一条家次男は第一高校 (クッペ)
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入学編
プロローグ


これは一番最初に上げたかった作品です。

なんとなく投稿したいので書きました。ヒロインは個人的にエリカかリーナが良いなって思ってます。


 一条邸、煌輝の部屋にて、とある人物と煌輝は電話をしていた。

 

「というわけなので、一条君には新入生の代表挨拶をしてもらいたいの」

 

「申し訳ありませんが、お断りさせてもいいでしょうか?もう一人の首席の方にお任せしてもいいですか?七草さん」

 

 国立魔法大学付属第一高校の生徒会長、十師族の七草家の長女の七草真由美である。

 

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「自分が東京に到着予定が、入学式の二日前だからです。それまでも引っ越しの準備などでごたついていますし、そんな状況で入学式の代表挨拶の文章を考えてる時間が取れないからですよ」

 

 煌輝は将輝が通う第三高校ではなく、第一高校を受験した。理由は今まで将輝とずっと一緒だったけど、もう自分も高校生であり、将輝に頼ってばかりというわけにもいかない、という理由からだ。

 すでに合格して新入生代表挨拶の話が来ているとおり、第一高校を受けることは一条家当主で父親である剛毅の許可は取ってあるし、入試も首席で合格した。

 何故一高かというと、東京には父の剛毅が購入した一条家の別邸があるからだ。なお、今まで使われたことは無い模様。第三高校以外に通うとすると、どこかの部屋を借りなくてはならないが、東京にある第一高校ならば別邸を使えるという事情もあり、煌輝は一高を受けることにしたのだ。

 

「お詫びと言っては何ですが、風紀委員会に入りましょうか?生徒会枠でも学校推薦枠でも部活連枠でもどれでも構わないので。恐らくですが、風紀委員会に入りたいという新入生はいないと思うのですが。一日一発ですが、術式解体も使えますし」

 

「そのあたりの話は今度で構わないわ」

 

「分かりました。それと、一つお聞きしたいことがあるのですが」

 

「なにかしら?」

 

「入学式のリハーサルって何時ごろから始めるんですか?もう一人の首席合格者の方に、一言お詫びをしたいと思うのですが・・・」

 

「入学式のリハーサルは八時からよ。入学式自体は九時半からですが、当日の来賓の方に挨拶などをする時間があるので、リハーサルは早めにするようにしてるの」

 

「分かりました、ありがとうございます。東京に着いたら七草家と十文字家にご挨拶に伺わせていただきます」

 

「ええ、わかったわ。それじゃ、また今度」

 

 そう言って電話は終わった。電話が終わって一息ついていると、部屋のドアを控えめにノックする音が聞こえた。

 

「入っていいよ」

 

 入室を促すと入ってきたのは妹の茜だった。

 

「お兄ちゃん、電話終わったの?」

 

「ああ」

 

「誰から?」

 

「第一高校の生徒会長だよ。入学式の挨拶頼まれたんだけど、できそうにもないから断ったんだよ」

 

「ふーん、そっか。もうすぐ夕ご飯だから」

 

「分かった、ありがとう。すぐに行くよ」

 

* * * * * * * * * *

 

 そうして、一条邸のある石川県から東京に行く当日となり、一条家の前でしばしの別れの挨拶をしていた。

 

「じゃあ、行ってくる。夏休みには実家に帰ってくるよ」

 

「ええ、行ってらっしゃい、身体には気を付けてね」

 

「ありがとう、母さん」

 

「じゃあな煌輝、今度会う時は、九校戦でだな」

 

「そうだな、将輝には負けたくないからな。本気で勝ちに行くぞ。何の競技に出るかはわからないし、そもそも出るかどうかすらも分からないけどな」

 

「お前が出なかったら、男子は誰が出るんだよ」

 

「煌輝、東京ではブランシュの不穏な動きがあると師族会議で伝えられた。何かあったら、一条として行動しろ」

 

「分かったよ父さん。不穏な動きがあったら報告する」

 

「おう、頼んだぞ」

 

「じゃあな、茜、瑠璃、元気でな」

 

* * * * * * * * * *

 

 東京の一条家の別邸に到着する。いつでも生活できるように最低限の家具はそろっているし、一条家の使用人がこまめに掃除に来ているようで、生活する環境はだいぶ整っていた。

 あとは少しの距離の移動手段だが、これは中学を卒業して急いで電動二輪の免許を取ったので、それを使う。

 購入手続き自体は向こうでしていたので、あとはこちらの店で受け取るだけとなっている。

 他にも自炊のための食糧などを買ってるうちに夜になってしまったので、米を炊いて味噌汁を作って、おかずを一品簡単に作って夕飯を終える。

 明日は七草家と十文字家を訪問することになっているから、今日はもう休むことにした。




一条煌輝

一条将輝の双子の弟

将輝よりも魔法の発動速度は劣りますが、干渉力は将輝よりも高いです。

想子の総量も将輝よりも多い、ぎりぎり『術式解体』を使える。しかし一日に一発まで。二発撃つと想子枯渇で気絶します。

佐渡進行で実戦経験済み、『爆裂』は勿論使えます。

オリ主の設定はこんな感じです。

個人的に魔法科の男キャラで一番好きなのは将輝です。師族会議編の将輝の日記には賛否あるようですが、個人的には結構好きです。


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入学編Ⅰ

感想で「オリ主最強もののチート物、達也より強くして」という感想をいただいたのですが、どうあがいても一条の魔法師が達也を上回る光景を想像できんかった…転生オリ主にするとまた一から書き直さなくてはいけないので、ちょっと実現できなさそうです…

ハートネットさん、申し訳ありません


 

 今日は国立魔法大学付属第一高校の入学式だ。

 七草家と十文字家には昨日、挨拶を済ませた。十文字家では特に何もなかったが、七草家の方で双子の妹の香澄さんと泉美さんにあっていろいろと聞かれた。

 煌輝は言われた時間より早い七時五十分ほどに一高へと到着していた。早速リハーサルがされているであろう講堂へと行こうとしたのだが、校門前で一組の男女が何やら言い争っていた。

 

「納得できません!」

 

「まだそんなことを言っているのか・・・」

 

「なぜお兄様が補欠なのですか!?本来ならばお兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」

 

 お兄様、と言っているということは兄妹なのだろう。それにしても似ていない。妹の方は十人中十人が振り向くような容姿をしているのだが、兄の方は平凡な容姿をしていた。

 この妹に、将輝なら一目惚れしそうだな、とどうでもいいことを考えていた。

 

「魔法科高校なんだから、ペーパーの試験よりも実技が優先されるのは当たり前だろう。俺としては、補欠としてでも入学できたのはラッキーだと思ってるからね。それに、今年は何故か一条の片割れが一高に入学してくるんだ」

 

 その一条の片割れが今ここにいるのだが・・・

 

「そんな覇気のないことでどうしますか!勉学も体術もお兄様に変えるものなどいないというのに!魔法だって本当なら――」

 

「深雪!」

 

 妹、深雪が何かを言いかけたところで兄の方がきつく叱責をする。その雰囲気に多少なりとも驚いてしまった煌輝は、物音を立ててしまい校門前で言い争っている兄妹に見つかってしまった。

 

「ああー、えっと・・・すまない。盗み聞きをするつもりはなかったんだが」

 

「いったいどこから聞いていた?」

 

 兄の方が先ほどよりも強い剣幕で滲みよってきた。

 

「『納得できません!』から・・・」

 

「最初からじゃないか・・・」

 

「何の話をしていたか知らないけど、俺がここで聞いた話は全部忘れることにするよ」

 

「すまん、助かる。それよりも、どうしてここに?俺が言うのもなんだが、入学式までまだ時間はだいぶあるぞ?」

 

「ちょっと挨拶をしておかなくちゃいけない方がいてさ。リハーサルが始まる前までに済ませておきたかったんだけど、校門前で痴話喧嘩をしているところに踏み込む度胸は流石になくってさ・・・出て行きづらかったんだよ」

 

「そうか、すまない。所で痴話喧嘩とは一体なんだ?」

 

「言葉の綾ってやつだよ。男女が言い争ってたら、兄弟でも痴話喧嘩って言いたくなるだろ。じゃあ俺はそろそろ行くよ」

 

「ああ、引き留めて悪かったな」

 

 そう言ってその場を後にして行動へと向かう煌輝。そう言えば名前を聞いてなかったが、今後会うことがあるか分からないから別に構わないかと思い直した。

 

* * * * * * * * * * 

 

「おはようございます、七草さん」

 

「あら、おはよう。一条君」

 

 行動に入って少し見回すと、七草さんと他の生徒会役員であろう人物、それと腕に腕章を巻いた人物が目に入ったので、挨拶をさせていただく。

 

「初めまして、一条煌輝です」

 

「摩利、彼が風紀委員に入ってくれるって言ってた一条くんよ」

 

「ほう、君があの一条の。私は風紀委員長の渡辺摩利だ。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします、渡辺先輩」

 

「だが風紀委員でいいのか?お前も首席なんだから、生徒会役員の方がいいのではないのか?」

 

「自分はデスクワークよりも体を動かしている方が性に合っているので。もう一人の首席の方に役員はお任せしたほうがいいと思いまして」

 

「確かに、一条のネームバリューは風紀違反の抑制にはもってこいだな。いいだろう、入学式が終わった後、生徒会室へ来てくれるか?そこで風紀委員についての説明をしようと思う」

 

「分かりました。ところで七草会長、もう一人の首席の方はまだお見えになっていないのでしょうか?」

 

「もうすぐ来ると思うわよ。そろそろリハーサルが始まる時間だし・・・あ、来たわよ」

 

 そうして行動の入口の方へ目を向けると、先ほど痴話喧嘩をしていた妹の方がやってきた。

 

「一条君、彼女が今回新入生総代の挨拶をしてくださる司波深雪さんよ」

 

「ああ、どおりであんなに早く来ていたわけですね。始めまして、司波さん。一条煌輝です。この度は新入生総代の挨拶を押し付ける形になってしまい、申し訳ありません」

 

「いえいえ、お気になさらず。事情は七草会長から聞いていますから。改めまして、司波深雪です。下の名前で呼んでくださって結構ですよ?兄の方と、区別がつきにくいでしょうから」

 

「そうさせてもらいます、深雪さん。リハーサルと本番、頑張ってください。応援してますから。では」

 

 そう言って行動を後にする煌輝。入学式が始まるまではこれで完全に手ぶらになってしまうため、どこかで時間を潰そうと考えていた。

 

* * * * * * * * * *

 

 とりあえず座って時間を潰せる場所を探して中庭に来ると、深雪の兄である人物が、何やらタブレットを開いて座っていた。

 

「隣いいか?」

 

 そう声をかけて、顔を上げる。

 

「ああ、構わない」

 

「サンキュ、さっき妹の方と会ったぞ。首席だったんだな」

 

「ああ、自慢の妹だよ」

 

「知ってるかもしれないけど一応、一条煌輝だ。よろしくな、司波君。俺の事は煌輝でいいぞ」

 

「司波達也だ。俺の事も達也で良い。司波だと、妹と区別がつきにくいだろうからな」

 

「深雪さんにも同じことを言われたよ」

 

 そこで会話が途切れて、特にすることもないのでボーっとしている。入学式の事前準備だろうか、在校生たちが忙しなく動き回りながら、何やらこちらを見てひそひそと話している。

 

「ねえ、あれって雑草じゃない?」

 

「なんでこんなに早く来てるのかしら?」

 

「所詮、スペアなのにな」

 

 下らない。一科生だろうが二科生だろうが大して変わらないだろ。寧ろエリートぶって才能に胡坐をかいている一科生よりも、二科生の方が面白い人材は意外と眠ってるんじゃないかと思う。

 

「そろそろ時間だぞ」

 

「ああ、すまない」

 

 そうして二人は行動へと向かった。

 

* * * * * * * * * *

 

 講堂はものの見事に前半分が一科生、後ろ半分が二科生と綺麗に分かれていた。座る席は自由なのだが、ここでも一科生と二科生の差が出てきてしまっている。

 波風立てることは趣味じゃないので、達也とはそこで分かれて前の方へと適当に座る。

 

「隣、いいですか?」

 

 特にやることもなく、ただ座っていると、後ろから声をかけられた。髪をおさげで結んでいる少女と、ショートボブ?の少女だった。

 

「どうぞ」

 

 特に断る理由もない。少女二人は隣に座ると、自己紹介をしてきた。

 

「あの、私光井ほのかって言います。よろしくお願いします」

 

「北山雫、よろしく」

 

「ご丁寧にどうも。一条煌輝だ。よろしくな」

 

「一条ってあの一条?」

 

「その一条だよ、北山さん」

 

 周りに座っている生徒が少しざわめきだす。近くに座っていたのが一条家の御曹司だとは思わなかったようだ。

 そうこうしているうちに入学式が始まる。深雪の新入生総代挨拶は『皆等しく』とか『一丸となって』とか『魔法以外にも』など結構ギリギリなフレーズが組み込まれていた。

 入学式がつつがなく終わり、個別のIDカードが配布されるためその場所へと向かう。

 

「一条さんはどこのクラスですか?」

 

「A組だ」

 

「私もA組です。これからもよろしくお願いしますね」

 

「私も」

 

「ああ、よろしく」

 

「この後って、どうされるんですか?」

 

「生徒会長に呼び出されててね。新入生総代の挨拶を断ったお詫びとして、風紀委員に所属することになったからそれの確認に生徒会室に向かうんだよ」

 

「そうなんですか、では私たちはこれで失礼しますね」

 

 そのままなし崩し的に一緒に行動をしていた二人と別れて、一人生徒会室へと向かった。

 




煌輝の容姿は将輝と瓜二つです


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入学編Ⅱ

この時間に投稿するのって珍しいな


 ほのかと雫と別れた後、煌輝は生徒会室を訪ねた。しかし生徒会室にいたのは風紀委員長の渡辺摩利のみだった。

 

「おう、来たか」

 

「遅くなって申し訳ありません。他の役員の皆さんは?」

 

「真由美と服部はもう一人の首席の勧誘だ。市原と中条は恐らく後片付けと来賓の対応に当てられているんだろう。風紀委員の本部へ案内するよ。付いてきてくれ」

 

 そう言って生徒会室の風紀委員本部へと続く階段へと案内された。

 

「・・・これって火事があったときとかどうするんですか」

 

「安心しろ、うちには優秀な魔法師が腐るほどいる。迅速に消火ができるだろう」

 

「いえ、自分が言いたいのは消防法の事なのですが、まぁ確かに迅速な消火に関しては問題ないのでしょう」

 

 そんな世間話をしていると風紀委員本部であろう教室へと到着する。なぜ『であろう』が付くかというと、散らかりようが半端ではなくそこが教室物置部屋か判断できなかったためだ。

 

「・・・渡辺委員長、少しここを片付けてもいいでしょうか。座って話ができる程度には」

 

「あ、ああ構わない。私も手伝おう」

 

 そう言って二人は机の上に散らばってる資料などを分類ごとに分けていくのだが、煌輝の方はそれなりに片付いているのだが、摩利の方は全く片付いておらず最初の状態とそう変化が無かった。

 

「すまない、こういったことは苦手でね」

 

 ここがこんなに散らかっている原因は多分委員長なんだろうな、と少し失礼なことを考えていた。勿論口に出して地雷を踏むようなことはしないが。

 そうして机の上だけでも片付いたので、そこでいったん作業を終了する。部屋の全てを片付けるとなると恐らく説明を受ける前に帰らなくてはならない。

 

「では風紀委員についての説明をさせてもらう。風紀委員の主な活動内容は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した諍いの取り締まりだ。今の君にはあまり関係ないが、風紀委員長、つまり私は違反者に対する罰則の決定に当たり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席し意見を述べる。まぁ警察と検察を兼ねた組織だ。そしてここからが風紀委員に許されている特権、というと言い方が悪いが、風紀委員と生徒会役員、部活連の執行委員には校内でCADを携帯する権利が与えられる。だからと言って校内で無断で魔法を使ってもいいというわけではない。校内でCADを携帯できる特権を持つ生徒が魔法を不適切に使った場合、一般生徒よりも重い罰が下される。おととしはそれで退学になったやつもいる。と言っても、君が破るとは全く思っていないから、これは念のためだよ」

 

 ここまでの説明をされて一息入れる。

 

「それと、巡回の際にはこのレコーダーを胸ポケットに入れておいてくれ。ちょうどカメラの部分が胸ポケットから出るようになっている。風紀委員の発言は原則そのまま証拠として適用されるが、まぁ念のためだ。最後に委員会用の通信コードを送信するぞ・・・よし、確認してくれ」

 

 そうして自分の端末に通信コードが送られてきたことを確認する。

 

「何かあったらそこに報告をしてくれ。これで終わりだが、何か質問はあるか?」

 

「では一つだけ、自分はいつから巡回に加わればいいでしょうか?」

 

「そうだな・・・特に決めていなかったが、早速明日から巡回に加わってもらおう。何、そんなにかしこまる必要は無い。単に学校の地形を覚えるためにぐるっと回ってくれればいいさ」

 

「分かりました。では今日はこれで失礼します」

 

「お疲れ、それと、もっと砕けた喋り方をしてくれて構わないぞ」

 

「ええ、分かりました。委員長」

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日、登校してきて特化型の赤い拳銃型CADだけは事務局に預けて自分の所属クラスの1-Aに向かう。汎用型の腕輪型CADは一応携帯しておく。特化型のCADに入ってる魔法は一条家の『爆裂』を主とした発散系の魔法のため、持っておいても学園で使うことは一切ないだろう。この時点で汎用型のCADを預けなくても何も言われないのは、煌輝がすでに風紀委員に入ってることが学校側に伝わっているためである。

 煌輝が教室に着いた時にはまだ生徒はあまり来ていなかったが、早めに来ていたのであろう男子生徒から声をかけられた。

 

「おはよう。僕の名前は森崎駿。君は一条君だよね?」

 

「ああ、一条煌輝だ。よろしく」

 

 それをきっかけに教室に来ていたクラスメイトから次々と自己紹介される。そうこうしているうちに、昨日の入学式で会った女子二人、光井ほのかと北山雫が登校してきた。

 

「おはようございます、一条さん」

 

「ああ、おはよう」

 

 しかしこの喧噪も長くは続かない。とある女子生徒、新入生総代の司波深雪が教室に入ってくると、クラスは急に静まり返った。

 

「皆さん、おはようございます」

 

 そう言って深雪は自分の席に着く。一瞬時間が止まっていたが、クラスメイト達の復帰は思ったよりも早く、我先にと深雪へと自己紹介をしていた。

 そのやかましい喧噪を我関せずとして、煌輝は自分の席へと向かいガイダンスの内容、履修登録などの確認事項を読み進めていた。まだ時間はあったのでそのまま履修登録まで済ませてしまう。

 ちょうど履修登録を済ませたところで、HRの時間となり教室の扉から一人の若い女性が入ってきた。その女性はどうやらこのクラスの専任カウンセラーらしい。二科生を含めた各クラスに二名のカウンセラーが着く。カウンセラーが充実していることも一高の特徴だ。

 そうしてガイダンスが終わり、昼までは時間が空いてしまうのだが、一科生にはどうやら引率の教師が学校を案内してくれることになっているらしい。

 

「一条君、この後どうするつもりだい?」

 

「森崎か。どうせだから引率の先生について学校を回ってみることにするよ。ちょうど七草会長の実技演習も見られるらしいしな」

 

 七草真由美は遠隔操作魔法で十年に一人の逸材と呼ばれており、一高にも数多くのトロフィーを収めている。今日は新入生向けとして特別に実技演習が見れるようになっているらしい。

 そうして1-Aのクラスのほとんど全員が引率の教師に案内されて学校を見て回ることにした。

 真由美が実技演習を行っている教室へとたどり着いたが、来るのが遅かったのか前の方にはすでに見学者が大勢おり、あまりよく見えなかった。どうやら先頭で見ているのは達也とその友人と思われる二科生数人らしい。その光景をあまりよく思わないらしく、一科生の連中は達也たちを恨みがましく睨みつけていた。

 真由美の実技演習が終わったあたりでちょうどお昼時となり、食堂へ行くことになったのだが、そこでも問題が発生した。どうやら深雪と一緒にお昼ご飯を食べようと思っていたクラスメイト達だが、深雪は兄である達也たちと一緒に食べるつもりだったらしい。深雪が達也たちの座っている席へ移動するが、1-Aのクラスの連中が座るスペースが確保されているわけもなく、そこで一科生の連中が達也たちに退けるように言っていた。

 達也と一緒にいた男子とショートカットにしていた女子が切れそうになっていたところだったが、達也が残っている分を急いで食べ終え、男子生徒と一緒にその場を後にした。

 なお煌輝はその諍いに巻き込まれることを嫌ったのか、別の場所で一人で食べていた。

 

* * * * * * * * * * 

 

 そして放課後となり早速風紀委員の巡回のために生徒会室へと向かい、風紀委員の本部へ赴く。

 

「おはようございます」

 

 風紀委員では朝昼問わずこの挨拶をしているらしい。本部にいた摩利に挨拶をする。

 

「おう、来たか。早速で悪いが巡回へ向かってくれ」

 

「分かりました」

 

 そう言ってレコーダーを胸ポケットへと入れて、風紀委員である証の腕章を腕に巻いて巡回へと赴いた。

 巡回のルートは決められていないので、どこを回るかは各委員の自由らしい。取りあえず校舎を一回りしようとして、あとは外を少し回ればいいだろうと思い校舎を巡回していたところが、端末に摩利からの連絡が入った。

 

「どうかしましたか?」

 

「グラウンドで何やら一年の一科生と二科生が言い争いをしているらしい。念のため向かってくれ。私と真由美も後で合流する」

 

「了解しました」

 

 連絡を貰ったところでグラウンドへと向かった。そこで言い争いをしていたのは、昼に食堂で言い争いをしていた時のメンバーだった。




煌輝君は無口キャラでも便利屋でもありませんよ!


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入学編Ⅲ

一日二話投稿がどうのこうのよりも、包丁で左手の親指思いっきり抉って二時間以上血が止まらなくてタイピングに支障をきたしていることが辛い


 

 グラウンドに到着したところで言い争いが続いていた。少し時間がたつと真由美と摩利の二人が合流した。風紀委員の職務上、ただの言い争いならば何もせずに傍観を決め込んでも問題は無いのだが、魔法が使われた際に備えて一応の警戒はしておく。

 ある程度の距離があるので言い争いの内容までは聞き取れない。しかし森崎がCAD、しかも特化型のものを抜いた時点で胸ポケットに入れたレコーダーを起動させて事態の収束に動く。いや、動こうとしたが正しい。二科生の女子が警棒で森崎のCADを叩き落としたのである。森崎のCADに手を伸ばしていた男子の手を巻き込みそうになっていたが、ギリギリの所で躱していた。

 恐らくそのことを抗議していたのだろうが、内容は漫才そのものだった。遠巻きに見ていた野次馬を含めた一同がそのことに呆気に取られていると、一科生の女子の一人、ほのかが再起動をして、

 

「みんな、止めて!」

 

 そう言って腕輪型の汎用型CADを操作する。それに気づいたのは煌輝と摩利と真由美、恐らく達也たちも気づいただろうが、咄嗟の事で対応できていない。

 起動式が完成してしまう前に煌輝が想子を掌に圧縮してほのかのCADに向けて発射する。『術式解体』は見事にほのかが起動しようとしている起動式を吹き飛ばしており、急に起動プロセスを妨害されたほのかは目を白黒させていた。

 

「辞めなさい!それ以上は校則違反以前の問題ではなく、犯罪ですよ!」

 

 遅れて真由美と摩利が合流する。

 

「君たち、1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞くから、着いて来なさい!」

 

 摩利がそういうと約一名、警棒を持った少女以外の顔が青くなる。摩利の剣幕に気圧されているのだろう。

 みんなが固まっている中、達也がおもむろに前へと出てきて弁明を始める。

 

「すいません、悪ふざけが過ぎました」

 

「悪ふざけ?」

 

「はい、森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見学させてもらうつもりだったのですが、あまりにも真に迫ってしまっていたのでつい手が出てしまいました」

 

「その後に君の友人たちが攻撃されそうになっていたが?」

 

「急なことで驚いたのでしょう。条件反射で起動プロセスを実行できるとは、流石一科生ですね。それに彼女が発動しようとしていたのは目くらまし程度の閃光魔法です。失明の危険もないので何もしなかったのですが、彼が事前に止めたようですね」

 

 そうして煌輝の方を見る達也。若干警戒が混じってるのは気のせいではないだろう。そんなことよりもこの場にいる生徒全員が、達也の言葉に驚愕を隠せずにいた。

 

「ほう、君は起動式を読み取れると?」

 

 一早くに再起動を果たした摩利が達也にそう尋ねる。

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

 いけしゃあしゃあと嘯く達也。その達也の絵に深雪が立つ。

 

「お兄様の言う通り、ちょっとした行き違いだったんです。生徒会の皆さんや風紀委員の方々のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません」

 

 そう言って深く頭を下げる深雪。その様子に真由美は毒気を抜かれたのか

 

「もういいでしょ摩利、達也君、本当にただの行き違いだったのね?」

 

 達也は首肯をする。

 

「一条君もそれでいいかしら」

 

「俺はこの場に偶然居合わせただけなので、構いませんよ」

 

「分かったわ。生徒同士の教え合いが禁止されてるわけじゃないけど、魔法の行使には起動するだけで細やかな制限があります。このことは一学期で習う内容です。それまでは生徒同士での教え合いは控えたほうがいいでしょうね」

 

「会長がこう仰せられているから、今回の事は不問とする。それと君、名前は?」

 

「1-Eの司波達也です」

 

「覚えておこう」

 

 そう言い残し摩利と真由美はこの場を後にする。

 

「一応この場の事はこのレコーダーに録画されている。今回は不問にされるらしいから消しておくが、今後はこういったことが無いように、各自気を付けてくれ」

 

 最後に一言釘を刺し煌輝もその場を後にする。

 

「一条、風紀委員の本部へ帰ったら念のため報告書を作るぞ」

 

「不問にするんじゃなかったんですか?」

 

「だから念のためだ。私一人では報告書作成は手に負えん。手伝え」

 

「分かりました・・・報告書位は書けるようにしてくださいよ、委員長」

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日、教室へと到着すると、待ち構えていたように森崎他昨日の言い争いに参加してた生徒が来て、頭を下げてきた。

 

「昨日はすまなかった。今後はああいったことが無いように気を付ける」

 

「あ、ああ。まあ反省してるならいいんだ。別に俺はそこまで気にしないがな。犯罪は犯してくれるなよ」

 

 そう言って煌輝は自分の席へと向かう。席にある端末を起動させて今日の日程に目を通し、特別なことは何もないことを確認する。

 通常授業があり午後の授業が始まる。何故か深雪の機嫌がかなり良い。そのことにクラスメイト達は疑問を覚えるが、ほのかと雫がなぜ機嫌がいいかを尋ねたことで、その疑問は解消される。

 

「ねぇ深雪、なんか機嫌いいね。なにかあったの?」

 

「ええ、お兄様が風紀委員に選ばれるかもしれないの」

 

 その一言でクラスメイトが固まる。風紀委員が魔法が使われた諍いの仲裁、報告だ。とても二科生には務まるものではないと思っているからである。

 煌輝はそのことに関しては特に疑問に思うこともなく、実技の授業の内容をこなしていく。

 授業内容は移動魔法で台車を三往復させることだ。台車が動くまでの時間、台車がいかにスムーズに動くかの干渉力が主なチェック項目だ。

 流石は一科生ということもあって、全員がスムーズに動かしている。しかし深雪と煌輝はその中でも特にスムーズに動かせていた。

 台車が動き始めるまでは深雪の方が少し早い。煌輝の場合は台車を三往復させる工程が非常にスムーズだった。これを見て他の生徒たちも俄然やる気を出していた。




アスタリスクの方は今から書きます


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入学編Ⅳ

今回文字数だけは長めです

話はほとんど進んでませんが


 放課後となり、煌輝は風紀委員の巡回のため生徒会室へと向かった。煌輝が今日も巡回なのは偶然だ。きちんと非番の日も設けられている。

 生徒会室へ到着し入室するが一触即発の雰囲気が漂っていた。どうやら副会長の服部が達也の風紀委員会入りを断固として認めないらしい

 

「副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

「何だと?」

 

「別に自分は何を言われても構わないのですが、妹の目を曇っていないことを証明するためならば、やむを得ません」

 

「雑草の分際で、身の程を弁えろ!」

 

「ふっ・・・」

 

「何がおかしい?」

 

「魔法師は、常に冷静にあるべきではないのですか?」

 

「ふん・・・いいだろう。その分を弁えぬ態度、どうやら矯正してやる必要があるようだ」

 

「私は生徒会長の権限により、二年B組の服部刑部と一年E組の司波達也の模擬戦を、正式な試合として認めます」

 

「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として、二人の試合が校則で認められた課外活動であることを認める」

 

「時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開とし、双方にCADの使用を認めます」

 

 どうしてこうなった?そう思わざるを得ない煌輝だった。

 

「一条、来てたのか」

 

「え、ええ。今日は巡回の日なので・・・」

 

「ちょうどいい、話を聞いてただろ?お前も来い」

 

「いや、あの、巡回は?」

 

「この試合が終わってから出構わん。なにより、面白そうだ。そうだ、第三演習室の鍵を借りてきてくれ。これが教室使用の申請書だ。これを職員室に見せてくればいい」

 

「・・・分かりました」

 

 ほんと、どうしてこうなった・・・

 職員室に赴き第三演習室の鍵を借りて第三演習室を開ける。しばらくは誰も来ないと思っていたら、鈴音、あずさの両名が思ったよりも早く来た。

 

「すいません、一条君。鍵を借りてきてもらったみたいで」

 

「いえ、それは構いませんが。状況がよく分からないのですが・・・どうして副会長と司波が模擬戦をすることになったんですか?」

 

「服部君が司波君の風紀委員入りを認めずに、そのことについて司波さんが怒って、あとは流れです」

 

 なんとなくわかっていたことなのだが、あの兄妹はブラコンシスコンの気が強すぎではなかろうか?確かに妹が馬鹿にされたりしたら俺でも切れるだろうが、模擬戦を申し込むほどか?と思う。

 別に一科生と二科生の差別というわけではないが、一科生と二科生の間には確かな実力差が存在する。一番顕著なのが魔法の発動スピードだ。模擬戦のルールは聞いていないから何とも言えないが、魔法を最初に相手に当てた方の勝ち、みたいなルールなのだろう。そうなると単一工程の発動スピードに特化させた魔法がこの模擬戦では有利ということになる。

 そしてここで問題になるのが魔法の発動スピードである。魔法の発動スピードは先ほども言ったように、基本的に一科生が二科生に劣ることは無い。二科生である達也が一科生である服部よりも早く魔法を発動できるというのなら話は別だが、恐らく副会長に抜擢されていることもあって服部の実力は相当なものなのだろう。

 模擬戦の結果を思案していたところ、服部と真由美が第三演習室へとくる。少し遅れて達也と深雪も到着し、達也はアタッシュケースからCADを取り出し、カートリッジを入れ替えている。

 

「ほう、君は複数のカートリッジを持ち歩いているのかね?」

 

「汎用型を使うには、自分の処理能力では足りないので」

 

 それを聞いて服部は微笑する。そして顎をあげて、相手を見下す姿勢を取りながらCADに手を添える。達也は対照的に相手をしっかりと見据えていて、CADを持ったまま手を下げている。

 その状況を見る限り、服部は完全に油断している。その自信は今までの自分の功績からか、煌輝から見たら傲慢でしかない。仮にここが戦場だとしたら先に死ぬのは達也でなく服部だ。

 そしてこの勝負、恐らく勝つのは達也だと思う。なんとなくそう思った。

 

「ではルールを説明する。直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障碍を与える術式も禁止。相手の肉体を直接損壊する術式も禁止する。捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。武器の使用は禁止。素手による攻撃は許可する。蹴り技を使いたい場合は学校指定のソフトシューズに履き替えること。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不可能と判断した場合に決する。双方開始戦まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。このルールに従わない場合はその時点で負けとする。あたしが力ずくで止めるから覚悟しておけ。以上だ」

 

 双方ともに蹴り技は使わないらしい。開始戦の距離はおよそ十メートル。この距離を魔法の発動よりも早く詰めて体術に移行することはほぼ不可能だからだ。

 

「それでは、試合開始!」

 

 勝負は一瞬だった。服部が手を添えていたCADを操作し魔法を発動しようとする。しかし正面に達也はおらず魔法は発動できない。その間に達也が魔法を服部に当てて服部は気を失った。

 

「勝者、司波達也・・・」

 

 達也は一礼しCADを片付けるため、アタッシュケースを持っている深雪の元へと向かう。

 

「ま、待て!今のはあらかじめ自己加速術式を展開していたのか!?」

 

 それは無いと断言できる。達也がCADを操作したのは服部に向けて撃った魔法一発だけ。それまではサイオンの揺らぎはない。つまり魔法は使われていない。

 

「そんなことが無いのは、先輩が最も分かっている筈ですが」

 

「しかし、それではあれは・・・」

 

「正真正銘、ただの体術ですよ」

 

 体術で一気に十メートルの距離を詰めることができるものなのか?そう思っていると深雪が

 

「私も証言します。あれは兄の体術です。兄は忍術使い、九重八雲先生の指導を受けているのです」

 

 忍術使い、九重八雲の名声は煌輝もよく知っている。摩利も同様に知っているようで息を呑んでいた。

 そこで新しく疑問が浮かぶ。

 

「では服部君を倒したあれも忍術なのでしょうか?私にはただの想子波にしか見えなかったのですが」

 

「いえ、あれは忍術ではありません。想子波であってますよ」

 

「ではなぜあれだけで服部先輩が倒れた?ただの想子波ならば、倒れる程の衝撃は与えられないだろ?」

 

 煌輝も思わず聞いてしまう。ただの想子波で無力化できるすべがあるのならば、知っておいて損は無い。

 

「酔ったんですよ」

 

「酔い?何にだ?」

 

「想子の波にだ」

 

「波の合成ですね?」

 

「リンちゃん?」

 

 鈴音はどうやら分かったようで、ここにいる者の問いに答えていた。

 

「振動数の異なる振動魔法を三連発発射し、服部君に当たる時点で同時に当たるようにしたんです。振動数の異なる想子波を浴びて揺さぶられることによって、酔ったと錯覚し倒れたのでしょう」

 

「お見事です、市原先輩」

 

「ですがわからないことが一つ、どのようにして振動数の異なる振動魔法を同時に発射したのですか?それだけの処理速度があれば二科生であることはあり得ないと思うのですが・・・」

 

「あのお、司波君のCADってもしかして『シルバー・ホーン』じゃないですか?」

 

 今まで口を閉ざしていたあずさが達也に訊ねる。『シルバー・ホーン』はFLT社所属のトーラス・シルバーが開発したCADでループ・キャストを最適化されたCADだ。

 ループ・キャストとは同じ魔法を連続で使用することだ。あくまで『同じ魔法』なので、ループ・キャストでは振動数の異なる振動魔法の発動は不可能なのだが・・・

 

「振動数を定義する部分を変数にしておけば同じ起動式で『波の合成』に必要な、振動数の異なる波動を作り出すことは可能ですが、座標・強度・持続時間に加えて振動数まで変数化するとなると・・・まさか、それを実現しているのですか?」

 

「多数変化は干渉力にも、演算規模にもカテゴライズされない評価分野ですからね」

 

 今の戦闘の開設が終わったところで服部が目を覚ました。起きた服部を真由美が心配し、それに服部が過剰に反応するという一面もあったが、煌輝は別の事を考えていた。

 達也がCADをアタッシュケースに戻し、演習室をから退出したタイミングで声をかける。

 

「達也」

 

「煌輝か、どうした?」

 

「お前、今までに人を殺したことがあるか?」

 

「・・・なぜだ?」

 

「お前のCADは拳銃タイプの特化型だ。普通は銃弾が出ずに人を殺さないことが分かっていても、躊躇してしまうものだが、お前からはそのような気配が一切感じられなかった。だから少し気になってな。俺も、佐渡侵攻では敵をたくさん殺してきたからな」

 

「確かに、煌輝の言う通り人を殺したことがある。聞きたいことはそれだけか?」

 

「ああ、引き留めて悪かったな」

 

「それぐらいなら構わないさ」

 

 そうして一旦達也と別れて演習室へと戻る。全員が退出したことを確認してカギをかけて職員室に返却し、巡回のために風紀委員会の本部へと向かった。




煌輝の戦闘はエガリテのテロ組織が一高に攻め込んできたときです

それまでは小競り合い程度の戦闘しかしません


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入学編Ⅴ

今日はもう一つ上げたいと思います


 

 服部と達也の模擬戦が終了し、各々がそれぞれの仕事へと戻っていく。煌輝も巡回のため風紀委員の本部へと向かい、巡回のためのレコーダーと腕章を身につけ巡回へと向かう。校舎を一回りして巡回を終了させて風紀委員の本部へ行くと、本部にはあり得ない光景が広がっていた。

 

「・・・委員長、ここって風紀委員の本部ですよね?」

 

「そうだな。ここは間違いなく正真正銘風紀委員の本部だ」

 

「なんか、すごく片付いてますね」

 

 煌輝も入学式の日に少し片付けたのだが、それでも片付けたのは机の周りの書類のみだ。棚に無造作に放られたCADや書類などは片付けられずにいつか手が空いているときに片付けようと思っていたのだが、何やら端末にCADをつないで調整をしている人物がいた。恐らく彼が片付けたのだろう。

 

「すまない、達也。配属された初日に部屋の片付けなどをさせてしまったようだな」

 

「煌輝が入学式の初日に少し片付けてくれたんだろ?それで少し楽をさせてもらったよ。もっとも、放置されてるCADなんかは流石にどうしようもなかったようだが」

 

「おはよーっす」

 

「おはようございます!」

 

 達也と煌輝が談笑をしていると、一科生の男子生徒二名がそれぞれ挨拶をして本部へと帰還した。

 

「委員長、本日の見回り終了しました!逮捕者、異常共になしです!」

 

 一人が報告をしている中、もう一人の男子生徒は何やら呆けていた。

 

「・・・もしかしてこの部屋、姐さんが片付けたんで?」

 

 やはりこの部屋の光景に唖然としていたのだろう。

 そして当の摩利はどこからか出したノートを丸めて姐さんと呼んだ男子生徒の方へと歩みを進めて、丸めたノートでスパーン!と小気味の良い音を効果音にして叩く。

 

「何度も言ってるだろう、鋼太郎!私を姐さんと呼ぶな!」

 

「痛ってえ!分かりましたよ、姐さ・・・委員長!だからそう何度もポンポン叩かないでください!」

 

 コントみたいなやり取りが終わると、摩利が煌輝と達也を、今いる男子生徒二人に紹介する。

 

「二人とも、ここにいるのが新しい風紀委員会の一条煌輝と司波達也だ。一条の方は言わなくても実力の方は分かるだろう?それに達也君の実力もなかなかのものだ。先ほど服部が足元をすくわれた。二科生だからと言って、油断していると寝首をかかれるぞ」

 

「そいつはすげえや!」

 

「逸材ですね!委員長!」

 

 その一言に達也の方が唖然とする。この状況に少なからず驚いているようだ。

 

「驚いただろう?なにも一科生だからと言って、全員が差別意識に毒されているわけじゃない。幸い真由美も十文字も私がこんな性格だってことは分かっているからね。差別意識が少ない奴がここには集まりやすい。教員推薦枠に限ってはどうしようもないのだが、まぁここは君にとって居心地がいいところだとは思うよ」

 

「三―Cの辰巳鋼太郎だ!よろしくな、一条、司波!」

 

「ニ―Dの沢木碧だ。歓迎するよ、一条君、司波君」

 

 握手を求めてくる辰巳と沢木。沢木の方は耳元で何かを囁いてくる。

 

「くれぐれも僕の事は名字で呼んでくれ・・・名前で呼ぶと、どうなるか分からないからね・・・」

 

「了解です、沢木先輩」

 

 達也にも同じことを囁いているのだろう。そしてその握手に達也が少しばかりのお返しをすると、沢木が驚いたように飛び退る。

 

「ほう、大したもんじゃねえか。沢木の握力は百キロ近いっていうのによ」

 

「魔法師の体力じゃありませんね・・・」

 

 達也の方も、問題なくなじめそうだ。

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日の放課後、今日から部活動勧誘期間だ。煌輝が聞いているのは、『地獄である』ということだけだ。

 風紀委員本部には他学年の風紀委員も含めて、全風紀委員が集まっていた。一年の風紀委員は部活連推薦枠の煌輝、生徒会推薦枠の達也、そして教員推薦枠の森崎である。

 何が言いたいかというと、一科生と二科生の差別意識が徹底して刷り込まれている森崎が教員推薦枠に選ばれていることから想像がつくだろう。

 

「何故お前がここにいる!?」

 

「いきなり失礼過ぎるだろう」

 

 二科生の達也に突っかかる。森崎の性格を考えれば誰でもわかることだろう。

 

「うるさいぞ新入り!」

 

 一科生と二科生の差別に関して面白く感じていない摩利がこうなるのもまた必然だ。先日の校門で灸を据えられて恐怖がまだ抜けきっていないところに、この説教である。ビビるのも当然というものだ。

 恐れられていることを面白く感じていないため、ため息をつく。風紀委員が全員集合していることを確認して、会議机の上座へ座り、今日の会議を始める。

 

「今日から地獄の一週間、部活動勧誘期間の始まりだ!去年は風紀委員自ら騒ぎを大きくしてくれた輩もいるが、今年はそういうことはしてくれるなよ?」

 

 目をそらす上級生がいた。恐らく、というかほぼ確実に彼が戦犯なのだろう。

 

「今年は幸い人員の補充が間に合った。紹介しよう、立て」

 

 一番下座に座っている煌輝、達也、森崎が立つ。煌輝と達也は落ち着いているが、森崎は緊張しているのか、ガチガチになっている。

 

「紹介しよう。一―Aの一条煌輝、森崎駿、一―Eの司波達也だ。一条は言わなくてもわかるだろう。ここにいる誰よりも腕が立つ。司波の実力もこの目で見ているし、森崎のデバイス操作もなかなかのものだ」

 

「役に立つんですか?」

 

 この言葉が向けられているのは達也に対してだろう。先日摩利が話していたように、部活連と生徒会推薦枠からは比較的差別意識が少ないものが選ばれているが、教員推薦枠はそうもいかない。教員推薦枠では実力が第一に考えられるため、差別意識については二の次だ。一年の森崎がいい例だろう。

 

「そんなに信用が無いのなら、お前が付いてやれ」

 

 遠慮しますよ、というように肩をすくめる。

 

「何か質問はあるか?ないな。司波と森崎はこのあと少し話すことがあるから残ってくれ。それでは出動だ!」




今日中に上げる?ちょっと無理そう。年明けと同時に上げることにします


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入学編Ⅵ

新年あけましておめでとうございます


 

 帰りたい。そう思わざるを得ないくらいの混雑だ。最も人が多いメイン通りを見回ろうと思ったのが、間違えだった。

 しかしそうも言ってられない。そこかしこで魔法の実演がされているためいつどこでトラブルが発生するかどうかわからないのだ。メイン通りを注意深く見ていると後ろから何やら叫び声が聞こえてきた。

 

「おらおらおら!どきやがれ!」

 

「きゃーーー!!」

 

 二人の女子生徒が何やら横に抱えられて連れ去られていく。あまりの出来事に一瞬呆然と仕掛けるが、これはいくら何でも部活の演習ではない。

 そう決めつけて胸ポケットのに入れているレコーダーの電源を入れて、先ほど連れていかれた方へと向かう。普通に走ったのでは確実に追いつかないため、自己加速術式を展開して追いかける。

 

「そこの女子生徒を連行している奴、止まれ!風紀委員だ、魔法の不適正使用のため連行させてもらう」

 

「ちっ!風紀委員か・・・追いつけるもんなら追いつてみやがれ!」

 

 ボードに乗った女子二人がスピードをさらに上げる。捕まっている女子生徒には申し訳ないが、少し実力行使に出させてもらう。

 CADを操作し圧縮空気弾を発射する。威力はかなり抑えてあるが、当たれば確実に吹き飛ぶ。その圧縮空気弾を回避することに全力を傾けているために、どうしてもスピードは落ちる。自分はさらにスピードを上げて追いかける。

 しかし追いつきそうになると向こうも被弾覚悟でスピードを上げる。圧縮空気弾では効果が薄かったため、偏倚開放に魔法を切り替える。圧縮空気弾を弾丸と例えるならば、偏倚開放はロケットランチャーの爆発後の攻撃のような範囲攻撃だ。全力で飛ばしている中躱しきれずに抱えていた女子生徒が吹き飛ばされる。

 二人を助けるために荷重軽減の魔法を使って二人の女子生徒をわきに抱える。二人もいるとこうして受け止めるしかなかったのである。

 

「「一条さん?」」

 

「光井さんと北山さんか、無事か?」

 

「うん、私たちは大丈夫だけど、あの人たちは・・・?」

 

「魔法不適正使用と強制連行だ。制服でもないし部活動のユニフォームでないところを見ると卒業生だろうから、委員長に報告を入れておく。そのうち来ると思うから、見張っといてくれ」

 

「うん、分かった」

 

 その場を後にして摩利へと報告を入れる。呆れたような口調になっていたが、煌輝の看過するべき所じゃない。

 なお、北山さんと光井さんは先輩方の熱心なアプローチの甲斐あってか、SSボード・バイアスロン部へ入部することとなった。

 

* * * * * * * * * *

 

 一通り見て回るが、馬鹿騒ぎをしているだけで問題らしい問題は起こっておらず、今日はこれで終了かと思った矢先、風紀委員の連絡コードに連絡が入った。

 

『こちら第二小体育館、逮捕者一名、負傷しているため、担架をお願いします』

 

 達也が体育館で逮捕者を確保したらしい。そして煌輝のアドレスに摩利からプライベートの着信が来る。

 

『一条、至急達也君の応援に第二小体育館に向かってくれ』

 

「了解しました」

 

 急いで第二小体育館に向かう。到着し、中の様子を見てみると剣術部の部員が達也に襲い掛かっていた。魔法を使おうとしている者もいたが、達也の両腕についているCADを操作すると、魔法式は霧散してしまう。地面が揺れたような感覚に襲われ、酷い人は膝をついて苦しんでいるものまで出ている。

 そのことに堪忍袋の緒が切れたのか、剣術部が総出で達也に襲い掛かるが、達也の方からは一切反撃せずに、剣術部の部員たちはみな例外なくあしらわれていた。

 

* * * * * * * * * *

 

 達也が剣術部の騒動を収めてから、一週間が経過した。達也は見回りの途中に何度も襲われたようだが、証拠がないため逮捕することはかなわなかったらしい。ここは三校かよ・・・と思ったのは煌輝だけなのだろうか。

 そうしているも通りの放課後が訪れようとしていたとき、

 

『全校生徒のみなさん!!』

 

 急に校内放送が流れてきた。急な放送と、大きすぎる音量に顔を顰めるものが大勢いた。

 

『失礼、全校生徒の皆さん!僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です。僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』

 

 この時点で煌輝の端末に摩利から放送室へ集合するように連絡が来たため、放送室へと向かう。

 放送室にはすでに生徒会の鈴音、あずさ、風紀委員長の摩利が到着しており、少し遅れて他の役員たちも到着した。

 立てこもり犯はマスターキーごと手に入れたらしい。

 

「明らかな犯罪行為じゃないですか!」

 

 誰かがそう発言すると鈴音が

 

「その通りです。だから私たちも、これ以上彼らを暴発させないように、慎重に対応するべきでしょう。」

 

「こちらが慎重になったところで、向こう側の聞き分けが良くなるとは限らない。多少強引にでも短時間の解決を図るべきだ」

 

 生徒会側の意見と風紀委員側の意見がきっぱりと別れているため、踏み込むに踏み込めないのだろう。

 

「十文字会頭は、どうお考えですか?」

 

 達也が克人に訊ねた。この場面で克人に聞くのはかなりの勇気が必要だろう。

 

「俺は彼らの要求する交渉に応じてもいいと思っている。もとより言いがかりに過ぎないのだ。しっかりと反論しておくことが、今後の禍根を残さないことにつながるだろう」

 

「ここは、待機するべきだと?」

 

「それについては判断しかねている。不法行為を見逃すわけにはいかないが、学校の設備を破壊してまで解決を要する犯罪性があるとは思えないからな」

 

 そこまで聞いて達也が自分の携帯端末を取り出し、どこかに電話をかける。

 

「もしもし、壬生先輩ですか?今どちらに?・・・はぁ、放送室にいるんですか、それはお気の毒に」

 

 壬生、剣道部の壬生紗耶香だろう。剣道部と剣術部の諍いに関わって、その後個人的に会う機会があったようだ。

 

「いえ、馬鹿にしているわけではありません。先輩ももう少し冷静に状況を・・・それで、本題に入りたいのですが。十文字先輩は交渉に応じてもよいと仰っています。生徒会の意向は未確認ですが・・・いえ、生徒会側も応じるそうです。というわけで、交渉の場所や日程やらについての打ち合わせをしたいのですが。・・・ええ、今すぐです、学校側の横やりが入らないうちに。・・・いえ、先輩の自由は保障します。では・・・」

 

 そう言って通話を終了する。

 

「すぐに出てくるそうです。それで、取り押さえる為の態勢を整えるべきでしょう」

 

「自由を保障するんじゃなかったのか?」

 

「俺が保証したのは壬生先輩の自由です。それに、風紀委員の代表として交渉しているなどとは一言も言ってませんから」

 

「人が悪いんですね、お兄様も。・・・ところで、壬生先輩のプライベートナンバーを保存していらした件については、後程詳しくお聞かせくださいね?」

 

 放送室から出て来たところを、風紀委員のメンバーが取り押さえる。沙耶香は達也に食ってかかっていたようだが、こちらは他の人員を取り押さえているため、向こうがどうなっているかは分からない。

 そうこうしているうちに、真由美が放送室へと到着した。交渉についての日程などを詳しく決めたいから、ここに取り押さえられている人たちを解放してあげて、との事らしい。

 有志同盟側を代表して沙耶香が、それと生徒会長である真由美と部活連の会頭である克人が一緒に日程などを決めるらしい。他の生徒会役員や風紀委員はその場で解散となったため、煌輝も帰ろうとしたところを真由美に声をかけられてた。

 

「一条君も、一緒に来てくれる?」

 

 それは第一高校の風紀委員としての一条煌輝ではなく、十師族一条家の一条煌輝に対してであることを、煌輝はその場で理解した。




今年もよろしくお願いします


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入学編Ⅶ

三箇日は親せきの集まりがあって正直面倒です・・・


 真由美は煌輝と克人を従えて、生徒会室の応接机で紗耶香との要求についての概要を聞いていた。

 概要については『一科生と二科生の待遇の改善』とのことらしいが、具体的にどうしてほしいかは答えられなかった。あとに聞いた話だが、達也が沙耶香に同じことを聞いていたがその時も答えられなかったという。

 この場で話が平行線で進まないので、明日公開討論会を開催することが決まった。沙耶香とはその場で別れ、生徒会室には真由美と克人と煌輝が残る。

 

「二人とも、気づいてる?今日放送室で捕えた生徒たちのこと」

 

「青と赤で縁取られたリストバンドだろう。あれはエガリテである証みたいなものだ」

 

 克人がそう答え、煌輝は首肯することで真由美の問いに答える。

 

「校内であんなリストバンドを大っぴらに着けて、一体何がしたいんだ?」

 

「壬生さんの受け答え、違和感があったと思うの。待遇の改善を要求しているのに、具体的には何も考えていないなんて・・・まるで自分の考えじゃないみたい」

 

「つまり、マインドコントロールの疑いがあるということですか?」

 

「分からないわ、でもエガリテの構成員が一高内に入っていることはこれで分かったでしょう」

 

「彼らはエガリテという組織を理解していないのでしょうか?それとも理解したうえで、あのリストバンドを着用しているのでしょうか?」

 

「それについては確証は持てんが、恐らく知らないだろう。反魔法テロリスト集団の下部組織であるエガリテであることを知っているのならば、この学校に通っている意味は無いからな」

 

 ブランシュは社会的に魔法師の収入が非魔法師である者の収入より上回っていることから、魔法という技術を目の敵にしており社会から魔法を撤廃させようとしているテロ組織である。その下部組織がエガリテである。

 

「明日の公開討論会、無事に済むと思う?」

 

「あまり言いたくはないのだが、恐らく済まないだろう」

 

「自分もそう思います。恐らく明日の公開討論会は囮になる。ここまでが敵の思惑通りだとするのならば、明日の公開討論会の間に、何らかの問題が発生してもおかしくはないと思います」

 

 ここに集まっている十師族の面々の意見は統一された。何かが起こる前に対策を練らなくてはならない。何かが起こってからでは、後手後手に回るのは得策ではない。

 

「一条君、明日の公開討論会の時、あなたは服部君と一緒に壇上に上がっていてほしいのだけど構わないかしら?それと、今は持っていないようだけど特化型のCADも忘れずに持っていてくれるかしら?」

 

 その発言に煌輝は目を見開く。特化型に入っている術式は『爆裂』を中心とした敵の殲滅魔法、敵を殺してその場を収める魔法だ。

 つまり有事の際は敵の生死は問わない、それを踏まえて真由美は煌輝に特化型のCADを持つように指示したのである。

 

「分かりました、敵の生死は問わせません。生徒側に危害を加えるようなことがあれば、俺がこの手で葬ります」

 

「ええ、構わないわ・・・ごめんなさい、そんな酷い役回りを任せてしまって・・・」

 

「気にしないでください。もとより俺の手は既に汚れています。佐渡侵攻に参加しましたから」

 

 新ソ連が軍隊を率いて佐渡へと攻めてきたことがある。その際に敵軍の撃退を担当したのが一条剛毅を中心とした義勇軍だ。将輝と煌輝はその義勇軍に参加しており、『爆裂』を持って敵兵を何人も葬り去ってきた。

 その事実をこの場にいる二人はもちろん知っているし、魔法師社会でも将輝と煌輝の二人の名声はかなりのものだ。

 

「ええ、頼りにしているわ。さて、今日はもう解散しましょ」

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日の五限、六限の時間を使って公開討論会が開かれることを全校生徒へと通達がなされた。

 朝から同盟が支持者を集めるために活動をしていたが、そんなことに意味があるとは思えない。魔法を学ぶために魔法科高校に来たというのに、その魔法の評価だけで一科生か二科生か、またその待遇が変わるのはおかしいという話だが、そもそも一科生と二科生に違いは指導教員がいるかいないかの差だけである。率先して活動している剣道部も剣術部と同じ日数の体育館が割り当てられているし、魔法系クラブと非魔法系クラブの部費の違いも課外活動の実績で決められているものであって、一科生と二科生ということは関係ないのだが、どうやら同盟側は何やら勘違い、という名の洗脳を受けている可能性が高い。

 公開討論会が始まり、同盟側の生徒が待遇改善の要求を述べるが真由美はすべての意見に対して説明をし、同盟側はそのまま引き下がるという形が続いている。

 そのまま公開討論会は真由美の演説会のようになっていった。

 一科生と二科生の意識の差こそが問題だ。自分が生徒会長の任期を終えるまでにその意識の差を少しでもなくしていくように努力していく。

 真由美の演説が終わり行動は拍手喝采に包まれるが、その時後者の方から爆発音が聞こえ、リストバンドを身につけた同盟の人間が行動を起こし、控えていた風紀委員がそれを取り押さえる。しかし講堂の窓から煙を吐き出す榴弾が飛び込んできたが、それは煙を吐き出す前に窓の外へと飛ばされていった。

 煌輝は壇上から飛び降りて特化型のCADを乱入者へと向ける。

 

「止まれ、武装を解除し手を頭の後ろへ組め!もしも反抗をするようならば、命の保証はできない」

 

 勧告をしたのだが敵の一人が銃を煌輝に向かって発砲する。煌輝は干渉装甲で銃弾を防ぎ、CADの引き金を引く。

 銃を発砲したテロリストは、煌輝がCADの引き金を引いた瞬間紅い花を咲かせ悲鳴を上げる間もなく絶命した。

 これが一条家の秘術の『爆裂』である。液体を気化させることによって内側から爆発させる。人に使えば紅い花を咲かせ、機械に使えば液体電池が気化し爆発する。今どきの機械は液体を使われていない機械はほとんどないため、『爆裂』を防ぐ手段は無い。

 煌輝はそのまま引き金を引き続ける。侵入者が全員絶命をした時点でCADを仕舞う。煌輝が引き金を仕舞い終わった時点で行動のそこかしこで口元を押さえて行動から出て行く生徒が続出し、煌輝の見る目が変わったがそのことを煌輝は気にせずに、真由美に講堂の外を制圧してくることを告げて講堂を後にした。




爆裂使いたかっただけ


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入学編Ⅷ

一時間以上かかった・・・


 

 制圧してくると言ったものの、どこで局地的に戦闘が起こっているか分からない煌輝はとりあえず本校舎を目指した。本校舎には実験室や実習室に置かれたCADなどがあるため、テロリストに狙われやすいと考えたのである。

 案の定テロリストは本校舎で戦闘をしていた。教職員が抵抗しているが旗色が悪そうだ。援護をするために威力を落とした圧縮空気弾を放つ。テロリストたちはそれに吹き飛ばされるが、教職員は何とか防いだようだ。

 

「すいません、先生方。大丈夫ですか?」

 

「一条君か、応援に来てくれたのか?」

 

「ええ、先生方は下がってもらえますか?できれば校舎内に敵がいるかどうか見て下さると助かります」

 

「分かった、すまないがここは任せよう」

 

 その場にいた教職員は校舎内に戻っていく。そして先ほど吹き飛ばしたテロリストたちが起き上がり、各々武器を取り出した。CADを持っていないことから、恐らくは全員が非魔法師なのだろう。

 それならばここを制圧するのはたやすい。特化型CADをしまい腕輪型の汎用型CADを操作する。放った魔法は『叫喚地獄』。

 叫喚地獄は広範囲の劣化爆裂みたいな魔法だ。爆裂は一瞬で気化させる魔法で、叫喚地獄は時間をかけて血液を沸騰させる。爆裂のように破裂はしないが、魔法師が無意識のうちに張っている情報強化で防げる程度の威力だ。ここにいる非魔法師は情報強化などは勿論張れないため、数秒で絶命する。

 本校舎付近のテロリストをすべて始末し終えたところで摩利から連絡が入った。

 

「一条、今は動けるか?」

 

「ええ、ちょうど本校舎付近のテロリストどもを始末し終えたところです」

 

「そうか、ならば図書館棟の方へ向かってくれるか?達也君から連絡が入った。敵の狙いは魔法の最先端研究資料だそうだ」

 

「了解しました、今から向かいます」

 

 煌輝は図書館棟へと急ぐ。連絡を聞いた限り、達也がすでに向かっているようだが、念のためだろう。

 図書館棟へ向かう最中にテロリストと同盟の生徒が一高の生徒と戦闘を行っていた。一人の男子生徒が大立ち回りを演じているが、敵の数は多くすぐに片付かなさそうだ。

 偏倚開放の威力をかなり落としたものを発動させる。テロリストと同盟生徒が入り混じってるため高威力では撃てない。

 

「大丈夫か?」

 

 大立ち回りをしていた生徒に訊ねる。見た感じ外傷も制服も乱れておらず問題はなさそうだ。

 

「おう、大丈夫だ!お前は・・・」

 

「自己紹介は後だ。とりあえず、ここを早々に片づけるぞ」

 

「おう!背中は任せとけ!パンツァー!!!」

 

 音声認識とはまた昔のものを引っ張り出してくる。そのままテロリストたちに突っ込み、敵を殴る。それを見て煌輝は驚かざるを得ない。

 その生徒は魔法の助けを借りずに人を一撃で昏倒させる威力の拳を放っている。

 負けてられないと思う煌輝はバトンで殴りかかってくる同盟生徒をベクトル反転の魔法で防ぎ、跳ね上げられた隙をついて鳩尾を殴りつけ気を失わせる。銃を持ったテロリストの攻撃は干渉装甲で防ぎ、テロリストには容赦なくCADの引き金を引く。それだけでテロリストは紅い花を咲かせ絶命する。

 数分と経たずに煌輝ともう一人の男子生徒、名を西城レオンハルトの活躍で制圧が完了した。

 

「あれが『爆裂』か・・・恐ろしい魔法だな・・・あ、いや、そう意味で言ったんじゃねえんだ」

 

「いや、間違っていないさ。この魔法は人の命を奪うことに特化しすぎている」

 

「あー、そのなんつーか、悪いな・・・」

 

「別に、気にしちゃいないさ。周りにどんな目を向けられても仕方がないと思ってる」

 

「お前は、一条だろ?俺は西城レオンハルト。レオで良いぜ」

 

「ああ、よろしく、レオ。俺も煌輝でいいぞ。まぁ呼びたければ、だがな」

 

「気にしちゃいねえよ。この学校を守るためだろ。なら仕方ねえよ」

 

 レオとの自己紹介が終わった時点で摩利から首謀者の生徒を捕まえたとの報告が入った。また図書館にいたテロリストも、達也と深雪が取り押さえ、逃げてきた壬生紗耶香も千葉エリカが取り押さえたとの報告が入り学校に来襲してきたテロリストの制圧は無事完了した。

 

* * * * * * * * * *

 

 保健室に運び込まれた沙耶香から話を聞くために、一高の首脳陣である真由美、摩利、克人と取り押さえた現場にいた達也、深雪、エリカ、そしてそれなりの規模の戦闘を制圧したレオと煌輝が保健室に集まっていた。

 沙耶香から聞いた話によると、剣道部の主将の司甲からエガリテの勧誘を受けた。その時は差別撤廃に関することしか話しておらず、最終的にここまでの規模にまで膨れ上がるとは思っていなかったそうだ。その時期には剣道の手合わせを摩利にお願いしたらしいのだが摩利がこれを固辞。

 このことに関しての沙耶香は『自分じゃあ渡辺先輩の実力にまだまだ及ばないから、相手をするだけ時間の無駄だ』と解釈したらしい。

 しかし摩利は『剣の腕に関しては壬生の方が数段上だ。魔法を絡めれば私に軍配が上がるだろうが、純粋な剣の腕ではお前にはかなわない。そんな不釣り合いな私と手合わせをしても時間の無駄だから、自分の実力に釣り合った相手とやると良い』という意味で固辞したらしい。

 ここまで認識に差が有るということは、やはりマインドコントロールを受けていたのだろう。沙耶香が自分を卑下し始めたところで達也が沙耶香に

 

「強くなるきっかけは人様々です。確かに壬生先輩が身につけた力は哀しい強さかも知れませんが、ここまでの努力を否定してしまったときにこそ、その努力に費やした日々が本当に無駄になってしまうのではないでしょうか」

 

「司波君・・・」

 

 達也を見上げる沙耶香は涙を流し続ける。

 

「司波君、少しこっちに来てくれないかしら?」

 

「こうですか?」

 

「もう少し・・・ちょっと・・・ごめんね」

 

 そうして堪えられなくなった嗚咽を鳴き声へと変える。

 しばらく泣いてすっきりしたのか、紗耶香は今回のテロ事件の黒幕がブランシュであることを明かした。

 

「あっけないと言いますか、予想通り過ぎると言いますか・・・」

 

 そして達也の目つきが鋭くなる。

 

「問題は、今彼らがどこにいるかということですが」

 

「・・・達也君、まさか彼らと一戦交えるつもりか?」

 

「その表現は妥当ではありませんね。一戦交えるのではなく、叩き潰すんですよ」

 

「危険だ!学生の領分を超えている!」

 

「このことは警察に任せましょう!」

 

「そうして壬生先輩を、家裁送りですか?」

 

 その一言に、真由美も摩利も言い返せない。

 

「司波君、私のためなら辞めて。それはあまりにも危険すぎる」

 

「壬生先輩のためではありません。自分の生活空間が標的になったんです。俺はもう立派な当事者ですよ。俺は、俺と深雪の日常を損なおうとするものを、全て駆除します。これは俺にとって、最優先事項です」

 

 あまりの迫力に、一同は声を出せなくなる。しかしその沈黙を克人が破った。

 

「確かに、警察の介入は好ましくない。だからと言って、このまま放置するわけにはいかない。だがな司波、俺たちはわが校の生徒に、命を賭けろとは言わん」

 

「もとより、部活連も風紀委員の力も借りる気はありませんよ」

 

「一人で行こうというのか?」

 

「そう言いたいところなんですが・・・」

 

「お供します、お兄様」

 

「私もよ」

 

「俺もだ」

 

 次々と参加表明をしていく。

 

「しかしお兄様、敵のアジトを、どのように突き止めればよろしいでしょうか?」

 

「知らないのならば、知っている人に聞けばいいさ」

 

 おもむろに保健室の出入り口に向かい、扉を開ける。そこに立っていたのは小野遥先生だった。

 

「小野先生・・・?」

 

「九重先生秘蔵の隠し子から隠れおおせようとするなんて、やっぱり甘かったか・・・」

 

「隠れているつもりもなかったでしょうに・・・」

 

 達也が呆れながら遥に言い放つ。少し気まずそうにしながらも、遥は沙耶香に向かって歩みを進める。

 

「ごめんなさいね、力になれなくて・・・」

 

 その言葉に沙耶香は首を横に振る。

 

「地図を広げてくれるかしら?その方が説明しやすいから」

 

 端末の地図を拡大し、とある一転を赤い点が示す。これがブランシュの今のアジトなのだろう。

 それは一高から少し離れた廃工場で、目と鼻の先に構えられていた。

 

「車の方がいいだろうな・・・魔法は探知されるだろうしな。ならば、車は俺が用意しよう」

 

「え?十文字君も行くの?」

 

「十師族に名を連ねる十文字家のものとして、これは当然の務めだ」

 

「十文字殿、俺も同行してよろしいでしょうか?俺も、一条ですから」

 

「構わん、頼りにしているぞ」

 

「なら私も・・・」

 

「七草、お前はやめておけ」

 

「この状況で生徒会長不在は流石にまずい」

 

「・・・なら摩利、あなたもダメよ。まだ残党が校内に隠れているかもしれないのだから、風紀委員長に抜けられるのは危険だわ」

 

 意趣返しとでも言わんばかりに摩利へ参加を諦めさせる。

 

「今からいくと、日が暮れるかもしれんが?」

 

「大丈夫です。そこまで時間は掛けません」

 

「そうか」

 

 こうして克人、達也、深雪、煌輝、レオ、エリカの参加が決定し、各々が準備を始め校門前に向かう。

 最後の達也が到着した時点で、達也はとある人物の存在に気付く。

 

「よお司波兄。俺も参加させてもらうぜ」

 

「どうぞ」

 

 それは部活動勧誘期間の初日の因縁がある、桐原武明だった。




急いで書いたのでほぼ確実に誤字ってます。

すいません・・・


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入学編Ⅸ

ローマ数字がぱっと読めない馬鹿です

今回で入学編は終わり、次回から九校戦編です


「お疲れ様、レオ」

 

「・・・なんの、ちょろいぜ」

 

「ふふっ・・・疲れてるじゃない」

 

 一行はブランシュが根城にしている廃工場へと到着した。レオが入る前から疲れているのは、廃工場の門を破る際に車に硬化魔法をかけるために多大な集中力を使用したからである。

 

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が説明をしろ」

 

「分かりました。俺と深雪は正面から、十文字先輩と桐原先輩と煌輝は裏手から回ってください。レオとエリカは逃走した残兵の確保だ」

 

「始末じゃなくてもいいの?」

 

「無駄なリスクを負う必要は無いだろ。では、各自よろしくお願いします」

 

「桐原、一条。俺たちも向かうぞ」

 

「了解です」「分かりました」

 

 その場で達也たちと別れ克人と桐原と廃工場の裏手へと回る。到着するころには正面から乗り込んでいる達也たちは恐らく交戦中だろう。

 

「では行くぞ、準備はいいか?」

 

 頷いて完了であることを伝える。煌輝は特化型のCADを構え、桐原は刃引きした刀を持ち、それぞれ臨戦態勢に入る。

 克人がCADを操作し『ファランクス』を使って扉を破壊する。そのまま『ファランクス』を使いながら少し進むが、まだ敵の気配はない。

 

「どうやら、敵はもっと奥にいるようだな」

 

 それでも警戒を緩めずに奥へと進んでいく。遮蔽物が増えてきたところで銃を構える音が聞こえた。克人は『ファランクス』を発動し、煌輝は干渉装甲を展開する。ブランシュのテロリスト集団が銃を乱射してくるが、『ファランクス』も干渉装甲も突破できない。やがて装填してきた銃弾が切れたのか、リロードをしている隙に桐原が飛び出し『高周波ブレード』を発動しテロリストを切り裂いていく。残っているテロリストが居れば煌輝の『爆裂』が襲い、辺り一面には血によって紅い花が咲く。

 

「それが一条家の『爆裂』か・・・」

 

「幻滅しましたか?」

 

「いいや、こういう戦場では頼もしい限りだな。ただ絶対に敵には回したくはねえがな」

 

「二人とも、話すのはそのあたりにしておけ。何やら声が聞こえないか?」

 

 耳を澄ますと壁の向こうからは人の悲鳴や呻き声がかすかに聞き取れた。何やら壁の向こう側で交戦があったらしい。

 

「会頭、俺がこの壁を切り開きます」

 

 剣を抜き高周波ブレードを発動させ、壁に向かって切り付ける。壁が切断されその壁には青年が寄りかかっていた。その向こう側では脚の付け根から出血をしているテロリストが大勢おり、足元にはバラバラになった銃火器と思わしきものが多数転がっていた。

 

「ほう、やるじゃねえか司波兄。それで、こいつは?」

 

「それがブランシュのリーダーの司一です」

 

「へえ、こいつが・・・」

 

 声に怒気を潜めた桐原が『高周波ブレード』を発動させた剣で切りかかる。

 

「こいつか、壬生を誑かしやがったのはーーー!!!」

 

「ヒ、ヒィーーー!!!」

 

 指輪に埋め込んであるアンティナイトによるキャストジャミングを使うが桐原の『高周波ブレード』は効力を失わずに司一の右腕を切断した。

 

「ギャァーーーーー!!!!!!」

 

 悲鳴を上げ、血の雨を降らせながら失禁する。その光景に克人は眉を顰めてCADを操作する。切断面から煙が上がり止血される。廃工場での戦闘はこうして終止符を迎えた。

 

* * * * * * * * * *

 

 後日、ブランシュの日本支部が崩壊したことがニュースの一面を飾った。事後処理には十文字家と一条家が率先してやったので、報道では十文字克人、一条煌輝両名がブランシュを解散に追い込んだことになっている。これは一学生の達也たちが崩壊させたことを報道されることを避けるためだ。

 

 沙耶香は入院することとなった。マインドコントロールの影響が消えるまで、そしてエリカと戦った際の亀裂骨折の治療のための入院で、すぐに退院できるらしい。

 

 司甲、他剣道部の部員たちが罪に問われることは無かった。マインドコントロールの影響下にあったためであり、魔法科高校の学生が反魔法テロリストに加担していたという事実を表に引っ張り出さないためである。

 

 現在、煌輝は一条家の別邸。煌輝が今住んでいる家で一条家当主である剛毅に今回の事件の顛末を報告していた。

 

「――以上が今回のテロ事件の顛末とその報告です」

 

「うむ、ご苦労。まさか本当にブランシュが一高へ襲撃してくるとは・・・一条家の魔法師としての務め、よく果たしてくれたな」

 

「ありがとうございます」

 

「それで、学校生活は順調なのか?」

 

「・・・ああ、問題ないよ。授業も実習も上位に入っている。何もなければ、恐らく九校戦のメンバーにも選ばれると思う」

 

「将輝も九校戦でお前と戦うことを楽しみにしていた。俺は応援に行けないが、出るならば十師族として恥ずかしくない結果を残してくれ」

 

「分かっている」

 

「ではな。夏休みには実家に帰って来いよ」

 

 最後に少し、親子としての会話をして通話を終了する。

 煌輝はこの報告で一つ嘘をついている。学園生活は概ねうまく行っている。しかし一つ、自分は気にしていない事柄だが周りの自分を見る目が変わった。

 テロ襲撃で講堂で放った、そしてレオと共戦している時に放った『爆裂』。これを見た一般生徒が煌輝を畏怖の感情を込めるようになった。

 そして煌輝は、一高で孤立することとなった。




エピローグを含めてもこの短さ

今回は結構短めですね。九校戦も『無頭竜』とのいざこざは起こさないのでそこまで長くなることは無いでしょう、多分・・・


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九校戦編
九校戦編Ⅰ


なんか今日だけでかなり評価してくれる人がいてとても嬉しいですよ

それが評価星1だとしてもそれは自分の実力不足だと身にしみてわかるのでありがたいと思います

そして粘度aさん、今日1日でたくさんの誤字報告ありがとうございます!


 

 一条煌輝は一高から孤立している。原因は先日のテロリスト襲撃の際の『爆裂』だ。仕方がないこととはいえ人を殺した。『爆裂』は死体がグロテスクで吐き気を催している生徒も多数いた。

 戦時中とはいえすべての人が殺す覚悟を持っているわけではない。暴言を吐かれたり暴力を振るわれたりということではない。ただ煌輝を見る視線に『恐怖』の感情が入ってきてしまうのだ。

 朝、登校して教室に入るとクラスメイトの視線が一斉にこちらを向く。話が一旦止まり誰かが声をかけようと逡巡している間に、煌輝は自分の席に着いて授業の準備を始めてしまう。昼休みになり食堂でも同じようなことが起こる。たまに達也やエリカ、レオなんかは話しかけてくるのだが、基本的には一人だ。

 そしてこの状況に頭を悩ませているのは首脳陣の三人だ。試験が終わり夏休みに入れば九校戦が始まる。煌輝は一年男子のトップの成績であり、一年のエースなのだがこのままこの状況が続けばチーム戦であるモノリスコードには問題が出てしまう。そして煌輝は孤立している状況を十全に理解しており『モノリスコード』の出場を辞退しようとしている。

 そしてとある日の放課後、煌輝は生徒会室に呼び出されていた。

 

「一条君、やっぱりモノリスコードには出れないのかしら?」

 

「出てもいいのですが、やはり今の俺がチーム戦に加わるのはあまりいい結果を生まないと思うのですが・・・申し訳ないのですが氷倒しだけでお願いしたいのですが」

 

「ふぅ・・・分かったわ。モノリスコードは男子で次に成績がいい森崎君たちにお願いするしかないわね」

 

「申し訳ありません、氷倒しも優勝できるとは限らないのですが・・・準優勝以上はお約束できると思いますが、優勝は恐らく将輝に取られるかもしれません・・・」

 

 魔法の発動速度は煌輝よりも将輝の方が早い。液体を気化させる『爆裂』は氷柱を一瞬で破壊することができ、『爆裂』の殴り合いとなれば勝算はかなり薄い。

 

「やる前から弱気なこと言わないの!どうせやるなら勝ちましょう!ね?」

 

「そうですね、少し弱気になってました」

 

「ごめんなさい・・・私があんな指示を出さなければ君は――」

 

「七草さん」

 

 煌輝は基本的に真由美のことは『会長』、克人のことを『会頭』と呼ぶが、十師族としての話をするときはさん、殿を敬称で着ける。

 

「俺は七草さんの指示が無くても『爆裂』を使ってました。そのことで七草さんが気にすることはありません。俺は一条としての責務を果たしただけですよ」

 

 一礼しその場を去る。煌輝の九校戦の出場競技は氷倒しの単一エントリーとなった。

 

* * * * * * * * * *

 

 とある日の放課後、会議室にて九校戦のメンバーの最終選定が行われ、九校戦のレギュラーに選ばれているメンバーは全員集合とのことだった。前に座っているのは真由美、克人、摩利の首脳陣。出場メンバーで知っている顔は三年の辰巳鋼太郎、二年の服部刑部、桐原武明、中条あずさ、百家の五十里啓、千代田花音、一年は光井ほのか、北山雫、森崎駿、そして居心地悪そうに座っている司波達也だ。

 会議が始まりまず最初に話題に上がったのは何故二科生である達也がここにいるのか?ということだ。どうやらエンジニアとして真由美が推薦したらしいが、他のメンバーは彼のエンジニアとしての技術がどの程度か知らないため反対しているものがいた。ただその中にも何人か好意的な意見も言っている者もいるため、会議は平行線のまま進まない。

 

「つまり、司波がどの程度の腕前か分からないのがこの会議の停滞を生んでいるということでいいか?ならば実際にやらせてみればいいだろう。何なら俺が実験台になるが?」

 

「いいえ、彼を推薦したのは私ですから私が」

 

 魔法を使うには心理状況がかなり左右される。信頼を置けないエンジニアにCADの調整を任せると魔法がうまく使えないのはそのエンジニアの腕を疑って魔法の発動がうまく行かないのだ。さらに魔法発動がうまく行かないと眩暈などの体調不良などの症状が出てくる。現状達也の技術を知らない身としての立候補はかなり勇気のあるものだった。しかし克人と真由美は達也を好意的、ないし卑下しているようなことは無い。彼をエンジニアにしたいがため虚偽の報告をするかもしれないことは否めない。克人がそうするとは全く思えないが。

 

「いえ、その役目。俺にやらせてください」

 

 その中でもう一人立候補したのは桐原だ。その桐原の男気に達也は微笑を浮かべていた。

 会議室に実際に九校戦で使う機器を用意し達也のエンジニアとしての技術を見ることとなった。学校で使うのはヘッドセットに計測用パネルに想子を流して、あとは機械による自動調整によるものだ。

 その自動調整からいかに使用者に使いやすく調整するかがエンジニアとしての腕の見せ所だ。

 達也が計測器を準備し、桐原が計測用パネルに想子を流し込む。

 

「計測が終了しました。外してくださって結構ですよ」

 

 達也が桐原にそう伝え、ディスプレイを見たまま動かない。見学者は何かのミスか?と思っているが、あずさは何をしているのか気になったのか後ろからディスプレイをのぞき込み・・・

 

「ふぇ?」

 

 と声をあげる。ディスプレイには文字が高速で羅列されており、羅列が終了したかと思うと次のウィンドウを開き調整を続ける。これは完全マニュアル調整で、機械で合わせるところを自分で調整することによって、CADが許す限りのスペックを反映させることができる。

 やがて調整が終了しCADを桐原が操作する。

 

「何か違和感はあるか?」

 

「いえ、自分が普段使っているものと、何ら遜色有りません」

 

 その結果に少なくないどよめきが上がるが、時間がかかっているとかもっと効率よくできないのかやり方が変則的過ぎるなどという言葉が飛び交う中、あずさは一人声をあげた。

 

「私は司波君の技術スタッフ入りを強く推薦します!彼が披露した技術は、ここにいる誰よりも高いものです!スペックの違うCADをフルコピーしてここまでの安全マージンを取れるなんてとてもすごい事なんです!完全マニュアル調整なんて、少なくとも私には出来ません!」

 

「それでも出来上がりが平凡だったら意味が無いんじゃないか?」

 

「そ、それは・・・きっといきなりだったから・・・」

 

 もともと弁が立つ方ではないあずさだ。その言葉に言い返せずに歯噛みしていると、服部からの援護射撃が上がった。

 

「桐原が普段使っているCADは競技用のものよりも数段上のスペックのものだ。それを普段使っているのと何ら遜色ないと言わせた司波の技術には舌を巻かざるを得ない。九校戦はわが校の威信をかけた戦いです。それを前例がないとか、二科生だからという理由に拘っている場合ではありません。会長、俺は司波の技術スタッフ入りを強く推薦します」

 

 言葉の端々に棘が見える辺り、確執は残っているようだがその確執が残っている服部が達也の技術スタッフ入りを推薦したことによって、大局は既に決まったと言っていい。

 

「服部の意見はもっともなものだと俺も思う。司波はわが校の代表メンバーにふさわしい技量を示した。俺も、司波のチーム入りを支持する」

 

 この場の代表である克人が支持したことにより、達也のメンバー入りが確定した。




達也の技術披露に煌輝を使ってもよかったんですが、煌輝は孤立しているという理由で意見をあまり言いません。

ここは原作通り桐原にやってもらいました


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九校戦編Ⅱ

すいません、サボってましたごめんなさい


 

 達也が技術スタッフとして九校戦に参加することが決まった翌日、一科生のクラスではその話題にそれぞれが一喜一憂していた。

 一科生としてのプライドが高いものや将来魔工師志望のものはかなり悔しがっており、何であいつが・・・という雰囲気だった。深雪、ほのか、雫の三名は当然とばかりに誇らしげだったが、そのような好意的な派閥はかなり少ないだろう。

 午後の授業の時間を使って九校戦出場者の壮行式が行われることになっている。九校戦出場者には競技出場者、技術スタッフそれぞれ別の色のブルゾンが配布されており、それを着て壮行式に出なくてはならない。

 午前の授業が終わり、出場者がそれぞれ壮行式の準備に入る。ブレザーを脱ぎ配布されたブルゾンを着用し、講堂の袖で待機している。司会進行役の真由美と、IDチップが組み込まれた徽章を着用する深雪は制服姿のままだ。

 壮行式が始まり恙なく進行される。二年三年の生徒から始まり一年、そして技術スタッフの順に呼ばれることになっている。

 二年三年の紹介が終わり、一年の紹介へと移る。煌輝は一年で一番端にいる。つまり最初に名前を呼ばれるのだ。

 

「一年A組、一条煌輝」

 

 真由美から名前を呼ばれ一歩前に出てお辞儀をする。深雪が煌輝の前へ立ち、ブルゾンに徽章を着用する。この徽章が無いと選手として認められず競技エリアに入場できないのだ。

 そのまま一年の紹介が終わり技術スタッフの紹介へと移る。最後の達也の名前が呼ばれたとき、一科生たちから野次が上がりそうになるが、前へ陣取っていた一―Eの生徒たちが高らかと拍手をしたことでそれは食い止められた。その様子を見て達也は苦笑していたが。

 最後に真由美と深雪が拍手を行い、九校戦に出場する選手全員に対する拍手へと変わった。

 

* * * * * * * * * *

 

 放課後となり九校戦に向けての練習が始まる。煌輝が出る『氷倒し』は先に敵陣の氷柱十二本を破壊したほうが勝者となる。

 煌輝は『爆裂』によって氷柱を一瞬で破壊することができるため守備は捨てて攻撃重視の戦法を取る。守備をしても煌輝の干渉力を突破できる一年はそうそう居ないが、守備に魔法力を回すよりも攻撃に回すべきだ。

 

「一条君、よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそよろしくお願いします、中条先輩」

 

 煌輝のエンジニアはあずさだ。

 

「とりあえず使う魔法は『爆裂』のみですよね?それなら特化型のCADで大丈夫でしょうか?」

 

「はい、『爆裂』以外の魔法を使う理由はありませんし、速さ重視の特化型でお願いします」

 

 煌輝が普段使いしているCADは九校戦で規定されているCADよりもスペックが高いため、競技用のCADに術式をコピーしなければならない。使う魔法は一種類なので、使い慣れている拳銃形態の特化型CADを使うのは妥当だろう。

 あずさは煌輝が普段使いしているCADを受け取り競技用のCADに術式をコピーしていく。スペックの違うCADに術式をコピーすることはあまり勧められないのだが、あずさの技術は達也ほどではないが安全マージンは保障されていた。

 

「とりあえず術式を入れました。細かい調整は練習をしながら行っていきたいと思うのですが・・・良いですか?」

 

 オドオドとした様子で聞いてくる。その様子に苦笑しながらも煌輝は首肯する。

 三年の先輩がプールの水を移動魔法で氷柱の形にする。それを減速魔法で凍らせる。その作業が結構ギリギリだったようで息を切らしていた。

 作戦スタッフの人からそれぞれ一回練習をする旨を伝えられる。最初は二年の千代田花音、百家の千代田家だ。それと三年の女子生徒がやるらしい。

 それぞれが指定された場所へ立ちCADを構える。始まりの合図があると同時に二人がCADを操作する。

 千代田家は『地雷源』と呼ばれ、地震を起こす振動魔法を得意としている。三年の生徒の魔法が花音の氷柱を一本破壊するが、花音の方は同時に三本破壊していく。

 その様子を見て防御魔法を放つが花音の方は意に介さずといった姿勢で氷柱を破壊していく。花音が防御を全くしないことに気が付き三年の生徒も攻撃に転じるが、すでに自陣の氷柱は半分ほどとなっており、すべて倒されるのは時間の問題だった。

 三年の生徒が五本ほど倒したところで、花音が全ての氷柱を破壊し終える。結果は花音の圧勝だった。

 花音が人目をはばからずに担当エンジニアである五十里に抱き着き喜びを露わにしている。千代田花音と五十里啓は婚約者同士らしいが、五十里の方は持て余しているようだ。

 そのまま練習は続き煌輝の出番となった。相手は同じ学年の男子生徒だ。

 指示された場所へと立ちCADを構える。男子生徒は少しビビりながらもCADを構える。あくまで『爆裂』を使うのは氷柱であって、彼自身に使うことは無いのだが。

 試合開始の合図が出され、煌輝は構えていたCADの引き金を引いた。それだけで一本の氷柱が砕け散る。

 液体を気化する爆裂を氷柱に使うことによって氷は一瞬で砕ける。情報強化で一応の防御は可能だが、煌輝の干渉力を上回らなければ不可能なため一年の彼にはかなり荷が重い。

 そのまま十二回引き金を引きすべての氷柱を破壊し終える。試合時間は数秒、ここまで一番早い花音ですら一分近くかかっているのだが、それを大きく上回る試合時間の短さに、見ていた人たちは驚きを隠せない。

 一礼しあずさの元へと向かう。CADの調整のためだ。

 

「どうでしたか?」

 

「いつもよりも魔法の発動速度はかなり遅めですね。いえ、中条先輩の技術の問題ではなく、CADのスペックの問題ですのでそんなに落ち込まないでください」

 

 目に見えて落ち込むあずさを慌ててフォローする。ただこれ以上早くするのは自分自身の問題だと分かり切っているため、しばらくはこれで発動スピードを上げるしかないと思う煌輝だった。

 

* * * * * * * * * *

 

 家に帰り今日の復習と明日の予習をしていると電話が掛かってきた。相手は将輝だった。

 

「もしもし、将輝か?どうしたんだ?」

 

「少し聞きたいことがあってな。何でピラーズブレイクの単一エントリーなんだ?お前の実力なら、間違いなくモノリスコードも出るべきだと思うんだが・・・」

 

「少し・・・な」

 

「何かあったのか・・・?」

 

「特に何かあったわけじゃねえよ。まあテロリストが一高に襲撃してきてから少しあったんだよ」

 

「そう言えば一高がブランシュに襲撃されたようだが・・・まさか!」

 

「もういいか?それと、母さんと茜と瑠璃、父さんには話さないでくれると助かる」

 

 そうして通話を終了する。このことに関して煌輝が何かできるわけではない。これは時間だけが解決してくれると思うからだ。




この長さで執筆にかかった時間は約一時間、意外と時間かかるものなんですね


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九校戦編Ⅲ

これ一番ヒロインにしやすいのって深雪なんじゃないかって気がしてきた…

十師族的なあれで、将輝はその場合、弟にNTRれますがwww

タイトルを少し変更します

「一条家次男は第一高校」に変更させていただきます、誠に勝手ながら申し訳ありません…


 九校戦前日、懇親会のため会場のホテルには前日までに入っていなければならない。九校戦の会場は山梨県のため、東京の一高は当日の出発となる。出発の予定時間は過ぎているのだが真由美が『家の都合』で遅れてくると連絡があった。真由美は先に行ってて構わないと言っていたのだが、生徒側が待つという意見で纏まったため現在は真由美が到着するのを待っている状態だ。

 点呼を取っているのは技術スタッフの達也だ。炎天下の中、外で真由美が到着するのを待っている。摩利と何やら話しているようだが恐らくは他愛もない世間話だろう。

 出発予定時間から一時間後、真由美が到着し、達也は技術スタッフの乗っている車へと移動する。その際に何やら真由美が達也をからかっていたようだが、達也は軽く流したようだ。

 バスが出発し各々が雑談に耽っている。煌輝は人数の関係上、隣がいないため九校戦の各校の出場選手のデータを眺めていた。

 移動中の空気が何やら穏やかではない。原因は花音と深雪のようだ。花音は啓が、深雪は達也が作業車にギュウギュウ詰めにされていることに納得がいかないようで。

 

「・・・ええと、深雪、お茶でもどう・・・?」

 

「ありがとう、ほのか。でも、ごめんなさい。まだそんなに喉は渇いていないの。私はお兄様のように、この炎天下に、わざわざ、外に立たされていたわけじゃないから」

 

 ほのかが深雪の御機嫌取りをしていたようだが、どうやら地雷を踏む結果になってしまったらしく、深雪の機嫌はますます悪くなっていく一方だった。

 

「・・・まったく、誰が遅れてくるのか分かっているんだから、わざわざ外で待つ必要なんて無いはずなのに・・・。なぜお兄様がそんなにお辛いことを・・・」

 

 深雪はどうやら自分の世界に入ってしまったらしく、何やら独り言をぶつぶつと話し始める。

 

「・・・しかも機材で狭くなった作業車で移動なんて・・・せめて移動の間くらい、ゆっくりとお休みになっていただきたかったのに・・・」

 

 この独り言を聞いていた人は『私の隣で・・・』が抜けていると突っ込みたかっただろうが、今の彼女にそんな突っ込みをする蛮勇の持ち主はいなかった。

 独り言をつぶやいている状況に誰もが近付き難い状況になっている中、雫が深雪に話しかける。

 

「でも深雪、そこが御兄さんの凄いところだと思うよ」

 

 独り言を聞かれていたと思っていなかった深雪は、咄嗟の事に反応できなかった。

 

「バスの中で待っていても文句を言うような人は、多分ここにはいない。でもお兄さんは『選手の乗車を確認する』という仕事を誠実に果たしたんだよ。確かに出欠確認なんてどうでもいい雑用だけど、そんなつまらない仕事でも、手を抜かず、思いがけないトラブルがあったにもかかわらず当たり前のようにやり遂げるなんてなかなかできることじゃない。やっぱり深雪のお兄さんって凄いんだね」

 

 雫のセリフが効いたのか、深雪は機嫌を急上昇させていく。

 しかしここで一つ問題が起こる。先ほどまでは不機嫌オーラ全快だった深雪だが、現在は機嫌がいい。普段話す機会が違う他学年の男子が急に深雪の所へと群がりだしたのだ。

 このままだと深雪のフラストレーションがたまっていく一方だと思った摩利は深雪を煌輝の隣へ移動するように言ってきた。煌輝は現在避けられているような状況のため、番犬のような役割を果たしているのだ。

 

「すいません、一条君。ご迷惑ではありませんか?」

 

「これくらいなら全然構いませんよ。人気者は大変ですね」

 

「揶揄わないでください・・・」

 

 そうしてバスの中に平穏が保たれた。

 しかし束の間の平穏もすぐに崩れることになる。

 

「危ない!」

 

 花音が外を見ながら急に声をあげた。皆が慌てて窓の外を見てみると一台の車が高速の対向車線から炎上しながら乗り上げて来た。

 バスが急ブレーキをかけ、止まったところでバスに乗っていた生徒たちが魔法を発動しようとCADを操作し始める。

 

「吹き飛べ!」「消えろ!」「止まって!」

 

「おい!止めろ!」

 

 摩利が叫ぶが耳には届かない。それぞれが勝手に車を止めようと魔法を行使し始める。

 同じ空間で違う魔法を使おうとすると相克が起こってしまい、キャストジャミングのような状態になってしまう。自分の魔法が使えないどころか周りの者の魔法を阻害してしまうのだ。

 

「深雪さん、今よりも相克が収まれば火を消すことはできますか?」

 

「え?え、ええ、可能ですが・・・何を?」

 

「その答えで充分」

 

 煌輝は想子を手に集中させて『術式解体』二発、を恐らく干渉力がこの場で一番高い花音と、距離的な問題で雫に向かって放つ。

 

「「えっ!?」」

 

 急に魔法式が吹き飛ばされたことにより驚きの声をあげる両名。そして急激な想子枯渇のため煌輝は気を失った。

 

「一条君!?大丈夫ですか!?」

 

 深雪が声をかけるが、顔色を悪くしたままその問いかけには応じない。そして深雪は煌輝に直前に言われたことを思い出した。

 

(そうだ、消火!)

 

「私が火を!」

 

 障壁魔法で車を止めようとしていたが、相克が酷く魔法を発動していなかった克人がそれに頷く。

 深雪はCADを操作し凍結魔法を使い車の火を消す。消火が確認されたところで克人が障壁魔法を張り車はその衝撃でひしゃげて止まる。

 

「みんな、大丈夫?」

 

 今の今まで寝ていた真由美が起き、現状を確認する。

 

「危なかったけど、もう心配はいらないわ。十文字君と深雪さんの活躍で大惨事は免れたみたい。けがをした人は、シートベルトの大切さをかみしめて、次の機会に役立ててね?」

 

 ウィンクをしながらおどけて言い放つ。

 しばらく証拠確認のために停車していたが、それも終わるとバスは九校戦の会場に向けて出発する。

 九校戦の会場には午後には到着したが、その間に煌輝が目覚めることは一度としてなかった。




これヒロイン深雪路線のつもりで進めていくことにします。

どうなるかは知りませんが…タグも追加しておきます


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九校戦編Ⅳ

ヒロインは深雪です、異論は認めん

そして達也のヒロインはリーナです


 九校戦の会場に到着後、バスに乗っていたレギュラー、作業車に乗っていた技術スタッフは次々と車から降り割り当てられたホテルの部屋へと向かっている。深雪は会場に到着しても目を覚まさずに気を失っている煌輝のことを心配し達也の元を訪れていた。

 

「お兄様、少しお時間よろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わないよ。どうしたんだい?」

 

「先ほどの事故から一条君が目を覚まさないのですが・・・何が原因か分からなくて・・・あの、どうすれば――」

 

「とりあえず煌輝の元へと向かおうか。まだバスに乗っているんだろう?」

 

「ええ、目を覚まさないので・・・」

 

 達也と深雪はバスへと向かい煌輝の容体を確認する。

 

「これは急激な想子枯渇で気を失っているな・・・深雪、煌輝は想子を大量に使うようなことをしていたか?」

 

「『術式解体』を使っていました。車を止めるために無秩序に放たれた魔法の相克を抑えるために千代田先輩と雫の魔法式をそれで吹き飛ばしていました」

 

「深雪も知っているだろうが、『術式解体』は大量の想子を圧縮して弾丸として放ち、魔法式を吹き飛ばす対抗魔法だ。煌輝の想子保有量ではぎりぎり打てる程度の想子量なんだろう。覚えてるか?入学してすぐに森崎達に絡まれたとき。ほのかの魔法を吹き飛ばしたのは煌輝の『術式解体』だ。ただの想子枯渇だから、しばらくしたら目を覚ますよ」

 

 その言葉に深雪は安堵する。目を覚ましたらどこへ向かうかの書き置きを傍においておき、達也と深雪はホテルへと向かっていく。

 その約三十分後、煌輝は目を覚まし傍に置いてあった書き置きを見て自分の荷物をまとめて割り当てられた部屋へと向かう。煌輝と同室なのは達也である。

 

 想子枯渇による気絶から目を覚ました煌輝は、まだ倦怠感は残っているものの一応は動ける程度まで回復したのでホテルの部屋へと向かう。これ以上回復しなさそうならば懇親会の参加は見送りたいが、久しぶりに将輝達に会えるとあって無理をしてでも出ようと思っている。

 部屋に到着しノックをする。ドアは自動ロックで部屋の鍵は先に部屋に行った達也が持っている筈なので自分で開ける手段が無いのだ。

 ドアに近づいてくる足音を聞き自分の名前を告げる。達也がドアを開け煌輝は謝辞を告げながら部屋へと入る。達也は何やら機械をいじっていた。機械にそこまで詳しくない煌輝は何をしているのか分からなかったが。

 

「俺は一旦寝る。まだ体が怠くてな。俺のことは気にせず、来客が来たら通してくれて構わないぞ」

 

 言いたいことだけを伝えベッドへと潜り目を閉じる。眠気はすぐに襲ってきて煌輝は深い睡眠を取り始めた。

 

* * * * * * * * * *

 

 懇親会が始まって三十分ほどになり煌輝は目を覚ました。先ほどよりも倦怠感は良くなっており、全快とは言えないものの普段通りの振る舞いができる程度までは回復したため慌てて制服を着用し、会場となっているホールへと向かう。

 遅れて会場に到着すると各校に別れて飲食をしながら談笑をしていた。三校の所へ向かおうかとも思ったが、最初は遅れてきたことを会長である真由美の所へ向かい謝罪をしてから深雪の所へ向かい礼を言う。幸い真由美は各校の会長への挨拶を終えた所のようだ。

 

「七草会長、すいません。遅れてしまいました」

 

「あら、一条君。もう大丈夫なの?」

 

「ええ、全快とは言えませんが日常生活を問題なく過ごす程度には回復しました」

 

「それなら良かったわ。バスではありがとう。おかげで助かりました」

 

 真由美が軽く頭を下げながら礼を言ってくる。しかし自分がやったことと言えば二人の魔法式を吹き飛ばしたこと位だ。その後は気を失っていてあまり役には立てなかった自覚があるため素直に受け取りがたいものがある。

 

「いえ、早々に気を失ってしまって申し訳ないです。あまり役には立てませんでしたので頭をあげて下さい」

 

 余りここに長居はできない。他にも会いたい人は何人かいるのだ。軽く一礼をしてその場を去り、深雪の姿を探す。深雪は達也とエリカと何やら話していたようだった。

 

「達也、深雪さん・・・とエリカか?」

 

「煌輝か、もう大丈夫なのか?」

 

「ああ、問題ない。深雪さん、書き置きありがとうございます。助かりました」

 

「一条君、随分と遅い到着みたいだけど何かあったの?」

 

「来る途中の事故未遂は聞いてるか?それで想子使い過ぎて気絶してたんだよ」

 

 あんまり声を大にして言いたくはない。これは自分の魔法師としての最大の弱点だ。本来なら自ら弱点をさらすようなことはしないのだが、ばれているのならば言っても問題は無いと判断した。

 

「とにかく助かったよ。それじゃ」

 

 そう言ってその場を去る。向かう先は三校のスペースだ。余談だが飲食のスペースは特に定められてはいないが、例年懇親会は各校が各校で固まって飲食をしていることが多い。他の学校の所に行って談笑している学生もいないわけではないが、それは結構なレアケースである。

 つまり何を意味するかというと、自分の学校のスペースに違う学校の学生が来ると嫌でも注目を集めるということである。さらに煌輝は一条、十師族の次期当主候補であり容姿も将輝と瓜二つだ。そのため三校のスペースは煌輝が来たことによりどよめきが大きくなる。

 そんなことは一切気にせず目的の人物の場所へと向かう。しかし少し様子がおかしい。とある一点、というより人物だろうか。それを見つめておりこちらの来訪には気が付かない。

 

「一体どこを見てるんだ?せっかく弟が兄のもとを訪ねてきてやったというのに」

 

「うお!?煌輝?いつからいたんだ?」

 

「たった今だよ、直で会うのは久しぶり、将輝。ジョージも久しぶりだな」

 

「久しぶり煌輝。一高の方は良いの?」

 

「別に他の学校の所へ行ってはいけないとは言われていない。友人と兄に会うことは何も問題は無いだろ?」

 

 それもそうだねと相槌を打つ。

 吉祥寺真紅郎。『カーディナル・ジョージ』の異名を持ち将輝と煌輝からは『ジョージ』とあだ名で呼ばれている。佐渡侵攻の際に一条家が中心となった義勇軍に助けられて以来交友が続いている。机上の空論と言われていた『四系統八種』による『基本コード』のひとつをを発見した天才だ。

 少し将輝と真紅郎と談笑をしていると三校の学生の視線が集まってきている気がしてきた。何やらこちらをちらちらと窺っているようだが・・・

 

「えっと・・・どうかしたか?」

 

 このまま放置というわけにもいかない気がするためこちらから歩み寄ってみることにする。

 

「一条君と吉祥寺君とどういう関係!?」「というか一条とそっくりじゃねえか!」「でも一高の制服着てるよね・・・もしかしてスパイ?」「ドッペルゲンガー?」

 

 次々と思い想い聞いてくるため対応できない。てんやわんやになる前にこちらから自己紹介をした方が早いと判断した。

 

「第一高校の一条煌輝だ。将輝とは双子で俺が弟、ジョージとは昔からの幼馴染でな。それとスパイじゃない。将輝とジョージと話しに来ただけだよ」

 

 軽い自己紹介が終わり、次々と自己紹介を受けるが、覚えきれる自信が無い。でも久しぶりにこんなに他人と会話したことに若干の驚きを感じながらも、どこかで喜んでいる自分に煌輝は気が付いていた。




すいません、昨日あげるつもりだったんですが寝落ちしました。

いや一昨日ですねごめんなさい


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九校戦編Ⅴ

書くことが特にないのよね…

今期のアニメで一番面白いのはヴァイオレット・エヴァーガーデンだと思います。




これで良し


「そう言えば将輝、さっき俺に気が付かないほど熱心に何かを見ていたようだが、一体何を見ていたんだ?」

 

 三校の学生からの質問攻めも終わり、一応の収束を迎えた煌輝は再び将輝と吉祥寺との会話に勤しんでいた。

 

「い、いや・・・別に・・・」

 

 そう言いながらも視線は泳ぎちらちらととある場所を見ている。その視線の先にいるのは達也達と話している少女だ。

 煌輝も将輝が向けている視線の先を見て合点が行く。

 

「あれって・・・深雪さんか?」

 

「煌輝、知ってるのか!?」

 

 思わず、といった形で肩を掴みかかりながら聞いてくる。

 

「知ってるも何も、一高の首席だぞ?それにクラスも一緒だし・・・来るときのバスも途中から隣だったな。なんだ?惚れたのか?」

 

 何気ない一言だったがその一言で将輝の顔は真っ赤に染まる。面白いネタが手に入ったとでもいうようににやにやと笑みを浮かべながら、

 

「へぇー、将輝もとうとう恋かー」

 

「う、うるさい!それに惚れてなんかいない!少し気になるだけだ!」

 

「将輝、そんな顔で言っても全く説得力ないんだけど・・・」

 

 吉祥寺が思わずといった風に突っ込みを入れる。しかし狼狽している将輝の耳には入らないようで、どう反論するかを考えている。

 

「安心しろ、バスの席が隣だったって言っても俺は後半気絶してたし、俺は狙ってねえから。それに深雪さんを攻略しようものならラスボスとの対決は――」

 

「ちょっと待て、お前気絶してたって言ったか?」

 

 必死に反論の言葉を考えていた将輝だったが、思わずという形で聞いてくる。吉祥寺もただ事ではなかったと思ったのか、真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

 

「ああ、ここに来る途中で事故にあってな。まあ言っても未遂なんだが、その時に『術式解体』を二発使ってな。それから会場について暫くは気を失っていたし、ホテルに着いてからもずっと寝てた。起きたのはついさっきだ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「心配するなって。俺の出場競技は新人戦の『氷倒し』だけだし、この想子枯渇も初めてじゃないんだから」

 

「ならいいんだが・・・」

 

「煌輝、君は『モノリスコード』には出場しないのかい?」

 

 煌輝の話を聞いて問題ないと判断した吉祥寺は煌輝の話を聞いて気になることがあったようだ。出場競技の単一エントリー、煌輝の実力なら間違いなく『モノリスコード』に出てくるものだと思っていた吉祥寺だが、エントリーされていないことに疑問を覚えたようだ。

 

「ああ。今の俺はチーム戦をこなせるような状況じゃないんだ。この間一高にブランシュが乗り込んできたのは知ってるだろ?」

 

「うん」

 

「その時大勢の前で『爆裂』を使ってテロリストを殲滅してな。それ以来怖がられてるんだよ。こればっかりは時間が解決してくれることだと思ってるからお前が気に病むようなことではないさ」

 

 その会話を盗み聞きしていたのだろう、三校の学生からは一高の学生に対する批判の声が上がった。数名は一高の学生に対し文句を言おうとしていたが、煌輝はそれを必死で宥める。

 そして一高では叶わなかったことを三校の学生たちに求めることにした。

 

「ここにいる奴らだけでもいい。もしもこの先将輝が『爆裂』を使って人を殺めたとしても、突き放さないでやってほしい。頼む」

 

 頭を下げて、誠意を見せて頼み込む。自分と同じ境遇に将輝は置かれてほしくないのだ。

 三校の学生たちはそれを快く了承してくれる。校風が戦闘向きの魔法と言うのもあるのかもしれないが、肉親が孤立するような状況はやはり見過ごせない。

 そうしているうちに懇親会は恙なく進行し、九島烈閣下の話が始まろうとしていた。

 

* * * * * * * * * *

 

 突然ホールの明かりが消え、ステージにスポットライトが当てられる。ここで九島烈が話をするのだろう。

 しかしそこに立っていたのは九島烈ではなく金髪の若い女性だった。何かのトラブルかと疑い周りを見渡す。しかしほとんどの生徒が同じような反応だ。

 金髪の女性が一礼したかと思うとステージ袖へと退場していく。女性が退場し終えステージを再び見てみるといつの間にか九島烈が立っていた。

 

「最初に、悪ふざけに付き合わせてしまったことを詫びよう。今のは大したことのない精神干渉魔法だ。それに気が付いていたのはこの場で五人。つまり私がテロリストだとして咄嗟に動けるのは五人だけということになる。九校戦は大規模な魔法を使う場ではなく、魔法の使い方を見せる場だ。若人よ、私は君たちの『工夫』を楽しみにしている」

 

 九島烈が退場していくと自然拍手が沸き起こる。それだけ今の話に感銘を受けたということだ。

 

「将輝、ジョージ。今の精神干渉魔法、気が付いたか・・・?」

 

「・・・いいや、気が付かなかった」

 

「僕も・・・」

 

 悔し気に唇をかむ将輝と吉祥寺。表情にこそ出さないが、煌輝も同じ心境だ。

 

「ふぅ・・・これで懇親会は終わりだろ?俺は自室に戻るよ」

 

 暗くなった空気を払拭するように努めて明るい声を出す。

 

「ああ、対戦楽しみにしてるぞ」

 

「こんなことを他校の生徒に言うのは間違っているが、お互い頑張ろうぜ」

 

「うん、そうだね。誰が勝っても恨みっこなしだ」

 

 そう言って三人は拳を突き合わせる。

 

「将輝!」

 

「なんだ?」

 

「負けねえぞ!」

 

「ふっ・・・ああ、俺もお前だけには負けたくない。全力で勝たせてもらう」

 

 こうして懇親会は終わり、明日からはいよいよ九校戦の一日目だ。




なんかこの話が一番煌輝が饒舌だなって書いてて思いました


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九校戦編Ⅵ

今回ほとんど会話無いです

説明会にしては拙い説明ですが。なお説明に関しては原作を読みながら書いていないので間違ってることもあるかと思います…


 

 今日は朝から九校戦の開会式がある。昨日の懇親会とは打って変わってピリピリとしたムードが漂っている。

 開会式では規律を守ることを徹底され、九校の校歌が順に流されて終わりだ。

 開会式が終わるとすぐに『スピード・シューティング』が始まる。一高からは優勝候補筆頭の真由美が出るとあって、応援団や観覧者のほとんどは『スピード・シューティング』の会場へと移動する。

 『スピード・シューティング』は時間内に百個のクレーが飛ばされ、時間内にどれだけの数のクレーを破壊できるかで勝敗を決する競技だ。

 『スピード・シューティング』は予選は個人で試技を行い、得点が高い順に本戦へと進む。本戦では他人のクレーを破壊すると減点となるが、個人戦では一色のクレーしか飛んでこない。つまり大規模な魔法でクレーを一気に破壊することが可能となる。

 しかし真由美は予選と本戦で使う魔法が同じことで有名だ。『魔弾の射手』、ドライアイスの亜音速弾を作り出す故に『魔弾の射手』と呼ばれる魔法を使う。さらに真由美は先天性の知覚魔法『マルチスコープ』でステージの全容を把握することができる。

 この二つの魔法で以て十年に一人の遠隔魔法の逸材と呼ばれていると言っても過言ではない。

 煌輝も『スピード・シューティング』の会場へと向かう。新人戦はまだ先であるため、他の競技を見ていることしかできないためだ。

 真由美は第一試技、一番最初ということもあり席は既に客で埋め尽くされていた。座る場所を確保できなかったため、最後部の立ち見台を使う。『スピード・シューティング』はステージの全容を把握するために前の席よりも後ろの方で見たほうがいいのだが、前の方の席には男性が多い。恐らくは真由美の『ファン』というやつなのだろう。

 真由美は試技台でCADを構えて競技が始まるのをじっと待っている。

 試技開始のシグナルが三つから二つに、二つから一つに、やがてすべてのシグナルが消えたところでクレーが発射される。

 構えていたCADの引き金を引く。ドライアイスの球が生成され亜音速でクレーへと飛翔していく。次々と引き金を引きクレーを破壊していく。制限時間が終わる五秒前、ここまでは問題なくパーフェクト。残りのクレーは十個。やがてクレーが発射され終え試技が終了する。ここまで真由美が引き金を引いた回数は百回。つまり百個のクレーを百回の魔法で打ち終えた。

 パーフェクトで本戦出場を確実なものとする。真由美が遠隔操作の魔法の逸材ということを知識として知ってはいたが、ここまでとは思わなかった。

 観客席に手をあげながら退場していく最中も歓声は鳴りやまない。退場して約一分、歓声は鳴り響き続けた。

 

* * * * * * * * * *

 

 所変わって『バトル・ボード』の会場。煌輝がここに向かっているのは摩利による風紀委員招集指令のためだが、それを抜きにしても摩利のレースは見ようと思っていた。

 早めに到着していたということもあり、達也たちと合流できた煌輝は達也たちとレースを見ることにした。

 『バトル・ボード』は三キロのコースを三周、サーフィンのようなボードで駆け抜ける競技だ。

 

「女子にはつらい競技だ。ほのか、体調管理は大丈夫か?」

 

「大丈夫です。達也さんにアドバイスをしていただいてから体力トレーニングはずっと続けてきましたし、選手に選ばれてからは睡眠も長めにとるようにしていますから」

 

「ほのかも随分と筋肉がついてきたんですよ」

 

「やめてよ、深雪!私はそんなマッチョ女になるつもりはないんだから」

 

 間で聞いていた達也は思わず吹き出してしまう。傍で聞いていた煌輝も破顔しそうになったが、意識して表情筋を引き締めて何とか堪える。

 

「ほら・・・達也さんに笑われちゃったじゃない・・・」

 

「それはほのかの言い方がおかしかったから」

 

 雫がフォローするがそのフォローは無駄に終わる。

 

「ふんだ、私だけ仲間はずれなんだし。二人と違って私は試合も見てもらえないし」

 

 突然いじけだすほのかに困惑する達也。流石に笑っていられなくなったらしい。

 

「『ミラージ・バット』は担当させてもらうんだがな・・・」

 

「『バトル・ボード』は担当してもらえませんよね。雫と深雪は二競技とも達也さんが担当するのに」

 

 一応のフォローを入れるがどうにも逆効果らしい。

 

「ほのかはそういうことを言ってるんじゃないと思いますよ?」

 

 深雪が言い放ち、

 

「達也君の意外な弱点発見?」

 

「意外と朴念仁?」

 

 エリカと雫の追撃で何も言い返せるような雰囲気ではなくなってしまった。

 しばらく言いたい放題にされていると、やがて選手紹介のアナウンスが鳴る。摩利が紹介されたとき、観客の女性から黄色い声援が浴びせられる。それに手をあげて応えると一際大きな声援が鳴り響く。

 

「相変わらず偉そうな女・・・」

 

 エリカが周りに聞こえないようにボソッと呟く。

 スタートの合図のシグナルが点灯する。一つずつ減っていきシグナルが消えると同時、選手の誰かが水面を爆発させる。

 

「自爆戦術!?」

 

「無意味なことを・・・」

 

 思わず煌輝は呟いてしまう。落水は失格にはならないが大幅なタイムロスなってしまう。恐らくは波の推進力を使って前へ進み、あわよくば優勝候補の摩利を落水させようと思ったのだろうが、自分がバランスを崩すほどの波を作ってどうしようというのだろうか。

 摩利はその波を意に介さず一人走り出す。

 

「なるほどな、硬化魔法と移動魔法のマルチキャストか」

 

「硬化魔法?」

 

 達也の呟きをレオが拾って聞き返す。自分の得意魔法とあって聞き逃さなかったのだろう。

 

「硬化魔法の定義は物質を固くすることではなく、相対位置を固定する魔法だ。ボードと自分を一つのものと定義して、相対位置を固定しているのだろう」

 

 ボードと自分を固定することによってボードから振り落とされることは無くなるということだ。

 そのまま摩利は独走を続け、一周し終えたところで他の学生との差は一目瞭然。予選をトップ通過したのだった。




こういうところで何か一言賭けるようなネタが欲しいです…


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九校戦編Ⅶ

今回はほとんど進展が無いです

次回辺りから新人戦始まるのでそれまではグダグダと面白くない流れが続いてしまいますがご了承いただけるとありがたいです。


 午後となり『スピード・シューティング』の決勝の時間となり、会場に足を運んでいる人々のほとんどが『スピード・シューティング』の会場へと足を向けていた。理由は言わずもがな、真由美が出るからである。

 ここまですべてパーフェクトで勝ち上がっており、決勝も盤石だ。

 決勝戦ではあるが、観客の真由美への熱は全く冷めていない。寧ろ勝ち進めていくうちに上がっていると言っても過言ではない。選手紹介で真由美の名前が呼ばれ真由美が姿を現す。観客の歓声は今日一の盛り上がりを見せたであろう大きさだ。

 相手選手も出てくるがここまでの大きさではない。言い方は失礼だがこの時点でどちらが勝つかの期待度は大体わかる。

 二人が競技台に立ちCADを構える。だんだんと観客の声はしぼんでいく。声を挙げて応援してはいけないという決まりはないが、この競技の場合はあまり騒がしくする競技ではないのだ。

 シグナルが点灯し一つずつ消えていく。全てが消えたところで左右から赤と白のクレーが一斉に飛び出す。真由美は赤のクレーを正確に撃ち落としていく。対して対戦相手の選手はいくつも取りこぼしている。

 これは対戦相手の魔法の技術が無いためではない。『スピード・シューティング』は同じスペースに立ち魔法を撃つ。つまり違う系統の魔法がぶつかり合うため、干渉力の低い方の魔法はうまく発動できないのだ。真由美は魔法の発動速度も干渉力も一流だ。対戦相手の干渉力は真由美の干渉力を下回っているため魔法をうまく発動できず、いくつも取りこぼしているということだ。

 この時点でどちらが勝つのかは明白だ。結果は真由美がパーフェクト、対戦相手はわずか三十二個。『スピード・シューティング』女子本戦は真由美の優勝で幕を閉じた。

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日、『クラウド・ボール』の真由美の担当エンジニアに達也が急遽選任された。

 『クラウド・ボール』は一日でこなす試合数が九校戦で一番多く、ペース配分には常に気を付けなくてはならない。

 本当は『クラウド・ボール』を見たいが、この時間は『ピラーズ・ブレイク』が同時進行で行われる。煌輝は新人戦の『ピラーズ・ブレイク』の出場選手のため、何か学ぶものがあるかもしれないと思い『ピラーズ・ブレイク』の会場へと足を運んでいた。

 『ピラーズ・ブレイク』の会場へ到着すると偶然将輝と吉祥寺に出会った。

 

「将輝、ジョージ、おはよう」

 

「おはよう、お前も見に来てたんだな」

 

「何か学べるものがあるんじゃないかと思ってな。と言っても、『爆裂』で速効で終わらせるだけなんだろうけど、それ以外にも学べるところはたくさんあるはずだ」

 

「『ピラーズ・ブレイク』だけなら確かに将輝達は『爆裂』で終わりだろうけど、他の事に使えることはあるだろうからね」

 

 そんな雑談をしながら客席で空いている席を探し、空いている場所へと座る。

 初戦から克人が出番とあって、やはり観客は多い。

 

「十文字殿はどういった戦法だ?」

 

「相手の魔法を防ぎつつ、『ファランクス』で相手の氷柱を破壊していくんだろうけど」

 

「ああ、大体そんな感じだ。俺はあの人が氷柱を破壊されているところを見たことが無い。やはり『鉄壁』の異名は伊達じゃない」

 

 やがて選手紹介の時間となり、克人と対戦相手が出てくる。昨日のように歓声が上がることは無いが、克人が出す威圧感に会場の空気は引き締まる。

 対戦相手の方も気圧されているのか、すでに表情が暗い。

 双方CADを構え始まりの時を待つ。克人は携帯端末型の汎用型CAD、対戦相手の方は腕輪型の汎用型CADだ。

 シグナルが点灯しすべてが消えて競技が始まる。構えていたCADを操作し魔法を発動させる。

 克人は自陣に領域干渉を展開する。対戦相手は魔法を発動させるが克人の領域干渉を突破できない。対して克人は再度CADを操作、相手の氷柱を押しつぶすように破壊する。

 十文字家の『ファランクス』。いくつもの障壁を展開し、仮に一番外側の障壁を破壊されたとしても次々と障壁が展開されるため生半可な攻撃では突破できない。これを突破できるのは四葉家現当主の四葉真夜の『流星群』だけだろう。

 相手は自陣の氷柱に情報強化を展開するが、克人の『ファランクス』を防御することはできない。そのままなすすべもなく相手の氷柱はすべて破壊され、克人の氷柱はすべてが健在だった。

 克人が全ての氷柱を破壊した瞬間、緊張に引き締まっていた空気が一気に解き放たれ、大きな歓声へと変わる。

 

「あれが十文字家の『ファランクス』か。今回は攻撃に使っていたようだが、本来は防御用の魔法だろ?」

 

「いや、あれだけの威力が出せるなら攻撃にも使えるだろうね。『モノリスコード』本戦に出る先輩たちはあの障壁を突破できないだろうね」

 

「俺達でも恐らく突破できないだろう。敵に回したくはない人だな」

 

 その後も『ピラーズ・ブレイク』の観戦は続けたが、克人の試合以上に盛り上がる試合は無かった。

 

* * * * * * * * * *

 

 『ピラーズ・ブレイク』が終わり、午後には『バトル・ボード』が控えている。摩利と優勝候補の七校がぶつかるとあって大いに会場のボルテージは高まっている。

 水上に三人の出場選手がボードに乗って始まるのを待っている。やがてシグナルが点灯し消える。

 摩利と七校の生徒がスタートダッシュを決める。第一コーナーまではわずかに摩利がリードしているが、油断はできまい状況だ。

 第一コーナーに差し迫ったところで摩利は曲がるためにスピードを下げる。しかし七校の生徒は原則をするどころか加速してしまう。

 ミスか!?とも思うが表情を見る限り違うようだ。摩利は受け止めるためにボードの上で体制を変え魔法を発動しようとする。しかし摩利はボードの上で体勢を崩してしまいボードから吹き飛ばされてコースの壁へと激突してしまう。

 重なり合うように倒れ双方意識を失ったまま動かなくなってしまう。競技中断のフラッグが振られ、係員と一高の生徒、達也が現場へと急行した。

 摩利は夕方になって意識を取り戻したが、骨が折れているためしばらく安静にする必要があった。つまり『ミラージ・バット』は出場できないということである。

 摩利が『バトル・ボード』途中棄権、『ミラージ・バット』欠場となり、一高の作戦スタッフは得点計算の見直しを余儀なくされた。

 『ミラージ・バット』の本戦には新人戦に出る予定だった深雪が出場する。そのことが九校戦スタッフに通達された。

 

* * * * * * * * * *

 

 摩利の欠場が決まった次の日、煌輝は『ピラーズ・ブレイク』の会場に足を運んでいた。今日は前もって将輝達と待ち合わせをしていたためすぐに合流する。

 

「煌輝、渡辺選手のけがは大丈夫なのか?」

 

「何本か骨が折れているらしい。この先の競技は欠場だ」

 

「そうか・・・残念だが気を落とすなよ。まだ負けが決まったわけじゃないんだ。と言っても、最終的に優勝するのは三校だけどな」

 

「そんなこと言ってて、新人戦で足元すくわれるなよ?」

 

「新人戦でまずいのは女子の『ピラーズ・ブレイク』、それと『ミラージ・バット』位だよ。」

 

「お、俺を忘れてるのか?ジョージ」

 

「勿論忘れてないさ。ただ、勝つのは将輝だ。それは絶対に揺るがない。それに『モノリスコード』は煌輝が出ないだろ?新人戦の優勝は三校がいただくよ」

 

 そろそろ『ピラーズ・ブレイク』の決勝が始まるとあって会場は一気に静寂に包まれる。

 決勝に勝ち進んだのは一高から十文字克人、相手は三校の三年生。しかし今までの戦いを見る限り克人が負けるようなことはなさそうだ。

 決勝とあって盛り上がりは最高潮となっている。双方がCADを構え始まりの合図を待つ。

 試合開始のシグナルが点滅しやがてすべてが消える。試合が始まった。

 克人はいつも通り、領域干渉を自陣に展開する。三校の選手も克人の領域干渉が展開される前に氷柱を破壊しようという算段だったのだろうが、克人の魔法発動速度が上回り魔法は届かない。

 しかしさすが決勝まで上り詰めた猛者だ。自陣の防御を一切捨てて干渉力の全てを克人の氷柱の破壊につぎ込む。克人もその攻撃は領域干渉では防ぎきれないと次判断したのか、始めて防御に『ファランクス』を使用した。

 三校の選手はその攻撃で魔法力の大半を使ってしまったのか、攻撃を続けるが最初の一回ほどの威力は出せないらしい。

 その隙をついて克人は『ファランクス』を以って相手の氷柱を破壊していく。三校の選手は自陣の氷柱の一本に情報強化を展開するが克人の『ファランクス』を防ぎきれなかった。

 そのまま克人はすべての氷柱を破壊し終え、『ピラーズ・ブレイク』本戦男子の優勝は克人に決まった。

 その他の結果は男子『クラウド・ボール』は桐原が二回戦敗退。その桐原の相手は優勝候補の三校の生徒だったが、桐原との対戦で力を使い果たしたのか三回戦敗退。女子『ピラーズ・ブレイク』は花音が優勝、男子『バトル・ボード』は服部が準優勝と結果は残しているが、三校は『ピラーズ・ブレイク』、『バトル・ボード』男女ともに優勝したため一位の一高と二位の三校との差は寧ろ縮まっていた。

 この結果を受けて新人戦出場の一高生徒の士気は十分に高まっていた。




なんか最後かなり駆け足になって申し訳ないです

本当にごめんなさい、次の話で新人戦を始めたかったので編集で付け加えさせていただきました…


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九校戦編Ⅷ

投稿と同時にHappy Birthday to ME!!!

…ってしたかったです…


あ、誕生日なのは本当です。祝ってくれるとすごく喜びますwwwww


 新人戦一日目、今日は『スピード・シューティング』だ。今日は特に予定は無かったので将輝と待ち合わせをして『スピード・シューティング』の会場へと向かうことにした。

 『スピード・シューティング』に出場するのは一高からは森崎、三校からは吉祥寺となっており、新人戦男子『スピード・シューティング』の優勝候補は三校の吉祥寺との呼び声が高い。

 

「一高で警戒しているのは森崎選手だが、お前の目から見て森崎選手はどうだ?」

 

「魔法の発動速度は確かに早い。だけど干渉力はジョージの方が上だ。もし決勝で森崎とジョージがぶつかったら恐らくジョージが勝つだろう」

 

「おいおい、自分の学校の選手に期待はしてないのかよ」

 

「お前が聞いてきたから答えたんだけどな……それにこれは客観的な分析だ。勿論一高の選手に優勝はしてほしいさ」

 

 新人戦の『スピード・シューティング』も最初は一人の試技だ。その試技で特典が高い選手が本戦へと駒を進める。

 最初は一高の森崎だ。試技台に上がりCADを構える。

 開始のシグナルが点灯し消える。左右からクレーが一斉に飛び出した。

 森崎はクレーそのものに移動魔法をかけてクレー同士をぶつけることによってクレーを破壊する戦法だ。これは歴代の上位者が良く使う戦法で、ありきたりだが確実な結果は殆ど保証されていると言っても過言ではない。

 森崎は順調にクレーを破壊していくが少しずつミスをしていく。制限時間が残り三十秒で破壊したクレーの数は七十七個。最後まで引き金を引き続けクレーを破壊していく。

 制限時間終了時の個数は八十七個。新人戦はほぼ間違いなく通過できるであろう点数だった。

 次々と選手が入場し試技をしていくが、今のところトップは森崎の八十七個だ。やがて吉祥寺の出番となる。

 吉祥寺が入場し試技台へと立ちCADを構える。開始の合図が鳴りクレーが一斉に発射れると同時に吉祥寺はCADの引き金を引く。

 

「将輝、ジョージのあれは『不可視の弾丸』でいいんだよな?」

 

「ああ、それで間違いない」

 

 吉祥寺は引き金を引き続けクレーを破壊し続ける。制限時間残り一分だがうち漏らしている個数はゼロ。つまりは現在パーフェクトである。

 残り一分も油断せずにCADの引き金を引き続け制限時間の五分が経過し、試技終了のブザーが鳴る。

 結果は百個。新人戦が始まって初めてのパーフェクトに会場は大きな歓声に包まれる。吉祥寺は歓声に手をあげて応え退場していった。

 そのまますべての選手の試技が終了した。一高からは森崎が予選二位で通過。それ以外の選手は残念ながら予選落ちだ。

 三校からは吉祥寺ともう一人の選手が予選を通過した。男子『スピード・シューティング』の新人戦で唯一パーフェクトを叩きだした吉祥寺はそのまま本戦でもパーフェクトを出し続け、決勝では森崎と当たった。

 煌輝の予想通り、新人戦『スピード・シューティング』は吉祥寺の優勝で幕を閉じた。

 女子『スピード・シューティング』は一位、二位、三位を一高が独占する快挙を達成することとなった。

 特に一位の雫が使った『能動空中機雷』は魔法大学のインデックスに載せる打診が来たほどだ。『能動空中機雷』の開発者は達也なのだが、達也は雫にしてほしいと答えたらしい。そのことで一悶着あったようで、インデックスに関しては保留となった。

 

* * * * * * * * * *

 

 夜となり達也は明日の選手のCADの調整のため部屋を空けている。暫く帰ってくることは無いし、明日はとうとう『ピラーズ・ブレイク』の新人戦の日だ。将輝との直接対決(煌輝は将輝と自分が負けることはあり得ないと思っている)ので早めに寝ようと思っていたのだが、煌輝と達也の部屋に来客があった。

 煌輝はドアに近寄り誰かを確かめる。

 

「どなたでしょうか?」

 

「一条君ですか?司波深雪です。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「はあ、どうぞ……」

 

 ここで深雪が来るとは全く思っていなかったため間抜けな声が出てしまった。深雪はそのことは気にせずに部屋へと入ってくる。

 

「あの、お兄様はあとどれくらいで戻ってくるでしょうか?」

 

「恐らくは十分ほどだと思いますが」

 

 思わぬ来客が来たため、就寝しようと思っていた煌輝だが寝るわけにはいかなくなった。将輝と違って深雪に惚れているわけではないのだが、何せ深雪は絶世の美少女だ。そうじゃなくても女子が部屋にいる中で一人寝られるほど、煌輝の神経は図太くない。

 達也が帰ってくるまで思いの外時間がありそうなため、寝ないで明日の競技の事を考えていると深雪から声がかかる。

 

「何をしに来たか聞かないのですか?」

 

「聞いて欲しいんですか?こんな時間に訊ねてくるってことはそれだけ大事な用があると思ったんですが、俺が聞いても良い事なのでしょうか?」

 

「いえ、聞いて欲しいわけじゃなかったんですが何も聞いてこないのが少し不思議だったので」

 

「他人の詮索を無駄にすると碌な目に合わないと思っているので。経験があるわけじゃないんですが。というか深雪さんこそ、こんな時間に俺が一人でいるところによく訪ねてきましたね。危ないとは思わなかったんですか?」

 

「何がですか?」

 

 首を傾げながらこちらに問いかけてくる。

 

「いやほら、男子の部屋に夜女子が一人で訪ねてきて何か事故が起こらないかとか……何言ってるんだ俺。すいません、今のは――」

 

「一条君ならそんなことしないと思ってますよ。それに、そんなことしたらお兄様が黙ってませんからね」

 

 クスクスと笑いながらそれにと続ける。

 

「それにそういうこと言う人は大体そんなことはしないものですよ?そういうのに詳しいわけではありませんが、下賤な輩は何も言わずに襲ってくるでしょうし」

 

 ぼやかしてた部分をはっきりと言われ逆に赤面してしまう。どうしたものかと思考を巡らせていると達也が戻ってくる。

 

「こら、何時だと思ってるんだ」

 

 煌輝は今まで達也が深雪に説教らしい説教をしているところを見たことが無い。その達也が深雪に声を荒げていたことに少し驚く。

 

「申し訳ありません!」

 

「寝不足は判断力の低下を招く。いくら深雪でも何があるか分からないんだ」

 

「申し訳ありません……」

 

「さあ、部屋まで送っていくよ」

 

「あの、お兄様。少しお話したいことが……」

 

 そう言ってこちらをちらりと見てくる深雪。その意図を煌輝は理解する。

 

「なんか喉渇いたな、達也は何か飲みたいものでもあるか?」

 

「?いや……特にないが」

 

「分かった。ついでにその辺を散歩してくるから十分後くらいには帰ってくると思う」

 

「煌輝、お前も明日試合だろ……」

 

 達也が何か言っているようだが上にジャージを羽織って部屋を後にする。『お話』とやらが何かは分からないが、自分が聞いていいものではない。そう判断し部屋を退出する。部屋を出るとき深雪が目礼をしていたので軽く手をあげることでそれに返礼する。

 十分ほどロビーで時間を潰して部屋へと戻る。ロビーの自販機で達也にお茶を買っていき部屋に帰ってそれを渡す。

 

「悪いな、変に気を使ってもらって」

 

「構わないさ。他人に聞かれたくないことなんて、いくつも抱えてるものだろ?」

 

「……ああ、そうだな」

 

 そのままベッドに入り就寝する。明日の試合を心待ちにしながら。

 

* * * * * * * * * *

 

 起床時間となり朝食を食べ終える。制服に着替え『ピラーズ・ブレイク』用の衣装、CADを持って作業車へと向かう。

 

「中条先輩、おはようございます」

 

「おはようございます、一条君」

 

「おはようございます、中条先輩」

 

「早速CADを調整しようと思うのですが良いですか?」

 

「ええ、お願いします」

 

 ヘッドセットをつけタッチパネルに両手を置く。想子波を測定しそれを最大限CADに反映してもらう。

 

「はい、取っていただいて大丈夫ですよ」

 

 ヘッドセットを取り作業している場所へと戻る。

 

「はい、調整が完了しました!感触とかどうですか?」

 

「いつも通り、ばっちりです。ありがとうございます」

 

「いえいえ、それが仕事ですから」

 

「必ず優勝とは行かないかと思いますが、それなりの結果を残すことは約束しますよ」

 

「もう、そこは優勝するって言い切ってもらわないと」

 

「はは、そうですね」

 

 新人戦開始まで、残り一時間。




pixivの方で全く関係ないダンまちとFEのクロスオーバー書いてみました。

要望があればこちらにも上げようと思います


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九校戦編Ⅸ

手が冷たすぎてタイピング速度落ちるんだよなあ


 

 『ピラーズ・ブレイク』の新人戦は男女同時進行だ。そのため異性の選手を見に行くことは困難だ。

 男子ピラーズブレイク新人戦、煌輝は第一試合で初戦の相手は二校の生徒だ。

 『ピラーズ・ブレイク』は身体をほとんど動かさず、単純に魔法力を競い合う競技だ。その為『ピラーズ・ブレイク』は毎年ファッションショーみたいなことになっている。

 煌輝は普段バイクに乗る時のダークレッドのライダースーツ。煌輝が入場すると主に女性からの歓声が沸き起こる。新人戦『ピラーズ・ブレイク』は将輝と煌輝のどちらかが優勝と言われている。双子同士が優勝候補とあり、その片割れが初戦なのだ。これだけの歓声が上がっても不思議ではない。

 一方の二校の生徒は黒い学ランに鉢巻という格好で出て来た。鉢巻には≪常勝≫と書かれており、気合十分といった様相だ。

 双方が自陣の舞台に立ちCADを構える。煌輝は拳銃形態の特化型CAD、二校の生徒は腕輪型の汎用型CAD。煌輝は『ピラーズ・ブレイク』で恐らくたった二人の特化型CADを使う選手だ。もう一人は勿論将輝である。

 汎用型は攻守一体型の戦法、特化型はただひたすら攻めるだけの戦法の時に使われる。ただ『ピラーズ・ブレイク』でただひたすら攻める選手は数少ない。本戦でも一高の花音だけだろう。彼女の場合汎用型だが。

 開始の合図のシグナルがすべて消え、ブザーが鳴り試合が始まる。

 二校の生徒は自陣の領域干渉を展開。領域干渉で煌輝の攻撃を防ぎながら煌輝の陣地の氷柱を倒そうという算段なのだろう。

 煌輝からすれば絶好のカモでしかない。煌輝の干渉力は将輝の干渉力を上回る。その将輝の干渉力も魔法科高校九校全体でトップクラスに高い。つまり将輝よりも干渉力の低い二校の生徒が領域干渉を広げても、煌輝の攻撃は防げないのだ。

 煌輝はCADの引き金を引く。氷柱が爆散し、消滅する。二校の生徒は防げなかったことに動揺したのか、こちらに攻撃するための魔法も発動できなかった。

 引き金を引き続ける。十一回引いたところで相手の氷柱はすべて壊れ試合が終わる。

 煌輝は本戦、新人戦合わせての最短試合記録を大幅に更新した。それでも最初は相手の出方を少し窺ったので、最初から攻撃をしていたらもう少し縮められただろうが。

 相手選手ががっくりとうなだれる中、煌輝は一礼をして退場していく。煌輝が退場するまで歓声がスタジアムを包んでいた。

 

* * * * * * * * * *

 

 男子予選一回戦は三人が無事勝ち抜いた。しかし男子の一人の次の相手が将輝のため、次で一人は脱落するだろう。

 煌輝の次の相手は四校の生徒。問題は無いだろう。これは煌輝の驕りとかではなく、魔法の相性的な問題だ。

 引き金を一度引くだけで一つの氷柱を破壊できる煌輝と将輝。時間をかけて氷を破壊しなくてはならない他の選手。煌輝と将輝は『爆裂』があるため『ピラーズ・ブレイク』との相性は抜群なのだ。

 今日はもう一戦やったら終了、明日がいよいよ本戦となる。

 煌輝の出番が近付いてきたため会場へと向かう。

 

「一条君、CADの調子はどうですか?」

 

「問題ありません。今日はこのまま行けそうです」

 

「そうですか、あと一回勝てば今日は終わりですから、頑張ってくださいね」

 

「ええ、勿論です。こんなところで負けられませんから」

 

 煌輝の前の試合が終わったようだ。煌輝はステージ袖へと向かう。

 ステージの準備が済んだようだ。係員の人に呼ばれ入場する。相手の選手も同時に舞台へと上がる。白衣に伊達眼鏡。研究者のような恰好をしている辺り四校の生徒らしい。

 双方CADを取り出す。相手は携帯端末型の汎用型CADだ。

 試合開始のシグナルが点滅、一つづつ減っていきすべてが消えブザーが鳴り試合が始まる。

 先ほどとは違い始まった瞬間引き金を引く。相手も防御は捨てて攻撃重視らしく、領域干渉も情報強化も展開しない。

 引き金を引き氷柱を破壊し続ける。相手も振動魔法を使い氷柱を攻撃してくる。しかし煌輝が全ての氷柱を破壊し終えたころ、相手は煌輝の氷柱を一本しか破壊できていなかった。

 先ほどよりも試合時間を縮め、煌輝の圧勝だ。しかし『ピラーズ・ブレイク』の試合最短時間は将輝が塗り替えている。将輝よりも試合時間がかかったという事実に煌輝はため息をついてしまう。

 女子ピラーズブレイクは全選手達也が担当しており、スピードシューティング同様三人全員予選を突破したようだ。

 男子は一高の選手が将輝に敗北し二人が予選通過。将輝の相手をした選手も決して弱くはなかったため、今回はクジ運が悪かったと言わざるを得ない。

 

* * * * * * * * * *

 

 次の日の朝、今日はいつもよりも調子がいい。柄にもなく気分が高揚しているのだろう。

 朝ご飯を食べ諸々の準備をしてから作業車へと向かう。中条先輩は昨日に引き続きすでに到着していた。

 

「おはようございます、中条先輩。すいません、今日も待たせてしまって」

 

「あ、おはようございます、一条君。大丈夫ですよ、私もついさっき来たばかりですから。一条君は服装の準備とかもあるんですから仕方がないですよ。早速CADの調整をしたいんですけど、良いですか?」

 

「ええ、お願いします」

 

 昨日と同じ手順で想子波を計測する。

 

「あれ?昨日よりも数値がいい結果を示してますね」

 

「ええ、少し気分が高揚していて」

 

「無理もないですよ。今日は決勝戦ですから。調整が完了しました。違和感とか無いですか?」

 

「問題なさそうです。ありがとうございます」

 

「私が力を貸せるのは後は試合後の調整だけです。頑張ってください、一条君!」

 

* * * * * * * * * *

 

 『ピラーズ・ブレイク』はトーナメント式だ。将輝と煌輝が当たるとしたらそれは決勝でしかありえない。つまり別ブロックということだ。

 二回勝てば決勝進出。その二回戦とも三校の生徒だ。

 本戦一回戦、昔の自衛隊のような迷彩柄の服を着て対戦相手が現れる。これも戦闘系の魔法を重視している三校故のものなのだろうか?

 相手は特化型のCADを構えて来た。煌輝相手にいくつも魔法を使うよりも、単一魔法で攻める方が将率は高いという結論に至ったのだろう。特化型は汎用型に比べて魔法の発動スピードは速いのだ。

 双方舞台上でCADを構えて試合が始まるのを待つ。シグナルが点きやがてすべてが消え、ブザーが鳴り試合が始まる。

 煌輝と三校の生徒は始まった瞬間引き金を引く。煌輝が引き金を引いた瞬間氷柱を破壊できるのに対し、三校の生徒はやはり振動魔法だろう。煌輝が氷柱を三本ほど破壊する間にようやく一本倒せると言ったペースだ。煌輝は引き金を引き続け、やがて氷柱をすべて破壊し終える。煌輝が十二本倒し終えた時点で三校の生徒は四本破壊し終えたところだ。

 続いて準決勝、またも三校の生徒だ。今回は剣道の袴を着ての登場だ。袖を袂で結んで腕の自由は確保している。

 双方が特化型CAD。今大会は『ピラーズ・ブレイク』で最も特化型CADが使われた新人戦となるだろう。

 試合が始まり双方引き金を引く。相手は加速魔法で空気を熱し氷柱を溶かしに来た。しかし一つの氷柱を溶かすのにかなりの時間を要している。煌輝は引き金を容赦なく引き続けすべての氷柱を破壊し終えた。

 煌輝は無事決勝進出。恐らく将輝も問題なく決勝に進出してくるだろう。

 女子の方は上位三人を一高が独占するという快挙を成しえたらしい。深雪、雫、エイミィの三人がそれぞれ競うか、それとも同率優勝という形にするかという提案がなされた。その討論の結果、決勝として深雪対雫という形になったようだ。

 男子『ピラーズ・ブレイク』の新人戦の決勝は≪一高の一条煌輝≫対≪三校の一条将輝≫となり、九校戦始まって以来最高の盛り上がりとなった。

 決勝の時間は当初同じ時間の予定であり、双方の決勝を両方同時に見ることができないと会場内は騒がれていた。

 ついに決勝が始まる時間となった。相手は将輝とあって今までとは集中力が段違いだ。

 将輝の衣装は煌輝と同じライダースーツ。偶然同じ格好となった。これも双子故なのだろうか。

 煌輝と将輝が入場すると一気に歓声が上がる。男子の方は女性の観客の比率が多いようで、女子の方は男性の観客が多いのだろう。

 双方がCADを抜いて開始まで待つ。今までよりも時間の流れがゆっくりに感じる。周りの音は一切耳に入って来ず、ただ始まりの合図を待ち続ける。

 シグナルが点滅し、青から黄色、黄色から赤、赤いシグナルが消えスタートの合図が鳴る。

 双方引き金を同時に弾く。次々と引き金を引き続け氷柱を破壊し続ける。しかし微妙に煌輝の方が将輝よりも破壊するペースが遅い。時間を計測しているわけではないが一回の爆裂を発動するのに掛かっている差はおよそ0.1秒。全ての氷柱を破壊し終えるまでには二秒もの差が生まれてしまう。

 引き金を引き終えたタイミングは煌輝と将輝が同じだった。しかし魔法発動スピードの差で将輝が先に煌輝の氷柱を破壊し終える。将輝が煌輝の氷柱を破壊し終えた約二秒後、将輝の氷柱をすべて破壊し終えたがすでに勝敗は決していた。

 男子新人戦『ピラーズ・ブレイク』は第三高校の一条将輝の優勝。第一高校の煌輝は準優勝で幕を閉じた。

 

* * * * * * * * * *

 

(畜生……畜生、畜生!畜生!!)

 

 煌輝は退場した後、控室でただ敗北の悔しさを噛み締めていた。

 

(負けた……将輝に負けた。一番、誰よりも負けたくなかったのに!)

 

(始まる前から結果はある程度予測できていた?そんなことは関係ない!魔法の発動速度が将輝の方が早いから?違う!それはただの言い訳だ!)

 

 控室の壁を殴り続ける。自らの拳が割れていることを厭わずに。

 

(ただ負けたくなかった……一緒に育ってきたからとか、双子だからとか、そういうのは一切抜きにしても、将輝にだけは負けたくなかった!)

 

 悔しさのあまり涙が流れてくる。堪えきれずに嗚咽も漏れ出てくる。

 

「畜生!!!」

 

 もう一度壁を殴り、完全に拳が砕け、喉が枯れるまでその絶叫は止まらなかった。




ここで負けたのは意味があると思います

常に勝ち続けられるわけではないということですね


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