ガールズ&パンツァー 恋愛戦車道 (肉球小隊)
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プロローグ  欠陥砲弾

初めまして、肉球小隊と申します。
小説の投稿はこれが初めて。
文章力も無い癖にやらかした気もしますが、お付き合い頂ければ幸いです。
ストーリー的には本編と劇場版を挟んだその前後といった感じです。
前提として本作オリジナル主人公 厳島恋(いつくしまれん)と主要登場人物達は昔からの付き合い。
その交流をオリジナルストーリーで展開して行きます。


「ん~?やっぱり微妙にずれるなぁ……」

 

 

 形の良い唇から甘く色気のあるハスキーボイスで零れる呟き。

 

 雑木林に囲まれた荒れ地で、一両のパンターG型戦車が散発的に砲撃を繰り返している。

 ここは横須賀市立臨海中学校戦車道の地上射撃演習場。

 先程から砲撃を行なっているパンターの車内に居るのはたった一人の少女。

 ポニーテールにして尚腰に届く緩くウェーブした長い髪は燃える様に赤い。

 切れ長の美しい目には勝気な光が宿っている。

 そしてそのプロポーションはと見れば、大凡中学生とは思えないスタイルだ。

 

 

 彼女の名前は 厳島恋(いつくしまれん)

 

 

 横須賀市立臨海中学校の三年生であり戦車道チームの隊長の職にある。

 今日は日曜日で本来なら何も活動予定は無い筈だが、独り砲撃を繰り返すには訳がある。

 前日の土曜に行った練習試合に措いて、彼女たちのチームは恐ろしく命中率が悪く、本来な

らその射撃技術の高さに定評のあった恋に対し、対戦相手チームの隊長はじめ他の選手達も首を捻る程の命中率の悪さであった。

 勿論突然恋の腕が落ちた訳など無く理由がある。

 それは先程から撃っている砲弾に起因する。

 実はこの砲弾それまで使っていた砲弾とはメーカーが違う。

 

 少々時間を遡る事数年前、ある新興メーカーが戦車道連盟に対し戦車道専用の新砲弾の売り

込みを掛け、連盟並びに陸上自衛隊による約一年の評価試験の結果採用が決定された。

 通常より早い決定とも思われたが理由は単純、このメーカーの砲弾は安かったのだ。

 既存メーカーに比べ徹甲弾、榴弾共に一発辺りおよそ二万円少々安い。

 文字通り金を大砲でぶっ放す様な戦車道に措いてこれ程魅力的な話は無い。

 ただし既存メーカーとの関係もあり、まずは予算的制約の厳しい小中学校戦車道、それも公

立学校から中心に試験的な販売が開始され、中学戦車道履修校の中でもそれなりの強豪で公式

戦、練習試合等試合数も多く、偶々残弾が心許なかった恋の居る臨海中が納入第一号となって

いたのであった。

 

 

「う~ん、また外れたぁ……」

 

 

 前日の練習試合、どうにか勝てはしたものの、その結果はおよそ納得出来るものではなく、

今日はこうして一人で恋は黙々と独自に新砲弾のテストをしているのであった。

 

 

「ヨイショっと!」

 

 

 次弾を撃つべく徹甲弾を装填し照準を微調整していたその時、携帯の着信音に設定していた

パンツァー・リートが戦車内に鳴り響く。

 

 

「ん?誰だろ?」

 

 

 恋は手探りでイヤホンマイクを耳に入れつつ通話ボタンを押す。

 

 

「ハ~イ、どちら様~?」

 

『よお!ラブ、私だ』

 

 

 恋をニックネームで呼ぶ相手の声が聴こえた瞬間恋は発射ペダルを踏み込んだ。

 辺りの空気震わせる鋭い発射音。

 

 

『わぁっ!ってラブ!お前今撃ってるのか!?』

 

「なんだ~、千代美かぁ、久しぶり~、元気そうだねぇ♪」

 

 

 電話を掛けて来た相手は安斎千代美、大きな丸眼鏡にお下げの緑髪の少女の姿を頭に浮かべつつ、恋は微かに微笑みながらマイクに語り掛ける。

 

 

「先々月の練習試合以来かな?どうしたのよ突然、またやりたいの~?」

 

『いや、お前のトコに新しい弾導入されたんだろ?どんな感じかと思ってなぁ』

 

 

 苦笑しつつも恋は応える。

 

 

「相変わらず千代美は耳が早いねぇ、金曜に納入されて元の弾も残りが僅かだったから、昨日

の練習試合で早速使ったんだけどさぁ……」

 

 

 どこか歯切れの悪い恋の受け答えに千代美も何か感じる処があったのか更に問う。

 

 

『何か問題があったのか?連盟のHPでは感触が良い様だったけど』

 

「あ~、どうもその命中率がねぇ……何と言うかその今一つなのよ」

 

 

 答えつつも手は次弾を装填し照準を再度微調整、そして再び発射ペダルを踏む。

 

 

『だから電話しながら戦車砲を撃つな~!』

 

 

 千代美の抗議をヘラヘラ笑いながら受け流し結果を確認する恋。

 

 

「ありゃ~、とうとう的を飛び越えちゃったよ~」

 

『一体どれだけの距離で撃ってるんだ?照準狂ってないか?砲身が曲がってるとか』

 

「照準も狂ってないし砲身も曲がってなんかないわよ~」

 

『じゃあお前の腕が落ちたかwww』

 

「私がたった1,000mで外すと思ってるワケ~?」

 

 

 口を尖らせつつ恋が文句を言う。

 

 

『冗談だよ~、でもそんな酷いのか?』

 

「そうねぇ、ここまで行くとさすがにちょっと誤差の範囲とは言えないなぁ」

 

『それで日曜なのにわざわざ試し撃ちしてるって訳か』

 

 

 千代美のそんな問い掛けに恋も答える。

 

 

「いやね、ホントは今日は朝からファッション誌の撮影の仕事があったんだけどさぁ、スタジ

オの方でトラブルがあったらしくてキャンセルになっちゃったのよね~」

 

 

 恋はその中学生離れした容姿を活かし中一の頃からモデルの仕事も熟している。

 

 

「でまぁやる事無くなっちゃったし、昨日こっちで試合してそのまま停泊中だから一人でじっ

くりデータ取りしようと思ったのよ」

 

『なんだ、それじゃあ暇潰しでやってたのかぁw』

 

「あ!千代美それはちょっと酷くない~?」

 

『いやあスマンスマン』

 

 

 千代美は笑いつつも更に問う。

 

 

『それで徹甲弾も榴弾も同じ様な感じなのか?』

 

「取り敢えず今までの所は徹甲弾撃ってたけどね~、榴弾も撃ってみるか~」 

 

 

 そう言いつつ持ち上げた榴弾をグローブをした手を握り締め押し込む恋。

そして閉鎖機が閉まり掛けたその瞬間。

 

 

「!?」

 

 

 その一瞬に感じた違和感、その直後に生じた激しい閃光と爆発音。

 そしてそれに被さる恋の悲鳴……。

 

 

「きゃああああああぁっ!!!」 

 

 

 スピーカー越しにその爆発音を聞いた千代美は一瞬携帯を取り落とし掛けた。

 

 

『おいっ!ラブ!今の音は何だ!?』

 

 

 電話の向こうに居るはずの恋の返事は無い、聞こえるのはガリガリというノイズのみ。

 

 

『どうした!?ラブ!何が起きた!?応えろラブ!恋!』

 

 

 千代美が大声で問い掛けるが恋からの応答は無い。

 更に呼び掛けようとしたその時。

 

 

「ち…よみ……こ…この…弾……つ…使っちゃ……だ…めだ……」

 

『まさか!?まさか暴発したのかっ!?しっかりしろ!おいっ!恋!』

 

 

 

 

 

 しかしそれきりいくら千代美が声を掛けても恋は一切反応しなかった。

 

 

 

 




多少書き溜めてますが初めて故この先どの位のペースで投稿出来るやら…。
う~ん、それにしても我ながら文章硬いなぁ…。


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第一章 涙の果て その先にある未来を信じて 第一話   千代美の頑張り

ストーリー展開的にどこで引っ掛かるのか解らないので、
必須タグに残酷な描写を追加しました。

ただ今回の話はこの先の展開の中で重要な部分になるので仕方ないとはいえ、
執筆していて自分でも非常に悲しい気分になりました。


 落ち着け、落ち着いて考えろ自分、冷静に考えろ千代美!

 通常の発射音とは明らかに違う爆発音とラブの悲鳴。

 そして途切れ途切れに聞こえた、この弾は使っちゃだめだという言葉。

 これは事故だ、榴弾が暴発したんだ!

 携帯はノイズ雑じりだがまだ繋がっているから切る事は出来ない。

 そうだ!家の固定電話から消防に通報だ!

 でもこちらは名古屋でラブがいるのは横須賀、どう伝えればいい?

 とにかくまずは119番だ!

 

 千代美は固定電話の子機を手に取り震える指で119をプッシュした。

 コール2回でオペレーターの対応する声が聞こえた。

 

 

『119番消防です、火事ですか?救急ですか?』

 

「きゅ、救急をお願いします!」

 

 

 少しどもりつつも千代美は応える。

 

 

『それでは救急車の向かう住所を教えて下さい』

 

「住所は……」

 

 

 一瞬どう伝えるか迷う千代美。

 

 

「住所は解りませんが場所は横須賀です!」

 

『ハイ?』

 

 

 消防オペレーターが戸惑いの声を上げる。

 

 

「神奈川の…横須賀にある横須賀市立臨海中学校戦車道の地上射撃演習場に救急車をお願いします!お願いだから急いで!」

 

 

 そして千代美は極力簡素にオペレーターにこれまでの経緯を伝える。

 

 

『解りました、あまり例の無い事ですが、今現地の消防指令部に連絡して救急車とハイパーレスキューに出場指令が下されました』

 

「そ、それじゃあ!」

 

『ハイ、、もう既に出場しています、あなた偉いわね、これだけ冷静に通報出来る人は大人でもあまり居ませんよ』

 

 

 オペレーターの言葉に少し胸を撫で下ろしつつも千代美は更に懇願する。

 

 

「お願いします!携帯はまだ繋がってるけど応答しないんです!大事な友達なんです!ラ…恋を、厳島恋を助けて下さい!」

 

 

 最後にはもう涙声で言葉を絞り出す千代美。

 

 

『バッテリーはまだ持ちますか?可能な限り呼び掛けを続けてあげて下さい、それではこの電話は切らせてもらいますね』

 

 

 通報に使った固定電話が切れた後、千代美は再び携帯を手に取りスピーカーに耳を澄ます。

 幸いな事にノイズ雑じりながらもまだ通話は途切れていなかった。

 

 

「おい!ラブ!聞こえているか!今救急車がそっちに向かっているからな!」

 

 

 しかし相変わらず恋からの反応は何もない。

 それでも千代美は勇気を振り絞って声を掛け続ける。

 

 

「頑張れ!ラブ!し…死ぬんじゃないぞ!恋!」

 

 

 千代美が必死の呼び掛けを続ける間にも時間だけは経過して行く。

 不安ばかりが大きくなり始めたその時。

 ノイズ雑じりの携帯から微かに複数のサイレンの音が聴こえて来た。

 

 

「ラブ!もう大丈夫だぞ!救急車が来たからな!」

 

 

 徐々に近付くサイレンの音に負けじと千代美も声を掛け続ける。

 やがてサイレンが止まり複数の人の声が聞こえ始めた。

 

『おい!こっちだ!……急げ出血が酷すぎる!』

 

 

 救急隊員と思しき声に千代美の血も瞬間凍りつく。

 

 

『メインは駄目だ!スクープストレッチャーを後ろの丸いハッチの外に用意してくれ!』

 

 

 携帯の向こうで救急隊員の指示が飛び、堪らず千代美も携帯に叫びかける。

 

 

「恋は!?恋は大丈夫ですか!?」

 

 

 指示を出す傍ら漏れ聞こえて来た千代美の声に救急隊員が気付き携帯を取り応える。

 

 

『話は聞いている、君が通報して来た子だね?ここまでよく頑張ったね、後は我々に任せるんだ。これから救助活動に入るから電話を切るよ、君は本当によく頑張った。』

 

 

 その言葉に千代美の目からも大粒の涙が零れ落ちる。

 

 

「お願いします!恋をお願いしますっ!」

 

 

 そう泣き声で叫んだ後遂に手の中の携帯から聞こえる音が途切れたのだった。

 力尽き自室の床に座り込む千代美、その部屋には窓から初夏の風が吹き込んでいた。

 

 

 




話を創るのは楽しいけど書くのは難しいなぁ…。


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第二話   千代美奔走

第二話目になりますが物語全体の前置きとも言うべきこのパート、
思ったより長くなりそうです。
でも大事な部分なのであまり削れません。

それにしてもチョビ子は本当に良い子だなぁ。


 学園艦が母港に帰港し、久し振りに自宅に戻った週末。

 昔馴染みの友人との電話中にそれは起こった……。

 

 

 千代美がハッと我に返った時、既に外の日差しは大分傾き始めていた。

 

 

 一体何がどうなっている?頭の中がシェイクされた様で考えが全くまとまらない……。

 そうだ!あの時ラブはこの弾を撃っては駄目だと言った!

 もし他でもこれと同じ事が起こったら?

 

 

 千代美の思考回路が一気に加速する。

 

 

 この事を連盟に連絡……駄目だ、今日は日曜日で誰も居ないはずだ。

 それではどこに、誰にこの事態を連絡すればいい?

 

 

 何となく手にした携帯の充電が残り僅かな事に気付き充電器に置いたその瞬間。

 

 

 そうだ!この間学校に指導に来てくれた新任の教導隊の蝶野教官!

 いつでも質問出来るようにとメアドと携帯番号を貰っていたじゃないか!

 蝶野教官に電話すればもしかしたら!

 

 

 直ぐにバッテリー切れしそうな携帯に充電ケーブルを繋ぐのももどかしく感じつつ、千代美は目当ての番号を呼び出し発信ボタンを押す。

 

 

 お願いです、お願いですから出て下さい蝶野教官!

 

 

 千代美の願いも虚しく呼び出し音は鳴り続ける、そして諦めかけたその時。

 

 

『ハイ、お待たせ、安斎さんね?お電話貰えて嬉しいわ♪元気だったかしら?』

 

 

 蝶野亜美の快活な声が飛び込んで来る。

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!ぎょ、ぎょ゛う゛がん゛~!!」

 

 

 亜美の声を聴いた瞬間堪えきれずに泣き出した千代美。

 

 

『ど、どうしたの?一体何があったの安斎さん!?』

 

 

 突然の泣き声に狼狽えつつも問い掛ける亜美。

 

 

『とにかく落ち着きましょう?まずは深呼吸よ、ハイ、吸って~、吐いて~』

 

 

 そしてどうにか落ち着いた千代美から事のあらましを聞き出す亜美。

 途中何度となく泣き出してしまう千代美をどうにかなだめつつ、時には語られる内容に息を飲みつつ状況を整理し、千代美に告げる。

 

 

『解りました、連盟、防衛省、文科省他関係各部への連絡は可及的速やかに私が行います、ですから安斎さん、今はあなたはゆっくり休むのよ』

 

「ハイ……」

 

『安斎さん、いえ千代美さん、本当によく頑張りましたね、ここまでのあなたの努力を決して無駄にはしませんからね』

 

「きょうかん……教官!」

 

『とにかく今はしっかり休んで恋さんの無事を祈ってあげてね、私は早速対応に移りますからこれで電話を切りますね』

 

「ハイ……ハイ!」

 

『あ、それからこれはとても大事な事なんですが、現段階でこの件に関して誰にも話をしない事。例えそれが大事なお友達であってもよ。こういった事が漏れ伝わると、尾ひれが付いて無用な混乱を引き起こしますからね。それは恋さんの為にも良くない事なのは解るわよね?それと何か連絡が入る可能性もありますから携帯にはいつでも出られるようにしておいて下さいね、それじゃあ切りますよ』

 

「ハイ……解りました……」

 

『あなたは本当に立派よ、それじゃあね』

 

 

 そう言い残し亜美は千代美との通話を終了した。

 

 

 

 

 蝶野教官はまだ誰にも話すなと言った。

 それは私にも解る。

 だけど…だけどもうこれで私に出来る事は無いのか?

 アイツは、ラブはきっと今頃手術室で独りで闘っている。

 それならば、それならばせめて私だけでも傍に居てやりたい。

 

 

 そう考えるともう千代美は居ても立っても居られない。

 

 

 横須賀へ…そうだ横須賀へ行こう。

 行って少しでもラブの傍に居てやるんだ。

 例え何も出来なくてもせめて私だけでも傍に居てやるんだ!

 

 

 思い付くが早いか立ち上がった千代美は、学園艦からの帰省時に肩に掛けて来たサブバッグを引っ繰り返し必要になりそうな物を選んで詰め込み始める。

 

 

「ええと、携帯に充電器に…急速充電器は何処か途中のコンビニで買うか…あとは手帳にお財布に…お金!新幹線いくら掛かるんだ!?手持ちと後はCD機で下ろせば何とかなるかな?」

 

 

 荷造りもそこそこに千代美は身動きのし易い服装に着替え始める。

 今は出掛ける為にやらねばならぬ全ての事がもどかしい。

 そしてどうにか身支度を整えバッグを掴み部屋を飛び出し掛けた時に思い出す。

 

 

「っと、その前に!」

 

 

 今日は昼前から両親と弟は買い物に出掛けていた。

 心配されるだろうが横須賀に行く事を伝えなければならない。

 勿論蝶野教官に言われた事は守らなければならないが。

 どう伝えるか考えつつ取り敢えずお母さんの携帯を呼び出す。

 

 

「あ、もしもしお母さん?私、あのね…」

 

 

 名古屋駅に着いたバスを飛び下りた千代美は足早にみどりの窓口を目指す。

 駅構内図を確認しながら歩いていると携帯が鳴る。

 液晶画面を見ればお父さんからの着信表示。

 

 

「もしもし、お父さんどうしたの?」

 

『あぁ、千代美もうそろそろ名古屋駅に着いた頃かな?もし着いたら太閤通口の銀の時計の前まで来なさい』

 

「え?どうして?」

 

『いいから、待っているからとにかく来なさい』

 

「うん、解った……」

 

 

 言われるままに銀の時計に辿り着いてみれば両親が揃って待っていた。

 弟の姿が見えないのは何処かで待たせているという事か。

 

 

「お父さん、お母さんどうしたの?」

 

「千代美これを使いなさい」

 

 

 手渡された封筒を見れば中には新幹線の指定券のチケット。

 

 

「お父さん!コレ!」

 

「千代美の電話のあと直ぐに駅に来たら幸い空席があったからね、品川まで買ってある、品川からは京浜急行を使いなさい、新横浜からだと乗り継ぎが悪い」

 

「お父さん!」

 

 

 また千代美の目から涙が零れ落ちそうになる。

 

 

「今は深くは聞かない、さあ、まだ時間に余裕はあるが早めにホームに行きなさい」

 

「ありがとう…お父さん…」

 

 

 お父さんに深く頭を下げると今度はお母さんが声を掛けて来る。

 

 

「それから千代美、これも持って行きなさい」

 

 

 手渡されたのはデパ地下の小さな手提げ袋。

 中に人気のパン屋さんのメロンパンと紅茶のペットボトル。

 

 

「電話で話した時の様子だと今はこういう物の方が口に入れ易いでしょう、例えひと口でもいいから必ず新幹線の中で食べるんですよ、それとバッグの口を開けなさい」

 

 

 バッグを開くとお母さんがポチ袋を中のポケットに忍ばせる。

 

 

「お母さんこれは…」

 

「何処で入用になるか解りません、取られたり落とさないように気を付けて」

 

「有難う…お父さん、お母さん!」

 

 

 改めて深く頭を下げる。

 

 

「さあ、早くお行きなさい、でも決して戦車道の様な無茶はしないようにね」

 

「…ハイ…じゃあ…行ってきます!」

 

 

 両親の心遣いに感謝しつつ改札を抜けホームを目指す。

 そして程無くしてホームに滑り込んで来た新幹線に乗り込み指定席に腰を下ろす。

 

 

 待ってろよラブ!今そっちに行くからな!お前は独りじゃないぞ!

 

 

 心の中で独り言ちる千代美を乗せた新幹線は、一路東京に向け力強く加速を開始した。

 

 

 

 




亜美さん登場。

しかし主人公とはいえ恋には色々背負わせ過ぎかなぁ?


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第三話   千代美迷走

一度書き上がった原稿を見直して加筆修正しているうちに、
自分でも予期しなかった登場人物が独り歩きを始めてしまいました。
これは今後も活躍しそうな気がして来ました。

困った事にまだ当分の間お話に戦車が出て来ません。




 名古屋を出発して暫くして車窓へと目をやれば外はすっかり暗くなって来ている。

 それでもまだ横須賀へはそう遅い時間にならずに着けるだろう。

 

 

 そうだ、お母さんが持たせてくれたメロンパンを食べよう。

 

 

 思えば今日は少し寝坊して朝昼兼で軽く食べたきりだった。

 この数時間ですっかり消耗した体に紅茶とメロンパンの甘さが何よりも有難い。

 少しづつメロンパンをかじりながら恋の事に思いを馳せる。

 

 

 アイツは…ラブは本当にふざけたヤツだ。

 同い年と思えない位の美人で初めて会った時は本当にドキドキした。

 とても背が高くてスタイルが良い…特にあのおっぱい!

 少し私に分けてくれと真剣に思う事がよくある。

 モデルもやっていると聞いてファッション誌を見て、大人のモデルさんと並んで何の違和感も無く一緒に写っているのを見た時は本当に驚いた。

 そしてあの甘いハスキーボイス。

 練習試合の後に行った打ち上げのカラオケでみんなウットリしてしまった。

 それだけでも凄いのにビックリする位に頭も良い。

 臨中の副隊長に県内の学力テストでも常にトップだと聞かされた時最初信じられなかった。

 だってそうだろう?いっつもヘラヘラしてて、ちょっとでも油断してれば物凄く下らない悪戯を仕掛けて来たりするんだから。

 そんなヤツが戦車に乗れば滅法強くて、あの黒森峰の西住もいつも苦戦させられている。

 だからラブを見ていると神様は不公平だなんて思ってもしまう。

 でもそんなラブの事を私は、私達戦車道の仲間達は好きなのだ。

 仲間想いで優しくて、伸び悩んでる選手には、それが例え対戦相手でも何の惜しみも無く持てる知識と技術をレクチャーしたりする。

 いつも陽気で楽しそうにしていて実際人生を心底楽しんでいるんだと思う。

 そんな雰囲気のままあっけらかんと、自分には両親が居ないと聞かされた時、私にはラブに掛ける言葉が見付らなかった。

 でもそんな事を気にもせず何でも無さそうにしていたラブ。

 しかしそんなラブが今は苦しんでいる、ただ独り闘っている。

 今は一刻も早くラブの傍に行ってやりたい。

 

 

 と、そこまで想いを巡らせて来たその時、千代美はある事実に気が付いた。

 

 

「……しまったぁ!!」

 

 

 思わず絶叫して席から立ち上がってしまう千代美に周りの乗客も何事かと視線を向ける。

 

 

「あ……スミマセン、スミマセン」

 

 

 慌てて周りに頭を下げ再び座席に腰を下ろす。

 

 

 ラブは、アイツは一体何処の病院に搬送されたんだ!?

 横須賀に駆け付ける事で頭がいっぱいで肝心な事を忘れていたじゃないかぁ!

 どうしよう?消防に事情を言って教えてもらうか?

 いやダメだ、そんな個人情報教えてくれる訳が無い。

 横須賀の病院をしらみ潰しに聞いて回るか?

 いや!病院だって同じ事だ!

 そもそも搬送されたが横須賀市内の病院だけとは限らないじゃないかぁ!!

 どうしようどうしようどうしよう!!!

 

 

 そんな考えで頭の中が全速力のハムスターの様にグルグルグルグル回っているうちに、新幹線はとうとう品川駅に到着してしまう。

 

 

「あぁぁ…降ります!降ります~っ!」

 

 

 荷物を抱え転がり落ちる様に慌ててホームに降り立つ千代美。

 

 

「あ、危なかったぁ!危うく東京駅まで行っちゃうとこだったぁ…でもホントどうしよう?」

 

 

 肩で息をしながら狼狽えて居る時サイレントにしてある携帯がサブバッグの中で振動しているのに気が付き取り出してみると見知らぬ番号が液晶に表示されている。

 

 

 046って何処の市外局番だ?末尾の0110って…確か警察の使う番号だ!

 これってもしかしたら!

 

 

 慌てて着信ボタンを押し電話に出てみる。

 

 

「もしもし?」

 

『あ、もしもしこちらは安斎さん、安斎千代美さんの携帯番号で宜しいでしょうか?』

 

「ハイ、ハイ!私が安斎千代美です!」

 

『あぁ、繋がって良かったわ、私は横須賀警察署捜査課の敷島(しきしま)と申します』

 

 

 張りのある声が耳に飛び込んで来る、今の千代美にとってその声は天から届く救いの女神の声に等しかった。

 

 

『突然の事で申し訳ありませんが救急の通話記録から、厳島さんの件でお電話させて頂きました。いくつかお聞きしたい事があるのですが今お時間は宜しいでしょうか?場合によっては名古屋からという事なのでそちらにお伺いしたいのですが』

 

「あ、あの…実は私今…その…品川駅に居るんです!」

 

『えぇ!?』

 

 

 事情を掻い摘んで説明する千代美。

 

 

『それはまた随分思い切った事したわねぇ、でも搬送先の病院までは解らないでしょ?』

 

 

 見事に図星を突かれる。

 

 

「はい…それでその、それを新幹線に乗ってから気が付いて、どうしようか考えてるうちに品川に着いちゃって困ってたトコにお電話頂いたんです」

 

 

 千代美の行動力に半ば呆れつつも敷島はこれからどうすべきか指示を出す。

 

 

『分かったわ、今品川なら京急ね、この時間ならまだ快特があるか…下り線の快特…快速特急に乗って横須賀中央まで来て頂戴、それなら乗り換え無しで直ぐにこちらに来られるわ、ただし乗り過ごさないよう気を付けて、戻るのが大変になるから』

 

「はあ……」

 

『それで横須賀中央に着いたら西口改札口に来てね、頃合いを見て迎えに行くわ』

 

「それでしたら連絡先を…」

 

『大丈夫』

 

「え?」

 

『あなたの事なら解るから大丈夫よ』

 

「それは一体…」

 

『詳しい事はまた後で、今は一刻も早くこちらに来たいんでしょ?』

 

「はい、解りました、それでは後程、失礼致します」

 

 

 電話を切ると気を入れ替え千代美は京急の連絡通路を目指し移動を開始した。

 

 

 指示通り京浜急行の快速特急に乗って驚いた。

 その名の通り驚く程速くて停車駅も少ない。

 それなのに別料金も取られる事はなかった。

 実際聞いていた通りあっと言う間に電車は横須賀中央に着いてしまった。

 

 

 指定された西口改札口を抜け周囲を見回す千代美に、ダークグレーのビジネススーツにベリーショートの髪型が良く似合う女性が声を掛けて来る。

 

 

「あなたが安斎千代美さんね、私が先程電話でお話しした横須賀警察署の敷島英子(しきしまえいこ)です、今日は本当に大変だったわね」

 

「あ、ハイ、私が安斎です、お忙しいのにすみません」

 

「いいのよ、気にしないで」

 

「はあ…あの、でもなんで私の事が分かったのですか?」

 

「んふふ、だってあなたもそれなりに有名人じゃない、何度となく月刊戦車道であなたの名前と写真を目にしているわ」

 

「あ……」

 

「さあ、今はとにかく車に乗って頂戴、話はそれからよ」

 

 

 迎えがパトカーだったらちょっとイヤだなと思ったけど、幸い来ていたのはセダンタイプの普通乗用車の覆面パトカーで少しほっとした。

 

 

「安斎さんは私と一緒に後ろに乗りましょう、あ、シートベルトを忘れずにね」

 

 

 後部座席に一緒に乗り込みシートベルトの装着を確認すると、敷島さんがドライバー役の刑事さんに車を出すよう指示する。

 

 

「いいわ、伊藤君出してちょうだい」

 

「はい、了解です」

 

 

 車列の合間に覆面パトカーが滑り込み駅のガードを潜り三叉路の右折レーンに進む。

 

 

「私もね高校まで戦車道をやっていたのよ」

 

「え?」

 

「私、知波単に居たのよ、これでも三年の時には隊長を務めさせてもらっていたわ」

 

「え゛?え゛ぇ゛ぇ゛~!?」

 

 

 思わぬ処で衝撃的な事実

 

 

「えぇ、毎日ひたすら吶喊していたわ」

 

「は、はぁ…」

 

「それにね、私は臨海中のOGでもあるの」

 

「!」

 

「だから厳島さんは私にとっては可愛い後輩よ……」

 

 

 若干敷島刑事の声のトーンが落ちる。

 

 

「そ、それでラブの、いや恋は今何処の病院に居るんですか?」

 

「あら?あなた達仲間内ではラブって呼んでるんだ…そうね予定変更、伊藤君悪いんだけど署には戻らず一度新港総合病院に寄ってくれる?」

 

 

 今度は無言で頷く伊藤刑事。

 覆面パトカーはそのまま病院に向け夜の横須賀市街を進んで行く。

 

 

「あの…ラブは今どんな状態なんでしょうか…?」

 

 

 正直これを聞くのはとても怖い。

 

 

「私達も初動からそのままなので詳しい事はまだ何も…でもとても危険な状態な事だけははっきりしているの、でもね安斎さん、あなたが冷静に対処していなかったら厳島さんは間違い無くあの場で命を落としていたわ」

 

 

 予想は付いていた事でも改めて聞かされると全身が硬直してしまう。

 思わず握りしめた膝の上の拳に、察した様に敷島がそっと手を乗せ優しく包んでくれる。

 

 

「だから安斎さん、あなたは自身の行いに誇りを持っていいの、そして今は厳島さんの強さ、心の強さを信じて彼女の無事を祈りましょう」

 

「ハイ…」

 

 

 ぎゅっと瞑った目じりからひとすじの涙が零れ落ちる。

 拳に重ねられていた敷島の手が今度は優しく千代美の頭をひと撫でする。

 

 

「あなたも強い子なのね、さあ、もう少しで病院に着きますからね」

 

 

 その言葉に顔を上げ前を見るとフロントウィンド越しに、大きな総合病院の建物が夜の闇の中に照明に照らし出され少し不気味にそびえ立っているのが見えて来た。

 

 

 

 




敷島刑事は今後も是非使いたいキャラクターになりました。

それと書いてて気になったんですが、
新幹線は時期的にこの頃品川に留まる様になってたのかな?

次の投稿はまた週末ぐらいかそれとも週中頃に出来るかな…?


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第四話   そして一日が終わる

予定より早く加筆修正が終わったので最新話をお届けします。

最初は名も無い一刑事のはずだった敷島刑事。
更に作者の想像を超えた存在になりました。


「まずいわね…」

 

 

 病院の敷地に近付くと敷島さんがそう呟いた。

 

 

「あの、何がまずいんですか?」

 

 

 そう問い掛けると敷島さんが少し難しそうな顔をして答える。

 

 

「マスコミよ、もう嗅ぎ付けて集まり始めてるわ、事件担当で何人か知ってる顔が居るわ」

 

「え?マスコミ…ですか?」

 

「ええ、現場の演習場にかなりの数の消防の車両が入ったし、当然今も封鎖中ですからね」

 

 

頤に拳にした右手の人差し指を当て考え込む敷島刑事。

 

 

「遅かれ早かれマスコミが来るのは分かっていたけれど…いいわ、伊藤君、車を裏手の職員通用口に回してちょうだい」

 

 

 敷島刑事は千代美の方に向き直り言う。

 

 

「マスコミもあなたの存在に気が付けば、取材に殺到するのは目に見えているから、何としてもそれは避けなければならないわ」

 

「…すみません」

 

 

 図らずも蝶野が危惧していた事が現実味をおびて来ている事を実感させられる。

 そうこうするうちに車は裏門から病院敷地内に滑り込み職員通用口に辿り着く。

 

 

「ちょっと待っててね、ここから入れるよう手配してくるから」

 

 

 そう言うと敷島刑事は入り口にある守衛室に向かう。

 

 

「いいわ、許可は貰ったから行きましょう、伊藤君はひと足先に署の方に戻っててくれる?」

 

「伊藤刑事ありがとうございました」

 

 

 千代美は礼を述べ足早に通用口から病院内に隠れる様に滑り込んだ。

 

 

 

 病院特有の臭いを嗅ぐと否が応でも緊張感が高まってしまう。

 手術室近くのベンチに腰掛けるとそれを吹き払うが如くひとつ小さく溜め息を吐く。

 

 

「どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 敷島刑事がミネラルウォーターのペットボトルを差し出して来る。

 今になって気が付いてみれば口の中がカラカラだ。

 

 

「厳島さんの手術はまだ続いてるそうです、そして後どれ位掛かるかも、まだ全く見通しが立たない状態だそうよ」

 

「そうですか……」

 

 

 また目頭に熱いものが込み上げて来る。

 

 

「ラブ…」

 

 

 左隣に座った敷島刑事が千代美の小さな肩をそっと優しく抱き寄せ言う。

 

 

「本当に大事なお友達なのね」

 

「…!う、うあぁぁぁーっ!!!」

 

 

 遂に堪え切れなくなり泣き声を上げる千代美。

 その大きな瞳から流れ出る大粒の涙の雫が大きな丸眼鏡のレンズを濡らす。

 

 

「ごめんなさい、余計な事を言ってしまったわね」

 

「いえ…すみませんでした…」

 

 

 少し落ち着いたのを見計らって声を掛ける敷島刑事。

 千代美も時々しゃくり上げつつも答える。

 

 

「それでね、安斎さん、本来なら署の方で話を聴くべきなんだけど、まだあなたもここを離れたくないでしょうからここで少し事故発生時の状況を教えて貰えないかしら?」

 

「ええと…」

 

 

 千代美は覚えている限りの事を、時々考え込みつつも敷島刑事に伝えた。

 

 

「そう、解りました…ただね、暴発の瞬間というかその直前の事をもう一度確認したいの」

 

 

 手早く手帳に書き込む手を止めそう問うて来る敷島刑事。

 

 

「安斎さんは会話の後ろで装填音を聴いているのね?」

 

「はい、音だけでの判断ですが、おそらく榴弾を押し込み閉鎖機が閉まるか閉まらないかのタイミングで暴発したのではないかと私は考えます…」

 

「それでか…いえね、爆発の規模に比べて砲塔内の被害はあまり大きくないの、もっとも閉鎖機は吹き飛んでいたんだけど…」

 

 

 ひとつ息をつき敷島刑事は話を続ける。

 

 

「私は今日たまたま当直明けで自宅で休んでいて、うちの署に戦車に詳しい者が私しか居ないものだから直接現場に向かったのよ。そして簡単にだけど砲塔内部を確認して現段階での検証の中止を決定したの。何故ならまだ十数発の砲弾が残ってるの、あれが誘爆を起こさなかったのが不思議な位だわ」

 

 

 そこまで話すと自分もミネラルウォーターで喉を潤し更に話を続ける。

 

 

「残念ながら警察の力では残ってる砲弾の処理は出来ないの、それで陸自に連絡して今は処理班待ちという状況よ。おそらく作業は明日になってからになると思うの、だから今夜一晩は現場周辺に非常線を張って現状維持というのが精いっぱい」

 

 

 敷島刑事の表情には少し忸怩たる思いが滲み出ている。

 

 

「それにしてもあの状況下で救助作業に従事したハイパーレスキューの隊員には頭が下がるわ、それに引き替えうちの署の男どもと来たら、私が現状確認した時まだ砲弾が残ってる事を伝えたら腰が引けて遠巻きに見てるだけなんだもの。これが知波単なら鉄拳制裁モノよ」

 

 

 それはさすがにと思ったが千代美もそこは敢えて口には出さない。

 

 

「そうなんですか、それではラブのパンターは演習場にそのまま…」

 

「ええ、マスコミのヘリの事もあるから一応ブルーシートで覆ってはいるけれど」

 

「…あのパンターは、ラブのパンターはお母さんの形見なんです……」

 

「え?どういう事?」

 

「厳島流ってご存知ですか?物凄く人数の少ない流派でラブはその家元の家系でも直系なんだそうです。尤も殆ど身内だけで受け継いで来た様な流派と言ってましたけど、その厳島流で代々受け継いで来た物だそうです。それでラブの両親は彼女が幼い時に亡くなっていてラブはよくママのパンターって呼んでいたんです」

 

「いえ、そういう事ではなくて彼女のお母様とはあなたに電話する少し前に連絡がついているわよ。何でも今は仕事でアメリカに居るそうで直ぐに社用機で日本に戻ると仰ってらしたわ」

 

「それはいったい……?」

 

 

 ちょっと訳が解らない……。

 

 

「まあこれに関してはお戻りになられれば解る事でしょう。それより安斎さん、あなた今夜の宿のあてはあるのかしら?こちらに来た経緯を考えるとそうとは思えないんだけど」

 

「それは…今夜は病院に詰めて長くなるなら改めて考えようかと……」

 

「やっぱり…」

 

 

 敷島刑事は溜め息をひとつ吐くと呆れた顔をしつつこう続けた。

 

 

「いくらなんでも中学生の女の子一人にそんな事させられないわ。決めた、安斎さん、あなた今夜は私の部屋にいらっしゃい、独り者の部屋でたかが知れてるけれどあなた一人位なら何とでもなるわ」

 

「いや!そこまでご迷惑を掛ける訳には!」

 

「知波単の元隊長、戦車道の先輩として言わせてもらうわ。駄目」

 

「そんなぁ…」

 

「気持ちは解るけど駄目よ。手術もいつ終わるとも解らないし、第一そんな疲れた顔をしていてあなたまで倒れたらどうするの?私は一度署の方に戻らなければいけないし、警備が居るとはいえいつマスコミの連中が院内に潜り込むか解らない。そんな場所にあなた一人を置いておく訳にはいかないわ。もうこれは命令よ、私の部屋に泊まりなさい、病院の方には何かあった場合時間に関係無く私の方にまず連絡を貰えるよう手配しておくから」

 

「はい…解りました…それではお言葉に甘えさせて頂きます」

 

「ヨシ!」

 

 

 敷島刑事は笑顔になってそう言うと夜間救急受付窓口に向かって行った。

 

 

「お待たせ、ついでに署にも連絡しておいたから迎えも直ぐ来るわ」

 

「それではそれまでに私も家の方に連絡して来ます」

 

「あぁ、それは大丈夫、私の方から署に掛けるついでにしておいたから」

 

「え?家の番号解るのですか?」

 

「少し説明が足りなかったわね、あなた自宅から通報したでしょう?だから最初お家に電話して出られたお母様にあなたの携帯番号頂いたのよ。尤もこちらに向かってるのまでは聞いてなかったから私も驚いたけどね」

 

「何から何まですみません」

 

「そんな気にしなくていいわ、さあ、もう迎えも着くから通用口に行きましょう」

 

 

 そして警察署に戻った敷島刑事は簡単な報告を済ませると私を連れ駐車場へ向かった。

 

 

「さあ、乗って頂戴」

 

「コレって…」

 

 

 敷島刑事が示した車は赤のフィアットのチンクエチェント。

 こう言っては失礼だけどちょっと刑事さんが乗る車には思えない。

 

 

「ふふっ、横須賀って狭い街でしょ?小回りの利く車の方が便利なのよ、って言うのは言い訳でこれはまあ私の趣味なのよね」

 

 

 正直これは意外だったけどよく見れば颯爽とした敷島刑事に良く似合った車だった。

 

 

「さて、これで帰る訳だけどその前に何か簡単に食べられる食料を調達した方がいいか」

 

 

 そう言うと赤いチンクエチェントは市街地に向け走り出す。

 途中車内では着替え等あるか聞かれたが簡単な物は持って来たと言うと、それはそれでまたやる事がどうにも少しチグハグだと呆れられた。

 そして途中のお弁当屋さんでお弁当を買った後、車は敷島刑事のマンションに辿り着く。

 

 

「さあ、狭いトコだけど遠慮しないで入って頂戴」

 

「はい、お邪魔致します」

 

「そんな堅苦しい挨拶はしなくていいわよ」

 

 

 敷島刑事の部屋は手入れの行き届いた落ち着いた雰囲気の大人の女性の部屋だった。

 本棚はきちんと収納され小説も随分と並んでいる。

 

 

「あら?何か気になる本でもあるのかしら?」

 

「い、いえ、その、私趣味で小説を書いているのでつい…」

 

「へえ!凄いわね!一度読んでみたいわ」

 

「そんな!恥ずかしいです!」

 

「それでどんな小説を書いているの?」

 

「そ、そのぅ…れ、恋愛小説とか…」

 

「まあ!可愛いわね~♪」

 

 

 恥ずかしくて顔が赤くなっているのが自分でも分かる。

 

 

「さあ、取り敢えずお話しはこれ位にしてまずは腹ごしらえをしましょ」

 

 

 食べている間は敢えて特に話もせず食べる事に専念した。

 今日は色々あり過ぎて食べ切れないかとも思ったけど、やはり体が消耗していたのか買って来た親子丼はしっかり完食してしまった。

 

 

「うん、ちょっと心配だったけど食べられたようで良かったわ」

 

「はい…」

 

「人間食べられれば何とかなるわ、さあ仕度してあげるからお風呂に入りなさい、疲れているだろうから面倒かもしれないけど湯船に浸かって少しでも疲れを取るの。そして明日に備えて休みましょう、明日は私は非番だしちょっと署に顔を出すけど、さっき署で聞いた話だと陸自も明日はまだ準備段階で残りの砲弾の取り出しも出来ないらしいわ。だから明日は概ねあなたに合わせて動いてあげられるから」

 

「そこまでして頂いて本当に……」

 

「ほら、もう泣かない、さあお風呂お風呂!」

 

 

 その後交代で入浴し用意して頂いたお布団に潜り込むと部屋の灯りが消される。

 

 

「千代美さん」

 

「はい?」

 

「あなたは本当によく頑張ったわ、あなたのその頑張りを私達も決して無駄にしないよう捜査にあたります。これは警察官としての私の偽らざる気持ちです」

 

 

 敷島刑事から蝶野教官と同様の労いの言葉を掛けられる。

 

 

「ハイ…ハイ……」

 

 

 千代美の頬をまたひと筋の涙が伝い落ちる。

 そしてこの悪夢の一日がようやく終焉を迎えた。

 

 

 




ついに厳島流の名が登場致しました。



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第五話   それでも夜は明ける

今回はチョビ子がコンタクトにツインテールになる切っ掛けを捏造してみました。

因みに作中登場するプチトマトのサラダは作者が良く作る、
好物の酒のつまみです。


 もう夏も近く夜が明けるのも随分と早くなって来ている。

 結局私は昨夜一睡もする事が出来なかった。

 疲れ切っているのに目を閉じると頭の中に、今も苦しんでいるであろうラブの姿が浮かんでしまい結局そのまま朝を迎える事になってしまった。

 布団の中でひとつ小さく溜め息を吐いたその時。

 

 

「眠れなかったのね」

 

 

 隣で寝ている敷島刑事が声を掛けて来た。

 

 

「あ、おはようございます敷島さん」

 

「うん、おはよう安斎さん、まぁ、あんな事の後では無理もないか」

 

「敷島さんはよく寝ていらっしゃいました」

 

「あはは、私の場合職業柄気が付いたら、寝られる時はどんな場所でもしっかり寝られるようになってしまっていたわ」

 

 

 そう言うと起き上がりひとつ伸びをしてこう続ける。

 

 

「さて、少し早いけど起きて朝ごはんにしましょうか?安斎さん今朝は食欲ある?ちゃんと食べられるかな?」

 

「少し胃が重いです…」

 

「徹夜しちゃったもんねぇ…何か胃に優しい物でも作るか」

 

「あ、あの…私に作らせて頂けませんか?」

 

「あら?お客様にそんな事はさせられないわ」

 

「いえ!これだけお世話になってせめてそれ位させて下さい」

 

 

 敷島刑事は腕を組んで少し考えた後こう答える。

 

 

「う~ん、分かったわ、それじゃあお言葉に甘えようかしら」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 苦笑しつつも更に言う。

 

 

「やってもらうのにありがとうも無いもんだわ、冷蔵庫の中の物は好きに使ってくれて構わないからね」

 

 

 私は取り敢えず顔だけさっと洗った。

 その時見た自分の目はかなり赤く充血していて、昨日は泣き過ぎたと自分でも思う。

 寝間着代わりのTシャツにショートパンツのままキッチンに向かい、冷蔵庫の中を見て何を作るか考える。

 

 

「卵はある、あと塩鮭とお豆腐があって野菜室にはプチトマトか」

 

 

 結局私は甘めの玉子焼きに塩鮭を焼いてお豆腐のお味噌汁を作る。

 プチトマトは半分に切りオリーブオイルとパルメザンチーズをさっと振り掛けた。

 それらを作るうちにご飯も炊いておいたが炊飯器は急速炊飯も出来る良い物で、これは私もちょっと欲しいと思った。

 

 

「これは美味しそうねぇ♪見ていて手際も良かったし」

 

「その…小さい頃から母に仕込まれました」

 

「素晴らしいお母様ね、それでは頂いていいかしら?」

 

「お口に合うと良いんですが」

 

 

 朝ごはんを頂きつつ点けてあるテレビのニュースを見ていると、昨日の件はまだそれ程詳細は報道されてはいなかった。

 演習場で爆発事故が起きたらしい事、負傷者が出ている事、陸自の不発弾処理の部隊が出動している事、ただし演習場が広いので周辺に避難指示は出ていない事。

 これは昨夜交代で入浴中に見たニュースと殆ど内容に変わりは無かった。

 

 

「ふぅ、とっても美味しかったわぁ♪」

 

「お粗末さまでした」

 

「お母様の仕込が完璧なのね、私が作るより遥かに美味しかったわ」

 

「そんな…」

 

 

 そんなやり取りの後お茶を入れつつ今日はどう動くのか聞いてみる。

 

 

「まずは申し訳ないけど署の方に一度顔を出します、現場の方は交代で周辺警備と臨時の詰所にいる連中に任せておけばいいから、その後は病院にずっと居られるわ。何しろ残っている砲弾も弾薬架が歪んだりで取り出しにも相当時間が掛かる様だし」

 

「夜中も眠れなくて考えたのですが、私は病院に送って頂ければ充分ですのでそこまで付き合って頂くわけには…」

 

「安斎さん…あ~、もう千代美ちゃんって呼んでいい?」

 

「はあ…」

 

「ここまで来てそんな事はもう言いっこ無しよ」

 

「でも」

 

「それにね千代美ちゃん、おそらく今日には厳島さんのお母様も到着されるはずだわ、その時私が病院に居た方がその後の対応が取り易いと思うのよ」

 

「解りました、そういう事でしたら今日も宜しくお願いします」

 

 

 そうと決まれば後は出掛ける仕度をするだけ。

 少ないとはいえ持って来ていた衣服に着替え、髪を梳かし三つ編みを編み直す。

 

 

「そう言えば千代美ちゃんっていつも三つ編みなの?他の髪型は?例えばそうツインテールとかどう?それで眼鏡からコンタクトに変えたりしたら、千代美ちゃん可愛いから間違い無くあなた引く手数多よ♪」

 

「そんな…からかわないで下さい…コンタクトもまだ早い気がするし…」

 

「あ~、アレか、千代美ちゃん自分が可愛い自覚が全然ないんだ~」

 

「……」

 

 

 そうこうするうちに身支度も整い、二人はマンションを出て敷島刑事のチンクエチェントに乗り込むとまずは横須賀警察署に向かう。

 

 

「あ、そういえば学園艦にも私を待たず出港してもらうよう連絡しておかないと」

 

「あぁ、それなら問題ないわ。昨日千代美ちゃんが入浴中にお母様に電話して、学園艦への連絡をお願いしておいたから。警察への協力という事で学校の方も欠席扱いにならないよう頼んでおいたから安心して」

 

 

 敷島刑事がやる事は万事に措いてぬかりが無い。

 そして車も警察署に到着する。

 

 

 

「敷島君捜査状況に関してなんだがね…」

 

 

 年かさの上司らしき人物が敷島刑事に話し掛けて来る。

 

 

「それでしたら現段階では昨日上げておいた調書以上の物はありません、現場も陸自の処理待ちな上、関係各位には初期段階で安斎さんからの連絡で初動が完了しています。後は本庁による弾薬製造元への捜査の開始待ちです。私の方は病院の方で厳島さんのお母様の到着を待たねばなりません」

 

「あぁ、しかしだね…」

 

「課長、私は本来今日は非番なんですよ、そもそも昨日も当直明けに戦車というだけで現場に呼び出され初動にあたっているんです。私に四の五の言う前に現場で私を呼び出したへっぴり腰どもをもうちょっと何とかしてくれませんかね!?」

 

「あ…まあその何と言うかそのもうちょっと穏便な…」

 

「何か!?」

 

 

 最後は視線で課長を黙らせる敷島刑事はどうやらこの課全体を尻に敷いている様だ。

 

 

「敷島刑事凄い…」

 

 

 思わず千代美もそう呟かずにはいられない。

 その後いくつかの用を済ませた敷島刑事は千代美に宣言する様に声を掛ける。

 

 

「ヨシ!それじゃあ病院に行こう千代美ちゃん」

 

 

 そして再び乗り込んだチンクエチェントは走り出す、恋の元へ。

 




気が付けば随分お気に入りが増えていてびっくりです。
読んで頂けているのが解ると執筆の励みになりますね。


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第六話   記憶と困惑と

今回は何となくいつもの面々が登場します。
誰が誰かはまあすぐに解っちゃいますね。

それと舞台にしている地元アピールも抜かりなく。


病院に向かう車の中で運転中の敷島刑事が不意にこんな事を言って来た。

 

 

「ねぇ千代美ちゃん」

 

「はい、何でしょう?」

 

「私は千代美ちゃんって呼んでるのに私の事は敷島刑事とか敷島さんってさあ…」

 

「……」

 

「千代美ちゃん?」

 

「ええと…え、英子さん?」

 

「ありがと」

 

 

 英子さんはにっこりと微笑むと病院前の交差点を右に舵を取る。

 

 

「あ~、やっぱり昨日よりマスコミの数が増えてるわねぇ…」

 

 

 病院の方を見やれば正門付近は脚立や中継車が並び、通院患者であろう歩行者も迷惑そうにそれを避ける様に歩いているのが見える。

 病院敷地内へは警備員が規制線を張り患者と関係者以外入り込まぬようにしている様だ。

 

 

「千代美ちゃん、用心の為良いと言うまで頭を下げていてくれる?昨日と同じ様に車を裏手の職員用通用口に回すから」

 

「はい」

 

 

 私が耐衝撃姿勢よろしく頭を下げると車は正門前を通り抜け裏手に向かう。

 

 

「もういいわ、さあ行きましょう」

 

 

 昨夜同様に通用口を抜け手術室のある病棟への床の指示ラインを辿る。

 エレベーターに乗り英子さんが階数のパネルにタッチして病院特有のスピードで扉がしまると指定した階に向けエレベーターは上昇を開始した。

 ストレッチャーごと乗れるようになっているエレベーター、こんな処もまた不安感を煽って来る気がしてこの僅かな時間すら心に苦痛を与えて来る。

 

 

 

「やはり手術はまだ終わっていなくてまだまだ時間が掛かるそうなの」

 

「そんな…」

 

 

 手術開始から既に二十時間近く経過している、そして更に時間が掛かるという事がそれだけ恋が負った傷の深さを指し示していた。

 

 

「千代美ちゃん、手術患者の家族用控室をひとつ借りてあります。まずはそこに腰を落ち着けましょう、話はそれからよ」

 

「分かりました英子さん」

 

 

 新しい病院だけあって狭いながらも個室になっている家族控室は設備が整っていた。

 専用のトイレに仮眠も取れる様なソファー、ミニシンクには電気ポットとミニ冷蔵庫も置かれている。

 二人はソファーに並んで腰掛けた。

 

 

「あのね千代美ちゃん、厳島さんなんだけどやはり全身に飛散した金属片を浴びてしまっているの。それらの摘出に時間が掛かっているそうよ。尤も命に係わる重大な物は既に摘出を終え今はそれ以外の部分の処置をしているそうなの」

 

「……」

 

「それとね、これは伺った時に聞いたのだけど彼女ドッグタグをしていたそうで直ぐに血液型が分かり搬送段階で連絡して迅速に輸血準備が出来たらしいわ」

 

「!!」

 

 

 それを聞いた瞬間自分の胸元を両手で抑え込む千代美。

 

 

「私の頃はそんな事しなかったけど今の子はみんなそうなのかしら?」

 

「それは!…そのドッグタグは…前に横須賀で合同練習をした時に…みんなで記念にとドブ板通りに行って作った物なんです!」

 

 

 胸元から自分のドックタグを取り出し指し示す千代美。

 

 

「そうだったの…でもそれが彼女を助ける一助になったのね」

 

 

 千代美の脳裏にあの時の思い出が一気に蘇る。

 初めて見た記念艦三笠と南極観測船しらせ。

 ベース前でかじったアメリカンドックやソフトクリーム。

 ドッグタグと同様にお揃いで買ったダサいスカジャン。

 あの時はみんなが居た。

 ひとつひとつ全てが大事な思い出だ。

 

 

「う、うぅ…ラ、ラブぅ…早く帰って来ておくれよぅぅっ!」

 

 

 今日もまた千代美の目から大粒の涙が零れ落ちる。

 

 

「千代美ちゃんごめんなさい!私の配慮が足りなかったわ」

 

 

 千代美を抱きしめ謝罪する敷島。

 

 

「本当にごめんなさい、昨夜だって一睡もしていないのに本当にごめんなさい」

 

 

 千代美の背中をあやす様に軽く叩きつつ更にこう言う。

 

 

「まだ先は長いから今はここで少しでも休みましょう」

 

 

 どうにか少し落ち着いた千代美は軽く頷くとソファーにその身を預けるのだった。

 

 

 

 

 胸の大きな金髪の少女と長身にショートヘアにそばかすの少女が、アメリカンドッグにかじりついて貪る様に食べている。

 それに対して金髪を編み込んだ少女が自身も二つめのソフトクリームを舐めながら、もっと品良く食べろとたしなめる。

 同じく隣に居たロングの金髪をリボンで纏めた少女は、口元に手のひらを当てて呆れ顔で驚いている。

 そしてそれは私に言っているのかと、えらく小柄な少女がケチャップで口の周りをベタベタにしながら噛み付く。

 その少女の横には長身でロングヘアの黒髪の少女がしゃがみ込んで、ナプキンで小柄な少女の口の周りのケチャップを拭いている。

 それを見やりながらやれやれなどと言いつつ焦げ茶でショートヘア、精悍な顔立ちの少女は三本目のアメリカンドッグを買っている。

 そしてその後ろでは似た様なヘアスタイルで栗色の髪の大人しげな顔立ちの少女が、お姉ちゃんも食べ過ぎだとあわあわしながら抗議の声を上げている。

 

 

 私の隣ではそれを見ながらガードレールに腰掛けた、燃える様な赤いロングヘアの少女がソフトクリームを舐めつつケラケラと指をさしながら笑っている。

 

 

 

 記憶…思い出…夢…。

 

 夢…私は夢を見ているのだろうか?

 

 そんな酷くぼんやりとした感覚の中に身を置いている私の耳に、何かを打ち付ける様な音が

近付いて来るのが聴こえる。

 私は眠っていたのだろうか?あれは夢だったのか?

 少し意識が浮上して来たその時。

 

 

 扉の向こうで近付いて来た音が止まる。

 どうやら足早なヒールの足音であったらしい。

 そして『こちらです』という声の後扉をノックする音がする。

 

 

「どうぞ」

 

 

 英子さんがそれに応えると扉が開き一人の女性が入室して来た。

 私はその女性を見た瞬間驚いて立ち上がってしまった。

 

 

「え!?そんな!?…どう……なんで!?」

 

 

 そして今度は立ち上がった勢いそのままに今度は床にへたり込んでしまった。




高評価を頂いている事に驚き。
お気に入りもどんどん増えてて更に驚き。

それにしてもキリの良いトコで切ると話の尺の長さににばらつきが出ますね。


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第七話   mother

恋のお母さん登場。

まあ…ありがちな展開です。


 ラブが、恋が居る…今、私の目の前に前に恋が居る。

 

 

「ちょ、千代美ちゃんしっかり!」

 

「お嬢さん大丈夫ですか?」

 

 

 ラブが…いや違う!ラブによく似た女性が私に歩み寄り手を差し伸べて来る。

 その手を借り立ち上がった私と英子さんに深々と頭を下げこう言った。

 

 

「申し遅れました、私が恋の母、正確には伯母の厳島亜梨亜(いつくしまありあ)と申します。この度は仕事とはいえ私が外地におりましたので、大変なお手間をお掛けいたしました」

 

「…伯母…様?」

 

「はい、私はあの子が幼き頃に他界した生みの親、厳島麻梨亜(いつくしままりあ)の双子の姉、厳島亜梨亜と申します。見ての通りよく似ているので驚かせてしまったようですね、申し訳ございませんでした」

 

 

 そう言うと再び深々と頭を下げる亜梨亜。

 

 

「これまで姪として恋を育ててまいりましたが、私の事業がこれ以上忙しくなる前にとこの春に正式に恋を養女として迎え入れましたので」

 

「そういう事情でしたか、立ち話もなんですからこちにお掛けになって下さい」

 

 

 英子さんが亜梨亜さんにソファーを進める。

 それにしても驚いた、似ているなんてもんじゃなかった。

 生き写しってこういう事を言うんだと思う。

 でもお母さんの双子のお姉さんという事ならそれも納得だ。

 それにしても今のラブだってとても美人だが、きっとラブが大人になったら亜梨亜さんみたいな美しい素敵な女性になるのだと考えたらまたちょっとドキドキした。

 

 

「あなたが安斎さん、安斎千代美さんでいらっしゃいますね?」

 

「ハ、ハイ!私が安斎千代美です!」

 

「千代美さん、千代美さんと御呼びしても宜しいかしら?」

 

「か、構いません」

 

「ありがとうございます」

 

 

 そう言うと私に向かい亜梨亜さんは深々と三つ指を付く様な形で頭を下げこう続けた。

 

 

「この度は娘の恋の為奔走して頂いたとの事、恋になり代わり礼を申し上げさせて頂きます。千代美さんのお働きが無ければ恋はその場で命を落としていた事でしょう。このご恩は親子揃って生涯忘れません、本当にありがとうございました」

 

 

 そして再び頭を下げる亜梨亜。

 

 

「そんな!どうかお手をお上げ下さい、私は友達として当然の事をしただけです」

 

「恋はとても幸せな子なのですね、こんなにしっかりしたお嬢さんが友人に居て」

 

「ええ、私も昨日から一緒に居て、この年齢でこれ程の子はそうは居ないと思いました」

 

「ちょ!英子さんまで止めて下さい!」

 

 

 英子さんの言葉に思わず私は狼狽えて声を上げてしまう。

 

 

「あら?本当の事よ、大の大人でもあなた程の思考と行動は簡単には出来ないもの」

 

「何とかしなきゃと思って突っ走っただけなんです…」

 

 

 その後千代美と英子はこれまでの経緯を途中売店で購入して来た軽食を取りつつ、順を追って亜梨亜に説明する。

 そしてそれが如何にタイトロープオペレーションであったか改めて痛感するのであった。

 

 

「…そうでしたか、千代美さんには改めて感謝しなければなりませんね」

 

「伯母様、どうかもうこれ以上は…」

 

 

 そんなやり取りがあって暫くして、遂に恋の手術が終了したとの知らせが来る。

 時間は既に手術開始から二十五時間が経過していた。

 

 

 手術室の前に行くとラブを横たえた寝台が搬出されて来る処だった。

 そしてそのままICUに入るのだという。

 ちらりと見えたラブの姿…。

 包帯にネットにテープに全身を覆われている様だった。

 酸素吸入、点滴や医療機器が繋がれた痛々しいその姿。

 そしてどう見てもあの美しい深紅の長い髪は無残に切り取られている。

 

 

「く、うぅ……」

 

 

 横に居た英子さんが私の肩を抱き寄せてくれる。

 

 

「厳島恋さんのご家族の方は?」

 

「はい、私です」

 

 

 手術室から出て来た看護師さんからの問い掛けに亜梨亜さんが応える。

 

 

「執刀医からの説明がありますのでこちらにお越し下さい」

 

「それでは我々は先程の控室に行っておりますので」

 

 

 英子さんはそう言うと私の手を引き手術室を後にした。

 控室に戻った私達は暫く無言で再びソファーに並んで腰掛ける。

 そしてその沈黙を破る様に英子さんが重い口を開く。

 

 

「ねえ、千代美ちゃん」

 

「はい、何でしょう英子さん」

 

「明日以降の事なんだけどね、陸自の処理が終わらない事にはどうにもならないけど、明日からは私も捜査に戻らなければならないの。それに千代美ちゃんも捜査協力という事にしても、そういつまでも学校を休めないでしょ?」

 

「はい、夏の全国大会も目前ですし…」

 

「それでね、今夜はもう一晩私の部屋で過ごすとしても明日には一度戻るべきだと思うの。あなたのお母様も心配しているでしょうしね」

 

「はい…私もそうするべきだと思います」

 

 

 そう、私もいつまでもここに居られないのは事実だった。

 期末試験、中学生活最後の夏の全国大会。

 今年こそ、今年こそ黒森峰の西住を持てる全力で叩き潰す!

 その為に隊長としてやらねばならぬ事は山ほどあるのだ。

 そしてその先にある未来の事。

 進路…夏の大会が終わったら答えを出さねばならない。

 時間、残された時間はもうあまり無いのだ。

 

 

 

 進路…未来…時間……ラブの未来はどうなってしまうのだろう……。

 

 

 

 そんな事に思いを巡らせていると、控室に亜梨亜さんが戻って来た。

 

 

「大分お待たせしてしまいました。ドクターからの状況説明と、今後の治療方針の説明に時間が掛かりましたので」

 

「それでそラブの…あ!ごめんなさい!私達仲間内では恋さんの事をそう呼んでいたので…」

 

「構いませんよ、あの子もそう呼ばれるのを喜んでいましたから」

 

「そ、そうですか。それでラブの容体はどうなんでしょう?」

 

「まず目の前にある命の危機は脱したそうです、当然予断を許さぬ状況ではありますが」

 

 

 それを聞いた途端全身から力が抜けてその場にへたり込みそうになったがどうにか堪える。

 

 

「怪我に関しては何分状況が状況なので詳しくは控えさせて頂きますが、ドクターのお話しでは一つ一つの小さな事が恋の命を救ったそうです」

 

 

 亜梨亜さんが聞いた話を纏めると、試合用のパンツァージャケットにミニスカートではなく作業用の難燃性のツナギを着ていた事、装填手用のグローブをしていた事、そういった小さな積み重ねが恋の命の細い糸を断ち切る事無く繋ぎとめたのだという。

 

 

「それに何より千代美さん、あなたの的確で迅速な通報が一番大きかったわ。先程伺った経緯をお話ししたら、そんな事が出来る中学生が居るのかとドクターも大変驚いていましたよ」

 

 

 そう言った亜梨亜さんが私の横に座り、私を抱きしめた。

 

 

「ありがとう…本当にありがとう千代美さん!あなたの、あなたのお蔭で娘の命は失われずに済みました!どれだけ感謝の言葉を言っても足りません、本当に…本当に!」

 

 

 亜梨亜さんの頬を涙が伝うのが分かる。

 英子さんも口元を手で覆い顔を少し背けて居る。

 

 

「わ、わたし、私…役に立てたんだ…ラブの役に立てたんだ!」

 

「えぇ…ええ!」

 

 

 もう何度目か解らない涙がまた私の目から溢れ出したのだった。

 

 

 




ここまでで思い付いた設定を差し挟みつつ来たら、
前提になる話が既に当初予定の倍近くまで長くなってしまいました。

でも当初のままだと話が相当スカスカだったと思います。


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第八話   臨界点

今回と次回はちょっと暴力的な内容になります。
その内容もどうかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
でも物語的に外せないしあくまでも物語の中の話という事で、
まほが悪い子でない事はみなさんも御存じの事ですしどうかひとつ。

更に今回は西住と厳島の関係性も少し垣間見えます。
それと英子さんの新たな一面とそれに絡む亜美さんも。


「それで今後の事なのですが、これだけお骨折り頂きながら大変申し訳ないのですがICUに入って居る事もありまだ当分家族以外の面会が出来ません。それに手術もこれで終わりではなくまだ何回かに分けて行わなけねばならないそうで」

 

 

 改めて亜梨亜さんから聞かされたラブに課された現実はとても重いものだった。

 戦車に乗る事はおろか学校への復学すら年内には叶わないであろうとの事。

 それが何を意味するか誰にだって解る。

 現実、突き付けられた現実…こんなにも理不尽な現実。

 中学最後の全国大会、みんな揃って笑って泣いて。

 でもそこにラブは居ない。

 秋が来て冬が来て、そして春が来てその先に広がる新しい世界。

 そこに果してラブの姿は無い。

 こんな現実は…こんな現実なんてあんまりじゃないか…。

 

 

「千代美さん、これ程ご尽力頂きながら面会も叶わずごめんなさいね、恋の意識が回復し容体が安定してから改めて会いに来てやって頂けますか?」

 

「勿論です、その日が一日でも早く訪れる事を祈ります」

 

 

 でも、それが叶う事が無いなどと誰もこの時思いもしなかった。

 

 

「それでは申し訳ございませんが入院手続きに必要な物を、自宅に一度取りに戻らねばなりませんので、本日の所はこれにて失礼いたします」

 

「そうですか、私達もこれ以上ここに留まる訳にはいきませんので下までご一緒致します」

 

 

 英子さんがそう言うと私達も荷物を纏め控室を後にする。

 エレベーターを降りた所で亜梨亜さんと別れの挨拶をし、英子さんは一度署に電話をすると病院の外に出て行った。

 私はといえば英子さんが戻る前に、少しすっきりしたくて顔を洗おうと化粧室に行く。

 顔を洗いタオルハンカチで拭う、そして鏡に映る顔を見やる。

 酷い顔だ、憔悴という言葉が頭に浮かぶ。

 日曜の昼過ぎまで呑気に過ごしていた自分と同じ顔だとはとても思えない顔だ。

 思わず頬を両の掌で叩いてしまう。

 取り敢えず無理矢理それで気持ちを切り替えた事にして、ロビーに行き電話をしに外に出た英子さんを待っていたその時。

 

 

「安斎!」

 

 

 不意に私を呼ぶ声がする。

 その声のした方を見やれば見知った顔が揃っていた。

 

 

「あ……に、西住…」

 

 

 声の主西住まほを始め他の面々が私の元に足早にやって来る。

 

 

「おまえ何時から此処に!?お前だけ全然携帯が繋がらなかったんだぞ?」

 

「あ、あぁ、すまない…ずっとその電源を切ったままになっていて…それよりそのお前達はどうしてここに…?」

 

「私達もニュースを見て、でも詳しい事が何も報道されなくて、それでラブに電話しても全然繋がらないし。それで臨中の副長に電話したら最初言葉を濁してたけど、ニュースに出てたのはラブの事だとやっと答えてくれてそれでみんな待ち合わせてここに来たんだぞ」

 

「そ、そうか…そうだよな」

 

「…おい安斎」

 

「なんだよ…」

 

「もう一度聞くがお前いつから此処に居たんだ?」

 

「その…事故のあった日の夜には……」

 

「おい!ふざけるなよ安斎!知っていたなら何故直ぐに連絡寄こさなかったんだ!?」

 

 

 不意に西住のヤツが私の胸ぐらを掴んで強引に立たせる。

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

「まほさん!あなた一体なんのつもりですの!?」

 

 

 そんな声も無視して西住は続ける。

 

 

「答えろ安斎!西住と厳島が親戚筋だってのは、お前だって知らない訳じゃ無いだろう!?それなのにお前だけ知っていて何故直ぐ教えなかったんだ!?」

 

「く、苦しいよ、その手を離せよ…」

 

「答えになってない!どういう事なんだ!答えろ安斎!」

 

「仕方…仕方なかったんだよ……わ、私だって直ぐに…知らせたかったんだよ…だ、だけど出来なくて…勘弁してくれよぅ…も、もう許してくれよぅ……」

 

「オイッ!貴様!そこで何をやっている!」

 

 

 低く鋭く英子さんの声がする。

 視界の隅に見えたその表情は凛々しくも優しさを湛えた英子さんではなく、見る者を凍らせる鋭い抜き身の刃の如き表情だった。

 

 

「千代美に何をする!その手を離さんか!」

 

 

 英子さんが私の胸ぐらを掴む西住の手を握ると西住の手が私をやっと離した。

 そしてそのまま後ろ手に西住を捻り上げる。

 中学生とはいえ日頃鍛えている西住を苦も無くあっさりと屈服させた。

 私はといえばその場に崩れ落ちへたり込んでいた。

 

「う…ゲホッ!ゲホッ!」

 

「oh!千代美!しっかり!」

 

「な!?貴様は誰だ!離せ!」

 

「騒ぐな小娘!ここを何処だと思っている?病院ぞ、場をわきまえよ!」

 

 

 

 

「これは一体何の騒ぎ!?」

 

 

 そこへ不意に新たな声が加わる。

 それは千代美からの急報に対応し、やっと一段落付き駆け付けた蝶野亜美であった。

 

 

「亜美か、スマンが千代美の事を頼む」

 

 

 亜美を一瞥すると一言そう言った英子。

 

 

「ちょっと!英子!?何であんたがここに!?」

 

「事情は後で説明する、私はこの小娘に用がある」

 

「ちょ!英子!って千代美さんしっかり!」

 

 

 亜美が手を差し伸べ千代美を立たせようとする。

 

 

「わ、私だって…必死だったんだよ…だけど…ラブが…りゅ、榴弾が…出血が酷いって…だから必死に、必死に……う…うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「きゃあ!千代美お姉ちゃん!」

 

「お、お医者さんを!看護師さんを!」

 

 

 

 

 私は…私はもう……。

 

 

 

 

 

 

 限界だ。

 

 

 




今回もチョビ子を悲しませてしまいました。
チョビ子が一番のお気に入りなんだけどなぁ…。


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第九話   上総(かずさ)の大猪

昨日の予告通り今回も暴力的な展開で英子さんが無双します。
でも物語の雰囲気重視という事でご理解頂ければと。


「このっ!離せ!貴様ぁ!!」

 

 

 すっかり頭に血が上り暴れるまほをものともせず、後ろ手に捻り上げたまま職員通用口の外まで連行する英子と、その後ろをトボトボと付き従う者達。

 因みに亜美とみほだけは千代美に付き添い院内に残っていた。

 そして駐車場脇の駐輪場の囲いの影まで来た処で英子は乱暴にまほを突き放つ。

 

 

「ふざけるなっ!貴様は一体何者だ!」

 

「私か?そんな事どうでもよかろう、場所もわきまえず騒ぎ立てる愚か者が」

 

「なっなんだとぅ!お前は何なんだよ!!」

 

「人に問う前に自分が名乗りもせずか、後継者がこれでは西住も先々たかが知れているな」

 

「な!?き、貴様!言わせておけば!」

 

 

 今度は英子に殴り掛かるが彼女は全く避けようともしなかった。

 まほの右の拳が英子の左頬に入るも微動だにしない。

 

 

「…効かぬ…気を付け!顎引け!歯を食いしばれ!」

 

 

 有無を言わさぬ英子の鋭い命令の声、凄まじいまでの強制力と西住の者として長年鍛えられて来た性であろうかその命令に瞬時に従ってしまうまほ。

 

 

「修正!」

 

 

 紫電一閃したかに見える鉄拳制裁。

 尤も英子の後の言によれば大幅に手加減した一撃がまほを崩れ落ちさせた。

 その後ろを見やれば付いて来た面々も直立不動で青い顔をしている。

 特にカチューシャなどはもう卒倒する寸前だ。

 

 

「ぐぅっ!!」

 

「ふん、まあいいだろう、名乗ってやるさ」

 

 

 そう言うと英子は小馬鹿にする様に上からまほを見下ろしこういう。

 

 

「自分は元知波単学園戦車隊隊長の敷島英子」

 

「!?」

 

 

 そして更に後ろ手を突いて座り込むまほにグイッと顔をまほに近付け続ける。

 

 

「更に言うなら元臨中戦車隊の隊長でもある。ついでに今は横須賀警察署捜査課の刑事として今回の事件の捜査を担当している、理解したか西住の小娘?」

 

 

 そう言い切ると今度は英子がまほの胸ぐらを掴むと、軽々と一気にまほの顔を自分の目線にまで吊り上げる。

 この敷島英子という女性、その膂力だけ見てもやはり只者ではなかった。

 

 

「おい西住の。私は厳島のお嬢さんの為に奔走し、彼女を救った千代美を彼女の御母上よりお預かりしている身だ。その千代美に対し事情を知らぬとはいえ、友であるはずのお前の振る舞い、見過ごす事は出来ぬぞ。あぁ?どうだ、何か申し開きがあるか?」

 

 

 鬼火が宿るが如き双眸を更にギリギリと吊り上げ憤怒の形相の英子。

 その迫力に押されすっかり戦意を喪失し言葉も出ないまほ。

 人生経験などだけではない人としての格があまりにも違い過ぎるのだ。

 そんなまほの様を見てようやっと地面に降ろしてやる英子。

 

 

「オイ!後ろのひよっこ共、貴様らも同罪ぞ!中学生とはいえ、ちっとは顔も名も知れた連中が雁首揃えてノコノコこんな場所に現れればマスコミの恰好の餌食。既にテレビ報道されているなら尚更だ、その軽率な行動が今も生死の境を彷徨う厳島のお嬢さんを晒し者にする事位その軽い頭で考えるまでもなく解るはずだ!」

 

 

 英子の言に一同は只々小さくなるしか術はなかった。

 そんな一幕の後、そこへ千代美をみほに任せた亜美が一行を探し通用口から現れる。

 

 

「英子!一体どういう状況なのよ!?それに何故あなたが千代美さんと一緒に?」

 

「千代美の様子は?」

 

「今お医者様が見ていてみほさんに付き添いをお願いして来たわ、それより…」

 

「亜美」

 

 

 亜美の問い掛けに被せる様に英子は言う。

 

 

「千代美の御母上より彼女をお預かりしておきながらこの様とは…私は御母上にどう申し開きをすればよいのだ?それはまあいいとしてこいつらはお前に任せる、私は千代美を見て来る」

 

「もう!あんたはさっきからもう!ちょっと英子!」

 

 

 亜美の声を無視し踵を返すとさっさと行ってしまう英子。

 

 

「後できっちり説明しなさいよね!」

 

 

 診察室の寝台に寝かされる千代美の顔には疲労の色が色濃く出ていた。

 その横には泣き腫らした顔でみほが座っている。

 そこに医師と共に英子が説明を受けながら現れた。

 

 

「──まあ過労という処でしょう、後程栄養剤の点滴と念の為一晩は入院という事で」

 

「大変お騒がせをした上に申し訳ございません」

 

「いえいえ、それでは私はこれで、なにかありましたら近くの者にどうぞ」

 

「ハッ!」

 

 

 折り目正しく一礼し医師を見送る英子。

 上げた顔にはもう憤怒の色は見えないが厳しさだけはそのままだ。

 

 

「あ!あ、あの、あの!先程は姉がし、失礼しました!」

 

 

 座っていた椅子から跳ねる様に立ち上がり謝罪をするみほ。

 それに対し英子は素っ気無く答える。

 

「それはもうよい、ここには私が居る。お前は皆の所に戻れ」

 

「は、はい、それでは失礼します」

 

 

 みほが立ち去ると英子は椅子に腰かけ千代美のやつれた顔を見つめる。

 そして千代美の頭を撫でつつ独り言ちた。

 

 

 ──不甲斐無い、全く私は何をやっている…。

 

 

 それから点滴が始まり暫しの時間が経過し英子と未だ目覚めぬ千代美の元に、亜美に千代美の孤軍奮闘ぶりと、それに関する事柄を亜美が箝口令を敷いていた事を聞かされすっかり意気消沈したまほを始めその他の面々が亜美に伴われ訪れた。

 

 

「あ、あの!蝶野教官からお話は伺いました、知らぬ事とはいえ先程は…」

 

「違う」

 

「ハッ!?」

 

「謝る相手が違うと言っている」

 

 

 忌々しげに切り捨てる英子はまほの方を見ようともしない。

 付いて来た他の者達も気まずげな顔で俯く。

 そしてそのまま英子は更に続けて言う。

 

 

「厳島のお嬢さんにも面会は叶わぬ、そして千代美もいつ目覚めるとも知れぬ、よって貴様らに出来る事は何もない。分かったならばさっさと帰れ、但し目立たぬ様裏口からな」

 

「ちょっと英子!あんたさっきから何なのよ!」

 

「おまえこそ何だ?さっきから喧しい事この上ない、病院内だ静かにしろ」

 

「あの!」

 

 

 そこに意を決した表情のまほが口を挟む。

 

 

「そ、その安斎が目を覚ますまで付き添わせて頂けないでしょうか?目を覚ましたら謝罪した後即刻退去します…お、お願いします!」

 

 

 そう言うや勢いよく頭を下げるまほにようやく英子も顔を向ける。

 

 

「ふん、まあよかろう。だがな、よく聞けよ?あの様な愚行決して許さぬぞ、二度は無いと肝に銘じておけ、さもなくば西住だろうが島田だろうが全力で叩きのめすから覚悟しておけ」

 

 

 その物騒極まりない物言いとそこには本気以外何物も無い眼光に、居合わせた一同声も出せず勢いよく頭を下げる他に出来る事は無かった。

 するとそのタイミングで看護師が一人若干躊躇しつつ声を掛けて来る。

 

 

「あのぉ、病棟の方の準備が整いましたので安斎さんを移送したいのですが」

 

「あぁ、宜しくお願い致します。さあ貴様らもそこに居ては邪魔になる、外に出よ」

 

 

 追い立てる様に席を立ち自身も一旦外に出ようとする英子の腕を亜美が捕まえる。

 

 

「なんだ亜美さっきから?」

 

「だから!」

 

「横須賀が私の地元で刑事が生業なのはお前も知っているだろう?」

 

「説明になってない!」

 

「ああもう全く煩いヤツだ、詳細は後でいくらでも話してやる。今は千代美を病室に連れて行くのが先だから今暫く待て」

 

「絶対よ!約束破るんじゃないわよ?この上総(かずさ)の大猪が!」

 

「うるさい、もう黙れ」

 

 

 そんなやり取りの後一行は病棟に移動し千代美がベッドに移されたが、苦悶の表情と点滴が実に痛々しくまほは涙目でおろおろしている。

 英子はといえば構っていられぬとばかりに入院手続きの為受付に向かった。

 そして英子が病室に戻って来た頃ようやく千代美が意識を回復し、まほが号泣しながら千代美に謝罪を繰り返しているのであった。

 

 

「あ、あんざいぃぃ!話は…蝶野教官から聞かされた。知らな…知らなかったとはいえ、私はぁ、私は安斎に許されない事をしてしまった!ゆ、ゆ、許してくれとは言わないが…済まなかった!あんざいぃ……」

 

「西住?蝶野…教官…?」

 

「千代美さん、私が箝口令を敷いたばかりにあなたにいらぬ苦労させてしまったわ。本当に申し訳ない事をしました、ごめんなさい」

 

「教官?えっと私……」

 

「あ!まだ起き上がっては駄目よ横になっていて」

 

 

 少し頭が回って来た。

 そうか、あの後私は倒れたのか…。

 それにしてもこの西住の狼狽え様は一体?

 

 

「事の次第は私から説明しておきました、まほさんも心配する余りの事だったし、既に英子からこっ酷く叱られているのでどうか許してあげてくれる?」

 

「そんな、許すも許さないも私は…」

 

 

 私のベッドサイドに突っ伏し号泣するまほの頭を撫でようとして、自分の腕に点滴の針が刺さっているのを見て自分はそんなに消耗していたのかと気が付いた。

 

 

「気にするな西住、ラブとお前達は小さい頃から姉妹同然だったと聞かされていたしな。それより私こそ教えてやれなくて済まなかったな」

 

「う、うぅぅ…あんざい……」

 

「だからもう泣き止んでおくれよ」

 

「……」

 

 

 その様子にやっと胸を撫で下ろす一同であったが、戻って来た英子はやはり辛辣に言う。

 

 

「さあ、もういいだろう千代美を休ませてやれ。そして先刻言った様にしろ、帰りの脚は確保出来ているのであろうな?」

 

「あ、それは西住の本家から私達が来るのにバートルを出して貰っているので、それで順番に送る事が出来ます」

 

 

 これにはぐずっているまほに代わりみほが即答した。

 

 

「全くこれだから西住は…まあいい、それより解っているな?」

 

 

 この問いにまほも立ち上がり答えた。

 

 

「ハイ!自重します」

 

 

 何故か全員整列し一斉に敬礼していたのであったが、そこに亜美が言う。

 

 

「私は残るわよ、忘れたとは言わせませんからね」

 

「しつこいぞ、忘れてはおらん。それよりお前らはさっさと行動しろ」

 

 

 別れの挨拶もそこそこに一同を追い出した英子は千代美の元に来て声を掛ける。

 

 

「辛い思いをさせて済まぬ、今夜一晩はここでゆっくり休め」

 

「はい…英子さん」

 

「そう、今はそれでいい、明日また来るからな」

 

「はい、お休みなさい…」

 

 

 英子が優しく頭をひと撫でしてやると目を閉じた千代美はそのまままた寝入ってしまう。

 しかしその表情は先程より幾分和らいだものになっていたのであった。




今回は英子さんの二つ名がそのままタイトルとなりました。
しかし上総(かずさ)の大猪なんてどんな隊長だったんだろう?
それと知波単もさすがにここまでではないかなとも思ったり思わなかったり。

何とか年内にこの中学時代終わらせたいけど終わるかなぁ…。


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第十話   英子二つの顔 西住と厳島

タイトルはダブルタイトルになりました。

今回は英子さんの二面性をお楽しみ下さい。

西住流と厳島流の関係性と亜梨亜さんの過去も多少見えて来ます。
それとラブのパンターのパーソナルネームが登場しますが、
これは私の好きな隈取りメイクの某ロックバンドの名曲から拝借しました。



 西住家のコネで海上自衛隊横須賀地方総監部のヘリポートに降り立った西住家所有のバートルKV-107IIA-4が、西住姉妹他の面々を乗せ再び夜空に舞い上がったその頃、英子と亜美は英子のチンクエチェントの車中にあった。

 問う様な視線の亜美に対し英子は無言を貫いている。

 そしてついに痺れを切らした亜美が英子に対し問い詰める。

 

 

「それで英子あんたいつまでそうしてだんまり決め込んでいる気なのよ!?」

 

「まずは自分のマンションに車を戻して、どこか適当な店にでも入ってからでよかろう」

 

 

 こうなるとテコでも口を開かないのが分かっているだけに亜美は大げさに溜め息を吐く。

 そしてその後車を降り移動したのは市街地、京急横須賀中央駅近くの一件の大衆酒場。

 

 

「それで何で適当な店ってのがこんな大衆酒場なのよ!?」

 

「喧しい、こういう店の方が何でもあって色々都合がいいのだ」

 

 

 嘗て二十四時間操業の造船業華やかなりし時代の名残で、横須賀には朝から飲めるような大衆酒場が何軒か当時を偲ばせるスタイルで営業を続けている。

 英子たちが入ったのはそんな大衆酒場の一件だった。

 

 

「それとね英子、あんた何時まで鬼敷島のままでいる気なのよ!?」

 

「!!!」

 

「あんたいい加減その二重人格何とかしなさいよね!」

 

「う…うっさいわねぇ!大体私の何処が二重人格なのよ!?」

 

「それよ!立派に二重人格じゃない!」

 

「しかたないでしょ!大体当時の知波単を束ねるのには、これ位やってもまだ足りない位だったんだから!」

 

「卒業してもう何年経つのよ!?今はもう知波単じゃないでしょ!」

 

「あんな面倒くさい子達相手すんのに普通じゃやってらんないわよ!!あ~!私千代美ちゃんのお母様になんて言い訳すればいいのよ~!!!」

 

「呆れた!まだ連絡してなかったの?サッサと電話して来なさいよ」

 

「他人事だと思って~!」

 

 

 英子が一端店の外に出て、千代美の実家にペコペコ頭を下げながら電話する姿が店の扉越しに見える。

 その様子はついさっきまでとは丸っきり別人の様だ。

 しかしこの敷島英子なる人物、上総(かずさ)の大猪だの鬼敷島だの一体知波単戦車隊の隊長だった頃はどんな様子であったのだろうか?

そもそもがこの二人の関係もどういったものなのか?

 

 

「うぅ、情けない…却って労いと謝罪のお言葉を頂いてしまったぁ……」

 

 

 戻るなり眉をへにょりとさせ店のテーブルに突っ伏す英子。

 

 

「あ~もう鬱陶しい!」

 

 

 一方亜美の方も大概容赦が無い。

 そうこうしていると店員がジョッキとガラス瓶を持って現れる。

 

 

「…何でまたよりにもよってこれなのよ?」

 

「煩いわねぇ、横須賀来たならまずこれ飲みなさいよ」

 

「氷入ってないし…」

 

「聖地横須賀じゃ三冷の横須賀割りが基本よ」

 

 

 よく冷やされたジョッキに同じく冷やされた焼酎、そこにこれもよく冷えたガラス瓶の中身を注ぐとジョッキの中身が心地良く泡立つ。

 

 

「かき回しちゃダメよ」

 

「それじゃあ厳島さんの早期回復を祈って」

 

「千代美ちゃんの頑張りに」

 

 

 ゴツリと厚みのあるジョッキが合わさる鈍い音が響く。

 

 

「うぇ…濃い…」

 

「慣れろ」

 

「…で?」

 

「解ってるわよ…」

 

 

 ここに来てようやくこれまでの経緯を語り始める英子。

 途中テーブルに並び始めた刺身や焼き物、揚げ物などを突きつつ順を追って話す。

 

 

「──っとまあここまでが亜美が来る直前までの事と次第ってトコよ」

 

「そうだったの、千代美さんの件に関しては本当に申し訳ない事をしたわ。でもあの時は私もそれが最善だと思ったのよ」

 

「まあ私も判断は間違ってはいないと思うわ。現にテレビを見た馬鹿者共がああして大挙して押しかけた訳だし。でももうちょっと配慮も欲しかったわね」

 

「返す言葉も無いわ」

 

「それはもういいわよ、それよりね」

 

「ええ、この件に関しては可能な限り情報を共有出来る様にするわ」

 

「ああ、そうしてもらえると助かるわ」

 

「そういう意味でも英子が居てくれたのが不幸中の幸いよ」

 

 

 そう言うとどちらからともなく再びジョッキを合わせる二人。

 

 

「それで早速だけど陸自、連盟の動向は?文科省は現段階門外だと思うけど」

 

陸自(ウチ)の方もパンターの処理待ちだけど、警察立ち合いで臨海中学の弾薬庫から回収した砲弾は一部解析を始めたみたい。ただ事が事だけに今回は一層慎重にならざるえないわ、連盟の方は役員、各流派の家元含めて蜂の巣を突いた様な騒ぎになってるわよ。何しろ今日納入予定になってる分があって、それは既に昨日から搬送中でそれの差し止めと回収でかなり切羽詰ってるわ」

 

「やはり他にも出荷された分があったか…」

 

「ええ、そういう意味でも千代美さんの功績はとても大きいわ」

 

「あの子は西住の次期当主より遥かに器が大きいわよ」

 

「まあ気持ちは解るけどそう言わないであげてよ、師範も対応で身動きが取れず恋さんの元に来たくても来られないのだから。幼い頃から娘同然に可愛がっていらしたらしいし」

 

「その割に肝心の娘があれじゃあねぇ」

 

「またそういう事を…」

 

「それはまあおいといてこちらでも早いうちに製造元に捜査に入ると思うわ、でもそれにしてもおかしいじゃない?試験段階じゃ問題無かったんでしょ?」

 

「そこも含めてよ、こちらに残っていた試験弾との比較も行うわ」

 

「まあこちらの現場の方はパンターの処理が終わるまで出来る事は限られてるか…現場検証が出来ないのが一番痛いわね。処理班も相当気を使ってくれてるけど現場が荒れるのはやっぱり痛いのよねぇ」

 

 

 ここまで話した処で亜美が若干躊躇しつつ聞いて来る。

 

 

「それでね…Love Gunの、パンターの車内の様子はどうだったの?」

 

「Love Gun…彼女のパンターのパーソナルネームね」

 

「ええ、知ってるのね」

 

「そりゃあ地元だし人気だもの。横須賀は高校戦車道が今一だけど、中学は臨中が公立ながら昔から強くて有名だから」

 

「そう…それで?」

 

「血の海よ…本来車内を守るはずのカーボンコーティングが今回は裏目に出たわ。爆発四散した金属片が跳ね回って彼女に襲い掛かったの」

 

 

 予想はしていても改めて聞かされた現実に亜美も唇を噛む。

 しかしそれを淡々と語る英子に対しては、幾多の修羅場を経験して来たであろう彼女の刑事という職の因果を感じずにはいられなかった。

 そして暫し沈黙する亜美に今度は英子が問う。

 

 

「あのさ亜美、西住家と厳島家が親戚筋っていうのは聞いたけど、実際には西住流と厳島流ってどんな関係なの?」

 

「あぁ、それはね、私も詳しくは聞いていないけど親戚としては結構な遠縁らしいの。流派としての創設は西住の方が若干早かった程度。でも創始者同士ウマが合ってたらしくて交流は活発だったそうよ。ただ多くに門戸を開いた西住に対し厳島は近親者のみで細々とって感じだった様ね。」

 

 

 現在でも最大派閥と言える西住流に対しその真逆の存在であろう厳島流。しかし戦車道の世界にあってはその様な少数派の流派の方が多数を占めるのかもしれない。

 

 

「ただ門下生も多いと言っても後継者の年齢的谷間の時期というのは必ず発生するわ。そんな時に厳島から西住に云わば助っ人を送る事もあったそうよ。例えば…そう、英子もお会いした亜梨亜様がそう。師範のしほ様が黒森峰入学前に空白が生じて、亜梨亜様が西住の者として黒森峰に入られてしほ様の入学の下地作りをされたとか。しほ様が一年生の時に亜梨亜様が三年生で隊長職を務められたと聞くわ」

 

「げっ!何よそれ!?でも双子でしょ?妹じゃなくて何で姉が?」

 

 

 思わず呻く英子には先程会ったばかりの物腰穏やかな亜梨亜が、黒森峰のパンツァージャケットで指揮を執る姿が直ぐには想像出来ない。

 

 

「そこまではちょっと…でもまあ両家がそれだけ親密だって事よ。だからまほさんをあまり責めないであげて」

 

「解ってるわよ、それにしても厳島流ねぇ…何回かお嬢さんの試合は見た事あるけど、諦めるのを見た事無いのよねぇ」

 

「それこそが厳島流の是とする処らしいわ。流派としての信条はただ一つ、百折不撓(ひゃくせつふとう)よ」

 

「決してくじけないか…西住の撃てば必中云々よりシンプルでいいわね」

 

「またあんたはそういう事を」

 

 

 もう亜美も苦笑するしかなかった。

 

 

「まあ私も聞かされているのはこれ位ね」

 

「そっか、ところで亜美、今夜はこの後どうするのよ?」

 

「一応東京に戻って西住の別宅の関係者宿泊施設に泊まる予定だけど」

 

「ならウチに泊まりなさいよ、それで明日の朝千代美ちゃんに顔見せてあげて」

 

「ん~、分かったそうするわ」

 

「よし、決まりね」

 

 

 その後二人は今少し盃を重ね横須賀の夜は更けて行った。

 

 

 




作中登場したホッ○ーは一応商品名はぼかしました。

しっかし英子さん今度は鬼敷島て…。


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第十一話   英子と亜美

今回のお話しで英子の過去が少し明らかに。
上総(かずさ)の大猪と呼ばれるのも納得なお話しです。

※昨日の冒頭英子のセリフの脱字は修正致しました。
 ご指摘ありがとうございました。



 明けて翌朝の事、新港総合病院には時間外であるが、千代美の様子を見に来た出勤前の英子と亜美の姿があった。

 が、しかし……。

 千代美の居る病室の入り口ではおずおずと中を覗いたり引っ込んだりする英子。

 その様子にいい加減堪り兼ねて亜美が英子を突き飛ばす。

 

 

「何をそんなトコでウジウジしてんのよ!」

 

「わ!何すんのよ亜美!」

 

 

 病室入口でたたらを踏み声を上げる英子に、丁度朝食を食べ終えていた千代美も気が付いた。

 

 

「あ、英子さん」

 

「う、あ…その千代美ちゃんおはよう…その、気分はどう?」

 

「もう大丈夫です、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

 

「それでその~、昨日はね、変なトコ見せちゃってごめんなさいね…あの、そのね何と言うかそのコレで私の事嫌いになったりしないでね…?」

 

 

 昨日の英子の姿を思い出し、今目の前で上目使いでモジモジしている姿とのギャップに、思わず千代美もクスリと笑ってしまう。

 

 

「大丈夫です、昨日の英子さんとってもカッコ良かったですよ」

 

 

 そう言われ思わず赤くなってしまう英子。

 一方傍でそのやり取りを聞いていた亜美がつい口を挟む。

 

 

()()()()()()()()ですって!?もう名前呼び?英子、あんたホント相変わらず手が早いわね!それも私の大事な教え子に!」

 

「人聞き悪い事言うな亜美!」

 

「えっと、教官?」

 

 

 思わず噛み付き返す英子。

 そしてそんなやり取りに首を傾げつつ千代美から疑問の声が零れるがしかし。

 

 

「あら?()()は名前呼びなのに私の事は()()?」

 

「…亜美…さん」

 

 

 満足げに亜美がニンマリとした顔になる。

 

 

「あの、それでお二人って一体?」

 

 

 それには英子を邪険に押しのけつつ亜美が答える。

 

 

「ああ、英子とは高校戦車道時代からの腐れ縁よ。私らの世代はこの吶喊馬鹿には散々苦労させられたわ。何しろ三年の時の全国大会なんて一回戦で当たった黒森峰を負けたとはいえ実質壊滅状態に追いやって、試合終了後の挨拶の時には煤けた姿で不敵に笑う知波単に対して、黒森峰の選手全員が恐怖で大泣きしててどっちが勝者か解らなかった位だもの」

 

「え゛ぇ゛?」

 

「本当よ、当時を知る者の間じゃ未だに語り草だもの。特に黒森峰で対戦したOGなんて今でも思い出しただけで涙目になるもの」

 

「そんなに…」

 

「そんなのウソよウソ!千代美ちゃん信じちゃダメ!」

 

「だまれ上総(かずさ)の大猪」

 

「大猪言うなっ!」

 

 

 そのおかしな英子と亜美のやり取りに堪らず千代美はクスクス笑い出してしまう。

 

 

「良かった…やっと笑顔になって。千代美ちゃんはやっぱりその方がいいわ」

 

「英子さん…」

 

「ほら!もうしんみりしないで」

 

「はい!」

 

 

 笑顔に戻った千代美に英子と亜美も胸を撫で下ろす。

 そしてひとしきり笑った後に英子は本題に移る。

 

 

「それでね、今日退院になるのかな?」

 

「はい、一応この後診察を受けますけど多分昼前後に」

 

「そう……」

 

 

 それを確認すると少し考え込んだ後、英子は亜美の顔を見やる。

 その視線を受けた亜美も無言で頷く。

 すると今度は視線を千代美に戻し英子はこう告げる。

 

 

「あのね千代美ちゃん、こんな事になってさすがにあなたを今日直ぐに帰す訳にはいかないと思うの。退院して早々に長旅はいくらなんでも無理があるわ。それでね、今少し体調が整うまで私の部屋で過ごしなさい」

 

 

 そう言うとポケットからキーホルダーを取り出すとマンションのキーを外し亜美に託す。

 一方の亜美もそれを受け取り続けて千代美に声を掛ける。

 

 

「今は英子の言う事を聞いて。英子はこれで出勤しなければならないけど、私が退院出来たら英子のマンションまで一緒に行ってあげるから。ただその後は私も東京に戻らなければならないからそこでお別れになるのだけど」

 

「出来るだけ早く上がるつもりだけど、それまで私の部屋の物は何でも好きに使ってくれていいわ。本なんかもどれでも読んでくれて構わないし」

 

 

 そこまで言い掛けて英子は思い出した様に亜美にこう言う。

 

 

「そうそう、本って言えば凄いのよ亜美。千代美ちゃん小説を書いてるらしいのよ」

 

「あぁ~!それは~っ!」

 

 

 英子の言葉に顔を赤らめて声を上げる千代美。

 そこに英子は目にはいたずらっ子の光を輝かせ更に重ねる様に言葉を続ける。

 

 

「何だっけ?確か恋愛小説とか書いてるんだったわよね?」

 

「あら!?それは是非読んでみたいわね~♪」

 

 

 亜美までが英子に調子を合わせ胸の前で手を組み歌う様に言う。

 それに対して千代美はと言えば更に顔を赤らめこう答えるのがやっとだった。

 

 

「もう恥ずかしいから止めて下さいぃぃぃ……」

 

 

 そして英子が職場に向かった後、亜美と取り留めもない会話をしていた頃千代美も診察に呼ばれ、無事退院の許可を貰う事が出来た。

 その後は少ないとはいえ荷物を纏め会計を済ませ様とした処、既に英子と亜美の手によって前倒しで会計処理は済まされていた。

 この時千代美の手荷物を確認した英子により、病院に戦車道履修者専用健康保険証が提出されており正規の料金で済んでいた事も知る。

 日頃から携行していたのが思わぬ形で役に立ったのだった。

 それからいざ病院を出るにあたっては、例によってマスコミを警戒し裏口にタクシーを呼び極力目立たぬよう心掛けねばいけないだろうと千代美は考える。

 

 

「千代美さんタクシー来たわよ」

 

「あ、ハイ」

 

 

 目の前に滑り込んで来たタクシーに乗り込む際にふと病院を見上げる。

 そこには未だ意識の戻らぬラブが居る。

 

 

「ラブ……」

 

「千代美さん?」

 

「あ、すみません」

 

 

 メモを見ながら亜美さんが運転手さんに行き先を告げ、タクシーは病院を後にする。

 車窓を流れる街の様子はとてもあんな事があったとは思えない普通な光景。

 そんな街並みをぼんやり眺めているとあれが全て悪い夢であったらと思ってしまう。

 でもそれは全て現実で今もラブは苦しんでいる……。

 

 

「さあ、着いたわよ」

 

 

 亜美さんに掛けられた声に思考が中断する。

 タクシーを降りエレベーターで英子さんの部屋の階に昇って行く。

 部屋に入ると早々に私に預かっていた鍵を託すと共に、くれぐれも無理をしないよう言い残し東京に向け部屋をあとにした。

 今回の事でとても忙しいはずなのに私の事で申し訳ない事をしたと思う。

 そんな事を思いつつ取り敢えず窓を開け外の空気を部屋に入れる。

 私はクッションに腰を下ろし改めて部屋を見回して見た。

 好きに使ってくれていいと言われてもやはりちょっと気が引けるものだ。

 そんな中ふとテレビの乗るラックに並ぶDVDが目に留まった。

 英子さんがどんな映画が好きなのかちょっと興味が湧きラインナップを見ると、戦車道履修者には定番の戦車映画が並んでいる。

 その殆どが私も持っている物と同じでちょっと可笑しくてクスリと笑う。

 そんな中に無地のケースのDVDが何枚か並んでいる。

 手に取ってみるとディスクには手書きのタイトルが書かれてある。

 そのタイトルは……。

 

 

「臨中VS黒森峰……私の所のもある…」

 

 

 躊躇いに似た感覚も覚えつつも黒森峰戦のDVDを少し震える手でセットする。

 どうやら地元ケーブル局の録画中継を焼き付けた物らしい。

 

 

「これは…16号戦だ…」

 

 

 




次回でやっと過去話ですが戦車戦が登場します。
とはいってもほんの少しなんですけどね。

それにしてもお気に入りと評価が凄くなって来た~。


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第十二話   16号戦

作中に措いても過去の記録ですが、
恋愛戦車道初の戦車戦をお届けします。

因みに作者の英語はかなりいい加減です。


※ご指摘頂いた誤字脱字修正致しました。
 




 国道16号線、横須賀市内の追浜(おっぱま)から走水(はしりみず)を結ぶ一般国道。

 この約15kmのうち一部は他の国道とは少々様相が異なっている。

 山坂の多い横須賀はそれ故トンネルの多い街であり、その呪縛は当然国道と言えども逃れる事は出来ず、横浜方面から横須賀中心地に入る北地区には上り下り計16本のトンネルが集中しているのだ。

 その中でも田浦隧道(たうらずいどう)から逸見隧道(へみずいどう)の区間は、一部合流区間もあるが上下線が完全に分離しており、途中に枝道があるもののリング状になっている訳で、上記両隧道の合流部分でUターンすれば一種のサーキットの様になっているのである。

 この区間で行われる戦車戦では互いに尻を捕り合い周回したり、逆走や枝道からの奇襲、更には上下車線を隔てる住宅をぶち抜いて攻撃も出来る。

 トンネル内に対しては砲撃禁止、逆にトンネル内からの砲撃及びトンネルを抜いてトンネル外への砲撃は可能、但しトンネル内で停止する事も禁止されている。

 そしてトンネル内に弾着してしまうと即時失格という変則ルール、だがこれが予想外の展開を生み対戦相手にも観客にも一番人気のステージなのだ。

 その国道16号線で行われる戦車戦が通称16号戦なのである。

 この変則ルールの16号戦に措いて臨中は圧倒的な勝率を誇っていた。

 

 

 テレビモニターの中のトンネルから一台のパンターが全力疾走で飛び出してくる。

 ラブの乗機Love Gunだ。

 コマンダーキューポラから上半身を乗り出し、深紅の髪を靡かせラブが行く。

 

 

 「綺麗…」

 

 

 そんな言葉が思わず口を突いて出てしまう、それ位Love Gunを駆るラブは美しかった。

 しかしその直後振り返ったラブが、車内から取り出した職員室からでも借りて来たらしい学校名が入った拡声器を使ってまほを挑発するセリフに思わずコケそうになる。

 

 

『や~い!まほののろま~!でんでん虫~!悔しかったら追い付いてみろ~♪』

 

「アイツは子供か…」

 

 

 呆れて苦笑しつつ見ていると少し遅れてまほのティーガーⅠがトンネルから出て来る。

 しかしトップスピードで大きく劣るティーガーⅠでは全く付いて行けない。

 ここまでに相当子供じみた挑発をされたのだろう、まほの顔は茹でダコになっている。

 

 

「コイツも子供か…」

 

 

 今度は心底呆れつつ見ているとまほが咽頭マイクで何か指示を出した。

 そしてまほがキューポラ内に引っ込むと、ティーガーⅠがドリフト気味に右に回頭しそのまま民家に突っ込んで行く。

 どうやらショートカットして反対車線を戻ってくるはずのLove Gunに側面攻撃のトラップを仕掛けるつもりの様だ。

 上空からの映像に切り替り暫くすると、まほの狙い通りLove Gunが反対車線をやって来た。

 果してこれは作戦成功かと思った瞬間今度はLove Gunが民家に突っ込み、道路と並走する形でまほのティーガーⅠに向かって家々を薙ぎ倒しつつ前進を始める。

 両車の間が残り三軒程まで前進した辺りで遂にLove Gunの75㎜が火を噴く。

 吹き飛ばされた家屋の瓦礫がティーガーⅠに降り注ぐ。

 これに今度はまほも応戦し周辺の家々を粉砕しながら大乱闘が始まった。

 

 

「これは怪獣映画か何かか?」

 

 

 もうそんな感想しか出て来ない馬鹿試合にもやがて終わりが訪れる。

 辺りの見通しが随分良くなった辺りでLove Gunが車道に戻り横須賀方面に逃走を開始した。

 そしてトンネルに逃げ込むその寸前晒された後部に、88㎜ティーガーⅠ必殺の一撃が放たれこれは勝負ありと思われたその刹那、ふらりと斜めにLove Gunが民家に突っ込み静止した。

 哀れ標的を見失った徹甲弾はそのままトンネルに飛び込み内壁に大穴を開ける。

 これには思わずコマンダーキューポラから顔を出したまほも頭を抱えて絶叫した。

 

 

『しまったぁっ!!』

 

 

 その絶叫を合図に審判団より告げられる無情なコール。

 

 

『黒森峰フラッグ車、トンネル内弾着により失格!よって臨海中学の勝利!』

 

 

 そのコールと共にLove Gunのコマンダーキューポラが開き、再び拡声器を構え微妙に困った様な笑顔のラブがこう言う。

 

 

I just knew you would do that.(やるとおもったわよ)いやぁ、まほならあそこで確実に狙って来るとは思ったけど、こうも見事にハマるとは思わなかったわぁ~♪」

 

 

 言われたまほも大声で怒鳴り返す。

 

 

「あーっ!煩いぞラブ!セコい手使いやがって!」

 

「も~、そんな怒んないでよ~、後で取って置きの地元の美味しいカレー屋さん連れて行って御馳走してあげるからさ~♪」

 

 

 この言葉にまほはパッと笑顔を輝かせまた怒鳴り返す。

 

 

「ホントか!?ウソ付くなよな!大盛じゃなきゃ許さないぞ!」

 

「分かってるって~」

 

 

 ここで切り替わった映像の、特設会場の観客席では中継を見る人達からこの間抜けなやり取りに爆笑が起こっている。

 でもそこでふと思った、この中継のカメラ数とこれだけ声を拾う集音マイクは凄いと。

 それともう一つこのアホなカレーの王女さまはこの中継映像見たのだろうかと?

 そして更にもう一つ…。

 

 

「この二人本当に仲がいいんだな……。」

 

 

 ラブとまほ…遠い親戚…でも小さな頃から行き来があって姉妹同然だったという。

 普段は表情に乏しいまほがラブと一緒に居る時は表情が豊かになる。

 妹のみほと同様、あるいはそれ以上に心を許せる存在なんだろう。

 だからこそ昨日あれ程感情的になってしまったのも仕方の無い事なんだ。

 同じ立場なら私だってきっとああなってしまうと思う。

 

 

「あ、終わった…ってもうお昼回っちゃってるんだ」

 

 

 16号戦を見るのに夢中で昼ごはんの事をすっかり忘れていた千代美は、マンションのはす向かいにあるコンビニで何か買って来て済ます事に決めた。

 向かった先のコンビニは○と♡と☆のマークの見た事無いお店だった。

 

 

「家の辺りには無いお店だなぁ、ご当地のお店かな?」

 

 

 店内を少し物色してから千代美はサンドイッチとカフェオレとミネラルウォーター、それとコンビニオリジナルのスイーツを買ってマンションに戻る。

 そして買って来たサンドイッチをパクつきながら次のDVDを見始めた。

 今度は自分が対戦した時の物だが見始めてからある事実に気が付く。

 

 

「コレ…当然英子さんも見てるんだ~!」

 

 

 そう言う傍から画面の中を自分が絶叫しながら駆け抜けて行く。

 

 

『うひゃぁ~!!ダメだダメだ!その先のブロック塀を吹き飛ばしてそこに飛び込め~!』

 

 

 やっぱり映像と音声をしっかりと拾われている。

 これを英子さんに見られたと思うと、恥ずかしくて部屋の中をのた打ち回りたくなった。

 私とラブの戦いはいつも知略の限りを尽くし、騙し討ちと不意討ちの応酬…と、言えば聞こえはいいが詰まる所はおもちゃ箱を引っ繰り返した様な大乱戦。

 つまりは西住の事を何も言えない馬鹿試合を演じていたのだ。

 

 

「月刊戦車道だけじゃなくてコレも見て私の事知ってたんだぁ……」

 

 

 英子さんが帰って来ても恥ずかしくて顔を見られないかもしれない…。

 そんな考えに囚われてしまう千代美だった。

 しかしその後も何試合か見続けるうちに陽も大分暮れて来た頃。

 

 

「あ、夜のごはんどうしよう?」

 

 

 思えば横須賀に来てからまだちゃんとした夕食は取っていない。

 そこまで考えた時ひとつのアイディアが頭に浮かんだ。

 そうだ、これだけお世話になったのだからせめてものお返しに夕食を作ろう。

 疲れて返ってくる英子さんの為に夕食を作ろう!

 車でここに来る時直ぐ近くに大きなスーパーがあるのが見えたから、あそこに行けばきっと色々あるだろう、ならばこうしてはいられない、早速買い物に出発だ!

 

 

  

 ──そしてそれから暫くしてスーパーからマンションへ帰る道に、スーパーのレジ袋をぶら下げたホクホク顔の千代美の姿があった。

 

 

「いや~、これは大収穫だ♪」

 

 

 実に凄いスーパーだった。

 どれもモノが良いのにとにかく安い!特に鮮魚類は地魚が凄かった!

 こんな良い物がこんなに安くていいのだろうかと思う程だった。

 これなら腕の振るい甲斐がある、これまでいろいろ教えてくれたお母さんに感謝だ!

 でも英子さん好き嫌いないかな?喜んで貰えるかな?

 

 

「ヨシ!喜んで貰える様精一杯頑張って作ろう!」

 

 

 そう言うと千代美は英子のマンションに向かう脚を速めるのだった。

 

 

 




年内投稿はこれが最後かな?
明日も投稿出来ればいいけど…。


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第十三話   せめてもの気持ち

明けましておめでとうございます。

新年初投稿になります。


 千代美が夕食の下拵えを終え一息ついた八時頃に英子が仕事を終え帰宅した。

 

 

「ただいま~、遅くなってごめんね~って、なに?とってもいい匂い」

 

「あ、お帰りなさい英子さん」

 

「え~?なになに?夕飯作ってくれたの?そんな気を遣わなくていいのに~」

 

「これだけお世話になって少しでも恩返ししたくって…」

 

「もう、気にしなくていいのに、でもとっても嬉しいわ」

 

「良かった…それじゃ座って待ってて下さい直ぐに出来ますから」

 

 

 そう言うと千代美は再び千代美はキッチンに立ち下拵え済みの品々を仕上げに掛かる。

 

 

「ウソ!?これ全部千代美ちゃんが?」

 

「はい、お口に合えばいいんですが」

 

「凄い!凄過ぎるわ千代美ちゃん!」

 

 

 並ぶ料理に感嘆の声を上げる英子、そのテーブルに並んだ品々とは?

 

 

「えっと、カワハギの煮付けにじゃがバタ炒めにほうれん草の胡麻和え…こっちは叩きゴボウのきんぴらに根菜スープまでってなに?この至れり尽くせり……ねえ?千代美ちゃん、千代美ちゃんの事お嫁に貰えないかお母様にお願いしてもいい?」

 

「え、英子さん一体何言ってんですか~!?」

 

「とにかく頂いていい?もう我慢出来ないわ」

 

 

 思わず吹き出しながら千代美も答える。

 

 

「ぷっ、はい、どうぞ♪」

 

 

 そこから英子は旺盛な食欲を見せ、瞬く間に出した料理をたいらげて行った。

 それを見た千代美も頑張って作った甲斐があったと笑顔になる。

 

 

「ふぅ~!もう食べられない~!こんなに美味しい手料理って何時以来かしら~?」

 

 

 そう言うなりそのまま英子は後ろに倒れ込む。

 千代美は苦笑しつつお茶を入れながらお粗末様でしたと言った。

 どうにか起き上がった英子は真剣な顔で千代美に言う。

 

 

「いやもうマジな話私の腕じゃ千代美ちゃんの脚元にも及ばないわ。今度亜美に会ったら自慢してやろ、アイツ絶対悔しがるわ~♪」

 

「も~、止めて下さいよ~」

 

 

 二人してひとしきり笑った後、英子は真顔に戻り千代美に今日の事を話し始める。

 千代美も姿勢を但し話を聞く体勢を取った。

 

 

「ええとね、まず今日の夕方残っていた砲弾の取り出しがやっと終了したの。何しろ想像以上に弾薬架の歪みが酷くて少しづつ矯正しながらの摘出作業だったらしいわ。陸自の責任者の方曰く、爆弾付きの知恵の輪解いてるみたいだったって言ってたから」

 

「そうでしたか……」

 

「今日は残念ながら日も傾いて作業し辛くなったから現場検証は明日からになるわ、でもこれでやっと私達も前に進めるわ」

 

 

 そう言うと英子は左の掌に右の拳をパチンと叩き付ける。

 だがその後の話は若干声のトーンが下がっていた。

 

 

「それとね、恋さんの事だけど帰って来る前病院に確認したけれど、未だ意識は回復していないの。恋さんの意識が回復して証言が得られればいいけど今は待つしかないわね」

 

 

 そこまで話した処で重い空気になるのを避ける様に、千代美に今日は食事の支度以外何をして過ごしたか訪ねて来た。

 千代美もお昼を買いに行ったコンビニが自分の地元に無い店である事、夕食の買い物に行ったスーパーの品質と品揃えと価格が素晴らしかった事を伝えた。

 それと例のDVDを見た事も…。

 

 

「あ~、アレ見たんだ~」

 

「はい…それであの、英子さんも私の試合……」

 

「見たわ♪」

 

 

 もう恥ずかしくて穴があったら入りたい心境だ。

 

 

「でも千代美ちゃんと恋さんの試合が一番内容が濃くて面白いわ、あの西住の娘がおちょくられるのも傑作だけどね~♪」

 

 

 そう言うと英子さんはカラカラと笑い声を上げる。

 

 

「いや、でもね、真面目な話あなた達二人、よくもまああれだけ次から次へと作戦を思い付くモノだと思うわ。正直私が現役時代でもあれ程の事が出来る子は自分も含めて居なかったわよ、知波単時代にこんな隊員が欲しかったわ~♪」

 

「いつもテンパってドタバタやってるだけです……」

 

「謙遜、謙遜、あの臨機応変ぶりは大したモノよ、自信を持っていいわ。」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「でも16号戦って面白いでしょ?」

 

「はい、ただあのトンネルルールが本当に厄介でいつもそれでやられます。行進間射撃が基本の砲撃戦になるのに迂闊に撃つと即失格になりますから」

 

「まああのトンネルトラップが臨中のお家芸だからねぇ」

 

「頭で解ってても引っ掛かっちゃうんです」

 

「それでも懲りずに挑んで来るんだから皆どんだけ16号戦好きなのよ?」

 

「ですね」

 

 

 二人顔を見合わせ思わず笑っていた処に英子さんの携帯の着信音が鳴り響いた。

 

 

「お、噂をすれば亜美からよ、早速千代美ちゃんの手料理自慢してやろう」

 

 

 そんな事を言いながら英子さんは電話に出た。

 

 

「ハイ、お疲れ亜美。ええ、こちらはやっと終わったわ。これで明日から現場検証に入れる。

え?何よそれ!?そこまでヤバいシロモノって事?明日ね?分かった待ってる」

 

 

 そこまで話した処で英子さんは私を見てニヤっと笑うと付け加える。

 

 

「それとねぇ、今夜の夕食は超美味しい千代美ちゃんの手料理御馳走になっちゃったぁ♪」

 

 

 そう言いながら私に向かってVサインを出す姿を見て溜め息を吐いたその瞬間。

 

 

「うわっ!」

 

 

 驚いた英子さんが携帯を落っことした。

 床に落ちた携帯の中で亜美さんが何か喚き散らしているのが聴こえる。

 

 

『ちょ◆☆∀◎※@!!きいД●Иш*Й!!!千代美さん!千代美さん!?』

 

 

 私が戸惑っていると英子さんが携帯を指さすので恐る恐る出てみると…。

 

 

「あの……」

 

『千代美さん!?()()だけ!?()()だけなの?私は!?私はまた明日横須賀行くんだけど!』

 

 

 再び盛大に溜め息を吐いていると英子さんはヤレヤレのポーズをしている。

 

 

「分かりました、明日何か作ってお待ちしています…」

 

『きゃ~っ♪これで私も更に頑張れるわ!それじゃ明日ね!』

 

「……切れちゃいましたけど…」

 

 

 それだけ言うと切られてしまった携帯を英子さんに渡す。

 

 

「あの馬鹿は何しに来る気なのよ…まあ仕方ないか。と、いう訳で明日の夜もお願い!」

 

 

 そう言うと英子さんは私に向かって手を合わせてお願いして来る。

 私ももう苦笑してそれに応じるしかなかった。

 

 

「はい、分かりました…それでその、私からもお願いがあるのですが」

 

「何かしら?」

 

「Love Gunを一目だけでも見る事は出来ないでしょうか?もう残弾の取り出しは終わったんですよね?例え遠くからでもいいのでお願いします!」

 

「う~ん……分かったわ、その代り少し早起きしてもらうけどそれでもいい?」

 

「ハイ!宜しくお願いします!」

 

 

 こうして明日の予定が決まりその日の夜は更けて行くのであった。

 

 

 




結局年を跨いでしまった中学編もあと少しで終われるともいます…終わるよな?


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第十四話   Love Gun

お気に入り件数も評価も凄い事になって来て驚きが止りません。


 泣いている……。

 

 

 Love Gunが泣いている。

 

 

 荒れ地の只中で主の帰りを待ち、たった独りLove Gunが泣いている。

 

 

 

 

 通勤ラッシュの渋滞が始まるより少し早い時間。

 私は英子さんの操るチンクエチェントに乗り臨海中学の地上演習場に向かっていた。

 カーステレオからは地元神奈川のFM局のジングルの後にトラフィックレポートとウェザーニュースが聴こえて来る。

 幸い今日も天気は良いようで、夏も近く大分気温も高くなるようだ。

 演習場に向かう道すがらチラリとラブが入院している病院が見えた。

 ラブはまだ意識が戻らないのだろうか…?

 少し気持ちが沈みかけた頃、車は演習場に辿り着いた。

 英子さんは入り口を封鎖している制服警官と二言三言話した後再び車を走らせる。

 

 

「解ってるとは思うけど少し揺れるから気を付けてね」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

 未舗装の荒れた道をチンクエチェントはゆっくりと進む。

 よく見れば周辺には履帯が刻み付けた跡が其処此処に見える。

 私もこの演習場で合同演習を何度となくやった事がある。

 私が刻み付けた跡もまだ残っているのだろうか?

 そんな思いに耽りながら揺られる事数分、チンクエチェントは射撃演習場に到着した。

 そしてそこにLove Gunは居た、たった独り主の帰りを待ち侘びる様に。

 Love Gun…パンターG型戦車。主砲前面防循が原因の跳弾による車体上面への被弾、そのショットトラップ対策を施してありしかも赤外線暗視装置を搭載した後期型の中でも数少ない個体にしてラブの愛馬。

 そのLove Gunが泣いている……。

 

 

「申し訳ないけど中までは見せられないの、ここで勘弁してね」

 

「はい、充分です。私こそ我儘を聞いて頂いて申し訳ありません」

 

「寂しそうに見えるわね……」

 

「英子さんにもそう見えますか…ラブとLove Gunは一心同体ですから」

 

「そうね、試合で見る動きは人馬一体…いえ人車一体ですものね」

 

 

 二人で見上げたLove Gunの砲塔側面に描かれた白縁取りに深紅のハートマーク、その中心を貫くキューピットの矢ならぬ徹甲弾。そしてハート下部に掛かる緑の弧を描くリボンバナー、そこには黒文字でパーソナルネームのLove Gunの文字。

 このパーソナルマークこそLove Gunの象徴だ。

 

 

「素敵なパーソナルマークよね」

 

「これ、ラブが一年の時にその年の新人賞ヤング・タイガー賞を受賞した時、私達仲間みんなで考えて贈ったものなんです」

 

「そうだったの、あなた達は本当に仲がいいのね」

 

「はい、ラブもとても喜んでくれて直ぐにこうしてLove Gunに描き込んでました」

 

 

 英子さんが無言で私の肩をそっと抱き寄せてくれる。

 今はそのさり気ない気遣いが嬉しい。

 

 

「千代美ちゃんゴメンねそろそろ時間なの、私も一度署の方に行って現場検証の準備をしないといけないから」

 

「ええ、大丈夫です、本当に有難う御座いました」

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

「分かりました、でも少し歩きたいので演習場を出たら降ろしてもらえますか?」

 

「いいけれど大丈夫?」

 

「何度か横須賀には来ているので道も大体分かります。少し中央を歩いてから今夜の買い物をして帰ろうかと思います。処で亜美さんって好き嫌いってありますか?」

 

「アイツにはお茶漬けでも食わしとけばいいのよ!」

 

「またそんな事を…」

 

 

 私は呆れながらも英子さんと亜美さんも仲がいいのだろうとなと思った。

 

 

 

 

 通勤ラッシュも落ち着いたとはいえまだ時間も早く、横須賀中央駅周辺のお店も殆どが開店前で、開いているのはコンビニやファーストフードやパン屋さん位だ。

 私はメインストリートをゆっくり歩いて通り抜け、横須賀中央駅の駅ビル併設のコーヒーショップに入り通りに面したテラス席に腰を落ち着けた。

 見下ろせば英子さんと初めて会った改札口前の小さな広場が見える。

 あれから四日、まだたったの四日しか経っていないのだ。

 しかし四日経ってもまだラブの意識は回復していない、まだなのかもうなのか?その四日という時間の流れの進み方に自分は困惑する。

 一度は病院に来た皆も今は自分の時間に戻っているだろう、それが望むと望まざるに拘わらずであったとしてもだ。

 そしてそれは私にも当て嵌まる事…そう、私も何時までもこうしてここに留まる事は出来ない、中学最後の夏はもう目前に来ているのだから。

 

 

「ヨシ!」

 

 

 残っていたモカのフラペチーノを飲み干すとテラス席を後にする。

 そしてメインストリートにある開店したばかりの少し大きな文具店に入りメッセージカードを買い求め、昨日行ったあのスーパー目指して再び歩き始めた。

 今夜は英子さんと亜美さんと一緒に夕食だ、精一杯腕を振るおう。

 そして明日私も自分の生活に戻る事を、成すべき事を成すと伝えなければならない。

 

 

 

 

「やっぱりあのスーパーは凄いぞ!」

 

 

 昨日に引き続き買い物に行ったスーパーでは大戦果だった。

 やはり横須賀は海産物が良いモノが多い。

 これだけ揃えば俄然モチベーションも上がって来る。

 マンションに戻ると取り敢えず買った物を冷蔵庫に入れ、リビングのテーブルに文具店で買って来たメッセージカードを広げる。

 明日、横須賀を離れる前にやらなければならない事がある。

 例え面会は叶わなくともせめて一言でいい、ラブに私の…いや、私達の気持ちをメッセージカードに残して行こう。

 ラブが意識を取り戻した時、例え私達がその場に居なくとも気持ちが伝わる様に。

 

 

『ラブとLove Gunが帰る日を私達は待っています、いつまでも』

 

 

 そう、今はこれでいい、この一文に偽りの無い想いを託せば。

 私達はその日が来るのを信じて待つのだ。

 書き上げたカードをバッグに忍ばせたら今夜の支度を始めよう。

 

 

「ヨ~シ!やるぞ~!」

 

 

 拳を突き上げ気合を入れて下拵えに取り掛かる。

 今夜は英子さんと亜美さんに料理で私の感謝の気持ちを伝えよう。

 そんな思いを胸に私は黙々と手を動かしたのだった。

 そして日も傾き昨日より大分早い時間に英子さんは亜美さんと一緒に帰って来た。

 

 

「千代美さん御馳走になりに来たわよ~♪」

 

「こら亜美!家主より先に部屋に入るんじゃない!」

 

「お帰りなさい英子さん、亜美さん」

 

「千代美ちゃんこんなヤツ適当に扱えばいいから!」

 

「ご挨拶ね英子、客人に向かって」

 

「誰が客人ですって?ホント厚かましい!」

 

「うふふ、もう仕上げるだけですからお二人とも座って待ってて下さい」

 

 

 騒ぐ二人にはリビングに座って貰い私は料理を仕上げ皿に盛り付けテーブルに並べる。

 

 

「えっ!?これを千代美さんが一人で?」

 

「だから千代美ちゃんは凄いって言ったでしょ」

 

「今日はイタリアンにしてみました、気に入って頂けるといいのですが」

 

 

 目を見開いて驚く亜美さんと腕を組んでウンウン頷いている英子さん。

 二人に私も一応作った物を説明する。

 

 

「まず地ダコはトマト煮にしました、イワシも鮮度が良かったのでカルパッチョに。そしてこっちは鶏胸肉のピカタです。パスタはシンプルにペペロンチーノ、トマトは英子さんに好評だったオリーブオイルとパルメザンのトマトサラダです」

 

「千代美さん本当に中学生なの!?私こんな事出来ないわ!」

 

「小さな時からお母さんに包丁握らせて貰いましたから」

 

「これを亜美に食べさせるのは勿体無いわ~」

 

「何ですって!?」

 

「さあ、冷めないうちにどうぞ」

 

『そうね、もう我慢できないわ!』

 

 

 綺麗にハモった二人に私は思わず笑ってしまった。

 そんな私に二人も顔を見合わせ笑い出す。

 そして三人の横須賀最後の晩餐は始まったのだった。




中学編もゴールが見えて来ました。

どうにか正月休み中に終われそうでです。


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第十五話   Party's Over

中学編も残す処あと一話まで漕ぎ付けました。

今回はちょっぴりお色気展開が入ります。


 やはり賑やかな食卓は楽しい。

 楽しんで食べてもらえるのは料理を作る者の一番の喜びだ。

 英子さんと亜美さん二人はやはり体力仕事だからか本当に気持ちの良い食べっぷりで、これなら私も頑張って作って良かったと思えた。

 

 

「ふぅ、本当に美味しかったわ♪千代美さん私のお嫁さんになってくれない?」

 

「千代美ちゃんは私の嫁だ」

 

「英子あんたやっぱり!」

 

「ホントお二人は仲がいいんですね」

 

『千代美ちゃん止めてよねっ!』

 

 

 またハモった二人に私は再び笑ってしまう、そして二人もまた笑う。

 こんな楽しい時間がいつまでも続けばいいけれどいつかは終わりが来る。

 私は二人にここまでお世話になった事の礼を述べ明日横須賀を離れる事を告げた。

 そして私も自分がやらねばならない事に全力で取り組む事も。

 それに対し二人もここまでに分かった事で話せる範囲の事を教えてくれた。

 更に明日警察からマスコミに正式発表がある事、但し被害者が未成年である事から実名報道は控える事も厳命するとも聞いた。

 そしてそれと同時に問題の砲弾の製造元にも近く捜査が入るという。

 やはり英子さんは事故ではなく事件として最初から動いていた様だ。

 止まっていた時間、止まっていた時計の秒針が少しづつ動き始める。

 そうなればそれぞれが成すべき事を成し、後は恋の回復をひたすら祈るのみ。

 そんな話をして私達は楽しかった食事を終えた。

 

 

「さて英子、私は今夜も泊めてもらうわよ」

 

「そう来ると思ったけどさ、ここで三人で寝るの?」

 

「アンタはベッドで私と千代美さんが一緒の布団で寝るわ♪」

 

「それはダメ!絶対許さん!」

 

「じゃあどうするのよ?」

 

「布団並べて三人で川の字で寝ればいいのよ、勿論真ん中は千代美ちゃんで♪」

 

 

 英子さんがまた変な事を言い出した。

 

 

「えぇ!?嫌な予感しかしない……」

 

『何か問題あるかしら?』

 

「またハモってる……」

 

『な~に?』

 

「やっぱり最初からその気で…いえ…問題無いです……」

 

 

 それから交代でシャワーを浴びるとリビングにはくっつけて布団が敷かれていた。

 更に二人を見ると何故かお揃いの淡いピンクのキャミソール身に付けている。

 そして…。

 

 

「さあ!千代美ちゃんもこれに着替えるのよ!」

 

 

 英子さんが同じ物を手に私に迫って来る。

 ジリジリと壁際まで追い詰められてもう逃げ場は無い。

 

 

「帰って来る途中で買って来たのよ~♪」

 

「わ、私はいいですよ~!」

 

「遠慮は無しよ!さあさあ!」

 

「遠慮じゃないです!あ!そんな!」

 

 

 私は二人の連係プレイにあっと言う間に身包み剥がされ着替えさせられる。

 

「あひゃひゃ!あ!ソコは~!」

 

「うふふ~♪良い反応ね~♪」

 

「やめ!そうじゃ!うひゃ~!お二人はやっぱり~!!」

 

 

 無理矢理着替えさせられたキャミソールはサイズがピッタリだった。

 

 

「ゼェゼェ…サイズぴったり……」

 

「千代美ちゃん私は刑事よ、それ位見れば解るわ」

 

 

 英子さんが指を振りながら答える。

 

 

「そんな能力いらないです……」

 

「さあ!ここからはガールズトークの時間よ!」

 

 

 亜美さんが左手を腰に右手は天を指し高らかに宣言した。

 

 

「千代美ちゃん、着心地はどうかしら?」

 

「良いけど何だかお腹の辺りがす~す~します」

 

「これは私と亜美から頑張った千代美ちゃんへのプレゼントよ♪」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 それから暫く三人で他愛も無い話に花を咲かせた。

 こんな経験は私も初めてだ、この先もあるかどうかは解らないけど。

 

 

「千代美さんは誰か気になる人とか居るのかしら?」

 

「そんな人居ないです…」

 

「戦車道やってると出会いなんてないわよね、私の居た知波単なんか特にww」

 

「あら!?私が千代美さんの頃には撃破率は既に…」

 

「どっちの撃破率だかw」

 

「や、やっぱりお二人って~!」

 

『あははははは~♪』

 

 

 そしてそんな楽しい会話にも疲れ少し眠くなって来た頃、亜美さんがふと思い出した様に私にこんな事を聞いて来た。

 

 

「処で千代美さん明日はどうやって帰るのかしら?」

 

「出て来てそのままなので一度家に帰ってから学園艦へと思ったのですが、それだと更に遅れるので、横須賀からも出ている連絡艇を乗り継いで学園艦と合流しようと思います。幸い学園艦も名古屋から北上中ですから」

 

「そっか…あのね千代美さん、今回横須賀に来るのに私ヘリで来ているのよ。何しろ対応でアチコチ飛び回らくちゃいけなくてね。それでもし千代美さんがよければそのヘリで学園艦まで送れるけどどうかしら?」

 

「それはさすがに申し訳ないです…」

 

「教導任務で全国飛び回るのに殆どプライベートで使ってる様な機体だから、そんな事は全く気にしなくていいわ」

 

「それがいいわ。亜美お願い出来る?」

 

「勿論、それでいいわね千代美さん?」

 

「それではお言葉に甘えさせて頂きます」

 

「ヨシ決定!ただね、降りたのが武山駐屯地でここから少し離れてるのよ」

 

「それは私の車で送るから問題ないわよ亜美」

 

「助かるわ英子」

 

「何から何まですみません」

 

「気にしないで千代美さん、今回あなたの働きは本当に大きかったの。もしあの時のあなたの行動力が無かったら恋さんだけでなく更に被害が出ていたのは確実よ」

 

「亜美の言う通りよ、私達も千代美ちゃんの働きを無にしない為全力で事に当たらせてもらうわよ。だから何も気にしないで頂戴」

 

「解りました、それで甘えさせてもらうついでにもう一つだけお願いがあるんですが」

 

「何かしら千代美ちゃん?」

 

「横須賀を離れる前にもう一度だけラブの居る病院に寄りたいんです。勿論面会出来ないのは解っています。でも、せめてラブに私達の想いを託したメッセージカードを残して行きたいんです。ラブが目覚めた時独りでない事が伝わるように」

 

「それ位の事お願いのウチには入らないわ、解った、病院を回って行きましょう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 それから暫くして私達は眠りに落ちた。

 横須賀最後の夜、その夜が明ければ私も日常に戻る。

 本当に色々な事があった。

 ラブ、亜梨亜さんにまほ、そしてみんなが辛い思いをした。

 これが夢なら早く醒めてくれと何度も思った。

 夢……夢…夢…その夜私はまた夢を見た。

 戦車でみんなと闘った夢、みんなと一緒に遊んだ夢。

 そしてあの瞬間の夢、最後に聞いたラブの声……。

 苦しい……苦しい……本当に苦しい!!

 気が付くと既に夜は明けていて目が覚めたのになお苦しい!

 それも当然で私は亜美さんの大きな胸に顔を埋める様に抱きしめられていた。

 更に背中側から英子さんも自分の大きな胸を押し付ける様に抱きしめている。

 つまり私は大きな胸のサンドイッチの具にされていたのだ。

 

 

「★゜※▼○!ÅΩЖ∞!!ぶはっ!」

 

「あら…?おハヨ、千代美さん」

 

 

 亜美さんがとろんとした寝惚けた表情で言う。

 

 

「し、死ぬかと思った~っ!!」

 

「ん~、もうちょっとぉ…」

 

「英子さんも寝惚けないで下さい!」

 

 

 私は二人を振り解いて立ち上がって思わず絶叫した。

 

 

「やっぱり二人ともこれを狙ってたんですね~!?」

 

 

 その後私は朝食の用意をした。

 二人の脅す様なお願いにパジャマ代わりのキャミソールのまま。

 多分朝食を食べる間も私の顔は赤いままだったと思う。

 そして朝食後身支度を整えるといよいよ出発の時間になった。

 

「英子さん泊めて頂いて本当にありがとうございました」

 

「お礼なんていらないわ、私も千代美ちゃんと過せた時間は楽しかったから」

 

「私もです」

 

 

 私達を乗せたチンクエチェントはまずラブの居る病院を目指す。

 病院ではやはりまだラブは目覚めていなかった。

 それでもICUのある病棟のナースステーションで、ラブへの私達の想いを記したメッセージカードを看護師さんに託した。

 ラブが目覚めた時この想いが届く様にと。

 そしていよいよ私達はヘリの待つ武山駐屯地を目指す。

 道中短い間ではあったが思い出話は尽きなかった。

 駐屯地に辿り着くと亜美さんのお蔭でそのままヘリポートまでチンクエチェントで入らせて貰えた、それなりの広さがあるのでそうでなければ大変だったろう。

 ヘリポートに待っていたのはフライングエッグこと観測ヘリコプターOH-6D。

 亜美さんはチンクエチェントを降りると早々に飛行前点検を始めた。

 暫くするとそれも終えエンジン始動、ローターがゆるゆると回り始める。

 遂に英子さんとのお別れの時が来た、私はヘリの音に負けぬ様に声を上げる。

 

 

「英子さん本当にお世話になりました、英子さんの事はずっと忘れません!」

 

「私もよ!千代美ちゃん、あなたに出会えて本当に良かった!」

 

「私もです!」

 

「また何時か、また何時の日にか会いましょう!」

 

「ハイ!必ず!」

 

 

 そう言うと英子さんは私を強く抱きしめてくれる。

 私もまた英子さんを強く抱きしめ返す。

 

 

「さあ、千代美さん行きましょう!」

 

 

 亜美さんが私を呼ぶ、名残惜しいがお別れだ。

 

 

「亜美!頼むわね!」

 

 

 英子さんの声に亜美さんが親指を立て応える。

 私が搭乗してベルトとヘッドセットを装着すると亜美さんの操縦でOH-6Dが浮かび上がる。

 機窓越しに見える英子さんに手を振ると英子さんも大きく手を振り返して来る。

 それが終わるのを待っていたかの様に空飛ぶ卵が横須賀の空に舞い上がって行った。

 さようなら横須賀、次に来る時はみんなが笑顔になれる様に。

 

 

 

 もう一度見やった眼下には美しく輝く横須賀の蒼い海が広がっていた。

 

 

 

 




高校編ではタグにある通りポンコツ展開がが出来ると思います。


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第十六話   いつか来るその日を信じて

今回で中学編も最後となります。
当初予定を大幅に上回る話数になりましたがどうにか一区切り出来ました。

ラストの方でちょこっとだけドゥーチェ・アンチョビが登場します。
最後の最後で伏線を活かせました♪

※御指摘頂いた三話と十一話の誤字修正致しました。


 私が横須賀の空に舞い上がったあの日以降、事態は一気に動き始めた。

 警察からの判明している事のマスコミへの正式な発表、但し英子さんの言っていた通り被害者名に関しては未成年である事への配慮から伏せられていた。

 それでも戦車道に詳しい者なら直ぐに解ってしまう事ではあるけれど。

 そしてそれに合わせて製造元である東邦火箭(かせん)化学工業への強制捜査の開始。

 一時は経営陣が行方を晦まし報道も過熱していた。

 私達はといえばそれらのニュースを気にしつつも最後の夏の全国大会に向け奔走していた。

 そんな最中に嬉しいニュースも飛び込んで来た、ラブが意識を取り戻したと。

 まだ面会は叶わぬがそれでも私達は喜びに沸いた、皆涙を流し喜んだ。

 ラブこそ居ないが、そのラブの為にも最後の全国大会を全力で闘おう、悔いの残らぬ全国大会にしようと皆で誓い合った。

 結果から言えば、再び全国の舞台で砲火を交える事が出来たまほ率いる黒森峰に勝つ事は叶わなかった、中学三年間で公式戦では通算一勝しか出来なかった。

 むろん勝てなかった事は悔しいが悔いは無い、全ての力を出し切ったのだから。

 唯一悔いが残るとしたら、それはその舞台にラブが居なかったその一点だけ。

 私達の戦いが終わる頃には捜査も進み色々と事実も明らかになって来た。

 それは反吐が出る程に腹立たしい事実、経営状態が悪化していた件の製造元の会社は、戦車道への自社製品の納入に一縷の望みを掛け売り込みを開始したのだという。

 但し全て自社製造で真面な砲弾を納入したのはテスト期間のみで、本採用が決まった後は下請けや更に孫請けなどろくに製造経験など無い小さな会社に二束三文で部品を造らせ、その寄せ集めを自社で組み立てだけしていたという。

 真っ直ぐ飛ばなかったのは弾殻の肉厚が一定ではなかったから、暴発したのは軽く突けば反応する程いい加減な造りの信管だったから。

 全てはそんな粗悪砲弾で利益を出し傾いた会社を立て直す為。

 そんな事の為にラブは犠牲になったのだ。

 次々判明する事実に私達は怒りに震えた、まほなどは怒り狂い母親である西住師範ですら手が付けられない程であったそうだ。

 でもそれも当然だ、私だってそうだ!いや、私だけではない、皆がそうなのだ!

 皆が怒りの業火を燃やす中も季節は進み秋の終わり頃待ちに待った知らせが届く。

 遂にラブとの面会が叶うと言う。

 その知らせに私達は全てを投げ出し横須賀に駆け付けた。

 病院前に集った時やっと身辺も落ち着いた西住師範も姉妹と同行していて、私に対し大変恐縮した様子で頭を下げられ却って私の方が慌ててしまった。

 

 

 それから全員でラブの居る病室へ向かったが皆の間には言い様の無い緊張の糸が張りつめ、病室まで行く間誰も言葉を発する事は無かった。

 そして病室の手前まで近付いたその時──。

 

 

「イヤ!こんな…こんなのイヤァ!こんな…見られたくない!イヤよ!イヤぁぁぁっ!!」

 

 

 病室から興奮したラブの絶叫が響く、そしてそれに続く宥める亜梨亜さんの声。

 

 

「落ち着いて!恋!傷に障るわ!落ち着いて、お願い!」

 

 

 ナースコールがされたのか看護師が駆けて来る、その間もラブの絶叫が続く。

 そして病室に看護師が飛び込むのと入れ替わりに、亜梨亜さんが病室から現れ私達に気が付くとふらふらと歩み寄って来たがすっかり憔悴しているのが明らかだった。

 

 

「しほ…さん、それにみなさん……」

 

「亜梨亜様!」

 

 

 崩れ落ちそうになる亜梨亜さんを西住師範が慌てて支える。

 疲れ切ったその姿は初めてお会いした時とはすっかり印象が違って見える。

 それ程に亜梨亜さんは疲弊しきっていた。

 そんな亜梨亜さんを支えながら西住師範が尋ねる。

 

 

「一体どうしたというのですか亜梨亜様?」

 

「しほさん…つい先程まで皆さんにお会い出来る事を楽しみにしていたのですが……」

 

 

 そこまで話した亜梨亜さんの目線が次の言葉を探す様に中を泳ぐ。

 そして絞り出す様に言葉を続けた。

 

 

「意識が回復してから気持ちの浮き沈みが激しかったのですが…ここ数日は安定していたのに…皆さんに会えると笑顔、やっと笑顔を見せていたのにまた……あぁ!」

 

 

 ここまで話した処でひと筋の涙が頬を伝うと、亜梨亜さんは両の掌で顔を覆いながら膝を突いて嗚咽の声を漏らした。

 西住師範がその亜梨亜さんを支え通路のベンチに何とか座らせる。

 私達はその痛々しい姿にただ言葉も無く立ち尽くすのみだった。

 その間もラブの絶叫は続いていたが、後から駆け付けたドクターにより薬が投与されたのかその声も不意に途切れた。

 

 

 そして、そしてそれが私達の聞いたラブの最後の声になった……。

 

 

 西住師範に背中をさすられ少し落ち着いた亜梨亜さんは途切れがちに続ける。

 

 

「せっかくお越し頂いたのに申し訳ございません…先程申しました通り恋も皆さんにお会い出来る事を楽しみにしておりましたのに…それなのに…それなのに!」

 

 

 私はもう見て居られず亜梨亜さんの元に駆け寄ると跪き、膝の上で握られた量の拳にそっと手を重ね落ち着かせる様こう言った。

 

 

「亜梨亜おば様、どうかもうお止め下さい。私達は待ちます、何時までもラブが本当に元気になるその日までいくらでも待ちますから、ですからどうか!」

 

「…ありがとう、千代美さん……ありがとう皆さん……」

 

 

 重ねた私の手に亜梨亜さんの涙が落ちる、背後でも皆が声を殺して泣いているのが解る。

 亜梨亜さんの肩を支える西住師範の頬にも涙が伝っている。

 

 

「亜梨亜様、これまで影に日向に支えて頂いた西住、今度は私達が支えさせて頂きます。ですから何なりとお申し付け下さいませ」

 

「しほさん…ありがとうぅぅ…」

 

 

 亜梨亜さんが西住師範に縋り付く。

 私が立ち上がると皆と抱き合い声を殺し涙を流した。

 

 

 その後暫くして西住師範が看護師さんに亜梨亜さんの事を頼み、別れの挨拶をすると私達は病院を後にする事となった。

 

 

 

 

 横須賀中央駅の以前にも一人で立ち寄ったコーヒーショップ。

 皆の前に思い思いの飲み物が並ぶが誰一人中々手を付けようとはしない。

 そんな中西住師範が意を決した様にカップを手に取るとひと口啜る。

 それから皆の顔を見まわした後に重かった口を開いた。

 

 

「皆さん、今日は遠い処有り難う御座いました。残念ながらあのような事になってしまいましたが、どうか長い目で見てやって下さい」

 

 

 そう言うと一人静かに頭を下げる、それに対し私達もまた静かに頷く。

 頭を上げた西住師範は更に続けてこう言う。

 

 

「厳島流が掲げる信条は百折不撓(ひゃくせつふとう)。これは例え何度失敗しても志は曲げない、くじける事無く挑戦を続ける、そんな意味の言葉です。恋はとても心の強い娘です、幼い頃から見て来た私には解ります。必ず帰って来ます。ですから皆さんにも恋の百折不撓を信じあの子の帰りを待って頂きたいのです」

 

 

 そこで話を締めると再び頭を下げられた。

 私達もその言葉に再び頷くと自然と手を取り合うとまほが代表して口を開く。

 

 

「お母様、私達は信じます。ラブの、恋の心の強さを。必ず返って来る事を。その日が来ることを信じていつまでだって待ち続けます」

 

 

 まほが皆の胸の内にある事を力強く宣言した。

 その言葉に西住師範も静かに、しかし力強く頷く。

 その後に目に込められた力を和らげると私を見つめ語り掛けて来た。

 

 

「安斎さん、こちらに来て頂ける?」

 

「はい」

 

 

 西住師範の隣に座ると私の手を取りたった一言。

 

 

「ありがとう」

 

 

 全ての想いが籠った一言を言うと私を優しく抱きしめる。

 

 

「さて、それでは私はひと足先に行っていますが皆は積もる話もあるでしょう。私は地方総監部で待っていますので話が済んだらいらっしゃい」

 

 

 そう言うと西住師範は店を去って行く、今回は私も含め全員が西住家のバートルでそれぞれの学園艦に送って貰える事になっていた。

 ただ今回は捜査で多忙を極める英子さんに会えない事が心残りだ。

 

 

「その…安斎」

 

「何だ?西住」

 

 

 まずまほが口を開いたが言わんとする事は何となく解る。

 

 

「気にしてないよ、あの時の事も全国大会の事も」

 

「だが……」

 

「もう何度も謝って貰ったし全国大会も西住は全力で戦ってくれたんだろ?だったらそれでもう充分だよ。それに決勝の後の表彰式の事もあるしな」

 

「そ、それは!」

 

 

 全国大会の表彰式、優勝旗を授与されたまほは力尽きその場にへたり込んだのだった。

 準優勝盾を手にしていた私にはそれで充分だったのだ。

 何かブツブツ言っているまほはそのままにして私は皆にいった。

 

 

「皆はもう大体進路は決まっているんだろ?高校に行っても再び砲火を交える図式は変わらないと思う。その舞台で私はラブが帰って来るのを待ちたいと思うが皆もそれは同じだよな?」

 

 

 全員の表情が引き締まり一斉に頷く。

 それぞれの想いに迷いが無いのは再確認出来た、ならば信じた道を進むのみだ。

 その後は暫くそれぞれの近況を語り合った後席を立った。

 店を出て直ぐの所でまほが私の袖を引いて何か言いたげに私の顔を見る。

 

 

「安斎、その…やはり黒森峰には来てくれないのか?」

 

「…あぁ、詳しくはまだ言えないが黒森峰には行かない。だがサンダースにも聖グロにもプラウダにも行く事は無い。それだけは言っておくよ」

 

「だがそれじゃあ一体…?」

 

「すまん、まだ正式に返答していないんだ。決まったら知らせるから今は待ってくれ」

 

「そ、そうか解った…それなら、それならまた高校でも戦うのだな?」

 

「お?やっと西住の顔になったな。その通りだよ」

 

「西住の顔ってなんだよ?」

 

「まあいいじゃないか、そういう事で」

 

 

 それから私達は歩いて思い出のドブ板通りを通り抜け、西住師範とバートルの待つ海上自衛隊横須賀地方総監部向った。

 

 

 秋の終わりともなれば陽が落ちるのも早い。

 薄暮の横須賀の空にバートルのアンチコリジョンが明滅する。

 私達にとって二度目の横須賀の空、その色は暗く重かった。

 そして私達が横須賀を去った後、ラブと亜梨亜さんは私達の前から姿を消した。

 私達が見舞う事も叶わず、その後始まった刑事と民事の裁判にも治療と療養を理由に代理人のみ、私達はおろか西住家の者ですら連絡が取れなくなっていた。

 

 

 何処かで歯車の進みが狂い始めていた……。

 

 

 

 

 

 

 季節は進み年も変わり春がやって来た。

 私達は中学を、中学戦車道から巣立ち新たな道に進む。

 その前に私には行かなければならない場所、会わねばならない人がいる。

 

 

 新たな制服に袖を通す。

 

 眼鏡を外しコンタクトを入れる。

 

 おさげ髪を解き頭の両サイドで高くリボンで束ねる。

 

 

「さあ行こう、あの人に会いに!」

 

 

 

 

 

 横須賀中央、訪れるのは三度目のコーヒーショップのテラス席。

 

 

「英子さん!」

 

「千代美ちゃん!ってその姿…あ!あの時言った事覚えてたのね!」

 

「はい!お久し振りです英子さん」

 

「思った通り可愛いわぁ♪でもその制服は?」

 

「これはアンツィオ高校の制服です」 

 

「え?アンツィオ…あそこって確か……」

 

「ええ、現在は戦車道が衰退してほぼ無いも同然です。でもそこの理事長が私の試合を見て私の戦車道に惚れ込んだんだそうです。それで私にアンツィオの戦車道の復興を頼みたいとオファーを貰っていたんです」

 

「凄いわね…」

 

「はい、実は初めて英子さんにお会いした頃にはお話しを頂いていたけど迷いもあって保留していたんです」

 

「そうだったんだ」

 

 

 英子さんがそう言いながら手の中でカップを弄ぶ。

 そこに私がオーダーしていたエスプレッソが届く。

 ひとくち口に含むと独特の苦みが口内に広がる。

 

 

「でもね、私の見立てだと他からもスカウトはあったんじゃない?」

 

「解りますか?全国大会常連校からは殆ど声を掛けて頂けました」

 

「ふぁっ!?私が考えた以上だったわ!」

 

「いえ、私はそれ程の選手ではないと思っているのですが嬉しかったのは確かです」

 

「でも選んだのはアンツィオなのね…」

 

「はい、私をそれだけ評価してくれたのも嬉しかったですし、挑戦のし甲斐のある事だと思いましたから」

 

「それは相当大変な道よ」

 

「はい、でもラブが帰って来た時、これが自分の戦車道だと誇れるモノを造っておきたかったんです…あとはその…特待生として学費が全て免除されるのも大きかったんですけど」

 

 

 ちょっと恥ずかしかったけど包み隠さず全て話してエスプレッソに口を付けた。

 英子さんも少し笑ってからこう言う。

 

「そっか…でもそれだと入学早々隊長職って事?」

 

「ええ、でもアンツィオでは昔から隊長の事をドゥーチェと呼び習わすそうです」

 

「ドゥーチェ…確かイタリア語で統帥とかそんな意味だっけ?」

 

「はい、そんな感じですね」

 

「ドゥーチェねぇ……ドゥーチェ安斎かぁ…」

 

 

 そう言った瞬間英子さんの表情が一変する、上総(かずさ)の大猪、鬼敷島の目になり実に嬉しげにこう言い放った。

 

 

「ドゥーチェ安斎…いい響きじゃないか!分かった!私もドゥーチェ安斎の戦い篤と拝見させて貰おう!期待しているぞドゥーチェ!」

 

 

 私も思わず姿勢を正し敬礼をしながら最高の笑顔でこう宣言した。

 

 

「解りました!見ていて下さい英子()()()!」

 

 

 でも私がそう宣言した瞬間英子さんの表情は崩れ、口をムニュムニュさせて抱きついて来て、自分のほっぺを私のほっぺにグリグリさせながら声を上げる。

 

 

()()()!?()()()!!なんて可愛い事言ってくれるのよ~♪」

 

「ひゃあ!くすぐったい!苦しぃ~!!英子さんってやっぱり~!」

 

()()()でしょ~!?」

 

「しまった~!言うんじゃなかった~!」

 

 

 賑やかな午後のコーヒーショップのテラス席、吹き抜ける風は優しい。

 何処かで狂ってしまった私達の歯車はそれでもまだ止まってはいない。

 いつかまた、いつの日にかまた皆で笑いあえる日の為に私は私の道を進む。

 そしてその先に再びラブが居る事を願って。

 

 

「がんばれ!千代美!」

 

「ハイっ!」

 

 

 

 

 私達の戦車道はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 




全体通してチョビ子を泣かせ過ぎました。
でもこの後ももうちょっと泣かせてしまうかもしれません。
それとチョイ役から大化けした英子さんはこの後も是非活躍させたいです。

いよいよ高校編に突入しますが予定通りポンコツ展開出来るかな?
頑張って執筆に勤しみますので宜しくお願い致します。


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第二章 深紅の旋風 第一話   Love

恋愛戦車道もいよいよ本編たる高校編に突入です。
どうかこれからも宜しくお願い致します。

高校編を始めるにあたり後付けになりますが、中学編を第一章としました。
それと自分で見直して気が付いたのですが、
プロローグでチョビ子の髪型をお下げとする処をポニーテールとなっていたので修正致しましたので御了承下さい。

それでは高校編のスタートです。


※御指摘頂いた誤字を修正致しました。



 長い夏が終わった。

 

 波乱の第63回 戦車道 全国高校生大会。

 更に再び廃校を掛けての大学選抜と大洗連合の壮絶なる闘い。

 熱く長い夏は終わった。

 

 

 それから季節は少し進み心地よい風が吹き抜ける秋の富士の大地。

 ここ富士の裾野の広大な東富士演習場は今戦車で埋め尽くされている。

 国民の祝日である体育の日、この日は高校戦車道に於いて唯一、全戦車道履修校が一堂に集まる最大イベント、日本戦車道連盟主催の高校戦車道観閲式が行われる日なのである。

 まあ実際には全履修校とは言っても予算の問題で隊長車のみの参加校もあれば、黒森峰やサンダースの様な大所帯はある程度台数を絞ったり、大洗の様に元の数が少なければ全車参加する学校もありその参加スタイルはまちまちだ。

 なお、この戦車道観閲式、通常であれば主催の戦車道連盟の他、防衛省並びに文科省も列席するのが通例なのだが今回は文科省のみ出席を辞退というか自粛している。

 大洗を巡る一連の騒動に置いて、学園艦解体業者等との癒着、その他諸々の容疑で収監中の学園艦教育局長である辻廉太を筆頭に文科省内部でも二桁、民間業者を含めれば三桁に及ぶ人間が摘発されていれば当然と言えば当然の事。

 ぶっちゃけて言えば連盟重鎮にして西住流家元、更に言えば西住姉妹の母である西住しほの逆鱗に触れたが為、怖くて出て来れないのが本当の処。

 申し訳程度に祝電を送っているがこれもしほが握り潰している。

 でもこれも怖くて誰も何も言えないのだった。

 

 

「んっふふ~♪んッふふ~♪」

 

 

 大量の戦車が居並ぶ中を姉と仲良く手を繋ぎご機嫌で鼻歌なんか歌いがら歩く西住みほ。

 姉であるまほの表情はどうかと見れば、可愛いみほとこうして手を繋いで歩けるのは私だけだと言わんばかりの少々、いや、かなりウザいドヤ顔で歩みを進めている。 

 戦車道という狭い世界の事、事情を知る者も多く、周辺に居る者達が生温い視線を送っているのも当然と言えば当然の事かもしれない。

 それでも幾多の苦難を乗り越え、こうして再び共に歩む事が出来るようになった二人。

 今日は大学選抜戦に措いて力を貸してくれた者達に、履修全校が集まるこの機会に改めて二人で礼を言う為にこうして歩んでいるのであった。

 

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

「ん?なんだ?みほ」

 

 

 超甘々な優しい視線で応えるまほ。

 

 

「みんなにも改めてお礼も言えたし、私達の出番の午後の段までまだ時間があるじゃない?」

 

 

 何しろ履修全校の戦車による観閲行進ともなれば相応の時間を要する。

 

 

「そうだな、全国大会出場クラスは皆後段に回されているからな」

 

「それでね、せっかくだから普段会えない学校も多いし、珍しい戦車も多いから良かったらこのまま一緒に見て回れないかな?」

 

「そうか、そうだな。みほがそうしたいならそれもいいさ」

 

「えへへぇ♪ありがとうお姉ちゃん♪」

 

 

 嬉しそうにまほの腕に自らの腕を絡めるみほ、エリカ辺りが見たら沸騰しそうな光景だ。

 

 

「この辺りのエリアは新規履修校が集まってるみたいだけどコレって……」

 

「フム、どうも問題ありな戦車が多過ぎだな」

 

「うん、特にカヴェナンターがやたら多い気がする」

 

「あれは無駄に生産数が多いからなぁ」

 

「うぅ…この学校、八九式を三両も…う、うちのせいかなぁ?」

 

「気にするなみほ、きちんと調べないで飛び付くのが悪いんだからな」

 

「うん……」

 

 

 大洗の快進撃が始まって以降二匹目の泥鰌狙いで戦車道に力を入れる学校は多かった。

 結果として使用する戦車の需要と供給バランスが崩れ、市場は空前の戦車不足、更には便乗値上げにより購入価格の高騰も招いている。

 故に安物買いの銭失いな学校もかなりの数存在する様だ。

 

 

「うぇ?コンクリート戦車!?あれ?これっていいの!?」

 

「コッチの学校はゴリアテなんかどうする気だ?タンカスロンならともかく戦車道ではまず使用許可が下りないだろうに」

 

「うちも他所の事言えないけどコレはさすがに……」

 

「ああ、言っちゃ悪いがダメ戦車の見本市の様だ」

 

 

 半ば呆れつつ進む二人。

 

 

「あれ?この辺りは新設校なのかなぁ?」

 

「うん、そうだな、この私立三笠女子学園というのは聞いた事の無い名だな」

 

 

 二人はそれが校章旗なのか信号旗のZ旗を掲げた学校のパドック前で立ち止まる。

 

 

「ここはⅢ号で統一してるんだね、長砲身の後期のJ型かぁ」

 

「うちでも使っているし良い戦車だが、それでもⅢ号が5両だけだとさすがに辛いだろう」

 

「うん、でもパッと見でも相当状態の良い車輛だと思う、整備も行き届いてるみたい」

 

「それに相当練度も高い様だな、この並べ方を見れば解る」

 

 

 そんな会話をしつつ今度は側面が見える位置に二人が移動したその時。

 

 

「お姉ちゃん!あれ!真ん中のⅢ号!」

 

「どうした?」

 

「よく見て!砲塔のパーソナルマーク!」

 

 

 みほが指差す先、Ⅲ号の砲塔側面に描かれた白縁取りに深紅のハートマーク、そしてその中心を貫く徹甲弾がまほの瞳に飛び込んで来た。

 

 

「そんな馬鹿な!?だってあれは…」

 

「もっとよく見て!」

 

 

 ハートマークの下部に掛かる弧を描くグリーンのリボンバナーに書かれたそのパーソナルネーム。

 

 

「Love Gun……」

 

 

 二人の脳裏に鮮烈な深紅のロングヘアの美少女の姿が蘇る。

 厳島恋(いつくしまれん)、嘗て不幸な事故の後忽然と姿を消した天才戦車乗り。

 仲間から親しみを込めラブと呼ばれ、その彼女に皆で考え送った友情の印。

 そしてそのラブの愛馬の呼称であるLove Gun。

 それが今、三年の時を経て二人の眼前に再び現れた。

 その時呆然とそのパーソナルマークを見つめる二人の頭上でⅢ号のコマンダーキューポラが開き、ひょこっと深紅の髪が顔を出し二人に上から声を掛ける。

 

 

「今日会えるとは思ってたけど、こんなに早く会えるとは思わなかったよ」

 

 

 ハッと声のする方を見る二人。

 

 

「元気だった?まほ!みほ!」

 

「ラ、ラブ!?」

 

「ラブお姉ちゃん…ほ、本当に!?」

 

「うん♪」

 

 

 その返事に何か言おうとするが硬直した二人は言葉が出ない。

 しかし目を猫の様に細めた美少女の微笑みに、みほが我に返ると叫ぶ様に言った。

 

 

「お、お姉ちゃんはここに居て!私みんなを呼んで来るから!」

 

「おい!み、みほ!」

 

 

 言うが早いかみほは全速力で走り去って行った。

 まほは再びラブに何か言おうとするがやはり言葉にならない。

 そんなまほの様子にラブも何も言わず小首を傾げ微笑んだまま見つめている。

 そしてそんな見つめ合いが続いていたその頃、みほは嘗ての仲間に声を掛ける為大汗を掻きながらパドックを駆けずり回りっていた。

 

 

「ケイさん!ナオミさん!」

 

「Wow!凄い汗!どうしたのみほ?」

 

「そんな事いいから!大変!」

 

 

 

「みほさん、そんなに慌ててどうしましたの?」

 

「ダージリンさん!呑気に紅茶を飲んでる場合じゃないです!アッサムさんも早く!」

 

 

 

「何よミホーシャ!そんなに引っ張らないで!」

 

「んも~!ノンナさん!カチューシャさんを担いででもいいから急いで!」

 

 

 

「アンチョビさん!アンチョビさんは何処!?」

 

「あ~?姐さんなら出店してる屋台の様子見に行ってるッスよ~、どうしたんスか~?」

 

「はぅぅ!こんな時にぃぃ!急いで新設校エリアに来るように言って下さい!」

 

「はぁ~?」

 

「とにかく急いで!Love Gunが!ラブお姉ちゃんが居るって言えば分かりますから!!」

 

 

 コック姿のままCV33から顔を出していたぺパロニにそう告げると、みほは再び全力疾走を始め、後から追いかけてきた面々もその二つの名に反応する。

 

 

「ちょっと!みほさん!今言った事はどういう事ですの!」

 

「言った通りです!だから急いで!」

 

 

 更に加速するみほを全力で追いかける一同、ノンナに抱えられているカチューシャは激しい上下動で既に目がぐるぐるの渦巻き状態になっている。

 そして再びみほが皆を引き連れ戻って来た時、混乱するまほは未だ言葉が出せずにいた。

 

 

「お姉ちゃん!みんなを連れて来たよ!!」

 

「あ、お…おぉ……」

 

 

 口をパクパクさせまほが指で指し示す先を見て硬直する一同。

 その姿にコマンダーキューポラから顔だけ出していたラブが声を掛ける。

 

 

「みんな来てくれたんだ~…ってな~に?幽霊でも見た様な顔して~」

 

 

 その懐かしいハスキーボイスと独特のしゃべり口調に一斉に目を見開く。

 

 

「ちゃんと脚もあるわよ~、待ってて、今そっちに行くわ~」

 

 

 そう言うとラブはコマンダーキューポラの縁に手を掛け身を乗り出そうとするが──。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

 

 

 

 ボヨン!

 

 

 

 

 

 

 つっかえていたおっぱいが飛び出し盛大に揺れる。

 それを見た一同の胸中はといえば──。

 

 

『重力に負けてない…だと!?』

 

『ふぇぇぇ!?小山先輩やあけびちゃんが普通に見えるようぅ!』

 

 

『What the fu●k!これじゃもう勝てないじゃない!』

 

『17ポンド!』

 

 

『お、大きさじゃありませんわ!大事なのは形ですわ!』

 

『早々にGI6のデータを更新しないと!』

 

 

『こ、これは視覚的大粛清よ!』

 

『このサイズはカチューシャ様には不要!』

 

 

「えへへ、無駄に成長しちゃって」

 

 

 指先でぽりぽりと頬をかき照れるラブ。

 

 

「さて、ヨイショっと」

 

 

 改めてコマンダーキューポラから身を乗り出しラブが地面に降り立つ。

 

 

「なっ!?」

 

 

 更に言葉を失う一同だがそれも無理は無いかもしれない。

 元々背の高かったラブの身長は胸の成長同様更に伸びていて、仲間内で最も背の高いノンナを軽く上回る背丈となっていたのだ。

 

 

「いやあ、無駄に成長しちゃって」

 

 

 再び同じ様な事を言いつつ頬をぽりぽりするラブ。

 と、そこへ軽快なエンジン音を轟かせ一台の豆戦車が凄い勢いで突進して来る。

 

 

「うひゃあぁぁぁ!ど、どいてくれ!ソコを通してくれぇ~!」

 

 

 ぺパロニ操るCV33に箱乗りのアンチョビが絶叫しながら突っ込んで来る。

 

 

「あ!ソコだ!ソコで止めろぺパロニ!」

 

 

 アンチョビの叫びにCV33は皆の前でつんのめる様に急停車、付いた勢いそのままに堪らずアンチョビはCV33のハッチからでんぐり返しの様に転がり落ちた。

 

 

「ちょっとアンタ何考えてんのよ!危ないじゃない!」

 

 

 堪り兼ねたカチューシャが噛み付くが、聞こえてないのかアンチョビは転がり落ちて胡坐を掻いた姿そのままでぺパロニに怒鳴る。

 

 

「アイタタタ…コラ!馬鹿者!いきなり止めるヤツがあるかぺパロニ!」

 

「え~!?いきなり止めろと言ったのは姐さんじゃないスか~」

 

「お、おい大丈夫か?」

 

 

 まほに掛けられた声で我に返ったアンチョビはぺパロニに向かい指示を出す。

 

 

「と、とにかくお前は先に戻っていろ!」

 

「へ~い!」

 

 

 言われたぺパロニも渋々元来た方へCV33で戻って行く。

 そして呆気に取られる一同の前で再びアンチョビは声を上げた。

 

 

「ってそれよりLove Gunが!ラブがいるってホントなのか!?」

 

「ここだよ千代美♪」

 

 

 その声のした方へと首を巡らせアンチョビもまた硬直する。

 そんな姿にラブは視線を合わせるよう膝を突き両の腕を広げると嬉しそうにその名を呼ぶ。

 

 

「千代美!」

 

「あ、あ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!」

 

 

 胡坐を掻いたの状態から四つん這いになり、わたわたとラブに這い寄るアンチョビをラブも更に両腕を広げ待ち受けている。

 そして自分の元に辿り着いたアンチョビを優しく抱き留めこう告げる。

 

 

「やっと会えた、ずっと会いたかったんだよ、千代美」

 

「アンチョ…いや!おまえ…い、今までぇぇ!」

 

「ごめんよ、今は千代美って呼ばせてよ…色々、そう私も色々あったんだよ」

 

 

 そう言いながら改めてアンチョビを抱きしめるラブ。

 

 

「でもね、あの時千代美が必死に頑張ってくれたからこうして帰ってこられたよ」

 

「ラブ…」

 

「だからね千代美、本当にありがとうね…あぁ!やっとお礼が言えたよ~♪」

 

「ば、ばかやろぉぉぉ…そんな事、そんな事……!」

 

「ごめん、本当にごめんよ千代美」

 

「本当に、本当にラブなんだな!?あぁ!その顔をもっとよく見せてくれ!」

 

 

 ラブの両の頬に掌を当て正面から見つめるアンチョビ。

 そして以前と違い右目のみ隠す様に長く落とした前髪を掻き上げたその瞬間、アンチョビの瞳は大きく見開かれその表情は凍り付き言葉を失った。

 以前にも増して美しく成長したラブのその顔、しかし長く落としていた前髪の下に隠れていた頬の上辺りから眉の辺りにまで達する深い傷痕。

 そう、あの欠陥砲弾がラブに刻み付けた無情の爪痕……。

 

 

「あ…あの時…やっぱりぃ…!」

 

「えへへ…こんなんなっちゃった。でもね、私こうして生きてるんだよ。だから帰って来られたんだよ、こうしてみんなの前に帰って来られたんだよ~♪」

 

 

 その言葉にとうとう堪え切れなくなったみほが声を上げ駆け寄り飛び付いて来る。

 

 

「ラブお姉ちゃん!」

 

「あはは♪ただいまみほ」

 

「おまえ!おまえぇぇ!」

 

「もう♪まほまで~?」

 

 

 みほに続きまほも飛び付いて来る、もうそうなると誰も皆堪え切れずにラブに向かって飛び付き、ラブも堪らずそのまま皆に押し潰される。

 

 

「んも~!みんな重いってば~♪」

 

 

 これまでにあまりにも多くの悲しみの涙を流して来た彼女達。

 あの悪夢の日から三年、それに耐え続けた彼女達の瞳からこの日ついに歓喜の涙が零れ落ちた。

 

 

 

 




ここまでが長かったけどやっとラブを活躍させられる。
けどこの先どんな風に転がるか自分でもまだ解りません。


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第二話   AP-Girls

今回やっと主人公であるラブの大事なパートナーの愛が登場します。
これでやっとタイトルになる名前が揃ったけどやっぱ安易なタイトルだったかな?
それとダージリンの本名ネタをほんのちょっぴりだけ入れてます。

例によっていい加減な英語にいい加減な訳を付けてますが、
雰囲気で読んで頂けると助かります。


「も~、整備用のゴムシート敷いてなかったら泥だらけになってたよ~」

 

 折り重なる嘗ての仲間達の下からやっと這い出し立ち上がったラブが頬を膨らませ文句を言う。

 パタパタと身に付いた埃を掃う姿を見上げる一同。

 改めて見るラブの身に付けるパンツァージャケットは、背中には風に靡くZ旗、左腕には皆が贈ったパーソナルマークの入った、光沢のある桜色で、着丈は短くウエスト辺り。

 袖の反しの裏地は白で長めになっており、書類挟みに使える仕様で全体の雰囲気としてはライダースジャケットに近い印象のもの、手には白のオープンフィンガーグローブで肩のエポレットには黒森峰と同じ様なジャケットと同色の将校略帽を挟んでおりこれにもZ旗が小さく入っていた。

 その下に着ている白のブラウスはシルクなのか独特の光沢を放ち濃紺のネクタイとも良く合う。

 そしてミニスカートとその裾まで達する長めの二―ハイブーツも輝く白で、そのブーツの反しに付いている留め金の右足側にはホルスターが付いているがラブはそこに携帯を入れている。

 暫しそんなラブの姿を眺めていた一同だが、やはり埋もれていたカチューシャを掘り出したノンナが最初に口を開いた。

 

 

「ラブ、あなたは今までどこに居たのですか?私もカチューシャ様もずっとあなたの事を探し続けて胸を痛めていたのですよ?」

 

「ええ、私も聖グロリアーナ進学後に情報処理学部第6課を使い調査を続けていましたが一切行方を掴めませんでした」

 

 

 ノンナに続きアッサムもラブに向かって問い質すも、当のラブはと云うと少し困った様にまたも頬をポリポリしつつはぐらかすかの様な返答をする。

 

 

「ええとね、そのね、話すと長くなるからそれはまた追々という事でさぁ…」

 

「それより!この三笠女子学園とは一体?私も今まで聞いた事がありませんわ!」

 

 

 ラブの恍けた答弁に被せる様に今度はダージリンが自分も埃を掃いつつ立ち上がりながら言う。

 

 

「あ~、り…今はダージリンだったね、それはね~、今年の春に横須賀に開校したんだよ。創ったのは他でもない亜梨亜ママなんだけどね~」

 

『はぁ!?』

 

 

 思わず一同揃って驚きの声を上げるがラブは変わらず飄々としたまま続ける。

 

 

「まあそれも詳しくは追々という事で~」

 

 

 またしても恍けた発言をするラブに、やっとノンナに掘り出して貰ったカチューシャが遂に切れて顔を真っ赤にしてどやしつけた。

 

 

「私達が今までどれだけ心配したと思っているのよ!なのにアンタと来たら何事も無かった様に昔のまんまその間延びしたしゃべり方でフツ~に会話して!どれだけ!どれだけ…ウぇぇぇ~!!」

 

 

 そして怒鳴った勢いそのままに今度は号泣するカチューシャ、それを見て盛大に溜め息を吐きつつヤレヤレのポーズをした後にケイがラブを指さし宣言する様に言い放つ。

 

 

「OK!忘れるんじゃないわよ!ラブ!」

 

 

 気が付けばいつの間にか横に来ていたナオミが無言でラブの肩をポンポンと叩く、しかしよく見れば薄っすら不敵に笑っているその顔のこめかみには青筋が浮かんでいたりする。

 

 

「も~、みんなそんなに怒んないでよ~」

 

「ふざけるな、お母様も亜梨亜おば様に連絡が着かずどれ程気落ちしていたと思っている?」

 

「私も一度お母さんが二人の名前を言いながら泣いてるの見た……」

 

 

 まほはいつもの怖い顔、みほまでもが上目使いでラブを睨んでいる。

 

 

「だから本当にゴメンってば~、一度ちゃんと謝りに行くから許してよ~」

 

「ところでだなラブ、さっきからお前の後ろにいる子は一体…?」

 

 

 涙を袖でグシグシ拭いた後アンチョビがラブの背後を指さしつつ聞いて来る。

 皆がそれに気付きふと背後を見ればいつの間にか確かにひとりの少女が佇んでいた。

 背丈は大洗の会長より少し高い位だろうか?小柄な少女ではあるが大洗の会長に比べると発育がかなり良い、端的に言えば身長に比して胸の発育が素晴らしく良い。

 少し強めのウェーブの掛かったセミロングの淡いピンク髪をルーズポニーで纏め、表情が若干乏しいというか眠たげな眼をしているが顔立ちも相当に良い美少女だ。

 身に纏っているものはラブとほぼ一緒だが、左腕のパーソナルマークがピンクのハートのみでブーツは半長靴だった。

 

 

「あ、愛♪みんな、紹介するね~、ウチの戦車隊の副長でピンク・ハーツ車長の御条愛(みじょうあい)だよ~。超可愛いでしょ~?宜しくね~♪」

 

 

 ラブが屈んで両肩に手を置き紹介するも無表情な愛と呼ばれた少女、しかしラブもそれを全く気にも留めず今度は愛に対して皆を紹介しようとする。

 

 

「愛、みんなを紹介するね~、えっとまずね──」

 

「知ってる…」

 

 

 紹介しかけたラブを遮りぶっきらぼうに答える愛。

 

 

「さすが愛、私の頼もしい相棒だねぇ♪」

 

 

 ラブはご機嫌で愛に頬擦りしたりするがやはり無表情なままの愛という名の少女。

 皆もこれを些か困惑気味に見ていると更に背後から声が掛かる。

 再び一斉に視線が向くと今度は二十数名の少女達が其処には並んでいた。

 全員が同じ出で立ちな処を見ると彼女達が隊員らしい。

 そしてそのうちの一人が再びラブに呼び掛けて来た。

 

 

「ね~、恋(ねえ)、ラブって恋(ねえ)のこと~?」

 

「あ、しまった~!」

 

 

 その反応を見た瞬間少女達の瞳が悪戯っぽく輝き示し合わせた様に唱和する。

 

 

『ラブ(ねえ)♪』

 

「あちゃ~っ!!」

 

 

 思わず右の掌で顔を覆うラブ、そしてその隣でやはり無表情なままの愛。

 最早その展開に付いて行けない一同は目が点になったまま立ちすくむ。

 しかしその中でどうにか持ち直したアンチョビが口を開く。

 

 

「ラブ…お前たちは一体……?」

 

「ん?あぁ、私達…?そっか改めて自己紹介するね~」

 

 

 そう言うとラブは過去にも滅多に見せなかった引き締まった表情になり号令を発した。

 

 

「Attention!」

 

 

 その号令を聞くやそれまで緊張感の欠片も無かった集団が一斉に気を付けの姿勢を取る。

 

 

「私は私立三笠女子学園芸能科歌唱部の生徒で戦車隊隊長の厳島恋!そしてここに居るのがそのメンバー、全員一年生のルーキーチームよ!」

 

 

 ラブがそう言い放つと全員が直立不動の姿勢から鮮やかな敬礼を決める。

 もう訳が解らなくなったアンチョビは頭を掻き毟りながら声を上げる。

 

 

「はあっ!?芸能科?歌唱部?一年生てお前何言って!?」

 

「だって…私あれからずっと学校行けなかったんだもん……」

 

 

 ラブはまた元の調子に戻り口を尖らせ拗ねた様にアンチョビに反論する。

 その言葉にアンチョビが次の言葉を言い淀んだ時、愛がラブの袖を引き短く一言言う。

 

 

「恋、時間」

 

「あ、そっか、ゴメンみんな。私達ね、お昼の新設校紹介が出番だから準備中なの、だからちょっとだけ待っててくれる~?」

 

 

 そう言うとラブは仮設テントパドックの外に向かい声を上げた。

 

 

「お~い!メイク班おねが~い!」

 

 

 その声に反応しテントの中に鮮やかなマリンブルーを基調としたミニと、白地の背中に風に靡くZ旗とMIKASAの文字が入ったパーカーを着た一団が、大型のミラーやメイクボックスやパイプ椅子を並べあっと言う間に仮設メイクルームを構築して行った。

 最早完全に地蔵と化してその光景を見ている面々を余所に、戦車隊隊員達に派手なステージメイクとヘアセットを次々と施して行く。

 そして我に返った時には全員がメイクを終え一同の前に整列していた。

 

 

「は~い、お待たせ~♪」

 

「お、おいラブお前たちは一体…」

 

 

 狐につままれた様な顔のまほがどうにか問い掛ける。

 

 

「んふふ~♪まほ、さっき言ったでしょ?私達はね~、笠女芸能科所属のボーカルユニットなの。今日がね、戦車隊としてもユニットとしても公式デビューなんだよ、宜しくね~♪」

 

「もう何が何だかさっぱりだ……」

 

「まあ見てて貰えば分かるって」

 

 

 そう言うとラブは戦車隊メンバーに声を掛ける。

 

 

「さあみんな準備はいいよね?」

 

 

 ラブの声に応じてメンバー全員が大きな円陣を組み腰を屈め顔を上げると互いを見つめ合う。

 その顔は頬が上気してほんのり赤く、瞳は獲物を見付けたネコ科動物の様な輝きを放つ。

 それを確認したラブがひとつ息を吸った後声を上げる。

 

 

「みんな!緊張してるよね?でも当然だよね、今日が待ちに待った私達Armor Piercing(徹甲弾) -Girlsのメジャーデビューだもんね!でも大丈夫!私達なら絶対やれる!その為に今日までハンパない訓練に耐えて来たんだ、だからAP-Girlsは絶対負けないし諦めない!笠女の凄さ見せつけてやるよ!みんなで頂点まで駆け上がるよ!ヨシ!その目だ!行ける行ける!みんないいね!?」

 

 

 ラブの檄に呼応して更にグッと身を屈めるメンバー達。

 

 

「AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 メンバー全員でラブに続き(とき)の声を上げると円陣を解き、一斉にそれぞれの乗機に駆け寄り最終点検を行うと次々搭乗して行く。

 ラブもまたその身をコマンダーキューポラに滑り込ませると一度左右に並ぶ僚車を見渡す。

 瞳を閉じたラブは右手を高く掲げ親指を立てる。

 そしてほんの一瞬訪れる静寂。

 

 

「ready…Shout of starting the engine!(目を覚ませ!雄叫びを上げろ!)

 

『Yeaaaah!』

 

 

 ラブの掛けた号令にメンバー全員の雄叫びが重なると同時に、居並ぶⅢ号J型戦車のエンジンが一斉に鋭い唸り声を轟かせその身を震わせる。

 それを聴いた瞬間それまで呆然と事の成り行きを見守っていた一同の背筋に電流が奔り、そして即座に彼女達が、そのⅢ号J型戦車達が只者ではない事を理解した。

 しかしたったそれだけでそれを見抜く彼女等もまた普通ではない事も事実だが。

 そして彼女達が見守る中、ラブの瞳が開かれた。

 開かれたラブのその瞳には強く激しい光が宿っている。

 その輝きを彼女達は知っている、嘗て幾度と無く砲火を交えて来た時目にした光。

 激しく燃え盛るが如きその輝きを目にした時、やっと彼女達は実感する事が出来た。

 ラブが自分達の元へと帰って来た事を。

 

 

「私立三笠女子学園!観閲スタート地点に移動願います!」

 

 

 ラブ達がエンジンを始動するのを待ち構えていたかの如く、観閲式運営委員より指示が出る。

 それに対しラブは指二本の敬礼を投げて応えると見上げている一同に、唸りを上げるエンジン音に負けぬよう大きな声で話し掛けた。

 

 

「みんな!私達がトップバッターだから絶対見逃さないでよね!お願いよ♪」

 

 

 そう言うとウィンクしながら投げキスをするラブにアンチョビが代表して答える。

 

 

「わ、解った!絶対見る!頑張るんだぞ!」

 

「うん!」

 

「それじゃあ私達は隊長席のあるスタンドに行くとしよう、じゃあな、ラブ!」

 

 

 アンチョビの言葉と共に皆が手を上げると踵を返し客席エリアに向かい遠ざかって行く。

 しかしそれを見送るラブの瞳に微かながら暗い影が過る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタシヲオイテイカナイデ

 

 

 




作者本人が考えてる以上にラブの抱えた闇は深いのかも…。


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第三話   困惑Girls

今回はラブの幼少期と厳島家の様子が垣間見えます。


「恋?」

 

 

 ほんの一瞬とはいえ心ここに在らずな恋に愛がやや訝しんだニュアンスを含んだ声を掛ける。

 

 

「あ、愛ゴメン!じゃあ行こうか!」

 

 

 仕切り直しといった感じで大きく息を吸い込んだ恋が再び号令を掛ける。

 

 

「Tanks move forward!」

 

 

 そしてLove Gunを先頭に愛のピンクハーツ、イエローにブルー最後にブラックと続き、パドックから観閲スタート地点に向かい五色のハートが綺麗な一列縦隊で前進して行った。

 どうやらハートの色はそれぞれの車長の髪色に由来しているらしい。

 一方観客席に向かっていた一向だが、みほが何かに気が付き突然大声を上げた。

 

 

「あぁぁぁ~!お姉ちゃんどうしよう!?」

 

「いきなりどうしたみほ?」

 

「私みんなに知らせるのに夢中でお母さんに知らせてなかったよ!」

 

「あ……」

 

 

 今更な事実に気が付くが後の祭り、既にラブ達はスタート地点に向かっている。

 わたわたと狼狽えながらどうしようと騒ぐ二人にアンチョビの大声が重なる。

 

 

「そうだぁ!私も亜美さ…いや、蝶野教官に伝えないと!」

 

「それなら連盟の観閲席に二人共居るから直接行って伝えた方が早いぞ!」

 

 

 まほの声にみほとアンチョビが頷くと、まほは他の者に声を掛けた。

 

 

「すまんがそういう訳で私達は連盟の方に行ってくるから、みんなは先に隊長席に行ってくれ!」

 

「そういう事ならHurry up!あまり時間無いわよ、もうじき前段も終わるわ!」

 

「分かった!行って来る!」

 

 

 まほがそう言うや三人は連盟の観閲席に向かい走り去って行った。

 その背中を見送りつつ他の者も隊長席に向かうがその道すがらカチューシャが声を上げる。

 

 

「だけどおかしいじゃない?連盟もそうだけど、蝶野教官や西住師範だって参加名簿には目を通しているはずでしょ?ならラブの存在に気が付かないはずがないわ。知っていれば当然マホーシャとミホーシャに直ぐに教えていたはずよ?」

 

「確かにそれは……」

 

 

 アッサムもその事実に頤に手を当て思考を巡らせ始める。

 

 

「アンチョビにしたってそうよ、あの時最大の功労者はアンチョビじゃない。蝶野教官が彼女に知らせないのもおかしいわ」

 

 

 ここまでのカチューシャの抱いた疑問に対し、それまで何も言わずのんきに風船ガムを膨らませていたナオミが口を挟む。

 

 

「まああの三人が家元と教官に会えば解る事でしょ?」

 

「そりゃまあそうだろうけどさ……」

 

 

 一同のそんな会話を余所に三人も連盟観閲席に辿り着くと、見付け出したしほの元に駆け寄り身振り手振りで要領の得ない説明を始めていた。

 

 

「何を騒いでいるのですか!ここを一体何処だと思っているのか!」

 

 

 最初は厳しい西住流師範の顔で叱責を始めたしほであったが、騒ぐ娘達のその言葉の中に『ラブ』と『Love Gun』という単語を聞くにおよびその表情は困惑へと変わっていった。

 と、そこに何事かとやって来た亜美も加わると今度はアンチョビが声を上げる。

 

 

「蝶野教官!」

 

「あら…アンチョビさんお久し振りね、一体どうしたの?」

 

「居たんです!新設校にラブが!Love Gunが!」

 

「家元?」

 

「さっきからこの調子で…とにかく!もう一度最初から落ち着いて順序立てて説明しなさい」

 

 

 しほの言葉にみほが一歩前に出て再び話し始める。

 

 

「だからね!私とお姉ちゃんが新設校エリアを見に行ってたの、そうしたら私立三笠女子学園っていう学校のパドックにLove Gunのパーソナルマークの入ったⅢ号が居たの!それで驚いてたら中から…中からラブお姉ちゃんが出て来たんだよ!」

 

「み、みほの言う通りです、そしてラブが言うにはその学校は亜梨亜おば様が創られたと…」

 

『はぁ!?』

 

 

 しほと亜美が同時に素っ頓狂な声を上げ、出来の悪い絡繰り人形の様な動きで顔見合わせる。

 

 

「しかもラブは自分がその学校の一年生だと言っていました」

 

 

 今度はそのまま固まってる二人にアンチョビが説明を加えた。

 

 

「ええと亜美さん?今手元に参加校名簿はあるかしら?」

 

「え?ああ、こちらに」

 

 

 そう言うと亜美は上着の内ポケットから畳まれた参加校名簿を取り出しガサガサと広げる。

 そして二人してそれを覗きこみ目当ての校名を探し始めた。

 

 

「え~、みかさ…三笠…ありましたコレですね」

 

「私立三笠女子学園…学園長名は知らない名ね…監督責任者も…生徒名は……何コレ?」

 

「イニシャルだけですね…どういう事でしょう?というか何故これで審査を通ったのか…」

 

「私も忙しさに感けて細部まで見ていなかったけど……」

 

「恥ずかしながら私もです」

 

「何より亜梨亜様ともあれ以降一切連絡がないですから…」

 

 

 続く言葉を失い暫し無言で見つめ合う二人。

 そんな事をやっているうちに前段終了のアナウンスが場内に流れ始め、引き続き30分後に新設校の紹介が始まる旨のアナウンスも流れて来た。

 

 

「と、とにかくここでこうしていても何も解らないから三人は席に戻りなさい」

 

『はあ…』

 

 

 しほの言葉に三人は気の抜けた返事をするとトボトボと隊長席へと向かう。

 その後隊長席で合流した面々から質問攻めにされるも見た事聞いた事を話すのみの三人。

 

 

「Why?何よそれ?」

 

「ホント、どういう事ですの?」

 

「私達にそう言われてもだなぁ…」

 

 

 ケイとダージリンに詰め寄られてもそう答えるしかないアンチョビ。

 その横で先程から携帯で何か検索していたアッサムが口を挟む。

 

 

「私は私立三笠女子各園で色々検索してみたのですが駄目ですね、まだ開校間もないとしても今時学校のホームページはおろかロクな情報がありません。GI6にも調査を依頼しましたが今の処まだ何も連絡はありません…こんな事って初めてです」

 

「謎は深まる一方ですね」

 

 

 普段滅多な事では表情を読ませないノンナですらその顔に困惑の色が浮かんでいる。

 するとその傍らで腕を組み難しい顔をしていたカチューシャが口を開いた。

 

 

「ねぇ、さっきのアレは本当にラブだったの?」

 

「な、何言いだすのよ?」

 

 

 その発言で思わず膨らませていた風船ガムを割り顔に着けてしまったナオミが問う。

 

 

「だってよく思い出してよ、あのふざけたしゃべり口調と見た目は確かにラブそのものだけど、あの子昔はあんな檄の入れ方した?それにあの英語、昔から英語の時だけは早口だったけどあそこまで早口だった?なんていうかテンションがおかし過ぎでしょ?全体的に凄い違和感感じたのは私だけ?」

 

 

 カチューシャの投げた疑問に対しそれぞれ無言で考え込んでしまう。

 その中でみほだけが何か思い当ったらしく小さく声を上げた。

 

 

「あった…あったよお姉ちゃん」

 

「なんだ?何があったんだみほ?」

 

「ラブお姉ちゃんがあんな風な感じになった事があったよ、お姉ちゃん覚えてない?」

 

「みほ、一体それは何時の事なんだ?」

 

「……ラブお姉ちゃんのお父さんとお母さんが亡くなった時…」

 

「…(たつき)おじ様と麻梨亜(まりあ)おば様……!みほ!おまえあの時の事を覚えているのか!?だっておまえはまだ幼稚園で──」

 

「覚えてるよ!だってお葬式の後、亜梨亜おば様と一緒に暮らせるようになるまで、半年位家で私達と一緒に暮らしてたじゃない!」

 

 

 そこまで言われた処でまほも古い記憶の中、似たような状態に思い当った。

 

 

「確かに似ているかもしれない…だがあの時とは……」

 

「ううん、似てるよ!家に来てからもずっと泣いていたラブお姉ちゃんが、暫くしたら突然元気になってはしゃいだりし始めたじゃない。私も小さかったからよく解らなかったけど、それでもラブお姉ちゃんが元気になったのが嬉しくて一緒に騒いだりイタズラしたりしてたもん!」

 

「ちょっとどういう事か説明して下さらない?」

 

 

 ここで西住姉妹にダージリンが詳しい説明を求めた。

 それに対し姉妹二人で記憶を探りつつ当時の事を皆に語って行った。

 

 

「そうだったの、でもご両親は何故?」

 

「私達も事故としか聞かされていないんだ、当時はまだ二人とも幼かったしな」

 

「うん、私も泣いてるラブお姉ちゃんを見てると悲しくて、それが突然とはいえ元気になったのが嬉しくて夢中で一緒に遊んでたから」

 

 

 ラブの両親が幼い頃に亡くなっている事を知っていた一同も、改めて聞かされる当時ののラブの様子に言葉は無く暫し沈黙が一同を支配する。

 しかしその沈黙もナオミの放った呟きで姿を消す。

 

 

「深い悲しみの裏返し…か」

 

「あの子いつもそうなのよ、何があってもそんなそぶり見せないでふざけてばっかいて……」

 

 

 俯いてそう言ったカチューシャが唇を噛む。

 それぞれの脳裏に嘗てのラブの姿が思い起こされる、常に何処か面白そうにしていて掴み処がなく下らないイタズラをしては皆を振り回して怒られても自分は笑っている。

 しかし一度戦車に収まれば美しく歓喜に満ち溢れた表情で縦横無尽に駆け巡る。

 仲間を想い自分の持てる力は惜しみなく人に与え出し惜しみはしない。

 そんなラブがこの三年の間一体何処でどうしていたのか?

 やっと再会を果たしたばかりなのに一層深まるばかりの謎。

 ラブの性格を考えると詳しくは追々などと言ってはいたがそう簡単に白状するとも思えない。

 それは過去の経験から皆身に染みて解っていた。

 ただもうあの時、三年前のあの日から味わい続けた無力感だけはもう御免だと、大事なモノを失う深い悲しみだけは御免だと全員が考えていた。

 

 

「とにかく、一度は例え尋問になったとしても問い詰めなければ私は気が済みませんわ」

 

「オイオイ、そいつは穏やかじゃないなぁ」

 

 

 ダージリンの不穏当な物言いにアンチョビが渋い顔して窘める。

 しかし今度はダージリンのその矛先が窘めたアンチョビに向けられた。

 

 

「何を言っているのよ?あなたこそ一番に怒るべきではなくて?だってそうでしょう、先程だってあの子は当時のあなたの働きぶりを知っていたじゃない。それなのにあんなのらりくらりと昔と何にも変わらない態度でやり過ごして」

 

「まあアイツは昔からああいうヤツだし、私はこうして帰って来てくれただけで充分なんだよ。ただダージリンの言う事も解るよ、でもこの事に関しては少し時間を掛ける必要があると思う。ラブも色々あったと言ってたじゃないか、ああして帰って来た以上もう逃げも隠れもしないだろう、だから私達ももう少し長い目で見てやった方がいいんじゃないだろうか?」

 

「全くお人好しなんだから…」

 

 

 ダージリンとて解ってはいるのだがそれでも言いたくなるのも無理は無い。

 それ程にこの三年は長く、そして極めて重いものだったいう現れなのだ。

 

 

「とにかくだ、今はラブの…私立三笠女子学園の学校紹介をしっかり見てやろう」

 

 

 まほがそう言うと一同も頷く。

 しかし頷いた後、そのままケイが首を捻り疑問を口にする。

 

「I'm not sure.でもホントどういう学校なのかしら?芸能科?歌唱部とか言ってたわよね?」

 

「ボーカルユニットと言ってましたね、芸能学校という事でしょうか?」

 

 

 さすがにノンナまでが首を捻る。

 

 

「歌は上手かったわよね、ラブの歌うバラードで私は何度か泣かされたわ」

 

『えっ!?』

 

 

 ナオミの意外な発言に一同驚きの声を上げるがその後にまほが思い出した様に言う。

 

 

「あれは子供の頃からだ。私達が横須賀の厳島の家に行くとラブがピアノを弾きながら歌ってくれて、私もみほもそれが一番の楽しみだったんだ」

 

「うん、懐かしいねお姉ちゃん」

 

 

 そんな二人のやり取りにアッサムが身を乗り出して聞く。

 

 

「ラブはピアノも弾けたんですの?早速GI6のデータに付け加えないと。」

 

「なんだ、みんな知らなかったのか?」

 

 

 アッサムの言に苦笑しつつまほが言うと皆一様に頷く。

 

 

「ラブは正真正銘のお嬢様というかお姫様なんだ、家もまあアレだけど厳島の家は凄いんだよ。お城みたいな洋館で初めて行った時は驚いたよ、何しろアイツは自室の天蓋付きのベッドで寝起きしてたんだから。」

 

「私もお姉ちゃんもそのベッドで一緒に寝るのがお姫様みたいで楽しみだったよね」

 

「ああ、そうだったなぁ」

 

 

 ここまで行くと一同もう言葉が出ない。

 それでも何とかアンチョビが声を絞り出して更に問う。

 

 

「アイツの家はそんなに凄かったのか…?でも厳島流って流派としては小さい方だと」

 

「ああ、厳島流は流派としてはほぼ身内のみで継承しているからな。でも厳島の一族は代々商才に長けていて、その財力で言ったら家なんか足元にも及ばないよ。実際世界的なグループ企業だしそういう意味でも高校ひとつ創る位は造作もない事だと思う。それとラブの家ならみんな知ってるはずだぞ、夏に横須賀で合同練習した時走水(はしりみず)海岸に泳ぎに行ったろ?あの海岸から見えた山の上のお城、アレがそうだ」

 

『え゛ぇ゛ぇ゛~!!』

 

「てっきりリゾートホテルかなんかだと思ってたわ……」

 

 

 カチューシャが呆然と一言呟く。

 もう完全に違う世界の夢物語に一同の困惑も頂点に達していた。

 

 

「Why?でもなんでそんなお嬢様が地元の公立校だった訳?」

 

「あれだけ付き合いがあってまだ知らなかった事があったなんて……」

 

 

 ケイの疑問とアッサムの呟きにまほは極あっさりと答える。

 

 

「横須賀じゃ臨中が昔から一番強かったし友達も多かったからだそうだ」

 

 

 

 そんな状況を余所に遂に新設校紹介の開始を告げるアナウンスが流れ始めた。

 

 

「お、いよいよ始まるみたいだな」

 

 

 そのまほの言葉に一同背筋を伸ばし正面に広がる演習展示地域に目を向けるのだった。

 

 

 




何やら凄い家柄ですが、まあガルパンの世界ですからね~。


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第四話   歌う戦車隊

お待たせ致しました。
今回はいよいよラブとAP-Girlsが大暴れするお話です。


しほママにちょっと萌え。


『これより、今年度新規履修校の学校紹介を行います』

 

 

 新規履修校の学校紹介は他の履修校の観閲行進とは異なり、観客席前に広がる演習展示地域に展開し持ち時間15分で自由に学校紹介を行う形式になっている。

 

 

『それでは私立三笠女子学園の入場です』

 

 

 アナウンス終了と同時に突如場内に大音響で流れる激しいロックナンバー、二面用意されている大型スクリーンにはCGで風に靡くZ旗を背景にMIKASAの文字が躍る。

 そして近付いて来る全開のエンジン音と、演習展示地域を包囲する様に五ヶ所同時に炸裂するスモーク花火、そのスモークを突き破り五輌のⅢ号J型戦車が宙を舞って会場に飛び込んで来た。

 どうやら花火を仕掛けてあった場所に擬装したジャンプ台が用意されていた様だ。

 センターのスモークから飛び出して来た、Ⅲ号のコマンダーキューポラから身を晒したラブの絶叫がスピーカーを通して会場に轟く。

 

 

「AP-Girls!Go for broke!!(当たって砕けろ!!)

 

『Yeaaaaaaaah!!』

 

 

 それに続く隊員達の声を限りの絶叫に会場全体が度肝を抜かれていた。

 隊長席に居た一同全員が目を剥き顎が落ちている。

 因みに連盟観閲席でも亜美としほが同様の顔で固まっているのだった。

 しかし着地後最初は好き勝手に走り回っていた戦車達が、曲のイントロが終わりメンバー全員で歌い始めると、それまでとは打って変わって見事な集団機動で見る者を魅了し始めた。

 互い違いに旋回しながらすれ違う際の車両間隔は接触ギリギリ、それでいて描く円は一定で寸分の狂いも無く大地に履帯の跡を刻み付けている。

 この辺りで観客席からは大歓声が上がり始めたが、身を乗り出し膝に肘を突き顎を乗せたアンチョビだけがひとり何やらブツブツ言っている。

 

 

「オイオイオイ…コイツぁまたとんでもないぞ……」

 

 

 曲のサビのフレーズのリフレイン部分では紙吹雪の特殊弾を高速連射。

 その歌う様子も車内で装填する様子も全てがモニターにも映し出されている。

 また彼女達の歌声も相当高性能の指向性マイクを使っているのか綺麗に聴こえていて、既に観客のテンションも最高潮に達していた。

 

 

「あの機動であの高速連続装填は普通あり得んだろう……」

 

「さっきからブツブツと一体何ですの?」

 

 

 ブツブツ言うアンチョビにダージリンが苦言を言うがアンチョビは止まらない。

 

 

「お前達はこれを見て何とも思わないのか?あの機動も砲撃タイミングも装填速度も只事じゃないぞ?しかも彼女ら笑顔でハイテンションに歌いながらそれを平然とやってのけてるんだぞ?」

 

「そ、それは……」

 

 

 これにはダージリンも返答する言葉が直ぐには出て来ない。

 

 

「しかしそのアレだな…何と言うか盛大に揺れているな……」

 

 

 そう言ったアンチョビの視線がダージリンの胸元を射す。

 その時二面ある大型スクリーンでは、どアップでラブのたわわに実ったソレがバルンバルンに揺れていて、男性客の視線は全てその一点に釘付けになっていた。

 何故か一同赤い顔で俯き、ケイだけは違う意味でプルプル震えている。

 そしてダージリンはアンチョビに噛み付く。

 

 

「ち、ち、ち、千代美!!!」

 

「ア・ン・チ・ョ・ビ」

 

 

 アホなやり取りをしているうちに曲はいよいよエンディングに差し掛かり、曲の終了と同時に全車ドリフトから綺麗な一列横隊になり等間隔でピタリと止まる。

 その華麗且つド派手なパフォーマンスに場内は割れんばかりの拍手と歓声で溢れていた。

 車内から出て来たメンバー達も車体に登り手を振ったり投げキスで応えている。

 そして砲塔の上に立ち上がったラブが胸に手を当て大仰に一礼し、両手を胸の前に掲げて拍手を制する様な仕草をすると潮が引く様に拍手と歓声も収まって行く。

 その様子を見てひと呼吸おき、観客に向かいラブが第一声を上げる。

 

 

「皆さんこんにちは!私達が私立三笠女子学園戦車隊です!私が戦車隊隊長、そしてボーカルユニットArmor Piercing(徹甲弾)-Girlsのグループリーダー厳島恋(いつくしまれん)です!本日開催されたこの高校戦車道観閲式が私達にとって戦車道公式行事へのデビューの舞台となりました、どうぞ宜しくお願い致します!」

 

 

 ここでラブとメンバー達が鮮やかな敬礼をすると再び大きな拍手と歓声が巻き起こる。

 それが収まるのを待ちラブは続ける。

 

 

「私立三笠女子学園は私達の所属する芸能科を中心とした専門教育に特化した私立校です。中でも私達歌唱部一期生総勢25名は全員戦車道を履修し、横須賀を母港とした学園艦と共に、これから全国を回りながら戦車道の試合とAP-Girlsのステージパフォーマンスを展開して行きます。どちらも私達にとっては授業成果を発表する大事な場となりますので是非とも応援をお願い致します!」

 

 

 ここでラブはワザとらしくひとつ咳払いをしてから更に続ける。

 

 

「尚、ここで更にひとつ大事なお願いがあります!今月末には私達AP-Girlsのデビューシングルとデビューアルバムが同時発売されますので是非買って聴いてみて下さい!これを買って頂けないと私達は新しい戦車が買えません!なので是非ともご協力をお願い致します!」

 

 

 ラブがそう言うや全員で深々と頭を下げ、そして胸の前で手を組みお願いポーズを取った。

 これには会場中から爆笑と大きな拍手が巻き起こりそれを合図に学校紹介も終了した。

 操縦士のみが車内に戻り、他のメンバーは車内から取り出した籠から色とりどりの花びら撒き散らしつつ、綺麗な一列縦隊で登場時とは一変して可愛らしいラブソングを歌いながら、演習展示地域を一周するとそのまま退場して行くのだった。

 因みにこのAP-Girlsのド派手なパフォーマンスのお蔭で、この後に登場する新規履修校の戦車隊にはには少々気の毒な学校紹介の場となってしまったのであった。

 

 

「ええと亜美さん……」

 

「はい何でしょう家元……?」

 

「今日は何の日でしたっけ…?」

 

「高校戦車道観閲式の開催日だったかと…」

 

「良かった…日取りを勘違いしていたかと思いました」

 

「はあ…」

 

「…それにしても……」

 

「はい…」

 

「また随分と立派に成長して……」

 

「……」

 

 

 

 

 

『負けた!!』

 

 

 

 

 

 

 何の勝負だか解らないが困惑しきりの二人の元に今度は全員が訪れて来た。

 しかし亜美としほも含め全員がまだ信じられない物でも見た様な、まるで幻の陸上戦艦ラーテにでも遭遇したような顔で暫し呆けていた。

 

 

「ああ、ええとそう、あれは確かに恋でした。ですが私達にも解らない事が多過ぎます」

 

「ええ、でも今は調べる様な時間はありませんね、皆さんももう直ぐ観閲行進が始まるでしょ?」

 

 

 確かに二人の言う通り新設校紹介が終われば後段の観閲行進が直ぐにも始まる。

 一同ももうそれぞれの待機場所に戻らねばならない時間が迫っていた。

 何ともいえない微妙な表情で顔を見合わせた後仕方ないから行くかという雰囲気になった時、その中からまほが少し思い詰めた様な表情で声を上げた。

 

 

「あの!教官とお母様にお願いがあります!私達の観閲行進の後の隊長車による一斉砲撃の最前列、出来れば私とみほの間にラブを入れて頂きたいんです!最前列が全国大会出場校が並ぶのが決まりなのは解っています。でも、本来なら間違い無くラブはそこに居たはずなんです!先程の学校紹介でラブが公式行事はこれが初参加という言葉を聞いて気が付きました。みほにはまだ来年一年ありますが、私達の世代は公式行事で同じ舞台に立つ機会はもう無いんです!ですからどうかお願いします、ラブを私達の並ぶ最前列に加えて下さい!」

 

 

 一気にそう言い切ってギュッと瞑ったまほの目じりには涙が浮かんでいた。

 そしてそのまほの言葉にハッとした一同も後に続く。

 

 

「Oh!まほ、ナイスアイディアよ!」

 

「私からも是非お願い致しますわ」

 

「この機会を逃したら私は自分を粛正するわ!」

 

「お母さんお願い!」

 

 

 一斉に上がる声に閉口した様にしほも大きくひとつ溜め息を吐くと首を振りつつ答える。

 

 

「解りました…ですからこれ以上ここで騒ぐのはおよしなさい。連盟には私から話を通しておきます、連盟には()()()貸しもありますから否は無いでしょう。それに…私としても恋の復帰に花のひとつも添えてやりたい気持ちもありますから」

 

「あ、有難う御座いますお母様!」

 

「お母さん!」

 

「だからこんな場所でおよしなさい!それより早く恋にこの事を伝えて自分達も行進に備えなさい」

 

 

 喜んで飛び付く二人にしほは厳しく言うが、その顔は怒ってはいない。

 その後はこの事をラブに伝えるべく一同は走ってパドックに向かい走り去って行った。

 

 

「はぁ……」

 

「お疲れ様でした」

 

「一体何がどうなっているやら…」

 

「驚く事ばかりでした」

 

「ええ、いずれにしても落ち着いたら亜梨亜様に改めて接触を図ってみましょう」

 

 

 そんな会話の後二人が頷き合っていた頃、一同も三笠女子学園のパドックへ辿り着いていた。

 既にパドックにはAP-Girlsも戻っており、見事大成功を納めた学校紹介の結果にハイタッチしたり抱き合ったりしてハイテンションで騒いでいる処であった。

 ちょうどそこに駆け込んで来た一行に気が付くとラブはまほを捕まえて熱烈にハグをした。

 その後も全員にハグを繰り返し満足したのかハイテンションなまま聞いて来る。

 

 

「どう!?どうだった!?見てくれたんでしょ?私達AP-Girlsの初舞台!カッコ良かったでしょ!?カッコ良かったよね!あぁもう最高!完璧過ぎて私どうにかなっちゃいそうよ~♪」

 

「あ、ああ凄かったぞ、みんなで度肝を抜かれたよ」

 

「でしょ!?でしょ~!まほ!私達って凄過ぎでしょ~!!」

 

「分かったよ、分かったから落ち着けってラブ」

 

「そんなの無理よ!きゃ~!最高過ぎ~!」

 

「コラっ!」

 

 

 ハイテンションで騒ぎ一向に話が出来る状態にならないラブに見かねたアンチョビが、腰にしていた指揮用の鞭でラブのお尻をピシャリと叩いた。

 

 

「いった~い!何すんのよ千代美~!感じちゃうじゃな~い♪」

 

「アホ!アンチョビだ!それより人の話を聞け!我々も時間が無いんだから!」

 

「も~、何よ~?」

 

 

 お尻をさすりつつラブもようやく人の話を聞く姿勢を見せる。

 それを見てアンチョビに礼を言いつつまほが説明を始めた。

 

 

「いいかラブ、我々の観閲行進の後に隊長車による一斉砲撃があるのは知ってるよな?」

 

「知ってるわよ~、私も参加するんだし~」

 

「ああ、それでなラブ、お前も私達と一緒に最前列に並べ」

 

「え~?私らぺーぺーは最後列って決まってるわよ~?」

 

「いや、だからな落ち着いて最後まで聞いてくれ。みほは来年があるが、私達三年はこれが最後の高校戦車道の公式行事だ。つまり今日を最後にお前とは高校では二度と公式の同じ舞台に立てない。だからこそせめて私達は、この一斉砲撃位は一緒に並んで撃ちたいんだ」

 

「え?そんな…だって無理よ…」

 

「大丈夫!さっきお母様にお願いして来たから絶対だ!」

 

「え…?しほママに?」

 

「そうさ、だからラブは何も遠慮する事無く私達と一緒に最前列でぶっ放すんだ!」

 

「いいの?本当にいいの…?」

 

「本当だとも、他の隊の隊長達にも私から話を回しておくから安心しろ。な~に、ほとんどみんな同期だ、お前の事を覚えてるヤツも見知った顔も多い。誰も文句を言わないさ、もしそんなヤツが居たら私が容赦無く88㎜をぶち込んでやるさ!」

 

「まほったらも~、でも…でも…ホントに…?」

 

「いいんだよ、何度もそう言ってるじゃないか」

 

 

 ラブの瞳から大粒の涙が一粒零れ落ちる。

 

 

「おいおい、泣くヤツがあるか、折角のメイクが台無しになるぞ」

 

「まほ大好き!!」

 

「おぶぅっ!!!」

 

 

 この日最強のラブのハグが炸裂しまほの顔がラブの胸に埋もれる。

 

 

「大好き!大好き!大好き~!!!」

 

「ぐっ!はっ!う゛ぅ゛!」

 

「あ゛……」

 

「ぶはっ!ち、窒息させる気か!!」

 

「ご、ごめん……でも本当にありがとう…」

 

「…まったくしょうがないヤツだ、とにかくそういう事だ仕度しておけよ」

 

「うん♪」

 

 

 ここでそれまで事の成り行きを見守っていたAP-Girlsの面々からまほに声が掛かった。

 

 

『西住隊長、ラブ(ねえ)の事ヨロシクね~♪』

 

「ああ!任せておけ!」

 

 

 まほも右腕を上げガッツポーズでそれに応える。

 それに対しAP-Girlsも全員で答礼を決めて見せた。

 

 

「さあ!それじゃあ我々も行こう!ラブ、今度は私達の出番だしっかり見ていてくれよな!」

 

「うん!千代美解ってるよ♪」

 

「アンチョビだ!」

 

「あはは♪」

 

 

 アンチョビの宣言を合図に皆が手を振り立ち去って行く。

 この日見る二度目の嘗ての仲間達の背中。

 

 

「まぶしいな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワタシヲヒトリニシナイデ

 

 

 




マタヤッテシマッタ…。


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第五話   富士に咲く華

高校戦車道観閲式もいよいよその幕を閉じますが、
今回もラブが大暴れします…違った意味で。
まあやりたかったネタ目一杯詰め込んでお送りします。

それと今回はさおりんとゆかりん、梓ちゃんと絹代さんが遂に登場です。
しかしドイツ語と熊本弁は難しい…例によって適当です、ハイ。


それでは皆さんご一緒に。

ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!




 高校戦車道観閲式も午後になり全国大会出場クラスが登場する後段の観閲行進が始まった。

 全国大会クラスの履修校から選抜された、大編成のブラスバンドによりエンドレスで演奏される陸軍分列行進曲に乗り粛々と戦車隊が隊列を組み場内に入場して来る。

 やはり全国クラスの有名校ともなると沸き起こる拍手も俄然大きくなっていた。

 そんな中でも最初に格段に大きな拍手で迎えられたのは、意外にというか知波単学園戦車隊が入場して来た時であった。

 その知波単の隊長である西絹代は、大学選抜戦以降その麗しい容姿と快活な人柄、名家西家の御令嬢である事も世間の知る処となり一気に耳目を集め目下人気急上昇中であった。

 更に月刊戦車道のグラビアページに掲載された、愛馬ウラヌスことゴディエ・ジュヌー1135Rに跨る凛々しくも勇ましい姿に若い女性ファンが激増、今も観客席からは『絹代様』なる黄色い嬌声が飛び交っていたりする。

 その黄色い声が飛び交う中、当の絹代本人は実に涼しい笑顔で美しく長い黒髪を靡かせ、敬礼を決めながら知波単戦車隊を先導し進んで行く。

 しかし隊長席の辺りに差し掛かった辺りで、絹代がほんの一瞬ではあるがニコリと微笑み、一点に向かい敬礼を送っていた。

 そしてその敬礼が贈られた先、隊長席でも一人の人物が小さく両手を振り返している。

 会場内でその小さなやり取りを誰も気にするものは居なかったが只一人気が付いた者が居た。

 それは地区毎に振り分けての入場の為、知波単に続き入場して来た聖グロリアーナ戦車隊の隊長であるダージリンその人である。

自身も大きな歓声を受けつつ取り澄ました笑顔で敬礼をしながらも、その一瞬の出来事に目ざとく気付いてほんの一瞬その青い瞳を細めていた。

 

 

『どういう事ですの?今の絹代さんの笑顔と敬礼は?明らかに特定の一人に送られていましたわ。そしてその送られた相手は間違い無くラブ!そしてあの子も手を振り返して!二人は一体どういう関係でいらっしゃるの!?そもそもその関係は何時から!?』

 

 

 胸中そんな事を考えつつ表情は変わらず笑顔のまま敬礼をしている。

 だがその瞳の奥には何やら仄暗い炎(ジェラシー)が宿りラブを見据えていた。

 昨今絹代と良い仲と噂されるだけに心中穏やかでは居られないといった処であろう。

 しかし一方のラブはといえば胸の前で手を組み『ダージリンさま~♪アッサムさま~♪』などと嬌声を上げ、周囲に座る前段で観閲を終え同席していた他校の隊長達をドン引きさせている。

 因みに全国大会優勝校である大洗がトリを務める以外北から南の順で行進している為、先に登場していたプラウダに対してもラブは『カチューシャさま~♪』と『ノンナさま~♪』をやっており、コマンダーキューポラ上のカチューシャは怒りでプルプルしながら敬礼していたりした。

 そして観閲行進は更に進みアンツィオ高校が登場した際それは起こった。

 アンチョビが搭乗したP40がぺパロニのカルロ・ヴェローチェCV33やカルパッチョのセモヴェンテM41などを従え行進して来るや、突如として全観客席から怒涛の『ドゥーチェコール』が巻き起こったのである。

 満場に響き渡る『ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!』の連続コールに、思わずアンチョビは頭を抱えそうになるが敬礼は止められない、チラリと見ればぺパロニもノリノリだ。

 そのぺパロニの顔には『オメ~ら解ってるじゃね~か~』と書いてある。

 

 

『や、止めんかこのバカモノ~!』

 

 

 心中でそう毒突くがドゥーチェコールは鳴り止まない。

 そして視界に入った隊長席でも当然ラブが右の拳を振り上げドゥーチェコールを繰り返し、更に周辺の他校の隊長を巻き込み無理矢理ドゥーチェコールをやらせる始末。

 

 

『た、頼む!お願いだから止めてくれ~っ!!!』

 

 

 アンチョビの心の叫びも虚しく行進は進んで行く。

 一方連盟観閲席ではその光景に亜美としほが笑ってはいけない高校戦車道観閲式を演じていた。

 その後も行進は続き登場したサンダースのケイとナオミにも同様の『さま~♪』攻撃を仕掛け、飛び跳ねてバルンバルンするおっぱいにケイは再びプルプルさせられている。

 そして観閲行進も残るはいよいよ二校、黒森峰と大洗を残すのみ。

 まずまほの搭乗するティーガーⅠを先頭に一糸乱れぬ隊列で敬礼を決め整然と入場して来ると、やはりさすがは黒森峰、これまで以上の拍手が巻き起こる。

 が、ここでもやはりラブのやる事は容赦が無かった。

 クールに敬礼を決めるまほに対し色気全開のハスキーボイスで叫び掛ける。

 

 

「いや~ん♡まほ様素敵~!結婚して~♪」

 

 

 これにはさすがに周りも笑いを堪えるのに必死であり、やられたまほの鉄面皮にもヒビが入りその口元が微かにヒクヒクと痙攣している。

 

 

『後で絶対アハト・アハトをぶち込んでくれる!』

 

 

 そんなまほの瞳の怒りの炎もラブは一向に気にせずクネクネ身をくねらせていた。

 それとやはり例の二人がこの日二度目の笑ってはいけない高校戦車道観閲式を味わっている。

 

 

「こ、怖い…ラブお姉ちゃんが怖いよぅ!」

 

 

 前方の光景を目にしコマンダーキューポラ上のみほは既にガクブル状態だ。

 

 

「ちょっと~、みぽりん大丈夫~?」

 

「どうしたのでありますか西住殿?」

 

 

 その様子に沙織と優花里が声を掛けるが耳に届いていない様子。

 首を捻る二人を余所にいよいよ大洗が入場する出番がやって来た。

 大洗女子学園の名がコールされ我に返ったみほもパンツァー・フォーの号令を掛ける。

 隊員も搭乗するその戦車も高校戦車道界きっての個性派集団、奇跡の大洗の登場に会場内もこの日最大の歓声と拍手に包まれ湧きかえっている。

 思えば判官贔屓な国民性の日本人にとって大洗の快進撃は、最も熱くなる展開故これもまた当然と言えば当然の反応で、中には感極まって泣いている高齢の観客も見受けられた。

 全国大会優勝旗をはためかせ進むあんこうチームとみほに熱い声援が飛ぶのは当然として、すっかりジャイアントキリングで名を馳せ『大洗の首狩り兎』の二つ名を奉られた後に続くウサギさんチーム、中でも新人賞のヤングタイガー賞を受賞している梓にもかなりの声援が飛んでいる。

 M3の車内でも『梓すご~い♪』などと盛り上がっているが、当の梓はそれ処ではない程ガチガチに緊張して敬礼したまま固まっている様だ。

 

 

『うぅ…とうとう隊長席の前まで来ちゃったよぅ…』

 

 

 自分が一体どんな攻撃をされるか戦々恐々で隊長席のラブに視線を送るみほ。

 遂にあんこうが隊長席前に差し掛かりみほの視界にラブの姿が入って来る。

 が、しかし──。

 みほの目に飛び込んで来たラブは普通に手を振り時折左手の人差し指で目じりを拭っている。

 

 

『え!?泣いてる?』

 

 

 そして遂には号泣し始めたらしく両隣のどこかの隊長に慰められている姿が目に映る。

 

 

「ラブお姉ちゃんそりゃ一体どぎゃん攻撃たい!?」

 

 

 思わずお国言葉が口を突いて出てしまうみほだが隊列はそのまま先に進む。

 その先辿り着いた連盟観閲席では感極まったしほが顎を梅干しにして耐えており、その横では何とも言えない微妙な困った顔で亜美がみほの事を見ていた。

 そんな一部の人間には『コレ何て罰ゲーム?』な観閲行進も大洗が下手の観客席前を通過した処でどうにか無事終わりを告げたのであった。

 

 

「前言撤回!アイツは昔からなんも変わっちゃいないわ!」

 

 

 観閲行進中ラブの仕掛けたイタズラのお蔭で、一同死んだ魚の様な目でゲンナリしている中、カチューシャのみが癇癪を起こし只独り気を吐いていた。

 そこへLove Gunのコマンダーキューポラから身を乗り出し、途中すれ違う他校の隊長から掛けられる『厳島さんお久し振り』とか『ラブにまた会えて嬉しいわ』なんて声に応えつつニコニコ嬉しそうに手を振りながらノコノコと一同の元にやって来た。

 

 

「みんな~!超カッコ良かったわよ~♪」

 

「わよ~♪じゃない、随分面白い事やってくれるじゃないか?」

 

 

 目の前にやって来たラブの両のほっぺをび~っと引っ張りながら、ナオミが静かに恫喝する。

 

 

「ひ~ん、ゴメンってば~。でもみんながカッコいいから嬉しくって~♪」

 

「油断した私達が愚かだったという事です…わ!」

 

 

 眉間に皺を寄せつつダージリンが吐き捨てる様に言うも全然ラブは堪えていない。

 この日何度目かの溜息を吐きつつアンチョビがラブを指揮用鞭で指すと言った。

 

 

「とにかく時間が無い!さっさとLove Gunを隊列の間に入れんか!」

 

「はぁ~い」

 

「ハイは短く!」

 

「はい…」

 

「しょぼんとして同情を買おうとするな~!」

 

「きゃ~♪」

 

「…早く学園艦(お家)に帰って寝たい……」

 

 

 ウンザリ顔で再び溜め息を吐き肩を落とし自分の乗機に向かうアンチョビ、そしてそれを潮に他の面々も同様のウンザリ顔でそれぞれの戦車に搭乗して行く。

 かくして隊長車による隊列も整い前進の合図を待つのみとなる。

 所属校も使用する戦車の国籍も違えど隊長車がズラリと並ぶ様は実に壮観だ。

 同じ戦車とは言え隊長車ともなるとやはり風格があり見る者を魅了するオーラがあった。

 その隊長車による特別編成戦車大隊の大隊長には、その場で行われる隊長会議に於いて満場一致でまほが選ばれており先頭で入場する事になる。

 必然的にラブのはその次に入場する為まほのティーガーⅠと、みほのあんこうの間で待機中だ。

 すぐ目の前のティーガーⅠのコマンダーキューポラ上にまほの背中が見える。

 

 

 「まほ!…その…ありがとう……」

 

 

 まほの背に向けラブが掛けた言葉に、まほは振り返る事無く右手を揚げ黙って親指を立てる。

 それと同時に入場コールが掛かりまほが大音声で前進の命を下す。

 

 

Spezial bataillon! Panzer vor!(特別戦車大隊前進せよ!)

 

『jawohl!!』

 

 

 無線から聞こえたまほの命令に対し、この時ばかりは黒森峰流に全車からドイツ語の了解の声が一斉に上がり、会場の客席でもスピーカーから聞こえたその声に拍手と歓声が巻き起こる。

 エンジンが唸りを上げ履帯を軋ませ続々と演習展示地域に戦車が進入し、陣地展開して行くがさすが全てが隊長車なだけにその動きには無駄が無くそれだけでも見る者に感動を与えている。

 そして最後尾の一列の展開が終わると演習展示地域は完全に戦車で埋め尽くされた。

 

 

『こちらFDC、対TOT戦車の華道発動!』

 

 

 FDC、ファイヤーデレクションセンターの略称の名の下に、亜美の号令により一斉砲撃命令が下される無線交信の声が会場のスピーカーから響き渡った。

 すでに全車の砲身は高く振り上げられ富士山を指向している。

 

 

『TOT20秒前!』

 

 

 カウントの後眼前に居並ぶ戦車砲が一斉に火を噴く、その腹に響き全身を揺さぶる衝撃に観客席全体から『おぉ!』っと驚きの声が上がる。

 

 

だんちゃーく(弾着)!今!』

 

 

 亜美の叫びと同時に晴れ渡った青空と富士を背景にして、中空に色とりどりの特殊スモーク榴弾が一斉に花開き、ワンテンポ置いた衝撃音が見る者の全身を再び揺さぶった。

 鳴り止まぬ拍手と歓声に振り向き全隊長が敬礼で応え、祭りの終わりの時間が訪れる。

 

 

『状況終わり!』

 

 

 全てが終わった事を告げる亜美の声が響くと後列から順に居並ぶ戦車も撤収を始めた。

 

 

『Ob's stürmt oder schneit,Ob die Sonne uns lacht,──』

 

 

 撤収する戦車の隊列の中、誰からともなく何時の頃からか戦車乙女たちのテーマソングになっているパンツァーリートを歌う声が上がり始める。

 ひとりまたひとり唱和する声は増えて行き、手の空いている者は各々ハッチから顔を出しつつ笑顔で手を振りながら歌っている。

 殆どの隊長が三年生でありこれを最後に公式行事からは引退して行く。

 その歌声はまるで引退して行く彼女達からの別れの歌の様に聴こえて来るのであった。

 かくしてこの別れの歌を最後に高校戦車道観閲式はその幕を閉じた。

 

 

 




観閲行進にはやはり陸軍分列行進曲が最適だと思います。

作中の曳火射撃は本来アレですがソコはノリと勢いという事でお願いします。
御存じない方は対TOT富士で検索して頂くとつべに動画がいっぱいありますよ。

今年は総火演行きたいなぁ…一昨年は行けたけど去年はハズレちゃったんですよね。


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第六話   撤収狂騒曲

始めにお断りというかお約束。

学園艦のサイズを気にしてはいけません、
気にするとガルパンの世界は成立しなくなりますので~。

何でだろう?チョビ子とぺパロニの会話って、凄いリアルに脳内でCV再生するなぁ。


「西住隊長、お疲れ様でした」

 

「ああ、エリカすまない」

 

 

 パドックに戻って来たまほは礼を言うと、エリカから手渡されたスポーツドリンクを一気に飲み干しひとつ大きく息を吐いた。

 

 

「それであの……」

 

「うん?」

 

「ラブ先輩の事なのですが……」

 

 

 エリカもまた、嘗てラブから教えを受け事故当時心を痛めていた一人であった。

 

 

「ウム…私達もまだ詳しい事は何も解らんのだ、何しろあの性格で直ぐに口を割らんからな」

 

「ああ……」

 

 

 まほのその言葉で全てを察するエリカだが、そこにまほは更に付け加える。

 

 

「それに関しては日を改めてという事にしても、今はもう一仕事せねばならん」

 

「と、言いますと?」

 

「ラブをお母様の所に連行する!」

 

 

 鼻息荒くまほが言い放つとエリカはがっくりと首を項垂れた。

 

 

 

 

 

「ええい!観念してキリキリ歩かんか~!」

 

「痛いってば~!また感じちゃうってば~!」

 

「どアホ!!」

 

 

 またしてもアンチョビにお尻に鞭を入れられラブは抗議の声を上げる。

 ナオミとノンナそれぞれに両腕を極められしほの居る連盟の控えテントに連行されるラブ。

 

 

「言われなくっても歩くから離してよ~」

 

『ダメだ!』

 

 

 全員に一斉に攻められシュンとなるもその縛めは緩む事が無い。

 過去の行いからこういう事には仲間からの信用が一切無いラブであった。

 そして辿り着いた連盟の控えテントでは──。

 

 

「しほママ…その……ごめんなさい……」

 

 

 言葉にならぬしほがラブを強く抱きしめる、幼い頃たった半年とはいえ我が子同然に育てた娘。

 その娘が三年の時を経て再び我が元へ帰って来たのであれば無理からぬ事であろう。

 しかし連行して来た面々は少々違った視点でその光景を眺めていた。

 

 

 

『二大胸部重装甲激突!』

 

 

 

 しほが自分より上背のあるラブを胸元に抱き寄せようとした結果、胸部重装甲の激突事故という重大インシデントが発生していたのである。

 またしても全員顔を赤らめケイの目は完全に死んでいた。

 

 

「しほママ……」

 

「もういいのです…今はもう…それよりもその顔をよく見せて頂戴」

 

 

 漸くラブを胸元から解放したしほは、アンチョビがしたのと同様に右目に掛かる前髪を掻き上げるとその痛々しい傷痕を見た瞬間その場に崩れ落ちそうになる。

 

 

「あぁ!何という事!」

 

 

 横に立ち一緒にその傷痕を見た亜美も青い顔をしているがある事に気付く。

 

 

「恋さん…その目は──」

 

「蝶野教官、今はその話は……」

 

「え、えぇ、そうね、解りました……」

 

 

 そこでどうにか気を取り直したしほがラブに声を掛ける

 

 

「積もる話もあります、でも落ち着いてからで構いません、一度熊本にいらっしゃい」

 

「はい、その時は必ず亜梨亜ママも一緒に」

 

「ええ、待っていますよ」

 

 

 その言葉にラブも深々と頭を下げる。

 再びラブが頭を上げた時、亜美がひとつ手を叩き宣言する様に声を上げた。

 

 

 

「ハイ!皆さん疲れているでしょうけど一番大変な仕事が残っていますよ!」

 

 

 亜美のその言葉にその場にいる全員の顔が一斉に憂鬱で絶望的な表情に変わる。

 そう、高校戦車道観閲式が終了した今、一同には東富士演習場からの撤収という名の非情且つ過酷な難題が待ち構えているのである。

 お世辞にも交通インフラが整備されているとは言い難い東富士演習場周辺。

 搬入は分散させ早めに出来るがその逆となるとそれも中々難しくなる、如何せん集結している戦車の数が数だけにその撤収には例年参加者は胃の痛くなる思いをするのが通例だ。

 どの学校も陸路輸送は輸送車両に限りがあり、参加車輛が隊長車のみなどの場合以外ではそれで済ませられるのは極めて稀なケース。

 一部御殿場から鉄路を使う学校もあるがJR貨物にも限界がある。

 唯一鉄路組で例外なのは知波単位であろう、自前でK2形蒸気機関車を運用している知波単の、戦車を積載しての汽車ぽっぽ行列は毎年この時期沿線でも大層人気があった。

 それでも御殿場までの陸路は大戦車行列という名の渋滞にはまらねばならない。

 だがしかし一番大変なのはやはり海路組で、沼津港に毎年二本用意される仮設桟橋から学園艦に乗艦する訳だがそこまで辿り着くのに大戦車行列で一晩掛かる。

 そしてその大戦車行列も沿道の風物詩と化しており、一晩中続く戦車の行進を周辺住民が提灯行列で見送り、屋台も立ち並ぶのでちょっとしたお祭りとなるのであった。

 だが残念ながら彼女達の苦労はこれで終わりではなく、やっとの思いで辿り着いた沼津でも更なる試練が大口を開けて待ち受けているのだ。

 何しろ桟橋は二本しかなく、それぞれ両岸に接岸出来ても一度に四杯がやっと、沖合待機で入れ替わり立ち代わりで乗艦しても如何せん馬鹿デカい学園艦故時間が掛かる。

 天候次第では更なる足止めもあり毎年これで苦労させられるのであった。

 だが沼津港周辺は戦車で溢れ返る事になるのだが不思議と周辺から苦情が出た事はない。

 それというのも連盟からの要請もあり普段は滅多に見る事の出来ない戦車に、待機中に例え動かなくとも希望する者を戦車に乗せたり記念撮影に応じる事で周辺住民からも理解を得られているのだ。

 特に人気選手などはサインを求められる事も多く、それも地元では好評を博していた。

 

 

「ウチもタンケッテだけなら楽なんだがなぁ……」

 

『あ~』

 

 

 アンチョビのぼやきの意味を即座に理解した一同が揃って声を上げる。

 海無し県の栃木に本拠地があるアンツィオ高校は沼津港の云わば対岸にある清水港を母港にしている為、豆戦車のタンケッテのみであれば裏道を使って清水から自走も可能なのであった。

 しかしP40とセモヴェンテが居る為わざわざ沼津で時間を潰さなければならず、ある意味ではこの大戦車行列一番の被害者と呼べるかもしれない。

 

 

「それなら何故そうしなかったんですの?」

 

 

 ダージリンの素朴な問いに力無く溜め息を吐きアンチョビは答える。

 

 

「連盟から実に()()()()と拒絶されたんだよ、タンケッテだけだと箔が付かないって…」

 

『……』

 

 

 これには一同アンチョビに同情の視線を向け、しほは眉間に指を当て首を左右に振っている。

 

 

「まあこればっかりは言っても仕方がない、サッサと撤収準備に掛かるとしよう」

 

「あのさ、みんな…」

 

 

 気を取り直したアンチョビがそう言った処にラブがおずおずと声を掛けた。

 その声に一同がどうしたと反応するとラブはこう切り出した。

 

 

「あのさ、撤収の時間が読めないからみんなの所もこの後の日程って余裕持たせてるよね?だったらウチの学園艦に乗って一度横須賀に来られないかな?艦隊組んで横須賀に行ってウチの母港で積み替えすれば楽だと思うし…時間があるならみんなと横須賀で遊びたいんだけど……」

 

「横須賀はいいとしてラブの所の学園艦に乗るっていうのはどういう事だ?」

 

 

 皆の抱く疑問をまほが代表して口にする。

 

 

「えっとね、実際見て貰えば解る事なんだけど、ウチの学園艦は桟橋が必要無いの」

 

「はあ!?なによソレ?」

 

 

 カチューシャが声を上げるがラブは見れば解ると言うのみ。

 そこにしほが割って入る様に口を挟む。

 

 

「今は恋の思う様にしておあげなさい、大人は後にしてまずはあなた達だけの時間を持ちなさい」

 

 

 そう言うしほの顔は家元のソレではなく優しい母の顔である。

 

 

「お母様!」

 

「しほママありがとう!」

 

「各校には私の方から話を回しておきますから心置きなく楽しんでらっしゃい」

 

『ハイ!』

 

 

 一同揃って元気に返事をするとラブが説明する様に口を開く。

 

 

「それじゃあねぇ、沼津に向かうのは一緒なんだけど港に行かないでその先の千本浜にある沼津海浜訓練場に集結してもらえるかな?」

 

「千本浜?何故そんな場所に?三笠の学園艦は強襲揚陸艦か何かなのか?」

 

「う~んちょっと違うんだけど見れば解るから。とにかくウチの名前で許可は取ってあるから現地に着いたらソコに集まって欲しいの」

 

 

 まほの質問も例の如くかわしてラブはニコニコしながらそう言うのみ。

 一同もこれ以上聞いても無駄なのは解っているので軽く肩を竦め撤収作業に散って行く。

 かくして高校戦車道観閲式最大の難関大戦車行列が始まるのだった。

 

 

 

 

 

「毎年の事とはいえコレはもう少しどうにかならんのかぁ!」

 

 

 解ってはいても一向に進まぬ行列にアンチョビが絶叫する。

 無線の共用回線でも学校に関係無く愚痴が飛び交っていて、今のアンチョビの叫びに対しても事情を知る直ぐ前に居る部隊の隊長から『アンツィオさんも大変よね~』などと同情の声が飛んでいた。

 

 

『あ、そっかぁ、姐さ~ん!タンケッテだけ先に陸路で清水に行っててもいいッスか~?』

 

 

 聞こえて来た会話にぺパロニが名案とばかりに無線で聞いて来る。

 

 

「ダメに決まってるだろ~が!」

 

『え~?いいじゃないッスか~?』

 

「ダ~メ~だ~!もし先に帰ってみろ、私が卒業するまでオヤツは一切無しにするぞ!」

 

『えぇ~!?そりゃないッスよ姐さ~ん!』

 

 

 この会話を共用回線でやってしまった為に大戦車行列全体から大爆笑が沸き起こった。

 

 

「まったく、満天下に恥を晒してみっともない」

 

 

 ダージリンが忌々しげに言い紅茶を飲み干すと、傍らにいるオレンジペコにソーサーごとティーカップを差し出しお代わりを要求した。

 

 

「ペコ、もう一杯頂けるかしら?」

 

「ダージリン様、今はこれ位でお控えになった方が宜しいかと」

 

「何故かしら?」

 

「何分この辺りはまだコンビニはおろか民家もろくに御座いませんし、あまりハイペースでお飲みになりますと、その…おトイレの方が……」

 

「ぐっ…!」

 

 

 そんなやり取りをアッサムは砲手席で実に楽しそうに聞いている。

 かくして遅々として進まぬ大戦車行列は先が見えず一行のイライラは募るばかり。

 今年は特に大洗の活躍でにわか履修校が増え、そしてその多くがカヴェナンターを始め問題を抱えた戦車を使っている所が多い事もあり、オーバーヒートなど故障車が大量発生した結果沼津までの道中は更に困難を極める結果となるのであった。

 結果ラブ達が目的地の千本浜にある沼津海浜訓練場に辿り着いた頃には完全に夜も明け、全員疲労困憊で目の下にクマが出来た顔で砂浜に集まっていた。

 

 

「で?これからどうするって?」

 

 

 さすがのまほも疲れ切った顔でラブに聞くがこちらも同様の顔で答える。

 

 

「あ~、今連絡入れて迎えに来てもらうわ~」

 

「迎えったってそもそもおまえのトコの学園艦はどれなんだ?」

 

「ん~?あぁ、アレよ、あの白くて目立つヤツ~」

 

 

 沖合に大量に浮かぶ学園艦だがサイズがサイズなので艦型は容易に判別できる。

 その中でもサイズは一番小さいものの純白に輝く学園艦が一隻居た。

 

 

「お!お!おぉ~!」

 

「ど、どうしたのゆかり~ん!?」

 

 

 あんこう一のタフさを誇るも、さすがに疲れ切って眠い目をしていた優花里が突然復活し感嘆の声を上げた為、隣に居た沙織が驚き声を掛ける。

 

 

「あ、あの艦型は海上自衛隊のおおすみ型輸送艦ではありませんか!」

 

「イカスミ?」

 

「うぇぇ、沙織さん無理矢理ボケ過ぎ」

 

 

 そんな沙織とみほのボケとツッコミを余所に優花里のテンションは更に上がる。

 

 

「イカスミではありませ~ん!おおすみ型であります!海上自衛隊が誇る大型輸送艦で、艦尾にはウェルドックを備え二艇のエアクッション型揚陸艇のLCACを搭載しているのであります!」

 

 

 すっかり興奮しきった優花里は大きく目を見開きワナワナと震えて続ける。

 

 

「あれが三笠女子学園の学園艦なのでありますか?と、いう事はまさか…まさか!?」

 

「ええ、そうよ~、あなたが秋山さんね~?さすが詳しいわ、あなたの予想通りよ~」

 

 

 興奮した優花里の声に近付いて来たラブが声を掛けた。

 

 

「あ!あなたは厳島殿!そ、その、当時の事故の事は……私も存じております…お、お会い出来て大変光栄であります!」

 

 

 そう言うや優花里はラブにビシっと敬礼をする。

 そんな優花里に対しラブはニコニコとしながら話し掛けた。

 

 

「うふふ♪ありがと、まあ見てて頂戴、あれは中々の見ものだから。でもちょっと離れたトコに下がろうね~、物凄い事になるから~」

 

「ラブお姉ちゃんどういう事?」

 

「まあいいからいいから」

 

 

 事ここに至ってものらりくらりとかわすラブだが視線は沖合の学園艦に向いている。

 そのやり取りに集まった者達の視線が沖合に向くと純白の学園艦に変化が起こった。

 艦尾のハッチが開き、スルスルと滑らかな動きで六艇の特異なシルエットの船が続けて滑り出て、こちらを向いたと思うと轟音を上げ飛ぶ様に近付いて来るのだ。

 そして一同が呆然と見守る中あっと言う間に沼津海浜訓練場に揚陸したのだった。

 

 

「こ、これは!た、確かにLCACでありますがサイズが!サイズが大き過ぎます~!」

 

 

 ここに来て優花里の興奮も頂点に達しているがラブは至って呑気に言う。

 

 

「んふふ~♪これがウチに桟橋が必要無い理由なのよ~」

 

 

 




今回は如何に彼女達を東富士から撤収させるかでシリーズ中一番苦労した話です。
まあその分書いていて楽しくもありましたが。
最後には何かとんでもないモノも登場しましたし。

尚、週明け仕事が立て込むので若干投稿間隔が空くと思いますが御了承下さい。


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第七話   海獣

どうにか一話分加筆修正出来たのでお届けします。
まあ今回もラブはやりたい放題で犠牲者はゆかりんとエリカ♡

それとみぽりんとエリカがやらかします、お楽しみに。
更にもう一つ今回もバルンバルンですよ♪


 Landing Craft Air Cushion、その頭文字のLCACのごろ合わせから通称エルキャックと呼ばれ、アメリカを始め日本の海上自衛隊でも採用されているホバータイプの上陸用舟艇。

 最大積載量は68t程で重量約50tの90式戦車も一両であれば搬送が可能である。

 が、しかし、一同の目の前に現れたLCACはサイズが違う、優花里が言う様に桁外れにデカいのである、それが今目の前に一度に六艇も揚陸してくれば興奮するなという方が無理であろう。

 それにしてもデカい、とてつもなくデカ過ぎるのだ。

 ざっと見ても全長で90m、全幅で50m程はあろうか、本家本元のLCACが全長26.4mで全幅が14.3mなので倍処では済まないサイズであり、ちょっと艇と呼ぶには無理があるサイズである。

 

 

「プラウダのポモルニク型エアクッション揚陸艦より大きい様であります!」

 

 

 信じられないと言った様な口調で優花里が言うが周りは言葉も出ない。

 どうにかコレがとんでもないシロモノだという事が理解出来るだけだ。

 

 

「確かLCAC一艇あたりの取得費用が……」

 

「あまり難しいコトは考えちゃダメよ~、ゆ・か・り・ん♡」

 

「うひゃあぁぁぁ!!!」

 

 

 いつの間にか優花里の背後に回り込み屈んでそっと抱き付き、ちゃっかりゆかりんと呼びながら、意識的にその豊満過ぎる『エアクッション揚陸艇』を優花里の背中に押し付けつつラブは耳元で吐息を吹き掛けながら甘く囁く。

 

 

「ラブお姉ちゃん!!」

 

「あ~ん♪みほが怒った~」

 

 

 そのラブのふざけきった行動にまたしてもカチューシャが切れる。

 

 

「あ、アンタんトコ(三笠女子学園)は一体どーなってんのよ!」

 

「私コドモだから難しいコトよくわかんな~い♪」

 

「アンタ私にケンカ売ってんの!?」

 

『プっ!』

 

 

 その場に居合わせた数百人が一斉にカチューシャから目を逸らすがその肩は細かく震えている。

 

 

「全員纏めて粛正してやるー!!!」

 

 

 カチューシャの絶叫が千本浜に響き渡った処で六名の少女がこちらに近付いて来た。

 全員が揃いのマリンブルーを基調としたツナギとヘルメットを装着しているが、これはどうやら海上自衛隊のLCACの乗員が使用するエアクッション艇服装に準じた物であるらしい。

 

 

「厳島隊長、お待たせ致しました。S-LCACへの積載準備が整いました」

 

 

 六名のうちの一人が敬礼をしつつラブに報告をして来た。

 

 

「エスエルキャック…でありますか?」

 

「うん、最初はエルキャック改とかスーパーエルキャックなんて呼んでたんだけどね~、いつの間にかエスエルキャックって呼ぶ様になったのよ~」

 

 

 ラブは優花里の質問に答えるとこの六名がエスエルキャックの艇長だと説明する。

 すると六名が敬礼をしつつ自己紹介を始めた。

 

 

「皆さん初めまして私が1号艇艇長の──」

 

 

 そう言いながらヘルメットを脱いだ彼女の顔を見て、ラブと三笠女子学園の生徒以外のその場にいた者達が一斉に驚きの声を上げ目を見開いた。

 それというのも彼女の顔がまほにそっくりなのだ、髪色は水色でまほより若干長め、瞳の色は濃い目の青で背丈はまほより10㎝程低いだろうか。

 しかしその顔立ちはまほ生き写しと言っても良い位に似ていたのだ。

 

 

「私がS-LCAC一号艇艇長の宮乃杜櫻(みやのもりさくら)です、どうぞ宜しく!」

 

 

 名のり終えるとニコリと微笑みポカンとした顔のまほに握手を求め、我に返ったまほも慌ててその握手に応じ挨拶を返した。

 

「あ、あぁ、こちらこそ宜しく」

 

「驚かれました?私もよく周りからそっくりだと言われてるんですよ」

 

「そ、そうか、し、しかし…」

 

 

 そこで言い淀んだまほの視線が櫻の胸元に行く。

 

 

『私より大きい……』

 

 

 そんなまほの心の呟きを余所にその背後でエリカは頬を薄っすらピンクに染めている。

 

 

『や、ヤダ…!こんな西住隊長もいいかも!』

 

 

 そして更にその背後にそんなエリカの変化を見逃さないラブが密かに忍び寄る。

 

 

「エ・リ・カさ~ん♪お久し振り~その美貌に更に磨きが掛かっていて私も嬉しいわ~♡ナニナニ~?こんなまほもいいかもとか思っちゃったりした~?」

 

 

 そう言いながらまたも背後から抱きつき自身のS-LCACを押し付けつつ、その両手はエリカの全身の敏感な部分をサワサワと弄り始めた。

 

 

「ら、ラブ先輩!?あ…ソコは!あ…あ…だ、ダメぇ……」

 

 

 

 

 

 スパ──ン!!!

 

 

 

 

 

 ラブのお尻にみほの一回転からのミドルキックが炸裂し小気味良い音を立てた。

 

 

「み、みほ!?ナイスな蹴りよ!今日一番感じちゃったわ!」

 

『このド変態が!』

 

 

 その場に居る者全てが心の中でラブをそう罵倒する。

 一方みほはというと真っ赤な顔でラブの腕の中からエリカを奪い取るとボコの様に抱きしめ、ついうっかり、そうついうっかりと声の限り叫んでしまったのだ。

 

 

「ラブお姉ちゃん!エリカさんは私のですっ!!!」

 

『おぉ──────────っ!!!!!』

 

 

 そのみほの叫びに千本浜は感動の嵐に包まれ、お姉ちゃんなどは諦めていた娘の結婚が決まった父親の様に感涙し、小梅に背中をポンポンして貰っていたりした。

 

 

「みほ!みほ──!」

 

「エリカさん!!」

 

 

 キュンキュンな表情でエリカがみほに抱き付き、ユリユリな空気で千本浜がピンク色に染まった処で二人は周囲の期待のこもった熱い視線に気が付き慌てて飛び退いて赤い顔で俯く。

 

 

「チッ!」

 

 

 そんな様子を只独り、少し離れた場所で見ながら速記の様なスピードで何やらメモ帳に書き連ねていたアンチョビが小さく舌を打つ、どうやら今も恋愛小説を書き続けているらしい。

 ここで二人目のS-LCACの艇長が何事も無かった様に自己紹介を始めた。

 肝が据わっているのかラブが引き起こすトラブルに慣れているのか全く動じていない様子だ。

 

 

「S-LCAC二号艇ノ艇長、マリッタ・響子(きょうこ)・カンクネンとイイマス、皆ハお響トヨビマスノデ、皆サマもソウオヨビクダサイ」

 

 

 北欧系の血が入っていると思われるダークブロンドのセミロングの髪を編み込んだ深い黒い瞳の少女は、ちょっと不思議なイントネーションの日本語で自己紹介した。

 その隣で自己紹介する少女がまた違った意味でインパクトがある、楚々とした雰囲気のこれぞ大和撫子といった感じの艶ややかな長い黒髪の美少女で凡そ荒っぽい事などする様に見えない。

 しかしそんなイメージは口を開いた瞬間に綺麗に吹き飛んだ。

 

 

「アタイが三号艇を仕切ってる剣崎愛莉(けんざきあいり)、まあ宜しくたのまぁ」

 

 

 残りの三人は言うまでもなく素性が丸解りだった、何しろ同じ顔が三つ並ぶのだから。

 

 

「まあ見ての通り三つ子です、私が四号艇の艇長の鷹野雪華(たかのせっか)です」

 

「で、私が五号艇の月海(つきみ)

 

「最後が私、六号艇の花音(かのん)

 

『どうぞ宜しく』

 

 

 最後は三人シンクロして挨拶をする。

 三つ子だから同じ顔なのは当然だが緑の瞳とショートの金髪に同様のレインボーメッシュを入れているのでは見分けが付かない。

 唯一見た目で解るのは雪華が赤で月海が青、花音が緑のピアスの石の色ぐらいだ。

 そして改めて整列する六名の共通点はやっぱりおっぱいが大きい事。

 

 

『この学校みんなこうなのか!?』

 

 

 居合わせた一同そう思わずにはいられない程大きかったのだ。

 

 

「さあ、それでは積載を開始しましょう、学園艦の方で朝食の用意もしていますので」

 

 

 ここでそんな一同の胸中などお構い無しに一号艇艇長の宮乃杜が声を上げる。

 

 

「どう積み込む~?ウチらAP-Girlsは一番最後にするとして?」

 

「まず一番数の多い黒森峰から行きましょう、戦車と支援車輛双方とも多分一号艇だけで全て積めると思いますよ…うん、大丈夫全て行けます」

 

「ちょっと待って!一体一艇にどれ位積載出来るの!?」

 

 

 エリカの上げた疑問の声に宮乃杜は事も無げに平然と答える。

 

 

「逸見副隊長のティーガーⅡクラスで一度に25両積載可能ですよ」

 

「ウソ!?なんだかんだで70t超えるのよ!」

 

「ええ、問題ありません。それで二号艇にはサンダース…これも二号艇のみで大丈夫、後の聖グロリアーナとプラウダも三号艇と四号艇で行けますね。アンツィオとウチは少ないから五号艇に相乗りして六号艇に大洗と残りの支援車輛で…うん、一回で全て収容出来ますね」

 

「またとんでもないバケモノを造ったもんだな……」

 

 

 そう呟くまほの顔も若干青ざめているが気にせず宮乃杜は背後の搭乗員に指示を出す。

 

 

「それじゃあ積載を始めるよ!総員配置に付け!」

 

『Yes, ma'am!』

 

 

 指示に答え一斉に散って行く搭乗員達、それを見届け宮乃杜は微笑みつつ一同に言う。

 

 

「それでは先程の割り振りで各艇の搭乗員の指示に従い積載を開始して下さい。艦に戻ったら朝食を用意しておりますので心置きなく召し上がって下さいね。期待していいですよ、ウチの艦の食事はかなり行けますから」

 

 

 そう言うと自身も艇に戻り作業に入って行った。

 事の成り行きを呆然と見ていた一同もそれぞれの搭乗車に戻り積載に備える。

 積載を始めてからも指示は極めて的確で迅速に作業は進んで行き、搭乗員のスキルの高さをうかがい知ることが出来た、そして一時間と掛からず全ての車両の積載は完了したのだった。

 浜に溢れていた車両も全て居なくなり固定作業を待つ間、再度浜に降り立った一同は改めてS-LCACの威容を見上げ呆気に取られている。

 

 

「ウチにもコレ欲しいわ……」

 

「カチューシャ様、一艇の価格を考えるのも恐ろしいです」

 

 

 ポルモニク型エアクッション揚陸艦を運用するプラウダでもそれを六艇も導入など夢のまた夢、二人は改めて三笠女子学園の、その背後にいる厳島家の財力に戦慄した。

 

 

「それでは全作業終了致しましたので各艇のキャビンの方に搭乗を開始して下さい。座席に着いたらシートベルトを忘れずに。それと申し訳ないのですがこのS-LCACはかなり煩いので、座席備え付けの防音イヤーマフの装着をお勧めします。さあそれではどうぞ、朝ごはんが待ってますよ♪」

 

 

 最後に宮乃杜が可愛くウィンクするとそれを合図に搭乗が始まり、全員搭乗を確認した後にいよいよS-LCACのエンジンが息を吹き返したが実際とんでもない轟音であった。

 エアクッションが膨らみ轟音が更に高まると六艇が一斉に離岸を開始、しばしそのまま後退した後そのまま180度方向転換すると横並びのまま沖合の白い学園艦目指し加速を開始した。

 そして辿り着いた先でウェルドックへの進入がまた圧巻だった。

 まず三艇が横並びのままウェルドックに進入し、固定を解かれた車両に再び乗り込んだ各校の隊員が車両を前進させると、乗り込んだデッキはそのまま一艇毎のリフトとなっており、上昇したその先には広大な格納庫が待っていた。

 最初に作業を終えた三艇が一度離艦し残りの三艇が同様の作業を行うと、離艦していた三艇が帰艦し即座にウェルドックのハッチを閉鎖し驚く程の速さで全作業が終了した。

 かなりの部分で自動化がなされておりそれがこのスピードを実現させている様だった。

 それから暫くして処は変わり艦内の大食堂は、収容された全校が一堂に会しても尚余裕の広さがあり、そこに全隊員が集まり只々呆然と座っている。

 

 

「みんな~!三笠女子学園にようこそ~♪遠慮しないでいっぱい食べてね~!食事が済んだらゲスト用の宿舎が用意してあるからそこで仮眠を取ってね、ただ一つだけ申し訳ないんだけどこの学園艦まだ未完成な部分があって大浴場が使えないの。だから宿舎の部屋毎のシャワールームを使って貰える?アメニティーはちゃんと用意してあるけどゴメンね、後必要な物はゲストパスを見せれば全部無料で支給出来るからこれも遠慮しないで使ってね~♪」

 

 

 ラブはそこまで言うとパチンと手を合わせ宣言する様に言った。

 

 

「さ、それじゃ食べよ食べよ!頂きま~す♪」

 

 

 それを合図に皆それぞれセルフサービスで用意された朝食を取りにカウンターに散って行く。

 

 

「お、オイ、ラブ!ここまで大盤振る舞いして平気なのか!?」

 

 

 まほもさすがに怖気付いた様にラブに声を掛ける。

 

 

「ん~?平気平気~、今アメリカに行ってる亜梨亜ママの許可は取ってあるから~」

 

「え?亜梨亜おば様は今この艦に居ないのか?」

 

「うん、ホラ、この学園艦年単位で前倒しして開校したからさぁ、色々やる事が多くて亜梨亜ママも忙しくてアッチコッチ飛び回ってる状態なのよ~」

 

「そ、そうか……」

 

「でも帰ってきたら一番に熊本にご挨拶に行くから許してよ~」

 

「あ、ああ、解ってるよ」

 

 

 その後一同は宮乃杜が自慢した通り素晴らしく美味しい朝食を食べた後、それぞれ用意された宿舎というにはいささかか豪華過ぎる部屋に入り疲れ切った身体をベットに沈めたのだった。

 

 

 




我ながら無茶なシロモノ生み出しましたね。
登場人物も一気に増えて色々大変になって来ました。


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第八話   ラブ包囲戦

前回に引き続き今回も犠牲者はエリカ♡

しかし金持ちのやる事はホントに…。


 『東京湾の雷鳴…恐らくその正体はあのS-LCAC(エスエルキャック)とかいう揚陸艇と見て間違い無いでしょうね……』

 

 

 あてがわれた宿舎の窓辺のソファーで紅茶を口にしつつそう独りごちるのはアッサム。

 肌触りの良いバスローブに身を包み今はリボンも結んでいない。

 同室となったダージリンより一足早く目が覚めた彼女は、ベッドを抜け出すとシャワーを浴びこうして目覚めの紅茶を楽しんでいるのであった。

 朝食後にそれぞれ宿舎に移動しフロントで鍵を受け取り部屋に入ると、そこは宿舎というよりちょっとしたスイートルームの様な部屋であり、目に飛び込んで来たベッドもラブの差し金かキングサイズのダブルベッドで二人も暫し絶句したが、結局はここまでの疲れと眠気に抗う事は出来ずベッドを共にするのであった。

 

 

「しかしこの女の寝相の悪さはどうにかならないものか……」

 

 

 アッサムがダージリンより先に起きたのも、彼女の寝返りという名のラリアットを喰らったのが原因であり、今も安らかなダージリンの寝顔を見ると顔に油性マジックかなにかで落書きの一つもしてやりたい気分であった。

 

 

 

 

 東京湾の雷鳴…それは大洗連合対大学選抜戦が終わって暫くした頃の事、夜も明けぬ時間帯と日が暮れて周囲も良く見えなくなる時間帯に、時折東京湾に鳴り響く謎の轟音に付けられた呼び名の事であり、アッサムも一度だけ耳にした事があったのだ。

 当時はあまり気に留めず深く調べる事もしなかったが、今にして思えばあの音と今日聞いたS-LCACの発する轟音はとてもよく似ており、あの時調べていればもっと早くラブの存在に気付く事も出来たかもしれないと思うアッサムであった。

 

 

「良い香りね、私にも一杯頂けるかしら?」

 

 

 紅茶の香りに釣られてかダージリンも目を覚ます、まだ少しトロンとした目にこちらも解いて寝乱れた金髪に夜着代わりのキャミソールと何ともしどけない姿で実に何とも目の正月だ。

 

 

あの子(ラブ)は恐ろしく良い茶葉を用意してくれてますよ、祁門(キームン)の極品など何処で手に入れたのでしょう?茶器もウェッジウッドですし」

 

「まあ!」

 

 

 ダージリンは口に掌を当て驚いているが大げさではなく本当に驚いている様だった。

 

 

「それは早く淹れて下さいましな」

 

「はいはい」

 

 

 するりとベッドを抜け出るといそいそとソファーに座るダージリンにいつもの淑女の姿は無い。

 カップに注がれた紅茶の香りを深く吸い込み陶然とした表情を浮かべると、満足げに中身に口を付け至福の溜め息を吐く。

 

 

「で?何を考えていらしたのかしら?」

 

「東京湾の雷鳴」

 

「はい?」

 

「噂は耳にされた事もあるはずですが」

 

 

 小首を傾げ少し考える素振りを見せたダージリンも思い出したのか曖昧ながら答える。

 

 

「ええまあ…横浜に帰港した際に一度聴いた事もありましたわね」

 

「はい、あれは多分今日乗せられたS-LCACの発する轟音だったのではないかと」

 

「ちょっと待って!あれは確か大学選抜戦の終わった頃から噂になっていたんじゃ?」

 

「ええ、そうですね」

 

「それではその頃ラブは既に横須賀に居たという事?」

 

「解りません…ですがそう考えるのが一番妥当かと思われますわ」

 

 

 難しい顔をし腕を組むダージリン、脚も組んでいるので酷く行儀が悪く見えるがその姿も色っぽく見えるのはやはりダージリンの魅力という事か。

 その姿勢のまま、視線をテーブル上のティーセットの傍らのアッサム愛用のノートPCに向けるが、アッサムはというと小さく左右に首を振る。

 

 

「他愛も無い事ならともかくここは三笠女子学園の学園艦、それに纏わる事は怖くてとても迂闊に検索する気にはなれませんわ」

 

 

 いくらGI6などと言っても所詮は高校生のやる事、そうそう簡単に世界的グループ企業の厳島にちょっかいを出すなど恐ろしくて出来る事ではなかった。

 

 

「やはり後でラブの口を割らせるしか無い様ですわね」

 

 

 ダージリンがそう言うと二人は酷く面倒くさそうに首を項垂れるのであった。

 二人がそんな会話を交わしていたその頃、実は未だに学園艦は駿河湾から抜け出せずにいるのであった、厳密には三笠女子学園の学園艦はひと足早く巨大な学園艦がひしめく駿河湾から脱出していたのであったが、その他の黒森峰やサンダースなどの特大サイズ組は連盟差し回しのタグボートをもってしても回頭に時間を食い、大洗も小型ではありながら老朽艦故何かと手間が掛かっていた。

 清水港で待機していたアンツィオもとばっちりで身動きが取れず出港が遅れに遅れ、結果三笠女子学園のみが更に沖合で洋上待機して他の学園艦との合流をポツンと待っているのである。

 しかし何故三笠女子学園のみ先に脱出出来たかと言えば、そこはさすが小なりとはいえ最新鋭の学園艦であり、装備も素晴らしくバウスラスターなどをフル活用して自力回頭しさっさと抜け出してしまっていたのだが、結局他の艦が付いて来れずこの状態とあいなったのだ。

 

 

「私はこの艦の艦長で本当に良かったよ、この状況で黒森峰辺りの学園艦に乗っていたらと思うとゾッとするわ。」

 

 

 そう話すのは三笠女子学園の学園艦の艦長を任される船舶科の黒姫小町(くろひめこまち)

 藍色の長い髪を三つ編みにし背中に垂らし、涼しげな菫色の瞳が印象的な美少女だ。

 今は海上自衛隊の幹部の作業服に準じたマリンブルーの幹部の作業服を着用している。

 どうやらこの色が三笠女子学園のイメージカラーであるらしいが、その胸元はと言えばなんというか実に素晴らしい重装甲を誇っていた。

 

 

「何しろあのサイズですからね、実際黒森峰が一番手こずってる様ですよ」

 

 

 苦笑しながらそう話すのは同船舶科で副長の水上皐月(みなかみさつき)

 そしてその胸元はと言えば艦長に以下同文。

 

 

「でも一番気の毒なのはアンツィオの艦長よね、いつでも出港出来るのに航路が塞がっててずっと清水の母港で足止めでしょ?」

 

「先程も船舶無線で航路局とやりあってるのが聞こえましたよ」

 

「とにかく我々はここで待つしかないわね、でもこの分だと各艦の艦長も招いての晩餐会はこのまま駿河湾沖留めでやる事になりそうねぇ……」

 

「そうなりそうですね」

 

「ところでさ皐月、私やっぱり第1種礼装着用しないとダメ?」

 

「当たり前じゃないですか、今更何言ってんだかこの艦長様は」

 

 

 そんなやり取りをしている処に特徴的なハスキーボイスが声を掛けた来た。

 

 

「小町ちゃ~ん♪今どんな感じ~?」

 

「やあ厳島隊長、ブリッジにようこそ」

 

「やっぱここは良い眺めよね~♪で、ど~お?」

 

「今副長とも話していたのですがウチ以外はまだ脱出は無理です」

 

「え~?パーティーど~しよ~?」

 

「とにかく待つしかありませんが、各艦で居残り待機しておられる戦車隊の皆さんは先に当艦にお招きするとして、艦長の皆さんはこちらに集結後に改めて迎えを出すしかありませんね」

 

「そっか~、解った~。じゃあそれは小町ちゃんにお任せしてい~い?」

 

「はいそれで大丈夫ですよ」

 

「それじゃ~宜しくね~♪」

 

 

 ラブはそう言うとご機嫌でブンブン右手を振りながらブリッジを後にする。

 

 

「いつも以上にお元気でおられましたね」

 

「ああ、やはり嘗ての御友人方と再会出来たのが何より嬉しいのだろう」

 

 

 そう言うと小町と皐月も微笑んで頷き合うのだった。

 そしてここで舞台は再び宿舎のとある一室に移る。

 その部屋もダージリン達と同様な部屋で更に大きなベッドが据えられていた。

 この特大ベッドの真ん中でエリカは結局一睡も出来ず、その目を赤く血走らせているのだった。

 何故なら──。

 右の腕にはみほが、左の腕にはまほが、それぞれが己が腕を絡め実に幸せそうに安らかな寝息を立てているからに他ならなかった。

 

 

『眠れない…眠れる訳が無い!この状況でどうして眠れるっていうのよ~!?』

 

 

 部屋の割り振りでラブが実に人の悪い笑みを浮かべていたので嫌な予感はしていた。

 しかし実際に部屋に入りベッドを見た瞬間その予感は現実のものとなった。

 西住姉妹と一緒に寝る…しかも一つのベッドで一緒に!

 みほなどは大きなベッドで一緒に寝る事に、早朝の一件を開き直ったのか忘れているのかはしゃいでいるし、まほはまほで仕方あるまい何か不都合があるかと平然としていたのだ。

 そしていざベッドに入るとなると何故か自然にエリカは真ん中に挟まれ川の字で寝る事となり、最初は穏やかな小川であったが数分もすると左右から腕を絡ませ二の腕には柔らかな感触が、掌に至っては二人の秘密の場所に押し当てられるという激流に飲み込まれて行った。

 

 

『二人と本当に寝ているの!?それともワザと!?ねぇ!ワザとなの!?』

 

 

 エリカ天国と地獄の一幕であった。

 一方他の部屋ではそろそろ起き出して活動し始める者も出始めており、全て無料のゲームコーナーでゲームに興じる者、宿舎の地下に当たる階層にある50mプールで泳いだり、併設されているジャグジーやサウナでリフレッシュしたり様々に楽しんでいる。

 そんな中みほを欠いたあんこうチームの部屋でも珍しく麻子も含め全員が起きていた。

 フロントフロア併設のコンビニで沙織が調達して来たスイーツ類を貪っている処を見ると、小腹が減って目が覚めたというのが妥当な線かもしれない。

 

 

「それであの厳島さんという人は一体どういう人なんだ秋山さん?」

 

 

 生クリームたっぷりなプリンを頬張りつつ聞いて来る麻子のほっぺには生クリームが付いている。

 

 

「んも~!麻子ったらお行儀悪いよ~!」

 

 

 沙織はそう言いながら麻子のほっぺの生クリームをナプキンで拭いている。

 

 

「自分も詳しくは存じません、ただ西住殿の姉上殿と同い年で中学時代は対等かそれ以上に渡り合っていたと記憶しております。」

 

「え~みぽりんのお姉さんと~!それって凄くな~い!?」

 

「ええ、それ処か今回行動を共にしている各校の隊長の方達ともそうでありました」

 

「優秀な方でしたのね」

 

 

 凄い勢いでポンポンとミニシュークリームを口に放り込みつつ華が口を挟む。

 

 

「んも~!華までお行儀わるい~!」

 

「はい、将来を嘱望されていて注目度はある意味では姉上殿以上だったかもしれません」

 

「そんなに凄かったのか…」

 

「ええ……ですが中学三年の全国大会の直前に榴弾の暴発事故がありまして……」

 

「そのニュースなら何となく覚えていますわ、随分騒ぎになっていましたし。尤もあの頃は自分が戦車道に関わるとは夢にも思いませんでしたけれど」

 

「その事故以降厳島殿の名は一切表に出る事は無くなりました…そう、昨日の観閲式までは……」

 

「そうだったのか…でも一体どんな事故だったかいまいち思い出せないんだが」

 

「それは──」

 

 

 優花里は当時の様子を記憶を探りつつ説明を始めた、そして聴き入る一同も砲塔内で榴弾が爆発するという事がどういう事態になるか想像し、青ざめた顔で身震いするのだった。

 

 

「私もそこまで詳しくは存じ上げませんでしたが、後は西住殿が大戦車行列の中でポツポツと話された通りな様です」

 

「そうだったんですか、みほさんにはさぞ辛い事だったのでしょうね……そう考えれば朝のあのはしゃぎようも納得が行きますわ」

 

「五十鈴殿ぉ、あれははしゃぐのとはちょっと違うのではぁ…」

 

「しかし東邦火箭(かせん)と言ったか、随分酷い会社があったものだな」

 

「はい、一時経営陣は行方不明、結局社長は逃亡先の東南アジアで身柄を拘束されましたから」

 

「増々もって許せん話だ」

 

 

 麻子にしては珍しく感情的な物言いをするがそれだけ衝撃的な話という事の表れだろう。

 だがここで重くなった空気を払拭しようとするかの様に沙織が口を挟む。

 

 

「でもでもぉ、あの厳島って隊長さん美人よねぇ、おまけにあの抜群のスタイル!どうやったらあんなスタイルになれるのかなぁ?」

 

「よせ、そこで想像するな、自分が虚しくなる」

 

 

 麻子が自分の胸元を覗き込みつつ仏頂面で静止するが沙織は止まらない。

 

 

「え~!?だって美人でスタイルが良くて戦車道の隊長で更にアイドルだよ、気になるじゃ~ん!」

 

「自分はそちらの方は疎いのでありますが中学生の頃から大人向けのファッション雑誌でモデルをやっていたそうで……」

 

「すご~い!私もAP-Girlsにスカウトされたりしないかなぁ?そうしたら私もアイドルになってファンにモテモテでやだも~♪」

 

「沙織さんに限ってそれはありませんわ」

 

「あ~!華ひ~ど~い~!」

 

 

 相変わらず沙織にだけは辛辣な物言いをする華であった。

 いつもの様にそんなオチが付いた処で部屋の内線電話の呼び出し音が鳴る。

 

 

「はい、あぁ、西住殿おはようございます…と、言うのもおかしな時間でありますね。はい、はい、そうですか、了解致しました。ええ、では後程」

 

「みぽりんから?」

 

「はい、今夜は厳島殿が我々の為に晩餐会を開いてくれるとの事でその連絡です。ですので時間まで出来れば宿舎で待機していて欲しいとの事であります」

 

「まあ!朝食も大変美味でしたのでそれはとても楽しみですわ♪」

 

「五十鈴さん、もうシュークリームはそれ位で控えておいた方がいいと思うぞ」

 

「あら、これ位なら何も問題ありませんわ」

 

 

 そう言うや華は最後の一個を口に放り込み両のほっぺをニコニコと押えるのだった。

 麻子がそれを見てやれやれといった顔をしていたその頃、ブリッジでは艦長の黒姫小町が他の学園艦に対し迎えのヘリを出す指示を出していた。

 

 

「そうだ、CH-53Eは六機全部出す。何しろ人数が人数だ、それでも各艦回ればそれなり時間が掛かるからな。ああ、順番はそちらに任せる、宜しく頼むよCAG(キャグ)

 

 

 艦内電話で艦載航空戦力を束ねる航空団司令にGOサインを出すと、CH-53Eの発艦に向けブリッジもにわかに忙しくなり始めていた。

 その後六機のCH-53Eが日が傾き始めた空に一斉に舞い上がった頃、隊長達は宿舎の最上階のカフェラウンジに参集しその様を眺めている処だった。

 

 

「今度はスーパースタリオンが六機か…」

 

「もうイヤ、このガッコ……」

 

 

 まほの呟きにカチューシャが涙目で続く。

 

 

「全くもってUnbelievableね!」

 

「この分だと次はオスプレイ辺りが出て来そうですわ」

 

 

 そう続くケイとダージリンの言葉に、お茶でも一緒に飲もうと誘い出されたラブが実にさり気なく何でもない話の様に答える。

 

 

「あ~、亜梨亜ママはその件の最終調整で今アメリカに行ってるのよ~」

 

「何ですってー!まさかスーパーオスプレイとか言わないでしょうねー!?」

 

「さすがにそれは無いわよ~カチューシャ」

 

 

 もう何が出て来ても驚くものかと一同心に決めるのだった。

 

 

「さて、それでは始めるとするか」

 

「なにを~?」

 

 

 まほのわざとらしさのこもった宣言にラブは呑気に質問する。

 

 

「軍法会議だ」

 

「査問委員会かな?」

 

「公聴会かしら?」

 

「軍事法廷ですわ」

 

Questioning(尋問)に決まってるわ!」

 

「懲罰委員会ね」

 

「粛正よ!」

 

「さあラブ…」

 

「好きなモノを選びたまえ!」

 

 

 最後にノンナとアンチョビに詰め寄られラブはソファーの上で後ずさりながらとぼける。

 

 

「え~?なに?なんのこと~?」

 

『後で追々って言ったよな!?』

 

 

 全員に睨まれラブは消え入りそうな声で答えた。

 

 

「お、お手柔らかにね……」




今週はやはり忙しく投稿ペースも落ちましたね。
これからもこういう事が時々ありますが宜しくです。

現在AP-Girlsのラブと愛以外のメンバー23人のネーミングで地獄を見てますw


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第九話   三年の空白は衝撃と共に埋まる

どうにか一話お届けです。

今回は三笠女子学園の存在理由が明らかに…。


『どうやってごまかそうかなぁ……』

 

「お前今どうやってごまかそうかなぁとか考えてただろ?」

 

 

 アンチョビが指揮用鞭でビシッとラブを指し鋭く指摘する。

 ラブは愛想良くブンブン首を振って否定するが誰も1㎜も信用する者はいない。

 

 

「えっと、何処から話そうかな~って考えてただけでぇ……」

 

『ウソつけ!』

 

 

 全員の視線がそう鋭くツッコんでいる。

 いよいよ窮地に立たされたラブはどうにか逃げ場は無いかと辺りを見回すが、座らされているのはロングソファーの角で周りを囲む様に座られ完全にNo Way Outで逃げ道は無い。

 

 

「ねぇラブ……」

 

 

 いきなり隣に座っていたダージリンがラブの膝に腰掛け首に両の腕を回して来る。

 そして熱のこもった視線で色っぽく見上げる様に見つめて来た。

 

 

「なになに?やっとダージリンもその気になってくれたの~♡嬉しいわ~♪」

 

 

 どうにか逃げる口実にならないかとラブもすかさずそれに喰い付いたが、ダージリンが首に回した手の親指をジワジワとラブの喉に押し付け始めると少し苦しげに質問した。

 

 

「え?なに?少し苦しいんだけどダージリンはそういうプレイがお好みなのかな~?」

 

「おとぼけにならないで!あなた知波単の()()さんと一体どういう御関係なのかしら!?」

 

『いきなりソコからかよ!?』

 

 

 全員の心のツッコミを気付かないフリをしてダージリンは続ける。

 

 

「私すぐ後ろで見ていましたのよ、観閲行進であなたに微笑んで敬礼する絹代さんとそれに小さく両手を振り返すあなたの事を!あれは一体どういう事なのかしら?説明して下さるわよね!?」

 

 

 ここでさすがに堪り兼ねたアンチョビがこめかみに指を当てつつ口を挟む。

 

 

「あのなダージリン気持ちは解るが大事なのはソコじゃない、それは後にしてくれんか?それも当事者同士で個人的にな」

 

 

 ダージリンも一瞬キッとした表情になるがフンっと鼻を鳴らすと渋々ラブの膝から降りた。

 

 

「千代美ぃ…」

 

「アンチョビだ!それより!」

 

「えっと……どこから…?」

 

「三年前のあの日からだ!」

 

 

 もう既に嫌になったといった表情でアンチョビもソファーに腰を落とす。

 それを見てやっとラブも少しづつ口を開き始めた。

 

 

「えっとね…あの時は私も頭の中がグチャグチャでよく覚えてないの…でも何度か手術を受けたけど国内では難しい部分があってね…それで亜梨亜ママがアメリカのお医者さんにお願いして向こうで治療を受ける事になったの」

 

 

 そこまで話すとラブは目の前のコーヒーカップを手に取り弄ぶ様に中身を揺らす。

 隣に座っていたダージリンが今度は優しく先を促す様に膝に手を添える。

 

 

「それでね、アメリカに渡ってから暫くは手術とリハビリが続いたの。でもその頃は学校に行けなかったから…その代りにって亜梨亜ママの会社の研究所の先生達が私の勉強を見てくれてたんだ。でもね、周りには誰も友達は居ないし寂しくて毎日がつまらなかったの…気が付いたらもう年も変わって春になっていてみんなももう卒業してるんだって悲しくて毎日泣いてたと思う……」

 

 

 ここでコーヒーを一口飲みカップをテーブルに戻し、ふと視線を周りの巡らすとその場にいる一同静かに涙を目に貯めており、何も言えずにいるとダージリンがそっと抱きしめ言葉を絞り出す。

 

 

「もういい…もういいですわ、私達のエゴをあなたに押し付けてまた辛い思いを──」

 

 

 そのダージリンの言葉を遮る様にラブは続ける。

 

 

「ダージリン…ありがと……でもね、これは話さなければいけないの、そうしないと私達の空白はいつまでも埋まらないから…それでその頃かな?衛星放送でたまたま日本の局の高校戦車道特集の番組が目に入ったの。そうしたらみんなが映ってて今年のルーキー達は目が離せないって言ってて…でもその中には私はいなくって……でもね…でもね、みんなが戦車を駆る姿を見たらね、ずっとそんな気持ちが湧かなかったのにまた戦車に乗りたいって気持ちが心の中に湧いて来たの」

 

 

 そう話すラブは左腕に付けられたラブの象徴である、ハートに徹甲弾のパーソナルマークのワッペンを大事そうに撫でさすり更に話を続けた。

 

 

「それからどれ位だったかな?多分夏前だったと思う…亜梨亜ママにね、もう一度戦車に乗りたい、もう一度Love Gunに乗りたいって話したんだ。そうしたらね、最初は亜梨亜ママも驚いてたけど私が本気だって解ってくれて『その決意が揺るがないなら最初の扉は私が開きましょう』って言ってくれたの。そこからは話がどんどん進んで行ってあっと言う間だったな、私もそれまで以上にリハビリも頑張れたし。それで大幅に前倒ししてこの学校もこの春に開校する事が出来たんだよ」

 

「つまりこの学校はラブの為に創られたって事なのか……?」

 

 

 余りにも話のスケールが大き過ぎ、日頃クールなナオミが若干顔を引き攣らせつつ聞く。

 

 

「あの、別にそう言う訳ではないんだけどね、元々学校を創る計画はずっと前から進んでて、その頃には学園艦も殆ど完成していたし。ただその大元はね、小さな頃に私が言った事が関係してるらしいんだけどね……」

 

「それってどんな事言ったのよ?」

 

 

 ここで少し言葉を濁すラブにカチューシャが少し身を乗り出して聞いて来た。

 

 

「え~っとね、ホント小さい頃の事なのよ、将来の夢とかをね…その、親や周りから子供って聞かれたりするじゃない?」

 

「まああるわよね、それでなんて?」

 

「いやまあだからホント小さな子供の言う事なのよ…その…戦車に乗ってお歌を歌うのって…」

 

 

 ラブはそう言うと顔を赤らめ恥ずかしそうにその身を小さくする。

 

 

『え゛……!?』

 

 

 これにはさすがに一同揃って目を見開いて絶句してしまった。

 

 

「だからホント子供の言う事だったんだってば~」

 

「す、すると何か!?こ、この学校は子供の頃のお前の夢を叶える為に創られたって事なのか!?」

 

 

 アンチョビも口角をヒクヒクさせつつそう尋ねるのがやっとだ。

 

 

「いやね、だからたまたまそういうタイミングになっちゃっただけなのよ、そもそも芸能科も私達の歌唱部…まあ平たく言えばアイドル活動だけどそれだけじゃなくて、舞台芸術や日本の伝統芸能なんかも力を入れててね、それらを世界レベルに広める土台作りの場としての教育機関作りをするっていうのが、学校創設に当っての亜梨亜ママというかグループの基本理念なのよ」

 

 

「それにしたってオマエ……」

 

「まあ確かにね…それとね、これからの厳島流の事もあったしね」

 

「それは一体どういう事ですの?」

 

 

 まだ信じられないといった顔をしつつもアッサムが聞いて来る。

 

 

「んっとね、昔も話したと思うけど厳島流って身内だけで継承して来たでしょ?でもそれも今戦車に乗ってるのは実質私だけなの。亜梨亜ママも子供の頃の私に手解きしていた頃以降、もう殆ど乗っていないのよ。今はグループの最高責任者で忙しいし、他の親族も同じ様にグループのビジネス一辺倒で厳島流のいの字も無い状態なの。だけど私はそれが悲しかったの、このままいつか私の大好きな厳島流が消えてしまうのが。そう思っていたら亜梨亜ママがね、『それならばいつの日か身内に限らず厳島の門戸を開いて()が継承者を育てる場を作ればいい』って言い出したのよ」

 

「そ、それってやっぱりラブお姉ちゃんの為にこの学校創ったって事なんじゃ……」

 

 

 西住流直系のみほもさすがに言葉が震えている。

 

 

「それでそのね…」

 

『まだ何かあるのか!?』

 

 

 一同が揃って唾を飲み込む。

 

 

「アメリカに居た頃に亜梨亜ママが時間を作って私に最終的な指導をしてくれたのよ、それでこの笠女に入学する直前に親族会議が開かれて満場一致で私が厳島流の家元を襲名したの」

 

『え゛ぇ゛ぇ゛────────────っ!!!!!!』

 

 

 これにはとうとうその場に居たラブ以外の全員がソファーから転がり落ち、頭には見えない白旗が揚がっている。

 

 

「イタタ…こ、腰が……」

 

「きょ、今日一番の直撃を喰らいましたわ!」

 

「Goddamn!す、脛を打ったわ!」

 

「ば、ばばばば、バカモノ~!それを先に…!」

 

「精神的大粛清だわ!」

 

「ふぇぇ!じゅ!十代の家元ぉ!?」

 

「お、お母様が知ったら!」

 

「☆ДΩШって※◎⊆∥▼!!!」

 

 

 もう最後は誰が何を言ってるのか解らない状態になっているが、これだけの爆弾を投げ込まれたらそれもまあ無理なからぬ事ではあるのだが。

 その後どうにか全員がソファーに這い上がったが、すっかり荒くなった息を整えるのに途轍もない苦労を強いられている様子だった。

 そんな中で息も絶え絶えながらまほがラブに言う。

 

「ゼェ、ゼェ…ら、ラブよ…オマエ私らをどんだけ振り回せば気が済むんだ……?」

 

「何もそんな驚かなくたっていいじゃな~い」

 

『戦車道やってる者がコレに驚かなくて何に驚くんだ!!!!!』

 

 

 とうとう全員がブチ切れて一斉にラブをどやし付けた。

 

 

「だってぇ……」

 

「そうよ…そうですわ…この子は昔っからこういう子でした…わ!!!」

 

「散々人を泣かせておいてオチがコレか……」

 

 

 こめかみに青筋浮かべたダージリンに続きアンチョビがぐったりしたまま力無く呟く。

 

 

「ラブお姉ちゃん…もう他に無いよね!?」

 

「みほまでそんな怖い顔でぇ…」

 

「洗いざらい白状しようか!?ラブお姉ちゃんのそういう処は信用出来ないの!」

 

「もう無いわよ~」

 

 

 全員が疲れ切った表情でソファーに座り直しているが一様にその髪は乱れている。

 ラブはその様子を上目使いで伺いつつおずおずと口を開く。

 

 

「もう…いいよね?」

 

 

 一同からあまり宜しくない視線が帰って来てラブはまたその身を小さくした。

 そのラブに片方解けてしまったリボンを結び直しつつアンチョビが更に質問する。

 

 

「まあ…それはいい、いや良くないが…とにかく事情は理解した。だがな、春に開校していながら何故これまで何処にも姿を現さなかったんだ?オマエとあのAP-Girlsなら、例え五両とはいえ全国大会でも結構いい処まで行けたんじゃないか?それになんだ、厳島の財力なら更に戦力の増強だって可能だろうに。その辺はどうなんだ?」

 

「あ~、それはね…文科省…学園艦教育局が関係しているのよ」

 

「それはどういう事だ?」

 

「えっとまずね、学校自体はそれまでの準備もあって前倒しでも春からの開校許可は下りてたの、連盟への登録と防衛省、この場合は陸自の弾薬使用許可も取れてたんだけどね。でも肝心の戦車道の履修許可が下りなかったのよ。これはね、みほの居る大洗の廃校騒ぎ…ううん、大洗以外で既に廃校になってしまった学校も含めた一連の騒動の余波だったみたいなの」

 

「なんだそれは?」

 

「うん、あの眼鏡の教育局長、辻っていったっけ?あの男は早くから廃校に向けて動いてたらしくて、それに意識が向き過ぎてその分他の事が疎かになっていたのね。内部でも問題視されてたみたいだけどああいう世界は下からそれを追及する事は中々出来ないし、上は上で甘い汁吸ってるから何があっても黙認していたみたいだし…そんな訳で平たく言うとウチの事は忘れられてほったらかしにされてたって事なのよ、何度も履修許可の申請してたのにね……ホントお金って怖いわ」

 

 

 この呆れた話に一同開いた口が塞がらないがそれでもどうにか先を促した。

 

 

「それで開校してからも許可が出ないと公式戦はおろか練習試合も出来ないし…それで国内に居てもしょうがないから、伝手を頼って学園艦ごとアメリカに行って向こうで訓練したりしてたのよ」

 

「その伝手というのは一体?」

 

 

 訝しむ表情のノンナが問うと少しだけ言い難そうにラブは答える。

 

 

「米海軍横須賀基地(ベース)指令のアリスタ・キャンベル少将……」

 

『なっ!』

 

 

 飛び出た名前にダージリンとアッサムが揃って驚きの声を上げた。

 

 

「笠女の地上施設ってね、間借りというかベースの中にあるのよ。だから一応桟橋もベースの外れに造らせてもらったの、勿論費用はウチで出してるんだけどね。それでという訳でもないんだけど笠女って半分アメリカンスクールみたいな存在なの。あ…そのキャンベル少将がね、宙ぶらりんで途方に暮れてる時にね、『それならアメリカ本土で訓練すればいい』って亜梨亜ママに助け船を出してくれたって訳なのよ」

 

「What's!?まさか…!」

 

 

 ケイが嫌な予感がすると言った顔で声を上げた。

 

 

「うん、ケイの想像は当ってると思うわ」

 

「じゃあ!?」

 

「そう、私達ヤキマに居たの」

 

 

 ヤキマトレーニングセンター(通称YTC)、あるいはヤキマファイアリングセンター(通称YFC)。

 日本ではヤキマ演習場と呼ばれるワシントン州はヤキマ群にある米軍最大の演習場である。

 その広さは324,000エーカー(約13万ヘクタール)と言われており、日本の陸上自衛隊もヤキマにて国内では行えない演習を実施しているのだ。

 東富士も広大とは言え噴進弾など最大射程の長い物は全力で撃てない、通常弾でさえ減薬して使っていると言われている。

 何しろ墳進弾などは東富士から全力で撃った場合軽く熱海にまで到達する射程を誇るのだから。

 

 

「YTC!really!?」

 

「うん、本当よ。そこでずっと訓練していたのよ、時々あっちの陸軍さんが暇潰しだ~!って私達の訓練相手してくれる事もあったわ」

 

「なんて羨ましい話なの!」

 

 

 ナオミまで興奮気味に言うがラブの顔色は何故か冴えない。

 

 

「Ⅲ号みたいな小っちゃいので砂漠中エイブラムスなんかに追っかけ回されてみなさいよ、堪ったもんじゃないわ…イギリスから訓練に来てたチャレンジャーにもやられたわ……」

 

「それはちょっとイヤかも……」

 

 

 ケイも我が身に置き換えて想像したのか嫌そうな顔をする。

 

 

「あの頃ヤキマじゃ一列縦隊組んで走ってると、陸軍さんから子ガモ小隊なんて呼ばれてたっけ」

 

 

 その呼び名にみほがクスリと小さく笑う。

 

 

「ソコなんだよ、さっきも聞いた様にⅢ号以外にももうちょっと何とかならなかったのか?」

 

 

 身を乗り出しアンチョビが再びたずねるがラブは再び渋い顔をする。

 

 

「Ⅲ号は元々国内調達していたの、向こうで他を探しても良かったけどアフターサービスとか色々考えると後々面倒になるしねぇ…勿論元々調達予定はあったんだけどね……」

 

 

 そう話しながらラブはみほとまほの顔をチラチラと見ていた。

 

 

「私達がどうかしたか?」

 

 

 みほと顔を見合わせた後まほが聞いて来た。

 

 

「そのね…言い難いんだけど大洗と黒森峰が関係してるんだ……」

 

「どういう事だ?」

 

「AP-GirlsがⅢ号に慣れて来た頃にパンターG型を2両導入する予定だったの。それ以前から仮押さえはしてたんだけど、ちょうどその頃に大洗の快進撃が始まってにわか履修校が増えだしたじゃない?それでね、業者が便乗値上げ始めて当初価格より大幅に上乗せした金額提示して来たのよ。そりゃウチは恵まれてる方だけど、年度予算ってモノがあるしもう見合う価格じゃなくなってたのよ…それでね躊躇してたら大学選抜との一戦の後にね…黒森峰が言い値で買ってっちゃったの…二両共……」

 

「あっ!!」

 

 

 まほには心当たりがあった、思い切りあった…。

 そう、それは大学選抜との戦いを終え帰投してからの事、カールに吹き飛ばされたパンター二両は当初予想以上に損傷が酷く、急遽二両のパンターを購入していたのであった。

 

 

「そんな…!じゃあウチに来たあのパンター二両は……!」

 

「うん…笠女が仮押さえしてたやつ……」

 

 

 ちょっとショボンとしたラブを見たみほとまほは、大慌てで立ち上がると米つきバッタ宜しくペコペコ頭を下げ始めた。

 

 

『ゴメンナサイゴメンナサイ!姉妹揃ってゴメンナサイ!!』

 

「あ、ああこっちこそゴメンね、二人は何も悪くないわ。最近やっと連盟始め関係各組織が過剰な便乗値上げに対して動き出したからもうじき落ち着くと思うから」

 

「お姉ちゃん…」

 

「うん……」

 

「私の言い方が悪かったわ、ホント二人共気にしないで」

 

「ああ、しかし…」

 

「大丈夫よ、何とかなるから」

 

「そうか……」

 

 

 ここで話を切り替える様再びアンチョビが聞く。

 

 

「そういう事情もあったか。だがラブ、あのⅢ号も只事じゃないぞ、確かに相当訓練も積んで来た様だがそれだけじゃあの動きは無理だ。一体何をやったんだ?」

 

「あ~、それはそんな特別な事はしてないのよ、所謂『魔改造』なんてしてないわ。横須賀に陸上自衛隊高等工科学校があるのは知ってる?あそこはね文科省の管轄外なの。それで高校の卒業資格を取得するのに…まあ笠女も普通じゃないから無理があるけど、普通高校と提携して高卒資格を取るのよ。それを利用してウチとも提携してもらってその見返りに技術供与をお願いしてるの」

 

「あの手この手だな…で?具体的には?」

 

「最初に言った様に難しい事じゃないの。普通戦車買ったらどうする?まず使ってみて、問題点を洗いだして規定範囲内で改造したりはするよね?でもウチでは最初から全部見直したの。部品一つ一つもね、噛み合わせとかあるでしょ、そういった部分を徹底的に。それこそ鏡面仕上げとかそんなレベルで。でも元々が古い設計思想だから限界はあるわよね、そういう部分は現代の工作技術で材質を置き換えたり造り直して部品精度も上げたりしたの。勿論それは規定を逸脱しない範囲でやってるわ、後多少の改造もしてるけどね。そうして組み上げた戦車はどうなると思う?ギリギリの改造しなくたって存分に力を発揮してくれるわ。だから笠女はね、隊員も戦車もちょっとやそっとじゃへこたれないの」

 

「それはもう充分普通じゃないぞ…むしろ普通じゃそこまで出来ん事だろ……」

 

 

 話を聞いてアンチョビの顔色も青ざめている。

 三笠女子学園の、いや、改めて感じるラブの、厳島恋の底の知れなさに。

 

 

 




う~ん、なんか色々とんでもない事になって来たなぁ…。

因みに作中登場する工科学校はそんな事する科はありませんw


なお、今週あまり投稿出来ないかもしれませんが宜しくです。


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第十話   ドゥーチェがドゥーチェたる所以

この雪のせいで午後の打ち合わせがキャンセルになって、
原稿校正する時間が出来ました…いいのかこれで?
まあこの天気で東京から横須賀なんか来たくないよね。

今回は恐るべしドゥーチェという展開かな?


追記

第七話の海獣においてS-LCACに戦車を積載する場面で、
「六号艇に大洗と残りの支援車輛で」の部分で肝心の大洗が抜けていました。
修正致しましたので宜しくです。


「あの…今度こそもういいよね……?」

 

 

 そう言ってラブは立ち上がり掛けたが、ダージリンによってパンツァージャケットの裾を掴まれて強引にソファーに座らせられる。

 

 

「ま・だ・一・番・大・事・な・話・が…残ってますわ!」

 

『一番大事じゃね~だろ、この色ボケ女……』

 

 

 全員そう思いはしても決して口には出来ない…口にすれば面倒な事になるのが解ってるから。

 

 

「えっと…なんだっけ~?」

 

『だからお前も火に油を注ぐな!』

 

 

 なおもシラを切ろうとするラブに皆の心のツッコミは止まらない。

 案の定ダージリンの目じりはつり上がりラブの襟元を掴み前後に揺さぶり噛み付いた。

 

 

「あの()()()()との気安い挨拶は一体なんですのと聞いてるんです!」

 

「あ、あぁ、アレ?き、絹代ちゃん良い子よね~♪」

 

()()()()()!?()()()()()ですって~!?」

 

「あ……」

 

『学習しろよ……』

 

「いい加減白状しなさいな!それに東京湾の雷鳴!あれはあなたの仕業でしょ!?」

 

「東京湾の…何ソレ?」

 

 

 ここで溜め息を吐いたアッサムが口を挟んだ。

 

 

「知らぬは本人ばかりなりですわね…ラブ、あなた達は大学選抜戦が終わった頃から人目に付かぬ時間帯に東京湾をS-LCACで行き来していたでしょう?私達も横浜に帰港した際に、一度あの轟音を聴いているの。かなり噂になっていたのよ、それにあれは今日搭乗したS-LCACの音にとてもよく似ているわ。東京湾の雷鳴と知波単、何か関係があるのではなくて?」

 

「やっぱりアッサムは手強いなぁ……」

 

「何か言いまして?」

 

「いえ別に…」

 

「それで?」

 

「えっと……」

 

 

 そこで言い淀んだラブはチラリとアンチョビに視線を向けたが即気付かれる。

 

 

「私がどうかしたか?」

 

「あのね、怒らないで聞いてくれる?…千代美」

 

「アンチョビだ!」

 

「ううん…出来れば千代美として聞いて欲しいの」

 

「なんだそれは?」

 

 

 少し俯いたラブは若干気まずそうに話し始めた。

 

 

「確かにその…東京湾の雷鳴だっけ?それはウチのS-LCACの音だと思う。時期も間違いないわ、ちょうどその頃私達だけ先に日本に戻って来たから。S-LCACの航続距離ギリギリまで学園艦で来て夜間にベース入りしたのよ。さっきも言った様に文科省の履修許可が下りていない以上、あまり大っぴらに動くのもまずいと思ったからね。」

 

 

 ここで顔を上げ一同を見回すと皆真剣に聞く姿勢を見せている。

 

 

「戻って来た理由はいくつかあって、これはその事とは関係無いんだけどね。それでその時に後から社用機で戻って来た亜梨亜ママと久しぶりに横須賀市街に出た時にね…千代美本当にごめんなさい…偶然にもお会いしちゃったの……横須賀警察署の……敷島(しきしま)さんに……」

 

「英子姉さん!?」

 

 

 敷島英子(しきしまえいこ)、嘗て榴弾暴発事故が起きた際に捜査を担当し、横須賀に駆け付けた千代美と不思議な縁で結ばれた横須賀警察署の切れ者で、更には高校時代は知波単戦車隊の隊長として上総(かずさ)の大猪、鬼敷島と呼ばれ勇名をはせた人物である。

 ここに居る一同も浅からぬ縁があり決して忘れられぬ名前であろう。

 

 

「出会ったのは本当に偶然だったの。先に敷島さんが私達に気付かれてね、敷島さんも大変驚いてらして…私は初めてお会いしたのだけど、亜梨亜ママと二人当時の事をお詫びさせてもらったの。そしてその日の夜お食事をご一緒させて頂いたんだけど、その時に話の流れで履修許可が下りず国内で練習も試合も出来ない事を話したら、それなら知波単とやればいいと西隊長を紹介して下さったのよ」

 

「そんな…英子姉さん私には一言も……」

 

「何度も言うけど本当にごめんなさい、私達からこの件に関しては固く口止めさせて頂いたの。何故ならまだみんなを巻き込みたくなかったのよ…笠女はその時はまだ微妙な立場だったしみんなの所も大学選抜戦で色々あったでしょ?だからウチに関わってまた迷惑を掛けたくなかったのよ」

 

 

 そう言うとラブは千代美に、そして一同に深々と頭を下げるのだった。

 そんなラブの頭を撫でながらダージリンが優しく語り掛けて来た。

 

 

「本当に馬鹿な子ねぇ、そういう事なら直ぐ近くに居る私達(聖グロ)に声を掛ければ良かったのに。立場で言ったらそれは絹代さんだって一緒でしょうに」

 

「ううん、それは違うわダージリン、違い過ぎるのよ。みんな知波単と言えば吶喊のイメージばかり先行すると思うけどよく考えてみて。あそこに居るのは良家名家の御息女ばかり、その家柄だけではなく政界財界に官僚、特に防衛や警察なんかにも多くの人材を輩出しているの。だから学校としての政治力で知波単に敵う学校は無いわ、そういう意味で云わば知波単は不可侵の聖域なの。迂闊に介入すれば当人だけの首が飛ぶ位では済まされないのよ」

 

 

 日頃どちらかと言えば下に見ていた知波単や、豪快にカンラカンラとよく笑う絹代のイメージとあまりにかけ離れたラブの話に一同困惑の色は隠せない。

 

 

「それが解っているからこそ敷島さんも知波単の西隊長を紹介して下さったのよ、お会いした西隊長も快諾して下さって私達もやっと国内練習が実現したのよ」

 

 

 ここでラブは千代美を見つめると再び頭を下げ話を続けた。

 

 

「だからね、千代美もどうか敷島さんを責めないであげてね、悪いのは私だから」

 

「解ってるよ、だからもう頭を上げてくれ、英子姉さんは常に先を見越して動く人だから」

 

「でも一番の恩人の千代美を騙す形になって私……」

 

「いいんだよ、これまでお前がどれ程苦しんで来たかに比べりゃどうって事ないさ」

 

「…ありがとう……千代美……」

 

「しかしなぁ…」

 

 

 ここでまほが首を捻りつつ不思議そうに声を上げる。

 

 

「そんな知波単で隊長まで務めたあの敷島刑事と言う方は一体…?」

 

「え?みんなまだ気が付いてないの?ねぇ、今の警視総監の名前は?」

 

「そりゃお前……!!!」

 

『え?え!?え゛────────!!!!!』

 

「ホントに知らなかったんだ…敷島家も代々警官一家で上層部に多く人材を輩出されてるそうよ、あの方も今は地元で武者修行の身だと仰ってたわ。亜梨亜ママに後で聞いたら将来は初の女性警視総監になるのではという程の逸材でいらっしゃるそうよ」

 

「え、英子姉さぁ~ん……」

 

「し、心臓に悪いから…も、もうこの辺でこれ以上驚かすのは止めてくれないか……」

 

「さすがにもう無いわよぅ…」

 

 

 アンチョビとまほの言葉を合図に一同ぐったりとソファーに深く座り込むしか無かった。

 ラブはちょっと困った様な顔で一同を見ていたが、ここでラブが右脚のホルスターに入れている携帯が着メロのパンツァー・リートを奏で始めた。

 

 

「相変わらず着メロはそれなんだな」

 

「あ、ちょっとゴメンね」

 

 

 懐かしそうにそう言ったまほに断りを入れラブは電話に出る。

 

 

「はい、あ、お疲れ様、うん、うん、了解よ~、今からそっち行くから~」

 

「どうした?」

 

「うん、私もそろそろパーティーの準備に入らないといけないの」

 

「そうか、でもあまり大袈裟な事はしなくていいからな」

 

「そうはいかないわよ~、今日はみんなに目一杯楽しんでもらわなくちゃいけないもの♪」

 

「張り切り過ぎるなよ」

 

「うん、まほ、ありがと。それじゃあみんなまた後でね」

 

 

 そう言うとラブは一同に手を振りつつラウンジを後にするのだった。

 

 

「疲れましたわ……」

 

「そう言わないでやっておくれよダージリン、言わせたのは我々なんだから」

 

「解ってますわよ()()()さん、それにしても英子()()()ねぇ……」

 

「あぁ!それは!!」

 

 

 一同アンチョビを人の悪い笑顔で見つめる。

 アンチョビは赤い顔をしつつ咳払いをして話題を変えた。

 

 

「オホン!まあアレだ、これで一先ず問題解決…と言いたいのだが、コレがそうも行かない」

 

「Why?どういう事よ?」

 

 

 ケイはソファーに預けていた身を起こすとアンチョビに問う様な視線を向ける。

 

 

「あのな、まず怒らず最後まで落ち着いて聞いて欲しい。私はラブのヤツは嘘は言ってないと思う、だが()()も言ってない気がするんだ」

 

「オイ!」

 

「西住、頼むから最後まで聞いて欲しいんだ」

 

「う……」

 

「済まない…ええと、それでだなどういう事かというと…まずひとつ目だがラブの右目の事だ。アレは恐らく全く見えていないか、良くて殆ど見えていないといった処だと思う。何故かと言うと僅かにだが顔を右に振る傾向があるんだ、気が付いて注意して観ていないと解らないレベルだが、昔はそんな癖は無かったしな。それに何よりあの傷だ、何も無い方がおかしいと思うのが普通じゃないか?それとな、東富士で蝶野教官が右目に言及し掛けたんだよ、その時ラブは言葉を濁してたのをみんなは覚えていないか?」

 

「そ、それは…だけど!」

 

「気持ちは解るが落ち着いてくれ西住。で、ふたつ目なんだがラブの左腕だ、最初におや?っと思ったのは例のAP-Girlsのメンバーと円陣を組んだ時なんだ。全員が隣りの者と肩を組んでいたのに、ラブのヤツは左腕だけあの愛っていったか?あの子の腰というかお尻の辺りに手を添えていたんだ。最初は私もしょうがないヤツだと思っていたんだが、その後の学校紹介で歌いながら突入して来た時に他のメンバーとラブだけが微妙に振付が違ったんだよ。それと歓声に応えるのに皆が両手を上げて振っていたりするのに、ラブだけが左手を腰に回して右手だけ大仰に胸に当ててお辞儀したりしてたんだよな。それにここまで観ていた中でラブが左腕を肩より上に上げた事は一度も無かったんだ」

 

 

 ここでアンチョビは目の前のすっかり冷え切ったエスプレッソで喉を湿らせると結論を言った。

 

 

「恐らく左肩に可動範囲制限があるんだと思う、このふたつに関しては私は確実だと踏んでいる。ただな、まだこれ以外にもラブは色々問題を抱えているんじゃないかとも私は思っているんだが……」

 

 

 このアンチョビの恐るべき観察力にこの場に居る者全員が内心舌を巻いていた。

 ほんの僅かな情報を掻き集め繋ぎ合わせ全体像に繋げて行くこの能力が、常に少ない手札、あるいは最悪ババ札しか手元にない状態でも強者と対等かそれ以上に渡り合って見せる、これがドゥーチェ・アンチョビの真の恐ろしさなのだと一同改めて思い知らされていたのであった。

 

 

「そしてだな、ここからがこの話の肝心な処なんだ…現状では、この先ラブには戦車道の選手としての将来は無いんだよ……」

 

「な…!オイ!いい加減に──」

 

「お願いだ西住!ここからが大事なんだ!頼むから最後まで言わせてくれ!」

 

「……」

 

「大声を出してスマン…それで…そう、高校時代はまだいいんだ、大学に行ったとしてそこもギリギリ何とかなるかもしれん。問題はその先、ラブがどんな方向に進むかは私にも解らない。家元として後進の指導に当たると言うなら問題は無いかもしれない、だが間も無く発足するプロリーグや世界大会の選抜選手となるとそうは行かん。確実にメディカルチェックに引っ掛かるだろう、私の言っている事はつまりそういう事なんだ」

 

 

 アンチョビが一同に視線を巡らすも俯いて言葉は無い。

 

 

「戦車道の選手にも僅かながらハンデキャッパーの選手は居る、だけど本当に極少数でそれだけでリーグや大会を開ける程の人数は居ないのが現実だ。これは世界レベルでも同じだと思う、戦車道ってそれだけ他の世界より厳しい世界だからそれは皆も承知しているだろう?それとね…これが一番言い難い事なんだけど、朝食後ラブがかなりの種類の薬を服用していたの覚えてるかな?多分ね…いや、絶対ドーピング検査にも引っ掛かると私は思うんだよ……カチューシャが言ったよね、あれは本当にラブなのか?って。確かに以前のラブとは違うと私も思う、元々騒がしいヤツだったけどあそこまで子供っぽかったり感情の振れ幅は大きくなかったはずだよ。そこら辺がラブの抱えてる一番重たいモノが起因してるんじゃないかと私は踏んでるんだ、あの服用していた薬の中には、その類の薬も含まれている可能性を私は否定出来ない」

 

 

 もう全員が硬直し顔を上げる事も出来ない、みほなどは青い顔で小刻みに震えている有様だ。

 だがここでアンチョビは声に力を籠め更に続けた。

 

 

「だからだ、だからこそなんだよ。ここから先、ラブの進む道の扉を我々が開いてやるんだよ。ラブが私達と対等に戦える事を周りに証明してやるんだ。環境が変わらないなら私達が変えればいい、私達ならそれが出来る。自分で言うのも何だが私達の世代は強いぞ、それは大学選抜との戦で十二分に証明したはずだ。幸いにというか皮肉にもというべきか私達はラブより二歩程先を歩いている、その私達がラブの進む道の地均しをしてやるんだ。何、ラブの事だ、直ぐに追い付いて来るさ。皆あの日誓ったのを忘れたか?ラブの百折不撓(ひゃくせつふとう)を信じると誓ったあの日の事を。私は忘れていないぞ。私はやる、たとえ一人でも必ずやって見せる!皆はどうだ!?」

 

 

 アンチョビのこの言葉に皆ハッと顔を上げる、その瞳には力強い光が宿っている。

 

 

「私は…いや、私達は一番大事な事を忘れていたな……」

 

「ええ、そうですわね…」

 

 

 まほとダージリンが顔を見合わせ力強く頷き合う。

 

 

「それでは皆私の考えに賛同してくれると理解していいんだな?」

 

「当然よ!そうでない者がいたら私が──」

 

「粛正ですね?」

 

「ノンナ!?」

 

 

 真っ先に立ち上がりいつものセリフを言おうとしたカチューシャだが、その後のセリフをノンナがどこか楽しげに遮ると、皆の顔にも笑いと共にその瞳には決意のこもった光が宿っていた。

 

 

 

 




一皮剥ける毎に小さくならず大きくなる話。
ラブの抱えるものも根が深そうだし…。

久し振りにその名が出た英子さんはまた成長してますw
それとお気付きでしょうが私は絹代さんも大好きですよ♪


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第十一話   洋上の女帝

本当にお金持ちのやる事はもうね…。




 アンチョビの決意に皆が賛同し想いを新たにした時、艦内にサイドパイプの音が鳴り響くと共に艦内一斉放送が流れた。

 

 

「達する、こちら艦長の黒姫だ。本艦はこれよりその体制を歓迎体制に移行、総員全力を以ってこれに当れ…手ぇ抜いたら相模灘(さがみなだ)にたたっ込むよ!者共!祭りの準備だ!」

 

 

 艦内のあちこちから一斉に歓声が上がる。

 それを待ち構えていた様に迎えに出ていたスーパースタリオンも帰投して来た様だ。

 

 

「何だか一癖も二癖もありそうな艦長殿だなぁ…うん?ウチのドラッヘも一緒に飛んでるな、どういう事だろう?全員は乗り切れなかったかな?」

 

 

 まほがそう疑問を口にしている間にもスーパースタリオンと黒森峰のドラッヘが、宿舎のラウンジから見えるヘリデッキに次々着艦すると、機内から続々と隊員が吐き出されスーパースタリオンは再び離艦して行ったがドラッヘのみデッキに残っている。

 そのドラッヘに隊員達が駆け寄るや機内からいくつもの樽が運び出され始めた。

 

 

「そういう事か、ウチの艦長も中々粋な計らいをするじゃないか」

 

「どうしましたの?」

 

 

 ダージリンの問い掛けにまほは苦笑交じりに答える。

 

 

「いや、何ね、どうやらドラッヘで黒森峰名物の麦ジュースを樽ごと空輸して来たらしい」

 

「まあ」

 

「そういう事ならウチも抜かりは無いぞ」

 

「Hey!サンダースだって負けてないわよ!」

 

 

 口々にそう言い始めた処を見ると、どうやらそれぞれ自慢の逸品を持ち寄るらしい。

 そんな中ダージリンとアッサムの二人だけが微妙に悔しそうにしている。

 

 

「せ、聖グロだって…」

 

「いやいやいや!」

 

「気にするな!」

 

「むしろ何も気にしないでくれたまえ!」

 

 

 やはり一同聖グロの英国面な飲食物には何がしか思う処がある様だった。

 その後スーパースタリオンが帰投する度人員と物資が大量に降ろされ、ヘリデッキはちょっとした物資の集積所の様相を呈する程となっていた。

 そして漸く学園艦で埋まる駿河湾を脱した各校の学園艦が、更に沖合に轡を並べたのは陽も完全に没し暫く経った頃で、結局その殿(しんがり)は最後まで足止めされたアンツィオとなった。

 

 

「ささーげー!銃!」

 

 

 号令と共にらつぱ隊による吹奏が始まり、乗艦して来た各学園艦の艦長が特別儀仗隊による栄誉礼を受礼しているがその表情はどこか緊張と笑いを堪える様な雰囲気が浮かんでいる。

 

 

「いやあ、栄誉礼なんてウチ(黒森峰)でも滅多にやりませんよ」

 

「サンダースに儀仗隊なんていたかしら?」

 

 

 そんな会話に苦笑しつつ笠女学園艦艦長の黒姫は答える。

 

「ホント申し訳ありません、儀仗隊の連中がどうしてもやらせろと聞かなかったもので、でもこの後はもう堅苦しい事は一切ありませんので存分に楽しんで行って下さいね」

 

「それにしても一年生で艦長職とは恐れ入りますわ」

 

「いやまあ笠女はまだその一年生しかおりませんので」

 

「そういえばそうでしたわね、相当訓練もなさったのでしょう?」

 

「最初の頃は毎晩泣いていましたよ、でも一応最新鋭ですので大分楽はさせて貰っています」

 

 

 そう話す黒姫の表情に来春には卒業する先輩艦長達は何処か懐かしいものを感じていた。

 かくして役者も揃い七校合同の大晩餐会はもう間も無くその幕を開ける。

 

 

「なんなのよこの広さは──っ!!」

 

 

 カチューシャの絶叫が響くその空間は確かに広い、大量に並ぶテーブルと料理の山、集まった七校の隊員を収容してもまだ余裕があり、前方にはステージも組まれている。

 

 

「あ、ここはね~、私達AP-Girls専用のライブアリーナなのよ~♪」

 

『ふぁっ!?』

 

 

 そう聞かされた一同の顔は完全に目玉ドコ?

 まあそうなるのも仕方がない広さを誇る空間であった。

 

 

「だってこれから私達はこの艦で全国回るでしょ~?その時試合とかするのに合わせてライブ活動もするの~。寄港中はね学園艦も開放して来艦して頂いた方達に楽しんでもらえる様、都市部や艦内もね一部は云わばテーマパークになってるのよ~。私達のライブ活動やテーマパークから上がる収益が、この学園艦を運用する資金の一部にもなるのよ~」

 

「この商魂の逞しさが厳島か……」

 

 

 アンチョビは自身のアンツィオでの苦労を考えガックリと肩を落とす。

 

 

「でもみんなからお金なんか絶対取らないわよ。それとこれから戦車道で対戦する相手からもね、お相手してもらった感謝の気持ちとして私達の歌を聴いてもらうんだ~♪尤もそういう時に歌うのも授業の単位になるんだけどね」

 

「太っ腹なのかセコいのかよく解らん…」

 

 

 まほも呆れ顔で周囲を見回しながらブツブツと呟くが、軽く四桁を超える人数に豪華な晩餐を無償で提供する厳島の財力には脅威を感じざるを得ない。

 そして程無くして集まった者達の手にグラスが行き渡った頃合いを見計らい、第1種礼装に身を包んだ艦長の黒姫が自身もグラスを手に正面のステージに登壇した。

 

 

「お集まりの皆様、高校戦車道観閲式並びに大戦車行列、大変お疲れ様でした」

 

 

 この黒姫の第一声に会場からも笑いが起き、それに黒姫も笑顔で応える。

 

 

「本日は三笠女子学園学園艦に御来艦頂き誠に有難う御座います。私が本艦の艦長を務めさせて頂いております黒姫小町(くろひめこまち)と申します、以後お見知り置きを。っとまあ堅っ苦しい事は抜きにして存分に楽しみましょう!グラス、行き渡ってますね?有難い事に黒森峰の艦長殿より名物の麦ジュースを御提供頂きましたのでそれで乾杯と行きましょう♪他にも各艦よりご自慢の品々が届き一層豪華な晩餐となりました、誠に感謝の極みです。それでは不肖私黒姫が乾杯の音頭を取らせて頂きます──」

 

 

 その瞬間ラブとそこに集う一同にスポットライトが当てられる。

 ここで改めて会場を見渡した後黒姫はグラスを掲げこう続けた。

 

 

「我らが笠女戦車隊の厳島隊長とその素晴らしき御友人達の再会を祝して乾杯!!」

 

『カンパ~イ!!!』

 

 

 グラスの合わさる音が鳴り響きここに空前の規模の戦車乙女の宴が幕を開けた。

 

 

「も~!小町ちゃ~ん泣かさないでよ~♪」

 

 

 周りの皆も照れた様に頬を赤らめつつも微笑んでいる。

 しかし一様にその瞳は少し潤んでいた。

 ここに至るまでの道程を思うと胸に込み上げて来るものがありそれもまた無理からぬ事だろう。

 お互いにそれを茶化しつつも再びグラスを合わせているのだった。

 

 

「このローストビーフ美味しいですわ~♪」

 

「うおっ!五十鈴殿もう五枚目でありますかぁ!?」

 

「あれがあんこうチームの強さの秘訣なのか!?」

 

「やだも~!華!恥ずかしい~!!」

 

「私も負けていられませんわ!リミッター外しちゃいますわよ!」

 

「こら!ローズヒップ止めんかこの馬鹿!」

 

「ルクリリ様ももっと淑女らしくして下さいまし…」

 

「いやおもしれ~からやらしてやれって~」

 

 

 あっと言う間に所属や学年の垣根に関係無く隊員達が交わりグラスを交し合い、どのテーブルも実に賑やかで会場中至る所で笑いが沸き起こっている。

 その様子をラブも実に嬉しげに眺めつつ自分も会話に花を咲かせていた。

 

 

「どうした?お前あまり食べてないじゃないか」

 

「あ、まほ大丈夫よ、まだこれから一仕事あるから今は控えめ。勿論後でいっぱい食べるわよ~」

 

「一仕事?まだ何かあるのか?」

 

「まほ~、何の為にここを会場にしたと思ってるのよ~?私達の歌をみんなに聴いて貰う為よ~」

 

「お!ラブ、AP-Girlsが歌うのか!?」

 

 

 アンチョビが嬉しそうに首を突っ込んで来た。

 

 

「そうよ~♪全開で行っちゃうんだから~!」

 

「そうか!そいつぁ~実に楽しみだ!」

 

「うん♪それじゃ~そろそろいっちゃおか!」

 

 

 そう言うやラブが鋭く指笛を吹くと、会場中に散ってそれぞれ談笑したりしていたAP-Girlsのメンバーが一斉にステージに駆け上がって綺麗に整列する。

 ラブが後に続きステージに上がると一本のマイクスタンドがステージセンターにせり上がる。

 そのスタンドからラブは通称ガイコツマイクなどと呼ばれる銀色に光り輝くボーカル専用マイクを外すと優雅に一礼して挨拶を始めた。

 

 

「みんな~!楽しんで貰ってるかな~?笠女学園艦にようこそ~♪改めて自己紹介させて貰います。私が三笠女子学園戦車隊隊長、そしてボーカルユニットAP-Girlsのリーダー厳島恋です!どうぞよろしく~♪今日はこれまでの感謝の気持ちを込めて、私達の歌を聴いて貰おうと思います。だからみんなも精一杯楽しんで下さいね~!」

 

『Yeaaaaaaaaah!』

 

 

 沸き起こる拍手と歓声、それを受けてAP-Girlsのメンバーがステージ上で大きな円陣を組む。

 

 

「AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

「いちいちアレをやらんと始まらんのか~」

 

 

 苦笑するアンチョビの前でステージ上のメンバーがポジションに散って行く。

 アップビートなイントロにスモークにレーザーと派手な演出でステージが始まり、AP-Girlsのメンバーもいきなり全開で踊り始め、そのパワーにその場にいた者全員が圧倒される。

 しかしあっと言う間にテンションが上がり会場は大騒ぎとなった。

 このAP-Girlsというグループのメンバー達はとにかく歌が、そしてダンスが上手いのだ。

 それはとてもまだメジャーデビュー前とは思えないレベルの完成度で、およそ今売れている様なグループでも太刀打ち出来ないのではと思える程であった。

 そして何よりラブが観客を乗せるのが巧い、煽るタイミングがまた絶妙で会場全体をグイグイと牽引してどんどんボルテージを上げて行くのだ。

 

 

「Excellent!彼女達ハンパないわ!」

 

「え!?なんですの!?」

 

 

 ケイの声に自身もラブに煽られ拳を振り上げながらダージリンも大声で聞く。

 

 

「AP-Girlsは凄いって言ってんの!」

 

「そんなの見てれば解りますわ!もう最高ですわー!!」

 

 

 気が付けばステージ前のスペースに皆詰めかけノリノリで曲に合わせ踊っている。

 ステージセットもかなり大掛かりなもので、Love Gunがせり上がって来た時には皆度肝を抜かれていたが、それは精巧に造られたレプリカで、砲塔を旋回させたりしながら長砲身50㎜から紙吹雪やテープを発射し会場を更にヒートアップさせていた。

 そのLove Gunの砲塔上に登り歌いながら会場を煽るラブの姿はまさにステージの女王だ。

 また、途中MCを交えつつ十数曲を一気に歌い切ったAP-Girlsのタフさも特筆ものだろう。

 特にアンコール曲は圧巻であった、ステージ上にそれぞれオリジナルペインティングを施した25本のエレキギターがせり上がり、メンバー全員が横一線に並び一斉に激しくかき鳴らしたのだ。

 ステージ前の盛り上がりもこの時最高潮に達し、メンバーがステージを降りてなお、その拍手は暫く鳴り止まない程の盛り上がりを見せた。

 

 

「ふ~!どうだった~♪楽しんで貰えたかな~?」

 

「ああ!たまげたよ、実に見事だったぞ!」

 

 

 アンチョビがラブを抱き寄せると身を屈めさせ両の頬を交互に擦り寄せ称賛の言葉を掛ける。

 

 

「私達はね、作詞作曲にアレンジ、演奏も全て自分達でやってるのよ。舞台装置も音響にしても全てウチの生徒のみでやってるの、凄いでしょ!?」

 

「それは増々驚きだよ!」

 

 

 心底感心したアンチョビは再び頬擦りをしてラブを称え、ラブもまた嬉しそうに目を細める。

 

 

「CDの発売が楽しみね!買わないヤツは粛正ものだわ!」

 

 

 そう言うカチューシャの横でノンナも同意とばかりに頬を上気させつつ頷いている。

 周りの者も興奮の色を隠そうともせずラブに称賛の言葉を浴びせており、また他のAP-Girlsのメンバー達も同様に会場のあちこちでサインをねだられたり大勢の人間に囲まれていた。

 

 

「みんなに喜んで貰えて嬉しいな~♪これからも応援よろしくね~!」

 

「ああ!勿論だとも!」

 

 

 そう言うまほの頬も興奮で朱に染まっておりステージの熱狂ぶりが窺えた。

 

 

「あ~、喉が渇いたしお腹も空いた~!」

 

「さあ、たっぷりと召し上がりなさいな」

 

 

 席に着いたラブの両側からうっとりとした表情でダージリンとアッサムが甲斐甲斐しくドリンクや料理をお給仕し始める。

 

 

「ん~、私女王さまだよね~♪」

 

 

 そんなラブのセリフにまた一同から楽しげな笑い声が巻き起こるのだった。

 周りのテーブルでもさすが体力勝負の戦車道選手達、再び旺盛な食欲を発揮して食事を楽しんでいて、その姿にラブも満足げな笑みを浮かべ自分も料理に舌鼓を打っていた。

 その後食事も一段落した頃になるとラブの元にもサインを求める者が続々と集まり始め、その集まった者達は一様に頬を赤らめ目をハートにして熱っぽい視線でラブを見つめている。

 

 

「転ぶヤツ続出だなぁ……」

 

「昔もあったな、こんな事…」

 

「あ~、全国大会の時とかな~」

 

 

 アンチョビとまほがその光景をどこか悟った様な諦めた様な顔で見ながらぼやく。

 ラブは昔からモテる、特に年下の可愛い女の子に。

 その美貌と戦車道という女性社会故仕方ないといえば仕方ないが、ラブの場合そのモテ方がハンパなく、中学時代など他校の戦車隊にまで親衛隊が存在していた程だった。

 

 

「しかし今の一年生達は大胆だな…今の子なんかツーショットの写メのドサクサにラブのアハト・アハト触ってたというか揉んでたぞ」

 

「よく見ろ、あれ黒森峰の隊員じゃないか」

 

「何!」

 

「ああ、今度は聖グロの隊員だ…ラブ、オマエもさり気なくお尻を触るな…」

 

「そろそろ止めさせないと本気でヤバそうな気がして来たんだが」

 

「確かになぁ……」

 

 

 二人は頷き合うとラブとサインやら写メをねだる一年生達の間に割って入ると、そろそろこの辺りで開放してやれと言ったものの、目をハートにした子達もそうそう引き下がらなかった。

 

 

「西住たいちょー!それはさすがに横暴ですー!」

 

『そーだ!そーだー!』

 

 

 大洗連合以上の結束力を見せ各校入り乱れた一年生達が一斉に声を上げる。

 

 

「こりゃダメだ……」

 

「諦めるの早っ!」

 

「そうは言うがオマエはこのピンク色の集団に対抗出来るのか?」

 

「うぅ…それは……」

 

「ハイハイ!皆そこまでにしなさいな」

 

「これ以上は粛正するわよ!」

 

 

 ここで一年ズを持て余す二人にダージリンとカチューシャが助け船を出すが──。

 

 

「隊長達だけでラブさまを独占するのはズルいですぅ~!」

 

『なっ!』

 

「ですぅ~ってあのな……」

 

「頭が痛くなって来たぞ…」

 

「まあまあ、私は一向に構わないから~」

 

『おだまり!』

 

 

 綺麗にハモってラブを黙らせる隊長達に周りから一斉に笑いが起こる。

 こうして賑やかに祭りの夜は更けて行くのだった。

 

 

 




やっとAP-Girlsのメンバーの名付けは終わったけど、
どうやって出すかがまた大変…。


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第十二話   Nightmare

以前も言いましたが学園艦のサイズを気にしてはいけません。

今回はラブの戦闘能力の一端も明らかになります。


「またあのベッドで眠るのか……」

 

 

 大盛況の内に終わったパーティーから宿舎のあてがわれた部屋に戻るエリカの足取りは重い。

 これから再びあの天国と地獄を味わうかと思うと歓喜と憂鬱の板挟みも無理からぬ事。

 しかも明日から始まるイベントを考えると体力が持つか一層不安も募る。

 果たしてそのイベントとは一体何か?

 それは時間をほんの少し遡る事一時間程前の事。

 

 

「あのさ~、これだけ戦車が一ヵ所に集まってるからさ、横須賀に着くまでみんなで戦車で遊ばない?トーナメントでもいいしバトルロイヤルでもいいし何でも出来ると思うんだけど。弾はペイント弾使ってさ、それこそ学校に関係無く搭乗員入れ替えても面白いと思うんだけどどうかなぁ?」

 

「Oh!ラブ!それはナイスなアイディアね♪」

 

 

 真っ先にケイが喰い付き隣でナオミも親指を立てている。

 

 

「うん、それは隊員達にも良い経験になるな!」

 

「そりゃ~学校全体で交換留学する様なものだな、うん、面白いぞ!」

 

「休憩時間にはお茶会も宜しくてよ?」

 

「その時は取って置きのジャムを提供するわ!」

 

「うわぁ~♪楽しそう!」

 

 

 後に続く者達も大いに乗り気になってこの提案は即決定事項となり、その場で会場に居る隊員達にも通達されその提案は大歓迎されたのだった。

 パーティー終了後は各艦艦長始め居残り組だった隊員達も、再びスーパースタリオンでそれぞれの母艦に帰投し、エリカもまた宿舎に戻るのであるがその胸中は複雑だ。

 

 

「お願い…今夜は寝かせて……」

 

 

 どうやらエリカにとって今夜は長い夜となりそうであった。

 一方一同と別れたラブ達もまた自分達の寮に戻りそれぞれの部屋に入り明日に備えている。

 

 

「ん~♪今日のステージ完璧だったね~、愛!」

 

 

 隊長であるラブと副長の愛は同室である様だ。

 しかし部屋のベッドはと見ると、やはりこちらもキングサイズのダブルベッド。

 この学校はその辺一体どうなっているのであろうか?

 

 

「恋、シャワー」

 

「ん~?解った~」

 

 

 この愛という少女は表情が乏しいだけではなく言葉数も少ないらしいが、ラブもそれに対し特にあれこれ言わずコミュニケーションは成立しているらしい。

 ラブがパンツァージャケットを脱ぎ始めると愛が近付きその手伝いを始めた。

 その様はまるで女王とそれに仕える忠実な宮廷女官の様にも見える。

 そしてラブもまたそれを当然の様に着衣を脱いで行き、そのまま一糸纏わぬ姿となる。

 外されたブラは何と言うかもう異次元なサイズで、それから解放されたナオミ曰く17ポンドは抜群の破壊力を誇っていたが、愛は気にも留めず脱いだ衣服を片付けていた。

 その後愛もラブ同様の姿となると二人してシャワールームに消えて行き、暫くはシャワールームからの水音が二人の部屋に響くのみ。

 どれ位時間が経過しただろうか?二人が再び部屋に戻った時には同様のバスローブを身に纏い、ラブの長い髪は結い上げられタオルを巻かれていた。

 

 

「座って」

 

 

 愛の示す鏡台の前の椅子にラブが座り愛が頭に巻かれたタオルを解くと、垂れた赤く長い濡れ髪が妖艶な輝きを放つ。

 その髪を愛が丁寧にドライヤーで乾かして行くとラブから至福の笑みと共に呟きが漏れる。

 更に適度に乾いた髪を愛は緩く優しくおさげ髪に編んで行く。

 

 

「ん~、私女王さまだよね~♪」

 

「終わった」

 

「愛ありがと♪じゃ、今度は愛の番ね」

 

「私はいい」

 

「ダ~メ、ハイ、座って座って~」

 

「……」

 

 

 愛が無言で座ると今度はラブが嬉しげに愛のピンク髪にドライヤーの温風を当て始める。

 その手つきはまるで大事な宝物を扱う様で、されるがままの愛の表情も一見変わらぬ様に見えるがしかし、中々気付かない程ではあるがその表情はどこかはにかんだ様な微かな笑みが見えた。

 ラブも自分にやって貰ったのと同様に緩くお下げに編み上げると満足げに頷く。

 

 

「ヨシ!出来たよ~♪」

 

「…ありがと」

 

「うん♪」

 

 

 この二人の短い会話の中には何か言葉など要らない強い信頼関係がある様に思える。

 

 

「それじゃあ寝よ~か~?」

 

「ええ」

 

 

 そう言うと再び二人は一糸纏わぬ姿となり揃ってベッドに潜り込む。

 

 

「お休み、愛♪」

 

 

 ラブは愛の額に自分の額を重ねると優しく言う。

 

 

「お休み……」

 

 

 愛の返事を合図に満足げなラブはその美しい双眸を静かに閉じる。

 そして暫くすると二人の部屋に微かな二つの寝息が重なり始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……

 

 

 ッテ……

 

 

 

 マッテ……

 

 

 

 

 オイテイカナイデ!

 

 

 

 

 

 ワタシヲヒトリニシナイデ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オイオイ、それは無理というものだよ』

 

『ウム、さすがにこれではな』

 

『うん、ちょっとないかな』

 

 

 

 

 

 ヤメテ……

 

 

 

 

 

『その有様で一体どうしろといいますの?』

 

『ですわね』

 

 

 

 

 

 ソンナコトイワナイデ!

 

 

 

 

 

『So tiresome.いい加減付き合い切れないのよ』

 

『自分をよく見るんだ』

 

 

 

 

 

 オネガイ…ソンナメデミナイデ!

 

 

 

 

 

『いい加減にしなさいよ!』

 

『もう…お諦めなさい』

 

 

 

 

 

 ワタシモイッショニツレテイッテ!

 

 

 

 

 

 ヒトリハモウイヤ…

 

 

 ミンナトイッショニ……

 

 

 サビシイノハモウイヤ!

 

 

 オネガイ…オネガイ……オネ……

 

 

 ワタシハ…ワタシモ…ワタシ……ワ…タ……シ……

 

 

 

 

 

 薄闇の中に荒い呼吸が響く、ラブの額には汗が浮かびその肢体は時々大きく痙攣を起こす。

 美しく整った顔立ちには苦悶の表情が浮かび、時々聞き取り難いうわ言が唇から零れ出る。

 そんなラブの様子を傍らに座り上から見つめる小さな影。

 その影はまた痙攣を起こすラブにそっとその身を重ね優しく手を握り締める。

 すると少し時間を置いて続いていたラブの荒い呼吸も自然と穏やかになって来た。

 その後も暫くの間身体を重ねていた小さな影も何処か安心した様子でその身を離し起き上がる。

 しかし僅かなカーテンの隙間から差し込む月明りが、その影の頬を伝うひと筋のものを照らし出しているのだった。

 

 

 

 

 

「気を抜くな!私に恥をかかせるなよ!」

 

 

 盛大なパーティーから一夜明けた笠女学園艦内の大格納庫では、朝食後に各校の隊員達がそれぞれ戦車の点検整備に勤しんでいる。

 そんな中に在ってまほが一見厳しく檄を飛ばしているがその顔はニヤけている。

 何故ならこれから七校合同の訓練という名の楽しい時間が始まるからであり、何と言っても三年ぶりにラブと砲火を交える事が出来る、これでニヤけるなと言われても無理というものだろう。

 隊員達もそれが解っているのでまほの声にも笑いながら応えているのだった。

 一方では夜明けと共に揃い踏みした七校の学園艦も艦隊行動を開始し、笠女学園艦を先頭に単縦陣を組み一路横須賀を目指し駿河湾沖を後にしていた。

 しかしその駿河湾内も未だ殆どの学園艦が動けずにおり、今回の高校戦車道観閲式からの撤収が如何に困難であるかを物語っていた。

 尚、横須賀を目指すに当り笠女艦長の相模灘にたたっ込む発言とは裏腹に、その巨大さ故艦隊を組んでの相模灘は航行の許可が下りず、大島を迂回する航路を取る事になっていた。

 そして今その七校艦隊の上空を六機のCH-53Eスーパースタリオンが働き蜂の様に忙しなく飛び回っている、笠女にはⅢ号用のペイント弾しかない為、各艦から集めて回っているのだ。

 その到着を以って一同が待ち望んだお楽しみの時間が幕を開けるのである。

 

 

「にしずみ~、随分気合が入ってるじゃないか~?」

 

 

 こちらもニヤニヤ笑いのアンチョビがまほの様子を茶化しつつ現れる。

 まほも全然怖くない怖い顔を作ってアンチョビに言い返す。

 

 

「煩いぞ、お前こそさっきから大騒ぎしていたクセに」

 

 

 そうは言ってみたもののそんな表情も長くは続かない。

 

 

「ああもうダメだ!早くペイント弾が届かないものかなぁ!?待ちきれないぞ!」

 

「全くだ!私もこんなに戦うのが待ち遠しいのは久し振りだよ!」

 

 

 二人は大きな笑顔で嬉しげに語り合う。

 黒森峰の隊員達にしてみればこれ程までにはしゃぐまほの姿を見るのは初めてだろう。

 それ故に如何にこの時を待ち望んでいたかが窺い知れる光景だったのだ。

 

 

「Hey!二人共盛り上がってるわね!」

 

『当たり前じゃないか!』

 

「お待ちかねのペイント弾が届いたそうよ」

 

「おお!やっと来たか!」

 

 

 まほがそれを聞くや会心の笑みを浮かべアンチョビとハイタッチを交す。

 それを見たケイも大きな声を上げ笑った後二人に更にこう告げた。

 

 

「準備が出来た部隊から順次エレベーターで演習場に上げるそうよ」

 

「そうか、しかしこの学園艦の装備は本当に凄いな、正直私もかなり羨ましいと思うよ」

 

「ああ、アンツィオもそれなり古いから苦労は多くて同感だよ、ケイの所はそうでもないかな?」

 

「こっちも変わらない〈誤字ではありませんが直前のフレーズと丸かぶりで逆の意味のため〉わ、昨日ウチの艦長も羨ましいを連発してたもの」

 

「サンダースですらそうだったのかぁ」

 

 

 そんな会話をしている処に早速甲板員から移動開始を告げる声が掛かった。

 ここでもやはりこの艦は怪物ぶりを発揮し一同を驚愕させる事になる。

 何しろ一度に三十両程の戦車が昇降可能であり、黒森峰とサンダースを一緒に演習場のある第一甲板までリフトしてしまい、更に同様の物が艦の前部と中央部の計三基、それより規模の小さい物を五基備えているという。

 二番手で第一甲板に上がる聖グロとプラウダの隊長であるダージリンとカチューシャは、ブザーが鳴り回転灯が回るリフト上で若干青い顔で会話する。

 

 

「な、なんか上昇スピードも異様に速くありませんこと?」

 

「そ、そうね……」

 

 

 しかし最後に上がるアンツィオと大洗は若干様子が違っていた。

 

 

「いやあ、こういうの緊急発進みたいでなんか燃えるッスねぇ!姐さん!」

 

「アホぅ!はしゃぐなぺパロニ!」

 

「あはは……」

 

 

 第一甲板の演習場に上がった後の設備も整っており、サーキット並のパドックが連なりその上部には同じくサーキットの様なグランドスタンドになっていた。

 

 

「いやはやここに来てから驚く事ばかりだなぁ……」

 

 

 それを見上げ呟くアンチョビに合流して来たラブが声を掛ける。

 

 

「ここで練習試合や合同練習する時なんかに使うのよ、それにそのままライブも見て貰えるし~」

 

「徹底してるなぁ…」

 

「だって折角来て貰って不自由な思いして欲しくないじゃない」

 

「まあウチも他所の事言えない部分もあるか」

 

「そういう事♪」

 

 

 そうこうするうちに各校の準備も整い隊長と副隊長を交えたブリーフィングが始まった。

 

 

「で、最初は何から始めるかですわね」

 

「そうだなぁ…」

 

「私はね~、時間限定フィールド限定で総当たり戦からやりたいんだけどどうかな~?」

 

 

 ダージリンとアンチョビの会話にラブがプランを示す。

 

 

「具体的には?」

 

「うん、まほ、それはね、実弾使う訳じゃないから被弾失格じゃなくて、被弾した総数で勝敗を決めようと思うの。時間内全車が全力で最後まで撃ち合うのよ」

 

「ほう?でもペイント弾だと総数が解らなくなるんじゃないか?」

 

「それとウチのタンケッテはどうカウントするかだな」

 

「一応監視塔のカメラと何機かドローンを飛ばして上空からもカウントするわ、それとタンケッテは連射が利くから十発被弾でワンカウント位でど~お?」

 

「それ位が妥当かな?しかしドローンまであるのか~!?」

 

 

 アンチョビが羨ましげに声を上げるがラブは続ける。

 

 

「ウチはまだ人数が少ないから、そういう物も積極的に使わないとやって行けないのよ」

 

「それぞれそれなりに事情もあるもんだなぁ」

 

「さあ!それじゃあ対戦表作りましょ♪」

 

「それは良いけど一回の投入車両数と制限時間は?」

 

 

 成り行きを見守っていたカチューシャが横から尋ねる。

 

 

「そうねぇ…数はウチが一番少ないからそれに合わせて貰って五両でいい?時間は色々やりたいからワンラウンド三十分、その分フィールドは狭くして遭遇確率を上げるってのはどう?ステージも市街地が良いと思うんだけど?」

 

「それいいじゃない♪面白くなりそうだわ!」

 

 

 周りの者も同意とばかりに親指を立て笑顔を見せる。

 これでいよいよ待望の時間がその幕を開ける。

 

 

「これは予想以上にタンケッテ有利なゲームですわ」

 

「ああ、こっちは全然当らないのに一方的に蜂の巣にされたよ」

 

 

 観戦スタンド上では一戦を終えたダージリンとまほが、今も一方的にサンダースを追い掛け回し蹂躙しているアンチョビの豆戦車軍団の戦いを、手元のモニターを交えながら観戦している。

 

 

「不本意ながら次はチャーチルは出しませんわ、良い的なんですもの」

 

「ああ、私も次はⅢ号にでも乗るかなぁ…?それにしても……」

 

「ええ……ほんっと~に楽しいですわ!」

 

 

 二人は破顔一笑し拳を合わせる。

 周りにいる各校の隊員達も笑いあいながら声援を送っていた。

 

 

「ほら!ケイ!もっと頑張りなさいな♪」

 

 

 ダージリンがそう声援を送るもラウンド終了を告げるブザーが鳴り、スタンド前に戻って来たサンダースは既に元の色が解らぬ程被弾しており、対するアンツィオの豆戦車軍団はほんの数発しか被弾しておらず結果はカウントする必要もなかった。

 その光景にはスタンドの控えのサンダースの隊員まで指を指して爆笑していて、より一層盛り上がりを見せている。

 

 

「しかしペイント落とすのどうするの?大変よ~!」

 

 

 戻って来たケイが絶叫するがすかさずラブが得意げにパドックの外れの方を指し示す。

 

 

「の~ぷろぶれむよケイ♪そのままあのゲートの下を潜ってね、ペイント弾は水溶性だからからあそこの高圧シャワーで大体落ちるわよ~。先に戻って来た組はもう浴びて来たわ~」

 

「Wow!至れり尽くせりね!」

 

「さあ!いよいよウチの出番よ~!みほ~、全開で行くわよ~♪」

 

「うえぇぇ…」

 

 

 ここまでの展開からみほ率いる大洗は、あんこうにカメさんとウサギさん、アヒルさんにカモさんチームの体制で臨む事にしていた。

 

 

「こちらあんこう、各車戦闘開始前に聞いて下さい。ラブお姉ちゃん…いえ、三笠女子の厳島隊長は今までに戦ったどんな隊長とも違います。絶対油断しないで下さい、あの人は何処からでも撃って来ます、例えこちらが見えていなくても当てて来ます」

 

「西住ちゃ~ん、それどういう事~?」

 

 

 無線を通してカメさんの会長が聞いて来る。

 

 

「これが厳島隊長の一番怖い処、相手のポジションに対する予測射撃の命中率の高さなんです。厳島隊長は昔私にこう言っていました。その場所を頭の中に忠実に思い描けるなら、自分がそこに居るのも同然だと。つまりあの人は頭の中にフィールド全体を立体的に思い描くことが出来ます、そして相手になり切りどう動くかを考えそこに確実に砲撃を加える事が可能なんです。彼女にとっては射程圏内全てキルゾーンだと思って行動して下さい」

 

 

 このみほの言葉に各車から一斉に悲鳴が上がる。

 

 

「に、西住殿ぉ、あの厳島という方はそこまで凄い方なのでありますかぁ?」

 

「ええ、優花里さんそれ程の相手なんです」

 

 

 そう言うみほの顔を見た優花里はハッとして声を上げそうになった。

 話す内容とは裏腹にみほの表情には歓喜の色が溢れている。

 その表情は今まさに軍神西住みほが降臨しているに違いないのであった。

 

 

『嬉しい!私は今この瞬間が堪らなく嬉しい!』

 

 

 みほは再び咽頭マイクに手を当て交信を続ける。

 

 

「とにかく試合開始直後が要注意です、各車信号弾が上がると同時にランダムで構いませんから動いて下さい。そうしないと確実に初弾を当てられてしまいます。でも…でもこの一戦を皆さんも楽しんで戦って下さい。この一戦は得る物が多いのも確実です、それは必ず自分の成長の糧になる物です。それではみんなで頑張って戦いましょう!」

 

 

 それを最後に交信を終えみほはコマンダーキューポラ上で信号弾が上がるのを待つのだった。

 

 

 




サービス回になるはずがナニカガキタ……。


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第十三話   Tears

エリみほ♡

ノリノリに見えてやっぱりAP-Girlsも重かった…。


 信号弾の炸裂と共にみほはパンツァーフォーの号令を下し、確かに大洗チームは迅速且つランダムな動きで行動を開始した。

 だがしかし──。

 

 

「ウソ!あんこう以外全車に命中弾!?」

 

 

 あんこうは麻子の感の冴えかギリギリの処で被弾を回避していた。

 しかしそれ以外の車両は全て初弾命中の憂き目に遭い無線で悲鳴が飛び交っている。

 

 

『や~ら~れ~た~!』

 

 

 会長のお馴染みの一言に始まりそれぞれどこかで聞いた様なセリフが無線から溢れていた。

 

 

「どういう事?ラブお姉ちゃん以外の砲術手もノックが出来るの!?」

 

「西住殿、ノックとは一体?」

 

「有効打にならない距離でも、挨拶代わりに初弾を当てて来るのを私達はノックって呼んでたの、だからラブお姉ちゃんの事をLove The Knockerって呼ぶ人もいたんです!」

 

 

 みほは再び全車に無線で指示を飛ばす。

 

 

「各車とにかく今は動いて下さい!止まっていれば次が来ます──」

 

 

 みほがそこまで言い掛けた処で辺りに突如間のぬけた騎兵隊の突撃らっぱが鳴り響く。

 メジャーリーグのスタジアムなどでもお馴染みのアレが。

 

 

「え?なに!?」

 

 

 戸惑うみほの耳にその突撃らっぱに続いてラブの声が飛び込んで来る。

 

 

「み~ほ~♪なにのんびりやってんのよ~!全開でって言ったじゃな~い!」

 

 

 どうやら最短距離を突っ走って来たらしいラブがコマンダーキューポラから身を乗り出し、学校名の入った拡声器片手に叫びながら突進して来た。

 突撃らっぱの方は車体に括り付けられたスピーカーから今も鳴り響いている。

 そしてその後方からもAP-Girlsの面々が一斉に突撃して来た。

 

 

「ウチの吶喊は知波単仕込みよ~!」

 

 

 ラブは実に嬉しそうに拡声器で叫んでいる。

 そしてあっと言う間に戦術もへったくれも無い大乱戦に突入してしまう。

 

 

「くぉら~にしずみー!コレの何処が得る物が多いだー!構わん撃て撃てー!」

 

「桃ちゃん味方撃ってどうするのー!」

 

「超根性!」

 

「こんなの校則違反よ!」

 

「ちょうちょ…」

 

 

 もう無茶苦茶だった……。

 

 

「見たか…?」

 

「ああ、ラブだけじゃなくAP-Girls全車がノックしていた……」

 

「でもラブは自分で砲撃はしていなかったぞ」

 

「メンバー全員がアレを修得しているという事か?」

 

「何とも言えん…」

 

 

 手元のモニターで生中継だけでなく、その場でリプレイも出来る事に驚きつつ、アンチョビとまほは分析を交えながら戦況を見守っていた。

 

 

「しかしそのなんだ…やっぱり盛大に揺れているな……」

 

「よせ…そこしか見られなくなる……」

 

 

 そう言った今もラブのたわわなシロモノがモニターの中で激しく踊っている。

 それをつい食い入るように見てしまう二人の頬は赤い。

 暫くそんな状況が続いた後タイムアップとなり両軍パドック前に戻って来たが、全車ペイント弾塗れで完全に元の色が解らない状態に成り果てていた。

 途中ランチ休憩を挟みつつメンバーや戦車を入れ替えながら全試合が終了してみれば、結果はアンツィオの圧勝であった。

 

 

「フハハハハ!済まないな諸君!」

 

「さすがにK()V()()()は無茶ぶりし過ぎではなくて、カチューシャ?」

 

「うるさいわね!でも面白かったからいいでしょ?」

 

「Yes!タンケッテに当てたのには驚いたわ!」

 

「一発で全部色変わるんだもん……」

 

「ウチもⅡ号を連れて来るべきだったなぁ…」

 

「Ⅱ号!懐かしいな~♪まだ熊本の実家にあるんでしょ?」

 

 

 Ⅱ号の名にラブが目を輝かせてまほに問う。

 

 

「ああ、あるぞ、今も帰省した時ちょっとした足に使ってるよ。お父様が時間がある時にマメにメンテしておいてくれるので昔のままだ」

 

「大学選抜戦の前に帰省した時、私も久しぶりにお姉ちゃんと乗って懐かしかった」

 

「いいなぁ、私も乗りたいなぁ」

 

「それじゃあ今度熊本に来る時休みを合わせて昔みたいに一緒に乗るか?」

 

「あ♪私も!」

 

「ホント!?いいの?」

 

「勿論さ、また三人で乗ろう!」

 

「まほ♪ありがと~!」

 

 

 そんなやり取りを周りも微笑ましく見守っている。

 ただ、ひとりエリカだけがその光景を複雑そうな表情で見つめているのを除いて。

 しかしそんな様子のエリカを目敏いラブは見逃さなかった。

 

 

「そう言えばさぁ、あの頃何度か一緒にⅡ号に乗った子が居たの覚えてる?ホラ、とっても素敵なドレス着た綺麗な子が居たじゃない」

 

「あ?あぁ、思い出した。確かに…でもあの後一度も姿を見なくなったなぁ」

 

 

 ここでラブはワザとらしくエリカに視線を向ける。

 

 

『この人気付いてる!?』

 

 

 エリカは視線を逸らすがラブの視線を追ったみほはハッとした表情で何かに気付いた様だ。

 一方のまほはと言えば全く理解出来ないらしくただ懐かしがるのみ。

 そこでラブは大袈裟に溜め息を吐くと誰にともなく一言。

 

 

「ハァ~、エリカさんも大変ね~」

 

「ここで何でエリカが大変なんだ?」

 

『まほの朴念仁ぶりも筋金入りよね…』

 

「何か言ったか?」

 

「いいえ~何にも~」

 

 

 そう言う視界の隅でみほがエリカの手を引き脱兎の如き勢いで何処かに消えて行く。

 その背中を見ながら腕を組みその下で親指を立てたラブは心の中で独りごちる。

 

 

『ヨシ!私ぐっじょぶ♪』

 

「あの二人は一体どうしたんだ?」

 

 

 さすがに事態を察した周りに居る者は皆ジト目でまほ見つつこう思った。

 

 

『ダメだこのポンコツ』

 

 

 その後二人が戻るまでかなり時間を要したが、戻った二人の着衣と髪は若干乱れ、何故か二人共咽頭マイクを付けて戻って来たのであった。

 何処かでR-15指定に抵触する()()があったんじゃないかな…多分……。

 

 

『これは今夜から部屋割り変えた方が良さそうね~。あの二人はそのままにするとして、まほはどうするかな…?ダージリン辺りも()()()()だけどここはやっぱ千代美よね~♪」

 

 

 このラブという少女は果たして天使なのか悪魔なのか……。

 

 

「さて!今日はこれ位にして続きはまた明日にしましょ、戦車はこのままパドックに格納してもらって構わないわ。そしたら宿舎に戻ってシャワーを浴びて、一休みすればそれで夕食に丁度良い時間だと思うから♪」

 

「それなんだけどね、ラブお姉ちゃん。またスーパースタリオン出して貰えないかな?みんなで大洗の学園艦にお風呂入りに来ない?ウチの学園艦お風呂だけはいいんだ♪」

 

「西住ちゃ~ん、お風呂だけはないっしょ、お風呂だけは~」

 

 

 ニヤニヤ笑いながら杏がツッコミを入れる。

 

 

「あ!会長さんごめんなさい!…でも…いいですよね?」

 

「いいよ、いいよ~、早速手配しておくよ。お~い!か~しま~!」

 

「ハッ!」

 

 

 このやり取りにも周りからは笑いが起こる。

 

「あ~、みほ~、そしたらね~先に行っててくれる~?」

 

「ラブお姉ちゃんどうして?」

 

「私隊長の書類仕事ちょっと溜めこんじゃってるのよ~、さすがにこれ以上は怒られる~」

 

「しょうがないヤツだ、終わらせたらすぐ来いよ」

 

「解った~」

 

 

 アンチョビにそう言われたラブは右手を上げ愛を伴い去って行く。

 しかしその後ラブと愛は結局大洗の学園艦に現れる事は無かった。

 それから暫くして大洗の大浴場を堪能し、笠女学園艦に帰投する為一同が再び搭乗し発艦を待つスーパースタリオンの機内では──。

 

 

「ラブのヤツとうとう来なかったな」

 

「ああ…」

 

「やっぱりそういう事か……」

 

 

 難しい顔をするアンチョビにどういう事かと皆の疑問が飛ぶ。

 

 

「…その……()として一番辛い事だと思う……顔の傷だけでも耐えがたい事だったはずだ…私は一瞬だけど手術直後のラブの姿を見ているんだよ…ラブはその全身に暴発した榴弾の破片を浴びているんだ…解るだろう……?」

 

 

 アンチョビが絞り出す様に言った言葉に全員の顔に暗い影が射す。

 

 

「これは…早く何とかしないといけないかもしれない……」

 

 

 その言葉を合図にスーパースタリオンは薄暮の空に舞い上がる。

 それぞれの鉛の様に重い胸の内を乗せて。

 

 

 

 

 

 

「このニューヨークステーキ美味しいですわ~♪」

 

「うおっ!五十鈴殿もう五枚目でありますかぁ!?」

 

「あれがあんこうチームの強さの秘訣なのか!?」

 

「やだも~!華!恥ずかしい~!!」

 

「私も負けていられませんわ!リミッター外しちゃいますわよ!」

 

「こら!ローズヒップ止めんかこの馬鹿!」

 

「ルクリリ様ももっと淑女らしくして下さいまし…」

 

「いやおもしれ~からやらしてやれって~」

 

 

 前夜と似た様な会話が飛び交うここは笠女学園艦の大食堂。

 昼間戦車で目一杯楽しんだだけあって今夜も皆旺盛な食欲を見せている。

 

 

「みんなホントごめんね~」

 

 

 そう言いつつラブは顔の前で手を合わせ一同に頭を下げる。

 

 

「書類溜め過ぎちゃって全然仕事終わらなかったのよ~」

 

「…程々にしろよ……」

 

「うん、わかった~」

 

 

 アンチョビの言葉に一応反省したふりをするラブは気を取り直した様に更に言う。

 

 

「今夜のメニューはどうかな?気に入って貰えた~?」

 

「ええ、とても美味しいわ。だってほら…」

 

 

 そう言うダージリンの視線の先では華が六枚目のニューヨークステーキに突入している。

 

 

「彼女凄いわね~!見ていて気持ちがいいわ~♪」

 

『そうか……?』

 

 

 一同既に見ただけでお腹がいっぱいになりそうになっていた。

 

 

「ところで明日なんだけどね、みんなはどうしたい?」

 

「そう言うところを見ると何か考えがあるのね?」

 

 

 問い返すカチューシャにラブは待ってましたと提案する。

 

 

「あのね、七校全戦車混合で二つに分かれて紅白戦するのはどうかな~?」

 

「大戦車戦ね、面白そうですわ」

 

 

 ダージリンとアッサムも頷き合う。

 

 

「それなら演習場全て使った方がExcitingになるわ!」

 

 

 ケイの提案に一同異議無しと頷く。

 

 

「それじゃあ決定ね~♪」

 

「振り分けはどうするの?ラブお姉ちゃん」

 

「それはね一両毎のカードを作って、両軍の総大将がくじ引きで取って行くと面白いと思うの」

 

「両軍の総大将はどうする?」

 

 

 まほの質問にラブは辺りを見回すと声を潜め一同を集めて行った。

 

 

「それはね、一年生にやらせたら面白くない?私のお勧めはね、みほの所の梓ちゃんとダージリンの所のオレンジペコちゃんがいいと思うのよ」

 

 

 その提案に全員の目が面白そうに輝き、アンチョビも乗り気で言う。

 

 

「いいねぇ!あの二人の成長は他校ながら目を見張るものがあるし面白い事になるぞ!」

 

「ええ、最近あの二人は仲も宜しい様ですしこれは楽しめそうですわ」

 

 

 ダージリンもとっても悪女な笑みを浮かべ二人に視線を送る。

 そして全員が身を乗り出したまま親指を立てこの悪巧みは決定事項となった。

 

 

「でも、あなたはそれで宜しいんですの?」

 

 

 少し真面目な顔でダージリンはラブに質問する。

 

 

「ん?私?私はいいの」

 

「あなたなりAP-Girlsなりから選出しても構わないのよ?」

 

「私はね~、未来が見たいの」

 

「未来?」

 

「そう、これから先二年間私達一年生は戦いを繰り広げて行くわ、これはあの二人だけではなく黒森峰にしてもサンダースにしてもプラウダもアンツィオも同じ。その中でも梓さんとオレンジペコさんは、三年になれば間違い無く隊長として私達の前にも立ちはだかって来るでしょ?違う?そんな未来のライバルをね、私は直接自分の目で見てみたいのよ」

 

「未来…未来か……」

 

 

 アンチョビの小さな呟きがラブ以外の面々の胸の内に重く響くのだった。

 その後食事を終え一同が宿舎に戻るとフロントで渡されたメッセージカードに揃って首を捻る。

 

 

『最上階のラウンジにお越し下さい』

 

 

 その短い一文と共に添えられた笠女戦車隊副長の名に、一同は更に首を捻るばかり。

 

 

「こうしていても始まらない、とにかく行ってみるしかないだろう」

 

 

 まほの言葉に皆が頷きエレベーターで最上階を目指す。

 エレベーターを降りラウンジを見渡すと、先日ラブを問い詰めた角の席の傍らに淡いピンク髪をルーズポニーで纏めた一人の少女が虚ろな表情で窓の外を見つめ佇んでいる。

 しかし一同の気配に気付くと表情こそ変わらぬものの深々と一礼するのだった。

 

 

「確か愛君だったな」

 

 

 まほが手を軽く上げつつ代表して声を掛けると愛は無言で皆に席に座るよう促した。

 

 

「突然お呼び立てして申し訳ございません…」

 

「いや、それは一向に構わないんだ、それより要件は一体何だろう?」

 

 

 まほも当りがきつくならないよう、務めて穏やかに話し掛ける。

 

 

「隊長の…恋の事でお願いがあってこの様な手を使わせて頂きました……」

 

「お願い?」

 

「はい…」

 

 

 そう言った愛は少し俯いた後意を決した様に顔を上げ話し始めた。

 

 

「彼女は…恋はずっと苦しんでいます…私と出会ってから…いえ、私と出会う前からずっと。いつもは明るく振る舞っているけど毎夜悪夢にうなされ続けています…決まってうわ言で『置いて行かないで、独りにしないで、そんな目で見ないで…淋しいのはもういや』などと言い続けています…毎晩、そう毎晩……来る日も来る日も!」

 

 

 ここまで話した処で耐え切れなくなったのか愛は両の手で顔を覆い静かに泣き始めた。

 その姿に驚きまほがオロオロしているとダージリンとアッサムが愛の両隣りにスルリと滑り込み、背中を優しくさすりハンカチで目元の涙を拭ってやる。

 暫くそんな様子が続いたがどうにか落ち着いた愛は再び語り始めた。

 

 

()は私達でも支えられる…でも過去の事はどうする事も出来ない、そこに居なかった私達では彼女の心を開放する事は出来ないの──」

 

「何でも一人で背負い込むな愛!」

 

 

 突然愛の話を遮る声。

 その声のした方を見やればいつの間にか他のAP-Girlsのメンバーが揃っている。

 

 

「みんな…どうして……?」

 

「これは私達姉妹の問題だろう!お前一人で苦しむな!」

 

 

 そう声高に言いながら足早に歩み寄る艶やかなロングの黒髪の少女、勝気な黒い瞳が印象的なその少女は愛に向かい少し語気を強め更に言った。

 

 

「言っただろう!私達は姉妹だ、愛が何を考えているか位解って当然だ!」

 

「君は?姉妹と言ったが…?」

 

「お騒がせして申し訳ありません、私はブラックハーツ車長の東雲鈴鹿(しののめすずか)です。私達AP-Girlsは、結成したその時から自分達は全員が姉妹だとそう誓い合ってここまで来ました」

 

 

 まほの問いにそう答えた鈴鹿は再び愛に向かいこう言う。

 

 

「何度も言わせるんじゃない、一人で抱え込むな!そう約束しただろう?」

 

「…ごめん」

 

「そうだぞ愛、また一人で突っ走りやがって愛の悪い癖だ」

 

 

 少々はすっぱなもの言いで愛を窘めるのは青い髪をミディアムボブにした赤い瞳の少女。

 

 

「あ、名乗りもしねぇですまねぇ、アタイはブルーハーツ車長の鷹塔夏妃(たかとうなつき)ってんだ」

 

「先輩方に対して言葉使い!」

 

 

 夏妃の耳を引っ張りながらフィッシュボーンに編み込んだ金髪に榛色の瞳の少女が名乗る

 

 

「申し遅れました私はイエローハーツ車長、清澄凜々子(きよすみりりこ)と申します」

 

「凜々子痛てぇって!」

 

「黙りなさいこの粗忽者!」

 

「二人共そこまでだ」

 

 

 騒ぐ二人を制しつつ鈴鹿が再び一同に向かい頭を下げつつ口を開く。

 

 

「もうラブ(ねえ)の事は愛から聞かれたのですよね?」

 

「まあ大体は…」

 

 

 まほも成り行きに戸惑いつつもどうにか答える。

 

 

「ここに居る私達AP-Girlsは、ラブ姉にその心を救われた者達です」

 

「心を救われた?」

 

「アタイらは全員訳アリなんだよ。家庭の事、学校の事、それに戦車道の事…そりゃアタイらに悪い処が無いとは言わねぇよ。でもよ…家族にまで生まれた時から疎まれて、生きてる事をなじられてどうやって真っ直ぐ生きて行けってんだよ?だけどラブ姉は違う…そんなアタイらを全部纏めて受け入れて家族だと言ってくれた。そしてこんな処まで連れて来てくれた。望む事も出来なかった、望む事すら許されなかった世界にだよ!ラブ姉はアタイらの女神なんだよ…なのに…なのにアタイらはそんなラブ姉の苦しみの一つも背負ってやれねぇ!だから…だから頼むよ……」

 

 

 話に割って入った夏妃は、そこまで言うと大粒の涙を零しながら膝を突いて頭を床に擦り付け、涙声で一同に向かい哀願する様に声を上げる。

 

 

「ラブ姉…私達の恋姉様の心を救って下さい!お願いします!姉様の心を…!あの暗闇の中から助け出して!お願いだ!あなた達しか…あなた達にしか出来ないんだ…お願い……おねが……」

 

 

 夏妃はもう最後は号泣して言葉にならない、その隣で凜々子も跪き夏妃の肩を抱え同様に頭を床に擦り付け涙を流している。

 一同が慌てる中AP-Girlsの少女達は号泣しながら一様に跪き口々に懇願の言葉を口にする。

 

 

「み、みんな止めるんだ!頼むから頭を上げてくれ!」

 

 

 まほが駆け寄り夏妃の頭を上げさせようとするが泣きながら頑なにそれを拒む。

 他の者も同様にするが揃って頭を上げる気配は無い。

 

 

「お願いだよぅ…もう…姉様が泣くのは見たくないんだよぅ!」

 

 

 そう叫び夏妃がまほの脚に縋り付き泣き続け手が付けられない。

 

 

「愛、愛と呼んで構わないか?」

 

 

 その騒ぎの中アンチョビが片膝を突き愛の肩に手を置き静かな声で耳元に語り掛ける。

 一瞬その身を震わせた愛は恐る恐るといった感じで顔を上げた。

 その顔をアンチョビはこれ以上は無い優しい表情で覗き込むと、そっと親指で涙を拭ってやり視線を合わせながら話しを続ける。

 

 

「愛、落ち着いて聞いて欲しい。三年前私達は彼女を失った時から待ち続けた。彼女は必ず帰る、そう信じて待つ事を皆で誓った。あの時の悲しみと苦しみは忘れない、でも誓い合って信じ続けたからこそこうして再び巡り合えた。でもそのラブが今も苦しんでいるのなら、今度こそ私達が全力で支えてやる。その為に私達は今ここにこうして居るんだ、もうあんな思いをするのは私達も沢山だ。だから私達を信じて欲しい、もし信じて貰えるなら皆その頭を上げてくれ」

 

 

 そのアンチョビの言葉が皆の心に届いたのか、やっと落ち着きを見せ少女達が顔を上げた。

 

 

「さあ、立てるか?」

 

「はい…」

 

 

 微かな声でそう答えた愛の手をアンチョビは優しく取り支えてやる。

 他の者もやっと互いに手を取り合い立ち上がり始めた。

 安堵の息を吐いたまほはこういう処は安斎には全く敵わないとつくづく思うのだった。

 どうにかAP-Girlsの一同をソファーに座らせると、ダージリンとアッサムがラウンジのキッチンを拝借し、甘めのミルクティーを淹れそれを飲ませると、どうにか落ち着いて話す体制が整った。

 

 

「さて、落ち着いた処で酷な様だが幾つか確認したい、いいかな?」

 

 

 アンチョビがAP-Girlsのメンバーに視線を巡らすとぎこちなくであるが一同頷く。

 

 

「愛、今日君たちが大洗の学園艦に来なかったのはそういう事なんだな?」

 

「…はい」

 

「やはりそうだったか…それとラブの右目、完全に失明しているのだろうか?」

 

「ほんの少し……ぼんやりとは見えているそうです……」

 

「もう一点、右利きのはずなのにステージのアンコールでラブはレフティと言ったかな?左利き用のギターを弾いていたね?あれもやはり左肩に可動範囲の制限があると見て間違いないのかな?」

 

「はい…ヘッドに近いフレットが押えられないのと、ギターそのものを振る事が出来ないので……物凄い練習量でした…でもそれだけで解ってしまうなんて……」

 

「ははは…他にも色々あったけど、無い無い尽くしのアンツィオの隊長なんかやってるとな…」

 

 

 アンチョビは少し恥ずかしげに頬を掻く。

 

 

「それと済まない、もう一つだけ…ラブが君達とウェアが若干違うのもやはり?」

 

「今の状態になってから出会った私達には大丈夫なんです…でも昔を知る人達には……不思議と顔の傷は直ぐに受け入れられたそうです、こんなものかと…でも、でも……」

 

「ああ、もういいよ、済まなかったな。愛、ありがとう」

 

 

 ここでアンチョビは愛を優しく抱き寄せあやす様に軽く背中を叩いてやる。

 

 

「さて諸君、聞いた通りだ。それでだな、これは荒療治になってしまうが私にひとつ考えがある」

 

「どういう事よ?」

 

 

 想像も付かないと言った表情でカチューシャは首を捻る。

 

 

「西住…あ~、みほ!済まないが大洗の大浴場はまだ使えるか?」

 

「え?あ…ハイ!直ぐに会長さんに確認してみます!」

 

 

 アンチョビの言う事を理解したみほは携帯で杏に連絡を取り始めた。

 他の者は事態が呑み込めず困惑の視線をアンチョビに向けている。

 アンチョビはそんな一同に向け自分の考えを披露した。

 

 

「いいか?まず私達はひと足先に大洗の大浴場に行って待機する。そこに貸し切りという事にして愛達がラブを連れて来るんだ。これは荒療治だがそれしか私は思い付かん、言い方はアレだがこの裸の付き合いに私は賭けたいと思うのだがどうだろう?」

 

 

 さすがにこのアンチョビの提案に、皆面食らった顔をするが他に考えが浮かばないのも事実。

 

 

「確かにとんでもない荒療治ですわね……」

 

「Hmm…でも確かに他に思い付かないわ」

 

 

 ダージリンとケイも難しい顔をするがそれを認める。

 

 

「ヨシ!それではコレで行くがいいな?」

 

 

 アンチョビの問いにその場に居る者皆同意と頷く。

 

 

「アンチョビさん!大洗の方はOKです、許可を取りました!」

 

「そうか!ならば作戦決行だ!愛、済まないがもう一度スーパースタリオンを出してくれ、我々が先行するからそうだな…我々が大洗の学園艦に到着後三十分ぐらいしたら、ラブを誘い出して後を追って来てくれるか?」

 

「ハイ!」

 

「では行動開始だ!各員入浴の支度をしてフロントフロアに集合してくれ!」

 

『了解!』

 

 

 かくして想いをひとつにした一同は一斉に行動を開始する。

 全ては皆の愛するラブを取り戻す為に。

 

 

 




この辺りはストーリーの大きなターニングポイントで、
その重さもあって正直書いてて自分でも辛い…。

先日の雪のしわ寄せで今週はあまり投稿出来ないかもしれませんが宜しくです。


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第十四話   闇の底より

第二章最大の山場かな?ちょっと尺も長めです。

重いですがその分楽しんで頂けたら…。


「あい~、ドコ行ってたの~?」

 

夏妃(なつき)達が大きなお風呂に入りたいって騒いでたから…」

 

「……ごめん…」

 

「いいの、それで凜々子(りりこ)が大洗の西住隊長にお願いして私達の貸し切りにして貰ったって」

 

「え!?でも……」

 

「私達しかいないわ、スーパースタリオンも準備してるから恋も仕度して」

 

「うん…うん!」

 

 

 愛がラブを巧く大洗に入浴に行くべく誘導していた頃、一行は既に大洗の学園艦に到着しており、愛に連絡を入れ警戒されてもまずいので、一番落ち着いていそうな鈴鹿(すずか)に到着したむねのメールを送っていた。

 

 

「みんな…ありがと……」

 

「いや、アタイもいい加減広い風呂入りたかったし」

 

「ウチの大浴場いつになったら使えるようになるのかしら?」

 

 

 凜々子(りりこ)の疑問にラブも難しい顔で答える。

 

 

「ん~、亜梨亜ママはあとひと月位掛かるって言ってたけど…」

 

「この学園艦小さいのに色々詰め込み過ぎよね」

 

「そだね…まあ色々前倒しして見切り発車だったしねぇ」

 

 

 凜々子の指摘にラブも困った笑みで答えるしかない。

 ああだこうだ言いながらAP-Girlsのメンバーもスーパースタリオンに搭乗し、一路大洗の学園艦に向け夜空に舞い上がって行った。

 一方アンチョビも離艦した旨のメールを受け取ると、自分の両頬をピシャリと叩き気合を入れる。

 

 

「ラブ達も艦を離れた、もう直ぐにも到着するぞ、我々も仕度をしよう」

 

「大丈夫かな…?」

 

「みほ?」

 

 

 不安になって来たのかみほの小さな呟きにまほが励ます様に言う。

 

 

「一刻も早く私達の手でラブの心を解放してやるんだ、みんなでやれば必ず出来る!」

 

「その通りですわ、必ずやり遂げて見せますとも!」

 

 

 ダージリンもみほの肩に手を置き力強くそう言った。

 

 

「…ハイ!」

 

 

 やっとみほも元気を取り戻し笑顔で返事をする。

 その後脱衣所で仕度をしていると到着を知らせる鈴鹿からメールが届く。

 

 

「来たぞ!我々の荷物は隠したな?OK?ヨシ、それじゃあ中で待機だ!」

 

 

 皆が浴室の見え難い場所に進んだ頃ラブ達も脱衣所に入って来た。

 

 

「わ~!中々凄そうなお風呂じゃな~い♪」

 

「西住隊長が自慢するだけの事はありそうね」

 

「さっさと入ろうよ~!」

 

「あい~、おねが~い」

 

「っていつ見ても……」

 

「またデカくなってる様な…」

 

「もうブラというより帽子みたいなんだけど…」

 

「んも~、みんな止めてよね~」

 

 

 何とも身も蓋も無い会話が響く中、愛に髪を結い上げて貰ったラブが真っ先に仕度が出来た。

 

 

「みんな準備は~?」

 

「直ぐ行く…」

 

「じゃ、いっちば~ん♪」

 

 

 ラブは嬉しげにドアを開くと浴室に進んで行く。

 

 

「わお♪本当に凄いじゃな~いって、エ…!?」

 

 

 湯煙の向こう九つのシルエットにラブは気付く。

 

 

「や、ヤダ!うそ…!だ、ダメ!な…何で!?」

 

 

 慌てたラブは急いで脱衣所に戻ろうとするがつっかえ棒が掛けられそのドアは開かない。

 

 

「な!開かない!何で!開けてお願い!お願いよ!愛…アイ!!!」

 

 

 ラブが必死にドアをガンガン叩くが、擦り硝子の向こうの愛は決してドアを開けようとはしない。

 

 

「愛!愛!なんで!?」

 

「ダメっ!!」

 

 

 今までに聴いた事の無い愛の大声にラブも一瞬硬直する。

 

 

「いつまでもこのままではダメ…恋姉様もちゃんと自分と向き合わなきゃダメなの!」

 

「そんな…無理よ……お願いよ…ここを開けて……」

 

 

 ドアの前に力無く崩れ落ちるラブ、そしてそこでいつの間にか一同が近付いていた事に気付く。

 

 

「…!い、いや!来ないで…ダメ…お願いだから見ないで…イヤ…イヤ…イヤ──ッ!!!」

 

 

 嫌々をする幼子の様に泣きながら必死に後ずさろうとするラブだが、その手足の動きはちぐはぐでその場からほとんど動く事は出来ず慌てて両手でその身を抱く様に隠そうとした。

 傷……その美しい肢体に惨たらしくも刻み付けられた夥しい数の悪意の爪痕。

 必死に隠そうにも隠しきれないラブの心を蝕む消せない過去の悪夢の象徴……。

 すっかり錯乱状態のラブの元に進み出たまほがラブの肩を押え声を掛ける。

 その押えられた左肩にも貫かれた様な無残な傷痕が残っていた。

 

 

「ラブ!落ち着け!私の話を聞いてくれ!」

 

「イヤ…見ないデ…ソンナメデミナイデ……イテイカナイデ…ヒトリニ…ナイデ…イッショニ…サビシイノ……イヤ…ワタシハ…ワタシ…ワタシ…ワタシ……」

 

 

 完全に目は虚ろで壊れた機械人形の様にうわ言を繰り返すラブ。

 

 

「イ…アアア…ア……ア……」

 

「ラブ!しっかりしろ!!」

 

 

 そう声を張り上げたまほの右手が一閃し浴室に乾いた音が響く。

 左の頬を押えハッとした表情のラブがまほを見上げる。

 

 

「ウぁぁ…!だ、だめぇ!」

 

 

 そう叫んで再び逃げようとするラブ。

 まほは逃がすまいと力強くラブを抱きしめ声を上げる。

 

 

「ラブ!落ち着いてくれ!お願いだから私の話を聞いてくれ!」

 

 

 更に力を籠め抱きしめるまほの瞳からも涙が零れ落ちている。

 

 

「お願いだ…頼む…頼むよ……ラブ…」

 

「ま…ほ……?」

 

「そうだ!私だ!私の目を見ろ!」

 

 

 抱きしめる力を緩めると顔が見える様少しその身を離す。

 

 

「ラブ、直ぐに気付いてやれず済まなかった…許してくれ」

 

「う…あぁ…」

 

「愛君達からも聞いた、ラブがあの日からずっと独り苦しみ続けている事を」

 

「あ…い……」

 

「そうだ、彼女達も苦しむラブを助ける事が出来ず、ずっと悲しんでいる。そんな彼女達が私達に必死に懇願して来た、オマエの心を救ってくれと。私達の心を救ってくれた、女神の心を暗闇から解放してくれと!だから私達も応えた、私達はその為にここに来たのだと」

 

「ワタシ…ハ…」

 

「目を逸らさないでくれ!心を開くんだ…お前は独りじゃないんだよ!」

 

 

 ラブの瞳にほんの微かに光が揺れる。

 

 

「ワタシ…私は……コン…ナ姿…こんな姿…私は…もう嫌われ……気持ち悪がらレルト…ミンナそんな事…無い…解ってる……ケド…私…怖かった…ずっと…置いて行かれ…寂しかっ……た…ひとり…もう…いや……」

 

 

 とめど無くラブの瞳から流れる涙。

 

 

「私達がラブを嫌いになる訳が無い!その美しさは昔と何も変わらないよ…いや、前よりももっと美しくて優しくて、だからあの子達もあんなにもラブの事を慕うんだ。そんなラブの事を私達が嫌いになる理由が何処にある、私達はずっと待っていた…待っていたんだよ!」

 

 

 背中からラブを抱きしめアンチョビも涙を流す。

 

 

「ち…よみ……」

 

「ああ、そうだ千代美だよ!」

 

「ま…ほ…ちよ…み……」

 

「ラブ!帰って来てくれ!私達の元に!」

 

「あ…アアアアアァァ──!!!」

 

「ラブ!」

 

 

 その場に頭を抱え蹲るラブ、アンチョビとまほが必死に抱え起こす。

 

 

「千代美…まほ…みほ……ダージリン…アッサム…ケイ…ナオミ…カチューシャ…ノンナ……」

 

 

 今度は一同がラブを囲み支える。

 

 

「ずっと…ずっと会いたかった……でも怖かった…こんな姿を見られたら絶対嫌われると思った……みんな…そんな事はしないって解ってる…でも…怖かった……ずっと寂しかった独りは嫌だったの…それでも怖かった…見られたくなかった…こんな私を見られたくなかった……私だって解ってる…でも……あの子達は私の希望…私があの子達を救ったんじゃない…あの子達が私を救ってくれた……だけどそれでも私は……私は──」

 

「もういい、もういいんだよ、もう苦しまなくていいんだ」

 

「そうだ、もう独りじゃない」

 

「私達はここにいるよ」

 

「私達の心はずっとひとつ」

 

「誰もそれを断ち切る事は出来ない」

 

「いつまでも」

 

「いつまでもずっと」

 

「私達の心の繋がりは」

 

「決して途切れる事は無い」

 

「みんな……」

 

『おかえり、ラブ』

 

 

 ラブの凍て付いた心に暖かなともし火が燈り、その瞳に光が宿る。

 

 

「う…うあぁぁぁぁぁ────っ!!!」

 

『ラブ……』

 

 

 今ここに、遂にラブは闇の底より皆の元に帰り着いたのだった。

 

 

「さあラブそうしていては身体に障ります、皆と一緒に暖まりましょう」

 

 

 ダージリンがその手を取りラブを湯船に導く。

 

 

「……いけない!」

 

 

 不意にみほはそう叫ぶと浴室のドアを叩き外に居る愛の名を呼ぶ。

 

 

「愛さん!ここを開けて!もう大丈夫よ!」

 

 

 擦り硝子の向こうに人影が近付きつっかえ棒を外すのが解る。

 みほはドアを開けると集まって膝を抱え声を殺して泣いている一同に声を掛けた。

 

 

「みんなもう大丈夫!早くこっちに来て!そんな恰好でそこにいたら風邪をひいちゃうから!」

 

 

 みほの声に少女達はよろよろと立ち上るとおずおずと浴室に向かう。

 

 

「本当にもう大丈夫だから!さあ!」

 

「みんな……」

 

 

 浴室に入って来た少女達にラブは俯きがちに声を掛ける。

 

 

「その…ごめんなさい…ずっと心配を掛けて…こんな私の為に……ありがとう」

 

「恋…姉様!」

 

 

 そう叫んだ愛は大粒の涙を零しながらラブに抱き付く。

 他の者達も一斉に泣きながらラブを取り囲んだ。

 

 

「みんな、本当にごめんなさい…」

 

 

 皆も何か言おうとするがもう言葉にならない。

 

 

「さあ、そうしていると今度こそ本当に風邪をひいてしまいますわ、こちらにいらっしゃい」

 

 

 再びダージリンが一同を導き掛け湯の後に全員が暖かい湯に浸かる。

 最初の内はそれまでの緊張から皆無言だったが、身体が温まれば徐々にその重かった口を開き始めて、それまでの胸の内をそれぞれが語り合っていた。

 

 

「正直当たって欲しくはなかったけどやっぱり私の予想通りだったか……」

 

「うん、千代美の目はごまかせなかったね…でも、いつから?」

 

「最初はお前が何かを見る時僅かに首を右に振るのに気が付いた時か…それとAP-Girlsが円陣を組んだ時だな。皆が肩を組む中お前は左手だけ愛のお尻に手を添えていただろ?その時だ」

 

 

 アンチョビのこの発言にAP-Girlsのメンバー達も絶句して彼女を見つめる。

 

 

「たったそれだけで……」

 

「いや、他にも気になった事はあったけど、どれも些細な事なんだよ」

 

 

 信じられないといった表情で呟く凜々子にアンチョビは事も無げに返す。

 

 

「さっきも言った様にアンツィオみたいな戦力じゃ、こうでもしなきゃ戦えないだけなんだよ」

 

「結局中学時代に私が勝てたのは単に装備に恵まれてたからに過ぎないんだ」

 

「そんなになのか!?」

 

「夏妃!言葉使い!」

 

 

 まほに質問するがまたも凜々子に口の悪さを窘められる夏妃。

 

 

「いや、構わんよ。実際対等の戦力だったら、きっと私は一つも勝ち星を上げられなかったと思う。それ程の戦力差でいつも互角以上に渡り合って、それで勝ってもその差は僅差だったんだから。つまりそれ程の実力の持ち主だという事なんだよ」

 

「にしずみ~、それはオマエ買い被り過ぎだぞ~」

 

「何が買い被りなものか、私はオマエを黒森峰の参謀にと思っていたのに」

 

「スゲぇ……」

 

「夏妃といったか…本気にするな~」

 

 

 アンチョビの気の抜けたもの言いに周りからも笑いが起こる。

 やっと皆の張りつめた気持ちも落ち着き始めていた。

 

 

「そうは言うがアンツィオ行きを聞かされた日は私は眠れなかったんだぞ!」

 

「オマエ結構メンタル弱いよな」

 

「うるさい、大きなお世話だ」

 

「でもみほさんが黒森峰を去った時も随分荒れていた様に思えましたわ」

 

「そ、それは!」

 

 

 ダージリンのツッコミに思わず言い返すのにも言葉に詰まるまほ。

 

 

「あの時は私達も何とかみほさんを聖グロに引き入れられないかと画策しましたのよ」

 

「ふぇ!?」

 

 

 このダージリンの発言にみほも驚きの声を上げる。

 

 

「本当よ、折角ティーネームまで用意していたのに、全くあの頭の固いOG共と来たら……」

 

「Oh!本気だったの!?」

 

「ええ、ケイ、勿論本気でしたわよ」

 

「でも用意したティーネームって…?」

 

「アールグレイ……」

 

『うわぁぁ!!!』

 

 

 飛び出した聖グロ先代隊長のティーネームに一同が絶叫し、そして同時にこの女はやっぱり油断ならないとも思うのであった。

 

 

「ねえ…?聖グロに行ってたら私でもティーネームを貰えたかなぁ?」

 

 

 何の気なしにラブが呟いた言葉に、ダージリンの瞳が獲物を見付けた肉食獣の様に輝く。

 

 

「あら?あなたもティーネームが欲しいのかしら?それでは取って置きの名前を授けましょう♪」

 

「ホント!?」

 

 

 ダージリンは実に嬉しげにその青い瞳をぐるりと回す。

 横で湯に浸かるアッサムはヤレヤレといった表情で溜め息を吐く。

 

 

「そうですわねぇ…うん!これが良いですわ!」

 

「え!?なになに~?」

 

 

 ラブも嬉しげにその身を乗り出した。

 

 

「梅こぶ茶♪」

 

「え?」

 

「そう♪梅こぶ茶ですわ!これ以上ピッタリなものは他に在りませんわ!」

 

『ブッ!』

 

 

 そうダージリンが言い放った瞬間全員が一斉に噴き出す。

 

 

「あ~!みんなひど~い!」

 

 

 ラブはイヤイヤをしながら抗議の声を上げるが、ダージリンは手の甲を口元に当て、涼しくも実に嬉しげな表情でころころと笑っている。

 そして遂にはAP-Girlsの少女達も一斉に『梅こぶ茶さま』と掛け声を上げた。

 

 

「あ~!みんなもっとひど~い!」

 

 

 だがしかし、後にダージリンはこれが元で盛大に墓穴を掘る事になるがそれはまだ先の事。

 

 

「あの子もあんな風に笑えるんだな…」

 

「ん?何だ西住?」

 

 

 笑いながらじゃれ合うAP-Girlsの面々を見ながら呟いたまほにアンチョビが顔を向ける。

 

 

「いや、あの愛って子さ。ステージなんかでも笑顔を見せていたが、どこか作り物めいた感じがしてな。でもあんな風に屈託無く笑う事も出来たんだと思ってな」

 

「それオマエが言うかぁ?」

 

「な!どういう意味だよ!?」

 

「そのまんまだよこの朴念仁」

 

「ぐっ…この…!」

 

「まあいいや…それにしてもその……よく浮かぶな……」

 

 

 聞くともなしに二人の会話を聞いていた周りの者も、そう言ったアンチョビの視線を追ってある一点を凝視してその場で視線が固まってしまう。

 それまで騒いでいたラブとAP-Girlsもそれに気付き、全ての視線が集中したラブは隠しても隠しきれないたわわなアハト・アハトを手で覆い隠そうとしながら声を上げた。

 

 

「な、なによぅ……」

 

「いや…どうやったらそこまで育つのかと思って……てか何時から…?」

 

「ラブお姉ちゃん…幼稚園を卒園して、春休みに熊本に来た時にはもうブラしてた……」

 

『なんだと────────っ!!!!!』

 

 

 みほの投げた爆弾にみほとまほ、そしてラブ以外の全員がそう叫ぶや湯船に水没する。

 

 

「ゲホっ!う゛ぅ゛…うげぇ、お、お湯飲んだ…ほ、本当なのかぁ……?」

 

「あ…あぁ、本当だ……」

 

 

 まほは思い出したくなかった事を思い出した様な苦い顔で答える。

 

 

「あれが人生で最初に味わった敗北感かもしれん……」

 

「おねぇちゃ~ん…」

 

 

 ガックリと項垂れるまほにみほも心底困った顔しか出来ない。

 ここまで来た処でどうやら遂に切れたらしいケイがラブのたわわを鷲掴みにして叫ぶ。

 

 

「このF●ckin breasts!半分寄こしなさいよっ!」

 

「や!ケイ止めっ!千切れちゃうって~!」

 

 

 それを合図に全員がラブに襲い掛かり、代わる代わるにそのラブのたわわな17ポンドを激しく揉みしだき、湯船の中は日本海海戦の如く波立っている。

 

 

「や!だ、ダメ!あっ!そ、先っちょ引っ張っちゃ!アン…ソコ違っ!入れちゃ!あぁ!!!」

 

 

 散々弄ばれ、結い上げた髪も解けたラブは逃げた洗い場に荒い息でへたり込み叫ぶ。

 

 

「も~!みんなしてひどい~!愛!お願い!」

 

 

 呼ばれた愛はいつもの無表情に戻り脱衣所に行くと、シャンプーボトルなどが入ったカゴを手に戻り、さも当然の様に無言で椅子に座ったラブの髪を洗い始める。

 ポニーに結わなければ軽く腿の辺りまで届くラブの深紅の髪を、自身も泡に塗れながら時々その身長に比して立派なたわわをラブの背に押し付けつつ、いっそ怨念でも籠った様に愛は丹念に洗って行く。

 その妖艶な光景に一同は思わず見とれ生唾を飲み込んだ。

 

 

「な、なあ…いいのかコレ……?」

 

「い、いやその…」

 

「ふ、ふわぁ!」

 

「イ、イギリス人は恋愛と戦争では──」

 

「ダージリン涎が出てますわ」

 

「じ、Jesus!」

 

「こ、今度アリサに…」

 

「子供は見てはいけません」

 

「ちょ!ノンナ!?誰が子供ですって!って目隠ししないで!見えないじゃない!」

 

 

 鼻の奥のツンとした感触で我に返ったまほがたどたどしくAP-Girlsに尋ねた。

 

 

「な、なあ君達…その、いつもこんななのか?」

 

「いや…アタイらもこんなマジマジと見たのは初めてで…な、なあ愛!たまにはアタイらに──」

 

「ダメ…これは私だけのモノ」

 

「お、おう……」

 

 

 殺気と優越が入り混じった表情で、話しを途中で遮り夏妃に短く言う愛に、夏妃もそう返事をするのがやっとだった。

 

 

「ん~、私女王さまだよね~♪」

 

 

 あっと言う間に機嫌が直りご満悦の表情で髪を洗ってもらうラブ。

 

 

「じ、事情は分かるがその何と言うか……」

 

 

 顔を赤らめ口元を覆いながらアンチョビがラブに何か言い掛けるが後が続かない。

 

 

「せめてもっと短くしようかと思ったんだけど──」

 

「ダメ」

 

「…こういう事情なのよ……」

 

 

 この間も愛は黙々とラブの髪をシャワーで洗い流しコンディショナーで仕上げると、器用にその長い髪を纏めるとヘアクリップで留めた。

 その後はどうにか落ち着いて皆で暖まり浴室を後にする。

 しかし脱衣所でもやはりと言うかラブのブラ(回文じゃないよ)のサイズを巡り騒ぐ一同。

 

 

「アレで私のブラが何着出来るだろう……」

 

「およしなさい!」

 

「もうイヤよ…」

 

「Hell no!」

 

「同じ生き物と思うな……」

 

「思いたくありませんわ」

 

「人外と呼ぶしか……」

 

「愛君の手付きが何と言うかその…」

 

「にしずみー!鼻血!」

 

『うわぁ…』

 

「な、長湯でのぼせただけだ!」

 

「なによ~、みんなして~!」

 

 

 そんな騒ぎの後、一同揃って無事笠女学園艦に帰艦し大団円かと思うとコレがそうは行かない。

 ラブ達と別れ部屋に戻ろうとすると少し部屋割りが変えられている。

 

 

「なんでみほとエリカ、私と安斎で二人部屋になったんだ?」

 

『このポンコツはどこまで鈍いんだろう……』

 

 

 首を捻るまほの隣で赤い顔をして俯くみほ。

 

 

「まほさん、アナタほんっと~にまだ気付きませんの?」

 

「何がだ?」

 

 

 ダージリンは心底ウンザリした顔で大きく溜め息を吐くと続けた。

 

 

「昼間のルクスの話ですわ。ラブが何度か一緒に遊んだ子の話をしていたでしょう?」

 

「それが部屋割りとどんな関係が?」

 

「全くこの朴念仁は…よいこと?その子はどんな子でしたの?よ~っく思い出してごらんなさい」

 

「何なんだ…ええとだな、ロリータファッションというのか?可愛いドレスを着てて……ちょっときついがとても綺麗な青い瞳で髪の色が銀髪…あれはシルバーアッシュだったか、そんな色でだな…そう!ちょうどエリカみたいな髪…ん?…エリカ?……エ…リ…カ?」

 

『やっと気付いたかこのポンコツ』

 

「あ…あ…あ───っ!?」

 

 

 ダージリンは眉間に指先を当てホトホト疲れた様に聞く。

 

 

「やっと気が付きましたのね?」

 

「あ、いや、だってアレは…えぇ!あれはエリカだったのかぁ!?」

 

「それで昼間あの話の後のみほさんの行動は?」

 

「それはエリカの手を引いて……お…お…おぉぉぉぉ──そういう事だったのかぁっ!!!」

 

 

 漸く事態に気付き絶叫するまほに堪り兼ね赤い顔を更に真っ赤にしみほは叫ぶ。

 

 

「お、おねぇちゃんのばか──────っ!!!!!」

 

「お、オイみほ!」

 

 

 みほはそう叫んだ後走ってフロントフロアを後にする。

 もうその場にいたアンチョビ以外の一同も付き合い切れぬとそれぞれの部屋に向かう。

 一方その頃当のエリカはといえば、新しい部屋で顔を赤らめ正座をしていた。

 膝の上で両の手の指をモジモジと絡め正座をしていた…キングサイズのダブルベッドの上で。

 その姿は何やら新婚初夜を迎えた花嫁の様に見える。

 

 

「あ、おいみんな!ってそれは解ったけど…それで何で私と安斎が……」

 

「オマエみたいな朴念仁は今まで見た事ないよ…それにしてもラブのヤツめ……」

 

 

 こちらも少々赤い顔をしたアンチョビがブツブツと言っている。

 

 

「みほとエリカ…私と安斎……あんざい…!あぁぁぁ!!!」

 

「アンチョビ!ってこんな時だけ気付くなこの超絶鈍感女!意識するな!私は今日は疲れたんだ!ぐっすり寝たいんだよ!」

 

「な、なあ、あんざいぃ…」

 

「変な声を出すな────!!!」

 

 

 アンチョビ達がそんな嬌態を繰り広げていたその頃ラブ達も自室に戻っていた。

 

 

「ん~!良い事した後は気分がいいね~♪」

 

「……」

 

「愛……ありがとう……」

 

「……服」

 

「うん…」

 

 

 一種の儀式の様に愛はラブが服を脱ぐのを手伝う。

 その後愛もまたラブ同様の一糸纏わぬ姿になると二人そろってベッドに潜り込む。

 

 

「愛…大好き……」

 

 

 ラブはそう言うと愛の小さな体を優しく抱きしめた。

 愛もまたラブの体に手を回す。

 

 

「……私も」

 

 

 愛がそう小さく返した時には既にラブは安らかな寝息を立てていた。

 

 

「あなたを愛しています……」

 

 

 愛はそう続けた後ラブの唇にそっと自分の唇を重ねた。

 

 

 

 その夜、二人が出会ってから初めて穏やかな眠りに落ちて行った。

 そう、優しい夢の中に。

 

 カーテンの隙間から射す月光は静かにそっと二人を照らしている。

 

 

 




重いけどサービス回にもしてみました。
そのサービス内容に喜んで頂けたかどうかも気になる処w

これで今後はポンコツ路線をひた走れればいいけどどうなる事やら。
エリみほ&まほチョビはどうなる?
いらん伏線まで張っちゃったしw

この先の話も修正が多過ぎて苦労してます。
更新ペースが落ち気味ですが気長にお待ち頂けると幸いです。


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第十五話   Love's Seed

今回も軽くサービス回かな?
やっとルクリリとたかちゃん&ひなちゃんも出せたし♪

それと今回直下さんのフルネームを出しましたが、
履帯子じゃ可哀想なので勝手に『リタ』とさせて頂きました。
そして人間関係も捏造しまくってますので♪


 朝食の時間を迎えた笠女学園艦の大食堂は、今朝も七校の戦車道履修者で賑わっている。

 例によって華などは山の様に盛り付けられた丼飯を前に旺盛な食欲を示していた。

 

 

「んも~!華ァ!朝っぱらからやめてよね~!」

 

「この出汁巻きが絶品ですわ~♪」

 

 

 まあどの子も腹が減っては戦は出来ぬを地で行く食欲を示してはいるのだが。

 そんな中でみほもまたトレイを持ち、バイキング形式のおかずを取るべく列に並んでいる。

 但しそのすぐ後ろにはエリカがくっ付いていた。

 頬にほんのり朱が入ったエリカはみほのパンツァージャケットの裾を握り締め、只ひたすらみほの行く先々にモジモジしながら無言で付いて回っている。

 一方のみほもみほで赤い顔で俯きあちこちぶつかりながら歩き回っていた。

 

 

『うはぁ…コレは……』

 

『ふぁっ!?副隊長がデレ?ツンが無い!?』

 

『あ、あのエリカさんが内股に!?』

 

『エリカがまさかの受け!?』

 

 

 普段が普段だけに黒森峰の隊員達は驚愕の目でそれを見ている。

 ただ小梅と直下のみがガッシリ抱き合い漢泣きしているが……。

 その一方でアンチョビとまほはどうかというと、何やら複雑な表情で並んで朝食を取っていた。

 

 

「あ、あんざい…わ、私はだな……」

 

「アンチョビ!黙ってさっさと喰え!」

 

「あ、ああ……」

 

 

 こっちはこっちで何かあったんだろか?

 

 

「みんな~、おはよ~♪」

 

 

 そこへラブが愛とAP-Girlsを引き連れ実に清々しい笑顔でやって来た。

 

 

「コイツは…一人でテカテカな顔しやがって……」

 

 

 アンチョビは血走った目をしてぶすくれた表情でブツクサ文句を言う。

 これは想像するに鈍感健康優良児のまほが、エリカの時同様アンチョビの腕を抱きしめ自分はサッサと寝入ってしまい、アンチョビのみ朝まで悶々と過ごしたって辺りが正解か。

 

 

「うん!昨日の夜はとってもよく眠れたのよ~♪」

 

「そ、そうか、それは良かったな」

 

 

 ピンと来たアンチョビがそう言うと、ニコニコ顔のラブの後ろで愛を筆頭にAP-Girlsのメンバー達も揃って深々と頭を下げていた。

 その様子を見たアンチョビも安堵した表情となり一同に声を掛ける。

 

 

「さあ!しっかり朝食を取るんだ、今日もハードな一日になるぞ!」

 

 

 アンチョビのその声を合図に皆バイキングの列に散って行く。

 それを見送った後にアンチョビは安堵した様に独白する。

 

 

「そうか…よく眠れたか……」

 

「あぁ…」

 

 

 あの日より三年、それはおそらくあの日以来初めてラブに訪れた深い眠り。

 その事に思いを馳せると二人もやっと肩の力が抜ける思いだった。

 

 

「さて、私はひと足先に全体ブリーフィングの準備というかくじ引きの準備をするか」

 

「私も手伝うよ、しかし問題はどうやって梓君とペコ君を説得するかだが」

 

「それはダージリン辺りがえげつない手を考えてるだろ」

 

「あぁ……」

 

 

 アンチョビの言う事を否定出来ず、あっさりまほは納得すると二人揃って食堂を後にする。

 

 

 

 

 

「えぇ~!私とペコさんが総大将~!?」

 

「ダージリン様これは一体どういう事でしょう!?」

 

 

 梓とオレンジペコが並んで少し青い顔で困惑の声を上げる。

 しかしダージリンは涼しい顔で抗議は一切受け付けぬとばかりに指を鳴らすとラブに命じた。

 

 

「ラブ、説得なさいな」

 

「は~い♪」

 

 

 元気にお返事したラブが並んで立つ梓とペコの前に立つと少し屈み左の胸に梓の顔を、右の胸にはオレンジペコの顔を押し付ける様に熱烈なハグを敢行する。

 

 

「んん~!?」

 

「う゛ぶぅ!!」

 

「アレのどこが説得だ…」

 

 

 ドン引きしつつアンチョビが言うも周りを見ると、羨ましそうな顔でその光景を食いいる様に見る者が多く、アンチョビはその事態に思わず片手の掌で顔を覆う。

 

 

「ぶは!って、な…なん…なんで…!」

 

「はぁ!はぁ!ダ、ダージリン様!?」

 

「あ、まだ説得が足りないみた~い♪」

 

 

 ラブはそう言うが早いか再び二人を天国と地獄へ誘う。

 

 

『ゼェ、はぁ、ゼェ、はぁ……』

 

「まだ何か異議がありますかしら?」

 

『ありません…』

 

 

 荒い息で床に座り込んだ二人がやっとそう答えるとダージリンも大いに満足げに頷く。

 

 

『この女は……』

 

 

 周りの者の白い眼を余所にダージリンは悪女笑いを堪能していた。

 

 

「ねえ、二人共?」

 

『ヒィっ!?』

 

 

 突然座り込んだ二人の間にラブが顔を突っ込むと語り掛ける。

 

 

「そんなに怖がらないでよ~、もうやらないから~。それよりね、そんな難しく考える事は何にも無いのよ?使うのはペイント弾でどちらが勝っても恨みっこ無しの、云わば雪合戦みたいなお遊びだもの。上級生はみんな納得してるのよ?学校は違ったって有望な新人の登場は楽しみなの。特に三年生はもうそんな有望株の指揮する戦車と戦う機会は無いのよ?それに私も見たいのよ、大洗のヤングタイガーとあのダージリンの秘蔵っ子の実力をね。何と言ってもこの先二年間私の強力なライバルになるのは間違いない二人なんですもの♪」

 

「そんな!だって厳島先輩は!」

 

「そうですわ、厳島様は!」

 

「え~!?先輩呼び~?様呼び~?同じ()()()なのに~?」

 

「もうそこまでにしなさいよ!先に進まないわ!」

 

「み゛ゃ゛~!」

 

『猫か…』

 

 

 カチューシャがラブの耳を引っ張り二人の間からラブを引き離す。

 

 

「さあ、クジ引きをしてチーム分けをしましょう」

 

 

 ノンナが優しく二人を立たせると用意されているクジ引きの箱を指し示す。

 顔を見合わせた二人はクスリと笑うとどちらからともなく手を繋ぎ、用意された箱に向かった。

 

 

「これは…また凄い配分になったな……」

 

 

 くじの結果出来上がった両軍の編成を見てさすがのまほも唸る。

 

 

「みほ~!みほ~!!」

 

「エリカさ~ん!!!」

 

「まああのバカップルはほっといて…」

 

 

 予定調和で離れ離れになったエリみほの愁嘆場にゲンナリしつつアンチョビも驚きを隠せない。

 他の者も同様に編成表を覗き込み口元が引き攣っている。

 クジを引いた当の二人も青い顔で震えている。

 

 

『これはいくらなんでもガチ過ぎだろ!』

 

 

 その問題の両軍の編成表はと見てみれば──。

 

 

 

 梓大隊          オレンジペコ大隊    

 

 大将 澤梓        大将 オレンジペコ

 

 副将 ダージリン     副将 西住みほ

 

    西住まほ         アンチョビ

    ケイ           カチューシャ

    ノンナ          ナオミ

    ラブ           アッサム

 

    逸見エリカ        赤星小梅

    直下リタ         ぺパロニ

    カルパッチョ       ローズヒップ

    ルクリリ         アリサ

 

 

 主だった面々の振り分けだけでもこの状態、それ以外でも綺麗に分かれて戦力バランスはものの見事に拮抗した状態となっていた。

 

 

『……マジか…?』

 

 

「ラブ!アンタなんかクジに細工しなかったでしょうね!?」

 

「してないわよ~!私だってビックリしてるんだから~!」

 

 

 あまりに見事な別れっぷりにカチューシャはラブを疑うが、そのラブも相当驚いた顔をしている。

 因みにダージリンとアッサムはさっさとチャーチルをオレンジペコに任せると、自分達はそれぞれ一部の乗員を入れ替えマチルダに乗り換えていた。

 

 

「ノンナとKVたんがあっちに行っちゃったわ…」

 

「カチューシャはまだいいわよ、ウチなんかAP-GirlsはLove Gun以外みんな向こう行っちゃってどうすんのよ~?あ~厄介だわ~」

 

「それどういう意味よ?」

 

「ん~?私達普段の訓練は基本的に私対AP-Girlsでやってるのよ~」

 

「なんですって!?」

 

「最初の頃は私が一方的にボコボコにしてたんだけど、最近じゃもう本当にギリギリよ。まあまだどうにか一度も負けてないけどね~」

 

 

 まだ十代とはいえラブは厳島流の家元、1対4とはいえそのラブを追い詰めるAP-Girlsの少女達のまだ見ぬ実力に、カチューシャは背中に冷たい物が奔るのを感じた。

 しかしラブはといえば至ってのんきな口調でこう言うのみだった。

 

 

「きっと私の事全力で潰しに来るわ~」

 

「……」

 

 

 のんきな顔をしたラブとは対照的に難しい顔をするカチューシャ、その一方で嬉々とした顔で梓を煽っているのが他ならぬダージリンである。

 

 

「あの…宜しかったのですかダージリン様…」

 

「あらルクリリ、何がかしら?」

 

「その…チャーチルをペコに任せて…いえ!私はマチルダに一緒に乗って頂けて嬉しいのですが!」

 

「まあ、そんな事?これは云わば将来の予行演習みたいなものよ。尤も、来年チャーチルの車長の席に収まるのはルクリリ、あなたですけどね」

 

「ダージリン様!それは!」

 

「ルクリリ、私はね、チャーチル会だのマチルダ会だのそんなものに拘る気は更々ありませんの」

 

「ですが!」

 

「それよりルクリリ、あなたもうラブと話はしましたの?」

 

「い、いえ、今はダージリン様始め同期の方の、三年ぶりの再会の時間が最優先かと思いましたので私などはその後の方が良いかと……」

 

「まあ、そんな事を気にしていたの?」

 

「その…今の私があるのはラブ先輩のおかげです。あの頃伸び悩んで戦車を降りようかとまで考えた私に、ラブ先輩はマメに指導して下さいました。そのおかげで護りに一定の評価を頂けて、マチルダ隊を預けて頂けるまでになりました」

 

「そう思うのなら行っておあげなさい、あの子ずっと待ってるわよ?」

 

「ですが……はい…ハイ!」

 

「ラブの所に行くならついでにコイツも連れてってくれないか?」

 

「え?」

 

 

 ルクリリとダージリンが声の方をと見ればアンチョビがカルパッチョを伴って立っていた。

 

 

「ウチのカルパッチョまで似た様な理由で遠慮してるもんでね、出来れば一緒にラブの所に連れて行ってくれると助かるんだが」

 

 

 アンチョビはホレとばかりにカルパッチョのお尻を軽く叩く。

 

 

「もう!ドゥーチェ!」

 

「いいから」

 

 

 カルパッチョが遠慮がちにルクリリへと視線を向けるとルクリリも微笑み一つ頷く。

 

 

「さあ!一緒に行こう!」

 

 ルクリリが手を差し伸べるとカルパッチョもその手を取り、二人ははラブの元へと駆け出す。

 その背を見送るダージリンとアンチョビは、こんな処でもラブの蒔いた種は芽吹き成長しているのだと実感し微笑むのだった。

 

 

「さて、悪の黒幕としましては悪巧みに勤しむと致しましょうか♪」

 

「それは実に素晴らしい提案だ♪」

 

 

 二人は笑いながら手を上げるとそれぞれの総大将の元に向かうのだった。

 

 

「んも~!待ってたのに~♪」

 

 

 嬉しそうにそう言いながらラブはルクリリとカルパッチョを例によってハグしている。

 二人とも苦しそうではあるが再会出来た喜びに笑顔も見せていた。

 

 

「よかったね、ひなちゃん…」

 

「どうしたカエサル?」

 

「いや、私は昔何度かあの厳島という笠女の隊長に会った事があるんだ」

 

「ほう、それは本当なのか?」

 

 

 騒ぐラブ達をじっと見ていたカエサルにエルヴィンが声を掛けると、意外な返事が帰って来た。

 

 

「ああ、昔私はよくひなちゃ…カルパッチョの試合の応援に行っていたんだけどその時にね。他校の後輩なのに、試合後なんかによくあの人は色々と指導してくれてたんだよ。私はその頃戦車道やってなかったのに一緒にお茶とか御馳走になったんだ」

 

「そうだったのか」

 

「うん、だからあの人が事故に遭ったのも覚えてるんだ…ひなちゃんが泣いて大変だったから……」

 

「大変な事故だったらしいな」

 

「ああ…だから観閲式の後に西住隊長と親戚だと聞かされて余計に驚いたんだ」

 

「思わぬ処に人の縁ってあるもんだな」

 

 

 少し二人がしんみりしかけた処にカルパッチョが声を掛けて来た。

 

 

「たかちゃ~ん!こっちこっち!」

 

 

 見れば手招きするカルパッチョの横でラブもニコニコと手を振っている。

 

 

「えぇ~!?ってカエサルだ!」

 

「行って来いよ」

 

 

 エルヴィンはそう言うとカエサルの背中をポンと押す。

 

 

「あ!っておい!」

 

「いいから」

 

 

 遠慮しつつカエサルが近付くとやはりラブが最早お約束の熱いハグを敢行する。

 

 

「うわぁ!わ、私の事覚えてるんですか!?」

 

「勿論よたかちゃん!可愛い後輩の大事なお友達ですもの~懐かしいわ~♪」

 

 

 ラブにとってこの航海は失った懐かしいものを取り戻す旅なのかもしれない。

 再会を喜び合う小さな輪の元に今度はまほに伴われ小梅と直下がやって来た。

 

 

『ラブ先輩、お帰りなさい』

 

 

 二人が揃って頭を下げるとラブが飛び付き二人を抱きしめる。

 それを合図とした様に嘗て教えを受けた者達が集まり始め、いつしか大きな輪が出来ていた。

 まるで固く閉じていた大輪の花の蕾が、小さな花達に促され花開く瞬間の様な光景に、離れた位置から見守る仲間達もそれぞれ口元に柔らかな笑みを浮かべるのだった。

 

 

「Hey!それじゃあ全体ブリーフィングを始めるわよ!」

 

 

 巧いタイミングでケイがその輪に向かい声を掛けるが、この辺の間の取り方の巧みさはやはりサンダースの様な大所帯を束ねるケイならではだろう。

 

 

「それじゃあ大まかなルール説明からね、まずこの紅白戦はフラッグ戦で行くわよ。今回もペイント弾を使うから戦車のサイズ毎の被弾数で撃破判定をするわ。大将のみ六発被弾で撃破判定、重戦車が五発で中戦車は四発、それ以下は三発で撃破扱いね。前回同様タンケッテに関しては十発でワンカウント扱いにするからね。ここまではOK?」

 

「しつも~ん、通信傍受はアリですか~?」

 

 

 何処からかお約束の質問が飛び隊員達の間に爆笑が起こる。

 アリサは切れているがケイは困った顔ながら笑っていた。

 

 

「もうそのネタはそろそろ勘弁してあげて。まあジョークはこれ位にしておいて次に行くわね。今回は大将イコールフラッグ車になるわ。使うフィールドはこの学園艦の演習場全て。白旗判定の出た車両は自走でパドックエリアに戻る事、その時くれぐれも他の交戦中の車両を妨害するような行為はしない事。戻るのはそうね、交戦エリアが他に移動してからのタイミングがいいと思うわ」

 

「みんな~、白旗判定出て戻ったらグランドスタンドに上がってね~!飛びっきりのケーキバイキングを用意しておくから~!あ、でもそれ目当てにワザと的になっちゃダメよ~♪」

 

 

 このラブの発言にブリーフィングルームは笑いに包まれる。

 そしてここからは両軍に分かれてのブリーフィングが始まった。

 なお、この一戦大洗は梓大隊にはカバさんとレオポンが、オレンジペコ大隊にはカメさんとアヒルさんにカモさん更にアリクイさんが振り分けられている。

 

 

「さあラビット何なりと命令してね、存分に暴れて見せるわ!」

 

 

 ケイはそう言うと梓に向かってウィンクを決める。

 ラブにああは言われたものの梓は緊張でガチガチに固まって何も言えない。

 

 

「そうよ、こんな機会は普通絶対にありえないのですから存分に楽しみなさいな」

 

「ウム、ここは存分に自分の成長をみほに見せ付けてやるといいぞ」

 

 

 大物三人にそう言われると梓の緊張は増々高まって目がグルグルしてしまう。

 

 

「ほ~ら~、ダメよ~、梓ちゃん増々固まっちゃったじゃない。ねえ梓ちゃん、さっきも言ったでしょ?楽しもうって、アナタらしく、ウサギさんチームらしくやればいいのよ~?」

 

「ウサギらしく…?」

 

「そう!全国大会や大学選抜の時みたいに大暴れしちゃっていいんだから♪」

 

「私達らしく…身の丈に合った戦い……」

 

「だから難しく考えないの、今年戦車道始めたばかり、しかも一年生であれだけ活躍出来るなんて普通じゃ有り得ない。型にはまらない自由な戦車道を私達に見せてよ♪ホラ!あっちを見てご覧なさいよ、魔女三人が策を弄してペコちゃんを焚き付けてるわよ~?」

 

 梓が言われた先を見るとアンチョビとカチューシャが悪そうな顔で、みほも困った様でいながら楽しげにオレンジペコを囲み何やら密談の最中である。

 ラブはニコニコしながら優しく梓の肩を抱き、周りの先輩達も優しい表情で頷いている。

 梓は腹を決めた様に自分の両頬をピシャリと叩くと右の拳を振り上げ元気よく宣言した。

 

 

「ヨ~シ!やるぞ~!」

 

「うん♪その意気だ~!」

 

 

 ラブも楽しげに梓に倣い右の拳を上げると周りも一斉に拳を上げた。

 かくして空前のスケールの紅白戦はもう間も無くその幕を開ける。

 

 

 




この先の展開が大変なんですよ、何しろ戦車の総数が…。


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第十六話   降り注ぐ魔女の矢尻

今回はシリーズ最悪の難産回となりました。
ほぼ全編書き直すことその数7回…もうホント嫌になりました。
理由は作戦の組み立てで中々梓っぽくならなくて…。

これでもまだ梓っぽくないかなぁ?



「あ、あの!厳島先輩にお願いがあります!」

 

「ん~?な~に梓ちゃん?」

 

 

 ラブは()()に微妙に反応しつつも梓に応える。

 

 

「私達と最初に対戦した時のアレをお願い出来ますか?」

 

「え?ええ、いいけどいきなり大胆ね~♪」

 

「AP-Girlsの皆さんにやられる前に出来れば先手を取りたいんです」

 

「あ、ああそういう事!大丈夫よ、それは無いから~」

 

「え?でも……」

 

「ホント大丈夫よ~、まだあの子達だけじゃ出来ないから~」

 

 

 ラブはそう言うと笑いながらヒラヒラと手を振る。

 しかし梓は訳が解らないといった顔で首を捻るしかない。

 

 

「成る程、そういうカラクリでしたのね」

 

「Why?どういう事よ?」

 

「あのAP-Girlsが全車一斉にノックして来たのは全てラブの指示で撃っていた、違う?」

 

「さすがダージリン鋭いわね~♪」

 

「おい、いいのか?そんな簡単にネタばらしして?」

 

「いいのいいの、どうせあなた達には直ぐ見破られる事だし~。それにホラあっちでも愛達がネタばらししてるみたいよ、大方千代美辺りが提案したんじゃないかな~?」

 

「ええ、カチューシャ様が悔しそうな顔をしているから多分そうでしょう」

 

 

 ラブの言う事をノンナも肯定するが、隊長達の会話に付いて行けない梓は独り戸惑うばかり。

 

 

「あの…どういう事なんですか?」

 

「あら、梓さんごめんなさいね。AP-Girlsの子達はまだあの超長距離の予測射撃を修得していないという事よ。あの子達はラブが指定したポイントに撃ち込んでいるだけ、尤もそれを正確に実行するあの子達の技量も相当な事なのは確かですけれど」

 

『そしてそれを実行させるラブが普通ではない』

 

 

 隣に居るまほはそれを口には出さず心の中でのみ呟くのだった。

 

 

「まあでも悪い手じゃないわ。ヨシ!ここはひとつ私も頑張っちゃおうかな~?でもそれには協力が必要だから今から言う車両のメンバー集めてくれる~?」

 

 

 ラブの指示により大洗のカバさんとレオポン、プラウダからノンナのIS-2とKV-2、更に黒森峰からは直下のヤークトパンターの乗員が集められた。

 

 

「取り敢えずはこんな感じかな~?それに私とウサギさんチームにも参加してもらうわ。でも正直これ以上は私も無理ね、無駄弾になるだけだわ」

 

「あの、私達のM3もですか?」

 

「そう、総大将も最初にドカンと撃って景気付けしましょ♪」

 

「はあ…それで具体的にどうすればいいんですか?」

 

「やる事は簡単よ、私の指定した座標に撃ち込めばいいだけ、発砲タイミングも私が指示するから」

 

「それだけ…ですか?」

 

「うん、それだけ~♪でも先手をそれで取るとしてその後はどうするのかしら?」

 

 

 梓は少しの間逡巡するも顔上げると自分なりの考えを述べ始める。

 

 

「その後……えっとえっと…」

 

「梓さん、あなたがペコの立場ならどうするかしら?」

 

「私がペコさんの立場なら…?」

 

「そう」

 

 

 ダージリンの青い瞳に見つめられ梓はオドオドしながらも必死に思考を巡らす。

 

 

「あの、えっと、いつもの聖グロの戦い方はしない気がします…」

 

「浸透強襲戦術の事かしら?それはどうして?」

 

「その、こちらにはダージリン隊長が居ますし、向こうには西住隊長とアンチョビ隊長が居ます、だから何か違う事をやってくるかもしれません」

 

「それで?」

 

「ペコさんと何度かお話ししていて気付いたんですけど、彼女意外といたずらっぽい事が好きなんです。それで向こうに西住隊長がいるなら、この市街地区画で何かしてくるんじゃないかと」

 

 

「ペコがねぇ…それは知りませんでしたわ」

 

 

 ダージリンは今まで気が付かなかったペコの一面を知り少し意外そうな顔をする。

 

 

「あ…もしかすると……」

 

「何かしら?気になる事があったらどんどん言って構わないのよ?」

 

 

 ダージリンは聞き役に徹し巧妙に梓の思考を引き出している。

 それに気付いた面々も興味津々で二人のやり取りに聴き入っていた。

 

 

「ペコさんやっぱり浸透強襲戦術やって来るんじゃないかって…でもそれは見せ掛けで……」

 

「成る程欺瞞作戦ね、アンチョビが向こうにいるなら尚更その可能性は高いわ」

 

「ハイ、それで西住先輩が別に動いて市街地を抑えに来るんじゃないかと」

 

「Wow!ラビット中々鋭い読みをするじゃない!」

 

「うん、良い読みだと私も思うぞ」

 

 

 梓の予想にケイとまほも感心した様に頷く。

 

 

「もしそうなったら西住先輩の別働隊を市街地に閉じ込められないでしょうか?」

 

「脱出口を重戦車で固めてしまえばさほど難しくはないな、それは黒森峰中心にやろう」

 

「お願いします、それで本隊なんですがダージリン先輩にお任せしてもいいでしょうか?」

 

「あら?梓さんはどうするの?」

 

「私は…私も別働隊を作ってペコさんの本隊に奇襲を仕掛けたいんです、私が先陣に立ちます!」

 

「まあ!随分と大胆だこと♪」

 

「それであの…ケイ隊長は私と一緒に来て頂けますか?」

 

 

 その梓の問いにケイは満面の笑みで親指を立てると快活に応えた。

 

 

「OK!ラビット♪頼りにしてくれていいわ!」

 

「ただ…AP-Girlsだけがどう動くのか全く予想が出来ないんです」

 

 

 梓はここで視線をチラリとラブに向けた。

 その視線を受けたラブは梓の意を即理解し笑いながら梓に言う。

 

 

「あ~、ウチの小娘達なら私に任せて~。あの子らは間違い無く別働隊に加わって突っ込んで来るわよ。私が市街地に入れば確実ね。こんな時位は他の隊とやり合って経験値積めばいいのに、ここぞとばかりに私の事狙って来るからその時は私が面倒見るわ。ねぇケイ、何両かシャーマン私に預けてくれる?それとまほは私とみほが市街地に入ったら蓋しちゃってくれる~?」

 

「Ok!」

 

「ああ任せろ、だがその時は私も市街に入ってみほの相手をしてやろう」

 

「梓ちゃん、こんな感じでいいかな~?」

 

「宜しくお願いします!」

 

 

 梓は勢いよく三人に向かい頭を下げる。

 

 

「大筋は決まったな、後は細かい編成だがそうだな…ルクリリ君はダージリンと一緒だしそうだな、ノンナとエリカは本隊に加わって敵の本隊を手厚く歓迎してやってくれ。ポルシェティーガーとKV-2に直下は市街地封鎖組だな、三突は梓君の奇襲組が連れて行くといいだろう。それ以外の振り分けは各隊長でやればいい。それとカルパッチョ君、アンチョビは君に任せていいか?」

 

「あ、はい!任せて下さい」

 

「そうか、まあ後は出たとこ任せだな。何しろこれは祭りだ、存分に楽しめばいい。こんな感じでどうだろうか梓君?」

 

 

 そう言ったまほは梓に向かい珍しくチャーミングなウィンクを披露して見せた。

 

 

「あ、あああ、ありがとうございます!」

 

 

 まほの意外な行動に梓はそう言うと真っ赤な顔で俯き、他の者も呆気に取られるのだった。

 一方その頃オレンジペコの陣営の作戦会議はというと──。

 

 

「基本は浸透強襲戦術か…でもそれは当然読まれてるだろ?」

 

 

 アンチョビは頭を掻きつつオレンジペコにそう言う。

 

 

「はい、あちらにはダージリン様がいらっしゃいますから」

 

「だよなぁ」

 

「ですから私が先陣を切って進軍したいと思います」

 

「オイオイ、それはまた大胆だなぁ」

 

 

 きっぱりと言い切るオレンジペコに呆れつつもアンチョビは先を促す。

 

 

「それで本隊にはカチューシャ隊長、ナオミ様とアッサム様、西住隊長には別働隊として市街地を抑えて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

 

「了解よ!」

 

「任せて」

 

「総大将に付いて行きますわ」

 

「お姉ちゃんとラブお姉ちゃんは私の所に来るだろうなぁ」

 

「そんならアタイらが別働隊と一緒に行ってラブ姉の相手するわ」

 

 

 夏妃が嬉々とした顔で手を上げて進言する。

 

 

「ウチのぺパロニと聖グロのローズヒップも連れて行け、引っかき回すのに最適だ」

 

「あははは……」

 

 

 みほは困ったなといった顔で頬を掻く。

 

 

「それと恐らく市街地に突入すると今度は封鎖して来ると思われますので、その部隊への対応は赤星さんとアリサさんで部隊を編成して当たって貰いたいのですが宜しいですか?」

 

 

 指名された二人も承知とばかり頷く。

 

 

「アンチョビ隊長──」

 

「解っている、私に敵本隊への奇襲をやらせたいのだろう?おーい、みほ!大洗の連中を私に預けてくれるか?」

 

「あ、ハイ!了解です!」

 

「まあザッとこんなもんだろ、どうだペコ?」

 

「はい、これで宜しいかと思います」

 

「まあ後気になるのはラブのノックだがあれは不運クジみたいなもんだからなぁ…」

 

「ですねぇ……」

 

 

 両陣営大まかな作戦方針は決まったのだが双方の各隊長達の内心はというと──。

 

 

『お互い読めてるだろうから結局ガチのどつき合いになるんだろうなぁ……』

 

 

 かくして両軍合わせて八十両に達する戦車が激突する大戦車戦はもう間も無くその火蓋を切る。

 

 

 

 

 

「それじゃあ各員念の為長期戦に備えてお弁当受け取ってね~♪」

 

 

 作戦会議も終わりフィールド両端に分かれる前全員にお弁当が配られる。

 

 

「あ、華さんのはコレね~♪」

 

 

 ラブがそう言いながら華に手渡すのは特大サイズのお弁当の包み。

 そのサイズに周囲の者もドン引きしているが華のみが喜んでいる。

 どうやら華の食べっぷりはすっかりラブに気に入られたらしい。

 

 

『つ、通常の三倍……』

 

「やだも~!」

 

 

 そんなこんなで全員にお弁当が行き渡った辺りで、演習場を管理するコントロールタワーより判定用ドローンの準備完了を告げるアナウンスが流れた。

 

 

「ヨ~シ!それじゃあ始めようか~♪」

 

「梓さん、お互い頑張りましょう」

 

「ハイ!負けませんよ!」

 

「うふふ♪私もです」

 

 

 ペコと梓が笑顔で握手を交わしそれを合図に各員乗機に搭乗して行く。

 パドック内で待機中だった戦車達が一斉にエンジンを始動し、辺りは凄まじい轟音に包まれこれから始まる戦闘への緊張感と高揚感に包まれる。

 そして一両また一両とパドックを後にしそれぞれの集結ポイントへと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

「さて、いよいよですわね」

 

「ああ、正直かなりワクワクしてるんだ」

 

「私も訓練以外でカチューシャ様と戦うとなると不思議な高揚感を感じます」

 

「That's right!信号弾が上がるのが待ちきれないわ!ってHey!ラビット!肩の力抜いて!」

 

「は、はいぃぃ!」

 

 

 梓の反応に一同思わず笑ってしまったが気が付くとその輪にラブがおらず、視線を巡らすと既にLove Gunのコマンダーキューポラに収まっているがどうもその様子がおかしい。

 弛緩した様な状態で俯きよく聴くと何やらブツブツと呟いている、また何かおかしくなったのかと一同慌てて駆け寄ると、Love Gunの砲塔側面ハッチから金の瞳にセミロングのシルバーブロンドをツーサイドアップにした少女が顔を出す。

 彼女の名前は高森瑠伽(たかもりるか)、Love Gunの砲手を任されている少女だ。

 

 

「あ、申し訳ありません、今ラブ姉は()()に入っちゃってるんで話し掛けても無駄なんですよ。」

 

「演算?それは一体?」

 

「複数車両に対して同時超長距離予測射撃する時はこんな感じになるんです。相手の位置予測に集中しきってて、終わるまで何言っても反応しませんから。私達この状態を演算って呼んでるんです」

 

「そ、そうなのか…」

 

 

 まほも一応安堵するものの、ラブのその一種異様な雰囲気に一抹の恐怖も覚えた。

 中学時代ノックをして来たのはラブのみであり、この空白の三年の間にその才能をただ昇華させたのであれば全く問題は無いだろう。

 しかしもしこれがあの事故の代償として手に入れた能力であると考えた場合、それがラブにどれ程の精神的負担を与えているか、この先を考えると不安を感じざるを得なかった。

 

 

「まほさん……」

 

「あ、あぁ…」

 

 

 ダージリンも同じ不安に駆られたのか心配げな表情でラブを見つめている。

 一同の不安を余所にラブは今も何かを呟き続けその不安感を一層煽るのだった。

 

 

「チャーチルの行き脚では…うふ、不安よね…各車超長距離の…警戒……うん、うんそうだよね…そう動くよね…ボヤボヤしてると確実に…千代美は…さすがね…でも…全く厄介だわ!…ふふ…そう行くんだ…ダメ元で17ポンド撃ち返す…それだとその場で……いっそ傘でもさそうかしら…意外に可愛らしい事……ラブ先輩確実に私も…ええ…熱烈なキスを…‥」

 

「相手になり切って考えるとは聞いていたがこれは…」

 

「ええ、自分だけならここまでではなかったはずですわ……」

 

 

 まほとダージリンが何か得体の知れない薄ら寒さを感じたその時、ラブの左手が咽頭マイクを押えノック参加車両に対し指示を出し始めるが、その声もまた酷く抑揚に欠けるものだった。

 

 

「全車仰角最大で待機……三突5m前進傾斜に乗り上げて…左回頭3度…行き過ぎチョイ戻し…OK、ポルシェティーガー10m後退……砲塔右旋回…ストップ、仰角そのまま…IS-2、3m後退砲塔チョイ右…仰角1度下げ……KV-2.15m前進…砲塔仰角そのまま左旋回…チョイ戻し…ヨシ…ヤークトパンター…右前方傾斜乗り上げ、右回頭5度、もう少しOK…仰角2度下げ……M3、20m前進緩斜面へ……梓?」

 

「ハイ!」

 

「梓?」

 

「桂利奈、厳島先輩の指示に従って!」

 

「アイ!」

 

 

 桂利奈は戸惑いながらもM3を緩斜面へと乗り上げる。

 

 

「行き過ぎ…0.5m後退…ヨシ、右6度旋回…ストップ」

 

 

 他車への指示を出し終えたラブは最後に自身のLove Gunの乗員に指示を与え始めた。

 

 

「香子、18m前進」

 

 

 Love Gun操縦手、栗毛色のエアリーショートに鳶色の瞳の少女、小石川香子(こいしかわかこ)は慣れた様子で指示通りの距離でLove Gunをピタリと止める。

 

 

「Ok、次、瑠伽。砲塔右旋回6度、仰角1度下げ…ヨシ……各車発砲指示まで現状待機」

 

 

 ここまでの展開を言葉を失い見ていた一同に、ラブはその表情の消えたままの顔を巡らすと無言で各車への搭乗を促す。

 

 

「あ、ああ、解った…各員搭乗!」

 

「まほさん、この事は後でまた話し合いましょう」

 

「…そうだな」

 

 

 短めに言葉を交わしそれぞれの乗機に散るのを見届けたラブは再び梓に無線で呼び掛けた。

 

 

「梓…指示を……」

 

「あ、ハイ!全車に通達!信号弾確認と同時に市街地封鎖部隊及び本隊と奇襲部隊は進発して下さい。超長距離射撃終了後参加車両もこれに追従します」

 

 

 信号弾打ち上げ予定時刻まであと五分、周囲には戦車のアイドリング音以外は聴こえない。

 遊びだからと言われても梓は緊張し喉が貼り付く様な感覚を覚える。

 そして残り二分程の処でラブが再び指示を出し始めた。

 

 

「各車ペイント弾装填…以降15からカウントスタート、13でIS-2が発砲、10でヤークトパンターが、9でポルシェティーガー、7で三突、5でKV-2が、3でM3、ゼロタイミングでLove Gunが発砲し同時弾着攻撃を敢行する……」

 

 

 自身で祭りと言いながら、まほも言い様の無い緊張感を感じながら手元のクロノグラフを見る。

 秒針の進み方が異様に遅く感じる、そしてタイミングジャストで信号弾の破裂音が響く。

 

 

「パンツァー・フォー!」

 

「前進」

 

「Go ahead !」

 

 

 それぞれの号令の元に各部隊が進発し、それと同時にラブのカウントも開始された。

 

 

「15、14、13!」

 

 

 ラブのカウントする声が一際大きくなりIS-2の122㎜が火を噴く。

 

 

「12、11、10!9!8、7!6、5!4、3!2、1──」

 

 

 その後もラブのカウントの声が強くなる度発砲は続きいよいよカウントはゼロになる。

 

 

「ゼロ!」

 

 

 Love Gunの車内に鋭い発射音が響きペイント弾が撃ち出される。

 その直後にラブは力が抜けた様にコマンダーキューポラに背を預け沈黙する。

 

 

「ラブねぇ~、終わったよ~?」

 

「ん…あ…ん~!私頑張っちゃったね~♪」

 

 

 瑠伽の呼び掛ける声でラブはスイッチが入った様に元に戻っていた。

 そして数秒後無線の共用回線でコントロールより全弾命中の報が両軍にもたらされる。

 

 

「オレンジペコ大隊、チャーチル、Ⅳ号、P40、T-34-85、ファイアフライ、マチルダⅡ、パンター、各車被弾数1カウント」

 

「え!ウソ!?当ったの!」

 

「そうよ~、梓ちゃんお見事~♪」

 

 

 愕然とする梓にラブは元の調子でお気楽に梓を褒め称える。

 

 

「さあ私達も先行してるみんなを追い掛けましょ♪」

 

「は、ハイ!砲撃部隊パンツァー・フォー!」

 

「お~!」

 

 

 

 

 一方では七両に対する超長距離同時弾着攻撃をまんまと喰らってしまったオレンジペコ大隊は、未だ軽いパニック状態から脱しきれずにいるのだった。

 

 

「ウソでしょ!?」

 

「つ、次が来る!?」

 

「みなさん落ち着いて!」

 

「散開しろー!」

 

「隠れろ!ってどこに!?」

 

 

 例え自分の搭乗する車両が被弾していなくとも、この攻撃による精神的な揺さぶりは効果絶大で、警戒して予め広く展開していただけに隊列も大きく乱れ、ものの見事に出端を挫かれた形になった。

 

 

「冷静になりなさい!粛正するわよ!」

 

 

 しかしそれもこの小さな暴君の大音声によりどうにか収まりを見せ始める。

 

 

「全く!やってくれるわ!」

 

「ああ、ものの見事にやられたな」

 

「はい、とにかく今は出遅れを取り戻さないと。ペコさん、指示を!」

 

「ありがとうございます…それでは各部隊当初予定通りの行動を…前進!」

 

 

 ペコの号令と共に各隊隊列を組み直すとそれぞれの展開ポイントを目指し進軍を始めた。

 

 

「さて…この出遅れがどの程度後に響くかだが今は考えても始まらん。とにかく一刻も早く奇襲予定ポイントまで前進だ。奇襲部隊隊列組み終わったか!?ヨシ行くぞ、Avanzare!!」

 

 

 このラブの最初の一手が後々の戦局にどう影響するか?まだその戦いは始まったばかりだ。

 

 

 




この紅白戦に投入された戦車の総数80両超え…大学選抜戦よりw

そしてまた何かラブに不安要素が…。


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第十七話   緊張と緩和

週中でどうにか一本お届けです。

やっと本格的な戦闘が始まりますが今回も書き直しが多かったです。
でもこの次の分が更に大変で出した戦車の多さを後悔してます…。


「オ~ホッホッホッ!さあみなさん!()()()()()()()のおっ紅茶が冷めてしまう前に市街地に突入致しますわよ!」

 

『ローズヒップさんそれだけは止めて下さい…本当に…… 』

 

 

 無線から響くローズヒップの声に心底嫌そうなオレンジペコの声が重なる。

 展開する部隊の各車の中でも笑っちゃ可哀想的雰囲気で皆複雑な表情をしていた。

 みほも競う様に先行しようとするぺパロニとローズヒップに手を焼きつつ、困った顔でコマンダーキューポラ上で周囲を警戒しながら市街地区画に近付きつつあった。

 

 

「全車停止して下さい」

 

 

 みほの指示で市街地に向かう別働隊はその手前の稜線を超える前に全車停止する。

 

 

「優花里さんどう思います?」

 

「そうですねぇ、あのタイムロスで市街地を先に抑えられた可能性は高いと思われます」

 

「うん、私もそう思う…」

 

「ここはやはり私が偵察に行ってまいります」

 

「お願い出来る?」

 

「ハイ!お任せ下さい!」

 

 

 優花里はそう言うや機敏な動作であんこうから躍り出ると、周囲を警戒しつつ慎重に稜線を昇って行きその姿は生い茂る雑草に紛れ見えなくなった。

 

 

「一体どうしたんですの?なぜ直ぐに市街地に突入しないんですの?」

 

「今偵察を出していますから少し待って下さいローズヒップさん」

 

 

 早くも焦れて来たローズヒップを諌める様みほは無線で応えるが、内心では既に市街地は抑えられているであろう事は決定事項であった。

 しかしそれでも市街地を抑えれば敵の背後を突けるので突入せざるをえないのも事実であり、問題は如何にして市街地に入るかで、その為にも優花里の持ち帰るであろう情報がその方針を決める重要なカギになるのだ。

 みほは自分が市街地に入る事を前提にまほが動くであろう事は解っており、ラブもまたまほと行動を共にするだろうと予測している。

 AP-Girlsの少女達もまたそれを見越して自分に付き従っている事から、必然的にまほと対峙するのは自分である事は明らかだ。

 そうなった時戦局を大きく左右する存在がぺパロニとローズヒップであり、それが吉と出るか凶と出るかはまだみほにも予想は出来なかった。

 更にもう一点、封鎖作戦対策で同行している小梅とアリサの混成部隊も、現状では動き様が無い事も問題だった。

 

 

「ただいま戻りました西住殿!」

 

「お帰りなさい優花里さん、それでどうでしたか?」

 

「はい、直接見える範囲には敵影は無く、ハルダウン出来る様なポジションも見受けられません。ダグインしようにも穴を掘る程の時間も無かったでしょうし、そう考えると既に市街地入りしていると見るのが正解かと思います。それと気になるのが市街地に出入り出来るポイントは全部で三か所、もしこれを我々の突入後封鎖されたら目も当てられません。ただこれもあまり深入り出来ませんでしたのであくまで私の推測なのでありますが……」

 

「私も優花里さんの推測が正しいと思う…」

 

 

 みほと優花里がどうしたものかと思考している処にブラックハーツ車長の鈴鹿から通信が入る。

 

 

「あ、はい、了解。ねえみぽりん、ブラックハーツの鈴鹿さんがAP-Girlsを先行して突入させろって言って来てるけどどうする?」

 

「鈴鹿さんが?」

 

「うん、AP-Girlsがまず突入してラブ姉を引っ張り出して混戦状態を作るから、そのタイミングで後から時間差で突入しろって」

 

 

 通信内容を伝えた沙織はどう返事をしたものかと首を傾げる。

 出遅れた分を考えてもこれ以上長々と考え込んでいる時間は無い、既に本隊と奇襲部隊も行動を開始しておりこれ以上の時間のロスは許されず、ここで腹を括ったみほは鈴鹿の提案に乗る事にした。

 沙織から通信を引き継ぐとみほは鈴鹿と直接打ち合わせに入る。

 

「鈴鹿さんお話は聞きましたけどそれでいいんですか?恐らく黒森峰中心の重戦車も展開していると思われますけど」

 

「西住隊長、多分我々が突入してもラブ姉しか出て来ないと思いますよ。西住隊長が出て来ない以上、アチラさんも手の内晒したくないでしょうし。これまでの演習でもラブ姉対AP-Girlsで戦ってここまでまだ一度も勝てていないですから。だからこそラブ姉しか出て来ないと思うんですよ、まあ我々も何の勝算も無しに飛び込む訳じゃありません。なので我々に任せて貰えませんか?」

 

「解りました、それでは宜しくお願いします。それでこちらの突入タイミングはどうしますか?」

 

「コチラが会敵したら近接戦闘の前にスモークを使用します、AP-Girlsのステージ用の派手な色のを使うので直ぐに解ります。それが拡散し始める当りがベストだと思います」

 

「了解、でもくれぐれも無理はしないように」

 

「はい、ありがとうございます。それでは我々は三分後に突入を開始します」

 

 

 鈴鹿との交信をみほが終えると今度は小梅とアリサの混成部隊に、姿は見えないが確実に居るであろう封鎖部隊への対応を伝える。

 

 

「小梅さん、アリサさん敵の封鎖部隊は恐らく市街地内に潜伏していると思われます。なので我々の突入後、姿を現したら外側から牽制して注意を引き付けてもらえますか?」

 

「この状況だとそうするしかないでしょうね」

 

「解った、ウチのシャーマンから観測員を出して状況に備えるわ」

 

「お願いします」

 

 

沙織が各車に改めて指示を飛ばし作戦に備える。みほもまたあんこうメンバーに声を掛け始めた。

 

 

「麻子さん起きて」

 

「今日は寝てないぞ西住さん…」

 

「はぅ!?」

 

「避けたはずなのに当てられた…アレで完全に目が覚めたぞ。しかしあんな事が普通の人間に出来るものなのか?七両もの戦車に同時に当てるなんて人間業ではないだろう、あれ程撃たれた時に恐怖感を感じた事は今までになかった…弾だってペイント弾だというのにな」

 

 

 麻子にこれ程のプレッシャーを与えるラブの超長距離同時弾着攻撃、この攻撃の真の恐ろしさは実被害以上に実はここにあるのであった。

 やられた側に対する精神的揺さぶりの大きさ、まるで自分達がラブの掌の中で踊らされている様な感覚に陥り正常な判断が出来なくなる。

 みほはラブの恐ろしさを改めて痛感させられのであった。

 

 

『いけない!みんな思った以上に動揺が大きい!』

 

 

 みほはこの状況の打開策に思考を巡らせようとした瞬間に無情にも作戦開始時間がやって来た。

 

 

「それでは西住隊長、作戦開始します。愛!指揮を頼む!」

 

「了解…AP-Girls…Tanks move forward」

 

 

 愛の号令と共に四両のⅢ号J型が一列縦隊で進発する。

 みほは慌ててコマンダーキューポラから顔を出すとその後ろ姿を見送るのだった。

 

 

「みんな気を付けて…」

 

 

 完全に相手に主導権を握られた状態でAP-Girlsを市街地に送り込まなければならない、しかもあんこうメンバーまでもがラブの攻撃により精神的動揺が大きいとなると、みほとしても今後の展開に大いに不安が増すばかりだった。

 そしてみほがAP-Girlsを不安な気持ちで見送ったその頃、両軍の主力部隊は市街地区画と並行する形で広がる緩やかな起伏があり、所々に大きな岩が突き出た草原エリアでお互いが目視出来る距離まで接近し睨み合いを始めていた。

 

 

「どういうことよ!敵の大将車がいない!?」

 

『見える範囲内にウサギは確認出来ません!』

 

 

 カチューシャが無線で斥候に出た車両とやり取りをしている。

 オレンジペコもその可能性を考えなかった訳ではないが、実際梓の姿が確認出来ない事に若干の焦りを感じずにはいられない。

 既に現段階で自身が搭乗するチャーチルを含め主だった車両が、ラブの超長距離攻撃でハンデを背負っている事を考えればそれも無理の無い事で、ウサギの発見は急務なのだ。

 

 

「やっぱり奇襲攻撃で直接狙って来るのですね…各車全方位警戒!奇襲攻撃に備えて下さい!」

 

 

 オレンジペコは主力部隊に指示を飛ばし、自身も濃く青い瞳に警戒の色を強めるのだった。

 ここで再び舞台は市街地区画に戻りその中の中央付近にある噴水広場には、ラブの乗機であるLove Gunがその身を晒し堂々と居座っていた。

 

 

「しっかしほんっとラブ姉って目立ちたがりよね~」

 

 

 Love Gunの車内、操縦手席では抱えた膝に顎を乗せ操縦手の香子がぼやいている。

 1対4の乱戦になればいつも一番苦労させられるのが香子なのでそれも無理も無かった。

 

 

「それ今更言ってもしょうがないじゃん」

 

「だよね~」

 

 

 香子のぼやきに黒髪を肩口で切り揃え藍色の瞳をした通信手の大湊花楓(おおみなとかえで)と、淡い紫髪をハーフアップで纏め、それより濃い紫の瞳をした装填手の千早美衣子(ちはやみいこ)がなげやりにまぜっ返す。

 

 

「そりゃアンタ達はいいわよ、私なんかいっつも休む間もないんだから」

 

「よく言うよ、あんなタコ踊り状態で連続装填する身にもなれ」

 

「私なんか通信手だから1対4だとほんっとやる事無いんだからね!」

 

「もうその辺でやめなさいよ」

 

 

 かしましさに耐えかねてサイドハッチから顔を出していた砲手の瑠伽がストップをかける、そして言われ放題のとうの本人はどうしているかといえば、コマンダーキューポラに背をもたれ聞こえないふりで空をボケッと眺めていた。

 

 

『ラブ、聞こえるか?客が来たぞ』

 

 

 みほ達に先んじて市街地を抑える事が出来た為、当初の作戦に若干アレンジを加え、市街地内部に潜伏しているまほのティーガーⅠから無線通信が入った。

 

 

「思ったより遅かったわね」

 

「ああ、だが突入して来たのはAP-GirlsのⅢ号だけだ。あんこうとそれ以外の車両の姿は見えない、大方市街地手前の稜線の向こう辺りにいるだろうがどうするか…」

 

「少しは考えて来たようね~。いいわ、そのままもう少し隠れてて、あの子らの相手は予定通り私がするから。場合によっては打って出てやり合ってくれても構わないわ、この場合あくまでも足止めする事が肝心だからね~」

 

「了解だ」

 

 

 交信を終えるとラブは車内のメンバーに指示を出し始める。

 

 

「は~い、お待ちかねの愛達が来たわよ~♪」

 

「も~待ちくたびれた~」

 

「あいつらどっかでお弁当食べてたんじゃないの?」

 

 

 てんでに勝手な事を言いつつも手を動かし戦闘態勢を整えるメンバー達。

 ラブも改めて周囲を見渡し近付くエンジン音に耳をそばだてる。

 すると間もなく正面から一列縦隊でAP-Girlsが真っ直ぐ突進して来るのが見えて来た。

 ラブはいつもの拡声器を手にするとその方に向かいフルボリュームで挑発を始める。

 

 

「おら~、小娘ども~!纏めて相手してやるから掛かって来い~!」

 

「うるさいって…」

 

 

 砲手の瑠伽が煩そうに顔をしかめるがお構い無しにラブは続ける。

 

 

「どうしたサッサとって、うっは~あの子らスモーク焚きやがった~!それもステージ用のどピンクのヤツ~!香子!全速後退!そいでもってランダム機動開始~!」

 

「だから車内に拡声器で怒鳴るなっ!」

 

 

 そう怒鳴り返しつつも香子は素早く後退を始めると、踊る様にLove Gunを振り回し始める。

 辺りにLove Gunの履帯が上げる騒音が鳴り響き、その間に接近して来たAP-Girlsが噴水広場に侵入すると、二両づつ左右に分かれ円形の広場の外周に合わせ旋回し、撒き散らすどピンクのスモークで視界が一気に悪くなって行く。

 

 

「動きました!」

 

 

 再びあんこうから離れ稜線ギリギリで偵察に当っていた優花里が叫びながら戻ってくる。

 それを聞くと同時にみほは無線でぺパロニとローズヒップに指示を飛ばす。

 

 

「先行突入したAP-Girlsが戦闘を開始しました!これより我々も市街地に突入します!」

 

「私もうまっちくたびれましたわ!」

 

「存分に暴れてやるッスよ!」

 

 

 両名共にやる気十分な様でその声を聴いたみほも、優花里があんこうに飛び乗りハッチから車内に滑り込むと同時に突入の指示を出す。

 

 

「小梅さん、アリサさん後詰宜しく!それでは我々も突入しますパンツァー・フォー!」

 

 

 あんこうとクルセイダ―とカルロベローチェが、排気管から黒煙を吹き上げ緩斜面を力強く登り始め、下りに入ると一気に加速し坂を駆け下り市街地に突入して行く。 

 さして広くも無い市街地区画故にスモークはあっと言う間に辺りをどピンクに染めて行く。

 市街地突入直前にみほは改めで無線で従う二両に注意喚起を行った。

 

 

「スモークでかなり視界が悪くなっています、くれぐれもフレンドリーファイアには気を付けて!」

 

 

 その無線交信を合図に三両も遂に市街地への突入に成功するが、みほの耳には散発的ながら砲撃音が聴こえて来ており、どうやらラブ対AP-Girlsの砲撃戦に入っている事が窺えた。

 

 

「なんだ?このピンクのスモークは!?」

 

 

 一方で潜伏中だったまほ達も、周囲をAP-Girlsが撒き散らしたどピンクのスモークに覆われ始め、急速にその視界を奪われていった。

 しかしまほの耳にも砲撃音は届いており、ラブが交戦状態に入った事、同時にみほが突入して来るであろう事は想像に難く無く素早く部隊に戦闘態勢の指示を出している。

 

 

「各車封鎖作戦を開始せよ、但し突入口のみ開けておく、フレンドリーファイアには注意せよ!」

 

『了解!』

 

 

 各車からの応答を確認するとまほは頷き更に続ける。

 

 

「出入り口Aは直下お前が指揮を執れ、出入り口Bはレオポンのナカジマさんにお願いする」

 

「了解!」

 

「はいは~い、任されました~」

 

「ヨシ!行くぞ、Ⅲ号二両は私に付いて来い!」

 

『jawohl!』

 

 

 まほの指揮の元にⅢ号二両を従えたティーガーⅠが進軍を始めた頃、遂に主戦場たる草原エリアでも砲撃戦が始まりつつあった。

 まずは両軍の長距離砲撃のエース対決とばかりに、ノンナのIS-2とナオミのファイアフライがそれぞれ砲門を開き、双方とも前衛に展開していた車両に初弾を命中させている。

 その後はそれを合図に梓大隊は高火力を、オレンジペコ大隊は機動力を生かし一進一退の攻防が始まり、両軍の総数の大半がいるだけに砲撃音だけでも凄まじい事になっていた。

 

 

「始まりましたね…」

 

「well…もう少しペコが前進してくれると側面を突くのに丁度いいんだけどな~」

 

 

 主戦場を挟んで市街地の反対側に位置する森の中、簡易的な擬装を施し潜伏する梓とケイの率いる奇襲部隊は、両軍一進一退の戦況を茂みに隠れ見守っていた。

 

 

「最初からもう膠着してる様に見えるんですけど」

 

「そりゃ両軍共腹黒いのが揃ってるからね~」

 

 

 ケイの表現に対して梓は返答のしようが無かったが、この時はまだ二人共同じ森に潜み自分達を監視する目に気付いてはいなかった。

 

 

「フフン、何も奇襲部隊が本隊を狙うとは限らんのだよ、主戦場に意識が行ってこちらに全く気が付かないとはケイも焼きが回ったか」

 

 

 完全に背後を取った事で余裕のアンチョビは、不敵に笑うと双眼鏡で奇襲部隊の数を確認し無線で本隊と連絡を取り始める。

 

 

「こちらアンチョビ、敵奇襲部隊を発見、ウサギもこちらに居る」

 

 

 連絡を送るとアンチョビは改めて双眼鏡で状況を確認し即応出来るよう態勢を整えた。

 

 

「M3に三突にシャーマン2両とマチルダ2両、数の上ではこちらと対等か、しかしこちらは大洗を連れているからな、梓には悪いが地獄を見て貰おう」

 

「お~いチョビ子~、この後どう動くつもり~?」

 

「チョビ子って呼ぶな!まあれだ、ケイと梓が本隊に急襲を掛けようと動き出す直前がベストだな」

 

「りょうか~い」

 

 

 背後から奇襲を掛けるタイミングを見計らうアンチョビだが、彼女もまた気が付いていない。

 更にその背後から自分達を狙う視線がある事に。

 

 

「ウフフ、どれだけあなたと行動を共にして来たと思ってるんですか?ドゥーチェ」

 

 

 カルパッチョは双眼鏡でP40のコマンダーキューポラ上で腕組みするアンチョビの姿を捉えつつ、自分の予想通りにアンチョビが動いた事に嬉しそうな顔をし無線交信を始めた。

 

 

「こちらカルパッチョ。梓さん、ケイさん、そのまま何も気付かないフリをして聞いて下さい。今そちらの背後でドゥーチェが奇襲を掛けるタイミングを計っています。恐らくそちらが動き始めた瞬間を狙うつもりだと思いますので、そのままの態勢を維持して下さい。」

 

「Shit!本隊じゃなくてこっちを狙って来た!?読まれてたわね!」

 

「ええ、なので私も更にドゥーチェを狙ってみたら当たりました」

 

「OK、それじゃあそっちはお任せしていい?タイミングはそうね…この次にペコが攻勢に出たら合図するからそのタイミングでいい?」

 

「了解です」

 

 

 主戦場と森の中で探り合いが続く頃、市街地エリアでは壮絶な砲撃戦が展開されていた。

 Love Gun対AP-Girlsの戦いは、ブラックとイエローにブルーの三両がLove Gunを牽制しつつ愛のピンクがメインでペイント弾を撃ち込むが尽くかわされている。

 操縦レベルではほぼ互角に見えるが、車長であるラブの指揮能力がまだ何枚も他の四両の車長を上回っており、反対にイエローとブルーがそれぞれ一発づつ被弾していた。

 既にスモークも晴れつつあり一層その機動は激しさを増し、交錯した際には軽く接触しているのか時折火花が散るのも見える。

 そしてその一方でまほとみほも遂に会敵し全国大会の再現の様な激しい砲撃戦を展開していた。

 またまほに付き従った黒森峰のⅢ号二両も、ぺパロニとローズヒップを介入させまいと奮戦し、こちらでも激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。

 市街地出入り口のうち二ヵ所を封鎖していたレオポンと直下の部隊にも、それぞれレオポンにはアリサの部隊が、直下には小梅の部隊が微妙な距離から牽制を始め目下一番戦闘が激しいのはこの市街地エリアとなっていた。

 だがこの市街地での四つの戦闘が同時に瞬間的な静止状態で睨み合いになったその時、突如無線の共用回線から間のぬけたチャイムが流れ、続いてコントロールタワーより事務的な声で参加車両全てに対しアナウンスが流れ始めた。

 

 

「これよりコントロールタワーは60分間のお昼休みに入ります。即時戦闘行為を中断し、各員配布されたお弁当で昼食を摂る事。これは本校職員室よりの通達です、身体によくないのでキチンと昼食を摂り休憩しましょう」

 

 

 そのアナウンスと共に判定用のドローンもコントロールの方へ飛び去って行き、皆それを呆気に取られた顔で見送っている。

 

 

「もう何なのよ!緊張感が無いわね!」

 

 

 まるでカチューシャの叫びが聞こえたかの様に再び無線機からアナウンスが入る。

 

 

「私らも早く学食行かないと食べそびれちゃうからよろしくね~♪」

 

「まあウチもこれに関しちゃよそ様の事言えんなぁ…何よりお弁当をダメにしては作って頂いた方に申し訳ないし…しかたない、お昼休みにするかぁ」

 

 

 アンチョビは頭を掻きつつ車内に引っ込むと共用回線で昼休みに入る事を通達する。

 即ぺパロニとカルパッチョも応答し昼休みに入り、主戦場でも両軍それぞれ車外に出てお弁当を広げ始め、市街地に居る者達も同様になし崩しのお昼休みに突入しお弁当を食べ始めた。

 近接戦闘をしていたラブ達に至っては車内からそれぞれピクニックシートを出し、噴水広場に集まって仲良くお昼休みを楽しんでいて、通り一本隔てた場所で睨み合っていたまほとみほ達も毒気を抜かれた顔でメンバー達と並んでお弁当の蓋を開けていた。

 

 

「こんな経験ってあります?」

 

「ある様に見える?」

 

「ですよね…」

 

 

 梓とケイも困惑しつつ顔を見合わせると奇襲部隊もお弁当を手にするのだった。

 

 

 




どんなに強い戦車も職員室の先生には勝てない。
そしてやはり食に関してアンツィオの行動は早かったw


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第十八話   Girls・Girls・Girls!

紅白戦もこれでいよいよ決着です。
今回はいつもより大幅に尺が長くなりましたが、
その分激戦の様子が伝わると良いのですが…。


「そんな事があったんだ……」

 

「ああ、昔から集中力と記憶力はずば抜けていたが、少なくともアレはもう私達の知っているレベルじゃなかったな」

 

 

 まほとみほは並んでお弁当を食べつつラブのノックに関して話し合っていた。

 そこにそれまで黙々とおにぎりを頬張っていた麻子が、ほっぺにおベント付けたまま口を挟んだ。

 

 

「あの時私は躱せたと思ったんだ、だがその躱した方向にペイント弾が飛んで来た。まほさん、あの厳島さんという人は本当に人間なのか?」

 

「ちょっと麻子!いくらなんでも失礼よ~!」

 

「いや、いいんだ、今回はさすがにそう思われても仕方が無いと私も思うから。戦闘開始直前にダージリンも言っていたが、この事は後で皆で話し合う必要がありそうだ」

 

「うん…私もそう思うよお姉ちゃん…」

 

「スマンみほ、休憩中とはいえ対戦相手に不安になる様な話をしてしまった」

 

「ううんいいの、あんこうを撃って来たのは間違い無くラブお姉ちゃんだと思うから。あの時の感覚は今までにノックされた時の感覚と全然違っていたから」

 

「私も砲手としてここまで色々と貴重な経験を積ませて頂きましたが、どうやったらあの高みまで登る事が出来るのか想像も付きませんわ」

 

「華さん、君も砲手としてのキャリアで考えたら普通ではあり得ない存在だよ。だがラブのあれが尋常ではないのも確かだ」

 

「ですが姉上殿、ハンデキャッパーになられた方が特異な能力を発揮するという話も聞きますが」

 

「うん、それは私も知っているがアレはちょっと異質に過ぎる気がしてね。まあ今ここでアレコレ詮索しても始まらないからこの話はここまでとしよう」

 

 

 まほがそう話を切り上げそれぞれ残りのお弁当を食べ切った辺りで、沙織があんこうの車内から籐編みのバスケットを持って現れた。

 

 

「えへへ~、昨日の夜宿舎の厨房を借りてチョコチップクッキーを焼いて来たんだ~、食後のデザートにと思って。さ、お姉さんと黒森峰の皆さんからどうぞ~♪」

 

「え?いいのかい?それじゃあ遠慮無く頂くとしよう……うん、これは!」

 

「お味の方はいかが?」

 

「あぁ…口の中がとても幸せだ♪」

 

 

 まほはそう言いながらうっとりと両の頬を押える。

 

 

「え!そんなに?隊長私達にも下さい!」

 

「沢山焼いて来たからみんなで食べましょ♪」

 

 

 集まって来た黒森峰の隊員達に沙織がバスケットを差し出すと、皆目を輝かせてそれぞれがクッキーを口にすると一斉に沙織へ称賛の声を浴びせ始める。

 

 

「沙織さん、明日から副隊長扱いで黒森峰に来ないか?」

 

「お姉さんやだも~♪」

 

「ダメ~!沙織さんは私のです!」

 

 

 このやり取りで笑いが起こり重くなりかけていた空気も一気に和らぎ皆の表情も和らいだ。

 通りの向こうのラブ達も盛り上がっているのか笑い声が聴こえ、まほとみほも少しホッとした表情で残りの休み時間を過す事が出来た。

 

 

「いいか!もう間も無く試合再開だ、気合を入れ直せ!」

 

『jawohl!』

 

 

 まほの飛ばす檄に既にエンジンを始動し待機している隊員達からも鬨の声が上がる。

 判定用ドローンも既に上空に舞い戻っており、全てのフィールドでも同様に試合再開の信号弾が打ち上がるのを今や遅しと待っている。

 そして待つ事暫し、遂に上空で信号弾が炸裂し一斉にエンジンが唸りを上げ戦闘が再開された。

 主戦場では力押しの一進一退の攻防に前衛はどの車両も既に無傷の車両は居なくなっており、それまで以上に緊張感も高まり始めて双方砲撃はより苛烈になっているのであった。

 

 

「まだか?まだ動かん気か?いっそこちらから仕掛けるか?いや、ダメだダメだ、ここが我慢のしどころだ。ここで行って気付かれたら奇襲の意味が無い」

 

 

 アンチョビは自分の逸る心を諌めつつ前方の梓達の様子をなおも注意深く伺っている。

 市街地エリアでの戦闘も更に熱を帯び始め、Love Gun対AP-Girlsの戦いでは遂に愛の放った一撃がLove Gunにヒット、しかし返り討ちとばかりにピンクハーツにもカウンターが決まったものの、不利を悟ったかLove Gunは噴水広場より逃走を開始する。

 追う側のAP-Girlsは挟撃するべく二手に分かれ追跡を開始、Love Gunのすぐ後ろにはイエローハーツが付き追い込む様に行進間射撃で牽制を掛けていた。

 しかしその追跡劇が始まって50m程、倉庫を模したセットの前を通過した辺りでそれは起きた。

 二つの重なった砲撃音と共にイエローハーツの側面に二発のペイント弾が弾着、その直後に砲塔をこちらに指向していたLove Gunからも砲撃を受け、最初の乱戦で受けた一発も含め計四発を被弾した為に凜々子が車長を務めるイエローハーツはここで戦線離脱となった。

 

 

『イエローハーツ、四発被弾につき状況終了!』

 

 

 コントロールタワーからの共用回線のコールと共に強制的に白旗が揚げられ、イエローハーツはこの紅白戦に措いて戦線離脱第一号となってしまったのであった。

 それにしても最初の二発、一体何が起こったのか?

 状況が呑み込めず倉庫の奥の暗がり目を凝らした凜々子は、そこに居る者の正体に気付くと正面に向き直り走り去るLove Gun上で投げキスをしているラブに怒鳴り声を上げる。

 

 

「ラブ姉セコイ!!」 

 

 

 そのままラブは振り返ると笑いながら手を振り遠ざかって行った。

 イエローハーツに進路を塞がれる形でLove Gunを追跡出来なくなったブラックハーツの車長の鈴鹿は、ひとつ溜め息を吐くと通信手である焦げ茶の瞳と同色のセミロングをソフトウルフにした少女、伊澤芹香(いさわせりか)に他車への通信を促す。

 

 

「こちらブラックの芹香、凜々子のイエローが伏兵にやられたわ。こちらからは視認出来ず車種は不明、数は推定2両注意されたし。なおラブ姉もそのままとんずらしたから気を付けて、こっちは進路塞がれたから迂回して合流するわ、以上!」

 

 

 倉庫を塞ぐ形でイエローハーツが停車した為、中が確認出来ない鈴鹿は迂回を指示した後に悔しがる凜々子に声を掛けた。

 

 

「完全にやられたな、逃げ出した時に気付くべきだったわね。でもまあ仕方ないわ、先に戻ってケーキ食べながら観戦してて」

 

 

 振り向かずに手だけ振った凜々子とイエローハーツを残し、鈴鹿は再びラブを追うべくブラックハーツを後退させ遠ざかって行った。

 その後交戦エリアから外れたイエローハーツが倉庫の前から移動すると、その倉庫の奥の暗がり中からやっと奇襲を掛けて来た二両がその正体を現した。

 

 

「ごめんね~、でも昼休みもずっと隠れて休んでた甲斐はあったわ~♪」

 

 

 出て来たのはラブがケイから借り受けた二両のシャーマンであった、気を利かせたケイが三年生チームを回してくれた為その狙いも正確で見事伏兵の役割を果しイエローハーツは討ち取られたのだ。

 

 

「いえ、お見事でした。完敗ですわ」

 

「鈴鹿さんだっけ?彼女が言う様に先に帰って休んでてね。ってそうだ!笠女のケーキってそんなに美味しいのかな?」

 

「ええ、とっても♪適当にやられて食べに来ますか?」

 

「あ~、そうしたいけどそれやるとケイが激怒しそうだからね~」

 

「それもそうですね、それではお先に失礼します」

 

 

 そう言うと凜々子は二両のシャーマンの車長に敬礼しつつイエローハーツを後退させ、塞がれていない市街地エリアの出入り口から退場しパドックエリアを目指し走り去って行った。

 凜々子が戦線を離脱し丁度市街地エリアから出たその頃、その市街地のまほとみほの姉妹対決でも戦局に変化が出始めていた。

 まほに随伴していたⅢ号のうち一両が、ぺパロニとローズヒップの挟撃に遭い戦線離脱に追い込まれ、残り一両も防戦一方の展開になっていたのだ。

 これにより生まれた隙を突き機動力に勝るぺパロニのカルロベローチェは、主戦場側の出入り口の封鎖部隊の背後を突くべく、Ⅲ号の相手をローズヒップに任せると出入り口目指し転進して行った。

 

 

「ちっ!やはりこの条件タンケッテが強いな!やはり向かうのは主戦場側か、出入り口Bの封鎖部隊にタンケッテが向かったと伝えろ!」

 

 

 まほは通信手に指示を出しつつも、あんこうに対する攻撃の手は緩めず激しい鍔迫り合いが続いている、双方一発づつ被弾しているが重戦車であるティーガーⅠは元から一発分有利であり、更にあんこうはラブのノックも受けていた為残り二発で撃破判定と追い込まれつつあった。

 

 

「西住殿このままではジリ貧です、一度距離を取った方が宜しいのでは?」

 

「そうしたいけどその瞬間をお姉ちゃんは見逃すはずがないから」

 

 

 みほも指示の合間に優花里に答えるが、何とか隙を作ろうとしてもまほも喰い付いて離れない。

 その状況にみほにも焦りの色が浮かび始めた頃、各戦線においても遂に大きな変化が起こり始めており、リタイアする車両が続出し始めていた。

 まず市街地出入り口Aを封鎖していた直下と牽制を続けていた小梅の部隊が、壮絶な撃ち合いに突入し、結果最後は双方全滅し通常弾であればその後舌戦にでもなりそうな展開だったが、両軍共ケーキが待っている事もあり仲良くサッサと撤収してしまっていた。

 ラブを追撃し再度合流を果たしたAP-Girlsもまた再びLove Gunとの乱戦に突入、ここでもまたラブが巧妙にシャーマン二両を介入させる為、そのうち一両を討ち取るも鈴鹿のブラックハーツが戦線離脱に追いやられ被弾総数で愛のピンクハーツと夏妃のブルーハーツは逆に窮地に立たされていた。

 それとほぼ同じタイミングでぺパロニのカルロベローチェがナカジマ率いる封鎖部隊を急襲、それに呼応する様にアリサが牽制から一転残存戦力による玉砕覚悟の突撃を敢行した為隙が生じ、そこを逃さず突入して来たぺパロニに市街地からの突破を許してしまった。

 

 

「西住のお姉さんごめんね~、タンケッテに突破されちゃった~。一応追うけどこっちは軒並み脚が遅いから追い付くのは無理だね~」

 

「そうか解った、それでもそのまま追撃して本隊と合流して欲しい」

 

「りょうか~い」

 

「ヨシ!ここが踏ん張り処だ!一気に勝負に出るぞ!」

 

 

 まほの檄にティーガーⅠの機動は増々激しさを増しジリジリとあんこうを追い詰め始める。

 すれ違いざまに双方が放った一撃はそれぞれ側面に直撃するが、ティーガーⅠがまだ残り三発に対しあんこうは残り一発で撃破判定の為いよいよ後が無くなった。

 しかしここに遂にⅢ号を討ち取ったローズヒップのクルセイダ―が介入し、ティーガーⅠに直撃弾を与え一気に形勢逆転かという事態になる。

 ローズヒップもここで一気に畳み込むべくティーガーⅠに喰らい付こうとしたまさにその瞬間、逆に側面からの砲撃をまともに喰らい、これまでのⅢ号との戦闘で残り一発となっていた為撃破判定を受けてしまった。

 何が起こったのかと弾の飛んで来た方向を見れば、AP-Girlsと追いかけっこ中のLove Gunが、通りすがりに行きがけの駄賃とばかりに一発お見舞いして来たのであった。

 そしてその瞬間を逃さずまほの命で放たれた一撃があんこうに直撃し、撃ち返した一撃も命中したものの、ここに姉妹対決はまほに軍配が上がりその幕を閉じた。

 

 

「な!?くやっし~ですわ!」

 

「ローズヒップちゃ~ん!ケーキ、ケーキ~♪」

 

 

 すれ違いざまにラブは拡声器でそう叫びつつ、手をヒラヒラ振りながらシャーマンと追跡するAP-Girlsの二両を引き連れ走り去って行く。

 

 

「そうでしたわ!さあみほさん!何をボヤボヤしていますの?早くケーキを食べに行きましょう♪」

 

「プッ!ははは!さあみほ!ローズヒップ君を待たせては可哀想だ、早く行くのだ」

 

「うふふ、そうだね。あ~あ、負けちゃったかぁ、でも楽しかった~♪」

 

「ウム、私もだ。これはまたやりたいな」

 

「そうだね」

 

「さあ、早く行きなさい、ローズヒップ君がウズウズしているぞ」

 

「うん、それじゃあ先に戻ってるね」

 

 

 まほは走り去る二両を見送ると暫し考え込む。

 本体に合流すべきかそれともラブの加勢に加わるべきかと。

 

 

「フム…本隊はナカジマさん達が向かった事だし、ここはラブの様子を見に行くか…気になる事も多いしな。オイ、移動開始だ、ラブとシャーマンに合流するぞ」

 

 

 まほのティーガーⅠが移動を開始し始めた頃、主戦場では既に両軍の前衛部隊はほぼ戦線離脱し、主力部隊同士が激突する局面に達していた。

 いよいよその時が来た瞬間、ダージリン指揮する主力部隊後方である変化が起きた。

 市街地を脱出したぺパロニのカルロベローチェが、単騎駆けで部隊側面を急襲し、あっと言う間に三両程血祭りに上げた後に残弾を撃ち尽くすまで暴れ回った為、主力部隊の足並みが大きく乱れ始め一気にオレンジペコ大隊に押され始めたのだ。

 

 

「今こそ突撃のタイミングですね!」

 

「Yes!いよいよね、Hey!カルパッチョ聴こえる?いよいよ突撃するわ!」

 

「ケイ隊長了解です、ドゥーチェも大分焦らされてヤキモキしてますから良いタイミングです」

 

「OK!いい?ラビットよく聞いて、まず先頭でⅢ突を乱射させながら突入させてその両翼はシャーマンとマチルダで固める。その次に私のシャーマンとM3で突入、私達を弾除けにしてチャーチルに肉薄してラビット、あなた達が仕留めなさい」

 

「そんな!それじゃああまりに──」

 

「Stop!論議してる時間はないわよ、大将同士の一騎打ちよ!正々堂々撃ち合いなさい!」

 

「…ハイ、解りました!宜しくお願いします!」

 

「良い顔になったわ、存分に戦いなさい!」

 

「ハイ!」

 

 

 一方のアンチョビも俄かに動きが慌しくなった梓達を見ていよいよその時が来た事を悟る。

 

 

「フン!いよいよか目にモノ見せてやるぞ!大洗の諸君準備はいいか!?」

 

「はいよチョビ子いつでもいいよ~」

 

「だからチョビ子と呼ぶな!私の指示で砲撃開始だ!」

 

「りょうかい~」

 

 

 ケイは僚車に指示を出すフリをしながらカルパッチョに攻撃タイミングを指示する。

 

 

「いい?無線でラビットのパンツァー・フォーの号令のパンツァーで砲撃を開始してアンチョビの出端を挫いてやって。私達はそのまま突撃するから後は宜しく」

 

「了解です、目一杯ドゥーチェを驚かせてみせますね」

 

「任せたわ!」

 

 

 梓は号令を掛ける直前車内のメンバーを見やり檄を飛ばす。

 

 

「みんな!私達に出来る事を精一杯やろう!いいね!」

 

『お~!』

 

 

 これまでずっと一緒に戦って来た仲間達も力強く揃って応える。

 それを見た梓も頷くと右手を上げ声を限りに号令をかけた。

 

 

「パンツァー・フォー!!」

 

 

 その号令を待っていましたとばかりにアンチョビが攻撃命令を出そうとしたまさにその瞬間、その背後から猛烈な勢いの集中砲火を受け絶好のタイミングを失う事になった。

 

 

「ぬわぁ!?なんだなんだ~!?」

 

 

 慌てて砲撃方向を見ると森の中の下草の間から、セモヴェンテを始めとする梓大隊側の混成部隊が砲撃を加えながら顔を出す。

 視界の隅では梓とケイの奇襲部隊が森の中から躍り出て突撃して行く姿が見えた。

 

 

「しまった~!カルパッチョ何時から其処に居た~!?」

 

「は~い、ドゥーチェのお相手は私ですよ~♪」

 

 

 カルパッチョは楽しげに言いながら装填を続ける。

 

 

「ええ~い!反撃だ~!」

 

 

 遂にそれまで唯一静かだった森の中でも激しい砲撃戦が開始された。

 主戦場が最終局面迎えたその頃、市街地でもまた最後の激しい戦いが繰り広げられており、まず巧妙にLove Gunの支援をしていた残りのシャーマンを愛と夏妃が連携で仕留めると、今度はそこにまほのティーガーⅠが絶妙のタイミングで乱入。

 その巨体に似合わぬ機動で連携する二両を分断すると、愛とラブ、まほと夏妃の対決状態へと持ち込みそれぞれこれが最後と激しい砲撃戦を開始した。

 まず一発不利な状態ながら、それを感じさせぬ大胆な機動でブルーハーツを翻弄したまほが一発撃ち込みイーブンにすると、夏妃の指示で懐に入り込み動きを封じようとするブルーハーツを今度は力押しで弾き飛ばす。

 フラットスピンに陥ったブルーハーツに止めとばかりにまほも砲撃を加えるが、これはスピン状態から巧みに挙動を立て直し回避機動を取らせた夏妃に避けられた。

 敵ながら見事な動きを見せるブルーハーツに、まほは称賛の不敵な笑みを見せると正面からの突撃を指示、その突撃する姿はまさに牙をむく虎の迫力で夏妃を圧倒する。

 それでも夏妃も怯む事無く戦いを挑み同じく正面から突撃を敢行、すれ違いざまにそれぞれ渾身の一撃を相手に向かい撃ち込むのだった。

 結果まほの放った一撃がブルーハーツ側面に弾着したのに対し、夏妃の一撃はその狙いが僅かにそれ、砲塔をかすめたペイント弾は背後の廃屋を模したセットに突き刺さっていた。

 撃破判定の白旗が上がりコマンダーキューポラ上の夏妃は悔しがるが、まほのティーガーⅠが戻って来ると背筋を正し敬礼を送る。

 

 

「西住隊長ありがとうございました!」

 

「夏妃君だったな、一年生で正面切って一騎打ちを仕掛けて来たのは君が初めてだよ」

 

 

 そう言うとまほは実に凛々しい笑顔で答礼するとその場を去って行く。

 

 

「カッコいい……」

 

 

 夏妃はその去り行くまほの背中を頬を赤らめぽ~っとした表情でその背中を見送るのだった。

 そのまほがラブと愛を見付けだしたのは、最初に双方が激突した噴水広場であり、丁度ラブと愛が噴水を挟み睨み合う場面であった。

 どうやら互いに一撃づつ撃ち込み双方とも後一発で撃破判定が出る処まで縺れて、いよいよこれから最後の攻撃に出るという瞬間の様だ。

 愛はコマンダーキューポラの縁に両手を掛け、前屈みの姿勢でラブを睨み付けているのに対し、ラブはコマンダーキューポラに背を預け腕を組み、口元に微かな笑みを見せつつも瞳は挑発的な強い光を放っており思わずぞくりとする程に美しかった。

 その姿を見たまほは目まいにも似た懐かしさを覚え、快楽に打ち震える様な我が身を両腕で抱きしめると思わず呟いた。

 

 

「ラブだ…ラブがいる」

 

 

 そう、嘗て何度と無く見たその姿、勝負を決めに行く瞬間にのみ見せる、いっそ妖艶とも言える程に美しい見る者を恍惚の中に引きずり込むその姿。

 これだ!これこそが自分が求めていたラブの姿なのだとまほの心は歓喜の声を上げる。

 体の芯が熱い、快楽に流されそうになる、その激流に耐え全てをその目に焼き付けようとまほはその瞳を大きく見開きその瞬間を待つ。

 ラブの口角が愛を更に挑発するかの如くきゅっと上がる、その瞬間を待っていたかの様に愛の乗機のピンクハーツが噴水を軸に時計回りに旋回を始める。

 それに呼応する様にLove Gunもまた時計回りに旋回をしつつ、砲塔も側面を向きピンクハーツを指向し砲撃のタイミングを窺う。

 やはりお互いの車長以外の技量は完全に互角、最後はラブが愛をねじ伏せるか、あるいは遂に愛がラブの喉笛に噛み付き師を超える事が出来るのかその瞬間はもう間も無く確実に訪れる。

 まず最初に瞬間的なブレーキングでピンクハーツがフェイントを入れるが、ラブはその程度はお見通しとばかりに微笑んで発砲しない。

 逆に今度はLove Gunが遠心力をそのまま活かしドリフト状態に移行、スピンターンよろしく逆回転でピンクハーツに肉薄するも、同様にターンし衝突寸前で併走状態に持ち込む。

 更にピンクハーツはフルブレーキングで急停車すると瞬間的にLove Gunの後ろを取るが、再び右方向にドリフトさせ射線を外すとそのままの勢いでLove Gunが突っ込んで来る。

 あわやそのまま激突かというタイミングでピンクハーツが急速に後退、Love Gunは勢いそのままにピンクハーツが居た場所をそのまま通過、その勢いは完全にぶつけるつもりだったのは明らかだ。

 後退したピンクハーツもその勢いを使いスピンターンで砲身をLove Gunに向けるが、その時には既にLove Gunも同様にターンし砲身がピンクハーツを指向している。

 それまで履帯が激しく石畳を削る音が響いていた噴水広場に訪れる静寂。

 正対した状態で再び睨み合う両者、ここに介入するのは無粋とばかりにまほを始めティーガーⅠの乗員達も、ハッチから身を乗り出しその激し過ぎる戦いの行く末を食い入る様に見つめている。

 愛のコマンダーキューポラキューポラの縁を掴む両手に力が入る、それと同時にピンクハーツも急発進でLove Gunに突撃、ラブもまた余裕の表情で迎え撃つべくLove Gunを急発進させると両車がすれ違う瞬間軽く接触したらしく火花が激しく宙に舞う。

 双方そのまま振り向きもせず前進し再び噴水を中心に、今度は反時計回りで砲塔は相手を指向しつつ旋回運動に入り互いに相手のすきを窺い合う。

 

 

「凄い……」

 

 

 特等席で観戦する形になったティーガーⅠの乗員の誰かの口から洩れた一言に、この戦いの凄まじさが集約されているといっても過言ではない。

 しかしその戦いにも遂に終わりの瞬間が近付いていた。

 それまで等速で旋回していた両車だがラブが徐々にその旋回速度を上げさせ始め、それに合わせるべくピンクハーツも加速を開始すると、じきに一定の旋回運動が出来なくなる速度に達する。

 双方遠心力に耐えつつ相手を見据え砲撃タイミング窺う中、突如限界速度を超えたLove Gunが石畳の上を滑りながらスピンアウトして行く。

 だがそれによりピンクハーツの射線からLove Gunは瞬間的に消え去り、急ぎ砲塔を旋回させるも追い付かない、そして砲塔を側面に向けたままスピンするLove Gun、そのスピン状態で砲身の射線上にピンクハーツが重なるその直前ラブの顔に会心の笑みが浮かぶ。

 

 

「しまった!」

 

 

 愛がそう叫んだ瞬間ピンクハーツの後部にペイント弾が直撃、それと同時に下った撃破判定によりピンクハーツの砲塔に白旗が揚がりこの息つく暇も無い激しい戦いもその幕を閉じた。

 愛が悔しさからかグッと俯き肩を震わせるその横に、スピンからそのままドリフトに移行したLove Gunが隙間もほぼ無い位置でピタリと止まる。

 

 

「愛♪」

 

 

 コマンダーキューポラから自身のたわわの重みと格闘しながら這い出したラブが、砲塔上に腰掛けると嬉しそうな声で愛に呼び掛ける。

 その声に愛も顔を上げるが瞳は俯いたまま視線を合わせない。

 

 

「こっちにおいで♪」

 

 

 ラブの言葉に愛はLove Gunに飛び移るとラブの隣に座る。

 

 

「そこじゃなくてコッチ♪」

 

 

 ラブは嬉しそうに自分の膝を指し示すと愛を優しく抱き寄せ膝の上に座らせた。

 

 

「愛は本当に強くなったね~♪今日だって先に当てたのは愛だもの、あれがペイント弾じゃなくて実弾だったらやられていたのは私の方よ。愛が本当に強くなって私はとっても嬉しいのよ♪」

 

 

 ラブは満足げにそう言うと更に愛を抱きしめ、その頬に軽くキスをした後にスリスリと頬擦りを始め、始めはいつもの無表情に戻っていた愛も母猫に毛繕いをされる仔猫の様に目を細めた。

 

 

「だからラブ姉は愛を甘やかし過ぎなんだってば」

 

 

 Love Gunの砲塔サイドハッチから身を出し、頬杖を突いた砲手の瑠伽が上目使いでそうぼやく。

 ピンクハーツの乗員の少女達からも愛ばかりズルいと抗議の声が上がるもラブはお構いなしだ。

 その光景にティーガーⅠ上から観戦していた黒森峰の少女達もきゃ~♡と黄色い歓声を上げる。

 

 

「ねえ、まほはああいうご褒美はくれないの?」

 

 

 同じ三年生の乗員が敢えて隊長と呼ばずにまほに質問する。

 

 

「やって欲しいのか?」

 

「…やっぱいいわ……」

 

 

 無表情でまほに頬擦りされる場面を想像した少女は、一拍置いて嫌そうにそう返した。

 かくしてここに苛烈を極めた市街地の戦闘も終焉を迎えたのであった。

 

 

「行けおりょう!周りには一切構うな!」

 

「まかせるぜよ!」

 

 

 エルヴィンの飛ばす檄に応じおりょう操るⅢ突が、その名の通り一直線にオレンジペコの乗機であるチャーチルめがけて突撃をする。

 装填手であるカエサルも休む事無く装填し続け、砲手の左衛門佐は狙いを付ける事無く寄らば斬るとばかりに撃ち続けその激しさに相手も怯むほどだ。

 その後方にはケイのシャーマンと梓のM3が極端に車間の狭い一列縦隊で続き、両翼を固めるシャーマンとマチルダⅡの間隔も狭く、まるで一匹の獣の如く突き進んでいた。

 森の中でもアンチョビ達が何とか隙を見て梓達を追撃しようとするも、アンチョビの手を熟知しているカルパッチョの攻撃によりその場に釘付けされ最早完全に勝機を失っていた。

 

 

「今よ!押し返しなさい!」

 

 

 梓達の突撃に呼応する形でここが勝負処とばかりにエリカを中心に重戦車が反転攻勢に出て、オレンジペコの脇を固める本陣の防御陣を突き崩す。

 しかしこれにカチューシャやナオミとアッサムも黙ってはおらず、ダージリンやノンナも更に加わり主戦場中央では激しい砲撃戦が展開されている。

 全弾撃ち尽くす様な勢いで突進していたカバさんチームのⅢ突も集中砲火を浴び遂に戦線離脱、二の矢とばかりに今度はケイのシャーマンがM3の盾になりつつ突撃を続行、オレンジペコの周りを僚車と共に一掃するもここで遂に力尽きる。

 しかし両軍の大将車同士の間隔はお互いの姿を認識出来る距離にまで接近していた。

 

 

「Go!ラビット決めなさい!」

 

 

 ケイの拳を振り上げての声援に力ず良く頷いた梓は車内に再び檄を飛ばす。

 

 

「みんな!これが最後だよ!全力で行こう!」

 

 

 梓の声を合図にあやの副砲の37㎜とあゆみの75㎜の主砲が砲撃を開始、黙々と装填を続ける紗希の努力が実り三発目がチャーチルの捉えるがペコの放ったカウンターも決まる。

 

 

「まだまだー!」

 

 

 操縦手の桂利奈が絶叫しウサギは怯む事無く突進を続けるが再び砲塔基部に直撃弾を受ける、しかし梓は顔に浴びたペイント弾の飛沫を拭う事も無く突撃を敢行、今度はあゆみの放った一撃が転進したチャーチル正面装甲に直撃しペコもまたその飛沫を浴びる。

 お互い前進しつつもその砲撃は途切れる事は無く、普段ほんわかした優季も引き締まった表情で装填を続けており、その気迫の一騎打ちで勝負を決める事を悟った様に周囲の激しかった砲撃戦も止み、其処に居る者全てが決着の行方を見守っていた。

 そこからなおも距離を縮める間にチャーチルは一発、M3は二発の直撃を受け双方残りのカウントは二発と並ぶ、もうお互いの距離もその表情が解るほどに接近し梓もペコも視線を逸らさず互いを睨み据え一歩も引かぬ構えを見せている。

 

 

「あゆみ!あや!これで決めるよ、よく狙って合図で同時に撃って!」

 

 

 全開走行で跳ねるも梓はペコから目を逸らさず砲撃タイミングを計る、ペコもまた同様に撃ち返すべく指示を出し続けチャーチルの75㎜がM3の正面装甲を直撃し再び梓はペイント弾の飛沫を浴びる。

 だがその瞬間に梓は目を逸らさず最後の砲撃命令を下す。

 

 

「今よ!撃て!」

 

 

 主砲と副砲が同時に火を噴く、周囲に居る者皆が息を飲む中撃ち出された二発のペイント弾は、吸い込まれる様にチャーチルを叩き飛沫を飛び散らせる。

 それと同時に砲塔上に白旗が揚がりコントロールより判定を告げるアナウンスが流れた。

 

 

「オレンジペコ大隊フラッグ車被弾数6カウントにより行動不能、よって梓大隊の勝利!」

 

 

 訪れる一瞬の静寂、そしてその直後に沸き起こる大歓声。

 それぞれの戦車を飛び下りると梓とペコの元に一斉に駆け寄って来る少女達。

 

 

「二人共良くやりました」

 

「久し振りにいいものを見せて貰ったわ!」

 

「Excellent!特等席でバッチリ見せて貰ったわ!」

 

 

 詰めかけた少女達から二人への称賛の声は止まない。

 先にリタイアしグランドスタンドでケーキを食べつつ大型モニターで観戦して居る者達も、その二人の気迫溢れる戦いぶりに称賛の拍手を惜しみなく送っていた。

 皆が二人を称え続けるその場所へ、戦闘終了のアナウンスを聞き森の中で激戦を繰り広げていたアンチョビとカルパッチョ達も揃ってやって来た。

 見ればどの車両もペイント弾で染められその戦いが如何に激しかったかを物語っている。

 

 

「いやぁ、今回は完全に読み負けてしまったなぁ」

 

 

 そう言いながら現れたアンチョビはイタリア式に梓に頬擦りをすると、その勝利を祝福した。

 

 

「私の企画は大当たりだったよね~♪」

 

 

 皆が振り返れば愛を伴ったラブとまほが市街地より到着し二人を称えにやって来た。

 

 

「ああ、まさかここまで面白くなるとは思わなかったな、だがそれもこの二人の奮闘あってこそだ。二人共本当によく頑張ったな」

 

 

 そう言うとまほは梓とペコとそれぞれ熱い握手を交わす。

 ここで目が合った二人も握手を交わすとお互いを称えあった。

 

 

「梓さんおめでとうございます。見事な作戦と戦いぶりでした」

 

「い、いえ!厳島先輩の技と最後は砲の数の差で勝てただけです」

 

 

 全力を尽くした二人はそう笑顔で最後を締め、ここに壮絶な紅白戦も全てが終了したのだった。

 

 

「さあ、二人共シャワーを浴びないと可愛いお顔が台無しですわ」

 

 

 ダージリンがそう促すとペコが恥かしげにこう切り出す。

 

 

「私お腹が空いてしまって先にケーキを頂きたいです……」

 

「わ、私もです!」

 

 

 梓がペコに続きそう言った後二人は揃って恥かしげに俯き、その可愛らしい姿に周りに居た者達から起こった心底楽しげな笑い声と笑顔が演習場に溢れていた。

 

 

 




もう書いてて途中で自分でも何度も訳が分からなくなりました。
戦車の数多過ぎ…もう二度とこんなに一度に大量に戦車出しませんw


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第十九話   Evil Passions Sister's(煩悩少女隊)

隊長=人格者とは限らない…。


「さあ二人共ここにお坐りなさいな」

 

 

 ダージリンに促され梓とペコは椅子に二人並んで座る。

 ここは笠女学園艦演習場のグランドスタンドのボックス席。

 紅白戦も無事に終わり、浴びたペイント弾の飛沫を流すのにシャワーを浴びるよう言われた二人だったが、お腹が空いてしまったペコがケーキを優先したいと言った為、皆と一緒にグランドスタンドにやって来たのだった。

 しかしそのままではあまりに凄い状態の為、ケーキを食べる前にダージリンとアッサムにより顔に着いたペイントを拭き取られている最中なのだ。

 ペコは顔を拭かれている間にもお腹がキュウと鳴ってしまい、先輩二人と梓にクスリと笑われて顔を赤らめるのがまた何とも可愛らしく見える。

 グランドスタンド前の大型スクリーンと、内部の随所に設置されている高精細液晶モニターには、たった今さっき終わったばかりの紅白戦のダイジェスト版の映像が解説付きで流されており、戻って来た隊員達はケーキバイキングを堪能しつつ映像を見ながらあれこれと戦評を繰り広げていた。

 

 

「しかし凄いな、さっき終了したばかりなのにもうこんなモノが見られるのか」

 

「うん、映像学科の子達が試合開始と同時に順次制作始めてて今も残りを編集中よ」

 

「驚いたな、しかしもっと驚いたのはシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のさくらんぼ酒ケーキ)とこのコーヒーだ、これサンセバスチャンじゃないのか?」

 

「うん、ダルマイヤーよ、さすが黒森峰よく気が付いたわね~♪」

 

「まさかここでこれにありつけるとは思わなかったぞ」

 

 

 まほはそう言うとコーヒーから立ち上る香りを吸い込み恍惚の表情を浮かべる。

 そのまほの表情にラブも満足げにニコニコと頷く。

 

 

「あら、私たちの部屋には祁門(キームン)の極品の茶葉が用意されてましたわ」

 

 

 ペコの顔のペイントを拭き取りながらダージリンはまほに得意げに声を掛ける。

 

 

「私は紅茶の事はよく解らないが何やら凄そうだな」

 

「ええ、私達も始めて頂いた位ですもの」

 

 

 その香りと味わいを思い出したのかダージリンとアッサムはうっとりとした表情になった。

 

 

「ああ、ここにも用意しておいたから楽しんで頂戴ね~♪」

 

「まあ!それを先に言って下さいまし!さあ!気合を入れてサッサと綺麗にしますわよ!」

 

「ダージリン様、そんなに擦られては痛いです…」

 

「あら!私とした事がごめんなさい」

 

 

 これには周りから一斉に笑いが起きダージリンも口元を押え苦笑する。

 

 

「はい、これでおしまいよ」

 

「ありがとうございますダージリン様」

 

「こちらも丁度終わりですわ」

 

「あ、あのアッサム先輩ありがとうございました!」

 

 

 二人揃って礼を言うと梓とペコは連れだってケーキバイキングに突撃して行った。

 微笑んでそれを見送った後、ダージリンは目配せでまほに合図を送るとその視線をラブに向ける。

 それでダージリンの意図を理解したまほは立ち上がり仲間達に招集を掛け、グランドスタンド最上段にあるボックス席にラブを伴い移動して行く。

 

 

「始めに断っておくがこれは別にラブを責める訳ではないんだ。まずその事をラブにも、そして皆にも理解しておいて欲しいんだ」

 

 

 一同がボックス席に収まるとまほがまずそう切り出し、続いてダージリンと共に今日の紅白戦が始まる直前に見た事をペコ側に居た者達に説明をし始めた。

 話を聞き中学当時の記憶と比較した一同もその話の内容に言葉を失う。

 

 

「なあラブ、おまえはあの時私達が周りで声を掛けたりしたのを覚えているのか?」

 

 

 言われたラブは腕を組み首を捻りつつ眉根を寄せ考え込むが、それだけで周りの者に覚えていないであろう事は充分に伝わっている。

 

 

「ん~?やっぱり集中しきっててよく覚えてないや」

 

 

 首を捻ったままそう答えるラブはそれの何が悪いのかといった顔をしている。

 

 

「改めて言うがこれはラブを責めている訳じゃないんだ、私達も昔からラブの記憶力と集中力が飛び抜けている事はよく知っている。だがそれでもあそこまでではなかったはずだ、あんな事をやり出したのは一体何時位からなんだろう?」

 

「昔から何処に誰が居るか位は予測していたわよ?でもそれをやりだしたのは…う~ん…ヤキマで演習やり始めた頃ねぇ。何しろホラ、ウチはまだ五両しかいないじゃない?だからそれより多い相手とやり合うのに必要に迫られてって感じなのよ」

 

 

 ヤキマというワードに反応したケイがまさかと言った表情でラブに問い質す。

 

 

「ま、まさかヤキマでって…まさか……」

 

 

「うん、エイブラムス相手に演習してた時に試したわ。でも当るのって五割がいいトコだったわ、それももう日本に戻る直前頃になっての事だったもの」

 

 

 相変わらず首を捻ったままラブが思い出しつつ話した内容に、全員が完全に絶句した。

 

 

「あ、あり得ない!現用戦車のエイブラムスにⅢ号の超長距離予測射撃を当てるですってぇ!?」

 

 

 我に返ったカチューシャがそう声を上げるとノンナが青ざめた顔で更に問う。

 

 

「ラブ、一体それはどの程度離れての話だったのですか?」

 

「ん~っとね、ホントにもう射程ギリギリで届くか届かないか位だったと思うけど……」

 

 

 その後を継いで今度はナオミも青い顔で聞く。

 

 

「そ、それを五両同時にやったのか…?」

 

「うん……」

 

 

 答えたラブは何か悪い事したかな?といった表情で少し俯き上目使いで皆を見回す。

 ダージリンはそのラブの様子に落ち着かせる様に膝の上柄のラブの手に、自分の手を重ねると極力落ち着いた声で語り掛けた。

 

 

「先程まほさんが言った様にあなたの事を責めている訳ではないのよ、ただ私達はあなたの事が本当に心配なの。あれだけの怪我を負ってここまで三年間苦しみ続けたあなたの心と身体に、あれが大きな負担となっていないか?それが原因でまたあんな状態になりはしないか?私達はそれが心配なの、もうあなたが苦しむ姿は見たくないしそんな思いもさせたくはないのよ」

 

「うん…ありがとうダージリン、そしてみんな。でもね私はあの子達に見せてあげたいの。あの子達の話は聞いたんでしょ?みんなここに来るまでとても酷い扱いを受けて来た子ばかりなの、どれも酷く理不尽で私はあの子達にそんな扱いをした人間を今でも許す事が出来ないわ。そんな境遇でもあの子達の心は折れる事無く、戦車道に活路を見出して歯を食いしばって頑張っていたわ」

 

 

 顔を上げたラブは視線を巡らせるとグランドスタンドでケーキを堪能しつつ、映像を見ながら戦車道について語り合う大勢の少女達の姿を嬉しそうに見つめる。

 

 

「あの子達は本当に強いわ。笠女が開校するまでの間、当然私だけの力では無理だったけどリハビリを続ける間、時々日本に戻ってそういう強さを持った子達を探し続けていたの。そんな中でも本当に真っ直ぐで自分の信念を貫ける子を選び抜いて生まれたのがAP-Girlsよ。個性の強い子達だから最初はぶつかり合いも多かったわ、私も含めて掴み合いのケンカもしたしね。でもあの子達はこんな私を慕って付いて来てくれた。だから見せてあげたいし私も見たいの、あの子達の輝く未来を。あの子達は私の希望よ、導いていたつもりが支えられていたのは私の方。だからそれに応えたい、その想いが強くなった頃かな?アレが出来るようになったのは」

 

 

 ラブはここで視線を戻すと一同に視線を巡らせると話を続ける。

 

 

「だから私は大丈夫。それにみんなにもああして助け出してもらってから、今まで以上によりクリアに見通すことが出来てる位だもの。」

 

「そうか…でも決して無理だけはしないでくれよ」

 

「うん、危ないと思ったら絶対にやらない、みんなにも約束する」

 

 

 このラブの言葉に一同もやっと安堵の表情を見せるのだった。

 

 

「それにしても少ないとは言えあの人数であれだけの逸材を全国から探すのは大変だったんじゃない?しかも話の内容からすれば酷い親やそれに付け込む様な連中が相手だった様だし」

 

 

 カチューシャはそんな人間を心底蔑む様な表情でそう言う。

 ラブもまたそこはちょっと言い辛そうに答える。

 

 

「そこはまあアレよ…亜梨亜ママというか厳島の力を使ったの。そこはもうそういう連中相手だから私も割り切って亜梨亜ママを頼ったわ」

 

「それって…」

 

 

 ちょっと嫌な予感がするといった表情でカチューシャが重ねて聞く。

 

 

「これ以上は言わせないでよ…でももう連中は法的にもあの子達に手を出す事は出来ないわ。つまりそういう事なの、まあ精々残りの人生一生怯えて暮せばいいんだわ」

 

 

 ラブにしてはかなり珍しい辛辣な口調で最期をそう締めくくった。

 この話に皆一様にそれまでとは違った意味で青い顔になり、やはり厳島を怒らせてはダメだとその認識を新たにさせられる話であった。

 それぞれがその気分を変えるべく手元にあった飲み物に口を付けた時、それまでも賑やかだったグランドスタンドに別の種類のどよめきが生まれる。

 何事かとボックス席の一同が見回すと、皆大型スクリーンを食い入る様に見つめ口々に驚きの声や称賛の声を上げているのだ。

 丁度その時大型スクリーンには、昼休みに入る前のLove Gun対AP-Girlsの乱戦が流れており、激しいAP-Girlsの四両の攻撃を尽く躱すLove Gunの様子に多くの者が驚愕している。

 

 

「ウソ!?また躱した!」

 

「今の完全に死角から撃ってるのに!」

 

「この機動って島田?」

 

「違う、こっちの方がもっと激しいって!」

 

「中学の頃対戦した事あるけど、あの頃より更に激しくなってる…」

 

 

 スクリーン上ではそれに引き続き午後の戦闘も流れ始め、更に激しい戦いぶりとその凄まじさにいつの間にかグランドスタンドは静まり返り全員がスクリーンに釘付けになっている。

 特にラブ対愛の一騎打ちの激しさには全員が息をするのも忘れたかの様な静かさで、スピーカーから流れる砲撃音と戦車の駆動音以外の音は聴こえなかった。

 そして迎えた最終局面、スピン状態からピンクハーツをLove Gunが仕留めた瞬間に、見ていた者達から再び一斉に言葉の洪水が溢れ出す。

 

 

「あ、ありえない!」

 

「どうやったらあの状態から当てられるのよ!?」

 

「Ⅲ号ってこんな加速する!?」

 

「信じられない……」

 

「この子達って厳島さん以外春まで全員中学生だったのよね……」

 

 

 誰かの放った最後の一言で再びグランドスタンドはスピーカーからの音以外静寂に包まれたが、ラブのみが『()()()()()()()()()()()()』の一言に眉をピクリとさせている。

 

 

「そうだ!一年生と二年生はこれからこの厳島と戦って行くんだ、心してかかれよ!」

 

 

 何故かアンチョビが得意そうに腰に手を当て声高に叫ぶ。

 その目の前でドローンが撮影していた最後の場面をアングルを変えリピート再生していたのが通常再生に切り代わり、スピン状態からそのままドリフトしてピンクハーツに横付けするLove Gunがスクリーン上を流れて行く。

 更にはその後Love Gunに飛び移った愛をラブが膝の上に抱き寄せ、その頬にキスをして頬擦りをしながら可愛がる姿と会話まで映されていた。

 それも当然の様に何台ものドローンから角度を変え撮られたものが何度もリピートされ、ご丁寧にソフトフォーカスやらエフェクトが駆使してあり、チュッとキスする場面では『わぁお♡』なんてSEまで入り、止めとばかりにどアップのキスの瞬間にストップモーションが掛かる。

 

 

「ぬ、ぬわんだコレは~♪」

 

 

 突然の衝撃的な映像にアンチョビが盛大に吹き出す。

 他の者も口にしていたコーヒーや紅茶を吹いたり気管に入れて咽たりしている。

 

 

「な!な、何コレ!?ちょ!何時の間に!?こ、これナシ!ストップ!ちょ、ヤメ!やめて!止めてってば!こら~映像学科何撮ってるのよ~!お願いやめて~!!」

 

 

 ボックスシートのソファーから転げ落ちたラブはわたわたと這い進み立ち上がると、スクリーンを隠そうとするかの如くブンブンと手を振るが無駄な努力であり、その間にも執拗なまでにその場面がリピートされグランドスタンド中から『きゃ~♡』と黄色い歓声が上がり続けている。

 

 

「いや~!やめて~!お願い許して~!!」

 

 

 この公開処刑にラブは真っ赤な顔で頭を抱え床の上をゴロゴロのた打ち回っているが、もう一方の当事者の愛はどうかといえばいつもの無表情で平然とケーキを食べ続けていた。

 そのラブの姿と映像にダージリンに至っては、ボックスシートのソファーの上に引っ繰り返り、おパンツ丸見えで両の足をバタバタさせながら涙を流し狂った様にアヒャアヒャと笑い続けている。

 隣に座っていたアッサムはに眉間に皺を寄せ、嫌なモノを見たという顔でその様子を見ていた。

 

 

「いやあ、実に良いモノを見せて貰った♪」

 

 

 その後もスクリーン上では各戦線の名場面が流される中、漸く落ち着いた一同が席に戻り入れ直した飲み物とケーキをテーブルに並べるが、アンチョビのそのわざとらしい一言で全員が一斉にラブから目を背け小刻みに肩を震わせている。

 ダージリンだけが最初からテーブルに突っ伏しピクピク痙攣していて、笑い過ぎによる過呼吸でも起こしているらしい。

 

 

「みんなひどい……」

 

 

 ラブはラブでソファーに膝を抱えて座り涙目ですっかりイジケてしまっていた。

 これも日頃の行いのせいなのかそれとも皆から愛される故なのかその判断は微妙な処。

 

 

「皆の衆、アレを見たまえ!」

 

「皆の衆って何よ?」

 

 

 アンチョビの変な呼び掛けにカチューシャが突っ込む。

 

 

「グスン…なによぅ…まだ私を晒し者にするっていうのぉ?」

 

 

 ラブは膝を抱えて拗ねたままアンチョビに文句を言う。

 

 

「そうではない、アレだアレ」

 

 

 アンチョビは背中越しの方向を親指で指し示す。

 皆がその方向に視線を向けると梓とペコが、仲良く手を繋ぎ少し離れたパーテーションで仕切られたボックスシートに入って行くのが見えた。

 

 

「あら!これは見逃せませんわ♪」

 

 

 突っ伏して視線だけ向けていたダージリンがガバっと起き上がる。

 

 

『復活するの早っ!』

 

 

 そう内心でダージリンに突っ込みつつも全員既に顔がワクテカだ。

 

 

「私も紅白戦の企画を立てた甲斐があるってものだわ~♪」

 

 

 ラブも嬉しげに拳を握りしめている。

 

 

『コイツも復活早っ!』

 

 

 でもハッキリ言って誰も二人の事言えないと思う。

 

 

「こうしてはいられない、先輩として()()()()()()()やらばねなるまい!」

 

 

 アンチョビがそう言うや一同はいそいそと立ち上がると、足音を忍ばせ電撃作戦の如きスピードで梓とペコが入って行ったボックスシートに近付くと、パーテーションの裏側に全員が耳を押し付け中の二人の会話を聴こうと必死で、その表情は目をギラつかせ最高にゲスいただのデバガメのそれだ。

 凡そ隊長格の威厳の欠片も見えない姿で全員がパーテーションに張り付いている。

 

 

「よく聴こえませんわ……」

 

「これを…」

 

 

 そう言いながらノンナが皆に何時の間に持って来たのか、ケーキバイキングのドリンクバーのガラスコップを手渡して自身も早々に使っている。

 

 

『この子もこんな…子でしたわね……』

 

 

 胸中そう思いながらも口には出さずダージリンも有難くコップを使用する。

 

 

『…今日は…だから…梓さん…勝利……ご褒美……』

 

『え?…そんな…んぐ……』

 

『…ウフフ…うん…』

 

『…ペコ…ちゅぷっ……』

 

 

 漏れ聴こえる会話に全員がクワっと目を見開きその鼻息は荒い。

 

 

「まあ!まあ!まあ♡」

 

「ええい!このままでは埒が明かん!」

 

 

 アンチョビはそ言うや床に腹這いになると左手にメモ帳、右手にペンを持った状態で脚だけで器用に音も無く匍匐前進でボックスシートの影に近付いて行く。

 

 

「アイツあんな器用な事が出来たのか」

 

「真面目な顔で何アホな感心してるのよ!」

 

 

 カチューシャがヒソヒソ声で器用にまほを怒鳴り付ける間にも、アンチョビは前進を続けしかも更に器用な事にその状態でメモ帳に何やら高速で書き連ねている。

 そしていよいよシートの影に辿り着くと、警戒しつつそ~っと覗き込み始めた。

 

 

「アンチョビさん!な、中の様子は!」

 

 

 みほが目を爛々と輝かせ小声でアンチョビに問い掛ける。

 だが声を掛けられたアンチョビは、突然腹這いの状態から音も立てずにコケるという更に恐ろしく器用なまねをして見せるのだった。

 

 

「一体どうなってますの!?」

 

 

 辛抱堪らんといった感じでダージリンはアンチョビに問うが、顔だけ振り向いたアンチョビは眉毛をへにょりと下げその状態でヤレヤレのポーズをして見せる。

 訳が解らぬと痺れを切らした一同が中をそ~っと覗き込むと、今日の大役に余程疲れたのであろう梓とペコは、寄り添って座った状態でお互いもたれ掛り静かに寝息を立てているのだった。

 

 

「あらまあ何て可愛らしいこと♡」

 

 

 ラブは身悶えながらクスクスと笑うダージリンに続いて言う。

 

 

「ピュア過ぎてヨゴレの私には眩し過ぎるわ!」

 

『自覚あるんだ!』

 

 

 ラブに口には出さずに突っ込みつつも全員が写メを撮りまくっている辺り全員同類だ。

 

 

「さて、いつまでもこのままという訳にはいきませんね」

 

 

 アッサムがそう言いながら二人を起こしに掛かるがむにゃむにゃ言うだけで中々起きない。

 仕方ないとばかりにナオミとノンナにアッサムは目を向けるとお願いねとばかりに抱き上げる仕草で二人を宿舎まで運ぶように頼むのだった。

 頼まれた二人も軽く肩を竦めた後、小柄な二人を軽々と抱き抱えると並んでその場を後にする。

 

 

「私達もそろそろ引き上げるとするか」

 

「そうね、まだ明日もあるしさすがにシャワーが浴びたいわ」

 

 

 まほとカチューシャの会話を切っ掛けに一同も宿舎に引き上げる。

 グランドスタンドでも丁度ダイジェスト映像も終わりケーキも綺麗に食べ尽くされると、長かったその日の一大イベントも終わりを告げるのだった。

 

 

 




一度だけ頂き物でダルマイヤーのコーヒーを飲んだ事があるけど美味しかったです。
でも値段見ると自分で買うのは気が引けます。



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第二十話   Macaroni Western Carnival

今回もサービス回になるんかなぁ?

2月なんて大概暇なのになんで今年はこんなに忙しいんだろう?
おかげで最近尺が長めになってるのもあり中々直しが出来ず更新も遅れがちです。


 紅白戦も無事に終了したその日の夕飯時、笠女学園艦の大食堂は、ケーキバイキングで散々食べたにも拘らず集まった少女達が旺盛な食欲を示していた。

 

 

「このアジフライ肉厚プリプリの衣サクサクで美味しいですわ~♪」

 

「うおっ!五十鈴殿もう十枚目でありますかぁ!?」

 

「あれがあんこうチームの強さの秘訣なのか!?」

 

「やだも~!華!恥ずかしい~!!」

 

「私も負けていられませんわ!リミッター外しちゃいますわよ!」

 

「こら!ローズヒップ止めんかこの馬鹿!」

 

「ルクリリ様ももっと淑女らしくして下さいまし…」

 

「いやおもしれ~からやらしてやれって~」

 

 

 食事の度のこの光景も既にお馴染みのものになりつつある。

 厨房を預かる給養員学科の生徒達も満足げな表情でその光景を眺めていた。

 

 

「しかし連日こんな大盤振る舞いしてていいのか?」

 

「いいのいいの♪給養員学科の子達は、昼間のケーキ作ってたパティシエール部の子達も含めてこれが実習でそれが成績に反映されるんだもの。こう言っちゃなんだけど笠女ってかなりのスパルタよ、入試だって筆記だけじゃなくて実技試験もあるからそれなりの事が出来ないと入学すら叶わないわ。各学科卒業時には高卒の段階で、第一線で通用する人材の育成が目標なんですもの」

 

 

「専門課程以外の一般教科はどうなっているんですの?」

 

 

 情報処理学部に所属するだけあり、アッサムは笠女の教育内容や授業の進み具合などが大いに気になるらしく興味深げに聞いて来る。

 

 

「あ~、それはあまり聞かない方がいいかも~、もしどうしても気になるのならウチは随時短期留学を受け付けてるからどうぞ。っていってもまだ一年生しかいないんだけどね~」

 

「ふむ、それもそうですわね……」

 

 

 アッサムは何か考え込むがその表情をもしオレンジペコ辺りが見れば、それは悪い予感しかしない表情だったであろう。

 

 

「まあそんな事は置いといて明日の予定なんだけどね~」

 

「今日も最高だったけどまだ何かあるのかしら!?」

 

 

 カチューシャが目を輝かせワクワクした表情で聞いて来る。

 

 

「うん、前に言ったけど戦車も乗員もそしてそのポジションも、全部その場でクジ引きで決めるシャッフル戦なんてどうかな?乗った事の無い戦車にやった事無いポジションになる可能性も高くて、それはそれで面白いと思うんだけどな♪ルールとしてはね、一対一で背中合わせで停止した状態から一定距離前進した後に旋回して撃ち合う、云わば西部劇のガンマンの決闘スタイルを考えてるの。ただ一対一だから通信士のポジションは無しになるけど」

 

「それは新しいな!予定では明日が最終日だしそんなお遊びスタイルも面白そうだ♪」

 

 

 まほも興を引かれた様で笑顔で乗って来た。

 それ以外の者も口々に面白そうだと言い、この企画も即決定と相成った。

 

 

「ところでラブ、部屋割りの事なんですけど宜しいかしら?」

 

「ええ、心得ているわ」

 

 

 ダージリンの言葉に打てば響くでラブが即答する。

 

 

「梓ちゃんとペコちゃんの荷物は既にツインルームに搬入済みよ~♪」

 

「まことに結構♪」

 

『コイツらくっ付けオバチャンか!』

 

 

 心の中でそう突っ込みを入れつつも全員その顔は実にゲスい。

 食後に戻った宿舎のフロントでは、変えられた部屋割りに梓とペコが慌てて顔を真っ赤にして抗議するも、再びノンナとナオミの手により強制的にツインルームに放り込まれてしまう。

 そして明けて翌朝の朝食の時間、大食堂に現れた梓とペコは前日のみほとエリカの様な状態で歩き回っているのだった。

 但し梓のパンツァージャケットの裾を掴み付いて回るのはペコの方であったが。

 

 

『あ!攻守逆転してる!?』

 

『夜もヤングタイガー!』

 

『ペコ狩られちゃった!?!』

 

 

 興味津々の視線の中二人は朝食のトレーを手にふらふら彷徨っていた。

 

 

「その…あんざい……黙って食べます……」

 

 

 今日も並んで朝食を取るまほとアンチョビだが、どうやらまほが昨夜と同じ失態を犯したらしく、今朝はとうとうアンチョビが一言も口をきいてくれないらしい。

 果たして笠女学園艦に滞在中にアンチョビの苦労が報われる日は来るのだろうか?

 まあそんな様子で悲喜交々の朝食時間も過ぎ、演習場グランドスタンド前には各校の戦車がズラリと並べられ、ラブ発案の乗員総入れ替えの戦車クイックドロー対決の準備が進められている。

 用意されたクジ引きの箱は使用する戦車と選手のポジション決めの二つ、これらを一戦毎に引き即席チームを二つ造り次々対戦して行く100%お遊びに振った戦車戦だ。

 今回に限り放送席が用意され、実況解説付きでグランドスタンドから観戦しつつ選手達は自身の出番を待つ事になるが、今日もケーキ等が用意されその準備にはそつが無い。

 

 

「え~、それでは間も無く第一戦目のクジ引きが行われますがその前に自己紹介を。私本日の実況を担当させて頂きます大洗女子学園の秋山優花里であります。そして解説は聖グロリアーナの隊長ダージリン殿でお送り致します。ダージリン殿宜しくであります」

 

「こちらこそ」

 

 

 優花里の実況への起用はその知識量を買われての事だが、ダージリンに関してはその方が面白いからとかそんな辺りだろうが本人はそれに果たして気付いているのかどうか。

 

 

「さあ、一回目のクジ引きでありますが、まずは戦車のクジを笠女の厳島殿が引かれております」

 

 

 実況を意識してかラブは笑顔で大袈裟に箱の中をかき回し一枚のカード手に取ると、続いてもう一枚引いた処で二枚のカードを映像学科の生徒が構えるカメラに向けた。

 

 

「おっと出ました!これはいきなり凄い対戦になりました!ティーガーⅠ対ティーガーⅡとはトップを飾るに相応しいと言いますかトリに取っておきたい様な対戦であります!」

 

「全くラブのクジ運には呆れますわ」

 

「さて今度は乗員とポジションでありますが、一対一の対決でありますので通信手のポジションは除外されております…っとカチューシャ殿が双方の車長を決めるクジを引かれましたが固まっておられます、コレは一体どうした事でしょう?」

 

 

 カメラがカチューシャの手元に寄りクジのカードをスクリーンに映し出す。

 

 

  ティーガーⅠ車長 丸山紗希   ティーガーⅡ車長 ニーナ

 

 

 スクリーンに紗希の名が映った瞬間、優花里も含め大洗のメンバーは全員椅子からずり落ちた。

 

 

「…何と言うか最初からオチが見えますわね……」

 

「し、失礼致しました、気を取り直して次は操縦手でありますが…今度は西住の姉上殿が固まっておりますが何があったのでありましょう?」

 

 

 ティーガーⅠ操縦手 ぺパロニ   ティーガーⅡ操縦手 ローズヒップ

 

 

 カメラが映すまほの手は小刻みに震えその顔は真っ青になっている。

 

 

「お願いだから壊さないで~!」

 

 

 エリカの悲痛な叫びがスタンドに響くと、アチコチから笑いと悲鳴が同時に巻き起こる。

 

 

「…続きまして装填手でありますがクジを引いたアンチョビ殿が片手で顔を覆っております」

 

 

 ティーガーⅠ装填手 カチューシャ   ティーガーⅡ 角谷杏

 

 

「ペイント弾とはいえ88㎜、持ち上げられるのかしら…?」

 

「そ、それを言ってはお終いの様なぁ…最後は砲手となりますがケイ殿まで固まって……」

 

 

 ティーガーⅠ砲手 河嶋桃   ティーガーⅡ砲手 ケイ

 

 

「……なんと申しますか、いきなり大洗から三枚もジョーカーを出してしまった様な気が致しますがとにかく第一戦目の組み合わせが決定致しました」

 

「これを一日繰り返す気ですの?」

 

 

 もう既に嫌そうな顔でダージリンが吐き出すが、優花里は聞かなかったフリをして実況を続ける。

 

 

「ここで改めてルールを説明致しますが、中央の仕切り線に背中合わせに停車した対戦車両が合図と共に前進、10m先のラインで180度転回し砲撃を開始します。なお砲塔の旋回と転回前のペイント弾の装填は禁止となっております。使用弾数は当たっても当たらなくても一発のみの文字通り一発勝負であります。さあ、両車決定した乗員も乗り込みもう間も無く第一戦目の開始であります!ダージリン殿はこの一戦どの様な展開になるとお考えでありますか?」

 

「どうせロクな結果にはなりませんわ」

 

 

 めんどくさそうにダージリンが答えると同時に試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

 それと同時に双方前進を開始…しない。

 どういう訳か両車スタート地点からピクリとも動かず聞こえるのはアイドリング音のみ。

 

 

「これは一体どうした事でしょう!?両車一歩も動きません!何が起きているのか車内の様子を聞いてみましょう、音声さんお願いします!」

 

 

 放送席傍のPA機器担当の生徒が車内に取り付けたマイク音声を、実況スピーカーに繋ぐ作業を行なうとまず最初にぺパロニの怒鳴る声が、次いでローズヒップの叫びが飛び出した。

 

 

「オイ!車長!黙ってないで指示出せってんだ!」

 

「それは何語ですの!?何を言っているかさっぱり解りませんわ!」

 

 

 双方寡黙な紗希と訛りのあるニーナが車長になったのが運の尽きであった。

 放送席では初っ端からこの展開で優花里とダージリンが頭を抱えデスクに突っ伏している。

 そして遂には耐え切れなくなったぺパロニとローズヒップが勝手に前進を始め、ほぼ双方が同時に10mラインに到達し転回を開始、これでいよいよ決着が付くかと思うと再びトラブルが発生する。

 ダージリンの予想通り、ちびっ子装填手二人が車内で88m砲弾を抱え見事カメの子になっていた。

 

 

「な、なんなのよ!この重さは!」

 

「お~も~い~!や~ら~れ~た~!」

 

 

 予想通りのお約束の展開にグランドスタンドに居る隊員達も笑う事が出来ない。

 車内の大騒ぎが暫く続きその後どうにか装填し砲撃するも期待を裏切らぬ桃ちゃんが大外し、さすがにケイは当てたもののここまでの展開で素直に喜べず恥ずかしそうに帰って来た。

 帰って来た勝利チームにはそれぞれ笠女謹製校章であるZ旗をあしらった、中々センスの良いマグカップがそれぞれに贈呈されるも、皆やはり勝ち方が恥ずかしいらしく複雑な笑みを浮かべていた。

 まほとエリカに至っては、涙目で無事帰って来た愛機に安堵の溜息を吐くと同時にその場にへたり込んでいる程だ。

 そしてその後もあり得ない組み合わせによる珍試合が連発し、その場にいる者全てが腹筋に重大なダメージを受け続ける事になるのだった。

 

 

「そんなだからタカシさんに──」

 

「それは今関係無いでしょ!」

 

「こんな諺を知って──」

 

「それだ!」

 

「だから直下!何でオマエは前進するだけで履帯が切れるのだ!?」

 

「そんなの私にも解りません!」

 

 

 一発勝負だけに次々試合は消化されて行く中、コレ絶対仕込んだだろ?という組み合わせも発生しており、その中でも最たるものがまさかのエリみほの組み合わせで、使用戦車もカルロベローチェという嬉恥かしな事態にグランドスタンド全体のワクテカが止まらない。

 試合開始を告げるブザーが鳴り対戦相手は前進するも、エリみほのカルロベローチェはその場から動かないが何故か激しく揺れている。

 よせばいいのに音声さんが良い仕事をした為にスピーカーから生々しい声が漏れだした。

 

 

「みほ!みほ~!」

 

「あぁ!エリカさん!」

 

「ああ!これはマズイであります!放送コードに引っ掛かるであります!音声さんカットカット!」

 

 

 さすがのダージリンもマイクを薙ぎ倒しデスクに頭を打ち付け、そうこうするうちに反転した対戦車にペイント弾を撃ち込まれて試合終了となっても揺れは収まらず、全くもって盛りの付いたケダモノは手に負えない。

 数分後やっと車内から出て来た二人は、またしても着衣が乱れ必要無い咽頭マイクで喉元を隠し上気した顔で足早にどこかに走り去った。

 

 

「……そ、それでは試合を再開したいと思いますが…ダージリン殿?大丈夫でありますか?」

 

「……」

 

「え~、つ、次の対戦は‥あ…カ、カルロベローチェ同士の対決であります。それぞれ操縦手と砲手はといいますと……」

 

「どうなさいましたの優花里さん?」

 

 

 持ち直したダージリンが問い掛けると今度は優花里が絶句している。

 手元に回って来た対戦カードを見たダージリンも言葉を失った。

 

 

 操縦手 オレンジペコ   砲手 澤梓

 

 

「あのクジ引きの箱の中は一体どうなっているんですの!」

 

 

 そしてもう一方のカードの乗員も、別の意味で嫌な予感しかしない。

 

 

 操縦手 厳島恋   砲手 ノンナ

 

 

『……』

 

 

 完全に緘黙する実況と解説を前に、両チーム用意されたカルロベローチェに乗り込む。

 試合開始のブザーが鳴るとスタンドの隊員達も生唾を飲み込み動きを注視する。

 

 

『ま、また揺れるだけ!?』

 

 

 隊員達の予想に反して梓とペコのカルロベローチェは前進を始めるが、ラブとノンナが乗車するカルロベローチェが一切動かないのだが、こちらに関してはほぼ全員の予想通りで、ここでもまた音声さんが無駄に勤勉さを発揮する。

 

 

「せ、狭…胸が閊えて操縦桿が…」

 

「屈んでも照準が…」

 

「ってノンナもっとそっち行きなさいよ」

 

「ラブこそその無駄にデカいもの何とかなさい」

 

 

 色々と規格外な二人にとって残念ながらカルロベローチェは小さ過ぎ、頭も閊える為にハッチすら閉められず狭い車内で二人がジタバタするのも丸見えだ。

 

 

「やっ!ちょっと感じちゃうから押さないで♡」

 

「アナタこそドサクサに内股撫でないで!」

 

「あ、アンタ達そこで何やってるのよ~!」

 

 

 スピーカーから聴こえる二人の声にカチューシャの絶叫が重なる。

 この時既に10mラインまで前進し転進を終えた梓とペコは車内で困った顔でその様子を見ている。

 

 

「ええと、ペコさんどうしよう?」

 

「取り敢えず撃ってしまって宜しいかとは思うのですが…」

 

「じゃあ…撃ちます」

 

 

 梓はそう言うと射撃を開始し見事全弾命中させた。

 何も出来ずに頭の上から飛び散ったペイント弾の飛沫を浴びたラブとノンナは、狭い車内でお互いの図体のデカさを攻め合っている。

 

 

「いつもカチューシャ肩車してるクセに何でノンナは縮まないのよ~!?」

 

「食べた物の栄養が全部胸に行ってるラブに言われたくありません!」

 

「ちょ!何よ~ノンナだって私の事あまり言えないじゃないよ~!」

 

「三年ぶりに会ってみれば身長だって私より10㎝も高くなってたじゃありませんか!」

 

「誰よこんな企画考えたのは…」

 

「もうその年でボケましたか?ラブのずば抜けた記憶力とやらもアテになりませんね」

 

「な!?ちょっと言ってみただけじゃない!」

 

「あの~お二人共既に被弾しておりますのでそろそろその辺で出て来て頂けませんでしょうか~?」

 

 

 ここに来てやっと仲裁する様に実況の優花里が声を掛けると、全て聴かれていた事を思い出した二人はハッとして途端に恥ずかしさから赤い顔になる。

 

 

「うぅ…酷い目にあったわ……」

 

「豆戦車は私達には無理ですね…」

 

 

 冷静になった二人が肩を落とし並んで戻って来るが、勝った方の二人が逆にこれで若干冷静さを失ったのか聴かれているのを忘れ狭い車内ではしゃいでしまった。

 

 

「梓さんお見事です♪さあ、ご褒美の時間ですよ~♡」

 

「あ、ペコさんそんな…」

 

「ちゅ♪」

 

「じゃ、じゃあ私からも…」

 

「ん…♡」

 

「あの~お二人さんそちらも筒抜けなのをお忘れでは~?」

 

『ぴゃあ!!』

 

 

 優花里の困った様な呼び掛けにビックリした二人の可愛い悲鳴まで筒抜けで、グランドスタンド全体がその可愛さに黄色い笑い声に包まれる。

 隊員達がひとしきり笑った処で時刻は丁度お昼となり、例によってコントロールタワーより昼休みに入る宣言が艦内放送で通達された。

 

 

「みんな~!今日のお昼は大食堂で食べるから移動するよ~♪」

 

 

 ラブがいつもの拡声器でグランドスタンド全体にそう呼び掛けると、皆一斉に立ち上り大食堂目指し移動を始める。

 

 

「そう言えば今日はお弁当を貰っていなかったが何かあるのか?」

 

「今日は金曜日だから特別なのよ~。大丈夫、まほは絶対大喜び間違いなしだから♪」

 

 

 まほの質問にラブは笑顔で答えるとまほの背中を押しながら大食堂に向かう。

 皆も二人の後を追って歩き出しやがて大食堂が近くなると、それぞれの鼻腔の奥を独特な良い香りが刺激して来る。

 

 

「あ!この匂いは!」

 

 

 そう、大食堂の辺りにはまほの一番好きな香りが立ち込めているのだった。

 

 

 




ノンナの身長が172㎝(劇場版では176㎝)だとか。
それより10㎝高いラブの身長って…。


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第二十一話   カレーの王女様 まほの細やかな願い

遂にまほチョビ♡


「そうよ~カレーの王女様、あなたの大好物の香りよ♪笠女の金曜日のお昼は自衛隊同様カレーに決まってるの。地元横須賀の町興しの海軍カレーならぬ学園艦カレーよ。横須賀地方総監部と第1護衛隊群各艦の協力の元で笠女独自の味を創って貰ったの、だから味の方もバッチリ保障するわ」

 

「何をボヤボヤしてるんだ!早く行こう!」

 

 

 大好物のカレーの良い香りを嗅いだ瞬間に、いきなり跳ね上がったまほのテンションに皆呆れつつも、その香りに誘われ自然と足の運びも速くなりやがて大食堂に到着した。

 

 

「野菜サラダと牛乳が付くんですのね」

 

「そう、横須賀の飲食店ではそれが付かないと海軍カレーとして公認が取れないのよ」

 

「あら、そうでしたの」

 

「うん、でもまあ屋外イベントなんかだとカレーのみになっちゃうけどね~」

 

 

 ラブとダージリンの会話を耳に入れつつも皆のカレーを食べる手は止まらない。

 

 

「でも細かい事抜きにしてもこのカレーは美味しいわ!」

 

 

 口の周りに付いたカレーをノンナに拭いてもらいつつもカチューシャも満足の笑みを浮かべる。

 周りが会話も楽しみつつ学園艦カレーを堪能する中、まほだけが黙々とカレーの王女様の名に恥じぬ勢いで次々とカレー皿を消費している。

 

 

「ふう!いやぁ実に旨い!さてもう一皿おかわりしよう♪」

 

「お姉ちゃん!それもう五皿目だよね!?調子に乗って食べ過ぎだよ!少し自重しようか!?」

 

 

 放って置けばどれだけ食べるか解らないまほに、みほが咎める様に声を上げる。

 

 

「えぇ…だってなぁ……」

 

 

 不満そうに口を尖らせたまほは、みほの背後のテーブルに視線を向ける。

 みほがその視線を追って振り向くと、その先には華がカレー皿でバベルの塔を築きつつあった。

 

 

「私こんなに美味しいカレーは初めてで何杯でも行けますわ~♪」

 

「やだも~恥ずかしいから止めてよね~!」

 

「華さぁ~ん……」

 

 

 ガックリと肩を落としたみほが向き直ると、まほは既に六皿目のカレー皿を手にしていた。

 

 

「もう!お腹壊しても知らないよ!?お母さんに言うからね!」

 

「そんな事言ったって美味しいんだもん…」

 

「だもんって、これじゃどっちが姉だか解らんなぁ」

 

 

 アンチョビも苦笑しつつおかわりを頼んでいるが、見れば食堂中に居る者は皆おかわりしていて、その光景にラブも満足げに頷いていた。

 

 

「この学園艦カレーもレトルトにしてもう間も無く販売を始めるわ。市内のアンテナショップを始め店頭販売の他にネット販売もする予定なの。丁度私達のCDデビューと同じ頃になるわ」

 

「Oh…この商魂逞しさが厳島なのね……」

 

「私が直接やってる訳じゃ無いわよぉ」

 

 

 ケイにそう言われたラブは苦笑しつつもそう答えた。

 だが皆の食べっぷりからも、これなら問題無く売れるだろうと考える辺りは、間違い無く商才に長けた厳島の者の証であった。

 

 

「CDといえば昔からピアノ弾いたり歌ってたラブはともかく、AP-Girlsのメンバーは聞かされた境遇から考えるとレッスンとか受けたのは笠女に入ってからだろ?よくこの短期間であれ程まで歌えるようになったなぁ。ダンスにしても全然解らない私が見ても凄いレベルが高く見えたし」

 

 

 まほはスプーンを咥えたまま何の気無しに呟いた。

 それを聞いたラブはあ~っと言う表情をするとぽつぽつと説明を始める。

 

 

「ええとアメリカに向う頃からレッスンは始まっていたけど、ヤキマで訓練始めるのと同時にブロードウェイからボイストレーナーやらダンスレッスンのプロに来て貰ったのよ。まあこちらもベース指令のキャンベル少将に仲介して頂いたんだけどね、勿論どのレッスンもとても厳しかったわ。でも特に飛び抜けて厳しかったのがダンスレッスンだったのよ…私の場合身体の状態が状態だけに特にね…」

 

 

 ラブはそう言うや嫌な事を思い出した様に冴えない表情になる。

 その後ろでも凜々子が呻く様に弱々しく声を漏らす。

 

 

「うぅ……キャシディ先生のダンスレッスン…思い出しただけで気分が……」

 

「うわぁ!凜々子こんなトコで食事中にヤメロ―!」

 

 

 夏妃はそう叫ぶや否や凜々子を小脇に抱え慌てて大食堂を飛び出して行く。

 それを呆然と見送った後、まほはやや遠慮がちにラブに尋ねた。

 

 

「その…凜々子君が言っていたキャシディ先生とは一体…?」

 

「うん…私達のダンスレッスンを受け持ってくれたプロダンサーなんだけど、元海兵なのよね……リアルで返事をする時はYes, ma'am!だったし…とにかくレッスンプログラムが桁外れに厳しくて、あの頃私達全員毎晩夢にまで見てうなされてたわ。正直海兵のブートキャンプでもあそこまで厳しくないと思うもの……」

 

 

 そう言ったラブの語尾は震えており、それがその厳しさを物語る様で一同食事の手が止まる。

 

 

「そ、それじゃあヤキマにいた頃はひたすら戦車とレッスン漬けだったって事か……」

 

「まあ…概ねそれで間違いないわ。でもプラス通常授業もちゃんとあったのよ……」

 

 

 想像するだけで嫌になりそうな話に皆ゲンナリした顔になるが、なおもラブの話は止まらない。

 

 

「それでも学園艦内のコンビニに物資があった頃は精神的に持ち堪えられたわ…でもアメリカまでコンビニ定期船は来てくれないし段々物資も底を突いてそれからが真の地獄だったわ!コンビニスイーツもスナック菓子も無くなっちゃって、仕方無く向こうのコンビニ船手配して補給受けたけどね…。知ってる!?向こうのジャンクフードってその名の通りジャンクなのよ!酷いのよ!もうみんなして泣いたわ!戦車の格納庫でもこの食堂でも隅っこに集まって座り込んで泣いたわ!コンビニのおにぎりが食べたい!生クリームたっぷりのプリンが食べたいって泣いたわ!やっと横須賀に帰って来た時は、速攻で周辺のコンビニ絨毯爆撃で襲撃してコンビニスイーツ食べ尽くしてやったわ!!」

 

 

 段々と興奮してチョビひげの閣下の様に腕を振り上げ熱弁するラブに一同ドン引きするが、ただ一人狂気じみたラブの演説に同調する者がいた。

 

 

「分かる!分かるわラブお姉ちゃん!コンビニに何もない世界で人間は生きて行けないもの!」

 

 

 オマエ何を言ってるんだという視線で皆がみほを見るが、みほはラブに駆け寄ると二人滝の様に涙を流しながら熱くお互いの手を握り合う。

 

 

「みほ!あなたは分かってくれるのね!」

 

「当然よ!」

 

 

 展開に誰も付いて行けないが、まほがふとラブの後ろを見れば戻って来た凜々子と夏妃も含め、AP-Girlsのメンバー全員がさめざめと泣いている。

 特に愛の悲しみ様は見ている方まで悲しくなる様な痛々しさで、その背中をさすって慰める鈴鹿の姿も相まってまほまで何故か物悲しい気分になって来た。

 

 

「お、おう…大変な思いをしたんだな」

 

 

 何とかそんな気分を振り払おうとまほは口を開くがそう言うのがやっとであった。

 

 

「そ、それでだな…午後もアレの続きをやるつもりなのか?」

 

 

 アンチョビがまほをフォローする様にラブに声を掛ける。

 

 

「そうね…そのつもりよ…午後からはまた続きをやるとしても明日にはいよいよ横須賀に着くわ。今のうちに説明しておくけど本艦は直接入港しない事にしたの。みんなにはもう一度S-LCACに戦車を積載した上で上陸して貰うね。そうすれば桟橋に二艦づつ係留出来るから効率良く載せ替えが出来るわ。その時物資の補給も出来るよう手配してあるから、後はスタッフに任せて私達は横須賀の街に出られるわよ~♪」

 

 

 話すうちにそれまでの興奮が嘘の様に元に戻ったラブはケロッとした表情でそう話す。

 背後のAP-Girlsのメンバー達も何事も無かった様な表情をしており、その異常な切り替えの早さに皆暫し口をポカンと開けるのみだった。

 しかしやっと思考が追い付いたダージリンがラブの説明にどうにか反応する。

 

「そ、それでしたらグロリアーナは一番最後で宜しいですわ。母港も近いし皆を見送ってからのんびりとで構いませんから」

 

「うん、解ったわ」

 

 

 その後昼食を終え演習場のグランドスタンドに戻った後、さすがに食べ過ぎな全隊員達がやや長めの昼休みを過し、再びゲームを再開しようとした処、午前中のあまりの狂態ぶりに恥をかきたくない者達が出場を辞退をし始めた為、午後の予定はいきなり空白となってしまった。

 集まった隊長達が午後をどう過ごすか検討し始めた中、まほがラブに対し少し緊張を含んだ真剣な表情である提案をし始めた。

 

 

「な、なあラブ、もし良かったら、これから一緒に私のティーガーⅠに乗らないか?」

 

「な~に?突然また改まった顔してぇ?」

 

「いや、そのな…ラブもあの事故さえなければ黒森峰に来るはずだったろ?そうなっていれば当然一緒に乗る事もあったはずなんだ…だからその…せめて今日ぐらい一緒に乗って貰えないだろうか?」

 

 

 まほのその言葉に一同もハッとした表情になる。

 もう一つの、いや、あの悪夢が無ければ本来であればそうなっていたはずの未来。

 真摯な表情のまほの目じりには涙が浮かんでいる。

 思えばこれまでのまほの戦車道はひたすら我慢の連続であり、それを我儘と呼ぶにはあまりに細やかな小さなまほの願い、それを聞いた一同も思わず胸を打たれ手で口元を覆うのだった。

 

 

「そんな…嫌なんてないわ……私で良ければ…ありがとうまほ……」

 

 

 ラブもその先は言葉にならず両の手で顔を覆うと静かに涙を零す。

 これまでに失ったものの大きさを考えればあまりにも小さい、それでも古くからの仲間達にとってはとても大きな意義のあるまほの願いが今叶おうとしていた。

 

 

「それでしたらまほさん、後二人乗せなければいけませんわ」

 

「え?」

 

「みほさんと千代美を忘れてはいけませんわ」

 

「Yes!そうよ、その通りだわ!」

 

「わ、私もかぁ!?」

 

「そーよ!千代美を黒森峰に熱心に勧誘していた事は皆知っている事だし、ミホーシャだってウチとの一件がなければまた違っていたはずだもの!」

 

 

 カチューシャもまた心の奥底に淀んでいた想いを吐き出すかの如く叫ぶ様に言う。

 

 

「そうか…みんなありがとう!…そうだ!もう一人忘れてはいけない。エリカ!エリカ来てくれ!」

 

「は、ハイ!何でしょう隊長!?」

 

 

 駆け付けたエリカもまた話を聞くにおよび口元を覆い涙を零す。

 

 

「そうと決まったらまほさん、黒森峰全軍を率いて進軍なさい。私達が仮想敵を演じて差し上げます、そして勝敗に関係無く残りのペイント弾全て撃ち尽くすまで撃ち合いましょう」

 

「ねえまほ、AP-Girlsを黒森峰に加えてくれない?ずっと日陰で耐えていたあの子達に王道というものを体験させてあげたいの」

 

「お安い御用さ!西住流と厳島流は姉妹も同然だからな!」

 

「まほ!ありがとうまほ!」

 

 

 かくしてまほの小さな願いを叶えるべく全員が一致団結して再び大戦車戦の準備に走る。

 

 

「誰が何と言ってもまほが車長は絶対ね!」

 

「え?いいのかラブはそれで?」

 

「勿論よ~♪」

 

 

 戸惑うまほにラブは色っぽいウィンクで答える。

 

 

「ならばラブ、オマエは砲手をやるんだ」

 

「え?だって私の右目は…」

 

 

 今度はラブが戸惑うがまほは気にせず快活に言う。

 

 

「今は細かい事は気にするな、撃って撃って撃ちまくればいいんだ!」

 

「…うん!分かった!」

 

「エリカ!エリカは操縦手を頼む!久しぶりにお前の手腕を見せてくれ!」

 

「ハイ!隊長!」

 

「それでは私が装填手を務めるとしよう」

 

「おい、安斎それでいいのか?っていうか大丈夫か?」

 

「フン、あまり私を見くびるなよ?何でもこなせねばアンツィオのドゥーチェは務まらん」

 

「そうか…そうだよなさすが安斎だ!」

 

「アン…まあいいそういう事だ」

 

 

 アンチョビがそう言ってニカっと笑うと最後にみほも笑いながら続く。

 

 

「そうなると私が通信手だね、隊長お手柔らかにお願いします♪」

 

「フッ、私の西住流は厳しいぞ!総員心して掛かれ!」

 

 

 まほがそう言うと全員が大きな声を上げて笑う。

 そしてコントロールタワーが上げてくれた信号弾を合図にまほの檄が飛ぶ。

 

 

「それでは行くぞ!黒森峰の恐ろしさを見せ付けてやれ!パンツァー・フォー!」

 

『jawohl!!』

 

 

 美しいパンツァーカイルを組み、颯爽と指揮を執るまほ率いる黒森峰が行く。

 そのまほの凛々しい目元からは時折光るものが零れ落ちる。

 この日笠女学園艦に集まった戦車達はダージリンの言葉通り、ペイント弾の最後の一発を撃ち尽くすまで縦横無尽に走り回ったのであった。

 

 

「まほ…今日は本当にありがとう」

 

「私が言いだした事で、ラブには付き合って貰っただけだから気にする事は何もないさ」

 

 

 笠女学園艦上での最後の戦車戦も終わり夕食も済むと、まほ達の宿舎に共に訪れたラブは最上階のラウンジで寛ぎつつ改めてまほに礼を言ったが、まほもまた自身の心の中にずっとあった願いが僅かながら叶い満足そうに微笑むとそう返した。

 皆もまた穏やかな表情で何をするでもなく、それぞれの手元のカップから立ち上る湯気をぼんやりと見つめている。

 暫し訪れた昼間の賑やかさが嘘の様な静寂の時間。

 それが照れくさい様な口ぶりでアンチョビが敢えて元気よく切り出す。

 

 

「いよいよ明日は久し振りの横須賀か!ベース前のアメリカンドックとか懐かしいなぁ!」

 

「うん!あれは美味かった♪」

 

 

 まほも思い出したのか嬉しそうに続くがまたみほに怒られる。

 

 

「お姉ちゃんまた昔みたいに何本も食べたらダメなんだからね!?」

 

 

 皆が笑う中まほはまた妹に怒られて口を尖らせブツブツ文句を言っていた。

 

 

「千代美はあれでしょう?素敵な()()()()()に会いたいのでしょう?」

 

「オマエなぁ!ってアンチョビだ!」

 

 

 ダージリンに茶化されたアンチョビは顔を赤らめながら抗議するが、その様子がまた一同の笑いを誘い図星である事を明確にする。

 

 

「ダージリンもそれ位になさいな」

 

 

 笑いつつもアッサムが助け船を出すとそれを潮にお開きの時間となり、ラブは寮に戻り一同もまたそれぞれの部屋に散って行った。

 

 

「全くダージリンのヤツめ~」

 

 

 まほと共に部屋に戻ったアンチョビはまだ少し赤い顔でブツクサ文句を言っていた。

 アンチョビのそんな様子にまほはクスリと笑った後、真面目な顔に戻り声を掛ける。

 

 

「なあアンチョビ…いや安斎……」

 

「ん~、どうした西住?」

 

 

 薄明りのみ灯した部屋のベッドの端に腰掛けていたアンチョビは、まほの声の様子に敢えて怒らず振り向いて、傍にやって来た顔を見上げながら答える。

 

 

「その…隣いいか?」

 

「あ?ああ、構わないよ」

 

 

 答えたアンチョビは自分の隣をポンと叩きまほに座る様促す。

 まほもまたありがとうという感じで一つ頷くとアンチョビの隣に腰を下ろした。

 

 

「で?話は何だろう?」

 

 

 何となく、ぼんやりとではあるが話の内容に察しが付いたアンチョビであるが、それは敢えて問わずまほに意識して穏やかに問い掛ける。

 

 

「そのな…今日ラブや安斎達と戦車に乗って思ったんだ…何と言うかその、私は不器用だから上手く言えないんだが……」

 

「進路の事か…やっぱりな、雰囲気から何となく察しは付いたよ」

 

 

 千代美の口から出た言葉にハッとしたまほはその瞳を大きく見開いた。

 

 

「黒森峰に誘われた時断ったのは本当に済まなかったと思う。だがあの時はアンツィオから寄せられた期待に応えたかったんだ…まあ結果はこのザマだが、それでもぺパロニもカルパッチョも他の者達も私を慕い付いて来てくれた。無に等しかった場所に小さいながらも芽を出す事が出来た。これは私にとって生涯忘れ難い大事な財産だよ。尤もそれを決意したのはラブの一件があったからなんだがな。ラブが帰って来た時、ラブと再会した時に誇れるものを持っておきたかった、これが自分の戦車道だと自信を持って言えるようにしておきたかったんだよ」

 

 

 隣で聞いていたまほはそこまで言った千代美の瞳を真っ直ぐ見つめながら口を開く。

 

 

「私は幼い頃からずっと西住流という名の敷かれたレールの上を歩いて来た。それが間違っているとは微塵も思わなかったし、将来はお母様の後を継ぎ西住流を引っ張って行くのは自分だと今も信じている。だが全国大会の後に聞いたみほの自分の戦車道を見付けたという言葉、大学選抜戦でたった一両のタンケッテで見せた安斎の戦い方、どれも私には眩しかった。そして気が付いた、ずっと私はみほや安斎に一緒に付いて来て欲しいと願っていたがそれは違う。私が付いて行きたかったんだ、私が知らない道を見たかったんだと。私は見たいんだ、安斎の戦車道…いや安斎をもっと近くで見たいんだ!一緒に居たいんだよ…安斎と一緒に……」

 

 

 最後はいつものまほらしくない程弱々しい声になりながらそこまで言うと、俯いてベッドに突いている千代美の右手に両の手を重ね、その重ねた手の隙間に熱いものがポツリポツリと落ちる。

 千代美もまたふっと小さく息を吐くとまほの方に向き直り、左手でまほの頭引き寄せると撫でながら優しい声で語り掛けた。

 

 

「にしずみぃ、オマエも馬鹿だなぁ。オマエは私なんかよりずっとしっかりした道を歩んでるじゃないか。それに比べたら私のやって来た事は本流とは随分とかけ離れたものだぞ?でもな、そう言って貰えて私も本当に嬉しいよ。だけど私と一緒に居ても、果たして西住に得る物があるかと問われたら正直自信は無いんだよ。何と言ってもオマエは西住流の後継者、私なんかとは立場が丸っきり違うんだからな。絶対それを忘れてはいけないんだよ」

 

「だ、だけど私は──」

 

 

 そう言い掛けたまほの唇に千代美は、頭を撫でていた手を止めそっと優しく人差し指を当てる。

 

 

「少し具体的な話をしようか、私の進路の事だ」

 

 

 千代美はそう言った処でまほの唇から指を離すとまほの瞳を見つめ話を続けた。

 

 

「有難い事にこんな私にもいくつかのオファーは来ているんだ。大学や発足間近で選手集めに奔走しているプロリーグのチームからもね。私としてもプロの話は魅力的だったよ、声を掛けて来てくれたのは実業団でも強豪と呼ばれるチームばかりだったから。でもね、そこで改めて私は考えたんだ。確かに強豪に行って勝利を掴むのも悪くない、でもそれは私の戦車道ではない気がするんだよ。私の戦車道は常に無い無い尽くしの道で、正直苦労の連続だから報われない事の方が遥かに多い。だけど私と共にその苦労を分かち合って、小さな勝利を掴んだ時の仲間の笑顔は私にとっては何物にも代えられない素晴らしいものなんだ。」

 

 

 語り続ける千代美の瞳をまはも真っ直ぐ見つめ返し決して目を逸らさない。

 一言も聞き漏らすまいとするまほの瞳の輝きをを千代美はとても眩しく感じていた。

 

 

「丁度そう考えていた頃かな?地元の大学から声が掛かったのは。そこは大学自体も結構大きくて学力的にはそれなりレベルも高いんだ。まあ学校が大きい分各種スポーツやそれ以外の活動も盛んでいいんだけど、その分広く浅くで突出したものがないんだ。戦車道もちゃんと活動していていい加減な選手は居ないけど、やはり有力選手はそれなりの大学に行っちゃうだろ?だからリーグ戦でも戦績はパッとしないし大学選抜に強化選手が招聘される様な事も無い。でも大学としても最近の流れから戦車道のテコ入れはしたいらしく、たまたま大学選抜戦の私を見た関係者が、大学側に掛け合って私に白羽の矢を立ててくれたんだよ。何より私が地元というのも大きいんだけどね」

 

「な、ならば私も──」

 

「待ってくれ!西住、まず落ち着いて聞いて欲しいんだ。これはこの先人生を左右する大事な話なんだからもう少しだけ待ってくれ」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 逸るまほの気持ちを静める様、千代美が今度はまほの両手を己が両手でそっと包む。

 一呼吸置いた千代美は優しく微笑むと再び話を続けた。

 

 

「西住ありがとう、その気持ちは私もとても嬉しいよ。でもね、軽々しく私の進む道に西住を巻き込みたくはないんだ。何しろ大学の戦車道だ、そこでアンツィオでやった事と同じ事をしようとしたら、その大変さは今までの比ではないだろう。もしそこで西住が一緒に居ても、失敗すればそれは西住流の名に大きな傷を付ける事になる。私はそれが怖いんだよ、西住の将来に大きな影響を与えてしまうからね」

 

 

 少し俯いた千代美は両手で包んでいるまほの手を優しく撫でさする。

 伝わって来る千代美の温もりと優しさにまほの瞳が潤み始めた。

 

 

「安斎、私はもう自分で進む道を選ばずに後悔はしたくないんだ。自分で決めた道を進んで傷付く事があったとしても、それは自分の責任でそれもまた必ず自分の将来の糧になると私は思うんだ」

 

「だからだよ、だからこそ慌てずに考えて欲しんだ。幸いまだ時間はある、よく考えた上で決めて欲しい。何より西住には西住流後継者としての立場があるんだから。まず家元と…ご両親と落ち着いて話し合って欲しい、喧嘩腰になったりせず真摯に自分の気持ちを伝えるんだ。その上で決意が揺るがずにいるのであれば私も一緒に同じ道を進んでみたい。どちらかに付いて行くんじゃない、一緒に並んで手を取り合って道を進みたいんだ…それでは駄目だろうか?」

 

 

 顔を上げた千代美の瞳もまた潤み、唇は何かを求める様淡い光を放つ。

 

 

「ああ、それで構わない…いや、それこそが私の望む道なんだ。疾しい気持ちを抱えずに、その道を一緒に歩ける様ちゃんとお父様とお母様とも話をする」

 

「そうか…ありがとう西住…でも本当に私でいいのか?とても大変な道だぞ?」

 

「安斎と一緒なら私は何も怖くない、一緒に信じた道を進みたいんだ」

 

「西住…西住の瞳は眩しいな……」

 

 

 見つめ合う瞳と瞳には優しい光が溢れている。

 少し俯いた千代美は恥ずかしげに小さく言うと手を伸ばし部屋の灯りを更に暗くした。

 薄闇の部屋の中二つの影が重なり一つになる。

 まほと千代美、二人の優しい夜はゆっくりと静かに更けてゆく。

 

 

 

 




海自に結構知り合いがいるので、
何度となくカレーは御馳走になってますが本当に美味しいんですよ♪



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第二十二話   恋する少女 愛する少女

今回も多分サービス回、ダー様も平常運転ですw

作中の英語は例によって適当なので雰囲気で流して下さい。
それと毎度のお約束ですが学園艦のサイズを気にしてはいけませんw


 朝の陽ざしに煌く浦賀水道。

 今、その浦賀水道を目指し七つの巨大な影が隊列を組み粛々と進んで行く。

 純白に輝く笠女学園艦を先頭に大島迂回航路を、敢えてゆっくりと航行して来た艦隊も今日遂に横須賀に入港するのだ。

 学園艦内の大食堂は丁度朝食の時間を迎え、今朝も各校の隊員達で賑わっている。

 

 

「私横須賀って初めてなんだ~♪」

 

「私は実家が横浜だから何度か来てるよ」

 

「私スカジャン欲しいなぁ」

 

「アレ結構高いらしいよ~?」

 

「私は三笠に行ってみたい」

 

 

 朝食を取りつつ少女達はこれから上陸する横須賀についてアレコレ話し合っている。

 

 

「あ、西住隊長にアンチョビ隊長おはようございま……す!?」

 

『ああ、おはよう』

 

 

 朝の挨拶をして来た他校の隊員にまほとアンチョビは二人揃って挨拶を返す。

 

 

『え?え!?え~!』

 

『二人仲良く手を繋いでって!?』

 

『それも指を絡めて恋人繋ぎ~!?』

 

 

 エリカとみほ、梓とオレンジペコの時以上の衝撃が朝の大食堂に訪れ、二人の進路上に居る者達はザッっと音がしそうな勢いで慌てて左右に分かれ道を譲るが、その間を進む二人はいつもと変わらぬ様子で会話し周りの驚愕の視線に気付く様子も無い。

 

 

「あらあら、随分と仲の宜しいこと、これは朝っぱらから良いものを見せて頂きましたわ♪」

 

 

 現れた二人の様子を見たダージリンは、得意の極めて人の悪い笑みを浮かべると、手の甲で口元を隠しコロコロとこれまた得意の笑い声を上げる。

 

 

「ん?ダージリン、朝っぱらから何を寝惚けた事を言っているんだ?」

 

 

 まほは隣のアンチョビの顔を見ながら『なあ?』っと同意を求める様な表情をする。

 アンチョビもアンチョビで『コイツの言う事はよく解らん』といった風に肩を竦めた。

 その二人の反応にダージリンもまさかといった表情になり、その青い瞳を二人の間で仲睦まじく絡ませている手に向けた。

 

 

「まさかとは、そんな馬鹿なとは思いますが、お二人共全く気付いていらっしゃらないのかしら?」

 

 

 まほとアンチョビはダージリンの青い瞳からその視線追って、辿り着いた先で絡み合う自分達の指を発見し、二人仲良く暫くの間ジッと見つめていた。

 

 

「あの、まさかとは思うけど、本当に気付かずにそうしてここまでいらっしゃったの?」

 

 

 ダージリンが改めてそう聞いた瞬間まほとアンチョビの顔が下から上に、温度計が急上昇する様に一気に赤くなって行く。

 恋は盲目とは言うが昨夜からの良い雰囲気のまま、二人揃って宿舎からこの大食堂までの道中を、無意識のうちに仲睦まじくお互いの指を絡め恋人繋ぎのままここまで来てしまったのだ。

 

 

「ブっ!」

 

 

 信じられない事に自分の指摘が図星である事を、二人の表情で悟ったダージリンの腹筋が崩壊しその場で盛大に吹き出した。

 

 

「あ…あり得ない!ふ、普通き、気付くでしょ!?ぶ…も、もうダメ!あひゃひゃひゃひゃ──!」

 

 

 ダージリンは床に膝を突き、右手で床をバシバシ叩きながら狂った様に笑い始めた。

 見れば涙処か鼻水まで出し笑うその顔は狂気そのものだ。

 円形に取り囲まれその中心で笑い狂うダージリンとその前で顔を真っ赤にし、俯いて恥かしそうにプルプルと震えるまほとアンチョビ、すっかり舞い上がり二人して犯した大失態をダージリンに笑われ二人で入れる穴があったら入りたい心境になる。

 

 

「ハイハイ、ダージリン様皆様のご迷惑になりますのでそれ位にして下さいまし」

 

 

 そう言いながら人垣を割って現れたオレンジペコは、慣れた手付きでダージリンの両の足首を掴むと『大変失礼致しました』と言い残し、リヤカーを曳く要領でまだ狂った様に笑い続けるダージリンを、おパンツ丸出しでズルズルと引き摺りながら大食堂から退出して行った。

 その後は周りの者も少々気まずそうに朝食を取るべく大食堂に散り、まほとアンチョビも漸く顔を上げる事が出来たのだった。

 

 

「に、にしずみ…朝ごはん食べよ……」

 

「あ、あぁ…そうだな……」

 

 

 この騒動を少し後から来て物陰から見守っていたラブは、エリカとみほの時同様『私ぐっじょぶ』と言いながらガッツポーズを取りうれし泣きの表情をしている。

 しかしそのラブに影の様に傍に居た愛が不意にひと声言葉を掛ける。

 

 

「これで良かったの…?」

 

「え?え?何が?」

 

「恋は千代美さんの事が好きだったんでしょ…?」

 

「!」

 

「違うの?」

 

「え?だってまほは鈍いし…あの二人昔からじれったいし…だから……」

 

 

 ラブの頬をひと筋の涙が零れ落ちる。

 

 

「あ、あれ…?」

 

「こっちに来て」

 

 

 愛はそう言うとラブの手を引き近くの鉄扉の裏にある、普段は使わない非常用階段の踊り場に半ば強引にラブを連れ込む。

 

 

「アナタはそうやっていつも人の事ばかりに一生懸命になるのね」

 

「だって…!想い合う者同士が結ばれなかったらそれは幸せじゃないじゃない!」

 

 

 珍しくラブがキッとした表情で愛を睨むが、愛はいつもと変わらぬ無表情でそれを受け流す。

 

 

「あの時千代美が必死に頑張ってくれなかったら、私はこうしてここには居ないわ!その千代美が幸せじゃないなんて私は絶対にイヤ!」

 

「そこに恋の気持ちはあるのかしら?」

 

「私の気持ちなんて関係ないじゃない!」

 

「本当に?」

 

「何で愛はそんなに意地悪ばっか言うのよ!あの時千代美が助けてくれなかったら、私は愛にだって会う事が出来なかったのよ!?」

 

「そうやってこれからもずっと自分の本当の気持ちに蓋をして行くつもりなの?人の事ばかりじゃなく少しは自分の気持ちを大事にしたら?」

 

 

 愛の言葉にラブの顔に朱が奔る。

 

 

「そうよ!私…私は千代美が好きよ!だけど…だけどそれはもう昔の事よ…今はもう助けてくれた事への感謝の気持ちしかないもの!千代美のお蔭でこうして生きているのよ!その千代美の幸せを願って何が悪いのよ!?何よ!愛だって私の本当の気持ちなんて知ってるクセに!私が本当に愛の事を好きなのを知ってるクセにぃ!愛のバカぁ!意地悪!もう知らないぃぃ!!」

 

 

 そう捲し立てた後ラブはとうとう幼子の様にその場に座り込み大泣きを始めた。

 愛は泣きじゃくるラブの背後に周りその肩をそっと抱きしめそっと囁く。

 

 

「馬鹿はあなたよ……私なんかじゃあなたに釣り合わないのに…」

 

「私馬鹿じゃないもん!釣り合わなくないもん!愛が一番だもんっ!」

 

「やっぱり馬鹿よ…でも…ありがとう……」

 

 

 愛は小声でそう言った後ラブの顔を自分の方に向かせそっとその唇を重ねる。

 

 

「あ、愛…ん……」

 

 

 いつもは影の如くラブの傍らに居る愛にリードされ、ラブは全てを愛に委ねる様に体の力を抜く。

 暫く時が止まった様に口づけを交していた二人だが、やがて愛が躊躇いがちにラブの艶めかしく美しい唇から自身の唇を離す。

 

 

「………」

 

 

 座り込んだまま俯いたラブの唇から呟きの様に聞き取れない言葉が漏れる。

 

 

「…何?」

 

 

 たった今取った自分の行動に戸惑った様な表情の愛が、口づけを交したばかりの唇を指先で押えながらラブの言葉に問い返す。

 

 

「…ドイ……ヒドイよ愛…私から言おうと思ったのに…愛が私に勝った時に、もっと素敵な場所で私から愛に告白しようと思ったのにぃ!こんな場所で愛からなんてヒドイよ!」

 

 

 真っ赤な顔で頬を膨らませたラブは愛に抗議する様に言った。

 愛は少し俯いて顔を背けているがどうやらその口元は笑っている様だ。

 

 

「私が勝ったらなんて、それじゃあ何時になるか解らないじゃない……」

 

「そんな事ないもん!」

 

「さあ立って、今日は忙しいのよ?早く朝食を済まさないと遅れるわ」

 

「あ!待って!ズルいよ愛!」

 

 

 愛を追って立ち上がったラブが鉄扉を抜けガチャリと締まる鈍い音が響いたその時──。

 

 

『ハアァァァ…』

 

 

 深く盛大に複数の溜息が階段の踊り場に一斉に響いた。

 ラブと愛が居た階の一段上の踊り場からつづら折りに続く階段に、ラブと愛以外のAP-Girlsのメンバー全員が雛段飾り宜しくギッシリと座りここまでの二人のやり取りを聴いていたのだ。

 二人の様子を見て速攻で上の階から回り込みこうして座って息を殺していたらしい。

 

 

「ほんっとあの二人ってメンドクサイ……」

 

 

 膝の上に肘を突き両の手のひらに顎を乗せた凜々子が、あまり宜しくない、目付きの座った表情でこれまた心底めんどくさそうな声でそう吐き出した。

 

 

「何を今更……」

 

 

 そう言う鈴鹿もまた同じ様な表情を隠そうともしない。

 

 

「私嫌よ、これから先あの拗れバカップルに振り回されるのは」

 

 

 再び吐き捨てる様に言った凜々子の言葉に一同まためんどくさそうな顔になる。

 

 

『ハアァァァ…』

 

 

 そしてまた一斉に深い溜め息を漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 横須賀港沖合に居並ぶ七隻の学園艦、その中でもサイズは最小ながら輝く純白の笠女学園艦の容姿は海の女王と言っても良い美しさを誇っていた。

 付き従う六隻の学園艦もまた、まるで美姫に傅く屈強な騎士の様に見える。

 今、学園艦として初の公式航海から母港横須賀に帰港した笠女学園艦は、地元の消防艇から歓迎の一斉放水を受けその美しさに華を添えていた。

 それが止むと笠女学園艦の艦尾のウェルドックのハッチが開き、相変わらずの凄まじい轟音と共に六艇のS-LCACが滑り出て来る。

 それぞれのS-LCACには各校の隊員と戦車が乗っており、そのままベース内の笠女の敷地に揚陸して戦車はそれぞれの学園艦に収容し、隊員達はその間横須賀の街に遊びに繰り出す事となる。

 

 

「しかし改めてこのS-LCACというのはとんでもないシロモノだな…」

 

 

 艇内のキャビンの座席に座り周囲を見回しつつイヤーマフ内蔵のインカムで、轟音に負けぬ様にまほはラブに話し掛けた。

 

 

「え?ええ、まあね…これだけのスペックだから市とも連携して災害時には支援活動に従事するよう契約を結んでるのよ。対外試合の時は訪問先で地元の方を乗せて遊覧航行も予定してるし」

 

 

 一瞬心ここに在らずな雰囲気のラブであったが、まほの言葉にS-LCACの用途を説明した。

 

 

「そうなのか…でもいいのかな?我々だけさっさと遊びに行ってしまって」

 

「いいのよ、これが甲板員始め作業に従事する生徒の単位になるんだから。彼女達にも経験値を上げる良い機会だと思って任せてあげてよ」

 

「そういう事か、解ったよ」

 

 

 短い会話をするうちにS-LCACは笠女陸上施設にあっと言う間に揚陸してしまう。

 次々とS-LCACから降りて来る隊員達はそれまでと違いパンツァージャケットではなく、それぞれの学校の制服を着用している。

 これから市街地に出るにあたって、さすがにパンツァージャケットでは問題があるし、無用のトラブルを避ける為にも、それぞれの制服着用と各校指導者から通達があったのだ。

 

 

「やっぱりアンツィオの制服って可愛いよね~♡」

 

「私は大洗のセーラー着てみたいって大学選抜戦見て思ったわ」

 

「あ、ソレ私も思った~♪」

 

 

 隊員達はお互いの制服談義に花を咲かせているが、視線は自然と笠女の生徒達の制服に集まる。

 既に全員がスタイルが良いのは解っているが、やはりラブは注目の的だった。

 パンツァージャケット同様桜色のブレザーにシルクのブラウスと濃紺のリボンタイ、マリンブルーを基調としたチェック柄のミニに焦げ茶のローファー。

 そしてラブの場合は傷を隠したいのもあり黒のオーバーニーソックスを着用していた。

 更に止めとして戦車に乗る時と違い、深紅の髪を大きめの白いリボンでポニーに結っている。

 改めて制服姿で現れたラブを頭のてっぺんからつま先までまじまじと見た一同は、思わず赤面して生唾を飲み込んでしまう。

 その良過ぎるスタイルでこの制服はエロ過ぎて皆一様に目が釘付けになってしまうのだ。

 

 

「な、なによう…みんなしてジロジロと……」

 

 

 自分に集中する視線にラブは恥ずかしげに両腕で、隠しても隠しきれない胸のたわわをその視線から隠そうとするがその仕草がまた視線を集中させてしまう。

 

 

「い、いやな、その制服が良く似合っているとは思うのだが……」

 

「な、なあ?い、いいのかコレ?」

 

「街中に出すのは危険過ぎる気が…」

 

「オーバーニーがヤバいかも……」

 

「歩く目の毒ね…」

 

 

 散々な言われ様にラブは涙目で内股になり片手はミニの裾を掴んで隠す様な仕草をする。

 しかしそれもまたラブの様な美人がやると刺激的で、遂には周りに居る者全員が耐え切れず鼻血を噴出してしまい文字通り辺り一面血の海と化すのであった。

 

 

「危うく制服を鼻血で汚すところでしたわ……」

 

 

 ダージリンが鼻の穴にティッシュを詰めつつブツクサと言う。

 周りを見ても四桁の人数の少女達が全員鼻の穴にティッシュを詰めている。

 

 

「みんなしてヒドイ……」

 

 

 ラブは涙目で恥じらう仕草を見せるが、それがまた周りの者を視覚的に刺激する。

 

 

「た、頼むからこれ以上は勘弁してくれ……」

 

 

 アンチョビは後頭部をトントンしつつ閉口しきった顔付きでそう言う。

 傍に居るカチューシャは貧血になったらしくノンナに支えられ、そのノンナもまた鼻の穴に詰めたティッシュが赤く血に染まっていた。

 

 

「ホントみんなヒドイ…私まだ高校()()()なのに……」

 

 

 皆のエロい視線に晒され耐え切れなくなったラブはすっかりいじけてしまっている。

 

 

『こんなバルンバルンなおっぱいは高校三年処か大学でもいないだろ……』

 

 

 声に出して突っ込みたいがそのいじけぶりに、誰もそれは出来ずにいた。

 大学選抜戦出場メンバーはバミューダトライアングルのアズミが頭に浮かんだが、脳内で比較してもやはりラブの圧勝だ。

 どうやってラブの機嫌を直すか考えあぐねる一同の前に、US NAVYのナンバーを付けたピックアップトラックが一台滑り込んで来る。

 その車を見た瞬間ラブの顔がパッと輝き駆け寄って行く。

 

 

Lieutenant Abbie!I'm home♪(アビー中尉ただいま)

 

Hi,Ren!Welcome home♪Did you have fun?(お帰り恋、楽しかった?)

 

Yes,Yes,Yes!(もちろん!)

 

 

 停車したピックアップ、トヨタのタコマから颯爽と降り立った軍服の女性は、駆け寄って来た自分より上背のあるラブを軽々と抱き止めるとそのまま持ち上げヒールでクルリと一回転、そしてラブを着地させた後はオーバーアクション気味に改めてハグすると今度は頬にキスをする。

 その映画の様な光景に一同思わずぽ~っと見とれてしまう。

 

 

I saw it on television.You did a great job!(テレビで見てたわ、大活躍だったじゃない!)

 

Heh-heh♪We parenthesis was good?(うふふ 私達カッコ良かった?)

 

Of course!I'ts so berry cool!(勿論!超クールだったわ!)

 

I'm happy to hear that♪(そう言って貰えて嬉しいわ)

 

 

 二人の周りに集まって来たAP-Girlsのメンバー達も、皆とても嬉しそうにしている。

 

 

「早口過ぎて何言ってるか聞き取れない……」

 

 

 涙目で呟くケイに困った顔で笑いながらアンチョビがラブに声を掛けた。

 

 

 

「あ~ラブ、そちらの方は?」

 

「あ、みんなゴメンね、こちらはベースと笠女の間で色々と関係を取り持ってくれてる、連絡将校のアビゲイル・ガーネット中尉よ、とっても素敵な私達のお姉さんなの~♪」

 

 

 紹介された明るいブロンドの髪をダージリン風に編み込んだ、青い瞳に女性士官の制服も良く似合うガーネット中尉もアラいけないという顔になって日本語で自己紹介を始めた。

 

 

「ゴメンなさいね、ついいつものクセで喋っちゃったわ。皆さん初めまして、アビゲイル・ガーネットです。ようこそ横須賀へ、ベースを代表して歓迎させて頂きますわ」

 

 

 そう言うとガーネット中尉は鮮やかな敬礼と共にチャーミングにウィンクもして見せる。

 

 

「それにしても凄い人数ね~、しかもみんなとっても可愛いし。これは今晩ウチのバンドの連中も相当張り切ると思うわぁ♪」

 

「今晩?ウチのバンド?ラブ一体どういう事だ?」 

 

 

 疑問符だらけの顔でアンチョビはラブに何の事かと聞いて来る。

 

 

「ん?今夜はねぇ、U.S. Navy 7th Fleet Band、つまりは第七艦隊音楽隊と私達AP-Girls合同でみんなのウェルカムパーティーをやるのよ~♪」

 

「はぁ!?第七艦隊音楽隊って昔呼ばれて横須賀のお祭り来た時、お前が七艦バンドって呼んでた無茶苦茶レベル高い演奏してたあの音楽隊か!?」

 

「そだよ~♪」

 

 

 事も無げに答えるラブに皆驚愕の目を向けるが全く動じず得意げに宣言する様に言う。

 

 

「今夜はね~、楽しくなるわよ~♪」

 

『マジか……』

 

 

 皆改めてラブの規格外の度胸の良さに愕然とするのだった。

 

 

「ねえ、処で恋。さっきからあなたのお友達はあなたの事をラブって呼んでるけど、それがあなたのニックネームなのかしら?」

 

「あ、しまった!」

 

 

 仕方なくニックネームの意味を説明すると、案の定ガーネット中尉はラブを抱き締めグリグリと頬擦りをしながら嬉しそうに声を上げる。

 

 

「そうか~!漢字の恋の意味はLoveだったわね~♪」

 

「きゃ~♡」

 

 

 ラブもまたわざとらしく嬉しそうに黄色い悲鳴を上げる。

 

 

「っと、こんな事ばかりしていると街に出て遊ぶ時間が無くなってしまうわね、後の準備は私達に任せてあなた達は夜まで楽しんでらっしゃい」

 

「ありがとうアビー中尉♪」

 

 

 ラブは礼を言うと周りに向かって大声で指示を出す。

 

 

「みんな~!それじゃあ街に出るよ~!でもその前に校門のゲートで笠女のゲストIDのネックストラップを受け取ってね~!これが無いとベースから出入り出来ないから絶対無くさないでね~!それとこれがあれば大概のお店で割引サービスとか受けられるから遠慮しないで使うんだよ~!」

 

 

「ラブ、それはいくらなんでもやり過ぎじゃないか…?」

 

 

 この再びの大盤振る舞いにさすがにまほも心配になって来た。

 

 

「いいのよ、これも亜梨亜ママが決めた事なんだから♪」

 

「こ、これが厳島か……」

 

 

 改めて横須賀において厳島の名がどれ程のものか痛感するまほだった。

 

 

「みんな~!行くよ~!ぱんつぁ~ふぉ~♪」

 

 

 ラブの号令で一斉に、ベース内を大量の女子高生がゾロゾロと進軍して行くのだった。

 

 

 

 




七艦バンドこと第七艦隊音楽隊は、実際横須賀で一番集客力があります。
出ると出ないではイベントの客の入りが大幅に違うんですよ。

実際ベースにゲストで出入りするにはパスポートが必要というか便利です。
そうでないと役所と警察で住民票と免許の証明取らなきゃいけなくて非常に面倒です。


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第二十三話   Saturday Night Live

ノンナより10㎝背の高いラブが15㎝のヒールを履いたら…。

スミマセン、今週はハンパに忙しくてあまり投稿出来ませんでした。


 その日横須賀の市街地はちょっとした特需に沸いていた。

 小さな街に七校の戦車道の隊員以外にも各学園艦の生徒と住民が市街地に繰り出し、IDの割引サービスを最大限に駆使してもなお、余裕の売り上げを達成したからだ。

 更に笠女と聖グロを除く五艦が物資補給も行った為、市内各業種の業者に落ちたお金は只事ではなく、後日市の商工会と市役所から亜梨亜の元に感謝状が届く程であった。

 ラブ達もまた嘗て皆で行った思い出の場所を巡り、途中通った地元レコード店の店頭でCD発売日が大きく入ったAP-Girlsのポスターを見つけ大いに興奮したり、以前の様にアメリカンドックやソフトクリームを食べては笑い、改めて揃いのドッグタグを作り直したりして一日を過ごした。

 

 

「ふう、今日は何処に行っても必ずどこかしらの生徒が居たなぁ」

 

 

 横須賀港を見渡すヴェルニー公園の外れにあるコーヒーショップのテラス席で皆と一息つく中アンチョビはカプチーノを啜りつつしみじみと呟いた。

 

 

「さすがに七艦もの学園艦の生徒が一斉に上陸すると凄い事になりますわね」

 

 

 コーヒーショップの紅茶はやはり納得が行かないのか、ダージリンとアッサムは抹茶のフラペチーノを飲みつつアンチョビの言葉に頷きそれに続けて言う。

 

 

「まあ横須賀って狭い街だからね~」

 

 

 何故かラブはニヤニヤとアンチョビの顔を見ながら、甘さを増し増しにしたキャラメルのマキアートを飲んでいる。

 

 

「何だラブ人の顔を見ながらニヤニヤと気持ちの悪い」

 

「ん~?別に~」

 

 

 更にニヤニヤしながらラブが答えるとアンチョビはムッとした表情になる。

 

 

「何なんだ全く…」

 

 

 アンチョビが少し文句を言いつつ再びカプチーノに口を付けると、すっと背後から寄って来た人の気配が不意にアンチョビに声を掛けた。

 

 

「千代美ちゃん……」

 

 

 突然後ろから名前を呼ぶ聞き覚えのある懐かしい声。

 振り向いたアンチョビはその人物の姿を見るなり驚いて大きく目を見開き、文字通り飛びあがって立ち上がるとそのままその人に抱き付いた。

 

 

「英子姉さん!」

 

「わっと!ち、千代美ちゃん!千代美ちゃん…その…怒ってるよね…?」

 

「え?何を?」

 

 

 アンチョビはキョトンとした表情で英子の姿を改めて見る。

 久しぶりで再会した英子はベリーショートだった黒髪を背中まで伸ばし、より素敵な大人の女性の雰囲気が増していた。

 

 

「だって私口止めされたとはいえ、厳島さんの事を千代美ちゃんに黙ってたし……」

 

「怒るだなんてそんな!ラブが国内で訓練出来るよう手配してくれた英子姉さんには、感謝こそすれ怒るなんて事ありません!」

 

「ホント…?」

 

「ハイ!それより英子さんのそのヘアスタイルとっても素敵です♪」

 

「千代美ちゃん♡」

 

「英子姉さん♪」

 

 

 感動の再開に二人は嬉しそうに抱き合うが、どうしても千代美の行動全てが恋する少女のそれに見えてしまい、まほは色々な意味で独りオロオロしている。

 

 

「まほ、ゴメンね。今日だけは許してあげてね」

 

「う?あ、あぁ、解ってるよ」

 

 

 そっと耳打ちして来たラブにまほはそう辛うじて答えた。

 

 

「でも英子姉さん今日はまたどうしてここに?」

 

「ああ、それは私がみんな横須賀に来るのが決まってから直ぐにご連絡したの。初めてお会いした時に知波単との演習の件でメアドも交換していたから。」

 

「今夜のウェルカムパーティーに私もご招待を受けてるのよ」

 

「ホントですか♪」

 

「ええ、私は一度帰宅してからバッチリおめかしして伺うわ」

 

「英子姉さんはそのままでも素敵です」

 

「ありがと千代美ちゃん♪それにしてもここまでよく頑張ったわね、普通の高校生ではとてもあそこまで出来ないわ。大学選抜戦での活躍も見事なものだったわよ、それに観閲式でのドゥーチェコールには私感動しちゃったわ!」

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛~!アレはもう忘れて下さいぃぃ~!」

 

「うふふ♪ああそう言えば西住の妹さん、確かみほさんだったわね?」

 

「は、ハイ!」

 

 

 突然名前を呼ばれたみほは驚いて立ち上がり直立不動の姿勢になるが、よく見ればアンチョビとニコニコ寛いで座っているラブ以外は気が付けば、全員背筋を伸ばし緊張した表情で座っていた。

 やはり三年前の出来事は一同に強烈な記憶を植え付けていたのだろう。

 

 

「あぁ、あの時とは訳が違うからそんな緊張して畏まらなくてもいいわよ」

 

 

 英子は微笑みながらそう言うとみほに座る様促す。

 

 

「は、はあ……」

 

「エキシビジョンと大学選抜戦では知波単(ウチ)が随分足引っ張っちゃって申し訳なく思うわ。西も先代の辻が更迭されて以降、急遽隊長に抜擢されてから必死で改革に取り組んではいるけど、私達が残してしまった吶喊の呪縛があまりにも強過ぎて中々思う様にはいってないの。ああ見えて西も苦労が多くて随分悩んでいるからどうか大目に見てあげてくれると助かるわ」

 

「そんな!あの戦いは誰か一人が欠けても勝てる事はありませんでした。私達大洗の隊員も、全員が心から感謝しています」

 

「ありがとう、そう言って貰えると助かるわ。それにしてもみんな本当によく頑張ったわね、あの木端役人始めとっ捕まえた連中は今、上の方がギッチギチに締め上げてるから安心してね」

 

 

 英子がそう言って凄惨な笑みを浮かべた為、全員の背中に冷たいものが奔るのだった。

 

 

「それじゃあ私は一度署に戻って帰宅後出直すからまた後ほど」

 

 

 そう言い残し英子が颯爽と立ち去り姿が見えなくなると一同一気に脱力した。

 

 

「やっぱ怖い……」

 

 

 涙目のカチューシャがぼそりと言うとアンチョビがすかさず反論する。

 

 

「そんな事無いぞ!英子姉さんはとっても優しくて素敵な人だ!」

 

「それは()()()()()()にだけでしょうに」

 

「アンチョビだ!ったく!」

 

 

 アンチョビは即座に反応するダージリンを睨みつけた。

 

 

「ああそうだ~、絹代さん始め知波単の皆さんも、今夜のパーティーに招待したからね~、もう迎えのヘリも出てる頃よ。ダージリンも愛しの絹代さんに会えるわよ~♪」

 

「な!ま!だ、誰がそんな……フン!」

 

 

 ダージリンは顔を赤くして頬を膨らませるとそっぽを向いた。

 すかさず意趣返しとばかりにアンチョビがニヤニヤ笑いでダージリンの頬を指で突くと、更にダージリンは顔を背けその様子がみんなの笑いを誘う。

 

 

「さ~て、みんなはもう少しのんびりしてから戻って来てね、私は軽くだけどリハがあるからひと足先に戻ってるね」

 

 

 ラブはそう言うと立ち上がり手を振りながら去って行く。

 

 

「アイドル…芸能人になるのかぁ……」

 

 

 ラブの背中を見送りながらアンチョビが何となく呟くと、ケイは考え込みつつ続けて言う。

 

 

「Ummm…でもAP-Girlsって歌唱力も、ダンスもちょっとその辺のアイドルとはレベルが違うと思うのよね。ラブは私達と同い年にしても他の子達はまだ春までは中学生だったのに……」

 

「それまでの境遇を考えると覚悟が違うのだろうな…」

 

「うん、お姉ちゃん私もそう思う…それを思うと私達って本当に恵まれてるのに、これまで何やってたんだろう……」

 

「二人に何も恥じるものはありませんわ、もっと胸をお張りなさい」

 

「ありがとう、ダージリン」

 

 

 姉妹二人ダージリンの言葉に揃って頭を下げ、ダージリンもそれに微笑む。

 

 

「ちょっとこれをご覧なさいな」

 

 

 ラブが去った後、愛用のノートPCで何やらやっていたアッサムがモニターを皆の方に向けた。

 

 

「え~っと何々?本日観閲式参加校全ての撤収が完了…ですって~!?」

 

『あ゛!?』

 

 

 アッサムが皆に見せたのは戦車道連盟のHPでそのヘッドラインには、今日の昼になって高校戦車道観閲式に参加していた学校のうち、残っていた最後の二校の撤収が完了した事を伝えていた。

 それを読み上げたカチューシャの声に一同も驚愕の顔をする。

 

 

「コレ完全にワースト記録だろ~?」

 

「まさか私達がこれだけ楽しんでいた間も足止めされてたとはね…」

 

 

 信じられんといった表情で言ったアンチョビにナオミも青い顔で続く。

 

 

「さすがにこれは何とかしないと問題になりそうですね……」

 

 

 来年以降の後輩達の事を思うとノンナも険しい顔になる。

 

 

「まあでもそれはお上(連盟)の考える事だからなぁ…」

 

「ですわね…さあ、ここでそれを論じても始まらないしそろそろ戻りましょう」

 

「だな…」

 

 

 アンチョビとダージリンがそう締めて一同はベースに戻るべくその場を後にした。

 

 

 

 

 

 ビッグバンドのキレのあるサウンドが笠女学園艦内のAP-Girls専用アリーナに鳴り響く。

 六艦の学園艦の横須賀寄港を歓迎してAP-Girlsと第七艦隊音楽隊と合同で開催されたウェルカムパーティーは、七艦バンドの演奏するスタンダードジャズナンバーでその幕を開けた。

 ジャズに合わせスィングするAP-Girlsの少女達も、その衣装を50年代風で可愛く纏めている。

 

 

「噂には聞いていたけど歌だけじゃなくてダンスも凄いのね」

 

 

 供される食事も堪能しつつ英子は感心した様に言う。

 その英子の出で立ちはといえば背中まで伸びた髪を夜会巻きでアップにし、シックなワインレッドのパーティードレスを纏い大人の女性の魅力たっぷりでアンチョビをドキドキさせていた。

 憧れの眼差しで頬を染めたアンチョビはその英子の言葉に質問をする。

 

 

「歌だけじゃないって英子さんは聴いた事があるんですか?」

 

「横浜がキー局のFMで発売間近という事もあって何度かね、CMも良く流れてるし」

 

「ラブは本当にアイドルになるんだなぁ…」

 

 

 アンチョビは英子の話しになるほどとは思うものの実感はまだ湧かない。

 

 

「横須賀じゃ厳島のお嬢様という事で元々有名人だし、そのお嬢様が芸能界デビューともなれば、それはそれなり騒ぎにもなるわよ。今日はずっと一緒だったんでしょ?街中歩き回っててかなり視線を感じたんじゃないかしら?」

 

 

 言われてみれば今日一日、視線を感じる事が何度と無くあったのはそういう事だったのかとアンチョビも漸く合点が行ったのだった。

 ステージ上では三曲続けての演奏とダンスが終わり、AP-Girlsのメンバー達が横一列に並びその中からラブが一歩前に出ると挨拶を始めた。

 

 

「みなさん横須賀へようこそ!今夜は私達AP-Girlsと第七艦隊音楽隊とのスペシャルナイトです!全力で頑張りますのでどうか最後まで楽しんで下さい♪」

 

 

 ラブの挨拶が終わるとそこからはもう怒涛の展開だった。

 AP-Girlsと七艦バンドが競う様にテンションを上げ、結果相乗効果で恐ろしくレベルの高いセッションがステージ上で繰り広げられている。

 前回同様登場したLove Gunのレプリカを始め、ド派手な舞台演出に目まぐるしく行われる衣装チェンジ、息吐く暇も無い程のラブが宣言した通りの全力のステージは見る者を只々魅了し続けた。

 だがそんな中に在って知波単の隊員達だけが少々違う方向で興奮状態にある。

 

 

「た、玉田殿、細見殿!旗日でもないのにこの様な御馳走を頂いて宜しいのでありましょうか!?」

 

「う、狼狽えるでない福田!」

 

「そ、そうだ、ドンと構えておれば良いのだ!」

 

 

 例え良家の子女達はいえ、日頃知波単の些か行き過ぎた質素倹約を旨とする食糧事情に慣れきった者達にとって、この様な席は全くの初体験であり興奮した福田を叱責する玉田と細見の両名も、言葉はうわずりよく見ればその手も細かく震えているのだった。

 

 

「お願い…恥ずかしいから止めて……」

 

「……」

 

 

 後輩達の繰り広げる会話に英子は恥しげに小さくなりアンチョビも掛ける声が見当たらない。

 因みにこの頃にはそのステージの雰囲気もあり、ダージリンもすっかり周りが見えなくなり、やっと会えた絹代と二人何処か違う世界に行ってしまっていたのだった。

 

 

「いやあ、厳島殿にはいつも驚かされますな。この様な席にまさか私共までお呼び頂けるとは」

 

「そう、それですわ何故私に直ぐ教えて下さらなかったのかしら」

 

 

 些か意地の悪い含みを持たせたダージリンのもの言いに、絹代も困ったなといった表情でダージリンの顔色を窺う様に弁明をする。

 

 

「それはその、私も初めはダージリン殿と厳島殿が旧知の仲とは露程も存じませんでしたし、何より大先輩の敷島殿より徹底的に秘匿すべしと厳命を受けておりました故、ダージリン殿にもどうかご容赦願いたいのでありますが」

 

「あら?徹底的に秘匿という割には観閲式ではラブに随分と()()()()に敬礼していらした様ですけど?()()()()()()

 

「あいやそれは…!」

 

 

 すぐ傍に座るオレンジペコはジト目でダージリンのやり様を見ているが、それにも気付かぬ程にダージリンはこの状況を楽しんでいる様だった。

 皆それぞれ、多少歪んだ状況もあるがステージと食事を楽しんでいる。

 そしていよいよステージもラストパートに入ると、ピンスポットに照らされラブのみが独りステージに戻って来た。

 その出で立ちは気合の入った15㎝のピンヒールに、破壊力満点のボディーラインがモロに見える艶やかな深い蒼色のシルクサテンのイブニングドレスで、大胆に開いた胸元からはグランドキャニオンの深い谷が、スリットからは高校生とは思えぬ脚線美が垣間見え、その場にいる者全員が完全にノックアウトされる。

 しかし同色のロングスリーブの手袋や胸元のレース、肩にはシースルーのショールやストッキングなどでラブを苦しめる事故の傷痕は巧みにカバーされていた。

 

 

「うぅ…同い年の女としてのプライドが木端微塵に撃ち砕かれるんだが……」

 

「いえ……それは私も同様よ…」

 

 

 まほの洩らした呻きに英子も力無く言葉を添えた。

 ステージ上のラブはそんなどよめきを余所に、名だたる女性ジャズボーカリスト達が歌いヒットしたナンバーを、その魅力的なハスキーボイスで次々と歌い上げる。

 中でものYou'd Be So──で始まる名曲を歌った時などは、曲が終わると同時にバックで演奏していた七艦バンドのメンバー達からも拍手喝采となった程であった。

 後にこれが切っ掛けでこの場に居合わせた米海軍関係者からは、ラブのハスキーな声をヘレンのニューヨークのため息になぞらえ、ヨコスカのため息と称される様になる。

 そしてやがては楽しい時間にもいよいよ終わりの時間がやって来た。

 ラブが最後の曲を歌い終え、再びステージに登場したAP-Girlsの少女達や七艦バンドのメンバー達と共にカーテンコールに応えた後ラブのみがステージに残ると、客席から見て上手にあたる右側の袖から一人の女性が現れその容姿に客席は静まり返る。

 デザインは異なるものの、ラブと同色のイブニングドレスを身に纏うその女性の容姿はラブに生き写しであり、事情を知らぬ者と知ってはいても実際に初めて会う者達にとっては充分にインパクトを与えるその女性、厳島亜梨亜がラブ同様三年ぶりに公の舞台にその姿を現したのだ。

 

 

「亜梨亜おば様!」

 

 

 思わず発したまほの言葉に驚きで静まり返っていた客席にどよめきが起こった。

 

 

「おば様…って!?」

 

「じゃ、じゃああれが厳島さんのお母さん!?」

 

「そっくりなんてもんじゃないわ!」

 

「え?お姉さんじゃなくて!?」

 

「亜梨亜さんあの時から全然変わってない……」

 

 

 亜梨亜はステージ上からまほ達の姿を認めると、軽く会釈をしつつラブの元へ歩み寄りそのまま隣に並び立ち、ラブと目線を合わせた後に二人揃って客席に向かい深々と頭を下げた。

 そして頭を上げると一度客席に視線を巡らせた後、マイクの前に立ち挨拶を始める。

 

 

「御来場の皆様、私が私立三笠女子学園の理事であり、またこの恋の母でもある厳島亜梨亜で御座います。この度は我が娘、恋の我儘にお付き合い頂きました事、深く感謝を申し上げます。本来であればもっと早くご挨拶するべき処で御座いましたが、生憎所用で日本を離れておりました故このタイミングとなりました事深くお詫びを申し上げます」

 

 

 そこまで話した処で改めて亜梨亜は恋と共に深々と頭を下げた。

 

 

「さて、御存じの方も多い事かと思いますが、三年前のあの日よりここまでの時間は、私共親子にとって只ひたすら苦難の道でありました。しかしそれも多くの方々に支えられ、ここに漸く帰り着く事が叶いました。また当時我が娘の事を優先するあまりに、お世話になりました皆様には大変な不義理を働きました事ここに深くお詫びを申し上げます」

 

 

 ここでまた三度親子は深々と頭を下げる。

 

 

「ただ、今宵ここで語るには三年という歳月は余りに長くなる故、多くを語る事は致しません。今はただここに帰還したご挨拶と、これまでのお力添えに対する感謝の気持ちを述べるに留めさせて頂きます。皆さま我が娘、恋の為に本当に有難う御座いました」

 

 

 決して長くはない簡素な挨拶ではあるものの、その表情に現れる感謝の念には欠片も偽りは無く、その美声もあり聴く者の心に響く挨拶であった。

 最後にもう一度頭を下げた後ステージから降りると、親子揃ってまほ達の元へとやって来た。

 

 

「まほさん、みほさん本当に御免なさい。あなた達としほさんや常夫さんにはどれ程ご心配とご迷惑をお掛けした事か…本当にお詫びのしようがありません」

 

 

『亜梨亜おば様!』

 

 

 泣きながら駆け寄るまほとみほを亜梨亜は優しく抱き留めると、暫し無言で三人抱き合う。

 アンチョビもまたその姿を貰い泣きの潤んだ瞳で見つめ、改めてこの三年という月日に思いを馳せるのであった。

 

 

 




Saturday Night Liveといえば、
ジョン・ベルーシとダン・エイクロイドのブルースブラザーズ。
しかし劇場版の観覧車先輩転がしてミフネ作戦とか、
1941ネタなんてパッと見でどの程度の人が理解出来たんだろう?
まあ前フリでウサギさんチームが見てたけどねぇ…。
かく言う私は1941は劇場で見てますw


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第二十四話   ケダモノフレンズ

このタイトル大丈夫かな?


「千代美さん、どうかこちらへ」

 

 

 少し戸惑いつつアンチョビが亜梨亜の傍までやって来ると、亜梨亜はその手を取り三年前のアンチョビの働きに対する礼と、その後の行動に対する詫びの言葉を語り出した。

 

 

「千代美さん、あなたが居なければ恋はこうしてここに立つ事も出来ませんでした。その千代美さんにあの時ろくに感謝を示す事をしなかったばかりか、親子共々何も告げず姿を消した事、その後も一切の音信を絶った事をお詫び申し上げます。本当に申し訳御座いませんでした。」

 

 

 そのまま土下座しそうな勢いの亜梨亜をアンチョビは慌てて押し止め被せる様に言った。

 

 

「どうかそれ以上はお止め下さい!お礼の言葉ならあの時確かに頂きました。それに私は…いえ、私達はこうしてラブが帰って来てくれた、それだけで充分なのですから。そうだろうみんな?」

 

 

 アンチョビが集まって来たもの達にそう問えば、皆がその通りとばかりに頷く。

 それを受けた亜梨亜とラブは一同に向かい改めて深々と頭を下げるのであった。

 

 

「ありがとう…本当に有難う御座います。皆様のお気持ち確かに頂戴致しました。そして大変厚かましくはありますが、これからも改めて恋を宜しくお願い致します。何かと至らぬ処の多い娘ではありますが、この日の為に耐え抜いて来たこの子をどうかお見捨てなきよう伏してお願い致します」

 

「亜梨亜おば様、安斎の言った通りこれ以上はもう。私達はこの日を信じて待ち続けました、そして願いはこうして叶ったのですからもういいんです。」

 

「まほさん…ありがとう……」

 

 

 亜梨亜は短く礼を述べ、まほとみほ、そしてアンチョビを始め一同とそれぞれ抱擁を交わす。

 ステージを降りたAP-Girlsの少女達もその光景にお互い支え合い静かに涙を流し、更にアリーナに集う全ての者達も同様に涙を流していた。

 特に勇猛果敢ではあるがこういう場面に滅法弱い知波単の隊員達は、隊長の絹代を始め整列し直立不動で滝の如く涙を流しているのだった。

 

 

「し、敷島殿ぉ!」

 

「い、言うな西ぃ!」

 

「英子さぁん…」

 

 

 感涙する西の呼び掛けに号泣寸前の英子はそう言うのがやっとで、この人もまた骨の髄まで知波単なのだと思わせる光景ではあったが、アンチョビは下がり眉毛で困った顔をするしかなかった。

 しかしこうして欠けていたピースがやっと揃い、新たな船出の準備が整ったのだ。

 その後は改めて再会を祝しての乾杯、AP-Girls同様ステージを降りた七艦バンドのメンバー達も交えてのパーティーは夜が更けるまで続き、英子や知波単の隊員達が学園艦からそれぞれ立ち去ったのは日付けも変わる頃であった。

 因みにこの日は亜美も招待を受けていたものの、観閲式の残務整理に追われ泣く泣く出席を辞退しており、後に英子から嫌味満載の自慢話をされ盛大にキレたのはまた別の話。

 

 

「それでこれから先ラブ達はどうするんだ?」

 

 

 ウェルカムパーティー終了後宿舎に戻った一同は、同行したラブと共に最上階のラウンジで笠女学園艦での最後の夜を少し夜更かしして語り合っている。

 そんな中アンチョビはラブ達の今後の動向について尋ねてみたのだ。

 

 

「うん、当面というかCDの発売予定日前後までは横須賀に居る事になるわ。何しろこの艦まだ未完成だし発売日には地元からテレビ中継の予定もあるから、それまでに少しでも遅れに遅れてる艦内工事を進める事になってるのよ。これまでの状況が状況だから、他校との練習試合の話しなんてのはまだ一切来てないし」

 

『それならウチと最初に!』

 

 

 その場に居た全員が同時に最初の練習試合の相手に名乗りを上げた。

 

 

「ちょっとぉ!プラウダ(ウチ)が一番に決まってるじゃない!」

 

「何を仰ってるの?聖グロこそが一番を飾るに相応しいですわ」

 

「No.No!ここはサンダースで決まりじゃない!」

 

「それを言うなら我がアンツィオこそが一番だと思うのだが」

 

「ここは血縁者である私のいる黒森峰が優先されるべきだろう」

 

「お姉ちゃん、それなら私のいる大洗だって同じだよ!」

 

 

 突如始まった論争にラブはポカンとした顔で口を挟めない。

 その間にも喧々諤々やり合って意見は一向に纏る様子は見えなかった。

 当事者であるはずが蚊帳の外に置かれたラブがどうにか声を掛けてみるも、誰一人それに応えずどの学校が最初にラブ率いる笠女と練習試合をするかで舌戦を演じていた。

 

 

「お~い」

 

「ですから伝統と格式、それを考えれば聖グロで決まりですわ!」

 

「あの~」

 

「それなら我が黒森峰も同じ事だ!」

 

「もしも~し」

 

「Wow!そんな古臭い!ここはやっぱりサンダースよ!」

 

「ハロ~ハロ~」

 

「だからプラウダだって言ってるじゃない!粛正されたいの!?」

 

「やっほ~」

 

「やはりラブを救った功労者の私のいるアンツィオだろう!」

 

「聞こえてますか~?」

 

「全国大会覇者の大洗が一番だと思うの!」

 

「……誰もおっぱいで私に勝てないクセに……」

 

『なんだとう!?』

 

「聞こえてるんじゃない…大体当事者の私を置き去りにして話し進めないでよ~」

 

「誰の為を思ってやってるとお思いですの!?」

 

 

 ダージリンはそう吠えるが本来の目的を完全に見失っているのは明らかだ。

 

 

「こうなったらジャンケンで勝負だ!」

 

『これアカンやつや…』

 

 

 拳を握って叫ぶまほの提案にラブはそう思ったが口には出さなかった。

 そして騒ぐ一同を余所にソファーに向かい、数枚の備え付けのひざ掛けとクッションで簡単に寝床を作ると一応皆に声を掛ける。

 

 

「決まったら起こしてね」

 

 

 誰もそれに反応しないが一応言ったわよといった風に肩を竦めそのままソファーに横になる。

 そしていまだ練習試合の相手が決まっていない笠女の練習相手になるという当初の目的を完全に見失い、何処が最初に対戦するかを争う深夜の不毛なジャンケン大会が幕を開けた。

 

 

「いいか?行くぞ!最初はグー!ジャンケンぽん!」

 

「あいこでしょ!あいこでしょ!しょ!しょ!しょ!────」

 

 

 まあご想像の通りのお約束で、それから小一時間経っても勝負は付かず、既に一同赤い目で肩で息をして睨み合っている。

 

 

 

「ううん……」

 

 

 ひざ掛けに包まっていたラブがソファーの上で寝返りを打つ。

 

 

「あ!コイツいつの間に寝てたんだ!?」

 

「今更何を言ってるんですの?」

 

「アナタ達がジャンケン初めてすぐからですよ」

 

「気付かなかったのか?」

 

 

 まほの叫びにこちらも延々待たされて目の赤いアッサムとノンナとナオミが答える。

 

 

「全く誰の為にみんなが苦労してると……」

 

 

 ツカツカと眠るラブに近付き起こそうとしたまほの動きがピタリと止まる。

 不審に思った一同が歩み寄りまほの視線の先を覗き込むと、同様に全員がその場で固まった。

 寝返りを打ちこちらを向いていたラブの寝顔、その頬には色っぽく後れ毛が掛かり少し開いた唇からは微かに寝息が聞こえ、その唇はグロスを重ねた口紅が艶めかしく淫靡な光を放っている。

 

 

 

 ゴクリ──。

 

 

 

 同時に全員が生唾を飲み込む音が響く。

 愚にも付かない論議の末延々と繰り返したジャンケンで深夜に無駄に体力を消耗し、血走ったケダモノの目で蠱惑的なラブの唇を凝視する少女達。

 全員すっかり思考力も低下しポンコツに成り下がったオツムに浮かぶ事といえば──。

 

 

『おいしそう……』

 

 

 そんな妄執に囚われた一同の中からすっと歩み出たまほが、ラブの傍らに片膝を突くと、ごく自然にラブの頤に手を当て顔を近付けて行く。

 今まさにラブ唇にまほの唇が重なろうとしたその瞬間、ガシっとナオミがまほの後頭部を掴むと一気にラブから引き離した。

 

 

「今何をしようとした?」

 

「何って、昔から眠り姫を眠りから覚ますのは王子の口付けと相場が決まって──」

 

「誰が王子ですってぇ!?」

 

 

 頭を掴まれたまま戯言を言うまほにカチューシャが噛み付くが、その隙に今度はダージリンがラブの唇を奪うべく跪き頬に手を添えようとしたが、背後に電光の勢いでアッサムが滑り込むと勢いのままダージリンにチョークスリーパーを敢行する。

 

 

「ア、アッサム…!?何を…!?」

 

「その言葉そのままお返ししますわ」

 

 

 本気で落しにかかっているとしか思えない勢いでダージリンを締め上げるアッサム。

 そこからはもう当初目的が完全に入れ替わりラブの唇争奪杯という、凡そ部下たちには見せられない実に馬鹿げたキャットファイトが展開され始めた。

 乱戦の隙に誰かが抜けだせば引き戻し、共闘したかと思えば裏切り見苦しい事この上ない。

 

 

「ノ、ノンナ!?」

 

「例えカチューシャ様でも抜け駆けは許されません」

 

「Heyラブ!私が良い事って…グハぁ!」

 

「さあラブお姉ちゃん、私と一緒に天国にいこ…おぶぅ!」

 

「全くみんな酷いよなぁ、こういう時は優しく…うああ!」

 

 

 着ている制服は乱れ、おパンツ丸出しで組んず解れつもみ合う少女達。

 そのいつ果てるともしれない戦いの最中に再び微かに漏れ聞こえたラブの声。

 

 

「う…ん…」

 

 

 その声に反応し一同が目を向けたその前で──。

 

 

 

 くるん──。

 

 

 

 なんとラブが再び寝返りを打ちソファーの背もたれの方を向いてしまう。

 

 

「あぁ!」

 

「なんて事!」

 

「千載一遇のチャンスがぁ!」

 

「あとちょっとだったのにぃ!」

 

「オマエ達が足を引っ張るから!」

 

「なんですってぇ!?」

 

 

 完全に理性を失ったケダモノ達は、今度は大声で罵り合いを始める。

 この時既に練習試合の事など完全にその頭の中からキレイさっぱり抜け落ちていた。

 そして更にエキサイトし一段と声が大きくなったその時。

 

 

「んも~、うるさいなぁ…なんなのよぉ~?」

 

『あ……』

 

 

 余りの煩さにとうとうラブが目を覚まし、起き上がると眠い目を擦りつつ不満を口にする。

 

 

「今何時よ~?順番は決まったの~?」

 

『あ゛……』

 

「もしかしてまだ決まってないの~?アンタ達バカじゃないの~?私もう帰って寝る~」

 

 

 そう言うとラブは立ち上がりひざ掛けとクッションを元に戻し、ふらふらと立ち去ってしまった。

 

 

『……』

 

 

 事此処に至って漸く当初の目的を思い出したおバカさん達だが、時既に遅くラブは寮に帰り残ったのは徒労感のみで、疲れ切った表情でトボトボとそれぞれの部屋に引き上げるしか出来なかった。

 

 

「うぅ…私達何やってたんだろ…それにしてもラブお姉ちゃん増々色っぽくなってたなぁ……」

 

 

 疲れ切って部屋に辿り着いたみほは薄闇の中に浮かぶシルエットを見て硬直する。

 

 

「みほぉ……」

 

 

 今夜もまたエリカがベッドの上で正座をしてみほの帰りをひたすら待ち侘びていたのだ。

 

 

「エリカさん!」

 

 

 その瞬間目が覚めたみほは、今の今まで自分がやろうとしていた行いに愕然とし、文字通り飛びあがるとその場で床のカーペットに頭を打ち付け土下座を始めた。

 

 

「ゴメンナサイ!エリカさんゴメンナサイ!ゴメンナサイ!エリカさんという者がありながら私はとんでもない事をしようとしてしまいましたぁ!」

 

「み、みほ?一体何を言っているの?」

 

 

 みほにエリカが声を掛けるも、みほは床に頭を打ち付け続ける。

 

 

「何の事か解らないけどもう止めなさいよ。それよりこれでまた暫く会えないのよ?だから……」

 

「エリカさん!」

 

 

 みほの手を取り立ち上がらせたエリカは、そのまま二人今度はベッドに倒れ込む。

 

 

「あぁ、みほぉ…」

 

「エリカさん♡」

 

 

 こうして今夜もケダモノ達の夜は更けて行く。

 そして同時刻まほとアンチョビの部屋では──。

 

 

「済まない安斎!」

 

「済まない西住!」

 

『オマエという者がありながら私はとんでもない事をしようとしてしまったぁ!』

 

 

 部屋に戻り頭が冷えた二人はベッドの上で土下座合戦を繰り広げていた。

 

 

「あぁ!あんざいぃ♡」

 

「あぁ!にしずみぃ♡」

 

 

 まあその後結局はやる事やってる辺りはこちらもやはりケダモノだった。

 

 

 

 

 

 

 明けて翌朝、笠女学園艦で最後の朝食を取るといよいよ別れの時間が訪れる。

 笠女学園艦のヘリデッキには各校の隊員が集合し、スーパースタリオンで各艦に帰艦する前にそれぞれが別れの挨拶を交し合っている。

 結局昨夜決まらなかった練習試合の順番は、朝食後にラブが用意したホワイトボードを使い、あみだクジをやった結果たったの五分で決まるというオチが付いていた。

 

 

「う~ん…」

 

 

 皆が別れの挨拶を交わす中、ラブが独り腕を組み首を捻っている。

 

 

「どうしたラブ?何一人で唸ってるんだぁ?」

 

「ん~?あぁ千代美…」

 

「アンチョビだ!それより何考え込んでたんだ?」

 

「んっと…あのさ、ミカって子だけど今はムー○ン谷(継続)にいるんだよねぇ?」

 

「ムー○ン谷言うなぁ!で…そのミカがどうした?」

 

「あの子さぁ、今回の観閲式出てたよねぇ…?」

 

「あぁ、あれも変わってるが一応出てたぞ。なんか隅っこの方にいたがなぁ」

 

「それなのよぉ、あの子私の顔見るとすぐどっか行っちゃうのよねぇ…私嫌われてるのかなぁ?」

 

 

 ラブはそう言うと眉を寄せて再び腕を組み首を捻る。

 

 

「何でって…そりゃお前初対面であんなエグい悪戯されたらそりゃ避けるだろうに……」

 

 

 アンチョビは呆れた顔でラブにそう言い、一同もコイツ忘れてるのかとジト目でラブを見つつ更にヒソヒソ声で会話を交わす。

 

 

『それにあのアキとミッコってどう考えてもラブのどストライクゾーンよね?』

 

『ええ、100%間違い無く』

 

『昔から小さくて可愛いものに目が無いですもの』

 

『そんなラブの前にあの二人を晒したら…』

 

『まさにトンビに油揚げ』

 

 

 隊長達の様子を遠巻きに見ていた隊員達も、漏れ聞こえる会話に一斉にラブを白い目で見る。

 

 

『この人いったいナニやらかしたのよ!?』

 

 

 それに耐え兼ねたラブは慌てて声を上げた。

 

 

「な、なによぅ…みんなしてそんな目で見てぇ…っとそれよりみんなにお土産があるのよ~♪」

 

『あ…ごまかした』

 

 

 周りからの視線と心の声を躱そうとラブは必死にお土産のアピールを始める。

 

 

「今回の全試合とステージのDVDと学園艦カレーのレトルトよ~!全員分用意したからね~♪」

 

 

 あっさりとカレーに反応してしまったまほが最初に歓喜の声を上げてしまう。

 

 

「本当か!?あのカレーは本当に旨かったからこれは有難い♪」

 

 

 ヤレヤレといった顔のアンチョビだが、ふと思い出しニヤリとするとDVDについて聞いて来る。

 

 

「そうか、あの試合は色々収穫もあったしDVDは今後の演習の参考になるな。それに全試合という事は当然あの場面も収録されているんだろ?」

 

「あ…!ちょっと!ちゃんと編集であの場面カットしてあるわよね!?」

 

 

 アンチョビの言葉に顔に縦線の入ったラブは、お土産をセットにした校名入りの手提げ袋を配布する映像学科と給養員学科の生徒達に声を掛けるが、映像学科の生徒達は聴こえないフリしてそのまま手提げ袋の配布を黙々とペースを上げて続けていた。

 

 

「あ~!ナシ!お土産の配布はなし~!中止中止~!」

 

 

 ラブは慌てて叫ぶと手提げを配るのを阻止しようとするが、アンチョビ達が結束してそれを阻む。

 

 

「いやあ、これは良い土産が出来た!ありがとうラブ♪」

 

「ホントですわ♪」

 

「Yes!さすが厳島は太っ腹ね!」

 

 

 口々にわざとらしくラブを褒め称えながら腕を絡めたりしてその動きを封じる。

 

 

「イヤ~!みんないじわる~!」

 

 

 ラブの叫びが響きヘリデッキは大きな笑いに包まれる。

 その後は涙目のラブを笑いをかみ殺しながらも皆が優しく慰め、何とか納得させお宝映像の入ったDVDを無事確保するのであった。

 

 

「そんなに恥ずかしがる事はないわ!」

 

「ああそうだ、ラブが如何に愛君を大事に思っているか伝わる良い場面じゃないか」

 

「ホント…?ホントにそう思ってるの…?」

 

『ええ、勿論よ♪』

 

 

 今まで誰にも見せた事の無い様な誠実な笑みで一同が返事をする。

 

 

「なら…いいけど……」

 

 

 不承不承といった感じではあるものラブが納得すると、一同安堵の表情になった。

 但し揃って背中で親指を立てているのはかなりアレな気もするが。

 お土産の配布が終わると各艦へ向けスーパースタリオンによる隊員達のピストン輸送が始まる。

 最後まで残っていた隊長達ともいよいよ別れる時が来た。

 

 

「練習試合を楽しみにしてるわ!その時には本留学の手続きを終えたクラーラも、本国から戻って来るから紹介するわね!」

 

「くれぐれも身体を大事にするのですよ」

 

「うん、ありがとうカチューシャ、ノンナ」

 

「Hey!佐世保に来たらレモンステーキを御馳走するわ♪」

 

「またバラードで泣かせてくれ…」

 

「うふふ、解ったわケイ、ナオミ」

 

「熊本で待っているぞ、お母様と一緒にな」

 

「その時は私も熊本に行くからね」

 

「うん、必ず亜梨亜ママと一緒に行くから」

 

 

 ラブはそれぞれと別れの挨拶と共にハグを交わす。

 

 

「……」

 

「千代美?」

 

「…あの時これが悪い夢であればと、時間を巻き戻せるならとどれ程思ったか…。後になって気付いた…私が榴弾の事など言わなければ、ラブがこんなにも辛い思いをしなくて済んだのにと……結局ラブを酷い目に合わせてしまったのは私なんだと…再会してからここまで、言おうとしても言えなかった私は卑怯者だ…済まない…ラブ……」

 

 

 アンチョビは消え入りそうな声で、これまでずっと胸の内に抱えていた想いを洩らすと、ガクリと膝を突き両の手で顔を覆い静かに泣き始める。

 顔を覆う指の間から零れ落ちた涙は、降り始めの雨の様に飛行甲板に黒い染みを作って行く。

 其処に居る者皆、それまでずっとアンチョビが抱えていた心の葛藤に、誰も気付いてやれなかった事に深い後悔と自責の念で掛ける言葉を見付ける事が出来なかった。

 

 

 




もうチョビ子を泣かせるつもりはなかったのにまた泣かせてしまいました。

う~ん、しかしラブはミカに一体何をやらかしたんでしょうねぇ…?


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第二十五話   まほ襲来

果してまほはカッコいいのかポンコツなのか…。

確実なのはチョビ子がとても良い子な事♪


「違う…それは違うよ千代美」

 

 

 自身も膝を突くと、ラブはそのまま崩れ落ちそうになるアンチョビを抱き止める。

 

 

「千代美は卑怯者なんかじゃないわ、千代美に言われなくても後で榴弾も撃つつもりだったもの。もしあの時千代美が電話をくれなかったら、私は誰にも気付かれる事無く独りこの世から消えていたわ…謝らなければいけないのは私の方よ、何も言わずに勝手にみんなの前から消えて、私を助けてくれた千代美にずっとその事で辛い思いをさせ続けて…許されない事をしたのは私の方、いけないのは大好きな千代美をこんなにも苦しめた私の方なの。千代美…そしてみんな…本当にごめんなさい」

 

「ラブ……」

 

 

 遂にアンチョビは大きな声を上げ泣き始めた。

 ラブもまた涙を流しながらより一層強くアンチョビを抱きしめる。

 歓喜の再会を果たしてなお、その心に重く圧し掛かっていたものを吐き出せずにいた苦しみは如何許りか、それを想うと一同も涙を堪える事が出来ない。

 

 

「あなた達は何も悪くない…そう、ここに居る者は誰も……」

 

 

 口元を覆い顔を背けていたダージリンが絞り出す様に言う。

 

 

「安斎…ラブも……」

 

 

 気丈にも流れる涙もそのままにまほは膝を突き支え合う二人に歩み寄ると、力を籠め二人を抱きしめた後に渾身の力で同時に二人を立たせる。

 

 

「改めて言う…安斎、ラブを、大事な家族を救ってくれてありがとう。そしてラブ、良く帰って来てくれた…誰も二人を責めたりはしない。こうして再び巡り合えた…それだけで充分なのだから」

 

「にしずみ……」

 

「お願いだからもう独りで苦しまないでくれ」

 

「ありがとう……」

 

「ラブも同じだ、もう何処にも行くんじゃない」

 

「うん…ごめんなさい…」

 

 

 それから暫しの時間を要し漸く皆の涙も消えた頃、遂に本当の別れの時間が訪れる。

 今一度別れのハグを交わすとそれぞれが乗り込んだスーパースタリオンが、一機また一機と秋晴れの空に舞い上がりラブはそれに向かい力の限り手を振ってそれを見送る。

 

 

「行っちゃった……」

 

 

 それぞれの学園艦に向け飛び去るスーパースタリオンを見送りながらラブは呟く。

 

 

「ラブ、こちらにいらっしゃい」

 

 

 ダージリンに声を掛けられそちらを見れば、アッサムがヘリデッキの片隅に細やかなお茶の席を用意してラブを手招きしていた。

 

 

「こちらでお借りしたものですがお茶を頂きながら皆を見送りましょう」

 

 

 アッサムはそう言いつつ慣れた手付きで紅茶を入れ始める。

 その流れる様な華麗な所作を見て、ラブも嬉しげに用意された席に着くと紅茶の注がれたカップから湯気と共に芳醇な香りが流れて来て少し寂しかったラブの心の中が暖かくなった。

 

 

「落ち着きましたか?」

 

「うん…」

 

「そう、それは結構」

 

 

 香りを楽しみつつ紅茶を口にしたラブに、ダージリンとアッサムも穏やかな笑みを向ける。

 

 

「私とアッサムからあなたに伝えておく事があります」

 

「ん?」

 

「私達二人の進路の事です」

 

「!」

 

 

 ラブの鼓動が一瞬高く跳ね上がる。

 まだ幾何かの時間があるとはいえ、二人も年が明け春になれば学園艦を巣立って行く。

 ラブの胸の中にまた少し寂しさの芽が顔を出すのも無理からぬ事であった。

 

 

「私達は二人揃って地元横浜の大学に進むのよ。幸い大学の方から戦車道で推薦を頂いて、私達は二人共それを受ける事にしました。ですからこれからも私達はずっと横浜に居続けますわ」

 

「え!ホントに!?」

 

 

 アッサムのその言葉に少し沈み掛けたラブの表情が明るく輝いた。

 

 

「ええ、本当よ。ですから何かあった時は直ぐにいらっしゃい、もう何も遠慮する事は無いのよ」

 

「うん…うん!ありがとうダージリン!アッサム!」

 

「ほらもう、直ぐに泣かないの、美人が台無しですわ」

 

「えへへ…」

 

 

 アッサムが微笑みながら取り出したハンカチでラブの目元を拭ってやると、ラブもはにかんだ表情で素直にされるに任せる。

 そこから暫くは三人で寛ぎ紅茶を楽しんでいたが、仲間を送って行ったスーパースタリオンがそれぞれの艦から離艦すると各艦一斉に抜錨するのが見えた。

 すると別れの挨拶とばかりに笠女と聖グロの学園艦が揃って汽笛を鳴らし、ゆっくりと動き始めた五校の学園艦も一斉に汽笛を鳴らす。

 

 

「ありがと~!元気でね~!またみんなに会えて本当に良かった~!」

 

 

 ラブはヘリデッキからそれを見送りながら両手を口元に添え大きな声でそう叫んだ後、今度は飛び跳ねながら右手を大きく振り続けた。

 ダージリンとアッサムもそんなラブを微笑みながら暫くは見守っていたが、ラブが席に戻り一息ついた頃自分達もそろそろ出港する事をラブに告げるのだった。

 

 

「最初の練習試合の対戦相手は、やはり私達になりましたわね。日程が調整つき次第連絡頂ければ、最優先でこちらも対応いたしますわ」

 

「うん、ありがとダージリン♪」

 

「そうそう、九月は間に合いませんでしたけど、年明け二月にはまた元町のセールがありますわ」

 

「あ!チャーミングセール♪」

 

「ええ、その時はまた昔の様にね」

 

「うん!絶対行く!やった~♪また二人と元町に行けるんだ~♡」

 

 

 ラブは子供の様にぴょんぴょん飛び跳ね体中で喜びを表す。

 

 

「あらあら♪」

 

 

 二人も口元を隠しながらも嬉しそうに笑うのだった。

 

 

「あ!そうだ忘れるトコだった!ねえ、二人共これも持って行ってね♪」

 

「あら?お土産ならもう頂きましてよ?」

 

「うん、でもコレは別。まだ封を開けてない祁門(キームン)の茶葉があるから。やっぱり解る人に飲んで貰った方が茶葉も嬉しいと思うの」

 

「まあ!なんて嬉しい事を♪でもライバルに紅茶を送るのは我が聖グロリアーナの伝統。アッサム、これはお株を奪われてしまいましたわね」

 

「ええ、全くですわ」

 

 

 ダージリンとアッサムがそう言った後楽しげに笑う。

 

 

「あ!そっか~♪」

 

 

 ヘリデッキに設けられた即席の茶席は三人の少女の笑い声で満たされていた。

 

 

「ダージリン様」

 

「あらペコ、もうそんな時間?」

 

「はい、出港準備は全て整いました」

 

「そう、わざわざありがとう。さて、それでは私達もお暇致しますわ」

 

 

 ダージリンの言葉にアッサムも席を立つとラブに先導され一同は桟橋を目指す。

 降り立った桟橋には聖グロの隊員達が一糸乱れぬ隊列を組み整列をしており、ラブ達が現れると一斉に美しい敬礼で別れの挨拶をする。

 

 

「それではラブ、御機嫌よう。練習試合でお会いしましょう」

 

 

 ダージリンは隊長の顔になると澄んだ声で優雅に一礼をし、隊員達に乗艦を命じた。

 

 

「うん、ダージリン、アッサムまたね」

 

 

 二人はラブと別れのハグを交わした後、舷側のラッタルを登って行く。

 そしてラッタルが収容されると舫が解かれ、タグに曳かれた目の前のビルの様な聖グロ学園艦の巨体が少しづつ桟橋から離れ始める。

 遥か見上げる高さの舷側に並ぶダージリンとアッサムを中心に、聖グロ戦車隊の隊員達が優雅に手を振り始めるとまずは笠女学園艦が別れの挨拶の汽笛を鳴らす。

 聖グロ学園艦の答礼の汽笛が鳴り、それが止むとラブは手を振りつつ精一杯の声で叫んだ。

 

 

「みんなありがとう!練習試合で会おうね~!」

 

 

 その後ラブは聖グロ学園艦の姿が見えなくなるまで見送り続け、一人残った桟橋で空を見上げた。

 

 

「ヨシ!」

 

 

 そう言うとラブは自らに気合を入れる様に自分で両の頬をピシャリと叩き、背筋を伸ばし真っ直ぐに前を見据え自らが女帝として君臨する笠女学園艦へ戻って行くのだった。

 その日からAP-Girls正式デビューとなる月末のCD発売日の地元イベントに向け、厳しいレッスンと戦車道の訓練の日々が始まった。

 更に通常の授業も観閲式以降滞った分上乗せされ、元々恐ろしく速かった授業スピードは更に加速し進学校でもあり得ない状態になっていた。

 

 

「ラブ姉、後で絶対埋め合わせしてもらうからね!」

 

「なによ~、みんなだって楽しんでたクセに~」

 

 

 授業中にあまり宜しくない目付きの凜々子が鋭い小声でラブに文句を言って来る。

 ラブもまた小声で反論したが今度はメンバー全員の鋭い視線が返って来た。

 

 

「愛までぇ……」

 

 

 そんなこんなのハードな日々が続き迎えた週末の金曜日、ランチタイムの大食堂は多くの笠女の生徒達とカレーの匂いで溢れていた。

 

 

「ウム、実に旨い。やはりこのカレーは絶品だな♪」

 

 

 既におかわりした五枚のカレー皿を重ねたまほは、六皿目を前に満足げに頷いていた。

 

 

「……で、まほ、アンタ何で此処に居んの?」

 

「うん?何でってそれは当然金曜日はカレーの日だからな」

 

「いや、そうじゃなくて──」

 

 

 ラブがそこまで言い掛けた処で携帯の着信音のパンツァー・リートが鳴り響く。

 着信音に話の腰を折られたラブが携帯を取り出し液晶モニターを見れば、そこには黒森峰の副隊長であるエリカの名前が表示されている。

 

 

「ハイ、もしもし…」

 

『あ、もしもしラブ先輩、私です…エリカです。突然で申し訳ありませんが、もしかしてそちらに黒森峰(ウチ)の隊長がお邪魔してませんでしょうか…?』

 

「……居るわ、今私の目の前で六皿目のカレー食べてる……」

 

『アーっ!やっぱり!申し訳ありません!昨日の朝辺りから挙動不審だったので、警戒してドラッヘの燃料抜いておいたのですが午後から姿が見えなくなって探していたんです!』

 

「…今日の午前中、高速の連絡艇が来てたけどアレか…でも挙動不審ってどういう事?」

 

『どうも水曜の夜には、お土産に頂いた学園艦カレーのレトルト食べ尽くしたみたいなんです…』

 

「え…?ちょっと待ってよ、まほにはちょっと多めに渡したはずなんだけど?」

 

 

 カレーの王女様のまほの為ラブは他の者と違い、一箱二食入りの学園艦カレーの六箱入りセットを計三箱渡していたのだ。

 それを一週間経たずに完食したまほは、こうして学園艦カレーを食べる為だけに、わざわざ笠女学園艦の停泊する横須賀に単身舞い戻って来たのだった。

 

 

『ええ…あっと言う間に食べちゃったみたいなんです……それで笠女の学園艦カレーが懐かしいとか妙にコソコソしてるんで、機甲科全体で警戒態勢を敷いてはいたんですが……』

 

 

 エリカの話を聞きながらラブが呆れた顔で見る目の前でまほは七皿目のカレーに突入していた。

 

 

「まあ…来ちゃったもんはしょうがないわ、明日の連絡艇で送り返すから」

 

『それが…明日の朝から練習試合の予定があるんです……』

 

「えぇ!練習試合!?今黒森峰の学園艦何処にいるのよ!?」

 

『熊本に戻る途中要請があって岡山に寄港中なんです……』

 

 

 そう言ったエリカの声は涙声になっている。

 

 

「えぇ~!おかやまぁ!?」

 

 

 それを聞いた瞬間ラブは椅子を引っ繰り返して立ち上がり叫んでいた。

 目の前のまほはそれでも動じず満足げにカレーを黙々と貪っている。

 

 

「ま、まほ!あ、アンタこんなトコで何やってんのよ!?」

 

 

 叫びながらまほを指差すラブだがその指先は小刻みに震えている。

 

 

「ん?そりゃオマエ何って金曜はカレーの日だからな」

 

「おばかー!も、もしもし?エ、エリカさん!?これから大特急でヘリでまほをそっちに送り届けるから、そちらの座標をこっちのブリッジに送ってくれる!?」

 

 

 さすがのラブも青い顔で電話口で涙声のエリカにそう言うと、AP-Girlsのメンバー達にも普段演習でも見せない様な真剣さで矢継ぎ早に指示を出す。

 

 

「凜々子!ブリッジ行って送られてくる位置情報貰ってフライトプラン作成して!鈴鹿!ヘリデッキに行ってスーパースタリオンをいつでも発艦出来るよう手配して!愛!給養員学科に言ってスーパースタリオンに積めるだけ学園艦カレー積んどいて!当分まほがこっちに来ないように撒き餌よ!他の子達も愛を手伝ってあげて!あ!夏妃は残って!」

 

 

 行きかけた夏妃をラブは慌てて呼び戻す。

 

 

「あ~?ラブ姉、アタイはナニすりゃいいのさ?」

 

「夏妃は私と一緒にこのおばかをふん縛ってスーパースタリオンにほっぽりこむのよ!」

 

 

 鼻息荒くラブはそう言い放つと再び携帯の向こうで待つエリカに話し掛ける。

 

 

「もしもしエリカさん?直ぐにヘリでまほをそっちに送るからもう泣かないでね」

 

『ら、ラブせんぱ~い!あ゛り゛が と゛う゛ご ざ い゛ま゛ず~!』

 

 

 言う傍から電話の向こうでエリカが大泣きする声が聞こえる。

 

 

「と、とにかく直ぐ連れてくから待っててね」

 

 

 エリカを宥める様に言った後電話を切ると、適当な紐を探しに行っていた夏妃が戻って来た。

 

 

「ワリぃラブ姉、こんなんしかなかったわ」

 

 

 そう言う夏妃が手にしているのはひと巻の布ガムテープ。

 

 

「このポンコツにはそれで充分よ!構わないから椅子ごとふん縛るわよ!」

 

「マジか…?」

 

 

 この期に及んでもまほはラブ達の会話が耳に入らないらしく、カレーは八皿目になっていた。

 

 

「夏妃、構わないからやっちゃって!」

 

「あ?ああ…」

 

 

 曖昧に返事をした夏妃はまほの背後からび~っと伸ばしたガムテをまほに巻き付け始める。

 

 

「ん?なんだ?夏妃君ちょっとカレーが食べにくいんだが?」

 

「黙れこのポンコツ!アンタ明日の朝から岡山で練習試合だって言うじゃない!何考えてんのよ!?エリカさん泣いてたわよ!この事はみほにも言うからね!」

 

「え?みほに?それは困るんだが」

 

「どの口が言うか~!?」

 

 

 とうとう切れたラブはまほの口に残っていたガムテをべったりと貼りつけると、夏妃と二人で厨房から借りて来た台車に椅子ごとまほを乱暴に乗せるとヘリデッキ目指し台車を押して走り出す。

 ヘリデッキに到着すると既に愛達の手で学園艦カレーがスーパースタリオンに段ボール箱で積みこまれ、何時でも飛べる状態で待機しているのだった。

 皆で協力しまほを機内に文字通りほっぽりこんだ処へ、ブリッジに行っていた凜々子がクリップボード片手に走って来る。

 

 

「ラブ姉!フライトプランは管制に提出して発艦許可も出たよ!」

 

「サンキュー凜々子!」

 

 

 凜々子からクリップボードを受け取ったラブは、機長にそれを渡すと振り返り何とも言えない顔で成り行きを見守るAP-Girlsのメンバー達に指示を出した。

 

 

「愛!午後の訓練はあなたが指揮を執って!私は悪いけどこのポンコツをエリカさんに引き渡してくるから!それと夏妃も申し訳ないけど私に付き合って!」

 

「…まあいいけどさぁ……」

 

 

 夏妃はぼやく様に返事をしつつも素早くスーパースタリオンに乗り込んだ。

 

 

「みんなホントにゴメン!出来るだけ早く帰るから!それじゃあ後を宜しく!」

 

 

 ラブがそう叫びハッチが閉まるとスーパースタリオンのローターが勢いよく回転を始め、一路岡山を目指し横須賀の空へ舞い上がって行った。

 

 

「あれ今日中に戻って来るかしら?」

 

「戻って来るでしょ、それより私達ももう昼休み終わってるから教室行かないと」

 

「全然昼休みになってないじゃない……」

 

 

 ブツクサ言う凜々子をいなしつつ鈴鹿が教室へ戻る様急き立てる。

 一同も一斉に教室に向かい始めるがその足取りは何処か重そうだった。

 その一方でラブ達を乗せ機体の超過禁止速度ギリギリで飛行を続けたスーパースタリオンは、どうにか夕方には黒森峰の学園艦に到着し無事まほの身柄をエリカに引き渡す事が出来た。

 

 

「ラブ先輩ありがとうございます~!」

 

「エリカさんもう泣かないで、ね?」

 

 

 ラブに抱き付き大泣きするエリカを慰めつつ、小梅と直下に椅子に縛り付けられたまま連行されるまほを目で追いつつそっと溜め息を吐くラブ。

 

 

「当分大丈夫な様にカレーもいっぱい持って来たから」

 

「こんなに沢山…ありがとうございます……」

 

 

 機内から次々運び出される段ボールに呆然としつつもエリカはラブに礼を言う。

 

 

「それよりホラ、明日試合があるんでしょ?私達はこれで帰るから、エリカさんは少しでも早く準備して今夜はよく休んでね。まほには改めて私からも叱っておくから」

 

「はい…それでは失礼致します」

 

「うん、頑張ってね」 

 

 

 ペコペコお辞儀をしながら立ち去るエリカを見送り、そのエリカが見えなくなった処でラブは疲れたとばかりにその肩をガックリと落とす。

 

 

「紅白戦の時はカッコいい人だと思ったんだけどなぁ……」

 

 

 夏妃が頭の後ろで手を組みボソっと一言呟く。

 

 

「…まほって戦車降りるとかなりポンコツなのよ……」

 

「ねえラブ姉、西住流ってみんなああなのか?」

 

「…まあ、とにかく帰りましょ……」

 

 

 違うと即座に否定出来ないのがラブはなんとも悲しかった。

 そしてまほを岡山に停泊中の黒森峰の学園艦に送り届けてから数日後、練習試合後の残務整理を終えたエリカからラブに詫びを入れる電話が入った。

 

 

『先日は隊長がご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした』

 

 

 すっかり恐縮し疲れた声でエリカは謝罪の言葉を口にする。

 秋の午後の日差しが射しこむ笠女戦車隊の隊長執務室で電話を受けたラブは、労いの言葉を掛けつつもその後のまほの様子をエリカに聞いた。

 

 

「エリカさんお疲れ様、大変だったわね。ああ、私の方は大丈夫だから気にしないで。それでその…あの後まほの様子はどうなのかしら?」

 

『はい…それが…あの後も頂いたカレーを食べ続けてとうとう顔がカレー色になって来まして…更にカレー臭も酷いので、今は授業と訓練以外の時間は重営倉に投獄して、お粥だけ与えてカレーの色と臭い抜きの最中です』

 

 

 ラブは思わずマホガニーの執務机に頭を打ち付けて、その鈍い音が執務室に響いた。

 

 

「カレー臭…重営倉…あの馬鹿……」

 

『一応校医の見立てではカレーの食べ過ぎによる禁断症状というか中毒症状というか──』

 

「ウチのカレーに変なモノは入ってないわよぅ…」

 

『え、ええそれは解ってます。ただ私もカレーにあそこまで見境無しだとは思わなかったので…』

 

「…で?当の本人は反省してるの?」

 

『それがあんまり……』

 

「ちょっとお仕置きが必要ね…みほだけじゃなくて千代美にもチクってやる……」

 

『ラブ先輩?』

 

「え?ああゴメンなさい。しかしどれだけ食べればそんな状態になるのよ…?」

 

『ええと…一食につき一箱二食入り六箱セットを一箱づつ朝昼晩と食べてた様で……』

 

 

 聞いただけで胸がムカムカして来たラブは、その後は改めてエリカに労いの言葉を掛けると話を切り上げ、電話を切りそのまま執務机に突っ伏した。

 

 

「もうイヤ……」

 

 

 この時ばかりはまほと遠縁であるとはいえ、親戚である事が恨めしいラブであった。

 

 

 




明日の晩はウチもカレーなんだよなぁ。


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第二十六話   Full Throttle Girls

これにて第二章も終了です。

AP-Girlsも遂にメジャーデビュー。
今後彼女達がどんな活躍をするのか私にも解りません。
何しろ主役はあのラブですからねぇ♪


 まほの来襲から休む間もなくハードな日々は続く、それもCD発売日まであと数日ともなれば当然であり、発売当日の地元横須賀でのキャンペーンイベントのリハーサルもかなり熱が入っていた。

 何しろ特別開放日となるベース内をパレード後、横須賀中央からメインストリートを通り再びベースに戻り、学園艦内のAP-Girls専用アリーナで一般向けの初のライブを行うとなれば緊張感が高まるのも当然だった。

 今もステージ最後で行うメンバー全員によるエレキ同時演奏のリハーサルを行っているが、エレキ以上に当の本人達の方が遥かに喧しかった。

 

 

「また1弦が切れた……」

 

「愛は切り過ぎ!この馬鹿力!」

 

「うるさい…自分は6弦切るクセに……」

 

「んだとー!」

 

「あー!ソコ!もうやめ!それよりこのアンプ音出てないわよ!」

 

「やっぱコレ弦高低過ぎ!直ぐに音がビビる!」

 

「単に鈴鹿が下手過ぎんのよ!」

 

「何ですって!?もういっぺん言ってみなさいよ!」

 

 

 日頃は結束力が高く見えて、実際はこうして結構ケンカも多いのが彼女達であった。

 しかしそれは戦車道もステージも、より完成度の高いものを求めるが故であり、普段の仲の良さは本当の姉妹でもそこまでではないであろう程だ。

 まあ全員終わればケロっとしているし、これも一種のスキンシップなのだろう。

 現に今もダージリンとアッサムから差し入れの横浜銘菓の詰め合わせが届き、ステージ隅っこでメンバー一同集まって座り込み、即席のお茶会を始めている。

 

 

「はぁ♡ミルフィユおいし~♪」

 

「私にもレーズンサンドちょ~だい」

 

「はいよ~♪」

 

「ダージリン先輩もアッサム先輩も美人だし優しいよね~♡」

 

「うふふ♪私の自慢の友達よ」

 

「でも二人共かなり変だよね……」

 

「それ言ったらラブ姉のお仲間はみんなねぇ…」

 

「あはは…まあそう言わないであげてよ。身内のまほとみほ以外じゃ、ダージリンとアッサムが一番付き合いが長いんだから」

 

「え?そうなの?」

 

「うん、横須賀と横浜で近いでしょ?小学校戦車道の頃からだからねぇ」

 

「そうだったんだ~」

 

 

 他愛も無い話をしながらの息抜きタイム、こんな時にラブはふと不思議な笑みを見せる。

 

 

「あ、ラブ姉またその顔してる」

 

 

 Love Gun砲手の瑠伽がレーズンサンドを頬張りながらそう指摘すると、他のAP-Girlsのメンバー達もそう言われれば確かにと頷き合う。

 

 

「え?どんな顔だろ…?」

 

「ん~、何て言うのかな?嬉しそうな悲しそうな…ゴメン上手く説明できない」

 

「こうやってみんな揃っておやつ食べたり他愛も無い話してる時とかするわよね」

 

『あ、そうそう』

 

 

 答えに困った瑠伽に続いて凜々子が言った事に一同相槌を打つ。

 言われたラブはそういう事かと気付き打ち明ける様に話し始めた。

 

 

「ああ、そうか、そういう事ね…みんなも知っての通り、私は中学三年の夏前に事故に遭ってそこから約三年学校に行ってなかったでしょ?その間は色々な人に勉強は見て貰えたけど、普通の学生の生活って出来なかったの。みんなもう卒業しちゃって周りには誰も友達も居なかったし…だから何て言うかな?みんなと過ごすこういう何でもない時間がとっても嬉しいのよ」

 

 

 ラブの話を聞いた一同は少し俯きしゅんとしてしまう。

 

 

「あ、ゴメン、みんなそんなにしょんぼりしないで。言ったでしょ?みんなとこうしていられるのが嬉しいって。遠回りした分こんな素敵な仲間に出会えたんだもの、今は最高に幸せよ♪」

 

『姉様!』

 

 

 穏やかで優しい笑みを浮かべたラブの言葉に、少女達が一斉に寄りそう。

 

 

「あはは♪みんな苦しいって~、こんなに可愛い妹達がいっぱい居てホント幸せよ♡」

 

 

 それぞれが抱えた事情は様々でも、そこに救いの手を差し伸べ惜しみなく愛情を注ぎ続けるラブは少女達にとっては姉であり女神であり、そんなラブの細やか過ぎる幸福感に少女達は胸を打たれる。

 この人となら何処までも、この人の為ならどんな事でも、それこそが彼女達の結束力の高さの源であり強さの元となっているのだろう。

 

 

「さあ!もうひと頑張りしよっか!」

 

『ハイ!』

 

 

 それからAP-Girlsデビューの日まで、それまで以上の熱心さで練習が繰り返されたのだった。

 そして迎えたCD発売日は朝から快晴に恵まれこれ以上は無い晴れの日となり、戦車の格納庫で最終点検を行うAP-Girlsのテンションも相当に高くなっている。

 

 

「各車履帯は問題無いね!?パレード中の戦闘機動で切れたら大恥だからね!」

 

「全車問題無し!」

 

「紙吹雪弾と特殊スモーク弾の数も間違い無いね!?」

 

「大丈夫!」

 

 

 ラブの確認の声に全員がテキパキと応える。

 全車既に何時でも出られる状態になりラブもまた満足げに頷く。

 

 

「厳島隊長!時間です、メイク入って下さい!」

 

「了解、今行く!」

 

 

 学園艦内でのイベントに備え、格納庫併設のメイクルームに一同が向かう。

 待ち構えていたメイク学科の各部の生徒達が、一斉にラブ達にステージ用メイクを施し始める。

 メイクを終え格納庫に戻ると笠女映像学科のカメラと地元ケーブル局、更に民放各社のカメラが待ち構えており、新聞雑誌のカメラマン達のフラッシュが激しく光を放つ。

 

 

「なあ?アタイら今日が芸能界デビューの新人だよな?」

 

「それが何よ?」

 

 

 何処か腑に落ちない顔でそう言った夏妃に凜々子が逆に聞く。

 

 

「いやさ、アタイもよく解んねえけど新人のライブとかいきなり生中継とかすんのかな?普通歌番組とかにちょこっと出たりする程度じゃね?」

 

「何言ってんのよ…私達のバックは厳島よ?普通な訳無いじゃない」

 

「まあそうだけどさ……」

 

「何よ?今更スケールに怖気付いたの?」

 

「いや、そういうのはとっくに慣れた。ラブ姉と一緒に居ると何やっても桁外れだから」

 

「まあそうなるわよね……」

 

 

 そう言っている間にも、テレビで見た様な芸能レポーターやらが彼女達を取り囲み矢継ぎ早に質問を浴びせて来て、暫くはそれぞれがそれに応えるべくアイドルの顔になっていた。

 

 

「それでは時間です!報道の方は格納庫の外に退去願います!」

 

 

 教員や警備員達に促され報道各社の記者やカメラマン達が、トラロープで仕切られた規制線の外に退去させられるとラブ達はいつもの様に円陣を組み始める。

 

 

「みんな、いよいよだね。私も今日は多くは言わない。言わなくたって大丈夫なのは解ってる。みんなそれだけの努力をして来たんだから。それじゃあ行くよ……」

 

 

 ラブの言葉に皆一斉に腰を屈める。

 

 

「AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 いつもの掛け声に円陣が崩れるとそれぞれの乗機に駆け寄り搭乗して行く。

 点検も既に終えており全車万全の体制でその時を待っている。

 Love Gunのコマンダーキューポラに収まったラブが左右を確認し、瞳を閉じると静かに右手を掲げ親指を立てる。

 

 

「ready…Shout of starting the engine!(目を覚ませ!雄叫びを上げろ!)

 

『Yeaaaah!』

 

 

 号令と同時にエンジンが目を覚まし咆哮を上げる。

 報道陣でも戦車に慣れない者はその激しい轟音だけで思わず後ずさり、カメラを構えていた者達もそれまでお嬢様然とした雰囲気だったラブが豹変し放つ迫力にゴクリと喉を鳴らす。

 ベテランの芸能レポーター達も彼女達AP-Girlsが、そんじょそこらのグループアイドルとは一線を画す事をこの瞬間理解した様だ。

 ラブはその光景を見て満足そうに頷くと不敵な笑みを浮かべ出陣の号令を下す。

 

 

「Tanks move forward!」

 

 

 号令が下ると深紅のハートのLove Gunに続き四色のハートが一列縦隊を組み前進を始め、格納庫から舷側のタラップに向かう沿道には、笠女全生徒が両側に並び祝福の敬礼を送る。

 その間を進む五両のⅢ号J型戦車からも、各コマンダーキューポラから顔を出す車長を始め手の空いている者は答礼を送りそれに応えていた。

 学園艦を降りれば既に解放されたベース内にも既に多くの見物客がおり沿道を埋めている。

 やがてAP-Girlsがパレードスタート地点となる色取り取りの生花で飾り付けられたアーチの下に到着すると、先導車両となる数台の警察車両が止まっていた。

 

 

「あれ?」

 

 

 Love Gunをその後ろに停車させると、打ち合わせ中と思しき警察関係者の中に見覚えのある人物を見付けたラブはLove Gunから飛び降りるとその人物の元に駆け寄った。

 

 

「敷島刑事!」

 

「あら、恋さんおはよう。先日は御招き頂きありがとうございました」

 

「あ、いえこちらこそ。それより今日はどうしてここに?」

 

「私が今日のパレードの警備主任なのよ、私が先導させてもらうからよろしくね」

 

「え?そうだったんですか…でもどうして?」

 

「ええ、パレードの許可申請の際に、お母様から直々にご指名頂いたのよ」

 

「亜梨亜ママから?」

 

「うふふ♪だから今日は役得」

 

「まあ♪それでは今日一日宜しくお願い致します」

 

「了解!」

 

 

 ラブが元気良くペコリと頭を下げると、英子もまた大仰に敬礼をして見せた。

 二人揃って目が合うと同時に思わず吹き出す。

 

 

「それじゃあ頑張ってね!」

 

「ハイ!ありがとうございます」

 

 

 先導する面パトの一両に英子が乗り込むと、ラブもまたLove Gunに戻り出発の合図を待つ。

 程無くしてパレードの出発を告げる花火が上がりいよいよその時が来た。

 

 

「AP-Girls!Go for broke!!(当たって砕けろ!!)

 

『Yeaaaaaaaah!!』

 

 

 ラブの号令と共にメンバー達から歓声が上がり、車載スピーカーと随伴する低床ローダーに搭載された大型スピーカーからはデビュー曲のキレの良いイントロが流れ、大型スピーカーと共に搭載されている大型モニターに前撮りされたステージの映像も流れ始めた。

 それと同時に英子にエスコートされた五両のⅢ号J型戦車も動きだし、沿道を埋める見物客から拍手と歓声が上がり、それに対し感謝の気持ちを表す様に最初の紙吹雪弾が発射された。

 舞い散る紙吹雪の中イントロも終わりラブ達が歌い始めると、見物客達からの拍手も一層大きくなり、ラブ達の歌にも一層熱がこもる。

 この日を目指し努力を重ねて来たAP-Girlsの檜舞台が今ここに遂にその幕を開けたのだ。

 ベースを出て市街地に入ると沿道の観客は更に増え、興奮の度合いも増して行く。

 それに応えるべく時に派手な戦闘機動を見せ、時に紙吹雪弾と特殊スモーク弾を織り交ぜ発砲し、その間も途切れる事無くその美声を市街地に響き渡らせている。

 最高のパフォーマンスを見せつつメインストリートを進み丁度歌っていた曲も終わり、折り返し地点である京急横須賀中央駅前の歩道橋、通称Yデッキ下でUターンを始めたその時、ラブは沿道に居る数十人の少女達の存在に気が付いたのだった。

 

 

「あ…!あれは!」

 

 

 ラブは慌てて緊急用に指定された周波数で先導する英子を呼び出す。

 

 

「敷島さん!止まって下さい!」

 

『え!?どうしたの恋さん?』

 

「お願いします!ちょっとでいいから止まって下さい!」

 

『え、ええ解ったわ』

 

 

 英子の指示でパレードはYデッキ下で弧を描く形で停車し、見物客達からも何事かと声が上がる。

 

 

「みんなゴメン!ちょっとだけ時間を頂戴!」

 

 

 言うが早いかLove Gunから飛び降りたラブは、沿道に居る少女達に駆け寄った。

 

 

「みんな!」

 

「ラブ!」

 

「隊長!」

 

「先輩!」

 

 

 そこに集っていた少女達もラブの呼び掛けに口々に応える。

 嘗てラブと共に戦った横須賀市立臨海中学校戦車隊の隊員達がそこにいた。

 

 

「みんな…ごめんなさい……勝手に消えて…私許されない事をした……もっと早く…一番に連絡しなければいけなかったのに…私勇気が出なくて……本当にごめんなさい…」

 

「大丈夫!」

 

「え…?」

 

「私達みんな解ってるよ!ラブこそ大変だったのに良く帰って来た!」

 

「うん!みんなで信じて待ってたよ!」

 

「お帰りなさいラブ先輩!」

 

「だけど私のせいでみんな戦車道続けられなくなって、私どうしたらいいか解らなくて……」

 

 

 当時ラブの事故後、臨中では生徒の動揺も大きく戦車道の履修は困難となり、以降無期限で戦車道履修は取り止めとなって今日まで来ていたのだった。

 帰国後にそれを知ったラブであったがどうする事も出来ず、それもまたラブの心に圧し掛かっている問題の一つであったのだ。

 

 

「それも大丈夫!あの頃は怖くなって私達も戦車道を止めちゃったけど、レコード店のポスターと観閲式を見て私達もまたやろうって決めたんだよ。私達三年は大学に行ってからだけど、一年と二年はこれから履修するって決めたからね!」

 

「それじゃあ…」

 

「うん、それに来年度からだけど臨中の戦車道も復活する事になったから!」

 

「!」

 

「…ラブ?」

 

「……よかった…本当に……」

 

「あ!今は泣いちゃダメだって!メイク流れちゃう!」

 

「うん…うん……」

 

 

 嘗ての仲間達が慌ててラブの目元にハンカチを当てる。

 

 

「さあ!もう行って!今日は大事な晴れ舞台の日なんだから。ステージは私達も行くから!」

 

「うん…ありがとう!」

 

「それでこそラブだ!頑張れ!」

 

 

 Love Gunに駆け戻って行くラブ、それまで事の成り行きを見守っていた周りの見物客からも拍手が起こり、臨中の元隊員達が会釈して頭を上げると、面パトから降りて様子を見ていた英子が彼女達に微笑みつつも敬礼を送っており、それに気付いた彼女達もまた英子に向かい一斉に答礼を送った。

 

 

「ヨシ!みんな行こう!」

 

 

 輝く様な笑顔でラブが号令を下すと再びパレードは動き出す。

 つめかけた沿道の見物客からはAP-Girlsのデビューと、ラブの帰還を祝う拍手と歓声がより一層大きくなり、ラブ達もまたそれに応えるべく全力でパフォーマンスを繰り広げ、最高の盛り上がりを見せ大成功の裡にパレードも無事終了し学園艦に帰艦したのだった。

 しかし帰艦後も休む暇は無く、記者会見にCD即売のミニイベントやサイン会、それらを全て笑顔で乗り切ればもう日も傾き初の一般客向けのライブの開始までもう僅かの時間になっていた。

 ラブ達は最後のリハーサルも終え、今は軽い腹ごしらえの為バックヤードで給養員学科が用意したケータリングの軽食に手を伸ばしている。

 

 

「うぅ…これからはこれが日常になるのか……」

 

「今からそんな事言ってたらこの先どうする気よ?」

 

「そりゃそうだけどさぁ……」

 

 

 取り留めもない話をしつつも食べ過ぎにならない程度にエネルギーを補給する少女達。

 ふと気付くとこんな時一番賑やかなラブが一言も発せずにいる。

 

 

「…ラブ姉?」

 

「……ダメ…無理……」

 

「は?」

 

 

 いつもと違うラブの様子に鈴鹿が声を掛けると何やら小声で囁く様に何かを言うラブ。

 

 

「え?ナニ?」

 

「ダメよ!私無理よ!」

 

『うわ!』

 

 

 突如そう叫んで立ち上がったラブは青い顔で手も細かく震えている。

 

 

「な、何よ突然!?」

 

「わ、わわわ私無理よこんなの!で、出来ない~!!」

 

「え?ま、まさか!?」

 

「今更ビビってるの!?」

 

「何で今になって!?観閲式だってその後だって余裕カマしてステージ立ってたじゃない!」

 

「だってそれとこれとは!とにかくむり~!」

 

 

 それまで見せた事の無い突然のラブの狼狽ぶりに唖然とする一同、その目の前で今度は頭を抱えて座り込みイヤイヤをする様に首を左右に振っている。

 予想外の事態にどうしたものかと顔見合わせる一同の中から愛がひとりラブに歩み寄ると、その小柄な身体からは想像も付かぬ力でラブの手を取り無理矢理立たせた。

 

 

「あ、愛…?」

 

 

 驚いた表情で愛を見つめるラブの前で愛はネクタイを解き抜き取り、躊躇する事無くパンツァージャケットの下のブラウスの胸元をはだけ、そのたわわな左胸にラブの手を取るとそのまま押し付けた。

 

 

「な!愛!?」

 

『わお♡』

 

 

 愛の突然の大胆な行動に一同から黄色い声が上がった。

 

 

「恋、解る?」

 

「愛……」

 

 

 掌から愛の胸の温もりと鼓動が伝わって来る。

 

 

「緊張しているのは恋だけじゃない。私も、そして他の皆もそれは一緒。だけど私は怖くない、何故なら私はもう独りじゃないから。恋が居て仲間が居て、だから私は何も怖くない。この日の為に皆揃って必死に頑張って来た。今日遂に恋の、私達の夢が叶う。今日から私達の夢が始まる。大変な道なのは解ってる、でもこの仲間が居るから私は何も怖くはないの」

 

「愛…ありがとう……」

 

 

 憑き物が落ちた様に落ち着いたラブは愛をそっと抱きしめた。

 

 

「ケっ!やってられっかバカヤロ~」

 

「ほんっとラブ姉ってメンドクサイ!」

 

「まったく付き合い切れないわ…さあお色直し行こ!」

 

「何よぅみんなして~!」

 

 

 これで重かった緊張も融けたのか、皆呆れつつもラブを笑いながら本番に備え楽屋に向かう。

 楽屋に入ればメイク学科や被服学科の生徒達が一斉にラブ達に取り掛かり、いつも以上に真剣な表情でAP-Girlsのメンバー達を変身させて行く。

 彼女達にとっても今日は大事な日でありその表情からもそれが窺えるのだった。

 メイクと衣装が仕上がると、両学科の生徒達も満足げな表情になりAP-Girlsのメンバー達とハイタッチをしながらステージに向け送り出す。

 AP-Girls専用アリーナの客席は既に満席となり、今や遅しと開演を待つ観客達のどよめきと熱気がステージの袖で待機するラブ達にも伝わって来ていた。

 

 

「恋、みなさん」

 

「あ♪亜梨亜ママ!」

 

『亜梨亜様!』

 

「遂にこの時が来ましたね。今日までの努力の成果を、あなた達の思いの丈を、全てこのステージにぶつけていらっしゃい。あなた達ならそれが出来ます、私はそう信じていますよ。さあ御行きなさい、私も最後まで見届けさせて貰いますから」

 

『ハイ!』

 

 

 少女達が力強く返事をすると同時に開演を告げるアナウンスが場内に流れ一瞬の静寂が生まれる。

 

 

「じゃあみんな行くよ!AP-Girls!Get ready! Get set!」

 

Go for it!(やっちまえ!)

 

 

 お馴染みの掛け声と同時に激しいロックナンバーのイントロが流れ、少女達はステージに向かって一斉に走り出し、今ここに彼女達の光り輝く戦いの日々の幕が切って落とされた。

 この日、ラブ達の晴れ姿を見守る者は全国に居た。

 衛星中継やネット配信でライブの模様を、全国の戦車道の多くの仲間達が見守って居たのだ。

 それぞれの者がそれぞれの場所でモニター越しにラブ達に祝福の言葉を送る。

 余りにも重過ぎる苦しみを乗り越え、今眩く輝く少女達に惜しみない拍手を送る。

 それを追い風とするかの様にステージの勢いは更に加速し、客席の興奮も頂点に達していた。

 

 

「ラブ姉と愛がヤバい!酸素!」

 

「こっちに水ちょうだい!」

 

「私のヘッドセットのイヤホン音が出なくなった!予備を早く!」

 

 

 曲の合間のバックヤードもまた戦場であり、様々な役割を担う各学科の生徒達も鬼の形相で走り回り、裏側からステージを支えている。

 熱狂のステージもいよいよラストパート、電光の速さで衣装チェンジをしたラブ達がステージに躍り出て激しいダンスパフォーマンスを繰り広げ観客をグイグイ引っ張る。

 そしてダンスの終わりと共にLove Gunのレプリカが紙吹雪を発射、それと同時にステージ上に25本のエレキギターがせり上がって来た。

 AP-Girls全メンバーが横一線に並んでのギターパフォーマンス、全身を揺さぶる圧巻のプレイに会場に居る者全てが興奮に酔いしれる。

 曲のフィニッシュに投げキスと同時に放たれたギターピックを受け取れた者は、周囲から羨ましがられちょっとした優越感に浸る事が出来た。

 

 

「みんなありがとう!今日ここに私達AP-Girlsはメジャーデビューを果たしました!これから私達は、戦車道とステージで全国を巡りますが母港はここ横須賀です!横須賀に戻る度、私達の成長した姿を必ずみなさんにお見せしますので、これからも応援宜しくお願いします!」

 

 

 ラブの高らかな宣言と共に会場全体から拍手が沸き起こる。

 それに応えメンバー全員で手を振り深く頭を下げると、ラストを飾るラブバラードのイントロが流れ始め波が引く様に会場に静けさが訪れた。

 甘く切ない少女達の歌声は名残を惜しむ様に熱いライブの最後を締めくくり、感動と共にAP-Girlsのメジャーデビューのステージはその幕を閉じるのだった。

 

 

「……もう…ダメ…なんも残って無い……」

 

 

 ステージを降りた途端、AP-Girlsのメンバーは全員その場にへたり込んだ。

 これまで無類のタフさを見せて来た彼女達が、如何にこのステージに全力を注ぎ込んだかが解る姿だが、その表情には全てをやり切った者だけが見せる満足感が現れている。

 

 

「皆さん良く頑張りました。その覚悟の程、篤と見せて貰いましたよ」

 

「亜梨亜ママ……」

 

「さあ、立ちなさい、最後まで胸を張って行くのです」

 

「…ハイ!みんな!行くよ!」

 

 

 最後の力を振り絞ったラブの声に、少女達は互いに支え合い肩を組み立ち上がる。

 ゆっくりと、だが確実に歩みを進める彼女達に、集まっていた運営スタッフの生徒達から惜しみない拍手が送られると、彼女達もまた笑顔で手を振りそれに応える。

 AP-Girls完全燃焼、こうして彼女達は鮮烈な芸能界デビューを飾ったのだった。

 

 

 

 

 

 その日同時発売されたデビューアルバムとシングルCDは、高校戦車道履修者を中心に火が付き順調に売り上げを伸ばし、いきなり売上チャートのトップに躍り出た。

 そして戦車道と芸能活動、ラブ率いるAP-Girlsの快進撃は今ここに始まったばかりだ。

 

 

 




恐ろしい事に高校編がスタートしてから作中で進んだ時間は僅か半月…。
もうちょっとスピーディに進行させないとなぁ……。


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第三章 閃光Girls 第一話   火の国に集う華

恋愛戦車道も第三章に突入しました。
これからも宜しくです。

まほは安定のポンコツぶり、
そして今回は遂に菊代さんが登場します♪


 十一月に入り大気温度も大分下がり、そろそろ冬を意識するようになった頃。

 太平洋上を東から西に飛び行く一機の異形の機体がいた。

 Bell Boeing V-22 Osprey、自衛隊導入に先んじて厳島が導入したこのティルトローター機は、笠女及び厳島のグループのイメージカラーであるマリンブルーに染め上げられ、よく見れば細部も軍用とはかなり異なる部分が見受けられる。

 実際契約交渉段階から多くの仕様変更のオーダーが出され、メーカー内にあっても初の民間用のこの機体は厳島カスタムの愛称で呼ばれており、今後の販路拡大の一つの指針になっていた。

 その機内はといえば国際線ファーストクラスの様な設えで、凡そベースが軍用機とは思えない内装に仕上げられているのだった。

 ラブ率いるAP-Girls衝撃のデビューから一週間。

 その人気は急上昇中で、CDの売り上げスピードの方も最初の一週間で驚異的な記録を叩き出しており、業界関係者を騒然とさせるものだった。

 更に来週からは聖グロを手始めに大洗にプラウダ、サンダースにアンツィオ、最後は黒森峰の順番で練習試合を年内に終える日程で組まれておりそのスケジュールは過密を極めている。

 そんなハードスケジュールの合間を縫う様にラブと亜梨亜は今、そのオスプレイの機上の人となっており、その機体が向かう先は火の国熊本。

 ラブがしほと約束した通り、親子二人事故後初めて西住家に挨拶に向かう旅路の途中なのだ。

 しかしこの今回の空の旅には更に二人の同乗者が居るのだった。

 

 

「それであの~、何で私まで…それにねえ…?」

 

 

 突如本庁経由で厳島家からの熊本行きの招待を受けた英子は、同じく学園長経由で招待され制服姿で隣に緊張した面持ちで座るアンチョビに目を向けた。

 横須賀を立った後、同じく太平洋を航行中だったアンツィオの学園艦からアンチョビをピックアップしたオスプレイは、現在四国沖合を熊本めざし飛行中だ。

 

 

「学園長に呼び出されて熊本に行くように言われて、待ってたらこんなとんでもないのが飛んで来るし、乗ってみれば英子さんまで乗ってるし…なあラブ一体どういう事なんだ?」

 

「ん~?えっとね、しほママが三年前の事で改めて直接お詫びとお礼がしたいんだって~」

 

「いや、それだったら私は家元から直筆の詫びの書簡を頂いてますし……」

 

「私もあの時充分謝罪の言葉を頂いてるぞ?」

 

「今回千代美にはそれだけじゃないみたいだけど~?」

 

「う゛……」

 

 

 心当たりがあるアンチョビはその言葉で思わず次の言葉に詰まる。

 

 

「それにね~、みほが来てからだけど私も二人にお願いしたい事があるんだ~」

 

「なんだそれは?」

 

「まあそれはみんな揃ってからという事で~♪」

 

 

 ラブは人の悪いニヤニヤ笑いで話をはぐらかす。

 

 

「いつもながら我儘な娘で申し訳御座いません。ただしほさんも良い機会なので、恋の帰還を皆で祝いたいのでお二人も是非にとの事でしたので」

 

「はあ…そういう事でしたらば……」

 

 

 例によってのらりくらりなラブに代わり亜梨亜が二人に頭を下げる。

 

 

「それにしても…まさか私がオスプレイに乗る日が来るとは…仕事柄ヘリは何度かあるけど……」

 

「私もです…ラブから話しには聞いてましたけど…乗ったら中は更にビックリだし……」

 

『ねぇ?』

 

 

 思わず同時にそう言って目を合わせるアンチョビと英子。

 しかしラブと亜梨亜は至って普通に仲睦まじい親子を演じており、つくづく住む世界が違うと思うアンチョビと英子であった。

 

 

「そ、そう言えばパレードとデビューライブの中継見たぞ!CDの売り上げも凄いじゃないか!」

 

「ほっほっほ、と~ぜん♪」

 

「こら、何ですか恋、はしたない」

 

「え~?だって~」

 

 

 腕を組み反っくり返るラブを窘める亜梨亜だがその表情は穏やかで楽しそうだ。

 

 

「それと駅前に居たの元臨中の隊員達だろ?」

 

「うん…みんなまたこれから戦車道始めるって…それとね、臨中も来年度から戦車道復活するって……ずっと…ずっと気になってたから嬉しくって……」

 

 

 嬉しげながらも涙ぐむラブに、アンチョビは敢えて飛び切りの笑顔で祝福の言葉を送る。

 

 

「良かったなぁ!」

 

「ありがとう…千代美」

 

「あ、そういえばあの時英子姉さんも映ってましたよ」

 

「え?マジで?」

 

「ハイ、とってもカッコ良かったです♪」

 

 

 アンチョビの言葉に四人で一斉に笑う。

 

 

「でもビックリしたよ、この間貰ったお土産を帰ってから開いたら、発売前のCDまで入ってるんだもの。さすがに申し訳ないからオンラインショップでも注文しちゃったよ」

 

「あ、私も地元のお店で予約してたから家用と車用で聴いてるわ♪」

 

「え~?そんなにしなくてもよかったのに~。でも今プレスが追い付かなくなって、届くのが大分遅くなると思うの、ゴメンね」

 

「そんなになるまで売れてるのか、凄いなぁ…でもどっちにしても学園艦暮らしだとモノが届くのに時間が掛かるのは慣れっこだしなぁ」

 

「私達はアメリカに居た時はそれで酷い目にあったし……」

 

「あぁ……」

 

「え?ナニナニ、何の話?」

 

「う゛ぅ゛…千代美…説明お願い……」

 

「何で私が…しょうがないなぁ──」

 

 

 アンチョビは英子にラブ達がヤキマに居た頃のコンビニ事情の話をラブに代わり話し始めたが、それを聞いていたラブまで涙目になる処を見ると相当トラウマになっている様だった。

 

 

「それは大変だったわねぇ…」

 

 

 英子は苦笑交じりにラブに声を掛けたが、ラブは隣に座る亜梨亜の膝に突っ伏して泣いている。

 

 

「もうあんな思いはたくさんよ~」

 

「何もそこまで泣かんでも……」

 

 

 これにはさすがにアンチョビも呆れるしかなかったが、どうせラブの事だから直ぐ復活するのは解っているのでそのまま放っておく事にした。

 実際その通りでその後も暫く四人他愛も無い談笑をするうちに、チーフパーサーが間も無く熊本に到着する旨を伝えに来た。

 しかし機体サイズが大きいオスプレイの為、今回は西住本宅に降りる事は出来ず、西住流道場の演習場にあるヘリポートに着陸する事になっていた。

 

 

「これが西住流道場の演習場か…凄いなぁ……」

 

「ホントね…」

 

 

 初めて見る西住流総本山にアンチョビと英子は感心するが、ラブと亜梨亜にとっては懐かしい場所であり感慨深いものがある様だった。

 着陸したオスプレイから地上スタッフが荷物を降ろしている処に、管制職員と思しき人物がラブ達の元へやって来た。

 

 

「もう後二十分程でみほお嬢様のバートルが到着致します、もし差支えなければ管理事務所のロビーでお待ち頂けますでしょうか?その間にお荷物は車の方に積んでおきますので」

 

「ええ、私達はそれで構いません。敷島様と千代美さんもそれで宜しいでしょうか?」

 

「あ、ハイ大丈夫です」

 

「私も…それにしてもラブ、今回は一泊なのになんか荷物が凄くないか?」

 

「えへへぇ♪お土産もあるけどちょっとね~」

 

「またそれだ…まあいいや、どうせ後のお楽しみなんだろ?」

 

「うん、そういう事~♪」

 

 

 四人は職員に導かれ管理事務所のロビーに向かう。

 建屋に入ってからも何人かの職員とすれ違ったが、古くから居ると思われる者達はラブと亜梨亜の姿を認めると、目に涙を浮かべ深々と頭を下げ歓迎の意を示していた。

 二人もまた同様に頭を下げそれに応えるのであった。

 ロビーのソファーでみほの到着を待つ間、やはり目に涙を浮かべつつお茶出しをしてくれた年配の職員がラブと亜梨亜に感極まった様に挨拶をしてくる。

 

 

「亜梨亜様、恋お嬢様、お懐かしゅう御座います。よくお戻りになりました」

 

 

 そう言うやその女性は目元を指先で拭っている。

 

 

「加代さんこそお変わりなく、ご心配をお掛けした事をお詫びいたします」

 

 

 亜梨亜に続きラブも頭を下げると、加代と呼ばれた職員は慌てて二人に頭を上げるように言う。

 

 

「そんな勿体無い、加代はもうお二人がこうしてお戻りになられただけで充分で御座います」

 

「ありがとう加代さん、私もまたこうしてお会い出来た事を嬉しく思います」

 

 

 一頻り挨拶を済ますと今暫くお待ち下さいと言い残し、加代と呼ばれた女性は下がって行った。

 

 

「はぁ…ラブって本当にお嬢様なんだなぁ……」

 

「だね……」

 

 

 出されたお茶で喉を湿したアンチョビの言葉に英子も同意する。

 

 

「え~?何がよ~?」

 

「いやだって西住流の関係者がああして揃って頭を下げる辺りがなぁ…」

 

「やだなぁ、単に親戚ってだけだってばぁ」

 

 

 そんな話をしているうちに頭上からヘリの降下音が、みほの乗るバートルの到着を知らせる。

 

 

「ラブお姉ちゃん!亜梨亜おば様…え?それにアンチョビさんに敷島さんも…?」

 

「何だみほ私と英子さんの事は聞いてなかったのか?」

 

「うん……」

 

 

 返事をしつつもみほはつい英子をチラチラ見てしまう。

 

 

「そんな警戒しなくても大丈夫よ、それに英子でいいから」

 

「ハア……」

 

 

 そうは言われても英子の前では、やはりどこか畏まってしまうみほであった。

 

 

「よ~し、揃ったわね~。ちょっとみんなに大事な話があるのよ~」

 

「なんなんだいったい?」

 

 

 みほが合流するとラブは、アンチョビと英子を少し離れたソファーに行くよう促す。

 

 

「亜梨亜ママはそこで少し待っててね~」

 

「本宅で皆さんお待ちでしょうから手短にね」

 

「は~い」

 

 

 ラブの言葉に亜梨亜はひとり涼しい顔でお茶を飲んでいる。

 

 

「ラブよ、大事な話って一体何だ?」

 

「ああ、それはね──」

 

 

 アンチョビがそう問い掛けるとラブの表情が一変する。

 切れ長の美しい目と口角がつり上がり、戦車に乗る時の凛々しくも不敵な笑みとは違う凄惨な笑みになり、緩くウェーブした深紅のロングヘアーも気のせいか波打って蠢いている様に見える。

 その表情でラブはまほがやらかした学園艦カレー事件の顛末を皆に語ったのだった。

 そしてラブのまほに対するお仕置きプランを聞かされたた一同は──。

 

 

「今日という今日は許さない、エリカさんを泣かせた代償をきっちり払わせてやるわ!」

 

 

 エリカが泣かされたと聞いたみほは、そう言いながら両の手の指をボキボキと鳴らす。

 

 

「小説書いたりアンツィオの隊員相手にしてると、どうも小芝居ばかり上手くなってな」

 

 

 目薬とハンカチを用意しつつアンチョビはニヤリと笑う。

 

 

「大丈夫、私嘘泣きでも千代美ちゃんの涙見ただけでスイッチ入る自信あるわ」

 

 

 英子もまた嬉しそうに凄惨な笑みを浮かべ断言する。

 こうしてまほに対するお仕置きの用意は整った。

 そして先に到着しているまほはまだ、これから何が起ころうとしているのかまだ知らない。

 

 

「ククク…覚悟なさいまほ……」

 

『鬼だ……』

 

「もういいですか?そろそろ行きますよ」

 

「あ、ハ~イ♪」

 

 

 初めて見るラブの一面に怯える一同の前で、それを全く意に介する事も無くクツクツと笑うラブだったが、亜梨亜に声を掛けられると表情は憑き物が落ちた様にいつも通りに戻っている。

 

 

『コイツは…』

 

 

 恐るべき変わり身の早さに一同呆れる他は無かった。

 その後荷物も積み込み一同を乗せた車は一路西住家本宅を目指す。

 

 

「わあ懐かしい!この辺何も変わってないや♪」

 

 

 車窓に流れる田園風景に、ラブは嬉しそうに歓声を上げた。

 

 

「うふふ♪あの駄菓子屋さんもまだそのままやってるよ」

 

「え!ホントに?」

 

 

 みほの言葉にラブは更に嬉しそうに笑顔を輝かせる。

 その様子にアンチョビは、ラブが帰って来れた喜びをひとり心の中で噛み締めるのだった。

 

 

「ここがまほとみほの育った家なのか…」

 

「……」

 

 

 初めて見る西住の邸宅に言葉を失うアンチョビと英子。

 

 

「えっと…横須賀のラブお姉ちゃんの住んでるお城の方が凄いと思うけど…」

 

 

 照れながら頬を掻くみほだがどちらも比較対象としてスケールが大き過ぎ、アンチョビとしては正直言ってその感覚には付いて行けない。

 

 

「亜梨亜様!恋お嬢様!」

 

 

 車から降り荷物を降ろして貰っている処に不意に二人の名を呼ぶ声がし、女中らしい着物姿の一人の女性が小走りに駆け寄って来るのが見えた。

 

 

「菊代ママ!」

 

 

 そう叫んだラブも走り出すと着物姿の女性に躊躇なく抱き付いたが、その女性もまた自分より遥かに上背のあるラブを苦も無く抱き止める。

 

 

「恋お嬢様!すっかりご立派になられて…あぁ!何という…美しい恋お嬢様の顔にこの様な…おのれ東邦火箭(かせん)許すまじ!かくなる上はこの菊代が赴き成敗してくれましょうぞ!」

 

 

 抱き止めたラブの顔の傷を認めるや事故当時の怒りが再燃し、今にもⅡ号を駆って突撃しそうな勢いの菊代にラブが苦笑しながら声を掛けた。

 

 

「ママ、菊代ママ。大丈夫、あの会社はもう亜梨亜ママが木端微塵にしたから」

 

「あ、ああそうで御座いました。これはお客様の前でとんだ処をお見せ致しました。私当家の女中頭の菊代と申します。ささ、どうかこちらよりお上がり下さいませ」

 

 

 ポカンとするアンチョビと英子を邸内へと誘う菊代。

 荷物も既に使用人達の手で運ばれており、状況に付いて行けないまま二人も玄関に向かう。

 

 

「…しかし前々から気になってたんだがラブのヤツは目上の女性はみんなママなのか?」

 

「あ、ラブお姉ちゃんは昔から自分を可愛がってくれる人はみんなそう呼んでたっけ」

 

「子供の頃のまんまという訳かぁ」

 

 

 アンチョビは腕を組み困った様な顔で笑っている。

 菊代に先導され一行は長い廊下の先の、広いあの襖絵でお馴染みの座敷に通された。

 

 

「ラブ!亜梨亜おば様ってアレ?」

 

 

 座敷には先に到着していたまほとその隣にはエリカも控えていたが、どうやら二人もアンチョビと英子も一緒に来る事は聞かされていなかった様で驚いた顔をしている。

 そのまほの姿を認めた瞬間ラブはみほとアンチョビ、そして英子の三人に耳打ちをした。

 

 

『それでは先生方、宜しくお願い致します』

 

 

 ラブの耳打ちを合図にまずはみほがまほに向かって突撃をする。

 

 

「お姉ちゃん!ラブお姉ちゃんから聞いたよ!よくもエリカさんを泣かせたわね!」

 

「うわ!みほ!何だ急に!?」

 

「問答無用!ていっ!」

 

 

 言うが早いかみほは、まほの鳩尾に鋭く爪先を入れる。

 

 

「ぐふっ!な、何を!?」

 

 

 みほは前のめりに崩れかけたまほの腰に腕を回すと、渾身の力でそのまま持ち上げる。

 更にまほを前後逆向きの肩車状態から天井に向け持ち上げ、そのまま背中から畳に叩き付けた。

 

 

「ぐはぁ!!」

 

 

 みほ必殺の大技、ラストライドを喰らったまほは畳の上で悶絶する。

 

 

「み、みほ♡」

 

「エリカさん!」

 

 

 一連のみほの鮮やかな動きにエリカは内股でキュンキュンしている。

 みほもエリカを抱きしめるとその勢いのまま襖の向こうに消えて行ってしまった。

 

 

「うぅ…痛い…一体何なんだ……」

 

「西住……」

 

 

 畳に転がり背中をさすりまほが呻いていると、今度は上から声がする。

 目を開くとそこにはアンチョビの覗き込む姿があった。

 

 

「あ、安斎……」

 

「オマエこの大事な時期に一体何をやってるんだ?」

 

「いや!それはその──」

 

「大事な試合をほったらかしにしてカレーにうつつを抜かして、それが隊長のする事か?そんな様子では進学もどうなるか…私との事もそんないい加減な気持ちだったという事か……」

 

 

 アンチョビはまほに背を向け両手で顔を覆ってしまう。

 

 

「そ、そんな事は無いぞ!私は──」

 

「じゃあどんなつもりなんだ!」

 

 

 再びまほの方に向き直り遮る様に叫んだアンチョビの頬を涙が伝い落ちる。

 

 

「あああ、あんざいぃ…!」

 

「貴様また千代美を泣かせたな?」

 

「え…?うわあああああ!」

 

 

 声のする方を見たまほは畳に座り込んだまま全力で後退る。

 忘れ様にも忘れられないまほのトラウマ、覚醒した鬼が其処に居た。

 

 

「やはり貴様に如きに千代美は過ぎた娘だ。千代美は私が貰って行く…行くぞ千代美」

 

「はい…英子さん」

 

 

 英子がアンチョビの肩を抱くと、アンチョビもまた英子の肩にしなだれかかり、二人並んで座敷を後にする。

 

 

「ああああんざいぃぃぃ……!」

 

 

 四つん這いで追いかけて、右手を上げそう叫んだ処で襖が閉まるとそのまま硬直するまほ。

 

 

「ん?どうしたまほ?」

 

 

 ラブの問い掛けに応えないので、壁際で見守っていた菊代が顔を覗き込む。

 

 

「あ…気を失ってます」

 

「どうやらクスリが効いた様ね」

 

 

 菊代が面白そうにまほのほっぺをツンツンするとそのポーズのままコテンと転がった。

 

 

「なんとまあタンスの裏で息絶えたゴ●ブリの様な」

 

 

 己の仕える家の次期当主に向かい身も蓋も無い事をサラッと言う菊代。

 

 

「まあこれで少しは懲りたでしょ。みんな~もういいわよ~」

 

 

 ラブの呼び掛けでアンチョビと英子、みほとエリカも座敷に戻って来たが、お約束でみほとエリカは若干着衣が乱れているのを敢えて全員見なかった事にする。

 

 

「菊代ママ~、おねが~い」

 

「畏まりました…ふんっ!」

 

 

 菊代がまほの背中に喝を入れるとビクリと身を震わせ意識を取り戻す。

 

 

「ぶは…!あ、あれ……?」

 

「まほ~、少しは反省したかな~?」

 

「うわわわぁ!」

 

 

 すぐ目の前に現れた美しくも恐ろしいラブの笑顔、まほは這いつくばって畳に頭を擦り付ける。

 

 

「わ、私が悪かった許してくれぇ!」

 

「謝る相手が違うでしょ~?」

 

 

 嫣然と微笑みつつもまほの顎をグイっと掴むとエリカの方に向けるラブ。

 

 

「エ、エリカ本当に済まなかったこの通りだ!」

 

 

 エリカの方に身体ごと向き直り平べったくなるまほに、みほは氷の視線を向けると低い声でドスを利かせて言い放つ。

 

 

「次は無いからね?お姉ちゃん」

 

「わ、解っている…」

 

「ま、こんなもんか。ハイ、お仕置きタイム終了♪」

 

 

 ラブはにこやかな顔でそう宣言した後思い出した様に付け加える。

 

 

「って、そうそう、まほ~アンタさ~ちょっと太ったんじゃな~い?」

 

「ぐっ……!」

 

『とことん鬼だ……』

 

 

 しっかりと止めを刺す事を忘れないラブにまほを囲む一同はつくづくそう思うのであった。

 

 

 




前章で話だけ出ていたオスプレイが登場しましたが、
正直自分でも驚きの仕様になりました。


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第二話   火の国の乙女達

しぽりんとちよきち登場♡




「ホント酷かったんです…あのカレー臭は……」

 

 

 まほに対するお仕置きタイムも済み一段落した一同は、菊代の入れたお茶を頂きつつどうしても外せない用件で出ているしほの帰りを待っていた。

 その間のお茶請け話としてエリカが学園艦カレー事件の際のまほの様子を皆に語って聴かせると、当然視線はまほに集中し、まほはただ座布団の上で小さくなるほか無かった。

 

 

「大体顔がカレー色ってどんな状態よ~?」

 

「見ますか?」

 

「え?」

 

 

 呆れかえった調子で聞くラブに、エリカは制服のポケットから携帯を取り出し操作を始める。

 

 

「ああ、これです」

 

 

 エリカの差し出した携帯を覗き込んだ一同は見た瞬間一斉に噴き出した。

 

 

『ブっ!』

 

「こ、これは!!」

 

「うえぇ、見るんじゃなかった…」

 

「これはキモい…」

 

「あらあら、まほお嬢様も相変わらず愉快な事をなさいますこと」

 

 

 それぞれ言いたい放題だが、液晶モニターの中には文字通りカレー色の顔をしたまほが、収監されている重営倉の鉄格子にしがみ付く姿が映し出されていた。

 

 

「エリカさん、これ私の携帯に転送してくれる~?」

 

「え?ええ、構いませんが…」

 

 

 エリカが空メールに画像を添付しラブの携帯に送信すると、画像を確認したラブは人の悪い笑みで何やら携帯を操作している。

 

 

「一体コレをどうするんですか?」

 

「ん~?みんなに送って評価して貰おうと思って~♪」

 

「……!」

 

「っと、これでよしっと♪」

 

 

 短文に画像を添付し一斉送信の準備をした処で、それまで沈黙して小さくなっていたまほが送信を阻止しようとラブに飛びかかった。

 

 

「ラブ!お願いだから止めてくれよぅ!」

 

「うわ!ってなによ急に…あ!」

 

 

 送るフリだけで止めるつもりのラブであったが、まほが飛びかかった事により不幸にも本当に送信ボタンが押されてしまったのだった。

 

 

「あ~、ホントに送信しちゃったわ……」

 

「あ…あぁ……」

 

 

 まほは頭を抱え力無く畳に突っ伏した。

 そしてその直後アンチョビとみほとまほの携帯の着信音が同時に鳴り響く。

 

 

「うわ!私にも送ったのか~!?」

 

「要らないよ!こんなお姉ちゃん!」

 

「いやあ…グループ一斉送信だったから……」

 

 

 ラブも些か申し訳なさそうな顔で頭をポリポリと掻く。

 そして暫くするとラブの携帯のメール着信音がたて続けに鳴り始めた。

 再び携帯を操作してラブは着信したメールを確認する。

 

 

「え~っと…最初はカチューシャか……」

 

 

 From :カチューシャ 

 To  :ラブ

 

『グロ画像送るんじゃないわよ!』

 

 

「…次はノンナか……」

 

 

 From :ノンナ

 To  :ラブ

 

『暫くカレーが食べられません』

 

 

「……ケイは…」

 

 

 From :ケイ

 To  :ラブ

 

『F●ckin!』

 

 

「ナオミ…」

 

 

 From :ナオミ

 To  :ラブ

 

『ふざけんな』

 

 

「あれ?アッサムだけ…?」

 

 

 From :アッサム

 To  :ラブ

 

『詳細は練習試合の時にでも』

 

『追伸:ダージリンは今、過呼吸を起こして医務室に運ばれました』

 

 

「だって……まほ、ゴメンね~」

 

「酷い……」

 

 

 ラブは眉をへにょりと下げ片手で拝む様にまほに謝ったが、時既に遅くまほは頭を抱えて畳に突っ伏したまま涙を流していた。

 しかしこの状況でも動じる事無くひとりお茶を啜る亜梨亜もやはり普通ではないかもしれない。

 暫しそんな様子で騒いでいると不意に菊代が立ち上がる。

 

 

「どうやら奥様がお戻りになられた様ですのでお迎えに行って参ります」

 

 

 菊代が座敷を出て暫くすると足早な複数の足音が近づいて来るのが聴こえた。

 そして日頃であれば礼儀作法に煩いしほらしからぬ勢いで襖を開けると、そのままの勢いで座敷に飛び込み一目散に亜梨亜の元に駆け寄るとその膝に縋り付くのだった。

 

 

「亜梨亜様!」

 

「しほさん……」

 

「しほママ…」

 

 

 ラブもまた亜梨亜の隣に来ると、泣き崩れそうになるしほを二人で支える。

 しほは暫くの間大粒の涙を流し、声にならぬ声で泣き続けるのであった。

 そのしほが漸く落ち着いた頃、意外な同行者が座敷の外から控えめに声を掛けて来た。

 

 

「お帰りなさいませ亜梨亜様」

 

「千代さん…」

 

「え!愛里寿ちゃんのお母さん!?何で家に?」

 

 

 そこに座る声の主、島田流家元であり島田愛里寿の母でもある島田千代は、声を掛けると同時に亜梨亜に対し三つ指を突き深々と頭を下げていた。

 亜梨亜としほに菊代そして当の本人の千代以外の者達が困惑する中、今度は頭上からパリパリというローター音と共にダウンウォッシュを叩き付けながら一機のヘリが西住家の庭に降下して来る。

 OH-1、通称ニンジャと呼ばれる陸上自衛隊の観測ヘリコプターだ。

 

 

「ああ、お見えになられた様ですね」

 

 

 菊代はそう言うと出迎えるべく立ち上がり座敷を出て行く。

 

 

「げ、アレは……」

 

 

 その迷彩塗装の機体を見た瞬間英子は嫌そうな顔をする。

 英子のその反応でアンチョビはその機体の主が誰だか察し、苦笑いをするしかなかった。

 

 

「家元、遅くなりまして申し訳ございません…って英子!何でアンタがここにいんのよ!」

 

「亜美、その言葉そのまま返すわ」

 

 

 英子を指差しワナワナと震える亜美に対しそっぽを向いて言い返す英子。

 先日も自分だけ参加出来なかった横須賀でのAP-Girlsのウェルカムパーティー後に、頂いたお土産を並べた厭味ったらしい写メを送られ盛大にキレ、電話越しに大喧嘩をしたばかりであった。

 

 

「英子!後で覚えてらっしゃい!」

 

「ケッ!」

 

「これで全員揃った様ですね」

 

 

 しほの言葉にハッとした英子と亜美は真っ赤になって頭を下げる。

 

 

「蝶野様、まあここでは何ですからどうぞ中へ」

 

「あ、ハイ失礼致しました」

 

 

 菊代に促され座敷に入った亜美だが、そのまま上座に座るよう導かれる。

 

 

「え?あの、これは一体…?」

 

 

 亜美は戸惑うがそれに構わず菊代は他の者も上座に行くよう促し、自分は壁際に控える。

 千代もまたこの席では部外者である旨弁えており自ら一旦下座に下がりエリカもそれに続き、亜梨亜も千代とエリカの配慮に一礼した。

 

 

「亜梨亜様どうかこの様な事は──」

 

 

 何かを言い掛けたしほを亜梨亜は軽く手を上げ制すると、ラブと二人座布団から下座へにじり降りると揃って三つ指を突き深く深く首を垂れた。

 

 

「しほ様、あの日より三年一切の音信を絶ちました御無礼、誠に申し訳御座いません。ここに親子二人、心よりお詫び申し上げます」

 

 

 亜梨亜がそう言うと再び揃って首を垂れる。

 口元を両の手で覆っていたしほは再び大粒の涙を流し懇願する様に言った。

 

 

「亜梨亜様、どうかもうお止め下さい。全ては恋の為、それは当然の事ですからもうどうか──」

 

「有難う御座います、そのお気持ち有難く頂戴させて頂きます」

 

 

 ここで亜梨亜は亜美に視線を向けると、先程同様親子で三つ指を突く。

 

 

「蝶野様、事故当時迅速に対応して頂いたにも関わらず、一度もお目通りする事無く姿を消した事をお詫び致します。本当に申し訳御座いませんでした」

 

「亜梨亜様、私は当然の事をしたまでで御座います。今はただお嬢様の無事の御帰還を喜ぶのみで思いは家元と同様です、ですからもうどうか頭をお上げ下さい」

 

「蝶野様のお心遣いに感謝いたします」

 

 

 亜梨亜と恋が亜美に一礼した処で、英子が他の者を代表し亜梨亜の機先を制する様に声を発した。

 

 

「厳島様、私達はもう幾度と無くお言葉を頂いております故、これ以上はどうかもう」

 

 

 英子の配慮に二人はただ無言で深く首を垂れると、改めて三つ指を突き礼を述べた。

 

 

「皆様に賜りました御恩は私達親子二人、生涯忘れません。本当に有難う御座いました」

 

 

 亜梨亜が礼を述べ終えると、今度はラブに促す様に声を掛ける。

 そして下座に下がっていた千代とエリカにも上座に戻る様促した。

 

 

「恋……」

 

「はい、お母様……皆様本当に申し訳御座いませんでした。そして有難う御座います」

 

 

 ラブはそこまで言うとポケットからヘアクリップを取り出し、右目を隠す様に垂らしている前髪をたくし上げ手にしたヘアクリップで留めた。

 露わになる惨たらしい傷痕、生気溢れる左目と違いその右目には光を宿しておらず、始めて見る者は口元を覆い目に涙を溜め、息を飲む。

 

 

「御見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。ただ、ご覧になってお判りかとは思いますが、今の私の右目は殆ど見えません。観閲式の際に蝶野教官がお察しになられた通りです。そして左肩にも可動範囲制限があり、一人では衣服の脱ぎ着もままならない場合が御座います。それでもこうして皆様の前に、戦車道の世界に帰る事が叶いました。私はもう逃げません、力の限り我が身に課せられたものに抗います。今日ここにそれを皆様に御誓い申し上げます」

 

 

 毅然とした態度で真っ直ぐ前を見据え決意を述べるラブの姿は何よりも美しい。

 あの忌まわしき日より三年、長き苦難の日々も漸く終着点に辿り着いた瞬間であった。

 

 

「本日島田流家元様に偶然とはいえ御同席頂きました事は全くもって僥倖の極み、戦車道二大流派の家元様のお二人に大事なご報告をさせて頂きます。」

 

 

 何事かと問い質し掛けるしほと千代の前でラブは居ずまいを正すと、更に続ける。

 この瞬間事前に聞かされていたまほ達は、あの事かと微妙な表情になっていた。

 

 

「私厳島恋は、この春三笠女子学園への進学を機に母亜梨亜よりその座を引き継ぎ、厳島流家元を襲名致しました事を御報告申し上げます。西住流家元西住しほ様、並びに島田流家元島田千代様に於かれましては、何分若輩者故今後共ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げます」

 

 

 実に堂々たる口上ではあったがそれを聞いた瞬間しほと千代、更には亜美の三人は正座の姿勢そのま後ろにパタンと引っ繰り返った。

 

 

『まあそうなるわな……』

 

 

 笠女学園艦滞在時に直接ラブから聞かされていた一同と、みほから聞いていたエリカ、横須賀で偶然厳島親子と再会した際に聞いていた英子はそう心の中で呟く。

 

 

「ええとちよきち……」

 

「な~にしぽりん…?」

 

『ちよきち!しぽりん!?』

 

 

 引っ繰り返ったままうっかり学生時代のあだ名で呼び合う二人に驚く一同。

 

 

「なんか今、恋が厳島流の家元を襲名したって聞いた気がするけど気のせいかしら?」

 

「そうね、私も聞いた様な気がするわ」

 

 

 正座で引っ繰り返ったまま尚も心此処に在らずな会話を続ける二人。

 すると菊代が背後に回り込み二人を起き上がらせるとたて続けに背中に喝を入れた。

 

 

「ふんっ!せいっ!」

 

『ふぁ!?』

 

「お目覚めになりましたか?」

 

「あ?ああ、ありがとう菊代…」

 

「どう致しまして、っと蝶野様はと…あらま白目を剥いていらっしゃる」

 

「ああ、コイツは私がやりましょう」

 

 

 英子が菊代に代わり、亜美を起こすとその背中に鋭い一撃を打ち込んだ。

 

 

「哈!」

 

「ぐは!…って何すんのよこのイノシシ女!?」

 

「目ェ覚めたか?」

 

 

 そう言うと英子は周りを見る様亜美に視線で促す。

 

 

「…た、大変失礼致しました!」

 

 

 状況を飲み込んだ亜美は顔を赤らめ座布団の上で小さくなった。

 

 

「それでええと…そう厳島流……家元!あ、亜梨亜様!?」

 

 

 やっと我に返ったしほも口をパクパクしつつも、どうにか亜梨亜に事の次第を問い質そうとした。

 

 

「先程恋が申し上げた通りです。これは我が一門親族会議に於いて満場一致で決まりました故、お二人にもどうか御理解頂きたく思います。また、それに関してもう一点、是非お力添え願いたい事があるのですが宜しいでしょうか?」

 

「それは一体?」

 

 

 ここでどうにか家元の顔に戻ったしほが亜梨亜に尋ねる。

 

 

「来月より私共厳島流も連盟の家元会議に復帰致します──」

 

「ああ!亜梨亜様、そういう事でしたら私達にお任せ下さいませ」

 

 

 言い掛けた亜梨亜に対し打てば響くとばかりに、しほは亜梨亜の意図を察し胸を張り答えた。

 隣に座る千代もまたしほの後に続く。

 

 

「西住と島田、恋お嬢様の後ろ盾として全力で支えさせて頂きますので御安心下さいませ」

 

 

 二人の言葉に亜梨亜も安堵の表情を見せると礼を述べた。

 

 

「両家元の御配慮に感謝致します。是非宜しくお願い致します」

 

 

 しほと千代、二大流派とはいえ二人共家元としては充分に若く、それ故に苦労も多いので十代で家元となった恋に降り掛かる理不尽な苦難にも想像は難くは無かった。

 何しろ弱小流派とはいえ老害も数が集まればそれなりに厄介であり、しほと千代としても日頃の苦労を考えるとそんな渦中に恋を単身放り込む事など見過ごせる事では無かった。

 亜梨亜と恋の二人が改めて頭を提げると、今度は千代がしほに声を掛ける。

 その呼び掛けにしほが無言で頷き応え、厳島親子の前に歩み出て二人並んで跪くと、深々と頭を下げその額を畳に擦り付けるのだった。

 

 

「お二人共一体何を?」

 

 

 突然の事態に困惑する亜梨亜を余所に、まずしほが語り始める。

 

 

「この度の一連の騒動により、三笠女子学園の開校に際し多大なるご迷惑をお掛けしたとの事、深くお詫び申し上げます。更にパンターの件も聞くに及び、如何様な責めも覚悟しております故──」

 

「しほちゃん、千代ちゃんももしかしてその為だけに?」

 

『しほちゃん!千代ちゃん!?』

 

 

 突然のちゃん呼びにしほと千代はビクリと身を震わせると、飛び退り更に畳に頭を擦り付けた。

 

 

『お、お許し下さいませ夜叉姫様!』

 

「や、夜叉姫さまぁ!?」

 

 

 アンチョビが上げた素っ頓狂な疑問の声に、しほと千代が青い顔で代わる代わる説明を始めた。

 

 

「あ、亜梨亜様は高校時代、黒森峰の夜叉姫と呼ばれ恐れられていたのです……」

 

「特に私達が高校に進学した年には、夜叉姫様は隊長として全高校戦車道履修者から尊敬と畏怖の念を集めておられたのです……」

 

「また古い話を、それにいくらなんでも話が大袈裟ですよ」

 

 

 穏やかな微苦笑を浮かべつつ亜梨亜は言うが、二人は青い顔のまま続けた。

 

 

「全国から隊長格を集めた合同訓練合宿の時など、余りの厳しさに逃げ出す者が多数出ました…」

 

「私達も辛くて辛くて毎夜枕を涙で濡らしたものです……」

 

「鬼ババアの目にも涙…」

 

「何か言いましたか、まほ?」

 

「いえ別に……」

 

 

 ぼそっと呟いたまほに対し鋭い視線を向けたしほだが、まほはソッポを向いてとぼける。

 

 

『コイツ反省してねぇ……』

 

 

 お仕置きに参加した者達がまほをジト目で見る中、亜梨亜が二人に向け声を掛けた。

 

 

「まあそれはともかく当校の問題の責任は文科省にあり、決してあなた達の責任ではありませんよ。ただ…あの様な事に娘達を巻き込むのは如何なものかとは思いました。あなた達の世代はあの頃、流派同士の対立には無縁であったはずなのに…いつの間にか上の世代のいがみ合いの波に飲まれてしまった様ですね…これは嘗ての私の指導力が足りなかったという事でしょうか……」

 

 

 少々落胆した様な表情になった亜梨亜に対ししほと千代は慌てて弁明を始める。

 

 

「い、いえ!決してそのような事は御座いません!」

 

「全ては私達の不徳の致す処で御座います!」

 

「ともかくこの問題に関しお二人が気に病む必要ありませんのでこの話はここまでという事で。でもお気遣い頂き感謝致します」

 

 

 亜梨亜も二人に対し礼を述べると、手を取りその頭を上げさせるのだった。

 

 

「ありがとう…しほちゃん、千代ちゃん」

 

『亜梨亜様!』

 

 

 二人を抱き締めた亜梨亜にしほと千代も感極まって涙ぐんだ。

 その後三人の気持ちが落ち着いた頃合いを見計らった菊代が控えめながら声を掛けた。

 

 

「奥様そろそろお時間の方も宜しいかと」

 

「あ、ああそうね、お願い出来ますか?」

 

「畏まりました」

 

 

 控えていた菊代の呼び掛けにしほが応えると、菊代は座敷から下がって行く。

 暫しの時間の後、菊代を始め数人の使用人により座敷に重ねた膳が運び込まれる。

 

 

「正式な亜梨亜様と恋の帰還祝いの席は、今宵主人が戻ってからと致しますが、細やかながら昼の膳を御用意致しましたのでどうかお召し上がり下さい」

 

 

 細やかとは言いながらもさすがは西住家、贅を尽くした品々が膳の上には並んでいる。

 それから暫くの間は用意された膳を頂きつつ、他愛のない話で盛り上がりながら和やかな時間が過ぎて行くのであっ