幻想郷の「ヤミ」を払う物語 (フラスカ)
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第一話「ヤミを払ってくれる?ごめんね、拒否権は無いんだ」

「というわけでよろしくね!」

 

 よろしくねじゃない、状況が飲み込めない。

 

「だからー言ったでしょ?」

 

 何も聞いていないんだが、いきなりヤミを払えとか言われたんだが。

 

「幻想郷って知ってるよね?」

 

 知らん、そんな知ってて当たり前みたいなノリで言うな。

 

「知らないのか……じゃあこれ飲んで」

 

 疑いもせず目の前に出されたコップを空にする。今思えば後悔しか無いが。

 

「飲んだ?」

「飲む以外の仕草が見えたか?」

 

 と、説明も無くこちらの質問に答えない事への苛立ちも含めながら皮肉を言った。

 

「そろそろかな?」

 

 頭の中で耳障りで鈍い音が聞こえた。パソコンの電源が入ったような機械的な音だ。

 

「死ぬ事は無いと思うけど、頑張ってね」

 

 何をだ、と聞き返そうとした瞬間猛烈な痛みが頭を襲った。痛みで悶え打ち、嗚咽しながら頭を落ち着かせる。

 痛みとは別に何かが入ってくる。これは……情報? 

 

「今飲んでもらったのは、情報凝縮ジュースとでも名付けようかな?」

 

 何それ凄い便利。飲む前にこんな事になるのを教えて欲しかったが。

 

「うん、頭痛も収まってきたみたいだね。意識も脈もちゃんとあるようだ」

 

 成る程、確かに情報凝縮ジュースの名前は嘘では無いみたいだ。しかし、少しだけ引っ掛かる事があった。

 

「俺が死んでたり殺されてたりと、ろくでもない情報が入ってたみたいだが?」

「可能性の断片だね。あちゃー入ってたか―……」

 

 入ってたかーじゃない、死ぬ可能性もあるのか? 馬鹿野郎それなら俺は帰るぞと問いただす。

 

「うん、あるよ」

 

 表情すら変えず即答しやがった。

 

「君も分かったと思うけど、人ならざる者が普通にいる世界だからね」

 

 冗談じゃない、拒否権が無いなんて知るか。それなら行かなければいい。

 

「いいの?」

 

 良いも何も自分が死ぬかもしれないと分かっていて、ホイホイ行く奴なんてそうは居ないだろう。

 

「そのジュースには、可能性の断片が入ってるって言ったよね? なら君にも見えたはずだけど」

 

 確かにさっきのジュースを飲んだ時に他の情報も見えた。だがそれは見なかった事にした。

 

「罪の無い女の子達が泣いている姿を」

 

「それ」を直視して逃げ出してしまったら、自分は罪の重さに耐え切れないだろうから。

 

「その子達が大勢の人を殺める姿を」

 

 見なかった事にした。それを目の前にいるこいつは。

 

「そして、その子達が救われずに死ぬ姿を」  

 

 自分は関係ないと、そいつらがどうなってもどっちでも良いと言うかの様に平然と言い放った。

 

「君は、その子達をそれでも見捨てるというの?」

 

 ああそうか、拒否権が無いっていうのは拒否する選択が無いって事じゃ無かったんだ。

 

「それでもいいなら帰りなよ、この事を忘れて平和に暮らせば良いさ」

 

 きっとこいつはこうなる事を分かっていて俺を呼んだんだ。

 

「君が駄目なら、時間は掛かるけど他の誰かを探せばいいし」

 

 最初から掌の上だったのか、そりゃ敵う筈が無い。

 

「もう一度だけ言うよ? 君はそれで良いの?」

 

 俺は断らないだろうって意味で、こいつはそう言ったんだ。

 ごめんね、拒否権は無いんだ。と。

 

「分かった、俺がヤミとやらを払ってやる。但し最大限のバックアップをしてくれるんだろうな?」

 

 大きく息を吐き、嫌々ながらも要求を受ける。その言葉を聞いた後、

 

「君ならそう言ってくれるって思ってたよ」

 

 とても嬉しそうに、満面の笑みでそいつは言った。

 



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第二話 「それじゃ、状況を説明しよっか」

「それじゃあ、状況を説明しよっか」

「ああ、頼む」

「舞台は幻想郷、忘れ去られたモノが行きつく世界。人と妖怪が共存する世界」

 

 で、死ぬ可能性もある、と説明を付け加えた。

 

「本来なら基本的に争いの無い理想郷の筈なんだけど……」

 

 成る程、争いが無い世界というのは理想の世界で、そんな世界があるならまさしく理想郷と言っても間違いないだろう。

 

「年に何度か異変と呼ばれる、世界をおかしくする出来事が起こるんだ」

 

 理想の世界かと思ったら案外怖い世界だった。

 

「と、ちょっと待て。その異変とやらは自然に収まるものなのか?」

「いや、専門家がいるみたいで起こる度に解決してるみたい」

 

 ふむ、平和な世界でも対策はしっかりあるのか。

 

「で、そこの世界の管理人さんから聞いた話だと、外からヤミと呼ばれる物が入ってきたって」

「それが、俺の払うヤミとやらで良いのか?」

「そうだよ、君に払って欲しいのはそいつ」

「それで、そのヤミとやらはどんな性質を持ってるんだ?」

「ヤミは、対象の心の隙間に入り込み精神を侵す。その後相手を狂わせ幻覚、幻聴などを見せる」

「なかなかにえげつないな」

「その後凶暴化させる。そして完全に周囲の生物を殺し尽くし、憑りついた相手を取り込む」

「待て、それだと俺が見た断片と合わない所がある」

「君が何を見たかは分からないけど、あくまで可能性だからねー。現在分かってる情報だと取り込まない場合は他の生物に移動するんだって」

「それで残された方は?」

「自分のやった事の罪に苛まれて、死ぬみたいだね」

「どっちにしろ死ぬってわけか。その異変の専門家とやらに退治を頼めないのか?」

「僕もそう言ったんだけど、管理人さんが言うにはダメだってさ」

「ダメ? 子供の我儘じゃあるまいし何で」

「ヤミは他人に感染して規模を広げ、自己学習能力まであるんだってさ」

 

 異変の専門家にまで感染する可能性があるからダメって事か。

 

「分かった、もう良い。何か良い話題は有るか?」

「ヤミは、感染が早期なら駆除する事が出来るみたい」

「そうか、で、その方法は?」

「分かりません」

 

 気持ちいいぐらいにハリセンの音が響いた。

 

「痛ったいなぁ! 何すんのさ!」

「お前がトンチンカンな事言うからだろうが!」

「だって読んだって分かんないんだもん!」

「それを貸せ、俺が見た方が早い。なになに……」

 

 ヤミへの対処法。

 外からの侵入者。感染者は少ないが危険性は大。

 ヤミはココロの隙間に入り込み、絶望を主食とする。

 生物の持つ黒い感情が好みの様で、明るい感情を持つ人間には寄り付かない傾向がある様子。

 既に取りつかれてしまった場合は、対象の殺害を優先した方が被害も少なくて済むだろう。

 感染が早期の場合、感染者のココロを満たす事で駆除が可能。

 

「対処法作者八雲紫、ねぇ……」

 

 名前とか対処法の書き方とか見るに

「きっと頭の固いババアなんだろうな」と、呟いた。

 

「その言葉は───!」

 

 次の瞬間、頭に何かがぶつかった。ぶつかったものを拾うと、紙に文字が書いてあった。

 

「キョウリョクシャナノデユルス、ツギハナイトオモエ」

 

「良い? その人の事をババアとか行き遅れとか言ったらあだだだだだ!」

 

 どこからともなく落ちてくる物に下敷きになる姿を見て思った。年齢関係は地雷原をタップダンスするものだと。

 

「一通り説明も終わったし、すぐに君には幻想郷に旅立ってもらうよ」

「一応要点だけ頼む」

「感染者は不明、数人いる。時間を掛け過ぎると手遅れになる。心を満たす事で駆除が可能」

「後追加で死ぬ可能性が有るっていうのもな」

「ごめんね」

 

 目の前のこいつは急に謝った。

 

「何についてだ?」

「危険な旅をさせたりとか、情報が不十分だとか」

「分かってるじゃねーか。それなら良い、謝るな。

 それとも俺が死ぬと思ってるから先に謝ってるのか?」

「ち、違うよ! 君の事は信頼してるけど……良いからこれ飲んで!」

「またさっきの凝縮ジュースじゃないだろうな」

「違うよ、お守りみたいなものだよ」

 

 手渡された飲み物をまたも飲み干す、さっきと違って甘みとコクがあって美味いな……。

 

「ふぅん? あ、美味いわ」

「全部飲んだ?」

「飲んだ飲んだ、お代わり欲しいレベルで美味いわ」

「それなら良かったけどお代わりはないから。さっさと行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

 

 そういって目の前に広がる目のある、いや、目しか無い空間へ足を踏み入れた。

 

「僕も出来るだけバックアップするから精々死なないようにねー」

「出る前に物騒な事言ってんじゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、行っちゃった」

「本当はやっちゃ駄目なんだけどね、蓬莱の薬使っちゃった」

「これで彼は死なないだろうけど」

 

 ズキリと良心が痛む、そんなものとっくの昔に無くなった筈なのに。

 

「死ぬのなら死なせてあげた方が楽だったのかもね」

「死んで欲しくないから不死の薬を使うだなんて、完全にエゴだね」

 

 ぐずり、と背後に黒いヤミが広がった。

 




さてさて観客の皆様、決定の時間でございます。
一 フランドール・スカーレット
二 東風谷早苗
三 古明地さとり
四 古明地こいし
五 風見幽香
以下の五人よりお選び下さい。投票は活動報告にて受け付けております。
尚、期限は一週間程度とさせて頂きます。遅くて一週間程度ですので次の物語が
早く始まってしまった場合にはそこで締め切らせていただきます。
誰から物語が紡がれます事やら・・・


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第三話 「ここが幻想郷か」

 至る所に目がある空間をくぐり、幻想郷へ辿り着いた。

 

「ここが幻想郷か」

 

 目の前には鳥居、桜並木、そして……。

 

「ああ、やっと来た。あんたが紫の言っていた人間?」

 

 紅白カラーの脇を出した巫女さんが一人。

 

「腋巫女か……」

 

 つい、口からそんな言葉が出た。

 

「うっさい!」

「んがっ!?」

 

 何かで頭を叩き割られた。

 

 

 

「全く、初対面の人間に何言ってんのよ……」

 

 そっちも初対面の人間に何やってんだよお前は、と言い返した。

 

「それは……お互い様って事でチャラにしましょ?」

「出来るかこの腋巫女が!」

「もっかい頭を叩き割られたいのかしら?」

「よし分かった、その祓串を下ろすんだ」

 

 巫女さんって優しいものじゃなかったか? と心の中で悪態を吐く。

 

「まだ何か言いたそうな顔だけど?」

「滅相もございません」

 

 よし、こいつの前では隠し事は出来なさそうだな。覚えておこう。

 

「まず、あんたに行ってもらう所は太陽の畑よ」

「太陽の畑? また随分と呑気そうというか暖かそうな所だな」

「そんな事をいつまで言ってられるかしらね」

 

 あ、つまり危険なんだな。察した。

 

「良い? 危険だと思ったらすぐに帰ってきなさい。只の人間にどうにか出来る筈が無いんだから」

 

 恐らく心配して言ってくれてるのだろうが、少しカチンときた。

 

「私が行った方が早いに決まってるのに……紫さえ邪魔しなければ」

 

 成る程、こいつは何でもできるから他人を頼る事をしないんだな。そうかそうか。

 

「というか、私としてはここで帰って貰った方が有り難いんだけど? 手間も省けるし」

 

 言葉を遮り頭にチョップを食らわせた。

 

「あったぁっ!? 何すんのよ⁉︎」

 

「目の前の腋巫女にチョップしただけだが?」

「腋巫女言うな! そうじゃなくて何でそんな事するのかって聞いてんのよ!」

「やかましいわ小娘が!」

「こむっ……! あんたと歳はそう変わらないと思うんだけど⁉︎」

「そういう事を言いたいんじゃないんだよ!」

「何であたしが怒られてんのよ!」

「良いか? お前は異変解決の専門家だか何だか知らんが、女の子だろうが!」

「はあ?」

「いくらお前が何でも出来ようが強かろうが傷付く理由にはならないんだよ」

「つまり、何が言いたいわけ?」

「俺を信頼しろ。一人で何でも抱え込もうとするな」

「残念だけど、会ったばかりの貴方を信頼する理由が無いわ」

「信頼しない理由もないだろう? お前は神社の中で茶でも飲んで待ってろ。俺が全部解決してやる」

「そう、じゃあ精々死なないようにね」

「大丈夫大丈夫、只の人間でも案外しぶといもんだ」

「ま、本当に解決したらお茶の葉ぐらいは信頼してあげるわ」

「覚悟しろよ? 人間はしぶとさがウリだからな」

 

 そんな事を笑いながら言いつつ、神社を出て太陽の畑とやらに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を信頼しろ、ね」

 

 さっき交わした会話を思い出す。

 

 俺を信頼しろ、至って普通の言葉なのに何故か頭から離れなかった。

 

「さすが博麗の巫女さんだ! また異変を解決したんだってよ!」

(やっぱり普通の人間とは違うんだ、あの人は)

 

「聞いたか? 妖怪になったあいつを霊夢さんが退治したんだってよ」

(敵とあらば知り合いでも容赦なく手を下すのか)

 

 私は気づいた時から博麗の巫女として生きていた。母親の顔はあまりよく覚えていない。母も先代の巫女だったと紫から聞いた。

 博麗の巫女。異変解決の専門家。幻想郷の守護者。楽園の素敵な巫女さん。聞こえはいいが結局の所、人間でありながら人間から外れたものである。

 

 幻想郷を乱す者は退治する。

 

 幻想郷を壊す者は駆逐する。

 

 幻想郷を守るためなら誰だって×××××、それが.家族の様に大切な人だったとしても。そんな風に妖怪を倒し、幻想郷を守る日々を続けていた。

 いつからだっただろう、里の人達が私を「博麗霊夢」ではなく「博麗の巫女」として見るようになったのは。

 

「信頼……か」

 

 あの人なら信じても良いのかもしれない。あの人ならまだ私を知らない。あの人なら───。

 

「何ッ⁉︎」

 

 何かの気配を感じ、祓串を振り下ろした。すると黒い何かが煙となって消えた。

 ああ、これが紫の言っていたヤミという奴だろう。

 

「───いえ、きっと今のは気の迷いね。こいつのせいで変な事を考えちゃったんでしょ」

 

 そう、私は博麗の巫女。妖怪から恨まれ人間からも疎まれる存在。

 彼はまだ知らないだけ。私の正体を知ってしまえばきっと離れて行くだろう。

 だから、今のは勘違いだ。

 私を見てくれる人なんて、博麗霊夢を見てくれる人なんて、居る筈が無いんだから。

 そんな事を期待しても、きっとまた裏切られるだけだ。私はいつも通り、博麗の巫女としていよう。

 そして私はいつもと同じように心を閉ざした、冷たく暗いモノが広がった。



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花の章
第四話 「こんにちは、貴方は良い肥料になりそうね?」


 目の前に広がるのは一面の向日葵。

 

「成程、確かに太陽の畑だ」

 

 向日葵、ひまわり、ヒマワリ───。

 

「向日葵以外なんもねぇ!」

「あら? 私の花畑なのだから貴方が口出しする権利は無いと思うけど?」

「確かにそうなんだが、余りに向日葵しか無いもんだから……」

「いいじゃない、向日葵。太陽に当たらずにカビの生えてそうな貴方よりマシだと思うけど?」

 

 物凄く失礼な事を言われた気がする。というよりも。

 

「誰だお前⁉︎」

 

 そう言って背後に立っている人の神経逆撫で女に問いかける。

 

「誰だ、とは失礼ね。勝手に人の花畑に入って来た癖に」

 

 一理あるなと納得し、逆撫で女に向き直る。

 

「失礼、俺の名は」

 

 そこまで言った所で逆撫で女を見た。

 新緑の葉のような髪、襟元に黄色いリボンのついた白いブラウス、赤いチェックの上着とスカート。たわわに弾む胸、手に持った日傘。花畑に映える儚さと美しさに言葉を奪われた。

 

「俺の名は、何かしら?」

 

 目の前の美女にそう言われ、我に返った。

 口が裂けても「貴女に見惚れていました」なんて事は言えないが。

 

「え、ああ。俺の名は」

 

「いえ、言わなくてもいいわ」

 

 俺の名前が分かっている? もしかしてこいつは協力者側の人間か? 

 

「貴方の名前は……」

 

 もしそうなら有り難い。性格は少し難有りだが、そこさえ我慢すれば美人のお姉さんだ。

 

「肥料ね?」

 

 驚いた、愕然とした。驚愕だ。

 会って数分そこらで肥料扱いされるのは生まれて初めてだったからだ、普通無いと思うが。

 

「すまん、もう一度言ってもらっていいか?」

 

 恐らく聞き間違いだろう、そうだきっとそうに違いない。

 

「肥料ね?」

 

 聞き間違いでは無かった事を確認できた。自分の見る目は大間違いだった事も確認できた。

 しかし幻想郷の女性は碌なのが居ないな……。

 

「けど困ったわ、このままだと大きすぎるし……小さくした方が良いかしら……」

 

 目の前の逆撫で女は物騒な事を呟いている、もうやだ逃げたい。

 

「けど肥料でも会話が可能なら挨拶をしておくのが礼儀よね」

 

 そもそも肥料扱いをやめて欲しいんですが。

 

「こほん、こんにちは。貴方は良い肥料になりそうね?」

 

 そんな訴えも聞こえなかったかようで、目の前の逆撫で女は最大級の笑顔で挨拶した。

 

 

 

 ~少年口論中~

 

 

 

「冗談よ」

 

 冗談に聞こえなかったんですが。

 

「まぁ、花が嫌いとかお花達を踏みつけたりしてたらその可能性もあったけどね?」

 

 やっぱり冗談で言ってなかったよこの女! 

 

「さっきからいい加減にその呼び方はやめてくれないかしら?」

「名前を教えてくれないから性別で呼んでるんですけどね? それとも男だったか?」

 

 向日葵の花弁が舞い散る。明らかに空気の流れが変わった。

 

「そう……冗談にしては余り面白くないわね」

 

 目の前の女は笑っていない。表情自体は笑っているが雰囲気が笑っていない。緊急で脳内会議を開始し、満場一致で勝てませんとの決議が出た。

 

「酷く、不愉快だわ」

「すいませんっしたぁ!」

 

 ひとまずDOGEZAしておいた。幻想郷にきて数時間、初DOGEZAである。だって勝てないんだもの。

 

「今日は機嫌が良いから許してあげましょう」

 

 機嫌が良い? あれで? 花に甚大な被害いってるんですが。

 

「機嫌が良いついでに私の名前も教えてあげる」

 

 やっぱり話聞いちゃいねぇよこの女! 

 

「風見幽香よ」

 

 こうして花の番人、第一感染者の風見幽香と出会ってしまったのだった。

 

 

 

「覚えたかしら? えーっと……肥料さん?」

「肥料じゃねぇっつってんだろ!」

 

 この後滅茶苦茶傘で殴られた。

 



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第五話 「恋人?違うわ奴隷よ」

 傘にあんな使い方が有ったんだと衝撃を受けています。

 

「で、結局何の用なの?」

 

 それは、と話しかけた所でふと考えた。この女に話しても良いのか?  ……状況が悪化しそうだ。止めておこう。

 

「それは、何?」

「太陽の畑に行けって言われた。花が綺麗なので立ち寄った」

 

 嘘は言ってない。

 

「感想言った。肥料呼ばれた。オマエ、オレサマフルボッコ」

 

 真実しか言ってない。

 

「お前?」

「幽香さんでしたぁ!」

 

 一応さんは付けておいた、礼儀として。決してこいつが怖いからでは無い。勝てないからである。

 

「良いわ、今のは無かった事にしてあげる」

 

 知らぬ間に上下関係を仕込まれている……どうにかしなくては。

 

「貸し一つね」

「無かった事になってないんですが⁉︎」

「買い物に付き合いなさい。丁度肥料が切れた事だし」

「断るという選択肢は」

「貴方が代わりに肥料になるのなら許してあげてもいいわよ?」

 

 それは実質選択肢が無いのでは。

 

「喜んでお供させて頂きます」

 

 そんな流れで人里へ行く事になった。

 

 

 

 ~少年少女移動中~

 

 

 

 何の問題も無く人里に着いた。だがしかし、ここで問題が浮上した。

 

「おう兄ちゃん! 見ない顔だな!」

「おっ、姉ちゃんが人連れて歩くなんて珍しいな! 恋人かい?」

「恋人? 違うわ奴隷よ」

「ははは! 相変わらず口の悪い姉ちゃんだ!」

 

 問題その一、どうにもこの女は人里では猫を被っているらしく、結構人が話しかけてくる。

 問題その二、単純に俺が新参者という理由で里の人が近寄って話し掛けてくる。上の二つ自体は悪い事では無い。むしろ馴染めているようで嬉しかったりする。

 問題その三、この女買い物の量が頭おかしい! 以上の問題を合わせるとあら不思議。荷物が大量にあって死にそうなのに話し掛けてくるせいで全然進まねぇ! 

 この問題が出来て、四つに増えるのである。

 

「余り頻繁に何度も買い物に来たくないし、買う時は大目に買うようにしてるの」

 

 どうでも良い話を流しつつ、一旦荷物を置こうとしゃがみこむ。

 

「私の物を汚したら殺すわよ?」

 

 笑顔のまま言われたので、急いで背筋を伸ばした。ギックリ腰になりそうだったのは秘密。

 

「次は……あの店ね」

 

 こちらの状況などお構いなしとでも言わんばかりに無慈悲に買い物を続ける。そんな言葉など耳に入らず、俺は正面から目を逸らせずにいた。

 そう、こちらにはアレが向かっていた。元気盛りの子供達が! 

 この女に子供がぶつかったら……! 急いで荷物を投げ出して衝突を回避しようとした。

 が、しかし現実は非情である。

 

「あうっ」

 

 何という事だ、俺は運命を変えられなかったのか……。

 

「ご、ごめんなさいお姉さん」

 

 そんな声も届いていないのか無言で立っている。

 

 まずい、これはまずい。こいつがキレてる事もまずいが、ここで騒ぎを起こされたら確実に色々と支障が出てしまう! 

 そんな心配をしつつ、子供に手を伸ばす。

 

「待っ───」

「大丈夫よ、あなたの方こそ怪我は無かったかしら?」

 

 にっこりと、微笑みながらそう言った。

 

「は、はい」

「元気に満ち溢れてるのは良い事だけど、周りに注意しなさい」

 

 誰この人、私の知ってる幽香さんじゃない。

 

「あ、あの怒ってないんですか?」

「少し怒ったけど、子供のする事だから許してあげるわ。次からは気をつけなさい、良いわね?」

 

 もしやこれが本当の幽香さんで、さっきまでのは恥ずかしくて、所謂ツンデレという奴なのでは? 

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 そんな微笑ましいワンシーンは。

 

「何か落ちてくるぞ!」

「弾幕か⁉︎」

「妖怪か⁉︎」

「いや……あれは!」

「肥料袋だ!」

 

 幽香さんの頭に鈍い音を響かせた肥料袋によって砕かれた。

 場が凍り付く、だが俺は確信を持っていた。許してもらえると。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 俺がそう言うと幽香さんは微笑み、担ぎ上げ、そして───。

 

「まだ昼間だけど星が見られるかしら?」

 

 俺を投げ飛ばした。

 

 

 

 



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第六話 「貴方、私の奴隷になりなさい」

この物語をご鑑賞中の物好きな皆様方。
ここで、我が一座よりご報告がございます。
甚だ勝手ですが、ある事を追加させて頂きます
邪魔が入る事もございましょう
神や悪魔、吸血鬼やその他人外に脅かされる事も
望まれるのは幸福か、はたまた不幸な終わりか?
せめて、お客様が楽しまれるような終わりを……
かくして、物語は続きます。
良い時間をお過ごし下さい


 さて、幻想郷に来て数時間、肥料扱いされて一時間、イカロスになりかけて五分。少しだけ幽香の事が分かった……ような気がする。

 

「随分と静かね……やっと奴隷としての立場が認識出来たのかしら?」

 

 一つ目、完全なる強者だという事。普通は人間を成層圏まで投げ飛ばしたりはしない。

 

「これでも遅過ぎる位だけれど、少しは褒めてあげましょうか?」

 

 二つ目、ドSである事。

 

「聞いているの? 3秒以内に返事をしないと埋めるわよ?」

 

 三つ目、だが親切である。

 

「3」

 

 親切であるが里の人には素っ気なく、俺には……考えるまでも無いな。

 

「2」

 

 そして親切に接していたのはぶつかったり、周りで騒いでいた子供達。

 

「1」

 

 それらから導き出される答えは一つ。

 

「こいつショタコンか……」

 

いきなり笑顔のまま傘が振り下ろされた。

 

 

 

「さてはショタコンだなテメー」

 

 右に大穴が空いた。

 

「違うわ」

「ならなぜ攻撃する!?」

 

 左に大穴が開く。

 

「何となくよ」

「ショタコンで攻撃するって事は意味が分かってるからでは」

 

 後ろに大穴が開く。

 

「全く分からないし、そもそも人間が嫌いだもの、私」

「俺も人間なんですが!」

 

 そして、前にも大穴が開く。

 

「人間? 貴方が?」

 

 心が抉られ大穴が開く。

 

「まぁ、どうでも良いのだけれど」

 

 この女やはりドSである。

 親切な姿はきっと見間違いだったのであろう。

 

「貴方、本当に()()()()()?」

「だからそう言ってるだろうが! 人間の心は硝子なんだぞ!」

「普通の人間なら私の攻撃で死んでるはずだけれど……」

 

 何この子最初から殺す気だったの? 怖い。

 

「ふぅん……? 少しだけあなたに興味が湧いたわ」

 

 湧かなくて良いですもう帰らせて下さい。

 

「決めた、貴方私の奴隷になりなさい」

 

 ──―はい? 聞き間違えだろうそうに違いない。

 

「え? 何だって?」

「その聞き方に何故か苛立ちを覚えるけど、もう一度言ってあげる」

「私の奴隷になりなさい」

 

 奴隷? スレイブとかサーヴァントとかいうあの奴隷? 

 

「何か難しい事でもあるかしら? ただ頷けば良いだけ、それぐらい貴方でも出来るでしょう?」

 

 困った。目の前にいる奴は何故悩んでいるのか分からないらしい。昔から絶対強者で自分に逆らう者など居なかったんだろう。

 なら、怖くても、敵わないとしても、××されるとしても。

 

「ああ、何をすれば良いのか分からないのかしら? 簡単よ」

 

 もう既に遅かったとしても、誰かがこいつに逆らってやらなければ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()。たった2つ守るだけ、簡単でしょ?」

 

 唯一つの心残りは、年上のお姉さんの奴隷になるってのは少し憧れだったんだがなぁ……位か。

 

「だから、私の奴隷に……私だけの物になりなさい」

「おお圧政者よ! 私は反逆する!」

「つまり、どういう事かしら?」

「そのまんまの意味だ。奴隷になるなんぞお断りだ! 綺麗な年上のお姉さんの奴隷になるってのは少し魅力的な提案だけどな!」

「ああそう、奴隷にはならないのね。なら貴方に用は無いわ」

 

 反応が冷たい、凄く冷たい。そりゃそうだろうなぁこっちにはスマホなんて無いものなぁ。

 

「荷物持ちご苦労様、ここへは二度と来ない様に。来たら殺すわよ?」

 

 幽香は振り返りもせず、冷たくそう言い放ちドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 苛立つ。

 人間なんて一部を除けば塵芥ぐらいに過ぎないのに。あの男も塵芥の筈なのに。何故あんな事を言ってしまったのだろう。戯れぐらいの事に過ぎなかったのに。

 何故、何故、何故、何故。どうしてこんなにも苛立つのだろう。

 

「……っ」

 

 頭が痛む、覚えている限りでは体調を崩した事なんて数える程しか無い。

 背中をナニかがずるりと這い回るような冷たさを感じる。更に頭痛が酷くなる、苛立ちと相まって不快感が広がる。

 苛立っているわけは何だったか。

あの塵芥のせいだ。頭が痛いのも、こんなに苛立つのも。

 ああ、そうだ───何故こんなに簡単な事に気付かなかったのだろう。

 私の言う事を聞かないなら、手駒にならないなら、私の物にならないのなら───。

 そこまで考えた時、意識が途絶えた。

 

【風見幽香が発症しました】




観客の皆様。これより追加させて頂いた事と
これからについて、報告があります。
まずは追加させて頂いた事から、簡単に言いますとENDが26に増えました。ニーアオートマタ?一体何の事やら……
続いてはこれからについてです。物語は感染者が発症するまでに進行しました。当一座も順調に話を結べているようで一安心です。
ヤミの駆除について説明させて頂きます。大まかな事は話の中で説明されるでしょうが、駆除の方法とはヤミの正体を知る事でございます。
当一座もサポートさせて頂きますが、何者かによって妨害されるやもしれません。その場合はご了承下さい。
では、引き続き劇をお楽しみ下さい


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第七話「このポンコツアドバイザー!」

皆様、お待たせいたしました。
当一座の準備が完了いたしました。物語の続きを紡がせて頂きます。
これより注意事項について説明させて頂きます。
この物語はENDが26に分かれております。それにつきルートが確定した場合、即座にそのルートへ向かいますのでご了承ください。
ヤミの駆除に失敗した場合には……皆様ご承知の通りかと思いますので説明は控えさせて頂きます。
最後に私よりご忠告を……決してあの方を――失礼、そろそろ開幕の時間と相成りましたので説明はここまでとさせて頂きます。
第七話、開幕でございます。存分にお楽しみ下さい。


 さて、どうしたものか。

 

「どうしたもなにも答えは決まってるんでしょ?」

 

 まぁ、そうなのだが。

 

「だったらさっさと行動すれば?」

 

 言われずともそのつもりだ、それよりも──。

 

「おったんかいワレェ!」

「何さ急に大声出して!」

「居たんならさっきの場面で説明しろよ!」

 

 取り敢えずこの役に立たない案内人に説教をしよう。

 

「お前の役目は何だ!」

「へっ!? き、君を手助けする事。かな?」

 

 そこは自信を持って欲しかった。

 

「じゃあ俺が危ない時に手助けしましたか!」

「怖かったのでしてませんでした!」

「よぉーし正直でよろしい! 歯を食い縛れ!」

 

 正直なのは良い事だ。

 だがそれとこれとは別問題である。

 

「で? こんな所で長話してて良いの?」

「ぐぬ」

 

 仕事をしていないこいつに言われるのは釈然としない。が、確かにその通りなので引き下がる。

 

「で、結局どうするの?」

「また会いに行くしか無いだろうな」

 

 死にそうだから行きたくないけど。

 

「え……本当に行くの? おすすめはしないけど」

「話さないと何も進展しないだろ?」

「君が決めたなら止めないけどさー……」

「ま、駄目なら駄目でどうにかなるだろう。

 あまり得意じゃないが荒事でも多少は何とかなる」

「言っておくけど! ほんっとーに戦うのだけは最終手段にしてね! 彼女達は人外なんだから!」

「とはいえ人間の形をしてるんだ。大体の動きは予想できるし心配するな」

 

 

 

「よっ、来たぜ」

「何か用? 私は用が無いから帰って欲しいのだけれど」

 

 毎度毎度の塩対応に拍車が掛かってやがる。

 とはいえ少しはこちらに非があるので話を続ける事にする。

 

「私、二度と来るなって言わなかったかしら」

「そう言われて来ない奴が居るかよ」

「さっき言った命令も聞けないの? これだから肥料は」

 

 一瞬飛び掛かりそうになったが横から「落ち着いて! 気持ちはあんまり分かんないけど落ち着いて!」という必死の説得が聞こえたので何とか抑えた。

 

「それに次来たら殺すって言ったわよね?」

「確かに言ったな。だがそう簡単にはいかないと思うぞ?」

「質問を質問で返してはいけないって教わらなかったのかしら?」

「そもそも会話が成立しない馬鹿に言われてもなぁ……」

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて」

「充分落ち着いてるから大丈夫だ。心配するな」

「誰も居ないのに独り言を話して……可哀想に」

「お前にはこいつが見えないのか?」

「ええ、私には独り言を呟いている可哀想な人しか見えないわ」

「もしかして見えない理由って老眼じゃないのか?」

 

 この時、俺は忘れていた。女性に年齢の話題は命に関わる禁句だという事を。

 

「殺すわ」

 

 

 

 

 頬に何か熱いものが掠った。

 次の瞬間花畑が一転して焦土と化した。

 

「何やってるのさ! 戦っちゃダメって言ったでしょ!? 次来るよ、早く! 避けて!」

「ここに来たという事は死にたいのね? 死にたいんでしょう? 死にたいのよね? 分かったわ殺してあげる!」

「おいなんだアレ! 闇とかいう暗い物じゃ無くなってるだろうが! むしろ一周して明るくなってるようにも見えるんだが!?」

「だから最初からヤミだって言ってるじゃん!」

 

 おかしい。確実に話が噛み合ってるようで噛み合って無い。

 ……聞いてみるか。

 

「こんな状況で聞くのもなんだがな、闇ってダークとか厨二病とか邪王心眼とかの認識で良いんだよな! 熱っつい服が焦げたぞ!?」

「全然違いますけど、ヤミはシックとかデレとかnice boatとかそっち系ですけど! だから右って言ってるでしょ!? こっちから見て!」

「じゃあ何か、実は俺には隠された能力ガーとか呪文とか唱えて闇とバトルとかそういう展開は一切無しと! どうりでさっきから避ける方避ける方に攻撃が来ると思ったわ!」

「そういう展開は無い! ヤミの対象とお話しして除去する系のまったりとした誰にでも出来るお仕事です! 常識で考えればどっちの視点か分かるでしょ!? 君の頭には何が詰まってんのさ!」

「こんな状況で会話なんぞ出来ると思ってんのかこのポンコツアドバイザー! 取り敢えずどうすれば良いか早く言え!」

「ポ、ポンッ……! もう良いよ! 君がそんな態度取るんならこっちは教えてあげないから!」

 

 この野郎……こっちはツインテ巨乳でどストライクな死神さんが手招きしてるっていうのに! 

 

「うーん、どうしよっかなー。ポンコツって言われて傷ついちゃったしなー。お詫びの品と謝罪の言葉と……愛の告白してくれたら教えてあげよっかなー」

「これが解決したら」カリカリカリ「甘味処でも」ピチューン「なのでどうか許して下さい。超天才的で可愛いアドバイザー様!」

「ふ、ふーん……。まぁ、僕もそこまで鬼じゃないし? 君の愛の告白も本当にするとは思わなかったし、許してあげても良いよ?」

 

 うっわこいつ凄くチョロい。

 

「じゃあ世界一可愛いアドバイザーさんが教えてあげましょう! ヤミの除去法とは! ヤミの正体を暴く事だよっ!」

 

 世界一可愛いとまでは言ってないのだが訂正するのも面倒なので放っておこう。

 

「で、暴き方は?」

 

 いつの間にやら眼鏡とタイトスーツを身につけ、黒板に文字を書き出す。……女教師風? 

 

「まずヤミには色々種類があって独占恋愛型とか、強襲同居型とか」

 

「長い! 1行で! さっきお前に謝ったあたりから攻撃の手が激しくなってるんだよこっちは!」

「もー、せっかちなんだからー。えーっと、「犯人はお前だ!」って言えば分かる?」

 

 凄く分かりやすい。

 

「ああ、分かった。それであいつのタイプは?」

「全く分かりません! でも言動とかに表れやすいらしいよ!」

 

 やっぱりこの子ポンコツでした。チェンジしたいです。

 

「さぁっ! 格好良く正体を暴いてしまいなさい!」

「暴くのは俺なんだがな! 風見幽香! お前に取り憑いたヤミの正体は───」

 

 

 




さて皆様、前置きが長くなってしまいましたがいよいよお楽しみのヤミの正体を暴く時間でございます。
ヤミの正体の暴き方についてはご説明の通り。
決定は投票とさせて頂きます。
投票所はいつもの場所でお願い致します。
尚、今回につきましては初回サービスという事でこちらの方で予め答えを絞らせて頂きます。
では皆様、引き続き劇をお楽しみ下さい


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第八話「取り敢えず、一件落着?」

ロード完了……時間軸再構成……肉体復元完了……記憶の処理完了しました
これはこれは皆様、失礼致しました。
あの方から面倒事を押し付けられたもので・・・
この老いぼれには最近のですくわあくなどという仕事はどうにも難しいものです……
さて、察しのいいお客様はもうお分かりでしょうがこの物語。
選択肢を間違えた場合、主人公となる方がお亡くなりになります。
本日はこの老いぼれのご無礼、お許し下さい。
お詫びといってはなんですが・・・この物語の「終わり」を決めるのはお客様ご自身でございます。何卒、お忘れなき様・・・
第八話、開幕でございます。存分にお楽しみ下さい。


 意識が暗闇に落ちる。

 深く、暗く、静かで寂しい空間に声が響く。優しく、温かい声……とはお世辞にも言えない喧しく、頭が痛くなる様で、安心する声が響いて目の前が明るく、はっきりとして来る──。

 

「……え! ねえ! 起きてよ! 目を開けてよ!」

 

 慌てて理解しようとする、が、頭が追いつかない。

 

「何とか成功したみたいで良かった……本当に」

 

 こいつは目の前で涙ぐんでるし、

 

「ぐゥ……殺す……私の物にならないならコロス!」

 

 幽香は幽香で苦しんでるしで状況が全く掴めない。

 

「色々詰めて後9回って所かな。もう無いのが1番良いんだけどね」

「何が起こった、状況は、説明を!」

「それは後、取り敢えず僕の言う通りにして!」

「ああ分かった!」

 

 体の周りに文字が浮かび、少しだけ昂ぶった男の浪漫的なものを抑える。

 

「『外なる世界より出でし醜悪なる、『美麗なる』、軽蔑すべき、『愛すべき』モノよ』」

「『我は汝の正体を知る者、我はヤミを祓う者、我は汝を受け止める者』」

 

 厨二心をくすぐられる呪文で更にテンションが上がる。

 

『汝のあるべき姿に戻れ! クロウk』

「こう言う時ぐらいまともにやれ」

「ヒエッ、目が笑ってない……」

 

 何でこいつはこういう大事な時も真面目に出来ないんだろう。

 そう思いつつ、詠唱を続ける事にした。

 

「『汝は恨み、憎悪を主食とするモノ。汝は支配欲を糧とするモノ』」

「はいっ! ここで決め台詞!」

 

 何を言い出しやがるんですかねこのバカは。

 決め台詞を自分で考える事の恥ずかしさを分かっているんだろうか。

 

「早く!」

「そげぶ!」

「こういう時ぐらい真面目にやってね?」

 

 とんでもないブーメランである。結構真面目に考えたんだけどなぁ……

 さっきまでのテンション上がった状態ならまだしも、クロウカードの突っ込みで下がった今では格好良い決め台詞なんて思い付きもしない。

 

「さ、さぁお前のヤミを数えろ! 俺が全て祓ってやる!」

 

 咄嗟で少し噛んだが中々良いんじゃないだろうか。これなら文句も言われないだろう。

 

「ぷっ、くくっ……かなり……良いと思ぶふっ!」

 

 こいつ後で泣かそう。

 

『汝の正体……魔性型、表裏一体型也!』

 

 しかも大事な所までかっさらって行きやがった! 

 

「さぁっ! 大詰めのハグだよ!」

 

 さぁっ! じゃない。

 

「これも手順の内だから、手順の内だから!」

「じゃあその手に持ってるカメラを下ろせ」

「ちぇー、バレたかー」

 

 さて……

 

 ハグって何ぎゅっとすれば良いんだっけ前からだっけ後ろからだっけそういえばシャワー浴びたよな歯は磨いたよな顔はどの位置にすれば向きは真っ直ぐなのか少し傾け

 

「分かりやすくテンパって無いで早く!」

 

 幽香をなるべく優しく抱き締める。

 凄い良い匂いする柔らかいというか細いというかなんだろう生きてて良かったなっておもうなんでだろうごいりょくがだんだんなくなっていくふわふわでねむく……

 

「はい離れる! いつまで抱き締めてるの!」

 

 脳が溶けるような体験の最中、後ろから引き剥がされる。

 ……もう少しだけ味わっていたかったのは内緒にしておこう。

 

「あああ゛ア゛アア゛!!」

 

 離れた瞬間、幽香が悲鳴を上げる。悲鳴というより獣の咆哮に近い声が空気を震わせる。

 

「ほら、出て来たよ!」

 

 幽香の背中からずるりとヤミが抜け落ちる。

 まだ陽の出ている昼間だというのに。そこだけぽっかりとくり抜かれたかの様に。

 光を飲み込み、向こうには何も見えず、太陽が食べられた様な───

 その姿を視認しただけで恐怖を呼び起こす様な漆黒が目の前にあった。

 

「う゛っ……!」

 

 ついでに吐き気、体調不良も呼び起こされたようだ。

 

「あっちが頑張って吐かなかったんだから、君も吐かないで!」

 

 何それ、頑張らなかったら口からあれが出るの? 

 

「女の子的にそこは譲れないからねー……取り敢えず、一件落着?」

 

 そこ拘るのかと言いたくなったが、小言を聞かされそうなので止めておいた。

 

「さて、と……その女の子を安静な所に連れて行こうか」

「え、これ放置するのか? 隙を見せた瞬間感染しそうな気がするんだが」

「そこら辺は大丈夫だよ〜。一応この問題の担当者なんだから!」

 

 その割には情報不足だったりと、頼りがいが無いんですが

 

「……何さその文句を言いたげな視線は」

「いいや別に? 頼りになるアドバイザーさんならきっと安心だろうなぁって思っただけだ」

 

 そんな事は爪の垢程度にしか思ってないが。全く思ってないわけでは無いので嘘ではない。

 

「なら良いけど……ヤミは捕獲しておいて、幽香さんが起きてから話を聞こっか」

 

 そういえばさっきは何が起きたのかよく分からなかったが……

 倒れてる奴を放っておくわけにもいかないし、幽香を小屋まで運んでから聞くとしよう。

 

「あ、先に行っといてくれる? ちょっと時間かかるからー」

 

 後の事はポン(コツアドバイザー)に任せて小屋に向かう事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、予想以上に暴れてくれたね?」

 

 捕獲したヤミに語りかけてみる。勿論この状態だと会話も何も出来ないんだけど。

 

「何とか捕獲できたから良いけどさー……」

 

 瓶に詰め込まれたヤミはこっちを見ている……様な気がする。目が無いのでいまいち判別出来ない。

 

「確か、君達は自己学習能力が有るんだっけ」

 

 もう一度、瓶に語りかける。

 

「なら、僕が今どんな感情なのかは分かるのかな?」

 

 感情を抑えながら、静かに語りかける。

 

「君達に情報共有なんて事が出来るなら覚えておくと良い。彼がもし死んでしまったら……僕は君達をこの世界ごと消すよ」

 

 言い終わった後、瓶が震え出した。もう感情を持ち出したのかな? 

 ……まさかね

 

「それにしても君達はどうすれば良いかなー」

 

 そんな事を考えながら、彼の元に向かった。

 

 

 

 残機、残り9

 

 




いっえーい!皆大好き世界一可愛くて超天才のアドバイザーちゃんだよー!
お爺ちゃんは今回忙しそうだから変わってもらったのさー!
とと……今回はお知らせだよー。
えーっと、カンペカンペ……
「観客の皆様、ご贔屓の程有難うございます。今回は初死亡達成と言う事で、新しい物語を解放させて頂きました。この物語は『もしも』の物語となります。準備に1週間程頂きますが、お楽しみの程お待ち下さいませ」だってさ!
後はー……そうだ!残機無くなったら終わるらしいから気をつけてねー!
じゃあまた会おうねー!バイバーイ!


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第九話「どんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

ご鑑賞中の皆様、お待たせいたしました。
当一座の準備が完了致しましたので、これより物語の続きを紡がせていただきます。
最近は、寒さが厳しい季節でございます。
老いぼれの関節には辛い季節となって参りました……。
今のは韻を踏んだわけではございません。決して。
お客様も体調にはお気をつけ下さい。
第九話、開幕でございます。存分にお楽しみ下さい。


「……ん」

 

 気がつくと、ベッドで寝ていた。

 目は覚めているけれど、頭がぼーっとして働かず、

 何があったか断片的にしか思い出す事が出来ない。

 

「次会った時どんな顔すれば良いのかしら……」

 

 思い出したのは暴走し、破壊し、そして助けられた事。

 肥料肥料と言ってはいたけれど流石に言い辛くなってしまう。

 とはいえ、名前を知らない以上他に呼び名が無いのだが。

 

「喉が渇いたわね、水でも飲もうかしら」

 

 起きてからずっと喉が渇いていた事に気付く。

 水を飲んだら水浴びでもして思考をまとめる事にしよう。

 あいつの事を考えると頭が痛くなってきた……

 余計な考え事をかき消し、扉を開けると

 

「顔色が悪いな。水でも飲むか?」

 

 一番会いたくない奴が家にいた。

 

 

 

 

 

「……何故、あなたが?」

 

 返答は分かっているのに、間抜けな質問をしてしまう。

 

「それは、ここに居る理由か? それとも助けた理由か?」

 

 返す言葉が出てこなかったのを隠すために、半ば水を奪うような形で受け取る。

 

「返答は無しか、全く女王サマは気難しい事で」

「それで、何の用? まさか本当に看病しに来ただけでは無いでしょう?」

「察しが早くて助かる、ポン」

「だーかーらー! そのポンって呼び方やめてよ! 狸みたいじゃん!」

 

 二人しか居ない空間から他の声が聞こえる。魔法か何かの類かしら? 

 

「良いじゃないか、可愛いぞ? タヌキは」

「本当!? それなら別に……」

「俺は動物もカップ麺も狐の方が好きだけど」

「フシャー!」

 

 狸よりも猫と言った方が合ってる気がするのだけれど……

 

「人の目の前で漫才を繰り広げるのは勝手だけど、話を進めてもらえるかしら?」

 

 観てる分にはいつまでも飽きないけれど。

 

「すまん、少し脱線した。こいつはお前も勘付いていたと思うが……っと、その前に聞きたいんだがどこまで覚えてる?」

「割と、しっかりと、断片的には」

「それはほとんど覚えてないっていうんじゃ無いのかなぁ……」

「今話してる部分は覚えていると仮定して、こいつは──」

 

 それからは彼の話を聞いた。

 自分と彼(彼女?)の目的、私に起きた異変の内容、細かい事については言葉を濁して躱されたが大体の内容は理解できた。

 

「と、そういう事だ」

「ごめんなさい幽香さん。事が事だけに話せなかったんだ」

「……助けてくれた事には礼を言うわ、ありがとう」

「おっ、流石の女王サマも礼くらいは言えるんだな。驚いた」

「また君はそういう事言う!」

 

 これはこれで良い凸凹コンビね、だけど悔しく感じるのは何故かしら? 

 

「でも、その程度の異変なら放置しても良かった気もするけれど?」

 

 話を聞いた限りでは、感染した者が暴走する程度の脅威。その程度ならば博麗の巫女が駆け付け、封印なり何なりで解決するように思える。

 

「幽香さん、それは──」

 

「おっと、そういえば女王サマに聞きたい事が有ったんだ」

 

 話を遮られる。少し気に障ったけどそのまま続ける事にした。

 

「何かしら?」

「肥料だなんだと随分と好き勝手に言ってくれたが」

 

 そこを言われると今の状況としては少し痛い。

 

「そんな奴に助けられた今の状況、どんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」

 

 瞬間、脊髄反射で拳を振りかぶっていた。

 

「NDKっ!?」

「うわー……振りかぶって体重が乗った全力パンチとか痛そー……」

「何か言ったかしら? 主に体重とか」

「いや、別にー? 今のは完全にこっちが悪いし」

「いたたた……普通助けてもらった相手にグーでいくかねグーで」

「感謝よりも苛立ちの方が上回ったので殴った。後悔も反省もしてないわ」

「少しは丸くなると思ったけどそこまで行くと尊敬するわ」

「あら、やっと私の事を尊敬する気になったかしら?」

「君達って仲が良いんだか悪いんだか良く分からないね」

「それだけ元気ならよく眠れたようだな、良かった」

「そうね、珍しくよく寝られ……」

 

 そこでふと、自分の服が寝巻きに変わっている事に気付く。

 

「この服は誰が……」

 

 そこまで言ったところで、二人が黙り込む。

 

「その、だな」

「僕もしっかり注意したし、多分大丈夫! だと思う!」

「えーと、つまり、そういう事よね?」

 

 二人の様子を見てある程度察した。

 

「目隠ししました!」

「案内しました!」

 

 ここに居るのが一人しか居ない事で、容易に想像は出来たけど……

 

「それで、その、どうだったかしら?」

 

 つい聞いてもどうしようもない事を聞いてしまった。

 

「可愛いパジャマ持ってるなとか」

「ふむふむ」

「下着が凄いなとか」

「ほうほう……ん?」

「その、胸が凄いなと……あだだだだ!」

「やっぱり! 途中から動きが止まったりぎこちないと思ってたら! すけべ! 変態! おっぱい星人!」

 

 聞いたこちらも悪いのだが、あまりに正直すぎて顔を鷲掴みにしてしまった。

 

 五分後

 

「まぁ、何はともあれ調子が戻ったなら万々歳だ。何かあったら力借りるかもしれないって事だけ覚えておいてくれ」

「急に真面目になってもさっきのことは忘れないから」

「やかましい! 見るのも言うのも恥ずかしかったんだぞこっちは!」

「恥ずかしそうにしても、僕は今日の事忘れないから」

「違うからな! その……違うからな!」

「はいはい、分かった分かった。今日は帰ってくれないかしら? まだ体調が悪いの」

 

 言いたい事はあったけれど、実際に体調が悪かったので、丁重に帰ってもらう事にした。

 

 二人が、正確には一人と一ポンが帰ってから時間が経った。もう一度寝ようかとベッドに入り、目を閉じようとした時───

 

「ゆゆゆゆかさん、幽香さん! 助けて!」

 

 一ポンの方の声で、眠気が覚めた。

 

 

 

 

 



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第九・五話「うわっ!お前人の服で鼻かむなよ!」

ご鑑賞中の皆様、しばらくお待たせいたしました。
今回はいつもの物語とは少し毛色を変えまして、幕間の物語となっております。
主に後半の方などいつもと違った物語を楽しめるかと思われます。
それでは、幕間の物語開幕でございます。


「ほう、これがヤミか」

 

 幽香を運び、ポンが合流したのでヤミを見せてもらう事にした。

 

「こんなのがまだ何体も居るって怖いよねー」

「怖いよねーって他人事じゃないからな?」

「で、これどうしよっか?」

「どうしよっか、って処分するんじゃないのか?」

「その、言い辛いんだけど──」

「処分が出来ませんっていうのは無しだぞ?」

「──テヘペロッ☆」

 

 ポンがわざとらしく拳を頭に添え、舌を出す。殴りたい、この笑顔。

 最近、嫌な予想がことごとく当たります。辛いです。

 

「はぁ、しょうがない。それ貸せ」

 

「? いいけど一体なにする──」

 

 ごくり、と飲み込んだ。つるっと丸ごと全部。

 

「君は何をやってんのさ! 吐き出して! 早く!」

「アホか、飲み込んだ物をそう簡単に吐き出せる訳無いだろうが。それに吐き出してその後ヤミはどう行動する?」

「新しい感染者を探しに行く……」

「そうだ、よく言えたな。ヤミを処分する方法が無いなら見つかるまで閉じ込めときゃいい話だろ。それに俺にはお前が付いてるだろ」

「〜〜〜っ、君って本当に卑怯!」

「人外の化け物共にステゴロで勝負しようってんだ。多少は卑怯じゃなけりゃやり合えるかっての」

「そういう事言ってるんじゃなくて……もう、鈍感!」

 

 ヤミが喉を通り過ぎ、やっと胃に辿り着く。胃に明らかな異物を感じ、吐き気がこみ上げる。

 

「ポン、水をくれ」

「だからその呼び方やめてって」

「良いから早く寄越せ!」

 

 つい声を荒げてしまった。

 

「すまん……怖かったか?」

「ううん、大丈夫だよ。今出すから」

 

 ポンに気を使わせてしまったようだ、後で謝っておこう。押し流し、留めるように水を飲む。気付くと空になっていた。

 

 大きく息を吐き、呼吸を整える。胃だけじゃなく、全身が重く、冷たい。深い海の底に沈んでしまったかのように。

 それ以上に、声が聞こえる。身体の中から恨み、憎しみ、悪意……人間の持つ闇を煮詰めた様な怨嗟の声が語りかけてくる。

 

「ねエねエ私の事がすキなら望みをカなエて?」

「あなタはワタシのモノ、だけドワタシはあナタのモノじャなイ」

「私の事好き? すき? スキ? スキならワタシの我がママを聞いて?」

「わたしだけのものに、なって」

 

 透き通る様な美しい声。だがその声が紡ぐのは酷く歪んだ愛。子供のように純粋で、わがままな願い。

 美しい声、歪んだ愛、子供の様な願い。 何一つとして噛み合っていないのに、とても綺麗に聞こえた。

 だがそれに気を許した瞬間、

 

「もう、誰にも渡さないから」

 

 引きずり込まれる事は明らかだ。無視し続けていると次第に声は聞こえなくなった。どうやら精神的に落ち着いていると平気なようだ。

 

「大丈夫? 顔色悪いよ?」

「何とかな、それよりも一つ言っておく事がある」

「何?」

「この事は誰にも話すな、俺とお前だけの秘密にしてくれ」

「それは、命令?」

「命令と言うより頼みだ。命令よりも、信頼する相棒なら頼みを断らないと思ってな」

「ほんっと君ってそういう所卑怯だよね! ……それよりも相棒って今言った?」

 

 まずい。他の奴ならまだしもこいつに聞かれてしまったのはまずい。

 こいつの性格上ヤミを払い終わるまで延々とこの事でからかい続けるだろう。何とかして誤魔化さなければ! 

 

「言ってない」

「言ったよ!」

「言ってない!」

「今言ったじゃん!」

「いい加減しつこいぞ!」

「とにかく言ったの!」

「例え言っていたとしても本人が言っていないと言ってるんだから言ってちょっと待て頭こんがらがってきた」

「言ったよ! ゲシュタルト崩壊するくらいなら言ったで良いじゃん!」

 

 正直自分でも無茶苦茶だと薄々感じてきている。

 

「ひっ……ぐぅ……言っだもん……」

 

 子供じゃないんだから泣かないで欲しい。

 

「言ったったら言ったの! 言ってなくても言ったの! 君が何と言おうと僕は君の相棒なの!」

 

 あっこいつ子供だわ。

 そうなると困った、泣き喚く子供はかなり苦手だ。このまま放置していると、根に持たれていつかとんでもない要求をしてきそうなので泣き終わるのを待って謝る事にした。ポンの事だからすぐ忘れそうだが、危険の芽は早めに摘み取っておこう。

 ……大人気なかったかなという気持ちも少しはあるが。

 

「おーい、ポン」

 

 返事は無い。聞こえなかったのだろうか、大きめの声で話しかけてみる。

 

「ポーンー、聞こえてるかー?」

 

 やはり返事は無い。と同時に確信した。

 完全に無視である。聞こえなかった可能性は無視していいだろう。

 人里でいきなり声を出したなら確実に危ない人認定されるであろう声量だったからだ。

 

「ぽんぽこ山のポンさーん? お腹の調子でも悪いんですかー?」

 

「ばーか」

 

 突然の悪口に戸惑っていると、丸められた紙を投げつけられた。

 

「開けて」

 

 言われた通りに開ける。

「ばか」「意地悪」「きらい」「おたんこなす」

 罵詈雑言にも満たない子供の様な悪口が書いてあった。

 少し間が空き、また紙を投げつけられた。たまにティッシュを混ぜてくるのはやめてほしい。

 

 そこには「うそつき」と少し読みづらい字で書かれていた。

 それは他の紙よりぐしゃぐしゃで、字が滲んでいた。

 

「どうしたもんかな、これは」

 

 信頼する相棒、そんな言葉を軽く使ってしまった自分に苛立った。

 口から出まかせというわけでもなく、その場しのぎで言ったわけでも無い。信頼や相棒という言葉が軽々しく言っていいものでも無いという事も分かっていたつもりだった。

 だけど、分かっていた「つもり」だったんだ。

 あいつが今まで何人に断られて、それでも諦めないで何度でも助けてくれと頼んだのか分からない。もしかしたら1人目だったかもしれないし、10人、100人、もっと多いのかもしれない。自分が何人目で、了承した時あいつがどんな気持ちだったかも分からない。あいつと一緒に話して、作戦を立てて、命を落とすかもしれない場面を何とかギリギリで乗り越えて、信頼する相棒と言われて、あいつがどれだけ嬉しかったか分からない。

 そして、言ってないと言われて、自分の勘違いだと思ってしまったあいつがどれだけ悲しかったか、涙を堪えていたか。

 自分がからかわれるだろうという理由だけで認めずに、あいつを泣かせてしまった。

 散々子供扱いした癖に、本当に子供だったのは自分じゃないかと自嘲する。

 

 自分の両頬を叩く。1回だけじゃ足りない、繰り返し叩く。あいつの心の痛みには全く及ばないだろうが、叩いて思考を纏める。考えることは1つ。あいつの涙を止めて笑顔にさせる事だけだ。

 

「あー、困ったなー! どこかにポンはいないかなー! 信頼できる相棒のポンは居ないかなー!」

「別にもう良いよ、君は言ってない。いつまでも拗ねて居られないし、さっさと次の所に」

「いや、良くない」

「言ってない」

「言った」

「言ってない!」

「さっき言った!」

「いい加減しつこいよ!」

「しつこいと言われても言ったものは言った!」

「何でそこまで食い下がるのさ! さっきは言ってないって事で終わったんでしょ!? なら言ったとしても言ってないって事ででも君は言ったって言ってちょっと待って頭痛い」

「お前もゲシュタルト崩壊してるじゃん」

「う、うるさい! そもそも誰のせいだと」

 

 ポンが叩くために手を外に出す

 

「ああ、俺のせいだ!」

 

 その手を取り、ポンの身体を引きずり出し

 

「え、ちょっと待って──」

 

 抱き留めて、頭を撫でた。

 

「──痛たた……何、して」

「ごめんな」

「別に、君は悪くないよ」

「ごめん、〇〇〇の気持ち、考えてなかった」

「君はそういう時だけ、名前呼んで、本当にずるい……」

 

 〇〇〇の声が震え、すすり泣きが聞こえる。

 

「辛かった、泣いてる間、ずっと」

「私だけ嬉しくて、勘違いだったんだって、思って」

「そしたら、涙、止まらなくて」

 

 ゆっくりと、声を詰まらせながら話す◯◯◯の頭を優しく撫でる。

 

「君が、大きな声で、相棒って、言ったとき、本当は嬉しかった」

「そうか」

「その、頭、撫でられると、泣いちゃうから……」

「幾らでも泣けばいい、◯◯◯がこっちに来る事なんて滅多に無いんだから。誰に見られたって良いだろ?」

「ばか、きらい、もう知らない!」

「はいはい、よしよし」

 

 背中を殴られながら頭を撫で続ける。子供をあやすように、自分の非を詫びるように。背中の痛みは今までの詫びだと思って耐える。

 

「いま、見せられない顔してるから、ぎゅっとして、見えないようにしてくれる?」

 

 ◯◯◯を強く抱き寄せる。

 

「私が、君を、絶対に守るから」

 

 耳元で◯◯◯が囁いたのを聞いた。その後鼻をかむ音が聞こえた。

 

「うわっ! お前人の服で鼻かむなよ!」

「べーだ! 泣かせたお返しだよー!」

「その様子じゃ元通りみたいだな。それにしても嫌なお返しだこと……」

「全部終わったら甘味処行く予定に追加で買い物も一緒にするんだから! もちろん今回のお詫びとして君の奢りでね!」

「なっ!? お前後出しはずるくないか!?」

「あーあ、誰かさんに言ってないって言われて悲しかったなー」

「このポンコツアドバイザー……全部終わったら覚えてろよ」

「うん、だから、生きて帰ろうね」

「それと、呼び方が違うんじゃない?」

「ああはいはい、分かったよ。相棒」

「うん! 相棒!」

 

 

 

 泣き腫らして少し赤くなり潤んだ眼をしながら、彼女は満面の笑顔でそう言った。



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第十話 「何しようとしてやがるこのスッタコ!」

ご鑑賞中の皆様、長らくお待たせいたしました。
当一座の準備が完了致しましたので、これより物語の続きを紡がせて頂きます。
今回でこの物語も十回を迎える事となりました、とても喜ばしく思います。
これもひとえに皆様のお蔭さまでございます。座長に代わって御礼を申し上げさせて頂きます。
さて、今回でこの物語に少し変化が現れるようです。この物語はどこへ向かうのか?
それは神のみぞ知る、という事にさせて頂きます。
それでは第十話、開幕でございます。存分にお楽しみ下さい。



時は少し遡り一時間前、お互いに顔を合わせられなくなった所から始まる。

 

 

 

 とても恥ずかしい。ああ、俺のせいだ! って何。信頼できる相棒のポンはいないかなー! ってわざとらしいのは何。幾らでも泣けばいいって何。何であんな事言っちゃったかなぁ! 確かにあの激戦とちょっとカッコいい詠唱でテンションはかなり上がってたけどその後何であんな、あんな……思い出すだけでも恥ずかしい、やめておこう。

 そしてあいつはあいつで顔真っ赤にして無言だし! 君もっとこう馬鹿みたいにやかましいキャラじゃなかったっけ? 何でこういう時だけちょっと普通の女の子みたいな反応するんだよちょっと可愛く見えるだろうが! といったような謎の逆ギレをしていた。

 

「ね、ねぇ大丈夫? さっきから地面に頭打ち付けたり転がったりしてるけど、頭おかしくなっちゃったの?」

 

「頭おかしくなった? は一番お前に言われたくない言葉1位だわ」

 

 恐らく心から相手を心配しているのだが余計な言葉で相手を怒らせる、こういうのでいいんだよこういうので。皮肉を交えつつ振り返りポンと顔を合わせる。お互いにどう話を切り出せば良いのか分からなくなり無言の時間が流れ、顔を赤くしてしまい、そっぽを向き再び逆ギレをする。これでもう三回目だ。

 

「あっれー? どうしたんですか顔真っ赤にして? まさか照れてるんですか? 照れちゃってるんですか? 僕の可愛さに今更気づいちゃいました?」

「そちらこそ先程から早口だがどうした? 間が持たないから(まく)し立てないと話せないとか意識してるのか? そうなんじゃないか?」

 

 とりあえず(あお)り合ってみるが、お互いにダメージを食らい、片や花畑で顔を覆い転がり片や大声でうめき声をあげるという醜態を晒すので止めることにした。

 

「そ、それで飲み込んでから時間が経つけど痛かったりはしない?」

「痛みも麻痺も全くない。体調も良いし心なしか力が増したような気がする」

「力って……君って中二病な所あるよね」

「今のはそういう意味で言ったんじゃない。筋力とかの話だ」

 

 少しずついつも通りの会話に戻っていく。腹が立つ時もあるが、不思議と嫌ではない。

 

「筋力の増加? 確かにヤミの性質に狂暴化があったけど……適応したとか?」

「そんな事を聞かれてもお前が分からない事を分かる筈無いだろう。今後の助けになりそうなら良いんじゃねーの?」

「君が良いならそれで良いんだけど……」

「さっき俺が頭を打ち付けた場所を見てみろ、どっかの妖怪が暴れたって言った方がまだ信用されるぐらいの酷さだ。あいつに嘘だとバレたら笑顔で殴り掛かってくるだろうが」

 

 笑いながらおどけてみたが笑い事ではない。あいつ表情変えずに殴ってきそう、何なら殴りながら

 

「動かないで、ゆっくり息を吐いて。僕だけを見て」 

 

 ポンが両手で顔を挟み、自分の方を向かせてくる。珍しく真剣な顔つきでこちらを見つめる瞳に吸い込まれてしまう。

 

「え……あ……」

 

 段々と近づいていく顔に見惚れ、まともに考える事が出来ずに間抜けな声を晒す。

 気づけば唇が近づいていき

 

「何しようとしてやがるこのスッタコ!」

「痛っだぁ!?」

 

 頭突きで距離を離し、尻餅をつく。危うくファーストキスを奪われる所であった。

 

「おまっ……お前な! やっていい事と悪い事が」

「そっち見ないでこっちだけ見てて!」

 

 叱ろうとした所を逆に叱られる。釈然としないまま取りあえず立ち上がろうとし、右腕に違和感を覚え視線を動かす。

 猿、狐、鬼、鳥───次々と形を変え何にでも見えるが何とも違う、黒に染まった異形の右腕。明らかに人間ではなくなった自分の腕がそこにあった。認知してしまった瞬間、ゆっくりと右腕の感覚が消えていく。動かし辛いとか、痺れるという生易しいものではなく、元々そこに腕が無かったかのように。消えた感覚と入れ替わるように新しい感覚が生まれる。失った腕にロボットアームを付けた時のように、二本しかない腕を四本に増やそうと無理やり腕を繋ぎ合わせた時のように。両方とも経験がないので想像の範囲内でしかないが。制御できない何かが右腕に付いている、といった感覚だ。

 

「その、ね? 僕が絶対治すから、だから……」

 

 ポンが分かりやすく慌てながら必死に慰めようとしているのが分かる。こちらの服をぐしゃぐしゃに握りしめながら、泣き止んだばかりだというのにまた泣きそうな顔をしながら強張った顔で笑顔を作り、こちらを見つめ安心させようと言葉を選んでいる。

 

「いや、無理だろ。治るならそもそも来なくて良かっただろうし」

 

 軽口を叩きながらポンの方を見ると口をぽかんと開いたかと思えば、何か言いたそうにしながらがっくりと肩を落とした。

 

「君って本当にデリカシーないよね」

 

 割と本気で言ってそうな口調と若干の軽蔑を含めた冷たい視線を感じる。

 

「デリカシーが無いって言うか死んでるんじゃない? デリカ死ーなんじゃない?」

 

 酷い罵倒と季節が逆転しそうな洒落もセットでついてくる拷問を受ける。心ない罵倒を浴びせられたせいか少し息苦しい。少し締め付けられる気がする。ポンがとても驚いた顔をしている。

 そりゃあそうだ、右腕が勝手に自分の首を絞めているのだから。命の危機に瀕しているというのにここまで冷静なことに自分でも驚いている。諦めているわけではなく自分でも必死に抵抗している。けれども外せない、バケモノじみた力で締め上げられているのもそうだが、引き剥がそうとしても右腕が形を変えすり抜けるのでそもそも触れない。回避不可で抜け出せない即死技とかクソゲー過ぎるだろ、と考えるだけの余裕はまだあるが。

 だんだんと意識が薄れ、苦しいはずなのにそれが心地良くて、きもち良くて、抵抗するきりょくがなくなっていく。もうこのままでも……

 

「後でまた謝るけど取り敢えずごめん!」

 

 そんな声と同時に頭部へ強い衝撃が走り、目の前が真っ暗になった。

 

「ゆゆゆゆかさん、幽香さん! 助けて!」

 

そして僕が幽香さんに助けを呼ぶ所へ話は続くのでした。

 

 

 

 静かな部屋に時計の針の音が響く、時折誰かが溜め息をつき、そしてまた時計の音だけが響く。

 

 何もできない事が悔しい。肝心なことは任せっきりな自分が憎い。本当に彼を守りたいなら決まりとか約束とかそんなもの全部投げ出してしまえばいいのに。それを出来ない自分が嫌い。感情的になっているようでもどこかで冷静に物事を考えている自分がいる。

 感情のままに行動できればとても楽なのに。ああもう面倒臭い面倒臭い面倒臭い! 僕はヤミを封じたいだけなのに何で自由にできないんだろう。いっその事私がこの世界を自由に出来ればいいのに!

 

 想定外に起きた事により不安が生まれ心は揺れ動き、自己嫌悪により冷静な判断は失われる。そんな事を出来る筈が無いと取り戻した判断力で自己否定をし、また不安が生まれる。

 そんな負の連鎖を断ち切ったのは

 

「ねぇ、そろそろ教えてほしいのだけれど」

「ひゃいっ!?」

 

 怒気を含んだ幽香さんの言葉だった。

 

「いえ別に怒ってはいないのよ怒ってはいないのだけれど人の家にいきなり右腕が現れてそこで寝ているバカを引き摺ってきた癖に碌に話もせずにずっと面倒臭い雰囲気を漂わせて何かぶつぶつぶつぶつ一人で呟いているものだから少し機嫌が悪いだけなの分かるわよね?」

 

 

 

 それを怒っていないというなら何というんですか? という言葉を飲み込みつつ怒られています。顔を直接合わせているわけでは無いのでいくらかマシだけれど、笑顔で怒られるのがこんなに怖いとは思いませんでした。

 

「教えてほしいって何をですか?」

「それをわざわざ私に言わせるのかしら? 貴女はそこで寝ているバカと違うと思っていたのだけれど」

「いくら本当の事でもあんまり言い過ぎるのはかわいそうだと思うけど?」

「バカって言った事については否定しないのね……」

「否定はしないし幽香さんに教えれる事は何もないよ」

 

 お互いに話し、追及をのらりくらりと躱す。幽香さんの表情が少し曇って機嫌が悪くなっているけど事情が事情だけに話せないものは話せない。ここは何とか誤魔化して納得してもらうしかない

 

「じゃあ一つ。あの時どうして邪魔したのかしら? 貴女ではなくてそこのバカが。貴女が邪魔をする理由なら理解ができるわ、バカが口を滑らせる可能性があったという事で。でも、逆は? 」

 

 ……んだけど幽香さんが笑顔のままこちらの返答を待ち沈黙が続く。何も言えない、言い返す事ができない。話題を変えるなり誤魔化すなり何とかしないと───

 

 そこまで考えてふと気が付く、どうして僕は隠そうとしているんだろう。普通に考えれば二人だけで問題を解決するより協力者が居た方が色々と楽なのは当然だ。それに幽香さんはそこらの妖怪なんかが束になったとしても敵じゃないくらいに強い。近くにいても何も出来ない、守れない僕なんかとは全然違って。

 全て話してしまおう、そもそも二人だけの秘密という事自体無理だったんだ(二人だけの秘密)。全部話してしまえば彼も一人で苦しまなくて済む(それはとても魅力的で)、彼には嫌われてしまうだろう(それはパンケーキのシロップよりも何よりも甘くて)、そう、これは彼の為なんだから仕方がない。彼が僕を信じて言った頼みだとしても約束を破らなきゃいけない(誰かに分けるなんて勿体ない、全部全部私のもの)。だから僕は(だから私は)───

「分かったよ幽香さん、僕の負け。今から話す事は出来れば内緒にして欲しいんだけど」

 

 全てを話し、彼との約束を破った(全てを隠し、私の大事な特別を守った)。

 

 

 



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