ハイスクールD×D Restart Welsh Dragon (ふくちか)
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0章:終末世界のウェルシュドラゴン
0話「慟哭の果て」


えー、皆様お久し振りで御座います。

いきなりではありますが、ふと思い浮かんだ新作を投稿いたします。
まだ平日は忙しいので、不定期にはなると思いますが、何卒ご容赦下さい。(ウィザードの方も合間を見て書いていきたいと考えております)


 

 

稲光が轟く――――

 

 

 

豪雨が降り注ぐ――――

 

 

 

 

 

全てが滅び、荒廃した世界に。

 

 

 

世界の中心――――巨大なクレーターがある場所の中央に、彼は立っていた。

 

 

 

 

 

「……リアス、皆」

 

 

 

 

 

 

――――兵藤一誠。

 

 

彼はこの世界の顔たる存在。

以前までは、仲間や愛する者達と共に過ごしていた――――筈であった。

 

 

 

とある悪魔の企てにより甦った、古の魔物により、彼の日常は、崩壊した。

 

 

 

原初の悪魔よりそれを奪取せし邪龍達もまた、魔物の餌食となった。

世界は――――三大勢力は一丸となって魔物を倒さんとした。

 

だが、一人……また一人と散っていった。

 

 

『イッセー……後は、頼んだぜ…………』

『すまない、イッセー君…………』

 

最初は、恩師であった。

そして彼が尊敬する、義兄もまた、魔物の前に屈した。

 

 

『こんな形で……死ぬとは…………まだ、君との、決着も…………』

 

次に、好敵手達であった。

彼らも一矢報わんとして魔物に挑み、堕ちた。

 

 

『ちっく、しょぉ…………!』

『イッセー、くん…………僕は……っ』

 

彼の戦友(とも)もまた、無念の言葉を遺して、その生涯を終えた。

 

 

 

『イッセー……私、貴方と会えて、良かっ、た…………』

 

 

 

そして、終生守ると誓った彼の恋人達も、魔物に叶わず、命を散らした。

 

 

 

『あぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!!』

 

 

魔物は止まらず、彼の家族や、友をも滅ぼした。

 

 

失うものはなくなった――――彼は、せめて世界は守ると自らに誓い、魔物と戦った。

 

唯一残った、二体の龍と共に。

 

 

 

そして、魔物は滅びた。

 

 

 

――――世界の滅亡と引き換えに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアス、皆…………俺、仇は取ったよ。トライヘキサを、倒したよ」

 

そこにはもういない、亡骸すらない者達へと、一誠は語りかける。

降りしきる雨が、彼の体を濡らしていく。

 

『相棒…………』

 

彼の左手が、淡く輝きを放つ。

低い声音だが、そこには一誠を気遣う色が窺える。

 

だがその心遣いも、一誠には届かない。

 

 

 

彼の心は――――もう、死んでいた。

 

 

この雨は、彼の心情の様にも、一誠の相棒には映った。

そんな彼に、何者かが語りかけた。

 

「イッセー」

 

少女の様な、幼い声。

一誠はその声に振り返る事なく、名を呼んだ。

 

「……オーフィス」

 

 

無限の龍神・オーフィス。

 

魔物――――トライヘキサのもたらした滅びから生き延びた、最強の龍。

 

もう一体の龍と共に、一誠はトライヘキサを討ち取った。

 

「……イッセー、もう一度、やり直す?」

「……は?」

 

前置きもなく語られたその一言に、一誠は漸く振り返る。

オーフィスは淡々と続けた。

 

「滅びる以前に戻り、終末を回避する?」

「……どういう、意味だ」

『……まさか』

 

今一つピンと来ない一誠を余所に、彼の相棒は合点が行ったらしい。

オーフィスは、一誠に伝えた。

 

「過去に戻る。イッセー、再び滅びる前の世界に生まれ変わり、滅びを回避できる」

「…………!」

 

オーフィスの説明に、一誠は漸く理解した。

それと同時に、彼の瞳にも僅かながら光が生まれた。

 

「そんな事が、出来るのか……?」

「イッセーの体、夢幻と無限が備わっている。そして、グレートレッド、まだ生きている。夢幻は0……再びゼロから始められる」

 

オーフィスの言葉を皮切りに、天より龍の咆哮が木霊した。

空を見上げると、そこには天をも覆わん程の巨大な赤い龍がいた。

 

「グレート、レッド……」

 

夢幻の龍、グレートレッド。

 

 

 

 

グレートレッドは、何も語らない。

ただ静かに、一誠を見据える。

 

「…………俺は、もう一度、やり直したい。皆を、死なせたくない。……もう二度と、世界を滅亡させる訳には行かない!だから、俺は――――」

 

 

その直後、グレートレッドは強く吠えた。

世界を揺るがす程の咆哮が、世界に響いた。

 

 

そして兵藤一誠の意識は――――そこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

 

「…………!」

「……!」

 

何者かが、自分を呼んでいる。

 

 

『ん……』

 

一誠の意識は、徐々に覚醒して行く。

光を求めて、そこより這い出る。

 

『俺は…………一体…………?』

 

意識の覚醒と共に、一誠は自分の体に違和感を覚えた。

 

『体の自由が、効かない……?』

 

自分の意思で、体が思うように動かせないのだ。

そして徐々に、体の神経が鮮明になっていく――――が、そこで一誠は驚愕する。

 

『何か、体が小さくないか…………?!』

 

自分の体が、記憶とはかけ離れた程に、小さくなっている。

混乱する一誠の意思とは裏腹に、何やら本能がざわつき始めた。

 

『な、何だ一体…………』

 

 

 

 

 

「……オギャアァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

『?!』

 

一誠は言葉を失った。

今のは、もしかしなくとも……

 

 

『赤ちゃんの、鳴き声?!……って、うわっ!』

 

驚く一誠の体は何者かに持ち上げられた。

見れば、そこには看護婦さんがにこやかに笑っていた。

 

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

『は、はぁ?!』

 

事態を全く飲み込めていない一誠、もう一方を振り返り――――絶句した。

 

 

 

『……父さん、母さん?!』

 

そこにいたのは、紛れもない一誠の両親であった。

しかも、

 

『何か、若い!?』

 

滅びる以前の記憶より、まだ若さが残っていたのだ。

 

『つまりこれって……』

『文字通りの再出発だな。相棒』

『!』

 

漸く飲み込めてきた一誠の目の前に、赤いドラゴンが現れた。

その姿は、一誠が見慣れた相棒であった。

 

『……ドライグ!』

 

見知った顔に会えて、綻ぶ一誠。

取り敢えず一誠は、今の状況をドライグに確認する。

 

『ドライグ。今俺ってどうなってる?』

『無垢な赤ん坊だ』

 

やっぱりそうか……そう思い、一誠は項垂れる。

 

 

『……じゃあ、オーフィスの言ってたやり直すって』

『そのままの意味だ。お前は、過去のお前へと転生したのだ』

『……はぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 

 

「オギャアァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

一誠の驚きを代弁するかの様に、赤ん坊の一誠は大きな泣き声を上げた。

 

 

 

 

 

 

かくして、滅びを回避するため、過去より馳せ参じた赤龍帝・兵藤一誠の新たな物語が始まるのであった。

 

 

 

 




のっけから原作改変してるじゃねーか!の突っ込みは絶版で

パラレルワールドの一種だと思ってください


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1話「異なる筋書き」

2017年もあっという間でしたねぇ……


 

 

俺はドライグ。

嘗ては最強と謳われた二天龍の一角だ。

 

さて、今日は俺の相棒である兵藤一誠の事について触れたいと思う。

 

 

相棒は前世で終末の獣――――トライヘキサを倒した。

…………だがその代償は、相棒を取り巻く全ての滅亡であった。

 

恋人であったリアス・グレモリーやその他の女達、尊敬する恩師、最高の友やライバル、果ては両親を失った相棒は……変わった。

 

 

――――いや、変わってしまったと言うべきか。

 

 

 

以前までの相棒は、何処にでもいる普通の人間であった。

異能などとは無縁の世界で生きていたのだが、俺を宿していた事により堕天使に殺された。

 

そして、相棒は悪魔となった。

 

それからという物の、相棒は一年足らずで様々な出来事を体験し、その度に強くなっていった。

……まぁ、悪魔になりたての頃はスケベ心から来る物であったが。

 

 

主であるリアス・グレモリーの乳房を吸う――――等と大それた事を抜かした時は耳を疑ったよ。

おまけに禁手へと至った強い切っ掛けが、その主の乳を指で突くと来たものだから、余りにも馬鹿馬鹿し過ぎて、ある種の感動を覚えたほどだ。

 

 

……流石に乳首からの光線でパワーアップは止めて貰いたかったが。

あの辺りは俺やアルビオンのメンタルはボロボロだったな…………今となっては懐かしい思い出だ。

 

だがそれでいて、他人の為に悲しみ、他人の為に怒る事が出来る相棒は出来た奴だ。

そこには何の打算も下心もない、兵藤一誠自身の人柄だからな。

 

 

そんな訳で以前までの相棒はエロい事――――取り分け、女の乳房に並々ならぬ関心を抱いていた。

 

 

 

だが先程も言った通り――――相棒は変わってしまった。

 

 

 

 

まだ小学生と言うのもあるだろうが、元来持っていた下心は鳴りを潜め、殆ど笑う事も無くなった。

両親の前では普通なのだが、俺が思うに、この年頃の少年としては異常なまでに喜怒哀楽が欠如している。

 

傍から見れば真面になったと思うだろうが……以前までの相棒の人柄を知っている俺としてはまるで別人のように見えてしまう。

 

それに、他人との間に見えない壁を張っているのだ。

両親の事はは普通に呼んでいるが、同級生や、前世で相棒を慕っていた女の一人「紫藤イリナ」の事も、名字でしか呼ばなくなってしまっていた。

 

そして何かに憑りつかれたかのように、相棒は以前以上に力を求め、己を鍛えている。

 

 

その時の相棒の瞳には、もう絶対に失いたくないと言う確固たる『信念』――――そして、底知れぬ『虚無』があった。

 

 

 

なぁ相棒…………俺は、そこまで無理を背負い込んで前に走るお前を、見たくない。

 

 

また以前のように…………底抜けに明るい、お前の笑顔が見たいんだ。

 

 

 

 

 

相棒…………………

 

 

ーーーー

 

 

 

イッセーだ。

今の俺は漸く、小学生となった。

 

 

赤ん坊の頃は……きつかった。

 

言葉は話せないわ、高校生の精神年齢で母さんの母乳を飲むわ、日夜父さんと母さんは励んでるのを聞くわ…………もう本当に辛かった。

 

だけど漸く体が発育してきたからな。

来るべき時に備えて、俺は体を鍛えてる。

 

 

因みに現状、禁手は扱える様にはなった。

だけどまだ体が成熟していない事から数分間が限界であるし、真『女王』やトリアイナ各種、ドライグの透過、以前に取り込んだアルビオンの力、そして龍神化は使えなくなっていた。

 

まぁトリアイナと真『女王』は悪魔の駒に由来した力だったから、今は人間である俺では使えないのは当然だし、何より今はない力を頼っても仕方がない。

オーフィスやグレートレッドの力に関しては、肉体が元の人間のものになったからだろうと推測…………まぁ、今の俺には宝の持ち腐れだから、なくても問題はない、か?

 

龍神化に関しては、おそらく未来から転移したと同時に喪失したのだろうとドライグは仮説を立てた。

過去のこの時間軸では、俺はオーフィスと対話を果たしていないし、あの力をくれたのは未来のオーフィスだ。

 

まぁ、さっきも言ったとおり、現状では必要ないだろう。

無用な力は、無駄な争いを生む火種にしかならないからな。

 

 

 

………あ、そうだ。

俺の家に、前世と異なり新しい家族が出来た。

 

 

「ニャ~」

 

…そんな鳴き声と共に、玄関にいた俺に近づいてくるのは、一匹の黒猫。

 

「どうした、黒歌?」

 

……前世では、小猫ちゃんの姉だったあいつと、同じ名前の黒猫。

偶然、近所の子供に虐められていたのを、俺が助けて、紆余曲折を経て家で飼うことになった。

 

最初の方は大分警戒されて、何度も引っ掻かれたけど、今は普通に信頼してくれているみたいだ。

……時折、夜中にこっそりと家を出て行ってるみたいだけど。

 

俺はすり寄ってきた黒歌の顎を撫でる。

 

「ちゃんとお留守番してるんだぞ?」

「ニャ!」

 

わかった!と言わんばかりに、元気よく返事をする黒歌。

 

 

…………多分、夜な夜な家を飛び出してるのは、小猫ちゃんを探してるんだろうな。

でも、小猫ちゃんはきっと大丈夫だ。

 

俺の脳裏には、優しく微笑む、紅髪の少女が映った……………が、その思い出は、一瞬で、今際の時の笑顔に切り替わった。

 

 

 

……………消せる筈も、無いか。

 

俺は頭を振って、外に出る。

そうだ、今度こそ守る――――そう誓ったじゃないか。

 

 

 

決意を再確認して、俺は走り出す。

 

 

今の俺は、皆を守る為に生きている――――俺の命に、それ以外の価値なんてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本編にはまだ入らないぜよ


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2話「変わりゆく運命」

桐生戦兎ォ!!何故今日のビルドが放送されていないのかぁ!その答えはただ一つ!!



大晦日だからだぁぁぁ!!!


 

「ん………?」

 

俺ことイッセーは、走り込みの最中、何か違和感のような物を覚えた。

何か一瞬、空気が張り詰めたような………そんな感覚。

 

『相棒。この先で結界が張られたぞ』

 

結界?

……もしかして、三大勢力の誰かが?

 

『それは分からんが、この先に何かあるというのは確かだろう』

 

…一般の人に気づかれないように、か。

ドライグ、籠手は大丈夫か?

 

『問題はないが……禁手は数時間しか持たんぞ。荒事を想定するなら、長期戦は不利と考えておけ』

 

分かった。

とりあえず倍加を頼む。

 

『了解だ。……相棒、無茶はするなよ』

 

 

……善処するよ。

 

俺はそう答えると、結界の発生源へ向けて走り出した。

 

 

 

 

 

「……ここか。って、神社?」

 

たどり着いた先は神社。

中から複数の気配を感じるが…………その中には懐かしい気を感じた。

 

 

『うふふ、大好きですわ!イッセー君♪』

 

 

 

………まさかな。

その可能性がない事を信じて石段を上ると、前方に薙刀を構える男が二人いた。

 

「何者だ小僧!?」

「一体何処から――――」

「……退けっ!」

 

 

《Welsh Dragon Balance Breaker!!!》

 

 

良いタイミングだっ!

鎧を纏ったのと同時に、俺は男二人を殴り飛ばした!

 

その勢いに乗って縁側へと飛び込むと、複数の男が女性と女の子を囲っていた。

そしてその女の子は――――

 

 

 

「朱乃、さん……………」

 

……運命ってのは、何でこうも人を翻弄するんだろうな。

女性――――確か、朱璃さん――――の腕の中で抱かれている子供は、泣いていた。

 

「――――何者だ、小僧」

 

周りがどよめく中、真ん中にいた一番偉そうな男が訪ねてきた。

 

「……何者、なんだろうな」

 

 

 

…そう言えば、今の俺は、本当に兵藤一誠なのかな。

 

………未来からやってきて、過去の自分に憑依して、今ここにいる。

名前っていう識別番号上では俺が一誠なのは確かなんだろう。

 

 

 

でも――――本当にそれが正しいのか?

 

 

 

『相棒!!』

「ッ!」

 

等と考えていると、いつの間にやら俺の眼前には複数の刃が迫っていた!

 

「――――ふっ!!」

 

ドライグのお陰で、何とかギリギリで飼わした俺は、返す形で拳をぶつける!

それを受けて、真ん中の男以外が吹き飛ばされていく。

 

「……大した力だ。小僧、何故貴様はそこの親子を庇う」

『…人が人を助けるのに、理由なんているのか』

 

俺はそう返す。

如何やらドライグが気を聞かせてくれたのか、俺の声音はドライグのように低い物になっていた。

 

「そこの娘は人ではない。黒木天使との間に生まれた――――忌子なのだ」

『忌子…………か』

「…?」

 

そう言えば、以前の朱乃さんも、自分をそう言っていたな。

堕天使との間に生まれ、悪魔なのか堕天使なのかも区別がつかない…………それが、それが何だってんだ。

 

『俺はあんた等の事情は知らない。この人が禁忌を犯しているのも、それはあんた等の視点での話だ』

「……」

『俺の目には、ただ無力な親子の幸せを奪おうとする悪鬼にしか見えない。……忌子だろうがなんだろうが関係ない!!あの子は、望まれてこの世に生を受けた存在だ!!』

 

そうだ………朱乃さんは、忌子でも、悍ましい化け物でもない!

 

 

バラキエルさんと、朱璃さんに臨まれて生まれてきた、姫島朱乃と言う――――

 

 

『一つの命だ!!!…それに、目の前で理不尽に命が奪われていくの、もう沢山だ!だから守る!!俺がこの場に立つ理由は……それだけで十分だっ!!!』

「!!」

 

一気に詰め寄り拳を放つ!

男は刀の刃の腹で受け止めるが、大きく後退る!

 

「このような子供の体の、何処にこんな力が………っ!!」

『おおおおおっ!!!』

「…ぐっ!!」

 

今度はわき腹に蹴りを叩き込む!

その一撃に体勢を崩した男に向けて、ストレートを叩き込む!

 

「---っ!!!」

 

勢いよく吹き飛び、男の体は壁を破壊しながら倒れこんだ!

その直後、籠手の宝玉が点滅を始めた。

 

『そろそろ禁手が解除される。相棒、急がなければ――――』

「死ねぇえええ!!!」

 

その声に反応して後ろを振り向けば、先ほど吹き飛ばされた男の一人が朱乃さん達に向けて刀を振りかぶっていた!

 

 

その直後、俺の脳裏には――――

 

 

 

『……朱、乃?』

 

疲労で膝をついた俺を庇うように前に立ち、

 

 

 

『ごめん、なさい…………イッ、セー………………』

 

 

夥しい出血と共に、哀しそうな笑顔で俺へと振り返る朱乃さんが――――

 

 

 

 

 

気付けば、俺は走っていた。

 

 

「…っ!!」

『相棒!!!!!』

 

 

そして――――その身で、男が振りかぶった刀を、受け止めていた。

 

『…ッ!!』

「っ!?は、放せっ!!このままでは、お前はっ!!」

『これを、放したら、アンタは…またこの親子を襲うんだろ……?だったら…放せる訳ない、だろっ………!!』

「ダメ!!!もう止めて!!これ以上は、もう良いから……っ!!」

 

刀身を手で掴んで絶対に放さないようにする。

朱璃さんが涙声で止めようと声を張る。

 

俺の体からは血が止めど無く流れるが、全部無視する。

 

 

 

この親子を……もう…………

 

『あんた等の理不尽な都合で、殺させてたまる、かぁ!!!』

「ぐ、ぉぉ!!!」

 

がら空きだった腹に渾身の一撃を叩き込む!

崩れ落ちた男に目もくれず、俺は刀をへし折って投げ捨てる。

 

「……小僧。貴様は英雄を気取るつもりか?」

 

瓦礫の向こう側から、荒い息と共に立ち上がった男。

 

『…英雄?俺に、そんな資格はない………俺はただ、俺の使命に従っただけだ………』

 

朦朧とする意識の中、俺は手を広げて親子を守る意思を見せる。

出血は何とか収まってる……倍加での、自己治癒力の強化が、役に立ったな。

 

『もう止せ相棒!!これ以上戦えば、お前は………!!』

『構うもんか!!俺の命なんて、どうなったって……!!!』

 

あの時から、俺は死んだも同然なんだ……悔しかったよ。

 

あの時ほど、リゼヴィムの糞野郎の言っていた言葉が理解できた事が…………此間までの俺は、まさに生ける屍だった。

 

 

 

だけど、皆を守るために戦って、死ねるなら、本望だ!!

 

 

 

 

「…ならばお前を殺し、その親子も殺すまでだ」

 

男が刀を構えた、その時であった。

 

「――――随分と乱暴な事をしてくださいましたな?大叔父殿」

 

 

上空から、何者かの声が聞こえてきた。

 

「……雷光の堕天使か」

 

男は空を仰ぎ、忌々しそうに呟く。

俺もつられて空を見上げると、そこには懐かしい顔がいた。

 

 

――――バラキエルさん。

 

 

堕天使一の武人にして、随一の実力者。

その人は今、憤怒の表情で男達を見下ろしている。

 

 

「……この状態では制裁どころではないな。行くぞ」

 

男達は転移魔法で消えていった。

 

「父様!!」

「遅くなって済まなかった。朱乃、朱璃……」

 

朱乃さんはバラキエルさんの元へと走っていく。

…結構、際どいタイミングだったな。

 

『…まさか、あの堕天使が駆けつけるのを待っていたのか?』

 

…あぁ。

今の俺じゃ、スタミナが持たないからな。

 

前に聞いた話じゃ、バラキエルさんが帰ってきた直後に、朱璃さんは亡くなっていたって聞いたからな。

だから、戻ってくるまで粘ったんだ。

 

『まさか本当に命を捨てるつもりだったのかと肝を冷やしたぞ』

 

その時はその時さ。

 

…………あの親子の笑顔を守れるなら、俺は喜んでこの命を捨てていただろうな。

 

『……相棒。ならば、お前の笑顔は、誰が守るのだ』

 

 

…………………俺にはもう、笑顔なんて必要ないよ。

皆の死を、犠牲を忘れて……のうのうと笑える訳、ないからな。

 

 

俺は静かにその場を去ろうと歩き出した。

 

「――――待って!」

 

だが、そんな俺を引き留める者がいた。

 

「血が出てるんだから、手当てしなきゃ!」

 

 

――――朱乃さんだ。

 

「そうよ。先ずは君の治療をしないと――――」

『…いえ、大丈夫です』

 

朱璃さんの言葉を遮り、俺は前へと歩き出す。

 

「ダメだ!君ほどの力を持つ者なら、今の状態を理解してるはずだ!」

『……………』

 

俺は無言で、石段を下りていく。

 

「待って!――――あなた!」

「分かっているとも!待つんだ!」

 

朱璃さんとバラキエルさん、そして朱乃さんが追いかけてくるのを察した俺は、倒れるように物陰へと隠れた。

……力が弱まって、気を隠しやすくなったのは、怪我の功名だな。

 

『……相棒。今の状態で家まで歩くのは危険だ。転移しろ』

「……あぁ」

 

事前に家に施していた魔法陣と、ドライグのオーラを共鳴させて、俺は家へと転移した。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

「ちょっと、無茶しすぎた、な…………」

 

何とか自分の部屋までたどり着くが、ドアを開ける余力もなく、俺は倒れる。

 

「……ッセー………っ!!」

 

朦朧とした意識の中、誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

視界もはっきりしない中、俺が捉えたのは、黒い尻尾?と猫耳だった。

 

そして――――

 

 

「……ー?!……!!」

「!!…!!」

 

父さんと母さんらしき声も聞こえてきた。

 

 

 

 

あぁ………最悪だ。

 

 

 

そこで、俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 

 




乾燥にてハーレムは増えるのか減るのかとありましたが、原作メンバーはそのままで行くつもりです。
そこにチョイチョイ追加される感じです。


2017年、更新が途絶えがちになってしまい申し訳ありませんでした。


また来年度もよろしくお願いいただければと存じ上げます。


では


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3話「愛される存在」

随分お久しぶりです。こちらの作品からのあいさつになりますが……更新途絶してしまい申し訳ありませんでした。




 

 

――――深い、深い闇の中。

 

虚ろに落ちた俺の深層意識の中に、そいつはいた。

 

『………………』

 

物言わぬそれは、暗黒の巨体に獅子、熊、豹、龍に似た7本の首と10本の角を持つ――――俺がこの世で、前世から一番憎み続ける存在。

 

それは巨大な4つの腕を伸ばし、俺を掴みかかろうと――――

 

 

 

 

ーーーー

 

 

「……ッ」

 

目が覚めると、そこは何時も見慣れた天井――――俺の部屋だった。

身体に走る痛みに顔を顰めながら起き上がると、ドアが開かれた。

 

「……イッセー………?」

「…母、さん」

 

お盆を持っていた母さんは、手を震わせながらお盆を落としてしまう。が、それに構うことなく、母さんは涙を流しながら俺を抱きしめた。

 

「イッセーッ!! 良かった、本当に良かった……ッ!!」

「いっ……!」

 

抱きしめられた事で、傷を受けた部分が悲鳴を上げるが、母さんは気付く事無く俺を力いっぱい抱擁している。

 

『あれだけ心配をかけたんだ、自業自得だと思って諦めろ』

 

ドライグ……俺、助かったのか?

 

『あぁ。流石に肝を冷やしたがな……あの猫娘にも感謝しろよ』

 

猫娘……まさか黒歌が? そう思い至った時、部屋にもう一人誰かが入って来た。

 

「…イッセー! 目が覚めたのね!!」

「ぐぅ……!」

 

二人目の来訪者、黒歌もまた、目尻に涙を溜めて俺を抱きしめた。

 

さ、流石に苦しい……そう思いながら、この責め苦から早く解放されたいと願う俺であった。

 

 

 

 

数分後、何とか落ち着きを取り戻した俺は、仕事から帰ってきた父さん、そして正体を明らかにした黒歌も(何故か)交えての家族会議が開かれることに。

 

「黒歌ちゃんがまさか妖怪だったのは驚きだったけど……」

「お前に伝説のドラゴンが宿っているなんてな、本当にびっくりしたぞ」

 

そう語る父さんと母さんの前に座る俺は、気まずさから肩を縮こませる……左手には籠手を展開させながらだから、シュール極まりないけど。

 

「……全部話したのか。ドライグ」

『でなきゃあれほどの怪我は説明しきれんだろう』

「ついでに私の事もねん。普通の医者だったらお金だってかかるし、下手したら大騒ぎにゃん。だから仙術でパパーッと治したの」

 

…どうやら俺が未来から転生した事は話してないらしい。それに関しては一安心だ。

 

『話した所で御伽噺過ぎる……俺の存在もだがな』

 

――――曰く、俺はドライグを宿している事で狙われた悪い連中に襲われ、それを逃げ回りながら対処している最中に重傷を負った、けどそれでも何とか襲ってきた連中を倒して、血みどろで家に帰って来た――――

 

と言う事で説明を付けたそうだ……後は三大勢力の事とか、妖怪とか。

 

最初は信じられないと言った感じだったけど、籠手を出現させたり、黒歌が何時もの黒猫状態に両親の目の前で変化した事で納得してもらえたらしい。

 

 

………ちなみにその事で俺が大怪我負った経緯を説明した後、ドライグは父さんと母さんに滅茶苦茶責められたそうだ。

 

『憑依する人間は俺にも選べん、と言ったんだがなぁ……』

 

ドライグは心底疲れ果てた様子でそう呟いた。

 

「そりゃそうにゃん。自分達の愛する息子にそんなおっかないドラゴンが取り付いてて、しかもそのせいで半死半生の目に遭ったなんて聞いたら堪らないでしょ」

『そう言われると返す言葉がない……』

 

ドライグは気落ちした声音だった……昔を思い出すな。

 

『相棒、その事には触れるな』

『分かってるよ』

 

もうあんな出鱈目なパワーアップはしないさ……客観的に見ると、ホントどうかしてるよな、あの頃の俺って。

 

「……父さんと母さんは、何とも思わないの?」

「「ん?」」

「…俺が、そんなおっかない存在だって言うのに」

 

前世の時と同じだ――――リゼヴィムのクソ野郎に両親が戦場に拉致されて、俺の正体を見せつけた時と。

 

何時かは来る、そう覚悟していた筈なのに――――俺の声は……僅かに震えていた。

 

「…何だ、そんな事か」

 

父さんは最初は呆気に取られた様子だったけど、次の瞬間には呆れたように笑っていた。

 

「お前がどんなモノを宿していようが、どんな化け物になりかねないとしても!――――お前は俺と母さんの子だ」

「お父さんの言う通りよ。最初は確かに信じられなかったけど……それでもアンタは私達の子でいてくれた。だって普通はそう思っているなら私達を避ける筈なのに」

 

それは……母さんの言葉に、俺は返事が出来ない。

 

「ま、例えアンタが私達に気を使って避けようとしても、絶対に目を背けないわ。だってアンタは――――私達の、愛しい子供なんだから」

 

…………

 

「俺は……二人の子で、いて良いの…………?」

 

 

 

「勿論」「当たり前でしょ?」

 

 

父さんと母さんは、俺を抱きしめる。自分達にとって、俺は必要な存在なんだと分からせるように、強く、強く。

 

柄にもなく俺は……久しぶりの涙を流した。

 

「う”う”~~~っ、良かった、よがっだわねぇぇ………」

『そんな濁声みたいな泣き声上げたら雰囲気ぶち壊してないか?』

 

貰い泣きしている黒歌と、呆れたように黒歌に突っ込むドライグの声をバックに聞きながら。

 

 

 

 

「あぁ、そうだイッセー。黒歌ちゃん、改めて家で暮らす事になったから」

「え、何で?」

「何でって、娘みたいで良いじゃない? それに仙術で肌のハリとかも保てるって言うし」

「…黒歌、そんな理由で良いの?」

「オールオッケーにゃん♪」

 

 

そんな感じで、我が家に新しい家族が出来ました。

 

 

 




もう次からは現代編に行くつもりです。因みに黒歌は原作と同じ理由ではぐれ悪魔ですが、冥界側としては主側の契約の裏切りが発覚して黒歌への罪はある程度軽くなっております(本人はまだ知りませんが)。

そんでサーゼクスに小猫ちゃんを預けた……と言う感じです。


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