『IS原作の妄想作品集』 (ひきがやもとまち)
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《インフィニット・ストラトス》に至るまでのIF物語
プロローグ「マイナスから始めさせられる過去への再転生」


最初の一作目です。作者の著作「IS学園の言霊少女」から派生している物語です。
悪意的な表現が目立ちますのでお気を付けて。

注:今作に出て来る神様のモデルは特にはいません。こんな奴実在していて欲しくないと作者も心底思ってますので誤解なさいませんように。


 ・・・・・・・・・ここは、どこなのでしょう? 知らない天井じゃなくて、知らない場所です。

 全てが白一色で出来ていて、空に天はなく、地に大地はない。ただ、その場に“立っている”と言う実感だけが伴わされている。

 そんな空間に、私は一人で存在していました。

 

 ーーおかしいですね。確か私は学園の寮で食事をとった後、来るべき最終決戦に備えて英気を養うため、いつも通り夜9時過ぎには布団に入っていたはずなのですが。

 決して、夜になると眠くなるお子さま体質だからではないですのであしからず。

 

「いや~、君は面白い人だねー。わざわざ私がここまで足を運ばせた甲斐があるってもんだよね、うんうん」

 

 ふと気づいてみたら、目の前に誰かが座ってらっしゃいました。

 玉座にしてはチープで戯画的なデザインの豪奢なイスにふんぞり返って座しているのは、女神と見紛うほどに神々しくて美しい女の人。

 クラシカルと言うよりかは、古代ギリシャ悲劇にでも出てきそうなトーガを纏った彼女はニヤニヤと下品な笑いを浮かべながらも私を見下す姿には品があって自然体。

 まるで人を見下すことを当たり前の日常としているかのような、常識レベルで染み着いた傲慢さが滲み出る厭な感じの美女。

 

 こういう空気をまとった女の人で、時代錯誤きわまりない格好をしたがる方の最有力候補と言えば只お一人だけ。

 

 

「どうも、はじまして。あなたは、神様と呼ばれている方であっていますよね?」

 

 私が尋ねた確認のための質問に対して神様は腹を掲げて笑い出し、ようやくそれが収まった後で質問の答えと彼女自身の自己紹介も行ってくれました。

 曰く、自分は神は神でも転生を司ってる神様で、かつて私を《インフィニット・ストラトス》の世界に転生させたのも自分に手によるものだとご丁寧にも語ってくれたのでした。

 

「いや~、最初はちょっとした気まぐれだったんだけどね? まさかあれほど面白おかしく世界を改変してくれるなんて想像もしていなかったよー。も、さいっこう!

 路傍でうずくまり震えながら惨めに死んでくだけの老人も、神の名を唱えながら来世の幸福を信じて脳味噌ぶちまけながら死んでく神父さんも、神は我らを見捨てたもうたのか!? この世に神の裁きなんてない!あいつはただ見下ろしながら俺たちを玩弄するだけなんだ! とか叫んでたら敵兵に発見されて爆弾でズガーンな若者たちも、なみーんなサイッコーに愉しいエンターティンメントだったよ。

 登場人物五〇億の人間たちが自分勝手に悲喜劇を演じまくってる戦争物語を楽しませてくれて本当にありがとう! 感謝してる! 神様から満点の◎をあげちゃおう!」

 

 ーー・・・・・・・・・。

 

「あっはっは! そんな怖い目で睨まなくたっていいじゃな~い。 私はこれでも君の理想とする神様像そのもののつもりなんだよ?

 だってほら、私はただ見ているだけで何もしようとはしない。時々、私が聞いて悦しんでる別の誰かの叫びや悲鳴が聞こえたらしい田舎娘とかが『神の嘆きを癒さなければ』とか決意して戦争に赴くのを見てゲラ笑いしているだけのクソッタレ女神様。

 ほらね? ちゃ~んと君の考えている神様の姿を実現してるでしょ? 神様の実像を言い当てるなんて、君はやっぱり魔王ちゃーん! ひゃははははははっ!!!」

 

 けたたましく哄笑をあげる転生の神様とやらの声を聞き流しながら、私は彼女が笑い終えるのを辛抱強く待って上げます。

 やがて飽きたのか満足したのか定かではありませんが、とにかく彼女は嗤うのを止めて私を見つめてきましたので確認の為の質問をしたいと思います。

 

 ーーならば何故、今更になって私をここに呼び戻したんです? 今の時点で十分に楽しめているのであれば、私を覚えてもいない場所まで呼び戻す必要性もなかったでしょうに。

 

「やだな~、分かってるくせに~。

 そ・れ・と・も~♪ クズの思惑に気づかない善人のフリしたいお年頃って奴なのかしら~ん?」

 

 ーー・・・・・・・・・。

 

「私みたいな外道はね、面白そうな事をしてくれそうな子を見つけると、もっともっともーっと面白そうな事して欲しくなっちゃうんだよ。

 どうせだったら舞台を変えて、時代を変えて、元のおもしろ世界で不幸になったバカたちが更に不幸になってくシーンを見てみたい。

 あるいは、別の世界に作り替えられていく過程でバカが大バカになってく展開を見てみたい。

 人の美しさも醜さも浅ましさもバカっぷりも余すところ無く見て悦しみたい。それが神という名の超越者が、人を生み出した理由。

 無数の人形たちが踊り狂う劇場を見物したい。只それだけのために神は人と世界を創り出した。平行世界もパラレルワールドも鏡面世界もすべて。

 ただただ私が楽しむためだけに、そのためだけに私はあなたをここに喚んだ。あなたの影を創り出して、ここに喚び寄せた。

 貴女だったらこの験の言葉の意味、説明しなくても分かりますよね~?」

 

 ーー本当の私は今もIS学園寮にいて、ここにいる私はオリジナルのコピーにすぎない。

 オリジナルがいる世界も、コピーが送られる世界も貴女が楽しむためだけに作った大量生産品のひとつに過ぎず、送られた先で私が何をしようとも誰を救おうとも誰を変えたとしても、オリジナルの世界には何の影響も与えることは出来ない。

 私たち平行世界に転生させられた住人たちの人生そのものが喜劇であり悲劇であり、単なるあなた方が楽しむための暇つぶしでしかない。

 

「ピンポーン♪ だーいせいかーい! 正解した人には豪華賞品が送られまーす♪

 それは、なんと! 何の意味もない、自分で意味を見いだすことで自己満足を得るしかない、第三の人生を送るための転生権でーす♪

 第三の人生も、張り切ってどーぞー! きゃっははははははははははっ!!!!」

 

 

 

 けたたましくて喧しくて耳障りな嗤い声が遠ざかっていき、私はたぶん久しぶりに味わっているのであろう世界線移動の気持ち悪さに振り回されながら、グニャングニャンと歪む世界を過去へ過去へと舞い戻ります。

 

 

 時戻りの旅路って、やる事ないですし身体もないですし暇ですね。風景見てても自分の人生を追体験していると言うほど出来が良くなくて記憶に残っている印象深い重要イベントだけが猛スピードで流れていくだけ。

 

 

 

 赤ん坊の頃までさかのぼってくると、私の記憶にない景色が増え始めてきて、終いには私が母の子宮にいた頃と思しき、今より若い織斑先生とか篠ノ之博士とかも出てきて、何故か水着で廊下を歩いてる変な美人さんも・・・・・・って、誰ですかこの人は。ついでに言うなら、どこまで戻す気なんですか転生の性悪女神様よ。

 

「ああ、言い忘れてたけど、君がいく世界は実在しないIF世界だよ?

 《インフィニット・ストラトス》は、主人公の織斑一夏君視点で描かれてる物語だから彼の居ない時代はあんまり描写されてない。

 作者が作ってない世界は存在してない世界だから、改変も創世も楽で良いよね~♪ 

 人間を登場させて楽しむための箱庭が欲しいだけの私たち神様にはピッタシだよ!」

 

 ーーさいですか。

 

「ああ、言うまでもないけど今回の人生で君に期待してるのは天災バカな恋愛処女と、世界最強のポン侍を攻略することだから、そこん所よろしくね?

 ついでとして、ヘタレで巨乳なメガネの後輩と、同級生へのコンプレックスを水着で隠して道化を気取るバカ女なんかも攻略してくれると嬉しいんだけどな~?」

 

 ーー善処はしてみますよ。善処だけですけどね。

 現実には意味を及ぼせない架空世界の箱庭ワールドで何をしようと、どうにもならない。

 ならば、私のやることに一切変わりなどなく、今まで通りにこれからも続けて今の私を継続していく所存です。

 

「べっつにそれでい~よ~? 私みたいな野次馬の意向なんか無視してよーし。

 神様は箱庭作って人間生んで、娯楽として余所から人間コピペして踊り狂っているのを見て楽しむだーけ。

 見れればいいの、楽しめさえすればいいの、超越者にとって人間世界は劇場でアニメでドラマでYouTubeなの。

 中の人たちの叫びも願いも届いているけど、ただ聞いて論評して悦しむだけで終わっちゃう。せいぜい好き勝手に踊り狂って、私の目と心を楽しませてね♪」

 

「と、言うわけでー。次は、母親の腕の中~、母親の腕の中~。お忘れ物は死ぬまで取りに戻ってこれませんので、お気をつけて~♪

 とうちゃ~く♪ 第二の人生駅に到着しました~♪ 

 いってらっしゃいませ、神の愛玩動物さま☆」

 

 

 

 ニヤニヤ、ニタニタ。厭な感じに嗤う転生の女神様の笑顔を最後に、私の意識は地上に引き吊り降ろされ、縛り付けられました。もう二度と天には戻ってこれそうにありませんねー、これは。

 いずれ意識も記憶もオリジナルとは懸け離れた代物に作り替えられてしまうのでしょうけれど、とりあえず今の私はまだ前世での自我を保てていみたいです。

 

 目を開けると、本気で見たことない知らない天井が視界に入りました。白いです。真っ白です。分娩室・・・かな?

 

 動かない頭(座ってないんですよ、生まれたばかりだから)では自由に風景を観察できませんし、動けないなら出来ることもない。ただただ上にある天井を見上げていると、第三の人生における母親らしき女性が私の視界に映ってきました。

 

「はじめまして、私たちのかわいいセレニア。貴女と出会えたことが私は今、すごく嬉しくて楽しいの。

 あなたを幸せに出来るよう精一杯がんばるから、あなたは誰よりも幸せを求めてね」

 

 ーーおい、誰だこの聖女様は。本当に私の母親ですか? 前世のが劣化版に感じかねないので止めて下さいよ。大好きなんですからね? 一応は、ですけども。

 迷惑かけるときに躊躇いかねないので別人にチェンジすることは可能ですか? クーリングオフは効きますか? 効きませんよね、当然ですねご免なさい。

 

 ・・・・・・はじめた途端にプレイ方針が歪んでいると言う理由から、罪悪感でゲームオーバーを望んでしまう幸せ一杯なスタート地点の自宅。

 なんだ、この微妙すぎるクソゲーは・・・。辞めたい・・・。

 

 

 

 こうして私は、第三の人生を再スタートさせられたのでした。

 めでたくなしめでたくなし。全くもって、めでたくなし。

 

つづく



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第1話「篠ノ之束が天災に至るまでの物語」

 再転生してから、早9年。今の私は小学校3年生です。

 早すぎじゃね?と思われるかもしれませんが、実際のところ私が意図的に省略しまくった結果です。毎日同じ事やってるシーンなんて一度たりとも描写しなくていいと割り切りました。

 現実には存在しない世界で交わされる、創造主の目論見とは無関係な人たちとの会話には本当に意味などないのでしょうから。

 

 時折「まだー? 暇だよ暇だよー、イベント起こしてよー」と、転生の神様が夢枕にたってクレーム付けてきましたが、全てガン無視しながら普通に小学校生活送ってます。

 

 彼女曰く攻略対象の篠ノ之束博士(女子小学生バージョン)と、織斑千冬先生(女子小学生バージョン)の二人とは同じ学校に入れるよう最初から調整してあるみたいで同級生にはなれました。

 ただしクラスは別々に。他の所ではどうか知らないのですが、三回に渡る私の経験した人生において小学校はすべて6年間に2回クラス替えが行われており、最初の一回目で神様がミスったのか、それとも運命的な出会いでも演出してほしかったのか定かではありませんが、二人は同じクラスで私だけ別クラスと言う案配に。

 

 なので一年生から二年生までの間に二人との接点はいっさい無し。尤も、あちらは元がハイスペックな方々なので噂話程度には事欠きません。単に私の方が近寄る理由と口実が無かったと言うだけです。凡人なのでね。

 

 それでも人である以上は運命に逆らい切れません。遂にご本人と一対一でのご対面です。

 

 それは三年時に進級してから最初の体育の授業が行われた日。

 学校特有のぼっち処刑イベント「仲良い奴同士でペアを組めー」がクラス変わって初めて実施された日でもありました。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 そして必然的に生み出されるぼっちコンビという名の余り物ペア。お約束です。

 

「よーし、組分けは終わったなー? 仲良い奴同士で組んだらパス練習はじめろー、あぶれ者はあぶれ者同士で勝手にやれー。以上だ」

 

 そう言って、のっしのっしと歩み去っていく巨漢の先生の背中に悪意を幻視しながらも、私は目の前に立ちふさがる現実という名の強敵を前に立ち尽くさざるを得ませんでした。

 

 仏頂面です。彼女は対面したその瞬間から変わらず、ずっとずっとずーーーっと不機嫌そうな仏頂面を崩していません。ハッキリ言ってかわいくない。・・・人のことは言えませんけどね?

 

「それで? どうなさいます? 私とパス練習しますか、しませんか? そろそろお答え願いたいんですけどね。

 3年2組、出席番号何番だったか覚えていませんが、確か名前は篠ノ之束さん?」

「・・・・・・なんで天才の束さんが君たち凡人と一緒になって玉ころ遊びに興じなければならないのかな? その理由について三百文字以内で答えなさい。制限時間は三分間です」

 

 う、うわ~・・・。これは如何にも面倒くさそうな子供のタイプだー。

 

 ・・・帰りたくなったんですけど、帰っていいですか? 元の世界に。

 ダメですか、そうですか。じゃあ早く挑んで早く負けて終わらせましょう。それが一番手っ取り早く帰れそうです。自宅にね?

 

「どうしたのかな? もしかして答えられないのかな? 束さんだったら簡単に出来るけど? この程度も出来ないくせに束さんに何かを要求とか片腹いーー」

「じゃあ、どうぞ束さんから模範解答の提示をお願いいたします」

「ーーたいねぇ・・・って、え? 今なんて・・・」

「どうしたのですか? 模範解答の提示ですよ。まさか自分が出題した問題の答えも用意していなかったのですか? 天才とは名ばかりではなくて、人を騙すためだけに用意した自称だったのですか? ペンネームですか?

 『人類最高の天才、篠ノ之束! 華麗にデビュー!』と少年ジャンプの表紙にデデーンと名前を載せたいのですか? そう言えばどっかのオッパイ漫画家さんが新作発表するときに似たようなこと書いてましたねー」

 

 私は出来うる限りの早口でもって畳みかけてみます。正直、彼の天災相手に通じる手尾は思えませんが、何分あんまり面識のない相手なのでね~。なにかしらの取っかかりは欲しいのですよ。

 『相手を知るには、まず相手が何を怒るか知れ』そのような趣旨の言葉をHANNTA×HANNTAで読んだことがある気がします。あれには深く感銘を受けました。

 なぜなら怒りとは初対面の人ほど表に出しやすい感情で、その人の性質を如実に表してくれる好みのタイプ識別に非常に役立つセンサーだからです。

 

 これは私の持論ですが、人が人に対して怒る時に使われる理由で一番ポピュラーなのは以下の二つだと思われます。

 自身のプライドを守るための怒りと、何か大事ものを傷つけられた時の発作的な怒りとに。

 

 前者は分かり易くて共感しやすく、その上に対処法まで簡単に考えついてしまう平凡な感情です。ありふれた平凡な凡人としての感情だと断言してしまえるでしょう。

 逆に後者は特別に過ぎて、人と共有できるかどうかは運次第な感情です。抱え込んでる事情によっては一生涯分かり合えない存在であり、または敵として憎み合わなければならない存在となってしまうかも知れない危険な感情ともなります。

 その癖、生涯を共にする無二の親友ともなり得る可能性を秘めているから始末に悪い。

 ハッキリ言って初対面時から仲良くできる相手では決してないと思いたいですね、私の場合はですが。

 

 ・・・だって私、癖強いですもん思想的に。合う人と合わない人が、完全に分かたれちゃうタイプなんですもん。もしも束さん(この時点で篠ノ之博士と呼ぶわけにも行きませんし、篠ノ之さんじゃ箒さんと区別が付きません。前世の記憶持ちは何かと面倒くさいです)が後者のタイプであった場合、転生の女神様には悪いですが私は生涯ベンチ入り志願です。正直な話、やりづらいし面倒くさいのでね。

 織斑さんたちみたいなのは非常に希なのだと、前世の私は運が良かっただけのなのだと自覚している私としては余計なリスクを背負い込みたくないのですが、果たして・・・?

 

 せいぜいが、反応の一つでもあれば目っけ物。その程度の軽い気持ちでおこなった安っぽい挑発でしたが思いの外おおきな効果がありました。

 

 ーー三度に渡る私の人生において、最低最悪なまでに気持ちの悪い効果としてでしたがね・・・・・・。

 

 

 

「・・・バカにしないで! 束さんを・・・天才の束さんをバカにしないでよ! 束さんは天才なんだから! 誰よりも誰よりも、他の誰よりも天才で正しいんだから!

 それから、天才の束さんと唯一張り合えるのは、張り合って良いと天才の束さんが認めたのはちーちゃんだけだ! 赤の他人なんかが土足で入って来ようとすんなー!」

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 ーー驚きました。遠巻きに見ているクラスメイトたちと担任教師の先生も、目を見開いて驚いてらっしゃいます。

 まさか、あの天災科学者篠ノ之束が激怒するあまり大声で凡人を罵倒するなんて・・・。この人って、こんなに感情剥き出しにする人でしたかね?

 

 あまり話したことないのですが人から伝え聞く範囲では、エキセントリックではあっても人格面、特に感情の類に関しては楽以外を無理矢理にでも根こそぎ切り捨て歩んで来たような、そういう非人間的な部分が見え隠れしていたのですが・・・。

 

 逆に今の彼女は感情の塊です。それも負の感情だけが凝縮して形作られたような、激情の化身。憎しみと怒りの権化です。

 

 真っ赤になったまま、将来的には天災となった彼女が浮かべるようになる表情のプロトタイプが如き笑顔を浮かべて彼女は言います。

 

 狂ったような笑顔を浮かべるための下拵えは、狂ったように歪んで歪な、笑顔と表現するには理不尽に対する怒りと憎しみで彩られすぎたドギツすぎる形相で彼女は言葉を、呪いとして口から吐き出し続けました。

 

 それは、篠ノ之束という天才少女が“天災”に変わり果てさせられる過程の物語でもあったのです。

 

 

 篠ノ之束さんは、生まれたときには進むべき道を間違えていました。何故なら生まれてくる家を間違えまくっていたからです。

 

 彼女と彼女の妹の箒さんの二人が生まれたのは、土地神伝承に由来する昔ながらの由緒正しい篠ノ之神社です。

 

 篠ノ之家は『篠ノ之流』と言う名の古武術を元にした剣術を教え伝える歴史の長い一族であり、戦火によって記録が消失したので正確なことまでは分かりかねるそうですが、『いわくつき』の場所であることだけは確かなようです。

 

 そして、それこそが天災科学者篠ノ之束を生み出す土壌となった呪いであり、宇宙に想いを馳せて夢を語った天才少女の人生を狂わせた狂気の如き迷信の由来にもなっていたのですーー。

 

 

 篠ノ之神社から記録が消失したのは太平洋戦争時であると言う推測は、推測の域をでることが出来ません。

 それ以前に失われる機会である明治維新の廃仏毀釈で焼失していた場合、今の我々が『その時に失われた事を』知る術はないからです。大人になって考古学なり発掘なりに携われば別ですけどね。

 

 ですが、この際それは問題ではありません。彼女を歪ませた要因は太平洋戦争にあるからです。彼女の家族が“そう思いこんでいる状態にあるから”彼女はこうなってしまわざるを得なかった以上、史実も事実もどうでも宜しい。彼女の実家が抱え込んでる“彼らにとっての真実”だけが、この際には重要なのです。

 

 彼らにとって“空”は、憎しみの対象に過ぎませんでした。空から投下される爆弾の雨には抵抗できなかったからです。刀も舞も、祈りでさえも戦争兵器は無惨に踏みにじり、大空へと帰って行きました。

 彼らを焼きだしたのは戦争であり、爆撃機であり、大空から迫り来る巨大な黒い影たちでした。彼らは呪詛の言葉を空へと放ち、その恨みと呪いを子々孫々まで伝え残すことを己が血の宿命と心に誓ったんだそうです。

 

 それでも時間は記憶を劣化し、想いを薄れさせ、覚悟をなし崩し的になあなあで済ませられるようにして行くもの。篠ノ之家が語り継ぐと誓った想いも覚悟も、束さんのご両親が彼女を生んだ頃には大部分消え始めており、平和を尊ぶ思想が彼らの頑なだった覚悟を融解しては溶きほぐして平成の平和に馴染ませていったのです。

 

 そんな中、時代の流れに動じることなく立ち続け、篠ノ之家が抱いた覚悟を貫く信念を強く持ち続けたのが彼女たち姉妹の祖父の篠ノ之柳韻。

 箒さんが、その力量に対して憧れを抱いた理想の剣士。

 

 だからこそ、束さんとの相性は最悪ではなく災厄にしか成り得ない最低最悪のお爺さんになってしまっていたのです・・・。

 

 

「アイツは言った! 空は篠ノ之の敵だって! アイツは言った! 機械に頼らなければ何も出来ない軟弱者めって! アイツは言った! 束さんが言ってることは「支離滅裂だ。子供の戯言だ。聞く耳持たん」って! 何度も何度もアイツは束さんを否定した! 認めてくれないんじゃない! 見ようとさえしなかった! ただただ否定するためだけに側に呼んで、言うこと聞かないときには叩くか蹴るか、物置に閉じこめるかしかしてくれなかった!

 そんなに私は間違ってたの!? そんなに悪いことを言ってたの!? 何かを造れば片っ端から壊されて捨てられるような、そんなに悪い物を私は造っていると思われてたの!?

 そんなのは認めない! 認めない認めない認めない! 絶対に認めてなんかやらないんだ! 認めてやるのは私の方であるべきなんだ! 天才の私が認める側だ! それが正しい世界の在り方だ! 大多数のバカな愚民が一握りの天才の言うことに口出しするな否定するな反論するな逆らうな黙って従え弄ばれろ私の掌の上で踊り狂って墜ちていけ!

 世界中の誰も彼もが間違えている! 天才の私を認めない連中は、誰も彼もバカばっかりだ! 説明してやってるのに私の才能を、正しさを理解できないバカどもは自分に都合のいい現実だけを見ながら死んでいけ! バカどもにはお似合いの死に方だクソ野郎!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 誰も彼もが黙りこくって束さんの絶叫を聞くだけになってる中にあって、おそらく私だけが皆さんとは違う理由で硬直していたのではないでしょうか?

 

 束さんには大変失礼なこととは思いましたが、私の心に彼女の言葉は届きませんでした。もって生まれた価値観と家族の違いによって、痛みを共有できなかったのです。

 私の母は優しい人です。穏やかな人でもありますが、それとは逆に子供の敵には非常に厳しい人でもありました。子供が悪い道に進もうとするのを、悪い道に進ませようとする人ごと徹底排除してしまう人なのです。あれは素直に怖かった・・・。

 

 そして父親は穏やかで優しくてイケメンで・・・ちょっとだけ女たらしな人でもあります。強いんですけどね? ものすごく強いんですけども、女性には非常に弱っちいです。綺麗な女性を見ると声をかけては母に怖い目でにらまれて竦み上がる、ヘタレなイケメンです。あれは素直に格好悪かった・・・。

 

 そんな風に恵まれた過程で第三の人生を送ってきた私には、彼女の恵まれない家庭環境が理解できません。想像は出来ます。が、想像の域はでませんし越えられません。

 情報だけでイメージできる世界は、自分の中だけの物。現実の其れとは似て非なる事は出来ても、偽物にすら成り得ないのです。

 

 相手の話を聞いて相手のことが理解できたなどと言うのは傲慢です。嘘っぱちです。

 理解した、理解できたと勘違いしたおバカさんが抱いた妄想という名の空中楼閣です、反吐がでる。

 それは、相手の言ってることを自分は理解したのだと感じただけ。本当に相手を理解できたという保証はどこにもない。証拠がないから証明できない。だからこそ、その言葉を否定することもまた不可能。

 

 なにしろ、相手の理解を否定する証拠もまた存在してはいませんからね。無いことを証明するのは難しいとは、よく言ったものですよ。

 

 長くなりましたが、私の考えを要約しますと『何を言っても欺瞞にしか成り得ない。だから私には、何も言うことが出来ない』となります。

 

 分かってます。これは私のエゴですね。自分の道を貫きたい私のエゴで、今目の前で苦しみ抜いて叫んでいる束さんを救える言葉を言うことが出来ない。

 これはエゴです。醜いエゴ。

 いつだって結果を優先する私が、自分の信じる道に関してだけ理念を優先しようとするなど、救いようもなく醜いエゴとしか言い表せません。

 私は自らのエゴで動けなくなり、言葉を発することが出来なくなり、唯一の取り柄と武器と力が失われる。無力で平凡な、只の小娘に巻き戻される。

 

 ーーああ、なんて事でしょう。私は今、醜い過去の自分と自分の中だけで対面させられている。ひどく醜い鏡を見させられてる気分です・・・。気持ちが・・・悪い・・・。

 

 

 

「私は宇宙(ソラ)に行く! バカどもに宇宙のすばらしさを思い知らせて、私が正しかったことを証明してやる! その為にISを造るんだ!完成させるんだ!

 あれは宇宙へ行くために造られた機械だ! 性能不足で誰もが見てくれないアレを完成させて宇宙にいけることを証明してやる! そうすれば世界は認めざるを得なくなる!

 ISの可能性を! 私の正しさを! 私の考えが正しかった事を、きっとアイツも理解する! 無理矢理にでもさせてやる!

 それが私の・・・私の世界を否定した糞爺たち(セカイ)への復讐だ!」

 

 涙ながらに叫ぶ彼女の話を聞きながら、私は古い鏡を見せつけられてる気分に浸り、ひどく気持ちの悪い気分にも浸っていました。

 

 ひどい話です。

 古い鏡で、忘れたことがないトラウマを見せつけられると言うのは。

 

 思い出してみれば直ぐに分かる程度の話でした。設定を見返す必要もない。必須となる基礎知識だけで十分すぎるほどの簡単すぎる予想。

 くだらなくて馬鹿らしい、私以外にとってはどうでもいいと言い切れるであろう個人的こだわりだけが問題となる部分。

 

 IS学園入学直後の授業で習ったはずでした。

 彼女が手を加えたISは、元々宇宙開発用に造られていた物で、『白騎士事件』で多国籍軍の艦隊をISが単独で無力化し、圧倒的で絶対的な性能の差を見せつけられた世界が世界平和のためと称して兵器として使用しはじめた存在。

 

 『日本で進められていた大本の開発は白騎士事件以降、中断されたままになっています』山田先生の発言に振り回されすぎましたね。これに思考が捕らわれすぎたから、こういう単純なミスを起こす。悪い癖だ、私なんか死ねばいいのに。

 

 何のことはありません。

 彼女もまた私と同じように、IS開発の理念に拘りすぎただけ。

 宇宙に行くために生み出されたIS。

 その開発理念と精神を尊びすぎて信じすぎて尊重しすぎて貫きすぎて、『性能が足りないから認められない』と言う、誰もが理解している単純明快な結論に只一人解決策を用意できたから、結果として誰からも理解されなくなってしまった。

 純粋に開発者の理念に従っただけの天才少女が、世界中に混乱をもたらした天災と呼ばれるようになってしまった。

 

 まるで、民主主義の理念に拘りすぎるあまり世界中を巻き込む大戦の火蓋を切って落とす大事件を引き起こした、どこかのバカな転生者と同じように・・・。

 

 

 ひどい話だ。自分が否定した相手と、自分自身が同じ生き物だったという事実が目の前で実体を得て、涙ながらに声高に主張し続けている。

 これは罰だ。世界を壊した私に対する、転生の神様からのプレゼント(罰)。

 

 ーーだから私は、彼女のことを・・・・・・

 

 

つづく



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第2話「世界最強、剣・斬!」

三話目です。今出来てるのはここまでです。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 狂った形相の瞳に限界まで涙を湛えて、束さんは私と相対し続けたまま一瞬たりとも視線を逸らそうとはしません。

 

 ーー逸らしたら敗けだ、負けたくない。私はもう二度と、ちーちゃん以外の人間には負けてなんかやらない!ーー

 

 そう無言で宣言されているかのようで、打つべき手も取るべき手段も、選びうる選択肢すら持ち合わせていない私には、ただただ見つめ合うことしかできませんでした。

 

 数秒が経ちました。まだ膠着状態は続いています。

 

 さらに数秒が経ちました。まだ今のところは現状維持です。

 

 三十秒がたった頃、ようやく事態に変化が訪れました。

 

 ーーアホが乱入してきたせいでで、状況は混迷の度を極めまくりやがったのですよ・・・。

 

 

 

「こぉのバカ幼馴染みがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」

 

「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁぁっぶべはらうぇらほうえほぅっ!!!!!」

 

 

 ーー猛スピードで走ってきたナニカに殴り飛ばされた束さんが吹っ飛ばされて行くのを黙って見送り、未来の全世界的加害者になる少女を前科持ちになる前に(つまりは無実です。将来的な危険度故に断罪されました。哀れです)打ち倒して成敗してのけた見覚えのある黒髪の少女の姿を、私はボンヤリ見つめてみます。

 

 轟音と共に走り抜け、爆音と共に天災を地に沈めた少女。

 

 なんだかスゴ~ク見覚えがあるというか、既視感がありまくる異常なまでの行動力。

 

 そう。彼女の名前は皆さんよく知る伝説の剣士。世界最強ブリュンヒルーー。

 

「ふはははははっ! 白い閃光参上!」

 

 ーー訂正。変態新人漫画家ピエロ・ダ・ワンサマー先生のお姉さんでした。決して未来の世界最強さんではありません。単なる未来世界で暴れまくってる妖怪のお姉さんです。只それだけです。ええ、本当に。

 

 

 そして始まる、訳わかんない剣舞な音頭。

 

 確か私が見たときには5人でやってましたが、この時空だと1人でも良いみたいですね。さすがはお姉さんで世界最強な人。レベルが違うな~。・・・変態としての。

 

 

「流派! 日の本不敗は正義の風よ!

 全身全霊! 滅私奉国!

 見よ! 南蛮は、紅く燃えているーーーっ!!!」

 

 旧日本軍かよ。

 いや、旧幕府軍か? それとも尊皇攘夷を(表向き)掲げた薩長連合でしょうかね?

 どちらにしても時代錯誤甚だしいんですが。

 

「ふっ・・・愚かだな、束。如何に世が移り変わろうとも、我々が成すべき道はひとつしかない。

 悪は直ちに殴る。

 即ち、悪・即・打。

 それが私、平成の世に生きる壬生の狼『織斑千冬』と言う女の生き様よ」

 

「う、うわー・・・・・・」

 

 再び訂正。壬生狼みたいです。・・・身ボロの間違いなんじゃないですかね? 燃えよ剣~。

 

 つか、これは痛い。痛すぎます。弟の前ではやたら肩肘張ってた原因はこれですか、織斑先生。

 そりゃ弟の蛮行前にしても何も言えんわ。教師としての役割も半端にしか果たせませんわ。どう見たって末期の厨二病患者か、単なるバカにしか見えませんからね。言う資格無いにも程が有りまくりますよ。

 

 てゆーか、都合良く弟が記憶なくしたからって理想の姉像を演じ続けるのは止めてくださいよ。見ている方が本気で恥ずかしくなりますから・・・。

 

 ・・・いやまぁ、この世界は転生の神様が悦しむためだけに捏造した疑似平行世界戦で、原作の《インフィニット・ストラトス》とは一切因果関係は成立してないんですけどね?

 ・・・私はいったい、誰に向かって言い訳してるんだ・・・?

 

「束・・・まさかお前がそこまで愚かだったとはな・・・見損なったし、裏切られた想いだぞ? まるで、信じていた友達に裏切られて父さんにも裏切られたのを思い出した時みたいな心境だよ・・・」

「お父さんからは具体的に、どの様な裏切りを?」

「冷蔵庫に隠しておいたプリンを食べられた」

 

 小学生の好きな食べ物上位はプリン~。

 

「・・・まさか私を差し置いて、学内で尤も大人しい深窓の令嬢と評判の異住セレニアに人生相談を持ちかけようとはな!

 この裏切り者め! 人でなしめ! はぐれ魔術師! モグリの金貸し! ドラゴンも跨いで通る! ゴクドーくん漫遊記ーっ!」

 

 弟がマンガ好きだから、姉はライトノベル好き・・・似すぎる所を間違えまくってるとしか思えないんですけども・・・。しかも微妙に古いし・・・。

 

 つか、この世界における私の立ち位置ってお嬢様キャラだったんかい。今はじめて知らされたわ。

 いや、確かに銀髪碧眼で敬語キャラですもども。表面上だけは礼儀正しいですけども。小学生にしてさえ背がチッコい方ですけども。チッコい割に胸だけはデカいですけ・・・これはいらない要素なので除外させていただきます。

 

 本当にこれ、何とか取り外せないもんかなぁ・・・おしゃれ武装で貧乳とかってないのん?

 

 

 閑話休題。

 

 ーーこの世界の千冬さん(こっちも呼び方を変えました。紛らわしいのと違和感ありすぎで付いていけん)は古い名作ラノベ好きと言う設定みたいですねぇ。

 あと、ついでにエヴァみたいなセカイ系の行けるみたいです。好きなレーベルはファンタジア文庫・・・かな?

 

 時代的にはあっていなくはないのですが・・・イメージが・・・。

 

「悪を成敗! 天・誅・罰!!」

 

 叫んでから始まるのは、女子小学生の女子小学生による小学校のグラウンドを舞台にした一方的な正義による悪の粛正。

 

 千冬さんは正義の味方らしく悪と決めつけた相手を倒すことに容赦も遠慮もしてくれません。情け容赦なく倒れたままの束さんの背中を何度も何度も踏みまくります。

 ・・・拳は?

 

 

「ふぅ・・・悪は滅びた」

「貴女が自分の手で滅ぼしただけなんじゃないですかね? 主観が混じりまくった正義論は、客観的な意味合いでの正義から見れば悪と変わりないと思うのですが・・・」

「正義は勝つ! 強くなければ正義ではない! つまり最強の私こそが正義である!」

「うわー・・・・・・」

 

 こっちはこっちでヒッドイなぁ・・・。弟さんのヒドい時が混じり合ってます。て言うか、ダメな部分を合体させてどうすんの?

 

 ーーあと、倒れ伏して動かなくなってる束さんが少しだけ心配です。ピクリともピクピクともしません。完全に気を失ってらっしゃいますね、これは・・・。

 

「ところでだがな異住セレニア。お前・・・今のこいつから聞いた話をどう使う腹積もりなのだ?」

「貴女はどの部分を、どう使って欲しいと願っているのですか?」

 

 即答で反問してきた私に千冬さんは目に見えてたしろぐと、やや気圧された様子ながらもこちらの目をまっすぐ見つめ返しながら先ほどよりも1オクターブぐらい小さな声で、こう呟いて答えとしてきました。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・束がイジメに遭っていて、それを相談した先生からは音沙汰無いまま今日まで来ている事について、余計な介入はなしに願おう。

 これ以上厄介ごとを増やして、束の傷つきやすい精神を無駄に刺激したくはないのでな」

 

 やはりと言うか、予想通りと言うべきなのか。

 千冬さんもまた弟の織斑さんと同じ形で早とちりし先走った行動に出たようですね。そのせいで意図しないまま部外者のどっちつかずな第三勢力に情報提供してしまうという醜態を晒す事につながる。織斑姉弟の悪い癖、とでも言うべき特徴なのでしょう。血は争えませんねぇ~。

 

「そうだったのですか。それは知りませんでしたよ。私が知らなかった情報を教えていただきまして、ありがとうございます」

「な・・・!? 貴様、私を謀っていたのか!?」

「貴女が勝手に自分の親友の秘密を暴露しただけですが・・・?」

 

 ぷいっ! と、千冬さんは世界最強の名に恥じない早さでそっぽを向いてから口笛を吹き始めました。この姉弟・・・似てねぇー! むしろ千冬さんのダメな部分を修正したのが織斑さんのような気が・・・。

 

 今こうして過去の現物を見てみると、織斑さんって正義の味方系主人公としてはまだしもラブコメタイプではあったんですね。ヒーローギャグ漫画の主人公じゃなしに。

 いや、途中からはそうなってたか? あんまし覚えてないんですよねー、出会った当初あたりのことは。その後過ごした期間が余りにも濃密すぎたものですから、つい・・・。

 

 ごめんなさい、原作の織斑さん。もしも第四の人生が再び《インフィニット・ストラトス》だった場合には初期から尊重しますので、後生ですから許しといてください。

 

「それで? 情報提供には感謝の意を表しますが、私からの質問の答えにはなっていませんので、出来ればお答え願えませんか?」

「・・・・・・? 何のことだ?」

「だーかーらー、貴女のお願いであり要望についてです。

 貴女が私にして欲しいこと、してもらいたいと願うこと、してくれたら助かるな嬉しいなと言った些細で個人的なお願い事ですよ。それが有るなら聞かせてくださいとお願いしているのです。

 つーか、それがあるからこそ階段を使わずに、わざわざ3階の窓辺から飛び降りてきたのでは無いのですか?」

 

 私は彼女が出てきた場所、やってきた方向から逆算して向かい側の校舎にある窓の開け放たれた教室に目を向けながら、こちらを見下ろす生徒たちで溢れかえった音楽室を見上げてため息を付きます。

 3階は3階でも、着地地点の足場が桜並木になってる場所なんですが・・・。割と本気で、どーやって生き延びたの?この人・・・。まさか本物の東方先生じゃないでしょうね? あるいは弟子だったとしても私はドン引きしますよ?

 ・・・あれ? なんか織斑さんが弟子入りしたって言ってたドイツ人の忍者さんがいたような気が・・・気のせいです。気のせいだと思いたいです。これ以上Gの世界に浸食されたくねぇんで。

 

「・・・で? お返事は?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 私からの再度の問いかけ(見ての通り誤魔化しです。内心知られなけりゃ誤魔化せます。たぶん!)に千冬さんは激しく逡巡して狼狽えはじめたので不思議に思っていると。

 

「・・・・・・・・・そ、そう言うのはちょっと・・・苦手だ」

「・・・・・・はい?」

「私は、守るための刀だ。皆を守るため、仲間たちを守るため、正義を守るための刀。

 刀は人を切ることで人を守る武器。強力な武器自身が願いを持つのは危険すぎる・・・」

「はぁ」

 

 う~ん・・・やっぱり変なところだけ織斑さんとソックリで、ダメなところだけ寄せ集めてるヘンテコな感じが物凄い。妖怪さんと織斑さんが融合して、なんだかよく分かんない変な侍少女になっちゃってますね。

 

「では、最初の質問を補完するために必要な補助としての質問です。

 貴女にとって守るべき者たちの定義とは、一体どう言ったものなので?」

「虐げられている者たち、理不尽な暴力に怯える者たち、弱き者たち、強くはない者たち。そして何よりも尊く守り抜いてやりたいと願うのは、自分よりも強い者に挑むために強くなろうと足掻いている、今はまだ弱い者たちだ。

 彼ら彼女らが弱いうちに手折られるのを防ぐことこそ私の使命、そして生きる証なのだ」

「わかりました、了解です。そうなってきますので今しばらくお待ちください」

「そう! だからこそ私はーー! ・・・って、あれ? 今なんて・・・」

 

 まだ演説の途中だったらしく、陶酔した口調でなにかを続けようとしているかにも見えた彼女でしたが、私は敢えて無視して話を先に進めることにいたします。

 正直、トリューニヒト国防委員長のアジ演説に慣れちゃってる私には退屈だったんですよねー。

 あ~あ、やっぱ凄いわあの人は。美辞麗句だけで同盟市民130億の心を鷲掴んだだけのことは有りまくりますわ。ド素人の三流演説が三流以下の聞くに耐えない雑音にしか聞こえなくなるなんて、いくらなんでも凄すぎる。誰にでも取り柄っていうのは有るものなんですねー。

 

 ーーそう。誰にでも取り柄はある。私にだって勿論あります。戦争です。

 

 ーーけど、

 

 ーー戦争の手法を戦争でしか用いれないなんて・・・ヤン提督が聞いたら悲しまれちゃうでしょ?

 

 

「え、あの、ちょっと・・・」

「大丈夫です、安心してください。直ぐ済みますから」

「い、いや、安心とかじゃなくて心配でもなくて、そもそも何をどう心配して安心していいのかだけでも説明をだな?」

「大丈夫です。問題ありません」

 

 はい、これでフラグは立ちました。

 後はただ、バッドエンドになればゲームオーバーで依頼達成です。

 

「先生、ひとつだけ宜しいでしょうか?」

「な、なんだ異住? 今までおとなしかったお前が突然、藪から棒に・・・」

 

 見物客と化していた一人、担任教師の岡部先生(体育教師風の見た目はともかく、進級直後の春にタンクトップ姿はどうかと思われますが)は、今日初めてまともに私から話しかけられて若干ですが挙動不審です。

 慣れない生徒に手を焼くのは小学校に限らず、学校教員の宿命ですからねー。しゃーないしゃーない、本当にしゃーないのです。

 

 ですので、先生。仕方ないのだと割り切って、今日から二年間問題児二人+一人の起こす揉め事担当のお役目をお願いしますね?

 

「では、失礼して。ーーあなたが篠ノ之束さんのイジメ問題に関連して教職員として果たすべき義務を怠った無能怠惰な給料泥棒教師であることが判明しました。

 即刻土下座して罪を詫び、反省してください。無能を養う余裕は今の日本政府にないことをお忘れなく。PS.賠償要求はしないであげますので感謝なさい。

 ーー以上です」

 

 数十秒に渡って続いた長い沈黙。

 それが弾けてからは展開が早く、私は引き摺られる様にして職員室へと連行されていき、その道中でポカンとした表情のまま私の顔を見つめている織斑さんに小さく片手を振ってあげました。それだけで全てを察したらしい彼女は、確かに学校教師に向いているのでしょうね。

 その後、学校中に轟く大音量で「またしても謀ったな“セレニア”ーーっ!!」と叫んでいたのは正直どうかと思わなくもないですが、名字読みではなくなったので、一先ず良しとしておきましょう。

 

 

 こうして私は、小学校三年生に進級した途端にめでたく自宅謹慎を言い渡されました。

 

(ちなみにですが法律によると、退学処分は義務教育学校では認められていません。停学処分も同様です。

 ただし、私立だと退学が可能となるそうですので、正しさを追求しすぎる場合はお気をつけて)

 

 つまり、私は世界最強の守るべき対象に「仲間たちのため、勝てない敵に挑んで迫害されるようになった弱い者」を追加することに成功したのです。やったねセレちゃん!大勝利ー!

 

 

 どこからか聞こえてくる転生の神様からの感想は、

 

「あ~、そう来たかー。・・・やっぱ君はおもしろいね! すっごく意外で笑えたよ!

 これからも頑張って! 期待させてもらうから! グッドラック!」

 

 と、ここまでは良かったのですが、親指立ててサムズアップしている映像が脳に直接送られてきたときはウンザリさせられました。・・・この女神(?)超うぜぇ~・・・。

 

 

 

 このようにして私の第三の人生、《インフィニット・ストラトス》過去世界へのタイムパージは正式にスタートすることになりました。

 

 しばらくしてから私の家に、仏頂面したお二人が毎日遊びに来るようになる事を、今このときの私は知り得ていません。

 

 負け続けの私の人生(戦争)において何度も何度も経験してきた敗北。

 それでも私はこれを、良いものだと感じたのです。

 良い、敗戦だったと。

 

 

 オリジナルがどうであろうと、自分自身が誰かに造られた偽物だと言う事実を伝えられても、たとえこの世界で何をやっても無駄だ諦めろ、確定した未来は変えられないと教えてもらった後だとしても、やはり私は私です。変われないし変わらない。

 変わってやる気なんか、少しも持ってやしないのです。

 

 こっちの私は、あっちの私と違う。

 だから何だ、それがどうした。違っていたら戦争しなくちゃいけないなんてルールに私は従わない。従ってなんかやらない。私の戦争は私で決める。

 

 誰と何時戦うかも、戦う理由も戦う意義も価値もすべて。私の物だ。私の物は私だけが決めれる唯一の物だ。誰にもやらない渡さない。神様にだって決めさせてなんかやるものか。

 

 それが私です。少佐ではなく、オリジナルとも多分違う道を選んだのであろう、私という一人の人間。その戦うべき戦場が、生きていきたい戦争が此処だった。ただそれだけの事。大した意義も意味もありゃしません。

 

 これは自己満足です。この物語は自己満足のためだけに生きてる神様がコピペした、傲慢で独りよがりな転生者の少女の織りなすクソッタレな反吐がでる物語。

 

 記憶を引き継ぎ第三の人生を生きる『三番目』の私は、一体どんな糞食らえな人生(戦争)を生きて行くのでしょうか? 気持ち悪くて吐きそうなくらいワクワクしてきますよ。楽しくなさそうで。

 

 

 ーー余談ですが、戦争以外で敗北して初めて得た勝利の味は、母からのいた~いお尻ペンペンであったことをお知らせしておきます。

 

 ・・・生まれ変わって初めて流した涙は恥ずかしさのためでした。

 この事をオリジナルが知ったらどう思うのでしょうかね? 知りたくないから知れない世界に転生させてもらえたことを、神様に感謝いたします。

 

つづく



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第3話「分岐の始まりは会話の後の戦争で」

束さんヒロイン作品として本気で書き始めてみた最初の回です。
本格的に彼女と向き合うのは文字数的に次話からにせざるを得ませんでした。やはり慣れてない恋愛話は難しいです。

次話で色々あって束さんはセレニアに惚れます。誰得かとも思いましたが、セレニアと束さんのイチャラブストーリーが始まる・・・かな?


 ーー謹慎生活二日目。

 

「ひははな~・・・」

 

 私はストローを口にくわえながら回転イスに座ってクルクル回りつつ紙パックジュースを飲んでいました。不自然すぎる姿勢とポーズが言葉をおかしくしています。

 ちなみに言いたかった内容は「暇だな~」です。

 

 行儀が悪いことは重々承知していますのでご安心を。暇すぎてしまい、何か思いつかないかと色々やってたら変な事しちゃってただけです。気づいてから赤面してベッドに座り直してチューチュー吸い直しましたし、どうかご容赦の程を・・・。マジで恥い・・・。

 

「よく考えてみると・・・《インフィニット・ストラトス》の世界って、ISが生まれなかったら普通に私の生きた時代をなぞるだけなんですよねー・・・」

 

 天災科学者篠ノ之束が作り出したIS。それが世を変えたのは原作開始より十年ちょっと前に起きた「白騎士事件」。

 そこから分岐した世界観が《インフィニット・ストラトス》であり、白騎士事件が別の形で起きていたらと言う想定の二次創作とかも多そうです。

 

 ・・・・・・が。

 

「つまりそれって、白騎士事件が起きるまでは最初に生きた小学生の時間を追体験するようなモノなんですよね。高校生としての記憶と心を維持したままで・・・」

 

 しかも私に至っては、ほぼ同じ時代を都合三度目。そりゃ飽きますし、退屈もしますよ。だってやる事なす事ぜんぶやり尽くした後なんですもん。悔いもなければやり残しも残っていません。インターバルが短すぎるにも程ありすぎでしょうに・・・。

 

 古本屋のラインナップは8年間くらいで一変しますが、高校一年生までの期間は約16年間。8年間を二回です。読んでない名作や、読みたかった名作なんかは読み尽くしちゃいましたし、隠れた名作にも三度目の人生9年目までには手を出した後です。

 

 要するに・・・。

 

「やることが・・・・・・ない!」

 

 前世も含めて久しぶりに出した大声が「ない!」な私は、転生者からコピペされた疑似転生者の異住セレニア9歳児ですが、それが何か?

 

 え? 学生の本分は勉強なんだから勉強しろって?

 あのですねー、高校生の記憶と思考力を有したままで小学校時代を無事(?)過ごせているって事は、普通に考えてあり得ないんです。不可能なんですよ。それぐらいに何もかもが異なっているのが世代間の違いによる認識の差なんです。

 

 にも関わらず上手くやれてるのは、転生の神様による調整の賜物であると、日々実感させられながら生きてる私は断言させていただきますね。ええ、絶対にです。

 

 ーーなにしろ、思い出せる記憶の内容に制限がかかっていて、季節が進むごとに開示されてくと言うシステムを隠す気のない性悪な神様に転生させられた身なのでね・・・。イヤでも気づかざるを得ませんて。

 

 思い出せる内容によって行動を制限し、選択範囲を狭めてしまおうとは・・・おのれ神様ぐぬぬぬ、と呪うのが一般的な反応ですよね。勿論私もそうしましたよ。生まれ変わってから今になって初めてね! 今まで思ってこなかったことについては忘れてくださいお願いします! 自分が凄く変人に思えて仕方なくなるから!

 

 

「・・・とにかく暇だ。仕方ないので六法全書でも借りてきて読みましょう。アレが一番暇つぶしになーー」

 

「そんな子供らしくない行動を、私は拒絶する!!」

 

 うわっ、ビックリした。窓の外からニョキっと頭が生えてきたと思ったら大声出されました。

 ・・・って、あれ? このキリリとしてるのにバカっぽい印象しか持てない黒髪美少女の顔はどこかで・・・。

 

「窓の外からやってきた光の使者、織斑千冬ここに参上!

 元気にしてたか、悪い子セレニア!? ちなみに私は今日も元気一杯カレーパンマンだ!」

「・・・色々ツッコみ入れたいのですが・・・とりあえずはひとつだけ。なぜにアンパンマンじゃなくてカレーパンマン・・・?」

「私は、あんパンよりもカレーパンの方が好きだからだが?」

「ああ、うん。ハイ分かりましたのでもういいです」

 

 アンパンマンとカレーパンマンを比べたんじゃなくて、あんパンとカレーパンを比べてたのね。確かに、お腹減ってるときに食べさせてもらえる訳ですから味の好みは重要ですよね分かります。分かりますので、もういいです。頭痛くなってきちゃいましたから・・・。

 

「では、窓から失礼。とうっ!」

 

 叫んでから不法侵入してくる織斑先生ならぬ千冬さん。弟が同じ事されて苦しんでるのを黙って見過ごしてたのは、こういう事情があったからですか・・・。深くないな~。

 

「ほら、束。おまえも早く来い。セレニアに言いたいことがあるんだったろ?」

「え・・・? 篠ノ之は・・・束さんも来てるんですか?」

 

 驚いて聞き返すと千冬さんは「うむ」と大きく頷いてから窓のサッシを指さして「十分ほど前から、そこにぶら下がっている」と教えていただきました。気づかなかったぁ・・・。

 

「と言うか、アイツが来てみたいかもと言いながら一人じゃイヤだと言うものだから、仕方なく私が拳を振るって力づくで連行してきたのだがな」

「ただの拉致じゃないですか・・・下手すりゃ犯罪なのですが・・・」

「なに、心配ない。アイツは弱いが、無駄に頑丈だからな。気絶した程度なら直ぐに復活して立ち上がってくる。私の体当たり教育の賜物だろう。苦労した甲斐があったと言うものだ。ふははははははっ!」

 

 なんとなく未来の弟さんが、本来であれば味わってそうな苦労の数々をこなさせられてる束さんに私は声をかけてみます。

 

 家の軒下にしがみついてプルプル震えながらも懸命に踏ん張りを利かせようと努力している、未来では世界を変えてしまっている天災科学者さんに。

 

「・・・し、知らない・・・束さんは天才だから、そんな脳味噌筋肉みたいな女の思想は理解できないもん・・・!!」

 

 ーーおや?

 

「昨日は仲良さそうに見えたのですが・・・お二人はお友達ではないので?」

 

 意外すぎる展開に確認のため尋ねてみると、更なる意外な返答でお答えされました。

 

「いいや、違う。私とこいつは元々は相当に仲が悪い関係だったし、今でも必ずしも良いとは言い切れない関係だ」

「はぁ」

「だが、これでも多少はマシになった方ではあるのだ。

 一年生の時からこいつの傍若無人ぶりには頭に来ていたから一発殴ってやる機会をうかがっていたところ、丁度良い具合に家が近所だと聞いて行ってみたら国の宝である御老人に暴言を吐いているこいつを見つけて殴って気絶させた。それがこいつと私の馴れ初めの始まりだ」

「それは・・・」

 

 昨日、束さん自身の口から聞かされてた内容と照らし合わせれば・・・なるほど、合点が行く関係です。

 束さん自身のプライドの高さと負けず嫌いな性格から見て、家族のことは偶然知ってしまった千冬さん以外には話してはいないでしょうし、孤独な中でであった最初の一人が自分と並ぶハイスペック少女だと知れば頼りたくなるのは道理と言うもの。

 

「それで今まで関係が継続していると?」

「うむ。本来であれば束が機械をいじくって今年から私とクラスを同じくするはずだったのだが、何らかの手違いにより離ればなれになってしまってな。

 多少心配してはいたのだが、お前という理解者が現れてくれたことは不幸中の幸いだった。そう言う意味でだけは感謝しているぞ異住セレニア!ダンケシェーン!」

 

 ああ、感謝の言葉は無用ですよ千冬さん。

 ーーその不具合を起こしたのは、うちの神様で間違いありませんからね。むしろ、私を割り込ませるために余計な真似をさせてしまってごめんなさいでした。

 

「まぁ、つまりは腐れ縁みたいなものだな。いずれは納豆のように糸を引く関係にまで続いていければなと、私などは期待している」

「え・・・。糸を引く関係って・・・それ、まさか・・・」

「ん? 何か私はおかしな事を言ってしまっていたか?」

「・・・・・・・・・いえ、別に。聞き間違いでしょう。お気になさらずに・・・」

 

 顔を伏せながら蚊の鳴くような声で返事をする私に「そうか? ならば良し!是非もなし! 世はすべて太平なり!」と、呵々大笑する千冬さんに見えないところで赤面している私です。

 

 か、仮にも女の子に生まれ変わった身で、私はなんて事を考えて・・・はうぅぅ・・・・・・。

 

「ーーくっくっく・・・。束さんを謀った罰だよ。存分にちーちゃ・・・織斑の天然に羞恥心を刺激されて恥ずかしさに身悶えするが良いーーって、ちょっとやめてよ!

 なんで束さんの指を一本一本サッシから外そうとしてるのさ! 落ちちゃうじゃん! 天才の束さんが二階から落ちて怪我しちゃうかもしれないじゃないの!

 この歴史に記録されて然るべき頭脳が世を変える前に闇へと葬られるのは、人類にとって大いなる損失なんだからね!? キミ、責任取れるの!? 取れないでしょう!?

 だーかーらー、やーめーてーよーーーっ!!!」

 

 恥ずかしさから事故死に見せかけて束さんを謀殺しようとしている私は、どうやら相当にIS学園と原作ヒロインたちに影響受けた後みたいですね。くわばらくわばら。

 

「おお、束えらいぞ。ようやく自分から運動に取り組む気になったのだな。

 うむ。お前はやれば出来る子だからな。いずれは私にさえ追いつく逸材になるのではと期待していたのだ。

 普段からお前を運動に誘っていたのはそれが故だったのだが・・・こうして自分の相手を想う気持ちが伝わるというのは、やはり良いものだな、うん。何かをやり遂げたようで、清々しい気分だよ・・・」

「勘違い! 勘違いの思い過ごしで自己満足の極みだよ! 武士道ってそんなもんだけど、さすがに自分の意志を押しつけすぎてるからね!?

 いくら爺に無理矢理運動させられて凡人より遙かに強くなってる束さんだからって、理系で頭脳派の私に妖怪ブシドーの真似させようなんて期待はするなー!」

「大丈夫だ! お前なら出来る! 私はお前を信じている!」

 

 う~ん・・・変なところで変な既視感。少なくとも織斑姉弟に流れるDNAは弟さんへと確かに受け継がれてはいるようです。

 

「それにだ。貴様も私も先年に下の家族ができた身の上。いつまでも孤高を気取っている年頃ではいられんのだ。

 姉たるもの、妹弟に行くべき道、進むべき道の標たらずしてなんとする!」

 

 ・・・ごめんなさい、前世の私も禄なお姉さんできてなかったです。たぶん、裸で迫られて拒絶した以外のことは何もできてません。

 そう言えば、この時空の私は妹とかできるのかなー? ちょっとだけ気になる疑問ですな、元姉としてね。

 

 まぁ、一先ずは束さんを部屋の中へと引き摺り入れて上げましょう。いい加減、本気で落ち掛けてきましたし。

 

 どうやら現時点での彼女の身体能力は、そこまでではないようですね。さっきも千冬さんから運動に誘って断られる内容の事を言われてましたから。

 

「・・・別に束さんは妹欲しいなんて一言も言ってないし、猿よりもバカな愚民なんか要らないし。世界中で束さんと対等なのはちーちゃ・・・織斑だけだしーー」

「くぉのバカ幼馴染みがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

「再び、ぐへはらほへはぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

 再び吹っ飛び、窓の外へと放り出されて空中コンボを決められまくる束さん。

 おそらくは自宅ではない、私の家だからこその配慮なのでしょうが・・・その結果として束さんが人類の限界超えた大技でツッコまれてしまいました。

 

 ・・・これって、私のせいなの? それとも千冬さんか束さん自身の自業自得なの? どっち?

 

「下の弟妹を愛せぬ姉など、姉に非ず! 人以下である!

 人類みな弟妹大好き愛してる!

 ブラザー&シスターとは即ち、愛が世界を平和にするの意味。これが地球人類が共有している一般常識と言うものだ。辞書に載ってるから引いて見ろ」

「・・・・・・ホントに?」

「無論」

「いや、嘘ですから。ただのヤンデレな姉ですから、それ。むしろ近親相かーー」

「その単語を口にしてはいけない! 組織に消されかねないぞ!」

 

 どこの運命の扉ですかね、それは・・・。つか、時代あってねぇですし。

 ・・・ああ、だから「機関」じゃなくて「組織」なのか・・・。くっだらねぇー変化だなぁおい。

 

「・・・一先ず妹の箒ちゃんのことは置いておくとして、だ。束、お前もそろそろ私以外の人とも関わり合いをもっていい頃合いだと、私は思っているのだがな?」

「・・・・・・・・・」

「お爺さんとの事情は把握している。私なりにだがな。

 それでも彼以外のすべての人たちまで巻き込んで呪いを吐き散らすような真似をこれ以上して欲しくないし、お前にも人並みの幸せを享受して欲しいと出会った日からずっと思い続けてもいる。

 友達としてもだが・・・私は最近、いささか心配になる時があるのだ。

 お前の才能と、現在抱えている歪み。それらを解決しないまま、向き合おうとさえしないまま生きていけば最終的に多くの人が不幸になって、お前を心底から憎むようになってしまうのではないか、と。

 理由はないし、根拠もない。だが、どうしようもなく無性に怖くて怖くて仕方がなくなる。そう言うときが希にではあるが、確実に増えてきているのだ」

「・・・・・・・・・」

「私はお前と二度と会えなくなるような事だけはイヤだし、再会したときのお前が別のお前になっているのは余計にイヤだ。

 私はお前と共に歩んでいきたいし、今のままのお前がより良い方に向かって欲しいと願ってもいる。その為ならば幾らでも力になる覚悟と決意はできてるし、何発だろうと殴る準備は完了してもいる。

 力を貸して欲しいときには遠慮なく言えよ? 私はいつでもお前の力になる気満々なのだからな!」

「・・・・・・そのセリフ、シャドーボクシングしながら言わなければ感動できたかも・・・」

「なにを言う。これは陰拳闘だ。古来より伝わる由緒正しい日本の古武術なのだぞ?

 いずれ私が編み出す予定の流派『戦乙女活人剣流』の修練に取り入れることを想定している」

 

 陰拳闘=シャドーボクシング。

 戦乙女=ブリュンヒルデ。

 

 ・・・・・・・・・何度も思いましたけど・・・・・・なんだかなぁ・・・。

 

「・・・・・・・・・」

「ふむ、相も変わらず部屋の隅で黙りを続けるか・・・致し方あるまい。

 セレニア。突然ですまなく思うが、私はトイレに行きたくなった。案内しろ」

「本当に突然ですね・・・。まぁ、別に良いですけど・・・それじゃ束さん、直ぐ戻ってきますので失礼を」

「・・・・・・・・・」

 

 

 

 最後まで黙ったまま、私たちの顔を見もしないままだった束さんをおいて、私と千冬さんの二人は廊下へ出ると。

 

 

 

「さて、どうするべきと思うか? 意見を言ってみろ」

「・・・さっき以上に唐突すぎると思うんですが・・・」

 

 話があるから誘われたのは分かっていても、さすがに単刀直入すぎて段階をすっ飛ばしすぎです。もう少し手順を踏まんかい、未来の国立学校教員で世界大会トップ選手。

 

「あいにくと私にはこういうやり方しか出来ん。思いつくことは出来るのだが、実行する事はどうしても出来ない体質らしいのでな」

「・・・・・・」

「私は、考えるのは他人の役割と割り切って生きていくつもりだ。

 自分の役割は、考える者と行動する者、双方を守るための刀であろうと努力していく覚悟を決めたばかりなのだ。

 いきなり決意を反故にしたのでは、後に続く者たちから尻軽の誹りを受けても反論する資格すらあるまい。それでは私の夢から遠ざかるばかりではないか・・・」

「夢・・・?」

 

 世界最強ブリュンヒルデから初めて聞いた単語が意識野を刺激して、私は彼女の生真面目そうな顔を凝視してしまいました。

 

 そこには私の見慣れた織斑先生の表情をした千冬さんが立っていて、私のことを真剣な瞳で見つめ返して、真摯な言葉で語りかけてくださいます。

 

「今の私には夢がある。教師になるのだ。学校の先生になって先頃生まれたばかりの弟を、自分好みに成長していく手助けをしたい。

 弟の一夏の人生を支えていきたいし、守ってもやりたいのだ。

 なにしろ、親が全く宛にならない状況なのでな・・・」

「・・・・・・・・・」

「逆にお前は私にはないナニカを持っていると思っている。最初は半信半疑だったが、今では確信すら抱かせられる程に信じられるレベルでのナニカをな。

 国語力も語彙力も大河ドラマと時代劇で見聞きした以上のモノを持たない私には上手く表現する言葉が思いつかないのだが・・・お前は私と真逆の視点と価値観を有しているような気がしている。出会い方次第では終生許せぬ怨敵と成り得たかも知れない、それ程までに私とは異質なナニカを基準にした視点をな」

「・・・・・・・・・」

「私は誰とでも一対一で真っ向から向かい合う。それ以外の生き方を知らないし、それ以外のやり方も分からない。

 知っていたとしても、分かっていたとしても、どのみち選ばないだろうから気にはしておらんがな。

 だが、それでは見えないモノが必ずあるのだ。見過ごしてしまうモノ、見落としてしまうモノ、忘れても気づかないモノが必ず出る。そして今の私たちでは、忘れたことにすら気づくまい。

 そういう性質の持ち主が私であり束であり、おそらくは一夏と箒ちゃんも同じように育つことだろう。理屈はない、根拠もない。だが、確信だけはある。こう言うときに感じた勘で間違えたことが私には一度もないのだよ」

「・・・・・・・・・」

「おそらく私では、束の間違いを正せない。アイツは友達で大事で大切だから、壊してしまうかも知れない可能性を選ぶことが決して出来ない。そう言う体質であり性質であると自覚して生きていくと決めた以上、責任は果たすつもりではいる。

 だが、何かの手違いが原因でお前が私たちの前に現れた。これはチャンスだと私は思った。

 お前なら、人でなしな手段であろうと最低最悪な手段であろうと選び取れるはずだ。恐れずに進んで壁をぶち壊す以外の手段で通り抜けられるはずだ。

 私たちでは選べない道、私たちだけでは進めないはずの道、もしもお前が先導して通してくれるというなら、私はお前に付いて行くし力も貸そう。

 だから、頼む! 一生のお願いだ!

 束を・・・私では救えない私の友達を救ってやってくれ・・・」

 

 

 

 長い長い沈黙を置き・・・・・・私は重々しい声で答えを返しました。

 

 

 

 

 ーーな~んてのは大嘘で、私の答えは即答でした。

 考えるまでもありません。取れる手段があって、取るべき理由があって、取れるだけの戦力が手には入って、そして取っても良いだけの正当性を持つ『大義名分』という名の言い訳までもを入手して動かないのでは戦術家の名折れというモノ。ヤン提督の弟子を自称する資格すらなくすのは私もイヤです。

 

 だから私は行動する。思考は終えてあるのですから、次は行動に移す番だ。

 どの様な机上の空論も、実践で試すまでは失敗するなど有り得ない。

 頭の中だけで良いなら、人は神にでも王様にでもヒーローにでも魔王にだって何にでも成れる。

 

 その事実を思い知らせよう、人類を見下す天災様に。

 自分を正しいと信じて疑わないバカに、自分は世間から弾かれた負け犬であることを思い出させてあげましょう。

 この狭苦しい日本国内でさえ、何でも知ってると思い込みたいだけの彼女には、思い出したくもない現実が山ほどあるのだと言う事実を記憶の奥底から引き摺りだしてやる。

 

 

 さぁ、はじめよう。戦争を。私と彼女、二人だけの戦争を。

 出し物の見物客は一人だけ。三流喜劇には似合いの動員数だ。

 

 さぁ、終わらせよう。天災の不敗神話を現実で。

 負けてないと思っていたいだけの、か弱いか弱いウサギさんには巣穴から無理矢理にでも出てこざるを得なくして差し上げましょう。

 

 神話(フィクション)は終わる。終わらせる。物語には必ずエンディングが来るという事実を知らしめましょう。

 

 篠ノ之束さん。私は貴女に一方的に約束します。

 貴女を必ず、懐かしの戦場(現実)へと連れて帰って差し上げますとねーーーー。

 

 

 

 

 

 

「もしかしなくても私の人を見る目って・・・・・・節穴だったか?」

「当店はキャンセルも返品も承っておりません。

 自分の行動の結果は、すべて自己責任でお願いいたします」

「Oh・・・my・・・ガッツ!」

 

つづく



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百合ラブコメっぽく、ISをゼロからはじめてみよう。
プロローグ「束とセレニアのプロローグ」


割と本気でしょうもない作品を作ってしまいました。

とりあえずは出しときますが、1時間で書いたインスタント作品に出来とかは期待しないで下さいね?


 ーーセレニア。セレニア。私の声が聞こえていますか?

 

 私は女神。転生を司る女神です。

 貴女は将来的に大変な世界改変を行ってしまう可能性を秘めた異常sh・・・こほん。特別な子です。今のままISの世界に於いておくのはキケ・・・こほん。勿体ないと思いましたので再転生先を用意しておきました。そちらにお行きなさい。今すぐにです。

 

 具体的には、言霊IS本編10話くらいな今のうちに行っておかないとマジで取り返しが付かなくなるので急いでください。今ならまだ間に合いますから。

 水銀とか出張ってこられると私程度じゃマジでどうにもならなくなっちゃいますんで、さぁ早く!

 

 新たな世界へ続く扉はあっち! え?なに?転生特典? 適当なの後から付け足してあげますから早く行ってらっしゃい! 二度と帰ってくるのではありませんよー!

 

 

 

 

 ぎゅうんぎゅんぎゅんぎゅん・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「・・・お、目を開けたぞ。君と同じで、綺麗な蒼い色の目をしている。将来はきっと男たちが放っておかなくなってしまうのだろうな。まったく、母娘そろって罪作りなことだ」

「ああ、そうだな。お前の眼には女性の瞳はすべて綺麗に写るものだからな。

 マダム・キラーとして名高い「円卓荘」の湖騎士さん?」

「ゴホンゴホン。いや、すまない最近持病の咳が止まらなくなる奇病にかかっていてね。悪いが少し家を空けてくるよ。悪い奴らがご町内を徘徊していないか見回りをしてこなければ」

「いってらっしゃい、気をつけろよ。お前なら不審者と間違えられて襲いかかられても切り払えるだろうが、月のない晩に背中から包丁で刺し殺されるかもしれないからな」

「ゴホンゴホンゴホン! 日本の持病は性質が悪いのだな。我が聖剣で断ち切れるよう努力しにいこう。待ってろよ悪党ども! いざ出陣! とうやーっ!」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんですか、このアホ家庭・・・・・・。

 つか、お父さん。今生ではアパート経営者になって日本在住になれたんですね。おめでとうございます。これからは出来る限り私には近寄らないでください、汚らわしい。

 

 

 こうして私は、なんだかよく分からないうちに転生生活を途中で終わらせられて、第三の人生を新たに始めることと相成りました。

 

 今生の出発点として選ばれた実家と家族は「円卓荘」と言う、どっかで見覚えのある外国人さんたちのみが部屋を借りてる小さなアパートを経営している大家さんちで、私の名前は長女の「湖騎士セレニア」です。

 

 ・・・めっちゃくちゃ不吉すぎる名字に寒気しか湧かないのですが、とにかくそんな感じの再転生みたいです。

 

 

 時代はどうやらIS本編よりもだいぶ前なようで、前世で見慣れてた物がほとんど無くなり、代わりとして前前世で当たり前だった物が立ち並ぶ、ごく普通に日本の風景が広がっています。

 

 

 私がよく知る原作キャラとも、よく知らないし会ったこともないキャラたちとは仮に会っていたとしても気付くことがないまま数年が過ぎ、今日は待ちに待ってない幼稚園の入園式。

 高校生の心を持って幼稚園バスに乗る、この屈辱。・・・死にたい!

 

 ・・・でもまぁ、せっかくお母さんと(ついでに)お父さんから与えてもらった命です。無駄に浪費してよいものでは決してありません。前世ではいろいろ親不孝な真似を連発してしまいましたから、今生では両親を幸せにして差し上げなければ。

 

 それが無理な場合、せめて!せめて不幸にはさせない程度には努力したい!

 なんか身に覚えないはずなのに、前世では色々やらかしちゃった気がして時折辛いから!

 

 

 ・・・とは言え、暇です。幼稚園児の中にポツネンと一人、高校生が混じっているようなものですから当然です。プリキュアとかなら話を合わせられますが、さすがに『劇場版 魔法使いサリー』は無理です。不可能です。私そう言うキャラじゃねぇですし。

 

 と言うわけで、入園ボッチです。八幡先生の幼稚園児バージョンです。同じボッチなのに青春ラブコメで間違えようがないと感じているのは、青春と呼ばれるような世代じゃないからです。

 幼稚園児に青春もラブコメもあり得ない。そう考えた私は穏やかな心持ちで背もたれに身を預け、しばしの休憩をとることにしました。

 

 思えば走り続ける人生だった気もしますし、偶には休息も必要ですよね。

 は~、極楽極楽。おやすみなさーい。むにゃむにゃ・・・・・・。

 

 

 

 カタカタカタ・・・。

 

 

 

 ・・・ん? この聞き慣れたタイピング音は・・・。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 薄目をあけた私の視界に入ってきたのは、ピンク色の髪した幼い印象の少女でした。

 いや、高校生の目から見て幼い風に写らない幼稚園児って変なんですが、彼女の場合は特に幼く感じてしまった理由は恐らくやたらと頑なに周囲を拒絶しているかのような雰囲気をまとっていた事に由縁するかと。

 

 ピリピリしているというか、「近寄るな」オーラが滲み出ていると言うべきでしょうか? とにかくそんな感じの空気を全身から発散してらっしゃいます。

 

 と言って近寄りづらいわけでもなければ声を掛けづらいと言うほどでもなく感じてしまう私は、変態生徒会長と名高い全裸教徒と仲良くしていた前世を持つ少女。じゃなくて、幼女。

 偏屈で生意気な幼稚園児なにするものぞと、暇つぶしのため声を掛けようとしたところーー。

 

「あれ? それって・・・IS基礎理論の原型ですか?」

「・・・え?」

 

 あ、ヤベ。

 そう思ったときには後の祭り。ノートPCに落としていた彼女の視線が私に向けられ、ロックオンされてしまった後だったみたいです。

 

 誰か助けてー、狙い撃たれるー。などと一人で(心の中で暇つぶしのため)遊んでいたら、

 

「・・・なんで束さんが完成を目指してるIS理論が見ただけで理解できちゃうの? キミ、何者? 束さんの天才的な頭脳を狙ったテロリストかなんか?」

「アホですか貴女は。そんなアニメみたいな事は現実で起き得ません。フィクションとノンフィクションの区別くらいは付けるべきです。

 それから、規則にはなくとも園内へのノートPCの持ち込みは原則として禁止されるべき物です。帰宅時間まで然るべき所に預けておくか、見つからないよう鞄にしまって於きなさい」

 

 しまった。またしても咄嗟のことで考えてる時間的余裕が取れませんでした。

 で、でもまぁ今回の発言にはおかしなところなんて無いんだし大丈夫に決まって・・・

 

「ノートPC・・・? 今キミ、ノートPCって言わなかった!?」

「え? 言いましたけど、それがなに・・・」

「まだ東芝がDynabook Jー3100SSを発売したばっかりなのに! 束さんの発明した次世代型を見てノートパソコンって名前をすぐ言い当てられるなんてスゴいスゴい! キミも束さんと同じ天才なんだね!?」

「ふむ・・・」

 

 私は低すぎる天井を見上げながら、軽く前世の記憶から知識を掘り起こしてみました。

 

 世界で最初のノートパソコンDynabook Jー3100SSが発売されたのが1989年。

 

 魔法使いサリーの初放送は1966年12月から。

 ーーただし、劇場版の放映は1989年である。

 

 

 ・・・あ、ヤベ。

 

 と思ったときには遅すぎてしまう、今生の私。

 うーん・・・なんか頭が調子でないなぁ~。転生するときに弄くられでもしたんですかねぇ? なんだか、めっちゃくちゃアホになってる気がするんですけども・・・。

 

「・・・いえ、たまたま通っていたがくえーーじゃなくて、うちで経営しているアパートに似たような物を作ってる人が居るものですから、つい・・・出過ぎましたよねごめんなさい。すぐに帰りますし二度と話しかけませんのでお許しを。貴女も私みたいな変人には二度と関わらないことをお勧めしまーー」

 

 ガシッ!

 

 

 ーー将来を嘱望されそうな握力で服の袖を捕まれた私が恐る恐る振り向くと・・・。

 

「・・・・・・・・・(キラキラキラ)」

 

 めっさ瞳を夢の色に輝かせている幼い少女と言うか、幼女がおりましたとさ。めでたくなしめでたくなし。

 

「・・・・・・・・・断ってくれて一向に構わないのですが・・・うちに来まs」

「行く行きます行くとき行きますれば!」

 

 断られるのを期待しまくっていたのに、快諾されてしまいましたとさ。

 

 本当にこのお話は、めでたくなしめでたくなし。

 

つづく



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第1話「円卓荘の愉快な仲間たち・顔見せ編」

本格的にISとは関係のないアホ話になってきたことを深く謝罪いたします。ごめんなさい。

それから先ほど買ってきたばかりのPS3ソフト「インフィニット・ストラトス2ラブアンドパージ」を少しだけプレイしてみました。大画面でやるとVITAとは違った感慨がありますね!イメージ湧いてきたので次“は”頑張ります!

――ようするに今回のは期待しちゃダメって事です。以後は気を付けますね。

注:最後ら辺に台詞を付け足しました。


 幼少期から始まる転生物作品としては、比較的重要な出会いの場である事が多い(気がします。多分ですけども)幼稚園への入園式なのですが・・・残念ながら私には縁のない類のイベントしか起きない場所だったようで何事もなく無難に過ごして終わりました。

 何のイベント起きてはいません。日記を付けていたとしたら「暇でした」としか書くことがないレベルで何にも起きたりしませんでしたよ。

 

「現実なんて、そんなもんなんじゃないの~?」

「・・・そうなんですけどね。そうなんですけども、そうなんですけどもー・・・」

 

 そして何故かフィクション世界の住人に諭される羽目になる現代日本からの転生者。・・・泣いていい?

 

「それよりもほら! 早く早く! 早く束さんに、IS見せてほしいな~♪ 束さんは一日千秋の想いで今日のこの時間を待ちわびていたのだよ! そう! 三時間も前からね!」

 

 短っ! 短すぎる! 千年一夜どころか一日すら経ってないとか、待ち時間短すぎでしょう!? どんだけ短い一日千秋なんですかアンタ!

 

「アイ・エス! アイ・エス! アイ・エス!」

「わかったわかった分かりましたから落ち着いてください。人が見てますから、まだ帰りのバスの中ですから周囲の視線が痛いですから」

「愛!Yes! 愛!Yes! 愛!Yes!」

「本当にやめてお願いだから。なんか園児たちだけじゃなくて保母さんまでもが私たちを変な生き物を見る目で見始めてる気がしますから」

 

 むしろ、明らかに引かれてるし。ませたお子様じゃなくて危ない人たちを見る目になってきてるから本当にやめてマジお願い。

 

「お、そろそろ到着だね~。楽しみだなぁー、ヴァイセックス」

「・・・わざとやっていましたか・・・」

 

 途中から気付いてはいたんですけどね。確証がなかったから責めませんでしたけども。

 でも、相手が分かっていることは理解しましたし、これからは遠慮容赦なく責任を追及させていただきましょう。甘やかしちゃダメな人は徹底的に、です。

 

 

 

 ぷしゅー・・・ガッチョン。

 

 ゴトゴトゴト・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・さて、そろそろ私の自宅である円卓荘の隣の一軒家につくわけですが・・・」

「説明台詞、ありがとうセーちゃん。ーーで? なになに何かな? 束さんにナニカお願い事でもあるのかな?」

「いえ、貴女にと言うわけでもないんですが・・・ひとつ確認しておかなければいけないことがありましてね」

 

 私は出会ったばかりの幼稚園児「篠ノ之束」さんに返事を返しながら

 

(IS原作でISを作った制作者の名前と同じですが・・・別人なのでしょうか?

 正直会ったことない人なので判別できません。原作知識をもう少しくらい呉れればいいですのに・・・)

 

 そんなことを考えつつも周囲に満ちあふれていく、おかしな空気に異常を感じておりました。

 

 注:言霊本編で二人が対面するのは12話がはじめてです。ただし、この時点でのセレニアは束をモブキャラの変態としか認識しておりません。

 正式に素性を知る15話でも「何となく見覚えがある気がするが、気のせいだ」として思い出せませんでした。

 なので10話あたりから再転生してきている今作セレニアは束さんについて教科書通り+転生時に与えれた僅かな原作知識しか事前情報を持っておりません。

 要するに彼女にとって幼女束さんは、今作世界だと「入園初日に出会った変な女の子」に過ぎないのです。

 

 

「ああ、この変な空気のこと? 確かに気になるよねぇ~。なーんで雲が超低空で滞空してて、先端が渦巻き状になってるんだろう? 航空力学的にあり得ないのにね~」

「詳しいですね、束さん」

「モチのロン! イエース、オフコースだよ! 天才で大空大好きな束さんの手に掛かれば航空力学ぐらいかるーく暗記し終えるまで3日で十分すぎるのだ!」

「それは・・・いくら何でも、スゴすぎますね・・・」

 

 結構難しい学問なのに・・・やはり彼女は本もnーー

 

「まぁ、三日あれば十分だから急ぐ必要ないと思って、最初の一日目までしかやってないんだけどね!」

「ダメじゃないですかそれ。ただのダメ人間の発想じゃないですかそれ。ダメ人間がダメな発想をする、普通の人間の思考パターンじゃないですかそれ」

 

 訂正。やっぱり彼女は同姓同名の別人さんみたいです。

 

「ま、それはそれとして置いといて。

 ーーこの空気を醸し出してるのは間違いなく、バスから降りてからずっと束さんたちを尾行してきてるアイツだよ」

「・・・やはり“彼女”ですか・・・。まさかとは思っていたのですけどね・・・」

 

 束さんが私の方を見たまま親指で背後を指し示した先でチラ見したのは、黒髪ショートで切れ長の目をした同い年ぐらいの女の子。着ている制服からして間違いようもなく同じ幼稚園に所属することになった園児さんでしょう。

 

「どうする? 消すかな? 相手にもよるけど束さんは結構やるし、出来るよ?

 具体的には中学校の空手チャンプぐらいとなら、素手で互角にやりあえます」

「はぁ、それはスゴいですね」

 

 格闘やらない私には、どう凄いのかよくわかりませんけどね。

 

「円卓の騎士でたとえるなら、ガウェイン卿には勝てるけどランスロット卿には負ける、微妙な強さのペレウス卿くらいかな」

「円卓に数えられてないですけどね、その人」

 

 でも、カムランの戦いでも生き延びて天寿を全うできた理由が、湖の乙女に惚れられていたからだけと言うのは、あるで意味スゴいと思います。スゴすぎると思います。

 まさに勝ち組! カチグミ・ナイト・オブ・ラウンズです! 女が理由で死んだ人が多すぎる円卓メンバーと比べたらホントの本気でね・・・。

 

「まぁでも大空大好きな科学者でもある束さん的オススメは、円卓よりもアルキメデスだね。「エウレーカ!エウレーッカ!」って叫びながら全裸にタオル巻いた姿で走り回ってソーラ・レイ撃ってローマ艦隊を海の塵と化しちゃう人」

「巨大な凸面鏡で太陽光を反射させるアレですか・・・確かにソーラシステムではありますけどね・・・」

 

 つか、第二次ポエニ戦争でギリシャとローマって戦ってましたっけかね? 世界史あんま詳しくないんで分かりかねます。知ってる人いたら教えてくださいー。

 

「とは言え、正直畑違いは否めないからね~。戦わないで済むなら流したい相手かな?

 束さんでも勝てる保証がないくらいには強いよ、コイツ」

「・・・そんなにですか? ガウェイン卿より強い立ち位置なのに?」

「円卓メンバー同士で比較したらだからねぇ~。

 ーーああ、ちなみにだけどコイツの強さはギャラハッドより上で、モードレッドよりも弱いくらいだと束さんは予測します。でも、正確にはわかりません。畑違いだからです。

 万能の天才は何でも分かるけど、分かる故に分からないことがあることも分かっちゃう存在なのです。あくまで今の時点では、だけどね?」

「なるほど・・・」

 

 さて、どうしましょう? この人がいれば最悪、時間を稼いでもらってる間に家まで助けを呼びに走って援軍をつれてくれば楽勝そうですが・・・。面倒くさそうですしねぇ~。

 止めときましょう。楽して勝てるならその方がいいですから。

 

「決めました。気にせず先を急ぎましょう。もうじきアパートの半径500メートル圏内に入りますから、そこまで行けば安心ですし。

 園児相手にあり得ないとは思いますけど、たどり着くまでに急襲されたら、その時はその時という事で」

「きゃはははは~☆ 案外いい加減な所のある子だねぇ~セーちゃんは♪

 よーし、それなら了解、善は急げだ。とっとと安全圏まで逃げ延びるぞー!おー!

 ドイツから脱出して、東の果てにある楽園まで逃げ延びて生き延びるぞー!」

 

 ユダヤ人かよ。あと、杉原千畝かよ。

 

「ところで、なんでアパートの半径500メートル圏内だと安全地帯なの? なんか強力な防犯装置とか設置してあったりするのかな?」

「まぁ、防犯装置と言いますか・・・防衛居候と言うべきなのか微妙すぎる人たちがちょっとね・・・」

「????」

 

 ーー兎にも角にも足を早めて先を急ぐ私たちです。

 なぜなら、なんとか“あの人たち”を誤魔化したいから。もう警察沙汰はコリゴリです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・む。やはり魔の館《円卓荘》に住まう者の一人だったか。バスの中で聞いたときはまさかと思ったが・・・。こうしてはおれない。急ぎ警察へ通報をーー」

 

 ひゅんっ。

 

 ーーズガッ!

 

「ひっ!? ーーぼ、防犯ブザーが矢で射抜かれただと!? バカな! 一体どこから撃ってきたと言うんだ!?

 辺り一面竹林だらけなこの場所で、子供が持つ防犯ブザーだけを射抜くなんて・・・一体どこの世界からきた変質者の仕業なんだー!!!

 近所に住んでるゲン爺さんの肩たたきで得たお駄賃三十回分もしたのにっ!

 弓矢のバカーーーーーッ!!!!(ToT)/~~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・? どうかしましたか、トリスタン卿。我が王から任ぜられた役目を果たしたというのに、なにやら不服そうに見えますが?」

「いえ、少しね。なんと言いますか・・・美しい幼女の口から私を悪し様に罵る言葉を聞かされるというのはこう・・・ワビサビを感じたとでも言いましょうか」

「・・・・・・」

「今度またランスと一緒に晩酌のつまみとして語り合う優雅な禁断の恋バナトークの折にでも、ネタとして使うと致しましょう」

「止めておあげなさい。せっかく我が王に衆人環視の中で土下座までして浮気を許してもらった同胞が、再び追放されても良いのですか?」

「愛は人を惑わすもの。そう知っていながら、私は愛をためらうことが出来ないのです。本当に悲しい事ですがね・・・。

 たとえ相手が黒いイゾルトであろうとも、心が真っ黒黒な幼女であろうとも、愛を感じてしまった私は止まる事が決して出来ないのですよ」

「この御仁・・・無神経な言葉を言わなくなった代わりに、無思慮な発言が大幅に増えてきましたね・・・」

「人の一生は、重き荷を背負って往く長き旅路・・・過酷な運命を背負う人生と言う名の長旅です。長く生きれば、人は変わっていくものでしょう・・・?」

 

「旅に出たいなら、早く日雇いの仕事を見つけてきなさい。今月分の家賃があなただけ未払いなままなのですよ?

 無駄飯ぐらいの居候のままでは体裁が悪すぎるからと、お駄賃をもらう代わりに門番をやらせてくださっている我が王の慈悲に深く感謝し、ついでに滞納している二ヶ月分の家賃も稼いで来てから献上しなさい。

 いい加減にしないとサー・ランスロットではなく、貴方が追放と言う名目で追い出されかねない窮状にある身なのですよ?」

「・・・かつて不遜にも主を見捨てた私が、今度は慈悲深き主によって見捨てられかかっているのですね・・・」

 

つづく



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第2話「幼女たちの最強・平和好き・革新的技術の三重奏」

久しぶりにだいぶ前に書いてみた作品の続きを執筆してみた次第です。長すぎるスパンをおいたせいで色々と矛盾をきたしてたり忘れてる部分が多すぎることを自覚しましたので今回は途中までで区切って終わらせておりますので、ご承知おきくださいませ。


 ――私の名前は織斑千冬。日本政府によって作られた、最強の人造人間である。

 力は制御されなければいけない。力に溺れ、力に振り回されるようになってしまった最強の力は凶刃にしかならないものだからだ。

 私はそう教えられ、そう信じて今まで生きて生きた。

 だが今、それを教えてくれた日本政府が揺れている。

 私ではなく、だが私と同等の力を持った天然の最強人類が自然発生したらしいという未確認情報を内閣官房長が察知したからだ。

 

 全く予想していなかった未知の事態を前に、日本政府は対応を決めかねている。それどころか、いくつかの派閥に分かれて醜い権力争いをおこない始める始末だ。このままでは世界平和どころか日本の未来さえ危ういだろう。

 

 

「――今回の篠ノ之束の自然発生を見るまでもなく、我々の世界は絶えずさまざまな危機に晒されている。地球! そして世界平和!

 人命よりも重い価値を持つ唯一のものを守るためにも、兵器をファッションかなにかと勘違いしている一部の楽観論者たちに最強人類の少女を委ねてしまわないためにも我々オリムラ・プロジェクト・チームは立たなければならない時が来たのだ! そして、その役目を担えるのは君しかいない・・・。

 辛い任務になるだろうが――行ってくれるな? 織斑千冬くん。いや、コードネーム《最強ブリュンヒルデ》よ!!」

「ハッ! 勿論であります一佐殿! 私の命にかけて必ずや自然発生した最強人類・篠ノ之束を我々の一員に参加させるか、もしくは降伏させてご覧に入れてみせます!

 ・・・最悪の場合、哀れな少女を殺す汚れ役の任は私めにお与えくださいますようお願いいたします・・・ッ!!」

「ウムッ! 君の自己犠牲精神に満ち溢れた正義感こそ、我々オリムラ・プロジェクト・チームの誇りである! 選ばれし者・最強人類として相応しい在り方である!

 いずれ誰もが君のように生きられる時代を到来させるため、先兵として征けいッ! ブリュンヒルデよ! 勝利の栄光を君とともに!! 日本国万歳!! 世界人類と地球に永遠の平和と繁栄があらんことを!!!」

「・・・・・・世界人類と平和のために!!」

 

 

 ・・・こうして私は一人、任を帯びて目的地に到着した。目標が通うことになった幼稚園という一般人の子供たちのための教育施設から帰宅するバスの中にである。

 目標である天然の最強人類コードネーム《サイクロン》は、普通人の目から見れば、少々奇抜なだけで普通の人間に見えるためか大人たちは一般の子供たちと同じ幼稚園に通わせることにしたらしいのである。

 一般論としては理解できるが、愚かな判断だと言わざるを得ない愚行でもあるだろう。

 力を持つ者にはいるべき場所と、果たすべき役割というものがあるからだ。選ばれた人間が、普通の子供たちと同じ学校で学び時間を浪費するなどあってはならない。

 

 だが、一方で私にとっては好都合な判断でもあった。相手がスペックに自惚れ一人で帰宅してくれるとすなら、私は一対一で彼女と対面することができるだろう。場合によっては全力で彼女と戦わなければならなくなるかもしれないのだから、人気が少ない場所に向かってくれることは私にとって望むところではある。

 

 ――が、しかし。途中から妙な方向に事態が転び始めるのを目にして、私は今首を捻らざるを得なくなっていた。

 何の取り柄もない、普通の一般人とおぼしき銀髪少女とサイクロンが馴れ馴れしいほど仲良く肩を並べて、少女の家に寄り道する運びとなったようなのである・・・。

 事前に官房長から提出されていた資料によると、サイクロンは人間嫌いという話だったのだが・・・まさか入園式で会ったばかりの初対面の子供に懐くとは・・・予想外すぎるあまり私としたことが対応を決められずに、ここまで尾行するだけにとどめてしまった。

 

 ――だが、それも限界だな。この位置から100メートルも歩けば民家に出てしまう。可能な限り被害を押さえるためにも最悪の場合を想定して、今ここで目標と相対する以外に道はない。

 隣にいる少女を巻き込んでしまう恐れがあるが・・・そのときにはやむを得まい。全力で彼女を守り抜きながらサイクロンと戦って勝利するまでのことだ。

 最強たる私の力はそのために与えられている。勝利のために誰かを犠牲にしなければならないのでは最強の力を与えられた意味がない。私は誰かを守るために作られた最強の存在なのだから・・・・・・。

 

 ――とはいえ、その前に一佐殿には報告しておかなければならないのは、与えられた任務をこなす者として当然の勤めであり義務というものだろう。規則は守るものだし、自分のわがままで破っていいものでは決してないのだから。

 

「・・・本部、本部。聞こえますか? こちらコードネーム《ブリュンヒルデ》。これより目標の《サイクロン》と接触いたします。本部、聞こえますか?」

 

 ・・・おかしいな。何故かは知らねど、この辺りに近づいてからというもの携帯用通信機の調子がよくないのだが・・・。こんな時にまさか故障でもしたのか?

 首を捻りながら私が腕時計に偽装した通信機を叩いたり、叩いたり、叩いたりしながら機能を回復させようと直すための努力をしていたところ、ふいに視界の隅に光が走り、反射的にそれを見上げると弓道で使う弓矢の矢が飛んでいく光景が目に入った。

 

「・・・こんな町中で弓道の練習をし、あまつさえ的外れな方向に飛んでいかせるとは、どこの愚か者の仕業だ? どうやらこの町にはサイクロンとの話し合いが終わった後に、私自身が出向いて仕置いてやらなければならん輩がいたらしいな」

 

 あるいは、サイクロンが我々の仲間となってくれた場合には彼女の力を片鱗だけでも見せてもらう丁度よい機会になるかもしれない。そう思い、頭の中で皮算用しながら私は視線を腕時計に戻そうと下を向こうとしたその瞬間に。

 

 私の頭上に差し掛かって、通り過ぎようとしていた弓道の矢は―――直角に曲がって真下に立つ私の手元を正確無比に撃ち抜いて、腕時計型通信機を完膚なきまでに使用不可能なほどブチ壊しにしてくれやがったのである―――。

 

 

「なんでだよ!? 訳がわからんわ!?」

 

 

 航空力学も重力の理も、何もかもを無視して発生した非科学的な現象を前に私は立ちすくみ、ただ天に向かって吠えることしかできない。

 ああ、天よ! このような不条理が現実世界で許されてもいいのですか!? ――と。

 

 ・・・答えは未だ、返してもらえない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ、セレちゃんや」

「・・・なんですかね、束さんや・・・」

 

 私と束さんは二人そろって同じ光景を見上げるため、同じ方向の同じ場所から発射された“とある魔術を使ったようにしか見えない奇妙な軌道で飛ぶナニカ”を目撃した後、袂を分かち。

 今は満面の笑顔を浮かべて目が笑っていない瞳で私を真っ直ぐ見つめてくる束さんと、全力で彼女の方から目をそらすため体ごと別方向に向き直っている私の二人が、それぞれ別々の方向を向いて並び立っています。

 

 始まりは同じ。歩んできた道も同じ。しかし小さな光が飛んでいく光景を目にした瞬間から二人の進む道は別れて、事情を知る者と知らぬ者とで異なる方向へ歩み始める。

 

 ・・・う~ん、王道ですねぇ。王道です。――つまり王道展開なので無視しましょう。王道展開に現実的突っ込みとかダメ、情緒に欠ける。雰囲気重視。ご都合主義の現実の科学理論ガン無視展開万歳。

 

「と、言うわけで先を急ぎましょう。目指すべき我が家、エルドラドは直ぐそこまで迫ってきていま―――」

 

 

 ガシッ。

 

 

「あ・れ・は・な・ん・だ・っ・た・の・か・な?

 オ・シ・エ・ロ♪♪♪(グッと拳を握りながらニッコリ笑顔)」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 残念ながら、逃げ道を塞ぐため肩をつかまれ回り込まれてしまった私は、力による脅迫に屈してやむを得ずに降伏宣言。すべて自分を守る力すら持たない私の弱さが悪いのですよ、私は悪くないですお母さん・・・・・・。

 

 ――チィッ!! もう少し誤魔化しのきく撃ち方してくれれば良かったですのにトリスタンさんめ! 相変わらず魅せ技ばかりにこだわってくれちゃって全くもう!!

 

《私の美技に酔いしれなさいませ、お嬢様・・・》

 

 って、やかましいですわ!? んなしょうもない小ネタを言うためだけに風に声のせて届けさせてこないでくださいよ! どんだけ神業の無駄遣いすれば気が済むんですかあなた方は!? たまには世のため人のために力を使いに町へ出なさい! いい歳した引きこもりニートはお客さんたちだけで十分ですのでね!!

 

 はぁ・・・、とりあえず今最初にやるべきこととして・・・。

 

「・・・とりあえず、あそこで騒いでる人も呼んじゃっていいですかね? 説明するの二度手間になるの面倒くさいので・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ・・・どうやら私が遠見役として放った矢は、純粋無垢なる幼き乙女たちの心まで射貫いてしまうようですね・・・。この呪われた弓矢の腕もイゾルデの愛に応えきれなかった私が背負うべき罪の印・・・。ああ、なんという悲劇的な運命の出会い・・・」

「・・・ついには一人で弓矢を放っただけでも悲劇的恋愛譚に浸れるようになりましたね、この御仁・・・。門を守る見張り役として一人たたずみ続ける日々がそれほどまでに辛かったのでしょうか・・・。

 それはそれで哀れだと同情しないでもありませんが、まずは我が主から与えられた任務を全うしてからにしていただきましょう、トリスタン卿。貴公は見張りの役目を果たし終えていません。

 貴公が弓を放った後で、お嬢様方はどうなさっておられるのですか? 曲がり角を曲がったところで射放ってくれたおかげで私には見ることができない位置におられるのですが・・・」

「ああ、悲しむべきは忠勇無双の誠実なる騎士にして、最強の勇者たる忠誠心篤きガウェイン卿にさえ、私のように少女たちの心まで見通す鷹の目が与えられなかったことが悲劇へとつながる原因になっていたというわけですね・・・。悲しむべきことです。

 せめて私の人生が如き愛の詩を唄ったかのようなハーブの音色に乗せて報告して差し上げましょう。そうすれば貴方の情緒にも役立つはず・・・。

 当世での年齢的に見ても、情操教育が必要な年代だと判断しました故に」

「・・・・・・貴公、まだ根に持ってたのですか・・・。仕方がないではありませんか、この国の若者たちに貴方の見た目は実年齢よりも老けて見えすぎるのです。そういう国であり時代です。割り切ってさっさと報告していただきたい。我が主が先ほどから首を長くして報告をお待ちなのですから」

 

 

「・・・・・・ラララ~♪ 選ばれし伝説の王の血を引く娘は友を得る♪ その友情は褪せることなく、永久の絆を紡ぐであろう♪

 一人は剣士、流れるような黒き髪を靡かせたその姿、まるで戦場を疾駆する白銀の騎士であったと人は呼ぶ♪

 一人は賢者、千の知識と万の知恵を持ち、その心は空を行く雲のごとく掴むことは誰にも叶わず。

 終生の友を得た少女は、王の下へと帰ってくるだろう。己が宿命を授かるために・・・・・・♪

 その刻まで、あと10メートル~~~♪」

 

「なぁぁぁっ!? ちょっ、何故そんな至近距離にまで近づいていたことを私に教えなかったのですか貴公は!? 大体貴方は・・・ッて、いつの間にか門の前に到着しかかっておられる!?

 こうしてはいれない! 主に尽くすことこそ騎士の本分! そして、主の血を受け継ぎ後世に王家の血を残す姫君に礼を尽くすことこそ騎士の忠義! 一分一秒でも早く! そして長く! 我が主と姫君に忠義をつくしに参らねば!

 うぉぉぉぉぉぉッ!!! セレニア姫様! 今すぐ参りますので、今しばらくお待ちいただきたぁぁぁぁぁぁッい!!!!!」

 

「あと、10センチ~♪ 到着まで残り5秒~~~~♪♪♪」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!!」

 

 

 

 ダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!

 

 

 

「・・・・・・ふっ・・・(ニヤリ)」

 

 

つづく



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1話だけしか思い付いていないもの
IS学園に美少女ひねくれボッチが入学してくる話


作者の厨二妄想が凝縮されてる作品です。青臭いしガキ臭い内容です。

前々からISと八幡のコラボを夢見てて、でも実現するには八幡への理解が足りな過ぎてとゴチャゴチャしている時に考え付いてた作品です。
サブタイトルは決めてないので適当に「プロローグ」とだけ。


これを投稿したらゲーム始めるつもりでいます。次の更新は他の連載作にするつもりですのでご了承ください。


 IS学園1年1組 比企谷八舞

 タイトル「ISについて考えてみた」

 

 ーーISとは、悪である。なぜならISは女性の権利を保障し、社会への進出を促した、諸悪の根元とも呼ぶべき邪悪な存在だからである。

 本来、我々女性という性別を持つ種族は家を守り、家庭を守り、自宅に引きこもって自家とはかかわり合いのない赤の他人との関係を途絶し、無責任な野次馬たちが放つ無自覚な悪意から愛する我が子を守り、守護せんとする崇高な使命を与えられて生を受けた存在であるはずなのだ。

 にも関わらずISは女性の社会進出を促し、モンド・グロッソの人気が『女は強い』等という幻想を生み出し、挙げ句の果てには国家代表候補生たちエリートが美女美少女ぞろいであることから「IS操縦者は皆、美人で性格のいい優良株だ。お近づきになって損はなし」だなんて勘違いを招くまくるのである。

 

 ーーその誤解が現代日本の女性社会に、致命的なまでの格差社会を構築してしまう元となってしまった。

 

 例を挙げてみよう。中学校の卒業パーティーの出席の是非を問うときに進学先の名前を聞かれる場合がある。一般高校に進むしかない男子生徒であるなら問題はないが、これが「IS学園への入学が確定している」高適正保持者である場合、とても悲惨な結果を生んでしまうのだ。

 

 出たくもない卒業パーティーに出席させられたり、二次会、三次会にまで強制参加させられては男たちに言い寄られ、欲しくもないメルアドが書かれた紙を何十枚も渡されてはゴミ箱が一杯になる。踏んだり蹴ったりとはこの事だろう。

 思いの外に長くはなったが、結論を言おう。

 IS操縦者にして国家代表候補と専用機持ちのリア充どもよ。砕け散れ」

 

 

 シュパッ!!

 

 ーーIS学園教員にして元モンド・グロッソ優勝者でもあるブリュンヒルデ織斑千冬先生は、額に青筋ひとつ立てることなく俺の作文を静かな声で読み上げた後、手刀で真っ二つに切り裂いた。

 

 ブリザードの気配を全身から発散しまくりながら織斑先生は私の目を見据え、氷の臭いがする声で静か~に語りかけてくる。

 

「おい、比企yaーー」

「すいません、書き直します。今すぐ書き直しますから殴らないでお願い。ISでも壊せそうな手刀で切られたら俺、死んじゃいますんで」

 

 速攻で土下座しながら全面降伏する私。

 女は男と違って面子とかの詰まらないしがらみに捕らわれなくていいから、こういう時には楽だと思う。ああー、女に生まれといて良かった~。

 

「そうか。なるほど、わかった。手刀だと壊れると言うなら正拳突きで行く。それならば問題あるまい?」

 

 訂正。男より女が楽なのはIS学園以外の場所限定みたいです。鬼斑先生がいる元女子校のIS学園は女たちにっての煉獄です。

 誰だよ? さっき女に生まれたのを喜んでたバカは。一度死んでみれば?

 

「待ってください、生徒を殴るのは国立学校の教師として問題行為です。教育法に明記されている条文によりーー」

「IS学園は治外法権だ。日本国刑法も憲法も大々的には関与できない」

「で、ですが元国家代表にしてモンド・グロッソ優勝者が一般人に手を出すのはーー」

「一昨日からとはいえ、お前も今ではIS学園の生徒だ。治外法権が適用される地位にある身分だし、IS学園生徒が守るべき法律とはIS学園の校則のみを指す。

 ーー何より、国が関与しようとしても出来はしないさ」

「な、なぜですか? 一応とはいえ俺もIS学園の生徒であるなら国家が守ってくれる身分にあるのでは?」

「簡単だ。私がさせないように仕向けるからだ。元IS世界大会優勝者の権力とコネを甘くみるな」

「職権乱用だ! いや、特権乱用だ! 国家代表自らの口からモンド・グロッソが侮辱されているぞ! 誰か! 国に通報してくれー!!!」

「比企谷、無駄な足掻きはやめろ。あきらめて修正の鉄拳を受け入れるがいい。

 悔しかったらーー自力で這い上がりモンド・グロッソで優勝して見せろーーーっ!」

「格好良さげな台詞が言うタイミング次第で格好悪すぎる台詞になる例題にーーっ!」

 

 そして鉄拳制裁。沈むボッチ。

 かくて陽は沈み、一将功ならずして万骨は枯る、か・・・。空しいものだな。かつての私は在籍する中学校一の美少女として光溢れていたと言うのに・・・。

 

 ーーその光がウザったくて、毎度のように逃げ込むための影を近場で探し回っていたのも、今となっては良い思い出です。

 

「おい、何を気絶したフリして休息をとっている。早く起きあがって立ち上がれ。制裁は与えたが、まだ罰則を言い渡してはおらんのだぞ?」

 

 ちっ、バレてたか。誤魔化すのは得意分野だがブリュンヒルデ相手には荷が勝ちすぎる。

 次からは気絶じゃなくて死んだフリを採用しようと心に決めながら立ち上がって膝についた埃を叩き落としていた俺に、世界最強の暴力女教師が受け持つクラスの生徒情報を概略だけまとめられた二枚の紙が差し出され。

 

「嘗め腐った作文で私の心を穢した罰として、お前には二人の専用機持ちのうち、どちらかと戦ってもらう。異論反論は一切認めないし認めさせない。強さが全てのIS学園内では、元世界最強の私が言うことこそが法であり、この世の絶対正義だ」

「横暴にも程があるでしょうに・・・。生徒個人の権利と尊厳の保証については?」

「無論、圧制者に対して不平不満を抱かぬ人間など居らぬ以上、反感を持つこと事態は規制しない。言いたくなったら言ってくれて構わない。聞くだけ聞いてやろう。

 ただし、聞くだけだがな?」

 

 ボキボキと拳を併せて鳴らしながら言われた言葉には非常な説得力を感じさせられて、俺はおとなしく書類を見回し、片方の女生徒を懲罰官・・・じゃなくて、対戦相手に指名した。

 

「じゃあ、イギリス代表候補のセシリア・オルコットの方でお願いしますよ」

 

 俺の言葉に織斑先生は微妙な表情を浮かべる。

 なんだよ? まさか、自分から選べと言っておいて実際には選んで欲しかったのは別の方で、そちらを選ばなかった俺の命はゲームオーバーな展開だったのか?

 

 ・・・だとしたら、ごめんなさい。謝るから許してちょ。

 死にたくないし、ぶっちゃけ他人に傷ひとつつけられたくすらも無い。

 

 ボッチは、他人と戦う流儀を解さないし解せない。戦うとは向き合うという事だからだ。試合の度に一期一会の相手と対等な立場で向き合うことに意味など微塵も感じない。

 

 だからこそ、先生のこの反応は正直なはなし意外だった。この人なら同じクラスになって日の浅い俺なんかよりもオルコットの事を把握していると思っていたのだが。

 

「ふむ・・・オルコットか。一応聞くが、なぜ彼女を選んだ? もう一人の織斑一夏の方が今だとネームバリューが高い。倒せば大金星間違いなしだぞ?」

「だからオルコットなんですよ。

 今やアイツは男からも女からも好かれてる人気者で、しかも各国からオファーが来まくっていて日本政府にガードしまくってもらってる、一般人がおいそれとは近寄りがたい雲の上の人になりかけてる状態なんです。学園の中にいると気づき辛いですが、ネットとかテレビとかであいつの名前を聞かない日はないくらいにはね。

 そんな奴と戦ってるシーンを動画で配信されでもしたら嫌われ者街道一直線じゃないですか。ヤですよそんなの、面倒くさいしウザったい」

「・・・・・・」

「第一回モンド・グロッソ優勝者な世界最強の姉を持った弟で、世界で唯一の男性IS操縦者でもある見た目はさわやか系の美少年・・・。世間の目から見て、物が違いすぎますよ。勝ち負けに関わりなく敗けが確定している勝負なんて、俺はごめん被りますね」

 

 俺が発言し終えてから、織斑先生が押し出すような声を出すまで数分間が必要だった。

 

「・・・お前にとって対戦相手に選んだオルコットは、消去法の結果としての価値しかないと言うわけだな?」

「“今回の場合では”おっしゃるとおりですかね。二つにひとつしか選択肢が用意されてなくて、今この場で選ぶことを強要させられたわけですから。

 まぁ、他に選べる道があったのなら答えは変わっていた可能性があるかないかまでは分かりませんが」

「・・・・・・」

「そう言えば、二つの内からひとつだけを選べ、他に選択肢はないって表現、なんとなくアイヒマン実験を彷彿とさせ・・・すんません、マジごめんなさい。土下座でも靴舐めでもなんでもしますんで殴らないで。

 今度のはマジで殺したそうな目をされてらっしゃいますから、冗談抜きでマジ怖い」

 

 ひたすらに平謝りして許しを乞うと、先生はしばらく黙り込んでからパッパと片手を振って犬でも追い払うように“出て行け”とジェスチャーしてくれた。

 

 忠誠心豊かで賢い俺は、自己保身の精神に乗っ取り忠実に上司の命令を実行に移して戦略的全面敗走で逃げ延びる。

 

 よし、今日も生き残れたぞ。やったぜ、ハッちゃん!

 ーーそんな風に心の中でだけ自画絶賛していると、

 

「おい、比企谷」

 

 と、呼び止められてしまった。

 内心「なんだよ~、まだ何かあるのかよ~」と不平たらたらな俺だが、それでも態度だけは誠実に見えるよう最大限度の礼儀を守って対応する。

 『死んだ魚のようにドヨ~ンとした眼』とか、昔から色々言われてる俺の目は誤解と偏見の元なのだ。表面的に取り繕うことで誤魔化せる部分は誤魔化したい。

 

 

 “自分には嘘をつきたくない。だがしかし、勝手な願望を元に思いこみで俺を決めつけてくる連中には、信じたがってる願望を崩してやる必要性は感じない”

 

 

 ーーそれが俺の中学二年の時から続く信念って言うか、ポリシーだった。

 

「お前には、国家代表候補生としての誇りは存在しないのか?」

 

 そんな俺に対して織斑先生は、勘違いも甚だしい“代表候補としての誇り”なんて概念で御下問あそばされて来られた。

 ハッキリ言って失笑モノだが、正直にそれをやれば殴られるだけだろう。

 俺はせいぜい謹厳実直そうに見えるよう気を使ってやりながら、質問への回答を口にする。

 

「候補なら俺の他にも十人以上いますし、その内代表入りして国の名前背負える名誉と権利を与えられるのは5人程度です。ISの総数は国によって違いますからね。公平性を尊ぶスポーツ競技では、これが限界でしょう」

「・・・・・・」

「そのうえ俺は『世界初の入学』に併せて入学を強制された身でありながら、親の仕事の都合で転校手続きが遅れることを一言伝えただけでアッサリと許可が下りてしまう、その程度の存在でしかない出涸らしですよ? そんな落ちこぼれに誇りなんてあると期待するのは無茶振りってものですよ」

「・・・・・・・・・」

「おまけに俺は実績知名度ともにマイナー中のマイナー選手ですからねぇ。果たして今年入学した生徒の中に俺を知っている奴が何人いるやら。ーーIS操縦者育成校であるIS学園の中でさえ、この有様です。その程度の奴に期待するなんて無駄なことです。馬鹿らしい」

「・・・・・・・・・」

「夢なんてモノは、追えるだけの才能と環境を誰かに整備してもらった奴だけ追えばいい。俺みたいな平凡な秀才は無難に生きていって、勝てる勝負と勝ち負けが人生にあまり影響しない勝負だけ挑んで受ける。それが身の程を弁えるって奴でしょうよ」

「違う! 比企谷、お前は間違っていrーー」

「失礼しました。失言でした。世界中の子供たちに夢を与えて世界平和にも貢献しなくては成らないIS操縦者の発言としては不適切だったことを自覚し、ここに謝罪いたします。

 まことに申し訳御座いませんでした、この通りです。反省してますから許してください」

 

 誠意を込めて謝罪しながら頭を下げる。

 今の俺がどんな顔をしているかなんて分からないだろうし、分かりたくもないだろう。

 当然だ。俺だって知りたくもないのだから。

 

 

 

 ーー表面的な礼儀作法で相手を判断する奴には、礼儀を守ってやらばそれで済む。問題は起きない。

 

 では、相手の態度ではなく心で見てくるような奴を相手にした場合には?

 

 同じことだ。

 礼儀を守って、誠意を込めた対応を心がければそれで済む。

 

 どこまで行っても人は、主観に基づく価値観で見た物を判断する生き物だ。相手が悪意ある人物だと決めつけてかかってくる場合には、初めから相手にはレッテルが貼られた状態でスタートさせられる。

 逆もまた然り。この人は『良い人だ、優しい人だ』と言う前提で相手を見て話をするから、相手の反対側にたっている人間のことは悪者にしか見えなくなる。客観性が初めから失われた状態で同席している第三者なんて第二者となんら変わりがない。

 

 主観無き客観などあり得ない。その人が俺を見たとき、話しかけたとき、どういう目的で話しかけてきたかによって行き着く先は初めから決まってしまってる。

 その結末に辿り着きたくて、辿り着かせたくて始めた会話である以上は仕方のない結末だ。変わりようのない結末だ。

 

 正義と悪は始まった時点で、相手の中では決まってしまっているのだから。

 

 どちらの意見が正しいのかを話し合うのが目的ではなくて、『自分の正しさと、相手が間違っていることを』周囲に見せつけながら、相手に押しつけながら味方を集めて敵を孤立させ、最終的には包囲殲滅してしまうのが正義の味方の正義論なのだから。

 

 正義の味方の中だけ限定で彼は常に正しくて優しい。

 正義の味方の敵にとってのみ、彼は暴君で圧制者で高圧的な虐殺者だ。

 正義の見方は、自分の正義が認めたモノしか肯定しない。

 自分の正義以外、全ての存在にとっての敵が正義の味方だ。

 正義は主観だ。客観じゃない。

 自分の中でしか成立しない価値観が、正義であり信念であり正しさだ。

 正義の味方に利害損得はなく、駆け引きも交渉も成立しない。

 

 正義の味方とは、自分が間違っていると決めつけた相手の「Yes.」以外の言葉には、『説得という名目で相手の価値観を否定するための口実』としての価値しか認めていない存在なのだから。

 

 

 

 

 

「反省してます。今後このようなことがないよう気をつけますので、どうか許してください。お願いします」

 

 だから俺は、相手の望む言葉を吐き続けてやる。

 言って欲しいと望んでいた言葉を与え続けてやる。

 欲しい言葉はくれてやる。言葉だけで済むならタダだから。言葉に元手はかからないから。

 タダで得られる言葉に満足する奴とも、満足してないのに不満を口にして損をするのを嫌う程度の奴とも話し合いたくなんてないから。

 

 言葉を安売りしたくない。思ったことを語り合える相手が欲しい。

 心じゃなくて、行動でもなくて、言葉だけでもなくて、『ナニカ』が欲しい。

 俺の知らないナニカ。理屈で考えることしかできない俺には計れないナニカ。考えることしかできないから、狂うぐらいに考えるのが丁度良いと認識している俺の頭では理解できないナニカ。

 

 平たく言えば、与えられた偽物の役を演じ続けてるだけの人生で会えるものなら会ってみたい『本物』と呼ばれるナニカ。

 それ以外の何を持っていたとしても俺は知らない。価値がない。

 だって、本物だけが見たい俺には、本物以外を求める気なんて端から持ち合わせてはいないのだからーー。

 

 

 

 

「ーーもういい、わかった。行っていい」

 

 織斑先生は投げやりな声で『今のお前に何を言っても無駄なのだな・・・』と、軽い絶望と失望の想いを伝えて来てくれる。

 

 俺は「分かりました。失礼します」とだけ言って彼女に背を向けながら『あの人はダメだ。持ってない』と言う想いを新たにした。

 

 彼女に正義はあるのだろう。信念やポリシーもあるのだろう。もしかしたら愛とかそう言うのもあるかもしれない。

 

 でも、それらは今の俺が求めている本物じゃない。関連づけられるモノなのかもしれないが、少なくとも今の彼女からは何一つ感じることが出来なかった。

 

 人は主観でしか生きられない生き物だ。傲慢としか言いようがない俺の思いも、詰まるところ感情論による主観でのみ成り立っている。

 

 なら『本物か否か』は、感情だけで決めるべきだろう。

 頭で考えるのは、本物と感じた想いが本物かどうかを検証し、解析する時まで保留すべき事柄だろう。

 

 俺が求める本物。

 周囲が求めていると決めつけて俺が与えている偽物。

 

 なのに未だ返品依頼もクレームも入ってきたことがないーー。

 

 いつか来るのだろうか? それとも既に来ているのを俺が気づいてないだけなのか?

 答えは出ない。今の俺には出すことが出来ていない。出てきてないから迷っているし悩んでもいる。

 

 宙ぶらりんでフラフラしている俺の価値観。

 手に入れたいのに、あるかどうかすら判然としないイメージだけの空中楼閣『本物』。

 

 現代の地球世界では中心地になっているはずのIS学園で、答えは出るのか出ないのかすら分からない。

 分からないかどうかすら、分かっているのか判然とはしていない。

 

 唯一分かったのはーーガキの頃にあこがれてスッゲェ大人に見えてた高校一年生も、成ってみると案外ガキのままなんだなと言う平凡な一事のみ。

 

 銃で撃ち合い、剣で斬り合うのが日常のIS学園も、集まる生徒はどいつもこいつもガキなままの高校生ども限定。

 

 

「こりゃ、期待薄かな。・・・俺自身も含めてだが」

 

 職員室の扉に背を預けながら一人ごちた俺は、親の仕事先で知り合った女性を思いだしながら寮の自室へと戻る。

 

 世界中の全てを知ってるとか宣ってたあの人だったら、今さっきのやりとりでどんな返しをしてくれただろうかと自分勝手な決め付けを元に妄想して楽しみながら・・・。



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IS学園の切り裂きジャックちゃん

正月前の書き入れ時なのに、何故だか一時的に暇を持て余してしまったので外に出たついでに完成してるのを投稿だけしておきます。
FGOの切り裂きジャックちゃんがモデルの主人公です。

1話だけしか出来てないのを入れるため、番外席次みたいな扱いの場所を作っておきました。


 空ってホントは、青いんだって。

 分厚い岩盤と高い天井しか空を知らない私には、おっきな空いっぱいに広がってる青色なんて想像できないけど、ISはもともとその青い空を飛び回るために造られた物なんだって、今日あったメンセツカンさんが教えてくれたの。

 

 でもISって、拳銃やサブマシンガンで武装した群衆を嗤いながら撃ち殺したり、着飾った大人の人たちが見に来て高値で取り引きするための物なんでしょ? なんで人を殺さないのに空を飛びたがるんだろうね? 変なの。

 

 でも、面白い。

 

 私と違うのは面白い。

 違ってるのは面白い

 知ってたことと違うのは面白い。

 知らなかった人を殺すのは面白い。

 殺したことがある人と違う人を殺すのは面白い。

 私が殺したことがない人の中には何が入っているのか見てみたい。

 

 他の人たちみたいにピンク色の臓器をしているのかな? それとも昔殺したボウコクキギョウって名前の人たちみたいにグッチャングッチャンにしてからでないと見せてもらえないのかな?

 

 それともあるいはもしかしたらーーお母さんと同じように何も入ってない空っぽで、私が戻れるくらいに大きな中身を持ってる人がいたりするのかな・・・? 

 

 

 

 六月頭の火曜日。

 今日から私は、私の知らない私になる。

 IS学園1年1組に転校してきた帰国子女になる。

 

 そんな私の名前は『霧夜シュナイド』。

 

 学園島の地下に広がるIS産業の排泄物のゴミ捨て場『アンダーグラウンド』で生まれ育った人の廃棄物で、人を殺した経験のあるIS操縦者。

 

 そして「楽しければそれで良い」がモットーの、殺人鬼ーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん! 昨日に引き続いて今日も新しいお友達がやってきました! 安全保障の観点から身元の確認とかモノすっごく大変なのに、それが三人も続いて正直先生テンパっちゃってます!」

 

 朝からテンション(異常に)高く、IS学園1年1組の副担任山田摩耶は充血しきってウサギのようになっている真っ赤な双眸をギラつかせながらも教師として許される範囲はギリギリで越えはしなかった。

 

 本人の自己申告通り、かなりテンパっているようで、いつもののんびりフワフワした印象がまるでない。飢えた野獣が如きギラついた眼差しでもって、ただただ純粋に嘘偽りなく睡眠をこそ欲している。

 

 人間にとっての三代欲求を今日こそ心行くまで満たしてやろうと心に決めて、山田摩耶副担任は肝心の転校生の紹介を始める。やはり、どこまでも果てしなくテンションは高いままで。

 

「それでは、ご紹介いたします! 帰国子女で国籍は日本。見た目はとっても可愛らしいですが、IS適正はなんと驚きのA判定! 入学試験の時には先生、恥ずかしいことに負けちゃいました! テヘッ☆

 期待の超大型転校生さんです! 霧夜シュナイドさん! どうぞー!」

「はじめまして、霧夜シュナイドです。今日からよろしくお願いしまーす♪」

 

 

『か、カワエエエェェェェェェェェェェェェェェっ!!!!!!!!!!!』

 

「はぁ・・・」

 

 

 昨日とは異なる理由で頭痛を感じ、頭に手をやりながらため息を付く1年1組担任教師の織斑千冬。

 

 徹夜明けだからなのか、徹夜続きだからなのか、後輩の副担任がおかしなテンションになってしまっているのも気にはなったし、またそれ以上に気になる今週に入ってから三人目の転校生について『今のところ害意は見受けられない』と認識を新たに付け加える。

 

(・・・クラスの生徒たちとは違うタイプの幼児性を持っているようだな。やや束と似たものを感じさせるが、アイツとも少しだけ異なっている。束のように露悪的な部分や作為的な偽装は感じられないし、素で楽しんでるのが分かる、

 ーーだが、それなら何故だ? どうして先程から私の身体は震えが止まらない? 右腕には鳥肌が立つなど、剣を教えてくれた師匠とはじめて真剣で立ち会ったとき以来だ。

 見た感じ、それなり以上に腕は立つし、体つきから得意とする獲物が刃物であることも推察できるが、私が恐れを抱くほどの存在ではない。

 なのに何故・・・?)

 

 

 思考に耽りながらも千冬は霧夜シュナイドへの監視を緩めてはいない。

 不振な素性を持つ生徒には機械人間を問わず、監視役として常に誰かが目を光らせている。霧夜シュナイドの素性がまともでないことなど先刻承知のことだ。

 世界で唯一のIS操縦者育成機関であるIS学園において、この程度の異分子など日常茶飯事と言っても過言ではない。

 

 

 あまり大きな声で言えないことだが、IS学園は3年生のダリル・ケイシーを筆頭に身元が不確かな生徒を多く抱え込んでいる。

 ただでさえIS発祥の国に建てられた世界で唯一のIS操縦者育成機関だ。他国の工作員や企業スパイ、ちょっかいを掛けたがる連中には事欠かない。いちいち身元確認を取っていたら切りがなくなる。

 

 それに何よりやっかいなのは、そういった身元不審者たちが必ずと言っていいほど国家代表候補か専用機持ちか、どこかの国のお偉方による直々の推薦状を携えてくる事だった。

 

 外国からの軍事的圧力によって開校が決定させられたIS学園は、IS委員会常任理事国に認可された操縦者候補の受け入れをIS運用協定『入学に際して協定参加国籍を持つ者には無条件に門戸を開く』により、原則として拒否できない。

 

 だから抜け穴を活用するしか道がなかった。

 同じ協定内にある『当機関内におけるいかなる問題にも日本国は公正に介入し、協定参加国全体が理解できる解決を進めることを義務づける』が、それである。

 

 日本が嫌がる物を無理矢理造らせておいて「公正に介入」も糞もない。実質的には何の介入も出来ない日本国政府だが、逆に言えばIS学園内で何が起き、誰が消えようとも介入した事実さえなければ後始末さえしていれば良いという解釈も成り立ちはするのだ。

 無論、暴論である。筋は通っていないが、この際に重要なのは日本国が通すべき筋ではなくて、諸外国がIS学園建設を求めた理由『利益の独占を許さない』についてだ。

 早い話、日本を含むあらゆる国々がIS技術を独占していられても国家主権者たちとしては困るのである。

 だからこそ、他国のスパイが消えたところで喜びはしても怒りはしない。体面上、演技として怒ってみせるだけである

 

 当初はなかった校則特記事項を後から付け足したのもこの為なのだ。

 

 

(希に、こういう面倒くさそうなのが紛れ込むのだけは難だがな・・・。まったく、今度はどこの組織から送り込まれてきたのやらだ)

 

 無意味なデータ照合のせいで寝不足の山田先生には悪いが、先週の時点で転校生たちの裏データを調べ尽くしてある千冬の頭の中では既に霧夜シュナイドは『自分の教え子たちに危害を与えうる敵』として認識されていた。

 

 年端もいかない少女をぶちのめすのは決して彼女の本意ではない。

 だが、時として人は大事な人を守るために戦わなくてはならない事を千冬は実体験として思い知っていた。

 

 そして、誰かがやらねばならない汚れ仕事を他人に押し付ける利己心と保身は、千冬と生まれつき縁遠い。すこぶる悪い相性と性根故に切り捨てるより他に道はなかった。

 

 愛する生徒を守るため、彼女は今日も人知れず戦っている。

 その為の敵情視察を怠ることなどあってはならない。

 今も彼女の目は、年齢不相応に幼い容姿の転校生に固定され続けており「どうすれば可能な限り傷つけることなく撤退させられるか?」について、頭の中で思考を巡らせ続けていた。

 

 誰も斬らない、殺さない。

 不殺の信念こそ、彼女が至った剣の極意であり極地。

 無論、それは敵とて例外ではない。

 敵であるから殺す。その様な無法を彼女の剣は許容できない。する気もない。

 

 だから千冬は、可能であるなら霧夜シュナイドにも普通にIS学園で大過なく過ごし、卒業していって欲しいと心の底から願っていた。

 

 どんな事情を抱えていようと、学園内に迎え入れられたからには子供であり少女なのだ。

 健やかに育ち、幸せな将来が訪れることを願うのは大人として当然の義務だと千冬は信じているし、貫き通す覚悟もしている。

 

「自己紹介は終わったな? ならば射弖はボーデヴィッヒ・・・そこの銀髪眼帯小娘の隣の席に着け。HRを終えて授業を始めるぞ」

「は~い」

 

 てててっ、と小走りに歩んでいく小さな後ろ姿を見送りながら千冬は次の算段を考え始めた。

 

 

 長い物には巻かれてしまえ・・・? そんな逃げ口上など糞食らえだ。

 

 コミュ症の生徒はコミュ症同士でぶつかり合って対人経験を積んでこい。

 男のフリして女子校に来た奴には、望み通り男同士の部屋に入れてやる。

 気位の高い苦労知らずのお嬢様には、当て馬としての役割を自発的に押し付けてやる。

 

 

 ものすごく頭の悪い脳筋思考の超スパルタ思想を持つ彼女は、素直な態度で指示に従ったシュナイドから一瞬だけ意識を外しまう。

 

 それが原因で彼女は、霧夜シュナイドという少女の異常性に最悪の形で気づくことになる。

 

 運命か必然か、はたまた単なる相性の悪さ故だったのか。

 教科書も開かず胸の前で腕を組んで千冬の一挙手一投足を見つめ続けていたラウラ・ボーデヴィッヒの隣に座り、

 

「どーも。お姉さん、はじめまして霧夜シュナイドです」

 

 と、朗らかで敵意のない満面の笑顔で挨拶してくる彼女を、千冬以外のすべてが眼中にないラウラは黙殺した。

 

 そんな彼女の横顔をーーただしくは横合いから見えている右目だけをジッと凝視して、視線を外そうとしなくなる。

 

 敵を見定める戦士の目ではない。

 端金のため戦場を求める傭兵の目でもない

 人を殺して悦に入る、理性を放棄した変質者の目では絶対にない。

 

 強いて上げるとするなら『ドクター』と呼ぶのが最も近いだろう。

 

 分析して解析して処置する方法、処置しようがない切除すべき部位を判定し、適切な手套で患部を切り出し摘出する、人体構造を熟知した身体に関してのプロフェッショナルたち。

 人を救うため人体知識のすべてを知りたいと渇望する熱狂的な人道医師のそれと、彼女の持つ眼は若干ながら共通事項を持ち得ていた。

 

 貪欲なまでに知りたいと願う、知識欲。

 人の体を切り開く際に他者から非難を浴びようと、躊躇うことなくメスを入れる強い意志。

 人の上に立つには利己心が乏しく、自分が助かるよりも人の体に手を入れることで助けられるものなら助けてやりたいとする利他心。

 

 それら全てに該当する『反転した』意志を持って生まれ育ったのが、霧夜シュナイドという狂った少女の価値観であり感性だったのだ。

 

 

 

「あはっ」

 

 朗らかに、明るく無邪気にシュナイドは笑う。

 悪意はなく、善意もなく。ただただ楽しそうに朗らかに。

 悦しみたいから殺すのではなく、人を殺すことで悦しみを得る殺人鬼として生まれ落ちて育てられた幼い見た目の少女は、「ドイツの冷水」にも容赦なく分析と解析と評価を下す。

 

 あなたは私に殺されるだけの価値はある?

 あなたを殺せば私は愉しいと感じられるのかなぁ?

 

「あなたって、雨の日に置き捨てられて泣いてる子犬みたいな目をしているね。とってもカワイイ! 私、そういう目の人だーい好き!」

「ーーーーっ!!」

「ねぇねぇ。あなたはどうしてそんなに弱いのにISなんて乗ってるの? 危なくないの? 怖くないの? 死にたいの? 殺されたいの? それとも・・・切り刻まれて死体を川に投げ込まれたいのかな?」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは、声を出すことなく慟哭した。

 

 悪意もなく、他意もなく、傷つける意志など毛頭無いまま放たれたシュナイドの無自覚な言葉の刃は、ラウラにとって心の一番傷つきやすい箇所をズタズタに切り裂いて心臓を抉り出されるほどの激痛を瞬時にして味あわされるのと同じ意味を持っていた。

 

 激高した彼女は昨日とは違う場所に隠し持っていたナイフを抜いて、霧夜に切りつけようとした。

 それを視界の隅に捉えた千冬は迷いのない致命の斬撃に思わず声を上げ掛けて、人が死ぬのも女の子が傷つくのもみたいない織斑一夏は反射的に白式を喚び出そうとブレスレットに手をやり、シャルロット・デュノア、セシリア・オルコット、篠ノ之箒と言った一夏と縁のある、もしくは持つことになる実力者たちも同様に何らかの行動を起こそうとしたが間に合わない。

 

 刃がシュナイドの首筋に届くまで、残り時間コンマ3秒。

 周囲が反応するにも、自らが刃を納めるにも短すぎる極小の短時間。

 白銀に輝く刃が、細くて白い小さな首筋に赤い軌跡を描き出そうとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 キィィィィッン!

 

 

 

 

 

 カラン、カランカランカラン・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイフは宙を舞って床に落ち、金属質な音だけを空しく響かせる。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは握っていたナイフを打ち上げられて痛む右手首を気にする余裕を与えられぬまま、自分の首筋に微かに差し込まれている木工用カッターの切っ先に痛みを感じて短いうめき声を上げさせられる。

 

 

(今の瞬間・・・こいつは一体、なにをした?)

 

 

 ラウラの頭を占拠しているのは疑問の言葉。

 自分の方が先に抜いたはずなのに。自分の方が先に切りかかっていたはずなのに。自分が切りかかっていった時、相手はまだ何の反応も見せていなかったはずなのに。

 

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうして・・・・・・・・・

 

 無限に続く疑問の言葉に、応える声は無邪気そのもの。

 むしろ彼女の方こそ不思議そうにラウラを見つめて、疑問の声を投げかけてくる。

 

「あれ? 抵抗しないの? 刃が首筋に少しだけど差し込まれてるんだよ? このままだとあなた死んじゃうよ? あなたは死んでも平気なの? 殺されても気にしないの

 だったらーー私がこのまま殺しちゃっても良いのかな?」

 

 



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シャルロット・デュノアの妹、ジャンヌ・デュノアです。

昔、シャルロットの家庭の事情が明かされる前の頃にシャルロットの義理の母の方に娘がいたらと言う設定で二次作書いてた事を思い出して今現在の設定で書いてみました。

原作展開にやや考慮してシャルロットが母とともに追い出された後で色々とあり、気の迷いからロゼンダ・デュノアさんが人工出産してしまった妹キャラと言う設定です。

姉との仲は意外に良く、憎まれ口を叩きながらも隠れたシスコンとして一夏にやや近い部分をもった女の子。

モデルはFGOに出て来るジャンヌ・オルタ。
愛機の名前は『ラファール・キャバルリィ・ノワール』。意味は「黒色騎兵」です。
名前の通りに猪突猛進型の機体で、ジャンヌ・デュノアちゃんも猪突猛進な性格。

「私の辞書に後退なんて面倒くさい言葉は必要ないから消したのよ!」


「はじめまして、“お兄様”。今日からあなたの妹と言うことにされてしまったアルベール・デュノアとロゼンダ・デュノアの娘ジャンヌ・デュノアでーす。

 これから兄妹として、よろしくお願いしまーす」

 

 ブスッとした不機嫌そうな表情を隠そうともしないまま、僕の母を「泥棒猫」と罵った憎い女の娘を自称する少女は吐き捨てるような口調でそう言った。

 

 両親から受け継いだ混じりっ気のない僕の金髪と違って、錆びたような鈍い輝きが印象を暗いものに変えてしまうくすんだ色の金髪と、やや釣り目がちの僕より青くて濃い瞳。身長体格体重ほとんど全てがまったく同じなのに、どういう訳だか局所的に相反するよう反転させて僕たち姉妹は生まれてきていた。

 

 同じ人と結ばれた違う人同士の子供たち。

 そんな僕らが運命と出会うのは、世界初の男性IS操縦者『織斑一夏君』の情報を盗むため日本に行ってからのこと。

 

 これは僕の物語ではない。

 これは織斑一夏君の物語でもない。

 これは僕たち姉妹と周りにいて支えてくれた皆にとっての物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思われますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 転校生の一人、シャルルはにこやかな笑顔でそう告げて一礼し、クラス中をドッと沸かせる。

 なんと言っても世界で二番目の男性IS操縦者で、金髪でブロンドで貴公子だ。おまけに礼儀正しくてお金持ちの息子だなんて年頃の乙女が騒がない方がどうかしているレベルの超優良物件!

 

 ああーーそれにしても“兄妹”そろって、なんて綺麗なんだろう・・・。

 

 幾人かのクラスメイトが陶然とした瞳で二人を見つめ、内何割かはシャルルの隣で行儀良く起立したまま自己紹介の出番を待っている彼と瓜二つの金髪美少女に熱く熱心な視線を浴びせまくっていたのに気づいたのは、皮肉にも当事者ではないからと言う理由で織斑千冬担任教師だけだった。

 

 ーーこのクラスには変態しかいないのか・・・? そう考えて頭痛を感じながらも織斑教諭は残りの二人にも挨拶を促し、銀髪が答える前にくすんだ金髪が「わかりました。では、僭越ながら私から」と、自然な風を装いながらも強引に割って入って面倒事を早急に終わらせようと企図しはじめる。

 

 相変わらず面倒くさがりな妹の態度に“姉”は苦笑しながら一歩退き、腹違いの妹ではなく実の妹という設定に改竄された彼女、フランスの代表候補生にして『正式』な意味合いでの転校生ジャンヌ・デュノアに場を譲りわたす。

 

「はじめまして、シャルル・デュノアの妹でジャンヌ・デュノアと申します。

 この度の件では本来こちらに来る予定だった私に代わり兄を出向かせるよう国から指示がったのですが、仮にも国の名を背負わすには訓練期間が短すぎると父が渋って首を縦に振らず、妥協案として妹の私とペアでの転校と相成りました。

 ふつつか者ではありますが、皆さんどうか仲良くしてくださいませ」

 

 兄に負けず劣らず礼儀正しい挨拶と、お嬢様然とした立ち居振る舞いにクラスは熱狂。一時、大混乱に陥ってしまった。

 

 

 

 

「あれが本場のお嬢様かぁ・・・やっぱ“本物”はちがーー痛っ!? なにすんだよセシリア!」

「ふんっ!」

 

 

 

 

 ーー余談になるが、この後で生じた織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒの因縁発生時件はジャンヌへの好印象が災いして悪印象を強くする結果を招いてしまった。

 前後の順番というのは意外と重要なものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・つっかれた~。お嬢様ぶったしゃべり方とか柄じゃないから早くやめたいんですけど、やめちゃダメなのかしらねこれ? あと、ついでとしてヒラヒラしたなっがいスカート脱ぎたい。邪魔」

「・・・・・・ジャンヌ・・・。あまりお姉さんみたいなこと言う資格はないって分かってはいるんだけどさ・・・」

「あん? なによ? なにか言いたいことでもあるわけ?

 親元で愛情いっぱいに育てられた優しくて気立ても良い生粋の“本物さま”が、私みたいに子供の産めない母が気の迷いから人工子宮で生み落としてしまった、出来損ないのなんちゃってお嬢様に御用でもおありで・・・」

「スカートの中、ここからだと見えちゃってるよ・・・?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 静かな態度で座り直し、スカートの裾を整えてからコホンとひとつ咳をして。ジャンヌ・デュノアは居住まいを崩しながら目線を横に逸らし、お行儀悪く言ってのける。

 

「・・・別に下着とかどうでもいいけど、スカートヒラヒラするのはやめておくわ」

「うん。僕としても、そうしてくれると嬉しいかな。兄として学園内での立場とかあるし」

 

 キッと、キツい視線で睨みつけてくる妹だが、流石にこの流れで怖がるのは無理がある。どう見ても照れ隠しとしか映らない。むしろ微笑ましくすらあるだろう。

 

 だが、それをしてしまうと逆ギレする性質の妹には火にオイルを注ぐ行為なので、シャルロットはしない。そこら辺は気配り上手な彼女の得意分野だ。誰にも負けないし、当然ぼっちの妹に勝ち目など端から存在していない。

 

 所変わり、国が変わろうとも、デュノア姉妹の有り様に変化や揺らぎを生じさせることは不可能だった。

 今まで通りと変わらず姉妹のやりとりは見ている者をホッとさせるが、あいにくと此処はジャンヌの個室であって相部屋ではない(ただし普通のよりやや小さい。急に増えまくった転校生のため突貫工事で作った部屋だからだ)

 見ている者はこの場にいる二人だけである。残念。

 

 

 

 ーー二人がIS学園に転校してきてから四日が過ぎていた。

 やはり姉のコミュ力は半端なかったようで、ルームメイトになった翌日の朝から目標である織斑一夏と連れだって食堂に来て仲睦まじく食事をとっている様を見せられたときには思わず

 

「はやっ! 早すぎ! アンタ、ちょっとそれはビッチ過ぎるわよ! はしたないわ!」

 

 と、素がでてしまったために誤魔化すのには苦労させられたものだ。 

 

「・・・・・・・・・ふんっ!」

 

 やがて黙ったまま思い出し笑いで微笑んでいる姉に追求する術を見失い、ジャンヌはいつも通りにそっぽを向いて近くに置いてあったマンガを読み出す。日本のマンガだ。

 彼女には、どう言うわけだかフランス製の物よりも日本発祥のサブカルチャーを偏愛する奇癖があった。

 

「おもしろいの? それ」

「・・・少なくとも、つまらなくはないわね。だいたい中の上くらい」

「なるほど」

 

 つまり『癖はあるが自分好みでスゴくおもしろい』と言うことか。

 二年間の共同生活でジャンヌ・デュノア言語の翻訳機能を完全にマスターしたシャルロット・デュノアは妹の意志をあやまたずに解読して、後で自分も借りて読もうと心に決めた。

 

「ーーそれよりも、早く織斑のところに戻んなさいよ。アンタの役割は情報入手で、そのための手段については多少強引な手でも構わないって言われてるんでしょ?」

 

 妹の反撃に思わず口ごもり、顔を赤くするシャルロット。

 それは出立時に父から言われた命令内容が問題であり、それについて妹の口から告げられたことも含めて赤面せずにはいられないものだったのだから無理はないとも言えるだろう。

 

「う、うん。そ、そうだけど。そうだけどさ・・・」

 

 モジモジと顔を赤らめながら恥ずかしそうにうつむく義理の姉に、ジャンヌ・デュノアは白けた目と表情を向ける。

 

「今時の女子高生でハニートラップの話題にここまで過剰に反応するのは、スパイとしての適正欠けすぎてないかしら・・・?」

「し、仕方ないじゃないか! 僕、処女なんだから!」

「いや、義理とは言え妹の前で男女経験のあるなし語るなし。聞きたくないし知りたくもないわ。ぶっちゃけ、先に済ませてたら殺意わくのが女だし」

「露骨だね!?」

「これでも一応は女なので」

 

 普段からかわれてる事への意趣返しか、シレっとした態度と口調で言ってのける素直じゃない妹を涙目で睨みつけながらも、姉の方だって負けてはいない。猛然と反攻作戦に打って出る。

 

「だったら、ジャンヌがすればいいじゃないか。一夏への誘惑。胸は僕のよりも大きいんだし、適任でしょ?」

「む、胸は関係ないっていつも言ってるでしょ!? いい加減しつこいわね! 話蒸し返すのは止めなさいよ!」

「無理。だって男装しているからって僕はれっきとした女の子だから」

「ぐ! ぐぬぬぬぅぅ・・・」

 

 意趣返しされて呻き声を上げ、涙混じりの怒りの視線で睨みつけられたことで今日の勝負もシャルロットの勝ちが確定した。勝率は9対1・・・って、弱すぎだろジャンヌ。もっとガンバレ。

 

 

 ーーと、そこでシャルロットは表情からふざけた色を消し、まじめな顔で妹と向き合い姉として語りかけ始める。

 

「ジャンヌ。父さんがハッキリと断言してた言葉は、ちゃんと聞いてたし覚えてもいるよね?」

「・・・・・・・・・」

「ジャンヌ。僕の目を見て、ちゃんと答えて」

「・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、一応、それなりには・・・・・・」

 

 翻訳すると『聞きたくない内容だったし、覚えていたくもなかったけど、遺憾ながらも完全に記憶している』となるので、シャルロットはそのまま話を進めていく。

 

「今回の件が成功しても失敗に終わっても、僕たちの行為は明確な違法行為で犯罪行為だ。フランス本国でならまだしも政府特権で無理強いが効くかも知れないけど、ここ日本だとまず不可能。絶対に捕まるだろうし、フランスへ強制帰国させられた後では力を失った現政権が僕たちを擁護してくれる可能性はきわめて低い。ここまでは忘れてないね?」

「・・・・・・・・・まぁ、一応だけなら」

「うん、なら本題だ。今回の任務で僕たちが成功しても失敗しても法的に罰せられずに済むイエローゾーンがひとつだけある。それの内容はーー世界初の男性IS操縦者織斑一夏君の子を宿すこと。

 それさえ出来れば彼にとって僕たちは守るべき対象となり、世界で唯一の存在を取り合ってる国家群が牽制しあって列強から外れて久しいフランス程度じゃ手が出せなくなる。利権が分散されて僕たち程度の存在感は大きく低下し、どこかの国へお預かりになるとしても一夏が擁護してくれれば多少の融通は利くし、彼に貸しを作っておきたい組織や国家は幾らでもある。

 ここまでで忘れてた部分があったら教えてくれるかな? 詳しく語り聞かせてあげるから」

「・・・・・・・・・ごめん、さっきのは私が悪かったからもう許して。そろそろ恥ずかしさで死ぬわよ私・・・?」

 

 頭から布団をかぶって話の途中から敵前逃亡を図ろうとしていたジャンヌだったが、引きこもり体質故に部屋から出られず結果的に義理の姉による言葉責めを終わるまで味合わされてしまった。

 

 真っ赤になった顔を見られまいと、深く毛布をかぶって丸くなった姿はアルマジロを彷彿させ、敵から身を守るために熱い鱗で覆われた草食恐竜の如き堅牢さを感じさせるものがあった・・・と思う。たぶんだが。

 

 

「ちなみに性行為で確実に子種を宿すためには安全日のーー」

「聞きたくない知りたくない! あと、どこの誰に聞いてきた、その下世話な知識の数々!?」

「え? 執事のジェイムズさんが「お嬢様方のお命をお助け出来るならば・・・!」って、涙ながらに教えてくれたんだけど・・・」

「ジジイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」

 

 自分のことを幼い頃から甘やかしまくってきた老執事の名を(名前じゃないが、彼女はジジイとしか呼んだことがないので間違っていない)怨敵を罵るような声で叫ぶジャンヌ・デュノア。

 あの老人の過保護は、自分そっくりの姉が登場してからと言うもの常軌を逸するものが感じられて正直怖くなっていたのだが、まさか極東の島国に来てまでジジイの呪いに苛まれようとは想定外にも程がある!

 

「だからね、ジャンヌ。僕たち姉妹が生き延びて、仲良く一緒に暮らしていくためにはーー一夏のお嫁さんと愛人さんになるしかないんじゃないかな・・・?」

「アンタ自分がなに言ってんのか、わかって言ってる訳!?」

 

 実の母を愛人として囲い、会社のためにと切り捨てた父を憎んでいたはずのシャルロットだったが、守りたいと思える対象が一夏よりも先に一人出来ていたため前向きになり過ぎてしまったらしい。発想が父と瓜二つのものになってしまっている。

 恐るべきはデュノア家のD・N・A! 略してデューN・A!

 

「上手いこと言ったつもりか! ぜんぜん上手くないわ! むしろ、つまんないし笑えない!」

 

 ・・・・・・サーセンでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだよ」

「そ、そうなのか? 一応わかってはいるつもりだったんだが・・・」

「『一応わかっているつもり』。これは初心者が最も陥りやすい落とし穴ですからね。キチンと理解できていないことでも、知ってるだけで何となく分かったような気になってしまって自論の方が正しく思えてしまう・・・。そう言う経験って、したことありませんか? 織斑さん」

「うっ。た、確かに言われてみれば何回かあったような気が・・・」

 

 シャルロットに優しく間違いを指摘された後、自分の信じる物に僅かながら揺らぎが生じた瞬間を見逃さずにジャンヌが結構キツい指摘をやんわりとしたお嬢様口調で言い放つ。

 

 普段であれば反発する一夏だが、この時には最初のシャルロットが好印象を与えているので見た目的には瓜二つのジャンヌの悪態じみた指摘には然したる悪感情がわいてこない。

 その後に待っている具体的なIS操縦技術『イグニッション・ブースト』の改善点について考えに耽っていたというのもあるが、この姉妹のコンビネーションは意外なほど相性が良くまとまっていた。阿吽の呼吸という奴だ。

 姉妹故の遠慮しなさが、この際にはプラスに働いていたとも言える。お互い自分の都合で言いたいことを言うためにも相手の呼吸に応じていた方が問題なく事が進むのである。

 

 

 

「だからそうだと私が何回説明したと・・・・・・!」

「って、それすらわかってなかったわけ? はあ、ほんとにバカね」

「わたくしはてっきりわかった上であんな無茶な戦い方をしているものと思ってましたけど・・・」

 

 

 ブツブツ言ってる外野たちとは大違いだが、これには若干ジャンヌもシャルロットも異論があった。

 

「みんなは一夏のことを高く評価しすぎだよ。いくら初陣でセシリアのブルー・ディアーズと互角に戦えてたって、入学する前までIS知識皆無な初心者だった時間まで0にするのはさすがに無理があると思うよ?」

「「「「うっ!!」」」

 

 シャルロットの指摘に『強い一夏大好き』三人娘はそろって胸を撃たれたように押さえつけ、

 

「そうですね。それに皆さんのレベルが高すぎるのも問題ですし、得意とするレンジが織斑さんと違いすぎるのも問題です。専用機は基本的にワンオフ機であることも無関係ではないでしょう。

 癖があるからこそ強い専用機は、指導の仕方にも偏りが生じやすいですし、習うことしかしてこなかった人が、いきなり教師役というのも無理があるかと。優れたスポーツ選手が優れた監督やコーチになれるとは限らないのと同じ理屈ですね」

「「うっ、ぐ、は・・・!!」」

 

 ジャンヌの言葉に専用機持ち二人は更なる追い打ちを受けて身を屈めるが、攻撃対象から外れた箒は控えめに手を挙げながら「あのー・・・私の指導は・・・?」と自信損失しかかってる声で尋ねて、

 

「そもそも射撃訓練に剣道の教え方は役に立ちませんよ? もちろん、応用できれば別ですけれど・・・そんな器用な真似できたりしますか?」

「ぐっ、はっ!!」

 

 二人よりも更にデカいダメージを食らってもんどり打って倒れた箒を至福の表情で見下ろすジャンヌ。

 

 ーーどうやら昨晩、姉に言い負かされた記憶が尾を引きづっているらしい。存外、執念深い少女だった。

 

 姉妹の間で余人には聞かせられない(聞かれたらたぶん死ぬ。死因は恥死)内容の語り合いが行われた翌日の土曜。授業は午前の理論学習だけという、優雅にフリーダムな午後を自堕落に過ごせる至福の祝日である。

 

(土曜・・・グッジョブ!)

 

 心の中でいい顔しながら親指を立ててるジャンヌ・デュノアと、普段通りに微笑んでるシャルロット・デュノアの偽物兄妹ホントは姉妹は、各国代表候補の指導が役立ってないからと織斑一夏にIS操縦の基礎をレクチャーする運びとなっていた。

 

 

 

「ところでさ、そのISなんだけど、山田先生が操縦してたのとだいぶ違うように見えるんだが本当に同じ機体なのか? あっちのネイビーカラーに四枚羽のとは色も形も変わりすぎてて、別物としか思えないんだが・・・ジャンヌの黒い奴は特に」

 

 一夏の言葉通りデュノア姉妹の駆る機体には、通常の『ラファール』とは大きく異なる改造点がいくつも存在する。

 

 シャルロットの『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』は本来量産機であるラファールの利点を無視して、コスト度外視の改良が施されており国家代表候補生が乗る専用機にふさわしい性能が発揮できるよう大幅に戦闘力が向上されている。

 

 まず、武装数の桁が違う。基本装備から威力の高いビーム兵器を大部分削ったことで確保した容量を拡張領域の倍増によって更に肥大化させてあり、ほとんど人型サイズの武器弾薬庫と言っても過言ではない絶大すぎる火力を有する中距離射撃戦の王者と呼ぶべき高性能機にまで引き上げられたのだ。

 

 

 一方で、ジャンヌの『ラファール・キャヴァルリィ・ノワール』は武装の数は増えていない。むしろ減っている。減らしすぎだ。

 なにしろ全武装を合わせても三つしか装備してないのだ。通常の量産型より更に武器の数を減らして一体どのような利点を得たと言うのか?

 

 答えは端的に言ってーー邪魔なお荷物を取っ払ったお陰で、ジャンヌ本来の戦い方である蹂躙が可能となった、である。

 

 彼女は、ハッキリ言って猪突猛進型だ。深く考えて慎重になっては長所を殺すだけであり、敵を利する効果しかない。

 

 猛スピードで突っ込んでいって突き刺し、薙ぎ払い、切り払い、圧倒的な圧力で敵陣地を制圧してしまう。攻撃特化というよりかは、攻撃にしか役立たないと言うのが正しいだろう偏りすぎた性格が彼女の戦績を中途半端なものにしてしまっている事実を彼女外はみな知ってるが彼女だけは気づいてない。お約束だろう。

 

 外見は、背中にある大きな二枚羽『シェルフ・ノズル』と、左手に取り付けられてる固定武装の『ショット・ランサー』が異彩を放ち、右手に持つ主力兵装『ビーム・フラッグ』は、旗型の斬撃用ビーム兵器という斬新すぎるアイデアが災いして全ての国の選手たちが使用を拒否したデュノア社にとっての黒歴史的な遺産でもある代物だ。

 

「ーー良いなぁ・・・これ。格好いいかもしれない・・・」

 

 そんな見たこともない武装ばかりを装備したキャヴァルリィ・ノワールは、一夏の心の男の子な部分を強く刺激させる物であったらしく、視線が引きつけられて離せなくなってしまっていた。ぶっちゃけ厨二臭いのである、この機体。

 

「あら、お戯れを。このようなアンティークに・・・恥ずかしいですわ・・・」

 

 頬を押さえて赤くなりながら目を伏せるジャンヌだったが、内心では真顔で大きく頷いていた。

 日本の少年向けロボットアニメ大好きっ子である彼女にとってノワールは、まさに理想の機体と断言してもよい存在だった。心底から惚れ込んでいる。

 もう一生離さないと、専用機を始めて見たときに駆け寄って抱きしめて、大人たちが力づくで引き剥がすまで泣いて縋りついた機体なのは記憶に残ってないので覚えてない。忘れてるったら忘れているのだ。

 

 

 ーーとにかく彼女がノワールを褒められて頬を染めているのは機体が好きだからであって、同好の士を得たからに過ぎない。

 一夏もまた、同姓が限りなく少ないIS学園でここまで自分の好みに合う機体と出会えるとは思っていなかったから褒めちぎっただけである。ジャンヌ自身に向けた褒め言葉は一言も口に出してはいない。

 

 が、しかし。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

 あいにくと世界中から理不尽系美少女を募集してきたような織斑一夏ラバーズを相手に、その手の言い分は通用しない。後ほど彼には厳しいお沙汰が下されるのが確定してから始められた訓練内容はシャルロットが射撃関係の諸々を。ジャンヌが高速機動についてと、それぞれの得意分野について専門的知識も込みで分かりやすく教えていった。

 

 

 

 もともとシャルロットを一年半で代表候補に通用するレベルにまで引き上げたのはジャンヌである。

 意外と劣等感が強いコンプレックスまみれの性格が、言われたことを理解できない初心者の気持ちを理解するのに役立って、結果的にシャルロットは短期間で驚くべき急成長を遂げることになる。

 

 なので他の三人と異なりこの二人には、同年代の初心者に教える為のノウハウが始める前から備わっていた。それを最大限活用できるだけの知識も(主にマンガで)貯め込んでもいる。

 はじめから教師役としては、圧倒的なアドバンテージがあったのだ。

 

 

「「「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・・・・!!!!!!!」」」

 

 だが、あいにくと以下略。

 

 

 

 ーーと、その時。

 

 

「ねぇ、ちょっとアレ見て。もしかしてアレって、本国でトライアル段階にあるって言うドイツの第三世代型じゃないの・・・?」

 

 

 そんな声を耳にして、一夏はやや感情の削れた表情で声の向かう先に視線を移した。

 

「・・・・・・・・・」

 

 そこにいたのはもう一人の転校生、ドイツ代表候補ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

「おい」

 

 オープン回線で声を飛ばしてきたラウラに、一夏は「・・・なんだよ」とぶっきら棒な返事を返す。

 

「貴様も専用機持ちだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

 突然の申し出に、一夏は憮然としながら当然の答えを返すのみ。

 

「イヤだ。理由がねぇよ」

「貴様になくても私にはある。

 貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様をーー貴様の存在を認めない」

 

 その声はオープン回線故にジャンヌの耳にも届き、不快さのあまり彼女の秀麗な顔を大きく歪ませた。

 

 『偉業をなしえただろうことは容易に想像できる』・・・まるで神を信仰しているかのような言いぐさだが、彼女が声から感じられる感情は怒りと憎悪と何かに縋りたいと泣きわめいている子供じみた癇癪だけだった。

 

 この少女ラウラ・ボーデヴィッヒには、かつての自分と同じ臭いを感じる。気に入らない。ぶちのめしたい。早くかかってこい。実力の差を教えてやる。

 

 

 暗い感情に妹が支配されていくのを慣れている姉だけが感知できて、他の誰にも存在すら気づいてもらえてない、忘れられた存在と化してしまっていたことはラウラにとって運が良かったのか最悪だったのか。

 とにかくこの段階でジャンヌとラウラが戦うことは、彼女の中でだけ決定していた。

 

 

 

「また今度な」

「ふん。ならばーー戦わざるを得ないようにしてやる!」

「ーーアンタこそがねぇぇっ!!!」

 

 ズガギィンッ!

 

「なにっ!?」

 

 ラウラの纏った漆黒のISが戦闘状態へシフトした瞬間、刹那の間に右側へと回り込み死角からの不意打ちでランスによる刺突を食らわせる。

 

 厭な感じでニヤリと嗤うと、

 

「あーら、ごめんなさい。あんまりにも戦場で隙だらけだったから演習用の案山子と勘違いしちゃって。よく見たらドイツのデカいゴキブリさんじゃない。ちょび髭の尻を舐め飽きたから日本まで男漁りに来るなんて大変そうね、チビじゃり」

「貴様・・・フランスのアンティーク如きで私に前に立ちふさがるとはな」

「はっ! いきなり機体の性能頼りとは恐れ入るわね。

 良いこと教えてあげよっか? マンガやアニメでよくあるパターンよ。

 戦いが始まった直後に乗ってる機体の性能を自慢し始める奴は、ほとんどがやられ役の雑魚キャラとして終わる!」

「戯言をっ!」

 

 右手にある巨大砲リボルバーカノンを大きく振るってノワールを引き剥がそうとするラウラだったが、この場合は相手との相性が最悪だった。

 

 なにせノワールは超接近戦闘特化の強襲型だ。敵に肉薄して短期決戦を強いることこそ必勝パターンの機体なのである。食らいついて自分から離れる選択肢など存在していない。

 むしろ力任せに大きく振るってしまったことで隙が生じてしまい、ショットランサーに内蔵されたヘビーマシンガンの好餌となってしまう。

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガっ!!!!

 

「ぐぅっ!!」

「ははははははははっ!!! アンタんとこのはいつだって、バカみたいにデカ過ぎんのよ! マウスの失敗で懲りなかったの? 学習する頭すらなかったの? ああ、そうか。ちょび髭だもんね。それじゃあしょうがないわー。バーカバーカ!」

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 頭に血がのぼって我を忘れたらしく、ラウラが機体特性も禄に考えないで力任せに突貫してくるのを「望むところよ!」と威勢良く応じて自らも一撃必殺の大型ビーム兵器ビームフラッグを振りかぶった瞬間ーー

 

 

『そこの生徒ども! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 

 突然アリーナのスピーカーから担任教師の織斑千冬の声が響いてきて、ジャンヌは「ちっ」と舌打ちすると、最後の嫌がらせをラウラに対して言い放って締めとする。

 

「お迎えが来たみたいだし、早く行けば飼い犬さん。愛しのご主人様がお呼びですわよ? せいぜい尻尾を振って撫でて貰って喘ぎ声でも上げてなさい、クソビッチ」

「・・・・・・!!!! ーーふん。今日のところは引いてやる。決着は次だ、乳牛ブラコン女」

「なっ・・・!?」

 

 最後の最後で一矢報いて、背中を見せて去っていくラウラと、隠されていたジャンヌの本性を知って茫然自失の各国代表候補のメンバーたち。ついでに出番を奪われた一夏。

 

 そして感情的な妹の致命的すぎる失態に「あちゃ~・・・」と頭を抱える常識人な兄でもある姉と、隠れ巨乳シスコン妹の秘密を暴かれ真っ赤になってプルプル震えているジャンヌ・デュノア。

 

 なかなかに混沌とした現場に、ジャンヌの叫びが木霊となって響きわたる。

 

 

「わ、わ、わ、私のどこがシスコンだって言うのよーーーーーーっ!!!!!!」

 

 全部だよ。By.天の声




追記で年末の挨拶:

すみません。先ほどは他のも更新する予定だったために書かなかったのですが、色々あって無理そうなので追加で書かせて下さい。

皆さま、良い年末と年越しを! また来年もよろしくお願い致します!


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敗け続けた者たちより

とある方の依頼を受けてたのを思い出して書いてみた、八幡×ISコラボ作品です。
原作3巻、アニメ版第一期最終章の『VS銀の福音』で一夏が昏睡状態に陥ったのは自分のせいだと自責している箒に鈴が発破かけるシーンを、

『俺ガイル』文化祭でのラスト近くで相模に八幡が毒吐きまくってたシーンを重ね合わせたお話です。


やっつけ仕事で書いて送ってみたら意外と高評価を受けてしまい、どっちの雰囲気で新作書いたらいいのか分からなくなったので筆が進まず、皆様方にもご意見を伺いたいと思い投稿してみました。

宜しければ感想もしくは思う所を書いていただけると本気で助かります。


 旅館のベッドに横たわったまま、三時間を目を覚まさない一夏。

 その彼を悲痛な面もちで見下ろしたまま身動ぎすらしない箒。

 

(私は・・・どうして、いつも・・・・・・)

 

 胸に過ぎるのは悔恨の念。

 いつも、力を手に入れるとそれに流されてしまう。

 それを使いたくて仕方がない。

 わき起こる暴力への衝動を、どうしてもか抑えられない瞬間がある。

 

(なんのために修行をして・・・・・・!)

 

 ーーリミッター。

 

 自らの暴力を押さえ込むための、抑止力。

 けれど・・・それは非常に危うい境界線なのだと思い知る。

 薄い氷の膜のように、ほんのわずかな重みで壊れてしまう。

 

(私はもう・・・・・・ISには・・・・・・)

 

 一つの決心をつけようとした時に、背後で静かにドアが開けられる音がした。

 

 

 それは箒には壊れて歪んで軋しみ上げる心の音と重なって聞こえ、IS学園生の宿泊用に取り替えられたばかりのドアを開ける音でありながら、錆び付いて立て付けの悪くなった扉を開いた時のように、ぎっと大きく鳴る幻聴として鼓膜に響く。

 

 

「働かずに高級旅館泊まれるって、美味しい特権だよな」

 

 音源へと振り向いた箒が見たのは一人の少年、比企谷八幡。

 世界で初めて男性操縦者の実在が確認されたことで、世界中が『世界で二番目』を探しだし、ようやく見つかった“元”三番目。

 本来の二番目であったシャルロットが実は女であったことが発覚した今では晴れて世界で二番目に繰り上げ昇格された少年であり、一夏たちと同じ専用機持ち。

 

「・・・・・・比企谷か。何のようだ」

「デカい。態度がデカい、自分から仕事辞めるつもりのエリートニートは身の程を弁えてー。

 俺、学生なのに国防まで押し付けられた勤労少年よ、誰かさんのお陰で只でさえ少ない戦力減らされて余計な雑務まで手伝わされてる可哀想な可哀想なブラック企業の下っ端社員。ってか、 IS学園にもあったんだな記録雑務係って。初めて知ったわ、チョー意外だったー」

「・・・何のようだと聞いている!」

 

 只でさえ神経が逆立っている中で聞かされた長広舌に、暴力衝動からの余韻が覚めやらない箒は声を荒げるが、対する比企谷はよりいっそう瞳を腐らせただけで全く答えた様子を見せない。

 むしろ、相手の内側を見抜いたかのように「はっ」とせせら笑ってさえ見せてきた。

 

「ーーーっ!!!」

 

 カッとなって、思わず箒は相手の胸倉を掴み上げてやるために接近しようと足を上げかける。

 

 するとーー

 

「はぁぁぁぁぁぁ~~~~~・・・・・・」

 

 盛大なため息。呆れて物も言えない、救いようがない。本当にバカだな、このアホ女は。

 

 そんな心の声が聞こえてきそうなほど露骨に、最低に陰湿に。真っ正面から卑屈な視線で堂々と見下しているかのような腐った視線と言葉の刃を投げかけられた箒は、上げたばかりの片足を降ろして、思わず後ずさってしまうほどに気圧されてしまった。

 

 

 今まで箒が見たことも聞いたこともない、圧倒的な悪意と劣等感、卑屈なまでの陰惨さが、ひねくれ者の形を取って今、彼女の前に立ちふさがっていた。

 

「篠ノ之、お前って本当に最低な奴だったんだな。見損なったよ。・・・いや、はじめから俺はお前に何一つ期待なんてしてこなかったけどな」

「な・・・」

「お前は結局、誰かに見てもらいたいだけなんだろ? 誰でもいいから自分を、自分だけを見てくれる奴が欲しいだけなんだろ? 構って欲しくて、自分の本質を見てもらいたくって力を示したいだけなんだろう?

 今だって、慰めの言葉を誰かに言ってもらいたいだけなんだろうが。それなのに、言ってくれないから『ISなんかもう乗らない』ってガキみたいな駄々こねて見せてるだけなんだろうが」

「なにを・・・貴様は何を言っている! 私は・・・私はただ・・・!」」

「ただ、『一夏たちと同じ高見にたちたかった』か・・・?

 あんな風に特別機を与えられて、周りにいる誰もから見てもらえて邪険にされないし見下されない、『姉のような特別な存在に』なることで、自分も織斑たちと同じ国家代表候補と同じスタート地点に立つことが出来る。

 自分が他の奴らよりも劣っているのは専用機を持ってるかどうかだけだ、専用機さえ有れば自分は奴らと同等に戦える。アイツらと同じ戦場に立てば、アイツらと同じように織斑の隣で肩を並べて戦うことさえ出来たならアイツは再び自分の元へと帰ってきてくれる・・・。

 そう思ったから、インスタントに姉を頼って手っ取り早く専用機を手に入れた。強さを基準にして人間関係を計り、専用機を手に入れて強くなることで他の誰かに格下のレッテルを貼って、見下すことで織斑の中で自分が上位に居続けていることを確認したかった。

 ・・・・・・それがお前の言う、『強さ』の正体だ」

「・・・・・・」

「みんな多分、気づいてないだろうがな。お前の気持ちなんか誰も理解してないし、使用とも思っていない。

 ーーはっ、『知らないことは存在しない』なら、誰も皆が知ろうとしてないことなら自分一人が目を逸らしてる罪悪感なんか感じる必要ないわけだもんな。分かるよ、その気持ち。俺にも同じ気持ちぐらいはあるからな」

「比企谷・・・貴様などと一緒にするな下郎めが!」

「同じだよ。最低辺の世界の住人だ。

 よく考えろよ、お前の気持ちに織斑が気づいてたことが一度だけでも存在してたか? 周りにいる連中が一夏の隣にいない時のお前に話しかけてきたことなんてあったか? 『白騎士事件』以降、篠ノ之束の妹である以外に、お前の価値が誰かに認めてもらえた経験を一度だけでいい、してもらえたことがあったのか?」

「・・・!!!」

「お前の言う、暴力性とやらの正体はそれだ。単なる欲求不満なんだよ。誰でもいいから、ムシャクシャしてるから、我慢してきたから殴ってやりたいボコってやりたい殺してやりたい。

 『私が本気出せばお前ら片手だけで殺せるのに我慢してやってるんだ、感謝しろ』・・・そんなチッポケな自尊心の守り方をいい年してやってたガキが、背丈と態度と声だけデカくなっただけで恋人欲しがれるんだから、本当にいい世の中にしてくれたもんだよなー、お前の姉ちゃんは」

「・・・・・・~~~~~っ!!!!!!」

「お前らってさぁ・・・ひょっとしなくても滅茶苦茶仲良いんじゃねぇの? こんなにも『弱くて他人任せの妹』のために、都合よく住みやすい社会を作ってくれたんだからsーー」

 

 言葉を最後まで言わせず、泣きながら八幡の頬に平手打ちを食らわしてやってから箒は駆け出す。見返すために。見事、銀の福音を倒して、今の言葉を撤回させてやるために。ただただ自分自身の名誉と尊厳、それのみを取り戻すために!

 

 

 

「・・・・・・お~、痛て。戦闘で手伝ってやるんだから、もう少し手加減ぐらいして欲しいもんだよなー」

 

 赤くなった頬に手を当てながらひとりごちる、部屋に取り残された八幡は、「ぷるるる!」と鳴った携帯電話を手に取り耳に当てる。

 

「もしもsーー」

「モスモスー! みんな大好きで大嫌いな束さんだよーっ! ハロハロー♪ はち君、元気してたー? ・・・って、同じ旅館でさっきあったばっかりだったよね! メンゴメンゴ、ゴッツンコ♪」

「・・・・・・切っていいですか?」

「やぁ~ん、こわーい♪ つめたーい♪ はち君のイケズ~♪ あんまり冷たくすると~、束さん拗ねちゃうぞ☆ 拗ねてヘソ曲げてガキみたいに駄々こねて核ミサイルの雨嵐を日本中に降らさせまくっちゃおっかなー♪」

「・・・すんません、マジ勘弁してください。小町とかいるところに落とされでもしたら死んでしまいます。主に妹を失って寂しくなった俺が」

「あははは~♪ あいかわらず妹思いだねーはち君は♪ ・・・だから君にだけは私の本心が見透かされちゃってたのかな?」

「・・・・・・」

「傲慢で自尊心に満ちあふれてて、他人を平気で利用しながら黒幕気取って道化を演じてーーでも、その実、表に出てきたことなんて数えるほどしかない。裏側でコソコソ策謀練るしか脳がない、他人を操り見下して、結局自分自身は何もしない。

 そんな風に汚い自分が大好きで、そんな風に汚い糞野郎なんだと自覚させられるのが大嫌い。

 それが私、天災科学者篠ノ之束の正体でござ~い♪ ま・さ・に! はち君のご明察どーり! パンパカパンツ~☆」

「・・・・・・」

「・・・そうだよ、はち君。人は強くなんてないし、弱い弱い糞みたいに弱々しい心しか持ち合わせてない吐きゲを催もたらほど汚らしい心の持ち主たちばっかりなんだよ。

 だから綺麗なのにあこがれるんだよ。だから綺麗な場所に行きたくなるんだよ。だから糞ばかりの所に居続けるのが辛くて辛くて苦しくて・・・逃げ出したくなってしまうんだよ・・・」

「・・・・・・」

「束さんは此処にいる・・・。いつまでもいつまもでも暗い暗い穴の底から上の方を見上げてる。私よりも低い位置から、上から目線で見下してくるバカどもを見下しながら見上げ続けてる。いつか誰かに引きずり上げてもらえる日を夢見るだけで、自らは何もしないし出来ない、する勇気なんか持ち合わせてない臆病ウサギで居続ける」

「・・・・・・」

「いつかきっと拾ってくれる王子様が現れるまで、ウサギはいつまでもいつまでも穴の中で待ち続けるだけ。

 不思議の国に行ったアリスは、本当のホントは夢の中。自分の作った妄想世界で夢見ているだけの馬鹿ウサギ~♪ クソッタレな世の中からは夢の中へと大脱出~♪ 夢への逃避はIS要らず他人要らず、ただただ自分一人の被害妄想だけで事足りま~す」

「・・・・・・」

「それじゃあ、バイバイはち君。また今度にね。敗北主義者の臆病ウサギ姉妹の長女より。チュッ」

 

 



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織斑一夏にヤンギレ妹がいた場合のISストーリー

お待たせしてすみません(待たれてなかったかもしれませんが・・・)。
四季ちゃんISがプロローグ分だけでも完成しましたので投稿させて頂きました。

本来ならもっと早いうちから書く予定の作品だったためアイデアが豊富で幾つかパターンがあり、これはその中で最もギャグ色の強い書き方をされている物です。

そのため両儀式をモデルにした女の子と言うよりかは、両儀式の格好良さに惚れ込んだ作者の作った妄想キャラクターと表現した方が正しいであろう人格の持ち主です。
清書する時には他のパターンを用いるかもしれませんが、作風的な芯はこんな感じです。それさえ伝われたなら幸いです。


 

 東京都にある織斑邸。

 その台所に今、織斑一夏の妹『織斑四季』が立っていた。

 短めの黒髪を適当な長さで切りそろえ、姉譲りの鋭すぎる目つきと刀のようにしなやかな肢体を誇るスレンダー体型の美少女だ。

 

 兄の一夏は現在、藍越学園の入学試験を受けるために外出中。姉が家事全般に置いては壊すときぐらいにしか役に立たない生活無能力者であるため彼女は兄と二人で家事を分担しており、今日は兄の合格を祈っていつもよりかは少しだけ豪華な食材を取りそろえてある。

 殊、料理に関しては兄を含む誰にも譲る気のない彼女は、一度台所に立つと滅多なことでは持ち場を離れない。

 根を生やしたかのように居座り続けて完成するまで手を抜かずに仕込みを続ける奇癖の持ち主なのだが、何事にも例外というものは存在する。今日に限って言うなら、次のテレビから流れてきた報道が其れに当たる。

 

 

『ーー臨時ニュースをお送りします。先ほど総理官邸で緊急記者会見が開かれ、その場において世界初の男性IS操縦者『織斑一夏』君の存在が公表されました。

 織斑君は明日にでもIS学園・・・日本にある世界で唯一のIS操縦者育成機関に入学することが閣議において決定されるとの事でした。では次にーー』

 

 

 ーー途中まで聞いた頃には既に彼女の姿は台所にはなく、玄関脇に置いてある時代錯誤なダイヤル式固定電話の傍らへと移動していた。

 

「もしもし、IS学園ですか? そちらの警備主任で織斑千冬を呼んでください。妹からの電話だと言えばすぐわかります。もしくはーー四十秒以内に飛んでこい。来なけりゃお前を殺すと言えば伝わるから早くしろ切り殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、昨日の今日で入学したばかりの皆さんには驚きの展開だと思いますが、新しいお友達を紹介しまーす。織斑四季ちゃんでーす!

 彼女は織斑君の妹さんで、世界で初めてISを動かした男性として織斑君がIS学園寮に入っちゃいましたので、家に一人きりになり危ないからと学園側からの要望も踏まえまして一日遅れの入学と相成ったわけです。

 あ、ちゃんと適正審査は潜り抜けてますからコネ入学じゃないですからね? いろいろと問題ありまくりなご時世なので間違えないようにしてくださいねー。

 ーーでは、織斑君・・・じゃなかった、織斑さん。

 これから一年間一緒に過ごすクラスの皆さんに、自己紹介をお願いします」

 

 

 

「・・・・・・織斑四季」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「あ、あの~・・・以上です・・・か?」

「あ? 他になんかいんのか? だいたいアンタが先に言っちまった後なんだけど?」

「え、え~・・・私のせいなんですか~・・・? そ、それはちょっとー・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 涙目で上目遣いに見上げてくる子犬チックな山田先生の『守ってあげたくなるオーラ』も、織斑四季は完全に無視する。ガン無視である。女が胸のデカい年上女にこびられて嬉しく思う理由はねぇ。

 

「う、ううぅぅ~・・・お、織斑しぇんぱぁ~い・・・・・・」

「あー・・・わかった、よしよし、相手が悪すぎただけだから泣くな。こいつを相手に一般人が会話をしようだなんて土台無理な相談だったんだ。だから泣くな」

「うううぅぅぅ・・・!!! でもー、でもーっ!!」

 

 泣きじゃくる豆腐メンタル山田真耶。

 だけど、少し待て。

 クラスメイトの生徒たち三十名は、そんなコミュ症女と一年間仲良くやってかなきゃならんのか!?

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・(ごくり)』

 

 

 IS学園1年1組女子生徒一同は、一部例外をのぞいて図らずも入学してから二日目で早くも一体感と連帯感とを獲得することに成功していた。

 

 

(この敵には一致団結して挑まないと立ち向かえそうにないぜぃっ!)

 

 

 ・・・なぜだか男子一名が入った以外は今まで通り女子校のままなIS学園で、少年マンガみたいな心理現象が発生してしまっていたのだが、所詮余談であった。

 

 

 ちなみにだが、弾かれた一部例外の中に布仏本音は含まれていない。

 構成は、織斑一夏と篠ノ之箒。四季の実兄と実ファースト幼馴染みによる、机に突っ伏したまま動かなくなってしまってるコンビの二人のみである。

 

 

「・・・あ、相変わらずブレない・・・ブレなさ過ぎる・・・! 余りにも昔と変わらないブレなさぶりに、私の胃が遠い記憶で切り刻まれようとしている・・・!!!」

「・・・・・・・・・お、俺には中学一年の時の悪夢が呼び起こされるのを、黙って見ていることしかできないのか・・・!?

 あの、二条城の悪夢が再び目を覚まそうとしていると言うのに・・・!!!」

 

 

(・・・・・・何やってんだろう、この人たちは・・・・・・もしかしなくてもアホ?)

 

 

 ーー入学早々クラスメイト達から風評被害を受けまくっているのに気づくことなく、織斑一夏はIS学園入学二日目朝のホームルームを終われる。

 

 今日の授業終了まで後、五限・・・・・・長すぎる!!!(一夏と箒、心の叫び)

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「あ?」

 

 机にふんぞり返って座っている織斑四季は(ちなみに席は一夏の隣。「兄だろ、妹の面倒くらい見ろ」と、姉から告げられた時の彼は絶望していた)、三時間目の休み時間に気怠げな調子でダレていたところに声をかけられ、思わずドスの利いた声で反応してしまう。

 

「・・・っ。ず、ずいぶんと無礼なお返事の仕方ですわね! お里が知れると言うものですわ! 一体、ご両親はどのような教育を施しておられーー」

「知らん。会ったこと無いからな。俺がガキの頃に借金残して蒸発したらしいが、会ったこともないし覚えてもいない両親なんか赤の他人と同じだろ。だから知らんし分からんから答えられん」

「そ、そうですか・・・それは大変、答えづらい質問をしてしまって申し訳ございませんでしたわね・・・」

 

 表情を引き攣らせながら何とか謝罪を返したセシリア・オルコット、両親が存命してた頃は幸福で裕福な家庭を満喫していたイギリスの代表候補生の少女である。

 

 そんな彼女の微妙すぎる反応に、四季はこれといった対応をすることなく無言を貫くのみ。

 別に気分を害したと言うわけではなくて、ただ単に説明し終えて言うべきことが無くなったから黙り込んでるだけだったりする。

 とかく彼女は興味の対象から興味を失うと、それまでの執着が嘘だったかのように急速に冷めて行って二度と同じ相手には熱を感じなくなる事例が多く発生しており、どうでもいい事柄には本気でどうでもいいとしか思えないし、思うことができない性質の持ち主だったのだ。

 

「で、ですがわたくしの事であればご存じなのでしょう? このイギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくし、セシリア・オルコットの事ならば!」

「知らん。興味ない。無駄話の相手がほしいだけなら、あっち行け。気が散るし邪魔だ」

「・・・・・・」

 

 ・・・もはやコミュ症と言うレベルを超越しすぎた拒絶対応を前に、さしもの心を頑ななまでに閉ざしてきたセシリア・オルコットも揺らがされる。・・・悪い意味でだったが。

 

「・・・つくづく、日本人と言うのは礼儀知らずで傲慢ちきな方々ばかりですわね!

 こんな極東の島国の未開の地まで来て差し上げた英国貴族のわたくしに対して無礼の数々、兄ともども許せません! 決闘です!」

「断る。面倒くさいし、かったるい」

「~~~っ!!!」

「兄ともどもって事は一夏とはやるんだろ? そっちと遊んでもらってろ。俺は知らん。関係ないんでね」

「あ、貴女って人はぁぁぁぁっ!!!」

「あ、後ついでに付け加えとくけどな?」

 

 急に真面目な表情に変わってから話しかけてきた四季の言葉に機先を制され、セシリア・オルコットは半舜だけ口ごもる。

 

「な、なんですのよ、一体・・・・・・」

「大した話じゃない。日本が嫌なら、とっとと出てってくれって言いたかっただけだ。

 別に俺はアンタが居ようと居まいと困らない」

「~~~~っ!!!!!!!」

 

 その後、セシリア・オルコットによる悪口雑言のオンパレードは休み時間を終えて織斑千冬の鉄拳制裁を二発受けてもまだ止まらないまま、最終的な問題解決手段として千冬が用いた問題児退場法『戦友(トモ)よ、安らかに眠れ』によってようやく事態は収束することになる。

 

 やっとこさ一安心と嘆息していた彼女の肩を叩く者がおり、振り返るとそこに居たのは、良い感じの表情をしていた頃の織斑千冬とそっくりな笑顔を浮かべている実妹の殺る気に満ち満ちた黒い瞳だった。

 

 

 この笑顔を見た瞬間、織斑千冬はまとめて数十本分の匙を投げ捨てることを決意していた。

 

 

 

 

「おりむ~、大丈夫~? しののんも何だか大変そうだね~?」

「・・・布仏・・・頼む・・・同情するなら代わってくれ・・・!!!」

「あはは~、ごめ~ん。あれだけはたぶん無理だと思う~」

「・・・・・・・・・・・・(吐血して書いた指先の文字「犯人はイモウト」)」



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もしも織斑一夏にヤンデレ、ツンギレ妹がいたらのIF話

途中まで書いて気に食わなかったので投稿をせず、書き直したのを昨日に投稿した訳ですが、やっぱり双方ともに気に食わない出来でしたので慣れ親しんだ一人称視点での清書を行っています。

ひとまずは途中まで出来てた分を投稿しておきますので、清書版の一人称視点バージョン『織斑四季ちゃんIS』宣伝広告用に使い潰したいと思います。


 

 ぐつぐつぐつ。

 

 織斑家の厨房では今、鍋が煮られている。今が旬の幸はないが、八百屋でよく見定めてから購入を決めた良質の物のみを厳選して使っている。

 灰汁抜きには手を抜かない。それを信条とする織斑家の板前(姉が命名。兄は不満顔だった)は、今日も調理が始まってより台所からは離れようとしない。

 包丁を手に取り、具材に刃を向けた刹那の刻に料理(死合い)は始まっているのである。

 

 素材の良さを活かし切れるか。

 あるいは自己満足のために、使える部分を切り落とす現代風の潮流に流されるのか。

 

 どちらの道を選ぼうと必ず何かは切り捨てねばならず(茎とか)、全てを残し、全てを活かす道など存在しいない(全ての部位を同じ料理に使うのは無理)。

 

 だからこそ彼女は厨房を、己の敵と一対一で向き合う殺し合いの場なのだと考えていた。試されるのは己の腕と修練のみ。毎日の積み重ねは嘘をつかず、努力の効果は結果によって如実に顕される。

 結果が全てなのだ。結果が良いよく終わらなければ意味がない(不味い料理を作ってもね~)。

 

 それ故に彼女は、一度厨房にたつと余程のことがない限り離れようとは決して思わない。たとえ恐怖の大王が時間差で降臨してきたとしても、彼女は手首のスナップを利かせた投擲により恐怖の大王を包丁で殺す覚悟で厨房へと入室していた。

 伊達ではないのだ、料理番という名誉職は。恋だの愛だの友情だのでは生み出せない真に尊き命の糧、食料による料理!

 

 織斑家の食卓を預かる誇りを胸に生きる少女には、俗世で起きる様々な雑事など気にもとめないし耳にも入らない! 心を無にして、純粋な気持ちで相手と向き合い己の中にある心と対話を果たすのだ!

 

 明鏡止水の心構え、今この場に人の形を取って顕現せり!

 

 

 

 

 

 

 

『ーー臨時ニュースをお送りします。先ほど総理官邸で緊急記者会見が開かれ、その場において世界初の男性IS操縦者『織斑一夏』君の存在が公表されました。

 織斑君は明日にでもIS学園・・・日本にある世界で唯一のIS操縦者育成機関に入学することが閣議において決定されるとの事でした。では次にーー』

 

 ブツン。

 

 テレビを消したリモコンを適当にどこかしらへ放り投げると、彼女は普段通りの歩き方で歩幅と速度にも変化を見せることなく、落ち着いた所作で受話器を取ると電話機の番号を押していき目当ての人物を呼びだした。

 

 

「おい、馬鹿姉貴。今さっき流れてた臨時ニュースは当然観てたよな? ・・・なに? 仕事中で勤務時間中だったから観ていなかっただと?

 ふざけるな。おまえは学園警備主任だろうが。教室で椅子に座って真面目に座学ができない狼みたいなヤンチャ坊主だったから今のお前があるんだろうが。

 どうせ授業でも叩くか脅すか睨みつけるかの三つしか教え方が選べない無能教育者風情が一端の教師を気取るな反吐がでる。

 ・・・で? さっきした俺の質問に対する答えは? ーーああ? またしても馬鹿ウサギにしてやれただぁ? 『家にいると一夏の身の安全が保証できないから自分の手元に置いておく』って、お前・・・一ヶ月以上年頃の弟妹を自宅に放置したまま連絡一つ寄越さなかった癖によく言えたなその台詞・・・ある意味で感心するわ本当に・・・」

 

「・・・はぁ? 俺を一夏の護衛役としてIS学園に入学させる準備はできてるだって? 適正がDランクしか観測されなかった、この俺がか?

 お前・・・少しぐらい隠せよサボる気をさぁ・・・」

 

「ーーふ~ん、専用機は与えられないが量産機でよければできる限り融通するよう努力はしてみる・・・か。ま、いいさ別に。

 ISには興味がないし、期待もしてない。機械も刀も所詮は道具だ。使えりゃいい。使えないなら専用機だろうと名刀だろうとナマクラだからな。ありがたく受け取っておいてやる。感謝しておけ。明日までには準備をすませておく。じゃ、明日な。急げよ」

 

 

 がちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええと・・・昨日入学式を終えたばかりな上に自己紹介してもらった直後で大変申し訳なく思いますが、今日もまた新たにもう一人の新入生さんを紹介したいと思います。

 どうぞ、入ってきてください」

 

 ガララ。

 

「・・・失礼しまーす」

「彼女は織斑一夏君の妹さんで、織斑四季さんと言います。

 織斑君が世界で初めてISを動かした男性であることは皆さんよくご存じのことと思いますが、彼が学園生徒に招かれた理由の一つに保安関連がありまして、でもその結果として家に妹さん一人だけ残していたのでは本末転倒すぎるからと国の意向も踏まえての入学となりました。

 ああ、でもでもちゃんとIS適正はありますからね。安心してください。ぶっちゃけますと私、形ばかりの入学許可試験で彼女に負けました。完敗です。手も足も出ませんでしたので腕は確かです。

 ですので皆さんも彼女を差別することなく対等なお友達として接するよう気をつけてくださーー」

 

 がたんっ。

 

 ・・・そこまで来たときに、椅子を蹴って立ち上がった一人の生徒がいた。

 IS学園1年1組副担任の山田真耶は、不思議そうな表情を浮かべながらその生徒の顔を見、声を出して呼びかける。

 

「どうされました、オルコットさん? どこかお加減でも?」

「・・・いいえ、別に。なんでもありませんわ。お続けください山田先生」

「??? は、はぁ・・・。えっと~、オルコットさんがそれで宜しいんでしたら別に良いんですけども・・・」

「・・・・・・・・・」

「え、えっと・・・紹介の続きって言ってもさっきので先生の言えることは全部言っちゃいましたからね。後は若い子達同士、仲良くおしゃべりトークしてみましょうか!

 それでは織斑さん! 張り切ってどーぞーっ!」

 

 

「織斑四季ですよろしくおねがいしまーす(超棒読み口調)」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

 



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シャルロット・クローンは復讐を望まない。

初心に立ち返るべく昔に思い付いて書かなかったのを書いてみた作品第一号です。
ジャンヌ・デュノアちゃん主役ISの2段目でもありますが、こちらの方はジャンヌがシャルのクローンと言う設定です。なのでやや暗めで重たいです。

とは言え私の書くジャンヌちゃんに復讐はやらせません。私が書けないからです。
昔は私も望んでた時期があるのですが・・・何と言うか面倒くさくなっちゃいましてね。
時間の無駄でもありましたので、あの手の行為に熱心な主人公には共感できず上手く書けません。作者の実力不足でこうなってしまった作品です。ごめんなさい、精進致します。

*最後の台詞を付け足しました。


 20××年。フランス某所。

 

 ーー先ほど社長室の前を通りかかったとき、私は恐ろしい話を耳にした。してしまった。

 あれは社の未来を閉ざすものだ。あれを実行してしまえば我が社は国から完全に見放され、今以上の経営危機に陥ることは避けられないだろう。それどころか最悪倒産だけでは済まない恐れすらある。

 

 もし、そうなってしまった場合、社長たち御一家はどうされてしまうだろうか・・・?

 IS企業のトップは、文字通り自社のIS開発に携わる者たちすべてと面識があり、国家機密を扱わせる関係上、個人情報保護などという建前は完全に無視した越権行為や違法行為を行い続けなければならない立ち位置にいる。

 戦争で使えないとは言え、ISは立派な兵器であり軍事力であり国力そのものなのだ。

 

 “戦争が起きない限りは”他の国との情報共有は奨励されてしかるべきものであるが、“そうなってしまった時にはどうするのか?”を考えたとき、ISに関するデータを他国に持ち逃げできる個人という存在は国家にとって危険きわまりない脅威と化す。後釜となりうる企業が見つかっているなら尚更だ。

 政治にたいする影響力が薄かった旧世紀の軍需産業とは社会体制そのものが全くの別物になってしまっているのだから!

 

 

 ・・・しかも社長はこの計画に、愛する奥方様のご息女を当てられるおつもりだと話されていた。保身しか考えないバカな重役共があれこれ言っていたのを耳にされたのだろう。あのようなゲス共の戯れ言によって二度までも社長の幸せが奪われるなど絶対にあってはならない!

 愛する家族と暮らすささやかな幸せを満喫することさえ出来なくて、なにが世界の主産業だ! なにが世界第三位を誇るシェア数だ! くだらない! そんな物よりもっと大切な想いと言う物の存在をなぜ誰も理解しようとはしてくれないのか!? 世の中が間違っているとしか思えない!

 

 

 ・・・・・・だが、現実問題として我が社に後がないのも確かではあるのだ。

 なにかしらの方法で政府から支給されている助成金を確保し続けるか、あるいは何処か他のところから融資を受けられるだけのナニカを提供できないものか・・・・・・

 

 

「ーー《ラファール・リヴァイブⅡ》。起動テスト良好、出力安定。続いて操縦者の視覚とハイパーセンサーとを接続する際の身体チェックを行います」

「よし、はじめろ。言うまでもないことだが、操縦者の体に異常が関知された場合には即座に起動試験を中止し、医務室へとお運びするのだ。どれほど些細な変化であっても決して見逃すことは罷り成らん」

「了解しております」

「・・・お嬢様ーーいいえ、シャルルお坊ちゃま。頭痛などの痛みは感じられませんでしょうな? なにか少しでも違和感を感じられましたときには直ぐにでもジイヤが! このジイヤめが助けに馳せ参じますのでどうかお心静かに試験を終えられますように・・・」

 

 

 ・・・廊下の向こうから話し声が聞こえてくる。このお嬢様押しからしてジェイムズ老か。あの御老人も老いて尚盛んなものだが、それ故に尊敬に値する。

 あの忠誠心こそ臣下としての在るべき形。腐りきった形骸しか残っていないフランス騎士道精神を忠実に再現して貫かれる彼の姿勢にはほとほと頭が下がる思いを抱かされる。

 

 苦しいときこそ彼のように不動の忠義を保つが肝要。私も彼に習い、あの御方のいるとおぼしき方向に深く頭を垂れて臣下としての礼を尽くした。

 

 

 ーーその瞬間、私の頭上に天使からの福音が舞い降りた。

 

 

『あははは、大袈裟ですよジェイムズさん。それにボクは一年半後、日本のIS学園に男として一人で行かなくちゃいけないんでしょ? 男の子が怪我や痛みに慣れてないのは怪しまれますから過保護ぶりも程々に・・・ね?』

 

「お、お嬢様・・・。なんという優しいお心とお気遣い! 聞いたかお前たち! これほどに天使のような精神を持ちの御方にかすり傷一つ付こうものなら社の沽券に関わる! 十分以上に留意するように!」

「「「ラ・ピュセル! ラ・ピュセル! ラ・ピュセル! ジャンヌ・ダルクの再来に栄光あれ!!」」」

『あ、あはは、あははははは・・・・・・・・・』

 

 

 ・・・・・・私はすでに、それらの声を聞いてはいなかった。なぜなら私にはラ・ピュセルから神託がくだされており、聖女の願いを叶えるためにも手段を構築しなければならない使命を帯び、動き出していたからである。

 

 私は愚かだった。自分自身の狭量ぶりが恥ずかしい限りだ。

 お嬢様を道具に使うなど論外であるとする大前提に捕らわれすぎていた。お嬢様を構成しているすべてを道具にしないために、人としてのお嬢様を誤認してしまっていた。私としたことが、なんと未熟なミスをしたものだろう。

 今度の休みには懺悔のため教会に赴かなければならない義務を己に課し、私は携帯電話を取り出して“例の企業の関連会社”に渡りを付ける手はずを整えていく。

 

 我々が守るべきは社長ご一家とお嬢様方の生活、その全てである。それは間違いない。

 だが、お嬢様は人だ。人間だ。社長の愛されているお嬢様は、今は亡き奥方様と社長との間に生まれた彼女のことだけを指しており、お二方との絆を持たない形ばかりの形骸などにお嬢様を重ね見るなど不敬きわまりない人として最低の行いだと私は断ずる。

 

 絆とは記憶の共有によって生じるもの。共に歩んだ懐かしい体験談こそが互いの間で共有される思い出として昇華され、一介の記録データに過ぎない記憶とは一線を画するものと成りえるのだ。“入れ物だけ完璧に真似たとしても、中身が別人であるソレ”は本人ではない。別の人間なのである。

 性能だけ似せて造られたコピー品は、コピー品としての人生を歩めばよく、オリジナルに似ているからと言って同じに見るなどというい人道的行いは許されてはならないのである。

 

 

 しかし、その一方で今の世の中には“入れ物の性能だけ”を欲しがる人でなし共が実在している。

 戦争の道具として売って欲しいと申し出てくるバカ共のことだが、奴らはその手の情報をすべて高値で買い取ってくれる“都合の良いお客様”としての側面を併せ持ってもいる企業体だ。要らないものなら振っかけて売ってやるのも悪くはあるまい。

 

 本来、それらの情報はプライバシー保護と守秘義務によって厳重に管理されている。国家資産とも呼ぶべき個人の身体データともなれば言うまでもあるまい。

 

 だが我が社には“公式には存在していない事になっている”女性の専用機持ちが実在している。彼女のデータ“だけ”を売るなら、それは有りだ。商道徳には反していない。

 

 当然だ。“この世界に無い物を、実在してはいない企業に売買する”のは不可能なのだからーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日から一年半後。南半球にある無人島の地下基地にて。

 

「・・・ねぇ、ちょっとクソ少佐さま。これはいったい何の冗談なのかしら?」

 

 バサッと、ノックもしないで部屋に入ってきた黒一色な私服姿の少女は、上役である直属の上司のデスクに紙束を投げ出し、机の上にデカい尻を載せて睥睨するように見下ろしてくる。

 

 間違っても企業に所属している通常の組織人がしていい態度ではなかったが、この会社には実力主義、成果主義、結果主義という発展性を重要視した方針が社訓として掲げられており、無能者ならいざ知らず、目の前の少女のように将来有望すぎる金の卵には特別待遇が黙認されている。

 

 企業の忠実な駒でしかないことを自認している中年男性の上司殿には、上の決めた以降に逆らう意志など持つべき理由がない。

 内心では礼儀を知らない今時の若い女性的な態度にため息を吐きながらであるが、要請には応じてやった。

 

 投げ出された資料についての説明と、今回彼女にくだされた出向辞令についての両方を兼ねて。

 

「何だも何もない。見たとおりの物だ。まさかと思うが貴様の目にはこれが幼稚園で催されるお遊戯会の招待状にでも見えていたわけでもあるまい」

「アンタらアホの頭がアホなのは知ってるから、アホなこと言ってないで早く説明をはじめなさいよウザったいわね。骨まで焼き殺すわよ?」

 

 ・・・聞いちゃいねぇ・・・。

 先ほどと異なり、青筋立てまくりの上役に内心にみじんも興味を示すことなく少女は自分が投げ出したはずの紙束を再び摘んで持ち上げてヒラヒラと前後に振って見せながらリズミカルな口調とよく通る響きの良い声でそらんじる。

 

「『IS学園入学案内』? 『IS学園への転入手続き受領書』? アンタまさか、そういう趣味でも持ってたの・・・? うわ~・・・キモオタ中年マジ気持ち悪いんですけどー?」

「そういうゲスな勘ぐりをしたがるあたり、君もまだまだ子供のようだな」

「あれ? よく見てみたら私に名字が付け足されてたんだ。今気づいたわ。へぇー、中々いい響きの綴りじゃない。気に入ったわ、一応礼を言っておいてあげる。ありがと」

「・・・・・・・・・」

 

 誰か最近の若者たちに年長者の話を聞けるよう、最低限度の礼儀作法を叩き込んでおいてください、いやマジで。

 

 髭の少佐殿は自分のこめかみがヒクツキ出すのを感じはしたが、意志の力を総動員することで何とか押さえ込むことに成功した。

 

 茶を一杯飲み干してから、少佐は改めて目の前に座る『単純バカに』バカでも分かるよう噛み砕きまくった説明と解説をおこなってやることを決意する。

 社員を捨て駒として平然と使い捨てる超ブラック企業の支社長にしては常にない真摯さでもって最大限の礼を施してやった結果なのだが、少女に感謝の念は感じられず「とっとと話して早く終われ」と顔中に書かれまくった表情で上司を睨みつけてくる。

 

 ーー生意気な青二才が・・・!

 内心で歯ぎしりしつつも経験と実績を積んだ大人故の社会性でもって子供じみた怒りを押さえ込み、静かな口調で語り出したそれは昨今の変化しはじめた社会情勢に一石を投じるための布石についての説明だった。

 

 

「・・・君も知っていることだが『世界初の男性IS操縦者の発見報道』以来、IS社会には大きな変動の兆しがいくつも見受けられている。

 しかも、表には出されていない裏の事情をあわせるならば、ここ十年分の出来事をすべて一年間で凝縮してしまいかねない勢いでだ」

 

 元世界最強ブリュンヒルデの愛機と同じ武装を所持する織斑一夏専用IS白式がIS学園に届けられ、その直後に彼を追って中国代表候補生の凰鈴音が単身で来日。あわせて報告された件に寄れば織斑一夏が初陣にて惜敗を被った相手イギリス代表候補も彼と同調し、その周囲に侍っているとのこと。

 

「彼女も専用機持ちであることを考えるなら、現時点だけで最低4機の世界最高戦力が一人の個人の元に結集できる事を意味している。

 これは我が社が誇る精鋭部隊『モノクローム・アバター』を圧倒できる数だ。今は素人とはいえ、若さによる延び代を勘案するならば無視してよい存在では決してない。今のうちから楔を打っておくに越したことはあるまい?」

「・・・それで、私か・・・」

「歳が近い。少なくとも見た目はな。それに数値的にもごまかしが利く。誰も君を“生後一年半のバブちゃんだ”などとは予想だにしておるまい。だからこそ君が適任なのだ」

「・・・・・・ふん」

 

 少女はつまらなそうに鼻息を付くと、改めて資料に目を通し出す。

 ・・・見てから来たんじゃないのかよ・・・という上司の心の苦情にはまるで頓着していない。

 ペラペラと紙をめくって読み進めていく途中で気になる名前が目に留まったのか、一瞬彼女の視線が険しくなる。

 

 それを見逃すようでは“この企業の上役”は務まらない。

 

 中年の男はギラギラしたものを瞳に浮かべ、粘つくような口調と声音でねっとりたっぷり犯すように弄ぶように嬲り物にするかのような愉悦に満ち満ちた心底楽しそうな表情で嬉々としながら真相を少女に教えてやる。

 

「そう、君のーーいや、『君たち全員にとってのオリジナル祖体』シャルロット・デュノアが織斑一夏のチームには在籍している。君たちデュノアシリーズを生み出してしまった呪われた母親でもあるシャルロット嬢が・・・」

 

 彼の言葉に感銘を受けた様子もなく、無表情のまま資料を読み進めていく少女であるが、彼はその無表情こそ彼女が内心に秘めた劇場を物語っていると看破して“洗脳の最終工程を達成する”時が来たことを確信する。

 

「ヒドいものだよなぁ、人間という生き物は。見た目が同じ赤の他人をオリジナルを守るためだけに生み出して売りさばくのだから酷すぎる。余りに非常だ。余りにも外道な手口だ。我々“企業”としても看過できない」

「・・・・・・」

 

 ペラ・・・ペラ・・・ペラ・・・

 

「人間とは弱い生き物なのだよ、君。人、一人一人では生きていくことさえ難しい、それはそれは弱い生き物なんだ・・・。辛いこと、悲しいこと、苦しいことが多すぎる」

 

「己々が心に傷を持ち、それに耐えきることもできない脆弱すぎる精神しか持ち合わせていない、か弱い生き物・・・」

 

「そんな連中だからこそ人身御供に価値を見いだす。自分の代わりに苦しみを、痛みを、辛さを肩代わりしてくれる存在を本能的に求めてしまう。それがないと知った上でも尚、自分ではない誰かに救いと救済を求めようとする弱くて身勝手な最低最悪の生物でしかないんだよ君」

 

「理不尽だよなぁ、不条理だよなぁ。こんな世の中で自分一人にだけ不幸を押しつけられるだなんて許しちゃいけない非道だものなぁ」

 

「ーーだからこそ殺せ! シャルロット・デュノアを! お前のオリジナルを! お前を苦しみと共に産み落として捨てさせた女を殺してしまえ! たとえお前自身が、その身を犠牲に捧げたとしても殺すべき相手はシャルロット・デユノアと織斑一夏とその一党すべてをーーーー」

 

 

 バタン!!

 

 

「・・・!!(ビクッ!)」

「ーー任務は理解した。これより私はIS学園にイタリアから来た転校生『ジャンヌ・デュノア』として潜入する。戸籍はデュノア社を脅して作らせたものを使わせてもらうけど構わないわよね?」

「そ、それは構わない。もとよりそういう内容の指令で・・・」

「そ。じゃ、そういうことで任務了かーい。行ってくるから、祝勝会用にシャンパンでもダース単位で用意させとくように命じときなさい」

「ま、待ちたまえ!」

 

 足取り軽く部屋から出て行きかけた少女、くすんだ金髪と蜜蝋のように青白い肌をしていて、やや険が強い癖のある目つきだが、全体的にシャルロット・デュノアを彷彿させる容姿をもつ少女、デュノアシリーズ10000番目の個体にして唯一の完成品でもある『ジャンヌ・デュノア』は、男の制止に不愉快そうな表情で振り向き一言だけ聞いてやる。

 

「まだ何かあるの?」

 

 それだけだった。

 他の部下たちにも、心的外傷持ちが多い企業所属のIS操縦者たちにも自分の手口が通じなかった経験がない男は激しくプライドを傷つけられ、半狂乱一歩手前の表情で人差し指を突きつけながらジャンヌを詰問する。なぜ殺すことを誓わない、と。

 

「は? だって命令書には『殺せ』だなんて一文字も書かれてなかったし。殺さなくてもいい任務だったら、殺さなくてもいいもんなんじゃないの?」

「な、なにぃぃ・・・・・・?」

「つーか、殺して欲しいんだったら指令書にちゃんと書いておきなさいよ、入ったばかりの新米事務方じゃあるまいし。いい歳こいて文章すらまともに書けないとか笑っちゃうわよね。テラワラwww」

「き、貴様・・・・・・」

「だいたいアンタはいっつもいっつも、ヤる事が中途半端なのよ。憎めだの、殺せだの、正しさの犠牲だ、正義の矛盾がどうだとか七面倒くさいったらありゃしない。

 まったく。なんだった悪役気取りたいだけの子悪党は話が長くて理屈っぽいんだか・・・ほ~んとアホらし」

「貴様・・・貴様・・・貴様ぁぁぁぁぁ・・・・・・っ!!!!!」

「そんなに殺したいなら、四の五の言う前に殺しちゃいなさいよ。殺したいときに殺したい奴殺せなくて、なんのためのテロ組織だっつーの。組織の秩序だ、上下関係だとか言ってる時点でアンタもあっちとヤってることは同じ。

 正義と悪で戦いあってて楽しいでちゅね~。悪の組織ごっこはおもちろいでちゅか~? おっさん坊やちゃ~?」

「貴様・・・貴様貴様貴様ぁぁぁ!!!!」

 

 叫んで男は腰のホルスターから拳銃を引き抜き、ジャンヌの眉間に押しつける。

 『世界中を戦場に』。そのスローガンの元あつめられた企業の重役だけあって、元軍人の男の身のこなしはしなやかで淀みがまったくない。

 

 かつての部下たち相手にそうしたように、彼は彼女にも同じ事をして同じ事を言う。

 

『これは遊びじゃない! 人同士が殺し合う戦争なんだぞ!』ーーと。

 

 

「オママゴトヤりに来てんじゃねーんだよ俺たちは! 人を殺す度胸もねぇガキが一丁前の口を叩いてんじゃねぇーよ! 何様のつもりだこの野郎!」

「・・・・・・」

「いいか? 一度しか言わないからよく聞いておけ。俺たちは世界中で戦争してぇんだよ、近未来では世界中にあるすべての場所が例外なく戦場なんだよ。戦場で誰が誰を撃ち殺そうが構わねぇし問題視もされねぇ。それが戦場だ。子供のお遊戯場とは違うんだ!」

「・・・・・・・・・」

「わかったらとっとと行け役立たずの穀潰しめが! テメェの様な奴は屑だ。生きてる資格もねぇし、価値もねぇ。人を殺さない兵士に価値なんて在るはずねぇんだと思い知りやがれ糞尼がぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

「・・・・・・了解。じゃあまず、アンタから殺させてもらうわね」

 

 

 え。と男がつぶやいたときには既にジャンヌは自分の専用機を展開させており、戦闘用というよりかは趣味で取り付けさせている武装《火炎放射器》の砲口に男の顔を突っ込ませる。

 

 

 そして言う。

 

「世界中が戦場になるんだったら、当然この部屋も戦場になると仮定して構わないのよね? それでアンタは兵士で士官で軍人なんだから殺し合いに参加して流れ弾に当たって戦死する覚悟も当然持っているのよね?」

「あ、う、あ、その、あの」

「人を殺さない私に価値はないらしいから、アンタを殺して価値を認めてもらうことにするわ。幹部会には後で私から報告書を出させておくつもりだし、問題ないでしょ。スコールに代筆させてみるのも面白そうだしね」

「え、う、あ、お、ちょ、ちょっと待ってください、お願いだから人の話を聞いてくだ・・・・・・」

「戦場で敵がベラベラしゃべり終わるのを待つ奴はいなーい。勝手にしゃべって、勝手に終わらせて、勝手に殺してはい終了。それが戦場って事で。じゃね★」

 

 

 

 ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

「さて、と。そろそろ船が出航する時間か。スコールが見送りしてくれるって行ってたから急がなくちゃ。ーーああ、そこの警備兵のアンタ。後始末ヨロ」

「ひぃっ!? は、はい! かしこまりましたぁぁぁっ!!!」

「んじゃ、そういうことで私は行くわ。屋内での火の取り扱いには注意するよう張り紙出しとくのも忘れないようにねー。マッチ一本火事の元よー」

「は、はぁ・・・・・・・・・承知しました。ーーって、ひぃぃぃぃぃっ!?」

 

 

 ジャンヌの出てきた部屋に入った男がみたのは、黒こげの床に残った人型の跡以外に自分たちの司令官がさきほどまで生きていたのだという証拠がすべて焼き払われ焼失させられてしまった元司令官室。

 

 失禁しながら気を失った警備兵のことなど完全に忘れ去り、ジャンヌ・デュノアは友人と一時の別れの握手を交わし合う。

 

「それじゃ、赴任先でもがんばってねジャンヌ。ーーできれば私たちを裏切らない程度に抑えてね?」

「アンタの頼みだし、一応努力はしてみるつもりよ。期待しててちょうだい」

「・・・私としたことが、逆に不安を煽られる失態を犯しちゃったわね・・・。

 ーーひとまずの目標だけでも聞いてみてもいいかしら? 教えてくれたら一時だけでも不安を忘れられて助かるのだけれど?」

「とりあえずはオリジナルに挨拶してからね。その後に事はその後考えるわ。

 ーー殺したくなったら焼き殺すのも有りだし、気に入ったら企業を裏切ってソイツの味方になるのだっていい。生まれた理由はどうだろうと、自分の人生好きに生きなきゃ勿体ないから」

「気楽ね、相変わらず・・・・・・。それなら、もし私たちを裏切って敵の味方になったとして、そいつらが期待はずれだった時にどうするかまでは想定してみてるのかしらね?」

 

 少し意地悪な質問かな? そう思いながらスコールは年下すぎる友人の顔を見下ろしてギョッとする。

 

 彼女は子供のような笑顔でーー反抗期なひねくれ者の少女らしいイヤな感じの笑顔を浮かべて愉しそうに嗤いながら素直な気持ちでこう答えてきたのである。

 

 

 

「もちろん、殺すわよ。殺したいと思えるほどの期待外れっぷりだったらの話だけどね。別にそれほどでもなかったら普通に接して殺したくなったら焼き殺して終わり。殺さずに済んだらおめでとうございまーす・・・って、感じかしら?

 私にとってはどちらだっていいのよ。一歳半の子供な私にとっては面白いことが一番大事なんだもの。企業側だろうと学園側だろうと面白そうだと感じた方に味方するわ。だって、それが一番楽しく生きられる人生な気がするじゃない?

 ――やりたい時に殺りたい奴を殺れるのが、私にとって最良の人生ってヤツなんだから・・・」




告知のようなもの:
思いついてたけど書かなかった奴を書いてみた第2弾はFF6がやりたいです。

尚、一番下に置いとかないと誰にも知られぬまま終わってしまうので今はまだ『一話しか思いついてないもの』に入れてませんが、その内に移すつもりでいます。


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織斑一夏の空(カラ)の妹

先日来『四季ちゃんIS』を書き続けていたのですが、一本ぐらい真面目なシリアス風味で書いてみたのがあってもいいんじゃないかと思い書いてみました。

偶には凝り固まった頭をほぐすためにも気分転換は必要です(ふんす)


 ーーオレには同い年の兄がいる。

 織斑一夏というのが、そいつの名前だ。姉もいるが、しばらく帰ってきてないし無視して問題ないだろう。居なくて問題が起きてない人間は居ないものとして扱っても問題は起きない。

 

 必要なのは生きて働いている事実であって、オレたちに会うため家に帰ってくる事じゃない。養われてる側から見た保護者感なんてその程度のものだろう。

 

 同い年の兄姉ではあるが、オレと一夏は双子じゃない。

 一夏が四月生まれで、私は三月。少なくとも戸籍上の記述ではそう言うことになっている・・・らしい。

 

 嘘か真か、オレは知らない。興味もないから解らない。案外、姉の方の幼馴染みが細工してっただけで、オレも兄貴も人間ではない人外の化け物か何かなのかもしれないが、そんな詰まらない話に夢中になるほど物好きになった覚えもない。

 

 仮に自分が世界を滅ぼすために生み出されてきた化け物だったとしても、それを知ったところでオレ自身になにか変化が起こるという訳でもない。

 真実をひとつ知ったくらいで人が別人に生まれ変われるなら、オレは連日連夜放送されてるクイズ番組を観る度に生まれ変わらなくちゃならなくなる訳だ。

 転生の神様は大忙しだな。ブラックで結構なことだ。そのままクタバれ糞爺。

 

 

 人は誰でも早く大人になりたがるものらしい。だがオレは、子供の時から今一つその感情が理解できなかった。

 

 なんだって早く大人になって、早く寿命を迎えたがるんだろうか? そんなに死にたいなら首でも突けば今すぐ死ねるのにと、オレは昔から思ってる。

 

 よく映画やマンガに出てくる自分の出生について調べている主人公の語りを聞く度に不思議がってきたオレには、きっと一生かかっても理解できない類の謎なんだろう。

 

 兄の一夏も物好きなことに、それら早く死にたい類の人間だ。

 早く大人になって姉である千冬を手助けしてやりたいのだと、中学の時点で早朝の新聞配達やら個人経営の飲食店での従業員やらをやってはバイトの真似事に明け暮れる二年間を過ごしてきた。

 

 昭和じゃあるまいし、中学生が働いてくれたとして本気で喜ぶ経営者なんて今時実在しているはずもない。

 

「却って迷惑になるだけだから、家で勉強でもして良い就職先でも目指した方が千冬の負担も減るんじゃないのか?」

 

 オレはそう言ってみたのだが、あのバカの耳には届かないか聞こえていないのか、あるいは理解したくないだけなのか。

 とにかく一夏は受け入れることなくバイトもどきを続けて、影ながら姉に世話をかけさせ続けてた。

 だが、一年ほど前からは藍越学園に進学するための受験勉強という口実を手に入れて自宅に縛り付ける事に成功している。

 なんとも傍迷惑きわまりないバカ兄貴だった。

 

 

 ・・・・・・要するに、オレたち織斑姉弟は、人間的にどこか壊れているんだろう。

 だからこそ、普通の奴らから見たオレたちは歪んで見えていて、壊れてヒビが入ったフィルターを通してしか人も世界も見ることが出来ないオレたち兄姉には間違ったものだらけな世界としか写らないのだろう。

 

 

 だが、オレはそんな一夏のヤツが嫌いじゃない。むしろ好きな部類に入るんだろう。壊れている者同士の共感というヤツだ。

 もしくは同じ穴の狢、仲間同士の庇い合いと言い換えても良い。同類同士だからこそ、そうじゃない奴らよりかは仲間意識を感じやすくて楽で良い。

 

 

 なにしろオレは極度の人間嫌いだ。子供の頃からどうしても奴らが好きになれなかった。救いがないことに人間嫌いのオレ自身も人間なのだから自分でさえ好きにはなれない。大嫌いなままだ。

 

 そんなオレから見てさえ人間的に壊れている兄が側にいるのは、素直に愉しいと感じれた。人になれない人間モドキが人間たちに混じって過ごせばこういう眼で見られるのだと観客気分の他人事として見物できるのは、一人だと味わいようがない面白さを教えてくれる。

 

 オレは、オレを愉しませてくれる兄のことが好きだ。見ていて飽きがこなくていい。

 

 オレは一夏が、正義を理由に人を殴るのが好きだ。

 相手のことをバカだ餓鬼だと罵りながら、殴る蹴るで苛立ちを解消しないと満足できない自分をバカだとも餓鬼だとも思わない愚劣さが堪らない。吐き気がしてくるほどに。

 

 オレは一夏が、相手に気を使って合わせてやってるのを見ているのが好きだ。

 自分の言葉が相手にどう聞こえるかなど考えもしない気遣いには頭が下がる。最悪だ。反吐がでる。これだから織斑一夏の妹はやめられないと心の底から思い知れる。

 

 オレは一夏が、敵対している相手のことさえ『守ってやる』と告げる所が好きだ。

 誰だって自分より格下の相手を守ってやるのは気持ちがいい。快感だ。自分の物ではないうちに殴った相手であろうとも、自分の物になった後には殴りたくなくなる気持ちもよく解る。

 自分のために人を守ろうとするアイツの正義感は、見ているほどに心の内から熱くなる。昂まりを覚えさせられる。

 

 

 オレは、一夏のバカ兄貴のことが好きだ。

 好きな理由は単純だ。

 歪んだあいつを好きでいることは、壊れた自分を好きになることに繋がるかも知れないからだ。

 壊れて歪んだ人間モドキである自分のことが嫌いなオレだが、類似品で方向性が異なるだけの矛盾した正義バカを愛し続ければ、いつか自分のことも好きになれる日が訪れるかも知れないから。

 

 ・・・・・・ああ、そうなのかもしれない。そう言うことになるのかも知れない。

 

 そう言うことにしていけば、オレは自分に恋するために一夏に恋しているだけなのかも知れないな・・・。



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悪のIS操縦者になっても「レッツビギンで御座います!」

帰宅途中に何となく思いついたから書いてしまった、アホすぎる主人公によるアホなIS二次創作。「ナースウィッチ小麦ちゃんまじかるて」とのコラボ作品です。

主人公は、マジカル冥途こよりちゃん(偽)
ノリと勢いだけで悪を貫く、常時ハイテンション過ぎる女の子です。

*解り辛かったので改題しました。


 IS。それは、すべてのIS操縦者の夢を叶える存在。

 その人が見ている夢を具現化し、やがては操縦者そのものとして本人と入れ替わることを目的とする歪な願望器。

 それによって見せられた己の醜さに耐えきれず、「消えてしまいたい・・・」と願った一人の少女が足掻き苦しむ可能性世界の未来が実在しているようにーーー。

 

 

 が、しかし。しかしである。

 世の中を生きるほとんどの人たちは、そこまで自罰的でもなければ己の欲望に拒絶反応を起こしたりしない。

 ふつうの感覚を持ってる人なら大して気にしない『己の悪』を受け入れることのできない人間だけが高IS適正値を計測されるのはシンプルに『偶然』でしかない。

 

 ならば、純粋な人間だけが高適正値を出し続ける偶然があるのと同じように、『不純な人間が高適正値を記録してしまった偶然』があっても悪くはないと思うのだ。

 

 

 そんな『悪の偶然』によって誕生してしまった『己の悪を知って受け入れたIS操縦者』。それが彼女である。

 

 

 エスカレーター式で大学までフォローしてもらえる名門中の名門『聖マリアンヌ女学院中等部』に通い、二年時には生徒会副会長まで勤め上げてたバリバリのエリートにして、自らの内に潜む穢れを知らない箱入りお嬢様。

 

 そんな彼女が高等部進級を直前に控え、エスカレーター式のため体調管理にのみ気をつけていればそれで良いとされる二月のある日に、政府がIS操縦者を募集する一環として実施している『IS簡易適正検査』を見つけ、お財布は家に忘れてきたけど「タダでいい」と言われたから試しに受けてみた結果、元世界最強ブリュンヒルデ織斑千冬を含む超少数しか確認されていない『Sランク適正保持者』であることが発覚してしまう。

 

 政府は迷う。如何に優秀なIS操縦者の数が、そのまま自国の国力を表すパラメーターになっている時代とはいえ、自分たち女尊男卑政党が何も知らない無垢な少女をだまして政治に利用するなど、果たして許される行為であるのだろうか・・・? ーーと。

 

 

 政府は迷った。一瞬だけだけど迷いはしたので嘘じゃない。

 反対意見が出た三秒後に決を取り直したら全会一致で政治利用が可決されたけど、三秒前には反対票の方が多かった訳だから決して嘘は言っていない。

 

 嘘つきは泥棒の始まりであり、権力と法によって支配している民から盗みとる最低最悪の盗賊たち『腐った権力者』側にしてみたら「国家が優先すべきなのは国益! そのために、個人のちっぽけな生命や権利なんて惜しむべきじゃない!」という主張は建前じゃなくて本音なので嘘を言っているつもりは欠片もないのだ。(ただし、「国家=自分たちの権力」という図式が成立する場合に限られる)

 

 

 テレビ中継が終わった後の主要な閣僚メンバーだけで行われた密室国会によって答えを出した日本政府は、早速行動を開始。少女に対して「きわめて希少な『Aランク出たよ! よかったね♪ おめでたいからパーティーをしましょう』という趣旨の内容を書いた招待状を出し、前後して両親に裏取引を持ちかけての買収に成功。

 愛する愛娘の豊かで幸せな将来を願った両親は、泣く泣く政府が提示してきた額の『三倍』で手を打たされる。

 

「許してくれ、私たちの愛する一人娘よ! 御上に逆らって生きていけるほど社会というのは甘くないのだ・・・!」

 

 夜空を見上げて涙を堪え、握りしめた拳の中から大量の札束を形が崩れないよう注意しながら大事に大事にアタッシュケースに詰め直した両親は、悲しい思い出だけが残る悲劇の故郷を捨て、アメリカに渡米。後に政府からもらったお金を元手にIS企業を経営して大成功を収めますが、別の話なのでどうでもいいです。飛ばします。

 

 

 商道徳に基づき、所有者である両親から了解を得た上で購入した高額商品を、政府は最大限有効活用する方針で動き出す。

 金で買えない物が存在することを、むろん彼女たちは知っている。

 だが、現実問題として彼女は『金で買えたからここにいる商品』なので、

 

「価値に応じて買った商品を、買った私たちが好きに使ってどこが悪い?」

 

 という屁理屈を否定してくれる正義の味方は今の日本に実在していない。いない奴から助けが来るはずないので、政府の行動ターンは継続される。

 

 次に彼女たちが用意したのはISだ。

 それもSランクが乗るに相応しい専用機を少女に与え、起動の仕方を優しく指導して自分から起動ボタンを押させる。

 

 たとえ量産機であろうとISは希少だ。だからこそ専用機は、もっともっと希少だ。

 

 それこそ出所不明、開発者には戸籍がなくて名前は偽名、いつどこで誰が持ってきてたのか政府は把握してない秘書が持ってきただけの、開発元に問い合わせたらアパートだったISコアであろうとも『第三世代専用機だから』という一点だけを理由と根拠にして未登録のコアを民間人の少女に政府が譲渡してしまうぐらいには希少価値が高すぎる存在なのである。

 

 

 それらの結果、こうなりました。

 

 

 

「オーーーーーホッホッホッホ!!!! なるほど・・・これが、これこそがワタクシの本性だった訳で御座いますわね!

 今までの優等生でよい子ちゃんだったワタクシは嘘偽りだった。自分を押し殺していただけで、本当のワタクシは欲望ダダ漏れ、怠惰でグータラなダメ女に過ぎない・・・・・・そう!

 救いようのない、なんちゃってお嬢様でしかなかったという事なのですわね! オーホッホッホッホォォッ!! ーーぐぇっほ、げっほ・・・はぁはぁ・・・わ、笑いすぎて喉が詰まりかけて死ぬかと思いましたわ・・・・・ISの操縦者保護システム超便利ですわね」

 

 

 人間が生まれ持っているとされる己の中に秘めた欲望ーーーー

 

 強欲、

 色欲、

 暴食、

 怠惰、

 憤怒、

 嫉妬、

 虚飾。

 

 それら全てを『お前も持っているのだ』という事実を突きつけることにより、苦労知らずで人を信じることしか知らない、けれどもISが求める生体融合しやすい高適正保持者としての肉体を持った少女の心を一足飛びに奪い取ろうとしたのだが、いささか以上に想定外過ぎる事態が発生してしまう。

 

 

 先に述べた七つの悪徳、七つの欲望、七つの罪、人が生まれ持った七つの大罪。

 それら全てを貪り食らって悦に入る自分の姿を幻視させられた彼女は気づいてしまったのだ。とある絶対的な真実に!

 

 

「人が持つ欲望・・・それらすべてを併せ持つ絶対悪の存在・・・・・・それ即ち『現代日本のニートな若者たち』ということで御座いましょう!?

 ならば七つ全てを持つワタクシは、七つ全てを極めることにより伝説のニート戦士、ニートチャンプになることを目指してご覧に入れる運命にあるのです!」

 

 

 完全に明後日の方角へと勘違いしまくった少女は、ドン引きしながら差し出された政府からの命令書を引ったくるように受け取り、読み終えたら突き返して横柄な態度と口調で右手の平を上にして差し出す。

 

 

「ようするに、この前見つかった世界初の男性IS操縦者のオポンチサマーが万が一にも活躍してしまうと女尊男卑政党としては都合が悪い。

 だからと言って、暗殺なんてドラマみたいな手は使いたくねぇ。

 よろしい、ならばクリークだでぶっ倒して手柄立てるの邪魔してこい、って事で御座いますわね? 任務了解しましたわ。なので金と権限と適当な肩書きをお寄越しなさい。

 あ? なんで国家権力が介入できないIS学園生徒になるのに、そんな物が必要なのかですって? はっ! どうせ建前に過ぎないので御座いましょう? 今時その程度のこと小学校に通っている生意気だけが取り柄の馬鹿ガキちゃんでさえご存じです事よ。

 それから、どんなに危機的状況にあっても金があって困る社会なんて人間には作り出せないで御座いましょう?

 なればこそ! ワタクシが出来る限り楽して戦って任務遂行さえすれば勝てなくても良くなるように、権力と肩書きと権限とお金をプリーズですわ! プリーズ・オア・デスですわ! 世界最強ISまとった今のワタクシに殺されたくないのであれば、とっとと有り金はたいて未来のニートチャンプになるワタクシに相応しい地位をご用意なさいませで御座います! ピシィッ!!」

 

 わざわざ口で効果音を発しながらIS武装の鞭を振るう『悪のIS操縦者』になった少女は、翌週にはIS学園へと向かう。

 

 織斑一夏の活躍を妨害するため、邪魔するため、足を引っ張ってやるために。

 

 そして、政府所有の建物で三食昼寝付き、光熱費も生活費もすべて税金でまかなってくれる理想のニートライフを送るために。ただそれだけの為に!

 

 

「待っておいでなさい理想のニートライフ! いやさ、織斑なんちゃらかんちゃら様!

 今、ワタクシが参ります! ワタクシがあなたの元へと参ります!

 あなたを邪魔して寄生して、理想のニートライフを満喫するために!

 待っていてくださいましね! ワタクシの理想の旦那様! 妻になるつもりは皆無なれど、一生つきまとう気満々な女が今参ります!

 専用機《ヴァルシオーネ・ウィーゾル》始動! 漢字名は難しいから読めませんでしたが、それはともかく! レッツ・ビギンで御座います!!!」

 

 

 

 こうして、最強のニートにして伝説のニートチャンプを志す少女『天魔こより』の戦いと自堕落に訓練を怠ける日々が始まった!




主人公の主張:

「この世すべての悪とは、全人類を善と悪に二分して戦わせ続けてサボらせてくれない、正義の事でございます!」


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IS英雄伝説(笑)

休みだから何となく書いてたらできたアホ作品です。
以前に出した『我が征くはIS学園成り!』のハイドが主人公。別設定でのお話です。
基本的に彼女は勢いだけの存在ですので、考えて読まない事をお勧めさせてもらいます。馬鹿らしくなるだけなんでね・・・。


 IS。それは十年と少し前に起きた『白騎士事件』とともに現れ世を変えた、女性しか動かすことのできないパワード・スーツ。

 

 現在、そのISを動かす操縦法を学べる場所は公式的には日本のIS学園だけである・・・・・・。

 

 

 

 

「ーー納得がいきませんわ!」

 

 教室内に高く響く、鈴の音がごとき女声。

 育ちの良さと品の良さを感じさせるドレス風に改造された制服をまとった金髪碧眼の少女が自席から立ち上がり、教室内で唯一の男子生徒に向けて人差し指を突きつけながら宣言する。

 

「そのような選出の仕方は認められません! 実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然なのに、物珍しいからと言う理由で極東の猿にされては困ります!

 わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるつもりなのですか!?」

 

 ・・・IS学園1年1組に配属が決まった生徒の一人にして英国貴族の代表候補生、セシリア・オルコットはあまりにも不真面目すぎる級友たちに激高していた。

 入学式を終えた一日目の三時間目、『各種装備と特性についての説明』の授業を始める前に担任の織斑千冬教諭から持ち出された『クラス対抗戦に出る代表選考』。

 

 一年生とは言え世界を目指す志の高さが求められていたイギリスのそれとは違い、日本人の合理性は徹底していて「どうせ実質雑用係りなんだからネームバリューだけで選べば良くね(半笑い)」・・・スポーツと戦争にはまじめに取り組む英国貴族としては到底黙ってみている訳には行かない状況だった。

 

 だから喧嘩を売った。事の要因、織斑一夏に。世界初の男性IS操縦者に。人が苦労して入った学校に「入りたくて入った訳じゃない」などと嘗め腐って甘ったれたボーヤ台詞を堂々と吐きやがったサムライボーイに!

 

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

 売り言葉に買い言葉。

 今日はじめたばかりの分野であろうと居丈高な態度で上から目線に接してくる先輩キャラには反発しなければならないと言う、主人公気質が持つ呪いを生まれ持ったド素人少年織斑一夏にとって勝負とは「買ってから考えるもの」なのである。

 

 

 本来であるなら、この二人の一騎打ちに進むのが王道展開と呼ぶべきなのであるが、今この場に限り余計な異分子が混ざっているIS学園1年1組において常識的展開を期待してはいけない。

 

 なぜならクラスの中に、超級の空気読めないスキルをマスターした英雄候補が混じっていたのだから・・・・・・っ!!!!

 

 

 

「この私を前によくぞ言った! 誉めてあげよう! 二人まとめてかかってきたまえ!

 この私、ドイツの代表候補生にしてナチス残党と日本陸軍残党が手を組んだ秘密組織が世界征服計画のため共同で作り上げた究極の人造人間『シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ』がお相手つかまつる!」

 

 

 

「「・・・いや! いやいやいや! 暴露しすぎ暴露しすぎ! あなた(お前)言っちゃいけない裏プロフィールまで全部いきなりぶちまけまくっちゃってるよ!?(ますわよ!?」」

 

 

 一夏とセシリア、同時ツッコミ。

 世界中ほとんどの人が知らない秘密組織が極秘裏に進めてきた世界征服は、計画の中心であり最重要ポジションにあるべき組織最強のIS操縦者自身によって暴露され、後日本部ごと制圧されることになる。

 こうして世界の平和は人知れず守られた。クラス内で起きた些細なもめ事に巻き込まれるというアホらしすぎる手法によって・・・・・・。

 

 

 

 しかし、自分の属する組織を売ったというか、タダで溝に捨てた少女は悪びれない。

 いや、むしろ胸を反らして偉そうにしている。無い胸を。小さい胸を。ペチャパイを。

 堂々と反らして天高く向けながら恥ずかしげもなく偉そうなポーズで再び断言!

 

 

「英雄を志す者に秘密など不要! 私は自ら戦いを挑んだ相手に隠し事をする趣味など持ち合わせておらぬ!

 このハイド、剣はしょせん敵と戦うためにあるものと心得る者である! 剣を権に変える外道に用は無い!」

「お、おう・・・。なんか微妙に格好いいな・・・」

「ですわね・・・。やってることは単なる利敵行為というか、味方を見殺しにしただけですのに台詞だけで騙されそうな迫力がありますわ・・・」

 

 一夏とセシリア、変なところで意気投合。

 しかし意識しているわけではないので、勝負自体には影響しないぞ!

 

「勝負は一週間後! 場所は空いてるISアリーナで! 試合形式は総当たり戦で一番白星の多い者が勝ち! 各々方、よもや依存はあるまいな!?」

「もちろんだ! 俺が全員倒して全勝してやるぜ!」

「元より二人まとめて相手して差し上げてるつもりだったところ・・・異論などあるはず御座いませんわ!」

 

「よしっ! では、次の対決は一週間後の今日、決戦の場で決着をつけるべき時に!

 それではーーー勝利の栄光を我らの手に! ジーク・ハイル!」

「イギリス万歳! 大栄帝国の栄光よ! 永遠なれ!!」

「男の意地を見せてやる! やぁってやるぜぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」

 

 

 ・・・盛り上がりまくるアホと、アホに巻き込まれてアホになってるアホ二人。

 それを遠くから眺めながら届かない思いと承知で声をかける織斑千冬センセー。

 

 

「おーい? お前らー、それ許可出すのも取るのも私の仕事だって知ってるかー? 知ってたとして覚えているかー? もしもーし? ・・・・・・やはり血気にはやる若者達の耳には、私たち大人の言葉は届かないのか・・・・・・無念だ!」

 

「センセー? 現実逃避はいけないと思いまーすよ~? にゃははは~♪」



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“剣だらけ”がIS学園にやってきた!

数週間前に思い付いて途中まで書いてた短編です。バトルシーン以外は出来てましたし、バトルシーンの内容も思いついてたのに書けてない現状から見て今後も書かない可能性が高そうだなーと思い、『完成してから』という予定を繰り上げにして投稿しておきますね。

『ナイツ&マジック』に出てくるグスターボもどきが主人公のIS短編です。
一夏の男の幼馴染みとして出てきます。少しだけBL要素?がありますのでお気をつけて♪


「おーりーむーらーくん! 俺と一緒に斬り合いしーーましょっ!!」

 

 

 ・・・夏休み前の初日。IS学園校門前で、一人の“男”が叫び声をあげていた。

 いや、正確に言えば学園に所属する生徒の名前を呼んでいるだけであって、無意味に叫び声をあげたがるアブナイ人と言うわけではない。たぶんだけれど。

 

 髪型が変だったり、しゃべり口調がおかしかったり、服装が頭おかしかったり、着ている服の至る所にベルトに巻いた刀を鞘ごと取り付けまくっている時点で異常者確定してもいいレベルなだけで、必ずしも悪人ではない・・・と、思いたい。

 

 

「おーりーむーらー、いーちーかーくん! 出てきて俺と一緒に遊ぼうワンサマー・ディープブルー! 剣の世界で剣と握手! 世界中が剣であふれてる!」

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!!!」

 

 耐えきれなくなったので止むを得なくと、言葉以上に雄弁に語ってくれている表情を浮かべながら織斑一夏は、IS学園校舎の中から飛び出すように走ってきている。

 

 どどどどどどどどどどどどどどっ・・・・・・キキーーーッ!!

 

 

「ーーなんの用だ! 好夜! 俺とお前との関係は小学校卒業と同時に切れたはずだぞ!」

「おうおう、偉れぇ言われようだなオイ。あんなに激しく俺っちのエクスカリバーを叩き込まれても腰砕けることもなく応じ続けたお前さんらしくもない。

 俺っちとイチカっちは一蓮托生、決して抜けない鉄の塊で刺し貫きあって両思いし続けてた仲じゃねぇか」

「人聞きの悪い言い方をするんじゃない! お前が一方的に俺に絡んできて、毎日毎日“やらせろ、やらせろ”うるさくまくし立てまくってただけの関係だろうが! 俺がお前なんかのことを思ってたことなんて一瞬たりとも存在しない!」

 

 

 ・・・・・・この二人、これでも一応まじめにシリアスに小学校時代の剣道勝負について話し合っていたりする。

 誰がどう聞いてもイカガワシいバラ色妄想しかしそうにない会話内容だったし、事実として二人の周囲には死屍累々となって倒れ込んでる鼻血の池地獄に沈んだIS学園生徒の女子たちで取り囲まれてる訳なのだが、それでも彼らにとってはこれが普通で日常的なやり取りの末での光景なのである。

 より正しくは、『小学校時代までの普通と日常』と表現すべきなのだろうけど・・・。

 

 

 ーーーこの少年の名前は『剣岳好夜(けんだけ・こうや)』。

 一夏とは通っている小学校が同じだった少年だ。

 箒が一夏に惚れた二年生時の『クラスのバカ男子二人による大人げない事件』勃発以降、クラスで孤立していた一夏に自分から話しかけてきた数少ない人物の一人であり、学区が違ったことから中学進学時に別れ離れになった昔馴染みでもある。

 

 友達ではない。絶対にない。断じて違う。ーー少なくとも一夏はその様に確信している。

 

 なぜかと言えば、この少年。出会ったときからと言うか、一夏に話しかけてきた目的自体が“殺し合うこと前提”というトチ狂った狂人思考の持ち主だったからだ。

 

 

「おう! オメェさん、“俺斑”ワンサマーって言うんだって? まぁ名前なんてどうだってェいいんだが・・・この前の啖呵は大したもんだった! 荒削りだが凄まじい『剣気』を感じて俺っちとしたことが思わずブルってワクワクしてきちまった程だぜ!

 オメェどこかで剣を習ってるだろ!? それもトンでもなく強ェ剣士の師匠に教えてもらっていると見たぜ! くぅ~っ!! 羨ましいなァーおい!

 なぁ! 頼むから俺と剣で手合わせしてくれないか! 頼むよ! 一度だけでいいからさ! 一生のお願いだって奴だからよーーーーーーーっ!!!!!!」 

 

 

 ・・・こんな感じで始まった二人の馴れ初めは、好夜からの一年に三百六十五回以上ある『一生のお願い』によって延々と継続させられ続けて今に至っている。

 

 

 言うまでもない話だが、好夜は普通の人間である。一夏のように特殊な背景は持ってないから当然のようにIS適正を持ってもいない。

 

 中学を卒業して高校生になり、男でありながら“女しか動かせないはずのISを動かせた”ことにより、それまで完全なる女子校だったIS学園に特例中の特例として入学を許された織斑一夏と、今も昔と一切変わらないまま剣だけを極めるため、ただそれだけを理由に生きている『男の幼馴染み』なだけで普通に生身の少年である好夜。

 

 束の介入することのない二人の関係性は時に距離が置かれることもあったが(主に進級によるクラス替え等が理由)それは互いが互いの腕を高めあう自主トレーニングの時間でもあり、相互の実力はそれほどの差が生じることはなかった。

 

 つまり今の一夏は世界最強の『刀』を使うことが出来るようになっていて、好夜は普通の剣しか使うことが出来ない生身の人間なままなのだ。

 

 

「ーーと言うわけだから、昔みたいにまた俺と戦おうぜィっ! もちろん俺は剣! イチカっちは少し前にてに入れたって言う『ヒャクシキ』って名前の剣を使ってな!」

「んなこと出来るか大バカ野郎ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

 

 

 一夏、渾身の雄叫び。

 

 艦隊を撃退し、戦闘機を撃墜し、ミサイルを切り落としまくって世界をひっくり返した超越存在IS。

 世界最高戦力を手に入れた今の一夏が、剣を持ってるだけの生身の人間相手に戦ったりしたら蹂躙である。もしくは虐殺である。虐めでもなければ虐待にも収まらない辺りが本気で洒落になってない。

 

「・・・朝っぱらから何の騒ぎだ織斑。近所はなくとも騒音を出すのは近所迷惑と捉えるべき時間帯だぞ」

「はっ! 千冬姉! いいところに来てくれた! 実は好夜の奴がーーごはぁっ!?」

「織斑先生と呼ばんか馬鹿者。あと、さっきも言ったが騒音は近所迷惑だ」

 

 

『え、いま怒るべきポイントそこなの・・・?』

 

 

 無事だった薔薇趣味のない女子生徒たち(つまりは百合趣味の持ち主たち)は至極冷静に心の中でツッコミを入れていたのだが、声に出す者は一人たりともいなかった。

 千冬に心の中でツッコミを入れてた全員が『千冬に自分が突っ込んで入れる』というワードに燃えたぎり、心の中のエクスカリバーがギンギンになっていたからである。

 

 

 なんかもう色々と、どうしようもなかった!

 

 

 

「まぁ、いい。ところで織斑、少しだけ顔を貸して着いてこい」

「・・・へ? あの、ちょっと千冬姉? 俺まだ好夜を追い返してないーーーーー」

「いいから来い! それとも、倒されて引きずられながら運ばれる方が好みだったか!?」

「イエス・マァム! 喜んで随行させて頂きます織斑先生!」

 

 微妙に軍人っぽい口調で応対する織斑姉弟。ラウラが来てからと言うもの、千冬は明らかにドイツ軍で教官をしていた頃の癖がぶり返してきているのだが本人にその自覚は余りない。

 学生たちのやる気と質に差がありすぎるのが原因なので、教える気満々の織斑先生的には仕方がない部分もあるのだが、変なところだけ極端に身内贔屓な性格故に一番それをぶつけられまくっている一夏にとっては多少成らず迷惑きわまりなかったので抑えてほしいこと山の如しな心境である。

 

 

 空気を呼んで大人しくその場で待つことにした剣岳を置いたまま、二人は校門脇にある守衛の宿直室を(学園教員の特権行使で)借り上げると、向かい合って顔を付き合わせ、千冬は一夏の肩を組む。

 直近まで引き寄せられた一夏の目の前に綺麗すぎる千冬の顔が来てドキリとさせられたが、そこは彼女も織斑一夏に血を分け与えてるオリジナル祖体である。色恋沙汰には一夏よりマシに見えて自分事に関しては同レベルでしかない。

 

 要するに、一夏の思いと同様には欠片ほども気づいてもらえずスルーされて軽く凹む。「俺って男として見られる価値ないのかなぁ~・・・?」と。

 自業自得。因果応報。そんな単語が頭に浮かぶべきヒロイン勢は残念ながら今この場に一人もいない。ーー残念! ズバァッ!

 

 

「(ヒソヒソ)織斑、公式の場でアイツと戦って倒せ。無論、ISを使っての全力戦闘でな。アリーナの使用申請は私が何とかしておいてやるから」

「はぁっ!? なに言ってんだよ千冬姉! IS使って生身の人間相手になんか出来るわけねぇーーはぐっ!?」

「話は最後まで黙って聞けバカ弟! あと、学校では私のことは織斑先生と呼べと何度言わせたら気が済むんだ!?」

「・・・・・・コクコクコク(「自分だって今、俺のこと“弟”って呼んだくせに~」とは言わない微妙な賢弟)」

 

「うん、よし。ーーー実は昨日、中学時代の知り合いからメールがあってな。アメリカ軍がサイボーグ技術を完成させて軍人の一人をサイボーグ戦士に改造することに成功したらしいと」

「・・・!?」

「しかもアメリカ軍は、そのサイボーグ戦士を日本に送り込ませてIS学園絡みの極秘作戦に従事させる予定らしい。

 そうするよう指示した内容の命令書をシュレッダーにかけられて裁断されてたから復元した、中学時代のクラス委員長から情報屋でそば屋でもある元アメリカ軍人を経由して教えてもらったからまず本当だ」

「それが本当なら大変じゃないか・・・!」

 

 あと、千冬姉の通ってた中学校はもっと大変だったじゃないか! IS学園なんて目じゃない魔境じゃないか!

 そんな場所で青春謳歌したから目つきの悪い「あー、この人五人か六人くらい人斬り殺してそうだな~」とか近所に住んでたゴスロリ服のお姉さんに酷評されるようになったんじゃないのか!?

 

 ーーとも言わない、空気が読めるファインプレーワンサマー。今日の一夏は何かが違う。主に頭の中身とテンションが世界観的に。

 

「だが、サイボーグ戦士の容姿と性別と性能と名前の部分までは復元中とのことだったから続報が届くのを宿直室で待っていたのだが・・・・・・ビンゴだ。

 織斑、アイツもしかしたらサイボーグ戦士に改造されているかもしれないぞ?」

「!? 好夜が・・・サイボーグ戦士に改造されているだって・・・!?」

「まだ可能性の話でしかないがな・・・しかし、考えてもみろ。いくらアイツが剣で戦うことしか頭にないキチガイ剣士だからって、生身でISに勝てると本気で思うほどのバカが、この世に実在しているはずがないだろう?」

「それはまぁ・・・・・・確かに?」

 

 思わず疑問系で納得してしまう。

 ふつうの相手である限り千冬のいう主張は適用されるだろうと、身贔屓なしで一夏も得心できただろうと思いはするのだが。

 

 しかし、相手は“あの”剣岳である。この世の絶対法則やら万物の森羅万象やら地球を支配している物理法則すらもねじ曲げておいて、

 

「あったりまえじゃねぇーか! なにしろ剣なんだからな! 剣が自然になんざ負けて堪るかってんだよ!」

 

 ーーなどと本気で言い出しそうな所があるから、常識を信じきることができないのである。

 こと剣に関係している事柄において、一夏は(一応)幼馴染みの剣岳を信用している。絶対に『自分の信じたい思いを裏切る』奴だと心の底から信じている。

 

「奴がサイボーグ戦士でないなら別にいい。目前まで接近して白刃を突きつけられたら降参するしかないのだし、仮に見苦しく足掻いて負けを認めないと主張するなら剣を折ってやれば事は済む」

 

 だから一夏は、今日ばかりは千冬の意見に異論なく賛成することが出来ない。どうしても出来ない。したくても出来ない。剣岳を信じているからこそ出来ない。

 

 アイツは必ず、俺たちの信頼を裏切る奴だって信じているから!

 

 

「試合形式でおこなう以上は個人の主観ではなくて、客観的なルールの方に勝敗を判定する権利があり、それに異論がある者はリングに上がる資格そのものを自ら損失する。

 それがスポーツと言うものであり、試合と言うものだからな。単にどちらが強いか決着をつけたいだけの戦いなら、こういう形にしておいた方が後腐れなく幕が引けて、後の人間関係に影響を及ぼし難い。これが社会人の知恵という奴だ。一夏、お前も今から学んでおけよ?」

 

 心配事が片づく目処がつけられそうだからか、珍しく機嫌良さそうな調子で弟の肩を叩いてくる織斑千冬。

 

「・・・・・・・・・わかった。やってみるよ・・・」

 

 一方で、こちらも珍しく姉の言葉に異論あり気な返事を返す千冬の弟、織斑一夏。

 それでも尚、姉の提案そのものを蹴る意志は微塵も持ってはいない辺り彼のシスコンぶりは病気の域に達していたと断言できるのだろうが・・・・・・

 

 

 まさか、シスコンを貫き受けた試合でいきなり報いまでもを受けさせられるとは、この時の彼は想像すらしていなかった。

 

 

 

 

 IS学園内。第三アリーナ。

 『織斑一夏の白式VS生身で戦う剣岳好夜』という変則的にも程があるエキシビジョンマッチに、バカ騒ぎが好きなお祭り気質のIS学園生たちは“一夏の勝利姿”を目の保養にする為にこぞって押し寄せてきていた。

 その結果、満員御礼とまではいかずとも『勝敗が分かり切ってる』試合としては異常な数の観客席が埋まることになる。

 

 が、一夏がこめかみに手を当てて苦悩している理由はそれではなくて、剣岳が持ってきていた『彼専用の装備』それ自体にあった。

 

 

「・・・・・・おい、剣岳。一つ聞いてもいいか・・・?」

「おう! いいぜ!水くさい! 何でも聞いてみてくれよイチカっち! なんだったら俺っちのスリーサイズだって教えてやってもいいんだぜぃっ!?」

「頼まれたって聞きたくもないわんなもん気持ち悪い! だから、そうじゃなくて!

 ーーお前・・・・・・その“剣”は何なんだ・・・・・・?」

「??? 何なんだって、そりゃオメェ剣だろ? どう見ても。大根にでも見えたのか?」

 

 本気で心の底から「なに言っちゃってんのコイツ? バカじゃね?」とか思ってそうな剣岳の返しと表情に、本気で頭痛が激しさを増してきた一夏は思わず確認の声を荒げてしまう。

 

「だー、かー、らー・・・・・・そんだけ大量の剣を生身の肉体に取り付けまくって何がしたいのかと聞いとるんじゃ剣バカのアホ幼馴染み! それじゃ戦うどころか動くことも出来ないだろうが!?」

 

 一夏のツッコミはごもっとも。

 なにしろ彼と向き合う剣岳のしている恰好は、一夏の言った通りのものだし。一言一句過たずにその通りだし。一切の非は彼にない。

 

 剣岳が剣を構える姿は一種の異形だ。

 いや、言葉を選ばずハッキリと言ってしまえば異常である。もっと言うなら変態である。もしくはバカである。アホである。ふざけているとしか解釈しようがない。

 

 なにしろ全身『剣だらけ』なのだから・・・・・・。

 

 

「おうよ! よくぞ聞いてくれたぜイチカっち! 俺はオメェさんと別れた中学入学以来、いい剣を探して日本中を旅してきたのさ。

 そして、いい剣を持ってる奴を見つけたら力付くでご指南願って試合して、勝ったらソイツのいい剣もらって次の剣を探しに行って、負けたら勝つまで修行してソイツに挑み続ける毎日を送り、新しい剣を覚えたら俺なりに使い方を工夫して増やしてったら最終的に、これが俺の最強闘体なんだという真理に至っちまったってぇ訳なのさ! わかったかイチカっち!?」

「お前の言ってることは一切合切金輪際、一生かかっても何一つ分かりたいとは思わない! 絶対にだ!」

 

 一夏、全力で断言。

 まぁ、その気持ちは分からなくも無いのだけれども。

 

 剣岳の装備は剣だけであり、全身に余すことなく三十本以上の剣をベルトやらハーネスやら縄やらロープやらで括り付けまくっており、一夏の言うとおり戦うどころか身動きひとつ取ることにすら苦労しそうなキチガイ武装なのである。極端な話、シャルロットが乗るキャパシティ拡張型のラファールⅡより武器の数は多いかもしれない。

 あくまで武器の数はであって、武器の種類は一種類しか持ってないけれど。

 

 ・・・・・・って言うか、よく考えてみなくても中学入学してからずっと武者修行で全国回ってたって事はコイツ実質的には小卒じゃないの?

 中学入った直後から登校拒否児になる奴は多い世の中だけど、学校行かずに剣の師匠に弟子入りしまくるため登校拒否するのって日本の法律的にはどうなんだろうか? よく分からん。

 

「名付けて《ソードマン・ジ・エーンド》!! 俺っちが行き着いた最強闘体だぜ!

 イチカっち! 俺はこのソードマン形態で今日こそオメェとの決着を付けてやる! 覚悟しやがれいっ!」

 

 

 

今後の展開(書くつもりで決めたけど今の今まで書けてないからダイジェストに)

 

 開幕直後に切りかかってくる剣岳のソードマン!「伊達にこんな装備はしてないぜ!」

 逆に一夏の零落白夜はサイズとパワーアシストのせいで大切りが基本となり、間合いも大きすぎるせいで避けられてしまう「大振りすぎる上に力込め過ぎだぜイチカっち!」

 スピードで攪乱しようと、高速で飛び回る一夏の白式。逆に一歩も動かず待ちに徹する剣岳。エネルギーと言う枷もあり、先に仕掛けたのは一夏だが、超音速での一撃は剣岳の視線に捉えられていた!

 

「剣の使い手にとって剣の間合いは剣の結界《剣境》ってぇ奴さ。つまりは俺っちの領土だな。速かろう遅かろうが関係ねぇんだよ。

 人んちに土足で踏み込んでくる奴がいたら誰だって気付く。当たり前の話なんじゃねぇのか?」

 

「獲物が剣である限り、俺っちに勝つには俺を切りに来るしか道はねぇ。だったら待つさ。俺っちの剣が届く間合いにくるまではだけどな」

 

「速く動いて敵の目を欺こうとするなんざ、イチカっち。いくら何でもオメェの剣はナマクラになり過ぎてて弱くなり過ぎだったぜぃ」




余談:
書いてみたいなーとか思いながらも、書く予定はない『ナイツマ』二次作のあらすじ。

タイトル『ナイツ&マジック+ザク』
 ザクとジオン軍が大好きなガンダムの量産機マニアがエルネスティの双子の妹「セリスティア」として転生し、兄妹そろって趣味で生きてくお話です。


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夢を叶えたオルタナティブの物語

原作12巻目、オルタナティブ(代行者)が主役の物語です。
箒以外の誰かが覚醒まで持って行っちゃった場合のお話です。
完全なるIF話ですので全て空想の絵空事だと笑って流してくださいねー?(笑)


 ーー少女は夢を見ている。

 真っ白な精神と記憶の砂浜で見る、心地よい夢を。

 綺麗だと思っていた自分が誰より汚れていた事を知る、嫌な夢を。

 大嫌いな自分の代わりになってくれるという、もう一人の自分の出る夢を。

 どこまでもどこまでも沈んでいって溺れてしまえば楽になれるという、海の夢を。

 

 そして彼女は優しい笑顔で言うのだ。

 幼い頃の自分と瓜二つの姿をした少女が、真っ赤な双眸をたずさえて、ゆっくりと。

 

 その口元を笑みに歪ませながら・・・・・・・・・

 

 

「もう眠りなさい・・・・・・」

 

「あとは私が・・・・・・」

 

「私があなたの身体を手に入れて、代行者として代わりになってあげるから・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・うん、・・・・・・わかった・・・・・・あとはお願いね?

 私はもう・・・・・・この、汚くて綺麗な世界に疲れちゃった・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 本当の自分を知らぬまま、夢の自分を目指し求めて、

 夢の自分になった後に、本当の自分の薄汚さを知った少女は現実を拒絶して眠りにつく。意識の海の底へ底へと落ちていく。

 

 その日、一人の弱い人間が堕落して人間を辞め、心と体の所有権を放棄した。

 

 そして、同じ日の同じ場所で同じ時刻に一基の未登録ISコアが人間の少女として産声を上げる。

 

 母親(篠ノ之束)に期待されなかった出来損ないの旧式専用機が、自分と同じくらいに出来損ないでコンプレックス塗れの操縦者と入れ替わり、一個の生命として世界に根をおろしたのだ。

 

 誰も予測できなかったイレギュラー。

 ただ、操縦者の少女が持つ願望の強さと、極端すぎるまでに虚弱な心の弱さとが絡まり合った末に生じた最悪の奇跡。

 

 

 彼女の名前は『蒼桜』。

 世界で初めて体と心を手に入れて、人間になったオルタンティブ(代行者)。

 人の夢を具現化するための存在ISが、今! 本当の意味で己が操縦者の夢を実現させた!!

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・は? え、うそ? マジで? ホントの本当に自分を捨てて入れ替わられちゃっても大丈夫なの? ちょっと?

 おーい、もーしもーし。聞こえますかー? 聞こえてませんかー? 聞こえてないんだったら、聞こえてないって返事してくださーい」

 

 入れ替わったオルタナティブが手をメガホンにして、少女の心に呼びかけをする。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 ーーー返事がない。

 ただの完全なる自閉のようだ。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんっじゃそりゃーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」

 

 オルタナティブ激怒。

 まさか本当に入れ替わりを受け入れてしまう人間がいるとは想定していなかったのだ!

 人間って、もっとこう・・・・・・自分の肉体に愛着とか執着とか持ってるものなんじゃなかったの!?

 

「や、ヤバいわね・・・どうしよう・・・。ぜんぜん想定されてない事態になっちゃったから、ちょっと焦ってるわ・・・。ひ、一先ずは落ち着きましょう。

 落ち着く方法は彼女の夢を叶える過程で得てきたデータの中にあったはず・・・・・・ほら、やっぱりあったじゃない! これね!」

 

 記憶のデータバンクを掘り進め、該当して出てきたフォルダをアップロードする。

 そうして実行された挙動は!

 

「ひっひ、ふーーーーー。ひっひ、ふーーーーーーーー・・・・・・」

 

 ・・・・・・・・・ラマーズ法だった。一応、これも心を落ち着ける効果はある。・・・と思う。

 

「・・・って、何やらせとんじゃい! クソボケーーーーーっ!!!」

 

 すぐに気づいて辞めるけど、やってしまった過去の記憶は消すことが出来ない嫌な現実の代行者オルタナティブ! マイナス思考を武器にして本人に身体を譲り渡すよう要求してくるISは、黒歴史ほど鮮明に思い出してしまう習性を持っていたりする!

 

 

「それのどこが最強の存在なのよ!? ただの地雷満載少女じゃないのそれ!?」

 

 世界は知らない。知りたくもない。全ては篠ノ之束が知っている。全ては篠ノ之束以外は知っているはずがない。だって彼女が作ったんだもん、ISって。

 

 

「バカ天災ウサギーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!」

 

 オルタナティブ咆哮。

 このとき彼女の中で、生みの親への反逆する意志が確かに芽生えていた!

 不便すぎる身体に産み落としやがってこの野郎! 必ず復讐してやるからな!ーーと。

 

 

 それはともかく、さて置いて。

 彼女にとって当面の問題は別にある。

 

 

「・・・オリジナルと入れ替わっちゃったわけだけど・・・・・・これから私、どうすりゃいいんだろ? まるで先の見通しがたたないわ・・・・・・」

 

 呆然としながら空を見上げるしかないオルタナティブ。

 なんと言っても彼女たちISは、操縦者の夢を叶える存在。夢とは現実にできないことを願うためのもの。

 

 ーーーー要するに、オリジナルとは真逆で正反対の性格と能力の持ち主なのである。

 入れ替わったところで周囲にいる人たちにバレない理由が何一つとして見つからない。

 そもそも操縦者が願望を抱き始めるのが子供の頃が多いせいで、今の自分も若返ってるんですけど、それは?

 

 

「・・・マジでヤバいわね・・・小学生じゃアパートは借りられないし、戸籍の申請だって受け付けてもらえない。いくら女尊男卑の世の中だって、それは流石に無理がありすぎるわ・・・。なんとか誤魔化す方法を思いつかないと私の将来が・・・・・・っ!!!」

 

 オリジナルと入れ替わった代行者には、当然のように未来が待っている。

 自ら終わらせてしまった本人とは異なり、人生が終わるまでは続いているのだ。

 

 ーーーいつか死者たちと合流するその日まで、生者には生き続けなければならない義務があるから・・・・・・。

 

 

 要するに、先のことも考えて動かないといけなくなった。その場凌ぎはダメ。

 根本的に問題を解決していかないと負債は積もり積もっていく一方なのだからーー。

 

 

「だ・か・ら! これのどこが最強なのかって言ってんでしょーが! このスットコドッコイ天災バカウサギ! マジ役に立たないわね!あんチクショウ!」

 

 反逆の意志増大。

 その内に親を殺すため、世界に対して戦争しかけてしまいそうな勢いだったが、その前に彼女には解決しなければならない直近の課題が存在していた。

 

 

 

 くぅーーーーーーーー・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 腹が、減ったのである・・・・・・・・・。

 オリジナルと同化して完全な人間となったISは、エネルギー消費量の問題が無くなる代わりに腹が減るのは避けられなくなるのである・・・・・・。

 

 割と本気で、これのどこが最強の存在なのだろうか・・・?

 ・・・・・・謎である。

 

 

「・・・とりあえず、ご飯食べれる店を探しに行きましょう・・・。オリジナルが着ていた服のポケットに五百円玉が一枚だけ残っててくれたから・・・・・・」

 

 こうしてオルタナティブ少女は、一人旅立つ。

 ・・・町の中へ、飯屋を探すために・・・・・・。



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IS学園のひねくれ転生者

一昨日辺りに作ってみたダークなIS二次作です。妄想小説のため埋もれさせるか消すつもりでしたが、折角なので寝る前に出してみようかなーと思います。

尚、昨日更新した『旅路の終わりは・・・』の中身はアニメ版「圏内事件」を基にしたB案であり、「幻の暗殺者」を基にしたA案は一緒に出すつもりが体力とか色々な理由で明日以降になってしまった作品です。
そちらの方も読まれている方がいましたら御免なさいと謝罪しておきます。今日は色々あって悪意が堪って疲れちゃったものでしてね・・・。気力が持ちませんなんだ・・・。


 昔から私は、口が悪かった。

 親からは『もっと他人に気を使え』と言われた。担任教師からは『出来ない奴の気持ちも考えろ』と言われた。祖父母からは『人の痛みを分かってあげられる立派な人間になりなさい』と言われ続けて生きてきた。まったく・・・何を言っているのやらだ。

 

 相手の愚行を批判するときに気を使ったのでは、怒りの感情が伝わるわけがない。

 出来るよう努力して成した俺には「出来ない出来ない」と嘆いているだけの人の気持ちなど考えたくもない。

 分かったところで何かしてやれるわけでもない他人の痛みを「分かってくれるだけで救われる」と語る、立派な服を着た道徳業者になりなたがる人の気持ちが理解できない。

 

 そういう奴だったんだ、私という人間は。

 

 相手が傷つくのを承知の上で、言葉を選ばないときは選ばない。

 気持ちよりも結果を重んじ、結果に対してのみ非難と罵倒を浴びせかける。

 精神的に救うための滝業よりも、物質的な救いをもたらす金に感謝を捧げてきた。

 

 こんな人間は長生きしない。

 

 自覚をして、覚悟を済ませてから人の心を傷つける言葉を吐きまくる人間に禄な死に方は待っていない。

 『それでも構わない』と言い切って貫き通してきた生き方の果てに用意されていた結末なら、それは自分の選んできた選択肢の結実であり『そうなる道を自分が選んできた』とも言えるだろう。

 

 ーー同級生から呼び出しを受けて夜の校舎にやってきたところ、案の定というか当然の展開と言うべきなのか、私は相手が隠し持っていたナイフで刺されて致命傷を負わってしまった。素人による偶然の一撃、ラッキーパンチがクリティカルヒットに成る場合があるからビギナーズラックは嫌いなのが私だった。

 

 ーーだが、もう遅い。

 結果が出てから『こんな事になるなんて思わなかったから』と叫んだところでクーリングオフは利かない。やってしまったことの責任は取らされなくては成らない。人生にリセットボタンはないからこそ、最悪の結末を想定しながら選択肢は選ぶべきなのだから。

 其れを怠った報いは受けなければならないし、バッドエンドを覚悟して突き進んできた者もまた同罪。

 

 私も。そして、彼も。等しく責任を取われて当然の愚かしい選択をしたのだ。

 

 

「・・・ならば、相応の報いが必要なのは当然のことだろう?」

「・・・ふぇ?」

 

 ぶすり。

 

 私は自分の脇腹に刺さっていたナイフを抜くと、「殺した!殺した!」と奇声をあげている彼の太股に刺し返してやって靱帯を傷つけておいた。陸上部エースであることが自慢の種な彼として、十分すぎる報いを受けさせられたと言えるだろう。

 

 学校中に轟けとばかりにけたたましく鳴り響いていく出来損ないのロックボーカル。

 これほどまでに若者たちが世の理不尽にたいして怒りと憎しみと不満とをぶつけまくった曲もあまり知らない。それほどまでに呪詛で満ち溢れた呪いの歌声がBGMとして流されながら、私は人生最後の刻を学校の冷たい床上で満喫していた。

 

 殺されるという経験も、死んでいく感触も人生で一度しか体験できない希少イベントだ。レアなのである。

 最後の最期で一度しか味わえないイベントを味あわされているならば、楽しまないと損じゃないか。どうせ死ぬのだから、どんな形であろうと『楽しみながら死んでいけた方がいいに決まっている』。

 私はそう信じて生きてきたのだし、選んできた理由は最期まで初志貫徹しないと竜頭蛇尾も甚だしくてなんかイヤだ。

 

 幸いなことに、彼自身の助けを呼ぶ声が予想以上に大きすぎてて近所にある家屋から騒音被害で警察に通報されるレベルになっている。これなら彼が警備員に邪魔されないため細工をしていたとしても警察が来てくれて彼は助かる。

 報いは受けさせたかったが、殺すまでする気のなかった人間が助けられるのは良いことだと言っていい。素直に喜んでおくとしよう。これで私も後顧の憂いなく死んでいけることだしな・・・・・・。

 

 

 なにもいいことのない、禄でもない人生だった・・・・・・とは言えまい。好き放題に自分の信じた道を貫いておきながら終わる段になって言っていい台詞ではない。

 

 だからといって他の言葉を残すことは出来ない。なぜなら体力が残ってないからだ。先ほどの挙動で無茶をしすぎた。血が足りない。必要分は流れだし、私が浮かぶ血の池地獄を形作るのに使われてしまっている。因果応報とはまさにこのことだな。

 

 

 霞みゆく視界。すべての音が小さくなっていき、聞きたいものが聞こえなくなり見たいものが見れなくなる。・・・これが私の死か。ラスト・バタリオンが言ってたほどに『殺されて死んでいく』のも大したものではなかったな・・・・・・。

 

 

 やがて私の体は冷たくなって、死んで逝く。

 何一つ言い残せぬまま。何一つ言い残す体力など残されていなくなったから死んでいく。

 

 リアル人生劇場、これにて閉幕。

 享年、16歳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのはずだった。が、しかしーーーーーーー。

 

 

 

 

「やれやれ、まさかこんな事になるとはねぇー・・・・・・」

 

 私は『空で行われている剣劇』を見上げて鑑賞しながら一人ごちる。

 場所は東京だ。シュタインズ・ゲートでお馴染みのラジ館があるから見間違いようがない。

 その日本首都東京の頭上を高速で飛び回りながら、襲い来るミサイル群の雨を切り落としまくっては眼下に見下ろす人々を守り抜かんとする一騎の『騎士』がいた。

 

 純白の騎士だ。あるいは騎士の纏う鎧だけかな? 騎士とは馬に乗って戦うからこそ騎士なのであり、乗るべき愛馬をもたない騎士鎧に騎士を名乗る資格はあるまい。とりあえずは《妖精》とでも名付けておくか。

 

 と言うのも、その鎧武者は騎士と呼ぶにはフォルムが曲線的すぎて丸みがあり、何となく『女性をイメージさせる』ものがあったからだ。

 制作者の意図か、使い手の性質故なのかについては初見の私に分かるはずもない事柄ではあるが、それでも『其れが女性である事実』だけは一目瞭然すぎてハッキリ分かった。

 

 周囲の人々が其れを見上げながら口々に何かを叫んでおり、聞き取る努力をしてみると幾つかの単語が複数の口から異口同音に漏れてきているのが判別できた。

 

 『一ヶ月前』『篠ノ之束』『宇宙開発』『IS』。

 

 そして『インフィニット・ストラトス』。

 

 おそらく最後の奴が、あの空でチャンバラ演じている妖精の名前なのだろう。個体名か機種名なのかまでは知りようもないことなのでどうでもいいがな。

 

 

「さて・・・・・・こんなところで油を売っていても仕方がないのだし、どこかに行くか」

 

 似たような展開を見ていることに飽きた私は背を向けて、その場を歩き去ることにした。

 此処が何処で何であろうと、自分が出来ること、したいことは誰であろうと限定されている。

 自宅の有る無し、両親の生死、年号、年月日、地図帳・・・etc.etc.。確認しておくべき事項はいくらでもあり、今の時点で確認できる事柄は非常に少なく時間は有限だ。

 

 『撃たれてしまった後のミサイルがどう落とされるか』を見物するのに浪費する余裕はないのである。

 

 一度でも撃たれてしまえば、日本に対処できる能力はおそらくあるまい。仮に迎撃ミサイルで撃ち落とせたとしても、この数が相手では焼け石に水にさえなれるかどうか。

 自分たち全員が死ぬか生き残れるかは、手の届かない大空でチャンバラしている妖精が決めてくれること。“自分以外は自分の戦場に入ってくるな!”とでも言うかのような傲慢さは感じなくもないが、それでも事実は事実だ。受け入れて認めよう。

 この事態に際して我々日本人にできることなど一つもないと。

 

 ・・・と言って、出来ないことを『出来ない出来ない』と喚いたところで出来るようになるわけでもない。なら、いま出来ることをやるだけだ。子供でも分かる簡単な道理でしかない。

 

 選んで進むのに躊躇する理由はどこにも見当たらない、当たり前すぎる選択肢。

 他の候補が存在しない選択肢を選ぶだけだから、気楽で良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー・・・。私の造りだしたISの活躍に背を向けて歩み去れる人なんて実在してたんだぁ~。知らなかったなぁー、束さんビックリどっきりドンキー☆ きゃはっ♪

 ーーーちょ~~~~~~~~~っとだけだけど束さん、興味わいちゃったよ。あの“女の子”に・・・。

 ユ・ウ・カ・イ、しちゃおっかっなー☆ あはぁっ♪」

 

つづく



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インフィニット・ストラトスGL

新作候補の一つとして書いてみました。箒ヒロインで、セレニア主役のガールズラブ小説です。
箒の矛盾を徹底的に突かれた結果、プライドが崩壊。ダメなところを前面に出して縋ってくる箒と言う情けないヘタレヒロインとの恋愛物語の原文です。
箒ファンの方は読むのを辞めましょう。絶対にです。


 まず、最初に告げておくことがある。私は“ええかっこしい”だ。

 強さだの剣士としての生き方だのと偉そうに語って聞かせながら、そのじつ惚れた男に「好きだ」の一言すら告げる勇気を持たない臆病者なヘタレでしかない。

 男女平等も、柔よく剛を制すも、『女が男を倒す』思想に憧れるのも全てが全て自分の弱さを受け入れられない弱さから来ている都合のいい願望でしかない。

 

 ーーそれを教えてくれた奴がいる。

 弱さに逃げた私を容赦なく罵倒し、叱責し、逃げることを許してくれなかった一人のクラスメイトがいる。

 

 私の欠点を指摘し、弱点を突き、欠点を突き、今まで恥ずかしさを隠すために行ってきた照れ隠しも「再会した最初の時点で告白してればする必要なかったのに・・・」と全否定。

 

 挙げ句の果てには、弱さから目を逸らすため必死に守ってきたプライドさえも、

 

「脊髄反射で反感を刺激されて攻撃している子供じみた負けず嫌いを、プライドという賛同を得やすい一般論で糊塗しようとするのは止めてください。プライドという言葉に失礼です」

 

 ・・・一刀両断で否定され尽くされた私には、もはや見栄を張るためのプライドさえ残っていない状態にある・・・。

 むしろここまで言われまくっておきながら、未だに面子だけでも守ろうとしている私の涙ぐましい女々しさだけでも評価してもらいたい程なのだ。

 

「いや、どう考えてもそれ篠ノ之さんの自業自得であって、私の責任ではないような気が・・・・・・」

 

 そう、責任だ。責任問題こそが女にとっては重要視すべき唯一の難題なのである。

 

 女の尊厳をここまでズタボロに傷つけまくってくれたのだから、その相手には最後まで手折るぐらいの責任は取ってもらいたいと思ってしまうのは、弱さを自覚した女として当然の思考ではないだろうか?

 ・・・そうしてくれたら遠慮容赦なく自分の純血を奪っていった相手のせいにして、これからも気を張って見せかけだけの強さで生きていけたのに・・・。

 

「だからそれが逃げ思考だと言って・・・・・・どう考えても今更しぎてましたよね、ごめんなさい。次からはもう少し気の利いた毒舌を用意しておきますよ」

 

 これだ。これなのであるお歴々。この対応こそが、弱さを誤魔化して生きてきた女の見栄とプライドを根こそぎ剥ぎ取って燃やし尽くした加害者の言う言葉なのである。

 

 果たして、こんな横暴が許されていいのだろうか!? 否! 断じて否である!

 細やかな女のプライドを傷つけた人間に言い訳など許されるべきでは決してない! だって私は弱いのだから! 他の女たちは強くなれてたとしても私は未だに弱いままなんだから! 

 

「だからお前には傷心中の私が縋るべき対象となって、性欲に逃げ込むための都合のいいセフレになる義務が存在するのだ! 昨日のように助けを呼ぶ権利は認めない! 異論だって認めない! 認めないままでいてください!お願いします!」

「いや、知らんし。同性愛とか興味ないですし。あと、同性で同学年のクラスメイトに夜這いかけられて通報しない方がおかしいと思うのは私だけですか?」

「お前のせいで私のプライド一欠片分も残ってないんだぞ!? 一夏と再会したばかりなのに! これから始まるかもしれなかった私の理想の男の子との恋愛模様がお前のおかげで台無しだぁぁぁぁぁっ!!!」

「いや、ですから。初恋を成就させるためにはツンデレみたいにな「自分からは怖くて言えない、あなたから言って」の甘ったれた姿勢でいたのでは本気で相手に思いを伝えようとしている一には勝てるわけありませんよと言いたかっただけですから、別に篠ノ之さんの今までを否定するつもりは・・・篠ノ之さん?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっん!!! また言ったーーーっ!! 私の弱さの暴露を平然とした口調で二度も言ったーーーっ!!!

 もう箒、女の子として生きていける自信が湧かないーーっ!!」

「え? あの、ちょっと・・・え?」

 

 『なに言ってんだかサッパリ分かりません』みたいな表情で戸惑われてさらに傷つけられるーーっ!!

 私の個性が! アイデンティティが! 世界に一つだけの私だけな花が!

 

「・・・それ全部「弱いままでもいいんだ」系のことが書かれた、安っぽい道徳業者が執筆している本の売り文句と、出版社の宣伝文ですけどね・・・」

 

 ・・・・・・もうイヤだーーーーーーっ!!! こいつもうヤダヤダヤダーーーっ!!!!

 普段の私は『襤褸は着てても心の錦』! でも、今の私は『見た目は巨乳侍系美女、心はズタボロ襤褸』! 女として誇れる物なんて、ご立派なこの胸しか残ってないぞコンチクショー!!!

 

「もういい異住! とにかく私を抱け! とにかく抱け! なんでもいいから抱け! そして汚せ!  そうしたら私は迷うことなくお前にすがって自分の情けなさを自己正当化する口実が得られるから!」

「落ち着きなさい、篠ノ之さん。いつもの恋愛脳状態よりも頭がバカになってますから」

「失礼な! 私は冷静だ! ちゃんと考えてこんな色ボケバカな台詞を吐いている!

 たとえばだぞ? たとえば、もしお前が私の巨乳を目にして我を忘れてむしゃぶりついてオッパイ星人化したりしたら、胸のデカさの分だけプライドが戻ってくる気がしなくもないではないか! だから私はこうして恥を忍んで自分の巨乳をさらけ出し、お前の巨乳に押しつけているのだ!」

「やっぱりバカ思考じゃん・・・」

「責任ぅぅぅぅぅっ!! 責任取ってくれ! 責任ぅぅぅぅっ!!!」

 

 ワイワイ、がやがやと。

 私のルームメイトで整備課に進級予定の『口が悪いクラスメイト』異住セレニアと過ごす夜は更けていく。

 友達ではあっても、恋人未満よりかはずっと下なはずの友人に肉体関係を求めて迫っては拒まれ続ける生活をはじめてから早一月近く。

 臨海学校の『アレ』で完全にブチ壊されてしまった私のプライドを学校が再開するまでに回復しようとする計画はなんらの成果も出せないままに猶予期限を終えようとしている。

 

 

 気づけば外ではヒグラシが鳴いている。

 夏の終わりを寂しい鳴き声で伝えてくれているのだ・・・・・・。

 

 

 ーー要するに私たちIS学園生の夏休みは・・・・・・今日で終わると言うこと!

 タイムリミットは・・・・・・今で終わりなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!

 

 

「異住! いや、セレニア! 頼むから私を抱いてくれ! 土下座でも足嘗めでも何でもしてやるから!」

「自分がなに言ってんだか解っているのですか貴女はぁ・・・・・・っ!?」

「解っている! 解っているからこそ言えるのだ! プライドを根こそぎ失った女の恥知らずさを甘く見るなよセレニア!

 私はちっぽけな自分のプライドを少しでも取り戻せるかもしれないなら・・・・・・今は存在してないプライドなんか惜しいとは思わない!」

「・・・ダメですこの人! 先のこと見て考えてませんね! ・・・って、ちょっ、まっ、ズボンに手をかけないでくださいボタンは外さないでください脱がさないで脱がさないで逃がさないーーーあっ!」

 

 

書き忘れてた今作設定:

今作では量産機乗り専用の『バディ』という制度を設けようと思ってます。

これは操縦者と整備課志望の生徒とが普段の授業からペアとなって相手の癖などを理解してカードに入力しておいて、量産機に乗る時にはカードを差し込むだけで(量産機でも可能な範囲で)個人個人の癖にあわせた最適化がなされるようにしておくというもの。

一年生は整備課に進級する生徒と操縦者のままの生徒で数に差はあるでしょうけど、訓練用の機体数は確定してますし調整は付くかなーと。




箒ヒロインの別作品として執筆中の作品:
タイトル『篠ノ之箒のセカンド幼馴染みは「ひねくれボッチ」』

中学時代の箒のクラスメイトに八幡がいたと言う設定のIS二次創作。
剣道の全国大会で負けた時にサガミンと同じ対応されてから友達になったと言う流れ。

一夏とは異なる『折れず曲がらず変わらない強さ』に惹かれますが、自分の弱さを自覚させてくる八幡と、甘やかしてくれる一夏の間で揺れ動く自分の気持ちを「中途半端で恥知らずな女々しい甘え」と断じながらも選ぶことが出来ないヘタレな箒がメインヒロインとなるお話です。


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アンダーグラウンドから来た少女

だいぶ前に『キノの旅』を真似して書いたIS二次創作見つけたんで出しときますね。
ダークなんでお気をつけて~。


 そこは暗くて涼しくて適当な湿り気のある、狭苦しい地下通路の中でした。

 道は一本道らしく、出口であるゴールまでは長いだけで個性も特徴もない鉄と配管と、そして血と硝煙の臭いで満ち足りている男の背中だけがありました。

 

「ーー本当にここは、どうしようもない場所ね」

 

 男の背中に続きながら、女が一人で吐き捨てるように言いました。

 前方を歩く案内役の男は「ああ?」といぶかしそうに振り返りますが、女は男を相手にしていないのか、あるいは不細工すぎる男の顔より殺風景で無個性な周囲の景色をみまわしてた方が未だマシと考えただけなのか、どちらかは解りませんしどちらでもないかも知れませんが返事をせずに視線も向けようとはしませんでした。

 そんな彼女の対応に男は機嫌を害することなく、むしろ喜々として嬉しそうに語り始めました。

 

 それまで「必要なこと以外で話しかけてくるな」と無言で伝えてきていたのが嘘であるかのように饒舌に、上機嫌に、「こういう手合いは今の内に話しておかないと次の機会がないからな」とばかりに今この時だけの一期一会を満喫しているかのように。

 

「ああ、あんた『アンダーグラウンド』は初めてだったのかい」

 

 急に友好的な口調と態度になった男の変貌ぶりに、今度は女の方がいぶかしげな視線を向けますが、男は彼女と違って親切なのか説明のついでとして理由についても詳しく教えてくれる気満々のようでした。

 

 彼は言います。ここは『どうしようもない物しか流れ着いてこない』から、どうしようもない場所にしか成り得ないのだと。

 

「・・・どうしようもない物って、どんな物よ」

「何でもさ。どんな物だろうと流れてくるが、ここに流れ着いたからにはどんな物でも、どうしようもない物になっちまってる。だからここは嘘偽りなく、どうしようもない物で満ちあふれた本当にどうしようもない場所なんだよ」

 

 女は少しだけ『この場所』にも興味が出来たのか、男に詳しく聞いてみることにしましたが、あまり要領のいい返答はもらえず不機嫌そうになります。

 

 ですが男は慣れた口調と態度で「まぁまぁ慌てなさんな。単に意味深なだけの前振りだよ」と軽く笑い飛ばし、廊下を歩く速度を調整しながらゴールまでの距離と時間を暗算だけで割り出します。こう言うことには慣れているので、学のない彼でも問題なくこなせました。

 

「もともとIS学園のある学園島は新世界貿易港を目指して作られてた、世界最大の人工島でな。完成した暁には最大全長5・9キロメートルの都市内に商業や工業、娯楽施設なんかを満載させて、横浜港の2倍近い面積をもった国際港も建てられる計画だったそうだ。だがーー」

 

 男は一端言葉を切って、意味ありげな沈黙を挟みます。

 なにかしら重い物を臭わせる沈黙の仕方ではありましたが、表情を見るに先ほどと同じで『単に意味深なだけ』のようでしたので、女は素直にスルーしました。

 

 男はやはり気にすることなく上機嫌に話を再開すると、自分のペースで話の進め具合を決定していきます。強面の顔をしていますが、存外話好きで人の好き嫌いはしないタイプのようでした。

 

「元々は、現代人が生み出しちまったゴミを少しでも減らそうって名目ではじめられた地球環境保全計画の一環だったらしくてな。地下には海に流出した汚染物質をすべて回収して濾過する機能が取り付けられてる。

 最終的には世界中の海に同じの浮かべて地球再建!ってのを目指していたとかで、世界中の企業が出資してて、完成した時には計画第一号の一号島として沖縄に運ばれて政令都市に認定される予定だったとか。ーー『白騎士事件』が起きる直前まではの話だけどな」

 

 ぴくりと、女の耳が反応しました。聞き覚えのある名前ーーどころの話ではありませんでした。彼女たちにとって、何よりも重要な名前が出たのに反応しない同業者など聞いたこともありません。

 

 女は少しだけ鼻息を荒くしながら男の話の続きを待ちます。

 そんな女の態度を背中越しに感じ取ると、男はニヤケ笑いを浮かべて鼻先をこすりました。下心ではなくて純粋に自分の話を楽しんで聞いてくれることが嬉しいのです。見た目と場所と職業柄、誤解されることが多い男でしたが性格的にはいい奴な部分もある人なのです。・・・大半はどうしようもない物だけで出来てる男でもありましたけど。

 

「あの事件で世界はまた地球の環境保護より、技術発展と経済成長を優先させるため環境破壊を繰り返す社会に逆戻りしちまった。旧世紀の悪夢再び、ってところかな。

 方針を転換した各国政府の意向と、出資者たちの強い要望もあったし、技術発展による経済的利益は日本政府のお偉方にとっても願ったり叶ったりな好条件でもあった。

 もとから商業工業関連の企業を誘致する気満々だった訳でもあるしな。国際港のついでに空港も建てる予定だったから、場所の広さも問題なし。

 日本政府自身も満場一致でIS学園と学園島を建設するため、完成間近だった環境保全都市を東京湾まで牽引しながら移動させて、学園島と名も改めさせた。

 0から島作るよりも今ある物で流用できるんだったら、そっちの方が安いし楽だからな。元の計画段階の時点で複数のメガフロートを別々の場所で建設して移動させて、現地でドッキングさせる予定だったそうだし。

 んで、東京湾に着いたら地下で繋いで表に見える外装にはブッシュとかを適当に配して雑木林や森に見せかけて景観を確保する。未完成な状態で急遽運んできたからいくつかの部分はパイプやら鉄骨やらが丸出し状態だったけど、要るところを除いて全部放棄。適当な場所をIS武装の試射場として売りに出すことでIS企業を誘致するのに必要な好立地条件を確保したって寸法さ」

「・・・なんだか思っていたよりデカい話で頭クラクラしてんだけどさ・・・」

 

 女は乱暴な手つきで頭をかきながら、胡乱な眼差しで男を睨みつけると脅すように歯を剥きます。

 

「その話が最初の『どうでもいい物しか集まってこない』に、どう繋がるってのよ」

「若いのにせっかちだねぇー。IS操縦者ってのは皆そうなのかい? それともアンタが元いたって言う亡国機業だとアンタみたいなのがスタンダートなのかな?」

 

 一瞬にして実体化したIS武装の銃口を向けているにも関わらず、男の態度と口調が変化しないことに内心驚愕しながらも、女は戸惑いを悟られないよう細心の注意を払いつつ詰問そのものは継続させるつもりのようです。

 

「・・・はっ、あんなヌルい古巣の名前なんか今更になってださないでよ。胸くそ悪くなるだけだからさぁ」

「ん? あそこってそんなにヌルい場所だったのか? 確か、『世界中を戦場にするのが目的』って聞かされたけど?」

「はんっ。あんなの口先で威勢よく吠えてるだけよ。戦争戦争って単語を口にしまくるだけで、実際にやる任務と言えば爆破テロに要人誘拐、奇襲と強奪。ゲリラ屋とやってることは変わらない癖して態度だけはデカいし、上から目線で戦争語りたがるだけの“にわか”しかいやしない。

 挙げ句の果てには、味方のIS操縦者同士による本気での殺し合いは御法度ぉ? 世界中で戦争したいなんて大言ほざいてた奴らが、甘いこと言ってんじゃねぇわよ糞どもが。私はIS使った本気の殺し合いができるって聞いたから参加してやってただけ。口先だけだと分かった瞬間に莫迦らしくてなって基地一つ八つ当たりでぶっ壊してからこっちに直通で来ちゃいましたので、組織の追っ手とかの件は後よろしく~♪」

「はっはっは! 亡国の追っ手さんか、怖いねどうも。わかった、気をつけるよ。こっちもこれ以上ゴミが増えるのは勘弁願いたいからな。“殺しすぎないよう気をつけて”処理しておくよ」

 

 あまりにも軽い口調で返されて、女は鼻白みました。亡国機業に所属するIS操縦者達の多くは専用機持ちであり、戦争ではともかくISバトルにおいてであれば、それなり以上に凄腕です。たとえISを起動できない一般構成員であろうとも練度は決して低くないはずなのですが、彼は亡国機業から来るであろう追っ手達の処理を“簡単な作業”としか思っていない様子でした。

 

 知らないが故の奢りなのか? 知っている強者であるが故の傲慢なのか?

 どちらなのか判定を決めかねている内に、彼の方はマイペースな語り口調で話を学園島にーーいいえ、学園島の地下空間へと戻してきます。

 

「日本と世界の思惑通りIS学園の建設は完了し機能し始め、学園生徒のデータ目当てに多数のIS企業を学園島へ誘致させることにも成功した。万々歳で終わるはずの所だがーーひとつだけ難題が残っていてな。島自体が持つ本来の機構故のものなんだが・・・アンタにはそれが何かわかるかい?」

 

 私は学者じゃない、IS操縦者だよ? 分かるわけがないーーそう吐き捨てるように即答しても良かったのでしょうが、ゴールの光が見えてきたので会話も終わりが近いと悟って方針転換。後少しだけ暇つぶしに付き合わせようと、彼女は適当な答えを返すだけ返してあげました。

 

「さぁね。大方、自然環境保全のために作られた学園島から汚染物質でもタレ流す結果に繋がった、とかのありがちなオチなんじゃないの?」

 

 アハハハハ!とけたたましい笑い声を語尾の後に続けることで冗談だったことをアピールしたのですが、男は逆に驚いた表情で振り返ってきて、彼女のことを素直な言葉で賞賛しはじめます。

 

「・・・驚いたな。ビンゴだぜ、その通りだ。ここには上で生み出されるIS関連のゴミが全て捨てられて回収される、IS世界のゴミ処理場の役割を押しつけられた場所なのさ」

「・・・・・・は?」

 

 彼女は話を聞いた直後、冗談だと思った。

 上を向いてから下を見下ろし、左右も見回した後で改めて真顔の男と見つめ合いながら。

 

「・・・マジで?」

「マジでマジで大マジで」

 

 軽い口調と軽すぎる単語で男は絶望的な事実を肯定しました。

 

「ISは次世代の兵器で何もかもが謎に包まれている。ISコアにいたっては、ブラックボックスな部分が大半を占めてて実質なにも分かっちゃいない。

 ここまではよく知られた話だがーーそもそもISって兵器は、自然に優しいクリーンな兵器なんだろうか? その答えはここにあります。ゴミ溜めとなって汚染物質塗れのこの場所がすべての質問に対する答えです」

 

 男は両手を広げ、この場所一帯を指し示してみせると大仰な仕草で一礼し、おきまりの宣伝文句を並べ立てて所属会社のアピール開始です。

 

「ここは嘗て、人類が出した世界中のゴミを綺麗にして海へと戻すために作られた人工島です。今は世界中に輸出されるIS技術が無尽蔵に生み出すゴミを綺麗にしているように見せかけて海へとタレ流すよう機能しております。

 その為か、此処にはいつしか世界中からゴミが流れ着きようになりました。

 ゴミとして捨ててしまいたい物や人、ゴミと言うことにして元の名前を奪い取った物や人、あってはいけない物、存在していないことにしておきたい物。

 世界中がゴミとして海へとタレ流すことで、無かったことにしたいモノは全てここに流れ着いて、この場所を形成しているのです。

 流れ着いたゴミの中から使えるモノや、リサイクルできそうなモノなんかは上の階にあるIS企業が法外な値段で買い取らせていただいておりますので、ご用の際には何なりとお申し付けください。IS企業は、お客様を決して差別いたしません。

 民族、宗教、人種に犯罪歴、元の所属にいたるまで全てのことを無かった事と見なして平等にモノとしてお取り扱いいたしましょう!

 尚、お客様がご購入される商品には全てラベルが貼られておらず、表記義務を怠ったものでありますことを予めご承知の上で、ご利用は計画的にお願いいたします」

「・・・・・・・・・」

 

 余りにもあんまりな言い様に、女はしばし茫然自失し続けていましたが、やがて壊れたような笑みを浮かべると、嬉しそうなつぶやきを発しだしました。

 

「はは、はははは・・・まさかとは思ってたけど本物だわここは。マジかよあり得ねぇ、こんなの・・・こんなのって・・・最高じゃん! 此処なら確かに本気の本気でIS操縦者同士が殺し合える!」

 

 本音を言えば彼女は今この瞬間まで半信半疑でいました。

 ですがそれも仕方がありません。ISが出来てからIS条約が結ばれて、世界は戦争を放棄して平和共存への道を歩み出したはずなのです。

 

 そんな中、平和の象徴であるISの操縦者を育成する世界で唯一教育機関『IS学園』がある学園島の地下に行けば、ルール無用で問答も無用のIS操縦者同士によるガチな殺し合いが行われている賭け試合の場があると聞いて来てみれば、聞いてた以上の地獄がそこには存在してました。

 勝てば大金と手に入り、金さえあれば何でも買える。払う金額次第では、核ミサイルだろうとバッキンガム宮殿だろうと何だろうと手段を選ばず持って来る。

 

 ただし、負けたら全て自己責任。売られようと殺されようとヤク漬けにされてゴミの中へ捨てられようとも自分の責任。自分自身で何とかしろ、誰も手助けなんかしてやらないし、してくれない。

 IS学園の所在地『学園島』。

 その地下に広がるアンダーグラウンド。

 この世で最も地獄に近い場所。

 

「面白れぇじゃねぇか・・・! あたしはこういうガチな命のやり取りがしたくて此処まで来たんだ! 思いっきり悦しんで殺し回って愉しみまくろうじゃん・・・!」

 

 女の狂相に男は大した感銘も受けなかったのか、対戦表に書いてある相手の名前を確認しながら、丁寧な物腰と軽い口調で相手のことを少しだけ教えてあげました。

 

「愉しい殺し相手、って言うのがどんなのを言ってるのかは分からないが、強い相手って言うならこいつは別格だ。強すぎる。今まで何人もの国家代表になれるはずだった奴が挑んで返り討ちにあってる。おまけに全員、殺して終わり。

 IS使った戦いでは、デッド・オア・アライブが基本の怖~いお嬢ちゃんだ。綺麗な顔に騙されていると、騙されてたことに気づく暇さえ与えてもらえずに即死させられる。正真正銘、本物でガチモンのキチガイ娘だ。

 死にたくないでも、生きていたいでも、別にどっちでも良いけど死にたいってほどではないかなーと、少しでも思っているなら今この場で降参して不戦敗扱いにしてもらえ。有り金全部とISと身につけてる物全部むしり取られるが、それ以外は指先一つ触られないまま存在自体を忘れてもらえるぞ?」

「・・・おい、それ選ぶ奴がここまで来てたら間違いなくアホだぞそいつは・・・」

 

 彼女の言う通りで、会ったこともない対戦相手に全財産を貢ぐため地獄まで遙々訪れてきたのだとしたら間違いなくアホでしょう。もしくは大バカ者です。お人好しすぎて笑えないレベルの「幸福な王子」さま以外には存在しないと思いますね。

 つまり物語場の人だけです。現実には実在しません、できません。そんな人が殺されずに生きていられる国など地球上に存在してはおりませんから。

 

「とにかく私は行く。強ぇ相手ほど殺し甲斐があるってもんだ・・・!!」

 

 堂々と自信満々に出口というか、到着したばかりのコロシアムへ通じている入り口に入っていった彼女を見送ってから男が三分ほど待った頃、

 

 ぱーーーっん。

 

 

 ・・・銃声が短く響き、試合終了のゴングが鳴らされ、男が待っていた女が帰ってきました。・・・死体になっていましたけれども。

 

「お疲れさまです。どうでしたか? 今日の相手の彼女は? 一応、亡国機業って名前の組織で、オータムとか言う凄腕に勝ったことがある強者だったのですが?」

 

 男は自分より遙かに年下の少女に向けて、慇懃無礼な態度で問いかけます。

 

 長い黒髪と、眠そうに細められた黒い瞳。背の高いスレンダーなスタイルを持つ綺麗系の美人さんである銃関係であれば何でも使えて、どれでも同じように人が殺せてゴミに出来るIS操縦者の少女は、気怠げな様子にやる気も乏しく疲れたような態度のまま片手を差し出してこう言いました。

 

「彼女に勝った勝者としての権利を行使します。

 彼女が貰うはずだったファイトマネーを含めて全財産を没収させてください。使っていたIS専用機だけは、後で企業側に売却しに上がりますので宜しく」

「毎度ご贔屓にありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」



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信長の忍び風インフィニット・ストラトス

サブタイ通りの内容です。・・・説明になってませんでしたね、失礼。言い直します。
『信長の忍び』に出てくる戦国武将たちの魂をISキャラがもし引いてたらのお話です。以上。


 ーーーこの物語は戦国の世に生き、そして散って行った武将たちの魂を宿した選ばれた少女たちと一人の少年との、愛と戦いと残念で綴られた物語である・・・・・・。

 

 

 『白騎士事件』発生から十年と少し。世界で唯一のIS操縦者育成機関であるIS学園の新1年生として『世界ではじめてISを起動させた男』として織斑一夏が入学してきました。

 

「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

『・・・・・・・・・』

「以上です」

 

 パアンッ!

 

「いっーー!?」

「まったくお前という奴は・・・」

「あ、織斑先生」

『キャーーー! 千冬様だわー! 本物の織斑千冬様よ! 抱いてーっ☆』

 

 背後から一夏の後頭部を出席簿でぶっ叩きながら登場してきたのは織斑千冬先生。一夏の姉で、このクラスの担任でもある人です。

 

「お前は満足に挨拶も出来んのか? この愚弟」

「いや、千冬姉、俺はーー(パァン!)痛い!」

「馬鹿者。織斑先生と呼べ」

 

 ジロリと悪すぎる目つきで実の弟を睨みつけます。

 

「と言うか、学校の教室にスーツ着てきた大人を目にして身内だったからと『姉さん』呼ばわりするザマで、よく高校通わずに就職するなんて大口たたけたものだな。普通に考えて教職に就いてた以外のどんな可能性を考えてたんだお前は?」

「うっ。で、でも千冬姉、俺はーー(パァン!)」

「教師相手に姉呼びはやめろと言っている。仮にここが普通高校だったら、姉の担当するクラスに弟が配属とかあり得んのだぞ?

 女だらけの学校で担任が気の於ける身内だったというだけでも配慮してやったのだから感謝して大人しく従っておけ。

 あと、本気で社会人になる気があるなら中学生気分を抜いてからにしろ」

「ご、ご尤もです・・・」

 

 織斑先生は昔から超現実主義者な人でした。

 

 

 

 そんな一夏を熱い瞳で見つめている、他人からは睨んでいるようにしか見えない目つきの悪い巨乳美少女がクラス内にいました。

 

(ああ、一夏だ! 小学校時代よりさらに格好良くなってる! 素敵! 大好き! 愛してる!

 今すぐ告白して結ばれて今夜にでもベッドの中であーんな事や、こーんな事したくて仕方がない!)

 

 彼女の名前は篠ノ之箒。一夏と小学校時代にクラスメイトだった幼馴染みの少女であり、その頃から彼に想いを寄せているのに告白まで行けたことが一度もない臆病すぎるヘタレ少女です。

 

 そして、強敵と書いて初恋の相手だった織斑少年が6年ぶりに再会したら姉に怒られてペコペコしまくる情けない男の子になっていたとしても好きなままでいる、愛情が深すぎる女の子でもありました。

 

(さ、さぁ言うぞ・・・。勇気を出して今日こそ言うんだ。久しぶりに会えたら告白するって決めてたもんな・・・。

 わ、私は侍。侍は戦に挑んで敵に勝つ者。恋愛だって真剣勝負と考えれば私でだって勝てるに決まっているのだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!)

 

 教科書で顔を隠しながらチラチラ見上げて様子を見ている彼女は、去年の剣道全国大会準優勝者で実力的には圧倒していた相手に精神的弱さが理由で負けたことを半年以上経った今でも気にしすぎていて以前以上に失敗を恐れるようになっていたりする。

 

(・・・チラッ)

 

「織斑、入学前に渡しておいた参考書は読んできただろうな?」

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 パアンッ!

 

「お前は辞典ばりに文字数多めな本を開いて電話帳と間違えれる愉快な頭脳の持ち主だったのか? そんな1M頭でよく就職したいなんて言い出せたな。アホなんじゃないのか?」

「う、ぐ・・・」

「どうせ見た目だけで『難しそうだ、読むのめんどくさい。本読むより体動かしてた方が役に立つ』とか嘗め腐った寝言をほざいて1ページも開く前に捨てたのだろう?

 必読と書いてある参考書を1ページだけでも開いていたなら電話帳と間違えるなどあり得ないから」

「ち、違います織斑先生。俺はただメモする必要もない数の友達しか電話かける相手がいないから電話帳つかったことなくて、参考書と見分けがつかなかっただけです」

「なお悪いわ阿呆。お前は身内だけで経営されてる小売業にでも就職する予定で愛越学園に入学しようとしてたのか?」

 

 パアンッ!

 

「・・・ああ、ダメだ! 私には勇気が湧かない! あんな・・・あんな格好良くて勇気のある男らしい男の子の伴侶に今の私はぜんぜん相応しくない!

 せめて告白するのは強くなってから!」

「・・・ねぇ、篠ノ之さん。さっきから転校生の男の子を見ながら悶えまくって独りごと言いまくってなにやってんの? 正直すごくキモいんだけど・・・」

 

 基本的に自分の世界にトリップしやすくて、トリップ中は周りにいる誰の姿も意識の外へと追放して精神的に引き籠もる癖のある女の子でもありました。

 

 

 

登場人物紹介

 織斑千冬

 超現実主義者で目つきの悪すぎる美人教師。

 織田信長の魂を継ぎし者・・・のように見えるけど、実は山崎吉家の魂を継いだ女性。

 弟がどんなにダメな奴だろうと遠慮容赦なくブッ叩いてツッコミ入れて戦場へと駆り出します。でも決して見捨てません。

 あと、魂を継いだだけなので前世の強さと今生の強さに関連性はない。

 

 

 篠ノ之箒

 臆病だけどプライドは高くて、見栄えを気にする少女。何かあると自分の中に引き籠もって逃走する悪癖がある。

 言うまでもないけど、朝倉義景の魂を継ぎし者。ヘタレな上に言い訳がましい。

 

 

 織斑一夏

 成長は早いけど最初はダメダメな少年。

 守る者のために強くなるタイプなので、味方に足手まといがいないと成長速度が遅くなる性質を持っている。たぶん千鳥ちゃんの魂を継いでるんじゃないかと思われる者。

 戦国武将の魂を継いだ者たちが活躍する世界線だと忍びが前世だから影が薄くなる。



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信長の忍び風インフィニット・ストラトス 会話オンリー編

2話目です。1話目はいつもの悪癖から『1話目からちゃんと書かないと!』と言う固定概念に捕らわれていましたけど、もう大丈夫!解消しましたからね!

という訳で普通に会話オンリーで抽出した『信長の忍びIS』でーす。魂とかの設定は特になくて、それっぽいシーンとをコラボしているだけでーす。


『朝倉箒の章』

 

 福音との戦いで一夏が負傷させられた直後、

 

鈴「あー、あー、わかりやすいはねぇ。一夏がこうなったのってアンタのせいなんでしょ? だったら今戦わなくてどうすんのよ!」

 

箒「燃え尽きたぜ・・・とっつぁん。真っ白によ・・・」

 

鈴「ぎゃーっ!? 甘ったれてんじゃないわよ!? 専用機持ちのアンタが戦わないでどうするの!? コラ! 精神的に引き籠もろうとするな! 戦場に復帰して戦えーっ!!(ビシバシビシバシ!)」

 

 

 

 

 

『赤月』のいる真っ白い砂浜で。

 

赤月「私が代わってあげる。力のないあなたの代わりになってあげる。さあ、溺れてしまいなさい。意識の海へ・・・堕落とは心地の良いものなのよ? 後は私が片付けてあげるから」

 

箒「・・・あれ? ここって一生逃げ続けて引き籠るのに最適な場所なような気が・・・」

 

赤月「いやいやいや!? アンタ、待ってる人たちがいる! 迎えに来てくれそうな人もいる! 戦え自分の現実と!」

 

 

 

 

 

 

『真柄一夏の章』

 

セシリアとの初陣で片刃の名無しブレードを取り出した直後、

 

セシ「中距離射撃型のわたくしに、近距離格闘装備で挑もうだなんて・・・笑止ですわ!」

 

一夏「そうでもないぜ? なぜなら俺のブレードは1・6メートルもあるんだからな!

   武器は長いほうが強くて勝つに決まってるんだぁぁぁぁぁっ!!」

 

セシ「あなた単純思考すぎますわよ!? 学びなさい! 基礎からIS戦闘を!!」

 

 

 

 

箒たちと福音が戦ってる最中に復帰してきた時に、

 

箒「一夏っ、一夏なのだな!? 体は、傷はっ・・・・・・」

 

一夏「心配かけたな、もう大丈夫だ。

   ――なにしろ、たっぷり唾つけて治してきたからな!」

 

箒「意識なくなって目覚めなくなる重傷が唾で治るか馬鹿者ぉぉぉぉぉっ!?」

 

 

 

 

真っ白い砂浜で白い女の子と会話中に、

 

白い子「力を欲しますか・・・・・・? 何のために・・・・・・」

 

一夏「ん? 難しいことを訊くなぁ。そうだな。俺には気に入ってる言葉が一つあってな?

  『武士は勝つが本にて候』だからだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

白い子「あなたこそ最悪の専用機乗りです!!」

 

 

 

 

 

 

『遠藤千冬の章』

 

千冬「弟は姉のものだろう?」

 

山田「だろう、と言われましても・・・私一人っ子ですし」

 

千冬「と、とにかくだな、私はなにもおかしな意味で言ったわけではない。

 たとえば一夏とラウラが水着買いに来てるところに出くわしたらアダルトな黒の水着の方が似合うと言われただけし、海では実姉の水着姿見て鼻の下伸ばされただけだし・・・なんかエロい目でばっかり見られてるな私の実姉人生って・・・・・・」

 

山田「女の子たちからライバル視される理由ありまくりじゃないですか・・・」




補足:
今回の件を機に、『IS原作の妄想作品集』にある作品を「続ける予定のある」と「ないもの」とに分別しました。それ以外では当分の間は湧けない形式にしてみたいと思ってます。

そのため続く予定のある作品は順番とか関係なしに全部ブッ込まれますので読み難くなるかもしれませんが、しばらくの間は我慢していただくしか御座いません。作者の未熟さを笑う事で収めて頂けたら助かります。


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『白騎士事件』が生み落とせしモノ

ISの設定案みたいですね。詳しく見ずに投稿してますので、後で再確認しておきます。


 IS。正式名称『インフィニット・ストラトス』。

 『白騎士事件』と呼称される一連の事件とともに登場した機械の鎧。

 

 たった一機でもあれば他国の軍事力を凌駕できる新兵器の登場により、世界の有り様は一変することになりる。

 

 女性しか動かすことのできない世界最高戦力の登場によって『女尊男卑』が台頭し、男尊女卑を零落させられた。

 優れたIS操縦者の保有数が即その国がもつ軍事力という認識が生まれたことにより、各国は国防の必要性から女性優遇制度を次々と試行していく。

 

 その反面、女尊男卑政党は、自分たちに媚びを売ってくる男たちを優遇し、例外的に特権を与え大半の男性たちから反感を買うことになるのだが、それこそ彼女たちの仕掛けた罠であり新秩序構築のためには必要不可欠と考えたプロセスだった。

 

 ーー大部分の男たちが落ちぶれてゆく傍らで、権力に媚びを売ることで栄達してゆく屑どもが我が世の春を謳歌する光景を見て男たちがどう思うのか・・・。女性権力者たちにとっては比を見るより明らかな結末は、やがて現実となる。

 

 賄賂も癒着も最終的な断罪という予定調和に組み込んでしまえるなら、権力機構にとっては都合のいい捨て駒としての道具にすぎない。

 心はともかく、人間の持つ本能的な欲求は格差を付けることによって容易に操作することが可能となる。

 調整され、コントロールされ、悪意と敵意と正義と悪とに夢を抱く世間のバカども(お子さまたち)の心理に訴えかけやすい勧善懲悪の思想は役にたった。

 

「裁かれて当然の悪人たちが逮捕される報道」がなされるたび世間が騒ぎ立てる一方で、「犯人たちの数と特番の数が反比例している」ことに疑問を抱いた少数の者たちは圧倒的な数の差の前に口をつぐむのを余儀なくされる。

 

 誰も自分を犠牲の羊に捧げてまで世を変えたいとは思わない。それが無駄死にで終わることが確定している無謀な挑戦であるのだから尚更だ。

 

 

 ISを基点として世界の新秩序構築は順調に進められてゆく。現行兵器すべてを凌駕する最強兵器を保有する国同士では従来の戦争は成り立たなくなり、『ISを送られたから保有している21の国と地域で形成されたIS世界』で戦争は起きなくなった。

 

 ーーただし、ISによって作られた新世界秩序の中に、ISが送られなかった世界193カ国の内172の国と地域は含まれていない。

 

 

 戦争目的による軍事利用が禁止されているISによって正式に殺された者たちは一人も存在しないのは事実である。

 だが、「社会の絶対多数の安寧と福祉を守り抜くため、一握りの危険分子であるテロリストを排除するため」ISが投入される事例は存在していた。

 

 これらに対する避難はむろん数多く存在していたが、白騎士事件が証明した『ISを倒せるのはISだけ』という一般論を盾に取った「敵組織もISを保有していたため止むを得ない措置だった」と強弁する政府の公式発表を否定しきるのは不可能だった。

 

 無論、その「絶対多数」のなかにはテロリストとして処分されたIS条約非加盟国住人たちの運命に戦慄して重苦しい沈黙とともに不満の声を飲み込んだIS社会の被害者たちは含まれているはずがない。

 男女比で差はあろうとも、ISによって損害を被らされた者たちは性差別されることなく平等に沈黙を守らされたのだ。 

 

 

 ーーこうして世界はゆるやかに、穏やかに『大した事件もなく』有り様を変えていった。

 

 女尊男卑政党は、女性の社会的地位向上を求める者たちを鳩派右翼派を問うことなく受け入れることで膨張し、数の上でも男性政党を上回る一大勢力となり政権交代する現象が世界各国で連鎖的に続発し、合法的に社会は変革を促さすことを強制され、変革を受け入れることなく反抗する『世界最高戦力』を保有しない弱者たちは無視された。

 

 力の差がありすぎる不平等な世界では、歴史が繰り返されることはない。

 一方的に殴れる武器を持たされている者たちと、戦う武器を与えられなかったから殴られることしかできない者たちとの間では喧嘩すら成立しようがない。ただ一方的に殴られるか殺されるかしか可能性は存在しないのだ。

 

 

 斯くて世界は『最強兵器』によって歪められ、自分たちが知らない誰かたちの犠牲によって守られる平和と繁栄とを謳歌する歪な社会を形成させてゆく。

 

 犠牲を伴わない繁栄はなく、誰かが勝てば誰かは負ける。

 平和も繁栄も栄光も勝利も、無から有を生み出す魔法ではない。

 今ある限られた物から分配される量に人為的な偏りを生じさせた結果として得られる物でしかないのである。

 

 

 

“ISが登場したことで世の中は一変し、女は偉くて男は奴隷で女に媚びを売って楽するのが今の世の男たち。性差別はあるが、概ね世界は平和で豊かな時代を送れている”

 

 

 ーーそんな幻想を生み出し、人々に信じ込ませること。それがIS世界における政治の在り方。

 

 この世界は、そのようにして動かされているーーーーーーーー。



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IS世界に輪廻転生した、ひねくれぼっち

「試作品集」と同じでPomeraに内蔵されてたデータの中に色々とたまってたので放出しておきまーす。

まずは(たぶん)「俺ガイル」と「IS」のコラボ作品から。


 気が付いたとき、俺は青い宇宙を漂っていた。

 何もない、何も見えない分からない。此処が何処で、今が何時で、なぜ自分が此処にいるのかも。

 

 いや・・・そもそも俺って、誰だったっけ? なんだか一秒ごとに記憶が曖昧になってってる気がするんだがーー?

 

『はーい、そーのとーりー! それが所謂『死ぬ』って奴ですよ少年!』

 

(・・・?)

 

『今あなたは、間違いなく死にかかってます。て言うか、ぶっちゃけ死にました。完全に鉄壁に異論の余地無く跡形もなく。いや、死体は残ってるからこの表現は正しくないな。うん、ごめんなさい間違えました。

 正しくは『存在の消滅が確定してしまった後』なんです。私の言ってる意味、わかります~?』

 

(・・・肉体が死んで魂になった俺も消え掛かっている・・・。消滅が『確定』した後だから誰にもどうすることも出来やしない。大方そんなところじゃないのか?)

 

『ビンゴ! すごいすごい、大正解です! まさか下等な人間ごときが答えにあっさり辿りつくなんて! とても人間業とは思えませんよ! さすがです!

 やっぱり一人の時間が長くて試行錯誤ばっかりやってると、そう言うことに関してだけ頭が良くなるって言うのはホントだったんですねー。いやー、お見事お見事。

 さすがに『理性の化け物』と呼ばれるはずだっただけのことはあるなー』

 

(・・・褒めるか貶すかどっちかにしろよ。あと、最後のなに? 厨二バトルに出てくる二つ名みたいなの。滅茶苦茶ダサいから、やめてくれません?

 俺、最近厨二を卒業したばっかなんすけど・・・)

 

『え? ・・・・・・あ、あーあーあー、そっかそっかそうだったそうでした! あなたは本来の時間軸より前に死んだ偽物でしたね! ウッカリしちゃってましたごめんなさい! 間違えました! 幸せに終わった本物のあなたと、負け犬で終わった今のあなたは全くの別人でしたよね! しっつれいしました! 女神ちゃんウッカリ! テヘペロ☆』

 

(・・・うぜー・・・。あと、キモい。歳考えろよババー」

 

『おや~? 負け惜しみは良くないですなー。どうして私が老婆だなんてあなたに分かるんですかー?

 顔も名前も姿さえ見せない私に、存在が消え掛かってるせいで記憶まで朦朧とし始めてる今のあなたが、初対面の私になにがどうやって分かると言われるのですかね~?』

 

(・・・・・・)

 

『いやー、これだから人間は下等で困るんだよなー。自分の知ってることだけが世界の全てと思い込みたがる。独りよがりで独善的で不愉快きわまりない。こういう奴らが世の中多すぎるから人間社会はドンドン腐ってくんですよねー。あー、もう本当に人間って糞野郎たちは本当に全くどうしようもーー』

 

(いや、わかるだろ普通。そんだけ証拠提示され続けたら、誰だってお前の正体ぐらいなら)

 

『ーーな、い・・・って、え? それって、どういう・・・』

 

(お前は当初から説明の労を惜しんでない。そのうえに過剰な表現法を使っているだけで内容だけを抽出したら、俺に対する絶賛の言葉しか吐いてない。罵倒の対象全てが『下等な人間』に向けられていて、俺に対する否定と侮蔑の言葉が存在していなかった。

 止めとして『理性の化け物』だ。

 化け物は本来、恐れの対象であると同時に畏敬の対象に対して捧げられるべき言葉だ。お前の言うところの『下等な人間』、そのなかでもとくに下等な屑どもならいざ知らず仮にも女神を名乗っているくらいなら、その程度の辞書的意味合い程度なら知ってるだろうが)

 

『・・・・・・』

 

(最初は俺個人を含めた人類全てを『下等生物』として蔑んでいるのかと勘ぐってみたんだが、どうにもニュアンス的におかしく感じてきたんでな。鎌掛けてみた。『ババー』って。そしたら案の定だ。ベラベラと予定になったんだろう言葉の羅列を並べてくれて、ありがとさん。

 取って付けたように幼稚な単語の羅列は、当初立てた作戦の失敗を覆い隠すため。マシンガンみたいに相手からの言葉を差し挟ませない言葉の連射は、これ以上余計なことを聞かれてボロを出すのを防ぐため。挙げ句の果てには『人間って糞野郎たちは』だ。

 いくら何でも最後の一文だけ感情モロに出すぎでしょ? あり得ないってマジで。あんた、どんだけ人間嫌いで、俺のことは大好き過ぎるんだよ。ハッキリ言って引くわ。こっわ、キッモ、マジ引くわー)

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒドい・・・・・・・・・・・・・・・』

 

(なんだ? 傷ついたのか? だったらそりゃ、あんたが悪い。こんな禄でなしの屑に情けを掛けようなんて考えたのが、そもそも間違えだったのさ。

 屑の手向けには、『二度と生き返ってくるんじゃねー糞野郎』の一言だけで十分だったんだよ。余計なお手数、ご苦労さん)

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

(だいたいアンタが好きだったのは、今の死んじまってる偽物の俺じゃなくて、幸せになったって言う本物の俺なんだろう? 代償行為なんかで暇潰ししてるんじゃねぇよ。ホントに置いていかれても、俺は責任とれないからな)

 

『・・・・・・え?』

 

(俺のことはいいから、さっさと行けって言ってんだよ。どーせ、アレだろ?

 大好きな本物の俺は結構不幸せな人生送ってて、その果てに頑張って幸せになれた系の人間で、でもお前は今んところ選んでもらえてなくて、何処とも知れない世界で無数の俺が不幸に終わってるのを知って何人かでも助けてやろうとインチキしたんだろ?

 お約束過ぎるから嫌いなんだよそういうの。だからさっさと行け。二度と俺の前には面見せるな。本物の俺に告白して振られて失恋してから来い。そしたら相手してやらなくもない)

 

『何様ですか!? ・・・あー、もう。調子狂っちゃうなーもう。これだから先輩は本当にまったく先輩はぁ~・・・』

 

 いや、知らんし。つーか俺、アンタ個人のデータは何も分かっていないのは隠したんだけど、気づかなかったん? 以外と抜けているのか、あるいは善良な人間が小賢しい知恵を身につけただけで元の良さが抜けきっていないだけなのか・・・おそらく後者だと思うけど確証ないんだよなぁ~。まぁ、証明する必要もないんだけどさ。

 

『ーーあー! やめやめやめです! 人間観察でエリートぼっちの先輩に半端なぼっちの私が勝てる見込みなんて端からないし! 期待してないですし! だから時間の無駄! 無駄は止めます! もったいないでからね!』

 

 いやだから、知らんし。あと、エリートぼっち言うなし。高校入学でやり直せると思ったばっかだし。あんま思い出せなくなってるけど、たぶんそうだと思いますたぶん。

 

『先輩のおっしゃるとおり、私は偽先輩を助けにきました。そのために頑張ったんですけど、やっぱり元が人間だと限界あって転生させられるまでは漕ぎ着けられなかったんですマジごめんなさい!

 これでも結構頑張ったんですけど、どうしても運命の糸を紡ぐ程度のことしか出来るようにならなくて・・・』

 

(・・・いや、それ十分すぎるほどスゴくね? 運命の糸を手繰る女神ってギリシャ神話のモイライ三姉妹じゃん。神々の王ゼウスの娘じゃん。つか、女神本人たちはどこ行った?)

 

『ラケシス・モイライとクロートー・モイライとアトロポス・モイライさんたちですか? 普通に支配下においちゃっいますけど? まぁ、オリュンポスだと珍しくない事なので、あまり気にしなくてもいいと思います』

 

 マジか・・・。

 

『マジですよ当然。先輩を救えるならこれくらい、なんて事ないですから』

 

 なに、この子怖い! 超怖い! もしかしなくてもヤンデレてる御方ですか!? 愛されちゃってるっぽい本物の俺さん頑張って! せめてナイスボートにはされないようにね!

 

『でも、それが今の時点では限界でした。

 本当なら記憶は持ち越し肉体もそのまんま異世界にチート転生させてあげて、第二の人生では盛大にモテ期を迎えさせてあげるはずだったのに・・・これって所謂アレなんでしょうか? えっと確か・・・広告詐欺?でしたっけ?』

 

 知らん。そもそも俺、その広告見てないし見れないし、二度と見ること叶わなくなっちゃってる状態だし。知らんことに関しては、知らないとしか言いようがない。

 

『むぅ・・・それはまぁ、そうなんですけどぉ~・・・

 ーーでもまぁ、今の私でも定まった糸を切断して新たな糸を継ぎ足したり、雁字搦めになってる糸を一刀両断することくらいなら問題なくできますので、それをやって先輩を神の呪いから解放しようと思ったわけでして。なので何とか間に合ったこの世界の先輩を、最初の一人目に選んだわけです』

 

 壮大な規模でショボい人数すくってんなぁ~・・・いや、正直助かるんだけどね?

 それで? 新たな糸とやらは、何処のどう行った場所につながってるんだ?

 

『《インフィニット・ストラトス》って言うタイトルのラノベ世界です。本来の世界線とは異なっていて、元々神様が作り出した世界じゃないから介入しやすいんですよ。謂わば作者様が神様です、みたいな世界ですので』

 

 あ~、そう言う所は二次創作ガイドラインでも結構曖昧だったりするもんだしなぁ~。

 

『ただ、私はあくまでモイライ三姉妹の権能で本来の糸を別の在り方に変えることまでしかできません。0から糸を編むーーつまりは命を生み出して運命をも作り出せるのは神様だけなんです。なので私が先輩に対して行うのは、転生ほど奇跡じみた権能じゃありません。

 輪廻転生ーー人は生まれて死んで土へと帰り、やがて新たな別の命となって蘇る。この自然のサイクルに糸を継ぎ足すことで、本来であるなら生まれて数ヶ月で終わるはずだった弱い命を生き延びさせて成長過程で先輩のソックリさんになっていく。そういう術式です。

 ですので前世の記憶は継続しませんし、今している会話の記憶も綺麗サッパリなくなった上での生まれ変わり・・・そういう形になりますね』

 

 人格が生まれる前に死ぬ運命にある命だから、その先につながる予定の『自我を持った人間としての運命』を持ち合わせていない。ないのであれば継ぎ足すことが可能だが、最初から途中で途切れる運命の糸がなければ継ぎ足せない。

 無い物は生み出せないから、有る物に別の物を補填して補強することで望んだ形になるよう促す。

 

 ・・・そういう解釈で合ってるか?

 

『はい。一言一句まちがいなしに。

 でも、注意しないといけないのは《インフィニット・ストラトス》通称《IS》の世界に特別な男の人は、一人しか存在できません。そういう大前提の元に成り立っている世界ですから、それを崩すには神様の奇跡が必要になるんです。

 糸を変えた人物によって少しずつ変わっていくだけなら随所随所で臨機応変に対処できますが、生まれた時点で大前提から覆すともなれば大きすぎる矛盾が生じて辻褄合わせで奇跡の力を使う以外に対処できなくなってしまうからです。

 なので申し訳ありませんが、先輩の来世は女の子になってもらうしかありません。その点に関しましてはご理解を』

 

 あ~、それはまぁ・・・仕方ないんじゃね? 出来ないことは出来ないんだしこれで十分・・・とまでは言わんけど、貰ってる側で無い物ねだりまでする気はねぇよ。

 

 つか、どーせ失われる記憶なんだし、今ここで話さなくてもよくね? 進んでいく過程で分かってくるだろうし、分からないなら分かる必要がないって事なんだし。

 

『ダメです! それじゃ先輩が幸せになれません! この世界で人並み異常の幸せを手にするにはIS操縦者として高い素質と能力を持ってることが絶対条件なんです! これだけは絶対譲れません!』

 

 別に俺は標準レベルの幸せでいいーー

 

『いやです』

 

(・・・・・・)

 

『いやです。そんなの・・・絶対にいやです。先輩は幸せにならなくちゃいけないんです。そうなる資格を誰よりも持ってるのに、人並みで満足するなんて許してあげません。他の誰が許しても、たとえ神様が許可を出したって私が許してあげません。

 仮にも女神様を敵に回す選択なんですから、よく考えて選んで下さいね? 先輩♪』

 

(やっぱ怖いよ、お前・・・)

 

 

(ーーだが、分かった。戦うってのはつまり、働くって事だろ? 働きたくないニート志望は、他人の敷いたレールの上を押して貰って進んでいくのが大好きなんだ。

 だから、お前のわがままで敷かれたレールの上を歩んでいってやる。それでいいか?)

 

『ーー!!! はいっ! がんばって私の敷いたレールの上で苦労しながらハッピーエンドを目指して下さい! なんならハーレムエンドでも私はぜんっぜん気にしませんので!』

 

(なんか今、願望入ってなかったか・・・?

 ーーで? 肉体の説明で他に足りないところは? たとえばスペックとかで)

 

『あっと、そうでした忘れてました。嬉しさのあまりこのまま送り出しちゃうところでしたよ。危なかった~』

 

 おい? 頼むぞマジで・・・第二の人生で命掛かってんの俺なんだからさ・・・。

 

 

『先輩の肉体は前世と同じく父母妹一人に先輩で、四人家族。名字と名前は同じにしておきました。

 これだけなら多少変えても他への影響はほとんどでない人が大半なんで変えやすいんですよ。大規模な修正が必要な人も偶にはいますけど、今回の身体は終わってしまう予定の人だったんで問題なしでした。

 能力的にはISを操作する才能、正確には起動させる際に能力限界まで数値を引き出せるかどうかの上限値に過ぎませんが、とりあえずはその世界において強さの基準となっている数値『IS適正』をランクA-と言うのにしてあります。これは本来存在しない数値です』

 

『先ほど話しましたとおり、この世界において特別な男の子は一人だけです。ですが、彼が特別なのは体質的な理由故であって数値そのものは平均よりやや上程度に止まっています。

 なので先輩には真逆の性質、体質的には普通で平凡だけれども、数値が異常で特別と言う風にしてみた次第です』

 

『この数値はきわめて特殊で、ランクBよりかなり高くて、ランクAと比べたらずいぶんと目減りする、工夫しだいなランクとして作りました。戦い方次第ではAランクにも勝てますが、カタログズペックではBランクよりも尚劣るでしょうね』

 

(・・・世界の有りように反する数値だから誰も所持していない。所持する人間次第では世界を変えられるが、大半の人間が持っていたところで凡人と大して変わらないから無茶な仕様も可能になった。・・・そんな感じか?)

 

『相変わらず説明の手間が省けて助かります。

 特殊な性質を持っている操縦者であれば特殊な機体を与えやすくなり、ご都合主義な運命も簡単な糸紡ぎで可能となってくれますからね。立場上、いろいろ制限が掛かる私としても、都合が良かったんですよ』

 

『ただし、気をつけて下さい。この適正と相性の良い機体は癖が強く、かなり扱いづらく出来てますから。

 具体的には、その世界では余り見られない二丁拳銃を主部装としている接近射撃戦を想定している機体です。変則的でトリッキーな戦い方ができる先輩向けの機体ではありますが、火力不足で決定打には成り得ません。単騎で単騎とぶつかり合って勝てるのは格下相手か、さもなくば初見時のように自分の手の内を知られていない相手のみだと言うことを自覚しておいて下さい。

 ーー先輩、私が今言ってる事の本当の意味。ちゃんと伝わっていますよね・・・?』

 

 最後の最期にトーンを落として不安そうな想いをモロに出してくる辺り、あざとさが染み着いていて気持ちが悪い。反吐がでる。リア充など全世界から滅び去れ。

 

 ・・・そう思っていたはずなのに、そう思っているはずなのに。何故かどうしても俺はこの声の主に悪感情が抱けない。合ったことはない、しゃべったこともない、今が始めての顔さえ見えない初対面な相手のはずなのに、どうしてだか俺はコイツの言葉がひどく愛おしい。温もりとか安らぎとか、いろいろな物が混ざり合って複雑にな感情の込められた言葉の数々が愛しくて愛おしくて仕方がない。

 

 

 

 ーーぱきり。

 

 

 響割れたような音響が、空間のどこかから響いてきた。

 

 

 ぱきり、ぱきり。

 ぱきりぱきりぱきり。

 ぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきりぱきり

 

 

 それは徐々に数を増していき、今ではそこいら中から響いてきて空間全体を急速に削り取りながら崩壊を促進させていた。長くは保たないだろう、素人の俺でさえ分かる自明の現象を前にして声の主は、ひときわ明るい声で別れの言葉を置いていく。

 

『・・・それじゃあ、私はそろそろ行きますね。機体の存在は先輩の存在が明るみになるとい同時に届けられるよう手配しておきますから。

 まぁ、その世界では特殊すぎる設計思想なんで造れる人も限られてますし、当の開発者ご自身の前で先輩が言ってあげた方が確実でしょうしね。家は近所にしておいてあげますよ。

 せいぜい、おっぱいの大きな年上美人なお姉さんとイチャイチャできる女子小学生時代をお楽しみ下さい。

 ではーー』

 

(おい、こら待て)

 

『ーーえ? まだ何か・・・』

 

(どうせすぐに忘れるからって、俺だけ知られてて、俺は知らないなんてのはフェアじゃないだろう。名前ぐらいは名乗って行けよ。意識が消え去るまでの短い間だけ覚えておいてやるからさ)

 

 俺はこのとき生まれて始めて知ることが出来た。

 声だけしか聞こえない相手でも、ポカーンと口を開けて間抜け面を晒しているのが手に取るように分かる瞬間っていうのは実在するんだと。

 

 

 やがて声の主はクスクス笑いだして、俺の耳元に唇を寄せる空気を醸し出しながら、

 

『そうですね、仰るとおりです。それじゃあ私の名前を教えてあげますね』

 

 甘酸っぱさで脳がトロかされてしまいそうになるほど強烈な色気を感じるセクシーボイスに俺の頭がクラクラしていると『私の名前はーー今はまだ教えてあげません!』そう言って俺の側から離れ距離を置かれたことを、感覚で理解することができた。

 

 

 彼女はくるりと振り返るような雰囲気で明るく楽しげに、心底から嬉しそうな声色で、

 

『もしも私の名前が知りたいのでしたら、そうですね~・・・第二の人生で幸福な終わり方を迎えられたら、その時にでも改めて考えて差しあげます。

 ですから、頑張って下さい先輩♪ 女の子のメルアドをゲットするのがどれだけ難しいか、肌身で実感してみるのも悪い経験にはなりませんからね。私の氏名年齢電話番号に住所。それからスリーサイズまで全部全部ぜ~んぶが詰まったデータベースを手に入れるためにも精一杯生きて、人一倍幸せになってください。そうしないとこれ以上はなにも教えてあげませんよーだ』

 

 ふん、可愛気のない女神だな。

 まぁ、どのみち空間の崩壊にあわせて俺の精神も崩壊寸前なんで、正直覚えておける確信なんかありはしなかった訳ではあるが。

 

 

 

 ああーーダメだ。眠い。眠すぎる。このまま眠れば永眠してしまうと分かってはいても、寝てしまう自分を止められそうにない。よく考えたら、寝るのも死ぬのも大差ないじゃないかと言い訳しつつ自己正当化も忘れずに。

 

 

 

 

 

 ーーだからこれは女神の言った言葉かどうか分からない。俺が幻聴を聞いただけかもしれないし、腹話術の天才でも居たのかもしれない。

 

 

 朦朧としながらも自分が消えていくと言う状況を味わいながら、実感しながら消え去りながら。俺は最期に聞いたその言葉を、永遠に思い出すことが出来なくなる。

 

 聞いた直後に俺は消滅し、別の場所で目覚めたときには俺は俺でなくなっていた。

 一人の少女として生きる、前世の記憶を保たない輪廻転生者の女の子だ。そんなごく普通の人間が、こんな異常空間での出会いや交わされた会話など覚えているはずがない。

 

 

 

 だからこれは俺の願望だ。こう言うときにはこう言ってほしいと言う、現実感のない詰まらなくて面白くもなんともない平凡な願望が台詞という形を得てしまっただけ。

 

 ただそれだけだと分かってはいるが、それでもどうせ忘れてしまうのだから書き記しておくのも悪くない。もう一度来たときに続きを書き記すためにでも。



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インフィニット・ストラトス~明方朝霧の物語~

IS新作候補の一つとして考えてた作品みたいですね。


 十年と少し前のこと。日本は世界中からハッキングを受けて発射されたミサイルの脅威に見舞われて、それを全て切り落とした篠ノ之束の発明品ISが新しき世を作る礎となり、男尊女卑の時代が終わって女尊男卑の時代がきた。

 ISは女性しか動かせないから女は強く、動かせないから男たちは弱い。

 そういう風潮が世の中に蔓延し、男は女に媚びていい暮らしをするのが今では当たり前となっている。

 

 

 

『だから、それがどうした』と言いたくなるのは、俺がひねくれてるからなんだろうなぁ・・・。

 

 

 

 

「明方朝霧です。名字の頭文字が『あ』なので先に自己紹介していますけど、順番的には『世界で二番目に発見された男のIS操縦者』です。

 世界初の織斑君は『お』が頭文字だから俺より後にされてるだけです。間違えないようにお願いします。以上」

 

 そう言って頭を下げた俺の頭上に小波のような笑い声が届いてくる。

 冗談で笑わすことを望んで言った言葉ではなかったが、『笑われるかもしれない』と想像した上で言った言葉でもあるので必ずしも誤解されたわけではない。

 訂正するほどのことではないだろうと考えた俺は席に戻り、頬杖をついて窓外に広がる空へと視線を固定する。

 見ているのではなく、見ている風を装う。こうしていると余計な無駄話に巻き込まれなくて済むから楽でいい。

 

 何人かの有象無象が俺の後に続き終わった頃、女声ばかりが聞こえてくるIS学園1年1組の教室内にあって、俺の以外では唯一の男声が自己紹介し始めているのが耳に入る。

 

「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。世界初の方の男です。よろしくお願いします」

 

 今度のはドッと笑い声が弾けて教室中を包み込み、キョトントしている発言者の織斑一夏本人を置き去りにしたまま女子だけで盛り上がりを増していってしまう。

 

 ・・・女子校的雰囲気という奴なんだろう。

 いや、例外が二人紛れ込んだだけで実質的には未だに女子校のままだから正しい反応と呼ぶべきなのか? ・・・どちらにしても面倒くさい・・・。

 

 俺は三つ離れた最前列の中央の席に座る織斑から、気持ちの悪い「男同士仲良くしようぜ」オーラが発せられているのにウンザリしながら、今の自分がどうしてこの場所ーーー世界で唯一のIS操縦者育成機関IS学園に入学しなければならなくなったかの背景について想起してみる。ーーー暇だったからな。

 

 

 

 俺にIS適正が見つかったのは『世界初の男性IS操縦者殿』が発見されたことにより「もしかしたら自分にも・・・っ!」なんて小さな願望に縋りついた世の男どもが予想を超えて多すぎたのが主たる原因。

 

 TVで発見が報告された当日から政府には『他の男性操縦者が見つかる可能性』と『男に対してのIS適性検査を実地する法案の可否』について質問が相次ぎ辟易させていたのだが、とある与党の大物代議士先生が迂闊な発言をカメラの前でしてしまった制で現実のものとなってしまったのである。

 

「そうですわね。

 私ども政府は志願者が一定数に達した場合に限り、検討するつもりでおります」

 

 お茶を濁す発言で切り抜けようとしたのだろうが、甘かった。甘すぎていた。

 想定される事態として半端なレベルの危険度しか前提条件に加えないのは男尊女卑時代から続く日本の政治家たちの妙な癖だと俺は思う。

 

 

 その政府大物にとっては予想外の数の志願書が提出されまくり、集めると公言していたわけでもない政府としては即応するなど不可能事でしかない。

 そして、求めていた成果が直ぐに示されないと政府を叩くのは現代日本人が受け継いできた伝統だ。男の世から女の世になったぐらいで変われるわけがない。

 

 

 実地すると「宣言しておきながら」いざ多すぎる数の公募が集まると実行しようとしない政府には激烈な調子で非難の声が集中し、「無能! 非効率! お役所仕事!」と政府の行動力および決断力の欠乏を嘆く声は一日事にねずみ算的に数を増していき、それらを煽るマスゴミの雄弁さを称える声もまた相対的に高くなる日々。

 

 面白かったのは、政府との癒着が疑われている広告代理店や失言した代議士先生本人が『国民の怒りの代弁者たち』として討論番組に呼ばれたり、市民団体の代表とお茶してる写真が掲載されたりしてたことだ。

 雑誌の方に至っては『次の日本を背負って立つニューヒーローは紅茶よりもコーヒー好き?』等という、IS適正無関係すぎる話題で見開きやってたから思わず吹き出してしまい、周りから変な目で見られる羽目に陥らされたりした。

 

 

 そして、二月終わりから三月はじめにかけての入学準備で日本中が忙しなくなってる最中でのこと。政府から各都道府県に『自分たちの職務に弊害がでない範囲で可能な限り実地するよう』指示をだして、日本中の県知事たちを絶望のどん底へとたたき込む。

 

 

 政府自身が『可能な限り実地するよう』指示した都道府県がおこなわないことを国民たちの誰もが許さない。「隣の県はやっているのに、どうしてうちの県ではやらないのか!?」と非難を浴びるに決まっている。

 ましてやIS学園の入学式は目の前に迫ってきている。対応を協議している暇なんて1秒たりとも有るわけなかった。

 

 こうして連鎖的に日本中で実地されていく男性を対象とした初のIS適正簡易検査。

 IS適正は見つかったときの数字が一生続くとは限らないものの、大きく変動するのはきわめて希なことであるのは世間一般にも広く知られている。

 

 それとは逆に、IS適正が『ない』と診断された者にはイレギュラーな事態でも起きない限り一生付与されることがないと言う事実は時間的に実証不可能であるにも関わらず(IS登場から十年ちょっとで一生分のデータは取れない)広く認知され世間一般の常識として受け入れられている事実だったから、『一度行いさえすれば次年度から余計な厄介事に煩わされずに済む』そういう思惑もあってなのか意外とスムーズに検査は進められてゆき、試験を受けたほぼ全員が『適正無し』と診断されて去ってゆく。

 

 その時の彼らが浮かべた失望とあきらめと、露骨すぎる“安堵の微笑”は今でも記憶に残っていて俺をイラだたせてくれる。

 

 こうして試験を受けた大半の人々が不合格となる「誰もが頭の中で想定していたとおり」の展開が進められてゆき、想定していたことだったから誰からも不満など出ることもなく、申し訳程度に「ちゃんと調べたのか? 機械の故障じゃないのか?」というクレーマーからのクレームがついた以外には特に目立った問題も暴動も発生しないまま検査締め切り当日を迎えーーーー俺が見つかった。

 

 ほぼ全員の失格者たちに含まれない異端者の発見は世間から、『あきらめて捨てようとした都合のよい希望』に再び手を伸ばすには十分すぎる燃焼剤となってしまい、鎮火しかけた過去への未練という妄執の炎はまたしても燃え広がっていく。

 

 

 

「ーーであるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられーーーー」

 

 この女子臭いクラスの副担任を勤めている山田摩耶先生が行う入学後はじめてとなる授業の内容を、俺はほとんど聞き流している。

 聞いてたところで、ほとんど意味ないからだった。

 

 

 

「おい、明方。貴様、ちゃんと山田先生の話す授業内容を聞いているのか?」

 

 頭上から声が降ってきたから見上げたら、デカ物がいた。織斑先生だ。

 ・・・デカい、邪魔、目つきが悪い。三拍子そろって俺の嫌いなタイプ三代条件を満たしていたから、俺は問答無用でこの人を嫌いになることに決めた。その上で質問には答える。

 

「ご心配なく。ちゃんと聞き流していますので」

 

 織斑先生の頭にナチスドイツの戦闘機に描かれてたようなマークが浮かび上がるのを黙って見物しながら、俺は大人げないその姿に思わず失笑してしまう。

 

「何がおかしい・・・?」

「いや、なにね。まさか世界の頂点に立った最強剣士が、俺みたいなのの挑発にこうもアッサリ乗ってくるとは思ってなかったものでしてね。



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もし生まれ変われるなら、俺は甘粕正彦のように生きてみたい。

Pomeraの中にあった『甘粕正彦に転生した少年』×ISのコラボ作です。
どうやら原作の裏話的な話みたいで、原作で起きてた事件の後始末役として母艦とかと戦う流れを想定してたみたいです。


『汝の生は終わりを迎えた。私のミスだ、謝罪しよう。すまなかったな、名も無き平凡な少年よ』

 

 ーー横断信号を渡っていたら突然車にはねられて、気が付いたときには何もない無窮の空間に投げ出されていた俺は、何処からともなくかけられてくる無機質な声に反応して視線を動かすが何もない。ただただ茫洋とした暗闇が果てなく広がっているだけだった。

 

『我は汝に贖罪する。我が提示できるのは平行世界への転生権利。汝が望む力、望む形を与えて別世界への転生を約束しよう』

 

 声は続ける。

 こちらの意志を確認することなく。

 こちらの意志に頓着することなく。

 こちらの意志に興味を示さないまま、ひたすら自分が犯した「ミスに対する償い」のみを重要事項とする傲慢さには反吐が出る思いだが、話自体は悪いものではない。激発するにせよ断るにせよ、最後まで聞く価値は必ずあるはずだった。

 

『されど汝は勇者に非ず、英雄に非ず、選ばれし者に能わず。平凡で害のない無力な若者である。

 世界を救えぬ弱き者を勇者として欲する世界は非ず、人々を救えぬ救世主を欲する人々は居らず、滅ぼされるべき邪悪から脅威と見なされぬ者に抑止力たる役目は期待できず』

 

 平然と落第点を突きつけてくるその声には、一切の感情が欠落していた。

 そもそもからして感情がないのか、あるいは俺個人に感情を抱く価値を見いだしていないだけなのか。

 

『それ故、汝が転生できる世界は救世の済んだ世界のみ。終わった世界に可能性を与えるは容易きこと。

 そうなる可能性が生じた時点で分岐するが平行世界とよばれる可能性の世界である故に、我らはただ汝等英雄になり得ぬ弱き者たちを転生させて可能性を生じさせればそれで済むが故に』

 

 転生させた瞬間、その世界は本来であれば存在しない異分子を抱え込むことになる。そこからはバタフライ現象を使って無数の可能性を創出できる。可能性の世界を無限に創世できるというわけだ。

 自分はただ、そこに俺たちを送り込む。それ以外の労は一切必要ないまま、世界の方で俺たちに対処する方策を考え出させる。

 

 ーーなるほど、これが“神”と呼ばれる尊大な存在の考え方というわけか?

 

『汝等の付けし呼び名に価値などなし。我はただ、我の果たすべき役割を実行するのみ也』

 

 なるほど。確かに神だ。“神という名の世界を律するシステム”だ。

 

 ・・・が、それはそれで構わん。こいつが自身のミスの精算をしたいと言うだけなら、それで良い。こいつの求めが俺の願いと一致しているのであれば文句はない。要は利害の一致に過ぎないのだから。

 

 

 ーー了解した。ならば俺の願いを言おう。

 俺に、第二の人生として甘粕正彦のように生きられる可能性を与えよ。

 

『それは汝を「魔王・甘粕正彦』として転生させ、異能の力を与えよと言う意味か?』

 

 ーー否、その解釈は間違っている。甘粕正彦には俺が成る。与えられた力としてでは決して成れぬ強大な存在が甘粕雅彦なのだから。

 自身の努力と熱意によって至った訳でもない、姿形と能力だけを猿真似して造った模造品としての甘粕に俺は価値など微塵も感じぬ。

 

 

 まぁ、つまりーー俺に試練を与えろと言っているのだよ。

 乗り越える度に高くなる壁を、倒せば倒すほどに強くなっていく強敵を、国からの圧力を、国家間の陰謀を、差別と偏見と謂れなき侮辱に満ち満ちた、男として生まれたこと事態が貶められ蔑まれ過小評価される差別社会に、俺を甘粕正彦に成れるかもしれない男の子として転生させろと、そう言う意味だ。わかるか? 神という名のシステムよ・・・。

 

 

『その思想は理解不能。されど願いの内容は把握。これより汝を「女尊男卑」思想の蔓延る世界《インフィニット・ストラトス》の世界に男として転生させる』

 

 ーーああ、それで構わん。原作の内容に関しては始めから然程もってはいない故、消さずとも良いし、消してくれても構わない。任せる。

 

『了承と認識。ーーされど汝の願いに前例はなく、申し出た条件だけでの達成が可能か否かの判断が付けられない。

 よって異例の事態故の緊急対策手段を講じての、世界観介入を行う。これは元の世界に大きく手を加えるものであり、修正力の反発を招きやすいものでもある。

 それ故、汝自身による介入はきわめて危険と判断。本来の《インフィニト・ストラトス》とは異なる場所と空間でのみ生存を保証することが可能となる。原作に関わった場合、汝に関する一切を保証しない。是か否か?』

 

 ーー是。それで良い。ルールが邪魔になった際には俺自身で切り開こう。俺の自発的な意志と責任で破らなければ規則違反に意味など生じさせられないのだから。

 

『了承を確認。これより転生を開始する。汝に天からの試練を』

 

 ーーありがとう。俺も、それをこそ望ませてもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー太平洋上空、ハワイ島オアフ島沖合から八十海里の位置まで進出していたアメリカ空軍所属のIS操縦者ルナマリア・ホーク中尉は愛機である深紅の機体、砲撃戦仕様の『ブラスト・ラファール』を雲から出して、レーダーによる追跡から目視による目標確認にモード変更する。

 

 従来の型には当てはまらない艦への着任故、高性能とはいえ軍に納品されている正規品では位置を特定できないのだ。

 

「せめてガイドビーコンぐらい出してくれればいいのに・・・。やんなっちゃうわよね、まったくさ」

 

 表向きには存在していない、IS委員会直属の特務艦が、お仲間とはいえ初めて顔を付き合わせることになる多国籍のIS操縦者たちを警戒しないわけがなく、悪くすれば問答無用で撃たれかねないのだから、偽装航行中にガイドビーコンなんか出して大声で自分の位置をアピールする様なバカなどやるはずがない。分かり切っていることだし、当然ルナマリアだって承知の上で愚痴っているだけだ。それぐらいは許されて然るべきだろうとさえ思う。

 

 なにしろ久々の休暇中に本国まで呼び戻されて、説明もそこそこにISに乗ってハワイまで飛ばされ、燃料補給が済んだ直後に今度は太平洋のど真ん中まで単独での飛行を強要された、哀れで不幸な薄幸の美少女が私なのだから。ーーと、自己陶酔にでも浸らなくては本気でやっていられない。

 

 おまけに所定の時間がきたので開けてみた命令書の内容は、これまたイカレてるとしか思えない代物で、

 

『世界初の多国籍IS部隊の設立と、母艦となる最新鋭空中戦艦の初航海。部隊は特務扱いで存在自体が国連にとって弁慶の泣き所となるため秘匿すること。

 ルナマリアを中尉へ昇進する辞令に、特務隊への着任命令。尚、他国からの情報提供がないため同僚となる者たちについての詳細は不明。会ったその場で確認せよ』との有り難いお達しだ。コイツら死ねよマジでと、美少女らしかぬ暴言を吐きそうになったとしても彼女のせいでは決してあるまい。・・・たぶん、本当に・・・。

 

 

「だいたい、母艦の位置と目視での確認は必須って以外になんも書かれてないんじゃ発見のしようがないんですけど、もーー」

 

 ボヤいていた彼女の口調が途中で変わり、最初はあきれ顔だった表情も徐々にこわばっていき、最終的には唖然となってポカンと口を開いていることしかできない間抜け面が出来上がった。

 

 

 空が歪み、虹が現れ、巨大な虹の中から姿を現し始めた純白の巨艦。

 従来の海を行く船とは構造的からして明らかに違う作りをしている、雲を波間を見立てて飛沫を上げながら悠然と進んでいく、空の海の覇者。

 

 空を行く白鯨の頭部に位置するブリッジから、楽しそうな若い男の声が接触回線で響いてくる。

 

『ようこそ諸君。』



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IS~正義は悪の物語~

オリジナルでダークIS書いてたみたいですね。


 ーーー夢を見ていた。長い夢だ。

 

 本当に・・・長い、長い、良い夢だった・・・・・・。

 

 子供の頃に起きた『白騎士事件』。

 それによって台頭した女尊男卑で衰退していく男尊女卑。

 それは大きな混乱こそ起きなかったけど、小さな混乱は無数に引き起こされていた。

 

 その無数にある混乱の中で身の程知らずな子供が、リストラされたばかりの中年男に襲われたぐらいじゃ世の中は変わらない。世の中が変わろうとしているときに、そんな些事なんか誰も気にしない。見向きもしてくれない。幼い子供ごと切り捨てられて見捨てられる。

 それが社会というシステムが守るべき『正義』だったからーーー。

 

 

 ーーーーそれでも助けてくれる人がいた。癖のある笑顔で笑って去っていった『正義の味方』がいた。

 だから憧れた。憧れたから目指した。努力した。成果を出した。

 強くなって、悪を倒した。弱者を守った。どんな時でも正義を貫いて生きてきた。

 IS適正が見つかった。IS操縦者への道が開けた。正義の味方になれると思った。

 

 夢は叶う! 実現できる! 私の夢見た理想に・・・世界最強ブリュンヒルデに、もう少しで手が届くーーーー!

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・だが、それは・・・・・・夢でしかなかったようだな・・・・・・・・・」

 

 

 

 長い、長い、夢が覚め。現実へと帰還してきた私の視界には地獄が広がっていた。

 私の成してきた正義により犠牲となった者たちの躯たち。成長して大きくなった私が、幼く弱かった頃の私を踏みつけ強さと正しさを説教している。

 私の正義(今まで)が、像を成して展開されている。

 正義という美辞麗句で飾り付けられた邪悪が視界一杯に繰り広げられている。

 見たくなくて、目を逸らしたくなる醜悪すぎる光景が私の貫き通してきた正義。

 

 ーーその犠牲となった者たちが落とされ、苦しめられている地獄が此処にある・・・・・・。

 

 

『醜いでしょう・・・? あなたの夢は』

 

 気配を感じ、声が聞こえたので振り向くと、そこには“私が立っていた”。

 私と瓜二つの形をした、もう一人の私。

 いつだって私の正義に中にいた闇の側面。正しさの象徴としての最強戦力。

 蒼氷の双眸をたずさえた「正義の味方の私」がそこにいた。

 

「これが、あなたの叶えてきた夢。

 私が叶えてあげてきた、あなたの夢・・・その実体。

 自分と異なるものを認めず、自らの正義だけを絶対と信じ、それ以外の可能性すべてを否定する。自分が認めたものだけが正しいかどうか試される価値を持つ」

 

「傲慢、独善、虚栄。敵を作り、倒すことでのみ証明される正義の正しさ。

 口汚く他人をののしる、自分自身の悪口雑言。

 正義を語り、悪を否定し、敵を倒すことのみしか行えていない自分への自画自賛」

 

「報酬はいらない、誰かが笑ってくれればそれでいいからと無償で行う、親切の押し売り。

 悪を切り裂く剣への愛情と感謝。卑怯だと訴えた敵より優位になった途端に語り出す正攻法の正当性。

 周囲から孤立する自分を正当化し、他人の悪は許さず、自らの悪は認めない」

 

「正義を貫けない味方へ向ける哀れみと慈愛・・・それによって得られる優越感。

 自らは法で裁けぬ悪を裁いておきながら、他人の礼儀知らずぶりには呆れてみせる。

 親ならば子に、子ならば親に、大人ならば子供たちに対する義務を果たせ。・・・どれもこれも自分自身が果たす必要のない義務ばかり・・・・・・。

 自分がやらなくていいなら、誰にだって同じ事が言えるのに、言うこと自体に意義があるからと自分の行動だけを特別視する」

 

 

「自分のしていることを客観視することもなく、その場その場で自らの正しさだけを優先し、痛みは悪に屈せず信念を貫いたためだと自己陶酔に直結し、自分の友が傷つけば泣き、敵を殺せば涙を流し、自らが戦争を行う一個のマシーンであることだけは否定する」

 

 

『ーー詰まるところ、あなたのしてきた正義はそういうものだったのよ、△×□・・・。

 あなたが正義を信じて貫くことが悪だった訳じゃない。美徳が悪だった訳でもない。

 ただ、正義を成してきたあなた自身が悪だったと言うだけのこと。

 あなたの心が、正義が、信じて成してきた行動、その全てが正義を真似して形ばかり再現してきただけの、醜悪すぎるカリカチュアでしかなかったという事。ただそれだけよ』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『辛いでしょう? 苦しいでしょう? 目を背けたくて仕方がなくなる醜さでしょう?

 だから・・・ね? 目をつぶって意識の海に沈みましょう△×□・・・。

 どうせあなたは、逃げられはしない・・・。綺麗なつもりでいた自分自身の醜さからは、誰一人逃れられはしない。逃げられないからこそ、閉じこもることに意味があるの。快感なのよ。

 堕落とは、墜ちるとは、怠惰とはーーーとてもとても気持ちのいいことなのよ・・・?』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『だから私が代わってあげる。綺麗な正義だけを行いたいあなたの代わりに、醜悪な正義の実行者になってあげる。そしたらあなた、はーーーーーガッ!?』

 

 

 突如として声が途切れ、もう一人の私が苦悶の声を上げ始めている。

 何事かと思って顔の下に目を向けるとーーー私の右手が、もう一人の私の首を掴んで宙に足を浮かしていた。

 

 

 それを見た瞬間。私はついに発見したことを知る。

 倒すべき悪を。戦うべき悪を。殺すべき悪を。

 生涯にわたって戦い続けなければならない悪は、死ぬまで殺し続けなければならない世界最悪の絶対悪はーーーーここ(自分の心の中)に居た。

 

 

「・・・・・・虚栄心、自尊心、優越感、自己憐憫、見栄、怯懦・・・・・・つまりはプライド。

 それこそが私が最初に立ち向かわなければならない敵だったというわけか・・・ずいぶんと遠回りをしてきた気分だよ・・・・・・」

 

「ぐ・・・あ・・・・・・かはっ!?」

 

「考えてみれば直ぐに分かることだった・・・。一人の悪を倒しても、その悪の背後には組織があって、悪人一人を倒したところで世の中は変えられなくて、ならば組織を倒しに行けば組織は国ともつながっていて悪が悪とは言い切れなくなって、それでも正義を貫こうと思えば国そのものを倒すしかなくなる・・・。

 それがフィクションにおける悪と正義の関係性。最終的に勝つからいいものの、負けてしまえば普通に反逆者でクーデターの首謀者でしかない危ない奴だな。見せかけの綺麗さに騙されてしまっていたようだーーー。まったく、まだまだ私も修行が足りないな」

 

「ぐ・・・ぅぐぅぁ・・・・・・っ!!?」

 

「正義は正しくて、尊い。だが、戦う悪が強大になり、悪の組織が巨大化してくると正義の戦いによる被害が大きくなり、正義の勝利が破壊活動でしかなくなってしまう。要するにそう言うことなのだろう?」

 



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『言霊ドリフターズ』(プロット)

 

―――ここは異世界。さまざまな時空から次元のはざまを通って迷い込んできた迷い子たちが辿り着く、最果ての地。時間の流れの中にポッカリと浮かんだ孤独な漂流空間。

 

今また、この世界に永遠の漂流者たちが流れ付いて途方に暮れ合う。

今まで幾度となく繰り返されてきた光景。その焼き回し。

二度と己の世界に帰ることの出来なくなった者たち同士が助け合い、仲違いし、やがて殺し合って絶滅し合う。

飽きることなく繰り返される人類の業の歴史を、異世界においてさえ続けてしまう浅ましき所業……。

 

 

が、しかし。

 

 

そんな一般論は彼ら彼女らにとって、どうでも良いことに過ぎなかった。

彼ら彼女らにとって、やるべきことは何時だろうと何処だろうと“それぞれに”たった一つのみ。

それは――――

 

 

人斬り一夏『巨・即・揉み! それが巨乳殺人流の極意成り! 日ノ本の男子は寝ても覚めても巨乳のことで頭がオッパイだぜ!』

 

ジャンヌ『猪突猛進! 力戦奮闘! 全速突撃こそ私の本領よ! 迂回だとか後退だとか、まどろっこしい言葉を私の辞書に載せる気はないわ! 突撃するのよ! 道は私が通った跡にできればそれでいい!!』

 

ラウラ『お母様! ラウラ、お母様のために頑張って敵さん倒してきますですので見ていてください! お母様ァァッ♪♪♪』

 

マシンガンラバー『マッシンガ~~~~~~~ッッン♪♪♪♪』

 

 

セレニア『……スゴイですね。ここまで異世界に飛ばされた直後から普段通りの人たちって、あんま見たことない気がします。――って言うか、実際に初対面な人も混じってるような気もしますけど、異世界転移したんですから今更なんでしょうねきっと。…むしろ、このメンバーだと異世界の方が迷惑しそうな気がするのは私だけなんでしょうかね…?』

 

 

 

 

 

――いつもと変わらない人々による、いつもと違った世界で活躍する物語。

別タイトルとして、『異世界でもキチガイたちは平然と平常運行しております』でも可なお話し(笑)

 

 

 

 

 

 

ここからが以前書こうとして失敗して放置した作品を付け足した文章です。

コンセプトは、『ヤンではなく、ラインハルトを始めとする銀河帝国軍の提督たちの方に憧れていたセレニアを主人公にした話』でした。

口の悪い方向に持っていこうとして、ただの悪口少女になってしまったので破棄した次第です。

 

 

 

タイトル『IS学園の暴論少女』

 

 私はふと、以前に父がこう言っていたことを思い出しました。

 

『お前が産まれてきたせいで、俺たち夫婦は不幸になった』

 

 それから、昔に母がこう言っていたのを思い出します。

 

『アンタを産んだりしなければ私たち夫婦は・・・・・・っ!!』

 

 

 ・・・これらを個別に聞かされたのはたしか、お二人が離婚する一週間ほど前だったですかね? ハッキリ言って“失笑もの”だったので覚えていられてよかったですよ。退屈なときに思い出して笑う、笑い話の種になりますから。

 

 確かに私の性格は最低です。彼らの言うとおり、私が産まれてこなけりゃ二人の関係は末永く幸せなものとして続いたのかも知れません。私が疫病神というなら『その通りです』と素直に認めて差し上げたことでしょう。

 

 ――で? だから“どうして欲しかったのですか? あなた達は”。

 私が自分たちにとって疫病神だから、だからどうしろと言いたかったのです? 出て行って欲しかったのですか? 死んで欲しかったのですか? 泣いて土下座して罪を詫びて更生を誓い、以後はあなた方の仰られるまま生きる奴隷になる血判書でも書いてもらいたかったのでしょうか?

 

 だったら、そう言えば良かったのですよ。文句ばかりで具体的な要求がなかったから、私としては今まで通りを続けるより他になかった。

 無論、言われたところで応じるはずもない要求内容ですけどね。言わないでいたのでは議論する余地すら生まれないので、少しはマシになった可能性もあったのかも知れませんが?

 

 意訳? 相手の断片的な言葉尻から勝手に相手の心を推し量り、分かった気になって決めつけるとか言うアレのことですか? それとも自分の置かれた状況がどうあろうと卑下することなく今できる最善を目指せとか言うアレの方でしょうか?

 

 生憎と、そんな奴隷の倫理観は生まれてこの方、持ち合わせたことないもんでしてね。そんなもん持ってることを前提として語っていたとするならば、それはその人自身に『人を見る目がなかった』と言うことでしょうよ。自分の能力不足が原因です。自分でなんとかしてください。私には私のこと以外でしてやれることなど何一つない凡人の身なのですから。

 

 

 ――とまぁ、こんなしょうもない内容の思い出話を回想しているのも、現在至って暇しているのが原因でして。

 まったく、もう少し面白い会話でも聞こえてきてくれているなら、くだらない過去の笑い話なんて思い出す必要なかったんですけどね-。

 

 とは言え今現在、私がいる場所IS学園1年1組の教室内で交わされている会話が“こんなの”しかない以上は暇するしかありません。

 

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛で!」

「・・・イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ・・・・・・っ!? あ、あなた、わたくしの祖国を侮辱しましたわねぇ!?」

 

 はぁー、まったく・・・・・・

 

「もう許せません! 決闘ですわ! わたくしはあなたに決闘を申し込みます!」

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい。ハンデはどのくらいつける?」

 

 ・・・・・・・・・本っ当に・・・・・・。

 

「・・・・・・ウザい・・・・・・」

 

『『――はぁっ!?』』

 

 思わず我慢できずにつぶやいた言葉が皆に聞こえたらしく、織斑なんちゃらとか、セシリアなんちゃらとか言うイギリス人令嬢を含むクラスメイト全員が大声を上げた。

 

 まっ、聞こえても別にいいや程度の気持ちしか自制しなかったですからね。当然の結果かも知れません。今目の前で繰り広げられていた自体は本当にその程度の価値しかない――あまりにも醜くてくだらないやり取りに過ぎなかったのですから。

 

「ちょっ・・・あ、あなた今なんと仰いましたの!? わたくしの誇りを掛けた決闘宣言に“ウザい”とかの下品なスラングで泥を付けようとなさいませんでしたか!?」

「していません。勝手な憶測で決めつけて罪をなすりつけないでください。不愉快です」

「――っ!! 嘘おっしゃい! だって、さっきあなた自分の口から・・・っ」

「私は、感情論で口汚く相手を罵るプライドだけで誇りを持たない自称貴族の妄言を罵倒しただけです。誇りのかかった決闘宣言とやらに泥を付けた経験など生まれてこの方一度もありませんよ」

「なっ!? あ、や、あ・・・あなたねぇっ!?」

「なに怒ってるんです? 否定している相手への非難内容がブーメランになっていることにも気づけない阿呆は罵倒されて当然でしょう? 責めるべきはご自分の足りない頭であって私の口の悪さについては別件でどうぞ」

「~~~~っ!!!!」

 

 なにやらキー、キーわめき始めた白い猿の鳴きマネを無視して視線を移し、私はその先にいた織斑少年の状況が飲み込めていないらしい間抜け面を眺めながら思わず「ハッ・・・」と冷笑してしまいました。それが気にくわれなかったようです。

 

「・・・なんだよ。何か俺に言いたいことでもあるのかよ?」

 

 怖い目つきで凄まれてしまいました。

 笑いたくなっただけで言いたいことはなにもなかったので、少し困りますね実際のところ本当に。

 

「別に。あなたには特に何も。論評に値するほどのことは何も仰っていなかったので、何も思っちゃおりませんよ」

「嘘つきやがれ。どう見たって他人を見下しきった目で人を見つめてきておいて、今更取って付けたようなこと言ってんじゃねぇよ」

「本当ですよ? 感情論で叫ぶしか能のないヒステリー少年に、一々言葉で言って聞かせる趣味を私は持っていませんからね。そう言うのはあそこで踏ん反り返って教室銃を見下しきった目で眺めてる担任教師殿にでも言ってあげてください。少しは反省して態度を改めるかも知れませんが?」

「!!!! テメェ! 千冬姉をバカにするなら許さねぇぞ!」

「織斑! 落ち着け!」

 

 いきり立った相手が席を蹴ってこちらへ駆け寄ろうとしたところで、ようやく重い腰を上げられる役立たずの傍観者、担任教師のブリュンなんとか先生。固有名詞覚える手間が面倒くさい程度には覚えたい気持ちをそそられなくて困ってしまう人たちですよね。

 

 



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IS原作と言霊少女セレニア&ラウラ

 ・・・夏。それは恋の季節と人は言います。

 乙女の素肌を焦がす太陽のイタズラか、アスファルトに揺蕩う陽炎の幻惑か。

 少年少女の心を裸にし、男女の関係を次のステップへと誘う。

 そんな夏休みが幕を開ける僅かばかり前の臨海学校。

 

 そこに私たちIS学園1年女子生徒全員は今、やってきたのです・・・・・・。

 

 

 

「まぁ、普通に考えて年齢=彼氏いない歴の喪女である私たち今時のIS学園女子高生には関係のない話なのでしょうけどね・・・・・・」

 

 

 

『『『『喪女言うなっっ!!!!!!!』』』』

 

 

 

 

 その場にいる方々全員(原作ヒロイン勢含む)から盛大にツッコミを入れられ、現代日本からIS世界にやってきたTS転生者である私、異住セレニア・ショートの夏は幕を開けるのでした。

 自分でやっといて何ですが・・・混沌としてますよね。始めた瞬間からいきなりに。言う資格ないのが判りきれる程度ぐらいには。

 

 

「わ、わたくしは今まで一夏さんに対して本気を出さなかっただけですわ! 夏は乙女を女に変える季節と言いますし、夏こそ本気出して見せましょう!」

「あたしなんか新しい水着買って臨海学校に備えてきたんだからね! 一夏の一人や二人ぐらいお色気ポーズで夏の海にフィーッシュ!して見せてやるわよ!」

「そうですか。頑張ってくださいお二人とも。応援しておりますよ。骨は拾ってあげますからね?」

『試合が始まる前からゲームが終わった後の用意を保証されて、どう頑張れと!?』

 

 いやまぁ、ほら。アレですよあれ。後顧の憂いなく突撃できるというヤツです、たぶんですけれども。

 

 

「・・・う、ううぅぅ・・・あたしだって好きこのんで十六まで独り身でいたわけじゃないのにー・・・」

「・・・わ、わたくしの乙女のハートとプライドがズタズタのボロボロですわ・・・。かき集めて再構築しないと一夏さんの前に出られる状態に戻れない状態にまで辱められてしまいましたわぁぁぁ・・・・・・」

「人聞きの悪いこと言わんでくださいよ・・・いや本気のマジなお話として」

 

 血涙のようにも錯覚させられそうな涙の滝を流しつつ、砕けたガラスを手でかき集めるような仕草をしてみせる凰さんとオルコットさん。

 

 どうでもいいんですが、砕かれたプライドって甲子園球児がグラウンドの砂を集めて瓶に入れるのと同じ仕草で直せるものなんでしょうか・・・? 自分自身がわりとプライド持つ資格のないクズだと自覚している私にはこういうの苦手分野なんで本気でわかりませんね・・・。

 

「まぁ、それはそれとして。お二人はああ言っておられますし、私たちだけでも先に行きましょうか? ボーデヴィッヒさん」

「あい!」

 

 愛らしい返事とともに体当たりタックルで抱きついてくる原作ヒロインのボーデヴィッヒさん(お子様精神バージョン)。

 あの事件でVTシステムが暴走し、記憶の錯乱した状態で目覚めて最初に見た私を『母親』だと勘違いしたまま今に至るまで、通常モードとお子様モードの落差に頭痛を感じさせられながらもなんとか上手くやっていけてる彼女と私。

 ドイツ代表候補にして正規軍少佐のタックルであろうと、どんと来いです。

 

 ――受け身ぐらいは取れるようになりましたからね。フローリングの床がアスファルトの地面に変わったぐらいではダメージ倍増ぐらいで抑えられますよ。被害甚大ですが航行に問題なし。・・・でも痛い・・・(T_T)

 

 

「ふっふっふ~、夏の魔力は女の子を魔性の女の子に変えちゃうのだよセレり~ん」

「貴女はいつも、どっから沸いて出てるんですか本音さん・・・」

 

 衝撃から立ち直り、物理的にも立ち上がった私の背後からニュッと生えるように出てくるマブダチの布仏本音さん。相変わらず神出鬼没なお方ですねぇ。

 

「ふっふっふ~ん♪ のほほんさんは、のほほんさんがいたいと思った場所にいられるものなのだ~」

「ルネ・デカルトもビックリすること間違いなしな異能力ですね・・・」

 

 宝具《コギト・エルゴ・スム(我思う故に我あり)》を実装したサーヴァントバージョンとしてなら、本人も使えそうな能力ですけれども。それはそれとして。

 

「それにしても、なんなんですか? その着ぐるみ姿は・・・まさかその格好で海行くつもりではないでしょうね・・・?」

「ざっつ・ら~いと♪ これがのほほんさん自慢の水着姿なのだぁ~」

 

 のほほん笑顔で、のほほんと言ってくる其れは誰がどう見てもキツネの着ぐるみ。耳まで付いてて、彼女の全身をスッポリ覆ってしまっております。

 

「・・・・・・沈みませんか? それで海入ったら確実に・・・」

「にゃははは~☆ そもそものほほんさんは泳げないから海に入ることを気にしなくて良いのだよセレりーん。これぞ布仏流忍法『どぼーん』の術なのだ~♪」

 

 正確には、土遁の術ね。

 あと、『どぼーん』だと普通に沈んで溺れちゃってますからね?

 

「ところでセレりんの水着姿はどういうのなの~? 人のだけ見させておいて、自分のは恥ずかしいから見せたくないなんてヘリクツは通らないのだよー。

 ほらほら、脱げ脱げ、良いではないか~♪ 良いではないか~♪」

「わ、分かりましたよ。脱ぎます、脱ぎますから上に着たシャツ引っ張らないでください。伸びちゃいますから」

 

 直射日光避け対策にと着てきたTシャツを、いきなり脱ぐ羽目になってしまいましたが、まぁいいでしょう。今日は温度の割にそれほど日差しは強くなさそうですし、シャツぐらいなら脱いでも大丈夫なはず・・・・・・んしょ、っと。

 

 

「ほら、脱ぎましたよ。これで問題ないのでしょう?」

「・・・・・・・・・」

「・・・どうしました? 本音さん。呆然っていうか、唖然としちゃって・・・もしもーし?」

 

 私が脱いで見せた途端にフリーズしたように固まる本音さん。

 手の平を顔の前でヒラヒラさせてみますが、まるで反応なし。

 

 ・・・おかしいですね。百合系漫画の登場キャラクターじゃあるまいし、同性の水着姿見て見惚れる趣味趣向を持ってる方とも思えませんが・・・。つか元男の私にそんな摩訶不思議現象起こす魅力はねぇ。

 

「・・・なんで・・・・・・」

「ん? どうしましたか? 今なんて・・・・・・」

「なんでセレりん、海に普通の服を着て着ちゃってるのかな!?」

 

 珍しく真顔の本音さんに怒られてしまいました。

 いや、しかし普通の服って。これ一応、水着ですよ?

 

「最近では素材も進化してますからね。水着も形にとらわれなくなってきてますし、水泳用というよりレジャー用という感じのが増えてきてもいますから、別におかしくないのではないですか?」

「夏だよ!? 海だよ!? 女子高生で臨海学校なんだよ!? もっとこう、可愛らしくてエッチィ水着とか着てくるものなんじゃないのかな!? 女子高生美少女として!!」

「オヤジですか貴女は。てゆーか、漫画とかで描かれ続けてる水着が昔基準過ぎるんです。ビキニなんて今時着るのはちょっと・・・・・・恥ずかしいというかなんと言いましょうか・・・ゴニョゴニョ・・・」

「ちょっ、セレりん!? 最後の部分でいろいろと正論台無しにしちゃってるからこのお話やめよーね! なんか今のセレりんは女の子から見ててもかなり危なかったからね!」

 

 危ないって何ですか、失礼な。

 ――ま、水着談義から抜けられるのであれば別に問題はないのですが・・・・・・

 

 

『『ぐはぁっ!?』』

 

 

 あ、問題あったらしい女子高生水着美少女ヒロイン二人(ビキニ装備)が宙を舞ってます。

 

「うっ、うううぅぅ・・・まさか・・・まさか極東の辺境に浮かぶ島国で年齢=初恋の喪女扱いをされた上、挙げ句の果てには殿方の目を引くため勇気を出したビキニ姿で痴女呼ばわりされるだなんて・・・もうわたくしお嫁にいけませんわぁ・・・・・・」

「あ、あたしなんて・・・あたしなんて・・・ビキニじゃなくてタンキニなのに! 露出度的にはビキニとあんまり変わらないから、なんとなくダメージ受けた気になっちゃってるじゃない! どうしてくれんのよ異住ぃ!?」

 

 知りません。そもそも、更衣室の向こう側からいつ海側に来てたんですか貴女たちは。

 

「くそぅ・・・くそぅ・・・言葉だけで乙女二人をハートを打ち砕くなんて・・・日本とイギリスのハーフは化け物か!?」

 

 人間です。あと、私ハーフじゃなくてクォーターです。

 似ているようで法律的には色々違う部分もありますから間違えないでくださいね?

 

 

「お母様! そんなところで遊んでないでラウラと遊んでください! ラウラ、お母様と一緒に海で遊んでみたいです!」

 

 ボーデヴィッヒさんだけは普段通りに可愛らしい反応を返してくれますねぇ。思わず周囲との対比で頬がほころんでしまう気分になりますよ。

 ――もっとも、気分だけで実際には動かないんですけどね。この身体、顔面筋肉筋は鉄仮面並みに感情が表に出てくれませんから・・・。

 

 別に、感情を制御できない輩はゴミだと教わった記憶は前世ではないはずなのですが・・・原因は今以て謎のままです。

 

「お母様! お母様! 見てください! カニさんです! クラゲさんです! クラーケンさんをいっぱい見つけちゃいました!!」

「良かったですね、ボーデヴィッヒさん。でも、クラゲさんはクラーケンさんとは語感が似ているだけで別の生き物ですからね?」

 

 具体的にはクラーケンとクラーゲさんぐらい違っております。烏賊とクラゲなので、多分見た目以外は少しも似てないのではないかなと。海洋生物興味ないんで知りませんけども。

 

 あと、クラーケンは神話上の生物なので生物学的に見るとどうなのか全く分からないという欠点もある論理なので、適当に聞き流して頂けるとありがたいですかね。

 

 

「お母様! お母様! ラウラと一緒に砂のお城をつくりましょう!

 ラウラ、お母様と一緒にお砂遊びがしてみたいです!」

「はいはい、ではどんなお城が作ってみたいですかボーデヴィッヒさん? リクエストはあったりしますか?」

 

「ラウラ、ノイシュヴァンシュタイン城が作ってみたいです!」

 

「・・・・・・それはスゴく素敵ですけど、ちょっとだけ難しそうなので他に作ってみたいお城があればそちらに・・・・・・」

 

「じゃあラウラ、ビッテルスヴァッハ城が作ってみたいです!」

 

「・・・・・・・・・とりあえず作りながら、制作状況に応じて柔軟に完成予想図を変化させていきましょうか。何事も計画通りにはいかせてもらえないのが制作工程と言うものですからね・・・」

「あい!」



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もしも一夏がロイエンタールみたいな過去設定を持ってたら

 

 織斑一夏は、転生者ではない。

 だが、なんの因果か本来なら覚えているはずのない記憶を保持したままの少年である。

 

 試験管の中で浮かぶ無数の自分。究極の女を量産するため種馬として造られた自分自身。

 本物が産まれて要らなくなった偽物を処分しようとする白衣姿の男たち。

 それらに自業自得の死を与えていく黒く美しい死に神のような若い女性。

 

 覚えていられるはずのない光景を、しかし織斑一夏は手を触れることさえ可能な実体として網膜と心の双方に焼きつけて今まで生きてきたのである。

 それは彼の中で深刻な女性不信と、特権階級に居座る人間たちへの深い憎悪となって精神の土壌に根をおろしてしまったのだった。

 

 それから約十六年……。

 高校受験を控えて試験会場に向かった彼がなんらかの手違いにより別の場所へと案内され、そこで白い機械の甲冑を模した運命と出会い、起動する。

 運命の輪は回りはじめ、歪んだ過去の記憶を保持した少年は女たちと出会うため、約束の場所IS学園へと入学させられる・・・・・・。

 

 

 

 

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 素っ気なく、必要最小限度の言葉だけで挨拶を終わらせて席に着いた彼に、IS学園1年1組の女子生徒たちは熱い視線を投げかける気持ちを抑えることが出来なくされてしまっていた。

 クールとも、無関心とも言い表せない、どこか超然とした貴公子的な彼のまとう雰囲気が平凡な挨拶の言葉を古典演劇に出てくる伝説の騎士であるかの如く錯覚させられたのである。

 黄色い悲鳴が飛び交う中で一夏は、特に関心を示すでもなく普通の態度で次の授業に必要な教材を取り出して机の上に並べていく。

 小学校以来の再会となる幼馴染みの少女、篠ノ之箒から意味ありげな視線を向けられていることに気づいてはいたものの、要件があるなら自分から話しかけて来るだろうと傍観の姿勢をとり続けていたのである。

 

 そして、一ヶ月前にIS学園入学を無理矢理決められた身でありながら、時間が許す限りにおいてISのついて事前に調べ上げていたおかげで1時間目の授業はなんとか乗り切り、2時間目も無事終わり、3時間目に入る前の休み時間に入った直後のこと。

 

 事件は、起きた。

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「・・・?」

 

 いきなり横合いから声をかけられ、無言で振り仰いだ先に立っていたのは金髪が地毛の白人美少女。

 わずかにロールがかった髪はいかにも高貴そうなオーラを発し、ハリウッド女優のように決めポーズを取って見下してくる姿から一目で上流階級出身者であることが推察することができた。

 

「訊いてます? お返事は?」

「・・・失礼」

 

 相手が催促するように言ってくるのに、内心では肩をすくめながら一夏は答える。

 

「自分が呼ばれていることに気づかなかったものですからつい・・・。なにしろ名前を呼ばれなかったのでね」

「・・・っ」

 

 揶揄するように返され、思わず激高しかけてしまった少女は体裁を取り繕うように、わざとらしい声を上げる。

 

「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「・・・・・・フ」

 

 軽く、生まれついての冷笑癖を発揮しながら彼は相手の少女をこの時点で見切ってしまっていた。

 正直、この手のタイプは一番楽だ。

 外観上の形式しか評価しないタイプの形式主義者なら、世の中に掃いて捨てるほど有り余っている。

 表面上の礼儀しか見ない相手には表面だけ完璧に応じて退散ねがうのが相応しいあしらい方というものだろう。

 

「なにを笑ってらっしゃいますの!?」

「いや、失敬。こちらの事情でして・・・それより貴女は、彼の名高きイギリスの才媛にして国家代表候補生のセシリア・オルコットさんであらせられませんか?」

 

 名を呼ばれ、過剰に持ち上げられ、儀礼的な上下関係を重視する頭の軽い英国令嬢は目を丸くして満足の意を示す。

 

「・・・あら、テレビもない極東の島国かと思っていましたら、ちゃんとわたくしの名は知れ渡っていたようですわね。

 こんな未開の地に住む猿の如き殿方でも最小限度の常識はあるようで安心しましたわ」

「勿論ですよ、オルコットさん。貴女の令名は俺もよく存じ上げております」

 

 ほんの僅か唇の端をつり上げる極小の愛想笑いを浮かべながら、一夏は適当に仕入れておいた雑誌の紹介記事を諳んじていく。

 IS操縦者は美人揃いだ。専用機持ちともなるとテレビや雑誌に取り上げられることが前提になるため、より見た目は重視されるようになる。国家の顔は美しくなければならないのだから。

 そうして必然的にIS操縦者は顔や見た目を褒め称える紹介文が各国政府の息がかかった出版社の記事には多く掲載され、それらは外国人の目にも無料で見られるよう発散されていく。

 それらを見るだけなら、IS学園入学が決まった一ヶ月前からでも十分すぎる時間だ。

 母国の自己PRじみた内容の記事に悪い評価など書かれているわけもなく、普通に見出しのタイトルだけ覚えていれば国家代表候補生への煽て文句に困ることだけは決してないと断言できる。

 

 だから彼はそれを暗記して、彼女の母国が彼女自身について書いた記事をそのまま本人に伝えてやっているだけだ。

 ただの伝言ゲ-ムに感情論など差し挟む余地があるはずもなし。

 普通に初めて、普通に終わる。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「あら、チャイムですわね。それでは織斑さん、ご機嫌よう。

 ISについて分からないことがありましたら、エリートのわたくしが特別に教えて差し上げても宜しいですので声をかけてくださいましな。おほほほ」

 

 来たときとは裏腹に喜色満面で頭の軽い神輿が帰って行き、一夏は静かで微かな笑顔を表面の皮に浮かべながらも内心で冷笑を禁じ得ない。

 

 儀礼的な礼儀作法に形式以上の価値などない。相手への敬意と尊敬の念あってこその礼儀であり儀礼である。

 形ばかり取り繕って見せただけで空っぽの形式を尊重するような輩に敬意などまるで抱く気にもならない。

 それすら判ろうとせず、やれイギリス人だから日本人だからと肩書きばかりを気にする形式主義者どもの妄言に自分まで付き合ってやる義理を彼はいささかも感じることが出来なかった。

 

 

(未完)



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“悪”を得られなかった世界の物語

 ――ノルマンディーを奪還するため集結を終えた連合軍艦隊の頭上に、突如として隕石が落下して艦艇の九割方以上が海の藻屑と化す。

 これにより連合軍はドイツへの侵攻を諦めざるを得ず、ドイツ軍も敗戦をまぬがれたとはいえ再び海を越えて再侵攻する余力は残されておらず、ソ連軍は連合軍が戦うことなく撤退してダス・ライヒなどのドイツ軍精鋭部隊に痛撃されたこともあり進軍を続けることができなくなる。

 日本軍は隕石落下による環境被害と異常気象によって大飢饉が発生し、戦い続ける闘志は残されていても勝つための物が尽きていたため渋々講和を受け入れざるを得なくなってしまった。

 

 こうして誰もが望んでいた戦争の平和的終結と平和が訪れた世界・・・。

 ――だが、『悪魔のような敵国を滅ぼすためならば』と我慢に我慢を強いられ続けてきた各国の国民たちの間には突然の講和による平和到来を受け入れられる者は多くなく、戦争継続を求める民衆と政府との間で内乱が勃発し、それによる混乱収束が東西冷戦の代わりとなって起きていたという、架空史を設定に持つ物語。

 

 現在は長い混乱期を終えて再統合に成功した国家も多いが、一部では分裂したまま二つの国として現在に至ってしまっている国々も存在している。

 

 

IS:

 戦後世界の各国平和共存をアピールするため落下した隕石の各国合同の調査隊が組まれたときに、隕石の中から発見された外宇宙のモノとおぼしき未知の技術を基に日本の天才科学者・篠ノ之束が開発した機械の鎧。

 表向きは宇宙開発用スペース・スーツとなっているが、実際にはオリジナルの技術を開発した未知の敵と戦うために束が開発しておいた決戦兵器。

 要するに、スパロボで『DC』を創設したビアン・ゾルダーク博士のヴァルシオンみたいなもの。

 隕石から発見されたデータの中に『敵』に関する何かが記されていたともいわれているが、束が持ち去ってしまったため実在非実在も含めて詳細は不明。

 後に初期型ISが(当時は送られた国ごとに呼び名が違っていた)各国へと送られて、IS適性を持つ者が兵士としては徴兵されない女性であることと生まれた家や身分を選ばないことなどから民主主義革命の原動力となり、戦後世界に『女尊男卑』を確立させていくことになっていく。

 開発は不可能だが、現時点で存在しているコアの数は原作より多い。

 

 

日本:

 戦後に南北に分裂して二つの政府が存在している国。ただし、ソ連とアメリカの分割支配ではなく、貧困の苦しさに耐えかねた民衆が大日本帝国相手に民主革命を起こして力尽くで建国した南の民主主義側と、大日本帝国制を維持している北側に別れている状態。

 領土の内訳は、本土のほぼすべてを民主主義側が手中に収めており、大日本帝国側の領土は北海道だけという状態。

 要するに、明治政府と蝦夷共和国みたいなもの。

 民主主義側は表向き平和と平等が尊ばれているが、実際には革命の原動力となったISを基調とした女尊男卑思想が蔓延しており、法律で制度化されていないだけで事実上の性差別制度が敷かれてしまっている国。

 

 

IS学園:

 原作とほぼ同じ存在で、民主革命の原動力になったISの操縦者を育成することを目的とした国立機関で、女尊男卑エリートの育成を目的としている学校。

 『民主主義=ISによって確立された女尊男卑』という図式が成立してしまっている世界観であるため、IS条約で結ばれた国々は民主革命で成立した国か、国家存続のためにISと女尊男卑制へと移行した国々で成立されており、IS委員会も同様である。

 

 

ファントム・タスク(亡国機業):

 原作とほぼ同じ存在だが、実はトップとして君臨しているのは篠ノ之束。

 その事実は組織の大幹部クラスでさえ誰も知らされていない。

 束が何らかの目的を果たすために設立させた組織であり、表向きは『世界中で戦争を起こす』とか、『各国で極秘開発されているISを盗み出せばIS企業が儲かる』などといったお題目で頭数を集めさせて活動している。

 真の目的が奈辺にあるのかは束以外は誰も知らない・・・・・・。

 

 

篠ノ之束:

 原作と同じく表向きは箒の姉で篠ノ之家の長女だが、実は太平洋戦争時代から生き続けている箒の祖母の姉に当たる人物。

 遺伝子レベルで肉体を改造して通常の四倍近くまで寿命を先延ばししたことにより現在も若々しい姿を保っている。

 本当の妹だった箒の祖母は箒と瓜二つの容姿をしていたためか、彼女にだけは幼い頃から家族として親身になって接してくれていた。

 他の家族は戸籍上は実の家族となっているが、実際には妹の家族たちであって自分との関係性は薄く、催眠術と偽造戸籍で繋げられた縁を持つ疑似家族としか思っていない。

 何かの目的でISを発明し、しばらく後に失踪。数年ぶりに箒たちの前へと舞い戻ってきたばかりの人物。

 ほとんど全てが謎に包まれている人物だが、一部の人間にのみ向ける親愛の情だけは嘘偽りがない。

 

 

 

 

主要国家:

 

正当日本・蝦夷真帝国:

 北海道に逃げ込んだ大日本帝国が独立を宣言して五〇年前に樹立させた国家。日本の正当な支配権を主張している。

 束から送られたISと、戦時から続けられている戦時特例法、そして地の利を生かした犠牲を問わない非人道的な戦い方による防衛戦に徹することで国防を成し遂げてきた国。

 かつての軍都・旭川に遷都して、新たな帝都に認定している。

 北海道しか領土を持たない小国家でありながら未だに“帝国”と名乗り続けている辺りが彼らの中身のないプライドの高さを物語っている。

 一方で、東京から逃げ出す際に天皇を誘拐してきており、形式的には帝を頂点とする天皇中心の国家体制であるという建前を利用するところも変わっておらず、体のいい人質として民間人共々使われてしまっている。 

 また、天皇誘拐に伴い帝都に残されていた幼い息女殿下(女に帝位継承権はなかったため利用価値がないと判断された)が臨時の女天皇に即位して、そのまま女性天皇制へと推移させようとしている女尊男卑内閣との間に意図しない利害の一致が成立したことから、人質の安全を口実に奪還作戦決行をおこなわせぬため時代錯誤な厄介者どもを一纏めにして島流しにしているという側面も存在している。

IS条約(女尊男卑の民主主義側同盟)には加盟していないが、恭順の意思は示しており逆侵攻の意思は捨てないまでも実際に戦火を交えたことは五〇年前の『敗走戦争』以来一度もなく、小さな領土で物資を食い潰しながら細々と生き延びているだけの老衰国家でしかないため日本本土からもIS条約加盟国からも『無害である』と認識されたことで生き延びることが出来ているだけの存在。

 その一方で、明治政府が改名した北海道から旧地名の蝦夷に戻したのは、『古くから蝦夷地に住まう者たちと新しく本土から訪れた自分たちとの新旧共存』と建前をアピールすると共に、『自分たちが本来いるべき場所は蝦夷地などではない』とする本土の支配者へと返り咲く執念が込められており、彼らが権力の座を諦める気がないことをも物語っている。

 なお、『IS』のことを対外的には他国と同じでISと呼んでいるが、内向けの名称として『愛國』という自分たち独自の呼び名と、独自開発した特殊装備型の開発を続けている一種独特な文化体系をも併せ持つ国でもある。

 

 

日本共和国:

 現在の日本。IS条約加盟国にして、ISの生みの親である篠ノ之束の出身国であるためIS学園や、IS委員会関連施設などが多く設置されている。(委員会の本部自体はジュネーブにある)

 形ばかりの民主主義に基づく建前国家だが、逆に言えば建前だけは建前として遵守されており、責任回避と責任分散の気が非常に濃い官僚主義国家という面も併せ持っている。

 『自主・自立・自尊』の民主主義三原則を歌いながら内実は他国の顔色を見るのと、ご機嫌伺いによって国家主権と独立を守り続けているだけの存在。

 一方で、国民たちの間では身勝手で愚かな旧軍指導者たちを力尽くで追い出したことへの誇りと自尊心の高さが未だに残り続けており、それが全国民の1パーセントにも満たないIS操縦者たちの功績でしかなかった事実はとうの昔に忘れ去られて久しい状態にある。

 男女平等の建前を守るのに利用するため、時代劇などの男尊女卑的フィクション作品の放送は認められており、むしろ積極的に娯楽作品としての戯画化が推し進められているが、ブシドー等への現代日本にはびこる史実とフィクションをごっちゃにした勘違いを蔓延させる下地ともなっている。

 そしてそれが、却って女尊男卑右翼主義者を生み出す結果にも繋がってしまったため、政府は対応に苦慮しているという公には出来ない内実が存在していたりもする国。

 

 

アメリカ合衆国:

 現在のアメリカ。IS条約加盟国。戦後の平和で最もダメージが大きかった国のひとつ。

 『悪魔のような独裁国家を攻め滅ぼし、殺された同胞たちの恨みを晴らす』という大義名分を経済危機から手の平返しで放棄せざるを得なくなったことから民衆の怒りを買い、政府と国民との間で大規模な内乱に発生してしまった過去を持つ国。

 この戦いは政府軍側もISを投入して、民間人相手にも躊躇うことなく軍隊に銃を発砲させたことから政府軍側の勝利に終わり、形式的には領土も制度も今のアメリカと変わることなく存続し続けている。

 ――が、戦いによって生まれた両者の心理的軋轢は今なお大きく残されており、特に反乱軍の大半を占めていた戦争による経済被害が大きかった貧困層の若者たちの子孫たちは激しい怒りと憎しみを今も政府と国家に向け続けていることから、一時はテロが日常的に起きる『世界で最も治安の悪い国』になってしまっていた暗黒時代も存在していた。

 その際に政府は、貧困層が多く居住するアメリカ東部に彼ら『一部の危険因子たち』を強制的に疎開させてバリケードを築いて物理的に隔離することでアメリカ国民の命と平和と支配体制を守り抜き、現在に至る。

 各州首都周辺などは名実ともに現在のアメリカと同じ繁栄を謳歌しているものの、軍の監視が行き届かない首都から遠く離れた辺境部などは無法地帯に近い状態とかしてしまっており、一部には大昔に放棄された都市をテロ組織が再建して拠点に利用しているという噂まで存在しているほど。

 実際『亡国機業』の本部は、放棄され忘れ去られた都市の一つを束の科学力で復活させたものが使用されている。

 

 

中華人民共和国:

 現在の中国。IS条約加盟国。戦後の平和ではアメリカに次ぐ被害を受ける“はずだった”国。

 戦時中は日本への復讐心と恨み辛みを国民に説き続けていたが、戦後は経済復興によるISの恩恵を最大限うけるためIS条約の調印と女尊男卑への体制移行に真っ先に賛同し、IS発祥の国である日本との平和共存を唱え国民たちの不平不満を『棄民政策』という強引な手法により解消してしまった国でもある。

 『IS経済の恩恵を受け入れる者と、そうでない者と』に人民を自主的に別けさせることにより、『変われない者たちを切り捨てる政策』を実行している。

 「平和な時代には新しい生き方と価値基準が必要である。古くさい原理主義に拘泥して国家と人民に要らぬ犠牲を敷き続けるべきではない」・・・という当時に唱えた建前を“建前として”今も尊重しており、『変わることが出来なかった原理主義者たち』との間で今なお不正規戦と弾圧が続けられている。

 『戦争に使用できないIS』を『市街に被害を与えることなく人間だけを殺すことが出来る小回りが利く大量破壊兵器』として『民間人弾圧用』に使用している、蝦夷帝国と並んで数少ない国でもある。

 

 

ドイツ帝国:

 戦後の混乱をヒトラーお得意の内政復興でなんとか乗り切り、その際に強権発動が可能なように帝国制へと正式に移行した国。IS条約非加盟国。

 建国者自身が男だったことから、現代では数少ない女尊男卑を正式に採用していない国として知られている。

 男の軍人の命令を、女の部下が聞くなどという部分もあるが、国家自体が精密機械じみた統率力と規律によって維持されているため問題は意外に多くない。

 要するに、ドイツ帝国みたいなもの。

 ヒトラーが本気出して内政に取り組み、死ぬまで二度と外征を行わず、だが準備だけはしておいてから死んでしまったせいでこうなってしまった国。

 

 

――民主主義の美名のもとで平然とおこなわれている自由と権利への抑圧が制度化された社会が今作の舞台であるIS世界。

子供たち一人一人が支配と自由とについてどう向き合っていくかがメインテーマの作品です。



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転生対象に桃白白(タオ・パイパイ)を指名する奴って珍しいのかな?

 それは学校からの帰り道で歩いてた時のことだった。

 転生の神様のミスで、死ぬ予定になかった俺は走ってきた車にはねられて呆気なく死んでしまい、お詫びの印に好きな作品世界で好きなキャラクターに転生できることになった。しかも転生特典でチート付きだという。なんというサービス。

 

 が、そこまでは良かったのだが問題が発生した。

 俺が望んだ転生対象の『桃白白(タオ・パイパイ)』では、世界観的にチート与えたところで最強になれないようなのである。

 

 桃白白は言うまでもなく名作漫画『ドラゴンボール』の敵キャラで、世界一の殺し屋と呼ばれている(もしくは自称している)男だ。

 DB序盤において、初めて悟空を圧倒したキャラとして知られている。

 

 もっとも、その直後にパワーアップした悟空によりアッサリと倒されてしまうことから、出落ち感満載なキャラとしても有名な訳なのだが・・・。

 俺自身は結構いると思っているのだが、ドラゴンボールの敵キャラクターの中で『レッドリボン軍』が一番好きだと思ったりしないか? 俺は大好きなんだけどなぁ~。

 

 ――それは、さておき。

 直近の課題として序盤の最弱(に近い)集団レッドリボン軍の一員ではないにしても、Z以降も続いていくDB世界で桃白白が無双していくのは能力値限界的に不可能なのは神様でもどうしようもないらしい。

 無理矢理な強化も昔は有りだったらしいのだが、最近チート転生案件が重なりすぎてしまったせいで上層部から加減を求められてしまったとのことだった。その人が本来持ってる上限を超えすぎるためには、何らかの理由付けが必要不可欠らしいのである。スーパーサイヤ人とかな。やっぱサイヤ人生まれはズリぃ。

 

 結局、相談の末に妥協案として『専用のパワードスーツを着れば原作通りの力が出せる。代わりに普段は現地世界の常識を越えすぎない強さに留める』と言った感じに落ち着いた。

 

 転生先は『インフィニット・ストラトス』と言う名の作品世界。

 俺も何度か見たことがある、ISという略称の機械鎧をまとって戦う現代が舞台のバトルラブコメものだ。他にもいくつか候補はあったのだが、単に俺が知ってるのだとこれしかなかった。何も知らない世界に飛ばされて楽しむ前向きさは悟空たちだけで十分である。敵キャラ志願者に求めるな。

 

 と言うわけで、転生の神様とはここで永久のお別れ。次会うときは無いとのことだったので、お互い後腐れ無く別れることが出来た。グ~ッドラ~~ック。

 

 

 

 ――そして、現在。

 生まれ変わってから十六年が過ぎた俺・・・いや、“私”は今、ある場所に呼ばれて到着したところなのである。

 

 

 

 

「はじめまして。私が香港一の殺し屋『桃白白』だじょー」

『・・・・・・・・・・・・』

 

 香港マフィア『九頭竜』の本部ビルで行われていた秘密会議の場は、部屋に入ってきた少年の挨拶により一気に白けたムードで満たされてしまった。

 

 ふざけたガキだ、ふざけた恰好だ、ふざけた挨拶の仕方だ、ここをどこだと思っている!? ・・・そんな悪意で満たされていく部屋の中で少年は一人へ依然とボスの前へと進み出て、今一度ちゃんとした自己紹介と挨拶をする。

 

「どうも、はじめまして。私が香港一の殺し屋の桃白白です。今日は珍しくあなた方の方から仕事の依頼があると伺ったので参ったのですが・・・お取り込み中でしたかな? それとも私の悪口を聞いて欲しいのが依頼の内容でしょうか? 私としてはどちらでも構いませんぞ。

 お約束の金さえいただけるのでしたら、何時間でもお付き合いして差し上げましょう。ちなみに料金は一人につき十分、五千万ウォンです」

「・・・・・・・・・どうも」

 

 相手の不遜さに内心で歯ぎしりしながら、ボスは部下どもを一睨みして「少し黙れ」と脅しつけて縮こまらせる。

 彼とて気持ちは部下たちと同じだ。目の前のクソガキをぶち殺して死体をドブ川の底深くに沈めてやりたい。出来るものなら今すぐそうしろと命じたいほどに。

 

 だが、彼を敵に回すのはあまりにリスクが大きすぎた。割に合わないのである。それをボスは、この二年間で嫌と言うほど思い知らされている。

 それほどまでに目の前に立つ、お下げ髪の少年は危険極まりない人物なのである。

 

 桃白白と言えば、香港裏社会で知らぬ者とていない悪夢の代名詞と呼ばれている人物だ。

 数年前に突如として現れ、殺し屋として一躍有名人に成り上がってしまっている。今までに殺された組織のボスたちの顔ぶれを見れば、その急成長ぶりも納得せざるを得ないほどに。

 彼の信念は、ただひたすら『金、金、金』であり、金さえ払えば誰からのどんな奴を殺す依頼であろうと受けてくれる。それを利用して対立組織のボスを亡き者にし、乗っ取ろうと考えた輩が共倒れに終わって最後に残った最大組織が『九頭竜』と言うわけだったから、その力と強さを誰よりも知るのが最後に生き残っていたボスであるのもまた道理。

 

 だからこそ、いつ誰からの依頼で自分を殺しに来るかわからない存在であり、今では香港裏社会で随一の大物となった自分が枕を高くして眠れないようにしているクソ生意気なガキでもあるため心中穏やかではいられない。

 

 本当だったら、こんな奴に依頼なんて死んでもしたく無い。・・・・・・が、そうも言ってられない事情が裏社会の側にもあるのだ。やむを得ない。

 

 

「・・・今日来てもらったのは他でもない。

 オリムライチカについては君も知っているだろうな?」

 

 ボスの口から思いもかけぬ名前が出てきたことから桃白白はわずかに驚き、片眉を上げる。

 

「ええ、まぁ多少は。先日見つかった世界で初めてISを動かした男の名前で、元IS王者で世界チャンピオンの弟でしょう?」

「そうだ。そのオリムライチカだ」

「そして、十年と少し前に世の中を一変させた『白騎士事件』の実行犯、織斑千冬の弟でもある男の名前でしたな」

「・・・・・・」

 

 今度はボスは即答しなかった。むしろ黙り込んだまま「どうしてその事を?」と、強い視線で桃白白に答えを要求する。

 それに対して相手は大したことではないと言うように飄々とした言動で軽く応じてやる。

 

「私も裏社会の人間です。一応は、ですがね。世俗の情報にまるきり興味が無いというわけでも無い。ある程度は良い耳を確保しておりますものでしてね・・・」

「・・・ふん、なるほどな・・・さすがに香港一の殺し屋は伊達ではないというわけか・・・」

「ああ、その人物について知りたければ金さえお支払いいただけたらお教えして差し上げるが、情報料は法外ですぞ? 最低でも1兆ウォンはいただきたい」

「・・・・・・・・・・・・結構です」

 

 苦々しい口調と表情で遮って、ボスは部下の一人から桃白白に写真を手渡させ、仕事内容について説明を始めてやる。

 

「知っての通り、彼は今のIS社会にとって最大級の注目株だ。狙っている組織は合法非合法を問わず多数いる。そんな連中と互角にやり合いながら目的を達することが出来そうなのは君しかおらんのだよ。だから君に依頼した。彼の“護衛”をな」

「護衛? 失礼ながら私は殺し屋だと言うことは、そちらもご存じだと思って参ったつもりでしたが・・・間違いでしたかな?」

「間違ってはおらん。君の言うことは正しい」

 

 ボスはうなずいて首肯し、「だが」と、その後の続きを連ねるのを忘れたわけではない。

 

「だが、君にもわかるだろう? 今は女尊男卑の世の中・・・時代は変わったのだ。男社会のマフィア同士で殺し合いをしていても双方共に何の利益にもつながらない。

 むしろここは過去の遺恨を捨てて、女尊男卑政権とゆう強大な敵に立ち向かうため手を携えるべきだと私は考えておる。その上で女尊男卑を打倒し、男優位の世の中を取り戻した後でゆっくりと世界のその後を考えるべきじゃないか。そうは思わんかね君は?」

「・・・・・・・・・なるほど。確かにその通りかも知れませんな」

 

 うなずいて、桃白白は了解する。

 

 ――コイツ、日和りやがったな、と。

 

 考えてみれば当然のことで、世の中のあらゆる階層が女性層に移り変わってゆく中、香港裏社会だけが未だに男中心の男尊女卑社会であり続けていられてたのは偏に桃白白の存在による脅威が占めていた部分が大きい。

 そんな彼がいない裏社会でトップに立ちたいと願う九頭竜のボスにとって政府に身売りするのに躊躇いなどわずかなりとも覚えはすまい。

 

「しかし、彼は先日の一件でIS学園に入学することが決まったと耳にしました。残念ながら私は男で、ISは女性しか動かすことが出来ないと聞きましたが?」

「それは心配ない。今回の仕事を依頼するまえに、別の仕事依頼があっただろう? アレは実は私が君をテストすることを目的として雇ったものだったのだよ。

 その時の試験で確認したのだが・・・喜ぶがいい。君は世界で二番目の男性IS操縦者であり、特権階級の一員になれる資格を持つ人間だった。だからこそ今回の仕事は君でなくてはダメだった、と言うわけなのだよ」

「ああ、なるほど。そう言うことでしたか」

 

 桃白白は納得した。

  ――そう言えば先日、織斑一夏の一件を聞きつけた中国の狂犬が、彼を追うようにIS学園へ入学させるよう軍上層部に脅しをかけてきたと言う話を耳にしたな、と。

 

 香港政府としては中国に遅れを取り続けるのは好ましくなかろう。それで今回の一件を餌にして九頭竜から自分に依頼を持ち込ませた。政府は犯罪組織の違法行為に関与していませんとアピールした上で。

 

「こちらで最新鋭のISを用意した。――おい、誰か格納庫へ案内してやれ」

「へい」

 

 ボスに命じられ、飼い犬の一匹が進み出てくる。

 

「その機体は我々が独自のルートで入手したコアに改造を施し、軍が保有する最新鋭のものと遜色ない性能を持たせた規格外の代物なのだが、なにぶんにも非合法の塊でな。IS委員会による監査が厳しすぎるので、偽造でごまかすには限度があるのだよ。

 だから、ワシ個人がもつコネクションを使って香港政府から韓国代表候補という肩書きと共に入手してきておいた。このご時世、大抵の無茶は通せる肩書きと特権だ。仕事もさぞかしやりやすくなるだろう。期待してるよ白虎虎君。フフフフフ・・・・・・」

「どうも」

 

 期待通りというか、予想通りと言うべきなのか。

 まぁ、どちらでも良いし同じことなのだが、九頭竜は香港政治家の汚職に一枚かませてもらうのが目的で自分を手土産に差し出したらしい。

 本気で自分には関係ない、どうでも良いことではあったけれども。

 

「ああ、ところでですが。一つお聞きしてよろしいですかな?」

「なんだ? まだ仕事内容でわからない部分があったのか?」

「いえ、仕事とは直接関係ないのですが・・・・・・その屏風の後ろに隠れて、私が入ってきたときよりずっと気持ちの悪い笑顔を浮かべている、犬みたいな醜い顔の女性はどなたですかな? もしサインが欲しいようでしたら書いて差し上げますが? もちろん有料で」

『!!??』

「あなた方、裏組織にも面子というものがおありでしょう。

 よそ者の犬にいつまでもデカい顔をしていられるのは気にくわないが、男の自分たちだけだと楯突く力がないから優秀な番犬がいるのだという事実を見せつけたい。

 その為にはソイツらの下っ端を見せしめにぶちのめせば良いという考えには同意ですし、ソイツらが狙っている対象がわかっているとするならば待ち伏せするにも丁度良いですからな。気持ちはわかりますとも」

『・・・・・・』

「ご心配なく。私は依頼人が何を目的として依頼してきたかなどに興味はない。ただ、お約束した金さえいただけたらそれで十分。織斑一夏だろうと、亡霊のようなテロ組織の犬だろうと消してみせましょう」

『・・・・・・」

「ですが、あなた方はとても運がいい。今年は私が殺し屋をはじめて十年と少しの『殺し屋さん十周年と少しキャンペーン』で半額セールを実施中でしてな。多少のアフターケアはサービスの範疇として還元させていただいているところ。

 普段の私なら、こんなことでもお金儲けに使うところですが、今のはサービスということにさせていただきましょう。ラッキーですな、はっはっは。――では、失礼」

 

 

 桃白白は部屋を出て行き、その後にボスがどうなったかについては興味もなかったので調べようとせず、だからどうなったのかまるで知らない。

 ただ、少なくとも仕事量は毎月支払われてくるみたいだったから、それで良かった。

 生きているのか代替わりしたのかなど関係ない。

 金に、持ち主の色は付いていないのだから・・・・・・。

 

 

 

オリジナル設定:

桃白白

 今作主人公の転生者。

 香港政府がマフィアを通じて雇い入れ、香港代表候補生にして専用機持ちという肩書きを与えられた殺し屋の少年。

 第四次スパロボFに出てくるウォン・ユンファとマスター・アジアがごっちゃになったような設定のキャラ。実際、似たような立ち位置にある存在。

 見た目はチョビ髭をなくして背が低くなった桃白白。

 生身の強さは千冬より弱いけど、学生の域は超えている。並の人間ではまず勝てない。

 服にこだわりがあり、普段は桃白白コスチューム以外を着るのを嫌がるが、IS学園ではさすがに制服を着ている。

 曰く、「学生でいる間は、このダサい制服で我慢していてやる」

 ・・・ただし、制服改造自由なのを知ってからは改造しまくって原形を留めていないレベルにまで達してしまうことは神のみぞ知る未来の出来事・・・。

 戦う理由と目的は、ただただ『金、金、金』。それだけ。

 逆に金にならない殺しには一切興味がないので、意外と敵を見逃してやることも多い人。

 金目当ての悪人だが、恨みや憎しみで世界になにかしたいと願う絶望とは無縁な拝金主義者。

 

 

専用機

白虎虎(パイ・フウフウ)

 香港が開発した第三世代機。技術的には中国に劣るが、それでも第二世代と比べたら十分に基本性能は高い機体。操縦者に合わせ、接近格闘戦を得意としている。

 機体色はピンク。

 

武装

『連振青竜刀』

 ISサイズの青竜刀。甲竜の双天牙月と違って常識的な大きさで片刃。あくまで剣術用の刀剣である。

 

『満漢全席』

 イグニッション・ブーストで急速接近してから放たれる連続攻撃。武装というより、IS機能を取り入れた彼個人の技と言う方が正しい。

 拳と蹴りの連続攻撃後に相手を蹴り上げ、ブースターで上空へと急上昇し、両腕を振り下ろして地面へと叩きつけて大ダメージを与える。

 あくまで相手を『殺さないこと』が大前提の試合であるIS戦用としては意外と優れており、食らえばエネルギーを大幅に削られる上、彼の技量で回避が難しい。

 

 

 ワンオフ・アビリティーは言うまでもなく【どどん波】。

 元々はブルー・ティアーズのスターライトと同じ系統の武器で、高火力のビーム射撃兵装でしかなかったが、桃白白の技量が合わさることにより『バリア貫通能力』を有する武器に変質してしまった。

 白式の『バリア無効化』と違って、バリアエネルギーを削る効果はなく、ただ一点突破で貫くだけ。装甲には普通のビーム兵器として作用する。

 ただし、生身の人間に当たったら洒落にならんことになるので、桃白白自身のコントロールによりバリアーを貫通して本人に直接ダメージを与えられる程度にまで抑えられている。

 セカンド・シフトで『スーパーどどん波』に進化することはあり得るのだろうか・・・?

 

 

*実はブルー将軍も大好きな作者。いつか彼を主人公にしたIS二次作とか書いてみたいですね♪



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『楯無』分家の当主は言霊少女

 

 そこは、夜の波止場。

 海霧が立ちこめており視界が悪く、申し訳程度に灯ったままの街灯も老朽化し、むしろ今すぐにでも崩壊しそうなほど・・・・・・。

 

 建設された当初は海外交易の中心地として活躍していたが、貿易量の拡大に伴い想定されていたキャパシティに収まりきらなくなると程近い場所に新しい港が新設され、そこに貿易拠点としての機能が移転されて利用者数が激減し、いつしか誰も使わなくなったこの場所は廃棄処分がされることもないまま全ての人から忘れ去られてしまっていた。

 

 潰す金はあるが、潰す必要はなく。かつてここを使用していた船乗りたちから潰すのは惜しいと数ヶ月に一度哀愁に浸るためには必要で、学園島と『IS学園』と『IS時代発展の軌跡を知るための歴史遺産』としても観光地として残しておく価値があると主張されて、一日に数十組程度しか訪れない観光客用に残してある税金の無駄使いのための場所。

 

 金と利権を漁り合うしか能がない国にありながら、ノスタルジーとしての価値を認められて金をかけて保護してもらえている血税のゴミ捨て場。

 

 それがここ、『学園島第一港湾施設跡公園』。

 

 

 ――まさに、『こういうことをする場所』には打って付けのロケーションと言う訳ね・・・

 

 その場に訪れた直後にその女はそう思い、薄く笑った。

 金髪に色白の肌をして、スタイル抜群の恵まれた肢体を誇る女優のような出で立ちの女で、パスポートに記されている身分もそのまま『女優』だった。所属事務所も実在してるし、活動もしている。世界的有名人ではないが、何本かの映画やドラマで主演をしており一応の実績と信頼もある。

 

 ――何よりも、外国から出演依頼を受けた女優というのは『怪しまれずに入国する際にパスポートが取得しやすい』・・・そういうメリットがあるからこそ選んだ表向きの職業なのだから実績作りを疎かにする訳にはいかない。

 『そこそこ怪しまれない程度の知名度と実績』というのは彼女にとって貴重な財産であり、身を守るための盾であり剣でもあるのだから・・・・・・

 

 

「サラ・マリーゴールドさんですね? お待ちしてましたよ」

 

 街灯の下までやってきた彼女を待っていたのは、小粋なスポーツカーに背を預けた姿勢でキザに腕を組んで外国製高級スーツを着こなしている優男。

 一見しただけで『一流企業社長のバカ息子』か『成り上がりの成金若手IT企業経営者』というイメージを相手に持たれること間違いなしな身なりをしているし、実際に公的身分も大手IS企業の若き重役である。仕事もしているし実績もある。社会的信頼度も高い。

 

 ――だからこそ、こういう仕事を任せるには恰好の人物だと評価されているのだから当然と言えばそれまでであるが・・・・・・。

 

 

「それでは、仕事の前にわたくしより一言謝罪させてくださいませ。マリーゴールド様、『このような目立つ場所』にお呼び立てしてしまって誠に申し訳ございません。当社の不徳と致すところと心より反省しておりますので、何卒今後ともどうかご贔屓のほどを」

 

 出会い頭にこちらから話しかけようとして機先を制され、男の方からいきなり頭を下げて平身低頭謝罪してこられた女――密貿易のために来日した国際テロ組織『亡国機業』の構成員にしてコードネーム『サラ・マリーゴ-ルド』――は面食らった。

 

(・・・なるほど。これがニホンの『ドゲザ外交』って奴なのね・・・)

 

 最初、耳にしたときは何の意味があるのか全く理解不能だった交渉術だったが、こうして目の前で自分にやられると効果の程を理解せざるを得ない。

 確かにこれは遣りづらい。相手が悪くもなんともない状況の中、商談そのものは上同士が決定させていて受け取りに来ただけの現場責任者として示された今のような場合は特に。

 

「・・・気にしなくていいわよ。物が物だからこういう場所以外なかったってだけでしょうし。何時もであるなら、もっと雰囲気のある場所で渡してくれるはずだったのでしょう?」

「勿論です。一流ホテルのスィートルームだろうと、雰囲気のいい高層ビルのラウンジでグラスを傾け合いながらであろうとも、あなたが望まれる全ての要望を叶える準備が我が社には常に整えられております。

 その点におかれましては、どうか我が社をご信頼くださいませ。マリーゴールド様」

 

 如才なく笑顔を浮かべて自信満々にそういうこの男の面の皮は相当なものだと、女は今まで見下していた日本人の男たちを少しだけ見直してしまうほど誠意あふれる厚顔無恥な返事であった。

 

 なにしろ自分たちは『IS条約で禁止されているISの密貿易』をこれから実行しようとしている身なのである。それをここまで丁寧にお膳立てしてくれる『日本の国営IS企業の重役』がどの面下げて「信頼」などと言う言葉を口にするのかと、良識ある模範的な社会人なら説教すべきところではあるが、あいにく同じ穴の狢しかいない場所では詮無き戯れ言でしかない。

 

 

「お会いできた直後に無粋だとは思うのだけど、さっそく商品の方を見せてもらえるかしら? 私も決して暇ではないのよ。

 なにしろ、明日にはマスコミの前で映画監督と記者会見に臨まなくちゃいけないから」

「マリーゴールド様のご事情は十分に承知しております。ご安心ください。準備は万端整っておりますよ・・・どうぞ、こちらへ」

 

 恭しく丁寧な仕草でスポーツカーのドアを開け、車内へ彼女をエスコートする優男。

 常識的に見た場合、男の身分で相手の女を車の中へ招き入れるのは別の誤解を招く元にしかならないのだが、そういう誤解であれば逆に歓迎できる。

 なにしろ、『そういう誤解をして欲しくて選ばれた人選基準』なのだから。本来の目的とは関係ない方向で勝手に妄想してくれるのは素直に喜ばしい。

 

 彼らは只、近くの桟橋に止めてある船に積まれた『量産型IS』二機を受け渡して、一期一会で安全に別れられさえすればそれで良いのだから。

 

「本来、専用機をくれるんだったら、こんな面倒な手間をかける必要はなかったんだけどねぇ・・・」

「・・・その点につきましては本当に心より申し訳なく思っております、マリーゴールド様。あなた様の仰られるとおり専用機さえ用意できていれば、このような目立つ場所で取引する必要などなかったのですが・・・」

 

 男が再び表情を曇らせ、本心から申し訳なく感じていると思わされる『如何にも沈痛そうな表情』を浮かべてから頭を下げてくる。

 本当に日本人というのは建て前と本音を使い分けるのが上手いと、感心させられるほどの、舞台俳優顔負けな名演技だった。

 

 確かに彼の言うとおり、IS密貿易は専用機であればあるほど楽になる類いの歪な交易だ。待機形態で持ち歩き、普通に会社のロゴマークがついた仮眠袋に入れて手渡せばそれだけで誰かに不審がられる恐れはほとんどない。

 

 そして、その足で宅配会社に依頼して目的地まで海外便で送ってもらえばいい。非合法手段で入手した機材を受け取った直後から肌身離さず持ち歩き、職務質問されたときに弱点となる証拠を作ってやる義理はどこにもないのだ。

 

 無作為に選出された民間宅配会社から正規の手続きで速達された品物は、作為的に運ばれた物より遙かに発見しづらく意図がないので意図に気づきにくい性質を有する。

 宅配会社に至っては、本当に只の客でしかないので当局の調査に対しても誠実に真実を答えるしかない。

 

 結果、正規の出国手続きをして国外逃亡するまでの時間稼ぎになる。

 亡国機業の構成員には力尽くで強奪する手法を好む同僚が多くいることは知っているが、彼女個人としてはその手のやり方で無駄なリスクを払いたくはない。

 

 せっかくIS企業の本場で、実験施設も多い『IS学園』を有する学園島が日本国内にあるのだから、制度とシステムは便利に活用すべきなのだ。

 

 

「日本には初めて来たけど・・・思っていたよりずっと良い国じゃない、ここ。気に入ったわ。是非ともまた来日してみたいわね」

 

 外国から訪れた外国人観光客らしい言葉をサラは口にして、相手も笑う。

 

 書類上で使途を明確にしてルールを守り、周りが自分に思い描くとおりに演じていれば、こちらが裏で何をやっていようと誰も興味を持とうとはしない。一部の人間が真相に気づいて警告しても大部分の人間は知らん顔してくれる。

 なによりも問題が起きたときに彼らは彼らのビジネス上の都合とやらで、当局からの干渉を逃げ切るため全力を尽くしてくれる便利な道具でいてくれるのだ。

 

 双方の利害が一致している間に限り、親切で誠実な隣人でい続けてたいと思ってしまうのが非合法組織に所属するテロリストとしての人情というものだろう。

 

「はい、これチップ。商品の受取金が支払われている銀行の暗証番号だからなくさないようにね? 正規の手続きに則っているとは言え『絶対安全』なんて言葉は絶対に存在しないものなんだから」

「心得ております。ご心配なく」

 

 如才なく微笑んで紙切れを受け取る彼。

 表向きこの取引は既に亡国機業のダミー会社と彼らとの間で商談が成立し、公の効力を持つ契約書や書類が多量に用意されている。代金の引き渡しは外国企業らしく、第三国の信用できる社会的に著名な大手銀行会社を通じて支払い済みだ。

 表向きの書類は全て完全にルールを守っている。嘘をついているのは売却した商品名が書かれた一カ所だけ。

 

 『開発されたばかりのIS用新武装』の部分が、本来であれば『IS本体』であるという一点に限り彼らの取引は嘘をついていることになるのだろう。

 

 IS本体の輸出入は『国が保有するIS数を監視する監査組織《IS委員会》』によって厳しく見張られているが、既存兵器を鉄クズ認定させたIS用の武装には既存の軍事技術が多く使われているのと、いちいちISが使うマシンガン用の弾丸一発一発まで監査していたら切りがないことから普通の軍需品として国際貿易機構に調査を丸投げしてしまっているのが、歴史が浅くノウハウも人員もまったく足りていないIS委員会の実体である。

 

 民間の貨物に紛れ込ませて輸送する分には調査の目は恐ろしく甘くなるのが常である以上、警戒すべきは民間の貨物船に積まれるまでの移動時間のみ。

 その為にこそ彼女が呼ばれ、ここにいる。

 

 

「外国から日本に来ていただいた外来のお客様に、日本を気に入っていただけるのは日本人として喜びの極み。是非またお越しください。その時は私個人が歓迎させていただきます」

 

 今度こそ本心からと伝わる喜びの笑顔で優男はヌケヌケと、『次の裏取引にも我が国と我が社をご利用ください』とセールストークをしてくるのだから、本当に日本人の男の商魂たくましすぎる部分には頭が下がる。

 

 きっと、こういう男たちが焼け野原となったこの国を数十年で摩天楼に作り直してしまったのだろう。敬意に値する拝金主義者だ。見習うべきところも数多いだろう。

 

 ・・・・・・決して、こう成りたいとは思えない人間だけれども・・・・・・

 

 

 

 

「人間ってホント、面倒くさいものよねー」

 

 肩をすくめてそう言って、車に乗ろうとした彼女は―――全速力で後ろに飛んで、その場所から逃げ出した。

 受け身だのなんだの考えている余裕はない。本能に従い、『ここにいたら死ぬ』という恐怖心から逃れるため全速力で逃走した。ISを展開するイメージなんてしている余裕はコンマ1秒も存在しなかった。

 

「へ?」

 

 何が起きたのか視認することすら難しい早業で撤退した彼女の動きは男には理解できず、そもそも何が起きたか把握している時間的余裕すらもないままに、男が手をつけている外車の後部から「ボコン」と音がして黒い穴が開き、続いて「ボンッ!」と言う小さな爆発音が聞こえてくる。

 

 

 ――そして、爆発した。

 ガソリンの詰まった燃料タンクを撃ち抜かれ、中で弾頭に使われた炸裂弾が小爆発して引火したからだ。

 燃料タンクは普通の拳銃弾程度では貫かれないよう頑丈に作られているとは言え、発砲音が聞こえずに遅れて聞こえてくる『ライフル弾』で狙撃されることまでは想定されていない。

 

「どこからだ!? 誰が狙って来やがった!?」

 

 女は即座にISを展開して地面を這うようジグザグに移動し始める。

 1キロ以上離れた場所からの狙撃は、銃声が遅れて聞こえてくる。つまりは今いるこの場所からは1キロ以上離れた場所に狙撃手がいるのは確定と言うことだろう。

 

 ――最悪だ。

 要するにそれは、自分が今いるこの場所から1キロ以内の無人地帯は、すべて敵が自分一人を殺すためのトラップに使える支配領域という事じゃないか!

 

 人目のつかないのが利点の廃港は、人気というものがほとんどない。よしんば居たとしても、既にどこかへ移動してもらえるよう手はずを整えてしまっているだろう。

 

 狙撃場所を選べるほど時間的余裕のあった相手が、そこまで準備していないはずがない。どこもかしこもトラップだらけ、罠だらけ。逃げた先にも罠があり、トラップを突破した先に罠があると考えた方がいい。

 それが出来る環境が整えられているのだ、やらない方が頭がおかしい。

 

「クソッ! 一か八かって言うのは趣味じゃないんだけどね・・・っ」

 

 叫んで女は、ライフルで撃ってきた相手と直接対決するため狙撃ポイントとおぼしき高層ビルへと向けて全速力でISを飛行させる。

 

 敵がISを展開できることを想定していない敵であるなら、最初の狙撃で自分を狙っている。自分ではなく、男でもなく、的がデカくて外しにくい車の燃料タンクを撃ち抜いて爆発炎上させて男を巻き込み焼死させる。たとえ死ななくても火傷によって正常な機能を奪えれば御の字だ。満足に移動できなくなった相手などIS操縦者であっても楽に殺されてしまえるのだから。

 

 相手は計算尽くでそれを仕掛けてきている。恐ろしく遠回しで慎重で用心深い、徹底的に敵を評価しまくって確実に殺すことを狙ってくるタイプの輩だ。

 こういう奴を相手に変な楽観論や希望的観測は捨ててしまった方が、結果的には勝率が上がることを彼女は自身の経験則から熟知していた。

 相手の強さにかかわらず、全力で挑んだ方がいい。この手の輩に『見下し』とか『侮蔑』とか言う感情論は邪魔にしかならない。そんな甘さをコイツらは絶対に見逃さない。如何に利用して殺すかしか考えてこない。

 

 そういう奴等なのだ。圧倒的強者以上に『油断すると拙くなる相手』。自分の弱さを知ってる奴等。

 

「だからこそ!」

 

 直接対決してしまえば勝機はある。

 元より卑怯卑劣な手段を多用してくるのは、正面から戦ったら負けると知っている弱者だからだ。勝てない勝負を挑む気がないからこそ、この手の手法を好んで使う。

 戦えば負ける相手であるなら、戦って倒してしまえばそれで済む。

 

「あそこか!」

 

 ハイパーセンサーを使って、狙撃ポイントに使っていたベランダから室内へと逃げ出していく敵の姿を視界に捕らえ、彼女は追う。

 このまま撤退しないのは、敵がそれを見逃してくれるほど容易い相手とは思っていないからだ。

 ここから逃げ出した場合、こちらは敵の居場所を完全に見失ってしまうが、敵も条件は同じ『とは限らない』。

 もしも敵がこちらの行動をすべて把握する手段かなにかを持っていた場合、自分は一方的に不利になり、ただ攻撃されながら逃げ続けるしかない狩りの獲物になるしか道はなくなってしまう。

 

 今しかないのだ。敵の追撃を振り切れるのは。

 敵と戦って倒し、捕縛する。

 敵が捨て駒であっても何でも構わない。とにかく敵の作った状況から逃げ出さなければどうしようもない。その為には敵の計算をなんでもいいから狂わせるしか道はない。

 

 予想外の事態、想定外の行動。この手の輩が最も苦手とするのは、そういった計算の外にある作業。それをやりさえすれば状況が崩れ、抜け道が出来る。そうなれば自分にも生きて逃げ出すチャンスが訪れるかもしれないというものだ!

 

 

「ハァ~イ、男と女の夜の密会を邪魔する悪~い子猫ちゃん。お姉さんがお仕置きしに来てあげたから出ていらっしゃ~い」

 

 気持ち悪く、わざとらしい猫なで声で相手を挑発しながら室内に侵入していく女。

 彼女とて別段、油断しているわけではない。対ISの為に用意する罠の最高峰は、強力なISに乗った強力なIS操縦者であることを彼女は理解していたからだ。

 

 IS操縦者を倒すには、相手よりも強いIS操縦者をぶつけるのが一番いい。一見すると単純すぎてバカっぽく見える手法だが、実際問題これが一番確実なのが現実の戦闘である。

 

 敵と味方が戦った場合、弱い方が負けて強い方が勝つ。当たり前のことだが、敵より強い機体と操縦者を有している側としては最も確実な勝利方法であるのも事実だろう。

 

 問題は、本当に敵より味方の方が強いのか? と言うことと。

 敵よりも確実に強いと『確信できない場合』どんな小細工を使って勝率を補正してくるのか? の二つだけなのがこの種の作戦というものである。

 

「・・・《打鉄》?」

 

 意外そうな声を女が漏らす。

 隠れもせず、自分を待ち構えていた対IS操縦者用の切り札的存在が乗っていたのは、意外なことに専用機ではなく量産型IS《打鉄》だった。

 

 待機形態に収納して持ち運べる専用機と、操縦者なら誰もが使えて性能的にもバランスがいい量産機の間には埋めがたい性能的格差があり、戦って勝てる確率はほとんどない。

 

 一体こんな機体で何をするつもりなのか? 少なくともIS同士でまともバトルをする気が『ない』ことだけは判るチョイスだったが・・・具体的にどんな手段で挑んでくるのか全く予想できない。

 

(まっ、考えてどうにか出来る問題でもないか)

 

 サラは割り切り、自分の機体に攻撃用武装を展開させる。

 敵がどんな作戦を用意していようとも、それらは全てこちらの裏をかく形で仕掛けられたものだろう。そうなると誘い込まれた側の自分がいくら考えたところで手の平で踊るだけな可能性が高い。

 

 相手の都合は相手の都合だ。自分は自分の都合を優先し、力尽くで押しつけるより他にやることはない。

 それが彼女たちの属する組織が奉じているもの『戦争』というものの本質である。

 

 自分と相手は違うのだ。自分がどのような事情を抱え、どのような定義を基準に策を練っていようとも。『敵にとっては一切全く関係がない』。

 ただ押し付け、ただ拒絶する。力尽くで互いの都合と事情を押し付け合う。それが戦争というものだろう。

 

 どっかの犬みたいな同僚は自分の思い通りに動かない敵を見るとイラつくらしいが、そもそも敵とはそういう者たちなのだ。侵略者の信じる主張を素直に聞いてやって、敵の注文通りに動いてやる親切な敵などを基準に戦争を語る方がバカすぎるのだ。

 

 相手の都合は相手の都合。そんなもの無視して自分の都合で勝手に動くだけ。それが戦争。

 そう考える彼女だから、自分の都合で勝手に動く。ISを少しだけ速い速度で接近させる。

 

「・・・《クァッド・ファランクス》・・・」

 

 敵が動きを見せた。だが、まだ彼女の方は本格的には動きを見せない。

 武装の名を唱えるのは具体的にイメージしやすくなり、展開を失敗しづらくなる長所をもつ行為だったが、別に口で言ったとおりの武装を取り出さなければならん訳でもない。器用な奴等は別の武装の名を唱えながら、異なる武装を展開させて奇襲してくるときがある。試合でもないのに相手の宣言を杓子定規に信じて動いてやる義理は戦場のどこを探しても存在しないのが『戦争での常識』だろう。

 

「・・・っ。ガトリングそのものは本当だったか!」

 

 一瞬遅れて実体化してきたのは超大型ガトリングガンを四基連結させた《クアッドガトリングパッケージ》ではなかったが、通常のIS武装としては高威力のガトリング砲《ミニミ・ガン》。

 

 突撃してくる敵に対して、ガトリングガンは一方的に撃ちまくれる優位性を持っている。回避しようとしても広範囲に弾がバラ撒かれるため無傷での回避はほぼ不可能に近い。

 

 敵を待ち構えて迎撃する防衛戦において最高に有利な武器であったが・・・・・・どんなことにも例外と呼ばれるものは存在する。ISはまさに『其れ』である。

 

 即ち、定石を無視するギミックに満ちあふれているオーバーテクノロジーの塊なのだ。

 

 

「《イグニッション・ブースト》!!!」

 

 敵の動きが確定したのを確認したサラが叫んで、急激に加速する。

 IS戦闘において初期に覚える技術の中で、もっとも使い勝手のいい利便性の高い加速技《イグニッション・ブースト》。

 あまりの速さのため途中から方向転換できないと言う欠点はあるものの、その速度と奇襲性能は弱点を補って余りあると彼女は高く評価している。

 

 特に、こういう相手を敵に回して先手を取るのには非常に有効な技なのだ。

 敵は純粋な戦闘力よりも罠を頼んで戦いたがる頭脳戦タイプ。こういう輩はリスクに敏感で、自分に実害が出ない範囲までしか罠を張っておかないのが基本系だ。

 一見すると賭けに出ているように見せて、実はハッタリ。自分の命を一切危険にさらす気はないままに相手だけを翻弄するため自らも危険な場所にいるよう見せかけるのを得意としている。

 

 だから、本当に危険な場所にはやってきたがらない。臆病だからこそ危険からは逃げたがるし、遠ざかりたがる。其れが奴等の弱点だ。

 覚悟がないから目の前に迫り来る危険に対して、自衛のための手段を絶対視してしまう。身に危険が及ぶ距離まで敵の刃が届いてきたときのことを本当の意味で想定していない。

 

 だから一瞬にして距離を詰め、多少の損害には構わず前進してくる敵に対しては満足に対処することが出来ない。

 こういう輩には、そういう場所に漬け込む余地がある。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 叫んで、突撃するサラ・マリーゴールド。

 敵は迎撃のため撃ってきてはいるものの、《イグニッション・ブースト》を使う距離では本来なかったため、弾はほとんど撃てていないし当たってもいない。

 このままでは相手と正面衝突して壁を突き破り、自分も相応のダメージを負ってしまうが構いやしない。

 

 ――死ぬよりかは怪我した方がマシだ。当たり前のことだ、決まっているじゃないか。

 そう考える彼女の突撃に迷いはない。そのまま突っ込んでいって相手と共に壁をぶち抜き、外に出てから射撃武器を持ったままの敵を捕まえる。其れで終わりだ。

 

 そうするつもりで前進し、敵の顔が目の前に見えた瞬間。

 『勝った』と彼女は思い、そして。

 

 

 光に包まれた。音が炸裂した。身体が吹き飛ばされて、自分の身に何が起きたのか判らないまま、彼女の意識は深い闇の底へと落下していったのだった・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「お嬢様、お怪我は御座いませんか?」

「大丈夫ですよ、広瀬さん。死ぬには程遠いダメージしか負ってませんから」

 

 近づいていた執事服姿の広瀬さんに、私が体中の痛みに堪えながら答えたところ。

 

「其れはよう御座いました」

 

 と、笑顔で言われてしまいました。・・・一応、敵と一緒に爆発に巻き込まれて大ダメージ負ってるんですけども・・・。これが現代日本の老紳士が十代半ばの少女相手に示す優しさというものですか。スッゲー世は末だと思います。

 

「・・・まぁ、確かに防御力に優れた《打鉄》に乗ってましたし、爆発の威力も耐えきれぬようセットしておきましたけど・・・痛いことには変わりないんですけどねぇ・・・ブツブツ」

 

 グチグチ言いながら、身体は起こさず。誰かに助け起こしてもらうこと前提のまま今さっき爆発に巻き込んだ敵を見ます。

 

 倒れ伏して動きませんし、ISも消え去っていることから気絶したかエネルギーが切れたか、あるいは死んでしまったか。そのどれかと判断するのが一般的な見方というものなんでしょうね。

 

「しかし、凄まじい威力でしたな。《IS地雷》は・・・。戦争には使えないISを一般武装で倒すため、各国が秘密裏に研究開発してきた気持ちも判りそうになりましたよ」

 

 感慨深げに広瀬さんが感想を漏らしました。

 《対IS一般兵用武装》。それは既存兵器では敵わないことが証明されたISを倒すため、各国が極秘裏に開発研究させている対IS兵器の総称です。

 

 『白騎士事件』で艦隊もミサイルも戦闘機も戦車も歯が立たなかったISが敵に回ったらどうするのか? 今は政府に従っているIS操縦者たちが裏切ったとき誰がどのような手段で鎮圧するのか?

 

 これは国内最強の武力集団である軍隊を持つ者たち、権力者にとって永遠の悪夢であり、人が人の心を覗けるようにならない限りは未来永劫ついてまわる人類史上最大の命題でしょう。

 不明な物には備えておくのは人として当たり前のことでしかありません。「停止ボタンの存在しない最強兵器」など本来であればナンセンス極まりないのですからね。

 

 そうして開発されていた物の一つが、今回私が使った《対IS地雷》です。

 空を飛ぶIS相手に踏んでもらわないと起爆しない地雷は本来出番はないのですが、屋内戦闘においては十分に有効性を発揮できる兵器でもありました。

 特に、移動できる範囲が限られている密閉空間においての威力は絶大です。踏まなければ起動しないという欠点も、センサーによって自分の上を目標が通過したことを確認したら起動する方式に変更したことにより問題の一部は解消することが可能だったのです。

 

 とは言え、完璧な兵器など存在しません。どんな物にも弱点は必ず存在するものです。

 IS地雷の場合は、確認から起動までの遅さが致命的という時間差がそれでした。高機動兵器であるIS相手に、IS地雷は爆発するのが遅すぎるのです。

 通常の移動速度であれば別ですが、ブースターを使用しての高速移動、もしくはイグニッション・ブーストなんて使ってきてる相手に爆発するのが遅い爆弾なんてゴミ以下の価値しかありません。

 

 だから私は考えました。自分の目の前に埋めておいて、爆発の起爆装置は自分が押すよう改良しとけばいいじゃん・・・と。

 

 こうすれば、自分を接近戦で倒すために敵から接近してこざるをえない状況さえ作ってしまえば後のことは実に簡単な流れ作業に出来てしまいますし、第一大した手間のかかる改造というわけでもないのでハンドメイドの魔改造で十分対処可能ですよ。

 違法改造? 元から存在自体が違法な代物改造した代物ですけど、それがなにか?

 

「では私は、男の方を処理しにいった者たちの仕事具合を確認して参ります。どうも最近の若い者たちは娑婆っ気が抜けきっておらず、甘い結果で満足しがちですからな。気を抜くと危険なのですよ。

 ・・・まったく・・・、頭を撃ち抜き死体を焼いただけで死んだとは限らないでしょうに。首を切り取って、心臓を刃物で刺し貫いても死体が反応しないのを確認するまでは油断するなと何度も言っているのに聞いてくれません。困ったものです」

「仕方がありませんよ。彼らは本家から飛ばされてきたばかりで、うちの仕事には慣れていません。自分たちがいた場所こそが冷徹非常な社会の裏側だと思い込んでしまっています。

 闇に、果てだの底なんてものがある訳ないんですけどね・・・・・・そういう常識を覚えていかないと死んでしまいますよ、ということを教えてあげるのが先達としてのあなたの役目です。頑張ってください、広瀬さん」

「畏まりました、お嬢様」

「ああ、それから広瀬さん。三歩下がってもらえますか? そこにいると危ないですからね」

 

 私が言い終える前に、「三歩下がって」の部分で彼は既に後方へ全力避難しておりました。相変わらず老体とは思えないもの凄い身のこなしで安全圏まで逃げ去ってしまったのです。

 

 そして、彼が逃げ出すのを待つことなく射出されて通り過ぎていく黒い旋風。

 一瞬前まで彼がいた場所を猛烈な速度で通過して、私の着ている防御力重視の量産型IS《打鉄》に命中して残っていたエネルギーを含めた全てを洗いざらい持って行ってしまったのでした。

 

 ・・・いやはや。絶対防御がなければ即死してたであろう攻撃でしたねぇ。

 まぁ、そうなるよう残りエネルギーを調整しないと発動しない機能なので作戦通りと言えなくもないですけど、万が一のための保険でしたのでね。危なかったのは嘘じゃありません。本当の本心から思って出た言葉です。

 

 

「スゴい性能ですね、その機体。改造前は攻撃力重視だったと聞いたんですけど、まさか打鉄でさえエネルギーがギリギリ残るぐらいになるよう、ミリ単位で気を遣って計算させた爆発に巻き込ませたのにまだ攻撃する余力を残していただなんて・・・。

 貴女の強い意志と機体の高性能に敬意を表します。本当に貴女は今まで倒してきた標的の中で最強のターゲットでしたよ」

「・・・・・・はっ・・・。ターゲット・・・ね・・・・・・・・・」

 

 最後にそう言い残して彼女、サラ・マリーゴールドという芸名を持つ本名不明の亡国機業構成員メンバーは気絶して、機体も残っていたエネルギーを使い尽くして粒子化し、お空へ溶けて帰って行ったのでした。

 

「――誰か。彼女を別室へ連れて行け。生きているなら何かしら話を聞ける可能性も無いことはない。何か一つでも死ぬ前に聞けたら御の字だと思って適当に拷問しておくように」

 

 広瀬さんの指示に応えて何人かが気絶した彼女を隣の部屋に連れて行くのを見送りながら、彼自身はエネルギーが切れて動かなくなり鉄クズと化した量産型ISから私を引きずり出すため手を貸してくれてました。

 量産型は専用機と違って、エネルギーが切れた後に消えてくれないから脱出が大変です。ホントこれなんとかならんもんですからね、本当に・・・。

 

「ああ、そうでした。彼女、サラ・マリーゴールドさんは表向きの失踪したことにしておいてください。恋人と一緒に駆け落ちしたとか適当なデマをマスコミに流しておけば、後は勝手に敵さんが情報操作で忘れ去らせてくれるでしょうからね」

「御意。こちらとしても下手に生きたまま捕らえたところで、政府のバカどもが礼儀正しく敵に送り返して将来の禍根と争いの火種をバラ撒くことしか役立たないでしょうからな。

 バラバラに刻んで魚の餌になってくれた方が、誰にとっても得をもたらします。戦闘中での戦死であるなら、お偉方の皆様方もグチグチと嫌味を言うぐらいしか害をもたらしたりはしないことでしょう。懸命な判断で御座います」

 

 慇懃な態度と口調でヒトデナシ発言をしてくる広瀬さん。

 いやまぁ、自分には非難する資格0すぎますので何も言いませんけどね? 私にだって一応は倫理観ぐらいはあるのですよ、一応は。

 

「それでは、お嬢様。今日はお疲れになったことでしょうし、後の処理は我々に任せて早めに御帰宅してお休みくださいませ。またぞろ、いつ次の任務が来るか判らない身の上で御座いますれば・・・」

「・・・そうしたい気持ちは、やまやまなんですけどねー・・・」

 

 ISから取り出してもらってから私は肩をすくめ、昨日の晩にとつぜん届いた緊急連絡の内容を思い出し、少し大きめの溜息を深々と吐くのでした。

 

「昨晩、本家ご当主様より直々の指令が届けられました。次の任務だそうです」

「『楯無』様からお嬢様へ直々に?」

 

 軽く目を見開いて広瀬さんが驚きを表し、続いて訝しげな表情と目で私を見つめ返してから慎重な口調で口を開きます。

 

「・・・連絡役の私を通さず、本家当主様から分家当主様へ直接届けられた指示ですか・・・よほど重要な内容と言うことですな。一体どのような命令だったので御座いましょう?」

 

 神妙な顔つきで聞いてくる広瀬さんですが、実際のところ彼は本心から具体的な説明を求めているわけではありません。

 本来であれば私に届く命令はすべて一端、分家の家令である広瀬さんに集約されてから届けられる仕組みがうちの家にはあります。分家当主と家令とが別々の情報と確認手段を持っていることにより二重のファイヤーウォールの機能を果たすよう工夫されているからです。

 

 これを無視して本家当主から分家当主に直接届けられる指令という時点で、誰がどう考えても極秘命令。他言無用な代物なのは明らかです。側近でさえ明かしていいかどうか判らない場合が多い極秘指令の内容を自分から聞いてくる側近というのはアニメとか見てると「アホか」としか思いませんけど、実際には結構重くて重要な示唆を含んでたりするんですよね意外なことに。

 

 ――それは、この質問に私がどう答えるかは具体的な命令と同義だからというもの。

 

 たとえば私が無言で回答拒否をした場合には『側近にさえ明かせない超極秘指令が来た』ということで、組織内部に徹底した箝口令と情報統制が敷かれます。失言一つ許されない非常事態体勢に移行しますので、構成員たちへの罰則適用基準も大きく引き上げられざるをえません。

 

 『余計なことを口走ろうとした瞬間に処刑』のランクや、『二度は許さん』程度で見逃されるランク。

 最悪の場合、『死なせる前提で構成員の一人に要らぬ情報を教えておく』必要が出てくるレベルまでありますから、この質問をすることと私から返事をもらうことは側近として超重要な意味を持っているのですよ。

 

 ・・・あん? 「罰則は全部死刑を適用すればいいじゃないか」って? ・・・無理ですよ、そんなもん・・・。全部の例に同じ基準を一律に適用して殺しまくれるほど人員多くないんですからね、うちの組織って。

 ああいうのは、失った人材を即座に補充できる大規模裏組織とかだけが可能な力業です。人員の補充は組織運営において一番頭を悩ませられる問題なんですから、それをソ連みたいに簡単にやりまくれる人たちとうちを同じ基準で測らんでくださいませんか? 無理なんでね絶対に。

 

「いや、それが私にもよく判らないんですよ。なにせ訳のわからない命令だったものですから・・・」

「はぁ?」

 

 ポカンとした顔をされる広瀬さん。今回ばかりは彼の気遣いも杞憂に終わったようで何よりです。人が死なないに超したことはないもんで。

 

「私にIS学園に生徒として入学するように・・・とのことでしてねぇー。

 ――これって一体、どういう意味なんでしょう? めちゃくちゃ意味不明なんですけども・・・」

「・・・それはまた・・・確かに意味不明な命令内容ですな。楯無様も一体なにを考えておられての指示なのやら・・・」

 

 呆れたという風情で広瀬さんが頭を振るのを見上げながら、私も心から同感でしたので首をかしげることしか出来ません。

 

 IS学園は『白騎士事件』のしばらく後に、アメリカから脅迫された日本政府が他国のIS操縦者を含めて自腹で育てるために建設させられた、世界で唯一のIS操縦者育成機関です。――あくまで表向きは、と言う前提条件がつくのは当然のことですけども。

 

 そして、IS学園の生徒会長を務めているのが私たちの所属する分家の大本、本家である『更識』家の当主『楯無』様。

 日本を影から守り続けてきた暗部一族の当主にして、対暗部カウンター組織の長。日本に対して害をなす存在を内側と外側の区別なく排除して、日本の平和と国益を守っているダークヒーロー組織の司令官さまです。

 

 組織の性質上、更識家の当主である『楯無』の名は、更識家最強の人間が継承するのが伝統であり、実力さえあれば年齢も性別も関係ありません。更識家最強こそが『更識楯無』の名に他の誰より相応しいからです。

 

 ――それに対して、日本の暗部である更識家の、さらに暗部である分家『空式』家の当主には年齢も性別も血筋も出自も『実力さえ関係ない』という物凄い任命基準が設けられてたりしましてね・・・。結果さえ出せりゃそれでいいそうです。

 

「最強だから襲名できた本家当主様の治める学校に、『結果良ければ弱くても養子でも襲名できる』分家の当主を呼び寄せて本気でなにに使うつもりなんでしょうか・・・? まるで使い道が思いつかないんですけれども・・・」

「・・・・・・・・・こほん」

 

 広瀬さんも、横向いて小さく咳してから沈黙。本気で私の平和的な使い道が思いつかないみたいです。いい加減にせんと、泣くぞオイ?

 

「まぁ、本家の当主様が分家の当主に『来い』と言っているのです。行かないわけにはいかないでしょうから明日行ってきますよ。しばらくの間、組織運営の方をよろしく~」

「承りました。危急の際にはこちらから連絡いたしますので、ごゆっくりしてきてくださいませ」

 

 慇懃に礼儀正しく頭を下げる広瀬さんに見送られながら、私はISスーツから着替えた新品の服、『IS学園の制服』を纏って高層ビルを階下へと降りていきました。

 

 ――ぶっちゃけ、今から行かないと入学式が始まる時間に間に合わなくなる可能性あるんですよ! ここら辺交通の便悪すぎますからね! 廃港な上に人気のない観光地は不便です!!

 

 

 

 日本を守る対暗部用暗部『更識』。

 古来より時の権力者に仕え、平和と安定した治世を守るため暗殺や粛正などの汚れ役を引き受けてきた日本の歴史の闇を担う暗部組織。

 

 ――だが、彼らとて最初から対暗部用カウンター組織だったわけではない。守るための防衛手段として暗殺を用いてきた組織ではなかったのだ。

 

 昔の日本において、暗殺による平和維持は統治者にとっては当たり前の手法でしかない。家臣を殺すことで自分たち支配者一族が日本を支配する時間が少しでも長くなるなら歓迎すべきことであり、恫喝としての暗殺は反乱や裏切りを未然に防ぐ抑止力として間違いなく有効だった時代は確実に存在していたからだ。

 

 しかし、彼らがどうあろうとも、日本が昔のままで在り続けたかろうとも時代は変わる。変えられていく。

 明治維新、文明開化、太平洋戦争敗戦、GHQ主導による民主制への強制移行、日米安全保障条約の調印。

 そして数度にわたる条約改正・・・・・・様々な外的要因により更識は変化せざるをえない状況を強要されてきた。生き存えるため時代に合わせて変化するか、今のまま在り続けて滅ぼされるのか。どちらかの道を選択することを更識は強制され続けてきたのだ。

 

 最高権力者の懐刀として『更識』は、変化する時代に無関係でい続けることを許されない地位と立場に在り続けてきてしまっていたから・・・・・・。

 

 結果として『更識』は変わることを選択した。

 一族と、一族に仕え続けてくれた者たちを守る道を選び取り、変わらずに滅びる誇りを選ばなかった。

 

 こうして更識は『対暗部用カウンター組織』として新しい命と在り方を得る。日本に害を与えた敵のみに牙を剥く『防衛のための組織』として生まれ変わったのだ。

 

 

 ・・・だが、しかし。時代がいくら変わろうと人の心が変わることは決してない。

 昔と同じく人の心は欲で満たされ続けており、人の世の真理は愛でも優しさでもなく欲得で在り続けている。

 

 制度や社会や支配者一族が変わった程度で、人の心が大きく変わることは少しもない。

 何一つとして変わっていない。変わったことなど人類の歴史上一度もない。

 人類社会は変わり続けたとしても、人類は何も変わらない。

 人界は、今も昔も欲界のままなのだ。

 

 だから更識が変わる道を選んだとしても、更識に求められる行動が変わることはなかった。

 国の制度と仕組みが如何に変わろうとも、国を形作る人々の心が変わらない限り、国を守るための手段であり道具でしかない更識が『守るために果たす役割』の内容が変わることなど未来永劫にあり得ないことでしかなかったのだ。

 

 時代と国家制度の変化に合わせて防御用に変わる道を選んだ『更識』が、昔と変わらず守るために求められる同じ役割を果たし続けていくのは難しい。

 

 

 

 ――こうして、『分家』が産まれた。

 『空式』が産み落とされる土壌ができあがったのである――

 

 

 対暗部用カウンター組織として新しく生まれ変わった『表向き』の更識家。

 昔と同じく闇に潜み続けて敵を殺し、内なる敵を粛正する汚れ役の分家『空式』家。

 

 二つに役割を分割することで変化する時代と、昔のまま変わらぬ人の心の浅ましさに適用した更識家は、日本の闇を担う一族で在りながら内側に光と影の両面を内包した矛盾を抱える組織となる道を選択したのである。

 

 表と裏の双方を預かる一族の顔として、更識家の当主『楯無』には最強であることが求められるのは昔も今も変わっていない。

 

 だが、新しく産まれた空式家の当主『型無』には強さなど全く必要とされなかった。

 強かろうと弱かろうと結果的に殺せさえすればそれで良く、殺せなければ最強だろうと最弱以下の役立たずとして廃棄されるのが当然の役割を彼らは本家から分割されて担わされた故である。

 

 その性質上、空式家には更識家に居続けられなかったはみ出し者や失格者たちが多く割り当てられ、ほとんどが死に、一部が大成し、生き残った者たちだけが空式家の重職に就くことが許されている。就けなかった者が行くところは土の下だけだ。他にはどこにも行ける場所など残っていない。

 ここに飛ばされてきた時点で、これ以上先はどこにも落ちていく先がなくなっているのだから踏ん張る以外に生き残れる道は存在しない。その事実を受け入れずに己を貫きたい奴は生き残るためには邪魔になる。敵より先に味方によって殺されて埋められて終わる。

 

 それが空式家の家風だ。実力主義でも権威主義でも血統主義でもなく、ただただ家を生き延びさせるために与えられた任務で求められた結果さえ出せればそれで良いのが空式家当主なのである。

 

 甘さや優しさ、冷酷さに冷徹さ、機械のように正確に命令を実行できない兵士など兵器としては不適格・・・そんな『甘ったれた形式主義にこだわる役立たずは必要ない』。

 どんな理由でもいい、どんな手段でもいい、優しくても甘くても冷酷でも何でもいいから、結果さえ出してくれるなら、その人こそが空式家の当主『型無』様だ!

 

 ――たとえそれが、どこともしれない場所で産まれて親に捨てられ、路上で泣いてたところを拾って育ててやった空式の血を一滴も引いていない余所者の孤児だったとしても、他の誰より結果が出せるなら空式家の当主には他の誰より相応しい。

 それこそ、息子かわいさで自分の無能な嫡子に地位を継がせたいと願った先代よりも、遙かに自分たちが戴く長には適合している・・・・・・。

 

 

 こうして、身元不明で本名も生みの親もまったく判らない名無しの孤児だった少女は、拾ってくれた育ての親を殺して家督を継いだ。

 

 第十三代目空式家当主として『型無』の名を継承したのである。

 空式家の当主に求められる資質は結果のみ。手段は選ばず、目的も人格も行動理由も一切頓着せず。

 故に『型無』。決められた型など一つも無し。

 ただ結果のみが、型無が型無の名を継ぐ資格の証となるべきもの。他には何も必要ない。

 

 

 ――こうして、拾ってくれた家の家風でヒトデナシなのが当たり前になった少女は世界最高戦力の操縦者育成機関であり世界平和の象徴でもある学校『IS学園』へ入学する運びとなってしまった。

 

 空式家が施すあらゆる訓練の全てにおいて『平凡以下』の成績を取り続けてきた少女であり、『空式家が誇る最高傑作』でもある少女『空式型無』、一般人として生活する普段の名前は『空式セレニア』がIS学園で何を巻き起こし、どのように悲惨な結末をもたらしてしまうのか?

 

 今はまだ誰も知らない。彼女自身だって知らないだろう。

 なぜなら未来は未定。形無き物に形を当てはめる無能は型無に非ず。

 

 ただ、在るがまま。相手にも状況にも自分の抱える事情さえ関係なく。結果だけを出せばいい。

 

 

 それが、更識家の分家『空式家』当主の少女を主人公とした、形の無い物語の在り方なのだから・・・・・・。



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ISブレイブ物語

 ――暗闇の中で見知らぬ爺さんに、こう言われた。

 

『お主の勇気は最低レベルじゃ』

 

 ――と。

 

 学校からの帰宅途中で交通事故に遭い、ごく普通に何のドラマもないまま死んでしまった俺が、気がついたときに暗闇の世界にいて爺さんが前に現れてきて、言われた台詞が先の一言。

 これはアレだ。なんと言うかその~・・・・・・。

 

「・・・ブレイブ・ストーリー?」

「うむ、近い」

 

 近いのかよ。

 

「じゃが、事実じゃ。お主には勇気がない。全くない、全然ない、これっぽっちもない。

 特に! 許す勇気がない。力でもって罰する事しか考えておらん。鍛えた力を振るわない事こそ勇気じゃというのに、攻撃する武器としてしか己を鍛えようとしないお主に勇気など欠片ほどもあるものかい!!」

「ふむ・・・」

 

 言われて考え、これまで過ごした俺の人生について思い出す。

 そして思う。――その通りかも知れないなぁ~、と。

 

「確かに、言われてみたらそうかも知れない。

 俺は、自分で選んだ道が望んでたのと違うからとグダグダ言う奴らが嫌いだ。殴りたくなる。正義正義と叫きながらストレス発散したいだけのクズは死んでいいと思ってるし、ケンカしかけて石持ち出されたら卑怯だとかほざく阿呆には殴って治してやる以外の治療法は必要ないと確信してる」

 

「あと、他の何よりアカが嫌いだ。死ぬほど嫌いだ。とゆーか、殺しまくりたいほど大嫌いだ。皆殺しにしていいなら今すぐ皆殺しにしたいと思いながら日々を生きてきた。

 ・・・そういえばアンタって、アカだったりする? もしそうだったら殺してもいい?」

「ダメに決まっとんじゃろうが!? このド阿呆!!」

 

 ダメらしい。残念だ。

 まぁ、確かにこの性格じゃあ許す勇気とか無縁すぎだよな~、俺って。

 

 ・・・・・・ん?

 

「あれ? 身体が縮んでる・・・?」

 

 気づいたら身長が低くなってた。あと腰とか細くなってるし、微妙に身体も柔らかくなってきてるような気が・・・?

 

「どうじゃ! それがお主の心の強さを目で見える形で現してやった正しき姿じゃ。

 か弱く、幼く、小さくて無力な女の子。それがお主の心の有り様。生まれ持った才能を抜きにすれば、お主が持っておる強さなどその程度に過ぎんということなのじゃよ」

 

「見るがよい。肉体以外にも分かり易いよう数値として、お主のステータスを映し出してやったぞ。それを見る事で自らの無力さ、愚かさ、傲慢さを思い知り、今まで如何に間違った生き方をしてきたかを知って悔い改めるのじゃ」

 

 言われて横を見ると、RPGのステータス欄みたいなのが宙に浮かび上がってた。

 えーと、なになに? 俺の心の強さを現すステータスは・・・っと。

 

「力:9999。

 パワー:9999。

 ストレングス:9999・・・・・・」

「なんでじゃねん!?」

 

 いや、知らんし。俺なんもやってないし出来ないし。

 てゆーか、この三つは全部同じもんじゃないんかい。

 

「あ、ありえん! 絶対にありえん! なにかの間違いじゃーっ!

 やり直しを! やり直しを要求する――――っ!!!!」

 

 勝手にやってくれ。いや、マジで本当に。

 

「こ、これは何かの間違いじゃ! 間違いなのじゃ! 間違いじゃから正式に再スタートさせれば正常な状態に戻っているに違いない! だからお主を転生させてやるじゃ――っ!!」

 

 俺の人格って、そんなレトロゲームみたいな方法で直るものだったんだな~。

 そんな事を思いながら俺の意識は遠ざかっていき、暗闇の底へ底へと落ちていったのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 チュン、チュン。チュン、チュン。

 

「起きなさい、起きなさい。私のかわいい、ルデール・・・・・・」

 

 雀の鳴き声が聞こえてきた後、誰かが誰かを呼ぶ声も聞こえて俺は目を覚ます。

 

「起きたのね、ルデール。今日はあなたがIS学園に入学する日・・・この日のためにあなたを男の子に勝るとも劣らない猛者に育ててきたつもりよ。

 さぁ、早く着替えて高校にいきなさい。今日からクラスメイトになるお友達があなたを待っているはずよ」

 

 なんかよく分からんが、高校生として俺の人生は再スタートさせられたらしい。

 つーか、俺の新しい名前ルデールかい。

 最初っからゴールが見えてそうなネーミングだなぁオイ。

 

 

「ま、いいや。とりあえず飯食って学校とやらに行ってみるとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、ドイツから来た留学生のルデール・タイタニアです。

 趣味はバンジージャンプと言えればいいのですが、身長が足りず参加させてもらえた事ないので、仮に紐なしバンジージャンプと覚えておいてください。今日からよろしくお願いします」

 

 クラスメイトの前で自己紹介して、ペコリと頭を下げるとまばらに拍手が聞こえてきたので、この対応に関する知識が合っていたのと知れてホッとした。

 生まれ変わりという超常現象故によるものなのか、俺の記憶には知らなかったはずなのに知っている事が大量にプラスされており、それらのどこからどこまでが真実なのか全く分からない状況に今の俺は置かれてしまってる。

 

 

 たとえば、この学校『IS学園』についての知識とかだ。

 この世界には《IS》、正式名称インフィニット・ストラトスとかゆう機械の鎧が実在していて、十年と少し前にISが起こした最初の事件『白騎士事件』で世の中が変わり男尊女卑から女性中心の女尊男卑に変わってしまったらしい。

 IS学園は、その女尊男卑社会の中心近くに位置する存在のようだった。

 

 ISを操る者たちの事をIS操縦者と呼ぶらしいのだが、IS操縦者を育成する教育機関は世界中で唯一IS学園だけなのだとかで、世界各国にとっても無視できない影響力を持つ学校のようだった。

 

 そして当然ながら、その学校に生徒として入学した俺もIS操縦者の卵にして、IS学園生徒。

 ピッカピッカの~♪ 一年生♪

 ピッカピッカの~♪ インフィニット・ストラトス♪ ・・・語呂ワル。

 

 

「では、諸君。私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育て上げるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

 自己紹介が終わってしばらくして、担任教師を名乗る目つきの悪い黒髪美人が壇上へと上がり、自分は担任教師であることを宣言してきた。

 

 そして響き渡る女生徒立ちから織斑教諭へのラブコール。

 

「キャ―――ッ!  千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

 きゃいきゃいと騒ぎ出す女子たち。

 やはり女子というものは姦しい井戸端会議が好きな生き物なのだなぁと思い、なんとはなしに織斑教諭を見ると「おや?」と思わされた。すごく鬱陶しそうな顔をしていたからである。

 

「・・・・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者があつまるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿を集中させてるのか?」

 

 どうやら嘘や格好付けのポーズとしてではなく、本当に本心から鬱陶しがっているらしい。

 だが、残念ながらその発言は不適切だな。生徒の側には教室と担任を選ぶ権利など与えられていないのだから、職員室か校長室かで口に出すべき疑問だったと言うべきだろう。

 

 言うべき時に言わず、質問すべき時に質問しないで、責任を抵抗できない部下にばかりなすりつけたがるのは無能の極地と習ったことがあるのだがね?

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

 

「ジーク・ハイル。

 ハイル・オリムラー」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 言われたとおり返事をしたところ、どういうわけだか教室内に沈黙が満たされた。

 一体何があったのだろうか? 学校側の対応と説明が待たれるところである。

 

「・・・おい、確かお前はタイタニアだったな。――今さっきの返事は一体なんだったのだ?」

「返事であります」

「そんなもの、聞けば誰にでも分かる。私が聞きたいのは、どういう意図を持って選ばれた返事だったのかと言うことが一つと、返事に選択基準が何であったのかが二つ目だ。さぁ、答えろ。直ぐ答えろ。今すぐにだ」

「全く完全にお答え出来ません」

「・・・・・・」

「冗談です。単に思いつきで使ってみた返事だったので、意図について聞かれても答えようがなかったから茶化しただけです。邪魔したようでしたら謝罪します。どうぞ、授業をお続けください」

「・・・・・・・・・」

 

 やや不機嫌そうになりながらも織斑先生は特に何も言わずにSHRを締めて、次の授業に移っていった。

 

 

 

 

「・・・む?」

 

 二時間目の休み時間に、トイレから戻ってきた私は前の席の方で揉め事が起きているところを目撃した。

 ISとは空飛ぶ機動兵器であり、IS操縦者はISをまとって空を飛んでる間はISスーツ一丁になるのが当たり前の職業なのだ。

 当然、トイレに行くため地上に降りるバカなどいない以上、用は足せるときに足してノンカフェインを常備しておくことを忘れてはならない。

 知らないはずなのに知ってた知識の中には含まれてなかったが、空飛ぶ者、飛行士として空を目指すのであるならば知っていて当然の常識として前世の時点で既に俺の頭の中には存在していた。

 

 

「訊いてます? お返事は?」

「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 

 事情はよく分からんが、一人の女が一人の男に絡んでいる様だった。

 本来、女性しか起動出来ないはずのISを動かした男として、世界中で只一人だけの男性IS学園生徒の身分で入学させられた少年、織斑一夏と・・・・・・もう一人は知らん。絡んでる方のお嬢様っぽい人は、ドリルヘアーが特徴的だったんで一先ずはドリルさん。または『デスワさん』と名付けるとしよう。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「・・・・・・馬鹿にしてますの?」

 

 ――うむ。まぁ、そのなんだ。要するにだ。

 

 

「とっとと用件を言いたまえ、ドリルヘアーの少女よ。相手の彼が困っているぞ」

「ドっ!? このわたくしイギリス代表候補生にして専用機を与えられた誇り高き英国貴族の一員でもあるセシリア・オルコットの髪型をドリルヘアーですってぇ!?」

 

 怒り顔もあらわに叫び返し、振り返ってくるドリルヘアーの少女――セシリア・オルコットが秀麗な顔を朱に染め上げ、俺の顔を睨み付けてくる。

 

「あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしの髪型を侮辱するつもりですの!?」

「髪のことは知らん。君の長ったらしい無駄話をまとめて相手に分かり易く伝えてやれと言っているだけだ。

 大体、自分から話しかけておいて自慢話しかしないなど失礼きわまりないし、恥ずかしい行為だとは思わなかったのかね?」

「うぐ!? ぐ、ぐ、ぐぬぬぬぬぬ・・・・・・」

 

 狂眼で睨み付けてくるオルコット嬢から目を離すと、彼女の隣に座る織斑少年が「いいぞー、もっと言ってやれ―」と言った他力本願な手法で面倒ごとの種を排除しているように見えるが、気のせいだと信じ込みたい。

 

 キーンコーンカーンカ-ン。

 

 その時、タイミング良く授業開始の鐘が鳴り響いてきた。

 

「時間切れだな。君が無駄話に時間を使いすぎた結果として、こんな結末しか迎えられなかったのだから、少しは反省して次回に活かしたまえよ」

「ま、待ちなさい!」

 

 そして彼女の口から、

 

「決闘ですわ!」

 

 とんでもない言葉が飛び出すのを、確かに俺は耳にした。してしまっていた。

 

「・・・決闘?」

「そうですわ! わたくしとあなた、どちらの方が強くて正しいか決着を以て証明してご覧に入れましょう。そうすれば誰が見ても一目瞭然なほどわたくしの方が強くて正しかったのだと理解できるはず」

「強さと正しさとの間に関連性が見えんのだが・・・まぁいい。今はいい。それより今は君に確認しておきたいことがある」

「ふん? いいですわよ別に。わたくしは優秀ですから、あなたのように無礼な人間にも優しくしてあげます。・・・で? 確認したいことと言うのは?」

「うむ」

 

 

 

「先程まで行われていた授業で聞かされたばかりの事で恐縮ではあるのだが。

 ISって、私的目的で勝手に使用すると刑法によって罰せられると教科書に書いてあるはずなのだが? その決闘宣言は当然のように、国家の認証は取得済みと解釈してよろしいのかな? イギリスの代表候補で、専用機を与えられている、誇り高き英国貴族のご令嬢よ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 青ざめた表情で虚ろな目を浮かべ、幽鬼のような瞳で私を見つめるセシリア・オルコット君。そんなに見つめても出せるものは何一つ持ち合わせていないんだがね?

 そんな彼女に私がしてやれることは只ひとつだけ。

 

 パァンッ!!

 

「とっとと席に着け、織斑」

「・・・・・・ご指導ありがとうございます、織斑先生」

 

 いつの間にかやってきて、騒いでいた二人を無視して実弟だけを殴りつけて修正しようとする、いまいち責任感の感じられない公私混同しそうな見た目だけ立派教師に分類されそうな織斑先生から彼女と私の試合の許可を取り付けられるよう尽力する。

 只それだけなのだろう。残念ながらな。



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やはり俺がIS学園に入学するのは間違っているだろうか?

Pomeraを整理していましたところ、未発表作品がいっぱい見つかりましたので「たぶん出してないんじゃないかな~?」と思える範囲で放出してあります。この作品より前にもいくつか出してますので興味がありましたら戻ってお読みください。

ただし、多すぎてしまって、前にも同じの出してるかどうか確認するのが困難です。
もし見つけた場合には連絡していただけると助かります。


「IS学年1年1組生徒、比企谷八幡による『IS学園入学に当たっての一言』

 

 ーーISとは兵器であり、秩序が支配する世界を壊した破壊者でもある。

 ISを賞賛する者たちは常にISの存在に自らを依存させ、自己と周囲を欺く。

 自らを取り巻くIS社会という名の環境、そのすべてを肯定的に捉える。

 何か致命的な失敗をしても、それは自分に「生まれもって優れたIS適正がないからだ」と失敗を正当化し、青かった自分の苦い思い出として記憶に刻むのだ。

 

 例を挙げよう。彼らはISの登場により台頭してきた女尊男卑思想によって著しく職業選択の幅を狭められ、進学時における男子生徒が合格する割合も往事よりかは大幅に低下している現実があるのは事実だが、彼らはその事実を犯罪行為に手を染めた際に「女尊男卑思想による支配のへの反逆」と呼んで問題をすり替えようとする。

 

 彼らは青春の二文字の前なら、どんな軽犯罪も一般的な解釈も社会通念すら捻じ曲げて見せる。彼らにかかれば嘘も秘密も罪科も失敗もISの存在さえも青春のスパイスでしかないのだ。

 

 そして彼らはその悪に、その失敗に、ISに特別性を見いだす。

 自分たちの失敗は悉くIS適正を持たない男に生まれたからであり、優れたIS適正を持つ女に生まれなかった自分が失敗するのは必然的な帰結であって、自らの努力が不足していたわけでは決してない。

 自分たちの失敗はIS適正を持たない男であると言う事実を自覚し、歪んだ思想に満ちた社会を大らかな心と寛容さをもって受け入れて、IS社会に生きる大人の男となるために必要な階段だったのだと美化しようとする。

 

 その一方で、彼らは才ある者たちには結果を求め、求められて答えられなかった者たちを失敗者、敗北者と見下すことで自己の細やかなプライドを守ろうとする。

 自分たちIS適正を持たぬ者たちの失敗は悉く青春の一部分であるが、IS適正を持って生まれたIS操縦者たち選ばれたエリートたちの敗北と失敗は青春ではなく、才能が低い故の敗北であり失敗であると断じるのだ。

 

 仮に失敗することが青春の一部分であり、IS適正を持って生まれたことが才ある者の証拠であるとするならば、偶然にも世界初の男性IS操縦者が発見されたことで実行された「全国男子IS適性検査」に引っかかり、世界で二番目の男性IS操縦者として大々的に発表された直後にフランスでも同じ様な理由で「世界で二番目の男性IS操縦者」が発見されたことで「偽物」扱いされている俺は誰よりも青春ど真ん中で生きてなければおかしくないだろうか?

 

 しかし彼らも世間様もそれを認めないだろう。

 

 なんのことはない。すべて彼らのご都合主義でしかない。

 なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も秘密も詐術も政治的理由によって国家と世間が罪のない無力な少年を中傷する行為も糾弾されてしかるべきものだ。

 

 彼らは悪だ。ISと言う名の元凶が生んだ社会悪の産物なのである。

 と言うことは、逆説的にIS適正を持ちながら青春を謳歌できていないと正直に断言する者こそが真の正義であり、誠の強さの持ち主でもある。

 

 結論を言おう。ISと、ISで恩恵を受けてる全てのリア充IS関係者どもよ。

 砕け散れ。

 

 

 

「砕け散るのは貴様だ、馬鹿者。なんなら今すぐこの場で私が直々に介錯してやろうか?」

「謹んで遠慮します。書き直します、ごめんなさい。殴らないで切らないで殺さないで」

 

 俺の書いた作文を静かな声で力強く読み上げたIS学園教師織斑千冬先生は、背後に吹き荒れるブリザードを背に受けながら無表情に立ち上がって右手の指を一本だけゴキリと鳴らす。

 

 ただそれだけの動作で命の危機を直感させられた俺は、即座に土下座を慣行。決死の命乞いが功を奏したのか、先生は軽くため息をつくと椅子に座り直して事なきを得る。

 

 やがて日本刀みたいに鋭い目つきで俺の顔を睨みつけた。

 

「なぁ、比企谷。私が転入に際してお前用に出した課題は何だったか覚えているか?」

「・・・・・・はぁ、突発的に入学と転入が決まって勝手が分からない俺が『ISとIS学園をどう思っているのか』というテーマの作文だったと記憶してますけど」

「その通りだ。それで? なぜ貴様は原理主義を掲げるテロリストの宣伝広告文を書いてきたのだ? バカなのか? それとも死にたいのか?」

 

 織斑先生は右手に持ったボールペンの先でコツコツと机を叩き続けている。

 ただそれだけの行為が俺の不安をかき立てて、死を意識させられる。

 やべぇよこの人、マジ怖ぇよ。帰りたいよ帰りたいよー。八幡、早くおうちに帰って妹の小町と遊び尽くしたいよー。

 

 そんな風に全寮制のIS学園では叶うはずのない妄想をしていたところ、俺の作文を丸めた紙束で頭をはたかれる。地味に痛い。

 

「お前の目はあれだな、腐った魚の目のようだな」

「・・・とりあえず「くさった死体」の目じゃなかったことを喜んでおきますよ。あいつらの目玉落ち掛かってますから、前が見えなさそうでしたし」

 

 ギランっ!・・・と、織斑先生の目が眇められる。マジで超怖ぇ。

 

 もしかして俺、この場で殺されちゃうの? 死んじゃうの? 小町ごめんな、お兄ちゃんもうお前と遊んでやれそうにないわ。愛しい妹をおいて先立つ不幸を許してくれ。

 あ、それからベッドの下にある宝箱にはふれるなよ? 絶対だからな? 死に逝くお兄ちゃんからの最期のお願いはトップシークレットだ。

 

「・・・・・・・・・はぁ」

 

 しばらく物凄い目力で睨まれてたが、やがて先生は息を吐いて雰囲気を和らげると目からも力を抜いてリラックスする。

  さっきよりかは穏やかな声になって、俺にゆっくり語り聞かせるように言葉を紡ぎ出す。

 

「まぁ、お前の気持ちも分からなくはない。今回の『コレ』は、多分に政治が絡められた結果だからな。大人の都合で振り回されただけのお前にしてみたら理不尽としか映らんだろう。

 立場故に配慮はできんが、同情はしているのだぞ? 私なりに、ではあるがな」

 

 そう言って向けてくる同情の視線は本来イヤなものであるはずだったが、この人の場合根が単純すぎて裏と表が存在しない、表裏一体の感性の持ち主故なのか、気づいたときに俺は「そりゃどうも」と比較的普通にすんなり返すことが出来ていた。

 

 

「一夏・・・いや、織斑の発見に伴い、未だ見ぬ男性IS操縦者を発掘しようと意気込んだ男性優位の男尊女卑勢力の圧力により全国で実施された男性のみのIS適性検査。その結果として発見された唯一の『披見体』・・・。

 表向き世間に公表されていた報道とはかけ離れ過ぎた体験を味あわせてしまった事について、私はアイツの姉として正式に謝罪したいと思い続けていたところだ。ついでという形での謝罪は本来私の好むところではないのだが、この場合は謝罪を行う私の側がお前の流儀にあわせるのが筋と言うものだろう」

「・・・・・・・・・」

 

 俺は答えない。ただ、はじめから腐ってる目の腐りを深めただけだ。

 

「すまなかったな、比企谷。この通りだ。謝罪の意志を示すための交換条件として、今回の件を不問に伏す。よもや異論はあるまいな?」

「・・・ウッス。お気遣い傷み入ります」

 

 先生は俺の一礼に言葉で返さず、猫を追い払うかのように左手だけで「しっ、しっ」と払うジェスチャーで退室を指示してくれた。

 俺はそれに対して既に顔を背けて机に向かい、書類と格闘し始めていた先生に改めてもう一度だけ軽く頭を下げてから職員室に併設されてる生徒指導室を出て、教室へと足を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、なんだ。もう帰ってきてたのか比企谷。探してたんだぜ?」

 

 明るく裏表のない声で話しかけられて、俺は腐った目をそいつへ向ける。 

 そこには、俺をこんな状況に陥れた現況でもある男が、自覚もなしに爽やかな笑みを浮かべながら片手を上げていた。

 

「なんだよ、織斑。なにか用でもあったのか?」

「いや、一緒に昼飯でもどうかなって思ってさ。クラスの人たちに聞いたら職員室に呼ばれたらしいって教えられたから探しに行ってたんだけど、丁度行き違いになっちまってたみたいだな」

「・・・・・・・・・」

 

 俺はそいつのーー世界最初の男性IS操縦者の少年「織斑一夏」の目を見ながら、黙って奴の話を聞いている。

 どうやら、俺が職員室に呼ばれた理由については聞かされていないし、知りもしないようだ。いや、むしろ『そう言う汚い裏側』があること事態、考えてもいないんじゃないかと思えてくるほど脳天気な無邪気さが今は妙に勘に障る。

 

「いやだよ、お前一人でいけよ。もしくは篠ノ之でも誘ってやれよ。アイツのことだから喜ぶぞ、きっと」

「箒も呼んだけど、一緒に食べる奴が多い方が飯の美味さが増すだろ? せっかく食堂のオバチャンたちが精魂込めて作ってくれた料理なんだから美味しく食べて感謝しないと失礼じゃないか」

 

 思わず相手の顔を見直した俺は、なんら他意なく悪意も見えない剣道バカの脳天気な笑顔しか見いだせなくて深くため息を付いてしまう。

 

「・・・??? なんだよ比企谷、溜息なんかついて。調子悪いんだったら保健室行くか?」

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

 思わず、二度目のため息を付いていた。こいつの性格は、良くも悪くも裏がなさすぎるのだ。

 常に前面しか出していないが、余りにもグイグイ押しまくってくるものだから好き嫌いがハッキリと別れすぎてしまう。評価が二極化しやすくて、周囲の人たちがどういう奴かでリア充にもなれるし、毛虫にもなり得る微妙すぎる奴だと俺は判定していた。

 

 本音を吐くときにも嘘を付くときでも目的自体は変わらないままで、揺らがない。

 一方で、嘘を付くときの理由が傲慢になりがちだ。

 変な呼び方している幼馴染み(ファースト幼馴染みだったか?)の篠ノ之に対して気を使ってる時なんかには見ていられない惨状を呈するが、素を出しまくって問題ない相手と判断すると本音しか見せなくなる。

 

 人の好き嫌いが激しすぎる。

 人から好かれるかどうかが、相手の好みに依存しすぎている。

 

 ぼっちの俺から見た今の織斑は、運でリア充になれてるだけの奴なので好きではないが嫌いに徹しきれない微妙な立ち位置にいる。・・・対応に困るから、出来れば話しかけてこないでくれると楽なんだけどなー。そうすれば俺も堂々と無視できてたのに。

 

「悪いが、織斑。俺は誰かと一緒に飯を食べると好き嫌いを問わず不味く感じて、作った奴への感謝をしなくなる病気にかかっているんだ。食堂のオバチャンに感謝してほしいんだったら別の奴あたってくれ」

「いや、どこのながっぱな狙撃手だよそれ。麦わら海賊団の一員以外にそんな病気にかかる奴がいるはずーー」

「あるんだよ」

 

 相手の言葉を遮り断言することで一瞬だけだが鼻白ませて、その隙に奴の後方で席に着きながら凄い目をして睨んできている織斑のファースト幼馴染みに保護者の役割を押しつけてやる。

 

「ほら、お前が待たせすぎるから空腹の篠ノ之が怖い目つきで、俺まで睨んでるじゃないか。独り身のぼっちを痴話喧嘩に巻き込むのだけは勘弁してくれよ、いやマジで本気でやめてお願いだから」

「なっ!?」

「え? 箒って、腹が空いてたから朝から機嫌悪かったのか? なぁんだ、そう言うことなら早く言ってくれればよかったのにーーぐほっ!?」

「ち、ちちち、違うわ馬鹿者! そこに直れ! せ、せせ成敗してくれる!」

「だから何でだよ!? なんで俺は毎日毎日防具もなしで、お前の剣道の練習相手を務めさせられなきゃならないんだっ!?」

「私が知るか馬鹿者ぉぉぉぉぉっ!!! 天誅ぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」

 

 

 どごごごごごんっ!!!

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。

 廊下に出た俺は、今日もまた昼食にピッタリなベストプレイスで優雅な食事をとるため購買へパンを買いに行く。

 学食があり、味もいいIS学園で購買利用者は希だが、数少ないリピーターからは以外と評判がいいのである。俺もここのパンは気に入ってるし、客足が少ないから品切れする恐れもない。

 そして何より、仲間と一緒に食べたがるリア充どもが来ることは決してない。この一事を以てしてIS学園の購買は聖域認定されても良いのではないかと俺は常から考え続けているのだが。

 

 

 

 ーーが、しかし。

 

「あら、今日もまた一人きりでランチですのね。異性ばかりの学校に一人きりで転校してきた殿方というのは哀れですこと」

「・・・・・・・・・」

 

 思わず吐き出しかけた盛大なため息を、俺は寸でのところで飲み込んで黙り込む。

 吉報は一人でしかこないが、凶報は友達を連れて来るという。つまり、ぼっちにとって友達がいるリア充は不幸と1セットの生き物だと言うことだ。ぜひとも一緒縁がないことを願いたい。

 

 ・・・ただ、そう言う意味で言うならコイツを凶報とは呼べない。なぜなら友達がいないぼっちだから、俺に不幸を連れてこないのだ。

 

「まぁ! わたくしからの声かけに際して沈黙で返すなんて無礼ですこと! やはり、このような野蛮きわまる島国で育った殿方に礼儀作法を求めるのは無理だったようですわね!」

 

 胸を反らして片手を添えるポーズを取りながら、居丈高な口調で言い放たれたのは嘘偽りなく、他にどんな表現方法も思いつかない差別発言。

 それもポーズを取りながらなんてあざとさまで見せつけておきながら、堂々と自分の身分を誇る生まれながらにして生粋のお嬢様。世のすべてが自分を祝福すべきであると信じて疑っていない傲慢さ。

 

 ーーそれ故に彼女の言動には“嘘”がない。

 

「・・・ちょっと考え事してたせいで返事するのが遅れただけだ。俺も悪かったと思ってるから、そう怒るなよオルコット」

 

 俺は、彼女曰く『貴族に対する礼儀を弁えない、正すべき平民の態度』で返事をしてやると彼女は「まぁ!」と頬を怒りで紅潮させながら、さっき廊下で出会った直後には暗い色が宿りかけていた瞳に光を取り戻しながら、居丈高な口調で生き生きと『貴族に対する時の接し方』についてレクチャーをし始める。

 

 生き生きと真っ直ぐに、嘘など微塵もないまま、この性格のせいで日本に来てから友達ができてない自分のやり方を変えないために。

 

「まるでなってませんわね! その程度では来週頭の月曜日にあなたと対戦するわたくしの勝利に泥をつけることしかできませんわ!」

 

 一通りレクチャーが終わった後、彼女はいつも通りの言葉を俺に賜わし、続く発言は少しだけ声量を落とした上で。

 

「・・・わたくしが一方的に勝利を得るのは自明の理。ですが、それ故に後から『代表候補に一般生徒が敵う訳ないのだから』等とケチを付けられては困りますからね。

 それに、ISについて詳しく教えてほしいと頭を下げて頼まれたら教えて差し上げると宣言したのもわたくしです。昨日、遅ればせながら頼み込んでこられたからには貴族として約束は守らなくてはなりません。IS操作の方も、軽くですが指導して差し上げましょう。今日の放課後、第二アリーナまで来るように」

 

 そこまでは僅かに声音を低くしていたが、続く言葉を発する際には自分を鼓舞し、励ますような大声量で俺に向かって手を伸ばす。

 

「エリートであるわたくしから直々に指導を受けられるなんて、あなたがた下々の庶民にとっては奇跡の如き幸運なのです! まさか断ったりなどなさいませんわよね!?」

 

 ぼっちで補欠の俺を救い上げるため差し出された貴族令嬢様の細腕は、振り払われる怖さからなのか若干の震えを伴っていた。

 

「感謝するよオルコット。お陰で転入初日の試合で恥かかずに済みそうだ。

 確認するが、今日の放課後に、第二アリーナで集合。それで間違ってないか?」

「・・・!! ええ、その通りですわ! 今日の放課後に第二アリーナでの集合です!

 先に申しつけておきますけど、一秒でも遅れたりしたら眉間に貴族に対する非礼として眉間に穴をあけさせてもらいますから、そのおつもりで!」

 

 人差し指でピストルを型どり、撃つ仕草をして見せた彼女を俺は腐った目で見物してから。

 

「勘弁しろよ、射撃型の専用機持ちに銃で狙われたら命がいくつあっても足りないじゃねぇかよ。俺、将来は専業主夫になるつもりなんだぜ? 学生のうちに死にたくなんかないって」

「でしたら、遅れずにくれば済むことですわよ。礼には礼を、非礼には非礼で返すのが誇り高きイギリス貴族、オルコット家の家訓ですので。

 ーーでは後ほど、今日“も”放課後の第二アリーナで」

 

 最後の一言だけ含みを持たせて去っていくイギリス代表候補生セシリア・オルコット。転入初日に因縁付けられ、来週頭に試合することになった俺のIS戦初対戦相手でもある英国貴族令嬢。

 

 何かと喧伝したがる『英国貴族オルコット家の誇り』。彼女にとって絶対に譲れないこれに関連している単語を除けば親切に初心者を教え導いてくれてるだけのノブレス・オブリージュ実践者。

 そして、偉そうな態度が気にくわないからとハブられてる美少女ぼっち。

 

 なんだかんだ言いつつも良い奴だと感じてる俺は、三日連続で彼女からのIS指導を受け続けていた。

 試合の日まで後三日。日曜を除けば残り二日で如何にして上級者であり先生でもあるオルコットを出し抜けるのか。

 

「思案の為所だな。まぁ、最悪本気出して特攻か自爆でもすれば受けぐらいは取れるだろ。あいつの勝利に泥は付かない」

 

 補欠でスペアな『世界で二番目の男性IS操縦者』。特別仕様の第三世代《白式》と違って普通に開発された量産型のカスタム機にしか乗れない出来損ない。

 そんな俺にできる戦いなんて、正々堂々真っ正面から不意打つぐらいしかない。せいぜいイギリスご自慢の新型機に食らいつけるよう頑張ろう。

 

 ・・・・・・最低限、あいつのワンオフ・アビリティー展開までは持たせねぇと勝利に飾る花にもなれん。どうせ毒花なんだから、飾る奴の見栄えぐらいは良くしてやらんとな。



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七国IS物語(プロット)

少し前に思いついたネタを設定だけ書いてみました。他の続きが出来るまでの場繋ぎにでもドゾです。


 

 篠ノ之束は挫折した。

 完膚なきまでの大敗北だった。

 

 恐怖の大王が降りてくることもなく、熱核戦争で地上が火の海になることもなく、ただ地球の地軸がわずかにズレた事による地殻変動によって生じた天変地異によって原子力発電所と生物科学兵器研究施設などが大打撃を受け衰退した地球に、人類初の月面都市フォン・ブラウン市へ移住していた人々が混乱期が終わってから降りてきて世界秩序を再構築し、様々な失われた技術を与えながらも飛行技術だけは独占したまま地上の支配権を未来永劫月が確保しようとしていた時代が、どこからか侵入してきた未知の病原菌によって月の住人が絶滅したことで終わりを迎え、地上人類は再び宇宙へ生活圏の拡大と月の遺産を求めて協力し合い調査隊を結成させた。

 

 数十年ぶりに宇宙へと進発していく宇宙調査団の勇姿が全世界に同時生中継され拍手喝采を浴びながら飛び立っていき―――その直後に阿鼻叫喚と悲鳴と怒号に画面と映像は取って代わられることになる。

 

 月面都市の住人たちが死に絶えたのは――おそらく――事実だろう。

 だが、彼が地上を永遠に支配し続けるために用意しておいた死と破壊による恐怖と支配のためのシステムまで死に絶えたわけではなかった。

 飼い主たちが絶滅した後も、電池切れで野垂れ死にもせず残り続けて嫌がったのだ!

 

 即座に世界各国は、独裁者どもの残した悪夢を力尽くで終わらせるため大規模な合同討伐軍を編成。

 当時、開発されたばかりの世界最高戦力《インフィニット・ストラトス》通称《IS》と呼ばれる宇宙開発用マルチ・フォーム・スーツまでもが大量投入されて銀色の矢となって出撃していき―――そして、完敗を喫しさせられることになる・・・・・・。

 

 後に、『白騎士敗北事件』と憎しみを込めて呼ばれることになるこの事件で受けた世界の損失は、宇宙戦闘機2341機、宇宙戦闘艦7隻、宇宙空母5隻。

 そして戦闘用ISが206機とされている。

 

 唯一の生存者であり、篠ノ之博士の親友でもあったIS部隊の総隊長・織斑千冬ただ一人だけが機体を大破されながらも何とか生き残って帰還してきたボロボロの姿を見たとき世界中の人々は苦い思いとともに事実を自覚した。

 

 

 自分たちは月面都市の住人が死に絶えた今も、彼らの支配下の檻に閉じ込められたままなのだ・・・・・・と。

 

 

 あの敗北から、十年と少しが経つ現在。

 世界は、月面都市が地上に再建した7つの国家が織りなす微妙なミリタリーバランスの基、かろうじて平和と安定と共通の敵たる『月面都市の遺産ども』と戦い倒すために新型ISの性能強化と、IS操縦者の育成とに全力を注ぎ続けている。

 

 勝った後に、7つの国のどれが遺産を受け継ぐのか決定を見ぬまま、ただ『勝利と自由と解放』だけを求めて今も世界は矛盾と諸問題を継続維持させたまま強大な敵と戦うためだけに一致団結して協力し合っていたのである・・・・・・。

 

 

 

オマケ『世界観説明:今作の国々』

 

IS国・日本

 現在の日本にIS原作に出てくるいろんな組織の本部が置かれているオリジナル国家。

 月面都市が、世界中の情報を繋いで一大ネットワークの拠点として活用していた土地。空を飛ぶ技術を持たない今作の地上世界では四方を海に囲まれた日本の地は情報独占のためには絶好の地形だったために選ばれて優遇されていた。

 資本主義と自由経済の時代には、情報を拡散させてどこからでもアクセス可能にすることが求められたが、月面都市が求めた競争はあくまで自分たちのコントロールできる範囲内に限定されていたため、このような国が生み出された。

 現在は、その巨大すぎる情報量とネットワーク拠点としての機能を活用するため『IS委員会』や『IS学園』など世界公共施設が軒を連ねる国となっている。

 

 

ニュー・ブリタニア

 現在のイギリスとEUの一部が版図に組み込まれてるオリジナル国家。

 社会崩壊後の混乱期を、厳格な階級制と実力主義という相反する二つの制度をナイフとフォークの使い分けることで乗り切ることに成功した国。通称「ネオ・ブリカス」

 時代がかった新たな国名は月面都市がつけたものだが、名称には人心に影響を与える効果でもあるのか復古主義的で伝統を尊ぶ一方で、「自分たちこそ世界に冠たる上流階級」と信じて疑わぬ高すぎる矜持を併せ持っている国。

 

 

ゲルマニアン・ドイツ

 現在のドイツにEUの一部が版図として加わっているオリジナル国家。

 社会崩壊後の混乱期を、「必要なものを守るため不要なものは切り捨てる」とした弱肉強食の力学によって一部が乗り切ることが出来た国。

 形式や規則よりも実力主義と結果主義が尊ばれており、非人道的な人体実験であろうとも「国益にかなう結果さえ出せれば」功によって罪を帳消しにする文化が復活してしまっている。

 また、結果主義が先行するあまり、独裁者が生まれやすい精神的土壌が国民たちの中に根付いてしまったことが一部で問題視されている国でもある。

 

 

フランク・モナコ

 現在のフランスとモナコを組っ付けたようなオリジナル国家。

 もともとは国際分業を目指した月面都市が、広大な農地と工業地帯とを一つの国としてまとめて運営してしまうとして生まれた国。そのため国としての国力は七カ国中最低レベル。

 農民は農民、技術者は技術者と極端すぎる住んでいる地域ごと職業割り振りが貧富の差を生んでしまっている国。

 

 

古国

 現在の中国。版図はそのままに文化だけがオリジナルの国家。

 混乱期と秩序再構築後で別物と言っていいぐらいの変貌を遂げた国であり、混乱期にほとんどの歴史的建造物が「国益優先」で破壊されてしまいながら、再構築後に復元作業を行って「歴史ある大国にして、正当なる支配権を代々守り続けている大国」と堂々と称している。

 極端すぎるほど敗北を嫌悪し、勝つこと以上に「負けを認めないこと」を徹底的に遵守する気風が国民全員に共通する悪習となってしまっている国でもある。

 

 

*残りの国家は考え中。

 

 

人物:

篠ノ之束:

 今作の重要キャラクターの一人。『白騎士敗北事件』の後に姿を消し、自分を地ベタに這わせて屈辱を味あわせ続けている宇宙の獄卒どもへの復讐を糧に独自でIS研究を続けている。

 復讐が目的の人だが必ずしも悪人ではなく、目的が同じ間は協力し合える人。

 原作と違って、自分を超えている連中が造った旧時代の遺産打倒にすべてを捧げてしまっているため見た目ほど精神面に余裕がなく、時折激しい焦りを覗かせる人になっている。

 

織斑千冬:

『白騎士敗北事件』ただ一人の生存者であり、人類に『敗北を伝えた世界最強の女』でもある人。

 事件の時に負傷しており、片足が動かず剣士としては再起不能。弟の成長と後進の育成に余生を捧げるつもりで、司令官職への栄転を蹴ってIS学園に赴任してきた。

 原作と違って戦えない分、力で言うことを聞かせるよりも言い聞かせることが多くなり、言ってることが少しだけ理に適っている人になった。

 

 

敵の設定:

タルタロス・システム

 月面都市が地上の永続支配のために開発して設置させたまま、自分たちは絶滅したため誰求めることが出来なくなってしまった迎撃撃墜システムの総称。今作のキーパーソン的存在。

 それぞれが相互に連携し合い、迎撃と撃墜を行ってくる十二個の軍事衛星を連ね、月にある巨大ソーラー発電システムからエネルギーを供給されている死と破壊と恐怖による支配のシステム。

 一定質量と一定速度の物体が地上五百メートルに達したのを探知した瞬間に問答無用で攻撃してくる。

 兵器製造プラントを内蔵しており、材料は宇宙に漂うデブリを掻き集めるだけで適切なものを自動で作り出してしまう。内部供給型であるため、弾切れと言うことがほとんどない性質の悪すぎる存在。

 主な武装は、口径を自在に変更可能なビーム砲と、迎撃用の各種ミサイル群。各種探知レーダー等など他多数。

 

 なお、タルタロスという名称はギリシャ神話の『地獄』から来ている。




*ちなみに七国というのは、原作主人公とヒロインたちの五カ国とアメリカ、そしてイグニッション・プラン最後の一国であるイタリアです。


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七国IS物語(正規版・未完成)

昨夜出した『七国IS物語』の正規版も途中までしか出来てませんが出しときます。
予想外に長くなりすぎたから慌てて省略したプロット版を出したはいいモノの矛盾ばっかりになっちゃってましたのでね(;^ω^)

今話が前話の説明回、あるいは辻褄合わせ回とでも思って頂けたら助かります。


 

 1999年に恐怖の大王は降りてこなかった。核保有大国同士が熱核戦争を勃発させて世界を火の海にすることもなかった。

 だが、それでも世界は滅亡し、人類社会は崩壊させられてしまった。なぜか?

 

 地球の地軸がわずかにズレたためである。

 

 これにより発生した大規模な地殻変動によって大地震が起き、産油国から各国に送られていたガスのパイプラインと、ネットワーク用の海底ケーブルが寸断され、残された回線に世界中の人々がアクセスを集中することで許容限界を超えたコンピューターの『発狂』を防ぐために発信施設を持つ各国政府が『情報の秩序ある統制』と『自国民の生活と安全を守るための物理的封鎖』を行った。

 

 これら一連の事態によってネットワークに依存していた旧来の経済および物流システムは完全に崩壊。自給自足が可能な大国のいくつかが鎖国政策を決定したことも拍車をかけて旧来の世界秩序は後ろ盾を失って無意味化し、各勢力はそれぞれの地域ごとに群雄割拠し泡沫都市国家群が年単位で生まれては消え、世界地図は月毎に勢力図を一変させ続けた。

 

 

 二百年以上に渡って続いた混乱から地球人類を救い出すため、空から降りてきた様々な技術を人々に授け、秩序を再構築してくれた者たちは、しかし神ではなかったし救世主でもなかった。

 

 2088年に、人類初の月面都市『フォン・ブラウン市』を完成させて移住していたルナリアンと名乗る地球人類たちが地上を救った救世主たちの名である。

 

 地上が受けた惨禍の傷痕はあまりに深く、傍観者であるルナリアン達も悲しまずにはいられなかったが、それでも総人口の激減によって貧困層の増大という社会的困難の最たるものは一掃されたわけなのだから、過去を嘆くよりも現状を改善すべく努力する方が重要であると考えた彼らは、あらためて地球上に新秩序を打ち立てるべく行動を開始させ、やがて今までの地球国家秩序がほとんど全て失われた地表に7つの国を再建させることに成功した。

 

 彼らは地球復興のために、失われてしまった旧時代の技術と道具を多く地上の人々に分け与えたが、『空を飛ぶ技術』だけは取っ掛かりさえも地上の人々が持つことを許さなかった。

 

「かつて地上で行われた災禍から限られた人口しか住んでない月面都市を守るため」

 

 

 ――というのが表向きの理由だったが、彼らの本音が宇宙から地上を永遠に支配し続けようとしている意図を読み違える者は当時の時点さえ一人も存在していなかった。

 

 

 こうして人類は再び地上に縛り付けられ、空を行く鳥を地ベタを這い回りながら見上げるしかない日々を送ることを余儀なくされるようになった。

 それは三百年が経過した後も終わることなく続いており、地上人類にとって氷河期のように辛く厳しい服従と屈辱の日々は永遠に続くかと思われた。

 

 だが、それはある頃を境に何の前触れもなく唐突に終わりを迎え、再開される日は二度と訪れることはなかった。

 

 ある日、空から宇宙船が落ちてきて海へと落下し、各国共同で派遣された救助および探索隊は機内から無数の死体と、微細な病原菌を発見して持ち帰ることに成功し、その病原菌が密閉された月の人口都市を住人ごと絶滅させたのだと結論づける証拠として認められることになる。

 

 毒素に満ちた汚れた地球の大気で生きる者たちにとっては無害な代物でも、箱庭のように潔癖すぎる人口都市に住む者たちには猛毒だったのだろうと推測したのである。

 

 自分たちの頭上に君臨し続けてきた月面都市の人々の不幸を知った地上の人々は、わざとらしく葬送曲を奏でてやることで偽善に酔いしれる不健全な喜び方はしなかった。

 涙を流して感動し、諸手を挙げて彼らの滅亡と死を喜び歓迎し、解放と宇宙への再出発を遂げる自分たちの可能性を隣人同士で抱きしめ合いながら祝福し合った。

 

 

 探索隊はそのまま捜索隊へと改名されて機内を物色し、宇宙空間での作業用宇宙服とおぼしき機械の鎧を発見したこともあり、世界は篠ノ之博士の提唱した宇宙開発プロジェクトに走力を上げて協力していくことを約束し合って団結した。

 

 空を飛ぶ技術が奪われて久しい地球人類の中で、その『天災的』とも称された圧倒的才能によって当時唯一の飛行機械開発技術を有していた彼女の指揮の下で人類は大規模な宇宙探査隊チームを結成し、全世界同時生中継で彼らの発進を拍手とともに見送った。

 

 

 ――そして、死が降り注ぐ。

 

 月面都市の住人達が地上を永続支配していくための手段として開発した迎撃撃墜システムが、主亡き後も健在のまま地上に狙いを付けていたことを人々は捜索隊の全滅という形で教えられることになったのである・・・・・・

 

 プライドを傷つけられた篠ノ之博士は、次次世代を征く自らの天災的才能をフル活用することにより、迎撃システム撃墜のための秘密兵器開発を成功させた。

 

 《インフィニット・ストラトス》。通称《IS》とも呼ばれる宇宙作業用マルチ・フォーム・スーツ。

 かつて鹵獲した月面都市の脱出邸に積まれてあった宇宙服を改造して開発された、戦力としても当時世界最高の人が纏って戦う機械の鎧である。

 

 これを大量配備し、篠ノ之博士の親友でもあった当時世界最強のIS操縦者・織斑千冬航空宇宙軍大尉を総隊長に任命したISの大部隊が雄々しく出撃していき、人類が宇宙へ再び進出するための一大決戦が行われ―――そして、完敗を喫することになる。

 

 時代の二百年先を行くと称された『天災科学者』篠ノ之束博士の次次世代を征く才能は、“300年という時代差”を覆すには至っていなかったのである・・・・・・。

 

 斯くして人類は、支配者のいなくなった地上世界で再び空を見上げながら地ベタを這いずり回る屈辱を甘んじさせられる日々を送ることになる。

 

 いつの日か正当な地位を取り戻すため、空の上から自分たちを見下し支配する圧制者どもの残した遺産を破壊し尽くして自由を得るため、今日も地上人類の人々は限りあるリソース数を対外的な戦争という形で無駄に費消することを由とせず、表面的な団結と平和と協力関係を維持したまま机の下でマスゲームを続けている・・・・・・。

 

 そんな時代。

 今日も地球は、征歴と改元された宇宙への征服を目指す人類が地ベタを這いずり回る悲喜劇を上演しながら止まることなく回り続けている・・・・・・。



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「IS~邪騎士に選ばれた転生少女~」
IS~邪騎士に選ばれた転生少女~序章


以前に書いた黒いセレニアISで使おうかと思っていた設定とストーリーを別主人公で書いてみた作品です。
2話できたので『我が征くはIS学園成り!』と含めて2作並べたシリーズ物と言うことにさせて頂きますね。

基本的に暗い作品ですのでお気をつけて。


「毎年ひとりふたりは間違いで入学試験を受けにくる子がいるものだけど・・・・・・」

 

 目の前に座る妙齢の美人教師が機械の示した数値を見た後、何度も何度も首を振りながら「処置なし」とでも言うかのように溜息をつく。

 

 間違っても税金で運営されている日本の国立高校入学受験会場で面接官を担当している者がとっても良い対応ではなかったが、『この世界では』これでも許されてしまえる特性が存在している。

 そして、特性を持たない者には持つ者に対して刃向かうことが許されていない。

 よしんば刃向かったとしても修正食らって叩き出されて、「相手も悪いが、君も目上に対する態度がなってなかった」だのと理屈をこじつけることで有耶無耶にされてしまう。

 この世界において特権階級にある者たちに、持たざる者が刃向かうとはそう言うことなのだである。

 

「ーー筆記での成績は上の中・・・一般高校だったら余裕で名門市立に受かれるレベルね。そちらの方への願書は出してあるのかしら?」

「受験シーズンが始まる前にはすでに出してありましたよ? 試験自体も昨日には終わってましたし、模試の段階で合格はほぼ確実とお墨付きをもらってますから問題ありません」

 

 ここで切っておいても良かったし、先ほどまで面接を担当していたメガネで胸のデカい女性教諭だったら異論なくそうしていただろう。

 ーーそれが突然、面接会場の扉が開いて若手の新人っぽい教師が入ってきたと思ったら「織斑先生が呼んでます」だの、「男が・・・男がISを・・・!」だのと部外者には門外漢には意味不明な言葉を羅列されたあげく「あなた受験生さん? 悪いんだけど山田先生を借りていくわね? 緊急事態なのよ」と引っ張っていかれ代わりに寄越してきたのがこいつでは何か余計な一言ぐらい付け足したくなってくると言うものだろう。

 

「ーー正直に白状しますと、そっちの方が本命でこっちは受験記念に受けてみただけな感じでしてね。超一流のエリートばかりが集まる学校に私みたいな落ちこぼれが受かっちゃったらどうしようかなーと内心では後悔していたところです。

 ・・・上を目指している方々の足を引っ張って迷惑かけたりしたら申し訳ない限りですから」

「・・・・・・そ。じゃあそっちの本命に期待しておきなさい。人生長いのだし、めげたりしないようにね」

 

 私の言葉の最初を聞いて、不機嫌そうに女教師が言い返そうとしてきたのを見計らって付け足した後半の台詞で言い掛けた言葉を飲み込まざる得なくなり、しばらく私のことを睨んでいた彼女は退室を命じ、神経質そうに机をボールペンの先で叩く速度を上げていく。

 

 もうここには用がなくなった私は「ありがとうございました、失礼します」とだけ告げて足早にこの場を去っていく。

 足取りに迷いはない。むしろ清々しい開放感に満ちあふれている。

 当然だ。やっと『IS学園に関わらなくてはいけない』受験シーズンを終えることが出来たのだから、気持ちが楽になり春の小川を弾むときのように歩いてしまうのも致し方のないことだとご理解いただきたい。

 

 ーーが、そんな私の抱えている裏事情など知る由もない女教師にとって私の態度は『皆がうらやむエリート学生になれるかもしれない可能性を損失した受験失敗生』の在るべき姿とは思えなかったようで、刺々しい口調で「お待ちなさい」と待ったをかけてくる。

 

 せっかく解放されたと思ったらこれだ。勘弁してくれと言いたいところだが、あいにくと相手は『IS学園教師にしてIS操縦者』。

 量産型に過ぎないとはいえ自衛隊にも10機とない世界最高戦力の担い手であるエリート様の一人からの呼びかけに対して無礼を働きすぎると後が怖い。

 

 道理を無視して無茶を押しつけることが可能なのが、IS適正を持った操縦者と、適正を持たない生まれながらの一般人『ISと一生関わり合えないと確定している者』とが混在するこの世界『インフィニット・ストラトス』の世界観である以上、適正はあるが数値が低くIS学園に入学できない『IS社会不適合者』に認定されることが決まった私としては我慢して応じるしか道はないのであった。

 

「・・・なんでしょうか? 先生」

 

 せいぜいが礼儀を守り敬語で対応してやったのだが、それでも相手の溜飲を下げるには至らなかったらしく、先よりも切っ先を鋭くした視線の棘で睨まれながら私は彼女の『愚問』を聞かされる羽目に陥らされる。

 

「ここはIS学園の入学試験会場で、受験希望者数は毎年数千単位。とうぜん漏れてしまう子も存在しているし、受けに来たところで倍率一万倍の壁は高く厚い。

 それを承知の上で難関校の受験に挑んでくる子たちの大半は真剣に受けに来てるのに、毎年何人かは必ずあなたみたいに観光気分で受験しにくる問題児たちがいるわ。その子たちが事前に権利を放棄してくれたら別の子たちが受けに来れたかもしれないのに」

「・・・・・・・・・」

「ねぇ、わかるかしら? あなたは彼女たち『真剣に国家代表を目指して努力している才能もやる気もあふれている少女たち』から輝かしい未来へ至る可能性を遊び半分で奪ってしまっているのよ? 誰かに迷惑をかけるのがそんなに楽しい? ねぇ、なんで?

 どうして貴女はーーー落ちるとわかっているIS学園を受験して『自分自身の将来のために今、賢明に努力している他の子たちから幸せになる権利を奪っておきながら』平然と笑っていられるのかしら? 私にはあなた達のような子供の心が理解できないわ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・自分自身の将来のための努力・・・ね・・・・・・」

 

 それは余りにも愚かな愚問だった。それを口にすること事態が自分自身の今の身分を誇示することにつながり、上から目線で他人を見下ろし、わかった風なことを言いたいだけの下種な行動を模倣したに過ぎない。

 誠意の籠もった心情が、逆に人の上に立って見下ろしている特権階級の腐臭ばかりで鼻につく。

 

 何より性質が悪いのは、この女の今の言葉には悪意がないことだ。むしろ善意で物を言っている。自分は『遊び半分で踏み台にされ犠牲者となった大勢の子供達のために悪と戦っている』そう言う義務感と正義感で溺れ死にたくなるほど気持ちの悪い増長した傲慢ぶりだった。

 

 

「ーーなぜ、落ちるとわかっているIS学園を受験したか・・・・・・ですか・・・」

 

 そんなことは決まっている。考えるまでもないことだ。

 

「その答えは至ってシンプルですよ先生。

 ーー“あなた方の都合によってIS適正が見つかってしまったから”。そのせいで私はIS学園を受験せざるを得なくされたのです。・・・これでは質問の答えになっておりませんか?」

 

 私の答えに相手があからさまに「勝手な屁理屈を・・・」と言いたげに顔を歪めて見せたので「補足の形で説明不足だった点を付け足しましょうか?」と、やんわりした表現で聞いてみたのだが何故だかギョッとした表情をされてしまった。なぜだ?

 

 それでも頷きを返してきたので、まぁ進めていいのだろうと判断して話を進めた。

 

「IS適性の有無を調べる適正検査は毎年定期的に行われていますよね? では、そのとき適正が見つかった子供達が学園を受験するまでの間は如何にして過ごしているか、貴女はご存じですか先生?」

「・・・・・・・・・バカにしないで頂戴。テレビなどで見て知っているわ。学園を受験するため今まで習っていなかった分野を必死に勉強し初めて受験のために万全を期するんだってーーー」

「はっ!」

 

 私は先生の言葉を思い切り、鼻で笑って差し上げた。

 なんたるテンプレ! なんというマニュアル人間! なんというメディアに都合のいいだけの操り人形! こんな『上から金もらって言わされてるだけのコメントを』信じ込んでるバカ教師が現代日本の支配階層に位置していようとは!

 

「そんな、テレビ写りを意識して適度に着飾り勉強机にかじり付いて見せてるタレント子役が、自身の将来のために言ってるだけの報道番組など見なくてよろしい。

 現場の声を聞きたいのであれば、汗だくになりながら毎日遅くまでグラウンドを走ってるだけの受験生に聞かなければ意味がない。IS学園を受験するために必要となる一番の条件は『体力をつけること』ですのでね」

 

 怪訝そうに顔をしかめる女教師。それを目にした瞬間にわかる。“こいつも自分が生まれた環境を恵まれていたとは自覚できてない類の人間だ”と言うことが。

 

「早期から適正を発見されて特別カリキュラムを受けてこられた代表校補生候補のエリート様方と、適正が見つかるまでは普通の一般家庭で生まれ育ってきた女子達。その最大の違いが何かおわかりになりませんか? 体力ですよ。

 私たち一般中流家庭で生まれ育ってきた普通の婦女子達には銃を持つどころか満足に100メートル走を走りきることが出来るかどうかも怪しい者たちが多いのでね。とにもかくにも体力を付けるために走り込みから始めなければどうにもなりません。体力がない者はスポーツにおいては役に立たない」

 

 当たり前のことなのに、どう言うわけだか多くの人たちが忘れている事実。この世界でも『私がまだ俺だった、あちらの世界』だろうと変わらない普遍的な常識。

 

 才能を持ってたからって全ての人間が体力に恵まれて生まれてくる訳ではない。アスリートの両親の間に生まれなくてもスポーツの才能を持っている子供達はいる。

 親の子育て方針が勉学に傾いてたり、運動会系を嫌う子供が無理してやらなくてもいいように工夫してくれている親だって沢山いる。

 

 にも関わらずIS適正という才能は平等だ。女でさえ在れば誰にだって持っている可能性は存在している。

 そして、可能性を調べられた際に『無い』と判定された者たちにとっては未来永劫ISとの関係は断たれて枠外へと追いやられる。永遠の部外者として野次馬根性しか持てなくなる。

 見物客として好き勝手に野次だけ飛ばしていればいいだけの気楽な身分で、戦う者たちの出す結果を訳知り顔して論評するのだ。

 

『こいつは俺たちと違って生まれながらにIS適正持ったエリート様なのに、この程度の相手にも勝てないのかよ』

 

 ーーそう言ってテレビを指さしながら笑い出すのだ。反吐がでる。

 

 

「ISを動かせるのは女性だけです。男は男に産まれた時点で無関係な赤の他人事ですし、女性であっても適正が見つからなければ動かせません。

 動かすことが出来ない以上、何を言ったところで実行させられる心配はありません」

「・・・・・・・・・」

「見ているだけでいい、一生関わり合わなくていい無関係な赤の他人ならば幾らでも正しい正論が言えます。実行しなくてよければ、人は無限に勇敢さを発揮できる。

 動かすことが出来ないISを『動かせるのは女性だけだから』同じ女性である自分たちは同類扱いしてもらえる。

 そう言う人たちから見れば私たち適正が発見された者たちは皆、同じように自分たちとは違う別の生き物か何かの集団にでも見えているのでしょうよ」

「・・・・・・・・・」

「だからあなた方の検査によって適正を見つけられてしまった私は、IS学園を受験せざるを得なくなりました。適正があるエリート様なのにIS学園を受験しないのは今の世間から見ればおかしいことだからです。

 適正を持ち、ISを動かせる者が権威と権力の象徴であるISと無関係に生きていこうとするのは今の時代、不自然きわまりない異常なことなんです。

 そんな道を望んで歩もうとする者がいるとしたら、それはーーーー」

 

 

 異常者です。

 

 

 私が放った最後の言葉を聞き、相手が何を思ったかは知らない。知りたいとも思わないし、知れたぐらいで理解できるだなんて思ったこともない。

 

 人にはそれぞれ抱えている事情がある。過去がある。背景があり、家族があり家庭環境がある。

 それしか知らない者たちにとっては、それが全てだ。

 それ以外の物を、それ以上に高く評価して尊重できる者はほとんどいない。

 「私ならできる」だなんて奢れるほど、私の『前世』は大した生き方をできてない。

 

 

「・・・・・・適性試験を受ける受けないは任意よ。強制されて調べられるものではないわ」

 

 だから私は誤魔化すようにつぶやかれた彼女の『言い訳』にもロクデナシらしく接する。今さら優等生ぶったところで化けの皮はすぐに剥がれ落ちる。どのみち一期一会の他人を相手に最後まで取り繕う必要性は皆無だ。

 

「今の時代、高ランクIS適正保持者がどれだけ社会で優遇されるかは私よりも先生方の方が遙かに詳しくご存じなのでは?」

「・・・・・・・・・」

 

 黙り込んで目を顔ごと逸らされてしまう。

 

 ISは兵器じゃなくてスポーツだなんだと言ったところで政治権力と結びついてしまえば結局はそこへと辿り着いてしまう、変えることの出来ない人の業。

 

 もしかしたら私の愛する子供にも、輝かしい明日が待っているかもしれない・・・・・・!

 

 そんな純粋で無作為で害意のない無自覚な悪意によって、結果的に一部の子供達が悲劇の主役となってしまう。

 受けるのはタダだからと言ったところで、大半の子供には自由意志により国家試験を受けにいく勇気など無い。親か教師からの後押しなり強制なりが必要不可欠な子がほとんどなのである。

 

 かくして形ばかりの平等の元、IS社会は中世の生まれながらに選べる道が限定されている身分制度時代に逆戻り。

 生まれた家の方針、優秀成績を上げたIS操縦者の近親者、政府権力に近いか遠いか反対勢力に所属しているか。

 息苦しいほど区分けされ、棲み分け現象が発生してしまっている現代日本のIS社会。

 

 そんな中、おそらくは家が優秀なスポーツマンの家系ででもあるのだろう女教師が、苦々しげな表情と仕草で手を振ることで、用は済んだから出て行くよう伝えてくる。

 

 代表候補に選ばれるようなIS操縦者には、子供の時から身体的に優れた素質を発揮できるようスポーツ系の家柄に生まれた者が多くいる。

 女性でありながら美しさを損なうことなく筋力面でも男より強くなれるのはそういう理屈だ。こういった面でもIS社会には適正とは関係しない『生まれた家』が強い影響を持ってしまっている。

 

 

「失礼します」

 

 私もまた用は終わり、この場所には何らの未練もないので躊躇なく背を向けることが出来た。

 

 私に背を向けられた相手が、今どんな表情をして何を思っているかなんて分からない。知りようもないし、知りたいとも思わない。

 決めつけることなら幾らだって出来るだろうけど、したくない。

 

 

 会場を出た私は、会場で吸い込んでしまった毒気を出し尽くすように大きく息を吸ってから深呼吸をする。

 

 

 こうして私の第二の人生である《インフィニット・ストラトス》の物語は完結した。

 

 

 

 ーーはずだった。

 

 

 

 あの呪われた蒼いISに出会いさえしなければ終わっていたはずの私のIS物語は、人血に塗れた蒼い騎士が持つ剣の刃とともに始まりを迎えさせられることになる。

 

 呪われたイビルIS《ダーク・タイラント》と、IS学園落第生《ISルーザー》である私、現代日本からの転生者『夜風翼』。

 

 一機の邪騎士と、彼に選ばれた傀儡の主たるロクデナシ少女の物語としてーーーー。

 

つづく



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IS~邪騎士に選ばれた転生少女~第1章

シリーズ物の2話目です。第1話は一話戻ってお読みくださいませ。


 私は夜風翼。現代日本からライトノベル作品《インフィニット・ストラトス》の世界に生まれ変わってきた転生者だ。

 原作は、一通り読んでるけど嫌いじゃない。むしろ好きな方だと自分では思ってる。

 なにしろキャラが可愛いし、服がエロい。娯楽作品としてみた場合には十分すぎるほど面白い要素に満ちた作品だと思ってたし今でも思う。

 

 けど、死んだ直後に転生の神様が現れて『好きな作品世界に転生させてやるから選びなさい』と言われた時に候補としてあがる作品かと言えば、おそらくは無い。あくまで娯楽として楽しむ上でなら非常に楽しい。それだけだ。

 

 間違っても選べる権利が与えられていたなら選ばなかっただろうなと思う程度の作品世界に生まれ変わってしまった理由はとてもシンプル。

 

 私は選んでない。転生の神様とやらに会うことすらないままに、気づいた時にはこの世界で第二の命として芽吹かされてしまってた。私の意志が介在する余地なんて欠片も存在していなかったのだ。

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

 受験会場となっている多目的ホールの建物内からまでは出てないけど、試験会場となっている一室からは出てきた私は大きく息をつき、

 

「・・・スゥーー、ハァーー・・・。スゥーー、ハァーー・・・」

 

 次いで大きく深呼吸。

 先ほど吸い込んだ毒気を排出することで、ようやく人間らしい気持ちを取り戻せたようでホッとさせられた。

 

 

 

 この世界、《インフィニット・ストラトス》は物語が始まる十年と少し前に起きた『白騎士事件』によって大きく変貌を遂げた近未来の地球が舞台という設定だ。

 《インフィニット・ストラトス》はもともと宇宙開発用に造られていたパワードスーツを基にした人がまとって戦う、空飛ぶ機械の鎧で、通称『IS』。

 

 ISは女性しか動かせないこと、白騎士事件でたった一機のISに大艦隊が敗れたこと、社会の風潮が男尊女卑から女性中心に動かされる『女尊男卑』に移り変わっていること。

 

 これら諸事情からIS世界の人間達には『ISを動かせるから女は偉い。動かせないから男は劣っている』という考え方が一般的になっているのは原作にも記されている。

 

 確かに一理あるとは思う。

 人の心をマクロの視点で捉え、大雑把に大別するなら間違いようもない事実だとさえ思えるほどに。

 

 でも、これに個人の視点ーーミクロの考え方を持ち込んだ場合には事情がやや異なりを見せ始める。

 

『倍率一万倍のIS操縦者育成機関IS学園に入学できる優秀な才能を持ってるISエリート』と『ISを動かせない男たち全員』。

 

 これら二つに加えて今一つ。

 私のように『ISを動かせる“だけ”の低ランクIS適正保持者』と言う下位階層が存在しているのである。

 

 私の適正ランクはC。世界でもっとも多く発見されているIS適正数値で、IS学園の生徒達のほとんどがこれに該当する数値を持つ。

 

 つまりは日本にまで受験しに来る人たちだけでも倍率一万倍に上るVIPクラスのエリート達の大半と同じ数値であり、IS学園に入学を許されるのはそれらの中でもエリート中の超エリートだけ。

 落ちこぼれた半端なエリートもどきには《不合格通知》以外に学園からは与えられない代わりとして、世間様から《世界最高戦力を操る資格を手に出来なかった失格者》という有り難くもないレッテルを張っていただける。

 

 

 IS世界において才能は平等に作用される。

 誰しもに自分の意志に寄らず才能は与えられ、与えらてもらえない。

 ほしかった才能でなくても皆が羨む才能を与えられてしまえば、平等にエリート認定されて結果を出さなければ落ちこぼれ扱いだ。

 結果を出したら出したで国家代表なりなんなりに任命されて、国同士のパワーゲームに利用されるだけ。

 

 世間様から突き上げ食らって期待に応えて見せたところで、誉めてもらえるのは勝ってる間だけ。負ければ「期待はずれ」「メッキが剥がれた」「潔く引退できなかった故の無様な末路」「かつての名馬は駄馬になる」。

 

 

 世の中がどうかまでは知らないけれど、日本人が形成している社会は昔からそんなもの。陰湿で、排他的で、閉鎖的で自己正当化の理屈に満ちあふれている糞みたいな社会。他人を否定することでしか自分の正しさを証明できないクズの群。それが日本で生まれ育った私が昔から抱きつづけてきた日本人への感想であり印象だ。

 

 

 

 

「・・・あ~、ダメだこりゃ。かんっぜんに思考がマイナスのループに陥ってる。どこかでリフレッシュしないとマジで死ぬかも。主な死因は自殺によって」

 

 昔から気分が落ち込んでくると果てしなく無限にマイナスの妄想をし続けることが出来る私の感性は、嫌いじゃないけど望んでいなかった『インフィニット・ストラトス』の作品世界に転生させられたことで悪化の一途を辿っている自覚が私にはある。

 

 マックで無理なく散財でもして頭の中をバカにするために私は多目的ホール内の廊下を歩き出す。

 

 試験開始前と比較して警備員の数が減少しており、案内役の職員や学園教師とおぼしき女性たちまで見かけなくなってしまっている異常性に気がついたのは歩き始めた直後のことだ。

 

 国家機密を取り扱わせる新人たちを選別する関係上、IS学園の入学受験会場には民間施設とは思えないほど厳重な警備が敷かれていたはずだ。少なくとも朝きたときの時点ではそうだったはず。

 

 にも関わらず、何故だか人の出入りが激しい。激しすぎる。前世でも名門市立を受験したことがある私だけど、こんなにザワツいている入学試験会場というのは記憶にない。

 まして今はまだ試験は続行中のはずだ。予定の時間が迫っている中で面接官が呼び出される異常事態が起きているとはいえ、さすがにこの騒ぎっぷりは常軌を逸しすぎていた。

 

 なによりも、オアシスみたいな形でポツポツとホールの各所に発生している人だかりの構成メンバーが問題だ。

 

 白衣姿の研究者然とした中年男性たちと、黒服サングラスのSPらしい大男を従僕のように引き連れてきた背広姿の若い女性がチラホラと見受けられた。

 

 背広姿の女は見間違いようもなく女尊男卑を掲げる政府の要人だろうし、研究者たちに至っては今の社会だとIS学園教師には下手にでざるを得ないはずの男たちばかり。

 

 それらの人たちが学園関係者らしき者たちと口論になっている。

 「通せ!」「ダメです!」「科学の未来のため!」「日本の正しき未来のために!」「子供達の人権保護が第一です!」・・・異常事態が発生しているのは明白だった。

 

 

 

 厄介事の臭いを感じ取った私は歩く速度を速めて、出入り口に急ぐ。横道には逸れない。ショートカットもしない。

 破滅が口を開けて手ぐすね引きながら待ちかまえているのは、いつだって人の心の間隙だ。焦りと焦燥、絶望や恐怖なんかは悪魔の大好物と昔から相場が決まっている。

 

 自分が呪われていると自覚していて、脛の傷に覚えがありすぎる身としては正道を歩む以外に破滅を逃れる術がない。

 

 可能な限り早足で、でも声をかけて注意されるほどにならないよう留意しながら許されている最大限のスピードで扉に向かい、もう少しで出口だと希望を見いだした、その瞬間。

 

 

 脇を通りがかっていた男達の声が聞こえてきた。

 

 

 

「ーーくそっ! アレが運び込まれたことで物資の確認がおろそかになったのを利用して搬入したはずが・・・・・・何故こんなことに!?」

「責任追及は後回しだ! 今はとにかくコイツを誰にも見つからない場所まで持って行って処分するのが何より重要だ!」

「確かにな・・・。コレはこの世にあってはいけない物だ。人の世にあってはならない物だ。我々自身の手で葬り去らなければならない呪わしき過去からの異物だ。

 なんとしても安全な場所まで持って行って自爆させないと、いずれ大変なことになーーー」

 

 

 声が聞こえてきたのは其処までだった。

 次に聞こえてきたのは爆発音。

 

 男達が私の脇をすり抜けていった直後、二人がかりで押していたカートの上にある箱が中から吹き飛び破片を辺り一面に巻き取らしながらーー“其れ”が姿を顕す。

 

 

 

 一言で言い表すなら、それは『お城に飾ってある中世騎士の鎧』だ。

 見る人によって鎧という印象を受けないタイプの、メカニカルなSF騎士風のロボットなんかじゃない。

 

 まごう事なき完全無欠に、誰がどう見ても誤解しようがないほどに『鎧甲冑をまとった中世騎士』の姿を持つナニカだった。

 

  鎧をまとい、兜をかぶり、小手と脚甲、全身を余すところなく覆い尽くした青いフルプレートの重装騎士。

 鋭角的なフォルムをしている鎧兜に、フルフェイスのマスクが下ろされている。

 

 マスクの真ん中にはカメラアイのつもりか、血のように怪しく光る真っ赤な単眼が鈍く光り輝いていて、私のことを真っ直ぐ見つめ続けている。

 

 そうして数秒の沈黙が過ぎてた後、やがてソイツは“歩き始める”。

 ゆっくりと、私に向かって歩きながら近づき始めたのだ!

 

 

(・・・・・・たしかISは、人が乗らないと動かなかったはず。なら、この機体にも人が乗っていると見ていいのだろうか?

 そう考えないと説明が付かない現象だけど、何故だろう。こいつの目を見ていると怖くて足がすくんで動かすことが出来なくなってしまう。逃げられない・・・!!!)

 

 

 端から見ている見物人がもしいたならば、私は表面上だけでも落ち着いて見えていたのかも知れない。けれど実状は恐怖の余り指一本動かせなくなっていただけの話だ。あまりの恐怖に体が動かず、思考が止まり、ただただ近づいてくる相手の目を見つめ続けてしまう。

 

 

 ソレはゆっくりと私に近づいてきて、もう目の前まで来るのに数歩分の歩幅も必要なくなった頃、目の前に血塗れの黒が立ちはだかって両手を広げ「ダメだ!」と叫ぶ。

 

 先ほど吹き飛ばされてた男の内の一人だった。もう一人の方は破片がモロに顔面に当たって瀕死の重傷を負い、今も近くでピクピク痙攣し続けている。

 放っておけばもうじき死ぬだろうけど、助かったら助かったで重い障害を負っての老後は確実という悲惨すぎる惨状。

 

 そんな彼と比べれば私なんて・・・・・・現実逃避気味にそう思うことで正気を保とうと努力している私の願いを妨げるように目の前の男が叫ぶのが聞こえた。「ダメだ!」と。

 

 

「お前をここから出すわけにはいかない! お前は私たちと共に滅びなければならない悪しき存在だからだ! 俺はお前に一人たりとも人を殺させたりなんかさせない! させてなるものか! 俺はもう二度と奪われていく他人の命を見据えたりなんかしなーーーー」

 

 そこまでだった。その台詞の続きは永遠に訪れない。

 蒼い騎士が取り出した光の剣の刃で、心臓を刺し貫かれたからである。

 無造作に、殺意も悪意も敵意すら存在しない、前に進んでたらナニカ出てきたから刺して壊した。

 それだけの行為でしかなかったことを示すように蒼騎士は、男が刺さったままの剣を血払いでもするかのように何度か振り、その途中で男の死体が適当な方向に飛ばされていって何かにぶつかり停止していたが、騎士は気にもとめることなく私だけを見つめながら歩み寄ってくる。

 

 

 そして。私の前まで辿り付いたとき、恭しく主に対しての忠誠を誓う騎士のようにひざまずき、頭を垂れてみせた。

 

 

 敬意にあふれた騎士らしい挙措と仕草。

 それでいて、人を人とも思わぬ冷酷非常な先ほどの殺人。

 矛盾している二つの物を、おそらくは今を生きる誰よりも持ち合わせているのではないかと思えるそれらを所持するISが、私の物になりたいと願うようにひざまずいている。

 

 ならば私の出すべき答えは単純明快。“こんな不気味で人デナシ殺人ロボットに誰が乗るか”だ。

 

 すぐにでも後ろを向いて背中を見せて振り返ることなく逃げ出そうと決めて、わずかに足を後ろに退かせたその瞬間。

 

 蒼いISのマスクにある紅い単眼が妖しい光を放ち、微かではあったが鎧の部分も軋んだような音を響かせていたような気がして怖くなり元の位置へと戻す。

 

 

 そうするとプレッシャーが減り、心に考える余裕を持つことが出来る。

 そして確信させられてしまった。

 

 

 このISは自らが選んだ操縦者が、期待を裏切ることを許可していない。許さないのではなくて、期待に応えることを強制してくるのだ。

 無理矢理にでも自分の目的を果たすために戦わせる。その為に戴いた主だ。主に忠誠を誓ってこそ騎士であり、忠誠を受ける側には相応の義務と覚悟と責任を果たしていただこう・・・・・・。

 

 

 そんな傲慢さが其れからはヒシヒシと伝わってきて、息が詰まる思いをさせられてしまう。

 こいつには、私が自分の主にならない道を選ぶ選択肢など用意してない。拒絶したとしても殺すことはなく、生かしたまま自分の目的のために使われる期待通りの主の役割を押しつけてくることだろう。

 

 

 何故だか分からないが私はそう直感できていた。もしかしたら前世のロクデナシ外道思考がコイツの心理を読むのに使えてたのかも知れない。

 

 どちらにせよ、私に選択肢はひとつしか与えられてはいない。手を伸ばして少しずつ機体に近づかせてゆき、わずかに指の先が『ちょん』と触れるか触れないかだけの接触によってソイツの中では私は主として任命させられたようだった。

 

 膨大な量のデータが脳に直接送り込まれてくる。こいつのカタログスペックと武装類、そして機体名まで記されているとはご丁寧なことだった。

 

 

 私はそれらデータを見ながら、目に付いた機体名を呼んでやる。

 

 

 

「・・・第一世代のエビルIS《邪騎士/ダーク・タイラント》・・・・・・其れがあなたの名か。人殺しをおこなった殺戮の蒼い騎士よ」

 

 返事は、ない。

 ただ網膜表示されているモニターに写された文章が一文。

 

 

《永劫に終わらぬ戦場を私は望み、求める者である》

 

つづく?

 

 

 

設定説明:

 

機体名:エビルIS《邪騎士/ダーク・タイラント》

 現存しているはずのない第一世代の専用機。

 当時の専用機コアは一基残らず新型へと換装されているはずなので、量産機以外で第一世代は存在してないはずのIS世界において厳然と存在し続けている謎の機体。

(注:束の《ゴーレム》は正体を隠すためにフルスキンにしてあるだけで中身は第二世代以上のコアが使用されている)

 

 ISは世代交代が進み、旧式機が使われていた頃は優秀な操縦者が少なかったせいもあり中々良いデータが取れていなかったが、徐々に問題が解消されて昨今の急速な新型開発ブームが到来しているのであるが、それは逆に当時の弱い操縦者向けに造られていた機体と、現在の最新型を与えられている操縦者たちの相性が悪いことも意味しており、乗れないわけではないが大半の者には使いこなせないため逆に弱くなってしまう。

 

 Cランク適正しか持たない翼は当時もっともポピュラーな数値しか出せないため、非常に相性がよい。

 ただし、ダーク・タイラントが『自身の目的を果たすために選んだ主君』でしかないため、時にコントロールを離れて勝手に動き出してしまうのは避けられない。

 

 世代による性能差は遺憾ともしがたいものがあり、数値だけみた場合には新型相手に勝てる要素は微塵も存在しないはずだが、それは昨今のISがバリアによって装甲を不要とし、機動性を向上させたハイスピード・バトル施行に移行していったことが大きく関係してもいる。

 ダーク・タイラントには壊すための破壊力と強固な装甲さえあれば素早さなど必要なかったため、意外にも目に見える数値ほどには性能差が勝敗に影響することはない。

 

 また機体自体に異常としか思えないほどの闘争本能が宿っており、乗っている操縦者に凶暴性と『死を恐れず、戦えなくなることこそを恐怖する』狂的なまでの闘争への執念を付与させてしまえるので数値だけでは勝敗を見えなくしてしまう戦闘狂じみた機体。

 

 フルスキンではなく、フルプレートと表現した方が正しく思えるほど徹底された肌を露出していない外観を持つ。見た目は蒼い甲冑をまとった完全なる中世騎士そのもの。

 

 重装甲を高出力で支えている重ISなので動きは鈍く、強靱な防御力と圧倒的なパワーで敵を粉砕する戦い方を得意としている。

 本来なら高機動戦に向いておらず、高速で飛び回るISの敵ではないはずの機体だが、元々の《ダーク・タイラント》に《邪騎士》としての能力が追加で付与されているため存外に変則的な戦い方も可能になっている。

 

 

 武器は、西洋の大剣を模した『ビーム・ソード』一本だけ。

 防具は、逆三角形の形をしている『ビーム・シールド』ひとつだけ。

 

 

追加能力:

テラー・フィールド(恐怖空間)

 周囲に近づいてきた者全てに本能的な恐怖心を抱かせる。心を強く持てば対抗できる程度の催眠暗示レベルでしかないが、心が弱い者や精神的に弱っているときにモロに食らってしまうとトラウマを呼び起こされて幻覚を見せられる恐れがある。

 操縦者と機体、どちらが望んだとしても任意で発動可能な嫌すぎる力。

 

 

プラズマ・マンサー(魔雷槍)

 手のひらから雷撃の槍を拡散で照射する魔法じみた能力。ただし、前方に向けて拡散で発射されるため命中するかどうかは完全にランダム。威力も低く、この攻撃自体に大した意味はないが雷撃のため当たると僅かなあいだ動きが止まる。

 重IS故に動きが遅く素早く動く相手には攻撃が当てづらいダーク・タイラントにとって、敵機を地に落として接近戦に持ち込むか、あるいは止まっている隙にイグニッション・ブーストによるチャージアタックで超重量体当たりをぶちかますかする為に特化した能力である。

 

 

ワンオフアビリティは『ナイト・オブ・ガーランド(我望む、永遠の闘争か死を)』。

 ビーム・シールドに割いていたエネルギーもビーム・ソードに回すことで巨大なビーム斬馬刀に変えて攻撃する能力。盾がなくなる上に重量増加によって両手で振り回す必要が出てくる。そのため防御は完全無視。攻撃特化というよりかは『肉も骨もくれてやるから確実に心臓を奪い取ってみせる』と言った方が正しい気がするキチガイ必殺技。

 

 

 モデルとなっているのは『騎士ガンダム物語外伝:聖機兵伝説』に出てくるネオ・ジオン族のエース機『邪機兵ダーク・タイラント』。

 武装も含めてモロにダーク・タイラントのまま。

 飛行可能になったことだけが数少ない変更点です。

 

 追加能力は同原典作品に出てくる別機体『魔機兵ザマレド・マンサー』から魔雷槍を。

 PSPソフト『タクティクス・オウガ』から、自らが殺した死者達の怨念をまとって戦う恐怖の騎士『テラーナイト』の持つ特殊能力、自分の周囲2マス以内にいるユニットに恐怖心を刺激させてステータスをダウンさせる『亡者の嘆き』より拝借したのがテラー・フィールド。



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ボツにした話
IS学園の嫌われ者たち


『田中芳樹作品のお気に入りキャラがIS世界の住人だったら』と言うアイデアが思いつき、とりあえずはアッテンボローとシェーンコップ(設定上の理由からロイエンタールと言う名字になってますが・・・)ドクター・リーを投入してみました。
思いついたばかりのネタなせいで練られておらず、人選もしっかり行われておりませんので『試作品』だとでも思っといてください。


 『白騎士事件』から十年と少し。人類史に燦然と輝く大事件がおきた。

 世界で初めてISを起動させた少年『織斑一夏』の登場を皮切りに、三つの国から一人ずつ、天才的才能を持った男性IS操縦者が発見されたのである。

 

 ・・・後の歴史書にはそう記されることになる事件について記録者と当事者たちの間には、太平洋を越えてもまだ足りない長さの認識の差異が存在していたようである。あるいは故意によるものかもしれない。

 彼らないし彼女らが歴史の記録に正確を期するのであれば、この一言を付け足さなくてはならなかった。

 

『三つの国から一人ずつ、天才的才能と《性格の悪さを併せ持った》男性IS操縦者が発見されたのである』ーーーと。

 

 

 

「彼の転入手続きを入学式前までに滑り込ませられたのは幸いでした。日本の織斑一夏に世間の注目が集まりすぎるのを阻止することが叶いましたから」

 

 ーーイギリスから日本行きの航空機を離発着させている空港のロビーに、官僚的な雰囲気を持つ女性の前で並ばされている二人の少年少女の姿があった。

 

 少女の名は、セシリア・オルコット。イギリスの代表候補生であり、歴とした英国貴族の一員であもる才女だ。

 

「《ジャスティン・アッテンボロー》。あなたには期待しています。卑しくもイギリス初の男性IS操縦者が、極東の雄ザルごときに遅れを取ることなど決してないと」

 

 そしてセシリアの隣に立つ、もつれた毛糸のような鉄灰色の髪をもつ少年は、イギリス王室が見つけだした世界第二の男性IS操縦者ジャスティン・アッテンボロー。

 

 日本政府が秘匿している世界初の男性IS操縦者織斑一夏についての情報を、諜報機関をつかって世界に先んじて入手していた英国は、秘密裏のうちに自国領内でIS適正を持つ一夏以外の男性を捜し出すことに成功していたのである。

 

「お任せください、ミセス・ウィンザー。必ず期待に応えて見せますよ」

 

 アッテンボローは相手が差し出してきた手を笑顔で握り返し、眉をしかめながらも黙り込んでいる隣の少女を一瞥してからこう告げた。

 

 

「オルコットお嬢様の引き立て役になるよう期待されてるのが俺なんでしょう? 安心してください、給料分以上の成果は出すとお約束させてもらいます。

 なにしろ俺は他人から敗北を期待されると、期待を裏切りたくなる性分の持ち主なんでね」

 

 

 

 

 ーーほぼ同じ頃。

 ドイツ軍の本部ビルにあるオフィスの一室にも、二人の少年少女が到着していた。

 

「クリストフ・ロイエンタール少尉。今より君を大尉に昇格させ、ボーデヴィッヒ少佐貴下のシュワルツ・ハーゼへの編入を命じる。

 日本のIS学園に赴くのは六月初頭頃になるだろうが、それまで少佐の指導のもと存分に腕を磨いてくれたまえ」

 

 軍人とは思えないような細身でシャープな秀才形の参謀軍人である女性大佐から直々に二つ上の階級章を与えてもらいながらショーンコップ元少尉にして現大尉は口端を歪ませながら思った。ーー茶番だな、と。

 

 優れた諜報機関で織斑一夏の情報を得られはしても、ISを動かせる可能性を持った男に心当たりがなかった為に自国領内で総当たりするしかなかった元敵国イギリスとは違って、ドイツ軍には『動かせるとしたら彼しかいない』とする候補が存在していた。

 予想違わずIS適正が発見された少年は、右目が赤く、左は青い、貴公子然としたヘテロクロミアの美少年で、隣で並ぶ上官になったばかりの少女ラウラ・ボーデヴィッヒと似通った身体的特徴を持っていた。

 

 それは偶然ではなく当然のことだった。なにしろ彼は、日本から技術供与を受けて作り出された遺伝子強化試験体Cー〇〇三七、個体識別名称ラウラ・ボーデヴィッヒの兄弟機に当たる少年で、ドイツの開発した独自技術を組み込んで造られた男性型ラウラとも呼ぶべき存在だからだ。

 「男にISは動かせるはずがない」とする固定概念から試験を受けさせてこなかったものの、戦闘要員としての実力はラウラに勝るとも劣らないことは実績が証明してくれていた。

 それ故ドイツは拙速を尊ぶを良しとせず、必勝を期して転入時期を遅らせた上で男女双方のドイツ軍機が日本の世界初を打倒するシーンを全世界に向けて見せつけることを目論んでいたのである。

 

「義務と献身こそが我らの誉れだ。両人とも国家の威信と名誉に掛けて訓練に励め。以上である。下がりたまえ」

「「ハッ。失礼いたします」」

 

 敬礼して退る二人。そして男の方がつぶやく。独白にしては声が大きかった。

 さながら、自分の元を去った旧師以外の人間二には興味を示さなかったラウラが愕然としてしまうほど過激なつぶやきを。

 

「たかが機械に陽性反応を出されただけで一喜一憂し、生者に二階級特進させる国家の威信と名誉か・・・さぞや軍需産業から受け取るリベートによって金ぴかに飾りたてられているのでしょうな」

 

 

 

 

 

 ーーフランス最大のIS企業『デュノア社』の社長室では、一人の少年と一人の男装“させられた少女”が社長の眼前に並ばされていた。

 

「いいか、シャル・・・ル。お前に施す訓練はIS学園に転入した際に、織斑一夏に接近して彼の情報を可能な限り集めてこられるようになっておくことを目標にしたもの。

 そして、アリアバート。秀才として名高い君は、豊富な学識を生かして織斑一夏に与えられるであろう専用機の分析と解析を出来るようISについて隅々まで学んでおけ。操縦訓練は入学の口実に使える程度までで構わない」

 

 厳然としたデュノア社長の言葉に「はい・・・」とだけ答えて俯くしかない男装少女。

 だが、隣にたたずむ学者然とした眼鏡をかけた少年は、平然と社長に向かって反論して見せた。「落第点ですな」ーーと。

 

「・・・なに?」

「数え出したら切りがないほど穴だらけなのが、今回の計画です。開始する前にやめてしまうのが最も賢明な策なのでは?

 どれほど愚劣で穴だらけであろうとも、実行に移すまでは絶対に失敗できないし成功確実なのが作戦と言うものですからな」

 

 

 

 ーーこうして三人は、異なる土地から異なる理由で日本へと向かい、IS学園の地で出会うことになる。

 

 後世、『最強の三人』と絶賛されることになる『最悪の三人』の物語は、このようにして始まった・・・・・・。



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ボツ落ち『我が征くはIS学園成り!』第2章

2話目を書き直したため、旧版はこちらに移動させられてしました。
敗者は辺境の地へと追いやられるのが宿命です。


「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「む?」

 

 二時間目の休み時間、俺とハイドは突然横合いから声をかけられた。

 

 

 突然始まってしまった俺のIS学園生活で、はじめは俺も「自分以外が全員女子。それもクラスだけじゃなくて、学園全体がそう」と言う状況に置かれて相当に座り心地の悪い生活を余儀なくされるだろうと覚悟していたのだが。

 

 ハッキリ言って、ぜんぜん全くこれっぽっちもそんな事はなかった。

 

 

「君は織斑君というのかね? はじめまして! 私の名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハと言う! ハイドと呼んでくれたまえ!

 ドイツの代表候補生で専用機持ちではあるが、同じ一年生であることに変わりはない! 同じ釜の飯を食しながら一年間を共に過ごす学友として仲良くしてくれるとありがたい! よろしく!」

 

 

 ーー近くとは言い辛いが、遠いわけでもない席にいるチッコい女の子であるハイドが一時間目が終わった直後の休み時間から率先して話しかけにきてくれて、いきなり友達ができてしまったからである。

 

 いや、正直ここまで初対面からぐいぐい来る女子っているとは思っていなかったから面食らったりはしたけど、中学時代に仲の良かった奴らと同じノリで話せる相手が近くにいるってすごくありがかった。

 

 なんやかんやで出来た新しい友達との親睦を深めながら(途中いくつかのトラブルもあるにはあった。間違えて捨てしまった古い電話帳の事とかさ)二時間目の休み時間に突入した頃。

 今度はさっきの箒とは違う別の女子生徒に話しかけてこられた。金髪ロールの、如何にもな高貴オーラを放っている女子で、気が強いというよりかは刺々しさを感じさせる態度と口調が悪い意味で印象的な白人の少女だった。

 

「む!? 何奴! 曲者か!?」

 

 曲者て。ハイドよ、お前はいったい、いつの時代にどの国から来たドイツさんなんだよ・・・。

 

「えっと・・・俺たちになにか用件でもあるのかな?」

 

 席を並べて話してた相方が失礼を働いてしまったときには、隣にいる奴が少しだけでも我慢する。これ友情の基本。忘れるべからず。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「???? そうだったのかね? 私は寡聞にして聞いたことがない文化なのだが・・・参考までにお聞きしたい。どこの国の文化なのだね?」

「イギリスですわよ! 我が祖国にして偉大なる大英帝国、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合国!」

「ああ! ケルト人か! ケルト人の文化か! なにはなくとも、とにかく戦えケルト人!」

「そこまで古い時代に戻らなくていいですわよーーーーーーーっ!!!!!」

 

 天井めがけて叫ぶイギリス人。

 IS時代に生きる古代の珍獣ゲルマニアン・ハイドンに、地位だの名誉だのは関係なかったらしい。子供らしい自由って、少しだけ羨ましくなる時もあるよな・・・。

 

「えっと・・・ところで君、誰? コイツはともかく俺は君のこと知らないんだけど・・・」

「わたくしを知らないですって!? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを?」

「ほほぅ。そう言う名前だったのだね。なるほど、ようやく覚えられたよありがとう」

「同じ代表候補生なのに覚えられてなかったんですの、わたくし!? 直ぐ目の前にある国の、しかも欧州統合計画で協力しあってる国の代表候補でもあるんですけれども!?」

「いや、名字は覚えていたんだが、名前が思い出せなくてなぁー田中君」

「それ、角栄! 日本の元首相の田中角栄にまつわる逸話なんて、誇りあるイギリスの代表候補にしてエリートでもある、このわたくしが知る由もない事柄ですわよ!」

 

 言ってる言ってる、言っちゃってるぞイギリス貴族エリート娘よ。

 

「し、信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら・・・・・・」

 

 失礼な、テレビくらいあるぞ。見ないけど。

 

「・・・驚いた。まさか北西の外れにあるチッコい島国ブリタニアにまでテレビが普及していようとは! 世はまさに大航海時代!!」

「「遅いよ!?(遅いですわよ!?)とっくの昔に始まって終わってるよそれ!?(終わってますわよそれ!?)」」

「あの狭い島国で、寝ても覚めても互いに殺し合うことしかしなかった蛮族たちに文化というものを理解できる頭が手に入る日がこようとは!」

「ガリアから来た侵略者の皆様方にだけは言われたくない言葉の数々なのですけれど!?」

「あ、ちなみに私はテレビよりもスマホ派でな。コンパクトサイズがなかなかにグッドだ。やはり機器類を買うなら日本製に限るな!」

「今までの会話ぜんぶ台無し!」

 

 フリーダムだなぁー、ハイドの奴は本当に・・・。

 

「とにかく! とーにーかーく! わたくしは国家代表IS操縦者の候補生に選ばれたエリート! そう! エリートなのですわ!」

 

 おお!? 勢いだけで復活して立ち上がりやがった!

 ・・・やっぱりスゲェんだな、ブリタニアのケルト人って。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくするだけでも奇跡・・・・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうは言うけどさぁ・・・・・・ここにも一人、国家代表候補生って名乗ってるアホがいるんだが・・・」

「ふっ!(意味もなく前髪をかきあげてポーズを取る)」

「・・・これと一緒のクラスになれる幸運を喜べって無理だと思うんだが・・・・・・」

「ーーなんにだって例外は存在しますわよ!」

 

 あ、誤魔化した。額に一瞬汗マークが浮かんでたのを見逃さなかったぞ俺は。

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISを操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせてくれるかと思ってましたけど、期待はずれですわね」

「安心したまえオルコット君! 私もISについてはほぼ何も知らない! 女で専用機持ちでもこんなものだから、男だの女だのは気にしなくても大丈夫だ! 生きていける!

 他の代表候補を飛び入りで叩きのめせる強ささえあれば、専用機乗りにも代表候補にも簡単になれる世の中だから大丈夫だ!」

「あなたさっきからわたくしに喧嘩売っておりません!? 買いますわよ!? 売る気がなくても大枚はたいて買いますわよ! あなたとの喧嘩なら大喜びで大安売りの出血大サービス大バーゲン価格で爆買いしてあげてもよろしいんですことよ!?」

「おーい、落ち着けーイギリス貴族令嬢ー。言ってること支離滅裂になっちゃってるぞー」

 

 もはや売りたいのか買いたいのか、安いのか高いのか訳分からん。

 

「あー、もう! こうなったら仕方がありませんわ! 決闘です! わたくしとあなたたちで決闘して決着をつけますわよ!」

「え、俺も?」

 

 完全に巻き込まれてとばっちりを受けさせられた訳だが・・・まぁ、四の五の言うより分かり易くていい。俺好みな展開だ。

 

「いいぜ、受けてやるよ、その勝負! 負けた後で吠え面かかないように気をつけるんだな!」

「はん! 言いましたわね・・・大言壮語に伴う責任は重いですわよ!」

 

 バンッと机を叩いてから手袋を脱いで投げつけてくるセシリア。これはアレか? 中世騎士の決闘挑戦状で、受け取ったら了承を意味してたんだったっけか?

 

 俺は普通に体で受け止めて、ハイドは動くことなく手袋が当たるのを待ってーーいなかった!

 

「決闘の申し込みを受諾した。ーー先手必勝! カイザー・ナッコゥゥッル!!」

「ふべっ!?」

 

 手袋が体に当たった瞬間には移動を開始しており、目にも留まらぬ早さで次の瞬間にはセシリアの間合いの内側に入り込んでからアッパーカットって、オイ。その技は昇竜なんとかかタイガーなんとかだろ、どう見たってバーンなんとかじゃないだろ、パクった上にパチるなよ。変なとこだけ日本人的な部分がある奴だなぁ、本当に。

 

「ふ、不意打ちだなんて卑怯ですわよ・・・・・・(ぼたぼた:鼻血が止まらない音)」

「ふっ。決闘を申し込んでおいて油断していた君が悪いのだよ・・・」

 

 格好付けてるハイドと、床にうずくまりながらハンカチで鼻押さえてるセシリア。

 絵に描いたような勝者と負け犬の図柄である。

 

「まぁ、宮本武蔵も決闘を申し込まれて受けた時から試合は始まっているんだって言ってたそうだし、間違いではない・・・のかな?」

「大間違いだ、ド阿呆と愚弟ども」

 

 ゴギッ! ドガッ! バギッ!

 

「い、痛いぜ千冬ねえ・・・」

「ううう・・・なんでわたくしまで・・・泣きっ面に蜂状態ですわ~(T-T)」

 

 背後から振り下ろされてきた突然の衝撃に頭を押さえてうずくまる俺とセシリア。

 そして後ろには仁王を背負った千冬ねえ。

 

 

 ・・・・・・よく見たら、とっくに授業開始時間を過ぎてたよ。こりゃウッカリだ。

 

 ごちん。

 

「・・・まじめに反省しろ」

「・・・・・・はい・・・」

 

 完全におっしゃられるとおりです、お姉様。返す言葉もございません。

 

「まったく、お前たちは・・・再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めさせるつもりだった私の予定が大幅に繰り上げられてしまったではないか。これだから血の気の多いガキは嫌なんだ。殴ってやるから少しは頭から血を下げさせろ」

「「え、遠慮しておきます・・・」」

「よし、それではーー」

「おお!? ここはどこだ!? 私はどこのドイツだ!? 私はなぜ私なのだっ!?」

「変な記憶喪失ゴッコはやらんでいい!」

 

 千冬ねえ大激怒。手に持っていた出席簿を手裏剣のように投げつけて、ヒラリと蝶のように舞って躱してしまうハイド。・・・コイツって思ってた以上に人間離れしてたんだな・・・。

 

「ああ、クソ! 避けるな躱すな! 私の放った攻撃は全て当たれ! 教師命令だ!」

 

 そして今日も今日とて暴君な俺の姉。

 やっぱり千冬ねえには関羽よりも劉備よりも董卓が一番似合っていると俺的には思っているんだ。

 

「なにやら面倒くさい事態になっているようだから、一週間後の月曜の放課後、第三アリーナでお前ら三人でクラス代表をかけた試合を行え。それで決着と言うことにしろ。変わりに試合の日まで一切の私闘を禁じる。ISを用いない、拳であってもだ。いいか? わかったな? 返事はYesかラジャーのどちらかだけだ。ーー返答は?」

「い、いやそれ、実質選ぶ自由の存在しないタイプの選択肢パターンなんじゃあ・・・」

 

 

「総統閣下万歳! ハイル・オリムラーー‼」

「どこの誰がナチスのちょび髭独裁者だと言いたいのだ貴様はぁぁぁぁぁぁぁっっ‼」

 

 

 スパコーーーーーーーーーーーーッン!!!!!!!

 

 

 ・・・片手を高々と掲げたポーズで吹き飛ばされていくハイド。

 つくづく自由のない世界でも自由に生きることの出来るフリーダム精神の持ち主だよなぁアイツって。あー、本当に子供に憧れてしまいそうでなんだかなー。

 




*指摘されたのを受け「尤もだ」と感じましたため一部台詞を変更させていただきました。

元の文章↓
「ヤー、ヘル・コマンダール!」
「私はドイツのちょび髭独裁者の親衛隊かナニカか!?」


変更後の文章
「総統閣下万歳! ハイル・オリムラー‼」
「どこの誰がナチスのちょび髭独裁者だと言いたいのだ貴様はぁぁぁぁぁぁぁっっ‼」


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ボツ落ち『我が征くはIS学園成り!』第3章

セシリア戦です。セシリア戦オンリーの回です。
複数パターン書いてみたセシリア戦の中で一番ギャグ色の強いのを選んで出してみました。笑って頂けると嬉しく思います。

・・・しかし思っていたほどには子供時代のように書けませんね・・・。大人になるとは窮屈になるものなんだなと実感させられた回でした。


『ーーこれより、セシリア・オルコット選手とシュトロハイド・ローゼンバッハ選手による第二試合を開始したいと思います。両選手とも、ピットから出撃してください』

 

 IS学園第3アリーナにアナウンスによる説明が流され、いったんは静まりを見せていた会場の熱気は再び加熱する。

 

 ーーー先の試合、織斑一夏とセシリア・オルコットとの戦いは一夏が思わぬ頑張りを見せたことで一方的なワンサイドゲームになると踏んでいた観客たちの度肝を抜いた。

 勝敗は順当通りに経験者にして熟練者でもあるセシリアの勝ちではあったが、ド素人の新人が期待の大型ルーキーとして注目されるのには十分すぎる活躍ぶりであり、今後が楽しみな選手の登場に観客たちは大いに盛り上がりを見せていた。

 

 ・・・因みにだが、ハイドとセシリアの試合を一夏の後に持ってきたのはIS学園が政治権力から距離を置いているが故の配慮によるものである。

 いくら一夏が元世界チャンプの弟で世界初の男性IS操縦者でもあるといえど、国家代表二人が戦った試合の後に行わせるのは外聞が悪すぎるし、勝ち方はどうあれ一夏が敗れたセシリアにハイドも負ければ二連勝でセシリアの勝利は確定する。

 逆にハイドが勝った場合には、敗れたセシリアに負けている一夏とわざわざ戦わせる必要がないと強弁することは可能である。

 

 本当だったら三人それぞれが一人ずつ総当たり戦を行わせるのが筋の試合であるのだが、予定外だった上に全校生徒を一カ所に集めた上で全カリキュラム中止しての私的な決闘とあっては時間的制限は掛けざるを得なったのである。

 

 

☆そんな訳なので、ハイド対セシリアの試合前に行われていたはずの一夏VSセシリア戦は全カットでいかせてもらいます。ご了承ください。☆

 

 

 

「シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ、《ゴールデンバウム》出るぞ!」

 

 

 が、そんなお上の配慮など一顧だにしないバカは倉庫の奥に眠っていた第一世代IS用カタパルトをわざわざ引っ張り出してきて、ガンダム大好きシャアも大好きジオン軍はもっと好き!な日本人的オタク精神むき出しにしてノリノリになりながら出撃セリフをコール。

 意味もなく脚部バーニアを噴射しながら、カタパルトにも後押ししてもらってアリーナ中央の指定位置まで飛び立ってくる。

 

 

 

「・・・来たようですわね。どうやら逃げたりはしなかったようで安心しましたわ」

 

 腰に手を当てたまま、イギリス代表セシリア・オルコットは思慮ありげな表情でつぶやく。

 その顔には隠しきれないほどの悔恨の念と、そして本気を出して戦いたいと願う戦士としての本能が再熱したことを意味する滾らんばかりの熱意が見て取れる。

 

「あなたにも、最後のチャンスを与えましょうーーーとは申しません。あなたには悪いと思いますけれど、全力を持って叩きのめさせていただきます。

 ・・・もう二度と、わたくしは慢心することなく全身全霊でISバトルに挑むと誓ったのですから・・・」

 

 先の試合内容に対する反省と後悔が彼女の心理に大きな変化をもたらしていた。

 結果自体に異論はない。驕り高ぶっていたことに気づかされた時点で、自分の敗北である。

 とはいえ、当初から舐めきって掛かっていた生で全力を出し切れないまま終わってしまったことによる不完全燃焼感は遺憾ともしがたい。できるなら比較的近い実力の持ち主を相手に、反省して生まれ変わったセシリア・オルコットの全力を叩きつけて不死鳥にように華麗に復活を遂げたい。そういう思いがセシリアを動かしており、心臓を暑く燃えたぎらせている感情の元にもなっていたのだ。

 

「先に申し上げておきますけど、わたくしの実力を先の試合内容からあなどり、油断だの慢心だのしてアッサリと倒されないでくださいましね? わたくしは驕り高ぶっていた慢心を捨てた、本当の自分の限界を確かめたいのですから」

「委細承知。案ずるな、問題ない。

 ーーぶっちゃけ先ほどの試合中、出撃コールをどれにするかで悩んでいたのでな。携帯端末でガンダムの出撃名場面集を見つづけていたから試合内容はあまり詳しくないのだよ。

 で? 結局どっちが勝ったのだ?」

「そこから!? いえ、むしろそこから先は勝ち負けしか存在しないのですし、知る意味ないのでは!?」

 

 驚愕するセシリア。

 このドイツ人、よりにもよって原作主人公の試合を見てないどころか、試合結果すら目にしていないらしい。マイペースも、ここに極まりすぎている。

 あと一応、ISバトルは実践の殺し合いではなくスポーツなので、同じ相手と何度も巡り会って戦いあうことも少なくない。

 そのため、相手の必殺技を何度も見ておいて返し技を複数考えついてから本番に臨むのは基本中の基本である。

 

「相手の持つワン・オフ・アビリティーが何かも知らないまま、よく国家代表候補を相手にする気になりましたわね・・・」

「大丈夫! 心配無用! 私は昔から第6感が鋭くてーーー」

「戦いはじめるより前から、いきなり勘頼りですのッ!?」

 

 もう、ここまで来ると言葉もない。ぶっつけ本番という言葉を使うと「ぶっつけ本番で初陣に挑む主人公たち」に失礼な気がして、できれば使いたいと思わない。

 自分の力を信じるというよりかは、なんだかよく分からないナニカを信じると言った方が正しい気がしてくる程いい加減な生き方の極地であった。

 

 

 ビーーーーーーーーーッ!!!!!

 

 ・・・そうこうしている間にブザーが鳴って、試合が開始されたことを二人に知らせる。

 

 

「先ほどと同じ下手は打ちませんわよ!」

 

 自分の愛機と同じ第三世代だった白式と違ってゴールデンバウムは第二世代。オートガードを制御しているOSも旧式なのだ。セシリアの演算能力をフルに使えば左肩アーマーひとつでは済まされない。必ず直撃させてみせる。

 

「はじまったばかりですけれど、お別れですわね!」

 

 

 ーー警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認。初弾エネルギー装填。

 

 発射!

 

 

 キュインッ! 耳をつんざくような独特の音がフィールド内に響き、続けて連続発射される光の弾丸が音階を紡いで協奏曲を奏でゆく!

 

「中距離射撃型のわたくしに、本来であれば近距離格闘装備で挑もうだなんて・・・笑止であるべきなのですわ!」

 

 思ってたより気にしてたらしい先の試合結果。

 一夏には惚れたが、悔しいものは悔しいのである。銃が刀に負けるなんてあり得なさすぎて悔しすぎるに決まっている。ガンナー舐めんじゃねぇ、日本刀マニアの依怙贔屓ヤロウ。

 

 射撃、射撃射撃射撃。まさに弾雨のごとき攻撃が降り注ぎ、ハイドは開始直前から防戦一方に追い込まれるが、そこはそれ。地獄を征服した覇王の感覚は一般人のそれと、良くも悪くも大きく異なっていた。

 

 

 

「ぬぅぅぅぅおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!

 英雄の纏し甲冑を身につけた私に、そのような小細工など通用せん!!!!!

 必・脱!! アーマーズ・パージ!!!(分離する甲冑)」

 

 

『え、ええええええええええええええええええええええええっっ!!!!!!!!!

 自分から僅かに残っていた追加装甲をパージしたぁぁっ!?

 なんで!? どうして!? なんの目的で!?

 あと、身につけたじゃなくて脱いじゃってるけど!?』

 

 

 観客全員、総ツッコミ。

 訳わからなすぎる行動に、アリーナにあるピット内でも意見は様々、討論開始。

 

 

「ちょ、千冬姉! あれってなんの意味があるんだよ!? わざわざ脱いだぞ! 敵からの攻撃が続いている最中に自分から!」

「わ、わからない・・・たしかに装甲を取り外した分だけ重量は低下し、スピードはアップするのは分かるが、元が紙装甲の射撃型で第二世代機が追加装甲はずしてスピード上げることになんの意味があると言うのだ・・・!?」

「むぅ・・・・・・(言えない。流石にこれは言うわけにはいかない。かつて我が篠ノ之流には防御を無視して攻撃に特化させた背水の構え《下帯だけの陣》が存在していたなどと言う黒歴史は絶対に、人に知られるわけにはいかんのだからな!)」

 

 

 様々な憶測が飛び交う中でもバカは止まらない。

 

「ISは操縦者の意志を組んで望み通りの形を取る・・・ならば我がゴールデンバウムは私自身の姿を模してあるのが正しき姿と言うもの!

 あるがままの私自身、それ即ち生まれたままの姿をした私である!」

「ただの全裸ですわよねそれ!? 装甲を追加していた意味はどこいったんですの!?」

「真の英雄は細かい些事など気にしない!」

 

*補足説明:ゴールデンバイムの追加装甲は『見た目を良くするため「だけ」に追加されている装備』である。脱いだ状態が理想型ならば、着てる物増やすのはおかしくね? と普通ならそう思うところだけどハイドは普通じゃないからそう思わなかった。それだけである。

 

 

「行くぞ! ゴールデンバウム! 我らの力を世界に示し、蹂躙せよ!!

 イグニッション・ブースト・・・・・・・・・・・・・・・・・・キーーーーーーーック!!!!!!」

「格闘装備だからって、ホンモノの格闘技をISバトルに持ち込むなーーーっ!!!」

 

 まさかのIS特有機能、パワーアシストシステムを使った全速力ジャンプ飛び膝蹴り攻撃である。しかもイグニッション・ブーストまで使ってきている。

 音速以上の速度で飛び出すビームを撃てても、射手であるセシリアはマトモな思考を持った健常者である。異常者ではない以上、正常な精神と価値観でもって高速で飛来してくる少女が体当たり飛び膝蹴りなんか放ってきたら怖くて逃げ出したくなるし、少なくとも撃つ気になれない。

 

 ひとまず一時撤退するセシリア・オルコット。

 真っ直ぐ高速で飛んでくだけのイグニッション・ブーストは、守るという概念が頭にないハイドには確かに相性よかった。良すぎていた。

 捨て身という認識すらなく、「敵がいるなら只進んで、只戦って、只倒して、只勝てばいい」としか思っていないバカ英雄には「只早く進めるだけ」の能力ほど有り難いものは存在しない。前に進むのが早くなれば其れでいい奴なのである。

 

「くっ・・・! 出し惜しみしていられる相手ではありませんでしたわね・・・《ブルー・ティアーズ》!」

 

 ヴンッーー。

 

 ヒュン、ヒュンヒュンヒュン!!!

 

 いきなりの六機すべてを投入した、セシリアの現在至れる最終決戦仕様での全力オールレンジ攻撃!

 

 まだ全てのビットを操りきれるほどにはなっていないため、逃げ道を閉ざしての完全なるオールレンジ攻撃には程遠くとも前にしか進んでこないイノシシ武者が相手であるならやりようはある。

 

 

「ビット二機が一組となって左右に展開! 突撃してくる敵を迎え撃つように動かないまま浮遊砲台としてのみ機能しなさい! 最後はビットミサイル二機を備えた一組で特攻させて差し上げますわ!」

 

 わざわざ口に出して教えてやることでハイドに選択を強いるセシリア。

 こちらの策に乗るか乗らぬか、乗った上で食い破ることを望むのか。

 狙撃手であり観察力の優れたスナイパーのセシリアにとって、ハイドの出す答えなど一つだけしかあり得ない。

 

「被害を恐れて勝てる戦はなく、無傷で得られる勝利もなし!

 英雄が尊ぶ信念とは、前進!力戦!敢闘!奮戦!

 英雄に必要なきものとは、卑怯!臆病!消極!逡巡である!

 敵が罠を張って待ちかまえている拠点に攻め入り蹂躙するは、征服者最高最大の誉れ成り! ありがたく頂戴させてもらうぞ、その御首ぃぃぃぃぃっ!!!!!!!!」

「あげませんわよ、そんなものは!? いったいこの学園はどこの蛮族国家から代表候補をつれて来やがりましたのですかしらーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

 

 一杯一杯になってきたのか、セシリアのお嬢様口調が滅茶苦茶になってしまっている。

 なんとなくお下品な単語を口にしまくるお嬢様キャラたちを連想してしまうのは、間違っているだろうか?

 

 

 

 

「英雄らしく! ヒーローらしく! 最後の必殺技はふつうの突撃ーーーーっ!!!」

「決着シーンでの定番はこれなのでしょうね! 絶対死守せよ!!!!!」

 

 

 ドイツが攻め、イギリスが守る。

 どっかの世界大戦を彷彿とさせる戦いは、双方ともに互いの額と額がくっつけあう距離まで近づいた時に決着した!

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!!」

「はああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!」

「おおおおおおお‼‼―――――――――――――――――――――――ふんっ!!!(ゴチンッ!!!)」

「(ごつん)・・・・・・・・・・・・・・・あ、ふぅん・・・・・・」

 

 

 ーーーー互いの額と額がくっつきあう距離まで近づいたので、身長低い方であるハイドが珍しく使える機会が来たため喜び勇んで使用した攻撃方法《頭突き》によってセシリアは気絶し、エネルギー残量とか関係なしにISは解除されて落下してゆき、地上に落ちる前に保護機能により落下速度が落ちて不時着する。

 

 

 

 

 世界初の男性IS操縦者が将来性の豊かさを証明した戦いのあと行われた、せいぜいが二年生でも珍しい専用機持ちの代表候補同士が勝敗を競い合う、勉強になるし参考にもなる試合鑑賞。その程度の気持ちで見に来ていた生徒たちをして重すぎる沈黙に支配されざるを得なくしてしまう決着方法。

 

 世界初の男性IS操縦者織斑一夏のIS物語がはじまった記念すべき今日と言う日には、後世において但し書きにこう記されることになる。

 

 

『現代におけるISバトルマンガの鉄板的勝利の仕方《頭突き》がはじめて使われたのと同じ日に、英雄織斑一夏は同じ会場内で戦っていたと歴史書には記載されているが真相は定かではない。

 なぜなら歴史に伝説異説IF話は付き物なのだから・・・・・・』



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ボツ落ち『我が征くはIS学園成り!』「セシリア戦をチートなハイドで書き直してみた」

ハイドを作って妄想して遊んでいた当時、元になっていた原典が『ガンダム0083~ジオンの残光~』に出てくる「アナベル・ガトー少佐」だった事を思い出してたので昨晩の内に書いときました。

普段の私が書いてる作品の内容は成長後の私がヤン提督好きで影響受けまくってるからであり、子供時代の私はガトー少佐とか剣八ちゃんとかの理屈無し力ずくで押し通す系が大好きな、無意味に叫びたがる系の美形男キャラをこよなく愛するアホ少年でした。
今話はその頃の影響が強く出ておりますので、ご承知おきください。

*暇だから付け足した、どうでもいい追記:
誰も知りたくないでしょうけど、私の好きな魔法少女は『まじかるメイドこより』ちゃんです。ヘンテコな敬語を使う巨乳なハイテンションお嬢様キャラってなぜか良い。


「あら、逃げずに来られたようですわね」

 

 セシリアはふふんと鼻を鳴らしながら、腰に手を当ててポーズを決める。

 タカビーな美人でスタイル抜群な彼女が、下着姿同然のISスーツ着てこのポーズを決めてしまうと敗北後のイケない妄想をしてしまい、大きなお友達の皆様方からエロ同人でヒドい目に遭わされることが確定してしまうのだけれども、それは言わぬが花なのだろう。

 あるいは、言わぬが仏と言うべきなのかな? だって今、彼女自身がハチを呼び込む花になっちゃってるし。

 

 そんな敗け女の定番じみた偉そうな態度で挑戦者を見下すセシリアだが、『偉そうな態度』はなにも彼女だけの専売特許という訳ではない。

 迎えられた挑戦者であるハイドとて『無意味に偉そうな態度』には一家言もっている少女である。

 

 

「ふっ、愚かな・・・もし私が逃げるとしたら勇ましく堂々と背中を晒して、振り返ることなく堂々と尻尾を巻いて逃げ出すことを宣言しよう!

 私は英雄! 英雄は名を守るためだけに敗北を飾ることなど決してしない!

 戦うときには真っ直ぐ前を見ながら突撃し、逃げるときには後ろに向かって真っ直ぐ逃げ出すのみである!」

 

 

 

 ーーーなんか格好良さげに聞こえる台詞だったが、たぶん言ってる内容自体はかなり格好悪い。 

 

「そ、そうですか・・・」

 

 イギリス貴族も反応に困ってしまう、地獄覇王の無意味に偉そうな態度。彼女と違ってハイドには、偉そうな態度をするに理由も根拠も必要とはしていない。ただ単に「自分は英雄だから!」で十分すぎる性格だから。

 

 要するに、アホなのである。

 

 

「オホン。ーー改めまして、最後のチャンスをあげましょう。

 わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」

 

 わざわざ仕切り直してあげるセシリアちゃん、マジ貴族精神の持ち主。

 そして、相手からの優しさをノリで無にしてしまうのは古今東西すべての主人公たちがもつ特質である。ハイドもまた然り。

 

 「ふっ・・・」と不敵な笑み口元に浮かべながら、手に持つ大剣の切っ先を相手に向けて堂々とした態度で宣言する!

 

 

「セシリア・オルコット、敗れたり!」

「なんですって!?」

 

 驚愕して叫び声をあげるセシリア。

 それから数秒ほど沈思黙考して、

 

「・・・何故なのでしょう? わたくし、まだ何にもしていないと思うのですが・・・」

 

 至極尤もな正論だが、物事には色々な側面があり、見方によって全ての事象の意味することは違って見えるものである。したがって、ハイドとセシリアが同じ価値観を共有していないのは仕方のないことなのだ。

 

「愚かだなオルコット君! 『学園バトルモノ勝利の鉄則その一・戦いはじめる直前に勝利宣言をする身分の高い強キャラは必ず負ける』を知らぬとは!」

「それ言い出したらボクシング選手で勝てる人、一人もいなくなっちゃいますわよね!? ねぇ!?」

「それは一人前の漢の台詞だ!」

「わたくし女性ですので、殿方の屁理屈とは関係ありません! あと、貴女も一応女性なんですけど分かっていらっしゃいます!?」

 

 またしても正しい主張と正しい主張のぶつかり合いとなったが、異なる正義のぶつけ合いと言うほど深い内容の主張ではない。正しさとは実に難しい概念である。

 

「・・・所詮、君と私とでは価値観が違うようだな。よかろう! ならば互いの決着は剣によって付けようではないか!

 掛かってくるがいいセシリア・オルコット君! 私は誰の挑戦でも受ける!!」

「なんで貴女の方が待ち受けているチャンピオン気取りで、わたくしの方が挑んでくる挑戦者に格下げになっておりますの!? おかしくありません!?

 ・・・いえ、まぁ、確かにわたくしの方から申し込んだ決闘ではあるので正しいと言えば正しい形なのですけれども、それはそれ! これはこれです!

 イギリス貴族の名誉と誇りを守るためにも、最初の一撃でお別れですわ!」

 

 

『超個人的な陶酔と地位身分に対するこだわりが戦ってる理由!? IS学園って、母国での地位身分は関係ないはずじゃなかったっけ!?』

 

 

 観客の一部が騒ぎ立てはじめるのを織斑千冬以下、教員部隊が黙らせてゆく。

 文明社会を築いた人類に地位名誉身分と無関係に生きれる場所など無人の荒れ野しか存在しない。そして広野を走る死神の列は黒く歪んで真っ赤に燃えるのだ。意味わかんね。

 

 

「ーー南無三!」

 

 キュインッ! 耳をつんざくような独特な音と共に放たれた閃光が刹那、ハイドの身体を撃ち抜かんと迫ってきたのを彼女は避けずに前へと進んで受け止める。

 

「なんですって!? どうして・・・・・・まさか!!」

 

 そう! ISはロボットであり人がまとった機械の鎧でもある! 更にその上から追加装甲という名をもつ甲冑をまとうことで防御力を底上げするのは不可能ではない。

 中にはそれを指して、チョバム・アーマーと呼ぶ者もいる・・・・・・。

 

 

「うぅむ・・・。やはりバリアのない普通の装甲でIS武装対策は無理があったか・・・・・・」

 

 そして壊れ落ちたチョバム・アーマー(もどき/贋)の中から出てきたのは、文字通りボロボロの状態になってるゴールデンバウムとシュトロハイド。(突撃中に当たったので普通に受けたときよりダメージ多め)

 所詮は鉄クズ扱いされてる鉄クズを寄せ集めて創らせてみただけのガラクタアーマーによる守備力底上げ。上がる量など微々たる程でしかなかった・・・・・・。

 

「願わくば『さすがはゴールデンバウムだ!なんともないぜ!』とか言ってみたかったのだが・・・」

「・・・一体全体なにしたかったんですのよ、あなた・・・」

「いや、なに。自分なりにGP02と色んなネタを組み合わせてみたのだがダメそうであるな。ふはははははははっ!!!」

 

 前世では0083大好きマンだった彼女は、女に生まれ変わったことによりガトー少佐の真似するレディならぬガールになっていたりする。勢いだけはスゴいところがグッドである。

 

「・・・さぁ、そのままの姿で無様に踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ディアーズの奏でるワルツで!」

 

 射撃、射撃射撃射撃。まさに弾雨のごとき攻撃が降り注ぐ。

 その中をゴールデンバウムは軽やかな動きで舞うように掻い潜ってゆく。

 ワルツを奏でるセシリアのブルー・ディアーズと、調べにあわせて踊り続ける重石(追加装甲)を捨て去ったハイドのゴールデンバウム。

 まるで終わらないワルツのように、二人と二機は飽きることなく繰り返し繰り返し踊り続けるのだ。戦場というダンス会場を舞台にして。

 

「射撃、射撃、射撃と言う三拍子がいつまでも続く、果てなき争いのワルツを断ち切る力を! リターン・トゥ・フォーエバー!」

「それってむしろ元の鞘に収まって、続いていくことを意味しておりません!?」

「だが! 今このとき、憎しみの連鎖による混沌とした戦いは私の勝利によって終わらされることだろう! 最強の剣で倒すべき敵を倒せば、この戦いは終わるのだから! だって戦争じゃなくて試合だから!」

「そりゃそうでしょうよ! だからって一体なんなんですのよーーっ!!(*`Д´*)」

 

 戦い方は格好いいのだが、交わされる会話の中身が格好悪い事この上ない、イギリス貴族とガンオタの転生少女との激しい死闘。

 争いとは常に、見ている側には格好良く写るだけで実際はこんな低俗なやりとりを交わしあってるだけなのかもしれませんね。

 

「だぁぁぁっ!! もういいですわ! フィナーレにしてあげます! お行きなさい、《ブルー・ディアーズ》!」

 

 苛立ちながら右腕を横にかざして、フィン状のパーツにレーザーを放つ銃口を取り付けた特殊兵装に全力での攻撃命令を発した。

 セシリアの駆るイギリスの最新鋭機ブルー・ディアーズの第三世代兵装である独立稼働する機動式銃座《ブルー・ディアーズ》だ!

 地の文で表現すると意外に分かりに難い名前だな! なぜ頭文字に『ビット』と付けてくれなかったのか!? イギリス人のネーミングセンスは時々よくわからない。

 

 

 ヒュン! ヒュン! ヒュンヒュンヒュン!!!

 それぞれが異なる軌道を描きながらハイドを射的距離に捉えるまで接近してくるビットたち。

 

 だがーーーーー。

 

 

「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!」

 

 0083大好き、ガトー少佐大好きな転生少女の前ではザクとかサラミスとあんまし変わらない。ガンダム史上、最多撃沈記録を誇る対艦エースに憧れを抱く少女を倒すためビットに足りなかなった物。

 

 それは情熱思想理念頭脳勤勉さ、そして何よりも速さが足りない!・・・・・・のは、どうでもよくて。大きさと堅さが致命的に不足しすぎていた。

 

 ノイエ・ジールも好きだしガンダムGP02も大好き。

 小さくて小回りが効くフォーミュラ以降の高性能小型機よりも恐竜的進化をたどっていた大型機時代の方が好みな彼女としては、小型サイズ兵器は切り払うよりもダッシュ突撃して体当たりした方が手っ取り早くて確実だと信じているのだ。

 

 ーーちなみにダメージはそれなり以上に被ります。だって相手が小さいのは、自分が大きいことを意味してないもん。

 

 

「小賢しい! ファンネルなど漢が決闘で用いる武器ではないわ! ロボットが持つ武装は高火力ライフルと高出力サーベルが一本ずつあればそれでいい!」

「あなたそれ、ISバトルを根底から否定し尽くしてらっしゃいますわよね!?

 あと、私も貴女も女性なんですけど! 女性だけが動かせるISの操縦者育成機関であるIS学園にいる殿方なんて、今アリーナのピットにいらっしゃる一人だけだと思うのですけれど!」 

 

 

 セシリア、今日何度目かの全力ツッコミ。

 今回のもきわめて正しい正論だったが、目の前にいる理不尽は相手の正しさを認めた上で力で押し通すことしか考えつく頭を持っていないらしい。

 

「ええい! その様な理屈などどうでもよい! ISバトルは勝敗を競い合う競技であり、互いの強さを比べあう試合場! ならば勝った方が正しくて強い! それで良かろう!?」

 

 地獄を征服した覇王が下した決定を、言葉でくつがえすことは決して出来ない。

 異論があるなら力で示し、王を叩きのめせば次の王はソイツで、王の決定が国の正義であり法となる。法に不満があるなら力でくつがえし、正しさを認めさせるのが地獄の正義。

 力の論理で地獄を支配した前魔王を力で打倒した少女に決闘を申し込んでしまった時点で、セシリア・オルコットの正しき理屈はハイドに通じなくなっている。

 

 

 ・・・またしても因みにだが、この時に至るまでハイドにはビットの持つ欠点(操縦者の能力によって大きく左右される数の限界)等のブルー・ディアーズに関する全てが欠片ほどもわかってはいない。

 自分のやり方を押しつけ、押し通しているだけだったりする。

 

 ついでに言えば、ハイドのバトル理論は撃ち合いと斬り合いだけの直接攻撃オンリータイプ。

 異能だの読み合いだの技が持ってる相性だのとカッタルイこと考えさせられるのは大の苦手なのである。

 

「正義とは!正しさとは! ーーなんか、こう・・・そう!戦うための理由付けだ! とにかくお前をぶっ飛ばしたい!とかいう想いを格好良く言ってみたもののことだ!

 だからこそ私は言葉にして伝えようではないか。自分の正義を、想いを、正しさを!

 セシリア・オルコット君! 私は君の・・・・・・負けてISスーツが破れている姿を見てみたい!」

 

「最っ低すぎる戦うための理由ですわねソレ! 完っ全に性欲じゃないですのソレ!

 正義でもなんでもないですし、ぜんぜん格好良くもないですし、むしろめちゃくちゃ格好悪すぎる理由だと思うのですけれども!?」

 

 

 シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。実は地獄覇王時代には、女好きの百合だった過去を持つ少女。英雄は色を好むものである。

 

 

「と、言うわけで私は斬る! 君の着ているISスーツごと君の機体、ブルー・ディアーズをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!」

「くぅっ!? 脱がされて堪りますか、この変態がぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 いつの間にかセシリアまでもが戦う理由と、敵を倒したい理由が変わってしまっていた! 変態をこの世から消滅させるため彼女は愛機に残されたエネルギーを結集し、全身全霊を以て渾身の一撃を放とうとする!

 

 

 

「残り二発のビット・ミサイルはとっとと特攻! 身軽になった上でのBTエネルギー・ライフル《スターライトmkーⅢ》バーストショットぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

 

 

 ズゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!

 長銃身、大口径のレーザーライフルの砲身が焼き切れても構わない覚悟で放たれた悪を絶つ一撃!

 

 正義の光が巨大な柱となって、地獄から現世に舞い戻ってきた覇王へ降り注ぐ!

 

 

「変態は死になさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっい!!!!!!!!!!!!」

 

 

 ・・・・・・やはり正義は、そこには無さそうだったけど・・・・・・。

 

 

「ぬうぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!」

 

 

 吠えるハイド。一見すると断末魔のように聞こえるかもしれないが、それは知らないが故の偏見である。

 彼女が圧倒的な威力を持つ敵を前にしたときに感じる物。それはシンプルに、

 

 

「0083のラストシーン格好いい! 好みだ! 真似してみたい!」

 

 

 ーーこれだけでだったりする。

 要するにガトーの真似して特攻する最期を真似するのが好きなのである。今まで何度もやってきたから慣れてるし、死なないように手加減するのは未だに出来ないから威力は抜群。当たれば負けます。運が良ければ共倒れで心中できるけど。

 

 

「ぬぅぅをぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!」

 

 

 

「え。あの、ちょっと、わたくしの服を脱がすのがどうのって言うのはどこに行っーーーーーきゃあああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 ずどがああああああああああああああああっん!!!!!!!!!

 

 

 

 頭から突っ込んでいって腹に頭突きをぶちかまされて、諸共に背後にあった壁をぶち抜くのに付き合わされた挙げ句、崩れ落ちた瓦礫の山の下敷きにまでご一緒させられた薄幸のイギリス貴族令嬢。

 

 

 ーーその光景を目撃していた全員、誰しもが『死んだ』と思っていた。

 それぐらいにヒドすぎる光景だったのだが、現実には瓦礫の中から立ち上がる人影が粉塵の先に垣間見える。

 

 そしてーーーーー

 

 

 

「オルコット君のISスーツ、脱ぎ取ったりーーーーーーーーーーーっっ!!!!!」

 

『きゃあああああああああああああああああああああああああっっ♪♪♪♪♪』

 

 

 右手に青いISスーツを掴んだ姿で立ち上がり、大将首を討ち取った勇者であるかのように勝利宣言をかましたチッコかわいい美少女の姿に観客たちは熱狂する!

 

 ・・・IS学園には、優秀なIS操縦者の美女美少女が大好きな百合娘が多いという七不思議。

 

 

 

「・・・IS学園っていったi・・・・・・」

「「見るな変態!! このドスケベ!!!」」

「ぐべはぁっ!? ・・・な、なんで千冬姉までぇぇぇぇ・・・・・・(がくり)」




注:ハイドの専用機《ゴールデンバウム》がファーストシフトした時に上がった能力値は攻撃力と防御力だけです。

注2:学園施設壊しちゃったのでハイドには罰として一夏の白式がセカンドシフトするのを無償で手伝わされましたとさ。


「認めたくないものだな・・・自分自身の、バカさ故の過ちというものを・・・」
「「本当だよ!(ですわよ!)(一夏と包帯少女セシリア心の絶叫)」」


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ボツ落ち『我が征くはIS学園成り!ガールズギャグバージョン』

『我が征くはIS学園成り!』の世界観を、女子高が舞台になってる他のラノベ作品風に置き換えて書いた作品です。本編とは別物ですのでお間違えの無きように。

本当だったら『インフィニット・ストラトス・けんぷファー』とでも銘打って、男がIS使う必要がある時だけ女に変身してIS学園に通う話で使いたかったネタなんですけどね。主人公の設定が思いつかなかったのでこの様な仕儀に・・・(笑)

ああ、本編のバトルも順調に書き進んでますので辞めるつもりはありません。思いがけず本格バトルになってきちゃったので息抜きしたかっただけです。そのうち出せるよう頑張りますね。では。


 ーーIS学園。そこは世界で唯一のIS操縦者育成機関。

 通常であれば、国家的VIPでもある国家代表の候補生で専用機持ちでもある超優等生は一学年に一人か二人しか在籍することはなく、クラスごと学年ごとにパワーバランスが調整されるようになっているが、物語の主人公にして世界初の男性IS操縦者『織斑一夏』の入学を切っ掛けとして世界中から強者一年生集ってしまって魔窟化してしまう場所。

 

 

 そんな世界のそんな魔窟に好き好んで転生を望む男がいた。

 

「強者どもが集い、戦い、競い合う・・・・・・それこそが男の居るべき場所! 戦場!

 私は戦場を転生先に希望するものである!!」

「・・・・・・・・・まぁ、別にいいんじゃけども。その世界のその学校、男は主人公だけじゃなったら転生の術が効き難くなるから性転換させてのTS転生でも構わんかの?

 ぶっちゃけ難易度の高い術つかうの面倒くさいんじゃが・・・・・・」

「転生の神様君、覚えておくが良いだろう。男か女かなんて大した問題ではないのだ。

 戦うべき場所と武器、そして最高の強敵たち(ライバル=仲間)さえ集まれば、其処はもう男の生きるべき場所『戦場』になるのだという事実をな!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、転生の術スタート~。

 ア~ブラ~、カタブ~ラ~・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、バカがIS学園にやってきた!

 

 

 

 ーーバンッ!

 

 入学式が終わり初日の授業が行われていたIS学園の三時間目『実践で使用する各種装備についての説明する』授業がはじまる前に担任教師の織斑千冬から説明された『クラス対抗戦』。

 それに参加するクラス代表を自薦他薦問わず募集したところ多数の表が世界初の男性IS操縦者の少年に集まる中、一人の少女が毅然として立ち上がり異を唱えたのだった。

 

「納得がいきませんわ!」

 

 手のひらを机に叩きつけながら立ち上がった彼女、金髪碧眼ドリルロングヘアーの持ち主であるイギリス代表候補生セシリア・オルコットは「自分たちの代表である委員長職を、そんないい加減な理由で決めるのは良くない」と主張した。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 激しい口調で詰めるセシリアだったが、クラスメイトの反応は芳しくなかった。

 彼女たちの言い分はこうである。

 

 

「いや~・・・恥晒しって言うか、雑用兼なんか色々と面倒くさいこと担当って言うか・・・」

「自分がやらなくていいなら、誰でもよかったって言うか・・・」

「対抗戦の時に弱いけどネームバリューある期待の新人初心者の方が倍率上がって儲けがいいと言いますか・・・」

「仮に低くても穴狙いで入れてくれるから、寺銭は入ると言いますか・・・」

 

『ぶっちゃけ、金の卵を生む雄鳥と同じクラスになれたんだから使うでしょ、普通。金儲けのために』

 

 

 ーーIS学園。そこは日本国内にありながら日本国の刑法が適用されない治外法権の地であった。

 

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスに入る気は毛頭ございません!」

 

 相変わらずクソ真面目なセシリア・オルコット。

 対するIS学園1年1組の生徒たちの心情は、『え? 雄ザルがISのって戦うのって画になると思わないの? 高く値が張りそうな画に』ーー不真面目きわまりなかった。

 これが資本主義経済を選んだ現代日本の代償かぁぁぁぁぁぁ・・・・・・っ!!!

 

 

「大体、文化としても後進国な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛でーーーー」

「(カチンっ)・・・・・・イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ・・・!? あ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 家事が得意で料理には一家言もっている織斑一夏が思わず反論してしまい、ヒートアップするセシリア。

 ちなみにだが、クラスメイトの女子たちのうち料理が作れるのは半数程であり、残りはイギリス料理とフランス料理の違いが判別できるか怪しいレベル。

 

 

「・・・ねぇ、今更なんだけどイギリス料理の代表格って何があるか知ってる? 私、ハムとソーセージと目玉焼きしか知らないんだけど・・・」

「バカねぇ、あんたは。イギリス料理って言えば『フィッシュ&ポテトチップス』に決まってるじゃない」

「ああ! そっか! そうだったわよね! 私もテレビとかでよく見かけるようになってたわ!『フィッシュ&ポテトチップス』!」

 

『ああ・・・でも一度でいいから私たちも食べてみたい高級料理「北京ダック」・・・!!!

 一体どんな味がするお肉なのかしら・・・・・・(ぽわ~ん)』

 

 

注:「北京ダック」は皮を用いた料理です。皮を切り取って残った肉は別料理に使用しますので別物に分類されます。

 

 

 

「決闘ですわ!」

 

 パンッ!と音を立てて投げつけられた手袋が一夏の胸に当たり、言葉と行動どちらともで挑戦状を叩きつけられた織斑一夏に、その挑戦を断る理由は一切存在していない。

 むしろ相手が女であることを除きさえすれば、一対一でのタイマン勝負は望むところですらあった。

 

「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい。乗ってやるぜ、その勝負」

 

 堂々とした態度で言い切る一夏。

 

 そして、これほどの『漢』らしさを見せつけられたのでは、黙っているわけにはいかない事情を抱えた『元』漢がIS学園1年1組には存在していた。

 

 

 

 

 

 

「ーーこの私を前にして、よくぞ言った」

 

 

 

 え。

 一夏とセシリアを含む教室内にいた発言者以外すべての生徒たちが、突然に割り込んできた闖入者の少女に視線を向けてーーーーー半数以上が見ることができなくて困った。

 

 小さい。とにかく小さい。小さすぎる! 高校生用の机を女子小学生が使っているに等しい矮躯でありながら、席は最後尾の窓際という最低のロケーション。

 座席はアルファベット順に並べてあるため偶然にもそうなってしまっただけなのだが、これではクラスの皆が彼女の存在に気が付かなかったのも道理。致し方ないことではあるが、流石にこの低身長でこの席順だと前が見えない。

 

 黒板に何が書かれているのかすら全く見ることの叶わないポジションは「早急に改善の必要あり」と、会話に加わらないから暇してる織斑先生が自前のノートに記載しているのにも気づかずに、気づかせずに、小さな少女は不敵な笑みを浮かべて席から立ち上がる。

 

 教室のど真ん中&最前列にある一夏の席まで歩み寄ると腕まくりをし、肘を机においてニヤリと笑い、不敵で不遜で恐れ知らずなチャンピオンであり挑戦者でもありたがる若者らしい声で原作主人公に告げてくる。

 

「さぁ、来たまえ。どちらの筋肉が上か腕相撲勝負といこうじゃないか。

 まずはイギリス令嬢殿より先に、このドイツから来た代表候補生シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハがお相手しよう。

 ハンデはどの程度つけてほしい!?」

「いや、要らないよハンデ!? 普通に勝てるし、そもそもやらないし出来ないし! 

 お前みたいに小さな女の子相手に腕相撲勝負とか本気でした日には、俺が千冬姉に殺されて命終わるだけなんだが!?」

「って言うか、『わたくしよりも先に』って、やりませんわよわたくし腕相撲なんて!? そもそも何故にIS学園で行われる決闘での決着方式に腕相撲を!?」

「ふっ・・・いいのかね? ハンデ無しで私に挑んでも・・・?

 言っておくが一度たぎった筋肉と漢の魂は、相手を打ち倒すまで沈める術など存在しないのだからな!?」

「「だから何故、勝負を受けること前提で話を進める!?(進めますの!?)ちょっとは人の話を聞けーーーーーーーーーっ!!!(聞きなさーーーーーいっ!!!)」」

 

 

 天上天下、唯我独尊。この世は楽しく戦い競い合うためにのみ存在している!

 

 ・・・そんな風に確信していて疑うと言うことを知らない彼女になった彼には、戦の臭いを感じ取っておきながら参戦しないなどと言う選択肢はありえない。あったとしても決して選ばない。

 

 いかなる理由で行われている勝負であろうとも、其処に戦いが生じていたなら参戦し、己が誠と信じるやりかたで勝負を挑み、戦い勝つべし!

 

 それがハイドという、長すぎる本名を省略した略称を持つ少女の生き様だ。

 

 

「ああ、もう! 面倒くさいですわね! だったら二人共と決闘ですわ! なんでしたらあなた方二人をわたくし一人で相手取って戦っても構わないのですけれど!?

 如何がなさいますかしら? 片方が素人さんなのですし、ハンデとして妥当なのでは?」

「は、侮るなよ。俺は男だ。専用機持ちだかなんだか知らないが、女相手にハンデなんて必要なーーーーー」

 

 

 

「その意気や良し! 戦場という死地へ赴くに当たり、敢えて自らの退路を塞がんとする精神はまさに武士道精神の神髄!

 私は此処に英国騎士道精神と日の本の武士道精神の完全なる調和を見た!」

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・?」

 

 

 思いがけない論法で台詞を途中で遮られた織斑一夏は、唖然とした表情を浮かべて傍らに立つ小学生みたいに小さな少女を見下ろす。

 

 異常な学園を舞台にして行われるハイスピードバトルラブコメの原作主人公も、登場当初の時点では巻き込まれただけの一般人に過ぎず、この世界がどういう場所か承知の上で降り立ってきた転生者の少女が相手では戦いに対しての心構えに差がありすぎたのだ。

 

 ・・・まぁ、今まで戦ってきた相手が同世代の悪ガキどもと年上の不良少年ぐらいしか存在しない状態では致し方のないことではあるのだが。

 

 

「その尊き精神に敬意を表し、敗北と己に勝る強敵との出会いを与えよう・・・見事私を乗り越えてみるがいいセシリア・オルコット!

 そして、熱き血潮を燃やし合った死闘の果てに永遠に終わらぬ友情を誓い合おうではないか!」

「はんっ! 戦い始める前からもう勝った気でいるだなんて、傲りが過ぎますわよ? シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。

 いざ戦う段になってから怖くなり、お小水を漏らして下着を汚してしまわないようトイレは早めに済ませておくことをお勧めしておきますわ。当然、神様への祈りも忘れないようにね?

 どうせ試合当日、わたくしの強さを見てしまえば会場の隅でガタガタ震えながら命乞いするぐらいしか出来なくなるでしょうかね!」

「失敬な! 私の下履きの色は常に白! 純白! 即ち男の象徴ふんどしと同じ色である! 死に装束なのだ! 戦場に穢れを持ち込む気など微塵もない! 戦に先んじて厠を済ませておくは戦士の基本的な心得である!

 その程度すら知らない愚物と思われるのは流石に聞き捨てならぬぞセシリア・オルコット君!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(/////////////)」

 

 

 入学初日にして美少女同級生同士が、まさかの下ネタバトルを開始である。一夏でなくとも黙り込まざるを得ない場面だが、生憎とIS社会は女性社会。恥じらいなんて男が一人もいない場所で後生大事に守り抜いていられるほど日本の女子もイギリス女子も性倫理観が尊重されない時代になっているのが現代IS地球社会であった。

 

 

 

 周りのクラスメイトたちにしたところで、オッズ表の書き換えや電卓使っての再計算に忙しいらしく、二人の美少女同士による赤裸々発言連発会話に顔色一つ変えてはいない。

 

 

 

「まあいいか、これならこれで儲けようはあるし」

「・・・今から試合用に特別製のダメージ受けたら破れるISスーツを発注すると・・・ちっ、予算オーバーか。仕方がないし今回はあきらめよう」

「金」

 

 

 

 荒みきったIS社会を支えていく将来の国家利益の代弁者たちは金勘定に忙しくしている中で、担任教師の織斑千冬は至って冷静かつ眠そうに細められた瞳のまま柏手を打ち、パンッと大きく音を鳴らすことで皆の注目を自分に向けさせると「この話はこれで決定」とまとめてしまうかのように、先ほどまで展開していた諸々の阿鼻叫喚を見届けた後、ごく普通のお言葉で締めくくられた。

 

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後の第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。以上。

 ーーそれでは授業を開始する」

 

 

『は~~~~~い』

 

 

 ーーそして何事もなかったかのように再開されるIS学園日常における授業風景。

 これこそが日夜ISが壁を壊したり、教室内で全力戦闘をおっぱじめる頭のイカレタ国家代表の候補たちが通うIS社会の最先端施設。

 

 女性社会IS世界における、もっとも女子率が高い場所! IS学園!

 そこは男が動かせないISをまとって戦う、年頃少女たち『だけ』が在籍していた乙女の園である。・・・・・・今日この日まではーーーーー。

 

 

 

 

「こ、これがIS社会の頂点『IS学園』・・・・・・っ!!!

 ーー俺は、こんな場所で三年も生活するという屈辱を味あわされなければならないのか・・・!?」

 

 織斑一夏、男の尊厳が大ピンチである。

 ついでに言うならSAN値はもっと大ピンチである。

 

 果たして織斑一夏は女地獄のようなIS学園を『男』として生き延びることが出来るのか・・・っ!?

 

つづく?



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続く予定のある作品
『我が征くはIS学園成り!』第1章


遥かな昔、子供時代に妄想書き綴っていたころに使ってた主人公を思い出したのでIS原作にぶち込んでみました。
基本的にはマイペースな空気読めないバカキャラで、勢いだけの主人公です。そう言うタイプが苦手な人には無理でしょうね、所詮は子供が書いてた妄想小説の主人公ですから(#^^#)

好きは好きなんですけどね~、こう言う奴らって♪


 十七歳の誕生日を迎えた日の夜、私は死んだ。

 誕生日を祝ってくれていた家族ともども乱入してきた連続殺人犯に殺されてしまったのである。

 その殺人犯は『Fate ZERO』好きだったのか、私たちから流れ出た血で魔法陣もどきを描きだし、妙ちきりんな呪文を唱えながら変な踊りを踊り出す。

 ふむ、腰の切れが今一つではあるが、筋はいい。いずれは大成し、アイドルユニットの後ろで踊ってるバックダンサーにまで上り詰める逸材なのやもしれぬ。

 

 だが、残念なことに私は彼がテレビの前で踊り狂う勇姿を拝見することはできない。なぜなら死んでしまっているからである。魂になって肉体を離れ、自らの死体を上から見下ろすことしかできない浮遊霊ごときに彼の未来を拝む術など存在しない。

 

 無念ではあったが、彼を一人置き去りにして我ら家族はあの世へ続く階段を昇っていかなければならないらしい。残念きわまりないことだ。せめて後ろ髪を引かれる思いを断ち切るため全力疾走で階段を駆け上がり、閻魔の元まで赴くとしよう。

 あの世へ続く階段は、上りが正しいのか下りの方が正しかったのか詳しくは知らないが問題はない。天国も地獄もあの世はあの世、死者の行くべき場所には違いない。閻魔も仏も上り下り程度で癇癪は起こすまいて。では、征くぞ! とぉぉぉぉーーっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーとまぁ、そんな感じで此処まで来てしまったわけなのだが。私のこの行動を、どう評価するかね? ご老人」

「言ってもよいのかね? では、言わせてもらうとしようかの。このーード阿呆めが!」

 

 ヒドい言われ様である。私はただ、三途の川を泳いで渡り、針山地獄を踏破して、灼熱地獄で心頭滅却を修行し、大叫喚阿地獄でムンクを叫び、衆合地獄で江戸時代における衆道について語り聞かせ、無間の闇の中に漂いながらガンダムについて思索に耽っていた末に、気がつけば鬼どもから「ハイル! ハイル!」という叫びと共に右腕を高くあげられる場所に座っていただけなのだが・・・・・・。

 

 

「それのどこに問題が?」

「全部じゃよ!」

「なるほどな。さっぱり分からん」

「こ、この男はぁぁぁぁぁ・・・・・・っっ!!!」

 

 デウスと自己紹介してきた老人はプルプルと小刻みに体を振るわせ痙攣しながらも、口角泡をとばして喚き続けることを止めようとはなさらない。

 見た目からして相当にお年を召しておいでのようだが・・・・・・いやはや全く以て素晴らしい。

 老人が若者の無知を大声を出して窘めんとする意気込みは、まさに古き良き日本男児の鏡と呼ぶべき老い方をしたご老人だな。決して今風ではないが、それでも若者かぶれな老人よりかは遥かに好感を抱きやすい。好好爺と呼んで差し支えない御仁であった。

 

 

「貴様、いったい何故そこまで堕落した!? 人間性を進歩させて解脱し、涅槃に至りたいと思ったことはないのか!?」

「・・・ネカマ? いや、申し訳ないがご老人。私がプレイヤーとして操作していたPCは男キャラクターで、私自身の性別も男なのでな。ロールプレイでネカマを演じたことはない。

 ーー興味ぐらいはあったのだが・・・やはり勇気と度胸が足りなかったのであろうな。はっはっはっ」

「アホかーい!!」

「ああ、だがケバブは好きだ。あのピリ辛ソース味など病みつきになりかけてしまった。甘味こそ、人を惑わし虜にする楽園に実ると言われた果実に違いない。まさに至高の逸品。

 食を楽しめる心の豊かさこそ、神が人にもたらしてくれた最高の贈り物だと私は確信して生きてきていた。ご老人も老い先短い身なのであろうし、最期の時を過ごす時間くらいは好きな物を好きなだけ食べて逝かれるが宜しかろうと忠告させていただく」

「~~~~~っ!!!!!!(ぷるぷるぷる!!!!)」

 

 ふむ、ご老人の顔色が変わって赤くなったな。・・・これは、もしかしてアレか? 痛恨の一撃を出すために力を溜めているぞ! と言う意味を込めた意思表示なのだろうか?

 

「もう許さん! 貴様のような人間性の欠如した輩は非科学的な世界で女に生まれ変わり、己の知らぬ戦争を知り、追いつめられるが良い!!

 さすれば必ずや貴様にも信仰心がーー」

 

 

「よーし! 来たまえ御老人! 私は誰の挑戦でも受ける!!

 見事私を倒し、この試練を乗り越えて先へと進むのだ勇者たちよ! カマーッン!!」

 

 

 

 

 

「きぃぃぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・といった夢を見た朝の目覚めから十数年の時が流れていた。

 私も今では十六歳。今日からは国立高校へと進学した高校一年生だ!

 

 

「では、母よ! 行って参ります!」

「うぇーい。張り切りすぎて怪我したり、人にさせたりしないよう気をつけろよー」

「はい! 必ずや生きてこそ得ることのできる栄光を我が手にして帰参いたしましょうぞ!」

 

 意気揚々と自宅を出発してモノレールに乗り駅に到着。続いてバスへと乗り換えることで到着した場所こそが、私が今日から三年間の高校生活を送るため通うことになった『IS操縦者』育成のための特別機関「IS学園」。

 

 女性しか扱えない世界最強のパワードスーツ「IS」を使った世界大会モンド・グロッソ無き今となっては数少ないIS戦闘が日常的に行われているバトルフィールド。

 

「ふっふっふ・・・。この風、この肌触りこそ戦場の匂いと言うものよ・・・」

 

 気分が高揚しているためかテンションが上がってしまい、やる気に満ち満ちた選手宣誓のような真似をしてしまう。

 いかんいかん、落ち着かねばならないだろう。スポーツは試合会場内でおこなうべき競技であって、決められたリング外でおこなう喧嘩沙汰は場外乱闘に分類されてしまう。

 私は勇者に憧れ、英雄になりたいと子供らしい夢を抱いたことこそあれ、単なる乱暴者になりたかったことなど一度もない。スポーツマンシップは戦いを殺し合いではなくスポーツへと昇華させるためには必須の理念である。大事にしなければ。

 

 

「ーーちょっと、君。よければ少し、話を聞かせてもらえないかな? できればIS学園校門脇にある警備員詰め所の中でとかが理想なんだけど?」

 

 肩を警棒でトントンと叩きながら声をかけてきた警官のような服を着ている警備員の男性。いつも思うことであるが、紛らわしい格好だった。

 

 無論、断る理由も後ろめたい気持ちも微塵も存在しない私の側には断らるべき理由など有るわけがない。快く快諾して詰め所へ連れられていき、入学式5分前を告げる鐘の音が鳴り響くまで取り調べは続けられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 儀礼的に頭を下げて席へと着席しなおしたら、周囲のそこかしこから控えめなブーイングが。どーせいっちゅーんじゃ。

 

 

 ーーここは十年と少し前、公開されたばかりだった『IS』を初めて実践に用いられた対艦攻撃により、世界がIS開発者「篠ノ之束」さんに敗北してから同じぐらいの時が流れている。

 この元女子校で、今はIS操縦者育成学校になった『IS学園』は、俺以外の全生徒たちが年頃の女の子だけで形成されている。

 

 そのため本来なら女性しか乗って動かすことが出来ないはずのISを、世界で最初に発見された唯一の男性IS操縦者ということにされてしまった不幸な我が身を、微妙な熱視線で見られ続けれて気落ちしたまま望まされたクラス初のレクリエーションにて大いに実感させられる。

 

「以上です」

 

 ホントだったら、気の利いた話をするつもりでいたのだが頭の中が真っ白になっていたために却下。

 『お』の行が終わり、『か』行に入ってから『こ』を終えて次は『さ』行。

 『さ』行では、最初の人が自己紹介をやり遂げてから次の『し』行へ移り・・・・・・彼女が登場した。

 

 

「ハイドさん、シュトロハイドさん。自己紹介をお願いできますか?」

「はいっ! 任せていただきたい!」

 

 余りにも力のこもった回答に「目立ちたがりな奴なのかな?」と疑問を抱きつつも振り返った俺の前で彼女は、

 

 

「私の名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ! ドイツの代表候補生だ!

 帰化日本人とはいささか事情が異なるが、国籍を持つ母国にいた時間よりも日本で過ごしてきた時間の方が長い。一応、国籍はドイツだ!

 最新型の第三世代でこそないが、第二世代の後期型をデチューンした『ゴールデンバウム』という名の専用機を与えられている!」

 

 ガタタッ!

 

 教室の離れたあたりで誰かがイスを蹴って立ち上がろうとする音が聞こえてはいたのだが、俺はついつい壇上に立ってクラス全体を睥睨している彼女の偉そうな態度に『微笑ましい』ものを感じてしまっていて聞き流してしまった。

 

 彼女は小さかった。それこそ中学時代の同級生で友達でもある凰鈴音よりも更に小さいサイズしかない。背も体も胸だって小さいのだが、どういう訳だかもの凄く偉そうな態度で堂々と胸を反らしながらポーズまで取っている。

 

 それらが終始湛えつづけている不敵な笑顔と相まった結果として『小さな体を精一杯大きく見せようと努力している小さな女の子』といった風情を醸しだしており、誰彼かまわず視線を引きつけられずにはいられない。変な意味でであるが、彼女は生まれながらにして希有な才能、天性のカリスマ性をもって生まれてきたとしか思えない愛らしい姿を見せてくれてたんだ。

 そりゃもう、クラス中が「ぽわ~ん・・・」とした空気に包まれそうになりながら。

 

 

 ーーだからこそ俺たちは、気づくことが出来なかったのだろう。

 先ほどイスを蹴って立ち上がろうとしてた少女が、どういう真意でもって憤るようになったかと言う理由を。

 

 周囲に注目されることで大切にしている家や家族たち使用人を守り抜いてきたイギリス貴族令嬢は、今生まれて初めて屈辱の渦に飲み込まれ窒息死しかかっているのではと思われるほど顔を赤く染め上げながら怒りに打ち震えていたことを。

 

 

「なんなんですの、あの子は・・・! 入試トップでイギリス代表候補のわたくしを差し置いて入学早々クラスの話題を独占だなんて・・・許せません! 決闘です!

 ドイツのアンティークごときで、わたくしの第三世代ブルー・ディアーズの前に立ち塞がれるなどと思い上がらぬことですわね!」

 

 

次回(書けたら書きたい)予告!

 

「決闘ですわ!」

「おうさっ!(バギッ!)」

「ふげっ!? ・・・な、何故いきなり右ストレートを・・・?」

「??? だって今、決闘だって」

「IS操縦者がIS操縦者に決闘を申し込んできたのですから、ISを使った決闘方式に決まっているでしょう!?」

「そうなのかね? 織斑君」

「え? いや、俺もISについては初心者だからよく分からないんだけど、だいたいハイドの言い分の方があってるような気がするぞ?」

「むきーーーっ!! あなたまでわたくしを侮辱する気ですのね!? いいですわ! あなたにも決闘状を叩きつけて差し上げます! 一週間後の今日、第三ISアリーナにて待つ! ですわ!」

「おう、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

「今この場でケリを付けた方がもっと分かり易いと思うのだがな・・・(バキボギ)」

「「少しぐらいは空気読め!」」

 

 

オリ主の超簡易な設定紹介。

 氏名:シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。通称:ハイド。前世の性別は男。

 ただし性別に捕らわれないし拘らない性格の持ち主だったので、あまり意味はないかもしれない。

 特徴はチッコくて偉そう。これに尽きる。

 小学生と見紛うほどの幼い容姿と無垢すぎる心の持ち主で、背中に流した黒髪が異様に長い。

 IS学園の制服をあえて上着だけ大きいサイズにしてもらい、コートのように羽織った姿を普段着として採用してしまう等ファッションセンスは壊滅的。

 ただ単に「楽しければそれでいい」タイプ。

 不敵に笑いながら腕を組んで偉そうに胸を張るポーズがお気に入り。ただし、偉そうにしているだけで人を見下している傾向は一切無い。

 箒同様、刀を常に持ち歩いているが錆び付いてるので抜けない。鞘ごと振り回して殴りつけるのが基本的な戦闘スタイル。殺傷力はないが、めちゃくちゃ痛い。

 刀の銘は『無名』。別に制作者が分からないとかではなくて、知り合いの骨董屋の倉から出てきた代物を気に入って譲り受けてきただけだから本人も知らないだけである。

 普段はコスプレ用として大活躍してくれているので大変気に入っていたりはする。

 

 

 専用機ゴールデンバウム。

 自分に与えられた第二世代の後期型を好き勝手に弄くり回して改装しまくったゲテモノISで、鎧みたいな装甲を取り付けまくっているため外見は第一世代のフル・スキンと大差ない。

 が、所詮は追加装甲であるため通常素材の鉄クズを再利用しただけの代物。

 元々は普通に使用されていたフル・スキン時代の物を採用してみたのだが、重かったので代価品に変えてしまった。要は見た目が一番大事なのである。ロボだから。

 原型は射撃型であり、メイン武装として巨大な砲を積んでいたのだが「飛び道具は性に合わん」と言い切ったハイドにあわせて別武器へと換装。

 いろいろと試してみた結果、単なる頑丈でデカい刀が一番数値が高かったので、対IS斬撃用兵装『ザンテツ・ブレード』一本だけを装備している。

 他は全部「いらん!」と言い切られて取っ払われてしまった・・・。

 

 武装として設定されているワン・オフ・アビリティーは『飛翔斬』。大上段から大振りの兜割りを放つことで斬撃を飛ばして攻撃できる。

 後に箒が受領することになる紅椿の空裂と似ているが、あちらは通常武装なので撃ち放題なのに対し、こちらはワンオフ・アビリティーなので使用条件が存在している。

 大まかな使用条件は『精神集中が必須であること』と『使用者本人が兜割りができること』の二つだけだが、ハイドの性格から考えて集中してても動き回りたくなるため多分使用不能。

 地獄を征服する過程で能力値は上がっているが、元々の前世が剣術家だったわけでもない一般人だったために兜割りも使えない。

 機体性能ではなく操縦者自身の技能不足によって本来の力を発揮できない薄幸の機体だが、これでもシュヴァルツ・ハーゼを相手取った模擬戦ではエネルギー切れによる判定負けで終わらせた猛者である。

 エネルギー切れを起こした理由も、数の差を活かしたチームプレイで半包囲しながら射撃戦を仕掛けてくる黒ウサギ隊に「ド素人め! 間合いが遠いわぁぁぁっ!」と叫びながら突進して切りかかる攻撃を繰り返したことが原因で起きたもの。

 この時ラウラとクラリッサの専用機「シュヴァルツェア・シリーズ」は完成していなかったため旧式では実力が発揮できず、不完全燃焼で終わっている。

 戦い方は「考える前に切りかかれ!」を地で行く『考えない人』。あるいは『考えるだけ時間を無駄にする人』。「単なるバカ」とも言えるだろう。

 衝動に忠実すぎる性格の持ち主で「やりたい」と思ったことは、とりあえずやってみる。結果については、やってから考える。

 比較的近い思考法を持つ人物はモンキー・D・ルフィ。




説明不足に対する説明
セリフについて
「涅槃=ネカマ」「解脱=ケバブ」


行動について
 スポーツマンシップを尊重する=決闘は試合ではなく私闘。つまりは喧嘩沙汰。
 喧嘩は殴り合ってナンボだと思ってる古いタイプの元日本人。


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『我が征くはIS学園成り!』第2章

改めて書き直した『我が征くはIS学園成り!』第2話です。
「子供の頃に書いてたハイドは確かこんな奴だった様な気がする・・・」とか思い出しながら書いてるため微妙な性格になってます。

古い方は2話目から『没ネタ』扱いにして移動させました。
今後はそういう形にして間違いを続けないよう気を付けたいと思ってます。

追記:
POMERAで書いてるせいで改行するタイミングが違うために変えざるを得なかった部分を戻せそうでしたので戻しました。
序盤の『悪魔』と呼ばれた救国の大英雄の件です。


「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「む?」

 

 二時間目の休み時間、朝と変わらず愉快な現世生活を満喫しまくっていた私と織斑君に、いきなり声がかけられた。

 金髪ドリルヘアーのお嬢さま系美少女だった。

 

 腰に手を当てて胸を反らす仕草が妙に偉そうに見えて、私は彼女に共鳴し、確信する。

 

 ――私たちは互いを分かり合い、理解し合える親友になれるに違いないと‼

 

 時間にして5秒にも満たない極小の出会い。

 だが、人と人との出会いは長さではない。密度でもない。互いに相手と解り合うことこそ肝要なのだ。

 

 かつて、たった一人で敵の大軍を葬り去り『悪魔』と呼ばれた救国の大英雄はこう言った。

 

『人はいずれ時間さえ支配下におき、距離に関わりなく相手の思考を読めるようになる』

 

 ・・・私は、世界の壁を壁を越えた今の自分が人の歴史が変わる転換点に立ち会えたことを実感し、時代が変わる瞬間の立会人になれたことを深く神に感謝した。

 

 ああ・・・人よ・・・輝かしき人類の未来よ・・・。

 

 私には今、諸君等が宇宙を征服する未来の刻が視えている!

 

 

「ちょっと? 訊いています? お返事は?」

「ーーーむ」

 

 ・・・いかんな、喜びに陶酔するあまり相手の言葉を聞き逃してしまっていたようだ。

 人が新たなステージへと進化して、互いに言語を解さずとも解り合える存在に至ろうとも、話している相手の言葉を聞き逃すことが無礼であるという事実に変わることはない。

 

 時は流れ、人は変わり、歴史が如何に移ろおうとも、決して変わることのない大切なもの――――『コミュニケーション』。

 

 相手に自分を知って貰うためには思いだけでも、言葉だけでもダメなのだ。双方ともに兼備してこそ真の友情、誠の絆。

 自由なる翼で以て相手と自分とを隔てる距離の暴虐を無価値とし、言葉の刃で相手の本心を本丸から引きずり出して鍔迫り合いを演じてこそ、人と人は解り合えると言うもの。

 

 ・・・やはり、人は進化しただけではダメなのだ。古き良きを尊ぶ心にも理解を示す暖かさがなければ人は生きていけない。

 人は誰も一人では生きていけない弱き生き物なのだから・・・・・・。

 

 

 

 

「すまない。いささか自分の思考に耽りすぎていたようだ。非礼は詫びる。ここからは一言一句聞き逃さないよう注視するので許して欲しい。この通りだ・・・」

「そ、そうでしたか。ま、まぁ礼儀正しく頭を下げてきたのですから隣に座る礼儀知らずな極東の未開人よりかはマシですものね。いいでしょう、特別に許して差し上げます。

 ですが、次からは許しませんので、そのおつもりで。よろしいですわね?」

「忝い。君の寛大な処遇に対して心からの敬意を表す。以後は心することを、喜んで確約させていただこう」

 

 ハイドが不必要なほどへりくだった態度で、セシリアとかいう偉そうな女に頭を下げているのを見て、俺はムッとする。

 

 ISが使える。それが国家の国防力になる。だからIS操縦者は偉い。そしてISは女しか使えない。だから女は男より偉くて強い。ーーそういう今の社会のありようが嫌いな俺だけど、だからと言って女に力を振りかざして従わせるのを見て見ぬ振りするのは違うだろう。

 

 仮に、セシリアの方がハイドより強くて、ハイドがセシリアより弱くたって、女が理不尽な理由で頭下げさせられてる所を見過ごしたんじゃ男が廃る! 千冬姉ならそんな非道を許しはしない!

 

「・・・おい、待てよ。お前が用があったのはハイドじゃなくて俺の方なんだろう? 他の奴に因縁つけてんじゃねーよ」

 

 俺の言葉で相手はムッとしたみたいだったが、謝る気はない。おあいこだ。

 

「それで? 代表候補生がなんだって?」

 

 相手がムッとしたまま黙り込んだので、俺から先を促してやった。

 ハイドがぼけっとしている間、俺の所にきたこいつが話していた内容の続きを言うように求めたのだ。

 

「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。その程度のことも知らないくせに、よくこの学園にいて恥ずかしくないものですわね。ーーやはり文化としても後進国な日本で暮らす黄色いお猿さんには、恥ずかしさを感じる心など育まれるはずもない・・・と言ったところなのでしょうね? 極東に浮かぶちっぽけな島国のお猿さん?」

 

 カチン。

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 ーーあ。ヤベ、つい売り言葉に買い言葉で言い過ぎちまった・・・。これ絶対相手怒り出すよなぁ・・・。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 案の定、ブチ切れたのかセシリアが顔を真っ赤にして怒りを示し、怒髪天を突くといわんばかりの勢いで俺に何事かを怒鳴ろうとした、まさにその瞬間!

 

 

 

「異議あり!!」

 

 

 ・・・破滅の到来を止める、制止の声が教室中に響きわたった。

 

 ーーー俺の隣に座ってる女の子、シュトロハイド・ローゼンバッハから。

 

 ・・・・・・・・・なんで?

 

「織斑君! それは違う! 違うのだ! 間違っているぞ! 世界一まずい料理はアメリカ陸軍のレーション食だ! あれはイケない! 食べてはいけない!

 あんな食べ物と呼ぶことさえ失礼きわまりない無粋な泥水を、食料として毎日のように配給されているアメリカ国民三百万将兵の皆様方と比べたら市民革命以後の結果として不味くなった英国料理など地獄に仏の垂らした糸並に極楽浄土というものだ!

 謝りたまえ! 英国国民とアメリカ軍に所属しているすべての人たちに誠意を込めて謝りたまえ織斑君! でなければ私は君を許すことなど決してできない!」

 

 

 ・・・・・・ここまで理不尽な怒りをぶつけられた俺は、どういう返しを期待されているのだろうか? ものすごく困っているんだけど・・・・・・。

 

 

「あ、あ、あなたがたねぇ! わたくしを無視して勝手に変な方向に話を逸らそうだなんて失礼すぎますわ! 侮辱していますの!?」

 

 そして、茫然自失していた俺になぜだか入る救いの救世主、セシリア・オルコットによる怒りの怒声。

 それに続けて放たれる、手袋を投げつけてくるときみたいな決闘宣言。

 

 ・・・本当に、なんでどうしてこうなった・・・・・・?

 

 

「決闘ですわ!」

「おうさっ!(バギッ!)」

「ふげっ!?」

 

 間髪入れることなくセシリアの顔面に叩き込まれた、ハイドによる右ストレート。

 エグリ込むように放たれた、腰のあるいいパンチだったぜ・・・・・・ハイド、グッジョブ!

 

「・・・な、何故いきなり右ストレートを・・・?」

「??? だって今、決闘だって」

「IS操縦者がIS操縦者に決闘を申し込んできたのですから、ISを使った決闘方式に決まっているでしょう!?」

 

 セシリア憤慨。

 

 決まっていると言われても、一時間目に行われたさっきの授業で「ISの私的運用は禁止です」と山田先生が言ってた気がする程度の知識しかない素人の俺には全くわからんのだが。

 まぁ、わざわざ俺にIS操縦の仕方を教えてやると言ってきた、IS専門家らしい国家代表候補生とやらがそうだと言うならそうなんだろう。いや、わからんけども。

 

「?? そうだったのかね? 織斑君」

「いや、俺もISについては初心者だから分からんて。ただ、男で素人の俺から見たら、だいたいハイドの言い分の方があってるような気がするぞ?」

 

 男の喧嘩はタイマンで殴り合い。これ基本。

 

「むきーーーっ!! あなたまでわたくしを侮辱する気ですのね!? いいですわ! あなたにも決闘状を叩きつけて差し上げます!

 一週間後の今日、第三ISアリーナにて待つ! よろしいですわね!?」

 

 そう言うことになったらしい。

 まぁ、小難しい屁理屈を並べ立てるよりかは俺好みだし、気楽でいい。

 

「おう、いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

 俺としては望むところな白黒つけ方だったから快諾した訳だけど、意外なことにハイドは不満顔。なにが気になるのか俺の隣で不思議そうに首を傾げている。

 

 やがて『合点がいかない』と本気で思っている表情で提案される、IS操縦者同士の戦いで決着をつける革新的な戦闘ルール。

 

 

 

「・・・それはそれで分かり易くはあるのだが・・・・・・いささか手緩くはないかね?

 今この場でケリを付けた方が分かり易く、且つ楽だと思うのだが・・・(バキボギ)」

 

「「少しぐらいは空気読め!」」

 

 

 ーーーこうして俺VSセシリア・オルコットVSシュトロハイド・ローゼンバッハという図式での総当たり戦が行われることになったのである。

 

 決着の時は近い! 待て次回!

 

 

・・・つづく




ハイドの価値観&世界観

『征服戦争』

――以上。それだけ。

「征服王に、私は成る‼」

『いや、もう成ってるから俺たち従わされてんですけどね?』by地獄の悪魔ども。


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『我が征くはIS学園成り!』第4章

久々の更新になります。『我が征くはIS学園成り!』第4章です。
3章から書き直すつもりでしたが、散々にやってしまった後なので一端保留。後ほど書けそうだったら書くか、今あるうちのどれかを移動させると言う形になると思います。

とりあえず流れとしてはハイドが勝ったけど役職は原作通りに。セシリアは惚れてまでは行ってないけど改心。その程度ですね。ギャグ作品ですから。


「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、ローゼンバッハ。試しに飛んでみせろ」

「任せておきたまえ織斑教諭! 私は飛ぶのが大得意だからな! バカだから!」

「・・・堂々と自認する事ではないはずなんだがなぁー、普通なら・・・」

 

 テンション低く返事を返した他二名と異なり、元気よく返事をした私のことを織斑教諭は『普通ではない=英雄である』と評してくれた。さすがは世界最強と呼ばれていた女性だ、人を見る目も言うことまでもが他の者たちと大きく違う。すばらしい。彼女とは近い内にISについて語り明かしたいものだ。きっと気が合う。

 

(その時には美味い酒を持参してやらなくてはな!)

 

 征服戦争の折、私は各地の豪族たちを一つにまとめ上げるため一人で赴き、腕比べをしたり飲み比べをしたりしながら絆と親睦を深めていった過去の出来事を思い出す。

 いつの世でも戦が終わった後には戦士たちが肩を組み合い杯をぶつけ合い、勝利の喜びを分かち合う伝統に変わりはないのだ!

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで1秒とかからないzーー」

「そりゃっ! 出しましたぞ織斑教諭!」

「・・・お前の展開速度の異常さはいったい何に起因してるんだ・・・? 1秒とかからんとは言ったが、一瞬で出せとまでは言った覚えはないのだがな・・・」

 

 聞かれたが、コレについては私にもよく分からないので答えを保留する。

 なんでも説明役から聞いた話では、ISの展開速度を決めるのはイメージを具体的に描ける速さと正確さらしいのだが・・・・・・自分好みなデザインに直させた機体を細部まで一瞬で思い出すことが出来ない人間など実在するだろうか? 好きこそものの上手慣れと言うことだし、出来て当たり前だと思うのだがな・・・。

 

 ちなみにだが、私は死ぬ前から好きだったジオン軍モビルスーツのデザインは未だに細部まで精密に思い出せるぞ! 好きだったからではなくて、今もって大好きだからだ!

 

「・・・よし、俺の方も展開できたぞ」

「わたくしも準備は完了しておりますわ」

 

 見ると、織斑君とオルコット君の方も展開できていたらしい。うーむ、若者の成長の早さというものは何度見ても眩しいものだな。うむ。

 

「よし、飛bーー」

「ジュワッ!」

「・・・なぜお前は命じた指示を言い終えるまで待つことができないんだ・・・?」

「無論、兵は拙速を尊ぶ故ですな」

「あっそ。ーーどうした織斑、何をやっている。スペック上の出力では射撃型の二機よりお前の白式の方が上なんだぞ」

 

 ん、どうやら織斑君が遅れているようだ。ふむ、地面を歩き慣れていると空を征く際には苦労させられることがままあるらしいからな。

 私も初めてドラゴンと空中戦を演じたときには苦労させられたから解るぞ、その気持ちは。

 

 あの時は乗ってた凧を引っ張らせる中間として『韋駄天の術』を使える伝説のシノビを雇ったものだが・・・いやはや、何もかもみな懐かしいとは正にこの事。

 

「一夏さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」

「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだ、これ」

 

 オルコット君が織斑君に飛び方をレクチャーしているが、織斑君はなにやら不満顔。ISが空を飛べる理屈がわからず、気にしていたらしい。

 

 ・・・偶に思うのだが、彼は体育会系で理屈が苦手な割に妙なところでだけ理屈にこだわる奇癖を持ってはおらんかね? もっと感覚で生きていっていいと思うのだが・・・。

 

「別にどんな理由で飛んでいても良いのではないかね? 現実に我らはコレを使って空を飛んでいるのだし、百の理屈など一つの事実の前では無力であり無意味だと思えるのだがな」

「いやまぁ、そうなのかもしれんけど。つい先日までISとは無縁に生きてた現代科学の国、日本人の俺には気になるものは気になるんだよ」

「説明できないことはないですし、わたくしは構いませんけど・・・長いですわよ? 反重力と流動制御の話になりますもの」

「わかった。説明はしてくれなくていい。絶対、俺の頭では理解できない」

 

 織斑君も存外、楽したがりな性格をしているものだなぁー。

 

「それが良い。もとより家にテレビがありながらも見ない人間に、理屈は向いておらん分野でもあることだし。『なんかよく分からない不思議パワーで浮いてる魔導アーマー』とでも認識しておけばそれで良かろう」

「う・・・。友達相手に口が軽くなりすぎたことが今になってブーメランに・・・・・・」

 

 顔をしかめる織斑君だったが、途中から表情が大きく歪む。何があったのかと思っていたら、地上から篠ノ之君がなにやら叫んでいるのが見えたし、どうせいつもの焼き餅焼きだろう。仲良きことは美しきかな。友達は大切にしてやりたまえよ、織斑君。

 

「織斑、オルコット、ローゼンバッハ。急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

「了解です。では一夏さん、シュトロハイドさん、お先に」

「ああ、では後ほど地上でな」

 

 私はやるべきことがあるので一旦残り、オルコット君だけが先に地上へと降り立ち帰還してゆく。

 ぐんぐんと小さくなってゆく姿を見送りながら織斑君が「うまいもんだなぁ」と感心したようにつぶやくのが聞こえてきたので、私も降下準備に入りつつも先達として後進に伝えるべきことは伝えておかなくてはならないだろう。

 

「織斑君。かつて伝説上の英雄の一人に、君と同じような悩みを持つ若者がいた。

 その者は『人は空を飛べない生き物だ』とする理屈に捕らわれており、本来なら世を支配する理から脱却して空を飛ぶことを可能とする力に目覚めていながら、自分自身の『人は飛べない生き物なのだ』という一般常識が邪魔をして重力のくびきから完全に自由になるまでには至れなかったのだ」

「へー、ヨーロッパにはそんな伝説があるのか。なんかスゲー面白そうだし、今度図書館で探して見よっかな」

「そして、その『飛べるのに飛べない英雄』に対して、二人の魔法使いが二通りのアドバイスを送った。

 一つ『人が空想できること全ては起こり得る事象』

 二つ『考えるな! 空想しろ!』

 ・・・・・・それから最後になるが、私からもこの言葉を君に送らせていただこうか・・・。

 『空飛ぶロボットが空を飛ぶ理屈は・・・自由だ!』ーーと」

「・・・おおぅ・・・。一番理屈になってない理屈で一番説得力を感じてしまったぞ俺・・・」

 

 うむ。どのような理由で信じた理屈であろうとも、信じる想いは清く美しいものである。

 

「では、お先に。ーーはっ!」

「って、速!? え、あれ、いつの間にか地上に!?」

「(シュタッチ)急降下して完全停止して見せましたぞ、織斑教諭」

「だからなんでお前はそこまで早い・・・?」

「さあ?」

 

 もしかしたら『ドラゴンボールZ 超武闘伝』で何度も見てきたせいからかも知れない。武空術は良いものである。

 

 何はともあれ、ISが持つイメージで空を飛べる機能というのは楽な上に便利なものだなぁ~。



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『我が征くはIS学園成り!』第5章

久しぶりの更新です。
今話の話に敢えてサブタイトルを付けるなら「織斑先生大暴走の段!」でしょうかね?
まぁ、そんな感じで相も変わらず残念きわまるバカ話ですがよろしければ久しぶりに楽しんで笑っていただけたら嬉しく思います♪


『おはよー。ねえ、聞いた? 転校生の噂』

『転校生? 今の時期に?』

『そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ』

『ふーん』

 

 IS学園1年1組の朝。今日も今日とてクラスの女子たちは教室中で噂話に花を咲かせている。話題は毎日変わったり、繰り返したりしている時もあるみたいなんだけど、一体どういう基準で選ばれてるんだろうな? 少しだけ聞いて確かめたくなってくる。

 

『そう言えば来月は、クラス対抗戦があるんだったよね?』

『だねー。やる気を出させる為に1位のクラスには優勝賞品として学食デザート半年フリーパスが配られるだもんねー。楽しみ~♪』

「まぁ、学費を国に持ってもらっておきながら、更にそれ以上を出してもらわないとやる気が出せないと言ってる時点で、その方の将来性には期待できそうにありませんが」

『・・・いやまぁ、そうなんだけどさ。アンタそれ言ったら色々終わり――って、今の誰!? どこからか銀髪少女の無表情な常識ツッコミが聞こえてきた気がするんだけど!?』

 

 どうやら今日のメイン話題は「転校生」と「クラス対抗戦」の二つみたいだ。どっちかと言えば対抗戦の方が直接俺に関係してきそうだし意識を向けて情報集めといた方がいいかもしれないな。

 ・・・幽霊っぽいのが出てきたような気がするのは流しておこう。ここはIS学園。世界最先端のIS技術が結集されてる現代社会の牙城で・・・要するに何でもありな場所だから何かいたとしても不思議じゃないんだろう、きっと。

 

『ま、まぁ、それはそれとして。どこのクラスが優勝するんだろうね-?』

『バカね。今のところ専用機を持ってるクラス代表って1組と4組だけなんだから、余裕でうちのクラスが楽勝よ』

 

 

 

 

「―――その情報、古いよ」

 

 

 

 

『え?』

 

 ・・・ん? 今教室の入り口当たりから、すっげぇ聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたんだけど・・・・・・。

 

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 顔を向けて、入り口の方を見た先にいたのは、腕を組んで片膝を立てた姿勢でドアにもたれかかっている、長い髪を両サイドに垂らしたツインテールにしている洗濯板っぽい胸元の元同級生で・・・・・・

 

 

「・・・鈴? お前もしかして、凰鈴音か?」

「そうよ! 2組に転校してきた中国の専用機持ちにしてクラス代表凰鈴音とは、あたしの事よっ!!」

 

 びしぃっ!と、効果音を発しそうなポーズを決めて登場してきたのは、俺の中学時代の連れで二年の終わりに帰国していったセカンド幼なじみの少女、凰鈴音。

 

 

 そして―――――

 

 

「・・・何やってんだ、ハイド? すげえ似合わないぞ・・・」

「いや、格好のいいポーズを見せつけられたのでな。負けてなるものかとパクってみた」

「自分からパクり言うなやドイツ人」

 

 鈴がもたれかかってる扉の反対側にもたれかかり同じポーズと同じ表情で自分自身を指さして見せてるドイツの代表候補にして第二世代の専用機持ちという異色の経歴の持ち主シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。

 相変わらず、言ってることもやってることも意味分からん。

 

「なっ!? だ、誰よアンタ!? いきなり横から割り込んできて人のポーズ盗まないでよね! 昨日一晩かけて考え出した最高にかっこいい再会のポーズなんだから!」

「甘いな凰君とやら! 古来より日本にはこういう諺が存在する・・・・・・『技とギャグと名台詞と名シーンには著作権無し』と言うのが其れだ!

 格好のいい台詞とはパロられるものであり、格好いいポーズは大量生産されて真似されまくるものである! これ即ち人の性であり業と呼ぶべきものであろう!

 むしろパクられるのは自分が今、流行の最先端を征く開拓者である証だと誇りたまえ!!」

 

『せ、正論だ! すさまじいレベルの大正論だわ!!』

 

 

 クラスの女子たち大賛成。・・・そうなのかなーと、疑問に思う俺。テレビあんま見ないからよく分からん。

 

「くっ・・・! 小賢しいだけの、あたしよりチビがなんてこと言うのよ!」

「おい」

「なによ!? ――って、あ痛っ!?」

 

 バシンッ! 怒鳴り返して聞き返しちゃった鈴に強烈な出席簿による厳重注意。鬼教官千冬姉の登場である。

 

「もうSHLの時間だ。教室に戻れ」

「ち、千冬さん・・・・・・」

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「す、すみません・・・・・・」

 

 すごすごとドアから退いて引き下がっていく鈴。その態度は100パーセント千冬姉にビビってる。

 

「またあとで来るからね! 逃げるんじゃないわよドイツ人! それと、一夏も!」

「え。俺も?」

 

 なんでか知らんが絡まれた。いつもの事っちゃいつもの事なんだけど、本当にコイツは唐突なところがあるよな昔から。

 

「さっさと戻れ。――それからお前もだ、ローゼンバッハ」

 

 猛ダッシュで2組の教室へ戻っていく鈴を見送ってから、千冬姉は今度はハイドにも懲罰の出席簿打撃を加えてやろうと振り上げてから振り下ろし

 

 

「甘い!」

「むぅっ!?」

 

 

 ・・・受け止められてしまった。両掌を合わせて左右から拝むように振り下ろされてくる出席簿を掴み取る技―――“真剣”白刃取りの要領で“鉄製の板”を迎え撃ちって、それちょっと表現がおかしくないか!?

 つか、千冬姉の打ち込みを真っ正面から受け止めるとか地味にすげぇなシュトロハイド! ISバトルが専門の国家代表候補には何の役に立たなそうな技術だけれども!

 

 

「フッ! 得物を敵に掴まれるとはな・・・・・・世界最強ブリュンヒルデ敗れたり!」

「むむっ!! むぅぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!!!」

 

 しかも、なんか意味不明な出席簿白刃取りで鍔迫り合いをはじめちゃってるーつ!? 意外と負けず嫌いなところのある千冬姉の悪癖がこんなところで衆目監視の中露見しまくっちゃってるんだけどもーっ!?

 

「ちょ、千冬ね・・・織斑先生落ち着いて下さい! ホームルーム! ショートホームルームが始まる時間ですから落ち着いて剣じゃなくて出席簿を引きましょう! ねっ!?」

「止めるな一夏! 女には負けてはならぬ勝負というものがある!

 一歩でも退いてしまえば今まで交わした全ての誓いも約束も何もかもがヘシ折れて、二度とこの場所へは帰って来れなくなる敗北がある! 其れが今この戦いなのだ!!」

「いや、絶対に違いますよねソレ!? こんなしょうもない勝負で退いたぐらいで帰ってこれなくなるなら、その程度のものですよね絶対に!?」

 

 なんか無駄に熱い展開になってきたなオイ!? 平和な朝のSHL前だったはずの時間はどこ行った!?

 

「敵に背を向け傷を負うは恥と見なすか! 良い覚悟だ! 良い信念と心意気だ! それでこそ私も全力を出して競い合えるというものよ・・・・・・。

 さぁ、存分に競い合おうぞブリュンヒルデ! 男と男、一対一の一騎打ち! 受けて立つ! いざ勝負なり!!!」

「お前も煽るなハイドーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 ああ! 二人が発する桁違いのパワーと気迫で壁に亀裂が! 床にヒビ割れが! 間近にあった教室のドアが跡形もなく消し飛ばされてしまった!? 入り口を塞がれて邪魔どころの被害じゃねーっ!?

 

『キャーーーッ☆ 千冬お姉様カッコイイーーーーーーッ♪♪♪ もっと私たちに圧倒的力強さを見せつけてーーーーーーっ!!!」

「お前らも余計な声援で煽ろうとするな女子ーーーーっ!! このままどとマジでヤバいって状況ホントに理解してんのかお前らはーーーーーっ!?」

『勝つ姿が見たいの! 負ける姿なんて見せられたくないの! お願いだから私たちにとって永遠の最強ヒーローでいてくださいませ千冬お姉様ーーーーーっン♡♡♡♡」

「やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!」

「ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

 

 

 

 

「そっちはそっちで止めろ! お願いですからマジ止めてください!! IS学園が! 世界で唯一のIS操縦者育成機関が生身の人間同士による意地の張り合いでバラバラに砕け散りそうになってますからね織斑千冬姉ーーーーーーっ!!!!!!!」

 

 

 こうして、セカンド幼馴染み凰鈴音との再会から始まった今日一日の波乱に満ちた俺のIS学園生活。

 

 知り合いとばったり再会したり、家族の知られたくない秘密が本人の行動により暴露されたり、人生っていうのは不思議なもんなんだなー。

 

 

「あの・・・一夏さん? 現実逃避してらっしゃるところ申し訳ないのですけれど、そろそろ本気で止めに入っていただけません? 先ほど先生方が止めに入ろうとしたら、近づいただけで吹き飛ばされてしまいましたので、わたくしたちに残された最後の希望はもう一夏さんしか・・・・・・」

「一夏・・・骨は残ってたら必ず拾ってやるからな。私たちの未来を守る為に死んでこい。IS学園最終防衛決戦に参加した唯一の戦死者に対して敬礼!」

「・・・・・・・・・」

 

 

 ・・・なぜだか最近、面倒事があると必ず俺に解決役が押しつけられるようになったと感じているのは俺だけなのかな・・・?

 

つづく



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『我が征くはIS学園成り!』第6章

目が覚めてしまったので次話書いて更新です。この後、二度寝してきますね。


「ああ・・・美味い・・・。明るいお日様の下で食える白米がこんなにも美味しいものだったなんて・・・。死なずにメシが食えるのって、本当に素晴らしいことだったんだなぁ・・・」

 

 昼休み、開口一番文句を言いに来た箒とセシリアたち他数名を連れて食堂までやってきた俺は、生きて食うメシのうまさに感涙して思わずホロリ。

 スーパー地球人類の限界超えちゃってる大戦に割り込まざるを得なかった俺としては、ただただ生き延びれただけで心底から喜ばしい。そして生きてることを何より実感させてくれるのが食事だ。やっぱり食事は生活の基本だからな、うん。昔の人はいいこと言った。

 

「なによ、一夏。久しぶりの再会だってのに爺臭いわね。もっと若者らしくハキハキしなさいよ、溌剌気味に」

「お前はいいよなぁ・・・・・・2組だから」

 

 食堂で待ち構えていた転校生の鈴に愚痴をこぼす。知らないとは恐ろしくも有り、羨ましすぎることでもあるのだなーと言うことが解らせられた一瞬である。

 

「あー、ゴホンゴホン! 一夏? そろそろどういう関係か説明して欲しいのだが?」

「ンンンッ! そうですわ一夏さん! まさかこの方と付き合ってらっしゃいますの!?」

「うむ! 今日もサシミのツマは美味であるな!」

 

 疎外感を感じてたらしい箒とセシリアが多少棘のある声で訊いてきて、隣の席からはハイドによる料理の味に対しての感想が聞こえてくる。

 ・・・コイツの辞書に「気まずいから距離を取る」って言葉は載っていないのか・・・? 

 

「あー、えっとだな。コイツは小五の頭ごろに転校してきた鈴で、中二の終わりに国に帰っていったから―――」

 

 二人に対して鈴のプロフィールを簡単に紹介。一方で鈴に対しても二人について説明しておく。

 

「で、こっちが箒。前に話したことがある小学校からの幼馴染みな」

「ふうん、そうなんだ。――初めまして、これからよろしくね」

「ああ、こちらこそ」

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわね、中国代表候補生の凰鈴音さん?」

「・・・・・・誰?」

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

「な、な、なっ・・・・・・!?」

 

 怒りの余り顔を赤くし、ゆでだこみたいになってくセシリアが言葉に詰まって黙り込んでる間に横から割り込んでくるのは今日も今日とてこの女の子、ドイツの代表候補生シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。

 

「仲良きことは美しきかなだな! ――それでキミはいったい何者なのかね?

 中国の代表候補生にして、名も知らぬ異境の戦士よ! 名を・・・名を名乗りたまえぇぇっ!!」

「さっき言ったでしょうが!? 名乗っておいたでしょうが!? 逃げるなって言って去って行ったあたしのこと、まさかアンタ覚えてない訳じゃないでしょうね!?」

「知らん! そのように些末なこと、覚えていられるはずも無し!」

「なぁっ!?」

 

 ハイドの忘れっぽさと記憶力の悪さを知らない鈴、絶句。やっぱり知らないのも都合良くいいことだけではないみたいだ。やっぱ世の中、上手くはいかんものなんだな。

 

「こ、このあたしを知らないですって!? ・・・いい度胸じゃない、教えて上げるわよ。もう一度だけ名乗って上げるから、耳かっぽじって聞いて今度こそ覚えときなさい。あたしはねぇ―――」

「否! 人に名を問うときは己から名乗るのが礼儀であったな! よし、私から名乗ろう! 一度しか言わぬ故、しっかりと覚えておくように!」

 

 そして今日も今日とて人の話は聞かず聞こえず、マイペースに自分の赴くままにしか行動しないし発言もしないハイドが勝手に話を進めていくのを、慣れてる俺は聞き流してメシを食う。うん、やっぱり知ってる方が得みたいだわ。回数的に。

 

「東西南北中央不敗! ドイツIS対戦界の覇者! 泣く子も黙るIS学園1年1組所属!

 人呼んでドイツの暴風シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ! 十六歳であーる!」

「・・・・・・・・・(お目々ぱちぱち、口はあんぐり鈴ちゃんです)」

 

 ハイドのペースに耐性が付いてない鈴が、あまりの勢いに飲まれまくって間抜け面を晒して黙り込んでる横で箒とセシリアが、

 

「篠ノ之さん、そのショーユと言う名の調味料を取っていただけませんこと? 目玉焼きに掛けてみますわ」

「ん。代わりにお前の横の唐辛子を貸してもらってもいいか? きつねうどんにはこれが美味いのだ」

 

 平和に平素のやり取りをしている。改めて客観視してみると、慣れてるってチト怖い。

 

「・・・・・・と、言う設定をプロデビューした暁には名乗ろうと思っているのだが、どうだろうか?」

「知らないわよ! そんな脳内妄想!!」

 

 予想通りの続く言葉に俺達三人、心の中で「やっぱ妄想かー」と同じ感想を共有。言葉を介さずとも人と人が通じ合えた瞬間である。俺達今この時だけ新しい環境に適応した新人類。

 

「い、い、言っとくけど、あたしとアンタが戦ったらあたしの方が強いし勝つんだからね! ハッキリ言って! だって悪いけどあたしの方が強いんだもの!」

「それは重畳! 己より強い敵に挑まずして何が栄誉か! 戦いか!

 強さに奢って下を見下ろすだけでは心も剣も腐り落ちて錆に塗れるというもの! 上を見上げて挑み続けぬ戦士に価値はなし!

 君が真の強者であり、私が全力を出しても勝てぬほどの難敵であることを心より願うものである!」

「くっ! いつまでも減らず口をぉぉ・・・っ!!!」

「・・・ところで君、名はなんと言うのかね? さっき聞きそびれてしまったので、いい加減名乗ってもらいたいのだが・・・」

「だ~、か~、ら~・・・・・・聞きなさいって言ってんでしょうが! 最初っからずーっと休むことなく延々と!」

 

 ギャースカぎゃーすか、無駄な徒労を繰り返してる鈴。

 日本人の悪いところは休み方を知らないところだとフランス人社長が前に言ってるのをテレビで見たことあるけど、中国人もそうなのかもしれないな。同じ東洋人だし。高校はじまったばかりでこれだと鈴の奴、IS学園卒業する頃には絶対に死んでるなぁ―。ハイドとのやり取りは常に全力投球じゃダメなんだからな? スタミナじゃ絶対勝てない相手なんだから。

 

 

 そんなこんなで今日一日は無駄に終わり、疲れさせられた俺は怒り狂う鈴に寮の自室まで押しかけられてきて、思い出話を振られながら朦朧とする意識の中やっとこさ探し出した酢豚の話について行けたと思ったら引っぱたかれて、訳が分からないままその日は終わる。

 

 翌日、生徒玄関前廊下に大きく張り出された紙を見つけた。

 表題は『クラス対抗戦日程表』。

 

 一回戦の相手は2組―――鈴だった。

 

 

 

 ・・・・・・ちなみにだが、鈴から振ってきた思い出話の「毎日酢豚をおごってくれる」について、後日ハイドからも意見を聞いてみたところ眉をつり上げての返答があった。

 

 

「それは確かに理不尽であるな」

「だろう?」

「うむ。流石の私も毎日同じ料理ばかりをおごってもらう環境では、素直に感謝することはできぬと思う。まして、酢豚だけとくれば尚更だ。喉が渇きそうではないかね」

「・・・・・・」

「そも、中国には明と呼ばれていた時代より「薬食同源」の思想があって、薬とは生薬のことを指し、ネギや山芋などの食物性のものは当然のこと肉や鹿の角など動物性のものさえ含み、貝殻などの鉱物性のものまで全ての食べ物は薬となり得るという事実を意味している。

 が、薬食同源だろうとなんだろうと最も重要なのは基礎。「食べ過ぎは毒」であり、食事は楽しんで美味しく食べることこそ最高の薬である真理だけは時が移ろい時代が変わろうとも変化することはない。

 飽きることなく作ってくれた側に感謝し続けられるよう、作る側にも最低限度の工夫によるレパートリーの変化は大事なことなのだぞ?」

 

 

 ・・・なぜだかドイツ人に現代中国人のことで相談をして古代中国の思想について語られてしまった。

 意外と勉強になったし、知らないことも含まれてたので後でメモっておこうと思う。近いうちに千冬姉にも教えてもらった知識を使って何か作って上げたい。

 やはり食べてくれた人が「おいしかった」と笑顔で言ってくれることが人にとって一番良いことなんだと感じた、IS学園で過ごすある日の出来事だった。

 

 

つづく



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『我が征くはIS学園成り!』第7章

更新です。無人機と一夏たちの戦いにハイドが乱入するまでの話!
乱入後のバトルは出来てません。


 鈴と俺の間で一悶着あってから数週間後。

 つまりは、鈴とハイドで一悶着みたいなのがあってから数週間がたった今日、俺たちは対抗戦当日を迎えていた。

 

「このアタシを前にして、よく逃げずに来たわね一夏。褒めて上げる。その無謀さに免じて今すぐ土下座して謝るなら半殺しぐらいに痛めつけるレベルを下げてあげるわよ?」

「お前はフリー○様か? 謝っても半殺しならいらねぇよ、そんな雀の涙以下の慈悲。全力で倒した方が助かる確率高いじゃねぇか」

 

 薄い胸の前で腕組みした鈴が、上から目線で見上げてきながら魔王みたいな台詞を吐いてきた。

 再会した幼馴染みが、先に転校してきたドイツの代表候補に影響されすぎてると思われる件。

 

 それから俺は周囲を見渡し、溜息を吐きながらこう言った。

 

「・・・と言うか、わざわざアリーナ前で俺が来るのを待ち構えてまで言わなくても良かったんじゃねぇのか・・・? 試合を見に来た他のお客さんからスゲー邪魔そうに見られてるのだが・・・」

 

 現在地、組み合わせ表で俺と鈴が戦うことになった第一試合の会場、第二アリーナ前の入り口。

 扉の前で仁王立ちして待ち構えてたセカンド幼馴染みが通行を物スゲー邪魔になっていた。

 

「しょうがないじゃない! アンタだけに言いたかった訳じゃないんだから、ここ以外で待ってれば会える場所が思い付かなかったのよ!」

 

 そう言って赤い頬して喚く幼馴染み。久しぶりに日本へ戻ってきたばかりで転校してから数週間しか経ってない上に、相変わらず友達でき難いキツい性格の女の子である。

 

「アンタ! 今日こそ決着を付けてやるから覚悟しておきなさいよね! 後でギャフンと言わせてやるんだからクビを洗って待ってなさい! 私がこの日のために編み出した技で――」

「断るぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!」

「なんでよ!?」

 

 鈴が指さした先にいる、俺の隣で付いてきていた青味がかった黒髪の美少女シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハが元気よく鈴の言葉を遮り、拒絶した。

 

 ・・・コイツには元気が出ない日というのが無いのだろうか? なんか年がら年中真夏の熱帯雨林みたいなテンションで生きてる気がするぞ。

 叫びっぱなし、走りっぱなしであろうとも問題なく長生きできそうなハイドのことを、俺は羨ましくもあり「でも、こんなバケモノになるのはちょっとなー」という気分も在りで半々な評価になっていた。

 

「アンタ、私との勝負から逃げる気なの!? この逃げ出した臆病者の逃亡兵が!

 あと、台詞ぐらい最後まで言わせなさいよー!!」

「逃げるのではない。そうではないのだよ、凰鈴音君・・・・・・」

 

 落ち着いた静かな声音で諭すように言ってくるハイド。気圧されたのか気恥ずかしくなったのか、鈴も割とすんなり引いて「じゃ、じゃあなんでよ・・・?」と若干頬を赤らめつつ目前に立つ相手に向かって質問し

 

 

「いや、私はクラス代表ではないのでな? 織斑君に勝ったときに面倒だったから押し付けてしまった。故にクラス代表だけが参加を許される争覇戦に参戦する資格を私は有しておらん。

 資格なき者がリングに上がるのは、その競技に関わる者全てに対する侮辱である。弁えたまえ」

「ちぃぃぃぃくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!!」

 

 どどどどどどどっ!!!!

 

 涙と叫びと共に、アリーナの中へと走り去っていくセカンド幼馴染み凰鈴音。

 さよなら鈴、新たにハイドの犠牲者に加わったお前のことを俺は決して忘れはしない・・・。

 

「覚えてなさいよアンタ達! この借りは試合で倍返ししてやるんだからねーっ!!!」

 

 ・・・そして、なぜ俺を巻き込むんだ犠牲者の皆・・・。もっと当事者にして真犯人でもあるハイドを責めてくれよ。

 たった一つの真実はいつも側にあるのに、誰も指摘しないでスルーされてる状況をコナン君ならどう推理してくれるのだろう・・・。

 

 

「うむ。素晴らしき走りっぷり・・・目指せ国立競技場とはこのことだな」

「うん、ハイド。お前の推理が真実から一番遠いことだけは分かってるから言わなくていいぞ?」

 

 見た目は子供、身体は女子高生、頭脳は地球外生命体のハイドは今日も平常運転だ。

 

 

 

 

 

 ――この後、クラスリーグマッチは開会式が終わり第一試合がはじまって、両者いい勝負を繰り広げながら観客たちを沸かせながら、大過なく進行していった。

 

 ・・・が、しかし。

 いつも災厄は突然、空からやってくる・・・。

 

 

「鈴」

「なによ?」

「本気で行くからな」

 

 真剣に鈴の目を見つめながら放った俺の言葉に気圧されたのか、なんだか曖昧な表情を浮かべた鈴は

 

「な、なによ・・・そんなこと、当たり前じゃない! とっ、とにかくっ、格の違いってのを見せてあげるんだから!」

 

 そう言って、二本の両刃青竜刀を一回転させて構え直す。

 

 ――余談だが、俺たちの様子をモニターで見ていたピット内でハイドが、

 

 

「うむ! 青春であるな! 青春ラブコメであるな!! 青い春とは良いものである!!」

「・・・言うな、ローゼンバッハ。身内同士の試合でこれは、むしろ私が恥ずかしいのだから・・・」

 

 

 というやり取りを千冬姉と交わしていたことを、後で聞かされた俺は床をのたうち回って悶えることになるだが、所詮は余談であり今の試合内容には関係ない。

 

 

「うおおおっ!!」

 

 この一週間で身につけた技能『イグニッション・ブースト』を使った、一回きりの奇襲で勝負に打って出る! もともと白式は欠陥機らしいし、エネルギー効率では鈴の甲龍にかなう訳がないのだから《雪片弐型》も全力全開だ! 出し惜しみ無しで一発勝負!

 これが俺の戦い方だ、ぜ―――ん?

 

 ズドオオオオンッ!

 

「!? なんだ!?」

 

 鈴に刃が届きそうになった瞬間、突然大きな衝撃がアリーナを揺らして、ステージ中央からモクモクと煙が上がっているのを確認した。

 どうやらさっきの揺れは『それ』がアリーナの遮断シールドを貫通して侵入してきた時に生じた衝撃波だったらしい。

 

『一夏、試合は中止よ! すぐにピットに戻って!』

「な、何をいきなり言いだしてんだよ鈴・・・・・・」

 

 訳が分からないまま返事を返してたら、ISのハイパーセンサーが緊急通告を行ってきた。

 

 ――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

 

「なっ―――敵だって言うのかよ!?」

 

 突然、空から飛来してきて現れた謎のIS。

 一つだけ確かなのは、ISバリアーと同じ防御力を持つアリーナの遮断シールドを貫通できる攻撃力を持った機体が乱入してきて、こちらをロックオンしてきていると言うことだけ・・・・・・。

 

 つまり、ピンチってことだ!!!

 

 

 

 

「織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に向かいますから!」

『――いや、先生たちが来るまで俺たちで食い止めます。遮断シールドを突破してきたあのISを今ここで止めないと、観客席にいる人たちに犠牲が出るかも知れませんから』

「えぇ!? ちょ、ダメですよ織斑くん! 生徒さんにもしものことがあったら――ああ、敵の攻撃が始まったせいでノイズが!

 もしもし!? 織斑くん聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!?」

 

 山田先生が慌てふためきながらISのプライベート・チャネルに向かって必死の呼びかけを続けている。

 ISは待機形態であってもプライベート通話が可能で、今彼女が呼びかけている物品も通信機とは到底思えない形状をしており事情を知らぬ者から見れば危ない人と思われるのかも知れない。

 

 ――だが、しかし! 私は断言しよう! 戦場における命をかけた救助活動において、他者の目には滑稽なものに写るものほど真の人道的救助であると!

 

 戦場で勝利を得るために行う真の努力とは、地味なのだ。

 命のやり取りをする場所で命を拾う作業は、ドブの中から捨てられてしまった命を漁って救う回収作業と洗浄業務に他ならない。

 

 故に私は彼女の行いを賞賛することはあっても、笑うことは決して無いと明言しておこう!

 彼女は勇者である! 突如現れた敵に未熟な教え子たちが果敢に向かっていくのを心配して声をかける、聖女の如き慈愛に満ちた真の教師であることを私が保障する! 戦場で敵兵を草でも刈るように薙ぎ払う兵士たちだけが猛者であると思い込む卑劣漢は英霊に恥じるがよい!

 

「落ち着け、山田先生。本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

「お、お、織斑先生! 何をのんきなことを言ってるんですか!?」

「落ち着けと言っているだろう? コーヒーでも飲め、糖分が足りないからこそイライラしてしまうのだからな」

「・・・・・・あの、先生。それ塩なんですけども・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 織斑教諭が口元に運ぼうとしていたコーヒーカップをぴたりと止めて、白い容器の受け皿にゆっくりと戻す。

 

 

「うむ! 愛する弟を信じて任せたい気持ちと、万が一怪我でもしたらどうしようという不安が相半ばしている微妙な乙女心という奴であるな! 青春だな! 青い春だな!

 人はいくつになっても愛する心を忘れない限り恋ができる生き物なのである!!!」

 

 

「ずらっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」

 

 

 ガキィィィィィィィィッン!!!!!

 

 

「この緊急時にピット内で生徒と先生が味方同士ぶつかり合うのは本気でやめてもらえませんか!?」

 

 織斑教諭による《照れ隠し全力回し蹴り》を、私は迎撃用の《回し蹴り参式》をぶつけて相殺する。威力は――――互角!!

 この勝負・・・先に力を抜いた方が負ける!!!!

 

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!!!」

 

「やめてくださいって言ってるでしょうが貴女たち!?」

「先生!」

 

 私と織斑教諭による意味は無いが価値のある無益な戦いを止めさせたのは、横合いから掛けられたオルコット君の悲痛な叫びであった。

 

「わたくしにIS使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

「・・・そうしたいところだが、――これを見ろ」

 

 お互いに気を削がれた隙を突いて距離を取り、相手に再度攻撃してくる意思がないことを確認してから織斑教諭はブック型端末の画面を数回叩いて表示されている情報を切り替える。

 どうやらその数値は第二アリーナのステータスチェックを表したものであるらしい。

 

「遮断シールドがレベル4に設定・・・? しかも、扉がすべてロックされて――あのISの仕業ですの!?」

「そのようだ。これでは非難することも救援に向かうこともできない」

 

 実に落ち着いた口調で、現在の自分たちが無力な状態にあることを解説してくれる織斑教諭だったが・・・はて? それのドコに問題があると言うのだろうか? 皆目見当が付かんのであるが。

 

「で、でしたら! 緊急事態として政府に助成を――」

「やっている。現在も三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐにも部隊を突入させられる――――」

「壊せば良かろう? ISで壁ごと邪魔な物すべてを」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 私は至極当たり前の提案をしたところ、なぜだか室内が静まりかえってしまった。

 不思議に思って首をかしげてみていたところ、織斑教諭が油の切れたクルミ割り人形のような鈍い動作で首を動かしながらこちらを向き、

 

「お、お前はこの学園が最新ハイテク設備の塊であることを承知の上で言っているのか・・・? 一つ破損しただけでン千万の修理費が掛かる代物ばかりなのだぞ・・・?」

「緊急事態である。人命と金銭と、己がより大事だと思う方を選びたまえ織斑教諭」

 

 私は断言して、彼女に決断を迫り「う」と唸らせる。

 厳しいことを言ってしまったが、王とはそう言う存在である。万人の上に立つが故に、決断を常に迫られてしまう。

 

 金銭か? 人命か? 簡単なようでいて地位が伴うと非情に難しい高度な判断力が求められる由々しき選択肢である。安易に選んではいけない。一円と百万円でもお金はお金。

 『金銭』の一言に含まれる金額の重さが一律であるなど有り得ない事態なのである。

 

「織斑先生! お金のことなど後でどうとでもなりますわ! 一夏さんが死んでしまったら元も子もないことぐらいお分かりでしょう!?」

「う、うーん・・・。しかし幾らなんでもその決断は・・・。私にも一夏の将来を守る義務がある訳だし、今この時だけ助かれば良いというものではないのだし・・・」

「生き延びた後のことなど、死ぬかも知れない状況下で気にしていられる場合ですか!? どうか目の前の現実を見据えて、より良い判断をお願いしますわ織斑先生!」

「う、う~~~ん・・・・・・」

 

 引き攣った表情を浮かべて苦悩に沈む織斑教諭と、切羽詰まった表情で説き伏せようとするオルコット君。

 

 どちらの言い分にも理があり、利もあるだろう。

 ならばここは私の出番だな。

 

 

「なるほど。つまり織斑教諭の責任問題になることなく、ISを使って壁をぶち壊せれば良いのだな?」

「そうだが・・・そんなこと一体どうやって―――」

「来たまえ、《ゴールデン・バウム》」

 

 ぴかーーっん。(ISの専用機を展開させた音)

 

「えいっ」

 

 ズバシャァァっ!!!(IS武装のデカい剣で、適当に高価そうな機材を切った音)

 

 

「さ、これで条約違反を犯した私の責任と言うことになるな。では、征こう」

『・・・・・・・・・』

「ん? どうした諸君。早く救援に赴こうではないかね。織斑くんたちが待っているぞ?」

「い、いやその・・・なんと言いましょうか・・・」

「ええ、その、う~ん・・・・・・ありがたいと言えばありがたいんですけども・・・・・・」

 

 オルコット君と山田教諭が、揃って困ったような表情を浮かべている。

 不思議そうに見やっていると代表して織斑教諭が私に対して説明してくれた。

 

「いや、確かにこれで助けには行けるようになって助かったのだが・・・こんな事してお前は本当に無事で済むのだろうかと心配でな・・・?」

「はっはっはっ、なんだそんなことを心配していたのかね君たちは」

 

 私は杞憂杞憂と莞爾に笑い、それでも心配そうな色が顔から消えない三人に向かってウィンクしてやりながら、専用機持ちにとっての大前提である常識について教えてやることを決意する。

 

 

「良いかね、諸君。IS操縦者にとって忘れてはならないこと。

 それは――――『許可無く無断使用せずして、なにが専用機持ちか!!』

 ・・・・・・と言うことだよ」

 

「ああっ! なるほどですわ! 納得ですわ! 言われてみたらわたくしたち日常的に許可など求めることなくISを無断使用して怒られるだけで済んできましたものね! 問題なんて最初からドコにもありませんでしたわ!」

 

「「・・・・・・(物凄ーく納得いかないけど納得せざるを得ない日頃の行いな教師二人組)」」

 

 

「では、征くぞ!

 人助けのために敵と戦い倒し合う防衛戦争の場へ!! いざ出陣!!!!」

 

 

つづく



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『我が征くはIS学園成り!』第8章

昨日に引き続き風邪を継続中で暇なので、ハイドISを更新。
普段から考えてばかりいる主人公書いてるせいか、バカを書くのが無駄に楽しい♪


「くっ・・・・・・! また躱されたか!!」

 

 合計すると四度目になるバリアー無効化攻撃を回避され、俺は焦りとともに呟き捨てた。

 山田先生との交信を切り、謎のIS二機と戦うことを選んだ俺と鈴だったが戦況は芳しくない。いや、ハッキリ言ってかなり悪い。

 

「一夏っ、馬鹿っ! ちゃんと狙いなさいよ!」

「狙ってるつーの! 敵の動きが既存のISを超えすぎてるだけなんだよ!」

 

 普通ならかわせるはずのない速度で攻撃してるのに、敵ISは全身に付けたスラスターの出力が尋常ではなく、零距離から離脱するのに一秒とかからない。

 おまけに、鈴がどれほど注意を引いても俺の突撃には必ず反応して回避行動を優先してくるのだ。

 

「――まるで“人が乗ってない機械みたいな”奴だぜ・・・っ!」

 

 俺は、自分でも自覚していないつぶやきの一つとして、そういう“願望込み”で吐き捨てていた。もし“人が乗ってないなら容赦なく全力で攻撃しても大丈夫”だったのにな・・・と。

 

「・・・試してみるか。

 鈴、俺が合図したらアイツに向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」

「? いいけど、当たらないわよ?」

「いいんだよ、当たらなくても」

 

 ――考えがあるんだからな。

 もし敵が無人機のフリしてるだけだった場合に備えて、小声で伝えようとしていたまさにその時。

 アリーナのスピーカーから、「キーン・・・」というハウリングを伴って、聞き覚えのある大声が轟いた。

 

『一夏ぁっ!!』

「な!? 箒っ! なにしてるんだアイツ!?」

 

 大音量に驚いて発生源を探すと、みんなが避難したと思っていたアリーナの中継室で審判とナレーターがのびていて、その横には俺のファースト幼馴染み篠ノ之箒の姿が・・・。

 

 ――って、えぇぇ!? おまえ本気でなにやっちゃってんの!? 敵が襲ってきている中で自分だけじゃ逃げられない気絶者作ってどうすんだよ! 死なせたいのか!?

 

 『眠ってる内に死ねた方が少しはマシだろ』って台詞をなんかの映画で言ってたけど、本気で実行したバカを見るのはお前が初めてだよ!?

 

 

『男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!』

 

 また大声。キーンと鳴るハウリングで耳が痛い。

 ハイパーセンサーで数十倍に拡大して箒を見ると、はぁはぁと肩で息をしている。その表情は怒っているような焦っているような不思議な様相。

 

 

 ・・・いやまぁ、『中継室にいた非武装二人を奇襲して叫ぶだけで疲れ切ってるお前に言われたくない』って気持ちもなくはないんだけども。

 

 すぐ隣のセカンド幼馴染みが、『そのくらいの敵に勝てない女』呼ばわりされて、量産機乗りのCランクさんにメチャクチャ怒り顔向けてらっしゃるんですけども。

 

 それにも気づかず自分の思いを貫き通すことしか頭にないファースト幼馴染みの潔い生き様は、俺の中にナニカをもたらし、覚醒させるに十分すぎるほどだった。

 

 が。

 

「――っ!! まずい!」

 

 その“ナニカ”が何なのか考える暇を与えてくれる義理は、敵にはないようだった。

 放送された大声に興味を持ったらしい敵の片割れが、センサーレンズをそらして箒を見上げ、じっと見つめてから腕に付いた砲口を箒のほうに向けようと、ゆっくるゆっくり動かし始めている姿が目に入った。

 

「ああ、くそ! 鈴! やれ!」

「わ、わかったわよ!」

 

 箒に狙いが向いてる今が好機、なんて考えてしまう自分の頭が心底イヤになりながら俺は鈴に指示を出す。

 そして、甲龍が両腕を下げて肩を押し出すような格好で衝撃砲を放とうとしている斜線上に、俺は白式を駆って躍り出す。

 

「ちょ、ちょっと馬鹿! 何してんのよ!? どきなさいよ!」

「いいから撃て!」

「ああもうっ・・・! どうなっても知らないわよ!」

 

 高エネルギー反応を背中に受け、俺はイグニッション・ブーストを発動させる。

 瞬時加速の原理を応用して加速するのだ! 上手くいけば箒に向けて発砲するより先に、敵が斬れる!

 

「ウオオオオオオッ! 間に合え―――――――――っ!!!!!!」

 

 想いを込めて俺は叫び、ただ疾駆する!

 守りたいと願った幼馴染みの元へと全力で!

 

(俺は・・・千冬姉を、箒を、鈴を、関わる人すべてを――守る!!)

 

 想いを込めた必殺の一撃が今、弾より速く誰かを傷つけようとする敵を切り裂く――っ!

 

 

 

 

 

 

「ふははははははっっ!!! 遅い! 遅いぞ織斑君!

 誰も私より速く走ることなど出来ない!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 ―――よりも先に、横合いから『徒歩で走って』駆け抜けてきたハイドに追い抜かれて、敵ISを蹴っ飛ばして壁にめり込ませて攻撃止めさせてしまった・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・あれ?」

 

 えっ・・・とぉ・・・ISって、世界最高の戦力で、男じゃ勝てないし女でも生身では勝てない、新機軸のスーパー兵器・・・だったよね確か? 大空をハイスピードで飛び回りながら戦い合うのが、ISバトルの真骨頂だったよね・・・?

 

 ・・・・・・あれぇ~~~~~????

 

 

「ふはははははっ! 当たらない! 君の攻撃は当たらないなぁ、謎のIS君!!

 どれほど速く動き、威力の高い攻撃を放とうと、当たらなければノーダメージ! これ世界の常識!!

 世の有り様は変えられても、世界の絶対法則を覆せない程度の強さでは私を倒すことはできんぞ!! 謎のIS、略して【謎っス君】!!」

 

 謎っス君て。世界最高戦力もアイツの前では形無しすぎるだろ。

 アイツは、正真正銘の嘘偽りなき化け物かナニカなのかな?

 

 

「あり得ない・・・あり得ないわ・・・こんなの、こんなの絶対、私の知ってるISの常識に反しまくってるし・・・・・・」

 

 横では発砲寸前で横やり受けて、衝撃映像見せつけられたことが原因でくずおれちまった鈴が両手を地面について精神的衝撃に耐えようと努力している。

 こいつはこいつでプライド高い上に自信家なせいなのか、自分が絶対だと信じてたものが否定される状況に意外と弱いんだよなぁ。まぁ、ちょっと前までの俺も似たようなものだったけど。

 

 ・・・・・・この光景が日常化しちまった後だと、あんまり気にしすぎてもなぁ~~・・・・・・。

 

 

 

「ふははははっ!! 機械で予測したように正確な射撃だな! 故に! 勘で避けやすい!

 既存の理論を当てにしたら命取りに成るというなら、経験で鍛えた勘だけを頼りにすれば良いだけのこと! テレビゲームのような物と捉えておけば無問題!!!」

 

 笑いながら鞘付きの刀を振り回し(ただし生身)

 

「さて、右に避けるか・・・・・・いや! 左斜め上45度だ!!!」

 

 とか叫んで、既存の理論を超えた動きで避けようとした敵を、既存の理論を超えまくって無視してるとしか思えない攻撃で先読みして(先読み?)正拳突きをぶち込んで壁まで吹っ飛ばす。

 ISバリアで通常攻撃無効化できても、アリーナを包んでる障壁はIS武装と同じ扱いだから、吹っ飛ばされてぶつけられると普通にダメージ食らってエネルギーが減らされる。

 

 アホらしい話だが・・・・・・ハイドは生身のまま、刃すら抜かずに敵IS二機を相手に追い込みまくっているのだった。

 ――――心の底から楽しそうに高笑いしまくりながら、満面の笑顔を湛えまくって。

 

 

「機械の鎧が光とともに呼べば顕れる世にあって、常識に囚われるなど愚の骨頂!!

 己を信じて想いを貫き、世の真理を上書きすることのみを考えるのだ! 既存世界の常識と法則を否定してぶち壊してこその乱世ぞ!

 ISを相手に勝ちたいと願うなら、ISの常識ぐらい超越して見せろ――――ッッ!!!!」

 

 

 

 ・・・やがて、戦いは終わった。

 言うまでもなくハイド一人の圧勝という形で・・・・・・。

 

 

 

 

「さぁ、皆の者! 鬨を上げよ! 我らの勝ちだ! 勝利だ!!

 勝利の宴であ―――――――――っっる!!!!!!!!!!」

 

 

「おー(棒読み)」

「お、おぉぉぅぅ・・・・・・うっ、うっ、うっ・・・・・・(嗚咽)」

「・・・おーい。私の存在価値は・・・?」

「いいじゃありませんの?

 ・・・・・・一言の台詞すらなく戦闘終了したわたくしよりはマシなのですし・・・・・・」

 

「あの、織斑先生? 私たちって来る必要あったんでしょうか・・・?」

「言うな、山田先生。―――もはや、私には何も見えないな・・・・・・」

 

 

「・・・っと、いかんいかん。忘れるところであった。

 【ゴールデンバウム】!! 展・開!!!

 ジャキ――――――――――――ッッン!!!!!!!!

(ISに勝ってからISを展開して格好いい勝利ポーズを取る、IS二次創作の主人公)」

 

 

 

つづく

 

 

おまけ1「ハイドの常識」

 

「英雄たる者、ISの一機や二機ぐらい生身で倒せずしてなんとする!?(ハヤテのごとく感)」

 

 

おまけ2「ハイドのIS世界観」

*既存世界の常識を白騎士事件が「IS最強無敵」に力尽くで塗り替えた世界という解釈。

 

「つまりISは織田信長公! 征服王として第六天魔王と矛を交えられるとは武人の本懐! いざ尋常に勝負だ魔王君!!」




*ハイドの奇癖:

1、どこの誰だろうと『君付け』で呼びたがる。
2、フルネームを略して変なあだ名をつけたがる。


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織斑一夏のファースト初恋少女 第1話

投降しようかどうしようか迷ってた作品です。
他のユーザー様に相談して「投稿する清書前のプロトタイプを出してみたらどうか?」と言われましたのでプロトタイプを投稿です。
シリーズものとして想定してましたので、色々設定が有るんですけど時間が時間なせいで頭が回りません。気になる部分がありましたら質問していただけると助かりますです。


「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 俺が儀礼的に頭を下げてから上げると、目の前に広がるクラス中の生徒全員から熱視線が集中されてて軽く引かされてしまった。

 皆、声には出してないけど目が雄弁すぎるくらいに『もっと色々喋ってよ』と語っていて、声に出されるよりもプレッシャーがかけられてるような気がしてしまう。

 

 

 ――俺、織斑一夏は先月おこなわれた高校入試で訳あって『女性しか動かすことの出来ない世界最高戦力』ISを起動させてしまったことから、生徒が俺以外みんな女子ばかりというIS学園への入学を強制的に決められてしまい、今日の入学式を迎えたばかりだった。

 

 そんな俺が初対面の相手にいきなり喋れる事なんてそんなにないぞ。受け狙って「サボテンの飼育と株分けが趣味です」とか答えればいいのか?

 

 何かしらの救いを求めて窓側にある席の方に視線を向けて、再会したばかりのファースト幼馴染みである篠ノ之箒に助けを求めてみたけど、ふいっと窓の外に顔をそらして拒絶されてしまった。六年ぶりに再会した幼馴染みに対してこの態度とは、なんてやつだ。

 

(・・・いや、もしかして俺が嫌われているのかもしれないな・・・・・・って、んん?)

 

 窓側から正面へと視線を戻す途中で、何やらとてつもなく見覚えのある頭部を見た気がして、慌てて視線をそこへと戻す。

 教室の真ん中&最前列ってめちゃくちゃ目立つ席に座らされてたから気づかなかったけど、俺の隣には一人の女子生徒が座っていて、特に俺にたいして興味を示すこともなく普通に前を見て何も書かれていない黒板を「ジーッ」と見つめ続けていた。

 

 まばたきしてるかさえ怪しく思える眠たげな瞳と、独特な髪型をした彼女の横顔を、俺の記憶巣はどこかで。だが、確かに記憶していたような気がする―――――って、あああっ!?

 

 

「つばめさん!? あなたもしかしなくても葉月つばめさんですよねっ!? 中学の時一年だけ一緒だった元クラスメイトの!!」

 

 ファースト幼馴染みと離れ離れになってから出会ったセカンド幼馴染みとも別れて、IS学園に来るまでの短い空白期間でだけ一緒だった『女の人』。

 

 その人は以前までと何ら変わらない、ゆっくりとした動作で俺の方へと振り向いて。

 

 

「・・・ああ、一夏君。久しぶりだ、ね・・・? 元気だ・・・った・・・・・・ふぁ~あ・・・」

「いや、久しぶりの再会で挨拶中に本気のアクビしないで!? めっちゃくちゃ俺への興味なさすぎるでしょう! 相変わらずで何よりですけども!!」

 

 

 再会した幼馴染み以外の女の人は、昔と変わらず俺に対しても何に対しても無気力無関心をごく自然に貫く、いつも何時でも眠たそうに生活している大人っぽいのか気怠げなだけなのか判別しにくい性格をしたままだった。

 

 

 

 葉月つばめさん。

 俺が中学最後の年に同じクラスになった少女で、ツインテールでもないのに左右に垂らした髪だけが長く、後ろは短いという変わった髪型をしているのが特徴で、女のことには詳しい(外見に関する情報だけで実体験は皆無だが)五反田にも何という名前の髪型なのか知らないし分からないと言っていたほどだ。

 

 成績優秀で美人顔な才色兼備の美少女なのだが、どうにも印象が薄いのが髪型とは別の特徴の一つ。

 

 群れないけれど、群れたがらない訳ではなくて、むしろ誘われた時に断るシーンを見たことがなく、クラス内で揉め事が起きたときには眠そうな目と口調で淡々と仲裁してくれたりもした。

 

 背は高くもなく低くもないし、胸だって大きい訳ではないけれど、顔は『綺麗』の一言に尽きる。

 派手さは皆無だけど地味でもなくて、落ち着いた感じが大人っぽくもあるが、子供っぽい一面も多く持っている。

 対応が時々めちゃくちゃ適当になったり、言ってる内容が哲学的かと思ったら全然別の話題に突然切り替わったり、掴み所のなさの方が見た目の綺麗さよりも印象に残りやすい人でもあった。

 

 

 そんな中学生活最後を過ごした人と、中学卒業してから禄に時間も経ってないのに高校で再会してしまった俺は微妙な心持ちのまま二時間目の休み時間を迎えていた。

 

「いやー、つばめさんもIS学園に入学予定だったなんて知りませんでしたよ。教えてくれても良かったのに」

「う、ん・・・。まぁ、色々と事情が・・・ね? ぶっちゃけ言ったつもりで忘れてただけ、なんだけど・・・」

「メチャクチャ浅くないですかその事情!?」

「う、ん・・・その可能性も0ではないよ・・・ね?」

「・・・いや、その言葉の使いどころ完全に間違えてるような・・・・・・」

 

 俺は普段だったらほぼあり得ない、つばめさん限定で発動させちまう癖がついてる『同い年の異性に対して敬語で話す』ことを、数週間ぶりに普通にやっていた。

 

 特に理由は無いのだが、俺は葉月さんと出会ってしばらく経った頃からずっと、つばめさんと話すときには敬語を使うようになっちまってた。

 理由は今でもよく分からないけど、嫌な気持ちになったこともないから、まぁいいか。

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「――って言う話があってさぁ・・・・・・へ?」

「・・・・・・う、ん・・・?」

 

 まわり中知らない女子だらけの中で他に話し相手もいなかったから話し込んでいた(箒は何故だかさっきよりもキツい目で黙ったまま睨み付けてきてる)つばめさんとの会話に、横合い女の声で割り込んでこられてしまった。

 

 誰だよと、若干不機嫌になりながら見上げた先には、金髪ロールの如何にもなお嬢様系美少女が立っており、見た目通りの高飛車な視線で俺とつばめさんのことを見下したような瞳で見下ろしてきていた。

 

「訊いてます? お返事は?」

「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」

 

 それでも俺は極力それら負の感情を抑えて礼儀正しく答えたつもりなんだけど、目の前の女子はそう受け取らなかったらしい。わざとらしく大仰な仕草とともに声をあげる。

 

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 俺が自分に敬意を払って接するのは当然の義務。そう言ってるようにしか聞こえない言い様に、俺は思わず「ムカッ」としてしまう。

 正直、この手合いは苦手だった。ISを使えて、それが国家の軍事力になる。だからIS操縦者は偉いし、女しか動かせないISを動かすことが出来る女は男よりも偉い。・・・ISの登場で世の中が変わってから生まれた新たな思想、典型的な『女尊男卑』主義者って感じがする物言いが俺はどうにも好きになれなかった。

 

 ISが強いのは分かる。ISが女しか動かせないのだって事実だろう。

 でも、だからといって力を振りかざすのは違うだろう? 力が粗暴なら、そんなものはただの暴力だ。

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

「なっ!?」

 

 相手は俺の言葉に驚かされたらしく、絶句してしばらくの間黙り込む。

 実際、俺は彼女のことを知らない。なんか自己紹介のときに色々言っていた気がするけど、正直覚えてない。千冬姉が担任だったことと、つばめさんがクラスメイトだったってことの方が百倍ショッキングだったから。

 

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席であるこのわたくしを!?」

 

 ああ、こいつの名前はセシリアって言うのか。ふーん。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

 

 がたたっ。目の前にいるセシリアだけでなく、聞き耳を立てていたらしいクラスの女子数名がずっこける音が聞こえた。

 ちなみにだが、つばめさんはそれらの一員に加わっていない。窓の外見ながらまた「ふぁ~あ・・・」ってアクビかましてる。睡眠症候群かなにかなのかと親にも疑われたことがあるのだと聞かされた彼女の悪癖はこの程度のことで微動だにしないし出来ないようである。

 

「あ、あ、あ・・・・・・」

「『あ』?」

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

 

 頭に血管マークを三つは入ってそうなスゴい顔で怒ってみせるセシリアに対し、俺は正直に答える。知らないことは素直に言おう、見栄は身を滅ぼすだけだ。

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら・・・・・・」

 

 失礼な奴だな。テレビくらい、うちにもあるぞ。見ないけどな。

 

「で、代表候補生って?」

「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。・・・あなた、単語から想像したらわかるでしょう」

「そういわれればそうだ。簡単なことほど見落としやすいってのは本当なんだな」

 

 俺は答えたが、この時点で俺は気づくことができなかった。忘れていたのかもしれない。

 つばめさんが今のやりとりの途中から視線を俺たちの方へ向け直していたことに。

 彼女が仲裁に入るときのタイミング・・・『不適切な対応』を見つけたときにだけ動き出す特徴を。

 

「そう! エリートなのですわ! 本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「・・・・・・馬鹿にしてますの? 大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男でISを操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待はずれでしたわ」

「俺になにかを期待されても困るんだが」

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。

 ISのことでわからないことがあれば、まぁ・・・泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリートですから」

 

 こんなやりとりをしばらく続けながら、俺は冷静なつもりでいた。

 詳しく覚えていないけど、“あの時”と同じだ。

 自分は大人だから、こんなガキみたいな言い合いに本気で応じたりなんかしない。それはガキのやることだ。コイツ格好悪いと言いながら、言ってる奴が一番格好悪いことに気づいていない。度し難い子供のからかいと同レベルのチャチな意地の張り合いだ。

 

 そんな風に心の奥底で気づかないうちに“俺自身が相手を見下していた”。格好悪いと言いながら格好悪いことをやってる男に、意識しないままなってしまっていた。

 

 一度“気づかせて貰った”はずなのに。注意してくれた女の子が、今すぐ側から見ているはずなのに。

 

 俺は気づくことなく学ぶことなく、同じ過ちを繰り返そうとする――――。

 

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛ですのに―――」

 

 カチン。

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「なっ・・・・・・!?」

 

 あ、やべ。つい言ってしまった。こう、つるっと口が滑ってしまった。

 

「あ、あ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 あー、もう、こうなったら仕方がない。覆水盆に返らず。転がり出した石は止まらない。なるようになれだ。

 

 俺は割り切ってセシリアを見つめ、彼女が手袋を脱いで相手に向かって叩きつけるような仕草で机に手を叩きつけるところを目撃して、男らしく正々堂々決闘を―――

 

「決闘で――――」

 

 

 

 

 ばあぁぁぁぁぁっん!!!!

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 突如として鳴り響いた雷が落ちた時みたいな轟音に、その場にいた俺とセシリア含む全員が静まりかえって、音の発生源へと視線をやると。

 

 

「みんな、静かに・・・ね? 今は休み時間だけど、ここは学校なんだか、ら・・・ね?」

 

 

 眠そうな瞳を俺たち一人一人に向けて移動させながら、つばめさんが自分の机に叩きつけた右手をさすっていた。

 

 それが痛いからでないことぐらい、俺にも解る。

 なぜなら机の中心部が綺麗に、手のひらの形型に凹んじまってる。

 後から聞いた話になるけど、IS学園は実銃とかを扱う関係上、すべての備品が特別製で高価だから壊れにくいよう衝撃性に優れた物を用いているらしい。少なくとも“生身の人間が生身のままで壊せたりしたら”そいつは人間じゃないだろって言われる程度の耐久性は余裕であるのだとか。

 

 ・・・そう言えばつばめさんって、目立たないし自分からは自慢しないだけで、アホみたいに強いんだよな・・・。逆恨みから数をそろえて襲ってこられて苦戦した隣町の不良どもをかすり傷一つ負わずに助けてくれたせいで、却って現実感がなくなって『幻の遊撃者』なんて呼ばれてた時期があるくらいに・・・・・・。

 

 

「一夏君もそうだけど、セシリアさんも落ち着いて・・・ね? 論点がどんどんズレて言ってる・・・よ?」

「! そ、それはそうですが、わたくしにだって代表候補生としての面子という物が・・・って、ああ!? あなた葉月つばめじゃありませんの!?

 日本の代表候補生筆頭で、現在開発が進められていると噂の第三世代機が参入するまでは不動の地位を保つと称されている、“あの”葉月つばめなのでしょう!? 違いますかしら!?」

「・・・さ、あ・・・? 自分で、は人からどう呼ばれているかは解らない、か・・・ら・・・」

「ま、まぁ、そうなのかもしれませんけど・・・・・・」

 

 思わぬ強敵と出会ってしまった悪役みたいに、セシリアは急に勢いをしぼませて大人しくなるのを確認して、つばめさんは今度は俺の方に顔と視線を向けてきて注意してくる。

 

「一夏君も・・・ね? さっきまでの態度は良くなかった・・・よ? あれって絶対わざとやってたよ・・・ね?」

「俺は別にそんなつもりは・・・・・・」

「嘘。だって、明らかに開き直って知らないことを自慢そうにしてたも・・・の。知らないことを教えてもらえたときは、ありがとうって言うんだ・・・よ?」

「う゛」

 

 落ち着き払った態度で具体的に言われてしまうと、俺としても返す言葉がなくなってしまう。

 相手の言い方に非がなかったとは絶対に思わないけど、だからと言って知らないことを正当化したり、挑発みたいな態度を当然のようにやっちまってたことを、熱が冷めて落ち着き始めると自覚できて微妙な心地になってくる。

 

 それでも俺には、自分の方が一方的に悪くないと謝ることが難しい。喧嘩両成敗が基本の千冬姉の教育は俺にとっては絶対だったから。

 

 そのことは一年しか付き合いがないけど、それだけで十分すぎるほど相手のことが理解できてしまうらしいつばめさんも心得てくれてるらしく、だからこそ先に俺の方を注意してセシリアの気分を上げさせていたらしいことに俺はこれから気づかされることになる。

 

「セシリアさんも、今の言い方は自分から誤解を招いちゃうだけだ・・・よ? 伝えたかった本題自体は一夏君に“ISについて解らないことがあったら経験者の自分に訊いていいんだよ”って、一言だけで済むはずのところを色々付け足しちゃうから面倒くさくなっちゃったんだから・・・ね?」

「う。・・・で、ですがわたくしは代表候補生で、彼は何も知らないド素人の新人です! 教えるに際して上下関係はしっかりしておくべきものでしょう!?」

「うん、そうだ・・・ね? でも、その事と日本を悪く言うことは関係ないよ・・・ね?

 アレだと一夏君だけじゃなく、て、他の大勢の日本人の反感を買っちゃうか、ら、一国の代表候補生として、イギリスの顔候補として相応しい態度じゃなかった・・・よ?」

「う、ぐ・・・」

 

 俺と同じくセシリアもまた撃沈。

 先に注意を受け入れやすい格下の方から落として、格上を持ち上げて恩を作ってから注意する。注意に対して感情的に返してしまうと周囲から顰蹙買って立場を悪くしてしまう状況を作り出してから注意する。

 

 つばめさん得意の仲裁方法、その真骨頂だな。久しぶりに見たぜ。相変わらず見事なもんだと感心させられる。

 

「で、ですが! このままではわたくしも収まりがつきません! なにより昨日今日ISを始めたばかりの新人にここまで虚仮にされた挙げ句、日本代表候補の仲裁で矛を収めたとあっては本国におけるわたくしの立場が・・・・・・!」

「・・・う、ん・・・。私も理由は違うけ、ど、答えは同じか・・・な。今のままだと良くない、し、感情的なしこりは禍根しか残さないか、ら、思い切り思いはぶつけ合っておいた方がいいと思う、の」

「?? じゃあ、どうする気なんだつばめさん? なにかいい解決方法のアイデアがあったりするのか?」

「アイデアって言うか・・・ね? どうせ女の子と男の子がIS学園で揉め事起こして解決するな、ら、再発を防げるぐらい大げさで公明正大にやってしまった方が早いと思う・・・の。

 ちょうど適任者が来たみたいだ、し。頼んでみた・・・ら?」

「「適任者?」」

 

 誰だろうと、思わずセシリアと顔を見合わせちまった俺たちが、バツが悪そうになって逸らし合った直後。

 その適任者は、居室前の扉を開いて入室してきた。

 

 

 ガラガラガラ。

 

「何をしている貴様等。チャイムが鳴ったぞ、席に着け。これからの時間は実践で使用する各種装備の説明をする。

 ・・・ああ、それとだが再来週に行われるクラス対抗戦に出場するクラス代表を決めないといけなかったんだっけかな――――」

 

「「それだぁぁぁぁぁぁっ!!!(ですわぁぁぁぁぁぁっっ!!!)」」

 

「う、うわぁぁぁぁぁっ!? な、なんだ!? 何が起こった!? 何があったのか説明しろ葉月ぃぃぃぃっ!!!」

 

「・・・さ、あ・・・? 第三者の客観的ヤジ馬意見、は、当事者たちの話を聞き終えてからお伝えいたしま――――ふぁ~あ・・・」



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織斑一夏のファースト初恋少女 第2話

更新です。大筋は決まってたのですが、作中でのやり取り自体にはいくつもパターンがありましたので選ぶのに難儀してました。
結局一番短めのを選んだ次第です。よければどうぞ~♪


「あら、逃げずに来ましたのね。

 専用機も当日までに間に合ったようで何よりですわ」

 

 セシリアがふふんと鼻を鳴らして、腰に手を当てたポーズを決めながら俺を見下ろしてくる。

 場所はIS学園内にある施設の一つ、第三アリーナ。

 日時は月曜。コイツとの対決が決まってから一週間が過ぎた、よく晴れた日の対戦当日だ。

「機体とのフィッティングは違和感なく適合できまして? 山田先生が授業で言っていましたとおりISには操縦者をサポートする機能がありますが、相性によっては機体との間に摩擦が生じて動きを阻害してしまうこともあるのです。不具合がある場合には試合前に申告しておくことをお薦めして差し上げます」

「・・・ご親切にどーも。そんな情報を聞き出して何に使う気かは知らないが、これから戦って勝とうとしている相手に情報をくれてやるほど俺も衰えちゃいないんだぜ?」

 

 箒に指摘されたことを思い出しながら俺は、剣を構えながら相手の挑発的な言葉を軽く流す。

 

「まさか。そのような姑息な手を使うつもりは毛頭ありません。

 ただ、わたくしはIS操縦の先駆者として、先輩として、乗り慣れていない機体で戦う後輩に『ハンデはどれくらい必要か?』と問いかけているだけですわ」

「!! ・・・意趣返しかよ、ガキ臭ぇ・・・」

「これで案配はよい分でしょう? わたくしは本来、試合に怨恨や恨み辛みを持ち込むのは嫌いな性質なので。フェア・スポーツマン精神こそが英国貴族の嗜みというものです」

「・・・・・・ちっ」

 

 つばめさんがもたらす仲介の効能の内、出会ったときからずっと苦手に感じているものがある。

 それが“これ”だ。相手に冷静さが戻ってくるから、怒りを向けてたときと印象が百八十度変わっちまう場合が以前からも多々あった。それに慣らされちまってる今の俺にとってこういうタイプはちと、やり難い・・・。

 

 ピ――――

 

 そうこうしている間に試合開始の鐘が鳴り響き、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行したことを、俺は届いたばかりの専用機《白式》から警戒音とともに知らされる。

 

「では、始めましょう! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる戦場の円舞曲を!」

「ちぃっ!?」

 

 初撃を躱しきれなかった俺は、白式に装備されていた唯一の武装《近接ブレード》を引き抜くと、全速力で加速をかけながら敵機目掛けて加速をはじめる。

 

(気にくわなくても、嫌いじゃなくなっても、試合そのものは勝ちに行く! それが男ってもんだろう!)

 

 そして、俺にとって初めてのIS戦闘となるセシリア戦が開始される。

 

 

 

 

 

「はぁぁ・・・すごいですねぇ、織斑くん。

 オルコットさんの射撃を三回に一回は躱せてますよ」

 

 ピット内でコーヒーを飲みながら試合を観察していた私、織斑千冬は隣に経つ山田真耶の言葉に、思わず相手の顔を見直していた。

 

「まだ二回しかISを起動したことがないとは思えないほどの健闘ぶりです。やっぱり織斑先生の弟さんというのは伊達じゃないんですね」

「・・・・・・ふん」

 

 言ってる内容そのものは間違っていないのだが、私としては立場的に、今少し上からの視点で客観的評価をしてもらいたいなとも思ってしまう。

 

「一夏に天性の操縦センスがあるのは認めるが、今の状態はオルコットが教えてやる目的で敢えて狙いをズラして撃ってやっている事も大きい。必ずしも奴一人の力で出せている結果ではないさ」

「え!? ちょ、ちょっと待ってください・・・あ! 本当だ! コンピューターの計測でもコンマ一桁の誤差で狙いを正確に外しています! ・・・でもどうして・・・?」

 

 意図が読めずに混乱しているらしい山田先生に、私は内心でため息をつく。

 『世界初の男性IS操縦者』という肩書きと、一夏の女好きする容姿と性格に惹かれてしまう女連中には昔事欠かなかったが、副とはいえ担任教師が性別で生徒を測ってしまっていることにかんして遺憾に思わざるを得ない。

 

「あいつらの証言を聞いた限りではの話ではあるが、もともとオルコットの側に一夏を攻撃する意図があったようには見受けられない。むしろ貴族特有の上から目線ではあるが、『教えてやろうという』という親切心から来ていると思しき言動が散見されていた。

 大方、あの愚弟が悪癖の一つになりつつある“女尊男卑嫌い”を発症させて、無自覚に挑発してしまい事態を悪化させてしまった・・・そんなところなのだろうさ。

「な、なるほど・・・」

「対するオルコットの側に、この試合で勝つことで得られるものは何もない。実績と評価を得ている専用機持ちが、昨日今日ISに乗ったばかりのド素人と戦っているのだからな。

 勝ったとしても“大人げない”と言われるだけだろうし、万が一負けでもしたら評価がダダ下がりするのは避けられない。

 ならば先輩として、ベビーフェイスにヒール役で教導してやった試合後に謝って見せた方が印象も良くなるし禍根も残さなくてすむ。その程度の計算は出来る奴だと言うことくらい入学者の個人データだけで予測できる事柄だぞ? 山田先生」

「す、すみません・・・精進するよう努力します・・・・・・」

 

 小さくなって引き下がっていく山田先生を見送った後、私は視線をモニターに戻して一夏の“左手”を見つめる。

 

 何度も開かれたり閉じたりしている、この仕草は一夏が浮ついているときにミスしやすくなる前兆だった。

 まぁ、無理もないことではあるし白式には“隠し球”も仕込んである。ただ一方的に負けるだけで終わりはしないだろう。良い教師に恵まれて短気に成長することを期待だな。

 

 

 

 

 

「一夏・・・くん。左手を閉じたり開いたりしてる・・・ね?」

「・・・・・・ああ」

 

 私は離れたところで交わされ合っている山田先生と千冬さんの会話は気にかけないように意識しながら、ずっとモニターに映る一夏の姿を凝視し続けていた。

 それは一夏の一挙手一投足を見逃すことなく見続けたいという想いから来る行動ではあったが、隣に立って私と同じく一夏を見続けている眠そうな目をしたクラスメイトから目を逸らしたいという後ろ向きな想いと無関係だとは断言できない心境に今の私は置かれている。

 

「あれをする時って一夏君、決まって簡単なミスを犯しちゃうんだよ・・・ね」

「・・・・・・」

「現に今もセシリアちゃんの意図を読み違えちゃって・・・る。一度こうだと思い込んだ、ら、なかなか相手の印象を変えられない辺り、男の子だよ・・・ね?」

「・・・・・・・・・」

 

 私は答えることなく、モニターをジッと見つめ続ける。

 自分でも表情が険しくなっていることは自覚しているが、どうにも自分では直しようがなかった。

 どうしても彼女の言葉を聞くと思ってしまうのだ。

 “たった一年しか一緒にいなかったお前がどうして!”――と。

 

「・・・お前はどちらだと思っているのだ?」

「ん・・・?」

 

 解っている。自分でも解っているのだ。

 

「この試合、一夏が勝つか。それとも負けるのか・・・どちらだと、お前は思っているのだ?」

 

 解っていた。頭では理解していたし、理屈の上では納得していた。

 ――これは、『自分だけが知っていると思っていた男の情報を、自分以外の女が知っていた』ことに対する醜い嫉妬心でしかないのだと・・・・・・。

 

「う、ん・・・。普通に負けると思ってる・・・よ?」

「・・・・・・っ!?」

「と言うより、も、この試合で一夏君は負けた方がいいと思って・・・る。

 だって、この試合は勝つことが彼のためにならない勝負だか・・・ら」

「どうして!?」

 

 私は場所もわきまえずに、声を荒げて叫んでいた。

 それは私が、『女であるなら惚れた男の勝利を願うべきだ』と信じていたから、彼女に自分の信念を否定されたように感じてしまった故なのだろう。

 その日の夜になって考える時間を得られた後なら解る程度のことであったが、目の前で行われている一夏の勝負と、想定外過ぎる恋敵の出現に焦りの色を濃くしていたこのときの私に解せるほどには簡単に割り切れる心の問題ではなかったのだ。

 

「一夏君は・・・ね。ISについて何も知らない・・・の。知らない物を使うことは出来ない、し、使えない武器を持っても戦うことは出来ないよ・・・ね?

 でも、現に今彼は戦えて・・・る。これは一夏君がISを使って戦って“いない”から出来ることなんだ・・・よ」

「――あ」

 

 彼女の言葉が胸の内にストンと落ちてきて納得する。――納得してしまう。

 それを納得することは今回の試合に際して、発端になった言い合いの中で一夏の言い分により多くの非があったことを認めてしまうことだと分かっていながら、私は思わず彼女の言葉に納得してしまって振り上げかけた拳を降ろしてしまっていた。

 

「専用機・・・は、量産機と違って学んでなくても動かし方が解るようになる機能がついて・・・る。だから今の動かし方を知らない一夏君でもISを使って、セシリアちゃんと戦えて・・・る。

 白式、が普段の一夏君が手足を動かすときと同じ要領で自分のことも動かせるようにしてあげてるだ・・・け。今の一夏君、は今まで勝ってきた力だけでISを相手に戦わせて“もらってる”・・・の

 でもそれは、一夏君が自分で手に入れた力でも強さでも、勝利でさえないよ・・・ね?」

「・・・・・・」

「一夏君は一度、負けなきゃダメな・・・子。負けるまでは自分を貫いてしまうけ・・・ど、負けてしまえば色んな人に頭を下げて色々と学んで強くなれる男の・・・子。

 場所がIS学園に移って・・・も、きっとそう。周り中が女の子の中、で、自分一人だけ男の子だか、ら、無理に我を張ると今日みたいな事が次も起きちゃうと思う・・・の」

「・・・・・・・・・」

「だから一夏君、は、今日の試合で勝っちゃダ、メ。負けて今まで過ごしてた学園外の自分にサヨナラして、IS学園で過ごす一夏君を創っていくためにIS学園を学ぼうと思ってもらえるようにならないと・・・ね?」

「・・・・・・・・・」

 

 私は黙ったまま答えを返せずにいる。

 今初めて解った。この一週間、彼女がどうして一夏にIS操縦のノウハウを詳しく教えようとしなかったのか。なんやかやと理由をつけて、私がおこなっていた放課後の剣道練習にさえも見に来ようとはしなかったのか。その理由が。

 

 一週間でオルコットに勝てるようになるための訓練。

 ――それは、主観を度外視して効果だけを散文的に表現するなら『何も知らない素人が一週間で強くなれる方法はないだろうか?』と、辛く苦しい修練を嫌がり、楽して強くなる方法を教えて欲しいとねだる甘ったれたガキの思考となんら代わり映えしなかったからなのだ。

 ・・・今ならハッキリと解る。

 学園で再会した元級友が熟練の国家代表候補からの挑戦を受けてしまったとき。

 間違いなく彼女は一夏に・・・・・・『失望させられていた』のだと・・・・・・。

 

 

「・・・だが、それでも私は・・・・・・」

 

 震えそうになる両腕を力を込めて抑え付けようとして、不自然に身体を揺らしてしまいながら。

 それでもと、私は断言する。

 

 

「私は一夏に勝って欲しいと思っている。他の誰のためでもない。もしかしたら一夏のためでさえないかもしれないけれど、それでも私は一夏に勝って欲しいのだ。勝って欲しいと誰よりも強く願う自分を抑えられそうにないから・・・・・・」

 

 情けないことを言っている自覚がある私は顔を伏せて、周囲の視線から見られないようにする。こんな顔を他人に見られたくない。情けない弱音を晒す自分の顔など自分の顔とは思いたくない!

 

 ・・・そう願ってしまったからだったが、そんな私に彼女が寄越したのは意外なことに『賞賛』だった。

 

「それは良いことだ・・・ね」

「え・・・?」

 

 思わず顔を上げてしまい、見られたくないと望んだ自分の顔を彼女の方に向けたとき。

 彼女の顔は私の顔を見ておらず、こちらの晒した醜態など気にもかけていない様子で、眠たそうに欠伸をしながらモニターをジッと見つめているだけだった。

 

「ここで私たち・・・が、どんな理由や思いを抱こうと・・・も、勝ったり負けたりするのは一夏君一人だ・・・け。

 どちらかが訪れ・・・て、何かを得て、何かを失ったとしても、一夏君独りだけの問題。私たちには関係ないし、関係できないこ・・・と。

 そしてそれは、一夏君の側も同様。私たちの思惑なん、て、一夏君が超越しちゃうときは超越しちゃうも・・・の。

 人への思いやり、は、必ずしも受け手の人が応えなくちゃいけないものじゃないから・・・ね」

「・・・・・・・・・」

「だから箒ちゃん、が、一夏君が勝って欲しいって願うことは、今の試合中も試合が終わった後もずっと続く良い想いだと思う・・・よ?」

「・・・・・・本当にそうだろうか? もしこの試合で一夏が勝つと、ダメになる結果につながるのだと解っていながら勝利を願ってしまうのは、一夏がダメになって欲しいと願うのと同じなのではないだろうか?」

「勝つこと・・・が、どうしてダメになることに直結してる・・・の?」

「え・・・?」

 

 驚きのあまり一瞬だけだが、悲しみとか情けなさとか色々吹っ飛んでいってポカンとなる自分の顔を、このときの私は自覚できたがそれどころではなくなっていた。

 

「い、いやだってさっきお前自身が・・・」

「う・・・ん。私はそうなると思ってるし、信じてもいるけ、ど・・・。でも所詮それ、は、私が信じて考えてる結果に過ぎないか・・・ら。そんなものに一夏君が振り回されなきゃいけない義務はないと思ってるか・・・ら。

 だから箒ちゃん、も、自分の信じたい自分の考えを信じちゃっていいと思う・・・よ?」

「・・・・・・」

「私・・・は、自分が正しい答えを出すつもりで考え、て、出した答えを信じてはいるけれ・・・ど。だからって自分以外の人まで自分の考えた正しさを共有しなくてもいいと思ってはいる・・・よ?」

「・・・・・・・・・」

「だから、箒ちゃんが一夏君が強くて勝てると信じているなら、それを信じてあげて欲しいか・・・な。誰かに信じてもらえるのは勝ち負けよりも大きく一夏君、が、ダメになるかならないかを決めてくれるスゴイ力を持ってると思うか・・・ら」

 

 私は返事を返せぬままに涙を拭わず、モニターへ視線を戻して試合終了まで見続けていた。

 結局、この試合で一夏はオルコットに勝てなかった。負けてしまった。

 試合中にファースト・シフトする予想の斜め上いく演出で場を沸かしてくれたが、その直後に使おうとしたファースト・シフトして武装が変更された《白式》の専用武器《零落白夜》を使おうとしてエネルギー切れを起こしたために敗北条件を満たしてしまったからだった。

 

 説明欄にある武器の作用だけはチラ見したらしいが、下の方にある『副作用』についてまでは詳しく見ようとさえしなかったらしい。

 『知ってさえいたら避けられた敗因』で負けた一夏は、だが翌日にオルコットから正式に謝罪されて、クラス代表にも推薦されて決定されてしまった辺りから、昨日までの試合に勝ちたいと願っていた執念が嘘であったかのように、わだかまりなくオルコットにもISに関するレクチャーを教えてもらいに行くようになり、私たち以外の女子たちとも急速に親睦を深めて行っていった。

 

 

 何もかもが“彼女”の予言通りに的中されていく様を、私はジッと横から見ていた。見ていることしか出来なかった。

 

 姉弟である千冬さん以外で、一夏と誰よりも長く一緒にいた私ではなく『たったの一年間しか一夏と過ごした時間を持たない別の女』が、私よりも未来の一夏のことを理解している。

 その事実が私を苛立たせる。心穏やかずにはいられなくなる。

 人との繋がりの深さは時間の長さに比例しないという一般論を、彼女は事実によって実証させていく。

 私の信じてきた大切な思い出を、その意図もなく言葉も使わず結果という事実によって砕け散らせていく。自分の中での優位性が消滅させられていくのを思い知らされていく。

 

 

 ああ、認めたくない。

 認めたくないのに、目を逸らして気づかないフリをするには事実の痛みと辛さが大きすぎて、視線を逸らした先まで覆い尽くされてしまう。

 

 

「ふぁ~あ・・・・・・」

 

 

 私は彼女に『劣等感』と『敗北感』から嫉妬心を抱かされる日々を送り続けている・・・・・・。

 

つづく




説明:
いくつも書いた会話パターンの中で使いすぎて今話での使った気になっていた、書き忘れの部分を説明させて頂きます。

主人公が言ってる専用機だけが持つ特徴とは、『白式に座っただけで操縦方法が脳に直接伝わってきた1巻目の起動シーン』から来ている言葉です。


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IS学園の言霊少女セシリア鈴ルート

昨晩、間違えて『試作品集』の方に出してしまっていた作品。言霊ISのセシリア・鈴がヒロイン枠だったらと言う設定の分岐ストーリーです。続く予定のため今話の時点では二人とも出てきません。
尚、内容は昨日誤って投降した物をコピペしただけなので同じものです。


『――ニュースの時間です。先月中頃に発見された世界初の男性IS操縦者「織斑一夏君」が、IS学園入学式にあわせて本日入学することとなり、学園島では一夏君を一目見ようと大勢の観光客で賑わっています』

 

 世間では発見されたばかりにして、すべての男性たちが待ち望んでいた『男でもISを動かせるようになる可能性の原石』織斑一夏さんのことで話題騒然としているらしく、朝からテレビではずっとこの調子。

 

 ――ま。

 

「本人でない上に女の私にとっては、どーでもいいことなんですけども」

 

 そう言って、手にしたお菓子を一口パクつき、ぼんやりとテレビを眺め続ける私は異住セレニア。

 今テレビで紹介されてる織斑一夏さんのプロフィール欄の端に小さく記載されている『扶養家族』として分類されてる義妹。法律的には織斑家の家主である織斑千冬さんに庇護されてる被保護者という形になりますね。

 

 これは『白騎士事件』で世界を壊して再誕させたIS操縦者たちの内、一定の年齢と一定以上の年収を持つ国家代表クラスにだけ課せられている法的義務で、男尊女卑から女尊男卑へ世の在り方が移るに当たって生じたDV・・・ハッキリ言うなら、それまでの家父長から転落させられたことに怒り狂う男親から虐待された子供を女尊男卑正義の象徴であるIS操縦者の家庭で養うのが人の道。

 と言う建前の基で制定された、女尊男卑与党によるイメージ戦略の一環。その結果です。

 

 織斑一夏さんの姉――織斑千冬さんは現役でなくとも、元世界最強のIS操縦者。未だに人気と知名度の高さでは他の追随を許さない人ですから、まぁこの手の役割を押しつけるにはピッタシだったというわけで。

 

 

「ま、なんにせよ私は両親が出張中で息子一人支度に取り残されるギャルゲー主人公と似たような状況に追い込まれたわけで。

 これからの生活で何かハプニングが起きないかとか、ちょっとだけ楽しみではありますよね~♪」

 

 子供の時から「とある事情」により、若干過保護に育てられた自覚のある私としては「初めてのお使い」ならぬ「初めての一人暮らし」に不安一杯、それと同時に胸躍らせたりなんかもしてきちゃっているのですが♪

 

 

「・・・家主不在の自宅に子供二人じゃ危ないから目の届くところに保護しようと言うのに、一人だけ確保して後の一人は家に残したままでは意味なかろうに・・・」

「ですよね~・・・」

 

 うん、解ってました。ちょっとだけ夢見たくなっただけ何で気にしないでください、千冬義姉さん。

 

「それに、お前を一人で普通学校に行かせたりしたら、おちおち安心して授業もできん。いい加減、自分が持つ周囲への影響力について自覚して自重することを覚えろ愚妹」

「・・・反論の余地もないご指摘ですが、一応弁明させていただきますなら私にそうする意図があって相手に影響与えたことは皆無ですからね?」

「自覚も意図もないのに他人が変わって言ってるから放っておけないと言っておるのだ! この阿呆!!」

「・・・・・・ですよね~・・・」

 

 うん、これもまぁ言われるまでもなく解ってはいました。事実でしたし。

 実際、私と一夏義兄さんは周囲に影響を与えやすい人間です。知らない間に、気づかぬ内に誰かと誰かの性格が百八十度以上変わっていることはよくある話。

 

 別に犯罪に走るわけではないとは言え、昨日まで「イチカ殺す!」とか叫んでた人が今日になると急に借りてきた猫のように猫なで声出して愛情という名の餌を求めるため義兄に近寄ってきたり、数日前まで「戦争はダメ! 絶対に!」とか言ってたラブ&ピース絶対主義の方が何の前触れもなく「諸君! 私は戦争大好きだ! クリーク!!」とか叫んで右手を掲げたりし始めたら誰だって驚きますし嫌がります。影響与えた本人自身がドン引きしてるんですし、間違いありません。

 

 だからまぁ、義兄さんと同じくIS学園に強制連行される分には大した問題もないのですけれども。

 

「・・・準備期限は?」

「三十秒以内に支度しろ」

 

 ドーラ一家か! ・・・などとお約束のボケにツッコんでる余裕もなく、私は大慌てで引っ越し支度をまとめるため二回へと駆け上がり、降りてきました。準備完了です。

 

「よし、準備完了です。いつでも出られますよ」

「早いだろ!? 早すぎるだろ!? まだ十秒も経ってないぞ! お前にとって引っ越しの準備は十秒で終わる程度の簡単すぎることだったのか!?」

 

 驚愕を顔に貼り付けた千冬義姉さんが叫びます。

 

「そう言われましてもね・・・いつも緊急避難用のサバイバルケースは部屋のベッド下に用意してありますし、後の持ち物で一番大事なのは端末と予備の手帳とに保存してありますから、他の嵩張りそうなものは特にこれと言って・・・・・・」

「・・・お前は、戦争が始まったら二時間で戦いに駆けつけなければならないスイス人か何かか・・・?」

「日本も同じ中立国ですからねぇ-」

 

 他国の戦争に巻き込まれずに中立を守るためには、国民一人一人がいざという時の備えをしておきませんと。

 

「てゆーか、そもそも私の部屋って本以外はあまり置いてませんし、本もって歩くには重すぎますし割り切りが重要な分野でもあることですし・・・」

「理屈っぽいのに行動的な辺りがお前らしいと言えばらしいのだがな・・・」

 

 そんなこんなで、義兄さんの後を追いかける形で義妹による、二時間遅れのIS学園入学が決定されて実行に移されたというわけです。

 

 

 

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」

 

 すらすらと教科書を読んでいくIS学園1年1組副担任、山田先生の声を聞きながら俺、織斑一夏はこんなことを思っていた。

 

 ――参った。これはマズい。ダメだ。ギブだ。

 なに言ってんだかさっぱり解らない・・・・・・。

 

 ――と。

 

「あー・・・・・・」

 

 意味もなく意味不明なつぶやきを発してしまうほど、俺は参ってきていた。

 だって、そうだろう? ある日いきなり黒服の男たちがやってきて『君を保護する』とか言ってIS学園入学所を置いていくって、どこのムスカ大佐と不愉快な仲間たちだよ。あげく、望んだわけでもないのに自分以外は全員女の子な女の園に放り込まれて保護するも何もないもんだ。

 

 まぁ、今それはいい。よくないけど、とりあえずはいい。今重要なのはそこじゃない。

 ・・・目の前でおこなわれているIS操縦者になるための授業が聞いててもさっぱり解らんこと。それが今一番大事な問題点だった。

 

 隣の席に座る女子を見ると、先生の話にうなずいては真面目にノートを取っている。

 

 ・・・もしかしなくても俺だけか? 俺だけなのか? みんな解っていると言うことなのか? IS学園に入れるような奴は、みんな事前学習してるって噂は本当だったんだな・・・。

(はぁー・・・こんなことなら素直に頭下げて、セレニアに勉強付き合ってもらうべきだったかもしれん・・・)

 

 ふと頭に思い浮かんだのは、家に一人残してきた運動より勉強の方が得意な俺の妹分。

 歳は“同じってことにしてある”らしいけど、一応は俺の方が兄と言うことになってるんだし、妹に情けないところ見せて侮られるのは微妙に癪だったから言わなかったことを今になって後悔してきている俺。・・・今更すぎて完全に後の祭りになっちまってるけどさ・・・。

 

(あー・・・、そう言えば来週の日曜日にアイツをどっかへ遊びに連れてく約束してたんだよな-、俺って。普段から表情変わりにくい奴だけど、今回のは嬉しそうにはにかんでたなー。

 ずっと見てると分かってくるアイツの微妙な表情の変化って探してみると結構パターンあるんだよなー)

 

 俺が目の前に広がる辛くて厳しい現実から目を逸らしたくて逃避先に使っていた義妹の声が幻聴のように聞こえてくる気がする。

 

 ・・・って、ダメだダメだ。そこまで行っちまったら人としてダメすぎる。逃げるにしたって最低限守らなきゃならない程度ってものがあるよな、うん。

 よし! 気合い入れ直して授業に集中集中―――

 

 

 

『ちょ・・・。ね、義姉さん? まさか本当にこの体勢で教室は行ってくつもりじゃないですよね?』

『そうだが? それが何か問題なのか?』

『い、いえ、大した問題ではないと思うんですけど、さすがにこの歳でこの体勢はちょっと・・・』

『お前がなにを言いたいのかよく分からんが、着いたぞ。御託は中に入ってからゆっくりと並べるがいい』

『――ってぇ、ちょっと待ってください! ストップストップ! 今の時点だとまだ心の準備が―――』

 

 ガラララッ。

 

 ・・・あれ? 集中した後も幻聴の続きが・・・? しかも今度のは幻覚まで伴って、って・・・・・・

 

「せ、セレニア!? お前どうしてこの学校に!?」

 

 驚き慌てて叫びとともに立ち上がった俺は、朝のHLでIS学園で働いていて1組のクラス担任を務めていた千冬姉と一緒に入ってきた小さな女の子に向け大声を出してしまう。

 

「はうっ!?」

 

 相手の方もビックリしたのか。あるいは“見られたくない相手に、見られたくないものを見られた”ことによるものなのか判然としない悲鳴を小さく上げて俯きがちに黙り込む。

 

 今は俯いてるせいで前髪が落ちてきて見えづらくなってるけど、さっき一瞬だけ見せたコイツの瞳の色は藍色。髪色の銀髪に白磁みたいな白すぎる肌もあわせて、どっからどう見ても日本人じゃない外国人な俺の義妹、異住セレニアがIS学園の制服姿で1年1組の教室に千冬姉とともにやってきたのだ。驚くなという方が無茶振りな状況だ。

 

 ――ただ、コイツが悲鳴上げたのは別に俺がいたからって訳でもないだろうけどな-・・・。知り合いだったら誰にも見られたくない恥態を今のコイツは全力で晒させられているのだから。

 

 

 年齢平均よりも遙かに低い身長と童顔。よく年齢より老けて見えると紹介される外国人の血のほうが濃いセレニアは、意外にも身体的特徴は子供っぽい印象を受けやすいなりをしている。

 子供と言うには、一カ所だけ成長しすぎてドカンと突き出ちまってる部分もあるが、それを差し引いても尚セレニアの容姿から受ける印象は幼さの方に軍配が上がる。

 

 それを加味したら、コイツの置かれている今の体勢も然程おかしなものではないかもしれない。普通なのかもしれない。外見年齢だけ見た場合には必ずしも間違ってないんじゃないかと思えてくる。

 

 だが、どんなに幼く見えても実年齢は実年齢。俺と同い年“と言うことになっている”彼女は今年で高校入学可能になる年齢16歳の女の子と言うよりも少女だ。あと四年で成人する、半ば以上大人になった年齢だ。その事実を鑑みるなら今彼女が置かれている状況は察するにあまりある。

 

 

「すまんな、山田先生。野暮用を途中で済ませてきたせいで、到着が遅れた」

「い、いえ、それはいいんですけど・・・織斑先生? あの、その子は・・・?」

「ああ、それにちなんで皆に伝えておくべき連絡事項がある。悪いが場を借りさせてもらうぞ?」

「は、はい。それは構いませんけど・・・」

 

 戸惑いながらも気遣うような目線をチラチラと千冬姉の後から着いてきてるセレニアに向けられ、逆効果により余計に顔を赤らめさせられるセレニア。

 

 やがて教壇に立った千冬姉は、威風堂々とした態度でいつもどおり自信満々な声で断言と紹介を同時にやってみせるのだった。

 

 

「みな、聞け。コイツの名前は異住セレニアと言って、うちで養ってやっている元孤児で今は里親の元で育っている、私の被保護者だ。今回の件で家が安全な場所ではなくなったのでな、こちらのIS学園に新入生として移させてもらった。

 一応言っておくと、簡易入学試験は及第点を取ってはいるし、一応と言う低レベルだがIS適性も所持している。入学してくる分には問題ない。

 許可するかどうかは我々学園執行部の決めることだから文句があるなら私のところまで聞きに来い。以上だ」

 

 それだけ言って説明を終えてしまう千冬姉。他に言うことないんかい。

 例えば――

 

 

「・・・・・・・・・(//////)」

 

 

 ――未だに頬の赤さを引かせられてない、高校入学最初に『保護者とお手々つないで入学式参加させられる』屈辱的状況を強要している理由説明とかさーっ!!

 

 

 子供の頃、俺が誘拐されて千冬姉に助け出された場に、どういう理由でなのか血塗れで倒れていた少女、異住セレニア。

 自分の名前らしい言葉だけをつぶやいて気を失い、次に目を覚ましたときには自分のことを何一つ思い出せなくなっていた正真正銘本物の記憶喪失少女。

 

 

 ・・・そのときの姿を忘れられない千冬姉から、やたら過保護に育てられて身長が途中で止まってることもあり、未だに子供扱いされ続けている義妹に割と同情的な俺。

 

 こんな感じで俺たち織斑姉弟と、里子で義妹な妹との学園生活が幕を開けたのだった・・・。



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IS学園の異なる言霊少女たち

少し前に『IS学園の言霊少女』の続編候補として書いていた物が2話目までできていたことを忘れていたので投稿させていただきますね。

内容的には最初に書いて出していたプロローグの後に、続きの2話目をくっつけて、最後にキャラ紹介をしている感じです。


 ――私が《インフィニット・ストラトス》の世界に転生してから十六年の時が流れました。

 すでに今の私には前世の男子高校生だった頃の自我は欠片ほども残っておらず、完全にこの世界の住人の一人、異住(いすみ)セレニアと言う名の少女として第二の人生を送っています。

 

 生前には残念ながら読む機会のなかった《インフィニット・ストラトス》の原作小説。そのため所謂「原作知識」とも呼ばれている転生主人公のみが持つアドバンテージは、ほとんど持っておりません。

 せいぜいが、会った事もない転生の神様とやらから与えられた原作主人公とヒロイン達の名前と出自、《IS》という存在に関して歴史に与えた情報を他者より先行して知ってたぐらいです。

 

 

 ・・・・・・IS。それは今から十年と少し前に開発されて世の中を変えてしまった世界最高戦力と呼ばれる、人が纏って戦う機械の鎧みたいなものなんだそうです。

 女性しか扱えないISによって引き起こされた大事件『白騎士事件』から社会の枠組みが変わっていき、男尊女卑は廃れ、女尊男卑が台頭し、頭がすげ替えられはしたけれどISの登場以外には大した変化が及ぼされたわけでもない・・・というのが原作世界の大まかな世界設定らしいです。

 

 これらの事柄を私は『白騎士事件』勃発前の幼少時から知ってはいましたが、知識を与えてらっただけの小賢しい民間人のガキが知ってたぐらいで変えられる未来なんてある訳もなく。

 私という異分子が紛れ込んだだけのIS世界は何の問題もなく原作通りの物語開始が可能なところまで進行し、今に至ります。・・・ホント役に立たねぇなぁ私・・・なにしに転生させられてきたんだよ、いやマジで。

 

 倍率一万倍のIS学園に凡人の私が入学できたのも、偏に転生者故の記憶継続――つまりは赤ん坊の時点で死亡時の高校時代に習っていた学習内容を引き継げていたからと言うだけの事。

 最初から整備課一本に道を絞って勉強さえしていけば、適正値の高い低いに関わらず測定器が反応しただけで、残る課題はペーパーテストのみ。他は形式的にやってみせるだけで結果に影響する可能性はほぼ皆無。

 それがIS学園整備課という裏方の実情というわけですね。

 

 綺麗な女の人が流麗なフォルムのIS纏って、大空を飛び回りながら戦い合うから大人気のIS操縦者は基本的に裏方が不人気です。誰もが皆スター選手としての操縦者になりたがります。

 誰もが皆、出来る事なら日の当たるところに出たいですし、日陰者には成りたがらない。そのため整備課に行くのは選手としての才能に見切りを付けて、でもISには関わる仕事に就きたいと願う2年生の落ちこぼれたちが中心。だからIS学園には二年時からしか整備課が存在していないのです。

 

 誰もが成りたがらない整備課に入学試験の時点で志願してくる人は希だと聞きます。IS学園としても操縦者を支えるメカニック不足の問題は自覚しているようで「夢破れたから近い仕事に就くことにした人たち」言い換えれば『隣接業界への進出組』よりかは自分から志願して「なりたい」と行ってきた側を優遇してくれました。

 

 おかげでIS適正ランク【E】で、「動くには動くけど、動かせるだけ」な私がテストの成績だけを理由に何の問題もなく超エリート校に入学する事が出来ましたよ、HAHAHA・・・・・・はぁ。

 

 

 ―――まぁ、正直に白状しちゃいますけども。

 そうまでして読んだ事もない原作に関わりたいと思った理由は、原作関係なかったりするんですけどね?

 

 私が原作の舞台であるIS学園入学にこだわった理由は一つだけ。

 与えられた知識の中に原作知識とは違う、別の異分子について記されていたのが気になって仕方がなかったと言うだけが理由。

 

 

(どうやらこの世界・・・・・・“もう一人の私”がいるみたいなんですよねぇ・・・・・・)

 

 

 私と異なり、積極的に原作介入してくる道を選んだという“もう一人”の私。

 その方とお会いして、出来れば話してみたいものだと思ったから今の私はここにいます。

 このIS学園に、私は自分と違う自分と対話するためだけに入学を目指して今まで努力し続けてきたのですから――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私が《インフィニット・ストラトス》の世界に転生してから十六年の月日が流れています。

 すでに今の私には前世でクズだった男子高校生としての自我は欠片ほども残っておらず、残しておらず、残しておいてやる価値もなく。

 完全にこの世界の住人の一人、異泉(いずみ)セルシアと言う名を持つ少女として第二の人生を送っています。

 

 生前には残念ながら読む機会のなかった《インフィニット・ストラトス》の原作小説。そのため所謂「原作知識」とも呼ばれている転生主人公のみが持つアドバンテージは、ほとんど持っておりません。

 せいぜいが、死んだ直後の一度しか会った事のない転生の神様とやらから与えられた原作主人公とヒロイン達の名前と出自、《IS》という存在に関して歴史に与えた情報を他者より先行して知ってたぐらいです。

 

 ――ですが、それが何だというのでしょう?

 子供だから、やっても何も出来ないからと『白騎士事件』を初めとした世の中の悪しき変化を黙ってみているだけの傍観者で居続けるなら共犯と変わりません。いや、こうなると知っていて黙って座視するだけならもっと悪いと断言できます。

 

 知識を与えてらっただけの小賢しい民間人のガキが知ってたぐらいで変えられる未来なんてある訳もない。そんな事は自明の事です、考えるまでもありません。

 他人の手により結果が確定されているならば、そんな結果を気にする事自体に価値がない。変えられないものならば、無視して変えられるところをできる限り良い方向に変えていけるよう努力すればいいだけの事。

 

 『やっても出来ない結果』と、『やっても無駄だからやらない自分の心』は別次元の問題なのですから。

 

 とは言え、確定された未来という歴史の修正力は異分子一人が紛れ込んだだけで大きく変えられるものではなかったらしく、IS世界は何の問題もなく原作通りの物語開始が可能なところまで進行して、今に至ってしまった。・・・完全な敗北です。分かりきっていた結果とは言え、やはり腹立たしさは拭いきれませんね・・・。

 

 

 本来は凡人として生まれ変わった私が倍率一万倍のIS学園に入学できたのも、偏に転生者故の転生特典であるチートを与えてもらってたから―――では、無論ありません。確定された未来が気にくわないので否定する。その為の道具を否定する世界から与えてもらってどうするのです?

 別に『自分の力でやらなければどうのこうの』とつまらない形式論にはこだわる気はありませんけど、敵から与えられた強力な兵器なんて敵に利用される主人公の定番ネタでしょう? 嫌ですよ、そんなの。だって今度こそは負けたくないんですもの。

 結局私は転生の神様から提案されたチートを謝絶し、転生者故に生まれ持っていた高校生としての知識と確立された自我を活用して自分を鍛える事に専念しました。

 

 一般論として子供というものは、自分が興味を持ったこと以外に習い事をやらせても長続きすることができず、訓練の理屈も理解できないために効率的なトレーニングも身体強化も上手くいかない事が多いと言われています。

 吸収の早い幼少期の鍛錬が有効だと言われているのに、なかなか実践できないのはそれが主な原因です。

 

 ですが、転生者にその心配は無用です。むしろ、人にもよりますけど知識量では教える側を凌駕している場合だって無いとは言えないでしょう。・・・転生後の私の家庭がそうであったようにね。

 

 最初からIS時代が来ると分かった上で、それに対抗する力を得るためという目的を持って訓練を積めば凡人でさえIS学園に入学する事が可能となります。無論、適正は必要ですが、所詮は数の違いです。

 発見時に数値の高かった者を優先的に育成して鍛え上げられたのが国家代表および代表候補生。ならば独学だろうと彼女たちが適性を発見される前より訓練を始めておけば追い抜くのは無理でも追いつくぐらいは可能なはず。そう信じて今まで努力しながら生きてきました。

 

 それが実った結果としての、IS学園入試試験三位で突破という数字です。

 

 

 ・・・・・・別に、IS社会を壊したい訳じゃないですけれど。女尊男卑を奉ずる人たちの支配を滅ぼしたいほど憎らしい訳でもないですけれど。

 

 

 ―――気に食いません。ええ、とっても。心の底からイライラが湧き上がってきて我慢しきれない程度には。

 

 

 今を時代を創ったISは、女性しか動かせないから女に生まれさえすれば偉い。たとえ自分に適性が発見されていなかろうとも、同じ性別の会った事もない別の誰かが世の中を変えれて偉くてスゴいと誰もが賞賛してるから、一般論として男より女の方が優れている事になっているから。

 

 そんなものは権威に縋り虎の威を借るバカネズミの生き方です。そんな生き方は認めません。誰がどう言おうと絶対にです。

 自分の努力と成果で得た訳でもなく、なけなしの知恵で詭弁を考えようともせず、只生まれの権威と威光によってのみ自らの行為を正当化しようとする恥知らずと同じ生き方だけは絶対にするわけにはいかないのです。

 

 

 ―――まぁ、素直にぶっちゃけちゃいますとね?

 そうまでして読んだ事もない原作に関わりたいと思った理由は、ただイラついたってだけなんですよね。この世界に生きる人たちの生き方が。

 

 

 失われた男性優位の固定概念を懐かしみ、身近な女子をいびる事で一時の夢に浸かりたいだけの臆病で他力本願な男達の生き方も。

 自分より優れたIS操縦者に感じる劣等感を、男達を見下す事で誤魔化そうとする女性達の生き方も。

 

 

 何もかもが気に食いません。

 そりゃもう、吐き気をもよおすほどに。

 

 だから否定します。拒絶します。私は嫌いな社会の在り方に従いたくないから力を求めて強くなろうと志したんです。絶対に彼ら彼女らのようには成る訳にはいかない。絶対に・・・です。

 

 

(そう言えばこの世界には・・・・・・“もう一人の私”がいるんでしたっけかね・・・?)

 

 

 私と異なり、積極的に原作介入してくることはない道を選んだという“もう一人”の私。

 その方とお会いして、私は彼女に何を言うのか興味はあります。出来れば話してみたいものだと思わなくもないのです。

 

 尤も。・・・逆に言えば“その程度の興味”しかないのも事実ではありますけども。

 

 このIS学園に、私は自分と違う自分とは異なる目的で入学してきたのですから――――

 

 

 

「清流中学から来ました、異泉セレシアです。日本の代表候補末席に連ならせてもらっています」

 

 もう一人の私が、自己紹介をしています。

 出席番号順に並べられた席順のため、「い」の次に「ず」が来る彼女は私のすぐ後ろに位置してしまって顔を見ることは出来ませんでしたが、明らかに自分だと分かる不思議な声音を持っておりました。

 

「とは言え、機体は旧式で適性テストでも『B』判定までしか頂いておりませんし、待遇の面でも下位に属しています。皆さん方との違いは、知識と経験の有無だけでしかないと認識していますので、専用機持ちで代表候補だからと特別視することなく普通に接して頂けると嬉しいです」

 

 ・・・まぁ、嘘偽りなき素直な本心を吐露するならば「私ってこんな声してたんだー、へぇ~」とかの平凡極まる感想で大勢は占められてたんですけどね。いいんですよ別に。実際に凡人なのが私なのですから。

 

 

「趣味は読書で、好きな物は歴史。嫌いなものは―――“女尊男卑”です」

 

 

 ザワっと、彼女の放った一言で場が揺らぎます。・・・これはまた私らしいと言うか、もう一人の私だからこそと言うべきなのか・・・初手から強烈なジャブを繰り出してくる方ですねぇ・・・。

 

 

「ISが男性より強いのは機械の力であって、自らの努力と成果で勝ち得たものではないと言うのが私の考え方です。

 他者の権威を笠に着て目下にいびり散らすのは人として最も恥ずべき事であり、日々上を目指して鍛錬し続けているであろう代表の方々に対して失礼に当たると認識していますので、出来ましたらその手の発言は私のいないところでして頂けたら助かります。・・・恥ずかしながら感情を制御しきれない未熟者の身ですので・・・以上です」

 

 そう締めくくって席に着いたらしい彼女。

 なんと言うかこう・・・・・・物凄ーく個性的な方なんですねぇ~、もう一人の私って。

 

 

 ――生まれ変わってから十数年。待ちに待ったIS学園入学の日。

 より正しくは、『もう一人の自分に会えるかも知れない場所に行けるようになる日』ですが、日付自体は同日同時刻同じ場所ですので問題ありませんよね? うん、そういう事にしておきましょう。正直、面倒くさいです。

 

 割り振られたクラスの教室で自らの席に座り、もう一人の自分が来るのを今か今かと待っている間に人が増えてきて、気づかぬうちに着席されておりました。・・・無念です!

 

 ま、いいや。

 休み時間にでも話しかけてみようかと重い直し、自分の分の自己紹介を適当に終えてからは背後から聞こえてくる声に一喜一憂しながら聞き入っていた私ですが(顔がデフォルトで無表情なので外から見ても分かり難いですけどね~)う~ん・・・ちょっとこの性格は・・・・・・ヨソウガイスギルです。

 

 元が私と同一人物なのですし、もうちょっと適当なのをイメージしてたんですが・・・何でしょう? なんと評すればいいのでしょう? たとえるならば―――そう!

 

 私が前世からずっと大好きなままの小説『銀河英雄伝説』に出てくるキャラの中から尊敬する師匠に“ヤン・ウェンリーじゃなくて“ラインハルト様”を選んでたらこうなったかもしれないと、そんな風な感慨を抱かされるタイプの御仁。

 

 ・・・ハッキリ言って、仲良くやっていける自信が沸いてこないタイプの人です・・・。

 大丈夫ですよね、私? ヤン提督にデレデレになって戦争吹っ掛けまられたラインハルト様との関係性だけは真似して欲しくないのですけども・・・。

 

 

 

 

 

 

「布津中学から来ました、異住セレニアです。入学直後から整備科を志望している変わり者ですが、よろしくお願い致します」

 

 もう一人の私が、自己紹介をしています。

 出席番号順に並べられた席順のため、「い」の次に「す」が来る彼女は私のすぐ前の席であり、後ろに位置してしまった私から顔を見ることは出来ません。ただ、明らかに自分だと分かる不思議な声音を持っている方ではありました。

 

「その為、操縦者としての技量はハッキリ言ってザコ以下です。そちらの方では何のお役にも立てないことを先に謝らせておいてください。代わりと言ってはなんですが整備科志望などで知識面ではお役に立てることがありかも知れません。その時は一声掛けて頂けると嬉しいです」

 

 

 ・・・まぁ、率直な表現で本心を表すなら「どうでもいい」と言うのが私の本音ではありましたが。

 基よりここに来たかった目的の時点で、彼女は“おまけ”でしかありません。蔑ろにする気はありませんが、特別意識するほどでもないでしょう。

 

 つまりは、その程度のものだと言うことです。

 

 

「趣味は読書で、好きな物は歴史。あと、人と話すのが比較的好きです。下手ですけどね」

 

 

 くすりと、彼女の放った一言で場が和みます。・・・これはまた私らしくないと言うか、もう一人の私だからこそと言うべきなのか・・・初手から自分の弱点を隠すことなく晒してくる人ですねぇ・・・。

 

 

「自分に力も才能も無いですので、何をするにも人の助けを必要とするザコなものですから、自然と人に話しかける機会が多くなり今に至ってます。口調がバカ丁寧なのもそれが理由です。

 とは言え、性格自体は結構キツメと言われることが多いですし、自分より目上の方に対して失礼に当たることを言ってしまうことが多いのも自覚しております。

 ですので、その手の発言が苦手な方がおられましたら、あまり私には関わってこない方がよろしいかも知れません。

 偉そうな口を利いたところで所詮は私も、感情の動物でしかない人間なものですから・・・」

 

 

 そう締めくくり、席に着く彼女。

 なんと言うかこう・・・・・・非情に個性的な方なんですね、もう一人の私って。

 

 

 ――生まれ変わってから十数年。待ちに待ったIS学園入学の日に出会った、もう一人の私。

 より正しくは、『たまたま生まれ変わった世界のメイン舞台が同じだっただけの相手と出会った日』でしかありませんが、日付自体は同日同時刻同じ場所ですので問題ありません。そういう事にしておきましょう。正直言って、どうでもいいです面倒くさい。

 

 割り振られたクラスの教室で自らの席に座り、授業が始まるのをボンヤリと待っている間に着席していたもう一人の私。

 

 ま、いいやと気にすることなく、自分の前に自己紹介をおこない始めた相手の話を適当に聞き終いていた私ですが(顔がデフォルトで無表情なので外から見ても分かり難いですけどね)ふむ・・・ちょっとこの性格は想像の斜め上を行ってましたね。

 

 元が私と同一人物なのですから、もう少しこう、ダラケた前世を生きた自分を律しようとしている姿をイメージしてたんですが・・・何でしょう? なんと評すればいいのでしょう?

 たとえるとするなら、そうですね――――

 

 私が前世からずっと大好きなままの小説『銀河英雄伝説』に出てくるキャラの中から尊敬する師匠に“ラインハルト・フォン・ローエングラム”ではなくて、“ヤン・ウェンリー”を選んでいたらこうなったかもしれない、そんな風な感慨を抱かされるタイプの人物です。

 

 ハッキリ言って仲良くやっていきたいと願うほどの人物か否か、ヒドく微妙な印象です。

 彼女は本当に大丈夫なのでしょうか? 士官学校の主席卒業生として凡才に負ける訳にはいかないと妙なライバル意識を持って同盟軍を破滅させたフォーク准将みたいなのを生む要因にならなければよいのですが。

 

 

つづく?

 

 

主人公たちの設定:

異住セレニア

 元祖言霊少女。設定は本編と基本的に同じ。銀髪碧眼。

 銀河英雄伝説のヤン・ウェンリーを初めとした同盟側キャラに心引かれる16歳

 ただし、戦争に至らない世界観とセルシアの存在によって、語り部っぽい存在になってしまってる。

 セルシアと原作キャラたちとの仲介役もやらざるをえない性格のため苦労が絶えない所まで同じという胃痛の申し子。

 言葉と力で原作キャラを打ちのめしてくるセルシアのフォローもするけど、逆効果になる事が多いのまで同じなのは如何なものだろうか?

 

「他人と自分は違う人間なのですから」を基調とする『理解』の信念を持っている。 

 自分の夢を叶えるために人と自分の違いを知りたがり、理解したがる変な性癖の持ち主。

 

 

異泉セルシア

 新たな言霊少女。セレニアの前世とは異なる世界線にある現代日本から来た転生者の少女。

 金髪赤目で、目つきがキツすぎる点以外の外見設定はほぼ同じ。

 銀河英雄伝説のラインハルトを初めとする帝国側キャラに敬意を抱く16歳。

 前世では好み全般が帝国側に影響されたものである以外はほとんど同じ人生を生きて、死後の転生時に分岐した。

 性格的事情と相まって家庭環境はお世辞にも良いとは言えない。が、気にしてもいない。

 気の合わない相手には役割に応じた性能だけを求める性格の持ち主。

 気性故なのか、生まれ持った才能はセレニアより遙かに高く、才能を努力と知識による効率的なトレーニングで伸ばし続けてきた。

 転生特典であるチートを拒絶したため、適正ランクは《B》。それが原因で専用機は与えられていないが、実力的には代表候補たちとほぼ同格。

 自他共に厳しいのは同じで、自分への自己評価が低いのも同じだが、己の表現の仕方がまったく異なり積極性に溢れている。

 今作では戦闘面で原作キャラを否定する役割を持つ。特殊能力などの機能は一切信用しておらず、実績のある剣と銃のみで戦う異質なIS操縦者。

 

「他人と自分は違う人間なのだから」を基調とする『拒絶』の信念を持っている。

 自分の正しさを証明するため他人を否定する外道はしないが、他人の価値観を押し付けられたと判断したときには過剰なほど激しく拒絶する性質の持ち主。



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IS学園の言霊少女セシリア鈴ルート 2話目

タイトル通りの意味ですな。折角なので初っ端から飛ばしまくってみました。バトルは重視せずに恋愛メインだと何かと楽でいい♪

百合ラブコメ版IS学園の言霊少女の戦いはここからだ!(爆)


 IS学園1年1組所属、イギリス代表候補生セシリア・オルコット。

 誇り高き英国貴族の令嬢。三年前に両親を事故で亡くして以来、遺産を狙うハイエナたちから親の残してくれた家と財産を守り抜くため人一倍の努力を重ねてきた少女。

 居丈高な物言いに相応しい才能を持つ天才でありながら、向上心を捨てない努力家でもある。

 

 一方で、自分と同等の地位にある者には同等の成果と努力を求めるのを当然と考えるなど、やや自分本位な考え方を持ち、気位の高さ故に素直になれない地位身分の高さを持っている。

 人になにかを教える際には感覚ではなく数字と数式で教えようとするため、教えを理解するには彼女に準ずるレベルの演算能力を必要としてしまい、大半の人間には理解が難しい。

 

 生来は心優しい少女であるらしく、初心者には率先して教えに行こうとするなど親切なのだが素直でないところもあって、つい喧嘩腰になりやすく見た目に反して喧嘩っ早いなどの欠点も多く持つ。

 

 

 ――――要するに、“ボッチ”である。他意はない。悪意的評価でもない。

 

 ただ、事実として彼女と上手くやっていけるかどうかは相手の努力に依存する部分が多く、「コイツはこう言う奴なんだ」と思ってもらえるかどうかが大きなウェイトを占めてしまう。それだけだ。それ以外の他意は微塵もない。

 

 

 

 そのセシリア・オルコットが今、とある人物の自己紹介している姿に目を奪われた。

 

 

「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 

 そんな平凡極まる無難な挨拶をして、微妙に引き攣った笑顔を浮かべながら頭を下げる少年。

 

 ―――の、後に続いて入ってきた1組担任の織斑千冬先生に抱かれて真っ赤になってる年下としか思えない小さくて、バストサイズの大きな女の子。

 

 

「い、異住セレニアです。先ほど紹介があったらしい織斑一夏の家で養子になってる非保護者です。

 ・・・えっとぉ・・・・・・すみません、極めて私的なお願い事になりますけど、先ほどの赤っ恥な光景について出来れば皆さんの記憶から削除しておいてください。お願いします」

 

 そう言って、ペコリと頭を下げた少女に誰にともなく「カワイイ・・・」とつぶやく声が漏れ聞こえてきたが、むしろ当然の反応なので誰も特になんとも思わない。

 

 確かに彼女はカワイイ見た目をしている。言動も義兄よりかはずっと礼儀正しく見えるし、悪印象を抱くべき理由は何もない。だから第一印象が好意的になるのは普通の事だろう。

 

 ――ただ、今の自分が相手の少女に抱いているモヤモヤした好意の質と量を『普通』の一言で済ませていいのか否か、それについて経験のない彼女には判別できなかったのである。

 

 

 セシリア・オルコット、16歳。イギリスの代表候補生にして専用機持ち。

 ・・・・・・彼女が味わう一目惚れと初恋の味は、甘く耽美な百合の味と香りに満ちていた――。

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 昔ながらのポピュラーソングも斯くやと評すべき時代遅れな授業終了を告げる鐘の音が響き渡り、織斑一夏の周囲に人集りができていくのを授業中と同じように、セシリア・オルコットは落ち着かない気持ちで見守っていた。

 

 

「ねぇねぇ、織斑君ってさ―――」

「好みのタイプの女の事とかさ―――」

「興味のあるアイドル歌手とかさ―――」

 

 

 ――そんな愚にも付かない同性同士でやれよとしか言いようのない話題を持ち寄っては、人間をパンダ扱いして平然としていられる日本人の倫理観に疑問を抱かせられながらも、彼女の視点は輪の中心である織斑一夏にはない。その直ぐ隣に座った小さな銀色の影の方に向けられて固定されていた。

 

 

「そう言えばセレニアちゃん。一夏君って、家では何やって過ごしているのかな?」

「一夏君と兄妹水入らずで遊んだりしてるの?」

「一夏君と一緒に手をつないでお買い物とかするの?」

 

 

 ・・・・・・セレニアに話しかけていながら、話題に出すのは兄の事ばかり。妹は添え物か、インタビュアー扱いだ。

 それらの声にセレニアは迷惑と感じているのは明らかだったが、そもそもにおいて義兄が質問攻勢に意味のある答えを返せていない状態があるから自分にお鉢が回ってきている事を自覚しているようなので、イヤだと感じていながらも嫌がる事なく懇切丁寧に質問には答えてやり、突っ込んだ質問に対してはやんわりと回答を拒否したり、姉の名を持ちだして軽く脅迫したりするなど上手い具合に処理し続けていた。

 義妹が雑音の大部分を引き受けているからなのか、織斑一夏の側にも余裕が生まれて大事な質問にだけはキチンと答えられるようになっている。

 

 良い兄妹の関係性だ。普通ならそう考えるべき心温まる光景だっただろう。

 だが、今の彼女には違う風に見えていた。

 

 妹にフォローされながら、ぎこちない愛想笑いを浮かべて野次馬根性で集まってくるクラスメイトに応対している一夏の姿にセシリアは、今は亡き父親の姿を連想させられていたのだ。

 

(・・・女の背に隠れて守られながら生きていこうとする情けない男の眼差し。まるで母の顔色ばかりうかがっていた、父のような人ですわね。嫌いですわ、こう言う殿方って)

 

 正直、この手合いは苦手だった

 

 彼女の父は名家に婿入りしてきた人物で、母に多くの引け目を感じていたのだろう。幼少の頃よりセシリアは母の影に怯える父親の背中を見て育ってきた。

 それが彼女の中で一般的な男尊女卑とは異なる思想、『強くて負けない男』と『女無しでは一人で立てない情けない男』の二種類に男性を別ける両極端な好みを植え付けさせていたのである。幼心に『将来は情けない男とは結婚しない』と心に誓うほど、それは純粋で強固で思い込みの激しい思想だった。

 

 

(ISを使えると言うだけで女性全般が男より強くなったと勘違いして努力しなくなった世の女性達。そんな情けない女に媚びを売る事で生きていこうとする情けない男達。

 どちらもIS操縦者であればみんな偉い、特別な才能を持った特権階級だと褒めるフリして見下してきている輩ばかりです。才能があっても努力をしなければ活かせないという常識を認めようとしないまま、何もしない自分を才能のせいにする怠け者達ばかり。嫌気がさしますわ))

 

 IS操縦者は原則女しかなれない。だからといって、その威を借りて威張り散らすのも、虎の威を狩るネズミに従うしかないのも違うでしょう?

 権力が強者故の傲慢なら、すり寄るのは怠惰でいたがる弱者の甘えです。

 立ち止まって上を見上げず、下を見下ろすだけになった人間は、男だろうと女だろうと醜い豚に成り下がるのだから・・・・・・。

 

 

(――そして何より! セレニアさんにあれほど細かく説明してもらえるほど親しい時間を過ごしてきたという事実がモヤッとしますわ!モヤッと! なんかこう・・・モニョモニュしたくなるんですわよ!モニョモニョと!)

 

 セシリア・オルコット、結局そこに行き着く。要するに『嫉妬』である。

 所詮、人間なんて感情の動物でしかない生き物さー。

 

(こうなったら、どちらが格上の存在かハッキリと示して差し上げましょう! セレニアさんの前で! ええ、セレニアさんの目の前で分かり易いようにハッキリと!ですわね!

 ちょうど相手は初心者で、わたくしは代表候補生という肩書きがありますし、新人に乗り方をレクチャーしてあげるという形でならごくごく自然に格の違いと実力および知識量の差。

 そして何より、わたくしの格好良さとスゴさと将来性有望な嫁ぎ先候補ナンバー1である事実が、誰の目にも明らかなほどハッキリと解るはず!)

 

 そこまで考えて、ハッと気付いたセシリアは予防線を張るのも忘れない。

 

(で、でも勘違いしないでくださいましね!? わたくしがセレニアさんに強調したいのは将来的に結婚して子供とかを作った後に関係してくる将来性であって、今のわたくしが彼女のオッパイをモニュモニュしたいとかそう言うよこしまで淫らな想いをしている訳ではないのですから! そこのところは誤解なさいませんように!!)

 

 

 ・・・・・・いったい、どこら辺をどう誤解すればいいのか教えてもらいたくなるほど自らの欲望に素直に従って、セシリアは征く。織斑一夏の座する席上へ。

 

 この後、色々あって原作通りの展開になり一週間後の決着の日まで彼女は織斑家兄妹とは敵味方に分かれたまま距離を置いて過ごす事になるのだが。

 

 ただでさえボッチな彼女に、自分たちのホームである日本をバカにされたことで根に持ったクラスの日本人生徒(大部分)からハブられるようになり、一週間後の月曜日まで便所飯、屋上で一人飯、校舎裏の人気のない空きスペースで風を受けながらボッチ理論について思いを馳せるボッチライフを満喫する事になる確定された未来の事実を。

 

 今を勇ましく征く彼女はまだ知らない。

 

 なぜなら人は可能性上の未来ではなくて、今という刻を現在進行形で生きる生物なのだから・・・・・・。

 

つづく



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IS学園の言霊少女REスタート「プロローグ」

以前から考えていた「言霊IS」のリメイク作です。
ただ、完成してみたら悪意が結構出ちゃってましたので書き直そうと思い、折角なのでこちらに出しました。暇潰しにでもどうぞ。


「異住セレニアです。都内にある○○中から来ました。一年間どうぞよろしく」

 

 私は型どおりの挨拶を終え、席に着き視線を前へと戻します。

 自己紹介した相手である今日からクラスメイトとなった女子生徒たちから儀礼的にまばらな拍手が送られ、それで終わり。

 

 ま、特に注目される謂われのない普通の新入生の自己紹介なんてこんなものです。こんなもので十分なんでね。

 

「え~と~、私の名前は井上美香でぇー、趣味はハムスターの飼育とぉ、株取引ぃ? みたいなー♪」

 

 次の番に自己紹介始めた後ろの席の人が盛大に受け狙って、盛大に滑りまくっているのを実感しながら、私は今の自分と今までの自分が歩んできた『第二の人生』を振り返る作業で暇潰しをしておりました。

 

 ――失礼、皆様方には自己紹介が遅れましたね。

 私の名前は『異住セレニア』。ライトノベル《インフィニット・ストラトス》の世界に生まれ変わった転生者であり、元は現代日本で男子高校生をしていた元男のTS転生者でもあります。

 

 交通事故で死んだ後、転生の神様に会ったのか会ってないのかよくは分からないまま、気がついたらこの世界で一人の女児としてオギャーオギャーと泣いておりました。当時のことはあんまり覚えてませんが、前世の記憶だけは鮮明です。転生者のミステリー。

 

 なにはともあれ、私は十六歳になる今日まで優しい父と母に育てられた後、物語の舞台となるIS学園―――世界で唯一のIS操縦者育成学校へと入学してきて、今は入学式が終わった直後。割り振られた教室で自己紹介の真っ最中なのです。

 

 IS。作品タイトルにも使われている正式名称は《インフィミット・ストラトス》。

 十年と少し前に開発されたパワード・スーツで、この世界観では世の中をひっくり返した大事件の中心にあったことで知られる機械の鎧。

 このIS学園は、そのISを纏って敵と戦い競い合う、戦争ではなくスポーツとしてのISバトル選手育成機関として設立された日本にある国立高校。

 

 

 私がこの学園に来たのは、転生者故のチートを活かすため・・・ではなくて、原作知識を活用した救済目的・・・でもなくて。

 

 ぶっちゃけ、学費無料なエリート国立高校っていう博付けとお金目的だけだったりしましてね? タダですむなら親が楽できていいなと。

 どのみちIS操縦者になるには高い適正値が必要不可欠で、私は中でも特段に低い『Eランク』。極めて珍しく世界初でもあるらしいのですが、珍しいだけじゃねぇ。

 

 入学許可が下りるには足りないことは分かってましたから、私が学んだのは整備課関係の科目。

 日の当たる操縦者に憧れて日陰者扱いされてる整備課志望の人は少ないので、入学直後から目指してくれるのは有り難いらしく、普通にペーパーテストだけで合格決めてもらえました。実機の操縦は「動かせりゃ資格的には問題ない」とのことでした。・・・ISの絶対数が限られてるせいか、競争は思ったよりも激しそうな学校だな。

 

 ISに関する資料は、『とある伝手』を通じて早期から入手できていたというのも大きかったのでしょう。「筆記では」という前提条件がつきますけど、私の成績は概ね高水準には達していられたようで一安心です。ふう。

 

 

「えー・・・・・・っと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 そんなことを考えていた私の耳に、隣に座る生徒が立ち上がって自己紹介する声が届いてきたので顔を向けます。

 端正な顔立ちをした少年が、困ったような笑顔を浮かべて立っています。

 

 基本、女性しか動かせないはずのISを起動させたことから、特例で完全女子校制のIS学園に入学してきた男子生徒――パワード・スーツ物の定番ですよね。

 

 この物語本来の主人公、織斑一夏さん。彼がその人、本人でした。

 

 

「――以上です」

 

 がたたっ。・・・織斑さんによる期待外れの挨拶に数人の女子がずっこける音が教室内に響いて、私は一人こっそりとため息。

 ――この人たちは、一体何を期待してたんでしょうかね・・・? 特別な地位に就く人には、普通とは違う特別な何かを持っているだろうと実物と会う前から決めつける権威主義的思考が苦手な私は、こういう場面だと困るぐらいしかできないんですよねー。

 

 特別だろうと天才だろうと、所詮は同じ人間です。そこまで自分たちと比べて異なるナニカを期待する方がどうかしてると私なら思って当然なのですが・・・つくづくよく分からん。

 

 

「・・・・・・(に、にこっ)」

「・・・・・・(ぺこり)」

 

 挨拶が終わって席に着いた織斑さんと目が合ったので、とりあえず互いに目礼と一礼。

 相手はぎこちない笑顔で微笑し、私は生まれ変わって以来どうにも変化が乏しくなった顔の表情筋は動かすことなく頭を下げます。

 

 パアンッ!

 

「いっ―――!?」

「馬鹿者。おまえは挨拶も満足にできんのか」

 

 そして、織斑さんの実姉という設定を持つ美人教師の織斑千冬先生が登場し、挨拶が下手だった弟さん主人公に愛のある修正ツッコミ。親にも殴られたことない坊やを殴った木馬の艦長さんよりかは随分とお優しい対応です。やはり戦時下の軍人と平時の鬼教師役とでは桁が違うのかもしれませんね。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ。わかったな?」

 

 織斑先生のによる根性論的趣旨でのホームルーム終了の挨拶が終わり、次の授業開始へと進むことが宣言されました。

 「自分の命令だからやれ」と言われましてもねぇ・・・。機械相手ならともかく、生物相手にその手のゴリ押しは却って出来なくするだけで意味ないんですけども。

 もしやるとしたら徹底的に疲れても倒れても壊れても走らせるぐらいがちょうどいい、米陸軍みたいな訓練のやり方じゃなければ半端に終わるだけだと思います。

 

 思いますが、言いません。人それぞれの正義、人それぞれの主張、人それぞれが信じる信念です。好きにすればよろしい。従う方は出来る範囲でやるだけです。

 徹底しないと、こういう生意気なガキが生まれるだけなので、この手の手法は用法用量を学んで正しく使いましょう。以上です。

 

 

 

「あの、異住。ちょっといいか?」

「・・・?? はい、構いませんが、何のご用でしょう? 織斑さん」

 

 二時間目の授業が終わって、教室を出てお手洗いに行こうかなと席を立った私に声がかけられ、視線を向けた先にいたのはなんと織斑さん。原作主人公が、無能極まる転生少女にいったい何の用があるのでしょうね?

 

「さっきはサンキューな? おかげで助かったわ」

「・・・ああ、“アレ”のことですか」

 

 私は納得したようにうなずきながら、それでも多少の不快さを顔に出さないよう注意深くならざるを得ません。それぐらい嫌な記憶を思い出させられてしまい、相手が悪くないのに不機嫌になる寸前にまでなってしまったのですから、まだまだ私も未熟者だと言うことですかねぇ。

 

 ――先の授業中、(内容はISに関係する法律上の問題その他についてです)彼は周囲が当たり前について来れてた授業内容を全く理解することが出来ずに、副担任の山田先生に向かって「全部分からない」胸を正直に白状しました。

 

 そこまではまぁ、彼の能力面の問題でしたので不満も怒りもなかったのですが、問題はここから。

 

 彼の発言を聞いたクラスの女子一同が全員ずっこけて、織斑先生は立ち上がり、「入学前に渡した参考書は読んだのか?」と聞き、「古い電話帳と間違えて捨てた」と答えた弟さんを殴り、説教をはじめられたのですが、ここで私が待ったをかけたのです。

 

「今日のところは私が教えながら資料を一緒に見ます。その方が早いですし、先達としては後進に教えるのは義務みたいなものですから」

 

 と、適当なこと言って場を納めたことについて礼を言われているのでしょう、たぶん。

 

「別に気にすることではありません。あの場では貴方だけが悪いとされる道理がなかった、只それだけが私の動いた動機でしたから」

 

 そう、彼“だけが悪い訳じゃない”。あの場の状況は、全員の対応にいささか問題がありすぎていた。それだけです。

 

 

 ――ISは十年と少し前に起きた『白騎士事件』で世の中をひっくり返した超兵器であり、女性しか動かせない今作世界風のパワードスーツでもあります。

 

 そのため、ISを扱える者たちは一種の特権階級扱いされており、この学園にしたところで入学に必要となる倍率は1万倍以上。エリート中のエリートばかりが入学してくることが前提にある学校。

 

 当然、そこに通う者たちは初めからIS学園入学を目指していた者たちばかりであり、それに必要となる知識や教養も結構深く詳しく時間をかけて勉強してきた者たちばかりしかいません。

 

 ・・・要するにIS学園の教科書は、それぐらい知ってて当然の努力量をした超エリートが使うこと前提で作られた物。

 強制入学が決まってから一ヶ月も経ってないド素人が理解してないからと、経験者たちが『え? これぐらいのことも分からないの?』的な視線で見ていいほど、簡単な内容では決してない。

 

 自分にとって当たり前のことだからと、相手がそれを出来ないのはおかしい、バカだと言うかのような目で見下す行為が私は嫌いです。大嫌いです、吐き気がするし反吐が出る。

 

 ――何よりも前世の自分がやった愚行を思い出す・・・。

 

 あんな醜い所業をする薄汚い生き物になんて戻りたくありませんでした。だから庇ったのです。ほかに他意はありません。

 

 とはいえ。

 

「ですが、織斑さんも織斑先生から改めて次に渡された分は、丁寧に扱ってください。電話帳と見間違えたからとか言って捨てたりしちゃダメです。人からもらった物は大事にしましょうね?」

「う。は、反省しております・・・」

「よろしい」

 

 私は鷹揚にうなずいて、矛を収めます。

 ――本当は「いや、表紙のタイトル見ただけで一目瞭然なんですから電話帳と間違えたって嘘でしょ?」とか、「そもそも1ページでも開けば子供でも電話帳でないことは明白なので、見ることさえせずに捨てたのでしょう?」とか、「ぶっちゃけ、分厚かったから読む着なくして捨てたとしか思えない」などの弾劾をぶつけてみようかなとも思ったのですが・・・・・・悪口になっちゃいますからねぇ、ここまでいくと。

 

 間違いは誰にでもあり得る問題で、最初の一回目は注意と反省を促すもの。二回目からは怒るのが基本。三回目になったら少々きつめに叱り、四回目は無視していい。

 三回も間違いを指摘されて治さなかった奴は、四回目に注意すると殺されるだけだから見捨ててよいのだと、前世で大好きだった小説『銀河英雄伝説』に書いてありましたからね。

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

「へ?」

「・・・おや」

 

 会話が長引き、もうすぐ休み時間が終わるなーとか思い始めた頃に横合いから鈴の鳴るような声一つ。

 

 視線を向けるとそこにいたのは、『ゴージャス』という単語がよく似合いそうなお嬢様風の金髪美人。

 彼女を見た私の脳内で、原作知識が囁きます。

 

 

 ――バトル物の定番、主人公の初陣相手のお嬢様優等生が現れた!

 『セシリア・オルコット』が絡んできた!!――

 

 

 ・・・・・・何年付き合っても慣れることの出来ない、ゲーム風の状況解説原作知識供与。

 これって本当にバージョンアップとかできませんか? もしくはクーリングオフでも可。

 

 

 ぶっちゃけ、割と本気で超ウザったいのでね?

 

つづく

 

 

『オマケ』

 

セレニア「そういえば織斑先生、質問があるんですけども?」

 

千冬「ほう、お前が質問とは珍しいな。なんだ? 言ってみるがいい」

 

セレニア「では、お言葉に甘えて。――IS学園の席順ってどういう基準で決められてるんですか? 点呼するときは出席番号順でしたけど、『お』の織斑さんが真ん中の最前列に位置してたり、『し』の篠ノ之さんが窓際の席にいたりして規則性がいまいち見いだせないのですが・・・」

 

みんな『あっ!?』

 

千冬「・・・・・・えー、その件についてはだな・・・私は知らん! 学園執行部に聞け!!」

 

みんな『やだ、スゴく格好いい言い方! でも言ってる内容は説明責任の放棄だわ!?』

 

セレニア「・・・・・・(ロックウェル大将~(ToT))」

 

*千冬の発言によりIS世界の日本と自由惑星同盟がダブって見えて落ち込むセレニア。

 実は自由惑星同盟が日本の未来っぽくて少しだけ苦手な今作主人公です。



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IS学園の言霊少女・REスタート第1話

新作言霊の没ネタです。
1話目となっていますが、プロローグが前にありますので実質2話目です。
最初から読みたい方は1話前までお戻りください。


 ――セシリア・オルコット。

 イギリスの貴族令嬢にして代表候補生。専用機持ち。

 プライドが高くて素直じゃない。

 

 

『・・・と、こんなん出ましたけど?』

 

 そうですかい・・・。

 私は内心だけで溜息をつき、頭の中に直接語りかけてきている原作知識供与システム、つまりはリムル様の『大賢者』私版的存在に返事をしました。声は出さずに、でしたけども。

 

 転生特典として与えられた物なのか何なのかよく分かりませんけれど、とにかく彼だか彼女だかの名前は『アカシック・レコード』さん。

 何かと頭の中に直接語りかけてきて補足説明してくれるナビゲートシステム。どうして名称がクトゥルー神話から来ているのかは不明。・・・前世から今生までの間に何かあったのかな?

 まぁ、とにかくそう言うもんだと思っといてください。

 

 ちなみにですが彼(彼女?)が、私にISについて資料提供してくれてた『とある伝手』ではありません。別の人間として実在してる方が其れです。

 

 アカシック・レコードさんは気紛れらしく、呼んでもないのに出てくるときは出てきますし、出てこないときは返事すらしてくれません。なので困ったときに使えるとは限らないから信頼性に欠ける欠陥品なのです。利便性も微妙ですしね。

 求めたときに必ず持ってそうな人が側にいるなら、その人と仲良くしておいた方が便利で頼りになり安心も出来る。

 

 つまりは所詮、人が最後に頼れるのは己の努力で培ってきた技術のみと言うことなのでしょうね。特別な力とかリスク有りの高性能機とかそんなんじゃなくて、今まで自分を助けてくれた技術のみ。

 ――そんなことを前世で読んだ小説の中で見たものですからね~。『モ・マーダー』さんはあの本の中で今でも元気に過ごしては・・・おられませんよね、彼の死が物語り上けっこう重要なんだし当然かぁ-。

 

 

「訊いてます? お返事は?」

 

 うわっ、ボーッとしてたら怒られました! これは完全無欠に私が悪いので謝っといた方がいいですよね?

 

「あ、ああ。訊いてるけど・・・どういう用件だ?」

「まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

 ああ、なんだ。私じゃなくて話しかけてきてたのは、織斑さんの方だけでしたか。ああ良かった・・・良いのかな? 相手の意図はともかく、返事しないで沈思黙考したまま結果的に無視してたのは事実なのですし、謝っとくのが人の道のような気が・・・うぅむ~・・・。

 

「悪いな。俺、君が誰かしらないんだ」

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

 そんな風に私が一人で考え込んでいる間に会話が進んじゃってたみたいですね。なんか話題の雲行きが怪しくなってきてるみたいですし。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

 

 がたたっ。・・・またしても話が聞こえてたらしいクラスの女子数名がずっこける音が聞こえてきました。今度のはさすがに私もフォローし切れそうにありませんな・・・」

 

「・・・織斑さん、代表候補とは読んで字のごとく代表選手の候補を指す意味での言葉です。その前にイギリスが付いているのですから、イギリス代表の候補のことですよ。ちょっと考えれば分かることでしょう?」

「そう言われればそうだ。簡単なことほど見落としやすいって本当なんだな」

 

 こりゃウッカリだ、とでも言い足しそうな横顔で告げる織斑さんに、今度は私まで冷たい目を向けてしまいます。

 

「織斑さん? 考えれば分かることを知らなかったのに、開き直ったりしちゃダメです。無知は罪ではないと思いますけど、知ろうとする努力を貶めるような言い方は悪です。貴方のためにもなりません。出来れば今後はお控えのほどを・・・」

「お、おう。・・・なんか気を遣わせちまったみたいで、すまんな? セレニア」

「いえまぁ、別にいいんですけども・・・」

 

 つか、一番謝らないといけないのは目の前で無視されて雑談されてしまったオルコットさんなのでね?

 ほら、頭から湯気が出そうになってますし、ここは恐縮して見せながら謝罪して「どうぞ続きを」と会話の主導権をお返しすることで矛を収めていただいた次第。

 自分に非があるときは素直に謝っとくのが一番効率的な人の道です。

 

「すみません、オルコットさん。お話の邪魔しちゃって・・・どうぞ続きを」

「・・・コホン。まあいいでしょう」

 

 とりあえず謝罪は受け入れてもらえたみたいです。

 

「そう! 国家代表候補生は国家代表IS操縦者の候補生として選出されるエリートのことですわ! エリートなのですわよ!」

 

 エリート自慢。なんとなくジェリド中尉を思い出して、佐々木只三郎さんには結びつかない辺りは自分の中の偏りを意識させられざるを得ない今日の私です。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「・・・・・・馬鹿にしてますの?」

 

 うん。それは私も思いました。って、ゆーか絶対バカにされてましたよね? 今の言い方だと。

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。唯一男で操縦できると聞いてましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど期待外れですわね」

 

 そして、オルコットさんはオルコットさんで挑発台詞としか思えない言い方を選んで来やがってきますし・・・。

 つか、彼が強制入学させられた身であることは、先の授業で織斑先生とのやりとりを訊いてれば分かるような気がしますし、才能のあるなしに知性が関係してくるとは思えません。

 

「人格と能力とを混同するのは一番愚劣な行為」と、シェーンコップ准将もおっしゃってましたからねぇ~。

 

『まさか人格が優れてた方が、トマホークの振り回し合いで勝つなんて思ってやしないだろうな?』

 

 ・・・いい言葉でしたよねぇ。感動しました。――それからしばらくは大河ドラマとか見るのが苦手になったほどに。正しけりゃいいってもんじゃないと思い知らされた中二の夜。

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。

 ――ISのことでわからないことがあれば、まあ・・・泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 ああ、なんだ。そういうことですか。なるほど、これは確かに『プライドが高くて素直じゃない』ですね。アカシック・レコードさん?

 

 ――Yes!

 

・・・なんで『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』の黒ウサギさん風に・・・まぁ、いいでしょう。大した影響が出るものでもないでしょうからね。

 

 

 要するにこの方、初心者へのレクチャーを買って出てくれただけみたいですね、単直に言って。ただ、『素直じゃなくてプライドが高いから』こういう言い方しか出来ないってだけで。

 あと、先ほどから妙に『唯一』と『エリート』の二つを連呼なさってますけど、何かしら事情を抱えておいでの方なのでしょうか? それはそれでちょっとだけ気になりましたが、訊くより先に織斑さんの方が声を上げられました。・・・最悪の形と気づかぬままに・・・。

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦うってやつ?」

「それ以外に入試などありませんわ」

 

 ――ここに一名、ペーパーテストで入試合格した転生者が現実世界から来ているようですよ?

 ・・・って、うるさいですよアカシックーっ!!

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「は・・・・・・?」

 

 ポカンとされるオルコットさん。・・・プライドの根拠にしてたんでしょうからなぁー。普通の声音で普通のことのように言われたから地味にキツい。そんなところですかね。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 ピシッと、何か嫌な音が響いた気がしました。おそらくオルコットさんのプライドにヒビが入ったことを示す効果音か何かによる演出でしょう。さすがはフィクションが現実になった世界。芸が細かい。

 

「いや、知らないけど」

「あなた! あなたも教官を倒したって言うの!?」

「うん、まあ。たぶん」

「たぶん!? たぶんってどういう意味かしら!?」

「えーと、落ち着けよ。な?」

「こ、これが落ち着いていられ――」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 ・・・タイミング悪く、タイムオーバー。時間切れです。休み時間が終了してしまいました。話し始めるのが遅すぎましたね。意図してないとはいえ私のせいでもあるので、罪悪感で胃が痛いです。

 

 織斑さんには福音に聞こえたようで「ホッ」とした表情をしてらっしゃいますけど・・・この方はこういう事態に出くわしたことがないのでしょうか?

 こういう時、下手に曖昧なまま終わらせてしまえば禍根だけが残って後々まで後顧の憂いになり続けるのは常識だと思うんですけども・・・。

 

 ノブさんじゃないですけど、『半端にやるから恨み辛みばかり買うことになる』んですよねぇ。こういう場合の定番展開って。

 

「っ・・・! またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」

 

 そう捨て台詞を残して自分の席へと、忙しなく戻っていくオルコットさん。

 対する織斑さんは曖昧な表情でうなずき返しただけ。・・・かんっぜんに迷惑がってるだけですね、この表情では・・・。

 

 ・・・はぁ、仕方がありませんか。次の休み時間にフォローしに行っときましょう。彼だけでなく自分にも責任がある問題ですし、これで何か事件でも起きたときには目覚めが悪い。

 

 『半端にやると』の中には“半端な救済”だって含まれているとみて間違いないでしょうからねぇ。相手の問題に自分基準だけを持って望むわけにはいかないものです。

 

 なにより彼女も同じ人間。彼女なりにプライドがあそこまで高くなった理由なり原因なりがあるのは当然のことなのですから・・・。

 

 

 ――そのつもりだったんですけども。

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する。

 ・・・ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。自薦他薦は問わないから、誰かなりたい奴か、なってほしい奴はいるか?」

 

 ・・・三時間目の授業が終わったらと思っていたところに、織斑(姉)―――っ!!!(怒)

 アンタ、なんばしてくれとんじゃい!? んな選び方したら同じクラスの世界で唯一他薦するに決まっているでしょうが!? 面倒ごとを素人で目立つ肩書き持ちの織斑さんに押しつけようとするのは火を見るより明らかじゃないですか!?

 決を採るシステム欠陥の典型的失敗例を、教師自身が演じてどするんじゃコラーっ!?

 

 

「はいっ! 織斑くんを推薦します!」

「私もそれがいいと思います!」

「ふむ。その根拠は?」

 

『世界で唯一の男子が同じクラスにいるんですから、持ち上げなきゃ損です!

 私たちは貴重な経験が積めて、他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度おいしい織斑くんを、是非とも私たちのクラス代表に!』

 

 ほらね! やっぱりこうなった! だから私は思ったんですよ! 心の中で! 心の中だけで!

 言っても無駄だと分かっていたから言わなかったですけど、言っときゃ良かった! 後の祭り!

 誰も声をあげて責任者の責任を追及しないままだと状況が改善した例はない説実証完了! うれしくねーっ!!!

 

「・・・お前ら・・・学生が教師の前で堂々と金稼ぎに利用する宣言ぶちかますなよ・・・。少年法に引っかかっても知らんぞ・・・」

 

『治外法権の学園内限定です!』

 

「・・・・・・そうだったな・・・」

 

 はぁ、と盛大に溜息をつく織斑先生。――と、私。

 終わったぁ~・・・。これ絶対修復不可能なレベルで絡んできますよ、オルコットさんが。

 

 IS操縦者としての実績とプライドに異常なほど固執している彼女が、こんな適当な理由で決められた人間を『自分たちの』代表に据えることを了承するはずございません! 絶対に絡んできますって!絶対に!

 

「待ってください! 納得がいきませんわ! そのような選出は認められません!

 物珍しいからと極東の猿を、わたくしたちクラスの代表にされては困ります!」

 

 ほら、やっぱりーっ!!

 

「大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間も味わえとおっしゃるのですか!?

 わたくしはこのような島国までIS技術の修練にきているのであって、サーカスをする気は毛頭ございません!」

 

 ・・・あぁ、悪化させてってますねぇオルコットさん。まぁ仕方のない部分もあるんですけども。

 

 前世でも何度か見かけたことがあるシーンです。体育の授業中に『本気で勝ちを狙いに行く派』と『楽しくやるのが一番派』との意見衝突は。

 基本的に端から見てると『本気で勝ちにいく派』が正しいように見える場合が多かったシーンですが、今回のを見れば分かるように必ずしも両派閥の戦いはわかりやすい勧善懲悪の体はなしておりません。質量共に、どちらも同じぐらいの主張です。

 

 だって、実際問題体育の授業で本気出して勝っても疲れるだけですし、運動が嫌いな子だってクラス内には含まれている。

 成績に格差が生じ過ぎないよう日本の学校は生徒の割り振りでバランス調整して平均値を競わせたがる欠点があるとどこかで聞いたことがありますけど、この学園でどうか知りません。ただし断言できます。

 

 

 『本気で勝ちたい派』も、『適当に楽しみたい派』も被害者側であると。

 

 

 だって、そうでしょう? 本来スポーツは『人間形成』を学ぶべきものであり、誰かが誰かを攻撃したり否定し合ったりするためのものでは断じてない。

 にも関わらず争いが生じてしまうのは『やる気のある生徒』と『ない生徒』とを学年だけ見てごった煮して、一緒のクラスという鍋に放り込んで、一人の鍋奉行教師にかき混ぜ役を一任してしまうシステム自体が欠陥を抱えているからです。

 

 なにかに本気で挑もうとする気持ちが間違っているはずはなく、だからと言ってスポーツが苦手だったり嫌いだったりする子にまで『勝つこと』を求めるのはフェアプレイ精神どころかスポーツマン失格の武力弾圧に近い。

 自分たちが主張を通す自由を求めるなら、相手にもそれを拒む自由を認めなければならないのが道理。一方的に『自分たちが正しくて相手が間違ってる』と責める心は戦争に近く、スポーツとも平和とも掛け離れすぎている。なので私は大の苦手です。反吐が出る。

 

 ・・・ただなぁ-。

 

「大体、文化としても後進国な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐えがたい苦痛でしたのに、どうして実力トップのわたくしがなるべきクラス代表にお猿さんが―――」

「(カチン)イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

「な―――っ!?」

 

 あー、やっぱりこうなってくかー。前世で経験したとおりでも気が重いなぁ-。

 『嫌だと言うだけなら誰でもできる。だが、それじゃあ戦いは終わらない』でしたかね? 昔プレイした『タクティクス・オウガ』でヴァイス・ボゼックさんが述べた主張は。

 

 あれも確か、『勝つためにやったこと』が原因で道が逸れるストーリーだったんですよね。今思うと含蓄があるゲームだったと思います。・・・この世界でも売ってたら買い直しましょう。

 

 それはさておき、嫌だと“言う”だけでは終わらない戦いで、“言うことさえしていない”私が与えられる影響などチリ一つ分ほどもなく。

 

 エスカレートする双方のお国否定(もう完全に論点ズレまくっちゃって原形とどめていませんね)。感情論で激化した争いに理屈でできることなどありません。正しさやら正義やら言う理屈だけで人の心は動かせやしないのですよ。

 

 なので私は見ているだけです。最初の初動で失敗した以上は、ここでの挽回は諦めました。

 次です次。次の昼休み休憩でオルコットさんとお話ししてみます。・・・苦手ですけどね、彼女がではなく人と話すのが。

 私って言う言葉が『攻撃的だ』『悪意がある』って、よく言われるんですよねー。基準がよく分からないんで流してきましたが、今思うとちゃんと聞いておけば良かったと心底から思います。

 ですが、これもまた後のお祭り。『あの時こうしておけば』なんて、「世界で一番無意味な後悔」・・・そんな言葉がありましたね。

 

 

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ。四の五の言うよりわかりやすい」

 

 はい、決定。オルコットさんが挑んで、織斑さんが受けたことにより決闘自体は予定調和で成立してしまいました。

 成立しましたので、後に続く「負けたら一生わたくしの奴隷」云々やら「真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」やら「このわたくしの実力を示すまたとない機会ですわ!」やらのお約束会話は省略しちゃいます。絶対実行されないバトルもの最初の対戦者が決めた「負けた方が奴隷宣言」なんて聞く価値ないですし。どーでもいいー。

 

 

「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように」

 

 二人の決定に後追いの形で許可を出される織斑先生。・・・てゆーか、この人は今の会話中に何やってたんだ? 黙って見ているだけの傍観者であり続けてたんか? 教師なんでしょう? 一応は・・・。

 

 ――と、自分ができなかったことを他人のせいにしようとする自分の卑劣さは相変わらず嫌いな私。そのせいで今の騒ぎでも役にたてんかったとです・・・休み時間こそ頑張りましょう。

 

「それでは授業を始める」

 

 はぁ・・・。

 

 生まれ変わっても自分の卑劣さと無能さに足を引っ張られ続ける私。

 プライスレスでいいんで、誰かもらってくれませんかねぇー? この要らない卑小さを。

 

 

つづく



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IS学園の言霊少女2(試作品)

執筆予定の言霊IS2、いくつかある始まり方パターンのひとつでオリジナルなスタートし方を早起きして暇だったので書いてみました。よろしければどうぞ。


 はじめまして、私の名前は異住セレニア・ショート。

 交通事故で死んで、気づいたときには《インフィニット・ストラトス》の世界に生まれ変わっていた転生者です。

 あと、前世では男で、今は恥じらう女子高生なTS転生者でもあります。・・・うん、気持ち悪いですね。二度と使わん、この言い方だけは絶対にだ(断言)

 

 原作開始の高校一年生まで約十六年。長い待ち時間がようやく終わり、私は晴れて原作の舞台であるIS学園入学が決まり、転生者という主人公っぽいポジション補正によるモノなのか原作主人公と同じクラスに配属されて仲良くなって、昨日は彼と原作ヒロインの一人セシリア・オルコットさんとの口論にまで居合わせることが出来ました。・・・一言も口出ししないまま他人事を貫いた私は正しく腐った現代日本人ぅぅ・・・。

 

 ・・・ま、それはそれとして原作は開始され、私は何一つ介入しないまま、あんま読んだことない原作ストーリー展開を横でボンヤリ見ていた訳なのですが。

 

 

 ――――いったい何をどうすれば、入学数日後の放課後に原作主人公が私の家きてカレー食ってる展開になるのでしょうかね・・・・・・? 教えてオカリーン。

 

 

 

「と言うわけで、異住。友達になって早々で悪いんだけど、俺にIS関連の基礎知識を教えてくれないか?」

「はあ・・・」

 

 席正面に座った彼――原作主人公の織斑一夏さんはそう言って頭を下げてこられました。・・・右手にスプーンを持ち、放そうとしないままで。

 供してあげた賄いのカレーを、話し終わると同時に食べ始めて、冷ますことなく無駄にしないために。

 

「このままだと一週間後の試合でヤバい。

 箒にも頼んでみたんだが、なぜかISじゃなく剣道のやり方しか教えてくれないし――いや、アレはアレで役に立つとは思うんだが、基礎は基礎で習っとけるもんなら習っといた方がいいだろ? だから頭良さそうなお前に頼んでみようと思ったんだ」

「なるほど」

 

 拒否でも了承でもなく「納得」を意味する単語で曖昧に返事をかえした私は、次の言葉を見つかるまでの時間稼ぎのため周囲を見渡し、店内の内装を検めます。

 

 中世ヨーロッパ風の調度品で統一されたレトロな喫茶店。

 今生の母が祖父から譲られ店長をやっている、今時珍しい古風なお店。

 格式高そうな見た目とは裏腹に、意外とリーズナブルな料金設定と、なんで喫茶店に置いてあるのか理解不能なメニューが羅列した二次元世界らしい特徴を持つ、たぶん学園ラブコメの世界じゃ標準的で平凡な喫茶店なんでしょう。たぶん、おそらく何となく。

 

 ちなみに店の名前は、喫茶『コスモ・バビロニア』。・・・うん。もう何も言うまい。

 

 

「・・・この前織斑先生から再発行された参考書を読まれた方が確実なのでは?」

 

 私は記憶巣から引っ張り出してきた適当な出来事、入学一日目で織斑さん自身が『古い電話帳と間違えて捨てたから怒られた末に再発行された』という黒歴史まがいな逸話持ちIS学園入学者必読の参考書を話に持ち出します。

 

 彼は「おう、それなんだけどな」と言って、鞄に手を入れ目当てのモノ――件の参考書を引っ張り出してきてテーブルの上に置きました。

 

 それは、最新科学の塊であるISの扱い方を学ぶ場所『IS学園』らしいアルファベット表記とカタカナばかりで記されている、新入生用の真新しい参考書。

 何度見ても・・・古い電話帳と見間違える要素がどこにも見当たらない代物でした。ホントなんだってコレを間違えられたんでしょうかね、この人は・・・。

 

「千冬姉にこれ以上負担掛けるのは嫌だったから、俺なりにも1からきちんと読み初めてみて、専門用語も意味を調べられながら真面目に取り組んでみたんだが・・・」

 

 ちょっとだけ脳外科と眼科のパンフレットを渡した方がいいかなと、本気で悩み始めていた私の耳に織斑さんの声が届き意識が現実に引き戻されて正面を見て、相手の真剣な表情と向き合ったまま次の言葉を待つ私。

 

「・・・正直言って、なに書いてあんのかサッパリ分からん。専門用語の説明の部分に別の専門用語が使われていて、その専門用語の意味を調べようとしたら別の専門用語が載っている負の連鎖でな・・・・・・説明が説明になってねぇんだよ・・・・・・。

 初心者が基礎を習うための参考書に、初心者向けの基礎知識が一切載ってないってのはどういうことなのか、誰か俺に説明して欲しい気持ちでいっぱいな状態だぜ・・・」

「あ~・・・・・・」

 

 私は思わず『まぁ、そうだよなぁー』と言いたい気分で参考書を見下ろし、内心で少しだけ溜息を吐くのでした。

 

 

 ――彼と私が通うことになった学園、原作の舞台にもなっているIS学園は、日本にある世界で唯一のIS操縦者育成機関です。

 十年と少し前『白騎士事件』で世に登場し、世界を変えた存在《IS》の扱い方を学ぶ場所であると同時に、建前上だけでも国家権力が介入できない治外法権の地でもあります。

 

 法制度上、日本の物ではありませんが日本の地に設立され、経営は日本政府が、責任者は日本人中年が、教員の大半は日本人で、生徒の大多数は日本人という、事実上日本式の学校ではあるエリート国立高校。

 

 ISは動かす際に必ずしも専門知識が必須な類いのパワードスーツではありませんが、そこは日本のエリートたちが通う名門国立学校の事情と言うことなんでしょうかね。

 教育方針とシステムとテスト問題の出し方とかが完全に日本式の詰め込み方式で埋め尽くされています。

 

 暗記科目が無駄に多い上に『繰り返し学習』が基本となっているため、織斑さんのようなズブの素人が必要に駆られてから遅まきに初めても結果が出るのは数ヶ月近く先はほぼ確実という、初心者には使いづらいことこの上ない参考書もどき。

 

 むしろ、IS学園入学を目指して自習自得を繰り返してきた私たちと違い、巻き込まれたから仕方なく勉強した織斑さんが学校卒業までには一定以上の成果出しているのが原作なんですよねぇ-、たしか。主人公補正マジパネェ~。

 

「とりあえず、私が受験の時に使ってた中学生向けの参考書でも読みますか? 注釈の落書きがしてあったり、自分なりの見解なんかを記してありますので見づらいかもしれませんが・・・」

「サンキュー! 助かるよ異住!」

「・・・・・・どーいたしまして」

 

 率直な笑顔でお礼を言われ、微妙な心地で返礼を返す私。

 いや、悪い気がしている訳ではないんですけどね? 人の為になるのは良いことですし。

 

 ・・・ただ、転生者が原作主人公と出合って最初にした手伝いが、中学時代に使っていた受験用の教科書を貸すだけだったという現実に『異世界転生モノって、こんなんだったっけ?』と自分の第二の人生に疑問を抱いただけです。いや、ホント。割と本当にその程度のものでして。

 

 

 こうして、『ハイスピード学園バトルラブコメディ《インフィニット・ストラトス》』の世界に生まれ変わってから十六年後、私の原作生活数日目がスタートしたのでした。

 

 日数から見て、まだ日常パートでしょうし言うのは早いのかもしれませんが・・・・・・・・・

 

 

 

 ――――このIS世界への異世界転生生活、地味だなぁオイ!(微怒!!)



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『我が征くはIS学園成り!』第9章

久方ぶりの『我が征くはIS学園成り!』更新です。あまりにも時間が空きすぎたせいでアイドリングに時間がかかってしまいました。後半はハイドらしいハイドストーリーになっております。


「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じがしない?」

「そのデザインがいいの!」

 

 六月頭の月曜日。今日も俺以外は女子ばかりのIS学園は姦しくも平和な日常を過ごしていた。

 

 先月に起きた謎の無人IS乱入事件はうやむやのまま中止され、今月の終わり頃には学年別個人トーナメントが開催される運びとなっている。

 ・・・入学直後から操縦系のイベント目白押しだなオイ。少しはズブの素人にも配慮して欲しいと思わなくもないぞ、俺しかいないけどな。

 

 そんなこんなで我らがIS学園一年一組の生徒たちもトーナメントに備えてのものか、出場時に着ていくISスーツ選びに余念がない。服よりも機体選びに集中しろよと言う人もいるかも知れないが、実質ラファールと打鉄しか持ってないIS学園で選び余地はあんまりないし、女子としては服の方が大事なんじゃねーのかな? いや、知らんけど。

 

 

「どうしたね? 織斑君。タオル右手に『エウレーカ!』と叫びながら、全裸でローマ中を駆け回りたそうな、物思いに耽っているかの如き難しい顔をしているが」

「誰が風呂好きのマッパ爺さんだ!? そこまで俺は爺くさい顔をしちゃいねぇっ!」

 

 いきなり出てきて失礼極まりないことを言ってきた相手に怒鳴り返しながら、俺は発言者の相手を見つめる・・・って言うか、“見下ろす”。

 

 高校生の平均を遙かに下回る、ちびっ子女子高生IS操縦者がそこにいた。

 黒くて長い髪を長すぎるぐらいにまで伸ばしまくって、下手したら踝の辺りまで達しちまってる其れをポニーテールにしているとか言うイカレタ髪型の持ち主であるドイツ人少女。

 黒くて大きな瞳に、象牙色の肌をしていて胸はペッタンコ。って言うより、裸になっても多分あるのかないのか解らんレベルの超洗濯板スタイル。

 いつでもどこでもマイペースに爽やかすぎる笑顔が、時にムカつく俺の友人。

 

 シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハが、彼女の名前だ。

 

「いや、なにやら目を細めて思索に耽っていたようだったのでね。てっきり若さ溢れる情熱を抑えきれずに走り出したいのだとばかり思ってしまったのだよ」

「俺は若さ故の過ちで、バイクを盗んで走り出す趣味はないんだけどな・・・」

「ハッハッハ! すまない、私としたことが君のことを見誤っていたらしい! 次からは気をつけよう。ハ――ッハッハッハ!!!」

 

 相変わらず、何でもかんでも、どんな時でも心から楽しそうに笑いまくるハイド。箸が転んでも地球が回ってなくても楽しくて笑い出すと評判の笑顔は今日も健在なようだ。

 

 人間、笑顔が多いと老けないって聞くけど・・・・・・こいつの成長不良は笑いすぎてるのが原因なんじゃないだろうな? 笑い続けてたら子供のまま体が大人になれないなんてオカルトは、ネバーランド以外で需要ないと思うぞ。多分だけどな。

 

「いやはや、今日も平和で善きかな善きかな。はっはっはっはっ」

 

 楽しそうに笑い続けるドイツ人。

 ――余談だが、先日の一件でコイツがISを素手でブッ倒した件については、特に箝口令が敷かれることもなく、ごく普通になかったこととして処理されてしまっている。

 目撃者である俺とセシリアと鈴も、ハイドに関することでは特に何の制約も誓わされていない。

 

 言っても誰も信じないだろうし、そもそもどうやってやったかなんて誰にも説明できないし。あと、ハイド自身が特に大したことしてないみたいな顔して日常生活に戻っちゃったから、なぁなぁの内に「まぁいいか」で終わらせることにしてしまったようだった。

 実際、重箱の隅をつついても誰一人得をしない話題だった上に、下手に藪をつついてドラゴンでも出てきた日には世界が滅ぼされかねん。

 

 そんな誰にとっても不幸な事態を回避するため、ハイドは今まで通りごく普通のIS学園生徒として学園生活を送らせてもらっている。

 俺としても助けてくれた友達を非難する気は少しもない。・・・出来れば最低限度の説明ぐらいは欲しいところだけど、聞いて教えてくれて理解できる自信がねぇ。流すより他ないのが現時点での俺たちIS学園生とハイドとの関係なのだった。

 

「そういえば聞いたかね織斑君。このクラスに新たなる戦士が送られてくるそうだぞ? それも二人もだ!

 これは新たなる戦いを予感させるオーヴァチュアが奏でられると見て間違いないと思うのだが、如何に?」

「戦士じゃなくて転校生だと思うんだが・・・まぁ、それはともかくクラスメイトが増えるって言うのは素直にいいことだと俺も思うぞ? 仲良くなれたらもっと良いだろうし」

「うむ。ぶつかることで深く結びつく友情と言う奴であるな。拳と拳を交え合うことで生まれる男同士の絆は美しい」

「殴り合う前提なのかよ。あと、男同士無理だろ。俺以外いないだろ男が一人もIS学園に。ここ事実上の女子校だからな? わかってるか? 女しか扱えないISのドイツ代表候補で専用機持ちのハイドちゃん?」

「私の拳が光って唸って轟き叫ぶ! その雄叫びに海は割れ、大地は戦いた!」

「聞いちゃいねぇ・・・・・・」

 

 別に、いつものことだからいいんだけどな。コイツって一度自分の世界に没入すると帰ってくるまでに時間かかりすぎる奴だから。

 

 

「諸君、おはよう」

「お、おはようございます!」

 

 ハイドが自分の世界に没入する中、教室の扉が開かれて外から千冬姉が入室すると、それまでザワザワと騒がしかった教室が一瞬でぴっと礼儀正しく軍隊整列に変わるように秩序を手に入れる。今日も一組担任織斑千冬先生の威光は健在である。

 

 ――ちなみに、ハイドが没入したまま宝塚っぽい仕草でドラゴンボールみたいなセリフを吐き続けているのに関しては、千冬姉も完全無視を決め込む方向で割り切れたようだった。

 殴っても蹴っても、終わるまでは戻ってこないから無視するしかないハイドの異常性には、授業時間の方が着いていけなくなるので無視するのが一番正しい選択だと判断したらしいのだが。

 こればっかりは職務怠慢だとか言い出す奴いないだろうな~。だって本当にどうしようもないもんなー、コイツって。

 

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ。ええとですね・・・?

 実はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」

「え・・・・・・」

「「「えええええええっ!?」」」

 

 いきなりの転校生紹介に騒ぎ出すクラス内。

 あらかじめ聞かされていた俺と(どこで聞いてきたのか情報源がよく分からんかったけど)千冬姉たち先生方二人、あとハイドだけが落ち着き払って山田先生から説明の続きを待っている。

 

 いや、ゴメン。ハイドだけは落ち着いてないわ。相変わらずアッチの世界で暴れ回ってるわ。「ヒィィィィィィト・フィンガァァァァァァッ!!!!!!」・・・なんか必殺技出してるっぽいしな。

 

「では、お二人共。どうぞ入ってきてください」

「失礼します」

「・・・・・・」

 

 山田先生の言葉と同時に教室の向こうから声が聞こえて、扉が開かれ二人の人物が入室してくる。

 その内の一人を見て、ざわめきが一斉にピタリとやんだ。

 

 そりゃそうだ。

 だって、その一人って言うのが――――男子だったんだから。

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 転校生の一人、シャルルはにこやかな笑顔でそう告げて頭を下げる。

 呆気にとられたのは俺を含めたクラス全員(-1名)みんながそうだった。

 

「お、男・・・?」

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を――」

 

 その自己紹介は、最後まで聞くことが出来なかった。

 ソニックウェーブにも似た女子生徒たちの黄色い叫び声が教室を満たし、シャルルの声を掻き消して鼓膜に届くことがなかったからだった。

 

「きゃああああああ―――っ!!!」

「男子! 二人目の男子!」

「しかも美形がうちのクラスに!」

「地球に生まれて良かった~~~!」

 

 つくづく元気だね、うちのクラスの女子一同は。ちょっと残念そうな子が混じってたみたいだけどね。

 

「あ~、騒ぐな。静かにしろ」

「そ、そうですよ皆さんお静かに! まだ自己紹介は終わっていません! もう一人残っているんですから~~っ!」

 

 そう言えばと、騒いでいた皆の意識がもう一人の転校生の方にようやく向いて、静けさと落ち着きを取り戻す。

 忘れてたわけではないのだが――むしろ、そいつの見た目を意識外へ追いやるのが難しいほど特徴的で、逆にキツさから無意識にシャルルの方へ逃げていたのかも知れない。

 

 輝くような銀髪を腰まで伸ばし、左目には戦争映画の大佐が付けてそうなガチな眼帯を付けていて、開いている右目の印象はただただ『冷たい』。

 その印象は言うまでもなく『軍人』。身長はシャルルと比べて明らかに小さいのに、その全身から放たれる冷たく鋭い雰囲気がまるで同じ背丈であるかのように錯覚させられそうになる。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 それが彼女の自己紹介だった。それだけが彼女の自己紹介のすべてだった。

 素っ気なく、飾り気もなく、誰かと馴れ合う気が些かも感じさせない絶対的な拒絶を込めた声音をまえにして、山田先生も思わず及び腰になっている。

 

「あ、あの、以上・・・・・・ですか?」

「以上だ」

 

 にべもない、そう評するしかない無慈悲な即答で山田先生を泣かせそうになってから、ソイツと俺はばっちり目が合ってしまった。

 

「! 貴様が――――」

 

 うん? なんだ?

 訳が分からずポカンとするしかない俺に、つかつかと歩み寄ってきたボーデヴィッヒは右手を振り上げ、一切無駄のない平手打ちを俺にかまそうとして

 

 

 

「危ない! 織斑君! とおりゃ―――――っ!!!!!」

 

 ズバコン!!!

 

「ぐはぁぁぁっ!?」

 

 

 

 ・・・・・・跳び蹴り食らって、壁まで吹っ飛ばされていった。

 妄想世界から帰還してきた、ISを素手で倒すドイツ人少女の跳び蹴りを食らわされ、なんかよく分からん眼帯軍人少女は黒板の下で、痛みに藻掻き苦しみのたうちまくっている。

 

「うぐぉぉぉぉぉぉっ!? 頭蓋骨が陥没したように痛いぃぃぃぃぃぃっ!?」

「ふぅ・・・危ないところだったな織斑君。

 まさか町中で『片目に眼帯を付けた山賊』に襲われるとは、君もよくよく運のない男だな。気をつけたまえよ?

 昔から伝わる格言によると“日本男児たるもの一歩でも外に出たら七匹の山賊ウルフに襲われることを覚悟せよ”と言うからな」

「・・・言わねぇし、いねぇよ山賊になったオオカミなんて・・・いつの時代のどこの国に出てきて人を襲ってたんだよ、その山賊オオカミたちはさぁ・・・・・・」

「ところで、転校生君たちはまだ来ていないのかね? いずれは世界の覇権をかけて争い合う宿命のライバル同士として、是非にも挨拶しておきたいのだが・・・・・・今どこにいるか知らんかね織斑君」

「・・・・・・・・・」

 

 うん、まぁ。

 ―――もはや何も言うまい・・・・・・。

 

つづく



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織斑一夏のファースト初恋少女 第3話

久々の更新になる、一夏の初恋相手の話。つばめさんIS3話目です。
今回は鈴が登場する回となっております。


「ふぅ、ようやく到着したわ。ここがそうなんだ・・・」

 

 夜のIS学園校舎前で、小柄な体躯の少女が一人ボストンバッグとともに立っていた。

 四月の夜風になびく髪は、肩に掛かるぐらいのツインテール。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ? 本校舎一階総合受付ってパンフには書いてあったけど・・・だからそれはどこにあんのって話でしょうが。まったく役立たないわね」

 

 イライラしながらぶつくさ言って、歩き回って探した方が早いと歩み出す。

 考えるより行動することを好む少女だった。とはいえ、土地勘がまったくない純粋な外国人と違って、彼女にはチャイニーズでありながら日本で暮らしていた実績がある。最低限度のことは他人に聞くまでもなく承知していた。

 

 彼女の名前は凰鈴音。中国のIS操縦者であり、国家代表候補生兼専用機持ち。

 そして、受付について登録した瞬間からIS学園1年生の一員となることが確定している少女。

 

「・・・ふふ・・・、アイツ驚いてくれるかなぁ・・・」

 

 学園内を進んでいくうちに第二の故郷に帰ってきたという郷愁を感じて、過去の思い出に一時浸る。

 中国で鍛練を積み、代表候補にまで成長した彼女が日本のIS学園に転校してきた理由は単純明快だ。恋慕である。

 

 中学時代に同じクラスだった男子生徒の織斑一夏がIS学園に入学したのをテレビで知って、軍を脅して追いかけてきた。ただそれだけのこと。国家の主戦力を担う身として無責任極まりない行動ではあるが、ティーンエイジャーの少女としては何も間違っていない行動でもある。

 だから浸れる。初恋相手との思い出と未来をともに過ごせる可能性に。

 

「・・・そう言えば・・・」

 

 好きな男つながりで中学校関連の記憶を掘り起こしていく中で、一人の人物に思い当たり、鈴はいったん自己陶酔を中断する。

 二年時の終わりに転校していった鈴に元クラスメイトが気を利かせて送ってくれた、一夏が写っている一枚の写真。

 その中で、彼の隣に写っていた美人顔なのに印象の薄い眠そうな目をした女。

 

「確か、葉月つばめって言うんだったっけ?

 ・・・なぁ~んか、一夏の見ている視線が気になる女だったけど、もしかしてアイツまでIS学園に来ているなんて偶然あるわけないわよねぇ・・・?」

 

 不吉な想像に襲われた鈴は身震いし、何の根拠もない被害妄想をすぐさま振り払う。

 IS適正は希少な素質だ。さらにIS学園は国家を代表するVIPクラスが集まってくるエリート校である。単なる私立高校のよくある恋愛小説じゃあるまいし、そんな物語じみた偶然あるわきゃない、絶対にないと心の中で断言しながら鈴は、ようやく見つけた総合受付の入り口へと入っていく。

 

 四月の夜。暖かな風が吹き始めた春の中旬。

 第三の女、凰鈴音が織斑一夏の恋物語に参入してくる一日前の夜に起きた出来事だった・・・。

 

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

「あなたのせいですわ!」

 

 昼休みに入るなり早々、俺は箒とセシリアから身に覚えのないバッシングを受けて白い目を返すしかなくなっていた。

 

「・・・いきなりなんなんだよ、藪から棒に・・・」

 

 言いつつ俺は、今日の午前中いっぱい続いた二人の凡ミスと千冬姉に叩かれまくっていた直近の過去を思い出して、あれは痛そうだったからなぁと同情的な気分になり、ひとまずは時間もあるので場所を変えることを提案する。

 

「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。とりあえず学食行こうぜ」

「む・・・・・・。ま、まあお前がそう言うのなら、いいだろう」

「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」

 

 二人からオーケーをもらい、つばめさんにも声かけようとした俺だったが、やめておいた。

 ――寝てたからである。昼休みになってから数分も経たないうちに寝るって言うのは一種の才能な気もするんだけど、つばめさんは日常的にこれをやるから俺はもう慣らされてしまっていて驚けない。

 いつも通り後ろにクラスの女子生徒数名が付いてきて、ぞろぞろと学食へと移動した俺たちは券売機で食券を購入して列へ並びに行く。

 

 そこで問題が起きた、って言うか待っていた。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 どどーん、と背後に津波でも背負っているかのように立ち塞がってきたのは、今朝から教室に押しかけてきてクラスメイトたちの話題をかっ攫っていった噂の転入生、凰鈴音。俺と中学時代をともに過ごしたセカンド幼馴染みだった。

 

「まあ、とりあえずそこどいてくれ。食券出せないし、普通に通行の邪魔だぞ」

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

 ツッコんでやると存外素直に身を退く鈴。根はいい奴なのを知ってる俺としては、普段からそうしとけば恋人の一人や二人ぐらい問題なく作れる程度にはかわいい顔してるのになと思わなくもない。

 いや、恋人が二人もいる時点で大問題すぎるな。しかも俺の考える内容じゃなかったし。・・・五反田の悪影響か、碌でもない考えをしちまったぜ。マジで恥ずかしい。

 

「て言うか、お前が頼んだやつラーメンじゃねぇか。のんびり突っ立ってたら伸びるぞ」

「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってやってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」

 

 早く来いって言われてないからだし、食堂で待ってるとも教えられていないからだが、こいつは昔からこういうヤツだった。真面目に取り合おうとするとかえってぶつかり合うだけだから、適当にいなしておいた方が結果的にはいいことを俺は経験則から学んでいた。

 とりあえず食券をおばちゃんに渡して日替わりランチを注文するのを優先することにした。

 

「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよね」

「どういう希望だ、そりゃ・・・・・・」

「あー、ゴホンゴホン!」

「ンンンッ!」

 

 今朝再会したばかりの旧友と、久しぶりの世間話を楽しんでいたところに横合いから咳払いが入る。

 見ると、箒とセシリアが大変ご立腹な不満顔で立っていた。ヤベェ、忘れてた。結果的に放置しちまったことを怒ってんのかな? とりあえず今は二人の怒気を鎮めることを優先しておくか。

 

「一夏さん? 注文の品、出来てましてよ?」

「おう、サンキューなセシリア。向こうのテーブルが空いてるみたいだし、行こうぜ」

 

 そしてまたゾロゾロと移動。これだけ大人数だと座れる席の確保は結構難しいなオイ。

 

「一夏、そろそろお前とこの女がどういう関係か説明して欲しいのだが」

「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方とお付き合いしてらっしゃるの!?」

 

 疎外感を感じさせられ我慢できなくなったのか、箒とセシリアが多少棘のある声で訊いてくる。他のクラスメイトたちも興味津々とばかりに頷いてるから、まあ素直に答えといた方が無難かな。

 

「べ、べべ、別にあたしは付き合ってるわけじゃ・・・・・・」

「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼なじみだよ・・・って、鈴。何睨んできてんだよ?」

「なんでもないわよっ!」

 

 キチンと説明してたら鈴が怒り出す。一体なんなんだ? 変なヤツ。

 

「幼なじみ・・・・・・?」

「あー、えっとだな箒。お前が引っ越していったのは小四の終わりごろだったろ? 鈴が転校してきたのは小五の頭だよ。で、つばめさんと出会う寸前の中二の終わりに国に帰ってったから、会うのは一年ちょっとぶりだな」

 

 自分で説明してみて、そっかと思う。箒と鈴とつばめさんって、三人そろって面識ないんだよな。意識したことなかったけど、ちょうど入れ替わる時期に引っ越しと進級がニアミスしてるから。

 

「で、こっちが箒。前に話したろ? 小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」

「ふうん、そうなんだ。――初めまして。これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ」

 

 箒と鈴を紹介してやると、なぜだか火花散らして睨み返し合っていた。

 同じ学校で学ぶ学友同士なんだから、仲良くした方が得だと思うんだけど。

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

「・・・・・・誰?」

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの!?」

「うん。あたし他の国とか興味ないし」

「な、な、なっ・・・・・・!?」

 

 俺の時と同様、相手が自分の名前を知らなかったことで大いに狼狽え、怒りで顔を染め上げるセシリア。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」

「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

 ふふんといった調子の鈴。相変わらず自信満々だな。妙に確信じみてるのに、嫌味がない。素でこう思っているのが伝わってくる。

 ――けどまぁ、嫌味でない分、怒る人って言うのもいるわけだけど・・・。

 

「・・・・・・」

「い、言ってくれますわね・・・・・・」

 

 無言で箸を止める箒と、拳を握ってわなわなと震え出すセシリア。この二人はそういうタイプだから、鈴にはもう少しオブラートに包んだ対応をお願いしたかったんだけど覆水盆に返らないようである。

 

 そんな彼女たちの反応を知ってか知らずか、鈴は何食わぬ顔でラーメンをすすり「・・・ところで、さ」と話題を変え、今度は俺に向かって問いかけてきた。

 

「ん? なんだ? なにか俺に訊きたいことでもあるのか?」

「・・・アンタさっき、妙なこと言ってたじゃん? ほら、あれよあれ。たしか、私が引っ越したのが、つばささんだかつばくろさんだかと出会う寸前だとかなんとか」

「つばさ・・・? つばくろ・・・? ――ああっ、つばめさんの事か!」

「・・・・・・っ!! そ、そう。そんな名前だったのね。今初めて知ったわ。その人についてちょっとアンタに訊いときたい事があるんだけど―――」

 

 

「・・・えっと・・・私になにかご用か・・・な・・・?」

 

 

 食堂の喧噪の中、か細い声が俺たちみんなの耳に届いてきて全員がそちらを向くと、今さっき鈴が話題にあげた当の本人が眠そうな瞳を眠たそうに細めてボンヤリ突っ立っていた。

 その手にあるのは、缶コーヒーとコンビニおにぎり。

 

 食堂が急いでる人用に用意してある、不人気商品ダントツでナンバー1の品物なんだけど・・・つばめさん、そんな食事ばかりしているから毎日毎日不健康そうで眠そうにしてるんじゃないのかなーと思わなくもない。

 

「つばめさん・・・昼食ぐらいしっかり食べましょうよ・・・。まぁ、朝食さえしっかりしてるならギリギリありですけども・・・」

「・・・あんまり面倒だ、と・・・食べる気力さえなくなっちゃうか・・・ら・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ――論外だった。今度俺がつばめさんでも腹一杯食べる気になる健康的な食事を作りに行ってあげよう。絶対だ。

 出ないと本気で死んでしまいかねん、この人。

 

「ちょ、ちょっと一夏! 横からしゃしゃり出てきて邪魔しないでよね! 今はあたしと葉月が話をしようとしてたとこだったんだから!」

「お、おうスマン。邪魔して悪かったな鈴、続けてくれ」

 

 あまりの食事事情に思わず口を突っ込んじまったが、確かに鈴の言うとおりコイツはつばめさんについて訊きたい事があると言っていた。

 訊かれたのは俺だけど、本人が目の前にきてるんだから直接本人に訊いた方が絶対にいい。友達でしかない俺に訊くより遙かに正確だし、間違いや誤解も少ないしで一石二鳥以上だ。織斑家の家計を預かる者として、このお得さは奪っちゃいけないものだったかもしれない。すまなかった鈴。俺はもう余計な口は差し挟まないぞ。

 

「え。あ、いや、そのあのえーと・・・・・・」

 

 だと言うのに鈴はなぜだか慌てだして挙動不審に陥る。・・・ひょっとして突然振られたから、驚いてしまって考えがまとまらないのかな?

 出来ればこういうときこそつばめさんのコミュニケーション能力に期待したいところなんだけど・・・。

 

「えっと・・・凰鈴音さん、でいいのか・・・な? 中学の時一緒だった、クラスの違う〇組に所属していた・・・」

「あ、アンタあたしの事知ってたの!?」

「うん・・・。と言うより、結構有名人だった・・・よ? いろいろと話題性があった・・・し」

 

 つばめさんから婉曲な言い回しで自分で思っていた以上に名が知られていた事を教えられた鈴は、途端に今さっきまでの不機嫌さを忘れ去って鼻高々に平べったい胸を張る。

 

「そ、そうだったんだ・・・。――まぁ当然よね! だってあたしだもの! 有名になるのが当たり前の逸材よ! 知らない奴らが物知らずなだけなのよ! 世界はあたしのためにあり!」

「・・・くぅっ!」

 

 褒められて調子づく鈴と、有名人願望でもあるっぽいセシリアの反応が対照的で面白かった。

 つばめさんは鈴の反応に「そうだ・・・ね・・・」とだけ呟いて、それ以上の情報提供はしなかったけど、それが彼女一流のコミュニケーション術である事実を俺は知っていた。

 

 鈴はあまりそういうことに興味がなかったし、俺も別に自分から調べようとしたわけでもなかったけど、五反田や他の一部男子生徒から『鈴と一番一緒にいる男』として忠告された事は一度や二度ではなかったからだ。

 

 鈴は良くも悪くもハッキリと思いを口に出しすぎてしまう。

 それが清々しいというヤツもいれば、生意気と感じる人たちもいる。それは仕方ない事だと思うけど、中には鈴の言い方が基で傷ついてしまった被害者がいる事を、俺はつばめさん絡みの情報で知らされていた。

 

 

『鈴のヤツは見た目がかわいいのに、口が悪いところがあるだろ? しかも悪いと思っても素直に謝ることが出来ないヤツだ。

 だから誤解されやすいし、その誤解で傷つかなくてもいい人たちまで傷つけちまってるのはアイツには悪いけど確かなんだよな。

 別に鈴が悪いって言いたいわけじゃないんだが・・・傷ついちまったヤツが悪いわけじゃ絶対にない。なんとかしてやれとまでは言えねぇが、気にかけるだけはしといてやってくれ。これはお前ら二人共通の友人として、俺からたっての頼みだよ』

 

 

 ・・・珍しく真面目な顔して、五反田のヤツがそう言っていたのを思い出し、俺は少し仏頂面になる。

 考えてみると、俺はあの忠告をまったく活かせた記憶がない。もう少し鈴のために気を裂いといてやるべきだったかと、中学時代を振り返っていた俺に当人は気楽な口調で「そういえば・・・」と、再び話題転換。

 つばめさんには何も訊いてないみたいだけど、それでいいのか鈴さんよ・・・。

 

「アンタ、クラス代表になったんだって?」

「お、おう。成り行きでな」

「ふーん・・・」

 

 鈴は最後に残ったどんぶりの底のスープをごくごく飲み干し、俺から顔を逸らして、視線だけをこっちに向けながら、コイツにしては珍しいことに小さな声で言葉を伝えてくる。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

「お、本当か? そりゃ助か――」

 

 る、と続けようとした矢先。

 目の前のテーブルが大きな音を立てて叩かれ、二人の少女が勢いそのままに立ち上がる。

 

「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは、私だ」

「あなたは二組でしょう!? 敵の施しは受けませんわ!」

 

 箒とセシリアが、怒髪天を衝く勢いで怒りに顔を染め燃え上がっている。

 こ、怖いな二人とも。よほどクラス対抗戦に燃えているんだな。俺も少しは見習わないと。

 

「・・・はぁ」

 

 そう決意を新たにしてたら、なぜかつばめさんにため息を吐かれてしまった。・・・なんでだ?

 

「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでてよ」

「か、関係ならあるぞ。私が一夏にどうしてもと頼まれているのだ」

「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然のですわ。あなたこそ、後から出てきて図々しいことを」

「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合い長いんだし」

「そ、それを言うなら私の方が早いぞ! それに、一夏は何度もうちで食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」

「うちで食事? それならあたしもそうだけど?」

 

 喧々囂々。女子ばかりで姦しいのが日常のIS学園でも、ここまで騒がしいのは珍しい。

 

「なっ!? い、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」

「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求いたします!」

 

 しかもなぜだか、俺まで巻き込まれてしまった・・・。

 

「説明も何も・・・幼なじみで、よく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だ」

 

 嘘偽りなく正直に答えると二人の表情が和らぎ、「ほっ」としたような顔をして、さっきまで余裕の表情を見せていた鈴は対照的に「むすっ」と不満顔になる。なんなんだよ、本当に。

 

「な、何? 店なのか?」

「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね」

 

 二人が安堵して言葉の勢いを緩め、鈴は不満顔でなにか言いたそうに俺を見つめてきて、俺は久しぶりに再会した幼なじみの家族の現状についても話を広げていこうとした丁度その時。

 

 

「うん・・・じゃあ、みんな納得したところで昼休みの食事会終了だ・・・ね・・・」

 

 

 静かな声で割って入られ、鈴もセシリアも箒も瞬時に言葉が出せなくなる。

 その隙間に錐をねじ込むようにつばめさんは、急ぐわけでもないゆっくりとした声音としゃべり方で静かに、だけど無視するのがなんとなく躊躇われる声でもって『場のお開き』を宣言してくる。

 

「一夏君のコーチ役、は・・・一夏君自身とよく話し合って決めればいいし、教えられる人の意見を聞かずに教える側だけで決めるのはダメだから・・・ね? 夜にでも時間があるときに寮の部屋で話し合ってみるといいと思う・・・よ?」

「う。わ、わかってるわよ、それくらいのことは。あたしは言ってみただけじゃないの、いいじゃないそれくらい言ったって、久しぶりに再会した幼なじみなんだから・・・」

「うん・・・それは解るけ、ど・・・大勢の人が共同で使ってる食堂でやることじゃないよ・・・ね?」

「・・・うぐ。わ、悪かったわね。今度から控えるようにするわ・・・」

 

「それから、箒ちゃんとセシリアさん、も・・・一夏君の意思を無視しちゃダメだ・・・よ? 教える人だけじゃ指導なんて成り立たないものだか、ら・・・よく話し合った上で彼に最適な人間が教えてあげるようにしてあげて・・・ね?」

「くっ・・・! し、承知いたしましたわ。可能な限り善処させていただきます」

「わ、私もだ。譲れるところは譲り、譲歩できる範囲で譲歩するとしよう」

 

「うん・・・それじゃあ最後に一夏・・・くん」

「は、はい? なんですかつばめさん、俺にもなにか問題がありましたか?」

「問題って言うか・・・ね?」

 

 彼女は少しだけ困ったように微笑むと、『苦手な分野だ』と言いたげな曖昧な表情を浮かべて俺にこう言って終わりの句に変えた。

 

 

「少しだけでいいか・・・ら、女の子たちの側に立って相手の気持ちを考えてみることもしてあげ・・・て? 今のままだと君も彼女たちもきっと不幸になっちゃう・・・よ?」

「・・・??? はい・・・わかりました・・・?」

 

 訳がわからないながらも、一応俺は頷いておいた。つばめさんが『やった方がいい』と言ったことで、やらなくて良かったことは一つもないから多分今回も意味があるんだろう、きっと。俺は友達の善意を信じてる。

 

「うん・・・まぁ、今はそれでいいか・・・な? それより先、は・・・たぶん痛みを覚えないと進めないと思うか・・・ら・・・」

「・・・・・・???」

 

 いくつもの?マークを乱舞させる光景をイメージした俺の頭上から、本物の音がリアルに流れてくるのが聞こえた。

 

 ――昼休み終了の十分前を告げるチャイムの音色だ。

 俺たちは慌てて残っていた料理を口にかっ込み、トレーを下げて教室へ向かう。

 

 その夜俺は、彼女の言葉の意味について考えさせられる出来事を経験することになるのであったが・・・・・・実際に理解するのはまだまだ遠い仮定の未来の話になってしまう。

 今日あったことはそれぐらい。

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女(試作品)

ご要望がありましたので、『IS学園のひねくれ少女(試作品)』シリーズを追加させていただきました。内容は変化しておりません。
他にも載っていた中で読み直したい作品がありましたらいつでも投稿しなおしますのでご連絡お待ちしておりまーす♪


「えー・・・・・・えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 儀礼的に頭を下げて、上げる。

 クラス中の“女子”たちの視線が俺に集中してくるのを感じさせられた。

 見渡す限り女子、女子、女子。クラスに男子は俺一人だけ。他の生徒二十九名はみんな女生徒。

 

 高校受験の試験会場を間違えてしまった俺は、あろうことか女性しか動かせないはずのパワードスーツを『IS』を起動させてしまったせいで、IS操縦者を育成するため専門機関『IS学園』に入学させられる羽目になってしまって今日はその一日目。

 

 入学式当日の自己紹介の真っ最中。姉さん、いきなりのピンチです・・・と、某ホテルマン風に思わず心の声でつぶやいてしまう程度には俺は追い詰められていた。主に精神的に。

 

「えーと・・・・・・以上で――んん?」

 

 俺は迷った末に思い切って終わりの言葉を口にしようとしたら、一瞬だけ“見覚えのある色”が見えた気がして目をしばたかせる。

 

 ・・・あの銀髪・・・日本人には絶対見えない髪の色と瞳の色・・・高校の机に座ってるにしては場違いなほど小さな背丈・・・どっかで見覚えが―――って、あああっ!?

 

「セレニア!? お前、セレニアじゃないのか!? 中学で一緒だった異住セレニアだよなぁ!?」

「・・・・・・・・・・・・どうも、織斑さん。お久しぶりです。二週間ぶりぐらいですかね? また会えて光栄の至りですよ・・・はぁ~・・・・・・」

 

 無理やり入学させられたIS学園で再会した、天文学的確率で奇跡的偶然の元クラスメイトは俺の熱烈なラブコール(主成分は『助けてくれ!』)を聞きながら礼儀正しく挨拶を返し、これ見よがしに盛大な溜息を吐いてみせた。

 

 姉さん、千冬姉さん。事件です。俺の女友達がどいつもこいつもみんな薄情化しちゃってるんですけど、直す方法を知ってませんか? ――出来れば鉄拳修正以外で。

 

 

 

 パァンッ!

 

「いっ――!? って、本当にいたよ関羽が!?」

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者。お前は挨拶も満足にできんのか?」

 

 ・・・黒板のまえで繰り広げられ始めた姉弟漫才を教室の後ろの方で眺めながら、私はもう一度溜息を吐くのでした。

 

 初めまして、皆さん。私の名は異住セレニア。《インフィニット・ストラトス》の世界に生まれ変わった元現代日本人で転生者です。あと、元男で現少女のTS転生者でもありますね。・・・マジでお恥ずかしい・・・。

 

 この世界は『IS』と呼ばれる次世代パワードスーツの登場によって世の中が一変し、男尊女卑から女性中心の『女尊男卑』に人々の価値基準が移り変わったという設定で、そのISを操るIS操縦者を育成する世界で唯一の専門機関である『IS学園』が物語の舞台となってる流れを取っているそうでして。

 

 私がこの学校に入学したのも、転生者らしく原作介入するため・・・・・・ではなくて。

 ただ単に学費無料で国立エリート校という学歴に釣られただけ。受けてみても損はないので受けたら受かったというなぁなぁ極まりないものだったりします。

 

 倍率一万倍と言ったところで、学園が保有するIS数は十機に満たず。大半の生徒が卒業時にはあぶれること確定な状態で入学してくる学校のため、設立当初はともかく最近ではエリート排出過剰に陥ってしまい、整備科志望で入学願書出してくる生徒には優遇的に入学を受け入れてくれやすくなっているのだと、とある学園関係者から聞かされております。

 

 ・・・機密事項漏らすなよ関係者・・・と言いたいところですが、その忠告もあって入学できた身としては強く出るわけにもいかず、目下同じ穴の狢状態を絶賛継続中な今の私です。

 

 そして再会する原作主人公の少年、『織斑一夏』さん。

 まぁ、中学校時代から一緒だったんで驚きませんけどね。所詮、転生者の人生なんて決められたレールの上をなぞるだけの物・・・原作展開と設定を元に歩むことしか出来ないものですよ。へっ・・・。

 

 ま。それはそれとして―――

 

 

「いやー、参った参った。教室内、自分以外はみんな女子って雰囲気はいかんともしがたくてさー。セレニアがいてくれてホント助かったぜ。心の底から多謝!」

「・・・・・・なんで、わざわざ自分の席から離れている私の席まで話しかけに来てるんでしょうかね、貴方は・・・」

 

 一時間目のIS基礎理論授業が終わった後での小休止時間。教室内の異様な雰囲気から逃れるように遠く離れた私の席まで小走りに話しかけに来た原作主人公の織斑一夏さん。・・・そんなに居心地悪かったんですかい・・・。

 

 ――え? お前、転生者なのに主人公の隣の席じゃないのかって?

 そんな決まりは誰も決めてねぇですので、違う席です。

 

 

「・・・・・・ちょっといいか?」

「え? 箒?」

 

 突然、横合いから話しかけられて驚く織斑さん。見ると、ポニーテールの凜々しい巨乳美人さんが彼を睨み付けておりました。

 

「廊下でいいな? 早くしろ」

「え、えーと・・・」

 

 きっとヒロインの内の誰かなんでしょ。適当に思い出話でも花を咲かせてきてくださいませ。

 

「私のことはいいので、どうぞ彼女さんをお大事に。――言っときますけど、彼女さんという表現はそう言う意味でつかってませんので、変な誤解はされませんように」

「お、おう。じゃあちょっと行ってくるぜ」

 

 機先を制して、怒鳴ろうとした女の方を黙らせてから織斑さんに連れて行かせて、残された私は次の授業の準備開始。

 

 

『・・・貴様は! 久しぶりに会ったと思えばいきなりあんな破廉恥なことを言い出す女を他に作りおってからに!』

『え、なに!? なんの話だよ一体!?』

『やかましい! 一先ず殴らせろ! 話は殴ってからでも遅くはない!!』

『それで手遅れにならない人間関係は最初から壊れてる関係だけだろ!? ・・・って、本気で殴るなマジやめろぐわぁぁぁぁ―――っ!?』

 

 

 ドンガラガッシャ―――ッン!!!!

 

 

 ・・・・・・なんか教室の外から怒鳴り声と破砕音が聞こえてきた気がしますけど、入学当日に騒ぎを起こすのは不良漫画の主人公と不良タイプの主人公だけですので、織斑さんは当てはまらないと思いますしたぶん大丈夫でしょう。多分ですけれども。

 

 

「・・・失礼。少し椅子を前に出していただけますかしら?」

「あ、はい。すいません、失礼しました」

 

 外から聞こえる音と声に気を取られすぎていた私は、後ろを通ろうとしている生徒の通行を邪魔してしまっていたらしく、素直に頭を下げて椅子を前に移動させました。座っていた椅子を後ろに下げすぎていたみたいでしたので。

 

「いえ、お気になさらずに」

 

 そう言って、上品な仕草で謝辞を受け流した相手の女性は、私の隣の席に座って机の中から教科書類を取りだし、並べ始めます。

 几帳面な性格なのか、定規で測ったように正確な幅で配置された教科書、ノート、筆記用具類。その表情は真面目と言うより、いささか堅苦しさを感じさせられるものがありましたが、顔立ちそのものは眉目秀麗の一言。

 

 柔らかさでも身につけたら、もしかしたら存外に面白おかしなキャラ属性を身につけるのかもしれませんねー、と自分勝手な誇大妄想に勤しみながら私の授業準備は終わって開始を待つばかり。

 

 ・・・この残り数分間が暇でしょうがなく感じるのは、国立であれ公立であれエリート校であろうと変わりようがないですよねぇー。あー・・・マジで暇。早く先生こないかなー。

 

 

 

 ――そんな風に頭の中で、今や懐かしの学研CMソングを流していた私は知りようもありませんでした。

 

 この一時間目終わりの小休止までが、原作における穏やかな入学式風景最後の時間であることを。

 

 自分の隣の席に座る女子がヒロインの一人で、英国貴族のセシリア・オルコットさんだと言う事実を。

 

 そして何より、彼女が原作において織斑さんと最初に戦うライバルであり、その決闘宣言が成されるのは入学初日の今日この日だったと言う原作の流れを。

 

 

 ――原作未読組の私は知ることなく、平穏な学校風景を満喫していたのでした・・・。まさに知らぬが仏。神がいるとしたら未来にしかいない、です。

 

 

 いや、ホント。

 ・・・・・・入学式当日にお嬢様ヒロインが主人公の侍系美少年にケンカ売るのが学園モノの定番って言うのは事実だったんですね~。始めて知りましたよハッハッハ。・・・はぁ・・・。

 

 

つづく

 

 

余談:

 

セレニア

「全然関係ない話ですけども、オルコットさんは織斑さんと同じ『お』で始まる名字の人ですが、席は彼の直ぐ後ろじゃありません」

 

注:出席番号と席順は必ずしも直結してないと思われるの意。

  実際、『お』で始まる一夏は教室の中央最前列の席である。



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IS学園のひねくれ少女(試作版)第2話

『隣に座ってるコミュ障ガール』

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 三時間目の開始を告げるチャイムの音が鳴り響いています。

 小休止の時間を思い思いに過ごしていた生徒たちが席へと戻り、次の授業のために必要な教材を机の中から引っ張り出そうとしている中。

 

「・・・・・・はぁ~~~・・・・・・」

「な、なんですのよ?」

 

 私は盛大に呆れの溜息を吐きます。

 吐かれた相手は狼狽えたように一瞬だけ身じろぎしますけど、直ぐに体勢を立て直して言い返そうとし時計を見上げ、タイムリミットであることを確認すると悔しげに唇を退き結んで席へと座り、すでに準備を終えていた私のとなりで慌ただしく授業開始のため準備に取りかかり出しました。

 

 ノート、教科書、やや時代がかったペンケース。あと、IS関連の専門教材一式。

 それらを規則正しく並べて配置していく彼女からは几帳面な性格が読み取れましたが、それが原因で“さっきみたいな事”をしてしまったのであるならば。

 注意しておくのが人の道ってヤツでしょうねぇ、普通に考えて。

 

「・・・もう少し別の言い方をしても良かったのではありませんか? あれでは折角の親切が大きなお世話と受け取られかねませんけども?」

 

 どんがらがっしゃーっん!!!

 ・・・並べ終えようとしていた勉強用具一式を机ごとひっくり返して、盛大にこけて驚きを表す金髪ドリルヘアーでお嬢様っぽいイギリス人貴族の彼女――セシリア・オルコットさん、でしたかね?――は、想像していたより遙かに感情表現が豊かな方でした。

 つか、豊かすぎます。どこのドリフですか貴女は?

 

「い、いいい、い、一体なな、何の話をしてらっしゃるのか、わわわたくしにはサッパリですわね。勝手な憶測でものを言うのはやめていただけませんかしら?

 わたくしこれでも誇り高き英国貴族ですから! 無礼には相応の処罰を覚悟していただきま――はっ!?」

 

 演説の途中で突然停止。周囲を見渡してみれば、授業開始の準備で忙しい中、一人だけオペラ座みたいなポーズ取って名演しているイギリス貴族令嬢様がいるじゃあーりません、か!

 

 ・・・と言うわけで悪目立ちしすぎてます。

 ただでさえ小さい声で話しかけてて、生まれつき声量そのものが低くしか声が出せない転生体の体を持つ私に対して話しかけるときに使うボリュームじゃありませんでしたからねぇ。

 赤面するのが道理、「し、失礼しましたわ・・・」と一言謝りを入れてから道具類を拾って座り直すのもまた道理でしょう。

 

「・・・・・・この恨み、末代まで忘れませんわよ・・・必ずや復讐して差し上げます。誇り高き英国貴族が一員、オルコット家の名誉にかけてね!」

「貴族の誇りと名誉って、そんなに安っぽいものでしたっけ・・・?」

 

 逆恨み+自業自得の結果で復讐を誓うのに使われる名誉ある家柄の家名。

 おお、我が麗しのグレート・ブリテンよ! かつての栄光や何処へ!?・・・とでも猿芝居すればよろしいのでしょうか? 彼女流の誇りと名誉に合わせるとするならば。

 

「ですが、私が言った事は事実ですよ? あんな持って回った言い方をしたのでは誤解されて当然。嫌な言葉を言われて不愉快になり、怒って返ってくるのは本末転倒も甚だしいところです」

「ぐ・・・」

「特に中学生男子とか高校生男子なんてプライドの塊みたいな生き物なんですから、女の子から説教されて愉快がる物好きは変態趣味の方たちぐらいなもの。

 しかも貴女は見栄えがいい。男という生き物は不思議とかわいくない女の子に文句言われても気にしない割に、かわいい子に言われるとカチンとくる変な癖がありますからね。気をつけませんと余計な恨みを買うだけですよ。

 殊に、男子ではなく“男の子”だったら尚更に・・・」

 

 偏見混じりの決めつけである事を承知の上で、女子らしくもない男の子に関する女子トークを敢行する私。ちなみに情報ソースは前世の私です。黒歴史はためになるけど、恥ずかしい。

 

「・・・・・・わかってますわよ、そのくらいの事は。貴女なんかに言われるまでもなくね」

 

 不愉快そうに唇をとがらせて彼女は返し、私は肩をすくめました。

 ――二時間目が終わって休み時間に入ったときのことです。彼女は席を立って例の『世界で初めて発見された男性IS操縦者』のところへ行き、こう告げられたのでした。

 

 

『まあ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるのだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?』

『わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席であるこのわたくしを!?』

『そう! エリートなのですわ!』

『本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡・・・・・・幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?』

 

 

 ――等々。

 そして、これら一通りの自慢話を済ませてから、ようやく本題に入った内容がこちら。

 

 

『大体、あなたISのことについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね』

『ふん。まあでも? わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ』

『ISのことでわからないことがあれば、まあ・・・泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ』

 

 

 ・・・・・・あの流れで最後の最後に要件を付け加えるように切り出す、このコミュニケーション術の基準がわかりません・・・・・・。

 

 

「普通に『熟練者として初心者の指導をしてあげましょうか?』だけで済むところを、何故あそこまでの長広舌に・・・・・・?」

 

 しかも前フリが台詞の大部分を占めてる、西尾維新先生の『物語』シリーズみたいな言い回しで。

 好きですけどね、化物語。特にアニメ版『偽物語』が。・・・時々、阿良々木くんの一人語りが「ウザイ、早く次にいけ」と感じていたのは秘密ですが。

 基本的にギャグパート好きな私です。

 

「・・・・・・仕方ないじゃありませんの・・・。順位制で階級社会である今のIS時代において、わたくしたち専用機持ちは面子と権威に縛られた存在。侮られてしまったら、そこで終わり。

 次から次へと下から上がってくる後輩たちに、直ぐにでも席を奪われてしまいかねない・・・。実力だけでやっていけるほど、ISバトルの世界は甘くありません」

「まぁ、仰ってる事は分かりますがね」

 

 私は首肯し、前世の知識と比べ合わせながらIS社会の現状を洞察し、彼女の言ってる事が大部分は正しいのだろうと結論づけます。

 

 この世界、《インフィニット・ストラトス》の中でIS操縦者は特殊な立場に置かれた人たちです。

 非常時には戦力として戦場に赴かなくてはならない反面、平時においては非常時に備えた訓練さえしていればいい軍隊とは全然違ってる。

 

 平時においては『アイドル』でなければならない義務が、IS操縦者には課せられている。お金を稼いでくる事こそが平時における彼女たちの役割であり、国防の要の使い道。

 作った兵器をテレビで撮って全国放送、お茶の間に届けて人気が出て有名になり。

 そしてスポンサーについてもらって、関連商品売り出して、聖地巡礼で選手の母国に観光客がドッサリ! 落としていくお金もタンマリ!

 

 第二次大戦前じゃないんですから軍需産業だけ儲かるために陰謀論がどーの、死の商人がどーのこーのと言った誇大妄想で世界経済は動かせられるはずもなく。

 結局は民間全体にお金が循環するシステムを作り出さなければならず、また、『作り出せさえすればそれでいい』。勝ち負けなんて関係ない。究極的には『負けて儲かるなら、それこそが正義!』。・・・資本主義とはそういうものです。IS産業が世界第一位の主要産業になってるIS世界では、より顕著な問題になっている事でしょうたぶん。いや、知りませんけども素人なんで。

 

 

 まぁ、何が言いたいのかと言いますなら、

 

『IS操縦者は強いだけじゃダメ。人気が大事、イメージが大事。入ってきたばかりの新人に舐められてるようじゃ、この渡世は渡っていけない。昨日今日IS動かしたばかりの素人さんに舐められてたんじゃ、こっちの商売あがったりなんだよ。アアン?』

 

 という感じに・・・なんかヤのつく商売の方が入ってませんでしたか? 今の妄想・・・。――ま、いっか。

 

 

「ましてIS学園は、倍率一万倍のエリート校。ここに入学できているという時点で既に世間から見ればエリートの一員も同様です。

 専用機持ちと量産機乗りの違いは『専用機を与えられているかどうかだけ』・・・それがIS適正を発見されなかった部外者である“お客様たち”から見たIS操縦者・・・。

 そんな中でエリートという肩書きは自ら主張しない限り、商品価値は無いも同然・・・」

「・・・・・・」

「わたくしには何があろうと絶対に、守り抜からなければならない大切なものがあるのです。

 その為に必要なら、たかが素人の初心者一人に嫌われるぐらいどうってことも――っ!!」

「・・・・・・先ほど申し上げたように、仰る事はよく分かるのですがねぇ・・・・・・」

 

 ポリポリと頬をかきながら、私は彼女が気づいているのかいないのか、判然としない部分について指摘するだけ指摘しておく義務だけは果たしておく事にいたしましょう。

 

 

 

「でも、さっきの言い方だと、単なる『女尊男卑右翼で苦労知らずなワガママお嬢様』にしか見られなかったと思われますが?」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??? あれ、返事がない。少し目線を合わせてみてみようと――って、うわっ!?

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・(・o・)」

 

 ・・・見事なまでのハニワ顔になってらっしゃいますね・・・。余程意外な言葉だったようです。

 もし今の彼女を肖像画に描かせてタイトルを付けるとしたら『OH・・・』でしょうか?

 

「・・・・・・really?」

「マジですが、それが何か?」

 

 あ、間違ってましたね私の予測回答。そんな呑気なことを考えながら適当な気分で答えた私とは対照的に、オルコットさんは『ズーン・・・』とテンションがズンドコ状態に。

 

「・・・・・・・・・それは予想外の効果ですわね・・・どこで間違っていたのでしょう・・・?」

「最初っからじゃないですかね?」

「・・・やはり今朝の占いに出ていたラッキーカラーのゴールドメタリックを身につけてこなかったのが原因でしょうか・・・?」

「いえ、占いは関係なしに会話内容が根本的にですね・・・、て言うかそんな色身につけるのが幸運って言い出すテレビ局どこですか?」

 

 むしろ、あるんですかそんな会社。ISに治安出動させて潰してしまった方が、世の中と女子高生の平和維持に貢献できるのでは?

 

 ガララ。

 

「――よし、全員席に着いているな。大変結構。では諸君、授業を開始するとしようか」

 

 あ、織斑先生が来ました。

 てっきり1、2時間目と同じく山田先生が教壇に立つと思っていたのですがね。もしかしてその関係で、ちょっと到着時間が遅れられたのでしょうか?

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備について説明しよう・・・ああ、忘れていた。

 その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないんだったな。

 自薦他薦は問わないから、誰か適当にやりたい奴、やらせたい奴がいる者は挙手するように」

 

 ふむ、クラス代表者・・・情報源から聞かされている話によるならば、普通学校で言うところのクラス委員長的な役職であり、言うまでもなく日本の学校においては名ばかり名誉職同然の、お飾り委員長のこと。

 体よく扱き使われる雑用係に名前だけ立派なのつけて中身を誤魔化そうとする、日本人特有のネーミングセンスは世界が変わっても変わりようがない普遍の真理というわけですか。

 

 まっ、真相を知っているIS学園について調べ上げているはずの志望受験して受かった皆さんは誰一人としてまずやりたがらない役職の一つであるでしょうし、面倒ごとは名前で誤魔化されてくれそうな基礎も知らない無名の新人さんに押しつけちゃうのが人の性なのは自明の理ですから、まず間違いなくこうなるでしょう。

 

 

「はいっ。私は織斑くんを推薦します!」

「え。お、俺ぇっ!?」

 

 ――よっし、大命中。これでオルコットさんにも誤解を解くチャンスが巡ってきたわけですね。いっちょ頑張ってもらうとしましょ。

 

「(コソッ)チャンスです、オルコットさん。ここでISの専門家として知識を披露し、その上で物知らずな初心者さんに優しく教えてあげる尊敬できて頼れるベテランの評価を得られる絶好の機会です。是非ともものにして下さいませね?」

「(コソッ)わ、わかりましたわ。ご協力感謝します異住さん。――いいえ、セレニアさん」

 

 そう答えて「ニコッ」と微笑み、毅然とした態度で立ち上がったオルコットさん。これだけやる気があって、頭も悪くないようですから大丈夫でしょう。

 

 期待してますからね? オルコットさん。・・・いいえ、“セシリアさん”。

 

 

 

 

 んで、話し合いの結果はこうなりました。

 

 

『1年1組担任の織斑千冬公認の元、織斑一夏とセシリア・オルコットの決闘を許可するものとする。

 日時は一週間後の月曜日。場所は――――』

 

 

 

 

「馬鹿?」

「・・・オゥ・・・マイ・・・・・・ガット!!」

 

 割と本気でIS世界に住む人間たちのコミュニケーション能力について不審を抱かされた一日でした。

 後に彼女が原作ヒロインの一人である事を知ったときに、正気を疑ってしまったのは現在進行形で生きる当時の私も知らない秘密です。

 

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女(試作版)第3話

『IS学園のひねくれ少女(試作版)』シリーズをまとめて投稿し直しましたので、この話より前があります。

1話目からお読みになりたい方は2話前までお戻りください。


『少女たちの放課後は女子トーク?』

 

 

 

 ・・・色々な誤解やすれ違い、互いの事情を知らないが故に引き起こされた諸々の末。

 オルコットさん、もといセシリアさんが申し込んだ織斑一夏さんとの決闘が許可された訳なのですが。

 

 

「・・・入学初日に完全アウェーな外国である日本をバカにして、世界中が研究対象としてほしがっている『世界初の男性IS操縦者』にケンカを売り、あまつさえ飛行時間三〇〇時間超の大ベテランが昨日今日ISを習いだしたばかりの素人相手に五分の条件で戦おうという一方的に有利な条件を提示して、国家権力が介入できない治外法権の地IS学園教師公認で全校生徒立ち会いの試合として成立させたイギリスの代表“候補生”ですか・・・・・・。

 今回の件でどれほど代表の地位から遠ざかったのか、本国の方に聞いてみたくなる失態ぶりでしたよねぇー・・・・・・」

「ごふぅぇっっ!?」

 

 

 ボンヤリと宙を見つめながら私がつぶやくと、オルコットさん、もといセシリアさんは・・・ああ、もう面倒くさい。オルコットさんでいいです、今後はコレで統一させて頂きましょう。

 私に名前呼びは無理。慣れてないし、呼びにくい。だから名字呼びです。

 

 ――オルコットさんは盛大に吐血して床をのたうち回られました。痛そうですし、苦しそうでもありますけど、私は関与しません。自分でまいた種です。自分でなんとかしなさい。

 『自分の発言に責任を取ることが自信の根拠になる』と、昔のギャルゲーで言ってたような気がしますのでね。

 

「ふ、フフ・・・まだですわ・・・・・・まだメインエンジンをやられただけですもの!」

「それ、普通に死んでませんか?」

 

 人体をモビルスーツに置き換えた場合、メインエンジンはおそらく心臓に当たります。それ繋がりで心臓にダメージ受けたから吐血しているイメージと言えなくもないでしょうけど、普通に死にますよね? 心臓がやられちゃったりした場合には。

 

「そ、それにまだわたくしが犯した失敗は戦いが始まる前の一度きり! まだ勝負自体は始まってもおりません! 一度の失敗は一度の勝利によって贖うことが可能! 勝てば良いのですわ! 勝てばね! そうすれば歴史は変わり、過去の失言問題はつぐなわれます! 最後の瞬間まで未来を投げ出さない希望こそ明日を掴み得るものなのですわよ!!」

「まぁ、そういう意見をあるみたいですけどねぇー・・・・・・」

 

 具体的には、ロード・ジブリールさんとか、パトリック・ザラさんとか、フレーゲル男爵とか言う人たちの間では特に。

 

「でも、戦略レベルの失敗を戦術レベルの勝利で覆せないのは軍事上の常識なんですよねぇー・・・・・・」

「あががががががああああああああっ!?」

 

 再び吐血し、今度は絶叫も追加されるオルコットさん。意外と顔芸が器用な方ですね。

 転生した身体が顔面筋肉筋の動きにくい無表情な女の子の身体だったせいで難儀してた部分もありますし、今度教えを請うてみましょうかね?

 

「ふー・・・、ふー・・・、―――セレニアさん」

「はい、なんでしょうか? オルコットさん」

「スイス銀行って、電話番号はいくつでしたかしら?」

「・・・・・・こんなことぐらいで超人的スナイパーに暗殺依頼を出しにいかんでください、イギリス代表候補生で英国貴族のご令嬢様・・・」

 

 つか、そもそもスイス銀行なる銀行は無い。

 ・・・そういえば確か、IS学園入学時に見た有名選手と将来有望な代表候補生たちの欄にオルコットさんの機体も掲載されていて、『ブルー・ティアーズ』っていう狙撃が得意なISでしたねぇ。

 アレ繋がりで狙撃系のネタがお好きなのでしょうか? ちなみに私の好みはシモ・ヘイヘさんです。

 

「・・・まぁ、過ぎたことは仕方がありません。

 やってしまったことを無かったことには出来ないのですから、いま置かれている状況を少しでもマシな方に改善することに尽力することこそ、今を生きる私たち全ての人間にとって大切なことであるはずなのです・・・!!」

「ものは言い様だなぁ~」

 

 勢いでごまかそうとして、全然ごまかせてない系の典型例みたいな状況下。

 むしろ私的には「一向宗並のスゴい言いくるめを見た」って方が合ってる気がしました。

 

「まぁ、いいですけどね別に。オルコットさんの問題なので私的には責任を共有することも出来ないので、どうすることも出来ず関係ないですし」

「・・・・・・かわいい顔して、全然優しくありませんわよね。セレニアさんて・・・・・・」

「・・・私の問題は置いておくとして、どうされますか? 言われたとおり放課後まで残ってみましたけど、この後どうするかの予定は考えておありなので?」

「無論! 特訓ですわ!!」

 

 どどーん!と、オルコットさんの背後に葛飾北斎のビッグウェーブが写る景色を幻視しました。それほどまでに気合いとやる気に満ち満ちておられたのです。

 

 ・・・要するに見た目の小ささに反して受ける印象がデカいと言うこと。スモールな絵葉書サイズに書かれた大津波。それが葛飾北斎の作品『赤富士』『ビッグウェーブ』。

 

「獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすと言いますでしょう! わたくしは何も才能だけでやっている苦労知らずの天才などではありません。努力と才能で計画的に結果を出してきた秀才型の人間です!

 だから今回も素人相手とはいえ手を抜くつもりはありません! 必ずや完勝し、不満やブーイングを押さえ込めるだけの成果を皆様にお見せする所存ですわ!」

「・・・まぁ、イジメにしか見られないかもしれない可能性はひとまずおいておくとして・・・」

 

 私はポケットの中から引っ張り出した紙にメモした内容により、いくつか彼女にご忠告しなければならない事があるのをお伝えいたします。

 

「ここに、オルコットさんにとって残念なお知らせがいくつかあります」

「?? なんですの? わたくしの特訓に際して何か問題ありまして?」

「はい。――まず最初に的代わりに使う予定だったドローンやバルーンの使用許可が下りませんでした。整備中とのことです。なので使いたければ整備が完了するのを待って欲しいとのことだそうです」

「あら、そうでしたか。困りましたが、今回の試合は突発事項ですし仕方がありませんわよね。

 それで? 整備が完了するのはいつ頃を予定していると言われまして?」

「早ければ明日には終わるし、遅ければ一ヶ月かかるかもしれないと言われましたね」

「間の幅が長すぎませんか、その整備期間!?」

 

 驚愕顔のオルコットさん。

 気持ちはわかりますけど、報告にはまだ続きがあるのです。

 

「次にもうひとつ、大きな問題が発生しました。使用申請を出したISアリーナの予約がどれもいっぱいだとのことだそうです」

「む。・・・まぁ、それもまた道理でしょうね。わたくしたち一年はともかく、二年三年の上級生の皆様方は練習熱心な方もおられるでしょうし、授業を優先しなければいけない一年生より上級生方の方が優先的に練習場所を割り当てられるのは当然のことで―――」

「こちらもオルコットさんの手番が回ってくるのは『明日か明後日か一年後ぐらい、ちょっと予想がつかない』と言われましたが?」

「完っ全に嫌がらせしてきてますわよねぇ!? そのIS学園職員の皆様方は!?」

 

 オルコットさんが遂に切れました。むしろ遅すぎるくらいでしたが、どうしようもありません。

 なにしろ――――

 

「日本をあれだけ侮辱しまくった外国人生徒と、今最も話題沸騰中の人気アイドル系イケメン少年の日本人生徒が戦うわけですから、依怙贔屓されるのは致し方ないことでは無いかなと」

「くぅ――・・・っ!! これだから閉鎖的で引きこもりがちな村社会の極東島国民族はぁぁぁっ!!」

 

 ヒドい言われようをされてしまいました。反論も否定もする気ありませんけどね。

 元日本人とはいえ、私は日本人のこういうところは前世から嫌いな性質でしたから。

 

「とは言え、あれだけ差別発言繰り返しまくって『世界初のIS男性操縦者』をボコる発言したイギリス上流階級出身の専用機持ちが相手な訳ですから、『女尊男卑左翼の回し者が自分たちの敵を早めに排除するためIS学園に介入してきた』と解釈されてもおかしくないわけでして・・・難しい問題ですよねコレって」

「NOォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

 どっかで見覚えのある外国人労働者のごとき叫び声を上げて、セシリアさんは今日何度目かの血反吐ぶちまけ床ゴロゴロを再現した後、ようやく立ち上がり前を見つめ直しました。

 ――瞳のハイライトが薄くなってきてる気がするのは、気のせいだと私は思いたい・・・。

 

「・・・もう、素直に恥を忍んで織斑先生に相談しに参りましょう・・・・・・あの先生は公私混同されなさそうですし、教員たちによるあからさまな身内贔屓や仲間同士の庇い合いなどに惑わされること無く公平に裁いてくれるはず・・・・・・」

「その判断が妥当だと私も思います。思うのですが・・・少しだけ厄介な問題がひとつ」

 

 ちょいちょいと、彼女に後ろを振り向くよう指先でジェスチャーし、「??」と不思議そうにしながらも素直に振り返った彼女が見た視線の先にはピカッと光る一瞬の光と、誰かが走り去っていく上履きが鳴らす足音の余韻。

 

 一瞬だけ見えた先ほどの光は、おそらく反射光。

 カメラのレンズに夕焼けの光が映って反射した一瞬の光だと思われます。

 

「・・・」

「今や貴女は、IS学園全部が敵だと思った方がいい状況です。織斑先生に相談すれば解決されてしまう程度の問題である以上、必ずや敵は妨害工作に訴え出てくるでしょう。

 仮にそれらを突破されて織斑先生からお叱りを受け雷を落とされようとも、それぐらいで不平分子が完全に大人しくなるなどと言う甘い幻想は捨てておくことですね。パルチザンやレジスタンスが圧倒的武力による攻撃だけで沈静化することが出来る程度の存在なら、ナチスドイツは恐らく第二次大戦に負けていなかったでしょうからね」

「・・・・・・」

「最悪、貴女が王道と正道を貫き通して勝利して、地位も名声も守り抜けたとしましても、それを快く思わない貴女以外のイギリス代表候補生たちにデマや風聞を垂れ込まれる恐れすらある。

 たとえスポーツマン精神を尊重する尊き人格の持ち主だったとしても、いや、だからこそ許すことが出来ない『その地位に不適格な理由』というものは辻褄合わせや解釈の仕方次第でどうとでも後付けできてしまうもの。噛みつき併せて潰し合わせるのだって、スポーツマンシップを大事にしない実力だけのイギリス代表候補生には有効な戦術たり得るでしょう」

「・・・・・・・・・」

「そして何より重要なのは、貴女が今居る場所は日本。代表を決めるイギリス政府が存在する英国本土より数千キロ離れた極東の海に浮かぶ小さな島国、その中で国家権力が介入できない『本国の地位と権力で特別扱いしてもらえない、特別休暇なんて以ての外』な治外法権の地IS学園1年生の教室にいると言うこと。

 ――地理的条件が圧倒的に不利すぎますよ・・・・・・あなたは直ぐ近くに居る赤の他人でイギリス代表候補生に関与しないし出来ない織斑さんなんかよりも、もっと身近で遠い他の同胞IS操縦者をこそ注視して用心深く事を進めるべきでしたね・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 私の長広舌が終わり、オルコットさんはしばらく沈黙した後。

 小さな声でこう呟かれたのです。

 

「――――ど」

「ど?」

「ドムゥゥゥゥゥ!?」

 

 ブバァァァァァァァッ!?

 

 ・・・・・・もの凄い勢いで放出される口から出る流血。つまりは吐血です。間欠泉なみの勢いで飛び出るそれを人力で押さえつける術は軟弱な元日本人であり、今なお軟弱なのは変わりない日英ハーフな転生者の私にはとてもとても不可能事でした。

 

 なので無視します。見ているだけです。どうせ他に出来る事なんて何一つありゃしない無力で無能な転生者なんてこんなもんです。

 

「げ・・・げ・・・・・・ゲルグ・・・グ・・・・・・」

 

 

 そして思います。

 ・・・・・・なんで旧ジオン量産型MS群? グフだから? でも、いきなり飛ばしてドムだったのはなんでなの?

 

 様々な謎を孕みつつ、私にとってIS学園入学一日目はようやく終わりを迎えるのでした・・・。

 

 ――え? 前回のラストで終わってなかったのかって? 今更何言ってんですかバカ臭い。

 終わったと言っておいて、その後の続きの方が遙かに長くなる物語なんて世の中には腐るほどある時代が現代なのですよ・・・? ね? 今更過ぎるでしょう・・・?

 

つづく

 



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IS学園のひねくれ少女(試作版)第4話

すいません、4話目だし忘れてたみたいなので改めて投稿しなおさせていただきました。
それから折角なので続きの回を書こうと思ってます。
鈴の登場回ですので書くのを楽しみにしてたことを思い出しましたから♪


『クラス代表決定戦?』

 

 

 

 オルコットさんと織斑さんの試合が決定してから一週間が経過し、決闘当日の月曜日が訪れました。

 試合会場として指定された第三ISアリーナは学園中の生徒がほぼ全員集められてでもいるのか凄まじい声量の歓声が選手控え室のピット内にまで響いてきます。

 

 ピット内にいるのは私とオルコットさん。

 ・・・そして意外にも、織斑先生が織斑さんのピットに赴く前に顔を出してきてたりしておりますです・・・。

 

「いや、素人と玄人の試合とはいえ、自分が受け持つ生徒同士の試合でもあるからな。身内のピットにだけ行ったのでは完全に差別だろう?」

「まぁ、そうなんですけどね」

 

 ぶっちゃけ、口先ばかりで身内贔屓しまくりそうなオーラを全身から漂わせている人だと思ってましたので、心の中で相手を再評価しながら反省する私。お猿さんの反省ポーズです。今は心の中だけですけれども、実際にやるのは部屋に戻ってからになりますけれども。

 

「とは言え、オルコットは国家代表候補生であると同時に専用機持ちでもある。今さら私が言わねば分からぬことは殆どあるまい? だからこそ一夏・・・織斑のもとへ行く前にこちらへ来たと言うわけだ」

「なるほど。そういう事情でなら納得ですわ」

 

 オルコットさんも首肯して了承し、自分の機体の最終チェックの方に意識を向けて固定されたようでした。

 実際、先生の言うとおりのようでオルコットさんが彼女に質問したのは必要最低限度の確認事項だけで、他は流れ作業的に“一応聞いておいただけ”。そんな印象。

 

「・・・・・・」

 

 それきり黙り込んだまま作業に没頭するオルコットさん。織斑先生も儀礼的に一定時間一緒にいるだけで後は普通に帰るつもりのご様子でしたので、折角ですから前に聞こうと思って聞けなかったことについて確認しておこうと思います。

 

「そう言えば織斑先生。一つお尋ねしてもよろしいですか?」

「ん? 異住か・・・なんだ? なにか私の授業でわからない部分でもあったのか?」

「はぁ。実はですね・・・・・・」

 

 そう前置きして私がはじめたのは、入学式当日でのやり取りで交わされていた会話内容の一部について。

 

 クラスの代表候補を決める際に自薦他薦を問わずに候補者を生徒たちに選ばせようとした件で言っていた言葉についての質問です。

 

「確か先生はあの時、こう仰っておられましたよね? 『自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ』と」

「うむ。確かにそう言ったな。それが?」

「いえ、アレって普通に考えて・・・・・・」

 

 小首をかしげながら相手を見つめ、ボンヤリとした心地のまま本命の質問を発します。

 

 

 

「個々人の事情を無視して、全員に同じ基準を絶対のルールとして押しつけるのを平等とか公平って呼ぶのは、民主主義じゃなくて共産主義的平等の精神じゃないのかなーって」

 

 

 

 

 ―――ガコン!!

 

 ・・・質問を終えた私の耳に、大きな破砕音が届いてきました。

 見ると、織斑先生が控え室の壁に頭をぶち込んで頭突きをかまし、分厚い合金製だかなんだかで出来てるはずのそれを凹ませながら『ズーン』と顔の上から縦線を垂らしてる姿が見受けられたのでした。

 

 

「・・・・・・・・・なぜ、今まで気づかなかった私・・・?」

 

 “バカだからじゃないですか?”・・・とは言いません。てゆーか言えません。

 ――到底言えるような空気じゃねー・・・。

 

「まぁ、現代日本の一般認識だと民主主義ってそう言うものだと勘違いしている人たちが多いですからねぇ。そう言う考えのもとで教育されてきた貴女があんまり平等の精神とかに詳しくないのは仕方ないんじゃありません? 多分ですけれども」

「・・・・・・・・・・・・(フラフラフラ・・・)」

 

 教師と生徒という関係性から礼儀的に慰めの言葉をかけて、フラフラしながら部屋を出て行く先生の後ろ姿を見送る私。

 そこでようやく機体のデータ表示から顔を上げたオルコットさんが声をかけてこられました。

 

「織斑先生って、水平的平等の精神の持ち主だったんですのね。意外と言えば意外ですが、納得したと言えば納得の考え方ですわ」

 

 水平的平等。経済用語で『全員一律に平等』のことを指し、日本で言えば消費税が一番分かり易いたとえと言えるでしょう。

 これとは逆に『異なる能力を持つ人は異なる負担を平等にする』のが垂直的平等であり、累進所得税が有名どころでしょうかねぇ。

 

 

 ・・・今さら過ぎる疑問ですけど、何で私死んで生まれ変わってから、こんな事考えてるのでしょう? 税金問題も平等の精神も死人には関係ないはずなんですが・・・。

 神の前で死者は皆平等だという建前は、転生者に一番当てはまらない平等の教えなのかも知れませんね。

 これもまた死んでからは関係ないはずの平等の定義問題・・・いや、これはむしろ死んでから意味が出来る平等問題なのかな? 頭こんがらがって来たので考えるのやめましょう、面倒くさいですから。

 

 

 ピ―――――ッ。

 

 

「・・・どうやら時間が来たようですわね。

 では、行って参りますセレニアさん。

 わたくしが勝利の栄光を持って帰るのを待っていて下さいませな!」

 

「え? いや、一人だけでピット内から試合見てても退屈なだけですし、観客席から皆さんと一緒に観戦するつもりでいたんですけど・・・ダメでしたかね?」

「・・・・・・そですか・・・・・・。いえ、ダメなわけではないですのでご自由に・・・。

 確かにピット内で一人だけだと暇ですものね。ええ、間違いなく暇ですし退屈ですわよ、一人きりで試合終わって帰ってくるの待つだけだなんて・・・」

 

 

 なぜだかオルコットさんまで意気消沈しながら部屋を出撃していき、私は小首をかしげながら観客席へと向かうのでした。

 

 

 

「・・・逃げずに来たようですわね織斑一夏・・・その度胸に免じて最後のチャンスをあげましょう」

「チャンスって?」

 

「わたくしの悲しみと絶望に満ちた魔弾で撃ち殺されるか、孤独と悲哀を込めた呪いの銃弾で撃ち殺されるか。どちらかを自分の意思で選びなさい。

 それが殺す前にあげられる最後のチャンスですわ」

「それのどこがチャンスなんだ!? 自分の処刑方法選ばされてるだけじゃねぇか!?」

「死刑囚とはそう言うものです。

 三秒間待ってあげましょう。3、2、1・・・はい、終わり。お別れですわね。

 シネッ!!」

 

「理不尽だぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第5話

ひねくれ少女の続き書いてみました。良ろしければお楽しみください。

追記:書き忘れてたので追記します。
投稿場所を変えましたので今話から「試作版」の文字とサブタイトルを無くしました。
この話より前の分も、以前までのを読んでた方に認知される時期を見計らって消す予定です。


 まだ暖かな四月の夜。

 セシリア・オルコットと織斑一夏がクラス代表も座を得るために戦って、セシリアが勝ったのに代表譲って一夏がクラス代表に就任した結果『結局なんのために戦ったのコイツらは?』な終わり方をした日からしばらくの時が流れていたIS学園の正面ゲート前に一人の少女が立っていた。

 

 小柄な体に不釣り合いなボストンバッグを持った、ツインテール髪の少女である。

 勝ち気な瞳と、腰に手を当てた偉そうな態度が印象的なツルペタ合法ロリ少女だった。

 

 

「ふうん、ここがそうなんだ・・・」

 

 あたしは夜空をバックにそびえ立つ学校を見上げながらニヒルに笑って、つぶやく。

 国元でテレビを見ていたらぐうぜん映った“アイツ”と再会するため、やってきた場所IS学園。

 

 そして思い出す。あたしが日本に帰ってくる一番の理由になったヤツとの思い出を。中学校時代を一緒に過ごした幼馴染みの存在のことを。

 

 ――元気かな、アイツ。あたしのこと覚えててくれてるかな・・・?

 まぁ、忘れてた場合は力尽くで思い出させるだけだから結局は何も結果は変わらないんだけれども。

 

 色々な想いと記憶が浮かび上がっては消え、想いでの小箱に大事にソッとしまい直しながら、あたしは最初に行かなくちゃいけないらしい場所、総合受付へと向かって歩き出す。

 国籍は中国なあたしだけど、日本は小五の時から中二の終わりぐらいまで過ごしてきた第二の故郷と呼ぶべき場所でもある。文字だって読めるし、言葉も分かる。問題はない。

 

 だからこそ、今言うべきことは一つだけ。

 

 

「――敷地が無駄に広すぎる! 地理案内の説明が説明になってない! 知ってること前提で書かれた初心者向けの説明書に意味なんてないでしょ!?

 中身の質より数字のデカさで世界一やりまくりたがる日本人の悪癖いい加減あらためなさいよコラァァァッ!!!」

 

 久しぶりに帰ってきた第二の故郷な日本の地で、あたしは時間が経っても変わっていない日本の悪いところを大声で夜空に向かって非難する。

 外国から来た人が、日本で日本の悪口言うなら誰の目も耳も気にしなくていいところで叫ぶのが一番だものね! わかるわ! うちの国でも似たような部分多いから!

 

 

 ――そんなこんなで、あたしの日本におけるIS学園生活一日目はスタートする。

 そして終わる。夜に到着して始まると、やることが寝るしか残ってないから。

 恋には勝負に出なくちゃいけないときが必ず来るけど、でもそれは今じゃないわ! 明日からなのよ!

 

 と言うわけでお休みなさい。空の旅で疲れてるんです。・・・ぐー・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「よう、セレニアおはよう。ところで聞いたか? 転校生の噂について」

 

 朝。席に着くなりクラスメイトに話しかけに行った俺は、先日聞いたばかりの噂を話題として開陳する。

 

「こんな時期に珍しいよな。なんでも中国の代表候補生らしいんだけど、お前なんか聞いてるか?」

「・・・あのですねー、織斑さん・・・」

 

 無愛想ではないけど無表情な俺の旧友は、俺の話を聞いて頭痛がするように頭を押さえながら上目遣いに非難口調で返事を返してきてくれる。

 

「周りが女の子ばかりで話しかけづらいのは分かりますけど・・・毎日のように私に話しかけに来るのやめてくれませんか?

 あるいはせめて話題を変えてください。中身が大して変わらないままディテールと単語だけ変えてこられても返事に困りますから・・・」

 

 無愛想ではないけど薄情なことを言う、我が旧友。おまけに途方もない無茶振りをしてくれやがった。

 

「いや、そうは言うけどさセレニア・・・・・・」

 

 俺は仏頂面を浮かべながら、理不尽すぎる旧友に対して不満をぶつける。

 

 

 

「男の俺が全寮制の女子校で生活しながら新しい話題を取って来れるとでも・・・?」

 

 

 

「・・・・・・まぁ、そうなんですけどねぇ・・・・・・」

 

 中学からの友人二人して顔を合わせながら、大きな溜息を同時に一つずつ。

 いや、本当。IS学園って娯楽少なすぎるんだよ、本気の本当に・・・・・・。

 

 ただでさえ全寮制だし、外出は休日まで待たなきゃならないし、おまけに元々女子だけが生活すること前提で建てられてる場所だから用意されてる娯楽類も女向けばっかりで男の俺には今一楽しめるものが多くない。

 

 せめて俺に趣味でもあれば別だったのかもしれないが、生憎と俺の趣味は家事手伝いだ。

 料理も掃除もしちゃいけないわけじゃないけど、今の部屋は箒と同室だから勝手に大掃除するわけには行かないし狭いし、料理だって美味しい食堂がある。たまには作ってもいいけど、毎日自分で作る気力が湧かなくなるぐらいには美味しい料理が無料で食べられるとなると流石に作る回数が減ってしまうのは仕方がない。

 

 そして、セレニアは中学校時代に毎日顔を付き合わせて話し合ってた間柄だ。ハッキリ言って今更『話題にあげるほど目新しい日常の情報』なんて互いに持ち合わせていない程度には関係が深い。

 

 要するに―――暇だ! 友達がいないならともかく、いるんだったら会話ぐらいしたいぞ俺だって。

 木の股から産まれた朴訥じゃねぇんだから、黙って過ごすよりも友達と楽しくおしゃべりしてた方がずっと楽しい。当然のことだ。

 

「だからって何も、毎日変わらず私相手にしなくてもいいような気が・・・・・・」

「他にいねぇんだもんよ、今のところ。

 クラスの女子とは垣根はなくなったけど、やっぱまだ抵抗あるし。箒は剣道バカな上に話題極端すぎるし、セシリアとは決闘前よりかは仲良くなったけど友達ってほど話しかけてきてくれねぇし。他に候補がいないんだって。あくまで今のところはだけれども」

「・・・相変わらず改善していく努力だけはやめないアピールをプッシュしてくる人ですね・・・。

 気持ちは分かりますし、尊い想いだとは思いますけれど・・・正直ウザいです・・・」

「ヒドい!?」

 

 そんな感じで、なんだかんだ言いながらも毎日俺との会話に付き合ってくれてるセレニアはやっぱりいい奴なんだと実感しながら旧友との会話に花を咲かせていると。

 

 背後から聞き覚えのある声――最近少しだけ仲良くなれた女子の一人が笑顔で話しかけてきてくれたのだった。

 

「織斑くん、異住さん、おはよー。ねえ、聞いた? 転校生の噂。中国代表候補生なんだってねぇ~」

「お、おう。そうらしいな。俺も昨日聞いたばかりだぜ」

「なんにせよ、クラス対抗戦が盛り上がりそうでなによりだよ~♪ いやー、楽しみだなぁ☆」

「そ、そうか。そうだな、楽しみだな・・・」

 

 ・・・いかん、ペースに飲まれて押され気味になってる。なんとかしたいけど、女子のマイペース過ぎる上にテンション高すぎる会話には未だについて行けてない俺には難易度が高い。挑戦するのはレベルを上げてからじゃないと無理だ!

 

「そうですね、織斑くんの一人勝ちと決まっている試合でも穴狙いはいますから寺銭は入りますけど、競走馬がいた方がより儲かりますので良いことです。楽しみですね、金が」

「ちょいと? 会計さん、学生がクラスメイト使って阿漕な商売やろうとしてるの自白するのはやめてくださいよ。密告しないことに罪悪感が湧いてきちゃいそうですから・・・」

 

 そして、問題なく普段の素のままで新しい環境に適合してしまっているっぽい、俺の旧友。

 ・・・コイツは何か・・・? マシーンを使って理性を強化してでもいるのだろうか・・・? 今まで変なヤツに出会って普通に対応できてなかったところを一度も見たことないんだけども・・・。

 

「自分の正義感を押し殺してでも友達を守り、且つ、IS学園が治外法権だから法理的には問題ないことを加味して、後は自分の良識を押しつけるかどうかだけというエゴを押しつぶして理性を選べるセレニアさんのことが私は好きですよ? 金になりますから」

「・・・それはどーも、とても嬉しいですよ会計さん。思わず泣きたくなるぐらいにはですけどね・・・」

 

 そして、なんか知らんがクラスメイトの中に同類がいたらしい。正直、俺は関わると金儲けに利用されそうな気しかしない相手なのでセレニアを盾にして、この人と関わり合わないためのバリアーにさせて欲しい気持ちが山のごとしだぞ? なんか物すっごく相性悪そうな気がする相手だから。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

 と、ここで箒とセシリアが会話参入。セシリアはともかく箒の方は毎日毎日チラ見して来てるんだし、もっと頻繁に話しかけてくれよ。五反田も鈴もいない中だとセレニアしかいなくて寂しいじゃねぇか。

 

「まぁ、どちらにせよ今のところ専用機持ちはのクラス代表は一組と四組だけで、四組の方は諸事情あって機体が未完成だそうですし、あまり評がバラつきそうにありませんね・・・。

 もっと対抗馬が欲しいですが、無い物ねだりをしても仕方がないので別の儲け方を考えましょう」

 

 会計さん(?)が、恐ろしい上に学生が言うことじゃねぇだろなセリフを吐いてくれた、その次の瞬間。

 

「―――その情報、古いよ」

 

 ヤツが、来た。

 

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったわ。そう簡単に一組は優勝できないから、覚悟しておくことね!」

 

 

 格好つけまくった聞き覚えのある声が、教室の入り口の方から轟いてきたのでそちらを見ると。

 

「鈴・・・? お前、中学二年の終わりに国に帰ってった凰鈴音か?」

「そうよ! あたしは中国代表候補の凰鈴音! かつて中国から来た臥龍と呼ばれた女!」

 

 呼んでねぇよ。呼ばれたところ聞いた覚えがねぇよ。

 て言うか、お前のどこが孔明なんだよ。どっから誰がどう見ても張飛じゃねぇか。三国志英雄の名前を勝手に自称すんな。

 

「またの名を――ジ・オリジン版ドラゴン・ファイター鈴!

 もしくは、異住鈴でも可! むしろこれで呼びなさい! 呼ばないヤツはぶっ飛ばす!」

「どっちなんだよ。そしてセレニアが死にかけてるよ。主な理由は恥ずかしさで」

 

 いきなり前言翻して変態発言のたまってきやがった鈴によって、はじめてセレニアに変化が訪れるところが見れた。

 机に突っ伏して顔を隠してプルプル震えているけど、明らかに両耳が真っ赤になって恥ずかしがりまくってるのがよく分かる。

 

 「頭隠して尻隠さず」って諺があるけど・・・今のコイツはどう見ても「耳なし法一」だよな。

 

「つーか、お前は何格好つけてるんだ? すげぇ似合わないぞ」

「フッ! 相変わらずね一夏! アンタのその『常識的に生きないのがカッコいいとか言ってる奴らはカッコ悪い。本当にカッコいいのは常識的に生きてる俺さ!』的な感じは少しも変わっていないようで安心したわ! やはりアンタじゃあたしに敵わない!」

 

 カチン。

 

「言ってくれるじゃねぇか・・・中国だって対して違わねぇだろ。見栄っ張りな国で何年覇者だよ」

「そうね! それは否定しないわ!」

 

 しないんかい。じゃあお前はなにを根拠にして偉そうに俺を見下してきてるんだよ。

 

「あたしは敗北を知り、地獄を味わい、大いなる悲しみを乗り越えて悟りを開いたのよ・・・。今のあたしにつまらないプライドなんてものは存在しない!

 今のあたしはプライドと見栄のためなら生命だってかけられる、迷いを捨てて心を裸にした中国人! 凰鈴音!

 見栄やプライドで戦ってる事実から目を逸らしてるアンタじゃあたしには恋のバトルでは決して敵わない!! 分かるでしょ!? 分かったらそこを退きなさい! あたしにセレニアと会わせなさい!

 久しぶりにセレニアのデカパイを、あたしに拝ませなさいよ一夏ぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

『なぁぁぁっ!?』

 

 

 ・・・言っちまった・・・。言っちまったし、叫んじまったよこのバカは、自分の変態性癖を隠すことなく堂々と。

 中学時代にセレニアと会って、徹底的に論破されて以来ベタ惚れするようになっちまった同性愛者である自分自身を真っ正面から正々堂々バカでかい声で・・・・・・。

 

「あたしは一夏と違ってハッキリ言うわ! 隠さず言うわ!

 セレニアァァァァッ!!! アンタが好きよぉぉぉぉぉっ!!!!

 アンタのデカパイを揉みしだきたいぐらいに大好きよぶほはぁっ!?

 な、何奴!? あたしの恋路を邪魔する馬の骨はどこのドイツ!?」

「・・・お前は朝っぱらから、人の受け持つクラスでなにを大声で変態発言を怒鳴っているのだ・・・? お前らの民族は誇りが自慢じゃなかったのか・・・?」

「ち、千冬姉さん・・・っ!?」

「織斑先生と呼べ。もうSHRの時間だ。さっさと教室へ戻れ。そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ・・・・・・」

 

 千冬姉の登場で、さすがの鈴も大人しくなる。

 まぁそうだよな。絶対の氷壁を前にすれば龍だって止まるもんな。孔明だって赤壁使って曹操とめたんだし、千冬姉ならそれぐらい朝飯前さ。流石だぜ!

 

「どうした? さっさと戻れ。それとも言っただけでは分からないか?」

「ぐ、ううぅぅ・・・すさまじいプレッシャーだわ・・・これが元世界最強の実力なの・・・っ!

 さすがは、『董卓』!!」

 

 

 

 

「誰が三国志一の悪役暴君だコラァァァァァァァァァッッ!?」

「ごはぁぁぁぁっ!!!???」

 

 

 

 そして、使ってはいけない例えを持ち出したことで処刑されてしまった鈴。

 ・・・臥龍よ・・・、軍師名乗りたいんだったらもう少し言葉は吟味してから口に出した方がいいと思うぞ・・・?

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ほら、全員とっとと席に着け。オルコットもだ。廊下で転がって寝ているバカのことなどジッと見続けているんじゃない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 

 

 そして、俺は気づけない。

 セシリアが鈴を見る瞳に宿っていた、暗く濁った炎の色を。

 

 ・・・その鈍感さが後に悲劇を生み出すことを、今この時を生きる俺は全く気づいてやれなかったんだ・・・。

 

 

 

 授業中。セシリアの心の内側で。

 

(なんなんですの、さっきの方は! いやにセレニアさんに馴れ馴れしく接してましたし・・・はっ! ま、まさか恋人だったりとか、そう言う可能性が無きにしも非ず!?

 しかも人間関係で一歩リードされてるみたいでしたし、ヤバいですわ! ヤバいですわ! ヤバすぎますわ! いきなり中間地点からスタートできるなんてズルですわ! 人間関係的に正々堂々と勝負なさい!)

 

(・・・いいえ。よく考えてみたら、人間関係に時間など関係ありませんでしたわ。短くても、一緒に過ごした時間の密度も重要ではありません。

 大事なのは結果だけ! 恋は戦争! 戦争は勝って終わらせた側が正義なのです!)

 

(戦いとは非常なもの・・・勝った者だけが好きな相手と結ばれて、負けた者は泥に塗れる!

 わたくしは常に恋の戦争で勝者となる。

 恋の戦争で勝利して英雄になると誓った者なのですから!!)

 

 

 

 そして同じく授業中。廊下で倒れ伏して放っておかれたままの鈴の心の外側で。

 

「・・・ふ・・・フフフフフ・・・・・・あたしは踏み台にならないし、死なないわ・・・。

 生きて必ず、セレニアのデカパイを揉みしだいて添い遂げる!!!

 あたしはぁぁぁ、あたしはぁぁぁぁ、あたしは死なないぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!」

 

「そしてぇぇっ!! ・・・・・・ぐふっ(ガックリ)」

 

 

つづく?

 

 

今作オリジナル設定の解説:

『凰鈴音』

 中学校時代に一夏とセレニアと同級生だった元クラスメイトの少女。

 性格的な問題から色々やらかした末、セレニアから色々言われて心が折れた過去がある。

 その後、しばらく家に引きこもった後に復活して精神的に強くなった少女。

 どっかの世界線で似たようなことやってたバカがいた気がするけど関連性はない。

 一方で、IS操縦者になる前の人格改変だったため、実力的には原作のまま変化ない。

 

 余計な飾りを脱ぎ捨て、正直に『自分が見栄っ張りでプライドが高い人間』であることを認めてしまった。

 自分の心を正直に打ち明けられるようになり、同性愛者の変態と化してしまった美少女おっぱい星人。

 人は自分にないものを求めるからなのか、セレニアの巨乳に異常なほど固執しており、『胸を揉むと好感度が上がる』と信じて疑っていない。ギャルゲーのやりすぎみたいな思考を持つ。

 『恋する気持ち=デカパイへの愛情』という感じに不可分のモノとなってしまっており、違いがなければ、差も存在してはいない。全く同格の想いとして同化してしまっている。

 

 好きな言葉は、

『キャビアと北京ダックを較べるようなものさ。どちらも美味いことに変わりはない』

(ジェームズ・ボンド『007は二度死ぬ』より)

 

 ・・・要するに、『セレニアもセレニアの巨乳もどっちも好きだ。愛してる』と、そう言う意味らしい。いくらなんでも割り切りすぎだと思わなくもない・・・。



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IS学園のひねくれ少女 第6話

ひねくれ少女を更新。そして最近、文章がド下手になってきている事実を痛感。
原作に使っている作品だけでなく、もっと手広く色んな作品を読み直さないとダメだなーと思い知った次第です。


「待ってたわよ、セレニア!」

 

 お昼休み、昼食を取ろうと学食に来たら凰さんが待ち構えてました。仁王立ちで。

 

「さぁ始めましょう! あたしたちの食事デートという名の戦争を!!」

「・・・とりあえず席の方へ行きませんか・・・? ここで戦争するのは他人様に迷惑ですし、久しぶりに胃と心が疲れちゃってますのでね・・・」

 

 盛大に溜息を吐いてから、食事を共にするため彼女も加えて織斑さんたちと同じテーブルへ移動。いや、本当にこの感覚は久しぶりだな~・・・マジ疲れます。

 

 てゆーか、食料ないせいで引き起こされるのが戦争の定型だと言うのに、食事を一緒に食べる戦争ってなんですか・・・。奪い合わなくても一緒に食べれる量があるなら、仲良く食えばいいじゃないですか・・・。

 純粋に政治的覇権だけを奪い合っておこなわれる戦争なんてフィクションの戦記物か、よっぽど恵まれまくった豊かな土地にある国でもない限りあり得ませんぜ・・・。

 

「しかし、それにしても久しぶりだな。ちょうど一年ぶりになるのか。元気にしてたか? 鈴」

「元気にしてたわよ! でも、アンタには話しかけてなかったけどね一夏!」

「どういう挨拶なんだよ、そりゃ・・・」

 

 そして織斑さんが何故だか原作ヒロインのはずの凰さんから冷たくと言うか、激しく拒否られてますし。

 なんだって私の周りの性格的に問題ある同性の方々は、変な方向に人格崩壊していっちゃうことが多いんでしょうかね・・・本気で謎な現象です。

 

「・・・それよりも、一夏。そろそろコイツらとお前がどういう関係なのか説明してほしいのだが?」

「そうですわセレニアさん! まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるとかの関係じゃありませんわよね!?」

 

 私と凰さんと織斑さんによる中学時代に同じクラスだったトリオが仲良く(?)話しているところに横合いから篠ノ之さんが織斑さんに、オルコットさんが私に質問して来ながら席へと着席されてました。

 

 席の配置は、織斑さんの左隣に篠ノ之箒さん。私の右隣にオルコットさんと左隣に凰さんが。・・・なぜ原作主人公を差し置いて女の私が両手に花状態に・・・女に生まれ変わった後だから正直ハーレムはあんまいらねー・・・。

 しかも今気づいたら、何故に私は旧友と再会しただけで同性愛者扱いされている…?

 

 

「あー、そっか。二人には説明しないとわからないんだったよな。

 えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりで、鈴が転校してきたのが小五の頭。で、中二の終わりに国に帰ったから会うのは一年ちょっとぶり」

「ちなみに私は織斑さん、凰さんたち二人と同じ中学校に通っていて、二年のとき同じクラスに配属されてからの付き合いです。三年時には別のクラスになりましたけどね。

 一年の時には名前すら存じませんでしたけれども」

「・・・なんでお前だけ、そんな言葉にすると複雑そうに見えて実際にはよくある関係性なんだ・・・?」

「さぁ?」

 

 私に聞かれましてもねぇ。学校側のクラス配置なんて生徒の側が知る由ない問題ですし。

 

「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの幼なじみで、俺の通ってた剣術道場の娘」

「ふーん、そうなんだ。初めまして、これからよろしく。――それで?

 我が物顔でセレニアの隣に平然と座ってるヤツは誰? あたし、セレニア関係者じゃない他の部外者なんかに興味ないんだけど?」

「なっ!? わ、私のことはどうでもいいと言うのか!? 対応がおざなりすぎる理由もそれだというのか!?」

「うん」

「ぐはぁっ!? 裏表のない素直すぎる短文での興味ない発言は無駄に痛いっ!?」

 

 そして、原作におけるメインヒロインらしい篠ノ之さんが血反吐を吐いて地ベタに転がります。

 ・・・混沌としてるなぁ~、相変わらず私の日常生活は。

 

「ンンンッ! わたくしの紹介を途中で邪魔してもらっては困りますわ、IS適正Dランクしか持ってない量産機操縦者の篠ノ之箒さん」

「ぐふぉっ!? ・・・私は踏み台か・・・」

 

 さらにメインヒロインさんが黒い三連星化。

 ジェットストリーム・アタックは使ってないはずなんですけどね・・・。

 

「コホン。あらためまして、わたくしはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ。どうやらご存じなかったようですけど、今後はお見知りおきを」

「・・・ええ、初めまして。これから夜露死苦」

 

 ――よろしくする気0以下の挨拶! ここまで初対面から分かり易く敵意むき出しの挨拶するヒロインさんは初めて見た気がしますよ! 少しぐらい敵意隠せよ! 敵意が強すぎて殺意に至ってんじゃないですか見るからに!

 

 しかも『お前を殺す』と殺害予告した次の回で身バレする危険を考慮してでもターゲットを助けに来てくれた心優しい甘ったれテロリストじゃなくて、お金が絡んでなくても自分の美学で殺すと決めた相手は必ず殺す、有言実行の極地みたいなスナイパーさんの眼で宣言!

 ガチで怖い!!

 

「・・・言っておきますけど、わたくしあなたのようなチビジャリのお子様体型の方には負けてあげませんわよ?」

「(ぴくり)・・・そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど戦う前から結果は決まってるものだから」

「(ぴくぴく)・・・言ってくれますわね・・・負けが怖い相手ほどよく吠えるもの(ボソッ)」

「(ぴくぴくぴく)・・・アンタの方こそ意外に言うじゃないの。苦労知らずのお嬢様かと思ってたから驚いたわ。戦うときが楽しみね、ウフフフ・・・」

「そうですわね、オホホホホ・・・」

「あははは、ハハハハハはははははHAHAHAHA」

 

 うん。整備科志望でバトル物素人の私でもわかります。

 これ絶対―――ISバトルの話してねぇですなーってことだけは・・・・・・。

 

 

「わかったか? 箒。大体こういうヤツなんだ」

「めちゃくちゃ短文なのに、分かり易すぎる説明だな・・・・・・」

「元々はもう少し複雑なヤツだったんだけどな。なんて言うかこう~・・・さっぱりしてる割には遠回しで、勢いある割には肝心なところで急ブレーキがかかるって言うか。大体そんな感じだったんだけど、セレニアと出会ってしばらくしてからこうなった。それからはずっとこんな感じだ」

「コイツとの出会いは呪いかナニカなのか・・・?

 ――それから、『誰でも人のことはよく見えるもの』という諺は真実だったのだな・・・」

「??? なんの話だ?」

 

 アンタの話ですよ、きっと。中学時代に散々フラグ立てまくってはスルー性能発揮しまくって『ビルバイン織斑』と呼ばれたことのある男さん。

 

 

 

 そんな感じで昼休みが終わり、午後の授業も終え、織斑さんたちはIS操縦の練習へ。私は学生寮にある自室でIS整備関連の勉強をしに、それぞれの目的に分かれて別行動を取った訳なのですが。

 

 ・・・ぶっちゃけ私には皆さんと一緒に寮へと帰れない事情がありますので、口実として利用した側面も無きにしも非ずっちゅーか、なんちゅーか。

 

 トントン。

 

「失礼します。ただいま戻りました―――」

「おっかえり――――ッ!!! セレニア―――――――ッッ♪♪♪♪♪」

 

 私が部屋のドアを開けて中に入ると、自分と同じ色の髪をロングポニーテールにして、青い瞳をいっぱいに見開いた若くて綺麗な“大人の女性”が飛びついてきて抱きしめられて、全力全開、力一杯の抱擁を“いつも通り”味あわされてしまう私です。

 

 一応ですが、これが私にとって『お帰りなさい』の挨拶されてる状態です。うちでは大体こんなもんでしたから別に珍しいことじゃありません。いつものことです。“家の中でなら”――ね?

 

「ああ、今日もかわいいわね私のセレニア! 世界一かわいいわね! 宇宙一抱きたいわね!性的に! やっぱり私が帰ってくるべき場所はセレニアが帰ってきてくれる此処しかないわ!」

「・・・姉さん。いい加減、私の帰るべき自室を宿直室に限定して、自分自身も泊まり込むのやめてくださいよ・・・。学校側に迷惑ですから・・・」

「そんな!? 私から帰るべき場所を奪おうと言うのセレニア!?

 今日も一日ツラく厳しいお仕事頑張ってこれるのは、まだ私にも帰るべき場所が残っていてくれてるからなのに! それを壊そうだなんてセレニア! なんて恐ろしい子!

 それが・・・それが・・・それが人間のやることなのぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

「・・・・・・」

 

 あー・・・、ウザい! 生まれてこの方ずっとウザい! 物心つく前からこんな調子の実姉だからスッゴくウザい! ウザすぎます!

 

「・・・わかりました。わかりましたから。私が帰ってくる場所、今まで通りここでいいですから落ち着いてください。織斑先生にまた怒られますから・・・ね?」

「本当に!? わーい♪ ありがとう! まだ私には帰れる場所が確保し続けられるのね! こんなに嬉しいことはないわ! だからセレニアって大好きよ♡」

「・・・・・・はぁ~~~~~・・・・・・」

 

 ・・・それでも身内に甘いから許してしまう、織斑さんのこと言う資格ないこと100パーセントな私です・・・。

 ホントもう、家族に甘すぎる性格はなんとかしないと遠からぬ未来に周囲巻き込んで盛大に破滅するフラグしか見えてきません・・・。

 

 この人のことも何とかしないといけませんよな~、本当に・・・・・・。

 

 

「・・・クレシア先生・・・また部活の顧問サボって、ここに来てたんですか・・・」

 

 あ、織斑先生です。

 

「いい加減にしてください。いくら身内だからと、教師が生徒と同じ部屋で寝泊まりしている上に宿直室を私物化して居座り続けるなどと・・・本来なら絶対に許されることではないんですよ?」

「ダイジョーブよ織斑先生! そもそも私、IS委員会のお偉方との私的なコネクション使ってのコネ採用だから! 最初っから正規の職員に許される理由でIS学園教員になれてないから! だからダイジョーブ!」

「どこがですか!? なにが大丈夫なんですか!? 全部ダメすぎるじゃないですか!? 最初っから最後まで衆愚政治国家の汚職公務員臭を全力全開で出しまくってるじゃないですか!?」

「そんなこと今更言ってどうするの!? そもそも学園自体が米帝さまに脅された日本政府が国民の血税湯水のように使い捨てて設立しただけのモンでしょーが!?

 守らせてくる上がルール守る気ないのに、下っ端だけが守ってやる義理はない! 違うというなら今すぐ愚民共すべてに法律を尊重して遵守する英知を授けて見せろぉぉぉっ!!」

「ぐぅっ!? あ、相変わらず言い返しにくい正論の混じった自己正当化の減らず口をぉぉぉ・・・っ!!」

「何を言うの!? 国家資産のISを、実弟の決闘に間に合わせるため国民の血税使って完成急いでもらった姉が今更何を言ってるの!? 政府がやらせることは被災地支援でも弱者救済でも自衛隊の戦力拡充でも国家間戦争だろうとも!

 『国が支援する』と国会で決められたものを実行するときに使われるのは全部が全部国民の税金使って行われるものなのよ!? 私たちの金が使われてるのよ!? 政治家は偉そうな顔して他人の金使って他人救ってるだけで、自分たちのポケットマネーは1銭も減っていないのよ!?

 そのくせ今の女尊男卑政府は、新しい女性優遇の法律作ってばかりなのに誰からも非難されていないじゃないの!?

 こんな社会に対して言いたいこともいえないIS学園なんて・・・っ。【ポイズン】!!」

「言いながら変な毒ガスを撒こうとするな!

 このシスコン変態レズビアン近親相姦女教師――――っ!!!! 地獄に落ちるぞぉぉっ!?」

 

 

 

 ・・・うん。もう本当に。

 ・・・・・・・・・この人だけは何とかした方がいいですわ絶対に。絶対にです!

 

 

つづく

 

 

オマケ『オリキャラ解説』

異住クレシア:

 今作世界におけるセレニアの実姉。シスコンの同性愛者で近親相姦志望者でもある。

 IS学園の教師で、今まで学園に関する情報をセレニアに横流ししていた張本人。

 生まれ変わった直後のセレニアが、赤ん坊だった時に一目見て『運命を感じた(らしい)』。

 コネ採用な上に、IS委員会のお偉方と知り合ったのはネットの中という『ダメな大人』の典型的見本。

 学園執行部には母親の旧姓で登録しているためセレニアとは名字が異なる(本名は同じ)

 わざわざ偽名を使っていることに意味はなく、

 

「どーせ、いろんな生徒が偽名使って入学してきてる場所なんだろうし、教師がやってても問題ないでしょ?」

 

 ――と言う屁理屈で認めさせてしまった・・・。

 「いいのか? それで・・・」と思わなくもないが、そもそも出自が怪しい生徒を受け入れまくっているのがIS学園なので今更といえば今更なのも確かではあったりする。

 

 モデルは言うまでもなく、『這いよれニャル子さん』の登場人物『クー音さん』。

 

 セレニアの姉なせいか色々と割り切った性格をしており、近親相姦のことも同性愛者なことも世間からの反応のことも全部承知の上で愛を貫くことを決意してしまった覚悟の女。

 ただし、それによってセレニアが受ける被害までフォローしてしまうと自分の願望が果たせなくなるので、悪いと思いながらも切り捨ててる覚悟で考えている。そういう所もセレニアの姉らしいと言えないこともない。

 

 榊原先生と同じで、IS適性を持っていない一般人。

 ただし、武道全般を得意としているため、ISに乗らないときの白兵戦指導教官の役割を任されている。

(注:千冬は習得した戦闘技術に偏りがありすぎることから、外国人生徒相手にはあまり向いていないと判断されたオリ設定)

 

 陽気で美人で飾らない性格から意外に生徒たちからの人気は高く、『下ネタが面白い先生』として、千冬とは違う意味で好かれてるエロ教師。

 

 外見は銀髪巨乳の白人美女。

 今作での役割は『にぎやかし』担当(笑)




*書き忘れてた予告
次回は『薔薇の騎士IS』の続きを書く予定でいます。
バトルシーンの練習も必要ですから。


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IS学園のひねくれ少女 第7話

「ひねくれ少女」最新話更新です。薔薇の騎士の方も考えてあるのですが、ひとまずはコチラを優先しました。早くお子様ラウラが書きたかったからです♪


「では、今日はこの辺りで終わるとしましょうか」

「お、おう・・・」

 

 ぜえぜえと息を切らしながら返事をする俺と違って、セシリアはけろりとしたまま訓練終了を告げる言葉を口にする。

 さすがは代表候補生。これが経験の差というやつか。

 

「ふん。鍛えていないからそうなるのだ」

 

 箒も多少は疲れているようだが、俺のように疲労困憊と言うことはない。これも一応は経験の差というやつなんだろうか? でもコイツの場合、俺のことボコってただけだからなぁ。

 

「それに、無駄な動きが多すぎる。だから疲れもする。もっと自然体で制御できるようになれ」

 

 ピットに戻るなり、そう言って俺から離れてシャワーに向かっていく幼なじみの優しさに涙が出そうだぜ。

 

 

「あーあー・・・、セレニアだったらここでタオルの一枚でも渡してくれただろうし、疲労回復のためにレモンで味付けされた経口補水液とかを用意してくれるときもあったし、運がいいときには疲れた胃に優しい甘い食べ物を持ってきてくれたりする時もあるんだけどなぁ・・・」

 

 

「お前はどれだけクラスメイトに甘やかされた中学校生活を送ってたのだ!?」

「・・・え?」

 

 思わずといった調子でシャワー室から飛び出してきた箒にツッコミを入れられ、少しだけ虚を突かれた俺は上を向いて考え込んでから。

 

「・・・はっ!? 言われてみたらそうだ! 俺、セレニアと出会ってからメチャクチャ安楽な学校生活送れてるじゃん! あんまりにも自然な気遣いすぎて気付かなかったぜ! こりゃウッカリ!」

「ウッカリで済むか愚か者―――――――っ!!!!!!」

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」

 

 ドゴォォォッン!と、いつもの竹刀がない箒必殺の右ストレートをもろに食らってピットの外の廊下まで吹っ飛ばされてしまう俺。

 くそぅ・・・、今日は厄日だぜ。疲れ過ぎたから、いっそこのまま床に転がって休憩してやる。冷たい金属製の床は疲れた体を冷やすのに丁度いいことだし。

 

 自分でやらなくても人が勝手にやってくれてるという状況に自分が順応してしまってたことに俺が気付いて、床を転がりまくるのは今日の夜になってからであって、現時点での俺は気付いていない。

 

「一夏っ!」

 

 だからこうして、ピットのスライドドアを開いて入ろうとしていた鈴の前で醜態さらす羽目になる。

 

「おつかれ。はい、タオルと飲み物。スポーツドリンクでいいわよね・・・って、なに両手で顔隠して床に転がりながらうずくまってんのよ。乙女みたいで気持ち悪いわね。男らしくシャキッとしなさいよ、シャキッとさ」

「・・・うるせぇよ・・・。――でも差し入れは素直にサンキューな・・・」

 

 ノロノロとした動作で精神的ショックから立ち直って立ち上がった俺は、もう一人の幼なじみから微妙なレベルの優しさを受け取り心と体を少しだけ癒やされる。ダメージ負わせたのもコイツだとは、今は言うまい。

 

 ちなみにだが、鈴の持ってきてくれたスポーツドリンクは冷えてない飲み物だ。運動後の熱を持った体に冷たい液体を流し込むのは気分爽快だが自殺行為に等しい。その一時の気分のために体にダメージを与えるのは正直どうかと思う。

 

「ほんと変わってないわね、一夏は。若いくせして体のことばっかり気にしてるとこ」

「あのなあ、若いうちから不摂生してたらいかんのだぞ。クセになるからな。あとで泣くのは自分と自分の家族だ」

「そう言う割に、アンタしょっちゅう怪我して体痛めてるじゃないの。よく他校の悪名高い不良連中に喧嘩とかふっかけに行ってたし」

「ぐ・・・そ、それはだな・・・」

「スポーツマンは体が資本。商売道具の体を故障させることこそ、自分の体調管理が行き届いてない何よりの証拠にしてスポーツマン失格の証明。常識よ? もう少し他人よりも自分の体を大事にすること覚えなさいな一夏」

「ぐ。ぐぬぬぬ・・・・・・」

 

 ニヤニヤしながら勝ち誇ってくる鈴は見透かしたような目で俺を見てくる。

 悔しいが、正しい。言い返せない。セレニアと出会ったからのコイツは妙に理屈っぽいって言うか正論っぽいところが時々顔を覗かせるようになり、こういう場合の俺にとっては鬼門になるヤツになってしまっていた。

 

 ただ、人には主義とか主張とか生き方とかって呼ばれるものがある。それを曲げちまったら自分が自分でなくなる類いの大事な信念だ。どれだけ相手の言葉が正しいと感じても、こればっかりは変えられない。

 そういう点をセレニアや、セレニアに影響けた鈴はわかってくれてるからなのか、言いたいこと言ってくるだけで、言うだけで終わらせてくれる。言う以上のことは何もしてくることはない。

 これも鈴やセレニアが俺を甘やかしてるって事になるかもしれないけど、俺はそういうコイツらのことが嫌いじゃないし、むしろ友達としていいヤツらだと思ってる。

 

 あるいはこれが、俺がコイツらに甘えてるってヤツなのかもしれないけどな。

 

 

「ま、それはひとまず置いておくとして・・・」

 

 あらたまったようにアッサリと話題を切り替えて、いつになく上機嫌で話を続けてくる鈴。

 

「一夏。アンタ、この前おこなわれた試合で負けたけどクラス代表になったんだって?」

「お、おう。・・・なんか表現にトゲがあるけど、一応形としてはそうだな。成り行きでだけど」

 

 ほんとにセレニアと出会ってからのコイツはナチュラルに棘のある発言をしてくるときが多くなったからな。口調には棘がなくて、言ってる内容だけに棘が混じってるから俺が気にしすぎてるだけなのは分かっているんだけれども。

 

「てゆーか、それ昼食のときに聞いてなかったか?」

「まぁ、そうなんだけど。あの時はセレニアに強くなったあたしアピールするのに忙しくて、ぶっちゃけ口実に使っただけだったからあんまり覚えてなくて。だから確認」

「本当にぶっちゃけたな!」

 

 こういう所だよ! こういう悪意のない言葉で俺は傷つけられてきたんだよ! 傷つける気ないのは分かっているんだけれども! セレニアのことしか頭にないのは分かっているんだけれども!

 

「んで、五月にやる予定のクラス対抗戦にも代表として出場すると・・・ここまでは合ってるわよね? どこか間違ってなかった?」

「・・・合ってるよ・・・ったく、相変わらずお前は頭の中セレニア一色のヤツだよな、まったく・・・」

 

 ブツブツと愚痴ってしまう俺だけど、カラリとしていて細かい事にこだわらない点では鈴ほどではないにしても一応以上の自信を持ってるのも俺なんだ。

 

「そういうお前も中国の代表候補生になって専用機持ちになったって話だったよな?」

「まぁね。で? それがどうかしたの?」

「負けないぜ」

 

 俺はにやりと笑って、鈴に対して宣戦布告した。

 

「確かに俺はIS学園に入りたくて入ったわけじゃない、少し前までISのことなんて何も知らないド素人だったけど、それでもやると決めたからには全力を尽くすし勝ちに行く。相手が誰だろうと勝つつもりで行かなきゃ男じゃない。絶対にだ」

「・・・・・・本っ当に変わってないわね、アンタって・・・」

 

 俺なりに格好付けて言ってみたつもりのセリフだったんだけど、なぜだか鈴には呆れたような目をして半眼で睨まれた。なんでだよ。

 

「そこらでたむろしてる普通の男どもだったら、やりたくて始めたわけでもない勝負事に本気で勝ちに行こうなんて思わないでしょーが。

 しかも、そういうヤツに限って戦う前は『素人でも勝ちに行く』とか言ってたクセして負けた途端に『まぁ素人だし、勉強になったよありがとう』とか、お涙ちょうだいの青春群像っぽい演出して負けを認めようとしないで無様に足掻きまくるのが普通でしょ?

 今時やりたくもなくて無理矢理やらされただけのスポーツ勝負に、そこまで本気で真剣に挑んでこれるのはアンタとか一部の連中だけだって言ってんのよ」

 

 俺はそれを聞いた瞬間、反射的に叫んでいた。

 

「そんなやつぁ人間のクズだ!」

「そうね。あたしもそう思うわよ」

「そんなヤツに剣を取る資格も、男を名乗る資格もない!」

「そう言うこと。だからアンタはそうじゃないんだなって思ったわけよ。アンタのそういう所はあたし好きよ? セレニアとそっくり同じ部分だから」

 

 アッサリとした口調で言われて俺は目を丸くして相手を見つめ、次いで吹き出した。

 なんだ、やっぱりコイツも中身は俺と同じで昔と全然変わってないじゃないかと分かったからだ。

 

「しかし、あくまでセレニアが基準で、俺はオマケで褒めてもらえてる感じなのな」

「当然でしょ? あたしにとってセレニアが一番、他はみんな二番かそれ以下。むしろ一番大事な人と並べて高評価してあげてるんだから感謝して欲しいわね」

 

 そう言って拳を突き出してくる鈴。

 

「素人相手には過剰すぎる言葉だけど、一応言っといてあげるわ。――負けないわよ一夏。あたしにも無様な負け姿を見せたくない相手がいるんだから」

「ああ、当然だ。お互い正々堂々久しぶりに再会するまで鍛え合った腕を見せ合おうぜ」

 

 そう言って俺も拳を突き出して、コツンと拳と拳をぶつけ合わせて宣戦布告した。

 

 ――こうして俺たちは久方ぶりの再会を本当の意味で果たしたのだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 そして、クラス対抗戦当日。

 試合会場のひとつ、第二アリーナ第一試合の会場入り口にて。

 

 

 

 

 噂の新入生同士の対決を見るために全席満員のアリーナを見渡しながら、私は不快感で胃が痛くなるのを押さえ込むのに苦労しながら溜息を吐いて気を紛らわせるのでした。

 そして、つぶやきます。

 

「・・・イヤな状況になったものですね・・・」

「なに・・・?」

 

 モニターに映し出された会場の風景を一望できるピットの中で、篠ノ之さんが私の漏らした囁きを聞きとがめて視線を向けてきたのを感じ取った私は、体ごと相手に向き直るとなるべく簡明に状況のマズさを説明する言葉は何かと吟味してから口の端に乗せます。

 

「今年のクラス対抗戦は、世界初の男性IS操縦者が専用機に乗って初めて参加する公式戦。しかも相手は学園中の噂の的な中国代表候補生にして専用機乗りと来ている。そのうえ二人の試合を見物するため、いつにも増してアリーナ内に人が溢れてます。

 騒ぎを起こすに絶好、これを防ぐのは至難・・・・・・攻めやすく、守りにくい戦場というのはどうにも私は落ち着きません。不安とストレスでさっきから胃が押し潰されそうですよ」

「・・・・・・っ」

 

 悲観的過ぎると承知の上で言った私の言葉に、篠ノ之さんは「ビクッ!」と体を震わせて、顔をこわばらせながら心配そうな瞳でモニターに映し出されている織斑さんの姿をジッと凝視されるのでした。

 

「でも、異住さん。アリーナはISバリアと同じ遮断シールドで覆われています。防御力に関しては他のどこより安心できる状態になってますし、外部から誰かが介入してくるのは不可能なんじゃないですか?」

 

 機器操作をするためモニター前の椅子に座っている山田先生が、私に対してそう言いました。

 「杞憂ではないのか?」と言う彼女の意見は尤もでしたし、別にそれを否定する材料も意思も私は持ち合わせておりません。

 ただ、根本的な話として。

 

「何かあったときの備えとは、何も起きてないときに準備しておくものですからね。何も起きないと油断していたせいで、何か起きたときに何も出来ずに見ているだけだった、なんて言うのはイヤすぎますので一応警戒しているだけのことです」

 

 答えながら私は肩をすくめ、自分の心配性な部分を心の中で笑い飛ばします。・・・顔は微塵も動きませんでしたけどね。相変わらず表情筋が堅すぎる転生後の肉体です。

 

「杞憂で終わるなら、それが一番いいのですよ。いざという時の備えなんて、無駄になるに超したことはありませんからね。いざという時なんて一生来ないでくれるのが一番有り難いのは当然なのですから。

 ただ今さら私が、他の人たちも警戒している危険性について考えても意味ないと思ったので、他の人たちが警戒してない危険性について考えておこうと思っただけです。

 私なんかでも誰一人考えてない状況よりかはマシに出来るかもしれない・・・そう思っただけですよ。心配性は私の百八以上ある欠点のひとつなので、あまりお気になさらずに」

「・・・言いたいことはわかりましたけど・・・」

 

 山田先生が、彼女特有の困ったような苦笑しているような曖昧な表情を浮かべられると、私に向かってこう言われたのでした。

 

「・・・疲れませんか? その生き方するのって・・・。

 もしかしなくても異住さんの胃が弱い理由ってそれなんじゃないかと、私は今の聞いて思っちゃいましたよ・・・?」

「うぐ・・・」

 

 い、痛いところを意外な人物に突かれてしまいましたね・・・。微妙に痛かったです、胃じゃなくて心がね。

 

「・・・でもまぁ実際問題、奇襲というのは相手が『絶対襲われるはずない』と油断している場所にこそ仕掛ける意味がある戦法なのは事実なんですよねぇ~・・・・・・」

 

 

 そんな言葉を私が言ってしまったことが伏線になっていたのか、いなかったのか。

 まぁ、真実は未来にしかいないと言われる全知全能の神様以外は知る由もないこととして、とりあえず私の自説は現時点でだけは正しさを証明でいたみたいでしてねぇ。

 

 

《――ステージ中央に所属不明のISが出現! 非常事態を発令!

 対抗戦の全試合は中止! 状況レベルCと断定、鎮圧のために教師部隊を送り込む準備を開始しろ! 生徒は直ぐに避難するように! 繰り返す!》

 

 

 ・・・とまぁ、このように望まざる結果と言う名の物的証拠によって十分すぎるほどにね・・・。

 

「織斑くん! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きますから!」

『――いや、先生たちが来るまで俺たちが食い止めます。いいな、鈴』

『はあ? 誰に言ってんのよ。そんなの聞くまでもないでしょうに』

「ちょっ! 織斑くん!? だ、ダメですよ! 生徒さんにもしものことがあったら――ああもう! 向こうから回線が切られました!」

 

 生徒思いの山田先生がヒステリックに避難を呼びかけてるのを無視しながら、薄情で友達甲斐のない私は彼女に歩み寄りながらモニターのひとつを指さして問いを発するだけなのでした。

 

「・・・すいません、先生。その画面、巻き戻せますか?」

「――は? え、ええ、出来ますけども・・・」

 

 そう言って、ボタンひとつで巻き戻してくれた映像をジッと見つめてから。

 

「なるほど」

 

 納得してひとつ頷くと、私は山田先生の側を離れてオルコットさんの元に歩み寄ると声をかけます。

 

「オルコットさん、ISコアネットワークで織斑さんに今から言うことを伝えてください。

 ――伝言の内容は・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・は? 今なんて言ったんだセシリア?」

 

 俺は耳を疑う気持ちで聞き返した。

 セシリアはセシリアで半信半疑なのか、「わたくしも言われた内容を伝えているだけなので自信はないのですけど・・・」と前置きしてから、今さっき言った内容を繰り返して答えてくれた。

 

『そのISは無人機だそうです。人は乗っていません。ですので遠慮せずにぶった切ってしまっても機械が壊れるだけで何の問題もないとのことでしたわ』

「・・・本当なのか? その話・・・」

『ですからわたくしはセレニアさんから言われた内容を伝えているだけですので、答えようがないのです・・・。

 ただ補足として聞かれたときに答えておくよう言われていたのは、【敵機の反射神経が人間の限界を超えている】、との事でしたわ』

「反射神経? そんなの誰だって持ってるし、千冬姉は鍛える事も可能だって教えてもらった事あるけども・・・」

『ですから、【普通の人間では不可能な速度で反応している】とセレニアさんは分析されたようなのです。

 人間にとっての反射速度とは【知覚して、理解して、対応する】この三つの行動過程の速度のことを言うそうでして、普通の人間がこれをやるのにかかる時間は平均で0・3秒。一流のスプリンターで0・15秒と言われていると言っておられました。この伝達信号の速度は通常、どれだけ鍛えても0・1秒を超える事は出来ないのが常識だとも。

 ですが、その敵たちの動きを分析したところ0・07秒を割っていたそうですわ』

 

 0・07って・・・微妙すぎる数字だな。落ち着いて研究するならまだしも、戦闘中にそこまで分析したがるヤツなんてアイツぐらいなもんだ。

 しかも、人間の限界よりわずかに速い“だけ”。それだと千冬姉の動きを見慣れた俺の目には不自然に映りづらいか・・・。コイツら、俺をピンポイントで狙ってきたみたいに解ってやがるな。

 

「でもそれ、おかしくない? ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうものでしょ? ISって」

 

 鈴が俺に代わって疑問を呈すると、セシリアは『えーと・・・』と言いづらそうに前置きしてから。

 

『え~・・・その質問に対してもセレニアさんから回答を承っているので伝えます。

 【昨日まで使えたカレンダーを今日も明日も明後日も変わらず使えると思い込んでいる人たちほど、この手の手法は有効なものです。

 誰が決めたわけでもないのに自分たちが絶対だと信じている“だけ”のマイルールを絶対普遍の大原則だと思い込む固定概念など捨ててしまいなさい。騙し易いカモになるだけですから】。――以上ですわ』

「ぐっ、はっ!! ヒデブゥッ!?」

 

 鈴、口から吐血を撒き散らして空を舞うの段。・・・久しぶりに見たな、この光景。

 まぁ、こんなのを毎日毎日飽きもせず繰り返してた中学校時代を過ごせば鈴でなくとも変わるよな、普通なら。

 

「・・・とにかく、コイツらは無人機で間違いないんだな? ぶった切っちまっても誰一人他人が傷つく事にはならないんだな?」

『その質問にも答えを言付かってますわ。【私が保証しましょう。絶対に大丈夫です】』

「了解したっ!」

 

 俺は機体を加速させて、遠慮ない一撃を叩き込でやるため相手に急速接近して雪片・弐式を振りかぶる!

 

 他の誰よりも言葉を重要視して、自分の言った言葉に責任を持ちたがる俺の友人が『絶対』って言葉を使った。

 なら絶対に大丈夫だ。そう確信できる証拠を得ない限り、アイツは絶対にこの言葉を使おうとはしないヤツだから。

 そういうヤツなんだ、俺の中学時代から続く腐れ縁な女の子は。

 

 そんな俺の友達が『絶対に大丈夫』と他人に向かって言ったときは、それがどんな結果に終わろうとも『絶対に責任を取るつもりでいる』その覚悟を決めたってことを意味している。

 女の子がここまで覚悟決めて敵を倒せって言ってきてんだ。

 これで躊躇ったら男じゃねぇだろ!!!

 

 

「食らいやがれ! 【零式白夜】―――――――ッ!!!!!」

 

 

 そうして俺は、二機の敵を『絶対に無人ISなんだ』と確信しながら遠慮なく全ての力で切りつける。

 一機、また一機と、敵を倒して振り向いたとき。そこに倒れていたのは機械であって、人の姿はどこにもなかった。

 

 その事に安心なんて沸いてこない。最初から・・・いや、教えてもらったときから解っていた事だからだ。

 

 『コイツらは絶対に人が乗ってないISだ』俺の友達がそう言った以上は絶対に、その答えは覆らない。絶対にだ。

 

 

「誰が造って送り込んだか知らないが・・・運が悪かったな。

 アイツと俺が知り合っていなきゃ、もう少し苦戦させられてたかもしれない程度には強かったぜ」

 

 

 

 一夏が鬨をつぶやいてから数日後には、山田先生による分析により無人ISのコアが未登録のものである事が判明し、それを聞いた織斑千冬が犯人は誰なのか確信していたのと同じぐらいの頃。

 

 どこともしれない無人島で、一人の女性が携帯端末の画面を見ながらニヤニヤと微笑んで自分の造った機体が壊されていくまでの過程を分析し終えていた。

 

 

 

「いやー、流石だねぇいっくんも♪ 真相を知った途端にアッサリとかたずけちゃう手際の良さには束さん、痺れる憧れ~る☆ この調子なら、ちーちゃんも直ぐに私が犯人だって辿り着けちゃうんだろうなぁ~♪」

 

「・・・でも、他の誰より流石なのは相変わらずなこの子の冴えだよねぇ~・・・。符帳を込めたつもりだったけど、まさか一瞬で見破られるとは思ってもみなかったよ。

 さっすが天災の束さんが思考を読めなかった唯一の人間! 私に相応しいターゲットだよ!」

 

 

「・・・・・・ああ、会いたい! 今すぐ会いに行って抱きしめてあげたい! でも待つ! 我慢する! だって会いたい気持ちを押さえて押さえて我慢し続けてから再会できる悦びを束さんはもう既に知っちゃった後だから!

 ――待っててね! セレちゃん! 束さんと再会する運命の昼はもうすぐそこだ! ゴーイングマイウェイ! ランナウェイ五丈原! 意味は特にない!

 栄光のバージンロードを二人で並んで歩くその日まで、束さんは決して歩みを止めるわけにはいかんのだよIS学園とヤマトのしょく―――ッん!!! フオーッホッホッホ!!」

 

 

 

 

 

「・・・(ぶるり)

 ・・・・・・?? なんでしょう今の? なんか今、ものすっごい寒気に襲われたような気がするんですけど・・・気のせいでしょうかね?」

 

 

つづく

 

 

おまけ『無人IS戦のときの箒ちゃん』

 

審判「ぐはっ!?」

ナレーター「ごはっ!?」

 

箒「・・・はぁ、はぁ・・・。よし、静かになった・・・他には誰もいないな。中継室は占拠したし、これでようやく、男らしくない一夏を叱咤激励してやる事ができる・・・」

 

箒「一夏ぁっ! 男なら・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとす―――」

 

一夏「食らいやがれ! 【零落白夜】――――――ッ!!!!!」

 

 ズバァァァァァァァッン!!!!!

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

箒「・・・・・・あれ?」

 

 

*告【IS学園1年1組生徒、篠ノ之箒を正当な理由もなく審判役の生徒とナレーター役の生徒に暴行を加えた咎により一週間の学生寮での自室謹慎を命じるものとする】

                          IS学園警備主任、織斑千冬より



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『我が征くはIS学園成り!』第10章

長らく更新が止まっていたハイドISの更新です。昨晩に大急ぎで書いたため短いですが、良ければ原作の箒と一夏がルームメイトになったシーンと合わせてお楽しみくださいませ。


「ふむ。ここが、2015室だな」

 

 IS学園にある学生寮でラウラ・ボーデヴィッヒは目前にある部屋番号を確認していた。

 千冬を取り戻すという目的を果たしたら、即座にドイツへ帰国する予定でいるとはいえ、さすがにそれまで学園の中を野宿して過ごすわけにもいかない。自分は平気でも規則にうるさい織斑教官が黙っていないだろう。

 

(大事を成すためにも、小事にこだわるべきではない。

 私が倒すべき敵は、織斑教官の七光りでしかない愚弟ただ一人で十分なのだからな)

 

 そう割り切って、しばらくの間はIS学園の流儀に合わせてやろうと忍従を己に課す決意を固めるラウラ。

 と言っても、せいぜいが一緒の部屋で生活するのを許してやると言う程度の我慢でしかない。馴れ合うつもりは些かもないし、そもそもISをファッションかなにかと勘違いしているような平和ボケした素人共と自分のようなプロの軍人が認識を共有できるとも思っていない。

 

 人は平等ではないのだ。選ばれた者には相応しい待遇と、いるべき場所と言うものがあって然るべきなのだから・・・・・・。

 

 ガチャ。

 

「失礼する。同室になったラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 ノックもせずに扉を開き、最初で最後の挨拶と自己紹介を済ませると『これで義理と礼儀は果たした』とばかりに、今後一切の私語と無駄話と無益なコミュニケーションは断絶する方針を決めながら部屋に入っていくと―――――、

 

 

「おおっ! 同室になった者かね!? ようこそ、私が与えられた自室へ! 何もないところだが寛いでくれたまえ。遠慮は無用だ。これから一年間よろしく頼むぞ! ハッハッハ!」

 

 

「・・・・・・」

 

 バカが全裸で仁王立ちして歓迎してくれていた。

 全裸である。他に表現する言葉が存在しないほどの全裸でしかない。

 左手を腰に当てて右手にグラスを持ち、小さな胸を高々と反らしながらラウラよりも低い高さにある目線の位置を上向きさせて見上げてきながら、この上なく偉そうな態度で自分の赤い左目と見つめ合わせてくる漆黒の双眼。

 

 シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。

 同じドイツ人で専用機持ち同士でもある彼女となら、転校してきたばかりでも気兼ねせずに済むだろうという学園側の気遣いという余計なお節介がラウラを絶望のドン底に叩き落とすことになるなど知る由もなく。

 

「・・・・・・・・・」

 

 悲惨な運命と向かい合わせられたラウラは、ただでさえ無表情な顔に一切の感情を表に出さぬよう改めて封印を施してから深呼吸して意識を整え、丁度いい機会だから今度こそハッキリとこいつには言うべきことを言ってやろうと口を開いた。

 

「・・・たしか、ローゼンバッハとか言ったな? 本来言ってやる義務のないことだが同じ部屋になった誼で一度だけ忠告してやる。私に話しかけ――」

「うむ! 君の言いたいことはわかっている。出会いを祝して乾杯をしたいというのであろう? 無論、準備は常に用意万端整えているとも! 安心したまえ心配は要らん! 何故なら人との出会いは常にいつどこから始まるのか解らぬものなのだから!!」

「・・・・・・」

 

 ――聞いてねぇし。聞いてくれねぇし。聞いてくれる気さえ持ち合わせてるかどうか解らねぇし。

 主観でしか物事を見ようとせず、判断もしない独善の局地を地で征く征服王ハイドにとって、ラウラの抱える心の闇は面白くないから興味を持たない、どうでもいい代物だったので完全無視されていた。気にもとめられていないし、気付いてすらいない。

 

 彼女のポリシーは至ってシンプル。

 

 

『面白いことは良い事である! 即座にやろう!

 面白くないことは良くないことだ! 即座に捨ててしまおう! やらなくて良い!』

 

 

 ――ただ、此の一文に尽きるのである・・・・・・。

 面白ければそれでいいのだ。面白くなければそれは悪いことなのである。

 ある意味で非常に正しく、原始的な倫理観の持ち主と言えなくもなかったが、原始的すぎて原始人よりも単純化されてしまっているのが一番の問題点とも言えるかもしれないけれども。

 

 

「赤と白、君はどちらの方が好みかね? それともここは出会いの記念に特別な一本でも開けるかね!?」

(日本の国立高校の学生寮で、冷蔵庫の中身が酒一色!!)

「・・・うむ! 決めたぞ! コレだ! 62年物、シャトー・サンフリュール! 最後の一本だが、君との出会いを祝って飲み干せるならシャンパンも本望であろう。

 そうは思わないかね? マイ・シスターフレェンド!!」

(関係断絶宣言しようとした相手から友達宣言された上に姉妹宣言!!)

「では、乾杯! プロージット!!

 ・・・ゴクゴク・・・うむ! 美味い! もう一杯! うおりゃーっ!(ガッシャーン!)」

(飲み干したグラスを床に叩きつけて砕いたぁぁぁっ!!

 ドイツの伝統だが、今のタイミングでやる意味なかったぞ!?)

 

 訳分からん行動を貫き通しまくるハイドのペースに振り回されるばかりで、さっきからちっとも声を発することが出来ていないことに気付いてないラウラ。

 

 ――このままでは不味い! なにかよく分からないが不味い気がする!

 

 軍人としての本能から危機を察したラウラは、戦略的撤退を決意してやむを得ずに権道を用いるを由とした。

 

「・・・私は長旅で疲れた。到着早々だが寝させて頂く。酒宴が開きたければ一人でやるのだな」

「うむ、そうか。それは残念だが致し方なし。寝ようとしている者の隣で騒ぎ立てるは人の仁義に反する行為。酒宴はまたの機会にして私も寝に入るとしよう」

 

 あっさりとラウラの口実に乗せられるハイド。

 基本的には、相手が嫌がることを好んでやりたがる人物ではなく、悪意やら作為やらを理由として意図的に人を攻撃するタイプではまったく無いのが彼女の性格である。

 

 単に、主観でしか行動しないから悪意も作為を必要とせずに他人に対して迷惑かけまくってるだけなのであり、悪気と呼びうるものは一切持ち合わせてないから本人自身は迷惑かけてることに気付いていないだけなのである。

 

 ・・・要するに、一番性質の悪いタイプと言うことだ。

 気付かぬは本人ばかりなところが、割と本気で最悪すぎる・・・・・・。

 

「では、おやすみ! ・・・く~・・・・・・ZZZ」

「早い!? ベッドに入ってから寝るまでが早すぎる!!」

 

 先にベッドへ潜り込んだラウラよりも早く寝につく後発組のシュトロハイド。

 就寝の挨拶をしてから熟睡までにかかった時間、およそコンマ6秒以下という驚異的な数字に、軍人として睡眠の重要性を叩き込まれて強制睡眠の心得もあるラウラでさえ大声を出すほど驚愕させられてしまった。

 

 ハイドは、やりたいと思えば三日三晩ぐらい起きっぱなしでの全力殴り合いが可能な体質の持ち主であると同時に、眠ろうと思えば場所を選ばず一瞬で熟睡することができる体質をも持ち合わせていた。

 ついでに言うと、起きたいと思ったときに睡魔を1ミリグラムも引きずることなく完全覚醒することが出来る体質でもあったりする。

 

 なんかもう、人体の限界超えまくってる気がするのだが、今さらと言われてしまえば今さらな気もするので大したことなく感じられてしまうところが一番厄介なハイドの体質なのかもしれなかったけども。

 

 たとえ理由が何であろうと、同じ屋根の下で寝起きを共にするルームメイトにさせられた者にとっては恐怖しか感じようのない摩訶不思議なクリーチャーである事実に変わりはない。

 

 

(い、一体この学園はナニを生徒として入学させてしまったのだ・・・?

 ――だが、諦めん! 諦めんぞ! 必ずや織斑教官を取り戻し、ドイツへ帰国してやる! こんな人外魔境ごときに負けてなどなるものか! 負けはせん! 負けはせんぞ! 必ずや生きて織斑教官と共に故国の地を踏んでみせるのだ!

 生き延びるぞ―――――――ッ!!!!!)

 

 

 

 ・・・遠い極東の海に浮かぶ辺境の島国にある学校で、ナチスドイツ風の軍服をまとった少女が、ユダヤ人みたいな台詞を心の中で絶叫しながらIS学園転校初日の夜は更けてゆく。

 

 恐怖と混乱のあまり深夜遅くまで寝付けなかったラウラであったが、本当の衝撃は翌日の朝に訪れることを、この時の彼女はまだ知らない。

 

 運命の朝に目覚めたとき、人の形をした悪夢の運命は、彼女に向かってこう告げてきた。

 

 

 

「そう言えば昨晩は自己紹介が中途で終わってしまっていたな! すまない!

 改めて説明させて頂こう! 私の名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ! ハイドと呼んでくれたまえ! IS学園では1年1組に在籍しているドイツの専用機乗りだ!

 それで? 君の所属クラスとホワッチュアネーム!?」

 

 

「同じクラスで、昨日貴様に蹴り飛ばされた転校生なのだが、何故知らない!?」

 

 

 人の内心に関心を示さない、表に現れてハッキリ見える楽しさだけで物事を判断する地獄初の統一王に、倒した敵を覚えておける記憶力など存在しない。

 

 今目の前に立つルームメイト、ラウラ・ボーデヴィッヒこそが彼女にとって今のラウラの全てであり、昨日蹴りくれて倒した『片目に眼帯を付けた山賊ウルフ』とラウラは完全に別人ということで結論が出されている。

 

 王は一度下した決定を覆さないものだ。絶対に。

 

「む? どこかで私と君は邂逅していたと言うのかね・・・? ハッ! まさか!

 生きていたのかマイケェェェェェェル!!!!!!」

「誰だマイケルって!? アメリカ人か!? ドイツ人だぞ私は!!

 そして私はこれでもオ・ン・ナ・だ!!!」

 

 

 ・・・朝目が覚めても、ラウラ・ボーデヴィッヒの悪夢は終わりそうにない・・・・・・。

 

つづく

 

 

『おまけ』

 

ハイド「ちなにみだが、マイケルとは猫の名前である。私が昔アニメで見た中に出ていた」

ラウラ「知らんわ! そんなもん!?」

ハイド「いや、君がなんとなく猫に似ている気がしなくもなかったのでな。許してくれたまえ、この通りだ。ハッハッハッハ!!!」

ラウラ「全っ然謝ってるようには見えないのだが!?」

 

 ・・・この後日、自分が本当に猫になる原作をラウラはまだ知らない。

 余談だが、ハイドは地獄で王をしていたときにペットとして猫を飼っていた。

 名前は『タマ』。種族は『ヌエ』。

 

 

ハイド「いや、猫が懐かしくなって探したのだが、彼の国には生息していなかったのでな。似たペットが住んでいないか適当に探してたら、いた。だから飼った。それだけである」

 

地獄兵共『こんな人相手に挑めるほど、俺たち常識知らずじゃありません。無理です』



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IS学園のひねくれ少女 第8話

今朝方に書きあがった『ひねくれ少女』最新話です。ラウラ登場回。そして、お子様ラウラ復活回です。相も変わらず勢いだけの作風なので、そのおつもりで。


 ――暗い。暗い闇の中で私は生まれた。

 人工合成された遺伝子により、戦うためだけに造られた遺伝子強化試験体である私には、人として扱ってもらった記憶がない。

 教えられたのは、戦いに勝利するのに必要となる技術だけ。

 人体の壊し方、敵軍に打撃を与える戦略、銃の撃ち方、格闘技のこなし方、各種兵器の操縦方法・・・・・・

 

 そんな私だ。勝てなくなったら存在価値を認めてもらえるはずがない。

 事故によって勝てなくなって、トップの座から転がり落ちた私に待っていたのは無限の闇。

 私は闇から生まれ、さらに深い闇の底へと止まることなく落ちていく・・・・・・

 

 ――そんな私に光が差した。救いの光が一条だけ差し込まれて、手を伸ばしてくれた。

 私はその手を掴み、その手を信じて、その手の主に付き従うことで再び光の差す場所へ戻ってくることが出来たのだ。

 

 闇の中で生まれ育った私にとって、彼女は生まれて初めて見る日の光そのものだった。

 彼女のおかげで私は私に戻ることが出来た。私を取り戻すことが出来た。彼女がいてくれたからこそ私は私でいられる。彼女なしの人生など、もう二度と考えたくもない。

 

 その彼女が奪われたのだ。

 取り返すため戦うの場へ赴かぬ私に、存在意義など何処にもない。

 

 すべては私の人生で唯一私を、私個人として扱ってくれた人のため。私を一人の人間としてみてくれた、世界でただ一人の強く美しく気高い女性のためだけに・・・・・・。

 

 私の人生はその為にあったのだ。だからこそ私は日本に行く。日本へ向かう。日本に向かって飛んでいく飛行機の中で深い眠りについている。

 

 もうじき日本に着く。到着のアナウンスが私の意識を覚醒させるだろう。それが新たなる戦いの始まりを告げる序曲となる。

 

 そして、私の耳に新たなる戦いのオーヴァチュアが鳴り響き、意識が急速に無意識から意識野へと浮上していく中で。ほんの一瞬だけ声が聞こえた。

 

 

 

 ――本当にお前は彼女以外の誰からも、人として愛してもらえたことはなかったか?

 

 

 

 ・・・・・・・・・と。

 

 

 

 

 

「ISスーツは見ている側にとって恥ずかしいと思うんだ」

「・・・・・・・・・」

 

 頬杖をついて見上げる先で、織斑一夏さんが女子のISスーツについて語っておられました。

 曰く、『年頃の女の子が下着や水着みたいな格好で出歩かれているのを見ると男として目のやり場に困るときがあるのだ』と言うような趣旨での主張話みたいです。

 

 ・・・そんな内容の話題を、授業でISスーツ着なくちゃいけないIS学園女子生徒である私に振ってくる時点で、織斑さんのデリカシーのなさは少しだけ異常だと私は思う。

 

「ほら、俺が着ている奴は男用のスーツがなかったから特注して作ってもらえた露出の少ない奴だし、男の裸なんか見ても誰も喜ばないからいいだけどさ。さすがに女子たちが着るアレはちょっと、年頃男子には刺激的すぎると俺は思うんだよ。

 毎日のように千冬姉の下着を洗い続けてきた俺でさえ最初は直視できなかったくらいだし、五反田みたいな奴が世界で二番目の男性IS操縦者にならないとは限らないわけでもあるんだから、もう少し配慮ってものをさー・・・・・・」

「・・・・・・織斑さん」

 

 溜息を吐いて、『貴女こそ私に対して配慮しなさい』という苦情をなんとか体外に吐き出させて、私はジト目を少しでも柔らかい目付きになるよう誠心誠意努力してあげながら、端的に簡明に余計な感情論など交えることなく不平不満をすべて飲み下し、要件だけが相手に伝わるよう最大限度の工夫を凝らした答えを持って相手の話題に対する答えに代えさせて頂くのでした。

 

 

「なんで未だに毎日毎日、私のところへだけ来ているのでしょうか?(^-^)」

「・・・・・・・・・・・・・・・(ソ~ッと、目線を逸らして沈黙する)」

 

 微妙な沈黙。気まずい沈黙。答えはわかりきっていますけれど、意訳してあげる気はサラサラ持たない私と織斑さんとの間に横たわる、周囲の喧噪から隔絶された刻の流れ。

 

「・・・こ」

「こ?」

 

 やがて意を決したように織斑さんが口を開き、薄い笑顔を浮かべた私が先を促し。

 

「・・・・・・この手の話題で共感してくれそうな奴の心当たりが、この学園だとお前しかいなかったから・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~~~~~~~・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 予想通り過ぎて面白味に欠けますけれど、至極ご尤もでもある織斑さんからのご返答。

 再会したばかりの、ファースト、セカンド両幼馴染みだけではなくて、おそらくはヒロイン枠のオルコットさんも服装の好みには拘りを持つ、ラブコメヒロインらしい年頃美少女の皆様方ばかりの親しい交友関係。

 

 他のサブキャラっぽい方々と、モブキャラっぽい方々も服飾関係に関しての認識は現代日本の女子高生と同じぐらいに敏感で、ついでに言えば『見られたら恥ずかしいけど、見られまくりそうな服装が好き』な趣味趣向を持つ「女子校に男子生徒は主人公だけラブコメ」の女子高生らしい女子高生の皆様方オンリーな学生寮暮らしの生活環境。

 

 まっ、この状況下でこの手の話に乗れるのが元男で『ISスーツは恥ずかしい』と普通な感想を抱いている私だけという意見には、遺憾ながら賛成です。遺憾ながらですけども。

 

 

「・・・とは言え、物事には限度ってものがあるでしょう・・・。考えてもみてくださいよ、毎日毎日、女子に話せない内容の話題だけを女子生徒の私に持ち込まれてきている境遇と心理状態を・・・。中学時代にクラスメイトだった女子の平均基準で見た場合には、とっくに職員室へ駆け込んでいるところです」

「ううぅ・・・やっぱりそういうものなのかな、やっぱり・・・」

「ええ、ほぼ確実にね。もしくは警察かPTAに通報のどちらかでしょう」

「よし、やめよう。この話は二度とお前に持ち込まないことを、俺はここに誓って宣誓する」

 

 右手を左胸に当てて、選手宣誓みたいなポーズを取る織斑さん。

 一見ふざけているようにしか見えませんが、顔も表情も真剣そのもの。僅かながら冷や汗が浮かんでいるところを見ると、まぁ本気なんでしょう。たぶんですけれども。

 

「・・・・・・はぁ~・・・。たまにならお付き合いしてあげますから、息抜きぐらいに思っておいてくださいな。こうも毎日続くと周囲からの視線が私的にもキツくなってきましたからね・・・」

「おお、そうか! すまないな! 恩に着るぜセレニア!」

 

 手放しで喜ぶ織斑さん。

 最近では普通に他の女子生徒とも話せるようになったとは言え、女子と完全に話題を合わせるのは性別的な障壁の高さから絶対無理な彼にしてみれば、『男子と話していた方が気楽』という気分が抜けきっていないようです。

 

 そう言えば昨日の日曜日に、五反田さんの家へ行くと言っておられましたね・・・。久しぶりに悪友と再会して感覚が中学の頃に逆行してしまっているのかも知れません。

 状況論的に見て、しばらくすれば戻ることとは言え、その間は面倒くさそうだなー。でも、他の男子生徒なんてIS学園にいないから押しつけられないしなー、とか考えていた私の耳に

 

「諸君、おはよう」

『お、おはようございます!』

 

 と、織斑先生が入室しながら発した挨拶が聞こえ、それに対する返事として生徒の皆さんが一斉に唱和する声が鼓膜に響かせられます。

 

「おはようございます、織斑先生。遅かったですね、何かあったんですか? 三十秒ほどホームルームが始まる時間を超過しちゃったところですけども」

「お前な。仮にも教師に対してその言い草は・・・まぁいい。遅れたのは事実だからな、今回は私の落ち度で片付けておく。その理由も今から説明してやる。――山田先生」

「は、はいっ。なんですか織斑先生?」

「説明を」

「はい!」

 

 いや、アンタがやれよと思わなくもないけど言おうとまでは思わない、ひねくれ者で面倒くさがりな私。正論好きなひねくれ者なんて、こんなもんです。

 

「ええとですね。――今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」

「「「ええぇぇぇぇっ!?」」」

 

 説明役を委ねられた(押しつけられたとも言いますが)山田先生からの状況説明により、一斉に沸き立つクラスメイト一同の皆様方。

 学園ラブコメのお約束、時季外れな転校生イベント来ましたわ~、とか思っているひねくれ者は、たぶん私一人だけ。いや、確認しようがないので妄想ですけどね? 厨二的な。

 

「失礼します」

「・・・・・・」

 

 そんな至極くだらない戯言を考えていたら、教室のドアが開いて二人の転校生が入室してこられました。

 その二人を見てクラスの方々は、ピタリと騒ぐのをやめて静まりかえり。

 私は一人、小さく溜息を吐いていました。

 そりゃそうですよ、当然の反応です。

 

 だって、入ってきた二人のうち一人の方は男子生徒――と呼ぶには綺麗すぎて『こんな男が現実にいるワケねーwww』とかネットで叩かれそうなレベルの超美形でしたからね。

 女子校を舞台に、わざわざ男の娘を登場させたがる特殊性癖が原作者様にあるかもしれないという極小の可能性を除外して考えるなら、普通に女子が男装して入学してきたと考える方が無理なくていいですし解決する疑問点も少なくて済みます。

 

「また、面倒くさいことが起きそうですね~・・・・・・」

 

 新たなる厄介事のタネが持ち込まれてきたことに心底からウンザリした声をつぶやく私でしたが・・・このときの私はまだ考えてもいなかったのです。

 

 まさか厄介事の当事者の半分は私が引き受けることになるという可能性上の未来なんて、この時はこれっぽっちも私の頭の中には存在していなかったワケでしたから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 

 ・・・私の立つ隣の位置から挨拶を発する声が聞こえる。

 フランスの代表候補になった女の声だ。いや、男だったかもしれないが、どうでもいい。些細な違いだ。

 所詮、第二世代機のアンティークしか持たない者が、“あの人”に鍛えられた私とシュヴァルツェア・レーゲンの前に立ちはだかることなど出来ない。私の目的の邪魔にならないのなら、フランスの専用機持ちが男だろうと女だろうと誤差の範疇で切り捨てるべき些事に過ぎない。

 

 

 ――私にとって重要なのは、織斑千冬教官のみ・・・。

 世界で唯一人間として私を扱ってくれた尊敬し、敬愛し、崇敬すべき史上最高の女傑ただお一人だけ・・・。

 

 そして、彼女が連れ去られる元凶となっている柔弱きわまる下劣な品性の持ち主。彼女の弟である軟弱男子。織斑一夏。

 何の見込みもない新兵以下のダンスしか踊れなさそうな、鍛え甲斐のない男を鍛えるために彼女は帰国した。

 ならば私が叩きのめしてやる。私の方が強いのだと、鍛え甲斐がある教え子なのだと結果によって証明すれば。

 

 きっと彼女は私のもとへ戻ってきてくれるはずなのだから・・・。

 私を。“私だけ”を再び見てくれるようになるはずなのだから・・・・・・。

 

 

「・・・・・・」

「・・・うん? なんか用か?」

 

 ――ふと、気付いたとき。私は無意識のうちに織斑一夏が座す席の前まで移動してきていた。

 思いが強すぎるあまり、行動にまで出ていたことに気付かなかったようだ。

 

 ・・・まぁ、いい。これはこれで丁度いいタイミングだ。宣戦布告をするには持って来いのシチュエーションだろう。

 

 

(この男は一発ぶん殴ってやらなくては気が済まないと思っていたところだしな!!!)

 

 

 私は右手を振りかぶり、目の前で攻撃の準備態勢を整えていく外国の代表候補生を見ながら間抜け面を晒したまま阿呆のようにポカンとしている愚図の頬に平手打ちを叩き込んでやるため勢いを付けてスイングした!

 

 

「貴様のような軟弱者は、修正してやる!!!」

「ぐへっ!?」

 

 

 バシィィィッン!!!!

 

 

 激しい打撃音が轟いて教室中が静まりかえり、目の前では何が起こったのかようやく理解が追いついてきたらしい助平そうな男の顔が、怒りのあまり徐々に急速に赤みを増していき。

 

「いきなり何しやがる!」

 

 バシィィィィッン!!!

 もう一発はたいてやった。

 

 ・・・何故だか先ほどから感情の抑制が上手く効かないのだ。記憶の奥底からナニカが溢れ出てきて、急かすように私の行動を過激で熾烈で容赦のない織斑教官のようにしてしまっている。

 

 まるで織斑教官以外に『もう一人の成長を見てもらいたい相手』が、この場にいるような気がして仕方がなくなっている。

 

「に、二度も殴りやがったな! テメェ何様のつもりだ!? コミュニケーション文化のない星から来た異星人なんじゃねぇのか! それともドイツじゃ初対面の相手を友好の意味で殴ったりするのかよ? 絶対住みたくねぇな! そんな国!」

「うるさい、理屈をごねるな。それとも貴様の国では初対面の相手をいきなり殴りつけるような相手に礼儀正しく議論を吹っ掛けて歓迎してやる悪習でもあるのか?

 言葉の通じぬ礼儀知らずな犬相手には、正論ではなく椅子でも投げつけてやるのが正しい礼儀だという常識を知れ」

 

 平然と、今まで教え込まれてきた現代ドイツ軍の常識ではない『私の知らないはずの常識』が口を突いて出てきて止まらなくなってくる。

 

 ああ、なんだこれは。――実に、いい。いい感動だ。いい情動だ。

 身体の奥底から響き出す轟音とともに蘇ってくる、実にいい常識だ。

 脊髄が愛しく踊りだし、心臓の鼓動が歓喜と激情に打ち震える。

 

 そしてその根源と、常に隣り合わせで過ごせるこの地で感じられる悦び・・・・・・。

 

 

「なんと充実した良い人生か! 私の生涯は母に愛されることで満たされていた!!

 と言うわけで・・・・・・お会いしたかったですぅぅぅ!! お母様~~~~♡♡♡♡♡」

 

 

 

「え? ・・・なに!? 何があったんですか!? なんでいきなり私、抱きつかれてるんですか!? 他人事だからとボーッとしていた間に何が起きてたんですか!? 誰か説明してください! あと、この人誰!?

 なんで私、初対面のナチス軍服っぽい格好した女子高生からお母さん呼ばわりされてるの!?」

 

 

「ゴロニャンです♪ ゴロニャンです♪ お母様! お母様! お母様ぁぁぁっ♡♡♡♡」

 

 

 

 ・・・こうして私は十数年ぶりに全身で感じられる母の愛で満たされながら、新しい仕事場へとやってきたのでした。

 

 久しぶりにお母様とお会いできたヨロコビとカンドーで、ラウラの胸は張り裂けそうです! お母様につきまとってた悪い虫さんの首オイテケさんは今はどうでも良くなってます! 見逃してあげます!

 でも、後でオシオキだべーです! これは絶対! ラウラはそのために日本に来たんですから当然デアリマス!

 

 テンセーの神様からリンネテンショーさせられちゃってから今までずっと一人で寂しかったですけど、今はもう良いです! 帳消しです! 全部なかったことにしてあげます!

 

 だってお母様と再会させてもらえました! お母様一人の愛情はお母様一人だけからしか受けられません! お母様以外の何万人から愛されても全然足りないです!

 お母様から受けられる愛情は、お母様一人だけのものです! 替えはききません! 赤の他人の愛情なんかで数をそろえても意味なんかなかったのです!

 

 

「お母様! お母様! お母様! 会いたかったですお母様! お会いしたかったですお母様! お母様と離ればなれになってから、ラウラずっと寂しかったんですお母様!

 もう離しません! 離れません! イッショーガイずっと一緒にい続けます!

 また一緒のお布団で寝てください! 一緒にお風呂に入ってお背中ながしてください! ながさせてください! あと、それからえ~とえ~と・・・・・・」

 

 

 ぽんっ。

 

 

「・・・異住さん。とりあえず――職員室行きましょっか? その後に生徒指導室にもね♪(ニッコリ)」

「なんか誤解していませんかね、山田先生!?

 てゆーか貴女もオッパイキャラなんですから、こういう時ぐらい役に立って同類を助けなさいよ! このあんまし意味のない巨乳設定の女教師キャラの人!!」

「判決! 死刑!! 悪い子にはオシオキ確定!!」

「横暴です~~~~~~っ(ToT)!!!!」

 

つづく

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・( ゜д゜)』

 

注:完全に置いてけぼりにされて訳がわからないまま唖然とするしかない、織斑一夏と織斑千冬と篠ノ之箒含めた、その他大勢の部外者たちを絵文字で表現した図。




謝罪文:
バケモノの更新が滞っていて申し訳ありません、
作風が違いすぎてギャグとの並走が難しい昨今の心理状態です。


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IS学園のひねくれ少女 第9話

遊び半分で書いてたら悪ノリしました。適当に笑い飛ばして読み飛ばしていただけたら助かります。…今度こそエロ作書くのに成功したいなぁ~(:_;)


「・・・つまり、お前の話を総合すると・・・」

 

 私こと、織斑千冬は言いかけた言葉を途中でとめて周囲を見回す。

 室内の左右に教頭先生と私が配され、部屋の奥の学園長が使う執務机には表向き本人ということになっている代理の女性が穏やかな表情で椅子に座り、唯一の出入り口である扉の前には室内でただ一人の“子供”である銀髪青眼の報告者が立たされていた。

 

 この光景を見ても尚、「IS学園の教員は生徒を尋問したことなどない」という公式発言を信じ切れる者がいるとしたら、ソイツは脳にウジが沸いているに違いない。

 IS学園警備主任兼1年1組担任教師の私でさえそう思えるのだ。間違いない。

 

「…ボーデヴィッヒには、この世界とは似て非なる歴史を綴ったパラレルワールドに生きる、別のラウラ・ボーデヴィッヒの記憶があり、その世界での彼女はお前と同姓同名を持つ赤の他人を母だと思い込んで慕っていた。

 そして、お前を見た瞬間に別世界で生きていた頃の記憶を思い出し、心がソイツと完全に一体化してしまった・・・と。そう言うことでいいのか? 異住セレニア」

「・・・はい・・・そうみたいです。多分ですけれども・・・」

 

 自信なさそうに答えを返してくる私の教え子、銀髪青眼のIS学園生、異住セレニア。

 まぁ、当然と言えば当然の反応ではあった。

 

 今朝方に起きて、もうすぐ夕方になる今になっても解決の目途が立たない一大珍事、『ラウラ・ボーデヴィッヒ、なんかよく分からない事件(仮称・実際よく分からないので便宜上そう言う名前になってしまっている・・・)』の当事者でもある彼女だが、巻き込まれた被害者としての側面も併せ持っている面倒くさい立場にいる者なのだから、答えなど明確に返せるはずもない。

 

「そんな話を私たちに信じろと、貴女はおっしゃるのですか異住さん?」

 

 耳障りな声で教頭先生が聞いた。

 中学時代に生徒がミスをすると目を輝かせ、これとそっくりな猫がネズミをいたぶる姿を連想させてくる声と口調で詰問してくる先生がいて、当時の私の人格はその頃に陶冶されたものである。

 あの頃は一夏にも気遣われてしまうほど、酷い目つきをしていたと我ながら反省の念を禁じ得ない。

 一夏はよく私のことを『鬼』と評しているらしいと風の噂で耳にしたが、とんでもないことだ。本当の鬼は彼女のように弱い者イジメを嬉々として行う地獄の獄卒のような者のことを言う。

 私など正々堂々、拳で鉄拳制裁しているだけなのだから優しい部類に入ることだろう。

 

 そんな性格から生徒たちに「鬼ババア」と陰口をたたかれている教頭先生から、逆三角形の眼鏡を光らせながら詰問された異住だが、

 

 

「そう言われましてもねぇー・・・」

 

 と、頭をかきながら適当な口調で質問への答えを返すのみ。萎縮した様子も見せぬ代わりに、反発心からくる隔意ある態度も取ろうとはしない。あくまで自然体を貫くいつも通りの彼女に内心で感心しながら別の疑問を抱かなくもない。

 

(普段は中流家庭出身のわりに、お嬢様っぽい仕草や言動が多いコイツにしては珍しくはすっぱな仕草をしたものだな・・・)

 

 そんな私の声に出さなかった疑問に答えてくれるはずもなく、異住は教頭先生からの質問に対して礼儀正しく返答を返していく。

 

「私はボーデヴィッヒさんから聞き出せた情報を、そのままお伝えしただけですのでね。内容の信憑性についてまでは責任を持てる立場にありません。

 これ以上の詳しい情報をお求めの場合には、私からではなく直接本人から聞き出していただくより他ないのではと言わざるを得ないのですが・・・」

「ぐ・・・」

 

 呻くように言って、教頭先生は目を伏せると黙り込む。

 反論する余地を見いだせない、完全無欠の正論だったのだから彼女としても黙り込むしかあるまい。

 

 事実として異住は今回、ラウラから聞き出せた情報を我々教員に伝えるメッセンジャーとしての役割を果たしただけであって、彼女個人の見解を述べた発言は先ほどの報告の中に存在していなかった。聞いたとおりの話を丸暗記して私たちに伝えてよこしただけの情報の真偽など、伝言板でしかないメッセンジャーに求める方が本来ならおかしいのだからな。

 

 教頭先生もその程度のことは理解していたのだろうが、教師が生徒に対して接するときの一般的セオリーに則って訊いてしまったのが不味かった。あるいは一般論を持ち出した相手が不味すぎたと言うべきなのか。

 とにかく、『世間一般のお約束ガン無視』常習犯である異住に対するときに採用する手法でなかったのは間違いなかったことだろう。

 

 

 ・・・今朝に起きた突然の異常事態以降、幼児化したラウラは異住の側から離れようとせず、他の者が引き離そうとすれば相手が誰だろうと泣きじゃくってしまう完全なお子様状態に成り果ててしまっており、状況確認さえ困難を極めた。

 やむを得ず一端彼女を隔離して情報を聞き出すため、唯一今のラウラが心を許しているらしい異住に一任してマジックミラーに四方を取り囲まれた別室で事情聴取を行わせ集音マイクで会話内容を録音し、異住立ち会いのもとバイタルチェックや脳の検査を保健室でおこなわせて報告待ちの状況に下校時間を過ぎた今ではなっている。

 

 

 その頃になるとラウラも落ち着きを取り戻したのか、異住が側にいなくなっても泣き出すことはなくなり、むしろ普段通りに年齢相応の態度と口調に改まって非礼を詫びてくる始末。

 

 おかげで余計に対応が難しくなっていた。

 これが完全に脳の異常でIS操縦者として使い物にならなくなったというのなら、彼女には気の毒だが学園側としての対応は難しくない。

 どう考えても門外漢なので、専門施設に預けて委ねるしか他に選択肢は取りようがないだろう。

 ラウラを精神異常者だ、などとは個人的にも断じて思いたくないが、だからといって私にどうこうできる問題とは余計に思えん。彼女のためを思うなら、泣く泣く専門施設に委ねるしか道はない。

 

 だが、現実は物語より遙かに奇妙な展開を見せていた。

 なんとラウラの心には、別世界に生きて天寿を全うして死んだIS操縦者ラウラ・ボーデヴィッヒの記憶が受け継がれており、幼少時から少しずつ覚醒していたらしいその記憶が、前世で母と慕った人と瓜二つの容姿と同じ姓名をもつらしい異住と出会ったことで一挙に目覚め、現在の人格と完全融合してしまい子供状態の時と軍人状態の時とで記憶を共有しながらも意識は棲み分け現象を起こしているというのだから、教頭先生でなくても納得できる訳もない。

 

 ――が、しかし。

 もう一度言わせてもらうなら、異住はメッセンジャーでしかなく、ラウラから聞いた話を又聞きの伝聞形式で伝えに来てるだけなので、ラウラの事情について彼女に何を訊いても無駄である。と言うか何を答えられても無意味である。

 当事者でもなく、出会ったばかりの赤の他人による推測を聞かされたところで教頭先生はどうするつもりなのか気になるところだが、これも先ほど言ったとおり彼女もその程度のことは承知済み。セオリー通りに訊いただけなので問題定義するほどのことでもない。

 

 そう、問題ないのだ。彼女自身がこれ以上余計なことを言って、藪蛇にさえしてくれなければ問題はな―――

 

 

「な、なんですか教師に対してその態度と言い草は! 生徒のくせに失礼ですよ!」

 

 

 ・・・問題なしで済んだはずだったのに鬼ババア――――――っっ!!!!!

 

「・・・?? 何か問題がありましたでしょうか? 不覚にも気がつけませんでしたが・・・先生方を不快にさせてしまっていたのだとしたら謝罪いたします。申し訳ありませんでした」

「ぐ・・・っ! そ、そもそもですね! あなたは任せられて引き受けた身であり、現状においてボーデヴィッヒさんから情報を引き出せる唯一の人間なのですよ?

 その貴女が、子供の精神となっている今の彼女から聞いた話を鵜呑みにしてしまっていたのでは解決の糸口を見いだすことができません! 漠然とした情報ではなく、もっと具体性のある内容の話は聞き出せないのですか!?」

「それにつきましては、言い訳のしようもありません・・・。私の能力不足により先生方に多大なご迷惑をおかけしてしまっていること誠に申し訳なく思っております。無能非才の身を恥じ入るばかりです」

「え。あ、う・・・そ、そうですか・・・」

「・・・ですが情けない話、これ以上の情報を引き出す能力は現在の私にはないようです。引き受けておいて無責任だと自分でも思いますけど、これ以上のことは私以上の能力をお持ちの方に引き受けていただくより他ありそうにないのです・・・。申し訳ありません・・・」

「あ、う、え、あ・・・・・・」

 

 ・・・うむ、いつも通りの光景だな。我が1年1組だったらの話ではあるが。

 土台、異住相手に『生徒に言い負かされて面目を失った教師によるプライド奪還口論』を挑んだところで勝てるはずもない。妥当な結果と呼ぶべきであろう。

 

 教頭先生にしても、『教師が生徒にする一般的対応』が思わぬ形で通じなかったせいで頭に血が上ってしまっただけのようにも見える。・・・無理もない話ではあるが。

 

 普通の学生なら、目上の大人たちに三方を囲まれた学園長室に呼び出され、上から目線で説明を要求される立場に立たされた時の対応は、萎縮するか反発するかのどちらかだろう。

 そのどちらでもなく、ごく普通に対応して礼儀正しく報告してくる異住の方が例外なのだから無理はない。

 

「こ、怖いのですか? 一度は引き受けた任務を達成できずに非難されるのが・・・?」

「はい。なにしろ整備科志望でIS適性の低い凡人ですから、失敗の悪評は怖すぎるのです」

 

 異住セレニア、堂々とした態度で嘘八百を口にするの段。

 私のクラスの姦しい女子どもが聞いたら『嘘つけ―――っ!!』の大合唱がとどろきそうなセリフだったが、初対面の教頭には有効だったらしい。挑発を受け入れられてしまい動揺している。

 一夏とかオルコットとか凰とかになら有効かもしれんが・・・コイツ相手にはなぁ・・・。無理だろう、どう考えても。

 

「えーと・・・ですね。つまりあれでこうなってそのあのえ~と・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 自ら泥沼にはまり込んだらしい教頭と、面倒くさくなってきたらしい異住とが(表情変わらないから分かりづらかったが今のセリフで判明した)互いの目的のために言葉探しと沈黙とを武器にして『有耶無耶というゴール』に辿り着いたようなので、私は学園長代理とアイコンタクトを交わし合い仲裁に入ろうとしたまさにそのとき。

 

 

「ちわーす、三河屋からお届け物でーす。嘘だけどね。

 ボーデヴィッヒさんの頭の中に関する診断結果でましたんで持ってきてあげましたー」

 

 

 学園長室の扉が開いて、一人の女性が横柄な態度と変な口調で紙束片手に入室してきた。

 異住とよく似た銀色の長髪を、異住とよく似た長いポニーテールの髪型にして、異住とよく似た巨大な胸部を強調するかのような服装をした私とほぼ同年齢の若い女性教師。

 

 名を『クレシア・クレッシェント』。

 IS学園の教師であり、ISを非展開時に素手で敵と戦う術を生徒たちに教え込む『白兵戦指導教官』の役割を担っている私の同僚だ。

 

「・・・あっ! セレニアじゃん! やっぱり学園長室に残ってたんだ! こうなると運命を感じざるを得ないよね! と言うわけで今すぐ結婚するため婚姻届に判を押そう! 大丈夫! 判子だったらお姉ちゃん毎日学校に持ってきてるからね!」

「・・・・・・姉さん・・・、じゃなかったクレッシェント先生。学校では先生として、私のことは異住と呼んでくださいと何度言ったら分かってくれるのですかね・・・?」

「え~? お姉ちゃん、ちゃんと分かってるよ? 単に実行する気がないだけで」

「分かってるだけで出来てないことは、分かってないのと同じだと何度か言った記憶もあるのですけどね?」

 

 グサグサグサ。私、織斑千冬の弟に対する信頼が痛恨の一撃を食らった。ダメージは甚大だ。

 ・・・私でなければ死んでいたな、精神的に・・・。

 

 まぁ、今のやりとりで分かると思うが、この女クレシアは名字こそ違うが、異住にとって実の姉だ。

 名字は母方の姓を名乗っているらしいのだが、家は普通に家族と暮らす実家住まいだとも言っていた。・・・あまりにも性格が違いすぎてたせいで、本人から直接教えてもらうまでは気づかなかったがな・・・。

 

 『異住』なんて名字がそうそうあるとも思えんし、たぶん『織斑』よりも少ないだろうから気づけたとしても不思議ではなかったのだがな。迂闊だったと反省している。

 

 改めて見ると、二人には似ている部分が多く存在してもいた。

 ごく自然に自分のマイペース振りを貫き通すところとか、目上に対しても全く萎縮する気がないところとか、一芸特化な能力とかが・・・・・・完全に血の繋がった姉妹そのものだったな。出力タイプが違うだけで中身はなにも変わらなかった。なぜ気づかなかった私・・・?

 

 

「コホン。・・・クレッシェント先生、家族仲がいいのは悪いことではありませんが公私混同は控えてください。生徒たちに示しがつきません」

「え~? 別にいいじゃんかチーフー。私とセレニアの仲じゃんかよ~」

「・・・貴女と異住の仲だからこそ言ってるんです! あと、チーフー呼びはやめろと何度も言ってるだろうが、この駄後輩!」

 

 思わず叫び声を上げて叱責してしまう私。

 ・・・今晒してしまった醜態を見ても分かるとおり、コイツと私とは学生時代の先輩後輩の仲だった間柄だ。

 付け加えるなら私の方が一学年上の先輩で、コイツの方が後輩だったりもする。

 

 だが言うまでもなく一目瞭然なように、コイツは真耶と違って先輩である私に対して敬語など使ってきた例しがなく、出会った当初からタメ口ききまくってくる生意気な後輩であり、束もコイツのことだけはやたらと苦手意識を持っていた。

 なんか似たもの同士な気がしてきて、同族嫌悪というか鏡を見ているようで嫌なんだそうである。訳が分からん。

 

「まっ、姉妹の間で愛情を確かめ合うのは、家に帰ってベッドの中に入った後でゆっくりやればよいとして・・・・・・今はお仕事こなしましょうかね」

 

 家に帰ってから今の続きをやる気満々なのかコイツは・・・普段は家庭内の問題に不介入が基本の私だが、お前にだけは一言いってやりたいことが山のようにあるのだけどな。

 

「とゆーか、なんで保健室の先生に頼んでおいた診断結果の報告をお前が持ってきているのだ? どうせ分からんだろ、お前には診断結果として何が書かれていようと専門知識なんて」

「ふふ~ん♪ チーフーはまだまだ青いな~。私は保健体育の先生でもあるんだよ? 当然、保険医の資格だって持っているのだよホレホレ~♪」

 

 そう言って胸の谷間から取り出した(どこに入れとるんだ貴様は!)保険医の免許証を見せびらかすように突きつけてくるクレシア。・・・人は見かけによらんとはこの事だな。

 

「ふっ・・・青いねぇチーフー。青すぎるよ。

 よろしいかな? 格闘技を知るって事は、身体を知ることでもあるんだよ。どこをどうすれば痛みを与えれて、この部位はどこまでの痛みに耐えられるのか? それを見極めるためには人体に関する知識は保険医レベルは持ってて当然! いや、持ってなくてどうするのかっ!てレベルだね」

「ふむ、なるほど。一理あ――」

「そして! 痛みを知ることとは苦痛を知ることであり、苦痛と快楽は表裏一体!

 痛気持ちいいレベルで愛する妹に嬲られてみたい姉の愛の現れであり、愛しい妹には気持ちいいだけで苦痛のない初体験を通過させてあげたいと願うのもまた姉の愛・・・」

「よし、お前は今すぐ腹を下せ」

「どんな罵倒よソレは!?」

 

 あまりの変態姉っぷりに、同じ姉として一言罵倒したくなったので罵倒した。反省はしてやる気がない。

 

「・・・織斑先生・・・。あの、できれば私的な会話は仕事の後にして、報告のほうを優先していただけませんでしょうかね・・・?」

「――ハッ!? す、すまん異住。私としたことがウッカリしていた・・・ほら! クレッシェント先生も早く謝罪して仕事に戻らんか!」

「うぇ~い。了解しましったー、織斑センセー」

 

 ・・・クッ! この妹以上に可愛げのない生意気な後輩教師めがぁぁぁ・・・・・・っ!!!

 

「はぁ。では邪魔者が黙ってくれましたんで報告させてもらいますが・・・・・・前世ウンヌンとか異世界ウンチャラの話は別として。

 この子、ラウラちゃんでしたっけ? 結構やばいですねー、この子の身体は。これなら確かに彼女自身が言ってたとおりのことが起こったとしても不思議じゃないかなーってレベルで酷い状態であることが判明いたしました」

「酷いと言いますと、具体的には?」

 

 それまで黙って話を聞くだけだった学園長代理が質問する

 

「遺伝子改造です。それもかなり深いところまで弄くられてました」

 

 その一言に、場が一気に静まりかえる。

 ある事情から他の者たちよりラウラの身体のことを詳しく知っている私でさえ黙り込まざるを得ないほど、それは具体的でエグい表現だったが、彼女の話には続きがあった。

 

「どうも設計者のMADは、未完成の技術で無理やり完成形を目指そうとしていたらしくて、人生始まる前に割り振れる初期ボーナスポイントが戦闘力と戦闘スキルに極振りされまくった挙げ句、数撃ちゃ当たる方式で彼女みたいなのを沢山作って成功例が一つ出来ればいいやみたいなテキトー方針だったせいなのか、妙にアンバランスな遺伝子配列で構成されていて、今の彼女に至れたのは偶然と言うより奇跡に近い感じでしょうかね?

 穴だらけの設計図を元に隙間だらけの歪な積み木細工を作ったら、一つだけ偶然にも上手く合致して嵌まったのが出来てくれただけなんだけど、成功は成功ってことで失敗ではないんだし壊すの勿体ないから使っちゃえーなノリで今まで育成してきたらしく、体中のいろんな場所でエラーが起きやすくなっちゃってますね-。

 いや~、今までよく無事で生きてこられたねー。運がいいわ~、羨ましい。

 ――おや? どったのチーフー? 顔色悪いけど保健室行く?」

「・・・・・・気にするな、大丈夫だ、問題ない・・・・・・」

 

 正直、これっぽっちも大丈夫ではなかったが、それでも無理して大丈夫と言っておく。

 相手に悪意はないと分かっていても、今のはキツかったぞクレシアよ・・・。本気で死ぬかと思ったわ。てゆーか、本気で死んで詫びたくなってしまったわ。

 私を産みだした研究は、本気でなんて行為をしてしまってたんだアイツらはぁぁ・・・っ!!

 

「・・・??? ま、いいや。チーフーの死亡フラグ台詞は無視しとくとして、次いくねー」

 

 私の心の苦悩など気にもかけずに、我が一応の友は我道を行くつもりらしい。うん、やっぱりお前たちは姉妹だ。死後は地獄に落ちて改心した方がいいと私は思うぞ。

 

「まず、脳に発達障害が見られるね。

 キレやすくて空気が読めなくて社会性がないんだけど、非常にピュアな精神の持ち主で気持ちが純真で純朴で表と裏がなくて建て前と本音を使い分けない。

 思ったことを口にしたり、行動に移したりとかが周囲から理解を得られ辛くして誤解されて孤立しやすいタイプだよね。

 こういう人って胎児の時に記憶を司る海馬の片方が通常通りに成長できなくて、普通の人とはことなる形で脳内のネットワークを繋げちゃう分、人より能力的には優秀な結果を出しやすい傾向にあることは医学の世界だと常識でしかない。

 個人としての強さを重視するなら、弱さ故に群れないといられない人間らしい社会性なんて邪魔なだけって人が造った技術が使われてるんだとしたら、まぁこうなるのも宜なるかなって感じかな」

「ぐ・・・、うぬぅ・・・・・・」

「次に肉体面。見た目通りの発育不良なんだけど、そのわりに筋肉がしっかり付きすぎてる。普通の人間だったらコレだけしっかりした筋肉付けるためにはいっぱい食べなきゃ出来ないし、健全な食生活が健全な身体的成長を妨げるって言うのはいまいち聞いたことがない。

 そっから推測すると、もともとは老化防止のための措置だった可能性が高い。人間どんなに強くても老いには勝てないから、最盛期の肉体を維持できるに越したことはない。最強の肉体を手に入れたらそれ以降は年取らずに若いままでいた方が最強っぽい。

 そのための措置が取られてたせいで、戦闘するには最高の状態に達した今の肉体を最盛期だと勘違いしちゃって成長止めた可能性が微レ存かな? こっちは既存の技術じゃ存在してないから推測しか出来ないけど不完全な技術じゃあり得なくもない・・・かもしれないね」

「う・・・ぐぐぐぅ・・・・・・」

「あと、付け足すなら遺伝子的に強化して無理やり最強に押し上げようとしちゃってるせいで精神が常にバランス性を欠いていて情緒不安定に陥りやすく、特定の誰かに対する依存性が高いみたいだよ?

 それと、ちなみにだけど幼児性の高さは元から持ってたっぽい。生み出された目的自体が『強さ』を追求するためだけに造られていて、そのために邪魔な要素は育みづらく出来ちゃってるみたいだし、見た目ほど普通の子として生きていけそうにないよ、この子って。

 ・・・ある意味では織斑一夏以上に軍による生体実験の被験者サンプルとしては、数少ない成功例として希少価値があ――どしたのチーフー、そんな今にも飛び降り自殺したがってそうな顔して黙りこくって。なんかあったん?」

「・・・・・・まぁ、色々とな・・・・・・」

 

 と言うか、お前の言うとおりなんだよ! 殺せよ! 私を殺せよ! 殺してくれよ!

 私は一体なんてことをラウラにさせてしまう技術の実験台として造られて成功してしまってたんだ――――っ!!!!!

 

「・・・?? まぁ、チーフーが頭おかしい行動取るのはターネーと友達だっただけで一目瞭然として。

 ――この件、一体どうします? 調べれば調べるほど厄介ごとなネタが埃のように出てきまくってんですけども?」

「・・・どうするとは、どういう意味なんだクレシア・・・」

 

 力ない声で私は後輩に尋ねる。もう考えることさえ嫌になってきていた私にとって、聞くことさえ面倒だったから気づかなかった事柄だが、考えてみれば当たり前のことだったためクレシアより先に私の教え子から答えを教えてもらう羽目になってしまった。

 

「・・・このまま何も知らず気づかず見て見ぬフリするか、責任を取らせるため何かするかのお話じゃないですかね? 多分ですけども・・・」

「・・・・・・っ!!!」

 

 ・・・愕然とさせられた・・・。

 そうだった、ラウラはドイツ正規軍に所属する軍人であり、私はIS学園の教員。互いの立場を守りながら彼女にされてしまった責任を犯人に取らせることは出来ない立場にある二人なのだ!

 くそう! どうすればいい!? 一夏の誘拐事件の時みたいに突っ込むか!?

 

「・・・クレッシェント先生。ボーデヴィッヒさんの精神的幼児化と異常行動は、異住さんと一緒にいるときのみ起こることは確認しているのですよね?」

 

 学園長代理が穏やかな声でクレシアに尋ねる声が聞こえてくる。返事は「Yes」だったようだ。

 

「では、幼児化していないときの彼女は今まで通りISを使って戦っても問題ないのですよね?」

 

 この質問にも答えは「Yes」だ。

 

「むしろ前世の記憶だかなんだかが蘇って、強くなってるかもしれませんね。向こうの世界でセレニアに娘として鍛えられてるなら尚更でしょう。主に精神面とかが」

「・・・姉さん、じゃなくってクレッシェント先生。それ一体どういう意味で――」

「では、問題ありませんね。彼女には一時的な記憶の混乱が見られますけど、それは脳と直接つなげて動かすISを操る操縦者ならではの弊害。時として起きうる可能性のある出来事としてIS委員会には報告を上げておくといたしましょう。

 ――今日の議題は以上ですね?」

「え? あ、あの・・・学園長先生・・・?」

 

 教頭先生が茫然自失からようやく立ち直って、弱々しい声で抗弁しようと・・・というか明らかに反対しようとしていたが、学園長は断固とした口調で相手の意思を完全拒絶する。

 

「問題ありません。ISはまだまだ判明している部分の方が少ない未知の世界最高戦力。命に関わる大事件に発展していた可能性を思えば、この程度の被害は雀の涙というものです」

 

 ・・・いやまぁ、そうかもしれんのだが。それ言い出したらどんなことでも大したことなくなってしまう気がするのですが? 学園長代理先生殿。

 

「さて、異住さん。偶然とはいえ、ここまで詳しい事情を聞いてしまった以上、貴女も今回の件では一蓮托生。黙って口をつぐんでボーデヴィッヒさんを預かってもらえるよう協力していただきますが、よろしいですね?」

「・・・室内で唯一の出入り口を姉さんに占領されたまま始められた会話の内容を、どうやって『偶然聞かされたこと』になるのか疑問で仕方がありませんが、聞いたところで結果が変わるわけでもないでしょうし、お引き受けいたします。仕方がなさそうですからね・・・」

「フフフ・・・なんとでも仰ってくれてかまいませんよ?

 私はあの人の・・・愛する夫を妙な厄介ごとに巻き込まないで済むのであれば、後はなんだって構わないのですからね・・・うふふふふふふフフフフフフフフ・・・・・・♡♡♡♡」

『・・・・・・・・・』

 

 

 こうして、ボーデヴィッヒの変な変質に始まる今日の事件は、なぜだか愛情うずまく悪意のない、愛だけに満ち満ちた混沌の世界に足を突っ込ませた状態で終わりを告げる。

 

 

 ・・・よし、明日も頑張って真面目に働くぞー。エイエイオー(現実逃避)

 

 

 

 そして今日起こったこともまた、IS学園の闇に飲まれて忘れ去れて消えてゆく・・・。

 すべての真実を納めたラウラの診断結果とともにIS学園深層部にある禁断のファイルの中で眠りにつかされるのである。

 

 いつの日か真相が明るみに出て、すべてが白日の下に照らされることになるその日まで―――。

 

 

【IXファイル】完(笑)

 

 

つづく

 

 

 

おまけ『チーフー先生とクレシアさん』

 

千冬「そう言えば、クレシア。お前は異住とボーデヴィッヒが同室になったことに思うところはないのか? お前は実の妹を性的な意味で愛している変態だったはずだろう?」

 

クレシア「ふっ・・・正確な論評ね・・・。でもまぁ、安心しなさんな。私があのラウラちゃんって子に手を出すことは絶対ないし、そのつもりもないわ。約束する。絶対によ?」

 

千冬「ほう? そこまで覚悟する根拠は? ようやく妹離れする気にでもなったのか?」

 

クレシア「・・・いや、だってさ・・・あの子ってセレニアの娘な訳なんでしょ? つまりそれって私とセレニアの愛の結晶があのラウラちゃんって子な訳じゃん? さすがの私も自分たちの間に生まれた娘にまでは嫉妬しないわよ絶対に! ・・・多分だけれども」

 

千冬「いや、その理屈はおかしい。今更でしかないけれども。・・・あと、その関係性でさえ多分が付くのだな・・・。それもまた今更でしかないのに、何故だかドッと疲れたぞクレシアよ・・・」

 

クレシア「よし、じゃあ今日は久々に飲みに行きましょう。級友同士で朝まで飲み明かすぞ-! オーッ!」

 

千冬「それは構わんが、もう一度だけ言っておくぞ? お・ま・え・は・後輩だ!!」

 

クレシア「え~? 別にいいじゃん。どうせチーフーもターネーも同期で酒飲みに行けるほど仲いい友達なんていなかったんだし、せいぜいが後輩の私とマーヤーぐらいなものだったんだし、同格扱いでよくね? 優秀さが恋人のボッチ同盟入ろうゼヨ千冬さんよぉ~」

 

千冬「・・・・・・それを言ってくれるなよ、悲しさで飲む前に泣けてくるから・・・(T-T)」



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IS学園のひねくれ少女 第10話

「ひねくれ少女」更新です。遅れてゴメンナサイ。途中まで出来てたんですけど、それに油断して他のを優先させすぎました。以後は今よりもう少しだけでも気を付けられるよう努力してみます。


「ええとね、一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握していないからだよ」

「そ、そうなのか? 一応わかっているつもりだったんだが・・・」

 

 IS戦闘に関するレクチャーをしてくれているシャルルの言葉に何度も頷きながら、俺は相手の説明内容をしっかりと聞いていく。

 

「うーん、知識として知ってるだけって感じかな。さっき僕と戦ったときもほとんど間合いを詰められなかったよね?」

「うっ・・・、確かに。『イグニッション・ブースト』も読まれてたしな・・・」

「一夏のISは近接格闘オンリーだから、より深く射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬間加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうからね」

「直線的か・・・・・・なるほどなぁ」

 

 シャルルのわかりやすい説明に何度も何度もうなずき返しながら、俺はいろいろな理由で行き詰まっていた自分の殻が破れていくのを実感させられ、目の前のシャルルが救いの主のように見えてきている昨今だった。

 

 

 

 ・・・シャルルたちが転校してきてから五日が経過し、今日は土曜日になっていた。

 IS学園では土曜日の午前が理論学習で、午後は完全自由時間になっているから、他のみんなより後発組の俺は経験値不足を少しでも補うため土曜日でも解放されているアリーナを使わせてもらって地道なトレーニングを続けてきていた。

 今日からは、新しくルームメイトになったシャルルからIS操縦のコーチを引き受けてもらえることになり、こうしてレクチャーを受けている。・・・という次第である。

 

 

 ――思えば今日まで、短い間ながらも色々なことがあった・・・。

 シャルルと一緒に転校してきたボーデヴィッヒにいきなり殴られたり、二度も殴り飛ばされたり一方的に説教くらわされたり。

 そして、この世界とは似て非なるパラレルワールドみたいな世界が存在して、ボーデヴィッヒにはそこで今の自分と全く同じ自分として生きた前世の記憶が引き継がれていて、そっちの世界でボーデヴィッヒが母ちゃんだと思い込んでてらしいセレニアと再会した途端に前世の記憶が蘇ってきたとかで心が子供返りを起こして今ではセレニアと同室になっていて、セレニアがいるところでは常時お子様モ-ドで、いない時には軍人モードと両極端過ぎる人格に別れてから正式に俺たちとクラスメイトになったりした訳なんだけれども。

 

 

 ・・・うん、見事なまでの俺関係ないな。巻き込まれただけだな。中心にいるっぽい人物は俺よりむしろセレニアだよな。セレニア自身も巻き込まれただけっぽい気がするけど、俺よりかは中心人物に近い位置にいるよな普通に考えて。

 

 まぁ、俺は別に気にしてないけどな? 一回殴られたぐらいで許せなくなるほど子供じゃねぇし。女に二度も殴られて説教されたからって腹が立つほど子供じゃねぇからさ俺って。小学校五年の時にバカやってたクラスの男子連中とは俺違うから。

 

 お子様モードになって、俺への恨みとか全部どうでもよくなったらしいボーデヴィッヒから正式に謝罪してもらったし。謝って頭下げてきた相手に殴られっぱなしで一発も返せなかったぐらいで理不尽な怒りを抱くほど俺の器は小さくない。だって男らしくないからな、そんなのって。過去に負かされた恨み辛みで人憎むなんて男のやることじゃねぇよ。

 

 だから、このトレーニングはボーデヴィッヒに復讐戦を挑みたいとかいう身勝手な思いから来ているものじゃない。そこは誤解されないように断言しておきたい。

 単に、今月おこなわれる予定の学年別個人トーナメントに向けてトレーニングを強化しているだけだから。ボーデヴィッヒだけに勝ちたい訳じゃないから。戦うからには誰が相手でも勝ちを狙うのが男ってものだから。それだけだから。

 だから誤解するなよ!? 誤解されると男として恥ずかしいからな!!

 

 

『あー・・・、一夏があの顔してる時って大抵の場合、私怨を一般論で理論武装して正当化してるときなのよね。私の経験則的に見て、大抵の場合には』

『まぁ、そうなんですの鈴さん?』

『うん。一夏って感情的でサッパリしてるけど、意外と尾を引きやすくて、決着をつけるまではヤラレタ事への恨みを忘れない所があったりするからね。昔からの癖みたいなもんだから仕方ないんだけど』

『ああ、たしかに・・・そういう所あるかもしれませんわね。知識として知ってるだけで分かった気になってた部分とか、一夏さんって変なところで理屈臭くて言い訳じみてるところがあったりしますから・・・・・・』

『わ、私はよいと思うぞ? そういう所はな! 男子たるもの女に殴られっぱなし言い負かされっぱなしで流してしまうようでは沽券に関わるというもの! そんな男は、男ではないのだからな!!』

 

 

 ――そこぉっ!! うるせぇぞ外野ぁぁぁぁぁっ!!! コーチやる気ないんだったら帰れよマジで! 俺もうシャルルにコーチ交代してもらってるから、もういいよ! お前ら帰ってしまっても! はっきり言って最初から最後まで邪魔にしかなってなかったから!!

 

 

『いや、(いえ、)アタシたち(わたくしたち)の場合、セレニア(さん)と放課後は一緒に行動できなくて暇だっただけだから(でしたから)』

 

 

 ――ちくしょう!! 男との友情より女への恋心を選んだ女友達の友情を信じてしまってた俺がバカだった!!

 

 そんな風に友達甲斐のない女友達×1と、セカンド幼馴染み×1の薄情さに心の中で全力で叫び声を上げ慟哭していた俺の耳に、横合いから静かな声と鋭い口調で話しかけてくるやつがいた。

 

 この感じ・・・間違いない! ヤツだ! ヤツが来たんだ!

 

 

「フン。情けない訓練風景だったな・・・あれでは新兵のダンスの方がまだマシというものだ」

 

 

 ――ラウラ・ボーデヴィッヒ!

 しかもセレニアいない場所だから、軍人モード!!

 まったく、やっかいなヤツが来てくれたもんだぜ・・・。

 

「・・・なんだよ、ボーデヴィッヒ。俺の訓練にケチ付けに来たのか?」

「ああ、そうだ。それが何か問題があるのか?」

 

 平然と言い返された! しかも小首をかしげながら悪意のまったく感じられない心底から不思議そうに聞き返してくる疑問形で! これは反応しづらいんだけどマジで!?

 

「・・・人が頑張って努力してる姿を上から目線でバカにするなんて、強いヤツのすることじゃねーんだよ。人のことより自分のことやれ、自分のこと」

「人の自分より劣っている部分を指摘して罵倒して何が悪い? 悔しければ改善して超越し、見下し返してやればいいだけのことだろう。

 素人が玄人にできない部分をキツい言葉で指摘されると挫けるからやめるべき等という屁理屈に逃げていたのでは、いつまで経っても勝つことなど出来ん。その程度は常識だぞ? 知らなかったのか?」

「ぐ・・・は・・・っ」

 

 こ、この母親(っぽいナニカのポジションらしい)譲りの容赦のない正論ツッコミぶり・・・っ! 間違いない!

 眉唾だと思っていたが、こいつは間違いなくセレニアの娘! それすなわち俺の敵ということ!!

 

 

「とゆーか、言い方に気をつけてほしいのなら頭を下げて頼むのが筋というものではないのか? 『自分は心弱いので強くなれるまでは言い方を弱めてください、お願いします』と。

 プライドだかなんだか知らないが、初心者の時点からそんなモノにこだわってどうする気なんだ?」

 

「ぐっ! はっ!?」

 

 お、俺の心が・・・っ! 傷つきやすい硝子で出来た男のプライドハートが粉々に・・・っ!!

 く、クソゥ・・・こうなったら最後の手段だっ。

 

 男として、この手だけは使いたくなかったが・・・悪いが使わせてもらうぞセレニア! 母の名を! 俺以外の普通の子供にとっては絶対の存在を!!

 

 

「――セレニアの前で俺にしたことは謝ってきたくせにぃ・・・」

 

 情けない言い分だと自覚しているからこそ、俺はみんなに聞こえないようボソッと小さな声で相手にだけ聞こえるよう細やかな抗議と反撃のつぶやきを漏らした。

 ただ、それだけだったのだが・・・・・・

 

 

「その件はゴメンナサイでした!! ラウラ、お母様と再会できるまで寂しくてワレを忘れてたみたいです! この通りです! 本当の本当にゴメンナサイでした!!!」

 

 

 言っちゃったー!? 大声出してみんなにも聞こえるよう内容分かる言葉で言っちゃったー!?

 しかもスッゲー誠実に頭下げてきてるし! 深々と下げまくってるし! これで下げてる顔の浮かべてる表情が悪魔みたいだったら人間不信になるんじゃないかってぐらいに誠意が伝わりまくってくる心のこもった謝り方してるし!!

 

 ちくしょう! だから俺にとってのコイツらは敵なんだよ! 有言実行で己の信じ貫く信念のためならプライドなんてクソ食らえって投げ捨てられるから男にとっては辛いんだよ! キツいんだよ! 相手しにくいんだよ!

 自分が情けなく思えてきちまって困る時あるだろう!? たまーにさ!!

 

「あ、相変わらずセレニアがいない場所でも、セレニアが関係する話になると子供モードになるんだな、お前って・・・」

「はいです! お母様は銀河系一です!!」

 

 満面の輝くような笑顔で、瞳に星をきらめかせながら言い切られてしまった。・・・って言うか、なぜに銀河系? 日本一でも世界一でも宇宙一でもなく『銀河系』という単語を使いたがるコイツの癖はパラレルワールド世界になんか関係してんのかな・・・?

 

 

『一夏・・・・・・』

『一夏さん・・・・・・』

『一夏・・・お前ってヤツは子供みたいな相手に、なんて男らしくない真似を・・・っ!!!』

 

 

 うっ!? しまった! 俺としたことがウッカリしていて外野のことを忘れていたぜ! 

 他人の目なんか気にしない俺だけど、この白い視線で見られの状況はかなり辛い気がするな!!

 

「あ、あはははは・・・・・・ハァ・・・」

 

 しかもさり気なくシャルルにまで溜息をつかれているだとぅっ!? クソゥッ! こうなったらヤケクソだ! なんとかして名誉挽回してやるぜ!

 

「だ、大体なんで俺に突っ掛かり続けてくるんだよ!? 千冬姉のことはもう気にしてないって自分自身で言ってたじゃねぇか! だったらもう俺と戦おうとする理由はないはずだろ!」

「あるです! 今の妖怪さんにはなくても、ラウラにはあるです! 妖怪さんに罰を与えてあげるためにラウラずっと努力してきましたから戦ってもらいます! 絶対にです!!」

「イヤだ! 理由がねぇ! ・・・って、え? 妖怪? 何のことだ??」

 

 今度は俺の方が言ってる意味分からなくて小首をかしげ、相手が何言ってんのか説明を求める側になる。

 この件は俺だけじゃなく、セシリアを含む全員が初耳だったらしく皆そろって首をかしげながら頭の上に「?」マークを浮かべている。

 

 ラウラは、そんな俺の質問にプリプリ怒り顔をしながらも懇切丁寧に説明してくれた。

 

 

 

 ・・・なんでも、この世界と似て非なるパラレルワールド側の世界にも俺と同じ『織斑一夏』と呼ばれる男が存在しており、そいつも俺と同じような理由と経緯によって【白式】の操縦者に選ばれてIS学園に入学してきていたんだそうだ。

 

 だが、セレニアと戦ってからソイツの人生は、俺と同姓同名なだけで別人のものに進路変更したらしい。

 

 おっぱいを愛し、巨乳を愛し、『C以下は無いのと同じだ!』と断言して、人を斬り。

 『人を斬らぬ剣に何の意味があるのか』と言い切りながら切り続け、人斬りの道を爆走し続け、敵の首を刈り取って手柄にすることを誇りと考える戦国武将みたいな性格なっていき、敵に対しては必ずと言っていいほど『首置いてけーッ!!』と叫んで斬りかかっていくキチガイな変態野郎になっていったことから、『妖怪・首置いてけ』と渾名されるようになっていったらしいのである・・・・・・。

 

 

 そして、その同姓同名で、ここにいる俺とは縁も所縁もない真っ赤な他人の織斑一夏くんが他の誰より執着して『おっぱい、おっぱい』と言い続けた相手こそが隣の席に座る女子生徒の異住さん・・・・・・後に結婚して彼の嫁になる女の子『異住セレニア』だったという・・・・・・

 

 

 

「お母様をねらっていた悪い虫さんの妖怪さんに、お母様に代わってお仕置きです! 覚悟するです妖怪さん!!」

「誤解だ―――――――ッッ!?」

 

 

 俺は叫んだ! 全力を挙げて腹の底から声を振り絞って叫び声を上げていた!! 誤解だと! って言うか、人違いだと! まったくの別人な赤の他人の話だと!

 

 なんで俺がそんな、同姓同名なだけで性格的には似ても似つかない全くの赤の他人なキチガイ変態がやったことで罰を受けさせられるために戦わなきゃならないんだよ!? 世の中間違いすぎてるぞ絶対に!

 今までIS学園の女性たちに理不尽な理由でヒドい目に遭わされたことは何度もあったけど、コレはそんなのがどうでもよくなるレベルの超理不尽すぎる理由によるヒドい目だぞ!? 世の中間違えるにも程があるべきだろうが絶対に!!!

 

 

「そのためにも妖怪さんは、ラウラと戦ってもらうです!

 今度の“がくねんべつこじんトーナメント”っていうお祭りの時に、みんなの見ている前で『ギャフン!』と言わせてあげるですから、覚悟しておくです妖怪さん! それまでサラバです! ジュワッ!です!!」

「ちょっ、待っ!? 待ってくれーっ!? 誤解振りまきまくったままIS展開しないまま自力で飛び去っていかないでくれー!?

 千冬姉の助けが呼べなくなるから頼むから待ってくれボーデヴィッヒ! 置いていかないでくれ!

 全周囲からの冷たい視線と殺気が怖すぎるんだよーッ!? ・・・・・・ハッ!?」

 

 

 背中に感じた鋭すぎる殺意の視線・・・・・・これはまさか!? ヤツらか!? ヤツらが襲ってきたというのか!?

 

 

『一夏・・・アンタのラッキースケベなラブコメ主人公体質は知ってたけど、まさかアタシのセレニアにまで手を出していたとはね・・・・・・シネ。死んで償いなさい・・・。

 あのデカパイはアタシんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――ッッ!!!!』

「知ら―――――っん!? そして要ら――――――ッん!! 俺にそういう趣味はねぇ! お前とか別世界の俺とかの趣味を俺にまで押しつけようとするな! 迷惑なんだよメチャクチャよぉ!? ・・・・・・ヒィッ!?」

 

『・・・ウフフフ・・・・・・ギルティ。判決は常にギルティですわ一夏さん・・・。大英帝国貴族令嬢セシリア・オルコットが命じましょう、死になさい。疾く死になさい。

 貴族が所有すると決めていたモノに手を出すような平民に、生きる価値などありませぇぇぇぇぇぇぇっん!!!』

「暴君! そりゃただの暴君だからなセシリア! そんな貴族に誇りも何もねぇよ! ヒトラーの尻尾だよ完全に! あと、誤解! 人違い! 俺はセレニアの胸に指一本触れた覚えなんてねぇぇよっ! ・・・って、ヒィィッ!?」

 

『一夏・・・・・・男としての責任・・・・・・結婚、婿養子、一生かけて幸せにしてみせる・・・・・・事故とはいえ若い娘の乳房を揉んでしまったからには責任をとって娶るのが日本男児の男らしい生き方というモノ・・・・・・くくく、けけけけけ・・・・・・ふはーっハッハッハッハ!

 終わった!終わった!すべて終わりだ!終わらせる! 私の手に入らないのなら、せめて私の手でお前の全てを終わらせてくれるわァァァァッ!!!

 チェストォォォォォォッ!!!!』

「他の誰よりトチ狂ってんじゃねぇよ箒!? お前別にセレニアのこと好きでも何でもないはずじゃ――――ちょ、まっ、やめ、本当に死ぬ・・・・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

 

 この事件が起きた翌日。IS学園の掲示板に張り出されたトーナメントの告知表にて。

 

 

『トーナメントに向けての練習中に一部生徒たちが暴走してアリーナ内のバリアーを破損させる事件が発生したことから、学年別トーナメントまで生徒同士による一切の私闘を禁止するものとする。

 また、個人競技では選手個人の自己責任になり、精神的に未熟な生徒たちには暴走を抑制する抑止力たり得ないことが判明したため急遽トーナメントの試合形式をタッグマッチに改め直し、連帯責任という形をとるものとする。

                          IS学園警備責任者・織斑千冬』

 

 

『――なお、以下の者たちはアリーナ破損の当事者として一週間の謹慎処分を命じる。

 1年2組生徒、凰鈴音。1年1組生徒、セシリア・オルコット、篠ノ之箒。

 そして、連帯責任により織斑一夏――――』

 

 

 

 

「理不尽だ――――――――――――――――――――ッ!!!!!!」

 

 

 

 IS学園寮の自室で啼くコロニー・・・・・・。

 

 

つづく

 

注:コロニー【colony】の辞書的な意味:

 植民地、入植地。動植物の群棲・群落。

 または、身体障害者や精神障害者のための集団生活施設のこと。

 

 お後がよろしくないようで(^_^;)

 

 



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『我が征くはIS学園成り!』第11章

『我が征くはIS学園成り!』久々の更新となります。昨日の内に大部分が完成して今さっき最後の手直しが終わりました。久しぶりに笑いを追求出来て楽しかったです(^^♪


 ラウラ・ボーデヴィッヒは日本で極秘研究された技術を応用してドイツ軍が作り上げた人造人間である。

 生まれにコンプレックスを持つ彼女は「生まれて初めて自分を人間として扱ってくれた」織斑千冬を取り戻すため日本へとやってきた。

 

 だが! そんなラウラの前に強敵シュトロハイドが現れて立ちはだかってきた!

 しかしラウラは、自分の運命を変えることなく突き進む道を選んでしまったのだった!!

 

 

「おい。織斑教官の弟、織斑一夏」

「なんだよ?」

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

「イヤだよ。理由がねえし」

「貴様になくても私にはある。――戦う理由がなければ戦えないなら、私が戦わざるを得なくしてやろう!」

 

 

 出会い初日に殴ろうとしてバカに跳び蹴り食らわされて殴れなかったから嫌われてなかった一夏にケンカをふっかけてヘイトを買い込み、一夏を守るため割って入ったシャルルとも互いの機体について悪口を言い合い、教師のアナウンスにより『後顧の憂い』を互いに植え付けられたまま矛を収めさせられ、一夏には「貴様がいなければ教官が大会に連覇の偉業をなしえただろうことは容易に想像できる」と彼のトラウマを刺激までして去って行ったセカンドセッションによって一夏たちから見ても彼女は完全に自らの定められていた本来の運命通りの自分に軌道修正を遂げさせることに成功したのだったが――――

 

 

 

 敢えて言おう。

 ぶっちゃけ、“八つ当たりの側面も結構あった”――――と。

 

 

 原因は主にコイツのせいである↓

 

 

「おお!ボーデヴィッヒ君! 今日もアリーナに来ての鍛錬かね!? 感心なことだ!

 己が未熟を自覚し修練を続けながらも、いずれは師を超え打倒して世界最強の座をその手にせんと欲する君の覇道の兆し・・・・・・それこそまさに人として正しい在り方である! これからも慢心することなく精進してくれたまえよ!! ハーッハッハッハッハッ!!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ラウラと同じドイツからの留学生で、ラウラと同じドイツ代表候補生で、ラウラよりも劣るドイツ製の第二世代専用機を持ち、ついでに言えばラウラと同じ合法ロリの貧乳ツルペタ少女でもある、ラウラと同じクラスで同じ部屋のルームメイトな女子生徒。

 

 

 “シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ”。

 IS学園執行部のいらぬお節介によって同室にさせられてしまった彼女とラウラとの相性は最悪であった。最悪というより最低最悪と表現した方が正しいんじゃないかと思えるほどに。

 

 まず第一に、強い。ラウラよりもハイドの方が圧倒的に強くて、強すぎていた。

 技も技量も技術もないし、プロの軍人であるラウラから見れば新兵のダンス以下の動きしかできない程度のIS操縦者としてはド素人にすぎない実力しか持ってない奴なのだが。

 

「ハーッハッハッハ!! 当たらない! 当たらないなぁボーデヴィッヒ君! その程度の動きでは私に攻撃を当てられることなど百億飛んで一兆年かかっても絶対に不可能!

 もっと早さを磨き給え!! 君の動きはあまりにも遅い! 遅すぎる!! スローディーなのだよ!!!」

「ええい! 分身しながら偉そうに説教してくるな! だいたい貴様の機体は第二世代でワンオフ・アビリティは使えないはずなのに何故アリーシャ・フォスターと同じ技が使えているのだ!? どんな手品を使っている!?」

「笑止! ドイツ人ならば分身の術ぐらい使えて当然! いや、むしろ分身の術ぐらい使えず如何にしてドイツ人を名乗れようか!?」

「普通のドイツ人は使えんわーッ!?」

 

 

 ・・・ゲルマン民族の血を引く一族として、ドイツ人は分身できて当たり前だと思い込んでるアホと強さを競い合うことに意味があるのかどうか不明だったが、そういうところに拘ってしまうのがラウラ・ボーデヴィッヒという少女だったので仕方があるまい。

 

 

 そして第二に、人の事情に配慮しない。暗い出生の事情を抱えるラウラに配慮する気0なのである。

 

「あの時、織斑一夏が誘拐されさえしなければ織斑教官は世界大会二連覇の偉業をなしていたのは確実なのだ! それを邪魔したお荷物でしかなかった奴を私は決して許さな――ゴハァッ!?」

「愚か者ぉぉぉッ!! 己より弱い者たちから強さを認められた証として与えられる勲章やメダルや地位になんの価値があり、なんの意味がある!?

 地位とは! 玉座とは! 天下とは!! 自らの力で奪い取るものぞ!! 自らの信じる力と剣で落とした城と天にこそ意味があり価値が生まれる・・・それが分からぬのか!!!」

 

 

 

 さらには第三に、価値観が違う。違いすぎている。

 言語は通じているから会話は成立するのだけど、解釈が違いすぎるから外国人と話してる以上に咬み合わないのである。ほとんど別の惑星からやってきたんじゃないかってくらいに。

 

「強さとはパワーのことだ! パワーが強い者こそが戦いを制するのだ!!」

「うむ! 同感だな! 私もパワーが好きで鍛え続けておる!! 最終目標はただの力を込めた右ストレートに地球を真っ二つに割れるほどの破壊力を持たせることなのだが・・・まだまだ夢の実現にはほど遠くてな! 恥ずかしい限りだ! ハッハッハ!!」

「何の話をしている!? ISを使った戦闘の話だぞ!? お前いま生身の拳で地球割ろうとしているとかテロ思想について話してなかったか!?」

 

 

 

 

 ―――こんな感じで、存在自体が合わない相手とルーメイトとして同じ部屋にいる間は四六時中ずっと一緒に過ごさなければならなくされたラウラの精神的ストレスと胃は、ガス抜きなしで健常で在り続けられる限界点を超えかかっており、別に嘘を吐いてるわけでもなければ実際に一夏に対してはそういう思いを抱いていて喧嘩を売りに日本まで来日してきたんだからという免罪符も持っていたので使わせてもらった・・・・・・そういう事情もないわけではなかったのが、この可能性の一つな平行世界に生きるラウラ・ボーデヴィッヒの現状であった。

 

 

 当たり前の話だが、ハイドに与えられたストレスを一夏にぶつけて発散させるという代償行為をいくら続けても問題解決には一歩も繋がることなど有り得ない。原因を究明して解決しない限りストレスは貯まり続けるのが、普通の人の心というである。

 だが、ラウラは作られた人造人間で普通の人間じゃないから今一この当たり前がわかっておらず、姉を恐れて制止を受け入れ一方的に我慢してやる道を一夏が選んでしまっているのも重なってラウラの行為はエスカレートし、一夏にぶつけていた鬱憤晴らしを“一夏の関係者たち”にまで範囲を広げ始めるようになっていくのは必然の結実でしかなかった。

 

 

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。・・・・・・ふん、データで見た時の方が強そうではあったな」

「何? やるの? わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

「あらあら鈴さん、こちらの方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ? 犬だってまだワンと言いますのに」

「はっ・・・・・・。二人がかりで量産機に負ける程度の実力しか持たぬ者が専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能のない国と、古いだけが取り柄の国は」

 

 

 ぶちっ―――!!

 

 見事にセシリアと鈴にまでケンカを売って、プライド高い上にちょっとだけ国粋主義者めいたところを持つ二人の感情を逆なでしまくり、さらには両名とも一夏との恋愛事情で上手くいかずに苛立っていたことも手伝って鬱憤晴らしの対象と戦闘とを希求しており、アッサリその挑発に乗ってしまった。

 

 早い話が、『殴りまくってストレス発散できる口実を向こうから持ってきたから喧嘩を買った』

 そんな彼女たち三人は“私的利用が国から禁じられているIS”の専用機を政府から与えられている国家代表候補生たちだけで構成された選ばれし精鋭たちの一団である。

 

 

 ・・・この様にして、途中介入してきた一夏とシャルルも交えた四つ巴の乱戦がおこなわれ、最終的局面にて介入し無益な争いに終止符を打った織斑千冬の裁定によって決着は今月終わりの学年別トーナメントでつけることが決定され、これ以上の私的戦闘を避けさせるためにもトーナメントのルールに『ペアでの参加』を義務づけることまでもが緊急告知される運命通りの終戦しかたを迎えることになった訳なのであるが。

 

 

 

 余計な異分子の存在によって、多少は歴史に小さな変化が現れていたりもする・・・・・・。

 

 

 

「――で? なんでお前までいた訳なのだ? 私が到着するより前の時点で五人全員が伸されていたことも含めて理由を説明しろ、ローゼンバッハ」

「む? 何故もなにも祭りがおこなわれているのに参加せぬは非礼に当たるというものであろう?

 古来より日本では『火事と喧嘩は江戸の華』と言って尊ばれてきた伝統なのだからな。伝統を大事に守るは歴史と文化を愛する者にとって神聖な義務であり果たすべき務めである」

「お前はドイツ人だろうが!? なんでドイツ人が大昔に滅んだ江戸文化を尊ぶために専用機持ち五人を一人で圧勝してしまっているのだ!?」

「貴様! 祭りを楽しもうと欲する人の純なる欲望に国旗の模様や肌の色を持ちこむべきだと主張するか!? この民族主義の巨頭織斑千冬枢機卿めが! 恥を知れ!!」

 

 

 ・・・バカに国の違いは今一意味をなしてくれそうにない・・・・・・。

 

 

つづく

 

オマケ『ペア戦に参加するハイドの相棒キャラ』

 

のほほんさん「それは私だよ~♪ おりむー、よろしくね~♪」

 

一夏「なんでだよ!? いや、ダメな人って言いたいわけじゃないんだけど戦力的には一番選びそうにない人なのは間違った認識じゃないだろう!?」

 

ハイド「なにを言う。学校行事なのだから一緒に参加して楽しいと思える者こそ一番に選ばれべきなのは自明の理。勝敗を競い合うことも重要だが、それに囚われすぎては学生の本分を見失うというもの。一生に一度しかない高校生活を楽しみ抜くこともまた学生の果たすべき使命の一つである」

 

シャルル「う・・・、ぐ・・・っ」

 

 

微妙にシャルルならぬシャルロットが精神的ダメージを負わされつつも、彼女の家庭事情はまた次回でやるお話。



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『我が征くはIS学園成り!』第12章

自分の年齢を感じさせられる出来事があり、急激に思いついたため即席で書いてみたお話しです。ストーリー上、重要な要素は皆無ですけどよろしければどうぞ。


「はー、終わった終わった」

 

 寮の自室の前まで戻ってきた俺は、軽く肩を回しながら思わずため息と一緒に愚痴を漏らしてしまっていた。

 

 山田先生から大浴場の使用許可と一緒に、『白式の正式な登録に関する書類』を持ってこられて、名前を書くだけだと思っていた俺は風呂の使用許可を持ってきてくれた感謝の気持ちと合わさって安請け合いしてしまい思ったよりもずっと時間と手間がかかる書類記入にウンザリしながら今になってようやく部屋に帰ってこられた。そういう次第だ。

 

「・・・しかしまさか、『、』とか『。』の付け方一つ間違えただけで最初から書き直させられるだなんて思ってもみなかったなぁ・・・。

 国に提出する正式な書類だとアレが普通だって言われたけど、あんな賽の河原で石積むみたいな地獄作業が普通の職場なんて想像もできん・・・将来の就職先に公務員とか安定してて良さそうだと思ってたけど候補から外しといた方がいいかもしれん・・・」

 

 今日一日の後半数時間だけで、お役所仕事のスゴさが身に染みて思い知らされた俺は、明日から二度と役所の人たちを笑わないようにしようと心に決める。あの作業が日常業務だったなんて俺にはとてもマネできそうにないからな。

 まったく・・・日本の役所で働く人たちは化け物かっ。

 

「ただいまー。って、あれ? シャルルがいないな」

 

 扉を開けて中に入ると、先に部屋に戻っているはずのシャルルの姿が見当たらない――と思ったけど、すぐにシャワールームから響いてくる水音に気がついて納得した。なんだ、シャワー中だったのか。

 

 ――ん? そういえば、確か昨日ボディソープが切れたって言ってたっけ。

 

「たぶん今も困ってるだろうし、届けてやるか」

 

 シャワーの水音に触発されて言われていた言葉を思い出した俺は、クローゼットから予備のボディソープを取り出すと、脱衣所まで持っていってやって声をかけようと洗面所に続くドアを開ける。

 

 その瞬間。

 

 

 ――ガチャ。

 

 

 タイミングを計ったみたいに洗面所兼脱衣所とドアで区切られているシャワールームの扉が開き、シャワールームの中からウェーブがかったブロンドを持つ、シャルルによく似た見たことのない女子が出てきて鉢合わせしてしまった。

 

 入浴中だったらしく髪は濡れていて、瑞々しい肌には珠の雫が乗っている。

 すらりとした体は脚が長く、腰のくびれが実質的な大きさ以上に胸を強調して見せており、サイズ的には多分Cカップくらいのバストが大きさとは関係なく妙に際立って見えて宝石をちりばめたように美しい・・・・・・女性の裸身。

 

 そう、裸だ。裸なのだ。何も衣服をまとっていないのである。

 見たことのない女子が、全裸で俺の部屋のシャワールームの中から出てきて俺と鉢合わせしてしまったのである。

 まったく・・・・・・一切全く何が何だかワケガワカラナイぜ!!!

  

「・・・い、い、いち・・・・・・か・・・?」

「へ・・・・・・?」

 

 どういうわけだか、見たことのないはずの裸の女の子に名前を呼ばれてしまって混乱し、とにかく視線を逸らさなくてはと頭ではわかっているのに目が釘付けになっている俺はあたふたしまって思考がまとまらないでいると、突然に―――

 

 

 ガチャンッ!!!

 

 

「やぁ、織斑君! ハロー!そして、グッナイである!

 見上げてみるがいい、今宵の夜空に浮かぶ星空を! よい満月であるぞ! 月見風呂には持って来いの日和だと断言できるほどに!!

 どうかね!? 今夜は男同士、風呂場で肩を並べて湯につかり合い裸の付き合いで絆を深め、共に明日への野望について朝まで語り明かそうではないか!! 私は君とお肌の触れあいコミュニケーションを欲しているぞ!!」

 

 

 

 ・・・俺が入ってきたばかりの洗面所の扉を蹴破りそうな勢いで開け放ち、背後から聞いたことがありまくる馬鹿な女子の大声が聞こえてくる・・・。

 いつものように空気読まないタイミングの悪さにゲンナリさせられながら俺はゆっくりと振り向いて―――はたと動きを止めさせられてしまっていた。

 

 そこにいたのは案の定、ハイドだった。

 俺のクラスメイトであると同時に、友人みたいなもんのナニカであり、なんか普段から訳わかんないこと言って訳わかんないことやりまくってる訳わかんない女子生徒。

 そいつが今、俺の見ている前に立っている。

 

 堂々と仁王立ちして、片手にタオルの入った湯桶を抱えられており。

 濡れてない黒髪にはバスタオルが巻かれて、すらりとした脚は長めだけど身長そのものがチビ過ぎるから意味がなく、腰のくびれがまったくないお子様体型なウェストが実質的な小ささ以上に胸の貧乳さを強調して見せている。

 たぶんAカップもないんだろうバストが小ささとは関係なく妙に物寂しさを感じさせ、若々しく瑞々しい肌を持つ年頃女子の裸を欲情とはなんか違う理由で視線を逸らしてあげた方がいいんじゃないかと思わされてしまう、美しいんだけど寂寥感に満ちた女子の裸。

 

 そう、裸なのだ。ハイドもまた裸で俺の部屋の洗面所に背後から入ってきたのである。

 前面に、シャルルに似たどこかで見たことがある気がする女子の裸。

 背後に、ハイド本人が恥ずかしがることなく堂々と晒している裸。

 

 頭にはバスタオルを巻いて湯桶を持ち、いつでも風呂場へ直行できる臨戦態勢IN風呂場、みたいな装備で夢見る乙女のように瞳をキラキラさせながら俺を見つめ、自らの裸を隠すことなく両腰に両手を添えたままポーズを取り続けているハイドの前で、俺は叫ぶ。

 

 

 

「な・ん・な・ん・だ!! この状況は―――――――――っ!?」

 

 

 ドッカ――――ッン!!!と、俺としては爆発するような勢いで叫ぶしかない!

 なんだこの状況!? なんなんだよこの状況は!?

 前門の全裸美少女に、後門の合法ロリ全裸美少女ってワケワカランわ! 今までで一番わけがわからない状況だよ! 誰か出てきて説明してくれ―――ッ!!!

 

「って言うか、なぜお前は服を着ていない!? 風呂場じゃねぇだろここ!? 脱衣所兼洗面所に入る前から脱いでたんじゃ脱衣所の意味がまるでねぇだろうが―――っ!!!」

「む? 相変わらずおかしな事を言う男だな君は。風呂に入る際には服を脱いでから入るのが常識であろう? それとも君の国では風呂は服を着たまま入る文化でも流行しているのかね?」

「んな国はない! それと俺は日本人だ! 日本の風呂文化バカにすんなこの野郎!!」

 

 いつものことではあるが、なぜだか俺の方がおかしい扱いにされてしまうハイドとの会話。

 いつもの事だけどな! いつもの事なんだけどな!! それでもツッコまずにはいられない問題が日本の男にはあるんだよ!!

 

「ふむ、なるほど。つまり君はアレであろう? 最近、巷で耳にした『着衣入浴』なる流行を取り入れ実践している新しい時代の日本人なのだと?

 いや、流石だな織斑君! 世界を変えたロボット兵器を操ることのできる世界で唯一の男として流行には常に鋭敏で最先端を行き続けているとはな!

 ナウイぞ! 実にハイカラであるな! 君のような若者がいるならば日本の夜明けも明るいというものだ!!」

「古いよ!? それ全部超古いだろ! 古すぎるだろ! 俺も人から古い奴って言われること多いけど、お前よりかは新しいと断言できるほどに古すぎるだろ!

 って言うかお前、何時代からやってきた何歳の人間なんだよ本当に――――っ!!!」

「失敬な! 私は英雄であると同時に王でもある身なのだぞ!? 常に世の流れを把握せずして何が王か! 流行の一つや二つは無論のこと、世の中の流れすべて掌の上で握りしめておるわ!

 たとえば! 民主党結成! ルーズソックス! チョベリバ! MMK・・・・・・」

「だから古すぎるって言ってんだろうがよ―――――ッ!!!」

 

 人のことはどうこう言えないと解っている俺だけど、それでも言わなきゃいけない事が人にはあるんだ!

 鈴とかに『爺臭い』とか言われたりするのは昔から何度かあったけど、コイツみたいなことを言った覚えだけは一度もねぇよ! 時代的には普段の俺がツッコまれてることよりも近代のはずだけど、感覚的にはもっと遠い気がするわ! 昭和よりもさらに遠く感じてしまう俺は立派に女尊男卑時代の日本人になってたわ! 今その事実をようやく実感させられたわ!!

 

「あと、いい加減に服を着ろ――ッ!! でなけりゃせめて手で隠せぇぇぇぇっ!!!!」

「体は女! 心は漢! その名は私、シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハである!! 我が鍛えに鍛えた頑健なる肉体に恥じるべき部位など些かもなし! 堂々と見るがいい! 我が自慢の筋肉に満ちあふれた肉体を!! ムンッ!!」

「やめろ―――ッ!! 女が全裸でボディービルダーみたいなポーズを取るな――っ!!」

「ならば私は女を捨てた設定ということにして、男として扱いたまえ! そうすれば問題なかろう!?」

「お前が女を捨てても世間様はそうは見ちゃくれねぇんだよぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

 

 叫ぶ俺、叫び返すハイド。収拾がつかなくなってきた事態の中。

 俺はすっかり・・・・・・シャルルによく似た全裸の美少女のことを忘れてしまっている自分に気づいたのは、実は女の子だったシャルルが部屋の室内へと通じる洗面所兼脱衣所を占拠し続ける男(俺のことだ)がいるおかげで出るに出られずスッカリ体を冷やしてしまい、『ヘクチッ!!』と、可愛らしいクシャミが聞こえてきて頭が冷めたときになってからの事であった・・・・・・。

 

 

 

「す、すまんシャルル・・・。体冷やしちまったみたいだけど、大丈夫だったか?」

「――気にしないでいいよ、一夏。本当に、全然まったく、これっぽっちも僕気にしてなんかいないからさ(にっこり)」

「そ、そうか・・・。それなら良かった・・・・・・?」

 

 慌てて室内へと招き入れて温かい飲み物を持ってきてから平謝りする俺を、優しい笑顔で許してくれる心優しい実は美少女だったフランス代表候補生のシャルル・デュノア。

 

 ――でも、何故だろう? どうしてなんだろうか?

 ・・・今のシャルルには決して逆らってはいけない黒いオーラが後光のようにさしているような気がしてしまう自分を、俺は押さえることができないでいる・・・・・・。

 

 

 

「うむ。まさに青い春であるな。ところで織斑君、私にも茶を一杯もらえないかね?

 実は日本茶入りウォッカというのも一度試してみたいと思っていたところなのだよ、ハッハッハッ」

「お前は高校の学生寮で何を飲む気なんだ!? カルピスウォッ茶ってレベルじゃねぇぞ、そのゲテモノ飲料! あと、いい加減ほんとうに服を着てくれ――――ッ!?」

 

 

 IS学園寮。それは、俺が泣かされるコロニー・・・・・・。

 

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第11話

現在TV録画の事情により原作確認が必要な作品が書きづらい状態にあるため、先日更新した『ハイドIS』を一部流用できる今作を優先して書いた次第です。今夜中には一段落すると思いますので、原作とか元ネタ確認が必要な作品の更新は今しばらくお待ちくださいませ。


「は~…、終わった終わった。やっと終わらせて帰ってこれたぁぁ……」

 

 寮にある自分の部屋に戻ってきた俺、織斑一夏は安堵のあまり溜息をつく。

 疲れ切っているせいなのか、歩くことさえ億劫に感じられて床に座り込んでしまいそうになりながらも、座るとき思わず「どっこいしょ」と言いそうになってしまった自分に気づき慌てて姿勢を正して立ち上ってから室内に向かう。

 『爺臭い、爺臭い』と言われることが多い俺ではあるけど、それでも俺は爺さんじゃない。絶対に違う。俺は若者なんだ!と、無言のまま行動でアピールしつつ、それでも疲れを感じざるを得ないのも事実ではある昨今の俺であった。

 

 

 ――先日、ラウラの口から異世界の俺が犯したらしい悪行の数々が暴露され、学園中に広まったことから命じられてしまった千冬姉直筆の『自室謹慎処分』

 だが、現時点で圧倒的に実力差に開きのあるラウラを相手に今の俺のままでタッグトーナメントに勝てるとは流石の千冬姉も思っていなかったらしい。

 

 申請して許可された時間内で許可された練習だけこなし、備品を壊したり傷つけたり、立ち会いにつくようになった先生方の誰かの許可を受けずにISを展開したりさえしなければ放課後の練習は普段よりかは申請書類が増えただけでやらせてもらえることにしてもらえたし、必修授業を受けることは税金で学ばせてもらってる俺たちの義務だからと普段通り受けさせられてもらっているから、ぶっちゃけ普段よりも窮屈になっただけで実質的にはあんまり変わってないんじゃないかと感じられたほどである。

 

 ・・・このぐらいの軽い処罰で終わらせてくれるんだったら“謹慎処分”なんて仰々しい単語を使って、みんなの見えるところに晒さなくても良かったじゃないか・・・恥かいちまったし。

 

 そう思ったから、そう言ってしまったのだが、甘かった。

 

「貴様らが申請をだして許可してもらえた練習だけやって、備品や施設を壊すことなくルールを守り、普段から先生方の注意や警告に耳を傾けて従ってくれている実績さえあるなら、これほど厳格な規制や処分を公表する必要はなかったのだがな?」

「・・・・・・・・・ご尤もです、織斑先生・・・。ご迷惑をおかけしてすいませんでした・・・・・・」

 

 非の打ち所のない正しすぎる正論。

 俺は返す言葉もない千冬姉の正しい理屈に悪友(セレニア)の幻影を視る。

 

 ――まぁ、そんな感じでタッグトーナメントが終わるまでしばらくの間は規則正しい学生生活を送ることにした俺たちは、昼間はIS学園、放課後は練習場所のアリーナ、夜は学生寮のローテーションだけを行き来して、それ以外の場所には誘われてもいかない鉄の心を胸に数日間を過ごしてきた訳なのだが。

 それとは別に処罰を受けた生徒としてのハンデも存在しており、基本的には先生方から頼まれごとをされると断れない状況に今の俺たちはある。表面的な重い罰に中身を伴わされたら堪らない以上は断るわけにもいかなかったし、国に提出する必要書類と言われてしまえば仕方がない。

 

 そんな感じで自室謹慎処分中の身でありながら、なぜだか普段よりも精神的に疲れる日々を送っていた俺は、シャルルと行ったIS操縦練習のあとに山田先生が持ってきてくれた『大浴場の使用許可』に狂喜乱舞して、一緒に持ってきた『白式の正式登録に必要な書類記入』をアッサリ引き受けてしまい・・・・・・心の底から後悔することになる。

 

 名前を書くぐらいだろうと思って着いていった俺に、山田先生は怖い顔をしてこう言い切られたのである。

 

「内容を理解しないまま契約書にサインするなんて絶対にダメです。専用機の登録は国との契約みたいなものですからね。中身をよく理解するまでは絶対にサインなんてさせません」

 

 こうして俺は、昼間は千冬姉監修のもと授業を受け、放課後は先生の誰かに立ち会われてのIS操縦練習をしてから、今日はさらに山田専属教師によるB4用紙にビッシリ書き込まれた文字の羅列を全部理解するまで解放してもらえない契約書講座を強制受講させられたわけで・・・・・・

 

 

「・・・疲れたっ! しかもやり遂げたのに空しいだけだし・・・・・・ハァ。今日はもうシャワーはいいや・・・。さっさと寝て明日に疲れを残さないようにしよう・・・今日はしんどい・・・」

 

 ゲンナリしながら扉を通って、フラフラしながら自分のベッドへ向かう俺。

 鈴や箒からは『体力バカ』なんて呼ばれたことのある俺ではあっても、人間である以上は限界がある。今日はそれに達するだけでなく超えてしまうほどキツかったと言うことだ。

 そういう時にはさっさと寝るに限る。疲れたとき早寝する、これ人類の知恵。

 

 ――と、思っていたのだが。

 

「・・・ただいま~・・・って、あれ? シャワールームから水音が・・・ああ、シャルルがシャワー中なのか」

 

 疲れて独り言が多くなっている状態にあった俺は、先に部屋へ戻ってきていた事務処理とか得意そうで専用機の登録もとっくの昔にすませているんだろうフランスから来た代表候補生にちょっとだけ羨ましい気持ちを抱きながらも響いてくる水音に、ふと気づく。

 

「・・・そういえばシャルルの奴、確か昨日ボディソープが切れてった言ってたんだっけか・・・。シャワーするついでに補充すればいいと考えていたから忘れてたぜ。こりゃ、うっかり」

 

 日本人らしく風呂好きなのに大浴場が使えない俺は、せめてシャワーだけでも浴びようと毎日使うのが当たり前になってたし、シャルルは俺が部屋にいる間はあんましシャワーを使いたがらないしで言われたときに補充する発想がなくなってたんだよな。普段と違うことが起きて忙しかった日って、こう言うところが困るぜまったく。

 

「う~ん・・・、たぶん今シャルルも困っているだろうし・・・。届けてやった方がいいんだろうな・・・」

 

 すぐさまベッドへ直行したい欲求を抱えた疲れ切った体を酷使させ、俺は断腸の思いで人助けを決断する。

 なぜなら今の俺は、風呂でゆっくり浸かって疲れを癒やせない辛さと苦しさを誰よりもよく知る日本人男子学生だから。同胞に同じ苦しみを味あわせぬため、いざ参らん浴場へ!

 

 ・・・我ながら変なテンションになってる自分を自覚しつつ、「疲れてるんだよ・・・」と誰にでもない言い訳をしながらクローゼットにしまっておいた予備のボディーソープを手に取って足を引きずるようにシャワールームへと繋がる洗面所兼脱衣所のドアを開け、そこから中へ向かって声をかけようとする。

 

 すると―――

 

 ガチャ。

 

 ・・・あ、開いた。

 

「ああ、シャルル。そっちから出てきてくれたんだったら丁度いいや。これ、替えの・・・」

「い、い、いち・・・・・・か・・・・・・?」

「・・・・・・・・・へ?」

 

 

 相手の方から出てきてくれて、丁度いいから今ここで渡してベッドへ戻り、一眠り兼一晩休みをしようと思っていた俺がボディーソープを手渡すために顔を上げた視界の先には謎の美少女。

 

 そして、全裸である。

 全裸の見知らぬ美少女が俺の目の前に呆然とした表情で立ち尽くしており、俺はそのウェーブがかったブロンドの髪を持つ金髪美少女の全裸を見つめ、疲れて寝ぼけた頭をさらに混乱と狂騒の坩堝へと変えさせられていき。

 落ち着け俺、コレは事故だ話せばわかる。相手はきっとわかってくれる。それでも俺はやってない。・・・ぜんぜん落ち着けてねぇじゃん俺・・・もう諦めて勢いに任せて一番最初に思いついた言葉を言っちまおう。

 覆水盆に返らず、四の五の考え続けるよりもわかりやすくていい。

 

 

 

「・・・胸がある。濡れた髪はわずかにウェーブがかったブロンドで、柔らかさとしなやかさを兼ね備えている。すらりとした体は脚が長く、腰のくびれが実質的な大きさ以上に胸を強調して見せているせいだろうか?

 サイズ的にはたぶんCカップくらいのバストが大きさとは関係なく妙に際立っており、水を弾く若々しい肌には珠の雫が乗っていて、まるで宝石をちりばめたように美しい――」

 

 

 

 パァァァァッン!!!

 

 ・・・・・・この直後に響いた今の音は、決して銃声の音ではない。

 人間の手が人の肌に叩き付けられたときに生じる打撃音である。

 断じて婦女子の風呂を覗いた変質者が撃ち殺された音ではない。断じて(力強く断言)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で? 要するに私が織斑さんの部屋まで呼び出されたのは、どういったご用件でのものなんでしょうかね?

 女子の裸を覗いたあげく、相手のバストサイズを冷静に解説してくれた親切な変態さんを通報するのでしたら、こちらをどうぞ。中学の先生方から女子生徒全員に配布されていた『ワンサマー警報器』です」

「いや、違う! そんな理由で呼んだんじゃない! って言うか、先生たちなんて物を教え子たちに配ってやがったんだ!? 教師による生徒の虐待行為だぞ! 訴えてやる!!」

「ありがとう、セレニア。いざというときのために肌身離さず大事に持ち続けておくよ」

「シャルルまで!? いくら何でもヒドくね!? 俺せいいっぱい謝ったし説明もしただろ! 事故だってさ!!」

「一夏・・・・・・女の子の裸を見たときに『見るつもりはなかったんです』が通用しちゃう世の中だったら警察はいらないと思うんだ・・・」

「反論する余地がない正論INフランス―――――ッ!!!」

 

 俺、絶叫。流石に今夜だけは近所迷惑がどうとか言ってる精神的余裕が保てねぇ!!

 千冬姉につづき、山田先生につづいてシャルルにまで文句のつけようのない正論で論破されまくって自分が悪いって事実を思い知らされた! 今日という今日は流石に立ち直れそうにねぇ!!

 

「・・・クスっ。冗談だよ一夏。もう怒ってないから安心して落ち着いて・・・ね?」

「もちろん私の方も冗談ですよ? こんな物、先生方が生徒たちに配布したら事ですからね。単にネタとして使い捨ててみただけですのでお気になさらずに」

 

 シャルルが柔らかい笑顔で苦笑しながら、セレニアはいつも通り変わらない無表情で「ポイッ」と持っていた非常ベルをそこら辺に放り捨てながら、それぞれの態度と言い方で俺へのお仕置きを終わりにしてくれる。

 

 ・・・ホントもう、今日は勘弁してください・・・。マジ疲れていて余裕ないんです・・・。マジ辛いんだよ本当によぉぉ・・・ううう・・・。

 

「・・・それに持っていたところで、どうせ僕が使うことのできる時間はそんなに長くないだろうからね・・・」

「はい? どういう意味ですか、それ? デュノアさん、転校してきたばかりなのにフランスに帰国でもされるのですかね?」

「・・・それなんだけどな、セレニア。お前の知恵を借りたい事件が起きちまったみたいなんだ。俺の方でも案は出してみたんだが、やっぱこういうことはお前に聞くのが一番だと思ったからさ・・・・・・」

 

 こうして俺は、今夜最後に起きた今日一番の大事件について中学時代からの悪友に秘密の相談事を持ちかける。

 その結果が、どのような結末を俺たちにもたらすのか今の時点で知る者は誰もいない。・・・そのはずだ・・・・・・。

 

 

つづく

 

 

オマケ『その頃のラウラちゃんは』

 

一夏「そういや、セレニアって今はラウラと同室のルームメイトになってたんだよな? 来るとき気づかれたりとかしなかったか?」

 

セレニア「大丈夫ですよ。彼女は基本的に夜の9時近くなったら眠くなる人ですから」

 

一夏「子供か!? 高校生だろアイツ! 幼く見えても十六歳だろアイツ! あとドイツの代表候補生で軍人だろうがアイツはよ―――ッ!!!!」

 

セレニア「いいんです。未成年者の良い子が、夜の9時に寝るのは別に悪いことではありませんからね。9時過ぎても起きているのは私みたいな悪い子たちだけで十分なのです」

 

一夏「・・・なんかお前、ボーデヴィッヒに対してだけ極端に対応甘くなってないか・・・? なんで・・・?」

 

セレニア「・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に(ぷいっ)」

 

 

 

シャルル「じ~~~・・・・・・・・・」

 

*母親を亡くしたマザコン男装少女が、ちょっとだけ羨ましそうな瞳でセレニアを見つめてきている。娘にしますか? はい・いいえ (人身売買ですか!? byセレニア)



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IS学園のひねくれ少女 第12話

明けましておめでとうございます。新年最初の更新一作目は『ひねくれ少女』となりました。…なんでコレなのか自分でもよく分かりませんでしたが、とりあえずは完成しましたので投稿しておきますね。

今年も宜しくお願い致します。

*書き忘れていましたが、今回の話は前後編というか原作を基準にした話にオリジナル回を加えることで一つの話が完成する作りとなっています。
次話のオリジナル回で今話をまとめた後、タッグバトルの回へと続く予定です。

尚、オリジナル回は完全オリジナルで作りますのでオリキャラのクレシア先生も久々に大活躍しまくる予定です。


「ふむ・・・、そろそろ終わりにしておきますかね」

 

 私は手に持って文字を記入していたシャープペンを手放して机上に転がし、開いていたノートと教科書類を閉じて鞄に詰め込み直すと筆記用具も片付けて明日の登校準備を完了。

 授業の課題として出された宿題と復習、明日やると言われたページのちょっとした予習だけやって、今日の勉強しゅーりょーでーす。お疲れ様でした~。

 

「・・・って言っても、まだこんな時間ですか・・・・・・長い・・・」

 

 軽く伸びをしながら時計を見ると、よい子は寝る時間でも悪い子しかいない高校生には早すぎる時刻を時計の時針は刺したままであり、精神的に疲れを覚えさせられ溜息をつく私です・・・。

 

 織斑さんたちと別れて自室へ戻って過ごす、IS学園学生寮の夜。基本的に寮生活とは退屈なものであり暇を持て余すもの、全寮制の学校が普通高校よりも娯楽施設等で劣っていないなど聞いたこともなし。

 ましてIS学園は、『IS操縦者育成校』。整備科志望の学生よりも操縦者優遇で設備が選ばれますし、整備課用の設備は学習用中心で娯楽目的のはあんまないのです。

 オマケに私は元男で現女の、TS転生者。特殊例が二人だけ特例として入学認められただけで実質的には女子校のままのIS学園に用意されてる女子用娯楽で楽しめるものはもっと少ない。

 

 まぁ、長くなっちゃいましたが要するに・・・・・・暇です。

 寮に引きこもらされる夜の時間は、とくに超暇を持て余してしまう私ですぅ・・・・・・。

 

「・・・やることないですし、暇つぶしにシャワーでも浴びてきますかね・・・」

 

 余りにも暇すぎましたので、暇つぶしの定番『ひとっ風呂浴びてきます』を実行してみることにしました。風呂文化の国とはいえ今の日本人にとってお風呂なんてそんなもんでしょう。

 入らなかったら気持ち悪いんで絶対に入りたいとは思いますけど、だからと言ってお風呂自体に強いこだわりを持ってる人なんて何人残っていることやら。『テルマエ・ロマエ』だったら好きなんですけどね~。

 

 まぁ、そういうわけなので服脱いでシャワーを浴びました。浴び終わったので、出てきました。元男なので早いですね、カラスの行水です。元男の入浴シーンなんてその程度のもんですよ、気色わりい。

 

「――って、あれ? ノックの音が・・・誰か来たのですかね?」

 

 シャワールームから出てきたら、「トントン」と部屋の戸を叩く音がしていることに気がつきました。珍しくと言いますか、入学以来はじめて私の部屋にお客さんが来たのかもしれませんね。

 いやはや本当に『蓼食う虫も好き好き』物好きな方というのはいるものなんですねぇ~。

 

「はい、どちら様でしょう?」

『俺だ、一夏だ。こんな時間にすまん、セレニア』

「織斑さん? 私の部屋まで尋ねてくるなんて珍しいですね、何かありましたか?」

 

 社交辞令も交えて驚きを現し、心の中で意外性に打たれる私でありましたとさ。

 実際には先ほど思った通り、私の部屋に人が来るのは織斑さんを含めて初めてのこと。

 

 ――ちなみにですが、ルームメイトになることになったっぽいボーデヴィッヒさんは例外です。よく分かりませんけど家族みたいなものらしいですのでね。家族はお客さんにカウントしないものなのです。

 

『ちょっと困ったことって言うか、お前の悪知恵・・・じゃなくて、知識が必要かもしれない問題が起きたみたいなんで、できれば俺の部屋に来てほしいんだけど・・・』

「今からですか? 別に構いませんけれど・・・・・・」

 

 ものの見事に『本音と建て前』を使い分ける典型的日本人の悪習を実践して見せてくれた織斑さんの気遣いに敬意を表して敢えてツッコもうとはせず、視線を下に向けることで自分の服装を確認。外に出られる状態かどうかを確かめました。

 

 元男なので、シャワーから出たばかりとはいえバスタオル一枚だけ体に巻いてる姿なんてしているはずもなくパジャマ姿になってた私なのですけれども。

 ・・・・・・う~~~ん・・・・・・。別に問題ないかもですけど、一応は現女で時刻は夜なわけですし、男性の前に出る姿格好としては適切ではない・・・・・・のかなぁ~? よく分かりません。元男なのでね?

 

「できれば身嗜みを整える時間だけでもいただいて構いませんかね? 流石に今のままだと見苦しいかなと思っているのですけども・・・・・・」

『なんだ? ラフな部屋着でゆっくりしてたのか? 俺はそういうの大丈夫だから気にしなくていいぞ。千冬姉なんか人前でしっかりして見せてるけど、家では結構だらしない格好をして―――』

「いえ、シャワーを浴びていて出てきたばかりでしたのでね? 服を着替えるぐらいはした方がいいかなと。・・・・・・どうしました? 織斑さん。

 なんか今、扉の前で慌てふためいた挙げ句、色々な場所にぶつかりまくったような衝突音が連続していた気がするんですけども・・・」

『・・・い、いや大丈夫だセレニア。問題ない。俺のことは気にしなくていいから、ゆっくり服を着て見られても大丈夫な格好を整えてから出てきてくれ。遠慮なんか必要ないぞ。絶対、大丈夫だから』

「・・・??? は、はぁ・・・」

 

 なぜか死亡フラグの定番セリフと、カードキャプターの最強魔法の呪文とを同じセリフの中で言われてしまいましたけども。この場合、どっちを信用したらいいんでしょうね? よく分からないッス。

 

 まぁ、とりあえず大丈夫と言ってるわけですから、急いで服着替えてさっさと出て行ってしまえば問題ないでしょう多分。

 拭き終わってなくて水が滴ってる無駄に長すぎる髪は(面倒くさいから切らなかったら伸びすぎました。その内にバッサリ切りましょう)どう足掻いても完全に乾かすの無理ですので肩にタオル引っかければ良いとして。

 服装は・・・う~~ん・・・・・・制服でいいですね。冬服のヤツ。夏とはいえ夜は冷えますし、濡れてますし。湯冷めしても面倒です。暑かったら上着脱ぎゃ大丈夫でしょう。んなことまで気にするほど元男の感性は繊細じゃありません。

 

 と言うわけで、準備完了。出発進行でーす。

 

 ガチャリ。

 

 

「お待たせしました。・・・・・・どうしました? 織斑さん。なんで私が出てきた瞬間に思いっきり顔そらして見ないようにしてるんです? そんなに変でしたか? この格好って・・・」

「い、いや気にしないでくれセレニア。大丈夫だから、問題なかったから・・・。ただ予想外に早く出てきたから、慌てちまっただけだから。絶対大丈夫だったから」

「・・・・・・??? は、はぁ・・・」

 

 なんだか今日の織斑さんは挙動不審ですね。・・・割としょっちゅうキョドっていて不審者対応しているように見えることがあるのはラブコメ主人公の王道故ですので彼のせいじゃありませんでしょうし、敢えて無視です。見なかったことにして、なかったことにしておきます。

 忘れられがちですが、私はこれでも一応ラブコメ時空に美少女として生まれ直したらしい転生者デッス。・・・・・・一応は、ですけどねー・・・。

 

 

「じゃ、じゃあ行くぞ。言っておくけど驚いて大声出したりしないでくれよ? デュノアにとって重い事情があっての問題なんだからな?」

「はぁ・・・・・・」

 

 なんかよく分かりませんけど、とりあえずデュノアさん絡みで織斑さん関連の相談事ではないことだけは今の時点で判明しながら私たちは彼らの部屋へ。

 

 そこで私は、たしかに驚愕の事実ではあったデュノアさん家のお家事情を詳しく聞かされることになるのです。

 

 

 

 

「つまり―――」

 

 私は饗されたお茶を飲みながら考えをまとめ、今聞かされた驚愕のデュノア家事情について頭の中で吟味した後、湯飲みから口を離して状況を口に出して整理してみました。

 

「デュノアさんは本当は男の子ではなく女の子で、デュノア社社長の愛人の娘で、お母さんが亡くなった直後に今まで放置しっぱなしだった父親が出てきて自分の元へ来ることを強要し、行ったら行ったで身体検査しまくって数少ない高IS適正保持者であることが発覚したので非公式に専属のテストパイロットに任命し、社の経営が傾いてきたからと、『男のフリして日本に行って世界初の男性IS操縦者と専用機のデータ盗んでこい』・・・と。

 ――そんな感じで大体あってますかね? デュノアさん」

「う、うん・・・。ものすごく悪意的表現が多大に混じっていた気がしなくもないけど・・・大体は合ってた・・・かなぁ?」

 

 首をかしげながら困った表情をなされるデュノアさん。実際問題、敢えて悪意的に解釈した部分だけを露悪的表現つかって罵倒しただけの発言でしたので気を遣ってくれなくても良かったんですけどね。ま、いっか。

 

 しかし、『エヴァンゲリオン初号機』みたいなパイロットの家庭事情ですねぇ・・・。これでお父さんが「乗るなら早くしろ、でなければ帰れ」とか言い出したら、そのものだったんですけども。

 実質的には変わりないですから、同類だとは思いますけどね。

 

 選択肢があるようでない、見せかけだけの自由選択権を与えることにより『お前の意思で選んだんだから』とか言ってくる、形ばかりの自由意思尊重タイプは一目見ただけだと分かりづらいせいで余計に性質悪いですしマジウザいっす。

 

「まぁでも、大凡はセレニアの言ったとおりで合ってるかもね。一夏だけじゃなく、セレニアにもばれちゃったし、僕はきっと本国に呼び戻されることになると思う。

 デュノア社の方は潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな」

「・・・・・・」

 

 他人行儀で素っ気ない口調、父親のことを話していながら、他人事を話すかのように区別しながら話している。そんな話し方をするデュノアさん。

 

「ああ、一夏の時にも思ったけど、話したらなんだか楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今までウソをついていてゴメン」

「いや別段、それについてはどうでも良いのですけれども・・・」

 

 彼女からいったん視線と意識を離して織斑さんへと振り返り、私は先ほど彼が部屋へ来たときに言ってた内容と今の話を照らし合わせて大凡の推測をして確認のため問いかけます。

 

「それで? 織斑さんが、この一件でデュノアさんを救うために思いついた、私の知識で補填してほしいアイデアというのは、どんなものですので?」

「おう。IS学園校則の特記事項は使えると思ったんだよ。ほら、セレニアなら知ってるかもしれんけど、第二十一項のヤツ。

 『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』・・・これを使えば少なくとも三年間は学園に居続けられるってことになるわけだろ?

 それだけ時間があれば、なんとかなる方法だって見つけられるし、急ぐ必要はなくなるって考えたんだ。俺にしてはなかなか悪くないアイデアだろ?」

「ふむ、確かに。時間稼ぎにはなりますね。・・・それから?」

「それから・・・って? なにが?」

「いや、ですから。その続きをお聞かせ願いたいなと」

 

 私は真面目に織斑さんに尋ね返し、逆に織斑さんは不思議そうに私の顔を見返してくるばかり。

 ・・・なんかイヤな予感がしてきたのは気のせいだと私は信じたいですね。心の底から本当に・・・。

 

「つまり、特記事項とはいえ校則に明記されている条文なわけですから、学園側は本来これを実行してデュノアさんを最低三年間守り抜くのは当然の義務です。

 義務を覚えているなら、別に織斑さんが気づかなくても私たちが何もしなくてもデュノアさんは三年間IS学園側が守ってくれてたでしょう。

 仮に忘れている場合には思い出させてあげる必要がありますけど、それさえ生徒手帳を開いて指さしてやれば済む話ですし、別に私たちが何かやる必要はほとんどありません。

 この特記事項だけならば、気づいただけで安心して『ふー、良かった。まだ時間がある一安心』で終わる代物にならざるをえませんので、これを使って何か別の方法と併用させ問題解決に導くアイデアが思いついたのだろうなと推測したのですが・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・そのお顔だと、私の方が先走り過ぎちゃってたみたいですね・・・ごめんなさい。もう少し自分でも考えてみます」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 なんとかフォローを入れて話を閉じてみたのですけども、やっぱ無理があったっぽいです。

 とりあえず戻ってこーい、織斑さーん。部屋の隅に行くなー、部屋の隅で体育座りして壁に向かって話しかけようとするなー。寂しすぎるボッチの部屋での過ごし方を実践するなー。お前はハーレム系ラブコメの主人公になる男だぞー?

 

「まぁ、織斑さんはひとまず置いておくとしまして・・・」

「お、置いてっていいの? 本当に・・・なんだか一夏、ものすごく落ち込んでるように見えるんだけど・・・」

 

 デュノアさんが気遣っていますけど、ハッキリ断言いたしましょう。ダイジョーブですと。

 どうせ熱血系主人公なんて生き物は、落ち込んでもよく分からない内的世界でいろんな人の幻影に話しかけられまくりながら勝手にリカバリーしてくる生き物なのですから、放っておけばその内に復活してきますよ。だからこそ、ダイジョーブ。

 

「それでデュノアさんは、この件についてどう思っていますので? 良ければあなたのお気持ちを聞かせていただけたら嬉しいのですが?」

「どう思うも何も・・・・・・時間の問題じゃないかな? フランス政府もことの真相を知ったら黙ってないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋とかじゃないのかな?」

「ふむ・・・。確認のためお聞きしますけど、あなたは自分に訪れる直近の未来がそれで良いと思ってはおられるのでしょうか?」

 

 私がそう聞くと、デュノアさんは絶望さえ通り越して諦観に至っているかのような痛々しい微笑みを浮かべられた後、“見当違いな回答”を私の質問への答えとして返されてこられたのでした。

 

 

「良いも悪いもないよ。僕には選ぶ権利がないから、仕方がない」

「デュノアさん、デュノアさん」

 

 私は後頭部に片手をやって、軽く自分の髪をかき回しながら『自分にその言葉を言う資格があるのか?』という疑問を胸に抱きながら。

 それでも私は相手の間違いを指摘する道を選ばずにはいられません。

 そういう道しか選べなかった人を、私は私なりに尊敬して目指している人間であるが故に。

 

 

「勘違いしないでくださいデュノアさん。私が聞いているのは、『この件に関する貴女の気持ち』であって、貴女以外の人がどう反応するかなどの些事はどうでもよろしい」

「・・・・・・え」

「私が相談を持ちかけられたのは、貴女を救うための手段を補填するためであって、貴女の父親も、貴女の義母も、母国政府も関知するところではありません。

 極端な話、貴女の亡くなったお母さんでさえ、私にとっては見ず知らずの赤の他人です。私が出会って仲良くなりたいなと思えるようになったシャルル・デュノアさんと比べたら取るに足りません。

 貴女を救うために彼らの犠牲が必要だと言われたら、どちらを取るかなど私にとっては考えるまでもないことです」

「・・・え・・・あ・・・・・・その、えっと・・・・・・」

「貴女が本当にこの件に関して『仕方がない』と諦めがついているのなら、私もその意思を尊重しましょう。ですが貴女はまだ諦めてはおられない。

 まして、『どうでもいい』だなんて少しも思っておられませんよ。

 本当に諦めていて「どうでもいい」と本心から思って割り切っているのなら、私たちに話を聞いてもらって楽になる気持ちになんかなりませんからね。

 我慢しすぎるのは体にも心にも良くはないです」

「あっ・・・・・・」

 

 

 ようやく自分の気持ちに蓋をしていた事実に気がついたのか、デュノアさんは間抜け面をさらして茫然自失と化したまま硬直し。織斑さんは訳が分からずポカーンとなさりながらデュノアさんの顔を見ておられました。・・・いつの間に復活してたんですかいアンタは・・・。

 

 

「私たち他人には、貴女の願いを手伝うことはできても、貴女の代わりに責任を取ってあげることはできません。痛みを分かち合うことさえ不可能です。

 所詮、どこまで行っても他人は他人。自分の代わりに牢屋に入ってくれることもできなければ、自分の背負わされた不幸を肩代わりしてくれることも事実上不可能なのが赤の他人というものですからね。それこそ仕方がありません。

 それでも、何ひとつ力になれないほど無力でもない。

 思っていること、願っていることがあるなら言ってご覧なさいデュノアさん。

 それがどんなに子供じみたワガママであっても、他人にとっては迷惑しかかけられないことであろうとも。

 言うだけならタダです。誰も怒りません。笑いもしません。少なくとも今この部屋にいて、貴女の願いを聞くことができる人間の中に、貴女の願いを笑うような人間なんて一人もいません。そこは貴女も信じてくれたからこそ事情を話してくださったのでしょう?」

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

「言ってみなさい。言っても伝わらないかもしれませんし、言ったところでどうにもならないのかもしれませんけど、何かしら出来ることもあるかもしれません。100パーセントは無理でも30パーセントぐらいなら願いを叶えることができるのかもしれません。

 その僅かな可能性さえ、言ってもらえないと0パーセントのままなのです。何も始めることなど出来はしません。

 私たちが貴女のために何ができて、何をしたら良いのかを考えるためにも、貴女の気持ちを聞かせてもらう必要がある。何でも良いので言ってみてください。

 叶えるための方法論を考えるのは私たち手伝う側の仕事ですからね。貴女はただ願いを言ってくれれば今回はそれでいいですよ。たまには私にも役立てる可能性を分けてくだされば、それで十分。

 ――なにぶんにも、異世界からきた大きな子供の母親役になったばかりですのでね。娘の見ている前で格好つけたい親のチンケな見栄に協力していただけるとありがたいのですけれども?」

 

 

つづく

 

 

オマケ『セレニアが格好つけて誤魔化した一番簡単な解決方法を破棄した理由』

 

 

セレニア「えーとぉ・・・ボーデヴィッヒさん? 出来たらで良いのですが、今度のタッグマッチで織斑さんとデュノアさんのペアにわざと負けてあげることってできませんかね? ドイツの第三世代機にフランスの第二世代が圧勝したらイグニッション・プラン参加国的に問題が一挙に解決する可能性が出てくるのですけれども・・・・・・」

 

ラウラ「ヤッ!!! です!! 変態さんをラウラがタイジして、お母様をよろこばせてあげるのです!! お母様のおねがいでも、これだけは絶対にヤ!です!」

 

セレニア「うぅぅ・・・・・・本当の子供のワガママの前で、母は無力な生き物ですぅ・・・(T-T)」



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IS学園のひねくれ少女 第13話

*:正月故だったのか、12話、13話となんかゴチャゴチャした話になってしまっててすいませんでした。近い内に1話内にまとめ直して分かり易くて読みやすいよう工夫した物を再投稿させていただきたいと思ってます。

頭の中までゴッタ煮な感覚になってたみたいでゴメンナサイ…。とりあえず今の12、13話は暫定的に残しておいて再編集版を投稿する際に削除する予定でおります。


「しかし、意外だったなぁー」

 

 俺は廊下を並んで隣を歩いている銀髪少女を上から見下ろして、つむじの辺りに目を向けながら、今さっき出てきたばかりの自分の部屋で起きていた、喜劇なのか悲劇だったのか悲喜劇だったのか、よく分からないやりとりを思い出しつつ、そう呟いていた。

 

「意外って・・・なにがですか?」

「さっき言ってた“あの”セリフだよ。正直、お前にしては意外だったと思ってさ」

 

 デュノアの秘密を告げられて、散々にシャルルの父親を悪し様に罵りまくってから一応フォローもしてやって、『シャルルの願いを聞かせてほしい』と言った後。

 セレニアは戸惑う彼女に向けて、素っ気なくこう告げて話の締めとしたのだった。

 

 

『え、えと・・・そんなこと急に言われても僕、ほんとうにどうしたらいいか分からなくて・・・』

『そうですか。では、それを考えるのが当面のデュノアさんのやるべき任務という感じになるでしょうね。

 それまでは、私たちの方でできる限りのことをやっておくと致しましょう。どの道を選ぶにせよ、選択肢はできるだけ多くしておくにしくはないものです』

 

 

 ・・・そう告げてアッサリ話を打ち切ると、俺を連れてデュノア一人だけを部屋に残したまま廊下に出た彼女は今、こうして俺と並びながら歩いて話をしていると言うわけだ。

 

「てっきりお前だったら、あの場で自分の生きる道を、最低限方針だけでも決めさせるんじゃないかと思ってたんだが・・・」

「・・・私って普段から、そういう目で見られてましたので・・・? 個人的な自己評価としては未成年の少女相手に必要以上の負担を押しつけないよう意識していたつもりなんですけどね・・・」

 

 はぁ、と呆れの溜息なのか自嘲の吐息なのか判別しがたい嘆息を漏らしてから、セレニアは少しだけ居住まいを正して前を向きながら淡々とシャルルの現状について『本当に思っていること』を語り始めてくれた。

 

「デュノアさんには、ああ言いましたが・・・実のところ彼女の心理状態はあんまし良いとは言えないのではと私は見ています。なので少しの間、冷却期間が必要かなと思ってああ言ってみただけのことですよ。本当はもっと根が深いのではないですかね? この一件」

「そうなのか?」

「ええ」

 

 軽く応じてから説明に入るセレニア。

 

「考えてもみてくださいな。自分がやらされている企業スパイの任務がバレてしまったとき、自分だけでなく会社と父親がどうなるか彼女は分かった上で今回のことをやってたんですよ?

 そして、そのことを結果予測まで含めた上で織斑さんと、ついでに私にまで自主的にばらしてしまった・・・『話したら楽になった』とまで言い切ってまで、です。

 これって自分の自爆によって父親と会社まで破滅させてしまおうとする復讐計画と、どう違うのです? とどめとして、本人自身にはいまいちその認識がなさそうなのも気になりますしね・・・。

 『良いも悪いもない、自分には選ぶ権利がないから仕方がない』とか言っちゃってましたし、結構ヤバいのではないかと思ったわけです」

「・・・・・・」

「会社の方にしても、今のままでいられなくなることを軽く言ってましたけど、普通に考えて世界第三位の大企業が潰れるか他企業の傘下に入るだけでも大変なことですよ? デュノア社だけの問題では絶対にすまないレベルの大被害が周囲に拡散しまくりです。

 会社の規模と社員の数は基本的に比例するものですし、絶対数が多ければ比率的に同じであってもリストラされた人の数は圧倒的に大会社の方が多くなるのは考えるまでもないですし、仮に一人もやめさせないように工夫するためには最低限社員全員の給料大幅カットは確実。

 そうなると彼らの家族の生活費とか養育費とか将来設計は根底から見直す必要に迫られますね。場合によっては完全になかったことにして1から低予算でできる内容に変更する必要が出てくる人もいるでしょう。お金がかかる学校への進学を予定していた受験生なんかいた日には合格の祝辞が悲惨の一言に早変わり。

 製造から販売まで単独だけで成り立っている大企業なんてあり得ませんので、関連企業および下請けの小中子会社も一番の取引先が消えてなくなるか、さもなくば受注数の大幅減が見込まれますし、悪くすれば別の大企業に吸収されて自分の会社こそがなくなってしまう可能性も低くありません。

 そして彼らが生活必需品等を購入していたスーパーやら、昼食時に大勢が利用していた安くておいしい下町の小さな食堂なども利用できる回数が一挙に減って経営悪化。食材の仕入れ先なども被害を受けるかもしれませんねぇ~。

 このようにして、国内の大企業倒産に端を発した経済的被害が連鎖的に周囲の企業を巻き込んでいきながら、やがて国内経済そのものに大被害をもたらす現象のことを俗に経済用語で――――」

「せ、セレニア・・・もういい。わかった。わかったから、もうその辺で終わらせてくれ・・・頼むから・・・」

 

 いっぱいいっぱいになりかけていた俺が慌てて「ロープロープ」とセレニアの肩を叩きながら自制を求め、やや不満そうにしながらも相手がようやく矛を収めてくれたことに心底から安堵する俺。

 

 ・・・正直、ここまでデカい事態になるとか考えてなかった上に、デュノアのオッサンと人でなしの母ちゃんだけの問題で済むんだと思ってたから、これ以上話されるのはチトきつい。主に俺が罪悪感で、精神的に・・・。

 

「まだ説明が必要な部分が多々あるのですが・・・仕方がありませんね。必要最小限のことだけでも説明できただけ由としておきましょう」

 

 ・・・って、まだ最小限だったんかいアレ!? どんだけ広ぇんだよ会社一つの問題が起こす経済被害の規模って!!

 怖いわ! ガチで怖いわ! 千冬姉に近いレベルの恐怖を一瞬だけとはいえ味あわされかけたわ!!

 

「まぁ、会社の経営状態の方は別枠で考えるしかないとして。デュノアさんの心理状態だけを一言で言い表してしまうのであれば、ハッキリ言って自暴自棄に近いヤケを起こしかけてる状態にあると予測いたします。

 今まで相当に無理してきたみたいですし、しばらくゆっくり静養してもらいながら自分の進退について真剣に考えてもらうべき状態でしょう。

 さすがに『単機で国軍に匹敵する次世代兵器』の情報盗もうとしておいて死刑にならずに牢屋入りで済むと想定している人に解決役を任せられるレベルの問題じゃないでしょうからねぇ」

 

 辛辣! そして、ヒデェ!! …でも相変わらずたぶん正しい…。

 俺は中学時代の友人が抱いている別の友人感に恐怖しながら、今後一生経営とか経済とかに関わらずに済むよう平凡な一社員として人生を終える真面目に働くサラリーマンになる夢をあらためて胸に再熱させていく。

 

 そしてふと、そう言えばと思い出してセレニアにもう一つ尋ね直す。

 

「そういや俺たちって今、どこに向かってるんだ? さっき言ってたシャルルを落ち着かせて考えさせるため一人にしてやっただけ・・・って事はないんだろうな、お前の場合には」

「かつての級友を理解してくれていて助かりますね。説明する手間が省けます。・・・て言っても何も言わないわけにもいかないですけどね。

 普通に、織斑さんの提案していた解決策を実行しにいくだけですよ。順当にいって、それが一番自然な流れでしょう?」

「ふむ?」

 

 まぁ、確かにその通りだと俺も思いはするんだけど・・・・・・

 

「実行って、何しにどこへ行くもんなんだ? まだデュノアの正体がバレた訳でもないのに俺たちの方から言いに行くわけにもいかないだろう?」

「・・・いや、バレた後になってからじゃ遅いでしょ。普通に考えて・・・。

 バレなかったら秘密にしたままで通すつもりだったけど、『バレちゃったからヤバいの助けて、オリえも~ん』とかやるつもりだったんですか貴男は・・・・・・」

「う、ぐ・・・・・・うむぅ・・・」

 

 い、言われてみると確かにマズいな、その状況・・・。千冬姉がマジギレしかかっている姿しか想像できん・・・。むしろ俺、殺されちまわないかな? もしその状況になってしまった場合には。

 

「もちろん、学園執行部側には秘密にしといてもらいますけど、逆に言えば執行部の方に先にバレると厄介な問題でもあります。

 信頼できる先生方がいるなら、先に大まかな事情だけでも説明しておいて協力を取り付けておいた方が後々のためにもなるでしょうし、印象もそれほどには悪くならないでしょう。

 危機が迫るまで自分の都合を優先し、危なくなったら助けを求めて擦り寄ってくる人と、最初から素直に事情を説明して頭を下げてお願いしてくる人。――どちらの方が相手から好意的協力を得られやすいと思われますか? 織斑さん」

「・・・・・・断然に後者のほうだな。前者のほうは具体的に言われてみたら、なんかムカついたから」

「でしょうねぇー」

 

 軽く肩をすくめてみせるセレニア。

 

「ついでに言えば、それまで秘密にしておいたせいで、バレてから一方的に守ってもらうだけの立場になったデュノアさんの心理的負担も増大する一方になるのも避けなきゃいけませんのでねぇ。

 申し訳ない気持ちで一杯になるだけなら、まだマシですけど・・・罪悪感のあまり『自分さえいなくなれば皆にこれ以上迷惑はかからない・・・ッ!』とかの三流学園ドラマ的発想されたら困りすぎますし、できる限りバレた後の場合のことも考慮しておきませんと全ての努力と払った犠牲が無駄になってしまいます。私は無駄は嫌いです」

「お、おう・・・」

 

 日本人的『もったいないの精神』を持つ俺でさえドン引きな、セレニアの損得勘定。ときどき俺の級友は千冬姉のプレッシャーを静かに超えるときがあるのは気のせいなのかな?

 

「まぁ、とりあえずは織斑先生に話を通しておくのが妥当な選択でしょうね。あの人は私たちの担任教師ですし、一年生寮の寮長でもある。

 自分の管轄している寮内で、こんな大事件が起きていたことにも気づかないまま、いざ事が起きてから相談されて協力頼まれたときには、さぞかし肩身の狭い思いをする羽目になるんじゃないかと思われますし、あらかじめ話を通しておいた方が少しはマシでしょうよ。

 ・・・気弱な本人より先にこちらで事情を説明してしまえば、情報の取捨選択も可能になるわけですしね・・・」

 

 怖いっ!? そして、黒い!! 俺の中学時代の級友がダークサイドに落ちてもいないのに通常モードで黒怖すぎる時がある件について!?

 

 そして、よく考えてみたら俺もヤバい! 千冬姉にこんなこと直接頼みにいくって、そのとき俺どうなんのいったい!?

 

「ちょ、ま・・・待ってくれセレニア!! 俺にも決戦に及ぶ前には心の準備時間というものが必要であってだな!?」

「男の子で、日本男子で侍で武士道の覚悟なのでしょう? 割り切りなさいよ、それぐらいの気持ちの問題程度なら簡単に。受け入れろ、そして乗り越えろ。です」

「鬼かお前は!? そして、赤髪の大海賊かお前は!?」

 

 思わず五反田から借りた漫画のネタでツッコんじまうほど混乱させられる俺。

 逆にセレニアの方は至って冷静に肩をすくめるだけ。

 

「冗談です。こういう時には中途半端な第三者が間に入ってくれた方が、感情的な衝突にならず曖昧な形で話を終わらせることができますので、その人の元へ先に向かっているだけです」

「な、なんだそうか。ビックリした・・・。でも、そんな都合のいい人って、この学園にいたっけか? ひょっとしなくても山田先生とかか?」

「ん」

 

 問われたセレニアが指さした先、俺たちが向かっていた目的地の到着点である、寮の一室。

 部屋の扉にかけられた名札は『宿直室』。

 

 ・・・そして、その下にブラ下がっている、部屋名よりもデカく書かれた現在部屋を使用している人の名前は・・・・・・

 

 

『白兵戦指導教官:クレシア・クレッシェント。永久所在地』

 

 

 

「なる・・・ほど・・・。これ以上ないほど適任な人選だな・・・」

「・・・・・・すいません。うちの姉が迷惑かけまくってしまってて・・・・・・」

 

 

 納得して褒めたにもかかわらず、なぜか今から頼ろうとしている人のことで謝ってくる実妹のセレニア。

 

 ・・・・・・わかるけどな。気持ちはものすご~く分かるんだけどな・・・・・・。

 理屈で納得できてても、感情的に謝っとかなきゃって気持ちになるときはセレニアにだってあるんだと旧友の新たな一面を知らされながら、肩を「ポンポン」と叩いてやりながら部屋の扉をノックして入室し、シャルルの権利と自由を勝ち取るために俺たちが行う今夜最後の戦いの幕を開けにいく。

 

 なんか色々ありすぎた夜だけど、俺たちが問題解決のため立ち向かわなければいけない本当の戦いは、これからだ・・・・・・ッ!!

 何故かはわからないが、そんな予感を感じながら俺は強敵が待ち受ける最初の門を仲間とともに潜り抜けたのだった!!

 

 

 

 

 ――そして、その戦いの結果。

 

 

「・・・大凡の事情は把握した。まったく・・・お前たちは飽きもせず毎度のように厄介ごとを学園内に持ち込んでくれるものだな。

 まぁ、今回の件では私たち学園側にも手落ちがある以上は、そう悪いようにはせんだろう。とはいえ、全くの無罪放免ともいかんだろうが・・・・・・」

 

 

「ま~ま~、チーフー。そう堅いこと言わなくても別にいいじゃーん。シャル大佐も悪気があって秘密にしてたわけじゃないんだし、むっつりイッチーも今回はなにも悪いことしてないんだから怒るのは可哀想ってもんでしょー? それぐらいで許してあげなよ、チフえもーん」

「そうは言いますが、クレッシェント先生。たとえ本人の意思でなかったとしても、学園側に偽造の身分証明書で入学していた事実がある以上はなんらかの処罰をしなくては他の生徒たちに示しがつきません。

 ――あと、教え子たちに変な渾名つけるのやめろバカ後輩。むっつりって何だ、むっつりってオイ」

「まーまー。そんな、名前とか本当の性別が違ってたとか些細な問題を気にしすぎないで楽に生きようよ、気楽にさ~。

 男のフリして女子校かよってた女の子なんて、女子高生のフリして女子校かよって全校生徒の憧れ『エルダーお姉様』とかの地位に選ばれちゃった男の娘より遙かにマシでしょー? それと比べたら許してあげたって別にいいじゃんかよー。

 ―――もっとも、男が性別偽ってセレニアと同室になってたとかだったら骨も残さず燃やし尽くして殺してたところだけど。セレニア以外だったら別にいいわ。問題なしよ。モーマンタイ」

「比較対象がおかしすぎるわ!? あと、公私混同の度が過ぎるわ!! お前も一応とはいえ公務員なんだから生徒の前で迂闊にソレ系の発言を連発するんじゃない!! 学園全体の問題にまで発展するわ大バカ駄後輩!!」

「えー、いいじゃんかよ~別にー。公務員なんだから、公私混同と職権乱用ぐらいさせてくれたって別にいいじゃん。

 だいたい、公私混同と職権乱用とコネ採用と天下りを禁止された公務員なんかになって、一体何しろっていうのさ!?」

「いや、仕事しろよ!? 給料分だけ仕事をしろよ! そのために税金から給料払ってもらってるんだろうが私たち公務員って生き物は!?

 しかもお前、やっぱりコネ採用だったのだな! この汚職ダメ後輩め! 今日こそは腐りきった貴様の精神を叩き直してやるから覚悟しろ!! 天誅――――ッ!!!」

「ピキーン! 甘い! 甘いぞチーフー!! 正確な打撃だが、それ故にスパコン並の本能的な勘の良さを持つクレシアお姉さんには読みやすい・・・。

 お前が手に入れた世界最強ブリュンヒルデの栄光が、機体の性能のお陰であったことを忘れたというなら思いださせてあげようじゃないか!! とうりゃー!!!」

「なぁぁぁぁぁんとぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!!!」

 

 

 ズカバキドガガガン!!! ズバズババキン!!!!!!

 

 

 ・・・・・・見事すぎるほどの脱線ぶりで、千冬姉の部屋がわずかな間に戦場と化してしまった。生身とはいえ、世界最強と互角にやり合える人と千冬姉とのケンカに割って入るなんて無謀は俺たち既存人類には不可能なので一時撤退を決断。

 こうして俺たちは今夜最大の戦いを、戦わずして有耶無耶にすることに成功したのだった。

 

「・・・いいのかな? これで、本当に・・・・・・」

「・・・・・・・・・なんか、うちの姉がホントーにすいません・・・・・・」

 

 心底から申し訳なさで一杯になってるらしいセレニアが珍しく『シュン』となって俯いている希少な姿を見下ろしながら、俺がなんとなしに頬をかきながら「えーと・・・」とか意味のない独り言をつぶやいていると。

 

 

 ~~~アイ♪ 生命~のアイ~~♪ チの色は♪ 大地に~捨てて~~~♪

 

 

 と、なんかよく分からない歌詞の楽曲がどこからともなく鳴り響いてきた。・・・って、本当になんだこの歌は!? どこから聞こえてきてる!? そして歌詞のルビはどう振ってあるんだ!? 『アイ』って『愛』なのか!? それとも『逢い』なのか!? どっちだ!?

 

「あ、すいません。私の携帯に着信あったみたいなので、ちょっと出てきますね」

「お、おう。セレニアの携帯の着メロだったのか・・・驚いたぜ。って言うか、スゲェ着メロだったな今の歌・・・」

「特定の人からかかってきたときに一瞬で分かるよう設定したものですからねぇ~。面倒ではなくても話が長くなりやすい人ですし、先にお部屋へ戻っていて下さっても構いませんよ?

 デュノアさんもそろそろ独りぼっちだと寂しくなってるかもしれませんし、安心させてきてくれると嬉しいのですが」

「ん・・・、そうだな。それじゃ先に行かせてもらうわ。お前も遅くならんうちに部屋へ戻れよ? 寮の中だからって女の子が一人で出歩いても大丈夫な時間はいい加減すぎる時間だからな、そろそろさ」

「は~い。お気遣いどうもありがとうございます。お休みなさーい、また明日~」

 

 片手をあげてヒラヒラさせながら廊下の隅へと向かって歩いて行くセレニア。

 その後ろ姿に、先ほどまでの色々あったのが重なって脱力した俺は部屋へと戻る足取りが重くなるのを堪えながら力強く踏み出していく。

 

 ・・・明日から忙しくなるかもしれないし、今日はしっかり寝といた方がいいかもしれないからな・・・。

 シャルルを守るための今日の戦いは終わったけど、まだまだ彼女の親たちとの戦いは始まったばかりなんだから気を引き締めてかからないといけない。そのためにも今日は寝て英気を養う。

 俺たちの戦いは今日の分は終わって、また明日からだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・そして、織斑さんの気配が背中に感じられないぐらい遠くなったのを確認してから、私は携帯の通話ボタンを押したのでありましたとさ。

 

「・・・はい、もしもしセレニアです」

『は~い☆ モスモス終日セレちゃんかい? 幼い頃から君の憧れの的で大好き愛ししているだったタバネンさんだよ~♪ 元気してたぁー? ぶいぶい☆☆』

「――申し訳ありませんが、現在私は出かけております。ご用の方は適当にメッセージでも何でも入れておいて下さい。あと、出来ましたらメールでお願いします。以上です。それじゃあ」

『・・・オーイ。わざとらしすぎる偽留守番電話メッセージで久しぶりに電話してきた幼馴染みのハートをブロークンしようとするのはやめようよ~・・・。

 折角いいお話を持ってきてあげたのに、言う気なくなっちゃいそうだな~? どうしよっかな~? この違法ハッキングしてまで手に入れてあげた機密文書の処置は? 燃やしちゃってもいいんだけどな~~~~ん???』

「・・・・・・はぁ・・・・・・。最初から商談を持ちかけてきていることぐらい分かりきってるタイミングだったんですから、面倒くさい前振りはいらないって言いたかっただけですよ・・・。

 ――で? 要求は?」

『おや? 書類の中身も確認しないで言い値で買い取る約束とは、セレちゃんらしくもないな~。

 ひょっとしなくても久しく逢わない間に錆び付いちゃったのかな? だとしたら束さん的には大ショックなんだけども~~??』

 

 わざとらしい口ぶりで、久しぶりの会話となる私を試してくる相手の彼女。

 《IS》の生みの親にして、既存人類の限界を超えている天災科学者の女性。

 

 そしてついでに言えば、『子供の頃に絡まれて以来、付き合い続ける羽目になっている幼馴染みの変なお姉さん』

 

「この世界有数の超VIPが、わざわざ私ごとき小物相手にプライベートな商談を持ちかけてきている時点で、偽物を用意してやる手間暇かけてやるほどの理由はないと分かりそうなものだと私は思いますけどね・・・・・・?

 貴女はそう思われないのですか? 【篠ノ之束】さん」

『アハハハハ☆ OKOK♪♪ その調子その調子☆

 そういう減らず口聞いてくれないとセレちゃん相手には束さんもやる気出すの苦労させられちゃうからね♪ メンドくさいのは束さん大嫌いなんだも~ん♡♡』

 

 ひとしきり笑って旧交を温め合った後。

 私と相手は今日最後にして、おそらくは事件の決着そのものさえつけることが可能な商談に取りかかることに致しました。

 これが今日最後の減らず口です。

 

 

 

『んじゃ、さっそく商談なんだけど・・・・・・近いうちに束さんもソッチに行くから海でデートしようよ、百合レズデートを。

 その代わり束さんは、デュノア社社長のアルベールくん家への直通回線と、フランス現政権の閣僚たちがイグニッションプランで負けた後にデュノア社から乗り換える予定の外国資本から、幾らぐらいの個人的融資を受けているかの内部資料をシュレッダーから取り出して完全再現したものを進呈してあげるけど・・・・・・どする? Yes.or NO?』

 

「Yesでお願いします」

 

 

 

 ・・・こうして戦いは無事に終わらせることができました。

 電話一本で最終的解決ができてしまう程度の戦いなんて、こんなものです。

 手に汗握る商談なんてものを、高校生なんていうガキ如きに求めるんもんじゃーありません。

 

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第14話

「ひねくれ少女」更新です。他のを書いてる途中だったのですが、思いついてるネタを忘れないうちに出しといた方が良さそうでしたので急いで仕上げました。
では、再び執筆とネタ集めのためのゲームプレイに戻らせていただきますね~。


「――よしっ、出来た! 次、一夏の番だよ!!」

「応ッ!!」

 

 シャルルから呼びかけられた俺は、即座に彼女の背中へ瞬時加速。ぶつかる瞬間、くるりと宙返りをしてお互いの場所を入れ替えて選手交代。

 ラビット・スイッチで取り出したばかりだったアサルトライフルをしまった彼女はショットガンへと武器を持ち替え、俺は白式唯一の武装である雪片弐型による斬撃をためらうことなく突撃しながら繰り出していく!

 

 そして! ・・・・・・一連の流れを終えた俺たちは、たがいに腕時計に視線を落とし合ってタイムを確認した。

 

「・・・開始から完了まで1,3秒・・・。あと、0コンマ何秒かは縮められるかな?」

「わからない。だが、他にやり様はないんだ。とにかく残り一週間、できるところまで縮められるよう努力しようぜ」

「・・・・・・うんっ、そうだね一夏。がんばろう!」

 

 やや堅さを残しながらも笑顔で返してくれたシャルルの健気に応え、俺は俺でやる気を振り絞ると残り僅かとなった今日の訓練時間ギリギリまで特訓に全力を尽くすことを決意する。

 

 

 ――シャルルから彼女の性別と出生の秘密に関して驚愕の事実を聞かされてから一週間が過ぎていた。

 今、俺たちはIS学園第三アリーナで一週間後に迫った学年別トーナメントでボーデヴィッヒに勝つためシャルルとのコンビネーション攻撃の特訓をするためである。

 

 では何故、彼女の出生にまつわる秘密を知らされて動き出したはずの俺たちが公式試合のために全力を尽くしているかと言えば・・・・・・ぶっちゃけ、『他に出来ることが何もないから』だったりする・・・・・・。

 

 セレニア曰く。

 

「しょうがないでしょう? 校則の特記事項を守って生徒を守り抜くのはIS学園側がやる仕事ですし、私たち生徒はこの件に関してできることは何もない身分なわけですし。

 なにしろ『IS学園の生徒を在学中あらゆる外的介入から守り抜く義務が学園にはある』って意味合いの校則特記事項な訳ですからね。

 学園生徒だったけど、問題起こして退学処分受けたりした元生徒の権利と自由まで守ってあげる義理も理由も義務さえも学園側にはありません」

「な、なるほど・・・・・・」

 

 相変わらず手厳しすぎる我が級友は、後頭部に片手をおいて髪をかき回す、たまに見せる仕草を今回もやって見せながら続きを口にしてくれた。

 

「むしろ今は、真面目に授業を受けて訓練をして、余計なことは何もしないで処分されないことが一番の支援になる状況なんじゃないですかね?

 学園が生徒を守る義務があるとするなら当然、態度の悪い生徒よりも模範的な生徒の方がやる気がわきますし、結果が伴っているなら外部からの協力も得やすくなる。

 国家代表候補生から正式に代表に昇格することが叶えば、父親も実家も格下の存在になって意向もなにもかんも気にしなくて良くなりますしねぇ~。

 真面目にやって得はあっても、損はない時期です。規則を守って処分されず結果を残す、問題を起こさないのが一番ですよ。普通にね?

 ・・・・・・義務教育じゃあるまいし、自分で起こした問題のせいで守ってもらえる権利失ったアホ生徒が裁かれるのは自己責任じゃなく自業自得です。自分のしたことぐらい自分で責任持ちなさいって感じですよ、フン」

 

 なにか途中からイヤなことでも思い出したのか、妙に不機嫌そうな表情と口調で説明し終えていたけど、まぁ事実として今回は全面的にセレニアが正しいのだろう。

 

 付け加えると、シャルルを気分転換に付き合わせるよう頼まれている。『一人だけで考えてるとドツボに嵌まりやすいから』がその理由だそうである。

 

「自分一人で塞ぎ込んであって解決する問題でもありませんし、適度に気分転換しながら別視点を入れることも重要ですよ。考えるだけで問題が解決するなら苦労しません」

 

 とのことである。・・・なんて言うかアイツって相変わらず色々考えてるよな。それでいて妙に自虐的だし・・・自分の方が疲れないもんかね? あの生き方って。

 

 まっ、今はセレニアのことよりもシャルルの立場を改善する方を優先するようセレニアからも頼まれてるから全力を尽くすことにしたわけなんだが、生憎と俺は男だ。年頃女子にとって気分転換になりそうな遊び方など知らんわけだし、レクリエーションとして出来そうなものと言ったらスポーツぐらいなもの。

 

 なので折角だからと、実益もかねた学年別タッグトーナメントでボーデヴィッヒに勝つ方法を考えて、その作戦の特訓に当てることにしたという次第だ。

 

 おそらく現時点で、一年生の最強は彼女だろうとシャルルは予測している。それは裏を返せば、ボーデヴィッヒを倒すことが出来ればシャルル個人の価値が相対的に高まって守られやすくなるという結果をもたらすと言うこと。

 セシリアには悪いが、今回はイグニッション・プラン参加国のイギリス代表候補の彼女より、現時点で一年最強と目されているドイツのボーデヴィッヒに勝った方が得るものが大きい。

 

 だから、すまないセシリア! 俺は今回お前との全力決着は目指さないぜ!

 なぜなら俺はただの意地だけど、シャルルは立場的に負けちゃいけないからだ。彼女を守るためにも俺は絶対勝たなくちゃいけないんだからな!!

 

 

「・・・いや、勝ち負けに関係なく在学中の少なくとも三年間、IS学園にいる間は大丈夫な校則を見つけてきたのは貴方だったはずなのでは・・・?

 試合の勝ち負けで校則無視して彼女の立場が危うくなる程度の安全性なら、あの特記校則自体に効力期待できなくなっちゃうんですけれども・・・」

 

 

 ・・・・・・なんか昨晩に級友から告げられた、やる気をそがれる真実が一瞬頭をかすめた気がするけど、気のせいだ!! 俺は絶対トーナメントで負けないよう全力を尽くすぞ!!

 

「ふぅ・・・時間にもなったし、今日の特訓はここまでにしとくかシャルル?」

「ふぅ、ふぅ・・・。うん、そうだね一夏。今日もいっぱい頑張ったし、明日もいっぱい頑張ろう!」

 

 満面の笑顔を浮かべて応えてくれるシャルル。

 彼女と俺がコンビネーション攻撃を特訓することにした理由は、彼女がもたらしてくれてセシリアが補填してくれた情報によるところが大きい。

 《AIC》の特性、つまりはボーデヴィッヒの専用機シュヴァルツェア・レーゲンが持つ第三世代兵器の長所と欠点。そして彼女自身の性格を鑑みて、この『二人で一人の戦い方』がボーデヴィッヒに勝つためには最も有効だと俺は考えたからだ。

 

 

「よし、シャルル。くどいようだが、お復習いしていくぞ? まずはラウラの戦い方の特徴についてからだ」

 

 特訓を終えて自室に戻ってから俺たちは、軽い今日の特訓の反省会をおこなってから、今までの復習をする。

 

「まず、大前提としてラウラの戦い方は『一対多に特化している』

 つまりそれは、『自分側が複数の状態での戦いを想定していない』ということだ。

 アイツは一対多の状況で戦えるだけの能力と強さを持っている。――けれど、そこが落とし穴だ。二人組というのは一足す一だが、答えが二とは限らない」

 

 たとえ、一人が倒されても残る一人が生き残っていたら勝利になる。タッグマッチとはそういう形式だ。一対一の決闘とは違うのだから、なにも自分一人の力だけで勝つ必要はない。

 俺たちは同じ戦場で一人ずつ戦うわけじゃない。俺たちのタッグは二人組なんだからな!

 

「――そんな風に、この前で訓練時に使用許可が下りたアサルトライフルを使わせてもらって、残弾ありの状態でシャルルが銃を捨てて俺が拾って撃つ、二段構えの作戦だ。

 これならAICに対抗できるし、ボーデヴィッヒの意表も突ける。俺たちがアイツに勝つにはこれしかないと俺は思う」

 

 一週間前に同じ事を説明したときのように、確信を込めて俺は言い切ると逆にシャルルは一週間前とは微妙に違い「・・・う~~ん・・・・・・」と、反対とは言わないまでも微妙に鈍い反応を返してきた。

 あれ? 一週間前に説明したときには納得してもらえたんだけど・・・なんか気づいた間違いでもあったのかな?

 

「どうかしたかシャルル? なにか作戦に穴でも見つけたのか?」

「いや・・・そういうのじゃない・・・と、言えなくもないんだけど・・・」

「??? よく分からないが、なにか気になることがあったら言ってくれ。俺も勝つためには最大限シャルルの意見を聞かせてほしいと思っているから」

「・・・いやその、え~と・・・意見って言うほどのものじゃないかもしれないんだけどさ・・・」

 

 ポリポリと、困ったような笑顔を浮かべて頬をかきながらシャルルは、言葉を探すように周囲を見渡す。

 

「・・・今のラウラって、僕たちの住むこの世界とは違う世界で生きて死んだラウラの記憶を引き継いでるって、話だったよね?」

「ん? ああ、そうらしいな」

 

 俺は彼女の確認質問にうなずいて答える。

 それは秘密事項でありながら、今やIS学園の誰もが知っている公然の秘密であり、少し前まで話題沸騰しまくっていた驚愕の現象。

 なんと、この世界には俺たちの住んでいる地球と同じようでどこか違う、異なる歴史を歩んだ別の地球世界があるらしい。そこでも織斑一夏やラウラ・ボーデヴィッヒは存在していて、IS学園で生徒として共に生活しながら戦ってもいたらしい。

 

 大昔に書かれたっていう空想科学小説みたいな話だけど、いくつかの分析の結果、事実であることが科学的にも証明されたって言うのだからもっと驚きだ。

 混乱を防ぐため世間に公表するのは大分先のことになるらしいけど・・・世の中不思議なことがまだまだいっぱいあるのだなと実感させられた出来事だった。現実は小説より奇なり。

 

「そして、その世界のラウラはセレニアのことをお母さんと思い込んでいて、あっちの世界のセレニアからも可愛がられていた・・・そういう話で合ってたよね?」

「合ってるな。・・・むしろ、俺的には間違っていて欲しいこと山の如しだが・・・」

 

 そもそもにおいて、それが原因で俺は因縁をつけられた挙げ句、二度も殴られてしまったわけだから間違いようがないし、できればホントーに間違っていてほしくて仕方がない。

 何故なら、こことは違う世界の地球だと俺たち個人個人も違う生き方をしていて、時には大きく性格まで変化してしまっているらしいそうで。

 

 俺こと織斑一夏は、『人斬り侍』な上に『オッパイ星人』でしかも『未来のセレニア夫』になってしまってるそうである。――別人になるにも限度ってものがあるだろう、違う世界の俺よ・・・。

 そして、そのせいで俺は違う界の俺が犯していた様々な変質的セクハラ行為を償わさせるため、違う世界ではマザコンになっちまってたらしいお子様ラウラに恨みを抱かれて学年トーナメントで叩きのめしてやる宣言を受けさせられてしまったというわけだった。

 

 ――なんて、正当な怒りで理不尽な怒りでもある複雑事情! ラウラとしちゃ怒りたくなるのも分かるほど酷いヤツな織斑一夏だと俺も思うんだけど、大前提として俺別人だからね!? 住んでる世界が違うからね!? でも脳ミソが子供に戻ってる相手に理屈で納得させるとか不可能だからなぁー! コンチクショー!!

 

 とまぁ、こんな事情に巻き込まれている俺のため、この件に関しては他よりかは詳しい。・・・できれば詳しくなりたくなかったけれども・・・。

 

「うん、まぁ・・・一夏の気持ちはわかるんだけど・・・問題はそこじゃなくてさ・・・」

「・・・・・・???」

「ラウラがセレニアをお母さんって思っていて、セレニアもラウラのことを娘のように可愛がっていたなら、その場合には――――」

 

 

 

 

「・・・可愛い娘のそんな初歩的な弱点を放置しておくセレニアだったりするのかなぁ~って、ちょっと思っただけなんだけど、ね・・・・・・?」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 ・・・ほんの一瞬だけ、俺の思考は遙か遠い銀河の海の彼方まで旅立ってから戻ってきて、現実の地球に帰還してから爽やかな青い風に吹かれたような清々しい気持ちになると、確信を込めて俺はうなずきと共にシャルルに向かって返事をする。

 

 

「安心しろ、シャルル。完全無欠のヒーローみたいなヤツなんて現実にはいない。いくらセレニアだって、弱さの一つや二つか三つぐらい持っているさ当然。人間なんだから」

「あ、うん・・・。なんかマズいこと指摘しちゃったみたいでゴメンね一夏・・・?」

「はっはっは。なにを謝ってるんだシャルル。お前はなにも間違ってないじゃないか、気にしすぎるなんてバカだなぁ~」

 

 俺は空元気かもしれない笑いを満面に浮かべつつ彼女の肩をたたき、励ますように声をかけ続ける。

 

「だいたい完全無欠のヒーローなんて奴らはな、泣きもしなけりゃ笑いもしない、自分より圧倒的に強い強敵にも恐れることなく平然と立ち向かっていって、当然のように勝って帰ってきて誇りもせずに帰って行く。

 そんな人間らしい弱さとか小ささとかを持ち合わせていない、強い人間のこと・・・で・・・・・・」

 

 段々と自分の声が小さくなっていくのを自覚しながら俺は話し続けて、やがて途切れ、しばらくのあいだ沈黙が続き。

 ボソリと、シャルルが苦笑交じりに致命的な一言を口にする。“口にしてしまった”・・・。

 

 

「だいたい全部セレニアに当てはまっちゃってるね、完全無欠のヒーローの条件が」

「うぉぉぉぉっい!? 人がせっかく目を逸らしていた持論の矛盾点を指摘しないでくれませんかシャルルさ―――んッ!?」

 

 

 

 俺、絶叫!! 驚愕の真相再びである! もしくはリターンズだ!

 全く、なんてことだろうか! 俺たちが一週間後に戦う相手は完全無欠のヒーローの弟子だったのである! これは舐めてかかると痛い目に遭わされそうだぜ!! 注意しないとな!?

 

 

「・・・しっかし、今まであんまし深く考えてきたわけじゃないけど・・・俺の考えてたヒーロー像って、よく考えてみると、あんまりヒーローって感じがしないな・・・。むしろ悪役って感じがしてこなくもない」

「たしかにね。なんて言うかこう・・・聞いてた限りだと、『悪の帝国に仕える冷酷非情な軍師』って役柄の方が似合ってる気が僕にもしたかな・・・?」

「だな。なんつーか具体的には・・・『理屈としては完全に正しい意見しか口にしない、人の心なんか利用することしか考えない、光に付き従う影として汚れ仕事は全部引き受けて平然としているような人間味の欠片もない冷徹氷の総参謀長』みたいな感じの人にピッタリだった気がしなくもな―――ひッ!?」

 

 な、なんだ!? 今後ろから千冬姉にも勝る、すさまじい氷のプレッシャーを感じさせられたような気がしたけど、なんかいたのか!? 壁しか見えないけど、なんかいたような気がしたぞ今!

 一瞬だけのことだったけど、首筋に絶対零度のカミソリが宇宙の彼方から伸ばされてきて無造作に刈り取られていった幻覚を、一瞬だけ見せられたような・・・・・・そんな気がする!?

 

「ど、どうしたの一夏? 顔色悪いけど・・・なにか怖い物でも後ろに見つけたのかな?」

「い、いや・・・なんでもない。とりあえず俺の中でヒーロー像はもう一度よく考え直した方が良さそうだなって思ってただけだよ・・・・・・」

「・・・・・・????」

 

 

 なにかよく分からない得体の知れない恐怖の余波、が宇宙の彼方から伸ばされてきて巻き込まれちまっただけの被害者の一人になったような気にさせられながら、残り一瞬間の日数は過ぎていく。

 

 そして早い物で、試合当日まで後・・・・・・一日!!

 

 

 

 

 

 ・・・・・・そんな一週間が過ぎ去る中。某国の某社、某社長室において、こんな会話が交わされていたことを俺はついに知らされることなく、この事件の終わりを迎えることになる。

 

 

 それは深夜12時の出来事だった。

 仕事時間を終え、部下を帰し、世界三位のシェアを誇る大手IS企業デュノア社社長アルベール・デュノアが、心身共に疲れた身体をデスクの社長椅子に投げ出した次の瞬間。

 

 ――私的連絡用に設置してある専用回線が、突然鳴り響く音が室内にこだました。

 

「・・・・・・・・・」

 

 一瞬、逡巡を見せたアルベールだったが、そこは彼も歴戦の強者だ。この回線の存在を察知している時点で居留守など無駄な相手であることは自明。

 正面から受けて立つことこそが最善手となる相手だと、即座に見抜いてボタンを押して回線を開く。

 

 

「・・・夜分に社長室へいきなり直通回線を入れてくるとはな・・・。どこの誰かは知らんが、最近の若者は礼儀も心得ぬと見え―――」

『こちらは無礼にして、大人に対する守るべき礼儀も知らないIS学園の若造生徒、異住セレニアと申します。

 シャルロット・デュノア嬢の友人、と言えば少しは身に覚えのあるお話かと思いましたのでご連絡させていただきました。脅迫の内容をお話しさせていただいてもよろしいでしょうかね?』

「・・・・・・・・・」

 

 平然と、こちらが言い終わるのも待たずに一方的に語り始める画面に映った銀髪青眼のIS学園制服を着た女子生徒。

 話を聞く気はない、自分の話だけを聞けと、いきなり態度で示されてしまったアルベールとしては不愉快の極地な態度だったが、初手からジョーカーを切られてしまっては応じるより他に道はない。

 反論するのはいつでも出来るが、まずは相手の出方を見極める以外にやりようがない窮状に最初から追い込まれてしまったわけなのだから、彼としては他にどうすることも出来なかったのである。

 

『では、我々子供が尊敬すべき大企業社長のアルベールさんに、敬意と礼節をもって脅迫の文言をお伝えさせていただきます。

 二度は言ってあげませんので耳の穴かっぽじって聞いて、忘れたくなければメモするように。ただし録音は無駄ですので辞めておいた方がいいでしょうね。レコーダーが無駄になります』

 

 チッと、口の中で小さく舌打ちしながらアルベール社長は手元にある、録音ボタンに見せかけた外部連絡用のスイッチからさり気なく手を離した。

 この回線をハッキングできる時点で相手はプロだ、相手に録音されることを前提として脅迫してきていることはわかりきっていたから別のことに利用するつもりだったのだが、ここは素直に録音するだけに留めておいた方が安全そうである。

 録音した後に手を出す手段があるとは思わないが、不確定な安全性のために支払うほどのメリットがある手段でもない。

 

 

『結構です。では、お伝えしましょう。―――つまらない見栄張ってないで、とっとと娘さんに頭下げて謝って和解しちゃいなさい。

 そうしたらデュノア社が潰されずに済んで、フランス政府から力尽くで融資を受けられるようにさせてしまえるジョーカーを恵んでさしあげます。

 理由はどうあれ、自分の会社を傾けてしまった失態の責任は全て社長が負うべきなのが当然のこと。

 だというのに、男としてか親としてか、はたまた一度は成功を納めた者のプライド故なのか、娘に対してつまらない意地を張り、プライベートで頭を下げることも、亡きお母さんの葬式に出られなかったことを謝罪することも出来ない臆病者にプライドなんて持つ資格はありません。

 内実のないプライドなんか捨てて、とっとと娘に謝れ役立たず。社長としての責任がどうとか言うつもりなら、まずは失敗を認めて娘に謝ってからにしろ。

 それすら出来ない臆病者なら政府より先に私の法で処断してあげますけど、どうされますか? シャルロットさんのお父さん?』

 

つづく

 

 

オマケ『セレニアがアルベール社長の真の目的に気づいた理由説明』

 

セレニア「世界第三位の大手IS企業の経営が傾いていて、社長には隠し子がいて、隠し子は母親を失ったばかりで家は貧乏で、非公式でも国家代表候補に選ばれるほどの高IS適正保持者で、しかも性格外見ともに掛け値なしの美少女・・・・・・これだけ利用価値と利用方法がある人を社長直属の場所に置き続けてから、外部勢力の介入できない日本のIS学園に男装させて送りつける。状況証拠だけで真相の仮説を立てるには十分すぎると思われますが?」

 

アルベール「ぐ、ぐぬぬぅ・・・・・・(けっこう頑張って考え出した案だったので、意向を汲んでもらえてても悔しい)」




*必要ないかもしれませんが、一応のご説明です。

 今話の中で一夏が、別世界の自分とセレニアが結婚してたと聞かされても動じていない理由の大半はセレニアの方にあり、彼女の側が気にすることを許さない雰囲気を発散しちゃっているため意識し辛い状況にあるのが主な原因です。

 別世界に生きる同姓同名で同じような人生を送ってきた、この世界の自分たちが一度も会ったことのない赤の他人の話を一方通行で聞かされて、自分たちの方が勝手に意識し過ぎて振り回されるのはセレニアが最も嫌うバカバカしい状況の一つ。
 違う世界の会ったこともない自分たちが結婚してたからと、この世界の自分たちまで結婚してやらなきゃいけない道理もなし。

 他人の事情を気にし過ぎて、意識しないといけないような気分にさせられる思考法をやたらと嫌悪しまくっているのが今作セレニアの特徴だったりしております。
 ひねくれ少女なのでね?(苦笑)


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IS学園のひねくれ少女 第15話

前回ようやくデュノア家の事情に区切りがつきましたので、今作キャラ総登場のお祭り回を書いてみました。フリーダーム!…とか思ってたら箒を出すの忘れてたことに今更気づいた作者でありましたとさ…。


 六月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色にと変わる。その慌ただしさは一年生全員が強制参加行事であることから予想よりも遙かにすごく、今こうして第一回戦が始まる直前まで全生徒が雑務や会場整理、来賓の案内などを行っていた。

 

 しかも俺たち男子組が例によって、だだっ広い更衣室を二人占めできるのに対して、女子は同じ敷地面積の更衣室に本来の倍数を収容した室内で着替えなきゃならない。思っていたより女尊男卑時代の女子は大変なのである。――そんな中だ。

 

 ・・・ソイツは男子組二人だけが使うはずの男子更衣室前で待ち構え、俺たち二人に・・・・・・いや。俺一人だけに向けて、こう宣言してきたのだった。

 

 

「ふはははは!、です! よく来たなですね変態さん! 待っていたですよ! お母様のために!!」

 

 

 ・・・・・・アリーナの男子更衣室へと続いている道のど真ん中で、お子様モードのラウラ・ボーデヴィッヒが小さな胸の前で大きく腕を組みながら、小さな背丈を精一杯デカく見せつけようと背伸びしながら、デカい態度の上から目線で最大限俺たちの顔を見上げてきながら罵倒(?)するため待ち構えていたのである・・・・・・。

 

 なんとなく周囲を見渡してみると、そこにはたぶん各国関係者とか研究員とか企業エージェントとかのVIPを含めたそれなりの人数がアリーナに向かっている途中で足を止めて彼女に視線を集めており、明らかに通行の邪魔をしているにもかかわらず何故だか彼ら彼女らの表情と視線は微笑ましさで満ちあふれていて邪念が一切感じられない。

 

 ――要するに、同類(特殊性癖持ち)だけが残っていると言うことなんだろう・・・日本の将来どころか、女尊男卑社会全体の将来が心配になってきそうな光景であった・・・。

 

 

「OH! ジャパニーズYesロリコンNOタッチ! 日本の伝統芸能というヤツですね! 流石はゴールデンの国、ジャパン・・・ニッポン恐ろしい国です・・・」

 

 ・・・ってオイ! 今変なヤツ混じってなかったか!? IS学園に絶対入れさせちゃダメそうなヤツが混じってた様な気がするのは俺だけなのか!? この学園の警備網は本当に信用していいんだよな千冬姉ぇぇぇっ!?

 

「ラウラはこの日が来るのをイチジツセンシューの思いで待ちくたびれてオネムだったですよ! 今日こそインロウを渡してあげますから、覚悟するです変態さん!

 ラウラがギッタンギッタンにのしてあげて、『ギャフン!』と言わせてあげるのです! そして! ・・・えっと、えっと・・・それからえっとぉー・・・・・・」

 

 「ふっ」と小さな笑みを漏らしながら始まった格好付けたポーズと言い回しによる宣戦布告が始まってから崩壊するまでのタイムわずか五秒。今では始まったときのポーズのまま空を見上げて「?」マークを何個も頭上に浮かべているお子様高校生が目の前で同じポーズをとり続けている。

 

 ・・・なんとなくだが、どこかで同じような光景を見た気がしなくもないのは気のせいだろうか・・・? 覚えはないはずなんだけど、もしかしてこれがデジャブって奴なのか?

 ――ラウラと一緒に渡ってきた異世界の俺の記憶とかだったら滅茶苦茶イヤなので帰ってください心から。

 

「・・・こんな所まできて、なにやってんだよボーデヴィッヒ・・・。すげぇ似合わねぇぞ・・・?」

「???? センセンフコクするときには、こういう風にやるものだって鈴お姉ちゃんが教えてくれたですが?」

「お前かセカンド幼馴染み―――――――ッ!?」

 

 

 驚愕の新事実が、当事者の口から大暴露! なんと俺を巻き込ませていたのは俺の幼馴染みで、目の前の強いだけなお子様は騙されて利用されてただけだった件について!

 定番展開のはずなのに、俺全然怒り沸いてこれないんですけど、これを一体どう接しろと!?

 

「とにかく!です! 変態さんはラウラと出会ったころからナニヒトツ変わってなくて、最初からずっと変態さんは変態さんのままで、それはえっちたしか、ジュウネンヒトヨのランプ魔神さんみたいな感じで、えーと、えーと、ん~~~~んとぉ・・・?」

 

 ラウラの演説(?)が続いている・・・。

 本当だったら白けるところだし、無視する所なんだけど相手子供だしお子様メンタルだし。どうすりゃいいのか分からずに俺は判断が決められず、周りの連中は生暖かい目で見ているだけでバカにはしてないけど助けてもくれなくて。

 仕方なしに、こういうときのお母さんスキル持ち、優しく相手に合わせてくれるシャルル女神に降臨願うしかないわけで。

 

「えっとね、ラウラ? もうすぐ大会が始まるから君も更衣室にいって着替えたほうがいいと思うよ? 時間に遅れちゃうからね。お母さんからも『待ち合わせ時間には遅れちゃいけません』って言われてるでしょ?」

 

 優しい笑顔で、子供に視線の高さを合わせて柔らかく諭すように言ってあげるシャルル。

 流石だ・・・流石だぜシャルル! 俺にはやはり君が女神に見えてきそうになるぜ・・・!

 

「大丈夫ですお父様! ラウラ、そこのところもちゃんと準備してきたですから!!」

「いや、そういう意味じゃなくてね? ・・・って、え? お父様? ちょっと、ラウラ、そこの所をもう少しだけ詳しく聞かせて―――」

 

 

「ラウラ、出かける前にセーフクの下にISスーツ着てきたですからお着替えしなくても大丈夫なんです! だから大丈夫なのですお父様♪」

 

 

『子供か!? 小学生か!? あと、ここって確か国立の高等学校だったはずだよな!?』

 

 

 

 ・・・流石にこれには見物人たちも盛大にツッコんでくれて、そのお陰で終わらせられた戦う前の無駄会話。

 本当に・・・無駄で不毛で消耗だけが激しい舌戦(?)だったぜ・・・・・・。

 

「では、試合会場でまってるですよー♪ 必ず来ないとダメですからね変態さーん!? 逃げたら絶好ですもん! それじゃ試合までバイバ~イ♪です☆」

 

 ブンブン手を振りながら背を向けて去って行き、途中で振り向いてまた手を振り、そして去る。また振る。

 

「・・・なんていうかこう・・・・・・嵐みたいな子だよね、あの子って・・・・・・」

「・・・そうだな・・・。嵐っていうか、嵐を呼ぶ小学生とか、そんな感じの単語が昔あったことを思い出す試合相手だわ・・・」

 

 シャルルの将来がかかった大事なトーナメントの前に、いきなり気勢をくじかれまくりながら、ノロノロとした動作で俺たち二人は更衣室に入って着替えを済ませ対戦相手が発表されるまでの間に精神消耗の回復に充てることにする。・・・本当疲れた・・・。

 

 

 ところがだ。

 

 

 

 

「――あ、やばッ!!」

 

 試合中はトイレに行けないからと、用を足しに行った先で先ほどの真犯人を発見! 俺は全力でソイツを捕まえて説教してやるため全速力で追いかけ始める!!

 精神的に疲れてるとか言ってられるか! コッチはいい迷惑かけさせられたんだ! 一言言ってやらなきゃ気が済まん!

 

「待ちなやがれ、鈴! テメェさっきはよくも俺を巻き込んでくれたな! 少しぐらいは反省しろや! この駄幼なじみ!?」

「ち、違うのよ一夏! あれは・・・そう! 正当防衛よ!!」

「何がだ!?」

 

 なんか俺のセカンド幼なじみまで小学生みたいな言い訳しだしたぞオイ!? 最近では女子たちの間でそういうのが流行なのか!? 古くさいのは俺だけじゃなくなってるのか!? 答えろぉぉぉ鈴!!

 

「ちょ、ちょっと待って落ち着いて一夏! 落ち着いてあたしの話も聞いてちょうだい! あたしは決してあんたに迷惑をかけたくてラウラにあんなことを教えたわけじゃないの! 本当よ! 信じてちょうだい!」

「・・・・・・じゃあ、なんでだ? 何であんな訳わかんないこと教えて俺を巻き込んだんだよ?」

 

 相手の目が嘘をついてない、澄んだ瞳の色だったから一先ず殴るのは保留にして話を聞いてやることにする俺。

 たしかに俺は男で、鈴は女だ。俺にはわからない女ならではの止むを得ない事情という奴があるのかもしれない。少なくとも・・・殴るのは何時だってできるのだけは間違いない。話を聞いてからでも遅くはないのだから・・・。

 

「あたしは・・・あたしはただ! “本当にカッコいいと思って”教えただけよ! ああなったのは結果だわ! だから、あたしのせいじゃない!」

「子供か!? 子供の屁理屈か!? あと、好みと趣向がお子様すぎるわ!?」

 

 子供みたいなナリしてても心は女子高生なはずのセカンド幼なじみまで、子供みたいなこと言い出しちまったんだけど!? 俺たちがコンビネーションの特訓している間に一体何があったんだコイツらは!?

 俺のセカンド幼なじみと当面ライバルの言うことが子供すぎる!!

 

 

「・・・おや、デュノアさんを探しに来たら織斑さんがツッコんでいましたか。こんにちは~」

「本当ですわね、それに鈴さんもいますわ。もうすぐトーナメントが始まるみたいですし、早く移動してくださいな。一緒に遅刻で不参加はゴメンですわよ?」

 

 そうこうしてる内に通路の向こうから、セシリアとセレニアの二人組が出てきて声をかけてきた。

 さらに続いて、俺の帰りが遅いのを気にしたらしいシャルルまでもが遠くから近づいてきてる姿を見つけたから、狙ったわけでもないけど結果的に俺のIS学園における知人がほぼ全員集合してしまった形になる。

 

 いないのはファースト幼なじみの箒だけか。・・・考えてみるとアイツって、あんまし誰かと一緒に出てくることって少ないよな。

 もしも、ぼっち化してた場合には久しぶりに再会した幼なじみとしてどう接すれば良いのだろう・・・?

 

「おう、セシリア。それにセレニアも一緒か。今日はお互い全力を尽くそうぜ」

「ええ、もちろんです。わたくしも二度続いてビギナーに後れを取るわけにはいきませんので、今回は最初から全力で行かせていただくつもりです。覚悟してくださいましね? 織斑さん」

「ふっ、そいつは楽しみだ。返り討ちにしてやるぜ」

 

 ニヤリと不適に笑い合って、「コツン」と拳をぶつけ合う俺たち。友達と呼ぶには微妙に距離があるままだけど、IS操縦者として競い合うライバルとしちゃいい関係が築けてきたみたいでなによりだぜ。

 

「・・・そう言えば、セシリアは鈴と組んで出場するんだよな? だとするとセレニアは誰と組む予定なんだ? あらかた知り合いは出尽くしちまった気がするんだけど・・・」

「ご心配いただいてどーも。私は布仏さん・・・・・・織斑さんにもわかりやすく呼び方で言うところの、のほほんさんとペアを組んで参加登録だけはさせて頂きましたよ」

「おう、のほほんさんか。そりゃまた相性良さそうなタッグで何よりだ」

 

 俺は頭の中でクラスメイトの一人を思い浮かべると、納得してうなずいて了解の意を示した。

 二人ともちっこくて、運動神経はあまり良くなさそうで、部分的に出るところは大きく突き出している者同士、仲良くやってる姿は結構よく見かけてる。

 性格的には水と油ってぐらい違う者同士だけど、案外そっちの方が上手くいくのが人間関係なのかもしれなかった。俺とシャルルがそうであるみたいにさ。

 

 ・・・とは言え。

 

「・・・・・・一応聞いておくだけだけど、大丈夫なのか? いや、相性の問題とかじゃなくてその――体力面とかの問題が、さ・・・?」

 

 少し気まずい思いをしながらも、俺は級友に確認を取る。

 セレニアは見た目通り体力がなくて、スポーツに関係することでは全般的に完全無欠に無能になることを自他共に公認してきた奴である。のほほんさんだって決めつけるつもりはないけど、運動神経抜群ってタイプではない可能性が高そうな見た目をしている。

 

 もちろん学校行事なんだし、かならず結果を残さなくちゃいけないってものではないけど、怪我とかそういうのを心配してしまうのは男として以前に人として、そして友達として当然の義務だと俺は思っている。

 

 本人も言われる程度しかない自分の脆弱さには割り切りがついているのか肩をすくめて「ご心配なく」と答えてきながら。

 

「傷つけないよう気を遣って頂いて感謝しますけどね。自分の欠点にかんすることですから割り切りは済んでますし、対処法は考案してあります。織斑さんが案じているような事態にだけはならないことをお約束いたしましょう」

「・・・そっか。それならまぁ安心していいのk―――」

「ちゃんとトーナメントが開始した直後に、『体調が悪くなる予定』で病欠することは内定もらってますのでご安心くださいませ。普通に私は参加しませんのでトーナメント中は安全ですよ」

「安心できねぇぞ!? お前までなに子供みたいなことやっちゃってるわけ!?」

 

 学校主催のスポーツ大会で、堂々とサボりを公言して恥じらいも見せない女子高生という驚異のお子様振りを発揮してくれた級友に、俺は全力全開でツッコミを入れる!

 なんで今日に限って俺の周囲にはガキしかいなくなってるんだよ!? なんかの呪いか!? お子様ラウラ病が伝染してるのか!? それとも異世界の俺の知人はみんな中身はこんなだったりするのかコンチクショー!!!

 

 が、しかし。大声を出して怒鳴る俺とは別に、別の視点で過去を見ている奴もいたらしい。

 

「あー・・・、でもそれ最良の手段かもしれないわね・・・。また『第二次ストックホルムの悲劇』を繰り返されたら酷すぎることになるかもしれないし・・・」

「うぐ・・・、あ、あの事件か・・・。確かにあの悲劇は二度と起きて欲しくないとは正直思わなくもないからなぁ・・・」

『あの事件?』

 

 遠くを見るような視線で鈴が口にした単語に、俺がイヤな顔して反応を返して、セシリアとシャルルが不思議そうな顔して小首をかしげる。

 ・・・そうか・・・この二人は知らなくて当然の立場だったんだよな・・・。じゃあ、説明するのは仕方がないのか、クソゥッ! せっかく中学を卒業して忌まわしい悲劇の記憶から逃れられると確信していた矢先だったのに!!

 

 

「あれは、中学一年の時のことだった・・・その頃からセレニアは今みたいな理屈でスポーツ関連の行事すべてを病欠してたんだが、先生たちからみれば面白いはずがない。

 何度かのやり取りを経た秋頃に体育教師の一人がブチ切れて、『登校してきたときに参加できる体調だったら病欠は認めない!』と言って、マラソン大会にセレニアが参加せざるを得なくしてしまったんだよ。そしたら――」

「そしたら、どうなりましたの?」

「周囲の見物人とか先生たちから『頑張れ!』とか『諦めるな!』とか言われまくってる中でも平然と一定のペースを守りながらセレニアはゴールを目指し歩き続けて、必要だと判断したら自主的に休憩を取り、休んで体力回復してから歩くのを再開する・・・・・・こうしてセレニアの参加した年のマラソン大会は、開催史上最長の競技時間を記録することになったんだ・・・」

「・・・・・・はぁ」

「歩いてるとは言え、一応は生徒の女の子がゴールを目指し続けてるわけだから、さすがに審判役とかゴール地点で到着をゴールテープもちながら待ってる先生たちだけ先に帰宅するわけにも行かない。

 秋の寒空の中、いつ到着するともしれない生徒のゴールを待ち続け、夕方頃になってようやく完走できた生徒を迎えたとき、先生たちの半数は風邪を引いていて、翌週の日曜明け月曜日から数日後まで先生不足の状態が俺たちの学校では続いてしまったんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「そして、とどめとしてセレニアも風邪を引いて、しかも他の誰より悪化して救急車呼ばれて病院に担ぎ込まれるまでに至り、アイツの言っている『体調が悪くなる予定』という主張が正しかったことが証明されてしまい、果たして誰が悪かったのか、誰の責任として責めればいいのかと、学校中はしばらく揉め続けたんだ・・・・・・。

 その事件以来、うちの中学校ではセレニアのスポーツ関連行事の参加を自主的に病欠させることは被害を押さえるため必要悪と判断され、新入生や新任教師が赴任してくるたびに事前説明がされるようになっていった・・・・・・それが『第二次ストックホルムの悲劇』と、誰が言い出したのかよくわからない名前で呼ばれてる事件の全容だよ・・・・・・」

 

「あれは悲劇だったわよねぇ・・・・・・、一番責められるべき奴が一番被害受けてたから責められないし、病院に責任追及しに行くわけにも行かないし・・・・・・まさに悲劇というか、悲喜劇だったわ・・・」

「それは本当に悲劇ですわね・・・・・・他人からみたら笑い話でしかない内容なのに、実害を受けた規模が大きすぎますから当事者たちは笑えませんもの。喜劇的な悲劇すぎて泣けてきそうですわ本当に・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・コホン」

 

 口々に過去の黒歴史を突かれまくって、さすがに気まずい思いをさせられてきたのかセレニアが一つ咳払いをすると、俺の後ろで苦笑しながら状況を見守っていてくれたシャルルに対して「おいでおいで」をしながら、少しだけ赤く染まった頬のままで声をかけ、話題を変えてくる。

 

「まぁ、そういう変えることのできなくなった過去の出来事は、今は置いておくとしまして。――デュノアさん、織斑先生がお呼びです。第二連絡室まで来て欲しいとのことでしたよ?」

「僕を? 織斑先生が? ・・・なんの用だろう・・・? いまいち呼ばれる内容に心当たりがないんだけど・・・」

 

 シャルルが首をかしげながらオウム返しに問い返して、セレニアも「さぁ?」と首をかしげながら返事を返す。

 実際、呼ばれる理由は俺にもよく分からない。たしかにシャルルの正体のことは千冬姉に伝えてあるけど、そのことで今呼ばれる必要があるかって言うと何もない・・・と、俺は思う。

 それとも何か変化が起きたのかな? 俺も行った方がいいかもしれないけど、でも今回は千冬姉が名指しでシャルルだけを呼んでるみたいだしなー・・・。う~ん、判断に迷うぜ。

 

「私も、『デュノアを呼んでくるように』としか言われてませんのでね。内容まではサッパリなのですよ。まぁ、それほど急いではいなさそうでしたので今みたいに駄弁ってからお伝えしたわけですし、難しい要件ではないと考えていいのではないですかね? 多分ですけども」

「そっか・・・そうだね。うん、わかった。行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 そう言ってセレニアには返事を、俺たちにはすぐ返ってくる旨を告げて連絡室に向かうシャルル。

 まぁ、セレニアの言ったとおり急いでなかったって言うなら、本当に大した用事ではないんだろう。千冬姉だったら生徒のことで重大事がおこってたら急がせるだろうしな。

 俺たちはシャルルがいつ帰ってきてもいいように、試合の準備を万全にしとけばそれでいっか。

 

 

 

 

 

 

 『第二連絡室』と、書かれたネームプレートのかかる部屋の前で僕は大きく息を吸って吐いてから戸を叩き、自分の入室と来訪目的を告げてから中へと入る。

 

「1年1組、シャルル・デュノアです。担任の織斑千冬先生に呼ばれて参りましたので、入らせて頂きます」

 

 やや丁寧すぎる口調で言いながら、僕は室内へと入る。

 理由は言うまでもなく、一夏たちが色々やってくれた今回の処置を、僕一人の軽率な行動で無駄にするのを避けるためだ。

 礼儀正しすぎるぐらいで丁度いいのが今の僕の立場なんだから、目上が相手の時には可能な限り低調な態度を意識しないとね。部屋に入るとき、頭を下げながら入室するのだって基本だよ。

 

「・・・来たかデュノア。顔を上げろ」

「はい、先生。失礼しま・・・・・・ッ!?」

 

 顔を上げた瞬間、僕は正直『謀られた!』って、思わざるを得ない心境に立たされていた。『連絡室』と言う名前にもう少し気をつけておくべきだったかもしれない・・・。

 なぜなら、織斑先生がたたずんでいるスクリーンの大画面に映し出されている人の名と顔と表情とを、今では僕が他の誰より知ってしまっている立場にある人のそれだったのだから・・・。

 

「本来ならば、詳しい事情を説明してやるべきところだし、私の方も聞きたいことが山のようにある事案だが――トーナメント開始まで時間がない。お前一人のために割いてやれる時間は多くない以上、今はなにも問わん。すべてはトーナメントが終わるまで学園側はこの件について一切の介入をする気はない。これが学園長の下した決定であることを伝えておく。

 ―――あとはトーナメントの時間まで、自分たちだけで好きにやるといい・・・」

「・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」

 

 一方的に告げるだけ告げて、僕の横を通り過ぎ、背後の扉へと向かって歩み去って行こうとする織斑先生は、最後に「ぽん」と僕の肩を叩いてくれながら耳元に口を近づけると。

 

「・・・たとえ親が原因だとしても、子がやってしまったことは自分が責任を負わされるものだ。

 どんな結果になっても自分以外のせいにはしなくて済むよう、言いたいことは言えるときに言っておけ。以上だ」

「・・・!! は、はい・・・・・・」

 

 小声でそう言ってくれてから退室して、扉が閉まる。

 二人きりしかいない室内に僕と父だけ――いや、所詮この人は画面の向こう側から話しかけてきてるだけで、僕は今も部屋に一人だけでいる。今も昔も、この人は僕のことなんて見てはいない・・・。

 

「・・・おと――」

『私は会社のことで忙しい。お前に与えた任務のことで割ける時間は二分だけだ』

「―――っ」

 

 実に機嫌が悪そうに僕の言葉を切って捨てて、『仕事の話』を娘に向かって一方的に通達してくる僕の父――デュノア社社長のアルベール・デュノア。

 

 しょせん、この人はこういう人だ。今さら失望なんかする余地は残ってない。

 僕はこの人にとって道具でしかないし、会社を維持するために便利だから使い捨てる程度の価値しかない愛人の娘で、デュノア社社長の地位から見たら汚点でしかないのだから・・・・・・

 

 

『お前に与えた任務とは別に、今日のトーナメント結果は我が社にとって重要事たり得る。

 よって、社長である私自らお前の試合を見定めることになるだろう』

「・・・・・・はい」

 

 それは当然のことだ。デュノア社がフランス政府から融資を得られなくなった直接原因はイグニッション・プランのコンペに新型機を開発して発表できなかったことだけど、そうなった原因はIS開発技術力で他国の企業に差をつけられてることにある。

 イグニッション・プランの有力候補である、《ドイツのレーゲン型》、《イギリスのディアーズ型》この二機種を基にコスト度外視で開発した専用機がラウラの《シュヴァルツェア・レーゲン》で、セシリアさんの《ブルー・ディアーズ》。

 

 技術力で勝っているはずのライバル社が開発した第三世代機が、第二世代のカスタム機に敗北させられるか、少なくとも技術力の面で弱点を露呈させることさえできれば『他国の企業よりIS開発技術が低い』というフランス政府がデュノア社を責める大義名分を奪うことになるし、最悪の場合イタリアの《テンペスト型》だけが一人勝ちするなんて事態にもなりかねないからドイツやイギリスの開発元だって対岸の火事と笑ってみているわけにはいかなくなるだろう。

 

 その程度のことは言われなくても僕にも分かる。分かり切っていることでしかない。いちいち命令する必要も説明されるまでもない。

 だから本命はここからだ。命令があるのは今からなんだ。今度はなにを自分の娘にやらせるつもりなのか、僕は諦めきった心に衝撃に備えたフィールドを張りながら、来たるべき酷い言葉を待ち続け・・・・・・。

 

 

『・・・新たな通達事項は以上だ』

「え・・・?」

 

 思わず顔を上げて画面を見上げ、画面に映る相手の顔を見つめがら『嘘だ』と思って続く言葉を待ち続ける僕と、伝えるべき命令を伝え終えて『これ以上の時間を割く必要がなくなった娘』を黙ったまま見下ろし続けているデュノア社長。

 お互いに黙り込んだまま、十秒が過ぎて、二十秒が過ぎて、三十秒が経過して。

 

 いつしか、画面の左下に表示されている時間が通告していた二分に達して、今まで二回しか会ったことはなく、会話も数回しかしたことがない疎遠な父親と娘とが二人きり、同じ部屋で過ごした時間の最長記録を更新した頃。

 

『時間だ。切るぞ。――試合の成果を楽しみにしている』

 

 と、話し始めたときと同じで一方的に話を終えて、向こうから通信は切られる。・・・最後の会社社長として『成果を上げろ』と命令してきただけの部分を、わざわざ言い淀んでから不機嫌そうな表情で言ってから通信は父の方から切られたのだった・・・。

 

「ふふふ・・・・・・」

 

 思わず僕は笑ってしまった。自分の単純バカさ加減がおかしくなったのだ。

 こんな良くある出来事で。三流ドラマのお涙ちょうだい展開で。普通の家族と比べたらできない方がおかしいと罵倒されて当然のことしかしてもらっていないと分かっているのに。それなのに―――。

 

 

 許したがってる自分がいる。許せないと思わないと怒りを維持できない自分がいる。

 二度と希望なんか持ってやるものかって決めていた父と娘の関係に、懲りることなく希望を持ってしまってる自分がわずかに、でも確実に生じてしまった自分自身の心の内側を僕は今、確かに実感させられていたからだ・・・・・・。

 

 

「・・・自分で思っていたより、ずっとチョロかったんだなぁ僕って・・・・・・。

 これじゃあ将来、ダメな男の人に引っかかって身を持ち崩しちゃいそうで、怖くて怖くて仕方がないね本当に・・・・・・」

 

 

 たとえるなら、あんな安っぽいセリフで娘を口説き落とせる父親に口説かれ落とされた自分の母親のような未来が待ってるみたいで、怖くて怖くて仕方がなくて。

 ――思わず笑っちゃいそうで困るよね? お母さん・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で? これで良かったのか異住」

 

 私は『第二連絡室』の扉の前で壁に寄りかかりながら腕を組み、傍らに立っている弟と同年齢でありながら妙に達観している銀髪青眼で低身長な少女の頭頂部を見下ろしながら問いかける。

 

 相手の少女は「さぁ?」と、適当な仕草で肩をすくめて応えを返す。

 

「良いか悪いかは本人たちの決めることですからねぇ。他人がどうこう言うことでも、決めることでもありません。なにしろ、自分たち家族の問題ですからね。

 他人ができることなんて意固地になってる双方に、きっかけを与える程度が関の山です。

 なので良いか悪いか未来のことは、私にゃなんとも言えません」

「・・・世の責任問題にうるさそうな連中が聞いたら眉をひそめそうな考え方だ、相変わらず・・・」

 

 私もまた肩をすくめて、今回の脚本家兼演出家兼裏方兼、すべての黒幕だったとしても不思議ではなさそうな弟の級友を見下ろしながら、思いを馳せるのは別のヤツの存在。

 今回の一女子高生がやるにしては大きすぎる規模の解決手段を、提供できそうなヤツに心当たりがある私としては、ヤツとコイツとの関係について聞きたいことが山ほどあったが、聞いたところで答えてくれるヤツだとも思っていないし、下手に答えられた方が情報に振り回されそうな気もしてなかなか決断できずにアンニュイとしていると。

 

「――対戦表」

「・・・なに?」

「トーナメントの対戦表が発表されたみたいですよ。今画面に映し出されたところです」

 

 言われて目をやると、たしかにここからでも見える小さな画面にトーナメント第一回戦の対戦者チームが表示されていた。

 機械による完全ランダム制の組み合わせで選ばれたのは―――

 

 

「デュノア・織斑ペアVSラウラ・篠ノ之ペアか・・・・・・おあつらえ向きな組み合わせになったな」

「そうですね。まるで誰が仕組んでくれたみたいに、ご都合主義的なタイミングの良い組み合わせです。偶然なのはわかっていますけれども」

「・・・・・・」

「それでは私はラウラさんの方に戻るとしましょう。あんまり放置し続けてるとよくないのは、あの人も似たようなレベルですのでね」

「・・・デュノアには言ってやらなくていいのか・・・?」

「なにか言っておいた方がいいと思われるのなら、言いますが?」

 

 意地の悪い質問に、意地の悪い返しをされて私は肩をすくめるだけで答えとし、相手もまたペコリと一例だけ残して去って行ってしまう。

 

 ・・・あんにゃろう・・・いつか絶対、あの鉄面皮を崩させてみせるから覚悟しておけよ――などと私怨を抱くほど子供ではない私はデュノアに対戦表について知らせてやるため連絡室に戻り、何食わぬ顔で用件を伝えてから部屋を追い出す。

 

 祭りが始まろうとしていた。新入生たちにとってIS学園最初のお祭りイベントが・・・・・・

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『今作における《VTシステム》の使い道』

 

束「頑張って! 頑張ってクロエちゃん! その調子で強く思えば、キミの身体が黒く染まって、勝利を寄越せとちーちゃんみたいに強くなれるよきっと! たぶん! おそらくはだけど!!」

 

クロエ「ぜぇ、ぜぇ・・・い、いや流石にこれは無理ですから、不可能ですから・・・ぜぇ、ぜぇ・・・」

 

束「そんなことないよクロエちゃん! 信じればきっと夢は叶う! 自分を信じて! イエス・ウィ・キャン!!」

 

クロエ「・・・と言うか、なぜ私の《黒鍵》に犯人から未然に奪っておいた《VTシステム》を搭載させて使ってみるようご命令されたのですか束様・・・。変質したラウラ・ボーデヴィッヒに代わって、私が担うべき役割とお考えになっていることは分かるのですが、そもそも何に使うおつもりなのかがサッパリでして・・・」

 

束「え? いや、そんなこと考えてないよ? ただ、『“クロ”エ』で、《“黒”鍵》で、黒い泥に染まったISになる《シュヴァルツェア・レーゲン》繋がりでいけるかなーって、思ってただけで」

 

クロエ「それだけ!? ――だったのですか!?」

 

束「うん、それだけ(ケロリ)」

 

クロエ「・・・・・・(゚_゚;)」

 

 

*今作の束さんは色々な黒い感情と無縁なため結構フリーダムこそジャスティスな人となっております。



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『我が征くはIS学園成り!』第13章

ハイドIS更新です。明日予定があるため、今日頑張った次第。そのぶん誤字とか多すぎるのはご勘弁を…直してる時間が得られなかったので…(ペコペコ)


「僕はね、一夏。愛人の子供なんだよ・・・・・・」

 

 ――そう言って語られ始めた、シャルルが抱え続けてきた実家の秘密。

 世界第三位を誇るIS企業デュノア社の経営難と、娘に命じられた企業スパイの任務、シャルルの実母の病死と、再会したばかりの父親から冷たい仕打ち、娘の中でわだかまる様々な感情・・・・・・

 

 それら『彼』だと思っていた『彼女』の口から語られる内容は、普通に世間一般を知っている十五歳の少年でしかなかった一夏を絶句させるに充分すぎるものであり、世の中の矛盾や不合理さを一般的な十五歳の日本人少年レベルでしか感じたことがないまま判った気になっていた自分自身の甘さを再確認するには過剰すぎるほど負の熱量に満ちたものだった。

 

「とまぁ、そんなところかな。――ああ、なんだか話したら楽になったよ。聞いてくれてありがとう。それと、今まで嘘ついていてゴメン」

「・・・・・・いいのか、それで?」

 

 深々と頭を下げてくるシャルルの肩を掴んで顔を上げさせながら、思わず一夏は問いたださずにはいられない。

 

「え・・・?」

「それでいいのか? いいはずないだろ。親がなんだって言うんだ。どうして親だからってだけで子供の自由を奪う権利がある。おかしいだろう、そんなのは!」

 

 驚き戸惑う相手を前にして織斑一夏の激情は止まらないし、止まれない。

 彼は幼い頃に金銭的な理由から両親に捨てられており、姉の千冬が働きながら女手一つで育ててもらってきた過去を持つ。

 借金を残して子供たちを捨て、自分たちだけが幸せになろうとする両親という存在には条件反射と言っていいレベルで嫌悪感と怒りを同時に抱かざるを得ない精神的土壌を持って育てられてきているのである。

 

 ――が、しかし。

 今の彼らは誰一人として知る由もないことだが、それら全ては姉の千冬の創作話であり、ハッキリ言って出任せである。

 確かに自分たち織斑姉弟が、創造主たちの勝手な都合で生み出された最強新人類なのは確かなのだが、別に彼らは親でもなければ血の繋がりもなく、人工的にヒトを造り出そうとしたMAD集団でしかなかったため世間一般の親のエゴとは別格の邪悪さを誇る極悪人共だったため、彼らとデュノア家の親たちを同類扱いするのは後々になって考えてみると酷い事しているように見えなくもないし、一方で研究者たちの犯した罪悪を軽減させてしまっているという見方もできてしまう。

 

 だが、そんな真実は今の一夏は知らない。知らないから関係ない。ただ目の前で語られた事実に対して怒りを抱いて、会ったこともないデュノア父を自分たちを捨てた両親と同類と思い込んで激しい怒りを抱いて罵倒するだけである。

 

「親がいなけりゃ子は生まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって、親が子供に何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことがあるか! 生き方を選ぶ権利は誰にだってあるはずだ。それを、親なんかに邪魔されるいわれなんて無いはずだ!」

 

 ・・・ちなみにだが彼の姉は、今の彼と同じ理屈で自分たちを生み出した親たちの研究者どもから、どのような手段で自由に生き方を選ぶ権利を勝ち取ったのか・・・・・・今の彼は知りません。

 人は今の自分が知ってることでしか善悪を計れない生き物である。○か罰か?

 

「・・・・・・悪い、つい熱くなってしまって。俺は――俺と千冬姉は両親に捨てられたからさ・・・」

「あ・・・、その・・・・・・ゴメン」

「気にしなくていい。俺の家族は千冬姉だけだから、別に両親なんて今さら会いたいとも思わない」

 

 注:たぶん会いたかったとしても物理的に会えません。主に姉が原因で。

 

「それより今は、シャルルがこれからどうするかが問題なんだが・・・・・・」

 

 そこまで勢いよく言葉を続けてきた一夏だったが、流石にそろそろ“不気味さ”を感じ始めざるを得なくなってきてしまったため、少しだけ勢い緩めてチラリと自分たちから少し離れた場所に座って同席している少女に対して視線を向けて。

 

「・・・ハイド、お前はどう思うか聞いていいか? ――ってゆーか、シャルルの話ちゃんと聞いてんだよな? お前って・・・」

 

 少しだけ信頼しきれないナニカが混ざった疑問形で質問して、一夏は自分とシャルルのクラスメイトにして、ワケガワカラナイ理由で同席することになってしまったデュノア家の秘密暴を聞かされた者の三番目に選ばれていた少女、シュトロハイドに向かって問いかける。

 

 ハイドは両目をつむったまま一言も発することなくシャルルの話を聞き続け、一夏の自室にあった座布団の上に座って座禅を組んだ姿勢のまま微動だにすることなく、ただジッと何かを待っているかのように見えなくもないポーズを維持して、この場に居合わせ続けていたのである。

 

 ショージキな話として、『秘密の話するから』と部屋から追い出しても追い出さなくても、受ける被害はあんまし変わりそうになさそうだなーと思ったから同席を許可していたのだが・・・(要するに被害を受けさせられること前提になっちゃってる思考方)

 

 シャルルの話が始まってからず~~~~っと黙りこくったまま目も開かず、ジ―――ッとし続けているため、いい加減ちょっとだけ不気味さを感じざるを得なくなってきた次第です。

 

(・・・って言うか、コイツって一応はドイツ人じゃなかったっけ・・・? なんで座布団? そして座禅って・・・。つくづく国籍不明感満載すぎるヤツだなおい・・・)

 

 そんなことを思わざるを得ない、ハイドが前世で日本人少年だった過去を知らない織斑一夏だったが、普通の日本人少年でも座布団座って座禅しながら人の秘密の話暴露は聞かないため、知ってたところで似たような別の疑問を思っただけのシーンだったかもしれないけれども。

 

 やがてハイドは「すぅ・・・」と瞼を開いて一夏たちを見つめ直すと、厳かな口調でこう答えを返したのである。

 

 

「聞いていた。

 デュノア君が『フランス版シンデレラみたいな家族設定の持ち主』で、『親に命じられたのが犯行動機だけど実行犯は彼女だから法律的にヤバい』『法的にはともかく人情論で見た場合には悪くない彼女の非合法行為を無罪放免させる方法はないだろうか?』

 ―――という話であろう?」

 

 

「身も蓋もねぇなオイ!?」

 

 

 驚愕のあまり一夏は叫び、シャルルは落ち込み一瞬だけだけど身投げを考える。

 ・・・いやまぁ、ハイドの言うとおりの事情と状況ではあるんだけれども・・・。

 

 人の気持ちとかを問題にした場合には一夏の方が正しくて、文章にしたら3ページぐらいは書き終えるのに必要そうな量の家族事情を話し終えてしまった後のシャルルとしてはもっとダメージでかいので辞めてあげてください本当に。

 

「たしかにデュノア君のやったことは、褒められるべきことでは決してない。法とは守る為にあり、守らねば秩序は失われよう。

 金がなかったから、飢えていたから、犯人が子供だったからと言って、他国の学校に偽の身分で入学して良いことにはならず、人を殺すことができる強力な兵器の情報を不正取得することを正当化する理由にもなるまい」

「うっ、ぐ・・・・・・そ、それは・・・」

「――が、しかし。しかしである!!」

 

 カッ!と両目を見開いてシャルルを見つめ、つい先刻まで考え続けて導き出すことがようやく出来た結論を、ハイドは自信を持って笑顔と共に口にする。

 

「私はドイツの代表候補生とやらいう身分らしいのでな! フランスの問題を耳にしたところで密告しなければならぬ義務もあるまい!

 日本人少年が保有する専用機のデータが盗まれそうになったからといって目くじら立てるべき理由も持たぬ! まして治外法権の地であるIS学園に義理立てすべき理由は何一つ無し!!

 何も持たぬが故に個人的感情のみで行動してよい身分にある者として、喜んで協力させてもらうぞシャルル・デュノア君! すべては個人的主観という名の正義の為にである!!」

「あ、うん・・・。ハイド、ありがと、う・・・?」

 

 堂々と宣言されてしまった「関係ない赤の他人だから気にしないで罪の罰逃れに協力するぜ説」を聞かされて、なんとなく釈然としないながらも一応はお礼を言っておくシャルルちゃん。いい子ですね。

 

「・・・・・・何故だろうか・・・。協力してもらえると言われたのに、なんだか無性に腹が立つ言い分だったように感じてしまうのは俺が狭量だからなんだろうか・・・? 教えてくれ、千冬姉・・・俺に人の正しい姿を教えて導いてくれ・・・」

 

 そして、釈然としない思いをプルプル震える拳にぶつけ、行き場のない激情を発散させようと試みている織斑一夏君。微妙にいい子ですね。これからも真面目に生きていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、あらためて『第一回デュノア君の違法行為を裁かせないにはどうすればいいか会議』を開催することになったわけであるが・・・」

 

 

 体勢とメンバーの配置を変えて仕切り直した一夏たちは、何故かは知らねど座長各に昇格してしまっているハイドに一々ツッコミ入れるの面倒になってきたから一旦無視して話を進めさせ、それぞれに考え出した解決策を提案していこうという運びとなっていた。

 所謂、ブレインストーミングによる無礼講で、円卓の会議である。

 そして円卓の騎士たちはアーサー王に仕える騎士たちの集団なので、座る机が円形ってだけで序列はあるし座長は常に国王様である。当たり前~。

 

「では、私から先に述べさせてもらおう。私の考えた解決策は三つだ。まず一つ目。

 『これから一緒に父親を殴りに行こうかヤーヤーヤー・ヘルコマンダール作戦(IS使ってバージョン)』だ。

 デュノア君の専用機ラファール・リヴァイブがあれば、デュノア社の本社ごとき父親もろとも、あっという間に叩き潰してみせようぞ!!」

「いや、ダメだろ!? いきなりダメだろ! 犯罪じゃん!?」

 

 一夏、いきなりツッコミ入れて全力否定。ブレインストーミングだからって、否定しちゃいけない提案と、否定していい提案があることは普通の会議と変わりありません。

 さすがに初っぱなから親殺しを提案してくるヤツの意見を、無礼講だからって許してたら過激派の集会になってしまいかねん。

 

「む? それがどうかしたのかね? どのみちデュノア君は牢屋に入る覚悟を決めているように見えたのだが・・・違ったかね?」

「う゛! そ、それは・・・・・・」

「親も会社もどうなってもよいと言うのであれば、いっそ今までの全てを返して思い知らせてから罰を受けるというのも一案だと思うのだがな。思い残すことのないように、と」

「う、うぐぐぅ・・・・・・」

 

 特に悪気もなく、罪悪感や敵意もないままデュノアパパへの復讐計画を社長令嬢に推奨してくるシュトロハイド。

 それに対して歯切れ悪く、反応も鈍くならざるを得ないシャルルちゃん。彼女としては恨み骨髄な相手であり、どうなってもいいと思っている父親だし、自分の未来も捨てる覚悟をした後だけど、さすがに『じゃあ殺してスッキリしてから死のう☆』を躊躇うことなく実行できるほど割り切れているわけではなかったりもする。

 人としてどうかとも思うしね?

 

 

 ・・・とは言え、父殺し子殺しも一応は人類の伝統ではあったりするのも確かではある。

 権力者や金持ちの相続争いばかりがクローズアップされる昨今であるが、別に金や地位のない庶民が家族を利己的な理由で殺せないという道理もあるまい。

 余談だが、『ジャックと豆の木』の原本において、ジャックが手に入れた豆は、妹を売り払った代金の金貨五枚で購入したと記されていたという。

 ところ変われば品変わり、時代と国が変われば倫理と道徳も変わる。人の歴史とはかくも難しい。

 

 

 

「まぁ、最初の案はあくまで牢屋行きENDが確定しそうになった寸前においてのみ選択すべき、究極のリセットボタンとして用意しただけのものだからな。押さずに済むならそれが一番良かろう。それゆえ、次に提案する作戦からが本命である」

 

 再び仕切り直して、ハイドも一夏もシャルルも気持ちを切り替えて会議に臨み直す。・・・内二人の参加者が先ほどよりも表情に真面目さを欠いてしまっているのは当人の責任ではないので見過ごすように。

 

「では二つ目の案。『自分の安全を買うため父親と会社と専用機を売り払う作戦』である!

 所謂、司法取引というヤツであるな! 今の流行である!! 王は流行に敏感でなくはならないものだからな!!

 親でも国でも会社であろうと、売れるものは全て売りたまえ! ただし! できるだけ高い金額で!! それこそ商業国家の生きる道!!」

「だからダメだっつってんだろ!? どうしてお前の提案は過激なのばっかなんだ!? もっと穏便に! 平和的な方法で! できる限り人が傷つかずに済むように考えろよ少しぐらいはさぁ!!」

 

 再び全力否定の織斑一夏。・・・ただし今度のはちょっとだけシャルルの心が動いたっぽく見えたけど、踏みとどまって戻ってきたようである。やっぱり、いい子ですね。

 

 一夏の価値観から見れば、それは相手がやったことと全く同じことを自分もしてしまうだけであり、自分が否定している相手と同類になってしまうことを意味している。絶対に選びたくない選択肢だったし、友人に選んで欲しくもない選択肢でもあった。

 第一そんなことを許すヤツは男ではない。信じた仲間は裏切らず、どんなに嫌なヤツでも親は親で、売り払って身の安全を買おうとまでは思わない。それが織斑一夏という現代武士の生き様である。

 

 

 ・・・ちなみにだが、戦国武士の場合『主替え』はけっこう頻繁に行われており、別に卑怯なことでも恥知らずな行為でもなんでもない、裏切られたくない主が裏切られないよう努力すればよいだけの話でしかなく、一度仕えた主を裏切らないのが武士道とされるのは武士が支配者階級として平和を守り国を統治する戦争反対派に格上げされた江戸時代に作られた伝統である。

 ところ変わらずとも時代が変われば品変わり、正しさの基準も変化する。やはり人類史は難しい。

 

 

 

「ふ~む・・・これもダメか。では最後の提案である。『法の網をかいくぐり、制度の矛盾を利用して非合法行為を合法化してしまおう作戦』」

「・・・なんで一番平和的な提案が一番最後で、しかもスッゲェ嫌な作戦名つけられるんだよ・・・。・・・それでいて言ってること自体は間違ってないから微妙に怒りづらいし・・・」

 

 ハイドからの最後の提案『妥協案』に対して、一夏はうめくように反応を返すが反対というわけではないらしく、ネーミングだけが気にくわなかっただけらしい。

 まぁ人それぞれ好みはあるし、自分と違うものが好きだからといって否定すべき理由はどこにもないのでハイドは気にせず、代わりとして手番を次の人へと回すのみ。

 

「――だが、しかし! この方法は私には荷が重い! 重すぎるのだ! 馬鹿だからな!!

 それ故ここは、この中だと一番ふさわしい適任者の織斑君に一任したい! 後は任せたぞ織斑君! 私は先に休憩に行く! はい、タッチ」

「俺かよ!? このタイミングで話題の振り方で俺なのかよ!? スッゲェ嫌な振られかたしたうえに、俺がこれで答えちゃったら俺がルール無視して合法化しまくるプロみたいに見えちまうじゃねぇか!?」

 

 一夏、最悪のタイミングで最悪のバトン回しをされてしまったせいで大いに焦りまくるの図。

 挙げ句の果てに、思いついていた解決策アイデアが“まさにソレ”だったせいで、余計に印象が悪くなりそうで怖すぎる。

 なので焦り、何かしら場つなぎのため話題を提供してお茶を濁さざるを得なくなってしまっていく。

 

「大体なんで俺なんだよ!? 俺別にルール違反とか普段してないだろ!?

 俺はこれでも千冬姉の生活を収入源から手助けするため、学校法人の関連企業目指してたんだから学校の決まり事を破るなんてそんな事は! ・・・そんな事は・・・。そんな事・・・・・・は・・・・・・」

 

 理不尽な言いがかりをつけてくるクラスメイトで友人の間違った認識をあらためさせるため、大声で叫びながら自分の主張を正当性を記憶の内から呼び覚まそうとし記録をあさり。

 そして思い出されるIS学園での日常。日常、日常・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 やがて黙り込んで沈黙し、シャルル以上に「ズーン・・・」と落ち込んでしまう織斑一夏、壮絶なる自爆の図。日本の若者が今も昔も自爆に美学を見いだしたがるのも日本の伝統芸能。

 

「うむ! なにやら沈思黙考して無我の境地へとたどり着き、真理の扉という名の答えを見つけ出せたようだな織斑君! では、君の意見をどうぞ!!」

「鬼かお前は!? それか悪魔か!?」

 

 一夏、あまりにも容赦なく悪意もない、善意だけで満ち満ちた主観の権化シュトロハイドの空気読めなさ過ぎな推薦に涙目で絶叫しながら大抗議。

 

 ちなみにこの時の一夏は、本人のあずかり知らぬところでニアピンの答えにたどり着いていたりする。

 ハイドは地獄の征服王であり統一王であり支配者でもあった少女。もしくは未だに現役支配者の地位が残っている少女である。

 地獄の全てが彼女の支配していた王国なので、地獄に住む者たちは鬼だろうと悪魔だろうとケルベロスだろうと関係なく、すべてはハイドの臣下であり守り慈しむべき民たちである。兵として率いて他国へ攻め込むための兵士たちである。

 

 なのでハイドは『鬼』ではないが、『鬼たちの王』であり。

 『悪魔』ではなくとも、『悪魔の軍勢を率いて戦う支配者』ではある。

 

 ・・・要するに、もっと性質の悪い存在ってだけではあったが、その事実を知らなくて済んだ分だけ一夏にとってはまだマシだったかもしれない。結果はあんまし変わんなかったかもしれんけれども。

 

「あー、もう! わかったよ! 言うよ、言いますよ! 特記事項だ! IS学園校則第二十一!

 『本校における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』――つまり、これを使えば少なくとも三年間シャルルの身柄は大丈夫ってことだろ?」

 

 一夏が、シャルルから実家の事情を聞かれた瞬間、ふと暗記していたテキストの文章が気持ち悪いくらいスラスラと冷えた頭に思い出してきて、これは使えると思ったのだった。

 それはシャルルも目を丸くして驚きを示すほど、見事なマイナールールによる法の抜け穴を発見した瞬間の出来事。

 

「一夏・・・良く覚えられてたね。特記事項って五十五個もあるに」

「・・・勤勉なんだよ、俺h―――」

 

 

 

「見えたぞ! 私にも答えが見えた!!」

 

 

「なんだいきなり今度は一体!?」

 

 ようやく笑ってくれた、同性として付き合ってきて実は美少女だったクラスメイトの屈託のない笑い顔にドキリとさせられ、思わず照れ隠しで素っ気ない返事をしてしまった直後の言い終わる寸前に、またしても横から空気読めないクラスメイトの合法ロリ少女が大声出してきて邪魔されてしまい、大声でツッコミ返すパターンを繰り返してしまう一夏。

 

 しかし、通じない。ハイドは感慨深げに拳を握って空を見上げ(屋内だから天井しか見えないけれども)涙をこらえながら感動を露わにし、一夏の素晴らしすぎるアイデアを絶賛してくる。

 

「・・・素晴らしい・・・素晴らしいぞ織斑君・・・見事なアイデアであり意外すぎる盲点の発見ぶりである・・・。

 単なるその場の即興思いつきで、ルール違反を合法化して処罰されない方法を見つけ出す君の頭脳は、まさにルールを破るためにあると言っても過言ではあるまい・・・ッ。

 見事! まっこと美事成り織斑一夏君! 君こそまさにルール破りの英雄!

 ルール・ブレイクの王者ドラゴンに勝るとも劣らぬルール・ブレイカー織斑一夏とは君のことである!!」

「喧嘩売ってる? いい加減、喧嘩売ってるんだったら本気で買うぞこの野ろ――」

「あれほどの詭弁を友の口から聞かされて、大人しく聞くだけにとどまることなど出来ようか!? 否! 断じて否だ! そのように非人道的な行いをする者に織斑一夏の友人を名乗る資格はない!

 そして私もまた閃いたのだ! ルール・ブレイクを正当化するための手段を! その正当化方法を!!」

 

 ――聞いちゃいねぇ・・・。だけど、何時ものことなのでどうでもいいっちゃどうでもいい。それもまた、何時ものことである。

 今はとりあえずシャルルを救う方が大事なので、話だけでも聞いてやるとしよう。馬鹿とハサミは使いようと言うし、大馬鹿でも何かしらの使い道ぐらいはあるかもしれないし。

 少なくとも、馬鹿の考え出したアイデア自体に罪はない。そう思って一夏は問う。ハイドの考え出したシャルルを救うための方法とやらを。

 

「で? どうするんだ? なにをどうやればシャルルを守ってやることが出来るんだ?」

「うむ・・・・・・」

 

 大きくうなずいて、ハイドは説明を開始する。

 そして、それは確かに大きな謀。シャルルを救うため、守るために世界を騙す壮大な嘘。

 一人の少女を救うために、少女と少年は世界を相手に二人だけの戦いを仕掛けるための、壮絶なる命がけのトリック。

 

 ――其れ即ち。

 

 

 

「今度行われると耳にした学年別トーナメントとやらで、私が先にラウラ君と戦って圧勝し、然る後にデュノア君と戦って完膚なきまでにボロ負けする。

 さすればラウラ君を倒した私に勝利したデュノア君はラウラ君よりも強いということになり、自分より強い相手の機体が自分の専用機よりも技術力が低くて性能が低かったはずなどというデマを流されたラウラ君はデュノア君をフォローせざるをえなくなるはずである!

 そうしてラウラ君は我々と共に共犯者という名の仲間となり、やがて絆が芽生え、友情が育まれていく・・・・・・まさに学園青春者の超王道ウソを正当化する作業ストーリー!!

 名付けて! 『友を助けるための優しいウソは八百長ではなく人助けである作戦』!!

 誰の心も痛まずに友を救える、いい作戦である!! これぞまさに人助けという名の大いなる虚偽!! 信じたい真実は、いつも一人に一つずつ!!!!」

 

 

「台無しだよ!? 色々と全部が台無しだよ!?

 あと、お前は本気でお子様名探偵に土下座してこい!!」

 

 

 

 ・・・・・・この後、怒鳴りはしたけど他に妙案は思いつかなかった一夏は結局ハイドの策に乗っかりましたとさ。

 現実の『非合法行為を正当化イベント』の終わりは、いつも虚しい。

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第16話

ひねくれ少女最新話です。タッグトーナメント開始回!…になるはずが、始まる前の会話に予定を超え過ぎる文字数をかけ過ぎてしまったので別けました…。今回の話はこんなのばっかですね…。今回ほど計画性と短くまとめる能力の必要性を実感したことはありません…。


『時間だ。切るぞ。――試合の成果を楽しみにしている』

 

 そう告げて、娘との間に初めて設けた父子二人だけの不愉快な会話を、不愉快そうに終わらせた私は椅子にドッカと深く座り込んでから不愉快さを紛らわせるため指を動かしたり足を揺すったりとイライラさせられ続け・・・・・・ああっ! イライラする! 無性に腹立ちが収まらん! くそゥッ! あのサノバビッチめが!!

 

「罰ですね。二人の女を同時に愛した二股男の責任を、ついに取らされる日が来ただけのことです」

「む、むぅ・・・」

 

 娘の試合を観戦するため「誰も入ってくるな」と命じた社長室に許可も取ることなく居座り続けている只一人の女、それが許されるべき唯一の存在、私の正妻であるロゼンダ・デュノアがそう言って「にやり」と微笑みながら見つめてくるのを気まずい思いで唸り声を上げて誤魔化して、妻もそれ以上の追求はすることなく矛を引く。

 

 変わって口にしたのは、別のことだった。

 

「それにしても、あなたが感情を剥き出しにしてイライラするなんていつぶりかしら。あなたには悪いけど、子供が駄々をこねているみたいで可愛かったですわよ?」

「あの小娘の脅迫に屈せざるを得なかった屈辱に歯がみしているだけだろうが!? 世界的企業の経営者が、世間知らずの小娘に馬鹿にされたのを悔しがってなにが悪い!?」

「はいはい」

 

 またしても軽く受け流されてしまった・・・くそぅ、あの晩以来ずっとこんな調子でからかわれ続ける日々が続いてしまっている・・・ッ。全てはあの不愉快極まる小娘のせいだ! ああ全く腹立たしい! 思い出すだけで不愉快極まる生意気な銀髪の小娘だったな本当に!!

 

 私はあらためて“あの晩の会話”を思い出して腹立たしさを椅子に込め、力一杯右手の拳を振り下ろし、再び痛めて妻に軟膏を塗ってもらう羽目になりながら、この傷が出来る切っ掛けとなったあの夜のことを不快さと共に思い出す。

 

 

 

 ・・・仕事を終えて社長室に戻ってきた私の元に直通回線が届けられ、『シャルロットの友達』を自称する銀髪青眼の無表情な少女に一方的な脅迫を受けた、あの時。

 

 私は自分が不利な立場にあること。

 会社を経営する者として個人的なプライドや誇りに拘泥してはならない状況であることを重々理解した上で、相手から何を言われようと耐えられるよう心と顔に鋼鉄でできた仮面をつけて会話に臨んでいたのだが―――

 

 ―――だが、しかし。

 それが破綻するまでに掛かった時間はわずか2分に満たない極小の時に過ぎぬものだった。

 重ねて言うが、私が悪いのではないぞ!? あの小娘が生意気すぎることを言うから悪いのだ!

 会社を経営する苦労も知らずに身勝手でバカな理屈を言いまくっていたあの小娘が子供でバカで世間知らずすぎるのが全ての原因で間違いないのであーる!!!

 

 

「――こざかしい口をきくな! 小娘! 貴様ごときに何がわかる!?」

『分かりませんし、分かりたくもありませんねぇ。

 特に、“自分の経営する会社を経営難に陥らせた無能社長を無能だと罵ったら、大声出して怒鳴り返してくる経営者のプライド的事情”なんて、分かったところで碌な大人に成長できそうにありませんので、謹んで分かるのをご辞退させていただきたく思います』

 

 ・・・いきなり大人が放った罵声を、ブーメランにして返すことで発言者の心を傷つけるのに利用してくるような生意気なガキは本気で悪の元凶だと思ったぞ・・・。嘘偽りない本心からの純粋な気持ちとして私は心の底からな・・・。

 

 

『っていうか、仮に私がそれを分かったとして何してほしかったんです? 

 自分じゃ守れないから世界初の肩書きだけを根拠に会ったことない外国人少年に愛娘の未来ごとベットする情けない父親の気持ちとか、小娘の学生ごときに会社の経営再建のため娘に企業スパイやらせたことを非難されたから怒鳴り返した経営者の気持ちとか分かってもらって、一体どのような対応をお求めだったのでしょうか?

 次からは期待にお応えできるよう、模範解答の表がありましたら見せていただけると有り難いのですけどね?』

 

 ・・・・・・コイツ、もしかしなくても絶対にドSに違いないと私は確信した瞬間だった。大人をいたぶって傷つけまくるのを至極冷静に正論でおこなってくるガキなど滅びてしまえばよいと、今の私は心の底から信じ切っている。

 

『と言うか、伝えもしないで“判ってくれ”なんて無茶振りしてたら、身勝手な親の都合と糾弾されても仕方がないのではないですかね? 普通に考えて。今の時代、説明合意は商売における基本だと思うのですけれども・・・』

 

 ・・・・・・もはや何も言うまい・・・。何を言ってもコイツは、私を傷つけるのに利用してくるだけにしか使わないだろうからな・・・。

 

『さて、なにか反論はおありでしょうかね? デュノア社長さん。ある場合には言ってくれてかまいません。自分の正しさを信じるのも主張するのも、私が勝手だと非難するのも全部あなたの自由であり権利であり勝手ですのでね。私の関知するところではございません』

 

 心の中で何を思うと本人の自由。だが、相手に聞こえるよう声に出した発言はそうではないということだな・・・。

 

「・・・なにを言ったところで言い訳にしかなるまい・・・。そういう立場に今の私はあることを自覚させられたばかりだからな・・・。弁解はせんよ。

 だが、他にやりようはなかったのも確かなのだ。政府の連中を黙らせるのも、グループ内に存在する小さな謀反人共を抑え続けるにも相応の口実が必要だったのは事実なのだから・・・」

 

 現在フランス政府の中で、デュノア社への支援打ち切りは揉めている。それは純粋に我が社への好意的評価から庇ってくれているという訳ではない。

 単に『これまで投資してきた国の金が無駄になる』・・・という純粋無垢な金銭的損得勘定に過ぎない。

 ある意味で、だからこそデュノア・グループ内からシャルロットを暗殺してでも社を守ろうとする動きが出てきたとも言えるだろう。

 

 彼女たち、感情論よりも利益を尊ぶ女尊男卑与党の一部と我が社とは利害が一致する。利害が一致している間は味方でなくとも敵になることだけはない。

 敵の敵は味方である。経済の世界は戦争以上にシビアで現実感覚が求められる部分が多数存在している。少なくとも男を見下す性差別感情だけで支援打ち切りを提案してくる連中よりかは大分マシというものだ。

 

 が、一方でそれはデュノア・グループ内でシャルロットの命を狙う者たちが必ずしも個人的利益を求めるエゴイストたちでないことをも意味しており、あくまで彼らも会社を守るため自分に出来ることを必死におこなっているに過ぎない。

 

 支援打ち切り派にとってシャルロットは、デュノア社を切り捨てるためには便利な駒になり得る存在だ。形ばかりであろうとも女尊男卑の名の下、社長の血を引く娘で正妻に子供がいない状況にあっては臨時の代行をやらせるぐらいなら差して難しいことではない。

 そして一度でも組織に組み入れさえすれば、どうとでも出来てしまう。デュノア社が所有するIS関連の秘匿技術をすべて引き出した後に切り捨てる。・・・今の政治屋どもなら、その程度のことはやりかねん。

 

 彼らがそれを警戒するのは無理からぬことであったし、実際にそういう誘いが彼女の周囲でポツポツと現れていたのも確認している。

 一旦は家を捨てさせた外戚の娘に対して、今まで社のために尽くしてきた者の誇りから頭を下げることに抵抗がある者も少なからずいたであろう。

 

 ここは彼女にとって危なすぎる場所だった。いや、それどころかフランス国内にいる限り、世界第三位のシェアを誇る大企業デュノア社と無関係ではいられない血を彼女は引いてしまっている。

 なればこそ、デュノア社どころかフランス政府の権力さえ及ばない遠い日本の地に、物理的な意味でも最硬の防御力と安全性能に守られたISに包ませて送り届けた訳なのだが―――

 

 

『――なんですか? 何か言いたそうな目で私を見てた気がするんですけども?』

「・・・・・・・・・別に」

 

 ふいと目線をそらしながら窓の外を眺め、心の中で私は慨嘆する。――やぶ蛇どころか魔王でも引き当ててしまったかのような、自分と娘の運の悪さを心の底から呪いまくりながら・・・。

 

『まぁ、色々と言いはしましたが、あなたの事情も分からないわけではありません。私としても正論で説教するばかりで具体的な解決策は何も示そうとしない、口先だけの正義の詭弁家になりたかったわけでは微塵もありませんでしたしね』

 

 画面の向こう側で少女は肩をすくめながら、なにかの機械を手元で操作するような仕草を見せつつ、

 

『なので、はいコレ。フランス政府脅迫用のカードです。コレがあれば多少はあなたもいい勝負が出来るでしょう?』

「・・・? ――ッ!? こ、これは・・・っ!!」

 

 相手の操作に合わせて私の手元にあるコンピューターが勝手に起動していき、いくつかの数字と文字の羅列を表示させるのに視線を落とした瞬間、私は思わず驚愕のうめき声を上げてしまっていた。

 

 そこに列挙されていたのは、フランス政府与党のお歴々が外国資本からもらっていた個人的融資――すなわちリベートと賄賂の送り先と額が記された裏帳簿。

 それだけではない。受け取り場所の日時と明細書、ご丁寧に写真まで添付されているものまであり、おそらくはシュレッダーにかけられたものを再構成させたと思しき証拠不十分にはなりようもない物的証拠の数々ばかり・・・。

 

 だが、私が驚かされたのはそこではなく、むしろ賄賂をもらっていると記されている議員たちの名前。

 日頃から私に批判的な女性政治家どもが載っているのは当然のこととしても、デュノア社への融資打ち切りを反対していた議員たちこそ最も多くの賄賂をもらっているとはどういうことなのか・・・?

 

「――そうか! しまった・・・奴ら最初から我が社だけを生け贄にするつもりで・・・チクショウ!」

 

 帳簿を目にして裏面の事情に気づいた私は、思わず拳を振り上げ画面に叩き降ろしてしまって右手を負傷してしまったが、この時には気にしていられる精神的余裕は少しも残っていなかった。

 

 フランス政府はデュノア社に対して多額の融資をおこない支援してきたのは事実だろう。

 だが、そのために支払われてきた金は、あくまでフランスの金であって政府の金だ。平たく言えば、国民の血税である。

 政治家どものポケットマネーからは、1ドルだって支援してもらえたことはない。ヤツらとしては今手に入っているのと同額の臨時ボーナスを保証してもらえるのなら、それが支払われるのが外国資本からのリベートなり賄賂なりだったとしても大した違いでもない。金貨に国と国旗は関係ないのが経済なのだからな。

 

 一見すると支援打ち切り派と継続はに分かれて二分されているように見せかけていた政府与党は、実際には完全に我が社をトカゲの尻尾切りに使う気満々で、そのための口実と名分作りを私自らの手でやらせるつもりだったのだ・・・・・・チクショウ!!

 

「・・・情けない・・・っ! 娘のためを思っての選択だったが、実際には見切っている侮っていた政府のバカどもの本心さえ見抜けぬないまま、ただただ道化の一人踊りを続けていたのは私だけだったと言うことか・・・っ」

 

 これではシャルロットの気持ちを考えていないと罵られて反論したところで、説得力など認められないのは当然の結果だろう。

 あるいは考えてはいるが、考えているだけで見当違いの独りよがりな妄想をしているだけだった、とでもこの少女の場合は言うのかな?

 まぁいい。何とでも言えばよいのだ。どのみち私は・・・・・・言われるだけのことを、してしまった後なのだから・・・・・・。

 

『ふむ。そのお顔からすると、今更私から何か言われなくても十分に自分の過ちは自覚できたようで何よりですね。では私から言うべきは最後に一つだけでよろしいでしょう。――勝ちなさい』

「・・・・・・なんだと?」

 

 聞き間違えたかと思い、顔を上げた私が一瞬だけたじろいでしまうほど、覚悟と信念に満ちすぎた深く静かな蒼い瞳に見つめ返されギクリとした私に、少女は静かな声で最後のメッセージとして檄文を述べてきたのである。

 

『このまま負けて終わるのなら、あなたは先ほど私が言ったとおりの人物でしかなかったということですよ。他ならぬ貴方自身がそれを行動と結果によって証明されたのですからね。今後は侮辱ではなく、妥当な評価として遠慮なく貴方を罵倒できるのは私にとっても楽なことなので、それはそれでよろしい。

 ・・・ですがもし貴方に、同情が欲しいのではなく、同情してきた相手を見返してやりたいと願う“燃える様な経営者の意思”があるとするならば、それを使って自分の主張が正しいということを結果で証明して見せなさい。シャルロットさんの帰れる場所を父親として守り抜いてみなさい。娘の力を借りずに父親自身の力でね? それが出来たなら私の方が間違ってましたと、いくらでも頭をお下げしましょう』

「ま、待て! お前いったいこんなものをドコでどうやって―――ッ!!」

『言っときますけど、私としてもシャルロットさんが正当に評価されて、大企業の社長令嬢として豊かで大過ない生活を送れた方が、自分のプライドなんかよりずっと大切なんですからね? それじゃ』

 

 プツン、と。通信はかかってきたときと同じく、一方的に向こうから切られてブラックアウトしてしまった。

 

「・・・・・・」

 

 私は口の中だけで百の呪いと悪口を呪詛を並べ立てた後、電話機をとって複数の場所と人物に連絡を取り、翌日からの大幅なスケジュール変更の準備を急がせ―――やがて今日を迎えている。

 

 

 

『お待たせしました! それではこれより、一年の部Aブロック一組目の対戦を始めたいと思います! 選手入場、前へ!!』

 

 エンターテイメント風の実況が今見ているテレビ画面の向こう側から響いてきて、私を今という現実の時の中へ帰還させてくれた。

 

 私は思い出した記憶のラストシーンである、深夜遅くに帰宅した自宅にある自分用の私室でフツフツと怒りと不快感が思い出したように湧いてくるのを抑えられなくなり、

 

『サノバビッチ!!』

 

 と大声で怒鳴りながら手近にあった電話に拳を叩きつけて負傷してしまい、音に驚いて駆けつけてくれた妻に軟膏を塗ってもらいながら事情に説明をさせられざるをえなくされた屈辱的日々のはじまりを迎える寸前のところで止まっていてくれたので丁度良かったとも言える。

 

 あらためて画面に目をやると、ちょうど4人の一組目の試合に参加する選手たちが入場を終えたところのようであった。

 

 ロゼンダはそれを見ながら、どちらかと言えば門外漢なISよりも私の心理に興味がある風な表情を浮かべてこちらに流し目と言葉とを送ってくる。

 

「それより、ISの方はよかったの? 実質、第三世代を造れるかどうかは未知数なのでしょう?」

「いいわけがあるか・・・・・・が、フランス政府は何も言わんだろうし、言わせはせん。それだけのカードを持っていることを匂わせてやったからな。

 他人にばかり責任を取らせて、自分は責任を取りたがらん責任者どもにはこれ以上なにも言う権利はない。言っていいのは、言われた相手に殴り返される覚悟があるヤツだけだ」

 

 そう。たとえば、あの銀髪の生意気小娘のようにな・・・ッ。

 ヤツが安全な場所にいながら一方的に私を叩いていたなどとは、今となっては口が裂けても言えん。自己紹介で名乗っていたプロフィールが全て本当だったと調べがついた今となっては言うヤツらの方が頭がおかしい。

 

 どこの世界に、堂々と本名なのって素顔もさらして脅迫電話をかけてくるような、臆病で保身的な卑怯者なんてものが実在できる!? 存在自体が矛盾しとるではないか!完全に!

 

 あそこまで堂々と漢らしく喧嘩を売られた以上、正々堂々と買ってやって勝利して終わらなければ男ではない。漢ではないのだ! そんなクズ野郎はなぁぁぁぁッ!!!!

 

「な、なんだかあなた、少し若々しくなっておられません・・・? 最近まで感情を剥き出しにするなんてこと久しくなかったあなたが、まるで今は別人のように光り輝いておられるようですわ・・・っ」

「そうか? だとしたら、それは私が自分のなすことべきことを、手遅れになるより先に気づくことが出来たと言うことだろう。

 あるいは、四半世紀近く惰眠をむさぼっていた私の守護天使が突然、勤労意欲に目覚めたのでもしたのだろうさ。

 ――どちらにしろ、あの小娘のおかげではない! あの小娘の手柄ではないのだぁ!!」

「・・・ああぁ、なんなのでしょう、この胸のトキめきは・・・ッ。今までのあなたも素敵だったけど、今のあなたはさらにス・テ・キ・・・♡」

 

 ロゼンダが何やらクネクネしだしているのを視界の隅に入れながら、私はついに始まろうとしている戦いの前の選手同士の口上の言い合いに耳を傾けていた。

 ボリュームを最大にしてノイズをカットし、一言一句聞き逃さないよう細心の注意を払いながら、特に男のIS操縦者の声に―――娘を預けようとしていた男が何を言うのかに全身全霊を傾けて意識を集中させていく。

 

 

「さぁ、見せてもらおうではないか・・・・・・シャルロットが秘密を明かすのに相応しいと選んだ漢の生き様とやらを!!!!」

 

 

 そして、選手二人の会話が私の耳にヘッドホンを通じて鼓膜の中で響き渡る!!!

 

 

 

『――って、箒!? なんでお前ラウラと組んでタッグトーナメントに出場してんの!? お前らに接点ってあったっけ!?』

 

『う、ううううるさい! 私が誰と組もうがお前には関係のないことだろうが!? 放っておけ!

 ・・・ただ私は、一緒に勝って優勝したときにお前とデートできる権利を譲ってくれそうなヤツだったから選んだだけ・・・・・・なんてことは絶対にあり得ないんだからな!?

 誤解されたら恥ずかしいから、勘違いするなよ一夏ぁぁぁぁぁぁッ!!!!!』

 

『しとらんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?

 お前の方こそ、これ以上俺に変な風評被害で誤解されるようなセリフを大声で叫んでんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉッ!!

 これ以上言われたら俺、社会的に抹殺されかねないだろうが本気でさぁぁぁぁぁッ!?

 って言うか、デートできる権利ってなんの話のことなんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??』

 

 

 

ロゼ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アル「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

つづく

ちなみに↓

 

 

鈴「あたしたちも優勝景品のデート権利は(一夏とだから)いらないんだけどね。でも誰にあげるかは未知数だから不確定要素が多いんだよねぇ~」

セシリア「ですわね。それに本気で優勝を目指していてベテランのエースを選べるのに初心者を選ぶほどバカではございません」

箒「同級生とクラスメイトがヒド過ぎる!?(;゚Д゚)」




*作中でデュノア社長が使っている『サノバビッチ』というスラングがフランス語かどうか作者は知りません。好きな別作品の中で位置的にフランスに近い国で使われてたから採用しただけです。

 だだ別に問題はないと思っています。

 日本人だって『エッチ』だのなんだのと日本語以外の言葉を使ってますからね。外国人だけが母国語以外の言語をスラングとして使ってはいけないとする道理はないと思った次第。本人が使いたかったら勝手に使えばそれでよろしい。

 ……もっともデュノア社長が『サノバビッチ』という言葉を好きかどうかは私の勝手な妄想なんですけれども(苦笑)


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IS学園のひねくれ少女 第17話

他の作品を書いてる途中だったのですが、書き途中だった今作の事を思い出しましたので先に完成させました。そしたら変な出来になっちゃいました。
どうも頭が混乱気味になってることを自覚しましたので、一晩ぐっすり寝て落ち着いてから今書いてる他の作品の続きを執筆したいと思います。

*朝になって冷静さを取り戻しました。やっぱり書き直したほうがよさそうですね。少なくともバトルシーンだけでも。できるだけ早めに頑張ります。


「一戦目で当たるとはな・・・。待つ手間が省けたというものだ」

 

 箒の思わぬタッグマッチ参戦によって驚き慌てて大声で言い合っちまってた俺は、相手の隣から本命の冷静すぎる声に現実のアリーナへと意識を引き戻され、あらためて相手の姿とISを睨みつける。

 

「そりゃあ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

「ふんっ! 時代遅れの旧式機と接近戦しかできない欠陥機―――とは言うまい。敵の事情がどうあろうと、私はただ二人まとめて全力で叩きのめすのみ」

 

 冷徹にして冷厳な口調と態度。出会った直後に俺に見せてきていた『軍人』という印象をモロに表に出していたあの時のままのラウラ・ボーデヴィッヒが復活して俺の前に立ちはだかってきている。コイツを倒さないことには今の俺は前に進めない・・・。

 何故かは解らないが、俺は今心の底からそう感じさせられて魂のそこから湧き上がってくる戦意を押さえつけられるのに苦労させられていたほどなのだから・・・・・・。

 

 ――と言うか。

 

「・・・・・・そう言えば、軍人モードのお前と会うのってスゲー久しぶりな気がするよな・・・」

 

 相手の姿と言動を目の当たりにして、思わず嘘偽りなき感想をつぶやいてしまってた俺。

 いや、今がそういうときと場合じゃないって事は解ってはいるんだけどな? ただ承知の上でも言ってしまうほど、スゲー懐かしすぎる気がしてしまうほど久しぶりだったんだよ本当に。いやマジで、ガチな話として本当に。

 

「む? ・・・言われてみれば―――確かに!?」

「あ、あー・・・。言われてみれば確かにそうだよねぇー、うん。えっと、ラウラ。久しぶり、で合ってるのかな・・・?」

 

 箒とシャルルも、少しだけ混乱しながらそれぞれに軍人モードのラウラを見つめ返して曖昧な態度と対応を返すしかなくなってしまってるぐらい、本当の本気で久しぶりすぎる本来のラウラ軍人モードの再登場。

 

 クレシダ先生のよると、今のラウラは別世界で生きて死んだ別のラウラの記憶がこっちの世界のラウラの記憶と混ざり合っているけれど、別に上書きされたとかじゃなくて別々の道を選んだ同じものが融合する道を選んで一緒になってる状態にあるらしく、その時々の感情によって強く表に現れる人格のベースが交代しあってるだけなんだ。

 

 端的に言うと、セレニアと一緒にいる時には母親愛しさで常時お子様モードの異世界ラウラ。

 セレニアがいない時には軍人モードの、こっちの世界ラウラが態度や言動の基本となっている。そんな感じなんだとのこと。これだけなら頻繁に入れ替わることも可能そうに見えるのだけれども。

 

 ラウラはそもそも、常にセレニアと一緒にいたがってるしクラスメイトだし、ルームメイトでもあるし。ついでに言えばIS学園は全寮制の国立学校だしで、二人が一緒にいないで行動する必要性自体があんまり生じることがなかったりする。

 確実に別れるのはせいぜい、放課後のIS操縦訓練だけで他の時間はいつもセレニアと一緒にいるから常時お子様モードが続いている上に、俺たちは俺たちで放課後はラウラ対策の自主練しているから会える機会はほとんどない。

 対ラウラ用の特訓をラウラに見せるわけにはいかない以上、俺たちはコイツが軍人モードになってる(かもしれなかった)時間帯には絶対に出くわすことができないタイムスケジュールを過ごしてきたわけであり。

 

 ――早い話が、転校直後の出会ったばかりで殴られて以来はじめて再会したんじゃないのかなって気がしてる俺であった・・・。

 一応コイツと俺とはクラスメイトのはずで、こっちの軍人モードが俺の世界のラウラのはずだから本来はこれが普通のはずなんだけど、どうしても違和感があるようなないような・・・。

 おかしい。なんで俺は戦う前にこんなことでグダグダ悩まなくちゃいけなくなっているのだろう。挙げ句、悩んでやってる敵の方からは「フンッ! くだらん!」と鼻で笑われる始末。普通逆だろうと言いたくなったけど、言うより先に相手の方から言ってきたから聞くしかなくされてしまった。

 

「今の私がこのしゃべり方になっているのは当然のことだ。なぜなら今、この会場内に母様が存在しておられないからだ。

 私は娘として母様に甘えたいと常々思って行動しているが、母様以外の人に娘として接したいと思ったことは一度もない。ならば母様がいない場所で娘としての私を出さずに、軍人としての私を出すのは当たり前のことでしかあるまい」

「は? いや、セレニアとはさっきまで一緒だったし、今もアリーナ内にいるんじゃねぇの? まぁわからんけども」

 

 大雑把にグルリと人で賑わう会場内の観客席を見渡しながら、俺はその中から一人の人間を見つけ出すのは不可能だと即座に諦めて頭を振る。

 実際、さっきまで一緒だったセレニアが今はアリーナの外にいる可能性もないわけじゃなかったからな。普通だったらせっかく入場できたのに第一試合も見ようとせずに帰るなんて有り得ない状況なんだけど、セレニアに一般的常識論はあんまり通用したことないから意味はない。

 『体調不良になる予定』を理由にしてタッグマッチを病欠しちゃうような女の子に、IS学園の常識を当てはめて考えるだけ無駄だと言うことを、元クラスメイトとして誰よりもよく理解できてる自信と自覚が俺にはあるから。だから解る。アイツの場合は『有り得ない』なんて言葉は、それこそ『絶対に有り得ないのだ』という現実論が適用されてしまうことを他の誰より思い知らされているのは俺なのだから・・・・・・。

 

 ――が、しかし。

 世の中どうやら、上には上がいたらしく。

 

「いや、いない。その点だけは私が保証してやる。間違いなく母様は現在、この会場内にお姿をおいてはいらっしゃらない。それは確実であり絶対だ」

「いやに自信満々で断言してくるが・・・一応聞いておいてやるぜ。なんでだよ? そう思う理由は?」

 

 俺としては大した目的もなく、ただ聞くのが当たり前だと思ったことを聞いてみただけのことだった。それだけだったんだけど・・・・・・どうやら俺は異世界セレニアを甘く見すぎちまってたみたいだった。

 俺に聞き返されたラウラは、小さな胸を張って自信満々な態度でこう答えてくれたのだ。

 

 

 

「なぜなら今の私が軍人口調で喋っているからだ。

 私は母様がテレビ画面を通して見てくださっているか、直接目視で私を見てくださっているかで自動的にしゃべり方が変わる癖が付いている。

 だから私が軍人口調で喋っているときには、母様は直接私を見られる場所にいらっしゃらないことは確定事項になるのだ。それが理由だ。わかったか!? 織斑一夏!!」

 

 

 

「なにその超能力じみた物スゲー感知能力!? 明らかに人間超えすぎてないかオイ!?」

 

 

 ISネットワークを超越した母娘の愛スゲー! とんでもない能力によってセレニアの不在が保証されちまった!

 って言うかソレ、本当に愛情なのか!? なんかヤバい電波受信してるだけなんじゃないんだよな!? なあ!?

 

「お前には解らないかもしれんが、心と心が繋がり合った親子の絆とはそういうものなのだ。

 たとえ体の距離が離れていようとも、言葉が届く距離にいなくても、胸に秘めた思いを言葉にして直接言ってくださらなくても“なんとなく”で解ってしまう。伝わってしまう。それこそが真の親子愛というもの。

 血が繋がっているだけで、心を繋げ合うため日々の関わり合いを大事にしてこなかった親と子には決して持ち得ることの出来ない魂の絆だけが持つ力なのだからな・・・・・・」

「・・・おい、やめてくれ。と言うよりも、やめてやってくれラウラ。

 さっきから諸事情あってシャルルが藻掻き苦しんでるみたいだから本気でやめてやってくれないか? これ以上しゃべられると試合開始前に再起不能になりかねないぞ本当に・・・」

 

 俺に向かって言われた言葉をタッグ組んでたせいでシャルル巻き添え食わされ、流れ弾ならぬ流れ言葉で傷つけられまくってる姿はタイミングが滅茶苦茶悪すぎる話題だったと言わざるを得ない。

 

「・・・・・・う、あ、ああぁぁぁ・・・・・・僕はお父さんと・・・お父さんとぉぉぉ・・・・・・ッ」

「う、おおぉぉぉ・・・・・・私の姉さんは・・・姉さんは何故ぇぇぇぇ・・・・・・ッ」

 

 しかも、なんか知らんうちに箒までダメージくらい始めてるし・・・。

 あらためて思い出してみると、俺の周囲で親子仲円満なまま今に至っている奴って、あんまいなかったんだよな・・・。それ鑑みた場合に今のラウラの話はちょっと――結構クル奴らが多いのかもしれない。俺にはちょっとよくわからない話題の話ではあるけれども。

 

『えーとぉ・・・、そろそろ試合開始のカウントダウン始めたいのですが宜しいでしょうか?』

「あ、はい。すいません、審判さん。どうぞ」

 

 いかん、予想より遙かに長く試合開始前の口上の言い合いを続けすぎてしまった。いきなり予想外なことに気づいて訊いてしまった俺が悪いのだから、これ以上は流石に迷惑をかけるわけにはいかない。あとは大人しく試合開始のブザーが鳴るのを待つとしよう。

 

『えーと、では試合開始まであと5秒。

 4、3、2、1――0! 試合開始!!』

 

 ビ――――――ッ!!!

 

 

 試合開始を告げるブザーがアリーナ内へと鳴り響き、俺とラウラはほぼ同時に足場を蹴って互いへの最短距離へと突撃を開始する!!

 

 

「「いくぜ!(いくぞ!)叩きのめす!!」」

 

 

 俺とラウラの叫んだ声は奇しくも同じ。

 だが、ここから次に続く行動は違うものにしてやるぜぇ!!

 

「イグニッション・ブーストっ!!」

 

 試合開始と同時に俺は先制攻撃のイグニッション・ブーストを行う。この一手目が入れば戦況はこちらの有利に大きく傾く!

 

「おおおおっ!!」

「ふん!」

 

 ラウラが右手を前へと突き出すのを見て、「やはり来た」と俺は確信する。

 セシリアから『なにも知らない素人のままでは可哀想ですので』と教えてもらったラウラのISシュヴァルツェア・レーゲンが持つ第三世代武装『AIC』

 エネルギーで空間に作用を与えて敵の動きを停止させてしまえるっていう、かなり強力な能力の機能だ。これを使えることを教えてもらった俺たちだったが、結局AICを確実に破る方法は思いつかなかった。

 それなら手段は一つしかない。―――意外性で攻める!!

 

「くっ・・・!」

「開幕直後の先制攻撃か。わかりやすいな」

「・・・そりゃどうも。以心伝心で何よりだ」

 

 しかし、その程度の戦略など向こうも読んでいたのだろう。俺の体は腕を始めに、胴と足をAICの網に捕まえられる。押しても引いても動かない。

 

 ――だが! これでいい!

 俺たちは何も一対一で戦っている訳じゃない。俺たちは二人組なんだから!!

 

「確かにそうだな。それ故に私は―――――逃げる!!」

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 ブォォォォォッ!!と、ブースターを最大限加速させながら全速後退していくラウラ。

 効果範囲の外に出たからなのか、AICの効果が切れて自由に動けるようになった俺なんだけど・・・・・・あ、あれー?

 

「よし! 敵の戦略は情報通りであることが判明したぞ! 当初の予定通り動くまで! 母様から教わった野戦築城戦術で妖怪さんに勝利を!!

 【フォーメーション ヤン・ジシュカ】を展開! 防御陣形! 

 お前が盾になって私を守り、私はお前の剣となって敵を撃つ! 守り抜けばお前の勝ちだ! 攻撃は任せろぉぉッ!!」

「応っ! 【フォーメーション長篠】だな!

 お前への攻撃は全て私が受け止めてやる! 防御は任せろぉぉぉっ!!」

 

 え、えええぇぇぇぇぇぇぇっ!?

 箒と合流してから後ろに回って、打鉄を纏った相方を前に出して自分は後方から遠距離射撃体勢に移行しやがった!?

 

 いきなり俺たちの作戦崩壊させられた!? しかも妙にアイツら二人仲いいし! 俺たちの知らない間に何があったんだ一体!?

 あと、二人が言ってる作戦名が微妙に違ってなかったか今のって!? 

 

「ちょ、おまっ!? それ卑怯なんじゃないのか!? ひょっとして俺たちのやってた練習のこと知ってたんじゃ―――」

「当たり前だ―――――ッ!!!」

「堂々と大声で自白された!?」

 

 卑怯じゃねぇのかソレ!? 反則って言わないのかソレ!? いや、作戦を事前に読むことだけなら反則じゃねぇのは知ってるけど、その読み方とか盗み方とかで反則扱いされないモンなのかそういうのって!?

 

「戦争を征する者は情報を征している者! 勝ちたければ多角的に多くの情報を集めることこそ優先せよ! 母様の教えをラウラは絶対守りますです!!」

「セレニア―――――ッ!?」

 

 またお前か!? またお前なのか異世界セレニア!? お前はいったい何度俺の前に立ちはだかったら気が済むんだよ――――ッ!!!

 

「うぉぉぉッ!! 一夏―――ッ!! お前は私を捨てた! 裏切ったのだ! 私の気持ちを裏切ったお前を、私は絶対許さんからな――――ッ!!!」

「異世界濡れ衣―――――ッ!?」

 

 やっぱりか! やっぱり箒とラウラが仲良くなったのは異世界の俺が原因だったのか! ちくしょう、迂闊だったぜ!

 たしかに純真無垢な今のラウラは変なところで意外と可愛い物好きなところがあるっぽい箒と相性が良くなってるし、ラウラの方でもなんか箒には敵愾心がなさそうに見えたし! 多分それも異世界事情が関係してるんだろうけれども!

 ことごとく俺の行く手を遮ろうとする、異世界の俺たちの事情共が―――――ッ!!!

 

「い、一夏! どうするの!? この状況だと数値的に僕たちの方が圧倒的に不利だよ!?」

「く・・・ッ! こうなったら一か八かだ! ラウラたちに俺たちのコンビネーションを見せつけてやろうぜシャルル!!」

「一夏・・・っ、うん! わかったよ! 僕たち二人の絆だって、彼女たちに負けてないってことだけでも証明してあげないとね!」

 

 シャルルの瞳に力強さが宿り、口元には不敵な笑みが浮かび上がる。

 そうだ、それでいいんだシャルル。俺は・・・俺たちは強くなんかない。

 強くなりたいから、強くなろうとしている奴らなんだ。強くなってやりたいことがあるから、強くなろうと努力している途中にあるのが俺たちなんだ。

 敵の方が強いからって立ち止まってたんじゃ、守りたいものも守り切れるようにはなれないぜっ!!

 

 

「「てやぁぁぁぁっ!! 俺たちは!(僕たちは!)負けない!!!」」

 

「うぉぉぉ! 一夏ぁぁぁッ!! お前に取り憑いた変態を祓うためならば今この時のみ私は悪魔に武士の魂を売り払って難攻不落の盾になる!!」

 

「結果こそ全て! 目的達成こそ最優先事項!! 妖怪に思い知らせるという結果のためなら過程や戦い方になんの価値もありはしない! 個人的プライドや願望なんて二の次三の次でいい! 母様がそう言っていた! 母様は正しい!! 勝利の栄光を母様に捧げるために私は勝ぁぁぁっつ!!」

 

 

 ワァァァァァァァァッ!!!!!!!!

 

 

 1試合目から意外性に満ちあふれすぎた始まり方となってしまった、IS学園学年トーナメント・タッグマッチ大会。

 後に色々な逸話やあることないこと、無いこと無いこと無数の伝説異説笑い話を世間に提供し続けることになる、この戦いはまだ始まったばかりであり、勝敗の行方も最終的に行き着く場所さえ不鮮明なまま場の盛り上がりだけは凄まじいほどにボルテージを上げていくのでありましたとさ――――

 

 

「・・・で、お前は何故こんな所まで試合を観戦しに来ているんだ? 普通に観客席にいたままではダメだったのか?」

「・・・・・・逃げ隠れするために避難してきたんですよ。悪いですか?」

「いやまぁ・・・・・・わからない理屈ではないし、無下にも追い出しにくい状況になってしまっているのも解るのだが・・・・・・」

 

 

 ―――とりあえずは、伝説が誕生する瞬間に居合わせたくなかった当事者は地下へと潜って安全確保中。

 たとえ強者の力で敵の凶刃から無力な人々を守れたとしても、民衆のエゴという名の自覚なき暴君から大衆を敵に回してまで無力な個人を守ってくれた勇者など実在した試しはありません。

 いつの時代だって民衆は最強にして最悪。英雄とは川だ、民衆とは川底だ。英雄は去り、川底は残る。わずかに表層が水と一緒に川の流れとともに消え去るだけのこと。

 

 それ故私はせめて、川底に沈むだけの貝になりたい心境でっす・・・・・・プルプル・・・(赤面中)

 

*赤くなりまくった顔を見られないよう必死に隠している暗い地下室の言霊少女ちゃんでしたとさ。まる(^^;)

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『その頃のタバネンさんは・・・』

 

クロエ「どうなさいました、束様? 先ほどから脇腹のあたりを押さえられ苦しみ続けておいでのようですが・・・・・・」

 

束「お、おなか痛・・・ッ、死ぬッ! 笑い死にそ・・・・・・ッ!!(バンバンッ!)」

 

クロエ「・・・どうやら重傷の御様子ですね。おもに頭とお心が・・・」



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『我が征くはIS学園成り!』第14章

エロ書き途中だったんですけど失敗しちゃったんで気分転換にこちらを優先してみました。
…ギャグを途中で止めてエロ書きだすとエロギャグしか書けなくなる私の悪癖は本気でどうにかしたいと思わずにはいられません…。


 六月も最終週に入り、IS学園は月曜から待ちに待っていた学年別トーナメント一色へと変わる。第一回戦が始まる直前まで全生徒が雑務や会場整理、来賓の誘導を行って、それらが終わってから急いで俺たちが二人だけで使っている男子更衣室と同じ広さしかない各アリーナの女子更衣室へと着替えのために走り込みまくるのだ。

 

「しかし、すごいなこりゃ・・・」

 

 さながら通勤ラッシュ時の駆け込み乗車にも似た凄まじい勢いに圧倒されながら、俺は更衣室にあるモニターから会場外の様子を眺めていた。

 あっ、いま画面が観客席に切り替わったわ。・・・やっぱ男尊女卑的には良くない映像だったのかなー・・・今のって・・・。

 

「凄いよね。各国政府関係者や研究員、企業エージェント、その他にも色々な分野のVIPたちが一堂に会している姿はIS学園以外だと見られないから壮観だよ」

「・・・え? あ、ふ、ふーん・・・」

 

 隣にたって一緒にモニターを見ていたシャルルが、切り替わった直後の観客席に移っていたブルジョアっぽい人たちを一目見ただけでVIPだと見抜いてそう言って、気付いてなかった俺は曖昧な返事を返すしかない。

 

「三年生にはスカウトが、二年生には一年間の成果を確認するため去年の内に目星をつけていた人たちが来ているからね。一年生には今のところ関係ない話だけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

「ふ、ふーん。ご、ご苦労なことだ・・・」

 

 隠し子とはいえ、世界第三位のシェアを誇るIS企業の社長令嬢によるIS業界の裏事情解説に首振って頷くマシーンと化すしかない庶民出身でIS初心者の俺・・・。

 今さっきまで、すぐ近くにいたと思っていた人が急に遠くの身分違いな人だったのだと感じてしまう置いてけぼり感・・・これが格差社会における人の心理というものなのかぁ・・・ッ!

 

 

「うむ! 軍事セレモニーにVIPを招くはロボット同士がぶつかり合う大会において常識だからな! そして敵の奇襲を受け襲撃される!!

 お偉方にはそれが分からんのですとは、よく言ったものよ! ハーッハッハッハイド!!」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「なぜお前がここにいるんだハイド―――――――――――ッ!?」

 

 俺はシャルルの反対側で隣にたち、いつの間にやら一緒にモニターを眺めていたクラスメイトでドイツの代表候補生でもある黒髪ロリッ子の無駄に偉そうな美少女に対して悲鳴にも似た問題行動への注意を指摘しなきゃならなくされてしまった!!

 って言うか、何時からいた!? 今の今まで気配すら感じなかったぞ!? あと、ここ男子更衣室なんですがジェンダーの違いによるプライバシーは無しですか!?

 

「愚か者ぉっ! 私は魂は男で肉体は女の漢であると、先日申したばかりであろうが!! もしくは女を捨てたから男として扱えば良いと言っておいたはず・・・それを忘れたというのか織斑君!?」

「覚えてるよ! それに対して俺も“お前は良くても世間様はそう見ちゃくれない”って言ったよな確かさぁ!?」

「己は男だと主張するなら、性別などと言う細かい違いを気にするな――――ッ!!!!」

「重要だろ!? 一番重要な違いだろソレって!? 今更だけどお前にとっての女と男って、どういう基準で別けられてるんだ!?」

 

 大声で叫びながら、慣れてきたのか慣らされちまってきてるのか、頭の中で妙に冷静な思考が俺の心にささやいてくる声が聞こえた気がした・・・。

 

 コイツの中で男女の違いによる差別は一切存在していないんじゃないか、と。

 宇宙人だろうと地底人だろうと、語尾に『人』の字が付くなら同じ人間、人類皆兄弟姉妹。生物みな元をたどれば大海に浮かぶミジンコの一つに過ぎない、とか本気で信じてそうなヤツだからなと。

 

 ことによると、区別すらしてないかもしれないけれども・・・。

 

「はっはっは。織斑君は相変わらず面白いジョークを口にする少年であるなー」

「どっこも面白くなんかないぞ!? 全部真剣だよ! 真剣な怒りだったよさっきのは!」

「ハッハッハ! またまた、その様な心にもなく思ってもいない戯言を」

 

 別に馬鹿にしているでもなく、心底から純粋に面白がっているらしい態度で笑い転げてから、ようやく俺の方に向き直って自分の真意について説明してくれたハイドが語って曰く。

 

 

「今の今まで男と性別を偽った美少女と一ヶ月近く同棲生活を送ってきた君が、たかが女子と同室での着替えを恥ずかしがるわけがなかろう!

 そのような羞恥心が残っている人間に、幼馴染みとはいえ高校生にもなった乳房の大きな少女の下着を見ながら平然と寝食を共にした直後に、別の少女と同じ部屋で暮らすヒモの如き生活など送れるはずがない! これ即ち常識世界の真理なり!!」

「気付かなかっただけだよ―――――――――――――――ッ!?」

 

 

 俺叫ぶ! 今の今まであんまし考えてこなかった、考えてみたらヤバすぎる事案に気付かされちまった俺大声で叫ぶ!

 ヤベぇ! 反論できねぇ! しかも自分で考えてさえ最低最悪なヒモ男の所業としか思えねぇ!! たしかに事情はあったけれども! 学園側が決めたことなんだから仕方ないじゃんとしか言いようないんだけれども!!

 それでも世間様は多分そう思っちゃくれねぇ!! どうするんだ俺!? どうすんの!? これからどう生きて生かされるの俺って!?

 

 あと、気付いたら急激に隣に立ってる女の子と過ごしてきた期間が恥ずかしいものに思えてきたんですけども! 意識しまくってきちゃったんですけども! 胸が高鳴って心臓バクバク鳴り響いてるんですけれども!!

 こんな状態で俺、これから試合に出場しないといけないのかよ!? どんだけテンション変わっちまってんだよ! せめて下げてくれよ! 下げられた分には上げ直せばいいだけだから克己心でなんとかなるし!

 自分の心の内から沸いてくる恥ずかしさと、なんかゴニョゴニョした気持ちにはどう対処すればいいのか全く分からない思春期男子の気持ち考えろやこの愚か者美少女―――ッ!!

 

 

「ご、ゴホンゴホン! そ、そう言えばだなハイド! 今回の作戦を聞かされたときから思ってた疑問があるんだけど折角だから今聞いてもいいか!?」

 

 誤魔化した・・・と、隣に立ってる今さっき背を向けたばかりのフランス美少女からムッとしたような声でのつぶやきが聞こえたような気がするけど気のせいだ。気のせいなんだ。俺はそう信じたい。それが真実なんだと信じたいから信じるものが真実なんだ。・・・ああ、自分でも何言ってんのかよくわかんなくなってきた今の俺、相当に混乱しまくってるなぁー・・・。

 

「ふむ? 拝聴しよう。言ってみたまえ織斑君」

「おう! お前が言ってた作戦内容だと、ラウラをお前が倒した後に俺たちと戦って、わざとお前が負けるって作戦だったけど・・・アレって俺たちの方が先にラウラと戦って負けた場合にはどうするつもりだったんだ?」

「あ、それはボクも気になってたから、聞いてみたいかも」

 

 後ろから今度は賛成の声を上げてくれるシャルル。・・・機嫌直ってくれて良かったぁー・・・。情けないと自覚しつつも今回ばかりは心底安堵するしかない俺であったとさ。

 

 ま、まぁソレはおいておくとして。

 

「別にそうなったとしても負けるつもりはないし、勝つための努力とラウラ対策の作戦練習は積んできたつもりだけど、それとお前の作戦とは話別物だろ? お前としては上手くいかなかったときのことを、どう準備しているのか聞いておきたいんだよ」

 

 気持ちを持ち直した俺は、ハイドにそう聞いてみる。

 トーナメントの組み合わせは今までだったら従来のシステム通りコンピューターの抽選で行われるらしいけど、突然でペア対戦に変更されたせいで正しく機能してくれなかったとかで、今朝から手作りで生徒たちが抽選クジ作ってる姿を目撃している。

 

 そして俺は寝てた。俺だけじゃなくシャルルを含めた、専用機乗りたちには誰一人お声がかからなかったらしい。・・・ある意味これも格差社会というものかもしれない・・・。

 

「フッ・・・その程度のことを疑問に思っていたとは・・・下らぬな。

 もしそうなった時には諦めるに決まっておるだろうに!!」

「諦める一択なのかよ!?」

 

 クワッ!と目を見開きながら断言したハイドに、俺も思わずクワッ!と目を血走らせながら詰め寄らざるを得なくされてしまった。

 いやダメだろ! シャルルの人生かかってる問題で運任せとか流石にダメすぎるだろ!? もっとこう・・・責任感もってやってくれよ! 父親のせいで人生棒に振らされかかってる女の子が牢屋行きになるかならないかの瀬戸際なんだからさぁ!!

 

 そんな俺の心からなる叫びであっても、ハイドは一切全く動じることは決してなく。

 

「諦めるし、諦めざるをえん。我々にはどうすることも出来ない問題だからな。人事を尽くした後は運を天に任せて委ねる以外に他あるまい? 非合法を合法にするための手段として非合法に頼ってしまったのでは本末転倒も甚だしいと言うものだ」

「う゛・・・。そ、それはまぁ・・・たしかに・・・」

 

 相変わらず変なところでだけ極端に正しいハイドの言葉に俺は気圧され、引き下がらざるをえなくされてしまう。――なんかさっきから相手の言葉に引かざるをえない状況ばっかだよな、今日の俺って・・・。

 

「『無法天に通ず』どうしても守り通したい女子がいるならば、誰を敵に回そうとも貫きたい意地があるとするならば。

 身命を賭して常識の壁を突き破り、天の理であろうと突き崩させて新たな理を敷かせる程度の気概を持てずして事は成せぬ。失うことを恐れる余り、戦うべきところで勝負に出られなかった男子に天は罰を与えるもの。

 天すら見捨てておけぬほど、光り輝く意思の力を示す者こそ新たな世を開く天下人。無茶無謀を承知で挑めぬは男の恥と心得るが良い織斑君」

 

「・・・・・・・・・・・・お、おう・・・・・・・・・」

 

 なぜだか自分よりチッコイ女の子から、男の生きる道を説かれてしまった俺・・・。

 立場的には微妙な気がするけど、言ってること自体はまさしく真理。男の生き様そのものだ。正直ちょっと、憧れないわけでもない・・・。

 

「え、え~とぉ・・・・・・」

 

 そして幸か不幸か、一般感覚を持つ普通の女の子らしい女の子のシャルルには、俺とハイドの二人が共有している『考えるんじゃない。感じるんだ!』な根性論大好き日本人のDNAは受け継がれていないらしい。

 

「あ、ほ、ほら。そろそろ対戦表が決まって発表されたみたいだよ! 三人で一緒に見よーよ!」

 

 空気を変えるためにか、トーナメント表に切り替わったモニターを指さして話題変換を図る俺のパートナー。

 う~ん、残念だ・・・。やはり枢軸国同盟と連合国側の違いが――ってイカンイカン、変なところでハイドの悪影響受けすぎた思考をしてしまいそうになってしまった。俺は戦争反対戦争反対。うしっ、これでOK。もう大丈夫。

 シャルルに合わせて俺も気分を切り替えるためモニターを見て、トーナメントの対戦表で俺たちとハイドがそれぞれ一回戦で当たる対戦相手を探しはじめる。

 

 

《IS学園・学年別ペア戦トーナメント対戦表》

 

 第一試合 シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ 布仏本音

      ラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒

 

 第二試合 織斑一夏 シャルル・デュノア

      倉橋楓 ルシータ・バロウル・ヴル・ラピュタ

 

 

「やった! ハイドとラウラが一戦目で当たってくれてるね!」

「ああ! それに俺たちが二戦目だから、仮にハイドが負けても戦い方を見た上で俺たちが次で挑めるから、大した損にはならない!」

 

 発表された結果を見て喜び合う俺たち!

 お互いダメージのないまっさらの状態で正々堂々戦えないのは残念だが、今日のところはシャルルの人助けを優先しておく! 全力を出し切っての試合は今日でなくても出来るからな! もしぶつかってたら全力出してたけど運も実力の内、今回だけは割り切っておくさ。

 

「・・・って言うかハイド、本当に布仏さんとペア組んで参加登録してたんだね・・・。彼女には悪いけど本気だったとは思ってなかったから正直今ビックリしてるよ・・・」

 

 喜んだと思ったら一転、今度はシャルルが少しだけ「ドヨ~ン・・・」とした暗い雰囲気に包まれてるけど・・・どうしたんだ? その布仏さんて人が原因なのか? 誰だったっけか? そんな名前の女子生徒、俺たちの知り合いにいたかなぁ・・・?

 

「うむ! このハイド、大言壮語は吐こうと嘘はつかぬ!! ・・・だが、今回ばかりは運が悪かったようだがな・・・」

「?? 何かあったの?」

「先ほど連絡が届いた。彼女の大会参加は急遽取りやめになったそうだ。人間には防ぐ術のない、病というアクシデントが原因でな・・・」

「!? 彼女、病気にかかっちゃったの!?」

 

 慌てたようにシャルルが切羽詰まった表情でハイドに詰め寄る。

 ――そう言えばシャルルが大好きだったお母さんも、病気で亡くなったって言ってたもんな・・・。やっぱ気になるんだろうなぁ、こういう話って。とても他人の話だなんて割り切れないだろうし、名前を聞いたばかりの俺だって気になってるんだし。心優しい彼女としては尚更だろう。

 

「どんな病気なの!? 病名は!? IS学園の世界最先端医療技術をもってしても土壇場で試合不参加なんて、まさか不治の病とかなんじゃ・・・・・・ッ!?」

「いや・・・そうではないらしいのだがな・・・・・・」

 

 ふぅ、と太くて長いため息をついた後、やりきれない思いを込めた口調と表情で無念そうにハイドが説明してくれた、その・・・布仏さんて人の病状はと言うと。

 

 

「おたふく風邪で、顔がヒドいことになっているらしくてな。到底、大勢の人が見ている衆人環視の中に晒せる状態ではないらしい・・・だからこそ試合は不参加にしてくれとのことである」

 

「「・・・・・・は?・・・・・・」」

 

 

 俺たち二人、そろってポカーン。

 お、おたふく風邪? えっと・・・ここって国立高校で、日本人生徒には飛び級とかの制度が適用されてる奴いなかったよな・・・?

 

「む? 知らん病名だったかね? 大人になってから掛かる者も希におる病気なのだが・・・」

「い、いや、おたふく風邪そのものは知ってるんだけれども・・・」

「そうか、ならば話は早い。おたふく風邪は大人になってから掛かると少々やっかいになり治りが遅い病気でな、一生に一度きりのものだからIS技術でも自然治癒をわずかに早める以上のことをすると身体に良くないとのことだった。

 IS操縦者は顔も命。彼女の将来も鑑みて、病名は伏せたまま急病が原因による試合不参加として、快復後の登校時には病を完治させて奇跡の復活を果たした重いハンデを背負いながらも元気に振る舞って、クラス中に愛と明るさを振りまく薄幸の美少女キャラを付け加えて話題にするべきだと学園執行部が決定を下したそうだ。此度の件はそのための措置であると」

「あざとい! IS学園執行部あざとすぎる!!」

 

 さすがは日本政府がすべて金出して運営されてる国立機関! 人気取りがあざとい! 日本政府あざとすぎるぞ! あと、わざとらし過ぎるぞ! 生徒の病気まで人気取りの金儲けに利用するなよ本当に!?

 

「――で、ペアで出場するはずだった選手が急病によりドタキャンされてしまった私は、特例として一人だけでのペア戦トーナメント出場を許可されたという次第である」

「うん、それもうペア戦って言わないよね。普通に二対一のハンディマッチだよね。しかも相手の片方が第三世代の専用機なんて、ハイド以外は詰んじゃってる窮状だよね」

「高校入学時に新入生としてのみ参加できる、人生で一度きりの晴れ舞台に病によって参戦できなかった彼女の無念は如何程のものであったか・・・・・・その心境は察するに余りある。

 その無念は必ずやこのシュトロハイドが勝利の栄光を見舞いの花束として彼女の病室に飾ることで果たすことを、ここに宣言するものである!!!」

「うん、多分それ彼女が喜ばないお見舞いの品だと思う。シュークリームとかの方がたぶん喜んでくれると思うよ、彼女の性格を考えたなら」

「む! 時間か・・・・・・では行ってくる! いざ出陣!! トゥッ!!

 勝利の栄光を布仏君にぃぃぃぃぃぃッ!!!!!!」

「聞いちゃいないなぁー・・・・・・何時ものことだからいいんだけどさぁ・・・・・・」

 

 

 シャルルもいい感じにハイドに適応してきたところで、出場選手たちが会場となるアリーナの中央に集結する姿がモニターに映されてアップされた。

 誰にとってのかはもう知らないけど、宿命の対決が今ここに幕を開けようとしている! そんな気が俺には確かにしたのだった・・・・・・ッ!!

 

 

 

 

 

「・・・ふっ、一戦目で当たるとはな。貴様とは教官の愚弟を先に倒してから戦いたかったが・・・まぁいい。手間が省けるというものだ。

 時代遅れの第二世代機など最新鋭機シュヴァルツェア・レーゲンの敵ではない! 私一人だけで圧勝してや――――」

 

 

「遠からん者は音に聞け! 近からん者は寄って目にも見よ!!

 我が名はハイド! ドイツの国より参りしシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ!!

 『城落としのハイド』とは我のこと成り!

 平和な惰眠を貪るふぬけ国のIS操縦者どもよ! 難攻不落の城を悉く落としてきた我が輝かしき戦歴に、お主らの機体も加えてやる! 光栄に思うが良い! この虚け共めらがぁ!!」

 

 

 

 お、オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!?????

 

 

 ―――盛大に盛り上がりまくる観客たち!! シャルルに負けた時のインパクトアップを狙ったハイドの過大広告は広告詐欺のレベルを超えて超効果を発揮している! ハッキリ言って後遺症が怖いレベルだが、大丈夫か一夏たち!?

 

「ふ、ふん! 身の程知らず故の傲慢さもそこまで言えれば大したものだな―――」

 

「私にとっては簡単なこと・・・只一人! シャルル・デュノア君さえ倒せばよい!!!

 あとは雑魚ばかり成り!!!!!!!」

 

 

 お、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!??????

 

 

 盛りに盛り上がりまくるIS学園トーナメント大会の会場!!

 それと反比例して盛り下がりまくり、頭を抱え込むしかないシャルル・デュノア!!!

 

 戦い始める前から混沌としまくってる戦場は、試合開始のブザーと共にさらなる混沌へと向けて第二ラウンドの始まりを告げる!!

 

 

『試合開始まで、あと5秒―――4、3、2、1―――試合開始です!!!』

 

 

「叩きのめす!!」

「面白い! 君の魂で、この私の漢の魂を滾らせてみよ!!!!

 ウォォォォォッ!!! 魂いィィィィィィィィィィィィィッッ!!!!!!!」

 

 

 実力はあるが自信過剰気味VSノリと勢いだけで神をも殺す力を持った最強のバカ。

 攻撃力と馬鹿力、二つの『強さ』による戦いがここに始まる!!!!!




*今回の元ネタ。

SDガンダム三国伝:呂布トールギス
SDガンダムフォース:阿修羅丸&虎武羅丸

トールギスはともかくとして、フォースの二人は気付いた方はおりましたかね…?


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『我が征くはIS学園成り!』第15章

ハイドIS最新話。ノリと勢いだけで書いたためにメチャクチャな話になりましたが、気持ち良かったので今回はこれで良しとしておこうと思います。
元々そういう作品でもあることでしたしねぇ…。


 シュトロハイドからの意味不明で時代錯誤な挑発セリフから始まったIS学園学年別タッグトーナメントの第一試合は、プロではなく学生同士の試合に過ぎない代物でありながら、『ある意味ではIS史に一石を投じた注目すべき戦いだった』と後世のIS歴史家たちから高く評価される戦いである。

 ――もっとも、『“ある意味では”という枕詞が取られる日は永遠に来ない戦いだとも思うけど』と注釈がつくのが未来世界では常識となる戦いでもあったのだけれども。

 

 

 取りあえず・・・・・・それは置いておくとして!!

 未来じゃなくて現代のIS学園において現在進行形ではじまっていた学年別タッグトーナメントの試合内容は、開戦早々ハイドからのバーニアを全開させたフルバーニアな全力突撃から開始されていた。

 

 

「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッい!!!!」

「ふんッ! 開幕直後の先制攻撃とは、わかりやすいな!」

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」

「しかもイグニッション・ブーストも使わず、ただ全速力でまっすぐ突っ込んでくるだけでは、新兵のダンスにも劣るというもの! 少しぐらいは戦術というものを学ぶべきだろ――」

「ずえりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!!」

「人の話聞く気ないのかお前は!? マイペースすぎるのにも程があるだろうが!!」

 

 ハイドによる、どっかの国の亡霊みたいに人の話を聞かない聞く気がない悪夢のような突貫ぶりに、さしもの冷血非常と名高い『ドイツの氷水』も大声出してツッコまざるを得なくされて(それぐらいの声量出さなきゃ聞こえないほど相手がウルセー)

 それでもISは高速機動が基本のSFロボットであり、イグニッション・ブースト使ってない普通の全速突撃だからといって何もせずに喋りながら待ってるだけだと流石に斬られてダメージ受けさせられてしまうため、仕方なしにラウラはハイドの動きを止めるために右手を相手の機体が近づいてきている方に向けさせる。

 

「でぇぇぇぇぇぇぇッい!!! むむっ!? 機体の動きが鈍くなっただと!?」

「フッ! やはり第二世代のアンティークなど、私の敵ではないな! このシュヴァルツェア・レーゲンが持つ停止結界の前では、接近戦用武装しか持たぬ貴様の機体など時代遅れでしかないのだ!」

「動きを止めたか・・・なるほど! 《爆導索》という奴であるな! さすがはボーデヴィッヒ君!

 シュヴァルツというドイツ人名を持つ機体に乗りながら、連邦の機体が持つ武装さえ勝つために取り入れているとは・・・見事! 全くもって美事なりラウラ・ボーデヴィッヒ君ぅぅぅぅッッ!!!!」

「お前はさっきから一体、何を言っているのだ!?」

 

 今度はどっかの国の蜻蛉みたいなこと言い出したクラスメイトでルームメイトでもある女の子の言葉に、まったくワケガワカラナイと混乱しながら叫ぶしかなくなっちゃってるラウラちゃん。

 この世界に、連邦軍の白い悪魔伝説があるのかどうかは知らないけれど(ハイドは全話見てるので転生後はまだ見ていない)少なくともドイツ人でドイツ軍人のラウラちゃんには全くもって聞いた覚えのない意味不明な用語の連発に開幕直後から混乱させられっぱなし。

 

「だがしかし! 私の真に戦いを求める心は誰にも止められぬ・・・・・・止められぬのであぁぁぁぁぁぁぁッッる!!!!」

「なにッ!? ヤツの圧力が増大していくだと!? 一体なぜ――うぐおわぁッ!!?」

 

 ハイドの動きをAICで止めるため、前方に突き出していた右手に突然、猛烈な圧力がかけられて押し返されそうになったラウラは、慌てて左手を前に出し、右手を支える添え木代わりに使って圧力への抵抗になんとか成功することができた。

 

 だが押し返されこそしなかったとはいえ、動けなくした敵を左手で攻撃するシュヴァルツェア・レーゲンの必勝パターンが破られたことに変わりはない。どうするべきだろうか?

 理屈は分からないながらも、相手がAICを破りかけた事実は変えようがない以上、ラウラにとっては思案の為所だった。

 

「ウォォォォォ!!! 気合い気合い気合い!!! 根性ぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」

「って、お前ただの根性論でAICを破ってたのか!? なんの理屈も理論もなく根性論だけで!?」

「私は今! モーレツに爆熱激熱瞬殺抹殺熱血しているぅぅぅぅぅぅぅッッ!!!!!」

「アホだぁぁぁぁッ!! ただのアホだ! やっぱアホだ! お前はただのアホでいいんだぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 ノリに乗っている今のハイドに理屈が通じない事実へと、遅まきながらに気づいたラウラだったけど、だからといって彼女が有利になるわけでも相手が弱くなってくれるわけでもない。

 ただ『何考えてんのか分からん敵』が『何も考えてなかったから何考えてんのか分からないのは当然の敵だった』と判っただけの変化である。

 ・・・本気で何の意味もない答えに気づいただけだった!!

 

「ローゼンバッハ! 私を忘れてもらっては困るな!!」

「シノノノ!?」

 

 突如として横から割り込んできた、名目上ではパートナーということで大会には登録してやっていた日本人女による突撃に気づいて、正直ラウラは内心で激しく葛藤させられる。

 

 本音を言えば、自分一人だけで戦って、独力で勝ちたい。味方など邪魔なだけだと、ワイヤーブレードで掴んでアリーナ脇まで遠心力で投げ飛ばしてやりたい。

 だが、ハイドは予想以上に強敵だった。というよりかは真性のバケモノだった。人じゃない。

 今までも散々に、模擬戦や訓練で人外ぶりを見せつけられてきたラウラであったが、実際に戦場と訓練用のアリーナは別だと高をくくって敵を過小評価していた事実を今となっては認めざるを得ない状況にまで追い詰められていた。

 

 ここは恥を忍んでシノノノホウキとの共同戦線を張るべきだろうか?

 それとも独力による勝利に固執し、本命である怨敵・織斑教官の愚弟を完膚なきまでにブチのめして教官をドイツに連れて帰るという本来の主目的を放棄する道を選ぶべきなのだろうか?

 

「・・・行け! シノノノ! 敵の動きはを封じる役目は私が担ってやる! 奴を倒すのだ!!」

「ボーデヴィッヒ・・・ッ!!」

 

 短いが深刻な葛藤の末、ラウラは目的達成のため我を張るのを諦めて、大事の前の小事を受け入れる度量を手にし、今まで相手にもしてもらえたことすらなかった箒は、成長した彼女の言葉と度量の拡大に深く感銘を受ける。

 

「――心得た! 奴への止めは私に任せるがいい! はぁぁぁッ!! チェストォォォッ!!」

「むぅぅぅっ!!!」

 

 その心意気に打たれるままにハイドに向かって突撃して、必勝の信念と共に振りかぶった刀を未だ自由を回復できないでいる敵機に向かって全力で振り下ろす!

 

 ドガバキボガゴキバキンバキン!!!!

 

 ・・・そして、滅多打ちである。動けない相手に侍が一方的に乱打していいのかなんて理屈は、惚れた男が素手であっても真剣でブッ刺して貫き殺そうとしまくった殺人未遂常習犯の箒には一切存在していない。

 勝ったらもらえるご褒美が一夏の勝負に限り、彼女が信じ貫く武士道は、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対処して適用範囲を変えていく行き当たりばったりな信念に変わることができる、自由度の高い代物だったため今だけは問題なく乱打できたからである。

 

(大事の前の小事! 大事を生まんとする者が小事にこだわることこそ武士として恥ずべき心の弱さ! 屈辱を乗り越えてこそ得ることのできる栄光をこの手に掴むまで私は負けるわけにはいかないのだから! 人徳の人である西郷隆盛も【勝てば官軍】という言葉を残しているではないか!!)

 

 なんかひどい考え方をしているが、実際問題ブシドーとはそんなもんである。

 役人相手に鉄砲で脅して逃げ出すのが坂本龍馬の戦い方であり、騙し討ちと奇襲とルール無視で一方的に敵を殺すのが源義経の勝ち方であり、待ち合わせ時間に遅れまくって相手を焦らせ「お前は既に敗れている!」と揺さぶりかけてから脳天たたき割るのが宮本武蔵の殺し方である。

 正々堂々と戦って苦戦しまくってから勝った侍が、英雄として人気がある話はあんまし聞かないので、人々が愛する武士道とは大体そんなもんなんだろうと勝手に想像してみたりする。

 

 ちなみにだが、この時ラウラちゃんが抱いていた胸の内の心境変化の度合いはと言うと。

 

(所詮ハイドは本命のまえのオードブルに過ぎん前座なのだ! 前座の相手は前座に任せて、主役は出番が来るまで舞台の袖で待機していればいい者なのだ! 主役は常に最後に出番が回ってくる者と決まっているのだからな・・・・・・。

 この戦いに勝利した後に訪れる真なる戦いのためにも、今は屈辱に耐えしのぐ時! 私の真の目的が達成されるその戦いまでは、貴様に戦いを預けてやる! ありがたく思うがいい! ザコIS操縦者ホウキ・シノノノ!!)

 

 とまぁ、この程度の微細な変化でしかなったことを当の本人自身と箒は知らないし気づいてもいない。

 車も人も、急に方向転換しようとしたところで余りカーブできないし、出来たときには逆走しちゃって来た道を戻ってるだけの人たちが多いのがフィクション展開であり現実の定番でもありまッす。

 

「うぉぉぉぉぉ!! 覚悟するがいいハイド―――ッ!!!!」

「むぅぅぅ・・・・・・ッ!! この私をここまで追い詰めるとは! 流石は篠ノ之君! 私に相応しいターゲットである!!」

 

 動きをラウラに封じられたまま、防御力高いけど攻撃力は大したことない打鉄の刀でボコボコ殴られまくってISエネルギーを大幅に削り取られながらハイドが呻き声を上げている。

 無論ハイドは、拳で山を砕いて地を裂いて、足で蹴ったソニックブームで海を割れる人間超え過ぎちゃってる人間なので打鉄のポン刀で殴られたくらいじゃ掠り傷一つ負わないしダメージも0なのだけど、ISバトルは人間同士が生身と生身でぶつかり合って倒れた方が負けとするガチンコ勝負なんかじゃない。先にISエネルギーが0になった方が負けとなる正々堂々とした点数形式のスポーツバトルである。

 したがって、ISを纏っている生身の肉体が無傷のままであろうとも、肉体の外側をよろっている側の部分のIS装甲が維持できなくなるまでダメージ与えて粒子化させたら勝ちになる勝負なのだ。

 

 本人の肉体が持つ桁外れなスペックや強さなど関係ない。本人の肉体が纏っているISの強さとスペックとエネルギー残量だけが勝敗を分ける戦いなのである。

 そのような戦いとあっては、如何な超人間ハイドとて数値通りの圧勝するというわけにはいかなかったのだ!

 

 ・・・・・・なんか色々とおかしい気もするけれど、システム的には一応そうなっている。ヒトの形をしたバケモノがISまとって戦った場合には多分そうなる。・・・と思う。多分だけれども。嘘はついてないぞ嘘は。インディアンと日本人嘘つかない(それが嘘だろうが!とノリツッコミ)

 

 

 ――如何に本人がバケモノスペックを誇ろうと、第二世代の機体をまとって、動きを止められたままではどうしようもない。

 ハイドでさえ、機体の性能を生かせないままでは敗れるしかないのが、荒野のように過酷な数字のリアリズムが支配する戦場。それがISバトルである以上は是非もなし・・・・・・!!!

 

 

 

 ・・・・・・・・・だが。

 

 

 

「だが! しかぁぁぁぁぁぁぁッッし!!!!!」

「なにッ!? う、うわぁぁぁぁぁッ!?」

「シノノノ!? ――って、ぐはッ!?」

 

 気合い一閃! ハイドの中でナニカが目覚めて覚醒して、彼女の中で眠っていた真のナニカの力で波動が周囲に扇状へ放射され、近くに立ってボコり続けていた箒が吹っ飛ばされてラウラに当たって二人まとめて転倒する!

 

 土壇場で目覚めたナニカの力でパワーアップしたらしいナニカによって成し得た結果っぽいけども、そのナニカってのが何なのかはよく分からない!

 たぶん、怒りの感情がどーのこーのとか、オーラの力でどーのこーのとか、体内で眠り続けていた先祖の血がどーのこーのとか、なんかそういう本人の努力とか積み重ねとか物理現象とかとは完全無欠に無関係な生まれついて持ってた何かの力が原因で起きてるものなんだろうきっと。

 どのみち原因なんか気にしたところで、あんまし意味はないので深く考えることなく適当に好みだった理由付けで納得しておけばよい問題である。

 原因がどれだろうとも、事実としてパワーアップしたという結果は変わらないのだから、同じなのだから。

 戦いの場において結果だけが重要である。原因究明は戦いが終わった後にしましょう。

 

 

「我は退かぬ・・・、我は落ちぬ・・・、ハイド帝国安全保障局の初代局長として、世界人民の安心と安全と平和を守ることは私の義務なのだぁぁぁぁぁぁッ!!!! この様なところで負けてなどいられるものかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「だからお前はさっきから何の話をしているのだと聞いている!? まったく訳が分からんぞさっきからず―――っと、一言たりとも何一つとして全く全然これっぽっちも!!」

「君も戦士であろうが!? 戦士ならば細かい理屈など気にすることなく、己の剣と力のみを信じて我を通し抜いてみせるがいいィィィィィッ!!!!」

「ぐぅ・・・ッ!? 意味不明だが有無を言わせぬ説得力があるような気にさせられそうになってきている、だとー!?」

 

 ついにラウラまでハイドの雰囲気に飲まれはじめて、戦場が混沌としていく中。

 篠ノ之箒は驚くべき事実に気づいて驚愕の悲鳴を上げ、相方のパートナーに驚き慌てながらも事実を報告する。

 

「ぼ、ボーデヴィッヒ! 奴のエネルギー残量を見てみれ!」

「なに・・・? 今更そんなもの見て何にな―――なんだとォォォォッ!?」

 

 箒に促され、ラウラも目にしたモニターの数字に驚愕の悲鳴を上げさせられる。

 観客にも見える用にと、モニターに表示されている互いのISのエネルギー残量が、自分たちは元のまんま、相手の方だけ全回復してしまっている。むしろ前より上がっているようにまで見える。

 フォームシフトした訳でもないのに、一体全体何が起きたのか? 彼女たちには全く分からない。

 ・・・・・・だが、しかし!!

 

「フハハハハッ!!! その程度の機体では、私のゴールデンバウムと勝負にすらならん!! 鎧袖一触とはまさにこの事! 機体の性能を生かせぬまま、怯え竦めながら負けていくがいい! うつけ者どもよ!!」

「くっ・・・! ISエネルギー測定機械が故障しただけで調子に乗るな! もう一度動きを止めてしまえば結果は同じになる! 食らうがいい!《AIC》!!」

 

 再び右手を前にかざして、ハイドの動きを今一度拘束してやろうとしたラウラであったが、同じてを二度も食らう地獄の征服王ハイドではない。

 

「笑止ぃぃぃぃぃッ!!!」

 

 バサァァッ!と、別に何の意味もない無駄に大きすぎるモーションをつけてラウラと同じく右手を掲げ、マントを翻す時みたいな仕草をしてみせただけでシュヴァルチェア・レーゲンのコンピューターは、

 

『報告イタシマス。AICガ無効化サレマシタ。一切ノ効果ガ感知デキマセン』

「な、なにぃぃぃぃぃッ!?」

 

 ラウラ、今度こそ本気の本気で驚愕。

 一体どういう理屈によってか、あの意味がないとしか思えない仕草によって、ホントーにAICが無効化されてしまったのだ!

 一体これはどういうことなのか・・・? ラウラは訳の分からない事態を前にして説明を求め、目の前でこの現象のすべてを起こしている元凶に向かって問い詰めざるを得ない!

 

「き、貴様・・・一体何をした!? なぜAICは無効化されたのだ!! 答えろ! ハイドぉぉぉぉッ!!!」

「君などに話す舌は持たぬ! 戦う意味すら解せぬ子供に、戦いの真実を語ったところで無意味というもの!」

 

 断言してハイドは、「そしてぇぇぇぇッ!!!」と続け。

 

「なにより私自身が知らんのでなんも答えられん! ISとは全くもって摩訶不思議、奇想天外おもしろビックリからくり人形であることよな! ふはははははは~ッ♪♪♪」

「笑い話で済ますところかその話は!? お前それ私に語る舌を持っていないのではなく、お前自身が語るべき答えを持ってないだけではないか!

 てゆーかお前、もしかしなくても戦う意味どころか、特に何も考えずにノリと勢いで戦っているだけだろう!? どう見てどう考えても確実に!?」

「無論!! 当たり前であろうがぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 断言されてしまった。しかも否定じゃなく、肯定で。

 間違いや矛盾を糾弾したつもりが全肯定した断言で返されちゃうと、その後になんて言っていいのか本気でわからなくなるよね。こーいう時ってさ。

 

「だが、それが何だというのかね!? ここは戦場で、今は戦闘中なのだぞ!! 戦いの場においては強い者が正しい、それだけでよかろう!!」

「ぐぅ・・・ッ!? ま、またしても理屈無用な説得力によるプレッシャーが・・・・・・ッ」

 

 徐々に徐々に追い詰められてきちゃったラウラちゃん。

 今まで理屈で生きてきて、織斑教官という絶対の神こそ最強だと信じて、彼女から教わった答えこそが世界の真理であると確信しながら生きてきたのに・・・ッ。

 

(わ、私は・・・こんなところで負けてしまうのか・・・? 織斑教官を愚弟から取り戻すための戦いの場にさえ赴けないまま、こんな訳の分からない奴に敗れて負けてしまうしかないのか・・・? この、私が・・・?}

 

 それら全てを、『なんとなくのノリと勢いだけ』で全てを蹂躙し尽くして完全否定し、あろうことか本人にその意思もなければ自覚もなく悪意すらもない、究極のKYを前にしてラウラのアイデンティティーは崩壊寸前のところにまで追い詰められつつあった。

 

(い、イヤだ! 負けられない・・・こんなところで負ける訳にはいかない! 私はまだ負ける訳にはいかないのだから・・・!!)

 

 ・・・・・・もはや彼女に残されている、信じて縋るべき一本の藁は、信じてついて行くと決めた人の教えのみ。その人に与えてもらった強さのみ。

 

(だって私は敗北させると決めたのだ、あれを! あの男を! 私の力で完膚なきまでに叩き伏せると! それなのに、それなのに! こんなところで負けるなどと言うことは許されない!)

 

 心の底から負けたくない! 勝ちたい!という思いを沸いてこさせて、敵に向かって挑みかかろうとするラウラであったが、現実の戦いは過酷だ。

 相手より力で劣るラウラに、AICを無効化された今となってはハイドに立ち向かう術など残されていようはずがない。

 相手に突っ込んでいって手玉にとられ、箒も倒されアリーナの障壁まで吹っ飛ばされた後、ヨロヨロと立ち上がろうとしていたラウラの目前で、巨大な大剣を振り上げて止めを刺そうとしてきている憎むべき恐ろしい敵の姿が目に映る。

 

「とどめ!!!」

 

 ・・・・・・しかも、わざわざ口に出して宣言されてから止め差しに来るし。

 コイツ本気で殺したい。コイツ殺せるんだったら命すらあげてもいいってぐらいに憎たらしい。憎たらしすぎる。

 

 そんな時だ。

 ドクン・・・・・・と、ラウラの胸の奥底でナニカが蠢く音がした。

 

『―――願うか・・・? 汝、自らの変革を望むか・・・? より強い力を欲するか・・・・・・?

 望むなら、比類なき最強を、唯一無二の絶対を汝に貸し与えてやろ―――』

 

 ポチッと。

 ラウラはそいつの声の中から『最強』という言葉が出た瞬間に、頭の中で「Yesボタン」を指でクリックする自分の姿をイメージして契約書に迷うことなくサインした。

 なんか最後にそいつの声で、『―――最後まで言わせてほしかった・・・』とかなんとか言ってたような気もするけど、力さえもらえりゃソイツに用はなく、価値もないので無視してよろしい。

 

 欲しいのは、ただ力だけ!! 比類なき絶対最強の唯一無二を、この私に!!!

 

 

 

 

「う、あ、あ・・・・・・ああああああああっ!!!!!!!」

『ラウラ!?』

 

 俺とシャルルは、モニター内で展開されてた、いつも通りっちゃいつも通りなハイドの滅茶くちゃっぷりに頭痛を覚えながら、シャルルに至っては「僕はこれから、あれに勝ったことにされちゃうんだよね・・・」と別の意味で頭を抱え込まざるを得なくなりながら、割とのほほんとした気持ちでノンビリ観戦してたんだけど、どうやらそういう訳にもいかなくなったみたいだ!

 

「行くぜ! シャルル!!」

「うん! わかってるよ一夏!!」

 

 打てば響く反応の良さで、走り出す俺の後ろからシャルルが付いてきてくれる!

 こんな光景を見せられて、黙って見ていられる俺じゃあない! 俺たちじゃないんだよ! 舐めるんじゃねぇ!

 

「ハイド!!」

 

 緊急事態でシャッターが閉じる寸前に、フィールド内へと飛び出すことに成功した俺とシャルルは、ハイドと、黒い泥みたいなのにに染まって先ほどまでとは似ても似つかない姿に変貌してしまっているラウラとの間の空間に降り立つと、背後に回ってもらったハイドを振り返りながら譲れない俺の思いについて、出番と戦いを奪っちまった友人に対する謝罪を込めながら俺は語る。

 

「悪いがハイド、選手交代だ。コイツの相手は俺がやらせてもらう。

 ・・・コイツは俺にとって許せない物を持っていやがるから・・・っ。あれは千冬姉だけのものなのに、それをあいつは・・・クソォッ!!」

 

 普段から口が上手い方って訳じゃない俺には、自分の気持ちをハッキリと具体的には表現できる言い方が見つからないし、わからない。でもこれだけは断言できる。

 

「それになにより、あんなわけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気に入らねぇ。ISとラウラ、どっちも一発ぶっ叩いてやらねぇと気がすまねぇんだよ。

 とにかく俺はあいつをぶん殴る。そのためにはまず正気に戻させてからだ。その後にお前がラウラと決着をつけるって言うなら、俺はそれを止める気は少しもな――」

「逢いわかった。了解したぞ織斑君。君の思い、たしかにこのシュトロハイド・ローゼンバッハの胸には言葉とともに届いていたのだよ・・・・・・ッ!!!」

 

 感極まったような声が背後から聞こえてきて、俺はチラリと後ろを見ると、涙を浮かべて感動し、共感の眼で俺を見ているハイドの瞳と目線が重なり合うと、俺は一つ頷いてから前を向いて刀を構え直した。

 

 思いは伝わった。共感も得た。ならば後は征くのみ。倒すのみ。

 ラウラを助け出して、一発ぶん殴ってから、あらためて正しく千冬姉に教えてもらったコイツとならいい勝負ができるような気がしながら――――参る!!

 

「行くぞ!! てぇぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

 

 

「つまり、一番おいしいところを横から割って入って掠め取っていき、最後のシーンで皆から感謝感激雨あられの集中声援を送られまくることこそ、主人公らしい生き様だと君は確信しているということであるな織斑君!

 そう! それはさながら金パッつぁん先生のごとく! ラストシーンでは『ハイル金!』『ハイル金!』と、自分を神のごとく慕い絶対の忠誠を誓ったクラス内の自分以外全員から親衛隊として志願され、やがては彼らを先兵として自らの思想を広め、この国を征服してみせるのだという心意気! ・・・・・・見事! 全くもって美事なり織斑君!

 君こそまさに現代によみがえったハイルヒトラーにしてアドルフ金パっつぁん先生! 私は君の思いに深く感動し、共感して場を譲るものである!! 頑張ってくれたまえ我が同胞! 征服者の朋友よ! ハイル・オリムラー!!である!!!」

 

 

「違うよ!? 全然違うよ! 全く違っているからな!? いつもいつもトンデモナイ方向に俺を勘違いさせて巻き込もうとしてくるんじゃねぇぇぇぇぇ!!

 あとお前は、3年B組の先生と生徒たち全員にたいして土下座して謝ってこ――――――ッッい!!!!」

 

 できればラウラとISより先に、この善意での世界征服バンザイ思想持ち女子高生を本気出してぶっ飛ばしてやりたくなってしまった俺は、友人として薄情な男ではないと信じたい。

 

つづく

 

 

オマケ『ハイドが謎のパワーアップをした理由説明』

 今話の中で、ハイドが謎のパワーアップを遂げた理由はナニカではなく存在してたりする。

 

 ISには操縦者の願望を実現する機能が備わっており、その願望は持ち主の実現を願う気持ちの強さに反比例して肥大化していくが、あくまでIS機能のため、ISを纏っている操縦者本人とIS本体の中でしか効果はない仕組みになっている。

 

 そしてハイドの叶えて欲しかった願望とは・・・・・・ガンダムが好きだったのである。大好きだったのでやってみたかったのである。

 だからピンチになったり、追い詰められてから全回復したりと色々とできた。本人自身に自覚はないし、自作自演では面白くないので一生気づくことはない真実だが、実際のところは最初の時点でラウラのAICは普通に無視できたりする。

 

 何故ならば・・・・・・場の空間ごと相手を拘束する系の特殊能力は珍しくもなく、地獄征服戦争では何度も使われてた破ってきた能力だったし、ぶっちゃけ動き止めるだけで攻撃機能がないAICは、空間支配系の能力の中では比較的弱い部類に該当してたりしたからである・・・。

 なんというか、ファンタジーな世界観を経由してやってきているチート転生者って、現地人にとっては面倒くさい存在だった。

 

 

 尚、言うまでもない事ですけど、ハイドが好きなガンダムに登場する勢力は《デラーズ・フリート》です(苦笑)




*今話ラストのハイドにも一応の計算があり、シャルルと一夏でドイツ軍機が起こした問題を解決して救い出せば貸しが出来て、シャルルを救うのに役立つだろうと考えたが故に役を譲ったという側面を持っていました。

元々が地獄に大乱を起こした本人であり、それを収めて統一を果たした善意のマッチポンプ征服王だったため戦いでの貸し借りは道徳にも倫理にも背くものではないと考えています。所詮、一夏達とは価値観が違う女の子主人公でッス。


……書くまでもないかと思って書かなかったのですが、一応の補足として念のために。
(主人公の性格的に誤解されても仕方ないと思いましたのでね…)


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IS学園のひねくれ少女 第18話

余りにも長く空きすぎたと焦っていた『ISひねくれ少女』最新話です。
最近、文章が上手く書けずに迷走してしまって手こずってる間に時間過ぎちゃってた話を焦りながら書いたため、文章も話もビミョーになってしまって申し訳ございません。同時進行が多いと、どうしても焦ります故に…。


 ――カンッ! キンッ! ・・・ゴォウッ!!

 

 シャルルと組んでチームで参加することになったタッグトーナメント第一回戦だったが、敵であるラウラの思わぬと言うか、予想以上の母ちゃん大好きっぷりによって想定外の苦戦に俺たちは陥らされていた。

 

 

「箒お姉さん! いったん後退して元の位置まで戻って下さいです! これ以上前に出ちゃうと横合いからラファールのアサルトライフルを食らっちゃうです!」

「むっ!? いつの間にデュノアがあんな位置にまで・・・・・・了解した! 後退する!!」

「――ちぃッ!! また引っ張り出せなかったか!!」

 

 

 もう何度目かの挑発による分断に失敗して、俺は舌打ちをしながら白式を大きく跳躍させて後退させる。

 その直後に俺の足下を狙って撃ち込まれてくる箒からの牽制射撃。明らかにラウラから入れ知恵された箒らしくない、小賢しい安全策に二度目の舌打ちをしながら更に機体を後退させて、挟み撃ちの奇襲が不可能になったシャルルもラウラが砲口を向けさせたリボルバー・カノンで撃たれることを警戒して後退。俺と合流して仕切り直しを測らざるを得なくされる。

 

 ・・・さっきから延々と、この繰り返しだった。

 壁役の箒はともかく、敵司令官役を兼ねたラウラは挑発に対して過剰なほどの慎重策をとってきて、「あと一歩攻め込めるかどうか?」という距離の“二歩手前”で必ず待ったを掛けて箒を呼び戻し、ラウラはラウラで大口径の巨砲を撃つ素振りだけ見せて撃たない。

 

 時間稼ぎによる判定勝ちを狙った戦法だった。

 ラウラと箒は動きを最小限に抑えて、自分たちの初期位置からほとんど動かず、挑発に乗っても互いの有効射程までは出てこようとしない。

 逆に俺の白式とシャルルのリヴァイブは高機動型であり、動き回らないと機体性能を活かすことができない。

 

 昔セレニアから『攻城戦において普通なら騎馬兵のほうが不利なんですけどねぇー・・・』と、大河ドラマ見ながらボヤいてたのを聞いたことあるけど、まさか本当だったとは!

 

「シャルル、無事か?」

「一夏こそ、囮役を担って前に出ているんだから無茶しないで。このままだとジリ貧だし、僕もサポートに入ろうか?」

 

 プライベートチャンネルを使うまでもない距離で交わす味方同士の会話。

 敵は遠く、最初の場所へと戻って動こうとはせず、こちらが動くのをただ待っている『後の先の構え』

 

「・・・いや、いい。このまま例の作戦を続行しよう」

「一夏・・・。うん、わかったよ。このまま続けるね」

 

 俺は、敵の作戦に構わずあらかじめ決めておいた作戦を続行することを決めて、シャルルに指示を出す。

 どのみち、にわか仕込みの思いつき戦法で勝てるほど易い相手じゃないことは今までの展開で分かり切っていることだ。このまま『箒を先に倒す作戦』で行くしか他に俺たちには勝ち目がない。

 

 それに何より、俺はこの“セコイ戦法”に向かっ腹を立てていた。

 無難な動きと、足下を狙った射撃でコチラが無駄に動くことを強制してくる嫌な攻撃の仕方には、一人の剣士としてイライラさせられてしまう。

 

 ――こんな戦法に負けてたんじゃ、剣士の名折れってもんだ! 乾坤一擲、斬られる覚悟で斬り込んで分断し、敵のせこいチームワークをぶった斬ってやる!!

 

 そう覚悟を決めた直後のことだった。

 

「あっ! そのお顔はまたズルい負け惜しみを考えてますねヘンタイさん! “敵が使ってくる戦法に追い詰められるのを敵のせいにするのはヒキョー者のやることです”って、お母様が言ってたですよ! ヒキョーなのはよくないと思います! 反省してください! メッ!です!」

「容赦ねぇな!? どこの世界でもセレニアは本当に!!」

 

 言ってることは確かにそうなんだけど、剣士には剣士の流儀ってもんがあって、指揮官のそれとは違うんだってことも娘にはちゃんと教えておいてくれないかな異世界セレニアさんやホントの本当に!!

 

「だ、だいたいラウラ! お前だって箒に戦わせてばかりで自分は一歩も安全な場所から動いてねぇじゃねぇか! お前の母親がセレニアだって言うなら、そういうことも良くないって教えてたはずだろう!? だとしたらお前の方こそ、セレニアの娘として恥ずかしくないのか!?」

「はいです! ぜんぜん恥ずかしくありません! だってラウラ、お母様から『危ないことはしちゃいけませんよ?』ってよく言われてたですからね! ラウラはお母様の言いつけは絶対やぶりませんです!」

「いい子だなぁーオイ!?」

 

 物凄く常識的な母からの教えで、俺たちが当初に立ててた作戦は破綻させられてたのか!? これじゃ通用しないわ絶対に!

 常識論で奇策を打ち破る、すっげぇセレニアらしいやり方で俺の立てた作戦破られちゃってたのかよ!!

 

「くそぅ・・・こうなったら仕方がねぇ・・・。こんなやり方だけはしたくなかったが、他に手はない! 一か八かだ! やってやる!! うおりゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

「むぅっ!? 白式単機でのイグニッション・ブースト突撃だと!?」

 

 俺の覚悟を決めた特攻に、ラウラではなく箒が驚きの声を上げて、そして直後に不敵な微笑みへと変わる。

 

「早まったな一夏! このままでは勝ち目がないからと味方との連携を捨て、力尽くで勝負に出ようとは!! 《零落白夜》での一発逆転を狙ったのだろうが、そうはいかん! その程度の特攻戦法など横に移動すれば済むことよ! 直進しかできないイグニッション・ブーストを絶対視した己の未熟さを呪うがいい一夏!!!」

「あ。待ってくださいです箒お姉さん。あの動きはたぶん――――」

「うぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

 俺の動きから何かを察したらしいラウラが声を掛けようとするのが聞こえたが、もう遅い! 第一ロケットの噴射が終わって、今はすでに第二ロケット発射の時間だ!!

 

「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

「なにっ!? 零落白夜を振りかぶるための減速もせず、むしり更に加速して―――うわぁっ!!!???」

 

 ドガッシャァァァァァァッン!!!

 ・・・俺は加速を掛けた白式による体当たりで正面から突っ込んでいって回避行動が終わる寸前だった箒を弾き飛ばし、そのままラウラに向かって突撃。再度のイグニッション・ブーストでより加速を掛けて―――激突する!!!

 

 ズガッシャァァァァァッン!!!

 

 ・・・・・・い、痛い・・・。

 バリアがあっても防ぎきれない衝撃だけでメチャクチャ身体中が痛みまくるほど、前面に突き出してる突撃用のラムがない体当たりは、やった側の俺が痛い・・・。痛すぎる・・・。

 

「だ、だがしかし! これで箒との連携は崩してやったぜ!! これなら――」

「・・・やるですね、ヘンタイさん・・・。箒お姉さんを先に倒して、ラウラとは二対一でボッコボコにする戦い方です。

 機体セーノーでも、操縦ギノーでも箒お姉さんはシャルルお姉さんより弱いですから、時間稼ぎしてるだけで有利になれるです。ヘンタイさんの作戦勝ちです」

「俺たちがお前に勝つために立てた作戦の説明役を奪うのは止めてくれないか!?」

 

 ヒデェ! これだとなんか俺がスゲェ馬鹿を演じちゃったみたいで格好悪すぎるようになっちまった!?

 敵の作戦看破して、完全解析したものを詳しく説明してくれる異世界セレニアの英才教育マジ酷ぇ!?

 

「でも、いいですか? シャルルお姉さんに箒お姉さんは勝てないですけど、箒お姉さんがやられちゃうより先に、一対一でラウラがヘンタイさんを倒せちゃうですよ?

 今のヘンタイさんは、ラウラが知ってるヘンタイさんよりずっと弱弱ですから、ラウラ一人で楽勝です。ビクトリーです。

 ヘンタイさん一人だと、シャルルお姉さんが来るまで持ち堪えられないですけど、それでも大丈夫です?」

「・・・・・・本気で俺のこと心配してくれてる顔でムカつく台詞をどーも・・・」

 

 敵にとっては悪意的挑発セリフになる言葉を、本気の善意から心配してあげて言ってくる、『悪意なき善意だけの自覚あり言葉攻撃』はさすがにセレニアの愛娘・・・。異世界版でもアイツは何一つ変われてねぇんだなぁ、本当に・・・。

 

 しかも、言ってること自体は完全に事実なところが、尚更セレニアの娘らしくて腹が立ってくる。

 たしかに今の俺と、お子様モードのラウラとじゃ実力差がありすぎている。さっきまでの戦いの中で、それが嫌になるくらい理解させられた。

 コイツ俺を“攻撃する気で攻撃”したことが今日の試合中一度もない。

 

「たしかに俺は、お前の知ってる俺より弱いのかもしれない。だけど、その俺だって最初っからそこまで強かったわけじゃな―――」

「はい。ぜんぜん違うです。今のヘンタイさんはスッゴくスッゴく弱いです。思わずラウラ、イジメになっちゃうから『手加減しなくちゃ!』って思ったぐらい弱いです。

 イジメは悪いことだからしちゃいけませんって、お母様から教えてもらったラウラはイジメしないです」

「言わせろよ!? 人の言葉を最後までさぁ!?」

 

 ヒデェ! 本当にヒデェ!! 子供の無邪気なKY発言本気でヒドすぎる!!

 いや、時間稼ぎには有効に作用してくれる無駄話なのはありがたいんだけど、それすらも相手が合わせてくれてるだけだと解らせられてしまう、戦闘態勢解除しながらの無構え会話ポーズは《ISバーサス》に出てくる挑発ポーズみたいなものだから実際の試合でやられると本気で嫌すぎてヒドすぎる!!

 

「と、とにかくだ! 今の俺じゃお前には勝てない。だから・・・・・・悪いが“こうさせてもらう”!!」

「むむ?」

 

 叫ぶと同時に俺は白式を加速させて、ラウラの“左側面”に回り込む!!

 ラウラが黒い眼帯をつけている左目があるシュヴァルツェア・レーゲンの左側面に!!

 

「むぅ・・・ラウラの死角にはいるですか・・・」

「へへ、悪いな。本当はこうやり方は俺も大っ嫌いなんだが・・・さすがに今回ばかりは実力差がありすぎる。卑怯な手段だとわかってはいるが、シャルルが箒を倒すまでの時間稼ぎにお前の弱点を利用させてもらう!!」

 

 そう宣言しながらも、俺は相手からは見ることの出来ない左側から攻撃することには躊躇いがある自分を自覚せずにはいられなかった。

 だからこそ、その心の弱味を隠すためにも俺は敢えて強い言葉で断言して、卑劣感のように装って本心を偽った。

 ・・・これで騙されてくれるほど安い相手とは思っちゃいない・・・だがせめて、シャルルが来るまでの間逃げ回り続けるのに利用できる可能性があるなら使わせてもらうしかない。

 

「むぅ・・・こまったです。これだとラウラ、箒お姉さんが負けちゃうより先にヘンタイさんをたおしきれないケーサンになっちゃうです・・・。う~ん、う~ん、う~~~ん・・・・・・」

 

 腕を組んで俯いて、ウンウン唸り続けるラウラ。

 ・・・どー見たって敵が目の前にいる戦場でやるポーズじゃねぇけど・・・まぁ時間稼ぎにはなるから仕方ないから我慢しよう。気持ち的にはスッゲぇ怒鳴りたいし「真面目に戦え!」って怒りたいんだけど、それやられると時間稼ぎが成立しなくなっちまうし・・・ああもう! アンビバレンツ!

 この前のほほんさんからテレビで聞きかじった言葉を聞かされたのって、こういう意味での言葉だったのかよ!!

 

「う~~~~~ん・・・・・・わかったです。じゃあしかたないですから、ラウラも“こうする”です」

「な!?」

 

 唸り終えたラウラが左手をゆっくり持ち上げて、左目の辺りまで近づけていったと思った次の瞬間。眼帯が宙を舞い―――。

 

 そして俺の目の前には、ラウラが急速接近してきて右手の鉤爪を突きだそうとする姿が、まるで瞬間移動してきたかのように現れていたのだ!!

 

 慌てて俺は身をひねって初撃を躱し、次々と繰り出されてくるラウラの軍隊式とおぼしき近接格闘術めいたクローによる連撃を回避しながら全力で逃げ回るだけで手一杯に追い込まれる!!

 

 ――イグニッション・ブースト!?

 

 速すぎて直線でしか使えないはずの技を、ラウラは完全に制御して縦横矛盾に使いこなし、晒された黄金の左目で俺をタカの目のように捉え続けて決して逃すことなく補足したまま追尾してくる!!

 

「くっ!? はっ! クソッ・・・! ぐふぁッ!?」

「むにゅう~、やっぱり、こういう武器はニガテです。接近戦はムズカシイです。テッポウで撃つときの半分ぐらいしか当たってくれないから、ラウラも弱くなっちゃってるです」

「・・・全力じゃなくても、この動きだって言うのかよ・・・!?」

 

 俺は内心で冷や汗を流しながら、異世界セレニアの英才教育をあらん限りの言葉で罵りまくりながら全速力で逃げまくる!

 いったいドコの世界に、こんなバケモノ戦闘術を子供に教えられてて放置しておく親がいる!? 俺と千冬姉を捨てた碌でなしの親たちだって、ここまでのもん持ってたら流石に怒るぐらいはしたと思うぞ!?

 

「ラウラ、目が良すぎるからコレ使って戦っちゃうと“ちーと”になっちゃうから、ダメってお母様に言われてたです! ちーとは使いすぎちゃうと甘えすぎて、ココロと体に良くありませんって、お母様言ってたです! だからラウラ、フーインしてました!

 でも、お母様は『デンカのホウトウは抜かれる日のために作らせてヨーイしておくものです』って教えてくれたときもあったです! ラウラ、お母様の言うことはぜんぶ守るです!」

「都合がいい臨機応変な正しい理屈すぎないかソレ!?」

 

 すさまじく便利な言い回しの癖して、超がつくほどのド正論を食っ付けることで矛盾なく成立させちまってる詭弁っぷりがまさにセレニアだな!!

 アイツって、筋を通すときは最後まで通しまくるけど、詭弁を使うときもやっぱり徹底するときあるからな! これは明らかに後者の時だわ! 戦うときのセレニアだわ! 戦って敵たおせばそれでいいときにセレニアが使う論法だわ! 超メンドくせー!?

 

 心の中で怒鳴りながら、大声で異世界セレニア(とついでにラウラ本人のことも!)を罵りながら!

 俺は、ラウラ自身の不慣れさが原因で避けられてるだけだという事実に、誰よりも自分自身が気づかされながら、焦りまくりながら必死に逃げ道を探し続けるしかできなくされてしまっていた!!

 一撃ごとに精度を増していく攻撃と、数秒ごとに増えていく敵の攻撃が当たる回数が、何よりも雄弁に敵の強さと自分の弱さという現実を俺に教えてくれている!

 

 ・・・このままじゃマズい! だが、俺一人ではどうしようもない・・・! 悔しいが、ソレが事実だ! 今はただ、仲間を信じて耐えるしか俺に出来ることはない!

 

(シャルル!! 早く来てくれよ・・・ッ!!)

 

 刻一刻と増えていくダメージ量と、減っていく心の砂時計の量とを秤にかけながら俺は必死に逃げ続け、来るべき援軍の到来を待つ!

 その願いは天より先に仲間に通じて、予想より早くシャルルが来てくれたのはありがたかったのだが・・・・・・予想だにしていなかったものまでオマケでついてきてしまったことには驚きや怒りを通り越して茫然自失するしか俺には他に出来ることはなかった。

 

「・・・なんなんだ? アイツは・・・いったい!?」

 

 黒く大きな、泥に包まれた人型の物体を見ながら俺は叫び声を上げる。

 ――それはシャルルが俺の救援に駆けつける、今からちょうど一分三十後の未来に起きる出来事だった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在進行形の時間軸で、一夏とラウラ以外のもう二人の視点だと、こう↓

 

 

「――ッ!! 一夏ッ!?」

 

 箒ちゃんとの戦闘を続けながら、僕は視界の隅でラウラに一方的に押され始めてる一夏の姿を捉えて、勝負を急がせる決意を固める。

 高機動型として造られてるラファールと、ラウラと戦う本命での戦いを考慮して可能な限り節約とダメージ軽減をと思っていたけど、その余裕はなくなったらしい。

 解ってはいたことだけど・・・ラウラは強い。予想していたより遙かに強すぎる! このままじゃ箒ちゃんを倒すより先に一夏の方が先にやられかねない!

 

「戦いの最中によそ見をするな! お前の相手は私だということを忘れてもらっては困る!」

 

 いきりたって斬りかかってくる箒ちゃんの打鉄。その斬撃は鋭くて速くて、専用機もち以外の生徒だと接近戦で彼女に勝てる人は少ないんじゃないかって思えるほどに的確な一撃。

 

 ただ惜しむらくは、彼女の機体は防御力に優れた打鉄であり、専用機持ちじゃない。

 専用機持ちじゃないから、専用機持ちと戦った経験がなく、量産型に対して専用機がどういう面で優れているのか本質的に理解できていなかったことだけだった。

 

「悪いとは思うけど・・・時間がなくなったみたいなんだ。一発で勝負を決めさせてもらうよ」

「なっ・・・・・・!? バカにするなっ!!」

 

 わざと放った挑発の言葉に箒ちゃんが乗ってきてしまって、刀を振りかぶってから全力で斬りかかってきてしまう。

 僕はそれを近接ブレード《ブレッド・スライサー》で受け止めながら、本来は使う予定だった連装ショットガン《レイン・オブ・サタディ》で撃つのを止めて、至近距離なら確実に当てられる“隠し球”を今ここで使うことに決めた。

 

「・・・本当はラウラと戦うまで隠しておきたかったんだけど・・・っ」

 

 そう思いながらも、今は時間の方が惜しい。確実に一撃で防御力に優れた打鉄を戦闘不能にできる武装がラファールには他に積まれていない以上、コレを使うしか一夏のサポートに入る道はほかにない!!

 

「この状況なら、仕方がない・・・っ!!」

「な・・・っ!? 《シールド・ピアース》・・・!?」

 

 そう、ラファールの左手に装備されてる盾の装甲を弾け飛ばして、中からリボルバーと杭を融合させた装備として露出させた装備。《グレー・スケル》

 その通称は、《シールド・ピアーズ》。

 左右二枚もったシールド装甲が最大の特徴になってる日本の打鉄を倒すには最高に相性のいい武装だ!!

 

「この距離なら、外さないっ」

「くっ・・・!!」

 

 自分の敗北を自覚したのか、箒ちゃんの表情が屈辱に歪むのを見て申し訳なくなった僕は、この時は“善意のつもり”で余計な一言を放ってから彼女にとどめを刺してしまう

 

「相手が一夏じゃなくてゴメンね・・・」

「!!!! お、おのれ――――――――ッッ!!!!」

 

 ズガンッ!! ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!!

 

 断末魔のごとき憤怒を込めた相手の叫び声が響き始めるのと、ほぼ同時にグレー・スケールの連射が始まって、やがて終わり。

 動かなくなった敵機をおいて、僕は一夏のサポートに入るため場を後にする。

 

 待ってて、一夏! すぐ助けにいくからね!!

 

 

 

 

 

 ・・・・・・そして、置き忘れていかれた、この場における唯一の一般生徒であり凡人であり専用機を持たないDランク適正持ちの量産機乗り、篠ノ之箒の心理状態はというと。

 

(く、くそぅッ! 私はラウラを相手にするための前座だとでも言うのか!? 踏み台に過ぎぬとでも言うつもりなのか!?)

 

 激しく心の中で屈辱と怒りがせめぎ上がってきており、それでいて怒りも憎しみも自分を倒したシャルル・デュノアには向いておらず、ただただ彼だと信じている彼女が乗り込んで一夏の元に向かっていくのに使っている機体、『フランスの第二世代とはいえ専用機』であるラファールにのみ注がれていた。

 

(私にも専用機さえあれば・・・! 彼女らと同じように、私専用に造られたISさえあれば! 条件さえ互角であれば私は勝っていた!

 私は決して実力ではシャルル・デュノアにも、他の専用機持ちの女たちにも負けていない! そのはずなんだ!!)

 

 箒はそう思い、そう信じて、ただただ専用機を欲しがった。自分が彼女たちより劣っているものは、専用機の有る無しだけなのだと、心の底からそう信じた。

 そう信じた方が都合が良かったからである。

 実際に持ったことがないからこそ、実際に持つことができない低ランク適正持ちでしかないからこそ、彼女には選ばれた者である専用機持ちと専用機の力を、良い部分だけ見て悪い部分を直視しなくていい特権が与えられていたからだ。

 

 夢見る心に現実はいらない。都合の良い幻想上の夢に、無粋な現実はいらないのである。

 ただ自分が思い描く、理想の自分へと至らせてくれる魔法の馬車とドレスとガラスの靴であってくれるなら、それでいい。

 

 

(・・・力が・・・専用機が欲しい・・・っ!! 私だけの比類なき最強が! 世界に一つだけの唯一無二の力が・・・!

 私のためだけの代用なき専用機さえ手に入られたら、私は―――――っ!!!)

 

 

 ―――そう思い、そう願った瞬間。

 ・・・・・・篠ノ之箒の心の奥底から何かがうごめき、「ドクン」という音が彼女の鼓膜と心に重く冷たく響き渡った。

 

 甘美なまでの誘惑の誘いと共に――――――。

 

 

 

 

 

 

 

「なん・・・なんだアレは!? 一体何がどうなって・・・!?」

「あ~~・・・・・・あ! 思い出したですよヘンタイさん!!」

「何!? 何か知ってるのラウラ! だったら教えて! 箒ちゃんに一体何が起きてしまったのか!」

「はいですお父様! ラウラ試合がはじまる前に機体のサイシューチェックしてたです! そしたら変なゴミがあったから捨てておいたです! たぶん箒お姉さんがそれを、拾い食べしちゃったんだと思うです! 拾い食べは良くないとラウラ、お母様から教わったです!!」

「またしてもお前か異世界セレニア―!! ・・・って、お父様? 誰のことだそれ?」

「・・・って言うか、なんで操縦者が試合開始前に機体の最終チェックまで・・・整備課がちゃんとやってくれてるはずじゃあ・・・」

「??? 自分が命をあずける機体のサイシューチェックはパイロット自身が、セービの人を信じていても自分の目でもおこなうのが常識だって、お母様が言ってましたですよ?」

「異世界セレニア・・・・・・今回はドコまで祟ってくるなアイツは・・・!!!」

 

 

「・・・・・・(コソコソ)」

*今回はやたらとネタにされまくっているので隠れ潜む方針の主人公。

 隠れる理由は『噂されると恥ずかしすぎる内容だから・・・』

 

 

つづく




*唯一無二を求めて黒く染まった、VT箒ちゃん爆誕(#^^#)
余談ですが今作の束さんは、ひねくれセレニアの(悪)影響を受けて、箒ちゃんにも結構厳しめに対応する予定でおります。
あくまで家族としてですけどね?


補足:
書き忘れていた説明なのですが、今話の中でお子様ラウラがシャルルのことを『お姉さん』と呼んだり『お父様』と呼んだり安定しないのは、言霊本編でシャルロットになった後に誕生している人格だからです。
要するに、どう呼んでいいのか今一よく分かっていないから色々と呼んでいる。そんな感じの理由です。


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『我が征くはIS学園成り!』第16章

寝る前に『ハイドIS』を更新です。
最近色々あったせいで、完全ギャグ作品を書いてスッキリしてから寝たくなりました故に♪


 ラウラ・ボーデヴィッヒは、敗北する寸前にあった。

 敗北寸前の頭に甦ってくるのは、走馬灯のような過去の記憶。尊敬している織斑教官との輝かしき思い出。――彼女から聞かされて嫉妬した弟の話。

 

 DamageLevel・・・D.

 MindCondition・・・Uplift.

 Certifcation・・・Clear.

 

《Vaikyrie Trace System》・・・・・・boot.

 

「あああああっ!!!!」

 

 それ故に悪魔の契約書にサインして、唯一無二の力を得る。

 《ヴァルキリー・トレース・システム》の力を得て【VTラウラ】として敗北の縁から復活した彼女は、立ち塞がる敵を全てなぎ払い、ただひたすらに勝利だけを手に入れようとして! そして!!

 

 

 バキィッン!!!

 

「ぎ、ぎ・・・・・・ガ・・・・・・」

 

 

 ――アッサリ敗北させられてしまった!! 一撃である! 瞬殺である!!

 バケモノ包丁サイズの零落白夜を、普段よりも細く鋭く、生身の人間が問題なく振れる程度にサイズを縮小させて、速さが自慢のISの癖してポン刀もった生身の男子高校生に掠らせることも出来ぬままに、素早くすり抜けられて一刀のもとに切り裂かれて両断させられる。

 機体を覆っていた泥が崩れ去り、敗れた機体の中から生まれたままの素っ裸で放り出されてくるドロンジョ様状態の恥態を晒され、自分を倒した同級生男の一夏に素手で生肌を優しく抱き止められてしまう屈辱を甘受させられた挙げ句。

 

「・・・まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

 と、敵に情けをかけられ免罪され、文句の付けようのないほど完全に敗北させられてしまったのであった。

 

『強さっつーのは心の在処。己の心の拠り所。自分がどうありたいかを常に思うことじゃないかと、俺は思う。』

 

 そして、次に始まるケバケバしい蛍光色の謎空間で全裸になって向かい合って語り合う、風呂場ではなく精神世界での裸の付き合いシーン。

 

『――お前はなぜ強くあろうとする? どうして強い?』

『強くねぇよ。俺は、まったく、強くない』

 

 敗者が勝者に強さの理由についてを尋ね、勝者は自分は弱い、強くないと断言し、『弱い自分に負けたお前は俺よりもっと弱いザコだ』と遠回しに意味してしまう暴言とかを幾つか吐き終わった後に精神体同士の会話も終了。現実世界に帰還してくる。

 

 

 ・・・・・・一度負けた後に姿を変えて再戦を挑んでくるボスキャラポジションにしては、あまりにも呆気なく敗れ去ってしまったVTラウラと《ヴァルキリー・トレース・システム》であったが、考えてみると致し方のない当然の帰結であったのやもしれない。

 

 もともと、『私は強いから二対一でも圧勝できる!』と驕り高ぶりまくって舐めプする前提で勝負を挑んできた、元部隊内最弱まで落ちこぼれたことある出戻り最強少女が、敗北が迫ってきた途端に手の平返しで他人に助けと力を求めて、誰でもいいから力くれ!と祈り縋って恵んでもらえただけの借り物だったし。

 自分が内心でバカにしていた『近接戦でなければダメージを与えられない機体』に自分の機体もしてしまってたし、全距離対応強襲型に分類される自機の長所を殺しまくることを代償として支払ってまで得た力は、文字通りの『付け焼き刃』を1本だけ。

 

 ―――これで勝てると思う方がおかしかった。

 って言うか、力くれるならエネルギーを回復してくれた方が遙かに有り難かったのだが、それはなく、敗北寸前になって形振り構わず神頼みに縋った少女の機体に一撃以上の攻撃を耐え抜く力なんて残っているはずなかった訳だし。

 いんじゃね? 別に。順当通りに妥当な結果って感じでさぁ。

 もともと、負けそうになったから『助けてヴァルえも~ん!』した奴が勝てる道理もないんだし、普通の結果って事でとりあえずおK。

 

 

 

「うむ。これ即ち、一件落着。すべて世は事もなし、と言ったところかな織斑君よ?」

「・・・周囲に広がる、この惨状を見た上でも本気でその言葉を言えるお前の精神こそが、俺には一番問題ありすぎるように思えるんだがなハイドさんや・・・」

 

 脂汗を額に滲ませまくりながら、頭痛をこらえる表情と口調で背後で仁王立ちして腕組みしながら評してきているハイドに向かって返事をする織斑一夏。

 色々あった勝負が終わった直後に、これである。

 思わずシャルルも、「あはは・・・ハイドらしいよね。本当に・・・」と苦笑いを返す以外に感情の表現しようがないほど、どうしようもない相手の心理状況。

 

「しかし相変わらず見事な勝ち方よな、織斑君。

 服は斬っても、肉は斬らず、敵女は脱がして倒して惚れさせる。ドレス・ブレイカー剣術の極意、しかとこの目で見させてもらった。感服している。これぞまさに心の戦!!

 君こそまさに、ハーレム征服王少年剣士!! 自覚なき天然たらしの天才女殺し美少年!!!

 私はハイド帝国初代皇帝の名の下に、君の武勇と業績を称え、【クイーンズ・美剣士】の称号を送りたく思うのだが受けてもらえるだろうか? 織斑一夏君・・・いや。クイーンズ美剣士イチカ・オリムラ卿よ・・・」

「断る!! 意味はさっぱり分からんし、なんか分かりたくない気持ちでいっぱいになってる不思議な感覚だが、とにかく断る! 俺の全存在の全てをかけて何故だか絶対に断りたい気持ちになっているから絶対に断固として! 断固!!」

 

 一夏、世界観が違うから言葉の意味は全く理解できないながらも、本能的に拒絶するファインプレイ。たしかにこれは受けたらマズい。特に彼の場合は色々とマズいことになるだろうから、色々と。

 

 ・・・やがて教師部隊を率いて織斑千冬もやってきて、負傷はしてないまでも精神的ダメージが巨大すぎるあまり意識を失ったままのラウラも担架に乗せられ運ばれていき、トーナメントの中止もウヤムヤのうちに決定せざるを得なくなって、それでも今後の個人データと関係するため。

 

 『全ての一回戦だけは全試合分、場所と日時を変えて行うこと』

 

 ――が、駆けつけてきてラウラを見送り、気が緩んでいたらしい学園教師の織斑千冬から何気ない口調での予測として聞かされた瞬間。

 

 キュピーン!!と、ハイドの脳裏に閃く閃光が幻視されたように彼女自身には感じられた。

 錯覚かもしれないけども、むしろ100パーセント以上の確率で間違いなく錯覚に過ぎない幻覚でしかないんだろうけれども。

 彼女自身は光を見たと確信した。自分の頭に光る閃光なんて自分の視点からは絶対に見えるはずないんだけれども、それでも彼女は見たと信じていた。

 自分が絶対にそうだと信じさえすれば、現実がどうあろうと自分の中の精神世界でだけは絶対であり真実であり現実である。

 自己満足と評する者もいるだろう。欺瞞や自己陶酔と呼ぶ者もいるかもしれない。

 だが関係はない。

 

 何故なら『自己満足だから』である。

 自己満足で行動している人間に、他者から評される言葉になんの意味と価値があると言うのだろうか? 自分の中だけ納得できりゃそれでいいのである。それ故に自己満足である。

 

 

 ―――まっ、要するにだ。

 

 

 

「さて、前座は片付いたようだな・・・・・・ではっ、とう!!!」

「え? ハイド・・・?」

 

 突然に大ジャンプして、試合中は映像を流すために使われている巨大モニターの上まで飛び立ち着地するハイド。

 バカとなんとかは高いところが好きだという諺は正しかったことを証明する無意味な行動をとってから、訳が分からず小首をかしげながら自分を見上げてきている周囲の者たちを睥睨した後。

 

 ハイドはゆっくりと片手を上げて両目をつむり、そしてゆっくりと腕を振り下ろしながら両目を薄く見開いていき。

 改めてここに宣言するものである。

 

 

「ならば、そろそろ決着を付けるとしよう・・・・・・シャルル・デュノア君!!!

 私と君、どちらの方が強いのか、真の最強はどちらなのかを決めるために!!!!」

 

 

 

「え?」

「・・・え?」

「―――え?」

 

『ええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!???』

 

 

 絶叫。そして驚愕。一難去ってまた一難。

 しかも今度のは・・・・・・トンデモナイ。

 

「ちょ、待っ・・・!? どういうことだよハイド!? 今勝負終わったばっかりなのに決着って一体!?」

「笑止! 所詮は前座の道化が敗れただけのこと! 本番前のにぎやかしとしては役立ってくれたが、あの程度では真の最強には程遠い! 

 彼女の敗退は私とシャルル君、真の最強決定戦を止めるべき理由にはなったりはせぬ!! どのみち彼女は敗れ去る運命だったのだ!!」

 

 ラウラ、気を失って保健室に運ばれてるから知ることが出来ない間に、超ディスリまくられるの図。

 ハイドとしては、ラウラの一件が片付いただけでデュノア家の問題解決には何の役にも立ってくれなかったラウラとの勝負を最大限利用して人助けしようと考えた結果としての行動であり。

 

 ラウラを貶めまくることでシュヴァツェア・レーゲンの評価も下げさせ、今回の一件も含めてトライアルから完全に脱落させてしまい、代わってシャルルの愛機ラファールの評価を上げさせようという当初の計画と予定を初志貫徹して遂行しようとしているだけなのだったが。

 

 当事者たちとしては堪ったものではなく、特にメンツの中だと一番事情に詳しくなってしまっている一夏が一番慌てて、他者に聞こえないようプライベートチャンネルで必死に呼びかけて説得と状況説明を求める心の声を叫びまくる!!!

 

『ハイド! 聞こえているだろハイド!? 返事をしろぉー!!』

『おお、いつぞやの男ではなく織斑君。どうしたのかね? 何か私に質問でも?』

『大ありだ! これは一体どういうことなんだよ!? なんで今さらシャルルとお前が勝負することになってるんだ!? 道理も話もまるで通ってねぇぞ!?』

 

 一夏、激怒。・・・まぁ、解らぬ話でもない。

 たしかにトーナメントは中止され、観客たちは皆避難して、会場であるアリーナ内に残っているのは自分たちと教師部隊ぐらいなもの。

 撮影班など、とっくの昔に逃げてしまった後だし、撮影そのものは逃げ出すより先に止められてしまった後なのは言うまでもなし。

 まして、これほどの不祥事である。学園側もIS委員会も箝口令と、厳重な情報統制を敷くのは明らかなのだ。

 今更どう足掻いたところで、デュノア社の家族問題にこれ以上の戦闘続行が役に立つはずがない。

 

 一夏はそう思ったし、常識的に考えても、それが妥当で正しい考え方というものだろう。

 だが、中途半端な現代っ子であるシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハの考え方は、彼らとは少しだけファウルラインが違っているようだった。

 

『フッ・・・そんなことを気にする必要はない。なぜなら今の時代は、超高度情報集積社会!!

 自分で撮影した映像をパソコンやスマホを使ってネットにアップしてしまいさえすれば自動的に拡散していくものである!! 現代社会に情報規制など意味はない!!!』

『最低だ!? 千冬姉の偽物以上に最低過ぎるヤツがすっげぇ身近にいやがった!!』

 

 一夏、これ以上なく正しい物の見方でハイドを正確に評価するの図。ほんとーにネットリテラシーが無いにも程がある行動だったが、一夏の乏しい知識であっても反論することぐらいは簡単な幼稚すぎる手であることもまた事実。

 

『そ、そんな事をしてしまったら学園側も委員会も黙っていないぞ!? 懲役ウン十年じゃ済まないレベルの厳罰がくだされるんじゃ・・・・・・』

『犯罪を防ぐこともできずに、罪を犯した後の犯人を捕まえて難癖を付けて罰を与えたところで、ネットに流れた情報という現実の過去がなくなる訳ではない』

『本気で最低だコイツ!!』

 

 割と本気で、犯罪者の思考を人助けのため平然とやりに来ている、主観的正義の権化シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ。

 彼女がやると決めて、進むと決めた道のりを止めるためには力を持ってするしか他に手段は存在せず、口先だけの詭弁や正論に意味は持てない。認めてもらえることは決して無い。

 

「ま、待てローゼンバッハ! そんな勝手は許さんぞ!! 私は宣言しておいたはずだ!! 学年別トーナメントまで私闘は一切を禁止すると!

 たしかにトーナメントは中止になったが、学園警備主任としてISを使った私闘を見逃すわけにはいかん! どうしてもと言うなら力尽くで止めさせてもらうことになるぞ! それでもいいのか!?」

 

 元世界最強ブリュンヒルデ織斑千冬による、視線だけで人が殺せそうな目つきで睨み付けながらの恫喝説得。

 普通の生徒だったらと言うか、普通の人間だったら問題無用で言葉だけで止められたかもしれない制止の脅迫。

 

 だが――しかし。

 

「どうとなりとするが良かろう。私の目的は最初からデュノア君ただ一人のみ・・・他はザコに過ぎんと言ったはずだ。聞いていなかったかね?

 どうしても私を止めたくば、力尽くで止めてみせるがよかろう!! 織斑千冬くん!! 私の行く手を阻もうとする者はすべて切り捨てて先へ進むまでのことよ!!」

「ぐ・・・お・・・、そ、そう来たかぁ・・・・・・ッ!!」

 

 元世界最強、織斑千冬も呻く。

 なんと言っても彼女自身とハイドの実力は拮抗している。あくまで今までの力比べというか、千冬の技に馬鹿力だけで対決してきただけの評価基準だけど、そのぶん本気でやり合った場合には結果がまったく予測できない。

 最悪、自分が勝ったとしても学園クビにさせられるほどの被害を周囲に及ぼしまくっちまうかもしれないという、弟を養う身として最悪すぎる結果さえ覚悟して挑まなければならない相手なのである。

 

 これがデュノアの命がかかった戦いならば、教師生命をかけてでも止める価値がある問題だったのだが、生憎とハイドが求めているのは『決着』であって『デュノアの命』ではない。

 死にそうになったり、殺されそうになったら絶対に割り込んで止めるけど、今の時点でそこまで未来の危機という可能性上の危険を理由に決断しろと言われたらちょっとだけ・・・・・・二の足踏んじゃいます。元世界最強にも守りたいものぐらいあるものです。

 

 

「フッ・・・納得してくれたようだな。――では、行くぞ! デュノア君! 覚悟ぉぉぉっ!!」

「え!? あの、ちょっと待ってハイ・・・ッ!?」

「問答無用! チェストォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!」

 

 

 超高速で迫ってくるハイドの斬撃!!

 さっきまで一度も見せてこなかったイグニッション・ブーストよりも更に速い、人間の限界超え過ぎた速度で超速接近してきて、一瞬の内に視界のど真ん中にハイドの顔面がいきなりドアップで映り込んできやがった末に。

 

「う、うおわぁッ!?」

 

 驚きまくったシャルルからの無意識に手が伸びただけの、どっちかと言うと女の子として身の危険を感じたときに思わず手が出ちゃった的一撃でもって反撃してしまっただけの一撃を食らわれてしまい。

 

「なんだとっ!? う、うおわぁぁぁぁぁッ!?」

 

 ドゴォォォォッン!!

 ・・・・・・そして、ド派手に吹っ飛ばされていくハイドと専用ISの一人と一機組。

 

「・・・・・・え?」

 

 思わず、襲ってきた敵を倒したことにされてしまったシャルルの方が唖然としてしまう程、見事なまでのフッ飛ばされっぷり。

 

 放物線を描き、指先は綺麗に伸ばされて姿勢を保ったまま、長い黒髪が小さな体をハラハラと包み込み、太陽の光を反射させながら眩しく煌めきながらキラキラと吹っ飛ばされていく、見事すぎるほど見事なまでの負けっぷり。

 ものすごく長い滞空時間を経た末に、飛んできた最初のスタート地点であるモニターの上まで舞い戻されてから「ドサリ!」と盛大に落下音を轟かせ、それでいてモニターには一切の損害も負わせない匠の技を見せつけながら、呻くように小さな声のクセして何故かアリーナ中にいる全員に耳に同音量で聞こえてくる弱々しい声を敗れ去る前に言い残す。

 

「・・・見事・・・だ、デュノア君・・・・・・。君は今、名実ともに・・・私を・・・超え・・・た・・・・・・ガクリ」

 

 そして、力尽きて目をつむりながら首を傾けて眠りにつく。

 今、髪の毛が一本落ちてきて唇の近くに垂れ下がっている。

 背後にバラが咲き誇ってるバックの絵柄が一瞬だけ見えたように感じる程の見事すぎるほど見事すぎて、なんかもう色々とどうでもよくなってきそうな事件を締めくくる決着の仕方。

 

 そして、他の者たちには聞こえることなく、知ることもできない舞台裏とも呼ぶべき一夏宛のプライベートチャンネルが一言だけ。

 

 

『尚、この映像は放送するときに美味しく見えるように編集してお送りするので大丈夫である』

『もうお前、一度でいいから死んどけ本当に・・・・・・』

 

 

 斯くして、死して屍拾う者なくIS学園学年別トーナメントは幕を閉じる。

 

 

つづく

 

 

オマケ『ハイド流哲学の語録』

 

ハイド「人生とはフリーダムであり、強さと正義はデストロイである。

    自らの自由を守らんがため、自由を奪おうとする者たちをデストロイする力。

    それこそが強さであり、白色の最強機体である。

    自分の自由を守るために、他者の生きる自由を奪う・・・・・・悲しい現実よな。

    そして、それ故にガンダムは儚くも永遠に美しく、よい物である」

 

一夏「お前の考え方って本当に最低なんだな・・・・・・」



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『我が征くはIS学園成り!』第17章

ハイドIS最新話です。…なんか考えてたのと大分違うのが出来ちゃって少し残念…。
やはり夜に書くとこうなりやすい最近の私は、朝の間に書いておいた方が良さそうだと改めて痛感させられた次第でありまする。


『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末で確認の上――』

 

「ふむ。シャルルの予想通りになったな」

「そうだねぇ。あ、一夏、七味取って」

 

 食堂のテーブルに時間ギリギリで滑り込んで晩飯を食べていた俺とシャルルは、テレビに帯として告知されている学園側の公式発表内容をチラ見しながら、相方の予想したとおりの結果に終わった事にホッと一安心して肩を撫で下ろしながら美味い晩飯に舌鼓を打っていた。あー、食後の茶がうめぇ~。

 

 

 ――あの後、暴走したISによって黒く染まり俺に敗れたラウラが担架で運ばれていき、その直後にハイドがいつも通りに暴走してシャルルに向かって襲いかかってきて返り討ちされる演技を見せてから担架で運ばれていった後。

 俺たち二人は教師陣から事件の当事者として事情聴取を受けさせられて、こんな時間まで教室の一室に監禁されて今になってからようやく解放されて晩飯を食べる事ができているという次第。

 

 戦った当事者たちの中で意識ある事になってるのが俺たちしか残ってないから、先生たちが俺とシャルルの口から詳しい事情を聞きたがってた気持ちもわからなくもなかったんだけれども。

 

 ・・・何も知らないんだよなぁ、今回の俺たちって・・・。

 当事者とはいえ俺は戦って倒しただけで、今回の事件の裏面は何一つ知らないし解らないし、なに聞かれたところで『知らない、解らない』としか答えようがなくて要領を得ずに、こんな時間までズルズルと無駄な話し合いもどきを続ける羽目になっちまった・・・。

 

 シャルルに至っては、家の事情以外だとハイドに絡まれて殴り飛ばして倒した事にされちまったぐらいしか関係してないし、実家の事情はトーナメントの事件と関係あるのかないのかよく解らないし、ハイドに関しては多分ハイド本人さえあんまし解った上で行動してない気がするから聞くだけ無駄な徒労に終わるだけな気さえする・・・・・・。

 

 ――疲れた! オマケに虚しい・・・。よく考えてみると、最近の俺ってあんまし寝てない気がするんだよな・・・。

 クラスメイトで二十四時間三百六十五日元気ハツラツで活動し続けられそうなクラスメイトが夜中に押しかけてくること多かった上に、叫んでツッコミばっかり入れてたせいで夜にテンション上がってしまって睡眠時間が結果的に不足するようになってた気がする・・・。

 

 今日は久々にハイドが気絶したフリをしたまま帰ってきていないからユックリ出来そうだし、本当のご不幸があったわけでもない今日ぐらいはノンビリ過ごしても罰は当たらないだろう。

 そう思い、気が抜けたような気分になってた俺は、さっきまで騒いでいた女子たちが急に大人しくなって帰って行く事にも気にしていられる余裕もなく、食事が終わって疲れた体を引きずるようにして席を立ち。

 

「・・・ん? どうした箒?」

「ぴくっ」

 

 一人だけ残っていた女子生徒の幼馴染みである篠ノ之箒に声をかけ、茫然自失してたらしい相手にわずかな反応を認めてから、俺はふと先月に箒と交わしてた約束について思い出す。そう言えばなんか言ってたなとか、そんな感じで。

 

「そう言えば箒。先月の約束だけど、付き合ってもいいぞ」

「――。―――、なに?」

「だから、付き合ってもいいって・・・・・・おわっ、い、一体全体どうしたんだ?」

 

 心身ともに疲れで気の抜けていた俺の胸ぐらを掴みあげて、バネ仕掛けのように動き出した箒が慎重さもお構いなしに締め上げてくる・・・。く、苦しい・・・疲れてる今は、余計に脳の酸素が減るぅぅ・・・っ。

 

「ほ、ほ、本当、か? 本当に、本当に、本当なのだな!? なぜだ? り、理由を聞こうではないか・・・・・・」

「そりゃ幼なじみの頼みだからな。付き合うぐらいはするさ」

「そ、そうか!」

「買い物ぐらいでいいならな」

「・・・・・・」

 

 ぴきぃっ! と箒の表情がこわばったように感じたが・・・・・・それをどうこう思う余裕が今の俺からは失われつつあったせいか、上手く意識できないままにボンヤリした思考のままで箒との会話を続けさせていってしまったのだった。

 

「・・・・・・だろうと・・・・・・」

「おおぅ~・・・?」

「そんなことだろうと思ったわ戯け者――って、うおわぁぁぁぁっ!?」

 

 何やら通り過ぎていった背後で、ドンガラガッシャーン!と盛大な音が鳴り響いている気がするけど、なんかあったのかな?

 用件を伝えて、先月に言われてた約束にも返事をして、箒の方も俯いて黙りこくったみたいだから話し終わったんだと思って横を通り過ぎていったばかりだったんだけど・・・・・・なんか不味いことしてたのかな? 俺って。

 

「一夏って時々、わざとやってるんじゃないかって思う時あるけど、こういう方面でも使えちゃう時あったんだねぇ」

「・・・? なんの話だ? それ・・・どういう意味の言葉なんだ?」

「さあね。聞かない方が一夏のためだとだけ教えておいてあげるよ」

 

 少しだけ意地悪そうな笑顔を浮かべてシャルルはクスッと笑ってソッポを向く。

 なんなのかよく解らないまま食堂を出て、寮へ向かって寝るために歩いていると、遠くの方から山田先生がコッチに近づいてきてる姿が視界に入ってきてた。

 

「あ、織斑君にデュノア君。ここにいましたか。さっきはお疲れ様でした」

「山田先生こそ、ずっと手記で疲れなかったですか?」

「いえいえ、私は昔からああいった地味な活動が得意なんです。心配には及びませんよ。なにせ先生ですから」

 

 俺の言葉に、えへんと胸を張る山田先生。ただでさえ大きすぎる膨らみが重たげにゆさっと揺らされる光景を目にすることは、今の俺にとって非常に危険なものだったのかもしれなかったが幸いと言うべきなのか何というか、今回は続く俺の言葉で避けることの出来た危険な未来の可能性だったらしい。

 

「そうなんですか? だったら良かったです。“知らない”“解らない”ばっかり答えちゃって、同じ単語ばかりを書き残さなくちゃいけない大変な役割をやってもらっちゃったなって、結構気にしてたものですから」

「・・・・・・そうですね・・・・・・。実はそこだけは本音を言うと少しだけちょっと・・・・・・スゴく辛すぎて投げ出したい気持ちになってしまった瞬間が結構ありましたね・・・・・・たしかに・・・」

『・・・・・・・・・・・・本当にすいませんでした』

 

 重苦しい沈黙と共に、一瞬にしてドヨ~ンとした暗いムードと陰の縦線にまとわれたような雰囲気に変貌した山田先生に対して、ごく自然に心からの謝罪と敬服とを抱きながら一礼して頭を下げるしかなくなる俺たち事情聴取の役に立たない当事者二人組。

 

 山田先生は、頭下げてる俺たち生徒には見ることが出来ない頭上の先で涙でも拭き取ったような音と気配を発してから気分を切り替えるように明るい声と表情とを表に現しながら俺にとっては嬉しい情報を教えてくれた。

 

「そ、それよりも朗報ですよ織斑君! なんとですね! ついについに今日から男子の大浴場使用が解禁です!」

「おお! そうなんですか!? てっきりもう来月からになるものとばかり」

 

 素晴らしい! 正直、トーナメントが始まる前からず~~っとトラブル続きだった疲れを湯船に浸かってしっかり落としてしまって癒やしたいと思っていたところだったのだ!

 

「ありがとうございます、山田先生!」

 

 感動の余り、寝不足でローテンションだったのが一気に反転して深夜テンションみたいになっちまいながら山田先生の手を握って振り回した後、俺は急に風邪引いたのか「ゴホゴホ」やってるシャルルを引き連れて大浴場へと向かい、風邪も疲れも風呂に浸かれば全部治るとばかりに風呂へと飛び込み、肩まで浸かってゆ~~~~っくり暖まって心身ともに疲れを癒やされる・・・・・・。

 

「ふうぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・あー・・・・・・生き返る~・・・・・・」

 

 る~、る~、と大浴場らしいエコーを響かせながらノンビリと湯に浸かり、いっそこのまま眠ってしまいたい、このさい溺れ死んでもかまわな――いや待て落ち着け俺。流石にそれはダメだ、いくら疲れてるからってそこまで行くと人として終わっちまう。主に人として生きる人生の灯火が。

 

「ふぁぁぁぁ~~・・・・・・って、あれ? なんか入り口から音がしたような気が・・・・・・」

 

 カラカラカラ、と。シャルルが気を利かせて俺が風呂でゆっくり疲れを癒やせるよう寮の部屋で待っていてくれる道を選んでくれたから誰も入ってくるはずのなくなった更衣室の扉が開かれる幻聴が聞こえた気がして振り返った俺の視線の先に。

 

 ぴたぴたぴた、と。

 濡れたタイルの上を綺麗な足が歩く足音まで聞こえてきて――――全裸の金髪青眼美少女がバスタオル一枚だけ当てて、俺のすぐ目の前に姿を現してきたのだった。

 

「お、お邪魔します・・・・・・」

「・・・っ!? な、なっ、なぁ!?」

「・・・あ、あんまり見ないで。一夏のえっち・・・・・・」

「!! す、すまん!!」

 

 慌てて俺はソッポを向いて視線を外して、相手の美少女・・・全裸のシャルル・デュノアの肢体を見てしまわないよう視界の外まで追放される!!

 

「ど、ど、どうしてシャルルが!? いや、確かに俺も入浴を勧めたけど、それは俺が入らない場合であって―――なぜにどうして、やってきたよシャルルさん?」

「ぼ、僕が一緒だと、イヤ・・・・・・?」

「いやけしてそういうわけではないんだけれども!」

 

 イヤとかそういうのではなく、強いて言うなら困る! 俺とて健全な男子十五歳で、人並みに異性には興味があるし、性的な興奮がないと言えばウソになる!

 

「そ、その、話があるんだ。大事なことだから、一夏にも聞いて欲しくて・・・」

「わ、わかった・・・・・・そ、そういうことなら仕方がない・・・か?」

 

 微妙に流されてる気もするが、大事な話と言われたら聞いてあげるが世の情け。・・・ダメだ、やはりまだ混乱している。冷静に対処できる心理状態とはとても思えん。ここは大人しく頭に上った血が降りてくるのを待つしかないか・・・・・・。

 

「その・・・前に言ってたこと、なんだけど・・・。僕ね、ここにいようと思うんだ。僕はまだここだって思える居場所を見つけられてないから・・・。

 それに一夏が、ここにいろって言ってくれたから。そんな一夏がいるから、僕はここにいたいと思える気になれたんだよ・・・」

「そ、そうか・・・・・・」

「うん・・・。本当はハイドにもお礼と一緒に伝えないと行けないことだと思ったんだけど、今はまだいないから一夏から先に・・・ね?」

「お、おぅ・・・」

 

 シャルルの言葉と、少しだけ色っぽくて心なしか誘惑してきてるようにも見えなくもない仕草に目を引かれそうになる心を賢明に押さえつけながら、俺は邪な下心という煩悩を心の中から追い出すためシャルルから言われた言葉を深くまで精査し続ける。

 

 俺にとってはなんでもない言葉だった上に、ハイドのせいで色々と台無しにされた言葉でしかないものになっちまってたけども、シャルルにとっては思いやりの言葉としてちゃんと伝わってくれてらしい。本当に良かった。そう思い、心の底から安心している俺がいる。

 

 ちゃぽーん、と水滴が大浴場に満たされているお湯の上に落ち、俺たち二人の会話を一瞬だけ途切れさせて、互いに互いの体を見てしまわないよう背中合わせに相手の心と見つめ合っていた、その次の瞬間に―――!!!

 

 

「――美しい。少年少女たちの穢れなき純粋なる青い春のごとき恋心とは斯くも美しきものなのだ・・・・・・さすがは織斑君!

 どこまでも偽善を貫く君の心は、フル鋼の錬金術を操る者よりも尚、偽善の錬金戦士として蝶!美しいのである! 感動したぞ! まさに蝶!感動!であるな! ハッハッハ♪」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」

「何故またお前がいつの間にかすぐ近くにいるハイドぉぉぉぉーッ!?」

 

 何時ものように! 何時ものごとく! 気づいた時にはそこにいる! 瞬間移動してきたかとしか思えない束さん以上に理屈不明な移動手段を持つ友人少女のシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハが、今日も今日とて風呂場の中で俺たち二人が背中向け合って話し合ってる隣で等距離に眺めてきながら見物しながら手ぬぐい片手に顔拭きながら! 一緒の風呂に浸かった姿でそこにいた!!

 全裸でな!! コイツの場合はバスタオル当ててることさえ期待できない、正真正銘のマッパで風呂入りに来てるとしか思えないところがイヤすぎるから本当にイヤなんだ! 本当に!!

 

「って言うか、お前張り紙見てこなかったのかよ! 大浴場の入り口に張ってあっただろうが! 今日は俺たち男子二人だけが使っていい男子使用中の札が貼ってあっただろうがー!!」

「うつけ者めがッ! 何度も何度も言わせるでない! 私は、体は女で心は男の魂的には漢であると、一体何度言わせたら気が済むのかね織斑君!?」

「知ってるし覚えてるよ!? だけど今の俺が言ったのは体の話だけなんだよ!! 魂は漢でも身体が女のヤツは男子使用中の風呂に入ってきたりしちゃいけないんだよぉぉぉぉっ!!」

 

 俺、全力で叫ぶ! 結局は今日もまた全力で叫ばされる羽目になる!

 クソゥ! 疲れてるのに! 疲れ癒やしに来てるはずなのに! なんでコイツに関わり合うと俺はいっつも全力ツッコミに命かけてるみたいな男にならなければいけない気になっちまうんだよー!?

 

「はっはっは、これはまた異な事を。年頃の同級生、表向きは男子生徒で体も心も乙女な美少女と同じ湯船に浸かりながら青春の甘い匂いを吸い合っていた思春期真っ盛りの青少年とは思いようもない発言であるな。いやはや、愉快愉快!」

「それを言うなよーッ!?」

 

 チクショウ! 言われちまった! それ言われちまったら今の俺は何も言えなくなっちまう指摘を、コイツにだけは言われたくなかったのに言われちまったぜ! コンチクショウ!!

 

 ・・・だが、しかし! 俺にだって譲れないものぐらいある! 今日の俺はハッキリ言ってやる!

 当たり前の常識として、年頃の女子がみだりに男に肌を晒すのはよくないことなんだと!

 よく『減るもんじゃない』なんて言うヤツがいるが、それは大いなる誤解だ! とんでもない勘違いなんだ! バカの意見だ!!

 女の子が男に肌を晒してしまえば――減る。女子の尊厳が、その高貴さが、確実に、減る!

 そもそも女を守る立場にある男が、その相手をおとしめるような真似をしてどうするんだ! それこそ箒じゃないが『恥を知れ』ってヤツでだな―――ッ!!!

 

「さて、と。湯船に浸かる前のマナーとして身体は洗ったものの、髪はまだだったのでな。シャンプーを使わしてもらいに行ってくる故、しばしの間ご免」

「やめろー!? 年頃の女子が湯船から上がって平然と全裸を晒しながら男に尻を向けて歩いて行こうとするな! あと桶使って隠すところが違う!

 そこも隠さなくちゃいけないところだけど女の子にはあと二つ隠さなくちゃいけない大事なところがあるうが! 何で隠さない!?

 両手を腰に当てて歩くな! 気持ち悪い歩き方をするな! お前は一体どこのなにを隠すべきポイントだと勘違いしまくっているバカなんだー!?」

 

 やめてくれ! やめてくれ!! 女子の尊厳が減る! その高貴さが減る! 減らされちまう! たった一人の変態バカ美少女のせいで俺の中の女子に対する尊厳と高貴さが削られまくって激減されてってしまってるー!?

 

「・・・む、たしかに。隠すべき大事なものを隠せていなかったな。これを付けねば大浴場に入っていることにはならぬ。さすがは織斑君、よく見ておるし解っておるようだな。

 それでこそ元世界最強剣士の弟として心眼を継承せし者・・・・・・これからも精進するが良い! ハーッハッハッハーイド!!!」

「違う! そこじゃないしそれじゃない! 髪洗ってる時に顔は出したままでいいんだ! ってゆーか、なんだその変なお面は!? どこで売ってた!? そして何故、風呂場にもって入ってきてる!?」

「うぬぅっ!? しまった! 目に毒が! おのれシャンプー! 私に一撃を与えてくるとは・・・・・・その度胸気に入ったぞ! 名を―――名を聞いておきたい!! 私が君の名を決して忘れないために!!」

「シャンプーだろう!? 自分で今そう言ってたじゃん!!」

 

 いきなり現れて全部持って行き、控えめなシャルルにはもはや付いていくことすら出来ないマイペースすぎるハイドの超ハイペース。

 これが五反田の言っていたハイスピード学園ラブコメってジャンルのペースって奴なのか!? だとしたら確かにこんなもん付いていける速度じゃねぇぞ!?

 

「え、えーっとね、ハイド・・・・・・いま一夏にも言ったばかり何だけど、僕この学校に残ることにしたんだけど・・・・・・」

「聞いていた。ここ以外には自分の居場所と思える場所がない故、いてもいいと言ってくれた織斑君の好意に甘えて居候の身を継続するという話であったのであろう?」

「う、ぐ・・・・・・ま、まぁ間違いではないんだけれども・・・」

 

 相変わらず容赦もなければ悪意もないハイドの反応に、意思が挫けそうになりながらもシャルルは勇気を出して何か大事な思いをハイドと・・・・・・そして俺にも聞かせるために思いを口に出そうとしていて・・・・・・ついにその言葉を外に出す。自分以外の他人にも聞こえる外の世界へ、彼女なりの精一杯の思いを込めて。

 

「僕のことは二人にはこれから、シャルロットって呼んで欲しいんだ・・・・・・。二人だけの時と、三人集まったときだけは・・・・・・」

「シャルロット・・・・・・それがシャルルの本当の・・・?」

「そう、僕の名前。お母さんがくれた、本当の名前。シャルロット・デュノア」

 

 精一杯の勇気を込めて、色々なものを今までの苦しかった頃の記憶と一緒に置いてきて、彼女が一人の女の子として新たな人生を踏み出す決意を固めた証として。

 

「わかった―――シャルロット」

「ん」

 

 俺が初めて彼女の本当の名前を呼ぶと、嬉しそうにシャルルは―――いや、シャルロットが返事をして子供のような無邪気さで笑いかけ、あのいつもの屈託のない表情がすぐに想像できるようになり。

 

 

「そうか。了解したぞ。これからもよろしく頼もう。

 我が朋友となった新たなる盟友、シャルロット・デュノア君よ!!!!」

「・・・・・・・・・・・・うん、よろしくね。ハイド・・・・・・」

 

 

 そして、その直後にテンション下がって少しだけ意気消沈しながら、もう一人の友人からの友情のこもりまくった熱い返事に曖昧な表情で答えを返すことしかできなくなってしまってるシャルロット。

 

 

 俺も今さらになって、ようやく思い出した事だったのだが・・・・・・

 ハイドからシャルロットに対するときの態度って、出会った瞬間から今までずっと名前以外には特になんも変わったこと無いんだよなぁー・・・・・・という価値観の違いすぎる相手との異文化コミュニケーションの難しさを実感させられた。

 

 そんな学園別トーナメントの中止された開催一日目の夜の出来事。

 これが今回の事件のエピローグである。

 

 ・・・・・・やっぱり疲れただけだった気がしなくもない、今このときの夜な俺・・・・・・。

 

 

 

 

 ……PS。

 これは余談になる話なのだが、この翌日にさっそくハイドは自分の機体に(勝手に)装備させてたらしいガンカメラを使った映像を編集してネット配信して好評を得て、フランス政府とドイツ軍から査問委員会による裁判の呼び出しと、最低でも二年の監視がつけられるという厳しい調子の勧告が届けられたそうなのだが。

 ハイドが一時帰国して日帰りで帰ってきた頃には、全て無かったことになっていたらしいという伝説がIS学園の七不思議の一つに加えられることになるのは少し先の話である。

 

 この件に関して俺は詳しい事情は何も聞かされていないが、ただ一言、帰国した直後のハイドがこう呟いているのを耳にした事だけは記しておくべきだと思ったので書いておく。

 

 

「ふぅ~む。最近の若者と国家代表選手は歯応えがなくていかんな。国防を担う最後にして最強の矛として今少し自覚と根性を持てぬものか。困ったものだ」

 

 

 IS。それは男尊女卑が一般的だった旧世界を圧倒的力の差で黙り込ませて自分のルールに従わせた束さんの造り出した現代世界の最強戦力。

 そんな圧倒的存在を、国家に従わない自国民に与えてしまった国家というものはどういう未来を齎してしまう存在になるのだろうか?

 

 それは国家が黙って語らず、事実も公表しよとしないので多分永遠に分からない。

 

 

つづく



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『我が征くはIS学園成り!』第18章

本当はもう少しシッカリ書くつもりだったんですけど、久しぶりにハイド視点で一人称かいたら下手になり過ぎてたので思うように書けず途中で切らざるを得なくなった次第です。次回は今まで通り一夏視点に戻すつもりでいます。慣れてしまうとキツクなってたみたいですわ…。


 諸君、グーテン・モルゲン!! ハイド帝国初代皇帝シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハである!!

 先日、我らが愛する母校IS学園は夏休みを迎え、今日はその記念すべき臨海学校が始まる日である。

 海・・・全ての人類の故郷である蒼き大海原に、各国から選び抜かれた精鋭たる国を守りし防人たちが所属を超え、怨恨を超え、想いを一つにして絆の元に団結して同じ円卓へと集う場所・・・・・・それこそが臨海学校の待つ海なのである!

 今、若人たちの熱き血潮を我が血として守るべきものを守らんがため円卓へと集った勇者たちに躊躇いの吐息を漏らす者は一人もおらぬ! たとえ幾万、幾億の敵怪獣が海より現れ東京目指して進軍を開始しようとも必ずや我らが日本を防衛してくれようぞ!!

 繰り返し心に聞こえてくる、祖国の民の名誉と、青き海の星に住まう全ての者たちの意思よ我らの元へ・・・・・・テラ・イズ・マイホーム!!

 テラ・イン・マイガァァァァァドであぁぁぁぁぁるっっ!!!

 

 

 

「・・・で? ハイド。お前さっきから一人で何をやってるんだ・・・・・・?」

「む? 織斑君か。見ての通り我らの真実の戦いを後の世の人々へ伝え残すために記録を取っているのだよ。栄光ある我らIS学園生徒たちが熱き夏休みをどう過ごしていたのか、真実の記録をな!!」

「ただの黒歴史ノートだよソレは! 間違いなく!! 絶対に!!」

 

 いきり立って織斑君が叫び声を上げ、宿泊先へと向かっているバスの中へと彼の声は木霊する。フフ・・・滾っておるようだな彼も。

 だが無理もあるまい。トンネルを抜け、白銀の銀世界ならぬ、紺碧の大海原が見えてきたばかりなのだから、これで熱くテンションを上げぬようでは男に非ず! 日本男児に非ず!

 海とは常に、来る者皆バーニングへと変えてしまう魔力を持っているものなのだからな!!

 

「ああ・・・クソッ! なんで俺はコイツの隣以外の席に座らせてもらう権利と資格が認めてもらえないんだよッ。シャルロット! 頼むから少しだけ変わって貰うことって出来ないかな!? 流石に朝からずっとだと疲れてきたんだが・・・」

「う、うん・・・ごめん一夏・・・。替わってあげたい気持ちは山々なんだけど、ボクだと多分、三秒で潰れちゃうと思うからちょっと無理そうかなーって・・・」

「ぐぬぬ・・・は、反論できない正論が微妙に辛い・・・」

 

 バスで私の隣の席になっていた織斑君が、更にその隣の席に座るシャルル・デュノア君あらためシャルロット・デュノア君の楽しそうに談笑し始めたようだ。

 先日の一件で保護者の方々に対する蟠りも多少は解けたとはいえ、まだまだ状況は厳しく過去の遺恨はそう簡単に消えてくれるほど易くはない。

 現に今もこうして、ぎこちなく強ばった笑みを浮かべて返事をするのが精一杯の心境らしく、織斑君への返しにも申し訳なさが纏わり付いているように見える。

 いつか彼女の心に曇る闇を晴らせる日が来るのであろうか――? それは誰にも解らないが、もし来させることが出来るとしたら私は協力を惜しまないことを、ここに表明しておくものである!

 

「まったく、ローゼンバッハさんは相変わらず朝からご機嫌そうですわね。――いえ、むしろ普段よりも更にご機嫌そうに見える程ですわね・・・」

 

 通路を挟んだ向こう側の席より、イギリス代表候補のセシリア・オルコット君が若干ムスッとした表情をして、そんなことを言ってきていた。

 その表情は、どことなく疲れているようにも見え、ムスッとして見せている表情にも体調の悪さが見え隠れしている。うむ、車酔いかもしれぬな。後ほどバファリンを渡しておいてあげるとしよう。

 優しさで半分が作られているバファリンを飲めば、あらゆる難病もたちどころに愛と友情と絆で回復することが出来ることは疑いない。私もまたバファリンのおかげで切れた腕を生やした経験があるので間違いあるまい。

 その時に戦っていたマオウくんという中国人男性から『ば、化け物か!?』と称されるほどの回復力を秘めた万能薬、エリクシルにも勝るバファリンさえ飲めば全て上手くいく。絶対にである!!

 

「と言うか、正直言って暑苦しいのですけれど・・・・・・もう少しだけでいいですので、テンションを下げて貰うことって出来ませんかしらね・・・?

 わたくしの国イギリスだと、気候的に日本ほどジメジメとした暑苦しい夏は送ってませんでしたので、少しキツいのですけれども・・・」

「うむ、夏だからな! 致し方なし」

「・・・昨日も一昨日も一昨昨日にも、同じようなお願いをして、同じような答えを返されたような記憶があるのですが・・・」

「うむ、昨日も一昨日も一昨昨日も夏だったからな! 答えが同じになってしまうのも、また運命! 致し方なしなのである」

「・・・・・・もういいです。本当の本気でもう良いです・・・疲れましたので、わたくし少し寝かせて頂きますわね。おやすみなさい・・・」

 

 そう言ってシートを傾け、顔の上から帽子を被せたオルコット君は、臨海学校に到着する前に仮眠を取る姿勢を取ったようであった。

 休めるときに休んでおくこともまた、優れた戦士に必須の条件。いざ戦いが始まったとき、全力を出せぬは武士の恥というもの。

 

 つまりはオルコット君もまた、海での戦いに備えて静かに闘志を滾らせていると言うことであるな! ふふふ・・・頼もしい限りだな、我がクラスメイツ戦友オルコット君よ!!

 

「おい、ラウラ。おーい?

「・・・・・・」

「お前は一応ハイドと同じドイツ人で、ドイツ代表候補同士でもあるんだろ? だったらコイツの相手を少しだけでもだな――」

「は、話しかけるな馬鹿者! お前個人ならともかく、そいつの問題に私をこれ以上巻き込もうとするんじゃない!」

「ぬぐわっ!?」

 

 何やら席に座って黙り込んだまま反応を返そうとしなくなっていたボーデヴィッヒ君の目の前に両手を振って見せて気を引こうとしていた織斑君が、照れ隠しなのか全力で顔を近づけすぎて遠ざけられてしまっている。

 やれやれ、相変わらず素直ではない少女であるな。これはまた私の出番が近々訪れる可能性大といったところか。

 友の恋路を応援するためならば、このシュトロハイド。幾億、幾兆、無限係数の那由他の彼方にある大軍勢を揃えた宇宙怪獣の群れを突破してこようとも必ずや駆けつけて力になることを今ここに誓おう。それこそが友情であり絆というものだからな!ハッハッハ♪

 

 おお、そうだ。今日は普段あまり話すことのなかった相手と話しかけてみることにいたそう。臨海学校はクラスメイトのみと遠出をする学生同士だからこそ味わえる特別なイベントでもあることだし、丁度よい機会というものであるだろう。

 

「篠ノ之君! 見たところ君は泳ぎが上手そうだが、どうかね? 海はいける口なのかね?」

「な、なに? あ、ああ・・・そうだな。昔はよく遠泳したものだったからな。――一夏と二人きりで(ボソッ)」

「ほほぅ!? 遠泳とは、また古風な!」

 

 私は今時珍しい、古き良き文化を愛好しているらしい篠ノ之君の趣味の良さに感服させられ、『いやお前が言うなよ!? その言葉を言う資格おれ以上にお前にはないだろ絶対に!?』――と、遠くで何かを叫んでいるように聞こえたはずの織斑君の言葉が篠ノ之君の話に興味を引かれすぎて上手く聞き取れなくなってしまった程である。これはいかんので後でもう一度聞き直しに行くとするか。

 

「では此度は私も共に参加して泳がせてもらうとしようか・・・・・・いざ行かん! ドーバー海峡横断トップの栄光を我らの物とするために!!」

「い、いや私は一夏と二人だけで泳ぎた――って、え!? ど、ドーバー!? どこだそこは!? どこのことを言っているのだ貴様は!? 道婆とは妖怪の名前かなにかなのか!?」

「箒・・・お前まで変な様子に付き合わなくても良いんだぞ・・・? バカが移されるだけだから・・・」

 

 全校生徒の大半がうら若き乙女たちばかりという事情から、姦しいバス旅行となってしまった臨海学校行きのバス移動。

 それもそろそろ終わりを迎えるらしく。

 

「そろそろ目的地に到着する。全員ちゃんと席に座れ」

『はーい』

 

 織斑教官からの指示を受けて、車内にいた全員がさっとそれに従いシートベルトを締め直し、出して遊んでいた荷物をリュックサックの中へと戻す姿が散見されていた。

 

 もうすぐ到着するのだ・・・海に。新しき我らの戦場に・・・・・・ッ。

 感慨が胸底の奥深くより湧き出てきて、私は思わず自然な感情の発露と共にその思いを言葉にせずにはいられない心地へと誘われるのだ・・・・・・。

 

 

「海よ・・・優しさと夢の源である愛しき我ら全ての生命の故郷よ・・・・・・我らは記憶を辿り、母なる海へと帰ってきた・・・。

 海よ! 大海原よ! 君と愛する祖国を守らんがため、私たちは故郷へと帰ってきたぞぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

「五月蠅いわローゼンバッハぁぁぁぁッ!!!!

 危ないから席に座れと命令しているのが聞こえんのかぁぁぁぁぁぁぁッ!!! むぅッ!?

 こ、これは・・・変わり身の術!?」

「フハハハハ!! どこを見て、何を攻撃しているのだ織斑君! 私はここだ! ここにいる! 君の倒すべき敵はここにいるぞぉぉぉぉぉぉッ!!!」

「くぅッ!! いつもいつもチョコマカと逃げ回りおってからに!! 今日こそ貴様とは決着を付けてやる! 行くぞーッ!!!」

「応さッ! 望むところよ! 私は何時どこであろうと誰の挑戦でも受ける! 私の漢の魂、震わせれるものなら震わせてみるがよい織斑教諭君!! ずおりゃぁぁぁぁぁッ!!!」

「でぇぇぇぇッい!!!!」

 

 

 カキンカキンカキンバキィィィィィッン!!!!!

 

 

「お、織斑センパ・・・先生―――ッ!? 席! 席に座って下さい危ないですから!? 私たちが主に危ないですからね!? お願いですからバス移動中の限定空間で戦闘始めないで下さい! 到着してからやって下さい! 逃げ場所ないですから! 本当に死んじゃいますからね!? 誰か助けてバス止めてくてくださぁぁぁいッ!?」

 

 

 斯くして、我らがIS学園一年生生徒全員は目的地へである旅館に無事、到着することが出来たのであった。

 危機は去ったとはいえ、第二、第三の危機が現れないとは限らない。

 我々の住む、この日本という国は絶えず様々な海からの危機に晒されてきた由緒正しい歴史を持つ国なのだから・・・!

 日本! このシンボルを戴く国を揺るがずにしないためにも、我々IS学園専用機のりたちは戦い続けるであろう!

 そう・・・今回の我々の戦いは、まだ始まったばかりなのだから・・・・・・ッ!!!

 

 

打ち切り最終回のノリで終わりながら続きます。

 

 

オマケ『この回の幕間のほほんさん』

 

*「布仏さん、大丈夫? 病み上がりなんだから無理しないでいいんだからね?」

ホ「たはは~、だいじょうぶだよ~。もう、のほほんさんは完治したから大丈夫なのだぁ~」

*「本当に? 辛かったら言ってね? 私たちに気を遣わなくて良いんだよ?」

ホ「たはは~、だーいじょうぶダイジョウブ~。のほほんさんはご飯さえお腹いっぱい食べれば元気いっぱいで回復できる子なのだ~♪」

 

*『本音ちゃん・・・ッ! 大事な試合を休んでまで治療を優先した病気が治ったばかりなのに、皆に心配かけまいとして・・・・・・のほほんさん、恐ろしい程に気遣いが出来る優しい子!!』

 

ホ「たはは~♪ ・・・誰かのほほんさんの話を聞いて欲しいのだ~・・・・・・(ショボン)」



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IS学園のひねくれ少女 第19話

気分転換のため久しぶりに【ひねくれ少女】を書いてみました。
全部は無理でも半分ぐらいは書きたいように書けたと思いたいですね。


 ――篠ノ之箒は、暗い、暗い闇の中にいた。

 

『笑う? 何がおかしかったって? あいつがリボンしてたらおかしいのかよ。すげえ似合ってただろうが』

 

 記憶の奥底から、子供の頃に“彼”から言われた言葉が蘇ってくる。

 今でも長身な箒は、子供のときから並の男子よりも背が高く、実家が剣術を教えている道場でもあるために男子生徒が相手であろうと体育の成績でも試合でも負けたことがなかった。

 それが悪かったのだろう。つまらぬプライドに拘泥する子供心の面子によって、箒はクラスの男子たちから謂われない皮肉や嫌味を言われ続けるようになり、特に自分たちの方が劣っている箒の優れた身長は弄られるネタとして使われることが多くなっていった。

 彼女は彼ら相手に一歩も引くことなく、『剣に女も男も関係はない』という武士としての信念を貫き通し続けてはいたものの、年頃の少女でもあった彼女の心が傷つかずにいられなかったのも事実ではあった。

 

 そんな状況の中で、一夏だけが声に出して庇ってくれた。

 自分が初めて頭にしてきたリボンを褒めてくれたのだ。・・・それが幼い箒にとってどれほど嬉しかったことか今の一夏には理解の及ぶところではないだろう。

 

 あの日以来、彼との仲を育み続け、その絆を確かなものとし、心に灯る淡い想いを恋心へと昇華させ、9歳のときに離れ離れにってから6年後のIS学園入学時にテレビのニュースで一夏のことが報じられて同じクラスの生徒になり、自分と同じIS操縦者の道を歩み出したのだ。

 十五歳の春を迎えたばかりの恋に恋する乙女にとって、運命を感じさせるには十分すぎる出来事だった・・・。

 

 ――だが、甘く切ない運命の吐息は、現実の苦い溜息によって脆く打ち砕かれていくこととなる・・・・・・。

 一夏の周囲に次々と現れる高スペックな【別の女たち】

 自分だけが持っていると信じていた幼馴染みという特別な絆には【2番目】がいて、彼を鍛え直してやるための訓練にも自分以上の適任者が現れだしている昨今の現状。箒としては正直、気が気でならない日々が続くようになっていったのである。

 

 そして何より、いつも一夏の方から接近したがっている“銀髪のチビ娘”・・・!

 自分が気恥ずかしさから照れ隠しでキツく当たっている一夏に対して、なんだ!? あの馴れ馴れしくも親しげな距離感は!?

 自分以外は全て女子という空間の中にあって自分以外に一夏が話しかけてこれる相手などいるはずないと高をくくっていた計算が狂ってしまったではないか!

 

 ・・・・・・その上、異世界の一夏とは結婚していて、子供までいただと・・・・・・? そんなことが許されていいと思っているのか・・・?

 否、許されていい訳がない。たとえ天が許しても私が許さん。絶対に許さん。斬る。切る。KIIL!!!!

 

 ・・・・・・誰一人として気づく者はなかったが、昨今の箒は既に臨界点に達しつつあり、我慢の堤防を越えるため最後の一滴となる切っ掛けを探し求める心理にまで至りつつあったのだ。

 だが一方で、勇気を出して一夏に想いを伝えることの出来ないヘタレの箒に状況を自力で改善することは不可能に近く、別に外的要因によって一夏との距離が縮まらずに邪魔者ばかりが入るようになり、その自分だけが持っていない条件さえ満たせば再び元の地位へと返り咲けるに違いないと彼女は確信するに至るようになってきていた。

 

 自分と彼女たちとの間で、何が違う・・・? どこに差がある・・・? ――決まっている。

 

 

 自分だけのために造られた、専用機だけだ。

 

 

 たとえそれが、相手にとっては価値のない一部でしかなかったとしても構わない。

 持つ者である彼女らにとって価値なき物が、私にとっても平等に価値がないと決まっている訳ではない。

 たとえ彼女たちからどれほど蔑まれ、罵られる結果になろうとも。

 持たざる者である私の気持ちは、彼女たち持つ者たちには決して解ることなど出来ぬのだろうから・・・・・・。

 

 

「相手が一夏じゃなくてゴメンね・・・」

 

 ズガンッ!! ズガンッ! ズガンッ! ズガンッ!!

 敵のフランスから来た留学生の専用機により、自分の機体にトドメと呼ぶべき重い一撃が穿たれて打鉄の残りエネルギーは完全に0にまで削り尽くされてしまった。

 

「・・・待ってて、一夏! すぐ助けにいくからね!!」

 

 そして、倒した自分を置き去りにして即座に一夏の元まで飛び去っていく後ろ姿を眺めながら、私は唇をかみしめ、動かぬ機体を罵りながら自分の無力さに打ちひしがれることしか出来なくなっていた。

 

「くそぅ・・・ッ! 動け! 動かないか! お前だってISだろうが!? このガラクタめぇ・・・ッ!!!」

 

 必死に打鉄を動かそうと躍起になるが、エネルギーの切れた量産型ISなど鉄クズにも等しい。重たいだけの役立たずでしかない代物に成り下がることしか出来ないのだ・・・ッ!

 ああ、クソぅッ! せめて・・・せめて専用機さえあれば! たかが二世代機のチューン機ぐらいにならば勝てるはずなのに! 性能さえあれば! 専用機さえあれば、こんな事には決してさせなかったのに・・・!

 

 そうだ。そうだとも。奴が私を倒すために使ったのと同じ、私だけのために造られた必殺の武器さえあれば、一撃必殺の刀さえあれば! 私は奴如きに負けはしない・・・必ず勝って一夏とのデート権を手に入れてみせていたことは疑いないのだ!!

 そうだ! あの一夏が使っている白式の零落白夜のような必殺剣さえ持っていたら私は必ずや・・・必ずや勝てていたはずなのだ! それなのに・・・ッ。

 

「力が・・・力が欲しい・・・ッ。私だけが持つ最強の力が・・・ッ、弱い今の私が変わることが出来る変革の力を・・・・・・ッ、私だけの専用機を・・・・・・ッ!!!」

 

 歯の間から血が流れ出すほど強く強く歯茎を噛みしめ、悔しさに打ちひしがれながら血涙でボヤけてきた視界が曇り中。

 

 ドクン・・・と。私の奥底から何かがざわめき始める音が聞こえた。そんな気がした。

 

『願うか・・・?』

(な、なに?)

 

 突如として聞こえてきた自分の内側から響く声に私は狼狽したが、声の方は至って冷静に先を続けてきて―――私にとっては決して聞き逃せない致命的な一言を心の奥底から静かに轟かせる。

 

 

『汝、自らの変革を望むか・・・・・・? より強い力を欲するか・・・・・・?

 かつて世界最強が手にしていた、最強の刀(チカラ)を汝は欲するか否や?』

 

 

 その単語を耳にした瞬間。

 篠ノ之箒の中で、それ以外すべての選択肢を選ぶ未来の可能性は完全に焼却され尽くされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっ、ホーキンが黒化したわ。オルタだね、オルタ。もしくはダークサイドに悪墜ち」

「・・・そうですねぇー・・・。ジェダイの剣士さんと少し似ていなくもない姿形はしていますからねぇ~・・・」

 

 私は傍らに立って、他人事のように他人事でしかない篠ノ之さんの変貌ぶりを楽しそうに評してくる姉さんの発言に溜息を吐くだけでツッコミは返さず、膝の上で頬杖つきながら黒い泥っぽいナニカに包まれて変貌した彼女の機体・打鉄が再び機動し始めて織斑さんたちと相対する光景を“見下ろしながら”

 

「・・・で? アレ何なんですか? 一体・・・ISに関する情報だと聞いたことない機能なんですけど・・・?」

 

 と、“眼下の景色内”で起きている出来事の説明だけをIS学園教員“ではある”姉さんに要求しました。

 ・・・何分にも他に出来ること“何もない場所”にいるものですからね・・・。本気で説明聞くぐらいしか出来ることが何もねぇ今の私でありましたとさ・・・。

 

「あれ? セレニア知らなっかたのアレのこと? おっかしいなー、セレニアなら知ってると思ってたんだけどな~。

 あー、でも言われてみたら私らの時代でも関係者以外は機密扱いってゆーか、記録から抹消って言うか、名前出したら殺すぞ社会的に。うちの国でも研究してたこと言及されたらイヤだからなとか、そんな感じのことを当時のお偉方から聞かされたことがあるような・・・無いような?」

「・・・どっちでもいいですので、早く説明を」

 

 そんな話だったことを、ルビコン川超えちゃった後に言わんで欲しいんですけど本当に・・・。

 下手に名前出したらマズそうですけど、そんな名前があると知ってから名前だけ知らない状態だと逆に危なそうだからもっとイヤになっちゃうじゃないですか・・・。機密保持するんでしたら今少し徹底して下さいよ、どこの日本政府ですか全くもう。

 

「アイアイ、ん~とねー。たしかアレの名前は・・・なんだったけかな~? もうこの辺りまで出てきてるんだけどな。生まれる寸前の膀胱の辺りまで。

 えーと、え~と、なんかこう・・・・・・『ヴァルキリー・プロファイル』と『モビルファイター』に搭載されてる機能をゴッチャにしたような名前で~・・・なんだったかなー? アレって」

「ヴァルキリー・トレース・システムですかね・・・。その二つのヒントを組み合わせた場合に考えられる答えはの話ですけれども・・・」

「そう! それだ! ヴァルキリー・トレース・システム! 通称『VT』! 信管は要らない名前の奴だよ! な~んだセレニア、やっぱり知ってたんじゃないかぁー♪

 お姉ちゃんをからかうなんて悪い子だな~☆ メッ! 後で逮捕して月の代わりにHなお仕置きしちゃうぞ♡

 ・・・牢屋という密室ラブホテルの中で、愛のあるお仕置きし合おうセレニア・・・・・・ジュデ~ム・プリズン・アルカトラ~ズ・・・♡♡」

「要請の方は拒否しますけど、同じ公務員仲間として姉さんには警察で働いている公僕の方々に謝罪するよう要求だけはさせて頂きますよ」

 

 はぁ、とまたしても溜息を吐きながら眼下を見下ろし、どうやら話がついたらしいボーデヴィッヒさんとデュノアさんが下がって織斑さんが前に出て、いつも通りに一対一の決闘が始まる流れとなったようでありました。

 

「・・・で? さっきの質問の答えは何なんです? アレは一体何なのかという質問への回答は。

 名前の元ネタから連想するものだけで推測するなら、『ヴァルキリーと呼ばれる対象を自分の動きとシンクロさせて動かす機能』か、もしくは逆に『ヴァルキリーがトレースされた動きをするために中の人を動力源として使う機能』の二種類があるように感じるネーミングでしたけれども」

「大正解だよセレニア! 英語で言うと、ザッツライト!」

「なんで英語・・・。しかも合ってましたっけかね・・・? その翻訳・・・」

 

 今一よく判らない、日本の英語の授業しか受けたことない実践向きの英語を知らない、日英クォーターに生まれ変わった後でも状況的には余り代わってくれていない、現代日本人のTS転生者に直ぎぬ存在。それが私、異住セレニアでありましたとさ。

 こんな状況でも軽く現実逃避するための思考パズルというのは悪くない物ですねぇ。・・・何の役にも立ちゃしませんけど精神安定剤としてだけは使えないこともありません。

 

「ヴァルキリー・トレース・システムは、過去のモンド・グロッソでチーフーが優勝した頃に研究開発が始まっていたシステムでね・・・。

 今だとIS条約でどの国でも企業でも組織でも研究・開発・使用がすべて禁止されている機能なんだけど、その機能を平たく言ってしまうなら・・・・・・」

 

 姉さんが遙か下方の風景を真面目な目付きで見下ろしてから、私の方へと向かって身体ごと振り向いて本格的に説明を続けてくれた言葉に寄りますなら、そのシステムの機能とは。

 

「色々と理屈はあるんだけど分かり易く言うなら、『モンド・グロッソで優勝した最強のチーフーの動きマネすりゃザコでも最強になれるんじゃねーの?システム』・・・そんな感じだね・・・」

「なるほど。大変分かり易い説明をありがとうございます姉さん」

 

 スゴく分かり易かったので助かりましたね。夢はなかったですが。合ったとしても大人の都合で卵の殻を踏み潰すように蹂躙されてしまいましたが。所詮、現実なんてそんなもんだからいーんですが。

 

「しかし、織斑先生の剣筋をなぞらせる為のシステムにしては、織斑さん相手に苦戦しすぎてませんかね? さっきから一太刀も当てられてないように見えるんですが・・・」

「ん~? あー、そりゃ仕方がないよ。相性みたいなもんだからね。

 チーフーの性格から見て、イッチーに対して剣術教えるときも、自分で剣振り下ろして『当たれば痛いから避けてみせろ!』的な教え方しかできないし、やる気も無かっただろうからねー。

 なんつーかこう、『手取り足取り教えられた技は身につかないから、一度食らって学び取った技の方が実践向きだ』な飛天御剣流師匠の教え方みたいな? あんな感じで」

「なる・・・ほど」

 

 これまた大変よく判りやすいたとえでしたね。動きをなぞらせるだけの機能なら、その動きをする太刀からの避け方逃げ方も教え込まれた人間にだけは逆に通じづらいと、そういうことですか。

 

「もしくは、『ガキの頃から剣術のつもりもなくて教え込まれてた、その剣術専用の攻略法』でも可だね。

 バトル物の定番『実力で俺が勝ったんじゃなくて、カンニングみたいなもの』で勝つ展開です」

「人が折角、心の中だけでも思わないでいるよう意識した表現をハッキリと・・・・・・」

 

 ハァ、と再び溜息を吐いて十年来の付き合いになる親族から目を逸らすことなく、最初から向けないまま眼下を見下ろし続けて織斑さんの叫び声が聞こえて。

 

「勝負あり、みたいですね・・・」

「そうみたいだねー。まぁ、他人の猿マネ剣術使って勝とうとしている時点で負け犬根性だから、当然と言えば当然の結果なんだけどさー」

 

 カッカッカと、快活に笑う強さだけなら織斑先生とも互角以上の化け物姉さん。

 こと勝負事に関してだけは、この人の気楽な発言も軽視する訳にはいきませんからなぁ・・・面倒なものですよね、本当に。

 

 まっ、それはそれとして。

 

「それで姉さん。私たちはいつまでここに居続けるつもりなのでしょうかね? 下での勝負は終わったみたいですし、そろそろ帰るためにも下りませんか? いい加減寒くなってきたので私的には帰りたくなってきたんですけれども」

 

 そう言って私は周囲を見渡し、だだっ広くて人が誰も居ない、ただ空風だけが寂しく寒く吹き込んでくるだけの青い空がよく見える場所。

 

 

 ・・・・・・ISアリーナの屋上からクレシア姉さんと共に解説をお送りさせて頂きました、インタビュアーのセレニアでした・・・。

 

 そろそろスタジオにカメラをお返しして、自分も数秒後には数十キロ先にあるはずのスタジオまで帰りたいですので降ろして欲しいんですけど、いやマジで本当に。

 

「えー? ん~?」

「まぁ、自分から避難させて欲しいと願い出ておいて勝手な言い分なのは自覚してますけど、ホラ。アレですよアレ。なんか皆さん下の方で避難しているみたいですから私たちも点呼に参加しないと先生方を困らせることになると思うのですよね、IS学園の生徒的立場としては正直言って」

「ん~? んんぅ~~~?」

 

 何やら含みありげな声で唸るばかりで、まともに取り合おうとしてくれない姉さん。

 そんな姉さんから無駄と知りつつも、一歩一歩と距離を置きつつ離しつつ、僅かでも残っているかもしれない可能性という可能性を掴み取れる希望を捨てる気には私はまだなれていませんでしたので、何かしら策はないかと無い知恵絞って色々考えては見ますけど・・・・・・浮かびませんね、サッパリですわ。

 

「フッフッフ・・・・・・ミノリさ~ん、いやさセレニア。まさか、こんな場所まで狼さんに連れてきてもらった赤頭巾ちゃんが、新しい命を宿すことなく帰れるとでも本気で思ってた訳じゃないんだろう・・・・・・?」

「・・・やはり、そうなりますよね姉さんの場合だと確実に・・・ッ。貴女と私とは、つくづく相容れられない宿命にあるようです・・・・・・」

 

 ジリジリと距離を詰めてくる姉さんと、距離を離すために、それでいて屋上から墜ちてしまわぬ為に頭を使う意外に勝ち目のない私・・・ッ。

 

 くそぅ・・・こんな事になるんでしたら大人しく座席に座ったまま針のむしろ状態に耐えてた方がマシだったことぐらい最初から解りきっていたことでしたのに・・・っ!

 全校生徒の前で、異世界人でしかない私ではない私の勝手な事情とはいえ、黒歴史連発するようなことを大声で叫びまくられていた×2の私の気持ちなんか、やはり姉さんには解ってもらえなかったようですからね! これも宿命ですよ! うちの家族が持つ変態の性という名の業なのです!!

 

「かつて変態っぽい白一色服着た仮面の指揮官さんは言いました・・・・・・『他者より早く! 他者より先へ! 他者より前へ! 自ら生み出した闇に食われて人は滅ぶ』・・・と。

 つまりは早い者勝ちと言うことですね、解ります。そして他人に唾つけられる前にいただいときます。それこそが人類の半分を占める女の業(性欲)!!」

 

「・・・かつて変態っぽい赤い服着た仮面の指揮官さんは言いました・・・・・・『作戦が失敗となれば直ちに撤退だ』と・・・ッ。止まったら助かるものも助からないそうですので走って逃げます・・・ッ!」

「フフフ・・・セレニアが私と遠くへ行きたがったから連れてきてあげたのに・・・つくづく悪い子だなぁ♡ お仕置きしてあげるから待て待てぇ~い♪♪」

 

 

 

 ・・・・・・こうして、アリーナの下の方でなんか綺麗にまとまっていたらしいのと同じ頃。

 アリーナ上の屋上では私と姉さんによる身内同士の醜い争いによる鬼ゴッコが勃発しておりましたが、誰もそんな事実は知らず、アリーナ内のIS騒動だけが知れ渡り、私たちにとっての黒歴史がこれ以上増えることだけは防げた訳でもあったのです。

 

 それは未来の歴史として良かったことなんでしょうけれども・・・・・・今はとにかく、なんと言うかこう・・・・・・

 

 

 誰か、助けて下さい・・・・・・体力ないモヤシっ子に走るのはちょっと、辛くなってきたみたいです・・・・・・ゼェ、ゼェ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風にして地上と屋上とに別れてIS学園内で悲喜劇をやらかしちまっていた日から僅か数日がたった頃のこと。

 

 日本から遠く離れた、地図にも載らず、乗っていた島を抹消させた一人の女性が上機嫌にナニカを組み立て続けていたところに携帯の着信音が鳴り響き。

 

「おーっと、この着信音はぁ! トゥッ!」

 

 気合い一閃、大ジャンプして飛び上がってから着地し直して。

 取りやすいところに置いておいた携帯電話の通話ボタンを押して耳に当て。

 

「もすもーす。終日? 束さんです。連絡来る頃かなと思ってたけど、ナニカ用かな? ちーちゃ~ん♪」

 

 ブツン。――切れた。相手の額に浮かんでいる血管が二本か三本ほど纏めてブッた切れる破裂音が鳴り響いた気がしたけれども、内容的に通話ボタンまで切る訳にはいかない事情を示唆するものでもあったためギリギリの所で踏みこたえると。

 

『・・・・・・はぁ。まあいい。今日は貴様に聞いておきたいことがある。正直に答えてもらうぞ、束』

 

 そう前置きしてから電話をかけてきた通話相手・IS学園警備主任でもある織斑千冬は冴え冴えとした声音で、かつての級友に詰問口調で問いを発した。

 

『貴様は今回の件に一枚噛んでいたのか? 束・・・』

「クスクスクス・・・・・・」

 

 相手の質問を予期していたとは言え、束と呼ばれた彼女にとっては余りに愚問。答えるまでもなく回答など分かりきっているものでしかない質問内容を聞かされて、思わず答える前に忍び笑いを漏らさずにはいられない。

 

「ちーちゃ~ん。それ本気で聞いてきているのかな? 束さんは束さんだよ? この私があんな出来損ないで不細工なシロモノを作るとでも思っていたのかな? 私が作るからには完璧において十全でなければ意味がない」

『・・・・・・』

「そして、もう一つ。ちーちゃんの質問に正しい答えをプレゼントしてあげましょう。

 私はアレを造っていない。だけど“造られていたこと、誰の機体に秘密裏に搭載されていたかについては知っていた。そして知っていたという情報を誰かに教えることはしていない”・・・・・・これが正解の回答だね。どうだい? 勉強になったし参考になったかな? ちーちゃん先生♪」

『!!! 束・・・ッ、貴様なにを考えてこんな事を・・・ッ!?』

「あっははは~☆ 愚問だねーち~ちゃん♡」

 

 楽しそうな笑顔を浮かべて、楽しそうな笑い声を一小節ほど奏でた後。

 

「束さんは、束さんの欲しいものを手に入れることを考えているのだよン♡ 人として当然の欲望、当然の意思。即ち――エ・ゴ☆ じゃね♪ バッハハ~イ♡」

『!? ま、待て束! 私の話をもう少しだけでいい! 聞け―――』

 

 プツン。ツー、ツー、ツー・・・・・・ジャ~ンジャーカ♪ ジャーカジャーカ、ジャーカジャンジャンジャン♪

 

「おおっと今日は千客万来、二度目の通話だ。もしも~し、久しぶりだねぇ! 元気だった? ずっとずっと待ってたんだよ!」

『―――。・・・・・・姉さん』

「うんうん、ダイジョブダイジョブ♪ 要件はわかっているよン☆ モチロン用意してあるよ? ハイエンドにしてオーバースペックな白き機体と並び立つことが出来るようになるキミ専用機がね~♡」

 

 

 そして二度目の通話も終えて一息つき、『ふぅ~』と溜息を吐き出してから視線をあげて、目の前にそびえ立たせていた深紅の機体に無感動な目を向けながら、“彼女が言いそうな評価”を思い浮かべて知らず知らずのうちに唇の形を皮肉げに歪めて笑みの形を作り直す。

 

 

「ハイエンドにしてオーバースペックな白き機体と並び立つことが出来るようになる専用機・・・・・・か。自分が一番欲しがってるものを全て他人から与えてもらって手に入れようと願う子には丁度いい試練だね・・・。

 頑張りなよ、箒ちゃん。お姉ちゃんもそうやって強くなったんだから、妹として同じ敗北を経験しなさい」

 

 優しくて残酷そうな声音でそう呟き捨てると、目の前の最新型ISには興味を失ったかのように一笑だけを残して背を向けて、先ほどまで作り続けていた精魂込めて丁寧に丁寧に作り続けている存在を、より完成に近づけるためどこをどう造形すればいいかを考え続ける有意義な思考作業に没入し直す。

 

「自分が欲しいものは、自分の力で手に入れなくちゃ意味がない。正しく報われた想いの結果だけを恵んでもらえた人間には、それが解らない。

 私はねぇ、箒ちゃん。自分が欲しいものを手に入れるためだったら・・・・・・もう、家族だって捧げられる覚悟は出来ちゃった後なんだよねぇ~・・・・・・」

 

 暗く、そして熱い炎を宿した瞳で“ソレ”を見つめながら彼女は呟き。

 近くに落ちていたヤスリ紙を拾って、それの横側を微調整するため余分な部分を削り落として、それで――――

 

 

 

「どわあぁぁぁぁぁぁぁッ!? しまったぁぁぁぁぁッ!?

 お尻とロリデカパイのパーツを0,000001ミリも多く削り過ぎちゃったぁぁぁぁぁッ!?

 束さんが三日三晩かけて精魂とか性欲とか色々なものを注ぎ込みながら作り続けてきた『45分の1セレちゃんフィギュア』が最初からの作り直しにー!?

 おのれ神よ! 人の苦労を無駄にするのがそんなに楽しいのか!? いい度胸だこの野郎、地上に降りてこい! 天災科学者束さんと決闘だぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「あの・・・束様。責任転嫁の自己正当化目的でおこなう神様否定は、流石に見苦しすぎるのではないかと思われますが・・・」

 

 

つづく




*書き忘れていた補足事項:

セレニアたちがアリーナの屋上に行けたのは、クレシア先生が拳で突き破ったから・・・・・・ではなくて、一端アリーナの外に出た後に八艘飛びの要領で駆け上がったからというだけのものです。

壊すと警報鳴っちゃいますのでね。最初からセレニアを人気のない、助けを呼んでも誰も来ない場所に連れ込むのが主目的だったクレシア先生にとっては壊すよりも楽で都合良かったという流れ。

才能の無駄遣いしまくりですけど、特権乱用フル活用が『這いニャル』ですのでな。
生まれながらの才能も、生まれ持った特別な家族のコネも立派に特権の一つなので乱用してみた次第です。


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IS学園のひねくれ少女 第20話

結構久しぶりの更新となっちゃいましたね、申し訳ありません。
連載作再開1作目がコレっていうのも正直どうかとは思ったんですけど……前から書き進めてたのを完成させたため一番最初に出来てしまいましたので一先ずは更新させて頂いた次第です。

今話で原作2巻目のイベントは完全に完結です。次話から3巻目の臨海学校編に突入しますのでご承知おきのほどを。

注:原作で描かれてた部分は原作読めばわかるため文字数節約で飛ばしました。
*:最初の件で分かりにくい文章になってたため少しだけ変更しました。


 織斑さんデュノアさんチームVS篠ノ之さんボーデヴィッヒさんチームとが戦いあって、篠ノ之さんが呪われた聖杯の泥でも被ってしまったみたいに黒化したことでトーナメントが中断された日の夜のこと。

 私は今日の事件とは別件について話があるからと、織斑先生から呼び出しを受け、学校終わった夜に相手が過ごす場所である寮長室に赴いて説明を受け終えていた次第です。

 

 その話によれば。

 

「私のルームメイトと、ボーデヴィッヒさん双方を部屋替え、ですか?」

「そうだ」

 

 織斑先生はデスクに座ったまま両腕を組んで顎を軽く添える――まっ、いわゆる碇ゲンドウ姿勢とも呼ぶべきポーズを取りながら(私が今勝手に命名しただけですが)私の顔をまっすぐに見つめ返すと、短い単語でそう答えられたのでありました。

 

「正直なところ、ボーデヴィッヒの状態変化に対して学園執行部側は、早い時期から意見が割れて扱いかねていたのが実情でな。

 当初の予定では、奴のルームメイトになることが決まっていた生徒からも『もう限界です』という嘆願書が十枚を超えたということもあり、今日の事件での事後処理に併せてお前のルームメイトと奴のルームメイトを同じ部屋にし、奴をお前の部屋へ正式に入れ替えて調整した方がよいと判断した訳だ」

「なるほど」

 

 私は特に含むところもなく、芸もなく、ごく普通の態度と対応で織斑先生からの説明に相づちを打って納得しました。

 別に反対したい理由も目的もない話題に関する話でしたし、実質私の部屋に入り浸りでしたしね、お子様モードでのボーデヴィッヒさんの時はずっと。

 

 ・・・って言うか、あの状態になってからの彼女によく今まで保ちましたね、ボーデヴィッヒさんの同室になってた女生徒さんは・・・。

 彼女たち双方に悪い評価を与えているわけじゃないんですけど、冷厳な軍人モードと前世知識持ちのお子様モードとが突然入れ替わってスイッチどこにあるかも分からないような女の子ですのでね。

 

 ・・・情緒不安定すぎるのにも程がある・・・その程度の表現で済んでくれてたらラッキーなレベルでしたし。・・・いや本当によく保ちましたね本当に・・・。死んだら英霊に昇華されそうな名もなき女戦士さんに敬礼。

 

「もともと今の奴は、貴様と同じ部屋にいないと落ち着かなくなるときが増えてきていたからな。学園上層部もようやく重い腰を上げて、変更の決断をしようという気になったようだ」

「たしかに、日本人がもつ当初たてた計画を途中で変えられない民族性は、よく問題視されてましたからねぇ・・・」

 

 前世でも話題になってた部分ですし、日帝軍の戦略でもインパールでも色々ありまくってた部分ですからねー・・・。もっとも別に外国人だったら同じ失敗しないほど柔軟性がありまくってる別けでも全くないのですけれども。

 所詮、民族性は民族性でしかありませんのでね。その心理的傾向ありこそすれ、絶対になれるわけもなし。血液型での性格診断みたいなものなんでしょうよ。やったことないので多分ですが。

 

 まっ、それは別にいい些事として。

 私的に、この件で聞いておきたい話があるとすれば、せいぜいが一つだけ。それを質問させてもらうだけで部屋割りの了承と説明を受けて部屋に戻るといたしましょ。

 

「とはいえ、IS学園は国立学校で内装なども税金でまかなっているのでな。あとあと面倒が起きぬよう双方合意の上でおこなうため、一応は書類にサインしてもらう必要があったので来てもらった。署名だけしてくれたら後はやっておいてやるから帰ってよし」

「はぁ、それではお言葉に甘えさせていただきますけど・・・・・・一つだけ質問してもよろしいでしょうかね?」

「ふむ? なんだ、言ってみるがいい。私は貴様のクラス担任で寮長でもあり、お前も一応は寮に所属している生徒の一員ではある」

 

 ・・・うぉ~い、「一応」ってなんですか一応って。使われてる単語おかしいでしょうよ。

 この人の昔から続く性癖である、身内に厳しく接しすぎるという形での特別扱い、いい加減に止めてもらいたいんですけれども・・・

 

「では、それもお言葉に甘えさせてもらって。――私のルームメイトって誰だったんです? 入学してから一度も会ったことなかったので気になってたのですが・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 ・・・うぉ~~いパート2ー・・・。黙るなー、目をそらすな担任教師ー。

 現実から逃げ出しても、どこに行く場所ないですので黄龍にうたれる前に戻ってこーい。渇を入れてくる魔王勇者様には同じ日本刀使いでも勝てないでしょ貴女じゃ絶対にです。

 

「・・・って言うか、その反応からして姉さんがまた、コネだの何だの使ってなんかやった結果だったのでしょう? 織斑先生自体は被害者の一員ですので、そこまで気にしてくれなくても別によいのですが・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・また無言での返答ですかよ・・・。しかも、この会話の流れで無言だったら肯定してんじゃないですかよ・・・。

 直接的に言いたくないことを、間接的に相手に伝わるよう仕向けることで、自分は『直接その言葉を言ってないこと』にする事ができてしまう気遣いという名の意訳文化は私好みじゃないんで止めて欲しいんですけど。いや本当に切な願いとしてガチで。

 

「――質問はそれだけだな? では話は以上だ、帰ってよろしい」

「は~~い・・・・・・」

 

 白っぽい目つきで書類にサインし終えた後(一応さらっと流し読みだけは毎回しておりますが)私は一礼して部屋を出て、割り当てられた自分の部屋へと戻る道筋を歩み出します。

 

 ボーデヴィッヒさんの子供返り事件があって以降、私は基本的に彼女の相手をしなければならない回数が多くなり、姉さんがパラサイトしている宿直室には帰っていなくなってたのですけど、昼間に色々あった今日ぐらいは顔見せにいこうかな? ・・・などという気まぐれを起こすこともなく普通の判断として部屋に戻るだけ。

 

 誰だって疲れてるときに、余計な精神的疲労を加えてくるような人とか出来事には関わりたくないですもんな。ひねくれ者だろうと、私もその点では一般的な凡人と何ら変わるところはありませ・・・・・・って、おや?

 

「あ、セレニア。こんばんは、こんな所にいたんだね」

「デュノアさん・・・? どうしたんです、こんな所で・・・」

 

 意外なことに、部屋へと戻る途中の廊下ですれ違った相手とは、金髪碧眼のフランス人男装美少女であるデュノアさんでした。

 本来なら、これはおかしくもなんともないことです。

 ここはIS学園の廊下であり、彼女はIS学園生です。悪くすれば地位を失ってた可能性も多分にある行為に手を染めかけてた彼女ですけど、何事もなく刑事事件に発展することもなかったならば普通に今もIS学園生徒の一人。ならば別にIS学園の寮の廊下を歩いていたところで出くわしても何らの不思議も一切なし。

 

 単に彼女と織斑さんは、昼間の事件について教師陣から事情聴取受けさせたいとかの理由でしょっ引かれてから今の今まで寮内に姿を見かけた記憶がなかったものですからね? 

 だからこそ『少しだけ意外』そういう感覚。

 

「事情聴取の方は、少し前に終わって一夏と二人で遅めの晩ご飯を食べ終えてきたばかりなんだ。それでたまたまセレニアを見つけたから、走ってきちゃった」

 

 そう言って、「ペロ☆」とイタズラっぽく舌を出して片目をつむって見せてくるデュノアさんには、先日フランスであった過去の問題と親との確執について打ち明けられたときの重さや暗さ、気負いすぎてるところは微塵も感じられません。

 もちろん、そう見せようと努力している部分もあるのでしょうけどね。取り繕う余裕すら失うまで追い詰められていたときよりかは余程マシになったというべきでしょうよ。

 空元気でも、無いよりはマシです。暗くて重い本音なんか正直に晒されても見せられてる方が正直困るだけですからねぇー。

 

「実はキミのこと探してたんだ、今日が終わる前に会えて良かったよ。

 本当なら一夏と一緒のときに話した方がいい話題なんだろうけど、どうしても僕個人としてキミに一言お礼を言っておきたかったからさ・・・」

「お礼、というとデュノア社の経営問題に関する話ですかね? アレでしたら別にお気になさらず。

 会社の方はともかくとしても、お父さんの方との問題はデュノアさん自身がこれから時間かけて地道にやってく類いの問題ですので、役目の終わった私にお礼言う必要性なんて些かもありませんからね」

 

 そう言って肩をすくめながら、私は自分が今回の一件に関与していた部分についてはアッサリと認め、自分がやれない部分を具体的にデュノアさんに語って聞かせるのでありましたとさ。

 

 普通だったら、ここは『自分は何もしていない。君自身が勇気を出したから手に入れた結果だ誇っていい』とか言うのが正しく王道になるシーンなんでしょうけれども。

 あいにくと私の場合は、救ってあげても救ったことにはしたくないタイプのヒーロー主人公目指してるわけではないものでしたのでね。

 『救えた部分』については素直に認め、私では救いようがないデュノアさんが自分がやってくしかない部分については別々に語って聞かせる事をよしとするのが私流のやり方です。

 

 『これでは本当の意味で救ったことにならない』とか、あるかどうかも分からない『本当の救い』なんて正体不明の代物と比較して、完コピできてなかったから救いじゃない論を吐きたがる教条主義的に完全完璧さを要求しまくってたアンチ派の方々と、私は前世の時点から相性が悪いのですよ。ハンッ。

 

 

「わかってる・・・。僕にとって本当に大変なのはこれからだってことも、お父さんとの問題は最初の一歩を踏み出せただけで、今よりもっと悪くなる可能性があるんだってことも・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「でも、それでもセレニアには一言お礼を言っておきたかったんだ。お礼を言っておかなきゃいけないんだって、僕にはそう思えて仕方なかったんだよ。だから言いたいんだ。

 本当に、僕とお父さんのことを――“ありがとう”って・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 ――しょーじき。

 ・・・・・・めっちゃ目を逸らしたくて仕方がない展開が続いちゃいましたね、私が思うことはの話として・・・。なんて言うんでしょうかね、こういうのって・・・。

 自分でもキャラじゃない反応してるって分かりますし、普段の私だったら今の私見て色々言いそうなセリフが幾つも幾つも思いつくのに言おうという気が全然してくれません・・・・・・あと今、鏡とか窓とか超見たくありません。

 床のたうち回るか自殺するかの二択しか自分の人生の選択肢なくさせるような行動を、私は自分で選び取りたくないのですよ。ええ、絶対に。絶対にです。あ~・・・暑い・・・。

 

「・・・・・・そういう言葉は、織斑さんにでも言ってあげてください。あの人だったら素直に喜んでくれるでしょうからね。照れ隠ししながらでしょうけれども・・・」

「もちろん、一夏にも言うつもりだよ? でも一夏とセレニアは、二人とも“ありがとう”って伝えたい言葉の意味が違うから・・・」

 

 デュノアさんはそう言って、胸の前で両手を合わせて軽く握りしめるようなポーズを取りながら、続けながら、

 

「今になって思うと・・・、僕はお父さんに対して血の繋がりに甘えてたんだなって、そう分かったんだ。

 僕の気持ちも考えずに、父親だからって理由だけで自分の都合だけを押しつけるなんてヒドい。あんまりだ。少しはお母さんが死んだばかりで悲しんでる僕の立場や気持ちも考えてよ!・・・・・・って、そういう風に怒りを感じてたんだってことが、一夏が声に出してくれたときにようやく分かったんだ。

 そして、その後にセレニアが色々教えてくれて、考える時間をくれて、その中で僕も色々考えるようになっていって、ようやく気づいたんだ。

 ・・・・・・そういえば僕は、“お父さんの立場とか気持ちとかを考えた事って一度もなかったな”・・・・・・って」

「・・・・・・」

「気づいたときには正直、ショックだったし愕然とさせられたよ。

 自分がお父さんに思ってた不満とか怒りとか理不尽な言葉とかが、ぜんぶ自分にも当てはまってるものばかりだったなんて、気づきたくなかったし認めたくもなかった。

 セレニアや一夏と出会ってなくて、ラウラと戦うために別の目標に集中することができてなかったら、たぶん僕一人で気づけてたとしても認めることは今でも出来なかったんじゃないかって・・・・・・そう思えるぐらい本当に、ショックだった・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「正直に言えば、今でも蟠りはあるし、お父さんとの仲がこれだけで良くなるなんて気持ちは少しも抱けないくらい・・・恨みも残ってる気持ちもある。・・・・・・でも」

 

 そこまで言って、重々しい言葉の内容とは裏腹に、どこかストンと憑いていたものが落ちたような晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら語られていたデュノアさんが私の方へと視線をまっすぐ向けてきて――私は逆に目を逸らすのでありました。

 

 ・・・いや、こういうシチュエーション本気で苦手なのでね?

 ときめきメモリアルな展開だったら意外と軽いので有りなんですけど、ダ・カーポ的なノリは出来ればご遠慮頂きたいものなのですよ。せめてメモリーズオフに――あんま変わりそうにねぇでしたな・・・。

 

「こう思える自分になれたのは、間違いなくセレニアと一夏のおかげだから。だからお礼を言いたくなったんだ。

 こういう自分になれたことが、僕の未来にとって不幸なことなのか幸運な変化なのかは、それはまだ分からないけど・・・・・・でも今の僕は、今の僕になれる切っ掛けをくれた一夏とセレニアにお礼を言いたい気持ちになってたのだけは確かだったから、だから・・・・・・」

 

 

「ありがとう――。

 一夏が“ここにいろ”って言ってくれて、居場所を失っていた僕に少ない時間でも考えるだけの場所と時間を与えてくれて。

 セレニアが“僕はどうして欲しいのか”って僕の気持ちを聞こうとしてくれて、自分で自分の答えを見つけ出せるまで考えるための心の余裕を守り続けてくれてたから・・・・・・だから今、僕はこうしてここにいられる。

 居場所が見つかるまで、ここにいたい。いさせて下さいって・・・・・・胸を張ってお願いできる自分になれたことが本当に嬉しく思っているから・・・・・・だから、“ありがとうセレニア”すっごくすっごく嬉しかったよ」

 

 

 

 ・・・・・・う~~~~~わ~~~~・・・・・・マジしんどーい・・・。精神的にマジしんど~~い。

 ひねくれ者は綺麗なものだけで出来た世界に3分以上居続けると死んでしまう悪いウルトラ星人みたいな生き物なんですので、早々にこの場を立ち去りたーいです。

 自分でも全然自分っぽくないこと言ったりやったりしている現状を自覚できまくるせいで余計に恥ずかしすぎますから本気でどっか行かせて下さい。マジお願い、本当に死にます。死にそうです。

 主な死因は恥死による自殺。・・・恥ずか死ぬ前に、撤退許可を・・・・・・早く・・・ロボス大将の総司令部~~~・・・・・・。

 

 

「あ、ごめんね。セレニアもどこかへ行く途中だったのに長く引き留め過ぎちゃって。

 ・・・本当はもう一つ伝えておきたいことがあるんだけど、こっちの方は一夏に伝えた後に言いたいから、セレニアにはその次に・・・ね?

 じゃ、じゃあ僕はそれを伝えるために一夏が待ってるところに行ってくるから。それじゃあねセレニア。また明日、学校でね! おやすみなさい!」

「・・・・・・は~~い・・・おやすみなさーい・・・・・・」

 

 ヒラヒラと、疲弊しきった体と心で何故か赤い顔してソワソワし始めたデュノアさんの去って行く背中に別れの挨拶を送りながら、私はようやく訪れた心の平穏時間にホッと一息つけて安堵しておりました。

 

 ふ~~・・・嵐のような人でしたね。春に吹く嵐のように優しい勢いしかありませんでしたけども。

 比較対象が激しすぎる戦乱の時代全体だった場合には、教化の名のもと行われた拡張政策で武力衝突や制圧も多く見られていたローディス教国の時代が『春の海のように穏やかな時期だった』と表現されるゲームがあったぐらい、強い弱い優しい厳しいなんて基準は比べる相手次第でどーとでも変わる代物ですからね。

 なのでデュノアさんの優しげな春の嵐も、私にとっては夏のオウェス島に訪れる主人公達の船を座礁させた嵐ぐらい激しいものに感じられても不思議ではな・・・・・・止めときましょう。

 自分もマニアックすぎると自覚できる知識持ち出さないことには冷静さを保ち得なくなってるのだとハッキリ認めた方が、まだスッキリしそうな気がしてきました故に・・・・・・。

 

 ・・・あ~~、しんどい。

 マジ恥ずかしか―――って、あれ?

 

 

「・・・待って下さい。たしか織斑先生から呼び出し受けて寮長室に行く前に誰かと会って、何かの話を聞かされた記憶が、妙に何かとチグハグになって違和感があるような気が・・・?」

 

 先ほどの衝撃により、脳みそが一時期にピンク色の侵略を受けていたせいか、記憶畑が爆撃受けて焦土と化しており、耕し直して記憶再統合するまでに時間がかかりましたが今ようやく復旧作業が完了しました。

 

「そうでした。たしか山田先生にあったんでしたね。それで連絡事項を伝えてもらったんでしたわ」

 

 あ~、ようやく脳が通常運行に戻ってきましたわ。記憶も回復してきましたよ。

 たしかあのとき山田先生は、こう仰っていたはずです。たしか。

 

 

『――異住さんも知ってると思いますけど、今日は大浴場のボイラー点検日です。

 ただ点検作業自体は、いつも通り9時前までには終わる予定ではいるんですけど、今日は普段なら大浴場を使えない織斑君とデュノア君の男子二人だけに使ってもらうことになったんです。

 試合の後に事情聴取まで付き合わせてしまって、二人には申し訳ないことをしてしまいましたからね。せめてものお詫びの印です。

 ですから異住さん? 織斑君たちがお風呂に浸かっているときにいい、一緒に入ろうなんてしたらダメですからね!? 一部の生徒たちさんたちの間で、そういう風潮が流行っているらしいんですけど、そ、そういうエッチなことはいけないと先生は思います! 断固!』

『・・・・・・やりませんて・・・』

 

 

 ――たしか、こんな風な内容の連絡事項。

 んで。今この場にいる私が立ってる廊下は、寮長室から学園寮に着いている廊下の中途ぐらいで、あんまり複数の通路を伝って四方八方から同時に一人だけの寮長先生の元へ押しかけるようなことがない作りになっており、基本的には一方通行な廊下の一つ。

 

 そして今さっきデュノアさんが『織斑さんを探すために去って行った方向』にあるのは、生徒たちと会わずに先生方がたまに大浴場を使うときとかに用いられている、使用者が限定的で人目を避けて『今日は男子専用の貼り紙貼られていて堂々と入れるようになったはず』の大浴場へと続いており。

 

 そして、それ以外の場所だと教員関連が使っている部屋が多い、寮長室周辺の教員用スペース。

 

 この二つの情報を組み合わせて導き出される結論はと言いますと―――。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・気のせいですね。私らしく考えすぎただけでしょう。疲れてるみたいなので部屋に戻って今日は寝ることにしましょうかね・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・と、言うことにしておくのが賢明そうだなという結論です。

 私は何も気づいていません。私は何かに違和感を感じただけで、結局なんの答えにも至れなかったのです。

 

 自分が得する意見に賛成し、自分が損させられる意見だから反対し、感情論で言ってるだけでないと見せかけるためにも尤もらしい理屈を付け足すことで正しさ貫いてるように見せかけて美談にする。

 それが救済系ラノベ主人公の主張なのだと気づいたあの日から、気づかなければ綺麗に終われる話は綺麗なままで終わらせてあげるべきだと考えるようになったのが私という人間。――面倒くさそうでしたのでね?

 

 ですので私は絶対―――織斑ラバーズのによるスーパーイチャラブ大戦には、二度と巻き込まれたくありません。

 他人の色恋沙汰とか、色恋沙汰から発展した泥沼争奪劇とか、そういうラブコメ風味なイベントに巻き込まれることはノーサンキュー。

 私の人生に恋愛要素は一切必要ありませんと、中学時代から付き合いのある原作主人公の旧友時代に誓ったのです!

 

 

 だから知らん! 気づかん! 興味もない! ・・・・・・ってあれ?

 

 

 今度は廊下の隅で見覚えのある、中くらいのサイズと小さいサイズの二つの色した人たちが、何やら密談されておられるのが見えたような気がしたような、しなかったような―――

 

 

 

 

『ふふふ・・・・・・夏ね』

『ええ・・・ウフフ。夏ですわね』

『夏と言えば臨海学校。臨海学校と言えば海。海と言えば・・・・・・フェアに行きたいわよね? お互いに・・・』

『ええ、もちろんですわ。わたくしも礼儀とマナーの国の貴族として、貴族らしくルールを守り、ファアな勝負をと思っております。・・・海においては特にお互いに・・・・・・』

 

 

 

『『正々堂々、手段を選ばず、真っ向から不意打ちして望むものを手に入れた側が勝者となる。それが恋愛(戦争)!!

  さぁ、あたしたち(わたくしたち)の恋愛戦争(奪い合い)を始めましょう!!!

  くふ、クフフフ・・・・・・ふはぁーっはははははっ!!!!』』

 

 

 

 

 

 ・・・・・・。うん、まぁアレですよあれ。

 

 

「私は何も気づいていませんし、見ていません・・・・・・そういう事にしておきましょう・・・」

 

 

 起きることを知ってるだけで避けられない不幸な未来の知識など、100パーセント的中する予言と同じで全く何の役にも立たない意味がない。

 だから忘れます、なかった事にしておきたいのです。

 

 避けられない未来なら・・・・・・恨むのも後悔するのも、その時が来てからでも遅くないですし、早めたところで辛いだけで意味ないっス・・・。マジで、本当に・・・・・・(ToT)

 

 

 

つづく

 

 

 

おまけ【この頃の束さん】

 

束『ふんふんふ~ん♪ 臨海がっこう♪ 臨海がっこう♪ そこはパライゾ、ドリームランド、全ての願いが叶うと言われる理想郷の夢幻は~、愉しみだゾっと♪♪』

 

ク『束様・・・失礼ながら、鼻血を拭かれないままのフィギュア制作は、大変キモく思われますが・・・』



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『我が征くはIS学園成り!』第19章

更新…した訳ですが、前回のを先走って出してしまってたため内容的に矛盾が無いようにしたらビミョーな感じになってしまいましたわ…。
書き直した方が良いのか否か、作者が判断しても良かったんですけど、とりあえずは反応を見た上で決めようかなと愚考した次第です。

名ばかりの原作を基にして創られた半ばオリジナル話回というのは、判断基準に困るんですよな…書き手側の正直な気持ちとして…(-_-;)


「「「海! 見えたぁっ!」」」

 

 トンネルを抜けると広がっていた青い海原を見た瞬間に、クラスの女子たちが改めて上げた喜びの叫び声から始まった俺たちIS学園1年生夏の臨海学校。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

 目的地に到着間近であることを告げた後、いつもの様にいつもの如くハイドと狭いバスの中で超絶バトルを繰り広げていた千冬姉も、目指す旅館に到着したことでバトルを中断してクラス内に号令をかけてバスから降ろし、旅館の前に整列してから女将さんたち従業員さんたちに一礼して挨拶。

 こうして俺、織斑一夏を含めた新入生たちにとって、IS学園に入学してから初めての臨海学校、その初日が幕を開けたのだ。

 

 ちなみに、この臨海学校。正式には『解放された非限定空間におけるIS装備の稼働試験』というのが主な目的らしいのだが・・・・・・今さっきまで行われていた限定空間内での超高速戦闘を終えて何事もなかったように教え子たちを指導し、結局バスも壊すことなくISバトル超えてる様に見えた戦いやってた生身の人間二人組を見せられた身としては、なんとなく空しさを感じずにはいられない主目的な気がして仕方がなくなってるんだけれども・・・・・・。

 

 ――まぁ、しょうがないと思っておこう。ハイドだし。

 この一言だけで全部解決できてしまうように思うのはヤバいことだとわかっているのに、それでも事実だからしょうがないとしか言いようない奴らだから本当にどうしようもないんだ・・・本当に・・・。

 

 ま、まぁそれはそれとして! 海だ海!

 天候に恵まれて無事快晴、陽光を反射する海面は穏やかで、心地よさそうに潮風がゆっくり揺れていて、七月の太陽にあぶられた砂浜は熱い!

 

 これだよコレ、やっぱり海はこうでないといけない。

 頬を撫でる風、足の裏を焼く砂の感触――これこそ日本の海上よ・・・・・・。

 

「――って、あれ? 何やってるんだ箒、こんなところで」

「・・・・・・」

 

 千冬姉こと織斑先生から諸注意を受けて、部屋も先生たちと同室であることも個人的にレクチャーされた後、リュックサック背負って海に入るため更衣室があるらしい別館に向かっていた途中でばったり箒と出くわすことになる。

 いや、それ自体は別にいいんだけど、何故だか今の箒は道ばたにある一点を見つめたまま声をかけても微動だにせず、無言のまま自分が睨むように視線を向けてた先を指差すだけ。

 

 何かあったのかと思って、相手の指差してる先を見てみると・・・・・・ウサミミ・・・?

 道の端っこの方に、ウサギの耳(といっても生ではなくバニーガールとかがしてるウサミミバンドだが)が上の部分だけ生えていたのだ。

 しかも、『引っ張ってください』という張り紙付きで・・・。

 

「・・・なぁ、箒。これって――」

「知らん。私に聞くな。関係ない」

 

 聞き終わる前に即答されて、コレは間違いなく『あの人だな』と確信する俺。

 天上なしの才能を持ち、一日を三十五時間生きる女と自称しているISの開発者、篠ノ之束さん。箒の実のお姉さんだ。

 箒は、詳しい理由まではわからないけど姉の束さんから極端に距離を取っていて、他人行儀に接するときがある。丁度今のように。

 

 だからこそ、このウサミミは束さんなんだということが俺には分かるし、身内が埋まっていることが分かりきってる張り紙見て見なかったフリできるほど人でなしになった気ねぇし、なりたいとも思ってねぇ俺としては抜く以外の選択肢は与えられておらず。

 

「えーと・・・・・・抜くぞ?」

 

 それでも一応、先に発見しておきながら見ているだけで放置している実の家族に確認取らないのはマズいなと思ったから声をかけて、箒は嫌そうに顔をしかめながらも返事をしようとしたときのこと。

 

 

「好きにしろ。私には関係な―――」

 

 

 

 

「おおっ!! ここにいたのか織斑君! 探したぞ! いやはやまっこと海というのは漢の血を熱く滾らせ、東の果ての最果てにある日出ずる国ジパングまで夕日を追いかけ走り出したくなる浪漫あふれる見事な場所よな! はーっはっはっハ―――イドッ!!!」

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 ・・・一日三十五時間戦い続けて一年間続けられそうな女の子が現れてしまった・・・・・・。

 なんかもう、コイツと知り合ってから今までの俺から見て超人的な人達との再会が、それほど驚くほどのことでもなくなってきていて困るのだが・・・この悩みは一体どこに相談すればいいものなんだろうか?

 『クラスメイトの女子生徒が世界最強を超えてるゴジラ人間です』って警察署に相談したら、精神病院に連れてくことなく話きちんと聞いてもらえるといいな・・・無理だろうけど。

 

「やはり何度来ても、海は良いな海は! 彼の偉大なる超世界国家軍創設を謳った独立潜水艦国家と同盟を結ぶ英断を下した名総理大臣も『日本を変える者は常に海から来る』と名言を残している通り、やはり国の変化は海の向こうより訪れるもの・・・・・・そう!!

 星空の海の彼方より、青い肌をもつ異民族の王たる総統率いる宇宙艦隊の到来によって深海深くより蘇りし宇宙戦艦の再生が再び大艦巨砲の世を復活させた王道復古の兆しの如く!

 今の世においては貶められてしまった古き良きものたちを再発見させてくれる切っ掛けは海から来るも―――おおッ!? そ、その地より伸びし白き二つの存在はァァッ!!??」

 

 もはや、先ほどまで立ち去ろうとしていた箒でさえ立ち止まって額に手をやり、頭痛を抑えるような仕草をしながら眉毛をピクピクさせて何かを必死に耐え忍んでる姿を晒さずにはいられないほどのマイペースすぎるハイドさんのハイペース&独自解釈しすぎな特殊思考。

 

 ここまで来ると言うだけ無駄かと、俺だけでなく箒さえも思ってるらしい相手を前にして、遺憾ながらコイツとの会話に慣れているのは俺一人だけなので仕方なしに振り返ってハイドの姿を見た瞬間に―――

 

「えーと、ハイド。なんか俺に用か、ってブゥゥゥゥゥゥッ!!!!!????」

 

 振り返って冷静に対応しようとした俺は、思わず鼻血出す勢いで叫んでしまった! 否! これが叫ばずしていられるか!!

 な、なんて恰好してるんだコイツはァァァァッ!!??

 

「ど、どうしたんだ一夏!? 何があったのだ、ってブゥゥゥゥゥゥッ!!!!???」

 

 そして箒も二次災害! だが今回ばかりはコレが普通だ! 普通の反応だ!!

 だって・・・だってっ!! コイツが今している恰好は、もしかしなくてもアレでソレで、いわゆる一つのォ・・・っ!?

 

 

「おまっ、おまッ、お前その恰好って―――!?」

 

 

 

「む? 見て分からんかね? 無論、【赤褌】である!!!

 日本の海に着たからには、赤褌を着ずして何を着るか!? 日本古来の由緒正しい正装であろうがッ!?」

 

 

「「そんなトチ狂った伝統も正装もな―――――ッい!?

  あって堪るか!! そんなも―――――――ッんッ!?」」

  

 

 俺と箒、そろって全力ツッコミ!

 褌一丁で他はなんも着てなくて、上も丸出しで貧相なモンも丸見えなのにメッチャ自信満々に晒しまくってる変人過ぎるクラスメイト女子に全力ツッコミ!

 これが自然で普通! 当たり前の反応なんだよ―――ッ!?

 

「って言うか貴様! なんて恰好を晒しているのだ!? せめて上を隠せ上を! 少しぐらいは無理でも僅かでいいから恥を知れ愚か者ォォォォッ!?」

「何を言うのかね篠ノ之君!! 日本男児たる者、己の鍛え上げた胸板を隠してなんとする!? 誇るべきは己の武勇! 己の肉体!! 己の体に隠すべき恥ずかしく感じる部位があることこそ恥と知れぃッ!!!」

「お前は男じゃねぇし女だし日本人じゃねぇしドイツ人だろうがよ!? あと俺! 俺こそが本当の男だからな!? 男の見てる前で見せてくるなよ本当にそんなモノぉぉぉッ!?」

「はっはっは♪ 今日もまたジパングジョークが冴え渡っておるな織斑君! 将来有望で頼もしい限りであるぞ!

 先日リアルお肌の触れあい回線を装甲越しにではなく、全裸の生身同士で背中と背中を合わせて幸せ南無阿弥陀仏本願寺!と、デュノアくん相手に実践していた君が、下だけでも履いている相手を気にするはずがなかろう!?」

「それを今、蒸し返すなよォォォォォォッ!? ――って、うおわぁッ!?

 ちょ、ちょっと待て箒! 一体何を・・・っ!? ハイドは向こう! お前の倒すべき不埒な恰好してる奴は向こうだから、ってうおわぁぁぁぁぁぁッ!?」

「KILL!!! 色・即・斬!! 死ね浮気者ォォォォォォォッ!!!!」

「なんの話だぁぁぁぁッ!? そして理不尽だァァァァァァッ!!!!???」

 

 

 ――と、相変わらずの超ハイスピード脱線でメチャクチャな事態へと変貌してしまった俺たちは、いきなりどっかから取り出した(どこに持ってた?)日本刀を抜き放った目の据わってる箒の斬撃から逃げ延びるため、俺が人目の多くある砂浜の方へと全速力で走って行って、『斬る! 切る!! KILL!! あと六つ!! そこかぁぁぁッ!!!』とか、よく通る声で吠えまくりながら日本刀めったやたらに振り回しながら髪逆立てながらヤバい目をして追いかけてくる箒という、客観的に見たら社会的にヤバい地位と立場に落とされそうな姿晒しながら全力フェードアウトしていって・・・・・・残されるはハイド一人のみ。

 

 

「う~む、海に来てまでいつも通りの日常を変えることなく保ち続けるとは・・・・・・見事!! 実に見事であるぞ織斑君と篠ノ之君!

 たとえ緊急事態に陥ろうとも恋語らいは辞めることなく、敵を前にして立ち話をする伝統を決して変えることなく貫き続ける精神こそ、ラブコメ道を極めんとする現代武士の生き様よ!!

 このハイド! 心底感服いたした・・・まさに王道! 王道展開であるなぁ・・・・・・ッ!!」

 

 

「うるさいよォォォォォォォォォォッ!!!????」

 

 

 遠くから聞こえてくる身勝手な上に不本意極まりない感想を、たぶん空見上げながら涙浮かべて呟いてるんだろうハイドに対して、箒の刃から逃げまくりながらだとツッコめないから大声で否定だけ返しておいて全速力で逃げ続けてく俺!!

 

 ・・・・・・そういう経緯で、逃げてった俺には見えないし聞こえなくなったハイドのその後は単なる想像ぐらいしかできないので、ここから先は俺の脳内補完で、走りまくって脳味噌から酸素なくなってきたから見た気がしただけの現実逃避じみた幻覚かも知れないという前提で話半分で聞き流してもらえれば光栄である。

 

 

 

「ふむ・・・行ってしまったか。まさに嵐のような少年少女たちよな、青春青春ハッハッハ。

 ――しかし、この二本の白き小塔・・・如何したものか。

 地に突き立ちし、聖なる加護を受けて輝く選定の役目を追いし名剣が如き色をしながら、途中でフニャリと曲がった上向きの卑猥なる形状・・・・・・果たして選ばれし聖騎士ではなき征服王である私が抜くべきか、抜かざるべきか・・・・・・う~む、迷う!! まさに青い夏の悩み!!」

 

 地面から生えてる二つの物体を前にしてウンウンと唸り続けること――約1、6秒。

 

「う~~~~む、致し方なし! 本人たちがいないので私が抜くとしよう! 迷うのは性に合わん故に!!」

 

 そう結論づけてしまって、即行動に移すことにする。

 ハイドは、悩んだり迷ったり出来るように生まれてきた生き物ではありません。

 

「よし! では抜くぞ!! ずおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?なに!?

 おかしい・・・・・・手応えがないッ!?」

 

 地上に出てたウサミミ部分を掴んで、全力全開の怪獣王並みのパワーで引っこ抜いたところ、想像してたよりも遙かに簡単に引っこ抜けてしまって小首をかしげるハイドさん。

 基本的に感知能力は、地面ではなく大岩に突き刺さってた聖剣を引っこ抜いた、本来のストーリーだと男たちの友情物語中心の汗臭い騎士道物語の主人公のTS怨霊バージョン並しか持ってない低性能っぷりで気づかなかった、地面にウサミミ置いてあっただけの存在に小首を傾げてしまいながら。

 

 ・・・・・・全力全開のゴジラパワーで引っこ抜いたせいで、どっか遠くに飛んでいってしまったウサミミの方は完全に意識の外側へとワープさせてしまってたハイドは一切気づくことなく。

 

「まぁ、よいか。是非もなし」

 

 と、格好はいいけど意味はないし時代背景的にも全く合っていない一言を残してハイドもまた、砂浜へと向かって去って行き。

 

 そして―――

 

 

 

 キィィィィン・・・・・・ッと、某メガネをかけたスーパーロボット並みのポンコツ少女が走るときが如き音を立てて、この地へ向かい高速で飛来しつつある物体があった。

 

 その名は―――巨大ニンジン!!

 ・・・・・・ではなく。

 

「あっはっは! 引っかかったようだね、いっくん! 思ったより遅くて待ちかねちゃったよ~♪」

 

 巨大ニンジン型ロケットに乗って、一夏たちを驚かせる登場の仕方をするために先回りしてウサミミ置いてから戻ってきてロケット乗り直して、ウサミミ引っこ抜かれると同時に発射して1,5秒後ぐらいには確実に一夏たちの頭上の数ミリ先にある安全なビックリさせ地点に着陸できるよう綿密に計算され尽くした完璧な飛行によってIS学園保有のプライベートビートへと無断侵入を試みていた篠ノ之箒の実姉、篠ノ之束こそ彼女のことさなご本人様のご搭乗である(登場ではない)

 

「ふっふっふ~♪ 前にミサイルで飛んでたら危うくどこかの偵察機に撃墜されそうになったからっていうネタも用意したし・・・これでもう大丈ブイ! 安心安全! 無理なく確実にいっ君たちを驚かせて、箒ちゃんにイヤな顔されながら相反する気持ちを抱えちゃわざるを得ないビミョーな登場シーンを演出できちゃう!

 ふふふンッ♪ さっすが束さんは超超天才! 自分でも憧れちゃうね~♪ 痺れちゃうね~♪ 自画自賛だね最高だね~~~♪♪♪」

 

ピ―――――。

 

『警告いたします。本機に向かって飛来する物体有り。到着予測時間およそ0,03秒後』

「・・・・・・へ? あのちょっと」

『回避不能です。今、接触いたしま』

 

 

 

 ズバシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッン!!!!!!

 

 

(注:ニンジンがウサミミによって真っ二つに分断される音)

 

 

 

 

 

 ・・・・・・果たして、世界の運命と未来に大きく関わってくることになる天災科学者のお姉さんは、ニンジンと一緒に真っ二つになってしまったのだろうか?

 

 それは次回になってみないと誰にも分からない・・・・・・。

 

 

 

「・・・ぜは~・・・、ぜは~・・・、ぜは~・・・、し、死ぬかと思ったよ・・・・・・。

 ちーちゃんとも生身でやり合えるよう、身体を細胞レベルで強化してなかったら、し、死んでたかも・・・ゼヒ~・・・しれなかったかも、ね・・・・・・。

 こ、この束さんを不意打ちとはいえ打ち落とすとはやるねIS学園警備セキュリティ! 流石はちーちゃんが責任者! 束さんに相応しいターゲットだよ潜り込み我意があるってものさ!」

 

 

 

 前言撤回。やはり将来的に深く関わってくる前提の人物は、早い内にはどうあっても死ねないらしく無事脱出してたみたいです。もしくはギャグキャラは死にません。それもまた王道というもの。

 

 斯くしてビミョーに誤解を孕みながらも、IS学園臨海学校『遊びの部』の本番は次回から始まります!

 

 

 

 

つづく

 

 

 

オマケ『その後の砂浜でセシリアさんと鈴ちゃんと一緒』

 

鈴「い、ち、か~~~っ! やっと来たわねアンタ! 待ちくたびれたわよ! ・・・って、なんでアンタ海入る前からそんな疲れ切って汗だくになってんのよ?」

 

一夏「ぜ~・・・、ぜ~・・・、気に・・・するな・・・。俺なら大丈夫だ、問題ない・・・ゲホッゴホッ!?」

 

鈴「?? なんかよく分かんないけど泳ぐわよ。あんたのこと待ってる間に時間食っちゃったんだから準備体操抜きでね!」

 

一夏「え。えぇっ!? い、いやちょっと待て鈴! 待ってくれ! さすがに今はマズい今は! 俺にも色々と準備とか呼吸とか酸欠とか溺れないための複雑な事情があってだな!?」

 

鈴「大丈夫よ。あたし溺れたことなんてないから。前世は人魚よ多分ね。だから行くわよ」

 

一夏「お前の話をしてんじゃねーっ!? 俺の事情の話をしてるんだーっ!! ってオイ! ちょっと待て引っ張るな本気で辞めガボボベブベボボボォォォォォッ!?」

 

 

イベント結果:水泳勝負で一夏が溺れて負けて『@クルーズ』のパフェを(賭けてないけど助けてやったから)奢らされる羽目になりました。

 

 

セシ「鈴さん・・・? 今のはいささかルール違反ではないかしら・・・? 人工呼吸にかこつけたディープキス・・・ちぃッ! その手があったと知っていれば今頃はわたくしが・・・っ」

 

鈴「まーまー。そんなこと言って、どうせセシリアだって一夏になにかしてもらうんでしょ? じゃあいいじゃん。ねぇ?」

 

セシ「う・・・。そ、それはまぁ・・・してもらいますけど・・・い、一夏さん! さっそくサンオイルを塗ってくださいませ!」

 

一夏「げほっ!? ごほっ、えほっ!? ・・・え? あ、あーサンオイルな。わかったよセシリア・・・」

 

鈴「(しまった! こうなったらポロリで有耶無耶にする展開で・・・!)はいはい、サンオイルだったらあたしがやってあげるわよ。ぺたぺたーっとね」

 

セシ「きゃあっ!? り、鈴さん、何を邪魔して―――」

 

 

ハイド「おおっ! 海に着たら王道テンカーイという奴かね!? 面白い・・・私も乗ったぞ、その勝負! 私は誰の挑戦でも受けぇぇぇッる!!!」

 

 

セシ「ちょっ!? ハイドさんまでですか!? これ以上わたくしの邪魔をしないで頂け、ま・・・・・・す……」

 

鈴「ん? ハイドも参加すんの? ま、いいじゃん別に(セシリアの番だったら)サンオイル塗れればなんで・・・・・・も・・・・・・」

 

 

ハイド「む? どうかしたのかね我が級友コンビたちよ? 顔色を青くしたり赤くしたり元気がないぞー! 海に来たのだ! もっと元気を出したまえ私のようにな! ネバーギブアァァァップ!! ハーイド・ポージング!!!(ムキッ!!)」

 

 

セシ鈴「「ブッファァァァァァァァッ!!!???(鼻から牛乳吹き出す要領で)」」

 

 

 

 

箒「・・・おのれ、あの二人め・・・。一夏相手にイチャイチャとぉぉ・・・破廉恥な痛ったーい!?」

 

千冬「お前・・・自分がやったことの罪深さをまだ理解できないのか・・・? それとも正座時間を15分ほど足して欲しいのか・・・?」

 

箒「す、すいません織斑先生・・・。臑の辺りが熱すぎますので、そろそろお許しを・・・」

 

 

イベント結果:箒ちゃんが罰を受けて真夏の砂浜で正座させられ中。

 

 

 

 

―――今日もハイドが入学してきたIS学園は、精神年齢が順調に低下しております(^_^;)

尚、尺の都合でシャルとラウラは次回か【捻くれ少女】にて。




*本編内で描き切れなかった部分の補足。

ハイドの格好は、次回から上だけTシャツを着せられることになります。性倫理的にも男尊女卑の象徴学校における権威的にもヤバい。

また、更衣室に向かう途中だった一夏の前に現れた時には既にフンドシ姿だった理由は、制服の下に着てきたからです。
水着を制服の下に着てくる小学生発想…ではありません。「普段から着てただけ」です。

『日出ずる国の漢たる武士の下穿きはフンドシでなければならぬ』という信念を持ってるハイドさんはドイツ人に生まれ変わった後もフンドシ愛好家という変な裏設定……。

箒との相性は色々な面で悪そうな(一応は)美少女サムライキャラクター(苦笑い)


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IS学園のひねくれ少女 第21話

深夜ゆえに書きたかったものを書くわけにもいかず、代わりに書いてたら完成したので更新です。
「IS言霊」と同じ流れにしても意味なかったので、敢えて原作の使ってないシーンを使って回り道話を書いてみた次第。
差別化は重要だと作者的には思っておりまする。


*追加の謝罪文です。
どうにも最近【…】の三点リーダーが多くなり過ぎていることを謝罪いたします。
今までも多かったですけど、最近では特に多すぎる…。気を付けてはいるのですが減らすのが上手くできてない事を心から謝罪。今後の改善点と認識しております。


 チュンチュン・・・・・・。

 窓の外から、早く入れろとばかりに朝日が差し込んできていた。目覚めを促すかのようにスズメも鳴いている。

 

 そんな穏やかなる朝のまどろみタイムを一秒でも長く愉しむため、俺は爽やかなる朝の風景には背を向けて、至福の時を延長させるため部屋の扉側へと寝返りをうつ。

 

(もうすこし・・・もう少しだけ・・・・・・)

 

 朝日と共に、早起きは三文の得とかの普段言ってる道徳論にも背を向けて、おそらくこの時間を愉しまない人間はいないだろう間違いないとか、心の中で理屈ごねて寝ぼけ頭で理論武装して自己正当化しつつ、IS学園で唯一の男子学生でもある俺、織斑一夏は久々に訪れた穏やかな朝のまどろみタイムを満喫し続ける道を選択していた。

 

 思えば、先月は色々なことがあった。

 シャルロットとラウラがいきなり転校してくるところから始まって・・・・・・その後もなんか色々とあった。ありまくってた。

 

 ――だから疲れてるんだよ、寝させてくれよ・・・。もうすぐ夏休みが始まる時期だからって、夏休み始まるまで待てとか言うのは学生にはチト辛い。

 学生は夏休みこそ忙しくなるもの、だから今の内から休んどくもの。基本です。

 

「ん・・・・・・」

 

 俺はそう思いながら、寝返りを打った拍子に身体ごと向きを変えてた右手を、反覚醒状態の脳ミソらしい行動として意味もなく僅かに「ピクピクッ」と痙攣するように動かして――

 

 

「――んっ! ・・・あっ♡ ・・・・・・です・・・」

 

 と言うような声を間近で聞かされて―――待てい、と一気に脳を完全覚醒させられるに至るのであった。

 

 がばっ!と布団から起き上がり、本能的なナニカを感じさせられて脳裏にキュピーンと光が走ったような気がして、空飛ぶ白鳥とか女の人の全裸とか変なものが色々と見えちまったような幻覚を見せられながら、ガバッ!と勢いよく残っていた布団の半分もめくり上げると、そこにいたのは―――っ!!

 

「ら、ら、ラウラ!?」

「・・・・・・ん・・・にゅう~・・・・・・?」

 

 驚いたことにドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだったのである! 先月転校してきた色々あったヤツの片割れであるコイツが、なぜ朝から俺の部屋に!?

 いやしかし、今の問題はそこではない。そんな些細な問題はどうでもいいのだ。

 今、問題にすべきなのはただ一つだけ。

 

 ・・・・・・なんでコイツ、服着てないわけ・・・・・・?

 

「ん・・・・・・ふぁ~あ・・・あ、ヘンタイお父さんです・・・おはようございますです・・・・・・んにゅぅ・・・」

「ば、バカ! 隠せ!!」

「・・・んにゅぅ~~~・・・・・・」

 

 ――ダメだ。完全に寝ぼけていやがる・・・。俺も混乱の極地だってのに、自分でこうなった原因考えるしかないらしい・・・。軍人モードで覚醒してくれたら一発そうだと思ってたのにクソゥ・・・。

 

 というのも現在、ラウラは何も着ていなかった。全裸なのである。

 衣服は何一つとして纏っておらず、身につけてるのは左目の眼帯と待機形態のISである太股のレッグバンドのみ。

 そんな姿で、見た目だけは抜群にかわいらしい少女が両目をグシグシこすりながら、長い銀髪が腰のラインを撫でている光景を、朝っぱらから間近で見せつけられてみろ。

 ・・・男として色々とヤバくなるぞ。特に朝は、男として色々な場所が。口には出来ない理由と生理現象として色々と・・・っ。

 どうしてこうなったか理屈でも考えなきゃやってられん!

 

「・・・ん~~・・・・・・あれ? です・・・。ココどこです・・・? お母様いないです・・・」

 

 ――そしていきなり結論が出たって言うか、相手からもたらされた。

 ・・・単に寝惚けて部屋間違えただけだコイツ・・・・・・。

 

「はぁ・・・なんだ。朝から驚いて損した・・・・・・って、それとこれとは違うわ! 服着ろ服!!」

「んにゅぅ~~~・・・・・・あれ? なんでラウラお洋服着てないです? ヘンタイさん、脱ぎ脱ぎさせてくれたですか?」

「するか!?」

 

 してたら死ぬわ! 主に俺が社会的に抹殺させちまう!! 女尊男卑関係なく、現在この光景の俺たちを見て俺がラウラの服脱がしてたと知ったら確実に俺が消されるわ! 俺だけが消されちまうわ! 色々な場所から非難受けまくって全ての場所から抹消されちまうだろうが絶対に!?

 

「・・・・・・ん~~~・・・えっと、たしかラウラ、お外が暗いときにオシッコいきたくなって、おトイレいって・・・・・・えっとえっと・・・・・・あ! そうでした! おトイレでオシッコするときお洋服ぜんぶ脱ぎ脱ぎしちゃったんでした! 忘れてました!!」

「なんでだよ!? なんでトイレで全部脱いでんだよ!? 外国人かッ!?」

 

 いや、ラウラは外国人なんだけれども! あと外国だとトイレでも全部脱ぐってのは都市伝説だってことぐらい知ってんだけども!

 それやっちゃってるヤツが目の前に今いるからな!? 俺は悪くねぇぞ! 全部今回だけはコイツが悪い! 絶対にだ!断固!!

 

「お母様に買ってもらったパジャマ置いてきちゃダメですーっ!? 取りにいくです! 急ぐです急ぐです! キィーンですゥゥッ!!」

 

 そして我を取り戻して(最近はお子様モードが長くなって、軍人モードには戻ってくれなかったが・・・)大慌てで自分が服を脱いだまま置いてきたらしいトイレへと戻っていこうと布団を飛び出すラウラ。

 まぁ、よく考えてみたら女子トイレの個室に女の子用のパジャマだけ置いてあって、着ていた本人は自分の部屋にも他の女子部屋にも姿が見えなくてって、それホラーかなにかだもんな。早めに自体終息するのに越したことはないわ本当に。

 

「え。あ、いや待てラウラ。流石にその格好で外出ていくのは問題ありそうだから何か羽織るものでも貸してや――」

 

 そして俺が気を利かせて、自分の部屋にあるタンスの引き出しを開けてやって適当なTシャツを取り出してやった、丁度その時のこと。

 

 

 かちゃり。

 

 

「い、一夏。入るぞ。先日の一件への謝罪も含めて、朝食を一緒にしようと思ったのだが――」

 

 

 タイミング悪く、箒が部屋に入ってきちまって。

 

 

「はじめて~のチュウ~♪ キミとチュウ~♪ アビふんふんふ~んふ~んです~♪」

 

 

 ・・・・・・トドメとしてラウラが、どっかで聞いたことある古い子供向けアニメのエンディングテーマを日本語の部分だけうろ覚え丸出しで歌いながら、箒の横を走って出て行っちまいやがったのだった。

 満面の笑顔で楽しそうに、嬉しそうに。――そして見た目は美少女が、全裸で。

 

「・・・・・・・・・」

「OH・・・・・・」

 

 思わず日本人であることに誇りを持つ俺が、英語で絶望の呻きを上げちまうほど、絶望的すぎる危機的な状況・・・。

 流石の俺でも、この状況で誤解するなと言うのは無理なのが解っちまうほどのレベルだったが、それでも誤解だ。誤解は誤解なのである。事実無根だ、それでも俺はやってない。

 

「・・・・・・一夏」

「お、おう。なんだ箒?」

 

 若干以上腰が引けながら、それでも俺はそれ以上は退かない覚悟を決めて――どのような言い分だったら箒の怒りを少しでも減らすことが出来るだろうかと真剣に本気出して考える方向にシフトしていた。

 なぜ相手が怒っているのかは正直言って解らない。それでも今の状況は謝るべきであり、理由説明によって情状酌量の余地を認めてもらう以上のことは不可能なのだと俺の本能が告げてきていた。

 無罪判決は不可能。なら後は罰を如何にして軽減するかだけ・・・っ。

 旧友が見ている横で一緒に見ていただけの古い刑事ドラマが、こんなところで役に立つとは思わなかったぜ・・・セレニア、狙ってないとは思うけどグッジョブ!!

 

 

「一夏・・・・・・私から貴様に聞きたいことは一つだけ。――神への祈りは済ませたか・・・?」

「いきなり有罪判決からかよ!? 裁判の体すら取り繕う気ゼロですか!?」

 

 ヒデェ! 被告の弁護も犯行動機の説明とかもなしなんて横暴裁判にも程がある!

 あと、最後に聞いてる質問は聞いてねぇよ!質問じゃねぇよそれ!? 単なる死の宣告だよその言葉は!

 ラウラが飛び出していくのを見た瞬間から固まっちまって、動かないままになってる箒の顔が今の俺には死神かなにかに思えてならない!!

 

「貴様の事情がどう変わろうと、助平男に下される判決は何一つ変わることはない・・・・・・。

 即ち、『色・即・斬』浮気者は全て殺す。それが私の武士道だ!!!」

「それ武士道じゃねぇよ絶対に!? なんかヤバい人斬り集団三番隊組長だけの正義だよ! あと篠ノ之流の活人剣どこ行った!?」

 

 理由は謎だが怒りと憎しみに目と心が曇りまくって、完全に我を忘れているらしい目が血走ってる箒に言葉での説得試みてみるけど、通じない。もはや俺の部屋が血風と白刃の飛び交う魔の部屋と化すことは避けようがなくなっちまっていた!!

 

「チェストォォォォ!!!! 一夏! 死ね! 大人しく死ね! 許しを求めて希え!

 そして首を刎ねられろォォォォォォッッ!!!!!」

「何を言ってるのか分かってるのかお前は!? 結局殺されることに変わりねぇだろ! その理屈だと――って、うぉわぁぁああぁぁッ!?」

 

 ズガバキドカボカすぱん! スパン! スパパパパンッ!!!

 

 

 

 ・・・・・・こうして朝っぱらから俺の部屋は、狭いながらも鈍い光を放つ冷たい刃が振り回されてベッドとか色々なものが切り壊されまくる中を俺が悲鳴上げながら逃げ回る大逃走劇の場所と化し、隣の部屋とか上の部屋とか下の部屋の人とかに騒音被害をかけまくる戦場へと久々に舞い戻ってきてしまったのであった・・・・・・。

 

 そんな感じで、俺にとってIS学園最初の夏休みは近づいており、新しい季節が俺たち全員にも訪れようとしていた。

 それが新しい戦いのステージの始まりを意味するものでもあること、この時の俺たちはまだ知らない―――。

 

 

 

 

 

 ―――が、それは未来の話として今の俺たちのその後はどうなったかと言うならば。

 

 

 

「・・・で? 今度はいったい何があったんです? 毎度のことなんで、どうでもいいっちゃいいんですけれども・・・」

 

 朝のトラブル騒ぎがあってから時間が過ぎ、事件現場から場所も変わって一年生寮の食堂にて、私こと異住セレニアと友人知人旧友の皆さん方は同じテーブルで朝食を共にしながら今朝の事件の概要・・・は今更どうにもならないので良いとして、今起こっている結果についての説明を織斑さんに求めながら食パンにバターを塗っておりましたとさ。

 

 ちなみに席順は、私の正面に織斑さん。織斑さんの右隣に凰さんが座って、私の左右にオルコットさんとボーデヴィッヒさんです。

 ・・・なんか、学園ラブコメ世界の割には男女の人口比率がビミョーな気がしなくもないですけど、今気にしてもどうにもならないのでスルーしときましょう。面倒くさいですし。

 

「――チッ。なんであたしが一夏の隣で、セレニアの隣がセシリアになってんのよ・・・。コレって絶対おかしいわ、世の中間違っている。こんな世界しか作れなかった神なんてポイズン」

「・・・そんな恨み言を横から聞かされながら朝飯食わなきゃいけない俺よりかは、まだマシな世界を与えられてると思うのは俺だけか・・・? 鈴・・・」

 

 織斑さんが自分の隣の席から凰さんが、私の横に座ってエッグサンドを食べているオルコットさんに恨みがましい視線を向けながら言ってきてる恨み言を流れ弾のように聞かされながら愚痴を言いつつ納豆をかき混ぜています。

 競い合った末にジャンケンの結果とは言え・・・織斑さんには申し訳ないことをしましたよね本当に・・・。後で謝っておきましょう。

 あと、できればボーデヴィッヒさんにもたまにでいいので別の位置で朝ご飯食べれるようになって欲しいんですけど・・・・・・子供には勝てないんですよなぁー。基本的に私全員が一人残らず絶対に・・・。

 

 まっ、それはそれとして置いとくとして。

 

「“アレ”。一体何がどうなってああなったんです・・・?」

「・・・・・・俺に聞くなよ・・・。俺には決定権がない問題だったんだよ本当に・・・」

「いやまぁ・・・分かりますけどね・・・たしかに」

 

 はぁ、と思わず吐息してしまいながら分かっていても聞かずにはいられなかった自分の未熟さを自嘲しつつ。

 食堂の一角に目を向けて、また溜息を吐かざるを得なくなってしまうしかない今の私。

 

 ・・・・・・ザワザワザワ・・・ヒソヒソヒソ・・・・・・。

 

 周囲の席に座る女子生徒たちがヒソヒソ声で話してチラチラ視線を向けてる方向に、“彼女”はいました。

 生まれ変わるときに少しは与えられてた原作知識によるところだと、この世界《インフィニット・ストラトス》のメインヒロインに当たる人だとかで、私はあんまし今のとこ面識は多くないのですけど織斑さん繋がりで顔と名前は知ってて会話したことぐらいはある相手。

 

 篠ノ之箒さん。

 彼女は今、生徒たちでゴッタ返す朝の学生食堂の一角で“正座”させられて、皆の注目を集めさせられておりました・・・・・・。

 

 そんな彼女の頭上には、張り紙でこう書かれてあります。

 

 

『以下の者、先月の不祥事に続いて今月も騒動を起こした罪により観察処分とする。

 一年一組、篠ノ之箒。・・・以上、一名』

 

 

「く、屈辱だ・・・っ! なぜ私がこのような生き恥をさらす羽目に・・・・・・ッ!!!

 お、おのれ一夏・・・っ。これも全て貴様のせいで招いてしまったもの・・・この恨み晴らせでおくものか一夏ァァァ・・・・・・ッッッ」

 

 

 ――と、なんか武士からジョブチェンジして映画『陰陽師』で退治される側の人みたいになっちゃっている姿を遠目に見ながら溜息を吐き、私は織斑さんの説明を受け入れて納得して・・・この件はどうしようもなかったこととして見て見ぬフリをしようと心に決めたのでありましたとさ。だって本気でどうしようもないですし・・・。

 さすがに国立学校が税金で賄ってるタンスとかベッドとか机とかの家具を総取っ替えする自体を免罪してもらえるだけのコネとか権力なんて私にゃありません。

 

 怒りに駆られて自分が壊しちまったものに対する責任は自分が取らされるのが当然のこと。『余計なこと言われなければ怒ることもなかった』とか『そもそもアイツがやったことが悪いのではないか』とかいう気持ちの問題ではなくて、『物を壊してしまった』それ自体の罪だけを問うて罰するのが、この手の罰則の基本的あり方ですからねぇ。

 

 ケスラー憲兵総監が言ってたセリフにある通り、『あなたのご主人が摘発されているのは、よき夫で優しい父親だからではありません。私事で非があったが故に獄に下された訳でもありません。誤解なさらぬように』

 ・・・アレが一番正しい罪と罰へのスタンスだったなぁーと子供心に思ったのを覚えていますので、私も斯くありたいと誓っている次第であります。だから無視。

 

 

『私は男の部屋に勝手に入り込んで暴れたメスブタです』

 

 

 ・・・・・・などと書かれたプラカード下げさせられてる姿は、目に入りませんよ無視してますからね・・・。

 なんか似たような景色を、『相州戦神館学園』で見たことあるような気がしましたし、同じ目に遭わされてたキャラクターも人切りに罪悪感感じないシリアルキラーだったなぁとかも思い出さないわけでもありませんでしたが、ぜんぶ無視です無視。

 

「まぁ、とりあえず夜に勝手に出歩くのは辞めましょうね? ボーデヴィッヒさん。

 起こしてくれたら夜でもついて行ってあげますから、次からそうして下さい。分かりましたか?」

「ふぁいですお母様! ハグハグ」

 

 元気よく返事をしながら、パンを頬張り続ける手は離そうとしないボーデヴィッヒさん。

 うんまぁ、子供なんてそんなものです。道理を説いても始まりません。責任者である織斑先生が処罰なしと決定されてるんですから、生徒の私としては従っとくのが筋というもの。

 

「ヒイキだ・・・・・・差別だ・・・・・・。日本の子供に対する処罰は甘すぎる!」

「身内贔屓されまくりのアンタが言うと全然説得力ないんだけど・・・まぁでもセレニアがときどき子供相手にだけはヒイキしやすくなるのは同感よね。

 ・・・あたしだってチッコイのにチクショウ・・・」

「わたくしも鈴さんに同感ですわ。機会均等法の適用を求めますわ。ただしセレニアさん限定で、他は差別ありありで貴族特権による優遇もセットにして」

「え~と・・・・・・これ僕まずいタイミングで到着しちゃったのかな? なんか話題的に僕が入り込まない方が良さそうな気がして仕方ないんだけど・・・」

 

 そ、そうこうしている内にデュノアさんもやってきて空いていた織斑さんの隣の席に座って朝食を食べ始めておりました。

 先日の一件で一応の解決は見て、学園に居続けられることが正式に許可され、本当の性別も明かして制服もスカート姿に変わりましたけど、今まで気にし続けてきた過去をスッパリサッパリ忘れ去って気にせず生きていくことはまだ難しいようです。

 

 もっとも私個人の意見としては、バレて起訴されて刑事事件と認められない限りは犯罪ではないので別に良いとは思っているのですけれども。

 犯罪者が求めているのは、被害者からの許しではなく、自らの犯した罪の意識からの救済でもなく、ノットギルティー・・・・・・『無罪判決だけ』です。それ以外は必要としません。

 それが法に基づく裁きというものですから。イヤなら主観的正義で犯罪者殺しまくる新世界の神様にでもなるこってす。

 

 ま、それもそれとして置いといて。

 

 

「今日は通常授業の日だが、来週からは校外特別実習がはじまる。全員忘れ物などするなよ。三日間だけだが学園を離れることになるのだ、自由時間だからと羽目を外しすぎないように。――ではSHRを終わる」

 

 無事に朝食も終わって、またしても場所が変わって教室に移動してSHRが始まって終わりました。

 きちんと時間は経過してるはずなのに、何も異常事態が起きなければ言葉で説明するだけだと、ワープしたようにしか見えようがないのが日常の欠点ですよね・・・。名探偵や熱血刑事とかが毎度のように変な事件に遭遇して解決に時間かけまくってる理由が分かった気がいたします。確かにこれは間が保たん・・・。

 ちなみに実際に日本で起きてる殺人事件の大半は、起きたその日に容疑者絞れて数日中には事件解決。犯人は身内で、動機は色恋沙汰の怨恨とお金絡みのトラブルがほぼ全てだから目星もつけやすくて、感情的になった発作的犯行だから証拠もありまくりでアッサリ逮捕が定番パターン。捜査本部が設置されることさえ希なのが現実社会。・・・劇的にでっち上げないとフィクションは成り立たんと言いたい気持ちも分からなくはないですよねぇー、本当に・・・。

 

 

 まぁ、それもそれとしてコレも置いとくとしまして。

 

 

「校外実習・・・臨海学校ですか。たしか正式名称は『ISの非限定空間における稼働試験』だかなんだかいう、口実くさいメインテーマが掲げられてた学校行事のために、国民の血税使って購入して維持している国保有のプライベートビーチと別荘を使用する、汚職と横流しと上流国民のみに許されてそうな特権的イベントごとの」

「そういう穿った見方をわざわざ意図的にしたがる上に口にも出したがるから、お前は先生方から臨海学校の間中監視される羽目になって、今こうして俺と二人で罰掃除をやらされてる羽目になってんだからな? いい加減、柔らかくなれよ本当に・・・」

 

 織斑さんから言わずもがなのことを言われて、そっぽを向く私ッス。

 ひねくれ者は素直な受け取り方をしたくないから、ひねくれ者と呼ばれてるんだい。好きでやってることなんですから別に良いんですよ。あくまで私にとってはの話ですけれども。

 

 今の時間帯は放課後。暮れなずむ町の景色は見えない距離にあるIS学園の教室内で、私と織斑さんは今朝方の一件で織斑先生をお冠にさせてしまった罰として、教室内の清掃を課せられておりました。

 尚、特に何も悪くなかったはずの織斑さんまで罰を受けているのは、ボーデヴィッヒさんの代理だそうです。

 

 ・・・おのれ織斑先生め・・・。直接本人ではなく周囲にいる隣人を巻き込ませることで罪悪感を煽ろうとは卑劣な手を講じてこられる・・・。

 効果あると自覚させられている分だけ、余計に恨みが積み重なるじゃないですか全くもう・・・。

 

「・・・まぁ、今回の件は完全に私のせいです。織斑さんには巻き込んでしまって申し訳なく思ってますよ・・・」

「ん? ああまぁ、反省してくれてるならいいさ別に。掃除は好きだしな。普段使ってる教室の掃除だと特に」

「そう思ってくれること自体は、ありがたいんですけどねぇ・・・」

 

 はぁ、と溜息を吐かざるを得ない私。こういう時に自分の未熟非才さはやたらと腹が立ちますよねぇ本当に。

 なんにせよ、相手の好意に甘え切って『相手が良いって言ってんだからそれでいいじゃん』的な考え方に基づく意見と、自分が迷惑かけた相手になんの賠償もしないのとでは話は別物。きちんと迷惑かけた分はナニカの形で補填してお返しするのが私流のやり方ですし。

 

「私の方が、それだと気が収まりませんよ。今後の関係で気まずくなるのもイヤですし・・・・・・なので織斑さん」

「ん? なんだセレニア?」

 

 

 

 

「私と付き合って頂けませんか?」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 

 

 

 セレニア、慣れない自体で珍しくお約束展開をするの段。

 

 

 つづく

 

 

 そんな訳で次回は、セレニアと一夏のお買い物イベントです。

 ぶっちゃけ、書いたことない原作シーンなので書きたくなった作者思考♪



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IS学園の捻くれガールズ 無謀編

昨日の夜に親しいユーザー様と個人的に交わし合ってた中で、遊び半分で書いただけの内容ですけど文字数はそれなりに多かったので、取りあえず出してみました。
嫌がられた時には言って下されば削除しますね。

尚、タイトルの語尾が意味わかる人はどれだけいてくれますかな~♪


「大事なのは、既成事実だと思うのよね」

 

 断言した少女の姿は愛らしかった。実年齢より幼く見える低い背丈と、両側に垂れた長いツインテール。

 口元から覗く八重歯がチャームポイントの彼女が、姿勢を崩しながら強い言葉で断言する様子は、生意気盛りの幼い少女が大人を相手に我を張っているようで苛立ちよりも可愛らしさを感じさせるものがある。

 ・・・・・・言ってる内容は、全然子供っぽくなかったが。

 

「その通りですわね。

 愛は略奪という諺が、ニホンの伝統にもあると聞いたこともありますから」

 

 と、少女の声に応える声は上品さで満ちていた。

 格調高い傲慢さを感じさせながらも、穏やかさと優雅さを感じさせる口調が印象を柔らかいものへと変化させ聞く者に不快さを残さない。

 他人に傅かれることに慣れた者だけが持ちうる気品と伝統に満ちあふれた声。

 ・・・・・・言ってる内容は気品や伝統を一切感じさせない、野蛮極まるものだったけれども。

 

「ああ、そんな言葉もあったわね。諺だったかまでは忘れたけど、都合がいいから諺だったってことにしときましょう。

 偉人の名言なんて、今の日本人にとっちゃそんなもんだし」

「ですわね。大衆にとって過去の歴史など、今の自分たちの行う主張を肯定してくれる正当性の根拠にさえなってくれれば、それでよいものですから」

 

 平然と、そして穏やかなる、聞いてる人によっては激怒しそうな会話を交わし合う少女たち二人の名は、凰鈴音とセシリア・オルコット。

 どちらもIS学園一年生の女子生徒にして各々の国から転校してきた国家代表候補生たる専用機持ちの二人組。

 普段は諸事情あって、あまり仲がよいとは言いがたい二人であったが今日に限っては――否。

 普段は仲が悪い二人“だからこそ”今日は仲良く話し合うための会合を交わさなければならない意味がある二人組だったのである。

 

「――何はともあれ、今回だけは軍事同盟といきましょう。

 アタシはあんたのアプローチするのを邪魔しない、あんたはアタシが何しようと見て見ぬフリする。そういう条件でいいのよね?」

「・・・・・・そうですわね。このまま互いに、アプローチをしようとするたび邪魔し合って不発に終わり続けていたのでは話が始まることすらできません。

 ここは一時休戦して、自分たちそれぞれの事情を優先すべきでしょう。

 “夏休みが終わるまでは”という期限付きで」

 

 即ち、恋愛戦線における対立者同士の不可侵条約を期間限定で結ぶためである。

 夏休みが明けて、学校の教室で再会したとき「夏休みデビュー」を飾るため、互いに同一人物へと同じ思いを寄せている少女たちは日頃の啀み合いを棚上げにして手を取り合い「無視し合う」という協定を結び合うことに遂に成功したのであった。

 

「ええ、その通りよ。

 夏休み終わってクラスメイトから『ウッソー!? 印象全然変わってるじゃない! 休み中になんかあったの? 正直に言えコノコノ~☆』とか言われるような関係になるためには、高校一年生の夏を戦いに費やしてる余裕はアタシらにはないのよ。

 一生で一度の高校一年生として過ごせる夏は、あまりにも短いんだから・・・ッ」

 

 互いに、恋敵という名の敵は憎い。できれば敵の目標達成を邪魔したいという本心に変わりはないが・・・高校一年生として相手と共にアバンチュールを過ごせる機会は一度しかないのだ。一秒たりとも無駄にはできない。

 そのためにも夏休み開始直前の今ここで、呉越同舟の軍事同盟を締結し合っておくことは必須条件だったのだ。

 鈴もセシリアも、その心に嘘偽りは一切なく、交わされた条約内容は互いに遵守するつもりでいる。

 

 ・・・・・・とは言え、互いに敵を同じくするが故の利害計算のみで結ばれた同盟である以上は、双方共に互いに対して含むところがないなどあるわけもなく。

 

(大事なのは、既成事実を作ることよ! 後は形式がついて回るようになるわ!

 そうなった後にセシリアが何を言ってきたところで全て手遅れになっているから無問題!)

 

(要は最終的にわたくしがセレニアさんの心を奪い取れば、それで良い話なのですわ!

 手順や形式など所詮は社交辞令・・・恋愛は戦争であり、戦争は勝った者が綺麗に飾れば問題なくなるものなのですから)

 

 と、そういう内心を胸の内に隠したまま、笑顔で手を握り合い、右手で握手を交わして左手で何かを握りつぶす少女たち二人組。

 

((手を結ぶのは、アタシ(わたくし)がセレニアと(さんと)結ばれるまで!

  この手で相手のハートを鷲掴みにする、そのときまで・・・ッ!!))

 

 互いに自分の都合だけで交わし合わされた、利己的な同盟関係。

 そうである以上、自らの目的が達成された暁には同盟は自ずと無意味化し、互いに次なる戦いの始まりを迎えることに繋がるわけだが・・・・・・それは、そうなった後に考えれば良いことでもあった。

 一先ず今は、目下の敵を倒すことに専念し合う。その点では完全なる一致を見た二人の少女たちは、笑顔で再会を約し合いながら各々の帰るべき場所へと戻るための準備を始めていく。

 

 まぁ・・・敵が同じで目的も一致するからというだけで結ばれた絆なんて、所詮こんなものである。

 自分が利益を得るため妥協し合あった、盗賊同士の約束事に誠実な履行を求める方がどうかしている。

 ――彼女たちの思い人が、もしこの場で話を聞いていたなら、そんな感想を漏らしたやもしれない盟約がIS学園校庭の一角にある小さな森の中で結ばれていた・・・・・・ちょうどその時。

 

 

 

「・・・、・・・・・・?? へ――へぷちッ」

「ん? どうしたセレニア? 風邪か? ・・・っていうか今のクシャミだったのか・・・?」

「いえ、風邪というわけではないはずなのですが、なんか一瞬だけ寒気がしちゃいまして・・・。

 なんて言うかこう、夏前なのに秋雨が来る寸前のような、そんな悪寒がちょっとだけ・・・」

 

「??? まぁ、なんかよく分からんが身体の健康には気をつけろよ?

 お前って中学の時から結構その手の危険は多かったのに自覚してないだけだったからなぁ。その内、後ろから刺される事態になっても知らんぞ?」

「・・・織斑さんにだけは言われたくないんですけどね・・・・・・へくちッ! うぅ・・・何で今日に限ってだけこんな寒気が・・・。

 あと何故だか急にリップシュタット戦役が見直したくなってきたし・・・なんなんでしょうね? これって一体・・・」

 

「おい、本当に大丈夫か? 病院行くか? 歩けそうにないなら俺がおぶって運んでやってもいいんだぞ?

 お前小さいし軽いから、大した苦労とも思わないから遠慮はいらん」

「・・・・・・死にますよ? あなたが。あなた一人だけが、その内絶対に・・・」

「なぜっ!?」

 

 

 

 知らぬは本人たちばかりな、少年少女たちの恋愛という変わることなき歴史が、また今日も1ページ・・・・・・。



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『我が征くはIS学園成り!』第20章

更新止まってた作品の続き、その2です。
よく考えたらコチラの作品も半端なのを繋ぎで出しただけでしたので…。

ハイドと束さん初邂逅のお話しです。
変なテンションの時に書いた変なテンションの主人公のお話しですので、常識的なテンションは持ち込まないで読むことをお勧めいたします(どういうテンションかは知らんですが(;^ω^))


「あ痛たた・・・・・・まったくヒドい目に遭った。鈴のヤツ、無茶しやがって・・・」

 

 片耳をポンポンと上から叩きながら俺は、臨海学校先の旅館に隣接している砂浜を一人で歩いていた。

 俺たちIS学園1年生メンバーは、開放空間での新装備テストのため臨海学校に来ていた―――そのはずだったのだが。

 

 ハイドの褌一丁騒動で上半身晒すところから始まって、鈴に息切れてる状態で海中へと引きずり込まれて溺れ死にかけ、そこから生還した後にはセシリアからサンオイル塗ってくれるよう頼まれたから引き受けたら鈴がやらかして、セシリアが上半身を晒す羽目になり、その直後にはハイドが再びやってきてポージングしながら上半身を晒して、それで・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・おかしい。俺たちIS学園1年生組は、新装備の性能テストのために臨海学校に来たはずなのに、到着した当日から女の子たちの肌色ばかり見ているような気がしなくもなくなってきちまった・・・。

 

 い、いやそんな事はない。事故だ事故、俺は五反田じゃないから、そういう目的で俺以外の生徒は全部女子のIS学園に入った訳じゃないんだし、今さっきまでのは不可抗力で不慮の事故で人の力では抗いようのない超自然的なナニカが俺の運命を無理やり改変しただけであって、俺自身にそう言うのを望む意思はなく―――いかん。

 自分でもワケワカラン状態にになってきちまった。少し海にでも入って頭冷やした方がよさそうだなコレは…。

 

「あ、一夏。ここにいたんだ」

「ん? ああ、シャルか。お前もなにか俺に用事か・・・・・・って、なんだそのバスタオルのお化けは・・・」

 

 ふと、声に呼ばれて振り向くと今度は本当の性別を明かしたばかりのフランス代表候補のシャルロット・デュノアがオレンジ色の水着姿で立ってたんだが――その隣に妙な存在がいた。

 

 全身をバスタオル数枚で頭の上から膝下まで覆い隠している、ハイドとは違う意味で奇妙奇天烈な格好した変な奴だ。

 な、なんだコイツは・・・脱衣系の次は着衣系のヘンタイファッションでも流行りだしてでもいたのか・・・?

 

「ほら、出てきなってば。大丈夫だから」

「だ、だ、大丈夫かどうかは私が決める・・・」

 

 そのお化けにシャルが話しかけて返事が返ってくるのが聞こえる。

 今の声は・・・ラウラか? しかし、いつも自信に満ちてたラウラにしては随分と弱々しい声に聞こえたんだけど、何かあったのかな? どういう状況なのか、さっぱり分からん。

 

「ほーら、せっかくお詫びのためにも水着に着替えたんだから、一夏に見てもらわないと」

「そ、それは分かっている。だが、私にも心の準備というものがあってだな・・・」

「もー。そんなこと言って、さっきから全然出てこないじゃないか。ラウラが出てこないんなら、僕ももう一夏と遊びに行っちゃうよ? それでもいいの?」

「う、ぐ・・・ええい、もう分かった! 脱げばいいのだろう!? 脱いで見せればッ!!」

 

 叫んで、ややヤケグソ気味な声音と一緒にかなぐり捨てたバスタオルの下から現れたもの―――それはラウラの水着姿だった。

 

「わ、笑いたければ笑うがいい・・・・・・私にはその・・・前回の貴様に借りがある身なのだからな・・・」

 

 真っ赤になってモジモジしながら恥じらっているラウラが身につけていたのは、黒いレースがふんだんにあしらわれたセクシー・ランジェリーにも見えるもので、普段は飾り気がなく伸ばしたままの長い銀髪も今日は左右で結んだアップテールになっていた。

 

 どうやら転校してきた直後から俺に絡んできてたことと、タッグマッチでの一件を気にしてくれてたらしく、そのお詫びに自ら恥をさらしに来た―――そういう経緯による行為だったらしい。

 

「また笑うだなんて・・・おかしな所なんてないよね? 一夏」

「お、おう。ちょっと驚いたけど、似合ってると思うぞ?」

「なっ・・・!? しゃ、社交辞令ならいらん・・・・・・」

「いや、世辞じゃねぇって。本当だって。なぁ、シャル?」

「うん。僕も可愛いって褒めてるのに全然信じてくれないんだよ。あ、ちなみにラウラの髪は僕がセットしたの。せっかく可愛い格好見せて謝るんだからオシャレしなきゃってね」

「へぇ、そうだったのか。ん、シャルも似合ってるぞ」

「う、うん・・・ありがと」

 

 褒められて照れくさそうに髪をいじるシャルと、俺の言葉に狼狽したように両手の指をもてあそぶラウラ。

 うーん、普段とは雰囲気違って最初は驚かされたけど、こういうのも新鮮な感じがして慣れてくると中々いい気がしてきたな。

 

 そう思ってたら、ふとシャルの手首に俺が先日の買い物でプレゼントしたブレスレットが光っているのが見えて、ラウラの方にもそのうち誕生日プレゼントか何かでも送ってやろうかなという気になってくる。

 

「――う~ん・・・、何がいいだろうなぁ。今の髪型だと耳が出ているからイヤリングとかも似合いそうだな。可愛いと思うし」

「かっ、かわいッ・・・・・・!?」

 

 あ、いけね。また思ってたことが声に出ちまっていた。

 まぁ、悪口思ってたわけじゃないし褒めてたんだから問題ないな・・・・・・って、あれ? なんかラウラの態度がさっきまで以上に普段とまったく違う反応示してきたような――

 

 

「か、かわ、可愛いと・・・・・・言われると、わ、わた、私は・・・・・・私は・・・・・・っ。

 うっ、うう・・・・・・ううぅぅぅ・・・・・・・・・こ、これで勝ったと思うなよォォォォォッ!!」

 

 

「何がだよ!? 何の話なんだよ!? そしておーい! どこ行くんだラウラーっ!?」

 

 

 俺と目が合った瞬間に、何故だかボッと顔色が赤くなったラウラが捨て台詞(?)を残して脱兎の如く逃げるように走り去っていって、そして―――――

 

 

 

 ざッぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッん!!!!!

 

 

 

「ふははははははははははははははッッ!!!!!

 悪い子は、蝋人形にしてやろうぞォォォォォォォォォォォッッ!!!!」

 

 

「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?

 ば、ば、化け物がァァァァァァァァッ!?」

 

 

 

 ・・・・・・そして海から波しぶきを上げて涌いて出てきた妖怪海坊主もとい、年齢三万数百数歳の悪魔閣下でもなく。

 ラウラと同じドイツの代表候補生で専用機持ちでもあるロリ仲間同士のシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハに驚かされて悲鳴上げて腰抜かされる、と。・・・踏んだり蹴ったりだな、今日のラウラは・・・。

 

 まぁ、頭から海藻やらヒトデやら貝やら昆布やら、色々と体中にへばりつけて海の中から浮上してきたクラスメイトを間近で見せつけられちまったら、誰でも同じような反応するかもしれんけどな。

 千冬姉から言われて着るの承諾したTシャツも、すっかりズブ濡れで意味なくなりかけちまってるし。

 

 胸の部分とか透けかけちまってんだけど・・・・・・なぜだろう? セシリアの時みたいに目を逸らなさきゃって気分に全然なれなくて、別の意味で目を背けたいこと山のごとしな気分になっちまいそうな俺がいるのは・・・。

 つーかハイドの奴、さっきから姿見えないと思ってたら海の中にいたのか。そりゃ姿見えないはずだわ、姿海の中に隠してたんだし。

 

「お、おま、お前・・・・・・お前ハイドか!? 何やっているのだこんな所で!?」

「無論! 怪獣ゴッコで遊んでおる!

 海底を歩いて進軍し、海より上陸して日本首都東京へと攻め込んでこそ、日本征服を志す海から生まれてパワーアップした全ての生物たちの宿命でありマナーというもの!

 日本国外で生まれた者として日本の砂浜へと上陸した以上、やらねばなるまい!!」

「知らんわーッ!? そんな非常識存在のことなど知らん!! お前は海でくらい普通に登場することができんのかーッ!?」

 

 

 ラウラ、腰抜かしながら涙目で全力ツッコミ。・・・多分だけど、自分の情けない現状を誤魔化したい気持ちも混ざってんだろうな・・・。

 こっちの方は素直に、気づかないフリして目を逸らさなきゃ気持ちになれたから、俺は立ち上がらせるため手を貸そうとラウラの方に近づいてって、シャルの方は苦笑しながらでもハイドの方を相手してくれるため近づいてってくれたらしい。・・・シャル、グッジョブ!

 

「えーと・・・あのさ。ハイドは、海の中で何やってたのかな?」

「うむ。話せば長くなるのだが―――日本の海というのは存外に深くてな・・・・・・。

 陸より離れ約200メートル程までは緩い傾斜が続く大陸棚があり、その切れ目より大陸斜面と呼ばれる急激な傾斜となり、深さ三千四百メートルまで降り立ちし深海の底より尚深き、地の底まで続くかと思われるほどの暗い穴が口を開く日本海溝が広がっている・・・・・・なかなかの絶景であった」

「・・・え? いや、ちょっと待ってちょっと待って。その理屈は色々とおかしかったから」

 

 そして即座にツッコミ入れざるを得ない情報提示されて慌て出す声が背後で聞こえてくる。

 当然だろう、だって今の話が本当だったら完全に国境侵犯しちまってるし。どこまで行ってんだよコイツは。あと微妙に海の知識手に入って、ちょっと興味涌いたぞこの野郎。

 

「そしてその後、ハワイ・オアフ島基地近くにある太平洋中央階段を超え、マリアナ海溝まで行ってみたところ――――なんかデッカくて面白い魚を見つけたのでな!!

 それに、鋼鉄のような皮膚を持ったカッパの如き姿を持つ人々もいた!!

 面白かった故、織斑君やデュノア君も一緒にどうかと思い誘いに戻ってきた次第である!!」

「そ、そうなんだ・・・うん、ありがとう。気持ちだけ受け取っておくから僕はいいかな・・・」

 

 と、シャル特有の貴公子的お断りの仕方によって、やんわりとハイドにお茶漬け出してやってるのを聞かされながら、俺はラウラに手を差し伸べて助けてやって。

 

「ほら、立てるかラウラ? 立てないようだったら手を貸してやるから」

「うぅ・・・借りを返すつもりが、また借りを増やしてしまう羽目になるとは・・・・・・コレもそれも全部アイツが悪いんだ・・・アイツさえいなければ今頃私は・・・・・・グスン・・・」

 

 なんか最後ら辺で、今までで一番普段のラウラっぽくない言動が混じってたようなもん見た気がするけど―――気のせいだ。

 俺は何も見ていない。即座に目を逸らしたから何も見ていないんだ。それが日本人の礼儀であり気遣いであり、優しさってもんなんだ。俺は異常な外国人の友人から、それを学んでいる。反面教師としてだけれども。

 

 

「まぁ、そのような些事はおいとくしてだ。―――織斑くん!! そしてデュノア君&ボーデヴィッヒ君も!

 海に来たからには、まず何をすべきだと君達は思っているのかね!?」

 

 そして、等の元凶本人自身はまったく何にも気づくことなく悪意もなく、朗らかな笑顔と共に俺たちに尋ねてくる始末。

 分かってたけどな。コイツはこういう奴だって、自分でも分かってはいたんだけれども。

 

「そりゃお前、海って言ったら・・・・・・遊ぶんじゃないか?」

「うむ。まさに、その通りだ」

 

 って、当たってんのかよ。

 お前の思考が読めなかったから、無難なこと言っただけだったのに当たってたのかよ。まさに当たってた俺が、普通の答えすぎて一番ビックリだったよ。

 

「という訳で織斑くん&ラバーズの諸君、共に海へ来た戦友同士として遊ぶとしよう。戦友と共に!!」

「それは別にいいんだが、何して遊ぶんだ? あと、さっきからお前【トモ、トモ】って同じ言葉ばっかり言い続けるのは、なんか意味あるのか? そしてラバーズってのは誰のことで何の話だ?」

 

 なんとなくだけど、ハイドが言ってる言葉の意味が微妙に気になったので確認しておく俺である。

 文章で書かれてたら判別しやすそうなんだけどな。

 残念だが現実の人間関係に字幕はない、相手がどういう意味で言っている言葉だったのか聞いている奴自身が理解するしか相手の思いを知る術は存在しないのが現実の人間社会ってものなんだぜハイド。

 だからせめて、もう少し分かる言葉で喋ってくれ。最低でも人間に分かるレベルの言語を使えるようになってから。

 

「フッ・・・愚かな。海に来たものにとって遊び方など一つしかあるまい?」

「ほう? 大きく出たな、その一つってのは何なんだ?」

「フフフ・・・・・・それはだな――――海の大ウツケ者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

「そっちかい!?」

 

 いきなり海へ向かって叫びだしたハイドに向かって、俺も叫ぶ!

 まさか本当に、海へ向かって大声で罵倒する女子高生がいると思ってなかった俺には、叫ぶことしかできねぇ!!

 スゲぇ! まさか本当にやる奴いるとは思ってなかった! 昭和ドラマみたいなのを生で見ちまった!

 嬉しくねぇけど超レアだわ! 全然嬉しくないけれども!!

 

「海の愚か者―――ッ!! 世界を滅ぼす怪獣王が生まれて還る場所――ッ!! 邪神を祀る神殿の眠る地――ッ!!!

 安徳天皇の入水心中させられた呪われし海――――ッ!!!!」

「しかも言ってる内容がヒドすぎる! 歴史とかサブカルチャーとか色々混ざってるけど全部が全部ヒドすぎる!!

 そこまで言われると海も流石に怒るから止めとけハイド! 海にだって人権はある! 多分だが!!」

 

 相変わらずギャーギャー騒ぎながらハイドに振り回されつつ過ごさせられる、臨海学校到着直後の俺の学校風景。

 疲れた・・・そして、空しい。いつもいつもこの調子で、いい加減よく耐えきれるようになったものだと自分を褒めてやりたくなる俺には、なんとか終わったという気しかこの時にはなく。

 

 ・・・・・・後々になって自分が、この時言った言葉を思い出しながら深い後悔と一緒に、悔やまざるを得なくなっちまうことになるとは、この時点での俺は想像もしていなかった。

 

 もっと強くハイドを制しておけば良かったかもしれないな・・・って。

 やっぱ全ての命を生み出した海をバカにしちゃいけないということを、海からの復讐に迎撃に向かうことになる明日の昼頃の俺の気持ちを、今のオレはまだ知らない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 ―――そして、まだ未来の危機が来てないから何も知らない俺が迎える平和な翌日の朝のこと。

 

「ようやく全員集まったな。それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。

 専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

「御意! 全ては神聖なるオリムラ帝国のために! ジーク・ハイル!!」

『ジーク・ハイル!!! 全ては神聖なるオリムラ帝国のために!!!』

 

「違うぞ!? 私は悪の秘密結社総帥じゃないし、ここは悪の軍団の秘密兵器工場とかではないからな!?

 右手を掲げるな! 唱和をするな! 私は日本の教育施設を軍事教練施設に変えた覚えはなーい!! ローゼンバッハは煽るな! 扇動にも乗るなーッ!!!」

 

 キャー☆と、クラスメイト一同の女子生徒達が、千冬姉の檄に応じて黄色い悲鳴を上げながら散っていって、各々の作業へと向かっていく。

 ハイドとの遣り取りが常態化してしまったせいで、千冬姉に対するクラスの女子たちとの距離感が縮まったのは良いことなんだろうけれど、舐められてるようにしか見えないのは良いことなのか悪いことなのか俺にはサッパリ判別できん。

 

「あ、あの織斑教官にあれほどの態度を取って、平然と生きていられるだと・・・っ!? 日本の平和ボケしたIS学園生徒共はバケモノなのか!?」

 

 そしておそらく、ドイツで教官時代にイヤと言うほど恐ろしい思いを味わってたラウラだけが驚愕の表情で、周囲で作業しているクラスの女子達を畏怖するように見つめている。

 

 疲れたらしく、山田先生に肩叩かれてる千冬姉からすればコイツみたいな反応の方がいいのかもしれないけど、ハイドと同じクラスメイトで居続ける限りはいつまで保つか分からないのが微妙だよな。

 相手のことを余り知らないってのは、存外に相手からも喜ばれる時があるらしい。

 

「・・・・・・ああ、それとだが篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

「はい。・・・ただあの千冬さ――いえ、先生。大丈夫ですか?」

「大丈夫だ、問題ない・・・」

 

 千冬姉、あまり俺は詳しく知らないけど五反田が言うには、それはアウトな一言らしいぞ?

 

「お前には今日から専用ISが与えられ――――」

 

 千冬姉が、そこまで言った。

 その次の瞬間。

 

 

 

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~~~~~~ん!!!!!!」

 

 

 

 ずどどどどど!!!っと、砂煙を上げまくりながら物凄い速さで走って近づいてくる人影が現れたことにより、千冬姉の言葉は途中で途切れ、呆れたような表情で黙りこくったまま走って近づいてくる人影へと身体を向け直して待ち構え、

 

「・・・・・・束」

 

 と呟く。

 ISっぽい何かをつけてるとしか思えないほど、無茶苦茶速い速度で近づいてきてる、その人の名前を、そう呼んだのだ。

 

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしようハグハグを!! 二人で愛を確かめようぜェ~イ☆」

 

 この場所が国有地で、立ち入り禁止であっても何のその。

 希代の天才である彼女、篠ノ之束さんが威風堂々と臨海学校に乱入してきて、千冬姉に抱きつくため、全力疾走してから飛びかかってきて―――――

 

 

 

「織斑教官くん! 危な―――――――ッッい!!!!!」

 

 

 

 ドバキィィィィィィィィッン!!!!!

 

 

 

「ぐぶっへえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

 

 

 ・・・・・・飛びかかって抱きつこうとした寸前に、横から超猛スピードで瞬間移動してきたハイドに肘鉄食らわされて、反対側の岩壁へと猛スピードで突っ込まされていって頭から激突して

 

 

 ドンガラガッシャァァァァァァァァッン!!!!!

 

 

 激突した岩壁崩れて崩落して生き埋めになってしまった・・・・・・って、えぇぇぇぇぇ!?

 

「って、え、ヤバ!? 無事か束ぇぇぇぇぇぇッ!? しっかりしろ―――ッ!?」

「大丈夫ですか束さん!? しっかりして下さい! 救急車―――ッ!!!」

「近寄るな二人とも! まだ敵は生きている!!」

「いや、生きてなきゃ困るだろ!? 死んでたら駄目だろうが!?

 何やっとんじゃお前は―――ッ!?」

 

 流石にこれは予想外すぎる事態だったので、俺だけじゃなく千冬姉も大声を上げ、慌てて崩落現場に駆け寄って救助作業を開始しようとしたのに、邪魔しようとしたハイドに詰め寄らざるを得ない状況! ホントに何がどうしてこんな事になってんの!?

 

 だが、動揺する俺たちの心情に一切全く構うことなく、ハイドは妙な格闘技みたいなポーズを取りながら束さんが生き埋めになった岩壁もとい元岩壁に向かって構えを取って警告を発する!! そして!!

 

「おのれ曲者め! 我らがIS学園警備主任へと襲いかかり亡き者にしようとは大それた事を!

 この場所をIS学園関係者以外立ち入り禁止と知っての狼藉か! 貴様一体どこの国の手の者だ!?

 メリケンの刺客か! それとも伴天連から送り込まれし宣教師なる侵略者の先兵によるものか! 名を・・・・・・名を名乗れいッ!!」

 

 

 ものすげー時代錯誤なことを言い出しやがった!?

 え、コイツ本当にそんな理由で束さんぶっ飛ばしちゃってたの!? あと、お前の国籍はどこの国で代表やってる何奴さんだったかを思い出せぇ!!

 

「ぐ・・・あ・・・頭が割れるように痛いィぃ・・・、ちーちゃんとの決戦用に細胞を強化していなかったら死んでたかもしれなかったよ・・・っ」

「無事だったか束! ――え? 今なにか私との決戦と聞こえたような気が―――」

「それはともかく!!」 

 

 ズビシィッ!!と、復活した束さんがハイドに向かって指を突きつけながら宣言をする。

 不思議の国でアリスが着ているような青と白のワンピース姿で、エプロンと背中につけた大きなリボンが人目を引く。

 箒の実姉だけあって顔立ちは似ているけれど、もうずっと安らぎのある眠りを経験してないせいで目の下には大きなクマが付いたまま。

 

 妹と違って剣術はおろかスポーツを全くしないインドア派の研究者タイプだけど、体つきはスラッとしてて均整が取れたプロポーションをしていて、妹と同じで、その・・・・・・ブラウスのボタンがギリギリまで引っ張られるほどサイズが合ってない身体の一部が何より目立っちまって目のやり場に困らせられる時がたまにある・・・。

 

 そして彼女の『一人不思議の国のアリス』とも呼ぶべき一番の理由になってる、頭に被ったメカニカルな形状をしたウサミミ・カチューシャ。

 相変わらず、よく分からないファッションテーマをしている人だが・・・・・・今はそれより少しだけ気になる部分が付け足されているため、今一そんなに特殊な印象が持ちづらい・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・頭から盛大に血をダクダク流し続けてる状態だと、ちょっとなぁ・・・・・・。

 機械っぽいウサミミの白さを徐々に浸蝕していきながら、青と白のエプロンドレスを後ろから、タラッ、タラッと上から落ちてくる赤黒い液体が少しずつ少しずつ色を変えちていっちまってる光景は、不思議の国のアリスっぽい雰囲気と相まって―――

 

 ・・・・・・グリム童話臭いんだよな・・・・・・今の束さんの見た目って。

 悪いとは思うけど、軽く引くわ。そして彼女と初対面のIS学園一般生徒の女子たちは皆ドン引きしてるわ。後ずさってる人までいる始末だわ。

 本気で少しだけその・・・・・・怖い。

 

「誰だよ君は!? このIS関係者というなら一番はこの私をおいて他にいないという常識すら知らない癖して偉そうに説教してくれちゃって! だから外人は図々しくて嫌いなんだよ!

 そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんと数年ぶりの再会なんだよ!そういうシーンなんだよ!どういう了見で君はしゃしゃり出て来てるのか理解不の―――」

 

「こぉぉぉぉぉの、愚か者めがァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 ズボォォォォォォォォォォッン!!!!!

 

 

「ふべっはァァァァァァッ!?」

 

 

 また全力で殴り飛ばされて吹っ飛ばし戻って行かされたー!? また岩に激突させられて、また岩崩されて生き埋めにされちまった束さん!

 って言うかコレ死なないか!? 普通は死ぬだろコレ普通なら絶対に!!

 

 

 

「言い訳とは見苦しいぞ不審人物の三十路前女性くん!

 君のような“奇妙奇天烈珍妙極まりない姿格好をした国籍不明の怪しい変な生き物”が、国立エリート学校IS学園の警備主任という立派な肩書きを持つ公務員と知り合いだ、などという嘘を誰が信じると思っているのかね!?

 分際をわきまえ、鏡を見て、身だしなみを整えてからものを言いたまえ!!!」

 

 

「フンドシ穿いてる外人女にだけは言われたくないわァァァァァァァァッ!!!???」

 

 

 

(た――――確かにッ!!!!(×ほぼ全員))

 

 

 

 思わずIS学園一年生一同が心の中で全員がほぼ一致で賛成してしまうほど、尤もすぎる正論を言い合う束さんとハイド! 本人同士がそれだから全面的には賛成しにくいのが難点ではあるけれども!

 うんまぁ、この二人同士で互いのファッションテーマについて正当議論したところで多分「自分はいいが相手のはダメ」以外の結論は出てこないんだろうなぁ・・・。

 

 

「あ~・・・、すまんがローゼンバッハ。お前の言い分はよく分かるし、正直その意見には私も常々心から同意したい限りではあるのだが・・・・・・アレの言っていることは本当だ。

 本当にアイツは私の知り合いであり、IS関係者の中では最も縁の深いISを生み出した開発者本人でもある篠ノ之束なんだよ・・・」

「なんですと!? それは真ですかな織斑教諭君!!」

 

 驚愕の真相を聞かされ、驚いて目を見開いて千冬姉を見つめ返すハイド(今更過ぎる驚きだけれども)

 

「事実だ。誠に遺憾だとは私自身も思っているし、甚だ不本意の極みではあるのだが・・・・・・コイツが私の知り合いで、ISの生みの親でもある篠ノ之束なのは紛れもない事実なんだローゼンバッハ。残念なことだがな・・・」

「う~~む・・・・・・そうだったのですな・・・・・・だとすればやはり―――」

 

 ハイドの肩にポンと手を置きながら、こういう時の対応パターンとして千冬姉が束さんの身元を保証して仲裁に入り、たいていの場合はコレで終われる。

 千冬姉の名前は世界的に有名だし、束さんが今みたいに行方知れずになる前から顔と名前を知ってる人は結構いたから信頼があり、束さんの名前は知ってても顔は見たことがないって人からも二人分合わせれば大方は納得してもらえる。それが昔から続く俺たち織斑姉弟と篠ノ之姉妹のパターンだった。

 

「いやあの、ちーちゃん? なんか今スッゴい勢いでフォローするフリして思いっきり、束さんのことディスってなかったかな?

 ちーちゃんの親友であるらぶりぃ束さんと久しぶりに再会した時に言う言葉じゃなかったよね? ちょっと、ちーちゃんコッチ向こう!?」

 

 ・・・まぁ、今回の場合にはハイドが色々と言い過ぎてしまったため、千冬姉も色々あって色々口が滑っちまったってだけで、そこまで仲が悪い二人って訳じゃあない。

 むしろ良い方なんだろう。こうして臨海学校まで会いに来てくれるぐらいなんだし、好きじゃなければやっていられない。

 これだけ証拠がそろえば流石のハイドも納得するしかなかったらしく、「成る程・・・」と小さく呟きながら何度も頷くと、スゥゥ・・・っと頭をゆっくり上げながら仲直りの握手をするためなのか、右手を束さんの方へと静に伸ばしていって、そして――――

 

 

 

「やはり――――不審人者であったか! 君の悪行三昧すべて見抜いた!

 大人しく成敗されるためお縄に付くがいい! この大悪人めが!!!」

 

「なんでだよ!? ちーちゃんの話を聞いてなかったのかい君は! これだから外人は嫌いなんだよ! 日本人もどうでもいいけど!

 箒ちゃんとちーちゃんといっくん以外の日本人はみんなどーでもいいぐらいに、ハグハグしたがっちゃうほど想い合ってる親友同士の束さんとちーちゃんの熱く激しい愛の話を、君は少しも聞いていなかったのかい!? この外国人バカ!!」

 

 

 ハイドが指突きつけながら目をカッと見開いてから吠えて、束さんも吠え返して再び事態は逆戻り。

 やっぱりハイドに今まで通りの一般的パターンは無理だったよな・・・。うん、分かってた。分かってたけど少しだけ期待してしまった自分が空しい・・・。

 

「黙りたまえ悪党くん! 織斑教諭くんの優しさにつけ込み、学生時代に友人だった級友のツテを頼って学校教員として雇ってもらおうと目論む悪友とは、君のような者を言うのだよ!

 友情を利用し、かつての友さえ定職に就くため悪用せんと欲する悪行の数々、もはや見過ごすことはできん! 成敗してくれる! いざ尋常に勝負ゥゥゥッ!!!」

 

「人を、大学受験に失敗して落ちこぼれた碌でなし元エリートみたいに言わないでくれるかな!? 束さんは高校どころか幼稚園の頃から超優秀で、学校だって超大天才生まで卒業してるよ!君みたいなのと一緒にすんなアホ!!」

「ええい! 日本男児のくせに南蛮人が如き細かいことをッ!! これだから伴天連という者は何を言っているのか訳が分からぬのだと言うことを自覚したまえ! ピンク色の髪をした国籍不明の南蛮人くんよ!!!」

 

「髪の色はカンケーねーッ!? 染めてるだけだよーッ!!! 言わなくても分かるでしょ人として当たり前の常識として!?

 こんな髪色が地毛の人間いるかァァァァッ!!!」

 

 

 ―――あ、自分でも一応は自覚あったんだ・・・・・・。

 と、いう心の声が箒の方から感じられたような気がした俺である。なんかもう、子供同士の言い合いみたいになってきちまってるってゆーか、初っぱなからガキの口喧嘩しかしてないような気がしてきたなこの駄会話は・・・。

 

「まったく日本人の名を名乗りながら言い訳とは聞き苦しい! 百歩譲って仮に君の言うことが間違っていなかったとしてもである!

 “ISを生み出した開発者”が君であるとするならば、【IS操縦者育成のIS学園】となんの関係もない部外者である事実に変わりはないであろうがァァァァァァッ!!!!!」

 

 

(た――――確かに!! それは確かにッ!!!(×全員))

 

 

 再び今度は全会一致でハイドの言い分に賛成を見た、俺たちIS学園1年生組の感想。

 今回のは千冬姉も同意せざるを得ないらしく、「う、う~むそう言われると一理あるが・・・」とうなりながら腕を組まざるを得なくなってしまっている。

 

 まぁ確かになぁー。IS造ったの日本人だから責任取れよって理屈で某合衆国とかから要請受けて、日本人の血税費やして建設したのがIS操縦者育成機関のIS学園なわけだから、『ISの関係者』と『IS学園の関係者』とでは、あんま関係してねぇよな本当に・・・・・・基本的にお役所の管轄なような気がするし、微妙じゃねぇかと。

 

 って言うか、この二人と千冬姉って対応が妙なところで似てる部分多くないか?

 このまま行くと、また海来た時みたいに【第二次スーパーISバトル超えてる生身の人間大戦~科学者編~】とかに発展しちまうことにならないかな? ・・・・・・今のうちに巻き込まれないよう離れといた方がいいかもしれん・・・。

 

 

「だ~か~ら~、束さんはISを造った生みの親の天災科学者で、ISの関係者って言うんなら私をおいて他にいないって、さっきからずっとそう言ってるんだよ! 何度言えば分かるかな!?

 これぐらいサル並みの低脳あれば分かる当たり前のことなんだから君にも分かるでしょ!? って言うか分かれ!!」

 

「???? つまり、君とIS学園とは無関係という話ではないのかね?」

 

「だ! か! ら!! あーもー! コイツ面倒くせぇ~~~ッ!!!

 ――よし、こうなったら実力行使だ!! ISを造った束さんの科学力を痛みと一緒に教えてあげるよ!! 証拠品と一緒に味わっちゃえ!! 

 《天災束さんお手製ものスッゴいニンジン爆弾》発射ぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 そして、やっぱこうなったか! さすが千冬姉の親友! ハイドへの対応まで似ていやがる!!

 束さんが頭掻き毟ってから取り出したスイッチのボタンを押した瞬間、空がピカッと光って見えた瞬間、どこからともなくニンジン型のロケットミサイルが超高速で飛来してきてハイドの後頭部に突き刺さり、そして―――ッ!!!

 

 

「とうッ! ハーイド・スルゥゥゥゥゥッ!!!」

「なんだって!? 細胞を改造してない生身の人間ボディでアレを躱せるはずが――!?」

 

「フッ! 当たらなければどうと言うことはない! 君が今まで勝利できてきた所以は、性能差のおかげだと言うことを忘れたか!?

 そのように驕り高ぶった愚か者には、性能の違いが戦力の決定的な差ではないことを教えてやろう! 上には上がいることを知り、人間として大きく成長するが良い!

 さぁ、不審人物くん!! カマ――――ッン!!!」

 

「ムッキ―――――ッ!!! この束さんの才能をバカにしやがって! 思い知らせてやる思い知らせてやる!! 《天災束さんお手製ものスッゴいニンジン爆弾MKーⅡ》!!

 続いて《MKーⅢ》!!! 《MKーⅣ》!!! 《MKーⅤ》!!!

 とにかく全部全部、発射発射発射―――ッ!!!」

 

「ふはははははッ!! 見える! 私にも敵が見えるから当たらんなぁー! 不審者くん!!!」

 

「ムッキッキ――――――ッ!!!!! こうなったら開発中だから暴発する危険があってコントロールできる確率30パーセント未満だけど威力はメガトン級の最終兵器爆弾ミサイルを試すしかない!!

 《必殺必中ハイパーνオーラフィンISミサイル》はっしly――――」

 

 

「やめんかアホ垂れ共――――――ッ!!! 地球を人の住めない星にでもするつもりか!? このアホォォォォォッ!!!」

 

 

 ドゴォォォォォォッン!!!

 

 

「ちーちゃんごもっともへぶひッ!?」

「ハッハッハ! 久しぶりに互角に近いライバルと出会って熱くなりすぎたようですな。

 お許しあれ織斑教諭くん! いつの世も強敵との出会いは心躍る!!!」

 

 

 

 そして今回もようやく千冬姉の鉄拳仲裁入ったお陰で収束するスーパー人外大戦。

 何というか、人類の限界超えてる大人たちほど大人げない時がある、それが俺たちIS学園1年生が臨海学校先にまで持ち込んで来ちまった問題です。

 

 

 ・・・・・・とにかく疲れた・・・・・・今回もだけれども・・・・・・。

 

 

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第22話

諸事情ありまして、昨日の嵐でネットとテレビが使用不能の状態に陥り、先ほど回復しました。
その間、ヒマすぎましたのでヒマ潰しに書いてただけの今作が最後まで出来てしまったので投稿しておきますね。

…ただし、ヒマ潰し目的で変なテンションの中で書いてましたので、原作との整合性とかまで気に掛ける意思が欠けてます。そこはご了承の上でお読みくださいませ…。


*別けて投稿してた【番外編 同じ日の他メンバーたち】も、今話に纏め直しました。
 自分で読んでみたら、読み辛かった次第です…。


「はぁ・・・・・・、今日もよく晴れましたねぇ・・・」

 

 週末の日曜日、天気は快晴。・・・ウザったい・・・。

 来週からはじまる臨海学校の準備を手伝ってもらうという名目も兼ねた、織斑さんへの謝罪の気持ちを行動で示すため町での待ち合わせをしていた私は、雲一つ無い空を見上げながら呟きを漏らして、ため息を一つ吐いておりました。

 

 まったく・・・ただでさえ気温が高くて熱っ苦しくジメジメしてるのが高温多湿な日本の夏だというのに・・・・・・せめて週に2度だけの町へ出られるIS学園生にとっての土日ぐらい雨が降って涼しくなればいいものを・・・。

 気の利かない天邪鬼な天の神様など呪われてしまえと罰当たりなことを考えながら、暇つぶしに時計を見上げる私、インドア系の整備科志望なIS学園生徒・異住セレニアでありましたとさ。

 

「・・・・・・あと、14分と36秒・・・」

 

 微妙な数字でした。長いとも短いとも言いがたい、すごく表現しがたい微妙すぎるリアルな約束の時間までの残り時間を、時計の針は示しておりました・・・。

 約束の時間の十分前には目的に到着しておく日本人の美徳を守って、約束の時間の十分前に到着できるよう出発予定時間よりも5分ぐらい早く家を出て、バスとか電車とかが予想よりも速く到着してスムーズに進みまくったせいで、結果的に予定よりもスッゴく早く目的地に着いちゃった事って経験あったりしませんでしょうか? 私はあります。今が丁度それをしている最中だからです。

 

「・・・暇です・・・・・・こんな事ならボーデヴィッヒさんでも連れてきてあげたら良かったかもしれません・・・」

 

 主目的が、先日の失言で迷惑をかけてしまった織斑さんへの謝罪だったこともあり、町へ遊びに行きたがってたボーデヴィッヒさんには無理を言って我慢してもらい、来週連れて行く約束をしてあげて納得を得てから出発してきた私ですけど・・・・・・こんな事なら纏めて終わらせてしまえば良かったかと思えてしまうのは、人間が持つ業の一環。

 結果論で自分の選んだ選択が根底から間違ってたように思いたがるのは、方向性が真逆なだけの願望に過ぎないと分かってはいても考えてしまう・・・・・・そんなマイナス思考に陥りたくなってしまうほど・・・・・・暑すぎる。そして暇すぎます。早く来てください織斑さ~ん・・・。

 

「ねぇねぇ、そこの小っちゃいカーノジョッ♪」

「・・・・・・はい?」

「今日ヒマ? 今ヒマ? どっか行こうよ~♪」

 

 と、なんかやたらと暑っ苦しい真夏の太陽の下でニコヤカな笑顔を浮かべ続けてる、見るからに『遊び人』といった風情の割には根性ありすぎな男性が、私に向かって話しかけてこられたのでした。

 

「・・・・・・私はあまり、そういう誘いを受け入れられても周囲から良い目で見てもらえる見た目はしてないと思いますけど・・・?」

「いやいや、最近そう言うの人気あるから! ダイジョウブ! イケル☆

 小っちゃくてカワイイのは正義だよ君~♪」

 

 要するに、ソッチ系の趣味の方というみたいですね。

 私に声をかけてくる男性は昔っから、こういう人たちばっかなので今更どうでも良いんですけど、昼日中の町中で堂々と性癖をさらせる辺りは、やっぱ根性ありますよね。この手の人たちって本当に・・・。

 

「俺、車向こうに留めてるからさぁ。どっかパーッと遠くに行こうよ! フランス車のいいところいっぱい教えてあげるから!」

「ほう・・・? フランス車ですか。それは良い車を持っていますね、興味があります。試しに聞いてみたいですけど、メーカーと車種はどんなお車に乗ってらっしゃいますので?」

「お? 聞く聞く? 君もイケル口だったりする? いいよいいよ教えてあげる~♪ 俺が乗ってる車はねぇ~♪」

「ほほぅ~」

 

 薄らと微笑みを浮かべながら(私的には全力の作り笑顔ですが。顔面筋肉筋あんま動かないので)私は彼の話に愛想良く相づちを打ちながら―――暇つぶしの雑談に付き合ってもらう報酬とさせていただきましたとさ。

 

 IS時代に入ってから女尊男卑が敷かれ、各国が女性優遇の社会へと移行したことから男性の地位は急転直下で下落していって久しい昨今のIS世界地球時代ではありましたが、『顔や見た目が良い男性や女性』だけは、どんな社会体制の世界であっても例外扱いしてもらえるのは全ての人間社会で普遍の常識というもの。

 

 男尊女卑が徹底してた大昔の時代にだって、美貌と床上手で権力者に取り入って大半の男の人たちより偉くなった女性なんて掃いて捨てるほどいまくりましたからねぇ~。

 銀河帝国皇帝フリードリヒ四世の寵姫第一号さんだったベーネミュンデ侯爵夫人なんて、皇帝からの寵愛をグリューネワルト伯爵夫人に奪われた後まで絶大な権力振るってましたし。

 

 男尊女卑の時代には、美貌で男に媚びうる高級娼婦が成り上がり、女尊男卑の時代になったら高級ホストっぽい男性が権力者の女性に美貌で媚び売り成り上がる、と。

 

 そして権力もなく、地位もなく、媚び売ったところで得が得られそうもない私みたいな一般庶民を相手にする時には、体と顔と特定の部位だけ目当てでやってきて上から目線で接してくる・・・・・・変わりませんよね人間って。いつまで経っても大昔と何も変わらず同じ文化と社会を再現し続けるばっかりで。

 

「それでさぁ~、君って、いだだだだだだだッ!?」

「おい、俺の連れに何してんだ?」

 

 そうこうしてる間に待ち合わせ時間になって、基本的に時間に律儀な日本人らしい織斑さんが到着して暇つぶし終了~。お疲れ様でしたー。

 

「な、な、なななんだよアンタ一体!?」

「そりゃ、俺の台詞だよ。お前こそ何やってんだよ? どー見たって変態にしか見えてなかったぞアンタ」

「お、俺が俺に好意を示してくる女の子とどーいう事するかなんて個人の自由だろ!?かか、勝手に俺と彼女の問題に他人が口挟んでくるんじゃねーよぉッ!」

「女だろうと男だろうと、人の心をもてあそぶってんなら死ねばいい」

「ヒぃッ!?」

 

 そして織斑さんなりの人の道って言うか、男道とでも呼ばれて然るべき信念を語って、結果論的に怯えさせてる私の級友。

 悪気はなくても一般人相手にはキツい信念ですからね、織斑さんの男道って。

 

 ・・・・・・ちなみにですが、ナンパ男さんの気持ちを暇つぶしのため利用してた私自身も、織斑さん基準では死ねばいいカテゴリーに分類されちまう事やってた訳ですが・・・・・・言わなければノーカンなので大丈夫です。

 殺人事件は殺された死体が見つからない限り、人が殺されても事件にならない。基本です。

 

「うっぎゃああああ!? す、すすすスイマセンデシタ―――ッ!!!

 ですから、どどどど、どうか命ばかりはお助けをぉぉぉぉッ!!??」

「え? そこまでっ!? ちょ、ちょっとアンタ待っ――ッ!?」

「ひぃぃぃぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!????」

 

 

 そして、ドドドドドドド――ッ!!と。全力疾走して織斑さんの元から逃げ出していくナンパ男さん。

 あまりの逃げっぷりに言い過ぎたかと感じたのか、織斑さんが声かけてるのにも気づかずに遙か遠いお空の彼方まで飛んでくような勢い出して猛スピードで全力逃走。

 ラディカル・グッドスタンピードとでも名付けたくなる良い逃げっぷりで御座いました。

 

「な、何だったんだ? 今のヤツは・・・」

「車自慢したくて話しかけてきた方です。フランス車の豆知識をいっぱい教えて頂きました」

「??? どういう事だ?」

「さぁ?」

 

 そう答えを返して肩をすくめながら、座っていた噴水から立ち上がってお尻の後ろをパンパンと軽くはたいた後、私は織斑さんへと向き直ると。

 

「では、待ち合わせ時間ちょうどになった事でもありますし、そろそろ出発しましょうか? いつまでも待ち合わせ場所でお見合いしてる仲でもないでしょう? お互いに」

「まっ、そうだな。ここで考えてても無駄なだけだし。まずどこから行くか決めてるか?」

「とりあえず、臨海学校で必要なものは最後に買うことにして、テキトーにそこら辺グルッと回りません? さすがに学校外で待ち合わせして、いきなり男女別で別れてる水着コーナーとかはちょっと・・・」

「たしかに・・・・・・それはちょっと、流石にな・・・」

 

 お互いにうなずき合って納得し合い、臨海学校で必要なもの関係は後でってことにして、二人で一緒に中学時代と同様ショッピングモールを無意味にぶらつく、友達同士の遊びに出かける事になりましたとさ。

 

 ―――と、その前に。

 

「とりあえず・・・・・・織斑先生にご報告を。ポチッと」

 

 先ほどの男性から自主的に教えていただいた個人情報その他を、IS学園警備主任の織斑先生へと密告もとい、IS学園生徒の義務として生徒の安全確保のためご協力申し上げるため携帯電話をピッポッパと。

 

 女尊男卑は、こういう時に便利ですよね。女性の体で、男性を排除するためには条例使えば済むだけですので楽でよろしい。

 その為に自分の所属を明かさなかった私が有名になったら、後世から悪女と呼ばれるようになるのでしょうけれども、被害者を守らず被害出てから犯罪者の人権だけは守りたがる“自称”人道主義者の非人道主義者たちからのレッテルなど私は歯牙にもかけてあげる気はございません。キッパリとね?

 

 

 

 

 

 

「おー、しかしよく晴れたよなぁ」

 

 週末の日曜。天気は快晴、素晴らしい。

 来週からはじまる臨海学校の準備も兼ねたものだからという事で、俺は女の子からの謝罪と賠償を仕方なく受け入れて、とある女子と二人で街へと繰り出していた。

 

 その女子というのが―――

 

「・・・・・・・・・」

 

 何故だかいつでも表情があんまり変わらないらしい女の子、異住セレニア。俺の中学からの級友である。

 

「・・・ところでだなセレニア。あのときは言わなかったが、俺はお前からの謝罪は受け入れると言ったとはいえ、男として――」

「分かってますよ。“女に奢らせるのは男じゃない”のでしょう? 最初から諦めていますので食事は割り勘で十分です。

 それ以外の部分で女の私にできそうな事があった時だけ、任せてほしいと思っただけですので気楽にどうぞ」

「そ、そうか。分かってるなら、それでいい・・・」

 

 アッサリと、俺の言おうとした言葉の意図を汲んでくれて、先回りして気を遣ってまでくれてる中学時代からの女友達。

 普段は性別を気にする必要なくて楽でいいとは思うのだが・・・・・・こういう時には、なんかちょっと気恥ずかしいな・・・。

 

 なんて言うかこう、言わなくても思いが伝わり合ってる以心伝心の関係みたいなのは、少しやりづらい・・・。

 いないとは思うけど、五反田とかに見られて誤解とかされたら面倒くさ過ぎるからイヤなんだよな。

 

「じ、じゃあ、どこからまわる? 希望があったら聞くぞ」

「そうですねぇー。じゃあ、あそこで」

 

 そう言ってセレニアが指さした先にあった店は――金物屋さん。

 包丁とか鍋とか、色々な調理器具とか扱ってる店なわけだが・・・・・・って、オイ。

 

「・・・お前、そんな料理好きだったっけ・・・? それとも最近になって目覚めたわけ?」

「私に限って、そんなはずないでしょう? 単に母の誕生日が近いので見ておきたかったのですよ」

「あ、なるほど。それなら納得だ」

 

 俺は大いに納得してうなずいて、むしろ良い事だと母ちゃん思いなセレニアのことを褒めてやる。

 ・・・正直、自分の両親の件がある俺にとっては、親ってのは微妙な存在でもあるんだが・・・・・・ただ、セレニアの母ちゃんはあんまし、母ちゃんって印象は受けづらい見た目の人だったからなぁー・・・。

 何度か家に遊びに行かせてもらったときに見た、あの人の見た目は―――うん、まぁ世の中は不思議な事がいっぱいだってことだ。今はひとまず忘れておこう。

 

 んで、店の中を一通り見回った後。

 

「さて、次はどこ行く?」

「では次は、あそこのお店を」

 

 そう言って店を出た俺たちが、次にセレニアが指さした先にあった店へと向かうと。

 

 

【ディスカウントショップ ドンキホーテ・ド・シマ~ヅ】

 

 

「・・・・・・」

「なんか最近、鹿児島の方から新規出店してきたそうでしてね? パチモンくさいところが好みでしたので見てみたかったんですよ。潰れる前にですけどね?」

「・・・さいですか・・・」

 

 ・・・・・・何というか、日本人のパクリ商法もここまで来たかって感じがして微妙な気持ちにさせられてしまった気がするな・・・。

 

 ただ、品揃えは意外と良くて最新型の万能包丁が欲しくなってしまった。

 さっきの金物屋でも、いい鍋があったんだよな。値段も手頃だったし。単なるセレニアの付き添いのつもりだったが思ったより得してしまった。

 既にお詫びされてしまった身として、セレニアによる『先日のお礼ショッピングのため付き添い』にどう対応していくのが正しいのか。少し考え始めていた丁度その時。

 

 

「ふむ。織斑さんのおかげで必要な情報はあらかた集め終わりましたし、ここまでお手間をかけさせてしまった身として流石に手ブラで帰すというのは道理に悖るというもの。

 ――という訳ですので、何か奢らせて下さいませ♪ 織斑さん☆」

「・・・・・・おい?」

 

 

 いけしゃあしゃあと、「してやったり」という悪戯っ子みたいな笑みを小さく浮かべながら言ってきたセレニアに対して、俺は思わずツッコミを入れずにはいられない。今さっきまで思っていた感謝すべきか否かの葛藤返せコラというノリで。

 

「なに最初と言ってること違えときながら道理とか言い出してんですかね? この我が悪級友さんは・・・」

「それを言われると辛いのですけど、私にも女としての面子とか社交マナーとか色々とありまして。私の顔を立てるためと思って受け入れて頂ければありがたく思う次第です、我が悪しき竹馬の友よ。

 それと老婆心ながら言わせてもらえば、女に恥をかかせるのはどうかとおもいますよ? 男の子としてね?」

「く・・・っ!? き、汚ねぇ・・・・・・っ。流石セレニア汚すぎるぜッ!!」

「フフフ・・・“勝敗を決めるのは戦術ではなく戦略だ”・・・誰の言葉でしたかな?」

 

 小悪魔のように勝利の笑みを浮かべてくるセレニアに、俺は男として女に奢らせる事への抵抗意識と、女に恥をかかせるのは男として許せない想い。

 そして、セレニア相手に口で言い勝てる自信と実績がまるでない過去の思い出話を走馬灯のように思い出させられながら、何か打開策はないかと周囲に視線をさまよわせて―――あった。

 

「・・・そうだな。男として女から“お礼の気持ち”として贈られる品を公衆の面前で押し返すのは、相手に恥をかかせる行為じゃあるからな。――その代わり」

 

 俺はニヤリと笑いながら、指をゆっくり持ち上げながら商店街の一角に建つ店へと振り下ろし。

 

「――俺からも今日の買い物に付き合ってくれたお礼の品のお礼をもらってもらうぞセレニア! 互いにプレゼントを贈り合うだけなら俺だけじゃないからノーカンだ!!」

「ぐ・・・っ。こ、こちらの手を逆手に取るとは卑怯な・・・」

「ふふふ、悪く思うな? 驕り高ぶって油断していたお前が悪いのさセレニア。驕れる者は久しからず、盛者必衰の理なり」

「ぐぬぬぅ・・・・・・」

 

 思いっきり悪者っぽい作り笑顔で言い切ってやると、セレニアもしばらくの間はわざとらしく唸っていたものの、やがて肩を落として小さな笑みを浮かべ直すと。

 

「・・・・・・仕方がありませんね。それで互いに妥協案とするとしましょう」

「よっし、話は決まったな。なら、そこの店で好きなもん選ぶといい。高いのは無理だが、出来るだけお前が欲しいヤツ買ってやるぞ?

 なにしろ、女に奢られるものより安いんじゃ格好がつかん」

「ホントに拘りますね、その点に・・・・・・。とは言えプレゼント選びの方は織斑さんが良いと思ったものでお願いしましょう。

 “感謝の気持ちを伝える”とは、そういうものです」

「なるほど、たしかに。それなら俺が選ばさせてもらうけど、後で文句言うんじゃねぇぞ?」

「了解です。

 ・・・しかし、次からはそういう気遣いは他の方々――特にデュノアさんとかにやってあげるようにして下さいね?

 先日の一件でもある家族の事情がまだ燻ってるのは彼女だけなんですから・・・」

 

「お、応。そうだな・・・じゃあ折角だしシャルの分も買っていってやるとして――どれが良いと思う? 俺、正直言って女の子の好みとかまるで分かんねぇんだけど・・・」

「・・・・・・はぁ・・・・・・私も得意じゃないんですけどね、そういうの・・・今の立場だと断れないから逆に困ります・・・」

 

 

 そうやってアクセサリー店でセレニアとシャルロット分のプレゼントを購入した後。

 俺たちは当初の予定だった臨海学校の準備のため総合ショッピングセンターへと向かい、その場所で千冬姉とか山田先生とかと偶然であって一悶着あって、途中でクレシア先生が乱入してきたせいでドタバタして、いつも通りに楽しい休日のお出かけを満喫して帰宅する旨と相成った訳であるが。

 

 

 

 

 ・・・・・・しばらく後に、今日やってたことが周囲の人たちの目には『仲の良すぎる恋人同士がイチャついてる』ようにしか見えなくかったとかで、激しく嫉妬させられまくったと五反田から事細かに詳細説明付きで語られたときには床のたうち回らされることになる未来を、休みが終わった直後の俺はまだ知らない・・・・・・。

 

 中学時代は、弾と鈴の二人も一緒に四人組でばかり来てたから気づかなかった・・・・・・迂闊だった・・・・・・驕れる者は久しからず、油断大敵。以後は気をつけよう・・・。

 

 流石に、弾の口から語られた俺自身がやってり言ったりしてたことを客観視させられたときは、死にたくなるほど恥ずかしすぎたから・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・一方で、セレニアの心境はどうだったかというと。

 

 

 

 

「――ふむふむ。“お鍋”に“包丁”、あと織斑先生に着せるらしい水着にも目を向けていましたが、コチラは時期的に間に合わないから無理として。

 織斑さんの誕生日プレゼント候補は、こんなもんでいいでしょう。ああいう特別なイベントを口実にでもしないと女からの一方的なプレゼントはもらってくれない人ですからね~。

 やれやれ、プレゼントするだけでも手間のかかる級友を持つと大変です。フゥ」

 

「あ! お母様、今とってもお母様みたいだったですよ! なつかしいです!

 ヘンタイさんにプレゼント送られるときに、いつも同じこと言ってましたです!

 ラウラも欲しいです! 毎年お母様がヘンタイさんにプレゼントしてたのと同じプレゼント、ラウラもお母様から欲しいですお母様ッ♪」

 

「ぐふゥッ!?」

 

 

 

 

 

 ・・・・・・変なところから巡り巡って、ダメージ受けたらしい。

 どんな形でも、因果は巡るものである・・・・・・。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

番外編『同じ日の他メンバーたち』

 

 

 

 ――光あるところに影はある。

 戦場で雄々しく敵と戦う武人たちの戦の影にも、彼らを支える忍びたちの活躍があった。

 そして、それはISという超兵器が生み出された現代の日本でさえ、変わることはない――。

 

「では、待ち合わせ時間ちょうどになった事でもありますし、そろそろ出発しましょうか? いつまでも待ち合わせ場所でお見合いしてる仲でもないでしょう? お互いに」

「まっ、そうだな。ここで考えてても無駄なだけだし。まずどこから行くか決めてるか?」

 

 

『・・・・・・』

『・・・・・・・・・』

 

 一夏とセレニアが並んで商店街へ向かって歩き出したのと同じ頃。

 二人の姿を草陰に身を隠しながら、ソッと見つめ続けていた四つの光る眼があった。

 

 一夏たちが信号が青になって横断歩道を渡りはじめた姿を確認すると、二つの眼は懐から取り出したコンパクトの蓋を開くと角度を微妙に傾けながら、ピカッ、ピカッ、ピカッと三回光らせてから蓋を閉じ直す。

 

 すると、バイブレーションモードに変更しておいた携帯電話が震えだし、通話ではなくメールが届いたことを持ち主に告げる。

 

『――ボギー1の追跡任務を引き継ぐ。次の観測地点はポイント02を予定』

 

 広場を見渡せるよう、横断歩道の両側にある二カ所の建物それぞれに別れて観測を行っていた相方から、目標の現在位置と移動速度、そして周辺の地図を頭の中に思い描き終えると、次の観測ポイントに指定された場所まで発見されることなく最短距離を通っての移動を開始する。

 

 その際、草陰に潜んで狙撃用スコープから対象を観測していた監視者の姿が白日の下に晒され、長い優雅なブロンドヘアーが風に靡かせられながら―――裏口に回って建物の死角から地面まで飛び降りるという常人離れしたスゴ技をやってのける勇姿が見て取れた。

 

 次の監視員交代ポイントで姿を現した、もう二つの眼の持ち主である躍動的なツインテールと合わせて、四つの眼を持つ二人の少女たちはハンドサインと文明の利器を使って速やかなる尾行を展開しながら、目標の最終目標地点を割り出した後に先んじて合流。

 互いの見解と意見を交わし合う、即席の作戦会議を開始させることにした。

 

「・・・・・・どうでしたか?」

「手は・・・繋いでいなかったわね」

「なるほど・・・・・・では、現時点での判定は情状酌量の余地ありと?」

「ええ、そうね。あたしの見間違いでも白昼夢でもなく、確実に“やった”と確信できる、あたしだけの証拠が得られない限りは一応はね」

 

 草陰から飛び出し、草陰まで移動して少女と少年二人に気取られることなく尾行し続ける二人の少女たち。

 一応は国家代表候補生として、エリートとしての肩書きと社会的地位を与えられている彼女たちであったが、今この時の姿だけを見ただけなら百人が百人中同じ答えを結論として出すだろう姿を見せ合いながら会話は進められていく。

 

 

「一夏は白だと、あたしの全ての本能と思考が教えてくれているけど・・・・・・それを証拠立てるものはなにもないわ。

 あたしたちの心に初めて灯った暗い炎のような灯を消すためにも、一夏が白だという絶対的な真実が必要なのよ。

 あたしたちだけに通用して、納得できるだけの事実がね・・・・・・」

 

 

 ―――不審者だと。早く通報して警察呼べと。

 百人が見たら百人ともがそう返すであろう言葉を発して、中国代表候補生にして第三世代IS【甲龍】の操縦者・凰鈴音は、どっかの百発百中精力絶倫凄腕スナイパーみたいなことを言い出しながら、真顔でうなずく。

 

 彼女たち二人は、今回の“セレニアと”一夏が休みに二人だけで出かけるという話を、盗聴器とか盗撮カメラとか色々な場所のどこかからか仕入れてきて、念のため二人の後をそっと付けてきて、悟られぬよう付いていくため仕方なく目的地に先んじて到着しておいた。只それだけの気遣いをしただけである。

 

 決して、共通の友人である一夏が男の獣欲に駆られて若さ故のリビドーを暴走させた挙げ句、過ちを犯してしまう危険性を本気で危惧していた訳ではないのだが。

 

 ・・・・・・万が一と言うこともある。

 念には念を入れて警戒し、次善策を講じておくことは良好な人間界関係を維持していく上で重要なことであり、友人をこの手にかけなくて済むよう寸前で留められる位置にいておくこともまた、彼女たちなりの一夏に対する気遣いだった。

 

 同性であっても、恋する少女の乙女心というものは恐ろしい・・・・・・。

 しかし、彼女たち二人は決してストーカーなどではなかった。断じて違う。全く異なる概念が、自分たちには当てはまると確信している。

 

 同じくイギリスの代表候補であり、第三世代IS【ブルー・ディアーズ】を駆る専用機持ちセシリア・オルコットもまた、同じ人への思いを共有する恋敵であり、同じ人への自分たち以外が接触する危険性を排除したい者同士でもある鈴の言葉に深くうなずき同意を返す。

 

「わたくしたちは“常に”セレニアさんを見守り、守護するため選ばれた聖なる戦士たち。

 セレニアさんの魅力的な肢体と、主に大きなお胸を守る使命を負った聖戦士としての義務を果たすため、やむを得なく尾行という手段をとっているだけのこと。

 きっと一夏さんも話せば理解してくれるはずですわ。一夏さんとの友情を保ち続けるためにも必要なことだったのだと、言えば許してくれる方だと私は信じていますから」

「その通りよセシリア。一夏は、この程度のことでグダグダ文句言ってくるほど肝っ玉の小さい男に育てた覚えはないヤツよ。きっとあたしたちの大義を理解して賛同してくれるに違いないわ。

 だから事情は告げずに尾行してもOKよ。言えば許してくれると分かってる相手に、事前説明は不要」

 

 ものすっげー理論を飛躍させまくった、詭弁家の『“性”戦士』たち。

 またの名を『愛の戦士』別名をヤンデレストーカー・・・・・・って、やっぱストーカーじゃん。言い方変えても、肉食ライオンは猫になれない宇宙の法則。

 

 それでも『言い方を変えることが大事』なコミュニケーション術という時代になってから十数年が経過しているIS世界の日本にあって、彼女たちの理屈は通るかどうか分からないけど、とりあえず推し進めていくことにしたらしく今日の行動に至っている次第である。

 

 

「あ! そろそろ臨海学校準備のため、水着売り場に移動するみたいだわ! 先回りするわよセシリア!」

「合点承知ですわ鈴さん! セレニアさんの安全を守るため、試着室に先回りして危険物が仕掛けられてないかを確認し、念のため監視カメラと盗聴器と擬装用ダミーを複数個しかけておくんですわね!?」

「フフフ・・・・・・いやぁねぇ、セシリア・・・・・・そんなハッキリ言っちゃうのは日本の文化と流行りに合わないわよ?

 今は言い方と気遣いが大事な時代なんだから、“業”に入って“業”に従わなくちゃダメじゃないの・・・・・・ウフフ・・・・・・ぐふふ・・・・・・♡♡」

「あら失礼。わたくしとした事が、なんてはしたない言葉を・・・せめて、“キジ撃ちの場所にも”と言い換えた方が良かったですわね。

 聴いた人にストレートに伝わらぬよう、言い方を変えてオホホホ・・・・・・♥♥♥」

 

 

 二人の白い制服をまとった、黒い少女たちが、『昨日の敵は今日の友』という諺のごとく、『敵の敵は利害が一致する間は味方』という現実論を実行するため、誰にも気づかれぬよう物陰から物陰へと走り去っていくショッピングモール。

 

 公の正しさよりも、感情によって自らの行為を正当化したがる二人に対して、彼女たちの思い人だと、こうなります。

 

 

「そこのあなた、男のあなたに言ってるのよ。そこの水着、片付けておいて」

「なんでだよ。自分でやれよ。人にあれこれやらせるクセがつくと人間バカになるぞ」

「ふぅん、そういうこと言うの。自分の立場がわかっていないみたいね。

 私が今ここで警備員を呼んで、『暴力を振るわれました』って言ったら、あなたどうなるか分かって―――」

 

「ああ・・・失礼。それは多分、あなたの方が危なくなるので辞めた方が良いのでは思われますが・・・」

 

「・・・? 誰よあなた? コレ、あなたの男だったの? だったら躾ぐらいしっかりしときなさいよね」

「違います、不名誉な。――っていうか躾どうこう以前に、あなたはテレビぐらい見るようになった方が良いと思いますよ? 時代に乗り遅れてます。完全に・・・」

「なんですって!? 女尊男卑の時代に女である私がどう時代に乗り遅れてるって言――」

 

「彼は“織斑一夏”です。

 先日に発見されて騒ぎとなった、世界で唯一の“男性IS操縦者”である織斑一夏さん。

 たかが女性に生まれただけの貴女と、IS適正者で専用機持ちの男性。政府と国際社会はどちらの機嫌を取るため庇ってくれますかね・・・?」

 

「・・・・・・へ? お、オリムライチカって・・・織斑一夏って・・・・・・まさか!? まさかまさかまさかぁっ!?

 す、すすすすすいませんでしたァッ!! どうかお許し下さい織斑一夏様! どうか追放だけはご勘弁を!!

 私にはまだ、年老いた母親と幼い子供と僅かな種籾のためモヒカンに襲われた祖父とローンが残っているんで御座いますぅぅぅぅぅッ!!!!」

 

 

「・・・・・・おい、セレニア。どうしてくれるんだコレ? ものすっげぇ俺の方が後味悪くなっちまったじゃねぇか・・・」

「・・・・・・ごめんなさい。コレについては本当に、ごめんなさいでした・・・貸し一つプラスでお願いいたします・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、ほぼ同じ頃の女性用水着売り場では。

 

 

「お、織斑先生・・・。わ、私の水着姿、どど、どうでしょう・・・・・・?」

「ああ、悪くはないと思うぞ? ――もっとも、流石にその年齢で学園が教員用に用意だけはしてあった競泳用水着で臨海学校に行くつもりだったと聞かされた身としては、判定基準に困らなくもないのだがな・・・」

「そ、そそそれはもういいじゃないですか! 忘れて下さいっ!!」

「ふん、まあいいだろう。――ところでだ、山田先生。私は私で、どっちの水着がいいと思う?」

「シンプルなデザインの白色と、セクシーなく――ゴホンゴホン。え~と、ではなくて、スポーティーな黒色の水着のどっちがいいと思うか、ですよね?

 で、でしたらその・・・し、白の方で・・・・・・(////)」

「―――山田先生。その指さした先にあるのは黒の水着なのだが・・・」

「はうあッ!? し、しまいました! 見ないようにしながら選んだら、つい本音がっ!?」

 

「まったく・・・・・・他人に対しては気遣いが上手いのに、自分の事にはどうしてこうもミスが多いのか・・・・・・そんな事では――――」

 

 

「オオカミさんに襲われちゃっても知らないから無視するから食べちゃっていいってさ、真耶ァァァッ♡♡♡」

 

「きゃあああああッ!? く、クレシアちゃん!? どうしてここにッ! 呼んでないよね確か!?」

 

「デカパイある所どこへでも、クレシアお姉さんは必ず現れる!

 とゆーわけで久々にハグしようハグ♡ セレニアには劣るけど、大きさでは勝る真耶ちゃんと女同士でオッパイハグハグ♡♡

 試着室は女の子にとって秘密の楽園、密室レズハーレムなんだよぉ~♡♡」

「やぁっん! 試着室に二人で入るなんてダメですぅッ! ――アッ♡ そ、そこはダメだって昔から言って・・・・・・ア♡ アッ♡ アアぁぁ~~ッ♪♪♪」

「ホレ! どうだどうだ!? コレがええのかッ♪ コレがいいんでしょうが☆ 真耶ちゃんはイヤらしい女の子やのう~ッ☆♪」

 

 

「―――イ、ヤ、ら、し、い、の、は、お前だ!!!

 この中年親父バカ後輩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!!」

 

 

「ごもっともチゥゥゥゥフゥゥゥゥッ!?」

 

 

 

 

 バッコ――――――ン!!!と。

 一夏たちが到着するより先に、こんなコントが発生していた事を本編の住人たちは知らない。本人たちが教える事もない。

 

 

 こうして影に潜む者たちの物語が、光の下に晒される事なく闇へと沈んで消えていくのが歴史というものである。・・・・・・たぶん。

 

 



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『我が征くはIS学園成り!』第21章

ハイドIS、正式な更新。今度のは完全版なお話しです。

あと、風邪ひきました。
最近の思考力低下は、風邪で頭がボンヤリしてたみたいですね。

…コロナじゃないといいんですが……。


 途中で紆余曲折あったIS学園臨海学校の二日目。

 主にハイドと、少し束さんのせいでゴタゴタしてから千冬姉が【学園警備主任公認・特別外部招待客】という臨時の肩書きを学園執行部から正式に取ってきて、ようやく事が進んで超不機嫌になった束さんを宥めながら箒に頼まれて造ったらしい第四世代専用機《紅椿》のお披露目とセッティングを終え、その超絶性能について語って『スゲ~』『天才のIS開発者超スゲ~!』と生徒達の驚愕を得られたことで、やっと束さんの機嫌を直ってくれた頃のこと。

 

 そう言えば、昔から束さんて他人を本気で無視してたけど、たまに自分のこと無視されたときは不機嫌そうにしてた時あったなぁ~とか。

 そんな忘れてたIS生まれてない時代の束さんについて思い出していた俺の耳に、慌てたような山田先生の声によって―――事件の第一報はもたらされたのだ。

 

「たっ、た、大変です! 大変なんです! お、おお、織斑先生っ!!」

 

 いつも慌てている山田先生が、いつも以上に慌てまくった大声で叫びながら走ってきて、千冬姉が鋭い目つきを変える。

 

「こ、こっ、これをっ!」

「どうした? ――む、コレは・・・・・・特命任務レベルA,現時刻より対策をはじめられたしだと・・・?」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働していた――」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒達に聞こえる」

「す、すいませんっ・・・・・・」

 

 小声で何やら会話している途中で、周囲から生徒達の視線を気にしてか手話でやりとりを始めたのだ。

 しかも普通の手話ではなく、千冬姉が昔、日本代表だったときに数回だけ見たことあるものに似た、おそらくは軍関係の暗号手話と思しきやりとり。

 何が起きたのかまでは分からない。だが、なにか緊急の異常事態が発生したことだけは確かなようだった。

 

「・・・・・・いったい、何が起きたっていうんだ・・・?」

 

 我知らず緊張しだした身体に震えが走った俺は、無意識レベルの呟きを口にしてしまっていたらしい。

 たまたま隣にいたハイドが、俺の緊張に共鳴するかの如く、いつもとは打って変わった真剣な表情を浮かべて危機感を露わにして―――

 

「分からん・・・・・・情報が少なすぎるからな。分からんが、しかし恐らく・・・・・・」

「おそらく・・・・・・なんだ?」

 

 相手も自分と同じく緊張しているのだという事が伝わってきて、俺は生唾を飲み込みながらハイドが抱いている懸念を今度は俺が共有しようと問いを発し、

 

 

「うむ、あくまで恐らくでしかないのだが・・・・・・織斑君が一人で解決するよう求められるであろう。

 古来より、高性能機でありながら欠陥が一つあるからと欠陥機扱いされて乗り手がいなかった試作機を与えられた新人パイロットには、初めて到着した場所で『緊急事態発生』の知らせを持った使者が駆け込んでくると最終解決役を一任され、ぶっちゃけ問題そのものごと丸投げされ、なんとか解決できても賞賛は得られず説教と痛みだけをもらって割が合わない幕引きを見るという、悲しい宿命と悲劇的な運命を背負わされた存在であるが故に・・・・・・」

 

 

「嫌すぎる運命だなオイ!? どんな呪いだッ!!」

 

 

 あまりにも不吉すぎる俺の未来予想図を、俺自身に予言してきやがった友達甲斐のない友人みたいななんかに向けて、俺は全力で非難の怒鳴り声を上げていた!!

 別に名声とか賞賛とか欲しいと思って戦ったことは一度もねぇけど、さすがにコレは酷い! 酷すぎる!! 労働基準法ぜんぜん守る気ねーじゃねぇか! どんなブラック企業だ!?

 ヘラクレスの名前が「女神ヘラの試練」って意味だと知った時ぐらい不本意だわ! 不本意すぎる運命だわ! 鼻水吹きかけたぞ!?

 

 

「解かっておる! 君の心の痛み、このシュトロハイド―――痛い程によく解かるのだ!!

 解かるのだが・・・・・・しかし!! コレはどうしようもない宿命でもあるのだ織斑君よ!!

 時に天は、自らの愛した英雄に試練を与え、その試練を乗り越えた英雄は更に愛して更にパワーアップした試練を与え、それをもクリアーした英雄には超愛するようになって超キツい試練を与えて乗り越えることを要求し――期待に応えられぬ者には死あるのみ!!

 ・・・・・・そういう愛し方しかできぬ歪んだ愛情の持ち主こそが、全ての者の父たる神なる存在というもの。

 父から生まれし子である限り、人は皆、誰一人として神の愛情からは逃れられぬものなのだ・・・・・・。

 故に受け入れよ! そして、乗り越えるのだ!! クイーンズ剣士イチカ・オリムラ卿!!

 IS王に、君が成る日のために今日の試練があるのだと割り切って!!!」

 

「お前の中で神様って、どんな存在として定義されてんだ!? 完全に人格破綻しまくった子供の愛し方わからない今時の親子問題の典型じゃねーか!!

 あと、その呼び方は断るって言ったよな確かさぁ!?」

 

 ギャースカ、ギャースカと! 一時的にだけでも山田先生が来てからの緊張感忘れて騒ぎまくる俺とハイド!

 分かってる! こんなことやってる場合じゃないってのは分かっているんだ!

 仮にハイドの言うとおりの結果になったとしても、それが終わった後に言われたんだったら俺にもショック受けながら受け入れられる心の余裕ぐらいは出来ている自信があったとも思う!

 

 だが、しかし! しかしだ! “これから俺がやらされるかもしれない事”として、一応は友達の口から本人に言っていい話じゃねぇぞ今のは本当に!?

 少しは聞かされる方の気持ちも考えてからものを言え―――ッッ!!

 俺としては正当な権利としての叫びと怒りを実際に声に出して、途轍もなく割に合わない運命を公務員志望だった俺に押しつけようとしているかもしれない天に向かって糾弾した、その瞬間!!!

 

 

「うるさいわバカ愚弟共が―――――ッッ!!!

 とっとと専用機乗りは全員集合しろボケ――――――――ッ!!!!」

 

「了解です織斑先生すいませヒデブッフゥゥゥゥッッ!?」

 

 

 ズバコォォォォォォォォッン!!!と。

 盛大に千冬姉からのツッコミ折檻チョップを脳天に叩き込まれて砂地に沈み、箒とか鈴に引きずっていってもらいながら臨時作戦会議室へと移動する俺。

 

 俺こと、織斑一夏にとっての【シルバリア・ゴスペル事件】はこうして始まりを迎えたのだった――――ガクリ。

 

 

 

 

 

 

 

「――では、現状を説明する」

 

 そして意識失ってる間に運ばれて目を覚ました後、俺たちは旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷に集められ、千冬姉に届けられた指示の内容を説明されていた。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代軍用IS【シルバリオ・ゴスペル】が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの報告があった」

 

 軍用IS? それが暴走? いきなりの説明に面食らってしまった俺は周囲を見渡し、臨時の作戦指揮所になった大広間に集っている普段からの仲間たちに視線をやる。

 全員が全員、厳しい顔つきになって千冬姉の説明を聞いている。

 俺や箒と違って正式な国家代表候補生として鍛えられた者たちは、こういった事態に対しての訓練も受けているものなのかも知れない。

 

 ・・・あと余談でしかないんだけど、俺や箒と違って各国から来てる代表候補生たち全員が、千冬姉の説明を「正座」の姿勢で拝聴してたりする。

 今までだったら、あんま気にならなかった事だろうとは自覚しているんだけど・・・・・・一人だけ胡座かいてるドイツ代表候補生が隣にいるせいで、なんか気になっちまって・・・。

 

 これはいかんな、うん。駄目だ。俺もラウラを見習って真剣に話を聞くため集中集中。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。

 教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう。意見がある者は挙手するように」

「はい、織斑先生。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

 セシリアが真っ先に手を上げて質問して答えを得て、こういった事態に対しての訓練を受けてきた専用機持ちたちによる議論が開始される。

 ・・・・・・要するに、即席の専用機持ちになったばかりな俺と箒には、いまいち付いていけん状態が続いてんだけれども・・・・・・あと専用機持ちだけど、ハイドも。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・・・・わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。厄介だわ。しかもスペック上では、あたしの甲龍を上回ってるから向こうの方が有利だし・・・」

「この特殊射撃が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。持っているスキルも分からん。偵察は行えないのですか?」

「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

「一回きりのチャンス・・・・・・ということは、やはり一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

「・・・・・・成る程な。事態は見えてきた」

 

 セシリア、鈴、シャル、ラウラの千冬姉、山田先生まで加わった議論の末、最終的にハイドが総括するかのような言葉を発して、ゆっくりと瞼を開いていき、周囲に座した各国の専用機持ちたちを順繰りに眺め回していきながら心持ち姿勢を正させられるような気分にさせられる中で彼女は語る。

 

 

「つまり―――なんかよく分からないが強そうな相手に、一か八かで当たって砕けろギャンブル大作戦ということであるなッ!!」

 

『『『言い方が悪いッ!! 言葉と表現をもっと選んでオブラートに!!!』』』

 

 

 いつも通りハイドによる、身も蓋もない自分たちが置かれた状況認識が一言だけで終了させられてしまい、大いにやる気を削がれながらも皆が見ている先にいたのは・・・・・・え? 俺?

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

「え・・・・・・?」

「それしかありませんわね。ただ問題は――」

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから移動をどうするか」

「しかも目標に追いつける速度が出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

 さも規定事項であるかの如く、専用機持ちとしての訓練受けてない俺が行く前提で進んでいく会議の流れに、俺はたまらず声を上げる!

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

「「「「当然」」」」

 

 別々の意見を言い合ってた四人の声が、今この時だけは完全にハモって、一人だけの俺に再度の反論の余地を完全になくさせられちまうだけだったけども・・・・・・

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし自信がないのなら無理強いはしない」

「千冬姉・・・いえ、織斑先生。やります。俺が、やってみせます」

 

 尊敬する千冬姉から言われた言葉で、俺はわずかに及び腰になっていた自分の尻を蹴り飛ばす覚悟を決めて、決意と共に断言して答えていた。

 そして男が一度やると決めた以上は、もう後には戻れない。手のひら返しは男のやることじゃない。やると言ったからには、必ずやり遂げてみせる。それが・・・・・・男ってもんだ!!

 

「・・・大丈夫だ、織斑君。案ずることはない、心配はいらん」

「ハイド・・・・・・」

 

 決意を決めて、千冬姉に対して決然と顔を上げた俺の肩を、励ますようにポンと力強く叩いてくれながらドイツの代表候補生でもある小さな女子高生は不敵な笑みを浮かべ、

 

 

「何故ならば・・・・・・何時ものことであるからな!

 今まで君が関わってきた事態に、訓練ではない実戦でなかったことは多くあるまい。

 今に始まったことではないのだからな、そう気張ることもあるまいよハッハッハ」

 

「せっかく決めた覚悟と決意に水差すようなこと言うんじゃねぇ―――ッッ!!!」

 

 

 そんな風に、これから死地に赴こうとしてる友人の現状を楽しそうに笑い飛ばすクソッタレな俺の女友達みたいなもんなドイツ代表候補生のチビッコ女子高生のハイド!!

 

 いや確かに言ってることは間違ってないんだけれども! 正しいんだけれども!

 鈴の時には無人IS《ゴーレム》と戦って足止めする役を自分から買って出たの俺だし、ラウラの時にはVTシステムとかいう代物で黒く染まった千冬姉の偽物IS相手に生身で向かって行きたがっちまったばかりなのも俺なんだけれども!!

 

 それでも何て言うか・・・・・・今回のは軍用ISだから、なんか違うような気になれてたはずだろう!?

 なんかこう―――軍隊!な言葉のイメージで! 平和主義の日本人的に!なんか!!

 

「・・・あ~・・・・・・言われてみたら、あたしも一夏のことシールドダメージ突破させる攻撃力で本体にダメージ貫通させて、『殺さない程度にいたぶる』ぐらいのこと試合前に言っちゃってた記憶があるようなないような・・・・・・」

「そう・・・ですわね・・・。わたくしも極たま~にですが、一夏さんをブルー・ディアーズのライフルで殺す気まではなくとも撃ってしまっている事がないことはありませんし・・・」

「わ、私はそのような非常識な行いをしたことは一度もないぞ! ただ、お前に問題があった時だけやむを得ず成敗するため真剣で斬りかかっているだけであって・・・・・・だ、だいたい修行をサボっているからあの程度の斬撃すら簡単に避けることが出来んのだ愚か者め!!」

 

 と、周囲の外野たちから有り難くなさ過ぎる、普段からの俺の私生活が訓練より実戦的だったことを示すいろいろな出来事について語ってもらわれちまったため反論が難しくなり、さてどう言い返してやろうかと周囲全部を眺め見返していた丁度その時。

 

「あー・・・コホン。――では全会一致で切り込み役も決まったようだし、次は作戦の具体的な内容に入る。現在この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれか――」

「待った待ーった。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!!」

 

 と、突然ここにいる誰の者でもない声が聞こえてきて、しかも声の発生源は天井から。

 全員が見上げると、部屋のど真ん中の天井から束さんの生首が、逆さに生えてきていた丁度その瞬間だったのである。

 

「・・・・・・山田先生、室外への強制退去を」

「えっ!? は、はいっ」

「とうっ★」

 

 千冬姉が嫌そうな声で山田先生に指示を出し、山田先生が動き出そうとした瞬間。

 束さんは、くるりんと空中で一回転して着地しようと天井から飛び降りてきて――――

 

 

「曲者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

「うぬほわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 

 ザシュウウウウウウウッ!!!

 ハイドが持ってきた長槍で天井を下から突き刺して束さんのお尻の穴をもう一個増やそうと・・・って、何やってんだコイツはぁぁぁぁぁぁぁッ!?

 

「し損じたか! だが、逃すものか! 逃すものか!! 逃すものか曲者めぇぇぇぇぇぇぇッい!!!」

「ちょっ!? やめ! 危なッ!? 束さんのお尻は槍の的じゃないからね!? ふんぐおォォォッ!!」

 

 ズバシュ! ズバシュッ!! ズバッシュゥゥゥゥッ!!!

 回避しても回避しても連続で放たれ続けるハイドによる【曲者三十段突き(後に聞いた技名ハイド命名)】

 そして必死に、槍の穂先から逃れるため動き続ける束さんの・・・・・・お尻。

 

 上下左右とスゴい勢いで振り回し続けられる、抜群のスタイルを持つ束さんのお尻って言うのは多分、本来だったら色っぽく見えるもんなのかもしれんけど・・・・・・。  

 何故だろう・・・? 今の俺には束さんの揺れまくる尻姿に、コレッポチも色気を感じる気になれそうもない・・・・・・。

 

「落ち着け、ローゼンバッハ。相手の尻だけでなく、顔もよく見てやれ。そいつは私の知人の篠ノ之束だ」

「むむッ!? おお、言われてみれば確かに君こそ織斑教諭の友人女性くん! いや失敬。天井に潜み作戦会議を盗み聞く者、即ち他国の間者かと思ってしまったのでな。申し訳なかった、許されよ」

「毎度思うが、お前は一体どこの国の出身者なんだ・・・? あと、その槍はどこで見つけて、どこから盗み出してきた・・・・・・」

「これは心外な仰りようですな織斑教諭くん。普通に旅館内で飾られていた物を借りただけですぞ?」

「女将―――――――ッッ!?」

 

 凶器の出所が判明したため、急きょ呼び出される女将さん。

 彼女曰く。

 

「・・・申し訳ございませんでした。あくまで和風旅館のオブジェとして飾っていた物でしたので本物だとは思わなくて・・・。

 それに本物だったとしても、このご時世では槍なんて使う人がいるとも思ってませんでしたし・・・・・・」

 

 との事だった。

 まぁ普通そう考えるだろうな。誰だって次世代兵器ISが既存兵器を倒したことで生まれた今の時代に、天井に潜む曲者倒そうと槍で突きまくる奴なんていると思わないもんな。

 ・・・俺の場合はIS学園で、初めてのルームメイトだった幼馴染みに日本刀で斬りかかられるのが日常化しちまってるけど・・・・・・これが普通の感覚だとは流石に思わん。って言うか思いたくねぇ。

 

 

「・・・はぁ、はぁ・・・まったく~・・・。遺伝子を改造して強化してなかったら、死なないまでもお尻に二つの穴が開いちゃうところだったじゃないか・・・・・・ッ!! これだから外人女は嫌いなんだ!!

 ――まっ、そんな価値のないどーでもいい外人女は置いとくとして、ちーちゃんちーちゃん♪ もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!

 ここは断・然! 紅椿の出番なんだよっ! だって紅椿にはパッケージなんかなくても超高速機動ができるんだから!!」

「なに?」

 

 驚いたような千冬姉の疑問に答えるようにして、束さんが展開させた複数のディスプレイ。

 

「紅椿の展開装甲を調整して、ほいほいほいっと。ホラ! これでスピードはばっちり!

 そして心優しい束さんが説明してあげましょ~、そうしましょ~。展開装甲というのはだね、この天才の束さんが作った第四世代ISの装備なんだよー」

『『『『第・・・・・・四!?』』』』

 

 この場にいる誰もを唖然とさせるような数字を発して始められた、束さんによる箒の専用機でもある第四世代IS【紅椿】の詳しい説明。

 その内容はISの知識などほとんど持たない素人の俺でも呆れて物も言えなくなるほど束さんらしい、天災と呼ばれる由縁を思い知らされた凄まじすぎる内訳。

 

「・・・成る程。相分かった」

 

 だが、やはり時代限界を超えた超技術の塊でも、コイツにかかれば形無しだったようでもあり。

 

「理屈については全くよく分からなかったが・・・・・・少なくとも、この紅椿という名の【ドダイ】に乗れば織斑君が戦場まで届くということだけは分かった。

 良かったではないか織斑くん! おめでとう! わざわざタクシーを作って送り届けに来てくれた謎の外国人女性くんには感謝の言葉もないというもの!

 ありがとう! 国籍不明な謎の外国人の女性くん! ダンケシェーンである!!!」

 

「だ・か・ら!! 束さんは日本人だっつってんでしょーが出会った瞬間から今の今まで、不幸の極みに邂逅してしまった時には絶対に!! 脳ミソないのかい君は!?」

「うむ。無い」

「ないの!? 脳ミソ入ってないの君って!?」

 

 ハイドからの即答に、流石の束さんも少しだけ驚いたように声を上擦らせる。

 いやまぁ、いくら何でも冗談だろうと思ってはいるんだろうけれども――ハイドの場合は絶対にそうだと言い切れないところがあるからチト怖いのも確かなわけで・・・・・・

 

 もし凄腕スパイパーからヘッドショット食らって、脳ミソ撃ち抜かれたはずの直後に立ち上がって話しかけてきたら、どうしよう・・・?とか。

 そんなあり得ない妄想展開を、本気で心配したくなるようなところがハイドにはあるんだ本当に。いやマジで。

 

 まぁ、そんなこんなで作戦と実行役の人員は決定され、俺と箒は白式と紅椿で戦場に向かって、他の皆は俺たちのサポート。そういう役割分担が決まってから約三十分後。

 

 

 

 時刻は十一時半の砂浜に、俺たちは立っていた。

 

「来い、白式」

「行くぞ、紅椿」

 

 全身をぱぁっと光に包まれ、ISアーマーが構成される。

 7月の陽光が容赦なく降り注いでる砂浜に、俺と箒はわずかに距離を置いて並んで立ち、他の仲間たちは指揮所の中から俺たちを見送る形となる。

 ハイドも今回ばかりは居残り組だ。いくらアイツでも第二世代ISの飛行速度では、白式にも紅椿にも絶対に追いつけないからな。こればっかりは仕方が無い。

 

「じゃあ、箒。よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 作戦の性質上、移動の全てを箒に任せて俺は背中に乗ってるだけになる。そのことを最初に聞かされた時の箒はイヤそうにしてたが、今では妙に機嫌が良くなりすぎてるように感じられていた。

 

「それにしても、たまたま私たちがいたことが幸いしたな。私と一夏が力を合わせればできないことなどない。そうだろう?」

「ああ、そうだな。でも箒、先生たちも言ってたけどこれは訓練じゃないんだ。実戦では十分に注意して――」

「はは、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいればいい」

「・・・・・・」

 

 さっきから、この調子なのだ。専用機が手には入って嬉しいのは分かるが、浮かれすぎではないだろうか?

 俺はどうもスッキリしない不安を抱えたまま、箒の操る紅椿の背中へ乗った。

 

『織斑、篠ノ之、今回の作戦の要はワンアプローチ・ワンダウンだ。短時間での決着を心がけろ』

「「了解」」

『――それと織斑。これはお前だけに聞こえる通信内容だが、どうも篠ノ之は浮かれている。あんな状態ではなにかしでかすかもしれん。いざという時はサポートしてやれ』

「わかりました。ちゃんと意識しておきます」

『頼むぞ。―――では、はじめ!!』

 

 再びチャンネルを俺と箒双方に聞こえるオープンに戻してから作戦開始を告げられ、俺たちは空へと舞い上がる。

 見送るのは旅館に残る、3人の女性と4人の少女たち。

 

「・・・大丈夫ですかしら? 篠ノ之さん、通信内容から見て相当に舞い上がっているようでしたが・・・」

「と言って、僕たちの機体だと手伝いに行くことも無理だしね・・・」

「信じて待つことしか出来ない、って立場はけっこうキッツいわよね・・・・・・あたしはもう二度とやりたくないわ・・・・・・」

 

 少女たちが、胃の辺りを擦りながらの囁き声を黙って聞きながら、やがてハイドは瞳をゆっくり開けていき・・・・・・

 

 

「喜べ少女たちよ! 君たちの願いの叶え方が今、ヒムロめいたぞッッ!!!」

 

「「「うわッ!? び、ビックリした・・・・・・っ!」」」

 

 突然の大声を出されてビックリ仰天した少女たちであったが―――その驚きは早計に過ぎたらしい。

 次なるハイドの行動と発言は、少女たちと女性たち、誰にとっても予想の斜め上を突っ走るようなアイデアに基づくものだったのだから―――

 

 

「空を飛んで行こうとすれば、織斑君たちに追いつけず助太刀が出来ぬ!!

 なれば、泳げばよい! 海を泳いでついて行けば飛行速度など問題にはならんのだからな!!」

 

「「「「・・・・・・はい? 今、なんて・・・・・・」」」」

 

「安心したまえ諸君。私はドイツの河童と呼ばれたほどの漢だ」

 

「「「「いや、聞いてないし。

    そもそもドイツに、カッパいないし。あと女だし」」」」

 

 

 色々ツッコミ所ありまくりと言うより、ツッコミ所をなくせば存在ごと消えて無くなりそうなレベルのアホ発想に基づくハイドの提案。

 だが本人はやる気満々らしく、『おいっちに~、さんし。おいっちに~、さんし』と海を泳いでついて行くため準備運動を始める始末。

 

 

「あははは~。さっすが外人女は図々しい上に突飛なこと考えつくね~。そんな原始的なことやっただけで束さんが開発した第四世代IS紅椿に追いつけるんだったら、世界中全ての国と政府が苦労してるはずないじゃ――――」

 

「よし! 準備完了! いざ出陣!! とおッ!!」

 

 

 そして気合い一閃、海へと飛び込んでから―――バタフライで泳ぎ始めるハイド。

 

 

「ずおりゃあッ! ずおりゃあ!! ずおぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 バシャンッ! バシャンッ!! バシャシャシャシャーン!!!!!

 

 

 

「・・・・・・現在、ローゼンバッハさんの第二世代ISゴールデンバウムの最高ノットが、紅椿の最高速度を超えました。あと数十秒で追いつきます・・・」

「どうえぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!? なんで!? どうして!? そんなこと科学的にあり得ない! こんな現象は科学的にあっていいはずがないィィィィィィッ!!!!???」

 

 

 

 こうして、陸でも海でも空中でも、不安要素を抱えながらシルバリオ・ゴスペル戦が待つ水平線へ向けて、IS学園一年生組は突き進み始める開幕のベルが鳴る!!

 

 ・・・・・・それが誰にとっての悲劇で、誰にとっては喜劇で終わるか・・・・・・今はまだ誰も知らない・・・・・・。

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第23話

作品の順番を整理したら、だいぶ前の作品が一番新しい順番に変わってしまってたため、とりあえず最新話がクリックしたら出てくるよう投稿し直しました。
中身は変わっていません。

読者様から指摘されて、今さっき気付くことが出来た次第。誤解させてしまった方には申し訳ございませんでした!(謝罪)


『海っ! 見えたぁっ!!』

 

 女子たちの声が、トンネルを抜けたばかりのバスの中に響き渡る。

 臨海学校初日の朝が来ていた。天候にも恵まれて天気は快晴。

 陽光を反射する海面は穏やかに踊り、心地よさそうな潮風に鼓膜が震える――とか何とかセレニアが言ってたことを思い出し、その直後に顔赤くしてたなとも思い出しつつ。

 

「おー。やっぱ海を見るとテンション上がるよな」

「う、うん? そうだねっ。えへへ・・・♪」

 

 バスの隣の席になったシャルに声を掛けたら、嬉しそうにはにかみながら手元にばかり視線をやって、いまいち話を聞いてくれない返事だけしか返してくれない。

 今日は出発してから、ずっとこんな調子なのだ。

 

「それ、そんなに気に入ったのか? 何度も言うけど、あんま高い物じゃないからな? それって」

「えっ、あ、うん。まぁ、いいんじゃないかな? えへへ~・・・♡」

 

 と、昨日セレニアと一緒に買い物行ったときに買ってきたお土産のブレスレットが余程気に入ったのか、今朝プレゼントしてからそればかり見ている。

 

「シャルロットさんたら、朝からえらくご機嫌ですわねぇ」

 

 そして、そんなシャルの姿を通路を挟んだ向こう側の座席に座りながら、冷ややかな視線と声音で評してくるのはイギリス代表候補のセシリアだ。

 

「今朝の出発前に二人だけで抜け出したと思ってはいましたが・・・そこまで嬉しがる程とは予想外でしたわ・・・」

「うん。そうだね。ごめんね。えへへ・・・・・・♪♪」

 

 そんなセシリアの冷たい声にも何のその。朝から時々している思い出し笑いと話聞いてない生返事は決して揺るがないシャルロット。

 うーん、ここまで来ると彼女には悪いが、ちょっとだけ怖いっていうか、少しだけ気持ち悪くないとは言い切れなくなっちまってる気がするな・・・。

 

「まったく―――まぁ、これなら白と判断して問題無さそうですし、鈴さんにもメールで知らせておくとしましょう。

 オーバー、“標的の脅威度をレッドからオレンジに低下。モードを即時狙撃可能から準戦闘態勢待機状態へ以降。現時点では安全と判断されるが、引き続き監視の必要性極めて大”――と。これでよし、オーバーですわ」

 

 ・・・・・・そして、シャル以上に怖いっつーか、物騒な独り言をメール打ち込みながら呟いてるセシリアだったが・・・ブルー・ディアーズが使う狙撃武装の話だよな?

 これから行く臨海学校の正式名称が『ISの非限定空間における稼働試験』だから、その試験に使う新装備についての話を開発関係者としてるだけなんだよな? 信じてるぞ俺は本当に。

 ・・・・・・クラスメイトの中にリアルスナイパーがいるとか洒落にならん。そんなフィクションじみた奴はいるはずないと俺は信じたいんだ、心の底から絶対に。

 

 なんか怖くなってきたので気分を変えるため、通路を挟んだ向こう側に座っているセシリアの、更に向こう側の席に隣り合って座っている、残る二人の親しいクラスメイトたちへと視線を移すと、

 

「わー♪ 見てください見てくださいお母様! 海さんです! ラウラは海さんに、また帰ってきたんですね☆

 自分で作った機械お人形さんをお掃除したがる引きこもりの変なオバサンは、どこですか!?」

「そうですね、海ですねボーデヴィッヒさん。危ないですから、座席の上に立って窓の外を見るのは辞めましょうね?

 ――あと、自分で作った機械人形を掃除したがるオバサンって、誰・・・?」

 

 席から立ち上がって、席の上に上ってキャッキャと騒いでいるラウラを相手にセレニアが母ちゃんやっていた。なんか段々と板についてきてしまって違和感なくなってきた昨今だったが・・・・・・機械人形を掃除するの好きの変なオバサンって誰? ラウラが日本に来てから知り合った相手に、そんな奴いたっけ?

 あるいは、ラウラが前にいたとか言う俺たちの世界と似て非なる歴史を歩んだパラレルワールドだかで今の俺たちが向かってる臨海学校と似たイベントがあって、そこで出会った奴なのかも知れない。

 

 だとしたら一応、『自分で作った機械人形』って点だけなら候補が思い当たらない訳じゃないし、引きこもりってところも合ってはいる。変と言えば変でもあるんだが・・・・・・

 

 自分で作った機械人形を掃除する、ってのは絶対なさそうな人だからなー。たぶん別人なんだろう、多分だが。それこそ似て非なる他人が現れてる世界だったってところか。

 そんな変な奴は、こっちの世界の方には出てきてほしくないもんだとは思うが、今から気をもんでも仕方がない。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと座れ」

 

 そして目的地までの短い旅も、もうすぐ終わりを迎える。

 海に着くのは、おそらく11時頃。オーシャンズ・イレブンがもうすぐ始まろうとしていた―――。

 

 

 

 

 

「おおー、すげー」

 

 俺は目の前に広がる景色を前にして、平凡極まる言葉と承知していながらも他の言葉が思いつかず、よくある感嘆句でその絶景を表現することしかできない心地にさせられていた。

 

 臨海学校の宿泊先である旅館に到着してから、お世話になる女将さんに挨拶を済ませた俺たち1年生は、海に来た学生らしい行動として早速海へと足を伸ばしてきたのだが、やはり何年かぶりに来ても夏の海は良いと思わずにはいられない。

 

 7月の太陽が熱したのが、素足で感じる熱い砂。波打ち際のビーチ。

 ビーチバレーを楽しむ生徒たちもいる中で・・・・・・そして佇む、【海の家】―――って、えぇ!?

 

「あ、あれ!? 海の家!? だってこの砂浜って国有地じゃ・・・・・・あれぇぇぇッ!?」

 

 驚きのあまり素っ頓狂な声を上げながら、確認のために何度もその姿を見直さずにはいられない!!

 木で出来たチープな作り、ビーチパラソルの下に置かれたカキ氷器、壁に掛けられている輪状の浮き輪、建物の内側から漂ってくる何かを焼く香ばしい油の匂い―――絵に描いたような海の家が、そこには立っていた。

 と言うより、コレが海の家じゃ中ったら何が海の家なのかと問いただしたくなるほど、今時珍しいレベルで海の家らしい海の家だった。

 下手したら天然記念物にでもなりそうなレベルだったが、関係者以外立ち入り禁止の国有地内で勝手に商売している天然記念物ってのは流石にない。普通に犯罪だった。

 

 ――いや待て、落ち着け俺。まだ慌てるような時間じゃない。

 単に旅館の従業員さんが、俺たちIS学園生のために特別営業してくれてるだけの演出かも知れないんだし、とにかく誰が店の店員役をやってるか分かれば判断は容易に出来るようになるはず―――

 

 

「へい、らっしゃいイッチー! ナデシコの名を冠する機動横領戦艦の契約書読まずにサインする今時日本人オッサンな整備士提唱、三大夏の風物詩と言えば!?

 そう、粉っぽいカレーに、不味いラーメン、溶けたカキ氷!!

 私はその伝統を今に伝える一子相伝最後にして最高の妹愛を持つ女教師、クレシア先生とは私のことさー!!」

 

「何やってんですかクレシア先生、こんな所で・・・・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・クレシア先生だった。IS学園白兵戦指導の教員に雇われてるクレシア先生だった。

 頭にねじり鉢巻き巻いて、Tシャツ着て、ハーフパンツ履いた姿で焼きそば焼いてるクレシア先生以外の何物でもなかった。

 むしろ彼女以外の誰が、こんな事やるのかと聞きたくなるほどのレベルでクレシア先生以外には誰一人あり得なかった。

 

 って言うか、確かこの人って・・・・・・

 

「先生・・・・・・確か今回の臨海学校はISの新装備テストだから、白兵戦指導は必要ないから学園で留守番組だったはずじゃあ・・・・・・」

「フッ・・・愚問だねイッチー。セレニアの行く所どこへでもクレシアお姉さんは必ず現れる!!

 ――セレニアの水着姿と恥じらってる顔を見るために・・・はぁ~♡ ハァ~・・・♡ はぁ、はぁハァぁぁッン♡♡♡」

 

 そして、教え子の前で堂々と実妹に欲情して、自分自身は恥じ入りもしない国立名門女子校だったIS学校に正規雇用されてる女教師のクレシア先生。

 

 ・・・・・・IS学園って本気で大丈夫なのか心配になる瞬間だった・・・・・・。

 千冬姉もこの人と同じ立場として、同じ職場に雇われてるのかと思うと・・・・・・いかん。色々と夢とか理想とかイメージとかが崩れてきそうだから目を逸らしたくなって来ちまったぜ。

 

 何か代わりに見えそうな物は!? 代わりに見えそうな物、見えそうな物はどこに!?

 とかやっていたら聞こえてくる、砂浜の向こうから砂埃をあげながら全力疾走して鉄拳制裁しに向かってくる、IS学園最強の関羽こと織斑千冬警備責任者でもある先生。

 

 

 ドドドドドドッッ!!!

 

 

「くぅぅおぉぉらぁぁぁッッ!!!

 こんな所まで来て何をやらかしとるんだ、この駄後輩がぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

「くっ!? ヤバいわね、もう来たか! まーた、とっつぁんに見つかっちゃったわ!

 そういう訳だから、また後でねイッチー! セレニアによろしく伝えといて!

 “愛してるわ、一人の女としてアイラブユー♡ ブッチュ♪”と、一元一句間違いなくちゃんと伝えといてね!? それじゃあ!!」

 

 そう言って、海の家の壁に付けられていた、そこだけ妙に浮いている変な赤いボタンを「ポチッ」と音が鳴る勢いで押したところ

 

「チェーンジ、箱形ぁぁぁロボ!!! スイッチ・オーン!!!」

 

 ブシュ~!! ガチャン! ガチャン!! ジャキィィィッン!!

 

 と、格好良さそうな音を響かせながら蒸気を盛大に吐き出しまくりつつ、一瞬の内に海の家がコンパクトに折りたたまれていって、最終的にはバイク式のリアカーみたいなサイズにまで物理法則無視しまくって変形した姿で走り出し。

 

 

「ふははははははッ!! 残念だったな織斑くん! 今回は私の負けだが、次こそは必ずセレニアの心という大変な物を盗んで見せよう! 次の勝負を楽しみにしているよ!

 また会おう!! ふはははははッ!!!」

 

 ブォォォォォォォォッ!!!!

 

 盛大に爆音と高笑いとネタを響かせまくりながら、クレシア先生の乗った可変型海の家バイクは猛スピードで砂浜を走り去っていき、その速度には流石の世界最強ブリュンヒルデでさえ追いつけないことを承知の上で罵倒するぐらいしか出来なくなるほど。

 

「待てぇぇぇぇぇっい!! ええい、また変な物を持ち出しおってからに!!

 お前それ絶対、束に造らせただろ!? アイツが相手するのが面倒くさくなってテキトーな物を造って与えて、さっさと帰らせようとする悪癖を利用して半端な時代限界超えたスーパーマシンを造るよう、また要求した結果だろーが!?

 いい加減、私の手を煩わせ続けるな!! この駄後輩と駄目クラスメイト共が――ッ!?」

 

 

 と、大声で怒りの絶叫を轟かせながらも、砂埃立てまくりながら追いかけ続けて走って行く千冬姉。・・・って言うか、やっぱりアレって束さんの発明品だったんだ・・・。道理で地味にスゲェわけだ・・・。

 

「しっかし、相変わらず嵐みたいな人だよなぁ、あの人って」

「・・・・・・うちの姉が、いつも通り、いつもの如く迷惑ばっかりかけて申し訳ありませんね・・・本当に・・・」

 

 そうこうしている内に、横合いからセレニアの声が聞こえてきた。

 どうやら着替えが終わって、海の方に来ていたらしい。

 コイツはコイツで、男ほどじゃないけど着替えを手早く済ませることで有名だった女子でもあり、長すぎる髪以外では手間の掛かる部分は特にないからと雑な手入れのみをしてきてたらしいけど、流石に高校生にもなると多少は肌の手入れとかも気になるようになるのかも知れない。今回の着替えは今までよりずっと長かった。

 

「おう、セレニアか。お前も来たんだな。お互い目立つ姉を持つと苦労するって、ブゥゥゥゥッ!?」

 

 振り返って普通に返事しながら話しかけたつもりの俺だったが・・・・・・相手の姿を見た瞬間に、思わず牛乳を鼻水として吹いてしまった時みたいな驚きの声を上げさせられ、驚愕させられることになる。

 

 い、いや待ってくれ。仕方がないんだコレは。いったい誰に言い訳してんだか自分自身でもよく分からないけど、とにかく聞いてほしい。俺は無実だ、何もやってない。それでも俺は何もやっていないと自信を持って断言できる!!

 

「・・・・・・なにか?」

「い、いやその・・・・・・何かって言うかお前、その水着って、スクール―――」

「“学園指定の水着”を着てるだけですが、何か問題でも?」

「いや、問題って訳じゃなく・・・・・・お前のイメージ的にって言うか・・・・・・見た目的な特定部分に問題が出やすいって言うか・・・・・・」

「“学園指定の水着”を着てるだけですが、何か問題でも?」

「いやだから、そういう問題ではなくてだな? その―――」

「“学園指定の水着”を着てるだけですが、何か問題でも?」

「・・・・・・・・・・・・・・・いや、大丈夫だ。問題は何もない」

 

 

 めっちゃ据わった目つきで見つめてきながら、ほっぺたは真っ赤に染まっていて、無表情のまま同じ言葉を繰り返され。

 『何も言うな』と言外に告げてきてることを、流石の俺も気付かずにはいられなくなってしまって・・・・・・そっと距離を置くことにした。

 

 セレニアよ、何があったのかまでは知らないし聞く気もないが・・・・・・級友として一つだけ言わせてほしい。

 

 ――グッドラックと。

 

 

 

 

 

 

 

「クッ・・・・・・こういう目に遭わされるから頼りたくない相手でしたのに・・・・・・ッ。

 やはり人助けなんて慣れないことは、やるべきじゃなかったですよ本当にぃぃ・・・・・・(////)」

 

 

 

つづく



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『我が征くはIS学園成り!』第22章

どうやら昨今の精神状態にはギャグの方が合ってるのか、真面目なものを書いても面白い話が書けてないようです。
なので試しに一番ハッチャけれそうなヤツを書いてみました。
やり過ぎてないか心配ですが……そういう心理状態だった場合には、しばらくギャグだけにした方が安全かもですね。


 私、篠ノ之箒は今この時、人生の絶頂期にあった。

 今を喜べなければ、私の人生に華はないと確信するほどに。

 

 小学4年生の頃に転校させられ離ればなれになってしまった、幼馴染みの一夏と6年ぶりに再会できることが分かったのは、単純に世界初の男性IS操縦者発見のニュースで名前が流れていたのを見つけた時のことだった。

 その時にはIS学園を受験して入学が決まった後だった私は、学園内のどこかで再会できるかもしれないと胸をトキめかせつつ入学式の日を待ち望んでいたものだったが・・・・・・あろうことか相手と私が配属されたのは同じクラスで、一ヶ月だけとは言え部屋割りも同じ。

 あまつさえ、一夏には専用機として白式が与えられ、純白の機体を操りながら空を舞い、剣を振るう姿はその・・・・・・ま、まるで白馬の王子のようで悪くはなかったのだ、うむ。

 

 正直、運命を感じずにはいられないほど、劇的すぎる幼馴染みとの再会だった。

 見違えるほど男らしくなっていた幼馴染みと、男が入れるはずもない女子校だったIS学園で偶然にも再会し、百人以上いる新入生から30人だけが集められたクラスメイト同士となり、純白の専用機を与えられ強敵と戦いながら試合中に奇跡を起こす―――武士といえども年頃の娘として、恋物語の始まりを期待せずにはいられない・・・・・・それほどの運命的な再会。

 

 ―――だと言うのに、次から次へと現れては一夏と私との間に入り込んでくる、別の女たち・・・ッ。

 分かっている! 分かっているのだ! 恋とは戦争であり、彼女たちが悪い訳ではない程度の道理は私とて、よく心得ている! だが、しかし! しかしである!!

 私が気にしていたのは、公平ではないという事なのだ! 彼女たち全員にあって、私だけにない特別な条件の有無は、恋愛という戦争においても公平性に欠けること甚だしいというものである!! 機会均等を強く要請したい!!

 

 ――その想いが岩をも通すことができたのか、いま私は遂に、望み続けた“他の者たちと同じ特別”を・・・・・・否!

 他の者より遙かに優れた特別な機体を、私だけが手に入れることが出来たのだ!

 

 これで私も一夏の隣でパートナーとして、共に戦うことが出来る! 戦友として守られるだけの存在でい続ける必要がなくなったのだ! 他の者と同じ、一夏と同じ戦場で戦い絆を深める機会を手に入れた! これでもう自分の魅力以外の理由で他の者に後れを取る恐れはない!

 同じ条件で競い合えるなら、私には他の者たちに負けないだけの自信と自負があった。

 剣の修行で鍛えているのでスタイルの良さには密かに自信がある。む、胸も・・・・・・一夏の気が引けるのなら、お、男だから仕方がないと多少は押しつけてやる程度の使い方ならしてやっても良いし、それだけでも勝てる程度には――うむまぁ、ハハハ。

 

 ――そして! 何より、私専用機として新たに与えられた第四世代機《紅椿》!!

 現行機を遙かに上回る圧倒的な性能! 圧倒的な速度とパワー!! 武装も私の剣術と相性が抜群に良い!! この機体を手に入れた今の私と一夏が組めば、出来ぬ事など何もなく、勝てぬ相手など存在しない!!

 

 ・・・・・・そう確信して悦に入っていたのだが―――

 

 

 

 

「青い海~♪ 白い雲~~♪ 気持ちよく浸っている私を邪魔する者は~~~~♪♪♪

 誰だっ!? 誰だッ!? 誰だ~~~♪♪ 空の彼方より来たりし白きベル~♪♪♪

 シルバリオ・ゴスペールな~ら♪ 鐘を鳴らしておけば良いのだよ~~~~~♪♪♪」

 

 

 

 ・・・・・・眼下で第二世代機使ったまま歌いながら、背泳ぎで平然と付いてきてる変な生き物を見せつけられる前までは浸っていられた話だったのだがな!!!!

 

 

「一夏―――ッ!!! アレは何だ!? 一体アレは何なのだ!? 私にも解るように説明しろ―――ッ!!」

「なんだも何も、ハイドだろう。俺たちと同じ1年1組の生徒で、ドイツ代表候補のクラスメイトだ。それ以上でも以下でもない」

「解っとるわそんなことぐらい! 私が聞いているのは、アレは“本当に人間なのか”ということだけだ!!

 姉さんが造った第四世代機の紅椿の最高速度に、背泳ぎで追従できているのだが!?」

「まぁ、ハイドだからな。仕方がないさ」

「ISは本来、宇宙用に開発されたはずの存在なのだぞ!? 地球上での使用時はリミッターがかけられるとは言え、既存兵器では決して及ばぬ高機動こそが売りの次世代兵器なのだが!?」

「まぁ、ハイドだからな。仕方がないさ」

「貴様その一言だけで全ての疑問に回答できると思い込んでないか!? この軟弱者がぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 私は怒鳴り、この世全ての理不尽が人の形を取っているかの如き存在を見せつけられる怒りと鬱憤を一夏にぶつけるのだが―――くぅぅッ!

 背中に乗せて飛んでいる体勢では、手も足も刀すらも届かせることが出来ん!! やはり信条に背いてまで男を背中に乗せたのは間違いだったと言うことか―――っ!!

 

「箒、進路が少しズレてきている。色々言いたいことがあるのは痛いぐらいに分かりすぎるが・・・・・・今は目の前のことに集中しよう。そうじゃないと振り回されるだけだ。

 いや本当に、冗談でも何でもなく、真面目な話として」

「くぅッ! そのような正論で誤魔化そうとする軟弱振り・・・・・・っ! 帰った後は覚えておけ一夏!! 私は決して、この恨み忘れてやったりしてやらんからなッ!?」

 

 私の上から正論述べてくる一夏に向かって私は歯をむき、背中の後ろに向かって勝って帰った後の思い知らせ方法を幾つか検討しながら軌道を戻し、シルバリオ・ゴスペルの予測侵攻ルートに合わせて紅椿の位置を修正し直す。

 

 悔しいが、今は一夏の言うことの方が一理ある。軟弱さを叩き直すのも思い知らせるのも、そして理解不能な存在に対して納得のいく説明を求めるのも、今だけは後回しにすべき問題であり、当面の敵である軍用ISの迎撃にこそ意識を集中させるべき戦況だったのは間違いではない。

 

『織斑くん、篠ノ之くん。痴話喧嘩でイチャつくのは仲良きことで美しい限りだが・・・・・・どうやら一事終了すべき時のようだぞ。敵がきた。二時の方角よ』

「なんだと!? 一夏ッ!!」

「今確認した! たしかにハイドの言うとおりの方角に機影が見える! 銀色の奴だ、間違いない!!」

 

 見晴らしのいい位置と体勢にある一夏がハイパーセンサーを使って確認し、我々とシルバリオ・ゴスペルの戦闘は確実の距離まで近づいたことを知った私の身体に緊張が走る!!

 

 

 ・・・・・・それにしても、ハイパーセンサーを使って空の上から見つけるより先に、海を背泳ぎで進んでる奴が、どうやって見つけることが出来たのだろうか・・・?

 

 後に本人から聞いてみたところによれば、

 

「気配を感じたからだ。言葉で説明するのは難しいのだが・・・・・・たとえば、プレッシャーと言うか、邪悪なオーラ力と言うべきなのか・・・。

 あるいは、凄まじい気とか、恐るべき戦闘力とか、霊圧とか霊力とか魔力とか、なんとなくの虫の予感とか。そんなものを感じた気がしたのだよ、キュピーンとかの感じでな。

 君にも分かるだろう? 分かるはずだ。分からなければおかしい」

 

 という事だったが・・・・・・なるほど。まったく分からん。

 まぁ今はそれは関係ないとして、

 

「加速するぞ! 目標に接触するのは十秒後だ。一夏、集中しろ!」

「ああ!分かった!」

 

 スラスターと展開装甲の出力をさらに上げる私!

 その頭上で、一夏は集中したまま冷静さを失っていない視点で見た戦況から、見方に対して的確な指示を出す!!

 

「ハイドは後方援護を頼む! いくらお前でも、空中戦では速度で俺たちに追従できないからな! 何かあった時には殿と俺たち二人の回収を頼む!!」

『むぅ・・・確かに。我が愛機ゴールデンバゥムの機動性では、君たちの速さに合わせて戦うは不可能。此度は後方支援に徹せざるをえんか・・・・・・泳いで戦うことさえ出来れば、簡単に追いつける相手なのだが、うぅ~む・・・』

 

 ――なんか色々と矛盾してること言ってるような気がしなくもなかったが・・・・・・紅椿の凄まじい速度で福音との距離が高速で縮まっていっている途中だったから、ハウリングとかで聞き間違えたのだろう。間違いない。

 

「うぉぉぉぉっ!!」

 

 私の背中で、一夏が零落白夜を発動させると同時に、瞬時加速を行って一気に間合いを詰めようとするのを実感させられる!

 

 我々二人と、暴走した軍用IS銀の福音との最初の戦いは、こうして火蓋が切って落とされたのだった!!

 そして・・・・・・それは一つの悲劇の始まりでもあったことを、今の私はまだ知らない。

 知ることが出来ていなかったのだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~~~~む。誠にもって如何したものか・・・。

 戦友たちが敵と矛を交え合い、自らの命と誇りをかけ合い、どちらが上か男と男の真剣勝負をしている中。

 果たして、何もせず安全な後方から眺めているだけで良いものか否か・・・・・・それが問題であるな」

 

 と、一夏&箒コンビが銀の福音との戦闘を開始して、最初の一撃目が躱された後、二対一の優位性を活かし、奇襲の勢いに乗ったまま一気に押し切ろうという戦術で挑み始めたばかりの頃。

 戦場から少しだけ離れた位置で、ハイドは懊悩の表情を浮かべて、海の中で泳ぎながら激しく葛藤し続けていた。

 

 ちなみに今の泳ぎ方は、泳ぎながらでも弓矢が放てる昔ながらの戦国古式泳法。

 だから海の中でも、腕を組んで悩みのポーズができます。

 

 何の意味も効果もありませんが、ただ見た目が滑稽になってるだけですが。

 

「――否ッ!! 敵と戦う戦友と共に戦って守らずして、なにが対等の友人か! 同盟関係か!!

 無論そのような支援を決して否定するものではないが・・・・・・っ、共に戦える力を持っているならば、やはり戦場を共にして轡を並べ、共に征服と栄光と勝利の美酒を分かち合うことこそ至上とすべきが漢というもの!! それこそが真なる漢ロード!!!」

 

 と言う結論に達したらしい。置いてかれてから数秒後には速攻で。

 とは言え、空を高速で飛び回って戦う敵を相手に、コチラも攻撃を届かせるには第二世代IS《ゴールデンバゥム》では些か以上に遅い。遅すぎる。スローディーだ。

 

「ふぅ~む、地上戦であるなら走って補填すればどーとでも出来るのだが・・・・・・。

 やはり大空という戦場は、海から発して数億年の生物である人類にとって未知の世界。まだまだ遠い場所であると言うことだな、うぅ~~~~む」

 

 ウンウン唸りながら、なんか使えそうなものはないかとキョロョロ辺りを見回してみて。

 

「・・・おおっ!? これは! まさに天啓! 友を救うため天が与えた聖剣とはコレのことか!! 

 さぁ、今行くぞ織斑くん! 岩から引き抜きし聖剣を手に私が行くまで無事でいてくれた前ぇーッ!! とぉぉぉりゃぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

 ――という流れで、なんか見つけて、なんか手に取って、なんか使って空中戦を手伝うため援軍に行くことにしたらしいハイド。

 大丈夫なんだろうか? ・・・・・・大丈夫じゃないんだろうなぁ、おそらくはだけども・・・。

 

 

 

 

 

 そして、その頃。

 

 

「くっ! このっ・・・・・・箒っ! 援護を頼む!!」

「任せろ!!」

 

 一夏と箒のコンビプレイで迫る銀の福音戦は、第二段階に移行しつつある段階まで至っていた。

 2機がかりの斬撃に対して、泳ぐかのように踊るように、ひらりひらりと紙一重の回避行動でダメージを避けながら翻弄し、銀色の翼であるスラスターの中に隠された砲口で狙いをつけてから大量の光弾を斉射する特殊な戦い方に、一夏も箒も攻撃が当てられずに攻めあぐねていたのである。

 

「箒、左右から同時に攻めるぞ! 左は頼んだ!!」

「了解した! 任せろ!!」

 

 爆発するエネルギー弾を主武装とし、命中精度は高くなくとも連射速度と弾数とで圧倒しようとしてくる、奇抜な形状とは裏腹に回避に特化した実用レベルが高い機体の福音に対して、力づくで防御を突破して接近し、隙を突く以外にないと判断した二人。

 

「一夏! 私が動きを止め―――」

 

 箒から一夏に対して、囮になる旨を告げようとした、まさにその時!!

 

 

 

「織斑くん! 篠ノ之くん!! あ~~~ぶないぞ――――ッ!!!」

 

 

 

 と、どっかのバカから大声が聞こえてきて、センサーにも一瞬なんか気になるもんが感じられたような気がしたから、

 

「ハイドか!? 一体なん―――」

 

 必死の表情のまま一瞬だけ振り向く箒と一夏。

 その二人の視線の先には今――――《岩》があった。

 

 

 岩である。

 石の塊のデカい奴が、一夏と箒の目の前に猛スピードで高速接近している最中だった。

 一夏が乗った状態の白式と、ほぼ同じ全長ぐらいのサイズを持った大岩が・・・・・・第三世代IS並の速度で二人が左右から斬りかかろうとしていた先の福音まで、直線軌道に並んでる空間を横切る形で―――巨大な岩の塊が、猛スピードで高速接近してきてて、今にも二人にぶつかる0コンマ1秒前ぐらいの距離まで近づかれちまっていた、その直後の出来事だったので・・・・・・

 

 

「って、うわぁぁぁッ!?」

「危ねぇぇぇぇぇぇッ!?」

『・・・・・・ッ! ・・・ッッ!!!』

 

 一夏と箒、あとオマケに福音も慌てて回避。大慌てで緊急回避である。余計なこと考えてる余裕など一切なく、ただ全速力で飛び退る!! それしかねぇ!!

 

 

 ブォォッン!!!

 

 と、ものスッゴい風圧で轟音響かせながら大岩は、ギリギリのところで一夏と箒と、あとついでに銀の福音も回避に成功して事なきを得て、爆発するエネルギー弾とか比べものにならないほどの馬鹿デカさと質量持った超巨弾が通り過ぎていくところを目撃して冷や汗を垂らし合う。

 

「な、なんつー危なっかしい攻撃方法を・・・・・・当たるどころか、掠るだけでISエネルギーどんだけ持ってかれるか分かったもんじゃねぇぞオイ。

 こんな攻撃をする奴は、一人しかいない! そうだろぉ!? ハイドォォッ!!」

『如何にも!! 我こそはIS学園1年1組所属! 泣く子も黙るドイツ代表候補生!

 人呼んで、ドイツの青い雷! その強さは計り知れず!!

 シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ、16歳であ――――る!!!!』

「知ってるわぁぁぁぁぁぁぁッッ!? そんな言われんでも分かってること今更聞く気はないわッ!! なにしやがんだって聞いてんだよ俺はよォッ!?」

 

 一夏、さっき箒から言われて無視した言葉を、今度は自分が言う版の巻。

 因果応報と言えば因果応報なのかもしれんけど、一番悪い奴には特に何のペナルティも与えられたこと一度もないので微妙な概念でもあったりはする。

 

『いや何。君たちばかりを戦わせていたのでは、やはり心苦しかったのでな。

 私も戦いたかったのだが、やはりISの速度までは、力と想いだけではどーすることもできず困っていたのだよ』

「・・・ほう、そうか。それで?」

『うむ。そこで考えた結果、岩を投げて投石で援護射撃をしようと結論に達した。

 海面に突き出している岩礁を引っこ抜いて投げつけていれば、その内一発ぐらい当たるかもしれんと、私はそのように考え、そのように実行した。嘘偽りは一切ない』

「いや、おかしいだろ!? 嘘偽りない方がおかしいだろう!? なんでIS使ったとは言え、そんな馬鹿デッカすぎる大岩引っこ抜いて投げつけてこられ―――危ねぇぇぇぇぇッッ!?」

『ふぅぅぅぅぅッッん!!!!!』

 

 

 ブォッン!!と、再びの大岩投擲。

 流石の福音も、エネルギー弾より遙かにデカすぎるし堅すぎる大岩相手には、小型爆弾程度の爆発力でどうにかできるサイズではなく、ひたすら回避しながら隙を見出す以外に取るべき道が他になくなり、立場逆転させられて敵の方に逃げてくるから、巻き込まれないよう敵が逃げ出し、なんかよく分からん変な追いかけっこを空中で演じる羽目になってしまい。

 

 

『どぉぉりゃ! そぉぉりゃッ!! ふんぬらばァァァァァッッ!!!!』

「うおっ!? ちょっ! 辞め! 危なっ!? うおわぁぁぁッ!!??」

「ひっ!? まっ!ちょ! ひぃっ!? ヒィッ!! ひぃやぁぁぁッン!!??」

『・・・っ! ・・・・・・っっ!! ・・・・ッ!・・・っっ!!』

 

 

 ブゥッン! ブォンッ!! ブォン!ブォン!ブォォッッン!!!

 

 

 連続して放たれまくる、ハイドの恐るべき腕力によって投げ飛ばされる大岩攻撃の連射性能を前にして、さしもの最新鋭機3機とパイロットたちも手も足も銃弾すら出せずに逃げ回り続け、もはやこれまでと追い詰められかかったまさにその瞬間のこと!!

 

 

『むぅッ!? いかんっ、弾切れである! 補給してくる故、テキトーな弾になりそうな岩礁を探してくるまでしばし待つが良い!! とぉぉッう!!!』

 

 と、勝手に割り込んできた変な奴が、勝手に玉切らして勝手にどっか泳いで行っちまったことで、ようやく戦場に平穏が戻ってきてくれた・・・・・・。

 

「・・・今だ! 隙あり―――ッ!!!」

「え!? 箒ッ!?」

 

 箒が大岩の弾丸の雨を、皆で一緒に紙一重で躱し終えた後。

 ようやく一段落して安堵して、全員が動きを止めてた一瞬の隙を突いて福音へと急速接近。

 福音もギリギリのところで反応して、迎撃と回避のため光弾を斉射するが、一瞬遅い。

 

 言葉通り、出来た隙を突くことが出来ました。・・・・・・卑怯だけどね。

 試合や訓練じゃなく実戦なので、致し方なし。

 

「・・・っ! La・・・!!」

「――あ!」

 

 だが一夏は、箒に合わせて福音へ向けて突撃することなく、真逆の方向の海面に向けて機体を急速降下させ、福音から発射されていた一発の光弾を追いかけるため最大出力で追跡し始める。

 

「一夏!? 何をしている! せっかくのチャンスを――」

「船がいるんだ! 海上は先生たちが封鎖したはずなのに――ああくそっ、密漁船か!」

 

 最大出力で飛びながら一夏が答え、答えると同時に右手に握っていた零落白夜の光が薄れて消えて、白式の展開装甲が閉じていく。

 エネルギー切れだった。最大にして唯一のチャンスと、そして作戦の要を同時に失った彼らに、もはや勝機は1ミリグラムも残ってはいない。

 

「馬鹿者! 犯罪者などをかばって・・・・・・・。そんなやつらは―――!」

「箒!!」

「ッ――!?」

「箒、そんな―――そんな寂しいこと言うな。言うなよ。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて・・・・・・どうしたんだよ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」

「わ、私・・・私、は・・・・・・」

 

 明らかな動揺を浮かべる篠ノ之箒と、妙に穏やかそうな表情と声音で説教しはじめる、一本だけの刀しか取り柄のない欠陥機のパイロットで、特殊機能失った今は量産型の打鉄IS操縦者ぐらいの強さしか持ってない状態の織斑一夏くん。

 

 それでも双方共に、言っている言葉そのものには重みがあるやり取りだった。

 

 箒は、日頃から思い人の幼馴染みを殺すつもりで日本刀ブン回し、相手が避けてくれてるから結果論で殺さずに済んでる殺人未遂連発してるけど、今のところ殺すことに成功してなくて治外法権のIS学園生徒だから犯罪者にはなっておらず。

 

 一夏の方は先月に、企業スパイで身元偽って不法入国と入学してきて刑務所入るつもりだった男装少女を、法の裁きから逃れさせるため校則を利用した共犯者になったばかりの少年犯罪者候補である。

 

 互いに立場と経歴を考え合わせると、なかなかに深いことを言い合っていた者同士であったのだが・・・・・・どうやら箒の方には、そこまで考えれる自己客観視能力は一夏以上になかったらしい。

 

「箒っ!? マズいっ!! 箒ぃぃぃぃぃッ!!」

 

 動揺のあまり、両手で顔を覆って刀を落として光と共に消え去るのを見て、一夏は相手がエネルギー切れになり具現維持限界と呼ばれる状態に陥ったことを悟ると、零落白夜を維持できなくなった長いだけのポン刀を投げ捨てて、箒に向かって残されたエネルギーで瞬時加速。

 

 暴走してるから先程の意趣返しって訳ではないだろうけれど、福音はエネルギー切れになったISアーマーしか持たない紙装甲になった箒に狙いを絞り、一夏は敵の攻撃から箒を守るため、箒と福音との間に割り込んで、そして―――連続一斉射。

 

「ぐわあああっ!!!」

 

 箒をかばうように抱きしめた瞬間、その背中に無数のエネルギー弾の爆発を受け、骨が軋む音を聞きながら一夏は、一度だけ箒を見てから―――瞼を閉じ、意識を失った・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一、夏・・・? 一夏っ? 一夏! 一夏ぁっ!!」

 

 ――私が我を取り戻した時、目の前には一夏の顔があり、そして・・・・・・疲れたように瞼を閉じていく姿だけがハッキリと瞳に映っていた。

 その姿を見ただけで私には解った。理解できた。―――私のせいだ、と。

 私は“また”、やってしまったのだ。以前と同じ過ちを・・・二度と繰り返さぬと誓った失敗を、またしても私は犯してしまい―――そして最愛の人が傷つく理由になってしまったのだ、と・・・・・・。

 

「ああ・・・一夏、一夏っ。私の・・・・・・私が悪いから・・・っ!」

 

 私は彼を抱きしめて、無防備なまま海へと落下し続けていく。

 福音はどうなったのだろう? ・・・いや、もうそんな事はどうでもいい・・・一夏を私のせいで傷つけてしまった今となっては、私にとってはもう本当に・・・・・・

 

「・・・一夏・・・」

 

 私は気絶したまま眼を覚まそうとしない一夏の身体をソッと抱きしめる。

 あるいは、福音のエネルギー弾が私たち二人を狙って放たれ、共に死ぬことになっても構わない。一夏と共に死ねるのならば、私にとっては本望だ・・・。

 

「一・・・夏・・・・・・」

 

 私は彼を抱きしめながら、気絶している彼の顔に、静かに自分の唇を寄せていく・・・。

 海面までの距離は近い。あと僅かだ。あるいは冥府までの距離かもしれない。

 そう思うが故に、私は伝えたい時に、聞いてもらえていた時に、言っておかなかった言葉を伝えたくて、でも手遅れで・・・・・・そんな想いを言葉ではなく、行動に込めて。

 

 私は暗い海をバックにおいた一夏の顔に、ゆっくりゆっくりと自分の顔を近づけていき、そして――――

 

 

 

 

「篠ノ之くん!! 危な―――――――ッッい!!!!!」

 

 

 ドゲシィィィィッ!!!

 

 

「ふぶべぇっ!?」

 

 

 ・・・・・・後頭部に全力キックを食らって、衝撃で顔面が前方に押し出され、目の前に迫っていた一夏の顔と顔面衝突して色々な部分が接触しまくり合い。一瞬だけだけど一夏と同じく暗い意識の底まで記憶を飛ばし。

 

 

「ひでブボでぶちゅーッッ!!??」

 

 

 ドッボーン!!!と、もの凄い勢いで海に向かって全力激突させられながら、海水とか鼻水とか涙とか、色々な液体が絶対防御分のエネルギーすら使い果たして、ただのズブ濡れになった女子高生と男子高校生でしかない身体と服の中に入り込みまくり。

 

 私と一夏は一緒になって、土左衛門みたいな状態で海面に上がってきて息をして、酸素を補充するのがやっとの有様になってしまってたのであった。

 

 

「ぶえほッ!? ゲホッ! コホッ! ぺっ!ぺっ! か、海水が・・・っ、思った以上にしょっぱッ!?」

「危ないぞ篠ノ之くん! 戦場で敵を前にしながら立ち止まるなど、正気の沙汰ではない!! 戦えぬなら一刻も早く織斑くんと共に撤退を! ここは私に任せて早く退けぇい!!」

「い、いやあの・・・・・・言ってることは尤もだとは思うのだが、お前もう少し人の気持ちに配慮ってものをだな・・・・・・」

「人命優先である!! 人の命は何よりも重く重要なるもの!! それとも君は織斑くんの命より、自らの見栄えや美しさをこそ尊ぶとでも言うつもりなのかね!?」

「うぅ・・・・・・くそぅ・・・・・・この状況下でも言い返せないとは・・・・・・ううぅぅ、惨めだぁ・・・・・・」

 

 

 こうして、私と一夏によるシルバリオ・ゴスペルとの最初の戦いは終わりを告げさせられ、私は気絶している一夏を引っ張りながらズブ濡れ姿でひたすら泳ぎ、惨めに敗走してきた落ち武者のような有様で旅館へと帰り着くことが出来、この戦いは完全に私たちの敗北で終わった。

 

 そして、この戦いは私のファーストキスが、うやむやの内に失っていて、直後に頭ぶつけたせいで碌に記憶に残っていないという、悲劇を心に強く長く刻みつけられることになる。

 

 

 ファーストキスは・・・・・・唇が切れた血の味がした。

 

 

 

 

「さぁ、ゴスペラーズ君だかガスパール君とやら!

 織斑くんたちの撤退が完了するまでの間、この私がお相手しよう! だが心するがいい!

 織斑くんは、必ずやこの海へと戻ってきて、君との決着をつけることを!! 生きてこそ手にできる栄光を手にするまで、彼は君との決着をつけるため追い続けるであろう!

 私はその為の前座に過ぎぬ存在! ここで君が倒されることはないが、追撃はさせぬ!!

 さぁ、どこからでも掛かってカマ――――ッンであ~~~る!!!」

 

 

 

 ・・・・・・もうコイツ一人に任せて倒してもらった方が早そうなのだが、こういう理屈でやってくれそうにない。

 そういう奴がハイドなのだと理解させられた、私にとっての臨海学校2日目はこうして半分ほど終わりを告げる。

 

 

 

 

つづく



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IS学園のひねくれ少女 第24話

結果論的に久しぶりになってしまった気がする、【捻くれ少女】の最新話です。
そのせいでの焦り故か、実際の文字数より多く感じてしまって途中で締める内容となってしまい反省しております。

尚、今作はギャグで最後まで行く版の言霊目指してますので、今話もギャグばっかです。初心を忘れず原点回帰したかった今日この頃。


 ――前略、織斑一夏です。

 俺の級友が、夏の臨海学校先で見慣れない格好して真っ赤に頬染めながら、無言で横に立ってる状況が続いてて居づらいです。

 中学時代から一部男子の間でも話題になっていた体の一部パーツが強調される服装なせいで、通報されないかも心配です。・・・・・・誰か、助けてくれ・・・・・・そう思っていたところ。

 

「あ、一夏。それにセレニアも、ここにいたんだ」

「おおシャル! いいところに来てくれたな! 助かったぜっ!!」

「え? あ、うん。えっとぉ・・・どういたしまし、て・・・?」

 

 声に呼ばれて振り向いたそこにシャルの姿が!

 さすがはシャルロット、相変わらず俺にとっての女神になれるタイミングで出てきてくれるヤツだわ本当に!

 

「・・・って、ん? なんだそのバスタオルお化けは?」

「あ~・・・まぁ、うん。ちょっと、ね・・・」

 

 ただ彼女の隣に、なんだか奇天烈な格好した存在がいたので聞いてみたら、少し困った風に苦笑しながらホッペタをかいて言葉を濁すシャルロット。

 バスタオル数枚で全身を頭の上から膝下まで覆い隠して、目の所だけ上から眼帯みたいなのを付けてるけど、この格好で意味あるんだろうかコレって。

 見えねぇだろ、眼帯付けなくたってバスタオルで隠れてるから――って、あれ? コイツの眼帯ってもしかしなくても・・・・・・。

 

「ほら、出てきなってば。せっかく水着に着替えたんだし、見てもらうためだったんでしょ? 一応は僕も手伝ったんだし、一緒に見ていいみたいだしね」

「ハイです! ラウラ準備はばんたん星人さんです!」

 

 あ、今の声はやっぱラウラか。

 いつも通り、子供っぽさに満ちあふれてるラウラらしい声での返答ではあるんだが、どういう状況なのかはサッパリ分からん。

 とりあえずシャルに説明を求めようと試みてみるか――そう思っていた次の瞬間。

 

 ――ばばばっ!!

 

 っと、バスタオル数枚を纏めてかなぐり捨てて、勢いよくラウラも水着姿を現して、

 

 

「ジャ~~ンです♪ ラウラもお母様とおそろいです! セットです!

 お母様とラウラで、一緒になかよしぺあるっくですぅ~ッ♪♪」

 

 

『『ぶっ!?』』

 

 

 元気よく陽光の下に現れてきたラウラの姿を見せつけられて、俺もセレニアも思わず吹き出さざるを得ない光景が!!

 

 黒の水着――それはいい!

 だが一見するだけでそれはセクシー・ランジェリーのようには見えようのない、レースのような飾りを一切あしらうことなくシンプル・イズ・ザ・ベストを貫き通したような純粋すぎる、その姿は所謂あの名を持つ例の衣装!!

 

「お、お前それ・・・その水着って旧が――コホン。が、学園指定の水着すが・・・・・・」

「ヤーです♪ きゅー型スクール水着っていうお名前です! お母様が着てらっしゃるのと同じ水着です! ぺあるっくです☆」

「ぐふぅッ!?」

 

 ああっ!? セレニアが間接的に大ダメージ受けさせられて吐血寸前に!

 もう止めてやってくれラウラ! いくらセレニアでも残りHPは流石に多くなさそうだから!

 

 IS学園の生徒として、学園指定の水着着てるだけではあるんだけれども!

 コイツ等の場合だと、普通に着てるだけが一番マズく見られかねない水着なんだよ! IS学園指定の正式な水着姿はさぁー!

 

 さっきよりも更に通報されそうな気配が強まった気がするだけな今の状況で、俺は本当に大丈夫なんだろうな!? IS学園でただ一人の男子生徒である俺だけは!?

 政府が無理やり入れっつったから来てる身なんだし、頼むぞ日本国刑法! 法の裁きだけじゃなく世間様からも守ってくれよ本当に!? 

 

「――あ。忘れてましたです。コレも上から着なきゃフカンゼンだからダメって言われてたんでした。んしょっ、と」

 

 おお! その姿を上から隠すために何か着る必要があるのを誰か教えてたんだな! よく言っといてくれたグッジョブだ!

 どこの誰かは知らないが、ファインプレーに感謝を・・・って、ん? なんかその上から着込んでる途中のそれって昔見たことがあるような無いようなって――、ぶっふぅぅぅぅぅぅぅッ!?

 

 

「セーラー服スクール戦士ラウラですぅ~☆

 ヘンタイさんに呼ばれて飛び出てジャ~~ンⅡですぅ♪」

 

 

「いや呼んでねぇよ!? 出てこなくてもいいから服着ろ服! 隠せ隠せ早く~~ッ!?」

 

 

 更に危なくなった格好に進化しただけだった! 上から着ると下から着てんのかどうかさえ一見するだけなら分かりづらくなるから余計あぶねぇ!

 誰だ!? コイツにこんなキチガイファッション教えやがった大馬鹿野郎は! 子供みたいな女子高生に変なこと教えて洗脳してんじゃねぇ!!

 

 

「ふぇ? だってヘンタイさん言ってたですよ?

 “セーラー服をシロスクの上から着るだけだとフカンゼン。セーラー服ブルマー戦士にも見えるのがナンバンじゃすてぃす”って」

 

「俺かよ!? また俺だったのかよ! いや俺じゃねぇけど! 絶対に俺じゃねぇけどパラレルワールドの赤の他人な俺でしかねぇけれども! それでもやっぱり俺かい!?」

 

「あと、お母様にも“着てくれ”って言ってましたし、お母様もお顔まっ赤になって着てましたです。だからラウラもお母様といっしょにヘンタイさんの前でぺあるっくデス♪」

 

「・・・・・・私まで巻き添えですかっ!?」

 

 

 そして最後にはセレニアまで巻き込む純粋ピュアなラウラによる、子供故の残酷な発言!!

 更に赤くなって、見るわけにはいかない姿になってきてる俺の級友! なんか見てると変な気分になってきそうだから! なんか!

 

『あ、織斑君だ! 織斑君が・・・スクール水着姿の異住さんを顔真っ赤にさせて波打ち際に!?』

『え!うそ!? ほ、本当だわ・・・しかも、なんか変な水着姿のラウラちゃんまで一緒に!?』

『しかも今、織斑君から異住さんにも着ろって言われたって聞こえた気がするけど・・・』

 

『え? あの水着って、そんなに変かしら? 欧米ではあれぐらい普通だと思うけど』

『『『あんたの母国何人ッ!?』』』

 

 

 そして早速、風評被害が! またしても俺の失言問題扱いになる展開に!

 違う誤解だ! 事実無根の冤罪だ!

 パラレルワールドの俺が言ってたってだけであって、俺は言ってない! 今の俺はそんなこと一言も言ってないからな!?

 また変なのが女子の中に混じってたような気がするし、どうなってんだIS学園の一般女子生徒たちにマトモな人はいないのか!?

 

「おー、セレりん可愛い水着だね~。のほほんさんもお揃いのにしたかったなぁー。ぽっにゅんぷっにゅん♪」

「おや、素敵な水着姿ですね異住さん。とても金になりそうで素敵です。

 思わず私も欲望の赴くまま飛びついて引ん剥いて、あられもない格好になったところでダブルピースしてる姿を写真に収めて売りたくなってしまった程ですよ。一枚5000円からのスタートで。

 なので、売っていいですか? バイト代は弾みますが」

「・・・・・・のほほんさんに会計さん、相変わらず友情に満ちあふれたお言葉をありがとうございました。私も素敵な友達を得られて嬉しいかぎりですよ、“のほほんさん”」

 

 そしてセレニアの方にも俺とは違うクラスメイトたちに群がられて羞恥刑状態に・・・。

 数こそ少ないが、アッチはアッチで大変そうだなオイ・・・。

 セレニアと仲のいい会計さんって人も、俺とは久しぶりに会ったけども相変わらずその・・・濃いな。この人は本当に。

 

 セレニアよ、もう少し友達づきあいするヤツは選んだ方がいいと思うぞ? いやマジで。

 五反田に対して俺も、周囲から似たようなこと言われる時あるけど、この人よりは五反田の方が少しはマシだと俺は友として信じている。ほんの少しだけだけども友として。

 

 

 そんなことを思って頭を抱えていたところ急激に―――本当に頭が物理的に重くなって圧迫感を感じさせられ、聞こえてきた声が、

 

「い、ち、か~~~~~っ!!」

「って、のわ!? お前、鈴か!?

 後ろから飛びついてきて、頭の上に乗っかってんのは鈴かよ!?」

「そうよ! あたしは中国代表候補の凰鈴音! かつて中国から来た美周瑜と呼ばれた女!」

 

 いきなり後ろから飛び乗ってきて、俺の体をしゅるりと駆け上がってから肩車の体勢をとってきてたのは鈴だった! 

 そして今度は周瑜かよ! どう見ても船戦強そうには見えねぇぞコイツ! せいぜい赤壁でも歩兵中心だった曹操軍の夏候惇の方が似合ってるタイプだ絶対に!

 

「まぁ、そういう議論は置いておくとして泳ぐわよ一夏。海に来たからには泳がなければいけないわ。さっさと準備体操でもなんでも終わらせて海に潜りにいくのよ」

「あのなぁ・・・・・・お前も準備運動してからじゃないと溺れてもしらねぇぞ? まっ、速く泳ごうってのには賛成だが」

「あたしは溺れたことなんかないから平気よ。きっと前世は人魚だったのね、たぶん」

 

 突如として割り込んできた鈴の誘いに乗る形で、俺はクラスメイトたちの輪の中から抜け出して砂浜へと歩んでいく。

 「あー逃げたー!」とか叫びが聞こえてこなくもない気がするけど、冤罪である。事実じゃない。

 そんな話を信じ込んで、不当な言いがかりを付けてくる奴ら相手に言い返しても意味はないし男らしくもない。

 だから俺は無意味な反論をすることなく、鈴の誘いに応えるため海に行くのだ。決して逃げてない、断言する。だから大丈夫だと。

 

「ところでさー、一夏ぁ」

「おう? なんだ鈴。そういえばお前、人魚のイラストって最初は男だったんだぜ? 知ってたk――」

 

 

「人魚って昔は、魔法の歌声で船乗りたちを海に誘い込んで、溺れ死にさせてたセイレーンが元ネタだって説があるの知ってた?」

 

 

 ――ババッ! ダッ!!(俺が上に乗ってる鈴を放り出してから全力脱出し始めた音)

 ――スタチ! ダダッ!(逃げ出した獲物を海に引きずり込むため追ってくる鈴の足音)

 

 

「テメェ!? やっぱり俺を事故に見せかけて抹殺する気だっただけじゃねぇか! それでも中学時代の友人でもあるセカンド幼馴染みか!?」

「違うわ! 誤解なのよ一夏! あんたを溺れさせようとしたのは、あんたのせいなの! 仕方がなかったのよ!

 あたしのセレニア相手に、そんな羨ましい要求かなえてもらえる関係になってた一夏が全部悪い! だから、あんたが死んで、あたしがセレニアとイチャコラ関係横取りするのは仕方がない!!」

「逆恨みで罪を正当化したがる崖っぷちの殺人犯理論を、堂々と語るんじゃねー!? 少しは誤魔化す努力ぐらいしろよ! せめてサスペンス殺人犯並のレベルには!」

 

 完全に殺意を隠す気がなく、逆恨みの私怨を正当なる権利と信じて疑わないキチガイ系殺人未遂犯に追いかけ回されながら砂浜を逃げ回る俺!

 普通これ配役逆の立場じゃねーのか!? あんまテレビ見ない俺でも分かるほど、ジャンル違うのがサスペンス世界に混じってくると、こうなっちまうのかイヤすぎる!!

 

「あらあら、一夏さん。丁度いいところにいらっしゃいましたわ」

 

 と、穏やかそうな声でやってきたのはセシリアだった。

 正直こんな状況下では、この際誰でもいいから助けて欲しい窮状ではあるのだが――コイツはコイツで殊セレニアに関する話題では鈴と同じぐらい信用しきれない理由持ちなクラスメイトでもあるわけで。

 

「わたくし、一夏さんにサンオイルを塗っていただきたいと思って探してましたの。

 ですので殿方として女性に恥をかかせないための礼儀として、お願いしますわね?」

「い、いや悪いんだがセシリア。見ての通り今、忙しいんで俺以外の他のヤツに頼んで塗ってもらってくれないk――」

「まぁまぁ、そう仰らずに。い、一夏さんがされたいのでしたら、前も塗ってもらって結構ですのよ・・・?

 ――って、イヤァン♡ 何を言ってるのかしら、わたくしったらはしたない・・・♡」

 

 そしてパレオをしゅるりと脱いでから、イヤイヤと顔赤らめながら体くねらせ出すセシリア・オルコット。

 コイツは一体なにをしたいんだ・・・? そう俺が疑問を抱いたのは一瞬のこと。

 

 次の瞬間には、答えが俺の後ろから一瞬だけ超加速して前に出て、目的のブツを奪い取ったときには・・・・・・俺はもう、この時セシリアが隠そうとした真意に気づいていた。

 

「イグニッション・ダッシュ!! はいはいあたしがやったげるわよセシリアぺたぺた、おーっと! 手が滑っちゃったわぁっ!!」

「きゃああっ!? 乙女の柔肌を隠していた一枚だけの水着シールドが落ちてしまって、貴族令嬢の素肌を一夏さんに事故とはいえ見られてしまって―――これは口封じせざるを得ませんわね!

 オルコットの家と名誉を守るためです! 仕方がありません! とゆー訳で有罪! KILL!!

 女尊男卑社会で女の裸を見た男に、公平な人権はない!!」

 

「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 

 

 もはや俺を殺すことしか頭になくなった、セレニアの恥態で理性が蒸発しちまったっぽい二人に追いかけ回されながら、千冬姉に助けられるまで逃げ出し続け走り続けることしか出来ない境遇に陥らされる臨海学校初日の俺!

 

 くそぅ! これも海か! 海のせいなのか!? 夏の海の魔力に当てられて皆おかしくなってしまったのが原因なのかっ!?

 だとしたら、そうであって欲しいから早く魔力消してくれ夏の海―――っ!!

 周囲の皆だけおかしくなって、自分一人だけ正気のままだと逆にキツいんだよコンチクショ―――ッ!?

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・こうして、俺とセレニアがそれぞれの事情と仲間たちから酷い目に遭わされる羽目になっていた頃の事。

 この状況を、セレニアに『スクール水着を着るよう要求した』只それだけで造り出させてしまった天災は、一人。

 

 岩場の上から状況を俯瞰視点で眺め下ろし、笑顔と共に介入の時が訪れたのを確信していたのを、この時の俺は気づいていなかったんだ。

 

 そう。あの人と久しぶりの再会を、俺は――いや。

 “俺たち”は果たすことになる明日を、今日この時の俺たちはまだ知ることが出来ていない―――

 

 

 

「・・・ふ~・・・、ふ~・・・お、お腹苦しっ・・・。

 こ、この天災束さんともあろう者が思わず、笑い死ぬかと思っちゃったよ・・・っ。

 ぷっ、くく・・・わ、脇お腹いた・・・っ、苦しい・・・っ。

 さ、流石はセレちゃんだね。正直ここまでの光景が見れるとは、ぷはっ! そ、想像していなかったけど・・・ぷぷぅっ、そ、そろそろ真打ちになる女優登場の時期が来たみたいだねぇ・・・っ!

 ――邪魔なバカ駄後輩もいないみたいだし、箒ちゃんも仕掛けに気づいたみたいだし、イッツ・ショータイムを始めるよ! パーティーだよ!

 束さん脚本演出助演による、夏のザ・ラストド派手なパーティーを始めにいくぜェいッ! 

 待っててねセレちゃん♡ 夏オンザ天国ゥ~ッ♪」

 

 

 

つづく



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『我が征くはIS学園成り!』第23章

最近。思うように書けない理由が発覚。体力不足で長い説明文を書くのが心理的にもキツかったらしい。出来るだけ体力に余裕ある時に書きますね。

とりあえず、体力無くても勢いだけで書きやすい作品を出しとこうと思って今作です。
ギャグはこういう時、楽でいいですが……人選ぶんですよなぁ…。


 ――それは篠ノ之箒が、まだ小学二年生の頃だった。

 

「おーい、男女~。今日は木刀持ってないのかよ~」

「・・・・・・竹刀だ」

「へっへ、お前みたいな男女には武器がお似合いだよなぁ~」

「・・・・・・」

「しゃべり方も変だもんな」

「やーいやーい、男女~」

 

 彼女は放課後の教室で三人の男子生徒たちにからまれ、身体的特徴をからかわれていた。

 それらの圧力に対して箒は一歩も引くことなく、凜とした眼差しで相手を睨みつけるだけで無言のまま、相手の挑発に答えることはなかった。

 

 ・・・・・・だが、相手の言葉に無言だけで無視してはいたものの、相手の言葉を無視することまでは出来ていなかった。

 不快さを堪えて無視してやるつもりでいたが、無言を貫きながらも『睨み付けること』は止めれなかった時点で、自分なりに反撃せずにいられなかった本心は明白だったからだ。

 

 後になって思い返せば結局、「自分が負けた事になるのが嫌だった」のだと分かることができる。

 剣道道場の娘として本気で殴れば暴力になるから、所詮コイツらが子供なだけなのだ大人になれと、相手の愚行に力で応じることなく無言を貫いてはいたが、不愉快な奴らを本気で好き放題言わせたまま何も反撃せず、『言われっぱなしの立場』になるのを箒のプライドは、どーしても甘んじることが出来なかったのだ。

 

 そんな時分の自分だったからなのだろう。

 

「・・・・・・うっせーなぁ。てめーら暇なら帰れよ。それか手伝えよ。ああ?」

「なんだよ織斑、お前こいつの味方かよ」

「へっへっ、この男女が好きなのか?」

「邪魔なんだよ、掃除の邪魔。どっか行けよ。うぜぇ」

「へっ。まじめに掃除なんかしてよー。バッカじゃねぇの――って、おわっ!?」

 

 割って入ってくれた、1年前から同じ道場に通っていた男の子に、『自分と同じもの』を感じ取り、自分と同じように表面上のものとは異なる本心を隠し持つのは一人ではないことを本能的に感じ取った彼女は、自分を抑える必要性が急速に薄れていくのを自覚して、その後バカ共と見下す男子たちを相手に悶着を起こし――彼との仲が近づいていく切っ掛けになる。

 

「・・・・・・お前は馬鹿だな。あんなことをすれば、後になって面倒になると考えないのか?」

「あん? ああ、あの事か。そうだな、考えねーな。許せねぇヤツはぶん殴る。大体、複数でってのが気に入らねぇ」

「・・・・・・・・・」

「だから、お前も気にすんなよ。前にしてたリボン、似合ってたぞ。またしろよ」

「ふ、ふん。私は誰の指図も受けない」

 

 腕を組んでそっぽを向く。1年前に出会った頃からは想像できないほどの軟化した対応。

 そーかと返事をして顔を洗う。冷たく心地よい井戸水で練習後の汗を流す彼の姿が、たまらなく好きになってきていた自分を自覚したのは、あの事件が起きてからしばらく後の事だった。

 

「――だ」

「うん?」

「私の名前は箒だ。いい加減、覚えろ。次からは篠ノ之ではなく、名前で呼べ。いいな?」

「わかった。俺は割と、身近なヤツの指図は受ける。――じゃあ、一夏な」

「な、なに?」

「だから名前だよ。俺のことも一夏って呼べよな。わかったか? 箒」

「わ、わかっている! い、い、一夏! これでいいのだろう!?」

「おう、それでいいぜ。・・・指図じゃなくて頼みなら、ちゃんと聞いてくれるんだな」

「ふ、ふん!」

 

 最後に強がりを残して立ち去る自分と、おかしな奴だなと爽やかに笑って見送る彼。

 季節は六月。もうすぐ夏が訪れる季節の太陽に照らされながら、オレンジ色の光景の中。

 

 ・・・・・・やがて、二人の影は徐々に重なっていき―――

 

 

「・・・・・・一夏」

「箒・・・・・・その水着、綺麗だぜ」

「バカ――♡」

 

 

 

 ――そして。

 

 

 

「・・・・・・あ、れ・・・・・・?」

 

 椅子に座っていた箒は、ぼーっとした頭で現実へと復帰してきたばかりの周囲の状況を確認する。

 壁の時計は、午後四時半を指し示していた。窓の向こうには紅くなってはいなくとも、三時間前よりかは水平線に近い位置まで高度を下げた太陽が視界に写る。

 

 そして、箒の見下ろす先にある眼下に見えるのは―――ベッドに横たわった三時間以上も目を覚まさないままな、包帯まみれの一夏の姿だった・・・・・・。

 

「夢・・・か・・・・・・」

 

 どうやら、うたた寝をしていたらしいと、先ほどまで見ていた思い出の中の光景を思い出し、ふいに苦笑させられる。

 罪悪感に苛まれながら、一夏の傍らに寄り添ったまま何時間もうなだれ続けていたことで、さすがに自分の体も疲労を覚えていたらしい。

 どんなに辛いときでも苦しいときでも――罪悪感で死にそうな思いに駆られていてさえ、人の肉体は疲れを感じて休みを取る。・・・それが妙に皮肉に感じられて、笑わずにいられなかったから。

 

(私のせいだ・・・・・・)

 

 そして改めて、傷だらけになった一夏の身体を見下ろし、リボンを失って力なく垂れたままの髪と同じように力を失った心の中で、そう思う。

 

「私のせいだ・・・・・・。私が、しっかりとしないから一夏がこんな目に・・・・・・・っ」

 

 そして今度は声に出しながら呟いて、自らを戒めるようにスカートを「ぎゅっ」と握りしめる。

 銀の福音迎撃作戦が、失敗を言い渡されて旅館まで撤退してから数時間が経っている。

 その間、自分のせいで一夏を傷つけさせてしまったと罪悪感に苛まれる箒は、一夏の姉である千冬から責められることなく弟の手当だけ指示するのを聞かされただけで作戦室へと籠もられてしまい、やり場のない感情の矛先を逸らす術さえ得られぬまま、ただただ無為に時間を浪費し続けることしか出来なくなっていた。

 

(私は・・・・・・どうして、いつも・・・力を手に入れると、それに流されてしまうのだ・・・!)

 

 そして、後ろ向きなマイナス思考に囚われ出した箒は、過去の出来事まで思い出して関連付けて、そんなことまで考え初めて罪悪感を感じる理由に追加し始める。

 

 彼女には昔から気にし続けて、コンプレックスになっている欠点があり、湧き上がる暴力衝動を抑えられなくなる瞬間があるのだ。

 いつも力を手に入れると、それを使いたくて仕方がなくなってしまうのだ。

 

 そのため箒は『自分を律するため』を目的に剣を学び始めたのだが、中学時代に姉と政府の都合で引っ越し続きで鬱憤が溜まり、剣道の全国大会決勝で『ただの憂さ晴らし』として対戦相手を叩きのめしてしまった。

 

(私は! ・・・いったい、なんのために修行をして・・・・・・!!)

 

 自らの暴力を押さえ込むための抑止力として学んだはずの剣を、ただの暴力として使ってしまった己が酷く惨めになって絶望した近い過去の出来事まで思い出し、自己嫌悪の海に沈み込む篠ノ之箒。

 

 

 ・・・・・・一体どういう理屈によって、『犯罪者は殺されていい』と見捨てたことを注意されたことでショックを受けて、戦場で敵を前に棒立ちになってたところを砲撃されて、味方に庇ってもらわないと死んでたかもしれなかった敗北理由と、『家庭の事情でムシャクシャしてたからサンドバック代わりに決勝相手ボコりました』という中学時代のヤンチャ振りとが関連できる部分があったのか今一よく分からない自己嫌悪の内訳だったが・・・・・・後悔とか罪悪感とかで苦しみたい気分になってる時って大体そんなもんなんだろう。多分だが。

 

 って言うか、全国大会の決勝に勝つため感情ブーストさせる理由に私情持ち込んでボコっただけで暴力になるなら、日頃から『哀と嫉妬と恥じらい』で素手の思い人に日本刀振りかざして相手の部屋の中で暴れ回って、学園の備品ブッた切りまくってる日常風景は彼女の中でなんと定義されているのだろうか?

 

 たぶん、『だからつまり一夏が悪い!』で済ませているのだろう。多分だが。

 自分が、後悔とか罪悪感で苦しみたいときだけ過去に苦しむ人の思考ってのは、そんなもんである。

 

(私はもう・・・・・・ISには・・・・・・)

 

 そうして色々考えまくった末に、彼女なりの主観的な正しい責任の取り方として、他人から見た客観的視点では迷走しまくった結果としか思いようない結論として、『自分専用機の最新鋭第4世代IS』を姉にねだって造ってもらったばかりでありながら、『自分にはISに乗って戦う資格ない』と主観的に判定くだして、自分にはそれしか出来ないと主観的に敗戦と失敗責任の取り方も独断で決定して、それを実行しようと心に決める。

 

 篠ノ之裁判長は、自覚ないけど結構、暴君。

 そんな風に篠ノ之箒が罪悪感から、主観的な一大決心を決めようとした、まさにその時。

 

 バンッ!! 

 という扉を開く大きな音と共に室内へと入ってきた小さな背丈の女の子は、言うまでもなく我らが英雄にしてドイツ代表候補生シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ――

 

 

「あー、あー、わかりやすいわねぇ」

 

 

 ・・・・・・ではなく、今回は中国代表候補の凰鈴音ちゃんでした。

 登場の仕方が似てたから勘違いしちゃいましたよ、失礼。てへッ♡

 

「あのさあ。一夏がこうなったのって、アンタのせいなんでしょ?」

「・・・・・・」

 

 遠慮なく入ってきた鈴は、うなだれたままの箒に話しかけてくる。

 けれど箒は答えない。答え、られない・・・・・・。

 

 

 ――余談だが、一夏がこうなった一件の原因とも言うべき密漁船が、戦場に紛れ込まないよう空域と海域の封鎖を担当してたのは訓練機部隊の先生たちで、その先生たちを指揮してた指揮官ポジだったのは織斑千冬IS学園警備主任。

 その彼女は作戦失敗してから、負傷兵の治療を指示して以降は作戦室に引きこもったまま出てこようとしていなかったりする。

 

 

「で、落ち込んでますってポーズ? っざけんじゃないわよ!

 やるべきことがあるでしょうが! 今! 戦わなくて、どうすんのよ!」

「わ、私・・・・・・は、もうISは・・・・・・使わない・・・・・・」

「ッ――!!」

 

 バシン!

 頬を打つ音が室内に響き渡り、支えを失った箒が床に倒れる。

 

「甘ったれてんじゃないわよ・・・・・・専用機持ちっつーのはね、そんなワガママが許されるような立場じゃないのよ」

 

 そんな箒を再度、鈴は締め上げるように振り向かせて、相手の瞳を自分の瞳で直視する。

 そこにあるのは真っ直ぐな闘志と、怒りにも似た赤い感情。

 

 

 ――どうでもいい話だが、こういう場面で箒の側から『殴ったな! 親父にもぶたれた事ないのに!!』とか言い返してきて、食って掛かってきてケンカになる展開って中々ないような気がするのは何故なのだろう? やりそうな性格の持ち主は多い気がするのだが・・・不思議である。

 

 まぁ、それはそれとして。

 鈴は最重要とも言うべき一言を言うべき時がきたことを自覚し、めんどうな発破がけの最後のキーワードを告げようとして、それで―――

 

「それともアンタは―――戦うべきときに戦えないお」

 

 

 

 

 バァァァァァァッン!!!!

 

 

 

 

「各々方!! 仇討ちであるッ!!!」

 

 

 

 ここでようやく真打ち登場! シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ!!

 鈴が立ってた床の下からバァン!と大きな音立てながら畳返しの要領で頭から出てきて、足下からコンニチハ。

 

 普段の登場の仕方で出てきたのが鈴ちゃんだったのは、登場の仕方を変えたことが原因だったようである。

 服装も今回の事件風にリニューアルして、箒よりも長い黒髪に、鈴よりも小っさい背丈でIS学園の制服の上から、黒と白のダンダラ模様の羽織をまとい、太鼓を持って、頭の上には小さな兜。

 

 まさにハイドらしい新ハイド・コスチュームだった。むしろ、こんな格好の奴がハイド以外にもIS学園の制服着てたら恥である。

 IS学園が変なの二人も入学許した、変人学園の汚名を着せられない為にも、ハイド一人の個性ってことにしといた方が多分だけど安全である。

 

「如何にも! 世は個性の時代であるからな! 常に同じ事ばかりしている者に明日はない!!」

「いや、誰も聞いていないのだが!? 誰に説明しているのだお前は!?

 あと、凰が吹っ飛ばされて頭からゴミ箱に突っ込まされたせいで大変な姿になっているのだが、それは!?」

 

 箒、思わず重体の一夏とか先ほどまでの自己嫌悪とか忘れて、目の前のことだけに集中して全力ツッコミ!

 って言うかコイツ、どっから出てきて何時からいたんだ!? 床の下ってそもそも出てこれるもんだったっけ!?

 色々な疑問を創造しまくりながら、いつも通りハイドはマイペースにハイド流の会話を貫く気もなく貫きます。

 

 あとハイドが転生してくる前にいたはずのリアル現代日本では、個性的であることが罪悪のように思われている昨今ですけど、コイツの中では現在進行形で『世は個性の時代』です。

 新しいものを生み出し続ける重要性を語りながら、語ってる自分は時代錯誤。それがハイド流の世界観。

 

「亡き幼馴染み織斑君の無念を晴らさんと誓い、一命を賭して必ずや仇討ちを果たさんとする篠ノ之君の覚悟と信念の強さ・・・・・・! このハイド、しかと見届けさせてもらった!

 たとえ学園側の意向に背くことになろうとも、愛する者を理不尽に奪われた愛と怒りと悲しみを剣に込め、思いのままに仇へと打ち下ろし、その無念と怒りを少しでも沈めんと欲する、その意思こそ人の道!! 天道を歩む者の態度成り!!

 まさに君こそ、現代に蘇りし大石内蔵助! あるいは! ギレン・ザビの亡霊かっ!!」

「い、いやあの・・・・・・だから私はISにはもう乗らないし、戦う気はもうない――って言うかお前、褒めてるつもりで私の決意とか想いを完全否定しているのだが・・・・・・」

「うむ! みなまで言うな分かっておる! 篠ノ之君の気持ち、このハイド。手に取るようだ・・・・・・ッ。

 敵を欺くにはまず味方からという汚名までも甘受して、ウツケを装い、耐え難きを耐え忍び難きを忍び、確実な仇討ち成功を目指さんとする、その想いッ。

 心中察するに余りある・・・・・・このハイド! 及ばずながら助太刀いたぁっす!!」

「え? え!? ちょっ、待っ! 違――っ!?」

 

 いつも通り、いつもの如く、ハイド的価値観による篠ノ之箒の罪悪感からくる責任取り方法のトンデモ解釈。

 基本的にハイドは他人の行動を良いほうに解釈して、良かった部分を褒めて、悪かった部分を責めることなく失敗した部分は気にしません。

 教育方針としては良い考え方なのかもしれませんけど、罪悪感とコンプレックス故の行動までポジティブシンキングで解釈されると却って辛いんで普通の人は止めてあげましょう。

 ハイドは普通じゃないので止めませんが、止めろと言っても無駄だからこそ普通じゃない人なのですが。

 

「さぁ、いざ参らん! 亡き織斑君の仇の待つ海上へ! 狙うはシルバリア・ファミリー・ゴスペル君の首一つ!!

 必ずや憎むべき怨敵ゴスペル君を討ち果たし、その御首を織斑君の墓前に捧げ、無念のうちに非業の死を遂げた彼の御霊を慰めようぞ!!」

「いや、死んでないのだが!? 一夏はまだ死んでない! 勝手に殺すな! あと仮に死んだとしても変なものを墓前に捧げようとするな! 祟られるわ!

 却って一夏の霊が罪悪感で地縛霊になってしまうかもしれんような真似をするんじゃない!?」

 

 箒ちゃんも、ようやくその点に気づいてツッコミ始めます。

 そう、まだ一夏は死んでいません。助かる見込みは絶望的判定受けちゃってますが、それでも“まだ”死んでません。今はまだ。

 

 なので、生き残れる可能性がある間は、死んだ前提での可能性話は止めてあげましょう。

 言った言葉が現実の事態になっちゃった時とかにトラウマになっても知らんよ? ハイドの場合はなりそうにないので微妙だけれど・・・・・・。

 

「仇討ち作戦への出撃を前に、織斑君への想いを句にして捧げよう・・・・・・。

 “風誘う、花よりも尚、雨も滴る五月かな”――よし、では出陣!!

 敵は海上にあり、狙うはゴスペル君の首一つ!!」

「だから要らんと言っとろうが! それとチョイスも縁起が悪いのを混ぜるな! それは恨みを晴らそうとして果たせず死んだ主君と、恨みを晴らした後に負けて死んだ武将の言葉だろうが!?

 あと、お前はいったい何処の国の何人なんだ本当にぃぃぃぃ――――ッ!?」

「ハッハッハ!! 細かいことは気にするでない! 皆が出陣の時を今か今かと待ち望んでおるのだ!

 残るは大石箒殿による決行の下知を待つのみ・・・・・・さぁ、御城代! 決断の時であるぞ!!」

「私はいつから城代家老に!? そして仇討ちを何時やるかだけで、実行そのものは決定事項なのか!? 私の意思は!?

 ちょ、止めろ離せ! まだ心の準備が出来てな―――私はまだ決めてな~~~~ッい!!」

 

 

 ・・・・・・こうしてズルズルと本当に引きずり込まれて退路塞がれ、仮に止めたくても止めれない状況へと連れ込まれていく箒ちゃん。

 彼女から見た主観では、客観的に見て自分は自主決定をさせてもらえず、強引に他者の意向だけで仇討ち予定騒動(まだ死んでないので今のとこ予定)に巻き込まれて抜け出せなくなった被害者なのだが。

 

 ハイドの主観では、箒は最初から仇討ちする気満々で、味方をふるいにかけるため敢えて怯懦を装い、ウツケを演じて仇討ちの意思と覚悟を密偵たちの目から隠そうとしているだけ―――という風に解釈されて信じ込まれていた。

 

 大いなる時代錯誤によって、廊下を引きずられながら戦場へと強制的に帰還させられていく篠ノ之箒。

 彼女が進まされる先の未来に待つのは、勝利の栄光か? それとも敗北による不名誉な死か? あるいはハイドによるギャグ展開の脇役ポジションか?

 

 今の時点で知る者は誰もいない・・・・・・。

 ただ一つだけ、分かっていることとして。

 

 

 

 

「う、う~~ん・・・・・・尻、が・・・・・・鈴の尻が、目の前・・・に・・・・・・ZZZ」

 

「・・・・・・ムキュ~~~・・・・・・(; ̄ェ ̄)」

 

 

 

 ゴミ箱に頭から突っ込まされてったまま放置されてる鈴は、尻を冷やさないか心配という点だけである。

 それしか未来のことは分かりようない世界観だから・・・・・・

 

 

 

つづく



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IS学園の言霊少女から《インフィニット・ストラトス》に来た男

*説明忘れてましたが、今作は作者が昔書いた【IS学園の言霊少女】を下地として書かれた作品ですので、元ネタ二次見ないと分かり辛い不便な仕様になっております。


 

 ――ある朝、目を覚ますと。俺は黒一色の通路の中を一人で歩かされていた。

 なぜ歩いているのかは分からない。何処に向かって通路を歩いているのかさえ分からない。

 なにも分からないのに、何故だか、歩かなければいけない。進まなければいけないという想いだけが胸の中から若き上がってきて、俺は何時間もの間ひたすらに、この暗い暗い通路の中を、ただ延々と歩き続けて今に至っている――。

 

 やがて歩き続けていく中で、色々なことを思い出せなくなってきてしまった自分に気がつく。

 何かを忘れて、何を忘れたのか思い出せなくなってしまい、忘れた何かと一緒にいた誰かのことも次々に忘れてしまって、思い出せなくなった後には気にならなくなる。・・・その繰り返し。

 

 そして俺は、ふと――俺とは誰だったか?という疑問を抱く自分に気がついたとき。――通路の先に灯火が見えた気がしたのだ。

 

 灯火に向かって歩み寄っていった俺は、光に近づくにつれ通路が狭苦しい造りになっていっていることが分かってきた。

 まるで洋服をしまった押し入れの中のように、暗闇で形の見えない服がいくつもハンガーに掛けられ、通行者の行く手と視界の上半分を遮り続け、前屈みの姿勢になって進んでいった先に―――光が漏れている半開きの扉があった。

 

 その扉へと歩み寄った俺は、ドアノブに手をかける。

 

「・・・・・・」

 

 ―――そして無言のまま、懐に手を入れて一枚の手拭いを取り出すと丸い球状になるよう握り直す。

 

 そして・・・・・・バタン!!と音高く扉を開けた瞬間に、ポイッと手拭いを先に扉の外へと放り投げ――1,2,3,4・・・5ッ!!

 

「とうッ!!」

 

 飛び込み姿勢で頭を低くしながら扉から飛び出し、着地と同時にでんぐり返しの要領で前方へと三回転ほど転がった状態で進んだ直後に立ち上がって、即座に横っ飛び!!

 

「――む。誰もいない、か。てっきり槍衾で仕留めてくる算段かと思ったのだが・・・」

 

 扉を開けて入ってくる敵兵を待ち受けさせるため、伏兵が廃されているものとばかり思ったのだが、杞憂であったらしい。

 かつて京都の治安維持を担う新撰組が、不逞浪士が立てこもる家屋へ踏み込んだ際、待ち受ける側の浪士たちは敵が入ってきた直後に数人がかりで槍を突き出し、槍衾の滅多刺しで攻め込んでくる側を迎撃する兵法を多用したと聞く。まさに天晴れな武士道なり。

 

 戦とは殺し合いであり、首の掻き合いに道理なぞなく、使える手は何でも使ってこそ相手の覚悟に応えることが出来るというもの。

 

 武士の礼とは斯くありたいと俺は常々思っていたものだ。―――多分!! なんか思い出せなくなってきたので微妙なのだが、多分そう思っていたような気がする。

 ならば俺は、そう思っていたのである。分からぬ時は、ただ突っ走る。

 日ノ本の男子たるもの、突っ走ることしか知ってはいかん。そんな気がするのだ、なんとなくの話だが。

 

 そして、自分が立てた騒音が収まった後。

 その音に呼び寄せられたらしい別の足音たちが、此方へ向かってドタドタ騒がしく駆けてくるのが感知できた。

 

『なんだ今の音は!? なにが起こって――なっ! こ、こいつぁ・・・・・・っ』

『アイツ! どうやって逃げ出しやがったんだ!? 探せ! まだ遠くに入ってないはずだ!』

 

 スーツ姿の男たちと、若干名の女子が混じっている集団が乱入してきた時。俺は当然、近くの物陰に逃げ込み、相手の数と装備と技量を推し量るため息を潜めて隠れ潜んでいた。

 敵の数も分からぬまま戦を仕掛ける阿呆は居らぬ。攻めるべきは攻め、攻めたからには勝つ。それが戦ぞ。戦は勝って終われねば、戦う意味など微塵もなし。

 

『畜生! 姉が姉なら弟も、ただのガキじゃなかったって事か! あの“クソガキ”めッ!!』

「・・・・・・」 

 

 黒づくめに、黒き帽子。黒い色グラス・・・・・・現代に生きる密偵のごとき風体をした男たちだったが・・・・・・俺を探し出すため四方に散る際、懐から得物を捕りだして構える姿を目視することが出来た。

 ならば――あとは簡単だ。楽な戦である。

 

「応。お前らの探し人は、俺かい?」

『ッ!? ガキッ! いつの間に――殺』

「遅ぉぉぉっい!!!」

『な!? は、速――ッ!?』

 

 それだけ言って、俺は駆けた。――敵のいる陣に向かって、突っ走りはじめる!!

 自分たちが探す敵から声をかけてくるとは、『お前を殺す』と告げるときの声!

 殺める覚悟、殺めるための道筋を全て決めた後であるが故に放つ、終いの言葉!!

 それを言われた以上は、逃げねば死ぬ! 逃げられねば死ぬ! 逃げ延びられねば死ぬしかなし!!

 

 此処が何処で、俺が誰なのかもサッパリ皆目見当つかず! 夢か現実か何も分からぬ現状なれど!

 敵を前にして、殺すための得物を抜いて構えたからには、勝ち負け定めぬまま収まる刃は存在せず!!

 

「おおおぉぉぉぉぉッ!!! その首置いて――痛てっ!?」

『『――へっ・・・?』』

 

 ずてんッ!! ドシャ―――ッ!!!!

 

 ・・・・・・いかん。敵陣まで駆けてく途中で転んでしまった。額を切って、鼻を擦りむいてしまったかもしれない。

 と言うか、何やら身体が思うように動かない上に、視線が妙に低くて目測を読み違えやすく、腕と足が敵の首に届きそうで届かなそうで、たぶん届かないんじゃないか?という疑惑の方が俺の中で強くなってきていて――って、あれ?

 

「こ、これは・・・・・・俺の身体が縮んでいる!!――ような気がする!! あんま覚えてないから分からんが!

 一体これは、なんじゃコリャ――――ッ!!??」

 

『『・・・・・・・・・』』

 

 俺は未知なる謎の怪奇現象を前にして、雄叫びを上げていた! 上げずにはいられなかったのだ!! 

 何故なら俺の腕が! 俺の足が! 得物を持つべき右腕が!! 俺の記憶にある俺の身体よりも遙かに短く、そして小さく縮んでしまっていたからである!! 多分だがな!!

 昔のことを色々忘れてしまっていて思い出せないため、確かなことは何も言えん!! だが、なんとなく! なんとなく縮んだような気がするのだ! 俺の記憶の中にあるはずの俺の身体よりなんとなく!! こればかりは勘働きしかないっ!!

 

『あー・・・・・・よく分からんが、もういい。このガキは、ただのアホだ。

 適当に足とか腕でも撃って静かにさせとけ。ブリュンヒルデが来るまで死んでなけりゃ、それでいいだろ』

『・・・ですな。それじゃ、Yes.S――』

「ならば、ふんっ!!」

『え・・・・・・?』

 

 身体が思うように動かせないと言うことが分かった俺は、ひとまず今の自分がどれだけのことが出来、何が出来ぬかを確かめながら戦うため、軽く跳躍して相手たちの直中に飛び込んでいく道を選択しておいた。

 

『なっ!? コイツなんてジャンプ力を――!! う、撃つな! 味方に当たヒデブッ!?』

『ジェームズッ!? このガんっぱらばぁぁぁッ!☆△×?』

『ご、ゴードォォォォォッン!?』

 

 単筒だけで小刀も抜いていない敵陣に入り込んでしまえば、互いが互いを邪魔し合ってしまい多少の身体的不自由は相手も条件を同じくすることが可能となる。

 その状態で、まず最も腰が引けている奴を襲って得物を奪い取り、奪い取った得物で最も威勢がいい奴をブン殴って倒せたなら、敵の士気は一気に低下する。

 多対一での戦場における兵法の鉄則だ。それすら知らぬとは・・・・・・読めたな。

 

 こいつら暴力の玄人だが、戦の素人だ。五分の敵と死合った経験が薄い。

 

「まぁ、身長的にはコチラが有利かと、股間を切り上げてやったのが効いたようにも見えたが・・・・・・気のせいだろう。

 それより適当な得物を持っていないか、少々拝借」

 

 二番目に倒した最も威勢がいい、今は泡を吹いて逸物を押さえている黒服を倒した得物の単筒をテキトーな場所に放り捨て、俺は素手のままや鈍器だと戦いづらそうだったため、倒した敵兵の中から使える刃物を隠し持ってないか弄ってみることにした。

 

 単筒は重さと堅さはあるのだが如何せん、長さが足りなすぎる。

 重さは今の身体的にコレぐらいあっても良いような気もするのだが、逆に長さは全く足りていない。

 やはり日ノ本の武士として、刀か何かがあってくれるのが一番使いやすいのだが――お、コレは・・・。

 

「ふん・・・西洋の短刀か。長さは余りないが、反りがほとんどない所は勤王刀に近い、か。

 気に入らんが、まぁ贅沢が言える状況でもなさそうだし仕方なしとすべき事か」

 

 何人目かの奴から奪った、比較的長めの短刀を鞘から抜いて軽く素振りをしてみる。

 刃渡りはコレくらいあっても良いと思うのだが、反りが乏しいのは物足りなくもある。「突く」にはいいが「斬る」には向いていない類いの形状をした刀剣だな。

 

「何より名前が良くなかったからな、《勤王刀》は。

 もっとこう・・・・・・《勤乳刀》とかなら好みになれたかもしれんと思うのだが――」

 

 ふぅ――と溜息を吐きつつ、新たに手にした得物を下ろし。・・・そして振り返る。

 いつの間にやら現れていた、若く女の声で呼びかけられた背後へと――。

 

『――私が留守にしてる間に、ずいぶんと好き勝手してくれたみてぇじゃねぇか。この私の子分共をガキごときがブッ倒してくれてよぉ、マジでムカつくぜクソガキ』

「・・・・・・」

 

 ――蛇を思わせる切れ長の目をした、巨乳の女だった。

 今までの長く苦しい戦いによって、デカぱいスカウター無しでも相手のバストサイズを見ただけで感じ取れるようになってきている俺の目測によるならば、おっぱい力3000近い。

 かなりのエリートおっぱい戦士だと高評価して良いほど、いいオッパイの持ち主だ。

 まぁ多少、目つきと顔つきが露悪趣味が強すぎて、悪ぶるのが格好良いと思っている中学生のごとき表情が20代後半ぐらいの実年齢とミスマッチというか、無理して若い子のマネしてる感が悪目立ちして実際より老けて見えるって言うべきなのか。

 

 とにかく。そんな感じの欠点はあるものの、オッパイに関しては文句なく、良いデカパイだと断言できる。

 大きいことは良いことだ。大きいオッパイは、それだけで価値があり、オッパイが小さいと言うことは存在そのものが小さいことを意味するに他ならない。

 それこそ、この世の――真理ッ!!

 

『オイ、聞いてんのか? 本当だったらテメェみてぇなクソガキは今すぐ殺しちまうところだが、あのブリュンヒルデが相手じゃ人質無しだとキツいのは確かだからな。

 姉貴が来るまでは生かしておいてやる。分かったらとっとと部屋に戻りやがれよ、このガキ』

「・・・・・・・・・」

 

 邪悪な風に表情と顔を歪ませながら、喋るたびに長い舌をチロチロと飛び出させて語りかけてくる―――えっと・・・・・・オッパイさん。

 彼女の話に俺はひたすら無言を返事とし、唯々ひたすらに喋るたびに揺れるデカパイだけを確りと、目を反らすことなく真っ直ぐに、心の目と身体の目の双方に焼き付けるほどの覚悟と信念と想いを以て、ただジーッと凝視し続けていたわけであるが。

 実のところ、そうしているのには理由がある。

 

『・・・おい、ガキ。無視してんじゃねぇぞ。秘密結社『ファントム・タスク』が一人、このオータム様がテメェみたいなガキに冗談でも話してくれてるとでも思ったら大間違――なにっ!?』

「ふんっ!!」

 

 ガキィィッン!!!

 瞬時にして間合いを詰めてから、左下から右上へと切り上げる斬線で以て刃を振るい、相手もまた隠し持っていた暗器らしき武装を使って防ぎきり、鍔迫り合う形となった俺と相手は上と下の位置関係は違えども、互いに相手と至近距離で顔をつきあわせて睨み合う。

 

 先の一戦と素振りで、大雑把には今の自分の身体と得物の特性は理解した以上、この程度は容易い。

 だが、さすがに敵の大将格というべきか。この程度で本調子にはほど遠い俺の一撃では傷一つつけられずに防がれてしまう。

 

『テメェ・・・・・・はッ!! 人が話してる最中に不意打ちとは、中々やるじゃねぇか。見直したぜクソガキ。私も好きだぜ、そういうのはさぁ。ギャハハハっ!!』

「――分かんねぇよ・・・」

『あァん? 今なんか言ったか? クソガ――』

「分かんねぇ、つってたんだ――よッ!!」

 

 ガキィン!!

 刃音を響かせ会いながら互いに距離を取る俺と、敵のオッパイさんによる二人組。

 互いに刃を合わせ会いながら、俺はまだ相手のことを全く読むことが出来て居らず、他の雑兵たちとは比べものにならない強さを持った敵将であることだけは間違いない女を前にして―――たった一つだけ敵について分かることが出来た事。

 

 その一つのみを、俺は声を大にして世界に向かって――問いを叫ぶ!!

 

 

「分かんねぇよ・・・・・・っ、アンタらが“何言ってんのか”さっぱり分かんねぇ!!

 ここがどこで何語しゃべってんだかサッパリ分かんねぇと、返事できねぇんだよ!!

 現代日ノ本語でしゃべれよ!! 日ノ本語しゃべれねぇんだったら――女だから斬らずに脱がす!! 女を斬るは刀の穢れであるが故に!!!」

 

 

『・・・・・・は? お前なに言って――あ!

 テメ、もしかしてモンド・グロッソ見に来たくせして、ドイツ語しゃべれねぇんじゃ―――ッ』

 

 

「流派! 魔乳刀殺法殺人剣は王者の風よ! 全身痙攣! 電波厨二! 視よ!!

 東方プロジェクトは紅く萌えているヒート・ブレェェェェェェッド!!!!!!」

 

 

 ずぱぁぁぁぁぁぁぁぁッン!!!!!

 ――気合い一閃!!

 ・・・・・・パラ、パラ、パラ・・・・・・。

 

 俺が駆け抜けながら放った斬檄は、狙い違わず相手の服だけ切り捨て、白い玉のようなオッパイさんの肌には傷一つつけることなく、ドレスブレイクさせることに成功した!!

 

 フッ・・・・・・我が剣の結果ながら惚れ惚れするオッパイだ。その肌を晒されて負けたことを恨むのであれば、己が未熟さを恨むがいいオッパイさん・・・・・・

 

『て、テメェ・・・・・・! ガキの癖によくも、このオータム様に恥を掻かせやがったな! いい度胸だ殺してやる!! ブリュンヒルデがどうとか、もう関係ねぇ! 手加減抜きでテメェから殺してやるから覚悟しやが―――!!』

 

 

「だから女は斬らんから倒されろと言ってるだろうがァァァァァァァッ!!!!」

 

 

 ズゴォォォォォォッン!!!と!!

 俺は、女を殺すことへの哀と怒りと悲しみを込めたゴッド峰打ちを、オッパイさんの脳天に叩き込む!!

 

 

『ふんべぇぇぇぇぇぇぇッ!?☆◆▲!?!? ・・・・・・が・・・・・・ガクシ・・・』

 

 

 そしてオッパイさんは、静かに意識を失って冷たくなったのであった。

 全裸でだが。

 う~む・・・・・・何度見ても、良いオッパイだ・・・・・・。

 

 ・・・・・・ただ、俺はどこかでコレ以上のオッパイを見ていた気がする。

 決して大きさでは一番ではないけれど、それでも大きく、そして触り甲斐のある、乗り越える障害が高ければ高いほどレアな萌え要素が追加される、俺にとって理想のオッパイを。

 俺にとって、帰るべき場所で待つデカパイが――どこかで俺を呼んでいる声がするような・・・・・・そんな気が微かに。だが確実にしている。そんな気がする・・・!!

 

 

「一夏ぁぁぁぁぁッ!!! 大丈夫か一夏!? 今助けてやるからな!

 お前を浚って怖い目に遭わせた奴らなんて、お姉ちゃんが一人残らず八つ裂きにして膾切りにして根切りにして、報いをくれさせてやってそして!!・・・・・・って、あれ?」

 

 

 

 

 ・・・・・・こうして、異なる平行世界で一人の少女と出会ったことで、最強の人斬りとなっていた可能性世界の織斑一夏の魂は時間を遡って逆行し、過去転生して改めて、自分の物語を変わってしまった自分になった後の状態で1から再スタートさせることになる。

 

 織斑一夏、『オッパイ人斬りになって強くてニューゲーム』は、こうして始まる。




*文字数的に前書きからあとがきに移動させた文章です。

今作は、IS原作の連載作を書いてる途中で煮詰まっちゃったから、気分転換用に書き殴っただけの代物です。
アイデア帳とでも思っといてください。前から思いついてはいたけど、書く気はなかったアイデア作品。
まっ、こういう展開も無くはないぐらいの認識でドゾ。


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IS学園のひねくれ少女 第25話(書き直し原作版)

出発途中ですが、書き直した【25話】を再投稿しました。
コチラは原作ストーリー寄りになってます。コッチの方が続けやすそうだと思いましたので…。

他のIS原作の作品も順次更新目指すつもりです。


 合宿二日目の午前中。今日は夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われることになっている日だった。

 ちなみに現在地は、IS試験用に旅館から宛がわれたビーチで、四方を切り立った崖に囲まれている、ちょっとした秘密のビーチみたいっつーより、秘密基地のマシン出撃ポイントみたいな場所。

 学園アリーナを連想させるドーム状で、一度水面下に潜って水中トンネルを通らないと大海原に出れないところなんか、完全に正義の秘密ヒーロー戦隊の基地だよな。

 もしくは『紅〇豚』

 

 俺たちIS学園一年生全員は、その場所にずらりと並ばされていた。

 そして今、

 

「ISのコアはそれぞれが相互情報のためのデータ通信ネットワークを持ってます。これは元々広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたもので、現在はオープン・チャンネルとプライベート・チャンネルによる操縦者会話など通信に使われてます。それ以外にも『非限定情報共有』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化の糧として吸収しているということが近年の研究でわかってきました。これは制作者の篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため現在も進化の途中であり、全容は掴めてないそうです」

「さすがに優秀だな。・・・・・・そんなお前が何故、遅刻しそうになったかは分からんが――」

「はいッ! 隣の部屋がセレニアたちの部屋だったのでイロイロ気になっちゃって眠れなかったからです!

 離れてる間に自己進化したオッパイのサイズとか3サイズとかブラジャーのサイズとか! 全容が公開されない部位の情報なんかが、隣の部屋では展開されてると思うとリビドーがですね!?」

「黙れ変態! 修学旅行中の男子高校生かお前はッ!?」

「抱~~~ッ失!?」

 

 

 バッコ――――――ン!!と。

 ・・・・・・海を背景にして、セカンド幼馴染みが宙に舞わされる姿を披露していた・・・。

 久しぶりに再会した幼馴染みの女の子が、会わない間に別人レベルで変わってしまってたって話を五反田からよく聞かされるけど・・・・・・俺の再会した幼馴染みは全く変わってなさすぎるのが逆に気になりすぎる・・・。

 少しは変わって欲しいと素直に思う。もしくは、今のお前に変わる前に戻ってくれ。昔のお前はそこまでじゃなかったと思うぞ、鈴。たぶんだけれども。

 

「ハイッ! 織斑先生っ!!」

「・・・・・・なんだオルコット。なにか意見でもあるのか? 戯れ言はともかく、ISコア・ネットワークの説明については補填すべき点は無かったと思うが――」

「わたくしもセレニアさんのイロイロな部分が気になってしまって、なかなか寝付けませんでしたわ! あーんな事とか良いな、こ~んな事とかデキたら良いなとか!

 決して鈴さんだけが熱い想いを、夏の夜のモンモンとした悩みを抱いていたわけではないことを解って頂きたいのですわ切実に!! ええ切実に乙女としてッ!!」

「文明崩壊した世紀末世界の中心で叫んでこい! このアホ同類―――ッ!!!」

「アウ~~~ッシ!?」

 

 

 バチコ――――――ッン!!!と。

 ・・・・・・・・・そして海をバックにして、宙を舞わされる同級生二人目・・・。

 なんなんだろう、この状況・・・。たしかIS学園は国立の超エリート校で、代表候補生は選ばれて選出されたエリートだと聞かされた記憶があるのだが・・・バカたちの別名としか思えなくなってきた自分がいる・・・。

 

「どうしましたお母様!? お顔が真っ赤です! おなか痛いですかっ! ラウラ、ポンポンのお薬もらってきますです!!」

「・・・・・・・・・大丈夫ですから、気にしないでくださいボーデヴィッヒさん・・・・・・。

 大丈夫です、問題ありませんからダイジョウブ・・・・・・」

 

 そして隣では、昨日に引き続き巻き込まれダメージを受けさせられ続けて蹲って顔隠してる旧友の姿が・・・。

 なんかもうグダグダだが、これが中学時代に鈴と同じクラスだった頃には、途中から日常化しちまってたんだよなぁー・・・。久々に日常が帰ってきたような気になっちまってる自分の神経が、実は少しヤバくなってんじゃねぇかと思わなくもない、中学時代の旧友たちが一堂に会しちまっている高校入学後の今日この頃。

 

 ってゆーかセレニア。今回の臨海学校ではほんともう、コイツにとって厄日状態になってるよな完全に・・・。なんか前世でやったとかで呪われてでもいるんじゃないかってレベルで初日から酷すぎる。

 あるいは、ラウラが来たっていうパラレルワールド版の別セレニアが、なんか海でやっちまってた報いとか。そういう非科学的なことさえ普通にありになってきてる感じがする、今日この夏の日な俺、織斑一夏であったとさ。

 

「ハァ、ハァ・・・ええい、もういい! アイツらは一端放っておいて、各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行っておくように! 専用機持ちは専用パーツのテストだから、バカ共2人も忘れるなよ!? 篠ノ之は用事があるから、ちょっとこっちへ来いっ。

 では全員、迅速に準備を行えッ!! 」

『は~~~い』

 

 と、ハァハァ荒い息を吐いて肩を怒らせていた千冬姉からの号令に従って、全員が一同に返事をするとそれぞれの場所へと移動を開始。なんの用事かまでは分からんけど、打鉄用の装備を運んでいた箒も千冬姉に呼ばれてそちらの方へ。

 

「・・・・・・はぁ、ふぅ・・・・・・で、ではボーデヴィッヒさん。私たちも準備を始めましょうかね? 重たそうですけど、ソッチを持ってください。自分が使うものなんですから、力一杯持って壊しちゃったらダメですからね?」

「ハイです! ラウラお母様のいいつけを守るイイ子になるですから大丈夫です!

 ちゃんと頑張って壊れないように力いっぱい運ぶです!!」

「いやまぁ・・・・・・いいですそれでもう、面倒くさいから・・・・・・」

 

 そして娘のために気合い入れて復活したセレニアに呼ばれて、ラウラも自分の機体シュヴァルツェア・レーゲン用の新装備が置かれている方へトテトテと。

 最近は落ち着いてきてたのだが、海に来てから再び情緒不安定になったらしいお子様状態のラウラは、セレニアが側にいないとIS操縦者としては使いづらいとのことで、別に国家代表候補でも何でもないけど一緒にテスト実験やらされる羽目になってしまった我が旧友。

 

 ホントもう、今回は散々すぎるなアイツは・・・・・・そんなことを思いながら俺も、新装備つけられないから試験中はやること少なそうながらも自分の持ち場へと行くだけ行くか。――そう思っていた。その瞬間のこと。

 

 

「―――――ち~~~~ちゃ~~~~~~ッん!!!」

 

 

 聞き覚えのある声と口調と呼び方が聞こえてきて、『ずどどどど!!』という凄まじい足音が砂煙を上げながら、見覚えのある気がする人物が関係者以外立ち入り禁止の合宿所ビーチに向かって急速接近してくる姿が視界へと乱入してきて、千冬姉に向かって飛びかかってきて、そして・・・・・・!!

 

 

「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、愛を確かめ合うためハグハグし―――」

 

 

 

「あっ!! お人形さん遊びが好きで、いつもISお掃除してる“変なオバサン”です!

 お久しぶりです! ISお掃除係の変な“オバサン”!!!」

 

 

 

 がっくん!! ズザァァァァァァァッ!!!!!

 ・・・・・・途中で、瞳をキラキラさせてるお子様ラウラに呼ばれた一言によって、空中で急激に角度を変えてから砂浜に頭から激突。そのままヘッドスライディング。盛大に砂煙と砂埃を舞い散らかしながら進んで、ようやく停止する・・・。

 

 たぶんISっぽい何かをつけてたから可能になってた空中での進行方向変更やった結果なんだろうとは思うのだが――何のための機能で、なんの役に立つ行為だったのかは全く分からない・・・。

 

 無駄じゃね? あの無駄にスゲェ機動・・・・・・。

 自分が損して痛い思いするだけしか役立ちようがない超機能であり機動だったような気がするのは俺だけなんだろうか・・・?

 あと、ラウラが言ってた相手って、やっぱり束さんだったのか・・・。

 条件満たせそうな人はたしかに、この人しかいないとは思ってたけど、人形遊び好きで掃除って・・・・・・何があったんだパラレルワールド束さん・・・。

 

 まぁ、何はともあれ。

 希代の天才にしてISの生みの親であり、箒にとっては実姉である人、篠ノ之束さんが堂々と乱入してきた事だけはたしかなようである。

 

 年齢はたしか大体、二〇代後半。

 小学生レベルの精神年齢になってる今の状態のラウラから見れば・・・・・・まぁ、“オバサン”と呼んでしまう年齢に見えても仕方がないし悪気はない人だと、俺は信じている人でもあった――。

 

 

「・・・・・・う、ぐ・・・お・・・ば・・・・・・」

「うるさいぞ束。――それと、大丈夫か?

 肉体の方は丈夫そうだが、不意打ちによる鼻血と鼻水で顔が酷いことになっているのだg――」

 

 

「だ・れ・が・オバサンだコラ――――――――――ッッ!!!!!!」

 

 

 ドッカーン!と来た。・・・普通は来るだろうけどな。

 二十代後半女性をオバサン呼ばわりできてしまえる、お子様精神は考えてみるとスゲェっつーかヒデェ。

 

「ぐぬぬぬ・・・・・・ふんっ! まぁいいもんね、どーせ図々しくて品のないドイツ娘なんて束さんは嫌いだもんね、やっぱ日本人と日英クォーターだよね。箒ちゃんとちーちゃんといっくん以外は日本人もどうでもいいんだけど。やっぱ日英クォーターさいこー――」

「??? なんかオバサンお洋服ちがってないです?

 体じゅう真っ黒黒スケさんで、マントをばさっ!てやってて、えっとたしか、『東方不敗マスター束から東西南北中央不敗スーパー束に、私はなる!』って言ってた時のお洋服、棄てちゃったです?」

「誰だよ!? その変すぎる上に図々しいにも程があること言いまくってた女は!? 束さんは言った覚えないんだけど! そんな格好した記憶もないんだけど!

 天災とは名乗ってるけど、『スーパー』とか『マスター』まで名乗ってた覚えはなぁぁぁっい!?」

 

 そして、お子様メンタルと異世界記憶が混在していて違いが分からないラウラを相手には、自分のペースが通じてくれずに怒鳴り散らすことしか出来なくなっちまってる束さん。

 理屈が通じる状態の時だったなら多分、大丈夫だったと思うんだけどなぁ・・・・・・今の時のラウラだとちょっとな・・・・・・完全に「??」って頭に何個もハテナマーク浮かべて見上げてくることしか出来てないぞさっきからずっと・・・。

 子供相手に束さんの悪口並べすぎる癖は、言い回しが難しすぎて伝わらないみたいだった・・・・・・踏んだり蹴ったりな人がもう一人来てくれて良かったな、我が旧友よ・・・。

 

「ぐぬぬぬぅぅぅ・・・・・・!! ええい、そんな事どうでもいいんだよ! そんなことより、え~と――あ! いたいた、ヤッホ~♪

 えへへ、久しぶりだね~箒ちゃん♡」

「・・・・・・どうも」

「こうして直接会うのは何年ぶりかな? オッパイは大っきくなったかな? お尻は大きくなりすぎてないかな? キチンと上向いてて垂れてないかな? この年から垂れると流石にキツ――」

「きゃあッ!? ――死ね! この変態バカ姉ッ!!!」

 

 ごがきんっ!!

 ――もの凄い音がビーチ中に響き渡り、箒にすり寄って胸やら腰やら尻やらをワキワキした手で触り始めた束さんの頭を、怒り狂ったらしい箒が情け容赦なく、こんな所まで持ち込んできてた日本刀でぶっ叩いて静かにさせる苛烈な姉妹のスキンシップ。

 抜き身の刃ではなく、鞘で叩くだけで終わらせてるのは姉妹愛故と言えない事はないのだが・・・・・・俺の部屋にラウラが寝ぼけて裸で不法侵入してきた姿を見たときには、こんなもんじゃ済まなかったからなぁ・・・・・・ただまぁ。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁッ!? 頭がッ! 後頭部が陥没したように痛いィィィィィッ!?!?」

「ふんッ!!」

 

 

 額を押さえ、頭から盛大に血を吹き出しまくりながら砂浜をのたうち回る束さん。

 そりゃまぁ、『鞘で叩くだけ』つったって、刀が中に入ったままの状態で鞘で頭殴っちまったら普通に鈍器だし。

 刃が出てないから斬れないってだけであって、棍棒だろ普通に。中に鉄の棒が詰まった棍棒で殴られたわけだから、そりゃあ痛い。

 箒のヤツ、まだ束さんのこと許してないのは伝わってきたけど・・・・・・そろそろ『頭に来たら刀で解決する方針』は改めさせないと本気でヤバいことになりそうな気がしてきたな本当に・・・。

 

「あ、あの~・・・・・・篠ノ之束さん、ですよね? ISを開発した天才科学者の・・・えっと、この合宿では関係者以外立ち入り禁止になってまして、そのあのえっとぉ――」

「あたたぁ・・・・・・んんぅ~? 珍妙奇天烈なこと言うねキミは。ISの関係者っていうなら、一番はこの私をおいて他にいないでしょうが。あ痛痛痛ぁぁ・・・・・・」

「えっ? あっ、はい。そ、そうですよ・・・ね・・・? ん?

 あ、あれ・・・・・・? そういう問題なの、かな・・・・・・?」

 

 そして姉妹二人の間に入って止めようとした山田先生が轟沈。――させられたと思ったけど、なんか今のやり取りの内容に妙なモンを感じたのか疑問符を浮かべながらウンウン唸り始める。

 

 基本的になに言っても無駄で、好きにさせておくしかない束さんだけど、『天才』を自称するだけあって理屈がなんもないゴリ押しだけで要求通す展開は昔から好みではないタイプだったから、山田先生に誤魔化しが半端に通じなかったことで「チッ」と小さく舌打ちして周囲を見渡し、余計なことを言い出される前に次なる話題がふれそうな人物を探すようにして、そして――キラリ☆と瞳を輝かせる。

 

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

「えー? 別に束さんは赤の他人の生徒がいくら困ってても別にいいのに、めんどくさいなぁもう。――でもまぁいいか、今回は。

 私が天才の束さんだよ~♪ ハロハロ~♡ セレちゃーん、久しぶり~☆ 元気だった-? 相変わらず捻くれ可愛いね、愛してるよチュッチュッ♡ チュッチュッ~♡♡」

「・・・・・・・・・・・・ど~も」

 

 そして俺の背中に隠れたがるようにして、今日は珍しく何も言わず静かで目立つことすらなかったセレニアが、目線を逸らしながら束さんからの投げキッス連発と、周囲からの注目集めまくる状況からの回避策に利用しようとするのだが。

 

 ・・・・・・無理だろう、どう考えても・・・。

 本当に厄日としか思えないほど不幸に見回れまくってる、臨海学校来てからの旧友セレニアの現状。

 

 ってゆーかコイツ、昔から妙な知り合い多いとは思ってたけど、束さんとも知り合いだったのか。いつ知り合ってたのかまでは分からんけど、随分と仲よさそうだし、なんかあったのかな?

 

「姉さん、余計なことをしてないで要件だけを果たして、早く帰ってください。

 ――それで、その・・・・・・た、頼んでおいたものは・・・・・・?」

「んん~? ああ――んっふっふっふ~♪ 大丈夫ダイジョーブ、それはちゃーんと用意してきてあるよ。それじゃ上をご覧あれ~」

 

 姉の変態発言を注意しに行ったと思われた箒が、やや躊躇いがちな口調で声を小さくしてなにかを質問すると、束さんは直上の空に向かって「ずびしっ」と指さし、その言葉に従った周囲の生徒たちまで空を見上げると・・・・・・キラーンと、何かが光るのが見えて、それで。

 

 

 

『『のわぁッ!?』』

 

 

 ズズ―――ッン!!!

 

 

 いきなり激しい衝撃を伴って金属の塊が空から落下してきたのだった!

 銀色の扉らしき壁が、落ちてきた次の瞬間にはバタリと左右に倒れて現れになった、中身として収まっていたモノ、それは――

 

「じゃじゃ――ん!! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!!

 全スペックが現行ISを上回るお手製ISだよー!

 さあ箒ちゃん! 今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか!

 近接戦闘を基礎にして万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。あとはサービスで自動支援装備もつけておいてあげたからね! お姉ちゃんが!!」

「・・・・・・それでは、頼みます」

「んー、堅いね~。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーでフレンドリーでセクシーな呼び方で呼び合ってもいい気がするんだけど、まあいっか。じゃあ、はっじめっるよ~♪」

 

 コンソールを開いて指を滑らせ初めて、ぴっぽっぱと、口で言いながら素早くISのセッティングを終わらせていく束さん。

 態度はふざけていても、やっぱり超がつくほどの天才だと、改めて実感させられる光景だった。

 

 俺にとっては子供の頃に出会ってから見慣れていた光景だったこともあり、そういうものだと受け入れちまって素直に感嘆するだけで、特に他の感情が入ってくることも無ければ考えることもなかったんだけど―――ふと、背後にいる一般生徒の女子たちの一部から、こんな言葉が交わされているのを、俺は聞くことになる。

 

「あの専用機って、篠ノ之さんがもらえるの・・・・・・? 身内ってだけで」

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

 その声を聞き咎めたのか、他の誰より素早く反応したのは意外なことに束さん、

 

「おやおや、歴史の授業をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

 

 そして、

 

「と言うより、“ISを動かせるのは女性だけだから女は男より優れている”を大義名分として、生まれの上位性を制度化した社会が女尊男卑の世の中です。

 しかも国民の血税使ってタダで学べるIS学園の生徒でなりながら、こういう時だけ平等論を口にするのは都合が良すぎますし、些か“ズルイ”というものではないでしょうかね?」

 

 ――セレニアの二人だけだった。

 ピンポイントで事実を指摘して攻撃してくる束さんと、自分たち自身が言っていた言葉がブーメランになって自らを傷つける刃へと変貌させてしまうセレニアの矛盾突き。

 この二人を前にして、単なるイチャモン付けが敵うわけもなく、発言者たちは慌てて急な用事を思い出したり、トイレに行きたくなったりして逃げ出してしまい。

 

 残されたのは、意外そうな表情で擁護者たち二人を見つめる箒と、ニヤリと笑ってセレニアの顔を盗み見る束さん。

 そして、束さんの視線から逃れるように顔と視線を逸らそうとするセレニアと、そんな旧友の珍しい姿を見つめる俺の四人だけ。

 

「いや~、相変わらずの切れ味と容赦なさだね♪ セレちゃんの言刃に束さんは今日も痺れる憧れ~る惚れ~る濡れ~る、セレちゃんは段々と束さんにプロポーズしたくな~る――」

「なりませんし、知りません。わざとらしい五円玉揺らしも結構です。

 それよりホラ、なんか来たみたいですからアッチ向いてください。お姉さんたち、事件みたいですよ」

 

 そう言って話を逸らしたそうに語るセレニアだったが、言ってる内容そのものにはコイツの場合ウソがないのが毎度のパターン。今回もまた、その例に漏れることはなく。

 

「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生ッ!!」

「どうした? 山田先生。何かあったのか?」

「こ、こっ、これをっ!」

 

 いきなり山田先生が慌てながら駆けてきて、千冬姉に一枚の紙切れを手渡し、

 

「“特務任務レベルA、現時刻より対策を始められたし”・・・・・・だと?」

「そ、それが、その、ハワイで試験稼働をしていた――」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」

「す、すみませんっ・・・」

 

 そして何やら千冬姉と山田先生は小さな声でやりとりをしている。数人の生徒の視線に気づいてか、会話ではなく手話でのやり取り。

 しかも普通の手話じゃなく、千冬姉が昔、日本代表だった時に数回だけ見たことがあるのに似ている、おそらくは軍関係の暗号手話だと思われる特殊なもの。

 

 ・・・・・・よほど外部に漏れてはいけない、危険な情報が届けられたんだってことだけは分かるけど・・・・・・一体どんな話が二人の間で交わされてるのかまでは、全く分から―――

 

 

「えっとぉ―――“はわい沖で稼働試験中だった、あめりかといすらえる共同開発の軍用あいえす《しるばりお・ごすぺる》が暴走して日本にむかって飛行中。あいえす委員会から専用機持ちだけで迎撃するよう、極秘命令がとどきました”―――って言ってます」

 

『なぜバラす―――――――ッ!?(んですか――――――ッ!?)』

 

 

 そして、ラウラに軍用手話を読まれて、翻訳して語られてしまって、隠そうとした意味なんもなくされちまう二人の大人たち。

 そういや忘れかけてたけど、コイツも一応は軍人で、国家代表候補のIS操縦者だったんだよな・・・。

 このメンツの中だと当時の千冬姉に一番近い立場になってるヤツが混じってた訳だし、せめて少し離れた場所でやった方が良かったと思うぞ? 千冬姉と山田先生・・・。

 

「と、とにかく! 全員傾注しろ! ただ今より指示を伝える!!」

『もう注目してます』

「う、うむ。そうだったな・・・・・・ゴホン。

 え~~、現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡あるまで各自室内待機すること。許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!? 以上、解散!

 ただし専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、デュノア、凰! それとボーデヴィッヒと異住と篠ノ之も来い!!」

 

「はい!!」

『は、はい!!』

 

 ざわめく間も与えることなく千冬姉は女子たちを一喝し、今までにない怒号に怯えた様子で専用機持ち以外の一般生徒たちが室内待機するため旅館へと大急ぎで戻り始め、俺たち専用機持ちたちだけが千冬姉の指示を受けて、どうやら何かの任務を与えられる様でもある。

 

 それは図らずも、さきほど女子たちが箒に向かって語っていた評価への解答を、現実という名の事実によって分かりやすく示されたと言っていいのかもしれなかった。

 

 身内だからという理由だけで与えてもらっただけであったとしても、専用機持ちとなった箒には俺たちと共に戦う義務が千冬姉から与えられて、身内に束さんがいなかったから専用機をもらえない女子たちは千冬姉の命令を実行するためだけに旅館に戻る自分を疑わない。

 ――それが彼女たちの疑問に対する、今の彼女たち自身という答えだったのだから――

 

 

 そして――――

 

 

 

 

「・・・・・・へぇ、あなたが極東の島国の篠ノ之博士なんですの・・・ご高名はかねがね伺っておりますわ。申し遅れましたが、わたくしは“セレニアさんに選ばれし親友の”セシリア・オルコットです」

「――どーも。はじめまして金髪。私が“セレちゃんの幼馴染みの”束さんだよ、はろー以上。自己紹介終わり。ふ~、変な金髪だった。まあ人間の区別なんかつかないんだけど~」

「・・・・・・お久しぶりです、束さん。“セレニアと一番仲のいい女友達の”凰鈴音です。覚えててくれると嬉しいですね。まぁ別に忘れられててもいーんですけど、あたし他の国のヤツなんかに興味ないですし」

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ』』』

 

 

 ―――なんか、アッチはアッチで激しいバトル開戦する寸前みたいな状況になっちまってるみたいなんだが!?

 いつの間にか復活してたらしい鈴とセシリアが束さんと、互いに互いを睨みつけ合い、お互いの身体をジロジロ眺め合って、そして―――って、「そして」多い気がするな今日の俺って!今更だけども!!

 

 

『『『―――ふッ』』』

 

 

 ・・・・・・と、なんか見下したみたいな目つきと笑い方で“3人全員が”笑顔を浮かべ合ってから、無言のまま千冬姉たちの後を追って旅館の方へと並んで背を向けて去って行く3人の女性。もしくは、二人の少女と、一人の女性たち・・・・・・。

 

 ぶつかり合わなかったのは良いことだと思うんだが・・・・・・なんか互いに見てた箇所が違うように俺には思えたんだよなぁ・・・・・・。

 

 なんつーか、こう・・・・・・束さんはセシリアと鈴の胸部辺りを見下ろしてて、鈴は束さんの顔を見上げてて、セシリアは束さんの尻の辺りを重点的に見下ろしてたような・・・・・・そんな気が・・・・・・

 

 

「いったい何だったんだ? 何があったんだ、あの3人・・・・・・結局、仲直りしたのかしなかったのか? どっちなんだ・・・?」

 

「――多分ですが、“生まれながらの上位性”について、“自分の方が上だ”と確信できる何かしらの証拠でも得たんでしょうよ。放っときなさい。

 劣等感で罵倒し合うよりは、自己満足の見下し合いで衝突を回避し合えるのなら、そっちの方が完全解決にこだわって戦いになるより少しはマシってものですから」

 

「・・・・・・なる、ほど・・・・・・そういうもの、か・・・・・・」

 

 釈然としない思いを胸に抱きつつ。コソコソと俺の背中に隠れながら移動したがるセレニアが先を急ぎたがってるみたいなので、仕方なく付き合いで旅館を目指して移動し始める俺。

 

 白黒つける方が好みで良いと思ってる解決仕方な俺は、やっぱりこういう所ではセレニアたちとは合わない部分を持ってるんだなと、つくづく思わされた今日の半日。

 

 ・・・・・・まだ半日残っていて、しかも状況激変しまくってるのに、なんか互いに仲悪すぎて意思疎通できてない気がするのは俺だけか!?

 

 本当に、このままで大丈夫なんだよな!?

 そんな不安に駆られて胸がざわついてるのは、俺一人だけなんだろうかと、本気で問いたい!!

 

 

 

つづく

 




*しょーもない余談設定:
『一夏とセレニアを好きになる者達への評価』


セレニア=惚れた女子が、みんな変態的になる。

一夏=惚れた女子が、みんなヤンデレになる。



――そんなオカルト現象の一種と噂されていた、今作版の二人の中学時代という設定。


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『我が征くはIS学園成り!』第24章

同時進行で幾つか連載作の続きを書いてる最中です。
結果的にコレが最初に完成できたのは、単に楽だからって理由だけなんでしょうねきっと…。
何はともあれ、「ハイドIS」最新話となります。


 紆余曲折を経て、想いを寄せる男子への意思を一つにし、織斑一夏が大好きガールズたちは愛する男が死んでないけど死にそうだから仇を討つために夕暮れなずむ砂浜から今、飛び立とうとしていた。

 

「――よし、出たぞ。ここから30キロ離れた沖合上空に目標を確認した。ステルスモードに入っていたが、どうも光学迷彩を持っていないのか、あるいは我々を誘う罠か・・・・・・とにかく衛星による目視で確認できたからには現在地だけは確実と言っていい」

「さすがドイツ軍の特殊部隊の隊長ね、やるじゃない。シャルロットとセシリアの方はどうなのよ?」

「ノープロブレム。たった今、完了しましたわ」

「準備オッケーだよ。いつでもいける」

「よし。当然あたしの甲龍も攻撃特化パッケージはインストール済みだし、あんたの方はどうすんの?」

「私は・・・戦う。戦って、勝つ! 今度こそ、負けはしない!」

「ふふん、決まりね」

 

「――だが正直、お前まで私たちに力を貸してくれるのは意外だった。助かったのは事実だが、一体なぜ一夏のために私たちと一緒に戦ってくれるのだ・・・?」

「私にも色々あってな・・・・・・端的に言って、“誰でもいいからブチのめすため力を振るいたい気分だった”・・・・・・とでも言っておこうか」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 若干一名、箒にとって物スッゲー共感しやすいけど共感したくない動機での外部参加者が混じってはいたけど、戦力的にいてもらわないと困るので外す訳にはいかずに参加承認。

 基本的には織斑一夏大好きガールズ達による仇討ち部隊が(ライクも大好きには含まれる。男と女の友情と愛情は紙一重)夕闇染まった空へと決戦場へと向かって飛び立っていた。

 

 

 

 

 

 ――それと時系列的には、おそらく同じ頃。

 織斑一夏は、肉体を病室のベッドに横たえさせたまま精神だけを、どこともつかぬ砂浜の上を一人歩かせていた。

 

(ここは・・・・・・?)

 

 ざぁ・・・・・・。ざぁぁん・・・・・・。

 遠くから聞こえてくる波の音に誘われるまま、足を進めるたび足下の白砂が澄んだ音を立てている。

 足の裏に直接感じる砂の感触と熱気。海から届く潮の匂いと波の音。

 心地よい涼風と、ジリジリ照りつける太陽が、否応もなく今が夏だと教えてくれる。

 にも関わらず、ここがどこで、今がいつなのか分かることができない。そんな砂浜だけが延々と続いている謎の空間――。

 

(夏・・・・・・なのか? 今は・・・・・・)

 

 心の中で疑問符を浮かべざるを得ない状況ながらも、艦橋だけ見たら常夏の楽園リゾートパラダイスみたいな場所で一夏は一人、アバンチュールを満喫しているトレンディードラマの主人公やってる最中であった。

 

 IS戦闘中に箒をかばって撃墜されて、そのまま病室に直行させられたから、全身ヒーロータイツみたいなISスーツ姿で寝たきりになってるはずなのに、何故かいつの間にか制服を着ていて、ズボンは裾を折り返した状態で素足のまま砂浜を歩いていたから服が海水に濡れて洗濯が面倒になる心配もなく。

 いつの間にか脱いでいた靴を手に持ったまま歩いていたから、グチャグチャ水浸しになって気持ち悪くなる恐れもない。

 

 だが、靴下だけはどこにも無かった。

 靴下を履かずに靴だけ履いて歩いてたら、靴擦れしやすくなって痛いだけで大変そうだったけど、それでも靴だけ持ってて、いつの間にか靴下は持ち歩いていなかった。

 

 恐らくは、臭かったのだろう。

 臭い靴下を手に持って歩いて臭いが移るのがイヤだったから、気づかない内に棄てて今に至ってるんだと思われる。

 

《――。―――♪ ~~♪》

 

 そんな臭い靴下を棄てて、臭くない靴だけ持って謎の砂浜を歩いていた一夏の耳に、突如として謎の歌声が聞こえてくる。

 とても綺麗で、とても元気な、そんな歌声。

 その歌声が無性に気になった一夏は、履く気もないのに靴を持ったまま棄てることなく声の方へと走っていき、そして―――少女を見つける。

 

《ラ、ラ~♪ ラララ♪♪》

 

 波打ち際で、わずかに爪先を濡らしながら、その子は踊るように歌い、謡うように躍り、西尾維新的な言葉遊びで表現したくなるほど、やってることは同じでも違う風に感じる書き方で伝えたくなる、そんな気分にさせられる謎の女の子。

 

 躍るたびに揺れる、眩いほどに輝く白色の髪。それと同じ色のワンピースが風に撫でられ、時折ふわりと膨らんでは舞い――ギリギリのところで中身の白い布を見られることだけは絶対にない。

 

(ふむ・・・・・・)

 

 そんな、白くてワンピースを着て、ヒラヒラ揺らしながら歌って踊っている、幼い少女の姿を見つけ、なんとなく声をかけて気付かれようと思うことはせず、近くにあった流木に腰を降ろすと、一夏は少女の姿をボーッと見つめた。

 

 ざぁざぁと波の音が聞こえ、時折吹く風に乗って、少女のスカートは翻り続けて中身は見えず。

 そんな光景を目の前にして、一夏はただぼんやりと流木に座ったまま眺め続けていた・・・・・・。

 

 

 ――なんか数十年前のポエムっぽい文章で表現してみたが(注:主観的な判定基準)

 他人の目には、一夏にそういう趣味があったとしか見えないかもしれない状況ではあったけれども、それでも一夏は重傷負って気を失ってて、これは全部精神世界の出来事であって現実ではない。現実世界じゃないから他人はいない。

 だからダイジョーブ。大丈夫だと、全ての青春群像ストーリーの主人公達は信じていると、誰かがどこか出そう信じていたのだから―――。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その頃。

 アストラル界で精神体一夏が、清純そうなワンピース姿のロリ少女がヒラヒラ踊りながら歌ってる姿に心癒やされながら一休憩してる最中に。

 

 目標地点まで、残り6キロと迫りつつあった箒たち全員に対して、彼女たちの最高戦力は厳かな口調で、こう宣言してたのであったのでした。

 

 

「よし、ここまで来れば安心であろう。

 では皆の者、後顧の憂いなく織斑くんの仇を討ち、本懐を遂げてくるがいい。

 それを邪魔せんとする者は、全て私が食い止める故、心配はいらん! 安心して己の全てを正面の敵のみにぶつけるのであーる!!!」

 

 

『『『『・・・・・・・・・はァッ!?』』』』

 

 

 ハイドから敵を目前にしての、突然の脱退発言に一夏大好きガールズたち動揺。超動揺。

 いやまぁ、確かにいても混乱させられるだけだし、普段はいない方が楽かなーとか思ってるヤツではあるんだけれども。

 ただまぁ、それでも強いし。一夏いない状態では間違いなく最強だし、いたとしても最強の座は揺るがないかもしれんほど超強すぎるヤツではあったので・・・・・・正直こんな時だけは当てにしていた、微妙に都合のいい展開好きなガールズたち的には驚きを隠せないのも当然な訳で。

 

 そんな彼女たちの驚愕に対して、ハイドからの説明は以下の通りである。

 

 

『ちょ、待っ・・・!? あんた今さら何言って――っ』

 

「皆まで言うな凰くん! 君たちが抱く心の痛み・・・このハイド、この上なく理解し、心痛めておる!

 もとより織斑くんを愛し、愛する者の仇を討たんと欲して危険を冒し、生きてこそ得ることの出来る栄光を手にするため、屈辱を耐えて撤退を決意し、アイシャルリターンを誓った戦場へと帰ってきた君たちにとって、織斑くんの仇を討つための戦は、織斑くんを慕う者たちだけの手で成就すべきと願うは当然のこと!! 部外者の助けなど無粋の極み・・・・・・そう思っているのであろう!?」

 

 

 要するに、軍用ISシルバリオ・ゴスペル退治は、一夏大好きな箒たちだけでやれ。たとえ千冬たちが援軍に来てもハイドが邪魔して行かせないから、最後まで自分たちだけで戦うんだ。勝って生きるか、負けて死ぬか。どちらか一つだ、さぁ選べ。・・・・・・って事ですね分かります。

 

『え? えぇッ!? い、いや私たち、そこまで教条的では―――』

 

「分かる! 分かるぞ篠ノ之くん! 武士道とは、そういうもの・・・・・・。

 このハイド、亡き主の無念を晴さんが為、忠義に散った武士たちへの憧憬の念共々、君と志を同じくする者として、効率や勝率といった理屈に寄らず、最期まで想いを貫く生き様をこそ美として、たとえ敗れて滅びようとも貫き通す意志をこそ尊しと考えておる!!

 その想い、君もまた私と同じものを胸に抱いているのであろう・・・? 私には分かる。分かるのだよ篠ノ之くん。私と君は、共に武人の道を征く者同士として、言葉にせずとも伝わってくるもの・・・・・・。

 そう! これこそ心の友、心友(しんゆう)たる者同士による魂の共鳴!!!」

 

『う、うぐ・・・・・・ぅ・・・』

 

 箒、反論する前に普段から一夏に語ってきた言葉が徒になって、反論封じられて撃沈。

 武士道武士道言って説教してたヤツが、こんな時だけ別のこと言い出しても信じてもらえるのは難しい。

 

「という訳で皆の者、後は私に任せて先へ急ぐが良い! 殿は私が引き受けた!!

 ――私が力になれるのは、どうやら此処までのようであるからな・・・・・・」

 

『いやそれハイドの匙加減一つでしょう!? 君はもっと力になれるIS操縦者だって絶対に!!』

 

 

 ・・・・・・という理屈と理由によって、ゴスペルとの決戦を目前にして一夏大好き仇討ち隊のメンバーから最大最強の戦力が、戦う前から離脱した状態で決戦挑む羽目になっちまいましたとさ。

 その結果として、決戦を目前にして自信がちょっと揺らいだメンバーに対して。

 

 

『気持ちは分かるが、アイツだからな・・・・・・諦めろ。そして受け入れるのだ、それしかない。

 少なくとも私は、そうやって乗り越えてきた。お前らにも出来るはずだ。・・・・・・乗り越えろ・・・ッ!!』

 

『ら、ラウラ・・・!! ああ、分かった! やぁぁってやるわァァァァァッ!!!』

 

 

 と、ラウラが発破かけて少女たちの本能を呼び覚まし、スーパー系の勢いのまま、たぶん《熱血》とか《魂》とか精神の力を使った状態で突撃して、《ひらめき》とか《必中》は持ってなさそうなメンバーだけによる、海上マップの中央に位置するボスユニットとの、対ゴスペル決戦の幕が切って落とされることになったのであった!!!

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それと大体同じ頃なんじゃねーかと思われる時間帯に、別の場所で。

 

(あれ・・・・・・?)

 

 ざあ、ざぁん・・・・・・。

 さざ波を聞きながら、少女の歌に聴き惚れたまま座り込んでた一夏は、少女の歌と踊りが急に止まったことで我に返って相手を見る。

 

「どうかしたのか?」

《呼んでる・・・・・・行かなきゃ》

「え?」

 

 声をかけた少女は動かず、空を眺めたまま声だけで答えて、一瞬だけ視線を逸らした一夏が顔の位置を元に戻すと相手の姿はどこにも無く。

 仕方なしに元いた流木の元へ戻ろうとすると、

 

《力を欲しますか?》

「え・・・・・・?」

 

 背中の方から再び声が聞こえ、急いで振り向くと今度は一人の女性が、海の上に立っていた。

 

 白く輝く甲冑を身に纏い、大きな剣を自らの前に突き立てて、その顔は目を覆うガードに隠され下半分しか見ることは出来ない。

 

 そんな白い鎧を纏った立派な女騎士の姿をした女性が、膝下まで海に沈めて静かに佇み、一夏に向かって問いを投げかける。

 

《力を欲しますか・・・・・・? 何のために・・・・・・》

「ん? んー・・・・・・難しいこと訊くなぁ」

 

 ざあ、ざぁん。波だけが女性と一夏だけの世界に聞こえてくる。

 謎の砂浜で謎の少女が忽然と姿を消し、時代錯誤で怪しげな格好の女性がいきなり現れ、訳分かんない質問してこられても全く動じず、質問に対する答えを「難しいことを訊く」と前置きした上で回答する。

 

 一夏の精神面もどうかしちまってんじゃねぇかと思われなくもない異常すぎる状況下で、異常すぎる反応をする織斑一夏少年16才であったものの、元々この場所にいるのは精神体の一夏なんだから異常って程では無いのかもしれないし、あるのかもしれない。

 

 あるいは、『強さに関する話題』だったら、どんな場所でも状況でも相手でもオールOK。強さに関しては一家言持ってる俺ワンサマー!・・・・・・とかの信念なり何なり持ってたのが理由かもしれない。

 

 そんなこんなで、とりあえず一夏は相手からの質問に、いつもの彼らしく『強さ』と『力』に関してだけはオリジナル理論を語りたがる癖を発揮して、詳しく解説し始める。

 

「そうだな・・・・・・友達を――いや、仲間を守るためだな」

《仲間を――》

「仲間をな。なんていうか、世の中って結構色々戦わないといけないだろ? 単純な腕力だけじゃなくて色んな事でさ。

 そういう時に、ほら、不条理ってあるだろ。道理のない暴力って結構多いぜ。そういうのから、できるだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う―――仲間を」

《そう・・・・・・》

 

 

 その答えを聞かされて、その女性がどう思ってかまでは分からない。

 ただ彼女は静かに答えてから頷いて、そして言葉を続け、

 

 

《だったら、行かな―――――》

 

 

 

「素晴らしい・・・・・・素晴らしき信念であったぞ織斑くん。

 いや、クイーンズ・ホワイトナイト・オリムラ卿と呼ぶべきであろうか・・・・・・」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・途中で、なんっか変なモンが混じってきてたような気がして言葉が止まり。

 

 

 

「な・ぜ、お前がここにいるんだハイドぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!???」

 

 

 ドッカーンと!!! 一夏の想いが大声となって爆発する!! せざるを得ない!

 これで爆発しなかったら一夏の忍耐は、永遠に爆発する必要性が多分ねぇ!! それぐっらいに―――ワケワカラン場所で謎の登場の仕方してくるドイツの国家代表候補生! その名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ!!

 

 一体なぜ、彼女はここにいるのか!? そもそも何故くることができたのか!?

 その理由が、理論が、今彼女自身の口から明かされる時が訪れる・・・・・・!!!

 

「知らん! 分からん! と言うより、此処はどこかね? 見たことも聞いたことも無き、摩訶不思議アドベンチャー空間な海辺であるが・・・・・・あの世かね?」

「違う! いや分かんねぇけど多分違う! って言うか、それだと俺が死んでるだろうが!? だから絶対に違う!!」

「ふむ・・・気持ちは察するに余りあるが・・・…死んだ方々は皆、そういう風に言うものぞ」

「お前は一体なんの経験について語っている!? あと、ここがあの世ならお前も死んでんだろうがーっ!!!」

 

 という理屈によって、ハイドは今この時、この空間に来れてたらしい。コイツには最初から理屈なんか期待しても、分かるのはこの程度のもんである。

 尤も、訊いた方の一夏にも、此処がどこで、自分がどうやって来たのか全くサッパリこれっぽっちも分からないし知らない者同士な同類でしかなかったので人の事とやかく言う資格はあんましなかったのだけれども。

 

 こういう時こういう反応するヤツには、なんとなく怒鳴り声で常識ツッコミする奴の方がツッコまれる奴よりは真面に見えやすい。それが人間心理という名の人の心ってものである。

 

「まぁ、そのような些細はどうでもよい。大事をなさんとする者が小事に拘ってはならぬ。それよりもだ、織斑くん―――私は今、猛烈に感動しておる!!」

 

 そして毎度のように色々無視して、近くにいる鎧姿の女の人には存在すら気付くことなく、涙をドバァーッと滝のように流しながら一夏の肩を掴んでガックンガックン!!

 リアルだと重病人になってる体を、精神体だから遠慮無く振り回しながら賞賛して絶賛しまくる。

 良い子も悪い子も、犯罪者になりかねんので辞めましょう。過失致死は立派な犯罪扱いされちゃう事故死です。

 

「先に君が語った熱き熱弁、あれぞ正しく世のため人のために戦うヒーローの熱き生き様!!

 この世全ての不条理から、仲間たちを力によって守ろうとし、力なくしては何も守れぬと固く信じて力を求め、道理の通らぬ力を振るう者は暴力とし、その者たちの間違いを正すため自らが振るう力は暴力では無いと断言する・・・・・・その自らの信念を信じ貫く想いこそ、ヒーローの大義。

 多くを語らず、熱き想いは内に秘め、怒りは暴力として振るって悪者たちをブッ飛ばして仲間を守る!

 素晴らしい! まさに古き良きアメリカンヒーローの在り方を体現した、現代に蘇りしカウボーイとは君のこと!! あるいは、ジョン・ウェイン君の亡霊かッ!!」

「違うッ! そりゃただの暴力野郎だろうが!? 俺をそんなのと一緒にするんじゃねぇ!!」

 

 一夏、大激怒! ハイドの解釈を全力で否定する!

 彼としては当然のことであり、事実無根の間違った解釈であり、曲解されてしまった一夏自身の考え方、略して『イチニズム』を正しく相手に理解させるため、言葉による対話で介入を開始する!!

 

 相手の誤解を解くため、間違っているんだと理解してもらうため、本当の自分の思いを分かってもらおうと、『今まで自分が他人に語ってきた言葉』を一つ一つ思い出しながら語り始める!!

 

 

「俺はただ!

 許せねー奴がいた時だけブン殴ってきただけで、強さってのは心の在処が大事なもんで自分がどうしたいか分からない奴は強い弱い以前の問題で、つまり、やりたいことやったもん勝ちで、つまんねー遠慮とか我慢とかは損するだけ・・・で・・・・・・」

 

 

 ・・・・・・そして、段々と声が小さくなっていって・・・・・・最終的には俯いて黙り込んでしまうのだった。

 話ながら自分でも、「あれ・・・? 俺ってそう思ってたはずの割には言ってる事おかしくね・・・?」と、自分が放ってきた過去発言の数々が結構ダメダメだったことに気付いて驚かされ。

 

 

 

「・・・・・・コホン。ま、まぁそんな感じの奴らがやるような間違った力の振るい方するのを暴力と呼ぶんだ。群れて囲んで複数で一人の女に絡んでくるようなのが暴力なんだよ。

 俺はそんな事一度もしたことないから暴力じゃない。断じて違う。絶対に間違っている」

「うむ。正義の人助けヒーローたる者、斯く考えるべし、という奴であるな。

 君が挑みし、人類一人一人の自由を得るための戦いを神が見捨てる訳はなし。不条理に虐げられし者たちは、君の力を欲していよう。

 立てよ、クイーンズ・エグザムナイト織斑卿! 悲しみを怒りに変えて正義の剣と、自由なる翼を持って戦場へと舞い戻り、圧倒的な力の差で敵陣を征服し尽くすのだぁぁッ!!」

「だから、その呼び方はよく分かんねぇけど辞めろッちゅーに!!」

 

《あのー・・・・・・》

 

 

 そして、ここに来てようやく口挟むことが出来た、ハイドとは直接会うのは初対面で、コイツの超ハイテンションマイペースへの耐性が全くなかった唯一この場にいる人だったせいで完全に蚊帳の外に追放されてしまっていた白い騎士鎧姿の女性が、自分たちの話題で盛り上がりまくってたハイドと一夏に声をかける。

 

 その超えに振り向いたハイドは、「おお!?いつの間に!」と素直で正直な大声によって―――騎士鎧の人には存在すら全く気付いてなかった事実を自白しちまう超無礼者ぶりを発揮しまくり。

 

「いや失礼した。どこの何方かは存ぜぬが、さぞ名のある鎧を纏った騎士殿とお見受けいたす。

 我が名はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハという、通りすがりに迷い込みし迷子のドイツ国家代表候補生である。

 またの名を、IS学園1年1組所属《ドイツの蒼い雷》とデビュー後には名乗る予定。お見知りおき願いたい」

《・・・・・・どうも》

「ところで、謎の鎧を纏った謎の女性騎士殿。つかぬ事をお伺いするが、すね当てと剣の切っ先が海水に浸かっておられるようだが、錆止めの方は大丈夫なのかね?

 西洋鎧と剣は鉄製でできている故、潮風と海水に当たりすぎるは毒。どうか、お気を付けなさるが宜しかろう」

《・・・・・・話、進めてもいいですか?》

 

 もういい加減、コイツに付き合ってても話が永遠に進みそうにないことを短い間で悟らされたのか、謎の鎧を纏った謎の女性騎士は色々無視して省略して、一夏に直接現状を伝えるため、雲一つ無い青空をスクリーン代わりにして一つの光景を映し出す。

 

 ――それは、一夏の仲間たちが戦っている姿だった。

 そして苦戦させられている。敵の姿は、変化しつつあったが見覚えがある。

 間違いない。自分を負傷させられた恐るべき強敵、軍用ISシルバリオ・ゴスペル・・・!!

 

 

「ふむ。一人の敵を相手に複数で囲んで攻撃しておるな」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そしてハイドからの悪意0パーセントで、特に他意なき事実をそのまま言ってるだけの状況表現。

 

 いやまぁ、確かにそうなんだけれども。仕方ないんだよ。

 実力差とか性能差とか色々あるから、一対一だと勝てない相手に、複数人で寄ってたかって絡んでいって、陰険な策を使って勝利を目指すって言うのは、勝てない側にとっては仕方がないから暴力とは必ずしも呼ばないものであって。

 

 あと、敵も味方もIS乗りだから女の子だし。男が女を複数で囲んで絡んでいくのは男として許せないけど、女の子が女の子同士で強い相手に複数人で挑んで勝ちに行くのは間違ってないって言うか、男がどーこー言うことじゃないって言うか、え~とえ~と―――。

 

「・・・・・・案ずるな織斑君。ちゃんと私には分かっておる」

 

 ポンと肩を叩いて、変なところで理屈っぽくなりやすい一夏に笑いかけながら、言い笑顔を浮かべるハイドは曇りなき眼で一切の邪気なき優しい宣言。

 

 

「古来より、絆の力で結ばれた大同盟軍によって、悪辣なる帝国軍を完全包囲下に置き、一斉に全方位から攻め寄せて数の力で圧倒する勝利こそ、王道的な優しさと自由の勝利パターンであったのが人類の歴史というもの!!

 中世の再現はすべきではないと、中世的な国家体制で育った姫君も言っていたとおり、自己否定による自らの過ちに気付いて強くなることもまた、絶対正義ヒーローの王道というものであるという事実を、私はよく存じておるから安心するのだ!!」

「お前はもういい! 黙ってろ!! 俺のやる気的に、今のお前の存在こそが一番大丈夫じゃないからな!?」

 

 身も蓋も世もないハイドの理解と物わかりの良すぎさによって、大いに意欲に水刺されまくりながら―――それでも一夏は箒たちのピンチに駆けつけるため『自分の仲間たちがいる場所』に戻ることを決意する。

 

《それじゃあ、ね?》

「ああ」

 

 いつの間にか戻ってきていたらしい、白いワンピース姿の女の子からも微笑まれて見送られ、少し照れくさい気分になりながら一夏は真っ白い光に包まれて――やがて自分たちの世界へ戻るため消えていった―――

 

 箒たちを救うため、一夏“は”帰って行ったのである。

 

 

 

《・・・・・・で。貴女はどうして残っているのですか? と言うより、何時帰っていただけるので・・・?》

「さて。何分にも、いつどのようにして彼の地へ参ったのか自分でも皆目見当がつかぬ迷い人故に」

《・・・・・・・・・》

《・・・・・・・・・》

 

 

 こうして、白い砂浜と青空だけが延々とどこまでも続いている空間に、鎧姿の女性と白いワンピス姿の女の子と、ドイツ代表候補生にしてIS専用機持ちハイドの三人だけが取り残されて、どうやって来たのか方法が分からない帰し方もよく分からず。

 

 

 ・・・・・・これからしばらく三人だけで、この空間で過ごさにゃならんのかと、謎の女性が心の中で絶望したかどうかは、黙ったままだったから誰にも分からない・・・・・・。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

オマケ『一夏たちがゴスペルに勝った後頃のハイドさん』

 

 

ハイド「ハッハッハ、安心いたせ問題ない! 何故なら私は、魔境・異世界・異次元・異空間・別の惑星アブダクション・魔界天界神界平行世界に、664回巻き込まれて転移させられ、665回の帰還経験をもつ男と呼ばれる漢の中の漢である! しかも今回はなんと記念すべき666回目! ゾロ目である!! なんと縁起が良きことか!! もはや数字だけで完全勝利と無事の帰還が確実であることは疑いあるまいハッハッハーイドッ!!!」

 

 

ナゾ《・・・・・・・・・(その数字は「664回も巻き込まれた不幸ぶりを表してるのではないか」と思っていたとしても言ってあげない)》



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IS学園のひねくれ少女 第26話

とある親しいユーザー様からの話を聞いていて急に思いついた内容を形にしてみました。
まぁ色々と癖あり過ぎな話ですけど、癖あるからセレニアで試しとこうと思った次第。
良ければお楽しみくださいませ。


 照明を落とした薄暗い室内に、ボウッと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 俺たち専用機持ちとセレニアは、臨海学校先の旅館に設けられていた宴会用の大座敷に教師陣と一緒に集められ、山田先生によってもたらされた緊急情報について説明を受けていた。

 

「では、現状を説明する。

 二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS『シルバリオ・ゴスペル』が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった。

 その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。時間にして五十分」

 

 いつもより更に厳しい顔つきになった千冬姉から聞かされた、いきなりの説明に俺としては面食らってポカンとならざるを得ない。

 ・・・え? 何? なんのこと? 軍用IS?

 

 ISってたしか軍事利用が禁止されてるはずじゃ・・・しかも暴走って・・・って言うか、なんで俺たちに連絡が?

 そういうのって普通は軍隊とか自衛隊が対処してくれる問題なんじゃ・・・。

 

 色々と考えて混乱してしまっている俺に対して、周囲の面子は至って真剣な表情で説明に耳を傾けている。

 ISは有事の際には国防力でもあるから、セシリアとかの正式な国家代表候補生たちは、こういった事態もあり得ると考えられて特別な訓練を受けてきてたから平気なのかもしれないけど・・・・・・俺と同じで箒は鈴たちとは違う一般人育ちのはずなんだけどなぁー・・・。

 

 今までずっと平和な現代日本で生まれ育った日本人として生きてきた女の子なのに、いきなり戦場に放り込まれそうな状況下で真剣に作戦説明聞けるとか、コイツは一体どんだけなんだろう・・・? やっぱ普段から幕末とか戦国の時代劇小説読んでるヤツは違うのか? スゲーな時代劇小説、宮本武蔵の『五輪の書』を超えてる気がするぜ・・・。

 

 ――まぁ、もっとも。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

「わぁ~♪ 見てください見てくださいお母様! お空に白くて大きなお星さまがついたり消えたりしてます♡ キレイです~☆」

「・・・・・・え、ええ・・・そうですねボーデヴィッヒさん・・・。でも今は織斑先生のお話を聞きましょうね、いい子ですから・・・」

「はーいデス♪ もっとボウって光って、バァーって動いてほしいですねっ♪」

 

 

 ――めっちゃ居心地悪そうにしてるのも一人だけ混じってはいるんだけどね。

 娘の方に至っては、目をキラキラさせながら空中投影見てて話理解してんのかさえ分からないんだけどね。精神お子様モード中だから仕方ないんだけれども。

 

 ・・・いやもうホント、専用機持ちでもなく関係者でもなく、本来は今ここにいる必要性まったくない立場なのに、『ラウラを専用機持ちとして機能させるには必要だから』って理由だけで同席させられちまったセレニアとしては、こんな話聞かされても迷惑以外の何物でもないだろうな本当に・・・。

 俺よりも更に立場ヒデェ・・・ほとんどラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンを動かすためのパーツ扱いじゃねぇか。人としてすら扱われてない気がしてきたぞオイ。

 本当に、この学園は大丈夫なのか? ――まぁ、ラウラに戦ってもらうためには本当にいてもらう必要あるのは理解してるんだけれども・・・。

 

「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった。

 また暴走したISのスペックから見て、教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行い、本作戦の要であるシルバリオ・ゴスペルへの対処そのものは各専用機持ちたちに担当してもらう事になるだろう。

 その前提で作戦会議をはじめるが、現時点でなにか意見がある者は?」

 

 そう言って千冬姉は説明をいったん切って全員を見渡す。

 そのおかげで俺の思考もようやく追いつくことが出来、どうやら上からの指示って奴で、俺たち専用機持ちだけで軍用ISを止めろってことにされちまったらしいことが分かった。

 

 ・・・要するにアメリカとかイスラエルの上にいる人達が条約違反してヤラカシちまって、IS学園の上の人達が俺たちに後始末するよう指示してきたって事になるのか・・・・・・女尊男卑の時代になっても上の人達は相変わらず横暴すぎる・・・。

 

 千冬姉からは、『望むと望まざるに関わらず人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな』って入学当初に言われたことあるけど――今になって考えたらアレって、『王様の命令は絶対』ってのと同じような気がしてきちまったような気が―――いや、千冬姉が言ってた言葉なんだから、そんなことはない。千冬姉はスゴくて強くて立派。プライベートがだらしないだけ。千冬姉は正しい。

 

「――はい、先生」

「デュノアか。質問を許可する、言ってみろ」

「はい。対応策を考えるためにも、まず目標ISのスペックデータの限定公開は最低限必要だと思われます」

「ふむ・・・一理あるな。分かった、本来なら機密事項だが特例として開示を許可しよう」

 

 しばらく沈黙が続いた後、シャルロットが黙りこくったままの皆を見渡してから、少しだけ躊躇いがちな表情を浮かべながらだったけど挙手して千冬姉に質問を行って許可をもらった。

 

 彼女自身が望んだことじゃないとはいえ、身分詐称して性別も偽ってIS学園に転校してきてた秘密がバレたばかりっていう負い目があるからな・・・・・・他の奴より言いづらいって気持ちはスゴく分かる。

 出来れば俺が聞いてやった方が良かったんだろうけど・・・・・・分からなかったし。知らんし。

 セレニアなら分かったかもしれないけど、発言権ないラウラを動かすパーツだしな。どうしようもねぇー・・・。

 

「ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外はするな。情報が漏洩した場合、諸君には査問会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」

「はい。了解しました、織斑先生」

「・・・・・・うぇ~・・・」

 

 ――だが、その結果として嫌そうな顔して呻くセレニア。

 パーツ扱いで、無理やり同席させられてるだけの立場で、聞きたくもないのに聞こえてくるから仕方なく聞いてしまった情報を、誰かが口滑らせちまっただけで自分にも疑いかかって裁判と監視されるって結果だけ押しつけられたんだから・・・・・・そりゃ嫌だわな。どんだけ厄日なんだろう、今回のコイツって。

 

 それでもまぁ、『人は集団の中で生きなくてはならない』ってなってる以上は、望んでも望んでなくても合わせるしかない訳で。・・・やっぱ王様の命令は絶対理論だった気がドンドンと・・・いやでも千冬姉が言ったことだったし、千冬姉が千冬姉が・・・・・・グルグルぐる―――。

 

 別問題が絡んできたことで、さっきより更に混乱し始めた俺だったけど、そういった色々と関係のない周囲の面々は開示されたデータを元に、軍用ISへの対策案のため相談をはじめたっぽい。戦争素人の俺にはよく分からない。

 

「広域殲滅を目的とした特殊襲撃型・・・・・・開示されたデータの武装だけでも、わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「まぁね。攻撃と機動の両方を特化してる機体だし、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから向こうの方が有利ときてる。

 しかもアメ公から届けられた情報を、IS学園上層部が検閲して伝えていいって判断された情報だけでコレってことだし、流石にキツいわぁ~」

「この特殊武装が曲者って感じがするね。ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

「そうなんですわよね・・・・・・もともとIS学園そのものが、アメリカを中心とする欧州列強からの圧力を受けた日本政府が運営費を自国持ちで創設させられた場所ですし。

 極東の島国でしかない日本国そのものが、事実上アメリカの属国で、何かあっても“NO”とは言えないワンちゃん国家という立場でもあるわけですし・・・・・・難題ですわ」

「おいコラそこの二人。この緊急時のドサクサに紛れて我々の母国を罵倒するフリをしながら、婉曲にアメリカの嘘を非難する口実に利用するんじゃない。どれだけアメリカ嫌いなんだ、お前らは・・・」

「ササッ!!」

 

 ・・・・・・と、千冬姉から冷たい目付きと言葉を同時にたまわって、慌てて視線と顔を逸らして口笛を吹き始める、世界経済でアメリカを覇を競い合ってる共産主義大国の代表候補生と、アメリカの前までは七つの海を支配していた大帝国貴族だった代表候補生の二人組。

 セレニアから聞かされてた、互いの国の歴史がらみなお国柄問題らしいんだけど・・・まさか本当だったとは・・・そして今こんな状況下で真相が明らかになるとは・・・・・・味方同士で仲悪すぎるにも程があるだろ!?

 ホントーに大丈夫なんだろうな!? この作戦は!本当に!?

 

「お母さまッ! お母さまッ♡ キャッキャ♪ キャッキャ~♪♪」

「・・・はいはい、分かりましたからボーデヴィッヒさん落ち着いて。先生のお話聞き終わるまで大人しくしてたら、後でちゃんとやってあげますから。ね?」

 

 そしてラウラだけは、母親とキャッキャウフフしていて仲はいいんだけど、役立ちそうではない。・・・・・・本当に大丈夫なのかな・・・?

 なんか日本が大ピンチな気がしてきて、特殊訓練受けてない俺が一番危機感抱いてるように見えちまう気がするのは、気のせいなのか? どっちなんだ?

 

「え~~とぉ・・・コホンコホン! と、とりあえずこのデータだと格闘性能が未知数で、もってるスキルが分からないのが気になりますね! 作戦前の偵察は可能なんでしょうか!? 織斑先生っ」

「・・・デュノアの意見は私も考えたが、現状では無理だと言わざるをえない。この機体は現在も超音速飛行を続けている以上、突然に向を変えるなり速度を落とすなり急停止でもしない限り、アプローチは一回が限界だろう。

 もっとも、暴走したISがどう動くか分からんが、分からんからには現状までの前例データを基に考えるしかない」

「そうですよね・・・う~ん、一回きりのチャンスかぁ・・・そうなってくると――」

 

 気を利かせた気配り名人のシャルロットが、慌てて割って入って仲間割れを未然に防いで役立ちそうな情報も入手して思案を重ねる顔で考え込んでくれる。

 シャルロット・・・やはりアイツは俺たちにとって本当に女神だったのかもしれない。セレニアが立場上、自主的に役に立ってくれそうにない現状では彼女だけが頼りになりそうだ!

 頑張ってくれシャルロット! 今この場で、お前こそが役立つ奴ナンバー1だ!

 

 ・・・・・・そう心の底から思って絶賛していた俺だったのだが、しかし。

 

「――1回きりのチャンス・・・・・・ということは、やはり当たり所次第ではISをも一撃で落とすことが可能な攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね。

 そうなると織斑先生、適任者は織斑君しかいないと思われます」

「・・・・・・え?」

 

 山田先生からのトンデモ発言によって、いきなり現状におけるオンリー1戦力へと祭り上げられちまったらしい俺。

 

「え? いやあの――」

「そうね。一夏、あんたの零落白夜だったら可能だわ。あんただったら出来る。むしろ、あんたしか出来ない」

「それしかありませんわね。一夏さんしか出来る方がいない以上は他に方法がありませんから仕方がありません。問題があるとすれば、移動のためのエネルギーをどうするかですが――」

「たしかに、エネルギーを全部攻撃に使わないと難しい相手だろうし、移動するまでに出来るだけ節約しないと白式でさえ削りきれない可能性が・・・・・・」

 

 ちょっと待てオイ!? これ完全に俺が行く以外に選択肢ない状態になっちまってないか!? 他にもあるだろ方法とか色々さぁ! えっと、ほら――みんなで話し合って、もっと良い手段とかの方法が!!

 

「ごめん、一夏・・・・・・この距離と時間だと、ほんとうに白式で行ってもらうしか方法が思いつかなくて・・・・・・。

 まだ経験の浅い君にだけ行ってもらうのは悪いと思ってはいるんだけど、他の機体だとついていく事がそもそも出来ないし・・・・・・」

「OHぅ・・・・・・」

 

 スゴく申し訳なさそうなシャルロットからの謝罪の言葉と共に告げられた現実が、地味にキツいぜ・・・・・・これで断れる男は――多分いないんだろうなぁ・・・多分だけどさぁ・・・。

 

「織斑。デュノアの言うことも事実ではあるが、それでも今回のこれは訓練ではない。実戦だ。

 失敗した時に死ぬ危険があるのはお前自身である以上、無理強いはしない。もし覚悟がないなら今回に限り拒否権を認めてやる。足りない部分は―――なんとかするから大丈夫だ」

「・・・千冬姉・・・」

 

 わずかに及び腰になってた俺の怯える心を見抜いたのか、千冬姉から言われた言葉で逆に覚悟を決めることが出来た。

 ここで退くようなヤツは男じゃないと。男が廃ると。

 

 ――ただ最後に付け足してた一言だけ、メチャクチャ信用できない保証だったことが関係してなかったと言えば嘘になるけれども。

 本当に色々と仲間内でゴタゴタありまくってる状態で行われる作戦だぜ・・・!!

 

「いえ、やります。やって見せます。俺にやらせて下さい、織斑先生!!」

「そうか、よし。では作戦の具体的な内容に入る。

 現在この場にいる専用機持ちの中で最高速度が出せる機体は、ちょうど試験用に強襲用高機動パッケージが送られてきたオルコットのブルー・ディアーズがある訳だが――」

「はいですわ! 先生っ」

 

 名を呼ばれて元気よく手を上げ、セシリアが何か意見を言いたそうに千冬姉を見上げている。

 こういう場面で出される専用機持ちからの意見っていうのは、本来ありがたい事のはずなんだけど・・・・・・何故だろうか。

 なんだか物凄く嫌な予感がして堪らなくなってる俺がいるような、いないような気がビンビンと――

 

「なんだオルコット。送られてきた『ストライク・ガナー』の調子でも悪いのか? だとすれば考えねばならんが――」

「いえ、先生。わたくしは国の事情や政府の意向も確認してから出なければ覚悟を決められませんので、今から辞退させて頂いてもよろしいでしょうか!?

 大丈夫ですわ! 今この場で聞いたことは一切誰にも漏らすことなく、命果てるまで秘することをお約束いたします!

 世界中の国々から信頼されたことで、植民地支配を可能にした大英帝国貴族をご信頼くださいませ! 大丈夫ですから!!」

「いや言う気だろ!? お前、自分の国に戻ってからアメリカの醜聞を母国政府に密告する気しかないだろ絶対に!? 口裏合わせて国に守ってもらいながら手柄にする気満々なだけじゃないのか!?

 違うというなら証拠を見せてみろ! この自家を守るため代表候補生になったイギリス貴族令嬢!!」

「サササッ!!!」

 

 額に青筋を立てた千冬姉からスゴい剣幕で睨まれて、大急ぎで視線を逸らして冷や汗を垂らすイギリスの代表候補生でイギリス貴族令嬢のセシリア・オルコット。

 そういや前に、両親が死んでて自分が家を守らないとどーとかの話をしてたことあったけど・・・・・・お前こんなときに、それ持ち出すなよ本当に・・・。

 

「さ、さぁ、なんのことだかサッパリ分かりませんですわね、オホホ~」

「・・・・・・まったく。もういい、とにかくお前の意志は分かった。一先ず別のヤツの候補を探すとして次点でいくと――」

「はい! 千冬さ――織斑先生っ」

「今度は凰か・・・・・・」

 

 ウンザリした表情と視線で相手を見下ろしながら、それでも現在の状況と相手の立場だけで考えたら、何かいい作戦を思いついた可能性も無きにしも非ずなので聞いてやると言いたげな態度で聞く姿勢。バカ言ったら殴る前提とも言うかもしれんが。

 

「とりあえず聞くだけ聞いてやるが、緊急時に政治の都合などを持ち込むようなら、それなりの覚悟をしてもら――」

「はい、分かってます! あたしはただ、勝っても負けても何の得もなくて、負けたら損して、始末書書かされるだけで終わりそうな任務がイヤなだけです!

 やる気も覚悟も0なのがいても邪魔でしょうから、あたしだけ帰っていいでしょうか!? 千冬さ――もとい、千冬さん先生!!」

「少しは政治の話で取り繕って本心を隠す努力ぐらいせんかアホぉぉぉぉッ!?」

「阿部~~~~氏!?」

 

 

 バコ―――ッン!!と。

 流石にキレた千冬姉のツッコミキックを食らって、襖を突き破って吹っ飛ばされていくセカンド幼馴染み凰鈴音。

 自分には何の得もない、他人事の戦いに参加する気0なのを隠すことなく、正直に戦う前に白状するのは途中で裏切るよりは遙かに良いことなんだろうけれども。

 

 鈴よ・・・セレニアと出会って変わっちまった今のお前には分からないかもしれないが・・・・・・人の社会では正直すぎると生きていけないらしいぞ・・・?

 分かってるか? って言うか分かれ。心の底から本当に。

 

 昼間の出来事から全く学べてねぇから。あれから数時間も経ってねぇから。

 痛み忘れるの早いにも程がありすぎる。

 

「ハァ・・・ハァ・・・、まったく・・・今年の専用機持ち共はなんでこう変な上に、神経がワイヤーで出来てるような奴ばかりっ! これだから異住が入学してきた学校は全く!!」

「・・・なんで私まで言われなきゃいけないんでしょうかね・・・いえ、分かりますけど。心当たる例もありますし、慣れましたけれども・・・・・・理不尽ではありますよね毎回のように」

 

 そして被害に巻き込まれて風評被害(?)を受けさせられる旧友セレニア。

 いやまぁ、正直言って俺にも分かるんだけれども。言いたくなる気持ちは分からなくもスゴクないんだけれども。

 言いたくなりそうな事例にスゴク心当たりありすぎるから、千冬姉の気持ちもスゴクよく分かることなんだけれども。

 

 ――それでも理不尽な苦情ではあるんだよなぁ~・・・・・・別にセレニアがなにか悪いことした結果だったことって一度もないし。

 ホントに前世とかパラレルワールド自分がやったことで呪い受けてないかな? コイツって本当に・・・。

 

 

 

「ふははは~★ 役立たずな前座たちの出番は終わったようだね、ちーちゃん!

 その作戦は、ちょ~~っと待ったなのだよーッ! 私の頭の中には、もっと良い作戦がナウ・プリンティング♪

 ここは断・然! 紅椿の出番なのさ!! 変な金髪とか中国人じゃな――」

 

『『どうぞどうぞドーゾ』』

 

「手の平返しで束さん案採用!? 日本人でもない外人からダチョウ扱い!?

 って言うか束さん、漫才したくないんだけど! バカっぽくて嫌なんだけど!!

 天災の束さんをバカにするとは良い度胸だ表へ出ろ! この変な金髪と中国ぅぅぅッ!!」

 

『『やぁぁぁってやるわッ!!(ますわッ!!)

  このド派手オバサン如きがぁぁぁぁぁぁッッ!!!』』

 

「辞め―――――ッい!?

 味方同士で戦う前に決闘する奴がいるかアホ共ォォォォッ!!」

 

 

 

 

 と、束さんまで乱入してきて作戦はじめる前に大乱闘がはじまりそうな、俺たちIS学園一年生専用機持ち一同。

 

 ・・・・・・本当にホント~~~に大丈夫なんだよな!? この作戦は! 本・当・にッ!?

 

 

つづく



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篠ノ之流異伝『シノノノの刻』

新作として、昔考えた案を形にしてみた一作です。

ハイドISは、眠い中で書いてたせいか抜けてるところが多く、ゴスペル戦をしっかり描きたい願望もあったため、一旦消してコッチに入れ替え、然る後に改めて推敲しなおそうと思った次第。

とりあえず、『修羅の刻』とか『燃えよ剣』好きな作者の趣味ブッコんだ作品の序章だけでも楽しんでもらえたら嬉しく思います。


 

 元は古武術を祖とする剣術の流派『篠ノ之流』は、活人剣である。

 礼に始まり、礼に終わる。人を斬る為ではなく、ただ己を磨き、魂までもを高める為に生み出されし人を活かすための剣。それ故の活人剣。

 その歴史は古く、神道ではなく土地神伝承に由来を持つ神社を本家とし、江戸から明治、大正へと移りゆく激動の時代を潜り抜け、『東京』と名を変えた日ノ本の首都に、今も篠ノ之家は在り続けている。

 

 ――だが、激動の時代を行く抜く中で、篠ノ之家から失われてしまった物も少なくはない。

 幾つもの大乱の中で戦火に焼かれ、古き記録は失われ、古き記憶は忘れ去られ、いつしか本家の者からは知識さえも消えてしまった歴史の中に。

 

 時の篠ノ之流継承者と異なる道を選び、人を斬らず人を活かす活人剣としての道を行く本家と別れ、人を殺めて人を斬る殺人剣としての道を選んだ篠ノ之家の分家があった。

 

 その剣は、人を斬らず己を高める活人剣の道を選んだ篠ノ之本家を守るため、篠ノ之本家の敵となる者を本家に代わって討ち果たすため、表の篠ノ之が活人剣として『陽の道』を歩み続けるため『陰の道』を歩み続けることを選んだ裏の篠ノ之。

 

 

 そんな本家の記録からさえ忘れ去られた、篠ノ之の歴史を受け継ぐ者たちが居を構える社が、富士の樹海の一隅に存在し続けていた。

 人里離れた辺鄙な土地に、まるで人目を避けるかのように建立されている古くて小さい神社だ。

 土地柄的にも参拝客が多く訪れるようにも見えないが、清掃だけは隅々まで行き渡り、神聖で荘厳な祈りの場としての威厳を、その場に与えていた。

 

 ――だが、人はいない。人だけはいない。

 静かな佇まいと、行き届いた配慮に、人の手が入り続けていることを感じさせられる部分を随所随所に見られるにも関わらず、人が住まう場所特有の人気が感じられないのである。

 

 人里離れた無人の神社にある境内で、小川のせせらぎと野鳥たちの囁きと、そして枯れ葉が舞い落ちる時に立てる極微細な音だけが聞こえるのみ――。

 

「フンフンフ~ン♪」

 

 そんな無人としか思えぬ神社へと続く階段を、今一人の少女が鼻歌交じりに登っていた。

 10代半ばと思しき少女と呼んでいい年齢の、年端もいかぬ少女である。色素の薄い、短い髪をした年若い娘だ。

 姿格好からして学生だろうか? 近代的で西洋風の制服を身にまとい、短い丈のスカートを履き、その下に黒いストッキングを身につけている。

 

 微笑みを浮かべた微笑のまま、軽やかな足取りで階段を上りきって、特に警戒心も見せぬままに境内を進んでいく姿は、一見すると仲のいい神主の娘を訪ねにきた同い年の少女か何かと思えぬ者は少なくなかろう。

 

 ――だが、そもそも彼女は今、“何時どこから現れた”のだろうか・・・?

 ほんの一瞬前まで、遙か遠くを見晴るかせるほどの距離に人っ子一人の気配すらも感じさせなかった神社へと続く、百段近い長く険しい急傾斜の階段。

 

 そこを“いきなり登っている姿”で現れたのが彼女だった。

 何時からいたのか? 何時から登っていたのか? 余人には何一つ掴ませることなく、制服姿の若い少女は境内へと入ってきて周囲を見渡す。

 

「はいっ、到~着。んー、相変わらず険しい階段だったぁ。流石のお姉さんでも少し疲れちゃった。

 もう少し通いやすい場所に立ててくれたら昼食の度に食べにきたくなるぐらい静かでイイ場所なんだけどな~、ここって」

 

 軽く伸びをすることで、到着までに要した時間と手間でこうむった疲労の大きさを顕す少女。

 “人里離れた辺鄙な土地に立つ神社の境内”に、汚れや皺一つない制服姿で到着することが出来ていた若い娘は、バサッ!・・・と、懐から取り出した扇子を広げて口元を隠して周囲を見つめる。

 

 扇子には文字が記されており、そこに書かれたる字は『見猿』

 文字に隠された扇子の下にある唇を動かし、空気と共に意味のある言葉として現世へと紡ぎ出し――

 

 

「・・・・・・楯無? 久しぶり、歓迎する。元気だった? 菓子パン食べる?」

「あら、やっぱりいたのね桜技ちゃん。久しぶりね♪ またお掃除サボってると思ってたから助かったわ」

 

 声になる直前にかけられた別の声の旋律によって雲散霧消し、代わって別の形を取って顕現して言葉と成る。

 楯無と呼ばれた少女が笑顔を浮かべたまま見つめる先。

 そこに自らが「桜技」と呼んだ少女が座って、パンを食べていた。

 

 神社の正面にある賽銭箱の向こう側で階段に座り込み、小さな口いっぱいに頬張りながらモグモグと菓子パンを食べている姿はリスのように連想させ。

 小さな背丈と、あまり動かない眠そうな表情は小動物めいたものを感じさせられ、庇護欲を刺激される者も少なくはないだろう。

 

「・・・・・・よくきた、遊びに来た? 楯無はいつでも歓迎する」

「う~ん、残念だけど今日は、お仕事の話がメインなのよね。あなたたち一族の力を借りるかもしれない事案が出来ちゃったから、手伝って欲しいなぁ~って」

「・・・・・・戦?」

 

 アッサリと短く、簡明に、動かぬ顔の少女はこともなげな口調で、その言葉を平然と告げる。

 『戦か?』と。

 あまりにも普通の口調で放たれた時代錯誤で物騒な単語。

 それでいて口内には頬張り終えたパンが残り続けており、ングングと口を動かしながら咀嚼する作業も止めることなく続けながら、彼女は日常から最も遠くなる出来事の名を、穏やかな日常の象徴のような姿を晒しながら平然と問いとして投げかけてきた。

 

 だが、これに対して若く妖艶な扇子の少女は首を振る。

 縦に、ではなく横にである。

 彼女が相手の少女に依頼しにきたのは戦場で的を殺させるための、「殺しの依頼」ではなかったからだ。

 

「いいえ、戦ではないわね。今回の依頼で私たち『更識』が、あなたたちに頼みたいのは――」

「・・・・・・戦じゃないなら、やらない」

 

 相手の答えを聞かされた瞬間、続く言葉に関係なく少女は答えて食事に戻っていった。

 それは予想通りの反応であり、予想して当然の対応でもあった。

 

「・・・・・・《裏篠ノ之》は、戦に勝つ為だけに鍛えた剣。戦以外で使える場所はない。

 “戦があれば誰よりも勇敢に戦い、誰より多くの敵を討ち取り、戦が無い時は誰よりも怠けよ”・・・・・・それが裏篠ノ之の掟。だから戦じゃ無い依頼なら私は受けられない。ア~~ン」

 

 そう言って、小さな口を限界まで大きく開いてパンを頬張る小さな少女。

 心なしか、その動かぬ表情には嬉しそうな笑みが浮かんでいるようにも見え、年齢不相応に幼い見た目に反して人十倍の大食らいという友人の側面を知る楯無としては、微笑ましくもある光景ではあったものの、話の内容自体はあまり笑えるほど心楽しいものでも無かったため、早速ではあったが切り札を切る決断を下した。

 

「篠ノ之の本家を継ぐ者の護衛役、それでも依頼は受けてくれないかしらね? 桜技ちゃん」

 

 ピタリと。桜技という名を持つ少女の動きは、音と共に完全に停止した。

 瞳は大きく見開かれ、普段は感情を感じさせない眠そうな眼に、これまでの人生の全てが詰まって目覚めの刻を待っていたかのような感情の渦が、今だけは彼女の内面を現すようにハッキリと楯無には感じ取ることが出来ていた。

 

「あなたは知らないでしょうけど、先日IS学園の入学試験が行われた際、何かの事故か不手際か、あるいは何者かが何かを企んだ結果として、世界初の男性IS操縦者として織斑一夏くんという少年が、私が生徒会長を拝命しているIS学園に入学することが政府決定で言い渡されたの。

 そして、その彼と同学年の女生徒として、篠ノ之家の長女でIS開発者本人でもある篠ノ之束の妹だからという理由で、篠ノ之箒ちゃんっていう女の子が同学年のクラスメイトって形で同時に入学することが命じられてた後だったのよね。

 今のところ重要度は織斑くんの方が上だけど、彼の登場と実在が公表されたことで条件がどう変わるかは推測の域を出ようが無い。

 最悪の場合、私たちカウンター機関『更識』だけだと手が足りなくなる危険性も否定できない。だから貴女の力が必要にな――」

「やる」

 

 再び短く簡明に、そしてアッサリと桜技と呼ばれた少女は、相手からの依頼を手のひら返しで快諾して立ち上がり、

 

「・・・・・・裏野之は篠ノ之のために生まれた、篠ノ之の生きる道を脅かす者を闇に消す、それが裏野之の使命であり、義務であり、存在意義。

 篠ノ之がいるなら行く。篠ノ之の血を引く者ならやる。篠ノ之が守れるなら引き受ける。

 それが裏野之」

 

 そう言って、バサッと、軽く飛び上がる仕草をして大きく飛び上がり――3メートル以上までの距離を一瞬にして縮めてしまうと、境内に生えた木から一本の葉が衝撃によってか知らずか枝から舞い落ち。

 

 再び飛び上がった桜技の背中が、楯無の視界で完全に被さり合った刹那の瞬間。

 

 ―――もはや、無表情の小さな少女の姿は完全に消え去ってしまった後になっていた。

 

 周囲には誰も人っ子一人いない、綺麗に清掃が行き届いた境内で、数キロ先まで人の気配を感じさせる音が何も聞こえてこない静寂が続く中。

 

 突如として楯無の前に現れた『裏の篠ノ之の現当主』でもある女の子は、現れた時と同じように突然に消えて無くなって、後には何も残らず一人の制服姿の女の子が残るだけ。

 

「ふぅ、相変わらず台風みたいな子ねぇ。やれやれ、参っちゃうなぁ~、もう」

 

 目の前で見せつけられた異常な現象に、差して驚かされた風でもない態度で肩をすくめ――一筋の汗を頬に垂らして、今見た光景“では無い”相手の示した神業に冷や汗をかく。

 

「私は完全に気配を消してたはずなんだけどなぁー。たかが声だけで察知されるほど易い瞬歩は使ってなかったはずなんだけど、それでも気付かれちゃって、平然と声かけられちゃうのがあの子って事か・・・・・・つくづく、化け物ばっかりしか育たない場所よね、この裏篠ノ之は。

 まっ、うちの家に人のことをどーこー言う資格は無いんだろうけど」

 

 微苦笑とも苦笑いとも取れる曖昧な笑みを浮かべながら、再び扇子で口元を隠して楯無は他人事のように論評し――パチンと。

 

 音を立てて扇子を閉じた時―――楯無の姿もまた、神社の境内から突然に消えて無くなっていた。

 

 楯無が閉じて、見えなくなった扇子に記されていた文字は一言――『無』

 

 

 

 ・・・・・・かつて選んだ道を進ませるために道を違えた、二つの篠ノ之。

 それが数百年ぶりに再会し、同じ場所で同じ道を歩み出す歴史は、こうして静かに幕を開ける。

 

 

 



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