ駐車場へ向かった。


「さあ、乗って頂戴」

「コレって…」


 敷島刑事が示した車は赤のフィアットのチンクエチェント。
 こう言っては失礼だけどちょっと刑事さんが乗る車には思えない。


「ふふっ、横須賀って狭い街でしょ?小回りの利く車の方が便利なのよ、って言うのは言い訳でこれはまあ私の趣味なのよね」


 正直これは意外だったけどよく見れば颯爽とした敷島刑事に良く似合った車だった。


「さて、これで帰る訳だけどその前に何か簡単に食べられる食料を調達した方がいいか」


 そう言うと赤いチンクエチェントは市街地に向け走り出す。
 途中車内では着替え等あるか聞かれたが簡単な物は持って来たと言うと、それはそれでまたやる事がどうにも少しチグハグだと呆れられた。
 そして途中のお弁当屋さんでお弁当を買った後、車は敷島刑事のマンションに辿り着く。


「さあ、狭いトコだけど遠慮しないで入って頂戴」

「はい、お邪魔致します」

「そんな堅苦しい挨拶はしなくていいわよ」


 敷島刑事の部屋は手入れの行き届いた落ち着いた雰囲気の大人の女性の部屋だった。
 本棚はきちんと収納され小説も随分と並んでいる。


「あら?何か気になる本でもあるのかしら?」

「い、いえ、その、私趣味で小説を書いているのでつい…」

「へえ!凄いわね!一度読んでみたいわ」

「そんな!恥ずかしいです!」

「それでどんな小説を書いているの?」

「そ、そのぅ…れ、恋愛小説とか…」

「まあ!可愛いわね~♪」


 恥ずかしくて顔が赤くなっているのが自分でも分かる。


「さあ、取り敢えずお話しはこれ位にしてまずは腹ごしらえをしましょ」


 食べている間は敢えて特に話もせず食べる事に専念した。
 今日は色々あり過ぎて食べ切れないかとも思ったけど、やはり体が消耗していたのか買って来た親子丼はしっかり完食してしまった。


「うん、ちょっと心配だったけど食べられた様で良かったわ」

「はい…」

「人間食べられれば何とかなるわ、さあ仕度してあげるからお風呂に入りなさい、疲れているだろうから面倒かもしれないけど湯船に浸かって少しでも疲れを取るの。そして明日に備えて休みましょう、明日は私は非番だしちょっと署に顔を出すけど、さっき署で聞いた話だと陸自も明日はまだ準備段階で残りの砲弾の取り出しも出来ないらしいわ。だから明日は概ねあなたに合わせて動いてあげられるから」

「そこまでして頂いて本当に…‥」

「ほら、もう泣かない、さあお風呂お風呂!」


 その後交代で入浴し用意して頂いたお布団に潜り込むと部屋の灯りが消される。


「千代美さん」

「はい?」

「あなたは本当によく頑張ったわ、あなたのその頑張りを私達も決して無駄にしない様捜査にあたります。これは警察官としての私の偽らざる気持ちです」


 敷島刑事から蝶野教官と同様の労いの言葉を掛けられる。


「ハイ…ハイ…‥」


 千代美の頬をまたひと筋の涙が伝い落ちる。
 そしてこの悪夢の一日がようやく終焉を迎えた。





ついに厳島流の名が登場致しました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話   それでも夜は明ける

今回はチョビ子がコンタクトにツインテールになる切っ掛けを捏造してみました。

因みに作中登場するプチトマトのサラダは作者が良く作る、
好物の酒のつまみです。


 もう夏も近く夜が明けるのも随分と早くなって来ている。
 結局私は昨夜一睡もする事が出来なかった。
 疲れ切っているのに目を閉じると頭の中に、今も苦しんでいるであろうラブの姿が浮かんでしまい結局そのまま朝を迎える事になってしまった。
 布団の中でひとつ小さく溜め息を吐いたその時。


「眠れなかったのね」


 隣で寝ている敷島刑事が声を掛けて来た。


「あ、おはようございます敷島さん」

「うん、おはよう安斎さん、まぁ、あんな事の後では無理もないか」

「敷島さんはよく寝ていらっしゃいました」

「あはは、私の場合職業柄気が付いたら、寝られる時はどんな場所でもしっかり寝られる様になってしまっていたわ」


 そう言うと起き上がりひとつ伸びをしてこう続ける。


「さて、少し早いけど起きて朝ごはんにしましょうか?安斎さん今朝は食欲ある?ちゃんと食べられるかな?」

「少し胃が重いです…」

「徹夜しちゃったもんねぇ…何か胃に優しい物でも作るか」

「あ、あの…私に作らせて頂けませんか?」

「あら?お客様にそんな事はさせられないわ」

「いえ!これだけお世話になってせめてそれ位させて下さい」


 敷島刑事は腕を組んで少し考えた後こう答える。


「う~ん、分かったわ、それじゃあお言葉に甘えようかしら」

「はい、ありがとうございます」


 苦笑しつつも更に言う。


「やってもらうのにありがとうも無いもんだわ、冷蔵庫の中の物は好きに使ってくれて構わないからね」


 私は取り敢えず顔だけさっと洗った。
 その時見た自分の目はかなり赤く充血していて、昨日は泣き過ぎたと自分でも思う。
 寝間着代わりのTシャツにショートパンツのままキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見て何を作るか考える。


「卵はある、あと塩鮭とお豆腐があって野菜室にはプチトマトか」


 結局私は甘めの玉子焼きに塩鮭を焼いてお豆腐のお味噌汁を作る。
 プチトマトは半分に切りオリーブオイルとパルメザンチーズをさっと降り掛けた。
 それらを作るうちにご飯も炊いておいたが炊飯器は急速炊飯も出来る良い物で、これは私もちょっと欲しいと思った。


「これは美味しそうねぇ♪見ていて手際も良かったし」

「その…小さい頃から母に仕込まれました」

「素晴らしいお母様ね、それでは頂いていいかしら?」

「お口に合うと良いんですが」


 朝ごはんを頂きつつ点けてあるテレビのニュースを見ていると、昨日の件はまだそれ程詳細は報道されてはいなかった。
 演習場で爆発事故が起きたらしい事、負傷者が出ている事、陸自の不発弾処理の部隊が出動している事、ただし演習場が広いので周辺に避難指示は出ていない事。
 これは昨夜交代で入浴中に見たニュースと殆ど内容に変わりは無かった。


「ふぅ、とっても美味しかったわぁ♪」

「お粗末さまでした」

「お母様の仕込が完璧なのね、私が作るより遥かに美味しかったわ」

「そんな…」


 そんなやり取りの後お茶を入れつつ今日はどう動くのか聞いてみる。


「まずは申し訳ないけど署の方に一度顔を出します、現場の方は交代で周辺警備と臨時の詰所にいる連中に任せておけばいいから、その後は病院にずっと居られるわ。何しろ残っている砲弾も弾薬架が歪んだりで取り出しにも相当時間が掛かる様だし」

「夜中も眠れなくて考えたのですが、私は病院に送って頂ければ充分ですのでそこまで付き合って頂くわけには…」

「安斎さん…あ~、もう千代美ちゃんって呼んでいい?」

「はあ‥」

「ここまで来てそんな事はもう言いっこ無しよ」

「でも」

「それにね千代美ちゃん、おそらく今日には厳島さんのお母様も到着されるはずだわ、その時私が病院に居た方がその後の対応が取り易いと思うのよ」

「解りました、そういう事でしたら今日も宜しくお願いします」


 そうと決まれば後は出掛ける仕度をするだけ。
 少ないとはいえ持って来ていた衣服に着替え、髪を梳かし三つ編みを編み直す。


「そう言えば千代美ちゃんっていつも三つ編みなの?他の髪型は?例えばそうツインテールとかどう?それで眼鏡からコンタクトに変えたりしたら、千代美ちゃん可愛いから間違い無くあなた引く手数多よ♪」

「そんな…からかわないで下さい‥コンタクトもまだ早い気がするし…」

「あ~、アレか、千代美ちゃん自分が可愛い自覚が全然ないんだ~」

「…‥」


 そうこうするうちに身支度も整い、二人はマンションを出て敷島刑事のチンクエチェントに乗り込むとまずは横須賀警察署に向かう。


「あ、そういえば学園艦にも私を待たず出港してもらう様連絡しておかないと」

「あぁ、それなら問題ないわ。昨日千代美ちゃんが入浴中にお母様に電話して、学園艦への連絡をお願いしておいたから。警察への協力という事で学校の方も欠席扱いにならない様頼んでおいたから安心して」


 敷島刑事がやる事は万事に措いてぬかりが無い。
 そして車も警察署に到着する。



「敷島君捜査状況に関してなんだがね…」


 年かさの上司らしき人物が敷島刑事に話し掛けて来る。


「それでしたら現段階では昨日上げておいた調書以上の物はありません、現場も陸自の処理待ちな上、関係各位には初期段階で安斎さんからの連絡で初動が完了しています。後は本庁による弾薬製造元への捜査の開始待ちです。私の方は病院の方で厳島さんのお母様の到着を待たねばなりません」

「あぁ、しかしだね…」

「課長、私は本来今日は非番なんですよ、そもそも昨日も当直明けに戦車というだけで現場に呼び出され初動にあたっているんです。私に四の五の言う前に現場で私を呼び出したへっぴり腰どもをもうちょっと何とかしてくれませんかね!?」

「あ…まあその何と言うかそのもうちょっと穏便な…」

「何か!?」


 最後は視線で課長を黙らせる敷島刑事はどうやらこの課全体を尻に敷いている様だ。


「敷島刑事凄い…」


 思わず千代美もそう呟かずにはいられない。
 その後いくつかの用を済ませた敷島刑事は千代美に宣言する様に声を掛ける。


「ヨシ!それじゃあ病院に行こう千代美ちゃん」


 そして再び乗り込んだチンクエチェントは走り出す、恋の元へ。



気が付けば随分お気に入りが増えていてびっくりです。
読んで頂けているのが解ると執筆の励みになりますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話   記憶と困惑と

今回は何となくいつもの面々が登場します。
誰が誰かはまあすぐに解っちゃいますね。

それと舞台にしている地元アピールも抜かりなく。


病院に向かう車の中で運転中の敷島刑事が不意にこんな事を言って来た。


「ねぇ千代美ちゃん」

「はい、何でしょう?」

「私は千代美ちゃんって呼んでるのに私の事は敷島刑事とか敷島さんってさあ…」

「…‥」

「千代美ちゃん?」

「ええと‥え、英子さん?」

「ありがと」


 英子さんはにっこりと微笑むと病院前の交差点を右に舵を取る。


「あ~、やっぱり昨日よりマスコミの数が増えてるわねぇ…」


 病院の方を見やれば正門付近は脚立や中継車が並び、通院患者であろう歩行者も迷惑そうにそれを避ける様に歩いているのが見える。
 病院敷地内へは警備員が規制線を張り患者と関係者以外入り込まぬ様にしている様だ。


「千代美ちゃん、用心の為良いと言うまで頭を下げていてくれる?昨日と同じ様に車を裏手の職員用通用口に回すから」

「はい」


 私が耐衝撃姿勢よろしく頭を下げると車は正門前を通り抜け裏手に向かう。


「もういいわ、さあ行きましょう」


 昨夜同様に通用口を抜け手術室のある病棟への床の指示ラインを辿る。
 エレベーターに乗り英子さんが階数のパネルにタッチして病院特有のスピードで扉がしまると指定した階に向けエレベーターは上昇を開始した。
 ストレッチャーごと乗れる様になっているエレベーター、こんな処もまた不安感を煽って来る気がしてこの僅かな時間すら心に苦痛を与えて来る。



「やはり手術はまだ終わっていなくてまだまだ時間が掛かるそうなの」

「そんな…」


 手術開始から既に二十時間近く経過している、そして更に時間が掛かるという事がそれだけ恋が負った傷の深さを指し示していた。


「千代美ちゃん、手術患者の家族用控室をひとつ借りてあります。まずはそこに腰を落ち着けましょう、話はそれからよ」

「分かりました英子さん」


 新しい病院だけあって狭いながらも個室になっている家族控室は設備が整っていた。
 専用のトイレに仮眠も取れる様なソファー、ミニシンクには電気ポットとミニ冷蔵庫も置かれている。
 二人はソファーに並んで腰掛けた。


「あのね千代美ちゃん、厳島さんなんだけどやはり全身に飛散した金属片を浴びてしまっているの。それらの摘出に時間が掛かっているそうよ。尤も命に係わる重大な物は既に摘出を終え今はそれ以外の部分の処置をしているそうなの」

「…‥」

「それとね、これは伺った時に聞いたのだけど彼女ドッグタグをしていたそうで直ぐに血液型が分かり搬送段階で連絡して迅速に輸血準備が出来たらしいわ」

「!!」


 それを聞いた瞬間自分の胸元を両手で抑え込む千代美。


「私の頃はそんな事しなかったけど今の子はみんなそうなのかしら?」

「それは!…そのドッグタグは…前に横須賀で合同練習をした時に‥みんなで記念にとドブ板通りに行って作った物なんです!」


 胸元から自分のドックタグを取り出し指し示す千代美。


「そうだったの…でもそれが彼女を助ける一助になったのね」


 千代美の脳裏にあの時の思い出が一気に蘇る。
 初めて見た記念艦三笠と南極観測船しらせ。
 ベース前でかじったアメリカンドックやソフトクリーム。
 ドッグタグと同様にお揃いで買ったダサいスカジャン。
 あの時はみんなが居た。
 ひとつひとつ全てが大事な思い出だ。


「う、うぅ…ラ、ラブぅ‥早く帰って来ておくれよぅぅっ!」


 今日もまた千代美の目から大粒の涙が零れ落ちる。


「千代美ちゃんごめんなさい!私の配慮が足りなかったわ」


 千代美を抱きしめ謝罪する敷島。


「本当にごめんなさい、昨夜だって一睡もしていないのに本当にごめんなさい」


 千代美の背中をあやす様に軽く叩きつつ更にこう言う。


「まだ先は長いから今はここで少しでも休みましょう」


 どうにか少し落ち着いた千代美は軽く頷くとソファーにその身を預けるのだった。




 胸の大きな金髪の少女と長身にショートヘアにそばかすの少女が、アメリカンドッグにかじりついて貪る様に食べている。
 それに対して金髪を編み込んだ少女が自身も二つめのソフトクリームを舐めながら、もっと品良く食べろとたしなめる。
 同じく隣に居たロングの金髪をリボンで纏めた少女は、口元に手のひらを当てて呆れ顔で驚いている。
 そしてそれは私に言っているのかと、えらく小柄な少女がケチャップで口の周りをベタベタにしながら噛み付く。
 その少女の横には長身でロングヘアの黒髪の少女がしゃがみ込んで、ナプキンで小柄な少女の口の周りのケチャップを拭いている。
 それを見やりながらやれやれなどと言いつつ焦げ茶でショートヘア、精悍な顔立ちの少女は三本目のアメリカンドッグを買っている。
 そしてその後ろでは似た様なヘアスタイルで栗色の髪の大人しげな顔立ちの少女が、お姉ちゃんも食べ過ぎだとあわあわしながら抗議の声を上げている。


 私の隣ではそれを見ながらガードレールに腰掛けた、燃える様な赤いロングヘアの少女がソフトクリームを舐めつつケラケラと指をさしながら笑っている。



 記憶…思い出…夢…。

 夢…私は夢を見ているのだろうか?

 そんな酷くぼんやりとした感覚の中に身を置いている私の耳に、何かを打ち付ける様な音が
近付いて来るのが聴こえる。
 私は眠っていたのだろうか?あれは夢だったのか?
 少し意識が浮上して来たその時。


 扉の向こうで近付いて来た音が止まる。
 どうやら足早なヒールの足音であったらしい。
 そして『こちらです』という声の後扉をノックする音がする。


「どうぞ」


 英子さんがそれに応えると扉が開き一人の女性が入室して来た。
 私はその女性を見た瞬間驚いて立ち上がってしまった。


「え!?そんな!?…どう…‥なんで!?」


 そして今度は立ち上がった勢いそのままに今度は床にへたり込んでしまった。



高評価を頂いている事に驚き。
お気に入りもどんどん増えてて更に驚き。

それにしてもキリの良いトコで切ると話の尺の長さににばらつきが出ますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話   mother

恋のお母さん登場。

まあ…ありがちな展開です。


 ラブが、恋が居る…今、私の目の前に前に恋が居る。


「ちょ、千代美ちゃんしっかり!」

「お嬢さん大丈夫ですか?」


 ラブが…いや違う!ラブによく似た女性が私に歩み寄り手を差し伸べて来る。
 その手を借り立ち上がった私と英子さんに深々と頭を下げこう言った。


「申し遅れました、私が恋の母、正確には伯母の厳島亜梨亜(いつくしまありあ)と申しますこの度は仕事とはいえ私が外地におりましたので、大変なお手間をお掛けいたしました」

「…伯母…様?」

「はい、私はあの子が幼き頃に他界した生みの親、厳島麻梨亜(いつくしままりあ)の双子の姉、厳島亜梨亜と申します。見ての通りよく似ているので驚かせてしまったようですね、申し訳ございませんでした」


 そう言うと再び深々と頭を下げる亜梨亜。


「これまで姪として恋を育ててまいりましたが、私の事業がこれ以上忙しくなる前にとこの春に正式に恋を養女として迎え入れましたので」

「そういう事情でしたか、立ち話もなんですからこちにお掛けになって下さい」


 英子さんが亜梨亜さんにソファーを進める。
 それにしても驚いた、似ているなんてもんじゃなかった。
 生き写しってこういう事を言うんだと思う。
 でもお母さんの双子のお姉さんという事ならそれも納得だ。
 それにしても今のラブだってとても美人だが、きっとラブが大人になったら亜梨亜さんみたいな美しい素敵な女性になるのだと考えたらまたちょっとドキドキした。


「あなたが安斎さん、安斎千代美さんでいらっしゃいますね?」

「ハ、ハイ!私が安斎千代美です!」

「千代美さん、千代美さんと御呼びしても宜しいかしら?」

「か、構いません」

「ありがとうございます」


 そう言うと私に向かい亜梨亜さんは深々と三つ指を付く様な形で頭を下げこう続けた。


「この度は娘の恋の為奔走して頂いたとの事、恋になり代わり礼を申し上げさせて頂きます。千代美さんのお働きが無ければ恋はその場で命を落としていた事でしょう。このご恩は親子揃って生涯忘れません、本当にありがとうございました」


 そして再び頭を下げる亜梨亜。


「そんな!どうかお手をお上げ下さい、私は友達として当然の事をしただけです」

「恋はとても幸せな子なのですね、こんなにしっかりしたお嬢さんが友人に居て」

「ええ、私も昨日から一緒に居て、この年齢でこれ程の子はそうは居ないと思いました」

「ちょ!英子さんまで止めて下さい!」


 英子さんの言葉に思わず私は狼狽えて声を上げてしまう。


「あら?本当の事よ、大の大人でもあなた程の思考と行動は簡単には出来ないもの」

「何とかしなきゃと思って突っ走っただけなんです…」


 その後千代美と英子はこれまでの経緯を途中売店で購入して来た軽食を取りつつ、順を追って亜梨亜に説明する。
 そしてそれが如何にタイトロープオペレーションであったか改めて痛感するのであった。


「…そうでしたか、千代美さんには改めて感謝しなければなりませんね」

「伯母様、どうかもうこれ以上は…」


 そんなやり取りがあって暫くして、遂に恋の手術が終了したとの知らせが来る。
 時間は既に手術開始から二十五時間が経過していた。


 手術室の前に行くとラブを横たえた寝台が搬出されて来る処だった。
 そしてそのままICUに入るのだという。
 ちらりと見えたラブの姿…。
 包帯にネットにテープに全身を覆われている様だった。
 酸素吸入、点滴や医療機器が繋がれた痛々しいその姿。
 そしてどう見てもあの美しい深紅の長い髪は無残に切り取られている。


「く、うぅ…‥」


 横に居た英子さんが私の肩を抱き寄せてくれる。


「厳島恋さんのご家族の方は?」

「はい、私です」


 手術室から出て来た看護師さんからの問い掛けに亜梨亜さんが応える。


「執刀医からの説明がありますのでこちらにお越し下さい」

「それでは我々は先程の控室に行っておりますので」


 英子さんはそう言うと私の手を引き手術室を後にした。
 控室に戻った私達は暫く無言で再びソファーに並んで腰掛ける。
 そしてその沈黙を破る様に英子さんが重い口を開く。


「ねえ、千代美ちゃん」

「はい、何でしょう英子さん」

「明日以降の事なんだけどね、陸自の処理が終わらない事にはどうにもならないけど、明日からは私も捜査に戻らなければならないの。それに千代美ちゃんも捜査協力という事にしても、そういつまでも学校を休めないでしょ?」

「はい、夏の全国大会も目前ですし…」

「それでね、今夜はもう一晩私の部屋で過ごすとしても明日には一度戻るべきだと思うの。あなたのお母様も心配しているでしょうしね」

「はい…私もそうするべきだと思います」


 そう、私もいつまでもここに居られないのは事実だった。
 期末試験、中学生活最後の夏の全国大会。
 今年こそ、今年こそ黒森峰の西住を持てる全力で叩き潰す!
 その為に隊長としてやらねばならぬ事は山ほどあるのだ。
 そしてその先にある未来の事。
 進路…夏の大会が終わったら答えを出さねばならない。
 時間、残された時間はもうあまり無いのだ。



 進路…未来…時間…‥ラブの未来はどうなってしまうのだろう…‥。



 そんな事に思いを巡らせていると、控室に亜梨亜さんが戻って来た。


「大分お待たせしてしまいました。ドクターからの状況説明と、今後の治療方針の説明に時間が掛かりましたので」

「それでそラブの‥あ!ごめんなさい!私達仲間内では恋さんの事をそう呼んでいたので…」

「構いませんよ、あの子もそう呼ばれるのを喜んでいましたから」

「そ、そうですか。それでラブの容体はどうなんでしょう?」

「まず目の前にある命の危機は脱したそうです、当然予断を許さぬ状況ではありますが」


 それを聞いた途端全身から力が抜けてその場にへたり込みそうになったがどうにか堪える。


「怪我に関しては何分状況が状況なので詳しくは控えさせて頂きますが、ドクターのお話しでは一つ一つの小さな事が恋の命を救ったそうです」


 亜梨亜さんが聞いた話を纏めると、試合用のパンツァージャケットにミニスカートではなく作業用の難燃性のツナギを着ていた事、装填手用のグローブをしていた事、そういった小さな積み重ねが恋命の細い糸を断ち切る事無く繋ぎとめたのだという。


「それに何より千代美さん、あなたの的確で迅速な通報が一番大きかったわ。先程伺った経緯をお話ししたら、そんな事が出来る中学生が居るのかとドクターも大変驚いていましたよ」


 そう言った亜梨亜さんが私の横に座り、私を抱きしめた。


「ありがとう…本当にありがとう千代美さん!あなたの、あなたのお蔭で娘の命は失われずに済みました!どれだけ感謝の言葉を言っても足りません、本当に…本当に!」


 亜梨亜さんの頬を涙が伝うのが分かる。
 英子さんも口元を手で覆い顔を少し背けて居る。


「わ、わたし、私…役に立てたんだ…ラブの役に立てたんだ!」

「えぇ…ええ!」


 もう何度目か解らない涙がまた私の目から溢れ出したのだった。





ここまでで思い付いた設定を差し挟みつつ来たら、
前提になる話が既に当初予定の倍近くまで長くなってしまいました。

でも当初のままだと話が相当スカスカだったと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話   臨界点

今回と次回はちょっと暴力的な内容になります。
その内容もどうかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも物語的に外せないしあくまでも物語の中の話という事で、
まほが悪い子でない事はみなさんも御存じの事ですしどうかひとつ。

更に今回は西住と厳島の関係性も少し垣間見えます。
それと英子さんの新たな一面とそれに絡む亜美さんも。


「それで今後の事なのですが、これだけお骨折り頂きながら大変申し訳ないのですがICUに入って居る事もありまだ当分家族以外の面会が出来ません。それに手術もこれで終わりではなくまだ何回かに分けて行わなけねばならないそうで」


 改めて亜梨亜さんから聞かされたラブに課された現実はとても重いものだった。
 戦車に乗る事はおろか学校への復学すら年内には叶わないであろうとの事。
 それが何を意味するか誰にだって解る。
 現実、突き付けられた現実…こんなにも理不尽な現実。
 中学最後の全国大会、みんな揃って笑って泣いて。
 でもそこにラブは居ない。
 秋が来て冬が来て、そして春が来きてその先に広がる新しい世界。
 そこに果してラブの姿は無い。
 こんな現実は…こんな現実なんてあんまりじゃないか…。
 

「千代美さんこれ程ご尽力頂きながら面会も叶わずごめんなさいね、恋の意識が回復し容体が安定してから改めて会いに来てやって頂けますか?」

「勿論です、その日が一日でも早く訪れる事を祈ります」


 でも、それが叶う事が無いなどと誰もこの時思いもしなかった。


「それでは申し訳ございませんが入院手続きに必要な物を、自宅に一度取りに戻らねばなりませんので、本日の所はこれにて失礼いたします」

「そうですか、私達もこれ以上ここに留まる訳にはいきませんので下までご一緒致します」


 英子さんがそう言うと私達も荷物を纏め控室を後にする。
 エレベーターを降りた所で亜梨亜さんと別れの挨拶をし、英子さんは一度署に電話をすると病院の外に出て行った。
 私はといえば英子さんが戻る前に、少しすっきりしたくて顔を洗おうと化粧室に行く。
 顔を洗いタオルハンカチで拭う、そして鏡に映る顔を見やる。
 酷い顔だ、憔悴という言葉が頭に浮かぶ。
 日曜の昼過ぎまで呑気に過ごしていた自分と同じ顔だとはとても思えない顔だ。
 思わず頬を両の掌で叩いてしまう。
 取り敢えず無理矢理それで気持ちを切り替えた事にして、ロビーに行き電話をしに外に出た英子さんを待っていたその時。


「安斎!」


 不意に私を呼ぶ声がする。
 その声のした方を見やれば見知った顔が揃っていた。


「あ…‥に、西住…」


 声の主西住まほを始め他の面々が私の元に足早にやって来る。


「おまえ何時から此処に!?お前だけ全然携帯が繋がらなかったんだぞ?」

「あ、あぁ、すまない…ずっとその電源を切ったままになっていて…それよりそのお前達はどうしてここに…?」

「私達もニュースを見て、でも詳しい事が何も報道されなくて、それでラブに電話しても全然繋がらないし。それで臨中の副長に電話したら最初言葉を濁してたけど、ニュースに出てたのはラブの事だとやっと答えてくれてそれでみんな待ち合わせてここに来たんだぞ」

「そ、そうか…そうだよな」

「…おい安斎」

「なんだよ…」

「もう一度聞くがお前いつから此処に居たんだ?」

「その…事故のあった日の夜には…‥」

「おい!ふざけるなよ安斎!知っていたなら何故直ぐに連絡寄こさなかったんだ!?」


 不意に西住のヤツが私の胸ぐらを掴んで強引に立たせる。


「お姉ちゃん!?」

「まほさん!あなた一体なんのつもりですの!?」


 そんな声も無視して西住は続ける。


「答えろ安斎!西住と厳島が親戚筋だってのは、お前だって知らない訳じゃ無いだろう!?それなのにお前だけ知っていて何故直ぐ教えなかったんだ!?」

「く、苦しいよ、その手を離せよ…」

「答えになって無い!どういう事なんだ!答えろ安斎!」

「仕方…仕方なかったんだよ…‥わ、私だって直ぐに‥知らせたかったんだよ…だ、だけど出来なくて…勘弁してくれよぅ‥も、もう許してくれよぅ……」

「オイッ!貴様!そこで何をやっている!」


 低く鋭く英子さんの声がする。
 視界の隅に見えたその表情は凛々しくも優しさを湛えた英子さんでは無く、見る者を凍らせる鋭い抜き身の刃の如き表情だった。


「千代美に何をする!その手を離さんか!」


 英子さんが私の胸ぐらを掴む西住の手を握ると西住の手が私をやっと離した。
 そしてそのまま後ろ手に西住を捻り上げる。
 中学生とはいえ日頃鍛えている西住を苦も無くあっさりと屈服させた。
 私はといえばその場に崩れ落ちへたり込んでいた。

「う‥ゲホッ!ゲホッ!」

「oh!千代美!しっかり!」

「な!?貴様は誰だ!離せ!」

「騒ぐな小娘!ここを何処だと思っている?病院ぞ、場をわきまえよ!」




「これは一体何の騒ぎ!?」


 そこへ不意に新たな声が加わる。
 それは千代美からの急報に対応し、やっと一段落付き駆け付けた蝶野亜美であった。


「亜美か、スマンが千代美の事を頼む」


 亜美を一瞥すると一言そう言った英子。


「ちょっと!英子!?何であんたがここに!?」

「事情は後で説明する、私はこの小娘に用がある」

「ちょ!英子!って千代美さんしっかり!」


 亜美が手を差し伸べ千代美を立たせようとする。


「わ、私だって‥必死だったんだよ…だけど‥ラブが…りゅ、榴弾が‥出血が酷いって‥だから必死に、必死に…‥う‥うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「きゃあ!千代美お姉ちゃん!」

「お、お医者さんを!看護師さんを!」




 私は…私はもう……。






 限界だ。





今回もチョビ子を悲しませてしまいました。
チョビ子が一番のお気に入りなんだけどなぁ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話   上総(かずさ)の大猪

昨日の予告通り今回も暴力的な展開で英子さんが無双します。
でも物語の雰囲気重視という事でご理解頂ければと。


「このっ!離せ!貴様ぁ!!」


 すっかり頭に血が上り暴れるまほをものともせず、後ろ手に捻り上げたまま職員通用口の外まで連行する英子と、その後ろをトボトボと付き従う者達。
 因みに亜美とみほだけは千代美に付き添い院内に残っていた。
 そして駐車場脇の駐輪場の囲いの影まで来た処で英子は乱暴にまほを突き放つ。


「ふざけるなっ!貴様は一体何者だ!」

「私か?そんな事どうでもよかろう、場所もわきまえず騒ぎ立てる愚か者が」

「なっなんだとぅ!お前は何なんだよ!!」

「人に問う前に自分が名乗りもせずか、後継者がこれでは西住も先々たかが知れているな」

「な!?き、貴様!言わせておけば!」


 今度は英子に殴り掛かるが彼女は全く避けようともしなかった。
 まほの右の拳が英子の左頬に入るも微動だにしない。


「…効かぬ…気を付け!顎引け!歯を食いしばれ!」


 有無を言わさぬ英子の鋭い命令の声、凄まじいまでの強制力と西住の者として長年鍛えられて来た性であろうかその命令に瞬時に従ってしまうまほ。


「修正!」


 紫電一閃したかに見える鉄拳制裁。
 尤も英子の後の言によれば大幅に手加減した一撃がまほを崩れ落ちさせた。
 その後ろを見やれば付いて来た面々も直立不動で青い顔をしている。
 特にカチューシャなどはもう卒倒する寸前だ。


「ぐぅっ!!」

「ふん、まあいいだろう、名乗ってやるさ」


 そう言うと英子は小馬鹿にする様に上からまほを見下ろしこういう。


「自分は元知波単学園戦車隊隊長の敷島英子」

「!?」


 そして更に後ろ手を突いて座り込むまほにグイッと顔をまほに近付け続ける。


「更に言うなら元臨中戦車隊の隊長でもある。ついでに今は横須賀警察署捜査課の刑事として今回の事件の捜査を担当している、理解したか西住の小娘?」


 そう言い切ると今度は英子がまほの胸ぐらを掴むと、軽々と一気にまほの顔を自分の目線にまで吊り上げる。
 この敷島英子という女性、その膂力だけ見てもやはり只者ではなかった。


「おい西住の。私は厳島のお嬢さんの為に奔走し、彼女を救った千代美を彼女の御母上よりお預かりしている身だ。その千代美に対し事情を知らぬとはいえ、友であるはずのお前の振る舞い、見過ごす事は出来ぬぞ。あぁ?どうだ、何か申し開きがあるか?」


 鬼火が宿るが如き双眸を更にギリギリと吊り上げ憤怒の形相の英子。
 その迫力に押されすっかり戦意を喪失し言葉も出ないまほ。
 人生経験などだけではない人としての格があまりにも違い過ぎるのだ。
 そんなまほの様を見てようやっと地面に降ろしてやる英子。


「オイ!後ろのひよっこ共、貴様らも同罪ぞ!中学生とはいえ、ちっとは顔も名も知れた連中が雁首揃えてノコノコこんな場所に現れればマスコミの恰好の餌食。既にテレビ報道されているなら尚更だ、その軽率な行動が今も生死の境を彷徨う厳島のお嬢さんを晒し者にする事位その軽い頭で考えるまでも無く解るはずだ!」


 英子の言に一同は只々小さくなるしか術はなかった。
 そんな一幕の後、そこへ千代美をみほに任せた亜美が一行を探し通用口から現れる。


「英子!一体どういう状況なのよ!?それに何故あなたが千代美さんと一緒に?」

「千代美の様子は?」

「今お医者様が見ていてみほさんに付き添いをお願いして来たわ、それより…」

「亜美」


 亜美の問い掛けに被せる様に英子は言う。


「千代美の御母上より彼女をお預かりしておきながらこの様とは…私は御母上にどう申し開きをすればよいのだ?それはまあいいとしてこいつらはお前に任せる、私は千代美を見て来る」

「もう!あんたはさっきからもう!ちょっと英子!」


 亜美の声を無視し踵を返すとさっさと行ってしまう英子。


「後できっちり説明しなさいよね!」


 診察室の寝台に寝かされる千代美の顔には疲労の色が色濃く出ていた。
 その横には泣き腫らした顔でみほが座っている。
 そこに医師と共に英子が説明を受けながら現れた。


「──まあ過労という処でしょう、後程栄養剤の点滴と念の為一晩は入院という事で」

「大変お騒がせをした上に申し訳ございません」

「いえいえ、それでは私はこれで、なにかありましたら近くの者にどうぞ」

「ハッ!」


 折り目正しく一礼し医師を見送る英子。
 上げた顔にはもう憤怒の色は見えないが厳しさだけはそのままだ。


「あ!あ、あの、あの!先程は姉がし、失礼しました!」


 座っていた椅子から跳ねる様に立ち上がり謝罪をするみほ。
 それに対し英子は素っ気無く答える。

「それはもうよい、ここには私が居る。お前は皆の所に戻れ」

「は、はい、それでは失礼します」


 みほが立ち去ると英子は椅子に腰かけ千代美のやつれた顔を見つめる。
 そして千代美の頭を撫でつつ独り言ちた。


 ──不甲斐無い、全く私は何をやっている…。


 それから点滴が始まり暫しの時間が経過し英子と未だ目覚めぬ千代美の元に、亜美に千代美の孤軍奮闘ぶりと、それに関する事柄を亜美が箝口令を敷いていた事を聞かされすっかり意気消沈したまほを始めその他の面々が亜美に伴われ訪れた。


「あ、あの!蝶野教官からお話は伺いました、知らぬ事とはいえ先程は…」

「違う」

「ハッ!?」

「謝る相手が違うと言っている」


 忌々しげに切り捨てる英子はまほの方を見ようともしない。
 付いて来た他の者達も気まずげな顔で俯く。
 そしてそのまま英子は更に続けて言う。


「厳島のお嬢さんにも面会は叶わぬ、そして千代美もいつ目覚めるとも知れぬ、よって貴様らに出来る事は何もない。分かったならばさっさと帰れ、但し目立たぬ様裏口からな」

「ちょっと英子!あんたさっきから何なのよ!」

「おまえこそ何だ?さっきから喧しい事この上ない、病院内だ静かにしろ」

「あの!」


 そこに意を決した表情のまほが口を挟む。


「そ、その安斎が目を覚ますまで付き添わせて頂けないでしょうか?目を覚ましたら謝罪した後即刻退去します…お、お願いします!」


 そう言うや勢いよく頭を下げるまほにようやく英子も顔を向ける。


「ふん、まあよかろう。だがな、よく聞けよ?あの様な愚行決して許さぬぞ、二度は無いと肝に銘じておけ、さもなくば西住だろうが島田だろうが全力で叩きのめすから覚悟しておけ」


 その物騒極まりない物言いとそこには本気意外何物も無い眼光に、居合わせた一同声も出せず勢いよく頭を下げる以外出来る事は無かった。
 するとそのタイミングで看護師が一人若干躊躇しつつ声を掛けて来る。


「あのぉ、病棟の方の準備が整いましたので安斎さんを移送したいのですが」

「あぁ、宜しくお願い致します。さあ貴様らもそこに居ては邪魔になる、外に出よ」


 追い立てる様に席を立ち自身も一旦外に出ようとする英子の腕を亜美が捕まえる。


「なんだ亜美さっきから?」

「だから!」

「横須賀が私の地元で刑事が生業なのはお前も知っているだろう?」

「説明になってない!」

「ああもう全く煩いヤツだ、詳細は後でいくらでも話し手やる。今は千代美を病室に連れて行くのが先決だから今暫く待て」

「絶対よ!約束破るんじゃないわよ?この上総(かずさ)の大猪が!」

「うるさい、もう黙れ」


 そんなやり取りの後一行は病棟に移動し千代美がベッドに移されたが、苦悶の表情と点滴が実に痛々しくまほは涙目でおろおろしている。
 英子はといえば構っていられぬとばかりに入院手続きの為受付に向かった。
 そして英子が病室に戻って来た頃ようやく千代美が意識を回復し、まほが号泣しながら千代美に謝罪を繰り返しているのであった。


「あ、あんざいぃぃ!話は‥蝶野教官から聞かされた。知らな…知らなかったとはいえ、私はぁ、私は安斎に許されない事をしてしまった!ゆ、ゆ、許してくれとは言わないが…済まなかった!あんざいぃ…‥」

「西住?蝶野‥教官…?」

「千代美さん、私が箝口令を敷いたばかりにあなたにいらぬ苦労させてしまったわ。本当に申し訳ない事をしました、ごめんなさい」

「教官?えっと私…‥」

「あ!まだ起き上がっては駄目よ横になっていて」


 少し頭が回って来た。
 そうか、あの後私は倒れたのか…。
 それにしてもこの西住の狼狽え様は一体?


「事の次第は私から説明して措きました、まほさんも心配する余りの事だったし、既に英子からこっ酷く叱られているのでどうか許してあげてくれる?」

「そんな、許すも許さないも私は…」


 私のベッドサイドに突っ伏し号泣するまほの頭を撫でようとして、自分の腕に点滴の針が刺さっているのを見て自分はそんなに消耗していたのかと気が付いた。


「気にするな西住、ラブとお前達は小さい頃から姉妹同然だったと聞かされていたしな。それより私こそ教えてやれなくて済まなかったな」

「う、うぅぅ…あんざい…‥」

「だからもう泣き止んでおくれよ」

「……」


 その様子にやっと胸を撫で下ろす一同であったが、戻って来た英子はやはり辛辣に言う。


「さあ、もういいだろう千代美を休ませてやれ。そして先刻言った様にしろ、帰りの脚は確保出来ているのであろうな?」

「あ、それは西住の本家から私達が来るのにバートルを出して貰っているので、それで順番に送る事が出来ます」


 これにはぐずっているまほに代わりみほが即答した。


「全くこれだから西住は…まあいい、それより解っているな?」


 この問いにまほも立ち上がり答えた。


「ハイ!自重します」


 何故か全員整列し一斉に敬礼していたのであったが、そこに亜美が言う。


「私は残るわよ、忘れたとは言わせませんからね」

「しつこいぞ、忘れてはおらん。それよりお前らはさっさと行動しろ」


 別れの挨拶もそこそこに一同を追い出した英子は千代美の元に来て声を掛ける。


「辛い思いをさせて済まぬ、今夜一晩はここでゆっくり休め」

「はい…英子さん」

「そう、今はそれでいい、明日また来るからな」

「はい、お休みなさい…」


 英子が優しく頭をひと撫でしてやると目を閉じた千代美はそのまままた寝入ってしまう。
 しかしその表情は先程より幾分和らいだものになっていたのであった。



今回は英子さんの二つ名がそのままタイトルとなりました。
しかし上総(かずさ)の大猪なんてどんな隊長だったんだろう?
それと知波単もさすがにここまでではないかなとも思ったり思わなかったり。

何とか年内にこの中学時代終わらせたいけど終わるかなぁ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話   英子二つの顔 西住と厳島

タイトルはダブルタイトルになりました。

今回は英子さんの二面性をお楽しみ下さい。

西住流と厳島流の関係性と亜梨亜さんの過去も多少見えて来ます。
それとラブのパンターのパーソナルネームが登場しますが、
これは私の好きな隈取りメイクの某ロックバンドの名曲から拝借しました。



 西住家のコネで海上自衛隊横須賀地方総監部のヘリポートに降り立った西住家所有のバートルKV-107IIA-4が、西住姉妹他の面々を乗せ再び夜空に舞い上がったその頃、英子と亜美は英子のチンクエチェントの車中にあった。
 問う様な視線の亜美に対し英子は無言を貫いている。
 そしてついに痺れを切らした亜美が英子に対し問い詰める。


「それで英子あんたいつまでそうしてだんまり決め込んでいる気なのよ!?」

「まずは自分のマンションに車を戻して、どこか適当な店にでも入ってからでよかろう」


 こうなるとテコでも口を開かないのが分かっているだけに亜美は大げさに溜め息を吐く。
 そしてその後車を降り移動したのは市街地、京急横須賀中央駅近くの一件の大衆酒場。


「それで何で適当な店ってのがこんな大衆酒場なのよ!?」

「喧しい、こういう店の方が何でもあって色々都合がいいのだ」


 嘗て二十四時間操業の造船業華やかなりし時代の名残で、横須賀には朝から飲める様な大衆酒場が何軒か当時を偲ばせるスタイルで営業を続けている。
 英子たちが入ったのはそんな大衆酒場の一件だった。


「それとね英子、あんた何時まで鬼敷島のままでいる気なのよ!?」

「!!!」

「あんたいい加減その二重人格何とかしなさいよね!」

「う…うっさいわねぇ!大体私の何処が二重人格なのよ!?」

「それよ!立派に二重人格じゃない!」

「しかたないでしょ!大体当時の知波単を束ねるのには、これ位やってもまだ足りない位だったんだから!」

「卒業してもう何年経つのよ!?今はもう知波単じゃないでしょ!」

「あんな面倒くさい子達相手すんのに普通じゃやってらんないわよ!!あ~!私千代美ちゃんのお母様になんて言い訳すればいいのよ~!!!」

「呆れた!まだ連絡してなかったの?サッサと電話して来なさいよ」

「他人事だと思って~!」


 英子が一端店の外に出て、千代美の実家にペコペコ頭を下げながら電話する姿が店の扉越しに見える。
 その様子はついさっきまでとは丸っきり別人の様だ。
 しかしこの敷島英子なる人物、上総(かずさ)の大猪だの鬼敷島だの一体知波単戦車隊の隊長だった頃はどんな様子であったのだろうか?
そもそもがこの二人の関係もどういったものなのか?


「うぅ、情けない…却って労いと謝罪のお言葉を頂いてしまったぁ…‥」


 戻るなり眉をへにょりとさせ店のテーブルに突っ伏す英子。


「あ~もう鬱陶しい!」


 一方亜美の方も大概容赦が無い。
 そうこうしていると店員がジョッキとガラス瓶を持って現れる。


「…何でまたよりにもよってこれなのよ?」

「煩いわねぇ、横須賀来たならまずこれ飲みなさいよ」

「氷入って無いし…」

「聖地横須賀じゃ三冷の横須賀割りが基本よ」


 よく冷されたジョッキに同じく冷された焼酎、そこにこれもよく冷えたガラス瓶の中身を注ぐとジョッキの中身が心地良く泡立つ。


「かき回しちゃダメよ」

「それじゃあ厳島さんの早期回復を祈って」

「千代美ちゃんの頑張りに」


 ゴツリと厚みのあるジョッキが合わさる鈍い音が響く。


「うぇ…濃い‥」

「慣れろ」

「…で?」

「解ってるわよ…」


 ここに来てようやくこれまでの経緯を語り始める英子。
 途中テーブルに並び始めた刺身や焼き物、揚げ物などを突きつつ順を追って話す。


「──っとまあここまでが亜美が来る直前までの事と次第ってトコよ」

「そうだったの、千代美さんの件に関しては本当に申し訳ない事をしたわ。でもあの時は私もそれが最善だと思ったのよ」

「まあ私も判断は間違ってはいないと思うわ。現にテレビを見た馬鹿者共がああして大挙して押しかけた訳だし。でももうちょっと配慮も欲しかったわね」

「返す言葉も無いわ」

「それはもういいわよ、それよりね」

「ええ、この件に関しては可能な限り情報を共有出来る様にするわ」

「ああ、そうしてもらえると助かるわ」

「そういう意味でも英子が居てくれたのが不幸中の幸いよ」


 そう言うとどちらからともなく再びジョッキを合わせる二人。


「それで早速だけど陸自、連盟の動向は?文科省は現段階門外だと思うけど」

陸自(ウチ)の方もパンターの処理待ちだけど、警察立ち合いで臨海中学の弾薬庫から回収した砲弾は一部解析を始めたみたい。ただ事が事だけに今回は一層慎重にならざるえないわ、連盟の方は役員、各流派の家元含めて蜂の巣を突いた様な騒ぎになってるわよ。何しろ今日納入予定になってる分があって、それは既に昨日から搬送中でそれの差し止めと回収でかなり切羽詰ってるわ」

「やはり他にも出荷された分があったか…」

「ええ、そういう意味でも千代美さんの功績はとても大きいわ」

「あの子は西住の次期当主より遥かに器が大きいわよ」

「まあ気持ちは解るけどそう言わないであげてよ、師範も対応で身動きが取れず恋さんの元に来たくても来られないのだから。幼い頃から娘同然に可愛がっていらしたらしいし」

「その割に肝心の娘があれじゃあねぇ」

「またそういう事を…」

「それはまあ措いといてこちらでも早いうちに製造元に捜査に入ると思うわ、でもそれにしてもおかしいじゃない?試験段階じゃ問題無かったんでしょ?」

「そこも含めてよ、こちらに残っていた試験弾との比較も行うわ」

「まあこちらの現場の方はパンターの処理が終わるまで出来る事は限られてるか…現場検証が出来ないのが一番痛いわね。処理班も相当気を使ってくれてるけど現場が荒れるのはやっぱり痛いのよねぇ」


 ここまで話した処で亜美が若干躊躇しつつ聞いて来る。


「それでね…Love Gunの、パンターの車内の様子はどうだったの?」

「Love Gun…彼女のパンターのパーソナルネームね」

「ええ、知ってるのね」

「そりゃあ地元だし人気だもの。横須賀は高校戦車道が今一だけど、中学は臨中が公立ながら昔から強くて有名だから」

「そう…それで?」

「血の海よ…本来車内を守るはずのカーボンコーティングが今回は裏目に出たわ。爆発四散した金属片が跳ね回って彼女に襲い掛かったの」


 予想はしていても改めて聞かされた現実に亜美も唇を噛む。
 しかしそれを淡々語る英子に対しては、幾多の修羅場を経験して来たであろう彼女の刑事という職の因果を感じずにはいられなかった。
 そして暫し沈黙する亜美に今度は英子が問う。


「あのさ亜美、西住家と厳島家が親戚筋っていうのは聞いたけど、実際には西住流と厳島流ってどんな関係なの?」

「あぁ、それはね、私も詳しくは聞いていないけど親戚としては結構な遠縁らしいの。流派としての創設は西住の方が若干早かった程度。でも創始者同士ウマが合ってたらしくて交流は活発だったそうよ。ただ多くに門戸を開いた西住に対し厳島は近親者のみで細々とって感じだった様ね。」


 現在でも最大派閥と言える西住流に対しその真逆の存在であろう厳島流。しかし戦車道の世界にあってはその様な少数派の流派の方が多数を占めるのかもしれない。


「ただ門下生も多いと言っても後継者の年齢的谷間の時期というのは必ず発生するわ。そんな時に厳島から西住に云わば助っ人を送る事もあったそうよ。例えば…そう、英子もお会いした亜梨亜様がそう。師範のしほ様が黒森峰入学前に空白が生じて、亜梨亜様が西住の者として黒森峰に入られてしほ様の入学の下地作りをされたとか。しほ様が一年生の時に亜梨亜様が三年生で隊長職を務められたと聞くわ」

「げっ!何よそれ!?でも双子でしょ?妹じゃなくて何で姉が?」


 思わず呻く英子には先程会ったばかりの物腰穏やかな亜梨亜が、黒森峰のパンツァージャケットで指揮を執る姿が直ぐには想像出来ない。


「そこまではちょっと…でもまあ両家がそれだけ親密だって事よ。だからまほさんをあまり責めないであげて」

「解ってるわよ、それにしても厳島流ねぇ…何回かお嬢さんの試合は見た事あるけど、諦めるのを見た事無いのよねぇ」

「それこそが厳島流の是とする処らしいわ。流派としての信条はただ一つ、百折不撓(ひゃくせつふとう)よ」

「決してくじけないか…西住の撃てば必中云々よりシンプルでいいわね」

「またあんたはそういう事を」


 もう亜美も苦笑するしかなかった。
 

「まあ私も聞かされているのはこれ位ね」

「そっか、ところで亜美、今夜はこの後どうするのよ?」

「一応東京に戻って西住の別宅の関係者宿泊施設に泊まる予定だけど」

「ならウチに泊まりなさいよ、それで明日の朝千代美ちゃんに顔見せてあげて」

「ん~、分かったそうするわ」

「よし、決まりね」


 その後二人は今少し盃を重ね横須賀の夜は更けて行った。





作中登場したホッ○ーは一応商品名はぼかしました。

しっかし英子さん今度は鬼敷島て…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話   英子と亜美

今回のお話しで英子の過去が少し明らかに。
上総(かずさ)の大猪と呼ばれるのも納得なお話しです。

※昨日の冒頭英子のセリフの脱字は修正致しました。
 ご指摘ありがとうございました。



 明けて翌朝の事、新港総合病院には時間外であるが、千代美の様子を見に来た出勤前の英子と亜美の姿があった。
 が、しかし……。
 千代美の居る病室の入り口ではおずおずと中を覗いたり引っ込んだりする英子。
 その様子にいい加減堪り兼ねて亜美が英子を突き飛ばす。


「何をそんなトコでウジウジしてんのよ!」

「わ!何すんのよ亜美!」


 病室入口でたたらを踏み声を上げる英子に、丁度朝食を食べ終えていた千代美も気が付いた。


「あ、英子さん」

「う、あ…その千代美ちゃんおはよう‥その、気分はどう?」

「もう大丈夫です、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

「それでその~、昨日はね、変なトコ見せちゃってごめんなさいね…あの、そのね何と言うかそのコレで私の事嫌いになったりしないでね…?」


 昨日の英子の姿を思い出し、今目の前で上目使いでモジモジしている姿とのギャップに、思わず千代美もクスリと笑ってしまう。


「大丈夫です、昨日の英子さんとってもカッコ良かったですよ」


 そう言われ思わず赤くなってしまう英子。
 一方傍でそのやり取りを聞いていた亜美がつい口を挟む。


()()()()()()()()ですって!?もう名前呼び?英子、あんたホント相変わらず手が早いわね!それも私の大事な教え子に!」

「人聞き悪い事言うな亜美!」

「えっと、教官?」


 思わず噛み付き返す英子。
 そしてそんなやり取りに首を傾げつつ千代美から疑問の声が零れるがしかし。


「あら?()()は名前呼びなのに私の事は()()?」

「…亜美‥さん」


 満足げに亜美がニンマリとした顔になる。


「あの、それでお二人って一体?」


 それには英子を邪険に押しのけつつ亜美が答える。


「ああ、英子とは高校戦車道時代からの腐れ縁よ。私らの世代はこの吶喊馬鹿には散々苦労させられたわ。何しろ三年の時の全国大会なんて一回戦で当たった黒森峰を負けたとはいえ実質壊滅状態に追いやって、試合終了後の挨拶の時には煤けた姿で不敵に笑う知波単に対して、黒森峰の選手全員が恐怖で大泣きしててどっちが勝者か解らなかった位だもの」

「え゛ぇ゛?」

「本当よ、当時を知る者の間じゃ未だに語り草だもの。特に黒森峰で対戦したOGなんて今でも思い出しただけで涙目になるもの」

「そんなに…」

「そんなのウソよウソ!千代美ちゃん信じちゃダメ!」

「だまれ上総(かずさ)の大猪」

「大猪言うなっ!」


 そのおかしな英子と亜美のやり取りに堪らず千代美はクスクス笑い出してしまう。


「良かった…やっと笑顔になって。千代美ちゃんはやっぱりその方がいいわ」

「英子さん…」

「ほら!もうしんみりしないで」

「はい!」


 笑顔に戻った千代美に英子と亜美も胸を撫で下ろす。
 そしてひとしきり笑った後に英子は本題に移る。


「それでね、今日退院になるのかな?」

「はい、一応この後診察を受けますけど多分昼前後に」

「そう……」


 それを確認すると少し考え込んだ後、英子は亜美の顔を見やる。
 その視線を受けた亜美も無言で頷く。
 すると今度は視線を千代美に戻し英子はこう告げる。


「あのね千代美ちゃん、こんな事になってさすがにあなたを今日直ぐに帰す訳にはいかないと思うの。退院して早々に長旅はいくらなんでも無理があるわ。それでね、今少し体調が整うまで私の部屋で過ごしなさい」


 そう言うとポケットからキーホルダーを取り出すとマンションのキーを外し亜美に託す。
 一方の亜美もそれを受け取り続けて千代美に声を掛ける。


「今は英子の言う事を聞いて。英子はこれで出勤しなければならないけど、私が退院出来たら英子のマンションまで一緒に行ってあげるから。ただその後は私も東京に戻らなければならないからそこでお別れになるのだけど」

「出来るだけ早く上がるつもりだけど、それまで私の部屋の物は何でも好きに使ってくれていいわ。本なんかもどれでも読んでくれて構わないし」


 そこまで言い掛けて英子は思い出した様に亜美にこう言う。


「そうそう、本って言えば凄いのよ亜美。千代美ちゃん小説を書いてるらしいのよ」

「あぁ~!それは~っ!」


 英子の言葉に顔を赤らめて声を上げる千代美。
 そこに英子は目にはいたずらっ子の光を輝かせ更に重ねる様に言葉を続ける。
 

「何だっけ?確か恋愛小説とか書いてるんだったわよね?」

「あら!?それは是非読んでみたいわね~♪」


 亜美までが英子に調子を合わせ胸の前で手を組み歌う様に言う。
 それに対して千代美はと言えば更に顔を赤らめこう答えるのがやっとだった。


「もう恥ずかしいから止めて下さいぃぃぃ……」


 そして英子が職場に向かった後、亜美と取り留めもない会話をしていた頃千代美も診察に呼ばれ、無事退院の許可を貰う事が出来た。
 その後は少ないとはいえ荷物を纏め会計を済ませ様とした処、既に英子と亜美の手によって前倒しで会計処理は済まされていた。
 この時千代美の手荷物を確認した英子により、病院に戦車道履修者専用健康保険証が提出されており正規の料金で済んでいた事も知る。
 日頃から携行していたのが思わぬ形で役に立ったのだった。
 それからいざ病院を出るにあたっては、例によってマスコミを警戒し裏口にタクシーを呼び極力目立たぬ様心掛けねばいけないだろうと千代美は考える。


「千代美さんタクシー来たわよ」

「あ、ハイ」


 目の前に滑り込んで来たタクシーに乗り込む際にふと病院を見上げる。
 そこには未だ意識の戻らぬラブが居る。


「ラブ…‥」

「千代美さん?」

「あ、すみません」


 メモを見ながら亜美さんが運転手さんに行き先を告げ、タクシーは病院を後にする。
 車窓を流れる街の様子はとてもあんな事があったとは思えない普通な光景。
 そんな街並みをぼんやり眺めているとあれは全て悪い夢であったらと思ってしまう。
 でもそれは全て現実で今もラブは苦しんでいる……。


「さあ、着いたわよ」


 亜美さんに掛けられた声に思考が中断する。
 タクシーを降りエレベーターで英子さんの部屋の階に昇って行く。
 部屋に入ると早々に私に預かっていた鍵を託すと共に、くれぐれも無理をしない様言い残し東京に向け部屋をあとにした。
 今回の事でとても忙しいはずなのに私の事で申し訳ない事をしたと思う。
 そんな事を思いつつ取り敢えず窓を開け外の空気を部屋に入れる。
 私はクッションに腰を下ろし改めて部屋を見回して見た。
 好きに使ってくれていいと言われてもやはりちょっと気が引けるものだ。
 そんな中ふとテレビの乗るラックに並ぶDVDが目に留まった。
 英子さんがどんな映画が好きなのかちょっと興味が湧きラインナップを見ると、戦車道履修者には定番の戦車映画が並んでいる。
 その殆どが私も持っている物と同じでちょっと可笑しくてクスリと笑う。
 そんな中に無地のケースのDVDが何枚か並んでいる。
 手に取ってみるとディスクには手書きのタイトルが書かれてある。
 そのタイトルは……。


「臨中VS黒森峰…‥私の所のもある…」


 躊躇いに似た感覚も覚えつつも黒森峰戦のDVDを少し震える手でセットする。
 どうやら地元ケーブル局の録画中継を焼き付けた物らしい。


「これは‥16号戦だ…」





次回でやっと過去話ですが戦車戦が登場します。
とはいってもほんの少しなんですけどね。

それにしてもお気に入りと評価が凄くなって来た~。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話   16号戦

作中に措いても過去の記録ですが、
恋愛戦車道初の戦車戦をお届けします。

因みに作者の英語はかなりいい加減です。


※ご指摘頂いた誤字脱字修正致しました。
 




 国道16号線、横須賀市内の追浜(おっぱま)から走水(はしりみず)を結ぶ一般国道。
 この約15kmのうち一部は他の国道とは少々様相が異なっている。
 山坂の多い横須賀はそれ故トンネルの多い街であり、その呪縛は当然国道と言えども逃れる事は出来ず、横浜方面から横須賀中心地に入る北地区には上り下り計16本のトンネルが集中しているのだ。
 その中でも田浦隧道(たうらずいどう)から逸見隧道(へみずいどう)の区間は、一部合流区間もあるが上下線が完全に分離しており、途中の枝道があるもののリング状になっている訳で、上記両隧道の合流部分でUターンすれば一種のサーキットの様になっているのである。
 この区間で行われる戦車戦では互いに尻を捕り合い周回したり、逆走や枝道からの奇襲、更には上下車線を隔てる住宅をぶち抜いて攻撃も出来る。
 トンネル内に対しては砲撃禁止、逆にトンネル内からの砲撃及びトンネルを抜いてトンネル外への砲撃は可能、但しトンネル内で停止する事も禁止されている。
 そしてトンネル内に弾着してしまうと即時失格という変則ルール、だがこれが予想外の展開を生み対戦相手にも観客にも一番人気のステージなのだ。
 その国道16号線で行われる戦車戦が通称16号戦なのである。
 この変則ルールの16号戦に措いて臨中は圧倒的な勝率を誇っていた。


 テレビモニターの中のトンネルから一台のパンターが全力疾走で飛び出してくる。
 ラブの乗機Love Gunだ。
 コマンダーキューポラから上半身を乗り出し、深紅の髪を靡かせラブが行く。


 「綺麗…」


 そんな言葉が思わず口を突いて出てしまう、それ位Love Gunを駆るラブは美しかった。
 しかしその直後振り返ったラブが、車内から取り出した職員室からでも借りて来たらしい学校名が入った拡声器を使ってまほを挑発するセリフに思わずコケそうになる。


『や~い!まほののろま~!でんでん虫~!悔しかったら追い付いてみろ~♪』

「アイツは子供か…」


 呆れて苦笑しつつ見ていると少し遅れてまほのティーガーⅠがトンネルから出て来る。
 しかしトップスピードで大きく劣るティーガーⅠでは全く付いて行けない。
 ここまでに相当子供じみた挑発をされたのだろう、まほの顔は茹でダコになっている。


「コイツも子供か…」


 今度は心底呆れつつ見ているとまほが咽頭マイクで何か指示を出した。
 そしてまほがキューポラ内に引っ込むと、ティーガーⅠがドリフト気味に右に回頭しそのまま民家に突っ込んで行く。
 どうやらショートカットして反対車線を戻ってくるはずのLove Gunに側面攻撃のトラップを仕掛けるつもりの様だ。
 上空からの映像に切り替り暫くすると、まほの狙い通りLove Gunが反対車線をやって来た。
 果してこれは作戦成功かと思った瞬間今度はLove Gunが民家に突っ込み、道路と並走する形でまほのティーガーⅠに向かって家々を薙ぎ倒しつつ前進を始める。
 両車の間が残り三軒程まで前進した辺りで遂にLove Gunの75㎜が火を噴く。
 吹き飛ばされた家屋の瓦礫がティーガーⅠに降り注ぐ。
 これに今度はまほも応戦し周辺の家々を粉砕しながら大乱闘が始まった。


「これは怪獣映画か何かか?」


 もうそんな感想しか出て来ない馬鹿試合にもやがて終わりが訪れる。
 辺りの見通しが随分良くなった辺りでLove Gunが車道に戻り横須賀方面に逃走を開始した。
 そしてトンネルに逃げ込むその寸前晒された後部に、88㎜ティーガーⅠ必殺の一撃が放たれこれは勝負ありと思われたその刹那、ふらりと斜めにLove Gunが民家に突っ込み静止した。
 哀れ標的を見失った徹甲弾はそのままトンネルに飛び込み内壁に大穴を開ける。
 これには思わずコマンダーキューポラから顔を出したまほも頭を抱えて絶叫した。


『しまったぁっ!!』


 その絶叫を合図に審判団より告げられる無情なコール。


『黒森峰フラッグ車、トンネル内弾着により失格!よって臨海中学の勝利!』


 そのコールと共にLove Gunのコマンダーキューポラが開き、再び拡声器を構え微妙に困った様な笑顔のラブがこう言う。


I just knew you would do that.(やるとおもったわよ)いやぁ、まほならあそこで確実に狙って来るとは思ったけど、こうも見事にハマるとは思わなかったわぁ~♪」


 言われたまほも大声で怒鳴り返す。


「あーっ!煩いぞラブ!セコい手使いやがって!」

「も~、そんな怒んないでよ~、後で取って置きの地元の美味しいカレー屋さん連れて行って御馳走してあげるからさ~♪」


 この言葉にまほはパッと笑顔を輝かせまた怒鳴り返す。


「ホントか!?ウソ付くなよな!大盛じゃなきゃ許さないぞ!」

「分かってるって~」


 ここで切り替わった映像の、特設会場の観客席では中継を見る人達からこの間抜けなやり取りに爆笑が起こっている。
 でもそこでふと思った、この中継のカメラ数とこれだけ声を拾う集音マイクは凄いと。
 それともう一つこのアホなカレーの王女さまはこの中継映像見たのだろうかと?
 そして更にもう一つ…。


「この二人本当に仲がいいんだな…‥。」


 ラブとまほ…遠い親戚…でも小さな頃から行き来があって姉妹同然だったという。
 普段は表情に乏しいまほがラブと一緒に居る時は表情が豊かになる。
 妹のみほと同様、あるいはそれ以上に心を許せる存在なんだろう。
 だからこそ昨日もあれ程感情的になってしまったのも仕方の無い事なんだ。
 同じ立場なら私だってきっとああなってしまうと思う。


「あ、終わった…ってもうお昼回っちゃってるんだ」


 16号戦を見るのに夢中で昼ごはんの事をすっかり忘れていた千代美は、マンションのはす向かいにあるコンビニで何か買って来て済ます事に決めた。
 向かった先のコンビニは○と♡と☆のマークの見た事無いお店だった。


「家の辺りには無いお店だなぁ、ご当地のお店かな?」


 店内を少し物色してから千代美はサンドイッチとカフェオレとミネラルウォーター、それとコンビニオリジナルのスイーツを買ってマンションに戻る。
 そして買って来たサンドイッチをパクつきながら次のDVDを見始めた。
 今度は自分が対戦した時の物だが見始めてからある事実に気が付く。


「コレ…当然英子さんも見てるんだ~!」


 そう言う傍から画面の中を自分が絶叫しながら駆け抜けて行く。


『うひゃぁ~!!ダメだダメだ!その先のブロック塀を吹き飛ばしてそこに飛び込め~!』


 やっぱり映像と音声をしっかりと拾われている。
 これを英子さんに見られたと思うと、恥ずかしくて部屋の中をのた打ち回りたくなった。
 私とラブの戦いはいつも知略の限りを尽くし、騙し討ちと不意討ちの応酬…と、言えば聞こえはいいが詰まる所はおもちゃ箱を引っ繰り返した様な大乱戦。
 つまりは西住の事を何も言えない馬鹿試合を演じていたのだ。


「月刊戦車道だけじゃなくてコレも見て私の事知ってたんだぁ……」


 英子さんが帰って来ても恥ずかしくて顔を見られないかもしれない…。
 そんな考えに囚われてしまう千代美だった。
 しかしその後も何試合か見続けるうちに陽も大分暮れて来た頃。


「あ、夜のごはんどうしよう?」


 思えば横須賀に来てからまだちゃんとした夕食は取っていない。
 そこまで考えた時ひとつのアイディアが頭に浮かんだ。
 そうだ、これだけお世話になったのだからせめてものお返しに夕食を作ろう。
 疲れて返ってくる英子さんの為に夕食を作ろう!
 車でここに来る時直ぐ近くに大きなスーパーがあるのが見えたから、あそこに行けばきっと色々あるだろう、ならばこうしてはいられない、早速買い物に出発だ!


  
 ──そしてそれから暫くしてスーパーからマンションへ帰る道に、スーパーのレジ袋をぶら下げたホクホク顔の千代美の姿があった。


「いや~、これは大収穫だ♪」


 実に凄いスーパーだった。
 どれもモノが良いのにとにかく安い!特に鮮魚類は地魚が凄かった!
 こんな良い物がこんなに安くていいのだろうかと思う程だった。
 これなら腕の振るい甲斐がある、これまでいろいろ教えてくれたお母さんに感謝だ!
 でも英子さん好き嫌いないかな?喜んで貰えるかな?


「ヨシ!喜んで貰える様精一杯頑張って作ろう!」


 そう言うと千代美は英子のマンションに向かう脚を速めるのだった。





年内投稿はこれが最後かな?
明日も投稿出来ればいいけど…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話   せめてもの気持ち

明けましておめでとうございます。

新年初投稿になります。


 千代美が夕食の下拵えを終え一息ついた八時頃に英子が仕事を終え帰宅した。


「ただいま~、遅くなってごめんね~って、なに?とってもいい匂い」

「あ、お帰りなさい英子さん」

「え~?なになに?夕飯作ってくれたの?そんな気を遣わなくていいのに~」

「これだけお世話になって少しでも恩返ししたくって…」

「もう、気にしなくていいのに、でもとっても嬉しいわ」

「良かった…それじゃ座って待ってて下さい直ぐに出来ますから」


 そう言うと千代美は再び千代美はキッチンに立ち下拵え済みの品々を仕上げに掛かる。


「ウソ!?これ全部千代美ちゃんが?」

「はい、お口に合えばいいんですが」

「凄い!凄過ぎるわ千代美ちゃん!」


 並ぶ料理に感嘆の声を上げる英子、そのテーブルに並んだ品々とは?


「えっと、カワハギの煮付けにじゃがバタ炒めにほうれん草の胡麻和え…こっちは叩きゴボウのきんぴらに根菜スープまでってなに?この至れり尽くせり…‥ねえ?千代美ちゃん、千代美ちゃんの事お嫁に貰えないかお母様にお願いしてもいい?」

「え、英子さん一体何言ってんですか~!?」

「とにかく頂いていい?もう我慢出来ないわ」


 思わず吹き出しながら千代美も答える。


「ぷっ、はい、どうぞ♪」


 そこから英子は旺盛な食欲を見せ、瞬く間に出した料理をたいらげて行った。
 それを見た千代美も頑張って作った甲斐があったと笑顔になる。
 

「ふぅ~!もう食べられない~!こんなに美味しい手料理って何時以来かしら~?」


 そう言うなりそのまま英子は後ろに倒れ込む。
 千代美は苦笑しつつお茶を入れながらお粗末様でしたと言った。
 どうにか起き上がった英子は真剣な顔で千代美に言う。


「いやもうマジな話私の腕じゃ千代美ちゃんの脚元にも及ばないわ。今度亜美に会ったら自慢してやろ、アイツ絶対悔しがるわ~♪」

「も~、止めて下さいよ~」


 二人してひとしきり笑った後、英子は真顔に戻り千代美に今日の事を話し始める。
 千代美も姿勢を但し話を聞く体勢を取った。


「ええとね、まず今日の夕方残っていた砲弾の取り出しがやっと終了したの。何しろ想像以上に弾薬架の歪みが酷くて少しづつ矯正しながらの摘出作業だったらしいわ。陸自の責任者の方曰く、爆弾付きの知恵の輪解いてるみたいだったって言ってたから」

「そうでしたか……」

「今日は残念ながら日も傾いて作業し辛くなったから現場検証は明日からになるわ、でもこれでやっと私達も前に進めるわ」


 そう言うと英子は左の掌に右の拳をパチンと叩き付ける。
 だがその後の話は若干声のトーンが下がっていた。


「それとね、恋さんの事だけど帰って来る前病院に確認したけれど、未だ意識は回復していないの。恋さんの意識が回復して証言が得られればいいけど今は待つしかないわね」


 そこまで話した処で重い空気になるのを避ける様に、千代美に今日は食事の支度以外何をして過ごしたか訪ねて来た。
 千代美もお昼を買いに行ったコンビニが自分の地元に無い店である事、夕食の買い物に行ったスーパーの品質と品揃えと価格が素晴らしかった事を伝えた。
 それと例のDVDを見た事も…。


「あ~、アレ見たんだ~」

「はい…それであの、英子さんも私の試合…‥」

「見たわ♪」


 もう恥ずかしくて穴があったら入りたい心境だ。


「でも千代美ちゃんと恋さんの試合が一番内容が濃くて面白いわ、あの西住の娘がおちょくられるのも傑作だけどね~♪」


 そう言うと英子さんはカラカラと笑い声を上げる。


「いや、でもね、真面目な話あなた達二人、よくもまああれだけ次から次へと作戦を思い付くモノだと思うわ。正直私が現役時代でもあれ程の事が出来る子は自分も含めて居なかったわよ、知波単時代にこんな隊員が欲しかったわ~♪」

「いつもテンパってドタバタやってるだけです……」

「謙遜、謙遜、あの臨機応変ぶりは大したモノよ、自信を持っていいわ。」

「あ、ありがとうございます…」

「でも16号戦って面白いでしょ?」

「はい、ただあのトンネルルールが本当に厄介でいつもそれでやられます。行進間射撃が基本の砲撃戦になるのに迂闊に撃つと即失格になりますから」

「まああのトンネルトラップが臨中のお家芸だからねぇ」

「頭で解ってても引っ掛かっちゃうんです」

「それでも懲りずに挑んで来るんだから皆どんだけ16号戦好きなのよ?」

「ですね」


 二人顔を見合わせ思わず笑っていた処に英子さんの携帯の着信音が鳴り響いた。


「お、噂をすれば亜美からよ、早速千代美ちゃんの手料理自慢してやろう」


 そんな事を言いながら英子さんは電話に出た。


「ハイ、お疲れ亜美。ええ、こちらはやっと終わったわ。これで明日から現場検証に入れる。
え?何よそれ!?そこまでヤバいシロモノって事?明日ね?分かった待ってる」


 そこまで話した処で英子さんは私を見てニヤっと笑うと付け加える。


「それとねぇ、今夜の夕食は超美味しい千代美ちゃんの手料理御馳走になっちゃったぁ♪」


 そう言いながら私に向かってVサインを出す姿を見て溜め息を吐いたその瞬間。


「うわっ!」


 驚いた英子さんが携帯を落っことした。
 床に落ちた携帯の中で亜美さんが何か喚き散らしているのが聴こえる。


『ちょ◆☆∀◎※@!!きいД●Иш*Й!!!千代美さん!千代美さん!?』


 私が戸惑っていると英子さんが携帯を指さすので恐る恐る出てみると…。


「あの…‥」

『千代美さん!?()()だけ!?()()だけなの?私は!?私はまた明日横須賀行くんだけど!』


 再び盛大に溜め息を吐いていると英子さんはヤレヤレのポーズをしている。


「分かりました、明日何か作ってお待ちしています…」

『きゃ~っ♪これで私も更に頑張れるわ!それじゃ明日ね!』

「…‥切れちゃいましたけど…」


 それだけ言うと切られてしまった携帯を英子さんに渡す。


「あの馬鹿は何しに来る気なのよ…まあ仕方ないか。と、いう訳で明日の夜もお願い!」


 そう言うと英子さんは私に向かって手を合わせてお願いして来る。
 私ももう苦笑してそれに応じるしか無かった。


「はい、分かりました…それでその、私からもお願いがあるのですが」

「何かしら?」

「Love Gunを一目だけでも見る事は出来ないでしょうか?もう残弾の取り出しは終わったんですよね?例え遠くからでもいいのでお願いします!」

「う~ん…‥分かったわ、その代り少し早起きしてもらうけどそれでもいい?」

「ハイ!宜しくお願いします!」


 こうして明日の予定が決まりその日の夜は更けて行くのであった。





結局年を跨いでしまった中学編もあと少しで終われるともいます…終わるよな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話   Love Gun

お気に入り件数も評価も凄い事になって来て驚きが止りません。


 泣いている……。


 Love Gunが泣いている。


 荒れ地の只中で主の帰りを待ち、たった独りLove Gunが泣いている。




 通勤ラッシュの渋滞が始まるより少し早い時間。
 私は英子さんの操るチンクエチェントに乗り臨海中学の地上演習場に向かっていた。
 カーステレオからは地元神奈川のFM局のジングルの後にトラフィックレポートとウェザーニュースが聴こえて来る。
 幸い今日も天気は良い様で、夏も近く大分気温も高くなる様だ。
 演習場に向かう道すがらチラリとラブが入院している病院が見えた。
 ラブはまだ意識が戻らないのだろうか…?
 少し気持ちが沈みかけた頃、車は演習場に辿り着いた。
 英子さんは入り口を封鎖している制服警官と二言三言話した後再び車を走らせる。


「解ってるとは思うけど少し揺れるから気を付けてね」

「はい、大丈夫です」


 未舗装の荒れた道をチンクエチェントはゆっくりと進む。
 よく見れば周辺には履帯が刻み付けた跡が其処此処に見える。
 私もこの演習場で合同演習を何度となくやった事がある。
 私が刻み付けた跡もまだ残っているのだろうか?
 そんな思いに耽りながら揺られる事数分、チンクエチェントは射撃演習場に到着した。
 そしてそこにLove Gunは居た、たった独り主の帰りを待ち侘びる様に。
 Love Gun…パンターG型戦車。主砲前面防循が原因の跳弾による車体上面への被弾、そのショットトラップ対策を施してありしかも赤外線暗視装置を搭載した後期型の中でも数少ない個体にしてラブの愛馬。
 そのLove Gunが泣いている……。


「申し訳ないけど中までは見せられないの、ここで勘弁してね」

「はい、充分です。私こそ我儘を聞いて頂いて申し訳ありません」

「寂しそうに見えるわね…‥」

「英子さんにもそう見えますか…ラブとLove Gunは一心同体ですから」

「そうね、試合で見る動きは人馬一体‥いえ人車一体ですものね」


 二人で見上げたLove Gunの砲塔側面に描かれた白縁取りに深紅のハートマーク、その中心を貫くキューピットの矢ならぬ徹甲弾。そしてハート下部に掛かる緑の弧を描くリボンバナー、そこには黒文字でパーソナルネームのLove Gunの文字。
 このパーソナルマークこそLove Gunの象徴だ。


「素敵なパーソナルマークよね」

「これ、ラブが一年の時にその年の新人賞ヤング・タイガー賞を受賞した時、私達仲間みんなで考えて送ったものなんです」

「そうだったの、あなた達は本当に仲がいいのね」

「はい、ラブもとても喜んでくれて直ぐにこうしてLove Gunに描き込んでました」


 英子さんが無言で私の肩をそっと抱き寄せてくれる。
 今はそのさり気ない気遣いが嬉しい。


「千代美ちゃんゴメンねそろそろ時間なの、私も一度署の方に行って現場検証の準備をしないといけないから」

「ええ、大丈夫です、本当に有難う御座いました」

「それじゃあ行きましょうか」

「分かりました、でも少し歩きたいので演習場を出たら降ろしてもらえますか?」

「いいけれど大丈夫?」

「何度か横須賀には来ているので道も大体分かります。少し中央を歩いてから今夜の買い物をして帰ろうかと思います。処で亜美さんって好き嫌いってありますか?」

「アイツにはお茶漬けでも食わしとけばいいのよ!」

「またそんな事を…」


 私は呆れながらも英子さんと亜美さんも仲がいいのだろうとなと思った。




 通勤ラッシュも落ち着いたとはいえまだ時間も早く、横須賀中央駅周辺のお店も殆どが開店前で、開いているのはコンビニやファーストフードやパン屋さん位だ。
 私はメインストリートをゆっくり歩いて通り抜け、横須賀中央駅の駅ビル併設のコーヒーショップに入り通りに面したテラス席に腰を落ち着けた。
 見下ろせば英子さんと初めて会った改札口前の小さな広場が見える。
 あれから四日、まだたったの四日しか経っていないのだ。
 しかし四日経ってもまだラブの意識は回復していない、まだなのかもうなのか?その四日という時間の流れの進み方に自分は困惑する。
 一度は病院に来た皆も今は自分の時間に戻っているだろう、それが望むと望まざるに拘わらずであったとしてもだ。
 そしてそれは私にも当て嵌まる事…そう、私も何時までもこうしてここに留まる事は出来ない、中学最後の夏はもう目前に来ているのだから。


「ヨシ!」


 残っていたモカのフラペチーノを飲み干すとテラス席を後にする。
 そしてメインストリートにある開店したばかりの少し大きな文具店に入りメッセージカードを買い求め、昨日行ったあのスーパー目指して再び歩き始めた。
 今夜は英子さんと亜美さんと一緒に夕食だ、精一杯腕を振るおう。
 そして明日私も自分の生活に戻る事を、成すべき事を成すと伝えなけねばならない。




「やっぱりあのスーパーは凄いぞ!」


 昨日に引き続き買い物に行ったスーパーでは大戦果だった。
 やはり横須賀は海産物が良いモノが多い。
 これだけ揃えば俄然モチベーションも上がって来る。
 マンションに戻ると取り敢えず買った物を冷蔵庫に入れ、リビングのテーブルに文具店で買って来たメッセージカードを広げる。
 明日、横須賀を離れる前にやらなければならない事がある。
 例え面会は叶わなくともせめて一言でいい、ラブに私の…いや、私達の気持ちをメッセージカードに残して行こう。
 ラブが意識を取り戻した時、例え私達がその場に居なくとも気持ちが伝わる様に。


『ラブとLove Gunが帰る日を私達は待っています、いつまでも』


 そう、今はこれでいい、この一文に偽りの無い想いを託せば。
 私達はその日が来るのを信じて待つのだ。
 書き上げたカードをバッグに忍ばせたら今夜の支度を始めよう。


「ヨ~シ!やるぞ~!」


 拳を突き上げ気合を入れて下拵えに取り掛かる。
 今夜は英子さんと亜美さんに料理で私の感謝の気持ちを伝えよう。
 そんな思いを胸に私は黙々と手を動かしたのだった。
 そして日も傾き昨日より大分早い時間に英子さんは亜美さんと一緒に帰って来た。


「千代美さん御馳走になりに来たわよ~♪」

「こら亜美!家主より先に部屋に入るんじゃない!」

「お帰りなさい英子さん、亜美さん」

「千代美ちゃんこんなヤツ適当に扱えばいいから!」

「ご挨拶ね英子、客人に向かって」

「誰が客人ですって?ホント厚かましい!」

「うふふ、もう仕上げるだけですからお二人とも座って待ってて下さい」


 騒ぐ二人にはリビングに座って貰い私は料理を仕上げ皿に盛り付けテーブルに並べる。


「えっ!?これを千代美さんが一人で?」

「だから千代美ちゃんは凄いって言ったでしょ」

「今日はイタリアンにしてみました、気に入って頂けるといいのですが」


 目を見開いて驚く亜美さんと腕を組んでウンウン頷いている英子さん。
 二人に私も一応作った物を説明する。


「まず地ダコはトマト煮にしました、イワシも鮮度が良かったのでカルパッチョに。そしてこっちは鶏胸肉のピカタです。パスタはシンプルにペペロンチーノ、トマトは英子さんに好評だったオリーブオイルとパルメザンのトマトサラダです」

「千代美さん本当に中学生なの!?私こんな事出来ないわ!」

「小さな時からお母さんに包丁握らせて貰いましたから」

「これを亜美に食べさせるのは勿体無いわ~」

「何ですって!?」

「さあ、冷めないうちにどうぞ」

『そうね、もう我慢できないわ!』


 綺麗にハモった二人に私は思わず笑ってしまった。
 そんな私に二人も顔を見合わせ笑い出す。
 そして三人の横須賀最後の晩餐は始まったのだった。



中学編もゴールが見えて来ました。

どうにか正月休み中に終われそうでです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話   Party's Over

中学編も残す処あと一話まで漕ぎ付けました。

今回はちょっぴりお色気展開が入ります。


 やはり賑やかな食卓は楽しい。
 楽しんで食べてもらえるのは料理を作る者の一番の喜びだ。
 英子さんと亜美さん二人はやはり体力仕事だからか本当に気持ちの良い食べっぷりで、これなら私も頑張って作って良かったと思えた。


「ふぅ、本当に美味しかったわ♪千代美さん私のお嫁さんになってくれない?」

「千代美ちゃんは私の嫁だ」

「英子あんたやっぱり!」

「ホントお二人は仲がいいんですね」

『千代美ちゃん止めてよねっ!』


 またハモった二人に私は再び笑ってしまう、そして二人もまた笑う。
 こんな楽しい時間がいつまでも続けばいいけれどいつかは終わりが来る。
 私は二人にここまでお世話になった事の礼を述べ明日横須賀を離れる事を告げた。
 そして私も自分がやらねばならない事に全力で取り組む事も。
 それに対し二人もここまでに分かった事で話せる範囲の事を教えてくれた。
 更に明日警察からマスコミに正式発表がある事、但し被害者が未成年である事から実名報道は控える事も厳命するとも聞いた。
 そしてそれと同時に問題の砲弾の製造元にも近く捜査が入るという。
 やはり英子さんは事故では無く事件として最初から動いていた様だ。
 止まっていた時間、止まっていた時計の秒針が少しづつ動き始める。
 そうなればそれぞれが成すべき事成し、後は恋の回復をひたすら祈るのみ。
 そんな話をして私達は楽しかった食事を終えた。


「さて英子、私は今夜も泊めてもらうわよ」

「そう来ると思ったけどさ、ここで三人で寝るの?」

「アンタはベッドで私と千代美さんが一緒の布団で寝るわ♪」

「それはダメ!絶対許さん!」

「じゃあどうするのよ?」

「布団並べて三人で川の字で寝ればいいのよ、勿論真ん中は千代美ちゃんで♪」


 英子さんがまた変な事を言い出した。


「えぇ!?嫌な予感しかしない……」

『何か問題あるかしら?』

「またハモってる…‥」

『な~に?』

「やっぱり最初からその気で‥いえ…問題無いです…‥」


 それから交代でシャワーを浴びるとリビングにはくっつけて布団が敷かれていた。
 更に二人を見ると何故かお揃いの淡いピンクのキャミソール身に付けている。
 そして…。


「さあ!千代美ちゃんもこれに着替えるのよ!」


 英子さんが同じ物を手に私に迫って来る。
 ジリジリと壁際まで追い詰められてもう逃げ場は無い。


「帰って来る途中で買って来たのよ~♪」

「わ、私はいいですよ~!」

「遠慮は無しよ!さあさあ!」

「遠慮じゃないです!あ!そんな!」


 私は二人の連係プレイにあっと言う間に身包み剥がされ着替えさせられる。

「あひゃひゃ!あ!ソコは~!」

「うふふ~♪良い反応ね~♪」

「やめ!そうじゃ!うひゃ~!お二人はやっぱり~!!」


 無理矢理着替えさせられたキャミソールはサイズがピッタリだった。


「ゼェゼェ…サイズぴったり…‥」

「千代美ちゃん私は刑事よ、それ位見れば解るわ」


 英子さんが指を振りながら答える。


「そんな能力いらないです……」

「さあ!ここからはガールズトークの時間よ!」


 亜美さんが左手を腰に右手は天を指し高らかに宣言した。


「千代美ちゃん、着心地はどうかしら?」

「良いけど何だかお腹の辺りがす~す~します」

「これは私と亜美から頑張った千代美ちゃんへのプレゼントよ♪」

「…‥ありがとうございます」


 それから暫く三人で他愛も無い話に花を咲かせた。
 こんな経験は私も初めてだ、この先もあるかどうかは解らないけど。


「千代美さんは誰か気になる人とか居るのかしら?」

「そんな人居ないです…」

「戦車道やってると出会いなんてないわよね、私の居た知波単なんか特にww」

「あら!?私が千代美さんの頃には撃破率は既に…」

「どっちの撃破率だかw」

「や、やっぱりお二人って~!」

『あははははは~♪』


 そしてそんな楽しい会話にも疲れ少し眠くなって来た頃、亜美さんがふと思い出した様に私にこんな事を聞いて来た。


「処で千代美さん明日はどうやって帰るのかしら?」

「出て来てそのままなので一度家に帰ってから学園艦へと思ったのですが、それだと更に遅れるので、横須賀からも出ている連絡艇を乗り継いで学園艦と合流しようと思います。幸い学園艦も名古屋から北上中ですから」

「そっか…あのね千代美さん、今回横須賀に来るのに私ヘリで来ているのよ。何しろ対応でアチコチ飛び回らくちゃいけなくてね。それでもし千代美さんがよければそのヘリで学園艦まで送れるけどどうかしら?」

「それはさすがに申し訳ないです…」

「教導任務で全国飛び回るのに殆どプライベートで使ってる様な機体だから、そんな事は全く気にしなくていいわ」

「それがいいわ。亜美お願い出来る?」

「勿論、それでいいわね千代美さん?」

「それではお言葉に甘えさせて頂きます」

「ヨシ決定!ただね、降りたのが武山駐屯地でここから少し離れてるのよ」

「それは私の車で送るから問題ないわよ亜美」

「助かるわ英子」

「何から何まですみません」

「気にしないで千代美さん、今回あなたの働きは本当に大きかったの。もしあの時のあなたの行動力が無かったら恋さんだけでなく更に被害が出ていたのは確実よ」

「亜美の言う通りよ、私達も千代美ちゃんの働きを無にしない為全力で事に当らせてもらうわよ。だから何も気にしないで頂戴」

「解りました、それで甘えさせてもらうついでにもう一つだけお願いがあるんですが」

「何かしら千代美ちゃん?」

「横須賀を離れる前にもう一度だけラブの居る病院に寄りたいんです。勿論面会出来ないのは解っています。でも、せめてラブに私達の想いを託したメッセージカードを残して行きたいんです。ラブが目覚めた時独りでない事が伝わる様に」

「それ位の事お願いのウチには入らないわ、解った、病院を回って行きましょう」

「ありがとうございます」


 それから暫くして私達は眠りに落ちた。
 横須賀最後の夜、その夜が明ければ私も日常に戻る。
 本当に色々な事があった。
 ラブ、亜梨亜さんにまほ、そしてみんなが辛い思いをした。
 これが夢なら早く醒めてくれと何度も思った。
 夢……夢…夢‥その夜私はまた夢を見た。
 戦車でみんなと闘った夢、みんなと一緒に遊んだ夢。
 そしてあの瞬間の夢、最後に聞いたラブの声……。
 苦しい……苦しい…‥本当に苦しい!!
 気が付くと既に夜は明けていて目が覚めたのになお苦しい!
 それも当然で私は亜美さんの大きな胸に顔を埋める様に抱きしめられていた。
 更に背中側から英子さんも自分の大きな胸を押し付ける様に抱きしめている。
 つまり私は大きな胸のサンドイッチの具にされていたのだ。


「★゜※▼○!ÅΩЖ∞!!ぶはっ!」

「あら…?おハヨ、千代美さん」


 亜美さんがとろんとした寝惚けた表情で言う。


「し、死ぬかと思った~っ!!」

「ん~、もうちょっとぉ…」

「英子さんも寝惚けないで下さい!」


 私は二人を振り解いて立ち上がって思わず絶叫した。


「やっぱり二人ともこれを狙ってたんですね~!?」


 その後私は朝食の用意をした。
 二人の脅す様なお願いにパジャマ代わりのキャミソールのまま。
 多分朝食を食べる間も私の顔は赤いままだったと思う。
 そして朝食後身支度を整えるといよいよ出発の時間になった。

「英子さん泊めて頂いて本当にありがとうございました」

「お礼なんていらないわ、私も千代美ちゃんと過せた時間は楽しかったから」

「私もです」


 私達を乗せたチンクエチェントはまずラブの居る病院を目指す。
 病院ではやはりまだラブは目覚めていなかった。
 それでもICUのある病棟のナースステーションで、ラブへの私達の想いを記したメッセージカードを看護師さんに託した。
 ラブが目覚めた時この想いが届く様にと。
 そしていよいよ私達はヘリの待つ武山駐屯地を目指す。
 道中短い間ではあったが思い出話は尽きなかった。
 駐屯地に辿り着くと亜美さんのお蔭でそのままヘリポートまでチンクエチェントで入らせて貰えた、それなりの広さがあるのでそうでなければ大変だったろう。
 ヘリポートに待っていたのはフライングエッグこと観測ヘリコプターOH-6D。
 亜美さんはチンクエチェントを降りると早々に飛行前点検を始めた。
 暫くするとそれも終えエンジン始動、ローターがゆるゆると回り始める。
 遂に英子さんとのお別れの時が来た、私はヘリの音に負けぬ様に声を上げる。


「英子さん本当にお世話になりました、英子さんの事はずっと忘れません!」

「私もよ!千代美ちゃん、あなたに出会えて本当に良かった!」

「私もです!」

「また何時か、また何時の日にか会いましょう!」

「ハイ!必ず!」


 そう言うと英子さんは私を強く抱きしめてくれる。
 私もまた英子さんを強く抱きしめ返す。


「さあ、千代美さん行きましょう!」


 亜美さんが私を呼ぶ、名残惜しいがお別れだ。


「亜美!頼むわね!」


 英子さんの声に亜美さんが親指を立て応える。
 私が搭乗してベルトとヘッドセットを装着すると亜美さんの操縦でOH-6Dが浮かび上がる。
 機窓越しに見える英子さんに手を振ると英子さんも大きく手を振り返して来る。
 それが終わるのを待っていたかの様に空飛ぶ卵が横須賀の空に舞い上がって行った。
 さようなら横須賀、次に来る時はみんなが笑顔になれる様に。



 もう一度見やった眼下には美しく輝く横須賀の蒼い海が広がっていた。






高校編ではタグにある通りポンコツ展開がが出来ると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話   いつか来るその日を信じて

今回で中学編も最後となります。
当初予定を大幅に上回る話数になりましたがどうにか一区切り出来ました。

ラストの方でちょこっとだけドゥーチェ・アンチョビが登場します。
最後の最後で伏線を活かせました♪

※御指摘頂いた三話と十一話の誤字修正致しました。


 私が横須賀の空に舞い上がったあの日以降、事態は一気に動き始めた。
 警察からの判明している事のマスコミへの正式な発表、但し英子さんの言っていた通り被害者名に関しては未成年である事への配慮から伏せられていた。
 それでも戦車道に詳しい者なら直ぐに解ってしまう事ではあるけれど。
 そしてそれに合わせて製造元である東邦火箭(かせん)化学工業への強制捜査の開始。
 一時は経営陣が行方を晦まし報道も過熱していた。
 私達はといえばそれらのニュースを気にしつつも最後の夏の全国大会に向け奔走していた。
 そんな最中に嬉しいニュースも飛び込んで来た、ラブが意識を取り戻したと。
 まだ面会は叶わぬがそれでも私達は喜びに沸いた、皆涙を流し喜んだ。
 ラブこそ居ないが、そのラブの為にも最後の全国大会を全力で闘おう、悔いの残らぬ全国大会にしようと皆で誓い合った。
 結果から言えば、再び全国の舞台で砲火を交える事が出来たまほ率いる黒森峰に勝つ事は叶わなかった、中学三年間で公式戦では通算一勝しか出来なかった。
 むろん勝てなかった事は悔しいが悔いは無い、全ての力を出し切ったのだから。
 唯一悔いが残るとしたら、それはその舞台にラブが居なかったその一点だけ。
 私達の戦いが終わる頃には捜査も進み色々と事実も明らかになって来た。
 それは反吐が出る程に腹立たしい事実、経営状態の悪化していた件の製造元の会社は、戦車道への自社製品の納入に一縷の望みを掛け売り込みを開始したのだという。
 但し全て自社製造で真面な砲弾を納入したのはテスト期間のみで、本採用が決まった後は下請けや更に孫請けなどろくに製造経験など無い小さな会社に二束三文で部品を造らせ、その寄せ集めを自社で組み立てだけしていたという。
 真っ直ぐ飛ばなかったのは弾殻の肉厚が一定では無かったから、暴発したのは軽く突けば反応する程いい加減な造りの信管だったから。
 全てはそんな粗悪砲弾で利益を出し傾いた会社を立て直す為。
 そんな事の為にラブは犠牲になったのだ。
 次々判明する事実に私達は怒りに震えた、まほなどは怒り狂い母親である西住師範ですら手が付けられない程であったそうだ。
 でもそれも当然だ、私だってそうだ!いや、私だけでは無い、皆がそうなのだ!
 皆が怒りの業火を燃やす中も季節は進み秋の終わり頃待ちに待った知らせが届く。
 遂にラブとの面会が叶うと言う。
 その知らせに私達は全てを投げ出し横須賀に駆け付けた。
 病院前に集った時やっと身辺も落ち着いた西住師範も姉妹と同行していて、私に対し大変恐縮した様子で頭を下げられ却って私の方が慌ててしまった。


 それから全員でラブの居る病室へ向かったが皆の間には言い様の無い緊張の糸が張りつめ、病室まで行く間誰も言葉を発する事は無かった。
 そして病室の手前まで近付いたその時──。


「イヤ!こんな…こんなのイヤァ!こんな…見られたく無い!イヤよ!イヤぁぁぁっ!!」


 病室から興奮したラブの絶叫が響く、そしてそれに続く宥める亜梨亜さんの声。


「落ち着いて!恋!傷に障るわ!落ち着いて、お願い!」


 ナースコールがされたのか看護師が駆けて来る、その間もラブの絶叫が続く。
 そして病室に看護師が飛び込むのと入れ替わりに、亜梨亜さんが病室から現れ私達に気が付くとふらふらと歩み寄って来たがすっかり憔悴しているのが明らかだった。


「しほ…さん、それにみなさん…‥」

「亜梨亜様!」


 崩れ落ちそうになる亜梨亜さんを西住師範が慌てて支える。
 疲れ切ったその姿は初めてお会いした時とはすっかり印象が違って見える。
 それ程に亜梨亜さんは疲弊しきっていた。
 そんな亜梨亜さんを支えながら西住師範が尋ねる。


「一体どうしたというのですか亜梨亜様?」

「しほさん…つい先程まで皆さんにお会い出来る事を楽しみにしていたのですが…‥」


 そこまで話した亜梨亜さんの目線が次の言葉を探す様に中を泳ぐ。
 そして絞り出す様に言葉を続けた。


「意識が回復してから気持ちの浮き沈みが激しかったのですが…ここ数日は安定していたのに‥皆さんに会えると笑顔、やっと笑顔を見せていたのにまた……あぁ!」


 ここまで話した処でひと筋の涙が頬を伝うと、亜梨亜さんは両の掌で顔を覆いながら膝を突いて嗚咽の声を漏らした。
 西住師範がその亜梨亜さんを支え通路のベンチに何とか座らせる。
 私達はその痛々しい姿にただ言葉も無く立ち尽くすのみだった。
 その間もラブの絶叫は続いていたが、後から駆け付けたドクターにより薬が投与されたのかその声も不意に途切れた。


 そして、そしてそれが私達の聞いたラブの最後の声になった……。


 西住師範に背中をさすられ少し落ち着いた亜梨亜さんは途切れがちに続ける。


「せっかくお越し頂いたのに申し訳ございません‥先程申しました通り恋も皆さんにお会い出来る事を楽しみにしておりましたのに…それなのに…それなのに!」


 私はもう見て居られず亜梨亜さんの元に駆け寄ると跪き、膝の上で握られた量の拳にそっと手を重ね落ち着かせる様こう言った。


「亜梨亜おば様、どうかもうお止め下さい。私達は待ちます、何時までもラブが本当に元気になるその日までいくらでも待ちますから、ですからどうか!」

「…ありがとう、千代美さん…‥ありがとう皆さん……」


 重ねた私の手に亜梨亜さんの涙が落ちる、背後でも皆が声を殺して泣いているのが解る。
 亜梨亜さんの肩を支える西住師範の頬にも涙が伝っている。
 

「亜梨亜様、これまで影に日向に支えて頂いた西住、今度は私達が支えさせて頂きます。ですから何なりとお申し付け下さいませ」

「しほさん…ありがとうぅぅ…」


 亜梨亜さんが西住師範に縋り付く。
 私が立ち上がると皆と抱き合い声を殺し涙を流した。


 その後暫くして西住師範が看護師さんに亜梨亜さんの事を頼み、別れの挨拶をすると私達は病院を後にする事となった。




 横須賀中央駅の以前にも一人で立ち寄ったコーヒーショップ。
 皆の前に思い思いの飲み物が並ぶが誰一人中々手を付けようとはしない。
 そんな中西住師範が意を決した様にカップを手に取るとひと口啜る。
 それから皆の顔を見まわした後に重かった口を開いた。


「皆さん、今日は遠い処有り難う御座いました。残念ながらあのような事になってしまいましたが、どうか長い目で見てやって下さい」


 そう言うと一人静かに頭を下げる、それに対し私達もまた静かに頷く。
 頭を上げた西住師範は更に続けてこう言う。


「厳島流が掲げる信条は百折不撓(ひゃくせつふとう)。これは例え何度失敗しても志は曲げない、くじける事無く挑戦を続ける、そんな意味の言葉です。恋はとても心の強い娘です、幼い頃から見て来た私には解ります。必ず帰って来ます。ですから皆さんにも恋の百折不撓を信じあの子の帰りを待って頂きたいのです」


 そこで話を締めると再び頭を下げられた。
 私達もその言葉に再び頷くと自然と手を取り合うとまほが代表して口を開く。


「お母様、私達は信じます。ラブの、恋の心の強さを。必ず返って来る事を。その日が来ることを信じていつまでだって待ち続けます」


 まほが皆の胸の内にある事を力強く宣言した。
 その言葉に西住師範も静かに、しかし力強く頷く。
 その後に目に込められた力を和らげると私を見つめ語り掛けて来た。


「安斎さん、こちらに来て頂ける?」

「はい」


 西住師範の隣に座ると私の手を取りたった一言。


「ありがとう」


 全ての想いが籠った一言を言うと私を優しく抱きしめる。


「さて、それでは私はひと足先に行っていますが皆は積もる話もあるでしょう。私は地方総監部で待っていますので話が済んだらいらっしゃい」


 そう言うと西住師範は店を去って行く、今回は私も含め全員が西住家のバートルでそれぞれの学園艦に送って貰える事になっていた。
 ただ今回は捜査で多忙を極める英子さんに会えない事が心残りだ。


「その…安斎」

「何だ?西住」


 まずまほが口を開いたが言わんとする事は何となく解る。


「気にしてないよ、あの時の事も全国大会の事も」

「だが…‥」

「もう何度も謝って貰ったし全国大会も西住は全力で戦ってくれたんだろ?だったらそれでもう充分だよ。それに決勝の後の表彰式の事もあるしな」

「そ、それは!」


 全国大会の表彰式、優勝旗を授与されたまほは力尽きその場にへたり込んだのだった。
 準優勝盾を手にしていた私にはそれで充分だったのだ。
 何かブツブツ言っているまほはそのままにして私は皆にいった。


「皆はもう大体進路は決まっているんだろ?高校に行っても再び砲火を交える図式は変わらないと思う。その舞台で私はラブが帰って来るのを待ちたいと思うが皆もそれは同じだよな?」


 全員の表情が引き締まり一斉に頷く。
 それぞれの想いに迷いが無いのは再確認出来た、ならば信じた道を進むのみだ。
 その後は暫くそれぞれの近況を語り合った後席を立った。
 店を出て直ぐの所でまほが私の袖を引いて何か言いたげに私の顔を見る。


「安斎、その…やはり黒森峰には来てくれないのか?」

「…あぁ、詳しくはまだ言えないが黒森峰には行かない。だがサンダースにも聖グロにもプラウダにも行く事は無い。それだけは言っておくよ」

「だがそれじゃあ一体…?」

「すまん、まだ正式に返答していないんだ。決まったら知らせるから今は待ってくれ」

「そ、そうか解った…それなら、それならまた高校でも戦うのだな?」

「お?やっと西住の顔になったな。その通りだよ」

「西住の顔ってなんだよ?」

「まあいいじゃないか、そういう事で」


 それから私達は歩いて思い出のドブ板通りを通り抜け、西住師範とバートルの待つ海上自衛隊横須賀地方総監部向った。


 秋の終わりともなれば陽が落ちるのも早い。
 薄暮の横須賀の空にバートルのアンチコリジョンが明滅する。
 私達にとって二度目の横須賀の空、その色は暗く重かった。
 そして私達が横須賀を去った後、ラブと亜梨亜さんは私達の前から姿を消した。
 私達が見舞う事も叶わず、その後始まった刑事と民事の裁判にも治療と療養を理由に代理人のみ、私達はおろか西住家の者ですら連絡が取れなくなっていた。


 何処かで歯車の進みが狂い始めていた……。






 季節は進み年も変わり春がやって来た。
 私達は中学を、中学戦車道から巣立ち新たな道に進む。
 その前に私には行かなければならない場所、会わねばならない人がいる。


 新たな制服に袖を通す。

 眼鏡を外しコンタクトを入れる。

 おさげ髪を解き頭の両サイドで高くリボンで束ねる。


「さあ行こう、あの人に会いに!」





 横須賀中央、訪れるのは三度目のコーヒーショップのテラス席。


「英子さん!」

「千代美ちゃん!ってその姿…あ!あの時言った事覚えてたのね!」

「はい!お久し振りです英子さん」

「思った通り可愛いわぁ♪でもその制服は?」

「これはアンツィオ高校の制服です」 

「え?アンツィオ…あそこって確か…‥」

「ええ、現在は戦車道が衰退してほぼ無いも同然です。でもそこの理事長が私の試合を見て私の戦車道に惚れ込んだんだそうです。それで私にアンツィオの戦車道の復興を頼みたいとオファーを貰っていたんです」

「凄いわね…」

「はい、実は初めて英子さんにお会いした頃にはお話しを頂いていたけど迷いもあって保留していたんです」

「そうだったんだ」


 英子さんがそう言いながら手の中でカップを弄ぶ。
 そこに私がオーダーしていたエスプレッソが届く。
 ひとくち口に含むと独特の苦みが口内に広がる。


「でもね、私の見立てだと他からもスカウトはあったんじゃない?」

「解りますか?全国大会常連校からは殆ど声を掛けて頂けました」

「ふぁっ!?私が考えた以上だったわ!」

「いえ、私はそれ程の選手では無いと思っているのですが嬉しかったのは確かです」

「でも選んだのはアンツィオなのね…」

「はい、私をそれだけ評価してくれたのも嬉しかったですし、挑戦のし甲斐のある事だと思いましたから」

「それは相当大変な道よ」

「はい、でもラブが帰って来た時、これが自分の戦車道だと誇れるモノを造っておきたかったんです…あとはその‥特待生として学費が全て免除されるのも大きかったんですけど」


 ちょっと恥ずかしかったけど包み隠さず全て話してエスプレッソに口を付けた。
 英子さんも少し笑ってからこう言う。

「そっか…でもそれだと入学早々隊長職って事?」

「ええ、でもアンツィオでは昔から隊長の事をドゥーチェと呼び習わすそうです」

「ドゥーチェ…確かイタリア語で統帥とかそんな意味だっけ?」

「はい、そんな感じですね」

「ドゥーチェねぇ…‥ドゥーチェ安斎かぁ…」


 そう言った瞬間英子さんの表情が一変する、上総(かずさ)の大猪、鬼敷島の目になり実に嬉しげにこう言い放った。


「ドゥーチェ安斎…いい響きじゃないか!分かった!私もドゥーチェ安斎の戦い篤と拝見させて貰おう!期待しているぞドゥーチェ!」


 私も思わず姿勢を正し敬礼をしながら最高の笑顔でこう宣言した。


「解りました!見ていて下さい英子()()()!」


 でも私がそう宣言した瞬間英子さんの表情は崩れ、口をムニュムニュさせて抱きついて来て、自分のほっぺを私のほっぺにグリグリさせながら声を上げる。


()()()!?()()()!!なんて可愛い事言ってくれるのよ~♪」

「ひゃあ!くすぐったい!苦しぃ~!!英子さんってやっぱり~!」

()()()でしょ~!?」

「しまった~!言うんじゃなかった~!」


 賑やかな午後のコーヒーショップのテラス席、吹き抜ける風は優しい。
 何処かで狂ってしまった私達の歯車はそれでもまだ止まってはいない。
 いつかまた、いつの日にかまた皆で笑いあえる日の為に私は私の道を進む。
 そしてその先に再びラブが居る事を願って。


「がんばれ!千代美!」

「ハイっ!」




 私達の戦車道はまだ始まったばかりなのだ。





全体通してチョビ子を泣かせ過ぎました。
でもこの後ももうちょっと泣かせてしまうかもしれません。
それとチョイ役から大化けした英子さんはこの後も是非活躍させたいです。

いよいよ高校編に突入しますが予定通りポンコツ展開出来るかな?
頑張って執筆に勤しみますので宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 深紅の旋風 第一話   Love

恋愛戦車道もいよいよ本編たる高校編に突入です。
どうかこれからも宜しくお願い致します。

高校編を始めるにあたり後付けになりますが、中学編を第一章としました。
それと自分で見直して気が付いたのですが、
プロローグでチョビ子の髪型をお下げとする処をポニーテールとなっていたので修正致しましたので御了承下さい。

それでは高校編のスタートです。


※御指摘頂いた誤字を修正致しました。



 長い夏が終わった。

 波乱の第63回 戦車道 全国高校生大会。
 更に再び廃校を掛けての大学選抜と大洗連合の壮絶なる闘い。
 熱く長い夏は終わった。


 それから季節は少し進み心地よい風が吹き抜ける秋の富士の大地。
 ここ富士の裾野の広大な東富士演習場は今戦車で埋め尽くされている。
 国民の祝日である体育の日、この日は高校戦車道に於いて唯一、全戦車道履修校が一堂に集まる最大イベント、日本戦車道連盟主催の高校戦車道観閲式が行われる日なのである。
 まあ実際には全履修校とは言っても予算の問題で隊長車のみの参加校もあれば、黒森峰やサンダースの様な大所帯はある程度台数を絞ったり、大洗の様に元の数が少なければ全車参加する学校もありその参加スタイルはまちまちだ。
 なお、この戦車道観閲式、通常であれば主催の戦車道連盟の他、防衛省並びに文科省も列席するのが通例なのだが今回は文科省のみ出席を辞退というか自粛している。
 大洗を巡る一連の騒動に置いて、学園艦解体業者等との癒着、その他諸々の容疑で収監中の学園艦教育局長である辻廉太を筆頭に文科省内部でも二桁、民間業者を含めれば三桁に及ぶ人間が摘発されていれば当然と言えば当然の事。
 ぶっちゃけて言えば連盟重鎮にして西住流家元、更に言えば西住姉妹の母である西住しほの逆鱗に触れたが為、怖くて出て来れないのが本当の処。
 申し訳程度に祝電を送っているがこれもしほが握り潰している。
 でもこれも怖くて誰も何も言えないのだった。


「んっふふ~♪んッふふ~♪」


 大量の戦車が居並ぶ中を姉と仲良く手を繋ぎご機嫌で鼻歌なんか歌いがら歩く西住みほ。
 姉であるまほの表情はどうかと見れば、可愛いみほとこうして手を繋いで歩けるのは私だけだと言わんばかりの少々、いや、かなりウザいドヤ顔で歩みを進めている。 
 戦車道という狭い世界の事、事情を知る者も多く、周辺に居る者達も生温い視線を送っているのも当然と言えば当然の事かもしれない。
 それでも幾多の苦難を乗り越え、こうして再び共に歩む事が出来る様になった二人。
 今日は大学選抜戦に措いて力を貸してくれた者達に、履修全校が集まるこの機会に改めて二人で礼を言う為にこうして歩んでいるのであった。


「ねえ、お姉ちゃん」

「ん?なんだ?みほ」


 超甘々な優しい視線で応えるまほ。


「みんなにも改めてお礼も言えたし、私達の出番の午後の段でまだ時間があるじゃない?」


 何しろ履修全校の戦車による観閲行進ともなれば相応の時間を要する。


「そうだな、全国大会出場クラスは皆後段に回されているからな」

「それでね、せっかくだから普段会えない学校も多いし、珍しい戦車も多いから良かったらこのまま一緒に見て回れないかな?」

「そうか、そうだな。みほがそうしたいならそれもいいさ」

「えへへぇ♪ありがとうお姉ちゃん♪」


 嬉しそうにまほの腕に自らの腕を絡めるみほ、エリカ辺りが見たら沸騰しそうな光景だ。


「この辺りのエリアは新規履修校が集まってるみたいだけどコレって……」

「フム、どうも問題ありな戦車が多過ぎだな」

「うん、特にカヴェナンターがやたら多い気がする」

「あれは無駄に生産数が多いからなぁ」

「うぅ‥この学校、八九式を三両も…う、うちのせいかなぁ?」

「気にするなみほ、きちんと調べないで飛び付くのが悪いんだからな」

「うん……」


 大洗の快進撃が始まって以降二匹目の泥鰌狙いで戦車道に力を入れる学校は多かった。
 結果として使用する戦車の需要と供給バランスが崩れ、市場は空前の戦車不足、更には便乗値上げにより購入価格の高騰も招いている。
 故に安物買いの銭失いな学校もかなりの数存在する様だ。


「うぇ?コンクリート戦車!?あれ?これっていいの!?」

「コッチの学校はゴリアテなんかどうする気だ?タンカスロンならともかく戦車道ではまず使用許可が下りないだろうに」

「うちも他所の事言えないけどコレはさすがに……」

「ああ、言っちゃ悪いがダメ戦車の見本市の様だ」


 半ば呆れつつ進む二人。


「あれ?この辺りは新設校なのかなぁ?」

「うん、そうだな、この私立三笠女子学園というのは聞いた事の無い名だな」


 二人はそれが校章旗なのか信号旗のZ旗を掲げた学校のパドック前で立ち止まる。


「ここはⅢ号で統一してるんだね、長砲身の後期のJ型かぁ」

「うちでも使っているし良い戦車だが、それでもⅢ号が5両だけだとさすがに辛いだろう」

「うん、でもパッと見でも相当状態の良い車輛だと思う、整備も行き届いてるみたい」

「それに相当練度も高い様だな、この並べ方を見れば解る」


 そんな会話をしつつ今度は側面が見える位置に二人が移動したその時。


「お姉ちゃん!あれ!真ん中のⅢ号!」

「どうした?」

「よく見て!砲塔のパーソナルマーク!」


 みほが指差す先、Ⅲ号の砲塔側面に描かれた白縁取りに深紅のハートマーク、そしてその中心を貫く徹甲弾がまほの瞳に飛び込んで来た。


「そんな馬鹿な!?だってあれは…」

「もっとよく見て!」


 ハートマークの下部に掛かる弧を描くグリーンのリボンバナーに書かれたそのパーソナルネーム。


「Love Gun……」


 二人の脳裏に鮮烈な深紅のロングヘアの美少女の姿が蘇る。
 厳島恋(いつくしまれん)、嘗て不幸な事故の後忽然と姿を消した天才戦車乗り。
 仲間から親しみを込めラブと呼ばれ、その彼女に皆で考え送った友情の印。
 そしてそのラブの愛馬の呼称であるLove Gun。
 それが今、三年の時を経て二人の眼前に再び現れた。
 その時呆然とそのパーソナルマークを見つめる二人の頭上でⅢ号のコマンダーキューポラが開き、ひょこっと深紅の髪が顔を出し二人に上から声を掛ける。


「今日会えるとは思ってたけど、こんなに早く会えるとは思わなかったよ」


 ハッと声のする方を見る二人。


「元気だった?まほ!みほ!」

「ラ、ラブ!?」

「ラブお姉ちゃん…ほ、本当に!?」

「うん♪」


 その返事に何か言おうとするが硬直した二人は言葉が出ない。
 しかし目を猫の様に細めた美少女の微笑みに、みほが我に返ると叫ぶ様に言った。


「お、お姉ちゃんはここに居て!私みんなを呼んで来るから!」

「おい!み、みほ!」


 言うが早いかみほは全速力で走り去って行った。
 まほは再びラブに何か言おうとするがやはり言葉にならない。
 そんなまほの様子にラブも何も言わず小首を傾げ微笑んだまま見つめている。
 そしてそんな見つめ合いが続いていたその頃、みほは嘗ての仲間に声を掛ける為大汗を掻きながらパドックを駆けずり回りっていた。


「ケイさん!ナオミさん!」

「Wow!凄い汗!どうしたのみほ?」

「そんな事いいから!大変!」



「みほさん、そんなに慌ててどうしましたの?」

「ダージリンさん!呑気に紅茶を飲んでる場合じゃないです!アッサムさんも早く!」



「何よミホーシャ!そんなに引っ張らないで!」

「んも~!ノンナさん!カチューシャさんを担いででもいいから急いで!」



「アンチョビさん!アンチョビさんは何処!?」

「あ~?姐さんなら出店してる屋台の様子見に行ってるッスよ~、どうしたんスか~?」

「はぅぅ!こんな時にぃぃ!急いで新設校エリアに来る様に言って下さい!」

「はぁ~?」

「とにかく急いで!Love Gunが!ラブお姉ちゃんが居るって言えば分かりますから!!」


 コック姿のままCV33から顔を出していたぺパロニにそう告げると、みほは再び全力疾走を始め、後から追いかけてきた面々もその二つの名に反応する。


「ちょっと!みほさん!今言った事はどういう事ですの!」

「言った通りです!だから急いで!」


 更に加速するみほを全力で追いかける一同、ノンナに抱えられているカチューシャは激しい上下動で既に目がぐるぐるの渦巻き状態になっている。
 そして再びみほが皆を引き連れ戻って来た時、混乱するまほは未だ言葉が出せずにいた。


「お姉ちゃん!みんなを連れて来たよ!!」

「あ、お…おぉ…‥」


 口をパクパクさせまほが指で指し示す先を見て硬直する一同。
 その姿にコマンダーキューポラから顔だけ出していたラブが声を掛ける。


「みんな来てくれたんだ~…ってな~に?幽霊でも見た様な顔して~」


 その懐かしいハスキーボイスと独特のしゃべり口調に一斉に目を見開く。


「ちゃんと脚もあるわよ~、待ってて、今そっちに行くわ~」


 そう言うとラブはコマンダーキューポラの縁に手を掛け身を乗り出そうとするが──。


「ぐっ…!」





 ボヨン!






 つっかえていたおっぱいが飛び出し盛大に揺れる。
 それを見た一同の胸中はといえば──。


『重力に負けてない…だと!?』

『ふぇぇぇ!?小山先輩やあけびちゃんが普通に見えるようぅ!』


『What the fu●k!これじゃもう勝てないじゃない!』

『17ポンド!』


『お、大きさじゃありませんわ!大事なのは形ですわ!』

『早々にGI6のデータを更新しないと!』


『こ、これは視覚的大粛清よ!』

『このサイズはカチューシャ様には不要!』


「えへへ、無駄に成長しちゃって」


 指先でぽりぽりと頬をかき照れるラブ。


「さて、ヨイショっと」


 改めてコマンダーキューポラから身を乗り出しラブが地面に降り立つ。


「なっ!?」


 更に言葉を失う一同だがそれも無理は無いかもしれない。
 元々背の高かったラブの身長は胸の成長同様更に伸びていて、仲間内で最も背の高いノンナを軽く上回る背丈となっていたのだ。


「いやあ、無駄に成長しちゃって」


 再び同じ様な事を言いつつ頬をぽりぽりするラブ。
 と、そこへ軽快なエンジン音を轟かせ一台の豆戦車が凄い勢いで突進して来る。


「うひゃあぁぁぁ!ど、どいてくれ!ソコを通してくれぇ~!」


 ぺパロニ操るCV33に箱乗りのアンチョビが絶叫しながら突っ込んで来る。


「あ!ソコだ!ソコで止めろぺパロニ!」


 アンチョビの叫びにCV33は皆の前でつんのめる様に急停車、付いた勢いそのままに堪らずアンチョビはCV33のハッチからでんぐり返しの様に転がり落ちた。


「ちょっとアンタ何考えてんのよ!危ないじゃない!」


 堪り兼ねたカチューシャが噛み付くが、聞こえて無いのかアンチョビは転がり落ちて胡坐を掻いた姿そのままでぺパロニに怒鳴る。


「アイタタタ…コラ!馬鹿者!いきなり止めるヤツがあるかぺパロニ!」

「え~!?いきなり止めろと言ったのは姐さんじゃないスか~」

「お、おい大丈夫か?」


 まほに掛けられた声で我に返ったアンチョビはぺパロニに向かい指示を出す。


「と、とにかくお前は先に戻っていろ!」

「へ~い!」


 言われたぺパロニも渋々元来た方へCV33で戻って行く。
 そして呆気に取られる一同の前で再びアンチョビは声を上げた。


「ってそれよりLove Gunが!ラブがいるってホントなのか!?」

「ここだよ千代美♪」


 その声のした方へと首を巡らせアンチョビもまた硬直する。
 そんな姿にラブは視線を合わせる様膝を突き両の腕を広げると嬉しそうにその名を呼ぶ。


「千代美!」

「あ、あ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!」


 胡坐を掻いたの状態から四つん這いになり、わたわたとラブに這い寄るアンチョビをラブも更に両腕を広げ待ち受けている。
 そして自分の元に辿り着いたアンチョビを優しく抱き留めこう告げる。


「やっと会えた、ずっと会いたかったんだよ、千代美」

「アンチョ…いや!おまえ…い、今までぇぇ!」

「ごめんよ、今は千代美って呼ばせてよ…色々、そう私も色々あったんだよ」


 そう言いながら改めてアンチョビを抱きしめるラブ。


「でもね、あの時千代美が必死に頑張ってくれたからこうして帰ってこられたよ」

「ラブ…」

「だからね千代美、本当にありがとうね…あぁ!やっとお礼が言えたよ~♪」

「ば、ばかやろぉぉぉ…そんな事、そんな事…‥!」

「ごめん、本当にごめんよ千代美」

「本当に、本当にラブなんだな!?あぁ!その顔をもっとよく見せてくれ!」


 ラブの両の頬に掌を当て正面から見つめるアンチョビ。
 そして以前と違い右目のみ隠す様に長く落とした前髪を掻き上げたその瞬間、アンチョビの瞳は大きく見開かれその表情は凍り付き言葉を失った。
 以前にも増して美しく成長したラブのその顔、しかし長く落としていた前髪の下に隠れていた頬の上辺りから眉の辺りにまで達する深い傷痕。
 そう、あの欠陥砲弾がラブに刻み付けた無情の爪痕……。


「あ…あの時‥やっぱりぃ…!」

「えへへ…こんなんなっちゃった。でもね、私こうして生きてるんだよ。だから帰って来られたんだよ、こうしてみんなの前に帰って来られたんだよ~♪」


 その言葉にとうとう堪え切れなくなったみほが声を上げ駆け寄り飛び付いて来る。


「ラブお姉ちゃん!」

「あはは♪ただいまみほ」

「おまえ!おまえぇぇ!」

「もう♪まほまで~?」


 みほに続きまほも飛び付いて来る、もうそうなると誰も皆堪え切れずにラブに向かって飛び付き、ラブも堪らずそのまま皆に押し潰される。


「んも~!みんな重いってば~♪」


 これまでにあまりにも多くの悲しみの涙を流して来た彼女達。
 あの悪夢の日から三年、それに耐え続けた彼女達の瞳からこの日ついに歓喜の涙が零れ落ちた。






ここまでが長かったけどやっとラブを活躍させられる。
けどこの先どんな風に転がるか自分でもまだ解りません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話   AP-Girls

今回やっと主人公であるラブの大事なパートナーの愛が登場します。
これでやっとタイトルになる名前が揃ったけどやっぱ安易なタイトルだったかな?
それとダージリンの本名ネタをほんのちょっぴりだけ入れてます。

例によっていい加減な英語にいい加減な訳を付けてますが、
雰囲気で読んで頂けると助かります。


「も~、整備用のゴムシート敷いてなかったら泥だらけになってたよ~」

 折り重なる嘗ての仲間達の下からやっと這い出し立ち上がったラブが頬を膨らませ文句を言う。
 パタパタと身に付いた埃を掃う姿を見上げる一同。
 改めて見るラブの身に付けるパンツァージャケットは背中に風に靡くZ旗、左腕には皆が贈ったパーソナルマークの入った光沢のある桜色、着丈は短くウエスト辺り。
 袖の反しの裏地は白で長めになっており、書類挟みに使える仕様で全体の雰囲気としてはライダースジャケットに近い印象のもの、手には白のオープンフィンガーグローブで肩のエポレットには黒森峰と同じ様なジャケットと同色の将校略帽を挟んでおりこれにもZ旗が小さく入っていた。
 その下に着ている白のブラウスはシルクなのか独特の光沢を放ち濃紺のネクタイとも良く合う。
 そしてミニスカートとその裾まで達する長めの二―ハイブーツも輝く白で、そのブーツの反しに付いている留め金の右足側にはホルスターが付いているがラブはそこに携帯を入れている。
 暫しそんなラブの姿を眺めていた一同だが、やはり埋もれていたカチューシャを掘り出したノンナが最初に口を開いた。


「ラブ、あなたは今までどこに居たのですか?私もカチューシャ様もずっとあなたの事を探し続けて胸を痛めていたのですよ?」

「ええ、私も聖グロリアーナ進学後に情報処理学部第6課を使い調査を続けていましたが一切行方を掴めませんでした」


 ノンナに続きアッサムもラブに向かって問い質すも、当のラブはと云うと少し困った様にまたも頬をポリポリしつつはぐらかすかの様な返答をする。


「ええとね、そのね、話すと長くなるからそれはまた追々という事でさぁ…」

「それより!この三笠女子学園とは一体?私も今まで聞いた事がありませんわ!」


 ラブの恍けた答弁に被せる様に今度はダージリンが自分も埃を掃いつつ立ち上がりながら言う。


「あ~、り…今はダージリンだったね、それはね~、今年の春に横須賀に開校したんだよ。創ったのは他でもない亜梨亜ママなんだけどね~」

『はぁ!?』


 思わず一同揃って驚きの声を上げるがラブは変わらず飄々としたまま続ける。


「まあそれも詳しくは追々という事で~」


 またしても恍けた発言をするラブに、やっとノンナに掘り出して貰ったカチューシャが遂に切れて顔を真っ赤にしてどやしつけた。


「私達が今までどれだけ心配したと思っているのよ!なのにアンタと来たら何事も無かった様に昔のまんまその間延びしたしゃべり方でフツ~に会話して!どれだけ!どれだけ…ウぇぇぇ~!!」


 そして怒鳴った勢いそのままに今度は号泣するカチューシャ、それを見て盛大に溜め息を吐きつつヤレヤレのポーズをした後にケイがラブを指さし宣言する様に言い放つ。


「Ok!忘れるんじゃないわよ!ラブ!」


 気が付けばいつの間にか横に来ていたナオミが無言でラブの肩をポンポン叩く、しかしよく見れば薄っすら不敵に笑っているその顔のこめかみには青筋が浮かんでいたりする。


「も~、みんなそんなに怒んないでよ~」

「ふざけるな、お母様も亜梨亜おば様に連絡が着かずどれ程気落ちしていたと思っている?」

「私も一度お母さんが二人の名前を言いながら泣いてるの見た……」


 まほはいつもの怖い顔、みほまでもが上目使いでラブを睨んでいる。


「だから本当にゴメンってば~、一度ちゃんと謝りに行くから許してよ~」

「ところでだなラブ、さっきからお前の後ろにいる子は一体…?」


 涙を袖でグシグシ拭いた後アンチョビがラブの背後を指さしつつ聞いて来る。
 皆がそれに気付きふと背後を見ればいつの間にか確かにひとりの少女が佇んでいた。
 背丈は大洗の会長より少し高い位だろうか?小柄な少女ではあるが大洗の会長に比べると発育がかなり良い、端的に言えば身長に比して胸の発育が素晴らしく良い。
 少し強めのウェーブの掛かったセミロングの淡いピンク髪をルーズポニーで纏め、表情が若干乏しいというか眠たげな眼をしているが顔立ちも相当に良い美少女だ。
 身に纏っているものはラブとほぼ一緒だが、左腕のパーソナルマークがピンクのハートのみでブーツは半長靴だった。


「あ、愛♪みんな、紹介するね~、ウチの戦車隊の副長でピンク・ハーツ車長の御条愛(みじょうあい)だよ~。超可愛いでしょ~?宜しくね~♪」


 ラブが屈んで両肩に手を置き紹介するも無表情な愛と呼ばれた少女、しかしラブもそれを全く気にも留めず今度は愛に対して皆を紹介しようとする。


「愛、みんなを紹介するね~、えっとまずね──」

「知ってる…」


 紹介しかけたラブを遮りぶっきらぼうに答える愛。


「さすが愛、私の頼もしい相棒だねぇ♪」


 ラブはご機嫌で愛に頬擦りしたりするがやはり無表情なままの愛という名の少女。
 皆もこれを些か困惑気味に見ていると更に背後から声が掛かる。
 再び一斉に視線が向くと今度は二十数名の少女達が其処には並んでいた。
 全員が同じ出で立ちな処を見ると彼女達が隊員らしい。
 そしてそのうちの一人が再びラブに呼び掛けて来た。


「ね~、恋(ねえ)、ラブって恋(ねえ)のこと~?」

「あ、しまった~!」


 その反応を見た瞬間少女達の瞳が悪戯っぽく輝き示し合わせた様に唱和する。


『ラブ(ねえ)♪』

「あちゃ~っ!!」


 思わず右の掌で顔を覆うラブ、そしてその隣でやはり無表情なままの愛。
 最早その展開に付いて行けない一同は目が点になったまま立ちすくむ。
 しかしその中でどうにか持ち直したアンチョビが口を開く。


「ラブ…お前たちは一体…‥?」

「ん?あぁ、私達…?そっか改めて自己紹介するね~」


 そう言うとラブは過去にも滅多に見せなかった引き締まった表情になり号令を発した。


「Attention!」


 その号令を聞くやそれまで緊張感の欠片も無かった集団が一斉に気を付けの姿勢を取る。


「私は私立三笠女子学園芸能科歌唱部の生徒で戦車隊隊長の厳島恋!そしてここに居るのがそのメンバー、全員一年生のルーキーチームよ!」


 ラブがそう言い放つと全員が直立不動の姿勢から鮮やかな敬礼を決める。
 もう訳が解らなくなったアンチョビは頭を掻き毟りながら声を上げる。


「はあっ!?芸能科?歌唱部?一年生てお前何言って!?」

「だって…私あれからずっと学校行けなかったんだもん…‥」


 ラブはまた元の調子に戻り口を尖らせ拗ねた様にアンチョビに反論する。
 その言葉にアンチョビが次の言葉を言い淀んだ時、愛がラブの袖を引き短く一言言う。


「恋、時間」

「あ、そっか、ゴメンみんな。私達ね、お昼の新設校紹介が出番だから準備中なの、だからちょっとだけ待っててくれる~?」


 そう言うとラブは仮設テントパドックの外に向かい声を上げた。


「お~い!メイク班おねが~い!」


 その声に反応しテントの中に鮮やかなマリンブルーを基調としたミニと、白地の背中に風に靡くZ旗とMIKASAの文字が入ったパーカーを着た一団が、大型のミラーやメイクボックスやパイプ椅子を並べあっと言う間に仮設メイクルームを構築して行った。
 最早完全に地蔵と化してその光景を見ている面々を余所に、戦車隊隊員達に派手なステージメイクとヘアセットを次々と施して行く。
 そして我に返った時には全員がメイクを終え一同の前に整列していた。


「は~い、お待たせ~♪」

「お、おいラブお前たちは一体…」


 狐につままれた様な顔のまほがどうにか問い掛ける。


「んふふ~♪まほ、さっき言ったでしょ?私達はね~、笠女芸能科所属のボーカルユニットなの。今日がね、戦車隊としてもユニットとしても公式デビューなんだよ、宜しくね~♪」

「もう何が何だかさっぱりだ…‥」

「まあ見てて貰えば分かるって」


 そう言うとラブは戦車隊メンバーに声を掛ける。


「さあみんな準備はいいよね?」


 ラブの声に応じてメンバー全員が大きな円陣を組み腰を屈め顔を上げると互いを見つめ合う。
 その顔は頬が上気してほんのり赤く、瞳は獲物を見付けたネコ科動物の様な輝きを放つ。
 それを確認したラブがひとつ息を吸った後声を上げる。


「みんな!緊張してるよね?でも当然だよね、今日が待ちに待った私達Armor Piercing(徹甲弾) -Girlsのメジャーデビューだもんね!でも大丈夫!私達なら絶対やれる!その為に今日までハンパ無い訓練に耐えて来たんだ、だからAP-Girlsは絶対負けないし諦めない!笠女の凄さ見せつけてやるよ!みんなで頂点まで駆け上がるよ!ヨシ!その目だ!行ける行ける!みんないいね!?」


 ラブの檄に呼応して更にグッと身を屈めるメンバー達。


「AP-Girls!Get ready! Get set!」

Go for it!(やっちまえ!)


 メンバー全員でラブに続き(とき)の声を上げると円陣を解き、一斉にそれぞれの乗機に駆け寄り最終点検を行うと次々搭乗して行く。
 ラブもまたその身をコマンダーキューポラに滑り込ませると一度左右に並ぶ僚車を見渡す。
 瞳を閉じたラブは右手を高く掲げ親指を立てる。
 そしてほんの一瞬訪れる静寂。


「ready…Shout of starting the engine!(目を覚ませ!雄叫びを上げろ!)

『Yeaaaah!』


 ラブの掛けた号令にメンバー全員の雄叫びが重なると同時に、居並ぶⅢ号J型戦車のエンジンが一斉に鋭い唸り声を轟かせその身を震わせる。
 それを聴いた瞬間それまで呆然と事の成り行きを見守っていた一同の背筋に電流が奔り、そして即座に彼女達が、そのⅢ号J型戦車達が只者では無い事を理解した。
 しかしたったそれだけでそれを見抜く彼女等もまた普通では無い事も事実だが。
 そして彼女達が見守る中、ラブの瞳が開かれた。
 開かれたラブのその瞳には強く激しい光が宿っている。
 その輝きを彼女達は知っている、嘗て幾度と無く砲火を交えて来た時目にした光。
 激しく燃え盛るが如きその輝きを目にした時、やっと彼女達は実感する事が出来た。
 ラブが自分達の元へと帰って来た事を。


「私立三笠女子学園!観閲スタート地点に移動願います!」


 ラブ達がエンジンを始動するのを待ち構えていたかの如く、観閲式運営委員より指示が出る。
 それに対しラブは指二本の敬礼を投げて応えると見上げている一同に、唸りを上げるエンジン音に負けぬ様大きな声で話し掛けた。


「みんな!私達がトップバッターだから絶対見逃さないでよね!お願いよ♪」


 そう言うとウィンクしながら投げキスをするラブにアンチョビが代表して答える。


「わ、解った!絶対見る!頑張るんだぞ!」

「うん!」

「それじゃあ私達は隊長席のあるスタンドに行くとしよう、じゃあな、ラブ!」


 アンチョビの言葉と共に皆が手を上げると踵を返し客席エリアに向かい遠ざかって行く。
 しかしそれを見送るラブの瞳に微かながら暗い影が過る。










 ワタシヲオイテイカナイデ





作者本人が考えてる以上にラブの抱えた闇は深いのかも…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話   困惑Girls

今回はラブの幼少期と厳島家の様子が垣間見えます。


「恋?」


 ほんの一瞬とはいえ心ここに在らずな恋に愛がやや訝しんだニュアンスを含んだ声を掛ける。


「あ、愛ゴメン!じゃあ行こうか!」


 仕切り直しといった感じで大きく息を吸い込んだ恋が再び号令を掛ける。


「Tanks move forward!」


 そしてLove Gunを先頭に愛のピンクハーツ、イエローにブルー最後にブラックと続き、パドックから観閲スタート地点に向かい五色のハートが綺麗な一列縦隊で前進して行った。
 どうやらハートの色はそれぞれの車長の髪色に由来しているらしい。
 一方観客席に向かっていた一向だが、みほが何かに気が付き突然大声を上げた。


「あぁぁぁ~!お姉ちゃんどうしよう!?」

「いきなりどうしたみほ?」

「私みんなに知らせるのに夢中でお母さんに知らせてなかったよ!」

「あ…‥」


 今更な事実に気が付くが後の祭り、既にラブ達はスタート地点に向かっている。
 わたわたと狼狽えながらどうしようと騒ぐ二人にアンチョビの大声が重なる。


「そうだぁ!私も亜美さ…いや、蝶野教官に伝えないと!」

「それなら連盟の観閲席に二人共居るから直接行って伝えた方が早いぞ!」


 まほの声にみほとアンチョビが頷くと、まほは他の者に声を掛けた。


「すまんがそういう訳で私達は連盟の方に行ってくるから、みんなは先に隊長席に行ってくれ!」

「そういう事ならHurry up!あまり時間無いわよ、もうじき前段も終わるわ!」

「分かった!行って来る!」


 まほがそう言うや三人は連盟の観閲席に向かい走り去って行った。
 その背中を見送りつつ他の者も隊長席に向かうがその道すがらカチューシャが声を上げる。


「だけどおかしいじゃない?連盟もそうだけど、蝶野教官や西住師範だって参加名簿には目を通しているはずでしょ?ならラブの存在に気が付かないはずがないわ。知っていれば当然マホーシャとミホーシャに直ぐに教えていたはずよ?」

「確かにそれは……」


 アッサムもその事実に頤に手を当て思考を巡らせ始める。


「アンチョビにしたってそうよ、あの時最大の功労者はアンチョビじゃない。蝶野教官が彼女に知らせないのもおかしいわ」


 ここまでのカチューシャの抱いた疑問に対し、それまで何も言わずのんきに風船ガムを膨らませていたナオミが口を挟む。


「まああの三人が家元と教官に会えば解る事でしょ?」

「そりゃまあそうだろうけどさ……」


 一同のそんな会話を余所に三人も連盟観閲席に辿り着くと、見付け出したしほの元に駆け寄り身振り手振りで要領の得ない説明を始めていた。


「何を騒いでいるのですか!ここを一体何処だと思っているのか!」


 最初は厳しい西住流師範の顔で叱責を始めたしほであったが、騒ぐ娘達のその言葉の中に『ラブ』と『Love Gun』という単語を聞くにおよびその表情は困惑へと変わっていった。
 と、そこに何事かとやって来た亜美も加わると今度はアンチョビが声を上げる。


「蝶野教官!」

「あら…アンチョビさんお久し振りね、一体どうしたの?」

「居たんです!新設校にラブが!Love Gunが!」

「家元?」

「さっきからこの調子で…とにかく!もう一度最初から落ち着いて順序立てて説明しなさい」


 しほの言葉にみほが一歩前に出て再び話し始める。


「だからね!私とお姉ちゃんが新設校エリアを見に行ってたの、そうしたら私立三笠女子学園っていう学校のパドックにLove Gunのパーソナルマークの入ったⅢ号が居たの!それで驚いてたら中から…中からラブお姉ちゃんが出て来たんだよ!」

「み、みほの言う通りです、そしてラブが言うにはその学校は亜梨亜おば様が創られたと…」

『はぁ!?』


 しほと亜美が同時に素っ頓狂な声を上げ、出来の悪い絡繰り人形の様な動きで顔見合わせる。


「しかもラブは自分がその学校の一年生だと言っていました」


 今度はそのまま固まってる二人にアンチョビが説明を加えた。


「ええと亜美さん?今手元に参加校名簿はあるかしら?」

「え?ああ、こちらに」


 そう言うと亜美は上着の内ポケットから畳まれた参加校名簿を取り出しガサガサと広げる。
 そして二人してそれを覗きこみ目当ての校名を探し始めた。


「え~、みかさ‥三笠…ありましたコレですね」

「私立三笠女子学園…学園長名は知らない名ね‥監督責任者も…生徒名は…‥何コレ?」

「イニシャルだけですね…どういう事でしょう?というか何故これで審査を通ったのか…」

「私も忙しさに感けて細部まで見ていなかったけど…‥」

「恥ずかしながら私もです」

「何より亜梨亜様ともあれ以降一切連絡がないですから…」


 続く言葉を失い暫し無言で見つめ合う二人。
 そんな事をやっているうちに前段終了のアナウンスが場内に流れ始め、引き続き30分後に新設校の紹介が始まる旨のアナウンスも流れて来た。


「と、とにかくここでこうしていても何も解らないから三人は席に戻りなさい」

『はあ…』


 しほの言葉に三人は気の抜けた返事をするとトボトボと隊長席へと向かう。
 その後隊長席で合流した面々から質問攻めにされるも見た事聞いた事を話すのみの三人。


「Why?何よそれ?」

「ホント、どういう事ですの?」

「私達にそう言われてもだなぁ…」


 ケイとダージリンに詰め寄られてもそう答えるしかないアンチョビ。
 その横で先程から携帯で何か検索していたアッサムが口を挟む。


「私は私立三笠女子各園で色々検索してみたのですが駄目ですね、まだ開校間もないとしても今時学校のホームページはおろかロクな情報がありません。GI6にも調査を依頼しましたが今の処まだ何も連絡はありません…こんな事って初めてです」

「謎は深まる一方ですね」


 普段滅多な事では表情を読ませないノンナですらその顔に困惑の色が浮かんでいる。
 するとその傍らで腕を組み難しい顔をしていたカチューシャが口を開いた。


「ねぇ、さっきのアレは本当にラブだったの?」

「な、何言いだすのよ?」


 その発言で思わず膨らませていた風船ガムを割り顔に着けてしまったナオミが問う。


「だってよく思い出してよ、あのふざけたしゃべり口調と見た目は確かにラブそのものだけど、あの子昔はあんな檄の入れ方した?それにあの英語、昔から英語の時だけは早口だったけどあそこまで早口だった?なんていうかテンションがおかし過ぎでしょ?全体的に凄い違和感感じたのは私だけ?」


 カチューシャの投げた疑問に対しそれぞれ無言で考え込んでしまう。
 その中でみほだけが何か思い当ったらしく小さく声を上げた。


「あった…あったよお姉ちゃん」

「なんだ?何があったんだみほ?」

「ラブお姉ちゃんがあんな風な感じになった事があったよ、お姉ちゃん覚えてない?」

「みほ、一体それは何時の事なんだ?」

「…‥ラブお姉ちゃんのお父さんとお母さんが亡くなった時…」

「…(たつき)おじ様と麻梨亜(まりあ)おば様……!みほ!おまえあの時の事を覚えているのか!?だっておまえはまだ幼稚園で──」

「覚えてるよ!だってお葬式の後、亜梨亜おば様と一緒に暮せる様になるまで、半年位家で私達と一緒に暮してたじゃない!」


 そこまで言われた処でまほも古い記憶の中、似た様な状態に思い当った。


「確かに似ているかもしれない…だがあの時とは…‥」

「ううん、似てるよ!家に来てからもずっと泣いていたラブお姉ちゃんが、暫くしたら突然元気になってはしゃいだりし始めたじゃない。私も小さかったからよく解らなかったけど、それでもラブお姉ちゃんが元気になったのが嬉しくて一緒に騒いだりイタズラしたりしてたもん!」

「ちょっとどういう事か説明して下さらない?」


 ここで西住姉妹にダージリンが詳しい説明を求めた。
 それに対し姉妹二人で記憶を探りつつ当時の事を皆に語って行った。


「そうだったの、でもご両親は何故?」

「私達も事故としか聞かされていないんだ、当時はまだ二人とも幼かったしな」

「うん、私も泣いてるラブお姉ちゃんを見てると悲しくて、それが突然とはいえ元気になったのが嬉しくて夢中で一緒に遊んでたから」


 ラブの両親が幼い頃に亡くなっている事を知っていた一同も、改めて聞かされる当時ののラブの様子に言葉は無く暫し沈黙が一同を支配する。
 しかしその沈黙もナオミの放った呟きで姿を消す。


「深い悲しみの裏返し…か」

「あの子いつもそうなのよ、何があってもそんなそぶり見せないでふざけてばっかいて……」


 俯いてそう言ったカチューシャが唇を噛む。
 それぞれの脳裏に嘗てのラブの姿が思い起こされる、常に何処か面白そうにしていて掴み処がなく下らないイタズラをしては皆を振り回して怒られても自分は笑っている。
 しかし一度戦車に収まれば美しく歓喜に満ち溢れた表情で縦横無尽に駆け巡る。
 仲間を想い自分の持てる力は惜しみなく人に与え出し惜しみはしない。
 そんなラブがこの三年の間一体何処でどうしていたのか?
 やっと再会を果たしたばかりなのに一層深まるばかりの謎。
 ラブの性格を考えると詳しくは追々などと言ってはいたがそう簡単に白状するとも思えない。
 それは過去の経験から皆身に染みて解っていた。
 ただもうあの時、三年前のあの日から味わい続けた無力感だけはもう御免だと、大事なモノを失う深い悲しみだけは御免だと全員が考えていた。


「とにかく、一度は例え尋問になったとしても問い詰めなければ私は気が済みませんわ」

「オイオイ、そいつは穏やかじゃないなぁ」


 ダージリンの不穏当な物言いにアンチョビが渋い顔して窘める。
 しかし今度はダージリンのその矛先が窘めたアンチョビに向けられた。


「何を言っているのよ?あなたこそ一番に怒るべきではなくて?だってそうでしょう、先程だってあの子は当時のあなたの働きぶりを知っていたじゃない。それなのにあんなのらりくらりと昔と何にも変わらない態度でやり過ごして」

「まあアイツは昔からああいうヤツだし、私はこうして帰って来てくれただけで充分なんだよ。ただダージリンの言う事も解るよ、でもこの事に関しては少し時間を掛ける必要があると思う。ラブも色々あったと言ってたじゃないか、ああして帰って来た以上もう逃げも隠れもしないだろう、だから私達ももう少し長い目で見てやった方がいいんじゃないだろうか?」

「全くお人好しなんだから…」


 ダージリンとて解ってはいるのだがそれでも言いたくなるのも無理は無い。
 それ程にこの三年は長く、そして極めて重いものだったいう現れなのだ。


「とにかくだ、今はラブの…私立三笠女子学園の学校紹介をしっかり見てやろう」


 まほがそう言うと一同も頷く。
 しかし頷いた後、そのままケイが首を捻り疑問を口にする。

「I'm not sure.でもホントどういう学校なのかしら?芸能科?歌唱部とか言ってたわよね?」

「ボーカルユニットと言ってましたね、芸能学校という事でしょうか?」


 さすがにノンナまでが首を捻る。


「歌は上手かったわよね、ラブの歌うバラードで私は何度か泣かされたわ」

『えっ!?』


 ナオミの意外な発言に一同驚きの声を上げるがその後にまほが思い出した様に言う。


「あれは子供の頃からだ。私達が横須賀の厳島の家に行くとラブがピアノを弾きながら歌ってくれて、私もみほもそれが一番の楽しみだったんだ」

「うん、懐かしいねお姉ちゃん」


 そんな二人のやり取りにアッサムが身を乗り出して聞く。


「ラブはピアノも弾けたんですの?早速GI6のデータに付け加えないと。」

「なんだ、みんな知らなかったのか?」


 アッサムの言に苦笑しつつまほが言うと皆一様に頷く。


「ラブは正真正銘のお嬢様というかお姫様なんだ、家もまあアレだけど厳島の家は凄いんだよ。お城みたいな洋館で初めて行った時は驚いたよ、何しろアイツは自室の天蓋付きのベッドで寝起きしてたんだから。」

「私もお姉ちゃんもそのベッドで一緒に寝るのがお姫様みたいで楽しみだったよね」

「ああ、そうだったなぁ」


 ここまで行くと一同もう言葉が出ない。
 それでも何とかアンチョビが声を絞り出して更に問う。


「アイツの家はそんなに凄かったのか…?でも厳島流って流派としては小さい方だと」

「ああ、厳島流は流派としてはほぼ身内のみで継承しているからな。でも厳島の一族は代々商才に長けていて、その財力で言ったら家なんか足元にも及ばないよ。実際世界的なグループ企業だしそういう意味でも高校ひとつ創る位は造作もない事だと思う。それとラブの家ならみんな知ってるはずだぞ、夏に横須賀で合同練習した時走水(はしりみず)海岸に泳ぎに行ったろ?あの海岸から見えた山の上のお城、アレがそうだ」

『え゛ぇ゛ぇ゛~!!』

「てっきりリゾートホテルかなんかだと思ってたわ……」


 カチューシャが呆然と一言呟く。
 もう完全に違う世界の夢物語に一同の困惑も頂点に達していた。


「Why?でもなんでそんなお嬢様が地元の公立校だった訳?」

「あれだけ付き合いがあってまだ知らなかった事があったなんて…‥」


 ケイの疑問とアッサムの呟きにまほは極あっさりと答える。


「横須賀じゃ臨中が昔から一番強かったし友達も多かったからだそうだ」


 
 そんな状況を余所に遂に新設校紹介の開始を告げるアナウンスが流れ始めた。


「お、いよいよ始まるみたいだな」


 そのまほの言葉に一同背筋を伸ばし正面に広がる演習展示地域に目を向けるのだった。





何やら凄い家柄ですが、まあガルパンの世界ですからね~。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話   歌う戦車隊

お待たせ致しました。
今回はいよいよラブとAP-Girlsが大暴れするお話です。


しほママにちょっと萌え。


『これより、今年度新規履修校の学校紹介を行います』


 新規履修校の学校紹介は他の履修校の観閲行進とは異なり、観客席前に広がる演習展示地域に展開し持ち時間15分で自由に学校紹介行う形式になっている。


『それでは私立三笠女子学園の入場です』


 アナウンス終了と同時に突如場内に大音響で流れる激しいロックナンバー、二面用意されている大型スクリーンにはCGで風に靡くZ旗を背景にMIKASAの文字が躍る。
 そして近付いて来る全開のエンジン音と、演習展示地域を包囲する様に五ヶ所同時に炸裂するスモーク花火、そのスモークを突き破り五輌のⅢ号J型戦車が宙を舞って会場に飛び込んで来た。
 どうやら花火を仕掛けてあった場所に擬装したジャンプ台が用意されていた様だ。
 センターのスモークから飛び出して来た、Ⅲ号のコマンダーキューポラから身を晒したラブの絶叫がスピーカーを通して会場に轟く。


「AP-Girls!Go for broke!!(当たって砕けろ!!)

『Yeaaaaaaaah!!』


 それに続く隊員達の声を限りの絶叫に会場全体が度肝を抜かれていた。
 隊長席に居た一同全員が目を剥き顎が落ちている。
 因みに連盟観閲席でも亜美としほが同様の顔で固まっているのだった。
 しかし着地後最初は好き勝手に走り回っていた戦車達が、曲のイントロが終わりメンバー全員で歌い始めると、それまでとは打って変わって見事な集団機動で見る者を魅了し始めた。
 互い違いに旋回しながらすれ違う際の車両間隔は接触ギリギリ、それでいて描く円は一定で寸分の狂いも無く大地に履帯の跡を刻み付けている。
 この辺りで観客席からは大歓声が上がり始めたが、身を乗り出し膝に肘を突き顎を乗せたアンチョビだけがひとり何やらブツブツ言っている。


「オイオイオイ…コイツぁまたとんでもないぞ…‥」


 曲のサビのフレーズのリフレイン部分では紙吹雪の特殊弾を高速連射。
 その歌う様子も車内で装填する様子も全てがモニターにも映し出されている。
 また彼女達の歌声も相当高性能の指向性マイクを使っているのか綺麗に聴こえていて、既に観客のテンションも最高潮に達していた。


「あの機動であの高速連続装填は普通あり得んだろう……」

「さっきからブツブツと一体何ですの?」


 ブツブツ言うアンチョビにダージリンが苦言を言うがアンチョビは止まらない。


「お前達はこれを見て何とも思わないのか?あの機動も砲撃タイミングも装填速度も只事じゃないぞ?しかも彼女ら笑顔でハイテンションに歌いながらそれを平然とやってのけてるんだぞ?」

「そ、それは……」


 これにはダージリンも返答する言葉が直ぐには出て来ない。


「しかしそのアレだな…何と言うか盛大に揺れているな……」


 そう言ったアンチョビの視線がダージリンの胸元を射す。
 その時二面ある大型スクリーンでは、どアップでラブのたわわに実ったソレがバルンバルンに揺れていて、男性客の視線は全てその一点に釘付けになっていた。
 何故か一同赤い顔で俯き、ケイだけは違う意味でプルプル震えている。
 そしてダージリンはアンチョビに噛み付く。


「ち、ち、ち、千代美!!!」

「ア・ン・チ・ョ・ビ」


 アホなやり取りをしているうちに曲はいよいよエンディングに差し掛かり、曲の終了と同時に全車ドリフトから綺麗な一列横隊になり等間隔でピタリと止まる。
 その華麗且つド派手なパフォーマンスに場内は割れんばかりの拍手と歓声で溢れていた。
 車内から出て来たメンバー達も車体に登り手を振ったり投げキスで応えている。
 そして砲塔の上に立ち上がったラブが胸に手を当て大仰に一礼し、両手を胸の前に掲げて拍手を制する様な仕草をすると潮が引く様に拍手と歓声も収まって行く。
 その様子を見てひと呼吸おき、観客に向かいラブが第一声を上げる。


「皆さんこんにちは!私達が私立三笠女子学園戦車隊です!私が戦車隊隊長、そしてボーカルユニットArmor Piercing(徹甲弾)-Girlsのグループリーダー厳島恋(いつくしまれん)です!本日開催されたこの高校戦車道観閲式が私達にとって戦車道公式行事へのデビューの舞台となりました、どうぞ宜しくお願い致します!」


 ここでラブとメンバー達が鮮やかな敬礼をすると再び大きな拍手と歓声が巻き起こる。
 それが収まるのを待ちラブは続ける。


「私立三笠女子学園は私達の所属する芸能科を中心とした専門教育に特化した私立校です。中でも私達歌唱部一期生総勢25名は全員戦車道を履修し、横須賀を母港とした学園艦と共に、これから全国を回りながら戦車道の試合とAP-Girlsのステージパフォーマンスを展開して行きます。どちらも私達にとっては授業成果を発表する大事な場となりますので是非とも応援をお願い致します!」


 ここでラブはワザとらしくひとつ咳払いをしてから更に続ける。


「尚、ここで更にひとつ大事なお願いがあります!今月末には私達AP-Girlsのデビューシングルとデビューアルバムが同時発売されますので是非買って聴いてみて下さい!これを買って頂けないと私達は新しい戦車が買えません!なので是非ともご協力をお願い致します!」


 ラブがそう言うや全員で深々と頭を下げ、そして胸の前で手を組みお願いポーズを取った。
 これには会場中から爆笑と大きな拍手が巻き起こりそれを合図に学校紹介も終了した。
 操縦士のみが車内に戻り、他のメンバーは車内から取り出した籠から色とりどりの花びら撒き散らしつつ、綺麗な一列縦隊で登場時とは一変して可愛らしいラブソングを歌いながら、演習展示地域を一周するとそのまま退場して行くのだった。
 因みにこのAP-Girlsのド派手なパフォーマンスのお蔭で、この後に登場する新規履修校の戦車隊にはには少々気の毒な学校紹介と場となってしまったのであった。


「ええと亜美さん……」

「はい何でしょう家元…‥?」

「今日は何の日でしたっけ…?」

「高校戦車道観閲式の開催日だったかと‥」

「良かった…日取りを勘違いしていたかと思いました」

「はあ…」

「…それにしても…‥」

「はい…」

「また随分と立派に成長して……」

「…‥」





『負けた!!』






 何の勝負だか解らないが困惑しきりの二人の元に今度は全員が訪れて来た。
 しかし亜美としほも含め全員がまだ信じられない物でも見た様な、まるで幻の陸上戦艦ラーテにでも遭遇したような顔で暫し呆けていた。


「ああ、ええとそう、あれは確かに恋でした。ですが私達にも解らない事が多過ぎます」

「ええ、でも今は調べる様な時間はありませんね、皆さんももう直ぐ観閲行進が始まるでしょ?」


 確かに二人の言う通り新設校紹介が終われば後段の観閲行進が直ぐにも始まる。
 一同ももうそれぞれの待機場所に戻らねばならない時間が迫っていた。
 何ともいえない微妙な表情で顔を見合わせた後仕方ないから行くかという雰囲気になった時、その中からまほが少し思い詰めた様な表情で声を上げた。


「あの!教官とお母様にお願いがあります!私達の観閲行進の後の隊長車による一斉砲撃の最前列、出来れば私とみほの間にラブを入れて頂きたいんです!最前列が全国大会出場校が並ぶのが決まりなのは解っています。でも、本来なら間違い無くラブはそこに居たはずなんです!先程の学校紹介でラブが公式行事はこれが初参加という言葉を聞いて気が付きました。みほにはまだ来年一年ありますが、私達の世代は公式行事で同じ舞台に立つ機会はもう無いんです!ですからどうかお願いします、ラブを私達の並ぶ最前列に加えて下さい!」


 一気にそう言い切ってギュッと瞑ったまほの目じりには涙が浮かんでいた。
 そしてそのまほの言葉にハッとした一同も後に続く。


「Oh!まほ、ナイスアイディアよ!」

「私からも是非お願い致しますわ」

「この機会を逃したら私は自分を粛正するわ!」

「お母さんお願い!」


 一斉に上がる声に閉口した様にしほも大きくひとつ溜め息を吐くと首を振りつつ答える。


「解りました…ですからこれ以上ここで騒ぐのはおよしなさい。連盟には私から話を通しておきます、連盟には()()()貸しもありますから嫌は無いでしょう。それに…私としても恋の復帰に花のひとつも添えてやりたい気持ちもありますから」

「あ、有難う御座いますお母様!」

「お母さん!」

「だからこんな場所でおよしなさい!それより早く恋にこの事を伝え自分達も行進に備えなさい」


 喜んで飛び付く二人にしほは厳しく言うが、その顔は怒ってはいない。
 その後はこの事をラブに伝えるべく一同は走ってパドックに向かい走り去って行った。


「はぁ……」

「お疲れ様でした」

「一体何がどうなっているやら…」

「驚く事ばかりでした」

「ええ、いずれにしても落ち着いたら亜梨亜様に改めて接触を図ってみましょう」


 そんな会話の後二人が頷き合っていた頃、一同も三笠女子学園のパドックへ辿り着いていた。
 既にパドックにはAP-Girlsも戻っており、見事大成功を納めた学校紹介の結果にハイタッチしたり抱き合ったりしてハイテンションで騒いでいる処であった。
 ちょうどそこに駆け込んで来た一行に気が付くとラブはまほを捕まえて熱烈にハグをした。
 その後も全員にハグを繰り返し満足したのかハイテンションなまま聞いて来る。


「どう!?どうだった!?見てくれたんでしょ?私達AP-Girlsの初舞台!カッコ良かったでしょ!?カッコ良かったよね!あぁもう最高!完璧過ぎて私どうにかなっちゃいそうよ~♪」

「あ、ああ凄かったぞ、みんなで度肝を抜かれたよ」

「でしょ!?でしょ~!まほ!私達って凄過ぎでしょ~!!」

「分かったよ、分かったから落ち着けってラブ」

「そんなの無理よ!きゃ~!最高過ぎ~!」

「コラっ!」


 ハイテンションで騒ぎ一向に話が出来る状態にならないラブに見かねたアンチョビが、腰にしていた指揮用の鞭でラブのお尻をピシャリと叩いた。


「いった~い!何すんのよ千代美~!感じちゃうじゃな~い♪」

「アホ!アンチョビだ!それより人の話を聞け!我々も時間が無いんだから!」

「も~、何よ~?」


 お尻をさすりつつラブもようやく人の話を聞く姿勢を見せる。
 それを見てアンチョビに礼を言いつつまほが説明を始めた。


「いいかラブ、我々の観閲行進の後に隊長車による一斉砲撃があるのは知ってるよな?」

「知ってるわよ~、私も参加するんだし~」

「ああ、それでなラブ、お前も私達と一緒に最前列に並べ」

「え~?私らぺーぺーは最後列って決まってるわよ~?」

「いや、だからな落ち着いて最後まで聞いてくれ。みほは来年があるが、私達三年はこれが最後の高校戦車道の公式行事だ。つまり今日を最後にお前とは高校では二度と公式の同じ舞台に立てない。だからこそせめて私達は、この一斉砲撃位は一緒に並んで撃ちたいんだ」

「え?そんな…だって無理よ…」

「大丈夫!さっきお母様にお願いして来たから絶対だ!」

「え…?しほママに?」

「そうさ、だからラブは何も遠慮する事無く私達と一緒に最前列でぶっ放すんだ!」

「いいの?本当にいいの…?」

「本当だとも、他の隊の隊長達にも私から話を回しておくから安心しろ。な~に、ほとんどみんな同期だ、お前の事を覚えてるヤツも見知った顔も多い。誰も文句を言わないさ、もしそんなヤツが居たら私が容赦無く88㎜をぶち込んでやるさ!」

「まほったらも~、でも…でも‥ホントに‥?」

「いいんだよ、何度もそう言ってるじゃないか」


 ラブの瞳から大粒の涙が一粒零れ落ちる。


「おいおい、泣くヤツがあるか、折角のメイクが台無しになるぞ」

「まほ大好き!!」

「おぶぅっ!!!」


 この日最強のラブのハグが炸裂しまほの顔がラブの胸に埋もれる。


「大好き!大好き!大好き~!!!」

「ぐっ!はっ!う゛ぅ゛!」

「あ゛……」

「ぶはっ!ち、窒息させる気か!!」

「ご、ごめん…‥でも本当にありがとう…」

「…まったくしょうがないヤツだ、とにかくそういう事だ仕度しておけよ」

「うん♪」


 ここでそれまで事の成り行きを見守っていたAP-Girlsの面々からまほに声が掛かった。


『西住隊長、ラブ(ねえ)の事ヨロシクね~♪』

「ああ!任せておけ!」


 まほも右腕を上げガッツポーズでそれに応える。
 それに対しAP-Girlsも全員で答礼を決めて見せた。


「さあ!それじゃあ我々も行こう!ラブ、今度は私達の出番だしっかり見ていてくれよな!」

「うん!千代美解ってるよ♪」

「アンチョビだ!」

「あはは♪」


 アンチョビの宣言を合図に皆が手を振り立ち去って行く。
 この日見る二度目の嘗ての仲間達の背中。


「まぶしいな……」










ワタシヲヒトリニシナイデ





マタヤッテシマッタ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話   富士に咲く華

高校戦車道観閲式もいよいよその幕を閉じますが、
今回もラブが大暴れします…違った意味で。
まあやりたかったネタ目一杯詰め込んでお送りします。

それと今回はさおりんとゆかりん、梓ちゃんと絹代さんが遂に登場です。
しかしドイツ語と熊本弁は難しい…例によって適当です、ハイ。


それでは皆さんご一緒に。

ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!




 高校戦車道観閲式も午後になり全国大会出場クラスが登場する後段の観閲行進が始まった。
 全国大会クラスの履修校から選抜された、大編成のブラスバンドによりエンドレスで演奏される陸軍分列行進曲に乗り粛々と戦車隊が隊列を組み場内に入場して来る。
 やはり全国クラスの有名校ともなると沸き起こる拍手も俄然大きくなっていた。
 そんな中でも最初に格段に大きな拍手で迎えられたのは、意外にというか知波単学園戦車隊が入場して来た時であった。
 その知波単の隊長である西絹代は、大学選抜戦以降その麗しい容姿と快活な人柄、名家西家の御令嬢である事も世間の知る処となり一気に耳目を集め目下人気急上昇中であった。
 更に月刊戦車道のグラビアページに掲載された、愛馬ウラヌスことゴディエ・ジュヌー1135Rに跨る凛々しくも勇ましい姿に若い女性ファンが激増、今も観客席からは『絹代様』なる黄色い嬌声が飛び交っていたりする。
 その黄色い声が飛び交う中、当の絹代本人は実に涼しい笑顔で美しく長い黒髪を靡かせ、敬礼を決めながら知波単戦車隊を先導し進んで行く。
 しかし隊長席の辺りに差し掛かった辺りで、絹代がほんの一瞬ではあるがニコリと微笑み、一点に向かい敬礼を送っていた。
 そしてその敬礼が贈られた先、隊長席でも一人の人物が小さく両手を振り返している。
 会場内でその小さなやり取りを誰も気にするものは居なかったが只一人気が付いた者が居た。
 それは地区毎に振り分けての入場の為、知波単に続き入場して来た聖グロリアーナ戦車隊の隊長であるダージリンその人である。
自身も大きな歓声を受けつつ取り澄ました笑顔で敬礼をしながらも、その一瞬の出来事に目ざとく気付いてほんの一瞬その青い瞳を細めていた。


『どういう事ですの?今の絹代さんの笑顔と敬礼は?明らかに特定の一人に送られていましたわ。そしてその送られた相手は間違い無くラブ!そしてあの子も手を振り返して!二人は一体どういう関係でいらっしゃるの!?そもそもその関係は何時から!?』


 胸中そんな事を考えつつ表情は変わらず笑顔のまま敬礼をしている。
 だがその瞳の奥には何やら仄暗い炎(ジェラシー)が宿りラブを見据えていた。
 昨今絹代と良い仲と噂されるだけに心中穏やかでは居られないといった処であろう。
 しかし一方のラブはといえば胸の前で手を組み『ダージリンさま~♪アッサムさま~♪』などと嬌声を上げ、周囲に座る前段で観閲を終え同席していた他校の隊長達をドン引きさせている。
 因みに全国大会優勝校である大洗がトリを務める以外北から南の順で行進している為、先に登場していたプラウダに対してもラブは『カチューシャさま~♪』と『ノンナさま~♪』をやっており、コマンダーキューポラ上のカチューシャは怒りでプルプルしながら敬礼していたりした。
 そして観閲行進は更に進みアンツィオ高校が登場した際それは起こった。
 アンチョビが搭乗したP40がぺパロニのカルロ・ヴェローチェCV33やカルパッチョのセモヴェンテM41などを従え行進して来るや、突如として全観客席から怒涛の『ドゥーチェコール』が巻き起こったのである。
 満場に響き渡る『ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!』の連続コールに、思わずアンチョビは頭を抱えそうになるが敬礼は止められない、チラリと見ればぺパロニもノリノリだ。
 そのぺパロニの顔には『オメ~ら解ってるじゃね~か~』と書いてある。


『や、止めんかこのバカモノ~!』


 心中でそう毒突くがドゥーチェコールは鳴り止まない。
 そして視界に入った隊長席でも当然ラブが右の拳を振り上げドゥーチェコールを繰り返し、更に周辺の他校の隊長を巻き込み無理矢理ドゥーチェコールをやらせる始末。


『た、頼む!お願いだから止めてくれ~っ!!!』


 アンチョビの心の叫びも虚しく行進は進んで行く。
 一方連盟観閲席ではその光景に亜美としほが笑ってはいけない高校戦車道観閲式を演じていた。
 その後も行進は続き登場したサンダースのケイとナオミにも同様の『さま~♪』攻撃を仕掛け、飛び跳ねてバルンバルンするおっぱいにケイは再びプルプルさせられている。
 そして観閲行進も残るはいよいよ二校、黒森峰と大洗を残すのみ。
 まずまほの搭乗するティーガーⅠを先頭に一糸乱れぬ隊列で敬礼を決め整然と入場して来ると、やはりさすがは黒森峰、これまで以上の拍手が巻き起こる。
 が、ここでもやはりラブのやる事は容赦が無かった。
 クールに敬礼を決めるまほに対し色気全開のハスキーボイスで叫び掛ける。


「いや~ん♡まほ様素敵~!結婚して~♪」


 これにはさすがに周りも笑いを堪えるのに必死であり、やられたまほの鉄面皮にもヒビが入りその口元が微かにヒクヒクと痙攣している。


『後で絶対アハト・アハトをぶち込んでくれる!』


 そんなまほの瞳の怒りの炎もラブは一向に気にせずクネクネ身をくねらせていた。
 それとやはり例の二人がこの日二度目の笑ってはいけない高校戦車道観閲式を味わっている。


「こ、怖い…ラブお姉ちゃんが怖いよぅ!」


 前方の光景を目にしコマンダーキューポラ上のみほは既にガクブル状態だ。


「ちょっと~、みぽりん大丈夫~?」

「どうしたのでありますか西住殿?」


 その様子に沙織と優花里が声を掛けるが耳に届いていない様子。
 首を捻る二人を余所にいよいよ大洗が入場する出番がやって来た。
 大洗女子学園の名がコールされ我に返ったみほもパンツァー・フォーの号令を掛ける。
 隊員も搭乗するその戦車も高校戦車道界きっての個性派集団、奇跡の大洗の登場に会場内もこの日最大の歓声と拍手に包まれ湧きかえっている。
 思えば判官贔屓な国民性の日本人にとって大洗の快進撃は、最も熱くなる展開故これもまた当然と言えば当然の反応で、中には感極まって泣いている高齢の観客も見受けられた。
 全国大会優勝旗をはためかせ進むあんこうチームとみほに熱い声援が飛ぶのは当然として、すっかりジャイアントキリングで名を馳せ『大洗の首狩り兎』の二つ名を奉られた後に続くウサギさんチーム、中でも新人賞のヤングタイガー賞を受賞している梓にもかなりの声援が飛んでいる。
 M3の車内でも『梓すご~い♪』などと盛り上がっているが、当の梓はそれ処ではない程ガチガチに緊張して敬礼したまま固まっている様だ。


『うぅ…とうとう隊長席の前まで来ちゃったよぅ…』


 自分が一体どんな攻撃をされるか戦々恐々で隊長席のラブに視線を送るみほ。
 遂にあんこうが隊長席前に差し掛かりみほの視界にラブの姿が入って来る。
 が、しかし──。
 みほの目に飛び込んで来たラブは普通に手を振り時折左手の人差し指で目じりを拭っている。


『え!?泣いてる?』


 そして遂には号泣し始めたらしく両隣のどこかの隊長に慰められている姿が目に映る。


「ラブお姉ちゃんそりゃ一体どぎゃん攻撃たい!?」


 思わずお国言葉が口を突いて出てしまうみほだが隊列はそのまま先に進む。
 その先辿り着いた連盟観閲席では感極まったしほが顎を梅干しにして耐えており、その横では何とも言えない微妙な困った顔で亜美がみほの事を見ていた。
 そんな一部の人間には『コレ何て罰ゲーム?』な観閲行進も大洗が下手の観客席前を通過した処でどうにか無事終わりを告げたのであった。


「前言撤回!アイツは昔からなんも変わっちゃいないわ!」


 観閲行進中ラブの仕掛けたイタズラのお蔭で、一同死んだ魚の様な目でゲンナリしている中、カチューシャのみが癇癪を起こし只独り気を吐いていた。
 そこへLove Gunのコマンダーキューポラから身を乗り出し、途中すれ違う他校の隊長から掛けられる『厳島さんお久し振り』とか『ラブにまた会えて嬉しいわ』なんて声に応えつつニコニコ嬉しそうに手を振りながらノコノコと一同の元にやって来た。


「みんな~!超カッコ良かったわよ~♪」

「わよ~♪じゃない、随分面白い事やってくれるじゃないか?」


 目の前にやって来たラブの両のほっぺをび~っと引っ張りながら、ナオミが静かに恫喝する。


「ひ~ん、ゴメンってば~。でもみんながカッコいいから嬉しくって~♪」

「油断した私達が愚かだったという事です…わ!」


 眉間に皺を寄せつつダージリンが吐き捨てる様に言うも全然ラブは堪えていない。
 この日何度目かの溜息を吐きつつアンチョビがラブを指揮用鞭で指すと言った。


「とにかく時間が無い!さっさとLove Gunを隊列の間に入れんか!」

「はぁ~い」

「ハイは短く!」

「はい…」

「しょぼんとして同情を買おうとするな~!」

「きゃ~♪」

「…早く学園艦(お家)に帰って寝たい……」


 ウンザリ顔で再び溜め息を吐き肩を落とし自分の乗機に向かうアンチョビ、そしてそれを潮に他の面々も同様のウンザリ顔でそれぞれの戦車に搭乗して行く。
 かくして隊長車による隊列も整い前進の合図を待つのみとなる。
 所属校も使用する戦車の国籍も違えど隊長車がズラリと並ぶ様は実に壮観だ。
 同じ戦車とは言え隊長車ともなるとやはり風格があり見る者を魅了するオーラがあった。
 その隊長車による特別編成戦車大隊の大隊長には、その場で行われる隊長会議に於いて満場一致でまほが選ばれており先頭で入場する事になる。
 必然的にラブのはその次に入場する為まほのティーガーⅠと、みほのあんこうの間で待機中だ。
 すぐ目の前のティーガーⅠのコマンダーキューポラ上にまほの背中が見える。


 「まほ!…その‥ありがとう……」


 まほの背に向けラブが掛けた言葉に、まほは振り返る事無く右手を揚げ黙って親指を立てる。
 それと同時に入場コールが掛かりまほが大音声で前進の命を下す。


Spezial bataillon! Panzer vor!(特別戦車大隊前進せよ!)

『jawohl!!』


 無線から聞こえたまほの命令に対し、この時ばかりは黒森峰流に全車からドイツ語の了解の声が一斉に上がり、会場の客席でもスピーカーから聞こえたその声に拍手と歓声が巻き起こる。
 エンジンが唸りを上げ履帯を軋ませ続々と演習展示地域に戦車が進入し、陣地展開して行くがさすが全てが隊長車なだけにその動きには無駄が無くそれだけでも見る者に感動を与えている。
 そして最後尾の一列の展開が終わると演習展示地域は完全に戦車で埋め尽くされた。


『こちらFDC、対TOT戦車の華道発動!』


 FDC、ファイヤーデレクションセンターの略称の名の下に、亜美の号令により一斉砲撃命令が下される無線交信の声が会場のスピーカーから響き渡った。
 すでに全車の砲身は高く振り上げられ富士山を指向している。


『TOT20秒前!』


 カウントの後眼前に居並ぶ戦車砲が一斉に火を噴く、その腹に響き全身を揺さぶる衝撃に観客席全体から『おぉ!』っと驚きの声が上がる。


だんちゃーく(弾着)!今!』


 亜美の叫びと同時に晴れ渡った青空と富士を背景にして、中空に色とりどりの特殊スモーク榴弾が一斉に花開き、ワンテンポ置いた衝撃音が見る者の全身を再び揺さぶった。
 鳴り止まぬ拍手と歓声に振り向き全隊長が敬礼で応え、祭りの終わりの時間が訪れる。


『状況終わり!』


 全てが終わった事を告げる亜美の声が響くと後列から順に居並ぶ戦車も撤収を始めた。


『Ob's stürmt oder schneit,Ob die Sonne uns lacht,──』


 撤収する戦車の隊列の中、誰からともなく何時の頃からか戦車乙女たちのテーマソングになっているパンツァーリートを歌う声が上がり始める。
 ひとりまたひとり唱和する声は増えて行き、手の空いている者は各々ハッチから顔を出しつつ笑顔で手を振りながら歌っている。
 殆どの隊長が三年生でありこれを最後に公式行事からは引退して行く。
 その歌声はまるで引退して行く彼女達からの別れの歌の様に聴こえて来るのであった。
 かくしてこの別れの歌を最後に高校戦車道観閲式はその幕を閉じた。





観閲行進にはやはり陸軍分列行進曲が最適だと思います。

作中の曳火射撃は本来アレですがソコはノリと勢いという事でお願いします。
御存じない方は対TOT富士で検索して頂くとつべに動画がいっぱいありますよ。

今年は総火演行きたいなぁ…一昨年は行けたけど去年はハズレちゃったんですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話   撤収狂騒曲

始めにお断りというかお約束。

学園艦のサイズを気にしてはいけません、
気にするとガルパンの世界は成立しなくなりますので~。

何でだろう?チョビ子とぺパロニの会話って、凄いリアルに脳内でCV再生するなぁ。


「西住隊長、お疲れ様でした」

「ああ、エリカすまない」


 パドックに戻って来たまほは礼を言うと、エリカから手渡されたスポーツドリンクを一気に飲み干しひとつ大きく息を吐いた。


「それであの……」

「うん?」

「ラブ先輩の事なのですが…‥」


 エリカもまた、嘗てラブから教えを受け事故当時心を痛めていた一人であった。


「ウム…私達もまだ詳しい事は何も解らんのだ、何しろあの性格で直ぐに口を割らんからな」

「ああ……」


 まほのその言葉で全てを察するエリカだが、そこにまほは更に付け加える。


「それに関しては日を改めてという事にしても、今はもう一仕事せねばならん」

「と、言いますと?」

「ラブをお母様の所に連行する!」


 鼻息荒くまほが言い放つとエリカはがっくりと首を項垂れた。





「ええい!観念してキリキリ歩かんか~!」

「痛いってば~!また感じちゃうってば~!」

「どアホ!!」


 またしてもアンチョビにお尻に鞭を入れられラブは抗議の声を上げる。
 ナオミとノンナそれぞれに両腕を極められしほの居る連盟の控えテントに連行されるラブ。


「言われなくっても歩くから離してよ~」

『ダメだ!』


 全員に一斉に攻められシュンとなるもその縛めは緩む事が無い。
 過去の行いからこういう事には仲間からの信用が一切無いラブであった。
 そして辿り着いた連盟の控えテントでは──。


「しほママ…その…‥ごめんなさい……」


 言葉にならぬしほがラブを強く抱きしめる、幼い頃たった半年とはいえ我が子同然に育てた娘。
 その娘が三年の時を経て再び我が元へ帰って来たのであれば無理からぬ事であろう。
 しかし連行して来た面々は少々違った視点でその光景を眺めていた。



『二大胸部重装甲激突!』



 しほが自分より上背のあるラブを胸元に抱き寄せ様とした結果、胸部重装甲の激突事故という重大インシデントが発生していたのである。
 またしても全員顔を赤らめケイの目は完全に死んでいた。


「しほママ……」

「もういいのです‥今はもう…それよりもその顔をよく見せて頂戴」


 漸くラブを胸元から解放したしほは、アンチョビがしたのと同様に右目に掛かる前髪を掻き上げるとその痛々しい傷痕を見た瞬間その場に崩れ落ちそうになる。


「あぁ!何という事!」


 横に立ち一緒にその傷痕を見た亜美も青い顔をしているがある事に気付く。


「恋さん…その目は──」

「蝶野教官、今はその話は……」

「え、えぇ、そうね、解りました…‥」


 そこでどうにか気を取り直したしほがラブに声を掛ける


「積もる話もあります、でも落ち着いてからで構いません、一度熊本にいらっしゃい」

「はい、その時は必ず亜梨亜ママも一緒に」

「ええ、待っていますよ」


 その言葉にラブも深々と頭を下げる。
 再びラブが頭を上げた時、亜美がひとつ手を叩き宣言する様に声を上げた。



「ハイ!皆さん疲れているでしょうけど一番大変な仕事が残っていますよ!」


 亜美のその言葉にその場にいる全員の顔が一斉に憂鬱で絶望的な表情に変わる。
 そう、高校戦車道観閲式が終了した今、一同には東富士演習場からの撤収という名の非情且つ過酷な難題が待ち構えているのである。
 お世辞にも交通インフラが整備されているとは言い難い東富士演習場周辺。
 搬入は分散させ早めに出来るがその逆となるとそれも中々難しくなる、如何せん集結している戦車の数が数だけにその撤収には例年参加者は胃の痛くなる思いをするのが通例だ。
 どの学校も陸路輸送は輸送車両に限りがあり、参加車輛が隊長車のみなどの場合以外ではそれで済ませられるのは極めて稀なケース。
 一部御殿場から鉄路を使う学校もあるがJR貨物にも限界がある。
 唯一鉄路組で例外なのは知波単位であろう、自前でK2形蒸気機関車を運用している知波単の、戦車を積載しての汽車ぽっぽ行列は毎年この時期沿線でも大層人気があった。
 それでも御殿場までの陸路は大戦車行列という名の渋滞にはまらねばならない。
 だがしかし一番大変なのはやはり海路組で、沼津港に毎年二本用意される仮設桟橋から学園艦に乗艦する訳だがそこまで辿り着くのに大戦車行列で一晩掛かる。
 そしてその大戦車行列も沿道の風物詩と化しており、一晩中続く戦車の行進を周辺住民が提灯行列で見送り、屋台も立ち並ぶのでちょっとしたお祭りとなるのであった。
 だが残念ながら彼女達の苦労はこれで終わりではなく、やっとの思いで辿り着いた沼津でも更なる試練が大口を開けて待ち受けているのだ。
 何しろ桟橋は二本しかなく、それぞれ両岸に接岸出来ても一度に四杯がやっと、沖合待機で入れ替わり立ち代わりで乗艦しても如何せん馬鹿デカい学園艦故時間が掛かる。
 天候次第では更なる足止めもあり毎年これで苦労させられるのであった。
 だが沼津港周辺は戦車で溢れ返る事になるのだが不思議と周辺から苦情が出た事はない。
 それというのも連盟からの要請もあり普段は滅多に見る事の出来ない戦車に、待機中に例え動かなくとも希望する者を戦車に乗せたり記念撮影に応じる事で周辺住民からも理解を得られているのだ。
 特に人気選手などはサインを求められる事も多く、それも地元では好評を博していた。


「ウチもタンケッテだけなら楽なんだがなぁ……」

『あ~』


 アンチョビのぼやきの意味を即座に理解した一同が揃って声を上げる。
 海無し県の栃木に本拠地があるアンツィオ高校は沼津港の云わば対岸にある清水港を母港にしている為、豆戦車のタンケッテのみであれば裏道使って清水から自走も可能なのであった。
 しかしP40とセモヴェンテが居る為わざわざ沼津で時間を潰さなければならず、ある意味ではこの大戦車行列一番の被害者と呼べるかもしれない。


「それなら何故そうしなかったんですの?」


 ダージリンの素朴な問いに力無く溜め息を吐きアンチョビは答える。


「連盟から実に()()()()と拒絶されたんだよ、タンケッテだけだと箔が付かないって…」

『…‥』


 これには一同アンチョビに同情の視線を向け、しほは眉間に指を当て首を左右に振っている。


「まあこればっかりは言っても仕方がない、サッサと撤収準備に掛かるとしよう」

「あのさ、みんな…」


 気を取り直したアンチョビがそう言った処にラブがおずおずと声を掛けた。
 その声に一同がどうしたと反応するとラブはこう切り出した。


「あのさ、撤収の時間が読めないからみんなの所もこの後の日程って余裕持たせてるよね?だったらウチの学園艦に乗って一度横須賀に来られないかな?艦隊組んで横須賀に行ってウチの母港で積み替えすれば楽だと思うし…時間があるならみんなと横須賀で遊びたいんだけど…‥」

「横須賀はいいとしてラブの所の学園艦に乗るっていうのはどういう事だ?」


 皆の抱く疑問をまほが代表して口にする。


「えっとね、実際見て貰えば解る事なんだけど、ウチの学園艦は桟橋が必要無いの」

「はあ!?なによソレ?」


 カチューシャが声を上げるがラブは見れば解ると言うのみ。
 そこにしほが割って入る様に口を挟む。


「今は恋の思う様にしておあげなさい、大人は後にしてまずはあなた達だけの時間を持ちなさい」


 そう言うしほの顔は家元のソレではなく優しい母の顔である。


「お母様!」

「しほママありがとう!」

「各校には私の方から話を回しておきますから心置きなく楽しんでらっしゃい」

『ハイ!』


 一同揃って元気に返事をするとラブが説明する様に口を開く。


「それじゃあねぇ、沼津に向かうのは一緒なんだけど港に行かないでその先の千本浜にある沼津海浜訓練場に集結してもらえるかな?」

「千本浜?何故そんな場所に?三笠の学園艦は強襲揚陸艦か何かなのか?」

「う~んちょっと違うんだけど見れば解るから。とにかくウチの名前で許可は取ってあるから現地に着いたらソコに集まって欲しいの」


 まほの質問も例の如くかわしてラブはニコニコしながらそう言うのみ。
 一同もこれ以上聞いても無駄なのは解っているので軽く肩を竦め撤収作業に散って行く。
 かくして高校戦車道観閲式最大の難関大戦車行列が始まるのだった。





「毎年の事とはいえコレはもう少しどうにかならんのかぁ!」


 解ってはいても一向に進まぬ行列にアンチョビが絶叫する。
 無線の共用回線でも学校に関係無く愚痴が飛び交っていて、今のアンチョビの叫びに対しても事情を知る直ぐ前に居る部隊の隊長から『アンツィオさんも大変よね~』などと同情の声が飛んでいた。


『あ、そっかぁ、姐さ~ん!タンケッテだけ先に陸路で清水に行っててもいいッスか~?』


 聞こえて来た会話にぺパロニが名案とばかりに無線で聞いて来る。


「ダメに決まってるだろ~が!」

『え~?いいじゃないッスか~?』

「ダ~メ~だ~!もし先に帰ってみろ、私が卒業するまでオヤツは一切無しにするぞ!」

『えぇ~!?そりゃないッスよ姐さ~ん!』


 この会話を共用回線でやってしまった為に大戦車行列全体から大爆笑が沸き起こった。


「まったく、満天下に恥を晒してみっともない」


 ダージリンが忌々しげに言い紅茶を飲み干すと、傍らにいるオレンジペコにソーサーごとティーカップを差し出しお代わりを要求した。


「ペコ、もう一杯頂けるかしら?」

「ダージリン様、今はこれ位でお控えになった方が宜しいかと」

「何故かしら?」

「何分この辺りはまだコンビニはおろか民家もろくに御座いませんし、あまりハイペースでお飲みになりますと、その…おトイレの方が……」

「ぐっ…!」


 そんなやり取りをアッサムは砲手席で実に楽しそうに聞いている。
 かくして遅々として進まぬ大戦車行列は先が見えず一行のイライラは募るばかり。
 今年は特に大洗の活躍でにわか履修校が増え、そしてその多くがカヴェナンターを始め問題を抱えた戦車を使っている所が多い事もあり、オーバーヒートなど故障車が大量発生した結果沼津までの道中は更に困難を極める結果となるのであった。
 結果ラブ達が目的地の千本浜にある沼津海浜訓練場に辿り着いた頃には完全に夜も明け、全員疲労困憊で目の下にクマが出来た顔で砂浜に集まっていた。


「で?これからどうするって?」


 さすがのまほも疲れ切った顔でラブに聞くがこちらも同様の顔で答える。


「あ~、今連絡入れて迎えに来てもらうわ~」

「迎えったってそもそもおまえのトコの学園艦はどれなんだ?」

「ん~?あぁ、アレよ、あの白くて目立つヤツ~」


 沖合に大量に浮かぶ学園艦だがサイズがサイズなので艦型は容易に判別できる。
 その中でもサイズは一番小さいものの純白に輝く学園艦が一隻居た。


「お!お!おぉ~!」

「ど、どうしたのゆかり~ん!?」


 あんこう一のタフさを誇るも、さすがに疲れ切って眠い目をしていた優花里が突然復活し感嘆の声を上げた為、隣に居た沙織が驚き声を掛ける。


「あ、あの艦型は海上自衛隊のおおすみ型輸送艦ではありませんか!」

「イカスミ?」

「うぇぇ、沙織さん無理矢理ボケ過ぎ」


 そんな沙織とみほのボケとツッコミを余所に優花里のテンションは更に上がる。


「イカスミではありませ~ん!おおすみ型であります!海上自衛隊が誇る大型輸送艦で、艦尾にはウェルドックを備え二艇のエアクッション型揚陸艇のLCACを搭載しているのであります!」


 すっかり興奮しきった優花里は大きく目を見開きワナワナと震えて続ける。


「あれが三笠女子学園の学園艦なのでありますか?と、いう事はまさか…まさか!?」

「ええ、そうよ~、あなたが秋山さんね~?さすが詳しいわ、あなたの予想通りよ~」


 興奮した優花里の声に近付いて来たラブが声を掛けた。


「あ!あなたは厳島殿!そ、その、当時の事故の事は…‥私も存じております…お、お会い出来て大変光栄であります!」


 そう言うや優花里はラブにビシっと敬礼をする。
 そんな優花里に対しラブはニコニコとしながら話し掛けた。


「うふふ♪ありがと、まあ見てて頂戴、あれは中々の見ものだから。でもちょっと離れたトコに下がろうね~、物凄い事になるから~」

「ラブお姉ちゃんどういう事?」

「まあいいからいいから」


 事ここに至ってものらりくらりとかわすラブだが視線は沖合の学園艦に向いている。
 そのやり取りに集まった者達の視線が沖合に向くと純白の学園艦に変化が起こった。
 艦尾のハッチが開き、スルスルと滑らかな動きで六艇の特異なシルエットの船が続けて滑り出て、こちらを向いたと思うと轟音を上げ飛ぶ様に近付いて来るのだ。
 そして一同が呆然と見守る中あっと言う間に沼津海浜訓練場に揚陸したのだった。


「こ、これは!た、確かにLCACでありますがサイズが!サイズが大き過ぎます~!」


 ここに来て優花里の興奮も頂点に達しているがラブは至って呑気に言う。


「んふふ~♪これがウチに桟橋が必要無い理由なのよ~」





今回は如何に彼女達を東富士から撤収させるかでシリーズ中一番苦労した話です。
まあその分書いていて楽しくもありましたが。
最後には何かとんでもないモノも登場しましたし。

尚、週明け仕事が立て込むので若干投稿間隔が空くと思いますが御了承下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話   海獣

どうにか一話分加筆修正出来たのでお届けします。
まあ今回もラブはやりたい放題で犠牲者はゆかりんとエリカ♡

それとみぽりんとエリカがやらかします、お楽しみに。
更にもう一つ今回もバルンバルンですよ♪


 Landing Craft Air Cushion、その頭文字のLCACのごろ合わせから通称エルキャックと呼ばれ、アメリカを始め日本の海上自衛隊でも採用されているホバータイプの上陸用舟艇。
 最大積載量は68t程で重量約50tの90式戦車も一両であれば搬送が可能である。
 が、しかし、一同の目の前に現れたLCACはサイズが違う、優花里が言う様に桁外れにデカいのである、それが今目の前に一度に六艇も揚陸してくれば興奮するなという方が無理であろう。
 それにしてもデカい、とてつもなくデカ過ぎるのだ。
 ざっと見ても全長で90m、全幅で50m程はあろうか、本家本元のLCACが全長26.4mで全幅が14.3mなので倍処では済まないサイズであり、ちょっと艇と呼ぶには無理があるサイズである。


「プラウダのポモルニク型エアクッション揚陸艦より大きい様であります!」


 信じられないと言った様な口調で優花里が言うが周りは言葉も出ない。
 どうにかコレがとんでもないシロモノだという事が理解出来るだけだ。


「確かLCAC一艇あたりの取得費用が…‥」

「あまり難しいコトは考えちゃダメよ~、ゆ・か・り・ん♡」

「うひゃあぁぁぁ!!!」


 いつの間にか優花里の背後に回り込み屈んでそっと抱き付き、ちゃっかりゆかりんと呼びながら、意識的にその豊満過ぎる『エアクッション揚陸艇』を優花里の背中に押し付けつつラブは耳元で吐息を吹き掛けながら甘く囁く。


「ラブお姉ちゃん!!」

「あ~ん♪みほが怒った~」


 そのラブのふざけきった行動にまたしてもカチューシャが切れる。


「あ、アンタんトコ(三笠女子学園)は一体どーなってんのよ!」

「私コドモだから難しいコトよくわかんな~い♪」

「アンタ私にケンカ売ってんの!?」

『プっ!』


 その場に居合わせた数百人が一斉にカチューシャから目を逸らすがその肩は細かく震えている。


「全員纏めて粛正してやるー!!!」


 カチューシャの絶叫が千本浜に響き渡った処で六名の少女がこちらに近付いて来た。
 全員が揃いのマリンブルーを基調としたツナギとヘルメットを装着しているが、これはどうやら海上自衛隊のLCACの乗員が使用するエアクッション艇服装に準じた物であるらしい。


「厳島隊長、お待たせ致しました。S-LCACへの積載準備が整いました」


 六名のうちの一人が敬礼をしつつラブに報告をして来た。


「エスエルキャック‥でありますか?」

「うん、最初はエルキャック改とかスーパーエルキャックなんて呼んでたんだけどね~、いつの間にかエスエルキャックって呼ぶ様になったのよ~」


 ラブは優花里の質問に答えるとこの六名がエスエルキャックの艇長だと説明する。
 すると六名が敬礼をしつつ自己紹介を始めた。


「皆さん初めまして私が1号艇艇長の──」


 そう言いながらヘルメットを脱いだ彼女の顔を見て、ラブと三笠女子学園の生徒以外のその場にいた者達が一斉に驚きの声を上げ目を見開いた。
 それというのも彼女の顔がまほにそっくりなのだ、髪色は水色でまほより若干長め、瞳の色は濃い目の青で背丈はまほより10㎝程低いだろうか。
 しかしその顔立ちはまほ生き写しと言っても良い位に似ていたのだ。


「私がS-LCAC一号艇艇長の宮乃杜櫻(みやのもりさくら)です、どうぞ宜しく!」


 名のり終えるとニコリと微笑みポカンとした顔のまほに握手を求め、我に返ったまほも慌ててその握手に応じ挨拶を返した。

「あ、あぁ、こちらこそ宜しく」

「驚かれました?私もよく周りからそっくりだと言われてるんですよ」

「そ、そうか、し、しかし…」


 そこで言い淀んだまほの視線が櫻の胸元に行く。


『私より大きい……』


 そんなまほの心の呟きを余所にその背後でエリカは頬を薄っすらピンクに染めている。


『や、ヤダ…!こんな西住隊長もいいかも!』


 そして更にその背後にそんなエリカの変化を見逃さないラブが密かに忍び寄る。


「エ・リ・カさ~ん♪お久し振り~その美貌に更に磨きが掛かっていて私も嬉しいわ~♡ナニナニ~?こんなまほもいいかもとか思っちゃったりした~?」


 そう言いながらまたも背後から抱きつき自身のS-LCACを押し付けつつ、その両手はエリカの全身の敏感な部分をサワサワと弄り始めた。


「ら、ラブ先輩!?あ…ソコは!あ‥あ…だ、ダメぇ……」





 スパ──ン!!!





 ラブのお尻にみほの一回転からのミドルキックが炸裂し小気味良い音を立てた。


「み、みほ!?ナイスな蹴りよ!今日一番感じちゃったわ!」

『このド変態が!』


 その場に居る者全てが心の中でラブをそう罵倒する。
 一方みほはというと真っ赤な顔でラブの腕の中からエリカを奪い取るとボコの様に抱きしめ、ついうっかり、そうついうっかりと声の限り叫んでしまったのだ。


「ラブお姉ちゃん!エリカさんは私のですっ!!!」

『おぉ──────────っ!!!!!』


 そのみほの叫びに千本浜は感動の嵐に包まれ、お姉ちゃんなどは諦めていた娘の結婚が決まった父親の様に感涙し、小梅に背中をポンポンして貰っていたりした。
 

「みほ!みほ──!」

「エリカさん!!」


 キュンキュンな表情でエリカがみほに抱き付き、ユリユリな空気で千本浜がピンク色に染まった処で二人は周囲の期待のこもった熱い視線に気が付き慌てて飛び退いて赤い顔で俯く。


「チッ!」


 そんな様子を只独り、少し離れた場所で見ながら速記の様なスピードで何やらメモ帳に書き連ねていたアンチョビが小さく舌を打つ、どうやら今も恋愛小説を書き続けているらしい。
 ここで二人目のS-LCACの艇長が何事も無かった様に自己紹介を始めた。
 肝が据わっているのかラブが引き起こすトラブルに慣れているのか全く動じていない様子だ。


「S-LCAC二号艇ノ艇長、マリッタ・響子(きょうこ)・カンクネンとイイマス、皆ハお饗トヨビマスノデ、皆サマもソウオヨビクダサイ」


 北欧系の血が入っていると思われるダークブロンドのセミロングの髪を編み込んだ深い黒い瞳の少女は、ちょっと不思議なイントネーションの日本語で自己紹介した。
 その隣で自己紹介する少女がまた違った意味でインパクトがある、楚々とした雰囲気のこれぞ大和撫子といった感じの艶ややかな長い黒髪の美少女で凡そ荒っぽい事などする様に見えない。
 しかしそんなイメージは口を開いた瞬間に綺麗に吹き飛んだ。


「アタイが三号艇を仕切ってる剣崎愛莉(けんざきあいり)、まあ宜しくたのまぁ」


 残りの三人は言うまでも無く素性が丸解りだった、何しろ同じ顔が三つ並ぶのだから。


「まあ見ての通り三つ子です、私が四号艇の艇長の鷹野雪華(たかのせっか)です」

「で、私が五号艇の月海(つきみ)

「最後が私、六号艇の花音《かのん》」

『どうぞ宜しく』


 最後は三人シンクロして挨拶をする。
 三つ子だから同じ顔なのは当然だが緑の瞳とショートの金髪に同様のレインボーメッシュを入れているのでは見分けが付かない。
 唯一見た目で解るのは雪華が赤で月海が青、花音が緑のピアスの石の色ぐらいだ。
 そして改めて整列する六名の共通点はやっぱりおっぱいが大きい事。


『この学校みんなこうなのか!?』


 居合わせた一同そう思わずにはいられない程大きかったのだ。


「さあ、それでは積載を開始しましょう、学園艦の方で朝食の用意もしていますので」


 ここでそんな一同の胸中などお構い無しに一号艇艇長の宮乃杜が声を上げる。


「どう積み込む~?ウチらAP-Girlsは一番最後にするとして?」

「まず一番数の多い黒森峰から行きましょう、戦車と支援車輛双方とも多分一号艇だけで全て積めると思いますよ…うん、大丈夫全て行けます」

「ちょっと待って!一体一艇にどれ位積載出来るの!?」


 エリカの上げた疑問の声に宮乃杜は事も無げに平然と答える。


「逸見副隊長のティーガーⅡクラスで一度に25両積載可能ですよ」

「ウソ!?なんだかんだで70t超えるのよ!」

「ええ、問題ありません。それで二号艇にはサンダース…これも二号艇のみで大丈夫、後の聖グロリアーナとプラウダも三号艇と四号艇で行けますね。アンツィオとウチは少ないから五号艇に相乗りして六号艇に残りの支援車輛で…うん、一回で全て収容出来ますね」

「またとんでもないバケモノを造ったもんだな……」


 そう呟くまほの顔も若干青ざめているが気にせず宮乃杜は背後の搭乗員に指示を出す。


「それじゃあ積載を始めるよ!総員配置に付け!」

『Yes, ma'am!』


 指示に答え一斉に散って行く搭乗員達、それを見届け宮乃杜は微笑みつつ一同に言う。


「それでは先程の割り振りで各艇の搭乗員の指示に従い積載を開始して下さい。艦に戻ったら朝食を用意しておりますので心置きなく召し上がって下さいね。期待していいですよ、ウチの艦の食事はかなり行けますから」


 そう言うと自身も艇に戻り作業に入って行った。
 事の成り行きを呆然と見ていた一同もそれぞれの搭乗車に戻り積載に備える。
 積載を始めてからも指示は極めて的確で迅速に作業は進んで行き、搭乗員のスキルの高さをうかがい知ることが出来た、そして一時間と掛からず全ての車両の積載は完了したのだった。
 浜に溢れていた車両も全て居なくなり固定作業を待つ間、再度浜に降り立った一同は改めてS-LCACの威容を見上げ呆気に取られている。


「ウチにもコレ欲しいわ……」

「カチューシャ様、一艇の価格を考えるのも恐ろしいです」


 ポルモニク型エアクッション揚陸艦を運用するプラウダでもそれを六艇も導入など夢のまた夢、二人は改めて三笠女子学園の、その背後にいる厳島家の財力に戦慄した。


「それでは全作業終了致しましたので各艇のキャビンの方に搭乗を開始して下さい。座席に着いたらシートベルトを忘れずに。それと申し訳ないのですがこのS-LCACはかなり煩いので、座席備え付けの防音イヤーマフの装着をお勧めします。さあそれではどうぞ、朝ごはんが待ってますよ♪」


 最後に宮乃杜が可愛くウィンクするとそれを合図に搭乗が始まり、全員搭乗を確認した後にいよいよS-LCACのエンジンが息を吹き返したが実際とんでもない轟音であった。
 エアクッションが膨らみ轟音が更に高まると六艇が一斉に離岸を開始、しばしそのまま後退した後そのまま180度方向転換すると横並びのまま沖合の白い学園艦目指し加速を開始した。
 そして辿り着いた先でウェルドックへの進入がまた圧巻だった。
 まず三艇が横並びのままウェルドックに進入し、固定を解かれた車両に再び乗り込んだ各校の隊員が車両を前進させると、乗り込んだデッキはそのまま一艇毎のリフトとなっており、上昇したその先には広大な格納庫が待っていた。
 最初に作業を終えた三艇が一度離艦し残りの三艇が同様の作業を行うと、離艦していた三艇が帰艦し即座にウェルドックのハッチを閉鎖し驚く程の速さで全作業が終了した。
 かなりの部分で自動化がなされておりそれがこのスピードを実現させている様だった。
 それから暫くして処は変わり艦内の大食堂は、収容された全校が一堂に会しても尚余裕の広さがあり、そこに全隊員が集まり只々呆然と座っている。


「みんな~!三笠女子学園にようこそ~♪遠慮しないでいっぱい食べてね~!食事が済んだらゲスト用の宿舎が用意してあるからそこで仮眠を取ってね、ただ一つだけ申し訳ないんだけどこの学園艦まだ未完成な部分があって大浴場が使えないの。だから宿舎の部屋毎のシャワールームを使って貰える?アメニティーはちゃんと用意してあるけどゴメンね、後必要な物はゲストパスを見せれば全部無料で支給出来るからこれも遠慮しないで使ってね~♪」


 ラブはそこまで言うとパチンと手を合わせ宣言する様に言った。


「さ、それじゃ食べよ食べよ!頂きま~す♪」


 それを合図に皆それぞれセルフサービスで用意された朝食を取りにカウンターに散って行く。


「お、オイ、ラブ!ここまで大盤振る舞いして平気なのか!?」


 まほもさすがに怖気付いた様にラブに声を掛ける。


「ん~?平気平気~、今アメリカに行ってる亜梨亜ママの許可は取ってあるから~」

「え?亜梨亜おば様は今この艦に居ないのか?」

「うん、ホラ、この学園艦年単位で前倒しして開校したからさぁ、色々やる事が多くて亜梨亜ママも忙しくてアッチコッチ飛び回ってる状態なのよ~」

「そ、そうか……」

「でも帰ってきたら一番に熊本にご挨拶に行くから許してよ~」

「あ、ああ、解ってるよ」


 その後一同は宮乃杜が自慢した通り素晴らしく美味しい朝食を食べた後、それぞれ用意された宿舎というにはいささかか豪華過ぎる部屋に入り疲れ切った身体をベットに沈めたのだった。





我ながら無茶なシロモノ生み出しましたね。
登場人物も一気に増えて色々大変になって来ました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。