この素晴らしい世界にアンサンブルを! (青年T)
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番外編
サキュバス・メリークリスマス


 けっこう前に出したけどその後出ずっぱりだったのでもう一回掲載するオリ設定。

・『黒猫の尻尾』
 サキュバス達が営む風俗店。店自体は原作にもあったが店名は出なかった。


 しんしんと雪の降る冬のある日。

 

「あ゛あ゛・・・・クリスマスとか馬鹿らしい・・・・・・」

 

 『黒猫の尻尾』にて、サキュバス達はやたらと嫌悪に満ちた声を漏らしていた。

 

 ―――何かあるんですか?

「・・・あ、サトシさん。いやね?この時期って、そっちの世界では聖人の誕生を祝う祭りがあるらしいじゃないですか。私達悪魔にとってそういうのは・・・ねぇ?」

 ―――ああ、そういう・・・・

 

 この世界でも、この時期にクリスマスは存在する。

 案の定というべきか、日本から来た昔の転生者がこっちでも広めたものらしい。大本の宗教がこっちで信仰されてない以上、そこまで熱心に祝っていた訳ではないのだろう。何かの折に話の種にし、紆余曲折を経て今も市民権を持つ具合になった、といった具合か。

 しかし、クリスマスは聖人の誕生日。悪魔にとっては決して良い日ではないだろう。彼女達が女子力の低い顔でうだっているのも転生者って奴の仕業なんだ。

 

 ・・・そういえば、こっちにクリスマスはどんな風に伝わっているのだろうか。ひょっとしたら変な伝わり方をしているかもしれない。

 

「こっちでのクリスマスの過ごし方?そりゃあ、プレゼントを親しい人と送りあって、ケーキを食べたり、神に祈りを捧げる日ね。そっちだとどんな神に祈ってるのかは知らないけど、こっちではエリス神に祈る人間が多いわ。まったくやんなっちゃう」

「真面目」

 

 今の日本では、そこまで熱心にクリスマスを祝うのは少数派だろう。俺からすれば、現代日本のクリスマスはサンタのキャラクターやコスプレが街やゲームに溢れかえり、家族ですごすならケーキや七面鳥を食べ、カップルが結ばれたり結ばれなかったりし、時に一線を超える日といっても過言ではないと思う。

 

 そんな事をサキュバス達に話すと、彼女達の目に少しずつ元気が戻り始めた。

 

「聖人をモチーフにしたミニスカート・・・・新しい、惹かれるわね」「そんな日に悪魔が活動するってのも()()な気がしてきたね」「そんな風に祭日を過ごすとは・・・・やはりニホンは魔境・・・・」

 

 そして彼女達は話し合いを始めたが、その結論が出たのはその僅か数分後だった。

 

「話し合った結果、今年のクリスマスは当店でもキャンペーンをすることになりました。それで、そのための衣装の制作をあなたに依頼したいのですが・・・よろしいでしょうか?」

「・・・どんな衣装?」

「あたしは話に出てきたミニスカサンタってので!」「私はブラックサンタにしてみようかしら」「それじゃあ私は・・・変化球でレオタードに」

 ―――多い多い。とりあえずメモにでも書いてくれ。

 

 メモに注文を書いた―――あるいは描いた者から、その寸法を計測する。しかし・・・皆大胆な衣装を注文してるなぁ・・・・これ作るの俺だぞ?依頼人が依頼人だから他の人に委託する訳にもいかない。精密性は第二形態で底上げするとして、デザインは・・・鋼の精神で作るか・・・・・・

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 切る。

 切る。

 切る。

 眼前の赤を切る。

 針が突き立てられ、赤を貫く。

 

 混ぜる。

 混ぜる。

 混ぜる。

 溶け合う様に、色が混ざる。

 混ざりあった色が、次第に赤色へと変化する。

 

「サトシ何やってるんだ?」

 ―――あっ和真。聞かないで・・・

 

 皆布面積少ない・・・少ない・・・・・・さっきまで本当に何も考えずに図面に従い続けてた。

 

「服か?これは・・・・・・あれ、リボン?」

「今年のクリスマス、サキュバス達が」

「あの店か。ひょっとしてクリスマスプレゼント?悪魔がクリスマスを祝うとはちょっと思えないんだが・・・しかしいやに長いな。これだとプレゼントより人間を巻くのに使いそうな・・・・え、もしかしてそういう?」

 ―――そこにあるのも含めて全部な。

「はえー・・・・・・そういえば、こっちにもクリスマス自体は伝わってるみたいだけど、こんなサンタコス・・・らしき服装はこっちで見たことないな」

「今の日本のクリスマスをサキュバス達に伝えたら、こんな企画が」

「お前の入れ知恵かこれ!?」

 

 和真がそう叫ぶと、完成している奴からいくつかを確認しだした。サキュバス向けのエロいサンタコスを無言で確認している。ちなみに、これらの衣装は全てサイズ調整と防寒の効果を少々持っている。寸法とかに不備があっても安心!

 和真が四着目――――ブラックサンタ風のコスチュームの確認を終えると、こちらを向いた。

 

 ―――良い仕事してるなお前!

 ―――アイデアはサキュバス達なんだけどな!

 

 和真(むっつりスケベ)に目線で褒められた。嬉しい。

 

 ・・・さて、気が付けばもう昼だ。そろそろお腹が減ってきたし、ちょうど一着作り終わったところだから切りもいい。昼ご飯を食べたら、店に行って完成分を確認してもらうとしよう。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「サトシさんじゃないですか。衣装の制作はもう終わったんですか?」

「途中経過」

「ふーん・・・私をおいて先輩とまだまだヨロシクやる予定ですか。そうですか・・・ふぅーん・・・・・・」

 

 ヤバい。サリスがお(かんむり)だ。

 サリスとは別に、裁縫の得意なサキュバスがいたので今回は彼女と合体していたのだが、どうやらそれが気に入らないらしい。

 

「あら、私が頼んだ衣装は完成しているのですね。それじゃあ私は試着してきますね」「じゃああたしもー」

 ―――サリスの分も出来てる。

「あ、そうなんですか。じゃあ私も・・・」

 

 サリスを含めた三人が箱から衣装を取り出し、奥で着替え始める。三人以外にも衣装は用意できたのだが、ちょうど今が休憩時間なのは彼女達だけらしい。

 

「依頼通りの衣装ですね・・・」「これ可愛い!お客さんも喜びそう!」「その・・・・ど、どう、でしょうか・・・?」

 

 先に出てきた方から順に、白いモコモコしたコートと動きやすそうな赤いホットパンツにトップス、肩を出している以外はオーソドックスな赤のサンタコス(当然、ミニスカート)、下着程度の面積のカラフルな衣装とそこに巻くリボンだ。

 どうやら衣装にかけたサイズ調整の魔法は機能しているらしい。サイズについては若干不安だったが、これなら大丈夫か。

 

「可愛い」

「まあ、いつもの衣装の方が露出は多いんですけどね」

「でもいっつもあれだとマンネリ化しそうじゃん?たまにはこういう格好もありでしょ!・・・・あ、サリスちゃんはむしろリボンが別方向のエロさになってるけど」

「えへへ・・・これなら今年のクリスマスは活躍できそうです」

 

 露出が減ったのは残念と思われるかもしれないが、この衣装ならそれを(おぎな)える可愛らしさを演出できるだろう。

 

「これから残りの衣装を作る・・・何かある?」

「ああ、ちょっと依頼のメモ貸して下さい・・・・この人の衣装の手袋、指抜きにしたらいいかって迷ってましたね。他は特に何も」

「じゃあこれ、二組作る」

 

 露出度の高い奴はキツいから意識的に後の方に回してたけどな!

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「サトシー、そろそろ晩飯・・・・って、すごいグロッキーなことになってんなお前・・・大丈夫か?」

「食べる・・・・」

 

 今夜の晩ご飯はわりと質素なメニューだ。パンとサラダにスープだけで、お金を使わないようなメニューだと感じる。この時期にお金を貯める理由というと・・・クリスマスか?

 それを皆が考えたのか、今夜の料理当番のめぐみんを含めた全員が食事に関する話をしていない。

 

「・・・そういえば、今日はサトシさんてばずっと部屋にいたわよね。何してたの?」

 

 ゲエーッ!どんな風に説明すればいいんだあれを!

 

「何かしらの生産依頼ではないか・・・・・って、そのサトシの表情がすごいことになってるな」

「怪しいですね・・・・何かよからぬ品物でも作っていたのではないですか?」

「でも聖は口が堅いからな・・・依頼されれば人に言い辛い物でも作りそう」

 

 アクアに続きめぐみん、ダクネスも俺を(いぶか)しむような目でみてきたが、和真のフォローにとりあえずは納得した。これで納得されるのをどう考えればいいのか判断に困るが。

 

 延々と服を縫ったり錬成したりし続けたおかげで、頑張れば今日中に衣装の制作が終わりそうな具合だ。それを抜きにしても、実質苦行のようなエロコス制作をここまで数時間に渡って続けてきたのだから、なるべく早めに仕事を終わらせたいのもある。

 

 

 

 食べ終わってから、俺は部屋に戻って衣装制作のラストスパートをかけようとしていた・・・・・・のだが、廊下の角に隠れて俺の様子を窺う影がいる。それはまぎれもない、アクアだ。

 俺が作っている衣装を見られれば、彼女に何を言われるか想像できない。しかし、これがサキュバスからの依頼だと彼女が知ったなら、彼女は決していい顔をしないだろう。

 とりあえず部屋に入ったら施錠をし、無断で部屋に入らないように無言で念押しする。彼女に鍵開け等の技術はない筈なので、作業中のこの部屋に押し入るというのは難しいだろう。

 後は俺が寝た後の衣装の管理だが・・・しょうがない。今夜は俺がこの部屋で寝るか。一応毛布は置いてあるし、一晩だけなら何も問題は・・・

 

 ガチャッ!

「上手く開けられたわ!私のピッキングも大したもの・・・ね・・・・・・」

 

 ピッキングしてまで部屋に入ってきたアクアの目線の先には、俺の手の中の物――――作りかけのサンタコス、それもレオタード仕様の、言い逃れようのないエロ仕様のものに向けられていた。

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「これは、依頼に基づいた製作品であり、俺自身の猥褻(わいせつ)目的は一切ない」

「え、えっと」「一切ない」「・・・・・」

「い い ね ?」

「あっうん」

 

 こうして、俺の社会的地位は守られた。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「「「「いらっしゃいませー」」」」

「お、おう・・・今日は衣装が普段と違うな・・・・イメチェンか?」

「せっかくですから、今年は試験的にクリスマスシーズン専用の衣装も導入してみたんです・・・・どうです?似合いますか?」

「お、おう!これもなかなかいいじゃねえか!今日はその衣装でやってもらおうかな・・・」

 

 衣装を納品してから数日後、『黒猫の尻尾』は新サービスで賑わっていた。

 元々行列を作るタイプの店ではなかったし、今もぱっと見ただけでは変化が分かり辛いが、長時間観察していれば普段より客の回転率が高いと分かる。

 

「まさかクリスマスだというのにこんなに客が来るなんて・・・以前は想像もしてませんでした」

 

 この時期は家で神に祈りを捧げたりして過ごす者もそこそこいるらしいが、ここで軽食だけ食べていく者もちらほらといる。おそらく彼らは一緒にクリスマスを過ごす家族がいて、今夜はその人と過ごすのだろう。

 

「よかったら、あなたも何か頼んでいきますか?サービスしますよ」

「それじゃあ・・・」

 

 メリークリスマス。



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異世界に再臨する龍

 ハロウィン記念短編。こんなサブタイだけどハロウィンを意識しました。した筈だったんです(明らかに添え物レベルのハロウィン要素)


 本来なら誰もが寝静まる夜半、アクセルの街を一体の龍が闊歩する。

 

 (いびつ)な姿をした黒い龍は口から雄叫びをあげ、無数の死霊を引き連れながら一歩一歩、己の威容を見せつけるかのように気ままに歩く。

 

 街の住民は我先にと逃げているが、逃げ遅れた者は物や建物の陰でじっと息を潜めている。龍はそういった者達に興味を示さないが、その様子を冒険者ギルド所属の盗賊達が密かに観察している。

 

 俺────天光(あまみ)(さとし)はそれを呆然と見つめていた。

 

 ────この光景を作り出した原因の一つとして。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 事はまず一週間前に(さかのぼ)る。

 とある農場を狙う盗賊を捕縛するために、俺を含めた十人ほどの冒険者が動員されたクエストがあったのだ。ちなみに和真達は別行動。

 単純に防衛用の小型ゴーレムを数体配備して適宜(てきぎ)動かしていれば、まあ達成できる依頼だったのだが、日本ならそろそろハロウィンが行われているかという気候だった事、今後の事を考えると他の賊に対しても威圧できるような結果が欲しいと依頼主が漏らした事、後は最近無性に誰かを甘やかしたい気分だった事・・・それらの事を考えた結果、俺はあるモノを造る事にしたのだ。

 

「こ、これは・・・・・・!?」「ドラゴン・・・・か?」「鱗とかかなり本物っぽいぞ・・・」

 

 かつて、君咲学院における文化祭で校内に現れ、演劇部の本気を知らしめた超大型舞台装置『ヘルドラゴン(正式名称:ヘルプマンドラゴン)』・・・あれを造るのに主体となった演劇部の少女、遠見(とおみ)ちかはこの世界にはいないが、足りない技術力をゴーレム作成技術で補う事で高い完成度を実現したのだ。それでも随所の品質が本家ヘルドラゴンに劣るが・・・

 よし、これの名前は『レッサー・ヘルドラゴン』だ。より本物に近い外見にできるまでは劣った(レッサー)ヘルドラゴンだが、いつの日か真のヘルドラゴンに至れる時が来ると信じて・・・・・・! 

 

 そんな調子で始まった防衛クエストだったが、思った以上にあっさり片付いてしまった。

 夜、周囲の警戒に俺も当たっていた時間、近くの森の中から何かが動く気配がした。

 俺は召喚魔法の応用で、屋内に押し込んで隠していたレッサー・ヘルドラゴンをその場に瞬間移動させ、その背部から搭乗する。レッサー・ヘルドラゴンに付けた暗視機能を使用するためだ。

 そうして見えた先には・・・・盗賊らしき男達、ざっと十人とちょっとがこちらを見て、一様に怯えている姿だった。しかし怯えているとは言っても、足を竦ませている者、少し刺激すれば爆発してしまいそうな者、あるいは後ろの仲間を守ろうと震える手で武器を構える者など、その様子は多彩だが、これでは全員を一網打尽にするのは難しそうだ。

 

「お、お前達は・・・・逃げろ。俺達が時間を稼ぐ」

「あ、兄貴・・・! でもそれだと・・・・っ!」

「・・・・・・気にするな。こんな生き方を決めた時から、まともな死に方なんて期待してないさ」

 

 ───こいつら・・・・

 

 本家より黒めの鱗を持つレッサー・ヘルドラゴンは、この夜闇の中では十分本物らしく見えるのか。あるいはアングルの加減で、俺がドラゴンに変貌したようにでも見えたのかもしれない。

 彼らの仲間意識に関心したが、俺はある手段を思いつく。俺は盗賊達────特に逃げ出しそうな者の足元からゴーレムの腕を作り出し、彼らを捕縛していった。

 

「うわああぁぁぁぁっ!!な、何だこれ・・・・っ!」「す、凄い力だ・・・っ!」「ま、まさかあのドラゴンが・・・!?」

 

 武器を構えている者達の捕縛は最後になったが、彼らは一様に無抵抗で捕縛されていった。その顔には諦めの表情が浮かんでおり、抵抗しなかった理由は何となく察しはついた。

 彼らの仲間意識の高さや口振りを考えると、何か大変な事情が彼らにはあるのかもしれない。しかし彼らだけに生活がある訳ではない以上、今回は俺達を頼って依頼を出したこの農場の主を優先する。詳しい話は刑務所でするのだろうが、その時には俺も話を聞きたいな。

 俺は彼らに対しスリープの魔法を使い、依頼主に報告に向かった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 その後で他の盗賊が現れるような事もなく、クエストを達成した報酬を分配しそれぞれ帰路につく。レッサー・ヘルドラゴンの持ち運びには困る・・・事もなく、屋敷に着いて召喚するまでは農場に置かせてもらえる事になった。

 

「・・・・何というか、今回は分かりやすくチートって感じだな」

 ───和真、()ねてる? 

「拗ねてない」

 

 拗ねてないらしい。そういう事にしておこう。

 

「これは・・・・すごい出来ですね・・・爆裂魔法の的にしてもいいでしょうか?」

 ───いや何で!? 

「これを破壊した暁には、私は黒龍を破壊せし大魔法使いとして家族に自慢できると思うのです。既に私はデストロイヤーやバニルなどの超大物を倒していますが、ドラゴンについては実物と戦うあてが無いのです・・・見つけさえすれば、我が爆裂魔法が負けるはずは無いのですが」

 

 めぐみんには根気よく説得をし、これの出来栄えに俺がまだ納得していない事、更に完成度の高いヘルドラゴンが誕生した暁には爆裂魔法を向けてもいいと理解してもらえた。

 

「物語などでは、こういった龍は姫を攫ったりするのが定番ではあるが・・・ま、まさか私を連れ去って、あ、あんな事や、こんな事までさせるつもりなのか!?」

 ───お前は何を言っているんだ。

 

 ダクネスは・・・うん・・・・・・

 

「大きいわねー・・・・炎とか吐いたりするの?」

「中から魔法を使えば」

「あー、こっちにはガスバーナーとか無いわよね・・・」

 

 アクアに聞かれたが、現状ではヘルドラゴンの機能は移動なども含め魔法に頼りきりだ。元祖ヘルドラゴンは多数のレバーだけで操縦していたが、これは魔力で動くようになっている。一応、誰の魔力でも動かせるような作りにはしているが、ゴーレム操作の知識が無いと使えない機能もいくつかある。こんな世界だからと戦闘用の機能もいくつかあるが・・・和真が運用できるくらいが望ましいか。

 

 ともあれ、変なテンションで造りあげてしまった一品だ。二代目ヘルドラゴンになれる日まで、屋敷の物置にでも閉まっておこう。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 そう。そうだ。ちゃんとレッサー・ヘルドラゴンは物置に入れ、鍵も掛けた筈だ。

 だがしかし、実際にあれは物置を抜け出し、夜のアクセルを闊歩している。

 明らかに異常な事態だ。あれはそもそも厳密には装備の一種であり、あれ単体で動く筈がないのだ。

 怪しいのは同じ屋敷に住み、鍵を置いている場所も把握している仲間達という事になるが、彼らは俺が起きた時────物置の方から何かが崩れるような音がした時に全員姿を見ている。彼らではありえない。

 

「・・・もしかしたらあの子かも。この家に住み着いてる幽霊の女の子」

「ああ、アンナちゃんだっけ?あそこのお墓に名前の刻まれてる。あれってお前の作り話じゃなかったのか」

 

 和真のその言葉を聞いて怒り心頭、といった様子になるアクア。俺はその時はアクセルにいなかったが、屋敷に入り込んだ浮遊霊が人形に取り憑いた事があったらしい。あのレッサー・ヘルドラゴンに憑依して動かすのも十分あり得る話か。

 

「だが、あれはちゃんと動かせているのか?私には、動かし方がよく分かってなさそうに見えるのだが」

「そういえば、出てきた直後はふらふらした足取りでしたね・・・」

 

 ダクネスとめぐみんの言う通り、あれは先日のクエストで使った時ほどの性能を発揮できていない。歩き方はそれなりにさまになって来ているが、唐突に雄叫びを上げ、尻尾を振り回す姿は正に初心者だ。あの調子だと何かしら事故を起こしそうな・・・・

 

「ちょっ、火!火ィ吹いてるぞ!あの機能いるのかよ!?」

 ───戦闘も想定しているからいる・・・でもうっかり出してみてビビったっぽいな。動きが急に小さくなった。

 

 流石に俺達が対処するべきか・・・と考えた時、盗賊の投げたダガーがレッサー・ヘルドラゴンの喉に刺さった。あの場所なら、首から上の機能は停止したと見ていいだろう。

 だが、頭部にしか攻撃能力が無いようなへなちょこドラゴンではない。

 

「っ!? 首が・・・・・取れた!?」

 

 ダガーを投げた盗賊が驚愕の声を上げる。レッサー・ヘルドラゴンは機能停止したパーツを切り離す事で、ボディの軽量化をすることができるのだ。バランスの急激な変化についてはまだ未対応だが・・・・

 

「・・・・・・あ、アンナちゃん、逃げ出したわ」

 ───俺にも何かの霊が屋敷に飛んでいくのが見えた。女の子かは分からないけど。

 

 とりあえず、動かなくなったレッサー・ヘルドラゴンを回収するために駆け寄ると、さっきの盗賊の姿がはっきりと見えた。

 

「・・・あれ?ダクネス久しぶり・・・お仲間さんも一緒か・・・・ところで、何でこのタイミングで出てきたのかな?」

 

 その盗賊はクリスだった。以前、ダクネスとパーティーを組んでいた少女であり和真に《窃盗》などのスキルを教えた人だ。

 

「俺が造ったものに、幽霊が取り憑いたから」

「え?造ったって・・・・・・あっ、これ作り物か!暗いから微妙に判別し辛いのもあるけど、こんなの造る人がいるなんて思いつかないから気づかなかった・・・これは負けたわ・・・・・・」

 

 どうやら俺のレッサー・ヘルドラゴンはこんなところでも通用したらしい。肝心の俺がまだ完成度に納得できていないが、この際しばらくは戦闘能力を高める方に尽力しようか・・・・

 

「・・・・ところで、これがあなたの造った物っていうのなら、幽霊が出る場所に放置したって事で管理責任を問われる可能性もあるね。街に大きな被害とかは出てないけど、早いうちに迷惑料とか払っておいた方がいいんじゃない?」

 

 ああ、そっかぁ・・・・・・

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 翌日、俺は先日のクエストの報酬を手に、レッサー・ヘルドラゴン(inアンナちゃん)が歩いた辺りとギルドを回り、迷惑料とついでにお菓子を配って歩いた。ゴーレムの技術を利用して自動化に成功した金平糖だ! なお、魔力の消費が地味に大きいため滅多に動かさない設備である。

 

「そういや、地球だったら秋はハロウィンだよな」

 

 一通り回り終え、レッサー・ヘルドラゴンを掃除しているところに和真が呟いた。お菓子を配る行為がハロウィンを連想させたか。まあ俺もハロウィンを意識してお菓子を添えたんだが。

 

「こっちの世界にはハロウィンの風習が無いのよねー・・・日本人もこの世界でハロウィンを広めるのはやらなかったみたいなのよね」

 

 この世界に多数の日本人を転生させていた女神、アクアはそう語る。

 

 ───今の日本ではコスプレするイベントみたいになってるけどな。

「街で一人だけ奇抜な恰好してても痛い奴扱いされるだけだからねー」

「思った以上に現実的な理由だった・・・」

「でもアルカンレティアなら何も問題ないわ! 何なら最近はアクシズ教の新しい祭りとして徐々に普及しつつあるし!」

 

 アクシズ教徒はハロウィンをどんな奇祭に変えるつもりだろうか。その思いはどうやら和真にもあるらしい。

 

 ───来年のこの時期は、アルカンレティアにも行ってみるか・・・・?

 

 そんな事を考えていると、アクアがレッサー・ヘルドラゴンを乗せた台車をアンナちゃんのお墓の所まで引いていき・・・お墓の上に龍を降ろした。

 

「今回はアンナちゃんのせいで迷惑かけられたから、ちょっとお墓を踏むくらい問題ないわよ!むしろ反省してもらわなきゃ!」

 ───それでいいのか・・・?

 

 見知らぬ少女が、苦い顔をしてお墓を見つめている気がした。



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もしもこのすば世界に転生したのがあの園芸部部長だったら

 番外編。ベースとなる世界は当作本編でなく書籍版準拠の世界です。つまりこの世界線では天光聖くんは転生してません。


 彼――――佐藤(さとう)和真(かずま)はこう語る。

 

 ―――もしあの時、あの場所で()()に声をかけなかったのなら、自分の冒険者生活はもっと穏当なものになっていただろう、と・・・

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 最初に彼女と出会ったのは、彼らがジャイアントトード討伐のクエストを終えた翌日だった。

 和真、アクア、めぐみんの三人パーティーがギルドに来ると、受付では一人の少女が半泣きになっていた。

 

「うう・・・ギルドに登録するのにお金が必要だなんて聞いてないよ・・・・・・やっぱり異世界なんて来るべきじゃなかったのかなぁ・・・?」

 

 和真には、彼女が地球から来た転生者だと直ぐにわかった。

 髪の色こそ緑がかって日本人らしさは無いが、彼女の着ているセーラー服はおそらく日本のものだ。彼女がぼやている内容も、彼女かこの世界の人間でない事を匂わせる。

 

「おいアクア、あいつがギルドに登録する金を俺達が貸してやって、俺達のパーティーに入ってもらうってのはどうだ?」

「はあ?仲間を増やすのはともかく、なんであの子の登録費用を私達が出さないといけないのよ?」

「俺達も親切なプリーストの爺さんに金出してもらってたろ・・・服装や言動からして、多分あの子は俺達と同じ転生者だ。強そうな装備は見えないから能力を貰ったんだな。仲間になってくれれば心強い戦力になるだろ?」

「ああ、そういう事!多分転生させたのは私をこんな所に送ったあの天使ね。あの子が妙な失敗してないかも気になるし、そうしましょう!」

 

 和真達の懐には、先日のクエスト報酬がまだ残っている。初期装備の費用も含めて1500エリスもあれば大丈夫か。

 和真とアクアは、めぐみんにテーブルで待っていてもらうよう頼み、その少女を仲間にするべく彼女の元へ向かった。

 

「さっきから見てたけど、あんたも、登録しようとして金が無いのか?」

「は、はい・・・あれ、あんた『も』って、ひょっとしてあなたも・・・?」

「ああ、ところで・・・ちょっと聞きたいんだが、そのセーラー服、ひょっとして日本製か?」

 

 その瞬間、彼女の顔に驚きが浮かんだ。

 今の和真は安物のショートソードを背負ったジャージ男だが、彼女はそのジャージを日本と結び付けられるほど冷静でなかったのか、あるいはこの世界の文化レベルがまだ計りきれていないのか。

 

「ひょっとして、あなたも日本人なんですか!?」

「ああそうだ・・・って、そんな言い方するって事は・・・・・・まあ、若いんだしな、ちょっと髪染めるくらいするか」

「地毛です!」

 

 えっ、と声を漏らす和真。一方アクアは何かを察した表情になる。

 

「・・・まあ、髪の話は置いといて、あんたがギルドに登録する分の金を俺達が出してやるから、俺達のパーティーに入ってくれないか、って思ってさ・・・ああ、別に変な事しようって訳じゃない。実は俺達、まだこっちに来たばっかでさ、まだパーティーに三人しかいないんだ。出来ればあと一人か二人欲しいところだったから声をかけたんだ。何ならあんたが正式に入るパーティーを決めるまで、って事でもいいが・・・どうだ?」

 

 和真が少女にそう言うと、彼女は少しの間思案し、

 

「・・・えっと、それじゃあお言葉に甘えさせて頂きます」

「決まりだな。俺は佐藤(さとう)和真(かずま)。こっちが・・・」

「私はアクア。この世界に百万の信者を持つアクシズ教の主神、女神アクアよ!」

 

 アクアのその言葉に、少女は思わず閉口する。

 

「まあその、なんだ。お前がこっちの世界に転生する時、手続きをしてくれた・・・神だか天使だかがいなかったか?俺はそいつを転生特典に選んだんだが、それで来たのが・・・」「・・・この人なんですね」

「ちょっとー!二人とも何よその目はー!」

 

 怒ったアクアを無視して和真は話を進める。

 

「で、向こうにいるのがこっちの世界の仲間なんだが・・・本人に名乗ってもらうか」

 

 そしてめぐみんの待つテーブルに少女を連れて行った。

 

「おや、私達のパーティーに入るのですか。カズマの話術がどれほどのものか不安でしたが・・・ならば名乗らせていただきましょう!我が名はめぐみん!紅魔族随一の爆裂魔法の使い手!そして、やがて魔王を打ち倒す者!」

 

 ドォーン!とでも効果音が聞こえてきそうな程の堂々とした紅魔族式の名乗り。それを見た少女は当然ながら絶句していた。

 

「・・・・・・紅魔族っていうのは、魔法に特化した民族らしい。こいつの名前とか名乗りとかも、紅魔族の里では珍しいものじゃない・・・らしい・・・・・・」

 

 和真のフォローは少女の耳に入っているのかいないのか。現実に戻った少女は覚悟を決めた顔をする。

 

「・・・うん、黒森(くろもり)先輩もあんな言動だけど悪い人じゃなかったし、何とかなる筈・・・・・・ええと、私は砂賀(すなが)みどりっていいます。よ、よろしくお願いします・・・!」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 彼女は冒険者カードの作成時に多大な魔力や《精霊認識》という超レアなスキルが確認された。

 これは読んで字の如く、一部の職業の者達が使役(しえき)する精霊を認識し、それらと交流する事が可能になるスキルである。後天的に習得するのが非常に困難であり、冒険者の和真が後日、習得に必要なスキルポイントを確認したところ40以上ものポイントを要求された(冒険者でそのポイントなら、必死の努力を一年も続けずとも自力習得できる可能性は高いが)程だ。

 そんなスキルを持ったみどりが選んだ職業はドルイド。森と共に戦う職業とも称されるドルイドは、植物や土の精霊の扱いに特化しており、ウィザードと盗賊の相の子のような役割を持っている。

 

 そんなみどりをパーティーに勧誘した和真だが、彼女の()()を知るのはその翌日であった。

 酒場で知り合った盗賊のクリスから盗賊のスキルをいくつか教わり、驚くべき卑劣な手段で(盗んだパンツで有り金を毟り取って)クリスとの勝負に勝った和真だが、その直後に緊急クエストが発令。みどり共々困惑しながら正門まで行くと、飛来するキャベツを収穫(ほかく)するクエストに参加する事となった。

 そのクエストで彼女は、

 

「離して和真くん!私はあの子達を救わなきゃダメなの!静かな場所で一生を終えたがってるあの子達を、よく収穫しようなんて思えるね!?ああ・・・あの子達の悲しそうな声が聞こえる・・・」

「落ち着け!あいつらは野菜だ!収穫物だ!俺達が食べるために育てたんだから、俺達が食べるのが筋っともんだろ!多少嫌がっててもこれはあいつらのためなんだ!だからせめて落ち着けって!」

「でも・・・でも・・・ううう!!」

 

 キャベツ達を解放しようとして和真に止められていた。

 最初の内はめぐみんも手伝っていたが、キャベツに釣られてやって来たモンスター達を爆裂魔法で一掃した後、彼女は指一つ動かせない状態になってしまい、今は和真一人で彼女を羽交い絞めにしている。

 

「『スリープ』」

「こんな・・・狭い・・・檻はダメ・・・・・・」

 

 見かねた通りすがりのウィザードの男が唱えた呪文により、彼女は糸が切れた様に眠りに落ちた。

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

「まあ、なんだ。色々辛いだろうけど頑張れよ。うん」

「お、おう・・・分かった・・・」

 

 彼の同情の言葉を受け、和真も将来が不安になった。

 この際彼女を受け入れるパーティーが何処かにいないか、と考える和真。ちなみにこんな事を考えるのはみどりが三人目である。一緒にいた時間の都合で一人だけ回数が突出してはいるが。

 

「・・・うーん・・・世界を・・・・緑に・・・・」

 

 何かの秘密結社めいた寝言を漏らすみどりを見て、和真は改めて彼女の引き取り先を考えた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 彼女を押し付ける先が見つからないまま時は流れ、様々な出会いや事件があった。

 

 みどりが和真を農業の道へ誘ったり(地球準拠の動かない野菜を作る事から始めたいらしい)―――

 未知の植物系モンスターを発生させたり(繁殖力は高いが危険性はさほど無い。意図的に発生させた訳ではない、と犯人の砂賀みどりは念入りに主張)―――

 アクセルにやって来たデュラハンが、みどりを魔王軍へスカウトしようとしたり(強化モンスター開発局は優秀な人材を募集しているらしい)―――

 アクセルに機動要塞デストロイヤーが接近した時、みどりは先日購入した屋敷で育てている様々な植物達のために立ち上がった(魔道具やポーションの材料として収入源にもなる、と当人は主張)。

 紅魔族随一の天才(ぼっち)にサボテンとの高度なコミュニケーションの取り方を伝授したり―――

 砂賀みどりは多くの事件でその中心にあり、騒動の中で着実に力を付けていった。

 

「うう~・・・何でこんな風になっちゃったのかなぁ・・・?私はもっと普通の冒険者らしい事とかしながら、街に緑を増やしたいだけなのに・・・」

「緑を増やそうとしてるのが何よりの原因だろ!ぶっちゃけお前がいなかったら・・・というか植林にこだわらなかったら、俺はもうちょい普通の冒険者ライフが送れてたと思うんだが!?」

「植林ばっかじゃないもん!建物の陰に(こけ)を敷しいたりとかもしてるもん!」

「どこまで念入りなんだお前は!そんなんだからお前を引き取るパーティーがいつになってもいないんだろ!頭のおかしい植林女、って言ったらこの街じゃ皆知ってるぞ・・・」

 

 そんな喧嘩をしばしばする和真とみどり。

 彼らを見て、アクアがぽつりと漏らす。

 

「和真はああ言ってるけど、なんだかんだ言って和真が一番あの子の事を気にしてるわよね」

 

 それを聞いためぐみんもぽつりと、

 

「・・・これは強敵ですかね・・・・・・」

 

 傍から見れば迷惑さ加減は五十歩百歩なのだが、少女は妙な対抗心を抱いた。

 

 彼女達の冒険がどのような結末を迎えるのか、それは誰にも分からない。




 後半がダイジェストになってしまった。でもダイジェストの内容を全部書こうと思ったら番外編なのに無駄に大作になってしまいそうで・・・
 次やるならもっと一つのイベントに集中するべきなんでしょうか?


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もしもこのすば世界に転生したのが『王さまになれなかった男』だったら

 5000UA記念にね?最初は君咲学院の娘達がDDDに行くのを書こうと思ってたんですよ?そしたら別の方のが筆が進みましてね?結果こうなったんですよ?
 ちなみにこちらは執筆内容的に、世界が原作でも当作でも関係ない内容ですね。もしも次話を書くのならその時ははっきり決めますが。


 彼――――月永(つきなが)レオは、自分が見知らぬ場所にいるのに気づき辺りを見回した。

 

「あら、ここどこ!?誰かの事務室か何か?宇宙人にアブダクションされたとか?でも宇宙っぽい部屋じゃないしな・・・」

「・・・あの」「ああちょっと待って!いま妄想の世界に翼を羽ばたかせてるから!あっそうだ、メモとっとかないと!『寝起き』の発想力で素晴らしい曲が書けそう!霊感(インスピレーション)はいつ降りてくるか分かんないしな!ええと、ネタ帳は・・・・・・あっれ、荷物がない!何もないな!こんな事前にもあったぞ!確かあれは・・・そうだ、あんずと初めて会った時か!あの時はあんずにメモ帳を貸してもらったんだったな・・・・そういえば、あんた誰?」

「あ、やっと話ができそう・・・私は女神アクア。月永(つきなが)レオさん、あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなた方の人生は終わってしまったのです」

 

 青い髪の少女が、レオにそう語る。

 レオはその言葉を聞いて押し黙る。ややあって、レオが再び口を開く。

 

「俺が・・・死んだ・・・・・・?そうだ、あの時確かに俺は・・・・・・ッ!じゃあ俺という天才の楽曲が世に出る事はもうない、って事か!?ああああ、天才の才能が世界から失われる~!この宇宙から!因果律から!あんな事で!もったいない、もったいない、もったいない!今日という日は世界にとって厄日だ!無限に広がる音楽の萌芽が!今後生まれるはずだった作品が一瞬で消えた!世界的、いや宇宙的損失・・・!

 ごめんなさいベートーヴェン!ヴィヴァルディ!バッハ!俺もすぐにそっちに行きます!でもモーツァルトはくたばれ!」

 

 怒涛のように言葉を紡ぐレオに少女もたじろぐ。

 

「こういう取り乱し方は初めてね・・・しょうがないからだいぶ端折って説明するけど、あなたは今の記憶や能力を持って他の世界に生まれ変わる事ができるの」

「・・・え?それって、俺の天才的な才能が、他の世界で活かされるって事か!?」

「まあ、そうなるわね。じゃあ詳しく説明するわ」

 

 もはや読者諸氏には周知の事実とは思われるが、魔王軍の脅威に脅える世界があり、その世界を救う勇者として日本人の若者(希望者に限る)をそこに転生させているのだ。

 

「更に、見事魔王を打ち倒した真の勇者には、どんな願いでも一つ、叶えさせてあげるわ。元の世界で死んだ事実を無かった事にしたい、みたいなのもアリね」

「おおっ!俺という天才の才能が再び世界に戻って来れる!天才の帰還!あ、『天才の帰還』ってフレーズいいな!これで一曲書けそうだ!・・・ってネタ帳がないんだった!あああ、霊感(インスピレーション)が失われる・・・アクア、でよかったっけ?ちょっとメモ貸して!あとペンも!」

「あ、うん・・・」

 

 おかしい、こんなのは私のキャラじゃない。アクアはそう考えていた。

 女神であるアクアに見とれる者、敬意を示す者、何故かは分からないがガッカリしたような態度をとる者、この仕事を始めてから多くの人間を見たが、その反応を大別するとこの三種だった。

 しかし彼はそのどれでもない。あろうことか女神であるアクアを勢いだけで圧倒している。アクアは本来なら苦言の一つも呈するべきなのだろうが、少年のような立ち振る舞いの彼を見てそんな気も失せていた。

 やがてレオの手が止まったのを見て、アクアは彼に声をかけた。

 

「一段落した?さっきの話の続きなんだけど、戦う力なんて何にもない日本人を魔王軍との戦いに送ってもすぐにやられちゃうだけ。だからあっちに転生するにあたって、その人に一つだけ特典を与えているの。強力な装備だったり、特殊能力だったり・・・さあ、選びなさい、たった一つだけ」

 

 レオは渡されたカタログをパラパラとめくる。ここだけ見れば今までの勇者候補と大差ないが、ここからどんな選択をするのか。

 

「・・・思ったんだけど、俺ってよくネタ帳をなくしてそこら辺に楽譜を書いたりしてたんだ。だからさ、紙を無限に生み出せる能力!とかない?」

「紙?そういう能力をつける事自体は可能なんだけど、仮にも魔王と戦うための特典よ?どう考えても戦えない特典じゃ、私の責任問題になるわ。せめて建前だけでも戦いに貢献できる特典じゃないと無理よ」

「ちぇ~・・・・

 あれ、そういえば向こうの世界って楽器はあるのか?ギターとか欲しいんだけど、もしかして新しい楽器で曲を作らないとダメなのか?できればそれ以外にも色々欲しいな。マイクとか、ベースとか・・・」

「流石にそこまであったらそもそも持ち運びできないでしょ・・・どうやって持ち運ぶつもりよ」

「そこはほら、魔法のカバンとかで・・・・そうだ!大量に物が入る魔法のカバンを特典ってことにして、楽器とかをおまけって事にできないか!?」

「・・・それならいけそうね。特大のマジックバッグは前から選択肢にあったけど誰も選ばないから、オマケを付けたって問題にはならないでしょ・・・・・・最後に確認するけど、あなたが持って行く特典はこの特大マジックバッグと、オマケの楽器セットに、紙とペンを少々・・・でいいのね?」

「ああ!これで俺の天性の才能が異世界に埋もれずに済む!ありがとう救いの女神様・・・☆」

「あんた今まで私のことを何だと・・・もういいわ。そこの魔法陣に入って頂戴」

 

 アクアの指示に従って魔法陣の中に入るレオ。今度は魔法陣を舐めるように観察しているが、陣から出ないしいいか、とアクアは黙認する。それだけなら以前にもやった人間はいた。

 

「コホン!・・・・・・さあ、勇者よ!願わくば、数多(あまた)の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を・・・いえ、特典的には士気の向上と文化の発展に期待するべきね。あの世界の文化、このところさっぱり発展しないんだもの。これくらい問題ないわよ・・・・・・願わくば、あなたが世界に新たな風を吹き込む事を祈っています・・・さあ!旅立ちなさい!」

「おおっ!魔法陣が光ってる!まさに魔法、って感じだ!わははっ!早速霊感(インスピレーション)が降りてきた!曲名はそうだな・・・」

 

 結局、レオは自分のペースを最後まで崩すことなく異世界へと旅立っていった。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 一人の少女が、乗り合い馬車でとある街へと来た。

 彼女の名前はゆんゆん。あだ名ではないし偽名でもない。彼女が生まれ育った紅魔族の里ではさほど可笑しくもない本名だ。

 ゆんゆんはこの街で冒険者としての修行を積むために来たのだ。少し離れた所には駆け出し冒険者の街として知られるアクセルの街があり、ゆんゆんもしばらくそこで生活していたのだが、その街はゆんゆんのライバル(とゆんゆんは思っている)が拠点としている街でもある。

 この街で冒険者として修業し上級魔法を覚え、彼女のライバルとしてふさわしい成長を遂げた時こそアクセルの街に戻る時。そしてその時は彼女(めぐみん)と・・・・・・

 

(ううん、今こんな事を考えても仕方ない)

 

 まずはこの街の冒険者ギルドへ行き、どこかのパーティーに参加するのが最初の目標といっていいだろう。どの様にギルドの場所を聞くべきか悩みながら街への一歩を踏み出し、

 

「ちょっと!あなたまた歩道に楽譜を書いてるの!?マジックバッグに紙をたくさん入れてるって言ってなかったっけ!?」

「わははっ、全部落とした!」「はあ!?」

「俺の霊感(インスピレーション)が消えないうちに書いとかないと世界の損失だろ!ちょっと紙買ってきて!金なら後で払うから!」

「あなた私の事を小間使いか何かだと思ってるの!?いっとくけど私はこの街の衛兵!その気になればあなたを牢屋に入れてもいいのよ!」

「そんな!それじゃあ一体どれだけの霊感が世界から失われるか・・・!俺は抵抗するぞ!がるるるる!!」

 

 街中で言い争う男女がいた。

 

(何これ)

 

 女の方は服装から衛兵だと分かる。男の方は見たことのない服装で、何の仕事をしているのかゆんゆんには分からなかった。

 見たままをなるべくそのまま受け入れるのなら、男は作曲の仕事をしているのだろう。しかしその様子が普通ではない。彼は石ころを手に、歩道を削ることで楽譜を書いている。紅魔族には趣味レベルなら作曲をしているものもいない事もないが、彼らの作曲は室内で行われることが大半だ。知人に相談する者もいるが、明らかにそういう様子ではない。女は彼に怒っているらしいが、それも当然だろうとゆんゆんは思った。

 

「・・・・・・あの」

「お?誰だあんた?いや待って!答えなくていい!俺との関係を妄想するから!前に何処かで会った?どっかの店員だったら話もしてたかな?それとも日本から・・・」

「いえ、そちらの衛兵の方に用があったんですけど・・・・」

「俺じゃなかった!恥ずかしい!」

「ざまあ・・・コホン、何か用?これからちょっと彼と()()したいんだけど」

「そ、その、冒険者ギルドがどっちにあるのか聞きたいんですけど・・・」

「冒険者ギルドなら、この道を真っ直ぐ行って・・・」

 

 ゆんゆんの問いに、衛兵は丁寧に道を教えてくれた。

 

「この街に来たのは初めてみたいだから言っとくけど、あの男・・・レオっていうんだけど、あまり話しかけない方がいいわよ。少し前にこの街に来たんだけど、見ての通りの変人よ。たまにバンド?っていうのに誘ってくるから、最近じゃ関わらないようにしようとする人もいるわ」

「やっぱあれ避けられてたのか!すごく悲しい!所詮俺は異邦人・・・おお、『異邦人』って響きも良いな!でもこれだけだと捻りが足りないか?うーん・・・」

 

 自分の世界に籠る男を見て、ゆんゆんは何故か故郷の知り合い達を思い出した。彼女達はこんなマシンガントークはしないが、格好良さを念頭に考えるのは紅魔族の習性といっても過言ではない。

 

「・・・・・あの、バンドってどういうものなんですか?」

 

 その言葉が自然とゆんゆんの口から出ていた。

 

「ちょっと!?」

「音楽を演奏したりするグループだな。大体三人から五人くらいか?それで楽器をやったり歌ったりするんだ。楽器なら持ってるし楽譜も今だって書いてる!そろそろ仲間が欲しかったし、今から練習したっていいぞ!」

 

 レオは当初アイドル活動も考えたが、中世ヨーロッパ程度の文明の()()()()でそれがどれだけ受け入れられるか、という事を考慮した結果バンド活動に落ち着いた、という事情があるのだが、彼女達の知る話ではない。

 それはともかく、彼の提案は冗談という訳ではない。彼は一人で多数の楽器を同時に演奏できるような奇人ではない。しかし複数の楽器が一つの楽曲を作るアンサンブルをやるのに仲間は不可欠。バンドのメンバーを集めるのは当然だ。

 

「ちょ、ちょっと待って!こんなさっき会ったばっかりの子を何に誘うのよ!」

「何って・・・バンドだよ」

「それは分かったけど・・・この子に変な事とかしないか心配なのよ!」

「そうは言っても仲間が欲しいのは本当だし・・・それじゃあ代わりの人とかいない?」

 

 ゆんゆんのバンド加入に反対していた衛兵は、レオの言葉を聞いて不意に押し黙る。やがて顔を赤くし、意を決した表情で口を開いた。

 

「そっ、それじゃあ私もそのバンド?に入るわ!その子だけじゃ不安だし、あなたを放っておく訳にはいかないわ!」

 

 その露骨な態度に、ゆんゆんは彼女の想いを察する事ができた。できたが、当の本人が気づいていない様子で、自分からそれを口にするのは憚られた。

 ゆんゆんは改めて男を見る。オレンジ色の髪にライトグリーンの瞳。多分自分(ゆんゆん)よりは年上なのだろうが、子供っぽい表情でどうにもそんな風には見えない。顔は整っていると思うが、衛兵の人の感情はそこだけを見て生じたものではないだろう。具体的な要因は分からないが。

 

「じゃあまずは楽器決め・・・・あっ、早く作曲用の紙、買い足しにいかなきゃいけないんだ!楽器は俺が泊ってる部屋に置いてあるから、適当に触って決めといてくれ!俺は余った楽器をやるから!」

 

 そう言って街へと駆け出していくレオ。残されたゆんゆんは衛兵に(すが)るように目を向ける。

 

「あの人が泊ってる宿屋なら分かるわ。一緒に行きましょう。私はタニス。以後よろしくね」

「は、はい!ええっと・・・タニスさんは、そんな簡単にバンドに入るのを決めてよかったんですか?」

「ああー・・・・・まあ、衛兵の仕事も楽じゃないのよ。最近は新しい上司の目線がね・・・まあ、察して?」

 

 納得してしまったゆんゆんは楽器に目を向け、筒と円盤が連なったような打楽器に視線が行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 めぐみんはある噂を聞いた。彼女の友人(自称、とめぐみんは付け加えるだろうが)であるゆんゆんが、近くの街で音楽家を始めたというものだ。

 ゆんゆんは紅魔族の次期族長であり、魔法使いとして高い適正を有している。普通に考えれば魔法使いになるし、彼女を音楽家の道に誘う友人は紅魔族の里にはいなかった。

 そう考えて、めぐみんはある可能性に思い至る。

 

(もしや悪い男に騙されて、何か良くない事をさせるための隠れ蓑として音楽家をやらされているのでは?)

 

 一度その可能性が浮かんでからは、めぐみんの不安はどんどん膨れ上がっていった。彼女の魔力はかなりのものだし、スタイルだっていい。それであのチョロさと気弱さだ。むしろ付け込まれない理由がないのでは・・・?

 

「いったいどうしたんだ?さっきまで何か悩んでたみたいだったけど」

 

 めぐみんの仲間であるカズマが問いかける。

 

「ちょっと隣町まで行ってきてもいいですか?その・・・・何と言いますか、知り合いが良からぬ事に巻き込まれている気がしまして」

「・・・・・・美人?」

「・・・・・・めんどくさい子です・・・あ、今露骨に面倒くさそうな顔しましたね?」

「そうは言っても、これで助けに行って何ができるっていうんだよ?というか何でそう思ったんだ?」

「その知り合いは、、いずれ上級魔法を覚えたら私に会いに来るつもりだったはずなんです。しかし風の噂で、彼女が音楽家を始めた、と・・・」

 

 それを聞いて、カズマはしばし考え込む。何が何だかよく分からないが、これがその少女に恩を売ることになれば、ひょっとするといざという時に上級魔法を使う本物の魔法使いの助力が得られるかもしれない。

 

「・・・とりあえず、行って何か助けになれそうだったら助ける、っていう感じでいいか?あんまり話が大きいと俺達じゃどうにもならないかもしれん」

「はい・・・その、できれば早急に行きたいのですが・・・」

 

 そうめぐみんが言うと、カズマがにやにやと笑いだした。

 彼女達がゆんゆん、そして彼女と一緒にいる月永レオに出会うのはもうすぐだろう・・・




・Knights
 夢ノ咲学院のアイドルユニット。月永レオ、瀬名泉、朔間凛月、鳴上嵐、朱桜司の五人で構成されている。
 月永レオがリーダーを務める。個人のパフォーマンスのレベルの高さが売りで、メンバーはそれぞれ天才、クレイジーサイコホモ、吸血鬼、オネエ、ルー語という個性の強さ。昔からあったユニットが数度の改名や殺伐とした内部抗争を経て今に至る。
 メインストーリーでは、お互い不利な条件がある中でTrickstarと戦った。


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もしもこのすば世界にあんな子こんな子が召喚されたら

 エイプリルフールなので初投稿です。時系列?考えるな、感じろ。


「なあ聖、ふと思った事があるんだが・・・・」

 

 ある日、仲間である佐藤和真は不意に俺に問いかけた。

 

 ―――何だ?

「お前のいた学校の知り合いの事とか、お前たまに話してるだろ?もしそいつらがこの世界に召喚されてたら、どんな感じになってたと思う?」

 

 何てことはない。ただの休日の暇つぶし程度の話題だったか。

 しかし君咲学院の生徒はまあ、ピンからキリまでというか、ううん・・・・・・

 

「色んな人がいるから・・・・・・とりあえず、今のパーティーに追加する感じで、濃いのを何人か」

「そんな濃いのが何人も!?」

 

 まずはそうだな・・・

 

 

 ~~~~山條(さんじょう)ぎん~~~~

 

 あの人は剣道をやってて、本物の日本刀も持ってる・・・詳しい数は知らないけど、後輩にちょっとあげても問題ないくらいにはあるんじゃないか?

 

 運動能力も高いから、多分職業はソードマスター辺りになると思う。あの人実戦もできる方だし・・・

 

 まあ、美人だし、胸ぇ・・・・とかもけっこうある。見た目は美人なんだが・・・・・・その・・・・あの人も少々マゾというか・・・・

 ああ、ダクネスみたいな感じとは微妙に違う。普段は飄々(ひょうひょう)とした感じだ。ただ・・・自分に匹敵するような強者が相手だと言動がマゾになるというか・・・・うん、たまに強敵相手に抜刀したりする以外には問題ないな。

 問題ないわさ!

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

「いやいやいや!抜刀するのはどう考えても問題だろ!」

 ―――・・・・・・ハッ!

「さては感覚麻痺してたなお前!」

 

 不覚だった・・・・まあ、次行こう次。さっきは山條先輩だったから、剣道部繋がりで・・・

 

 

 ~~~~神樹(こだま)いちか~~~

 

 剣道部の常識人だな。

 君咲学院の剣道部は、さっき言った山條先輩が部長だったんだが、その教えを受けた副部長もわりと一般的な剣道部を逸脱してるというか・・・・・まあ、そのいちかちゃんがツッコミ担当と考えてくれれば問題ないな。うん。

 

 あいつの事を語るなら、まずはそのシスコンぶりから話すべきか?

 あいつの姉、はじめさん、って言う人が同じ学校にいたんだが、はじめさんは美人で弓道が上手く、占いも得意と、校内でも有数の有名人でな・・・正直お姉ちゃん大好きになる気持ちもわかる。

 そんなお姉ちゃんが文化祭で猫耳メイドをさせられた時は・・・・うん、あいつに気をとられて俺はリアクションとれなかった。

 

 でも・・・・あいつ、どうも悪霊の(たぐい)に憑かれやすいんだよな。俺が知ってる限りでは二回・・・いや、三回か?普段は明るい良い子だけど、そういうものに取り憑かれたら急激に危険になる。俺達がこの世界に来たばかりの頃は共同墓地の浄化もされてなかったし、わりと本気で危ないな・・・・

 

 あいつゲームとか好きだから、ひょっとしたら和真とも話が合うんじゃないかとも思ったけど・・・・・やっぱ来なくて良かった、かな?あの辺りは何やら霊的に危険な場所っぽいし、こっちと比べてどれくらい危険かはよく分からないけど・・・

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

「属性盛りすぎかよ・・・・せめて霊媒体質を無くしてくれれば歓迎したいくらいだが」

 

 あいつもあいつでけっこう可愛いからな。でも幽霊云々は専門外・・・・・・あ、アクアがいるじゃん。

 

「それじゃあさ、いっそこっちに来たら一番困るようなのって誰だ?やっぱ前に言ってた・・・クロシェットさん?」

 

 すず姉は困るというか、むしろ名誉紅魔族にでもなりそうだが、こっちで困るようなのはやっぱり時国先輩・・・いや、あの人がいたか。

 

 

 ~~~~御影(みかげ)かすみ~~~

 

 一番困るのは御影先輩だな。

 

 あの人は料理研究部の部長で、料理の腕はいっそ凄まじいくらいなんだが・・・あいつ、異様に味にうるさいんだ。

 どのくらいか?そうだな・・・あの人が認めるくらいに美味しい料理じゃないと飲み込む事もできないくらい。駄目だったら『ぺっ!』って吐き捨てられるぞ・・・・文字通り。

 そんな訳で、昔は骨と皮しかないレベルでガリガリだったらしい。食べられるものがほとんど無くてな。満足できる料理を自分で作れるようになるまでは苦労したらしいが・・・詳しくは聞いてない。

 俺の姉さんも面識があったらしいんだが、わりとグラマラスな感じになってた先輩が名前を名乗ったらものすごく驚いてたな。

 

 で、多く摂取できないカロリーを温存しながら生きるようにしてたら、一挙一動がスローペースな感じになってしまってな・・・弁当を学校の中庭で食べようとしたら小鳥に食べられてた、なんて事もあったな。

 戦闘なんてできそうにない。攻撃を受けそうな時ならひょっとしたら避けられるかもしれないけど、動かないで倒せる敵なんてどれだけいるのか・・・

 

 ・・・・・・でもあの人、謎の技術を持ってるというか、幽霊に干渉してるっぽいんだよな・・・前に峰山先輩・・・ああ、同じ学校の、文学好きの変人、というか・・・・まあ、その人との会話をつい盗み聞きしちゃった事があるんだが、どうもあの人、地の底にあった怨念に何かして、問題がないようにしたみたいな事を匂わせてたんだ。

 意味が分からない?安心しろ。俺も分からない。

 何にせよ、俺の学院生活はその後も保たれた。少なくとも俺の知る限りでは、ジャンルが日常ものからホラーに完全移行するような事態は起こってない。能力バトルなんて期待するだけ無駄だ。

 全て世に事も無し。その平穏がどういうものに守られているのか、なんて知る由も無いけど、こっちで御影先輩がステータスカードを作ったら未知のスキルとかが表示されるんじゃないか、とかは思う。

 

 ・・・・・・そっちも困るな。やっぱり御影先輩が一番困る。

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

「何その・・・・・・何?本当に日本の事なのか?実はよく似た異世界って可能性は本当にない?」

「・・・違う世界だったらセットで転生はしないと思う」

「あ、そっか・・・・どうせなら俺も特殊な力とか欲しいけどな・・・」

 

 和真は今のままでも十分活躍できてると思うが、やっぱり力は欲しいものか。

 

「何というかさ、今の俺達の境遇って主人公みたいな部分があるだろ?せっかくだからもっと特別感とか出してちやほやされたい。後ぐうたらしたい。分かるか?」

 ―――まあ、分かるな。

 

「他に何かしらありそうなのは・・・・」

 

 

 ~~~~~色々~~~~~

 

 夢路まりあさん。あの運動神経だと冒険者とかできる気がしない。

 遠見ちかさん、冴木ももさん、etc・・・。一芸特化の天才肌タイプ。これも冒険者になれなそう。

 氷野くるみ。料理以外は癒し系が過ぎる。和真より流血に耐性ないかもしれん。料理は・・・うん、上手く言いくるめできれば投擲武器にはなるか?

 八朔つゆり。精神面はわりと強い方だと思うけど、いかんせん病弱だから不安。こっちの医学があの子にどれだけ通用するか・・・

 瀬川かえで先輩。ゲスい言動は仲間の頭を悩ませるだろうけど・・・和真なら気が合う可能性も・・・?

 北川ゆきちゃん。和真とポジションが被る。運動苦手ゲーム好き・・・あ、コミュ力の差は大きいか。

 双葉姉妹。アホの姉の方はすごいテンションになりそう。妹の方も何だかんだで楽しみそうだな。

 

 色々いるけど・・・まあ、ぱっと思いつくのはそのくらいか・・・・・

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 

「何でさっきから出てくる知り合いが女の子ばっかりなんだよ!?あれか?最近まで女子高だったのが共学になったところに入学したとかか!?」

 

 和真が不意に声を荒げる。

 

 ―――おお、流石和真、その通りだ。

「マジで当たってたよ・・・やっぱハーレムなのか?それともキャッキャウフフな感じで自分は傍観者に徹する感じか?」

「転校初日から下僕(げぼく)くんになった」

「下僕!?元女子高怖いな・・・・・・」

 

 そんな風にぼやいた和真だったが、ふとある事に気づく。

 

「そういやお前、わりと初期からアクアみたいな色物美少女に寛大な感じだったけど・・・」

「まあ、慣れてた」

「そっか・・・・・・そっかぁ・・・・・・」

 

 その日以降、和真が俺を見る目つきは若干優しくなった。



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天光あんずの華麗なる日常

 どうにも本編が行き詰っているので番外編。時系列としては原作4月後期くらいです。
 月2話くらいは投稿したい。


 夢ノ咲学院。

 アイドル養成校として名を馳せ、多くの有名アイドルを世に送り出した超有名校である。

 近年、学院は芸能界における発言力の拡大を計り、プロデュース科の設立や全体的な共学化に取り組んでいる・・・のだが、プロデュース科の試験運用と学院初の女子生徒、学院はこれらを一人の少女に兼任させる事を選んだ。

 

 その少女こそこの私、天光(あまみ)あんずなのだ・・・・・・

 

「うわっ!あんずってば顔色悪いよ!?何かあったの!?」

 

 ・・・そして彼は明星(あけほし)スバル。私が最初にプロデュースし、『DDD』という戦いにおいて共に戦った『Trickstar』のメンバーであり、私のクラスメイトでもある少年だ。

 今日は土曜日だけど、今日は学校で彼らのレッスンをする予定が入っていたのだ。

 

「大丈夫・・・私は何ともないから・・・」

「そんな風には全然見えないよ!?俺達には言いにくい事!?」

 

 泣きそうな顔で私に迫る明星君。しゅんと垂れた犬耳と尻尾が見えそうだ・・・

 しかし()()ばっかりは彼らに何も頼ることはできない。本人達の問題なんだろうが、もし()()()()結末になったとしたら・・・

 

「はぁぁぁ・・・・・・・・」

「あんず!?おーい、あんずー?」

 

 そうしていると、横から残りのメンバーがやって来た。

 

「・・・明星、これは一体どういう状況なんだ?」

「あっ、ホッケ~!それにウッキ~とサリーも!あんずってば、俺がここに来た時からこんな感じだったんだ」

「転校生・・・出来れば何があったのか教えてくれないか?そんなお前を見ながらレッスンなんて集中できなそうだ」

 

 そんなサリー ――衣更(いさら)真緒(まお)の問いかけに、私はぽつぽつと答えた。

 

「・・・弟が、知り合いの女の子に呼び出されて、帰ってくるのが数日後って」

 

 その答えに目を丸くする皆。ややあってウッキ~ ――遊木(ゆうき)(まこと)が口を開いた。

 

「あんずちゃん、弟がいたんだねー・・・数日だったらその人のところにお泊まりだろうし、変な事にならないような対策もしてるとは思うけど・・・」

 

 それは私も思っていたし、(さとし) ――弟は自制心が固い方だから大丈夫だろう・・・って思っていたんだけどね・・・・・・

 

「何をやってるのか聞いたら・・・」

「ん?それって返信メール?どれどれ・・・

 

『件名:無題

本文:俺の麗しの姫君は寂しがり屋さんだからね。付きっきりでお世話してあげなくちゃならないんだ。

返信とかはあまり出来そうにないや。』

 

 ・・・・・・何というか、個性的な弟だね・・・」

「うちの変態仮面なら演劇で言うかもしれないが・・・あんずの弟は普段からこんな感じなのか?」

「そんな訳ない・・・・」

 

 聖に聞いた話が正しければ、呼び出したのは3年の四方みつるの筈。彼女はなかなかの王子様オーラを発していたし、ひょっとしたら聖は演劇部に入部する事を検討・・・いや、そんなジェスチャーはやってなかった・・・と思う。演劇部は確かヤコぶ~やちづるちゃんがいた筈だけど、あの子達はどうしているのかな・・・

 

 ・・・クロちゃん達の現状も含めて、そろそろちゃんと言葉で聞くべきかな。

 流石に聖が帰ってこない、なんて事にはならないと思うし、今は自分の仕事をするしかない。

 

「・・・私、今から仕事の鬼になる」

「はあ・・・それで気が紛れるって言うんならいいけど、体調管理もちゃんとしとけよ?転校生」

 

 衣更君の忠告も受けて、私は身体を壊さない程度に仕事マシーンとなった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 あれから二日、聖はまだ連絡をくれない。3連休だったとはいえ、そろそろ帰ってこないと学校の方に支障が出そうだけど・・・あ、メールが来た。

 

『件名:今夜帰ってくる。

本文:晩御飯は向こうで食べてから帰る』

 

 普通のテンションの聖だ!良かった!

 それじゃあこっちからもメールしよう・・・

 

『件名:どこに行ってたの?

本文:聖の麗しの姫君についてそこんところ詳しく』

 

 送信・・・っと。

 お、今度はわりとすぐに返事が来た。

 

『件名:ごめんなさい

本文:ちょっとそれを話すのは一部に迷惑がかかるから言えない』

 

 むむ。

 

『件名:それじゃあこれだけは教えて

本文:その姫君さんと恋人とか、そういう関係になった?それともお友達からとかそういう?』

 

『件名:そんな関係じゃないから!

本文:そういうのじゃなくて、もっとこう・・・奉仕作業な感じだから!』

 

 いやいやいやいや。

 

『件名:それすごくアウトっぽい文面

本文:まあ聖のことだから掃除とかそういう奉仕なんだろうけど』

 

 そのメールを送ってから、聖の返事は妙に(とどこお)った。これは怪しい。

 とりあえず、こっちから話題を振ってみるか。

 

『件名:演劇部について

本文:そういえば演劇部って今どんな感じなの?ヤコぶ~とかが居た筈なんだけど、元気にしてそう?』

 

 ややあって、聖からの返事が来た。

 

『件名:微妙

本文:湖南(こなん)やこって人なら、演劇部の部長らしいけど今は停学くらってるらしい。

副部長の八雲(やくも)ちづる先輩が今は頑張ってるけど、四方(よも)みつる先輩にお熱な感じ。演劇の内容も彼女を王子様役に起用したラブロマンスが多い。

そして2年の遠見(とおみ)ちかちゃん。技術担当だけど甘えたがり。面識無さそうだけど説明いる?』

 

 そっか・・・・停学かぁ・・・・退学じゃないだけマシ、って考えるべきなんだろうか。

 そしてちづるちゃん、自由だな・・・ヤコぶ~が帰ってきたらどやされるんじゃないかな。

 で、2年の子。問題児の予感がする・・・暇な時間があったら見に行きたいな。

 

『件名:大丈夫

本文:どうせなら直接見に行きたいんだけど、そんな機会ありそうかな?夢ノ咲の演劇部の知り合いもいるし、名目は何とかできるかもしれないけど』

 

『件名:どうだろう

本文:今のところとりたてて演劇部と親しいっていう訳じゃないけど、今度ちづる先輩にあったら聞いてみる。』

 

 ん?今回のお泊りに演劇部が関係してるのかも、って思ったけど、この様子だとそれはなさそうだ。

 

『件名:わかった

本文:ひょっとしたら街で不意に出会うかもしれないし、無理に予定を入れて貰わなくてもいいからね。

それじゃ、気をつけて帰ってきてね。』

 

 

 さて、それじゃあこの名探偵あんずが、聖を呼び出したのが誰なのか考えてみよう。

 あの王子様メールを送ったとき、聖はおそらく精神的に王子様な状態だった筈だ。聖はすごく純粋な性格だし、()()振る舞うように頼まれていたのがメールにも影響したのだろう。

 そしてそんな事を頼む人物が、四方さんかその知り合いにいると・・・辛うじて思いつくちづるちゃんは無さそうとなると、他にやりそうなのは・・・・・・

 うん、迷探偵あんずには見に余る難事件だこれ。今後じっくり探っていくしかないか・・・

 

 これから弟に訪れ、私も無関係でいられる気がしないドタバタを思いながら、私は家の掃除を始めた。




明星(あけほし) スバル
 夢ノ咲学院2-A所属。オレンジのカジュアルな髪型に青い眼。
 ユニット『Trickstar』に所属している。お金が大好きだが、理由は『キラキラしてるから』。わりと独特なネーミングセンスを持っており、飼い犬の名前は『大吉』。あだ名をつけるのが趣味。
 あんスタのアプリは2頭身の彼がアイコンを務めており、メインストーリーでも最初に出会い、共に生徒会と戦うことになる。


氷鷹(ひだか) 北斗(ほくと)
 夢ノ咲学院2-A所属。七三分けをやや崩したような黒髪に青眼。
 『Trickstar』のリーダー。努力家で完璧主義だが、おばあちゃんの事を尊敬している。金平糖を好むなど、要所要所で年寄りめいた言動も。金平糖下さい。


遊木(ゆうき) (まこと)
 夢ノ咲学院2-A所属。わりと(ひたい)広めのカジュアルな金髪で瞳は緑。
 『Trickstar』のメンバーで情報収集が得意。明るい性格で通しているが、女の子と話すのが苦手だったり、キッズモデルの仕事にトラウマがあったりする。ゲームとかやる方。
 瀬名泉(クレイジーサイコホモ)を避けている。


衣更(いさら) 真緒(まお)
 夢ノ咲学院2-B所属。ワインカラーの髪にライトグリーンの眼。
 『Trickstar』のメンバーで苦労人枠。バスケ部副部長や生徒会の仕事もしている。休め、と主人公が言える立場ではない。


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天光聖のDDD

 さんざん時間をかけておいてこの程度の文しか書けなかった非力な私を許して欲しい・・・
 今回はDDD開催までは書かないでおこうと思ったけど、そしたら文章量が伸びず、気が付けば月末・・・本当に申し訳ない


「聖戦の時だ・・・・!」

 ―――聖戦だな・・・・・!

「・・・あんた達、教室の入り口で何話してるのよ・・・聖戦って何?」

 

 2-Aの教室入り口で腕を合わせる俺とすず(ねえ)を見て、クラス委員長の堀田(ほった)さあやを含むクラスメイト達が困惑している。

 もしかしたらなつみから話が行ってるかもと思ってたけど、そうでもないらしい。

 俺は姉さんからスマホに送られたメールを表示して見せる。

 

『今度、夢ノ咲学院で大規模なライブがあるんだけど、私がマネジメントしてるユニットは敵勢力の卑劣な策でメンバーが集まれないという事態になってて裏工作の一つもしないと革命が起こせない。人数を集めて票を入れに来て欲しい。日程は――――』

 

「・・・革命?」

 ―――革命。

「・・・・・この日は別に予定とかはないけど、何か妙な事しようとしてるんじゃないでしょうね?」

 

 妙な事、か・・・・・・

 確かに俺達がするのは夢ノ咲学院の在り方をひっくり返す、言い逃れのできない革命そのものだ。だが、あのディストピアは許してはならない。俺はそう確信している。

 一部の勝利者だけが勝ち続ける出来レースに、下々の者は卑屈に天を見上げるしかない・・・それを(くつがえ)すのは在籍当時の俺にはできない事だったが、それが成される一助に俺がなれるというのなら、俺は喜んで力を貸す。

 

 さて、俺はこうして真剣なんだけれど、堀田さんは手伝ってくれるだろうか。

 実際のところ、法律とかに触れる事をする訳ではない。ライブバトルを見に行って、その票を姉さんが支援している方に入れるだけだ。

 とはいえ、俺は君咲学院に転校してきてから日が浅い。『生徒会長再任選挙』や『暗黒文化祭』を乗り越えてきたが、日数で言えば一月も経っているかどうか・・・・うん。

 

「・・・・来る?」

「・・・まあ、あんたが悪意で何かやらかすようなやつじゃないのは分かってるし、この『DDD』だっけ?これも興味がまったく無い訳じゃないし、一緒に行ってもいいわよ」

 

 おお!これで人数が一人増えた!この調子で一緒に来れる人を探しに行くか!

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「君もあんずさんから連絡が来てたの?その日は大丈夫だし、一緒に行く?二人だけ、って訳にはいかなそうだけど」

 

「こ、これは下僕くんからの『でえと』のお誘いというやつでは・・・え、違う?むしろ集団で行く?・・・一応聞くが、危険な事をやる訳じゃないんだな?・・・それならいいか。せっかくだし私も一緒に・・・」「会長?確かその日は補習があるのではなかったですか?」「げえっ!そうだった!それじゃあその日は下僕くん達と一緒には行けないな・・・・すまない」

 

「『らいぶ』?興味はあるけれど、大勢で票を入れるのって卑怯な感じで、嫌だな」

 ―――(´・ω・`)

 

「ごめんなさい・・・私は、うるさいのが苦手だから、ライブには行けない」

 ―――そうだよな・・・一応聞いておいてなんだが、悪かった。

「・・・でも、お弁当を作るくらいならできる」

「嬉しい」

 

「あいにく、私はそういうのに興味ないのよ・・・・今度の休みにボクちゃんを好きにできるって言うなら考えても・・・・・・え!?いいの!?そうと決まれば色々用意しなくちゃね・・・・☆」

 

「そう、あんずさんが・・・・・・私もお供してよろしいかしら?今更何を、って言われるかもしれないけれど、ダメ・・・かしら?」

 ―――そんな事は無いさ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「何人来る?」

「こっちは・・・四、五人くらいか。四人は話がついたんだがあと一人・・・ルカが悩んでいてな・・・・」

 ルカ・・・月永(つきなが)るかちゃんか。確かあの子は・・・

「兄が相手にいた・・・りいなかったり」

「・・・どっちなんだそれは?」

 

 言っていいのだろうか。流石にここで黙るのは無理があるか・・・?

 

「俺が転校する前は不登校に・・・」

「・・・それは」

 ―――あんまり言いふらさないでくれよ?

「ああ、それは分かってる」

 

 まあすず姉は信頼できる人だし、こう言って(言ってない)おけば大丈夫だろう。

 ちなみに俺が誘えたのはええと・・・十二人くらいだ。これだけいれば流石に即刻敗退とはならないだろう・・・ならないといいな。

 

 決戦の日は近い。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。ライブの日って、お昼ご飯は食堂とかあるの?・・・え?他の人にお弁当を作ってもらう予定?・・・そう、なんだ」

 

(よ、夜霧(よぎり)しゃんが、軽音部の黒森先輩と密談を!?日付はかろうじて聞き取れたけど・・・スクープではあるんですけど、それ以上に夜霧しゃんが心配ですぅ・・・こうなったらもう尾行しか・・・!)

 

(お兄ちゃん、最近は部屋にこもってばかりで作曲もできてないよね。僕の前では元気に振るまってるけど、それくらいは分かるよ)

 

(あんずさん・・・あなたはあの頃と変わってないのですね。あの自堕落ながらも一緒にいられる友達のいたあの頃と・・・・私も行くべきでしょうか・・・)

 

 

 少年達の叛逆の傍ら、様々な想いが交錯する。

 彼女達のみならず、『あんず』と『Trickstar』の想いを知らずに多くの人々が彼らを見に行く。外部からの来客は、夢ノ咲学院の実情など知る由も無い。知っていたとしても、大抵は他人事として、あるいは出来る事などなく、何も為さないまま帰路に着くのだろう。かつての(さとし)もそうだった。

 しかし今、現状を変える機会を掴んだ者達がいる。

 あの『紅月(あかつき)』を打ち破り、しかし今、卑劣な盤外戦術によって『Trickstar』は散り散りにされ、連絡を取る事すら出来なくなっていると聖は聞く。この苦難を乗り越えられれば、彼らは『fine』と互角に戦う目もあるだろう。聖はそう確信していた。

 

 

 天光聖。

 三波なつみ。

 堀田さあや。

 春風なな。

 星海こよい。

 黒森すず。

 藤瀬しずく。

 月永るか。

 曽根セイラ。

 久坂あやめ。

 八壁ひかる。

 円城寺れいか。

 伊藤さくら。

 八雲ちづる。

 夜霧はやて。

 笹目ひよの。

 小鳩あずさ。

 

 多くの友達が聖とすずを通したあんずの呼びかけに応えた。

 彼女達には、出来れば票を『Trickstar』に入れて欲しいとは言ったが、それは決して投票先を強制するようなものではなかった。

 どう見ても相手の方が圧倒的に優れているのに票を入れられたのでは、『Trickstar』も喜ばない、とはあんずの弁だ。そこまで手段を選ばずに勝って、それを勝利と額面通りに喜べるほど彼らは図々しい性格ではない、とのことだ。

 

 そして彼女達はそれを理解し、戦いの舞台――――『DDD』へと赴くのだった。




 本編も書かなきゃ・・・


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第一章
人生の終わりと新たな旅立ち


 あんガルのサービス終了が間近となり、構想だけ練っていたクロスオーバー作品を投稿しようと思いました。
 とりあえずベルディア襲来辺りまでは毎日投稿の予定ですが、それ以降は不定期になると思います。
 このすば側の設定は書籍版メイン。タグで察した人もいるかと思いますが、あんガルのアンジー=あんスタの主人公です。


佐藤和真(さとうかずま)さんと天光聖(あまみさとし)さん、あなた方はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなた方の人生は終わってしまったのです」

 

 突然の出来事で何がなんだか分からない。

 部屋の中には小さな事務机と椅子があり、隣には自分と同じく状況が理解できていないのであろう同年代の少年、そして俺に人生の終了を告げた女性がその椅子に座っていた。

 

 隣の少年は茶髪に中肉中背のジャージ姿で、言ってはなんだが何処にでもいそうな少年、という印象を受ける。さっき呼ばれた名前の『天光聖』というのは俺の名前だからこっちは『佐藤カズマ』君か。

 女性は水色の髪に若干小柄な少女で、見たことの無い服に羽衣のような物が着いている。率直に言ってすごく美人だが、それ故に一般人────あるいは人間とは隔絶されたような印象を受ける。男を魅了するというより人に讃えられるような雰囲気を持った彼女は・・・

 

「女神・・・?」

 

「ええ。私は女神アクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ」

 

 なんと本当に女神だった。ふと横を見ると佐藤くん(推定)も驚いた顔をしている。彼も顔をこちらに向けたが、今の自分も同じような表情だろう。

 そして彼女の言うことが事実なら、俺達は死んでしまった、ということだ。

 そうだ、俺は町の大通りを歩いていて、トラックが不注意からか信号を無視し、子供が通っている横断歩道を突っ切ろうとするのが見えたんだ。そしてそこから子供達を助けるためにそこに飛び込んで・・・

 

「あの・・・一つ聞いていいですか?」

 

 佐藤くんが口を開く。

 

「どうぞ?」

「・・・あの女の子は。・・・俺が突き飛ばした女の子は、生きてますか?」

 

 なんと、佐藤くんも似たような死因だったようだ。自分で言うのもなんだが、生前の行いが評価されて天国行きにでもなるのだろうか。

 

「生きてますよ?もっとも、足を骨折する大怪我を負いましたが」

 

 どうやら佐藤くんは上手くやれたようだ。ほっとした顔をしている。

 

「まあ、あなたが突き飛ばさなければ、あの子は怪我もしなかったんですけどね」

 

 

「「・・・・・・は?」」

 

 今この神様なんて言った?

 

「あのトラクターは、本来ならあの子の手前で止まったんです。あたり前ですよね。だってトラクターですもん。そんなにスピードだって出てないし。つまり、あなたはヒーロー気取りで余計な事したってわけです。・・・プークスクス!」

 

 ええ・・・?なんかさっきまでこの払ってた敬意とかがっつり吹っ飛んだんだが。

 というかトラクターってどういうことだ。

 

「・・・今なんて?トラクター?トラックじゃなくて?」

 

 彼女曰く、佐藤くんがトラックだと思ったものは実はトラクターだったらしく、トラックに轢かれたと勘違いしたことによるショック死が彼の死因らしい。そしてその恐怖で失禁してしまい近くの病院の医者や看護師の失笑を受けながら心臓麻痺で死亡確認。ついさっき病院に駆け付けた家族にも笑われたそうだ。

 マジかよ・・・佐藤くんの死因酷すぎワロエナイ・・・

 ん?そんな佐藤くんと一緒に俺もここに送られた、ってことは・・・

 

「ん?ああ、あなたは普通に子供を助けてトラックに()ねられたのが死因ね。でもこっちの人がショック死したのと同時に跳ねられるもんだから、情けなさが余計にッ・・・プークスクス!こういう時は一人ずつやるのが基本なんだけどつい・・・!」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で横から見てくる佐藤くんに、俺はすごく微妙な表情で返さざるを得なかった。

 

 ────────────────────

 

「さて、私のストレス解消はこのくらいにしておいて。あなた方には二つの選択肢があります。

 一つは人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。そしてもう一つは、天国的なところでお爺ちゃんみたいな暮らしをするか」

 

 一つ目はともかく二つ目はどういうことなのか。

 天国というのは端的にいって何もないらしい。すでに死んだ先人達がいるだけで、体もないから日向ぼっこと世間話しかできない場所らしい。哲学者なら話も弾むかもしれないが、あいにく自分はそこまで高等な人間ではない。人助けができないなど俺のアイデンティティが失われてしまう。

 

 拍子抜けしたのは佐藤くんもらしく、残念そうにしている。二人揃って生まれ変わることになるのか。

 しかし俺は未練がしっかりある。星海さんなんかは俺が死んだらそれこそ折れてしまいそうな娘だ。北川さんや時国先輩のことも不安だし生徒会長としての仕事もある。考えれば考えるほど心残りはある。生まれ変わればこの気持ちも無くなるのだろうか?しかしそれで良いのか?

 

 するとアクアが満面の笑みを浮かべた。

 

「うんうん、天国なんて退屈な所行きたくないわよね?かといって、今更記憶を失って赤ちゃんからやり直すって言われても、今までの記憶が消える以上、それってあなたという存在が消えちゃう様なものなのよ。そこで!ちょっといい話があるのよ・・・

 

 あなた達・・・ゲームは好きかしら?」

 

 

 なんでも、俺達がいたのとは違う世界、つまり異世界があるらしい。そこはいわゆる剣と魔法のファンタジーな世界らしいが、やはりというべきかそこには魔王もいて、そいつが率いる魔王軍によりその世界がピンチなのだとか。

 

「その世界で死んだ人達ってさ、まあほら魔王軍に殺された訳じゃない?だから、またあんな死に方するのはヤダって怖がっちゃって。死んだ人達のほとんどが、その世界での生まれ変わりを拒否しちゃうのよね。はっきり言って、このままじゃ赤ちゃんも生まれないしその世界が滅びちゃうのよ。で、それなら他の世界で死んじゃった人達を、そこに送り込んでしまうのはどうか?って事になってね?・・・で、どうせなら送るなら、若くして死んだ未練タラタラな人なんかを、肉体と記憶はそのままで送ってあげようって事になったの」

 

 なんと壮大な過疎対策。

 

「それも、送ってすぐ死んじゃうんじゃ意味が無いから、何か一つだけ、向こうの世界に好きなものを持っていける権利をあげているの。強力な特殊能力だったり、とんでもない才能だったり、神器級の武器を希望した人もいたわね・・・どう?あなた達は、異世界とはいえ人生をやり直せる。異世界の人にとっては、即戦力になる人がやってくる。ね?悪くないでしょ?」

 

 なるほど、確かに悪くない話だ。むしろ困っている人がいるのならぜひとも行かせて欲しい。

 

「えっと、聞きたいんですけど、向こうの言葉ってどうなるんです?俺、異世界語とか喋れるの?」

 

 おっと、そこを忘れていた。

 

「その辺は問題ないわ。私達神々の親切サポートによって、異世界に行く際にあなたの脳に負荷を掛けて、一瞬で習得できるわ。もちろん文字だって読めるわよ?副作用として、運が悪いとパーになるかもだけれど。だから、後は凄い能力か装備を選ぶだけね」

 

「今、重大な事が聞こえたんだけど。運が悪いとパーになるって言ったか?」「言ってない」「言ったろ」

 

 俺のログにはしっかりあるな。佐藤くんなど敬語をかなぐり捨てている。

 しかし俺にとってその言葉は人助けを諦める理由にはならない。だから後は持っていくものを選ぶだけか。

 するとアクアは俺達にカタログらしきものを一冊ずつ差し出した。表紙を見た限りでは同じものだろう。

 

「選びなさい。たった一つだけ。あなた方に、何者にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは、強力な特殊能力。それは、伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ。異世界に持っていく権利をあげましょう」

 

 とりあえず、適当なページをいくつか開いてみる。《アメノハバキリ》《妖弦フェイルノート》《糸使い》《真・青電主の魂》など、強そうな能力や装備がいくつもある。一応、一般的な刀剣などの扱い方は剣道部とかを鎮圧・・・もとい触れあっている内に覚えたし、弓道も手本となる動きは見たことがある。魔法についてはオカ研の胡散臭い魔導書を見たくらいだが、取得すればやり方が分かるのだろうか。

 しかしこの分だと佐藤くんと一緒に異世界で冒険することになりそうだが、彼は何を持って行くのだろうか。俺は特にこだわりは無いが、役割が被ってしまうのは避けたほうがいいだろう。

 

「・・・何か、やりたいこととかあるか?」

 

「あ、えっと・・・天光さん、だよな?個人的には魔法とか使ってみたいな。格好良くて、強い感じの」

 

 ふむ、そうなると彼は後衛になるのか。北川さんのゲーム知識がこんな形で役に立つとは思わなかった。なら俺は前衛になるべきだな。それもタンクロールができるようなものが望ましいから・・・

 

「じゃあ、盾か何か探してみる」

 

 この空間に来て初めての発言だが上手くいった。思いの外気分が高揚しているようだ。まず防具関係のページをめくって吟味してみるが、アクアは露骨に退屈そうだ。

 

「ねー早くしてー?どうせ何選んでも一緒よ。社会不適合者達に期待はしてないから、なんか適当に選んでサクッと旅立っちゃって。何でもいいから、はやくしてーはやくしてー」

 

「誰が社会不適合者だコラ」

 ───ちょっと喋るのが苦手なだけだしィ!俺だってアイドル養成高校の(普通科の元)生徒だしィ!

 

 そしてアクアはスナック菓子をぽりぽりと食べ始める。流石に人にものを頼む態度とは思えない。最初辺りのお高くとまった態度よりはよほど好感が持てるが、佐藤くんはそうでもないらしい。すごくイライラしてる顔だ。

 

「・・・じゃあ、あんた」

 

「ん、それじゃ、この魔法陣の中央から出ないように・・・」

 

 ・・・ちょっと待て。今こいつ・・・

「・・・今何て言ったの?」

 

「承りました。では、今後のアクア様のお仕事はこのわたくしが引き継ぎますので」

 

 何もない所から、天使みたいな(十中八九そうなのだろうが)女性が白い光と共に現れ、ある種残酷な言葉を告げた。アクアも呆然としている。

 そして佐藤くんとアクアの足元に、青く光る魔方陣が出現した。あれで異世界に行くのか。

 

「ちょ、え、なにこれ。え、え、嘘でしょ?いやいやいやいや、ちょっと、あの、おかしいから!女神を連れてくなんて反則だから!無効でしょ!?こんなの無効よね!待って!待って!?」

「行ってらっしゃいませアクア様。後の事はお任せを。無事魔王を倒された暁には、こちらに帰還するための迎えの者を送ります。それまでは、あなた様のお仕事の引継ぎはこのわたくしにお任せを」

「待って!ねえ待って!私、女神なんだから癒す力はあっても戦う力なんて無いんですけど!魔王討伐とか無理なんですけど!!」

 

 突如現れた天使はアクア達をすみやかに異世界に送るつもりのようだ。慌てふためくアクアをよそに、今度は佐藤くんの方を見た。

 

「佐藤和真さん。あなたをこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」

 

「・・・贈り物?」

 なんだろう。俺も気になる。

 

「そう。世界を救った偉業に見合った贈り物。・・・たとえどんな願いでも。たった一つだけ叶えて差し上げましょう」

 

 なんと。

 何でも、と言うからには元の世界に帰りたい、とかもいいのだろうか。

 一年以上あの君咲学院に世話になってきたが、やはりあっちに未練が多すぎる。せめて俺がいなくても彼女達が普通に生きていけるようになるまでは一緒にいたい。星海さんとか本気で病みかねない。

 

「ねえ待って!そういうカッコイイ事を告げるのって、私の仕事なんですけど!」

「散々バカにしてきた男に、一緒に連れてかれるってどんな気持ちだ?おい、俺が持っていく”者”に指定されたんだ、女神ならその神パワーとかで、精々俺を楽させてくれよ!」

「いやあー!こんあ男と異世界行きだなんて、いやあああああああ!」

「さあ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補達の中から、あなたが魔王を打ち倒す事を祈っています。・・・さあ、旅立ちなさい!」

「わあああああーっ!私のセリフー!」

 

 瀬川先輩の気持ちがなんとなく分かるような一幕は、二人が魔方陣によって光と共に消えることで終わった。

 

 ────────────────────

 

 ・・・さて、俺の分はこの天使から受け取ればいいのだろうか。

 

「・・・さて、あなたの望むものは決まっていますか?」

 

 いや、まだ決まっていない。もう少し考えさせて欲しい。

 

「了解しました。決まった場合はこちらに伝えてくださいね」

 

 しかしどんな物にするべきか。さっきアクアが喚いていた内容によると、彼女は所謂ヒーラーのようだ。攻撃はあまり得意でないとなると、接近戦で多数の敵を同時に相手取るのがいいか。後方からの遠距離攻撃が佐藤くんの希望だから俺の攻撃力が多少低くても大丈夫か?

 そんな事を考えながらスキルの項目を見ていると、あるスキルの名前が目についた。

 

 《ゴーレムマスター》

 

 どうやら名前の通り、ゴーレムの作成、使用が得意になるスキルのようだ。

 ゴーレムは大抵の場合、石や金属でできた魔法の人形としてファンタジー作品で描写されるものだ。これがポンポン生み出せるのなら壁としての使い勝手は抜群だろう。自爆特攻だって問題にならない。それでゴーレムを生み出す俺が狙われるならアクアによる治療もある。

 うん、これにしよう。

 

 俺は天使のもとへ行き、《ゴーレムマスター》のページを見せた。

 

「・・・そちらの《ゴーレムマスター》のスキルを持っていく、ということでよろしいでしょうか?」

 

 そうだ。

 

「せめて何か喋ってください。私のことを呼ぶとか」

「・・・天使様?」

「いえ、今の私は()()アクア様のお仕事を引き継いだ身。それ相応の呼び方がある筈です」

「・・・女神様?」

「もっと敬意を込めて」

「女神様!」

 

「っ・・・さあ行きなさい、勇者よ!魔王の脅威から人々を救うのです!」

 

 機嫌が良い時の犬の尻尾のように羽を震えさせる女神様に見送られ、俺の体も魔方陣の明るい光に包まれた・・・!




・処女作です
・駄文注意
・いかがでしょうか?
・感想お待ちしています

 読者でいる内は自己主張の激しい作者な気がしたフレーズだけど、いざ自分が書き手になるとあらすじ前書き後書きに書き足したくなる一文。


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いざ、冒険者ギルドへ

 とりあえず、今話から後書きであんガル、あんスタのキャラの紹介を入れようと思います。まあ本編で名前の出た人をざっくりとやる感じで。


 気が付くと、見覚えのない石畳の道に俺は立っていた。

 見たところ文化レベルは中世ヨーロッパくらいだが、獣の様な耳やエルフの様なとがった耳が通行人にいくつか見える。先程までのやり取りを思い出し、ここが地球ではない事を確信する。

 

「あ・・・ああ・・・ああああ・・・・・・」

「獣耳だ!獣耳がいる!エルフ耳!あれエルフか⁉美形だし、エルフだよな!さようなら引き篭もり生活!こんにちは異世界!この世界なら、俺、ちゃんと外に出て働くよ!」

「ああああ・・・・・・ああああああ・・・・・・あああああああああああ!」

 

 一足先にこちらへ来ていた二人が騒がしい。佐藤くんは感極まっているらしいが、アクアはこの世の終わりのような顔をしている。物扱いがそれほど屈辱的だったのだろうか。

 

「ん、お前もこっちに来たのか。どんな特典を選んだんだ?見た感じ装備じゃなさそうだけど。こっちは見ての通りジャージ一丁ですわ。ファンタジー世界に来て行く服装じゃないよなぁ?そっちはそっちで学ランだし、おい女神様よぉ、ここはゲームとかで恒例の、必要最低限の初期装備とかを・・・」

「あああああああああああああーっ!」

 

 本格的に泣き喚きだしたアクアが佐藤くんに掴みかかった。

 そんなに嫌なら帰ればいい、と佐藤くんは言うが、どうやらアクアは帰れないらしい。この世界に送られる時もとんとん拍子に話が進んだが、もしや天界で嫌われているのだろうか。

 

「おい女神、落ち着け。こういうときの定番はまず酒場だ。酒場に行って情報収集から始めるもんだ。それがRPGでの定番だ」

 

 おお、案外頼もしいな。モノによっては情報収集不足が致命的になる、と聞いているしそういうゲームにも触れたことはある。しかしそういった方針を即座に立てられるのは意識すればできる、という訳ではない。彼はなかなかできる奴かもしれない。

 

「なっ・・・!ゲームオタクの引き篭もりだったはずなのに、なぜこんなに頼もしいの?」

 

 情けないじゃないですかやだー!

 

「あ、カズマ、私の名前はアクアよ。女神様って呼んでくれてもいいけれど、できればアクアって呼んで。でないと人だかりができて魔王討伐の冒険どころじゃなくなっちゃうわ。住む世界は違っても、一応私、この世界で崇められている神様の一人なの」

 

 むしろ信仰する女神の伝説と実像の違いに嘆く信者で阿鼻叫喚になりそうだが。

 

「そういえばあんたはアマミ・・・何て名前なんだ?長い付き合いになるし、自己紹介しておくべきだと思うんだが。俺は佐藤和真。16歳の男子高校生で、まあ・・・ゲームをよくやってたな。で、特典としてこのアクアを連れてきた、と。長い付き合いだしカズマでいい」

 

 そういえば最初にアクアに名前を呼ばれただけだったな。今はテンションも落ち着いているが自己紹介くらいならまあできるだろう。

 

天光(あまみ) (さとし)・・・17歳・・・高校生・・・《ゴーレムマスター》のスキルを・・・」

 

 よし、自己紹介できた。

 

「・・・あの?もう少し流暢に話すこととかは・・・」

「ダメよカズマ、この人すごくコミュ障なのよ。あのくらいでいちいち目くじら立ててたら胃に穴が空くわ。大丈夫、心配しなくても、女神たるこの私がいれば十分過ぎる戦力と言えるわ」

 

 露骨に嫌な顔をされてしまった。

 確かに俺は会話がものすごく下手だ。会話の得意な役を演じるか、テンションが十分に上がっている時か、でないと口を開くのも難しい。

 

「なあ、何あの動き?俺らのMP的なものを減らそうとしてるの?」

「あれは伝えたいことを身振り手振りで表しているのよ。女神たるもの死んだ人間がどういう人物なのかとかは多少理解できるわ。動きの意味は私にはさっぱり分からないけど」

「ええー・・・今後あれと関わっていくのかよ・・・あれは・・・上がる・・・?話す、・・・演じる?話す・・・演じている時と・・・上がっている時は話す・・・?上がるって何だ?テンション?あ、うなずいた。テンションが上がっている時も話せるのか・・・面倒臭い」

 

 面倒臭い呼ばわりされた。仕方ないね!

 

 ────────────────────

 

 その後、カズマは冒険者ギルドなるものの場所を通りすがりのおばさんに尋ね、多くの女子高生を見てきた俺からしても高いコミュ力を発揮し、そこへの道を知ることができた。何でも、そこはゲームでよくある、冒険者への支援や仕事の斡旋を行う組織らしい。俺がやったゲームの数は少なく、そんな考えには至らなかった。やはり彼は有能だったようだ。アクアは何故彼が引き篭もりだったのか、と疑問を漏らしていたが、それは俺も知りたいところだ。

 そしてそのギルドは言われたとおりに見つかった。かなり大きな食べ物で、中からは食べ物の匂いがする。聞いた話だと大体は荒くれ者がいるそうだ。どちらかというと物語のテンプレだが。

 

「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」

 

 赤毛のウェイトレスの女性が営業スマイルで出迎える。

 酒場が併設されているらしく、鎧やローブを着た冒険者達が酒や料理を手にこちらを見ているが、あまりガラの悪い人には見えない。夢ノ咲学院には裁縫が得意な空手部主将(アイドル、強面)もいるしちょっと顔が怖いくらいでは俺はビビらない。

 

「ねえねえ、いやに見られてるんですけど。これってアレよ、きっと私から滲み出る神オーラで、女神だってバレてるんじゃないかしら」

 

 喋らなかったらそのオーラも霧散しないだろう。

 まあ黙らなくても美少女と言える可愛さではあるし人目を引くのも無理はないか。

 

「・・・いいか二人とも、登録すれば駆け出し冒険者が生活できる様に色々チュートリアルしてくれるのが冒険者ギルドだ。冒険仕度金を貸してくれたり、駆け出しでも食っていける簡単なお仕事を紹介してくれ、オススメの宿も教えてくれるはず。ゲーム開始時は大概そんなもんだ。本来なら、この世界で最低限生活できる物を用意してくれるってアクアの仕事だと思うんだけど・・・まあいい。今日は、ギルドへの登録と装備を揃えるための軍資金入手、そして泊まる所の確保まで進める」

 

 ふむ、もしそうなら実にありがたい組織だがそう上手くいくだろうか。ひょっとしたらここがとんでもないブラックギルドで、メンバーは報酬から9割をさっぴかれる、みたいなことは・・・流石に無いか。それならさっきのおばさんも止めるだろう。

 

 そして三人で真っ直ぐにカウンターへと向かう。

 受付は四人で男女比は2:2、カズマが女性の、より美人で胸の大きい方のカウンターへと並んだので俺達もそちらに並ぶ。

 カズマ曰く、美人な受付のお姉さんは往々にしてフラグとか隠し展開があるものらしい。ここまで順調にRPGのテンプレ通りだが彼女も何かしら秘めているのだろうか。もしそうなら力になってやりたいが、彼の言うように元凄腕冒険者だった、というのはむしろあっちのオッサンの受付の方がありそうだ。その横の優男も捨てがたい。残りの一人はあまり目立つ娘ではないが。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

 

 受付の女性が尋ねる。ちなみに彼女はウェーブがかった金髪のおっとりした雰囲気の女性だ。巨乳をはだけた扇情的な服を着ている。おっぱいは最高だな・・・☆

 

「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりで何も分からなくて・・・」

 

「そうですか。えっと、では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」

 

 ・・・うん?登録手数料?

 

「・・・おいアクア、金って持ってる?」

「あんな状況でいきなり連れてこられて、持ってる訳無いでしょ?」

 

 ・・・まあ、そうだよな。人生上手くいく事ばかりじゃないよな。むしろ冒険者ギルドがあった事を喜ぶべきだよな。

 

「・・・おい、どうしようか。いきなりつまづいた。ゲームだと、普通は最低限の装備が手に入ったり、生活費だってどうにか手に入るものなんだけど」

 ―――日雇い労働か大道芸か、といった具合に金を手に入れるしかないか?金になるような芸なんて俺には無理だが。(ハンドシグナルで)

「いきなり頼りがいが無くなったけど、まあしょうがないわね。引き篭もりなんだし。いいわ、次は私の番ね、まあちょっと見てなさいな。女神の本気を見せてあげるわ」

 ―――もっと俺を見ろよ(小並感)

 

 アクアは離れた所にいる老けた男に近づいていく。男はだぼっとした神官らしき服装で、所謂『僧侶』という奴に見える。

 

「そこのプリーストよ、宗派を言いなさい!私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ!汝、もし私の信者ならば・・・!・・・お金を貸してくれると助かります」

「・・・・・・エリス教徒なんですが」

「あ、そうでしたか、すいません・・・」

 

 駄目だったようだ。というか彼がそのアクシズ教徒だったとして、アクアが女神だと信じるのだろうか。

 

「あー・・・お嬢さん、アクシズ教徒なのか。お伽話になるが、女神アクアと女神エリスは先輩後輩の間柄らしい。これも何かの縁だ、さっきから見てたが、手数料が無いんだろ?それくらいなら持って行きな。エリス神の御加護ってやつだ。でも、いくら熱心な信者でも女神を名乗っちゃいけないよ」

「あ・・・はい、すいません・・・ありがとうございます・・・」

 

 結局彼女は俺達三人分の手数料を貰い、死んだ魚のような目で帰ってきた。

 どうやら彼女は、神聖な女神である自分が、自分を女神アクアだと思い込んでいる一般アクシズ教徒(物乞い)、と見られたことが相当堪えたらしい。ついでに女神エリスは本当にアクアの後輩だそうで、その信者に助けられるのも辛いらしい。

 とりあえず俺はアクアを撫でながらさっきの受付へと向かう。

 

「ええっと・・・登録手数料持って来ました」

「は・・・はあ・・・登録料はお一人千エリスになります・・・」

 

 さっきはこちらをしっかり見て応対してくれた受付も、こちらとあまり目を合わせたくない様子だ。何というか、開幕からやらかしてしまったようだ。




天光(あまみ) (さとし)
 『あんさんぶるガールズ!!』の主人公。
 去年まで女子高だった私立君咲学院に、共学化のため試験的に転校してきた。喋らないのも人助け大好きなのも生徒会長なのも公式。「あんず」という名前の姉の存在が明言されているが、1話の前書きの通り『あんさんぶるスターズ!』の主人公として逆ハーやっている。そして当作の転校生君は1年ほど夢ノ咲学院にいた設定。
 所謂デフォルトネームはないが、当作ではこの名前で進行する。何だかんだでこれ以外の人名らしい呼び方が「ジョンくん」しか無いし。


北川(きたがわ) ゆき
 君咲学院1-A所属。緑のツインテールに赤目。
 パソコン部所属でかなりのゲーマー。『人形姫』と呼ばれる有名人だがコミュ障。ゴスロリ衣装を着るのが好き。主人公のことをLoveの方で好き。
 当作では、彼女と話す中で(さとし)もゲームについての知識を多少は身につけた。


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冒険者カード発行

 今回、ご都合主義、チート要素があります。何が、というのはサブタイを見て察した方もいるでしょうが、一応あんガル側の描写を意識した結果がこれなんですよね・・・


 冒険者とは、街の外に生息するモンスター(人に害を与えるモノの総称)の討伐を請け負う人の事らしい。

 そして冒険者には職業とレベルがある。生き物を食べる、殺す等してとどめを刺す事で、その生き物の魂の記憶の一部、通称、経験値を吸収できるらしく、それによってレベルアップでき、ステータス、つまり能力値が上昇するそうだ。職業によってステータスに補正がかかり、得意なことが各職業で分かれていく。また、職業の取得時やレベルアップ時にスキルポイントというものが手に入り、冒険者カードでそれを使い、スキルというものを獲得できるらしい。

 成程、ゲーム的だ。詳しい理屈は聞かなかったしひょっとしたら受付の彼女も知らないのかもしれない。あるいはリンゴが木から落ちるように当たり前の事として見ているのか。地球でそういった話は聞いたことが無いが、おそらくこの世界特有の現象なのだろう。

 

 まあそんな事は今、重要ではない。

 肝心なのは、俺達が今からその冒険者になる、ということだ。

 受付の女性に言われた通り、書類に自分の特徴を書いていく。見るのも書くのも初めての文字の筈だがすらすらと読み書きできる。神の力ってすげー!

 

「はい、結構です。えっと、ではお二人とも、こちらのカードに触れてください。それであなた方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」

 

 おお、それだけで各個人の能力が判るとは凄い技術だ。それともそれを簡単に実現させる手法がこの世界で発見されたのか?

 しかしこれは所謂『三値』とかいう奴に近いのか?本気で厳選すると果てしないと聞くが、職業を決めてから判定ではないのが救いか。体力には自信があるが、こちらで通用するステータスかどうか・・・まあまずはカズマからなのだが。

 

「・・・はい、ありがとうございます。サトウカズマさん、ですね。ええと・・・筋力、生命力、魔力に器用度、敏捷性・・・どれも普通ですね。知力がそこそこ高い以外は・・・あれ?幸運が非常に高いですね。まあ、冒険者に幸運ってあんまり必要ない数値なんですが・・・でもどうしましょう、これだと選択できる職業は基本職である《冒険者》しかないですよ?これだけの幸運値があるなら、冒険者稼業はやめて、商売人とかになる事をオススメしますが・・・よろしいのですか?」

 

 おい、商売は運だけでやっていける仕事じゃないぞ。

 

「え、ええと、その、冒険者でお願いします・・・」

 

 それをカズマも理解していた、というよりは、今更後には引けない、といった顔だ。だがアクアはそんな彼を見てニヤニヤしている。戦力が少ないとアクアが天界に帰る日も遠くなるのだが分かってなさそうだ。

 

「ま、まあ、レベルを上げてステータスが上昇すれば転職が可能ですし!それに、この冒険者という職業は、冒険者という総称が指す様に、あらゆる職業をまとめたと言いますか・・・ええ。初期の職業だからって悪い事は無いですよ?なにせ、全ての職業のスキルを習得し、使う事ができますから!」

「その代わり、スキル習得には大量のポイントが必要になるし、職業の補正も無いから同じスキル使っても本職には及ばないんだけどね。器用貧乏みたいな」

 

 受付のフォローに速攻で水を差すアクア。

 大丈夫だカズマくん!誰にだって駆け出しの頃はある。それを恥じる事はない。それに全ての職業のスキルが使えるとかカッコいいじゃん。カズマくんマジ可能性の獣!(高速ハンドシグナル)

 

 それはさておき次は俺の番か。アクアは「真打は最後に登場するものよ」とでも言いたげな顔でこちらを見ている。ラストは彼女に譲るとしよう。

 

「えああっ⁉何ですかこの生命力!人間のそれじゃありませんよ⁉他の数値も軒並み高い水準でまとまってますし・・・あ、知力は平均並みですね。これだったら狂戦士みたいな近接特化の職業に・・・ええっ⁉最初からけっこうな数のスキルが発現してますよこれ!格闘、浄化に一時強化系、この辺りのゴーレム関係なんて伝説級と言っても過言ではないレベルです!こうなるとどれを勧めるべきなのか・・・」

 

 どうやら俺のステータスは凄いことになっていたらしい。人間のそれではないと言われてしまった。ちなみに俺は秘めた力を解き放つとママチャリで京都までバスと並走するくらいの持久力と筋力を出せたりする。何なんだ俺は・・・

 

「・・・なあアクア、あいつが貰った特典って本当に《ゴーレムマスター》なのか?なんか色々チート要素がてんこ盛りみたいなんだが」

「そのはずよ。冒険者になる前に鍛えたりしてたらその分高いステータスから始まるわ。見た感じ全力で生き急いでる様な生き方してたっぽいしこんなこともあるんじゃないかしら?」

 

 後ろで二人がひそひそと話をしているが《ゴーレムマスター》に身体能力強化とかが付与されていないのならこのステータスは俺の自前のものだ。君咲学院でのあの日々は俺に様々な技能を習得させていたらしい。普通の高校生はそんなに技能の習得を余儀なくされる日常は送らないのだろうが、まあ是非も無いよね!

 それはさておき、

 

「・・・どんな職業が選べるんです?」

「そうですね・・・非常に高い生命力と筋力を生かすなら、魔法が使えない代わりに高い近接性能を持つ狂戦士や武闘家、いくつかの魔法と高い防御力を誇るクルセイダーでしょうか。《ゴーレム創造》を使うなら、クリエイターを筆頭とする生産系の職業で高い補正を得られますが、生産職は基本的に戦闘をするものでないため、その方面での補正はほぼ無いものと・・・」

 

 そこで受付さんがはた、と何かに気付いたように口を止める。不具合でもあったのだろうか?

 

「・・・これだけの高い能力値ならば、補正がかからなくとも並の近接職に劣らぬパワーを発揮できるのではないか、と・・・」

 

 成程。それは盲点だった。

 近接職ならそれこそ桁外れの性能になるのだろうが、よく考えるとそれが有効な戦略かどうかという疑問が生じる。

 アクアの口振りを思い出すに、これまでにも俺達と同じように転生した日本人が複数人こちらに来ている筈だ。彼らも何かしらの特典を持ってこちらに来ていた筈で、その中に近接戦闘に特化したものを持って来た者も当然いただろう。勇者が剣を持ち勇ましく突撃するのは王道であるが故に人気も高い筈だ。しかし彼らは未だ魔王を倒していない。そうなると、愚直な近接戦闘では後々通用しない可能性が高い。

 ならば支援系のアイテムなんかを豊富に作り、敵の弱点を突くような戦い方ができる方が良いのではないだろうか。火力についてもゴーレムがあるから不足はしないだろう。

 やはりそちらの方がいいな。しかし生産職にはどんなものがあるのだろうか?

 

「はい、それでしたら、ポーション等の回復系アイテムの生産が得意な薬師、武器や防具の生産に特化した鍛冶師、魔道具の生産に長けたクリエイターの三つがありますね。鍛冶師なら筋力等にも補正がかかりますが、クリエイターはゴーレムにも精通しているため、生産系ならそのどちらかがオススメですね」

 

 ふむ、当面の金策を考えると鍛冶師が有利か。装備を買わなくていいのならかなり出費が減る筈だ。だが装備だけでやっていける程甘い冒険にはならないだろう。高価な回復アイテムや消費アイテム、需要も供給も少ないアイテムを自由に生産できればそれも貢献になる筈だ。だが鍛冶師になったらどんな性能の装備が作れるのだろうか。それ次第では心置きなく鍛冶師でやっていくのだが。

 

「鍛冶師自身のスキルにもよりますが、素材が良くないと高い品質の装備は作れませんね。魔道具なら製作者の魔法への理解によるところが大きいですが、魔道具並みの万能性と実践向けの強度を兼ね備えた装備はどうしても難しく、特殊な素材があっても単純な魔法を発動させるのが限界ですね・・・」

 

 強い衝撃が駄目なのだろうか。精密機械で殴りつければ機械としては壊れるのは自明か。一発だけならありかもしれないけど。

 しかし将来性を考えると、クリエイターとしてゴーレムの運用やアイテム生産を頑張っていくのが最善か?

 

「クリエイターでお願いします」

「クリエイターですね!魔道具を主に多種のアイテムを生産可能で、多少の魔法も扱える職業です!それではクリエイター・・・っと。冒険者ギルドへようこそ!今後の活躍を期待していますよ!」

 

 《クリエイター》と表示された冒険者カードをしみじみと眺める。ふと横を見るとカズマは何とも言えない表情でこちらを見ている。どうかしたのだろうか。

 

「いや、何と言うか、相方が凄いチート野郎だったと言うか・・・」

「・・・いや、不意打ちとかは、苦手・・・」

「そういう事じゃなくて!もっとこう、歓迎されたいと言うか、チヤホヤされたいと言うかァ!」

「・・・最初から、何でもできる訳じゃない。じっくり、頑張れ」

「そうれはそうだけどッ・・・!」

 

 尚、この後アクアが全体的に非常に高い(生命力と知力以外は全ての数値が俺より圧倒的に上)ステータスをたたき出し、俺の時より大きな喝采を受けてアークプリーストという職業になった。治癒や支援系の魔法に優れ、近接戦も馬鹿にならない万能職らしい。

 カズマの俺への怒りはその歓声でうやむやになった。




星海(ほしうみ) こよい
 君咲学院2-A所属。腰まで届く金髪ロングの合法ロリ。CV:豊崎愛生。
 母親と死別してしまったが父親には溺愛されている。天文部所属の人見知りがちな少女。関西弁で喋るんよ。
 従妹の八朔(はっさく) つゆりは、主人公と彼女を恋愛的な意味でくっつけようと画策している。こよい自身はそれをお節介だと感じているが、恋愛感情はある。
 ノベル版3弾は彼女のストーリーの詰め合わせ。


時国(ときくに) そら
 君咲学院3-C所属。腰まで届く銀髪碧眼。「ゆん、ゆん」と鳴く。
 常人を圧倒的に上回る聴覚を持ち、うるさい環境を嫌う。宇宙人との交信や、そのための募金をよく行うオカルト研究部所属の電波少女。『すぺりあん』という作中のキャラクターのぬいぐるみを持っている。
 主人公と一緒にいるのは苦痛ではない。むしろ完璧にデレデレである。可愛い。


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冒険者の一日

「おーし!ご苦労さーん!今日はこれで上がっていいぞ!ほら、今日の日当だ・・・お前達が良く働いているから予定より仕事が進んでてな、今日はその分ボーナスしてるぜ」

「おおっ!ありがとうございます!」「それじゃあお疲れ様でしたー!」「ありがとうございます」

 

 親方の仕事の終了の声で、俺達は日当を受け取ると挨拶と共に頭を下げる。しかしボーナスというのはこうも嬉しいものなんだな。

 

「じゃあ皆さんお先でーす!」「でーす!」ぺこり。

 

 カズマに続いてアクアと俺も挨拶する。

 先輩の声を聴きながら、俺達は現場を後にした。

 やはり労働はいいものだ。誰かの役に立っているという感覚がある。

 俺達は日当を片手に街の大衆浴場に向かう。

 日本の銭湯とさほど変わらない施設だが、値段は比較的高めに設定されている。ちなみに1エリス=1円程度という貨幣価値らしい。

 

「あー・・・生き返るわー・・・・・・」

 

 仕事上りの風呂はやはりすっきりする。汗でべとべとなまま眠るのは嫌だし、多少の出費も致し方無いな。

 二人で風呂から上がるとアクアが浴場の入口で待っていた。

 

「今日は何食べる?私、スモークリザードのハンバーグがいい。あとキンキンに冷えたクリムゾンネロイド!」

「俺も肉がいいな。聖はどうするんだ?」

「新鮮なサンマを仕入れた、って聞いた」

「じゃあそれか?スモークリザードのハンバーグ定食二人前とサンマ定食頼むか」

「異議なし!」ああ!

 

 食べ終わったら特にする事も無いので、いつもの馬小屋で眠る。俺が《裁縫》スキルでぼろ布から作った簡素な毛布があるので藁の寝床よりはましか。

 三人で狭い川の字になって寝転がる。

 

「じゃあ、お休みー」

「おう、お休み・・・ふう。今日もよく働いたなあ・・・」

 

 さて、明日も早い。疲れを持ち越さないように早く眠るとしよう・・・

 

「いや、待ってくれ」

 

 カズマがムクリと身を起こした。

 

「どうしたの?寝る前のトイレ行き忘れた?暗いし付いて行ってあげようか?」

「いらんわ。いやそうじゃなくてな。俺達、何で当たり前の様に普通に労働者やってんだって思ってさ」

 

 確かに俺達はここ二週間、街を守る外壁の拡張工事の仕事をしていた。

 だがそれのおかげでカズマは体力がついた。この世界の金銭感覚も実感として分かった。人の役に立った。何が不満なのだろう。

 

「そりゃ、仕事しないとご飯も食べられないでしょ?サトシもそんな感じの顔してるじゃない。それとも工事の仕事が嫌?全く、これだからヒキニートは。一応、商店街の売り子とかの仕事もあるけど?」

「そうじゃねえ!そうじゃなくて、俺が求めてるのはこう、モンスターとの手に汗握る戦闘!みたいな!そもそも、この世界は魔王に攻められてピンチなんじゃなかったのかよ⁉平和そのものじゃねーか、魔王の魔の字もないぞ、コラッ!」

 

「おい、うるせーぞ!静かに寝ろ!」

「あっ、すいません!」

 

 駆け出し冒険者は貧乏であり、1パーティで一部屋以上というのはまずあり得ない。

 大部屋の代金を大勢で割り勘するとか、宿屋の馬小屋を安価で借りてそこで寝泊まりするのが基本だ。ちなみに『裁縫』スキルの練習で作った毛布の中で、他人に使わせられるくらいの出来栄えのものは馬小屋仲間に安価で売っている。おかげでここの馬小屋は他より多少は貧乏臭さが薄れている気がしないでもない。

 モンスターを倒してもそれだけでどこからかお金が手に入る筈もないし、郊外にある森のモンスターは軒並み駆除されたらしい。そしてそんな安全な森での薬草なんかの採取をわざわざ人に頼む仕事なんかもまず無い。よって今の俺達にできるのは、街の人々の手助けという俺好みな、しかしロマンと言える要素があまり無い仕事だけだ。

 確かに一日で一泊数十ゴールドを何日もできる金額が簡単に手に入る仕事、なんて現実に言われたら胡散臭い話だが、最初がファンタジー的な始まりだったために失念していた。しかしこんなところで急に現実味を出されると確かに気概的なものが削がれるのは分かる。

 

「わ、私に言わないでよそんな事。ここは魔王城から一番遠い街なのよ?こんな辺境の、しかも駆け出し冒険者しかいない街なんて、わざわざ襲いに来ないわよ・・・つまりカズマは、冒険者らしく冒険したいって事?まだロクな装備が調ってもいないのに?」

 

 それもそうか。鍛冶師なら石装備くらいはその辺の石を集めて作れたかもしれないが、クリエイターでは《鍛冶》スキルの習得は少々難しいらしい。なので魔道具の作成に使える《魔道具作成》と《裁縫》スキルを習得しているが、まだ即戦力になる様なアイテムを生産できる程の腕前ではない。

 なので俺達は比較的安全かつ体力がつき、実入りも良い土木作業でお金を稼ぎ、装備を手に入れることを目標としていた。

 

「そろそろ土木作業ばっかやるのも飽きたんだよ・・・俺、労働者やりに異世界に来たんじゃないぞ。パソコンもゲームも無い世界だけど、俺は冒険するためにここに来たんだ。魔王を討伐するためにここに送られてきたんだろ、俺は?」

 

 すまん、土木作業が楽しくてそっちの話を忘れていた。

「おおっ!そういえばそんな話もあったわね。そうよ、労働の喜びに夢中になって忘れてたけど、カズマに魔王を倒して貰わないと、帰れないじゃないの」

 

「お前ら・・・」

 

 カズマくんに呆れかえった目で見られた。思えば君咲学院でも度々こんな目つきで見られたなぁ・・・ああ、故郷が懐かしくなってきた・・・

 

「いいわ、サトシもホームシック感じてる顔だし、明日は討伐行きましょう!大丈夫、この私がいるからにはサクッと終わるわよ!期待して頂戴!」

「な、なんかもの凄く不安だが・・・そうだよな。お前女神だもんな。サトシは普通にチートスキル貰ってるし、頼りにしてるぞ!おし、それじゃ、貯まった金で最低限の武具を揃えて、明日はレベル上げだ!」

 おう!「任せて頂戴!」

 

「うるせーってんだろこらっ!しばかれてーのか!」

「「「すいません」!」」

 

 他の冒険者に怒鳴られてしまったが、明日はいよいよ俺達の初戦闘だ。

 俺の働きが良かったとかでそこそこお金はあり、一人だけなら武器に加えて革鎧なんかも買えるだろう。そうなると後衛に回るであろう俺とアクアの装備を後回しにし、危険な前衛を務めるカズマに装備を集中させるべきか?それとも高いステータスを持っているらしいアクアか俺に装備を回し、荒稼ぎしたお金でカズマの分を買うか?あるいは全員に均等な金額を?

 そんなことを考えている内に、俺は眠りについた・・・




・夢ノ咲学院
 『あんさんぶるスターズ!』の舞台。主人公が転校してくる前年度までは男子校、しかもアイドル養成校としての面もある学院だったが、そのアイドルをサポートする人員を育てる事、及び共学化に向けた試験のために主人公(当作での名前は『天光(あまみ) あんず』)が転入することとなった。


天光(あまみ) あんず
 夢ノ咲学院2-A所属。『あんさんぶるスターズ!』の主人公で、デフォルトネームは「あんず」。当作では『あんさんぶるガールズ!!』でしばしば語られる「あんず」「アンジ―」と同一人物で、(さとし)の姉。だが両者に血の繋がりは無い。
 転校した理由は上記した他に、元々通っていた君咲学院で教師を中心としたいじめを受けて居心地が悪くなっていたのもある。いじめに遭うまでは問題児の筆頭として学院をカオスに陥れていた。
 当作では聖ほどではないが無口な方で、きっかけさえあれば何処までだってハジケられるタイプ。実は1年留年しているのは夢ノ咲学院では内緒にしている。


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ジャイアントトード

 初の戦闘回。主人公の初期戦闘力はこんな感じです。
 それと、今までは一人称視点で進行していましたが、今回は少しだけ三人称視点に視点変更してます。視点変更はこんな感じでいいのか少々不安ですが・・・


「ああああああああ!アクアー!聖ー!助けてくれえええええ!」

「プークスクス!やばい、超うけるんですけど!カズマったら、顔真っ赤で涙目で、超必死なんですけど!」

 

 雲一つない晴れやかな空の下、カズマは巨大なカエルのモンスター、ジャイアントトードに追いかけられていた。

 俺達はギルドでクリアできそうな依頼――――クエストを探し、報酬金が低いが初心者向けと明記されたジャイアントトードの討伐を選んだ。

 ジャイアントトードはその名の通りカエルのモンスターだが、牛より大きな体を持っている。繁殖期には人里まで現れ、多くの獲物を食べて体力をつけるのだが、その獲物は家畜の山羊や、人間。更にその厚い脂肪が打撃系の攻撃を防ぐというまごうこと無き凶悪モンスターだが、金属を嫌う性質を持っているため、金属製の防具を身に着けた冒険者にとっては余裕の相手だそうだ。

 アクアは武器を振るうのはお気に召さないらしく、装備を買うための資金はカズマのショートソードと、ゴーレムの操作をサポートする青銅の腕輪になった。本当は金属性の鎧が欲しかったが、思ったより鎧の値段が高く、攻撃力を確保するためにはこうするしかなかったのだ。

 それでも、「三人もいれば何とかなるだろう」という見通しで、ジャイアントトードが生息する平原へ向かったはいいが、その結果がこのザマだ。

 

 ともあれ、こうなったのは俺の責任でもある。始めての魔法といえる『クリエイト・アースゴーレム』を使い、足元の地面から土のゴーレムを作り出す。

 シルエットこそ人型に近いが、ゴツゴツした表面にのっぺらぼうの顔を持ち、これを人間だと思う者はいないだろう。身長は2メートル程で、両腕は剣の様に鋭利な形にした。ジャイアントトードにダメージを与えるためだ。

 一般的なゴーレムは機敏な動きをあまり得意としないが、高いスキルレベルを持つ俺の『クリエイト・アースゴーレム』は、練習を重ねたアスリートの様な理想的な走行をゴーレムに実現させていた。

 カエルに走り寄りながら跳び上がったゴーレムは、その右手の剣をジャイアントトードの口の下辺りに突き刺す。殺すことを考えたら喉元とかに突き刺すべきなのだが、危険を察知したカエルが身を伏せたために失敗した。

 そしてカエルもまた跳び上がる。その勢いにゴーレムの右手も肉から抜け、地面に転倒する。即座に起き上がるも、そこはカエルの落下地点。逃げ切ることは叶わず――――いや、あえて逃げず、両手の刃を落ちて来るカエルの喉元に向けた!

 その刃は狙い通りに突き刺さり、カエルは苦悶の声を上げる。そしてこの刃を――――

 

 瞬間、俺の視界は暗闇に変わった。

 上半身だけが奇妙にヌルヌルし、下半身はどうやら空中に投げ出されているらしい。僅かに光で見える視界は肉色に染まっている様に見える。つまりこれは・・・

 

 ────────────────────

 

「聖ー!おま、お前、食われてんじゃねええええええ!」

 

 この土壇場で現れた2体目のジャイアントトードが、聖の下半身を口から垂らしていた。

 ゴーレムの格闘に目を奪われ、集中していた隙に現れたのだろう。

 足がじたばたしている事から彼の生存は分かるが、放っておけばそれも呑まれてしまう。

 

「どうやら私の出番の様ね!お礼にはアクシズ教団への入信がいいわね!神聖なる女神の力を受けてみなさい!ゴッドブローッ!」

 

 女神アクアの力が拳という一点に集中し、光と共にそれが放たれる。

 神聖な力を宿した拳は、ジャイアントトードの腹部を正確に打ち抜き――――

 

 

 

 ――――ジャイアントトードの脂肪によって遮られた。

 

「・・・」

「どりゃあああーっ!」

 

 背中からよじ登っていた和真の一撃が、ジャイアントトードの頭を砕いた。

 

 ────────────────────

 

 ふう・・・死ぬかと思った・・・

 日本にいた時も自覚していたが、どうも俺は不意打ちには弱い。反省せねば。

 さて、どうやらカズマに助けられたようだな。こっちに来てから色々と頼りになってるな。ありが・・・

 

 ・・・さっきのジャイアントトード、どうやらこっちに狙いを定めたみたいだ。ゴーレムを操ったのが俺だと気づいたのか、仲間の敵討ちか、あるいは八つ当たりなのか。どうあれ目がマジな気がする。カエルの目つきなんてあんまり知らないけど。

 ともあれ、手負いの獣は危険だと聞く。あのジャイアントトードの様子を見るに、その言葉は正しいのだろう。のっしのっしと、こちらを威圧しながら迫ってくる。これはさっきと同じ戦法では倒せないかもしれない。ならば・・・

 

「二人とも見てなさい!今度こそ私が華麗にこいつをぶちのめすんだから!ゴッドブ」

 ぺろり。

 

 ・・・・・・・・

「アクアー!お前もかー!」

 

 俺もあんな風に食われてたのか・・・あっあっぱんつ見えそうヤバい。これは早めに決着をつけねばならない。

 和真がカエルの背にしがみ付こうとする。しかし相手はそれを察するやいなや激しく跳ねまわり、和真は振り落とされてしまった。運が悪ければ足くらいは潰されていたかもしれない。

 しかし奴は今周りが見えていない。俺は暴れまわるカエルに近づき、持っている魔力を使いさっきと同じ形の、しかし上半身だけのゴーレムを作る。もっとも――――今出したゴーレムは、さっきの数倍の大きさはあるが。

 カエルは数舜、そちらを凝視し、口のアクアを吐き捨てると巨大ゴーレムへと向かう。ギリギリまで近づき、跳び上がってその体躯により押し潰そうと。

 しかし、巨大ゴーレムに近づいた時、カエルの足元が派手に陥没する。

 そう、この巨大ゴーレムは、カエルとゴーレムの間の土を、落とし穴になるように使用して作ったのだ。『クリエイト・アースゴーレム』の応用で地面を補強しなければならなかったが、ジャイアントトードは確かな隙を晒した。

 ほんの僅かな隙だが、巨大ゴーレムがその腕を振り下ろすには十分な時間だ。

 そしてそれを確かに実行し、怒れるジャイアントトードはその体を深く切られ、断末魔の声と共にその命を終えた。

 

 

「ぐすっ・・・うっ、うええええええっ・・・あぐっ・・・!」

 

 カエルに呑まれたあげく地面に吐き捨てられたアクアは、気づいた時には既にこの調子で泣きじゃくっていた。

 さっきまでは戦闘に集中して気にしていなかったが、俺もカエルの唾液でヌメヌメする。

 さっきの巨大ゴーレム並のものを作れば一撃で倒せるが、特に頭に血の上っているような個体でなければ不用意には近づかないだろう。そして受けたクエストは三日以内にジャイアントトード五体を討伐するクエストだ。この場所までは街から日帰りで通える距離だから余裕は十分にある。今日のところは引き返し、明日またここに来ればいい。

 

「ぐすっ・・・女神が、たかがカエルにこんな目にあわされて、引き返す訳には・・・!」

 よしよし、お前は良く頑張った。ヌルヌルした体で申し訳ないが、泣きたい時は泣け。胸は貸してやる。

 

 ふと和真を見ると、唖然とした様な感心した様な表情をしていたが、撤退には賛成のようだった。

 なので今日のところは引き返すことにしたのだが、ふと思いついた事がある。

 今、俺のゴーレムは大きさとスピードを両立させる段階にはない。しかし、スピードをあまり気にしなくていいなら・・・

 

「うおっ!大きめのゴーレムがカエル二体を運んでる!こんなの作れるならクエストも楽勝じゃないのか?」

 モンスターの死体の買い取り価格もクエストの報酬に含まれているが、ギルドに輸送を頼むとそのサービスの分の金額が取られるからな。それとこれはあまりスピードが出せないからな。生きてる奴相手だとまず逃げられる。

「・・・えーと?お金が、取られる?で、遅い・・・ああ、なるほど、何となく分かった。多分」

 

 この日、俺達が稼いだ金額は一万六千エリス。一人当たり五千ちょっとだ。

 この金額、昨日までの土木作業の日当とあまり変わらない。「初心者向けだから多少準備がおざなりでも何とかなるだろう」と考えたのはやはりまずかった。

 今度は準備を怠らない。夜のうちにゴーレムの練習をしっかりやる。後方への警戒も気を抜かない。ひょっとするともう一人くらい仲間を募集するべきかもしれない。今度こそ、クエストを成功させる。




鬼龍(きりゅう) 紅郎(くろう)
 夢ノ咲学院3-B所属。和風アイドルユニット『紅月(あかつき)』のメンバー。赤髪の大男。
 空手部主将で喧嘩が得意。だが妹のことを大切に思っていたり裁縫が得意だったり面倒見が良かったりするイケメン。


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紅魔族の最強魔法使い

 今更かもしれませんが、駄ヒロイン三人はカズマとのカプから変えるつもりはありません。まあ彼女達以外はまだ決まってませんが。


 仲間を募集する事には二人も賛成らしい。

 昨日は二人してとんだ無様を晒してしまったし、今後もこの三人だけでやっていけるとは思えない。ゴーレムの操作にもある程度慣れたしこのクエストはクリアできるだろうが、後々また不意打ちでやられてゲームオーバー、という展開も十分にあり得る。後数人くらい仲間がいた方がいいだろう。

 あまり大所帯だと管理が難しいし、こういうものは四、五人くらいが相場だと聞く。一人か二人、仲間を増やす事になった。

 

 で、晩御飯のカエルの唐揚げを囲みながら、どんな仲間を募集するか、という議論をする事になった。

 

「この私がいるんだから、仲間なんて募集かければすぐよ。なにせ、私は最上級職のアークプリーストよ。補助魔法に毒や麻痺なんかの治癒、蘇生だってお手の物。どこのパーティーも喉から手が出るくらい欲しいに決まってるじゃない。ちょろっと募集かければ『お願いですから連れてってください』って輩が上級職にだって山ほどいるわ!分かったら、カエルの唐揚げもう一つよこしなさい!」

 

 冒険者登録の時にもちらっと聞いたが、アークプリーストは上級職の中でも特に万能の職業らしい。その中でも特に有能な美人がいるパーティーとなれば、確かに引く手数多だろう。しかし・・・

 

「やらんぞ・・・というか、お前がそんな凄い職業でもこっちは最弱職と生産職だぞ。そんな人と一緒とか気まずくなっちまうわ。そもそもこんな駆け出し冒険者の街に、上級職がどれだけ居ると思ってるんだ?それもまだパーティーに所属してない、俺達と喧嘩とかにならない様な奴だぞ?ここは将来有望そうな駆け出しを見つけて、俺達と共に成長していく感じでいくべきだろ」

 

 和真の言う通り、この街で俺達と相性の良い上級職が都合良く居るとは思えない。むしろ断られるのではないか、と駆け出しが遠慮する姿が容易に想像できる。ギルドのパーティー募集の掲示板を見てこちらから誘いに行くべきか・・・?

 いや、俺達は魔王を倒すという壮大な目標があるのだ。アークプリーストからのパーティー募集に物怖じしない豪胆な人物を迎え入れるべきかもしれない。その人物が俺達と性格面で好相性かどうかは本人を見て決めればいい。

 あるいは・・・

 

「『最終目標は魔王討伐』と明記して、来た人を加える・・・?」

「なるほど・・・そうすれば勇敢な奴が来るかもな」

「じゃあそれで貼り出しましょう!今夜中に貼っておけば、明日の朝にでも勇敢な仲間が加わっている筈よ!」

 

 ────────────────────

 

 翌朝。

 

「・・・・・・・・来ないわね・・・」

「来ないな・・・」

 

 案の定というべきか、誰も俺達のパーティーに参加しようという冒険者は現れなかった。

 パーティー募集の貼り紙が気づかれていない訳ではない。一瞥しただけで目を離し、クエストの掲示板なんかに向かうのが大半なのだ。若干引き攣った様な顔を見るに、魔王討伐に参加する自信が無いのが大半なのだろうか。あるいは同パーティーに冒険者やクリエイターという弱そうなメンバーがいるのがマイナスなのか。

 

 もう少し誰も来なければ今日はこのままクエストの続きを、と考えたところで、俺達の元に一人の少女が寄って来た。

 

「魔王討伐を目標としたパーティーというのは、こちらでしょうか?」

 

 黒いマント、黒いローブに黒いとんがり帽子、指ぬきグローブとブーツも黒く、眼帯の無い左目だけは赤い少女の手にある巨大な杖は、彼女が魔法使い系の職業だと主張している。しかしそれらを身に纏う少女はかなり幼く見える。14前後くらいか?外見年齢だけならウチのしずくと同じくらいだ。更に右目が眼帯によって隠されており、すずさんを彷彿とさせる。彼女もまた、自身を他者と隔絶させる様な恐るべき禁忌を封じているのか・・・?

 そして彼女はおもむろにマントを翻し、

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂(ばくれつ)魔法を操る者・・・!」

 

 ・・・凄い名前だ。

「・・・冷やかしに来たのか?」

「ち、ちがわい!」

 

 男二人、この少女について測りかねているところ、アクアが口を開く。

 

「・・・その赤い瞳、もしかして、あなた紅魔族?」

 

 知っているのかアクア⁉

 

「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕く・・・!・・・という訳で、優秀な魔法使いはいりませんか?・・・そして図々しいお願いなのですが、もう三日も何も食べていないのです。できれば、面接の前に何か食べさせては頂けませんか・・・」

 

 なんと。

 今は食事時などではなく、俺達のテーブルには何もない。さて何を注文する?

 

「そうですね・・・ミートスパゲッティを、大盛りでお願いします」

「・・・飯を奢るくらいなら構わないんだがもう少し俺達の事をだな・・・・・・ところで、その眼帯はどうしたんだ?怪我でもしてるのなら、こいつに治してもらったらどうだ?」

「・・・フ。これは、我が強大なる魔力を抑えるマジック・アーツ(巻き舌)・・・☆もしこれが外される事があれば・・・その時は、この世に大いなる災厄がもたらされるだろう・・・」

 

 そんな強大な力を秘めたアークウィザードがこの街にいたのか・・・案外上級職限定の募集でも人が集まったかもしれない。

 

「まあ嘘ですが。単にオシャレで着けているただの眼帯です」

 

 嘘かよ。

 

 和真がマジック・アーツを引っ張って遊んでいるところに、アクアから説明が入る。

 曰く、紅魔族は総じて高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法使いのエキスパートになる凄い民族らしい。そして彼女達は、黒い髪と紅い目、そして変な名前を共通して持っているらしい。

 とりあえず家族の名前がどんな感じなのか聞いてみたところ、彼女は母ゆいゆいと父ひょいざぶろーの間に生まれた長女で、妹のこめっこがいるそうだ・・・凄い名前だ。ちなみに紅魔族からすれば、里の外の人間の方が変な名前らしい。

 

「・・・・・・とりあえず、この子の種族は質のいい魔法使いが多いんだよな?仲間にしてもいいか?」

「いーんじゃない?冒険者カードは偽造できないし、彼女は上級職の、強力な攻撃魔法を操る魔法使い、アークウィザードで間違いないわ。カードにも、高い魔力値が記されてるし、これは期待できると思うわ。もし彼女の言う通り本当に爆裂魔法が使えるのなら、それは凄い事よ?爆裂魔法は、習得が極めて難しいと言われる爆発系の、最上級クラスの魔法だもの」

 

 アークウィザードは攻撃魔法に優れた魔法使いであり、瞬間火力としてはトップクラスだ。それが攻撃力トップクラスの魔法を使うというのなら、その威力はどれほどのものなのか。むしろ俺達が寄生しているみたいにならないだろうか?

 まあ、今日一日ならそんなに問題も起こらないだろう。今日の活躍を見て、正式契約はその後にしよう。

 

「だが私と組むというのなら、私の事はちゃんと名前で呼んで欲しい」

「そうかいアークウィザード。俺はカズマ。こいつはアクアで、こっちがサトシ。ほら、何か頼め」

「・・・よろしく、めぐみん」

 

 和真の態度にめぐみんが何か言いたげな顔をしていたので、とりあえず撫でる。

 

「・・・おい、私を子供扱いするな。もう数ヶ月すればこの国では成人ですよ」

 

 ふむ、この国の成人は何歳からなのか。そういえばこの国の名前もまだ知らないな。後々にでも調べておくか。

 まあ、今日の目標はジャイアントトード三匹以上の討伐だ。昨晩はゴーレムの練習もしたし、わざと足を引っ張られるような事もなければ大丈夫だろう。

 

 ────────────────────

 

「爆裂魔法は最強魔法。その分、魔法を使うのに結構時間がかかります。準備が調うまで、あのカエルの足止めをお願いします」

 

 俺達は満腹になっためぐみんを連れ、昨日と同じ平原に来ていた。目標はもちろんジャイアントトードだ。

 辺りを見渡すと、遠く離れた所に一匹、その逆方向の比較的近い所にもう一匹カエルがいた。どちらも俺達に気づいてこちらに向かって来ている。

 

「遠い方のカエルを標的にしてくれ。近い方は・・・俺とアクアで行くぞ。聖は新しいカエルが出てこないかめぐみんの横で警戒していてくれ。アクア、お前一応は元なんたらなんだろ?たまには元なんたらの実力を見せてみろ!」

「元って何⁉ちゃんと現在進行形で女神よ私は!アークプリーストは仮の姿よぉ!」

 

 涙目で和真に掴みかかるアクアの言葉を聞き、めぐみんが不思議そうに、

 

「・・・女神?」

「・・・を、自称している可哀想な子だよ。たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしておいてやって欲しい」

 

 ああもう、アクアが涙目になっちゃった。よしよし、お前は立派な女神だよ・・・

 

「・・・お前ちょくちょく女の子の頭撫でてるよな。趣味なのか?」

「・・・撫でた方が良いと思った」

「ほう、さっき私も食堂で撫でられましたが、それは私が泣き出しそうにでも見えたからですか?」

「機嫌が悪そうだった」

「「・・・・・・」」

 

 そんな中、俺の手を振り払ってアクアがカエルへと駆け出した。

 

「何よ、打撃が聞き辛いカエルだけど、今度こそ女神の力を見せてやるわよ!見てなさいよカズマ!今のところ活躍してない私だけど、今日こそはッ!」

 

 そう言って果敢にカエルに殴り掛かるも今日も頭から食べられてしまう。急いで助けなければ。

 しかし俺のすぐ横から、空気が震える様な感覚を感じた。そちらを見ると、めぐみんがその杖に魔力を集中させている。魔法については今のところからっきしな和真でも、彼女の使おうとする魔法が凄まじいものである事は容易に理解できた様だ。

 魔法を唱えるめぐみんの声が大きくなり、そのこめかみを汗が一筋伝う。

 

「見ていてください。これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段・・・これこそが、究極の攻撃魔法です」

 

 めぐみんの杖の先端に、濃密な魔力の球体が現れる。小さくも眩しい光を放つそれは、俺には到底出せない様な圧倒的な量の魔力だと感覚で分かった。

 

 そして、めぐみんは紅く輝く目をカッと見開き、その名前を口に出す。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 平原を一筋の閃光が走る。

 大小様々な大きさの魔方陣が、カエルのいる所を指すように一列に現れる。

 そしてそこから放たれる圧倒的な炎は、カエルを一瞬にして焼き尽くし、そこには隕石でも落ちたかの様な巨大なクレーターだけが残った。

 

 これが・・・

 

「最強の攻撃魔法・・・」

「・・・すっげー・・・」

 

 駆け出し冒険者の街にいたからめぐみんも駆け出しなのかと思ったが、実は経験豊富なベテランの楽隠居だったり・・・しないか。しかしまだ成人していないらしいのにこれ程とは・・・

 俺や和真もいずれあの領域に至るのか?火力が全てではないとは分かっているが、駆け出し冒険者の街にいる未成年の少女がこんな力を持っている事に驚嘆するばかりだ。

 そんな紅魔族の少女は・・・

 

 

 

 うつ伏せになって倒れていた。

 

「ふ・・・我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえ、消費魔力もまた絶大・・・要約すると、限界を超える魔力を使ったので身動き一つ取れません」

 

 ええー・・・何でそんな奥義をカエル一匹に使っちゃったの。

 いや、今回は既に途中まで進めていたクエストを終わらせる予定だったし、この機会に全力を披露しようとしたのか。

 それならその目論見は大成功といえるだろう。あの爆発を見た時、俺h

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 俺やアクアを食べた二体のジャイアントトードを和真が倒し、クエストクリアしたと聞いたのは、俺が和真に救出されてすぐの事だった。




 多分これが最後の(さとし)丸呑みだと思います。


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紅魔族のポンコツ魔法使い

 尺の都合で今回は短め。


「うっ・・・うぐっ・・・ぐすっ・・・生臭いよう・・・生臭いよう・・・」

 

 俺も同様に生臭い。一度アクアを撫でようとしたのだが、

 

「その手も生臭い・・・」

 

 と拒否されてしまった。ちくせう。

 でもカエルの体内は温度だけはいい感じだった。生臭さや身の危険等が圧倒的に減点だが。こんな知識いらなかった。

 

 めぐみんは和真の背におぶさりながら、こちらをゴミを・・・この言い方だと語弊があるか?ゴミ捨て場でも見る様な目でこちらを見ていた。

 俺やめぐみんの様に魔法を使う者は、魔力の限界を超えて魔法を使うと、魔力の代わりに生命力を使う事になる。

 そんな状態になれば感覚で分かるが、そこから更に魔法を使おうとすれば命に関わる事態になりかねない。

 

「今後、爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな。これからは、他の魔法で頑張ってくれよ。めぐみん」

 

 和真の言う通りだ。彼女が爆裂魔法を使う度にその状態に陥るのなら、下手な使用は逆に危険な状態になりかねない。

 

「・・・使えません」

「・・・は?何が使えないんだ?」

 

 めぐみんの言葉に、和真はオウム返しに言葉を返す。

 

「・・・私は、爆裂魔法しか使えないです。他には、一切の魔法が使えません」

「・・・マジか」

「・・・マジです」

 

 それは・・・どういう事なのだろうか?

「・・・スキルポイントは・・・?」

 

 レベルアップや冒険者カード作成時、冒険者はスキルポイントを得る。それを使えば容易にスキルを習得できるのだ。爆裂魔法は多大なスキルポイントを必要とするらしいが、それを習得するためのスキルポイントを得るのにどれだけの戦いが必要なのだろうか。

 アクアも同じ事を思ったらしく、彼女も口を開く。

 

「そうよ。爆裂魔法なんて習得できる程のアークウィザードなら、他の魔法も習得できないはずがないじゃないの」

 

 スキルポイントについての説明を聞いていなかったらしい和真がアクアから説明を受ける。その時にアクアが習得したスキルを聞いたが、彼女はまず宴会芸スキルなるものを全て習得し、それからアークプリーストの魔法も全て習得したらしい。お前頭がAmazingかよ・・・

 それはさておき、爆裂魔法が所属する爆発系の魔法は複合属性といい、火や風の魔法に関する深い知識が必要という。つまり爆裂魔法を習得できる魔法使いは他の魔法、とりわけ火や風の魔法を習得するのはもっと簡単な筈らしい。

 

「爆裂魔法なんて上位の魔法が使えるなら、下位の他の魔法が使えない訳が無いって事か・・・で、宴会芸スキルってのは何時どうやって使うものなんだ?」

 

 そんな中、めぐみんがぽつりと呟く。

 

「・・・私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないです。爆裂魔法だけが好きなのです。

 

 もちろん他のスキルを取れば楽に冒険ができるでしょう。火、水、土、風。この基本属性のスキルを取っておくだけでも違うでしょう・・・でも、だめなのです。私は爆裂魔法しか愛せない。たとえ今の私の魔力では一日一発が限界でも。たとえ魔法を使った後は倒れるとしても。それでも私は、爆裂魔法しか愛せない!だって、私は爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

「素晴らしい!素晴らしいわ!その、非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」

 

 ああ、その愚直なまでに自身の道を貫くその姿は君咲学院で多く見た、俺が応援したいと思える姿だ。その背中を守り、後押ししたくなる。アクアも賛成だし、和真がOKを出すなら大歓迎なのだが。

 

「いやいや、めぐみんの力は俺達みたいな弱小パーティーには勿体無いからさ、もっと別のパーティーを探すといい。俺達みたいな駆け出しには普通の魔法使いで十分だろ?ほら、俺なんて最弱職の冒険者だぜ?今回の報酬は山分けにして、お前はもっと相応しいパーティーを見つけるといい」

 

 いやいや、俺達のパーティーは稀代のアークプリースト、アクアが所属している。桁外れの火力を持つめぐみんが所属するのに不足は無いだろう。それに自分を最弱冒険者と卑下するのなら、彼女も魔法一発で戦えなくなるポンコツアークウィザードだ。知力の残念なアクアも含め、このパーティーが彼女に相応しいのではないだろうか。

 

「何言いたいのかよく分かんねえけど、あいつを誘うのはやめた方がいいだろ。一日一発しか使えない魔法使いとか初めて聞いたぞ俺。どう考えても使い勝手が悪いぞ」

「聞こえていますよ・・・私は上級職ですがレベルはたった6。もう少しレベルが上がればきっと魔法を使っても倒れなくなりますから。そちらの方も私を歓迎しているっぽいですし、何なら報酬も山分けでなく、食事とお風呂とその他雑費を出して貰えるならそれだけで十分なのです。そう、アークウィザードである我が力が、今なら食費とちょっとだけ!これはもう、長期契約を交わすしかないのではないだろうか!」

 

 契約しよう契約。俺達と契約して、専属魔法使いになってよ!

 

「いやいやいや、こいつ多分他のパーティーに捨てられた口だぞ。というかダンジョンにでも潜った際には、爆裂魔法なんて狭い中じゃ使えないし、いよいよ役立たずだろ。お、おい離せってめぐみん。報酬はやるから!ちょっ!妙に痛い!」

「見捨てないでください!もうどこのパーティーも拾ってくれないのです!ダンジョン探索の際には、荷物持ちでも何でもします!私を捨てないでください!」

 

 背中から離れられないめぐみんが、その状態で叫んでいる。もう街の中、それも人々が帰宅し始める夕方なので、もの凄く目立ち、こちらを見てひそひそと話す声も聞こえる。

「やだ・・・あの男、小さい女の子を捨てようとしてる・・・」「隣の二人はなんか粘液まみれよ」「あんな小さい子を弄んで捨てるなんて、とんだクズね!」「あっちの二人、もしかしたら背負われてる子に・・・見せつけてたんじゃない?」「・・・気持ち悪い!変態の集まりかしら」

 ・・・変態扱いされた。氏にたい。

 

「どんなプレイでも大丈夫ですから!先程あの人達がやった様なプレイを、私がやる事になっても耐えてみせ」「よーし分かった!めぐみん、これからよろしくな!」

 

 噂話を聞いためぐみんが一瞬ニヤリと笑い、それに合わせた爆弾発言を放った事が決め手となり、彼女は正式に俺達の仲間になった。

 ・・・なかなか強かなところもあるじゃないか(白目)

 

 そんなこんなで冒険者ギルドまでカエルを運んだら、俺とアクアは一足先に風呂に入り、体のヌルヌルを洗い落とすために先に帰る事にした。




日々樹(ひびき) (わたる)
 夢ノ咲学院3-B所属。Amazing銀髪ロン毛変態仮面。校内でトップクラスの人気を誇るユニット『fine(フィーネ)』に所属している。口癖は「Amazing」。
 演劇部の部長であり、世界を驚きと愛で満たす事を理想としている。その手段には手品や変声術、突飛なパフォーマンスに個人所有している気球など実に多彩。一人で五つもの楽器を演奏する姿はまごうことなき変態。『三奇人』と呼ばれる校内随一の奇人変人の一角に数えられる。
 ひょっとしたらアクシズ教徒なのかもしれない。


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銀の盗賊、金の聖騎士

 ゴーレムを即時に作製する能力がある事が原作描写から読み取れるクリエイターですが、当作ではゴーレム周りのスキルといくつかの生産系スキル、そして本職ほどではないが魔法を習得できる職業という設定になっています。ひょいざぶろーの様な魔道具職人向けですね。


「なあ。聞きたいんだがスキルの習得ってどうやるんだ?」

 

 カエル討伐の翌日。

 遅めの昼食を一心不乱に食べるめぐみんを横目に、和真はそんな事を聞いてきた。

 

「スキルの習得ですか?そんなもの、カードに出ている、現在習得可能なスキルってところから・・・ああ、カズマの職業は冒険者でしたね。初期職業と言われている冒険者は、誰かにスキルを教えてもらうのです。まずは目で見て、そしてスキルの使用方法を教えてもらうのです。すると、カードに習得可能スキルという項目が現れるので、ポイントを使ってそれを選べば習得完了なのです」

「・・・高位のモンスターのみが持つことのあるレアスキルも習得可能・・・かもしれない・・・らしい・・・」

「へえ・・・もしかして冒険者って意外と凄い?」

 

 めぐみんの説明に俺が付けた補足に、和真はどうやら興味を持ったようだ。

 

「でもそんな高位モンスターにスキルを教わるなんてまず無理よ。言葉を喋るくらいならあり得るけど、そういうのは大体人間を見下してるわ。それで何とかスキルを教わっても、本当に習得可能になる保証は無いし、どれだけスキルポイントが必要なのかも分からないわ」

「ああー・・・でも爆裂魔法なら使えるのか?」

「その通りです!」

 

 和真の何気ない一言に、めぐみんは即座に反応する。

 

「その通りですよカズマ!まあ、習得に必要なポイントはバカみたいに食いますが、冒険者は、アークウィザード以外で唯一爆裂魔法が使える職業です。爆裂魔法を覚えたいならいくらでも教えてあげましょう。というか、それ以外に覚える価値のあるスキルなんてありますか?いいえ、ありませんとも!さあ、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃないですか!」

「ちゃ、落ち、落ち着けロリっ子!つーか、スキルポイントってのは今2ポイントしかないんだが、これで習得できるものなのか?」

「ロ、ロリっ子・・・⁉」

 

 ショックを受けているめぐみんをよそに、和真に尋ねられたアクアが答える。

 

「冒険者が爆裂魔法を習得しようと思うなら、スキルポイントの10や20じゃきかないわよ。十年くらいかけてレベルを上げ続けて一切ポイントを使わず貯めれば、もしかしたら習得できるかもね」

「待てるかそんなもん」

 ・・・参考までに、めぐみんはどれだけのスキルポイントを使ったのだろうか?

「ふ・・・この(われ)がロリっ子・・・・・・」

 

 どうやら子供扱いされたのがもの凄くショックだったらしい。ちなみに後日改めて聞いたところ、彼女は50ポイントものスキルポイントを使って爆裂魔法を習得したそうだ。どうやら彼女は故郷の魔法学校(なんとも『幸運の双子』が喜びそうな施設だ)を首席で卒業する程の天才らしく、それでこの数値なら、知力が若干高い程度の和真では三桁くらい使いそうだ。

 

「なあアクア。お前なら便利なスキルたくさん持ってるんじゃないか?何か、お手軽なスキルを教えてくれよ。習得にあまりポイントを使わないで、それでいてお得な感じの」

 

 今度はアクアに頼り始めた。まあ、アークプリーストは神聖属性を中心に多彩な方向性のスキルを習得可能だ。スキルを教わる相手には十分過ぎるくらいだろう。

 

「・・・しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端ないわよ?本来なら、誰にでもホイホイ教えるようなスキルじゃないんだからね?

 

 じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちない様に載せる。ほら、やってみて?

 さあ、この種を指で弾いてコップに一発で入れるのよ。すると、あら不思議!このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと・・・」「誰が宴会芸スキル教えろっつったこの駄女神!」

「ええーーーーーーー⁉」

 

 なんでアクアはこの流れで宴会芸を教えようと思ったのか。

 

「じゃあ聖、お前たしか昨日の夜に中級魔法って習得してたよな?それ頼む」

 

 とうとう俺か。確かに昨夜、俺は初期ポイントの余りも使って『中級魔法』スキルを習得した。

 見習いが魔法の練習に使う『初級魔法』も考えたが、現状では安定した火力が少ないためにこちらを選ぶことにした。

 ひょっとしたら初級魔法からの方がいいのかもしれないが、まあ教えない理由も無いだろう。俺はギルドの裏手にある空き地で披露することにした。

 

「まず、体内の魔力を認識する。

 使う魔法に合わせて、それを纏める。

 そして、放つ。

 ・・・詠唱も覚えないといけない」

 

 そして俺は、習得した魔法を発動して見せる。

 人間の頭ほどの火球を放つ『ファイアーボール』、小さな鉄砲水で敵を押し流す『ウォータービーム』、風のバリアを発生させる『ウィンドカーテン』、石の手で敵を押さえこむ『ストーンバインド』。これ以上の魔法となると、中級魔法の熟練度や専門性の高い魔法スキルの習得が必要になってくる。まあ中級魔法の習得だけならこれでいいだろう。

 

「これだよこれだよ。何に使うのかも分からない奴とか使い勝手の悪すぎる奴じゃなくて、こういう普通にかっこいい奴を・・・」

 

 意気揚々とスキルを習得しようとする和真の手が止まる。

 

「・・・ポイントが足りねぇ」

 

 和真のなけなしのポイントでは中級魔法には足りなかったようだ。しかし俺が使えるスキルで直接戦闘に関われるのは、低い練度ではまともな戦闘に不向きなゴーレム関係と『罠作成』くらいだ。どちらも一通り見せておいたが、本来なら攻撃に使う類のスキルではない事を言い含めておいた。防衛とかなら普通に使えるのだが・・・

 

 そうしていると酒場の方から二人の女性が歩いて来た。

 一人は頬に小さな十字傷を持つ、銀髪のボーイッシュな風貌で軽装の少女。もう一人はTheが付きそうな程に騎士らしい出で立ちの金髪の女性。金髪の方は王族の警護とかにいても違和感の無い立派な装備だが、有名な冒険者が里帰りにでも来たのだろうか?

 

「ねえ、キミがダクネスが入りたがってるパーティーの人?有用なスキルが欲しいんだろ?盗賊スキルなんてどうかな?」

 

 銀髪の少女か口を開く。たしか昨日、俺達が先に帰っている間に『性格とかに問題のあるパーティー加入希望者』が来たので帰らせたそうだが、その人の知り合いだろうか?

 彼女が言うには、盗賊スキルには使えるものが多く、必要なポイントも少なめらしい。

 彼女にクリムゾンビアを一杯奢るのと引き換えに、和真は彼女から盗賊スキルを教わる事になった。

 

 

 

 そしてその間、俺達は暇になる。

 中級魔法の練習でもしようか、と思ったところ、アクアの元に何人かやって来ていた。

 

「オイオイあんた・・・さっきあの冒険者の奴に教えようとしてたのって、宴会芸スキルか?」

「そうだけど・・・あなた達も教えてほしいの?」

 

 なんでさ。

 

「バカ言っちゃいけねえ!ここは駆け出し冒険者の街だぜ?お前たしか冒険者登録したのが二週間前くらいだったか?それでよく宴会芸なんて取ろうと思えるな!」「冒険者を舐めてんのか?」「というか宴会芸スキルなんてあったのかよ・・・」

 

 ごろつき達の正論が耳に痛い。

 

「宴会芸スキルをバカにするのね?いいわ・・・私の芸であなた達をギャフンと言わせて見せるわよ!」

 

 そういうつもりじゃないと思う。

 

 ────────────────────

 

 

 

 これが――――Amazingか――――

 

 

 

 感嘆にふけっていると、後ろから肩を叩かれる。振り返って見ると、涙目になったさっきの銀髪の女性を連れた和真がいた。

 和真に事情を聞くも、彼より先に金髪の女性が答えた。

 

「うむ、クリスは、カズマにぱんつを剥がれた上に有り金毟られて落ち込んでいるだけだ」

 

 何?お前はヒキニートと偽り、実は愉快なアホのせえとかいちょおだったのかZOY⁉いや、あり金毟るとは柊さんもやらなかった蛮行・・・ゲスマだったか・・・

 

「おいあんた何口走ってんだ!待てよ、おい待て。間違っていないけど、ほんと待て」

 

 和真曰く、《敵感知》と《窃盗》を習得した自分がクリス(銀髪)と勝負をする事になり、自分は財布をスティールされ、クリスからスティールした物とその財布を交換する事になった。その結果、自分はクリスのぱんつをスティールし、それをクリス自身の物も含めて二つの財布と交換した、という事らしい。

 

 ・・・やはりアホのせえとかいちょおだった!

 

「公の場でいきなりぱんつ脱がされたからといって、いつまでもめそめそしててもしょうがないね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!下着を人質にされてあり金失っちゃったしね!」

「おい、待てよ。なんかすでに、アクアとめぐみん以外の女性冒険者達の目まで冷たい物になってるからほんとに待って」

 

 これは自業自得・・・なのだろうか?最初に勝負を仕掛けてきたのはクリスだし、和真はそのルールに則って勝負を受けた・・・でも意図した事ではないとはいえクリスはぱんつを奪われた・・・うーん?

 

「このくらいの逆襲はさせてね?それじゃあ、ちょっと稼いでくるから適当に遊んでいてねダクネス!じゃあ、いってみようかな!」

 

 言いながら、クリスは冒険仲間募集の掲示板に行ってしまった。

 ・・・結局、誰も得していない様な気がする。いや、和真はスキルを覚えたし、クリスはお酒を奢ってもらった。しかし二人とももっと大事なものを失ってしまったのではないだろうか。そもそも何故二人は争わなければならなかったのか。悲しいねバ*ージ・・・




鶴見(つるみ) ひまり
 君咲学院3-B所属。黒髪姫カットのちびっ子。文芸部の部長であり、君咲学院の生徒会長である。
 前生徒会長から唐突に生徒会長の役職を任された経緯があり、最初は彼女に対する不安が多く、メインストーリーの『生徒会長再任選挙』という騒動が発生した。彼女なりに生徒会長たらんと努力した。深鳥(みどり)ふみのパンツを脱がせたりもしたが。


(ひいらぎ) るな
 君咲学院2-B所属。グレーのショートカットに『しゅうくん』という名前のほっかむりを被っている。ラクロス部所属。
 自称『世紀の大悪党』。同じくラクロス部のクー・カロア、高原(たかはら)ちあきを率い(だまし)て迷惑行為を行っており、『正義の味方』と呼ばれる夜霧(よぎり)はやてとしばしば戦っている。お金を稼ぐことが大好き。


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緊急クエスト発令

 気づけばクリスマスイブ。色気のある予定はありません。


「えっと、ダクネスさんは行かないの?」

 

 ダクネスというのはこの金髪の女性か。彼女はこのパーティーに入ろうとしているらしい。一体何が目的なのだろう。

 

 彼女が言うには、職業の中でも地味な盗賊系の数は少なく、派手な前衛職の割合は大きいらしい。なので臨時パーティーの誘いもクリスより少ないのだとか。

 ほどなくして臨時パーティーが見つかったらしいクリスは、数名の他の冒険者と共にギルドから出ていった。めぐみん曰く、ダンジョン探索の際は入口付近でキャンプし、翌朝から探索を開始するのだとか。

 

「それで、カズマは無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

 説明に続くめぐみんの問いに、和真はニヤリと笑った。

 

「ふふ、まあ見てろよ?いくぜ、『スティール』ッ!」

 

 彼の握り拳から青い光が一瞬だけ漏れ、気がつけば、彼の手にはめぐみんの持っていた()()()が握られていた。

 

 そう、めぐみんのぱんつである。

 

 

 

 ・・・やはりゲスマだった!ひまりもぱんつを強奪したのは深鳥先輩から、しかも彼女が酷い偏向報道をやらかした時に一回だけだというのに!

 

「・・・なんですか?レベル上がってステータスが上がったから、冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?・・・あの、スースーするのでぱんつ返してください・・・」

「あ、あれっ⁉お、おかしーな。こんなはずじゃ・・・ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」

 

 たしか和真の幸運値は凄く高いって話だった気が・・・もしや彼は無意識に少女の下着に興奮する変態予備軍・・・?

 これではダクネスさんも仲間にはなりたがらないだろう。顔を真っ赤にして身を震わせている。彼女はバンとテーブルを叩いて立ち上がり、

 

「やはり、やはり私の目に狂いは無かった!こんな幼気な少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、なんとい鬼畜・・・っ!是非とも・・・!是非とも私を、このパーティーに入れて欲しい!」「いらない」

「んんっ・・・⁉く・・・っ!」

 

 工工エエエ(´Д`;)エエエ工工

 この人変態だー!・・・人は見かけによらないってやっぱり本当なんだな・・・

 見れば和真も彼女を駄目なものを見る様な目になっている。このくらいなら日々の彩りって事でいい・・・のか?流石に本気でヤバい事態になりそうなら性癖優先はしないだろうし・・・

 

「・・・実はなダクネス。俺と聖、アクアは、こう見えてガチで魔王を倒したいと考えている」

 

 そう、俺達の目的は魔王討伐。

 ダクネスがこれを聞いて怯えるようなら別に構わない。魔王を倒すとは、つまりそういう人達を助けるための仕事だ。その一人の顔と名前を知って何か問題がある訳でもない。

 だが、それでも彼女がこのパーティーに入るのなら心強い。ガチガチの前衛職の様だし、俺のゴーレムとは違う活躍ができるだろう。

 

「丁度いい機会だ、めぐみんも聞いてくれ。俺達は、どうあっても魔王を倒したい。そう、俺達はそのために冒険者になったんだ。という訳で、俺達の冒険は過酷な物になる事だろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」

「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場が決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」

「えっ⁉・・・あれっ⁉」

「えっ⁉・・・なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」

 

 いや、一人で楽しむ分には別にいいのだが、この調子だと性癖のせいでパーティー全体が危機に陥る、なんて事は・・・

 

「・・・もし、積極的に人里に現れて女性を襲う・・・触手のモンスターがいたとして、どうする?」

 

 思わずこんな質問を投げかけてしまう。それに対してダクネスは、

 

「しょ、触手⁉それは実に興奮す・・・い、いや、人里を襲うのなら野放しにもできないか・・・な、なら私が皆の盾となろう。仮に私一人だけでも、それくらいはできるだろう・・・その結果、私が帰れなくなったとしても、それは騎士の責務だ!うん、そうだ!」

 

 ・・・ならいい。

 

「いや何『これなら大丈夫だ』って顔してんだ⁉どう考えても性欲だだ洩れだったろ⁉」

 

 でも人々の盾になるという志は立派だ。そこで多少の性欲を出しても結果さえ大丈夫なら問題ないだろう。無論、意味のない犠牲を出すのなら折檻でもするべきだが。

 

「なんでそんな馬鹿正直な・・・まあ、めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺達は。もし冗談か何かだと思ってたなら、無理して残る必要は・・」

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

 二人ともやる気と希望に満ち溢れている。理屈と損得勘定だけで動くような大人は彼女達を嗤うだろうが、その輝きは時に大きな力になると俺は信じている。閉塞した夢ノ咲学院の時計の針を進めたTrickstar、そして彼らを支えた姉さん(あんず)の様に。

 彼女達と一緒なら、俺達はもっと輝ける。どんな苦難が待ち構えていても、己の道を邁進できる者は強いのだ。

 

「・・・ねえ、カズマ、カズマ・・・私、カズマの話聞いてたら何だか腰が引けてきたんですけど。何かこう、もっと楽して魔王討伐できる方法とか無い?」

 

 ・・・ま、まあ、そういう風に魔王に怯える人達を助けるのが俺達の仕事・・・いややっぱお前が一番やる気出すところな気もするが。

 

 

 

 ・・・と、その時。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 街中に大音量のアナウンスが響く。

 

「おい、緊急クエストってなんだ?モンスターが街に襲撃に来たのか?」

 

 少し不安気な和真だが、対するめぐみんとダクネスはどことなく嬉しそうだ。

 

「・・・ん、多分キャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の季節だしな」

 

 話には聞いていた通り突発的な収穫依頼だ。

 和真達の事も気になるが、今回俺は他の冒険者とは違う依頼で動く事になっている。三人はどういうクエストか分かっていそうだし、俺は一足先にギルドに向かう事にしよう。

 

 ────────────────────

 

 時はまず一週間前に遡る。

 

 その日俺は『裁縫』スキルの練習のため、服屋か何かから安い端切れをいくらか手に入れようと街を歩いていた。

 

「あ、あなたはあの時の・・・」

 

 その時、俺は冒険者登録の時の受付の人に偶然にも再会した。

 それだけならまあ、少し立ち話をするかどうか、という程度だったが、彼女は俺に話すべきか悩んでいる事があるらしかった。

 

「あなたはたしかクリエイターでしたね・・・ちょうど、クリエイター向けの依頼があるのですが、お時間はよろしいでしょうか?」

 

 彼女――――ルナさんに話を聞いたところ、近々アクセルでキャベツの収穫が行われるそうだ。

 そのキャベツは力こそそれ程でもないが凶暴で、キャベツを入れるための網や袋は強靭な物が求められるそうだ。

 ・・・この世界のキャベツは暴れるのか・・・氷野さんみたいな人がこの世界にもいたのか・・・?

 それはさておき、例年はそれを業者に発注しているのだが、今年は街道をモンスターに占拠されたらしい。この辺りのモンスターの平均よりは上のモンスターだが、少し遠方になら対処できるパーティーは少なくないらしい。そのうち街道もまた通れるようになるだろうが、それを待っていては収穫に間に合わない可能性が高いのだとか。

 それで、今年はなるべくアクセルでも網や袋を作成する事になったらしい。

 やり方は変わるが、君咲学院でいくらでもやってきた人助けと同じ様なものだ。何個でも作ろう。ヘルプマンの呼び名の由来・・・たっぷり分からせてやろうッ!

 

「ああ、いえ、やる気があるのは結構なのですが、空いた時間に進める程度でもかまいませんよ?報酬もあまり高額ではありませんし・・・」

 

 そうか。ならば人は少ないだろうし困っていることだろう。何個でも作ろう。

 

「は、はあ・・・まああなたがそれでいいのなら咎めませんが・・・」

 

 

 

 そんなやり取りの数日後である昨日、大量制作した網や布袋をルナさんに持って行ったところ、彼女はまた困っているらしかった。

 

「あなたですか・・・作った物はそちらに置いておいてください。後で確認しま・・・ええっ⁉何ですかこの量⁉これだけあれば当日には十分なんじゃ・・・」

 

 それはそうと何か困っているのではないですか?俺でよければ話を聞きますが。

 

「実はギルド職員数名が食あたりで病院に・・・数日で復帰できる程度の症状なのですが、連絡によればキャベツ収穫は後三日以内での開始が見込まれているのです・・・キャベツの仕分け等で、当日は多くの人手が必要なのですが・・・」

 

 それなら俺が手伝おうか?どの冒険者が持って来たキャベツかを区分するくらいなら俺にもできるだろう。

 

「え・・・その申し出はありがたいのですが、一玉数千エリスですよ?特に今年のキャベツは出来がいいですし、あなた程の冒険者なら収穫に回った方が良い稼ぎになると思うのですが・・・」

 

 こんなに面白そうな行事なんだ。こんなトラブルで失敗してはそれこそ勿体無い。それに・・・

「困ってる人を助けるのは当たり前・・・」

 

 ・・・ルナさんを見ると、とても驚いた様に目を見開いている。

 

「・・・いえ、なんと言いますか、そんな風に人のために働ける冒険者の方って、なかなかいませんよ。大体は嫌がって避けるか、下心が透けて見える様な方か・・・まあ、なぜかこの街ではあまりそういった目で受付嬢を見る方が少ないのですが・・・私って女としての魅力が無いんでしょうか・・・?」

 

 話が別の方向に飛んでますよ・・・しかしこれはどうやってなだめれば・・・こういう時は女の魅力を肯定する様な言葉を・・・

 

「俺も、まったくそういう目で見ない訳じゃ、ない・・・」

「っ・・・!」

 

 あ、やってしまった?こうなったら話を早急に切り上げるしかない!

 

「キャベツ収穫が始まったら、ここに来ます。それでは・・・」

「あっ・・・」

 

 こうして俺は依頼を半ば強引に受け、すみやかに帰宅(馬小屋に帰るのはこれでいいのか?)したのだ。

 

 ────────────────────

 

 あの後つい自罰的になってしまい、夜中に月を見ながら一人で泣いていたのだが、泣いたからといって俺の非礼が許される訳ではない。今日はまず謝らなければ。

 

「・・・・・・」

「あっ・・・ええと・・・」

 

 ああ、困らせてしまっている。

 

「・・・ごめんなさい」

「え?ええっと・・・」

「・・・昨日、変な事を言って、謝らずに逃げてしまった」

「あ、ああ・・・その事なら、気になさらなくていいです。本日は、キャベツ収穫を行った冒険者の収穫物に、こちらのタグで名前を記してください。受け取りは私が行いますので、その時に読み上げた名前をあなたがタグに書いてくださいね」

 

 良かった、あちらはどうやら気にしていない様だ。・・・顔がリンゴみたいに真っ赤だが。

 ならばこちらも気にせず仕事に専念するとしよう。

 

「今日はよろしくお願いします」

「・・・はい、よろしくお願いしますね」




深鳥(みどり) ふみ
 君咲学院3-C所属。黒髪おさげの(見た目)典型的文学少女。
 新聞部の部長。校内を駆け回りスクープを探している。しかし、新聞の内容に関しては大衆の目を引く事を優先し、情報の確度は放送部に比べ低い。実はお爺ちゃん子だったり、体温の上昇で記憶を失う特異体質だったりする。
 生徒会にとって不名誉な記事を捏造した報復行為として、鶴見(つるみ)ひまりにパンツを脱がされたことがある。


・Trickstar
 夢ノ咲学院のアイドルユニット。明星(あけほし) スバル、氷鷹(ひだか) 北斗(ほくと)遊木(ゆうき) (まこと)衣更(いさら) 真緒(まお)の四人で構成されている。
 夢ノ咲学院に転校して来た主人公が最初にプロデュースする事になったユニット。最初は未熟な点も多かったが、朔間(さくま) (れい)らの助けもあり、メインストーリーにおいて、生徒会による圧政を打ち破るに至った。


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キャベツ狩りの裏側で

「・・・なんでお前はこんなところにいるんだ」

 仕事だ。

「すみません。彼がどうしても、といった具合で・・・」

 

 それはさておき和真よ、そのキャベツを受付に渡してもらおうか。あまり長く居座られると受け取りに支障が出る・・・感じでもないな。まだキャベツ入りの布袋は二桁もない。袋の重さは人によってまちまちだが、彼の持って来た袋の重量感を考えるとトップクラスの収穫スピードではなかろうか。

 まあこっちも一応クエストという形で受けてるからな。報酬金もしっかりある。俺の事は気にせず収穫に励むといい。

 

「まあ俺に迷惑とかかからないならいいけど・・・」

 

 そう言って和真は次の布袋を貰い、またキャベツ収穫に戻っていった。

 そしてしばらくして、一人につき一つ最初に配られる布袋を三つ抱えたダクネスがやって来た。誰のものだろうか?

 

「本当にここにいたのだな・・・ああ、これはアクアとめぐみんの収穫したキャベツだ。キャベツ収穫に乗じて現れたモンスターをめぐみんが爆裂魔法で一掃したから、今日はもう動けないらしい。キャベツ自体は数えるほどだが、モンスター討伐の分は期待できる筈だ」

 

 なんと、さっきの爆音はそういう事だったか。どうやら大事には至っていないらしいし、他の野良モンスターも爆音を恐れて手を出してはこない・・・と信じたい。

 ともあれ袋はまだある。アクアの分も取って行ってかまわないし、その辺で少しくらい休憩していてもいいぞ。

 

「ああ・・・ところでどうしてお前はこんなところで事務仕事をしているんだ?お前の実力は知らないが、収穫の方に行けば一攫千金も狙えるのだぞ?」

 

 お前もそれを聞くのか・・・

 

「・・・このクエストには、成功して欲しかった」

「つまり・・・自分以外の多数の冒険者のためにやっている、と?まるで為政者の鑑の様な奴だな・・・」

 

 俺は貴族じゃないんだが。というかその残念そうな顔は何なのか・・・そういえばこの人は変態だったか。もう少しゲスな方が良かったのだろうか。

 

「いや、別にダメという訳ではないが・・・しかし聞いた通り喋らないな。何か事情があるのか?」

「無い」

「そ、そうか・・・」

 

 ────────────────────

 

 キャベツの収穫を終えて、俺とギルド職員達はキャベツの仕分けに入っていた。

 こうして収穫されたキャベツが全て同じ品質の筈が無く、こうして人力で仕分けているのだ。特に、中に混じっているレタスは経験値が得られず、捨て値同然の価格になるのだとか・・・カルチャーショック感じた・・・

 俺は言われた冒険者の持って来た袋をギルド職員に渡している。本当なら品質の査定に回りたいのだが、飛んだり暴れたりするキャベツでは地球とは勝手が違うかもしれないため、そちらは遠慮している。

 

「うおっ・・・こいつは多いな。50は超えてるんじゃないか?」

「しかもこれ、質の良いキャベツが多くないですか?パッと見た感じですけど」

「おお!こいつはもしかすると100万超えいくんじゃないか⁉」

 

 彼らが今見ているのは和真が持って来たキャベツだ。どうやら大活躍だったらしい。念願の無双だぞ、良かったな。

 

 しかし数が多い。毎年大量のキャベツが収穫されるため、よほどの不作でなければ一日では終わらないらしい。明日からギルド職員は査定漬けらしいが、和真達の事が気になる。

 

「すみません。明日はこれるかどうか、分からない、です」

「いえ、本当なら正規の職員だけでやる仕事ですし、今日まで随分と頑張っていましたから、こちらとしてもこれ以上そちらに迷惑をかけるつもりはありませんよ・・・」

 

 ルナさんはそう言って申し訳無さそうに、しかし僅かに名残惜しそうにこちらを見る。

 これは・・・いわゆる恋愛フラグかな?日本でも何人かとこんな雰囲気になったし、場合によっては気づかないフリをするしかないのだが。

 しかし女性職員の一人は俺達を見てニヤニヤと笑っている。あれは星海さんと俺が一緒にいる時のつゆりの目だ。あの頃のように刺客(キューピット)を差し向けられるのかもしれない。

 

 思えば君咲学院に来てすぐの頃は、前の学校がイケメン揃いだったために、「もしや」と思っても気のせいで済ませていた。それがどんどん多くなり、「好かれている」と認識した頃には対処法が分からなくなっていた。中には俺がいなければ危険(誰が、とは特定しない)な娘も複数人いたために、誰か一人と恋愛関係になるのも躊躇われた。

 もしかしたら俺はこの世界に骨を埋めるような選択をするかもしれない。そうしたらこっちの女性と付き合う事になるのかもしれないが、彼女達が無事かどうかとか、俺が実はこの世界の人間ではないとか、彼女達がちゃんと一人立ちできるのかとか、諸々の悩みを受け入れられる女性でなければならないだろう。

 ルナさんがそういった事柄を受け入れられる人間かはまだ分からない。だが今までの事を考えると、それを見定める間に誰かとフラグが立つかもしれないし、それを避けて人に優しくしないというのも無理だ。今更生き方を変えられるほど俺は器用ではない。

 ひょっとすると自嘲が混じっているかもしれない笑みを浮かべ、俺は作業に戻った。

 

 ────────────────────

 

 今日の分の仕分けを終えギルドに戻ると、和真達はキャベツ料理を囲んで晩御飯を食べていた。そこにはダクネスもいて、今日の事で盛り上がっている様だ。

 

「おお、サトシも来たのか。では・・・名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」

 

 こちらこs・・・待て、攻撃が当たらないって本当なのか?

 

「どうも本当らしいぞ・・・今日も一応何度か剣を振ってたけどほとんど当たらなかった」

 

 それで彼女の収穫が少なめだったのか・・・明日にでも特訓をつけねばならないかもしれない。俺も一つ試してみたいことがあるし、和真の稼ぎが大きそうだからお金も大丈夫だろう。

 

「・・・ふふん、ウチのパーティーもなかなか、豪華な顔触れになってきたじゃない?アークプリーストの私に、アークウィザードのめぐみん。そして、防御特化の上級前衛職である、クルセイダーのダクネス。五人中三人が上級職で一人が生産もできるなんてパーティー、そうそうないわよ?カズマったら凄くついてるわよ?感謝なさいな」

 

 ふむ、ポーションを代表する消費アイテムを自前で生産できれば金銭面で大分違うだろう。ダクネスの攻撃能力さえどうにかなれば確かに凄そうだ。他の冒険者パーティーがどんな感じなのかは知らないが、なかなか隙の無いパーティーに見える。実情は隙だらけではあるが。

 

「んく・・・っ。ああ、先ほどのキャベツやモンスターの群れに蹂躙された時は堪らなかったなあ・・・このパーティーでは本格的な前衛職は私だけの様だから、遠慮なく私を囮や壁代わりに使ってくれ。なんなら、危険と判断したら捨て駒として見捨てて貰ってもいい・・・んんっ!そ、想像しただけで、む、武者震いが・・・っ!」

 

 ・・・・・・天は二物を与えず、とはよく言ったものだ。俺達全員どこかしら問題のあるパーティーばかりじゃないか。だが日本にいた時もそんな尖った人は多くいた。

 

「それではカズマ。多分・・・いや、間違いなく足を引っ張る事になるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これから、よろしく頼む」

 

 ・・・まあいい、これから成長していけばいいんだ。

 

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

 和真の表情ににわかに絶望感が混じったが、まあ一緒にいれば良いところも見えてくるさ。




 今回、(さとし)の恋愛事情について触れておきました。
 この世界線での転校生君はこんな感じです。


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ダクネスの力量とアクアの能力

 和真のレベルが6に上がったらしい。

 昨日はキャベツ収穫しかしていない筈だが何故レベルアップしたのか。キャベツとはいったい・・・うごご

 ともあれ、これで得たスキルポイントと使って彼は《潜伏》《片手剣》《初級魔法》を習得したそうだ。バランスとしては良い方ではなかろうか。

 そして今日、彼は自身の装備を買い揃えに、同じく着のみ着のままでこの世界に放り出されたアクアを連れて武具ショップへと向かった。本当は俺も誘われていたし、確かに装備は買っておきたかったが、ダクネスの剣がどれほど酷いのか確認したい、というと納得してくれた。

 

 ────────────────────

 

「何、私の技量を確認しておきたい、と・・・ならさっそくクエストか。私の防御力を見るなら高難度の奴を・・・」

「違う。ゴーレム」

 

 今は鎧が修理中らしく軽装のダクネスが意気揚々と高難度クエストを受けようとするのを止め、空き地でまず一体の土ゴーレムを作成する。

 それは一般的なゴーレムと同程度の鈍重さでダクネスに迫る。まあ見た目ほど攻撃力は高くないようにしているし、上級職ならまず問題なく倒せるレベルだがはたして。

 

「あれを倒せばいいんだな・・・てぇぇい!」

 空振り。

「・・・ふんっ!」

 命中。でも一回目に空振りしてからも速度を変えなかったが。

 

「こんなところだ・・・どうだ、私がパーティーに入るのは不満か?」

 

 見たところ攻撃力も侮れない。器用さを除けば前線として欠点らしい欠点も無さそうだが。

 じゃあ次はもっと本気のゴーレムでやってみよう。一般的な人間と同程度の速度で、反応も普通にする、というかそう動かす。

 

「はあぁっ!てぇい!たあぁ!」

 

 見ていて可哀想になるほどの空振りだ。しょうがないので立ち止まらせ、ゆっくりと腕を振りかぶらせながら隙を演出する。

 

「・・・せぇぇい!」

 ・・・空振り。

 

「・・・いっそ殺せ!」

 そして涙目になられた。

 

 とはいえ本当に殺すわけにもいかないので、今度はダクネスの防御力を試してみる事にする。

 まずは挨拶代わりに・・・ちょっぷ☆

 

「・・・?今度は防御力か?なら全力で打ち込んでくるがいい・・・さあ来い!」

 

 お言葉に甘えて、徐々に腕の力を強くしていく。

 しかしいくら強くしていっても痛そうではない。そろそろ岩も割れそうなくらいには力を出させているが、ダクネスが少し嬉しそうになっている程度だ。

 

 とりあえずダクネスの強さは分かった。これなら立ち回り次第だが十分にやっていけるかもしれない。今日は付き合ってくれて感謝する。

 

「ああ・・・しかしお前はギルドに戻らないのか?まだカズマ達が戻ってくるには早いが、修行でもするのか?」

 

 そんなところだ。

 まずは地面の土をゴーレムの作成時と同じ様に加工し、土の柱を生やす。粘土状になったこれは強度こそあまり無いが、どの様に壊れたか、というのは分かりやすい・・・筈。

 

 俺が今からやろうとしているのは《片手剣》スキルの習得だ。

 特訓によってスキルを習得する、というのがどれだけ難しいのかを知りたいのだ。これでスキルが習得できれば万々歳、無理でも別に費用はかからないから損失もない。

 片手剣はまだ持っていないが、真の剣士にとって素手とは短い得物と同じなのだと聞く。ならば素手でも・・・短剣扱いになるのか?まあせっかくだからこれでいこう。

 柱に手刀を振り下ろす。途中で腕が止まる。二撃、三撃と繰り返して柱は折れたが、どう見ても力任せに折った跡だ。

 二本目の柱を立て、そこに手刀を振り下ろす。先程より早く折れたが、やはり『斬れた』というより『へし折れた』といった具合だ。

 面倒なので複数本を同時に立てる。また手刀を振り下ろそうと思ったが、ふとある事を思いつく。

 魔法の発動時に使っていた魔力。それを手に纏わせる様に放出し、威力が変化するかどうか見てみるのだ。

 

「あれ、聖、こんなところで何やってるんだ?」

 

 どうやら和真達は装備を買って帰って来たようだ。今までのジャージ姿では冒険者には見えなかったが、この世界の服に革の胸当て、青銅か何かの篭手と()()()()が随分とさまになっている。

 ちょうどいいタイミングなので、《片手剣》スキルを持つ和真にも見てもらおう。

 右腕が仄かに光り、何かしらの特殊な力があるのが他人からも分かるだろう。俺はそれを胸の前で横向きに構え、横薙ぎに振るった。

 

「特訓」

「なんだ今の⁉腕がピカッて光ったぞ!何のスキルなんだ⁉」

 

 そう言われても感覚で今作った攻撃方法だしスキルになるのかも分からない。冒険者カードを確認してみるが、武器関係も含め目新しいスキルは無かった。

 柱を見てみると、一撃で折れてはいたが破壊痕は変わらず粗い。強くなったのはパワーだけの様だ。

 

 それはそうと今日はこれからどうするのだろうか。せっかくならクエストに行ってもいいが。

 

「お、おう、そうだな。二人はギルドにいるのか?そうならまず合流したいが・・・」

 

 ────────────────────

 

「ジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているから、それを・・・」

「カエルは嫌!」

 

 言いかけたダクネスを、アクアは強く制止した。

 

「・・・なぜだ?カエルは刃物が通り易く倒し易いし、舌による捕食以外の攻撃もまずしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいいし、今のカズマの装備なら、金属を嫌がって狙われないと思うぞ。私も後衛三人を守るくらいはできる」

「あー・・・アクアと聖はカエルに食われかけた事があってな・・・二人とも頭からパックリいかれて粘液まみれにされたんだが、聖は大丈夫なのか?」

 ―――むしろリベンジに行きたいくらいだが。

「成程な・・・俺は大丈夫らしいし、なんならアクアを置いていってもいいけど」

 

 そんな会話をしていると、こちらを見るアクアの顔は怒りを露わにし、めぐみんの顔は得体のしれないものを見る感じになり、ダクネスはハァハァと興奮し始めた。

 

「何よ!仮にも女神であるこの私を無視する気⁉」

「何ですか今の・・・言葉無しで分かりあった感じは・・・⁉」

「・・・あ、頭からパックリ・・・粘液まみれに・・・」

 

「もうどこから突っ込めばいいのか・・・話を戻すが、緊急クエストのキャベツ狩りは除くとして、このメンツでの初クエストだ。楽に倒せるヤツがいいな」

 

 アクアからの文句がなければカエル討伐がそれにあたったのだろうが、駄目なら仕方ない。他にいいクエストが無いか探しに行こう。

 そう思って掲示板を見に行ったのだが、テーブルではアクアと和真の口喧嘩が起こっている様だ。大丈夫か、と遠巻きに様子を(うかが)っていると、アクアが泣きながら俺を呼びつけた。

 

「ねえ・・・サトシって、何か役に立ってる?」

 

 そんな事を俺に聞かれても。

 

「アクアがまだ何も役に立ってないって事を言ったらこうなったんだ。お前は一応カエルも一匹だけ討伐したし、キャベツ狩りの時はトラブルに対処してたって聞いたぞ。そういえば工事の時もかなり頑張って報酬に色つけて貰ってたな。それに対してアクアは何やってた?」

 

 アクアの活躍・・・ええと・・・ええと・・・

「・・・・・・宴会芸?」

「わああああーーーっ!サトシにもいらない子扱いされたあああ!」

 

 そんなつもりは無かったのだが。

 

「で、何か手軽にできて儲かる商売って何か思いつくか?商人か何かを兼業して、楽に経験値稼ぎができる様になりたいんだよ・・・あと、アクアは最後の取り得の回復魔法をとっとと俺に教えろ。スキルポイント貯まったら、俺も回復魔法の一つぐらい覚えたいんだよ」

「嫌ーっ!回復魔法だけは嫌!嫌よおっ!私の存在意義を奪わないでよ!私がいるんだから別に覚えなくてもいいじゃない!嫌!嫌よおおおっ!」

 

 確かに回復魔法を使える仲間が一人だけなのは不安ではあるが。

 そうしてアクアが泣き喚いているところにめぐみんとダクネスが戻って来た。どうやら悪目立ちし過ぎたらしい。彼女達の目はアクアに同情する類のものだ。

 

「こいつの事は気にしなくていい。しかし・・・

 

 ・・・ダクネスさん、着痩せするタイプなんですね・・・」

 

 成程、和真の言う通りだ。

 今日のダクネスは黒いタンクトップとスカートに革ブーツで、ボディラインが浮き出ている。

 出るところは出て、締まるところは締まる。まさに女性的なスタイルだ。

 俺は性欲を律する事には慣れているが、そうではないらしい和真は視線がダクネスの身体に釘付けになっている。

 

「・・・む、今、私の事を『エロい身体しやがってこのメス豚が!』と言ったか?」

「言ってねえ」

 

 まあ中身が()()だから、和真もむやみに手を出す様な事にはならないだろうが。

 

「話を戻すがクエストを受けるなら、アクアのレベル上げができるものにしないか?」

「どういう事だ?そんな都合のいいクエストなんてあるのか?」

 

 ダクネスの発言に、いつの間にかめぐみんと睨み合いになっていた和真が疑問を呈する。

 

「プリーストは一般的にレベル上げが難しい。なにせプリーストには攻撃魔法なんてものが無いからな。戦士のように前に出て敵を倒すわけでもなく、魔法使いのように強力な魔法で殲滅するわけでもない。そこで、プリーストが好んで狩るのがアンデッド族だ。アンデッドは不死という神の(ことわり)に反したモンスター。彼らには、神の力が全て逆に働く。回復魔法を受けると身体が崩れるのだ」

 

 成程、エ*エフなんかでもそんな感じらしいし、それならアンデッド相手はアクアの独壇場という訳か。なにせ仮にも女神様だからな。ちなみにダクネスなどのクルセイダーもある程度は神の力を扱えるらしい。

 そういえばアクアは自身を水の女神と言っていたが、それなら水属性の魔法も使えたりするのだろうか。使えるなら炎系モンスター相手にも戦力として戦えるし、攻撃力次第では水に強くないモンスター相手でも十分戦えそうだ。

 それはそうと、知力と幸運以外のアクアのステータスはまさしく人間を逸脱しているレベルのものだった。最初から高いステータスを持つ者はレベルアップがゆっくりになると聞いたが、それなら尚の事レベル上げをこまめにする必要がありそうだ。

 

「うん、悪くないな。問題はダクネスの鎧がまだ戻ってきてないことなんだが・・・」

 

 和真も同じ事を考えたのか、ダクネスの意見に賛成した。当のダクネスの防御についてだが、

 

「ダクネス、凄く硬い。強い」

「うむ、私は防御力特化のスキル構成だからな。鎧無しでもアダマンマイマイより硬い自身がある・・・別に筋肉で硬い訳ではないからな?」

「お、おう・・・そうか・・・後は、アクアにその気があるかだが・・・」

 

 いつの間にか泣き止んでいたアクアに視線を向ける。僅かに身じろぎをする姿は・・・これは・・・・・・

 

「・・・すかー・・・・・・」

 

 泣き疲れたアクアはそのまま眠ってしまったようだ。

 やれやれ、困った女神様だ。

 

「しれっと毛布かけんな」




 少し前にも書きましたが、三人娘は攻略対象外です。
 そもそも聖は出会った女性を軒並み落とすレベルのイケメンではないです。


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ゾンビメーカーを討伐せよ

 街の外れにある丘の上には共同墓地がある。お金の無い者や身寄りの無い者がまとめて埋葬されている場所だ。この世界の人間でない俺や和真も、この街で死ねば骨はここに行くのだろう。

 

 そして今回受けたクエストは、そこに現れるゾンビメーカーというアンデッドモンスターの討伐だ。

 この世界の埋葬方法は土葬なのだが、ゾンビメーカーはその中でも質の良い死体にとり憑く悪霊のモンスターで、二、三体程のゾンビを手下として生み出し、使役するらしい。

 アンデッドモンスターとしては弱い部類らしく、ある程度は連携を取れる仲間がいれば駆け出しにも倒せるモンスターだというから大丈夫だろう。

 そのゾンビメーカーは夜にならないと現れないという話だが、今はまだ夕方だ。俺達はバーベキューをしながら、日が暮れてアンデッドが湧き出すのを待っているのだ。

 

 バーベキュー自体は何も語るような事件も無く終わり、しかしまだゾンビメーカーが出現しないので、和真は初級魔法でインスタントコーヒーを作り始めた。水を作る『クリエイト・ウォーター』も火種を生み出す『ティンダー』も便利に見える。《初級魔法》を取っておくべきだっただろうか?

 しかし彼は『クリエイト・アース』の使い方が分からないらしく、めぐみんに尋ねていた。自分の技能が分からないというのも場合によっては致命的な気もするが、冒険者カードの弊害、とでもいうべきなのか。

 ちなみに『クリエイト・アース』の土は畑に使用すると良い作物が獲れる、いわゆる肥料の類らしい。まあそれを聞いて和真を馬鹿にしたアクアに、『ウインドブレス』と組み合わせた砂ぼこりが炸裂したが。

 しかし君咲学院にいた砂賀さんなら『クリエイト・アース』のために初級魔法を覚えそうだ。彼女は基本的に常識人だが君咲学院を『緑の楽園』にする事を理想とし、校内の目立たない場所から少しずつ苔等の植物を増やしていっていたのを俺は知っている。まあ俺がいなくとも、園芸部の廃部を恐れていた彼女が人々の意識の変化も無しにテロ紛いの行動はしないだろうが。

 

 ────────────────────

 

「・・・冷えてきたわね。ねえ、引き受けたクエストってゾンビメーカー討伐よね?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデッドが出そうな予感がするんですけど」

 

 もうそろそろ月が中点にかかろうかという頃、アクアが唐突にそんな事を言い出した。

 俺にはモンスターの気配もアンデッドの気配も分からないが、そんなに危険そうな気配なのだろうか。

 

「クエストの内容と齟齬があれば、違約金とはならない筈・・・無理なら帰るか?」

 

 もし俺達では敵わないような強力なモンスターが出てきたなら、最低限の情報だけで退却してもかまないのだが。

 

「嫌よ!アンデッドモンスターの、それも強力な奴を見過ごすなんてできないわ!リッチーだろうがドラゴンゾンビだろうがこの私が華麗に浄化してやるわよ!」

 

 リッチーはノーライフキングとも言い、禁呪により人間をやめた強大な魔法使いであり、強力な攻撃魔法だけでなく様々な状態異常も使いこなす凶悪モンスターだ。そしてドラゴンゾンビは文字通りにドラゴンのゾンビで、肉体こそ腐っているがそのパワーは未だ壮絶、生前の魔力も健在ながら腐敗や呪いを駆使する凶悪モンスターであり、どちらもアンデッドどころかモンスター全体でもその恐ろしさは群を抜いていると聞く。流石にドラゴンゾンビをゾンビメーカーと見間違えるようなバカはいないと思うが、なんにせよ今のアクアが勝てなそうであれば退却するべきだろう。その時はアクアを取り押さえなければならないだろうが仕方ない。

 

「そんなフラグみたいな事言うなって・・・お、敵感知に反応が・・・って、多くね?」

「ゾンビメーカーは取り巻きにゾンビを召喚するモンスターだからな。一体しか反応が無い方がおかしいぞ」

「でも召喚するのは二、三体だけって聞いたぞ?これ十体くらいはいると思うんだが」

 

 そんなにいるのか・・・これは本当に気をつけるべきか。俺はアクアの方にも気を配ることにしよう。

 

「・・・あれ?ゾンビメーカー・・・ではない・・・気が・・・するのですが・・・」

 

 めぐみんの不安気な言葉に、アクアの勘が当たっていた事を察する。

 めぐみんの視線を追えば、青く光る円形の魔法陣、そしてそれを作ったと思われる黒ローブの人影、さらに取り巻きらしきゾンビが何体か見える。暗くてよく分からないが、確かに和真が言ったように10体近くはいそうだ。

 

「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる以上、アンデッドに違いないだろう。なら、アークプリーストのアクアがいれば問題無い」

 

 ダクネスは少し好戦的過ぎる気がするが、言ってる事には一理ある。さて、アクアの様子は・・・

 

「あーーーーーっ!丁度リッチーが出てきたわね!あの不届き者を成敗してやるわ!」

 

 さっきのはフラグという奴だったか。

 リッチーの恐ろしさは前述した通りだが、まさかこんな所にいたとは。

 そしてその恐ろしいリッチーはというと、

 

「や、やめやめ、やめてええええええ!誰なの⁉いきなり現れて、なぜ私の魔法陣を壊そうとするの⁉やめて、やめてください!」

「うっさい、黙りなさいアンデッド!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもない事企んでるんでしょ、なによ、こんな物!こんな物!!」

 

 ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクアの腰に涙目でしがみついていた。

 取り巻きらしきアンデッドは、それに対し何をするでもなくただ眺めている。

 

 しかしさっき砂賀さんの事を思い出していたせいか、あのリッチーの女性が砂賀さんの同類に見えてきた。声についてはむしろ夢路さん似だが・・・するとそんな彼女の想いを踏みにじるアクアは瀬川先輩か。

 

「やめてー!やめてー!!この魔法陣は、未だ成仏できない迷える魂達を、天に還してあげるための物です!ほら!たくさんの魂達が魔法陣から天に昇って行くでしょう⁉」

 

 普通に良い奴じゃないか。

 彼女の言う通り、青い人魂らしきものが魔法陣の光と共に天へと昇って行くのが見える。

 

「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行はアークプリーストのこの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい!見てなさい、そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してあげるわ!」

 

 どっちが凶悪モンスターなのか。このシーンを切り抜いて第三者に見せたなら、大半は黒ローブの方を人類の味方だと判断するだろう。

 

「『ターンアンデッド』ー!」

 

 墓場全体を覆う程の強さの白い光がアクアから放たれる。

 それを浴びたゾンビや人魂達は、掻き消える様にその姿を消していった。

 それは黒ローブの聖人リッチーも例外ではなく。

 

「きゃー!か、身体が消えるっ⁉止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!!成仏しちゃうっ!」

「あはははははは、愚かなるリッチーよ!自然の摂理に反する存在、神の意に背くアンデッドよさあ、私の力で欠片も残さず・・・」

 ―――ちょっぷ。

「あだぁっ⁉あんた何してくれてんのよいきなり!せっかくリッチーという凶悪モンスターを討伐して、私の経験値も大量ゲットってところだったのに!」

 

 凶暴なアークプリーストを俺が押さえている間に、和真がリッチーに話しかける。

 彼女はアクアの言う通りリッチーらしく、名前はウィズというそうだ。そして彼女には迷える魂達の話を聞くことができ、天に還れない魂が多く彷徨っているここを定期的に訪れ、さっきの魔法陣で成仏させているらしい。

 

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが・・・アクアじゃないが、そんな事はこの街のプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」

 

 俺も思った事を和真が尋ねてくれた。リッチーが話に聞く通りの強さなら倒されはしないだろうが、わざわざ人里に来てひっそりと儀式をする必要は・・・・・・まさか、

 

「そ、その・・・この街のプリーストさん達は、拝金主義・・・いえその、お金が無い人達は後回し・・・といいますか、その・・・、あの・・・」

 

 ああ、やっぱり。

 

「つまり、この街のプリーストは金儲け優先の奴がほとんどで、こんな金の無い連中が埋葬されてる共同墓地なんて、供養どころか寄りつきもしないって事か?」

「え・・・えと、そ、そうです・・・」

 

「・・・・・・クソ共が」

 

 全員の視線が俺へと集中する。

 確かに俺は二度の生のどちらにおいても、良く言えばもの静か、普通に言えば何も喋らないタイプなのは理解しているが、その俺がこんな風に怒りを露わにするのは予想外だったのか。

 だが俺はそんな風に、他者の苦しみを見て見ぬ振りできるような奴は大嫌いだ。他人を自身の地位や権力のための駒としか見ない。そんな奴を見ると反吐が出る。

 

「わ、私は、最近この辺りに来たばっかりだから、この現状を知らなかっただけだからね?私、悪くないわよね・・・?」

 

 ならお前は許す。だが他のプリースト達はどうだか。

 

「ええと!ウィズ・・・さん、だよな。あの、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか?俺達がここに来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが・・・」

「あ・・・そうでしたか・・・その、呼び起こしている訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです・・・その、私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由も無くなるんですが・・・・・・・・えっと、どうしましょう?」

 

 このままウィズが浄化を続けていればまたクエストは貼られるだろう。冒険者カードがある以上、討伐していないゾンビメーカーを討伐した、と言い張る事はできないが、アークプリーストが討伐に失敗したアンデッドとなればどれだけ警戒されるか。アクアの冒険者登録の時、その桁外れのステータスにギルドは大騒ぎだったから、強さもある程度は認知されているかもしれない。

 そうなれば王都辺りから凄腕冒険者か騎士団か、とにかく強い戦力を呼びつけて全力でウィズを討伐しにかかるかもしれない。それでどちらが勝つにしろ、見るからに心優しいウィズにとって喜ばしい結果にはならないだろう。

 

「・・・なら、共同墓地の浄化をクエストとして貼り出せばいいのではないか?それなら人も集まるだろうし、駆け出しプリーストには浄化の練習にもなる」

 

 ダクネスがそう提案する。欲の皮の突っ張った奴らに金を払わなければならないというのは癪だが、まあ仕方ないだろう。

 

「・・・・・・すれば?」

「あの、私は魔道具店を営んでいるのですが、そこが赤字で・・・できればあまりお金はかけたくないんです」

 

「聖、顔が怖いぞ・・・そんなに金を払いたくないなら・・・・アクア、お前やるか?」

「しょうがないわねー。確かにそういうのは私の役目だし、定期的にここの浄化をすれば問題無いのね?睡眠時間が無くなったりするのは嫌だけど、リッチーがやるよりは私の方が良いに決まってるわ!」

 

 成程、アクアにやらせるのか。これで墓場を彷徨う魂が救われるといいのだが。

 

「・・・そういえば、さっきウィズが魔道具店って言ってたが、仮にも強力モンスターなんだったら、こう、ダンジョンの最深部とかにいるもんじゃないのか?」

「ダンジョン内部は生活が不便ですから、目的も無いのにわざわざ住もうとは思いませんよ。特に私は友人からの頼みで、とある目的のための資金を集めなければならないんです・・・あ、これ、お店の住所です」

 

 ・・・まあ、それもそうだが・・・しかしこの住所、アクセルの街だな。街に強大なモンスターがいるって大丈夫なのだろうか・・・・・・まあウィズさんなら大丈夫か。

 

 ────────────────────

 

 結局、ゾンビメーカーを討伐していないせいでクエスト失敗になったのに気づいたのは、街の正門が見えてきたころだった。

 

 

 

 




 家の転校生君は下衆・・・というか、深い目的も無く人を傷つけられるような人間が嫌いです。人が人を傷つけること自体はままある事と割り切れるのですが、それを惰性で行ってしまうような人は受け入れにくい、という感じです。


砂賀(すなが) みどり
 君咲学院2-C所属。若緑色のショートカットにシャギーが入った感じの髪。
 園芸部部長で、大体作中で書いた通り。基本的に苦労人、常識人ポジションだが、植物と会話したり、しばしば問題視されるレベルの緑化運動を行ったりする。


夢路(ゆめじ) まりあ
 君咲学院2-B所属。茶髪のセミロング。CV:堀江由衣。
 保健委員会に所属する敬虔(けいけん)(?)なキリスト教徒。超がつく運動音痴。よく聖書の内容を引用した発言をするが、キャラ、内容等で謎の改変が入っていたりするぜベイベー・・・☆
 主人公の事を愛している。超マジでございます。


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波乱の予感

「なあ、聖って日本ではどんな感じだったんだ?」

 

 酒場でめぐみん、ダクネスを待っていると、唐突に和真がそんな事を聞いてきた。

 

「ほら、俺達って、曲がりなりにも同郷って事になるだろ?せっかくだしお互いに理解を深めようかと思ってな・・・」

 

 成程、そういう事か。しかしどこから話すべきか・・・

 

「・・・両親の都合で、引っ越しが多かった。転校も多かったな・・・後、姉さんがいる」

「へぇ・・・もしかしてその姉さんもお前みたいな・・・無口な感じだったりするのか?」

「そうだな。たまに何を考えてるか分からなくなる事もあるが・・・今は楽しそうだ」

 

 そうなるのも直近ではもう一年も前になるが・・・

 

 ~~~~~回想~~~~~

 

 ドンドンドン!~♪~♪

 

 聖「・・・・」コンコン

 ・・・ガチャ

 

 男性アイドルの服に覆面を被ったあんず「・・・♪」クルッ・・・ターン☆

 

「・・・・」「・・・・」

 ・・・バタン

 バァン!ガシッ、ブンブンブン!

 あんず「・・・!」

 聖「・・・⁉」

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 結局あれが何なのかは『DDD』当日まで分からなかったが、これで無口を改善しない辺りが俺達か。

 

「俺は一人っ子だったから、妹とか欲しかったなぁ・・・可愛くて、俺のことを尊敬してくれて、面倒見の良い妹」

「贅沢な・・・それと、姉さんとは血が繋がってない」

「血の繋がってない義理の姉とかどこのギャルゲーだよ・・・一応聞いとくけどあくまで普通の姉弟と同じような関係なんだよな?」

 

 ふむ。俺達の関係は普通の姉弟とは違うものだろう。

『皆が笑顔でいられる場所』を理想とした姉さんと、それに賛同し同じ理想を持った俺。強いていうなら俺達の関係は・・・

 

「・・・同志?」

「同志⁉」

 

 案の定困惑させてしまった。

 和真が案じたのであろう恋愛感情は俺達には無い。『行き遅れるようなら貰ってやらんでもない』という親愛の情はあるし姉さんも同じなようだが、夢ノ咲学院の生徒が時折顔を見せる彼女のプライベートを見るに問題無いだろう。

 

「・・・・・・で、もうひとつ・・・いや、むしろこっちが本命なんだが、お前なんであんな高いステータス持ってんの?後、スキルも妙に沢山あったし。あれか?お前のいた日本はメ*テン的な世界の事だったりする?」

 

 メ*テンはよく知らないが悪魔を召喚して共に戦う奴だったか。俺の地元はそんな恐ろしい世界では・・・

 

 ・・・あっ。

「オイオイ、何か思い当たる事でもあったのかよ。俺達の世界は魔界とでも繋がってたのか?」

 

 と、その時、今まで会話に入れなかったアクアが突然表情を変えた。大事な事を忘れていたのを今になって思い出した、といった顔だ。

 

「あー・・・うん、サトシの故郷は確か、アレよ、ちょっと霊的にヤバいというか、普通じゃないというか・・・まあアレよ。今はそこまで危険なわけじゃないはずだから、うん。大丈夫・・・よね?」

 

 俺に聞かれても困る・・・そして唐突に下った曖昧な神託にどんな反応をすればいいのかも分からない。あっちは本当に大丈夫なのか?

 

「どんな場所なんだよ!というか、そんなフラグ立てて本当に危なくなったらどうすりゃいいんだ・・・」

「だ、大丈夫よ!少なくとも私達は大丈夫!なはず!女神の力と第六感を使えば、万一の事があってもサトシについては早期に沈静化できるから!」

「沈静化⁉それって何か?暴走でもするのか⁉」

 

 自分に心当たりは全く無いが、どうやら俺の中に眠る何かが災厄をもたらしかねないらしい。突拍子も無さすぎて現実感が湧いてこないが、翼の折れた堕天使(ルシフェル)的なロールでもするべきなのか。

 

 そんな事を考えていると、少し離れた所から話し声が聞こえてきた。それだけなら別に何を気にするでもないのだが、

 

「おい、聞いたか?街の近くにある古城、あそこが今ヤバいらしいぜ・・・」

 

 こういった情報は重要だ。俺達は今や命懸けで日々を生きる冒険者だ。危険なモンスターの情報やその避け方等、様々な情報を持っておく事は生存率に直結するのだ。

 ・・・まあ、和真からの受け売りだが。

 

「ん、カズマにお仲間さんか・・・この街からちょっと登った丘の辺りに古い城があるのは知ってるか?実はな、そこを魔王軍の幹部が乗っ取ったらしいぜ」

「マジかよ・・・おっかねぇ話だな」

 

 魔王の元には8人の幹部がいて、人間には到底破れないほどの強固な結界をもって魔王城を守っているというのは、少し調べればすぐに分かる事だ。魔王がその結界を出たという様な話は無く、単体でも凶悪な魔王軍幹部を全て倒すのは必須事項といっても過言ではないだろう。

 ・・・だが、

 

「魔王の幹部ねぇ。物騒な話だけど、俺達には縁の無い話だよな」

(ちげ)えねぇ」

 

 ここは駆け出し冒険者の街。俺達と話す彼らはそんな強敵と十分に戦えるほど力も装備もないし、俺達も同様だ。

 転生して来た日本人はそれを補うための超強力な装備や能力、和真の言う『チート』を持ってこの世界に来るのだが、和真が連れてきたアクアはあの始末。俺の能力も未だ全容を掴みきれているとは思えない。

 能力を選んだ場合はその使い方も分かるらしいのだが、先ほどアクアが漏らした不吉な話を考えると物凄く不安だ・・・

 

「ま、何にせよ。街の北の外れにある廃城には近づかない方がいい。王国の首都でもないこんな所に、何で魔王の幹部がやって来たのかは知らないがね。幹部ってからには、オーガロードやヴァンパイア。はたまた、アークデーモンかドラゴンか。いずれにしても、俺達があったら瞬殺される様な化け物が住んでるのは間違いない。廃城近くでのクエストは、しばらく避けた方が無難だな」

「そうだな・・・いい話が聞けたよ。ありがとうな」

 

 男に礼を言い、ネロイドのシャワシャワなる謎の飲み物を一杯彼らに奢って席を離れる。

 アクアのいた所を見ると、待っていた二人は立ち話の間にギルドに来ていたらしい。アクアも入れた三人で野菜スティックをかじっていたが、彼女達の表情は何処となく不安そうだ。

 

「・・・どうした?俺達を、そんな目で見て」

「別にー?カズマが、他のパーティーに入ったりしないか心配なんてしてないし」

「・・・?いや、情報収集は冒険の基本だろうが」

 

 和真は取られまいと身をかわす野菜スティックに気をとられているが、アクア達三人はどうやら和真のパーティー脱退を危惧しているらしい。

 露骨に不満げなアクア。浮気した亭主でも見るかの様な目で睨むめぐみん。勝手に興奮しているダクネス。思い思いに怯まされつままれる野菜スティック。

 

「・・・・・・・・だあああああらっしゃああああああああ!」

 

 ・・・まあ和真の怒りもやむなしだろう。

 俺は和真が壁に叩きつけようとしているコップから高速で野菜スティックを二本抜き取り、一本を和真に手渡す。野菜スティックはそれでも尚逃げようとしていたが、流石に握られた状態から和真の手を避けるのは無理だったらしく、彼(仮称)は和真の口の中に消えていった。

 

「お、おう・・・スマン・・・というか今更突っ込むのもなんだが、何で野菜が逃げるんだよ。ちゃんと仕留めたやつを出せよ」

「なに言ってんの。お魚も野菜も、何だって新鮮な方が美味しいでしょ?活き作りって知らないの?」

 

 食べるのに苦労するほどの活きの良さって食べ物としてどうなのだろうか。

 

「まあ、野菜については今はいい。それよりお前らに聞きたい事があるんだよ。レベルが上がったら、次はどんなスキルを覚えようかと思ってな。ハッキリ言ってバランスが悪すぎるからなこのパーティーは。自由の利く俺が穴を埋める感じで行きたいんだが・・・そういや、お前らのスキルってどんな感じなんだ?」

 

 そういえば皆が具体的にどんなスキルを持っているかはまだ聞いたことが無かったな。

 

「私は《物理耐性》と《魔法耐性》、各種《状態異常耐性》で占めてるな。後はデコイという、囮になるスキルくらいだ」

 とダクネス。《両手剣》の様な武器スキルを覚える気はないらしい。彼女の高いステータスでの攻撃がまともに当たるようになると、彼女の性癖が満たせないからだそうだ。

 君咲学院にいた山條(さんじょう)先輩もしばしばマゾヒズムを露呈させていたが、彼女の場合は攻撃されているという事実で興奮していたようなイメージがある。まあ、彼女の場合はむしろ常識知らずの戦闘馬鹿なイメージの方が強いのだが。

 

「私はもちろん爆裂系スキルです。爆裂魔法に爆発系魔法威力上昇、高速詠唱など。最高の爆裂魔法を放つためのスキル振りです。これまでも。もちろん、これからも」

「・・・どう間違っても、中級魔法スキルとかは取る気はないのか?」

「無いです」

 

 控え目に言って彼女は馬鹿だろう。だがその馬鹿さ加減が俺の琴線を刺激する。常識や一般論に中指を立てるような生き方だが、俺はそれが好きなのだ。

 

 ―――それはそうと、《最大魔力上昇》などのスキルがあれば爆裂魔法の反動も軽減できると思うのだが、めぐみんとしてはそれはどうなのだろうか。

「《最大魔力上昇》ですか。確かにそれなら爆裂魔法につぎ込む魔力を多くできるでしょう。しかし私は思うのです。『レベルが上がれば魔力量も増える。だからそのスキルは取らなくてもいいのではないか』と」

「大馬鹿かっ!」

 

「えっと、私は・・・」「お前はいい」

「ええっ!!」

 アクアのスキルは省略されてしまった。でも宴会芸しか見せない気はするが。

 

「・・・《クリエイト・ゴーレム》系列と《クリエイト・メタル》に、裁縫とかの各種生産スキル。後は《格闘》、《筋力強化》に・・・色々」

「・・・登録の時も思ったけど多くね?確かお前のレベルって俺より下だったと思うんだが」

 高い水準で得た技能がスキルとして登録されることはある。俺の場合は日本(というか君咲学院)で色々と実践しまくっていたのがあるのだろう。

 とりあえず、冒険者カードを差し出して色々を確認してもらうことにする。まあ、冒険には活用できないようなスキルだから省略したのだが。

 

「なんというか・・・ダクネスより前衛できそうな感じになってるな」「⁉」

「強敵相手なら、ダクネスの方が丈夫」

 ダクネスが今までにないレベルで怯えているが、強力な力を持つ一体の敵を相手にするなら彼女の力はぜひとも欲しいところだ。捨てる気にはなれない。

 

「そうは言ってもここは駆け出し冒険者の街だぞ?どんな強力モンスターがこんなところに・・・」

「・・・魔王軍の幹部」

「ああー・・・でも普通に考えて相当な強敵だろ。俺達全員レベル2桁もない程度の駆け出しだぞ?そんな俺達じゃあそれこそ瞬殺される」

 ―――とりあえず受付に行こう。そろそろキャベツ収穫の報酬がある筈だし、何か聞けるかもしれない。

 

 強敵の予感にそれぞれに思いを馳せる俺達は、例によって行列のできているルナさんのところに並ぶことにした。




 オリ設定ぶっこみました。まだ全体を説明した訳ではないのですが。暴走とかは一応しない予定。


瀬川(せがわ) かえで
 君咲学院3-B所属。腰まで届く茶色のロングヘアを団子にしている。
 風紀委員長でゲス。弱者を踏みにじるのが好きで、風紀委員として校則違反者をねちねち甚振(いたぶ)る。
 妾の子だとかママを馬鹿にした奴らを這いつくばらせてやるとか何とか複雑な家庭環境。一緒に円城寺(えんじょうじ)れいかの取り巻きをしている伊藤(いとう)さくらとは若干弱々しく百合百合しい雰囲気を出していたり。


・DDD
 『あんさんぶるスターズ!』におけるメインストーリーで行われるイベント。今後の事業展開に向け、夢ノ咲学院の代表となるユニットを決めるためにそれぞれ競い合う。
 回想シーンの頃は、生徒会長の天祥院(てんしょういん)英智(えいち)の謀略によりTrickstarは分裂、事実上の解散状態になっていた。


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リザルトタイム/ボーナスタイム

 UA数1000突破嬉しい・・・
 書き溜めはこれを抜いて後3話あるので元日に投稿したら不定期になります。


「あなた達もキャベツ収穫の報酬ですね。サトウカズマさんのパーティーの分は・・・はい、それでは一人ずつ並んでくださいね。」

 

 普段より比較的長かった待ち時間を終え、俺達の分の報酬を受け取ることになった。

 先にめぐみん、ダクネスが受け取ったが、どちらもかなりの大金のようだ。どれだけの金額かは聞いていないが、ジャイアントトードの時の報酬がちっぽけに思える札束が渡されている。

 

「アマミサトシさんは収穫には参加していませんが、備品の確保や事務作業で目覚ましい活躍をしました。今年はトラブルが多く、あなたがいなければクエストの実施も危うかった程です。なので、報酬として50万エリスが支払われます」

 

 50万⁉確かジャイアントトード5匹の討伐が肉の買い取り抜きで10万エリスだったのを4人で山分けしたんだったか・・・圧倒的だな。俺の仕事は肉体的な危険はなかった筈だが、それほどの事態だったのか。

 

「・・・あなたがやった仕事の量は、平均的な生産職の方を大きく上回っていたんですよ?質をあまり問わない内容だったとはいえ、あなたの活躍はそれほど大きかったんです」

 

 ―――まあ、そういうことならありがたく受け取っておこう。

 

 さて、次は和真か。確か凄くたくさんのキャベツを収穫していた筈だが、どれだけ稼いだのか・・・

 ・・・・・・・・なんか俺の二倍くらい稼いでませんかね彼。

 

 そしてアクア。彼女も和真ほどではないが、けっこうな量のキャベツを収穫していた筈だ。ひょっとしたら7、80万くらいは貰ってくるかもしれない。

 

「なんですってえええええ⁉ちょっとあんたどういう事よっ!何で5万ぽっちなのよ!どれだけキャベツ捕まえたと思ってんの⁉十や二十じゃない筈よ!」

 

 ・・・・・・・・5万?

 

「そそ、それが、申し上げ難いのですが・・・・・・アクアさんの捕まえてきたのは、殆どがレタスで・・・」

「・・・・・・なんでレタスが混じってるのよー!」

「わ、私に言われましてもっ!」

 

 ・・・・・・・・・どこから突っ込めばいいのか。ここはもはや俺達の知る世界では・・・最初からなかったな。

 そういえば彼女は、今回の報酬に期待してここで多額のツケを作っていた筈だが、5万で払えるのだろうか。

 

「サトシ様ー!前から思ってたんだけど、あなたってすごく真面目で、なんか良い感じよね!」

 

 なんかって何だなんかって。

 ともあれこの様子では5万じゃ返せない金額なのだろう。まずは10万エリスを出して様子を見る。

 

「ありがとー!丁度ここの酒場のツケも10万ちょっとだったのよ!一時はどうなることかと思ったけど助かったわ!」

 

 喜んでその10万に手を伸ばすアクアを和真が遮る。

 

「おい聖。こいつをあんまり甘やかすな。こいつを甘やかしたら確実に調子に乗ってまたどっかで借金を作る。俺にはそうなってまたお前に泣きつくアクアが簡単に想像できるな。そしてアクア、お前仮にも女神なんだろ?それが大声で喚き散らしたと思ったら金の無心・・・俺のことヒキニートって呼んでるお前も大概(さとし)(すね)かじりになってるな」

「あ・・・あああ・・・・・・」

 

 アクアが悲しげな顔でフルフルと震え出したが、和真の言う事は正しい。言い方はどうかと思うし、俺としては脛をかじらせてもいいくらいだが。

 

「・・・・じゃあ、貸し」

「・・・・はい」

 

 後ろ髪の引かれる思いをしながら、俺はアクアに貸しとしてお金を渡すことにした。

 

 ────────────────────

 

 そしてその後、俺達は思い思いに武具や魔道具なんかの店を巡ることになった。

 程度の違いこそあれど多くの冒険者があぶく銭を手にした今、彼らも同じように街に向かっており、またそれを予期したのだろう商人が色々な高級品を仕入れて来ている。

 

 そして俺は和真と連れ立って武具ショップに来ていた。めぐみん、ダクネスは自分好みの装備を既に工房に発注しており、アクアは自分用の杖を天界から呼び寄せることができるらしく装備を更新する必要が無い、ということらしい。

 どちらも武器の種類の変更はないとして、現在の装備より良い感じのものを購入する、という予定になっている。俺が腕輪で和真が片手剣だ。流石にその2つが隣り合って陳列されている筈もなく、俺達は早々に分かれて品揃えを確認することにした。

 

 

 

 ・・・・やけに腕輪が人気だな。

 腕輪は魔法強化としては同ランクの杖にはまず劣る。しかし手に握らなくていいことから魔法戦士の魔法補助に役立ち、また種類によっては特定の魔法を魔法使い以外にも使用可能にする物があり、戦士や盗賊がそういったタイプの物を使用することがあるのだとか。

 しかし後者のタイプは高額で、こんな駆け出し冒険者の街では普通に買える者などまずいないのが実情である。しかしこの盛況を見るに、キャベツの報酬で買えそうか見に来た冒険者が多数、といったところか。

 一番注目されているのは『エンチャント・セイクリッド』が戦士などにも使用可能になる腕輪だ。悪魔やアンデッドに優位に立てる属性であり、アークプリーストくらいしか実用レベルで扱えないそれを容易に使用可能となれば需要はかなりある筈だ。性能次第ではもっと強い冒険者のひしめく街でも売れるだろう。

 事実、約30万エリスという超高額に成金冒険者達も手を出せないらしい。俺は買えなくもないが、アークプリーストのアクアがいる以上無理に買う必要もないし、これは別にいいか。

 

 ・・・と立ち去ろうとすると、真剣な顔で財布とにらめっこしている女冒険者がいた。

 緑がかった金髪の彼女はショートソードを腰に下げており、戦士系の職業だとわかる。他の冒険者より高そうな装備が周りの駆け出しとの差を感じさせるが、それでもその腕輪は高額だったらしい。しかしそれを見る彼女の目は真剣で、それを手にいれなければならない事情があるようだ。

 いくらか金を出してやるべきか。そう思った俺は彼女に話しかける。

 

「・・・・あの」

「ん?何あんた・・・・・・本当に何あんた。札束なんか見せつけて自慢のつもり?それとも身体目当てなの?」

「金が必要なのかと」

 

 そう言うと、彼女の俺を見る目つきが変質者を見るものから不審物を見るものになった。

 

「確かに必要だけど、あんたみたいな得体の知れない奴から借りてろくな事になる気がしないわよ・・・なんなのあんた、結局何が目的?」

「何か困ってたみたいだから」

「だから!それで何で見ず知らずの相手に金を貸す事になるのって話!」

 

 そう言われても話すような理由が最初から無い。困っている人を助けるのはもはや俺にとって条件反射の様なものなのだ。

 返答に詰まっていると、いつの間にか少女の目つきが変質者を見るものに戻っていた。

 

「ほらやっぱり!どうせ何か良からぬ事を企んでたんでしょ!ああ気持ち悪い!」

 

 

 

 ・・・・・・そんな風に思われてしまうのか。

 

 俺としてはこれが最善だと思ったのだが、どうやら失敗だったようだ。

 

 ああ、辛い。本当に辛い。

 

「え、オイ(さとし)⁉お前いったい何やったんだよ⁉」

「・・・金を貸そうと」

「あの知らない娘に・・・いくら?」

「10か20万くらい」

「この馬鹿!馬鹿野郎!!」

 

 あああ引きずられる~

 

 ────────────────────

 

 そして店から出された俺に和真は言う。

 

「・・・俺な、正直お前がいなけりゃあのパーティーで魔王討伐なんて無理だと思ってたんだよ」

 ―――アクア達は能力だけはあると思うが。

「それでも性格にくせが強すぎてな・・・俺達がいなけりゃあいつら、そもそも冒険者としての活動からして無理だと思うだろ?・・・あ、ダクネスにはクリスがいたか。ともかく、あいつらは誰かが手綱を取らないと暴走しかねない奴らなんだが、あいにく俺は一人だ。俺だけだったらあいつらの起こす問題を全て止められるとは思えない」

 ―――まあ、そうか。

「そこでお前もあいつらを上手く抑えて欲しかったんだが・・・」

 ―――だが?

「やっぱお前もあいつら側な気がしてきた」

 

 ・・・・見限られた?




黒森(くろもり) すず
 君咲学院3-B所属。黒髪のショートボブに、左目を眼帯で隠している僕っ娘。オッドアイで右目は赤、左目は金。
 軽音部の部長で重度の中二病患者。自分のことを『翼の折れた堕天使(ルシフェル)』『クロシェット』と自称する。ちなみに他の軽音部メンバーのことは『セラ』『ルカ』『シズ』と呼ぶ。地味に誕生日不明。
 『アンジー』の親友。君咲学院に入学したばかりの頃は自分の目がコンプレックスでオドオドした少女だったが、彼女との日々の中で立派にロックンロールを高らかに歌い上げる堕天使になった。


山條(さんじょう) ぎん
 君咲学院3-A所属。茶髪のポニーテール。
 剣道部主将のやべー奴。『番長』と呼ばれた時代もある。日本刀を持ち歩いており、少なくとも現代科学が説明できる範囲の強さでは作中最強クラスと言っても過言ではない。約数名未知数すぎるのがいるから・・・
 実は良家のお嬢様で、婚約者(ただし女)もいる。しかし体は闘争を求める。後たまにマゾい。


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キャベツ狩りの後に

「ハア・・・ハア・・・た、たまらない、たまらないです!魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色艶・・・ハア・・・ハア・・・ッ!」

 

 めぐみんが手に入れた杖は相当強力なものだったらしく、若干変態的に見える勢いで興奮している。一応俺も魔法使いの端くれと言えるが、その杖からは確かに強力な力が感じられる。マナタイトは杖に使うと魔法の威力を上げる効果を持つらしいし、少なくとも普段の店売りとは大違いの代物だろう。

 そしてそんな高額な杖で、めぐみんは爆裂魔法を更に強化するのだ。その大威力にどれほどの意味があるのかは知らないが。

 

 見ればダクネスも同様に、新調した鎧を和真に見せびらかしている。やたらと装飾が凝っているようだがあれも高価だったのだろう。実際の性能はどうなのか知らないが、流石に見かけだけの代物ということはないだろう。

 少なくとも、結局何も買わなかった俺達よりは良い装備の筈だ。

 

 ────────────────────

 

「さあ、早速討伐に行きましょう!それも、沢山の雑魚モンスターがいるヤツです!新調した杖の威力を試すのです!」

「まあ俺も、ゾンビメーカー討伐じゃ、結局覚えたてのスキルを試す暇もなかったしな。安全で無難なクエストでもこなしにいくか」

「いいえ!お金になるクエストをやりましょう!流石にサトシに借りっぱなしじゃ私、夜しか眠れないんですけど!」

「いや、ここは強敵を狙うべきだ!一撃が重くて気持ちいい、凄く強いモンスターを・・・!」

 

 皆はこれからどんなクエストを受けるか議論している。

 装備を更新した二人がどれほど変わったかは知らないが、普段のこの辺りのクエストなら難なくクリアできるだろう。

 

 だが・・・

 

「?・・・どうした(さとし)、具合でも悪いのか?」

 ―――見れば分かる。

 

「一体何が・・・あれ?何だこれ、依頼が殆ど無いじゃないか」

 

 そう。普段は所狭しと依頼が貼られ、冒険者達に存分に行き渡るくらいはある掲示板が、今日だけは全然依頼が無いのだ。

 そして残っている依頼は全て駆け出しにとって高難易度の、外部から来た冒険者向けらしいクエストばかりだ。レベル3,40くらいまで上げなければ普通にクリアするのは極めて困難なクエスト群を選ぶほど今はお金に切迫していないのだが。

 そんな俺達のもとに、ギルド職員がやって来た。

 

「ええと・・・申し訳ありません。最近、魔王の幹部らしき者が、街の近くの小城に住み着きまして・・・その魔王の幹部の影響か、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しております。来月には、国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるらしいので、それまでは、そこに残っている高難易度のお仕事しか・・・」

 

 俺は依頼の内容をざっと見てみる。

 

『山に出没する、ブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐』

『マンティコアとグリフォンの討伐』

『近隣に(つが)いのミノタウロスの巣が形成されている可能性有り。その場所の調査』

 

 ・・・どれもこれもヤバそうだ。単体かつ敏捷性も高くないという、比較的やりやすそうなブラックファングさえも、領主の出した兵士達が死屍累々となって帰ってきた程の危険モンスターらしい。

 

「な、なんでよおおおおおっ⁉」

 

 アクアの絶叫がギルドに響いた。

 

 ────────────────────

 

 それからというもの、俺達は依頼を受けず、それぞれ自由に生活していた。

 めぐみんは何処ぞに爆裂魔法を一日一回放ちに行き、和真がそれに付き添っている。

 アクアは毎日バイト三昧だ。俺も街で時々彼女を見かける。

 

 そして俺は今日、実家で筋トレをしていたダクネスを呼び出している。

 せっかくだから、彼女には《両手剣》辺りのスキルを取得して欲しいのだ。

 彼女は攻撃が当たらないというただ一点だけで一気に扱い辛くなっている。現状で高い火力を出せるのがめぐみんの爆裂魔法一回分だけである以上、いくらダクネスが壁として機能しても処理が追い付かない。一撃で大軍を薙ぎ払うような力とは言わないが、素通りはさせないくらいの攻撃力(というか命中率)が欲しいところだ。

 

 ・・・おっと、ダクネスが来た。正直に理由を告げると断られそうだから伏せておいたのだが、聞き入れてくれるかどうか。

 

「サトシか。急に私を呼び出して何をするつもりなのだ?」

「・・・両手剣スキルを覚えて欲しい」「嫌だ」

 

 ・・・・・・

 

「・・・素通りとかされないのか?」

「問題ない。私はデコイという、他者からの敵意を自身に集めるスキルを持っているからな。そこの通りを埋め尽くすくらいの数が相手なら、私が全て受けきるさ」

 

 そういうスキルがあるのは知ってたが、ダクネスはそれをかなりの水準で使いこなしているようだ。

 

「・・・でもあれは、一部のモンスターには効きにくかった筈」

 

 そう。その手のスキルは、ゴーレム等の意志を持たない存在や、精神系の効果に高い耐性を持つ高位の悪魔なんかには効きが悪いのだ。

 それでも、敵意を向けさせる対象が脅威と認識されているのなら効果は確かに現れる。しかしまともに剣が当たらないような相手をどれだけ脅威に見せられるのか。

 

「むう・・・だが、私はスキルポイントをデコイと防御系スキルにのみ割り振っている。今更両手剣に割り振るポイントは・・・」

 

 なら特訓すればいい。特訓によってスキルが発現するパターンもあるらしいし、俺もそのパターンだった。

 

「む、組手をして習得するのか。そういうのは該当するスキルを持った者が指導するのが常識だが、お前も両手剣スキルを・・・ん?その冒険者カード、もしやお前が私に教えるのか?両手剣スキルを?」

 ―――そうだが、何か問題でもあるのだろうか。

「いや、お前はクリエイターだと聞いていたし、魔法補助の腕輪を装備しているから後衛だと思っていたのだが・・・剣も扱えるのか?」

 

 ダクネスのその問いに、俺は素振りで返す。

 

 俺の剣技は実のところ他人の剣を見て覚えた、云わば見様見真似の剣だ。

 君咲学院の剣道部員はしばしば刀を振り回していた。衝動的に振り回したり、何か良くないモノに憑りつかれたり、まあ時々だが危険だったため、それを取り押さえるために動いたことも何度かある。他者が取り押さえる過程を見たことも。

 そんな中で剣術について多少の理解を得たのはある意味当然だろう。元の型とはだいぶ離れているが、少なくとも当たりはするだろう。

 

 そして魔法で土の柱を作り、それに斬りかかる。柱は斜めに両断され、上側の部分が地面に落ちた。

 

 ───やってみろ。

「・・・これに攻撃しろと?分かった・・・てりゃああ!」

 

 ・・・刃は届いたが、踏み込みが足りない。半ば程しか斬れていないではないか。

 とりあえず土柱を修理して、もう一度やってみるよう促す。

 

「むう、もう一度やるのか。これに何の意味が・・・」

「ソォイ!」

「ぬあっ!?何故いきなり後ろから押す!?これは訓練なのでは・・・」

 

 剣術というより身体ごと叩きつけたような形だが、土柱は見事に折れている。

 

 ───これでできた。

「いや折れたが!体当たりというのは騎士としてどうなのだ!?」

「踏み込みが足りなかった」

「む、確かに剣のリーチが微妙に足りなかった事は何度かあったが・・・だがそこまで踏み込むものなのか?流石に体当たりする勢いで斬りかかるとは聞いたことが無いのだが・・・」

「防御力が高いなら、多少無茶はできる。まず当たる距離を把握しろ」

 

 俺の言葉に納得はしたダクネス。当面は自主トレに励むらしいが、俺に言われた事も検討してみるらしい。

 俺はまあ人助けでもしようと考えているが、彼女に頼まれたらトレーニングの手伝いをするのもいいだろう。俺はそう思った。




 ダクネス強化フラグ(振れ幅についてはノーコメント)。


悠木(ゆうき) ともこ
 君咲学院2-C所属。紫のポニーテール。
 剣道部の副部長でありながら生徒会の会計でもある。根本的には真面目。普段はおっとりした言動だが、常備している日本刀を抜くと豹変し、非情かつ好戦的な言動になる。わりと体は闘争を求める。生徒会随一の危険人物と言っても過言ではない。
 持っている日本刀と脇差しには名前を付け、娘か何かのように可愛がっている。名前はそれぞれ『ぴょんぴょん丸』、『フランソワ』。作者がこのクロス小説を書こうと思ったきっかけ。


神樹(こだま) いちか
 君咲学院1-B所属。ショートカットの黒髪に、姉とお揃いの花の飾りを付けている。いちかの飾りは白。
 剣道部所属で神社の娘だが現代っ娘でゲームが大好き。そして姉の神樹(こだま)はじめの事が超大好きなシスコン。
 しかしながら悪霊に憑りつかれやすい体質で、君咲学院周辺に住んでいるためそういった事件も時々だが起こる。普段は剣道部の部長、副部長の剣技についていけないレベルだが、その状態では格段に戦闘力が増し、生者への憎悪を振るわせられている。


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現れる死の黒騎士

 あれから一週間。

 

 今日は予定もなく、とりあえず路地の清掃をしようと準備していたのだが、

 

「緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっ!」

 

 ルナさんの緊急アナウンスが街中に響き渡る。通りを歩いていた人々も何事かと顔を見合わせている。キャベツ収穫のように毎年恒例のイベントという訳ではなさそうだ。

 まだ馬小屋を出ていなかった俺達は、指示の通りに装備を整えて正門へと向かう。

 

 街の正門には俺達より先に集まった冒険者達も多くいた。

 だが、気迫も、存在感も、そこにいたモンスターは冒険者達を圧倒していた。

 

 そのモンスターはデュラハン。

 高位のアンデッドとして蘇ったそれは、人に死の宣告を与え、絶望を振り撒く首無しの騎士だ。

 

 全身鎧を身に纏い正門前に立つデュラハンは、人が増えたのを見計らい、左脇に抱えていた(おのれ)の首をこちらに差し出す。差し出された首は一対の角を付けたフルフェイスのヘルムに守られているが、そこからくぐもった声で話を始めた。

 

「・・・俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが・・・

 

 まままま、毎日毎日毎日毎日っっ!!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法撃ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だあああああああー!!」

 

 ―――爆裂魔法。

 その習得の難しさ、運用面での諸々の問題点から、その圧倒的威力にも関わらずネタ魔法扱いされている魔法だ。

 それを習得できる魔法使いも、習得しようと思う魔法使いも、俺達は一人しか知らない。

 冒険者達の視線がめぐみんに集まり、彼女の目線はそこから少し離れた所にいた魔法使いの女の子に視線を向ける。

 

「ええっ⁉あ、あたしっ⁉なんであたしが見られてんのっ⁉爆裂魔法なんて使えないよっ!」

 

 めぐみんと和真は冷や汗を垂らしながら苦い顔をしている。彼女達はここ一週間、街の外で爆裂魔法を撃つのを日課にしていた筈だが、あのデュラハンの言葉と二人の様子から見るにその対象は・・・

 

 そしてめぐみんがため息を吐き、嫌そうな顔で前に出た。

 デュラハンから十メートルほど前に立つめぐみん。十中八九彼女の身から出た錆なのだろうが、和真と俺、それにダクネスとアクアもその後につき従う。

 

「お前が・・・!お前が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んで行く大馬鹿者か!俺が魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい!その気が無いのなら、街で震えているがいい!何故こんな陰湿な嫌がらせをする!?この街には低レベルの冒険者しかいない事は知っている!どうせ雑魚しかいない街だと放置しておれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって・・・っ!!頭おかしいんじゃないのか、貴様っ!」

 

 圧倒的強者のオーラを放ちながら至極常識的なことを怒鳴るデュラハン。

 その怒気にめぐみんが(ひる)むも、すぐに肩のマントをひるがえし、

 

「我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者・・・!」

「・・・めぐみんって何だ。バカにしてんのか?」

「ちっ、(ちが)わい!・・・我は紅魔族の者にして、この街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、魔王軍幹部のあなたをおびき出すための作戦・・・!こうしてまんまとこの街に、一人で出て来たのが運の尽きです!」

 

 デュラハンに杖を突きつけ勝ち誇るめぐみんの後ろで、俺達は小声で話す。

 

「・・・そうなのか?」

「いや・・・あいつが『毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬ』とか言ってたから、爆裂魔法の後のめぐみんを運んでたんだ。場所に特に理由は無いな」

「・・・しかもさらっと、『この街随一の魔法使い』と言い張っているな」

「しーっ!そこは黙っておいてあげなさいよ!今日はまだ爆裂魔法使ってないし、後ろにたくさんの冒険者が控えてるから強気なのよ。今良いところなんだから、このまま見守るのよ!」

 

 俺達の囁きが聞こえていたらしいめぐみんは、ほんのりと顔を赤くしている。

 

「・・・ほう、紅魔の者か。なるほど、なるほど。そのいかれた名前は、別に俺をバカにした訳ではなかったのだな」「おい、両親からもらった私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

 

 案の定というか、紅魔族の名前はこの世界でも独特らしい。俺や和真が名乗ってもあそこまで妙な名前扱いはされなかったと思うのだが。

 

「・・・フン、まあいい。俺はお前ら雑魚にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」

「それは、私に死ねと言っているも同然なのですが。紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」

 

 じゃあ紅魔族の里は毎日ドッカン(爆裂魔法の音)バッコン(爆裂魔法の音)大騒ぎなのか!?

 

「お、おい、聞いた事ないぞそんな事!適当な嘘をつくな!というか後ろのお前、今本気でこの娘の言葉を信じただろ!普通に考えておかしいと思わないのか!?」

 

 大騒ぎじゃないのかー・・・

 

「聖お前・・・」

 

 和真達が俺を馬鹿を見る目で見ている。さっきまでデュラハンとめぐみんのやり取りに興味津々だったアクアも、そんなを俺に向けている。

 そしてデュラハンは右手に首を載せ、肩をすくめるような動作をして言った。

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのを止める気は無いと?俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味は無い。だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」

 

 デュラハンのその言葉は嘘とは思えない。

 全てを憎むような殺気、とは違うが、根本的に人間を仲間と見ていないのがわかる。あれがその気になれば、俺達を殺すのに躊躇(ちゅうちょ)はしないだろう。俺達が(はえ)()を潰すのに躊躇しない様に。

 

 だがめぐみんはその言葉に怯まずに答えた。

 

「迷惑なのは私達の方です!あなたがあの城に居座っているせいで、私達は仕事もろくにできないんですよ!・・・フッ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデッドのスペシャリストがいるのですから!先生、お願いします!」

「しょうがないわねー!魔王の幹部だか知らないけど、この私がいる時に来るとは運が悪かったわね。アンデッドのくせに、力が弱まるこんな明るい内に外に出て来ちゃうなんて、浄化して下さいって言ってるようなものだわ!あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ!さあ、覚悟はいいかしらっ!?」

 

 めぐみんの声に(こた)え、アクア先生が得意げな顔で前に出る。この間はリッチーのウィズさんにターンアンデッドが効いていたし、対アンデッド性能は凄いのだろう。

 ・・・ふむ、これは『オイオイオイ、死んだわアイツ』とでもいう場面なのかな?既に死んでるけど。

 

 そのアクアに向けてデュラハンは自身の首を差し出す。様子を見た限り、デュラハンなりにアクアを注視しているのだろうか。少なくとも親愛の情は見えない。

 

「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか?この俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、アークプリースト対策はできているのだが・・・そうだな、ここは一つ、紅魔の娘を苦しませてやろうかっ!」

 

 そういってデュラハンは、アクアが魔法を唱えようとするより早く、左手でめぐみんを指差して叫んだ。

 

「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

 それと同時に、ダクネスがめぐみんを庇って後ろに隠した。

 ビームの類ではなかったが、ダクネスの身体は一瞬だけ黒く光っていた。今のところダクネスはダメージを感じていないようだが、おそらくあれは呪いだろう。

 先程の文言、そしてデュラハンが使う呪いといえば・・・!

 

「ふむ、そこの男はただの馬鹿かと思っていたが、勘は良いようだな・・・おそらく貴様の予想は正しい。さあ、俺が何をしたか言ってみるがいい」

「死の宣告・・・しばらくは何も影響は無いが、決められた時間が過ぎた時、相手を殺す呪い」

「正解だ。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者にはこちらの方が応えるだろう・・・よいか、紅魔の娘よ。このままではそのクルセイダーは一週間後に死ぬ。ククッ、お前の大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え、苦しむ事となるのだ・・・そう、貴様の行いのせいでな!これより一週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言う事を聞いておけばよかったのだ!」

 

 ―――やられたっ!

 

 死の宣告に防御力など意味を成さない以上、ダクネスの防御力をあてにすることもできない。このままでは・・・

 そう思っていると、ダクネスが口を開いた。

 

「な、なんて事だ!つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言う事を聞けと!つまりはそういう事なのか!」

「えっ」

 ―――えっ。

 

「くっ・・・!呪いくらいではこの私は屈しはしない・・・!屈しはしないが・・・っ!ど、どうしようカズマ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言う事を聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だっ!」

「・・・えっ」

 ―――ええ・・・

 

「この私の体は好きにできても、心までは自由にできると思うなよ!城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とかっ!ああ、どうしよう、どうしようカズマっ!!予想外に燃えるシチュエーションだ!逝きたくはない、行きたくはないが仕方がない!ギリギリまで抵抗してみるから邪魔はしないでくれ!では、行ってくる!」

「ええっ!?」

「止めろ、行くな!デュラハンの人が困ってるだろ!」

 

 保護者のようにダクネスを取り押さえる和真。ダクネスの目は確実にデュラハンの元へ行き、理不尽な要求をされたがっているものだった。

 ・・・うん、実は余裕なんじゃないか?一週間が過ぎても自然に復活してそうなレベルだ。

 

「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ!そして、紅魔族の娘よ!そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来る事ができたなら、その呪いを解いてやろう!・・・だが、城には俺の配下のアンデッドナイト達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着く事ができるかな?クククククッ、クハハハハハハッ!」

 

 最後にようやくかっこよく決めたデュラハンは、遠くに停めていた首無しの馬に乗り、高笑いしながら城へと去っていった・・・

 

 ────────────────────

 

 冒険者達が呆然と立ち尽くす。それは俺達も例外ではない。

 めぐみんもその中の一人、しかし一際顔を青くしていたのは、自分の責任を意識してしまっているのだろう。

 

「・・・今回の事は私の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法ぶち込んで、ダクネスの呪いを解かせてきます」

 

 めぐみんはそう言って、一人で街の外に行こうとする。

 

「俺も行くに決まってるだろうが。お前一人じゃ、雑魚相手に魔法を使ってそれで終わっちゃうだろ。そもそも、俺も毎回一緒に行きながら、幹部の城だって気づかなかったマヌケだしな」

 

 和真もそう言い、めぐみんと一緒に行こうとする。

 

 ―――まったく、二人だけで挑むつもりなのか?

「聖、お前も来るのか。お人好しだな・・・(いて)っ、なんだよ、『俺達は仲間だろう』って?・・・そうだな」

「俺の敵感知スキルで城内のモンスターを索敵しながら、潜伏スキルで隠れつつ、こそこそ行こう。もしくは、毎日城に通って一階から順に、爆裂魔法で敵を倒して帰還。毎日地道に削っていく・・・一週間の期限があるなら、そんな作戦でいってもいい」

 

 おお・・・!流石和真だ。それなら何とかなるかもしれない・・・

 

「おいダクネス!呪いは絶対に何とかしてやるからな!だから、安心「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」・・・」

 

 アクアはダクネスに魔法を使っていた。確か、あの呪文は結界や呪いなんかを解除するものだった筈だ。

 

「この私の手にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ!どう?どう?私だって、たまにはプリーストっぽいでしょう?」

 

「「「・・・えっ」」」

 

 こうして、ダクネスの命は救われたのであった。



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女神の金策

 新年、明けましておめでとうございます。
 話の都合上、今話は長くなりましたが、最後の書き溜めです。今後は宣言通りに不定期更新ですのでご了承ください。


 デュラハン襲来から一週間。

 ダクネスの命も含め、何事も無い平穏な日々だった。

 ・・・・受けられるクエストも無かったのだが。

 

「クエストよ!キツくてもいいから、クエストを請けましょう!」

 

 アクアがそう提案するのも無理からぬ事だろう。(もっと)も、アクア以外は金銭面に余裕があり、和真とめぐみんは露骨に嫌がっている。そんな時にわざわざ高難度のクエストを請けたくないのはわかる。

 

「私は構わないが・・・だが、アクアと私では火力不足だろう・・・ん?サトシか。お前も来るのか?それなら火力も補えるが、今あるような高難度のクエストにどれだけ通用するか・・・」

 

 そうだ。そもそもクエストを請けるといっても、達成可能なクエストが無ければどうにもならない。アクアは何か自分にもできそうなクエストを見つけたのだろうか。

 

「それをこれから探すのよ。今は掲示板を見てる人なんてほとんどいないし、探せば私にできるクエストくらい見つかるんじゃないかしら!」

 

 つまりノープランか。

 和真とめぐみんは明らかに面倒臭がっており、こちらを見ようともしない。

 

「お、お願いよおおおおおお!もうバイトばかりするのは嫌なのよお!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は、私、全力で頑張るからあぁっ!!」

「しょうがねえなあ・・・じゃあ、ちょっと良さそうだと思うクエスト見つけて来いよ。悪くないのがあったら付いてってやるから」

 

 これで五人全員が行くことになるのか。俺もクエストを見に行くか。

 

 

「・・・カズマ、一応あなたもクエスト見に行って来てもらえますか?アクアはとんでもないのを持ってきそうですし、サトシはサトシで変なクエストを選びそうですし・・・」

「・・・わかった」

 ―――俺を何だと思ってるんだ!?

 

 さて、掲示板は見事に高難度クエストばかりだ。推奨レベル40以上なんてものもある。一番楽そうなのは・・・

 

『―― 開発中の魔法薬の被検体募集 ―― 魔法抵抗力が高い人が望ましい。皮膚に浴びせることで状態異常を付与するもの及びそれを治療するものを数点ほど実験する予定。報酬は20万エリス』

 

 ・・・アクアはアークプリーストだから状態異常を治療する事は容易の筈だ。その能力はデュラハンの死の宣告で実証されている。ダクネスは魔法抵抗力も高いらしい・・・いや、失敗したらどんな影響が出るかわからない。治療できないような影響が出ないとも限らないし、これは保留か。

 

「おい、流石にそれは請けないよな?確かに状態異常の治療はアクアにもできるが、そんなの請けるなら被検体にはお前が行け、な?」

 ―――いや、それくらいわかってるからな?見てただけ!見てただけだから!

 

「・・・よし」

「よしじゃねえ!お前、何請けようとしてんだよっ!!」

 

 ん?一体どんなクエストを・・・

 

『―― マンティコアとグリフォンの討伐 ―― マンティコアとグリフォンが縄張り争いをしている場所があります。放っておくと大変危険なので、二匹まとめて討伐してください。報酬は50万エリス』

 

 無茶すぎる・・・これをどうやって討伐しようというのか。一体だけなら寝ているところに爆裂魔法という案もあるが、二体となると難しくなるぞ。

 

「何よ二人して・・・二匹まとまってるとこにめぐみんの爆裂魔法食らわせれば一撃じゃないの。ったくしょうがないわねー・・・」

 

 どうやって二匹まとまってるところに安全に近づくのか。どちらも比較的知能の高いモンスターらしいし、後ろで凶悪な魔法を詠唱している魔法使いを二匹とも無視するとは思えない。

 どんな方法があるか考えていると、アクアがまた別のクエストを自信満々に指し示した。

 

『―― 湖の浄化 ―― 街の水源の一つの、湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着き始めたので湖の浄化を依頼したい。湖の浄化ができればモンスターは生息地を他へ移すため、モンスター討伐はしなくてもいい。※要浄化魔法習得済みのプリースト。報酬は30万エリス』

 

 確かアクアは、アークプリーストが使える魔法は全部習得していたんだったか?それなら浄化魔法も使えるのか。

 

「その通り!というか、私が何を(つかさど)る女神かわかってるでしょう?そんなスキルは最初から持ってるレベルよ」

 

 そこにまず和真が、

 

「ああ、宴会の神様だったな」「違うわよヒキニート!サトシはちゃんと言えるわよね!?」

 

 ・・・じゃあ俺も。

 

「水・・・と宴会の神様」「ちょっとサトシ!?」

「まあ、水の浄化だけで30万は確かに美味しいな。でも浄化だけならお前一人でもいいんじゃないか?そうすれば報酬は独り占めできるだろ?」

 

 多少はアクアの事を見てきた自覚はあるが、今お金に困っているアクアが、困っていない俺達に報酬を分けようと考えるとは思えない。

 

「え、ええー・・・多分、湖を浄化してるとモンスターが邪魔しに寄ってくるわよ?私が浄化を終えるまで、モンスターから守って欲しいんですけど」

 

 ブルータルアリゲーターが沸いているんだったか。名前からしてワニっぽいが、ワニなら君咲学院にもいたな。長町さんが手懐けていた感じだったから戦闘シーンは見たことが無いが、確か陸上では口が開かないように押さえれば大丈夫なんだったか・・・いや、野菜が飛ぶ世界のワニがどんな存在なのか調べていなかったな。この辺りで出てくるモンスターを調べた後は、この世界のトップクラスを重点的に調べていたからなぁ・・・

 

 ―――よし、ダクネスー。

「ん?どうした・・・何、ブルータルアリゲーター・・・・について教えて欲しいのか?

 そうだな、あれは泥沼なんかを好むが、このクエストの様に、濁った池なんかに住み着くこともある。ただし、基本的に数十体ほどの群れでだ。それに一斉に襲われたらどれだけ気持ち良いか・・・おっと。後はジャンプ力が目立つな。二、三メートル程度の距離ならひとっとびに跳びかかられて噛みつかれる。全体的な能力の高さもあって、並のパーティーでは質量で押し潰されるな・・・私を囮にして一体ずつ倒すか?」

「お前がやりたいだけだろ・・・それはそうと、浄化ってどれくらいで終わるんだ?それ次第ではダクネスを囮にするのもアリだが」

「・・・・・半日くらい?」「(なげ)えよ!」

 

 いくらダクネスといえど半日はな・・・俺がゴーレム(防水仕様)を放り込んでその間に少しずつ浄化するか?一応転生特典としてもらった凄いスキルなわけだし・・・

 

 すると、依頼を掲示板に戻そうとしていた和真が何かを思いついたらしく口を開く。

 

「・・・なあ、浄化ってどうやってやるんだ?」

「・・・へ?水の浄化は、私が水に手を触れて浄化魔法でもかけ続けてやればいいんだけど・・・」

 

 それを聞いた和真は何かを一瞬諦めたようだが、もう一度何かを思いついたらしい。

 

「おいアクア。多分、安全に浄化できる手があるんだが、お前、やってみるか?」

「本当!?やるやる、やりますカズマ様!」

「決まりだな。それじゃあ必要なものを借りたいから、ちょっと聖もついて来てくれるか?」

 

 ―――え、俺?

 

 

 ────────────────────

 

 問題の湖。

 山からここに流れ、ここから街へ向けて流れる川は、アクセルの街にとって大切なものだ。しかし、湖共々濁りが見える。流れる分はまだ比較的綺麗だが、いずれ生活にはとても使えないような淀みになるのだろう。地味に街の危機ではないのだろうか。

 

 そしてそれを浄化するアークプリーストは今、

 

「・・・・・・ねえ・・・・・・本当にやるの?・・・・・・私、今から売られていく、捕まった希少モンスターの気分なんですけど・・・」

 

 希少なモンスターを閉じ込める、鋼鉄製のオリの中で、所謂(いわゆる)体育座りの体勢でいた。

 

 和真が提案した作戦。それはアクアをオリに入れ、ティーパックの様に湖へと放り込む事だ。

 最初は遠くからちまちま浄化する事を考えたそうだが、水に触れ続けなければならないと聞いてこれに変更したそうだ。

 このオリは特別性で、各地のギルドに一つずつ、高額を投じて置かれている高性能なものらしい。普段は滅多に使われず、修理費も馬鹿にならないそれを貸し出してくれた辺り、ギルドもこの一件を重要視しているという事か。

 水の女神であるアクアは、半日水に浸かるどころか一日沈められても平気だそうだ。さらに彼女の浄化能力は人のレベルを超えており、水に触れるだけで浄化効果を発揮するほどらしい。世が世ならまさに救世の女神だな。

 俺、和真、ダクネスの三人でオリを湖に入れる。まあ体育座りのアクアの(くるぶし)辺りまでしか水位の無い場所だが。

 当然その場所にもブルータルアリーゲーターは余裕で侵入してくるし、縄張りを荒らす相手には容赦しないだろう。しかしアクアを入れたオリの頑丈さは、レベル30代の戦士が全力で壊そうとしても僅かな歪みを残すのみと聞く。単体の力でなく群れの波状攻撃の危険性をもって恐れられるブルータルアリゲーターが壊せるとは思えない。

 湖の浄化が終わればワニ達もここを離れるらしいが、万が一そうならなかった時は鎖で引っ張り上げる予定だ。まったく、和真の完璧な作戦には脱帽だ。

 

 

 

 そして二時間ほど経過したが、まだ問題のブルータルアリゲーターは見えない。アクアも余裕でくつろいでいる。

 

「おーいアクア!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?オリから出してやるから!」

「浄化の方は順調よ!後、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!!」

 

 へえ~、トイレは冒険者にとって死活問題とも言うから、その能力は地味ながら役に立つだろう。良い事だ・・・いやそんな事あるのか?

 

「・・・今サトシ絶対信じかけてましたよね。一応言っておきますが、依頼を受ける時は知り合いに確認してもらってくださいね。後、大きい買い物とかもですよ。それが本当に必要な物かどうか、よく考えて・・・」

 

 めぐみんの目が出来の悪い弟か何かを見る目だ。一応俺の中にも人を信じる度合いというかレベルというか、まあそういうものがあるのだが。ちなみにアクアが嘘をつく時はもっと態度が分かりやすい。

 

「カ、カズマー!なんか来た!ねえ、なんかいっぱい来たわ!」

 

 

 

 さらに二時間。

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!ギシギシいってる!ミシミシいってる!オリが、オリが変な音立ててるんですけど!」

 

 十は確実に超えている数のブルータルアリゲーターが、アクアのいるオリに殺到していた。

 中のアクアはわあわあと泣き叫んでいるが、その顔はワニの群れでほとんど見えない。俺達に向かって来ないのは良かったが、オリの中のアクアを食い殺さんとしている。

 

 ・・・手助けでもするべきだろうか?

 

「アクアー!ギブアップなら、そう言えよー!そしたら鎖引っ張ってオリごと引きずって逃げてやるからー!」

「イ、イヤよ!ここで諦めちゃ今までの時間が無駄になるし、何より報酬が貰えないじゃないのよ!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』ッッ!!・・・わ、わああああーっ!!メキッていった!今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴った!!」

「・・・あのオリの中、ちょっとだけ楽しそうだな・・・」「・・・行くなよ?」

 

 先程までの余裕は何処へやら、懸命に浄化魔法を唱え続け、一刻も早く浄化を終えようと尽力している。

 大丈夫・・・・なのだろうか?

 

「・・・助けた方がいい?」

「いや、ブルータルアリゲーターは脅威と認識した者を集中して狙う。下手に手を出せば、追加のワニが私を無視してお前に押し寄せるだろうな。流石の私も、あれらを全て引き付ける事はできない・・・いや、私があれに攻撃すれば・・・ふふふ・・・・」「やるなよ!?」

 

 流石ダクネスぶれない。

 

 

 

 もう三時間後。

 なんということでしょう。あんなに濁っていた湖は、美しい綺麗な湖へと変わりました。水源としても申し分ないでしょう。

 ブルータルアリゲーターが群れで潜んでいたのであろう一帯も澄み渡り、彼らは一体、また一体と湖を離れていきます。こうなった彼らは遠く離れた地へ、敵のいない湖を探しに行きます。しかしその旅は過酷で、群れの大きさは確実に縮小するでしょう。

 そしてその際には、(アクア)の入ったオリがボロボロになりながらも健在。本来の役割とは幾分(いくぶん)か離れた使い方ですが、確かに(アクア)を守り切りました。

 

「・・・おいアクア、無事か?ブルータルアリゲーター達は、もう全部、どこかに行ったぞ」

「・・・ぐす・・・ひっぐ・・・えっぐ・・・・・・」

 

 既に泣き喚く気力さえ無くしたアクア。本来ならこんな駆け出し数人でやるクエストではなかったのだろうが、それを俺達のパーティーがやったのだ。アクアには後で何か奢ってやるべきか。

 

「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。俺達で話し合ったんだが、俺達は今回、報酬はいらないから。報酬の30万、おまえが全部持っていけ・・・・・・

 

 ・・・・・・おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないから」

「・・・・・・まま連れてって・・・・・・」

 

 おや、どうしたんだろう?

 

「・・・オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって」

 

 カエルに続き、アクアのトラウマがまた一つ。祝勝会でもしてやろうかな・・・



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魔剣の勇者、その名は

 アプリ『あんさんぶるガールズ!!』もラストイベント終了悲しい・・・
 当作の主人公の転校生君は、あっちの幸せな婚約をして終了した転校生君とは別の世界線、混迷する時空が同窓会によって解き放たれた後あるいは前の転校生君です。


「ドナドナドーナードーナー・・・」

 ―――女神・・・僧侶・・・シスター・・・あっそうだ、神様はー揺れるー・・・

 

「・・・お、おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロのオリに入って膝抱えた女を運んでる時点で、ただでさえ街の住民の注目を集めてるんだからな?というか、もう安全な街の中なんだから、いい加減出て来いよ」

 

 依頼を終えた俺達は、ギルドへ向けて馬車を走らせていた・・・オリに入った女神アクアを荷台に乗せながら、だが。ついでに言えばその重みで歩みも遅い。

 

「嫌。この中こそが私の聖域よ。外の世界は怖いからしばらく出ないわ」

 

 オリの外から無数の巨大ワニに群がられるのは相当怖いようだ。いや、(はた)から見ていて怖くないという訳ではないのだが。

 もっとも、受けた被害といえばアクアのトラウマだけ。多少(いた)んでいるであろうオリの修理代金を差し引いても20万は軽く手に入るであろう依頼が、(肉体的には)誰も傷つかずにクリアできたのだ。報酬はアクアが全て受け取る事になっているから、ギルドに着けばウザいほどに気を持ち直すだろう。

 

 

「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、そんな所で!」

 

 見知らぬ男が唐突に駆け寄り、そんな事を言い出した。

 髪は黒。夢ノ咲学院のアイドルにも劣らず整ったアジア系の顔立ちや発言内容から見るに、彼もまたアクアによってこの世界に転生した日本人なのだろう。この辺りでまず見かけない強力そうな装備は、いかにも「自分こそ勇者」と言わんばかりに美麗な装飾を施した(テンプレートな)物ばかりだ。

 そんな彼はアクアを入れた(が入った)オリを掴んだ。囚われの女神を助けようとしているのだろうが、このオリは特別性だ。ブルータルアリゲーターの群れが一斉に襲い掛かっても壊れないこのオリを、人間一人の力でどうこうできる筈が・・・

 

 ―――たやすくこじ開けた!?

 

 彼は人間離れした膂力(りょりょく)を見せつけながらも汗一つ流さず、オリの中のアクアに手を差し伸べている。当のアクアはそんな彼に唖然と、あるいは恐怖しているが。

 

「・・・おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応していないのだが」

 

 いち早くダクネスが反応する。少し前まではワニに襲われるアクアを羨ましそうに見ていたが、今は真面目に高潔なクルセイダーだ。

 そして彼女に相対する勇者くんは、やれやれと言わんばかりの態度だ。ため息までついて、自分は面倒事は嫌いだが仕方ない、と言葉も無いのに伝わってきそうだ。ダクネスも顔をしかめている。

 

 渦中のアクアに和真がそっと耳打ちする。

 

「・・・おい、あれお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし。お前があの男を何とかしろよ」

「・・・・・・ああっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわねー!

 

 ・・・・で、そいつ誰?」

 

 こ れ は ひ ど い

 信じて送り出してくれた女神がオリに閉じ込められて自分の事を忘れていたと知った勇者くんは呆然としている。しかもアクアはアクアで、自分が何者だったのかも忘れかかっていたようだ。

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣(みつるぎ) 響夜(きょうや)ですよ!あなたに、魔剣グラムを頂いた!!」

 

 やはり彼、御剣響夜はアクアによってこの世界に連れてこられた転生者であっていたようだ。

 彼の事を忘れられていたのは単にアクアの馬鹿さ加減か、あるいは一々覚えていられない数を転生させてきたのか・・・どちらかといえば前者な気がするが、こっちで調べた中の転生者らしき記録の数を考えると後者の可能性も捨てきれない。

 それはさておき、彼の後ろには二人の少女がいるが、その片方に見覚えがある。キャベツ収穫の後、武器屋で腕輪を買おうとしていて、その折りに俺を変態認定・・・あれはきつかった・・・・あの後都市伝説になるほど泣いたな・・・

 

「うげえっ・・・キョウヤ、あいつが例の変態野郎よ」

「・・・なんだって?あの男が君に()()()()行為を要求したっていう外道・・・なんだかFXで有り金全部溶かしたみたいな顔になってるんだけど、あいつなんだよね?」

「エフエックスってのは知らないけど、きっとキョウヤにボコボコにされるのが怖いのよ!クレメアのためにも、あいつを叩きのめしちゃって!」

 

 酷い言われようである。俺は悲しい・・・

 

「・・・ええっと、まずアクア様、お久しぶりです。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っていますよ。職業はソードマスター。レベルは37にまで上がりました・・・ところで、アクア様はなぜここに?というか、どうしてオリの中に閉じ込められていたんですか?一緒にいたあの男、かなりの変態だって聞きますし・・・」

「変態っていうのはよく分からないけど、私はあっちの男・・・カズマさんに転生特典として選ばれてこの世界に来たの。そうよねカズマさん?」「おう、そうだ・・・って、顔が怖えよ。ちょっとの間でいいから黙って聞いててくれ。まず―――――」

 

 アクアと和真が事情を説明する。アクア以外の女性陣はほとんど話についていけてないが、御剣くんの表情はどんどん険しくなっていく。和真はだんだん言葉選びに慎重になっているが、アクアはそれに気づいていない。むしろ生活環境など、オブラートに包んだ和真の表現をつまびらかにしている節もある。

 

 そして一連の話を聞いた御剣くんは、

 

「・・・バカな。ありえないそんな事!君は一体何考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストではオリに閉じ込めて湖に浸けた!?」

 

 激しく怒りを(あら)わにし、和真の胸ぐらを掴んでそう怒鳴った。どうやら彼は夢路さんみたいな信心深いタイプの人間だったらしい。こっちに来る前の彼がどんな人間だったのかは知らないが、余程女神アクアに心酔しているらしい。

 また、彼は今回の仕事での収入30万を『たった』と言い切ったり、馬小屋で寝泊まりしている事を信じられなかったりと、一般の冒険者の感性からずれた発言が目立った。アクア曰く、彼女があげた魔剣の力で高難度クエストをバンバンこなし、安宿だとか金欠だとかの冒険者あるあるとは無縁だったらしい。俺達はなんだかんだで順応したが、転生した人達は大体そんな感じだろうとも言った。

 

 そして御剣は多数の美女上級職に囲まれる和真をろくでなしと認識したらしい。俺についてはやはり変態と認識されているようだが、生産職の俺も戦闘に参加していると知り『生産職なのに戦わせられている変態』という何とも対応に困る認識になったようだ。

 そして彼はめぐみんとダクネスの方を向き、こう言い放った。

 

「君達、今まで苦労したみたいだね。これからは、僕と一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備品も買い揃えてあげよう。というか、パーティーの構成的にもバランスが取れていていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と、そしてクルセイダーのあなた。僕の仲間の盗賊と、アークウィザードのその子にアクア様。まるであつらえたみたいにピッタリなパーティー構成じゃないか!」

 

 どこから突っ込むべきか迷うが、まずその苦労は自業自得だと思う。

 御剣の性格はかなり難があるが、まだ許容範囲だろう。俺は行きたいとは思わないしそもそも誘われてないが。そんな彼の誘いを受けた三人は、

 

「ちょっと、ヤバいんですけど。あの人本気で、ひくぐらいヤバいんですけど。ていうか勝手に話進めるしナルシストも入ってる系で、怖いんですけど」(小声アクア)

「どうしよう、あの男は何だか生理的に受けつけない。攻めるより受けるのが好きな私だが、あいつだけは何だか無性に殴りたいのだが」(小声ダクネス)

「撃っていいですか?あの苦労知らずの、スカしたエリート顔に、爆裂魔法を撃ってもいいですか?」(小声めぐみん)

「ねえカズマ。もうギルドに行こう?私が魔剣をあげておいてなんだけど、あの人には関わらない方がいい気がするわ」(普通声アクア)

 

 まさに満場一致。流石に本人らが拒否するのであれば引き留めるも何もないだろう。

 

「えーと。俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには行きたくないみたいです。俺達はクエストの完了報告があるから、これで・・・・・・

 

 ・・・・・・どいてくれます?」

 

 俺達の前に立ち塞がる御剣。どうみても彼は納得していない。強い信念を持ちながら人の話を聞かない、俺の考えうる中で最も面倒なタイプだ。

 

「悪いが、僕に魔剣という力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇の中に放ってはおけない。君にはこの世界は救えない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方が絶対にいい・・・ねえ君、彼は、この世界に持ってこられるモノとして、アクア様を選んだ、という事でいいんだよね?」

 ―――えっ、俺?・・・まあ、そうだが。

 

「なら佐藤和真、僕と勝負をしないか?アクア様を、持ってこられる『者』として指定したんだろう?ボクが買ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」「よし乗った!!じゃあ行くぞ!」

 

 ―――御剣の発言は予想できたが、和真の対応は予想外だった。

 思慮どころか改行さえ許さず・・・改行って何だ?まあ、御剣が身構えるより速く、和真の小剣が彼に襲い掛かった。

 それでも御剣は魔剣で和真の攻撃を防ごうとする。自分なら魔王を倒せると豪語するだけあって、その瞬発能力はかなり高い。無事に防ぐかと思われたその時、

 

「『スティール』ッ!」

 

 ・・・どこまで狙ったのか。御剣の手に魔剣は無く、和真の突き出した左手に収まっていた。

 

「はっ?」

 

 それは誰の声か、それは問題ではない。

 レベル30を超えるソードマスターの御剣は、レベル10も無い最弱職の和真に殴り倒されていた。




(ともえ) 日和(ひより)
 元、夢ノ咲学院所属。今はアイドル養成校である玲明(れいめい)学園の三年生。ライムグリーンの天然パーマ(であってるのか作者は自信が無い)。以前は『fine』に所属していたが、玲明学園では『Eve』というユニットに所属している。ちなみに『Eve』が『Adam』と合体すると『Eden』になる。
 『一日一善』をモットーにしているが、態度がでかい。自分は他の人間より上で村長されるのが当然と言わんばかりの態度、自分のやりたい事しかしない超絶わがまま貴族様。うーん、(態度)でかい。口癖は「~な日和」。


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魔剣の勇者、決着

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者-っ!」「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

 御剣の仲間の彼女達は、幾度も剣が交わる熱い戦いを、あるいは圧倒的強者で正義の御剣が、瞬く間に敵を倒す姿を想像していたのだろう。少なくとも、不意を突かれて魔剣をスティールで奪われ、一撃で昏倒させられる姿ではなかった筈だ。

 だが正攻法で和真に勝ち目が無いのはわかりきっていた筈だ。そこで『まさか不意打ちなどされるまい』と油断したのは御剣だし、あんな形とはいえ彼を倒したのは間違いなく和真だ。戦い方については擁護できないが、暴力沙汰になれば和真に味方するくらいはしよう。

 

「俺の勝ちって事で。こいつ、負けたら何でも一つ言う事聞くって言ってたな?それじゃあ、この魔剣を貰っていきますね」

「なっ!?バ、バカ言ってんじゃないわよ!それに、その魔剣はキョウヤにしか使いこなせないわ。魔剣は持ち主を選ぶのよ。既にその剣は、キョウヤを持ち主と認めたのよ?あんたには、魔剣の加護は効果がないわ!」

 

 話を聞いていたアクアも否定していないし、そういう武器なのか・・・でも持ち主を強化する能力は気になるな。ひょっとしたらゴーレムとかに転用できるような力があるかもしれないし、はっきり言って今の和真の武器よりは加護無しでも強いだろう。こっちは危うく・・・危うかった?まあパーティーメンバーを半分以上奪われかけたんだし、これくらいしないとこのナルシストはまた何処かで似たような事をやるかもしれない。

 

 ―――それにしとこう和真、ゴー。

 

「わかった。それじゃ、そいつが起きたら、これはお前が持ちかけた勝負なんだから恨みっこ無しだって言っといてくれ・・・それじゃアクアも、ギルドに報告に行こうぜ」

 

 よーし、これでやっとこの場を離れられる。正直変態扱いは居心地が悪すぎる。早く帰って寝たい。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!こんな勝ち方、私達は認めないわ!」

「そうよ!それに、その変態の事もなあなあにする気でしょ!」

 

 ぬわーーーーっ!!

 

「なんでお前今吹き飛んだの!?・・・・・・まあ、あいつはちょっと・・・いやかなり・・・頭のネジの外れたお人好しなんだ。それこそ金が足りなくて困ってるなら遠慮なく金を渡す頭のおかしい奴で・・・・・・というか、俺もそろそろ帰りたいんだ。あんまり難癖つけるようなら、真の男女平等主義者な俺のスティールが炸裂するぞ。俺のスキルは凶暴でね、何を公衆の面前に晒すか俺にもわからんぞ?」

 

 和真が何やらすごくいやらしい手の動きをしている。

「「「「うわあ・・・・・・・・・」」」」 「「ひっ・・・・」」

 

 あっ、声出ちゃった。

 

 ────────────────────

 

 そんなこんなでギルドに戻ってきた俺達。今回の報酬は、

 

「だから、借りたオリは私が壊したんじゃないって言ってるでしょ!?ミツルギって人がオリを捻じ曲げたんだってば!それを、何で私が弁償しなきゃいけないのよ!」

 

 30万エリスからオリの修理代20万を引き、10万エリスである。借りたオリが壊れたのは事実だし、その間は俺達が管理する扱いだという契約だったのだが・・・御剣の奴、今度会ったら20万取り立ててやろうか・・・

 

「あの男、今度会ったらゴッドブローを食らわせてやるわっ!そしてオリの弁償代払わせてやるから!!」

 

 神意は我にあり。見てろ御剣絶対に支払わせてやる。

 

「ここにいたのかっ!探したぞ、佐藤和真!」

 

 ───お前・・・覚悟はできてんだろうな・・・?

 

「佐藤和真!君の事は、ある盗賊の少女に・・・ん?君、僕を取り押さえて何おぶっ!?」

「「ああっ!?キョウヤ!」」

 

 俺が御剣を後ろから押さえつけ、そこにアクアがゴッドブローを打ち込む。俺達の連携プレーに御剣はノックアウト・・・はしなかったが、その顔には明らかな動揺が見てとれる。

 

「ちょっとあんたオリ壊したお金払いなさいよ!おかげで私が弁償する事になったんだからね!30万よ30万、あのオリ、特別な金属と魔法で出来てるから高いんだってさ!ほら、とっとと払いなさいよっ!」

 

 ちょっとサバ読んだなこの女神・・・でも渋々だが払う御剣の様子を見るに、彼の財布には大した問題ではなさそうだ。

 

「・・・さて、元々僕が用があったのは君だ、佐藤和真・・・いや、負けを認めない訳じゃない。あんなやり方でも、僕の負けは負けだ。そして何でも言う事を聞くと言った手前、こんな事を頼むのは虫がいいのも理解している・・・だが、頼む!魔剣を返してはくれないか?あれは君が持っていても役には立たない物だ。君が使っても、そこらの剣よりは斬れる、その程度の威力しか出ない・・・・どうだろう?剣が欲しいのなら、店で一番良い剣を買ってあげてもいい・・・返してはくれないか?」

 

 本当に虫のいい話だな。

 

「私を勝手に景品にしておいて、負けたら良い剣を買ってあげるから魔剣返してって、虫が良いとは思わないの?それとも、私の価値はお店で一番高い剣と同等って言いたいの?無礼者、無礼者!仮にも神様を賭けの対象にするって何考えてるんですか?顔も見たくないのであっち行って。ほら早く、あっちへ行って!」

 

 アクアの言っている事が辛辣ながらも正論で、御剣は顔を青くしている。必死に言い訳を並べているが、アクアは聞く気がないようだ。

 

 ・・・・これはちょっと説教が必要だな。

 

「魔剣はある・・・だが今、返すつもりは無い」

「そんな・・・その魔剣がないと僕は・・・」

「お前には魔剣の力しか無かった」

 

 彼の言動を見て感じたのは、自分の価値観が正しいと信じて疑わない傲慢さと、魔剣がもたらす力でそれを押し通したのであろう考え方だ。

 信頼し合っているのであろう仲間の存在を考えると決してそれだけではないのだろうが、こういう手合いは自分が間違っていてもそれに気づかず、返り討ちにするくらいじゃないと反省もしないのだが、魔剣があるから負けないという厄介さ。天祥院(てんしょういん)英智(えいち)を思い出す。

 

「その傲慢さがある限り、これは渡せない」

 

 一度痛い目を見ても、彼は懲りずに自分本位な振る舞いをした。これで三度目が無いとは俺には思えないし、その相手が何処の誰かも俺には分からない。

 だが、今度こそ反省させないと、彼の増上慢がどんな結果を生むか分かったものではない。

 だから一時的にでも魔剣とその恩恵を取り上げ、自分の意見を力で押し通さない事を覚えてもらわなければならない。

 本当はこういうやり方は好きではないが、間接的かつ未遂とはいえ俺も被害者だ。これくらいは神様にでも許してもらう事にしよう。

 

 それを耳にした御剣は呆然と立ち尽くしている。傲慢とまで言われ、どうやら彼なりに思うところがあった様だ。

 

「キョウヤ!そんな奴とっとと叩きのめしちゃいなさいよ!」

「・・・いや、いいんだ・・・

 そうか、傲慢か・・・・・・・・とりあえず、僕は宿に戻る」

「あっ!ちょっとキョウヤ!?」

 

 どこか煤けたような顔をした御剣は、とぼとぼとギルドを出て行き、お供の少女達も慌てて彼に追従してギルドを出た。

 

 ────────────────────

 

 彼らが去って、俺達のパーティーもようやく一息つけるようになったが、アクアが御剣に『女神様』と呼ばれていたのはダクネスやめぐみんも気になっていたらしい。まあ当然の疑問か。

 

(・・・なあアクア、それにサトシも。二人にアクアの事、言っていいと思うか?)

 ―――いつまでも隠し通せるような内容でもないと思うし、身内には言っておくべきだろう。

 

 和真のアイコンタクトに俺は同意。アクアも同じ意見らしく、和真に向けて頷いた。

 そしていつになく真面目な顔になったアクアは口を開き、

 

「今まで黙っていたけれど、あなた達には言っておくわ・・・私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神・・・そう、私こそがあの、女神アクアなのよ・・・・・・!」

「「っていう、夢を見たのか」」

「違うわよ!何で二人ともハモってんのよ!」

 

 ・・・・・・普段の言動が()()だからかな・・・

 

 

 

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!!』

 

 また緊急クエスト!今度はいったい・・・

 

 ―――あっ、そういえば、あのデュラハンが言ってた期限って確か今日までだったっけか・・・・

 いや、まだあいつだと決まった訳では『特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』「・・・・・・えっ」

 ・・・・・・これはほぼ確定じゃないか・・・?




天祥院(てんしょういん) 英智(えいち)
 夢ノ咲学院3-A所属。プラチナブロンドのショートヘアーにエメラルドグリーンの瞳の物腰柔らかなイケメン。夢ノ咲学院の生徒会長であり、常勝無敗のユニット『fine』のリーダーでもある。
 病弱で入退院を繰り返している。家は大財閥で芸能界にも顔がきき、校内でも圧倒的な影響力を持っている。聡明で仲間思いだが、自分の意に沿わない相手には権力を用いた容赦無い攻撃が出来る。
 日本のアイドル業界を世界と渡り合えるレベルに押し上げるという大志を抱き、その為のシステマチックな機関として夢ノ咲学院を変革しようとした。
 当作では聖が元は夢ノ咲学院所属だったため、彼の事はその所業も含めてある程度知っている。


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死の騎士、再来

 今回は後書きに番外編を入れてみました。単体でページを持たせる程の文章量ではないので。


 放送を聞いた俺達は急いで正門まで駆けつけた。ダクネスだけは重装備なので、彼女だけ一足遅くなってしまったがまあ仕方ない。

 正門前にいたのは確かに先日のデュラハンだが、その後ろには数十体の鎧の騎士を引き連れている。デュラハンの特徴や僅かに見える腐った肉体から察するに、彼らはアンデッドナイトと呼ばれる中位のアンデッドだろう。数だけなら先に集まっていた冒険者達と互角にも思えるが、一体一体の強さはあちらの方が上かもしれない。

 

 デュラハンは俺達――――特にめぐみんを見つけ、怒りの声を上げた。

 

「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがあああああっ!!」

 

 ―――案の定というか、予想外にまともというか。

 デュラハン曰く、あの後も毎日欠かさず廃城に爆裂魔法を撃ち込んでいたらしい。和真に睨まれて目を逸らすめぐみんを見るに本当なのだろう。

 しかしめぐみんが爆裂した後、誰かが彼女を連れて帰らなければならない筈だが・・・・あれ、そういえばここ一週間、アクアは毎日どこかに出かけていたような・・・・

 

「・・・・・・・・・(ふいっ)」

 

「よし聖、ゴー」

「わああああああーっ!だってだって、あのデュラハンにろくなクエスト請けられない腹いせがしたかったんだもの!私はあいつのせいで、毎日毎日店長に叱られるはめになったのよ!」

 

 つまみ食いとか無駄に尊大な態度まではデュラハンのせいじゃないと思うが。

 

「この俺が頭にきているのは何も爆裂魔法の件だけではない!貴様らには仲間を助けようという気はないのか?不当な理由で処刑され、怨念によりこうしてモンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせれば、仲間を庇って呪いを受けた、騎士の鑑の様なあのクルセイダーを見捨てるなど・・・・・・」「・・・や、やあ・・・・・・」「・・・・・・・・」

 

 呪いを受けた直後の痴態は忘れる事にしたのか。まあめぐみんを庇ったのは流石に性癖ではなく正義感だろう。

 しかし、神クラスの浄化魔法でわりとすぐに呪いが解けたダクネスはピンピンしている。今日もワニの群れに襲われるアクアを羨んでいたし、命にはまったく問題ない筈だ。

 

「・・・・・・あ、あれえ--------っ!?」

 

 気持ちは分かるが五月蠅い。

 そして驚愕するデュラハンを煽りまくるアクアも五月蠅い。デュラハンがそろそろ怒りに肩を震わせている。

 

「・・・おい貴様。俺がその気になれば、この街の冒険者を一人残らず斬り捨てて、街の住民を皆殺しにする事だって出来るのだ。いつまでも見逃して貰えると思うなよ?疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前達ひよっ子冒険者どもでは傷もつけられぬわ!」

「見逃してあげる理由が無いのはこっちの方よ!今回は逃がさないわよ。アンデッドのくせにこんなに注目集めて生意気よ!」

 

 お互いの挑発が一通り終わり、先に動いたのはアクアの方だった。

 

「消えて無くなんなさいっ!『ターンアンデッド』!」

 

 だがデュラハンは不自然な程に動かない。浄化の魔法はアンデッドにとって弱点の筈だが・・・

 

「魔王の幹部が、プリースト対策も無しに戦場に立つとでも思っているのか?残念だったな。このアンデッドナイトの軍団は、俺も含めた全員が魔王様の加護を受けている。神聖魔法など毛程(けほど)も効かぬわあああああー!!」

 

 余裕の態度を見せていたデュラハンは、ターンアンデッドの直撃で多大なダメージを受けていた。

 

「ね、ねえカズマ!変よ、効いてないわ!」

 

 ―――効いてるでしょあれは。

 ・・・いや、制止さえ無ければリッチーさえ浄化したであろう彼女の神聖魔法であれだけ、と考えると効果が弱いかもしれない。これを弱いとかいったら全国のプリーストから苦情が来そうだが。

 

「ク、ククク・・・この俺はデュラハンのベルディア、魔王様の加護を受けた鎧だけでなく、俺自身の防御力もそんじょそこらの下級アンデッドとは一線を画している。駆け出しプリーストのターンアンデッドなど全く効かぬわ!・・・効かぬのだが・・・・・・な、なあお前、お前は今何レベルなのだ?本当に駆け出しか?駆け出しが集まる街なのだろう、ここは?」

 

 手の上の首をかしげる様に傾けたデュラハン改めベルディアは、何やらぶつぶつとひとり言を始めた。この街周辺に落ちて来た強い光とやらの調査に来たらしいが、この街に来たばかりの俺達には心当たりが無い。もっとも、どうやら周りの先輩冒険者達も分からないようだが。

 

「・・・・フン、わざわざこの俺が相手をしてやるまでもない。さあ、お前達!この俺をコケにしたこの連中に、地獄というものを見せてやるがいい!」

「・・・・逃げた?」「アクアの魔法に恐れをなしたな」

 

 俺の呟きに和真も同意。パ*スみたいな悲鳴上げてたし、アクアの魔力が尽きるのを狙っているのか?

 

「ちちち、違うわ!最初からそのつもりだったのだ!魔王の幹部がそんなヘタレな訳がなかろう!いきなりボスが戦ってどうする。まずは雑魚を片づけてからボスの前に立つ。これが昔からの伝統と」「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」「ひああああああああー!!」

 

 今度は神聖な魔力を多く使った強化版だが、それでも致命傷には至っていないらしい。

 

「サトシもおかしいって思うわよね!?あいつ、私の魔法がちっとも効かないの!」

 ―――あれを見てちっとも効いていないと思えるお前も十分おかしい。

「何よー!本当なら最初の一発で塵も残さず昇天させるつもりだったんですけど!あんなちょっとしたダメージ程度で終わる魔法じゃないんですけど!」

 

 怒るアクアを(なだ)めながらベルディアの様子を(うかが)っていると、体から黒い煙を吹きながらも立ち上がった。

 

「こ、この・・・っ!セリフはちゃんと言わせるものだ!ええい、もういい!おい、お前ら・・・街の連中を・・・・皆殺しにせよ!」

 

 彼の号令により、アンデッドナイトの軍団は一斉に襲い掛かった!

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・()()()()()()()()()()()()()

 

「クハハハハ、お前達の絶望の叫びをこの俺に・・・・・・俺・・・に・・・?」

 

 駆け足で進軍する無数のアンデッドナイトの鎧が音を立て、アクアの絶望の叫びが響く。

 質と量を兼ね備えた不死者の軍勢に冒険者達は慌てふためくも、アクアにしか襲い掛からない事態に誰もが困惑の表情を浮かべる。

 大切な仲間が襲われるのを見ているしかできない聖騎士の少女は、彼女を羨望の目で見つめ、不満が口からこぼれる。

 

「こっ、こらっお前達!そんなプリースト一人にかまけてないで、他の冒険者や街の住民を血祭りに・・・!」

 

 はっきり言って、当初想定された切迫した展開とは言い難い。

 俺はゴーレムにより安全圏から攻撃できるクリエイターだが、下手に手を出してこちらにその矛先を向けられたらどうなるか分からない。きっと他のクリエイター達も同じような考えなのだろう。

 どうしたものかと立ち尽くす俺に、冒険者の一人が声をかけてきた。

 

「・・・なあ、あんた、足の速さには自信があるか?」

「まあ、ある・・・何をすればいい?」

「王都からこの街に来てる凄腕冒険者の事は知ってるか?いけ好かない奴だが正義感はあるし、放送を聞いていれば来ない筈がないと思うんだが・・・」

「・・・その人を探せと?」

「ああそうだ。今はあのプリーストの人がアンデッドを引きつけてるから大丈夫だが、本格的な戦いになったらあいつの力は欲しい・・・引き受けてくれるか?」

 

 なるほど。ひょっとしたら何かのトラブルに巻き込まれているのかもしれない。誰かが探しに行くべきか。

 

「分かった。居場所に心当たりは・・・?」

「ああ、たしか、あいつらが泊ってる宿屋は・・・」

 

 彼の説明は続く。

 

「・・・ああそうだ、その凄腕冒険者の特徴がまだだったな。そいつの名前はミツルギ。黒髪黒目で魔剣を持ってる、青い鎧の若い男だ。連れが二人いるがどっちも女の子だな。そっちの名前は知らないが・・・まあそれはいいだろう。じゃ、頼んだぞ!」

 

 ―――お、おう。

 

 

 







 ここから番外編。




 ある日の事、俺――天光(あまみ)(さとし)――は、同じ日本人仲間である佐藤(さとう)和真(かずま)と二人で駄弁(だべ)っていた。

 「そういや、日本とこっちの時間の流れが違うーとかじゃなきゃ、今頃バレンタインの時期だな」
 ―――あー、確かにそんな時期か。
「・・・和真はチョコとか貰う方?」
「おう、貰うぞ。たっぷり、貰うぞ」
 ―――ええー?本当でござるかぁー?
「・・・・・・前工作とかしておけば。大体、そういうお前はどうなんだよ。前工作するならするって言えよ?」
「・・・貰えたり貰えなかったり?」
「・・・どういう事なんだそれ」
「昔からちょくちょく転校してたけど、貰える時と貰えない時がある」

 特に多く貰えたのは高2、君咲学院にいた時だ。シチュエーションも相まって本命としか思えないチョコを複数貰い、わりと本気で対応に困ったものだ。
 しかし特に貰えなかったのが高1、夢ノ咲学院にいた時だ。あの時は・・・・はぁ・・・・・・・・

「え、何があったんだよ!?あっという間に目が死んだぞ!?」
「・・・・アイドル養成校の普通科に所属してた事があったんだが、有名な奴には校外からの郵送とか、イベントに持ち込まれたりとかで山ほど送られて・・・」
「・・・・・・もしかして、()()の処理を?」
 ―――うん・・・・

「「・・・・・・・・・・」」

 冒険者(おれたち)の日常はまだ終わらない。


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魔剣の勇者の苦悩

 あんさんぶるガールズ!!サービス終了。
 悲しいけど、こっちはまだ続くんじゃ。


 御剣の泊っている宿屋には特に問題なく到着した。

 この辺りの住民は避難したか正門側に戦力として向かっているらしく、非日常的な静けさが辺りを覆っていた。爆裂魔法らしき爆音が後方から聞こえたが、聞こえた物音などそれと自分の足音くらいだ。

 ひょっとしたらベルディアの配下のアンデッドが街にも出没して、御剣達がそれに対処していたりするのかも、と考えていたが、アンデッドどころか野良猫一匹いやしない。

 

 とりあえず中を見てみようか、と思っていると、途方に暮れた様子の中年の男が宿から現れた。

 

「・・・・・・おや?貴方はどちら様で・・・もしや、ここに宿泊している魔剣の勇者ミツルギ様の力を借りに?」

 

 その問いかけに、俺は(うなず)いて返す。

 

「そうですか・・・私はここの経営をしている者なのですが、ミツルギ様は何やら部屋に篭ったまま出てこないのです。私のみならず他の宿泊客の方も、彼に魔物を倒してきてもらおうと頼んだのですが効果はなく・・・彼の善良さは私も聞き及んでいるところですし、彼のパーティーには自己責任、ということで、私は先に避難しようと・・・」

 

 御剣は今日、魔剣を失ったばかりだ。彼が引き篭もる要因に心当たりがありすぎる。まったくの第三者が呼びかけるのとは違うだろうし、それだけ聞いてとっとと帰るというのも問題だろう。同郷の縁もある。

 とりあえず俺も御剣に呼び掛けて、御剣の様子を確認したら戻ることにしようか・・・

 

 ────────────────────

 

 別にダンジョンでもあるまいし、主人に言われた部屋はすぐに見つかった。

 ここがあの男のルームね。ノックして無言・・・・・・返事無し。じゃあ声付きで。

 

「・・・・・・御剣」

 

 すると、一拍空けて中から声が聞こえてきた。

 

「・・・・あんた、何しに来たのよ」

 

 御剣の声ではない。一緒にいた少女の声、確か武具ショップで揉めた方のものだ。

 

「魔王軍の幹部が来てる。魔剣の勇者を待ってる人達がいる」

「あんたもさっきの奴らと(おんな)じ事を・・・・・・え、キョウヤ?」

 

 少女の声が途中で止まる。そして部屋から御剣が現れた。

 

「君は・・・確か・・・・・・・・サトシくん、だったかな?」

「・・・天光(あまみ)(さとし)

「・・・君と二人っきりで話がしたい。フィオ、クレメア、少し部屋を出てくれるかい?」

 

 それを聞いた二人が部屋から出たのを確認すると、御剣は話を始めた。

 

「・・・さて、君がこうしてここに来たのは、魔剣を返してくれる・・・・という事かい?」

 

 あくまで様子見と割り切っていそうだが・・・

 

「・・・いきなりか」

「自慢じゃないが僕はアクア様に、そして魔剣に選ばれた勇者だ。あれさえあれば強力な力を得られる・・・悪い選択じゃない筈だけど?」

「・・・高レベルのソードマスターなんだろう?力はある筈だ」

 

 俺がそう言うと、御剣はしばし黙り込み、やがて悲痛な面持(おもも)ちで語り始めた。

 

「確かに素のステータスやスキルはこの街の冒険者よりは上だろう。でも・・・・はっきり言おう。僕は今、敵と戦うことが怖い」

 

 御剣は続ける。

 

「この辺りに上位悪魔が出没していたのは知ってるかい?」

 ―――後になってからだが。

 

 なんでも、その悪魔が積極的に人間を攻撃する様子ではなかったために、悪魔の襲来を知った冒険者達には箝口令(かんこうれい)が敷かれたらしい。ちょっと調べればすぐに分かる事ではあったのだが、その時は土木作業に精を出していたし、アクアが大物っぽい悪魔を撃退していたから、まあ大丈夫かと楽観視したのもあったな。

 

「そいつと交戦した?」

「・・・・・・そうだ。『魔剣を持った僕なら大丈夫』って考えてね・・・でも結果は惨敗。佐藤和真みたいに姑息な手段を使った訳でもないのに手酷くやられてね・・・(さいわ)い死者は出なかったけど、悔しいとか考える以前に信じられない、って感じだった」

 

 御剣の話は続く。

 

「それから一月もせず佐藤和真と戦って、君も知る通りの敗北・・・・僕は、自分がひどく弱い存在に思えて来た」

「だから、行かない?」

「・・・・・・そうだよ。あの悪魔も、僕の事はとりあえず追い払った、って感じだった。魔王軍幹部が相手で、しかも魔剣も無い僕が相手じゃ勝てる筈が無い。だから僕は行かない」

 

 はは、と御剣が自虐的に笑う。

 この様子では、俺が何を言ったところで聞きはしなさそうだ。早く戻るとしよう。

 

「・・・確か今、冒険者ギルドが臨時の避難所として開放されている筈だ。そこまでなら僕が送ってもいい」

「いや、正門に行く」

 

 俺の返答に御剣が目を丸くする。

 

「・・・無茶だ。確か君はクリエイターだった筈。直接的な戦闘は不向きだろう。ここは戦闘系の職業の冒険者に任せて、君は避難してもいい筈だ」

 

 なるほど、彼の言う事はもっともだ。俺は最初から高いステータスを持っていたが、生産職は基本的に前線には出ない。ゴーレムの製造が得意な場合は即興で造って戦わせることも可能だが、そうでなければスキルだけ習得してどこかの工房に弟子入りするのが普通だ。前者にしても、ゴーレムを(じか)に操れる程度の後方が安全とも言い切れない。

 

「困ってる人を見捨てる事は、俺にはできない」

 

 だがそれでは自分が自分を許せない。誰かが助けを求めたのなら俺がそれに応える。俺は君咲学院でそうやって生きてきたし、今更それを変えるのも無理だ。

 俺が行っても何も変わらないかもしれない。だが、それが行かない理由になるほど俺は利口ではないのだ。

 

「・・・・・・・・ははっ」

 

 呆れた様な、感心した様な笑い声を御剣があげる。自分がおかしいのは俺も一応理解しているが失礼じゃなかろうか。

 

「・・・僕も行こう。こんな所でへこたれてちゃ、魔剣の勇者の名が(すた)る」

 

 御剣がそんな事を言った。さっきまでしょげかえっていたのは大丈夫なのか?

 

「正直言ってまだ怖い・・・でも、君が行くというのに僕が安全な場所に引っ込んでるっていうのも怖いって思ったんだ。魔剣は返してくれなくていい。予備の剣は持っているからね」

 

 そう言って御剣はドアを開け、少女二人を呼ぶ。そして魔王軍幹部の討伐に行く事を彼女達に告げた。無理に付いてくる必要は無い、とも言い含めて。

 

「・・・・あんた、まさか魔剣をダシにしてキョウヤをこき使おうとしてるんじゃないでしょうね」

「フィオ、それは違う。彼は自分も戦いに行くと言っただけだ。それを聞いた僕も行こうと思っただけ。フィオが思ってるような事は何もない」

 

 御剣はそう言ったが、それを聞いたフィオ、もう一人のクレメアはまだ半信半疑といった様子だ。まあそれで俺のやる事が変わる訳ではない。

 御剣、フィオ、クレメアの三人が僅かな時間で身支度を終え、俺達は四人で正門へ向かう事となった。

 

 ────────────────────

 

 街中にモンスターの姿は見えない。人の姿も同様に見えず、まだ戦線が崩れるような事態にはなっていないのだろう。虎の子の爆裂魔法は多分とっくに使われているが、アクセルの冒険者達が頑張っているのだろう。

 そんな中を走っていると、御剣が不意に足を止めた。それに応じて俺達三人も立ち止まる。

 周囲に意識を向けると、正門の方から音が聞こえる。アンデッドナイトではないだろう。足音ではなさそうだが、何かが押し寄せるようではある。数メートル離れたところで道がカーブしているが、その向こうからいつ、何が飛び出すのかはわからない。

 ・・・しかし、正門の方からは何か神聖な力を感じる。もしやその力で何か邪悪なものが追いやられ・・・いや、押し寄せている何かも神聖なものの気がする・・・・じゃあ神聖な何かがこっちに押し寄せて・・・?

 

 その考えに至ったのは、押し寄せる鉄砲水が見えたのと同時だった。

 

「『クリエイト・アイアンウォール』ッ・・・・!」

 

 俺はとっさに魔法で鉄の壁を作り出す。一枚でなく二枚、俺達が鋭角の壁の内側に入るように置かれた壁は、俺達が水流に流されるのを防ぐ。

 しかし水流の勢いは凄まじい。俺が魔力を壁に流して強化し続けなければたちまち突破されてしまうだろう。

 

「――――――――――!」

 

 誰が何を言ったのか。壁を維持するのに精一杯な俺には分からない。ただひたすらに魔力を込め、水を防ぎ続ける。

 水流が治まった頃には、俺の魔力は殆ど尽きかけていた。

 

「・・・・・・終わった・・・のか?」

 

 俺がため息を吐くと、御剣が困惑した様子で辺りを見回しながら言った。

 

「そうみたい・・・ね。魔王軍の攻撃かしら」

「確か敵はアンデッドなんでしょ?アンデッドって水が苦手だった筈だから、こんな攻撃するとは思えないけど・・・」

 

 クレメアの呟きにフィオが応える。

 壁の外側に出ると、鉄砲水で多くの建物が損壊しているのが分かる。誰の仕業かは分からないが、こんな大規模な攻撃がそう何度も出来るとは思えない――――というか思いたくない。次があれば今度こそ流されてしまう。

 

「向こうが心配だ。もう正門間近だし、様子を見に行こう」

 

 御剣のその言葉に同意する。

 廃墟と化した街並みを越え、正門から冒険者達の様子を(うかが)う。するとそこには・・・

 

 

 

 

 

 

「おいお前ら、サッカーしよーぜ!サッカーってのはなあああああ!手を使わず、足だけでボールを扱う遊びだよおおおおお!」

 

 和真がベルディアの頭部を蹴り上げ、遠巻きに見守っていた冒険者達にパスした。

 

「なああああああ!ちょ、おいっ、や、やめっ!」

 

 ベルディアの必死の懇願を聞かず、冒険者達はボール替わりにベルディアの頭を蹴って遊んでいる。

 俺の知ってるサッカーはもっと普通のボールでやるものだ。喋る生首ではない。

 御剣の顔が面白い事になっており、フィオとクレメアはサッカーもどきにドン引きしている。多分今の俺の表情は御剣寄りだろう。

 

「おや、サトシに・・・ええと、魔剣の人達ですか」

 

 冒険者の一人に背負われているめぐみんが俺達に気づいた。

 

「ええっと、君・・・これは・・・どういう状況なのかな?」

「アクアが使ったバカみたいな規模のクリエイト・ウォーターでデュラハンが大ダメージを受けて、そこに和真がスティールを仕掛けたらあの頭に効いたんです。そしたら、視界とかはあの頭部にあるらしく、それで和真があんな事を始めた、という訳です」

「・・・どうやら自力で立てないくらい弱ってるようだけど、もしかして何かの呪いとか・・・」

「私は最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者・・・しかし今の私では一発撃つのが限界。その後しばらくはこのような状態になってしまうのです」

 

 めぐみんの説明を聞き、御剣の顔が更に面白くなっていく。実際にベルディアはまともに立っていることさえ難しい有様だし、戦略的には正しいのだろう。正しいのだろうが、御剣の決意とか、見栄えとか、俺の苦労とか、そういうのに優しいやり方は無かったのだろうか。

 

 そうしている間にダクネスがベルディアの鎧を砕き、アクアのセイクリッド・ターンアンデッドがベルディアを浄化。サッカーボール替わりにされていたベルディアの頭部も消滅した。




 マツルギ強化ルート。どこに需要があるのかなんて知らない。
 後、今しか書く機会が無さそうなのでここに書きますが、14話でクレメアが買おうとしていた腕輪は悪魔対策です。どこぞの上位悪魔に敵わなかったので、対悪魔用の装備を探していた訳です。


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戦後、今しばらくの別れ

 今回で第1章は終わり。番外編をちょっと挟んでから第2章に入ろうと思います。


 勝利に沸く冒険者達だったが、その犠牲は決して皆無ではない。

 一人のみならず三人も――――あるいはたった三人か――――、この戦いで死んだ冒険者が物の様に転がっている。

 人の死体など見たのはこれが初めてだ。今回はたまたまその場にいなかったが、ひょっとしたら死んでいたのは自分だったかもしれない。あるいは和真達か。それを思い知らされるような感覚だ。

 するとそこにアクアが歩み寄る。そういえば彼女はアークプリーストだったな。高位のアークプリーストは魔法で死者の蘇生さえ可能と聞いたことがある・・・もしや。

 

「・・・『リザレクション』」

 

 彼女がそう唱えると、死体達がほんのりと青く輝く。光がおさまると、彼らは一様に息を吹き返した。

 

「え・・・?俺、確か・・・」「あの世に行ったと思ったんだが、これは・・・?」「・・・まさか復活魔法か!?」

 

 生き返った者達は初めは困惑し、状況を理解すると、自分達を蘇生させたアクアへ感謝と賛辞の言葉を述べ・・・はしなかった。彼らの目線は一人のクルセイダー――――ダクネスへと向かっていた。

 

「・・・腕相撲勝負をして私に負けた腹いせに、私の事を『鎧の下はガチムチの筋肉なんだぜ』と、バカな大嘘を流してくれたセドル・・・

『おいダクネス、暑いから団扇(うちわ)代わりにその大剣で(あお)いでくれ!なんなら当ててもいいけど。当たるんならな!』と、バカ笑いして私をからかったヘインズ。

 そして・・・一日だけパーティーに入れて貰った時に、『何であんたはモンスターの群れに突っ込んで行くんだ』と泣き叫んでいたガリル・・・

 ・・・皆、あのデュラハンに斬られた連中だ。今思えば、ろくでもない連中ながらも、私は彼らを嫌ってはいなかったらしい・・・・・・」

 

 ダクネスの独白に、彼らの表情が困惑に戻る。アクアが復活魔法を使えるのを知らなかったのか、あるいは失念しているのか。

 

「・・・あいつらに、もう一度会えるなら・・・一度くらい、一緒に酒でも飲みたかったな・・・・・・」

「「「お・・・・おう・・・・・」」」

 

 ダクネスが言った内容について、男達がそれぞれに謝罪をする。状況が状況だから追い打ちの様になっているが。

 顔を赤くして震えているダクネスは、これで一緒にお酒が飲めるじゃない、というアクアの言葉にとうとう涙を流しはじめた。

 

「・・・死にたい・・・」

 ―――死ぬな!!!!!!!

「いや死なないだろ」

 

 ────────────────────

 

 翌日、ギルドは宴会ムードになっていた。

 何と言っても、こんな駆け出し冒険者の街が魔王軍幹部を倒したのだ。それも死者三名、アクアの復活魔法があったから実質0人と言っても過言ではない。

 緊急クエスト扱いだったデュラハン討伐の報酬が多くの冒険者に行き渡り、むしろこんな雰囲気にならない方がおかしい。誰もが酒や料理を豪勢に飲み食いしている。

 ちなみにこの国では子供が酒を飲むのを咎める法律は無い。酒に酔った勢いでのトラブルは年齢問わず自己責任らしく、俺も一杯飲んでみた・・・初めてだからか苦味しか感じられなかったが。

 

 ・・・おっと。寝坊助(ねぼすけ)な和真がやって来た。戦いの疲れもあるのだろうが、多分彼が最後の受け取りだな。

 酔っぱらってハイテンションのアクアを後目にカウンターへと向かう和真。いつも通りルナさんのいる所に行くが、彼女は和真を見てなんとも言えない表情を浮かべた。

 

「・・・あの・・・ですね。実は、カズマさんのパーティーには特別報酬が出ています」

 

 その時俺はその場にいなかったが、和真がいなければベルディアは討伐できなかったと皆に言われる程の大活躍だったらしい。

 パーティーのリーダーである和真が代表として報酬を受け取る。その額は・・・

 

「えー。サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍幹部ベルディアを見事討ち取った功績を称えて・・・ここに、金3億エリスを与えます」

 

 ―――3億。

「「「「さっ!?」」」」

 

 絶句する俺達。一拍置き、冒険者達が現実を受け止めると、大歓声がギルドに響き渡った。

 

「おいダクネス!めぐみん!それに聖も!お前らに一つ言っておく事がある!俺は今後、冒険の回数が減ると思う!大金が手に入った以上、のんびりと安全に暮らして行きたいからな!」

 

 ・・・どうやら和真は魔王討伐を諦めたか。前にもこのパーティーの尖り具合をぼやいていたし、危険を避ける生き方を選ぶ可能性はあった。

 まあ、俺はそれを咎めるつもりは無い。一度バカみたいに死んだ彼が、今度は普通に死にたいと思ってもいいだろう。半年くらいで自分の堕落ぶりに驚愕して復帰しそうだと俺は思っているが。

 

 そう思っていると、ルナさんが何かの紙を出しているのが見えた。申し訳無さそうな表情で差し出された紙には34と0がいっぱい、それと何かの文章が書かれているが・・・

 

「ええと、ですね。今回、カズマさん一行の・・・その、アクアさんの召喚した大量の水により、街の入口付近の家々が一部流され、損壊し、洪水被害が出ておりまして・・・」

 

 え、あの激流アクアの仕業だったの・・・

 

「・・・まあ、魔王軍幹部を倒した功績もあるし、全額弁償とは言わないから、一部だけでも払って・・・と・・・・・・」

 

 それだけ言ってさっと奥へ引っ込むルナさん。

 和真からのアイコンタクトを受け、俺はアクアを取り押さえる。彼女は引き攣った笑顔でこちらを見た。

 そそくさとめぐみんが逃げ出し、さっきまで奢れコールをしていた周りの冒険者達はそっと目を逸らした。

 ルナさんが提示した請求書に書かれていた金額は3億4000万エリス。特別報酬が3億だからプラスマイナスでマイナス4000万エリス。つまりその分が借金として・・・

 

「・・・カズマ。明日は、金になる強敵相手のクエストに行こう」

 

 ダクネスの提案に、和真はノーとは言わなかった。

 

 ────────────────────

 

「結局、僕らが駆け付けた意味は無かったんだよね・・・」

 

 アクセルの街の正門前。

 和真に課せられた借金で空気の落ち着いたギルドを抜け、俺は御剣一行を見送りに来ていた。

 最初に会った時の傲慢さや、次に出会った時の弱り具合は見えず、多少はいい顔に見える。

 

「・・・僕は今回で自分の無力さを実感した。これから修行の旅に出るよ。それで僕がグラムを持つに足る人間になれれば返してくれる、ってことでいいんだよね?」

 

 グラムを持て余していた俺は、御剣にそう提案したのだ。

 だがこれを提案したのは俺ではない。なんとグラム自身なのだ。

 魔剣に宿っていた意志は御剣を見てきたらしく、和真にしてやられた時点でもう見限っていたのだとテレパシーと(おぼ)しきやり方で伝えたのだ。それに対し宿屋での立ち直りを伝えると、その条件を提示したのだ。

 グラムの意志の存在を御剣は知らないらしく、また伝えてもいない。彼――性別があるのか疑問だが、便宜上男性系とする――が持ち主に干渉する事自体が普通ではないらしく、かつての持ち主に一度も干渉しない事の方が多いのだとか。それがわざわざ抗議する程以前の御剣が嫌だったのか・・・

 

 そんなバックストーリーはさておき、御剣の確認に俺は(うなず)く。

 御剣のほっとした表情に、お付きの少女達も嬉しそうな雰囲気になる。そんなに彼の事が好きなんだな・・・

 

「・・・おっと、そろそろ乗合(のりあい)馬車(ばしゃ)が出る時間だ。これでしばらくはお別れだね」

 ―――元気でな。

 

 御剣達は馬車に乗り込む。一緒にいるフィオが馬車のドアを閉めると、数台ある馬車が一斉に動き出した。

 あいつらとも当分はお別れか・・・あんまり良い思い出なんて無かった・・・というか碌な思い出が無いが、別れというのはやっぱり(さみ)しいかな・・・ちょ、ちょっとだけだけどね!!

 ・・・等と考えていると、遠くなっていく馬車の窓からクレメアが身を乗り出すのが見えた。彼女は俺の方を向き、そして・・・

 

「アマミサトシー!あんたの事ー!変態呼ばわりしてごめーん!」

 

 最後の最後で許された。許された。許されたァァァァーーーーーッ!

 

「ええっ、ちょっ、泣くほどの事じゃないと思うんだけどぉー!?」

 

 こうして、一組の冒険者パーティーがアクセルの街を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみに御剣達は緊急クエストの報酬を貰っていない。彼らが駆け付けた時点で後はとどめくらいしか残っておらず、それもアクアが持っていった以上、彼らは緊急クエストに参加していない扱いとなったのだ。避難誘導にでも参加していればまた違ったのかもしれないが、今更言っても仕方が無い。




 キェェェェアァァァァシャベッテタァァァァァ!!
 今回のオリ設定、意志を持つグラム。どこかの神器は女性を好んでいましたが、喋るグラムはどちらかというと持ち主を承認するAIの様な感じです。擬人化などあり得ないしそもそも性別不詳。よしんば擬人化しても歴代のグラム所有者の中で最も肉体的に優れた人物を真似た姿とかになると思われます。





・あんさんぶくぶスターズ!
 『電撃オンライン』にて連載されている、大川ぶくぶ氏による掻き下ろし4コマ漫画。流石にポプ*ピピック程のクソ漫画ではなく原作準拠だが、たまにクソっぽくなる。


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第2章
誰かと何かとクエストと


 ――― 一応説明しておきますが、当作において言語以外で意思表示をしているシーンでは、カギカッコの代わりにダッシュを使用しています。


 ―――歌が聞こえる。

 

 今、俺は夢の中にいるのだろう。明晰夢(めいせきむ)、という奴か。

 

 俺はこの歌声を知っている。君咲学院を卒業して行った、今では懐かしい()()

 

『――――――――――――――――』

 

 歌声は遠い。()()が色々な意味で俺とは遠く離れているのだと感じる。

 

『――――――――――――――――』

 

 少しずつ、歌声が近づいているように思える。

 だがそれよりも、俺が眠りから覚める方が早いらしい。

 

 意識が覚醒する――――

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 目が覚めると、もはや見慣れた馬小屋の朝だった。

 いや、同室の冒険者の少なさ――もはや俺達のパーティーくらいしかいない――は見慣れているとは言い難いか。

 別に俺達が寝坊助だという訳ではない。この地に冬が近づいているのが理由だ。

 この世界には四季がある。日本は季節風や偏西風なんかの関係で四季が訪れているらしいが、この世界では精霊とかの魔力なんかも気候に関係しているらしい。細かい理屈は調べてはいないが、この辺りは冬の寒さが厳しくなるのだそうだ。また、冬期に活動するモンスターは総じて屈強で、この時期に活動する――――活動できる冒険者など一握りしかいないとか。

 本来ならこの時期、冒険者達は(珍しく)貯めておいたお金で宿屋の一室を借り、危険な冬を(しの)ぐのが定番だ。つい最近の魔王軍幹部の襲来もあって、資金に余裕の無い冒険者は数える程にしかいないだろう。

 ただ、自分達がその『数える程』の冒険者だというだけの話だ。

 というのも、和真を挟んで向こう側に寝ているアクアが主な原因だ。彼女は先日のベルディア討伐の際に多大な貢献こそしたが、その時の魔法で街の一角が破壊され、その修繕費用の一部がアクアを擁する俺達のパーティーに請求されたのだ。その額なんと3億4000万エリス。ベルディアの賞金を全額返済に回して(なお)4000万という多大な借金が残り、今は手元にお金が無いのだ。

 

 それはそうと、まだ和真とアクアは眠っている。もうそろそろ夜が明ける頃ではあるが、今から二度寝できる気がしない。しかしこの二人の事だから、もう二、三時間は余裕で寝ているだろう。

 俺はちょっとだけ早朝の散歩に出ることにした。

 

 ────────────────────

 

 そうして街を歩いていると、不意に()()の気配を感じた。

 何故感じたのか、それは俺には分からない。だがそれが人間のものでないという事はなんとなく理解できた。

 その気配を感じる方向に足を進めると、路地裏にある小さな飲食店に辿り着いた。パッと見た程度ではただの飲食店としか言えない外装だが、中にいるであろう気配の主の存在を隠すための偽装にも思える。秘密の計画は露骨に怪しい場所で練られるものではないのだ。

 流石に今は準備中。まだ朝食も食べていないし、一旦帰るか・・・

 そう考え、宿屋(の馬小屋)に戻ろうとするが、ある事に気づきその足を止める。

 

 ―――さっきより気配を感じやすい・・・気がする。

 

 これも理屈は分からない。この気配に慣れてきたのだろうか?ひょっとすると今日になって気配に気づいたのも、前からこの街にあった気配に順応した結果なのかもしれない。

 ・・・そうなるとこれは気配というより何かのファンタジー系のパワーなのかもしれないが。その辺りは店内の方々に尋ねるしかないか。

 ちょうど店の窓から店員と(おぼ)しき女性がこちらの様子を(うかが)っている。

 

「・・・あの、今は準備中なのですが」

 ―――知っています。何か凄いパワーを感じたのですが。

「・・・・・・?・・・・・・・・・??」

 

 おおっと。いつものジェスチャー会話が通用しなかった。一部では十分通用するのだが・・・普通に喋るしかないか。

 

「・・・何かありますか?」

「いや何かって言われましても・・・開店しているのは昼から夜にかけてですが、当店に何か御用でしょうか?」

「パワー・・・?」

「流石にそんな上位悪魔の・・・様なものは売ってませんよ!?」

 

 ・・・流石にこれ以上は迷惑か。今日の依頼に良さそうなものが無ければ尋ねてみるか・・・現状で買えるような物を取り扱ってるかは疑問だが。

 俺は店員(仮)に一礼し、この場を離れていった。

 

 ────────────────────

 

 そして宿に戻った俺は、和真達と朝食を取ってギルドに向かう。別にやましい事があった訳じゃないし、眠れなかったから散歩に出たと伝えた程度だ。

 ギルドの掲示板には案の定、高難度のクエストばかりがあったが、あるクエストだけは和真にも出来そうなものであった。

 そのクエストは雪精(ゆきせい)討伐。数こそ多いが非常に弱い雪精を一体討伐するごとに10万エリス。弱いながらも早急にまとまった金が欲しい和真には天の恵みのようなクエスト・・・・・・とはいかない。めぐみんによる雪精の説明の後半を無視してクエストを請けようとする和真を制止に、めぐみんに続きを話してもらう。

 

「さっきも言った通り、雪精自体は弱いです。しかし、雪精がいるという事は、彼らの主である賞金首モンスター、冬将軍もいる筈なのです」

「・・・・・・・・冬将軍?」

 

 頭上に疑問符が浮かんでいそうな顔の和真にアクアが説明する。

 

「冬将軍は冬の精霊・・・精霊っていうのは、元々は決まった実体を持たないんだけど、冬に出歩く人なんて昔は冒険者にもいなかったから、存在が認知されたのは比較的最近ね。それが馬に乗った鎧武者って形で定着して、自分の(しもべ)である雪精をむやみに倒すと、怒って襲い掛かってくるようになったの。でも冬将軍は寛大だから、きちんと礼を尽くして謝罪すれば見逃してくれるわ。具体的に言うと土下座とかね」

 

 アクアによる分かりやすい説明。しかし雪精を討伐しても土下座で許すとは・・・精霊の死生観は人間とは違うものなのだろうか?

 しかしそこで和真が待ったをかける。アクアの手を引いて少し席を離れ、アクアとひそひそ話をし始めた。この時の内容を後で聞いたところ、次のような内容だったらしい。

 

「アクア、もしかしてその冬将軍って、日本人のイメージでその見た目になったのか・・・?」

「ええ、厳しい冬に出歩くようなのは余程の命知らずか、チート持ちの転生者くらいだしね」

「冬といえば冬将軍だから将軍の姿・・・バカじゃねえのかそいつら!?他にもサンタとか選択肢はあっただろ!」

「落ち着いてカズマ!あなたも日本人よ!」

「チクショウ!そういえばそうだった!」

 

 また、冬将軍――――というより精霊全般は魔法に対して強い耐性を持っている。転生者を含めた多くの強者を葬ったために特別指定モンスターとして扱われる冬将軍レベルにもなれば、めぐみんの爆裂魔法でも致命傷とまではいかない可能性が高いとも。

 そんな会話の後、和真は大いに悩んだ。それもそうだろう。命は惜しいが金も欲しい。そして冬将軍が賞金首ながらも温厚な性格と聞く。かなり重い二択だ。

 

「・・・このクエスト、受ける。対処法が分かってるなら大丈夫だろ。俺達は早急に金を稼いで借金を返さなきゃならないんだ」

 

 悩んだ末に和真が出した結論は、クエストの受注だった。

 

 ────────────────────

 

 雪精の討伐が可能なのはこの時期、まだ一部地域にしか雪の降らない今だけだ。この時を逃すと雪精は姿を消し、それと共に各地で雪が降るようになる。おそらく雲の上にでも行って雪を降らせているのだろう。『雪精を一匹倒す毎に春が半日早くなる』という噂もまったくのガセでもないだろう。たった一体で半日も変わるとは思えないし、両者の関係を確信できる程のデータも無いが。

 そして今、街外れの平原地帯に俺達は来ている。この辺りだけ奇妙に雪が積もっていて一段と寒い。

 俺、和真、めぐみんは普段通りの装備だが、ダクネスは今までの鎧がベルディアにボロボロにされたので黒のタイトスカートのみ(本人曰くこれでも十分な防御力があるらしい)、そしてアクアは普段の杖でなく虫取り網と虫かごを持って来ている。彼女は俺に冷凍庫を作って欲しいらしく、その材料として雪精を考えているそうだ。まあやるだけやってみようか。

 

 平原に着いてから一時間弱。早くも討伐数の合計がそろそろ20になろうかという時、()()は突然現れた。

 この間のベルディア以上かもしれない威圧感。半透明の体を覆う雪の様に白い甲冑と陣羽織。青白く冷たい輝きを放つ双眸(そうぼう)

 それが特別指定モンスター、冬将軍であると確信したのは一瞬だった。

 仲間達に警告を発する事も考えたが、そうする前に皆それぞれに行動していた。

 和真は驚くべき瞬発力から繰り出される土下座。女神様(アクア)も捕獲していた雪精を解放した後に土下座。さっき雪精に爆裂魔法を使ったばかりで身動きのとれないめぐみんは死んだフリ。ダクネスは大剣を構えていたが、冬将軍も刀を構え(八双の構え・・・であっていたかな?)、恐るべき身体能力でもってダクネスの大剣を(なか)ばから斬り捨てた。

 

 ―――強い。素早さだけでも山條先輩とほぼ互角、パワーについては冬将軍(あっち)の方が上に見える。耐久力はまだ見えないが、精霊という超常の存在が人間より脆いとは考え難いな。

 

 さて、得物を破壊されたダクネスは、流石に頭を地に付け・・・・・・下げもしない!?

 

「おい何やってんだ!早くお前らも頭を下げろ!」

 

 あっ、ダクネスに気を取られて土下座してなかった。申し訳ございませんでしたァ!

 

「くっ・・・!私にだって、聖騎士であるプラあっ!?」

 

 クリエイト・ゴーレムのちょっとした応用だ。氷でできた腕だけを地面から伸ばし、それでダクネスの頭を下げさせたのだ。これで冬将軍的にセーフならいいが・・・

 

 そう思っていたが、冬将軍はダクネスの元へ歩みを進めた。

 もしや腕が問題なのか、と俺は氷の腕に目線を移す。()()を作る時に周囲の雪精を幾ばくか巻き込んでしまっていたが、魔法を解くと雪の様になって消えていった。雪精を殺した訳ではないが、これが許されるのかは分からない。自分の心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 

 気がつけば、冬将軍は俺の前に立っていた。刀は鞘に仕舞っているが、冬将軍から放たれる冷気が肌を刺す。

 

 ―――俺はここで死ぬのか・・・

 

 

 

 

 ―――否、その力を儂の為に役立てて貰う。

 

 ・・・ん?今、聴きなれない声が・・・

 

 ―――儂は、お主等が冬将軍と呼ぶ存在。儂等の会話は思念を持って行うものぞ。

 ―――冬将軍・・・様ですか!?・・・いえ、それより俺・・・私の力を役立てるとは・・・?

 

 俺の疑問を感じた冬将軍は、俺に思念を送る。

 

 ―――儂は雪の精霊と共に有る将にして主、なれど未だ城を持つ事叶わず。

 ―――つまり、私がその城を建てる、と?・・・・・・その、城というものは一人で建てるものではないと思うのですが・・・

 ―――元より精霊の住まう城。人の城とは違う・・・形を持つのは儂の力有る限りで良い。お主は儂の力が形作る城の原型を示せば良い。

 

 冬将軍のその言葉(?)と共に、彼が依頼する内容もイメージとして伝わって来た。

 俺はどんな城を建てるか決め、後日冬将軍がそれを思念で受け取る。そして俺は雪精達がその形をとれるように操作する。俺は精霊に関するスキルなんかは持ってないが、その作業は冬将軍がサポートするらしい。

 これでできた城は冬将軍が自由に出現、消失させる事が可能となり、冬にしか姿を表さない城になるそうだ。

 

 ―――分かりました。それで、いつまでに設計を決めておくべきでしょうか?

 ―――五日後。太陽が沈む時にこの平原にて待つ。

 ―――はい。努力します。

 

 俺のその思念を受け、冬将軍は頷き、つむじ風と共に姿を消した。

 

 冬将軍の放っていた威圧感が消え、戸惑う一同。まず和真が困惑から帰還し、俺の方を向く。

 

「・・・お前いったい何やったんだ?いや、無事に終わったのは嬉しいけどさ」

「仕事をもらった」

「どうしてそうなった!?」




 書籍版2巻目。ようやく明確にオリ展開&オリ設定に入れる・・・
 ちなみに後半のシーンは第三者から見ると無言の見つめ合いです。


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秘密の店にようこそ

 冬将軍と出会った翌日から、彼からの依頼のための準備を始めた。

 アクアが俺に頼んでいた冷蔵庫は、雪精を解放したために中止・・・とはならず、彼女が冬将軍の前で解放したのとは別に隠し持っていた雪精があったのだ。とはいえあのやり取りの後でそれを使う気にもなれず、その雪精は解放し、無難に冷気系の魔法を使う方針で設計する事となった・・・城を建ててからの予定だが。

 一、二日では終わらないであろう作業の間の食料や寝袋、衣類にカイロ(魔道具の一種としてこの世界にもあった。日本のものより一回り大きめだが使用時間の長さを考えると一長一短か)なんかも準備し、図案を書くためにいくらか紙も買っておきたい。品質にさえこだわらなければ日本とそう値段の差はない。

 今日は依頼を早めに切り上げたから、午後は時間が余っている。今回の報酬は合計210万エリス、そこから借金返済のために110万引いた余りを山分けし、俺の手元には20万がある。予算としても十分だ。俺はこれから商店街へ足を運ぶことにした。

 

 ────────────────────

 

 そして商店街。たまたま近くを通る事になった酒屋の前に、見覚えのある人影があった。

 楽天家で酒飲みの女神アクア・・・ではない。今朝、例の謎の気配がする店にいた店員の人だ。買い出しだろうか?

 

「あら?あなた、今朝の・・・」

 

 彼女もこちらに気づいたようだ。俺は手を振ってそれに応える。

 

「・・・せっかくですし、店の方でお話しますか?私としても、店の客が増えるのは嬉しいですし・・・」

 

 今はまだ何も買い物をしていないため、重い荷物なんかは無い。せっかくだしこの誘いに乗ってみてもいいだろう。俺は彼女に付いていくことにした。

 

 その道中、彼女は俺にいくつかの質問をしてきた。曰く、女性関係とかはあるのか、嫌いなものはあるか、宗教についてどう思うか、と全体として見ると妙な質問だった。

 もしや彼女は()()()()商売をしているのか。そっち系の知り合いはおろか、そういう話題ができる知り合いも君咲学院ではいなかった。そういった人達を受け入れられない訳ではないが、どうにも面食らう。ちなみに質問の答えはそれぞれ「恋人いない。知り合いいる」「他人を傷つけて何とも思わない奴ら」「好きにすればいい・・・・・・迷惑はかけずに」だ。

 

 そうして店に着いた時、彼女はこちらを向いて言った。

 

「実は、この店は会員制・・・という訳ではないのですが、サービスの都合上、一部の方々には出来れば来店を控えていただきたいのですが・・・どうやらあなたは大丈夫そうですね・・・あ、最後に一つだけ聞きます。ここにとって不適切な相手から情報を求められた場合、この店についての情報を秘匿していただけるでしょうか?」

「不適切な相手?」

「説明を受ければ分かります・・・それで、どうでしょう?」

「出来ます」

 

 その言葉に彼女は納得したように頷き、俺を店内へ案内した。

 

「それでは、いらっしゃいませ。こちら、飲食と一夜の夢を提供する店、『黒猫の尻尾』です」

 

 中にいた店員は全員が美女あるいは美少女といって差し支えない容姿をしている。来客はパッと見たところ全員が男だ。今が昼下がりの時間帯なのもあって人数は少ないが、その多くが手元の用紙に真剣な顔で何かを書き込んでいる。

 俺達は空いていた席に座り、話を始めた。

 

「あなたの想像していたようなお店とは違いましたか?」

 ―――何と言うか・・・思ってたよりお淑やか?なお店ですね。

「ふふっ、表情に出るタイプなんですね・・・まず初めに言っておきますが、当店で働いている私達は人間ではありません。サキュバスなんです」

 ―――ええっ!?こんなところに下級とはいえ悪魔の群れが!?

 

 サキュバスは男性の精気を吸う悪魔だ。その気になれば容易く討伐できる程度の下級悪魔ではあるが―――あるいはそんな下級悪魔だからこそ、男性にとって魅力的な存在である。サキュバスが住み着いた街では結婚率が(いちじる)しく落ち込むと言われ、世の女性達から蛇蝎の如く嫌われる彼女達。人間への影響力でいえばちょっとした中級悪魔にも劣らないかもしれない。

 

「驚きこそすれど敵意は向けない・・・やはりあなたは大丈夫そうですね。まず、私達は人間の女性から敵視されています。理由は・・・その様子だと知ってそうですね。しかし、私達は人間の男性から精気を吸わなければ生きていけません。そこで、戦う力のない私達はこうしてひっそりと、精気を提供してくれる男性の方々に、格安で淫夢を見せるサービスを行っているのです」

 

 なるほど。危険を冒して相手を探しに行くより、相手が向こうから来てくれるシステムを作る方が確かに安全だ。

 そして彼女はテーブルに束で置いてあった紙から一枚を取り、俺に渡しながら続けた。

 

「こちらが当店の淫夢サービスを受けるためのアンケート用紙です。食事をせずにこちらだけ記入するのもOKですよ。店を出る時か会計の際に渡してくださいね?」

 ―――この設定って、随分細かいところまで決められるんですね・・・

「設定ですか?自分の好みのシチュエーションや自分の状態、相手の外見、性格、好感度なんかも、記入していただければしっかり反映されますよ。王様や英雄になって有名な女性を(はべ)らせてもいいですし、身近な方と甘々な時間を過ごすのも大丈夫・・・どうせだから自分が女性の側になってみたい、なんていうのも可能ですね」

 

 へえ~すごい。でも、お高いんでしょう?・・・・・・そう思って料金表を見ると、凄まじいまでの安価でのサービスだった。例えば三時間なら5000エリス・・・そういった店の知識はないが、クオリティも考えるとこの10倍の価格設定でもやっていけるのではないだろうか?

 

「・・・私達にとって、お金は、この街で人として生活していけるだけの分があればそれで十分なんです。後は、ほんのちょっと、お客様の精気を頂くだけですから」

 

 マジか・・・悪魔が清貧という言葉を体現しているとはたまげたな・・・

 

「・・・・・・聖人?」

「や、止めて下さい縁起でもない!」

 

 え?・・・あ、ああ、そういう、価値観なのか。やっちまったかな・・・俺の心無い一言で傷つけちゃったかな・・・・・・

 

「ちょっ、土下座も止めて下さい!そこまで傷ついてませんし、皆さん見てますから!」

 

 む、ならサービスだけ受けてみるか?この価格設定なら一、二回くらいは余裕だし・・・でも仕事に支障とか出ないかな?こう、こびりついた悪魔の気配が不快、とか・・・・・・ん?

 

「悪魔の気配、分かりやすい?」

「・・・人間では、プリースト以外がそういったものを感じる事はまず無いですし、私達くらいの下級悪魔が気配だけでバレる、というのも滅多に無いですね。よほどの高レベルのプリーストに肉薄するくらいでないと・・・本当になんで私達の店から気配を感じたんですか?」

 

 俺にもわからん。しかしその条件だと・・・

 

「隣でアークプリーストが寝てる」

「ああ、馬小屋・・・しかしこんな街にアークプリーストとは、何かの間違いではないのですか?」

「デュラハンの時の水害の・・・」

 

 俺のその一言に、話していた相手のサキュバスは引き攣った様な笑いを浮かべる。流石にこの街に住んでいて()()を知らないという事はないだろう。この表情も納得だ。

 

 しかし彼女の顔に見えるのは『諦め』ではなく『葛藤』。それも引くかどうか、というより進むかどうか、を迷っている・・・気がする。

 やがて何かを決意した顔になり、

 

「・・・・・・こうして一ヶ所に留まって暮らす以上、いずれはこんな事態が起こるとは分かっていました。本来ならここで見切りをつけて他の街にでも移るのが正しいのでしょうが・・・お願いします。あなたに夢を見させて下さい」

 

 ―――それは、

 

「あなたが気にする必要はありません・・・これは私のエゴです。サキュバスである事も、客商売である事も否定できない私の・・・」

 

 悲壮ながらも確かな決意を持った彼女に、俺にはかける言葉が見つからない。

 周りにいた店員達――――十中八九、彼女達全員がサキュバスだろう――――も、彼女を不安気な面持ちで見つめている。

 

「心配はいりません。私はそのプリーストを攻撃しに行くのではありません。ただ私達がこれからもこの街にいられるか、確かめたいだけですから・・・危なくなれば逃げるつもりです」

 

 ・・・・・・・・そうか。それほどに固い決意があるのなら、俺がそれを否定するのは無粋か。

 なら、俺はそれを鈍らせないようにしよう。彼女の望む通りに願おう。一夜の(淫)夢を、彼女に願おう。

 

 ―――でもどんな内容を書こう・・・




 先に書いておきますが、聖の注文内容および見た夢を文字に書き起こすつもりはありません。自分でイメージして下さい。
 それと、作中に出て来たサキュバスの店の店名はオリジナル設定です。


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城を建てるために

 章分けを忘れていたり前話後書きに注釈を忘れていたりしましたが訂正しました。


 サキュバスの店で淫夢サービスを注文した俺は、特に何事も無く買い物を終えて宿屋に帰った。流石にこれ以上予定を詰められたら俺にも手に負えない。

 そして荷物の整理をした後、紙とペンを懐に街へと出る。どこぞの天才じゃないが、いい感じの図面がいつ浮かぶか分からないからな。

 

 

 

 そうして歩いていると、一つの店を発見した。

 

『ウィズ魔道具店』

 

 そういえば以前に出会ったリッチーのウィズさんが教えてくれた住所、ここだったな・・・

 

「いらっしゃいま・・・あら?あなたは先日の・・・」

「・・・こんにちは」

 

 店に入ると、見覚えのある女性が商品の整理をしていた。

 別にすぐに欲しいものがある訳ではないが、せっかく近くまで来たのだから覗いてみることにしたのだ。

 さて、たくさんのポーション類が並んでいるこの棚は・・・

 

「あっ、そのポーションは強い衝撃を与えると爆発しますので・・・・」

 

 へああっ!?じゃあこっちは・・・

 

「それはフタを開けると爆発して・・・そっちは水に触れると爆発、そちらは温めると爆発を・・・・・・そんな顔しないで下さい!その棚が爆発シリーズだけ集めているだけですから!」

 ―――爆発シリーズって何!?

「なんでそんな物を・・・?」

「『これは凄い』って私が思った魔道具を集めてたら、爆発系のアイテムが多くなっちゃったので・・・爆発シリーズとして一ヶ所にまとめようと・・・」

 

 魔法使いは爆発の事しか考えないのか・・・?そうなると生産系の魔法を使う俺もいずれゴーレムを爆発させる様に・・・あ、それはそれで強そう。

 ・・・そういえば、

 

「建築関連・・・ある?」

「壊れた壁の修繕する魔道具でしたらあるのですが・・・仕入れの際にでも探してみましょうか?」

 

 無理っぽいな。城の図面を作る助けになる何かが欲しいが、仕入れを待っていたら時間が無くなりそうだし、やっぱり素直に本屋でも探してみるか。

 ついでに何か良さそうな魔道具を物色。異世界(こっち)に来てからは俺も魔道具を作る事は可能だが、まだまだこういう市販の商品に敵う品質じゃないし・・・

 

「そう言えば、私、最近知ったのですが、サトシさん達があのベルディアさんを倒されたそうですね」

 ―――らしいですねー俺がいない間に大体終わってましたけどねー

「あ、あれっ!?何で急にそんな微妙な顔に!?私、何か変な事聞きました!?」

「気にしないで下さい」「でも・・・」「気にしないで下さい」

 

 こうして変な空気になった店を、俺はそそくさと出ていった。

 

 ・・・・・・・・しかし俺以外に誰一人客がいなかったな・・・

 

 ────────────────────

 

 俺は今、街の外にいる。

 今は強力なモンスターと日本人の転生者くらいしか出歩かない危険な時期だが、それでも俺はこっちに用事があるのだ。

 

 遠くに見える丘の上には、一目見て使われていないと分かる廃城がある。ある程度の想像力があれば、そこに住まう幽霊の想像をしてもおかしくないだろう。

 あの城は、先日アクセルの街にやって来た魔王軍幹部、デュラハンのベルディアが根城としていた場所だ。

 まあその事はわりとどうでもいい。重要なのは、あれが()だという点だ。

 冬将軍のために建てる城は日本式、大阪城だとか竹田城だとかみたいなデザインが好ましいだろうとは思う。

 しかし城というからにはある程度の防御能力も必要な筈だ。張りぼてを建てる訳にはいかないだろう。

 なので、俺はこの城の構造、特に防衛設備を参考にするため、この廃城を調べる事にしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 城門を久々のゴーレムでこじ開けて中庭に入ると、低木と雑草まみれ・・・・ではなく、エントランスまで一直線に切り開かれた道があった。おそらくベルディアが作った道だろう。

 ・・・そしてその向こうからは腐った肉の臭い。そして遠巻きにこちらの様子を窺う数体のアンデッドがいた。

 

 なるほど。この廃城は今、アンデッドの巣窟となっているようだ。

 考えてみれば、ここは薄暗くてじめじめし、滅多に人が寄り付かない廃墟。城として使われていた時に誰も死ななかったとは考えにくいし、アンデッドが沸くには十分な条件だろう。そこに強大なアンデッドであるデュラハンがしばらく住み着いていたとなれば、この現状も当然か。

 

 強い変種なんかが発生していたらせめて報告くらいはしておきたいし、ひとまず俺一人で調査してみよう。

 ある程度のアンデッドになると道具や装備の使用も可能と聞くが、城門に近づいても矢や投石なんかが飛んでくる事はなかった。そんなレベルのアンデッドがいないと考えるのが自然だが、城内の兵だけで十分と考えている可能性も捨てきれない。

 元々ここを調べたかったのもあるし、俺は半開きにしていた城門を、念のためゴーレムで大きく開いておく。そして俺と同程度の体格のゴーレム三体を作ってから中に入った。

 

 中に入ると、案の定ゾンビ達がこちらに向かって来た。しかし遅い。ゴーレムが腕を振り回すだけで簡単に制圧できた。多分和真一人でもここは十分だっただろう。あいつならヒットアンドアウェイで慎重に立ち回るだろうけど。

 城内のゾンビ達を蹴散らしながらしばらく調べていると、今までのゾンビより上位のアンデッドナイトが守っている部屋があった。壊れた扉の向こうに数体で立ち尽くしているのが見える。彼らは近衛兵(このえへい)か何かだったのだろうか。全部で六体いる。

 とはいえ、ここはまだ廊下だ。ゴーレムを横一列に並べれば突破は難しいだろうし、それ抜きでもこんな立て付けの悪そうな扉、一度にすんなりとは二体も通れそうにない。上手く立ち回れば十分に戦える。うん、大丈夫だ。

 ゴーレムが近づくと、アンデッドナイト達は一斉に槍を構え、一斉にこちらへ詰め寄ってきた。しかし予想通り扉は狭く、彼らは一瞬だけ立ち止まった後、一体ずつ廊下に出て来た。そんなアンデッドナイトを一体ずつ倒す事は俺のゴーレムには簡単な仕事だった。床に叩きつけるも良し、室内に吹っ飛ばすも良し。人数差に対して、制圧にさして時間はかからなかった。

 

 幸い、この廃城はそのアンデッドナイトが一番強かったくらいで、今の俺に苦戦する要素はなかった。強力な奴は大体ベルディアがアクセルを攻める時に使われたのだろうか。

 流石に貴重品なんかは残っておらず、埃、当初の目的はこの城の防衛設備を知る事だ。そのくらいの余裕はあり、獲得した経験値もなかなかの量。今日の収穫は上々と言えるだろう。

 

 ・・・しかしこれ、俺みたいな転生特典持ちじゃなきゃどれくらい時間がかかったんだろうか。一番強いのが数体のアンデッドナイトというレベルだし、何人も死ぬような展開にはならないとは思うが。和真のチート呼ばわりも理解できる。

 

 ────────────────────

 

 そして夜。設計図をいくらか考えた後、俺は普段より若干早めの時間に就寝した。

 目的はサキュバスによる淫夢。そして彼女達の潜伏力がどれだけ通用するかを試す事だ。

 もし見つかっても、ただの野良悪魔として店の存在に気づかせるつもりはないと言うし、俺が気にする必要もないとは言われたが、彼女の命がかかっていると考えると気にしない事なんてできない。いつだったか工事中、飛来してきた悪魔を一撃で撃退していたアクアを俺は覚えている。

 だが、今更俺に何が出来る訳でもない。俺は眠るとしよう。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 (さとし)の夢の中。

 今、彼が夢を見ていない以上、ここに()()がある筈がない。しかし、そこに入り込む者がいた。

 

 サキュバス。

 下級悪魔にして淫魔である彼女達は眠っている男性の夢の中に現れ、男性の精気を吸うのが常だ。

 しかし今回、彼女はそれ()()を目的に現れたのではない。

 まず、この街でサキュバスと男性冒険者は一種の共生関係にある。サキュバスは生活に支障の出ない程度の精気と僅かな金銭を貰い、男性冒険者達に淫夢を見せる。

 しかし、そんな関係は許されるものではない。敬虔な聖職者や女性達にバレれば、この街はサキュバス達にとって安息の地ではなくなるだろう。

 だがこの街には、もっと言えば聖のすぐ近くにはアークプリーストがいる。それも凄腕。その人と碌に話した事が無ければ、『何故王都辺りに行かないのか?』と疑問を抱くだろうが、サキュバス達にとっては殊更(ことさら)に切実な問題だ。

 ともあれ、彼女達がこの地で商売を行うのであれば、彼女を無視する訳にはいかない。逃げるか、避けるか、懐柔するか、いずれにしてもアークプリーストを意識せざるを得ない。

 なのでまず、共に暮らす聖の夢に入り込めるか試すのだ。それでバレなければ現状維持、見つかれば一匹の野良悪魔として討伐されるだろう。敬虔な聖職者に存在を知られるリスクは先達、あるいは魔界の知り合いから何度も聞いたし、つい最近も邪神の眷属である上級悪魔が二人、討伐されたと聞く。彼と一緒に寝ていた仲間で、神聖な力を感じた方は女性だ。懐柔も難しいとなると、店の事を話す訳にはいかない。

 

「され、この人が頼んでいた夢は・・・・・・」

 

 

「・・・・・・・・るるる?」

「・・・え?」

 

 謎の気配。

 プリーストが持っている様な神聖さとは違う、まして淫魔の類でもない、しかし高位のモノと思われる気配が、いつの間にか聖の夢の中に新たに入り込んでいた。

 

「るるる!人間ではありませんね!るりはやはりここが異世界なのだと確信します!」

 

 ―――何だアレは。あんなモノ、私達は知らない。

 異世界?彼女は異世界から来たのか?

 異世界から来たと自称する強い戦士の存在はサキュバスも知っている。アレもその同類なのか。しかし聞いた限りだと彼らはあくまで()()()()()()()()()()だけで、既存の人間を逸脱した性質の力の持ち主ではない筈だ。

 ソレは姿こそ黒い髪に空色の目をした少女だが、その見た目通りの存在だとサキュバスはとても思えなかった。

 

「・・・・・・あなたは、どうしてここにいるのですか?」

 

 サキュバスはそう尋ねる。

 

「未知ですね!本来の在り方を大きく外れた特異点が、るりに新たな世界線を観測させました!それを知覚しようとするのは必然です!大宇宙~☆」

 

 ―――意味が分からない。

 するとどこからか足音が聞こえてきた。その足音は徐々にこちらに近づいている。

 

「・・・・・・るり?」

 

 ―――今度は眠っている筈の聖まで現れた。自身の夢の中だからってそんな簡単に活動は出来ないのだが。しかも少女を知っている風だし。

 

「転校生の人!」

 

 もう訳が分からない。

 サキュバスは頭を抱えた。




ラストに出て来た大宇宙なSilhouetteの解説は次回に。


月永(つきなが) レオ
 夢ノ咲学院3-B所属。オレンジ色のショートカットにライトグリーンの目。
 ユニット『Knights』のリーダーで作曲に関しては自他共に認める天才。しかしそれ以外はわりとダメ人間な天才肌。好きなものは妹の『ルカ』の事と妄想。過去の偉大な作曲家達の事も尊敬しているがモーツァルトは嫌い。
 唸り声は『がるるる!』。

・月永 るか
 君咲学院1-B所属。オレンジ色のセミロングにライトグリーンの目のぼくっ娘。
 軽音部で作詞を担当しており、部長の黒森(くろもり)すずを尊敬している。中二病の気があるが、甘々なラブソングなんかが好みだったりする。あがり症。相手を威嚇する時は『がるるる!』
 彼女の事が大好きな兄がいるというが詳細は不明。

 上記の二人には共通項が多いが、要所要所で別人らしき描写(るかの兄がボカロPとして活動している、レオが妹の事を話す時は『るか』でなく『ルカ』表記、など)が見られる。しかし当作ではそれらの差異はパラレルワールド(ゆえ)とし、両者は兄妹としている。


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まさかの再会

 ゴールデンウィークだったけどこれしか書けませんでした。


 いったいこれはどういう状況なのか。

 

 今夜はサキュバスが俺の夢の中に現れる予定だったが、どうも現実世界とは思い辛い空間で日本の知り合いとサキュバスが対面している。

 

 日本にいる筈の彼女は天宮(あまみや)るり。少し前までは君咲学院の天文部部長であったが、常人ではコミュニケーションをとる事すら困難な少女。電波な言動や不可思議な出現及び消失が頻繁にあったが、彼女はあくまで地球の人間だった筈だ・・・・筈だよな?

 

「どうやって来たの?」

 

 俺がそう聞くと、少しの間をおいて彼女は答えた。

 

「・・・・・・あたしは『観測者』。遠い世界線の異なる時間軸から、いくつもの世界線を観測しているの。そこに存在する事もできる・・・普通の人とは、ちょっと違う在り方だけど」

 

 たまに見せる普通の少女らしい言動で、比較的理解しやすい、しかし電波な内容を語るるり。というか未来人だったり異世界人だったりするのか・・・あれ、平行世界の住民は異世界人でいいのか?

 ・・・まあそれは別にいいとして、

 

「来た理由は?」

「『特異点』の消失!それ自体はいくつかの世界線で観測されました!しかし同一の反応の再出現は他のどの世界線でも観測されていない異常事態!るりは『特異点』の反応を追って新たに知覚した『異なる宇宙』、そしてそこに存在する『特異点』の観測を決定しました!この宇宙について、転校生のひとはある程度の知識を持っていますね?」

 

 いつものマシンガントーク。あるいは無理にいつものテンションになっているのかもしれない。

 彼女の言い分を訳すと、俺がこの世界に転生した事を未来のるりが観測して、一緒に見つけた異世界を調べに来た、という事か。

 

 それはそれとして、俺はこの世界について話すことにした。

 子供を助けようとしてトラックに()ねられ、アクアという女神(多分)によってこの世界に転生した事。この世界での常識――――レベルやステータスといった要素が生き物に存在する、一般的な人間以外の知的生命体が認知されている、専門的な技能として魔法が存在する、野菜が飛ぶ、等。俺がこの世界でどんな風に暮らしていたか等。

 るりは俺の話を聞いて驚いたり懐疑的になったり、あるいは要所要所で質問を挟んだりと生き生きしていた。比率では懐疑的になる方が確実に多かったが。

 

「・・・それでは、あちらにいる人型の存在の説明を要求します!」

 

 ―――げっ。

「・・・・・・」「・・・・・・」

 

 やべぇ、るりはサキュバスとか受け入れられるタイプなのだろうか。サキュバスを知ってどう行動するかがさっぱり想像できない。助けて名も知らぬサキュバスさん!

 

「・・・私はサキュバス。今夜、そこの彼の精気を頂こうと彼の夢に忍び込んだ悪魔・・・・・・そこにあなたという異物が介入してきたのは予想外だったのだけれど・・・あなた、どうやってここに入って来たのかしら?」

「るるる!高度に発達した科学は魔法と区別がつきませんね!

 ・・・・・・サキュバス、サキュバス・・・ま、まさか、精気を奪うというのは・・・・・・」

 ―――多分るりが想像してる通りの事です。

 

 

 

「る、るるるるるるるるるーーー!?」

 

 あ、顔真っ赤になった。

 声にならない悲鳴を上げながら頭を抱えている。

 

「・・・あ、悪魔というのは、どう対処すべきなのでしょうか!?るりは適切な判断を求めます!」

 

 流石の天才も判断材料が不足していてはどうしようもないのか。それとも悪魔祓いの手段を求めているのか。

 

「下手に倒す方が面倒だから放置」

「るるる!?悪魔というと、こう、魂を奪われたり、といった可能性はないのですか!?」

「わざわざ一人から根こそぎ奪って警戒されるより、お互い気持ちイイ関係が長く続けられる方が良いのよ」

「気っ、気持ちイイ・・・・・・不潔です!」

 

 ()()()()話題に免疫が無かったらしいるりはあたふたしている。流石にそろそろ話題を切り替えてやるべきか・・・

 

 ―――あっそうだ。

「城の構造、わかる?」

「るるる?城とは・・・」

「日本式の城、大体どんな感じなのか・・・」

「・・・・・・・・」「・・・るり?」

 

「るるる!今から転校生のひとの脳に直接データを送り込みます!」

 ―――いきなり!?

「比較的少量のデータなので、計算上は脳への負担も軽度に抑えられますね!別に何かしら気にしている訳ではないのですが!」

 ―――そうはいっても、うぁあああーーーーっ!!

「えっ・・・ちょ、ちょっとぉーーー!?」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 翌朝。

 俺はるりに与えられた知識を基に、城の設計図を考えていた。

 外壁の形はこんな感じでいいとして、天守の部分はここをこんな感じに・・・

 

「あら?今日はサトシ早いのね」

 

 どうやらアクアが起きてきたようだ。

 そういえば、元々サキュバスはアクアに気配を察知されるかどうか確かめに来ていたんだったか。結果はどうだったのだろう。

 

「アクアも早い」

「何でか今朝は妙に目が冴えてねー・・・サトシもそんな感じ?」

 ―――まあ、そうだな。

 

 脳に直接知識を刷り込まれた影響だろうか。アクアはそんな理由ではない筈だが、ひょっとしてサキュバスの気配を僅かに感じていたのだろうか。

 

「カズマさんはまだぐっすり寝てるわね。朝ごはんにはまだ早いけど・・・それって冬将軍からの依頼の奴?」

 ―――そうだけど。

「まさか精霊から依頼を受けるなんて、よそで言っても誰も信じないでしょうねー。正直私も信じられないくらいよ」

 

 やっぱりこの世界での精霊の扱いはそんな感じだよな・・・当然と言えば当然だが。

 

 しかし、アクアの反応を見るにサキュバス達は大丈夫そうだな・・・まあ、彼女達が近くにいたからアクアの寝付きが悪かった、という可能性もあるし、一度あの店に行ってみるか。

 

 

 ────────────────────

 

 

「あっ、サトシさん!昨夜はそちらで何かあった様ですが、そちらに行った娘に聞いてもいまいち要領を得ず・・・」

 

 そういえばあのサキュバスには碌に説明してなかったな。その辺の話も必要か・。

 

 かくかくしかじか。

 

 

「それ、本当に人間なんですか?夢の中に割り込んで現れるなんて、単に力が強くても無理なんですけど・・・」「異世界・・・そんなものがあるんですね・・・・・・」「意図せず重大な事実を知った気分です・・・」

 

 店の奥の居住スペースで、リーダーの桃色髪を含む数名のサキュバスに事の顛末を話した反応がこれである。るりについて説明するために地球についても教えざるを得なかったが、大丈夫という事にしてもらおう。

 

「・・・それで、そのアークプリーストのアクアさんは、サキュバスに気づかなかったんですね?」

「・・・昨夜は寝付きが悪かったと」

「なるほど・・・注意を払えば十分に仕事が出来そうですね・・・」

 

 そうか、彼女達は仕事を辞めなくて済むのか・・・良かった・・・・・・本当に、良かった・・・・・・

 

「泣き出した!?私達が仕事をするのがそんなに嬉しいんですか!?」

 ―――この仕事で幸せになる人が大勢いる・・・素敵じゃん?

「は、はい・・・ありがとう、ございます・・・・・」

 

 何とも言えない雰囲気になった室内だったが、一番幼い容姿のサキュバスが唐突に口を開いた。

 

「あ、あの・・・もしかしてあなた、昨夜は私達のサービスを受けていないんじゃ・・・」

 ―――あ、そういえばそうだった。

 

 今度はまた毛色の違う沈黙に包まれた室内で、さっきの幼いサキュバスがまた口を開く。

 

「そ、それじゃあ・・・今夜は私がサービスに行きます!それなら問題ないですよね?」

「あなた・・・確かにサキュバスに必要な技能は一通り教えたけど、あなたは私達の中で一番の新入り。警戒要素のある客なんだし、罪悪感だけだったら私が代わりに・・・」

 

 幼いサキュバスを説得しようとするリーダーサキュバスを俺は制止する。

 

 ―――彼女が決めた事なんだ。周りがとやかく言うべきじゃないだろう。

「・・・・わかりました。それでは今夜は彼女があなたの夢に行く、という事で・・・夢のオーダーについては先日のものとは変えますか?」

 ―――いえ、あれのままで大丈夫です・・・

 

 あっそうだ。設計の方もしたいし・・・

 

「店の方で軽食を・・・」

「あ、はい。分かりました・・・・飲食(こっち)の方の売り上げってわりと少ない方なんですけどね・・・」

 

 まあこの店の客なんて大半が淫夢目当てだろうしね、仕方ないね。




天宮(あまみや) るり
 君咲学院3-B所属。腰まで届く黒髪ロングに青い目の持ち主。
 人並み外れた頭脳の持ち主で、普通の人とは上手くコミュニケーションがとれない。ぶっちゃけ彼女の喋り方が上手く表現できたか自信が無い。
 天文学部の部長であり、副部長の神無月(かんなづき)ほとりの幼馴染だが、幼い頃に喧嘩してから微妙な関係になってしまっている。それを改善するために未来のるりは平行世界の観測や時間遡行などの技能を手に入れたらしい。
 本質的には寂しがりの女の子ですが、同時にあんガル随一の超自然枠でもありますね?大宇宙~☆


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あるいはこれは運命

 遅くなってしまい申し訳ありません。月に一、二回くらいは投稿したいんですけどね・・・
 そして進行する主人公オリ主化。


 俺は今、夢を見ている。

 こんな感覚は昨日の一件(るり襲来)以外で感じた事は無かったが、なんだか五感以外で把握しているような感覚だ。

 

 何かの気配のする方をぼうっと眺めていると、昼に会った幼いサキュバスがこちらにやって来た。

 

「・・・何でここを認識できてるんですか。話を聞いてた時は『ひょっとしてそのアマミヤルリさんの影響なのかなー』って思ってましたけど、この感じ、自力で悪魔と同じ領域に来てますよね。本当に人間なんですか?」

 ―――そんな事言われてもよく分からないです。

 

 そういえば、何時だったかアクアが俺のいた地域について意味深な発言を漏らしかけていたな。

 あの時は話してくれそうになかったからスルーしたが、ひょっとしたらその内容がこの状況と関係あるのかもしれない。

 

「まあ、かなり変な感じですが、人間と言っていい・・・んじゃないでしょうか」

 ―――そういうレベルの話!?

「そういうレベルです。それじゃあ無駄話はここまでにして、さっそく・・・始めちゃいましょう」

 ―――え・・・ちょっ、まだ心の準備が・・・・・・

 

 俺が戸惑っている間に、彼女の手は俺の――――

 

 

 

 

 

 ――――気づけば、俺の内側から力が湧き出る感覚があった。

 

「・・・・・・・・」

『・・・・・・・・』

「『・・・・・・・・』」

 

 サキュバスの少女の姿は見えないが、()()()()()()、と感じられる。

 

『・・・・・・本当にどういう事なんですかこれ』

 ―――わからない。けどなんだか力がみなぎる・・・そっちは?

『多分、今私達は魂レベルで繋がってるんだと思いますけど、そのみなぎってる力って私のじゃないと思います。』

 

 高位の悪魔やゴーストができるという憑依の類いではないだろう。あれは憑依する側に主導権がある・・・というか奪い取るものだと聞いた。

 この状態をやめるためには―――こうか?

 

「あ、そっちで解除できるんですね」

 

 人体に無い未知の部分に未知の動かし方をさせるような、形容し難い動作(?)で融合を解除する。

 

 しかしこんな事ができる俺はいったい何者なんだ。アクアが何かした可能性も考えたが、彼女がこんな風に悪魔を利用しようとするとは考えにくい。となると・・・・地球側か?俺が住んでいた辺りは怪奇現象や突出した才能の持ち主がしばしば見られたし、俺にもこんな霊媒師みたいな才能があってもおかしくない・・・のか?

 

「異世界から来れる人・・・人?もいたみたいですし、そういうもの・・・なんでしょうか?」

 

 そういうもの、って事にしておこう。

 それはそうと、この力があればできる事が広がりそうだ。悪魔と契約して得る強力な力・・・一部の方々が喜びそうだ。

 

 ―――サキュバスちゃーん、悪魔との契約ってどうすればいいのー?

「使うつもりなんですかこれ。確かにどちらか片方が単独でいるより強いのは確実ですが、お仲間さんから何か言われたりしませんか?」

 ―――当面は黙ってるつもり。説明できそうならそうするけど。

「ずるずると先延ばしにする奴ですね・・・一応、口頭でも契約は可能ですが、契約内容を紙に書くのが一般的でしたね・・・今ではほぼ誰も人間相手に契約はしませんが」

 ―――何かあったの?

「・・・・人間側が難癖をつけて対価の支払いを拒否する事案が多発しまして」

 ―――なんかごめんなさい。

「まあ、『頭のおかしい便利屋』なんて異名もあるあなたは信頼できる相手だと思ってますし、私個人としては契約をしてもいいのですが」

 

 わーいデレたー・・・ん?何だその異名?

 

「いつも人助けをしてるけど頭のおかしいクリエイター、一部では有名ですよ・・・正直あなたが来店する前は、どんな変人なのかとサキュバス仲間の間で話題になってましたが、えっと・・・・意外と常識的な方で安心しました」

 

 そ、そうなのか・・・

 

 まあ、それはそれとして、この力がどんなものなのか、先に調べておいた方がいいんじゃないだろうか?コントロールが難しすぎて実戦投入できないとか、使いすぎると記憶を失う、みたいなデメリットがあったら使いたくない。その辺りを先に調べておきたいが、後遺症なんかが長引くと依頼に差し障る。そうなると、冬将軍の依頼を終了してから調べておきたい。

 

 ―――それじゃあ、この力について後日調べたいから、そのうちまたお店に行くと思う。その時はよろしく。

「・・・それだったら、悪魔召喚の方法について覚えるのはどうですか?それなら店に来なくても私を呼べますし、もしあの力を本格的に使うのなら、召喚魔法がないと不便でしょうし」

 ―――お、そうだな。どうやればいいんだ?

「もう少し悪魔を疑うことを覚えたら・・・・あぁいえ、何でもないです。でも、召喚魔法は複雑な魔法ですからね・・・魔界から勉強用の書物を取り寄せてきます。明日か明後日には渡せると思います」

 

 そう話すサキュバス。俺は頷いて了承の意を示す。

 

 

 ――――――だが、彼女の本来の目的はまた別にあったのを俺は忘れていた。

 

「さて、そろそろ仕事に入らないと、時間が足りなさそうですからね・・・大丈夫です。昨日注文していただいた内容そのままのプレイですからね・・・」

 

 10歳程度にしか見えない少女の淫靡な笑みは、彼女が人間でない事を思い知らされる。

 そして俺の意識は暗転し――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺の目覚めは普段とは違うものだった。

 若干の倦怠感と、思考の冷静さ。

 率直に表現するのは避けるが、サキュバスのおかげだろう。

 

「あ、起きたか。俺も今起きたとこだ」

 

 和真はちょうど伸びをしていたところだったようだ。アクアはぐっすりと寝ている。

 今回はアクアの寝つきがよかったみたいだ。昨日のはただの偶然だったのか?

 

「そういえばさ、お前城の設計図作ってるけど、今はどんな感じなんだ?」

 ―――お、聞きたいのか。今はこんな具合だな。

 

 俺は設計図を荷物から取り出して和真に見せる。

 既に外装と基盤は(おおむ)ね出来上がっており、この内側をどうするかこれから考える予定だ。

 

「思った以上に真面目な城じゃねえか・・・これを冬将軍が使うのか」

 ―――まあ、そうなるな。

「完成した設計図を冬将軍に渡すのが・・・ああ、二日後か。これって間に合うのか?城の事はよく分からねえけど」

 ―――間に合わせる。

「根性論かよ!?間に合わなかったら俺達全員打ち首、みたいな話はねえよな!?」

「そういう話はなかった」

「今度は口で話すのか・・・そういうとこがあるから、『頭のおかしい便利屋』なんてあだ名が・・・」

 ―――そのあだ名有名なの!?

「あ・・・・俺は、その、あれだぞ。お前の事は仲間だと思ってる。うん」

 

 よ、良かったー!今すぐに独り立ちだったら立ち直れる気がしなかった。能力以前に、精神的にね?

 

 「こいつチョロインかよ・・・・・・」

 

 ―――ん?今何か言った?

「気にするな」

 ―――あ、うん。

 

 

 ────────────────────

 

 

 場面は飛んで翌日の昼。

 俺はサキュバスの店に向かい、頼んでいた召喚魔法の書物を受け取りに来ていた。

 店に入ると、先日の幼いサキュバスが俺を店の奥に案内した。

 そこにあるテーブルに置いてあったのは、思ったより薄い本が二冊と分厚いのが一冊。薄い方の大きさは、絵本よりは一回りくらい大きいか。分厚い方は専門書そのものな大きさだ。しかしどちらの装丁もいかにも魔導書といわんばかりに古めかしく、薄い方は赤茶色と灰色の二種類の表紙、分厚い方は焦げ茶色の表紙である。

 

「こちらの本が『ゴブリンにも分かる!召喚魔法のすゝめ』です。上位悪魔の方が書かれた本で、初心者にも分かりやすいと好評の本なんですよ」

 

 へぇ~、赤茶色の本は、暗記する内容はそんなに無いの?

 

「召喚魔法は、事前に対象と契約をしないと相手が応じない場合がほとんどなんです。契約の仕方や使う魔法陣なんかも対象によって違いますし、召喚される側が事前に魔法陣を設計するのが普通なんです」

「召喚する側向け?」

「はい。召喚される側向けは、こっちの分厚い本ですね。細かい設定なんかは魔法陣に組み込む形でして、これを参考にして私を召喚するための魔法陣を作ろうと思うのですが・・・契約内容はどうしましょうか・・・」

 

 二人で色々と考えたが、俺が召喚魔法を使ったときにサキュバス側の都合が良ければ応じ、俺の許可が出るまでは魔法陣から出られない、という契約内容で当面は契約することにした。召喚関係の契約は、両者の合意さえあれば内容の変更は簡単なのだそうだ。

 

 そうして作られた魔法陣は、灰色の本に書き込まれる。これは魔力を通しやすい紙を使っている以外は線の一本も描かれていない、スケッチブック同然の紙束だった。しかしこれには魔法陣の作成を補助する機能があり、ここに召喚用の魔法陣を書き留めておくのが通例なのだとか(これはその中でも質の良い物らしいが)。

 

 こうして俺は、サキュバスの少女と契約をした。その証ともいえる召喚用の魔法陣が、灰色の本の一ページ目に描かれている。これから俺が召喚魔法とどう関わっていくのかは分からないが、なんとも感慨深いものがある。

 おっと、サキュバスの方もしみじみと魔法陣を見ている。彼女も思うところがあるのだろうか。

 

「ええ、まあ、私達にとっては、ある意味大人に近づいたようなものですし・・・」

 

 そういうものか。

 

「これから、よろしく」

「はい・・・まあ、私をサキュバスらしく扱う気がしませんけど」

 ―――はっはっは。



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天光聖の楽しい雪造建築

 最近リアルが忙しいのじゃ・・・


 さしたるイベントもなく二日が経ち、冬将軍からの依頼の期限がやってきた。

 俺なりに努力した設計図だが、果たして受け取ってもらえるのだろうか。

 

 夕方、和真達にはしばらく帰らない旨を伝えておき、俺は冬将軍と出会った平原に一人で向かう。

 俺が着いた時には既に冬将軍が陣取っており、通常の魔物は恐れをなしたのか姿が見えない。そして冬将軍は、前回は見なかった馬に乗っている。色合いからして雪精の仲間か冬将軍の装備か・・・・どちらにしても、俺と冬将軍で二人乗りもできそうな巨大な馬だ。

 

 ―――設計図は?

 ―――これです。

 

 俺から受け取った設計図をじっくりと見つめる冬将軍。しばしの時間をおいて、俺に思念を飛ばした。

 

 ―――成る程、良い城だ。

 

 そう言うと、冬将軍の乗っている馬の背に、不意に鞍が出現した。異様に白く、冬将軍の鎧と本質的に同じものなのだろう。

 俺がそこに座ると、馬は一度(いなな)き、雪の降り積もる平原を駆け出した。

 

 足元の悪さを抜きにしても普通の馬より幾分(いくぶん)か速い。国一番の名馬と言われても納得できる速力に、野良モンスターは我先にと逃げ惑っている。冬将軍の背にしがみついていなければ落馬してしまいそうだ。

 

 そうしてしばらく後、俺達は見慣れない丘に着いた。冬将軍から依頼を受けたときに広さのイメージも伝わってきていたが、多分ここの面積だったのだろう。

 馬が足を止め、冬将軍は馬を降り・・・え、何今の!?(まばた)きしたら地面に立ってた!瞬間移動!?

 動揺を抑えて馬から降りると、馬は空気に溶けるように姿を消した。

 

 ―――余が魔力を流す。おぬしはそれを固めよ。

 

 そう言って冬将軍は俺の背に手を置く・・・わひゃっ!冬の精霊らしいというべきか、氷柱(つらら)を押し付けられたような冷たさを感じた。

 そこから俺に流れ込む魔力は量こそ少なめだが、冷気系の魔法にしか使えないと直感で分かる、言うなれば『冷たい』魔力だった。

 流れ込む魔力の扱いに俺が慣れるとともに、その量もみるみる増していく。最終的に半ば暴力的ともいえる勢いになった冬将軍の魔力により、土台や主要な柱はたちまち組み上がり、城そのものの幽霊と言われれば納得できる見た目になった。既に夜と言って差し支えない時間だが、作りかけの城は(うっす)らと光を帯びており、早くも幻想的な城になっている。

 

 しかしこの状態から更に建築を進めるのは難しい、という程度には俺の疲労は貯まっていた。

 え?文字数の割りに疲れるのが早すぎる?あんな量の魔力を短時間で操るのは実際辛いんだ。それで全てを消し飛ばすとかじゃなく建築に使うんだから、蛇口みたいに吐き出すだけやればいいって話でもない。

 冬将軍にとっても今回のような魔力の使い方は初めてらしく、俺の体調を気にするような仕草を見せている。プライド(ゆえ)か言葉に出すことは無かったが、少し休めば大丈夫なことを無言でアピールしたら若干安心したような雰囲気になり、建設中の城へと視線を向けた。冬将軍に心配された人間なんて他にいるのだろうか?

 

 しかし、この世界の『モンスター』と呼ばれる存在の知性はピンからキリまであるように思える。

 ジャイアントトードのように野生動物と大差ない知性のものが大半だが、今回の冬将軍なんかはテレパシーまで行える程の確かな知性を持っている。いつかのベルディアは元人間ながら邪悪な思考をしているが、アクセルのサキュバスやウィズは人間との共存を考えている。サキュバス達は打算もあるが、他のモンスターより明らかに危険度が低いのは明らかだろう。

 この世界の人間は、モンスター達を敵として認識し、その戦い方以上のことを理解しようという余裕が無いのかもしれない。それを短絡的と非難するのは()()だろうが、それは寂しいことだろう。

 モンスターと呼ばれている者達が、いずれ何らかの形で再分類される日が来るならば。

 時間に反して明るい平原で、弁当を食べながら俺はそんな事を考えた。

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 翌朝、俺達は城の建造を再開した。

 とはいっても、昨日の作業は膨大な魔力でゴリ押しできたが、ここからは繊細な作業を必要とする。昨日のようにはいかないだろう。

 ・・・・・・しかし、普通なら数千人は人を雇うような作業の筈がここまでの超スピードで進行するとは・・・魔法の凄さを改めて感じる。厳密にいえば作っているのは城じゃなくて、それを魔力で形作るための『型』を作っているというべきなのかもしれないが。

 

 これは本来、建築に使われる素材に深い造詣がなければ不自然になりかねない。木を模倣した床が妙にツルツルだったり、逆に岩のようなゴツゴツした質感になったり、というのは冬将軍的にNGらしい。気持ちは分かる。

 だが築城に関する知識を脳に直接刷り込まれた俺には難しいことではない。むしろ変に癖のある素材にする方が難しそうだ。

 外観も内装も和風であり、日本人であれば空想するかもしれない隠し通路や曲者(くせもの)対策の罠も多数設置。主である冬将軍の意思で自由にオンオフが切り替えられる便利仕様だ。姉さんの知り合いの忍者マニアくんがこれを見ても満足してくれるだろう・・・・・・と思いたい。

 

 まるでコンピューターゲームのマップ読み込みのように実体化していく純白の城。画像でなら姫路城も見たことがあるが、冬将軍の魔力からなるこの城ほどの白さではない。いや、冬将軍のオーラ的なものが無ければ輪郭が分からないくらいには文字通りの白一色と比べるのもどうかと思うが。

 冬将軍が何処からか調達してくる食料(大半がモンスターの肉だし盗んだとは考えにくいが)を食べて、持ってきた寝袋でしばしば睡眠をとる。それ以外は全力で魔力を操作し続ける若干頭のおかしい生活を送った結果、城の完成には一週間を要した。

 だって冬将軍さん凝り性だったんだもん・・・不意に突っ込んでくるネタを真面目に検討して、それを導入するために全体のバランスからいじることもあったもん・・・そして家紋的なマークの作成には丸一日くらいかかったし・・・ちなみに家紋(仮)は雪の結晶を枯れ枝で囲ったデザインになり、真っ白な城の中でそれだけ色が違っている。具体的には茶色ベースに金。

 しかし、その甲斐あってなかなかの出来ばえだ。冬将軍は完成した城をしみじみと眺めている。俺としても、自分で建てた城と思うと感慨深いものがある。

 

 ―――お主には、儂の城を建てた褒美をやらねばな。

 ―――褒美、ですか?それはいったい・・・・・・

 

 不意につむじ風が起こり、俺は思わず目をつぶる。そして目を開けると、目の前には金貨の入った木箱と巻物が一巻あった。

 

 ―――そのスクロールを読めば、街に戻るのも容易(たやす)かろう。

 ―――ありがとうございます。

 

 当然というべきか、スクロールを開くと何かの魔法陣があった。ここに魔力を流すと起動する、使い捨てではないタイプのスクロールだ。見た感じから発動する魔法が分からないが、この口ぶりだとテレポートでも発動するのか?

 スクロールを発動すると、周囲の冷気が俺の手前あたりに集まり、やがて何かの形を取り始めた。

 四本の細めの脚、長い首、長さに対して太い胴体を持つこれは・・・

 

 ―――ここに来るときに使ったあの馬。

 ―――然り。冷気あらば風の如くお主を運ぶ無形の駿馬なり。

 

 これも精霊を行使する魔法の一種・・・とは違うか?あくまで実体を持っているのはスクロールに流した俺の魔力だから・・・あ、これ精霊と同じことをするタイプの魔法なのか。俺の調べた範囲では類似する魔法も見つからなかったな。

 

 ―――お主の往く道には苦難もあろう。励むがいい。

 ―――ありがとうございます!

 

 俺は冬将軍に一礼すると、アクセルの街に向けて馬を走らせた。

 ・・・・何か良い名前付けた方がいいかな。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「サトシ、今戻ったのか!?今、あのデストロイヤーがアクセルの街に接近しているんだ!今はカズマも含めた冒険者達が、この街を守ろうと行動している。あっちで作戦会議に参加してくれるか?」

 ―――何事!?




 この回を当事者の時間感覚に沿って描写すると、延々同じ文を繰り返し続ける新手のヤンデレみたいになるのは確定的に明らか。


仙石(せんごく) (しのぶ)
 夢ノ咲学院1-B所属。黒髪金眼で、左目を前髪で隠す鬼*郎スタイルでござる。
 ユニット『流星隊』に流星イエローとして所属している他、放送委員会にも所属。忍者同好会も設立したがそちらの会員は彼一人。
 かなりの忍者マニアで、語尾に『ござる』と付けたり手裏剣を持っていたりする。忍者であれば実際雑食。日々忍者の修行に励む彼が、本物の忍者になれる日は来るのだろうか。


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帰宅、即、決戦

『遅くなる』の間隔がどんどん長くなってる気がする。こうしてエターナるんやな・・・


 バリケードの製作を指揮しているダクネス曰く、(いにしえ)の魔導技術大国ノイズが造り出した機動兵器デストロイヤーがアクセルの街に接近しているらしい。

 

 デストロイヤーは、この世界では子供でも知ってる超大物モンスター ―――― 厳密にはモンスターではないのだが、それに匹敵する脅威だ。

 山の様な巨体がクモの様な八本足で走り回り、進行ルート上の生き物はおろか、アクセルのような街さえも跡形もなく踏み潰す危険な存在であり、デストロイヤーの通った後はアクシズ教徒しか残らないとまで言われる危険な存在・・・・何でアクシズ教徒までついでに恐れられてるのか。

 それはさておき、デストロイヤーにはノイズ謹製の魔法防御が全身に張られており、魔法で遠距離から攻撃するのは今まで一度もダメージを与えられなかったという。

 それじゃあ落とし穴なんかで動きを止められないか、といえば、その巨体から想像できないような身軽な動きで脱出され、じゃあ上から攻めればいけるんじゃないか、と何らかの飛行手段を用意すれば無数のバリスタが待っている。という驚異の防御性能だ。おまけに資料からは防衛用のゴーレムの存在まで確認されていて、多くの勇士、軍師が匙を投げたと言われている。

 ちなみにそのデストロイヤーを造ったノイズは、デストロイヤーの暴走で真っ先に滅んだのだとか。僅かに残った資料から、魔王軍対策という名義でデストロイヤーを製作した科学者がアンデッドとなって世界を滅ぼそうとしている、というのが最も有力な仮説として挙げられている。

 

 しかし、今回のアクセルは女神アクアが超性能な魔法解除の魔法を発動可能。めぐみんに加えウィズも爆裂魔法を使えるらしい。冒険者達の士気も和真を中心にかなり高いらしく、デストロイヤーから逃げるのではなく倒すため、一丸となって準備をしているところだ。

 その賞金もすさまじく高額で、報酬を参加者で山分けにしても借金の返済が大きく進むことは間違いない。個人的にも負けるわけにはいかない戦いだ。

 

 ―――それはそうとダクネス。()()、どこに置いてきたらいい?

「ん?何だそれは・・・待て待て待て、本当に何だそれは!?」

 ―――報酬。

「報酬・・・報酬・・・あ、ああ、実はお前のいない間に色々あって、家が手に入ったんだ。私達の中で一番手の空いてるカズマにでも案内してもらって行ってきたら・・・・あれ、徒歩で間に合うか?さっきの馬がいないが」

 ―――ああ、あれならほら、この通り。

「・・・・この際その馬についての言及は後にする。行くなら早く行けよ」

 

 俺はダクネスが示した方向に馬を走らせる。そこで和真と再会したのだが、

 

「おお、和真!久しぶり・・・だけど・・・・その馬は何なんだよ」

 ―――貰った。

「貰った!?こんな凄そうな馬を!?」

 ―――それはそうと手に入れたっていう自宅に荷物を置いておきたいんだけど。

「そ、そうか。今のところ行き詰ってる感じはないし、ちょっとくらいなら大丈夫だけど・・・それ、ちゃんと乗れるんだよな?」

 

 通常の馬とは違って魔力で乗る、というのが適切だが、整備された街中なら二人乗りも大丈夫だろう。

 

「ちょっ、いきなり乗せんなって!落馬したらお前のせいだからな!どうせ初めてなのに大丈夫だって思ったんだろその顔!」

 ―――ギクッ。

「まったくお前は・・・・せめて安全運転で行ってくれよ?」

 ―――了解!

 

 そして馬は幻獣さながらの脚力で、しかしほとんど足音を立てず、和真達が手に入れたという家まで・・・

 

 ―――屋敷じゃねーか!誰も住まないようなボロ家かと思ったら、完璧に屋敷じゃねーか!こんな屋敷をいったいどうして・・・・・・いや、それは今は置いておこう。荷物は庭にでも置いていけばいいのか?

「とりあえず荷物は屋内に置いときたいな。鍵開けてくるから、玄関にでも置いといてくれ」

 

 中身も外観相当の快適空間。俺・・・この戦いが終わったら、この屋敷の来歴とかを聞き出すんだ・・・

 そして荷物を置いたらまたアクセル正門前に戻り、俺はバリケード制作の最終調整の手伝いに回る。

 そもそもデストロイヤーを相手に通用するような防衛体制など机上の空論、ましてこんな辺境ではやるだけ無駄なのかもしれない。しかし、それは努力を諦める理由にはならないだろう。バリケードや落とし穴は大きさこそ駆け出し達の集まりといった程度だが、落とし穴を前から見えなくするように土で覆ったバリケードが築かれており、デストロイヤー側からは土の山に見えるだろう。うかつに山を越えようものなら転倒し、僅かでも隙が生まれるだろう。彼らは決して諦めていないのだ。

 先に工事をしていた人達の許可を得て、バリケードの一角にゴーレム製造のための()()()をする。予定通りに爆裂魔法を食らわせられたなら使うこともないだろうが、もしデストロイヤーがこのバリケードを越えようとするのなら俺のゴーレムがそれを押さえる。操作を抜きに重さだけ増せばいいのだ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

『冒険者の皆さん!そろそろ機動要塞デストロイヤーの姿が見えてきます!街の住民の皆さんは、直ちに街の外に遠く離れていて下さい!それでは、冒険者の各員は、戦闘準備をお願いします!!』

 

 機動兵器デストロイヤー。

 その脅威はまさしく破壊者(デストロイヤー)を名乗るのに相応しいものであり、もはや肉眼でも見え始めた今になってなお逃げない俺は、いや俺達は頭のおかしな奴らの集まりなのかもしれない。

 しかし、アクア、めぐみん、ウィズという希望が俺達の後ろ、外壁の上でデストロイヤーを待ち構えている。彼女達が上手くやれたとしても、俺達が動けなければ事態はどんな方向に転ぶかわからない。

 

 アクアの元から青白い光の球が放たれ、デストロイヤーに直撃する。デストロイヤーの巨体に対してあまりにも小さい光球だが、デストロイヤーの表面の膜の様な結界と僅かに拮抗(きっこう)し、まもなく結界はガラスが割れる様に壊れ、弾けながら消えていった。

 それでもデストロイヤーは止まらない。だが俺達の希望を背負うのも一人ではない。走り続けるデストロイヤーの脚部目掛けて二条の閃光が走る。その光は爆裂魔法。左右に四本ずつあったデストロイヤーの脚は粉々になり、胴体部分だけが重力によって大地に叩きつけられる。先ほどまで疾駆していた胴体は地面をえぐり、最前線で身構えていたダクネスの目の前でようやく静止する。

 

 ―――止まった?

 

 このまま何もしないというのなら明日にでもめぐみんの爆裂魔法の的にしてもいいのだが、内部でデストロイヤーを操縦しているであろう存在を考えるとそれは無理だろう・・・・・・と思っていたのだが、今のところ何かが出てくる様子はない。

 

「やったわ!何よ、機動要塞デストロイヤーなんて大げさな名前しておいて、期待外れもいいところだわ。さあ、帰ってお酒でも飲みましょうか!なんたって一国を亡ぼす原因になった賞金首よ、報酬は、いったいお(いく)らかしらね!!」

 

 わあ、見事なまでのフラグ建築。とはいえこんな要所要所でテンプレートから外れるような世界なんだ。あれくらい問題ないだろう。畑とかは大丈夫なのだろうか。体が軽い。こんな気持ちでクエストクリアするのは初めてだ。もう何も怖くない!

 

 

 ・・・・なんて思考は、デストロイヤーの方から聞こえる地響きによって中断させられた。

 この国では地震はほとんど無い筈。しかし、この世界のモンスターの中には天災に匹敵する超強力モンスターも存在するし、それが地響きを起こすケースもいくつか確認されている。

 そして、デストロイヤーもまたそれだけの脅威として人々から認識されており、それだけのパワーも持っている。

 

 ―――まさか。

『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難して下さい。この機体は・・・』

 

 その機械的なアナウンスは、目の前のデストロイヤーから聞こえていた。

 どう考えてもこれは暴走状態、もっといえば自爆直前の状態だろう。どうやって暴走を止めればいい?エネルギーの消費か?どうやって?安全装置とかはないのか?あるいはブラフ?いや、ブラフにしてはエネルギーが大きすぎる。百歩譲っても何も起こらないなんて事はないだろう。アナウンスに何かヒントはないか?そもそも今、内部はどうなってる?

 

 そんな俺の思考を中断するように、拡声器を使った和真の声が聞こえてきた。

 

『機動要塞デストロイヤーに、乗り込む奴は手を挙げろー!』

 

 その呼びかけに挙手で答える者はいない。

 アーチャー達がフック付きのロープをデストロイヤーに撃ち込み、それ以外は思い思いの武器を手にし、デストロイヤーに乗り込む行為を答えとしたのだ。

 彼らは一様に士気が高く・・・・あれ、ちょっと高すぎない?逃げる人もいくらか出ると思ったんだが、むしろ何人かの女性冒険者が男性冒険者達の勢いにドン引きしてるというか・・・あ、アクアもその一人だ。

 

 少し出遅れてしまったが、俺も乗り込もう。どこまで出来るかは分からないが、無力とも限らない筈だ。

 サキュバスの少女――そのうちあの子も呼び名とか付けようかな――を召喚するのも可能だが、色々な意味で未知数だ。あれは秘密兵器的な立ち位置にしておこう。

 

 俺は先発の冒険者達に続き、デストロイヤーから伸びるロープを(つた)って機動要塞へと乗り込んだ。




・ファントムオブキル
「gumi」社制作のシミュレーションRPG。スマートフォン向けのアプリゲームだがDMMからブラウザ版のサービスも実施。伝説の武器が擬人化したキャラ『キル姫』が多数登場し、メインヒロインのティルフィングはCV:雨宮天。
 今話投稿時点でこのすばコラボ実施中・・・なのだが、このコラボ、やたら豪華仕様である。ヒロイン3人の実装はまだしも、イベントクエストで獲得するタイプとガチャ産のちょっとキメ気味なバージョンのみならず、水着バージョンまで含めた3パターン×3、さらにゆんゆんとウィズ、このすばキャラのコスプレをしたファンキルキャラ3種で合計14種(+α)のコラボキャラが使用可能。このコラボストーリー専用の演出もあり、ものすごく特別感がある。しかしスキル習得用のクエストでは主人公(和真とは違いすぎるイケメンな言動)と絆を深めるため、キャラ崩壊と受け取られる可能性があるので注意。
 ・・・注意とは言ったが、このアプリで本当に注意すべきはその容量である。データの一括ダウンロードを行うと操作が快適になるが、現在それをすると6GB以上の大容量になる。ちなみにFGOはデータを一括ダウンロードすると4GB以上。プレイするなら上述のブラウザ版も考えておくべき。
 後、キャラの恰好がエロい。某花騎士並み・・・は言い過ぎかもしれない。やっぱ言い過ぎでもないかもしれない。実際どうなのかは自分の目で確かみてみろ!(グーグル可)


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攻城戦

 ここまで読んでくれる読者の方なら、今話のご都合っぷりも笑って許してくれると信じて――――


 ちなみに今話以上のチートは当分出てくる予定はないです。


 機動要塞デストロイヤーに乗り込んだ俺が見たものは、防衛用であろうゴーレムと意外にもいい感じの戦闘を繰り広げている冒険者達だった。

 単体であればゴーレムの方が強いのだろうが、冒険者側の数と勢いがその差を埋めている。ロープ等で転倒させてから袋叩きにする戦法は着実にゴーレムの数を減らしているが、反撃をくらって手痛いダメージを負う冒険者もちらほらと見える。この調子ならば全滅はしなさそうだ。

 少し遅れてやって来た和真とアクアもこれを見る。一瞬だけ目を丸くし、そして微妙な表情になった。まあ街を守るって感じの絵面じゃないしな・・・

 

 ふとゴーレムから視線を外すと、砦の様な建物の扉を壊そうとしている冒険者がいた。彼らはこの扉の奥にデストロイヤーの主が立て籠もっていると考えているらしい。多分扉の奥あたりがデストロイヤー胴体の中心にあたるだろうし、動力なり制御装置なり大切な部分がありそうだ。

 

 ―――あれを突破するにはどうするべきか・・・

「デカイのがそっち行ったぞーっ!」

 

 その声に反応して振り向くと、一際大きなゴーレムが今にも殴りかかろうとしていた。

 俺の横にいた和真もそれに気づいたらしく、俺達は別々の方向に跳び退いてそれを(かわ)す。

 床の形こそ変わらなかったが、それは単に床が硬質の素材で出来ていただけだろう。感じた衝撃は凄まじく、岩さえ一撃で破壊できるだろうと俺に思わせた。

 しかし、和真は不適な笑みを浮かべて言った。

 

「俺があのゴーレムを倒す。なーに、心配すんな。俺には秘策がある」

 ―――秘策?それって一体・・・

 

 和真はゴーレムに向けて右手を突き出す。手のひらを上に向け、その指をわきわきと不審に動かしている。

 そして彼は必殺のスキルを叫ぶ。その名は――――

 

「『スティール』!」「ちょっ!カズマ、待っ・・・」

 

 和真の発動したそのスキルは、ゴーレムの巨大な頭部をその手に盗み取った。

 ・・・・・・その直後に和真の細腕がその重量に耐えられずに床に叩きつけられ、悶絶するはめになったが。

 

「っぎゃー!腕が!腕があああああっ!」

「ああっ!大丈夫ですかカズマさん!?重い物を持っているモンスター相手には、スティールを使ってはいけませんよ!」

 

 激しく手を痛めた和真はウィズの言葉を聞いていないだろう。あえて聞かずとも痛いほど理解しているだろうが。

 

「アクア・・・これ折れてる。絶対折れてるよ」

「ヒビも入っていないわよ。一応ヒールぐらいかけるけど、あんまり調子に乗ってバカな事しないでね?」

 

 こうして痛い目にあった事を不幸と嘆くべきか、致命的なダメージを負わずにそれを理解した事を幸運と見るべきか・・・知識不足は運とかじゃないただの努力不足だが、そこを偶然でフォローできたと考えればやっぱり幸運・・・?

 

 

 

「開いたぞーっ!」

 

 不意にその声が聞こえる。どうやら開いたのはあの扉らしい。

 雪崩のように扉の奥へと突き進む冒険者達は、その凶暴性に反して効率的にゴーレムを破壊している。ゴーレムは数こそ少なかったが、本当に駆け出しなのかと問い詰めたいくらいだ。

 そうして来た、見たら勝ってた、とばかりのハイペースで進んだ奥の部屋では、その冒険者達が一様に沈んだ表情をしていた。

 部屋の奥にある椅子には、この機動要塞を乗っ取ったと言われている科学者らしき――――白骨死体が座っていた。

 後ろの方にいたアクア達を呼んで、この死体について何か分かることがあるか聞いてみる。すると、

 

「すでに成仏してるわね。アンデッド化どころか、未練の欠片もないぐらいにはそれはもうスッキリと」

「スッキリと、って・・・・・・未練くらいあるだろこれ。どう考えても一人(さび)しく死んでった、みたいな・・・」

「やるべき事は全部終わらせてから、毒か何かで?」

「ああ・・・・確かデストロイヤーはいくつもの街を破壊してきたんだっけ?その中に何かの恨みがある国があったか・・・?ん、聖それ何だ?」

「そこに・・・」

 

 俺は資料の山の中にあった手帳らしきものを開く。どれどれ中身は・・・・・・

 

 ―――っ。

「ん?何か変なものでも描いてたのか?」

 ―――いや、大丈夫だ。いやしかしこれは・・・・説明に困るから全部終わってから改めて話すか。さて、内容は・・・

 

 

 その内容を三行で表せというのなら、俺は以下の様にする。

『上からクモを叩き潰した用紙を上司にだしたらとんとん拍子に機動要塞が出来たよ!

 酒に酔った勢いで動力源のコロナタイトを根性焼きしたらデストロイヤーが暴走したよ!

 ヤベえどうにもならねえ\(^O^)/』

 

 こんなもんである。本当にこんなもんである。

 君咲学院にもこんな馬鹿はいなかったぞ・・・あいつらは自分の手に負えない事態を故意に起こすような奴らじゃなかったからな・・・

 おそらく、この場にいる大半の冒険者は同じ感想を抱いているだろう。俺もそうだ。せめて皆と一緒にこの想いを叫ぶとしよう。

 

 

「「「「「「なめんな!」」」」」

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 さて、この記述から察するに、動力のコロナタイトさえどうにかすれば爆発(物理)寸前の現状を打破できるかもしれない。

 しかし、これは人数を揃えてどうにかなる話ではないだろう。そう考えた俺達は、優れた魔法使いであるアクアとウィズに、汎用性の高い俺、咄嗟の判断力に優れた和真の四人で動力炉に向かうこととなった。

 

 手記を見つけたのとは別に内部を荒らしまわっていた冒険者グループが動力炉らしき部屋を見つけており、防衛用ゴーレムも軒並み機能停止している通路を指示に従って駆け抜けるだけで動力炉に到着した。

 そこには赤々と光り輝く()()が、謎の装置の中央に浮かぶ形で存在していた。手記から読み取れる動力炉の情報はここのものと一致しており、他にそれらしい部屋も見つかってない以上ここが動力炉で間違いなさそうだ。

 装置の中の物体――手記にあったコロナタイトだろう――は鉄格子でしか守られていないが、どう見ても赤熱しているコロナタイトを長い間守り続けていたにしては経年劣化がさっぱり無い。どうなってんだこれ・・・?

 俺がゴーレムを作る要領で変形させようとしてもビクともしない鉄格子は、和真のスティールで素通りされる結果に終わっていた・・・・・・直後、和真の右手が赤熱したコロナタイトで激しい火傷を負うことになったが。

 

「あああああああああ!!」「『フリーズ』!『フリーズ』!」「『ヒール』!『ヒール』!」―――天丼じゃねーか!

「ねえ、バカなの?カズマって、普段は結構知恵が働くって思ってたんだけど、さっきのゴーレムの件といい、実はバカなの?」

「他に手段、あった?」

「それは・・・思いつかないわね・・・」

 

 犠牲になった和真の手は早急な処置もあって大事には至らなそうだが、コロナタイトは装置から外しても依然として発熱し続けている。放っておけば確実に爆発か何かを起こすだろう。

 これを封印とかできないのか、と和真はアクアに怒鳴っているが、理論上はこのコロナタイトを無力化できる手段は俺にもある。ただそれを可能にするだけの魔力が俺の中にないという決定的な問題がある・・・・・・しかし、()()を使えばその問題を解決できるかもしれないし、どうにもならないかもしれない。ひょっとしたらより悪い事態になるのかもしれない。しかし、このままにして起こるであろう事態よりはマシだろう、とは思う。こんなところで死ぬくらいだったら・・・・・・!

 

「ん?サトシ、その魔導書みたいなのは何だ?この状況をどうにかできるんなら正直何だっていいんだが」

 ―――あいにくこれもぶっつけ本番なんだ。「『インスタント・サモン・デビル』!」

「はあッ!?女神として無視できない名前の魔法が聞こえたんですけど!ここがアルカンレティア辺りだったら私の可愛い信者達が集団で神罰かますレベルなんですけど!」

 

 やっぱり人前で使うのはマズい奴だった!アクアの宥め方は後で考えるとして、夢の中で偶然できたアレが今度も成功するかどうか・・・

 普通なら事前に用意する魔法陣の中に召喚して行動を制限するところだが、今回は俺自身と一体化する形に召喚する。普通なら間違いなく召喚失敗するであろう無茶だが、成功するという謎の確信があった。

 召喚が始まるとともに、強い異物感が体内・・・特に背中辺りに発生し、やがて俺の背中から何かが飛び出す。それと同時に異物感も収まり、俺の能力が全体的に上昇しているのが感じられた。背中の何かはわりと小さく、自分の目では確認できそうにない・・・が、動かす感覚や触り心地からして悪魔の翼なのだろう。召喚したあいつと同じ色だったりするのだろうか。だが腕の肌の色はウィズくらいには白くなっており、確信はできない。

 

 ともあれ、今はコロナタイトの処理だ。

 まず、コロナタイトから溢れるエネルギーを床へと放出する。色々な処理で強化されていたであろう床がどんどん溶けるほどの熱量だ。

 そしてそこにコロナタイトを置き、溶けた床を操って覆い被せる。『クリエイト・ゴーレム』系列の魔法とは切っても切れない縁といっても過言ではない『錬金』の魔法だ。これだけでは何の解決にもなっていないが・・・

 そこから更に『錬金』の魔力を増やす。床とコロナタイトが高熱を伴ってグルグルとかき回され、溶けあっていき、その地点から(ほとばし)るエネルギーは徐々に小さくなり――――コロナタイトは原子レベルでその存在を変質。一気に危険性の下がった新しい物質に変化した。

 

「・・・・・・すっげぇ」

 

 和真がそう漏らす。実際俺もここまで上手くいくとは思ってなかったが・・・

 

 ―――ッ。

「え?今ふらついてたけど、何かヤバい状態だったりする?」

「ただの・・・気絶・・・・・・」

「えっ、ちょっ、本当に大丈夫か!?とりあえず外に・・・!」

 

 慌てる和真の声を聞きながら、俺の意識は途絶えた・・・




 もうそろそろ・・・もうそろそろオリジナル回を入れられる・・・


・『インスタント・サモン・デビル』
 当作オリジナルの魔法および接頭語。
 『サモン・デビル』は文字通り悪魔を召喚する魔法。用途や呼ぶ悪魔ごとに使う魔法陣が違うため、魔法そのものというより魔法のジャンルとして見たほうが適切かもしれない。でもその辺を細かく魔法名にすると長くなるので基本的にこの呼び方。
 『インスタント』は「即席」などの意味の接頭語。今回は正式な契約ではない上、制御用の魔法陣なんかも設置する余裕がなかったためのインスタント。他の複雑な魔法でもこの接頭語をつけることは可能だが、基本的に魔力消費や所用時間を軽減する代わりに威力の減少が起こる。


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デストロイヤー戦の翌日に

 とうとうやりました。
 原作で名前の出なかったロリサキュバスにオリジナルの名前を付けました。
 ここでのキャラ名に特に由来はありません。強いて言えば母音が"aiu"になるのを意識した程度です。


 目が覚めると、頭上には知らない天井があった。

 

「おう、おはよう・・・でいいのか?そろそろ昼飯でも食べようかと思ってたくらいの時間だけど」

 

 横を見て、和真と俺の目が合う。

 何で俺はそんな時間まで寝ていたんだったか・・・確か、俺はデストロイヤーの動力を―――

 

 ―――デストロイヤーはどうなった!?

「落ち着けって・・・お前がコロナタイトを床と一体化させてよく分からない物質に変化させたおかげで、発熱が一気に弱まって簡単に対処できるようになった。それとは別に機体に溜まってた熱が暴発しそうだったけどめぐみんの活躍で無事だった。で、今はそれから丸一日くらい後で、お前はその間魔力不足でぐっすりだ」

「めぐみんみたいに」

「理屈はあれと同じだけど、今回のお前の方が危険な状態だったらしいぞ?さっきまで意識もなかった訳だし」

 

 めぐみんは爆裂魔法を使っても、何だかんだで騒ぐくらいの余力はあるしな。

 そんな事を考えていると、和真は俺に何か聞きたそうにしていた。

 

「いや、な?お前が気絶する前に使ってたあれ、いったい何だったんだ?使ってた魔法は悪魔召喚だけど結果が明らかに違う、ってアクアが言ってたな。クリエイターのスキルでもなさそうだし、冬将軍にでも教わったのか?」

「違う・・・・・・・・体質?」

「体質・・・悪魔を召喚したらあんな感じになる体質?」

「あんな感じ?」

 

 あれはぶっつけ本番だったから、鏡なんて見てないんだよな・・・多分悪魔みたいになってたと思うんだけど。

 

「シルエットだけなら悪魔だったんだけど、色は天使みたいな感じだったな。白いコウモリみたいな翼が背中から生えてた。角は生えなかったけどな」

 

 どう考えても普通じゃない見た目だよなそれ。

 

「綺麗っちゃあ綺麗なんだろうけど・・・リッチーのウィズもそんな見た目の存在には心当たりがないらしい。あの時何をやったんだ?」

「俺と一体化する形で悪魔を召喚」

「・・・・邪気眼にでも目覚めたのか?」

「少し前に・・・ひょんな事から・・・合体できた」

「ひょんな事でまとめんな」

「夢の中にサキュバスが来て・・・俺に触れたら、合体してた」

 

 うん、自分でも言ってておかしな展開だとは思ってる。

 

「つまり・・・サキュバスがお前と性的に合体しようとしたら、お前とドラ*ンボール的にフュージョンしたって事なのか」

 ―――そうなる・・・・・・痛っ、なんで叩いた!?

「突っ込みどころが多すぎるから」

 ―――納得した。

「納得すんのか・・・」

 

 

 ────────────────────

 

 

 そういえば聞きそびれていたが、ここは和真達が手に入れた屋敷でいいのだろうか?

 

「ああ、部屋に空きがあったから、そこに寝かせてたんだ。お前が持ち帰った荷物とかはそこに置いてある・・・ところで、あれって報酬なんだよな?冬将軍から貰った奴」

 ―――あ、見てなかったのか。中身は金貨だ。

「おおう・・・すげえな・・・・・・これだけあればデストロイヤーの報酬を全部借金返済にあてても余裕があるんじゃないか?」

 ―――報酬ってもう貰ったのか?

「いや、王都の方にある本部にデストロイヤー討伐の報告をして、それが確認できたら金をかき集めて・・・って感じだしまだだな。なるべく迅速に報酬金を準備するって受付の人は言ってたけど、数日は必要らしい」

 

 俺が調べた賞金首モンスターの中でも、デストロイヤーの報酬は他より頭一つ高かったからな・・・あれ以上の賞金首なんてそれこそ魔王くらいだぞ。

 

「そういえばアクアの奴、お前が何をやったのか知りたがってたぞ。神と悪魔は相容れないってあいつ言ってたし、上手く誤魔化しといた方がいいんじゃないか?」

 ―――・・・・・・頑張ります。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「サトシか!しばらくお前の顔を見てなかったけど、仕事で遠出でもしてたのか?」

 ―――そんな感じ。

 

 しばらく居なかったアクセルの街も、流石に数日程度では大した変化もない。

 もしデストロイヤーがここまで到達していれば、変わらぬ街並みではなく瓦礫の山が俺を迎えていたのだろう。そう考えると俺達は凄い事をやったのだと思える。

 そして今、そんな物思いにふけっている俺に寄って来るのは・・・

 

「おや、何やらビームを撃てるようになったと噂のサトシじゃないですか。確か屋敷で寝込んでいたと思うのですが、もう大丈夫なのですか?」

 

 めぐみんだった。アクアに背負われて移動しており、いつもの爆裂をどこかに放った帰りなのだと分かる。

 

 ―――大丈夫だよーほらほらこの通りー。

「一目で大丈夫と分かる動きですね・・・・・・正直ちょっとキモいです」

 ―――そんなー・・・

「えっ、何ですかその悲痛な顔は!?そこまで気にしなくてもいいですから!」

 

 じゃあ落ち着く。

 それはそうと、アクアは俺に聞きたい事があるらしいが。

 

「そうよ!サトシがあの時使ってたあの魔法!あれが悪魔召喚の魔法だったら、偉大なるアクシズ教の女神としては見過ごせないんですけど?場合によっては鉄拳聖裁も辞さないんですけど?」

 

 確かにあれは悪魔召喚だが、一応のストーリーは考えてある。

 

「向こうに悪魔が出た。狩った」

 

 完璧な回答だ。これで大丈夫な筈だ。

 

「「・・・・・・・・」」

「・・・・・・・・」

「・・・・もうちょい詳しい説明が必要さと思うんだけど?」

「・・・よく分からない。気がついたら・・・・・・吸収?してた」

 

 実際によく分かってないのだからこれ以上の説明ができない。向こうの様子も確認したいし、またサキュバスの店にでも行くべきか・・・

 

「・・・・とりあえず今はそういう事にしておくけど、もしサトシが悪魔の手先なんかになったりしたらタダじゃおかないからね!」

 

 そう言って、めぐみんを背負ったアクアは屋敷へと戻っていった。

 めぐみんのあの目は、厄介な女(アクア)に絡まれた俺に同情しているのだろう。必ずしもアクアの大言壮語という訳ではないのだが、彼女の語る内容が信じられる日は来るのだろうか。

 

 

 

 ・・・そういえばダクネスはどこにいるのだろう。和真も心当たりが無いらしいのだが。

 昨日もしばらく何処かに行っていたらしいし、大した問題でもないと思いたいが。

 

 

 ────────────────────

 

 

 サキュバスの店を訪れたが、何やら男の冒険者で賑わっている。

 行列ができている訳ではないが、前回より明らかに客が多い。近々まとまった金が入るだろうと考えて、今から金を使っているのだろうか。

 

「あ!サトシさんじゃないですか!昨日は大変でしたね・・・」

 ―――まったくだな。デストロイヤーに対処するために、咄嗟(とっさ)にあれをせざるを得なかった・・・あっ、そうだ。

「あの子と話したい」

「あの子・・・ああ、あなたが契約した・・・・すみません、今は客が多く、彼女も接客に回っていまして・・・少しだけ奥の方で待ってもらってもよろしいでしょうか?」

 ―――ああ。

 

 三十分くらいだろうか。

 前回も座った来客用らしきソファに座って待っていると、彼女は駆け足気味に部屋に入ってきた。

 

「すみません、待たせてしまって・・・・何と言いますか、昨日は大変でしたね・・・」

「俺は()()後寝込んだ。お前は?」

「寝込んだんですか!?こっちはちょっと拍子抜けするくらいに何もなかったですね・・・不調とかはないんですけど、新しいスキルを習得する、みたいな事もです」

 

 一呼吸おいて、彼女は続ける。

 

「分かっているとは思いますが、私はサキュバス・・・悪魔としては下位の存在です。それに、淫魔自体が精神干渉に特化しているので、本来なら昨日あなたが扱ったような強大な魔力とは縁遠い存在なんです。

 

 結論を言いますと、昨日私とあなたが合体した時のあの力は、あなた自身が持っていたものである可能性が高いんです」

「それがどうして?」

「分かりません・・・ですが、私達サキュバスというより、悪魔という種族全般があの力を引き出す要因になれるんだと思います。そっちの方がまだ自然ですし」

 

 まあ、そうだな。サキュバスに依存する力とか何を想定したものなのかと。

 

 しかし異世界まで来て俺自身の秘密の存在が明かされるか・・・悪魔関係となるとあまり良いものとは考えにくいが、一種の特異体質って事で受け入れてもらえる・・・かなぁ?

 君咲学院や夢ノ咲学院には特殊な体質の人間が多くいたな。常人の数倍あるいは数十倍の腕力を無意識に発揮してしまう少女、水中の環境に適応した代わりに乾燥に弱い少年、日常生活にさえ悪影響が及ぶレベルの聴覚を持って生まれた少女・・・考えればキリがないが、その中に悪魔と融合し力を発揮する少年がいてもおかしく・・・おかしく・・・・・・おかしくないな(適当)。

 昨日は力を使った後に気絶したが、あんな風に倒れるのはなにもめぐみんだけの特権ではない。魔法初心者が無理に身の丈に合わない魔法を行使しようとすれば同じように倒れる。才能次第では効果だけはある程度発揮してから倒れる例もあるらしいが、昨日の俺はまさにその状態だったのではないだろうか。

 で、そうなると特訓が必要になるだろうし・・・

 

「これからも、よろしく」

「え、えっと・・・それは、私と正式に契約をするってことでいいんですよね・・・?」

「せっかくだし」

「そ、それじゃあよろしくお願いします!」

 

 彼女は二つ返事で了承し、具体的な契約内容を見直すことから始め・・・

 

「ところで、名前は?」

「名前、ですか・・・」

 ―――どうかしたのか?

「いえ、実は私達みたいな下級の悪魔には、個別の名前が無いんです。実績を積むか、人間と契約を結んで初めて名前を名乗る資格があるんです。先日の契約は、後日契約内容に変更を加える意思がお互いにあったので、正式な契約とはならなかったんですけどね・・・」

「この契約なら名乗れる?」

「はい!それで・・・・・・実は、今までに考えてた名前の案が、ここにまとめられてるんですが・・・」

 

 すごく楽しみにしてたんだな・・・羊皮紙一枚だがその密度がすごい。よりどりみどり過ぎて迷う・・・いや、この横線は取り消してるのか。人の黒歴史を見ている気分だ・・・『バニ』とか『ニル』とかの文字が入ってる名前がけっこう取り消されている。憧れの人とかだろうか。乙女だ・・・

 そんなことを考えながらリストを読み上げ、ある名前に目が行く。

 

「サリス・・・ですか?」

 ―――嫌、か?

「い、いえ!何と言いますか、今後はこの名前を名乗ることになるじゃないですか・・・そう思うと感慨深く・・・

 

 これから私はサリス、なんですね・・・」

 

 サリス、彼女が考え、俺が決めた名前。

 彼女――――サリスとはもう他人同士とは言えないな。この関係をどう表現するべきなのかは分からないけど・・・・・・ん?

 

 ドサドサドサッ!

「「「・・・・・・・・」」」

「「・・・・・・・・」」

 

 サリスの先輩のサキュバス達だ。どうやらドアの向こうからこちらの様子を(うかが)っていたらしい。

 

「「「お、おかまいなく」」」

「~~~っ!」

 

 サリスは顔を赤くしながら、涙目で先輩達をぽこぽこし始めた。可愛い。

 ・・・しかし彼女達にとって、今のやり取りはどういう扱いなのだろうか。




熊沢(くまさわ) ひめの
 君咲学院1-C所属。三つ編み&アホ毛な糸目の茶髪ちゃん。
 テニス部に所属する癒し系少女。しかし常人をはるかに上回る筋力を持ち、しばしば物を壊してしまう。
 彼女はその力をいいことに使いたいと思っている。その思いを胸に彼女は『七夕セブン』として日々努力しているのだ・・・☆


深海(しんかい) 奏汰(そうた)
 夢ノ咲学院3-B所属。水色の髪と目にアホ毛。
 海洋生物部の部長であり、ユニット『流星隊』のブルー担当。また、『三奇人』という有能な変人達の一角に数えられている。
 ふだんからのんびりしたせいかくで、ほぼすべてのせりふをひらがなでしゃべる。なにやらうみにまつわるでんせつをもったいちぞくのとうしゅらしく、じしんを『いきがみさま』としょうしており、じしんのかていについてたにんにかたることをさけている。 


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まあ残当

 デストロイヤー討伐の報酬が出るまで、俺はスキットル――強い酒やポーション等を入れる携帯用の水筒――を作るアルバイトをして時間を潰していた。

 

「なんで普通の生産スキルのはずなのに()()使ってるんですかねえ・・・」

 

 和真がツッコんだように、サリスと一体化しながらの作業――――傍目には悪魔の様な翼を出現させながらの作業である。

 別にスキットルに闇系の力を()めたかった訳ではない。単にこの力を扱う練習を兼ねているだけだ。

 

 この姿の俺は、普段より格段に強い力を発揮する・・・と思っていた。

 だが実際には、筋力や敏捷性などの身体能力は見た目のインパクトほど大きく上昇せず、大きく強化される数値は魔力量くらいだ。

 しかし、増加した魔力で放たれる魔法、スキルのレパートリーはしっかりと増えていた。まず目につくだけでも《チャーム》や《潜伏》、『ダークネス』などのスキル、魔法のいくつかが合体中のみ使用可能になった。また、増えた技能の多くはサリスが習得していたのであろうものだが、『エクソシズム』や『ターンアンデッド』など、どうして使えるのかさっぱり分からないものもいくつかある。

 そして、大半の魔法は神聖属性や闇属性の魔力を利用することで強化可能なのだが、今までできなかったそれが合体中のみ可能になったのだ。

 ただ、その「大半」に含まれない組み合わせでの魔法の強化もいくつか可能なようだ。例えば、アクアも使う『ターンアンデッド』は神聖属性が根幹にあり、闇属性で強化しようとしても相反(あいはん)する属性同士で打ち消しあい、成立しないのが普通だ。しかし今の俺はそんな矛盾する組み合わせを実現させられる。気がする。原理は知らん。

 戦闘関係のスキルは、近いうちにモンスター討伐にでも行って使い勝手を把握する必要が・・・あ、今は冬だからそんな簡単な依頼も無いな。

 

 おっと、俺の魔力もそろそろ尽きかける頃か。スキットルの納品もする必要があるし、数もちょうど六十個でキリがいい・・・筈だ。一度外に出ることにしよう。

 

 ────────────────────

 

「おおっ!こりゃまたすごい数だなぁ・・・いくつ作ったんだ?」

「六十・・・の筈」

 

 スキットルの作成を依頼した魔道具店が、その数を確認する。出来高制だから多すぎて困る訳でもないが、俺のイメージの中の(ひいらぎ)さん(いわ)く、「仕事で稼ぐ金にガサツな奴はあっちゅう間にカモにされてもおかしないわ!」とのことだ。店員のカウントに誤魔化しがないかは目で追って確認している。

 そしてその対価として払われた金はおよそ一万エリス。小遣い稼ぎ程度の依頼にしてはかなり多い金額だ。

 

「大抵の生産職は、小遣い稼ぎだったらガラスの瓶を作るからな・・・・そっちの方が一般的だし作りやすい。スキットルを安定して生産できる奴らは、数の必要なガラス瓶を大量生産してまとめて売る方が儲けになるってのもある」

 

 その方が手数料なんかが安上がりで喜ばれるからな。スキットルの大量生産なんて王都とかで生産職を専門にしている人達くらいしかやらないという話だ。

 

「そんな訳で、今回の報酬はちょっとばかし割り増ししてる。お前さんには今後も頑張って欲しいしな」

 

 こうやって感謝されるというのは実に嬉しいものだ。これが人助けってものですよ。

 ついでなので、棚に並んでいるポーションを物色する。俺のポーション作成のセンスは、まあ0とまでは言われない程度といったところか。荷物として持ち歩くのなら店売りのものを選ぶ。

 そうして購入した回復用のポーションを家に持ち帰っていると、通りで噂話が聞こえた。

 

「なあ、知ってるか?氷の城の話」

「名前だけはな。どういう話なんだ?」

「隣町の方に小さな丘があるだろ?あそこはこれまで大した話題もなかったんだが、そこに氷でできた見慣れない城みたいなのが出現したって話だ」

「城ぉ?誰がいつ建てたんだよ」

「それが分からねえんだ・・・聞いた話によると、ここ数日は妙に霧が濃くて、丘の方に行く奴がいなかったんだが、その霧が晴れてみれば以前は無かった建物が現れてた・・・って話よ」

「へえー・・・・・・中の調査とかはやったのか?」

「隣町で隠居生活している元勇者候補がいるんだが、そいつにも攻略は無理そうって話だ・・・」

「それって、手から火を出すとかいう爺さんの事か!?氷の城だったら火で溶けそうなもんだが・・・」

「それが全然溶けなかったらしい。内部にいるモンスターもえらく強くて、その爺さんも匙を投げたらしい」

「年取ってたとはいえ、相当ヤバいダンジョンみたいだな・・・王都から調査隊の一つも来そうだな」

「違えねえ」

 

 ほう、ほうほう、俺の建てた城はなかなか話題になってるようだ。話の内容的に、城の完成度より内部のモンスターの強さの方が注目されてるみたいだが。

 しかし、せっかく俺が一から建てた城だからな・・・それが王都のエリート達に容易く攻略され、最悪なら破壊される、というのはいい気はしない。しかし、あの冬将軍に加勢するのは、俺が足手まといにならなければ良い方だと思う。

 俺が建てたあの城に住んでいるのは冬将軍で強敵です、とでもギルドに伝えるか?それは信憑(しんぴょう)性が薄い。知り合いのルナさんを含めても、信じてくれる人はいないだろう。

 ・・・・・・まあ、なるようになるか。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 それから二、三日後。

 冒険者ギルドには多くの冒険者が集まっていた。私服の者も多くいるが、おそらくこの街の冒険者が文字通りに全員集合しているのだろう。

 俺達五人はその一ヶ所に集まって立ち話をしていた。

 

「皆。今更私が言う筋合いじゃないかも知れないが、改めて礼を言う。この街を守ってくれて・・・本当に、ありがとう・・・!」

 ―――半泣きじゃないか。そんなにこの街が好きなのか?

「ここで話すことでもないから、家に帰ってからになるが・・・ちゃんと私の事を話そうと思う。それを聞けば、多分分かってくれるだろうからな」

 

 そうダクネスが涙ながらに語る。

 

「そういやお前、今回やたらと格好良かったな」

 

 和真の言う通り、彼女はデストロイヤーを前に一歩も引かず、まるでクルセイダーの鑑のような立ち姿を・・・・

 

「一番何もしなかったけどな」「!?」「そういえば、ダクネスは今回、街の前で立ってただけねー」

 ―――そういえば立ち姿しか見てない!

 

 和真、アクア、俺の表情にまだ続く。

 

「私はもちろん、日に二発も爆裂魔法を撃って大活躍でしたからね」「そういえば、カズマさんこそ大活躍だったじゃないですか!」「いやいや、ウィズだって爆裂魔法を・・・」

 

 めぐみん、いつの間にかいたウィズ、二言目の和真と、それぞれの活躍を褒め称える。

 

「・・・で、街を守るって駄々こねてた、お前の活躍は?」

「こっ、こんなっ!こんな新感覚はっ!・・・わあああああーっ!!」

 

 とうとうダクネスは顔を真っ赤にしてその場にしゃがみこんでしまった。流石は和真さんですわぁ・・・

 

 そうこうしていると、周りの冒険者達がおおっ、と声を上げる。何事かと辺りを見回すと、彼らの視線はギルドのカウンター―――正確にはその奥から出てきたルナさんと、その後ろにある札束の載った手押し車に向けられていた。すると、あれが今回の報酬金か?

 

「冒険者の皆様!デストロイヤー討伐の報酬金を支払う準備が整いました!順番に支払うために、一度整列していただく必要があるのですが、その前に皆様に支払われる金額を説明します!」

 

 全員の視線がルナさんに向いたのを見計らい、その金額が発表される。

 

「今回の緊急クエストに参加した皆さんに、三千万エリスが支払われます!大金を持ち歩くのが不安という方は、ギルドで一時的にお金を預かるサービスもありますのでそちらもどうぞ!」

 

 わずかな沈黙の後、冒険者達は一様に歓喜する。建物が震えたのではないかと思う程の大歓声が響いた。

 これだけあれば、借金を完済しても全然余裕がある。

 

「ですが、今のうちにこれだけは言っておきます。確かに大金が手に入りますが、しばらく何もしなくてもいい、とは考えないで下さい」

 

 困惑する冒険者達。その中で、俺は嫌な予感を感じていた。見れば和真もそんな表情をしている。

 

「ここから西、位置的には隣町の方が近いのですが、謎の城が突然出現しました」

 

 あっ・・・(察し)

 

「その城は氷で出来ておりますが、火属性の魔法、スキルで溶ける様子はありません。中のモンスターは総じて強力で、レベル30以上の冒険者のみ、かつ四人以上のパーティーでないと基本的に探索の許可は出せません。現在は王都からの調査チームを待っています」

 

 俺らには許可が出ないな。

 

「中のモンスターが外に出てくる様子はありませんが、今後も状況が変わらないという保証はありません。その城に何かしらの影響を受けるモンスターがいない、という保証もです」

 

 わ、わぁ。お、おそ、怖ろしいハナシダナー・・・

 

「この街ですとレベル30以上の冒険者は数えるほどしかいませんが、場合によっては皆さまの活躍に期待せざるを得ない事態にもなるかもしれません。注意をお願いします」

 

 しんと静まり返るギルド。そんな空気を吹き飛ばすように、またルナさんが口を開く。

 

「・・・とはいえ、皆様がこの街を救ったのは事実です!これから報酬金の受け渡しを行いますので、カウンターに一列に並んで下さい!」

 

 ────────────────────

 

 報酬金を受け取り、自宅へと帰った俺達。今回の報酬で借金も返したのだが、

 

「なあ、お前が城を建てたっていう丘はどこだ?」

 

 和真が俺に聞く。

 

「アクセルから西・・・隣町に近い・・・・・・」

「・・・念のために確認するけど、その城は冬将軍が住むためのものか?」

「・・・その筈」

「冬将軍はどこかに攻め込むつもりとかありそうだったか?」

「なかった」

「「・・・・・・・・」」

 ―――何か責任とか取るべきか?

「・・・俺達だけの秘密にしとこう」

 ―――うん・・・・・・




 この後オリジナル展開を少々挟んでから3巻の話に入ろうと思います。


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技名決定と戦闘

 デストロイヤー討伐の報酬を受け取った数日後。ギルドから冒険者達にある通知があった。

 なんでも、西方に突如現れ(おれがたて)た城の近辺を中心に、モンスター達の活動がにわかに活発になっているらしい。

 城に住む何か強大な存在を恐れているのでは、というのがギルドの見解だが、確認されているモンスターにゴブリンもいると知った和真が何かを察したような表情になった。

 

「いやな?実はお前がいない時にチンピラに絡まれて・・・ああ、そいつらとはもう和解して、今では時々一緒に飲むくらいには仲はいいんだが・・・その時に流れで受けたクエストはゴブリン討伐なんだ。それが実は初心者殺しっていうヤバいモンスターに誘導されて来た群れだったんだ」

 ―――初心者殺し・・・確か相当狡猾なモンスターだって聞いたな。

「弱いゴブリンを囮にして討伐に来た冒険者をおびき寄せ、ゴブリンなんかとは比べ物にならない力でそいつらを捕食する・・・って話だ。そのときの奴の存在は報告したんだが、結局討伐できたって話は聞いてない。もしかしたらそいつがまた来たんじゃないか、って思ってな」

 ―――強そうな相手が来たら逃げる・・・みたいな話もあったと思うんだが、撃退したって訳じゃないのか?

「いやあ俺は・・・そいつの目に砂をかけて逃げただけだから・・・・・・恨まれてそうな気がしてきた」

 ―――それは・・・相手はかなり知能がありそうだあしなぁ・・・

 

 地球でも、カラスは自分達に危害を加えた相手を覚え、執拗(しつよう)に攻撃するものだ。だからこそすず(ねえ)は衣装のためのカラスの羽根を強奪せず、自然に抜けたものだけを集めていたわけで。

 

「・・・俺に倒せる?」

「初心者殺しは瞬発力がすごいからな・・・多分だが、まともにダメージを与えられるくらいのパワーがあるゴーレムだと攻撃が当たらないんじゃないか?流石に、パワーもスピードもあるゴーレムなんてポンとは作れないだろうし」

 

 構造なんかに変える余地が無いのなら、そういうのは魔力を多く消費しなければならない。簡単な話と言われればそうなんだが、その多量の魔力をどこから持ってくるのかを考えれば簡単でもないだろう。

 目に見えてゴーレムの基礎能力が高まるほどの魔力をぽん、と手に入れられるのなら、魔法使い達はわざわざ修行をすることはないだろう。そういった術は往々にして法律で禁じられており、大抵の者はその理由――例えば、悪魔が契約者から取り立てる代償など――を多少なりとも理解している。

 そんなデメリットが生じずに今すぐ使える都合の良い術なんて・・・

 

 ―――あっ。

「ん?倒し方を思いついたのか?」

「羽根生やせばあるいは」

「・・・羽根?羽根・・・ああ、この間から使えるようになったあれか?もうちょいマシな呼び方があると思うんだが」

「じゃあフォーム・オブ・ブランディアブル」

「何語だよそれ!・・・そういやあの馬もまだ名前が決まってないんだっけか?どんな名前が思いつくかちょっと言ってみろ」

「・・・白の幻馬(スレイブニル)?」

「・・・・・・・・まあ、そっちはあり・・・か?いやでもルビ振るような名前じゃ他のスキルと比べて浮いてるだろ。似たようなスキルに合わせて決める方がいいんじゃないか?」

 

 ふむ、似たようなスキルか。あれは別に何処かからあの馬を召喚してる訳じゃなく、発動の(たび)に周囲の冷気を寄せ集めて馬の形をしたものを作る、クリエイト・ゴーレムに近い魔法だから・・・『クリエイト・〇〇』みたいな感じか?それで作るのが冷気の馬だから・・・

 

「『クリエイト・フリーズホース』・・・?」

「おお、それっぽい・・・じゃあ今後はあの魔法を『クリエイト・フリーズホース』って呼ぶことにしていいか?」

 ―――しっくりくる名前にできたしな。

「・・・で、あの悪魔の翼を生やすあれはどういう名前にするつもりだ?」

 ―――ブランディアブルじゃ、駄目?

「明らかに他より浮いてるだろ!何が由来の名前なんだよ!」

「フランス語で『白』『悪魔』をそれっぽく」

「フランス語!なんでフランス語にした!?」

「知り合い・・・の中二病がフランス語を」

 

 彼女――――黒森(くろもり)すずとの関係性を一言で言い表すのは難しいと思う。彼女は姉さん(アンジー)の弟である俺の世話を焼きたがっている節があり、友人と言うには近く、しかし姉弟と言うには遠い。男女の関係などではまずない。

 

「安易にドイツ語とかにしないんだな・・・そいつってどんな奴なんだ?高貴ぶってたり?」

 

 高貴って・・・フランス=高貴なのか?

 

 ~~~~~妄想~~~~~

 

 高貴な黒森すず「よろしくてよ!」

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 駄目だ笑いそうになる(しかし真顔)

 それはそれとして、すず姉がどんな人か、か・・・

 

「翼の折れた堕天使(ルシフェル)

「ルシフェル」

「またはクロシェット」

「クロシェット」

「ギター弾ける」

「ギター」

 

 オッドアイはコンプレックスだしこんなところでは言わない。

 

「って違う違う。能力のネーミングの話だった」

 ―――おっと素で忘れてた。

 

 でも俺がこっちの世界で調べた限りだと、変装とかではない肉体レベルの変身なんて、人間に可能な範囲を超えてるんだよな・・・

 ごく一部の魔族が変身能力を持っていると噂に聞いたことがある。それに合わせて考えるなら・・・

 

「第二形態?」

「雑っちゃあ雑だけど・・・変に凝った名前にするよりは安心ではあるな。とりあえずそれで」

 

 こうして、俺が新たに手に入れた力の名前が決まった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 そして街外れの森。

 普段は群れからはぐれた個体をたまに見る程度なこの近辺でゴブリンの群れが確認されたらしく、ギルドでもゴブリン討伐の依頼が貼りだされていた。

 まだ大半の冒険者はデストロイヤー討伐の報酬が有り余っており、大事(おおごと)にもなりにくそうなゴブリン討伐をわざわざやる奴はいない。本来なら和真もしばらくはクエストに行く気はなかったのだが、初心者殺しがいるかもしれないという不安を解消したいのもあってこのクエストを受注したのだ。男二人のレベルが仲間より頭一つ低いという不安の方が大きいのだろうが。

 初心者殺しの事はギルドに話していない。こんな根拠のない話を持ち出されても向こうはどうもできないだろうし、和真が少しでもそれらしい痕跡を見つければすぐに全力で《潜伏》を行う手筈だ。そしてその時はきちんと報告する。初心者殺しクラスのモンスターなら発見しただけでも小遣い程度には報酬が貰えるだろう。

 

 そしてある程度森の奥に進んだところで和真が反応した。

 

「・・・そろそろゴブリンの群れが近いな。ん・・・ちょっと多いか?ゴブリンの群れは一つに十匹もいるかどうかってレベルらしいけど、これって十は越えてるんじゃないか?」

 ―――ちょっとヤバい数?

「数だけならお前もいるし大丈夫そうだが、この間初心者殺しにあった時は三十匹くらいの群れだったな・・・たまたまこの数が集まっただけ・・・ってのは楽観視し過ぎか?」

 ―――何かこう、他と違う反応とかある?

「・・・強さとかで反応が変わる訳じゃないんだが・・・あれ、一個だけ反応が・・・上の方にあるのか?高さ的には木の上くらいだが・・・」

 

 それを聞いた俺は、第二形態の準備をする。具体的には『インスタント・サモン・デビル』の呪文を唱え、後は発動しようという意思で魔法が発動する状態だ。正式に契約した以上はこっちの簡易的な召喚にする意義は薄い、というのが常識だが、いつ奇襲がくるかも分からない状況なら詠唱の短いこっちにする意義は十分ある。

 

 呪文が口から漏れる。重苦しい静寂の中で、それだけが異様に大きな音に聞こえた。

 ひょっとすると、相手はすでに俺達に気づいているのかもしれない。もしそうならば、進めばどこか――おそらく木の上――から襲われ、引けば後ろから襲われるのだろう。

 これから起こるであろう激戦を思いながら足を進めると、ゴブリンの群れがいる場所を発見した。木々によって見え辛いが、確かに十は越えていそうな数だ。

 和真があごで示した場所を俺も見ると、特に大きめの木が生えているが、その葉と枝で樹上の獣の一匹くらいは身を隠せそう・・・・いや、よく見ると一対のネコ科らしき眼が見える。実際に隠れているのか。

 その下のゴブリンは、俺達を警戒しながらも頭上を気にしている。

 

「これ・・・本当に俺への仕返しをする気か」

 

 和真が小さな声でぽつりと漏らした言葉は、俺が抱いた感想でもあった。

 この様子だと、今から逃げようとすれば即座に襲ってくるだろう。戦うしかない、か。

 

「・・・三つ数える。それから召喚」

「わかった」

 

 俺の提案を和真が受ける。

 

 

 ―――一。

 

 

 ―――二。

 

 

 ―――三!

 

 

「『インスタント・サモン・デビル』・・・!」「ガアアアアッ!」

 

 紙一重。俺の魔法は発動し、魔法と同時に跳びかかってきた黒い獣の爪を、頬をかすめる程度で回避するのに成功した。

 

「初心者殺し・・・・・・!」

「グルルルル・・・・・・!!」

 

 和真も一層の警戒を(あら)わにして獣――――初心者殺しを睨む。それに反応した初心者殺しは、怒りに燃える眼を和真に向けた。

 

「『クリエイト・アース』『ウインドブレス』」

「・・・・・・」

 

 以前初心者殺しから逃れるために使ったというコンボを和真が使ったが、相手は目を(つぶ)って防がれた。やはり同じ個体か・・・

 そして相手は和真を睨みつけ、雷撃の様に素早い動きで和真へと襲い掛かる――――が、突如現れた土の壁によって防がれる。第二形態の俺が作った壁だ。

 

「グルルゥ・・・?」

 

 いつの間にか姿の変わっていた俺に怪訝そうな目を向けている。その警戒の目から、奴の狙いは和真ではなく俺に移ったと見える。

 お互いに相手の隙を伺う。俺は両手に魔力を集め、初心者殺しは身を(かが)めて俺の一挙一動を見逃すまいとしている。

 すると、俺の後ろに回る気配を感じる。ゴブリンか?和真の方には行ってないが、気づけば俺達を遠巻きに囲っている。

 

「ギギャアーッ!」

 

 俺の後ろから一匹のゴブリンが襲い掛かる。一匹では弱く、俺の魔力を込めた手刀の一撃で吹き飛ばされた――――が、それを好機と見た初心者殺しが俺に襲い掛かる。共生関係かこいつら!

 俺は腕を手前で交差させて攻撃を防ごうとするが、初心者殺しはその強靭なアゴで噛みついてくる。ぐうっ・・・痛い!

 ・・・・・・・・しかし俺は一人ではない。

 

「でりゃああああっ!」

「ゴウッ!?」

 

 和真の渾身の一撃が、初心者殺しの右後ろ脚――――膝の裏側を叩く。不意の一撃に初心者殺しの態勢を崩し、その隙に俺は初心者殺しから距離をとることができた。

 

「ゴルルルルル・・・・・・!」

「あ・・・これはちょっと、ヤバいな・・・・・・」

 

 初心者殺しは、更なる憎悪を込めた眼を和真へ向ける。

 

「ゴルルァアア!」

「ぐは・・・・っ!」

 

 その爪の一撃で、和真の身体は近くの木に叩きつけられる。腹部からは血が流れており、その身体はぴくぴくと痙攣している。

 

 初心者殺しは和真を狙うのをひとまず止め、あざ笑うような目つきを俺に向ける。悠然と歩く姿は、『すぐにお前もああなるのだ』と告げているようだった。

 

 そんな初心者殺しの足元――――さっきの和真の攻撃でダメージを受けた右足のところに尖った石を作り出す。

 

「グルアッ!?」

 

 和真が与えたダメージもあって、それは初心者殺しに僅かな、しかし致命的な隙を作り出す!

 

「『ストーンバインド』!」

「ガッ、ガアア・・・ア・・・」

 

 魔法によって作られた首輪は初心者殺しの首を絞めつけ、しばらく後にその命を奪った。




 書いていて、カズマさんの言動これでいいのかな?と思いはしましたが、今回は離脱も難しい状況だったので戦うしか選択肢がない、ということでそのままにしました。


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佐藤和真死す

 UA5000突破しましたが9月には間に合いませんでした。


 初心者殺しが地に倒れ伏し、周囲のゴブリン達は恐慌状態になり、散り散りに逃げだした。

 

「・・・・・・和真!」

 

 和真を見ると、腹から血を流しながらうめき声を上げている。手持ちのポーションだけでは時間稼ぎにしかならないだろう。アクアがこの場にいれば・・・

 

 そうだ、アクアだ!『クリエイト・フリーズホース』でアクアと合流できれば、和真を治療できるかもしれない!アクアは今日は家でゴロゴロしている筈。忙しいという事はないだろう。

 だがこんな死にかけでは、魔法で作った馬――フリーズホースでいいか――の揺れにどれだけ耐えられるか・・・和真を置いてアクアを呼びに行くのも危険だ。何かアクアにメッセージを送る手段は・・・

 

『あの・・・サトシさん』

 ―――その声はサリスか。何か良い案があるのか?

『下級のインプなら速力だけは出ますし、手紙を持たせればメッセージが送れるのではないかと・・・』

 ―――それだ!それならフリーズホースを先導させる事もできる。やるなサリス!

『あっ・・・ありがとう、ございます・・・インプなら仕事を探してるのも多いですし、召喚魔法を使えばすぐにでも呼べると思いますが、手紙の送り先がアークプリーストですからね・・・』

 

 俺はまず、荷物の中にあった紙に『サトシからアクアへ』と大きく書き、その裏側に具体的な要件を書く。森で初心者殺しにやられた和真が重傷な事、治療のためにアクアの力が必要な事、インプに先導させたフリーズホースが俺達の元へ連れて行ってくれる事を書いた。アクアがちゃんと読んでくれるといいが・・・

 そして悪魔召喚の魔法を使う。一般のインプを召喚するものがベースだが、一度だけ神聖属性の魔法を受け流す効果の結界をインプに付与するように改変している。これなら怒り狂ったアクアが攻撃してきても手紙は届けられるだろう。

 

「キキキッ!」

 

 現れたインプは、いかにも危険性のなさそうな小さな姿だ。速度だけは出せるらしいが・・・

 

「この手紙を、近くのアクセルのアクアまで。水色の髪のアークプリースト」

「キキッ!?」

「神聖属性に対する結界は付けた。家の場所は・・・」

 

 家の場所は即興で地図を描いて見せる。この場所も示しているので、最悪この地図もアクアが見ればいけるか?

 そして『クリエイト・フリーズホース』を使う。森の中を先導させるために小さめの体にしたが、パワーは見た目ほど弱くない。アクアを乗せて森の入り口までは来れるだろう。

 

「これも連れて行ってくれ。手紙を届けたら魔界に帰ってそれで契約は終わり。寄り道は禁止」

「キ、キキッ!」

 

 命令を言い終えるや否や、インプはフリーズホース――大きさ的にはロバかもしれないが――を連れ、手紙と地図を手にアクセルへと文字通りに飛んでいった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 アクセルの街、和真達が住んでいる屋敷にて。

 

「ふぁあ~・・・よく寝たわ~・・・・・・あれ、カズマさんとサトシさんは?」

「あの二人なら、ゴブリン討伐のクエストに出てたはずですよ。なんでもレベル上げがしたいとか・・・」

 

 アクアとめぐみんは駄弁っていた。

 デストロイヤー討伐でありあまる金を手に入れた彼女達には、クエストに出る必要性がない。

 めぐみんは日課の爆裂魔法を撃ちに行きたかったが、カズマ、サトシに加えダクネスも不在。アクアも長い昼寝から覚めなかったため、倒れる自分を街まで運ぶあてが無かったのだ。

 今日はようやく目覚めたアクアをと一緒にいくか、とめぐみんが決めたところで、何者かが玄関の呼び鈴を鳴らすのが二人の耳に届いた。

 

「ええー・・・面倒くさいわね・・・・・・めぐみーん、ちょっと応対してきてー・・・」

「しょうがないですね・・・それじゃあ後で日課の一日一爆裂に付き合ってくださいねー」

 

 そんな会話の後、ドアを開けためぐみんが見たのは、下級の悪魔が謎の幻獣を引き連れ、手紙を持ってきている姿だった。

 

「キキッ」

「手紙・・・ですか?手紙を出すのに悪魔を使役する知り合いには心当たりがないのですが・・・ふむ、『サトシからアクアへ』・・・いったい何なのでしょう・・・」

 

 部屋に戻ってアクアと共に手紙を読むめぐみん。そこに書かれていたのは、衝撃の内容だった。

 

「え、ええっ!?カズマが森で死にそうになってるって・・・!」

「それで、アークプリーストであるこの私の力が早急に必要って訳ね!いいわ。カズマさんには魔王討伐という使命があるもの、叩き起こしてでも連れて帰って来るわ!手紙にある馬は玄関前にいるのよね?」

「はい、お願いします!」

 

 めぐみんの言葉を背中に受け、アクアは――――正確にはアクアを乗せたフリーズホースは森へと駆け出して行った。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 森に入る辺りから、アクアはフリーズホースから降り、それに先導してもらう形で進んでいた。

 

「なんか静かねえ・・・森の中なのにモンスターもいないし、本当にカズマさんが危険なのかしら?」

 

 今回、ゴブリンの勢力は森の奥、初心者殺しの庇護の元で一ヶ所に集まっていた。

 ゴブリン達にとって、初心者殺しは有益な存在である。機嫌を損ねさえしなければ、外敵から身を守ってくれるのだ。それが善意などでない事は大抵が理解しているが、弱い彼らにとってはそれで充分だった。

 しかし、それが今、人間によって打ち倒された。二人組のうち一人はまもなく死ぬだろうが、もう片方はまだ傷も負っていない。必死に息を潜める彼らがプリーストを目撃していたとしても、それを襲おうという余裕は無い。

 彼女が先程の男同様に強かったら?あの男に人間を襲う姿を見られれば?

 それを危惧するゴブリン達は、手持ちの武器と僅かばかりの木の実を手に、すでに遠くに逃げだしていた。この生き汚さが彼らの生存の秘訣ともいえるだろう。

 

 しかしそれはアクアには関係ない。しばらく森を早歩きで進んでいると、不意に血の匂いを感じた。

 

「これって・・・!こっちにカズマさんがいるのね!?」

 

 そう気づいたアクアが駆け出した先に、泣きそうな顔の(サトシ)に守られて確かに和真はいた。しかし、その腹部には大きな切り傷がある。そこからは()()()()()()()()()()()()()()()()()が、今はただ、乾いた傷跡があるだけだ。

 

 アークプリーストであるアクアには分かる。すでにサトウカズマの生命は尽きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういう時はリザレクションね!」

 ―――その手があったか!

 

 和真の死を確信した時は本気で絶望したが、よくよく考えたらアクアには蘇生魔法もあったな。

 アクアは和真の遺体が中心に来るように魔法陣を展開し、そこに多大な魔力と詠唱を込める。

 

「『リザレクション』!・・・・さあ帰ってきなさいカズマ!こんな変な所で死んでんじゃないわよ!」

 

 和真に反応は無い。魔法が失敗したようには見えないが・・・・・・よく探ると、こことは違う空間、いや世界?この世界の伝承からすると、天界と呼ばれる場所に続くのであろう超自然的な繋がりが感じられた。ふむ、この漢字なら・・・

 ・・・何だか形容し難い感覚だが、おそらく俺の精神が和真のいる場所に接近できた・・・んだと思う。アクアの魔法に便乗した形だからまだまとも・・・だと思いたい。俺の深刻な人間離れなんて認めたくない。

 

『おし、待ってろアクア!今そっちに帰るからな!』『ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください!ダメですダメです。それだと天界規定が・・・』

 

 ・・・俺の姿は見えていないっぽいが、和真が銀髪の女性と一緒にいるのが見えた。いつか見たエリス神の肖像に似ているし、彼女がエリス神なのだろう。

 どうやらエリス神曰く、和真は一度日本で死んだために更なる蘇生が認められない、ということらしい。

 ・・・・・・確かに理屈は分かる。死者の復活がそう簡単に行われては、世界は人間で溢れかえってしまいそうだ。理解できる。

 ・・・だが、それだと俺が寂しい。一人になる訳ではない、と言われるかもしれないが、一人いなくなるのだ。しょうがないから諦めよう、と割り切れるほど俺は利口な性格ではない。

 

 ―――こうなったらサリス経由ででも何かしらの禁術を仕入れて和真を・・・

 

 ・・・なんて事を考えていたら、どうやら伝承通りにアクアの後輩だったらしいエリス神が特例で和真の蘇生を許可した。その際に上げ底だとか胸パッドだとか言っていたが、イヤーオレボクネンジンダカラヨクワカンナイナーHAHAHA。

 

「この事は、内緒ですよ?」

 

 そう言って和真にイタズラっぽく笑うエリス神。

 和真はそれを背中で聞きながら、現世に繋がるらしい門を開いてそこをくぐる。和真が見えなくなった辺りで、俺はとりあえず礼をする。

 

 ―――この度は特例で彼を生き返らせて頂き、ありがとうございました。

 

 そうして俺の精神も天界を離れる――――

 

 

「あ、あれ、今さっきそこに誰かいました?何か聞こえた気がしたんですけど・・・あれー?」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 現世に意識を戻した俺が見たのは、和真が頭を振りながら起き上がる姿だった。




 サブタイの時点で想像は出来たかもしれない後半。ちなみに手紙を受け取ったのがアクアだったら、使いのインプはバラバラに引き裂かれていたかもしれません。


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ライバル登場

 彼女は私がこれを執筆するに至った要因の一つと言えるでしょう。


「なるほど、初心者殺しが・・・」

 

 和真の蘇生が完了し、俺達は一連の報告のためギルドに来ていた。

 こんな初心者の街のパーティーが初心者殺しを討伐したというのは誰にとっても信じ難い事ではあったが、ベルディア討伐の立役者である和真を見て納得したようだ。本人はそういう過度な期待が苦手なようだが、なるようにしかならないか・・・

 

「確かに冒険者カードにも記録されていますし、報酬金は明日、支払われます。お疲れ様でした」

「あれ、今日じゃないんですか?」

「はい・・・実は、先日のベルディアやデストロイヤーの報酬金で、ギルドとしても大金をすぐに出すのは難しいんです・・・」

「ああ・・・それなら仕方ありませんし、明日まで待つ事にします」

「申し訳ありません・・・」

 

 まあ、ベルディアの時の借金は返済し終えている。今のところ資金には余裕があるし、一日や二日くらい待ってもいいだろう。変に難癖を付けて険悪な仲になる方が問題だ。

 

 ・・・・・・しかし受付の人(ルナさんではない)は、気まずそうにこちらを見ている。何かあったのか?

 

「実は、平原の方でジャイアントトードの活動が何故か活発化しまして・・・」

 ―――ジャイアントトードが・・・・あれ、平原って確かめぐみんがデイリー爆裂魔法を・・・

「その原因として考えられているのが、その、あなた方のパーティーの人が魔法の練習をしているのが、冬眠中のジャイアントトードを刺激したのではないか、という話がありまして・・・・・・」

「・・・・・・・・明日行きます」

 

 急激に苦い顔になった和真が依頼を受ける。流石にさっき死んだばかりでまたクエストに行く気にはならなかったみたいだが、仕方ない事だろう。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 そして翌日。

 

「今回は俺と聖が囮になってカエルを一ヶ所に集めるから、めぐみんはそこに爆裂魔法を打ち込んで一掃してくれ。余った奴らがいたら俺達が倒すから、多少狙いが甘くなっても大丈夫だ」

「ほう?私の爆裂魔法が満足に敵を狙い打てないと?

 爆裂魔法は最強の魔法。カエル程度に後れを取るほどのノーコンではないのです」

 

 和真、めぐみん、俺の三人で問題の平原へ来ていた。他二人はジャイアントトード相手には役に立たないだろう。

 以前はアクアが囮となって和真が倒すとか、めぐみんが囮となって和真が倒すとか、まあ、使い辛い・・・感じの戦術で戦った訳だが、今ならもっと綺麗な戦い方で倒せる・・・と思うんだが、今見えるだけでも結構多い。片手では数えきれない数がいる。上手く追い込んで爆裂魔法を綺麗に当てたいが・・・

 

「集める」

「じゃあ左の方のを頼む。俺は『狙撃』スキルで右の奴をおびき寄せるから、一ヶ所に集まったらめぐみんが爆裂魔法だな?」

 ―――OK。

 

 和真の合図で、俺は左側の群れに近寄りながら中級魔法『フリーズガスト』を放つ。一体を倒すくらいならもはや造作もないが、この数相手に事故らないように立ち回りを考慮するとなかなか倒せない。だって魔法に集中しようとしてもカエルの舌が伸びてくるんだもん・・・

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 めぐみんの爆裂魔法に八体ほどカエルが消し飛ぶ。そこに出来たクレーターに、めぐみんを抱えながら跳び込む。カエルに包囲される可能性はさっきの場所よりは低いだろう。しかし油断はできない。和真の様子は・・・・・・

 

「わああああっ、ちょ、マジでやばい!聖ー!援護頼むー!」

 

 二体のカエルに追いかけられている。率直に言ってあぶない。俺は土のゴーレムをこの場で作り、和真を追いかけるジャイアントトードに向けて投げ飛ばした。

 その勢いをつけた拳は、ジャイアントトードの一体の目を抉る。目を抉られた個体は痛みにのたうち回り、その暴れっぷりを警戒してもう一体の追跡も止まる。

 しかしこれで終わりではない。ゴーレムに込めた魔力を爆発させ、二体を完全に仕留めた。

 

「やったなさと・・・し・・・・」

 

 ん?和真が俺の後ろを見て言葉につまった。一体何が――――

 

 

 ――――めぐみんのものと思われる下半身が、一体のジャイアントトードの口からだらりと垂れていた。

 

「め、めぐみーーん!」

 ―――今度もか!

 

 幸いというべきか、今はまだ致命的な状態にはなっていない。しかし俺もカエルに追いかけられてめぐみんの対処は難しい。これは・・・ちょっと危険なやり方をせざるを得ない・・・・・・か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッッッッ!」

 

 ―――ッ!?これは上級魔法!

 

 俺はまだ何もしていない。危険なやり方というのもカエルの腹の中で力を溜めて飛び出すという乱暴なものであり、まだ習得に至っていない上級魔法をぶっつけ本番で試すものではない。

 どうやら通りすがりの魔法使いの女の子が助けてくれたらしいが、この辺りにあんな子いただろうか?

 彼女の魔法はジャイアントトードを一気に三体ほど蹴散らし、俺達が再び攻勢に転じるのに十分な隙がカエル達に生じた。そこからはもはや語るまでもない、即興パーティーによる一方的な制圧となった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「助かった・・・ありがとうな。俺は佐藤和真(サトウカズマ)。こっちが仲間の天光聖(アマミサトシ)で、そこに倒れてるのがめぐみん」

「・・・え!?めぐみん!?」

「知り合い?」

「あ、はい!めぐみんは私の知り合い、というか、ライバルと言いますか・・・・」

 

 そう話していると、爆裂魔法の反動で動けなくなっていためぐみんが寝返りをうって少女を見る。少女の顔を確認しためぐみんは、また寝返りをうって目線を逸らした。

 

「めぐみん!あなためぐみんよね!?私よ私!ほら、紅魔の里で同期だった!めぐみんが一番で、私が二番で!なんでこっち見てくれないの!?さっき私の方見たよね!?」

 

 この調子だと・・・彼女に情けない姿(カエルの粘液濡れ)を晒してしまったことが恥ずかしいのかもしれない。彼女はけっこう意地っ張りというか、負けず嫌いな面があるからな・・・故郷での彼女がどんな具合だったのかは実際に見たわけではないが、どうも優秀で通していたらしい。こんな姿はおそらく見せなかったのだろう。

 俺は彼女の肩を引いて下がらせ、とりあえず討伐したジャイアントトードの肉を運ぶ準備をする。

 

「血抜き、頼む」

「え?は、はい!」

 

 俺が作った台車に血抜きした肉を積んでいく。こちらを見ながら血抜きを真似する少女の手際は・・・・いや駄目だ。あまりにもぎこちない。

 

 ―――手伝う。

「え?えっと・・・・こう、ですか?・・・わっ!」

 

 カエルの喉にナイフを刺して切り裂き、胴体を持ち上げる。こうすると胴体の血が流れ出し、持ち運びやすくなるのだ。切断面が地面について汚れないようにし、数を考慮して一体ごとの時間は短めに済ます。

 ふと少女を見ると、いまにも泣き出しそうな顔だ。どうやら絵面のグロデスクさが耐え難いようだ。

 これは彼女のメンタルを見誤った俺のせいだ。俺が余計な提案をしなかった。謝罪しなければなるまい。

 

「え、えええっ!?いきなり頭を地面に着けてどうしたんですか!?」

「すまない・・・すまない・・・・・・」

「え?い、いえ!私がこんな事もできないのが悪いんです!」

「いや、俺がさせた」

「いえ!私が――――」「いや、俺が――――」

「お前らうるせーよ!」

 

 今度は和真に怒られた。悲しい・・・・・・

 

「・・・それで、あんたはめぐみんの友達・・・なのか?」

「と、友達!?たた確かにめぐみんとはよく勝負をしてたし、それでよくお弁当をとられたりしたけど、わ、私とめぐみんが、友達・・・・・・」

 

 俺と和真の目が同時にめぐみんに向く。そのめぐみんはこちらの視線に気づき、ふいっと目を逸らした。

 弁当の事については話してくれそうにはないので、俺は別の話を振る。

 

「・・・で、君は誰?」

「あ、わ・・・・・・我が名はゆんゆん!アークウィザードにして、上級魔法を操る者!やがては紅魔族の長となる者・・・!

「とまあ、彼女はゆんゆん。紅魔族の族長の娘で、いずれは紅魔族の長になる、学生時代の私の自称ライバルです」

 

 彼女が紅魔族なのはもう察してはいたが、そうか・・・ゆんゆん、か・・・・・・

 

「ん?どうしたんだ?なんか急に遠い目になったけど」

「その子の名前が・・・・」

「う・・・やっぱり変な名前ですよね・・・・紅魔族ですみません・・・・・・」

「いや・・・故郷の友達の口癖と同じで・・・」

「口癖!?私口癖と同じ名前なの!?」

「その人ってどんな人なんですか!?」

 

 時国先輩の事を思い出す。彼女の事を端的に表すとなると・・・

 

「他人には聞こえない声が聞こえてた」

「「「他人には聞こえない声・・・・・・」」」

 

 ・・・和真とゆんゆんの反応は『何だそいつ』とか聞こえてきそうな感じだが、めぐみんは興奮したのか目を輝かせているように見える・・・いや、これ本当に光ってる?なんか赤い光が目から出てる。え?何それすごい。

 

「そ、そういえば!・・・・・・めぐみん、私はあなたと決着をつけに来たのよ!」

 

 どうやらゆんゆんは学生時代、めぐみんに負け続けだった雪辱を晴らすため、上級魔法を覚えてめぐみんと再び戦いに来たらしい。戦いの内容は聞いた限りでは可愛らしいものだったので、戦う事自体は俺から口出しはしない。

 

「今からするのか?」

「・・・今日は魔力を消耗してしまったので、勝負日和とは言い難いですね・・・なにせさっきジャイアントトード八体を一撃で消し飛ばしたばかりですしね・・・・」

 

 ゆんゆんの表情が驚愕に染まったところを、和真がめぐみんの発言を肯定する。本当の事だしね。動けなくなるくらいには反動があったけど。

 また、彼女は魔王軍幹部をおびき寄せて撃退した事や、デストロイヤーを粉砕したことを語る。どちらも嘘ではないし俺も表情で肯定する。

 

「そ、そそそそ、それでも、しょ、勝負を!勝負をしないと・・・・・・っ!たとえ勝ち目がなくたって、何度でも勝負を挑ませてもらうわ!」

 

 彼女は半ば錯乱しながらもめぐみんに挑もうとする。それは勇気というより蛮勇というべき愚行だった。とりあえず頭を撫でで落ち着かせる事にする。どうどう。

 

「え!?えっと、その、一体何を・・・」

 

 ―――どうどう。どうどう。どーうどうどう。

 

「おい、私の・・・・えーっと、その、アレに何をしているんですか」

「アレって何!?」

「撫でてた」

「それは見たら分かります・・・それで、どうして撫でてたんですか」

「テンパってた」

「はあ・・・・・・」

 

 めぐみんは溜め息を吐き、ゆんゆんの方を向いた。

 

「もう勝負をする空気じゃないですし、明日、改めて勝負をする事にしましょう。明日の昼にでもギルド前で、って事でどうです?」

「え、ええ!受けて立つわ!」

 

 どうやら明日、めぐみんとゆんゆんの勝負がギルド前で行われるらしい。

 

「・・・・・・あ、そういえば、私この街には久しぶりに来たんだけど、めぐみんは前と同じ宿に泊まってるの?」

 

 以前にもここにいたのか・・・

 

「向こうの方に家を持ってる」

「一応言っとくけど家主は俺だからな?書類上はお前も居候扱いだからな?」

 

 おっと反省・・・ん?ゆんゆんがまた何かに絶望した顔になって・・・

 

「い、家・・・?冒険者として、格が違う・・・・・・?」

 

 ・・・放っておこう。




双葉(ふたば) みづき / 双葉 みなづき
 どちらも君咲学院3-Aかつオカルト研究部に所属している。銀髪ツインテールに紫色の眼の双子(合法ロリ)。姉のみづきは黄色の髪留めを、妹のみなづきはピンクの髪留めをしている。
 二人合わせて『幸運の双子』と呼ばれているが、みづきのオカルト趣味のため校内屈指のトラブルメイカーでもある。ちなみに二人の間にはテレパシーめいた能力がある。
 みづきはアホの子、みなづきはおとなしめと性格はわりと違うが、見た目は瓜二つ・・・だったが、未来編ではみなづきだけ合法ロリではなくなった。


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第3章
ゆんゆんという少女


 思った以上に初心者殺しからシームレスにゆんゆん初登場に移行したので今回から第3章です。


 俺――――天光(あまみ)(さとし)の朝は早い。

 基本的に冒険者自体が良い依頼を受注するために早起きする傾向にあるが、生産職も兼任している俺はポーションなんかの消費アイテムもよく作るのだ。店売りと比べて効果にムラはあるが、価格が安くなるのでここ一番でもなければ使っている。

 今日は昼にめぐみんが友人と勝負する予定なので急ぐ必要もないが、どうもいつもの癖で早起きしてしまう。せっかくだし、朝のランニングがてらギルドを覗いてみるか。彼女は以前もこの街にいたらしいし、ひょっとしたら彼女の事が聞けるかもしれない。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 ゆんゆんがいた。

 酒場の端っこで紙とペンを持ちながら、うんうんと何かを考えていた。あれではまるで依頼を出しに来た一般人だ。上級魔法が使える彼女なら、ちょっとしたトラブルくらいは自力で解決できそうなものだが・・・

 

 ―――何かあったのか?

「・・・え?ひゃああっ!」

 ―――すまない。ただ、君が何を書いているのか知りたくて・・・

「え?えっと・・・・これですか?これはパーティーメンバーの募集です」

 

 パーティーメンバーか。うちのパーティーはもう五人もいるし、うちに入れるのは厳しいだろうけど・・・どれどれ・・・・・・?

 

 

 【パーティーメンバー募集してます。優しい人、つまらない話でも会話が下手でも話を聞いてくれる人、名前が変わっていても笑わない人、アクシズ教団に熱心な布教活動をしない人、】

 

 

 こ れ は 酷 い 。

 まだ書いている途中の筈なのにこの条件の過密さ・・・というかこれはパーティメンバーの募集というより・・・・・・

 

「友達募集・・・・・・?」

「だ、だって!せっかくの仲間なんですから仲良くなれる方がいいじゃないですか!」

「・・・多すぎる」

「多すぎるって・・・これくらいしないと私なんかとまともに話してくれる人なんて来ないんです!」

 

 どうしてこんな事になってしまったのか・・・これは彼女が友達を作る手伝いをした方がいいんじゃないだろうか。する。ちょっと会話、してみよう。

 

「得意な魔法・・・」

「え?得意な魔法・・・ですか?強いて言えば・・・『ライト・オブ・セイバー』でしょうか」

「どんな魔法?」

「ええと、昨日見ませんでした?手から光の剣を出して攻撃する魔法です・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「ほ、他には・・・あ、そうだ!紅魔の里にはこの魔法が好きな人がいっぱい居るんです!」

「・・・喋れた」

「え?・・・・ああっ!」

「人と話すのに、意識する必要はない」

 

 なんというか、他人と話す事が難しいと思ってそうなタイプだったけど、案外喋らせられたな。この調子でもっと世間話をして、彼女のコミュ力を強化してやろう。

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ約束の時間の筈ですが、ゆんゆんはどこにいるのでしょうか・・・」

 

 めぐみんはギルドの前で立ち尽くしていた。

 

「まさかとは思うけど、そのゆんゆんって子はめぐみんの想像上の人物なんじゃ・・・」

「流石にそれは酷いぞ・・・昨日俺と聖も会ったし、実在してる筈だ」

「ところで、そのサトシはどこに行ったんだ?あいつならどこかでクエストでも受けてそうだが」

 

 昨日ゆんゆんを見ていなかったアクア、ダクネスも同行している。あくまで興味本位といった具合だが。

 

「とりあえず、ゆんゆんがこっちに来てないか俺が聞いてくる。ひょっとしたらギルドで何かあったのかもしれないし」

「あ、お願いします」

 

 そう言ってギルドに入ろうとする和真。しかし突然、

 

「あああっ、もうめぐみんとの約束の時間だった!・・・あっ、あなたは昨日いた!」

「お、ゆんゆんじゃないか。さっきまで酒場に・・・って、サトシもいたのか」

 ―――やっほ。

 

 ゆんゆんと一緒に出てきた俺を見て、めぐみんは怪訝そうな顔をする。

 

「あなた達は昨日が初対面のはずですよね?あなたは一日でゆんゆんに何をしたんですか?」

「この人とは今朝再開したばかりなんだけどね?私ともいっぱいお話してくれるの!さっきも紅魔族のネーミングセンスについて話してたんだけどね?――――」

 

 マシンガンのように言葉を放つゆんゆんに、めぐみんは軽く引いていた。というかこうも熱心に語られると俺としても恥ずかしい。

 

 ―――何か良からぬ術をかけたりとかはしてないんですよね?

 ―――してないしてない。

 

 俺とめぐみんの無言のやりとりに、今度はゆんゆんの表情が変わる。

 

「め、目線だけで会話してる・・・・・・!?もの凄く友達っぽい、いえ、むしろそれ以上・・・・・・!?」

「いえ、彼とはそういう関係じゃありませんので」

 

 照れなど一切見られないタイプの即答・・・・これは脈無しだな。ちょっと悲しい。

 

「それで、今日は何で勝負するつもりですか?時間が時間ですしモンスターの討伐数で競うのは難しいですが・・・」

「え、えっと・・・・戦闘とかだと久しぶりなのに荒っぽいし、でも他に相応しいのは・・・・・・」

 

 しばし考え込むゆんゆんだったが、ふと何かを思いつく。

 

「そうだ!前に別れてからどれだけ成長したか、っていうのはどう!?」

 

 なるほど、成長度か。聞いた感じだと二人が別れてからめぐみんが俺達のパーティーに加入したのはわりとすぐっぽいが、あの頃からめぐみんは確かに強くなっている。外見はあまり変化していないが、ゆんゆんの成長も結構なものらしい。というかどうやって決着をつけるのか。

 

「ふむ・・・それでいいでしょう。それで、対価は・・・・いえ、やっぱり今回は受け取らないことにしましょう。我々の金銭面には余裕がありますしね」

「あ、あのめぐみんが、私から対価を受け取らない・・・!?お、大人・・・・・!」

 ―――いや多分それが普通だから!

「で、でも!私だって一人でジャイアント・アースウォームを倒せるくらいには強くなったのよ!」

「なるほど・・・しかし私は昨夜カズマと・・・・・・いえ、これ以上は止めておきましょう」

 

「・・・え?」「・・・・うん?」「・・・・・えっ?」―――え?

 

 めぐみんの爆弾発言に空気が凍る。

 

「あ・・・・・・いえ、冗談ですよ?私とカズマの間にそんな関係はありません」

 ―――本当なんですかカズマさぁん!

「ほ、本当だぞ?別にやましい事なんて無いぞ?」

 ―――本当かなぁ~・・・

「サ、サトシさん!本当に大丈夫なんですかね!?実は二人が付き合ってたりとかしませんよね!?」

「ない・・・・・・・・筈」

「そんな無責任な!」

 

 いやね?何だかんだで和真に浮いた話なんて聞いたことないんだけどね?和真の様子が怪しいと言えば怪しいけど、本当に()()()()事があったのなら和真はもっと上手く黙りそうなものだ。

 

「・・・この様子だと・・・・・・」

「?」

「何かあったのなら、多分めぐみんの方が仕掛けた」

「な、ななななな・・・・!」

 

 顔を赤くして動揺するゆんゆん。紅魔族の才女は、この状況に対処する知識を持っていなかった。

 

「きょ、今日のところは私の負けにしといてあげるからあああああああっ!」

 ―――あ、逃げた。

 

 涙目で走り去るゆんゆんは、あっという間に見えなくなった。

 

「今日も勝ち」

「・・・・めぐみんは前からこんな感じだったのか?」

「みたい」

 

 めぐみんはともかく、ゆんゆんが大丈夫か心配だ。彼女を追いかけよう。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 ギルドから少し離れた路地裏で、ゆんゆんは頭を抱えていた。

 せっかく久しぶりに会えためぐみんと、こんな形で別れてしまった。

 別にもう会えない訳ではないが、次にどんな顔で会えばいいのか、と考えると今から憂鬱な気持ちになる。

 また、せっかく仲良くなれたであろうサトシともこの別れである。彼はもう私なんかとは遊んでくれないのではないか、そんな思いも彼女を攻め立てた。

 

 ・・・・・・誰かの足音がする。気のせいかとも思ったが、走っているであろう音がギルドの方からこちらに近づいている。こんな所に誰が急いで来るのだろうか?

 

「・・・・・・・・」

「ええっ!?サトシさん!?」

 

 やって来たのは、さっき別れたばかりのサトシだった。

 何故?とゆんゆんが困惑していると、彼はゆんゆんに手を差し伸べた。

 その手を彼女は恐る恐る掴む。すると彼はゆんゆんを連れ、路地の表へと歩いていった。

 

「え、えっと、何を・・・・・・」

 

 すると彼はある方向を指さす。その先には射的の屋台があり、彼が行っているジェスチャーからもそれをやろうとしている事が伺えた。しかし何故私の手を引いて、とゆんゆんは考えたが、程無くしてある可能性に行き当たる。

 

「もしかして、誘ってくれてる、んですか?」

 

 その返答は頷きだった。

 

 そうして二人は手を取り合い、夜の喧騒に繰り出していった。




 ここまで投稿できたから言いますが、私の中の転校生くん像とゆんゆんの相性は抜群なんです。ゆんゆんがお友達と喋る練習に、転校生くんが無言ながらしっかり話を聞くイメージ。控え目なゆんゆんがいれば転校生くんが変な思考回路で暴走するリスクも抑えられる、という点も好相性という。改めて見るとなかなか個性的な主人公ですよね・・・


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第二の悪魔

 遅刻したので初投稿です


 めぐみんは悩んでいた。

 目の前の男――――アマミサトシにかける言葉が、今の彼女には思い浮かばなかったのだ。

 めぐみんの記憶が正しければ、昨日はゆんゆんを久しぶりにからかったところ、彼女は顔を赤くして逃げ出し、それを追ってサトシも何処かにいった。それきり昨夜は帰って来ず、今――――朝早い、まだ朝食の準備もしていない時間に来たのだ。

 

(ゆんゆんは無駄にエロい体つきの年頃の女の子・・・そしてサトシは確か17歳とかそのくらいのはず、つまり年頃の男子・・・つまり年頃の男女が朝帰り・・・・・・まままままさか、これは()()()()事が昨夜あったのでは!?)

 

 別にサトシを信頼していない訳ではない。しかし、ゆんゆんに対してはそれ以上の負の信頼があった。彼女ならば、不意に無防備な言動を繰り返していても不思議ではない。

 何だかんだでゆんゆんの実力は認めていない訳ではないめぐみんだったが、こうなると多少強引にでもゆんゆんと一緒に冒険者をやっていた方が良かったのではないか、という考えさえ浮かんでくる。

 

「・・・・・・一応、聞いておきますが、昨夜は何をしていたのですか?」

「・・・ゆんゆんと遊んだ」

「『遊んだ』?あの子と、何処で、何を、どうして遊んだのですか?」

「酒を飲んで・・・ドミノをやろうとして、追い出された。宿屋でドミノした」

「・・・・・・念のため聞いておきますが、ドミノというのは何かの暗喩ですか?」

「?・・・・・・木の板を並べる、倒す、あれ」

「アウト!・・・・いやセーフなんですけどアウトです!頭おかしいんですか?」

 ―――失礼な奴だなめぐみんは。

「何ですかその顔!あなたの口ぶりだと、あなた達、酒を飲んで夜通しドミノしてた事になりますよ!」

「そう」

「はぁ~・・・・・・」

 

 当然の様に言うサトシに、めぐみんは脱力感を覚えた。

 

 

 

「・・・ん?聖、帰ってたのか?昨日は帰って来なかったけど・・・」

「ああ、おはようございますカズマさん。酒に酔ったまま若い女の子と宿屋に入ってドミノ倒しばっかりしてた変人のお帰りですよ」

 ―――違う違う。

「何だ「?」」

「酔わない程度には抑えた」

「ああなるほど・・・・って、それってずっと素面(しらふ)でドミノ倒ししてたって事か・・・なるほど・・・・」

 ―――その顔は何だよ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 そんな朝を迎えた俺だが、実は俺宛ての依頼が来ているのだ。それもこの街の領主直々だ。

 こういうのは余程の強さか信頼性のある冒険者でないとギルド側で止められる筈なんだが、俺はもうそんなに信用されているのだろうか。機密保持のために領主の屋敷に行ってから内容を話すらしいし、かなり重要な仕事なのかな?

 しかし、その事を仲間達に伝えた時の反応はあまり良くなかった。

 

「あの領主の事は知ってるんだが、奴は不正に金を貯めて私利私欲のために使う典型的な悪徳貴族だと言われている。証拠はないが、奴の羽振りは不自然なほどに良い。屋敷を見ればその評価も納得するだろうが・・・」

「私それ知ってる!呼ばれた場所に行ったら『騙して悪いが――――』みたいに言われるヤツでしょそれ!」

「・・・それ、汚職の証拠とか押し付けられたりするんじゃないか?領主からの依頼じゃなきゃ夜逃げでもしたいくらいだぞ・・・」

 

 うーん・・・確かに怪しい依頼なのは事実だ。しかしこれを断った場合、向こうがどんな事をするのかちょっと想像できない。なるべく付け入る隙を作らないよう立ち回るしかないか。

 しかし、俺一人だと確実に付け入られるだろう。そんな自信がある。しかし依頼の条件を見る限り、同行者は連れて行けないようだ。こんな状況で俺にアドバイスを送れる奴――――もとい、アドバイスを送る手段なんて・・・・

 

 ―――あっ。

「?何か思いついたのですか?」

 

 めぐみんの言葉を背に、俺は屋敷の一室に向かう。元は倉庫だった部屋を、俺が生産用の部屋としたのだ。

 その床に大きな木の板を敷き、そこに魔法陣を描く。

 

「ちょっ・・・その魔法陣、もしかして悪魔を召喚する奴じゃないの!?この女神アクアの目が黒い内はそんな邪悪な行いをもごもごもご・・・!」「ちょっと引っ込んでろ駄女神!潜伏能力の高い奴とかなら上手く(さとし)に助言いるだろうから!これで無防備なこいつを送り出したら酒も飲めない生活になるかもしれないだろ!」「そ、それは・・・・・・くっ!」

「・・・女神云々(うんぬん)はともかく、どちらの言葉も正しい・・・クルセイダーである私はどっちを支持するべきなんだ・・・?」

 

 そうして描きあげた魔法陣は、決められた条件にあった悪魔をランダムに召喚するものだ。今回は、悪徳貴族のやり口を理解しているという自負のある悪魔を対象としている魔法陣だ。『実際に理解している~』みたいな条件だと条件が曖昧になり、召喚を失敗する確率がグンと上がってしまう。

 

 魔法陣の前で呪文を唱えると、そこから異様な冷気が流れ出る。それは黒い靄として目でも見ることができた。これは魔界の瘴気という奴だろう。召喚時に少々溢れる程度の量なら大丈夫だと聞くが。

 少しするとその瘴気を感じなくなり、陣の中央に黒い人影――シルエットの様な状態でも分かる角と翼は人間ではないが――が現れる。

 やがてはっきりとした色も現れ、その悪魔の姿が確認できるようになった。

 

「初めまして・・・私は上位悪魔のアー、ネ・・・ス・・・・・・」

 ―――ん?どうかしましたか?

 

 現れた上位悪魔のアーネス(仮)の様子を不審に思ったが、最初に彼女に反応したのはめぐみんだった。

 

「私この悪魔知ってます!以前私が爆裂魔法で消し飛ばした奴です!」「な、何でこのお嬢ちゃんがいるところに召喚されるのよ!見た感じ聖騎士に聖職者までいるみたいだし、ここは天国か何か!?」

 ―――うわぁ・・・まさかめぐみんが倒した悪魔が来るとは・・・

 

 その悪魔はサキュバス等と同様に女性の姿をしているが、その力はサリス達とは比較にならないだろう。召喚した時の手応えが段違いだった。

 ついでに言えば、彼女の衣装はなかなかに扇情的だ。()()を武器として生きているサキュバスなんかと比べて挙動はそれほどでもないが、それ故に服装の攻めっぷりが強調される。上半身は黒いビスチェとロンググローブのみで、下半身は同じ色のロングブーツにガーターリングが三つ、そして紐同然のぱんつである。ぱんつである。エロい。というかこの世界自体露出度の高い女性が多い。ちちしりふともも。ふともも。ふともも。でも僕はおっぱい。しかし彼女もそんな大胆な衣装を着るだけはあるナイスバデーだ。彼女の体から目を逸らすと、背中から生える大きな翼や、燃える様な赤い髪が目に入る。

 個人的感情(見たところ、和真も俺と似た事を考えていそうだが)を差し引いても、彼女の力を借りられれば無事に依頼を達成できる確率が高くなるだろう。一触即発と言っても過言ではないこの状況を無視していいのなら。

 

「今回だけ、彼女の協力を得たい、だけ」

「むう・・・クルセイダーとしては悪魔を見過ごすのは良くないが・・・事態が事態だから仕方ない、か」

「・・・・・・私に何をさせるのか知らないけど、契約についてはしっかりと確認しなくちゃね?内容次第ではさっさと帰らせてもらうわ」

 

 そう彼女が言ったので、俺は彼女の肩に触れ、彼女を俺の中に隠れさせる。

 

「えっ、ちょ、何―――」

 ―――こんな感じに俺の中に隠れてもらって、悪徳貴族相手に優位に立たれないように助言して欲しい。

 ―――・・・これ、あんたの背中を契約もしてない悪魔にとられるようなものじゃない?

 ―――あっ・・・・・・いや、一応まだ召喚した時の魔法陣の中って判定の筈。問題ない。

 ―――それで、あんたはその対価として何を渡してくれるのさ?

 ―――何だろ・・・・金・・・は使わないんだろ?じゃあ・・・経験値とか?

 

 困った。出せるものがそれくらいしか思いつかない。サリス辺りに悪魔向けの贈り物とか聞いといた方が良かったか?

 ふと彼女を見ると、向こうも向こうで悩んでいるらしかった。面倒な事情があるのだろうか。

 

 ―――ところで、あなたの名前はアーネス、でよかったでしょうか?

 ―――え?・・・そうよ。そういえばちゃんと名乗れてなかったわね。

 

 この状態だとアーネスさんの顔は見えない。しかし、彼女の雰囲気が幾分か柔らかくなったと感じた。

 

 ―――実は、私の前の主人は力を封じられた邪神だったんだけど、その封じられた力っていうのが、多分あの魔法使いのお嬢ちゃんの連れてる黒猫なのよ・・・良い方だったし、偶然見つけるような事があればウォルバク様に伝えてもいいかと思ったんだけど・・・今の契約を(ないがし)ろにしてまで終わった契約を持ち出すのはちょっとね・・・

 ―――凄く真面目・・・あなたは信頼できそうですね。黒猫・・・・ちょむすけについては、()()()()伝えるのは禁止、って事で、どう?

 ―――その制限ならいいわ・・・でもちょむすけ・・・・はあ・・・・・・

 ―――紅魔族特有のネーミングセンスはお嫌い?

 ―――嫌いよ!

 

 沈黙が俺の中に満ちる。

 

 ―――あなたが差し出す契約の対価は、私がここに滞在する権利、って事でどうかしら?

 ―――危険な状態にならなきゃこの部屋から出てはいけないし魔法の(たぐい)も使ってはいけない、とかじゃないと皆が納得しないと思う。

 ―――それでいいわ。せっかくまともに契約ができそうな人間に召喚されたんだし、このくらいはね・・・

 

 ・・・ん?もしかして、悪魔と契約した人間の事件が現代に少ないのって・・・・・・まあそれはいいか。

 

「俺の部屋に滞在して外には何もしない、って事になった」

「はあ!?後でその部屋に結界を張ってあげるわ!」

「危険な状況になったら破ってもいい、って言った・・・・アークプリーストは危険」

「ぐぬぬ・・・・」

 

 アクアの歯がゆそうな顔を後目(しりめ)に、俺の中のアーネスさんと言葉を交わした。

 

 ―――今日はよろしくお願いします。

 ―――ええ、今後ともよろしく・・・・・




 ふと気づいた。そういやこれ不定期投稿という名目だったじゃないか。
 念のため系赤タグが付く理由を言葉でなく心で理解できた。


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物置の悪意

 遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。


 ―――ここが例の豚熊貴族の屋敷?いかにもな悪趣味さね。

 

 流石の俺もアーネスの言葉に同意せざるを得ない。

 依頼者―――この辺り一帯の領主であるアレクセイ・バーネス・アルダープの屋敷はやたらと華美な装飾が多く、それぞれの存在感を食いあっているように見える。また、屋敷は見える範囲だけでも妙に綺麗で、建てられてからあまり年月が経っていないようだ。

 

 門番――これまた華美な外観の鎧で、実用性は重要視されているかどうか――に依頼書を見せて数分ほど待つと、玄関から太った男が勿体ぶった態度で現れた。屋敷同様に(きら)びやかな服装に、音楽の教科書なんかで見たようなカールの金髪。いかにも『私は偉い』とばかりの目付きも相まって、豚熊領主などと呼ばれるのも納得な雰囲気だ。

 

「ワシが、今回の依頼人であるアレクセイ・バーネス・アルダープだ。今日はよろしく頼むよ?」

「はい・・・・それで、何を?」

「・・・ああ、依頼書には書いてなかったな。今回依頼したいのは物置の掃除だ。ワシの屋敷には数多くの珍品が保管されているのだがな、それを保存しておく物置も随分と手狭(てぜま)になってね、掃除のために人手が欲しいのだよ・・・・聞けば、お主は妙な依頼でも嬉々として受ける変人だそうじゃないか?領主であるワシの依頼をよもや断る気はあるまいな?」

 

 喧嘩売ってんのかこいつ。円城寺家を見習え。

 

 ―――身元の怪しい冒険者をそんな所に入れる?怪しいとしか思えないわね・・・

 ―――そうだよな・・・何かしらの紛失とかないか逐一確認させるしかないか・・・?

 ―――衛兵とかが近くにいたら、そいつも警戒するべきね・・・

 

 アーネスと思念で会話する。流石に俺でも怪しいと思ったし、彼女も同感のようだ。相手が相手だし、依頼を受けないというのは難しいだろうが・・・・・・

 

 

 

 ―――ん?今、悪魔の力が使われた気が・・・

 ―――俺も感じたな・・・しかも今の、屋敷の中から感じた・・・

 ―――この豚領主がどこかの悪魔と契約してたのか、こいつの評判を下げたい奴がいるのか・・・・どっちにしても、この一回だけで終わるとは思えないわ。

 ―――街の聖職者を集めて浄化でもしてもらうか?

 ―――相手は領主よ?これで悪魔が契約しているのがあいつだったら、どんな報復に出るか・・・

 

 今の力はかなりのものだった。俺はどうやら先天的に悪魔の魔力に対して耐性があるらしいが、それでもアーネスと合体していなければ危なかっただろう。

 どうやら俺がこの依頼を疑わずに受ける方に思考を誘導させるためのものだったようだが、こうなると物置――――あるいはその名目で向かわされる部屋で何をされるのか、ろくでもない事になるのが容易に想像できる。

 ここは警戒を怠らないまま依頼を受け、向こうがボロを出せばすぐに逃走。可能なら悪魔の存在について何かしらの証拠の確保もしておく、くらいの方針で行動するか。

 

 

 

 そうしてアルダープと衛兵二人に連れられて向かった部屋は、少なくともぱっと見た限りでは物置だった。

 

「さて、お主に掃除してもらうのがこの部屋だ。掃除用具は・・・そこのメイド!今からこの部屋の掃除をこの男にさせる。掃除用具を持ってきなさい・・・・お主にはまずこの部屋のものを全て廊下に出してもらう」

「それだと、この廊下の床板が壊れる・・・と、思います」

「・・・むぅ、それじゃあ向かいの部屋にするか。あそこならいいだろう」

「物品の紛失などがないか、確認できる手段は・・・・・」

「・・・・・・む、むぅ・・・そうなると、ワシが監督するのが最善だが、ワシは忙しいのでな。まずワシが一通り確認するから、終わったらワシのところに来なさい」

 

 ―――露骨に言葉に詰まってたわね・・・貴重品の盗難をでっち上げて、それで賠償金を得る、って腹積もりだったのかしら。

 ―――でも俺達から巻き上げられる賠償金が欲しいのか?賞金とかは確かにがっぽり手に入れたけど、借金を差し引いたからそこまで高額でもない・・・というか、もっと手っ取り早く脱税とかでもよかったんじゃ?

 ―――そうなのよねぇ・・・あんた達が持ってるもので、金で買えないものとか・・・・・・

 ―――どうした?

 ―――ウォルバク様の半身を得て、その力を得ようとしたとか・・・?

 ―――可能性の一つとして検討しておく。

 

 アルダープが物置を調べ、中にある物品を一つ一つ紙に記していく。この行動は俺も見ているため、実際には置いていないような物を記してその所在を追及するような真似もできない筈だ。

 一通り調べ終えると、アルダープはその紙を叩きつけるように俺に渡す。ろくでもない事を考えていたのは確定的に明らかだが、今回は無事に帰る事が最優先だ。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 部屋の掃除の最中には何事もなかった。

 物がいつの間にか足りなかったり、といった事態も考えていたが、無事に掃除を終える事ができた・・・・と思う。

 

 ―――結局、あの悪魔の気配もあれから感じなかったわね・・・

 ―――今回は諦めたのかな?

 ―――豚領主のあの様子、策が潰された、って感じだったわよね・・・・むしろ帰ってからが本番になりそうね。

 

 そんな会話をアーネスと思念でやりつつ、俺はアルダープに依頼達成を報告するために物置を後にする。

 

 

 

 ―――!今の・・・・・

 ―――例の悪魔の気配だな・・・この感じだと俺の方に何かやったみたいだが、精神的なものじゃなさそうだな・・・

 

 自分の状態に気を配ると、いつの間にか懐に何か入っている事に気づく。

 

 ―――これは・・・・・・物置に置いてあったペンダントだよな?

 ―――確か、所有者の身を守る魔道具で、歴史的価値なんかも考えると時価1000万は固い・・・・とか言ってなかったかしら?

 ―――もしかして、気づかないまま報告に行ってたら、俺が盗んだ、って事にされてた?

 ―――でしょうね。そうして無力な冒険者から、賠償金をせしめていた・・・のかしら。

 

 とりあえず、俺はペンダントを元の場所に戻し・・・

 

 

 

 ―――!壺が・・・・割れてる・・・・・・

 ―――今のも悪魔の気配・・・やられたわね・・・・・・こうなると『私達だけがいた場所で壺が割れた』っていう証拠がしっかり残ってしまう。貴重品を壊さなきゃならないから、向こうにとっても苦渋の策だったんでしょうけど・・・

 ―――だが賠償金が冒険者にどれだけ支払えるか、って考えると、金銭目的じゃないよなあ・・・・・・やっぱり邪神の力を手に入れようとしてたとか?

 ―――やっぱりそうなるわよねえ・・・今のところは正直に報告して、賠償金の話になったら長期的にでも現金で支払うように話を持っていくしかないわね・・・・

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 その結果。予想通りというべきか、パーティーの仲間も一緒に今後の事を話し合うこととなった。

 これは俺の問題であって仲間は関係ない、と言ったものの、同居までしている仲なのだから同席させるべき、と押し切られてしまった。

 

「――――しかるに、この者が割った壺の賠償金は700万エリスが妥当だと思うのだが・・・・・・お主らに払えるのか?」

「・・・払えません。何回かに分割して支払えるのなら、まだ可能性はあると思うんですが・・・」

「ワシは被害者だぞ?その者を信頼してこの依頼を任せたのに、こんな形でそれを裏切られた・・・・・そのワシに支払いを待て、とお主らが言うのかね?」

 

 アルダープは和真にそう言い切り、一同を舐めるようにねっとりとした目付きで見回す。

 

 ―――うわっ、あの男がクルセイダーの子を見る目付き、見た?

 ―――ねっとり具合が数段階上がってた気がする。

 ―――確か、あの男は前からクルセイダーの子を知ってたのよね?

 ―――じゃあ、アルダープの狙いはダクネスかもしれないって事か?

 ―――かなりの好色家だっていうし、ありそうじゃない?

 

「・・・まあワシも鬼ではない。お主らが・・・いや、お主らの誰か一人でも、()()を見せるというのなら、ワシとしても無碍(むげ)にする気はないのだがな?」

 

 言葉通りではないだろう。しかし、ここをどうやって切り抜けるか・・・

 

「・・・その支払い、時間さえくれれば必ず遂行すると、私が保証するのは認められるか?」

 

 見ると、ダクネスが懐からペンダントを取り出し、それを――――あるいはそこにある紋章をアルダープに見せていた。

 

「ふむ・・・・・・ダスティネス家であれば保証人としては十分か。では、支払いは二ヶ月以内だ。それまでに返済できなければ・・・その時はこちらで返済方法を提示するとしよう」

 

 隠しようもない好色な雰囲気をにじませながら、アルダープは続ける。

 

「まあ、近い内に()()要求はさせてもらうが・・・な」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 帰り道。

 

「・・・つまり、あの屋敷にいる謎の悪魔のパワーでこんな事態になったんだな?」

 ―――うん。

「間違いないわね。上手く気配を隠しているみたいだけど、私にはわかるわ」

「私にはその気配がわからないのだが・・・・もし本当に奴が悪魔と契約しているのなら、単に浄化すれば解決、とはいかないな」

「なんでよ!居場所が分かってるならそこに行けばいいじゃないの!」

「そこに行く方法が無いって事だろ・・・事情を知らない衛兵を浄化しても多分効果はないぞ?」

「むうー・・・・」

 

 やや間を開けて、めぐみんが口を開く。

 

「ところで、ダクネスが見せたあのペンダントは何だったんだのですか?」

「ああ、あれは・・・・いや、こんなところで話す話題でもないな。屋敷に戻ったら説明する。それでいいか?」

 

 俺・・・・圧制なんかに絶対負けない!




円城寺(えんじょうじ)グループ
 『あんさんぶるガールズ!!』に登場する、円城寺れいかの家。地域でも有数の資産家で、大きな屋敷を持っている。
 円城寺れいか以外の人物は作中では登場しないが、四方(よも)みつるがれいかの兄を演じた際は、歯の浮くような言動でれいかをお姫様扱いしていた。


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高性能お父様

 地味にサブタイも難しかった今回。


「実は、私の本名はダスティネス・フォード・ララティーナ・・・・・・まあ、そこそこ大きな貴族の娘なんだ・・・」

 

 屋敷に戻ったダクネスは俺達にそう語る。

 しかし、俺の記憶が正しければ、ダスティネス家といえばこの国有数の大貴族――――『王家の懐刀(ふところがたな)』と呼ばれるほどの名家の筈。その令嬢となると・・・

 

 ~~~~イメージ~~~~

 

 れいか「お兄さまぁん♪」

 

 ~~~~~~~~~~~~

 

 ・・・・まあ残念なお嬢様がいてもいいよね!

 

 そんな折、アクアが疑問を呈する。

 

「じゃあ、ダクネスの家の子になれば毎日ゴロゴロ贅沢三昧できるって事!?」

「貴族には貴族の責任がある・・・・甘えは許されない」

「なんでよー!あの領主だって見るからに贅沢三昧じゃないのー!」

「許されない」

「いや、確かに許されない事ではあるが、なぜサトシがそれを語るんだ・・・?」

 

 疑問って程でもなかった。

 というところで、今度は和真が口を開く。

 

「ダクネスお前・・・ララティーナなんて可愛い本名だったのか!?普段、うむ、と、そうだな、みたいな真面目くさった口調なのに!」

「ら、ララティーナと呼ぶなあ・・・・・っ!」

 

 涙目になったダクネス可愛い。

 

「・・・・まあ、どんな家の出だろうとダクネスはダクネスです。私は今までと同じように接しますよ・・・・・というかあまり実感が無いですし」

「めぐみん・・・・・・いや待て。人の告白を実感が無いで片づけるな。私としてはけっこう真剣な秘密なんだぞ?」

 ―――確かに突然の告白だけどさ・・・

 

「私も信じるわ!実は私、本当に女神なのよ!仲間がお嬢様だったくらいじゃ驚かないわ!」

「「そうなんだ、すごいね!」」

 ―――信じてもらえなくて話半分に流されてるこれが女神アクアなんだよなあ・・・

 

「・・・まあ、前から世間知らずなところもあったし、ダクネスがお嬢様ってのも納得できる。俺は信じるよ」

「カズマ・・・・って、やっぱり私は世間知らずだと思われていたのか!?」

 ―――俺達(ニホンジン)に言われる辺りがもう・・・ね。

 

 しばし間を置いて、和真が口を開く。

 

「・・・ところで、あのオッサン、後で軽い要求はさせてもらうとか言ってなかったか?・・・・本当に軽い要求だとは思えないけど」

「うむ・・・あの男が私にどんな鬼畜な要求をするのか興味深いが、今回は壺一個の弁償を保証しただけだ。この程度では私自身にはそれほど期待できないし、実家の方にも大した要求は出せないだろう」

「ところどころに本音が出てるのはともかく、それならあまり大事(おおごと)にはならないだろうな・・・・あれ、そういえば、親御さんはダクネスが冒険者やってる事知ってんのか?」

「・・・家出してきてからあまり連絡はしていないが、流石に今回の一件で居場所は知られるだろうな・・・家の名前を出したのはともかく、実家に戻されることもありうるな・・・・・・」

 

 ―――ちょっぷ。

「ちょっ、サトシ!?」

 ―――家族だろうが。もっと親を大切にしろよ!それを自分から・・・・・

「え、ええと?家族を大事にしろ、って事でいいのか?」「多分あってる」

 

 こうなるとダクネス達の親子関係が心配になってくる。これは一度ダクネスの三者面談をしておきたい。よし、しよう。

 

「実家、どっち」

「え?アクセルの街からはさほど遠くないから、やろうと思えば日帰りできる程度の場所にあるが・・・」

 

 俺はダクネスを抱えたまま『クリエイト・フリーズホース』で騎馬を出現させた。

 

「ま、待て。まさか今から私の実家に行くのか?何のために?」

「三者面談」

「や、やめろぉ!実家いたのでは私の理想には届かないんだ!」

 ―――理想?

「ああ、前にも言ったと思うが、私は冒険者として強敵と戦い、そして敗れ、そして無残に・・・・・・んんっ」

 ―――よし、面談しよう。

「あああ~っ・・・・」

 

 そうして俺達は、ダクネスの実家へと走りだした。

 

「あ、俺としてもダクネスの親御さんと話したいから一緒に行ってもいいかー?」「それじゃあ私も行きたい!」「二人が行くのでしたら私も」

 

 やっぱり三人も連れていくことになった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「君達が、ララティーナの冒険仲間だね?近頃話題になっているという・・・・」

 

 お嬢様を抱えて貴族様の屋敷までひとっ走りし、ダクネスの顔パスであれよあれよという間に屋敷の一室に通され、そこで壮年の男性からこの言葉を投げかけられた。

 彼はダスティネス家現当主でありダクネスの父、ダスティネス・フォード・イグニスだろう。悪い人ではなさそうだ。

 

「初めまして。自分は日頃ララティーナお嬢様にお世話になっている、冒険者のサトウカズマと申します。こちらにいるのが、同じくお嬢様の冒険仲間の、アクア、めぐみん、アマミサトシです。この度は、故あってこちらで勝手にダスティネス家の名前を使わざるを得ず、その謝罪をと・・・」

「ああ・・・実は、その事は既にアルダープから聞いているんだ・・・・」

 ―――え?

「彼の家の壺を依頼の際に誤って破損し、その返済をダスティネス家が保証した・・・ということでいいのかね?」

「た、確かにそうです・・・しかし、それは今日の話なのですが、もう連絡されたのですか?」

「うむ・・・・・・ララティーナも怪しいと思うか・・・あちらは、アルダープの息子との見合いを要求してきたのだ。あの男の子供とは思えないくらいには良い男だと思うのだが・・・受けるか?」

 

 子供なんていたのか・・・流石にあの男がダクネスと結婚する、みたいなのは無理があるだろうが、あくまで見合いか。それならまあ受けてもいい・・・・ように思えるが、これが何かしらの悪魔と契約した男の要求だと思うと話が変わる。

 高位の悪魔であれば、通常の魔法では再現不可能な不可思議な現象を起こすことさえ可能だという。壺が割れたときの状況を考えると、向こうはその手の能力で壺を割らせた、あるいは俺が割ったとしか思えない状況を作ったと考えるべきか。

 まだその能力の全容が掴めないが、本当にダクネスがその良い男とお見合いするとは限らない。何か対策でもしておきたいが・・・・

 

 

 ・・・そうだ。

 

「アクア」

 

 ダスティネス卿が席を外したタイミングで話しかける。

 

「何?私としてはダクネスの家の子になって贅沢三昧したいんだけど」

「・・・・護符作る」

「デコピンしながら言う!?・・・まあ、挨拶に来たんだからおみやげの一つくらいは必要よね。女神アクアの名に恥じないグレートな護符を作っちゃいましょ!」

 

 その発想は女神アクアの名に恥じないのか・・・

 

 ともあれ、アクアには強力な魔除けの効果を護符に込めてもらおう。術式とかはこちらで準備するとして、素材は・・・・この屋敷でもらえたりするかなぁ・・・・

 

「・・・・・・なあ、サトシ」

 

 和真が話しかけてきた。何だろう。

 

「ダクネスって、本当にお嬢様だったんだな」

 ―――このタイミングで!?

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「ダスティネス卿」

「ん?君は確か・・・サトシ君だったか。何か用かな?」

「何か、護符の作成に使える、材料・・・・ありますか?」

「護符・・・・・ララティーナを心配してくれているのか?嬉しいことだ・・・しかし素材・・・・ふむ、魔道具なんかに適した特殊な絹がいくらか余っていた筈だが、術式を描くための道具や素材はないな。タダ・・・という訳にはいかないが、いずれ代金を払ってくれるのならそれでいい。それでいいか?」

「ありがとうございます」

 

 良かった。加工は俺が持っている道具で出来るから、護符の作成は可能だろう。どこまでやれるかは俺とアクアの頑張り次第だが・・・・・・

 

「・・・・・・・・」

 ―――ダスティネス卿?

「・・・・いや、な?その、正直に答えて欲しいのだが・・・ララティーナは、妙なことを言って、君達を困らせてはいないか?例えば、敵陣に無策で突っ込んだり・・・とか・・・・・・」

 

 あっ、この人、娘の性癖について真剣に悩んでる奴だ。すさまじく良い人だ。

 

 確かにダクネスの言動にはしばしば頭を悩ませている。主に和真が。それを正直に伝えるのも選択肢としてあるが、そうすればダクネスはいよいよ実家に強制送還されるのではないだろうか。人の願いを無碍(むげ)にするのは嫌いだが、ダクネスは願いが願いだ。いっそ止めた方がいいのかもしれない。しかし・・・・

 

「彼女の頑丈さには、常々助けられています」

「質問の内容に触れないということは、つまりそういうことなのだな?ああ、頭が痛い・・・・・」

「た、楽しそうにしてますから・・・」

「む、むう・・・・・・なら、もしララティーナが危険な・・・というか、後先考えない真似をすることがあれば、その時は止めてくれるか?」

 ―――了解しました。




円城寺(えんじょうじ) れいか
 君咲学院3-A所属。金髪に紫の瞳のナイスバディ。
 茶道部長にして前生徒会長、そして円城寺グループの令嬢。
 兄が複数いるが、彼らからは溺愛されている。その影響で凄まじいお兄ちゃん子になり、主人公はその兄代わりとしての立ち振る舞いをマスターした。年上の仮の妹というシチュエーションがおかしい?考えるな。感じるんだ。
 あんずが転校する前に不登校になった一因といえる。詳しい説明は省くが、あんず本人は彼女が悪いとは思っていない。実際主な責任は馬鹿な大人達にあると言ってもいいが、れいかは自主退学も考えるくらいには負い目を感じていた。ちなみに彼女が生徒会長を辞めたのはあんずの転校がきっかけ。


瀬川(せがわ) かえで
 君咲学院3-B所属。茶髪をアップにしている。赤眼。
 茶道部員にして風紀委員長。円城寺れいかの取り巻きの一人。
 風紀委員としてマウントを取れる間抜けにはサディスティックな性格がモロに表れる、自他ともに認めるゲス。同じ風紀委員の後輩である桃地(ももち)あすかからもしばしば非難される。なお、親しい相手にはツンデレ
 家柄はわりとコンプレックス気味。ママのことを馬鹿にした奴ら全員見返してやる。


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出会いと恋の季節

 バレンタイン間近でこんなサブタイトルだけどチョコのチの字も出ないんじゃ


 アルダープの息子とダクネスがお見合いをする日が、今から数日後となったと聞いたのは、ダスティネス卿に依頼されていた護符を持って行った朝のことだ。

 

「多分何かしらあるよなぁ・・・・・・」

「うむ・・・出来れば、アクア君にはいざという時のために立ち会って欲しいのだが・・・」

「まっかせなさい!邪悪な悪魔なんかに負けるつもりはないわ!ダクネスもクルセイダーだから耐性あるはずだし、大船に乗ったつもりでいてくれていいわ!」

「その大船見当違いの方向に行きそうだな」

 

 言えてる・・・・・・

 

「それじゃあ、俺もそれに立ち会ってもいいですか?アクアはなんといいますか、少々迂闊(うかつ)なところがあるので、悪魔以外にも警戒できる人間がいるべきだと思うのですが」

 ―――和真ーそれ俺じゃ駄目ー?

「お前はお前で不意打ちに異様に弱いから駄目だ」

 ―――そんなー。

「じゃあお前は何か適当なクエストでも受けて金を稼いでいてくれ。向こうがどんな手を使うか分からないから、あんまりアクセルに近すぎない場所でする仕事の方がいいか?人の目があるならなお良いけど」

 ―――わかった。じゃあギルド行ってくる。

 

 俺は何か適当な依頼がないか、ギルドへ向かうことにした。

 

「・・・・その、彼との関係はいつもあんな感じなのか?普通の仲間とはどうも違う気がするのだが・・・」

「・・・気が付いたらあんな感じの関係になってました」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 さて、冒険者ギルドに来たはいいが、こんな時期ではあまりソロ向けのクエストがない。誰か臨時に組める相手がいればいいが・・・・・・

 

「あっ、サトシさん!おはようございます!今日はこれからお仕事ですか?」

 ―――ゆんゆんか。俺はそのつもりだったんだけどいいクエストが無い。そっちは?

「私ですか?私はこのクエストを受けようかと思ってるんですが・・・・一緒にどうですか?」

 

 そう言ってゆんゆんが差し出した用紙を見る。『走り鷹鳶(たかとび)の生態観察の護衛および補助』・・・報酬は難易度のわりにあるな。

 走り鷹鳶とは、鷹と鳶の異種交配から何故か生まれたダチョウのような鳥だ。繁殖期には硬い物に突撃し、激突する寸前で回避することで求愛行動とする謎の性質があり、今では立派にモンスターとして認定されている。

 俺は実物を見たことはないが、確かそろそろ繁殖期の筈だ。いくら走り鷹鳶が激突を避けようとしているとはいえ、回避に失敗する個体は一定数いるし、その犠牲になる荷馬車なんかも毎年あるのだとか。なかなか危険なモンスターだ。

 とはいえ、人間自体を獲物としている訳ではない。普通に強いモンスターは走り鷹鳶を避けるし、ゆんゆんのステータスならソロでも充分にクエストを達成できるだろう。

 しかし、彼女のコミュニケーション力では大いに不安だ。俺が着いていくべきだろう。

 

 ―――一緒に行くか。

「はい!・・・・・・そういえば、めぐみん達はどうしてるんですか?」

 ―――ノーコメントで。「何で!?」

 

 めぐみん達が現在進行形で借金に悩まされている事をゆんゆんに伝えれば、彼女がどんな行動に出るかいまいち想像できない。

 

「ところで、モンスターと戦う事、どう思う?」

「モンスターとの戦い・・・ですか?私は生き物を殺すのとかは苦手なんですが、モンスターや魔王軍に苦しめられてる人がいる以上、やっつけなければならないと思います」

 

 やっつける、か。殺す事を避ける辺り、根本的に冒険者に向いていない気がするが、割の良い護衛依頼なんかはいけるか?

 さて、それはそうと・・・・・・

 

「じゃあ、悪魔の類は?」

「悪魔・・・私はあまり関わりたくはないですかね・・・・里の皆はそういうの好きですし、アクセサリーの装飾なんかにもよく使われますが、前に上級悪魔と戦ったのはちょっとしたトラウマで・・・でも、どうしたんですかいきなり?」

「最近、悪魔の使役に手を出していて・・・」

「あ、悪魔の使役!?大丈夫なんですか?魂を奪われたりとかしないんですか?」

「節度さえあれば」

「はあ・・・・・・」

 

 ゆんゆんの目が心配混じりのものになった。しかし悪魔の装飾が人気とは、紅魔族はやっぱり中二病部族だった・・・?

 

 ―――じゃあ、依頼人のところに行くか。

「は、はい!」

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「僕の依頼を受けてくれるのは君達だね?何と呼べばいい?」

「わ、我が名はゆんゆん!紅魔族のアークウィザードにして、上級魔法を操る者!」

 

 ゆんゆんのその名乗りに、依頼人である学者の男性が一歩引いた。紅魔族のアークウィザードと聞いて、頭のおかしい爆裂娘と評判の誰かさん(めぐみん)を想起したのか。

 

 「我が名はアマミサトシ!アクセルの街のクリエイターにして、紅魔族の名乗りを踏襲せし者!後、ゆんゆんは爆裂魔法を使わないので!」

「「・・・・・・」」

 

 俺の名乗りでは二人とも沈黙した。そんなぎょっとしたような目つきで見られても困る。

 

「まあ、何だ。紅魔族のやり方に合わせてくれる仲間がいてくれて良かったね?」

「え、ええっと・・・・はい・・・・・・」

「それで、依頼の具体的な内容は」

「ああ、そうだね・・・この時期になると、アルカンレティア行きの街道の辺りで走り鷹鳶が繁殖行動を行うようになる。チキンレース、なんて呼ばれている行動だけど知ってるかな?今はまだ目撃情報が無いが、記録からしてそろそろの筈なんだ。

 僕達はそこに行き、彼らの選定する硬い物の基準とか、チキンレースの詳しい実態を調べるのが目的だ。理解できたかい?」

「は、はい!」―――分かりました。

 

 

 

 そして俺達は学者さんの自前の馬車に乗り、走り鷹鳶がいるであろう場所までやって来た。

 

「あの馬車ならチキンレースの対象としては申し分ないだろう。馬はこっちに()けてあるから、まずはこれで観察を・・・・・・おっ、さっそく来たね」

 

 学者さんが指した方向を見てみると、五・・・いや、六羽の走り鷹鳶がこちらに気づき、走ってきていた。その内の一羽は馬車に突っ込むような軌道ではなく、むしろ審判か何かのように見える。

 馬車に向かっている五羽は、いずれもギリギリのところで馬車を回避している。その避け方は個体ごとに違い、先頭の個体から順にジャンプ、右折、ジャンプ、御者台を足場にジャンプ、左折だった。三羽目より一羽目の方が高く跳んだのは個体差だろうか。

 一連の流れの後、審判らしき六羽目は声を上げて三羽目のもとへ駆け寄った。それに応じて三羽目も声を上げ、二羽そろってどこかへ駆け出していった。

 

「今のは・・・メスの個体が三羽目のプロポーズを受けたんだね。一羽目はジャンプが高すぎたのかな?安全をとったとメスに判断されたのか・・・」

 

 そんなところまで審査されるのか・・・話には聞いていたがとことんスリルを追及する種族なんだな・・・

 あ、残りの走り鷹鳶もどこかに行った。さっきの彼らとは別方向だ。

 

「そうだサトシ君、君はゴーレムの作成が得意なんだよね?複数の的が並んでいた場合の反応が知りたいんだけど、いいかな?」

 ―――あ、いいですよ。

 

 馬車から離れた所に石の人型を五体ほど作る。今回はあくまで的でしかないため、ゴーレムとは呼べない程度の代物でいいだろう。

 しばらく待つと、今度は十羽近い数の群れがやって来た。彼らは人型を見て、相談するかのように顔を見合わせたが、しばらくすると思い思いにチキンレースを開始した。メスらしき個体は走っている走り鷹鳶達を(せわ)しなく見回している。

 ここでは決着がつかなかったのか、彼らは同じ方向に走り去っていった。

 

「次はどんな実験を?」

「そうだね、均一な造形、強度の物体であのような反応になるのなら、形の違う物体なら、いやそもそも外見が同じなら強度の違いが判るのかどうか、ああ悩ましいねえ!そう思うだろう!?」

 

 あっ、おとなしい人かと思ったら・・・これはしばらく満足しそうにないな。

 

 ―――助けてゆんゆん!

 ―――えーと・・・・・・頑張ってください!

 ―――この裏切り者ォォォォッ!!

 

 結局、俺が解放されたのは、学者さんが思いついた案を一通り試してからだった。細かい素材の指定や形のわずかな違い等、様々な差分を作らされ、アクセルに戻ったのは夜遅くといっていい時間になった。

 

 

 

 今回のクエストは本来、護衛がメインで補助はおまけ程度の扱いの筈だったことを思い出しながら夜の街を歩いていると、俺は妙な気配を感じた。

 最近は女神アクアの気配と人間の気配の違いが感じられるようになってきたのだが、この気配はそれに近いものだ。人間ではない。

 一体何者だ?俺はその気配が通りすがりの赤毛の女性から感じられる事に気づき、その女性の後をつけることにした。

 

「・・・・・そこのあなた。さっきから私の事をつけてるでしょう?」

 ―――やっべ、バレてる!

「ちょっとお話、聞かせてもらえるかしら?私は手荒な事は好きじゃないけど嫌いでもないの」

 

 そう言われた俺は、建物の陰から彼女の前に姿を現す。

 

「その髪の色・・・・いえ、あなたの目的が何なのか、話してもらえるかしら?」

 

 目的・・・目的か。具体的に何かある訳じゃないけど・・・

 

「女神かと思った」

「・・・・・・え、ええっ!?何それ、新手のナンパ?私のどこが女神みたいだと思ったのよ?」

「・・・オーラ?」

「・・・・よくそんな恥ずかしい事を言えるわね・・・それで、その女神みたいな私に何の用なの?」

「いえ、気になっただけ、です」

 

 ここで女性は顔を逸らしてしまった。

 

「・・・・・・私はこの街に住んでる知り合いの顔を見に来ただけだから、そんなに長くこの街にいるつもりもないんだけど、縁があればまた会うかもしれないから、今夜はもうお別れにしましょう。ええ。それじゃ」

 

 女性はそんな事を早口気味にまくし立て、逃げるようにこの場を離れていった。

 うーむ・・・気にはなるが、あれをまだ追いかけたらいよいよ本気で抵抗されそうだ。今夜は屋敷に戻ることにしよう。



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来訪者は突然に

 でかいオリ設定をぶっこみましたが、これ以上に世界観に関わるオリ設定は盛り込まれない。筈。


 天光(あまみ)(さとし)の朝は早い。

 またも借金漬けとなった今、ポーションの一つでも作って家計の足しにしたいのだ。

 地球の暦であればもう年明けかという時節、日の出と共に聖はベッドから身を起こし、

 

 「るるる!転校生のひと!おはようございます!」

 ―――アイエエエエ!?るり!?何故るりがここに!?

 

 

 ────────────────────

 

 

「こっちの世界に干渉する方法を探していて、俺経由で来た」

「るるる!現在はるりをそちらの世界に投射することしかできません!世界間の移動にはさらなる情報、演算が必要です!」

 

 なるほど?

 天宮(あまみや)るりは謎の能力で同じ時間軸に同時に二人存在していた節のある君咲学院の先輩だが、どうやら実体の無い幽霊のような形でこの世界に姿を現すことができたらしい。どういう事なの・・・?

 

「聖ー?朝っぱらから大きな物音出すなって・・・おわっ!?誰だこの女の子!?」

「るりは天宮るりです!大宇宙~☆」

「日本の知り合い」

「ああなるほど・・・・いやちょっと待て!?何をどうやったら日本から人が来れるんだよ!?」

 

 そう言う和真の手を取り、るりの手に――――るりの手がある位置に触れさせる。

 

「あ、あれ?すり抜ける・・・幽霊か何かか?」

「るるる!怪奇現象と呼ばれるものにも明確な原因とプロセスがありますね!それを理解すれば同等の事象を発生させられます!」

「?????」

「考えるな。感じろ」

「お、おう・・・・・・」

 

 初めてるりと出会った時の俺のような表情で俺達を交互に見る和真。まあ今回は流石の俺も面食らったし、気持ちはわかるけどな・・・

 

「るりは並行世界とは異なる異世界へと干渉する手段を模索していました!現在は『特異点』を介しての観測手段を試行しています!るりは観測および発言のみでそちらに物理的接触はできませんね!」

「喋るのは干渉じゃない?」

「思念を送信しているだけです。物理的な接触は現状では不可能です!」

「・・・・・・え、ええと、るり・・・さんはいつまでこうしているつもり・・・なんですか?」

「るるる!二時間ほどの観測を予定しています!転校生のひとは何をする予定ですか?」

「こっちの魔法で薬を少し作って、その後で朝食を食べる」

「ではそれを観察します!大宇宙~☆」

「もう二度寝できる気もしないし、今日は俺も手伝うわ・・・・あ、自己紹介はした方がいいか。俺は佐藤和真。見てわかるかもしれないけど、聖と同じ日本人。こっちに来た経緯は・・・・・信じてもらえる気がしないから、証人が起きてから話す・・・・あれ、るりさんが帰る前に起きるか?」

「・・・・・・ポーション、作るか」

 

 とりあえず、俺達はこの辺りで一般的な性能のポーションをまず一つ作る。その間るりは、それぞれの素材や工程の説明を逐一求めてきた。違う法則の存在する異世界の薬品を俺がどれだけ説明できるのか、という問題こそあるが、少なくとも駆け出し冒険者の街(アクセル)で通用するポーションを作れる程度には知識がある。

 

「ふわぁ~・・・サトシったらまた何かやって・・・・・・って、誰この・・・・・・何?」

「無限に広がる大宇宙・・・・☆」

「幽霊・・・・じゃないわよね。むしろ・・・・・」

 

 ・・・そういえば、俺達の地元について、以前アクアが何か不穏なことを言いかけていたような。

 

「何かある?」

「え?ああー・・・・」

 

 俺の問いかけにアクアが悩む。ひとしきりうんうんと唸ったところで、ようやくアクアは口を開いた。

 

「事が事だから気軽に話す気にもなれなかったんだけど・・・サトシ達の故郷って、昔は呪術とかそういった方面の技術が発達してたのよ・・・昔といっても遺跡も残ってるかどうか、ってくらいだけどね?その頃に色々やってた影響で、あの辺りには変なものが沸きやすいし、当時の名残みたいな能力を持った人間が生まれたりしてるの」

 ―――えっ。

「聖は大丈夫なのか?本人は悪い事とか考えなさそうだけど」

「多分何かの目的のために改造された人間の子孫とかそんな感じだと思うんだけど・・・これだけ経っても何も異変とかが無いし、大丈夫じゃないかしら?」

「適当だな・・・ところで、そこの・・・るりさんは・・・」

「明らかに能力を使いこなしてるわね・・・今の状況だって、やってる事は神にだって匹敵しているわよ。こんな事ができるのなら今更暴発とか心配する必要も無さそうね」

 

 普通とは違う人がちらほらいるとは思っていたが、やばい土地だったんだな・・・まあ俺としては、それで苦しむ人がいないのなら別にかまわないし、むしろ楽しいと思うけど。

 

「地球もわりとファンタジーだった・・・・・」

 ―――ファンタジーじゃなくてもいいじゃん。

「そうは言ってもさあ・・・」

 

 そんな風に和真達と会話していると、不意にるりが口を開く。

 

「良かった。あなたはちゃんと、幸せなんだね」

 ―――まあ、な。

「それじゃあ、あたしは元の世界に帰るね。この世界で何があるのかあたしにも分からないけど、あなたなら頑張れると思うから」

 

 そう言って、るりは(かすみ)のように姿を消した。

 先ほどまで彼女の姿があった場所には、少女がいた痕跡は何一つ見つけられなかった。

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

 物音一つしない部屋で、俺、和真、アクアの三人は向かい合う。

 

「まあ、なんだ。お前には色々と助けられたし、俺としては今更お前をどうにかしようとは思わないからな。うん」

 ―――お、おう・・・

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 そして朝食時。

 

「・・・そういえば、お見合い」

「昨日俺達が行ってきた奴か。色々あったが要点だけ言うと、ダクネスは今後もウチのパーティーで面倒を見ることになった」

 ―――ダスティネス卿はそれを認めたのか?

「あいつがバカな事をしでかさないように、ってさ」

 ―――ああ・・・・・・

 

 俺をおいてダクネスのお見合いを片付けた和真達だったが、どうやら無事に終わったみたいだ。

 

「そっちは何かあったか?」

「金は増えた」

「そうは言ってもしょせん数日分だしなぁ・・・どうせならパーっと楽に稼げる依頼とかがあればいいんだが」

 

 ちょっと気合入れた程度で金が稼げるなら誰も苦労はしない。かといって一気に稼げるような賞金首モンスターにはそれ相応の強さがある。俺一人で倒すのはまず無理だろう。

 

「・・・お見合いといえば、あの時私に言っていた『凄い事』についてはうやむやになっていたな」

 ―――え・・・ダクネスに?和真が?凄い事?それもあんな風に顔を赤くするような?

「いや、あれはつい、その場の勢いで・・・」

 ―――ああ、お見合いでもいつものダクネスだったのか・・・

「まあ、そんな感じだった。じゃあこの話終わり!めぐみんが作ってくれた朝ごはんを心して食べよう、うん!」

 

 あ、逃げた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 そしてギルド。今の時期は王都ならともかく、こんな駆け出し冒険者の街では厳しい冬の朝からここに来る者はそうそういない。

 その筈が、今朝は何名かの冒険者が掲示板に――――もっといえばそこにある一つの依頼を見ていた。

 

『キールのダンジョンに発生した謎のモンスターの調査』

 

 キールのダンジョンは俺も知っている。この街の近くにある初心者向けのダンジョンで、和真も先日挑戦したダンジョンだ。彼は盗賊スキルとアーチャースキルの合わせ技でダンジョンに潜れるか試したのだが、その際に誰も見つけていなかった隠し部屋を発見。そこにいたリッチーをアクアがひそかに浄化したというダンジョンだ。

 どうやらそこから新種のモンスターが出てきているらしいが・・・

 

 ―――和真、何か知ってる?

「いや、俺が行った時は、道中は公式に確認されてるモンスターしかいなかったな・・・あの貼り紙によると、その謎のモンスターは人形みたいな見た目の群れなんだろ?そんなのがいたら流石に何かしら気づいたと思うんだが・・・」

「ええ。私もそんなモンスターは見てないわね。あそこのボス部屋にはついでに浄化の魔法陣も張っておいたし、邪悪なモンスターは退散すると思うんだけど・・・」

 

 ふむ。二人も心当たりが無いか。人形みたいなモンスターとなると、誰か製作者がいる可能性が高いが・・・・・・

 

「・・・・・・え?アクア今なんて言った?」

「だから、あそこの奥には私が浄化の魔法陣を張っておいたって・・・」

「・・・・それ、下手したら今回の一件の原因がアクアだと思われないか?」

 ―――確かに、今回のモンスターは人形みたいってもう分かってるし、自然発生したものではない可能性が高いが・・・

「いいか?このまま調査が進めば、遅かれ早かれ奥には着く。そこにはつい最近誰かが設置した魔法陣。王都の方には魔力からその術者を探す手段もあるって聞く。そうなればアクア、お前はどんな奴だと思われる?」

「有能な美人アークウィザード?」

「怪しいだろ普通に考えて!俺はいやだぞまた借金が増えるような事になるのは!」

 ―――ぐはあっ!!

「そっちがダメージ受けるのか!?・・・まあともかく、俺としては謎のモンスターの出所を早急につきとめ、俺達に容疑がいかないようにしたい・・・お前らはどうする?」

 

 和真の危惧は極論かもしれないが、必ずしもありえないとは言い切れない。アルダープという不安要素がある以上、隠蔽工作をしておくのもいいだろう。事前にギルドにでも申告しておくという選択肢もあるにはあるが・・・・・現地で見つかったら話せばいいか。そのモンスターが浅い層に留まっているのならそれでいい。俺達は何もやってないって事で通したい。

 

 ―――とりあえず、調査に参加するか。

「ああ。私としても、その新種のモンスターには興味がある」

「本当にそういう魔法陣じゃないのに・・・・まったくしょうがないわねー・・・・」

「我が爆裂魔法はダンジョンでは使い辛い・・・今回は留守番・・・では暇ですね。ダンジョンの入口辺りまでは同行することにします」

 

 決まりか。和真はこのクエストをカウンター(当然のようにルナさんの所)に持っていき、必要な手続きを行った。ルナさん曰く、昼過ぎ頃に受注者達で集まって打ち合わせを行い、その後出発という流れらしい。

 俺達はその時までに、それぞれ消耗品なんかの確認を行うことにした。




 突然ですが、この章の執筆が終わったら長めに休載期間を設けようと思っています。リアルの方も忙しくなってきたので・・・


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ダンジョン突入

 更新間隔が延びに延びているのでこんな短い文しか用意できなかった非力な私を許してくれ・・・


「謎のモンスターっていうのはあれか・・・」

 

 現在、謎のモンスターが発生しているというキールのダンジョン。

 その入り口から次々と姿を現しているモンスターは、冒険者達が日ごろ戦うモンスターと比べて明らかに異なる印象を彼らに与えた。

 依頼書にもあった通り、その外見を一言でいえば人形。膝に届く程度の大きさの三頭身で、仮面を被ったタキシード姿の怪しげな男をモデルにしていると思われるそれは、強そうな要素が見当たらなかった。

 

 ―――ちょっと調べてみる。

「おい聖!?」

 

 俺はその辺の土から細長い棒を作り、人形の方へ向けて差し出してみた。

 

 トテトテトテトテ・・・

 ピョインッ。

 ギュッ。

 

 ドォン!

 

 ―――自爆した!?

「マジかよ・・・人形の方も残骸すら残ってないな。こんなんで大丈夫なのかこいつら?」

「・・・と、言ってる間に次が出てきたな。それも二体」

「この調子ですと、まだまだ次が出てきそうですね」

「あーやだやだ。あの仮面からなんだかムカムカしてくる気配が感じられるわ」

 

 俺や他の無謀な冒険者が人形を調べている間も次々と這い出してきており、このまま無限に這い出してくるのではないかと思わせるくらいだ。アクアの言う事や俺の感覚も考えると、この人形が悪魔と関係がある可能性も十分にある。悪魔が何故こんな所にいるのかは不明だが・・・・・・

 

「このモンスターが無尽蔵に沸いて出てくる今の状況は決して良くありません。放置すればほぼ間違いなくこのモンスターが方々に散らばるでしょうし、現状維持も決して得策とはいえません・・・冒険者の方々には、このモンスターの発生原因を主に調査してもらいます。

 今回の事件では、何者かがダンジョンの何処かに潜んでモンスターを召喚しているという線が一番濃厚です。封印の魔法が込められた札をこちらで用意していますので、召喚用の魔法陣があった場合にはこれを魔法陣に貼り付ければ無効化できる筈です。術者の討伐ないし捕縛もぬかりなきよう」

 

 セナという名前らしい王国検察官がそういうと、和真の目に光が宿る。今の話でそんな反応をする点といえば・・・

 

「特別報酬か・・・借金返済に使えるか?」

「この一件、悪魔が関わってると思う」

「げっ・・・じゃあもしもの時はお前が・・・いや、お前の()()は人前では使いたくないな。安全重視だ安全重視。爆裂魔法でダンジョンを埋めるのはダメか?」

「その内脱出して本気でアクセルを襲うかも」

「・・・・・・やっぱ行くしかないかぁ・・・」

 

「それじゃあ行くぞー!準備は大丈夫だなお前ら!」

 

 俺達を含めた冒険者の集団は、誰かの上げた声に気を引き締め、無事を確約できないダンジョンの深部へと足を進めた。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 謎のモンスターは、単体で見ればそこまで脅威ではない。

 自爆の威力は鎧さえあれば死なない程度だが、俺みたいな軽装の後衛職ではどこまで無事か。

 とはいえ、それがダンジョンのあちこちから現れるとなれば話は変わる。一発が大丈夫でも二発、三発と立て続けにくらえば、ここに来ている大半の冒険者は致命的なダメージを受けるだろう。

 

 だがしかし、

 

「フフフフ。ハハハハハッ!カズマ見ろ!当たる!当たるぞ!こいつらの自爆は私には通じない!流石の私でも自分から向かってくる相手には当てられるぞ!」

 

 最近では止まっている的にも安定して攻撃を当てられるようになったダクネスが、今回の人形モンスターに対して相性が非常に良いのだ。レベルに対して低い彼女の攻撃でも相手は爆発し、そのダメージは控えめに言って常識外れな彼女の耐久力を貫通することはない。

 脇道なんかから出てくる人形は後続の俺達と交戦しているが、それこそ長い棒で突くだけでもあっちが勝手に自爆するため、それを倒すのに苦労はしない。何の効果もない棒くらいならさっと生成できる俺がいるため、疲れた者が休憩に回る余裕さえある。

 

「ダクネスその調子だ!そっちを真っ直ぐ!ガンガン進め!」

「よし任せろ!ああっ、何だこの高揚感は!自分が、初めてクルセイダーとしてまともに活躍している気がするっ!」

 

 クルセイダーの仕事は雑魚をなぎ倒す事ではない。本来なら今の俺達のように後衛を守る事が仕事なのだが、立場が逆転していないか?

 

「数が多い・・・あっ!何体かそっちに抜けたぞ!」

 ―――げっ!じゃあ俺の棒術を喰らえオラァ!

「クリエイターとは一体・・・」

 

 何なんだろうね。

 

 そして、そんな事を考えている内、和真とダクネスは俺達を置いて二人でダンジョンの奥へと向かっていった。

 ・・・まあ、冒険者仲間のフォローって事でいいだろう。何かあればあっちからも何かしら合図は出せるだろうし。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 そんなこんなでダンジョンの三分の二・・・・は言い過ぎか?・・・半分以上を制圧した俺達の前に、何やら妙なものが現れた。

 

「ええい、何なのだこの娘は!本来なら既に意識を失うか、我輩の与える苦痛に屈しているところだぞ!・・・ああ、ここまで強烈な痛みは初めてだ!流石は魔王軍の幹部というべきか・・・・・・素晴らしいぞこれは!・・・本当に何なのだこれは!」

 

 一体何なのだあれは。

 首から下はまず間違いなくダクネスだが、その顔には例の人形モンスターと同じデザインの仮面を被っており、さらにその上からは、検察官さんに渡された封印の札が貼り付けられている。仮面に隠されていない口元は頻繁に表情を変えていた。

 ・・・・・・本当に何なのだあれは。

 

 ―――和真もいるじゃん!これどういう状況!?

「聖!詳しい事は省くが、元凶の悪魔がダクネスに取り憑いた!これからアクアのいる地上に連れてく!」

 ―――なるぼど分かった!

「もうちょいだダクネス!頑張れ!地上に着いたらすぐ楽にしてやるからな!」

「くっ・・・・何故こんな妙な展開に・・・・・お構いなく」

 

 ―――「「なんて言った?」」

 

 しゃべる口や声は同じなのだが、ダクネスと悪魔のどちらがしゃべっているのかは理解できた。

 

 

 

 そうして入口の方へと騒がしく走っていった和真達を追いかけ、俺も同じ方向へと向かっていった。



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仮面の悪魔との決戦

 本当に、本当に遅くなりました。


 ダクネスの体を奪い地上へと走る悪魔。それを俺と和真は追うが、どうにも距離が詰められない。クルセイダーの体は素早く動くようなステータスではないが、それを言うならこちらは生産職と最弱職。敏捷性は五十歩百歩といったところか。

 

 しかしさっきからダクネスの体がやけに静かだ。少し前までは唐突に喘いだりそれを叱責していたが・・・・まさか!

 

「支配完了!小僧ども、我輩を甘く見たな!この娘の姿なら地上の者達も疑うまい。まずは(くだん)のプリーストのまぬけ面に、出会い頭に一撃喰らわせることにしようか!」

 

 ・・・・アクアがまぬけ面だと?確かにあいつは頭が残念な節はあるし、真面目な思考なんて全然出来ないけど!ここにいたリッチーを浄化した時は女神らしい言動だったって和真から聞いたし!普段から雑な対応ばっかしてる奴の好意見となると信憑性高そうだし!

 

「お前絶対変な事考えてるだろ」「せめて二、三件は反論材料があるべきではないか?」

 

 何でお前らここだけ意見合うの・・・・・・

 

「それはそうと目を覚ませダクネス!お前はもっとやれる子の筈だ!悪魔なんかに屈するのかよ!」

「フハハハハハハハ!無駄だ小僧!この娘はとうとう諦めたのか、先ほどから我輩に身を(ゆだ)ねるように・・・ああっ、そ、そこはらめぇ・・・・・・」

 ―――なるほど、つまりその仮面を引き剥がせばダクネスは無事なんだな!

 

「さあ!ダンジョンから無事生還した仲間との感動の対面である!忌々しい我が宿敵よ!乗っ取られた仲間の体を前に、一体どう出「『セイクリッド・エクソシズム』---!!」ぬわーーーっ!」

 

 ダンジョン入口に待ち構えていたアクアは、先陣を切って出てきたダクネスに強烈な退魔魔法を撃ち込んだ。

 

「ダ、ダクネスー!」

 ―――落ち着け。あれは人間には無害な魔法だ。

 

 並の悪魔なら耐え切れないであろう一撃だが、見たところバニルには致命傷と言えるほどのダメージにはなっていない。ダクネスの体は片膝をついているが、本体の仮面にはちょっとした傷程度にしかなってないな。

 

「ダクネス、仮面、悪魔」

「え?何?よく分からないけど、邪悪な気配がこっちに向かって来たから魔法を撃ったのよ・・・あれ、ダクネスに当たってた?」

「その圧縮言語をやめろ!ダクネスは今、魔王軍幹部の悪魔に体を乗っ取られかけてる!その仮面がそいつの本体だ!」

 

 和真のその叫びに真っ先に反応したのはアクアではなく、その近くで待機していた検察官のセナさんだった。声を上げて驚いたが、一拍置いて護身用のレイピアをダクネス――――否、バニルに向けて構えた。アクセルの平均的な装備よりは立派だが、アクアを見たバニルから感じられる威圧感の前ではあまりに心許ない。

 

「うわ臭っ!確かに悪魔から漂う匂いよ!それも並みの悪魔とは比較にならない臭さだわ!ダクネスったらエンガチョね!」

「ええっ!?わ、私自身は匂わないと思うのだが・・・・フフフフ・・・カズマ、嗅いでみてくれ、臭くはないはずだ!フハハハ、フハハハハハ!仮に臭いとしても、この重装備でダンジョンの深部から走ってここまで戻ってきたからであって、やかましいわ!今はせっかくのキメの場面だというのに!!」

 

 うーん、俺も悪魔特有の匂いは感じるけど、あまり臭いって感じないな・・・・好みの問題か?俺個人としてはこう・・・罪の果実、みたいな甘い香りに感じるけど。

 

「フハハハハ!まずは初めましてだ、忌々しくも悪名高い、水の女神・・・と同じ名のプリーストよ!我が名はバニル!地獄の公爵(こうしゃく)にして魔王軍幹部が一人。大悪魔バニルである!」

 

 ・・・・バニル?何だか聞き覚えがある。あれは確か数日前・・・・・・サキュバス達との会話の中で・・・

 そうだ!彼女達が読んでいた週刊誌の表紙でモデルをやっていたあの悪魔!『見通す悪魔』、『魔王より強い幹部』、『若いサキュバス100人に聞いた、仕えたい地獄の公爵No.1』!

 

「ふむ、我輩の事を知っている者もいるようだな。流石にこのような状況でサインを強請(ねだ)るような真似はしないが、アクシズ教のプリーストよりは殊勝な態度ではないか!まあ、出会い頭に退魔魔法をぶつけるような奴らより礼儀知らずな輩などどこにいることか!それだからアクシズ教は嫌われるのだ!」

「やだー、悪魔相手に礼儀とか何言っちゃってるんですか?神の(ことわり)に逆らうアンデッドにも劣る、人の悪感情がないと存在できない寄生虫じゃないですかー!プークスクス!」

 

 どうしよう。立場的にはバニルと敵対するべきなのに、あのアクアと同じ陣営で戦う事に抵抗を感じる。悪魔が人間を害して悪感情を出させている事は否定できないけど!

 

「「・・・・・・・・」」

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!」「甘いわっ!」

 

 アクアが放った退魔魔法をバニルは横に跳んでかわす。

 

「ダクネス!ちょっとくらい動き止めなさいよ!」

「そ、そんな事言われても、体が勝手に!」

 

 そんなやり取りをしつつも、アクアは退魔魔法を唱えては放ち、それをバニルは横や上、後ろにも跳んでかわし、たまに入る直撃も高い防御力で大したダメージになっていない。交わしている言葉に対してやたらハイレベルな戦闘だ。

 そんな時、セナさんとめぐみんがこちらにやって来た。

 

「ふ、二人とも!これは一体どうなっているのですか!?あんな紅魔族の琴線(きんせん)に触れるようなカッコいい仮面をどうしてダクネスが・・・・私も欲しいです!」

「何バカ言ってんだめぐみん!ダクネスが、魔王軍の幹部に体を乗っ取られたんだ!あの仮面が本体らしい、どうにかできないか!?」

 

 バニルと仲良くなるとあの仮面のレプリカが貰えるという噂を聞いたことはあるが、この状況でそれは無茶だろう。

 現状ではバニルは封印の札でダクネスの体から出られないため、噂に聞く各種光線技や闇系の魔法、スキルが使えない状態だ。正直言って俺も擁護(ようご)できない程度には鬼畜めいた行動だが、かといって精神面以外で否定する材料も見つからない。だからセナさん、今は和真を糾弾するのやめてください。

 

「・・・・・・しかし困りましたね。あの悪魔、アクアの魔法を喰らっても耐えています。おそらくクルセイダーであるダクネスの体を乗っ取ったからですね」

「光系の魔法には体の耐性がある」

 

 普通なら神聖魔法を聖騎士に向ける機会がまず無いが、あのアクアがまともにダメージを与えられていない現状がその耐性を物語っていると言える。

 

「でもあいつ、ダクネスの体にいるから大剣での攻撃しかできないだけだぞ。本当なら殺人光線だか何だかも使えるみたいだし、ああして封印したままの方が安全じゃないか?」

 ―――でもそれは・・・・・

「・・・少なくとも今すぐには封印は解けない。他の冒険者が大勢いるからな・・・・でもあれ、封印解いたら出てくるのか?」

 ―――あの中では一番耐性高いよな。

 

 見たところ戦局はバニルが優勢だ。耐久力と腕力はダクネスのものだが、それを扱う技能はバニルに依存しているようだ。最近ようやく命中率が二割に届いた程度のダクネスの剣が今はあんなにも手強い。ダンジョンから戻ってきた冒険者達も彼(?)に攻撃を仕掛けているが、既に何人も地面に倒れている。俺もゴーレムを何体かそこに混ぜて戦わせているが、どうにも冒険者のフォローで手一杯だ。

 

 ―――なあ和真、あの仮面を直接殴って破壊する方法ってありそうか?

「見た感じ無理っぽいぞ。何度か冒険者の攻撃が仮面に当たってるけど、ヒビ一つ増えてない。やっぱアクアの魔法で浄化するしか無いか」

「あの程度の仮面、我が爆裂魔法で破壊してやりますよ!」

「いやいや、それ確実にダクネスも巻き添え喰らうだろ!流石にあいつを殺させる気はないぞ俺は!」

 ―――まったく、(ワシャワシャ)俺達はこんなにも(ワシャワシャ)めぐみんの事も(ワシャワシャ)ダクネスの事も(ワシャワシャ)好きだというのに。(ワシャワシャ)

「こっ、この状況で子供扱いはやめろォー!」

 

 俺達が戦いに直接関われずにいたところ、バニルが――――否、ダクネスが口を開いた。

 

「・・・・めぐみん、やれ」

 

 ―――今、何ていった?

「今、確かにダクネスがめぐみんに、やれって・・・・・・」

「わ、私、爆裂魔法しか使えないんですが・・・・まさかダクネス!」

「爆裂魔法だと?し、正気か娘よ!・・・・・ああ、正気だ。こうしてあいつらが躊躇っている間にも、お前は冒険者を圧倒し、アクアを攻撃しようとしている。もはやこうするしか勝利の見込みはあるまい・・・ま、待て。考え直せ。そこの小僧、貴様もこの娘の事は憎からず思っているのだろう。それを爆裂魔法の餌食になど・・・・何、私は防御力には自信がある。何とか耐えきってみせる」

 

 

 ・・・・そうか。それなら、俺はせめてその覚悟を全うできるよう、力を尽くす事にしよう。

 俺は地面からゴーレムの腕を生やし、ダクネスの体に殺到させる。案の定と言うべきか、その体の身体能力を生かしてそれらをかわし、的確に二本、三本、また二本と減らしていく。この腕は俺の魔力が続く限り無尽蔵に生み出せるが、悪魔バニルは少しずつこちらとの距離を詰めてくる。

 そしてダクネスの体は俺の目前まで迫ってきた。もはやダクネスの意識は出てこれないのか、その顔は嗜虐的(しぎゃくてき)な笑みを浮かべている。

 バニルは俺を剣の腹で殴りつける・・・が、その剣は俺に当たらない。俺は足元の土を攻撃に使うことで空洞を造っており、咄嗟にそこに隠れることで攻撃を逃れたのだ。

 そして、この空洞は俺一人分だけのスペースではない。

 

「ぬうっ!落とし穴か!これでは爆裂魔法を避けられん・・・と思ったか?フハハハハ!馬鹿め!その攻撃は読んでおったわ!」

 

 そう言ってバニルは持っている剣の鞘を地面に突き立て、それを踏み台に脱出する・・・・しかし、その足は鞘を踏むことはなく、バランスを誤った体は着地して態勢を整えるのに僅かに時間を必要とした。

 バニルが単に鞘を踏み損ねた、という話ではない。その体が踏もうとした場所には()()()()()()()()()()が残っており、そこにある筈だった鞘は・・・・・・穴の外にいた和真の手にあった。

 

「大当たりだ。《スティール》には自信があってな」

「!!・・・・・おのれおのれぇ・・・!」

 

 俺はその隙に、ダクネスの体を岩で頑丈に固定する。四肢を岩の中に封じられ、上半身と顔だけが岩からせり出している状態だ。

 

「・・・・・・めぐみん。あの仮面に爆裂魔法を撃ってくれ。アクアはできるだけ強い回復魔法の準備だ」

「よし、早まるな。話をすべきである。お前達も、こうして娘の体を危険に晒すことは本意ではないだろう。今日のところは引き分けでどうか?魔王の幹部にして地獄の公爵との引き分けである。友達に自慢できるぞ!」

 

 命乞いを始めたバニル。しかしどうにも違和感を感じる。彼の言葉からは必死さはあるにはあるが、自身の存亡がかかっているにしてはやや軽いような・・・・・・?

 そんな事を考えていると、和真はセナさんに声をかける。

 

「検察官さん。このパーティーのリーダーは俺だ。これで万一の事があったら、責任は全て俺が負う。あんたが証人になってくれ」

「っ・・・・分かり、ました」

 

 ほんの一瞬の筈の時間が、異様に長く感じる。

 

「・・・・・・やれ!めぐみん!」

 

 

 

 ――――轟音。

 

 全てを破壊する最強の魔法が、ダクネスの体を包み込んだ。



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その時、悪魔と出会う

「・・・・・・ダクネス」

「サトシか・・・・長く療養していたが、そろそろ冒険者に復帰できそうだ」

 

 大悪魔バニルとの戦いから一週間。

 めぐみんの爆裂魔法で受けた傷を治療するために、俺達の屋敷で療養生活を送っていたダクネスだったが、今では剣の素振りをできる程度には回復してきている。

 しかし・・・

 

「フンッ!フンッ!・・・む、一体何を・・・・っ!!」

 ―――やっぱまだ完治はしてないだろ。普段ならむしろ全力で殴ってもびくともしないのに。

 

 動きの切れが悪いと思ったら、やっぱりまだダメージが残っているらしい。

 

「痛む・・・・全身?」

「あ、ああ・・・実を言えば、確かにまだ身体中が痛む。本来ならもっと休息をとるべきなのだろうが・・・・今日はあのバニルの懸賞金を受け取るのだろう?あいつを倒した功績で、私達のパーティーが表彰されると聞くし、私だけ欠席というのもな・・・・・・それに何より、動く度に身体に痛みが走るのは・・・イイ!」

 

 もう無敵なんじゃないかこの変態。

 

「おーい、(さとし)ー!ダクネスー!そろそろギルドに行くけど、お前らも一緒に来るんだよなー?」

 

 この声は和真か。この感じからして、もう玄関の辺りまで行ってるのか。

 

「ああそうだー!今からそっちに行くー!・・・・さあ、急いで行くとするか」

 ―――そうは言ってもダクネスはまだ完治していない。走るのは少々辛い・・・いや喜ぶか?まあどっちにしろ遅れるな・・・よし。

「ん?ち、ちょっと待て、何故当たり前のように私を背負うのだ!?辱められるのは好きだがこういうのは違うぞ!?」

 ―――自分を的にさせたダクネスにも責任がある。

 

 そうして俺はダクネスをおんぶしながら玄関へ向かう。こんな事もあろうかと作っておいた背負子(しょいこ)が役に立ったな。

 

「流石に歩くくらいはできるぞ!早く降ろせ!通りは歩いて行く!」

「お前それは目立つから本当に降ろしとけって・・・歩けるんだよな?」

 ―――歩ける筈。

 

 そんなやり取りをしていると、めぐみんの目がやたらと冷たい。何かあったのだろうか。

 

「いやですね。私の・・・知り合いが先日から何度もウチに来てたじゃないですか・・・・いえ、あの子に友人が出来るのは良いと思うんですが、散々ゆんゆんと遊んだ次の日には別の女をおんぶする奴が友人というのはいかがなものかと」

 

 バニル討伐の翌日から、ゆんゆんは屋敷の近くをうろうろし始め、俺が声をかけなければ数時間は余裕でうろうろし続けるのを今日まで続けているのだ。ちなみに和真達は初日はともかく、二日目からはドン引きする様な表情で俺に対応を任せた。

 

 ―――別にゆんゆんと良からぬ事とかしてる訳じゃないけど?

「腹立ちますねそのとぼけ方!私はですね、せっかくゆんゆんに出来た友人が、あの子を簡単に捨てるような奴だったら嫌なだけです!」

 ―――俺そんな事するように見える!?

「見えませんが!!」

 

 なんて面倒な紅魔族・・・・・・ん?

 

「ゆんゆんの事・・・どう思ってる」

「・・・・私は、里では天才で通っていて、周りからも一目置かれる立場だったのですが・・・ゆんゆんだけは当時の私に張り合おうとしました。言うなれば、彼女は私にとって唯一のライバルであり・・・そして・・・・」

 

 めぐみんがそこまで言った時、不意に彼女は後ろ――――屋敷の門の方を振り向いた。そこには、

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 無言でこちらを見つめ続けるゆんゆんがいた。その目は何故か紅く輝いていて正直怖い。

 

「・・・・・・さあ!早くギルドに行きますよ!賞金が私達を待ってます!」

「えっ・・・・ち、ちょっとめぐみーん!」

 

 ・・・・俺達も行くか。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「冒険者、サトウカズマ殿!此度(こたび)の魔王軍幹部の討伐に際し、汝の功績を表彰し、(くだん)の賞金首、仮面の悪魔バニルにかけられた―――」

 

 俺達の代表として、和真が先頭に立って表彰されている。

 バニルにかけられていた賞金は、俺達に課せられた借金を全て返済しても尚、大金が俺達の元に残る計算だ。これが宝くじか何かで労せず手に入れた金ならともかく、超大物賞金首を多数討伐して手に入れた金だ。ただの泥棒は不用意に俺達を刺激しようとはしないだろう。

 

「そしてダスティネス・フォード・ララティーナ(きょう)!今回における貴公の献身素晴らしく。ダスティネス家の名に恥じぬ活躍に対し、王室から、感状並びに、先の戦闘で失った鎧に代わり、第一級の技工士達による全身鎧を贈ります」

 

 あの戦いで囮となったダクネスには、パーティーとは別の枠でも表彰されている。成り行きや言動はともかく、結果だけ見れば、あいつは己の命を顧みずに凶悪な賞金首モンスターの討伐に貢献した勇敢な聖騎士だ。

 めぐみんの爆裂魔法で粉々になった(あの威力で粉々程度に収まる辺りが常識外れだが)鎧が国の金で新調されるという報酬があった。遠目に見た限りでは、元のデザインを残しつつ細部の装飾が増えた感じか。防御力は・・・ふむ、かなりの代物じゃないか?まああのバニルを討伐した者に贈られる装備としては妥当・・・いやダクネスはバニルを封印させて悶えてたくらいだが。

 

「おめでとうララティーナ!」「ララティーナ!よくやった!」「流石ララティーナだ!」「ララティーナ可愛いよララティーナ!」

 

 冒険者達からの喝采がダクネス――――否、ララティーナに浴びせられる。普段は貴族として振る舞う事を望まず、『ダクネス』という一種のあだ名で書類などを通しているが、今日ばかりはそんな小細工は無視されている。事前に和真が告知していたのもあり、この場にいる冒険者の間ではララティーナという本名が認知されている。

 実態はさておき勇ましい女として通しているし、その根底に『自分は女らしくない』的な考えがあるのであろうララティーナは名前の可愛らしさに恥ずかしがっている。しかし俺としてはララティーナは十分可愛いと思う(問題がないとは言っていない)し、立ち振る舞いを気にすれば淑女らしくもできる筈なのだから、今の内にララティーナはララティーナ慣れしておいた方がいいだろう。

 案の定ララティーナはララティーナと呼ばれて赤面して机に突っ伏し、うめき声を上げている。こんな羞恥は私の趣味ではない等とララティーナはほざいているが、ララティーナという名前をずっと伏せて活動するより、どこかでララティーナという名前を周知させる方が気が楽ではないだろうか・・・身分の違いはあるが、隠し事をしているといつか誰かに気付かれる可能性もあるのだから。

 

 そろそろララティーナがゲシュタルト崩壊を起こしそうだが、それを横目に和真への賞金の進呈が行われる。

 姑息(誤用)なアルダープにより課せられた借金の分を差し引かれても、札束の山と呼ぶべき塊が和真に渡された。

 ・・・・・・しかし、普段なら調子にのってもおかしくない・・・いや、皆におごるくらいはやるであろう和真の顔は決して嬉しそうではなかった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「・・・・・・あいつさ、俺達と遭遇した時に言ってたんだ。『この街の友人に会いに来た』って・・・・その友人ってな?働けば働くほど貧乏になる特技を持ってるってさ・・・そんな変な魔王軍幹部、俺達の知り合いにいるよな・・・・・・」

 

 通りを歩きながら、和真はそう語る。同じく浮かない顔のダクネスも一緒だ。

 バニルが言ったという特徴の人物がそうそういるとは思えない。この大きくない街に限ればなおさらだ。俺の脳裏に、働けば働くほど金を失うポンコツリッチー、ウィズの顔が浮かんだ。

 

 ―――だが、あいつは・・・・・・

「今回の件は私からウィズに報告しよう。ほんの一時だったが、体を共有し暴れ回った仲だ」

 

 ウィズ魔法店の前まで来たところでダクネスが続ける。

 

「人をからかうところは頂けないが、そこまで悪い奴でもなかったと思える・・・」

 

 あの大悪魔が、そこまで悪い奴でもない・・・・ま、まあ、あれより(たち)の悪い悪魔なんていくらでもいるが・・・・・うーん・・・・・

 

 意を決したダクネスが、店のドアを押し開ける。のんきな女店主は、この客が自分の友人を殺した事を知らないかもしれない。だがあるいは・・・

 

「へいらっしゃい!店の前で何やら恥ずかしいセリフを吐いて遠い目をしていた娘に、卑怯な手段には定評のある冒険者、そしてうちの店主にも劣らぬ変人と評判のクリエイターよ!実に一週間ぶりであるな!・・・おっと、どうした娘よ、膝を抱えてうずくまって?よもや我輩が滅んだと思ったか!?フハハハハハハハ!!」

 

 そこにいた店員は、見覚えのある笑ったような仮面を着けていた。その気配は、爆裂魔法で本体の仮面を消し飛ばした筈の悪魔、バニルだった。

 

「あらカズマさん、いらっしゃいませ!聞きましたよ、バニルさんを倒して賞金を手に入れたそうですね!凄いですね、私も現役時代はバニルさんと何度も戦ったものですが、結局一度も勝てず・・・」

 

 店の奥からウィズも現れる。彼女の口ぶりからして、バニル討伐の話は既に彼女にも伝わっているらしい。

 

「いや、確かに倒したよ?倒したはずだよ?何でコイツここにいんの?爆裂魔法を食らって無傷ってどういう事だよ。チートかよ」

 

 チートについては俺達(ニホンジン)が言えた事ではないけど、

 

「高位の悪魔、魂、たくさん」

「フハハハハ!そこの小僧は理解しているようだな!我輩が説明しなくとも良いレベルで口数を増やせば言う事はないのだがな!」

 

 高位の悪魔は命を複数持っているという。この辺の感覚はサキュバスに聞いてもよく分からなかったが、バニルについてはその数に余裕があったのだろう。

 

「あの日、爆裂魔法で確かに我輩は死んだ。そして今の我輩は残機が一人減った二代目バニルという事だ」

 

 仮面の額に浮かんだ『Ⅱ』を示しながら、バニルは事も無げに語る。

 二代目・・・あの口ぶりだと、次に死ねば三代目バニルが現れそうだが・・・ん?つまりバニルを初めて殺した俺達って、魔界なら伝説か賞金首かになるのでは・・・・・・?

 

「バニルさんは、前々から魔王軍の幹部を辞めたがっていたんですよ。なので、一度滅んで、夢のために再び蘇ったみたいです。今のバニルさんは、既に魔王城の結界の管理をしていません。なので、とても無害なはずですよ?」

 

 いや、本人の人格が変わった訳でもない以上、急激に脅威度が下がるとも思えないけど・・・?

 まあ、元々バニルの脅威度は魔王軍幹部の中ではぶっちぎりに低い(弱いとは言ってない)とされていたし、それでいいか。

 

 そんな事を考えていると、バニルはこちらに視線を向けた。

 

「汝、悪魔と契約せし生産者よ。見たところ、汝の力は神に由来する物のみではない。その血、その身体、何処の誰かは知らんが随分と大層な野望を抱いた者がいたようだな・・・」

 ―――えっ、何?俺の血統が何だって?

「汝、その血を受け入れるも良し、拒むも良し・・・・しかし汝の魂を見るに、今更拒むのは難しかろう。なれば、我輩に修行を願い出る事も視野に入れてみてはどうか?まあ対価は貰うがな」

 

 彼の言う事はいまいち分かりにくいが、ニヤリと邪悪そうに笑う口元ははっきりと見えた。




 今回を持ちまして、『この素晴らしい世界にアンサンブルを!』の連載を停止させて頂きます。そろそろモチベーション維持が難しかったり、リアルが忙しかったりするので、キリがいいと思える書籍版3巻分が終わった今回を持って、当作の連載を終了します。
 たまには短編か何かを投稿するかもしれませんが、まあ期待しないで待っていて下さい。


 さて、3巻分を完走した感想ですが、原作があるというのは案外自分には縛りになっていたように思います。私は意図しない形での原作設定無視はやりたくないのですが、そうなると原作を細かく読み込まないといけないので気をつかいます。クロス物なので2倍気をつかいます。ちなみにその辺りを気にしてお蔵入りになったネタもいくつかあります。改造されてないお兄様が五月蠅い魔法科高校とか・・・
 あんガル主人公の転校生くんは使いまわしの地味無口などではなく、無言で奇行をしてるタイプですので、彼の心境を描写しやすい一人称での執筆になりましたが、これって案外書きやすいですね。視点主の心理描写が入れやすいです。
 私はこれが初の執筆なのですが、読み専でいるのとは違う感覚になれます。これを読んだ方も、何かしら執筆してみてもいいかもしれません。

 それでは、またご縁と私の執筆意欲があれば。


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