ピカチュウ、ポケモンやめるってよ (おりゅ?www)
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設定集(随時更新)

タイトル通りこの作品内での設定や世界観、登場人物などをまとめて書きます。ネタバレも若干含むかも知れないので本編を一通り読んでから読むことを推奨します。ネタバレが問題ない方はご自由にどうぞ。

感想からの質問などもここで返答させていただくので、疑問に思ったことを送ってくださればここに追記されます。たまーにチェックしていただければ幸いです。

因みにメタいことも多々書きますので予めご了承を。

 

 

 

現在の主な登場人物

主人公・ゲツジ(ピカチュウ)

元人間で友人に頼まれて買ったポケモンウルトラサンにドハマりし、高レートに届く直前に寝落ちしてしまい、起きるとピカチュウになっていたという、よくある寝起き憑依タイプ。

楽観的な性格であり、未来のことも考えるが目の前のことにとらわれがち。

痛いことが嫌なためバトルを嫌ったが、自分が強くなれば見下して優越感に浸れる、ということで可能な限りバトルは避けるもののたまに行う。主に戦闘描写が苦手だから戦わせないだけ。

現在は電気玉の効果が重複すると判ったため簡単に強くなれる電気玉集めを目標に旅をしている。

 

 

ミュウ(名前不明)

森の奥深くで死にかけの状態で発見し、手当てをするとなついたのかゲツジについてきた。

ミュウの言葉は理解出来ないが意志疎通は図れる模様。

過去に何があって死にかけていたかは不明。その事実を忘れたいのか反動なのか常に行動が子どもっぽく、何に対しても楽しんでいる。

 

 

スピアー(再登場予定・名前募集)

スピアーたちの親玉の個体のこと。実は森の主的な存在で森に住んでいるポケモンは大体覚えている。非常に強力な存在であり、レベルで言えば八十は超えている。

子分のスピアーたちには「やられたらやり返せ」と指示しているため、勘違いして先行した輩には重い罰を与えている。常に冷静で打算的。不利益なことはなるべく避ける。

 

 

 

ポケモンの説明

この世界のポケモンのほとんどは排泄を行わない。仮にしていたらあのサイズが誰彼構わずどこかしこでされると世界がとても汚くなるので、そんな描写はしたくないので基本しない設定です。分解が超高速で行われる設定も考えたのですが、分解者(キノコや微生物)の概念もポケモンに入れ替わっているため没になりました。

食べた物は技を使うことで消費されるため、バトルなどが実質的な排泄行為に代わります。

 

技は当然覚えられる物は全て覚えますし、もっと言えば通常覚えられないけど出来る可能性があるものに関してはゲームで覚えられなくとも覚えます。逆に覚えられるけど使えない技も一部あります。ディグダの『引っ掻く』とか。

 

当然ながら常に浮いているポケモンには『地震』などの地面技は効きません。代表としてコイル系統はまともな判定をこの世界では受けます。ただ『穴を掘る』などの技に関しては地面技ですが、アニメを見ると地面に潜ってから体当たりしているだけの技なので、分類上は地面技ですが飛行タイプにも常時浮いているポケモンにも当たることはあります。というより、地面にいれば飛行タイプだろうが何だろうが地面技が命中します。空中にいれば基本的な地面技は命中しません。

つまりタイプ相性が変になっています。電気技がそのうち地面タイプに効くようにする予定ですし、映画の君に決めたでもニドたちがピカチュウにやられてましたし。

 

ゴーストタイプの扱いがこの作品では少し難しいです。基本的にノーマルタイプと格闘タイプの技が無効になるゴーストですが、その理論でいくと透ければ全ての攻撃を無効に出来ます。流石にそれは強すぎということでこの作品では物理的な技のほとんどを無効化することにします。

分類が物理なのではなく物理的、つまり直接的な攻撃です。例えば『はたき落とす』は悪タイプの技ですが完全に物理的な技ですので無効化出来ます。ただし持たせた道具には命中するのでその技の効果は発揮します。

しかし『アクアジェット』などはアニメで分かる通り水を纏っているため命中することがあります。

タイプ特有の何かを纏う、または伴えば分類が物理でも命中するということです。

 

状態異常について

『毒』状態と『猛毒』状態については統一して『毒』状態にします。徐々にダメージを喰らう状態です。

『眠り』はそのまま眠ります。感覚的には通常より深い眠りに強制的にさせることでしょうか、そうすると衝撃を受けても起きない理由になります。『メロメロ』状態も似たようなもので、一時的にドMになります。この作中に書く予定はありませんがBL、GL的なポケモンなら同性でも『メロメロ』が効きます。

『凍り』はそのまま凍ります。凍るということで体温を奪われ、『凍り』状態では継続ダメージを受けます。この作中の公式戦では『凍り』状態が解けないと戦闘不能と見なされます。ただゲームのように攻撃出来る訳ではありません。攻撃を加えると氷に閉じ込めているのにそれを割ることになり、『凍り』状態から回復してしまいます。それと体力が残っていれば『凍り』状態はすぐに回復出来ます。

『火傷』状態は『麻痺』と近づけます。体が痺れて動けなくなるか、火傷の痛みで動けなくなるか、というものにします。ただし『麻痺』は素早さを少し下げますが、『火傷』に継続ダメージはなく、攻撃力もそのままです。

『混乱』は思考に対して体が勝手に動く状態です。右足を出そうとしたら左手が動いた、レベルで体と思考がマッチしません。それによって事故が起こり結果自傷行為となります。

『挑発』や『いちゃもん』は技として使われると売り言葉に買い言葉的に効果が発揮し、それに背くと負ける気が強くするため結果的にゲームと同じく連続して技が使えなかったり攻撃技しか使えなくなったりします。

他にも『回復封じ』とかありますが、大体はゲームと一緒と考えてくれればいいです。

 

技の追加効果について

技に依って効果の発揮確率が変わります。例えば『冷凍ビーム』に関しては状態異常『凍り』がほぼ百パーセント起こりますが、『吹雪』では『凍り』には滅多になりません。あるとすれば雪に埋もれるくらいです。他のタイプでも同じです。技に依ります。ただ、『怯み』は『猫だまし』で以外起きません。

 

能力変化について

積み技は普通に使われますが効果は結構違います。『高速移動』は素早さが二倍になるのではなく通常より素早く動けるだけという曖昧なものにしかなりません。厳密に二倍ではなく、使用したポケモンのイメージに引っ張られます。「速くなった」と実感すると例え1.1倍でもそこで効力は定着します。ただしどれだけイメージが強くても一回使っただけで三倍以上になることはありません。平均的には二倍になります。

 

特性について

『威嚇』が撤廃されます。威嚇行為自体はどのポケモンでも出来るため効果を発揮しないものとします。それしか特性を持っていないポケモンはいないはずですので、代わりの特性がそのポケモンたちに充てられます。

逆に『プレッシャー』は強いポケモン(レベル75以上)なら全員持っています。当然元の特性も発揮するので実質特性二つ持ちになります。ただしこの世界にPPの概念は無いので体力(HPとは別、スタミナに近い)の消耗が激しくなるということにします。

 

 

 

ピカチュウの説明

ピカチュウは電気を赤い頬の電気袋と呼ばれる場所から発生させますが、ピカチュウ程の小ささから強い電気を出すそれはどうなんだと思い、この作品ではその器官から電気を生成すると体を一周して電気の威力を増幅する設定です。皮膚だか体毛だかに電気を強力にする構造があると思ってください。

当然構造的に直列で無限ループすると危険ですから、体にダメージが入る前に勝手に放出されます。これがピカチュウの電気技の構造です。『ボルテッカー』はこれを体の表面に留めて相手に突撃する技だから反動は強力なものに設定しています。

似たような技で反動が無い『スパーク』というのがありますが、あれは電気の威力を下げ、さらに過剰な電気を放出して最低限の電気を纏って攻撃するものなので反動は発生しません。

因みに電気玉が重複効果を発揮するのもこの世界のピカチュウだけで通常はいくつ持たせても意味がありません。

この設定は小さな電気ポケモンの大半に備わっています。大きいポケモンならその電気を発生する器官だけで充分なのでこの設定はありません。

 

 

質問返答

 

Q.電気玉で数珠みたいな首飾り作っても同じなんじゃ?

A.独自設定になるかもしれませんが、電気玉というのは人間にとって小さくてもピカチュウにとっては結構大きな物です。少なくとも作者はそう思っています。ですのでそんなものを数珠のようにして装備すると邪魔で仕方ありませんので、呑み込むという形で強化するようにしています。

ゲームでは『投げつける』によってあのグラードンすらも麻痺に出来ますからね、小さいと思えないんですよ。因みに「喉に詰まりそう」や「呑み込むのに覚悟がいる」というような描写(?)もしてますので、そこから察していただければ幸いです。

 

Q.気になったんですが、飲み込んだ後の電気玉ってどこに行き着くのでしょう。

A.普通に分解されます。この世界のポケモンはアクジキング並みに排泄行為をしないため、分解しても問題ありません。

電気玉を分解したら効力無くなるんじゃ?と思われるかもしれません。確かにこの世界の道具は一度使ったり壊したりすると使用不可になります。ですが電気玉は玉の中の電気が本命であり、それが効力を発揮していると思っています。ゲームでも『投げつける』で相手にぶつけて割って、それで麻痺しているように、それを体内に留めているため効力は失わずにいられるのです。

 



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目が覚めると超有名ポケモン

ピカチュウ。言わずと知れたポケモン界の代表的ポケモンであり、最も知名度が高いポケモンである。

ポケモンをよく知らないという人でも、ポケモンについて尋ねられたらポケモン=ピカチュウという考えでピカチュウと答えるほどの知名度である。

アニメではサートシ君の良き相棒として活躍しており、最近ではサトシピカチュウ専用のZ技まであるほどピカチュウは優遇されていた。

ゲームのバトルで使えるかと言えば微妙なところではあるが、積んでバトンタッチ出来れば三タテも可能にはなる。襷カウンターも可能なので一匹だけならば倒すことは可能だ。

 

さて、そんな超有名なピカチュウなのですが、何故今頃そんな説明をしたかと言うと…

 

「ピッカ(どこじゃいここ)」

 

俺がピカチュウになっていたからだ。

 

☆☆☆

 

俺は一応高二の一般的な人だったと思う。レベルの低い高校に通い、バイトもして、ありきたりすぎる生活を送っていた。

ある日の事だ。ポケモンガチ勢の友達に交換進化したいからお前もやってくれと頼まれたのだ。

今はネット通信で自由に交換出来るだろとにわかなりに反撃するも、自分以外が育てたポケモンを使いたくないという理由だけで俺の言葉は無視された。

頼まれたら断れない性格上、友達から半額もらってウルトラサンを買ってみた。交換出来れば良いのだからとゲームは途中でやめるつもりだった。

が、始めてみると、いつの間にか日が昇っていた。朝日を見ながら、俺はポケモンにドハマリしたことに気がついた。

 

 

それから何日も徹夜して、その友達に教わりながらガチ勢としての道を歩み、とうとうレート1800間近というところで寝落ちして、起きたらピカチュウである。

うむ、前世というか、人間の頃の記憶は普通に残っていた。なんだか逆に落ち着かない。

いっそリセットされていたほうが楽だった気がする。ピカチュウは基本的には四足歩行なのだが、人間の感覚的にどうにも上手く歩けない。本能で普通に歩けないものか…

 

さて、切り株から降りて辺りを見渡すも、森が広がっていることしか分からなかった。右も左も木々に埋もれている。

取り敢えず森を抜けるために歩き出すも、小さい足のせいで非常に動きが遅い。四足歩行も慣れない。現実ってのは辛いね。

 

少し歩いたところでキャタピーに出会った。ということは、ここはトキワの森だろうか。初代は知らないんだよなぁ。

キャタピーはこちらを一瞥するも、すぐにノロノロとした動きで前進を再開した。

良かった。野生のポケモンのようだ。しかも善良な。これでトレーナーだったり気性の荒いポケモンだったりしたら目も当てられなかった。一瞬でKOされる。

安堵の息を吐くと、不意に視界に光る何かを見つけた。

 

「ピィ?(何だ?)」

 

近付いてみると、中に電気が走っている小さな玉がそこにあった。

これは…

 

「ピカ(電気玉…?)」

 

電気玉とはゲームに出てくるアイテムの一つである。ポケモンに持たせて『投げつける』という技を使い相手にぶつけることで、そのポケモンを麻痺状態にするという代物だ。

しかしこれにはもう一つ、効果があった。それはピカチュウに持たせることで攻撃と特攻をそれぞれ二倍にするというものだ。

そんなものがどうしてここに…。ともかく拾ってみると、バチッという静電気が流れ、同時に体内から何かが競り上がってくるのを感じた。

 

「ピ、ピッカァ!(うお、なんじゃこりゃ!?)」

 

瞬間、体から無差別の電気が走った。近くの地面や木に当たり、それらを薙ぎ倒しておく。

咄嗟に電気玉を投げ捨てるも、暴走を始めたそれが止まることは無かった。だが先程より威力は落ちた。

鳥ポケモンたちが逃げて、キャタピーやビードルも焦って逃げていた。

 

「ピィィィ…!(止まれ止まれ!)」

 

人間に存在しない器官から電気が迸っている。それが電気玉によって暴走し、制御出来なくなっていた。

元より操作出来なかったものが暴走したら手がつけられない。が、このままではいずれ火事でも起こってしまう。そうなる前になんとか鎮めなければならない。

感覚を思い出せ。あれから上ってきたのだ。それを閉じるか別の場所に流すか出来れば、止まるはずだ。

冷静に、だが素早く瞑想する。イメージでどうにかなるかは分からないが、何もせずにいるよりマシである。

………

どれくらい経っただろうか。一分か、十分か、はたまた十数秒か。よく分からないが、最悪の事態は避けられたようだ。

放電し過ぎたのかもうクタクタである。地面に四肢を放って倒れた。

 

「ピィ…カ(電気玉って、恐ろしいな…)」

 

横目にそれを眺め、そう強く思った。

これを自在に操作出来るピカチュウとは、実はとんでもない実力を持っているのではなかろうか。

…いや、人間から成り変わった俺が出来ないだけかも知れない。普通のピカチュウは皆電気を自在に操れるのだから。

 

多少回復したので、今度は電気玉を触る前に軽く放電練習をしてみる。感覚は先程ので大分掴めた。

軽くそれを開くと、バチッ、と頬の付近で電気が流れた。

今度は少し強くすると、より長く流れた。八割くらいで『十万ボルト』っぽいものが出来た。『電気ショック』にしては威力が高すぎるし。

恐らくこれで操作はバッチリである。再び電気玉に触れてみる。

……大丈夫、放電していないし、しっかりそれは閉じられていた。適応が早いなと我ながら思う。

もしかしたら、ピカチュウの本能が戻りつつあるのかも知れない。近いうちに四足歩行もお手のもので速く移動出来るようになるのだろう、きっと。

 

さて、何となく持てるようになったは良いものの、どうしようか、これ。

いや、持っていくのはほぼ確定事項だ。何故ならポケモンの世界で一番危険なのは野生のポケモンである。それらに対抗するには必然的に強くなければいけない。

雷の石を見つけてライチュウになるのも手だが、進化するならアローラライチュウでないと何か嫌なためカントーっぽいここでは進化することはない。と思う。よって進化せずに強くなるにはレベルを上げるかこれを持っていくかしかないのだ。

だが、ゲームでは何気なくポケモンに道具を持たせていたが、実際ピカチュウには物を所持するスペースがない。

手で持っているなら片手が常に使えないという面倒なことになるし、どこかに挟むということも出来ない。さて、どうしたものか。

 

ぐぅーー

 

……まあ、腹減るよな。あんだけ放電したら、体力の消費は相当なもんだろうし。

何か木の実近くにないかなっと、辺りを見回す。

 

「スピスピ」

 

ちょんちょん、いやチクチクと背中をつつかれた。

 

「ピッカ(はいはい、ちょっと待ってね)」

「スピスピ」

「ピィカ(何か食い物見つけるまで待てってば)」

「スピスピ」

「ピィッカ…チュウ?(もうしつこいっての!…え?)」

 

思えば、誰が己の背中をつついているのか考えていなかった。

今の俺に知り合いなどいない。必然的に関わってくるのは元のピカチュウとして関係を持っていた奴か―――

 

「スピスピィ!(てめぇ何俺らのすみか荒らしてんだァ!)」

 

気性の荒いポケモンだけである。



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戦う覚悟

サブタイに対して内容は適当。また内容に対してサブタイは適当。


世の中には二種類の人間がいる。追われる者と、追いかけるものだ。

とはいつかの海賊さんの言葉だが、今現在俺はその追われる者である。そして追いかける者は―――

 

「スピスピィ!!(待たんかワレェ!!)」

 

ご存知危険なスピアーさんである。

電気が暴走したあの場所はスピアーの巣だったようだ。それを薙ぎ倒し、そしてそこにあった電気玉まで盗んだのだ。電気玉はどうでもいいかも知れないが、巣を壊されてキレない奴はいないと思う。人間で例えると留守中に自宅にトラックが突っ込んでいたようなものだ。

そして俺は現在逃走中。無意識のうちに四足で走っていた。危険な目に遭うとピカチュウの本能で活動出来るのは嬉しい誤算だ。これで移動も速くなる。感覚も先程掴んだ。いやまあ自分の体だから掴みやすいだけなんだけどね。

当然電気玉を持つ手はないため口にくわえている。スッ転ぶだけで飲み込んでしまいそうだが、そんな危惧より後方に迫っている危機のほうが心配である。

 

『スピィ!』

 

増えてる増えてる!さっきまで一匹だけだったのに五匹くらいに増えてる!冗談キツいぜまったく。

だがしかし、あいつらのスピードと俺のスピードはほぼ互角。ゲームで言うなら同速である。これがレベル差から来るものなのか現実だとこうなのかは分からないが、ともかくそれが幸を成してスタミナが続く限り逃げ切れそうである。

が、現実はそんなに甘くなかった。

 

「ッ!?」

 

咄嗟に横に跳ぶと、先程まで走っていた軌道に紫色の毒々しい何かが通過していった。

『毒針』か。また厄介な。遠距離攻撃とか卑怯だろと思う。

 

「ピッ!?(ヤベッ!?)」

 

咄嗟ということで『毒針』は回避出来たものの、空中にいるため動くことが出来なかった。

スピアーたちを見てみると、二匹くらいが技の準備を終えていた。

 

「(避けられない―――!)」

 

スピアーが針を突き出すと、そこから『ミサイル針』が計七本飛んでくる。白い軌跡を残しながら、圧倒的なスピードで俺に迫ってきて遂に―――

ドン―――ドドドドド!!

一発当たり、更に連続してそれらは全て命中してしまった。そのまま吹っ飛ばされてしまい、地面を転がった。更に運の悪いことに、その内の一発は俺の口元―――つまり電気玉に当たっていた。

急に与えられた運動に反発出来ず、電気玉を呑み込んでしまう。喉に詰まりそう。というか苦しい、痛い、辛い。尋常じゃないほどに。

 

「(これをポケモンたちは楽しんでるのか…?)」

 

横たわりながら、迫り来る羽音を聞いてもそんなことを考える。

ポケモンバトルという競技で、ポケモンたちは互いに全力を出す。こんな辛い思いを毎日体験しなくてはならない。それはかなり辛いことではないのだろうか。

毎日毎日トレーナーに付き合ってバトルさせられ、傷つき、勝っても負けてもトレーナー同士は仲良くなっているが、果たしてポケモンはどう思っているのか。

自分を倒した憎い奴としか、俺には思えない。ライバル視するのではない。関わりたくないと、強く思うだろう。

 

そんな思いをしなくてすむには、どうすればいいか―――強ければいい。

強いことは正義だ、強ければ何でも出来る。強ければ負けることはない。勝てば相手を見下し、優越感に浸れる。

そうだ、強くなれば、逃げなくとも済むのだ。何故俺は逃げていたんだ。俺はあいつらよりも()()

電気玉を取り込んだのだ。取り出せるかは分からないが、少なくとも常時攻撃力は二倍である。多少レベル差があろうとも、負けるわけがない。

 

「スピ、スピスピ(これに懲りたらもう変な真似すんじゃねぇぞ)」

 

近づいてきたスピアーが、そんなことを言ってきた。ああそうだな。もう変な真似はしないよ、あれは事故だったけど。

スピアーは起きない俺を見てどう思ったのか、はたまた何も思っていないのか、その場で方向転換してもと来た道を進んでいく。

 

「ピッカァ!!(今度は堂々と勝負してやるよぉ!!)」

 

『不意討ち』とでも言うのだろうか。ピカチュウを使った記憶があまりないため覚えるかも不明だが、多分覚えなかっただろう。

しかしこれは意識的な()()()()だ。ありとあらゆるポケモンが使える、『悪あがき』にも似た技である。

後ろ姿を見せて油断しまくっている奴らに、『十万ボルト』を浴びせてやる。いや、足りない。

八割で『十万ボルト』なのだ。百パーセント出しきれば、その電撃は『雷』になった。それをぶつけた。

ゲームでは単体技なのだが、電撃に指向性を持たせることが可能となった今、そんな制限はない。アニメでもロケット団をまとめて痺れさせていただろう、あの感覚で『雷』はスピアー全員に命中した。

アニメでありそうな黒焦げ状態になった五匹のスピアーは、その場に落ちた。死にかけの虫のように小さくなっている。

 

「スピ、スピィ…(お、おどれぇ)」

「ピッカ、ピカチュウ(いいか忠告だ、戦いならきっちり止めを刺してから背を向けろ)」

 

敵前逃亡していた俺が言えたことではないのだが。

まあ今回はあっちが半分くらい悪い。事情も聞かずに悪いと一方的に決めつけて、逃げる相手を追撃してきたのだ。いわばこれは正当防衛である。事情をしっかり説明して、事故だと分かってそれでも怒りが収まらないんだったら、俺も黙って殴られてたよ。男…いや(おとこ)として。

なのでこれはお互いに悪いということで終わる。文句は一切言わせない。言おうものなら電撃をプレゼントする。地面タイプには『草結び』で。

 

「ピ、ピカチュウ(まあなんだ、事故だったんだ悪かった。いつか詫びるよ)」

 

既に瀕死状態なのかスピアーに意識はなく、当然返事も無かった。

 

 

その場を後にした俺は今後の方針を定めていた。

やはりここは世界最強のポケモンだろうか。定番だが実に分かりやすい。それに生まれ変わったなら俺TUEEEくらい体験したいだろう。発展して主人公無敵的なものまでも。性格改変は……まあそこまで重要じゃないか。普通にスピアー倒せたし。

それに、ピカチュウという種族ならばその方法も明確である。他のポケモンならこうは上手くいかないだろう。

それすなわち、電気玉の収集である。レベル上げなんてことはしない。

電気玉を呑み込んでしまうアクシデントがあったが、それは一方で電気玉を持ち物として扱う必要が無くなったことを示す。更に、電気玉は重複効果を表すことが判明している。何故判明しているかと言うと、既に俺は電気玉を二つ所持していたのだ。首飾りのようなものを逆向きに着けていて気づかなかったのだ。そして検証してみた結果、そうなることが判明した。

道理でスピアー倒せた訳だよ。四倍だからね、流石にね。

つまり電気玉を呑めば呑むほど攻撃力が倍加していくのだ。計算式に直すと、俺のステータスに二の電気玉の個数乗することになる。うむ、文だと余計ややこしくなった。

ともかく今後の目標は電気玉を探すことだ。ダウジング出来れば楽なのだが、そんな便利な人間の道具をポケモンである俺が持っている訳がなかった。つまり地道に探すしかないのだ。

 

「ピー、ピカー!(よーし、やるぞー!)」

 

これから、ピカチュウ魔改造の旅が始まるのだった。



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街に着いて

ピカチュウに憑依して既に三日が経過した。初日に色々ありすぎたのか、その後は特に何かあるわけでもなかった。

強いて言うならば、未だに森を抜けられていないことだろうか。ゲームだと数分であろうこの森は、現実だと相当複雑な場所になっていた。しかも推定トキワの森ということで、初代をやったことがない俺にとってはまさに迷路である。迷宮と言い換えてもいい。

 

「ピッカァ…(人通らないかなぁ)」

 

人がいればそいつに着いていき、そのまま森は抜けられる。が、そんな都合よく人が通ることは無かった。仕方なく地道に歩き続けているのだが、一向に森を抜けられる気がしない。あれ、もしかして俺って、方向音痴?

 

 

時折現れるオニスズメを撃退しながら、さらに数日が経過した。時間は陽がかなり昇っているから多分昼頃。

今まではその辺に成っている木の実で生活しているのだが、この辺は同じ木の実しか実っていない。いい加減飽きてきた。

というところで、ようやく森からの脱出に成功した。やはりひたすら真っ直ぐ進めばいずれ出られるもんだな。

 

そこにはビルの建ち並んだ立派な街が存在した。トキワシティだろうか。未プレイに2Dだったため判断のしようがない。暫定トキワシティとしよう。

街の入り口では人が多く出入りしていた。短パン小僧もきれいなお姉さんも釣り人も、ともかく多種多様な人たちが行き来していた。

それらに紛れて街に入り込む。電気玉の収集、手っ取り早いのは製造所をあたることだ。そのための情報収集をせねばなるまい。街というのはその点情報が集まるためちょうどいいのである。

 

綺麗に整備された街並みを道なりに歩いていく。ピカチュウ一匹で歩いているのだが、意外と注目されていない。

まあ街にも鳥ポケモンとか野生ポケモンはたくさんいるし、気にするものでもないのだろう。

そういえば、ピカチュウの生態は群れで行動するものだったな。何で俺が起きた時は一匹だったのだろうか。はぐれたのか、首飾りから察するに誰かのポケモンだったのか。

まあでも今はしがない一匹の野良ピカチュウである。そんな過去のことを考える必要はあるまい。過去は振り返らず、未来を目指して今を生きるのである。

 

 

公園のような場所にやって来た。見渡すと端の方にバトルフィールドらしき場所も設けてある。子どもがコラッタとポッポでバトルしている様子が伺えた。

さて、ここは街の野生ポケモンが集まりやすい場所である。人工物で溢れた場所よりも、自然が少しでもある公園にポケモンが集まるのは至極当然のことと言えた。

 

「ピ、ピカチュウ。ピー(ちょいちょいそこのビードルさん。尋ねたいことがあるんだけど)」

 

木の一本によじ登っているビードルに声をかけてみた。

 

「ビー(ん、どうした若いの。ここらじゃ見かけねぇな)」

 

どういう基準で若いと判断したのだろうか。レベル的な話なら進化とか考慮しても圧倒的にこっちが上だと思うが、普通に生まれた年のことだろうか。どうやってそれ見分けるんだ。ポッポの群れを見ても全部同じにしか見えないが。

 

「ピカピカ、ピカチュウ(電気玉ってのを探してるんだ。何かそれについて知らないかな? こんなのなんだけど)」

 

言って、首飾りを指す。呑み込めば常時パワーアップするが、それではこういう風に訊くことが出来なくなるだろう。

それに常時というのが問題だ。加減一つ間違えると相手を酷く傷つけてしまう。俺には無意味に相手を傷つける趣味はない。

あと、こんなものはピカチュウにとって普通に呑めるものでもないのだ。喉に詰まりそうになった経験もあるし、生半可な覚悟じゃそんなことは出来ん。

 

「ビー、ビードー(んだそりゃ。そんなの情報通の俺でも見たことも聞いたこともねぇぞ)」

「…ピ、ピカ?(え、マジ?)」

「ビー(当たり前だろ。嘘つく理由がねぇしな)」

 

マジか。自称情報通でも知らない代物なのか、電気玉って。

人間に聞けば分かるかもしれないが、意志疎通の手段がないんだよなぁ。

……そういえば、時代設定はどうなっているんだろうか。サトシ君とかいるなら会ってみたいし、ゲーム主人公にも会ってみたい。

 

「ピー、ピッカ(えーっと、ウインディは知ってる?)」

「ビードー(おう、それは知ってるぞ。人間からは伝説ポケモンとか呼ばれてる珍しいポケモンだな)」

「ピカチュウ(そいつに進化するポケモンは?)」

「ビード(知らん)」

 

なんと言うことか。ウインディへの進化方法すらまだわかってないのか。そんぐらいすぐ判明するだろうに。ガーディに石触らせるだけだろ。

…いや、よく考えれば炎の石が高価という可能性もあれば、そもそもポケモンに石を触らせるとか意味不明な行動起こす奴いねぇよな。この世界の進化について学びたいわ。レベル進化以外がどれくらい解明が進んでるのか。

 

「ピカチュウ?(今のチャンピオンは知ってる? カントーの)」

「ビードル、ビー(そりゃ誰でも知ってるだろ。今はグリーンがチャンピオンだぞ。オーキド博士のお孫さんの)」

 

グリーンね。シゲルじゃないならアニメの世界という可能性は低くなったな。それにチャンピオンに就いてることが広く認知されているともなれば、レッドはまだ挑戦してないということになる。一体いつ原点にして頂点が現れるのか、気になるところだ。

 

「ピカチュウ(そっか、ありがとう。助かったよ)」

「ビー(おう。気ィつけてな、世間知らずの若いの)」

 

世間知らず…間違いではないか。実際世間どころかこの世界について殆ど何も知らないのだから。

さて、困ったな。目的の物を探そうにもどこにあるかも分からない。製造場所も不明。一体どうすれば良いのやら。

 

公園を後にして、近くのベンチに横になった。ピカチュウだからこそ出来る贅沢である。普通の人がやったら迷惑この上ない。

青い空を見上げながら、今後について考えていた。早速挫折しかけているのだが、果たしてこれからどうすべきか。

 

……ダメだ。何も浮かばない。こうなれば暇潰しに技の修行でもしてようか。未だに使える技が『電気ショック』『十万ボルト』『雷』しかないのは地面タイプのポケモンと出会った時に困る。特にこの周辺ならディグダとか。

せめて使えるようになりたいのが『電光石火』と『草結び』だ。『草結び』は最悪いらないが、『電光石火』は『ボルテッカー』に派生出来そうだし絶対いる。ゲームと違って素早く行動する『電光石火』は避けるのにも使えるし、『高速移動』と互換性があまりない気がする。まあ、『高速移動』がゲームと同じならそのバトル中常時素早さ二倍というのはデカイが。

あとは『電磁浮遊』か。電気タイプなら大体覚えられるそれで実質電気単タイプなら弱点がなくなるし、弱点技を回避できるのは素晴らしいことだ。覚えたかどうか知らんが、頑張れば多分いけるだろ。

 

こう考えると、今の俺は弱点まみれだな。最強とは程遠い。

トレーナーなら強いポケモン使うだけで最強にすぐ近付けるのにな。ズルいよな人間。元人間の俺が言える立場じゃないが。

よし、そうと決まれば早速行動開始だ!

 

ぐぅ~~

 

……どっかにポケモンフードくれる人いないかな? ここに木の実ないし。



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対策

拝啓お父さんお母さん。お元気ですか? 僕は元気じゃないです。腹が減って死にそうです。あれ、この場合の父さんと母さんってピカチュウのなのか? 俺のなのか?

まあともかく、飢え死にそうです。人間なら三日食わずでも生きられるらしいので余裕でしたが、ポケモンはそんな甘くないらしいです。

丸一日食い物を探したのだが、残念ながら親切で食い物をくれる人も落ちてる物も無かったよちくしょう。

盗めばいいかも知れないが、後々面倒になりそうだから嫌なんだよなぁ。ピカチュウのイメージ悪くなるし、俺のせいで俺以外のピカチュウが被害受けるのはいけないと思う。

……いや、そんなこと言ってる場合じゃないな。死んでは死体処理とかでもっと面倒そうだ。どっか店でいただくとしよう。

 

 

残念、店を見つける前に倒れた。既に立つ力もないし、目の前が霞んで見える。

短い人生だったなぁ。いやポケ生か? ともかくもうおしまいである。

しっかし、こんな路地裏でぶっ倒れるとは、死に場所くらい選ばせてほしかったよ。

 

「なんじゃお前。こんなとこで倒れてると踏まれるぞ?」

 

と、前方からすごいホームレス感のあるぼろぼろのお爺さんがやって来た。

ああなんだお爺さん。別に踏まれてもいいさ、もう後がないんだから。

 

「…ふむ、もしかして腹減ってるのか?」

 

少し間をあけて、何かを察したようにそう訊いてきた。

ぐったりしたまま俺はゆっくり頷いた。

 

「どれ…マトマの実しかないが、食うか?」

 

お爺さんはごそごそと懐を漁ると、赤く刺々しい実一つを取り出した。

瞬時に俺はそれを奪って一気に食い尽くした。それはもう、恥も外聞も気にせず獣のように食らった。ポケモンだから獣だけど。

マトマの実と言えば(から)さで有名だが、それが何のその、辛いものへっちゃらな俺に問題はなかった。

腹が少し膨れた。これで森に戻れば飢えは(しの)げるだろう。あそこは種類こそ少ないが結構自然に実ってる。というか、戻るという考えがあることに今気づいた。バカだろ俺。

 

「ピカチュウ(ありがとお爺さん。お礼に撫でてもいいぞ)」

「はっはっは、随分なお礼だな。そんなもんいらんからとっとと行きな」

「ピッカ(本当にありがとな。いつか何か返すよ)」

 

そう言ってその場を後にした。

 

 

 

あれ、あのお爺さん、何で俺と会話出来たんだ?

 

 

若干薄暗い森に戻ってきた。とりあえず優先すべきは食糧の確保である。その次に巣は…遠くないうちに旅立つから別にいいかな?

……いや、いるな。縄張りを敷くことで事故は防げるし、自分専用の修行場になる。安全な寝床も確保出来るし、絶対いる。

ともかくこの二つが最優先事項だ。もうあんな事故は起こさないぞ。

 

この森に大量に実っているのはオボンの実とクラボの実だけである。他は殆ど実っていないし、数も少ない。生態系大丈夫かここ。いや、そういえば林檎は見かけたな。

肥えた舌を持った元人間の俺にとっては二種類だけでローテーションというのは辛いものがあるが、まあ背に腹は代えられないだろう。我慢するとしよう。

それにオボンの実があるというのは実は凄く助かる。応急措置にも使えるし、大量にあれば完全回復も容易である。つまり量さえ用意出来れば某野菜人のようなハードな修行が出来るのだ。絶対しないけど。

それにこの世界、瀕死であっても死んではいないのだから木の実くらい食える。ゲーム的に言えばHPがゼロの状態でも木の実を食って回復出来るということだ。これが非常に助かる。瀕死になったら元気の欠片とか復活草とか必要なのだが、木の実でも代用出来るのだ。これがどれだけ嬉しいことか。

因みに回復効果はほぼ即時発動である。スピアーから受けたダメージが、木の実食い終わった瞬間逆再生のように傷が癒えていった、という経験からこれはそう言える。

 

適当に木の実を落としながら、巣にする場所を考えていた。やはり定番はデカイ木の幹に穴を作る感じだが、啄木鳥(きつつき)じゃあるまいし、そんな簡単なこととは言えない。

ただ、根っこ付近に穴を作ることは割と簡単だ。ピカチュウだって『穴を掘る』は覚えたはずだし。

ただ問題があるとすればどの木が空いているかだ。スピアーの時のように、勝手に誰かの物をどうにかするのはNGである。そこだけは気を付けねばなるまい。

 

よし。木の実は持てる限界まで落とせた。あとは巣を決めるだけである。

 

「ピッカァ…(どっかいい場所ねぇかなぁ)」

「それならいい場所知ってるぜ。知ってるぜ」

「ピ?(ん?)」

 

不意に上から声が聞こえてきた。何故か最後の言葉を繰り返すという独特なしゃべり方、まさかと思って見てみると―――

案の定、ぺラップがそこにいた。俺の真上をくるくる回りながら飛んでいる。

バサバサと羽をばたつかせながら人間の声真似で話しかけてくる。

 

「あっちに誰も近づかない領域があるぜ。あるぜ」

 

と、片方の翼で器用にホバリングしながらもう片方の翼で方向を指した。

あっちは確かに行ったことがない。

 

「ピーカー?(何で誰も近づかないんだ?)」

「危険らしいからだぜ。からだぜ」

「……ピッカ(行ってみるか)」

「気をつけてな。てな」

 

何故ここにぺラップがいるのか疑問ではあったが、よくよく考えればポケモンを逃がす人など大勢いるのだ。こいつもきっと逃がされた内の一匹だろう。

というか、ぺラップって普通に鳴かないのか。声帯が広いんだかよく知らんが、あのニャース以外で普通に喋れるポケモンはこいつだけな気がする。伝説とか幻はもう普通にテレパシー使ってくるけど。ゾロア? ルカリオ? 映画限定だろあいつら。

 

ともかく、俺はぺラップに示されたままに森の奥深くに足を運んだ。



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VS幽霊?

ゲームで言うなら木が邪魔で進めない奥地までやって来た。先程の場所と違って木が密集しているせいで昼間にしては結構暗い。

そしてぺラップが言っていた通り、他のポケモンの気配が一切しなかった。確かに勝手に使っても怒られなさそうである。

そのままどんどん奥に進んでいく。

 

―――デテイケ

 

……さて、どこかにマーキングでもしなくちゃいけないな。暗いし広いしで下手したら迷ってしまう。

あ、マーキングと言っても目印をつけるだけで別に犬のようにする訳ではないからな。というか、こっちに来てから排泄行為一切してないから多分出来ないと思う。どうなってんだポケモンの体。

とりあえずそのまま奥に進んでいく。

 

―――デテイケ

 

…さあて、どこかに大きくて分かりやすい木はないかなぁ。その辺の木でもいいっちゃいいが、やっぱり大きければそれだけで便利だしな、選び放題だしそれくらいはさせてもらう。大きすぎるのも問題だが。

気にしないようにして奥に進んでいく。

 

―――デテイケ

 

……なんかさ、目の前に不定形生物っぽいのがいるんだけどさ、こんなポケモンいたっけ? あれか、『溶ける』使ったポケモンだろ。じゃなきゃ説明つかないだろ。

 

「ピー、ピッカ?(えーっと、出てかないとダメ?)」

 

問答無用、とでも言うようにそいつは急接近してきて『シャドークロー』を繰り出してきた。

咄嗟に転がることで回避に成功したが、せっかく集めた木の実が散らばってしまった。

というか、なんともまあ危険な奴だ。ゲームに(なぞら)えて幽霊とでもしておこうか。

ゆったりした動きでこちらを向き、またも迫ってくる。黙ってやられる訳にもいかないだろう。『十万ボルト』を放った。

電気玉の効果で四倍にまで威力の上がった『十万ボルト』は、確実に幽霊の胴体に命中した。だが、それはすり抜けていってしまった。そのまま相手を貫通した『十万ボルト』は延長線上の木を倒して消えてしまった。我ながらえげつない威力である。ってそうじゃない。

尻尾を使って器用に攻撃をいなしつつも、マジかと内心悪態をついていた。特殊攻撃が通じないとなると物理技が必要になるが、そもそも幽霊に物理技なんて効く訳がないだろう、イメージ的に。つまり打つ手なしである。

奴の言う通り出ていけば追撃はされないだろうが、攻撃を回避しながら逃げると言うのは結構難しい。後方を気にしながら全力で走らなければいけないのだから。

 

段々と攻撃が強力になってきた。同じ『シャドークロー』を受けているはずなのに全然威力が最初と違った。しかも『シャドーボール』も使ってくるのだ。同時に。回避がすげぇ難しい。というか普通に劣勢であった。

 

―――デテイケ

 

出ていくから攻撃しないで、とでも言えば逃げれるのだろうか。まあ逃げるのは何か嫌だから絶対しないけど。

木の実をかじりながら慎重に距離をとっていく。落ちた木の実をくわえるのって以外と難しかった。ともかくこれで体力は若干回復した。まだ戦えるが、果たしてどうしたもんか。

幽霊らしく光にでも弱いのだろうか。なら『十万ボルト』の稲光で怯むと思うのだが、そんな様子はなかった。継続しなければいけないのだろうか。

…試してみるか。電気を体内に溜めて少しだけ放出する。すると体表に電気がまとわさって周辺が明るくなった。疑似『フラッシュ』である。

しかし幽霊はお構い無しに攻撃してきた。

 

「ピッ!?(いってぇ!?)」

 

誤って『シャドークロー』に直撃してしまった。そのまま吹き飛ばされて木に背を打った。

クッソ、絶対泣かしてやるぞこいつ。泣くか知らんけど。

しかし妙だな。今の立ち上がるまでの数秒は絶好のチャンスだったはずだ。なのに何故追撃しなかった?

 

―――デテイケ

 

変わらないデテイケコールである。人間の精神は言われたことの逆をやるんだぞ? 今ピカチュウだけど。

今さらだが、こっちに来る前から心霊現象には強い方だったためこいつはそこまで怖くなかった。それにポケモンの世界は大抵の心霊現象がゴーストタイプのポケモンの仕業と分かっているから全く怖くない。ゴースゴーストゲンガーがよくやっているのだ、そういうイタズラは。

あとはロトムとかか。電化製品に乗り移って驚かせてくるらしい。

 

……ん? 電化製品ってことは代わり…そういうことか。

こいつの正体は誰かが操作してる脱け殻(ぬけがら)だ。脱け殻にいくら攻撃してもそりゃ無意味だろうな。

つまりどこかに本体がいるのだ。そしてこういう場合は俺をどこかで見ていると相場が決まっている。

 

「ピッカァ(種が分かれば簡単だな)」

 

全力で電撃を放出した。『放電』である。ゲームでもお馴染み…だと思うこれは全体技、つまり『十万ボルト』のような指向性がなく、周辺に無差別に広がる。四倍の威力で。

木々を薙ぎ倒し、幽霊を貫通し、やがてそいつに命中した。

 

「ゲゲゲッ!?(アバババ!?)」

 

ボワン、と目の前の幽霊が消えて、代わりに後方の上から鳴き声が聞こえてきた。そしてドスン、と地面に何か落ちた音がした。

見てみるとゲンガーがそこにいた。悔しそうな目でこちらを睨んでいる。

 

「ピッピッピ(ふっふっふ、作戦の勝利だな)」

「ゲゲ、ゲンガー!(頼む! ここから出てってくれないか?!)」

「ピカピーカー?(何故だ? ここ誰も住んでないって聞いたんだけど)」

「ゲゲ…ゲンガー?(それは…あれ、何でだ? そもそも何してたんだ?)」

 

……はぁ? つまり何か、無意味にそんなことしてたのか。俺の苦労は一体…いや、いい修行になったか。やっぱ実戦はいい経験になる。そこはありがたかった。

 

「ゲゲゲ。ンガー…?(悪かった。いつか詫びるから許してくれ。それにしても本当に何してたんだろ…?)」

 

本人も相当困惑していた。こっちが聞きたいことなのだが、それは。

やれやれ、ともかく謎の森事件はゲンガーの仕業だったと。そういうことだ、これで普通のポケモンもやがて住み着くようになるだろ。

俺もさっさと自分の巣を決めよう。

 

 

……あ、木の実丸焦げになってる。許すマジ、ゲンガー。



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巣が完成。そして…

「ンガガ(はいよ、持ってきたぞ)」

「ピカー(ありがと、助かったよ)」

 

現在俺はそこそこ大きな木の下に穴を掘っていた。そこそこな大きさに仕上がったと思う。

何故ここなのか、といえば周辺にアニメとかでありがちな元々巣だったような場所はなく、わかりやすいこの木にしたのである。

そしてゲンガーは『サイコキネシス』を用いて大量の木の実を持ってきてくれた。この世界木の実が腐らないから貯められるだけ貯めたいのである。無駄が出ないし。

穴の中に持ってこさせた木の実を次々入れていく。これだけで半分近く埋まってしまった。おそらく数ヶ月は余裕で保つと思う。

あとはベッドの草とか葉っぱを敷いて拠点の完成である。

 

「ピカピカー?(そういえば、結局何でここにいたんだ?)」

「ゲンガー…(全くわからんのですわ)」

「ピッカ?(いつからいたかは?)」

「ゲー…ゲンガー(えーっと、多分一週間も経ってないと思う)」

 

ふむ。そんな短い期間しかいなかったのか。危険だからというぺラップの言葉は何だったのか。一週間以上前なら危険ではないじゃないか。

とはいえ、このゲンガーの状態については少々思うところがあった。

『催眠術』という技がある。ゲームでは相手を眠り状態にする技だが、アニメではまんま現実の催眠術のように相手をコントロールすることも出来ていた。おそらくゲンガーはこれを喰らってあんなことをしていたのだろう。

とはいえ、ゲンガー自身も『催眠術』は使えるとのこと。同じ催眠使いでは格上でないと成功しないらしい。そしてゲンガーといえば結構な『催眠術』の使い手、相手は相当なポケモンであると予測出来る。

 

ただ、そんなことをした目的が不明瞭な点が気になる。自分のすみかだと主張すればポケモンたちは了解して滅多なことでは手を出さない。俺だって好き好んでスピアーの巣に近づきたい訳じゃないのと同じである。つまりこの時点で己の巣だとアピールする目的ではないことが伺える。

無差別に攻撃を仕掛けたいなら何も領域を決めなくとも良いはずだ。というわけで戦闘狂という可能性も潰える。

あと考察出来ることは何だろうか。うーむ、自衛のため? これが一番ありえそうだが、ゲンガーに『催眠術』をかけれるほどの奴が何故自分で自衛しないのか、という疑問が生じる。面倒だと言うなら誰も来ない場所にいけばいいのだ。この世界には秘境のような場所は山ほどあるし。

 

まあ、いくら考えたところで答えは出ないのだ。それにもう終わった事だし、気にしないことにしよう。

 

「ゲンガー!(またなー!)」

「ピッカー!(おう、またどこかでなー!)」

 

ゲンガーは自分の居場所に帰るそうだ。といっても実際には人を驚かせる心霊スポット的な場所らしいが。

ふわふわと浮いて、やがて夜の闇に消えていった。

俺も木の実を二つほど食って、その夜は柔らかい自然のベッドで気持ちよく眠った。

 

 

翌日。知らない天井だと思えば新しい自分の巣であった。寝惚けた頭を働かせるために木の実を食べる。うん、旨い。仄かな酸味と甘味があって普通に果物のようだ。

朝から果物を食べられる贅沢をしながらも、目が覚めてきた。そう、ここに巣を作ったのは修行のためである。目的を忘れてはいけない。

現在俺が使える技は『電気ショック』『十万ボルト』『雷』『放電(のようなもの)』の四つなのだが、一応元を正せばただ出力の調整と指向性を持たせるかどうかを弄っただけの技たちである。実質使える技は二つのようなものだ。さらにいえば電気タイプの技しかない。この問題を解決するためにここに来たのだ。

 

最優先で覚えるべき『電光石火』、これの習得をまず目指す。

ポケモンの技というのは、体感的にはイメージと行動に依存する。例えば『十万ボルト』を出そうとするときは、『十万ボルト』という技を出そうとするのではなく、電撃をどれくらい放出するか、どこに向かわせるかを考えて使うと結果的にそれが『十万ボルト』になるのである。つまり技の名前は後付けのような物なのである。最終的には慣れになるかもしれないが。

そしてそんなイメージを持って『電光石火』を使うにはどうすればいいか。

単純に考えれば、素早く移動して相手に体当たりする、というものをイメージすればいい。

だが、()()()というのはどこまでの加速なのかがイメージ出来なかった。そこを鍛えるために今ここにいる。

とりあえず一回試してみよう。狙うは昨日の戦闘で出来た丸太。

 

まずは加速。普段の数倍のスピードをイメージする。そのイメージを維持して走る。そして体当たり。

………

いってぇ!? これじゃ普通の『体当たり』だし、意外と丸太ががっしりしててこっちがダメージ喰らった。

それに全く速くなってない。普通の全速力だった。先は長そうだなぁ。

 

 

 

『電光石火』を覚えるための特訓として、まずは体力作りと素早さを上げるためにランニングを始めてみた。

他に方法が思い付かなかったし、多分これが一番効果的である。本当は自分より速いポケモンと競争できれば、それが効果的なんだけどそんな知り合いいないし。

ただ、意外と体力はあるみたいで次第にマラソンのように持久力を鍛える結果となっていた。まああんだけ電撃放てるのに体力がないとか考えられないわな。

というわけで、全速力で走り続けるという結構ハードなことを今はやっている。要は短距離走を連続してやっているようなものだ。

これだと結構辛いものがある。スピードが落ちないように維持しつつ、ひたすら走るのである。やっぱりマラソンっぽいが、これが全速力のスピードを維持するのだったら訳が全く違うことが分かるだろう。

 

「ピカァ…(あぁ…疲れた)」

 

もう動けない、というところまで走っていた。ゴロンと四肢を地面に投げ出しながら、持ってきた木の実をかじる。ああ、鞭打った体が癒されていく~。

来た道を振り返ってみる。こうしてみると随分と遠くまで走ってきたようだ。ずーっと真っ直ぐ走ってきたから当然といえば当然だが。

全速力を維持しつつ、木々を避けるのはなかなかに良い特訓になったような気がする。『電光石火』に繋がるかは分からないけどな。未だに糸口が掴めなかった。

 

―――……

 

ピコン、と不意に耳に何か音が入ってきた。風の音でも木々が揺らめく音でもない。これは…

 

―――ュ…ゥ…

 

鳴き声? しかもかなり弱っているような。

どういう事だろうか。ぺラップの言葉を信じるなら、この周辺は危険だからと誰も近づいていないはずだ。

それなのに声がした、ということは……

 

ともかく、声のする方へ向かっていった。



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看病

年越しだろうが新年だろうが基本特別編はやりません。
やれと言うならやる可能性はありますが、一応聞くけどポケモンでバレンタインとか書けると思う?


声の聞こえた方向へ行ってみると、より木々の密度が濃くなって暗く、さらに霧すらでてきた。一体どこの迷いの森だここは。

ひたすら真っ直ぐ進むと、やがて霧が晴れていった。そして視界に写ったものは―――霧が出始めてきた場所だった。

いよいよ本格的に迷いの森になってきた。これは奥にとんでもないものがあるに違いない。ポケモンがいるのは確実だが。

 

さて、どうやって攻略したものか。無鉄砲に数回挑んでみたものの、全て失敗に終わって未だ進展がない。

ただ、だからといってあの鳴き声を無視出来るほど無情でもない。あんな苦しそうな声は初めてだった。遠い音が聞こえるピカチュウの耳に感謝である。

いっそのこと木を全部薙ぎ倒すか? いや、迷わしてくるのは霧だから『霧払い』が必要か? うーむ、分からん。一旦帰って作戦を練ろう。

 

 

 

戻って少し作戦を練ってきた。地道に目印を置いて少しずつ進むことにした。

トキワシティで拾っていた少しボロいが大きい布に木の実を大量に詰め込んで、木の実を少しずつ置いていき、どこまでなら行けるかを調べていくことにする。

それ以外にも案はあったが、先ほど挙げたように物騒なものか、現状不可能なものしかなかったためこれになったわけである。

……めっちゃ時間かかるな、これ。

 

 

………お、霧が晴れてきた。意外とすぐ抜けれたな。数時間かかったけど。

結構無心で同じ作業するのはかなり疲れた。木の実も重いしでもう二度とやらない。

具体的なルートは省くが、とりあえず四十八回は方向転換した。同じ道を何度通らされたことか。

 

 

霧が晴れた場所は凄く神秘的な場所だった。秘境と言い換えてもいい。

日の光がいっぱい降り注いでいる。そして小さな泉と、朽ちている推定百年以上生きていたと思われる太い樹があった。巣にするならここが良かったと今さら後悔。まあでも、俺じゃここに合わないな。伝説か幻のポケモンじゃないと。

 

「ミュ……ウ……」

 

さて、そんな場所に想像通り、幻と呼ばれるポケモンがいた。

日の光が一番強い場所にいるので一層その存在が強調されている。鳴き声からも分かるだろう、ピンクの体を持ち、あらゆる技を使いこなすポケモン。名をミュウと言う。

そんな幻のポケモンが傷だらけで横たわり、弱々しい鳴き声をあげていた。呼吸も危ういレベルだ。

 

「……ピッカ…(こりゃひでぇな)」

 

心底放置しなくて良かったと思う。放っておけば、確実に死んでいただろう。

ポケモンの世界での『死』は俺にはよく分からない。人が亡くなった、というのはアニメでもたまに出てきたが、ポケモンが死ぬ描写は今まで見たことがない。

ムーランドが寿命で逝ったような描写はあったが、実はどこかで生きているという可能性も本当に僅かだが残っているほどポケモンの死は描かれたことがない。

しかもバトルでは()()になるというのに、ポケモンセンターにでも行けば完全に回復しているほどだ。

そんな不死身性を持ったポケモンだというのに、俺みたいな素人でも放っておけば死ぬと分かるほどの傷だ。一体何されたんだか。

 

「ピカ…(食えねぇよな)」

 

とても咀嚼する余裕があるようには見えなかった。

近くの木から葉っぱを一枚拝借し、その上でオボンの実を()り潰していく。

潰した木の実をミュウの口元に持っていき、ゆっくりと飲ませてやる。しかし本当に少ししか飲んでくれなかった。七割はまだ残っている。

…良かった、傷は少し癒えている。既に瀕死を越えて亡くなる寸前の状態だから、効果があるか分からなかったが、死んでいなければとりあえず効果を発揮するようだ。

しばらく様子を見たが、少しは楽になったようだ。苦痛に歪んだ顔が少し緩んでいる。

 

しかし、一体何がミュウをこうしたのだろうか。バトルでここまでする必要はないし、十中八九人間の仕業なのが分かる。

だが、どんなことをしてこうなったかが全く不明である。確実にこれは必要以上に傷つけている。そこまでしてすることとは何なのか。

……ロケット団、ミュウツー、想像するのは簡単だ。事実かはさておき、アニメ以上に危険な存在らしい。気をつけておこう。

 

そのまま俺はミュウを見守り続けた。時折磨った木の実と水を与えながら。

 

 

ミュウを看病しながら数日が経った。未だミュウは目を覚ましていない。

ただ、ずっと看病していた訳でもない。当然ながら技の修行はしていた。『電光石火』はもうほとんど完成形にある。ただ加速した体を上手く操れないのだけなのだが。

因みに平行して『アイアンテール』の練習も始めた。こっちはアニメのお陰でイメージしやすく、意外ともう成功しかけている。『電光石火』はちょっと難し過ぎたらしい。一体どんな基準だよ、普通逆だろ。

あと気づいたことがある。オボンの実、ゲームよりも回復量は少ないようだ。既に六つほど消費したが、傷はまだ残っている。ゲーム通りなら四つで傷はほとんど消えているはずだ。

 

「…ピカピー(もう十分回復してるはずなんだがなぁ)」

 

ミュウを軽く撫でながら、そんな一人言をぼやく。

そう、ミュウは既に回復している。呼吸は安定しているし、傷が残っていると言っても、ゲーム基準なら体力が半分くらいといった様子だ。目を覚ますには十分過ぎる体力である。表情も軽いもので普通に寝てるだけに見えるし。

しかしミュウは目を覚ましたことは一度もない。いや、もしかしたら俺が見ていない間に覚ましていたのかも知れないが、ともかく意識は取り戻していないと思われる。

 

そもそもが可笑しな話だ。ミュウは文字通り()()()()()使()()()。『自己再生』『月の光』『光合成』『砂集め』『回復指令』エトセトラ…ともかく自分を回復する技だって使い放題な訳だ。どうして回復しなかったのか。『回復封じ』や『挑発』なんてのもあるが、流石に永続的に効果があるわけでもない。意味不明である。

そこのところを結構聞きたくて夜しか眠れない。早く目覚めてくれないかな。

 



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リベンジマッチ

翌日。いつも通り朝から木の実食って、水を飲んで、木の実を磨り潰して、それをミュウに飲ませようとした時だった。

―――バッチリ目があったのである。それはもう、そらす方が難しい程に。

 

「……」

「……」

 

互いに状況を理解出来ていないようで、しばし無言で見つめあっていた。それはもう、どこぞのカップル並に見つめあっていた。

そして、先に脳が情報を処理し終えたのはピカチュウの方であった。

 

「ピカッ!?(目覚めた!?)」

「ミュ!?」

 

突然声をあげたことにミュウも驚いてしまったようだ。すまん。

あー、えーっと、こういう場合どうするのがいいんだ? 回復したからはいバイバイ、とはいかないだろう。なんだ、まずは挨拶でもしたらいいのか?

とか考えていると、ふわふわとミュウが浮き上がっていって、こちらを見下ろしてきた。ジーッと視線を向けてきて、やがて―――

 

「ミュ~? ミュミュウ~♪」

「……ピカ?(何て?)」

 

今まで他のポケモンとは普通に会話出来てた分、驚きが大きかった。

全く意味を読み取れないのだ。本当にただ鳴いているだけ。無意味に鳴いているだけなのだ。思わず聞き返してしまうのも無理ないだろう。

犬とかの鳴き声とも違うもんだから余計に分からない。犬なら度々遊びにいく友達の家で飼っていたから、ある程度は感情次第で何か伝えようとしているのが分かるのだが、ポケモンの、それもミュウのものとなると流石に無理だった。ガーディとかなら出来たかもしれなかったのに。

 

「ミュウ? ミュミュミュウ~」

「…ピカピ(だから分からんて)」

 

楽しそうに空中でくるくると回りながら何かを訴えてくるも、残念ながら意味は分からない。寧ろ意味は無いのかもしれない。

言葉の通じないまま、俺たちは無駄な時間を過ごしてしまった…。

 

 

「ミュウ~♪」

 

宙を漂いながらご機嫌そうに俺の後ろを着いてくるミュウ。なかなか可愛いものがある。

 

結局あのあとも意志疎通を図っていたのだが、残念ながら全て無駄に終わってしまった。

ただミュウを存命させるということは成功したので、俺という存在はもうお役御免ということだ。つまり寄り道は終わりである。

技も大体完成したし、あとは本来の目的である電気玉集め、そのためにオーキド研究所に行くというのを再開しようと旅立った訳だ。

巣も結局ただの木の実置き場になっていたが、初めて自分で作った家ということで、しばしの別れは若干思うところがあった。

 

さて、持てるだけの木の実を持って、さあ出発だ、というところで不意に気配を感じ上を見てみるとミュウがいて。

無視するように歩みを始めるもずっと着いてくるのだ。治ったんだから好きなところ行けと言っても通じなく、最初に戻る。

 

「ピカー…(危ないよなぁ)」

 

ミュウと言えば幻のポケモンである。人間に見つかればさぞ狙われることだろう。

そしてその近くにいる俺は絶対とばっちりを喰らう訳で、しかも今向かっているのは人間のいる場所。危険極まりないだろう、俺も、ミュウも。

そんな俺の思いも知らず、ミュウは自分の尻尾を追いかけて遊んでいる。しかしきっちり着いてきているもんだから撒けないのだ。

スピード勝負に持ち込もうにも、流石に『神速』と『電光石火』じゃ勝負にならない。やるだけ無駄である。

どうしたもんかなぁ…。

 

「スピスピィ!(おいワレェ!)」

「ピ?(あ?)」

 

声をかけられたと思い横を見てみると、いつぞやのスピアーさんがそこにいた。

 

「ピー、ピカ?(何か用ですか?)」

「スピッ、スピスピ!(惚けんなワレェ!リベンジや、こっち来んかい!)」

 

敵に背を向けて戦いの場に向かっていくスピアー。バカかな?

それに何故行かなくちゃいけないのか。あっちが勝手に因縁をつけているだけなので無視して進行を再開する。

 

 

「ピカッ!(いい加減しつこいぞ!)」

『スピスピィ!!(お前が逃げるからだろォ!!)』

「ミュミュウ♪」

 

あのあとしばらくして、今度は大群で襲い掛かってきた。前回のように五匹程度ではない。数十は下らない数が集まって追いかけてきている。

流石に分が悪いと思い、逃走を開始した。いや、というか戦う理由がこちらに無いから無視しようとしているのだ。断じて逃げではない。

始めは素のスピードで距離を空けられていた。『電光石火』の特訓の成果というか副産物がこんなところで役に立つとは思わなかった。

しかしスピアーたちも簡単に距離が離れていくため、スピードアップを図ってきた。『追い風』を使用し、今はジリジリと距離を詰められている。

ミュウはこの状況に危機感を全く持っていない様子だった。関係者じゃないからなのか、この逃走劇(おいかけっこ)を楽しんでいるのかは分からないが、恩人の危機なのだから少しは恩を返してほしいものである。

しかしスピアーもスピアーで結構バカである。あれだけの数がいながら、後ろからしか追ってこない。回り込むとか知恵を絞ることが出来ないのか。やはり虫には厳しいのか?

 

時折電撃を後ろに放ち錯乱させることは出来ても、到底逃げ切れるものではなかった。本当に不幸だ、こっちに来てから。

 

「スピィ…(追い付いたで)」

 

既に大量のスピアーと対峙していた。流石に間近に迫っている連中に背を向けるバカではない。

頬袋からバチバチと電気が走り連中を威嚇する。相手さんに意味はなくとも、こちらにとっては若干の鼓舞になるようで、闘争本能が昂ってくる。

 

「ミュウ~?」

「ピカピ(危ないからちょっと退いててくれ。あとこれも)」

 

背負っていた木の実を入れている布を外してミュウに渡す。

するとこちらの言葉が伝わったのか、ミュウは木の実を詰め込んだ布を持ちながら遥か上空に退避していった。これで『放電』も気兼ねなく使える。

だが、『放電』にだって限界はある。これだけの数だ、瀕死状態のスピアーでも肉壁となって全てには攻撃出来ない。困ったものである。

 

「スピィ!(用意!)」

 

一匹が号令をかけると、他のスピアーが一斉に両手の針を構える。既に技の準備も完了しているようだ。

 

「スピィィ!!(撃てぇ!!)」

 

瞬間、視界を埋め尽くすほど無数の『ミサイル針』が襲い掛かってくる。当然ながら隙間があまりにも少なく、普通は避けきれない。

が、それはあくまでも()()()()()である。

『電光石火』を使用。体が勝手に動き、通常の数倍以上のスピードで走り出す。

『電光石火』は攻撃技であるが、ゲームと違って()()()()()()()なのである。当然応用することが出来るのだ、アニメのように。

今回は回避のためにこれを使う。僅かにしか存在しない隙間を掻い潜り、スピアーたちに接近する。

スピアーたちは『量』で攻撃してきたが、こっちは『質』で対抗する。よく質が高くとも量には勝てないというが、そんなことはない。そういう場合が多いというだけで、勝てないという事実があるわけではないのだ。

 

「ス、スピ!?(何だと!?)」

 

避けきれないと思われた技を回避されてスピアーたちは困惑状態。想定外のことに動きを止めていた。

チャンスと思い、高く跳び上がる。

先ほど『放電』では全員に攻撃を与えられないと説明したが、それはあくまでも直線的な話だ。それだと後ろの奴に当たらないのだが、連中の中央に行けば、満遍なく当てられるのだ。

 

「ピカチュウ(リベンジ失敗だな)」

 

『放電』により無作為に電撃が走り出す。

 

『スピー!?(ギャァァ!?)』

 

四倍化された威力の『放電』にスピアー悶絶、その後撃沈である。

地面に着地し周りを見てみると、スピアーたちは黒焦げになり、死にかけの虫のようピクピクと震えていた。いつか見た光景である。

 

「ピカピカ、ピカチュウ(これに懲りたら、もうちょっかいかけてくんなよ。それに因縁つけんのやめろ、あれ事故だから)」

 

ポケモン界に法だとか暗黙の了解があるか知らないが、事故に責任を求められても困る。ピカチュウにどう責任取れと? ちゃんと謝罪もしたんだぞ。

と、自分を正当化(?)して、焦げ臭いからその場を離れようとした時だった。

 

「ピッ!?(何!?)」

 

直感に従って跳び跳ねると、先ほどまでいた場所に大きな針があった。

見てみると、スピアーが一匹残っていたらしい。しかも雰囲気が明らかに先ほどまでの普通のスピアーと違う。

強者は雰囲気からして違うんだな…参ったな、勝てねぇぞこれ。



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バトル回避

戦闘描写回避とも言います(タイトル)


この膠着(こうちゃく)状態が続いてどれくらい経っただろうか。動いた方が負ける、というか動かなくとも俺は負けると思う。あれは文字通りレベルが違う存在だ。

先ほど避けれたのも半分以上まぐれで、次同じことをされれば確実にダメージを喰らう。あんな大きな針を刺されたらどうなるのか、想像がつかなかった。

ポケモンである限り貫かれて死ぬ、なんてことは起きないと思うが、最悪を想定しておこう。

 

しかしあいつは何故攻めてこないのか。奴からすれば俺など一捻りだろう、何故動かないのか。

もしかしたら先ほど回避を成功させたことで勘違いさせたとか? 必殺の技を避けられて同格かそれ以上と判断したとか?

あり得なくもない。が、結局それは遅かれ早かれ勘違いだと気づくはずだ。ずっと動かない訳にもいかないだろうし、攻撃を仕掛ければ一瞬で気づく。

 

さて、安全にこいつから逃れる方法はないものか。『電光石火』を使っても奴の素のスピードに負けているため無意味であるし、攻撃しようにもその素早さから回避されてしまう。

一番可能性がありそうなのはミュウに何とかしてもらうことだが、残念ながら遥か上空で木の実を浮かして遊んでいたのが見えた。本当に何がしたいのかあいつは。助けてくれよ。

 

 

スピアーが動いた。高速で迫る様はまさに蜂そのものだ。そしてその鋭い針を突き出してくる。

技的には『地獄突き』か『乱れ突き』か、突き系統の技だと思われる。

そして攻撃に対応出来なかった俺に針が突き刺さる―――寸前、スピアーは動きを止めた。ブワッと風圧が襲ってきた。そして針はギリギリ触れていない。

…なかなか察しがいいらしい。俺より格上だから当然と言えば当然だが。

先ほどの膠着の間に罠を仕掛けたのだ。俺が放つ電気技は全て体の表面から出される。つまり触れた瞬間に電撃を放出すればスピアーを道連れに出来たのだ。死なばもろとも、とは違うかも知れないが、ともかく功を成したようだ。警戒して接触技を使ってこない。

因みにこの状態の維持は結構辛い。放出ついでに纏うことは出来るんだが放出せずに纏うだけとなるとこれがなかなか……。これを発展させれば『ボルテッカー』いけそうなんだがな。

 

「スピィ…(誰だ、お前は)」

「ピ?(え?)」

「スピスピ(誰だと訊いている)」

 

いつでも針を突き刺せる距離で、しかし若干の距離を取って、訝しむようにそんなことを尋ねてきた。

ガクッ、と一瞬気が抜けてよろけてしまった。戦闘中の今訊くことかそれは。

しかし唐突に話しかけてきたかと思えば誰か、だと? 質問の意図が全く分からない。というか何でその質問が出てきた。

まあそんなことはどうでもいい。ただそれ以上に()()()()()()()()()()のが気になったのだ。考えてみれば、自分がピカチュウであること、人間の頃の記憶があることしか自分について知らない。

元はどんな存在だったのか、ピカチュウとしてどのように生きてきたのかが分からない。

いやまあそんな奇妙なことに気付かせるために訊いたんじゃなくて、普通に名前でも聞こうとしてたんだろうけど、これは感謝である。思わぬ発見があった。

 

それにしても名前か…普通にピカチュウじゃダメなのだろうか? ポケモン一匹一匹に名前があるとはおもえないのだが、まあきっとあるのだろう。

よく考えてみよう。例えばピカチュウの群れに一匹ずつ名前がなければ「おい、ピカチュウ」と呼ぶことになる。それだと誰のことか分からないよな。

それに『ピカチュウ』とは人間が考えた種族名であって個体名は一切ない。つまり柴犬に『柴犬』という名前をつけて呼んでいるのと同義である。

うん、こう考えると名前がいかに重要か分かってくるな。

 

しかし名前か…考えてなかったな。今まで必要なかったし、これからも必要ないと思っていった。

……そんなすぐに思い付く訳でもなし、人間の頃の名前を使うか。

…………あれ、名前何だったっけ? 全く思い出せない。どころか、元の家族の名前も、友人の名前も、教師の名前も全部思い出せない。

唯一思い出せるのは好きだった人の名前か。桜という在り来たりな名前だったのを覚えていた。結構可愛かったんだけどな。

いやいや、そんなものを思い出しても無意味である。尻尾の形から見ても俺はオス、女っぽい名前は嫌だし、自分が桜と呼ばれたくない。

よし、儚き頃の中二センスを持ってくるとしよう。黒歴史こそ作らなかったが、妄想はたくさんしていたのだ。ムムム…

 

「……ピカチュウ(ゲツジだ)」

 

鼠と言えば齧歯類(げっしるい)ということでそうした。残念ながらいい名前が思い付かず、早く答えねばと思ってこうなってしまった。

……そこまで中二のセンスも光らず、我ながらダサい名前になってしまったな。いつか遠くに行くときは改名でもしようかな。

 

「スピスピ(知らん名だな、どこから来た)」

「ピカピ…ピカー(こっちが訊きたいわ…どうしてこんなところにいるんだか)」

 

主に人間的な意味で。この森に来たのは、というか通ろうとしたのは俺の意思だが、ポケモンの世界に来たのは俺の意思ではない。

 

「スピ、スピスピ(そうか、ならここを通るだけなら俺たちはお前に危害をくわえない)」

「ピ、ピカ?(え、マジで?)」

 

何が「そうか」なのか全く分からんが、ともかくこちらにとっては好都合だ。無意味に争う理由も無いし、こいつとはまだ戦えない。

 

「スピスピ、スピ(ああ、だがその代わりにこちらにも危害をくわえるな)」

「ピッカ、ピカチュウ(当たり前だ。あんたとは戦いたくないし、争う理由も無い)」

「スピ、スピスピ、スピ(こちらもその方が助かる。そこで伸びている奴らには言って聞かせておこう。では行け)」

 

そう言ってそのスピアーは先ほど倒したスピアーたちを叩き(つつき?)起こして去っていった。

 

………結局あいつは何だったんだ? スピアーたちのボスか何かか?




先日祖父が亡くなりまして、葬式で忙しく書けませんでした。遅くなって申し訳ありません。
悲しみもありまして、しばらく書けないかもしれませんがご了承ください。
念のため入れておいた不定期更新がこのようなところで役に立つとは思いませんでした。


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オーキド研究所…?

とりあえず通行許可はいただいたのでありがたく通させてもらおう。これで今後スピアーに襲われることもなくなるし、安全に道を歩けることがこんなに嬉しいこととは。ただ、今は無理した体の回復が優先だな。

 

 

さて、そういえば考えていなかったことが一つ。オーキド研究所に行こうと思い立った訳だが、肝心のマサラタウンの場所が分からない。

以前も説明した通りポケモンは初代はやっていない。やったことがあるのは小学生の頃にプラチナとブラック2で一旦引退。その後、というか結構最近か、友達に誘われウルトラサンをやったといったところで、実はポケモンは全然やっていない。知識も動画で見たことがある程度で詳細は覚えていない。実質にわかである。ただバトル方面についてはガチ勢だったと自負しているが。

 

さて、そんな俺が地図も情報も無しに、どうやってオーキド研究所に行こうというのか。

考え無しにあの街から反対方向に向かって森を抜けたが、そこにはただの草原しか広がっていなかった。木に上ってみても残念ながらそこまで遠くは見渡せず、今はその草原で寝転がっている。

その拍子に見上げた空には太陽とオニドリル数匹が見えた。朝は過ぎているが、昼と呼ぶには少し早い時間帯な気がする。

 

「ピカ~(どうしたもんかなぁ)」

 

友達との対戦でも読みが浅いとかよく言われたな。俺単純思考だからなぁ、こういうことに気がつくの大体後なんだよな。対戦するときは注意事項を書いたメモを片手に勝利をもぎ取っていたが、今はそんな冷静にしてくれるものも無い。

途方にくれてしまった。救いの手はないのか。

 

「ほら、マサラタウンに帰るわよ」

「えー、もっと街で遊びたかったぁ」

「そんなこと、トレーナーになればいくらでもさせてあげるから」

 

と、親子がそんな会話をしているのを耳にした。

……これまで散々だったよな。こっちに来てから電気玉による暴走でスピアーに追っかけ回され、街で餓死しかけ、巣を求めたら変なゲンガーに攻撃されて、スピアーのボスに威圧され。

ここでようやく初めての幸運が舞い降りたらしい。いや、ミュウに会えたのも幸運と言えば幸運だが。

ともかくこれは都合が良い。しばらくあの親子を付け回せばいずれマサラタウンに着くだろう。そうすればオーキド研究所も必然的に見つかるはずだ。

 

「ミュウ~?」

「ピカピカ(静かにな。あの親子をつけるぞ)」

 

ひそひそとミュウに話しかける。別にバレても野生のポケモンだから問題ないと思うが、ゲットされては堪らないし、危険だからと攻撃してくる可能性だってある。バレなければその心配はしなくていい。それに尾行って何だか刑事みたいでカッコいいし。

そのまま俺たちは二人を追いかけていった。

 

 

二日かかった。ミュウが意外と大飯食らいで木の実が枯渇しかけたが、漸くマサラタウンに到着である。ていうかどんだけ食ったんだあいつ。俺二つも食えば満腹になるぞ。同じくらいの大きさなのに一体どこに木の実は消えたのか…。

 

おお、アニメで見たまんま田舎だな。お、サートシ君の家もあるじゃないか! これはアニメ世界の可能性も出てきたな。あれ、そういえばグリーンの家ってあったっけ? オーキド研究所がそうだったっけ? まあ、今は別にいいか。

それより漸くオーキド研究所に行ける。これで手がかりも何も無かったらとりあえず八つ当たりに博士を焦げ焦げにしてやろう。大丈夫、彼もきっとスーパーマサラ人だ。レベルが分からないから具体的な事も分からないが、高々四倍程度で死にはしまい。

 

 

田舎では目立つ一際大きな建物がある。それが今目の前にあるこれがオーキド研究所だ。

当然俺のような電気鼠専用の入り口は無いため柵を飛び越えて不法侵入する。『アイアンテール』で扉を壊すのも考えたが、明らかに敵視されてしまうので止めておいた。……こんな発想が出てくる時点でサイコパスだな、俺。

 

無防備にも空いていた窓から潜入成功。ピカチュウになってから初めての屋内でちょっとドキドキする。

因みにミュウには透明になってもらっている。どういう原理なのかよく判らないが、ラティ兄妹も映画で透明になってたし、ポケモンが出来ることならミュウにも出来るのだろう。もしかしなくてもこいつヤバいだろ。

さてさて、電気玉はあるかね。もしくは情報。研究所なんだからそれくらいあってくれよ…。

 

 

「ピッカ…(嘘だろ)」

 

今、俺は非常にヤバいことに気がついた。

それは今目の前にいる研究員の一人のことだ。

 

「ふむ…どこかで見たことがある物を持っているのぉ」

 

めっちゃ若いオーキド博士がいる。冗談抜きで。

茶髪で顔も割と美形だ。というかおじさんに見えない。でもオーキド博士と呼ばれてたから絶対本人だ。

待て待て待て。今のチャンピオンってグリーンだろ? オーキドのお孫さんとか言ってたよな、あのビードル。どう見たってそのお祖父さんが二十代…逆に盛っても三十代にしか見えないぞ。可笑しいだろ。

本来のオーキドってあれだろ、最低でも五十過ぎだろ。アニメの見た目的にも、孫がいることを考えても。

じゃあ誰だよこいつ。色んな意味で矛盾してるぞ、存在が。

 

「おお、思い出した。確かイッシュ地方で生産されてたものじゃ。効果は…何だったかの? 確かメモさせた紙があっちに…」

 

しゃべり方だけはじいさんっぽいけどそれ以外はどう見たって青年だ。

というか何気にめっちゃ重要なこと言ってたな。電気玉がイッシュで作られてるとか……イッシュにピカチュウいないのに何で生産してんだ? まだ電気玉の効果でピカチュウが強くなること知られてないとか?

いずれにせよイッシュに手がかりがありそうだ。そうと決まればこんなところさっさとおさらばしてしまおう。もう用済みである。

 

「ええっと、『電気玉は非常に強力な電気エネルギーを凝縮した物体であり、誤って割ってしまうとそのエネルギーが放出され大変危険な物であることが判明。電気玉の製造は禁止された』……このメモ書いたの誰じゃったか。しかしあのピカチュウ、同じものを持っとるのぅ。危ないから取り除きたいんじゃが……」

 

おい待て、電気玉ってそんな危険なもんじゃねぇだろ。精々がポケモンに投げつけて麻痺させる程度だろうが。そのメモ間違ってるぞ。

というかそーっと近づこうとすんな。渡さねぇからな?

そそくさとオーキドから距離を取りながら来た道を戻っていく。

 

「あ、こら待たんか!」

 

そう言って研究所内でずっと追いかけてくるオーキドはただの変態にしか見えない。口調的には老人のはずなのによくそんな体力持つよな。見た目青年だけど。というか研究者ならもやしレベルで運動出来ないんじゃ…あ、でもベトベトンにのしかかられてもピンピンしてたし、この世界の人間ならスーパーマサラ人ってことで納得出来るな。

 

「むぅ、あのピカチュウは危険物を持ち歩いている自覚がないか……バトルしようにも誤って割れると危険だし……エサで釣ろうかの? ほぅら、ここに美味しいポケモンフーズがあるぞ~」

 

そう言って懐から電気タイプ用のポケモンフーズが取り出された。いや、何故入ってたし。

というかまる聞こえでそんなのに引っ掛かる訳ないだろうに。やっぱりバカなんだろ。

ともかく情報は得られたんだ。こんなとこはさっさとおさらばである。



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別れと出会い

すっかり忘れてた。マジで。
ストーリーも覚えてないから次回作にご期待ください(数年後の次話)


―――ミュウがどっか行った。

オーキド研究所から脱出してすぐに気づいたことだ。透明になって隠れていたミュウなのだが、呼び掛けに一切応じない。その状態のまま二日経っている。

いたずらにしても流石に長すぎるし、既に旅立ったと思っていいだろう。最悪なのが研究所で捕まってることだが、あのミュウに限ってそんなことはない。『テレポート』だって使えるし、そもそも透明なやつをどうやって見つけて捕らえるというのか。少なくともそんな機材か何かは見かけなかった。

木の実を持っていかれたことが少しショックだが、ともかく俺から離れてくれて良かったよ。これで狙われる心配がなくなる。いや、電気玉が危険物として扱われてるならミュウがいなくても狙われるか?

 

 

まあその辺は追々考えよう。今は電気玉についてだ。

イッシュ地方で生産された電気玉は今はもう生産がストップしている。理由はオーキド曰く危険だから。ピカチュウ一匹の攻撃力を二倍するだけの道具のどこにそんな危険があるのか知らないが、まあともかく数が限られているらしい。

具体的な個数は分からないが、多くても二桁だろう。そんな危険物らしいものを大量生産出来るとも思えないし。

 

問題は、世界のどこに電気玉があるかだ。

ポケモンの世界は未来の地球説というのがあるように、この世界は地球と同じような広さを誇っている。その中から電気玉をいくつか見つけるのにどれだけ苦労するか。きっと砂浜に落ちた小さな宝石を探すくらいには大変だろう。さてどうしたものか…。

 

 

思えば単独で行動するポケモンはどのように生活しているのだろうか。

木の実(飯)を食って惰眠を謳歌しているのか。それだとニートと変わらないな。そこにポケモンバトルというのを加えるとポケモンの生活を表せる。

だがそんな毎日毎日バトルしてるかと言われたら答えは当然ノーだ。バトルしない日だってある。その日はニートと何ら変わらない。

つまりポケモンイコールニートというのが証明出来るのだ!

……目的を見失い過ぎた。そもそもニートは家の中にいるから立証出来ないな。

 

現在トキワの森の自分の巣に帰ってきた。不思議なもので木の実は全く腐っていないし痛んでもいない。いくらか減っているのは何者かが拝借していったからだろう。留守にしてた俺が悪いからそいつらは責めないさ。

 

さて、八方塞がり…でもないが、電気玉の収集は困難なことになった。何せ情報が少なすぎるし、数も少ないし、世界は広いしで探すこと自体無理と言わざるを得ない。

無鉄砲に旅をしようともそれで見つかる確率もそれこそゼロに等しい。なら、何か新しくやるべきことを見つけよう。そのついでに電気玉を集めよう。そうすれば途方もない感じが少し薄まる。

 

とはいえ何をしたものか。レベルを上げるか? しかしレベルアップの感覚がこれまで感じられなかったんだよな……あのビードル曰く、「レベルが上がればそれに気付かないバカはいない」らしい。つまりあれだけスピアーを倒してもまだレベルアップの兆しがないのだ。さらにレベルは何もバトルに勝ったから経験値が増えて上がるというものでもない。アニメでもあるようにバトル中の進化なんてザルにあるし、感情で規定のレベルに達していなくとも進化することだってある。

つまりあれだけバトルしたのに、これまでの経験は一切経験値に加算されていない可能性がある。あんな強敵のスピアーと戦ったにも関わらず、だ。

 

相手のレベルというのは本能的に感じる強さでおおよそを測れる。あのスピアーはレベルが七十は超えているだろう。それくらいの圧力があった。

だが俺のレベルは大きく見積もっても十五から二十前後。そこから上がる気配が全くない。

まあそれでもやりあえるのが(ひとえ)に電気玉による攻撃力四倍化のおかげか。防御力は全く無いけど。

つまりだ。俺はレベルが上がらない可能性がある。理由はよく分からない。ゲーム的に予想すると道具を複数持っている…ってか効果が重複されてるからバグってレベルが上がらないとか。

まあ妥当なことだ。もしレベルも上がったら尋常じゃない攻撃力になる。ピカチュウを百レベルまで育てたことないから分からんけど、多分四倍したら五百は超えるだろ。そんな必中一撃必殺状態じゃあ色々とバランスが崩れてしまうのだろう。

 

ずいぶんと話がそれた。要はレベル上げは目標にならないということだ。

ふむ、それなら…伝説のポケモン巡り。やってみようか。

思えばポケモンの世界を満喫していなかった。折角夢にまで……は見てないが、異世界に来れたのだ。おそらく体験することのなかったことを体験できているのだから、存分に楽しまなくてはもったいないだろう。

自分が誰なのかはまあ…今必要ではないし。なんだったらアルセウスに出会って、質問ができれば全部分かることだ。後回しでいい。

 

よし、そうと決まれば早速探しに行こう。

目指すはサンダー、ファイヤー、フリーザーの三鳥と出会うことだ。

ミュウツーはいるか、というか作られてるか分からんから保留で。

 



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