転生オリ主だけど一夏がホモだった (ニコウミ)
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たまげたなぁ……

「好きなんだ、お前が」

 

 脳が震えた。

 え、ちょっと待てよ。ステイステイステイ。落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。冷静に今の言葉を復唱してみようか。『すきなんだ、おまえが』平仮名にしても変わらなかった。

 ここで冷静に自分を客観的価値観で見てみようか。身長百九十四。体重八十二。顔は強張った固い顔だ、恵まれていることに端整とは言えるが、それでも中性的でも女顔でもない。

 

「……も、もう一度聞いて良いか?」

 

 目の前で頷くイケメン。遥かにこいつの方が中性的であり、女顔である、だが男だ。体型はなで肩の女性のような華奢な体だ。だが男だ。

 

「……好きなんだ、男のお前が」

「」

 

 聞き間違いじゃなかった。

 隣でビールを飲んでいた千冬さんが泡を吹いて地面に倒れている。俺も正直倒れたい。一夏はホモ。

 ホモ。え? ホモ?

 

「あ……う、うん。え、え……はい?」

「変だってことは分かってるんだ、でも、この中学での三年間……胸に秘める思いは変わらなかった」

「お、おう……え? 三年間?」

 

 中学三年間。

 思い返してみよう。冷静になれ武川結城。まずコイツ、一夏とは昔からの幼馴染みだ。小学校は至って普通な幼馴染みの関係だった筈だ。そう、一夏の様子が可笑しくなったのは中学校からか? 確かに、中学の入学式に突然、声をかけられた時だ。確か、そう、『な、なぁ! いきなりなんだけど……その、入学式のお祝いにさ……その、お茶でも行かないか?』こんな台詞だった。これもう疑いようがないくらいナンパじゃん。気付かねぇよ、アホか。普通にボッチだった俺はその誘いに乗ってファミレスで食事をとった。

 『趣味は?』『す、好きなタイプは?』『男ってどう思う』

 聞かれた。聞かれたぞ。間違いなく聞かれた。疑いようがないくらい狙われてるじゃん。気付かねぇよ。馬鹿か。

 

「返事、聞かせてくれないか……」

「……お、俺は…」

「アホかアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

「うおッ!? ち、千冬さん!?」

 

 クールで通った筈の千冬さんが凄まじい気迫で天に向けて叫び始めた。気持ちは分かります。もっと言って、そしては私を助けて。もう何したら良いか分からないの。チャイナの奴、なんで中国に帰ってンだよ。『帰って来たらアンタに負けない女になるからね』だ? あ、アイツ気付いてんじゃん。アホか。

 

「い、一夏!? 正気になれ!? 私は認めないぞ!?」

「千冬姉には関係無いだろ!」

「関係あるわあああッ!? アホかッ!?」

「一夏!! 今なら俺のエロ本を貸してやるぞ!!」

「い、いらねぇよ! そんなの見るなら俺を見ろよ!?」

「なに、その未知な選択ッ!? 一番ありえねぇだろ!?」

 

 すかさず一夏から距離をとって千冬さんの背中に隠れる。そんな俺に一夏がショックを受けたような顔に変わる。

 

「や、やっぱり千冬姉みたいなのが好きなのかよ!?」

「お前と比べたらね!! むしろ誰でも良いよッ!!」

「ほ、ほら一夏!! コイツは私が貰うから諦めろ!」

「マジでッ!?」

「あ、いや……すまん、焦りすぎた」

「悲しくはないやい!!」

「俺はそんなの許さないぞ!? ここまでして諦めれるかよ!?」

「諦めて!! 男は無理だから!?」

「だから、さっきから何を…ッ!?」

「愛の姉パンチッ!!」

「ガハッ!?」

 

 千冬さんがキャラの壊れた鉄拳で一夏を一撃で昏倒させた。良くやった。昔からこの人はおっかないとは思ってたけど何だかんだで物凄く頼りになる、もう今は惚れかけた。

 

「ハァ……ハァ……」

「千冬の姉貴!! こ、こいつは! 俺は、俺はどうしたら!?」

 

 もはや自分の高身長や大人びた顔を無視して千冬さんの足にすがり付く。

 

「と、とりあえず一夏は任せろ。私が、なんとかしよう。部屋でAVでも見せ続けて入れば戻るだろうか……」

「なんて逞しく男らしいやり方……千冬さんらしい……」

「う、うむ……家に居ることが少なかった私が悪いのか……一夏にまともな教育を出来なかった私が悪いのか……」

「そ、そんなの……三年間も気付かなかった俺だってなんなんだよ……抱き付くとか連れション嫌がるとか予想出来る所沢山あったじゃん……」

「……とりあえず、結城。今日は帰るんだ。あとは私に任せておけ」

「ち、千冬の姉貴!」

「明日、また連絡しよう。必ず説得しておく」

 

 そういって一夏を引きずり、部屋の奥に去っていく頼もしい背中を見ながら、俺はダッシュで隣の家に帰り、ベットに上がり込んで泣いた。

 親友がホモだった。

 

 

 ● ● ●

 

 

「もしもし、千冬さん?」

 

 後日の朝、本来ならば一夏の部屋で勉強している時間だが俺は布団に潜り込んで物音に魚籠ついていた。

 一夏の部屋は俺の部屋の窓から侵入出来るほど近い。つまり、侵入されるかもしれないのだ。もし侵入してきたら俺はダッシュで千冬の姉貴にすがり付く。

 

『もしもし、結城か?』

「……それでAV作戦は?」

『あぁ……うむ、それなんだがな、やっていない。それより凄まじい事実に気付いたと言うか……寧ろこの十数年、何故、私は気付かなかったのか……自身の一夏に頼りっぱなしの依存度が知れたと言うか、姉として死にたい……』

「は、はい?」

『確かに、私は家を空ける時間が多く、風呂に入る姿も、見たことがない。と言うか普段着がもう……お前に憧れているからと言ってあれは無いだろう……』

「あ、あの、それで、エロ作戦は?」

『結城、一夏との付き合い、考えてくれ』

「」

 

 なに説得されてんのこの堅物女。馬鹿か。

 

『いや、そもそも、お前も気付いていないのだろう。一夏が可愛いことに』

「いやそんな視点で見たことねぇよ!! つうか見ねぇよ!? 」

『……なるほど、やはりお前もか、良いか。一夏は真剣なんだ、一夏は、お…』

 

 瞬間、携帯の電源が切れた。

 しまった、充電しておくのを忘れてしまった。

 

「充電器……充電器。何処だ」

「ほら、充電器」

「おう、悪いな一夏……よし、千冬さん、千冬さん……一夏? 」

 

 聞き覚えのある声に布団から顔をあげると、一夏はその中性的で端正な顔で爽やかな笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「おはよう!! 結城!」

 

 瞬間、俺の意識は消し飛んだ。

 

 

 

 この後、寝込む俺を他所に一夏は女性しか起動出来ないISを起動させ、世界を驚愕させたのが、次の日の朝。試し運転で用意されたISを俺が起動させてしまうのが、その次の日の朝。

 

 俺の望んでいた非日常が変な幕を開けた。どうしよう。

 

 

 一夏がホモだった。

 

 

 

 




もはや勘のある人なら気付いたはず、ホモは鋭い、ハッキリわかんだね。
一夏が女だったなんて展開は無い。一夏は男(決定)


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野獣一夏先輩

ホモ要素が少なかった(落胆)


 周りの生徒は皆が女性しかいない学園に行くことになった。天国か。

 一夏の衝撃的な告白から、なんかISを起動させると言う訳の分からない事を成し遂げてしまった俺は今、ロシアに来ていた。なんで? と言われれば、分からない。本当になんでだろうか。千冬さんの計らいから、紹介されるがままに来てしまったが、俺がロシアの代表候補生になるらしい。

 日本でいいじゃない。と進言はしたものの、日本の代表候補生は一夏がなる。あの千冬さんの弟だからこそ、分からなくも無い話だ。

 それに、何処かの代表候補生にならないと、俺の身が危ないとかなんとか。

 

「……まぁ、あの一夏から離れられるなら良いんだけどねぇ」

 

 一夏のアタックは痛烈を極めた(猛進)

 正直、親友の変わり身に枕を濡らしたのは二三回処の話ではない。

 

「もう少しでロシアに着くよん」

「……楯無さん、何故に裸エプロン? 襲って良いんですかねぇ……」

「残念! 下は水着なのだ!」

 

 無念とかかれた扇を俺に見せつけるこの人、楯無さんと言うらしいが、千冬さん紹介のロシア案内だと言う。

 中々に愉快な人で面白いは面白いんだが、一夏のあの恐怖から若干な恋愛恐怖症を発病した俺は近付けないでいる。もう全てが男に見えて仕方ない。ロシア留学も中山筋肉さんを思い出して恐怖しか感じない。俺ってホモに好かれやすいとか無いよな。

 

「ほらほら、それより一夏君の記者会見が始まってるわよ?」

「記者会見? アイツそんなのやってんのかよ……と言うか飛行機の中で見れるんですか」

「まぁ要人輸送機だしね。それくらいの設備はあるわよ、ほら、スイッチオン!!」

 

 点火と書かれた扇を広げながらテレビの電源をつける楯無さん。尻がエロい。尻、尻か、なんか嫌な想いが広がってくるな、可笑しいなぁ。

 そんな俺の想いを他所に、無駄に巨大なテレビの電源がつき、記者会見の様子が写される。千冬さんと一夏の姿がフラッシュに集られていた。

 

『で、では。一夏様は、もう一人の男性IS起動者、結城様に恋をしていると!?』

『はい』

「」

 

 脳が、震えた。

 

「………え?」

 

 楯無さんが俺と出会ってから初めて表情を固まらせた。え? 何言ってんのアイツ。全国放送なんだけど。全国ネットなんだけど。

 

『な、なんて決意の籠った視線なんでしょうか!? ま、誠に申し上げにくいのですが、その、日本では同性は認められてはいないのが現状です。姉である千冬様はどうお考えでしょう……?』

 

 記者の人がおそるおそる隣に座る千冬さんに質問を投げる、なんかこないだより千冬さんの瞳が大分濁っているのは気のせいでは無いだろう。

 千冬さんはゆっくりと手元にあるマイクを手に持つと口を開いた。

 

『良いんじゃないですかね』

『適当ッ!? そ、それは不味いのではないでしょうか!?』

『うん』

『千冬様ッ!?』

 

 なにあの覇気がない千冬さん。ラオウが酒場で飲んだくれてるみたいなイメージにしか見えないんだけど。何があったの。千冬さんと一夏の間に何があったの。

 と言うか辞めて。俺が、俺が。

 

「俺が何をしたって言うんだ……」

「……ナニを?」

 

 スッと呟く楯無さんの言葉に俺はこれから起きる未来に顔を覆った。

 

「あ、あぁ!? 嘘嘘嘘ッ!? わ、私が悪かったわ! ほら、泣かないで! ね!? お姉様が抱き締めてあげるから!!」

「うぇぇ………ひっぐ………」

「……どうしよう、予想してたより重い話に困惑する……ほら、お姉ちゃんに悩みを打ち明けてみなさい」

「親友がホモなんだ……」

 

 そんな俺は、知り合ったばかりの人の胸で泣いた。

 そろそろ涙腺が切れそう。

 学校行きたくないよ。

 

 

 

● ● ●

 

 一夏って可愛いよね。

 いや無理だわ。プラスに考えなさいってお姉ちゃん(楯無)に言われたけど無理だわ。だってもう、どう見ても男だもん。俺の正常な頭ではこれ以上の譲歩は無理だよ。

 

「よう!! 一週間ぶりだな結城!!」

 

 IS学園で出会ったコイツは何も変わっていなかった。ビックリするくらい。

 

「お、おう……久しぶりだな、一夏」

「あぁ、本当にな! そうだ、このクラスに箒も居るんだぜ」

「箒が?」

 

 篠ノ之 箒。俺と一夏の幼馴染みであり、一夏に恋していた女の子だ。あれから大分、経っているが、恋は陽炎とも言う。箒はまだ一夏に恋をしているのだろうか。いや、流石に十数年も片想いしていられる訳がないか。

 俺は一夏が指差す方向に目を向ける。

 

「……」

 

 あっ……(察し)

 何あの生気を失った瞳。箒はゆっくりと此方を見ると覚束無い足取りで俺の元に歩いてくる。大丈夫かコイツ、死にかけてるぞ。

 

「お、おい、箒?」

「……ゆ、ゆうちゃん……」

 

 懐かしいアダ名で俺を呼び、その両手で俺の制服を掴む。その身体は僅かに震えていた。

 

「ほ、箒……」

「……いう……だ」

「う、うん?」

「どういう事なんだよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛おッ!?」

 

 藤原竜也かお前は。

 そのまま項垂れるように倒れ込む箒を俺は慌てて支える。どういう事と言われても、俺が聞きたいよ。どういう事なんだよ。

 

「ほ、箒。とりあえず気をしっかり持つんだ!」

「好きだった男がホモ……しかも相手は幼馴染み……なんなんだ……なんなんだ……この三角形……」

「望んでないからな、俺はこんな三角形望んでないからな!」

「全国放送で聞かされた私の気持ちがお前に分かるのか!?」

「悲しみなら分かち合えるくらいだよ!! 俺なんか町歩くだけでホモの人呼ばわりだぜ!? 違うからァッ!! ホモは俺じゃないからァッ!!」

「……え? ホモじゃないのか?」

「ん、ん? ホモだろ?」

「どっちなんだよお゛お゛お゛お゛お゛ッ!?」

 

 お前は地下カジノに連れていかれた藤原竜也か。お前が恋している一夏はホモだ。現実を受け入れろよ。俺は受け止めた。

 肝心の一夏と言うと、机に座り何やら思考している。何を考えているのか想像もしたくはないが。

 

「もうやだ……ゆうちゃんが女に興味が無いなんて……」

「いやいや、俺は女に興味あるからね!?」

「……ほ、本当に?」

 

 おそるおそる聞いてくる箒に頷く。なんか今すぐにでも解かなければならない誤解が生まれているような気がするんだが、なんなんだこの食い違いは。

 目の前で項垂れていた箒の瞳に生気が戻り始めた。

 

「あぁ本当だよ。俺はもう女にバリバリ興味がある」

 

 いくら幼馴染みとは言え、成長した箒の女性らしい体に私のマグナム(見栄)が震えているのは仕方ない。

 

「そ、そうか……ゆうちゃんはバイか」

「ちょっと待て」

 

 バイじゃない。違う。俺は健全なる女性派に生きる男だ

 

「分かった……うん。まだ頑張れるんだ……諦めるな箒……ゆうちゃん、私は負けないぞ」

「う、うん? あぁ、まぁ、頑張って一夏を落としてくれ、そして俺に幸せをくれ」

「あぁ、頑張って一夏を蹴落とす」

 

 なんかニュアンスが違う気がしないでもないが、流石は我等がメインヒロイン。この期待感は凄まじいぞ。あのホモを正気に戻してやれ。

 

「まぁ、それより、久しぶりだな箒。十年ぶりくらいか?」

「あぁ。そうだな、十一年と四十七日十三時間四分くらいだ」

「……お、おう。そうか、箒はすっかり美人になったよな。まさに俺のタイプそのものくらいだ」

 

 俺がからかうように言う。昔の箒なら顔を真っ赤にして怒っていたのだが、目の前の箒はさも当たり前のように頷く。

 

「タイプに合わせたからな……姉さんに頼んで色々と調べて貰ったんだ。あぁ、そうだ。朝のコーヒーをまだ飲んでなかっただろう? 私が買っておいたんだ、ほら、微糖のエメマンだ」

「……あ、ありがとう」

 

 なんでそんなことまで知ってるの?

 可笑しいな、箒と遊んでいた頃はコーヒーなんか飲んでいなかった気がするが。俺は妙に冷えた缶コーヒーを受け取ると、そのプルタブを開ける。

 

「あ、そういや…」

「砂糖だな。微糖に砂糖一個が日課とは、妙に子供染みた習慣だぞ?」

「……お、おう。いや、まだ苦くてさ、は、ハハ……」

 

 苦笑しながら、すっと箒から渡される長細く収納されている砂糖を俺は受け取る。

 いやいや、可笑しいだろ。なんで十年ぶりにあった箒が

一夏でさえ知らないそんな情報を知っているんだ。あれ? なんか思ってたんとちゃう。

 

「あ、ありがとう……あ」

「コーヒー牛乳ならあるぞ」

「」

 

 なぜ俺がコーヒーを飲み終わったらコーヒー牛乳を飲むことまで把握しているの。あれ、怖い。目の前で苦笑する幼馴染みが怖い。なにこれ。

 

「か、缶コーヒーと言えば、あ、朝のトレーニング忘れてたなぁ……ね?」

「うむ、だが一日くらい抜けていても問題はあるまい」

 

 なんで。

 俺が。朝にトレーニング。しているの知ってるの?

 あれ、思ってた幼馴染みの出会いとちゃう。思ってたんとちゃう。

 俺は目の前で微笑む箒を見ながら背筋に嫌な寒気が走った。

 

「む、そうだ。ゆうちゃんの携帯番号とアドレスなんだが……」

「あ、あぁ、教えようか?」

「いや、知っている。後で私がメールするから登録しておいてくれ」

「……お、おい一夏。やだなぁもう、アドレス教えるなら俺に一言くらいかけても良いだろう?」

「はぁ? 俺は教えてないぞ」

 

 笑えねぇんだよホモ野郎。

 

「じ、じゃあ千冬さんかな。なぁ箒?」

「む?」

「……なんで首傾げるんだ」

「千冬さんとはまだ会っていないぞ。ぬ、ゆうちゃん、汗だくじゃないか。そんなに暑いか? ほら、汗を拭いてやろう」

 

 額から流れる冷や汗を箒はポケットから取り出したハンカチで拭き取ってくれる。

 そしてそのハンカチをそのまま箒はそのまま舌をだし、ハンカチにしっとりと当てるとゆったり微笑みながら口を開く。

 

「変わらないなぁ、ゆうちゃん」

「な、何が……」

「――――――汗の味……」

「」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は教室を飛び出していた。

 

「ほ、箒。そのハンカチちょっと貸してくれよ」

 

 親友の寒気が走る言葉を聞きながら、俺は生徒会室に向かって走る。今はただ泣きたい。お姉ちゃん助けて。幼馴染みが別の方向で。もう、もう、どうしたら良いか分からないの。

 ベンチで座り込みただ無表情でコーヒーを飲む千冬さんを横切り、俺は泣き叫んだ。

 

 

 

 




箒ちゃんUC大勝利の予感。


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やべぇよ……

こんな臭い二次を読む読者はホモの鏡。
冷静に考えてIS要素ゼロじゃん。


「とりあえず、教室に戻りなさい」

「俺の心に死ねと申すか……」

 

 生徒会室でお茶を飲む。今の所はお姉ちゃん(楯無さん)しかいないのだ。ちょっと平和過ぎんよ。ここには変態がいないから助かる。

 まぁ、そろそろ心の中でのお姉ちゃん呼ばわりは辞めて、素直に楯無さんとお呼びしよう。俺の唯一無二の癒しだし。

 

「まぁ、分からなくはないわよ? 幼馴染みの片方がホモで、片方が病んでたって言うのわね……いや寧ろ、箒ちゃんは仕方がなかったとしても、一夏君の方はなんで気付かなかったの?」

「……確かに、一夏は昔から女にモテていた。どれくらいモテていたかと言うと小中の女子九割にモテていた。登校するだけで黄色の悲鳴があがり、出待ちする女子も沢山居ました」

「漫画みたいね」

「だが一夏はそんな中、必要以上に俺と遊んでいた。単純に幼馴染みだからだろうと思っていたが、良く良く思い出せば、寒いとかなんとなくとかの理由で頻繁に手を握られていた気がする」

「ふ、ふぅん」

「女子が近付いてきても嫌な顔していたし、逆に弾……あぁと、俺や一夏の親友みたいな奴が一緒だったり、男子から肩組まれたりしたら滅茶苦茶笑顔だった。あれ、そう言えば俺、一夏にバレンタインのチョコ貰ったな……かなり旨かったから良く覚えている、あの後、体が火照って仕方なかっ……あれ? 一服盛られてるじゃん!?」

「なんで今気付くのよ……」

 

 『鈍感?』と書かれた扇を広げながら顔を歪める楯無さんを横目に俺は戦慄する。そう言えば、あの中国娘に良く、一夏と二人きりになるなと真剣に忠告されたことがあった。

 鈴が一緒に居たときは、なんとか鈴と一緒に鈴ちゃん一夏とラブラブ大作戦を決行していたが、鈴が居なくなってからは、一夏と遊ぶときは大体誰か居たし……危機一髪だったのか。今更ながら恐怖が涌き出てくる。

 

「とりあえず、教室に戻りなさい。貴方も一応はロシア代表候補生なんだから。ね? お姉ちゃんのお願いは聞いて 」

「……はぁ、仕方ない。分かったよ姉さん」

「……ッ!」

 

 楯無さんが何故か体を震わせて悶えているが、どうかしたのだろうか。最近、風邪とか流行っているから気を付けて欲しい。俺の唯一無二の癒し場なのだから。あの教室に戻るなら、千冬さんも連れていくか。

 あの人、多分まだベンチで黄昏てそうだしな。

 

「ま、まって結城!」

「ん? なんか用でも残ってます?」

「……こ、これ。持っていきなさい」

「なんだこれ、扇?」

 

 唐突に楯無さんから手渡された扇。

 朱雀の綺麗な模様が入った見るからに高価そうな扇だ。良く見れば手元に金具があり、ひけるようになっている。まるで防犯ブザーのような作りだ。俺は疑問を浮かべながら楯無さんを見ると、楯無さんは『愛護』と書かれた扇を広げながら口を開く。

 

「それは更織特別製の防犯ブザーよ。それをならせば瞬時に」

「あぁ、誰か助けに…」

「私が駆け付ける」

「楯無さんかよ!?」

「良い? もし転んだりしたら直ぐにお姉ちゃんを呼ぶのよ?」

「い、いや流石にかすり傷くらいじゃ……と、とりあえず、ありがとうございます。これは貰っておくよ、うん」

「あぁ……で、でもやっぱり心配だわ。お姉ちゃんも教室まで…」

「いや! 本当に大丈夫だから! た、楯無さんは生徒会室でゆっくりしていてください!」

 

 俺の言葉に楯無さんは顔を歪めて、突然泣きそうな顔に変わる。なに、なんか変なこと言いました?

 

「……お姉ちゃんって、呼んでよ」

 

 なんでですかねぇ。

 ちょっとしたノリで読んだアダ名がそこまで気に入ったのだろうか。まぁ、楯無さんには色々とお世話になっているし、それくらいならなんの問題もないのだけども。

 

「あぁ……お姉ちゃん?」

「……不服そう」

「お姉ちゃん!」

「無理矢理言ってるみたい……」

「……お姉ちゃん」

「うんざりしてるもん!」

「お姉ちゃん」

 

 はっきりと目の前から伝えると楯無さんはさらに顔を歪めて泣きそうな顔になる。

 

「今ちょっとウザイと思ったもん!」

 

 め、めんどくせえええええええええええええええええええええええええええ。

 

「お、お姉ちゃん? じゃあこれで、教室に戻りますんで!」

「あ……」

 

 嫌な予感が脳裏を過るので、俺は素早く生徒会室から飛び出る。楯無さんが何か潤んでいるのに恐怖を感じさせる目をしていたように見えたが、多分、何かの気のせいだろう。

 ふと走りながらも、時計に目を向けると、既に一時間目は始まっている。早く行かないと本気で怒られてしまうな。ただでさえ、俺は男性二人目のIS起動者なのだから、悪目立ちしてしまう。

 俺は階段をかけ降り、中庭に出るとベンチに小走りで駆け寄る。

 

「ほら、千冬さん。教室行きますよ」

「……やだ」

 

 ベンチで膝を抱えて俯く千冬さんに俺は出来る限り優しく話し掛けると、妙に子供染みた声で首を降る。落ち着いて話せ結城。今、千冬さんは少し繊細な時間なんだ。

 

「やだじゃないですよ。俺も一緒に行きますから」

「……一夏がいるもん」

「一夏はホモですけど、貴方の弟でしょう?」

「弟だもん……」

「なら一夏のこと、好きですか?」

「……うん」

「なら教室に行って、ちゃんと先生やりましょう。一夏の前で」

「うん……」

 

 そのまま千冬さんの手を引いて教室に向かった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 教室の前まで来ると千冬さんが俺の手を離して、顔を引き締める。

 

「……ふぅ、すまない。結城。私は少し弱くなった」

「そんなトキみたいな台詞言われても……」

「頑張るさ、だからお前も頑張れよ……さぁ、教室に入ろう」

 

 そのまま千冬さんは異様に格好いい佇まいで悟ったように語ると、教室のドアに手をかける。

 その哀愁漂う背中が全てを物語っている。その背中を見ながら俺は顔を覆った、なんて不憫な。千冬さんはなんの躊躇いもなく、ドアを開け放つ。

 

「―――そこで結城が言ったんだ。一夏、お前は俺の背中に居ろってさ」

「きゃあああああああああッ!! 純愛、純愛だわ!」

「俺の背中に居ろ(意味深)」

「結城君の後ろに一夏が?」

「一夏が結城君の後ろに?」

「結城君は受け、間違いない」

「一夏攻めが濃厚だったかぁ……たまげたなぁ……」

 

 帰りたくなった。

 

「騒ぐなアホ共」

 

 そのカオスな空気を切り裂くように千冬さんは逃げようとする俺の袖を掴み、教室に踏み込んでいく。

 

「ち、千冬様だ!?」

「ヴァルキリーの!? 千冬様あああああああッ!?」

「……騒ぐなアホ共と言ったんだがな」

 

 疲れたような溜め息を吐く千冬さん。さっきまでの姿が微塵も感じられない。これがプロか。暑くなる目頭を俺は抑えた。

 

「ゆうちゃん……」

「ほ、箒……?」

 

 そんな中、何故か一人だけ冷めてる箒が再び覚束無い足取りで此方に歩いてくる。その手は何故か刀が握られていた。何持ってん?

 

「言われてない」

「は、はい?」

「言われてない言われてない……私は言われてない。ゆうちゃんの後ろにいろって言われてない……言われてない」

「……お、落ち着け箒」

「……言われてない言われてない言われてない言われてない言われてない言われてない言われてないッ!!」

 

 なんの迷いもなく降り下ろされる刀。

 

「うおおォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

 そして奇跡に成功する真剣白刃取り。

 

「言われてないよ……?」

「うおおォォォォォォォォォォォォッ!? ち、力をこめ、こ、込めないで!? 鼻、鼻に当たる!? 言います、言います!! 隣に居てください!?」

「え……?」

 

 そして刀が何故か、瞬間に消える。い、今のISの武装か? なに迷いもなく降り下ろしてるんだこの娘……

 

「隣に……うん、隣に居るからな……ずっと」

「お、おう……好きにしてくれよ……頬斬れたぞ……」

「ゆうちゃん、頬から血が出てるじゃないか。一体誰が……」

 

 なんで覚えてないんだよ。怖いよ。やっぱり普通に怖いよ。そして俺の血をナチュラルに舐めるな。辞めろ、怖い。俺はこんな教室で一年も過ごすことになるのかよ。無理だろ、一週間で挫折するわ。

 

「ゆ、結城くん。遅刻は駄目ですよ!」

「あ……すいません」

「いや、山田先生。結城が遅刻したのは私のせいなんだ。すまないが怒らないでやってくれ」

  

 確か山田先生と言ったか。彼女が小柄な体で俺を見上げながら叱ろうとすると、すかさず千冬さんが俺を庇ってくれる。はっと千冬さんの顔を見ると、その目で気にするなと語っていた。なんて人だ、やはり俺の境遇はこの人にしか伝わらないのか。天使だ。

 

「そうなんですか? あ、すいません結城くん! 私ったら早とちりしてしまいました!」

「ゆうちゃんを怒った……」

「辞めるんだ箒! 俺は怒ってないから刀を仕舞え、お前の人生が仕舞われるぞ! ……あぁと、山田先生、すいません。此方こそ何も伝えずに居なくなってしまいまして。どうぞ、気にせずに授業の続きをどうぞ。箒は俺が抑えておきます」

「あ、ゆうちゃん……手を……」

「……は、はぁ……分かりました」

 

 とりあえず箒の腕を後ろから握って降り下ろそうとする刀を止めると、箒は恍惚とした表情で捕まれている手を瞬きもせずに見つめている。やっぱり怖いわ。

 

「お、おい結城! 俺も一緒に!」

「五月蝿ぇんだよ糞ホモが!! 女の子なら未だしもなんでお前まで握らなきゃいけないんだアホが!!」

「昔はあんなに握ったのに!」

「握った?(意味深)」

「昔は握った(意味深)」

「何を握ったんですかねぇ……」

 

 ちょっとばかし腐ってる奴が多すぎんよ。やべぇよやべぇよ……なんなんだこのクラス。

 

「――――少しは静かに出来ませんの?」

 

 そんな静寂を切り裂くように輪とした声がその場に響く。ふと周りに釣られて視線を向けると、クラスの一番窓際、一人の長い金髪を揺らしながら何かの文庫を読んでいる一人の女性が席に座ったまま此方を睨んでいた。その顔はかなり端整であり、その睨み付けるような顔をさらに際立てていた。

 

「え、あ……悪い、少し五月蝿くし過ぎたかな?」

「……いえ、分かれば良いのですわ」

 

 そう言うと彼女は視線を文庫に戻して読み始める。あらやだ、まともな娘が居るじゃない。

 その娘の言葉に周りはすっかりと意気消沈し、クラスは静寂に包まれている。そんな中、まるで注目を集めるように千冬さんが手を叩き、乾いた音を響かせる。

 

「貴様ら、さっさと自己紹介の続きに戻れ。一夏の次だろうが、まぁ折角だ。男である武川が自己紹介してしまえ」

 

 そう言って場を切り直す千冬さんに治り、俺は危ない表情になってきた箒を投げ捨て、咳払いを一回して、口を開く。

 

「あぁ、んじゃ。武川結城です。趣味はこれと言って無いんですが、一応スポーツとして空手をやってました。まぁ昔の話なんですがね」

「溝に……」

 

 俺の言葉にさっきの彼女が何かを呟くが、声が小さくて良く聞こえない。なんか気になることでもあっただろうか。表情が無表情に近くて良く分からないが。

 

「……まぁ、一夏や箒とは昔からの幼馴染みでしてね」

「そろそろ新たな段階に行こうぜ!」

「うるせぇよホモ」

「幼馴染みとの新たな段階に進みたいと言う純粋な思いを踏みにじる結城さんは人間の畜生」

「一夏の純愛を拒む……これもまた愛ね」

「やべぇよやべぇよ……」

「さっきからなんなのお前ら? そんなに俺を苛めて楽しいの?」

 

 このクラスには腐ってる奴しかいないのかよ(諦め)

 まともな奴って千冬さんと山田先生とさっきから文庫を読んでいる彼女くらいじゃないか。

「じゃあ、さっきからの続きでセシリアさんから自己紹介と行きましょう!」

 

 山田先生が周りをものともせずに言う。あの人、凄いな。

 セシリア、そう呼ばれた文庫を読んでいる彼女は視線を文庫から外し、クラスを見渡すと大人しく立ち上がり口を開く。

 

「セシリア・オルコットと言いますわ。どうぞよろしく」

「……セシリアさんか」

 

 ふと名前を呟く。成る程、あのまともな彼女はセシリアさんと言うのか。

 思わず呟いてしまった俺にセシリアさんは顔を此方に鋭く向け、睨み付けてくる。あれ? なんか変なことでも言いました。

 

「"セシリアさん"? 違うわ、貴方は私を豚と呼びなさい」

「………」

 

 ん? なんか聞き間違えましたかな? 恐ろしい言葉が聞こえた気がするんだが、学校のチャイムに被さり、良くきこえなかった。可笑しいな、なんか凄く嫌な予感が脳裏を過るなぁ……この予感は良く当たるからなぁ。

 

「では、自己紹介はこれまでですね!」

 

 笑顔で終了を宣言する山田先生に、俺は一先ずその言葉を置いておくのだった。




僕が書いてる小説で一番不真面目に書いてる小説が一番人気。つまりホモは人気。真理だ(確信)


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ンアッー!!

「結城さんは一夏君と同じ部屋ですよ!」

「許してください!なんでもしますから!!」

「え、えぇ!?」

 

 山田先生に斬りかかろうとする箒を止めながら俺は頭を下げる。ちょっと箒ちゃん。その気に入らないと直ぐに斬りかかるメンへラ体質どうにかしないと俺も付き合っていけないよ。君がまともなら俺はすぐに君に抱き着くよ。一夏よりマシだもん。

 

「安心してくれ結城。俺は前から結城の寝顔を見続けてきたけど何時も我慢出来たからさ」

「我慢てなに!? 何を我慢するの!? ねぇ!?」

「私だって写真で我慢してきた。私なら安心だぞ? 」

 

 どっちも安心出来ねぇんだよ。写真とはなんですか? 言っとくけど、箒と会ったのはつい一時間前な筈なんだけど、何時の間に写真取ったの? 正直に話して、侵入したんでしょう?

 

「で、でも。流石に女の子と同部屋は学園的に問題がありまして……」

「な、なら千冬さんの部屋に!?」

「すまない、結城。教員と言えど男女だ。それも不味い。本人の希望があれば、箒ならなんとか許可出来るかも知れないが」

「ゆうちゃんと同部屋」

 

 救いはない(確信)

 千冬さん、貴女はこの部屋に上がり込んだら十割中十割は監禁される娘の元に行けと言うのか。無理です。なんの望みも残ってないわ。

 

「じゃあ、一夏君と同部屋で良いですよね!」

 

 その笑顔に拳を叩き込んでやろうか。

 

「結城、一日だけ耐えてくれるなら私が部屋を用意しよう。だから、すまない。一日だけ、一夏と同部屋で耐えてくれないか?」

「ち、千冬の姉貴……ッ!? あんた女神だ……分かりました、俺、一日だけ一夏と同じ部屋で過ごします」

「しゃァッ!!」

「一日だけ一夏と?」

「一夏と一日だけ?」

「大人な関係ですねぇ……(暗黒微笑)」

「擦れ合う純愛か……スイーツだなぁ……」

 

 そうやって不安を煽るの辞めて貰えます? あとなんでガッツポーズしたの一夏? ちょっと意味わかんない。

 

「ゆうちゃん?」

「箒、真実の愛は遠く離れてこそ分かるんだよ」

「ッ!?」

 

 まぁ俺と箒にそんなものは今のところ無いんだけど。此処でごめんやら許してやら諦めてなんか言えば殺されそうだから言っておく。ちょっと驚愕している箒は不本意ながら可愛いと思ったのはここだけの話。この娘、可愛いくらいチョロい娘だなぁ……

 

「じゃあ鍵は一夏君に渡しておきますね!」

「合鍵とか無いんですか?」

「あぁ、すいません。ちょっと用意が間に合わなくて……」

「そうですか……箒持ってる?」

「うん」

「ちょうだいね」

「ッ!?」

 

 なんで持ってるのかなんか聞かない。ただ持ってるんだろうなと思ったがやっぱり持ってたよ。

 俺は箒が握っていた鍵を受け取ると、一夏の手にある鍵と見比べる。若干、俺の手にある鍵は創作感があり、形は歪だが大体は同じだ。本当になんで持ってるんだろう。

 

「結城と俺の部屋だな!」

「あぁ、そうなんだけどさ……なにその言い方。一日だけだからな」

「一日だけでも嬉しいんだよ!」

「一日だけの関係を嬉しがる一夏は純愛の鏡。そろそろ結城君は諦めるべき」

「さっきから五月蝿いなお前!! のほほんとしてる癖に突っ込みが鋭いんだよ!」

「一夏は一日だが、私とゆうちゃんは永遠だぞ!」

「箒も張り合わなくて良いから!」

 

 段々とカオスになる空気に俺の不穏は募っていく。俺は、頑張ってるよな。

 

「――――武川結城様でしたわね」

 

 そんな空気を切り裂くように、一人の女性が俺に話し掛けてくる。

 長く透き通るような綺麗な金髪に端整な顔付き。そう、確か、セシリア・オルコットとか言ったか。

 

「あぁと、なんか用ですか?」

「いえ、少し聞きたいことがありまして」

「俺に……?」

「はい、些細なことなんですが……空手の試合で相手の骨を折ることは良くあるのですか?」

「はぁ? ま、まぁ……俺は見た通りの細長い奴ですから、良く相手の肋骨とかを」

「……肋骨、そう言うのもあるんですの……」

「はい?」

 

 何かを思慮深く考えている。さっきは文庫とか読んでたし、何かと物事を深く考える知的なタイプなんだろうか。

 

「いえ、お邪魔しましたわ。また明日、お会いしましょう」

 

 そのままセシリアさんは此方の返事を待たずに歩き去ってしまう。一体なんなんだったのだろうか。文学少女は良く掴めないと言う話は割りと本当の事だったんだなと内心で納得しながら、俺はその去っていく背中を視線で追いながら首をかしげた。

 

「そうだ、結城。風呂一緒に入らないか?」

「寝言は寝てからいえホモ野郎」

「なんだよ、一年前までは普通に…」

「あああああッ!? 辞めろ馬鹿ッ!? 今まで思い出さないようにしてたんだぞッ!?」

「一緒に風呂に入る?(意味深)」

「お前の耳は難聴か!?」

 

 のほほんとしてるのに動きが機敏なんだよ。なんなんだこの学園。変人しかいないのか。

 そんな場を崩すように、突然、千冬さんが何かを思い出したように顔を変える。

 

「あぁ、そうだ。結城、お前の専用機が訓練場に届いているんだ。今、何も用がないなら少し着いてきてくれないか?」

「専用機……俺にですか?」

「かりにもロシア代表候補生だろう。与えられて当然だ……まぁ、間に合わせの物だがな」

「間に合わせ?」

 

 俺の言葉に千冬さんはただ苦笑を浮かべるだけだった。しかし、俺がロシア代表候補生ね。噂にはこの肩書きがどんなものかは理解しているが、まさか俺がその肩書きを背負うことになるとは思いもしなかった。しかも、楯無さんの後がまになるのだ。

 

「大丈夫だぜ。俺も結城と同じ候補生だしな! 二人で、二人で頑張ろうぜ!」

「そんな二人でを強調すんなタコ……分かりました、千冬さん。行きましょう」

「あぁ、最適化前のISは関係者以外は見るのを禁止だ。すまないが、私と結城以外は此処で待機していてくれ」

 

 俺以外にそう伝える千冬さん。そんなまともに言うことを聞く二人じゃ…

 

「……ふむ、なら一夏。久し振りに剣道でもどうだ?」

「……あぁ、悪くないな」

 

 あれ?

 

「―――――殺してやる」

「―――――俺と結城の邪魔はさせねぇ」

 

 殺伐とした言葉を吐きながら二人はそのまま去っていく。

 うん! 俺知ーらない! あの二人なら大丈夫だろ(小並感)

 

「や、ぼ、暴力は駄目ですよ!? 二人ともちょっと待ってください!!」

 

 その二人をすかさず追いかけていく山田先生。これで安心だ(震え声 )

 俺と千冬さんはその三人から逃げるように反対の方向を歩いていく。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ラファール・リヴァイブルヴァルギガンテス(不死巨人殺し)。先攻型近接特化仕様機だ。背中には大型ブーストクラスターを六問。後付けは全て中距離武器に振られている」

「は、はぁ……滅茶苦茶一点特化ですね」

「盾殺しが基本装備だからな。扱いにくい機体ではあるが、加速や最高速。そして何よりシールドが凄まじい量を誇っている。見た目がゴテゴテは見かけ倒しではない。硬いんだ、こいつは」

「堅い?」

「ガチガチだ。盾殺しでも十発は耐える」

 

 こんなぶっとい盾殺しに十発は耐えるのか。見た目がもう厳つく、見るからに防御特化の癖に速いと言うのならば、必ずや何か重大な欠陥がある筈だ。

 

「ただ弱点はレーザー兵器などに極端に弱い。実弾などは平気で何千発と耐えるが、レーザーは三発と耐えられないだろう」

「うわぁ……」

「それに方向転換。つまりは旋回力が皆無に等しい。こいつは曲がる事を考えていないのだ。それを保護するために、百四十ミリのカノン砲四門に、六十ミリのガトリングが六門搭載されているが、旋回能力が無いから、弾幕程度にしかならん。まぁ……なんだ。砲台ISと称されるのも分からなくはない。コンセプトは"じっと耐えて、耐えて、耐えて、相手が油断したら自慢の釘を撃つ"」

 

 もうコンセプトがなんか俺を苛めに来てないですか? あれ? 俺ってロシアになんか重大な勘違いでもされてるの?

 

「制作者のコボルトアベ・ヤラナイカーさんはこれを作ったことに喜びを感じていた。上手く使ってやれ、結城。最適化を済ませてしまおう。装着してみろ」

「は、はぁ……どうやって装着するんです?」

「私が手伝ってやろう。まず此処に手を置け」

 

 千冬さんに言われるがまま、ISに手を置き、身体を預けるように乗り込む。そのまま顔を覆うようにバイザーが顔に被さり、腕やら足やらが可変しながら身体に装着されていく。

 凄いな。男の子の色んな部分を擽られる。ISには前々から興味があったが、まさか自分が動かすことになるとは思いもしなかった。

 

「装着が終わりましたよ、これ、最適化ってどうすれば良いんです?」 

「動いてみろ、後はISが勝手にやってくれるさ」

 

 動くね。取り合えず、鎧のような頑固で威圧を与えるような腕を動かしてみる。両腕に装着されたパイルバンカーがかなり凶悪なフォルムを象っている以外は中々に格好いい。

 だけど……欠片も足が動かないんですけど。

 

「千冬さん、あの……」

「……確か、足は備え付けられた対衝撃用バックタブを地面に打ち付けられる筈だ」

 

 対衝撃用バックタブ。何となく感覚で分かるが、これか。

 俺は脚に意識を集中してみると、足である筈の部分の機体が可変し、もはや脚とは呼べない形になり、一種の釘が地面に複数、打ち付けられる。完璧に地面に固定されると背中に収納されていたカノン砲とガトリング砲が前方を向くように固定された。

 

「……」

「I……S……?」

 

 千冬さんに首を傾げられたらもう、僕分からない。

 瞬間、突然にISが息を吹き返したように機能が次々と動き出す。普通だった筈の視界が機械的に変わり、様々な物を分析し始め、その結果が視界の右側に表示され始める。

 さらに様々な部分が可変し、頭の部分には角が現れ、口元を覆うようにカバーが顔を覆う。その形はまるでカブトムシのようなフォルムを象った。

 

「……移動能力を捨てたISか。もはやISとは別の物だな」

「違う。なんか思ってたISとちゃう!」

「"重昆(じゅうこん)"。それがISの専用機としての名だ。まぁ、なんだ……レーザー兵器さえ気を付ければかなりのスペックを誇るISだ。瞬間移動(イグニッション・ブースト)では操縦者に左右はされるが、音速の世界に行けるからな。その太い釘で貫いてやれ」

「……」

 

 言い方。なんか言い方が可笑しいですよ。

 しかし、ラファールってフランス語なのに、ロシアの専用機であり、日本語の名前なのには何か意味でもあるのだろうか。ごちゃ混ぜにした感じがカオスであり、何れが本当のISの名前なのか分からないんだが。まぁ良いか。

 俺はISを粒子化すると、地面に降り立つ。さて、ISの最適化が終わった事だし、どうしようかな。

 

「結城。この後、もし暇なら私に付き合ってくれないか?」

「はい? 暇っちゃ、暇ですけど……まだ何かあります?」

「いや、これと言って事務的な用はない。私用だ、少し飲みたい気分でな。私の部屋で付き合ってくれないか?」

「あぁ、話し相手ですか?」

 

 確かに、素直に部屋に戻っても嫌な事しか残ってないしなぁ。それなら千冬さんの愚痴に付き合った方がまだ楽しそうだ。この人の話は以外と面白い話ばかりだし、前に話して貰った七歳のドイツの女の子にガンダムを実話だと教えた話なんか一番笑えた。

 

「あぁ、話し相手でも。お前も飲んでみるか?」

「うぇ!? 良いんですか!?」

「まぁ、バレなきゃ良いだろう。私も飲みすぎないように見てやるさ」

 

 そう言いながら苦笑する千冬さんは、俺の返事を待たずに外に向かって歩き出す。俺はその背中を追い掛けるように小走りで追い付くと、その隣を歩く。

 ふと、俺は千冬さんを見下ろして、その顔を見てみる。一夏を美少女にしたような千冬さんは俺よりも身長が低いながらも世界最強の肩書きを持っている。その人とこうして歩いていると言うことを事態、俺は結構な幸運野郎なのだろうか。

 

「どうだ結城、この学園ではやっていけそうか?」

「あぁ……どうですかね。これ以上、俺の頭を悩ます奴が居なければなんとかやっていけそうですけど」

「ふっ……私もこれ以上、悩みの種は増えて欲しくないな。死にたくなる」

 

 疲れてますね千冬さん。

 

「せめて一夏がなんとかなればなぁ……」

「誰が一定の人物でも作れば良いのではないか? 箒……は無いか。うむ……鈴は一夏にしか目がない奴だったしな。蘭の奴も一夏に夢中だし、お前の周りは女が居ないな」

「一応、箒は女の子だけど。あの娘と付き合ったら死にそうです……」

「中学には居なかったのか? お前が空手の大会で優勝した時は女子の黄色の悲鳴が上がってただろう?」

「あれは俺と喜び合ってた一夏に向いてる悲鳴ですよ」

「……そうか」

 

 しかし、意中の相手を作るね。楯無さんとかは高嶺の華過ぎて恐れ多いし、それ以外に女子の知り合いなんかいないしな。あれ? 思い返せば思い返すほど、一夏との思い出しかないんだけど。

 箒が、箒がもう少しまともなら。

 そんな事を話し合っている内に、俺達は目的地である千冬さんの部屋にたどり着く。

 

「よし、遠慮せずに入れ」

 

 そう言いながら部屋の鍵を開けて部屋に上がり込む千冬さん。

 

「あれ? 部屋が綺麗なんですけど、ダスキンでも呼びました?」

「業者を呼ぶほど汚くはないぞ!?」

 

 お茶目な冗談である。

 しかし、千冬さんにしては部屋が綺麗過ぎる。書く言う俺も部屋を片付けられない男だから、良く一夏に部屋を掃除して貰った記憶がある。俺の部屋なのに一夏の方が詳しいんだから……あれ? 俺、一夏に侵入されてるじゃん。

 

「昨日、一夏に掃除されたんだ」

「あぁ、なるほど……」

「適当に座れ」

 

 千冬さんは短くそう言うとキッチンに消えていく。俺は千冬さんに小さく頷き、用意されている小さな丸テーブルに座るとテレビのリモコンを手に取り電源をつけた。

 流れるバラエティーをBGMにしながら部屋を見渡すが、千冬さんらしく質素な部屋である。

 趣味がないと言っていたが。

 

「開けていないウイスキーがある。飲んでみるか?」

「う、うえ? 良いんですか?」

「お前は十八だろう。多少なら構いはしないさ……あぁ、私が飲ましたと言うのは、内緒にしろよ?」

 

 此方をからかうように言う千冬さんに頭を掻いて、俺は頷く。不意打ちながら今の首を傾げる千冬さんは可愛かったのは心の内に秘めておこう。

 三年も留年した俺をこうも辺鄙を感じさせずに対処するのは、千冬さんくらいだろう。

 氷の入ったグラスに並々注がれるウイスキーを見ながら俺は苦笑する。やはり、千冬さんには頭が上がらないな。

 

「では、お前の入学を祝って乾杯だ」

「あ、はい! 乾杯!!」

 

 千冬さんとグラスを合わせて、甲高い音をグラスに響かせると、俺はウイスキーを一気に煽る。

 物凄く喉にくる上に一杯だけで頭が僅かにふらついた。

 

「うお……美味い」

「ふっ、顔はそう見えんがな」

 

 苦笑する千冬さんに苦笑を返す。

 IS学園に来て一番楽しい時間だ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 頭が痛い。

 

 

 

 

 視界がボヤけるし、喉もヒリヒリする。

 なんだこれ、吐きそう。ふらふらするし。なんだ、これ。

 痛む頭を抑えながら顔を上げると、其処は見知らぬ部屋に居た。

 

「痛ぇ……何処だよ此処……」

 

 昨日は、確か、千冬さんと一緒に酒を飲んで。それからどうしたんだっけ。何にも覚えてないぞ。

 俺は取り合えず、ベットから降りようとすると脚が誰かに当たる。ふと横を見れば布団が息をするように上下していた。

 

「………」

 

 

 

 

 

 おいおい。ははっ。まさか。そんな。

 あるわけないって。さけをのんでいちやのあやまちとかあるわけないやん。今時ベタすぎるわー。

 ほら、こうやって布団を捲ったら。

 

「………」

「」

 

 上半身裸の一夏が寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 え。

 

 

 

 

 

 

 

 おれは、とりあえず、布団を一夏にかけて、反対側からベットを降りようとすると身を反転させると。

 

「ん……すぅ………」

 

 下着姿の千冬さんが居た。

 

 

 

 

「」

 

 

 

 

 

 あ。



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千冬のえっちな回想! 

 目の前に広がる大海原を見ながら、俺は海岸沿いに佇む。あぁ、海は広い。綺麗だよな、素晴らしくさ。こんな酒に溺れる真っ黒な俺とは格が違うよ。あぁ、素晴らしきこの世界。こんな題名のエロゲあったなぁ。

 そんなのはどうでも良いか。勢いで逃げてきたけどさ。翌々考えたら、これって一番最低な行為じゃん。でもさ、考えたら分かるよ。俺には少し考える時間が必要だった。裸だったんだぜ、俺。もう全裸。訳が分からないよ(Q)

 隣にいるのが千冬さんだけなら良いさ。でも、一夏って。一夏ってお前。どんなウルトラ選択ミスしたらそうなるんだよ、アイレムもビックリな選択ミスだよ。

 結局、俺の穴は痛くも痒くもない。安心だって? 突っ込んだかも知れないじゃん。辞めろよ。考えれば考えるほど、この海に身を投げたくなる。何か、何かさ。俺は無実だって言う証拠があれば良いと思うんだけど、俺をピンポイントに撮影した監視カメラがある訳でも。

 

「……あれ? あるじゃん」

 

 無実だって言う証拠が、あるかも知れない。俺は携帯で何故か勝手に登録されている番号に電話をかける。

 

『ゆうちゃん。ゆうちゃんから電話をくれるなんて……私も今、ゆうちゃんに電話をかけようとしてたんだぁ』

「箒さ、ちょっと俺を監視してる物、その録音記録を見せてくれないか? 見せてくれたらデートしよう」

『仕方がないなぁ!! ゆうちゃんを見守っているカメラは粒子化してるんだ、今から実体化させるから手を広げて』

 

 俺は箒に言われるがまま手のひらを広げると、何故か空中から、まるでISが粒子から実体化するようにカメラが現れ、手のひらに落っこちる。いや、流石に粒子のカメラなんか気付く要素も無いわ。束さん、何やってんすか。無駄な技術を危ない方向に向けないでくださいよ。

 

「よし、ありがとう」

『デートは?』

「……明日ね」

『明日……うん、明日。はははははははははははははははははは…』

 

 笑い声が響く電話を切る。明日、死ぬんじゃないかな。

 だが、俺は今を生き抜くのだ。海岸沿いに座り込み、一般的な形をしているカメラの横を開く。そして録音記録を操作すると、ちょうど海岸沿いに佇む俺が映した。怖いわ。

 

「違うよ。昨日の分だ、昨日の」

 

 そして俺は巻き戻しボタンを押しながら、昨日の夜八時辺りまで時間を巻き戻した。

 そこには俺と千冬さんの二人がまだ、酒を飲んでいる姿が映し出される。なんとしかも、音声までハッキリと聞こえるではないか。

 

『そこで私がな、女の子に言ってやったのさ。孤高な男には母が必要だと……そう、シャアのような奴にはな。と』

『ハハハハハッ!! それ信じたんですか!?』

『信じたぞ。自分はララァのような女になると意気込んでいた』

 

 違うな。こんな無駄話じゃない。少し二十分くらい時間を速めるか。

 

『女の子はなぁ……ラウラって言うんだが、もう純粋な奴でな。カップラーメンは三分間カップラーメンの舞いを舞ってから喰うと教えたら本気で三分間舞っていたくらい純粋な奴でな。爆笑したよ』

『うはっ! 見てみてぇ!!』

『確か動画に撮ったはずだ、ちょっと待ってろ』

 

 棚を探す千冬さんの服が乱れ、俺は何故か上半身裸だ。巻き戻して見てみれば、物凄く暑いからとナチュラルに脱いでいた。何故に千冬さんはスルーしているんだ。

 この辺からヤバくなっているな。あと二十分くらい速めてみよう

 

『…と、言う過去があってな。ラウラはこう見えても壮絶な過去を送っているんだ。だから、あの娘も母親を求めて私になついたのかも知れない。ラウラも良い子なんだ……私はな……幸せになって欲しくてなぁ……』

『う、うあぁ……ラウラちゃんにそんな過去があるなんて………なんて、なんて不憫な!! 俺が近くにいたら抱き締めてやりますよ!!』

『……あぁ、お前みたいな奴になら任せられるな。兎を百獣の王と勘違いしたこの子を』

『ぶほ!! ちょ、ちょっと千冬さん! ははははははははは辞めて! 思い出しちゃうからあの映像!』

『くっ……』

 

 最低か。

 しかし、もう完璧に出来上がってるなこれ。ラウラちゃんって誰だよ。なんも覚えてないよ。なに兎と百獣の王って、訳が分からないよ。なんでこんな面白くもない事で爆笑してんだよ。情けなくなってくるよ。

 あと二十分速めてみよう。多分、そろそろだろ。

 

『よし! 取り付けたぞ!』

『しゃあ!! こんな良い娘なら箒とも一夏とも違う方向性を導けますぜぇ!! ホモ疑惑もこれまでだァ!!』

『ただ、彼女は確か……十四か其処らだった気がするが、世間体的にホモからロリになるだけだ。なんの問題もないな!!』

『はい、全然問題もないですぜ!! 千冬さん、景気祝いにカップラーメンの舞いだ!』

『よし!!』

 

 あぁ。もう見る影もないよ。何この盆踊りとリンボーダンスを合わせたような気持ち悪い舞い、こんな千冬さん見たくなかったよ。この時点で俺はズボンを脱ぎ捨てていた。なんでだよ。ここでまた二十分くらい進めてみよう。

 

『………』

 

 千冬さんと俺はベットで寝ていた。

 

「いやなんでだよ!?」

 

 思わず突っ込みを入れてしまう。十分くらい戻してみよう。

 

『一夏をバイにするには、まずは女性に興味を抱かせることかられすよ!!』

『しかしだなぁ、しかしだなぁ……いちかはエロ本もよまんぞぅ!』

 

 完璧に意識ねぇよ。千冬さんなんかもう寝てるんじゃないの。

 

『ものへんみせれば良いんすよ!』

『ものほん?』

『女性のおっぱいを!』

 

 屑か。

 何その発想、どうしてそうなっちゃったの。ちょっと意味分からないよ。

 

『しかしだれのを?』

『良いですか!! おれが裸でいちかをひきよせまふから! その時に…千冬ひゃんがすばっと!!』

 

 日本語喋れよ。

 

『ッ!! なるほ! すばらしい作戦だ! 結城! 脱げい!』

『いやぁぁぁ!? お代官様あああ! お許しをぉぉぉッ!!』

『ふはははははパンツ取ったぞぉぉぉッ!!』

 

 もう見てらんねぇよ。何これ。お酒怖。

 その場で千冬さんに全てを脱がされる俺は見事にフルチンで、覚束ない足取りのままフラフラしている。そんな俺を見て千冬さんは爆笑していた。

 駄目だこれ。千冬さんには見せらんねぇよ。素に戻ったあの人にこんなの見せたら自殺しかねないよ。

 

『よしゃ!! 千冬ひゃん! 一夏の部屋にぃ……乗り込むぞぉ!!』

『まて結城ぃ! 全裸はまずい……この金魚をつけろぉ!』

『金魚ぉ!!』

 

 そう言って千冬さんに金魚の玩具を装着させられる。死にたい。なにこれ。凄い死にたい。

 見事に金魚装備のみとなった俺と千冬さんはそのまま部屋を飛び出した。カメラの時間を見れば深夜三時だ、この寝静まった時間に出たのは不幸中の幸いか。何も救われてないけど。

 そのまま俺と千冬さんは覚束ない足取りで寮を走り抜ける。怖いよ。一人全裸の一人スーツ姿って怖いよ。自分の理性が怖いよ。俺、こんなに疲れてたのかな。

 そのまま一夏の部屋に辿り着くと、千冬さんがそのまま合鍵で部屋の鍵を開けると二人で侵入する。

 

『いちかぁ!!』

『いちかぁ!!』

『ん……あぁ………うおおおおッ!? な、なんだ!? ち、千冬姉と結城!?』

『ベットから引きずりだせぇ!!』

『やーぁ!!』

『うおおおおおおおおおおッ!?』

 

 そのまま二人で一夏の足を掴み、ベットから引きずり落とすと一夏を囲むようにカップラーメンの舞いを踊り始める。

 何がしたいんだよ。

 

『やっやっやっやっ!!』

『ふっふっふっふっ!!』

『な、なに!? なにこれ!? え!? え!? なにこれ!?』

『ふっふっふっふっ!!』

『やっやっやっやっ!!』

『な、なんなんだよぉ!?』

 

 なんなんだよ。この気持ち悪い踊りはなんなんだよ。

 

『ゆ、結城!? 風邪引くぞお前!?』

『どうだいちか!! 女に興味が出てきたかぁ!?』

『は、はぁ!?』

『足りないようだ!! 千冬ひゃん!』

『よしゃあ!!』

 

 そして下着姿になる千冬さん。何これ。どうしたの俺。訳わかんねぇよ。

 

『ハァ……ハァ……気持ち悪くなってきた』

『ち、千冬姉!? だ、大丈夫か!?』

『うぶっ!』

『うおおおおおおおッ!? しゃ、シャツに吐くなよ!?』

 

 一夏のシャツに嘔吐するヴァルキリー千冬さん。全女性の憧れです。全女性の憧れが弟に下着姿で嘔吐してます。駄目だこれ。絶対見せられないよ。千冬さんがこんなの見たら自殺物だよ。

 

『あぁ、眠いわ………』

 

 そのまま俺は何故か一夏が寝ていたベットに倒れ込み、寝息をたて始める。寝ちゃったよ。金魚外れてんぞお前。そのままカメラは俺の顔しか映さず、周りの様子は声しか聞こえない。

 

『うわあ!? 千冬姉!? ベットに吐くなって!!』

『あぁ………』

『寝てるし!? おい、どうすんだよ。流石にこんな姿の姉を外に出せないぞ。あぁもう、シャツ臭いし。脱ごう……とりあえず、千冬姉を結城の隣に寝かせておこう……あぁ、たく』

 

 そう言って一夏が画面に写り込み、下着姿の千冬さんを俺の隣に寝かせると、俺の寝顔を見て優しく微笑み、俺の目にかかった髪を解かすとその場をたって部屋を掃除し始める。

 俺は時刻をさらに二時間ほど進めてみると、一夏が疲れたように俺の隣に倒れ込み、寝始めた。

 

「一夏何にも悪くねぇじゃん」

 

 真っ先に疑った俺が罪悪感抱くじゃん。何もしてねぇよ。ただ隣に寝るなよ。俺を地面に落とすかしてくれたらもっと良かったよ。隣に千冬さんだけで朝チュンならなんの文句もなかったけどさ。

 とりあえず、一夏に謝らないと、これは。この映像は永久封印だ。

 俺は監視カメラを地面に置いて腕を構える。

 

「えぇと、ラファール……いや重昆だっけ? なんで俺のISだけこんな名前がややこしいんだよ……せめて統一しろよ。重昆でいいや」

 

 ISの名前を呼ぶと俺の身体がISに包まれる。その巨悪な右腕を振り上げ、カメラに叩き付けると、カメラは跡形もなく消し飛ぶ。これで良い。あんな映像は俺の内に秘めておこう。

 

 あぁ、帰りたくないな。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「すいません、寝坊しました」

 

 タクシーでIS学園まで帰ると、俺はとりあえずクラスに帰る。

 

「結城くん! 寝坊は駄目ですよ! 」

「すいません山田先生。ちょっと昨日、夜更かしし過ぎたみたいでして……」

 

 ぷんぷん起こる山田先生を横目に俺は周りを見渡すと、教室の後ろで千冬さんが頭を抑えながら此方を見ていた。とりあえず軽く苦笑して様子を伺うと千冬さんも苦笑を返してきた。

 よし、とりあえず千冬さんも記憶は無いみたいだ。俺はそのまま一夏の隣に座ると、山田先生はそのまま授業を開始する。

 

「よう、結城。朝起きたら姿が無かったから一応誤魔化しておいたぜ」

「……悪い。助かった……その、一夏。昨日のことはすまなかった」

「あぁ、気にすんなよ。驚いたは驚いたけど、千冬姉には結城と酔っぱらって五月蝿くしてたから、俺が介抱したとだけ伝えておいたぜ。後で結城から詳しく話してくれないか?」

 

 よし、詳しく話していないのか。良かった。

 

「あとは俺が話しておくから、任せてくれ」

「そうか? なら頼むよ」

 

 そのまま一夏は何事も無かったように教科書に集中し始める。そうだ、それで良いんだよ。後は全て俺に任せてくれ。この記憶は未来永劫封印しておくから。

 さて、俺も切り変えて、授業に集中しよう。言っちゃなんだが身の潔白が証明された俺にはなんの迷いもない。あ、でも千冬さんに全て見られてるんだよな。

 

「――――それでですね、クラスの代表を選びたいと思うんですよ。誰か推薦する人は居ますか? 」

 

 クラスの代表? あぁ、確かパンフレットにそんなの書いてあったな。

 

「一夏を推薦します!」

「結城君って、確か三カ国の共有の候補生なんだよね?」

「将来的にどの代表になるか自分で決めれるんだっけ? 確かISも三カ国で協力して作られたんだよね」

 

 もうそんな情報まで飛び交っているのか。

 確かに俺は男性二人目を独り占めする日本に抗って他国が出した苦肉の策が、三カ国共有の代表候補生だ。フランスとロシアと日本。最終的に何処か一つの代表になるが、俺には三カ国から好きに選べると言うVIP待遇。

 まぁ、世界で二人しかいない存在だから分からなくもないが。

 一夏と違い身内に地位のある人物が居ない俺は立場的には凄く微妙な立ち位置にいるのだ。まさに綱渡り状態。

 

「あぁ、先に言っとくが。ISはフランスの機体を中心にロシアが改造してOSは日本が開発したんだ。三カ国協力と言うよりはバラバラに作った機体だし。俺自身そこまで強くはないぞ?」

「でも男性だし…」

 

 名前も知らぬ女の子が口を開こうとしたその時、突然、窓際に座っていたセシリアさんが立ち上がり始めた。その余りにも唐突な行動に周りの視線が集まる。

 

「―――納得行きませんわ」

 

 その言葉に俺は当然だと感じた。だって、ISも殆ど知らない俺より、長くISに関わってきた彼女らの方が優秀なのは目に見えて分かることだ。その彼女らを差し置いてぱっとでの俺に地位を奪われては納得のしようがないだろう。

 

「そうだな、セシリアさん」

「クラスの代表は、"強くなくてはなりませんの"。私がそれを見極めますわ。さぁ、殴りなさい」

「はい?」

「私が身を持って、貴方の力を試すと言っているんですわ……あぁ、なるほど。足りませんのね?」

「うん、はい?」

「私も少々物足りないと思っていましたの」

 

 何が?

 

「ISで勝負をつけましょう」

「嫌だよ」

「ッ!? な、なんでですか!?」

 

 だって負けるのなんか目に見えているし、俺だって年下の女の子に負けるのはプライド的な物がざわめいて嫌だ。いや、プライドなんか昨日の時点で無くなってるのかも知れないけどさ。

 セシリアさんは此方に詰め寄りながら息を荒くする。

 

「そ、そんな……貴方のISは盾殺しなんでしょう?」

「あぁ、そうだけど。良く知ってるね、情報公開されたの昨日だぞ」

「盾殺し、貴方は一回でも当ててみたいと、その威力を肌で感じてみたいと思いませんの?」

「あぁ……確かに、思いっきり撃ってみたいなぁ……」

「さぁ来なさい!!」

「いかねぇよ」

「ッ!?」

「いや、なんで驚くの? 生身に盾殺しなんか放ったら肉片になるだろ、当て所が良くても、足やら腕が無くなるのは確実だぞ? 撃つ訳無いじゃん」

「IS装備しますわ」

「装備してもまともに受けたら骨折コースだぜ?」

「……――――――素敵ですわ」

「」

 

 え? 文学少女じゃないの?

 なんで息を荒くして顔が火照ってるのこの娘。素敵な声をしておいてなんだこの娘。前々から聞き間違いかと思ったけど聞き間違いじゃなかったよ。

 

「兎に角、私は貴方達に勝負を申し込みますわ」

「お、俺も?」

「えぇ、お二人に。千冬先生!」

 

 セシリアが千冬さんに声をかけると千冬さんはその声が頭に響いたのか、顔をしかめながら小さく頷き、口を開く。

 

「あぁ、好きにしろ……」

「では、先ずは一夏さんとの勝負後に結城さんと勝負しますわ」

「一日くらい開けないと……」

 

 俺が意義をたてるように口を開こうとするが、それをセシリアさんの手で制される。セシリアさんはそんな俺を見て不適に笑うと笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「疲弊を心配しているなら結構……――――――――勝利は続けて取ること、こそに意味があるのです。結城、だから、くれぐれも手加減しないようにお願い致しますわ」

 

 

 息を荒くしなければ格好いい台詞だったなぁ。

 

  

 

 




どうすんだよこの千冬さん。そろそろ完結しても良いよね。


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ミッションインポッシブル"プロローグ"

待ってた人とか居ないだろ。


三話で御送りする。今回はプロローグだから短い。


 修行が必要だ。

 '俺はISに関してはド素人も良い所、例えるならアンバーに会う前の黒い契約者みたいな、ツェペリに会う前のジョナサン。あの日本の野球界を盛り上げるまーくんと高校時代、激闘を繰り広げたと言う伝説のハンカチ野郎みたいなポジションにいるのだ。つまり、俺は至急すばやく訓練を行わなければならない。

 

「遅いぞゆうちゃん!」

「お、おう。待たせたな」

 

 このミッションインポッシブル(箒のドキドキデート大作戦)を生き残りな。

 目の前にいる箒は至って普通、ポニーテールにショートパンツ。ラフなシャツにカーディガンを羽織った洒落乙な格好の美少女である。だが中身はちょっと病んでるメンヘラ気味な女の子! 今日は恋する俺とのデートにウキウキな気分だぁ!

 こんなキャッチフレーズを思い浮かべてないとやってられないよね。

 

「ゆうちゃん、今日の……そ、その。デートコースは何処に行くんだ?」

「あ、あぁ……水族館とショッピングに行こうかと思ってるんだが、どっちから先に行きたい? 」

 

 平凡だとか馬鹿にされるかも知れないが童貞にロマンチストを求めたらロマンチェストになりかねない危険があるのだよ。バイクの免許があるのでドライブも考えたが、俺のリア充スキルでは閉鎖空間の会話なぞ一分も持たんわ。

 

「水族館が良いな!」

「そっか、んなら行くか」

「あぁ、楽しみだ。昔は一夏とゆうちゃんと姉さん、千冬さんの四人で良く行っただろう? 昔からゆうちゃんはペンギンを怖がってた」

「皇帝ペンギンを俺は皇帝だと思ってたからな」

「今思い返せば結構残念な子供だったな」

 

 イケメンの一夏、美少女の箒、ノッポの結城とかアダ名もあったな。ノッポって、言いたいことが分からなくもないがもうちょっと良いアダ名が合っても良いような気がしないでもない。今じゃホモの一夏にメンヘラの箒にノッポの結城だ。変わらないって素敵やん 。

 

「ゆ、ゆうちゃん」

「あい?」

「手を、繋いでも良いかな?」

 

 遠慮を含めながら言う箒は顔を赤面にし、照れながら言う。可愛い。

 断言してやろう、可愛い。

 俺はその辺のラノベ主人公とは違う。素直に美少女は可愛いと思うし、相手の好意にも鈍いつもりはない。可愛いんだよ、箒は。

 

「……あぁ、デートだしな。良いぜ」

「本当か!? じゃあはい!」

 

 そして金属音を鳴らしながら俺の腕にはまる手錠。ピンクの装飾が可愛いね。アホか。

 そのまま何事も無かったように箒は自分の腕にも手錠をはめると、実に嬉しそうに俺の腕に抱き着いてくる。

 

「今日一日、ずっとだからな!」

 

 やっぱ人間。顔より性格だと悟った十八の休日です。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「私楯無は姉である。姉と言っても義理に近い血の繋がりなどは悲しいことに無いのだが、一概に家族と言う定義を思慮深く考えれば、従来、私達は血に拘る時勢は過去であり、現世は世界は血に拘ることなどあまりない。そもそもキリストやザビエルだって愛は見えないとか言ってるし法律だって義理は結婚出来るし。血の繋がりとは何かなんて哲学的に考えるならどうでもいい。つまり、私、楯無は結城の姉である」

 

 独りでに呟くと周りにいた小学生が身を引いて逃げていく。その背中を見ながら、私は遠くの噴水前で手を繋ぐ二人の姿を双眼鏡で捕えた。

 

「会長。なんで私達がこんなことを?」

「不純異性行為を止めるのは会長の仕事よ。もっと健全な姉好きの結城を取り戻すために、この本作戦をデート・オア・ブレイクと名付けることにする。この本作戦の内容は…」

「いや名前聞けば分かりますよ。突っ込みたい所は多々ありますが……まず、大丈夫ですか会長?」

「手錠……! そう来たか女狐……鴉の恐ろしさをその身に叩き込んでやろう……行くわよ」

「何処のレイヴンですか……」

 

 頼れる副会長を置いて、私は経験を元に二人の尾行を続ける。

 間違いない。結城はあの塵取り女とのデートを心の其処から楽しんでいないのだ。あのひきつった笑みを見れば分かる。結城があの扇のボタンを押してくれれば直ぐにでも邪魔出来るのに。

 

「さて、どうやったら邪魔出来るかしら」

「……会長が男取られた女みたいになってる」

「はい? なんか言った?」

「いえ。それで、具体的にどうするんですか。何も案がないなら帰りますけど。と言うか案があっても帰りますけど」

「第一の作戦。乱入よ」

「もう見境ないですね」

「でもこの作戦には、結城からのお姉ちゃんってデートに乱入する非常識な女だねなんて印象を植え付けないから却下よ 」

「あ、非常識なのは理解してるんですね」

 

 あくまでシンプルにデートを破壊する。それにはまず、結城に気付かれずに接近し、対象を攻撃する必要があるのよ。

 

「ここで役に立つのが扇に仕込んだ電話よ」

 

 イヤホンを胸から取り出すと、その音量をあげる。

 

『やべぇ、なんだあの人、やべぇ』

『ファッタスティックだな』

「聞こえる雑音から間違いなく盗聴ですよね。なにやってんだテメェ」

 

 後ろの五月蝿い女を無視して私は耳にイヤホンをつけると、町中の大道芸を見ている二人を視界に入れる。端から見ればデートその物だ、許さん。

 

「良い? 虚。第二の作戦、バスも電車も動かなくてデートに行けない作戦よ」

「色々と世間的に不味い作戦ですよね、休日にそんなこと出来ませんよ。と言うか犯罪ですよ、盗聴も 」

「楯無の力――――――舐めないでね」

「なにやったんだアンタ」

 

 目を細める虚を無視して私は双眼鏡を覗き込みながら、電車に乗り込もうとする二人を視界に捕える。

 さぁ、本作戦の開始だ。私は携帯電話のコールキーを押し込んだ。

 

『さて、水族館行きの電車は………全部止まってる!?』

『ただいま、電車は、動けません。電子掲示板にしては簡易な説明だな。なんで電車が止まったんだ?』

『まいったな……ちょっと駅員さん! なんで電車が止まってるんですか!?』

『五月蝿ぇッ!!』

『えぇッ!?』

『お前が……お前が悪いんだよッ!?』

『な、なんで………?』

 

 本作戦は成功である。

 

「会長、何をしたんです?」

「ちょっとお話しただけよ。安心しなさい……さぁ、作戦は次の段階に入るわ。このままデートを行けない二人をさらに足止めする為に、私達は…」

『お、レンタカーがあるじゃん』

「ッ!?」

 

 予想外な言葉に私は双眼鏡を再び覗き込む。

 すると、結城は駅の前にあるレンタカーに足を運んでいた。ば、馬鹿な。十六才である彼が車の免許など持っているはずが無いのに。

 

「武川結城さんは空手の試合で必要以上の暴行を与えた理由で中学校を中退している経歴があります。確か……二年間は無職だった筈です。つまりは十八歳。車の免許は取れますね」

「う、嘘だッ!? 結城の初ドライブは姉である私の物なのよ!?」

「突っ込むところ其処ですか」

「あんな女狐ごときに奪われるくらいならば、私があのレンタカーに引導を渡してやる……」

「ち、ちょっと会長ッ!? 市街でのISは禁止ですよ!?」

「やめろオオオオオッ!! 放せぇッ!?」

「口調!! 口調ッ!?」

「今すぐに電車を動かしなさい!!」

 

 電話口に叫ぶと駅から先程の駅員が飛び出してくる。そして続々と駅員が結城の周りを囲み始める。

 

『逃げ道を塞げ!!』

『な、なにこれッ!? なに!? なんで囲まれてんの!?』

『電車は動きました!! 電車は動きましたよォォォッ!?』

『は、はいッ!?』

『今なら、む、無料で貸しきりですッ!』

『公共規定はッ!?』

 

 そのまま駅員に捕まれ、半場無理矢理に電車の中へと押し込まれると、結城を乗せた電車が素早く発進する。

 

「イァエッ!! ミッションコンプリート!!」

「会長……あの、割りとマジで帰って良いですか?」

「しかし、二人が順調にデートに出てしまったのは誤算だわ。でもね、甘いわ。まるで上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如く甘いわ。これよりコード2、ミッションインポッシブルを開始する」

「そのサングラス何処から出したんですか。と言うか凄く聞きたくないんですけど、その、作戦内容は?」

 

 躊躇しながら聞いてくる相棒に私は口元を釣り上げると、ISの部分展開でハンドガンを取り出す。

 

「簡単に言えば顔を隠した私がハイジャックで私がハイジャックから弟を救いだすお姉ちゃん」

「もう訳分からないですよね」

「私のポケットマネーで全部なんとかなる範囲内の作戦よ。心配はいらないわ」

「電車より頭が心配です」

 

 ハンドガンのコイルを覗き見ながらイヤホンに耳を集中させる。そろそろこの目の前の駅に到達する筈なんだけど、少し遅い。

 

『ゆうちゃん』

『ほ、箒。あんまり抱き着くなって』

『う、うん……ちょっと恥ずかしいなこれは』

『……え?これで恥ずかしいのになんで手錠はノーカンなの?』

 

 己、いちゃつきやがって。

 

「ぶっ殺してやるッ!!」

「市街で叫ばないでください」

「あと三十秒で来るわ、虚、銃を構えなさい」

「嫌ですよ」

「ッ!?」

「そこで驚かれても」

「じゃ、じゃあ!? 私は誰のテロリストを殴れば良いのよ!?」

「知らねぇよタコ」

 

 ば、馬鹿な。これがミッションインポッシブルか。

 あと三十秒でどうすれば良いの。

 

 

『手を上げろォォォッ!! 』

『う、うオオオオオオッ!? なにこれッ!?』

『余計な真似をしたらぶっぱなすぞッ!? 床に伏せやがれェェェッ!?』

 

 

 何故かまるでハイジャックにあったような騒がしい声に、響き渡る銃声。それを聞きながら虚が呆れたように溜め息を吐いた。

 

 

「会長、ちょっと準備してるなら早く言ってくださいよ」

「私は準備なんかしてないわよ」

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 モノホン来た。

 

 

 

 



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ミッションインポッシブル"誰がマトモだと錯覚していた"

「ゆうちゃんゆうちゃん、なんか私達リベンジみたいな展開になるのだろうか」

「なんでそんなに余裕なんだ……」

 

 何故か冷静に話す箒。

 今の状況を軽く説明しよう。乗っていた電車がハイジャックされたでござるの巻き。ぃみわかんなぃょ。。つうか、別に今すぐにでもISを起動して逃げれば良いのだけれども、俺は三か国共有の代表候補生だから、こう言う市街でのIS展開は色々と問題ありすぎて不味いんだよな。

 

「いや、この場合はリベンジよりミッションインポッシブルだろうか……」

「箒……箒だけでもISを展開して逃げれないのか?」

「む? 無理だ。私のISは今定期点検中でな、所持してないんだ。まぁあのくらいの奴等なら私一人でも……」

「いやいや、危ないって、大人しく……」

「しかし…ッ!?」

 

 何かを喋ろうとした箒が突然、地面に倒れ込む。一瞬の出来事に唖然と倒れる箒を眺めていると、後ろからゆっくりと髪の短い'ある女性'が姿を表す。

 

「―――千冬さん?」

 

 思わず呟いた。いや、だが違う。千冬さんに比べれば何処か幼い。かなり似ているが、少し違うのだ。

 

「安心しろ、気絶させただけだ」

「え……あ、あぁ!? ちょ、箒!? 大丈夫か!?」

「だから、大丈夫だと言っている。少し黙れ」

「つうか誰だテメェッ!? 箒に何しやが……ッ!?」

「少し、黙れ」

 

 ゆっくりとハンドガンが此方に向けられる。その黒光りする銃口はしっかりと俺の頭を捕え、今か今かと引き金に指がかけられている。

 

「こい、全国放送する」

「は、はい?」

「―――餌になってもらうさ」

 

 だが、俺は動かない。

 そんな俺を彼女は微笑を浮かべながら、まるでおだてるように手を叩くと、しゃがみ込み、俺との視線を合わせた。

 

「……」

「中々に肝が座っているな。流石は男性IS操縦者だ、だがな、あんまり待たせるなよ?」

「……あの、手錠を外してくれないと……」

「……なんで手錠されてるんだお前」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「一夏、ほら、Eカップの持ち主だ。料理も出来て掃除も出来るし、今時に珍しい亭主関白が当たり前だと思っている純情な娘だ。親の情報ではまだ処女だぞ」

「ふぅん」

「ふぅん……ではないッ!? 処女だぞッ!?」

「いや、千冬姉。別にどうでも良いんだけど」

「おい!! どうでも良いってなんだッ!? 結城なら処女ってだけで恋愛対象にするくらい重大なステータスだぞ!?」

「俺も処女だぞ」

「当たり前だ馬鹿野郎ッ!? むしろ処女じゃなかったらぶっ殺してるわッ!?」

 

 目の前に婚約写真を叩き付ける千冬姉を横目に俺は料理本を読み耽る。なるほどな、肉じゃがで掴む恋心か。結城も俺の肉じゃが好きだって言ってたしな。

 

「肉じゃがか……」

「と言うか頭のそのピンなんだッ!? なんでポニーテールにしてるんだッ!? 髪長いだろ!! 私と並んだら瓜二つじゃないかッ!?」

「そりゃ血が繋がってるからな。髪は伸ばすことにしたんだ、結城は髪が長い方が好きだって言うからさ」

「髪以前にお前には重大な問題があるんだよイケメン馬鹿ッ!!」

「ほら、千冬姉。ちょっと騒ぎすぎだって。それに婚約なんかしないよ。とりあえずテレビでも見て落ち着けって」

 

 そう言いながらテレビのリモコンをとり、適当に電源を入れると再び料理本を見る。辛い彼も辛い物で心をゲット肉じゃがか。凄い色だな。

 

『よって、今から三十分後。我ら亡国機業はこの男性IS操縦者、ユウキは事実上、人質にする』

「「は?」 」

 

 黒髪の仮面を被った女性らしき人物と、金髪の仮面を被った女性が何処か列車のような場所で、あの'結城'に銃口を突きつけ、カメラを真っ直ぐ見ながら宣言していた。

 まぎれもなく、そこに写っているのは結城だ。

 

『ちょ、ちょ、やめ……山葵を鼻につけんな金髪ッ!? ドリフのコントかッ!?』

『M、やかんよ』

『任せろ』

『やめ、ちょ、ちょ、加トちゃんかッ!? 無理矢理に飲ませんなゴフッ!?』

『よし、とりあえずこの手錠を着けてだな。ちなみにこの手錠はISを想定して作られているから鍵が無いと絶対に開かないんだ。鍵を無くさないようにちゃんと……エッキシッ!! ……あ』

『加トちゃんかッ!? なにッ!? いま窓からなんか飛んでいったけどッ!? 嘘でしょッ!?』

『……安心しろ、片方の手錠を閉めない限りロックはかからん』

『そ、そうなのか?』

『なに、Mの言葉を疑うのかしら? ほら、こうやって片方の手錠をMに着けない限り、ロックはかからないわ』

『『着けんなァァァァッ!?』』

『あ……』

 

 そして唐突に切れるテレビ。

 今のテレビで把握したことは唯一つ。俺はゆっくりと立ち上がると唖然と此方を見る千冬姉に料理本を手渡す。そして腕時計を外し、テーブルに置くとポニーテールの紐を外す。すっかり長くなった髪が風に靡くのを感じながら、千冬姉に苦笑すると、背を向けて歩き出す。

 

「い、一夏、何処に行く気だ? 」

「……―――――愛を救いに、ね」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「会長。それで、どうする気ですか」

「どうする? それは果てしなく愚問に近い問答よ。血ヘドを吐きながら、自分を捨てながら更識の武術をマスターしてきた私の、その辛さを飲み込んだ私の強さは全てが弟を救いだす為に磨き上げてきた」

「結城さんに出逢ったの一週間前ですけどね」

「時間など無意味。だってそうでしょう? 私と結城は前世から姉弟だったの」

「うわぁ……」

 

 虚は感動したのか両手で顔を覆ってうめき声をあげる。そんな虚を尻目に私は着々と準備を始めていく。結城は国の体裁の為に、無意味でISを起動できない。それが命の危機であろうと、国が許可しなければ民間の前では無理なのだ。ましてやテレビ放送されているあの場では。

 

 それは、私にも共通する。なんとしても私はISを使わずに結城を救いだす必要があるのだ。

 

「OK。良く聞け虚。お前はこのレンタカーを電車の前に起き、電車のスピードを落とせ。なぁに、簡単よ。車を電車の前において、電車が来たら避けるだけ。簡単でしょ?」

「なんでダイハードみたいなノリなんですか?」

「その間に私は電車に乗り込み、ハイジャックした糞共を楯無パンチでのす」

「楯無パンチ!?」

「アンパンマン的なあれよ。兎に角、私が電車に乗り込めさえすれば、あとはどうとにでもなるわ。それよりも、乗り込むタイミングを見分けないと。早く線路に車を出して避けられたら面倒だわ。確か……あった。ワンセグだけど中継を見ましょう」

 

 そう言いながらワンセグテレビの電源を入れ、アンテナを伸ばす。ちょうど良く映る場所を探す為にテレビを持って下やら右やらに動かす。

 やっとまともに映った画面には我が愛しの弟が仮面を着けた二人と針金で手錠を外そうと奮闘している姿だった。

 

『おいM!! ここだ!! ここでハサミを突っ込め!!』

『任せろ!! ………あ、折れた』

『ドリフかッ!?』

『大丈夫だ、まだ慌てる時間じゃない。そもそもこんな古風なやり方で開くような手錠では無いぞ』

『お前がハサミで開けるって言ったんじゃんッ!?』

『よし落ち着け、大丈夫だ。選択肢はまだある。私の腕かお前の腕だ』

『究極の選択肢しかねぇじゃんッ!?』

 

 もはや全国放送されているのを忘れているのだろうと断言しても良いくらい仲良さげな映像が映された。

 

「……なんか、助けなくても平気な気がしますね」

「今すぐ助けるわ……」

「あれ? 泣いてます? 今の映像で泣く要素ありました?」

「―――――車をだしなさい。行くわよ。我が弟の為に」

「もはや義理を着けないんですね」

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 多分、千冬さんとかが頑張って助けに来てくれる筈なんだ。俺の役目は、箒が怪我をしないようにこのハイジャック達の気を引くことにある。

 

「おいY、少し休憩しよう」

「なにお前らの仲間みたいに呼んでんだよ。諦めたの? この手錠を外すの諦めたの? このまま俺を仲間にするレベルで諦めたの?」

 

 俺の疑問にMとやらは溜め息を吐いて、椅子に座り込むとすぐ近くで壁に寄っ掛かっている金髪の仮面、スコールとやらに口を開く。

 

「鍵がなきゃ開かん、スコール。合鍵は?」

「ようこそ結城、私達は歓迎するわ」

「なるほどな、よろしく結城」

「諦めんなよッ!? 馬鹿なのッ!? 朝から手錠着けてるから右手が痛くなってきたぞ!! 大体スコールとか言うアンタ、なんでバナナ食ってんだよ!?」

「おやつよ」

「おいスコール、バナナはおやつじゃないって言っただろ」

「なんでハイジャックがピクニック気分なんだよ、ドリフのコントかッ!?」

「そのネタ、多分今時の子には通用しないわよ」

 

 そう言いながら、スコールはバナナの皮をMの近くに投げ捨てる。

 

「…………」

 

 そしてMは何を思ったのかゆっくりと立ち上がり、そのバナナの皮の元に歩き出す。当然手錠をつけられている俺もだ。

 

「ッ!?」

「痛ッ!?」

 

 そして予想通りにバナナの皮で滑り転んだ、当然に俺も滑り転び、Mに覆い被さるように倒れ込んだ。

 

「何がしたいんだよッ!?」

「い、いや、バナナの皮を見ると無性にやりたくなるんだ」

「ドリフ好き過ぎだろッ!? ハイジャックしてる自覚あんかッ!?」

「いや、あるにはあるんだが、とりあえず"アイツ"が来るまで暇なんだ」

「よし、よし!! 落ち着け!! なら俺と話をしよう!! まずは其処の席に座れ!!」

 

 半場、誘導するようにMを席に座らせると俺はその隣に座り込む。

 しかし、良く見れば良く見るほど千冬さんに似ているが、どちらかと言うと一夏にも似ている気がしないでもない。一夏を女性にしたらこんな風なんだろうか。

 

「……で、何を話すんだ? 加トちゃんの嫁の話か」

「ちゃんと加トちゃんも楽しんでるだろ!! と言うかドリフから離れろッ!?」

「離れろ、と言われてもな。私は他にお前みたいな平凡な奴が話す話題を知らないんだ。うちの組織にはドリフしかない」

「チョイスがテロリストじゃないんだよな……じゃ、じゃあ家族の話だ」

「私に家族は居ない」

「……あ、あぁ、うん。ごめん。俺も家族は居ないけど……よし、次だ、加トちゃんの嫁の話で行こう」

「あれは死すべき女だ」

「話終わっちゃったよ!!」

 

 なんで俺はハイジャック犯とこんな話してんだ。もう少し良い話があるだろう。

 

「じゃあ、なんでハイジャックを? 待っているとか言ってたが、誰をだ?」

「ハイジャックは気まぐれだ」

「気まぐれかよッ!?」

「待っているのは織斑一夏、私はアイツを殺さなければならない」

「」

 

 

 よ、予想外にヘビーな反応だ。確かに一夏はホモで鈍感でめんどくさくて、今すぐにでも海外に飛んでほしいと願っているが、一応……ちょっとは友達だと思いたい奴だ。ホモじゃなかったら親友に戻れるのだが。

 そんな一夏を殺すとは、穏やかじゃない。

 

「な、なぁ。アンタの名前は」

「教えると思うのか?」

「スコールさんは普通に名乗ったけど」

「ッ!?」

「あ………」

 

 驚愕するMがスコールを見るとスコールはやっちゃったと言いたげな表情をしながら頭を拳で叩いた。ウザイ。

 

「……例えそうでも教えん」

「じゃあ、まぁ勘でMだからマドカとか」

「ッ!?」

「あ、当たった? 俺は武川結城……なぁ、なんで一夏を殺すんだ?」

「言わん」

「じゃあ、勘で…」

「勘でも言うな!!」

 

 そんなこと言われたら何も言えないじゃないか。

 

「良く分からんが、一夏や千冬さんにそっくりなのがなんか関係してるんだろうな。詳しくは知らんが、多分お前は一夏を殺したら後悔するんじゃないか?」

「後悔? する訳無いだろう」

「悲しむ人は?」

「いないさ」

「……じゃあ俺が悲しもう」

「……はぁ?」

 

 物凄く変な顔をされた。まぁそうだろう、俺も何言ってるか良く分からなくなってきた。

 兎も角だ、俺が言いたいのはそう言うことじゃない。もっと纏めて、綺麗に喋らなくては。

 

「殺しはやめとけ、あれは後悔しかないぞ」

「だが、辞められるモノじゃない」

「……勿体無いな、お前は可愛いんだからもっと色んな人生を送れんだろ」

「送り方を知らん」

 

 そう言うとマドカはゆっくりと目を閉じる。やはり寝顔と言うか、目を閉じたその顔も千冬さんや一夏にそっくりだ。そして、"アイツ"に。

 

「―――――俺には妹が居たんだよ」

「………それが?」

「この世界にはもう居ないけどな。俺は妹と二人きりの家族だった。親に捨てられたんだ。まぁ俺と妹は十歳くらい離れてて、俺はなんとか一人で働ける年齢だったのは幸運だったよ。そんでな、その生活に慣れた四年目の、ある日に、妹は重い心臓病になって。ドナーが必要だった。一ヶ月以内に」

 

 あまり関係ない話をしているが、マドカは目を閉じて唯話を聞いてくれている。

 

「死んだのか?」

「……お前にそっくりなんだよな、一夏や千冬さんを見たときにも思った。マジで似すぎてちょっと泣いたくらい。まぁ妹のドナーは見つかったぜ。妹はドナーなんか入らないって泣いたけど、近くに自殺した馬鹿が居てよ。遺書で妹の名指しでドナーになりますって……だから、妹が死んだのか死んでないのか、分からないんだよ」

「はぁ? お前がドナーになってたら生きてないだろ」

「……そうだな、今のは作り話だ。まぁ、んな訳で、殺すとか死にたいとか言う奴は許せないんだよ。生きるって大変な事なんだぜ? お前って人生が詰まらないって顔してる、五年前の"一夏"みたいに」

 

 俺の言葉に、マドカは僅かに瞳を揺らした。

 よし、あと少しだ。俺は口を開こうとしたその瞬間。

 

 

「――――ス、スコールッ!?」

 

 仮面を着け、手に機関銃を持った男が突然に突入してきた。

 

「何事よ? 今ちょっと目から汗が出てるの」

「涙もろッ!? 話をした俺でもびっくりするわッ!?」

「へ、変な女が…ッ!?」

 

 男が何かを言おうとしたその時、何故か男は地面に倒れ込む。いや、倒れたのではない、"倒された"んだ。

 彼女によって。

 水色の透き通るような綺麗な髪。まさに理想の女性と言えるような体つき。そして何故か頼れると信じてしまうような綺麗な瞳に籠る覇気。

 

「コフゥゥゥ………安心しなさい、背骨をずらしただけよ」

「……誰よ貴女?」

「――――――ただのお姉ちゃんよ」

 

 あぁ、折角シリアスだったのになぁ。

 

「野郎ッ!? よくもジェームズをッ!!」

「ヒョウッ!!」

 

 お姉ちゃんこと楯無さんは後ろから襲いかかる男を視界に捕えず、海老ぞると溝辺りを人差し指で素早く一回突いた。

 

「ぐふぁッ!?」

 

 それだけなのに、ハイジャック犯の男は口から血を吐いて地面に倒れ込む。

 

「な、なんだッ!? 何をされたんだッ!?」

「ふぁァッ!!」

 

 慌てるもう一人を楯無さんは鶴のように飛び上がり、と言うか天井に足をついて小指を首横に突き刺した。

 

「ぐ、グアアアアアッ!?」

 

 それだけなのに男は何故か叫びながら地面に倒れ込み、気絶する。

 

「会長、正直貴女一人でなんとかなりましたよね」

 

 訳が分からないよ(Q)

 

「更識の武術は極めれば極めるほど一つ限定される。それは……――――――指一本あれば十分と言うことよ」

「お、お姉ちゃん!!」

「生お姉ちゃんキタッ!ゲフンゲフン………結城、安心しなさい。私が助けに来たわよ」

「今更取り繕うんですか?」

「シーシーッ!? 私は今のところ結城に頼りになる美人なお姉ちゃんって見られてるのよ!」

 

 何かを小声で喋る楯無さん。兎も角助かった。楯無さんほどの人が来れば、この場はなんとか解決してくれるだろう。

 

「どうやって……? 電車は一回も止まってないぞ」

「ふっ……ISを上手く部分展開すればレーダーには引っ掛からないのよ。楯無を甘く見ないことね」

「……と言うかだ、今回に限っては全く更識に関係したことやってないんだが」

「更識結城を拐ったわ」

「俺は更識じゃないですけどッ!?」

「今はね。大丈夫よ結城、そろそろ通知が行くわ」

「なんの通知ッ!?」

 

 俺の言葉を無視して楯無さんはゆっくりと何かの構えを取り、スコールとマドカを睨み付ける。あかん、無双が始まるぞ。

 

「面白そうね、私がお相手するわよ」

「ババアは引っ込んでなさい、怪我するわよ?」

「あら、面白い冗談ね……―――――――ふッ!!」

 

 だが、俺の予想とは違い、スコールがまるで中国拳法太極拳の瞬間で放った、縦拳は綺麗に楯無さんの腹に突き刺さった。誰がどう見てもグリーンヒットだ。が。

 

「あらやるわね」

「……受け流したわね」

 

 楯無さんは平然と立っていた。違う、楯無さん、それなんか世界が違う闘いだよ。

 

「でも甘い……ッ!!」

 

 スコールが次に取った行動は足をかけると言う単純な動作だ、だが楯無さんは当然のように足を捻るだけでそれを避ける。だが。

 

「なッ!?」

「一緒に外に行くわよッ!!」

 

 スコールは楯無さんの身体を抱え込むと異様な雰囲気を放つISを展開して、走る列車の外に飛び出す。

 当然、楯無さんも流石の反応で自らのISを展開すると、大槍を振り上げ、スコールを振り払う。

 

「くっ……もうISは使いたくなかったのに……ッ! ―――――――虚、結城を頼んだわ!!」

 

 そのまま楯無さんは空に飛び去り、スコールはそれを真っ直ぐ追い掛けた。

 虚と呼ばれたもう1人の女性は

 

 

「任せたと言われましても……仕方ありません」

「ふん……お前の相手は私だな」

「させんッ!!」

「ッ!?」

 

 ゆっくりと立ち上がるマドカを俺は手錠で引き寄せ、空いた左手を掴み取り、地面に押さえ付ける。

 

「ば、馬鹿なッ!?」

「いや、手錠忘れんなよ、馬鹿か」

 

 勝利。

 組伏せた形になる俺達だが、手錠で繋がれている現状ではこれ以上何も出来ない為、俺は此方に歩み寄る虚さんを見る。今は彼女に頼るしか道がないのだ。

 虚さんはゆっくりとマドカの近くで立ち止まると、此方を見下ろした。物凄く、なんか冷たい目線なんだけど。

 

「くっ……」

「う、虚さん?」

「はい?」

「……え? あの、虚さん?」

「………」

 

 何故か此方をじっと見つめるだけで何も言わない。ただの沈黙だ。背筋が寒くなってくるような、ただ冷たい目線に俺は思わず無意識に近い形で口を開く。

 

「虚……様」

「はい、なんでしょうか。と言っても決まってますよね、大丈夫です。今すぐ手錠を外してあげますよ」

 

 にっこり、と言う表現が一番合っているだろう。虚さんは不自然なほど綺麗な笑みを浮かべてゆっくりとしゃがみ、俺と視線を合わせる。

 

「ほ、本当に外せるんですか!?」

「―――――はい?」

「……いや、その、外せるのでしょうか……」

「はい、任せてください」

 

 なんだこの笑顔は。怖い、なんか身体の奥から来るような怖さがあり、何故か丁寧語にしてしまう。虚様は何も言ってないのに。いや様ってなんだ、虚さんだろ。

 

「では斬りましょうか」

「は、はい?」

 

 再びにっこりと笑顔を浮かべると虚さんは右腕だけIS部分展開をする。そして後付から取り出される剣を握り締めると、左手で俺の腕を引っ張った。

 

「い、いやいやいやッ!? た、他に選択肢は沢山ありますよォォォォッ!?」

「めんどくさいですしね」

「めん……ッ!?」

「お、おいふざけるなッ!? 私の背中でそんなグロいことするんじゃ…」

「少し黙りましょう」

「ぐッ!?」

 

 にっこり、微笑むと虚さんは足をIS部分展開するとマドカの後頭部を踏みつける。そして、ついに剣を大きく振り上げると、口を開く。

「まぁ、大丈夫ですよ。痛みは一瞬ですから」

「いやいやいやアアアアアアアッ!? 駄目です、マジで、駄目ですよォォォォッ!? 助けて千冬さああああああんッ!?」

 

 何時もこう言うとき、千冬さんなら助けてくれたもん。だが、虚さんが振り上げていた剣が虚さんの背中でピタリと止まる。

 そしてゆっくりとまた微笑む。

 

「では、行きますよ」

「いやああああああああああああああああああああッ!?」

「―――――それ」

 

 簡単な掛け声で降り下ろされる剣に俺は思わず目を強く閉じた。

 一秒、二秒。五秒。幾ら待っても痛みは感じられない。ちゃんと意識もある。俺は涙が零れそうになる目を開けると、顔のすぐ目の前にゆったりと微笑む虚さんが現れる。身体が無意識に魚籠つき、そして慌てて右手を見ると、其処には繋ぎ目が叩き斬られた手錠だけが転がっていた。

 

「き、斬れてない……?」

「ふふふ――――可愛い」

 

 そしてゆっくりと虚さんに瞳から零れる涙を掬われると、ゆったりと、微笑む。そして、顎を持たれ、虚さんの顔の近くまで引き寄せられると、耳元に虚さんの口が近付き、囁くように呟いた。

 

「―――――冗談ですよ?」

 

 恐怖で、震えた。

 

「……は、はい」

「では逃げましょう。この女性は気絶させましたから、起きない内に逃げましょうか。ほら……立ちなさい」

「はいッ!!」

 

 至急素早く立ち上がると、虚さんは背中を向けて歩き出す。そして、その背中を俺は魚籠つきながら追い掛ける。 ――その刹那、背中で僅かな物音が聞こえた。

 半場無意識に首だけ振り向くと、其処には"銃を構えたマドカ"が。

 しかも引き金は既に引かれている。

 

「―――――」

 

 もはや避けることは出来ない。俺は虚さんを庇うように両手を広げ、マドカの正面に立つ。ゆっくりとスローモーションになる世界で、顔が驚愕に変わるマドカを見ていた。

 

 

 ――そして、銃弾が放たれ。

 ――電車の天井を壊しながら瞬間で突入してくる白銀のISに遮られた。

 

 

「―――い、一夏」

「――ギリギリセーフだ」

 

 イケメンは、からかうように笑った。

 




亡国機業(ドリフターズ)は個人的に気に入ってます。



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ミッションインポッシブル"壊れかけのHeart"

「よう、マドカ。久し振りだな」

 

 イケメンクソホモ野郎こと一夏がマドカに向かって笑みを浮かべながら言う。なんだこれ、もしかして知り合いなのか。いや、知り合いと殺し合うってのもなんなんだ。

 

「――一夏、多くは語らんさ。唯一つ、私を返して貰うぞ」

「――はっ、来てみろよ。俺の今は充実してるんだ。簡単には返さないぜ」

 

 そう言うと一夏は自分が潜ってきた穴を通り、一瞬の間で空高く飛び上がる。火に煌めく眩しい白のIS。恐らくは一夏の専用機だろう。

 そんな一夏に対してマドカは黒く煌めくISを展開すると、ブースターを展開する。

「逃がすか痛いッ!?」

 

 そして天井に頭を打って床に落ちた。俺は今に確信したね。この娘は間違いなくアホの娘だ。疑いようもないくらいアホの娘だね。

 

「ダサッ!?」

「う、うぅ…………くっ、待て一夏ァァッ!?」

 

 そして逆ギレに近い形で一夏が潜り抜けた穴を通ってマドカが空を飛んでいく。大丈夫かマドカ。不思議と心配になってくるんだ。第一にマドカは妹にクリソツ過ぎて笑えない。ちょっと俺の妹に比べるとクリクリパッチリな目とか柔らかい笑みとか天使に近い笑みとかミカエルとたまに勘違いする愛らしさとか足らないけど、あと雰囲気、妹の天使な雰囲気が足らない。あとは容姿、妹の天使な容姿が足らない。あれ? 俺の妹って天使だったわ。前から知ってたけどね。会いたいな。彼氏とか出来てたら殺そう。

 

 いやいやいや。ちょっとトリップし過ぎてた。流石は天使(妹)。今は箒を安全な場所に連れていかないとならない。

 

「虚さん! 怪我はありませんか?」

「………」

「虚様、怪我はございませんか………」

「はい、ありませんよ」

 

 そのにっこり笑み怖いです。ゆっくりと立ち上がる虚様を横目に、俺は箒を抱き上げる。気絶と言うか睡眠に近いのか、箒は割りと安らかな吐息をたてている。可愛いなコイツ。可愛いのにな。

 

「それで虚様、どうやって脱出するのでしょうか?」

「そうですね、まずは電車を停車させないことにはどうしようもありません。停めてきてください」

「ハハ、ワロス」

 

 どうやって停めるんだよ。

 

「私は整備科なのでISは持っていないのです」

「え?」

「はい?」

「あ、いや……なんでもないです」

 

 さっきの剣はなんだ。なんて口に出したくても出せませんよね。しかし、どうしたものかな。普通にブレーキみたいな物を引けば電車って停まるのだろうか。なんせ知識が無いのだ。

 いや、待てよ。

 

「通信だ。俺のISの後付に長距離通信の武装が合った筈だ……まぁ、この際、国の体裁とかどうにでもなるだろ。虚様、端に寄ってください!」

 

 抱えている箒を車両の一番後ろに寝かせ、虚様に箒を任せて、俺は逆に車両の戦闘に移動する。さて、ISをマトモに使ったことがない俺が何処まで上手くやれるのかは分からないが、三国共同開発の実力を見せてやるぜ。

 

「来い、'ラファール・リヴァイブルヴァルギガンテス重昆'」

「名前ダサ、名前長。ラファールなのか重昆なのかどっちなんですか」

 

 虚様の辛い突っ込みをスルーして俺は重昆を起動させる。相変わらずのガチガチな機体に足とは呼べない重圧なブースター。

 そして両腕に装着した改良型盾殺しが威圧感を強める、フルフェイスの多分ISっぽい何か。

 

「IS……?」

 

 やめて虚様、自分でも自覚してるから。

 俺は後付から背中部分に長距離通信パーツを展開させる。ブースターにドッキングする形になる通信パーツを横目に、俺は通信を開始する。

 

『――――やっと来たか。無事か結城』

 

 やった! 僕らの千冬ちゃん。これで勝つる!

 

「電車を止めたいんですがどうすれば良いでしょうか」

『知恵袋にでも聞け、私が分かる訳無いだろう 』

「え、えぇ……」

『待っていろ、今ググってやる』

 

 全然頼りになら無いんですがそれは。ググるってアンタ。そんな情報がググって出てくる訳無いじゃん、そんなん簡単に調べられたらセキュリティうんたらが意味ないよ。

 

『まずはアクセルを引いて、その次に一秒を数えながらブレーキを引く。最近じゃシステムでオートストップがあるからボタン一つで良いらしいぞ……む、遠隔操作でも止められるらしいな。私が連絡して電車を停めてやろう』

 

 おっ、Googleニキー最強やん。

 

「じゃあ、俺達は此処でじっとしてたら良いんですかね?」

『いや、一夏の援護に向かってくれ。お前の機体なら後衛に向いているだろう。此方から後付武装をそちらにインストールする。遠距離から可能な限り撃ちまくれ。あぁ、国の許可ならさっき降りている。問題はないぞ』

 

 千冬ニキ最強やん。

 バイザーには次々と後付の武装が送られてきているのが確認出来る。と言うか後付ってこんなに入るもんなのか。とりあえず五個ほど武装を展開する。

 八連型弾道弾、電磁力カノン砲四門。マシンガトリング九式三千弾。両手にはバースト式の七ミリ単発ライフル。

 

「こんなもんですかね」

『武器庫だなお前は』

 

 ですよね。

 俺は背中の大型ブースターを展開させると、フルフェイスのバイザーが固定される。

 よっしゃ、初戦闘だが言ってみよう。

 

「虚さんはそのまま電車が停まりしだい逃げてください」

「はい、一人残らず殺してくださいね」

 

 いや、ちょっと無理ですけど。

 虚さんの楽しそうな笑みに苦笑いしながら俺はブースターに火をつける。ついに空に飛び立つのだ。

 天井を軽々と突き破り、眩しい太陽が目に入った。雲一つない晴天に、四つの影が曇る。楯無さんと一夏だ。

 楯無さんは一先ず援護に入らなくても平気だろうが、俺は一夏を視界に入れてブースターを唸らせる。

 

「一夏ァァッ!!」

「――――ッ!!」

 

 一夏を呼ぶだけ。ただ名前を呼ぶだけなのに一夏は素早くその場から退避する。まるで俺が何をするか分かっているように。

 瞬間、俺の武装が唸りをあげる。

 

「一斉射撃―――――――ッ!!」

『な、なにッ!?』

 

 一瞬のやりとりにマドカが置いていかれる、僅かに静止したマドカに銃弾の嵐が襲い掛かった。

 だが、流石はテロリストか。マドカは素早くブースターを展開するとその銃弾から軽々と逃れる。

 

「結城ッ!!」

「――――あいよ!!」

 

 何処からか一夏に呼ばれる。

 俺はマシンガトリングを止め、単発ライフルと八連型弾道弾だけを撃ち込み、マドカの高度を無理矢理上げさせた。

 

『そんな物に当たるか…』

「ウオオオオオオオオオオオオオオオラァァァッ!!」

『な、にッ!?』

 

 マドカに息を与えず一夏が真上から斬りかかる、マドカはギリギリでそれを防ぐ。が。

 

「一夏ッ!!」

 

 再び一夏の名前を呼ぶ。それと同時に全ての武装の引き金を引いた。

 一夏は背中を向けたまま弾道から逃れると、静止していたマドカに再び銃弾の嵐が襲う。

 

『く、ぐぁッ!?』

 

 何発か被弾したマドカは銃弾の嵐から逃れた。

 俺はマドカを射程内に取り入れる為に、ブースターを展開して移動する。それと同時に一夏と視線が交差した。

 

「結城ッ!!」

「―――――了解したッ!!」

 

 武装を外し、新たな武装を後付から展開する。全てがカノン砲であり、全部単発の九門。

 まずは一発をマドカに向かって撃ち込む。

 

『ぐのッ!』

 

 当たり前のように避けられた。続いて二発。

 マドカはさらに避けて、高度を上げる。

 

「オオオオオオオオオッ!!」

 

 そこに狙ったように一夏が突っ込む。だが、二回目だ。マドカは一夏が来るのが分かっていたのか、手に持っている刀を既に宙に構えていた。防がれる。

 一夏が"刀"なら。

 一夏の手には、俺が捨てたマシンガトリングが握られていた。

 

『――――――な、に!?』

「結城ィッ!!」

 

 一夏が俺を呼ぶ。

 マシンガトリングが火を吹き、マドカが被弾すると同時に俺は全力でブースターを展開させる。一瞬の間で音速へと達した俺はマシンガトリングを撃たれ、動けなくなっているマドカに突っ込む。

 ―――――左の釘がリロードされる。縮小されていた改良型が展開されている。それはまるで盾を殺す矛のようにではなく。盾を越えて、護りを殺す大槍のように。俺のワンオフアビリティが盾殺しを強化する。それは。

 

「―――――城壁殺し(walls killer)

 

 全てを消し飛ばす。

 マドカの腹に直撃すると、爆音を響かせる。余りの衝撃と音に空気が震え、地面が軽く揺れた。そしてマドカはそのまま凄まじいスピードで地面に叩き付けられ、地面を大きく抉りながら止まった。

 

 多分、恐らく、死んでないと思う。

 正直、自分でもこの威力にはドン引きです。

 

『私は正直、名前を呼び合うだけで彼処までコンビネーション出来るお前らにドン引きだがな』

「……だって、分かっちゃうんです。名前呼ばれただけでアイツがなにやるか……」

『……その、なんだ。良い友情だな。ゴホンッ! ……マドカとやらなメディカルチェックは無事だ。捕獲してゆっくりと話を聞くとしよう』

「結城ッ!?」

 

 千冬さんとの会話に一夏が突然に割り込んでくる。俺は一夏に呼ばれたその瞬間にブースターを展開させ、その場を避けると、俺の居た場所に銃弾が飛び交った。

 そして、スコールさんが一瞬で過ぎ去り、地面に倒れているマドカを抱き上げた。

 それを見ながら、楯無さんが俺の横に並んだ。

 

『さてと、そろそろ頃合いだし、私は逃げさせてもらうわよ』

「あらあら、オバサン。私は簡単には逃がさないわよ。結城!!」

「はい?」

「なんで私の時だけ聞き返すの!?」

 

 いやだって。名前呼ばれただけじゃなんなのか分からないですし。

 

「結城ッ!!」

「よっしゃッ!!」

「ズルいもん!! なんでホモだけ分かるの!! お姉ちゃんも結城の名前呼んだだけで色々と分かって欲しいもん!!」

 

 俺と一夏、そして楯無さんが一気にスコールさんに飛び掛かる。

 

『今からあの電車は線路を変えて、行き止まりに行くわよ。私達よりあっちを優先した方が良いんじゃないかしら?』

「な、なに!? 」

『頑張って停めることね。あの電車にセガールは居ないわよ』

「解りにくいネタを!! 千冬さん!?」

 

 離れていくスコールさんから視線を外して、長距離通信のパーツを展開させる。

 一夏と楯無さんにも通信が聞こえるように設定すると、バイザーに千冬さんの顔が映った。

 

『聞いての通りだ。遠隔操作での停止は不可能だった。中に居る虚にブレーキを試さしたが、電車は止まらん』

「じ、じゃあどうすれば!?」

「ち、ちょっと待てよ千冬姉!? あの電車には何百人乗ってると思ってんだ!?」

『落ち着け馬鹿共。楯無、何か案はあるか?』

「……そうですね、スピードは大体八十前後、まだまだ上がってるわね。車両数は八両。乗っている人数は約百数十人。まぁ電車なら問題を解決してゆっくりと停めたいところですが、行き止まりにぶつかるまであと数十分ではそれも無理ですね」

『真面目なところだが、お前が真面目にやっていると笑えてくるな』

「……あの、一応は生徒会長ですけど」

 

 淡々と話している二人に反して、俺と一夏は焦るばかり。彼処には箒が居るんだぞ。

 

『それで、案は?』

「……先頭の二両に人を詰め込み、後ろの六両をホモ君が切断。残った二両ですが、二人のISで天井を押さえ付け、車両を跳ねないようにします。残りの一人が電車を無理矢理停める」

『電車は停めても走り続けようとするぞ』

「車両に居る人が全員、降りるまで三人で停める。なんて馬鹿はやりませんよ。それまでに問題解決を任せますね?」

『……―――――よし、穴だらけなやり方だが、やってみるしかないか。此方は任せろ。全体の指揮は楯無が取れ。電車を停めるISは一番パワーがある結城だ。良いな?』

 

 良いなって。んな無茶な。

 下手な映画でもあるまいに。

 

「まぁ、ミッションインポッシブル(不可能な任務)ね」

 

 

 可笑しい、今日はデートだった筈なのに。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「そのまま落ち着いて先頭の車両に移動してください!!」

 

 一夏の声に、車両に居た市民がキツキツだが二両に押し込められる形になった。

 お次は俺だ。後付にある、固定器具。車両のドアに取り付ける。IS捕獲用の器具だ、これならちょっとの衝撃じゃドアが勝手に開くって事はない。

 

「楯無さん!」

「…………」

「……姉さん!」

「任せなさいッ!!」

 

 楯無さん、いやもう姉さんで良いや。姉さんが車両を押さえ付けてくれるのを確認して、俺はブースターを展開して先頭の車両を押さえる。

 

「よし、良いぞ一夏!」

 

 一夏に声をかけると、一夏はゆっくりと二両と三両を繋いでいる連結部分に移動すると、刀を展開させた。

 

「二人共、行くぞ!!」

 

 一夏の掛け声と共に重い衝撃が走る。後ろを見れば、六両が少しづつスピードを落としながら、下がっていくのが見えた。

 とりあえずは無事に切り離せたようだ。

 

「さてと、二人共。作戦の再確認よ。先ずは予定通りホモ君と私が二両を押さえるわ。それを確認しだい、結城か先頭の車両を真っ正面から抑える。ラファール……いや、重昆のスペックなら可能な筈よ」

「言いにくい名前ですいません」

「そ、そしたら!! 次、無事に車両が停まりしだい、二両目を押さえ付けているホモ君が一両と二両の連結部分を切断。ここで二両目を切り離すわ。残りの走り続けようとする一両を私達三人で停める。良いわね?」

 

 百キロ近いスピードで走ろうとする電車を壊さずに停めるのは並大抵では無いだろう。

 

『悲報と朗報だ。車両の現時点のスピードは約二百八十キロ。行き止まり衝突まで残り十分だ、それぞれのバイザーに残り時間を表示させる。そして朗報だ。国のIS部隊が動き出した。結果、約七分で車両を停めれることが出来ると判明した』

「で、その国のISは助けに来ないんですか?」

『先程の亡国機業とやらが別の場所でやらかしている。此方に手が回らんのだ。其処はお前らでやるしかない』

「……あれ千冬姉、電車が七分で停まるなら俺達が止めなくても衝突しないんじゃないか?」

『お前は三百近いスピードが簡単に停まると思っているのか。計算した結果では衝突までに車両のスピードを下げなくてはどちらにしろ行き止まりにぶつかる。朗報は車両を完璧に停めなくても七分堪えれば良いと言うことだ』

 

 それは朗報なんだろうか。

 可笑しいなぁ、俺は普通に箒とデートしてた筈なのになんでこんなシリアスな展開になってるんだろうか。こんなん何時もの流れじゃないよ。

 

「じゃ、さくっとやっちゃいましょう! 結城、無事に終わったらキスしてあげるわ」

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! 電車の一つや二つぶっ壊してるッ!!」

「俺もキスしてやるよ」

「死ねッ!!」

 

 一夏に中指を立てて、ブースターを最大加速させる。

 一瞬で電車を追い越し真っ正面に車両を目に捉えると、全てのブースターを展開させ、両手を突き出す。

 そして、姉さんと一夏がそれぞれの車両の天井を押さえ着ける形になった。これなら俺が車両に激突しても車両が"跳ねる"ことは無いだろう。

 

「……ん? ―――――ッ!?」

 

 段々と近付いてくる車両を目に、俺は有り得ない物を見た。

 箒だ。

 一番先頭。つまりは運転席に箒が居るのだ。何故か棒立ちで。何故かにやついている。 瞬きもせずに、ただ俺を見つめている。 

 

「――――――うおおおおおおおおおおおおおおおおおお怖ええええええええええええええええええェッ!?」

 

 ――そして、俺は車両と激突した。

 最新の技術で作られた電車は凄まじい激突だと言うのに僅かにしか凹まず、衝撃を綺麗に受け流している。

 跳ねそうになる車両を一夏と姉さんが無理矢理止めた。俺は全てのブースターを最大加速する。

 

「―――――」

 

 そして車両の窓から箒が微動だにせずに此方を見つめている。

 

「いやあああああああああああああああッ!?」

「頑張って結城!! 怖がるのもあと少しよ!!」

「ち、違う!! この恐怖は終わらないよ姉さんッ!? なんでにやついてんの!?  怒ってるの!?」

「べ、別に姉さんと呼ばれて嬉しい訳じゃないわよ?」

 

 何かを言う姉さんを置いて、箒ちゃん、怖いよ。デートとか放棄した形にはなってるけど、この際仕方無いでしょう。な、なんで瞬きしないの? なんで見つめ続けてるの? 

 

「助けて千冬さんッ!?」

『あと四分だ』

「出来れば電車は停まって欲しくない方向でッ!?」

『あと三分だ。なんだ、この前Amazonで注文したメンヘラの対処法って言う本があるからな、やるぞ』

「信用度は!?」

『レビュー星三つだ』

「微妙!!」

 

 千冬さん、なんでそんなミーハーなの。

 しかし、今はとりあえず箒から目を離して電車に集中しよう。確かにパワー型なISだけはあるラファール重昆(略)。レーザー兵器にめちゃんこ弱いと言う欠点は有るものの、物理に対してはまさに敵無しか。

 電車のスピードが百キロを切った。

 

「一夏!! 今のうちだ!」

「よっしゃ!!」

 

 一夏に合図すると、一夏が一両と二両を斬り離す。そのまま一夏が二両を押さえ付けていると、無事に二両目が停止したのを確認する。あとは一両だけだ。俺は視線を再び前に戻す。

 

「ッ!?」

 

 虚様が此方をにっこりと見つめている。

「――――――うわああああああああ増えてるよおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」

「車両は斬り離したから減ってるぞッ!?」

「この二人を俺から切り離してぇぇぇッ!!」

 

 やめてそのにっこりスマイル。恐いです。

 

『あと二分だ。結城、車両のスピードは』

「な、七十です」

『……ふむ、結城、少々危険だが一気に加速して停めてしまえ。行けるか?』

「……ワンオフアビリティを使えば無理ではないですけど」

『ならやれ。今は二人で車両を押さえ付けている。多少は乱暴にしても平気だ』

 

 いや、なんか車両停めたくないなぁ。

 なんて我が儘が言える状況でもない。俺はギカンテス昆(略)のワンオフアビリティ"鎧袖一触"を起動させる。途端にラギ重昆(略)の基本ステータスが一気にかけ上がる。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

「輝いてる結城を一枚に納めるハァハァ!!」

「ちょ、姉さん!! 車両押さえて!?」

「任せなさいッ!!」

 

 一気に加速するブースターで車両のスピードは無くなる。ほぼ停止した車両に対して、カウントしていた数字がついに零になった。

 理由は分からないが、完璧に停止した形になった車両から俺はゆっくりと離れる。

 

「よっしゃ!! やったな結城!」

「あぁ、やったぜ。じゃあ俺帰るからッ!!」

「ッ!? ちょ、結城!?」

 

 そのまま俺は車両から見つめてくる箒から逃れるように飛び去った。

 無理だもん。死ぬもん。殺されるもん。

 

「助けてちふえもんッ!!」

『なんだ……今日から大浴場が使えるからゆっくりと休め』

 

 やっぱり俺の天使はちふえもんしか居ないのか。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 場所は変わって大浴場。

 時間は大体夜の八時、今日は一夏と活躍したから一夏と入って良いってのほほんが女子代表で言ってきた。それでどうしたかって?

 

「良い湯だな、結城」

 

 一夏と入ってるよ。別に男同士だし何も問題無いじゃん(遠目) 第一さ、のほほんを代表して腐った奴等は一夏が紳士だって分かってない。一夏が獣になる訳無いじゃん。一夏は紳士オブ紳士だぜ。同意がないとなにもしてこないさ(疲目)

 

「はぁ…………」

「しかし、今日は色んな事があったよなぁ……」

「うん………」

 

 一夏って以外と筋肉あるんだよな、腹筋割れてるし。コイツって女顔だから実は女でしたみたいな落ちだと思ったことだって少なくない。でもさ、着いてるんだよ(M1911コルト・ガバメント)

 マドカちゃんが居たからさ、人間って期待するよね。一夏が女だったらなって。現実って何時も非情だよね。

 

「そう言えば箒が結城を探してたぞ」

「ふぅん…………」

「場所が分かんないから何も伝えてなかったんだけど、なんか様だったのかな?」

「うん…………」

 

 良い湯だよね。疲れが癒されるって言うか。色々と溶けてしまいたいよね。

 

「熱い……俺もうあがるな。のぼせちまうよ」

「あぁ………」

 

 湯から出てく一夏(M1911コルト・ガバメント)

 やっぱ男だよなぁ。

 疲れたなぁ。色々とさ。癒しが欲しいな。純粋なピュアって言うの。同じ意味だけど重ねたら最強じゃん(疲労)

 もういいや、湯から出よう。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 夜風に当たるって気持ちいいな。疲れが取れるよね。星空が綺麗だ。

 癒されるよね。なんかさ、ほら。疲れが取れる。

 

「結城」

 

 千冬さんが此方にゆっくりと歩いてくる。俺はゆっくりと芝生に寝転がると、空を見上げた。

 

「千冬さん、どうしました」

「……もういい、休め。休むんだ結城。さっき精神医から通達が来た。お前は二週間、静かな地での休養が必要なんだ」

「はは、大丈夫ですよちーちゃん」

 

 ゆっくりと千冬さんに頭を撫でられた。

 良い気持ちだね。

 

「お前はドイツに行け。そこに案内がいる。その案内とゆっくり心を癒せ。あとは全て私に任せろ。なぁ、結城……今日はこのまま寝ると良い。私の膝で寝れるんだぞ」

 

 そのまま、俺は無性に眠くて、千冬さんの膝が気持ち良く。本当に瞼が自然と落ちてしまった。

 

 

 

  

 



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自分、ブラックラビッ党なんで

 グーテンモーゲン(曖昧)

 ビバドイツイン俺。一人って素晴らしい。てな訳で、なんか目が覚めたらドイツ行きの飛行機に乗っていた結城です。あんまり昨日の記憶がないんだけど、また酒を飲んだとかじゃないよな。

 まぁ、さっき国の人から特別休養とか言う依頼が来たから間違いは無いと思うけど、代表候補生ってこんなのもあるんだな。さっきISも回収されちゃったし、今の俺はただの結城です。

 

「迷子だよ」

 

 ドイツにポツリと残されてどうしろと。お金は沢山渡されたが、通貨が良く分からない上に、ドイツ語とか話せないし、シュバルツ(曖昧)とかしか分からないよ。

 こんな、猿旅じゃないんだから、ヒッチハイクとかでなんとか知ろって言うのか。せめて旅仲間が欲しいな。旅仲間。有吉とか良いよね。

 

 このまま、立ち止まってても仕方無いか。さっき買ったソーセージを食べながら、ちょっと歩いてホテルでも探そうかなぁ。

 

「―――――ユウキとはお前か」

 

 ふと歩き出そうとした俺に誰かが話し掛けてくる。

 声の聞こえる方向に首を向けるが、誰もいない。だが、少し視線を下げると銀髪の眼帯をした厨二だけど物凄く可愛い少女が、大股を開いて片手を此方に向けていた。

 

「…………え?(困惑)」

「うむ、お控えなすって……私はラウラ・ボーデヴィッヒでごわす。以後宜しくござんす……うむ、日本の挨拶はやはり変だな。お前がムカワ・ユウキだな?」

 

 ちょっと良く分からない挨拶をされた。それなんか色々混ざってるよ。

 大体、十四くらいの年だが、白人美少女とでも言うのだろうか、まるで兎のように赤い瞳が俺を映している。端整な顔の娘だな。将来は千冬さん並みの美人になりそうだ。

 

「えっと、まぁ俺が武川結城だけど」

「やはりそうか。私が教官からユウキのドイツ観光案内を任されたラウラ・ボーデヴィッヒだ。ドイツ形式ではこう挨拶するのだ。知っておいてくれ」

「日本でも同じだけど」

「ッ!? 日本はまともな挨拶が流行ったのか……そうか、教官も喜ばれる。私の事は気軽にララと呼んでくれ。皆そう呼ぶ」

 

 ララ。

 あ……(察し) この娘あれだ。千冬さんに嘘の情報を教えられまくってるドイツの教え子だ。酒を飲んだときにそんな話をしていたよな。てことは今の意味分からない挨拶も千冬さんに教えられたのか。何やってんだあの人。

 

「あぁ……で、ララ。ドイツの観光案内って?」

「む、教官から何も聞いてないのか? 今日から約二週間、ドイツでの観光を楽しむ為に案内人がいるだろう。それが私だ。此所でのあらゆる面倒は私が見ることになっている」

 

 そう言って凛々しく微笑むララ。

 なるほど、確かに案内が居ないのは可笑しいと思ったが、流石は千冬さん。現地の人なら此所まで心強いことはない。ちょっと幼い気がしないでも無いけど、大分、大人びた少女だから大丈夫だろう。

 

「なるほど。そっか、んじゃよろしく頼むよ。日本語上手いんだな?」

「うむ、日本語は得意なんだ。何かあれば私に迷わず頼れ。これが現地での携帯だ、私の番号が登録してあるからな?」

 

 そう言って手渡せる簡易の携帯を受け取る。至れり尽くせりだな。

 とりあえず受け取った携帯をポケットに仕舞い込み、バックを持とうとすると、白く綺麗な手が、先にバックを持ち上げてしまう。

 

「あ、ララ。一応色んなもんが入ってるから重いぞ!?」

「ふふ、気にするな。慣れない飛行機旅で疲れているだろう? 私はこう見えて力持ちなんだ。ほら、其処に車があるだろう、ユウキの運転を私に見せてみろ?」

 

 ララは俺のバックを持って、軍用車のトランクに仕舞い込み、からかうように俺に言う。なんか、戸惑うな。ララは確実に俺より年下なのに、異様に包容力があると言うか。

 てか、ドイツの免許とか持ってないけど平気なのか。しかも高軌道Ⅱ型だし、そもそも一般人が乗って平気なんかな。まぁ、ララが良いって言うなら良いか。

 俺は助手席に乗るララを見ながら運転席に座る。

 

「ほら、車のキーだ。ドイツに滞在中は好きに使って良いぞ。私の車だが、まだ運転出来ない年齢では宝の持ち腐れと言う奴だ」

「ララの持ち物なのか!? ……もしかして結構偉い人?」

「――ふふ、さてな」

 

 口元を釣り上げてからかうように笑う。なんか、調子が狂うな。全く年下に感じられないんだ。何て言うか、これは。

 いやいや、馬鹿か俺は。

 頭を軽く振って、キーを差し込みエンジンをかける。流石は軍用車だけはあるのか、エンジンの音が普通とは違う。

 

「で、これから何処に行くんだ?」

「そうだな、好きに走ってみろ」

「へ?」

「折角だ。時間はあるし、初日でガチガチに観光案内されるのもあれだろう? 先ずは一番にドイツの街並みを見てみよう。ふふ、さぁ出発だ!」

 

 そう言って笑う、ララ。

 目的も無く海外で適当に走るか。言われてみればなんか凄く贅沢で良い楽しみ方だよな。なんだか無性に楽しくなってきた俺は、アクセルを踏み、車を発進させた。

 今は平日なのか、やたらと人が少ないのがドイツの街並みを輝かせているような気がする。

 ふと隣を見ればララは何故か楽しそうに街並みを見ていた。

 

「なぁ、ララってやっぱり軍人なのか?」

「あぁ、軍人と言っても普段は動くことのないIS部隊だがな。一応は隊長として働いてはいるが、やっていることと言えば料理に炊事に洗濯やら、たまに軍人の愚痴を聞くなんかだがな」

「へぇ、なんか母親みたいだな」

「こう見えても皆からはママと呼ばれてるんだぞ。ユウキも呼んで見るか?」

「い、いや。軍人用語で教官やらをママと呼ぶみたいなあれだろう? 俺が呼んだらマジもんの変態じゃねぇか……」

「ふふ、日本ではオカンが軍人用語だったか?」

「いや違うけど」

「ッ!? 日本では呼び方が変わったのか……」

 

 なんで騙されてたって選択肢が無いんだこの娘。純粋過ぎるだろ。千冬さん、ちょっとアンタ遊びすぎです。

 そんなことを思っていると、丁度赤信号で車を停める。顔を街中に向ければ子供達が無邪気に遊び回っている。すると、ララが突然、俺の膝に手を起き、身を乗り出して窓から顔をだした。

 

「ら、ララ?」

「ほら、見ろユウキ。彼処にフランクフルトの屋台がやっているだろう? あれは私の部下が趣味でやっているんだ。少し寄ってみよう」

 

 そう言ってララが微笑む。俺も視線をララが指差す方向に向けると、多分、十六くらいの女の子二人組がお客さん相手にフランクフルトを作っている姿が見えた。

 あの娘達も軍人なのか。にしては俺よりも年下に見えるけど。

 信号が青に変わると、俺は車を端に寄せて停車させると、キーを引き抜く。それに合わせてララが車からゆっくりと降りた。

 

「ミュリ、サーリャ!」

「ん、ママ!!」

「あれ、ママじゃないの!!」

 

 日本語なのか。いやいやいやいや。それよりなんでママとか呼ばれてるんだ? 教官を影でママと呼んでからかうなんて話は良く聞くが、平然と上の階級をママと呼ぶとは。

 てかどう見ても君らよりララの方が年下なんですが、それは。 

 ワイワイと話す三人に戸惑いながらも、俺は車から降りると、三人に近付く。すると、金髪の娘が此方に気付いた。

 

「あれ、もしかして貴女がママの言っていたお客様ですか?」

「あ、あぁ。武川結城だ。よろしく」

「ユウキ、コイツらは私の部下であるミュリとサーリャだ。年は十六、"私より"下なんだ」

「………え? ララより下ッ!?」

 

 ち、ちょっと待て、十六でララより下だって?

 驚く俺をララはまたからかうように微笑むと口を開いた。

 

「ふむ、私はこう見えても―――十八なんだぞ?」

 

 ドイツに来て、一番の衝撃が俺を襲った。

 十八。え。同い年。どう見ても十四か下かのララが同い年。う、嘘だろ。俺だって二十五とかに間違えられる事はあるが、下に見られたことはない。いやそもそも、ララの体が幼すぎる。

 

「ほらママ、絶対に驚くって言ったでしょ? これで賭けは私達の勝ち!」

「服買って貰うんだからねー?」

「ふふ、まぁ仕方無いか。あまり高いのは無理だぞ?」

「「やった!!」」

 

 待て待て待て。ステイ。

 マジで十八なのか? 千冬さんは確か十四やそこらとか言ってた筈だが、なんせ飲んでいた時の頭だ、正確では無いのかも知れないが。

 キャッキャッ言い合う三人は良くて姉妹だ、いや二歳違いなら姉妹だろ。なんでママとか呼ばれてるんだ?

 

「ほら、騒ぐのは結構だが、今の私達は客なんだぞ?」

「はーい。じゃあ一番大きい奴を私達のパパ候補にあげちゃうよ!」

「う、はい?」

「全く……気にしないでくれユウキ、コイツらは色恋に目敏いんだ。お前らも私と合わせて呼ぶとユウキが嫌がるだろうが」

「そんなことは無いと思うんだけどなぁ……」

「ほら、私達は観光に戻るからな。問題は起こすなよ?」

「はいはーい! ママもデート頑張ってね!」

 

 なんか女子高生絡まれる老夫婦みたいな流れだが。ララは疲れたような嬉しそうな笑みを浮かべ、二人に手を降ると俺を連れて車に戻っていく。

 なんだろうか。思っていたママの呼び方と違うぞこれ。

 

「ら、ララ。なんでママとか呼ばれて怒らないんだ?」

 

 車に乗り込みながらも恐る恐る聞いてみると、ララはフランクフルトの封を開けながら、苦笑する。

 

「そうだな……最初は教官から教えられたのか"とある人物"に憧れたからだが」

 

 あぁ、うん。ララね、ララ。なんとなく分かってたけど。

 俺はとりあえず車のエンジンを入れて、車を発進させる。ふと視線を先程の二人組に向けると、二人組は此方に大きく手を振っていた。

 

「……元気な娘達だなぁ」

「ふふ、あれでも軍の訓練を済ませてきた後なんだぞ?」

 

 軍の訓練ってことは激務な筈だけど、やっぱり本物の軍人の体力は違うんだな。

 その二人組が段々と見えなくなってくるのを確認しながら、俺は再び口を開く。

 

「それで?」

「ん、続きか。最初は只の悪乗りやらふざけだったが。何時だったかな、気が付けば私は周りに言われるほど、"母"のようになっていたのさ。私の部隊は所謂訳有りでな、孤児が多い。私も両親は居ないしな」

「……訳有り部隊って奴か」

「あぁ、母親を求めている子供の大人が多かったんだ。それで、二年も立てば私は何時の間にかアイツ等の母親だ。私と言う"母"に癒された奴もいる。例え仮初めな"母"だったとしても、今更拒むのも気が引けてな。私は"真似事"から"本物"になったんだ」

「真似事から本物に……?」

「母を知らぬ奴等の母になるんだ。年齢が近くとも、見た目が幼くとも、"母"と言う形は変わらんからな。人一人信じられないような奴も、私が"母"なら信じてくれる奴もいた。そうやって心を癒す、"仮初めで本物の母"に。こんな役目になってしまったら、一々怒っていられないだろう?」

 

 そう言ってララは、またからかうように微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 うん、天使じゃん(確信)

 俺だって伊達にミリオタじゃないよ。ドイツには人口受精で兵士を作ろうとしたって話は勿論知ってる。その所謂、人口ショックで孤児が爆発的に増えたってことも、ドイツが対処法として孤児を軍人にして職を与えるって政策で各国からバッシングを受けた話だって知ってるし、孤児がその間にどんな扱いを受けたのか、ネットで見ながらイライラしたのも覚えてる。

 

 そんな心を傷付けた子達をララは救ってきたんでしょ。天使じゃん(迫真)

 

 あんな臭っいIS学園にも存在しない天使じゃん(確定)俺の天使ランキングトップちーちゃんを越えて一位にララが躍り出た。天使じゃん(決定)

 

「……ララって凄いな」

「そうだろうか? 結局、私は仮初めだ。アイツ等を騙しているんじゃないかと想うときも少なくない」

「そりゃさ、確かにララはお世辞にも母親には見えないさ」

「……そうだな、だが…」

「でもさ、やっぱりララは母親なんだよ。さっきのサーリャとミュリだったか。あの娘達は間違いなくララを母親に見てたと想うよ。凄いよな……そうやって人を救えるなんて、憧れるし、カッコいい」

「そ、そんなに褒められる物では無いぞ!?」

 

 顔を赤くして首を降るララを見ながら、俺はふと疑問を覚えた。

 

「……ララは、誰か居るのか?」

「うむ? 誰か、とは?」

「頼れる母親みたいな」

「居ないし、いらんさ。私は母だ、娘に頼れば良いんだ」

「でもなぁんか、駄目じゃないか、それ? 俺も両親は居ないから良く分からんけどさ。母って父親、つまりは愛する人ってのに頼るんじゃないのか? 二人で支え合うみたいな」

 

 俺がそう言うとララは首をかしげながらも曖昧に頷く。両親と言う本当の形を知らない俺にも、曖昧にしか分からない物だが。

 

「そうだな、確かにそうなのかも知れん。だが私にはそんな人物は居ない上に、今後に現れるとも思えんな」

「んなことないだろ、ララみたいな可愛くてしかも母親みたいな奴に男ってのは弱いんだよ。直ぐに見つかるって。ララが頼れるような男が」

 

 そう言って笑うとララは何処か恥ずかしげにしながらも、微笑み返し、フランクフルトを小さな口で食べる。

 

「ふむ、そうだと良いがな」

 

 頬を赤く染めるララは、普通に可愛い女の子だった。

 

「と言うわけで、ララを可愛く染めます」

「む、む!?」

「今から服やらアクセサリーを買いに行くぜ!! 天使をこのまま小悪魔にしちゃおう作戦決行ッ!!」

「ちょ、ユウキ!?」

 

 一気にアクセルを踏み込み、スピード上がる車にララが僅かに驚き、俺を見てくる。そんなララに俺はからかうような笑みを浮かべて、ララが手に持っていたフランクフルトを手に取り食べる。

 

「さて、ショッピングに付き合ってくれよ、ママ?」

 

 そんな俺に、ララは困ったような、だが少し嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「……――――仕方の無い奴だ」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 しかし、ドイツのアクセサリーって色んなのがあるんだな。ビールのアクセサリーとかどうしろと言うんだ。

 肝心なララはと言うと、こう言う店は初めてなのだろう。興味津々に彼方此方を見回している。やっぱ、こう見たら可愛い女の子だよな。

 

 さて、俺も何か買いたい所だが、女の子にアクセサリーなんか買ったこと無いんでね(悲報) 何買えば良いのか分からんぜよ。

 こう言うのはさ、女の子に「何が良いかな」とか聞いて「これかな?」とか女の子が選んだ奴を「じゃあそれをプレゼントするよ(キリッ」とかやると女の子は大抵は「ぽっ///」とかなるんでしょ。エロゲでやったから知ってる。

 

 だがな。甘いんだよ鈍感主人公。

 俺は貴様らのようは生温い男ではない。忘れては困るが、俺はこう見えても三カ国共有代表候補生。国から沢山の支給品として俺の好感度を獲るために渡された、ね。あるんですよ。そこいらの高校生には無い、金が(ゲス顔)

 

 

「と言うわけで此処から彼処までのアクセサリーを買います」

「待て待て待て待てッ!?」

 

 数百ある中から「これが君に似合うんじゃないかな?(キリッ」何て言うベストマッチングな一つを選ぶような鈍感スキルは持ち合わせてないんだもん。そしたら全部買って「この店の全部をあげるよ(サラッ」みたいな。あ、これ優男が女に捨てられるパターンの奴じゃん。

 愛は金で買えない(イワシメロン)

 

「じゃあ、ララが好きなの買ってあげるよ」

「い、いや。これくらいなら自分でも買えるぞ。大丈夫だ」

 

 駄目なんだよ、この天使ちゃんは謙虚で純粋過ぎてプレゼントと言う選択肢がそもそも頭に入ってない。

 やっぱり俺が選んで買うしかないのか。と言ってもな。女の子が喜びそうなアクセサリーなんて知らないし。

 

 そもそもキモカワイイとかグロカワイイとか言う意味不明支離滅裂相反なジャンルを欠片も理解出来ない俺が女の子の喜びそうなアクセサリーを探せるのか。

 

「オコマリデスカ!」

 

 ショーウィンドウに貼り付いて眺めてる天使ちゃんを見ていると、突然後ろから声をかけられる。絵に書いたような片言だが。

 振り向くと白人のこれまた絵に書いたようなドイツのおっちゃんがいた。日本語分かるのか。

 

「実は女の子にアクセサリーを送りたくて」

「ホホゥ! ではこのネックレスがオススメだぜ」

「日本語バリバリじゃねぇか!!」

「どうにもオコマリデスカだけ言いづらくてな」

 

 間際らしい。

 それはさておき、おっちゃんから手渡しされたネックレスには丸型の銀の卵形に何と十二個もの宝石がボタンのようにつけられた、一風変わったネックレスだ。

 

「ダサくないか?」

 

 卵に十二個のボタンが着いてるだけじゃん。確かにお洒落感はあるかも知れないが。

 

「チッチッ……甘いな兄さん。このボタンのようにつけられた宝石はボタンなんだ」

「ほう」

「ルビーのボタンやアメジストのボタン。この十二個の中に一個だけ正解のボタンがあるのさ」

 

 そう言っておっちゃんがルビーのボタンを押すと、銀の卵が開閉する。ほう、正解のボタンを押すと卵が開くのか。

 

「で、中から指輪が出てくると」

「ふむ、面白いな」

 

 ララが興味津々にそのネックレスを見ている。

 

「プレゼントする方が正解を決めて、貰う方がプレゼントした奴が決めた正解のボタンを押すのさ!! 勿論、正解のボタンは好きに決めれるぞ。普段も卵形のアクセサリーとして扱えるしな。オプションで中の指輪も変えられるんだ!」

 

 なるほど。

 十二個の内、一個だけ正解を決める。んで相手に教えずにプレゼント。相手は一個の正解ボタンを押して、中身をゲットと言う奴か。

 

「良いな、普通にアクセサリーを渡されるよりは私は好きだぞ」

 

 ララもなんか気に入っているようだし、うん。

 

「じゃあそれをララにプレゼントしよう」

「む、む? 大丈夫だ、それくらいなら…」

「買えるとかそう言うのじゃなくて。まぁなんだろ、ララと出会った記念みたいなアレだ。プレゼントさせてくれよ?」

 

 なんか恥ずかしいこと言っているが、ララは困ったような笑みを浮かべる。

 

「しかし……」

「ピザカードで(キリッ」

「まいどッ!」

「お、おいッ!?」

 

 有無を言わせず購入。多分、頷かないのは目に見えてるから買っちゃうの、金ならあるんで(ゲス顔)

 さっさと会計をしてしまう空気の読めるおっちゃんに感謝しながら、俺はララにからかうように笑う。

 

「受け取ってくれるだろ?」

「……ふぅ、仕方無い奴だな。お前は」

 

 そう言うと、ララはゆっくりと店からでようとする。あれ、怒らしたか。

 

「ら、ララ?」

「正解のボタンを知ってしまったら詰まらないだろう? 先に車に向かってるさ。私だって渡せるプレゼントを拒むほど嫌な女ではない……ありがとうユウキ。嬉しいぞ」

 

 柔らかい笑みを浮かべて、ララはそのまま歩いていってしまう。あぁ、なんだろう。この気恥ずかしい感じ。ラブコメ感って言うのかな。すごく、良いよね。

 て言うかさ、これが高校生のあるべき姿でしょう。ホモに好かれるとかメンヘラがいるとかさ、普通じゃねぇよ(再確認)

 もっとさ、毎日マイケル・ジャクソンとかLINKINPARKとかの音楽にハマったりする高二病だったり、恋したりさ、これが高校生の普通じゃん。今、俺って青春してるじゃん。

 

「おい兄さん、中身の指輪だが文字は掘るかい?」

「文字?」

「最近じゃ、指輪にメッセージを入れるのがドイツの流行りなんだよ」

「ふぅん……でもドイツのメッセージとか分からないしなぁ」

「シンプルにMoechtest du meine Frau werden?とかで良いんじゃないか?」

「長くない?」

「大きめの奴にすれば何とか入るさ」

 

 

 と言うか何語だよ。とりあえず分からないから頷いておく。感謝のメッセージみたいな奴だろ。

 しかしなぁ、ここで鈍感ラノベ主人公ならヒロイン全員にアクセサリープレゼントするんだろうけど、個人的にあげたいヒロインと言えば姉さんと千冬さんくらいなんだよな。

 やっぱり良いか。俺が何個もアクセサリーを決めれるほどセンスがある訳じゃないし。

 

「そんで中に入れる指輪は何にする?」

 

 ふむ、指輪か。

 

「ダイヤモンドかな」

「ほう、そりゃ高い買い物だが、なんでだい?」

「ララってウサギっぽいから」

「……ウサギでダイヤモンド?」

 

 おっちゃんは疑問に浮かべてるが、まぁ良いさ。正解のボタンも決めたし、後はプレゼントするだけか。

 いやぁ、青春してるね。このまま二週間、無事に過ごせたらきっと楽しくなる。

 

 

 

 

 

 ドイツって素敵やん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

外伝一"放置プレイ"

 

 

 

 

『えっと、一夏君とセシリアさんの試合は、セシリアさんの勝ちですね!』

 

 息を大きく吐きながら、銃を構え直す。

 既にBTは残り零となり、私に残された武器はスナイパーライフルとインターセプターのみ。一夏さんが彼処まで強いとは嬉しい誤算でした。

 だが、言ってしまった言葉は取り消せない。私はこのまま連戦です。彼のISはレーザー兵器に弱い。ですが私の武装は物理のみ。

 

「さぁ、結城さんを呼んでください!! 連戦ですわ!! 私の戦意は消えていませんの!!」

『結城さんは諸事情でいません』

「え?」

『よってセシリアさんの不戦勝です』

 

 試合を終わらせるブザーが鳴り響き、清掃が始まる。試合を観ていた生徒が思い思いに話ながら、会場から出ていく。

 熱く火照った身体は徐々に覚めていく。試合は終わったのだ。 不戦勝と言う形で。私は盾殺しに貫かれることも銃弾の嵐に襲われることもない。痛みはない。

 

 完全なる不戦勝。

 ついにはポツンと一人残される。注目も痛みもないのに。なにもされていないのに。いや、むしろ、完璧に無視されたからこその

 

 

「あ………あァ……ッ!」

 

 

 新たな快感。

 

 

 

 

 

 

 

 



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我が覇道に一片の迷い無し

 

 

 グゥテンモゥゲェン(曖昧)

 ビバドイツイン俺。七日目です。ドイツに来て初めてのララママの手作り朝食ドイツ料理を栗鼠の如く放馬る俺が迎えた七日目。最初に行ったのは公衆電話からの電話だった。

 

『やっほー、おっはー!! ドイツ旅行の調子はどうかなゆきのん!』

「やっはー、束姉! ジャミング機器の発注を頼む」

『ぐふふ、仕方無いなぁ結城君はぁ! ほら、もうやったよ!』

「流石は束姉。何をやったかすら理解させない手際の良さだぜ。ちなみに箒ちゃんからの電話が凄いんですけど……」

『それは無理』

「言い切っちゃったよ……」

 

 希代の天才と称されるISの生みの親、束博士。何を隠そう箒の実姉である。美人である(重要)。俺の姉萌えの発端でもある。

 そんな束姉は全てを諦めたような枯れた声で小さく呟く。

 

『最近は真面目に縁を切ろうかと悩んでいるお姉ちゃんなのです…』

「結構にマジなテンションで涙不可避」

『お姉ちゃんもさ……色々と疲れるんだよ……結城みたいは弟ならどんなに良かったことか……まぁそれは良いや!! 一々気にしてたら禿げるからね! で、ドイツ旅行の調子はどう? ビール楽しんでる?』

「いや酒とかもう見たくないくらい嫌いなんで」

『あれー? 結城ちゃんはお酒とか結構飲むタイプだった筈じゃなかったっけ?』

「束姉、酒はね。酒は人生を変えるよ。あれは毒だ。俺の人生が酒で変わるほどの過ちになりかけるんだ。酒はいかん」

『お、おう』

 

 お酒は怖い(戒め)

 さて、問題の箒ちゃんストーカー事件はなんとかなったし、一夏にはちゃんと連絡してあるし、問題と言う問題は特に無いよな。束姉が言うならジャミングは成功している筈だし。

 

「そういや束姉は今何してんの? 一年くらい前にお台場であったきりだけど…」

『束お姉ちゃんは今ね、ヒラヤマ山脈に作った秘密基地でISを弄ってるよ! 遊びに来たいなら今から迎えに行くけど、どうするどうする!?』

 

 そんな楽しみが溢れているような束姉の言葉を断るのは気が引けるが、今に俺が行方不明になったら様々なところで大問題が発生してしまう。

 

「また今度ね。つかヒラヤマ山脈って……前はマチュピチュに居るんじゃなかったの?」

『あぁ、あそこ。あそこは駄目だねぇ~料理が美味しくないもん! 久し振りに結城のご飯が食べたいなぁ……あぁ……やっぱ姉弟の会話ってこう言うのが普通だよね……』

「急なテンションの下がりに草不可避」

『しっかし、ゆうちゃんは相変わらずフラグ王だよねぇ! 学園じゃ何人くらい立てたんだい!? お姉ちゃんに全部教えなさい!?』

「箒くらいじゃないか?」

『ふふん、怪しいなぁ……ゆうちゃんがそのまま鈍感を貫いたら私はちーちゃんが一番優位な気がするんだけどなぁ。まぁ行き遅れたら私が貰われてあげるよ!』

 

 束姉は行き遅れ真っ最中なのは黙っておこう。本当ならこの人の美貌と地位があれば結婚なんか五秒で成立する気がしないでもないけど。まぁ、姉が結婚すると言うのならまずは弟の屍を越えて貰わないとならないがね(シスコン魂)

 

「はいはい、それは安心ですね」

『ふふん! で、本当のところ、気になってる女の子って一人もいないの? 良い歳した盛りたがりな男子があんな学園にいてオ○ニーで済ますなんてまずあり得ないよね!』

「はっはっはっ、束姉のデリカシーは相変わらずなようだね!!」

『で、まさか本当に風俗で満足してるの?』

「おい辞めろ」

 

 貴女の口からそんな言葉がでると各国の様々な人達が悲鳴をあげる。

 どうにもこれは答えないと束姉の質問は止まりそうにない。しかしな、気になる女の子ね。まずは俺が知り合った女の子をあげてみるか。

 

 箒ちゃん。正気だったらまず確定な女の子だが、正気じゃないから却下。

 セシリアさん。よく知らないし、一番無いな。

 楯無さん。まぁ美人だし頼りになるし、姉気質で結構なタイプ。まともな人だから、一番有り得る。でも気になる云々で考えると分からない。

 マドカやスコールは犯罪者だ。

 

「……あれ、いないな」

『ゆうちゃんさ。風俗の女の子にお金使うくらいなら出会いにお金使った方が良いよ。あっ、出会い系とかは駄目だからね!』

「はなっから風俗行ってねぇよ」

『じゃあちーちゃんはどうなの? ちーちゃん』

「千冬さんはほら……姉かな。何だかんだで俺のオムツも変えたことのある人だよ?」

『私はゆうちゃんのアレも見たことあるよ!!』

「ちょっとさっきから下ネタ酷すぎない?」

 

 なんでこんなになるまで放っておいたんだ。箒ちゃん、貴女、姉になにしたの。

 

『まだ出会いは無いってねー。姉としてはゆうちゃんに彼女出来ましたーとか言われたんだけどなぁ』

「まぁ、まだ無理だろ。俺は、ほら、自由に行きたいタイプだから」

『むぅ!! ゆうちゃんさ、お姉ちゃんに隠し事してるでしょ!! さっきから話振ってるんだからちゃんと話すこと話なさい!』

「はい?」

 

 束姉に隠してあることなんて、小さい頃に寝ていた束姉の胸を揉んだと言う今さえ罪悪感に襲われるあの体験くらいしか隠してないけど。

 しかし、さっきから束姉の様子が可笑しいのは確かだ。何かを探るようにしつこく同じことを聞いてくる。

 

『ほら、隠してること』

「小さい頃に束姉の胸揉みました」

『えッ!? マジでッ!?』

「違ったか、今の嘘ね」

『違ったって言ったな!? 本当に揉んだなお前!?』

「愛してるよお姉ちゃん」

『私もだよゆうちゃん! なんか流された気がするけど違うって! わ、た、し、に!! 隠してること!!』

 

 まて、冷静に考えてみよう。

 束姉に隠してあること、ね。束姉行きのラブレターをまず弟の俺に渡す制度にしたことか。いや、違うな。学校のシスコングランプリで姉妹がいない俺が優勝したことか。いや、そんな前の話じゃないか。

 

 ふむ。

 

「わりかし真面目に無いと思うんだけど……」

『……むぅぅ。分かったよゆうちゃん。ゆうちゃんにもタイミングがあるんだね。私も色々と根回しして止めてるけど、あんまり遅くなったら手遅れになるからね?』

「手遅れって……何が?」

『それは…』

 

 何かを話そうとするタイミングで公衆電話のお金が切れる。参ったな、束姉に繋がる番号は毎回、パソコンのメールで送られてくるから家に帰らないと電話出来ない。

 しかし、何が言いたかったのだろうか。物凄く重大な事の気がしないでもないけど。いいや。日本に帰ってから聞こう。

 

 俺は公衆電話から離れると、横のベンチで湖を見ながら呆けている"ラウラ"の肩を叩く。

 

「よ、ラウラ。またせたな」

「む。もう良いのか? 家族の電話だったのだろう。もう少し話してても大丈夫だったぞ」

「平気平気。本気なりゃあの人はどっからでも電話出来るからな。それよか、今日はどうすんだ?」

 

 ゆっくりとラウラの横に座りながら、寒さを凌ぐように両手に息を吐く。少し薄着で来たせいか、ちょっと寒い。

 ラウラはそんな俺を横目で見ると、何を思ったのかグルグル巻きにしていたマフラーを脱ぎ始める。

 

「……ラウラ?」

「ちょっと待っていろ……ほら」

「ちょ、ら、ラウラ?」

 

 そして半分を俺の首に巻き、もう半分をラウラが巻く。長いマフラーだが、二人で巻くような物では無いために、ベンチで密着する形になる。なんだこれ、凄く照れ臭いぞ。

 

「娘達と良くこうするんだ。暖かいだろう? このマフラーは高い毛糸で編んだんだ」

「そ、そりゃ暖かいけど……」

 

 散歩している奥様方がにやけた微笑みで俺達を見ている。確かに我ながらこれは恥ずかしい。それに、これじゃあまるで、俺達は恋人同士じゃないか。

 だがこの鈍感王であるラウラはそんなことお構い無しに微笑み、俺の腕に擦りよってくる。

 

「暖かいな……結城の身体は大きいから体温が高い。私みたいな小さな女は寒がりでな、つい暖かいとのんびりしてしまう」

「別に、俺の腕くらいなら何時でも貸すけどよ……その、あんまりくっついてると勘違いされるぜ?」

「別に結城となら構わんさ……」

 

 え? なんだって? このロリ、ラブコメの主人公みたいなこと言い寄るわ。騙されるな結城。これは別に恋愛感情とか無しなんだ、女ってのはそう言う生き物なんだ。だいたいラウラは十八だぞ、見た目十二歳だぞ。あれ、別に平気じゃん。

 

「ラウラは―――」

「ラウラか」

「ん?」

「やはり結城は私をラウラと呼ぶことにしたんだな」

 

 咎めるような言い方でもなく、ラウラは苦笑して他人事のように言う。

 

「あぁ、それか。なんつうかな……ララってさ、他の人から、てか娘さん達から見たら結構な理想の人物だろ? ラウラはそれを作ってるから当たり前なのかも知れないけどさ。ふと思ったんだよ」

「何を?」

「ララのラウラが居たら、ラウラは何処に居んのかなって……良く分かんないよな。自分でも何が言いたいか上手く言えないんだけどさ。ラウラをララではなくラウラとして見る奴が一人くらい居ても良いだろ?」

 

 俺の言葉にラウラは曖昧に頷いて、さらに俺の腕にもたれ掛かった。その横顔は何処か安心しているようで、俺の言葉が間違えた様子はない。

 ラウラをラウラとして見るか。我ながら大層なことを言っている。

 

「結城が帰国するのは明日か……」

「……そうだなぁ」

 

 残念そうに感じてくれているのか、ラウラは寂しさを言葉に含めながら呟く。明日か。帰国が速まってしまったのは痛いな。もう少しこの静かな場所でラウラと居たかった。

 

「なぁ結城。私は少し悩んでいるんだ」

「悩み?」

「君の答えにどう答えるべきか」

 

 俺の答えとはなんぞ。

 ラウラは何故か俺がプレゼントしたネックレスを触りながら、此方を上目使いで見てくる。

 

「私は作られた子供だ。この容姿も遺伝子の異常で普通とは違っている……確かに実年齢は十八だが、事実上、私の肉体年齢は十や其処らなんだ」

「……そっか」

「そうなんだ……ふっ、この話をしてそれだけですまされたのは初めてだな。皆はもっと微妙な顔をするんだぞ?」

「うっ……そ、そうか……」

 

 気遣いが足りないですよね、自覚してます。どうにも俺は不器用で、こんなときになんと言葉をかけて良いか分からなくなるのだ。自分でこの馬鹿さを知っている。

 困った顔をしていたのだろう、ラウラは俺の顔を見て微笑んだ。

 

「攻めているのではない、逆だ。嬉しいのだ」

「う、嬉しい?」

「私を何のフィルターもかけずに見てくれる人は今まで生きてきた人生で一人しか居なかった。その人と全く変わらない目で私を見ている結城の目は、嬉しい」

「あぁ、千冬さんか。あの人と俺が似てるなんて有り得ないと思うんだがなぁ……」

「そんなことはない……なぁ、結城。今まで聞かなかったが、君はこれにどんな想いを乗せたのだ? 私と出会って、まだ一日だっただろう?」

 

 ネックレスを見てラウラは頬を林檎のように染めながら言う。肌が白いから照れているのが分かりやすかった。

 ふむ、俺がネックレスをどんな想いであげたか。

 

「ローマの休日って知ってるか?」

「身分違いの二人が一日で恋をする映画だな?」

「あれと一緒かな」

 

 貴女の寂しそうな顔を笑顔にしたいと願った主人公のような、あれに近いかも知れない。その後、主人公はヒロインの笑顔に恋をするのだが、確かにラウラの笑顔は可愛かった。

 

「(恋をする的な意味で)い、一緒か……」

「(笑顔が見たかった的な意味で)一緒だな」

「……そ、そうか」

 

 さっきより真っ赤な顔をマフラーで隠しているラウラ。意外に恥ずかしがり屋なんだな。

 

「なぁ、結城。私は君に答えたら……その、速すぎるかな」

「……何が?」

「出会ってまだ一週間だろう。互いも良く知らないし……その、凄く嬉しいし、周りから引かれる境遇の私にそんな答えを求めるのも結城くらいだろうし……もっとこういうのは時間をかける……その。べきだろう……?」

「そう、なのか? 良く分からないが、ラウラの好きで良いさ」

 

 俺がなんかラウラに答えを求めるようなこと言ったかな。想い当たらん。

 

「そ、それに私は、こんな体型だ。もし君に肯定的な答えをだしたら、君は日本では変態扱いだろう?」

「えっ?」

「えっ?」

「……まぁ、元から変態な扱いされてるから平気じゃないかな?」

「平気なのか……」

「所でさ、そのさっきから言ってる答えってなんの…」

「で、でもだ!! やっぱり結城は日本に彼女とか、好きな女の子とか居るんじゃないのか!?」

「無いわ」

「えっ?」

「えっ?」

「……日本で残してきたモノなんかホモとかメンヘラとか笑顔の狂人とかしか居ないけど」

「君は日本で何があったんだ……」

 

 困惑するラウラに俺も困惑する。俺、日本で何やって来たんだろう。本当に何やって来たんだろう。日本で未練がある存在なんか千冬さんと鈴くらいしかいないよ。

 ラウラは何故か強くネックレスを握り締めて、俺を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「国にはどう説明するんだ? 君の立場上、色々とあるだろう、何処の代表候補生になるかも決まっていないのに……」

「ん? ……良く分からんが、それがなんの問題になるんだ?」

「な、なんの問題ってお前は」

「俺とラウラの間には関係だろう。俺の立場なんかその辺に捨てても良い、俺は今に満足出来れば良いんだよ……そうだな――――――ラウラとこうして遊んでいるのに俺の立場が邪魔だと言うのなら。こんな塵は迷いなく捨てるさ」

 

 キュン。と何か変な音が響いた。なんだこの引き締めたような今時、ろくに聞かない九十年代の漫画みたいな効果音は。

 ふとラウラを見てみると深紅に染まりきった顔を此方に向け、潤んだ瞳で俺を見ていた。な、なんだ。風邪か?

 

「……結城」

「な、なに? てか大丈夫かラウラ? 物凄く逝ってる顔してるけど……?」

「君は、ロリコンなんだな」

「はいッ!?」

「良いんだ、私はこれ以上は成長しないし。むしろWINWINな関係だ。日がなんだ。ローマの休日なんか一日でベットインしたクソビッチだと思っていたが、恋に日数なんか関係無いんだ。クソビッチはただの女だっただけなんだ……」

「あ、あのラウラさん? 凄い目が危なくなってますけど……?」

 

 一人でぶつぶつと何かを呟きながら、ラウラは頬に両手を当てて恥ずかしながら微笑む。そして、何故かマフラーを外して俺の目の前に立つと、ネックレスから指輪を取り出す。

 

「結城、私は君に答えよう……――――――これからも、私と末長く共に居てくれるか?」

 俺に指輪を渡すと、右手の薬指を此方に向ける。

 つまりは指輪を着けてくれと言うことなのだろう。なにか言葉が結婚みたいに聞こえないでもないが、ラウラが差し出しているのは右手の薬指だし、特に問題は無い位置だ。

 ドイツ式の女性へのプレゼントの仕方なのだろうか。俺はその指輪を持ち直し、ラウラの右手を握る。

 

「勿論だ、俺はラウラと(友人として)末長く、一緒に居よう」

 

 そして、俺はラウラの右手の薬指に指輪をつける。

 ラウラはその指輪を着けた右手を呆然と見ながら、その潤んだ瞳から涙が零れ出す。そんなに嬉しいことだったのだろうか。

 

 ――――その瞬間、目映いフラッシュがたかれる。

 

「うわっ……」

「む……」

 

 二人して目を閉じてしまうと、誰かが素早く逃げていった。フラッシュからしてパパラッチか何かだろうか。

 

「ふふっ、有名人の結城がこんなところにいては大騒ぎになってしまうな」

「あぁ……悪いな」

「良いさ、さぁ。今日はもう帰ろう」

 

 ラウラにそのまま右手を握られ、引っ張られるような形で連れていかれる。

 確かに、今日はもう大人しく帰らないとさらにパパラッチに撮られそうだ。

 

 

 

◆◆ ◆ ◆◆

 

 

 

 

「ふんふんふん~」

「会長、会長」

 

 生徒会の実務を終え、弟コレクションを眺めていると虚が今はやりのIS雑誌を手にしながら私の肩を叩く。

 

「なによ。ちょっと今忙しいのよ……」

「結城君の盗撮写真を眺めているところ、悪いのですが。この雑誌に衝撃的な結城君の盗撮写真が写ってます」

「見せなさいハリーハリーハリーッ!!」

「ちょっと待ってください、会長」

 

 素早く飛びかかる私を軽々と潜り抜けて、虚は雑誌を私に見えないように隠す。

 

「なによ……」

「会長はあくまでも結城君を弟と見てますよね?」

「はぁ? なによいきなり。そんなん弟は姉の嫁って言葉が昔からあるくらい在り来たりな問題だわ」

「初めて聞きましたよ。そうならばこの雑誌を見せる訳にはいきません。大人しくしてください」

「はぁぁ?」

 

 何時もの虚らしくない態度に私は首を傾げる。何を隠すことがあるのか。問い詰めようとした時、生徒会室の扉が勢い良く開かれる。

 何事かと視線を向けると、そこには三人目の男性IS起動者であるシャル、シャ、シャルル(曖昧)だったかシャルロット(曖昧)だったかが息を乱してたっていた。

 

「――――ほ、箒ちゃんが名探偵コナンの薬を飲むとかいって薬物を打とうとしてますッ!?」

「なにやってんのよ……」

 

 そんな報告されてもどうしよう。

 

「それだけじゃありませんッ!? 一夏が失恋のせいで変な撮影に行こうとするし!? 千冬先生なんか良く分からないけど歓喜極まって変な舞い踊ってますし、その、とにかく学校中が物凄い騒ぎなんですよッ!?」

「凄い騒ぎって、何があったのよ?」

「何って……あっ、これですこれッ!?」

 

 シャルロッテ(曖昧)さんは虚が持っている雑誌と全く同じ雑誌を手に取り、とあるページを広げる。

 そこに見られたページの内容は。

 

 我が弟、結城が十歳くらいの女の子にプロポーズしている内容だった。

 

 

「」

 

 

 

 脳が、震えた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

『番外編 のほほん』

 

 

 鳥さん空気さん太陽さん!そして画面の前のみんな!おっはよー!

 私の名前は結城!今日からぴっちぴちの女子高生!尻穴大学付属学園中等部からエスカレーター式で高等部へ進んだの! 友達たくさん出来るかな?すっごくドキドキしてます!

 でもた~いへん!え?なんでかって? なんと初日から遅刻しちゃいそうなの! もう!ママったらちゃんと7時に起こしてって言ったのに!バカバカバカー!殺すぞ

 

「ひぃ~んこのまま登校初日から赤っ恥だよ~!」

「ふぁ~今日も今日とて眠気の極みだぜ…ん?」

「はっ!危なーい!」

 

 ドッカーン☆

 なんと私は知らないイケメン君とぶつかっちゃったの! その子、名前は一夏君って言うんだけど今日入ってくる転校生!? 朝の衝突で一夏君に目をつけられた私は、なんと一夏君の親友、弾くんに嫉妬されちゃって。気付いたらそこはシーパラダイスのイルカショーまっただ中! 無事に脱出するためにはイルカショーを乗り越えないといけなくて……!! どうするの私☆!?

                 つ づ く

週刊貴方のホモ。読者票獲得作品貴方のIS様

著者 のほほん 様より

 

 

 

◆ ◆ ◆



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プロポーズ大作戦(はぁと)

「だから、俺はラウラと結婚します」

「待て待て待て、おち着けゆうちゃん。私はね、うん。構わないと思うよ、そこに愛と世間の常識があればさ」

「世間の常識を壊した貴女には言われたくないと思いました(小並感)」

「それ言われたら反論出来ないじゃん………とりあえずさ、落ち着いてみなよ。ラウラちゃん、ちっちゃいよ?」

「おっぱいは関係無いだろッ!! 良い加減にしろッ!!」

「身長のことだよクソ野郎」

「そこは大丈夫。俺、ロリコンだから」

「聞きたくなかったわー。弟のそんなカミングアウト聞きたくなかったわー」

 

 束姉と二人でのんびりとカフェにて珈琲を飲みながら、俺はラウラと結婚する意思を伝えた。だが、何故だが束姉はあまり乗り気ではない。嫁と家族の関係とか今後は重要になるからキッチリとケリを付けなければ。

 

「あのさぁ……束姉はラウラの何が気に入らないのさ?」

「気に入らないとかじゃなくてだね。プロポーズが勘違いだったって時点でお姉ちゃん、三回くらい聞き直すレベルで耳を疑うのに勘違いした本人が結婚に乗り気ってだけでお姉ちゃん、卒倒しかけたよ」

「男なら女性への責任は果たせってお姉ちゃんに育てられました」

「いやそうだけどさ……」

「第一さ、ラウラ可愛いし、料理上手だし、掃除も洗濯も趣味だし、器量広いし、可愛いし、年齢は十八だぜ。寧ろ嫁に貰わない理由がないよね」

「愛を育む時間が必要じゃないかって話なんだよ」

「ラウラの愛に溺れてますけど?(迫真)」

「うっさいわ」

 

 珈琲をイッキ飲みして束姉は溜め息を吐いた。

 そもそも、ラウラと言う天使が嫁に来るのを拒むとか男として死んでると想いますけどね。俺はラウラの良かったとは言えない過去を、良かったと笑って死ねる未来で埋めて上げたいだけなんだよ。ラウラ可愛い。

 

「兎に角、俺はラウラと結婚する」

「……箒ちゃん」

「その名前を出すのはやめてください死んでしまいます」

「一夏」

「どうでもいいわ。親友なら喜んでくれるんじゃない?(曖昧)」

「……まぁ、そこまで言うならお姉ちゃんは止めないよ。でもさ、ほら。やっぱり出会って一週間ちょっとで結婚は幾らなんでも速すぎだよ。恋人とかから始めようよ。それならお姉ちゃんはなんも言わないよ」

「同棲して良い?」

「……一歩は譲って良いよ」

「じゃあ結婚して良いじゃん」

「なんでだよオラ」

「同棲は結婚だろ、常識的に考えて」

「お姉ちゃん。結城の恋愛観はいい加減に何とかしなきゃなと今まで放ってたことに後悔してるよ」

 

 なんでだ。同棲なんかほぼ結婚すると同意機じゃないか。頑として首を縦に振らない姑(姉)に俺は最終手段をとることにした。携帯を机の上に取り出し、束姉を見つめる。

 

「よし、分かった。束姉にはラウラと会って話して貰います」

「お姉ちゃんとしては結城の携帯がラウラちゃんのプリクラやフォントで溢れてることに驚愕を隠せないけどね」

「これね、ラウラがプリクラ取りたいって照れながら言ってきたからさ。いやもう、あの君が嫌なら別に良いんだがとか言っちゃってさ……天使だよね……」

「……重症だな、これは……環境が結城を変えたのか……」

「おっと。話が反れたね。兎に角、ラウラに会って貰うから」

「えっ。いや、ちょっと……それは姉として、まだ心の準備が出来てないとかさ……あるじゃん? 色々とさ。弟の嫁に会うのは、お姉ちゃんとして重大イベントと言うか、心構えってやつが…」

「もしもし天使ちゃん?」

「聞けや」

 

 ショートカットキーを押してラウラに電話をかける。ワンコール、ツーコールの後に電話に出た。控え目な声でもしもしと言ってくる天使。親代わりの姉と会うと伝えていたからか。ラウラは落ち着いた声だった。

 

『ふふっ。天使って、君はアメリカ人か』

 

 俺のお茶目な冗談に微笑しながら息を吐く。

 

「事実を言ったまでさ」

『はいはい、ありがとう……それで、どうしたんだ? 束さんとはもう別れたのか?』

「いや、まだだよ。実はラウラに会って欲しくてさ。いま平気かな?」

『……と、唐突だな。色々と準備しなきゃ行けないし、化粧だってしてないんだぞ? それに、君の母親代わりに会うなんて……こ、心の準備が』

「大丈夫。少しくらいなら待ってるよ。それに、ラウラは化粧なんかしなくたって、俺が惚れたラウラに変わりはないさ」

『もう……そうやって君は上手い具合に私を騙すんだ。悪い奴』

「その悪い奴に惚れたのは君だろう?」

『そうさ。君は悪い女に惚れられたんだ』

「ははっ」

『ふふっ』

「あのさ、速くしてくれない? お姉ちゃん段々イラついてきたよ。なんで海外ドラマみたいなやり取りを見せ付けられなきゃいけないんだよ」

 

 おっと。つい何時もの通りに和んでしまった。用件を元に戻そう。

 

「それでラウラ、来てくれるか?」

『分かったよ。何れは仲良くしなければならないお人だ。五分くらいで向かう』

「あぁ、待ってるよ。じゃあね、愛している」

『私も愛しているよ』

 

 そう言って電話を切る。何時もの他愛ないやり取りを目の当たりにした束姉がまるで胸焼けしたように胸を抑え、ブラックコーヒーをイッキ飲みした。さっきから飲み過ぎだな。苦い物でも好きになったのだろうか。

 

「ラウラと俺が住んでるアパートはこの店の前だから直ぐに来るよ」

「待って待って。いま凄い台詞が聞こえたんだけど」

「? ラウラは天使?」

「もっと先だよダアホ」

「ラウラと住んでるアパートか? 結婚してるんだから当たり前だろ」

「……ん? ちょっと待って結城。私さ、いま凄いことに気付いちゃった。聞くのが凄い怖いけど、気付いちゃったんだ」

「なに?」

「――――結婚するって、事前報告だよね?」

 

 束姉の言葉に、俺はコーヒーを飲んで視線を窓に向けた。なるほど、鋭く良い質問だ。流石は稀代の天才で、ISの産みの親である束姉だ。中々に出来ないよ。

 さて、質問に答えようか。

 

「事後報告。正しくは結婚した」

「既に結婚してんのかーいッッッ!!」

 

 まるでコントのように椅子から転げ落ちる束姉。店を貸し切りにしたのは幸いだった。あの束姉がこんな行動を取ると世界にどんな影響があるか分かったもんじゃない。

 

「二人とも両親はいないからね」

「いやいやいやッ!? えッ!? 今まで私に結婚して良いとか聞いていたの全部意味無いじゃん!? 結婚しちゃってるじゃん!? 正式に提出したんでしょ!?」

「今は武川ラウラだよ。正しくは武川ラウラ・ボーデヴィッヒになるのかな。言いづらいとか言って笑ったよ、ははっ」

「ははっ、じゃねぇよ!! 結城のその行動の速さはなんなの!? お姉ちゃんさっきから着いていけないよ!? いや、もうっ……な、なんなん!? なんなん!?」

「落ち着けお姉ちゃん」

「ふぅ……ふぅ……よし、落ち着け束……やってしまったものは仕方無い。これで結婚を取り消しにさせる姉なんか最低のクズだし……弟に責任を取らせるのが姉の務めだよね……」

 

 息を整えながら三杯目のブラックコーヒーをイッキ飲みする束姉。カフェイン摂取し過ぎて興奮しているようだ。俺は三日でマスターしたドイツ語でケーキを頼んでおく。

 そんな中、ついに店の入り口が開かれベルを鳴らすと、目的の人物が姿を表した。

 半袖シャツに軽くカーディガンを羽織り、肌色の長いロングスカートを靡かせ、肩にはショートバック。落ち着いた大人の雰囲気を感じさせるラウラに、束姉は何処か唖然とした表情でラウラを見つめていた。

 

「ラウラ!」

 

 俺が声をかけるとラウラは俺を視線に捕らえ、小さく微笑み、ゆっくりと此方に歩いてくる。そして、束姉の前まで歩み寄ると、ラウラは落ち着いて会釈をした。

 

「初めまして、束さん。お話は色々と結城から聞いてます。ラウラです、よろしくお願いいたします」

「……え、あ! いえ、此方こそよろしくお願いいたします!」

 

 呆気にとられながらも束姉は立ち上がり素早く頭を下げる。ラウラの容姿に似合わない大人さに面を食らったのだろう。最初は俺もそうだったから。

 二人はそのまま頭をあげると、束姉がまだ慌てながら俺の隣を手で指す。

 

「ど、どうぞ、座ってください」

「はい、失礼します」

 

 ラウラは俺と顔を合わせ微笑むと椅子に座る。束姉は落ち着かないながらもラウラと向かい合うように座り込み、視線を俺に向けてきた。

 稀代の天才でいようとこう言ったことには戸惑うのか。

 

「え、えっと。ラウラ…さんで良いかな?」

「いえ、ラウラと呼び捨てしてください。私のお姉さんになるお人なんですから」

「…お、お姉さん?」

「えぇ……あ、図々しい言葉でしたか……?」

 

 申し訳なさそうに言うラウラに束姉は首を勢い良く振った。

 

「いや、そんなことないよ!! 私に妹なんか居ないから寧ろ嬉しい!!」

「ッ!?」

「そうですか、ありがとうございます」

「妹なんか居ないって(ry」

「堅苦しい言葉もいらないよ!! お姉さんって気軽に呼んで良いんだよ!!!!」

「は、はぁ……? ではお姉さんと呼ばせて貰います、ね?」

「うんッ!!!」

 

 箒ちゃん。貴女、束姉に何したんだよ。姉が妹を拒むって中々に出来ないよ。

 

「それで、今日は改めてご結婚の報告と言うことでしたが、お姉さんは、その……」

「反対かって? 大賛成だよラウラちゃんッ!!」

「えッ!? さっきまで…」

「本当ですか!」

「勿論だとも! ラウラちゃんのような可愛い人を嫁に貰えるだけでこっちから頭を下げるくらいなのにさ! お姉さんは大賛成だよ!! お姉さんは!!」

 

 お姉さん強調し過ぎだよ。義理とは言え妹が、まともな妹が出来ることがそこまで歓喜するレベルなのか。さっきまで反対してのが嘘のようだ。やはりラウラは天使だった(確信)

 

「ありがとうございます、お姉さん」

「良いんだよラウラちゃん! 私達はもう家族でしょうが!! 携帯の番号とか交換しよう!」

 

 淡々と携帯を弄りながら情報を交換し、束姉がコーヒーを飲む。

 

「コーヒー苦っ!! なんでブラックなんだこれ!!」

「落ち着け束姉。さっきから危ない人間になってきてる」

「妹だよゆうちゃん!! 妹だよ!? 私に妹が出来たんだよ!?」

「妹なら居ただろう」

「いや居ないねッ!!」

「……」

「常識的に考えてみなよ! ストーカーでメンヘラでヤンデレで! 部屋に入ったらゆうちゃんの写真で埋め尽くされ! 机を開けたら使用済みティッシュやハンカチやパンツが閉まってあるアレをどうやって妹と見ようかッ!? 出来ないよッ!! いくらお姉さんでもアレは妹と見れないよッ!!」

「背筋に恐怖が走る単語がチラホラと聞こえたけど、俺は何も聞かなかったことにする」

「良くラウラちゃんを見付けてきた!! 普通に可愛いよこの子!! 普通だよ!!」

 

 普通がそんなに嬉しいのか。

 ラウラは訳が分からなそうに俺に視線を向けてきたので、頭を撫でておいた。とりあえず好感触なのは間違いない。心配事が一つ減ったかな。

 

「あー、それでさ、束姉。ちょっとお願いがあるんだよ」

「お願い? なにさ?」

「ゆ、結城! まさか、本当にするのか?」

 

 俺の言葉にラウラは照れながらも驚き、俺の腕にそっと触れた。そんかラウラの反応に束姉は不思議そうに首をかしげる。

 

「結婚式」

「結婚式ぃ? あぁ……なるほど。やるんだ。まぁ、ゆうちゃんはお金一杯持ってるしね。でも……結婚式か……マジで結婚するのか……あ、で。お願いって?」

「式とか会場とか、お誘いとかは俺が決めるからさ。ラウラのドレスを一緒に決めてくれないか?」

「結城、やっぱりこの歳で結婚式は速すぎるような…」

「良いんだよ、これくらいはさ。それで、どうかな?」

「……妹のウェディングドレスを決める……? なんだその素敵イベント……やりますッッッ!!」

 

 机を渾身の力で叩き付け、意気込む束姉。そして不安そうにするラウラの手を机の下で優しく握り締め、俺は改めてラウラに向き直る。

 

「なぁ、ラウラ。俺は君と出会えたことが運命だと思っているんだ。君以上の女性には今後出会えないであろうと確信もしている……これはある意味、俺の想いなんだ」

「勘違いから始まったくせになんだコイツ……」

「……君がそう言ってくれるのは嬉しい。私も君以上の男性には出会えないだろうと思ってる……私で良いのか?」

「君しかいないさ」

「……結城」

「……ラウラ」

「あぁぁぁッ!! 熱いねこの店ッ!! 暑すぎるねッ!!」

「愛しているよ」

「私もだ 」

「聞けやァッ!!」

 

 ざわめく束を放っておいて、ラウラを胸に抱き締める俺は未来を想いながら、ゆっくりと空を見た。

 晴天の青空はまるで俺達を祝福しているようだ。

 

◆ ◆ ◆

 

「会長、会長。簪様がついに一億の問題まで来ましたよ」

「行けるわ簪ちゃんッ!! 貴女なら獲得出来るわ!! もみもんたの顔を歪めてやりなさい!」

 

 愛しき弟がパパラッチに撮られてから二週間。我が家の総力をあげて情報採集している最中、愛しき妹である簪ちゃんがクイズミリオネアに出演すると言うビックイベントが起きた。なんだこれ。

 

『はい、司会のもみもんたです。ついに……やって参りましたね。一億』

『はい』

『ここで一億。諦めるならば半分の五千万円が手に入ります……どうしますか?』

『ちょっと不安ですけど、私は挑戦します』

『では……五千万円には後戻り出来ません。本当に良いんですね?』

『はい』

 

 小切手を切る、もみもんた。嫌らしい奴だ。

 

「しかし会長。なんで簪様はテレビに?」

「さぁ? なんかお金が必要なんだって。でも家には頼りたくないみたいでね」

「一億、ゲットできますかね」

「応援するしか無いわ」

 

 特有の音楽の元、ついに決め手のクイズが始まる。

 

『では問題。元プロ野球選手、桑○真澄がマウンドで行ったこと有名な逸話があります、なんでしょう。A ピッチャーマウンドに右肘をついた B 清原選手に睡眠薬を飲ませた C 清原選手に浣腸をした D タダノ選手とビデオに出た……さぁ回答を!』

「サービス問題過ぎません?」

「私が根回ししたからね」

「予想通り過ぎて何も言えません」

『テレフォンをお願いします』

「「お?」」

 

 簪ちゃんが今まで保存していたテレフォンを使い始めた。この場面で使うほど難しい問題ではないと思うけど、野球を見ていないと分からないのかしら。しかし、予想で分かるような四択だと思うけどな。

 

「テレフォンって誰に繋がるのですか?」

「控え室にいるお父さん」

『もしもし、お父さぁん? もみもんたです』

『は、はい! 簪の父ですが!』

『お父さんね、簪さん。一億まで来ましたよ。この問題に答えることが出来れば一億です』

『一億だけですか…』

 

 確かに我が家には一億くらいの感覚だろうけどテレビで一億だけとか言っちゃうのはマズイよお父さん。

 

『良いですか? いまから簪さんが言う問題の回答を伝えてあげてください。制限時間は三十秒……はいスタート!』

『もしもし、お父さん』

『あぁ、問題はどんなだい?』

『電話してなんだけど、実は手助けなんかいらないの。ただね、頑張って自分の力で一億を手に入れたよって伝えたくて』

 

 歓声が沸き上がるテレビを見ながら、私の脳裏に嫌な予感が広がる。

 

『なんと言うテレフォンでしょう! では簪さん、お答えください!』

『答えはDのタダノ選手とホモビに出たでファイナルアンサー』

「うーんこの」

「生粋の畜生ですわ」

 

 全国テレビでやらかしちゃいましたわ。可愛いドヤ顔が物凄く哀愁を漂わせる。あれほど歓声が響き渡っていたスタジオも打って変わり、お客さんは目を疑いながら簪ちゃんを二度見していた。気持ちは分からなくもない。

 

『……………………』

『……………………』

「あ、凄いウザイ。簪ちゃんのドヤ顔が凄いウザイ」

「正解を確信してますね、あれ」

『………………』

『……………?』

「ちょっとお客さんの反応に気付き始めたわよ」

「毎回思うんですけど沈黙長いですよね」

『――――ざぁぁぁあんねぇぇんッッッ!!』

『馬鹿なッ!?』

 

 驚愕の簪ちゃんをフェードアウトしながら、テレビはコマーシャルに入る。馬鹿なって私が言いたいくらいだわ。なにやってんの我が妹よ。

 見慣れたコマーシャルが流れるテレビを眺めながら、私は深い溜め息を吐いた。やらかすとは思ったけど、一億まで運で到達したことが最大の要因だった。

 

「はぁ……結城の居場所も何故か見付からないし、最近良いことがないわねぇ……」

『速報です! 男性で唯一、ISを起動出来る武川結城さんが電撃結婚発表をしました!』

「――――馬鹿なッ!?」

 

◆ ◆ ◆

 

 Niceboat※運営に怒られたため削除

 

「ゆうちゃんが……結婚……?」

 

 Niceboat※運営に怒られたため削除

 

「私を置いて……?」

 

 Niceboat※運営に怒られたため削除

 

「……ふふふ」

 

 Niceboat※運営に怒られたため削除

 

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「俺は……ホモだった……」

 

 一人裏路地で壁に背をつけ、しゃがみこんだ。暗闇が心を埋め尽くすように、空はまるで泣いているように。夢は夢でしか無かったと語りかけるように。全ては分かっていたことなのかも知れない。そう、必然だった。

 

「―――だからって諦めるの?」

「―――え?」

 

 裏路地に透き通る言葉が響いた。此処で聞こえるはずの無い、彼女の声。まさかと顔をあげて彼女を見つめた。昔の面影はない。その背百九十五センチの大女。不敵に笑いながら俺を見つめる彼女は。

 

「り………り……ん?」

「私よ、一夏」

「……背。延びたな」

「あぁ、これ? 山奥で修行してたら伸びちゃったの……それで、一夏。中国から帰ってきたら、貴方ってとんだ腑抜けにでも成り下がったの?」

 

 彼女は言葉を吐く。腑抜けか、確かにその通りなのかも知れない。俺は夢見勝ちな府抜けたホモだった。なにも、夢しか見れない、情けないホモだった。あぁ、と息を吐く。まさしく、その通りだ。もう何もかもが昔とは違う。結城は、愛した相手と結ばれるのだ。

 

「恋が終わったからさ」

「―――このダボがァッ!!」

 

 ドギャァァァァーーーーーーンッッッ!!と効果音が付き添うなほど、俺は目に見えない物凄い力の何かに吹き飛ばされた。鼻血が垂れる鼻を抑えて、俺は鈴を見た。

 

「な…何をするだァーッ!!」

「やかましいッ!! 中国の樹海にて私は未知の修行を得たッ!! そして見たッ!! 人の欲望をッ!! 欲望とは悪にて為らず、欲望とは(・・・・)、人の力を産み出す決意の現れよォーッ!!」

「な、なにを……!?」

「貴様は結城が他の女に奪われて良いのか(・・・・)ッ!! 」

「ぐっ……」

良いのか(・・・・)と聞いているッ!!」

「―――良くないッ!! 」

 

 頬を押さえながら、俺は鈴を睨み付ける。言い返した俺を、鈴がニヤリと笑い学ランを靡かせ、背を向けた。

 

「ならば、行くわよ」

「行くって……」

「この鳳 鈴音ッッッ!! 易々と男を奪われるような女ではない様を見せ付けてやるわッッッ!!」

 

 バアアアァァァァァーーーーンンッッッ!!

 

 ―――川結城の結婚式まであと三日。

            

             To be continue―――

 

◆◆◆

 

 

 



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THE HAPPYEND 世界一ピュアな純愛 その1

彡(゚)(゚)「ついに最終章。二話仕立てやで! どっかのグールもあんな終わり方やったからワイも許される筈や!」


 ◆ ◆ ◆

 

 ―――――――――一ヶ月前に遡ろう。

 

「パパ-。今週のIS雑誌買ってきたよ」

「お、ありがとうミーシャ。そこ置いといて」

 

 ラウラが普段過ごす宿舎にお邪魔している俺はのんびりとソファーに寝転び、何をする訳でも無くぼっと窓から見える景色を見ていた。そんな俺を慣れたようにラウラの部下達が想い想いの行動をしている。

 パパと呼ばれているには、特別な意味は無い。だが、娘達曰く、パパ的な立ち位置らしい。

 最近の女の子が考えることは良く分からんな。

 

「んー……そう言えばさ、パパってママの何処が好きなの?」

「んぁ? いきなりなんだよ?」

「だってさ、ママと結婚するんだから娘としては聞いておきたいじゃん」

「結婚って……あのな、そもそも俺はラウラと結婚なんかしないぞ?」

「うっわぁ……娘の前でヒモ発言とかパパ終わってるね」

「第一、なんで結婚の発想に行き着いたんだよ」

「なんでって……指輪あげてたじゃん。右手に」

 

 指輪あげただけで結婚するなら日本なんか一夫多妻制になっても追いつかんわ。渋谷に行けば右手に何十個も指輪しているマジキチお兄さんいっぱい居るからな。

 いまいち、ミーシャの言いたいことが良く分からん。年頃の女の子だから恋愛に食い付きたいのは分かるが、些か早計すぎるぞ。

 

「……だから? 右手に指輪なんかアクセサリーの…」

「“ドイツの結婚指輪は右手の薬指だよ“?」

「」

 

 はい?

 

「ママ、最近はずっと指輪を見つめて艶っぽい溜め息しているし。軍上層部でママを可愛がってた中将とかも泣くほど喜んでるよ」

「……え。あの……」

「それにほら。この雑誌の見開きも」

 

 “電撃婚。男性IS起動者武川結城。プロポーズを激写。ホモじゃ無かった!!どういうことだ! 特集“

 

 え。

 結婚。誰が、誰と。結婚。

 

「―――――――――ファッ!?」

「いやー。めでたいなー。こいつはめでたいなー。私はパパがパパになるんなら文句は無いよー。Welcome!!」

「天狗だ!! 天狗の仕業じゃ!!(AA略) いやいやいやいやッ!! えっッ!? えっッ!? 俺、結婚すんのッ!?」

「よっ、ホモ界のロリコン!」

「うっせぇよタコッ! なんだよホモ界のロリコンって!! ていうか本当に何が起きたのッ!? 結婚すんの!? 誰が!? 俺が!?」

「……え、えぇ……もしかしてパパ……マジで無意識なの……?」

 

 頭が正常に働かない俺に対してミーシャは割と真面目に汚物を見るように俺を見つめてきた。落ち着け武川結城。冷静に考えろ。ラウラに指輪を渡したシーンを思い浮かべるんだ。あの時、俺はどんな言葉を放った。

 あっ……(察し)

 

「完璧なプロポーズじゃん……」

「……プロポーズから一週間後に気付くとか流石すぎて何も言えないね、パパ……」

「……どうしようミーシャ。パパ……プロポーズしちゃったよ……?」

「……屑過ぎるよパパ……流石のミーシャもフォローのしようが無いよ……」

 

 自分でもこの鈍感系路線はドン引き以外の何者でも無いけどさ。だって、ラウラ、こんな私でも良いのかって聞いてきて。珍しくイケメン台詞を言えたのにそれが屑発言だなんて。訳が分からないよ(Q)

 

「……今からプロポーズ断ったらどうなるかな」

「世間体からの評価が最低屑ホモ野郎になるんじゃないかなー……てか、ママが自殺しかねないよ……」

「ラウラを泣かせる訳にはいかないだろ……」

「結婚、しちゃえば? 愛なんか無くても結婚している人なんかいっぱいいるよ!! パパはお金持ちだから余計に愛なんか無くても結婚出来るよ!」

「やめろよ、女から聞きたくない言葉一位の台詞を娘から聞くパパの気持ち考えろよ」

「愛はお金で買える(確信)。パパ、私ね、ブランドバックが欲しいな?」

「それ違うパパだろ、やめろッ!! てかマジでやべえええええええええええええッ!? やっちゃったのッ!? やっちゃったの俺ッ!?」

「やっちゃった⭐」

 

 エへ顔ダブルピースで肯定するミーシャに俺は何も言えず両手を地面につき、頭を打ち付けた。無意識とは言え、もはや弁明も出来ないほど屑じゃないか。しかし、ミーシャは本当に何気なく俺を責める。さいてょからホームランかます大松かよお前は。

 

「ど、どうすれば良いですか……ミーシャ……女としての目線から俺はどうすれば正解ですか……」

「ミーシャ、ブランドバック欲しいなぁ……」

「買うよ……」

「えぇー!! そんな悪いよ-! 買って貰うなんて私汚い女みたいだしー! いらないよー!! 悪いよ-!」

「キャバ嬢かテメェはッ!!」

「でもなー。パパがどうしても買ってくれるって言うならミーシャ、頑張るけどなー………チラッ」

 

 殴りたいこの笑顔。逞し過ぎだろ我が娘よ。将来、絶対に悪い男に捕まったら搾り取ったあげくに捨てる女になるよ、この娘。

 

「……」

「……頑張るけどなー……チラッ」

「グッ……います……ッ!」

「え? なんだって?」

「買います……ッ!」

「何をー?」

「ブランドバック買います……ッ!!」

「誰にー?」

「我が娘のミーシャにブランドバック買いますから助けてくださいッ!!」

「やっだー」

「テメェこの屑女ッ!! 今の場面で断るとかどういう神経してんだッ!?」

「プロポーズを勘違いでした神経の可笑しいパパに言われてもなー」

「くそッ! 正論過ぎて何も言えねぇッ!! でも助けてください何でもしますから!!」

 

 頭を地面に擦り付け十六歳に助けを求める十九歳男児(一昨日誕生日)。

 

「仕方が無いなぁ-。ミーシャが助けてあげるよー」

「マジですか!! ど、どうすれば良いの!?」

「ズバリ! ママに嫌われれば良いのさ-!!」

「やだ……」

「子供か……」

「だってラウラに嫌われるとかそれもう最底辺の屑じゃん……」

「正岡子○にも劣らない間違えをしたパパは既に最底辺の屑だよ-!」

 

 この娘、内心ではマジギレしてんじゃないの。さっきから言葉のアタリが心を抉るんですけど。

 とりあえず、ミーシャの作戦とやらを深く聞こう。

 

「嫌われるって……ラウラに嫌われたら余計に泣かせるんじゃないか?」

「あまいなぁー。女はそんなに脆くないんだよパパ! もうパパがヒモで働かなくて経済力が無くて屑で暴力振るって女をオナ○としか想っていない男ならママも流石にブチ切れてパパを捨てるよ!」

「なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするけどこの際、無視して……ようは、ラウラに愛想を尽かされろってこと? もう弁解も出来ないレベルで屑確定じゃん」

「屑のパパが屑になるなんて哲学かな?」

「キレてるでしょ? 腹の内ではちょっとマジギレしてるでしょ? パパが全面的に悪いのは認めるけど、流石に泣くよ?」

 

 にまにまと笑顔で言い放つミーシャの目が冷たい。

 落ちるところまで落ちたか。

 

「……やるよ、駄目男になってやるさ!」

「その意気だよパパ! 既に魔性の駄目男だけどもっと駄目になれるよパパ!!」

「こんな世界から注目集めててホモの象徴みたいな扱いを受けている魔性の屑野郎なんかがラウラを幸せに出来るわけが無いんだ!!」

「そうだよパパ!! ホモ受け顔の屑野郎が幸せに出来るわけが無いよパパ!!」

「ラウラには俺よりも良い男が居る筈なんだよ!! イケメンで優しくてお金持ちで気が利いて心の豊かさに溢れてるイケメンが居る筈なんだよ!!」

「お金持ちだけのパパなんかより良い男が居るんだよパパ!!」

「うぇぇ……」

「泣いちゃった……」

 

 十六歳に泣かされる十九歳男児(戒め)

 悪いのは俺だよ。最底辺の屑だよ。認めるよ。こんな屑野郎がラウラのような天使を嫁に貰っては駄目なんだって分かってるよ。でも涙が止まらないの。男の子だもん(野球男子)

 

「……計画通り」

「……ん? なんか言ったか?」

「べっつにー?」

 

 ミーシャが物凄い笑みを浮かべていたような気がしたが、気のせいか。

 

「――――――ただいま」

 

 丁度と言うのか、玄関口から天使の透き通るような声が聞こえ、思わずミーシャと顔を合わせた。

 

「チャンスだよパパ! まずはママに向かって遅ぇんだよババアから言ってみよう!」

「無理無理無理無理ッ!? 難易度高ぇよッ!?」

「ただいま……って。なんだミーシャ。居たのか?」

 

 リビングに繋がるドアを開け、ラウラが現れると俺とミーシャの組み合わせに目を見開いて驚いていた。あまり見ない組み合わせだからだろう。

 ラウラの手には食材が詰め込まれたエコバッグ。そんなラウラを見ているとミーシャに脇腹を突かれる。

 

「ほら、パパ!」

 

 小声で言えと言われる。ちくしょう。言うしか無いのか。

 

「……あ、あぁー。そのだな……」

「うん? どうかしたか?」

「お……遅ぇんぬむゅ……お……おそ……」

「行くんだよパパ、早く! 屑発言を!(小声)」

「……?」

「か……遅ぇんだよ!! 心配しただろうがッ!!」

 

 ミーシャが顔面から滑り込んだ。

 

「え、え? そうか? 二時間程度しか経っていないが……」

 

 困惑しながらも何処か嬉しそうに腕時計を見るラウラに俺は詰め寄り、両肩を掴んだ。柔らかくて華奢で。しかも良い匂いで、思わず顔を赤らめながらも口を開く。

 

「お前みたいな天使が一人で買い物になんて行くんじゃ無い。次行く時は俺も連れていけ。良いな?」

「あ、あぁ……うん? 一緒に買い物に行きたかったのか?」

「そうだよ、行きたかったんだよ(錯乱)」

「…… 仕方の無い奴だな。では明日は一緒に行こうか。荷物係が必要だからな」

 

 呆れたような照れ笑いをしながら頬を赤くするラウラ。可愛い。

 

「任せとけ。こう見えても握力二百以上あるからよ(錯乱)」

「ゴリラか君は……ふふっ。ならこの荷物を冷蔵庫にしまってくれるかな?」

 

 俺の小粋なジョークに苦笑して持っていたエコバッグを手渡してくる。俺はそれを受け取り。

 

「おう、あ、ラウラ。髪が乱れてるぞ。風でも強かったか?(素面)」

「んっ……そうだな、ちょっと強かったぞ」

 

 断りも無くラウラの頭を撫でるように整えた。

 

「はい、直った……って、素手で直すのはあんまり髪に良くないな。悪い」

「良いさ。撫でて貰う機会なんか今まで無かったから……その、嬉しい……」

「ら、ラウラ……」

「………」

「あぁッ!! ウォッホンッ!! ママッ! さっき副隊長が呼んでたよッ!!」

 

 二人赤面で見つめ合っているとミーシャがわざとらしい咳き込みで気を散らす。

 

「え……クラリッサが? あぁ、あの件か。分かった、今から会いに行ってくるよ。またな、結城」

「あぁ、気を付けて行けよ」

 

 手を振ってリビングから出て行くラウラの背中を見つめながら、俺は腕で汗を拭う。静寂に包まれる部屋で俺は深く息を吐くと、ミーシャを見ながら頷いた。

 

「最高の屑だったな、俺」

「何処がッ!?」

「え? 強めの言葉言ったじゃん」

「ただの心配性の夫だよ今のは!! しかもママは寛容性が高いんだからあれくらいで堪える訳ないじゃん!! ちょっとツンデレを優しく見守る彼女だったよあれ!!」

「……いや、屑発言だとあれくらいが限界なんだけど」

「ヘタレか!?」

 

 十分に屑発言だったと想うけどな。何かが足りなかったのだろうか。

 

「電話してパパ!! 電話して腹減ったから飯作れぐらい言わないと-!!」

「いま出かけたばかりだぞ。流石に今になってそんなこと言えないぜ」

「言わないと今までの件が意味ないでしょー!!」

「はっ!? そうだったッ!?」

「はいテレフォン!!」

 

 ミーシャが俺の携帯をぶんどり、勝手にラウラに電話をかける。

 

『もしもし? 何か言い忘れたことでもあったか?』

 

 そしてスピーカーで通話をオンにすると、ミーシャが俺に携帯を差し向けた。屑発言しろと言うことか。

 

「あ……あぁー……今日帰ってきたらラウラが飯作ってくれないかな? 嫌なら良いんだけどね!」

 

 ミーシャが顔面から滑り込んだ。

 

『ご飯? 別に構わないが……ふふっ。お腹減ったのか?』

「ちょっとね。あと、ほら。俺が手伝うんじゃなくて、ラウラが一人で作るんだよ。俺はさ、ほら……め、めんど…」

『あぁ、構わないぞ。と言うより、前からご飯は私が作ると言っているだろう。君は男性なんだからリビングでふんぞり返っていれば良いんだぞ?』

 

 まるで当たり前かのようにラウラが言葉を返してきた。予想外の反応に思わず戸惑う。

 

「え? ……いや、悪いよ、それは」

『家の事は女の仕事だ。まぁ……手伝ってくれるのは嬉しいんだ。本当に。でもやっぱり、今日からは私が一人でやるからな』

「……あ、ありがとう」

『ふふっ……良いさ。美味しいと言ってくれればそれでな……』

「ラウラ……」

『……』

「ああぁーッ!! ウォッホンッ!! パパァーッ!」

『あっ……み、ミーシャが呼んでるみたいだ。私は切るぞ。また後でな』

 

 切れる通話を確認しながら、俺は携帯をテーブルに置くと此方を見つめてくるミーシャを見つめ返した。

 

「屑だったな、俺は」

「やる気あるの?」

「え?(困惑)」

「なんで本気で分からない風なんだよ-!! 全然まったくこれぽっちも屑じゃないよパパ!!」

「そうかな……そもそも屑の定義って何?(理系)」

「うざっ!! まだだ、まだだよパパ!! まだこの屑街道は始まったばかりだよ!! 私は諦めないよ!!」

 

 ―――こうして、俺はラウラに嫌われるべく、様々な行動や日々を送ることになった。

 

◆◆◆

 

 ダイジェスト版・武川結城の恋愛ロード(さかき傘新作情報十月発売ダイマ)

 

 【結婚式一ヶ月前】

 武川結城、ラウラ直属の部下になる。正式では無いがドイツ軍の手伝いをすることになり、ラウラに嫌われるべくラウラより高い功績を残す。ラウラに喜ばれる。満足顔でミーシャに報告しシャイニングウィザードを喰らう。

 次の日にラウラの母親代わりの中将に呼び出される。駄目男アピールで親から嫌われようと奮闘するが、ここで結城の年上キラー発動。気に入られ、親公認の付き合いに変わる。

 

 【結婚式三週間前】

 武川結城、テロリスト排除の仕事に就く。ラウラとの絶妙なコンビネーションからドイツのロリホモと言う異名が知れ渡り、テロリストに恐れられる。大規模なテロリストの攻撃が発生。「俺を置いて退け!! ラウラではなく、軍人としての選択をしろ!!」と言う台詞により、涙ながらラウラが結城を置いて撤退。

 武川結城、行方不明になる。

 

 【結婚式二週間半前】

 武川結城。目が覚めたらワイキキビーチに立つ。自らのIS、ギガンテス(略)がオッサンとして現れ、武川結城のギガンテス先輩によるケツ狙い鬼ごっこ発生。ワイキキビーチをオッサンと共に駆け抜け、目が覚めると第二形態に移行する。

 新たなISラファール・リヴァイブルヴァルギガンテス・ギカンテス重昆リヴァイヴルギカンテスと共にドイツ軍を襲うテロリストを撃退。ラウラと涙の再会をしドイツの中心で愛を叫ぶ。これがドイツに知れ渡り、ドイ中(セカチュー)がブームとなる。 

 その翌日、世界一名前が長いISと世界一名前がややこしいISのギネスブックに結城が掲載される。

 

 【結婚式二週間前】

 武川結城。もはや結婚するしかないことを悟る。

 

 【結婚式一週間前】

 武川結城。ミーシャに告白され、ラウラの愛に気付く。

 ラウラに改めて結婚を申し込む。勿論答えは了承。ドイツ軍人によるお祝いパーティーが開催され、武川結城、酒解禁。記憶が無くなり、気が付けば武川結城、ワイキキビーチに立つ。

 再びギカンテス先輩によるケツ掘り鬼ごっこ発生。オッサンと共にワイキキビーチを駆け抜け捕まる。(この後、武川結城は三日間の記憶を失い何が起きたか憶えていない)

 

 【結婚式三日前】

 ラウラとの結婚式が間近に迫り、今更ながら日本の連中を恐れる。身内のみの結婚式と称し、鈴のみに結婚式の招待状を送る。

 

◆◆◆

 

 




彡(゚)(゚)「ホモがないやんけ!! ふざけんなニコウミ!! タイトル詐欺やないか!! ぶっ○すぞッ! ムカつくんじゃッ!!」


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THE HAPPYEND “世界一ピュアな純愛” FINAL

ニコウミ(二月に更新すると言ったな、あれは嘘だ。小話に鈴のキャラを私がどうやって決めたか教えよう)

アニメ視聴

鈴の見えない攻撃に注目

鈴=甲龍=見えない攻撃=スタンド

加藤良三。鈴ちゃんを百九十五センチの大女に決定。



言っておくが、僕はこの話に関しては謝らないぞ!!マジで最終話だからね!!



 ――――恵まれている人生の終わりとはなんだろうか。

 夢を見る。子供に囲まれ、隣には奥さん。自分はベットに寝込み、これまでの人生を振り返りながら死んでいく。そんな最後を迎えられればと願い。

 結局は自殺に終わった。

 妹が俺の全てだった。八歳で両親を亡くし、妹と二人で親戚を巡り、妹が心臓病だと発覚して、十二歳で捨てられた。

 妹はまだ六歳。あの時の妹はまだ自分に起きたことを気付かなかっただろう。

 

 周りの人間に恵まれていたこともあり、俺は十三で働き出す。喫茶店のアルバイト。マスターは気の利く元ヤクザ。色んな世界を知っているから、俺が一人前に働けるなら十分な稼ぎを貰った。

 朝は新聞配達。昼は喫茶店。夜は違法ホスト。

 楽しかったと笑えるような生活でも無かったし、日々に募る疲労と不安は俺を着々と追い詰めていった。

 

 俺が十九。妹が十三。

 生活が安定し、労働も喫茶店だけで充分になり、やっとまともに暮らせると思ったある日。妹の心臓病が悪化。

 途方も無い治療費と、移植の心臓が無ければあと二年だと医者に告げられた。

 

 一年。

 俺は働き、移植の心臓が見付かることを祈り、治療費を貯める生活。

 喫茶店で働くと良く家族連れを見かける。楽しそうに笑いながら、メニューを決め、他愛もない話で褒められ頭を撫でられる子供を見ながら、自分の人生を恨んだ。

 

 

 妹が全てだったのに、世界は俺から妹を奪おうとする。堪らなく泣きたくなり、堪らなく死にたくなる。

 

 そんな時だ。

 妹の病室を訪ねると、妹と気の良い少年が楽しそうに話していた。妹に話を聞くと、彼は妹が通うはずの学校に通っていて、もうすぐ退院だと。

 

『私が退院したら、色んな遊びを教えてくれるってさ。ねぇ、お兄ちゃん。私って何時に退院出来るの?』

 

 言葉が突き刺さるとは、ああ言ったことを言うんだろう。

 妹には何も告げていない。もうすぐ退院出来ると言い続けたのは自分だ。だから妹の言葉に悪意なんか無いし、俺を信じ続けている。

 自分の人生なんて、何も残っていない。妹にはまだ明るい未来が待っているんだ。

 

 世界が俺を呪うなら、俺は呪われたままで良い。

 妹は。妹だけはせめて。笑える未来を与えてくれ。

 

 今思えば、馬鹿な事だろう。

 その日に遺書を書き、俺は妹にじゃあなと告げ、病室の屋上で喉にナイフを突き立てた。

 

 俺の前世はそれで終わり。

 妹がその後、どうなったのか。それを知るすべはもう無い。結局のところ、人生を諦めた俺の独りよがりな自殺だ。目が覚めれば子供で、俺は束姉さんに拾われた。

 

 新たな幸せの人生を俺は歩んでいる。

 願わくば。悠里に幸せな人生が訪れていることを切に。

 

 世界が違っていても、俺は君の兄でいるよ。

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「やべぇなこれ。格好良すぎて泣いちゃうレベルの日記じゃね?」

「つかゆうちゃん、ホストなんかやってたの!? お姉ちゃん、ゆうちゃんの妙な女性慣れの神髄を見たよ!?」

「ホストやってたって言ってもあの日々は酒飲んで記憶無くしの毎日だったからなぁ……今思えば十三のホストって意味不明だよね」

 

 結婚式の一日前。

 リハーサルのために集まり、折角だからとウェディングドレスを着替えるらしいラウラを待ちながら、俺は控室で束姉と他愛もない話をしていた。

 

「それよかゆうちゃんの過去が予想よりキツくて途中から耳ふさぎたくなったよ……」

「そう? 世界を見ればありがちな話じゃない?」

「ま、まぁいいや。深く突っ込むともっとエグイ話が出てきそうだし……いやぁ、しっかし。ゆうちゃんも明日から既婚者かぁ……なんだか感慨深いねぇ」

「もう既婚者なんですけどね」

「うっさい!! お姉ちゃんは結婚式しないと既婚者だって認めないからなっ!!」

「なんなのその拘り……」

 

 ぷんすか怒る束姉を置いておき、俺はゼクシ○を速読していた。これで二十冊目ぐらいだけど、やはりどんなウェディングドレスもラウラに似合いそうだ。金ならあるし全部買おうかな(錯乱)ラウラの為なら端金だ。でも毎日指輪をプレゼントしていたら怒られた。貢がれてるみたいで嫌なんだってさ天使(語尾感)

 

「新郎の方、お茶です」

「あぁ、ありがとうございます」

 

 ゼク○ィをテーブルに置き、俺はお茶を手にとる。

 

「んじゃお姉ちゃんはちょっとラウラちゃんを見てくるねー」

「あぁ、よろしく」

 

 扉から駆け足で出て行く束姉の背中が見えなくなると俺はお茶を一口飲む。

 

「ぁぁ…………っ」

 

 瞬時に身体が麻痺し、机に倒れ込んだ。ん? なんだこれ?

 

「お客様、大丈夫ですか」

「ぁぁ……いやちょっと……――――ッッッッ!?」

「此方のソファへ、どうぞ」

 

 一夏だ。

 

「おま……えっ……なにや……えっ……」

 

 久しく会っていなかった(会いたくなかった)元親友が従業員姿で俺をお姫様抱っこし、ソファに寝かせる。いやちょっと待って。あの紳士オブ紳士の一夏が俺に盛りやがった(意味深)どれだけ即効性の薬だよ。身体が麻痺してろくに動けないし喋れない。

 馬鹿な。何をやっているんだ一夏。

 

「よし、とりあえず予定通り服を脱がせよう。結城、ちょっと我慢してくれよ」

「やめっ……おいッ!? 洒落に…やめ、やめ、やめてくださいッ!?」

「暴れんなよ……暴れんなよ……」

「あっ……ちょ……――――――――――――ああぁぁぁぁぁんんッ!?」

 

 上半身を脱ぎ捨てられる。瞬間。

 

「――――オラァッ!!」

 

 可愛らしい聞き覚えのある声が聞こえ、一夏が見えない衝撃に吹き飛ばされる。こ、このニャンニャン萌えボイスはまさか。

 

「この気配……り、り………んん?」

「久しぶりね、ユウキ………」

 

 その背百九十五センチはあろうかという大女ッ! 丸太のような太い腕、鍛え抜かれた腹筋。筋肉、筋肉、筋肉。学園の制服がピチピチになり、超ショートスカートになっている(※本作一番のセクシーシーン)

 瞬間。瞬きをすると見慣れた小さい姿になっていた。

 

「えっ……?」

 

 何が起きたのか頭が可笑しくなりそうだった。

 

「り。鈴ッ!? お前裏切ったのかァッ!?」

「裏切ったァぁ……? 可笑しな事を言うわね。貴方、今裏切ったと言ったわ。裏切ったって言うのは元々仲間だった奴に向かって言う言葉なのよォ……ねぇ……一夏……?」

「き、貴様ァッ!?」

「遅いぞダボがァッ!!」

「ぐぎゃぁッ!?」

 

 鈴が人差し指を向けるとまた百九十五センチになり、見えない衝撃が一夏をぶっ飛ばした。い、一体何が起きているんだ。今、鈴は何をしたんだ(・・・・・・・)。まるで見えない誰かが殴り飛ばさしたような。

 

「分からないわよね、一夏ぁ……今何をされたのか!! 貴様には分からないでしょぉっ!!」

「い、いや!! 見えたぞ(・・・・)ッ!! 貴様の背中にいるソイツがッ! 今ハッキリと見えたッ!! 貴様も持っているなッ! ISをォッ!?」

「くっくっくっ……そうッ! これが私のISッ!! “甲龍”の力よぉぉッ!!」

 

 ユラリと鈴の背中に現れるIS。いや、ISなんだろうけど何かが違う気がしてならない。なんでだろう。何か違う。見えない攻撃を繰り出せる兵器を積んでいるのか。

 てかどうしたの鈴ちゃん。一夏。僕、全く話に着いていけないんだけど。

 

「と、兎に角……鈴が気を引いてる間に逃げなくちゃ……」

「おぉっと! ユウキ……何処に行くのかしら?」

「うおっ!?」

 

 また見えない何かに掴まれる。多分ISなんだろうが、部分展開が上手すぎて良く分からない。

 

「貴方はこれから病院に行って治療よ……」

「び、病院なら一人で…」

「くっくっくっ……えぇ? なんだってユウキぃ? 喉が渇いたぁ?」

「や、やめ、これ以上麻痺薬は……ごふっ!?」

「くっはぁはははははァーッ!! 大丈夫よユウキ! 気が付いた頃には全部終わっているわ!!」

 

 薬入りのお茶を無理矢理飲まされ、少量ながら呑み込んでしまう。意識はハッキリしているが身体がピクリとも動かなくなってしまった。これは一体なんの薬を盛られたのか。

 

「り、リィィンンーーッ!! 貴様、最初からこれを狙っていたなァッ!!」

「くっはぁははははは!! 束博士の罠をかいくぐれる人間はこの世に三人! 貴方が居てくれたお陰で易々と潜り込めた! 感謝するわぁ! イ・チ・カくぅん……!」

「―――――雪羅ァッ!!」

「甘いわァッ!! 甲龍ッ!!」

 

 ドギャァァァァーーーーーーンッッッ!!とISを纏う一夏を見えない攻撃が襲う。鈴は妙に反りながら立ち上がると、一夏を指差した。

 

「ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ騒ぐなら、私とユウキのウェディングメロディーでも歌っていろォォッ!!」

「こ、この……ッ! 悔しいが、強い……ッ!?」

「ふんっ。飽きたわ。そろそろトドメを刺して上げる……」

 

 ドドドと覇気を溢れさせながら一夏にゆっくりと人差し指を向ける。あれ? 待てよ。これ一夏が負けたら俺って凄いヤバイ状態なんじゃ無いか。

 マズイ。平和な場所に居すぎたせいで身体が鈍ってしまったようだ。こんな危険にも気付かないなんて。日本にいた頃の俺ならお茶の臭いで分かった(オリ主らしく有能)

 

「これで最後だァッ!! 一夏ァーーーッ!!」

「くっ……!?」

「――――ミストルティンの槍」

「なっ、なんだとォォーーぐぎゃぁッ!?」

 

 突如後ろから現れた見覚えのある影が鈴を後ろから突き飛ばした。水色の髪。まさか、まさか貴女は。

 

「お姉ちゃん!!」

「生お姉ちゃ……ゲフンゲフン……待たせたわね結城!!」

 

 頼れるヒーロー楯無お姉ちゃんだ。勝った。これは迷い無く勝った。学園にて最強の人が来てくれた。お姉ちゃんは俺の頬を優しく包みこみ、ゆっくりとその顔を近付けて。

 

「なにやってんのッ!?」

「暴れんなよ……暴れんなよ……大丈夫よ結城。お姉ちゃん気付いたの。結婚式会場でキスすればもう大丈夫かなって」

「何が!?」

「家の力で後はどうにでもなるからとりあえず先にキスだけ…」

「甲龍ッ!!」

 

 後ろからの見えない攻撃をお姉ちゃんは難無く躱し、目を細めて鈴を睨んだ。

 

「あら、誰かしら貴女は?」

「ユウキの幼馴染み! 返して貰うわ……先にキスするのは私よォォッ!! 甲龍ッ!!」

「甘い!!」

 

 お姉ちゃんは俺を抱えたまま鈴の攻撃を避け、一階の式場へと壁をぶち破り逃れる。屋上の鐘が鳴り響く。

 いや、ホントにさ。

 なにこれぇ?(遊戯)

 何がどうなって、どうなんの。俺は何に巻き込まれているの。

 

「――――ユウキ! 無事か!?」

「――――ラウラ!!」

「きゃっ!?」

 

 上から誰かが壁をぶち破り降りてきたと思ったら、我が愛しのラウラがお姉ちゃんの腕を銃で撃ち、俺は為す術無く地面に転がる。ラウラは自らもISを展開させているが、ウェディングドレスを着ている為か闘い難そうだ。

 そんなラウラを追い掛けるようにさらに上から紅いISが飛び出してくる。

 

「――――ハァァァッ!!」

「くっ! 一体誰なんだ貴様は!?」

 

 箒ちゃんです。

 

「ゆうちゃん、お姉ちゃんどうしたら良いか分からないよ……」

 

 さらに後ろから目が死んでいる束姉が飛び出してきた。俺も分からないよこれ。なんなんだこれ。

 一夏、鈴、お姉ちゃん、箒の四人が睨み合うように武器を構える。本当になんなんだこれ。

 

「ふっ……弟をかけて最後の闘いって訳ね。本当に結城が求めてるのは姉である私と教えてあげるわ」

 

 お姉ちゃんが槍を構えながらいう。

 

「俺は、結城が幸せなら良いと想っていた……でも違う! 結城を幸せに出来るのは俺だ!」

 

 一夏が刀を構えながら言う。

 

「私の物になってこそ幸せの道を歩むのよッ!! 貴方達じゃ役不足も良いところ! 結城は満足しないわァッ!!」

 

 鈴が指を立てながら言う。

 

「ゆうちゃんを完璧に分かっているのは私だ。理解者である私がゆうちゃんのお世話をして愛し合う権利があるんだ……くひっ」

 

 箒が刀を構えながら此方をギロリと睨む。

 

「ちょっと待てお前ら!! 法律的にも個人的にも私達は夫婦だぞ!! 争う以前に幸せだし愛し合っているし求め合っているだろうが!? 大体お前ら誰だ!? 人の結婚式に乗り込むとか頭沸いてるのか!?」  

 

 凄くまともな事を良いながら銃を構えるラウラ。

 なんなんだこれ。俺の喋る隙が全く無いだと。何の因果がこんな結果を呼び寄せてしまったんだ。俺はドイツ生活で鍛えた匍匐前進で安全圏まで逃げる。兎に角、身体が自由に動けるようになるまで耐えなくては。

 

「ふん。弟を掠めとった泥棒兎に何を言われようとも動じないわ!」

「結城との付き合いなら俺が一番長いんだなよ!」

「私が一番不思議なのは男のお前がいることだ!! ホモは百歩譲って認めよう、しかし他人の結婚式に乗り込むホモなど居るかッ!?」

「俺は、ホモじゃないッ!!」

 

 ラウラの言葉に一夏が激高する。尋常じゃない様子にお姉ちゃんや箒、鈴までもが闘いを辞め一夏を見つめた。なんだ、何を言うのだ。

 ――――薄々気付いていた。一夏に何かがあるとは。含みを持たせた千冬さんの物言い。一夏のホモ否定。身体を見ろだなんだと、思い返せば色々あった。そう。最近の技術はISを見る限りとんでもなく優れている。

 

 今まで気付かなかったが、もしかして。もしかして。一夏は女な

 

 

 

 

「――――俺は手術済みだああああああああああああああああああああああああああああああァァァァッ!!」

「」

「」

「」

「」

「」

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 え。

 

「……………………………………そ、そうか」

 

 凄く気まずそうにラウラが肯く。

 

「あぁッ! だから男じゃ無いんだ、取り外し出来るし、今は着けていない!!」

「………取り外し出来るんだ……」

 

 一夏の股間をマジマジと見つめるお姉ちゃん。

 

「……幼馴染みが手術済みって……」

 

 箒ちゃんがまともに戻るほど衝撃的だった。

 そうか。千冬さん、あの日(一話)の時、一夏が手術済みって。あっ(察し)なるほど、だから「お前も気付いていなかった……」とか言いだしたのか。あぁ。うん。なるほどね~。分かるか。

 

「……い、何時手術したのよ?」

 

 鈴が小っちゃくなり怖ず怖ずと訪ねる。

 

「八年前」

「あぁ、ふぅん……八年前か……八年前ッ!? 一桁の歳で手術済みって何があったのよッ!? ていうか、えッ!? 嘘でしょアンタッ!? 出来るのッ!?」

 

 気が動転し壁に激突しながら一夏を二度見する鈴。八年前ってなんだよ。全然気が付かなかったわ。いや疑いもしねぇよ。なんだよ手術済みって。取り外しってなんだよ。頭が壊れそうだ。

 千冬さんがあんなに疲れ切っていた理由が今分かったよ。

 

「……その、聞いて良いか、一夏」

「なんだ、箒!!」

「……性別はどちらになるんだ、そう言う場合……あっ、いやデリケートな問題なら別に良いんだ……」

「女だ」

「………そ。そうか」

 

 箒ですら戸惑っている。なぜ一夏はあんなに冷静なんだ。最高にカオスとなる場で一夏以外の皆が武器を下ろす。

 

「なんか冷静に考えたら凄い馬鹿な事してたわ。結婚した後だってお姉ちゃんが頑張れば二人目でいけるし……」

「……え、それ三人目とか行けるの?」

「行けるんじゃないかしら」

「……それで行こう」

「おいまてお前……妻の前で良くそんな相談できるな……なんか今日だけで凄く疲れたぞ」

 

 酷く疲れたように溜め息を吐き、四人は完全に武装の解除をする。

 

 

 

 ――――――――その時、俺は一夏の動きを分かっていた。瞬時加速で此方に突っ込んでくる姿はあまりにスローで。

 

 今に想えば既に遅すぎて、今に想えば必然に訪れることだったのかも知れない。闇と光が同一されているように、やはり世界には一夏のような人は必ずいる。別にホモが悪いって訳じゃ無い。ホモは悪では無い。だが、ホモであろうと恋愛関係と言う過程を忘れちゃ駄目なんだ。それを忘れてしまったらホモはホモとして扱われない。悪と正義が同一されているように、気持ちを抑えられない部分があるのかも知れない。

 

 でも、やっぱり過程を忘れちゃ駄目なんだ。それをしてしまったら。君はホモとは呼ばれない。なんて呼ばれると想う。

 

 

 ――――ズキュュュュュュュュュュュュュュュュュンンンッッッ!!

 

 

 “野獣と呼ばれるのさ”

 

 

 

「「「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」」」」

 

 俺の頭上で幸せの鐘が鳴り響く。

 

 

◆◆◆

 

 

 暗闇に紛れながら彼は愛銃の感触を確かめて、目の前の扉を睨む。此処までの道はかなり長かった、そして苦痛でもあった。だが、怨みを糧に何度でも立ち上がり刃を向けてきたのだ。

 

「それがお前のアイツと闘う理由か」

 

 そんな青年に隣で共に歩む少女は何でも無い風に呟いた。確かに他人にすればどうでも良いことかも知れない。だが、彼にとっては一生消えない傷になってしまったのだ。他人が理解出来ない痛み。彼は冗談なら許せたかもなと笑う。だがと言葉を続けた。

 

「舌を……ふむ。熱烈だな。五分間もか」

 

 冗談で許せないだろうと彼は笑う。少女は小さく頷き同意を返すと目の前の扉を見つめた。行かないのかと彼は言う。

 

「引き返すなら、今だ」

 

 引き返さないさと彼は言う。扉を手にかけ、愛する妻から預かったネックレスを握り締めると、扉を開け放った。眩い日差しと共に中にいる女性が深い深い笑みを浮かべ、此方を見つめた。横にあるテレビには八時の踊りを踊るビデオ。相変わらずだとほくそ笑み、彼は女性を見つめ返す。

 

「貴方の目的は?」

 

 女性は彼に問う。彼は言う。

 

「――――一夏への復讐だ」

 

 

 武川結城。亡国企業(ドリフターズ)に就職する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 THE ENDッッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

  




此処までご愛読頂いたホモの皆さん、ありがとうございます。一夏君はちゃんと結城に想いを伝えられたエンディング。皆様の期待した通りに書けたかと思います。ぺこり。
さて、私の唯一の心残りは最後のキスシーン。さすがに書いててR18になったので誤魔化しました。皆様のご想像にお任せします。流石に四回目の非公開は消されます。

では、また次回作にてお会いしましょう。といってもネタが無いからこんなの書いてみたいな感想貰えたら短編で書きます。ネタ下さい。



マジで最終話だよ。次話はif話だからね。


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14話

雑な文だね、知ってる。

今回のIFは“ユウキが一夏より前、マドカに出会っていた”ってお話よ。

短いよ(小声)


 始まりは些細な事だった。

 武川結城と言う男がこの世に生を産まれ、物心がついた時には銃を握っていた。何故、銃を握って。何故、人を撃っているのか。そんな理由は知りもしない。そうしなきゃならないからそうしたまでで。そこに理由を求めたことはない。やれと言われたからやって。やるなと言われたからやらなかった。

 最初はテロリスト。次は軍人。次はホームレス。次はなんだったか。特に目的もなく町をさ迷い。夢を見ずに現実も見なかった。

 

 ある時、テレビに映ったISと言う存在に。何故だか分からず惹かれた。現実から離れたその存在に自分と似たような感覚を抱いたからなのか、そんなことは自分にも分からない。ただ、惹かれた。偶然が偶然を呼んで、武川結城はISと言う存在を見付けてしまった。海の倉庫で釣りをしている時、ふと倉庫を覗いたらあったから、触ってみただけだ。起動出来たから何があったと言う訳でもない。

 あぁ、そうか。

 抱いた感覚はこれだけ。

 

「ッ!?」

 

 そして何故か設置されていたバナナの皮を踏み、頭から海に飛び込んだ。

 

「しまった!! スコール!! 遊び用のバナナの皮に誰か引っ掛かったぞッ!!」

「あんな見え見えの皮に滑るとか才能あるわね……マドカ! 助けなさい!!」

「大丈夫か!? この蛸糸に捕まれ!!」

「ちょ……痛ッ!? なんで蛸糸なんだよッ!? 痛いわッ!? もっとロープとかあんだろうがァ!?」

「ロープ……!? そうか、これがあったか!! 受け取れ!!」

「まるまるロープを投げんな馬鹿かッ!? 溺れている状況でロープ一本渡されてどうしろとッ!? そう言うのは片方をお前が持つんだよ!?」

「持つ……?」

「持っただけで止まんなよッ!! 投げろよッ!?」

 

 ―――こんな出会いだったのはご愛敬だ。

 スコールと言う女に才能があると雇われ、武川結城はホームレスからテロリストに返り咲く。亡国企業と言う。実にアホらしい組織に。

 マドカと呼ばれた女の子に人工呼吸されて、一目惚れしてしまう。人生最低で最高の思いを抱いてしまったのも。きっと武川結城が、この時に人を取り戻したからだろう。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 亡国企業は基本的に、自由だ。

 本当に自由だ。テロリストらしい作戦はあるものの、内容はその場で判断してなんとかするとか言う適当具合。だと言うのに未だ逮捕者や死亡者がいないのは、個人の能力がずば抜けて高い性だろう。

 

「あー……こちらはユウキ。マドカ、ルビーの石像はどうだ?」

『こちらマドカ。今髭を描いた』

「書くなよ、盗めよ。盗めよ」

 

 本作戦は、イギリスの博物館に展示されているルビーの石像を盗むことだ。作戦に導入されている人物は俺とマドカの二名。かなりの少人数だ。二人で世界最高峰の警備システムを潜り抜けて盗むなど、並大抵の作戦では無理だ。

 

『おいユウキ!!』

「どうした、警備に見付かったか!?」

『ミイラがあるぞ!!』

「素直に博物館楽しんでんじゃねぇよタコッ!!」

『こ、これは……』

「……なんだよ」

『ミイラのチン○だ……』

「ぶっ飛ばすぞ貴様ッ!?」

 

 マドカが妙に騒いで遊び回っている。なんでここまで騒ぎながら警備に見付からないのか不思議でならない。本人は兎も角、スキルが高いのが幸いなのか。

 

『ミイラにチ○コなんかあるんだな……』

「元は人間なんだからあるだろうよ……はぁ……で、ルビーの石像はどうしたんだよ」

『いま猫耳を付けた』

「よーしマドカ。そう言った遊びは盗んでから好きなだけやれ。俺が許す」

『本当に?』

「あぁ」

『ぜったい?』

「あぁ」

『じゃあ盗む』

 

 甲高い警報が鳴り響いた。

 

「なにしたお前ッ!?」

『盗んだだけだが?』

「引っこ抜いたな!? 警報も切らずに素手で引っこ抜いたなッ!?」

『勿論だが?』

「なんで自信満々なんだよ馬鹿ッ! もうっ…もう馬鹿ッ!! さっさと逃げろ!!」

 

 博物館の目の前に聳え立つビルから博物館を監視していた俺は素早く双眼鏡を仕舞い込み、スナイパーライフルのスコープを覗き込む。ライトがマドカの姿を映そうと探し回っていることを確認すると、ライトを撃ち抜く。

 

『お、おいユウキ!!』

「さっさとISを起動させて逃げろ!!」

『IS忘れたッ!!』

 

 頭を地面に打ち付けた。

 

「忘れたってなんだよ!? 忘れる物じゃないだろうが!?」

『整備途中だったんだ。しまったな、どうやって逃げようか……』

「ISを整備途中だったお前がなんで作戦に抜擢されんだよ!!」

『それは当たり前だ。ルビーの石像は個人的に欲しかったからな』

「……え? これ企業の作戦じゃないの?」

『私の作戦だ!』

「……欲しかったの?」

『うん』

 

 頭を抱えるしかない。自由な企業だが、あまりにも自由でアホの娘に言葉が見付からない。どうして自分はこんな娘に惚れてしまったのか。自分でも分からないことに呆れながら、ユウキは最後のライトを撃ち抜く。

 再び暗闇に変わった博物館を見ながら、スナイパーライフルを分解し、リュックに仕舞うと、真上に仕掛けていたワイヤーにフックをかける。

 

「今からそっちに行く。Dの出口に車が置いてある。三秒後に通信妨害をするからな」

『分かった。ふっ!』

『ぐぁ!?』『こいつ速いぞグフッ!?』『ぐぎゃあ!?』

「……三秒。通信を妨害した。敵は?」

『殲滅した。今から行く!!』

 

 四十階の屋上からワイヤーをつたり地面に滑り降りていきながら、ホルダーからハンドガンを引き抜き、ガラス越しに見える警備員を撃ち抜く。二発、三発とスタン弾の電気に悲鳴をあげ地面に倒れ込む警備員を横目に、地面に転がり、着地する。

 警備員が此方に気をとられている隙にマドカは逃げるだろうと予想しながら、止めてある車に向かって走る。

 

「おいマドカ、どうだ?」

『大変だユウキ! DがdでBがbだ! dがBなのか!? bがDか!?』

「ややこしいわッ!! 丸が左に付いてるのがDだっ!!」

『わかんない!!』

「もうっ……もうっ馬鹿ッ!! 馬鹿ッ!! 向かいの窓から飛び降りろ、受け止めてやる!!」

『それなら容易い!』

 

 マドカが飛び降りやすいように、腰につけた二つのハンドガンを引き抜き、円形を描くように窓を撃ち抜く。コルト・ガバメントの最新式は防弾ガラスと言おうが穴を開けることが出来る。

 丸形を描くように開いた穴の真ん中に。

 

「――――とおっ!!」

 

 黒髪の馬鹿で愛している奴がガラスをぶち抜きながら、三階から飛び出してきた。器用に身体を捻り、背中を向けて落ちてくる。その小柄な身体を、ユウキは両手を広げて受け止めた。

 端整な顔付き。肩程の艶やかな黒髪。挑戦的に笑う不敵な唇。

 ユウキの首に手を回し、姿勢をただして地面に立つ。

 

「ほら、楽しめたか?」

「たった今に満足した」

「そうかい、んなら行くぞ!」

 

 マドカの腰に手を回しながら、庇うように抱えて後方に向かって銃の引き金を引く。隠れていた三人の警備員が地面に倒れ込むのを確認しながら、ユウキとマドカは車に向かって走り出す。

 入り口付近に停めていたシボレー・インパラに乗り込み、キーを差し込む。素早く一速に変え、アクセルを踏み込む。

 

『―――博物館に窃盗犯が出没。現場の警官は直ちに急行してください』

 

 後方に置いてあった警察通信の盗聴機から英語で通信が流れる。それを聞きながら二速と段々速度を上げな、車を避けて道を走り抜けた。そして横にのんびりと座りシートベルトをはめる諸悪の根元を横目に見つめる。

 

「で、ルビーの石像は?」

「ふふん! これだ!」

 

 マドカが袋から取り出したのは女神をルビーで象った石像。猫耳がつけられ、髭がかかれ、スク水を着せられた見る影もない石像をただ呆れた目で見つめ、小さく頷く。

 

「で、帰るか?」

「折角イギリスに来たんだ。自由の女神を見て帰ろう」

「イギリスに自由の女神はねぇよ」

「ッ!?」

「……時々、俺はお前がマジで心配になるんだ。イギリスって言えばテムズ川とかバッキンガムとかだろ」

「ふむ……まぁ良く分からんからお前に任せる」

「はいはい」

 

 適当に受け流し車をただ走らせる。

 ふと、時計を見た。日付は十月の九日。気が付けばマドカに出会ってから数年の月日が経っていた。

 確かにマドカは馬鹿で面倒くさくて粗暴で良いところをあげるなら顔しかない。だが、俺はそんなマドカに惚れてしまっている。

 

 そろそろ次の関係に踏み出して良いのかも知れない。

 突拍子もなくそう思った。

 

「なぁ、マドカ。俺達ってどうかな?」

 

 まずは当たり障りのない質問からだ。落ち着け、クールになれ。ちゅきでしゅ(ピュア感)を現しても失敗するだけの未来だ。

 

「……んにゅ」

「あぁそうだよね。任務終わったら眠いもんね。良いよ、うん。眠りなさいよ」

 

 人が勇気をだしたと言うのにこれだ。

 どうして俺はこんな女に惚れたのだろうか。

 こんな。

 可愛くて綺麗で護りたくなるような容姿で。時たまに見せる優しさは兎に角可愛くて。なんかもう可愛くて。

 

 ん? 可愛くてしか思い浮かばねぇなこれ。

 

「……俺って別にマドカに惚れてないのか?」

 

 綺麗な女の側に居るという優越感的な物しかマドカに感じてないのか。それは、どうなのだろうか。マドカはマドカらしく自由に生きてきている。それを俺が勝手に縛り付け、束縛するのもどうなのだろうか。

 悪いことなんじゃないだろうか。

 マドカに惚れているのか惚れていないのか分からない曖昧な想いのまま、マドカの側に居る資格があるのだろうか。

 

 

 一度。真面目に相談してみよう。

 

◆ ◆ ◆

 

 

「死ねば良いんじゃ無い?」

 

 我が上司ことスコールさんに相談してみた結果、痛烈な言葉が返ってきた。

 

「いやいやスコールさん。俺はマジで考えてるんですよ。例えばマドカに交際を申し込むじゃないですか。そうしたら就職とかマイホームとか色々考えることがありましてね」

「彼氏彼女に年収やマイホームを考える恋愛感はなんなの?」

「付き合うならそれくらいが普通じゃないですか」

「あぁ、うん……じゃあ付き合えば?」

「でも俺はマドカを可愛くて綺麗で護りたくなるような性格としか見れないんですよ……それってマドカを愛してるって言います?(真顔)」

「……」

 

 何とも言えない微妙な顔をされた。何か間違ったことを言っただろうか。いや、多分だが俺の甘過ぎる恋愛感に呆れているんだ。やはりこんな浅い考えでマドカを好きと言ったのは愚かだったか。

 

「マドカを愛するには俺の覚悟が足りないのか……ッ!」

「いや。うん……なに。私って貴方の無表情を治すために色々やったじゃない? 多分ね、あれがイケなかったんだよね。大丈夫。間違えたのは私よ」

「スコールさん、俺、自分探しの旅に出ます」

「待って、待って待って待って。待って。お願いだから。ぶっちゃけ言うとマドカを操れるの貴方しか居ないから居なくなられると凄く困る。正直マドカのクビを考えないと」

「え? マドカを養え?(難聴)」

「あ、大丈夫ね。うん。良いわよ、自分探しの旅でも行ってくれば良いわ」

 

 雑に手を振り興味が失せたようにドリフターズを見始めるスコールさんに俺は渾身の土下座を決め込み、部屋から飛び出る。覚悟が足りないのならば見付ける旅に出るしかない。

 エレベーターに乗り込み、組織の地下にある大型ボートを入水させる。目指すはスイス。理由は無い。何となくスイスに行くべきだと思ったから行くのだ。自分探しの旅に出るには、きっとマドカから離れなければならない。

 

「マドカ……俺は少し」

 

 ――プルルルと懐に入れていた携帯が震える。懐から携帯を取り出すと画面には『馬鹿天使』と書かれていた。直ぐ様に通話ボタンを押そうとしたが、押し止まる。

 

 まてユウキ。クールになれ。ここで通話ボタンを押してしまえば。

 

『お腹減ったー』

 

 あ、無意識に通話ボタン押してましたわ(すっとぼけ)

 

「お腹減っただ? 冷蔵庫にスパゲッティ作って置いてあるだろ」

『冷凍されたスパゲッティを解凍して食べるとマズい。つまり食べたくない』

「いやあのな……食い物くらいは自分で食べろよ……ほら、戸棚に俺の財布があるからデリバリーでなんか頼めな」

『やだ。ユウキのご飯が良い』

 

 やだ可愛い。

 

「あっそう。じゃあ今から作りにゲフンゲフン……いや、悪いが俺は作りに行けない。今から旅に出るからしばらく会えないだろう。悪いな」

『……ぇ』

「いや嘘。旅になんか出ない。今から飯作りに行くわ。よーし、お兄ちゃんハンバーグ作っちゃうぞー!」

 

 そんな可愛い声を出されては動くに動けないだろう。

 

 

 

 こうして今日も俺はマドカに甘過ぎる生活を送っていく。それが良いか悪いかは分からないが。それでも幸せだ。

 

 

 俺が、マドカに出会わなかったら、一体どんな人生を歩んでいたのだろうか?

 

 

 まぁ、考えてもしかたない話だ。



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IFストーリー。テーマ~結城君。記憶を失う~

ちょっと時間が出来たので長編書くよっ! 
ホモ要素は薄いってそれハーメルンで一番言われてるから(震え声)


 これは合ったかも知れないもう一つの物語。

 もしも結城がとある事情でドイツに行かず、お姉ちゃんに拾われ(誘拐)されていたら。

 

 ◆ ◆ ◆

 

『更識 結城様へ』

 

 えぇ……(困惑)

 俺こと武川結城は千冬の姐さんから謎の休暇を言い渡され、あれよあれよと気付けば飛行機に乗せられていた。まぁ、親友にホモ申告されたり、幼馴染みがメンヘラだったり、ハイジャックを経験したりと。中々に経験豊富な俺はソレをアッサリと受け入れ、飛行機の向かうままボーッとしていた。のだが。

 

「なんだこの手紙……そもそも名前間違えてんぞ……み、見たくねぇー。滅茶苦茶見たくねぇー……」

 

 飛行機でボーッとしていたら額に手紙が突き刺さった。そりゃもう、村雨祇孔やルチア並の勢いでカードが飛んできた。避けれる筈も無く額に刺さり、手紙は血塗れ。血に隠れて、俺の名前が書かれてるってんだから、見たくないのは当然である。

 

「お客様、コーヒー等は如何でしょうか?」

「へ? あ、あぁ。お願いします」

 

 まぁ、一般的な飛行機な訳で、こう言うサービスを受けつつ、俺は手紙を睨む。

 見るの、コレ(疑問) いや、見なくて良いんじゃ無いかな。折角の休日だし、見なくても無問題って言うか。

そもそも、更識ってお姉ちゃんの苗字やん。

 

「お客様、砂糖は?」

「あぁ、入れて下さい」

「畏まりました」

 

 サーッと砂糖をコーヒーに入れるスチュワーデスさん。それを横目に俺は手紙をどうするか悩んでいた。とりあえずコーヒーを飲みながらゆっくりと考えてみるかな。どちらにしろ俺はドイツに向かっているんだし、何書かれていようが関係ないだろう。

 

「飛行機でコーヒー飲むってのも中々乙なモンだなぁ……」

「では、良い御旅を」

 

 コーヒーを一口だけ口に含み、喉に通す。独特の匂いと苦味。子供の頃は大嫌いだったコーヒーも、今の歳になってみれば美味く感じる。のだが。

 

「――ちょっと待ってくれ」

「――はい」

 

 俺はスチュワーデスを呼び止める。シートベルトを外し、コーヒーをテーブルへ。ゆっくりと席を立ち、何時でも動ける体制へと移行。幸いな事にこれは千冬さんの自家用機。ファーストクラス処か、客は俺一人しかいない贅沢っぷり。

 スチュワーデスは俺に向き直る。冷静に。笑顔を絶やさず。

 

「ふっ……日夜、箒に睡眠薬を盛られ続ける俺に全く同じ睡眠薬とは浅はかなりッ!! 貴様、俺のコーヒーに盛ったなッ!!」

 

 ※多大なストレスにより結城君は少し可笑しくなってます。

 

「……まさか、象を一欠片で昏睡させる睡眠薬に気付くとは。流石はお嬢様が惚れた御方です」

「それ人に盛ったら死ぬレベルの睡眠薬だろ……(戦慄)」

「楯無様が愛された御方。出来る限り無傷でと想いましたが………しかし、私の従うお嬢様は簪様唯一人。貴方には少しだけ眠って貰う必要があるのです。ご覚悟を」

 

 スチュワーデスさんはスカートの中からナイフを取り出し、構え出す。その動作にエロイ心が働いたのは少しだけ。

 なんなんだ、この状況。まさか、またハイジャックかよ。二回目かよ。人生で二回もハイジャック経験する奴なんかジェイソン・ステイサムくらいで良いだろ。なんで俺なんだ。

 

「ふっ……何時も可笑しな騒動に巻き込まれ有耶無耶になっているが、俺は中学で全国空手一位だと言う事を忘れるなよッ!! 常日頃から箒に刀を振り下ろされている俺がナイフ如きに屈すると想ったかッ!!」

 

 ※結城君は多大なストレスによりry

 

「私一人だけだと?」

「なに?」

「来なさい、簪様近衛部隊ッ!!」

 

 スチュワーデスさんの指が乾いた音を木霊させると、後方の扉が開かれる。其所から現れたのは一人の外人。高身長に スーツ越しでも分かる鍛え抜かれた身体。片手に持つはギターケースと言うアンバランスな格好だ。

 

「アンタは……」

「簪様近衛部隊、第一部隊隊長キーノ」

 

 スチュワーデスさんが言う。

 

「ギターケースにキーノ……ッ!? まさか、貴様ッ!?」

「やりなさい、キーノ」

 

 キーノとやらは無言で歩み寄り、ピタリと止まると片足を全開に伸ばし、ギターケースを肩に担ぐ。あの構えは間違いない。俺が中学の頃、憧れを抱いたあの名シーンそのもの。あの技は日常でやると笑ってくれる人と何やってんだ此奴馬鹿じゃねぇのみたいな二種類の反応を示す技。

 

「――rock ’n’ rollッ!!」

 

 ギターケースの先から飛び出すロケット弾。間違いない。アレは伝家の宝刀、デスペラード撃ち。

 

「あっぶねえぇぇええええぇぇええぇぇええええぇぇえッ!!」

 

 全力ヘッドスライディングでギリギリ躱すと、目標を失ったロケット弾は飛行機の後部にドデカイ穴を開ける。勿論、飛行機に穴なんて開こう者なら、此から訪れる自体はただ一つのみ。

 

「ッ!?」

 

 キーノが気圧に寄って生まれた爆風に飲まれ飛行機から叩き落とされていった。

 

「ぁぁああああぁあぁああ飛ばされるぅうぅうううぅぅうううぅぅう」

 

 そしてスチュワーデスさんは勢いのまま俺に激突し、脚をガッチリと掴みやがった。かく言う俺は自分でもビックリな反射神経で椅子にしがみついている。

 

「いや馬鹿じゃねぇのッ!? 意気揚々とロケット弾撃ってたけど、そりゃこうなるに決まってんだろッ!?」

「一度で良いからやってみたかったんです。反省はしていますが、後悔はしてません」

「叩き落とすぞテメェッ!?」

「さぁ、結城様。お嬢様の婚約者になる為の第一試練です。私を助けつつ飛行機から脱出しなさい」

「何その上から目線!? ビックリだよ!! つうかさっきからお嬢様だの婚約者だの愛しただの、何の事!? 見覚えなさ過ぎて逆に違和感ないわ!?」

 

 甲高いエラー音を響かせる飛行機は着々と真下の海に向かって墜落している。電車をテロリストから護ったり、ホモに襲われたりメンヘラに襲われたり、俺の人生、映画化出来んじゃねぇの。

 

「何を仰いますか。先日、記者会見でお嬢様。つまり更識 楯無様とのご結婚報告をしたじゃありませんか」

「…………………………はい?」

「結城様は体調不良でご欠席されておりましたが、楯無様の口から間違いなくご結婚と」

 

 いみわかんない(ラブライブ感)

 俺と楯無さんが結婚。何ソレ。つい一週間前はホモに全国ネットで告白されたばかりなのに結婚って。結婚ってお前。

 

「あの人かッ!? クソッ!! なんか最近変だなとは感じていたが、あの人もホモ側の手先かッ!! チクショウッ!! 俺は、俺はめげねぇッ!! なにがなんでも逃げ延びて生き延びて幸せなハッピーエンドを迎えてやるぜェッ!!」

 

 ※多大なストレスによりry

 

「では先ずは生き延びましょう。このくだらない最悪な状況からね。そして朝日を拝みながら一杯やりましょうか。奢りますよ」

「なに相棒感出してんだテメェッ!! 元はと言えば元凶はテメェだろうがッ!?」

「はいぃ?」

「テメェは水谷豊かッ!? 相棒ってか!? 相棒って言いたいのかテメェ!? もう濃いんだよお前のキャラ!!」

 

 くだらないコントをやっている間に、飛行機はグングンと墜落のスピードを速めている。マズい。真剣に巫山戯ている余裕がなくなってきた。このままでは明日の朝日新聞は中国大好きアピールの他に飛行機墜落の見出しが載ってしまう。

 

「さてユウさん。前方にドアがあります。其所に一人分のパラシュートがありますので、先ずは其所に向かいましょう。なに。簡単です。椅子を梯子のように登っていくだけですから」

「簡単に言うよねッ!! とりあえず脚離せよッ!!」

「嫌です」

「ド畜生ぉおおぉぉおぉおおおぉぉぉおぉおおおぉッ!!」

 

 自分でも驚くような火事場の馬鹿力で斜めに傾く機内を登っていく。

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。俺はドイツの気ままな旅行を楽しむ筈だったのに、良く分からないスチュワーデスと外人に襲われ、墜落する飛行機から脱出しようとしている。どうしてこうなった。

 

「あっ、今雲を突き抜けましたよ」

「ふんふんふんふんふんふんッ!!」

 

 抑揚のない発言を聞き流し、椅子を次々と登っていく。

 

「あと墜落まで二分くらいでしょうか」

「ふんふんふんふんふんふんッ!!」

「カップラーメンはなにが好きですか?」

「やっぱり叩き落とすぞテメェッ!? さっきから緊張感なさ過ぎだろ!?」

「私、レイスと申します」

「今自己紹介ッ!?」

「墜落まで一分をお知らせします」

「畜生ぉおおぉぉおぉおおおぉ此奴うぜェえぇええッ!!」

 

 スチュワーデスさん。いやもうスチュワーデスでは無いのは決定的に明らか。レイスはのんびりと俺の背中にしがみつき、呑気に窓の外を見ている。余談だが真後ろに合った筈の翼はパッキリと折れ、絶景の空を映していた。

 なんで此奴は冷静なの。苛立ちつつも、俺はようやく壁に固定されたパラシュートを掴むことに成功する。

 

「しゃあッ!! 人生初のダイビングが墜落からの脱出とは想わなかったが間に合ったぜ!!」

「では行きましょう」

「行きたかったら背中を離せよッ!! パラシュート着けられないだろうがッ!?」

「ではお姫様抱っこして下さい」

「此奴助けンのにすっげぇ違和感があるんだけどッ!! 四の五の言ってらんねぇッ!!」

 

 俺はレイスを両手で抱え上げ、パラシュートを装着。既に壊れかけのドアを全力で蹴り飛ばし、その身を躊躇無く宙へと投げ出した。眼前には優雅に広がる海の地平線。

 

「うぉおぉおおぉおおぉぉおぉおパラシュートってどうやって使うのぉおおぉぉおぉおおおぉッ!?」

 

 強烈な風を身に受け、想うように動けない。しかも俺はダイビング経験なんぞ無いし、知識だって無い。まずパラシュートの開き方すら分からないのだ。縋る思いでレイスに叫ぶと、レイスは指でパラシュートに着いている右側のレバーを差した。

 

「まず右側にレバーがあるでしょう?」

「レバー!? 此奴か!? ふんッ!!」

 

 言われるがまま引くとパラシュートは開かずに折り畳まれたまま空中へ投げ出された。

 

「それを引くとパラシュートは開かずに廃棄されます」

「なんで言ったのおおぉぉぉおぉおおおぉぉぉおぉおおおぉぉぉおぉおッ!?」

「定番かなっと」

「やっぱり此奴は叩き落とすべきだったッ!! あの時見捨てるのが正解だったんだァッ!!」

「あっ」

「なに!? なんか良い案…」

「今のアクション映画の名言っぽいです」

「なんなんだお前はッ!? その命をはった芸人根性なんなのッ!? つうかどうするんだコレッ!? 海に真っ逆様だぞッ!?」

「私、アクション映画とかスパイ映画が大好きなんですよ」

 

 真っ逆様に海へと落ちていく二人。下が海ならなんて素人の考えはしない。この勢いで叩き付けられれば最悪、死ぬのは間違いない筈だ。為す術無い状況で少しでも何かないかと思考を巡らせる。

 

「結城様、落ち着いて下さい。トゥームレイダーで谷底に飛び込むシーンがあるでしょう?」

「…………いや、だからなにッ!? 一瞬考えたけどッ!?」

「いえ、別に」

「ああぁあぁぁああああぁぁあああ此奴うぜェえぇぇええええぇぇえええッ!!」

 

 言われたからでは無いが、俺は見様見真似で身体を伸ばし、真下に脚を突き出す。非常にモヤモヤが残るが、俺はレイスを庇うように抱き締め、衝撃に備えるように歯を食い縛る。

 やれることと言ったらこれしかない。もはや運命に身を任せるだけだ。

 

「結城様」

「んだよッ!!」

「私、男性に抱き締められたの初めてです。実はドキドキ胸が高鳴って結城様に恋しちゃいそうです」

「ちょっとその口閉じてろクソがッ!!」

「あっ……なんか罵倒にドキドキ……」

 

 無表情に顔を赤らめる馬鹿を無視して、俺は目を閉じる。どうしてこうなった。本当に。ドイツ旅行だった筈なのに。

 苛立つ心だが、現実の時間は無情に過ぎていく。どれくらいの速さで落ちているのだろうか。

 

 

「クッ――――ッ」

 

 凄まじい衝撃と共に、俺は太平洋のど真ん中へと落ちるのだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 微睡む記憶。

 何をしていたのかすら曖昧だ。此処は何処だろうか。俺は何をしていたのだろうか。想い出せるのは親友が居た事。その親友に何かがあって、俺は逃げていて、酷く疲れていて。

 記憶が酷く霞む。

 

「ッ………」

 

 激痛が身体に走り、意識が急激に引き戻される。反射で身体を起こし、荒い息を整えながら自分の手を見た。自分の手だ。そりゃ当たり前だ。自分の手なのだから。だと言うのに、どうしようもない違和感がする。

 

「……此処は」

 

 その違和感を片隅に追いやり、周りを見渡す。揺れる地面と狭い部屋。周りにはロープや大きめの網。それに樽。磯臭い香りと、魚の生臭さ。

 

「目が覚めましたか?」

 

 真横から声が響き、俺は怯えるように振り向く。

 

「……アンタは」

 

 其所に立っていたのは、艶やかな短髪の黒髪に、人形のような表情を失った端整な顔立ち。小柄な身体を見るに同い年くらいだろう。此方を安心したように見つめる彼女の瞳に言葉を失い、視線を惑わせた。

 “俺は彼女を知らない”。

 

「気分は?」

「……“誰だ、アンタ”」

「はい? おや、自己紹介は大分強烈だったと自負していましたが。レイスですよ。貴方が助けてくれた」

「レイス……」

 

 見知ったような口調で彼女、レイスは言い、俺の隣に座るとコーヒーを差し出した。戸惑いながらも受け取り、俺は彼女を真っ直ぐと見つめ返す。

 

「結城様?」

「……ユウキ? “誰だ、それ”」

「―――」

 

 俺の発言に彼女は目を細め、空気を変えた。

 なにも想い出せない。自分が誰なのか。何をしていたのか。彼女が誰で、自分とどんな関係なのか。身体に感じる激痛以外に、何も分からない。

 

「な、なぁ……」

「なるほど……なるほどなるほど……ふむ。これは些か。ふむ」

「ユウキって、俺か? つうか……全然……」

「ふふっ……」

「……?」

 

 レイスは突然笑い出す。無表情がその時、初めて崩れたのだ。実に楽しそうに。実に愉快そうに。

 

「―――貴方はジェイソン・ボーンです」

「…………はい?」

「貴方はジェイソン・ボーンです。それ以外は分かりません。実は私も記憶を失ってましてね」

「記憶を、失うって」

「貴方は記憶喪失なんでしょう?」

 

 記憶喪失。それがどんな物かは知っている。名前も、住んでいた場所も、友も家族も想い出せない。なるほど、確かに記憶喪失だ。衝撃の事実と言ったところなのだろうが、あまり驚きがなかった。こう言うことに慣れている人間だったのだろうか。

 

「記憶、喪失……」

「私と貴方は太平洋のど真ん中で気を失った状態で発見されたのです。貴方が目覚めれば、私の事を知っているかと想いましたが……」

「お前も記憶を?」

「えぇ。となると、私達に残された手掛かりはたった一つですね」

「手掛かりがあるのか!?」

 

 痛む身体に鞭を打ち、レイスに近寄ると、彼女は懐からレーザーポインターを取り出し、壁を照らす。すると、光は数字の羅列を描き出す。意味が分からない数字だ。何かの電話番号。

 

「いや、銀行口座……」

「私が持っ……いや……此処は違いますね……」

「ん?」

「貴方の皮膚に埋め込まれていたスイス・チューリッヒの銀行口座番号。これが貴方と私に唯一残された記憶の手掛かりです」

 

 レイスは笑う。記憶を失っているのに、実に期待に胸を膨らませた表情で。

 

「実に楽しくなってきましたね」

 

 彼女は愉快に笑った。

 

 

 

 

 

 




大松「ジェイソン・ボーンだゾ(大嘘)」

知ってる人いるのか、これ………



レイスちゃんはニコウミが小説家になろうで投稿する予定のメインヒロインのキャラを持ってきた。


この長編は短くて四話。長くて七話くらいの予定。
ホモ要素は次話から。ホモは我慢強いから頑張れるよ。

多分、次話から四万文字程度になります。見辛かったら言ってね。


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