糸の先に繋がれた人形のお話 (ちゃるもん)
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第1話 人形が繋がれた日

はいどうも。
ちゃるもんです。
1話目ですが2度目の投稿となります。まあ、前の話よりかはよくなったんじゃないかと自負しております。うん、多分……。

ただ、少し文字数が少ないのは許してね。
技量的にこれ以上は無理でした(´・ω・`)


「うん、うん大丈夫。うん、大丈夫だって。うん、ありがと。うん。ばいばい」

 

 耳に当てていたスマートフォンを離し赤い通話終了のボタンを押す。画面には先ほどまで通話していた相手である母の文字。

 大学生活が一か月を過ぎ初めての仕送りを受け取ることになる。その連絡と生存報告といった感じで連絡してみたが笑われながら心配されてしまった。

 

「初めての一人暮らしなんだし、心配されても仕方ないか」

 

 未だ荷物を開き切れていない微妙に殺風景な部屋。必要最低限な家具に電化製品。ところどころ隙間の空いている本棚。一か月たった今でもあまり実感できない暮らしに不自由さはあまり感じていなかった。

 寂しくないって言ったら嘘になるけどね。

 

「バイト、探さなきゃな」

 

 この一か月は大学生活と、私生活の両立に悪戦苦闘していたからバイト探しもできていない。不自由さは感じなくても大変なものは大変なのだ。

 地元を離れて全く知らない土地に一人。ちょっとした冒険気分で迷子になりかけたりもした。そのおかげか家周辺の地理を覚えるのに時間はかからなかった。

 スマートフォンを手に取り、近くのバイト募集を検索する。何ともいい時代になったものだ。

 しかし、そう簡単に決められるものでもないし……。けして、バイト希望者ですと連絡するのが怖いわけではない。わけではないのだ。

 

 ベットに寝転がり明日の講義に思考を巡らせる。あれとあれがー。まだ、一か月。同級生たちとの壁もほぼなくなり、ここからグループが結成されるといったところ。

 特別コミュ障というわけでもないので全体的に仲良くはある。だが、あくまでその程度。

 

「ここからバラ色になるか灰色なるのかがきまるか。こえー」

 

 愚痴をこぼしながら明日の講義に向け準備を進める。とは言ったもののやることと言えばせいぜい教材をくたびれた鞄の中に押し込んでいくぐらい。五分とかからずに準備は終わってしまう。

 持ち込んだゲーム機を起動する気にもなれず、スマートフォンで動画サイトへと移動。現代の若者御用達の動画サイトで適当に実況動画を垂れ流す。内容はオレツエー異世界転生系アニメの実況だ。ぼろくそに叩かれている。

 

 普通の学生らしく、暇な時間を怠惰に過ごす。これほどの贅沢がどこにあるのか。

 いや、まあ、アニメみたいな非日常が羨ましくないかと言われれば否なのだが……。

 

「けど、異世界に行きたいかって言われるとそうでもないんだよな」

 

 アニメやゲーム、漫画の続きが分からなくなる。家族に会えない。そういうのを考えると最近はやりの異世界転生とは割かに悲しいものなのかもしれない。

 動画も終盤。無理やりなこじつけとハーレムを形成しみんな大団円のハッピーエンド。

 ハッピーエンドなら別にいいのかなー。このアニメ見るの初めてだけど。

 

 さて、気が付けば時計の針が十二を指している。良い子はおねんねしましょうねー。

 仰向けになり目を閉じる。

 チクタクと時計の音を子守唄替わりに夢の世界へと飛び込んでいく。

 

 …………。

 

 あーたーらしい朝が来た

 きぼーおのあーさー

 

 皆さんおはようございます茉裏です。学校に行ってきます。飯? カロリーメイトで十分なのだよ若いから。

 

 親しい友人達に挨拶をし、堕落的に講義を受ける。

 昼飯は食堂で複数人で囲むこともあれば、パンやおにぎりを一人もそもそと講義室で食べることもあるが今日は後者だ。というのも仕送りが届くまでもう数日かかる。節約なうなのだ。

 

 微妙に物足りない腹具合を我慢しながら午後の講義に思いをはせる。

 居眠りはしないと思うが、今日一日は腹が鳴りやむことはなさそうだ。

 

 

 …………。

 

 

 一日の講義も終わり帰宅途中。帰り道のついでにアルバイトの募集物色していく。ネットで募集を探してもいいのだが、足で探すのも大切なのだ。たぶん。

 

 コンビニ、ファミレス、派遣etcetc……。

 

 ぱっとするものは見つけられず無事帰宅。と、同時に母親からメッセージで振り込んでおいたとの報告が。たったいまコンビニの前を通ってきたというのに。

 

「しゃーない。晩飯買うついでに確認してくるか」

 

 扉に刺した鍵を引き戻し、歩いてきた道を戻っていく。コンビニの機械で預金残高をチェック。無事振り込まれているようで安心した。

 ついでに大盛パスタを一つ購入。あ、温めは大丈夫です。

 

 家に再び戻ってきパスタを台所の上へ。そしてオフトゥンにダイブ。この瞬間が至高という人も多いだろう。

 

「たまには風呂溜めるか」

 

 既に布団から出たくないと言っている身体に鞭を打ち、風呂場までもっていく。

 ざっと風呂桶を洗いお湯を溜める。

 

 テレビの電源を入れ面白もないバラエティを流しながら飯の準備も進めておく。レンチンだけだけどね。

 十分もして風呂も沸いてるだろうと確認し、いざお風呂へ。

 

 ババンババンバンバ♪ 

 アビバビバ♪ 

 ババンババンバンバン♪ 

 アビバノンノン♪ 

 

 なーんて有名なあの曲を口ずさみ体を洗う。そして、いざ湯船へ。

 全身をお湯がやさしく包み込んでくれるかのような感覚にほっと息が漏れた。

 浴槽からお湯が零れ排水溝へと流れていく。

 

 やはり日本人ならお風呂だろう。日本万歳。

 

 ジョリジョリと微妙に伸びてきた髭に触れ、剃っておくかと風呂から上がる。

 椅子に座っ……て? 

 

 風呂場の椅子と言えば独特の冷たさがあるもの。しかし、いま俺の尻の下にある触感は人肌程度の温もりを持ち、もっちりつやつやとしたとても気持ちの良いもの。少なくともこんなものをわが家の風呂場に置いてはいない。

 よくよく見れば周りの景色も違うではないか。

 無機質な白一色の壁から温かみのある木材の壁。これが木の香りですか、とても落ち着きます……。

 

「落ち着くのはいいのだけれど、いい加減退いてくれないかしら? 重いのだけれど」

「あ、さーせん。すぐにどきます……マス!!?」

 

 突如として聞こえてきた声にとっさに返事を返す。

 しかし、返事は途中でとぎれてしまう。返事を返すためにはもちろん振り向かなければならないわけで、もちろんわたくし茉裏も後ろを振り返りながら返事をしたわけなのだが……。

 

 肌色

 

 そう。目の前に広がるのは肌色。まごうことなき人間の肉体。さらに言えば女体であった。すなわち状況だけを見れば覗き魔とその被害者。

 

 あ、俺の人生オワタ……。

 

 脳裏によぎる獄中生活。手に縄が付き、面会所で涙する母……。呆れて声を出せなくなる父。学校に戻る事もかなわず永遠に後ろ指を指されていくことになるのか……。

 あはは笑えねぇ……。

 

「あ、どきますね……。もうしわけないっすはい……」

「お互い聞きたいことはあるでしょうし、着替えてきてくださらない?」

「はい……」

 

 視界がぼやける。足元がおぼつかない。人間って生きる希望が無くなるとほんとうにたいちょうにでるんだなあ……。

 おそらく脱衣所であろう場所に繋がる扉に手をかけ奥へと進む。やはりそこも自宅の脱衣所の姿は一切なく、高級旅館のような煌びやかなものが広がっていた。あの至って普通な脱衣所よ帰ってきて。

 ああ、少なくともこんな形での非日常は味わいたくなかった。

 

 切り替えられるかはともかく、謝り倒してみるしかないか。ワンチャンあればいいけど。

 

 悲観し続けても仕方ないってね。現実逃避ともいうけど。

 

「にしても、ここは何処なんだマジで」

 

 何度思い出そうとしても出てくるのは髭を剃ろうと椅子に座ろうとした事実だけ。それ以上でも以下でもない。多数の異世界転生のように死んだりしたわけでもないだろうし……。いや、もしかして死んでしまってるのか俺……? 

 だけど、死ぬ要因になりそうなものなんてあったかぁ? 剃刀もまだ持っていなかったし、わっかんねぇな。

 

 用意された洋服に腕を通していく。白のシャツに黒のチノパン。ダボつくこともなく体にフィットする洋服。材質もかなり良いものだと素人目からしても分かる。

 身長が平均的なもので助かったと言えるだろう。これ、背が小さいならまだしも大き過ぎたらぱっつんぱっつんのまま対話に臨む……それなんて地獄? 

 

 少なくともそのような悲しい出来事が起きなかったことに感謝しよう。ビバ平均身長。実際平均がどのくらいなのか知らんけど。

 

「ん? もう一着ある? なんだこれ」

 

 どうしようかな、この手の類の服って着たことがないんだけど建物にマッチしているのは確実にこっちだよな。

 

「試しに着てみようかな。初めてでもなんとかなるだろ」

 

 無駄なチャレンジ精神を発揮し、服に袖を通していく。

 

 

 

 この時の俺は間違いなく浮かれていた。じゃなきゃ悠長に服を選んでいる余裕なんてないだろ? 

 現実から目をそらし、楽観視を続けていく。

 日常から非日常への入り口に立った、いまじぶんはその境界線にいるのだと。選ばれた勇者のような感覚と言えばわかりやすいだろうか。

 

 もし、今この場で逃げ出すなり、せめてもう少し緊張感の一つでも持てれていれば……。

 

 いや、終わったことをぐちぐち言い続けるのは醜すぎるか。

 

 まあ、そういうこったな。

 どこにでもある日常を暮らしていた一人の男は、幸か不幸か非日常への扉を開いてしまった。

 これは、誰もが一度は望んだこともあるかもしれないモノを手に入れてしまった一人の滑稽な男のお話。

 

 その日、一人の人形が糸に繋がれて、

 糸の先に繋がれている人形をみんなで指さして笑うだけの、

 そーゆうおはなし。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、あれだな、
出だしは頑張って日常感を出したかっただけなんだな……。
大分ごり押してるけどそこは許してね。

さあ、人形劇の始まり、始まり。


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第2話 噛んでないもん

投稿です。

前回の話に比べかなりギャグ路線です。

……ちゃんと後に繋げれるかしら

それと、タイトル変えました。
ただ、正直しっくり来ていないので今後また変わるかもです。

では、どうぞ。


 俺の恰好は……なんと言うのだろうか? 江戸時代の大工とかが着ていそうな恰好と言えば分かるだろうか? じんべい? なんかそれに似ている気がする。

 

 さて、そんなことはどうだっていいのだ。それよりも、自分自身ですら覚えがないこの不法侵入に覗き。一体何が起こったというのか……。 なんか金髪の美人さんが居たぐらいの記憶しか残っていない。

 

 ドッキリか?

 

 ンなわけない。 俺は有名人でもなければ芸能人ですらない。大学との奴がやるにしては凝りすぎているし、そもそも、会ってそこまで経っていないのだから、そこまで仲良くはなっていない。

 

 高校? 中学? こんな凝った事をしている暇があったら勉強でもしてろ。

 

 家族がやった可能性は? 俺は家族と仲が悪い訳では無い。ごく一般的な家庭だ。1人っ子で父と母が夜の大運動会を行った結果産まれた子供の俺が居るごくごく一般的な家庭。そんな家庭がこんな事をしようとするなんて、馬鹿げた事をすることもなければ、思い付くこともそうないだろう。

 

 まあ、要するに、だ……。

 

「それで? 貴方はどうやって此処へと来られたのかしら?」

「第一声でそれを言われても……。あ、えっと……、自分も、そのー……分からない……です……」

 

 そんな見ないで怖い怖い。だってしょうがないじゃん? 分からないものは分からねぇんだもん! と言えたら誰も苦労しない世界が出来ることだろう。俺はそう思う。まあ、喧嘩が増えそうだけど。

 

 てかですね? それよりも……。いや、それよりもって言い方はアレだが……、兎に角ね? ずっと気になってるんすヨ。

 

 この人……人? 八雲紫様じゃね?

 

 いや、馬鹿正直に東方Projectのキャラクターである八雲紫様と全く同じ顔ではないよ? 普通に人。ただし、超絶美人。同じく、俺を横から見ている八雲藍と思わしき女性も。

 

 つまり、凄むと怖い。

 

 凄むと、怖い。

 

 俺の息子がすっごい縮こまってる。俺は決してMではない。何方かと言えばM基質ではあるとは思うが、Mではない。

 

 Mでは、ぬぁい!

 

 だ、だからあんなにキツく睨まれても感じないんだからね!ビクンビクン

 

 と、ふざけるのも大概に。仮に目の前にいる女性が八雲紫様こと紫BBAだとして、俺は紫様の入浴にお邪魔してしまったのだ。

 

 正直あの時の記憶は虫に食われたかのように覚えてない。非常に残念である。

 

 違う。その事は関係……無くもないけど重要じゃない。問題なのは、八雲紫が入浴していたと言うこと。つまり、此処は幻想郷……ではない。

 

 いや、幻想郷に入るのかもしれない。だが、今は別物として考えよう。

 

 此処は、マヨヒガだろう。

 

 彼女たちの住み慣れた感じからしてもマヨヒガだろう。もっと言えば……マヨヒガはなんか侵入できない空間にあるらしい。事ぐらいしか知らない。ので、頭が良い風に言い回しをしてみたがこれ以上何かわかるわけでもかったりする。やだ……私って無能……?

 

「無能かどうかは出会ったばかりの私には測りかねますが……。まあ、頭が良さそうには見えないかしら。それと、女性に対してばばあ呼ばわりは控えなさい。いらぬ反感を買うわよ」

「あ、その、すいません」

「にしても、本当に何も知らないみたいですし……。どうしましょうか。何故だか私達の事を知っているみたいだけど……どうしましょうか、ねぇ藍」

「私としては即刻処分するべきかと」

 

 そうよねぇ。と、八雲藍の言葉に同意する八雲紫。頬に手を当てその姿は今にも呑まれてしまいそうな程に艶かしい。

 

 にしても、処分か……。紫様達のことを忘れて返してもらえるのだろうか。そうだとしたら、少し残念である。

 

「随分と脳天気な考えだこと。処分は処分。貴方が望むのなら楽に殺してあげるわ」

 

 さっくりと告げられた死刑宣告。楽に殺してあげるわと八雲紫は微笑みを浮かべる。

 

 いやいやいや、ちょっと待ってほしい。俺はどちらかと言うと巻き込まれた側だ。そりゃぁ紫様の裸を見てしまったかもしれないが、それも殆ど覚えていない。

 

「私の裸を見た見てないは私としてはどうだっていいの。私の幻想郷を壊されるかもしれない要因は残しておけない。私の事を知っていたのは気になるけれど、迷い込んだだけの侵入者は何を引っ付けて来るか分からない。外の技術が入り込んで来るだけでも幻想郷へは大きな影響を与える。だから殺す。それだけの事よ。分かってもらえたかしら?」

 

 分かるか! いや、分かりたくないわ! 外の技術ったって俺は裸で迷い込んだんだから何も持っていない。それ等を作る様な技術もないわ!それと、さっきから心を読まないでください心臓に悪すぎです。

 

「あら、ごめんさない。それで? もういいかしら」

「えっと、その……殺さないなんて選択肢は……ない、ですか?」

「貴方がそれに見合う情報を持っていれば考えないこともないけれど? ああ、下手な行動はしないこと。視覚的に捉えられるようにした方が面白いかしら。藍」

「御意」

 

 頭がジリジリと熱い。まるで炙られているかのような……。

 

「ヒイッ……!!」

 

 上を向いた。そこには大人が1人はすっぽり入り切るであろう大きさの蒼白い火の玉。偶に聞こえてくるゴポッゴポッとした音が焦りを生み出す。

 

「さあ、早く考えなさいな。じゃないと、落ちて来ちゃうわよ?」

 

 そんな事分かっとるわ! チクショウチクショウチクショウ!!

 

「おっと、調整を間違えてしまいました」

 

 机の真ん中に大きな穴が空く。音なんて殆ど無かった。

 焦げた臭いが部屋に充満する。アレをもし落とされでもすれば……

 

 嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダいやだいやだいやだ!!!

 

 俺が彼女に提供出来るもの……なんだ、なんだよ……そんな目で俺を見るなよチクショウ! チクショウ!

 

 目頭が熱くなって思考が止まって訳がわからなくなっていてぐるぐるしてきもちわるくてなにがなんだかわからなくなってどうしていいかもわからずに

 

 

 分からない

 分からない

 分からない

 わからない

 わからない

 

 

 そして、

 

 

 漸く、此処が何の世界なのかを思い出した。

 

 確実に俺よりも知識量が多い相手。今がどの時代なのかは分からない。

 

 けれど、俺の武器はこれしかないから。これで勝負するしかない。

 

 さあ、反撃を始めよう。

 

「あります。俺が貴女方に提供出来るものが。ひちょちゅだけ!」

「…………そう」

「…………噛みましたね」

 

 …………噛んでないもん (つД`)グスン

 




お読み頂きありがとうございます。

噛んでないもん(つД`)

次回はもしかしたら、かなり話が飛ぶかもしれません。

では、また次回〜


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第3話 分かっていても急にくると驚くのは仕方ないと思う

1ヶ月くらいですかね?
(。・ω・)ノども

息抜きみたいなものなんで投稿間隔長くても許して。


「うッ……オロロロロロロ」

 

 うぉえ……気持ち悪い……。画像とかではよく見てたし、紫様に出会っては何度か体験したけどスキマの中は慣れる気がしないデス。

 いやぁ……大量の目ん玉に見られるのはなかなかに気持ちが悪い。決して頭の中に瞳が詰まっている訳では無い。

 

 人形ちゃんは可愛い異論は認めない。

 

 さて、紫と言うか貪食色? 貪食ドラゴンのような色の世界で沢山の目ん玉に見られながらやって来ましたここは何処?

 

 貪ドラさんの頭を見た時にカワイイと思って、体部分が出てきたら何処となくエロく感じれた貴方は某獣狩りの世界にも適正があります。やりなさい(強制)

 

「んでよ、ここは何処」

 

 そんな私は森の中。金髪美人の紫様の話だとこの辺りに空き家(廃屋)があるらしいのだが……。

 

 そう思いながら森の中をさ迷うこと数分。森を抜けることに成功……してないな、ちょっとした広場ぽいところに出た。そして、目の前にはボロボロの柵らしき物で囲われた土地を発見。植えられた植物は既に枯れ干からびており、農作業の道具は柄の部分が砕け散っていた。恐らくこの場所が紫様の言っていた場所なのだろうが……、案の定と言うか、家もボロボロ。壁は剥がれ天井は穴が開き、中へと踏み出せば床が抜ける。

 

「まあ、生きているだけマシなのかな?」

 

 そう。雨風凌げるだとかそんなレベルの話以前に生きていて良かった。うん。よく生きてたな俺。妖怪に遭遇でもしてたら……、三話目にしてENDが見られましたね(白目)

 

 いや、まあ対抗手段がない訳じゃないが……今までは紫様のバックアップ有りの下準備バリバリで迎撃してたから。何も出来てない今じゃ正直当てられる自信がありません。

 

 兎にも角にもまずは結界を貼らねば。

 

 マヨヒガの風呂場を訪れはや1年。僕のあーんなことやこーんなこと全部話して僕には生きる権利が与えられたのです。

 

 うん。原作はやっていないから詳しい所までは分からんかったけど、一通りの異変とその原因。時系列とかは分かるし、今後出てくるキャラクター達の能力なんかもわかる範囲で教えた。

 

 え? そんな事したら未来が変わるだろって? 霧生茉裏ってイレギュラーな存在がいる時点で未来なんて変わっているのでなんら問題はない。もっと言えば、死にたくなかったからね! 仕方ないね!

 

 まあ、なんやかんやあってマヨヒガに1年お世話になることになったのですよ。幾つか条件はあったけどね。

 

 一つ 八雲家としての行動をすること

 

 名前は変わったりしてないけど、一応八雲一家の1人になる。要するに、マヨヒガや紫様及び八雲の情報を外に漏らすなよ? という事だ。

 

 二つ 博麗が手を出しずらい問題を代わりに処理すること

 

 これは、2つ目の付属みたいなものだ。博麗が動く程でもないことや、動けない状況下にある時などに、博麗に代わり俺が動く。まあ、基本的には低級妖怪だったり、既に瀕死の状態の妖怪を相手にするのが仕事だ。一応戦いの基礎や、罠の張り方などはマヨヒガで叩き込まれているので大丈夫。餓鬼程度なら棒切れ一本で対処できる位には成長した。最初の頃? すねこすりに翻弄されてましたがなにか? まあ、要約すると、良いように使える低スペックの駒という訳だ。なにそれ要らない。

 

 と、この2つが条件として出された。妖怪と戦うのは怖いけど、それはそれ。正直ワクワクとかの方が強くなっちゃうよねどうしても。こう、物語の主人公になった気分。

 少しくらいならこの1年の間に結界を貼れるようになったし、紫様から頂いた愛銃もある。ミリオタとかじゃないから種類とか分からんけど、ハンドガン2丁。片方は実弾で、もう片方が霊力を拘束弾として発射できる。実弾の方は装弾数15発。霊力の方は俺の霊力があればいくらでも撃てるけど、連発しては撃てない感じ。あと、この銃に掛けられている術は紫様が直々に掛けてくれているので中級妖怪位までなら俺のちっぽけでうっすい霊力で5秒程度は足止めしてくれる優れものである。

 

 そんな誰に発しているかもわからない事を考えながら、ガチ変態じゃねぇか。さとりんが居たら自己紹介で済ませれたけど、残念! ここは地底ではない! つまりさとりんもいない!

 いや、だからその謎テンションが気持ち悪いんだって。いい加減気付や俺。

 

 まあ、なんやかんやで家を中心に四方に結界を貼る為の杭を突き刺し終わった。杭には紫様の作った呪符が貼り付けられており、中級妖怪位までなら無意識に近付こうとしなくなるらしい。

 大妖怪はむっ? てなる程度とのこと。まあ、無闇やたりに襲われることは無いだろうと言っていたので大丈夫じゃないかしら? 大丈夫じゃなかったら俺が死ぬだけのこと。シニタクナーイシニタクナーイ!

 

 四つの柱を結ぶように地面に線描き、繋ぐ。その中心点に立ち霊力を流す。イメージ的には川だろうか。干上がった川に水を流す作業をしている感じ。すると、あら不思議。打ち付けた杭が淡く発光し半透明の壁が四方に展開されたではありませんか!! そのままの勢いで天井まで結界が貼られ、完全に見えなくなった。

 

「さっすが紫様。俺がこれやろうとしたら霊力切れて死ぬんだろうなー」

 

 霊力とはそれ即ち生命エネルギーのこと。今後出てくるであろう中国さんはこれを操る事ができる。厳密には違うんだろうけど。

 と、中国さんの事はどうでもいいのだ。霊力とは生命エネルギーの事で、使い過ぎると死に至る。アレルギー症状や中毒症状みたいなもので、本来必要なものなのに体が受け付けなくなるのだ。どちらかと言うと拒否反応の方が近いか。

 さっきの博麗のかわりに依頼を受けるというのはこれの予防のためでもある。

 あと、純粋に使いすぎてもぽっくり逝く。

 

 なら、霊力とか使ったらその分だけ寿命が縮まるのか? と、問われれば否である。先程は霊力のことを生命エネルギーと例えたが、言い換えれば活動エネルギーとも言える。

 肉体的現象で表すなら、汗とか。運動したあと汗が出る。そのままそれを無視してひたすら走り続けでもしたら? 勿論倒れるだろう?

 霊力も同じなのだ。ひたすら使い続ければ霊力が切れる。

 ならどうすればいいのか。休め。この一言で解決する。水を飲み、塩分を摂り、少しの休憩でもあればまた一時は走ることが出来る。霊力も、飯を食い、水分を摂り、休憩を挟めば、霊力は回復する。一番は睡眠を取ることなのだが……戦場で出来るはずもないので、そういった場所ではオススメはできない。

 

 と、復習がてらに霊力について反芻してみたが。正直わかっていない部分の方が多かったり。

 

「さてと、紫様が言うにはもうそろそろのはず」

 

 ただいま幻想郷では絶賛戦争中。異国の化物吸血鬼VS修羅の国日本出身天狗 の全面戦争。そして、俺がするべきなのは吸血鬼レミリア・スカーレットの保護。何故かと言うと、吸血鬼達には3つの派閥が存在しており、戦争派と反対派、そして対話派の勢力があった。戦争派と反対派が最も多く……いや、対話派はレミリア・スカーレット率いる後の紅魔勢しか居なかったか。

 

 まあ、簡単に言うと……『紅魔勢残して後の吸血鬼殲滅しようぜ!』って話である。下手に増えられると困るし、攻め込んできたのは向こうだからしょうがないよね! まあ、実際八雲紫様を相手取ろうとした方が間違いな訳だが。

 

 だってあれだぜ? どの話か忘れたけど、閻魔大王とかには勝てんみたいに言っていたけど、実際は違うらしいんだぜ?

 いうなれば、あれだ、あの人は概念そのものだ。ありとあらゆる存在に対する生物、思想、精神その他もろもろの概念。星の意思的な? いや、それは違うか。

 

 まあ、つまるところ生きてるもの。存在あるもの。文書なり詩なりに残されてられる時点で詰み。もう勝てない。更には、誰か1人でもソレに対して記憶、思考を、した時点でも詰み。

 

 閻魔大王様は白と黒をはっきり出来るみたいだが、紫様曰く『たかが神の中で決められたモノに私が干渉されるとでも?』と笑われた。

 

 真偽はさていかほどか。それは定かではないが、嘘をついているようには思えない。まあ、逆らう気なんてサラサラないので僕は信じますがね!

 

 さて、そろそろ準備をば。

 

 実弾の拳銃に弾を込める。霊弾の拳銃はリロードの必要は無いが、一応霊力を流しチェック。

 ……問題はないようだ。決してfpsでのあるあるリロード忘れではない。

 

 ……あれ、ほんと焦るよね(遠い目)

 

 さて、さてさてさて……

 

 実弾は右斜め前へ構え、霊弾は左斜め前へ。

 

「なかなかやるわね」

「そちらこそ」

 

 どうだ? かっこいいだろぉ(泣)

 

 レミリアさん!? 文さん!? 急すぎません!? 親方!空から女の子が! なんて言っている暇すら無かったよ!? 着地音すらしなかったよ!?

 

 まあいい。いや、よかないけど。そこは、毎朝藍様に殺され掛けて起こされていた俺の鍛えられた鋼メンタルが役に立っている。

 

 ふっ……今日の俺は一味違うぜ? まだ三話目だけどな! さあ、仕事を始めようか。

 

「あー……お二人さん? 取り敢えずこっち見ようぜ? あ、下手に手ぇ出すなよ? そっちの吸血鬼さんは分かっているみたいだが、その頭風穴空いちまうぜ?」

「……チッ」

「あやや随分頭に乗っている人間ですね今虫の居所が悪いんですが」

 

 ふぇぇぇこわいよぉ……

 

 吸血鬼であるレミリア・スカーレットと天狗一派の射命丸文。二人の鋭い眼光が俺を射抜く。足が震えそうなのを必死に抑え、虚構を貼って見せる。

 

「ふぅ〜……。まあ、俺はそれでもいいけどさ。後悔するのはあんただぜ? 今、満足に力を出せるかい? 無理だろ? ま、そうゆうこった。諦めて俺とお話しようぜ?」

 

 二人はその事に気付いたのか……いや、最初から気付いてたんだろうな。恐らく俺を追い払うためか。ただ、今の彼女たちでも俺を頭を軽く刈り取ることは出来るだろうからな。警戒だけは解くんじゃないぞ俺。

 

 シニタクナーイシニタクナーイ!!

 

「さて、と……話を聞いてもらいたいんだが。その前に、レミリア・スカーレットにひとつ質問だ。お前はこの戦争に参加する意思はない。それは今でも変わっていないか? ああ、下手なことはするなよ? 今ここでコイツを撃てばそこの天狗がお前の首を……サクってするだろうからな」

「……不利なのは私の方のようだな」

「!」

 

 そう言いながらなんでグングニル出してんですかねぇ!? ホラ見なさいよ! 文さん刀構えちゃってるよ!?

 おおお、落ち着け俺余裕をを崩すななな

 

「分かっているみたいでなにより。さ、答えを聞かせてくれ」

「……私達の意見は変わっていない」

「おーけーおーけー。それとついでにもうひとつ、お前さんの仲間、紅美鈴やパチュリー・ノーレッジ、そして妹のフランドール・スカーレットは……っと、落ち着けって言ってんだろぉが! そっちもなあ!」

「うグッ……」

「……チッ」

 

 条件反射的に発砲。片方はグングニルに当たり、それを霧散させる。片方は射命丸の足元に着弾。

 藍様に何度も寝起きドッキリ(命懸け)をされたかいがあったぜ()

 

「敵情視察ぐらい基本だろうに……。んで? 来てるのか? 来てないのか? …………答える気はない……と。んじゃ、あれだ、お前らレミリア・スカーレット及びその一員を助けに来た。厳密には助けに来た訳じゃないんが、戦争から離脱させようとしているからあながち間違いじゃないのか? まあ、助けに来たってことでひとつ」

「信じると思っているのか?」

「思うわけねーわな。だから、こうする」

 

 拳銃は二人に向けたまま、ゆっくりと射命丸の後ろへ。流石の射命丸も、迎撃しようとしたが、2丁とも拳銃を突き付けられているのを見て諦めた様子。

 ふぃー……よかった……。さっきはレミリアと射命丸の動きにラグがあったからどうにか出来たものの……実際殺り合ったら勝てるわけねーですから。グングニルに玉が当たったのもたまたまですしおすし。本当は腕を狙ったとか言えない(震え声)

 

「どういうおつもりで?」

「おや、射命丸文さん気になるんですこと? なぁに、仲間に引き入れるのなら簡単な方からってだけさ。集中すればいけるんだろ? なら数年先まで見てみろよ。見えなかったのなら(俺が)さよならバイバイ。見えたのなら……どうすればいいかなんてわかり切ったことだろう?」

 

 さあ……どう出る? 少なくとも、安全は確保した。完全にとは言えないが……。射命丸が動けば、俺が撃つ。更にはレミリアも動くだろう。ようは、形上の共通の敵を作った。

 

 数分……いや、数秒か?

 

 心臓の音が妙にハッキリと聞こえ始めたころ、レミリアの瞳が紅く変わる。

 

 

 いっょよっしゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!

 

 

 さあ、未来を見ろ! この先に待ち受ける運命を! 少なくとも、レミリア、お前の不利にはならない筈だ!

 

 ここで失敗したら俺が紫様に殺されるかもしれないんでオナシャス!!

 

 さて……さてさてさて? どうなる? 俺の知識と同じような運命を見られていたら良いのだが。

 

 にしても、射命丸の集中力の高さよ。前後を挟まれた状態で警戒が解けてない。それも、数十分もの間。こりゃ、落とすのは厳しいか? ま、それはレミリア次第になるか。

 正直、射命丸を易々と取り逃すことはしたくない。だって、個々に俺の拠点があるってバラされたら一巻の終わりですもの。レミリアは逃げ出せるだろうが俺は絶対無理。空なんて飛べねぇし。そもそも幻想郷最速達から逃げようなんて考える方が馬鹿馬鹿しいか。

 

 と、無駄な考え事をしているとレミリアの瞳が元の……いや元々紅だったわ。あれだ、ピカーんってなってたのが無くなったわ。

 

「どうだったよ?」

「……確かに。私たちに対する害は無かった。しかし、未だに信じられん。衰退している存在であるとはいえ……吸血鬼の軍勢を……あの見た目は……東洋の九尾とか言ったか。……と言うことは奴が八雲紫の使役する式……」

「あー……やっぱ出てくるのか」

 

 レミリアが見たのは……恐らく藍様の出撃した後のことだろう。一応手はずでは、ここでレミリア・スカーレットを捕縛又は保護。その後、様子を見て吸血鬼がジリ貧となり、総力戦に持ち込んでくる。そこを藍様が吸血鬼まるっと消し飛ばす寸法……らしい。

 そうとしか聞いてないからこれ以上は何とも言えん。実際の読みは……まあ、合ってるんだろうな紫様達のことだし。現にレミリアが来る場所を特定しているのだから問題ないのだろう。

 

「何か知っている様子だな」

「あー……なんと言いますか」

 

 さて、どうするか。八雲家の一員にはなっているが、二人の情報を漏らすわけにも行かない。となると……敵対関係……は、すぐにボロが出る。てか、既にボロは出ている。俺もまだまだ未熟よのう。交渉術を習って1年ポッキリの若造が何かほざいてますねぇ。

 さて、ここは下手に嘘つかない方が身のためか。

 

「迷い込んだところを助けられたってところか。食料の供給だったりをしてもらっている。代わりに俺は俺のできそうな事をやらせて貰っている。ま、下手に逆らうなってことよ」

 

 紫様からしたら、俺なんてもう必要の無い存在なんだろうがねぇー。

 

「ふぅ……分かった。貴様の提案を呑もう」

「それはどうもありがとう。とは言っても、ことが終わるまでこの結界内に居てもらうだけなんだが」

 

 さて、これでまず1人。そしてもう1人をどうするかだよな。ま、この状況で逆らう事はまずないだろう。ただ、怖いのは援軍か。森の中とは言え、ここは開けておりかつ相手は天狗。見つかれば即お陀仏だ。まあ、レミリアが提案を飲んでくれたということはその可能性はかなり低いのだろうが。

 

 レミリアの能力はなんなんだよって? 後で話すからもうちょい待ってな。

 

「天狗さんは想定外なんだよねぇ……少なくとも俺はさ」

「あやや、漸く構ってもらえるのでしょうか」

「軽口を叩けるだけのことはあるのか。流石は天狗最速射命丸文様なこって。なんなら、ここで天狗の情報を漏らしてやってもいいんだぜ? っつても、俺が集められた範囲なんだがな?」

 

 情報戦では常に強気でいろってばっちゃ(藍様)が言ってた。でも、時には弱いように見せるのも必要だってばっちゃ(紫様)が言ってた。

 ぼくむつかしいことわかんないよ?

 

「ほう? 天狗の私に脅しですか。と、今更でしたか」

「まあ、獲物を突き付けてるわけだしな。それで? ここで殺り合ってもいいんだが、それは流石に分が悪いと思うが? それともあれかな? 救援待ちかな? それならまず無いと思ってもらおうか。犬走椛の千里眼でも、姫海棠はたての念写も此処を写すことは無い。無人の廃墟が見えてるだけだろうさ」

 

 実際は知らんけど、多分その筈。

 

「下手に逃げようとも思うなよ? さっきも言ったがここを知られた以上返すわけには行かねぇんだ。出来ればアンタを殺したくはないんだが……最悪殺すことも厭わない」

「貴方は何者ですか」

「何者かって言われてもなぁ……。帰る場所を失くしたただの人間だよ」

「……ここの事は漏らさないと言えば?」

「無理だなぁ。天狗は姑息だ。悪魔のように契約は絶対破らないなんてものがあれば話は別だが」

「とは言え、このまま此処に拘束されていたら私は厳罰対象になりますので困るんですよねぇ……。貴方方の話を聞いている限り天狗の勝利は堅いもののようですが。勝ったのに厳罰されるなんて私は嫌ですよ?」

「終わった後にならここの事をバラしてもらって構わない。なんなら、そこの吸血鬼の事もな」

 

 射命丸はレミリアの能力をある程度予測しているだろう。運命とは考えづらいから……未来を見るとかそんなところか? 今後、仲良くしていく事になる相手だ。そいつの能力を知ることが出来た。かつ、この戦場の行く末を知っており、未来を予知して見せた人間がいた事。

 

「これで十分だと思うが?」

「もう一押し!」

「……あとどの程度先になるかは分からんが、妖怪の山に新勢力が来ることになる。下手に手を出さないことを勧めるよ」

 

 ぶっちゃけ風神録はどう言った内容なのかは詳しくないがな! あれだろ? 守屋一家が幻想入りして博麗神社に宣戦布告するんだろ? 知ってる知ってる。どっちだよ……。

 

 まあ、あれだけ不思議なことを言ってレミリアを納得させたんだ。信じないわけにもいくまいて。すっごい胡散くさいがな。

 

「因みに、射命丸文。俺が見てない間に逃げようとは思うなよ? 俺自身に同行できる程の力はないが、頭を下げれば天狗くらいは潰せるからな」

 

 もちろん嘘である。

 

「わかってますよ。はーやだやだ。何故私が人間相手に命令されているのやら」

 

 俺だって何が嬉しくてこんな死に目に合わなならんのか。

 

「それじゃあ、これからよろしくお願いしますね? レミリア・スカーレットさん?」

「こちらこそ、よろしく頼もうか。射命丸文とやら」

 

 あぁ〜殺気がダダ漏れなんじゃァ〜(泣)

 

 東方キャラとのきゃきゃうふふなんてなかったんやなって。

 

 あー……疲れたふて寝しよ。

 

「所で、寝床は何処になるんでしょうか? まさか、この廃墟?」

「いや、天狗。これを家と呼ぶにしても、寝床と呼ぶにしてもありえんだろう」

 

 家建てたなおさなきゃなーアッハッハッハ

 

 もうヤダこの世界(´;ω;`)

 




話が飛びすぎ? 知らないなぁ。

そういや、新作の貧乏神?の子ってどういう存在なんでしょ? 出生とか。出来ればあの子をメインヒロインにしたい。新作の異変の内容すら知らないからなぁ……。

調べなきゃ(使命感)


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第4話 平和って素晴らしいんやなって

投稿です。

吸血鬼超強化です。
決して天狗が弱いわけではありません。
吸血鬼が強すぎるだけです。

では、どうぞ。


 射命丸文とレミリア・スカーレットを引き入れて3日目の夜。遂に吸血鬼殲滅が始るようだ。紫様からの文で射命丸文は一部口止めの約束をした上で解放。それと同時にレミリア・スカーレットと共に戦場の中心へと来ることを命じられた。

 

 そんなこんなで射命丸文は妖怪の山へと帰り、レミリア・スカーレットは俺の影に潜ったまま戦場へと進行中。寝床がないからと俺の影に入っていったが……影の中はどうなっているのだろうか? キスショットうんたらかんたら と言う最強の吸血鬼さんが住む、むららぎさんの影のようにソファやら完備されているのだろうか?

 

 ん? この3日美少女二人に囲まれてさぞ楽しかったでしょうなって? そう言うのを感じられのはきちんとした衣食住が揃ってからなんやなって。

 

 射命丸は鴉に化け枯れ葉の中で暖を取り、レミリアは気が付けば俺の影の中。二人とも何処に行ったのかと、逃げられたのかと焦ったさ。逃がしたら俺の首が飛ぶからな。

 

 壊れた家の壁を剥がして引っ付けてマイクラ初心者のような豆腐小屋でガタブルしながら藍様が殺しにくるのかと……結局次の日の朝方に二人がいた時は本当に安心したさね。

 

 まあ、そんな訳で僕は元気です。少しずつ建築資材や食料も確保している。サバイバル技術を教えてくれた藍様には感謝感謝です。何かある事に殺そうとしてくるのは勘弁だが。曰く、これが一番殺気を感じ取れるようになるらしい。だからといって本当に殺しにくるのはやめて欲しい。今でも体中に刺されたナイフやらなんやらの跡がありますとも。

 

「レミリア・スカーレットさんや、もうすぐ付きますぜ」

 

 影の中にいるレミリアに声をかけるが反応はなし。まあ、聞いていないということはないだろう。

 

 林の影、岩陰、木の影に身を隠しながら進む。

 

「わお……こりゃすげぇな」

 

 黒クロくろ。真っっっッ黒。なんじゃこり。あれ全部吸血鬼? 文字通り空覆う大軍じゃねぇかこれ。そして、一斉にコウモリ特有の角張った翼を広げた。目指できる範囲だけでもその翼には個々に特徴があるのが分かる。色や形状。赤青白、骨組みみたいなのだけのやつもいれば、大きな宝石のようなのもある。

 

 吸血鬼が翼を広げると半月だった月が紅く染まり、徐々にその形状を変えていく。あれは……新しく作り出していると言うのが近い気がする。

 

 その異常に反応した天狗達が妖怪の山からゾロゾロと出てくる。よく見えないが、一番前に立つ……女性? ちと分かりづらいけど多分女性が天狗のトップ、天魔だろうか? 特徴を覚えておきたいが暗くてよく分からん。天魔って決まった訳でもないしそこまで気を付ける程でもないか。

 

 正しく一食触発……。ここで小石でも投じてやれば殺し合いの始まりだろう。

 

「レミリア・スカーレットさんはどっちが勝つと思うよ? このままおっぱじまるかは分からんが」

「そうだな……」

 

 あら意外。影の中から声が聞こえた。てか、その状態で声聞こえるのね。

 

「もし天狗があの射命丸文とか言う奴と同じくらいばかりならば……まず、天狗は勝てんだろうな。吸血鬼の本領、本来の戦い方はなんだと思う?」

 

 吸血鬼の本領? 戦い方? 数多くのアンデットを使役したり、蝙蝠や狼になれる。身体能力は馬鹿みたいに高い。実際どの程度なのかは分からないが、速度は天狗、力は鬼にも及ぶ。その代わりの数多くの弱点が存在している。

 有名どころでいえば、太陽、銀、ニンニクに弱い。紙芝居等では、十字架とニンニク、そして杭をその胸に打たれ、太陽の光で浄化されたりしている。

 ならば、弱点を付かれないためにトリッキーな戦い方になるのだろうか? 相手がどれだけ準備を万端にしていても、翻弄され、焦りが積もれば準備してきたものは水の泡と化す。

 

「確かに。そう言った戦い方もできる。だが、それならばこんな大々的に集まり、正面衝突するよりも、奇襲すべく相手の陣営に潜り込む方が良いとは思わないか?」

「あー……。言われてみれば」

「お前の考えには大きな誤りがある。確かに我ら吸血鬼には弱点がある。ああ、それは認めよう。だが、それは決定打とはなり得ないのだよ。お前が語る紙芝居の話までやらなければ吸血鬼は殺せない。欠片ひとつ残さぬ覚悟でやらねば吸血鬼は殺せぬよ。この先にはそんな馬鹿げたことをしでかす輩が出てくるようだが」

 

 やれやれと言った具合にレミリアが言う。まあ、そんな輩がいるから、今後も大人しくしておく事をオススメするよ。

 

「んで、さっきの話を纏めるとだ……再生能力、身体能力その他もろもろをフル活用した圧殺が得意と。てか、そう考えると吸血鬼ってエグくね?」

 

 弱点は決して有効打にはなり得ず、その身体能力は幻想郷トップクラスの可能性。さらには、超常的な再生能力に相手を惑わす変身能力。ばっかじゃねぇの? 子供の考えた最強の化物かよ。

 さらに言えば、全員ではないだろうが能力持ちだって居るはずだ。確か……影を操るやつとか居たはず。

 

「ああ、いるな。他には水を操つる者。光を消す者。通さぬ者……皆が皆、何かしらの能力を持っている。持って生まれてきてしまう。まあ、周りを考えずバカスカ突っ込んでいく自己中な阿呆ばかりだ。天狗が上手く連携すれば勝てるさ」

 

 恐らく影の中で肩を竦めているのだろう。

 

 さて、一食触発の雰囲気が漂う中。我らが藍様の姿は見えない。何故だろうか……? ふぅむ……今が吸血鬼を一網打尽にするチャンスの筈なのだが……。

 

「始まるぞ」

「え、あ、ああ」

 

 そして、始まってしまった。吸血鬼はお互い邪魔をし合わないように距離を離して戦っている。天狗は吸血鬼一体に対し3~5人で対応しているな。やっぱり、吸血鬼って強いんやなって。

 

 にしても、天狗の消耗は激しそうだ。ポトリポトリと落ちていく姿が見える。それに対して吸血鬼は落ちることはあれど、すぐさま復活。えげつない再生能力である。バラバラにされて生き返るって……某サイヤ人さんたちの住人じゃねえのかアイツら。

 

「予想通りの展開だな。天狗が我らの弱点でも知っていれば戦況は逆だったろうに」

「決定打にはならなくても、効果的すぎる妨害にはなるのか。そう言えば天狗達は河童を連れてきていないのか」

「かっぱ?」

「あー、こう、実際に会ったことは無いんだが、妖怪の山の1勢力でな。確か天狗達の部下だとか。そんで、河童達は水を操れるんだと。実際は知らんが」

「ヴォジャノーイみたいなものか?」

「むしろ俺はヴォジャノーイが分からん」

 

 ふぅむ……ヴォジャノーイはどうでもいいとして、何故河童は居ないのだろうか? 空中戦になる事を予想して、自分たちより機動力に欠けるから置いてきた? それだけで、今後の命運を掛けた戦争に参加させない。そんな選択肢が取れるのだろうか?

 

「むっ? 天狗が後退している?」

 

 レミリアの言葉に空を見上げる。ああ、確かに。天狗がじりじりと後退を始めているな。このまま戦っても分が悪いと踏んだか。

 

「あ、なるほど。戦場を自分たちの得意な場所に移動して戦おうとしるのか。密集してたら、直ぐに対応されるだろうけど、今は戦力が拡散してる。そこを各個撃破。戦いなれた山の中なら機動力に欠ける河童も自由に動きやすい」

 

 これは、吸血鬼不味いかな?

 

「さて、それはどうだろうな」

 

 ククク と愉快そうに笑い声を噛み締めるレミリア。何が可笑しいのだろうか?

 

「情報収集は基本なのだろう? 精々ない頭で考えてみろ人間」

 

 情報収集は基本? いや、確かにレミリア達と出会った時にそんな事は言ったけど……。

 

「んー?」

 

 …………水を操る者? そうだ、さっきレミリアは水を操る者がいると言った。 つまり、その者がいれば、水に対する防衛策は程度はわからないが、取られている。つまりは、干渉力の問題になってくるのではないのか? そして、恐らく河童達の水攻めを期待しているのであれば……それが崩れれば天狗に勝機はない。

 

 さらに言えば、吸血鬼と天狗にはもう1つ大きな差がある。能力の有無だ。さっきレミリアは吸血鬼は能力を持って生まれてきてしまう。そう言っていた。それが、嘘ではなければあの百を超えるの吸血鬼全てが特殊な力を持つことになる。

 それに対し天狗が能力を持つことは所謂天賦の才。生まれながらの天才なのだ。つまり、天狗の中でも能力を有するものは極一部。天狗の中にどれだけ能力持ちが居るのかは定かではないが……、少なくとも百を超えるの吸血鬼よりかは少ないだろう。もしくは、どっこいか。

 

 天狗の内情を調べている時に見つけた情報だった。正直ここまで大きな戦力差になるとは。そもそもの考えで能力持ちが多くないんだろうなって決め付けてたからか。種族によって能力持ちの生まれる確率は変わる。覚えておこう。

 

「因みにだが、あの中のひとりに緑の王と呼ばれる者がいる。そいつの力は植物を味方に付けることが出来る」

「うへぇ……天狗これ無理ゲーじゃね? そういやさ、そう言った呼び名って吸血鬼みんな持ってるものなのか?」

「大体はな。人間に付けられ定着していった。例えば水を操る奴なら水の悪魔。他にもムーン・デビルや取り込む者……と、それなりに特徴的な名前で呼ばれていた」

「へー。レミリア・スカーレットさんは?」

「私か? 私は運命を操る者……後は見透かす女だったか他にも色々と呼ばれていたな」

 

 まんまだな。いや、必然的にそうなるのだろうが。意外と日本風なのが多いのね。

 

「何も私が知っている言語を話している奴ばかりでも無かったのでな。いまでこそ腰を落ち着かせられる場所を見付けられたが、それまでは同じところに留まることは殆ど無かったな。だが、腰を落ち着かせられたとしても……この有様なのだが」

「腰を落ち着けるとかそんなレベルじゃねーわな」

 

 吸血鬼の後について行く形で追っていく。予想通り天狗は妖怪の山へと引きこもった。吸血鬼たちも空中で1度止まり様子を見ている。

 動いたのは天狗側だった。拮抗なんてものは無い。吸血鬼が集まったところを一網打尽。津波のような濁流が吸血鬼達を飲み込んでいく。

 

 濁流はゆっくりと収まり波となり、最終的に吸血鬼たちを覆う大きな水球となる。

 

 あれま、吸血鬼が不味いのか? なんて思ったさ。これを見越して藍様、紫様は動かなかったのか? とも思ったさ。レミリアが見たのはこれだったのでは? とも思ったよ。

 

 天狗つえー

 

 って、安直に。

 

 突如、雨が降ってきたんだ。針のように鋭い雨、いや、槍が。水球が妖怪の山に向かってひたすら水を送り出しているんだ。それが、自然落下で落ちてきているだけ。だが、一撃一撃が可笑しい。雨が地面に穴を開けるんだぜ? 石をも穿つじゃね、石をも貫くんだ。ははっ……頭おかしいあの集団。遠目から透明の雨に混じって赤い鮮血が降り止まないんだ。

 

 つまり、天狗は、河童はたった1匹の吸血鬼に力負けしたんだ。

 

 実際に動いた河童の数なんてわからない。だけど、天狗に勝機はない。ただ、それだけが確信できた。

 

 圧倒的な光景に息を呑む。なんでか目の前がチカチカするし、妙に気持ち悪い。ああ、そうだ。紫様と始めて対峙した……頭上に太陽のような火球を突き付けられた時と同じ感覚。逆らってはいけない。すぐさま逃げるべきだと、脳が警鐘を鳴らしているんだ。

 

 とてつもないほど、冷静に慌てている自分。足から力が抜けそうなのを必死に耐える。恐らく、出てくるとしたらここなのだから。

 

 汗が目に入りそうになり、瞬きをする。その一瞬にして、槍は止み、鮮血は地面に流れ出た。

 

「……ははっ」

 

 乾いた笑いが耳に届く。レミリアのものか? いや、俺のだ。俺はまだまだ、自分のご主人様達を侮っていたらしい。

 

「凄まじいな。これが、八雲……か」

 

 槍を防ぐのは青紫色をした炎の壁。その中を悠々と歩くのは八雲藍。八雲紫の唯一の側近。金色に輝くその尻尾はその強さを現すが如く広がりその大きさは妖怪の山をも凌駕する。

 

 尾が揺れる。尾から零れ出た炎が吸血鬼へと飛び火し消し飛ばした。消えた吸血鬼に復活の予兆はない。

 

 吸血鬼が逃げる。そう。天狗の軍勢にも、河童の津波も力で、そう、ただの力技だけで薙ぎ払ってきた吸血鬼が逃げ惑う。

 

 しかし、その判断は遅すぎたのだ。壁が生まれ、阻まれ捕まった。一人一人が四角い棺桶に捕まった。青紫色の棺桶に。熱いあついアツいあつい熱いアツい。吸血鬼達の悲痛な叫びが重なり合う。生地獄……地獄とどちらがマシなのだろうか。他人事のように考える。そうでもしないと、意識が飛びそうだ。

 

 体が空気を求めるが、脳の警鐘はそれどころではないと拒絶する。体を動かし逃げ出せと脳は警鐘を掻き鳴らすが、体は動けるほどの体力も空気も何もかもが足りていないと信号を拒絶した。

 

「やはり人間は脆弱だな」

 

 衝撃が腹に伝わる。胃のそこから食べた物が這い上がって来て、吐瀉物がぶちまけられた。それと同時に酸素が、空気が体に入ってくる。脳の警鐘に体が漸く引き受けた。

 

 もう一度空を見る。さっきまでの巨大な尾は消え、1匹の妖怪が俺達の方へと向かってきた。

 

「茉裏」

「はっ!」

 

 名を呼ばれ、条件反射的に跪く。下が吐瀉物だろうと関係ない。そうしないと殺されるからだ。

 

「紫様から伝言だ。見ていて愉快だったから許す。との事だ。精進しろよ。レミリア・スカーレット。今度我が主が直々にお前と話をつけに行く。自身の根城にて待つがいい。下手な粗相をすれば……こうなる事を覚悟しておけ」

 

 藍様が右手を握る。空の棺桶が潰れた。悲鳴も何も無い。グチャりなんて音もしない。潰れるのと同時に蒸発したのだろう。肉の焦げた臭いが微かに鼻につく。

 

「ああ、肝に銘じておこう」

 

 レミリアが答えると、藍様は隙間の中へと消えていった。

 2人して大きなため息を1つ。

 

「疲れた」

「ああ」

「これからどうすんの?」

「それを決めるのは向こうだろうさ。かと言って吸血鬼の生き残りは私達ぐらいになったからな。はぐれは何匹か居るだろうが、恐らくこちらに来る事になるだろう」

 

 そっか。想像通りの答えに短く返した。ふざけたりとかできる雰囲気ではありません。帰って寝たい。暖かい布団もなにもないけれど、隙間風の凄い壁だけのお家ではあるけれど、家と言う場所で寝たい。

 

「それじゃ、俺達のお仲間ごっこもこれにて終わり。俺は一足先に帰らせてもらうよ。天狗は……どうにか自分で頑張るでしょ。またな」

「ふむ……では、私もこう言わせてもらおうか。また、会おう。次に会う時はもう少し度胸を付けておけよ。脆弱な人間」

「一言も二言も余計だっつぅの」

 

 後ろ手にひらひら、呑気に手を振る。レミリアはどうやって帰るのだろうとか、また会えるのかなぁなんて事を考えたりして帰路に付く。後ろを振り返れば血の海。前を向けばただの野道。まるで、見飽きた日常と求めた非日常の境界線。でも、この世界に来て思うのです。

 

 平和って素晴らしいんやなって(。´-д-)

 




お読みいただきありがとうございます。

らんさまちょうつよい

まあ、そういうわけです。八雲家には逆らうな。逆らったら文字通り消されます。

それと、恐らくメインヒロインは貧乏神の子になります。出生とかには特に触れられていないようなので、元々幻想郷に居たけど、顔を出して無かった。そんな体で行きます。

あくまで予定ですし、まだまだ先の話になるんですがね。

では、また次回〜


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第5話 お腹、空いたなぁ

やあ( *・ω・)ノ
実に半年ぶりだな(・ω・ )
そこは息抜き用だから許してくれとしか私からは言えないかな( _´ω`)_

それと、今回は射命丸文にかなりのヘイトが向くことになる。
とは言っても殺意の波動に目覚めたりとか、そういうんじゃない。そこは安心してくれ。

ただ、鬼による支配がなくなり、上の立場の者がほぼいない環境下で、人間を格下として見ているのであればこうなるのは当然だと私が判断したのだ。

ま、矛盾やおかしな点があっても笑って許してね♡


 さてさてさて、吸血鬼と天狗との戦争が終わりを告げはや2ヶ月。私こと霧生茉裏さんは漸く……よ う や く ! まともな家を手に入れることが出来ました! 雨風が凌げる場所って本当に素晴らしい(達観)

 

 建築知識も技術もなく、道具もない。木を切る方法もないから家の壁や屋根を引っペがしては、なんとか引きちぎれたツタをロープ代わりに壁を繋ぎあわせていく……。 食料? 金? んなもんねぇよ! 空腹と風や雨との激闘を幾度となく行う。付け焼き刃の罠には何も掛からない。山菜はまだしも、キノコに手を出せるほどの度胸も知識もなく、週一程度でくる支給品の食料(カロリーメイトっぽい何かと2リットルの水)でなんとかやりくりをしていく生活。植物から出る水を掻き集めないと水は持たなかったけどね!

 

 あ?サバイバル技術教えて貰ってただろって? 事前準備があるのとないのとでは天と地の差があるんだぜ?

 それにこのあたりの判別できる野草は食い尽くした。後は自生できる程度しか残っとらん。

 備蓄はどうしたって? 知ってるか? 備蓄って減るんだぜ……?

 あ? その支給品を売って資金に? 水なら井戸があるし。わざわざ得体の知れない物を食いたいか? あと、割と人里は遠いです(´・ω・`)

 行くまでのカロリーが惜しい。

 

 ま、まあ? 家は完成したし? 俺二人分ぐらいの広さはあるし? 殆ど雨風ないし? 沢蟹ぐらいなら捕まえれる罠も作れるようなったし? 僕の生活はバライロデスネ(白目)

 

 ……き、気を取り直して。吸血鬼VS天狗〜藍しゃま最強伝説〜の後日談の話でもしようか。

 

 …………音沙汰なしだよチクショウ。紫様からも藍様からも連絡はなし。吸血鬼のレミリアからも、天狗からの絡みも無かった。だから話し合いが終わったのか、そもそもあったのかすら分からないのよねー。だからこうして家の修理に勤しめた訳だけども。

 

 にしても、天狗からの接触が無いことには驚きだな。てっきり報復だー……はないだろうが何かしらの因縁は付けられるものだと思ってたけど。こうして接触が無いってことは……許された? はあるわけねぇか。まだ療養中か、はたまた手を出すべきではないと判断されてるか……。なんにせよ、平和なら有難い。

 

「こんなもんでどうだ? 隙間が多いが……なんとかなるか」

 

 色々思考を繋げてたけど、現実逃避をしてた訳じゃないんだぜ? ツタと枝を掻き集め、まるで服を縫うように繋ぎ合わせる。縫い合わせるの方が正しい気もするけど、そんなことはどうだっていい。幾度となくツタを引っ張り過ぎて千切れたりを繰り返したが……ついに、遂に!

 

「かごかんせぇぇぇぇ――……。つっかれた」

 

 そう。籠である。ボールを半分に切って網目状にしたようなあれである。大きさは帽子のように被れる程度には大きい。殴ったら流石にひしゃげるが、そこそこの強度はある。三本の矢よろしく、3方向に向かってクロスさせてるからな。時の勇者様が持つ三角形が沢山見られる。ん? そんなもの作って一体何に使うのかって?

 

「結構丈夫に出来たし……小動物程度だったらどうにかなるか? 物は試し……仕掛けに行くか」

 

 そう、罠である。一応大型を捕らえる罠を作れんことも無いさ。捕まえられるかは抜きとして。血抜きもうろ覚えだし、解体はもっての外だ。で、あればだ。小動物から試すしかなおよなぁ!?

 

 家から離れ、なんとなく動物が来そうだなーと思う場所に掻き集めた木の実、

 蟹の殻、虫……どれがいいだろうかと悩みメンドクセーの考えから全部ごっちゃに置いてみた。後はそれを覆うように籠を被せる。程よく長く、先が枝分かれしているものが好ましい。そして、すこし短いが理想に近い枝を発見。適当な蔦をそこそこの長さに切り、先程の枝に外れないよう括り付ける。

 

 ここまですれば下準備がおわり。籠の片側を持ち上げ、枝分かれしている方を支えるように引っ掛ける。枝分かれしていない方を地面に軽く突き刺し、籠が倒れないように固定。後は離れて小動物が餌を食べるのを待って、括り付けた蔦を引っ張って捕まれば完璧だ。

 

 タンパク質……脂質……兎に角肉が食べたい。虫に手を出すのも吝かではないが、先に見た目的には慣れたものから始めた方が良いだろうしな。

 解体は……取り敢えず内臓を取り出して……習ったけどうろ覚えだ。内臓出して焼いとけば大丈夫か。籠の大きさもそんなにある訳でもないし、せいぜい小さめのカラスが限界だろ。あれ、割りとでかいなそう考えると。

 にしても、虫……虫かあ……。イナゴが食えるからバッタは行けるだろ……? 行けるよな? 行ける行ける。他には……なんだ? 幼虫……? テレビとかではよく食べてるよな。木の皮でも引っペがしてみるか今度。あーとーはー、甲虫は食べれるのだろうか? 殻は……食べれないよな。カニの殻みたいなもんだろうし。それなら出汁は取れる……? わからん。

 

 こういう食糧事情に詳しいキャラいたよな。えーと、秋姉妹か。秋静葉と秋穣子。穣子ってこの字だっけか? まあ、読みさえわかれば苦労はせんだろ。静葉が姉で、穣子が妹。二人とも秋の化身……神様だ。食べられる虫は知らなくても木の実だったりキノコに詳しいだろ。まずはその2人と関係を持つのが先決か?

 いやでも、……確かあれだ。あの2人妖怪の山にいる。天狗と関係を持たないと……あれ無理じゃね? 吸血鬼とならまだしも、天狗とは完全敵対してる訳だろ俺? うーん、小鈴ちゃんの書店でその手の本を探す……文字を読めるのかそもそも? 現代の文字じゃないよな……。

 

「と、割と簡単に引っかかったか。雀1羽……まあ、腹の足しにはなるか」

 

 茶色と所々の黒。何処にでもいる雀だ。この雀を餌に……なんて馬鹿なことは流石にしない。それなら骨を別の用途に使った方がいい。手の中でじたばたする雀。ここに来る前の世界の先入観から可哀想ではあるが、弱肉強食。生きるための摂理なのだ。直ぐに罪悪感はなくなった。代わりに感謝が胸を締め付けた。

 

「締めるか」

 

 雀の首を開けるように握り、ナイフを振り下ろす。キュッ 小さく絶命する声が耳を燻る。せめて苦しまずにと考え一気にやったが……、今更になって硬いものかなにかに叩きつけた気絶させた方が良かったかと後悔する。しかし、やってしまってはもう続けるしかない。

 羽毛を毟り肉を露わにする。内臓系は危険だし、詳しくないので食べるのやめとくか。両断された首元から股関節まで刃を入れ、内臓を掻き出す。途中なにかにを破ってしまったようで大量の血液が流れ出る。

 

「こんなに小さいのに、手のひらが真っ赤になっちまった。生きるって……大変だよなぁ」

 

 掻き出した内臓と、絶たれた頭は深く穴を掘り埋める。手を合わせ、いただきます。枝肉にした身体を支給された水で洗う。水を貯めたボールの中もほんのりと赤くなっていた。火を起こすまではここに入れておこう。

 

 落ち葉を集め山に。それを覆うようにして木の枝を重ねていく。後は乾いた板にそれなりの長さの枝を……。縄文だかに使われていた手法だ。数分掛かる時もあるが、最初の頃は見よう見まね……以下の方法でやって、気が付けば日が暮れているなんて何度もあった。

 今回もそこそこの調子で火種を作り出す。細長い乾いた雑草……藁に似たそれに火種を移す。ゆっくりと、力強く息を吹きかける。白い煙が顔を襲うが、小さな明かりが雑草の中から現れると同時に手のひらが熱せられる。

 急いで準備していた落ち葉の山に移し、再び息。明かりは、火に。そして炎へと姿を変えた。

 

 落ちていた枝の先を斜めに切り、枝肉に刺す。何度か苦戦しながらも無事貫通させることに成功。先程作った焚き火のそばに突き刺した。あとは、じっくりと火を通せばよい。食中毒等も怖いが、食わねばならぬ。

 

 パチパチ……炎の弾ける音が静かに渡り響く。せめて夜なら風情があっただろうにと薪をくべる。枝肉の表面がこんがりと。空腹が返事を返す。もういいだろう、いやまだ……。なんとも落ち着きのない人間になったものだ。

 

「もう、いいよな」

 

 我慢の限界。久々の肉。串に手を伸ばす。こんがりと焼けた表面からはほんのりと湯気が立ち、鼻を燻る肉の香りが脳を直接刺激する。極限の空腹状態とは言い難いが、ああ、確かに空腹は最高のスパイスだ。

 

 齧り付く。肉汁なんて溢れ出てくるほどあるはずも無く、炙りすぎたベーコンのような食感。だが、甘い。今まで食べてきた肉よりも断然質は悪いし、調理法も適当な物だ。だが、甘い。美味い。旨い。ちくしゃう……なんで、こんなに旨いんだよ。

 

 もう一口と、大きく口を開けた。

 

「おや、随分と小物を食べているようで」

 

 空から声が聞こえた。この声には聞き覚えがあるぞ。鴉天狗最速を誇る射命丸文だ。だが、そんな事はどうだっていい。開いた口を肉へと振り下ろす。骨すらバリボリと噛み砕く。

 

「野蛮ですねー」

「ンクッ……。んで、なんか用か射命丸文」

 

 余韻を残したいところだが、そんな事も言ってられないか。飲み込み、射命丸へと声をかけた。

 

「いえいえ。随分とお世話になりましたので、軽く挨拶を」

「そうには見えんがな。お前一人じゃないだろう? 俺を撮っ捕まえてもなんにもならんがねぇ」

 

 気配はー……2つ。多分ほたて……じゃなくて、はたてと椛だろうな。ふぅむ……万事休す。

 

「あややー、バレていましたか」

「こちとら毎日殺気浴びながら生活してたんだ。そういうもんにはかなり敏感だぜ?」

「1匹はそれが仕事みたいな物ですから、大目に見てやってくださいな」

「あいよ。それで? 俺を妖怪の山にでも連れていこうってのかい? そうだとしたら遠慮させてもらうが?」

 

 射命丸の刀の剣先が突き付けられた。くっそ怖いんですが!?

 

「要件を把握してもらえているようでなにより。ですが、拒否権があるとでも?」

「ないのか?」

 

 刀の先が頬をなぞる。それに合わせて頬から血が流れていく感触を感じた。やっべやっべ、選択間違えたら死ぬやーつ。てか、これあれだよな。勝手に行動してボロだしたらアウトのやつだよな? 交渉材料は……バレてる八雲一家って事と、吸血鬼との大戦の事ぐらいか。かと言って拒んでもアウト……八方塞がりとはまさにこの事! お天道様が明るいぜ(白目)

 

「あるとでも?」

「あー、1つ言わせてもらおうか。おめぇら誰を敵に回してると思ってやがる。ああ、俺じゃないぞ? ただ、恩を仇で返して、要らぬとはいえ駒を勝手に潰されて……不愉快になるやつはいないよなぁ?」

 

 フハハハ! 煽りよる煽りよる! 僕の命日は今日かも知れませんね! 最期の晩餐は雀の丸焼きだったかぁ……せめて牛や豚や鶏をたらふく食いたかったなぁ。魚でも可。てか、近場をの池とか川で釣りすれば良かったのでは……?

 

「んで? 要件は?」

「新勢力」

「あ? え、そんな事ききにきた―――ってそうか。そりゃそうだ」

 

 守矢一家が来るぞーってやつか。天狗からすれば訳の分からん事をほざいてるだけの阿呆だからなぁ。けど、八雲の一端。吸血鬼との大戦に首を突っ込んだ愚か者。嘘だと断定してしまうほどには無視は出来んのか。

 

「僕は少し先の限定的……俺が居なかった場合の未来を知ってるんですって言ったら信じる?」

「貴方がいる時点で破綻しているのでは?」

「だっよねー」

 

 知ってた。否定されることも、俺の知識がもはや意味無いことも。最初から、マヨヒガに来てしまっていた時点で分かってましたーだ。

 

「っつても、それ以外無いんだが。俺はアンタらが思ってるよりも大分無能だからねぇ。死にたくないがために全てを投げ売って、この先がどうなろうと知ったこっちゃないし。僕はただ平和に行きたいだけなのよ?」

「の割には首を突っ込むのがお好きなようで」

「命令だから致し方なし。本当は戦争なんてもん見たくもねぇし、行きたくもねぇ。当事者になるなんて真っ平御免だ。けど、生きる為にはそうするしかない。それしか選択肢がないのよ」

 

 本当に……出来るならあんな惨劇見たくもねぇっうの。だーれが好き好んで血みどろゲテモノを見なきゃならんのじゃ。俺はサイコパスではありませんことよ?

 

「てか、こんな事を話に来たんじゃねーだろうに。話題振ったの俺だけどわざわざ乗っかるなよな。まあ、事実なんだが」

「事実だろうが、無根だろうが私達には判断は出来ません。ですから、さっさと喋って頂けると嬉しいのですが?」

 

 ……だから何を喋れっちゅうねんさ。未来を知ってる理由は今教えたばっかだと言うのに……射命丸って交渉術長けたキャラだったと思うんだが。これじゃあ躱すのが得意な鴉になっちまうな。

 

 無言のまま軽く呆れていると頬に触れていた刀の刃先がゆっくりと皮を突き破り始めた。いやいや!? 冷静になってる場合ちゃうでしょうに!?

 

「おいおいおい!?」

「話す気になりましたか?」

「話すも何も……何を聞かれてるかが分からないんですがねぇ!!」

「……………………全てをです」

 

 こいつ……俺を威圧することだけを頭に入れてやがったな。じゃなきゃそんなたっぷりと間なんてあかないもんね!

 

「取り敢えず刀を退かせ。情報が欲しいならそれ相応の物を用意しろ。そうだな、2つの質問につき1つ、俺のお願いを聞いてくれるだけでかまわんぞ?」

 

 …………射命丸って、交渉術下手なのでは……? いやだって、お願いを聞いてくれるだけでって言ったのよ? 確証してくれとは言ってねぇのよ? 適当に流して質問に答えさせるのが一番だと思うんだが。約束も守らずともそれなりにがんばったんですけどー、この程度に終わっちゃいましたー(棒)で済むんだがなぁ。信用問題は別として。

 

「おーい、早く決めてくれよ俺だって暇じゃないんだから」

「……分かりました。確約は出来ませんが上に話を通しておきましょう」

「確約出来んのなら質問は1つな。1つにつき1つお願いを聞いてくれよ。それぐらいいいだろ?」

「分かりました」

 

 マジかよ!? うわーおぶっちゃけ身の程を知れ人間とか言って何処ぞの抜刀斎さんみたく十時傷でも作られるもんかと。

 そして、わかった。こいつ所詮は人間だからどうとでもなると思ってやがる。もしくは、マジで単純に下手か。今まで刀をチラつかせて情報を引き抜いていたなら下手なのも納得が行くしな。口先八丁が天狗の取り柄と思っていたんだが。この辺りはもちっと調べて見ますか。

 

「交渉成立って事で。お先に質問どうぞ?」

「では、敵勢力について。その内情を」

「内情って言われてもねぇ。来るのは三人だけだし。お山の上に神社ごとやってくる神様三人。1人は戦、1人は祟り、1人は現人神だったか? 僕は優しいから名前も教えてあげよう。戦は八坂神奈子、祟りは洩矢諏訪子、現人神は東風谷早苗。戦の神としての名前つうの? そういうのは知らんけど、祟りなら知っとるぞ。うん、多分天狗様も知っとるんじゃねぇかな。祟り神ミシャグジ。最古の神の一体……だっけ? 確か縄文の頃からその影があったとかなかったとか。それを使役? 共存? 本体? まー、そんな存在なのが洩矢諏訪子。東風谷早苗は現人神ってよりも、かぜほふり? かぜはふり? かぜほうり? とか言う巫女さんみたいなやつ」

 

 うん。ここまで教える必要は無かった。けど、ここまでスラスラ、すらすら? 出てきてるわけだし。ところどころ分からんこともあるけど、嘘には見えんじゃろ。

 

「戦力については」

「おっと、その前に此方の要求も呑んでもらわんとな」

「チッ……何が要求ですか」

 

 舌打ちされたでござる。正当な取引のはずなんだがなぁ。サラッと要求を呑んでもらう事に摩り替えては居るけど。ま、相手からすればちょこっと敷地内に入らせてもらうだけだし、有益な情報かつ八雲との繋がりを持つ存在を無下には出来んという確信が後から沸いて出てきたりしているし可愛いもんだが。

 

「お前さんの山、妖怪の山に秋の神様がおるじゃろ? 秋静葉と穣子。その2人が秋以外でも活動してるかを教えてくれ」

「そんな事ですか。その事でしたら椛が詳しいでしょう。椛」

 

 この情報から相手が何を求めているかを考えないのはどうなんですかねぇ……。いや、その素振りを見せない為の偽装か? てか、名前ばらしちゃうのね。違う名前で呼べば揺すれそうなもんだが。

 

「彼女達は秋以外でも次の秋を良くするために活動している」

「おーけーおーけー。これで1つ心配事が減った」

 

 ひぇっ……なんで睨んでくるんですかね。単純に食糧事情が改善する希望が見えただけなんだが……。

 

「妖怪の山、彼女に害をなそうと?」

 

 えぇ……そんな不用意に質問しちゃう? これ、信用問題を気にかけてる俺だから今から訂正してやれるけどさ、他の勢力問題が関係してるなら質問として処理されて優位とられるぞ。

 

「あー……えっと、射命丸文。お前さ、格上相手とかに対して口論したことあんの?」

「どういう意味ですか」

「……ここで否定しないってある種の肯定だよなぁ。他2人は話に参加してねぇから分からんけどもよ、少なくともお前さんは下相手に脅しながら情報を引き抜いたことしかねぇんだろうな……。

『妖怪の山、彼女に害をなそうと?』これさっきの射命丸の発言だがな、おもいっきし質問なんだわ。これに対して俺はイエスorノーで返せばまた要求を呑んで貰えるわけ。分かるかい?」

 

 俺はそんな感じで格上(主に二人)から散々絞られたからなぁ……物理的に。傍からみるとさぞ滑稽なことよ……。

 射命丸さんも唇を噛んでないではよ話進めよや。

 

「んで? さっきのは質問と取っても? 別に俺とアンタは勢力争いをしてる訳じゃねぇんだしもうちょい気楽にやろうや。だが、俺は俺で生活が掛かってるんでね。さっきみたいのがあれば容赦はもうしない。お前さんとうちの上二人を比べるとさすがに可哀想だが、お粗末が過ぎるってもんよ」

 

 相手の頭を湯で上がらざるのも常套手段でごぞんすよ。ただ、実力差がはっきりしてる場合、物理が飛んでくるため注意。

 

「…………人間風情の情を受けたくはありませんが、確かに不用意な発言でしたね。少し落ち着きました。私も後がないんですよ。少しでも貴方から絞らせて貰わなければ首が落ちるかもしれないのでね」

「だったら尚更冷静にならんとな。んで? 質問は?」

「…………貴方と居た吸血鬼について」

「あいつか。帰ったよ外の世界に。まだ、詳しいは知らんが、俺の知っている未来に近い形で進むのであればいずれは幻想郷に来るだろうな。ああ、手を出すことはオススメ出来ない。手を出すなら、手をだす前に殺される覚悟を持つことだ。何処まで有効的かは知らんが、アイツの力は力量なんて殆ど関係ねぇから。よっぽど妖力の差とか、不死身とかでもない限りは勝つ事は不可能に近いじゃねぇかな。実際何処まで干渉出来るのかは知らんけど。ま、それぐらいヤベぇ奴って可能性は十二分にある」

 

 実際レミリアの能力ってのはどういう感じなのだろうか。どれぐらい先まで見れて、どれほどまでの影響力を持って操れるのだろう。

 レミリアの能力……『運命を操る程度の能力』と確か原作には明記されていた。未来予知でもなく、操ると言うのは1つの重要ポイントだと予想するがさてはて。少なくとも藍様には効力がないだろう。同種族の吸血鬼にも効果は無さそうだ。つまり、自身を基準として一定のラインより下に位置する存在に対してのみ有効。だと考えるのが妥当か。

 そしたら、そのラインより上の存在がどの程度干渉してきたら効力が無くなるのか……ってな感じになってくるよな。ワケワカメ。

 

「んじゃ、次はこっちから。ま、大体察しは付くかもしれんが妖怪の山への……なんだ、侵入券? 立ち入ることを許可してくれ。それが出来んのなら秋姉妹の家までで良い。本人直々に現場で教えてもらうのが一番だが、教えてもらえるのであればなんでも構わんからな」

「ふむ、良いでしょう。大天狗様へ進言しておきます」

「おーけー。んじゃ、他に聞きたいことは?」

「いつ頃来るのかを」

 

 これは多分守矢一家の事だろうな。先に吸血鬼の情報を聞いた上で別勢力の話を切り出し、一つで二度美味しい。さっきまでの素人が嘘のようだ。やっぱ、天狗は口上手じゃねぇとしっくりこんわ。ま、それでも荒いけど。確認取るだけで対策完了なんだよ。やるならもっと隠さねぇとな。俺には出来んが!

 

「それは吸血鬼のかい? それとも神様達のかい?」

「……神達のです」

「スマンがそれは分からねぇな。まあ、遠からず来るんじゃね? 数日後か、数ヶ月後か……はたまた数十年後か」

「分からないのであればそちらの要求は呑めませんね」

 

 ここで切るのは正解だな。ご主人様方なら約束違うぞ! 条件なしでもう一個答えやがれこんちくしょうと、あれよあれよと吐き出してた(確信)

 

「あいよ。吸血鬼の方はいいのかい?」

「そちらは問題ありませんのであしからず。ま、これだけあれば私の首も落ちないことでしょう」

「そりゃ良かった。折角の美人さんなんだ。これからも是非ご贔屓に。今度は土産も頼むぜ?」

「私としては貴方は疫病神そのものなんですけれど……」

 

 そう言い残し射命丸は背の翼を広げ飛び立つ。後を追うように、姫海棠はたて、犬走椛の順で飛び去っていった。

 

 いやぁ、なんかあれだな……昔の自分を見てるみたいで楽しかった(白目)

 

「てか、失言とかしてねぇよな……いや、多分大丈夫な筈。特にこれといった物は渡してねぇし……能力関連も言葉にした訳では無いし……」

 

 うーんグレーゾーン。らんしゃまいたら確実に折檻コース。もっと有利に立てと殺されかけているのが目に見えてるぜ……。

 

 後は天狗からの報告待ちまで何とか食いつなぐだけ……………………

 

「あ、期間決めてなかった」

 

 

 

 

 

 …………お腹、空いたなぁ...(º﹃º )

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

スズメの下り要らねぇだろって?
俺もそう思う(´・ω・`)
けど、ああいうどうでもいい事を書くのって楽しいのよねぇ。

んで、原作にはいつからはいんねんってのは話数的にはそう遠くないと思うんよ。旧作については詳しくないから多分触れない。
あと、新作とか色々出てきてるけど……ヒロインにする予定の紫苑ちゃんが限界かなと。妹ちゃんも少しなら出せない気もないけど……まー、日の目を見ることはないと思う。

まー、そんな感じか。

また次回の更新も長くなると思うから、そこらへん他の神作品共を読みながら待ってくだされば幸いです。

んじゃねー( ・ω・)/


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第6話 不安しか残らないけど僕は元気です

皆様1年と……何か月ぶりだ? 分からないけど私は元気です。
パソコンの故障だったり、単純に忙しかったりで筆を執る時間が短くなっておりましたがようやく帰ってこれました。

ぶっちゃけ前回の話よく覚えてないけど、まあ、まともなものができたんじゃないんかなと。

それでは、どうぞ!


 皆は急に親に会えなくなるってなったらどうする? 別れの挨拶? 最後の親孝行? まあ、やる事は沢山あるだろう。言葉が少ないだけでな。飯に行くでも、観光に行くでも。家で一緒に過ごすのも、捉えようによっては親孝行になるんだろうさ。

 

 けど、そういうのってのはさ、結局は会えなくなるってのが分かった時にしか無理なんだよ。

 

 親と仲が悪かったり、DVでもされていればお願いしたい程の事なんだろうけど、俺は違う。もし、もしも親が父と母が、家族が殺されれば俺はそいつを殺しに行く。警察に捕まろうが、世間から非難されようが、殺したやつを殺して、そいつの家族を皆殺しに行く。

 

 溺愛って程でも、マザコンやファザコンってわけでもない。ただ、両親は俺の両親で、ずっと支えてくれた大切な両親で、きっと、俺が五十を超えてもまだ生きてるんだろうなって、根拠の無い確信と、もし急に死んだらどうしようと言う不安を抱く、大好きで、正直になかなかなれない両親なんだ。

 

 そして、それはきっと向こうも同じなんだと思う。

 

 今頃、俺の元いた世界での俺は行方不明者として扱われているんだろう。そもそも、俺の元いた世界がまだ実在しているのかすら分からないからなんとも言えないけど。

 

 

 この世界に、今俺が立つこの世界に『福岡県』は存在しない。

 代わりに『福義県』なんて聞いた事もない県がそこには存在した。

 

 

 これを紫様から聞いた時は頭が可笑しくなりそうだった。だって、可能性の話とはいえ、両親に別れの挨拶とか、元気だよとか、心配かけてごめんねとか……言える可能性があったんだぜ? それが、日本地図を見れば俺の住んでいた『福岡県』も、街も無くなっちまってた。

 

 幻想郷に迷い込んだわけじゃなかった。俺は異世界に迷い込んでた。

 

 だから、今でも不安に思う。真っ暗な暗闇の中、外の風が時折強く吹く度に、俺はこのままどうなっちまうんだろうなって。ずっと、そんな考えがぐるぐるグルグル巡って廻って……、ぼんやりとした意識のまま朝を迎える。

 

 睡眠を取れているのか分からない、ただ、何処と無く疲れは取れている気がするから無理矢理に身体を動かす。前の世界のようになあなあで過ごすだけでは生きては行けない。

 

 小さい小屋の中で一度大きく伸びをして、外へ出る。朝日が登り始めた頃、今の季節は春か夏か……少なくとも梅雨には入っていないだろうから春だとは思う。いや、実は梅雨はとっくの昔に過ぎ、幻想郷の夏が涼しいだけでと言う可能性も捨てきれない。ここは異世界なのだから。

 

 さて、ぐだぐだと暗いことばかり考えてしまうが気を変えて。天狗との接触後一週間。よく良く考えれば俺乗せられてたんじゃね? と思わなくもないこともないと信じたいけど私は今日も元気です。違うそうじゃない。問題は天狗からの再接触がないこと。やっぱ乗せられてるじゃないですかヤダー。

 

 まあ、うん……。あれだ。前に比べると食料事情も改善されてきた。やっぱ不定期とはいえ肉が手に入るのは有難い。なんてことも無く、その後鴉が籠をぶち壊して行きやがりましたはい。最近は釣り出来ないかなーと思案なう。

 取り敢えず射命丸は〇ねと思うね。うん。え? 報復? そもそも本当に射命丸か分からんし、勝てるわけないから(ヾノ・∀・`)ムリムリ

 

 取り敢えず何をしようか。人里に行って籠とかを買ってくることが出来ればいいのだが、如何せんお金がない。物々交換出来るものもない。さらに言えば食料を確保する時間が無くなる可能性も高い。

 

 え、ぱって行ってぱって帰ってくればいいだろうって? 何時どこからライオンの群れが襲ってくるかも分からないところを堂々と進めますかあん畜生。

 

 つまりはそういう事なのです。森を抜けてさえしまえば人里も半刻ぐらいでつく程度の距離なんだよ。少なくとも一刻までは行かないと思う。森だってそんな広くないからこっちも半刻で抜けられるんだが。

 いやー、餓鬼ってやべわ。一体二体ならまだしも三体になると勝てません。逃げるしかねぇや。餓鬼ならまだいい。昆虫系の妖怪が一番厄介。腕ぐらいの大きさの百足とか、どうしろと? あ、全長がじゃないぞ? 体の横幅がだ。あと、口が某ハザードわんちゃんよろしく四つに裂けてた。流石にこの辺のあからさまにやべぇ奴は少ないけど、それでも両の指が埋まる程度の種類は見かけた。

 

 まあ、武器もあるし? 頑張れば殺せるんじゃなかろうかー? って希望的観測は出来るな。一体なら。一体かつ準備を万全にしてれば。

 多分だけど、餓鬼は低級、百足は中級ぐらいだと思うのよね。大きさとかにもよるんだろうけど。少なくともクソ天狗とか吸血鬼ほどの威圧感は感じないし。

 

 この結界付近、感覚的に半径二、三百メートルくらい? もうちょい狭いか? には、こいつらって基本近寄ろうとしないのよねー。多分、てか十中八九八雲印の結界のお陰なんだろうけど。いやほんと、水辺がこの結界内で助かったよね。マジで……。

 

 とまあ、食糧事情に外敵事情はこんなもん。釣りはまだしてないけれど、魚影は見えたし、沢蟹を捕まえる罠の要領で工夫すればどうとでもなるだろうと思いたい。

 

 ただ、やっぱり人里とかに行く手立ては立てとかないといけませぬ。お金なんて持ってないけれど、幻想郷のお金事情は知っておきたいところ。

 一度偵察には行ったけど、中には入れてないのよねー。近くを通るのなら何度か。装いは洋服和服ごっちゃな感じだから、今の見た目でも小汚い奴が来た程度で済むと思うし。

 

 うん。人里に行こう。捨ててある木材とかなんかそーゆうのあれば拾ってこようっと。あわよくばあっきゅんこと稗田阿求か上白沢慧音とお知り合いになっておきたいところ。あと、博麗神社の詳しい場所も知っておきたい。

 

 うん、やることっていうかやれる事はこんなところでしょ。

 

「そうと決まれば善は急げ。思い立ったが吉日。万全を期していざ参らん!」

 

 タコ糸と桶があれば嬉しいなぁ~っと、おんぼろ拠点から森の中へ。茂みに隠れ木に隠れ妖怪達の視線をかいくぐりながら森を抜けていく。

 相変わらず大ムカデはデカいし、餓鬼はあっちにフラフラこっちにフラフラしてるし、なーんで妖精とかいう癒し要素は居ないんですかねぇ。

 ただ、結界って凄いなって思うことがあって、どの妖怪もおんぼろ拠点の方向には進んでいかない。結界ってスゲー。いや、冗談抜きですごいわ。べーわべーわ。

 

 そんなこんなで森を抜けました。まあ、妖怪はちらほらと見つけはしたけど普通にやり過ごしてたからね。草木に紛れて。動画的に言うのであれば見所さんがいないというやつです。

 森を抜ければさあ街道なんてご都合主義は存在しない。さらにはやり過ごしてた時間だけが無駄に長くて既に半刻は経っている気がする。とは言え、人里までもう少し三十分も歩けばもう人里に到着する。空を飛ぶ事ができればもっと楽なのだろうが、そんな霊力ありません。練習すれば飛べたりするのかしら。まあ、なんにせよ練度だけの問題とは思えない。やはり現代っ子は貧弱というわけですな。

 

 森を抜ければ妖怪の数は減り、逆に妖精の姿がちらほらと。背丈は大きいもので小学校低学年程度から幼稚園児ぐらい。背中には蝶の羽のようなものを一対。というわけでもなく、形状、大きさ、数とそれぞれ違っている。分かりやすいので言えば、炎のような羽を持っている子や、木の枝が絡み合っているような羽を持つ子がいる。おそらく某⑨もこの手の類なのだろう。

 てか、炎って危なくないのかね。と、思っていたが物体はすり抜けるみたいである。べんり。たまに目の前に飛んできてわちゃわちゃしているのを軽く追いかけてあげたりすると喜んで逃げていく。完全に事案である。通報まったなし。

 

 幻想郷はロリコンの天国だった……?? 

 

 なんて冗談はさておき、要請を適当にあしらいつつ人里へと訪れた。人里周辺にはだいたい大人の肩ほどの高さで塀が作られており、入り口は東西南北計四か所。それぞれの門には二人の若者が日ごとに選ばれ見張りをしている。人口はおよそ千を下回る程度。完全には把握できていないようだが、貧困層がいないためか、はたまた妖怪という共通の敵が存在するためか犯罪という犯罪はないようである。あって軽い窃盗や、酔っ払いによる不法侵入といったところ。

 

 村ほどの大きさはないが、小さいというほどでもない。そんな里である。

 

 里に入る方法は簡単で、人型を取っていれば顔パスよろしくすんなり通してもらえる。何故かというと、人里の中で人間を殺すことができないからだ。そういったルールが有る無いの話ではなく、物理的に無理なのだ。幻想郷の中で唯一安全が保障されている場所。博麗の巫女の加護と、八雲紫の庇護下にあるそこで殺しなどの、秩序そのものが崩れ去る出来事は発生しえない。

 連れ去ることは出来るが。人里の外にさえ連れて行けば嬲ろうが殺そうが解体しようが好きにしてよい。それが幻想郷である。人里はあくまで人間同士で売買を行い、生活する場所。畑や家畜を飼育している場所に八雲紫の肥後は無く、襲われたとしても自己責任となる。そこで襲われ、行方知れずになったのを俺や博麗の巫女が捜索するといった感じだ。故に山菜取りや木こりは重宝されている。

 

 さて、人里の中は明るい話声や活気のある客引きの声が響いているわけだ。住人たちの服装はかなりバラバラで、かなり現代に近い洋服を着こなす老人もいれば、昔ながらの和服に身を包む若者もいる。これなら東方projectの主要キャラたちの奇抜な格好にも納得できる。

 里の人間たちを観察しながら、環境の違いがあるのかは定かではないが、サトウキビのようなものを育てていたりしている。サトウキビって沖縄の奴だから熱いところでしか育たないのではないのか。なんて思ったかがよくわかんね。後は米、麦、蕎麦その他野菜類。環境的にこれってあり得るの? 農業に詳しくないワタクシメにはちんぷんかんぷんである。

 

 摩訶不思議な農地を見て、家畜は牛や豚、鶏など物珍しい動物は飼われてはいない。規模もそれほど大きくはなく、一番大きなところでも乳牛が二十頭ほどだという。

 

 金銭面においてだが、昔のお金のはずなのにそれがどの程度の価値があるのかは何となく理解ができる。恐らくは紫様が何らかの術を俺自身か、里全体に施しているのだろう。多分後者だと思ううん。特に理由はない。

 

 そして私の現所持金はZERO。なにもできないでござる。

 しかし、私は諦めない。お金がないのならバイトをすればいいできれば日払い、もしくは住み込み。ご飯が出ればなおよし。

 

 と、なると欲を言えば東方projectの主要キャラのところにお暇したいのだが……。王道にそってけーねてんてーの所だろうか。だが、小学校のようなものとはいえうまく教えられるかの自信はない。それに、見ず知らずの人間が教鞭を取らせてほしいとアポなし出来たらどう反応するだろう。僕なら追い返しますねうん間違いなく。

 なれば、あっきゅんの所だろうか? 詳しくは知らないがあっきゅんこと稗田阿求は人里の貴族的立ち位置。というか人里を纏め上げているお家柄だそうな。後はもうお分かりだろう。門前払いで済めばいいなぁ……。

 

 二つの候補はまあほぼほぼ勝ち目はない。後は香霖堂などの人里の外にある店。給料払いは兎も角、香霖堂であればお手伝いくらいはさせてくれそうではある。男同士で気楽そうでもあるし。

 しかし、それではわざわざ人里まで来た意味がない。さてここで私の目の前にある一つの貸本屋。その名は鈴奈庵。本居小鈴が営むその小さなお店には彼女以外の従業員はいない。

 

 つまりは狙い目! 暖簾をくぐりいざ対面!! 

 

 店内は昼間にしては薄暗くほこりっぽい。

 

「流石は本の虫。人里からそう認知されているだけのことはあるってことか」

 

 里の者曰く、外の本を多く集めており、知識量だけで言えば里内でもかなりのものだという。人付き合いも悪いわけではなくむしろ友好的。

 しかし、一つ欠点があるとすれば一度本の世界に入り込むとなかなか帰ってこないらしい。心配になって様子を見に来たら倒れていたなんてことがしばしば……。

 本の世界に入り込んでいたとしても、何度か話しかければ戻ってはくるらしい。のだが、話しかける者がいなければ鈴奈庵は廃墟と化す。

 

「本好きとして、本屋の主人として本の管理を怠るのはどうなんっすかね」

 

 城壁ならぬ本壁を覗く。その中央で横になっている一人の少女。緋色の髪を鈴のついた髪留めでくくったツインテール。よく今まで女として見られてきたなというレベルの格好に軽く引いてしまった。涎垂らしてぴくぴくと痙攣しながら白目向いている少女にどうやって欲情しろと? 

 

「生きてますかー?」

 

 軽く声をかけつつ少女を抱き起す。どことないカビ臭さが鼻を貫く。もはやこれはキノコの媒体なのではと疑っている。

 

「店の奥まで運ぶわけにもいかねえよなぁ。カウンターの椅子に座らせておいて、起きるまで一緒にいるしかないか」

 

 そろばんなどが散乱しているカウンター、一経営者として確実に真似をしてはいけないと胸に刻みつつ椅子に座らせる。

 そして、ここで働くのはやめておこうかと思案する。それだけ酷い惨状なのだ。

 

 片付けをするにも家主が寝ている状態でしていいものか分からないし、確実に埃がすごくなる中で少女が一人寝かされている状況もよろしくない。

 

「結局おとなしく起きるのをまっているしかないのか……」

 

 適当にその辺の本を手に取り読みふけることにした。年代は様々で昭和の雑誌が多いように思える。現代の雑誌、図鑑など種類、年代に法則はないようだ。サバイバル教本とかキノコ図鑑ないかな。

 

 しばらく本を読みふっけており、体感時間にして一時間ほどか。本居小鈴が目を覚ました。

 

「……み……、みず」

 

 人の気配に反応したのだろうか、かさついた唇がゆっくりと動き飲み物を求める声が。外の井戸に水を取りに行き、めんどくさいからこの中にぶこんではいけないだろうかという衝動を何とか抑え込み水差しに入れる。

 介護職の方はこれより大変なのかと自分で飲もうとしない小鈴の口に水差しをぶち込む。ものすごい勢いで水は減っていき、おっさん臭い声が小鈴から零れた。

 

「ぶっつつっはぁああ!!! 生き返るぅううう」

「うへぇ……女の威厳皆無かよ。いや、人の生き方にいちゃもんはつけないけどさ」

「ふぃいい、いやぁ助かったよ。ありがとね。ところで誰?」

 

 今までいろんな出会い方をしてきたけど、ここまでがっかりする出会い方は初めてだなぁ。

 

「あ、ども。茉裏っていいます。ここで働かせてもらったなぁって思いまして」

「ふーん。私は本居小鈴。上の名前を言わないのは何か理由でも?」

「ま、そんなとこです」

「分かった。まあ働いてもいいんじゃないかな? お給料払えるか分からないけど」

 

 けらけらと笑う少女に酷い後悔の念を覚える。だが、里になじむためにはこれが一番早いし。こんなのでも一応は原作キャラ。親しくしておいて損はないはず。

 

 不安がぬぐえないながらもお仕事ができました。

 不安しか残らないけど僕は元気です。

 




小鈴ちゃんがただのおっさんに……。

嫌いじゃないわ!!

ところで、前作のように1週間1,000~3,000文字程度か、1か月で5,000~10,000文字程度だとどっちがいいのでしょうかね。
まあ、物は試しで月一投稿でやってみようかなと。週一投稿がいい場合はメッセージなり感想なり飛ばしていただければ対応するかもしれないです(希望的観測)


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第7話 凡人は凡人らしくお利口に

やあ、私だ。
一か月だから、書いてる実感が薄いけど文字数的にみると増えてるんだよなと感じている私です。

ただ、こっちのほうが書きやすい感じはするのでもう一時はこのままでいこうかなと。

では、どうぞ。


 皆さんおはようございます。出勤三回目、今日も今日とて鈴奈庵は閑散としております。なにせこの店主客のことなんて考えちゃいない。ザ自己中なのだ。よくこんなんでやっていけるなと店主こと本居小鈴に聞いてみたところ……。

 

「珍しい本が多いからってお店にしたのは両親だからね。もともとはただの書庫だよ。いざとなれば寺子屋の手伝いや稗田家の伝手もある。そこまでお金に興味はないさ。私の最大の財産はココにあるからね」

 

 そんな落ち着いた幼女がいてたまるか、そして片付けろと頭をはたく。彼女にとって最大の財産らしいがこの程度であれば問題あるまい。

 しぶしぶといった感じで小鈴は積み重なった本を本棚へと押し込み始めた。ぎゅうぎゅうに押し込まれていく本たちをしり目に、掃除を再開させる。

 先ほども言った通り鈴奈庵の店主は商売にとんと興味がない。更に両親はすでに死んでいる。

 確か原作では両親は生きていたはずだが、こちらでは二人とも死んでいる。里の外に行ったっきり帰ってきていないらしい。

 

「伝手って言っても切れたら終わりじゃないっすか。大丈夫なんですそれ?」

「茉裏くんは外から来たと言っていたが、外の世界は人と人の関係がそんなに薄いのかい?」

「薄いですね」

「即答か。何とも寂しい世界なのだな外の世界は」

 

 即答したものの、あくまで幻想郷と比べた場合と付け加える。元の世界であっても人と人の繋がりが全くないわけではない。

 幻想郷の人里、千の住人ほぼすべてが全員顔見知り以上というのは元の世界では考えにくい。

 

「そうなのか。まあ私はまだ十五にもなっていないからな。愛嬌を振り撒けば食糧の一つや二つは貰える」

「絶対そーゆうタイプじゃねえだろあんた」

「ヒドイな君は。まあ、多少盛りはしたがあながち嘘ではないぞ。気まぐれに農作業を手伝えばきちんと見返りは貰える。そして、たかが餓鬼一人なんだそこまで食料も必要ない」

「そんなもんなんっすねー」

 

 後輩キャラのようになりながら返事を返す。そうしながら大掃除のアルバムを引き抜くように一冊の本を開き始めた駄目店主の頭をはたく。片付けんか。

 

「少しくらいいいではないか」

 

 ぶーぶーと抗議する小鈴店主を無視しつつ今の会話に思考を巡らせる。

 もし、小鈴店長の言っていることが事実であるならば農作業を手伝えば見返りが貰える。これは食料不足状態のわが身にとってはかなりおいしい話である。

 しかし、欠点として見ず知らずの人間を受け入れてもらえるかどうかということ。

 幻想郷の住人はほぼ全員が顔見知り以上の関係にある。その中に顔見知りですらない自分が唐突に手伝いに行っても受け入れてもらえる可能性は低いだろう。

 だが、この小鈴店長がいればその問題も解決する。彼女は人里の中でかなりの有名人の模様。恐らく本居小鈴を知らない者は居ないレベルだと推測できる。

 その分顔も広い。

 で、あれば。本居小鈴が安全だと判断した人間であればすんなり受け入れてもらえるのではなかろうか。

 

「なにやら悪い顔をしているがいたいけな少女に手を出すつもりじゃ」

「寝言は寝て言いやがりませ店長」

「そうは言うがそんなに年も離れていないだろう?」

「寝言は寝て言いやがりませ店長」

「身長差は五十近くあるが、たいして問題もあるまい」

「それが一番の問題だということに気づきやがりませ店長」

 

 とてとて、そんな擬音が聞こえそうな足取りで近づいてきた小鈴。並び立って改めて分かるが本当に小さい。せいぜい百二十かそこらだろう。

 茉裏の身長が百七十半ばなことからその身長差は五十近くある。目線的には茉裏の腰回りを常に小鈴は見ているわけだ。

 

「むう、背が低いというのはやはり魅力が低いのか」

「魅力が低いというか、この身長差で僕が捕まらないかが一番の不安と言いますか。それ以前に現状誰かと恋仲になる余裕も気もないと言いますか」

「そんなものか」

「そんなもんっすよ。てか、出会ってそう時間がたっていない相手を誘うのはどうなんっすか」

「私は外の知識が多いから分かるが、幻想郷で私の年で結婚するものは少なくはないぞ。多くもないがね。そして君が私と恋仲、ゆくゆくは結婚とまでいけば人手が増える。貴方働く。万々歳!!」

 

 なーにが万々歳じゃとその小さな頭を掴む。

 確かに彼女と夫婦という形になれば何かと便利だろう。それで結婚を考えるのもどうかと思うが。だが、衣食住が一発で揃う理想的な状態にはなれる。

 あの小屋を放置するのは忍びないがそれも一つの手ではあるのだろう。

 しかし、それを補って余りある問題がある。

 

 一つは、あの場所が天狗及びレミリア・スカーレットととの交流の場になってしまっていること。別に鈴奈庵でもいいではないかと思われるが、あの場じゃないと私本当に無力なのよね。結界ないから。レミリアは兎も角、射命丸とかの天狗勢から里の外に出たら首チョンパされてもおかしくない立場だから。

 帰る時もガクブルですよ毎日。

 

 んで、さっきもちらっとでてきた結界の有無。あくまで能力を押さえ付け、他者を寄せ付けない人避けでしかない。まあ、それの効力があまりにも絶大故に天狗たちも無暗に攻めてきてはいない。やろうと思えばこないだの交渉(笑)のときに殺されていただろう。

 

 そして、下手に移住して八雲を押し付けたくはない。なら、バイトするのもアウトなのではというがそこはコラテラルダメージというものである。コラテラルコラテラル。

 

 と、このように私には移住できる理由がないのです。東方project二大主人公霧雨魔理沙がまだ魔女になっておらず霧雨魔法店を営んでいなかったらわんちゃんあるのだろうか。

 あとはレティ・ホワイトロック、ルーミア等の居住地が確立していないキャラクターなら問題ないとは思う。今泉影狼とかもいけるのかそれなら。

 

 そもそも彼女たちが僕に惚れるとは限りませんけどね!!!! 

 

 どうしようもない会話を交わしながら二人で本を片付ける。それ以外にやれる事がないともいう。

 三回しか出勤していないが、客として訪れたのは堂々の0人だ。客としてではなく様子を見に来たおっちゃんおばちゃんが三人。完全に手のかかる子扱いである。

 故に、今目指すべきものは最低限店として扱ってもらえるレベルにまで引き上げること。

 これに尽きる。

 

「小鈴、生きてるか?」

 

 とんでもない一声と共に暖簾がくぐられる。青味かかった白髪、紺色の控えめなドレスを身に纏う。恰好こそ幻想郷では珍しくもないものだが、素材があまりにも良いとなんと表現すればよいのかが見つからない。

 

 上白沢慧音。稗田阿求と共に人里を取りまとめる管理人のような存在。後天性の半妖。その片割れは白沢。満月の夜にはその性質を強く引き出され、二本の角と髪色が青から翠に変わる。通称キモけーね。

 二次創作では蓬莱人、不老不死の藤原妹紅を溺愛しているなど、まあ変態ちっくな設定が盛り込まれる不憫なお方だ。

 

「いらっしゃい、新しい参考書でも必要になったのかな? それとも歴史書かい?」

「いやなに、お前が男を侍らせていると耳に挟んだのでな。少し様子を見に来た。にしても、ふむ」

 

 慧音さんから熱い視線が送られる。にしても、本当にこの世界の顔面偏差値はどうなっているのだろうか。少し小太りの男でさえカッコイイとか俺の恋が実る日はくるのだろうか。そもそも恋ができるほどの状況じゃなかったわHAHAHAはぁ……

 

 よくよく考えると、推しキャラが想像通りのキャラとも限らないのよねぇ……。

 そも、推しキャラまだ居ないはずだし。会いに行けないが正解か。

 

「里の外から来ている割には」

「貧弱って言いたいんですかねコンチクショー」

 

 ムッキムキの肉体労働の男どもに勝てるわけがねぇ。

 

「まあ、外から通っていると聞いたからな。どんな化物かと身構えていたから、少し拍子抜けはした。ただ、まあ。見ての通り少し……。かなりだらしない奴なのでな」

「わざわざ言い直す必要があったかい慧音」

「嫌って程理解させられました」

「どういうことだ君。ここは私を少しでも持ち上げるところだろうに」

「寝言は寝て言うから寝言なんだぜ店長」

 

 断固抗議すると憤慨を続ける小鈴をあやしつつ、せっかくの機会なのだからと慧音の信用を少しでも得ておくべきかと談笑を始める。

 里の権力者と仲良くなってると何かと便利だろうからね。交友関係は大事よ。天狗とはほぼほぼ破局してるけど。

 

「上白沢さんは学校……、こっちだと寺子屋でしたっけ。をしているとそうですが。今日はその教材を探しに?」

「さっき言った通りだよ。友人を茶化しに来ただけさ。ああ、そうだ君は外から来たそうだが外の教育はどの程度進んでいるのだろうか? 私は必要最低限の読み書きと計算を教えている。幻想郷では最低限生きていけるだけの知識として。外の教育は鈴奈庵の本を読む限りそれ以外にも地理、歴史、といった生きるにあったて必ずしも必要のないものも教えているようだがそれには一体どのような意図があるのか。人間以外の体の仕組みを知って一体なんとするのか。それと私ももっと積極的に保健体育を教えるべきなのだろうか。教え子たちは六歳七歳なのだが」

「ちょ、ちょっとまって。まず俺は教育者ではないから断言はできことは理解してほしい」

 

 途端に熱くなる慧音をなだめつつ、あ、こいつ同類だなと確信を得た。

 

「確かに外だと。計算や読み書きのほかに地理、歴史、生物、外国語、経済、あと道徳なんてのもあったなその年齢のころだと。保健体育は別にどっちでも良いかと。その年齢でセックス、性交なんて知識を持ってても持て余すだけだろうし。そして、それ等を知ってどうするのって話についてだけどぶっちゃけ分からん。多分どの分野に進むか分からないからどの方向にも行けるように全体的に教えてるんじゃないかなと」

 

 いま思いついたけどそれっぽいことを捲し立ててみる。我ながらそれっぽいことを言えているのではないかと。

 にしても、まともに会話できる数少ない相手が二人ともやべぇえやつだったとは……。

 加えてレミリア含め口調が似たかよったか過ぎてわけわかんなくなる。やだ、私の交友関係バグりすぎ……? 

 

「なるほど、子供たちの進む道を増やす」

「あー、マジで教育者とかじゃないんで真に受けられるとちょっと困る」

「そう卑下するものじゃない。君の出した答えが間違えだという証明もできないのであれば私はこの説を信じよう。いや、信じたい。だめだろうか?」

 

 豊満な胸もとい、ピュアな心を抱きしめるように握られた彼女の手。それは未来への希望なのか、子供たちの未来を思ってか……。それは分からないが確実に今言えることがある。

 

「やはり男は胸か」

「それは誤解じゃないっすかねぇ。あれは不可抗力ってもんっすよ」

「では、私が同じ仕草をしても同じことを言ってくれるのかな? ん?」

「わあ、店長の猛烈アピールが痛いぞぉ」

 

 かわいい女の子から言い寄られるのは嬉しいのだが、種馬どころか労働力としてしか見られていないのがなんだかなぁ。それに、完全に事案だし。

 ただまあ、身長百七十近くの巨乳美人とつるペタ美少女が並べられたら先に目線が行くのは間違いなく巨乳だよね……。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。小鈴から聞いてはいると思うが上白沢慧音だ。寺子屋で子供たちに読み書きと計算を教えている」

「ご丁寧にどうも。茉裏です。草かんむりに末で茉、りは裏で茉裏っす。見ての通り鈴奈庵の店長にセクハラを受けているしがない店員です」

「ああ、よろしく頼む茉裏。今度寺子屋に顔を出してくれ。歓迎するぞ」

「よろこんで」

 

 それじゃあと鈴奈庵を後にする慧音にひらひらと手を振る。思いもよらない収穫ではあるがこれで行動範囲はかなり広くなった。

 小鈴と慧音からのお墨付きも貰えれば小鈴の言っていたお手伝いも快く引き受けてもらえるだろう。こっちが手伝う側だが。外で言うところの身分証がある状態とでもいえばいいだろうか。

 少なくともこれで飢え死ぬことは回避できそうで本当に良かった。

 

「随分と嬉しそうじゃないか。そんなに慧音が気に入ったのかい?」

「変態チックに言うのはやめてもらえませんかね人聞きの悪い」

「事実だろうに」

「そもそもなんでそんなに不機嫌なんです」

「当り前じゃないか。貴重な夫候補もとい労働力が奪われようとしているんだ。不機嫌になるのも当たり前だろう? 加えて件の男は鼻が伸びっぱなしときたもんだ。私はとても悲しいよ」

「労働力であることを否定はしないけど、店員だし。勝手に夫候補に入れないでもらっていいっすかね。好意ゼロってわかった瞬間の俺の悲しみを理解してほしいですなあ」

 

 ただ、これだけの美人達と知り合いな時点でかなり恵まれているのだからこれ以上は求め過ぎだというモノだろう。

 

 凡人は凡人らしくおとなしくしておくのが一番利口なんですよ。

 立場が立場だからそれがうまくいくかは別としてね……。




お読みいただきありがとうございます。

いやほんと、今出てる原作キャラの半数がほぼほぼ同じ口調にしちゃってたよね。馬鹿かな?
おかげでだれがだれだか状態だよ。

さて、次回は八話となるわけですが、その前に一話を上げなおすかもです。
そん時は生暖かい目で見守ってくださいませませませ。

また、タイトルが何度もコロコロと変わっておりますがとりあえずこのままでいこうかと考えております。少なくとも一番しっくりは来ています。
別にティンときたら変えるかもです。
そんときはゆるしてください。


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第8話 紛れもない、この世界の主人公

一か月ぶりでございます。

話の進み具合が遅く、とても焦っていますが私は今日も元気です。

では、どうぞ。


 皆様おはようございます。

 時刻はおそらく午前六時。朝日が顔を出しコンニチワしている。怠惰に時間を過ごしてもいいのだが、そんなことも言っていられない。

 鈴奈庵で働くうちに人里にも慣れ、顔も覚えられ始めた、というより割といろんなところに駆り出されている。某銀髪の何でも屋のような扱いである。仕事があるだけましなのかもしれないが。

 

 さて、最近の食糧事情なのだが……、以外にもこれが解決しつつある。

 何故か? お手伝いしたら色々もらえんだよマジで。少なくとも一人で食べていくには問題ない程度には。

 大根、白菜、ジャガイモ、山芋のクズ。日持ちしない物もあるので農家のおばちゃんたちに漬物の漬け方を習いに行く必要がある。

 

 さて次に鈴奈庵についてだが、繁盛こそはしていないものの物珍しさからかちらほらと本を読みに来る若者が増えてきた。決して薄い本を読みに来ているわけではなく、単純に興味本位だそう。

 それに伴って閲覧可能な本の選別を始めた。幻想郷に電気という概念はなく、夜の明かりは蠟燭、提灯などといったものが主だ。

 そんな中で雷や風を使って明かりを生成できるなんて知識が与えられたら技術革新なんてレベルの話ではなくなり、幻想郷のパワーバランスも崩れてしまうためである。

 故にそれらを閲覧してよいのは、幻想郷のパワーバランスを理解、維持できる存在に限られる事となった。要は人間寄りの原作キャラ達だけ読めるよってこと。

 

 だから、現状鈴奈庵で取り扱ってるのは単行本だったり歴史書が主。

 確か、幻想郷のエネルギー事情は風神録辺りから触れられていた気がするのでそのあたりから徐々に出していけたらなとも。河童の技術レベルがどのベクトルにどの程度進んでるか次第だよなぁ。

 少なくとも地霊殿ではエネルギー関係は確立してたはず。

 てか、紅魔館の時点で入ってきてもおかしくないのがネックなのよねぇ。先が読めないでござる。

 

 そもそもの話、紅魔勢が早く来てくれないとコレ!! って 行動がとれないのよねぇ。

 旧作の知識はもち合わせておらぬ故、今がどの時代なのかもわからないし。取り敢えず梅雨はまだ来ていないということだけは農家のおばちゃんから聞いている。

 

 さて、ここが皆様にとってある意味一番重要かもしれないポイントとなるのだが、慧音先生は割と強引である。

 幻想郷には絶対厳守といった法律のようなものはない。が、子供は十を超えるまでは酒を口にしてはならないといった暗黙の了解は存在している。

 まあ、何が言いたいかって言うと……。

 

 酒場が腐るほどあるんですねぇ!! 

 酒蔵の数世帯数のおよそ四割! 居酒屋に至っては飲食店のほとんどが夜は居酒屋へと変貌する。

 更には、酒蔵でもない家だとしても酒を造っているのは普通ときた。種類もかなり豊富で、日本酒は勿論のことワインまでもあるってんだから訳が分からない。日本酒とワインって同じ製造法なんデスカ? あ、もちろん一般家庭で作られている大多数は果実酒らしいです。

 お酒飲んだことなかったからワインと果実酒の違いがよく分からない茉裏ちゃんなのでした。

 

 これだけ酒というものが身近にあるのであれば、原作でもあれだけ酒があふれ出てくるわけだ。なるほど茉裏納得。

 そして、これだけ酒というモノが身近にあればアルコールにもかなり強いようで泥酔するといった人間はそうでないらしい。

 

 少し話が脱線したが、上白沢慧音。彼女も幻想郷のいち住人としてアルコールにはかなり強い。しかし、アルコールが入った彼女の舌は止まることがない。

 酔ってはいるが酔っぱらってはいない。だが、タガは外れ質問攻めにあう。

 

 いや、もしかしたら泥酔というモノを俺がよく知らないだけで、あの状態が泥酔状態だったという可能性も……。けど、足取りはしっかりしてたし受け答えもしっかりできてたんだよなぁ。

 その日は寺子屋に止めてもらっていたけど、その日も仕事をもう少し進めてから寝る。先に寝ておけと普通に机に向かってたし……。 幻想郷って不思議。

 

 あ、けいねてんてーおはよーございます。

 

「ああ、おはよう。 よく眠れたかな?」

「おかげさまで頭が痛いです」

「初めてならそんなものだろう。子供たちがくるまでもう少しある。顔でも洗ってきたらどうだ?」

「うっす。そうします」

 

 慧音先生に返事を返し外の井戸に向かう。ん? なんで慧音先生の家にいるのかって? その日が昨日のことだから当たり前だろう? 何を聞いているんだねチミ。

 

 さて、ここは寺子屋。この人里唯一の教育機関である。教員として働いているのは上白沢慧音ただ一人で、その生徒の数は妖精や人化を可能とする妖怪を含め百を超える。

 それを一人でこなすのは到底無理なように見えるが、教えている科目が読み書きと計算の二つ。登校は三十の交代制なのでどうにかなっているらしい。

 通っている子は六歳、七歳で、一年で卒業となる。妖精、妖怪は例外とされ定期的に人里で生きていく上での知識を得るために通うこととなる。特に妖精は死んだら記憶等を失うことも少なくないため卒業することはまずないらしい。

 

「おはよーございます!!」

「はいおはよう。お嬢ちゃん随分早いね」

「大ちゃんとおいかっけこしてきたの」

「そっかー。その大ちゃんって子はずいぶん遠くにいるみたいだけど」

「あたいったら最強ね!!」

 

 どうゆうことだってばよ。

 顔を洗い縁側で軽く涼んでいると青色のワンピースに氷の翼。原作キャラのなかでもトップクラスで有名な存在。氷の妖精⑨……もといチルノが走りこんできた。

 元気いっぱいのあいさつに返事を返してみたのはよいのだが結果はご覧のとおりである。

 

「アタイはねチルノって言うの!! おじさん誰?」

「おじさんはねー茉裏っていうんだよー」

「そっかー」

 

 そういってチルノは大妖精のほうへと走っていった。さっすがは子供、行動が読めないぜ。

 チルノは大妖精と合流し、原作キャラであろうルーミア、リグル達と遊び始めた。まっていつの間にいたの君たち? 

 

「茉裏。こんなところに居たのか」

「少しばかり涼んでおりましたっと。ろくに役に立つかは分からんが手伝えることがあれば言ってくださいな」

「む、そんなに気を使わなくてもよいのだが……。そうだな。せっかくだから少し楽をさせてもらおう。今日の授業で使う教材を教室に運んでいてくれ。教材はさっきの部屋に置いてある。運ぶのはこの先の教室だ。私は教室の片づけをしておくから、よろしく頼む」

「任されました」

 

 慧音先生に頼まれた通り、さっきまで寝ていた部屋へと向かう。いわゆる職員室に当たるのであろうその部屋の机の上。今日の授業は算数のようだ。小学生低学年レベルの問題が書かれたプリントが十枚程度束になっていた。

 

「紙質……。これ結構外のに近い。幻想郷の文明レベルが分からぬ」

 

 羊皮紙というわけでもないし、ノート程のきれいさでもない。歴史書に使われてるような少し茶色っぽい紙をもう少し綺麗にした……。

 自分でも何を言っているのか分からなくなってきたのでこれ以上考えるのはやめておこう。

 

 少しずつ増えてきた児童たちに絡まれながら教室へとプリントを持っていく。こら、服を引っ張るんじゃあない。慧音先生の夫でもないし、パパでもないさっさと外で遊んで来い。拳固するぞ。

 

 拳を握りしめてみると生徒たちはキャーっと黄色い声をあげながら外に走り去っていった。

 

「この部屋か。まあ、教室らしい部屋が一つしかないから間違いようがないんだけど。慧音先生、頼まれたもの持ってきましたよ」

 

 木の扉の小窓からは声に反応した慧音先生が手を振り返した。片手は完全フリーなため手を振り返してみる。なんてこともしてみたいがそんな暇もないので普通に教室へと入る。

 

「すまないな。教卓の上においてもらえると助かる。子供達にはもうあったか?」

「おかげさまで散々いじくられましたとも。けいねせんせーのこいびとなのー? てなぐあいに」

「まあ、見た目だけは私も若いからな。悪い気はしないさ。だが、恋愛というモノはもうあまりしたくないものでね。すまない」

「わーいこくはくしてもいないのにふられたぞやったぁ!!」

 

 割と傷つくことをサラっと言いやがるぞこの世界の住人達。巡視無垢な少年の心をもてあそんでそんなに楽しいか!? そんな年でもないだろうにって? はい、そうです……。現実は悲しいなぁ。

 

「こんな年増に色目を使うくらいなら他の町娘の一人でも捕まえた方が有意義だとおもうぞ。それで、今日は授業の見学もしていくのか?」

「いや、そこまでは。子供たちも見知らぬおっちゃんから後ろで眺められてたら勉強に身が入らないだろうし。何度かお邪魔して子供たちが違和感なく受け入れられるようになってから見学させてもらいます」

 

 ついでに少しばかし聞きたいことがありましてですね……。

 

 

 

 

 寺子屋を後にし人里へとやってまいりました。しかし今回の目的地はあ人里ではありません。あ、薬屋さんどうもー。

 被った笠からはみ出るウサギ耳に、お尻に膨らんだ謎の丸。あれで人だと変装しているつもりなのだから可愛いものである。いまのは誰かって? そのうち紹介することになるだろうから少し落ち着きなさいな。

 

 さて、少し脱線したが今向かっているのはこの世界の核となる場所。そう、博麗神社である。

 まあ、主人公には挨拶しとかないとって思ってね。一モブとしても、仕事仲間としても、そして八雲としても、ね。

 んで、慧音先生には博麗神社までの道を聞いてたってわけ。

 

 ただまあ、何というか……、道のりがわりと険しいのですよこれが。

 場所は幻想郷の端。厳密には博麗大結界という幻想郷を確立させている結界の外。つまりは幻想郷の外に位置するわけだが、まあこれはさして問題じゃない。設定もうろ覚えだしね。

 人里を中心に真上から見て、左上に妖怪の山、その右隣に魔法の森が広がって、その間くらいの人里寄りに俺の拠点があるわけですな。博麗神社は魔法の森の右下。人里から見て右端。

 

 で、問題なのが、妖怪がどちゃくそ出やすいってとこ。妖怪の山と魔法の森を追われたはぐれ妖怪が多く住み着いてるそう。博麗神社の参道自体は厄除けの結界が張られているらしく安全らしいのだがその参道前の野道に普通に湧き出てくるのである。

 

 なので、博麗神社に行くときは大人五人でいくのが普通だそう。

 

 まあ、僕は一人なんですけどね!! 

 

 何が楽しくてこんな自殺行為をしなきゃならんのだ……。つい数十分前の自分を殴りたい。

 

 多少は整備された野道を真っすぐと進んでいく。

 すぐ横を向けば妖怪が飛び出てきそうな雑木林。たまに見かけるお地蔵さんにお祈りをしてみたり、特に意味もなく雑木林を覗き込んでみるが妖怪が出てくる気配はない。

 

「まだ日が高いからか?」

 

 妖怪はなんとなく夜行性のイメージがあるが、実際のところは分からない。このままどこからともなく人ならざる何かが伸びてきて引き込まれても可笑しくはないが、覗きたくなってしまう脳が人間の性というもの。

 

「いや、何もないんですけどね?」

 

 目の前に広がるのは依然として変わりようがない雑木林。そんなほいほい非日常は現れてはくれないのです。外の世界の人間としては、幻想郷にいる時点で非日常の塊みたいなものなんですけれどね。

 てこてこてこてこ歩いていると長い階段が姿を現した。石畳の階段は優に百は超えていそうなほどに長い。

 

「これを毎回上ってる人里の住人ってすげぇなおい。てか、空飛びてぇ……」

 

 だが、ぼやいても階段は縮まらない。勿論だが空も飛べるはずがない。翼は生えないのだよ。

 なんで階段になると途端に上るのが辛くなるのか……。

 

「迷いの竹林で竹でも取って水筒かなんか作ったがいいかなこれは。のどがカラカラじゃぁ」

 

 現代っ子らしくヒイヒイ言いながら階段を上り、上り切ったころには汗で服が張り付いていた。坂道とか凸凹のみ日は住んでいる所の関係上慣れているんだけれど、久しぶりに階段を上るとやっぱきついね。

 

「ふぅ……。ここが博麗神社か。思ったよりもデカいんだな」

 

 なんか、もっとこうこじんまりとしたものを想像していたが、移住スペースもあるためか想像の倍はある。あとは赤い鳥居に狛犬、賽銭箱や手水舎といったって普通の神社である。

 

 そして、参道の落ち葉を竹箒で集める一人の少女。暗めの茶髪に赤い巫女服。そして、圧倒的ともいえるその存在感に思わず息をのんでしまう。これは、あれだ、紫様と似たナニカの雰囲気に似ている。

 

「一人で参拝は感心しないわね。魔除けはしてあると言え今度からは複数人で来るようにしなさい」

 

 博麗霊夢。この幻想郷を維持する博麗大結界を維持しているこの世界の核となる少女。

 紛れもない、この世界の主人公だ。




お読みいただきありがとうございます。

霊夢さんの口調をどうするかで未だ悩んでいる今日この頃。

クール系にするか、お姉さん系にするか、おっとり系でもありだと思うんですよねぇ……。悩みどころである。


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第9話 幻想郷はすべてを受け入れる

や、一か月ぶりだな諸君。

これ設定的に私全部書ききれのかとても不安になってきた今日このごろ。
てか、メインヒロインが出てくるのはいつになるんですかねぇ……。


 なんやかんやあって博麗霊夢、すなわちこの世界の主人公とお茶をすることになった。なんやかんやってなんだよって? なんやかんやはなんやかんやなんだよ。

 いや、だってさ? 賽銭入れてお手て合わせてたら急に話しかけられてんだもの。しかも、その第一声が厄介なものに目をつけられたわね貴方。だよ? 

 

 断れますかこの後? 俺なら間違いなく断ったね。相手が博麗の巫女でさえなければ!! 

 

 いやまじでなんでこうなってんの? 何か癪に障る事でも致しましたかね私。あれか、慧音先生にお小遣いもといお賽銭を貰ったのがいけなかったか。自分のお金でしろと、そういうことなんですね霊夢さん!! いや、絶対違うわ。

 

「えっと、何か用っすかね……。いや、用があってきたのはコッチではあるんですけど、まさか博麗さん側から呼ばれるとは想像もしていなかったもので」

「私は別に何もないわよ? 貴方が何か用があると思ったから招いただけ」

 

 えぇ……。これがリアル悟りデスカ。てか、原作でも似たようなことしていたっけか。博麗の勘とか言って。

 つっても、同業者として顔見世に来ただけなんだけど、なんかそれだけでは引けない気がする。

 

「えっと、用というほどのようでもないのですが。同じ同業者になるのかな。博麗さんのバックアップとしての命を承っております。茉裏です。今日は顔見せということでよらせていただきました」

「そう。で、名前は?」

 

 ん? 

 

「茉裏です。草冠に末でまつ、りは裏って書きます。性は八雲になるのかな」

「そうじゃない。私は貴方の名前を聞いているわ」

「いえ、ですから……」

「三度目はないわよ」

 

 どういうことだってばよ……。茉裏くんは茉裏くんであってそれ以上でも以下でもないのよ? 

 

「結構深いのね。貴方、もう帰れないわよ。まあ、アイツに目をつけられている時点で無理でしょうけど。これに名前を書きなさい」

 

 そういって一枚のお札を手渡される。言いようのないプレッシャーに汗がたらりと湯飲みの中に沈んでいった。

 お札には性と名を書くために縦線が引かれており、博麗霊夢は硯に墨をすり始めていた。

 だが、名前と言われても書く名は一つしかないわけで……。

 

「名前というのは、その個を確立させるためのものなの。道具しかり生命しかり。ただ、それがあやふやになる瞬間というものが存在する。それは契りを結ぶ時。その時だけは二つの存在に引かれあうからどちらにも値しない。

 もう一度だけ聞いてあげる。貴方の名前は?」

「なまえ……?」

 

 俺は八雲紫の駒で、八雲の名を貰った。故に八雲茉裏それ以上でも以下でもない外の世界から迷いこんだ異邦人で、博麗霊夢のバックアップとして幻想郷に存在している。

 そう、八雲として……、八雲として? 八雲としてのはずで、八雲茉裏で……。ちがう、ちがう? なにがちがう。ちがう、違わないんだ。俺は八雲であって、八雲じゃない。そう、八雲としての前の名前があってそれが至極当然で当たり前だけど分からなくてなんで分からないわからないわからない?????????????

 

 

 だめだ、おちつけおちつけ落ち着け。そう、一個ずつ思い出していけ。

 

 まずは出身だ。俺は異世界から来た。そう、福岡に住んでいたが、こっちには福岡がなくて福義なんて訳の分からないものがあった。大丈夫まだ思い出せる。

 年は二十か二十一。元大学生。

 父、母、俺の三人家族。両親の名前は……なまえ、は? 

 

「なんで……? だって、つい数日前まで普通に思い出せて」

 

 本当にそうだろうか? いつから両親の顔を思い出せていない? いつから自分の名を語れなくなっていた? 思いをはせることは幾度もあった。だが、その中で両親の顔を思い出したことが一度でもあったか? 

 

「ああ、そもそも思い出そうとしている時点で俺は終わってたんだな」

 

 ふと、思考より先に言葉が漏れる。その言葉を脳が理解したと同時にぼとぼとと涙がこぼれ始めた。悲しみというよりは虚無感の方が強く、流れる涙は直視したくない現実から目をそらすために流れているようにも感じる。

 

 ただ、せめて自分の名だけでもと、博麗霊夢が準備してくれていた筆を執る。

 額からにじみ出る脂汗が目に入り何度も目をこする。やがて顔全体を覆い始めた汗の滝は頬を伝わり机の上、札の上にも落ち始めた。

 

 この姿だけ見れば、外を全力疾走でもしてきた若造が汗を滝のように流しながら博麗の巫女と対面している。などと、おかしな光景に見えることだろう。

 

 そんなことを考えてしまって、ふとほほが緩むのが分かった。

 それで緊張がほぐれたのか、脳か心かが動いたのかよく分からないが自然と腕が動いてくれた。

 

 震えながらも、確かに黒い線を続けていく。

 がったがたで、枠なんて気にしていないその文字はおそらく自分にしか読めないほどにきったなくて、まるで始めた文字を書いたかのよう。

 

 最後の文字を書き終えたと同時にほっと息が漏れる。改めて札の上を見てみるが辛うじてそれが文字だということが分かるレベル。

 

「書いたわね。かしなさい」

 

 そういって博麗が名前の書かれたお札をお守りの中に入れた。

 

「保険程度のものよ。もっていなさい」

 

 そういってお札の入ったお守りを渡された。

 満身創痍になりながらお礼を言ってお守りを受け取る。これが幻想郷。

 

 なるほど、幻想郷はすべてを受け入れるとはよく言ったものだ。外にいたことさえ忘れさせる。もっとそれっぽく言うのであれば取り込まれる。それが幻想郷という場所なのだろう。

 と、なれば人里のなかにもそういったものがいるのかも知らない。

 

 まあ、だからどうしたって話なんだけどね。どうあがいたって一人で生きていくのに精一杯の人間に同行できるはずもなし。てか、どうしようもないよねこれ。普通に生活しているうちに気が付けば忘れてる。

 俺はたまたま運が良かっただけ。忘れさるまえに博麗の巫女さんに直してもらった。貰えたが正しいか。

 

 と、言っている間にもう名前を忘れかけている自分がいるんだよなぁ。

 

「保険って言ったでしょ。厄除けみたいなものよ。過信してはいけないけれどね」

「なるほど? ところで、どうしてこんなことをしてくれるのですか? 言っちゃあれですが、初対面の相手を部屋に上げる時点でもかなり不用心では?」

「そうね……。見ていて気分が悪いから、かしら」

 

 少し違うきもするけど、大体はそんなところ。と、付け加えられ哀れんでいるかのような何とも言えない表情で微笑んで見せた。

 まあ、名前はしょうがないとしてもこのお守りがあるということは覚えておいた方が良さそうではある。

 

「さ、もういいでしょう」

 

 そういってパンッと柏手を一つ。それと同時に部屋全体に甲高い音が響き渡った。いったい何をしたのだろうかと頭にはてなマークを浮かべていると、障子を開けて部屋に入ってきた。

 

 腰まで届こうとしている金色の長髪はふんわりとパーマをかけたかのようにカーブしており、左側だけおさげにしている。

 そして、その髪色を遺憾なく主張しているその服装は幻想郷でもかなり目立つものだとか訓を持てるほどで、黒いワンピースに似た服の上に真っ白のエプロン。さらにそのエプロンの上に黒い上着を着ている。

 頭には黒に白のフリルをあしらったとんがり帽子。重くないのだろうかと思うほどにアンバランスなその大きさに少しばかし心配してしまう。が、それがかちりと嵌っているようにも見える。

 手に持つのは使い古された箒。

 

 そう、博麗の巫女に並ぶ東方projectの二大主人公。弾幕はパワーだぜと豪語する普通の魔法使いこと

 霧雨魔理沙である。

 

「珍しいな、部屋に人祓い張ってるなんて。紫でも来てたのか?」

「私としてはあんた等が何の遠慮もなしに入ってくるから常に張っていたいまであるのだけどね」

「ま、そんなこと言うなよ。私と霊夢の仲だろ? で、男がいるってことは私はお邪魔だったかんじかだぜ?」

 

 からかうような声で隣にドスンと座る霧雨魔理沙なのだが、ふわっと土臭さが鼻を突いた。嫌いじゃないわ!! 

 

「茉裏って言います。人里の鈴奈庵で働いてるしがない店員です」

「霧雨魔理沙だ。気軽に魔理沙って呼んでくれだぜ」

 

 軽く握手を交わし、魔理沙が本題だがと話を切り出した。

 

「外を見たらわかると思うが、霧の湖から紅い雲が広がってきてるんだ。端的に言うと異変だ」

「そ、このお茶を飲んだら行こうかしらね。魔理沙は帰ってなさい」

「残念だが断る。霊夢を一人で危険なところにやれるか」

「本音は?」

「こんな楽しそうなことに首を突っ込まずにはいられないのぜ」

「ま、アンタはそういうやつよね。好きにしなさい」

 

 霊夢はこちらを一瞥し、外へと飛び立った。

 

「ここにいてもし、里に帰るなら帰るでもいい。好きにしろってさ。あんな奴だが悪い奴じゃない。仲良く知ってやってくれな」

 

 魔理沙もそう言い残し、霊夢を追いかける形で飛び立っていった。

 

「あれが、阿吽の呼吸っていうやつなのかね。ま、安全第一で部屋にこもっていたけど……。間違いなく知り合いの仕業だろうし行くしかないよなぁ」

 

 残っていた自分のお茶をすべて流し込みちゃぶ台の中央へ。流石に家の中を勝手にうろつくのもね。

 重たい腰を持ち上げ外に出る。霧の湖方面を見ると確かに紅い雲が幻想郷を侵食していた。ちなみにめっちゃ目に悪そうなどぎつい赤である。すでに少し目が痛いのだ。

 そして、二人が空を飛んで移動するということは地を走るしかない自分はかなり急いで走らないといけないのだ。しかも、森の中を突っ切らないと多分追いつけない。

 この世界に弾幕ごっこというものの概念があるのかは分からないが、妨害は入るだろう。頑張れば追いつけるはず……。

 

「さ、ってと行きますか」

 

 軽く体をほぐし、両足に付けているハンドガンのホルスターを取りやすい位置にずらす。すっとクラウチングスタートの態勢を取り、心の中でドン。

 前のめりのまま森の中を駆け抜けていく。森の中を全速力で走るのはかなり疲れるので日ごろはしないのだが、藍しゃまの特訓でできないことはない。

 

 手の平と足に薄く結界という名の肉体強化を掛け、跳躍力を強化。手は着地時とか木の枝を退けるときにケガしないようにね。

 あとは自前の動体視力と反射神経で死ぬ気で安全な道を選別し続ける。地を蹴り、木を蹴り、空を跳ぶ。その光景はさながら忍者といったところであろうか。アイエエエ! 

 

 もう本当にね、これ冗談抜きで死にかけるからあんまりしたくないのよね。

 

 霊力は生命エネルギーなわけだが、平均を100だとすると俺は70程度しかない。極端に低いわけではないが、低いことには低く結界を張ることは勿論、肉体強化もかなり切り詰めて使用している。

 霊力が少ないということはその分消費が早いわけだが、ゲームのように常に一定のスタミナを使い続けることなんてできるはずもない。

 つまり、バテるのが早くなっている分、Maxからの霊力の消費も人一倍早いわけだ。そして、霊力が切れればもちろん妖怪からの格好の的。それ以前に霊力の過剰消費で干乾びてもおかしくない。そのリスクが常に隣り合わせにいる。

 行きたいから生きているような奴が好んでする方法じゃないっしょ? 

 

 そして、もう一つ。単純に動体視力で車とかバイク並みの速さ。具体的な数字は分からんけど高速道路のバイクみたいな状態で常に走ってるから脳の処理がぱんっぱんなのよね。

 

 だから目の前に急に妖怪とか出てこられると死にかけるわけで。

 

「あっっっっぶなあああ!!!!!」

 

 目の前にフラフラと出てきた餓鬼の頭に両手を添え、跳び箱を跳び越えるかのように足を広げる。掴まれたらそのまま嬲り殺されるので開いた足を垂直に上に持っていく。そのまま三角飛びのように跳び上空の木の枝を掴み再加速。

 

 端的に言えば死ぬかと思いましたまる

 

 そんなことに何度も遭遇し、寿命を縮めているとはるか上空から大きな爆発音が響き始める。

 原作で言うのであれば弾幕ごっこに位置するそれは、確かな殺意と共に始まっていた。

 

「ここまで伝わってくる殺気ってどうなんすかね。こっわ」

 

 空を飛ぶ飛行機を眺めるかのように、美しい殺し合いに身を震わせながら脚を止めることはしない。というよりそろそろ限界が近いのでいい加減森を抜けたいのですが。

 

 なーんて考えると抜けれるもので、開けた視界の先には深い霧が覆う湖。その中央の島に佇む巨大な真っ赤洋館の姿。今回の異変の元凶が住まう根城『紅魔館』だ。

 

「大体三ヶ月ぶりになるのかねぇ。にしても想像以上に赤くてデカいこと。入口は……あっちか。霊力すっからかんだからすんなり通してもらえればいいけど」

 

 少し遠くに見えるレンガの橋。恐らくそこに紅魔館の門番、紅美鈴がいる。よく寝ているとされている彼女だが弾幕ごっこは得意じゃないだけで近接格闘では幻想郷でもトップクラスの実力なんて説もある。

 

 要するにやべー奴である。

 

 ただ、性格は温厚なことが多いのでそうであることを祈るばかりだ。

 

「どうもー、こんばんわ」

「おや、里の方ですか? すいません、この雲もそのうち収まるので。ご迷惑をおかけしています」

 

 やだ、すっごい丁寧。九十度のきれいなお辞儀と大人びた、妖艶とでも言うべきなのか魔理沙とは真逆の微笑み。

 

「実は、レミリア・スカーレットさんにようがヒュイ」

 

 音もなく顔の目の前に拳が突き出された。遅れて全身を薙ぐ風圧が襲ってく。

 

「なるほど、貴方が」

「な、何がなるほどナンスかね」

「お嬢様から話は伺っております」

「それなら話が早く済んで助かるんですけれどなんで」

「はい。私の名を知っている男が来たら足でも折って引きずって来いと仰せつかっておりますので」

「ええ……どういうことでせうか」

 

 では、と中国さんが構えを取る。抵抗するならしてもよいという事なのだろう。もちろん足をへし折られるなど嫌なのでこちらも獲物を抜く。

 

 ま、勝てるとは思わないけどやれるだけやってみまひょ。

 

 なーんて悠長に考えている間に、俺の体は宙を舞っていた。




お読みいただきありがとうございます。

漸く二大主人公登場&初異変ですよ。
妖怪大戦争も異変と言えば異変ですが、あれは完全オリジナルのものなので別枠ということで。
さあ、茉裏くんの運命やいかに!!


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第10話 喰えない相手と愉人に

やっほー
みんな元気ー?

ぶっちゃけここって書くことなくなるから困るんだよね。

まあ、あれだ、今回は雑談回に近いから軽ーく読み進めて行ってくれたまへ。


 空を舞う。地を踏みしめていたはずの足が放り投げられ、徐々に重力に従い始める。追撃がないということは様子を見ているのいか、はたまたこれ以上は殺してしまうという情けなのか。

 

 どちらにせよ一つだけ確かなことは、この目の前にいるチャイナお姉さんは間違いなく格上の存在だということだ。

 

「ふむ、気の形状的に戦い慣れていないと言う訳ではなさそうですが」

 

 そうですよーまつりちゃんはよわいこちんなんですよー。なんて軽口を叩く余裕なんてあるはずもなく、背中から落ちた衝撃で悶えております故。完全に不意を突かれた。いや、単純に反応できなかった。

 

「場数の問題でしょうか。霊力を肉体の強化に使用できていますし。うーん、お嬢様のご友人だと伺っているので少し楽しみだったのですが」

 

 ぜってぇそのご友人のゆうの字ちげぇだろ。愉快の愉とかだろそれ。

 うだうだ言っている間に息を整える。吐血とかしてないから本当に加減されてたんやなって。てか、加減してこのレベルってどうなんすかね。

 

「さて、まだしますか?」

「えほごほっ……ふぅー……。それって降参したら足折らずに連れてって貰えるんすかね?」

「命令なので」

 

 すっっんごいイイ笑顔だなチクショウ。

 

「でもまあ、許可さえ下りればそのまま連れていけますし、足が折れた程度であれば私が治してあげられますので。大人しく差し出した方がいいかと」

「痛いのは嫌なんでねぇ!!!」

 

 油断も隙もあったもんじゃない。もはや条件反射。人間の危機察知能力、生存本能が身体を動かした。胸板を蹴り抜く足を銃の底で受け止める。

 まあ、もちろんのこと受け止めきれるはずもなく吹き飛ばされる。これ、紫様お手製の銃だからどうにかなったけど、指ごと逝ってても可笑しくないよな。

 

 今度は辛うじて受け身を取ることができた。

 

「いいですね」

「涼しい顔しやがって……。こっちは必至なんだよクソが」

 

 相手が動いていないことをいいことにトリガーを引く。五度爆発音が鳴り響く。

 

「うわ……予想してたけどいざやられるとちょっと引くわぁ……」

 

 紅美鈴の右手からジャラジャラと音を立て弄ばれているそれ。円錐に似た形のそれは間違いなく今撃ったはずの銃弾だった。

 

「終わりですか?」

 

 不敵な笑みを浮かべ手の中の弾を弄ぶ。挑発以外の何物でもないその行動。

 

「許可が下りれば、ねぇ……。館には入れない。逃げても追いつかれることは明白で、立ち向かっても殺られる。まさしく万事休す。加えて霊力もすっからかんときた。いやほんと、勘弁してほしいわ」

 

 足を瞬間強化し、急加速。紅美鈴の懐に潜り込む。距離としておよそ三十メートルも離れていないその距離。その距離を一秒程度で詰めたにもかかわらず確かにヤツと目があった。

 しかし、止まれない。銃口を押し当て引き金を引く。

 確実に殺す、三度響いた銃声と、門に当たり弾かれた甲高い音が一つ。そして、屋敷に施されているであろう結界に阻まれた音が二つ。

 

「相手が油断していても確実に殺したい。悪くない手でしたが、あまりにも遅すぎる。さ、大人しく諦めましょう?」

 

 後ろから聞こえてきた声にもう無理ですと両手を上げ、降伏を示す。ただ、せめて優しくしてください……。

 

 ……あれ? 

 予想していた痛みが訪れる事はなかった。

 

「もうそろそろ博麗の巫女が来るそうよ。準備しなさい美鈴。こちらの方は私が回収しておくわ」

「意外と早かったですね。では、博麗の巫女のお手並み拝見と行きましょうか。ではそちらはよろしくお願いします」

「大丈夫だとは思うけど、殺さないように」

 

 怖くて後ろを向けないが、取り敢えず俺の両足は助かったのだろうか? 

 それと、博麗の巫女、博麗霊夢と霧雨魔理沙がもうすぐ紅魔館に来るとのこと。本格的な異変解決がもうすぐ始まる訳だが、実際あの二人の実力はどの程度なのだろうか。少し見てみたい気もする。

 

 まあ、僕がここからどうなるか分からないのが一番気になるところではあるのですがね!! 

 

 え? これって地下室送りみたいな展開はないんだよね? 信じていいんだよね後ろのお方? 

 

「では、参りましょうか」

「ひょえ」

「ただいま戻りました。お嬢様」

 

 一瞬にして目の前の景色が変わった。室外にいたはずなのに今では赤を基調とした少し派手な部屋にいる。僕のおうちと交換してほしいほどだ。目がチカチカするけど。

 そして、窓際の椅子に腰を下ろし優雅にティータイムとしゃれこむ数日共に過ごした吸血鬼の姿。

 

「相変わらず小心者のようだな人間」

「色々言いたいことはあるけど取り敢えずひさしぶりだな、レミリア・スカーレット。本当に色々聞きたいんだけどなんで足へし折るよう命令したん? マジで死ぬかと思ったんだけど」

「まあ、落ち着くといい。取り敢えず座って話そうじゃないか。最初は住処まで貴様を迎えに行ったんだがな。あいにくと留守にしていたから、その腹いせだ。それに美鈴が手加減を間違えるようなこともしない」

「随分信用なされてるんですねー」

「そう不貞腐れるな愉人」

「それ友人じゃなくて愉人っているだろお前」

 

 笑ってはぐらかすレミリア。

 わらってんじゃなねぇでごぜえますよ? 

 

「さっきも言ったが美鈴が手加減を間違えるはずなどない。うちの中で一番の実力者だぞ?」

「へー。館の主であるレミリアさんよりもっすか?」

「当然だな。何でもありならまだ勝機はあるかもしれんが、格闘戦だけなら間違いなく勝てん。私のトレーナー、師匠みたいなものだからなアイツは」

「なんと、お師匠様でしたか」

「当時の住処に突然現れてな。手合わせを頼みたいと言われ了承したのはいいのだがこっぴどくやられてな。その腕を買って私たちの護衛役として働いてもらっている」

 

 なーるほどなー。レミリア自身の実力もかなり高いことは以前の妖怪大戦争のときに身に染みている。それ以上というのであれば……具体的な例を挙げようと思ってみたけど具体例を挙げれるほどこの世界の住人と仲良くなかったわ。

 流石に藍様クラスということはないだろうし。レミリア以上藍様以下という式しかできなかった。

 

「ただまあ、間違いなく良い方なのはわかった。主人が性悪なだけで」

「家を留守にして置手紙の一つもないのだ。当然だろう?」

「それなんてバイオレンス? てか、それなら能力で運命でも見ればよかったでしょうに」

「勿論見た。いざいって居なかったら無駄もいいところだろう?」

「ならどうして」

「答え自体は簡単なんだがな。結論から言えば見えなかった。マツリという存在の運命を見ようとすれば、そうだな、何といえばわかりやすいか。

 本来運命というものは大小さまざまの川が連なっているようなものでな。基本的には大きな方へと流れていく性質がある。稀に小さな行動一つで全然別の運命をたどるものも居るが、まあごく少数だ。

 私の能力はこの運命を見るという力なわけだが、直接操作するほどの力はない。間接的に操作はできるがな」

「間接的っていうと、その能力をしようして無理やり川の流れを変えることは出来ないけど、その運命を辿る本人に接触して運命を捻じ曲げることは出来るって解釈で大丈夫な感じ?」

「その解釈で間違いない。だがマツリ。貴様の場合だと川がないのだ。一面大海原が続いている。運命が入り混じりどこに向かうのか、どこか初めで終わりなのかすら分からない。

 確かに特別実力差が有ったりすれば見れないこともある。八雲紫とかな。見れたとしても範囲が狭い場合や、極端にデカい川が存在しているとそれ以外が見れないこともある。初めてマツリと出会った時に見た運命もそうだった。だから、あれだけ簡単に口車に乗ったわけだ」

 

 じゃあ、能力で俺の運命を見たけど何がなんやらで取り敢えず行ってみよういねぇえじゃねぇかよっしゃ足の骨でも折ったろ。ってことか。

 

「いや、どうあがいても理不尽すぎるだろ」

「まて、少し違うぞ。運命を見てお前が部屋でくつろいでいる姿が見えたから行ったんだ」

「でもそれが何時なのかは分からなかったのでしょう?」

「ああ」

「結局理不尽じゃねぇか。え? ただのやられぞん?」

 

 優雅に紅茶を飲むレミリアを睨みながら、窓の外を見る。位置関係的には中国さんがいた正門の真正面最上階になるのだろうか。まだ上の階があれば話は変わるが、外から見た感じだと多分最上階だと思う。その窓の外からは星となんかお札ぽいのっと、それを掻き消すほどの明るさを放つ虹色のオーラが見えた。

 

 よく見えないが、なんとなく主人公二人組が押されているのだけは確信できた。

 

「レミリアさんや、今あっちどうなってんの」

「黒と白の魔法使いみたいなやつと、赤色の服の奴が美鈴に遊ばれているな。まあ、軽く試して通すようには言ってある。そう心配せずとも問題ない。ただ、黒白のこの後は保証しかねるが」

「なーんか悪いこと考えてる」

「なに、妹の遊び相手になってもらうだけさ。その為に私を殺しに来た摩訶不思議な人間も隷属させたのだからな」

 

 あ、扉の所で待機しているメイドさんには触れてよかったんですね。

 いや、だれかってのはもう気付いているんですけれども、なんか触れちゃダメかなって思ってた。

 

「そうだな。紹介しておこうか。こっちに来る二ヶ月ほど前にな、美鈴を抜けて私を奇襲してきたんだが、なんでも時を操れると豪語してきてな。面白かったから適当に嬲った後に隷属させてみた」

「そんな新しいおもちゃ手に入れたみたいなノリで言われても。んで? 名前は?」

「特に決めてないな。人間の名前なんて気にしたことなんて殆どない。そういう意味では初めて名前を覚えたのはマツリが初めてやもしれぬな」

「わーいうれしいなー。ならなんか付けてやらんの?」

「ふむ、人間の名前なんてわからないのだが。なんか適当につけてやってくれ」

 

 わお、なげやり。いや、名前っつっても一つしかないんだけども。

 銀のボブカットにもみあげあたりから三つ編みが二つ。三つ編みの先には緑のリボン。青と白を基調にしたメイド服。そのスカートの丈は短く膝よりも上。ミニスカメイドですよ皆さん!! なんか得した気分。ロングも好きだけどね。おそらくそのスカートの中にはナイフが隠されており、何かしようものなら刺されるのだろう。

 

「じゃあ……。十六夜咲夜で。髪色とか月っぽいし、そんな夜に咲く一凛の花……的な?」

「だ、そうだ。よかったな。十六夜咲夜。まあ、もともと死んだようなものだったのだから、心機一転して私に尽くせ」

「勿論、心得ておりますお嬢様。マツリ様も素敵な名前を付けていただきありがとうございます」

 

 お嬢様本人から名前を付けて貰えなかったからってそんなに睨む必要もないでしょうよメイドさんや。

 

「そろそろ美鈴の力試しも終わる頃だろう。十六夜咲夜。もう少し時間を稼いで来い」

「承知いたしました。失礼します」

 

 一礼し瞬きをする暇もなく消えるメイドの姿。彼女の能力はレミリアが言った通り時間を止めるもの。厳密には空間操作の部類に入る。今もしているのかは分からないが、紅魔館の間取りを広くしているのも彼女の能力だったはずだ。

 

「ところで、死んだようなモノってどうゆうことです? 血みどろで殺しに来たとか?」

「大きすぎる力は保持者を狂わせる。そういうことだ」

「なーる。もともとの寿命は?」

「持って二年といったところだったな。今は私に隷属しているから生きながらえているが、働き次第では眷属にしてやってもいいな。あれだけの力をみすみす逃すのは口惜しい。ついでに貴様も眷属にしてやろうか人間」

 

 からかうような提案に、こちらもまた軽くまさかと答える。誰が好き好んで八雲を敵に回しますかよ。そもそもワタクシはロリコンじゃありません事よ。

 小鈴とまではいかないものの、レミリアもそれ相応にちっこい。多分150はない。顔も口調に似合わず可愛らしいものだ。

 

「まあ、この状態は何かと燃費が良いからな。羽が窮屈なのさえ除けば元の姿に戻る必要もないだろう。人間が見たいのであれば別だが。ん?」

「なにか別に面倒ごとを押し付けられそうだから、それはまた別の機会に取っておくわ。てか、口調ちょっと柔らくなった?」

「心配事の大半がなくなったから。お陰様で気を張りっぱなしにする事もなくなった。改めて感謝しているぞ脆弱な人間」

「なーんで素直に感謝の言葉だけを述べられないんですかねこの吸血鬼様は」

「それが私というものだ。短い間だが分からなかったわけではないだろう? さて、そろそろ移動するが、どうする?」

 

 勿論ついていきまっせと、差し伸べられた手を取る。その身長は己のよりも少し高めでなんとまあ不相応な相手だことか。これじゃあまるで召使と主がいいところではないか。

 ふんわりと香る血の臭いと、それを隠そうとしている紅茶の香り。間違いなくそれはさっきまで優雅にティータイムをしていた相手のものだと分かる。可愛らしいあの顔はどこへやら。

 

「エスコートは頼んだぞ、人間」

「そんなこと言ったって間取りも行き先も分からないんですがお嬢様」

 

 引き込まれそうな程に美しい、美しすぎるその美貌には、不相応な無邪気でしてやったり顔。

 なんとまあ、いろんな意味で喰えない相手と愉人になってしまったものだ。

 

 

 内心、俺このまま殺されたりしないよねと思っていたのは内緒だ。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、なんとなく分かってた方もいるかもだけど。美鈴は紅魔館最強です(近接戦のみ)
この設定好きなんですよね。
実はレミリアもフランも片手で遊ばれるくらいが好き。弾幕込みだと少し美鈴有利ぐらい。

レミリア様はエッチ大人の人だから。だから咲夜さんも……ね?(察しろ)

では、また一か月ごにお会いいたしましょう。
じゃね~(^ ^)/


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第11話 うん。かえりたい。

どうもどうも、部屋の電気が漏電か何かで死にかけだったちゃるもんダヨー。
なんかよく分からないうちに治ったから今のうちに投稿するよ。

やっぱあれだね、戦闘って書いてるのは楽しいんだけど上手いことシーンを表現するのって難しいよね。



 いつの間にか少女の姿に戻っていたレミリア嬢にエスコートされつつ、案内されたのは満月のステンドグラスが暗く光るエントランスホール。入口からみて二階へと上がるための階段。中腹から二手に左右へと分かれているのだが、その中腹にレミリアと立っていた。

 

 階下には、地に伏せ気を失っているであろう十六夜咲夜の姿。まあ、予想通りっちゃあ予想通りだわな。その両脇を通り過ぎる見覚えのある二人。博麗霊夢と霧雨魔理沙だ。二人とも随分

 

「アンタが親玉?」

「ああ、そうだとも」

「なら、単刀直入に言わせてもらうわ。この紅い霧をさっさと取っ払ってちょうだい。おちおち昼寝もできなくて困ってるの」

「霊夢、もう少しなんかあるだろ……」

「なあに、そう焦ることはない。こんなに月も紅いんだ。ゆっくり楽しもうじゃないか」

 

 そう言ってレミリアの翼が大きく広がる。元々その体を包めない程度だったものが巨大化し三倍ほどの大きさに。それと同時に雲が裂け、真っ赤に輝く紅の月が姿を現す。さながら、主の呼び掛けに応じるように。

 

 てか、元の姿っていうか大人の姿で戦わなくてもよいのだろうか。幼女の姿だと出力が落ちるって言ってたけど。

 

「その前に……連れていけ」

「うお!?」

 

 その言葉と同時に魔理沙の体が消えた。恐らくはパチュリー・ノーレッジが待つ大図書館へと連れていかれたのだろう。

 唐突に消えた魔理沙を気に留める様子もなく博麗霊夢……いや、博麗の巫女は眼前の吸血鬼を見据えていた。

 

「仲間が連れ去られたというのに随分と冷たいのだな」

「勝手に付いてきただけ。どこで死のうがそれは覚悟できてたはずよ。まったく……」

 

 そう言いながらも少しばかしの苛立ちを感じられる。

 

「入口の奴よりかは威圧感はない……。でも、今日は本当に永い夜になりそうね」

 

 それと同時に部屋全体を甲高い音が響き渡る。レミリアの長く伸びた爪と博麗の巫女の獲物であるお祓い棒がぶつかり合った音だと分かった時には二人はすでに距離を取り別の攻撃に転じていた。

 レミリアは影が固まったかのような複数の獣を生み出し突撃させ、自身は後方から安全にかつ、相手の逃げ道を潰すように針のような血の塊のようなものを配置。

 霊夢からすれば厄介極まりないその攻撃に一切怯む様子もなく飛び込んでいく。

 

 真っ先に飛び込んできたオオカミのような影の顎を蹴り上げ動けなくなったところをお祓い棒で顎下からかち割る。二匹目の猫を大きくしたような奴は尻尾を掴み体制を崩した後、喉奥にお祓い棒を突き立て血の塊にぶつけた。まさしく肉盾である。

 

 血の塊は猫の影がぶつかるや否や破裂。四方八方へとドス黒い棘を生やし霧散した。

 当たる、あるいは近づけば何かあるのは見れば分かる。が、対処の仕方に無駄がない。

 

 既に踏みつぶし肉盾にし、かち割り断ち割き殴殺し焼き殺し続けても獣の数は一向に減る様子はない。血の塊も数は減るが減ったそば再び姿を現す。

 

 あの戦争のときに見た吸血鬼の戦い方とはずいぶん違う。しかし、圧殺という言葉が似合いすぎるその力と数の暴力に圧巻していた。

 

 果敢に前に踏み出そうとするも足止めされまともに進むことは出来ない博麗の巫女。

 ただ、獣を前に押し出し、逃げ道を封じているだけのレミリア。

 

 どちらが優位なのかは火を見るより明らかだった。

 

「随分と苦しそうじゃないか博麗の巫女。この程度も突破できないのか?」

「あらやだ、蝙蝠さんはお話したいのかしら?」

 

 そう言いながら博麗の巫女が投げたお札が獣の影を火だるまにした。

 そして違和感に気づく。

 

 獣の数が減っているようにみえる。いや、厳密には減っていないのだろうが行動できる獣のは確実に減っていた。

 

「アンタがどこから来たかは知らない。けどね、実体がない化け物なんて私にとっては普通なの。日頃の妖怪退治の準備段階でしかない。まあ、これだけじゃないんだろうけど、流石になめ過ぎじゃないかしら蝙蝠さん?」

 

 そういった頃には軽く五十は超えていた獣はすべて残り火をちらつかせながらその場にもだえ苦しむだけとなった。

 残ったのはまだらに配置された血の塊のみ。レミリアはもだえ苦しむ獣を見て称賛を送るように手を叩いた。

 

「流石は博麗の巫女。といったところだろうか。だが、一つ思い違いをしているそれは獣でもなければ妖怪でもないということだ」

 

 拍手をしていた手を止め、大きく手を叩いた。拍手とは違った力強いそれは何の意図があったか。何も起こることはなく妙な静寂が続いた。

 どういうことだろうかと首をかしげていると、レミリアが実に愉快だと笑い始めた。

 

「ああ、認めよう博麗の巫女。私は貴様を過小評価していたようだ」

 

 え、なにどゆこと。

 唐突な博麗の巫女を認める発言に困惑する。

 

 予想を立てるなら、影、あるいは血の塊を使って何かをしようとしたけれど既に対策されていた。ってところか。

 

「私の体の一部でもあるのだがな。まさかピクリとも動かないとは。さてどうしたものか。よし、こういうのはどうだ?」

 

 レミリアが出していた血の塊が一つの塊となり一本の矢と変わる。

 

「さて、小手調べは終わった。次は耐久テストだ」

 

 レミリアの手元へと戻ってきた矢を、また同じ血の塊でできた弓に番えた。その瞬間全身が燃えるように熱くなる。レミリアから溢れ出る妖力が全身をじりじりと焼いているのだ。

 

 ヤバい、死ぬ。

 

 慌てて階段を駆け上り近場の柱へと身を隠した。しゃがんで頭を守る。意味があるのかは正直分からないが、しないよりはマシだろう。

 

 脳が警鐘をならす。気分が悪くなるほどの力の奔流。藍様や紫様の威圧感に似たそれはレミリアのなかでうねりを上げていた。はやくはやく撃ち出してくれと言わんばかりのつんざく悲鳴のような金切り音。

 霊夢は大丈夫なのだろうか、アレを堪え切れるのだろうか。いや無理だろう、無理だろうな。あれは人の身で受けていい代物じゃあない。化け物同士で潰しあうためのモノだから。

 

 そして、金切り音が途絶えた。あまりの威力に音さえもしなかった。きっと、この柱から顔を覗かせれば悲惨な結果が目に付くのだろう。

 

「は──―? はは、ははは……は?」

 

 あまりの光景に笑いしか出てこなかった。壁をぶち抜き、地面を抉り、鼻につく血の匂いすら感じ取れず砂ぼこりが立ち込める。地獄と呼称しても謙遜ないその景色──―

 

 ──―なんてものはなく、切り落されたレミリアの首がコロンと地面を転がっていた。

 

 まてまてまてまて、え? 何が起こって……は? 

 吸血鬼とは、幻想郷最速である天狗たちに匹敵する速さを有し、鬼の怪力にも引けを取らない。その強さはこの目で見ている。倍以上の天狗を前に、ただのごり押しだけで圧殺して見せたその姿は瞼に焼き付いて離れない。藍様が介入していなければ、まず間違いなく天狗は滅ぼされていただろう。

 

 棒きれ一本でどうすれば戦車に勝てようと言うのか。

 

 だが、棒きれと称してもそれは吸血鬼から天狗を見た場合の話。人間と天狗なら棒きれは人間側だし、吸血鬼と藍様なら砂粒一つと戦車のようなもの。

 

 つまり、勝てないのだ。圧倒的力を持って蹂躙されるしかないのだ。それだけの絶対的な差が存在している。少なくとも、博麗の巫女から漏れ出ている霊力はレミリアの弓矢よりも圧倒的に少なく、威圧感なども一切感じられない。そこだけ見れば、レミリアの慢心も頷けるものであるし、力負けするなんて夢にも思わないだろう。たとえそれが、本来の力を発揮できない少女の姿だとしてもだ。

 

 あっけにとられ、茫然とその光景を見つめる。エントランスホールの床に広がっていく血だまり。忽然と佇む紅い巫女。

 

「外の奴がとんでもない化け物だったから警戒していたけど、たいしたことなかったわね」

 

 辛うじて聞こえたその言葉。それと同時にレミリアの四肢がずり落ちた。初めから付いていなかったとでも言いたげに。

 理解が追い付かない現象に、思わず吐き気を及ぼす。胃酸が食道を上りその不快感に思わず飲み込んだ。

 

 いったいどうやって。

 

 見たくもないが、再度バラバラになったレミリアの身体を見る。頭、右足左足、右腕左腕と綺麗に切断されている。だが、博麗の巫女の武器はお札とお祓い棒。使ってはいなかったが針など。つまり、切断できる武器は持っていない。

 にもかかわらず、レミリアの肉体は切断された。さらに言えば、博麗の巫女は動いていない。

 

「──―ああ、そういうことか……」

 

 よく考えれば簡単なことだった。アニメや漫画でよく見かける方法。転移系の能力者の最強とすら呼べるであろう力業。

 

 相手の肉体に別の物体を転移させる。

 

 恐らく博麗の巫女はこれを結界で再現したのだろう。それならば、その場から動いていないのも納得ができるし、レミリアの肉体が鈍器以外の獲物を持っていないのにもかかわらず切断されている事にも納得がいく。

 オタク特有の察しの良さを発揮しつつ、目を凝らしてレミリアの切断面を観察する。

 予想通りとてつもなく薄い透明な板、恐らく結界がレミリアの肉体の表面に張り付いていた。先ほどはあまりのショックに気付かなかったが、血の流れ方も断面からあふれ出るというよりは隙間から漏れ出ているように見える。

 

「黒幕も殺したことだし、霧はいつ晴れる──―!! 

 

 お祓い棒を肩に担ぎ、レミリアの遺体に近づいていく。あと数歩でレミリアの肉体に手が届く、瞬間、後ろに飛び下がった。

 

 まあ、うん、何となーくだけど予想はしてた。博麗の巫女の実力を知っておくためにこうして先回りをたわけだけど、あんまりにもあっけなさすぎる。

 少女の姿とは言え、瞬殺されたことにあっけにとられたが、忘れてはいけない。彼女は吸血鬼だということを。

 

 吸血鬼の最大の三つの特徴。一つは多くの弱点が存在しているということ。一つは人間の血を主食としていること。そして、不死身かと思えるほどの圧倒的再生能力。

 

「驚いた、まだ動けるのね」

 

 うごうごとレミリアの切断された右腕が、ひとりでに動き出し再生を邪魔しているのであろう結界を無理やり握りつぶす。それと同時に新たな四肢が首がその場から内側から黒い靄と共に生え出てきた。

 

「この状態で勝てると思っていた私が間違いだった。私は小食でね、エネルギーに変換できるものを大量に摂取できない体質なんだ。故に、この姿を取っている。燃費がよくてね。ああ、だが、間違いだった。非礼を詫びよう博麗の巫女。貴様は強い。まごうことなき強者だ。試す必要もなかった。だから、上には上がいることを教えてやろう。死ぬなよ」

 

 レミリアの肉体を蝙蝠が包み、晴れる。エントランスに案内される前、少しだけ見せたあの美しい女性の姿がそこにはあった。

 手には初めて出会った時と同じ長槍。彼女の代名詞と呼べるスペルカードに登場するそれの名は『神槍 スピア・ザ・グングニル』

 百八十近いレミリアの身長に並ぶ長さを誇る長槍。しっかりとした形を持たず、時折生きているのかと錯覚させるように脈動している。先ほどの弓矢と同じくレミリアの肉体がベースとなっているのだろう。

 

 レミリアがグングニルを前のめりに構える。

 じりじりと焼き付くような威圧感がなくなり、凍て刺すような、その場にいるだけで命そのものを刈り取られるような恐怖感が突き刺さる。

 

 レミリアの身体がぶれる。

 

 近くの花瓶が水をまき散らしながら割れ、ステンドグラスが粉々に砕け散った。本来は聞こえていないのかもしれないその音に、耳を塞ぐ。物陰であったためどうにかなったのだろうが、場所が違っていたら……、あと一秒でも耳を塞ぐのが遅れていたら……。

 膜が破れるなんて生半可なものではなく、ザクロの実が脳裏をよぎった。

 

 耳を塞ぎながら目を細め戦況を見る。初撃は防ぎ切ったのだろうか? 突きを放ったレミリア槍は空高く掲げられ、次の瞬間レミリアを中心に黒い雷が落ちた。とんでもない衝撃波に扉という扉は粉みじんに、近くの柱は部分的に粉塵となって風に吹かれて消えていった。

 

 博麗の巫女は壁に打ち付けられたのだろう。大きな亀裂が入ったその下に血の海を作りながら沈んでいた。

 だが、流石は主人公というべきか、まだ息があるようでお祓い棒を杖代わりに立ち上がる。しかし、全身から溢れ出す血は確実に足元を赤く染めていき、足は生まれたての小鹿のように震えている。

 彼女の周りには赤、青、黄と色とりどりの球がふよふよ浮かんでいる。それが『夢想封印』だということは一目でわかった。あの球を使用し、何らかの方法で威力を相殺しようとしたのだろう。

 

 立ち上がったもののその目に光は宿っておらず、勝敗は決していた。しかし、これは殺し合いである。俺の知る原作とは違い、弾幕ごっこなんてものは存在しない。弾幕というのはあくまで相手を攻撃する手段に過ぎない。

 故に、レミリアはその長槍を振り上げる。せめて、全身全霊の一撃で葬ってやろう。そういうことなのだろうか。両手で最大限振りかぶった槍に、先ほどよりもどす黒く、眩い光を放つ黒色の雷が纏わりつく。

 まだ振り下ろしていないのにもかかわらず、その衝撃波は俺の隠れ居ている場所まで届き、バチンッと迸った雷は頬を掠め、鋭い痛みに顔をゆがめる。

 

 そして、その槍を振り下ろす。刻一刻と近づいていく死に俺も、勿論、博麗霊夢も動けないでいた。時がゆっくりに見える。所詮主人公というのは物語の中の話であり、ここは現実。ゆっくりと動いた博麗霊夢の顔。その瞳にはいったい何が写っているのか。

 

「やめろ、やめろよなあ」

 

 無意識にだろうか、そんなことを口走っていた。次に来る衝撃に体を守ろうともせずただ動けないでいた。だが、その衝撃が来ることはなく、振り下ろされた神槍は第三者の介入によりいとも容易く受け止められた。

 

「そこまでですよお嬢様」

 

 紅い髪をたなびかせ、緑色のチャイナ服を身に纏ったその人影。右手だけでグングニルを受け止めて見せたその人影は、ここに案内される前にいたずらに俺の両足をへし折ろうとしたその人影は、この館の門番。今、目の前で圧倒的実力を見せつけていたレミリアでさえ勝てないと断言した紅魔館の守護神こと紅美鈴だった。

 

「まったく、何のために生かしてお通ししたと思っているのですか。人間と友好的な関係を築く橋にするためでしょう?」

「退け美鈴。これは、情けだ」

「なーにが情けですか恥ずかしい。ただの癇癪でしょうに」

 

 その一言にレミリアは掴まれた槍を軸に体を持ち上げ、紅美鈴の後頭部へ叩き込んだ。だが、それを涼しい顔で空いていた左腕で受け止めて見せた。そのままレミリアの足を取り地面へと叩き付ける。そして追い打ちのかかと落とし。

 

 あまりの衝撃にレミリアの身体が地面にのめりこんだ。人型の穴ってアニメだけの話じゃなかったのね。

 

「さて、治療しないとですね。パチュリー様に怒られるなぁ、これ」

 

 当の本人はレミリアを引きずり出し、博麗霊夢と一緒に抱え迷うことなくエントランスホールを後にした。慌てて俺の彼女の後ろを追うことにしたが。

 

 いやはや、上には上がいる者ですねレミリアさん。

 

 

 

 

 はー……自分出来たとはいえあれだな……。

 

 

 うん。かえりたい。

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、そういうことっすよ(なにが?)
博麗霊夢の実力は射命丸文や幼女レミリアには状況によっては圧倒、少なくとも負けることはありません。ですが、大人レミリアや紅美鈴には勝てないです。もちろんや八雲にも。

八雲紫・藍>超えられない壁>紅美鈴>大人レミリア>博麗霊夢>幼女レミリア>射命丸文

現在出ている戦えるキャラの実力差はこんな感じ。茉裏くんはランク外です。

まあ、ぶっちゃけそんな深くは考えてはいないです。ただ、私がこういうのが好きなだけ。

あと、レミリアのグングニルはダークソウル3をイメージしてるけど、伝わってたらうれしいな。

それでは、また来月おあいできたら……
ばいばいー


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第12話 ならないようにしよう。そうしよう。

や、HF観てきたよ。
すごかったよ(語彙力)

そのうち、ダクソの主人公(超強化)でもぶち込んで無理やりなハッピーエンドを書きたいなと思ったり思ってなかったり。

それはさておき、月一度の待たれているかは分からないけど読んでってね。



 やあ、みんな、絶賛迷子なうの茉裏くんだよ。

 こっちは小走りであっちは負傷者二人を抱えてる。あの中国人どんな歩く速度してんだよ……。なーんて悪態をついている暇があるくらいなら歩くべし。

 

 中国人こと紅美鈴さんを見失ったのはおおよそ十分ほど前のことだろうか。

 博麗霊夢がレミリア・スカーレットの死合に颯爽と現れ、圧倒的実力を持って博麗霊夢にとどめを刺そうとしていたレミリアを鎮圧して見せた。

 

 端的に言えば紅魔館の門番ちょうつえーである。

 

 そうして、呆気に取られているあいだに紅美鈴さんは二人を担いでどこかへと行ってしまった。いや、さっきも言ったけどちゃんと追いかけたんだよ。最初なんか全力疾走だったんだぜ? マジでマジで。

 

 まあ、見失ったんですけどねはい。

 

 身体能力向上に脚力集中、あと足の運び方とかでも違ってくるもんなのかね。

 

 ひとしきり歩いたところでふと足を止める。ちょっと顔を横に向ければ茶色のドア。耳をすませば中からは小さな足音が聞こえてきた。はたから見たら完全に犯罪者なわけだが、そこは気にしないでおこう。

 

「十中八九目的地は大図書館なわけで、私は絶賛迷子なう。いや、普通に適当な部屋に入って目的地を聞けばよかったのでは? まっつりちゃん天才かよ」

 

 もはや正気を失いつつあることを自覚しつつ、目の前にあるドアにコンコンッと二回ノック。中からは可愛らしい声ではーいと、それと同時に扉が開く。

 

「ん? 見ない顔ですね。どちら様でしょうか?」

 

 出てきたのは黒いスーツを見事に着こなした一人の女性。今目指している大図書館の主の秘書……になるのだろうか。

 

「紅魔館の主、レミリア・スカーレットの友人、茉裏って言います。パチュリー・ノーレッジって方が居るところまでの道のりをお聞きしたいのですが、分かりますでしょうか」

「パチュリー様の所へ? 確かにわかりますけど、一体何用で?」

「端的に言いますと、迷子でして……。恐らくなのですが、そこに紅美鈴さんがレミリアさんと博麗の巫女を連れて行っているはずなんですよ。両方ともに負傷してまして、二人とも顔見知り以上の立場とすれば行かないわけにもいかず」

「なるほど……。さっきからとんでもない妖力が流れてきていたり、すっごい大きな音がしていたのは」

「レミリアさんと博麗の巫女が殺り合ってたからですね」

「分かりました。まだ完全に信用してはいませんが、この館に入れたということは美鈴さんが許しているってことでしょうし、ご案内させていただきます。逆らっても勝てっこないですしね。私は小悪魔、紅魔館書庫を管理するパチュリー様の下僕です。以後お見知りおきを茉裏さん。様の方がいいですか?」

「いえ、さんのままでお願いします。様はむず痒いので。よろしくお願いします、小悪魔さん」

 

 差し出された手を握り返す。改めて目の前の女性、小悪魔の姿を見る。腰まで伸びた赤い髪。頭と背中から悪魔の象徴とでも言うべき一対の蝙蝠のような羽が生えている。レミリアの羽に比べるとかなりスリムでコンパクトだ。文字通り悪魔的美貌ではあるが、大人版レミリアのように近づき難い高根の花というよりは、思わず手を出してしまいたくなる魅力。いや、そこまで節操のない男じゃないけど、まあそんな印象をもった。原作とは違いサラリーマンが来ていそうなスーツを身に纏っている。クソかっこいい。

 

 小悪魔の後に続き、廊下を進んでいく。その間彼女と雑談していたわけだが、途中からパチュリー様はですねーと、ただの自慢話を聞き続けるだけの役になっていた。まあ、美人の嬉しそうな横顔を見れただけでも役得ということか。

 

「あ、次の角を曲がればもうすぐですよ」

 

 俺より数歩先を歩いていた小悪魔さんが曲がり角で後ろを振り向く。

 

 そして、小悪魔が眩い黄緑色の光に飲み込まれ蒸発した。

 

 

 ………………

 

 

 事は少し遡る。

 場所は紅魔館書庫。またの名を大図書館。紅魔館の地下に位置する広大すぎるその図書館には古今東西の魔導書を始めとする数多くの本が鎮座している。部屋の広さは紅魔館自体を埋め込める程度にしているわとはこの地下空間を維持している大図書館の主、パチュリー・ノーレッジの言葉だ。

 

 さて、そんな地下に鎮座する大図書館に招かざる客が一人、新しい従者の手によって連れてこられたのが十分か二十分前。

 

「遊び相手にってことね。まあ、死なない程度に頑張って頂戴」

「アイテテ……。ここは、いったい」

 

 呑気に頭を掻きながら立ち上がる白黒の女、霧雨魔理沙を中心に大図書館の半分を包み込むほど大きな結界が形成される。捕まったと霧雨魔理沙が気付いた時にはもう手遅れだった。

 

「こんにちは。私はこの書庫を管理しているパチュリー・ノーレッジよ」

「上の奴のお仲間って訳だ。私は霧雨魔理沙、よろしく頼むぜ」

 

 頼むぜ、と同時に魔法を展開、五本の黄緑色のレーザーが拡散、パチュリーを飲み込んだ。はずもなく、ビクともしない結界に阻まれ霧散した。

 

「とんでもない強度だな。これだけの規模だ、消費している魔力もばかにならないんじゃないか?」

「種族と年の功ってやつよ。さて、貴方は何か勘違いしているようだけど、私には関係ないこと。この館をこの書庫ごと規模を一切変更せずにこっちの空間を捻じ曲げながら無理やり持ってきて疲れているの。けれど、たった一人の親友からのお願いのために、すこーしだけ働くことにしたわ」

 

 パチュリーは魔理沙から視線を外し、魔法で形成した大きめの椅子に深く腰掛ける。そして、軽くため息を吐いた後、魔理沙とは違う名前を呼んだ。

 

「フラン、あんまり汚さないようにしなさい。魔力の維持もタダじゃないのよ」

 

 そう言うと同時に、軽く手を振る。魔理沙の目の前の空間が歪み、その中から可憐な少女が姿を現した。首元まで伸びた眩い金髪を片側だけ括り、服装は色合いこそ違うものの上で見た奴と同じに見える。

 

 ああ、なるほど姉妹って事か。

 

 背は魔理沙と同じくらいか少し高いくらいで、背中には木の枝のようなものに水晶のようなものが光を反射し色を変えながらぶら下がっていた。

 

「あそぼうか」

 

 瞬間、後ろに飛びのいた。目の前の空間が捻じれるように歪み小さく爆発した。もしあれをまともに食らっていたら。恐らく皮、肉、骨、全てが捻じれ内側から爆発していたことだろう。

 淡々と処理を行う脳に対し、背中には嫌な汗がじっとりと服を体に張り付けていた。

 

「今の分かるんだね。ちょっと嬉しいかな。お姉さまやパチュリーには敵わないし、美鈴は躱すだけで相手にすらしてもらえない。ほかのメイド達だと今度は弱すぎて話にならなくてつまんないんだ」

「まるで、私のことを玩具か何かと思ってるみたいな物言いだな。イラつくぜ」

「ちがうの?」

 

 コテンと首をかしげる。

 

「ああ、そうだ。私ね、フラン。フランドール・スカーレット。貴方は?」

「霧雨魔理沙。普通の魔法使いだ」

「そっか。よろしくね、マリサ」

 

 フランの手にグネグネに歪んだ時計の針のようなものが握られる。けして戦闘向きには見えないそれを軽く手の中で弄んだあと、目の前からその姿が消えた。

 

 ? 

 

 宙を舞っていた。地面から足が離れ、肺から空気が絞り出される。蹴られた。それに気が付いたのは自身の身体が重力に従い地面に激突した時だった。

 

 クソがッ

 

 遠くに離れた箒を魔法で手元へ引き寄せ空へと逃げる。感覚的にあの天才かそれ以上。慢心あり。というよりかは、ただじゃれ付いているだけ。最初に言った通り遊んでいるだけ。

 

「霊夢よりは勝ち目がある……か」

 

 未だ痛む鳩尾をさすりながら、狭い範囲でひたすら滅茶苦茶に飛ぶ。体への負荷はすごいが直撃は避けられるはずだ。速度を落としたら死ぬ。意地でも進み続けろ。上へ下へ右へ左へ前へ後ろへ斜めへと、直角に緩やかに円を円を描いて障害物を避け逃げることに専念しろ、下手な攻撃は恐らく通用しないだろうから。

 

 実際そのハチャメチャな動きはフランにはとても有効だったようで、ほほを掠める拳、腹横の服を引きちぎる足先、箒の先端をぐにゃぐにゃした針が叩き切った。芯が冷える攻撃ばかりではあるが、直撃だけは免れていた。

 

 魔理沙は服の隙間に隠してある小瓶を取りだし、緑色の中身を口元へと運び一気に喉へと流し込む。体にかかる負荷と相まって意識が飛びそうになるのを踏ん張りながらなんとか飲み込む。ドクンッと心臓が飛び出す感覚と一緒に、喰いしばった歯の隙間から紅い液体が。口の中は鉄臭さで充満していた。

 

 それに意識を持っていかれてか、ほんの一瞬動きが止まる。魔理沙にとっては一瞬の停止だったとしても、フランにとっては絶好のチャンス。魔理沙の両足をフランの右足が打ち砕いた。

 

「──────ッ!!!!」

 

 叫びたかった。だが、叫ぶほどの暇さえなかった。そんな暇があるのであればさっさと動けよ私の身体!! 

 

 魔理沙が二本目、三本目と先ほどと同じ小瓶を取りだして一気に煽る。体の内側から炙られているような度し難い感覚、心臓を直接握りつぶされているかのような圧迫感、血管は破裂しそうな程に膨れ上がり、肌は不自然なほどに赤くなっていた。

 

 たかが人間、玩具がと思っていたものが、両足を折られ、あまつさえ自ら死を選ぶような事をしているとあれば気味が悪く動けなくなっていた。

 

「貴女、馬鹿なの?」

 

 意識朦朧としている相手に言葉を投げかける。戦意喪失……とまではいかないが、この薄気味悪いものの正体が分からないまま終わらせるのは癪に感じた。

 

「ああ、私は相当な馬鹿らしい。よく親友からもそういわれてるぜ。お前も一杯どうだ?」

 

 四本目の小瓶をフランへと投げ渡す。その行動をフランは怪訝そうにしながらも受け取った。そして、受け取って気付く、中身の色が違うことに。魔理沙の顔が嫌らしく笑っていることに。

 

 全身の毛が逆立つような嫌な感覚、即座に手に持つ小瓶を投げ捨てようとするがその前に小瓶が弾け中身が飛び散る。ツンッとした刺激臭と共に体の感覚が失われていく。

 

「お前みたいなやつは、私みたいな格下相手にはお遊びで向かってきてくれる。なんで格下相手だとそう見下す奴が多いんだろうな?」

 

 魔理沙はそう言いながら五本目の小瓶を取りだし、一度、息をついて、その中身を飲み込んでいく。

 

「ぷはぁ。まっずいなこれ」

 

 遂に血管がはち切れ、目や耳、毛穴からも血が滲み始めた。

 

「魔力回復薬。自家製なんだけどな、味は滅法まずいが効果は私が一番理解してる。四本も飲めば、魔力過多になってこのまま死ぬことも。けど、あくまでそれはこの状態のままだったら、って話なわけだ」

 

 手に持つそれは八角形の何か。その中央に魔力が集まっていくのが分かる。

 

「霊夢の奴は勝てたのかな。それ以前にここまでしたのは初めてだし、生きて帰れるかどうかも怪しいか。ま、悪運だけはいつも強いし、どうにかなるか」

 

 もはや勝ちを確信しているのか、目の前で動けないままのフランを見てすらいない。事実、フランは動けないでいた。魔力や妖力などを乱す効果もあるのか、肉体の強化すらできない。

 

「ここまでの量になると、私も生きているかどうか、だな。反動で消し飛びそうだ」

 

 そして、眩い光がフランを襲う。せめてもの抵抗にと漏れ出た妖力を針に纏わせぶつけてみるが意味をなすはずもなく、赤黒ぐろい妖力の塊は魔力の奔流にいとも容易く飲み込まれ、霧散した。

 

 

 

 死んだ、助からない、負けた、ただの人間に負けた。

 そっか、私、負けたんだ。

 

 

 

 それと同時にフランの意識は迫る魔力の奔流から逃れるように、その意識を手放した。

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 目の前の光景に動けないでいた。小悪魔を飲み込んだ緑色の光は壁をぶち破り、吹き抜けになった廊下には涼しい夜風が吹きぬいていた。

 

 手を伸ばせていれば、もしかしたら助けられたのかもしれない。

 

 どうあがいても無理だということは分かり切っているのに、そんな後悔が浮かんでは消えないでいた。

 

「びっくりしたぁ」

 

 だから、目の前に何事もなく普通に立っている小悪魔の姿を見た俺の顔は酷く滑稽なものだったことだろう。

 

「ど、どうして……? いま、たしかに」

「むう、羽が掠ってヒリヒリします……。え? ああ、私影の中なら自由に移動できるんですよ。ほら」

 

 ほらと言って自身の影に潜っていった。そして、ね? っと言って俺の影から這い上がってきた。

 何はともあれ無事だというのであればそれに越したことはない。

 

「心配してくれたんですか?」

「そりゃあするでしょ」

 

 いや、まじでよかった。目の前で人が死ぬのを目の当たりにするだけでトラウマものだし、原作キャラが生きていたという意味でもマジでよかった。

 

「そんなもんですか」

「そんなもんじゃないですよ。ほんとに……」

「それは申し訳ないです。さ、随分と見晴らしがよくなっていますが、この先が大図書館です。行きましょうか」

 

 そう言って小悪魔さんが先導し始める。その後を慌てて追いかける。その時チラッと見えた。

 

 恍惚とした表情で舌なめずりをするその横顔を。

 

 あ、こいつ淫魔系のやばい奴だな。

 その結論に至るのは容易いことであった。

 

 それと同時に、この悪魔とは出来るだけ二人きりにならないようにしよう。そうしよう。

 

 そう、固く心に誓ったのであった。

 




お読みいただきありがとうございます。

戦闘シーンってなんであんな難しいん?(二回目)
まあ、精進しろってことなんやな。

はあ、小鈴とのほのぼのやり取り書きたい。

では、また来月お会いしましょう。
次で紅魔異変完結です(予定)


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第13話 人間なんでも慣れるってことだ

ちゃっちゃっちゃっす

投稿するのだけ忘れかけていたちゃるもんだよ
友人に進められたゲームで完全に忘れてたよごめんね


 青い空の下、俺は全力で美鈴さんと追いかけっこをしていた。

 

「ヒイヒイッ!! 捕まってたまるかぁあああ!!!!」

 

 霊力で肉体を強化、紅魔館の庭を走り回る。時には壁をよじ登り、草むらを突き抜け全力で逃げ回る。

 ま、抵抗むなしくすぐに捕まるんですけどね。

 

 全力で走っている。にもかかわらず、まるで立ち止まっている相手に声をかけるかのようにちょんちょんと肩をつつかれる。気付かなかったことにしたい現実に何とか耐えながら、軽く深呼吸をしてゆっくりと振り返る。

 

「13秒ですか、前回より2秒伸びましたね。えらいえらい。では、捕まったので罰ゲームです。タイムは伸びていますし、デコピンくらいで済ましましょうか」

 

 逃げたいし、反撃もしたい。が、俺の身体はすでに美鈴の気によって拘束されていた。いや、抵抗はしてるんだよ? けど、指一本動かせないんだなーこれが。

 ゆっくりと近づいてくる美鈴の指。それがピッタリと俺の額に引っ付いた。

 

 いやまって、よく考えよ美鈴さん。ね? ほら、俺から頼んだとはいえやっぱ、違うじゃん? 罰ゲームなんてさ? ね? いやマジで待ってください貴女の罰ゲームマジでシャレにならないくらい痛いんですよだからかんがえなおしましょね? ね? まってまってまっておねがいやめてやめてやめろってまじでいたいんだってまじでまじでやめ──―

 

「──―ィッだあぁあああああああああ!!!!!!!!」

 

 突如、額から全身を駆け巡る稲妻。あまりの痛みに地面を転がりまわる。痛みから逃げ出すこともできず、ただ、声を上げ続ける。

 数分ほど転がれ続ければ、痛みも多少はマシになり、歪む視界の端に日傘を差す悪魔の姿をとらえた。

 

「これはまた、こっぴどくやられたな」

 

 くっくっくと愉快だと笑うその悪魔と、忽然と一歩後ろに佇む紅美鈴の姿。

 いまだ視界はぐるぐると回ってはいるものの、何とか立ち上がる。

 

「あいてて……なにかごようですかレミリアさん」

「いやなに、いつかの自分の姿を見てみたいと思ってな」

「それはよき趣味をお持ちのようで。それで、人里からは受け入れられましたか?」

「どうだろうな。少なくとも、出会って早々石を投げられるなんてことはなかった」

「そりゃあ上々ってところか」

 

 紅魔異変。結論から言えば無事解決した。と言えるのだろう。

 博麗霊夢が瀕死の重体。霧雨魔理沙が魔力枯渇による意識不明の重体。レミリア・スカーレットが重傷。人里の住人数名が、パニックに陥り軽症者数名。死亡者なし。

 博麗霊夢、霧雨魔理沙ともに命に別状はなく、既に本来の生活を全うしている。

 

 と、文字に起こせば、まあ、うん、無事っちゃ無事に終わった。うん。そういうことにしておこう。

 

 あの後、博麗霊夢と霧雨魔理沙の治療を施しているパチュリー・ノーレッジさんと軽く自己紹介をし、事の経緯を聞くに及んだ。

 

 たとえば、あの光の奔流が霧雨魔理沙が無理やり溜め込んだ魔力をただ吐き出したものであるということ。東方projectで一二を争う有名度『恋符 マスタースパーク』なのかは不明。

 たとえば、あの赤い霧が紅魔館を転移させたときに発生した余波を上空に逃がした結果発生したものだということ。害はないだろうということ。

 たとえば、余波を逃がさなかった場合大地震等、別の天変地異が起き、人里どころか幻想郷の環境そのものが危うくなっていた可能性が高いといこと等々……。

 

 けっこう大変な事になってたのね。なーんて呑気に口に出してしまい、そこからながーい愚痴に付き合わされたりもしたけど。その分収穫は大きかった。

 

 さて、今回の異変により紅魔館が幻想郷内でどういった立ち位置になったかについてだが。まあ、そこまで悪くはないんじゃねーかなと。なんか危なそうなことしてるけど、基本的には無害な連中。はたから見れば、そんな接し方をされていた。

 ふつう、あんなことをしでかした連中が相手なら石を投げても可笑しくはない気しかしないが。そこは、流石幻想郷の住人といったところか。

 

 紅魔異変が解決した後、レミリア率いる紅魔勢は人里を訪れた。人里を侵攻しにきたなんてことでは勿論なく、状況を説明するためだ。

 幻想郷に屋敷に移動させたのはよかったが、その余波があまりにも大きく霧にして外に逃がしていた。そして、博麗の巫女たちの助力もあり無事に霧を払うことができた。幻想郷に住まうもの達には迷惑をかけたと。

 

 もっと長々と話をしていたが、内容的にはそんなところ。あとは、ちょっとした技術の流用の代わりに、定期的に少量の血液を採取させてほしいというお願いをというか、取り決めのようなものをつくったり。いやー人里の適応能力高すぎか? 

 

 まあ、あれだな。思っていたよりも後始末はスムーズに進んだなって印象。

 

 さて、紅魔異変の事後処理話もそこそこに、なぜ俺が美鈴さんに追われていたのかの話をしようじゃないか。

 とは言っても、修行の一言で話が終わるのだが。

 では、なぜ修行をしているのか。実は霧雨魔理沙が関与していたりする。直接的にはではないが。

 

 あの後、小悪魔さんと大図書館に向かったわけだが、そこには服を着た干乾びた木の枝のようなものに膝枕をするフランドール・スカーレットがいた。

 最初は素直に何やってんだこいつって思ったけど、よくよく見ればそれが霧雨魔理沙だった。完全にミイラだった。そして、パチュリーによくよく話を聞いていけば俺もその状態になりかけているとのこと。

 そりゃあ、そんなこといわれたら……ねぇ? 修行の一つや二つはするってもんですよ。色々あったけど、俺は生きていたいから生きているわけで、出来る限りアブナイことはしたくはないのですよ。

 

 まあ、その修行で死にかけているわけですけれども。

 

「さて、今日はこのくらいにしておきましょう。また後日、時間が空いた時に」

「うっす。ありがとうございました」

 

 とてもイイ笑顔で微笑む美鈴さんにお辞儀をする。その後、レミリアに一言二言挨拶をした後、代わりに番をしていた妖精二人と門番を交代していた。

 

「……あの人、憂さ晴らし的なのも交じってるよな」

「まあ、否定はしない。役職柄致し方ないと言ってはいるが、ほぼほぼ年中無休だ。天候も関係なしにな。向こうでは私たちは命を狙われ続けていた身。門番を外すわけにはいかなかった。襲われたとて問題はないが、万が一もある。十六夜咲夜のようにな。もし、アイツが能力を完全に掌握出来ていたとしたら、初見ではまず無傷では済まなかっただろうさ」

 

 そんなもんっすか。そんなものさ。とお互いに肩をすくめる。そこにこれといった感情が込められているわけではないが、親しい友人との些細なコミュニケーションはこう、心が少し軽くなる。

 

「なら、こっちに来たから少しは休みが増えるかもしれないってことか」

「そうなってくれたのなら嬉しい限りだ。それまでに妖精たちをもう少し使えるように育成しなければならない」

「当主直々に育成とは、嬉しい限りじゃねえか」

「そうだといいが。折角だ、このままティータイムにでもしようじゃないか」

 

 そう言って手を叩こうとしたレミリアに待ったをかける。

 

「誘いはありがたいけど、今日の所は辞退させてもらいます。このあとちょっと用事があってな」

「それは私の誘いよりも大切なことなのか? さては女か」

「ある意味間違っちゃいないけど……、八雲関係だよ」

「ふむ、それなら致し方あるまい。またの機会を楽しみにしているよ」

 

 悪いなと、返事をして足早に紅魔館を後にする。紅魔館に続く橋の半ばごろで突如として訪れる浮遊感。まだ滝をする間もなく、気が付けば幾本もの木に囲まれた森の中。少しばかりの気持ち悪さを抑え込み、改めて辺りを見回す。

 

 森、というよりは林に近い。耳をすませば鳥の鳴き声や、獣の唸り声のようなものも聞こえてくる。

 さて、獣の唸り声なんて表現をしたのはいいが、本当の獣であれば人間が近くを通った、なんなら近づく前に逃げるか襲ってくるかしてくるのが普通。

 

「お仕事の時間と行きますか」

 

 霊力を込め、拳銃を構えながら唸り声のする方へ。近づくにつれ唸り声とは別に掠れた呼吸音のようなものも聞こえてきた。

 

 見つけた。

 

 木を背に座り込む形容しがたい白い人型のナニカ、くねくねと呼ばれる怪異に似ている。それの前に立ち佇む皮膚が爛れこびり付いたかのような見た目をした人型。

 白い方は衰弱しているのか、はたまた見えないところに怪我を負っているのか、うなだれたまま動く気配はない。

 爛れている方は、白い方の仲間だったのか白い方を襲う動きは見られなかった。むしろ、どうしたらいいのか分からず動けないでいる。そんな風に見える。

 

「ま、やることは変わらない、か」

 

 物陰から軽く身を乗り出す。その時に体に草が当たり小さくない音を立てる。それに反応した爛れがこっちを見るや否やなりふり構わず突進してきた。両手を前に突き出しそのまま覆いかぶさろうとでもいうのだろうか。

 だが、如何せんその動きは遅い。見た目通りの鈍足だ。

 

「的が来てくれる分には、助かるっちゃ助かるけど」

 

 容赦なくその身体を撃つ。霊力に縛られ爛れは膝から崩れ落ちた。その間に実銃を取りだし頭に三発。念のために両足の膝関節当たりと、両腕の肘関節あたりを撃ち抜く。

 動かなくなった爛れを軽く足で突き、こと切れたことを確認し白い方に向き直る。

 

「見た目に反して脆かったな。逃げても無駄だよ」

 

 四つん這いになり、必死に逃げようとしていた白い方の胸元を一撃。白い見た目とは裏腹に、真っ赤な血が噴き出した。それでもなお逃げようとするソレに、一、二、三。

 無造作に放たれた弾は右肩、首、顔の中央を穿ち、ソレはゆっくりと地に伏せた。

 

「お仕事終了。南無!」

 

 こと切れた妖怪に手を合わせ、その場を後にする。後始末は向こうがやってくれるらしい。というより手を出すなと言われた。俺の知らない妖怪の中である作法的なものがあるのだろう。

 

 異変の際に影響を受けた妖怪たちが、その反動からか里を襲う時がある。とは慧音先生から聞いたことだ。今回の件もそれと似たようなものだろう。現に、異変解決後の話で外に出た数名が行方が分からずになっているらしい。一度里の外で行方が分からなくなったら人里の住民の力ではどうしようもない。故に、子供を含めたその数名の葬式はもう終わり帰らぬ人扱いを受けている。

 

「稀に帰ってくる人もいるそうだけど、稀も稀、って言ってたからな。生きてりゃいいが」

 

 こうやって、妖怪を退治することで少しは里への恩返しもできていればいいが。

 

 今日の晩飯は何にしようかな、なーんて考えながらその場を後にする。なんともさっくりしていると自分でも思うが、異変後はそれなりにこの手の仕事、八雲としての仕事が回ってくるようになった。

 その大体が手負いだったりするからたいしてきつくもないんだが、人型をやるのは最初こそはなかなかにくるものがあった。

 

 人間なんでも慣れるって話なわけだ。うん。

 

 森を抜け、秋晴れのきれいな空に大きく欠伸を一つ。

 

「ひと月以上過ぎて、季節が変わっても異変の影響は残るもんなんだな。と、しみじみ思う茉裏ちゃんなのでした」

 

 少し冷たくなり、小刻みに震える手を擦り合わせ二度目の欠伸をかみ殺す。目尻の端に溜まった涙を袖で拭う。

 

「……もうすぐ、雪が降る季節になるか。もつのかな、いや、もう」

 

 ぽつりと呟いた小さな声に共感も、非難も飛んでこない。それが有り難くもあり、少し寂しくもあった。

 

 幻想郷に来て、幾度となく感じるこの違和感と実感。

 あとどれくらい、この世界で生きていけばこの違和感は俺の中から消えてくれるのだろう。

 

 もしかしたら消えないのかもしれない。あの世界での常識というものは余りにも大きく俺の中に居ついている。

 

 

 震える手が落ち着くそぶりはなく、目尻に溜まった涙は拭えど拭えどゆっくりと溢れ出てくる。まるで、逃げることを責めているかのように。認められない現実を、脳が拒絶しきれないものを外に吐き出すように。

 

 

 

 

 

 ずっとずっと、まっている

 どうすれば、あなたはわたしだけをみてくれるのだろうか

 かえってこないあのひとをおもい、わたしはそっとめをとじた

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

これにて紅魔異変完結となります。
いやー、これでいいのか?とは、思いますがそこは寛大な心で許していただければと。

それでは、次は雪が振る頃にお会い致しましょう……

さらば!


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第14話 なんでこんなところで死んでんのぉ

デモンズソウルのリメイクがしたい。

どうも、ちゃるもんです。
ようやくメインヒロインが登場ですよ皆さん!!
ぶっちゃけ、このキャラのことをあまり知らないのですが、まあ、なんとかなるでしょう。


 季節は廻り、雪が降る今日この頃。はい、冬です。と言いたいところだが、悲しいことに今年は異常も異常の異常気象。月で呼ぶなら二月後半に当たる今日は、北の大地でもないにもかかわらず大雪に見舞わられていた。

 

「いやー、さむいっすね」

「そうだね。これじゃあおちおち本も読めやしないよ」

「最近ではお客さんも結構増えてきてたんですけどねぇ」

「そうだね。私としてはそちらはどうでもいいのだがね」

 

 場所は人里にある一つのお店。我がバイト先である鈴奈庵。締め切った扉に目をやり、曇りガラスから見える銀世界に思いをはせる。

 

 ちらほらと増えつつあったお客の姿は店の中にはない。紅魔異変が過ぎ、洋食や中華というものが各家庭でも作られ始めた。それに伴って、農家の作る作物の幅が増えた。

 つまりは、少なくない外の技術が人里に溶け込んだことになる。面白いのはガス灯ならぬ霊力灯が出現したこと。レミリアたちによって持ち込まれたカンテラが妖怪の山の一勢力、河童たちの技術によって姿を変えたものである。カンテラは油等の燃料を使用し光を灯すという器具だが、人里での油というものはまだ貴重なもの。更に付け加えればカンテラ自体も数が少なかった。

 提灯や蠟燭よりも安定した光源の供給。提灯、蠟燭が絶対に必要ではなくなった訳ではないものの、選べる種類が多いに越したことはない。

 そこで選ばれた燃料の代わりになったものが霊力であった。油の代わりに霊力、あるいは魔力を浸透させ、数時間ほど光源の代わりにするというものである。

 

 欠点としては、青い光になるため慣れるまでは見づらい。そして、一度消したら再点火ができないという点。妖力を使用した場合は赤黒い光になるため光源としては不十分らしい。

 そんな器具が東西南北の入り口に二つずつの合計八つ。まあ、夜を安全に過ごすためなら当然だわな。

 

 さて、少し話が脱線したが、鈴奈庵はそれなりに店としての体裁を保っていたのだ。紅魔勢の介入により洋食、中華の登場。さっきはここで話が逸れたが、要するにだ。外の本もそれなりに扱っている鈴奈庵ならそっち方面のレシピもあるんじゃね? といった、短絡的な考えのもとに各家庭の台所番たちがやってきたからだ。

 

 どこの世界であろうと、奥様方は流行がお好き。そういうことっすよ。

 

「なにか面白い話でもしてくれたまえよ。外の話とか」

「最悪殺されるんで遠慮します」

「けち」

「けちと言われるだけで命が助かるなら儲けものだぁ」

 

 くだらないやり取りを駄目店主と繰り返す。机に膝をつき、くたびれた本を読んでいる姿が無駄に様になっていて無駄にムカつく。

 何読んでるんです? と、聞いてはみても、単なる歴史書だよ。読んでみるかいと差し出された中身は達筆すぎて読めなかった。そのことを素直に言ってみれば盛大に笑い飛ばされたので、代わりに拳でぐりぐりしてあげた。

 

「にしても、雪、やまないっすね」

「人の財産をぞんざいに扱っておいて、その態度。少しは心が痛まないのかい?」

「そんだけ反論できるってことは、店長の財産は守られたってことだ。良かった良かった」

 

 うんうん、と頷きながら外を見る。依然として降り止まない雪はゆっくりと確実に積もっていく。異変解決組は既に動いているのだろうか? 

 

 今回の異変に顔を突っ込むつもりはない。紅魔異変が想像以上のモノばかりだったのと、自身の実力があまりに低いことを実感したためだ。まあ、それを抜きにしたとしても参加するつもりはなかったが。

 

 だって、俺空飛べないし。

 

 人外じみた移動方法を取っていたとしても、霊力の使い方を知っている奴が少し練習すれば上手い下手いの差はあれど、大体似たようなことができる。

 もっと言えば、幻想郷の主要人物は大体空飛べるからこんな非効率で危険な移動をしなくてもいい。

 

 ただ、不思議なことに里の住人達はこの便利なものにあまり興味がなかった。よく分からないから、別にいいかなといった具合だ。面倒ごとに首を突っ込むような真似をしたくはないってことだろう。

 

 だとしても、空を自由に飛べるって結構魅力的なことだと思うんだがなぁ。

 

 あの空を、なにものにも縛られないあの世界を自由に駆ける。それを実現するために幾万のもの人間が挑戦してきたはず。それを達成することのできる一番近い場所にいる。一部の人からしたら発狂もの間違いなしだな。

 

「飛ぶ……ねぇ」

「ん? 博麗の巫女でも来たのかい?」

「いや、そういうことじゃないんですけど。飛べたら色々楽しそうだなあって」

「ああ、外から来た君からするとそういう考えに至るのか」

「なんか含みのある言い方っすね」

「なに、空を飛べるということはそれ相応の実力者。つまりは天狗を筆頭に幻想郷の有権者たちに目を付けられるって事なだけだよ。君だって、悠々と空を飛んでいただけなのに天狗に連れ去られたり撃ち落されたりはしたくないだろう?」

「それはー……いやっすねー……」

 

 なるほど……、それなりに身近にあるものだから興味がない。のではく、あまりに大きすぎる障害があるからこそ諦めるに至ったが正解なのか。

 

「だから、空を飛んでいるのはある程度自分自身を自衛できる、あるいはただの命知らずな能天気者の二者に分かれる。私は後者だね」

「店長の自分自身を包み隠さずさらけ出してるの、嫌いじゃないっすよ」

「それはどうもありがとう」

 

 てか、この駄目店主飛べるのか。いや、原作キャラだから当然と言えば当然なんだろうけど……人が来なけりゃ、本に涎垂らしながら寝落ちしてたり、腹を出して昼寝してたり…………。こんな奴でも空って飛べるんだなって。

 

「にしても、止みそうにないどころか段々と勢いを増してきているわけだが、どうする? 帰るなら今のうちだが。泊まるって言うなら追い出したりはしないが、変な気は起こすなよ?」

「仮にも夫候補相手にその物言いは酷くないっすかね。まあ、泊まりませんけど。家が潰れてないか心配なんで」

「そうか、それは残念だ。てか、豪雪といったほどでもない雪で潰れる心配をしないといけない家って……それは、流石に心配になるんだが」

「俺もそう思う。まあ、死んだら化けて出てくるんで。そん時は優しく迎え入れてやってください」

「はっはっは。お断りしておくよ」

 

 それでは、お疲れっしたー。と、軽く挨拶をして店を出る。

 外に出るとほんのりと冷たい風が頬を撫でる。風は春風と呼ぶに相応しいものなのに、景色はまさしく冬。しっとりと積もった雪を踏み固めながら人里の通りを進んでいく。ちらほらと外出している人はいれど皆足早に建物の中に入っていく。何時、何が起きるか分からない状況。こうして悠々と外を歩いている自分の方がおかしいのだと思い知らされる。

 

 ふと、空を見上げる。薄暗い空模様。雲の隙間から、というよりはどこか違うところから飛んできた雪を手の平に受けてみる。雪の形はどれ一つとっても同じものはないと聞いたことがあるが、手の平に乗ったそれは日本人ならよく見た花の花弁。桜の花びらにそっくりだった。

 

「これが、一人のお嬢様の我がままってんだから笑えるわな」

 

 寒い寒い冬を超え、気温こそ多少温かくなったものの、雪は降り続ける。文字におこせばそれだけのこと。だが、農業だったり、人間の身体はそんな簡単に調整できない。

 

「なんとも、はた迷惑なお嬢様なこって」

 

 手の平に乗った雪の花弁を息で吹き飛ばし、再び歩き出す。少しだけ溶けた雪がくたびれた靴に染み込んで、なんとも不愉快な触感となる。草履などの方がよかったりするのだろうか。

 

 家に帰ったら、取り敢えず火を起こして暖を取ろう。水を沸かしてお湯をと、保存しておいた漬物と、お手伝いで貰った米を炊けばそれなりに腹も膨れるだろう。

 

 入り口を守っている担当門番の人と軽く雑談。雪止みませんねー、そっすねー。その後、人里を出て帰路に就く。ここから先、安全な場所はない。通いなれた道とは言え、いつ襲われても可笑しくはない。懐に隠してある拳銃の位置を確認し、軽い足取りで進んでいく。

 まあ、人が頻繫に通る道は妖怪も不用心に近づくことも少ないのだが。警戒しておくことに損はないだろう。

 

「それこそ、空を飛べたら楽なんだろうが。あんな話を聞いちゃあ、素直に手を伸ばすことはできないよな」

 

 自宅がある森の近くまで来て、少しだけ強くなった雪の勢いに小言を漏らした。

 

 さ、帰りましょうか。

 

 誰に言うでもなく、心の中で呟く。そして、見たくないものを見てしまった。

 

「ええぇ…………。なんでこんなとこで死んでんのぉ…………」

 

 薄汚れた青い髪に、あまりにボロボロな服。差し押さえの札で補強してあるものを衣服と呼んで良いのかは甚だ疑問だが、まあ布を着ているぐらいにしておこう。靴は履いておらず、血に濡れ、直視するのも躊躇ってしまうほどの光景。ズボンやスカートの類は履いておらず、これまた継ぎ接ぎの下着が丸見えになっていた。

 丸見えの脚は骨が浮き彫りになっており、餓死しているようにしか見えなかった。

 

「これ、埋めたがいいのか……? てか、本当に死んでるのかこれ?」

 

 口元に手を当ててみると、微かにだが呼吸していることが分かった。細い腕、もはや骨と皮だけになっている腕を握ってみると、脈も感じられた。

 

「……見た感じ、俺の知らない原作キャラ…………っぽいよな。連れて帰るしかない、か」

 

 重力に従わせるだけで折れてしまいそうなその体を、極力刺激を与えず、優しく抱きかかえる。にしても、本当に軽いもので、アニメの表現の一つ、羽のように軽い。まさにそれだった。こんな形で味わいたくはなかったが。

 

「なんかで聞いたことあるけど、餓死寸前の人間に一気に飯をやっちゃダメなんだっけ。わっかんねぇ」

 

 折角助けたのに死なれたら後味悪いし、なんて悠長に記憶を探り、家の中へと連れ込む。永遠亭が存在しているのは、薬売りのお姉さんがいることから分かってはいる。が、流石にそこまで連れていける時間もない。

 取り敢えず家の中を温めなければと、貰い物の火鉢をに炭をくべる。火をつける火打石も貰い物だ。というより、家財道具のほぼすべては、古くなって買い替えるものを頂いたものだったりする。

 少量の藁に火打石で火をつけ、炭のその炎を移す。最初こそ藁に燃え移った炎が立ち上がるが、直ぐに収まり、炭からパチパチと炎が弾ける音がし始めた。炭もそうだが、藁とかを部屋で燃やすのはとても危険なので真似しないように。

 

 火鉢を部屋の中央にセットし、その間に寝具の準備をする。これも勿論貰い物。

 布団の上に少女を寝かせ、その上に毛布をかぶせる。布団は人里のゴミ捨て場に捨てられそうになっているものを譲ってもらい、毛布は紅魔館から貰ったものだ。これがなかったkら今年の冬は確実に越せなかった。

 

 後はお湯を沸かして、飯の準備。

 

 帰ってきたとたんにやることが押し寄せ、少しばかし気合を入れる。みるからに重要人物な少女。もしかしたらどこかとの縁が作れるかもしれないし、今後の異変で有利に事が運ぶ可能性もある。

 

「あした、永遠亭に行って……それより、鈴仙さんに来てもらった方がいいか。明日動けるようになるとも限らないし、無理に動かして死なれても困る」

 

 薄情な物言いかもしれないが、正直とても面倒だという気持ちの方が大きかったりもする。けどまあ、やるだけやってみるかという気持ちも確かにある。ようはツンデレってことですよ奥さん。男のツンデレとか誰得だよ……。

 

 そうこうしているうちに、温めておいた水からほんのりと湯気が立ち上る。あんまり熱くてもあれだからと、早々に火から急須を離す。茶碗に水を注ぎ、少女の口元へ、ゆっくりと流し込んでいく。咽させたら多分終わる。そんな予感をひしひしと感じながら。

 

 ゆっくりと水を飲み込む少女を前に一つ確信したことがある。

 

 

 

 ああ、すくなくとも、今日一日は眠れそうにないな……。

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

瀕死のヒロインって可愛くない?(錯乱)
まあ、なんか設定見てたら基本食べ物に困ってる感じだったので間違ってはいないのかなーっと。

では、次は年末か、年始。皆様忙しい時期だとは思いますが、その頃にお会い致しましょう。

風邪には気を付けてね!!


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第15話 どうだったかなー

あけましておめでとうございます。
今年も今年とて、マイページに進めていく所存でございますちゃるもんです、

何かと忙しい月でしたので、結構短いです。
箸休め程度の話だと思って、軽く読んでいただければなと。

では、どうぞ。


 目が覚めた時、私は一人だった。

 確かな記憶はなく、ただ、自分自身のことが知識として存在していた。

 

 貧乏神。

 

 自分を含めたすべてを不幸にしてしまう存在。それが、私。

 この世界で目が覚めて、日が入れ替わったのが十回ほど。まともな食事はもちろん、雨風を凌げる場所で寝たところはない。そんなところで寝ようものなら、間違いなく何らかの不運に巻き込まれることが直感できたから。

 誰かに頼る。そんなことも出来っこない。誰かに頼るというのは、頼った相手もまた、この地獄を味わう羽目になるということに他ならないのだから。

 

 きっと、わたしはこの体質のせいで何度も死んで、生まれ返しているのだろう。

 そして、記憶を失い、無駄に生き永らえようと足搔いている。それが無理だということは分かり切っていても。足掻くだけなら、ただなのだから。

 

 白いふわふわが積もり、歩くのを邪魔する。

 

 足袋なんて高級品、持っているはずもない。

 冷たい風と、冷たいふわふわで体の体温が奪われていく。きっと、この辺りが潮時なのだろう。どうせ、死んでも記憶を失うだけなのだから、さっくりと諦めてしまおう。

 

 心が何の拍子もなくぽっきりと折れたのが分かった。今までの私がどのようにして死んだのかは定かではないものの、それなりに長生きできたんじゃないかなと思う。本当に死に物狂いで生き続けた。空腹を少しでも和らげるために、黒いカサカサしたのや土や草。水はこの白いふわふわで補って。誰かの食べ残しや、野良猫の餌を奪ったこともあった。

 

 ゆっくりと、体から力が抜けていく。白いふわふわは体を受け止めるには脆すぎて、冷たく固い地面に体が打ち付けられた。

 だんだんと視界がぼやけ、それと一緒に睡魔が襲ってくる。勿論、抵抗の一つも出来るはずもない。むしろ、受け入れる様に瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 体に変な重みを感じた。その感じたことのない違和感に、自然と瞼が上がる。

 まず目に入ったのは、古びた木製の屋根。そして、視界の端をちらつく明るい光。

 

 重みを感じたのは、自身に布がかけられていたから。背中にも違和感を感じたが、それもそのはず、今まで触ったことすらない敷布団なるものが敷いてあったから。

 

 どこ、なぜ、いきてる、しんでない、なにが、なんで、うれしい、うれしくな

 

 情報が処理しきれず、色々な感情が波のように寄せては引いていく。

 ただ、一つ、確実に、そして明確にしておかないといけないことがある。

 

 誰かが私を助けた。

 

 だとするならば、私は早々にこの場所から離れなければならない。

 そう思い、布団から抜け出そうとするも体は言うことを聞いてはくれない。挙句の果てには、起きたのに気付いて私を助けたであろう人物から声までかけられた。

 

「目、覚めか? ちゃんと俺の声聞こえるか?」

 

 矢次に飛んでくる質問に小さく頷く。ならよしと、満足げに大きく頷き、私の前に木彫りの小さなお椀を差し出した。

 

「少し、体を起こすぞ。もっと栄養のあるもんを食わせてやりたいところだが、生憎おれもそんなに裕福って訳じゃないんでな。粥、ここにはお前の脅威になるもんなんて一つもない。だから、安心してゆっくり食べな」

 

 受け取った器の中には白い湯気をもうもうと上らせている真っ白のかゆ。それが一体どういった食べ物なのか、私には分からない。これ以上、助けてくれたこの人に迷惑をかける訳にもいかない。一緒にいてはいけない。

 

 だけど、生まれて初めて、温かいものに触れた。この感動を前に、そんなものは霧散して、気が付けば私は頬一杯に器の中身をかきこんでいた。

 

「ゆっくり、っていってもそりゃ無理な話か」

 

 口を、喉を、胃を、腹を、体、全身、そして折れていた心も、ただ、一度の食事でじんわりと暖かくなっていくのが分かる。

 たった一回、ただ一口、食糧を得るために血反吐を吐きながらもがいてきた日々。温かいものを口にしたのも初めてならば、口いっぱいに食べ物を含んだことさえ初めて。もごもごと、口を動かす私に、助けてくれた人はただ呆れたように笑って見せた。

 

 

 

 さて、ガリ骨少女が目を覚ました。日が傾き始めたこの時間、冷めきったかゆを温めなおし、現状を把握しきれていないであろう少女が落ち着くのを待つ。

 どうあっても逃げれない状況だからか、特になにすることもなくその様子を伺っていた。

 

 にしても、見れば見るほど痩せこけているのがよくわかる。毛布を被せているわけだが、ほんらいあってしかるべき人の形の膨らみが殆どできていない。

 それに、起き上がろうとしたのだろう。身じろぎをしたが、毛布の重さに負け諦めていた。

 

 そこまで元気なら、話しかけても大丈夫だろうか?

 

「目、覚めたか? ちゃんと俺の声聞こえるか?」

 

 小さく頷く少女に、取り敢えず大丈夫そうだと安堵する。

 取り敢えずいくつか質問してみた。とはいっても雑談的なものでやれ好きなものはだとか、どこから来たのかだとか、なぜ倒れていたのかだとか。食欲はあるかだとか。おそらく質問の意図を理解できていないのであろう少女は、ただ静かに頷くだけだった。

 ま、問題ないならそれでよし。

 

「少し、体を起こすぞ。もっと栄養のあるもんを食わせてやりたいところだが、生憎おれもそんなに裕福って訳じゃないんでな。粥、ここにはお前の脅威になるもんなんて一つもない。だから、安心してゆっくり食べな」

 

 少女の身体を軽く起こす。お粥を器によそい、それを差し出した。少女は器を受け取り、その中身をしばらく見つめた後、ゆっくりとお粥を口に運んだ。

 それによって、意識が覚醒したのか、緊張の糸が切れたのか、お粥を口いっぱいに頬張っていた。

 

 ちなみに、裕福云々は一部嘘だったりする。貧乏なことに変わりはないが、干し肉なり野菜、漬物など、食べる物には現状困っていなかったりする。ただ、極度の飢餓状態の相手に過剰な栄養与えたら危ないんじゃね? なんかそんな戦話あったきがする。ぐらいの、ふわっとした理由での選択がお粥なだけで。

 

 ま、実際、病人にはお粥食わせとけって感じのお約束はあるし、問題はないだろう。多分。

 

「ゆっくり、っていってもそりゃ無理な話か」

 

 いっぱいに頬張りすぎて、ずっと咀嚼を繰り返している少女。いや、お粥でそこまでなるってどゆこと? ああ、でも、顎の力とか弱くなってたりもするんだろうか? それなら、会話をするのも結構時間がかかるかもしれないか。

 

 空になった器を名残惜しそうに手渡してきたので、お粥をよそってみる。すると、少女の目は輝き、食べてもいいのかとこっちに視線を送ってきた。

 

「結構作っちまったからな。腹を壊さない程度に食べな。余った分は俺が食べるし、明日の飯は別に用意する。気にすんな」

 

 そういうと、少女は意を決して、お粥に再び手を付け始めた。先ほどとはちがい、味わうように、ゆっくりと。

 

 ま、今ここで死なれても面倒だし。あからさまに原作関係のキャラだろこれ。ここで逃げられて情報が手に入らなくなる方が俺としては痛手なわけで。

 ただ、俺の中でこんなキャラクターいたかなーどうだったかなー? 状態なのがなー。

 そもそもとして、俺の知識としてある程度具体的な内容までわかるのが聖白蓮復活を目的とした宝船異変の星蓮船まで。名前が分かるだけならクラウンピースとか、サグメ様とかが出てきたところまで。能力はよく分からん。

 

 ただ、その中にこのガリ骨少女は見当たらない。それ以降の作品となるわけだ。

 実際、人里には薬屋の鈴仙・優曇華院・イナバや草の根妖怪ネットワークの今泉影狼や赤蛮奇なども見かけているため、これより先の異変の首謀者、あるいは、解決のための味方がいるのは何らおかしなことではないのだろう。

 ならば、一体なぜ、死にかけていたのか。原作キャラが、本来登場するよりも前に死ぬことが果たしてあり得てよいのか。茉裏というイレギュラーがいるからあり得ても可笑しくはないから、この辺りは確認しておきたい。

 そもそもの話として、この少女の素性は何なのか。妖精か、妖怪か、人間か、はたまた神か。

 

 まあ、なんだ。身なりを見ればなんとなーく予想は出来るものなんだけど。確認って大事だよねってことで。

 

「今日は遅いし、あの様子だと行くところもないんだろ? どうせ俺も独り身だから、しばらくの間はゆっくりしていきな。色々と聞きたいこともあるし。アンタの正体についても、なんとなく察しがついてる。んで、この家の中にいれば、アンタの悩みも多少は緩和されてるだろうから」

 

 ま、信じるか信じないかはあんた次第ってことで。既に外は暗く、白い雪が降り続けている。異変の解決は一体いつになる事やら。

 

 少しだけ開けていた玄関の戸を閉め、火鉢の火を消す。今日の寝具は藁です。藁を適当な布で包み、寝具の代わりにする。少しチクチクとして痛くはあるものの、それなりに寒さは防げる。

 

「それじゃ、おやすみ」

 

 聞いているかは分からないが、少女に一言かけ目を閉じる。

 明日は明日でやることが多くなりそうだ。

 

 それはそれで退屈しなくて済むから、わるくは、ない、のかな。ぐぅ

 




お読みいただきありがとうございます。

次回、妖々夢編終わりとなります。
先に話しておきますと、飛行しなければ参加できないような異変等には一切参加しない予定です。そこででたキャラたちとの絡みは、別で書いていきたいとは思って今すが。

ではでは、また来月にお会い致しましょう。
じゃね~


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第16話 話し相手になってくれねぇか?

悪役令嬢ものの漫画にはまっております。ちゃるもんです。

今回で妖々夢編完となります。
ま、異変に参加してないので短めです。

たまにはこういう話もあってもいいんじゃないかなぁなんて。


 日が昇る。天窓を開けると、人の体温でくぐもった空気が外の空気と入れ替わっていく。さっきまでの温もりはゆっくりと消え、少し肌寒い程度に。

 雲はなく、日はまだ上り切ってはいない。

 

 玄関の戸を開け、一つ大きく伸びと欠伸。視界の端に溜まった涙を乱雑に擦り、今日も一日がんばりますかと気合を入れる。

 

「異変は解決したのかねぇ」

 

 ひょっこりと顔を出したお天道様に聞いてみても、勿論返答なんてあるはずもない。ただ、代わりと言うように、そよ風と共に運ばれてきたのはピンクに白にと色とりどりの花弁たち。

 

「一日でこうなるってのも、日本を代表する花としてどうなのよ?」

 

 森の隙間からちらりと覗く、咲き誇るその花弁の親たちは我先にとその花を遠く、遠くへと進めていく。

 

「次が……確か萃夢想になるんだったか? ま、そのうち嫌でもわかる事か」

 

 玄関近くの桶を取り、水汲みへ。水道なんて便利なものあるはずもない。そのうち作れたらいいなとも思うけどね。ふと、後ろを振り返ると、いつの間にか家の中に入り込んでいた雀に鼻を塞がれている少女が。まあ、寝起きにはちょうどいい刺激になるだろうと無視することに。

 

「今日は、色々話を聞ければいいんだが」

 

 なーんて愚痴りながら、私の朝は過ぎていくのでした。

 

 

 

 時刻は多分午前九時頃。日が完全に昇り、人里が活気を持ち始める頃。私はアルバイトに出かけるのです。

 

「んじゃ、水はそっち。腹減ったらそこの木箱の中に干物類が入ってるから。夕方前には帰ってくるから、大人しくしといてくれな。んじゃ、行ってくる」

 

 本当は彼女のためにも休んだ方がいいのだろうが、連絡手段もないからね。色々信じて行くしかないのだよ。色々買い足しも必要だろうし。主に食料と服。

 

 進みなれた道を辿り森の外へ。妖怪から身を隠すのも慣れたものだ。中国先生に比べたら難易度easyにも程があるというものよ。

 

 さて、妖精たちの悪戯を搔い潜り、門番に挨拶をしていざ人里。

 

「さすが、異変後は賑わってんな」

 

 異変が解決したと同時に賑わいを取り戻す……どころか、より一層の賑わいを見せる人里。桜の花びらと共にあちらこちらから客引き声や笑い声が聞こえてくる。

 その様子を微笑ましげに眺め、バイト先の鈴奈庵へ。まあ、祭り事には無縁の商売だからいつもと変りなく過ごすだけなのだが。

 

「てんちょー、おはようざいまーす」

「やあ、おはよう。どうかな? 異変解決の朝は」

「前回は異変の中心にいましたからねぇ。なにかと新鮮っす」

「普通は異変の中心になんて行こう、なんて考えないからね。自分の命的な意味でも、邪魔にしかならないって意味でも。実力に自信があるなら話は変わるんだろうけど」

「あーあーあーきこえないー」

 

 耳を塞ぎ、何も聞こえていないとアピールする。いや、ばっちり聞こえているんですけどね。

 まあ、言われている通り、俺の行った行動ってのは自殺願望者のそれ。異変の元凶の所に行くのは勿論、異変の真っただ中、外を出歩くのもかなり危険な行動。特に紅魔異変は妖怪が活発になっている状況だったため、割と冗談抜きで死んでいてもおかしくはなかった。紅魔館に着く前にね。

 そういった点で言うと、今回の異変は比較的安全なものだったらしい。比較的、ね。まあ、長い目でみれば冬が例年より長引いたってだけだから。雪も埋もれるほど積もったわけでもないし。それらを、だから、の一言で済ませていいのかは分からんけど。

 

「にしても、解決したはいいですけど、一気に咲きましたねぇ。桜」

「ものの見事に咲き乱れたものだよ。我慢していたものを吐き出しているみたいで、少し薄気味悪く感じてしまうほどにね」

「それは同意」

 

 閑散とした店内をぐるりと見まわし、適当に本の整理を始める。外はお祭り、ここは特に代わり映えのしない貸本屋。平和で日常的なのが一番って事っすな。

 

「あ、そうそう。昨日女の子拾ったんすっよ」

「え?」

「行き倒れてて……って、なんで自分の身体を抱きしめてるんですか」

「ついに犯罪に手を染めてしまったのだね……。いや、何時もこんな美少女と居るんだ、性欲が溜まってしまうのも無理はないか。だが、物事には順序というものが」

「仮に俺が本当に犯罪に手を染め、女の子を誘拐強姦していたとして、気にするのはそこなんだ」

 

 いやんいやんと言いたげに体をくねらせる阿保店長に呆れつつ、行き倒れっすよ行き倒れと訂正を入れておく。

 

「行き倒れねぇ、見た感じ普通の人間ではないんだろう?」

「そーっすねぇ……多分、貧乏神とかその手の不幸を持ってくるタイプかなーとは。いやはや、厄介なもんを拾いましたよほんと」

「で、実際大丈夫なのかい。生活的にも、不幸関係的にも」

「大丈夫じゃないっすかね。多分ですけど」

「自分のことなのに、随分味気ないじゃないか。なんだか、心配して損した気分だよ」

 

 いつの間に淹れたか、湯飲みを手に一息つく店長。

 心配してくれていたことになんとも歯がゆくなりながら、昨日のことを思い出す。

 

「心配されててあれなんですが、特にこれといった、不幸と呼べるようなことには出会ってないんっすよね。ただ、本人の身なりで判断しているだけなので」

 

 穴に落ちただとか、急に雪が雨に変わってびしょ濡れだとか、何もないところで躓いたとか、大きなことから些細なことまで思い当たるものはない。

 拾った時、死にかけだったから彼女自身の不幸体質、能力的なものが弱体化していた。それか、そもそも貧乏神等の特殊な存在ではなく、ただの人間か。

 

 もし後者だとすれば、誰かに捨てられた。あるいは、神隠し的なものに巻き込まれ、解放された直後なのか。

 ただ、神隠しで名高い天狗の面も割れていれば、妖怪退治のエキスパートである博麗の巫女もいる。

 

「神隠しってのは、考えにくいか」

「ん? どうかいしたのかい?」

「あー、そうっすね。ここって神隠しとか頻繁にあったりするんですか?」

「神隠し? そりゃあ、妖怪が跋扈しているんだから、ないことはないが。妖怪の山で天狗に捕まっても、目をつけられるだけで、五体満足で帰ってこれる。人里内で人間を攫うようなマヌケもそうはいない。人里の外なら、有り得なくはないが、博麗の巫女に退治されて終わりだろう。攫われた本人は生きてはいないだろうがね」

 

 おおむね想像通りの内容が店長から聞き出せた。彼女が神隠し等の被害者である線は消してよさそうだ。

 では、誰かに捨てられたパターンはどうだろうか。これも有り得なくはないが、ないと見ていいだろう。なぜか、幻想郷において、人里内で生活していれば衣食住に困ることはまずないからだ。

 そもそもとして、衣食住ともに死にかけだった張本人が、人里の外で未だに健在しているのだから疑う余地もない。程度の差異はあるだろうけどね。

 

 と、なれば。体質的なあれこれで服はおろか、食糧にすら手が届かない存在である。ってのが、まあ、真っ先に思いつくよねって話ですわ。

 じゃあ、それに該当する存在と言えば……? 貧乏神じゃね? って結論に至ったわけ。だからなんだよって話にもなるわけだけど。あの八雲印の結界の中にいれば取り敢えず不幸にする能力ならある程度抑えれるハズ。

 

 俺の知らない妖怪とかで、そういったのが居なければの話ですがね!! 

 

「結局は、本人に直接問いただす。が、正解か。店長ー。今日早めに帰っていいっすかー?」

「別に構わんよ。外がアレなせいで、客なんて来ないだろうしね」

 

 

 

 

 あれから数刻、店内の掃除を終わらせたと同時に店から追い出された。私はわたしでお祭りを満喫しようと思っているからね、帰った帰った。とのこと。変に気を使わせてしまったことに申し訳なく感じながら、帰路についている。

 片手に衣類、もう片手には食糧の入った桶。と、わりとみょうちきりんな格好。風呂敷ぐらいは準備しておくんだった。

 

「ただいまーっと」

 

 野道を歩き、家の戸を開ける。いつもなら何も帰ってこないはずの挨拶に少し胸を躍らせたりしたが、今日も帰ってくることはなかった。

 家の隅で膝を抱え半べそかいてる昨日助けた少女。これ、はたから見たら監禁現場だぞおい。

 

「そんな怯えなくても、取って食ったりしねぇよ。取り敢えず着替え、のまえに風呂に入れた方がいいか。湯、沸かしてくるから。少し待ってな」

 

 ゆっくりとだが頷いてくれたことを確認し、風呂の準備をするために外へと出る。風呂とはいっても、お湯を大きめの桶に移しかけ湯として利用するだけなのだが。

 

「にしても、あの感じ。話を聞くのはもう少し先になりそうかなぁ」

 

 焚火を起こし、その上に鍋をセット。扱いが非常に残念だが、まともな調理場がない以上これが家でできる精一杯である。鍋の中を水で満たし、沸騰するのを待つ。鍋の大きさからして、三回もお湯を沸かせば十分だろう。

 お湯が沸くのを待つだけの暇な時間。になるはずだったが、家の中から少女が顔を覗かせていた。

 

「……どうした? もう少し掛かるからゆっくりしてていいぞ?」

 

 少女は恐る恐るといった具合に、小さく、か細い声で言葉を口にした。

 

「あ、……て、てつ、…………だい」

「てつだい? ああ、手伝えることはないかって事か。そうだなぁ、どうせ今暇なんだ。少しばかし話し相手になってくれねぇか?」

 

 断られなかったのがよほどうれしかったのか、少女は目をキラキラと輝かせ、にへらと表情を崩した。

 さっきまであんだけ怯えてたのに、一体どういう心境なのか。それに、人間では考えられない回復スピード。神様ってこんな奴ばっかなのかね。

 

 ま、ゆっくり知っていけばいいか。

 

 お湯が沸くにはまだまだ、時間が掛かりそうだ。

 

 

 

 

 ゆめをみたの

 あのひとがわたしをだきしめてくれるあたたかくてやさしいゆめ

 わたしだけをみてくれる

 とってもとっても

 あまいゆめ

 

 けど

 ずっとはみてはいられない

 ゆめはゆめでさめるもの

 めのまえにないのならいみはない

 

 ああ

 ああ

 どうすればあなたは

 わたしだけをだきしめてくれるのかしら

 

 ああ

 ああ

 どうすればあなたは

 わたしだけをみつめてくれるのかしら

 

 




お読みいただきありがとうございます。

これ、メインヒロインは一体いつになれば自己紹介できるんですかね?
…………自己紹介いらねえか。うん。

じゃ、また次回お会い致しましょう。
またね~


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第17話 行ってきまーす

ちゃっちゃちゃす

カラオケに行きたいのにコロナで行けないふぁっきゅー

あ、特にここにかくことはないっすはい。
書くことないとこまるよねここ。


 死にかけ少女こと依神紫苑とまともな会話ができた。何気ない会話の中に結構な爆弾発言が多く冷や汗をかき続けていたが、概ね彼女の存在がどういったものなのかを理解できた。

 

 まず、彼女は予想通り貧乏神であるということ。その性質は自分自身にも及ぶもので、その不幸体質がゆえにまともな生活は一切できなかった。また、この性質は他者により一層影響を及ぼすもので、迂闊に誰かを頼れば、最悪不幸が重なり死ぬことすらあり得る。

 あれ? 俺かなり危険な橋を渡ってないか? なんて思いもしたが、現状何も被害にあっていないことから無視することとする。何も聞いていない、イイネ? 

 

 次に神としての特性。死という概念が無いに等しい。それが、貧乏神だけに当てはまるのか、依神紫苑という神に当てはまるのか、神全体に当てはまるのかは不明。少なくとも貧乏神である依神紫苑は死んだ場合、自身の存在に関する知識や、生きるために必要な知識だけを持ち、大人に近い形で生まれる。少なくとも彼女は、死ぬ前のことは覚えていないと断言した。気が付いたら生まれており、ずっと独りで彷徨っていた、と。

 

 もしかした、俺もこれと似た状況になっていたかもしれないと思うと、正直ほっとする。辛い思いをしてきてなお生きようとしている彼女には悪いが。

 

 他にも細々とした事を聞いたり聞かれたりしたわけだが、一つ気掛かりな情報が出てきた。

 

 曰く、妹が存在しているということ。

 

 いやもう、びっくりしたよね。いや、ほんっとうに失礼なんだけど。こんななりで、かつ、あんな場所で死にかけているような奴に妹がいるとは思わないじゃん? 

 しかも、しかもだ。どこにいるのか、どんな姿かたちなのかすら分からず、名前まで分からないときた。

 

 

 …………それはいないって言うんだよ? 

 

 

 だが、依神紫苑頑として認めず。いるの一点張り。いるって事だけわかる妹ってどんな存在だよ。妄想と現実をごっちゃにしてしまっているのかとも思ったが、それにしては鬼気迫る勢いで語ること語ること。挙句の果てには涙目に……。

 

 知り合いに聞いて回ることを約束し、その時は事なきを得た。

 

 と、依神紫苑から得られた情報はこんなもの。そんな彼女との雑談から早三日。特に不自由なく二人で生活を続けている。

 

「みてみてマツリ!! 釣れた!!」

「おー、でっかい鯉だこと。今日の晩飯はこいつだな。どうやって食うのかしらねぇけど。鱗と内蔵とっぱずして煮込めば喰えるだろ」

「えらい?」

「えらいえらい。よくやった」

 

 鯉を両手に抱え、キラキラとした視線を向けてくる紫苑の頭を乱雑に撫でる。最初拾った時はガリガリ過ぎて分からなかったが、背は決して低いわけではない。大人と呼んでも差し支えない見た目をしている。発育、というよりは体全体の肉が少ないことさえ除けば、うん、幸薄そうな美人と呼んで良いだろう。

 風呂に入れてやった時に見たが、体には大きくないものの、少なくない傷跡が見受けられた。修行の過程で出来た俺の痣とは違う、生きていく上で出来た傷。石で削ったのだろうか、枝が突き刺さったのだろうか、何かに嚙みつかれたり、引っ掛かれたようなものもあった。幸いなのは露出しやすい箇所には傷跡が少ないことぐらいか。

 

「外の世界なら誘拐、虐待で逮捕されてもおかしくないなこれ。服も何故か差し押さえの札は何枚か必ず引っ付いてるし。この結界から一歩出れば既に不幸になってるし」

 

 呑気なことを考えながら、今後の対応について考える。

 

 紫苑の不幸体質はかなり強いもののようで、結界の外に一歩踏み出せば目の前に不幸が突撃してくる。いつもであれば近づこうとさえしない大百足の妖怪が木々の隙間を器用に避けながら目の前を通過。その際に服の一部が尻尾の部分に引っ掛かり一瞬にして目の前から消えた。その後、なんとか救出に成功し、これは外には出せないと判断した。

 結界の範囲を把握してもらうべく案内した時も、足先指先を少しだけ外に出してみると、毛虫が指に落ちてくる、動物が蹴飛ばした小石が足の指に刺さるなど、ものの見事に不幸が舞い降りてきた。

 

「まずは、あの不幸体質をどうにかしないとだよな……。紫様に頼めれば楽なんだろうが、連絡手段も持ち合わせてなければ、頼めるほどの度胸も提供材料もない。ってなると、博麗か、レミリア、パッチェ辺りか」

 

 一番友好的なのは紅魔勢なのだが、パチュリーにこの結界の解析をさせてほしいなんて言われたら困る。なぜか、この結界の作成者は紫様。確かに、結界自体を張ったのは俺だが、技術としては紫様のもの。下手に情報漏洩でもしてみなさいよアンタ、私の首がチョンパされますわよ。

 つまり、紅魔勢、ってよりパチュリーは出来ればお願いしたくない。話せば分かってもらえるだろうが、逆に燃え上がられても困るからね。なにそれきになるじゃないむきゅーとかいわれたくないのである。

 レミリアも、パチュリーが付いてくる可能性がないわけではないのでパス。

 

「行くべきは博麗神社か。紫苑もずっと狭い空間に閉じ込めておくのも可哀想だし、解決できるのなら本格的な人手が一つ増える訳だしな。早めに行動すっか」

 

 鯉を水の張った桶に入れ、戯れている紫苑を見ながら、たいして重たくもない腰を上げる。

 

「紫苑。少しでかけてくる。日が沈む前には戻るから、留守番頼んだぞ」

「分かった。いってらしゃい」

 

 にへらと少し寂しそうに笑顔を作る紫苑に、行ってくると微笑み返し家を出る。今から向かえば、遅くても夕方には帰れるか。ゆっくり歩いていくほどの時間はないだろうが。

 

 紅魔異変のときと同様に、脚力を強化する。とは言っても、当時のように全力疾走はしない。帰ってこられるか分からないからね、フルでやっちゃうと。まあ、それでも結構な速度は出るもの。ホップスッテプジャンプで、いつもなら半刻かけて進む距離をその半分以下の時間で移動していく。

 

「到着! ふむ……大体三十分ぐらいか。俺のコントロール技術もなかなか様になってきたんじゃないだろうか」

 

 博麗神社手前の階段に着地。中国先生との修行の成果もあってか霊力のオンオフの切り替えが以前よりも格段に上手くなっているのがわかる。飛ぶ瞬間、着地の瞬間、今強化しているのはこの二か所でだが、もっと細かい動作一つ一つに強化を重ねられるようになれば、さらに燃費よく移動することができる。と、思う。よくわがんね。

 

「さて……っと、上るか」

 

 さすがに、境内に直接降りる勇気はなかったので、何時ぞやと同じく階段を一つ一つ登っていく。軽く肩で息をしつつ、階段を上り切る。以前来た時と変わらず、参拝客は一人も見当たらない。ただ、そこに一人、竹棒で落ち葉を集めている少女、博麗霊夢がいるだけだ。

 博麗はこちらに気が付いたようで、めんどくさそうに近づいてきた。いや、そこまでいやそうな顔せんでもよくねぇです? 

 

「あら、ひさしぶり。やっかいごとを持ってきたって顔をしているけど、どういったご用件かしら」

「ひさしぶりです。そりゃあもう、とびっきりのやっかいな案件をお持ちしたまでですよ」

 

 お互い丁寧に喧嘩を売っている感じになっているが、まあ、そこまで仲が悪いということはない。少なくとも俺はそう思っている。

 俺が、面と向かって買い言葉を放つと、隠すそぶりもなくため息を吐かれた。

 

「はぁ……なんか、嫌な予感がしたのよ。居留守でも使ってやろうかとも思ったけど、アンタにはそれなりに世話になっているわけだし、取り敢えずあがりなさい。外でするような話ならこの場所でもいいけど」

「それじゃあ、お言葉に甘えて上がらせてもらいます」

 

 博麗の後に続き、神社の移住スペースへと足を運ぶ。短めの廊下を進み、居間と通された。

 

「で? そのやっかいごとってのは一体何?」

「端的に言うと、自分の友人の体質、あるいは能力と呼べるそれを封じ込めるお守り等を作っていただきたい」

「ふーん。それをわざわざお願いしに来るって事は普通の人間とかじゃないんでしょ」

 

 目の前の少女はバリバリと煎餅を齧り、もったいぶらずさっさと言いなさいとでも言いたげにこちらに視線を寄越した。

 

「名前は依神紫苑。種族は神。貧乏神です」

「ほんとうの厄介事を持ってきたわねアンタ……。よりにもよって貧乏神って」

「いやぁ、すんません。拾ったのにまた捨てるわけにもいかないし、自宅に張ってる結界の外に出たらもう、そりゃあ酷いことになりまして。だけど、外に出してやれないのは可哀想ですし……。色々と事情をかんがみて、頼めるのがここしかないかなぁ、って。ええ、はい」

「はぁ…………実際にあってみない事には何とも言えないわ。できないことはないと思うけど」

「引き受けてくれるんですか!?」

「……なにかと世話になってるし。無下にもできないでしょ」

 

 妙にあっさり協力を取り付けられてぼくちゃん困惑なう。世話になってるしってんもはあれだろ? 妖怪の残党狩りのことだろ? それは分かる。だけども、無下にできないなんて言われるほど働いた記憶がない。両の指で数えられる、までは言わないが。そう、冗談言える程度の回数に過ぎない。

 それだけ、激務だったということなのだろうか……。にしては、何か引っかかる気が……

 

「取り敢えず、その貧乏神の様子を見に行きましょ。ちょっと、聞いてる?」

「あ、ああ、すいません」

「後ろを付いていくから、私のことは気にせずにさっき使っていた方法で行きなさい」

「分かりました」

 

 短く返事をし、頭を切り替える。どうせ考えても分かんないだろうし、気楽にいくのです。足早に外へと戻り、それじゃあ遠慮なく。来た時と同じように、脚力を強化。あんまり多用すると筋肉痛もその分酷くなってくるのよね。明日が怖い。

 

 来た時よりも少しだけもう少し早く。どうあがいたって帰った段階で俺のスタミナは切れております故。出し惜しみなんてしないんだぜ☆

 まあ、出し惜しみしないなんて言っておきながら余裕で追いつかれてるんですけどね。真上にいるんだよ。なんだよ、空飛べるって反則だろコンチクショウメ。なお、見えなかった。角度的な問題で。

 

 そして、そんな社会への理不尽を感じなら無事帰宅。一瞬、博麗さんが怪訝そうな顔をしていたが、恐らくこの結界の制作者に思うところがあるのだろう。

 

「で、件の貧乏神は」

「近くの水場で釣りをしているか、家の中で鯉と戯れてるかですね」

「なんで鯉と戯れてるのよ……」

「ほぼほぼ子供みたいなものなので。あ、家の中にはいないですね。それじゃあ、また釣りに行ったか。案内します」

 

 家の中は桶の中にぽつりと一匹鯉がいるだけで、紫苑の姿はなかった。

 だとすれば、また釣りでもしに行ったのだろうと先導し移動を始める。木々を掻き分け着いたのは透明な水で満ちた池。広さもそこそこに大きい。妖怪の山方面から伸びた小さな川がここで溜まっているのだと思う。直接飲む気にはなれないので、飲むときは煮沸消毒をしよう。

 

 そんな水辺で糸を垂らす貧乏神の姿。

 

「えーっと、あ、いましたね。紫苑、ちょっといいか?」

「お゛っ!!」

 

 急に声が掛けられて驚いたのか、ビクンと飛び跳ねた。仮にも女なのにそんな叫び声でいいのかおまえ、って思ったけど、割と身近にもう一人似たかよったかの人いたわ。女捨ててる本屋の主人が。

 

「びっくりした……。あれ? マツリ、と、だれ?」

「博麗の巫女さんだ。すこし頼みごとをしててな。で、実際のところいけますかね?」

「そうね……、この強度の結界でどうにかなってるようだし、時間は掛かるでしょうけどいけると思う。ただ、そうね……一つ頼みたいことがあるのだけど」

「自分にできる範囲のことであれば、なんだって協力しますよ」

 

 にしても、想像以上に事がうまく運んでくれたな。安心安心。善は急げ、思い立ったが吉日とはよく言ったものである。

 

「妖怪の山に厄神様、簡単に言えば不幸を溜め込む神様ね。その神様の体の一部を貰ってきて頂戴。髪の毛でも何でもいいわ。直接封印するのは簡単だけど、そういうことじゃないんでしょ?」

「直接封印ってのは……」

「言葉の通り、封印するのよ。もう二度と外に出てこられないようにする。つまり、神として死ぬって事ね。ちなみに、それを受け入れるのであれば、人として生きようとしても一年と行かずに死ぬ。当り前よね。種族が違うのに、無理やりその枠に収めるわけだもの。さ、どうするの?」

 

 決めるのは貴方よと、その双眸は俺を捉えて離さない。

 HAHAHA酷なことを言いなさるお人だ。妖怪の山には射命丸文を始め、犬走椛に姫海棠はたてなど、天狗の巣窟。天狗と俺はほぼほぼ敵対関係。りありぃ? おわかりですかー? だーれがそんなところに好き好んでいかなきゃならんのですかいまったく…………。

 

「はーい。行ってきまーす」

 

 殺されなければいいなぁ…………。既に胃が痛いよたしゅけて…………。

 

 




お読みいただきありがとうございます。

次回! 妖怪の山突撃!! 茉裏死す! デュエルスタンバイ!!

ついでに萃夢想もやちゃおうかなって思ってます。

それじゃあ、また来月お会い出来たらお会い致しましょう。


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第18話 何しに来たんだっけ

うまぴょいうまぴょい

ウマ娘で育成が終わるたびに押しが増えます助けてください。



 皆さま、私は今妖怪の山に来ております。厳密に言えば、妖怪の山の麓。まだ妖怪の山には足を踏み入れておりません。いや、そんなほいほい入れるようなところじゃないんだって。マジで。

 人里の外ですら人間のテリトリー外なのですよ? 妖怪の山とか、もう、名前のまんまじゃん。やばいじゃん? 殺されるじゃん? 死ぬじゃん? 

 

 ファ──!! 

 

 それに加えてワタクシと天狗様方はほぼほぼ敵対してますしおすし? 死ねと申すか? しねともうすか? 

 

 いや、ね? 俺も結構悩んだ末ここまで来てるのよ。ただ、考えなしに突っ込んでるわけじゃないんすよ。いや、天狗に対しての対抗策とかそう言った話ではなくてね。天狗の山に突撃した場合のメリットデメリット的な話ね。そもそも、俺が天狗にかなうわけがないじゃないですかヤダー。

 

 んで、メリット。人手が増える。うん、これめっちゃ大事ね。俺の生存率が上がるし、食材の調達がしやすくなる。二人でお手伝いに繰り出せば、その分効率がいいからね。仲間獲得イベみたいなもんだな。

 んで、デメリット。結構な確率で俺が死ぬ。

 

 うん……。何回も言うけどさ、うん。俺が生きてるのって生きていたいからなんだわ。うん。何が言いたいかって言うとさ……。

 

「デメリットがッ直球すぎてきついんだわ……ッ!!」

 

 なぜ生きたいだけの俺が、失敗すれば即首チョンパなところに突撃せなあかんのじゃ状態である。

 これでも三日三晩とまではいかずとも、二日ほど寝ずに悩み抜いた結果なのよ? 

 

 で、出した結論がいざ妖怪の山ってだけで。

 

 これがさー、特に関係のない奴とか、手を貸してない奴辺りなら見捨てられたよ。絶対とまではいわないけど、多分見捨ててた。少なくともレミリアとか慧音先生とかのほかに頼れる相手がいて、かつ、自分自身もそれなり以上の実力者なら間違いなく見捨ててるね。小鈴店長なら、慧音先生を頼るって方法がある。

 

 けど、けどさ? アイツ、依神紫苑に限って言えば実力は未知数だろうけど、家の結界の外に出れば即不幸。妖怪の山にたどり着くことが不可能。実力が未知数とか関係なし。で、頼れる相手は死にかけの紫苑を拾った俺だけときたもんだ。そりゃそうだわな、自身の不幸体質で人に頼らず何とか生きてきてんだから、頼る相手なんている筈がねえ。妹がいると豪語してはいるけど、じゃあどこにいるねんって話だし。

 

 いや、わかってるんすよ? 

 博麗の巫女さんに頼って、向こうが善意……かどうかは知らないけど、二つ返事で了承してくれている時点で逃げるなんて選択肢はないってことぐらい。

 

「ほんっと、せめてもう少し準備期間があれば……。今からでも誰かに頼る、いや、下手に借りは作りたくないし……、いくっきゃない、か」

 

 ずっとうじうじぐだぐだしてても意味なんてないのです。愚痴は別ね。俺の精神安定剤だから無意味じゃないのです。

 

「はじめのいーっぽ」

 

 一歩山へと足を踏み入れれば、そこはまさしく異界。おびただしい数の視線が唐突に襲い掛かってくる。はい。既に帰りたいです。下手な動きをしてみろ、即座にその首を撥ねてやる。そう言わんがごとき、視線の攻撃。こりゃ、里の人も出来る限り近づきたくないわけですわ。

 

 背中に流れる汗を感じ、額に滲む汗をごく自然に拭う。本当に自然にできているかなんてわかる訳もないが、そうでもしなければ、冷静さを失うのは嫌というほどに理解できた。

 

 妖怪の山は天狗が管理している。端的に言えば、天狗の縄張り。そこに無断で入っているのだから、敵対もくそもなく、余計なことをすれば殺される。敵対しているからとか関係なしに、来るべきではなかった。

 

「で、帰れればどれだけいいか」

 

 自然に、一つの行き先を目指し歩を進める。ギラギラと体を射差す視線は途絶えることはなく、増えていく一方。なにより、こちらからは視線の主が見えないのだから、余計に気味が悪い。

 未だ手を出されていないのは、行き先がとある場所に向いているからに過ぎない。

 天狗の縄張りである妖怪の山は、ピラミッド形式で社会が構成されている。一番上に天魔、その下に大天狗や鴉天狗、さらにその下に白狼天狗。そして、さらにその下、というには少し違うが、特殊な役割を担う存在としてピラミッドの外に位置するのが河童の技術者達。今向かっているのは、その河童の工房だ。

 

 河童は好奇心旺盛で、色々なものを作っては売っている。外の世界のものにもかなり興味を持っているようで、外から流れ着いたものを買い取ったりもしているようだ。人里の紙が上質なものだったことに、以前気が付いたが、それも河童が一枚かんでいるとのこと。

 河童は人間のことを盟友と呼び、人間はそんな河童たちに寄り添い、支える。河童たちが人間と仲良くしてくれていれば天狗が面倒ごとに巻き込まれることも少なくなる。

 他にも多くの取引などがあるみたいだが、大まかに説明すればこんな感じ。

 また、一部の人間は天狗たちとから認められ、山に山菜を取りに行くことができるとかなんとか。

 

 ちなみに、秋姉妹や今向かっている鍵山雛たちは完全に別の枠組みに位置する。

 流石の天狗たちであろうと神様たちにはおいそれと手を出すことは出来ない。つまり、そういうことなのだろう。

 

「ここで曲がって、真っすぐっと。水の音もするしビンゴっぽいな」

 

 一回り小さい木を目印に曲がり、そのまま真っすぐ歩く。だんだん大きくなる水の流れる音と共に視線はゆっくりと弱まっていった。取り敢えずは、問題なし。そう判断されたのだろう。

 雑木林を抜け、土道からごろごろとした石の道。目の前には空の色を落とし込んだかのような綺麗な川。そっと近寄ってみれば魚の影が飛び跳ね波紋を広げ、落ち着いたころには、鏡をのぞいているかと錯覚してしまうほどくっきりと自身の顔を写っていた。

 水を手で掬ってみれば、驚くほど冷たい。

 

「山の川が綺麗なのはなんとなく知ってたけど、元の世界でもそう見ることは出来ないレベルなんだろうな」

 

 この水で喉を潤せれば、なんて思ったが流石に怖いのでやめておく。里で売っていた竹の水筒から、自分で煮沸消毒したものを喉に流し込む。

 

「人里の人間ほど体が頑丈って保証はないから、用心するにこしたことはない。けど、やっぱちょっと寂しいよなぁ」

 

 河童にあったら、ここの水が飲めるのか聞いてみることを心に近い、川の上流を目指す。そう遠くないところに小さな小屋があると聞いていたが。

 木々の隙間にちょこんと鎮座する我が家より一回り小さな小屋を見つけた。

 

「あれ、だよな」

 

 不安を抱きつつ、辺りを見渡してみるが他にそれらしき建造物はない。我が家もかなり古めかしく不気味だが、これはまた違った不気味さを感じる。

 日が当たる川の近くから、日が当たらない小屋の前へ。近づいて分かったがとんでもなく油臭い。創作物の中に登場するジャンク店がこんな感じなのだろう。

 

 臭いとは裏腹にそこまで汚くない取っ手を握り、ゆっくりと手前に引いた。

 

「おうっ……。これは、なかなかキツイ」

 

 想像以上とまではいかなくとも、概ね想像通りの臭いのキツサに思わず鼻を塞ぐ。なにか実験でもしていたのだろうか、天井付近を赤黒い煙が…………いや、やばくねこの状況? 

 

「ちょちょちょちょちょい!!! え!? これだいじょうぶなやつじゃないよねこれ!?!?」

 

 全速力で扉から離れ、外に流れ出ていく煙を茫然と眺める。気分はさながら、火事を見守る野次馬だろうか? 少し違う気がする。

 煙は天高く登ってゆき、高くなるにつれ薄くなって見えなくなっていく。が、小屋から漏れ出てくる煙が止まる気配はない。見た感じ、火の手は上がってなく火事などではない。

 

 いや、冷静に分析してるように見えるけど実は僕動けないんですよ。はい。精神的にーとか、こしがぬけたーとかって訳じゃなくて物理的にね? 

 いや、だって、目の前に抜き身の剣。なんていうんですかね? 半月刀ってやつですかね? を構えられたら誰も動けんでしょ。

 

「なにをしたのですか。返答次第によっては……分かっていますね?」

 

 剣の持ち主は、犬走椛。千里先を見通す眼をもつ白狼天狗。原作にも出てきたキャラクターの一人。上司であるクソ烏こと射命丸文に振り回されている不遇なキャラだ。二次創作では、あやしゃましゅきしゅきか、死ねクソ上司の二極なイメージがある。

 剣を握る反対の手には、紅葉マークの盾。木製ならとも思ったが、金属盾のようなので、一発逆転を狙うのは厳しそうである。しかも、完全に優位で、相手は非力な人間だというのにしっかり体を隠すように盾も構えている。

 

 念のため、意識は銃のホルスターへと向け、弁明を始める。

 

「おーけー。いったん落ち着いて話し合おう。と、言っても俺から提言出来るのは、あの煙と俺は無関係だって事だけなんだがな」

 

 どうする……? ここで、相手の情報を知っていることを提示して、八雲と博麗の関係者って事も明かした方がいいか? 

 いや、そもそもコイツとは完全な初対面ではないはず。射命丸文との交渉(笑)のときに居たはず。だとすれば、こっちの情報を脅しのように使うのは悪手、か? 

 向こうが覚えていてくれれば楽なんだがはてさて。

 

「……里の外で暮らしている人間?」

 

 ビンゴッ。少なくともこれで下手に手出しは出来ないって認識されるハズ。向こうが、俺の素性を知っていればの話だけど。

 

「お、知ってました? てか、一度お会いしてますよね? 直接顔を向き合わせたわけじゃないけども。クソ烏……んっんっ、射命丸文さんと俺が話しているとき、後ろで見てましたよね?」

「…………ああ、あの時の」

 

 反応的にはこっちに大した興味はない。すこし懸念は残るが、思っていたほど敵対心は持たれてない様子。上の連中がそうとも限らないけど。

 

「わりと、内容的には馬鹿にできない話してたんだけど、あんまり興味なかった感じです?」

「なかったな。あの時も文様に、後ろで殺気立ってるだけでいいからと無理やり連れていかれたに過ぎなかったので。おかげで私の貴重な休日は……思い出しただけで腹が立っていけませんね」

「思い出させたのは素直に謝るから、取り敢えず力むのはやめよう? ちょっとあったってるまじでこわいから」

「おや、これは失敬」

 

 剣の先が胸板に少し刺さった。いたいです。

 ただ、こっちの素性が分かったから剣は降ろしてくれた。あと、多分これ、この犬走椛さんは射命丸のこと嫌いだわ。

 

「いけませんね。いつも理不尽に振り回されているので、感情の制御が。ふぅ。それで、あれは貴方の仕業ではない。そういうことですね?」

「ああ。まったくもって無関係だ」

「分かりました。貴方の言葉を信じましょう」

「やけにすんなり信じるですね」

「まあ、知ってましたから」

 

 うんまあ、だろうね。彼女の能力ならそりゃあ知っているだろうよ。

 

「ただ、一つ手伝ってほしいことが」

「天狗様が人間に手伝ってほしいなんて、一体なにようです?」

「貴方とは同じ臭いを感じます」

「それは俺も感じてた。無理やり連れていかれたって下りで確信した。茉裏だ。よろしく」

「では、マツリ。あれ、どうにかしてください。臭いがきつ過ぎて、私含め他の白狼天狗達もこれ以上近づけません」

 

 あー、なるほど。白狼って言うぐらいだからそりゃあ鼻もいいわな。

 どうりで、他の天狗も来ないわけだ。

 

「クソ烏迷惑仲間の頼みとあらば。正直行きたくないけど、頑張ってくる」

「ぜひ、頑張ってください」

 

 そういって、一目散に飛び出し後ろの川に顔を突っ込む犬走椛。人前でなりふり構わずってことは、相当つらかったんだな。

 骨拾ってくれよと言ってみたら、水に顔を沈めたまま親指を立てられた。こっちにもそのハンドサインあるのね。

 

「行くか。妖怪の山に入る時に感じていた物より怖いけど、行くか」

 

 そして、再び小屋の中へ足を踏み入れるべく俺は進む。背には川に顔を突っ込んでいる天狗。前には未だ赤黒い煙を吐き出し続けている小屋。いま、その煙の核心に迫る!! 

 

 

 

 

 …………俺って何しに来たんだっけ…………

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

椛の臭がり方が過剰過ぎないかって?
世界には、臭すぎて失神したりとかって事例もあるんやで。

あと、この世界の椛は射命丸文ふぁきんなタイプです。

では、また来月お会いしましょう。
じゃあねええ!!


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第19話 俺の目の前に咲くそれは

わーにんぐ!!
今回クッソ短いくせに内容がくっそうすいです。

いやー、単純におもいつかなかったよねうん。しょうがないねこんな日もあるさHAHAHA


 眩しい光が顔を照らす。それを不快に感じながら、重たい瞼を持ち上げた。空いた窓から差した光が自分を照らしている事に気が付くことに数秒かかりながら、気だるい体を無理くり起こした。

 やけに痛む頭を抱え、おぼつかない足をかばいながら今いる場所を確認する。

 

「おれ、あれ? ここ、は」

 

 揺らぐ視界の端に最近見慣れてきたくすんだ青色の髪。それを認識できたと同時に胃の奥から込み上げてくる気持ち悪さ。咄嗟に口を両手で塞いだ。外の光が漏れている扉を、無理やり押し開け、外に飛び出ると同時に胃の中のものをぶちまけた。

 

 ひとしきり吐き戻した後、むかむかする胸を不快に思いながら現状を整理する。

 やけに水っぽい吐瀉物は土で軽く埋め、地べたに座り込む。

 

「家、だよな。くっそ、あたまいてぇ」

 

 夢なのかとも思ってしまうが、それにしては体に起きている不調はやけにリアルだ。

 ぐわんぐわんと直接揺らされているかのような錯覚を覚えつつも、昨日の記憶を思い出していく。

 

「俺、昨日何してたっけ……、確か、妖怪の山に行ったはずなんだよ。そう、厄神様の髪とか貰いに。それで、それで……、小屋を見つけて、赤い煙が出てきて、犬走椛とあって、中にいた、誰かを助けたんだよ。だれかを……誰だっけ」

 

 意外と思い出せて入るものの、途中から記憶が途切れ始めた。原因はやはりあの赤い煙なのだろうか。と、痛む頭と格闘していると、後ろから声を掛けられた。

 

「おはよ、まつり」

 

 まだ寝ぼけているのか、声に覇気がない。しかし、しっかりと鼻をつまみながらこちらを半開きの瞼で見据えていた。夢ではなさそうだ。

 

「ふわぁ…………ん。取り敢えず、水でも浴びてきたら? すごい臭いだよ。お酒臭い」

「酒臭い、どうりでこんなに気持ち悪いわけだ」

 

 紫苑の指摘に従い、池へと向かい頭から被る。容赦のない刺激が強制的に頭を叩き起こした。

 

「つっめた」

 

 頭痛が治ることはなかったが、完全に目が覚めた。手早く体を拭い、服を着る。風に当たりすぎて風邪をひいたら元も子もない。外に大きめの釜戸とか作れたり出来れば肩まで浸かれる風呂の準備も出来そうなものだが。近くにもう一つ小さな池を作るって手もあるのか? ちょっと考えてみよ。

 

「にしても、酒臭いか。ってことは、酔っぱらったまま帰ってきたってことだよな。それも、記憶が混濁するほど。てか、目的のものは手に入れて帰ってきてるのか?」

「目的のものって何さ?」

「そりゃあ、厄神様の髪の毛とかなわけだが……あー、なるほど?」

 

 おーけーおーけー、何のリアクションも取れなかったが一発でほぼすべての状況を飲み込めたぜべいべー? 

 服を着て、さあ帰ろうとしたときに出た独り言。それに、さも当然のごとく返事が返ってきたため、ごく自然に返事を返した。するとどうだろうか? 瞬きをした瞬間、目の前には麗しい幼女の姿が!! 

 

 背はかなり低く、小鈴といい勝負をしている。白のノースリブで華奢な腕は相手が誰であるか知っているがゆえに信じられないの一言しか出てこない。腰と両手首には鎖が巻き付けられ、その先に丸、四角、三角の分銅が釣り下がっている。薄い茶色の髪は腰にまで届き、頭には大きな赤いリボン。そして、頭の大きさに不釣り合いで、その存在を絶対的強者であることを証明する角。大きく捻じれた二本の角。

 

 幻想郷最強種、鬼。それも、鬼の四天王の一角。鬼の頭領とされ、鬼の中では一番の実力者とも考察されるほどの存在。

 その名は、伊吹萃香。

 あの吸血鬼にすら果敢に立ち向かった天狗が、立ち向かうことすらせず尻尾を巻いて逃げ出してしまうほど、といえば多少はそのヤバさが伝わるだろうか。

 恐らく抑え込んでいるであろう重圧は、幼女状態のレミリアの本気に近い気がする。むっちゃにっこにっこしながら呑気に瓢箪あおってるけど、割ときついのでさっさとどっか行ってくれませんかね? 

 

「厄神、雛のことか。そういえば昨日もそんなこと言ってたような言ってなかったようなー。どうだったけ? おもいだせないやあっはっはっは!!」

「あっはっはっは!! いや、あの、何しに来たんです?」

「何しにって、アンタが言ったんだろ?」

 

 雲行きが怪しくなってまいりました。状況飲み込めたぜとか言っときながらまさかのまさかですかこれ? 

 最初の予想としては、河童の工房で河童を救出。その後、伊吹萃香を主犯とした萃夢想勃発。それに巻き込まれ、大量の酒を飲んで記憶もなくなっちまったぜてへぺろ。だと思ってた。が、目の前の幼女の口ぶりからすると…………

 

「宴会が少なかったら自分で始めればいいってさ!! 昨日は妖怪の山の連中だけだったが、今度はもっと範囲を拡大して賑やかにしたいな!!」

 

 目をきらっきらさせつつ、子供のようにはしゃぐ鬼の頭領。具体的になにが起きたのかまでは把握は出来なかったが、恐らく思い出せない記憶の中で余計なことを口走ってしまっているのだろう。

 正直、断りたい。理由としては二つ。一つは、俺が提案してしまっているといこと。記憶はないがな! 

 もう一つは、下手に断って反感かってもイヤじゃん? わんちゃん死よ? これ、死よ? 

 

「そうと決まれば、早速行くぞ!!」

「あ、今からっすかそうですかはいわかりました」

 

 体格さなんてものともせず小脇に抱えられた。帰ってくるのが遅くて心配になったのか紫苑が木の影から顔を覗かせているが、時すでに遅し。軽く跳ねるような跳躍で僕は既に雲の上。見えているかは分からないが親指を立ててサムズアップだけはしておいた。

 

「あのー、一体どこ向かってるんですかね?」

「そうだなぁ、今年は宴会そのものだが、何より花見が少ない!! 花見がしたいな!!」

「花見っすか」

 

 優雅に空を飛びながら、豪快に酒を飲む伊吹萃香。いや、車とかじゃないんで何も言えないんですけどぉ、マジで安全運転でよろしく。二日酔いで頭痛いからマジで。

 

「そうと決まれば、神社か山か。山だな、うん」

「山ってーと、妖怪の山です?」

「そうだよ。元は私の縄張りだから文句も言われないだろ。言ってきてもぶっ飛ばすけど」

 

 天狗さんご愁傷様でーす。素直にそう思うしかなかった。

 だが、桜ももう散り掛け。異変の関係で完全には散ってはいないにしても、花見をすると言うと迫力に欠ける気がする。

 

「そこは、私の力でちょちょいのちょいさ。後で見せてやるよ」

 

 手をぐーぱーぐーぱしながら意地悪な笑みを見せる。この辺りだけを切り取れればなんと可愛らしいことか。少なくとも成人男性一人を抱えながら見せるものではない。

 

「さて、到着だ」

 

 妖怪の山、中腹より上辺り。大きな湖畔の近くに、一本の大きな木。既に美しい緑の葉をつけており、桜とは全くの関係を持っていなさそうである。

 だが、目の前の鬼は言ってのけた。私の力でと。

 

 伊吹萃香の能力。原作基準で書くならば『密と疎を操る程度の能力』

 分かりやすく簡潔に説明すると、物体の集合、拡散を操る。その能力で、自身の体を山よりも巨大に、あるいは塵よりも小さくし、時には霧のように薄く、時には多重影分身も真っ青な分裂をしてのける。

 勿論それは、自身に限ったことではない。集めて集めて集めて集めてブラックホールの出来上がり。

 別けて分けて別けて分けて分子レベルまで細切れに。

 

 具体的に、この世界の伊吹萃香がどの程度まで出来るかは分からない。ただ、一つ言うなれば──―

 

「さーぁあて、宴会の始まりだ!!!!」

 

 ──―俺の目の間に咲くそれは、紛れもなく満開の桜だったってこと。

 




お読みいただきありがとうございます。

いやー、うん。次は頑張る。
…………ここからどうしようか(困惑)

まあ、来月の私がどうにかしてくれることでしょう。
そう、信じて
ばいちゃ~


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第20話 打って変わった静かな宴

最近、ウマ娘のSSが増えてきましたね。良いことだ。
ただ、どうしてしっとり系やシリアス系の作品しかオススメに出てこないんでせうか?


 雲が時折俺たち二人に影を落とす。空はまごうことなき晴れ模様で絶好のピクニック日和と呼べるだろう。時刻も恐らく午後を回っていない、そんな中で、俺は両手で抱えるほどの盃を手に並々に注がれた酒をいったいどうやって処理するかを考えていた。

 

 飲もうと思えば飲める量ではある。ただ、見た限りとんでもなく度数が高い。なんだよ、嗅いだだけで目が染みるっておかしいだろ。

 

 少し口をつけてみたが、思っていたほど辛口というわけでもなく、かと言ってくせが強いとかそういうことでもない。美味しいというほどでもない。

 言うなれば、簡単に酔うためだけに作られた、特に面白味もない酒。目が染みるのさえ我慢すれば、全然飲み干せてしまえる。付け加えれば、この酒自体は伊吹萃香の持つ瓢箪から無限に溢れ出る。そして、彼女は俺と同じ盃を何度も飲み干している。

 

 ……これ、私の酒が飲めなってのかい!? みたいな展開になったら俺って殺されんのかなぁ……。多分、昨日の俺もそれが嫌だから記憶が飛ぶまで飲んだんだろうなぁ。容易に想像できる。

 

 取り敢えず、愛想笑いを絶やすことを忘れずちびちびと酒を口に含む。昨日の今日で記憶をなくしたくはない。どうにかしてこの場を切り抜けねば。

 喉が焼けるような感覚に顔をしかめていると、やけに上機嫌な伊吹萃香の手が俺の背中を二度、勢いよく叩いた。

 

「いやー、にしても昨日も驚いたが、やっぱりアンタいいねぇ!!」

「ゲホッゴホッゴフッ!!」

「おっと、わるいわるい。いかんせん人間相手だと加減が難しくてねぇ」

 

 突然のことに酒が気管に入りむせ返る。伊吹萃香は、それに悪いと感じたのか、俺の背中をさすっていた。まだ微妙に苦しいが、もう大丈夫だとジェスチャーで返し、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「えっと、驚いたって、どういう事ですか? その、申し訳ないんですけど、昨日の記憶があまりなくて、ですね?」

「ああ、通りで微妙に会話が嚙み合わないわけだ。単純な話だよ。鬼と酒を飲みたがる人間なんてそういないって話さ。人間に限った話じゃない。天狗や河童も、ね。遠回しに断るか、いざ相席しても、仕草から滲み出る感情ってのはどうあっても、感じ取れるものでね」

 

 寂し気に語る伊吹萃香の横顔に、一つの思いが浮かんできた。

 

 

 ──―すんません、俺もわぁっりッと嫌です。命の危険を感じるような酒の身なんて割とマジで嫌です。

 

 

「だから、いつもは皆が盛り上がっている所を肴に一人で飲んでいるんだ。それも、割と寂しいものだけどさ」

「ないよりはマシ」

「そういうこと。だけど、今年はそれも少なかった。異変の直後なんだ。仕方ないとは思うようにはしていたんだけどね。そんな時、アンタを見つけた。赤い煙の中から、フラフラになりながら河童を担いで小屋の中から出てくるアンタを。

 河童を助けたってよりは、妖怪の山で訳の分からないことをしている人間に興味がわいた。酒の肴になるかも、てね」

「それで、酒を進めたわけですか」

「そう!! アンタは嫌な顔一つせず私の差し出した盃を受け取って、一気に飲み干したんだよ。今思えば、あの煙のせいでよく分かっていなかったのかもしれないねぇ。今も、少しずつ飲んでいるみたいだが、この酒は私の力で圧縮されてる。私自身が酔うためだけにそうしてるんだが」

「できればそんな状態の輩相手に酒を進めないで頂きたいです」

 

 そういうなって、と豪快に笑い飛ばされながら、盃に視線を落とす。透き通った液体は太陽の光を反射し、空の雲を時折映し出す。角度を変えれば緑の山も、満開の桜だって映し出す。

 だが、結局はただの酒。そう、度数の高いただの酒なのだ。少なくとも、幻想郷の中では酒に弱い部類に入る人間が顔をしかめながら少量ずつであれば飲める程度のもの。いくら、鬼の差し出した酒を飲んだというだけで、彼女が驚く要素は思い当たらない。口ぶりからして、飲み仲間がゼロというわけでもなさそうだし。

 だとすれば、べつの驚く要素があるはず。

 

 たとえば、このお酒には私の妖力が練りこまれてて、普通の人間が一気でもしようものなら死んでしまうとか。

 流石にべた過ぎるか!! 

 

「その酒には、私の力が溶け込んでてね。妖力って言った方が分かりやすいか? 博麗の巫女だとか、人の道を外れた奴とか、神様の加護でも受けてない人間が一気飲みでもしようものなら死んでもおかしくない代物なんだよ」

 

 自分でフラグを立てて、ものの見事に回収するととても悲しい気持ちになるんですね。わぁあい。

 

「すっごい手に持っているものを投げ捨てたい気分なんですけど、どう思います?」

「私の酒が飲めないってのかい?」

「すっげぇ理不尽なんっすけど……」

「あっはっは!! 少なくともその程度の飲み方で死にはしないよ。アンタはね。今日、アンタの寝床に行って確信した。おまえさん、紫の駒だろう?」

 

 あ、わかります? 流石の大妖怪と言うべきか、特に俺の話題を出していないにも関わらず正体がバレてしまった。大げさに隠してるわけでもないけど、バレたらバレたでちょっとドキッとしちゃうね。

 

「紫様とはご友人かなにかで?」

「むかし、コテンパンにやられた事があるだけだよ。今は飲み仲間だ。最近はとんと見てないが、アイツは元気にしてるのかい」

「少なくとも、こんな弱っちい駒を一つ救い上げる程度には元気みたいですよ」

「そいつはよかった」

 

 少しくらいは弱っちいってところを否定してほしかった。いや、この方に比べたらワタクシなんてミジンコ同然なので何も間違っちゃいないのですが。

 てか、この酒案の定劇毒同然の代物だったんですね。飲まなかったら殺されて、飲むんなら死ぬ。それなんて無理ゲー? ま、まあ? 少しずつ飲む分にはゆっかりんの庇護下にあるワタクシめは? 大丈夫らしいので!? 

 ひ、ひひ、震えてやがるぜ……この盃を持つ手がよぉ……!! 

 

 いや、でもまあ、酒を飲むこと自体は体によろしくない事なのでたいして変わんねぇか。うん。そう信じよう。

 

 盃に付けた唇から、口、喉を通り、胃の中へ。熱い刺激と共に、ほんのり気分が高揚する。お酒の力ってスゲー。

 

「もう少ししたら山の連中が集まり始め、ここでどんちゃん騒ぎの宴会。そしたら今度は里の奴らが、騒ぎはじめ、里の明かりはより煌びやかに。獣たちは歌うかのように雄たけびを上げ、虫たちは羽を鳴らす。そして、私たちは、それを肴に酒を飲む。それに、今夜は隣に飲み仲間もいる。さいっこうに楽しみだね!!」

 

 最高に無邪気な顔で、盃を飲み干す伊吹萃香。

 恐らく、彼女はかき集めた宴会の席に座る事はしないのだろう。でなければ、わざわざ飲み仲間なんて言わずに、私も宴会に参加できる。といいきってしまえばいい。それだけの力を彼女は持っているはず。まあ、嫌な顔をされながら一緒の卓を囲むのは誰だって嫌か。

 ふと、盃に写る自分の顔が見えた。露骨とまではいかないまでも、十二分に嫌な顔、しかめっ面をしている。

 

 ……

 …………まあ、たまには、いいか。いいよな? いくぞ? いくぞ!? 

 

「はぁ、博麗の巫女や紫様に怒られても知らないからな」

 

 意を決して、盃の中身を一気に喉へと流し込む。先ほどとは比べ物にならない。アルコールというものが直接喉へとへばりつきむせ返る。幾度かせき込んだのち、盃に視線をやる。中身は半分を切り、空を映し出していた水面には、唾液が入り混じり、絶妙に汚くなっていた。

 

「飲みやすくはあるけど、如何せん味が……。酒初心者にはもうちょっと優しいのを準備してくれよ」

 

 急に砕けた、というか馴れ馴れしくなったのに驚いたのか、はたまた、死ぬと言われた酒を一気飲みをし始めたことに対してなのか。あるいは、その両方か。

 伊吹萃香の目は大きく見開かれ、口は半開きになっていた。取り敢えず、酒が零れている盃を奪い、地面に置く。無限に出せるのかもしれないが、食べ物、飲み物を粗末にするんじゃありません。

 

「いや、だって、おまえさん」

「茉裏。昨日、もしかしたら自己紹介してるのかもしれないが、俺の名前は茉裏だ。アンタの新しい飲み仲間だ」

「…………茉裏、茉裏か。うん、気に入った!! 鬼の私相手でもそのふてぶてしい態度!! それにその飲みっぷり!! 気に入った! 気に入ったよ茉裏!! 

 私は伊吹萃香。鬼の萃香だ!!」

 

 見た目相応のはしゃぎっぷりを発揮する萃香。地を駆け回り、木をなぎ倒し始めた所で、流石にストップを掛けた。地殻変動を起こすな。

 

「さて、鬼の萃香さんや。私はあなたの何時も見ている景色とやらを味わってみたい。飲み仲間。いや、なんか一々飲み仲間っていうのもなんか嫌だな。別にそれが悪いって訳じゃないが。うん、俺は君の友として、君の世界を共有したい」

「ああ!! ドンっとまかせな!! さあ、始めるよ」

 

 胸を勢いよく叩き、何やら集中し始める。多分だが、能力の強制力を高めているのだろう。目に見えた変化こそないものの、近くにいるだけで肌が焼かれるような感覚に陥る。

 

 一秒、二秒、三秒…………心臓が十回ほど跳ねたのと同時に、妖怪の山に陰りが落ちた。まだ日が沈むような時間ではない。かと言って、大きな雲が太陽の光を遮った。そういった話でもない。

 では、影の正体は一体何なのか? それは、翼だ。天を覆いつくす天狗の軍勢。何時ぞや見た大戦争のときを彷彿とさせるそれは、一斉に俺と萃香が呑気に座っている場所目掛け一斉に移動し始めた。

 

「さ、私たちも移動しようか。茉裏となら、あの中に混じってもいいと思えるが、今日は私と二人っきりだ」

「萃香の見ている景色を見る。そういったのは俺だ。後悔もクソもありゃしねぇよ。むしろ大歓迎だぜ?」

「まったく、嬉しいこと言ってくれるじゃないかこの人間は」

 

 萃香の小脇に抱えられ、満開の桜の木、そのてっぺんに二人で腰を下ろす。下を見れば、既に天狗たちが集まっており、なんだなんだとざわめき声が聞こえてきた。

 

 萃香が一口酒を含む。それを霧状に噴き出した。ゆっくりと天狗たち、ひいては人里方面、幻想郷を覆いつくそうとするその霧が地面へと落ちると同時に皆が皆騒ぎ始める。酒だつまみだと各々が一度飛び立ち、すぐさま両手いっぱいに酒や食材を抱え戻ってきた。

 

 やいのやいの、酒は持ったかつまみは足りるか無礼講だ飲めや歌えやどんちゃん騒ぎ。

 

「確かに、これはなかなか見ていて飽きない」

「だろ? さ、私たちも」

 

 盃を掲げ、互いにぶつけあう。下の宴会とは打って変わった静かな宴。

 桜に、夕日に、月に、喧騒。どれ一つとっても物足りなさは感じない。たった一人、隣で飲みあえる友が居れば、それ以上の肴は必要ない。

 それはそれとして、いつの間にやらかっぱらってきたきゅうりの漬物を口に運ぶ。

 

「うん。うまい」

 

 

 

 

 

 え? その後はどうしたのかだって? 

 宴会は夜まで続いて、流石に怪しんだ紅白コンビに二人して説教されましたが? 

 え? そもそもなんで急に態度が変わったのかだって? 

 酔っ払い相手にマトモに対応する方が馬鹿らしいっしょ? 

 

 ま、そんなゆるい日があってもいいんじゃないかってね。

 そんなもんなんだよ。そんなもん。

 




お読みいただきありがとうございます。

萃夢想むずかしいんじゃぁあああああ!!!
いやだって、そもそもとして、異変の内容よく分からないし。場所どこだよ調べても出てこねぇえよふざけんな。

ま、次のウサギさんたちが頑張ってくれることでしょう。

ほいならね~


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第21話 いくら何でもスパンが短すぎませんかね?

インターネットの動作がなんかおかしいけど、私は元気です。

最近、書いてる途中で何を書きたいのかが分からなくなることが多いです。
ウマぴょい書きたいフジキセキとかナイスネイチャとのイチャイチャ書きたい。


 大宴会の翌々日。俺は人里を統べる名家、稗田家へ訪れていた。理由は簡単。あの大宴会の参考人として、異変の全容を伝えるためである。

 

 昨日、数日ぶりにバイト先である鈴奈庵へと出勤。もともと、出勤日が決まっているわけでもないが、これだけ休んでいても、店主様は快く迎えてくれた。

 久しぶりじゃないか、一体今度はどんな面倒ごとに首を突っ込んで来たんだい? と、会話が始まり、ちらほらと訪れるお客の対応をしながら。ここ数日間の出来事を愚痴るように吐き出していた。

 それを、小鈴店長は笑いながら聞いてくれた。こんな風に、何の気兼ねもなく話せる相手というのは本当に大切なものだ。そう実感していたのだが、聞いていたのは小鈴店長だけではなかった。他のお客もいるなかべらべらと会話を続けるのもどうかと思うが、そのときいたお客が悪かった。

 

 お客の名は、稗田阿求。人里を名目上統べている一族の当主。

 幻想郷でおきた事象、異変、妖怪、人間、その他のもの全てを記録する役目を負った、観測者。当然そんなお人が異変の首謀者とも取れるおれを見逃すはずもなかった。

 

 結果、今俺は稗田家へと足を踏み入れざるを得なくなった。

 

 でも、あっきゅんに全く気付かなかった俺を許してほしい。

 原作の稗田阿求は緑の和服に、黄色の振袖。赤色の袴をはいている。髪色は紫。奇抜なことには変わりはないのだが、原作キャラのなかでは比較的、普通、有り得そうな恰好をしている。

 そして、俺がこの世界の住人。原作キャラを判断している箇所がまさしくそこだったのだ。服装と、髪型。勿論、全部が全部それらで判断しているわけではない。わけではないんだけど……、

 

 だれも、小学校低学年ぐらいを想像していたのに実際会ってみたら高校生ぐらいあるとは思わないじゃん……? 

 しかも、髪色も紫って言われたら紫だけど黒って言われたら黒に見えなくもない微妙な色だしぃ。服装に至っては茶色の和服姿。店内自体があまり明るいとは言えないとはいえ、わかるはずないでしょこれ。顔も見える位置じゃなかったしさぁ。

 

 つまり、茉裏くんは何も悪くない以上閉廷!! 

 

 てか、現状集められている報告によれば、今回の異変での被害者はいない。つまり、茉裏くんが報告することもないのでは? だって被害が出てないんだもん!! 二日酔いの連中がわんさかいるってだけで!! 

 

「茉裏様ですね。お待ちしておりました。どうぞ中へ」

「アッハイ」

 

 門前でグダグダしていたら普通に見つかって中に通されたでござる。救いはなかったんやなって。

 

 長い廊下を使用人の案内の元、一つの部屋の前に立ち止まった。

 使用人さんはこちらでお待ちくださいと言ったままどこかに行ってしまった。放置プレイはきちんと確認してから行ってほしいデスネ。

 

 案内された部屋の前でいじいじと初心な乙女のように可愛らしく待っていると、程なくして部屋の中から声を掛けられた。

 

「どうぞ、お入りください」

「あ、おじゃましまーす…………」

 

 おそるおそる、ゆっくりと戸を開ける。部屋の中から乾燥した空気と共に、本の独特な香りが流れてくる。部屋の中は整理整頓が行き届いており、本や巻物といったものが壁沿いに並べられた本棚の中に綺麗に並べられていた。初めて訪れた時の鈴奈庵とは真逆な状況。是非とも我らが店主にも見習ってほしいものである。

 部屋の中央には座敷机がぽつんと一つ。その隣には、最近導入されたカンテラが、部屋を仄かに照らしていた。

 座敷机の上には広げられた白紙の巻物と、墨と筆。そして、その場に静かに佇む稗田阿求の姿。声を掛けるべきなのだろうが、なんと声を掛ければよいのかわからず固まっていると、稗田阿求の方から声を掛けられた。

 

「これで二度目になりますね。私は稗田阿求。この稗田家の当主をさせていただいております。以後、お見知りおきを。立ったままなのもあれですので、どうぞ」 

「あ、ども茉裏です。よろしくお願いします。失礼します」

 

 促されるままに、向かいの座布団へと腰を下ろす。

 

「今日来ていただいて貰ったのは、昨夜起きていた異変についてお話を伺うためです」

「まあ、はい。自分から話せることであれば」

「では、単刀直入に。貴方は人里を脅かす存在ですか?」

「それは、多分違うか……な?」

「なら、人を殺したり?」

「いや、しませんけど……。妖怪退治の延長線上みたいなことはやってますけど、人を殺すなんて」

「そうですか。幻想郷を破壊する、あるいはそれに類似することを望んでいたりもしていないですか?」

「それこそないです。一応…………博麗の関係者なので」

 

 咄嗟に八雲と言いそうになってしまった。言ったとしてなにか大きな問題が発生しえるとも思えないが、隠しておいて損はないだろう。博麗の関係者ってのもあながち嘘ではないしね。

 

「なるほど、博麗の関係者……。それなのに、今回の異変の黒幕、とのことですが」

「あー、それは、はい。間違いじゃないです」

「だというのに、博麗の関係者、ですか?」

 

 うん、ごもっともな疑問だとは思うんだけど悲しいことに事実なのよねこれ。

 

「ま、まあいいでしょう。調べればわかる事ですので。少し話が脱線しましたが、異変の経緯をおしえていただいてもいいですか?」

「うっす。とは言っても、自分も全部を覚えているわけではないので、そこは許してください」

 

 あらかじめ、記憶が曖昧なところもあるということを説明し、当時のことを振り返る。

 

「まず、家に最近居候ができまして、結構な体質の持ち主なんですよ。本人のためにも伏せておきますけど。なんで、これをどうにかできないかなーって思いまして、博麗の巫女さんに相談したんですよね。

 そしたら、どうにかできるけど妖怪の山に住む厄神様の協力が必要だって言われまして、それで妖怪の山に向かったんですよね。

 そして、赤い煙。人里からも見えたりしたんですかね? 結構高く登ってたんですけど。赤い煙が」

「ああ、それなら確認されてます。私も実際に見ました。おおかた、河童がおかしな絡繰りでも作ったんだろうと言った感じにあまり騒ぎにはなっていなかったです」

「それはそれでどうなんです? 危機管理的なあれで。……まあ、それは置いといて。なんやかんやで中に突入しないといけなくなりまして、その赤い煙の中に。その後は、もう一人の黒幕、実行犯の方に聞いた話なんですけど、俺がその方に言っちゃたみたいなんですよね。

 そんなに花見や宴会がしたいなら、集めてやればいいじゃないかー、的なことを。ね?」

「その、実行犯という方は一体どなたのことで?」

 

 うーん、これに関しては俺が答えていいものかどうか……。だって、ねぇ? 共犯者のかたは鬼、それも鬼の四天王が一角、伊吹萃香様。実際にこの場で暴露したとしてもアイツなら笑って気にしなさそうだけど。多分、今も小さくなって俺のこと見てそうだし。案外、呼んでみたら居たりするのではないだろうかとさえ思える。

 

 異変の一件以降、萃香は、俺の家にちょくちょく遊びに来るようになった。紫苑も遊び相手が増えて喜んでいるし、紫苑の不幸体質を物理で乗り越えられる萃香の存在はかなり貴重なものである。不意に結界の外に踏み出してしまった紫苑に目掛けて吹き飛んできた木をかる~く受け止め、その場で細切れにしたのはマジで驚いた。向こうから薪が来るとはツイてるねェ!! なんてのたまわってた。

 博麗の巫女に頼んでいるお守りも、もう少し先になるようで、紫苑のストッパーのような存在になっている萃香には頭が上がらない。なので、あまり迷惑を掛けたくはない。

 

「あー、その、何といいますか……。多分、知ってはいると思うんですよね。うん、有名なんで。ただ、いっちゃっていいものなのかなーって」

「貴方から聞くことができなければ、博麗に協力を呼び掛けることになるだけです。ですので、無理にあなたの口から聞こうとはしませんが」

 

 あー、そっか、結局分かっちゃうのかー。俺から言うのか、博麗の巫女さんが言うのかの違いになっちゃうのかー。じゃあもういっかー。あまり迷惑かけたくないのは事実だけど、これが本当に萃香の迷惑になるのか分かんないし。

 なにより、アイツから俺に対してはかなり迷惑を掛けられてるし。だいじょうぶっしょ多分。

 

「鬼です。鬼の四天王、伊吹萃香。今回の実行犯は」

「……随分なお方とお知り合いになっているようですね」

「自分でもそう思います。突然家に転がり込んできては酒だーってうるさくて。まだ異変から二日ですよ二日。どんなけ酒好きなんだか。いや、まあ助かってる部分も多いんですよ? 力仕事関係は大体任せられますし。思ってた鬼とは全然違くて、付き合いやすい相手ではありますかね。うるさいけど」

「は、はあ」

「トンデモ能力をフル活用してやるのが、妖怪の山にある一本の木に桜を集めて、天狗たちを無理やり集めて、人里にもその手を伸ばして、幻想郷覆っての大宴会。なのに、自分は木の上で一人寂しく酒を飲む。そんなやかましい奴なんです。なんで、その……何が言いたいかっていうとですね? 鬼だとしても、そんなに悪い奴じゃないので、あまり悪く書かないで貰えると嬉しいなーって、思ったり思わなかったりです、ね?」

「伊吹萃香さんとは、知らない仲ではありませんのでご安心ください。以前の私も、彼女を信頼していたようですし。にしても、そうですか……彼女が犯人なら、これ以上深い理由もなさそうですね」

 

 なんか、すごい不本意は理由で納得されてますがよろしいんでしょうか伊吹萃香さん。イインジャネ(裏声)。問題ないみたいです!! 

 

「それでは、私は今日聞いたことをまとめます。本日はお忙しい中ありがとうございました」

「あ、いえ、こちらこそありがとうございました。はい。頑張ってください」

「また、なにかあればお呼びすることもあるかもしれないので、その時はまたよろしくお願いします」

 

 その後、一言二言言葉を交わし、俺は稗田家を後にした。

 あるいみ、萃香といた時よりも緊張した気がする。

 

 外は日が沈み始め、夕焼け空が眩しい。一瞬その眩しさに目を閉じ、うっすらと目を開く。

 

 さっきまでの夕焼けは消え、空には白く輝くお月様。暗くなった道を月明りが照らしていた。

 

「…………え、いやこ、え?」

 

 一難去ってまた一難。

 こうして始まった謎の現象。その状況に酷似したものを知っていた。

 

「いくら何でもスパンが短すぎませんかね?」

 

 

 永夜抄

 

 

 偽りの月が空を覆う、新たな異変の幕開けだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、かなり強引ですがなんとか繋げていけたらなと思っております。
未来の自分がすんばらぁし~い内容のものを用意してくれると信じて

まら、来月お会いしましょう!!
ばいばい!!


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第22話 ひとりはいやじゃあ!!

ホラーとか苦手なのでマジで暗いところ一人は嫌い。
けどホラゲーは好き。

一人でプレイは出来ないけどね!!


 稗田家を出た後、眩しい夕焼けに目を閉じると、空には綺麗な満月が浮かんでいた。目を閉じると言っても瞬きをした一瞬。周りには慌てふためく人里の皆さんが居た。

 どうしたもんかと顎に手を当て考えていると、不意に耳元で可愛らしい声が聞こえた。それと、酒臭い息も。

 

「空にはまん丸のお月さま。これ以上ないほどの満月に照らされて、耳に聞こえるはガチャンガチャンのドッタンバッタン。戸締りをするあわてんぼうの人間たち。

 どうして、そんなに慌てているのか。それもそのはず、今の時刻は午後六時を過ぎているか過ぎていないか。だというのに、さっきまでお空に居たはずの太陽さんは瞬き一つでお月様の後ろに隠れちまった。異変や異変。家の中に引きこもり、巻き込まれないようにいたしましょ」

「みんな困ってんだから、我関せず見たいな感じで歌うんじゃありませんこののんだっくれ野郎。で? これもお前の仕業か? 伊吹萃香」

「違うってわかってるくせに、わざわざ聞く必要があるのかい?」

 

 様式美ってやつだよ。いつの間にか隣に現れ、酒の入った瓢箪を傾ける幼女。こんな幼女の酒飲みが鬼の四天王の一角だってんだから、世の中分からないものである。

 

「紫苑は?」

「分身が見てるし、なんだかんだで肝が据わってるからねぇ。一言声掛けたら、アンタを頼むだって」

「そりゃ嬉しいこって。里は慧音先生がどうにかするだろうけど、手伝うか、黒幕の所に先回りするか……。一応様子だけ見に行くか。大丈夫だと思うけど」

「それは、私もついていって大丈夫なやつかい?」

「萃香には、紫苑のお守り役として人里に通ってもらうことになるからな。慧音先生とは知り合いぐらいにはなってもらわねぇと」

「いつの間に紫苑のお守り役に……」

「アイツの不幸体質をまともに受け止めらる脳筋なんてそうそういないからな」

「曲がりなりにも乙女に対してなんてことを」

 

 なーにが乙女か。乙女はそんなに酒臭くないんですぅ。

 ぎゃあぎゃあと異変の雰囲気をぶち壊しつつ、寺子屋へと向かう。もしかしたら、異変への対応で寺子屋にいないかもしれないが、そのときは元凶の元へ直行するまで。

 

 寺子屋についてみると、見慣れない人影が二つ。一つは上白沢慧音の白沢モード。髪色が緑に近くなり、頭には二本の角。

 そしてもう一つが、迷いの竹林に住む不老不死、藤原妹紅。白とも銀とも言えない髪には、白地に赤い縁取りをした大きなリボンがよく目立つ。毛先には同じ小さなリボンが複数個。白のシャツに、赤のモンペ、というよりは袴に近い不可思議なズボンをサスペンダーで吊っていた。

 

 二人ともがこっちの存在に気が付くと同時に戦闘態勢を取る。が、慧音先生は立っているのが俺だと分かったとたん警戒を解き、近づいてきた。

 

「茉裏、こっちに来ていたのか」

「ちょっと呼び出しを食らいまして。その帰りにこの有様ですよ」

「そうか。それは災難だったな。ところで、隣の彼女は……」

 

 まあ、うん。無容易に呼びたくはないわな。鬼だもん。あっきゅんは萃香のことを知っていたみたいだけど、慧音先生のこの感じはまったく知らないみたいだし。やべー奴が来たって内心思われてそう。後ろの方とか今にも嚙みついてきそうな雰囲気だし。

 

「まあ、お気づきの通りと言いますか何といいますか……鬼ですねはい」

「伊吹萃香だよ。少しばかし茉裏と縁あってね。こうして同行させてもらってる」

「安全、ってことでいいのか? 茉裏を疑いたいわけではないが、現状が現状だ。私の心中も察してくれ」

 

 ごもっともすぎる……。あと、後ろの妹紅さんや。合いの手でそうだそうだ~って言わないで。俺の中の貴方のイメージがものすごい勢いで壊れて行ってるから。

 

「大丈夫だと思うようん。やるとしても、里の人全員が酔っ払うくらいじゃないかなぁ」

「…………つまり、この間のアレは」

「そういうことっす」

「いやぁ、霊夢にこそ怒られたが、なかなか楽しかったからまたやりたいもんだね」

「こんぐらい緩い奴ですし、危険じゃないのは俺が保障しますんで」

 

 そういうのであれば、と引き下がってくれた慧音先生。いやぁ、感謝しかないっす。

 

「それで、本題なんですけど、どうしますかねこれ」

 

 空を指さし、引き攣った顔を浮かべる。慧音先生がケモ化していることから分かるように、頭上に現れた月は、本来のものと近い性質を持っている。つまり、妖怪の持つ凶暴性といったものを強制的に引き出している訳で、そうなると、タガが外れたり、暴れ始める奴もいる。それらの対策を取らないわけにもいかないだろう。

 

「里に備えてある結界である程度は防げるだろう。だが、外に出ている者はどうしようもない。私たちも里に万が一が有り得るから無暗に動けない。無事に帰ってくることを祈るしかないな」

「そうっすか。まあ、そうなりますよね。俺も、外を回ってみます。見つけたら里まで誘導してきますので」

「それは、有り難い申し出だが……」

「一応、萃香がいますから。ちょっとのことであれば大丈夫です。俺自身、多少なりとも腕には自信があるので」

「アンタは私の仲間だからね、任しときな!!」

「……ありがとう。よろしくたのむ」

「後ろの方も、ドタバタとすいませんね。こんど、時間がある時にでも」

 

 まだ微妙に警戒されているのか、慧音先生の後ろで軽く手を上げられるだけに終わった。何というか、よその家の猫をあいてにしている気分である。

 そんな二人と別れ、里の外へ。微かな抵抗感、嫌悪感に近いそれを感じ取り、結界がキチンと作動していることを確認した。後ろを振り返ると、人里を目視できているはずなのに、認識できない。そんな錯覚を覚える。

 

「こりゃ、随分と手の込んだ結界ですこと」

「紫の組んだ結界が綺麗すぎるだけさ。霊夢も出来ないことはないだろうが、かなり骨を折るだろうね。この人里の結界も、人間が再現しようとしたらどれだけの才能と時間がいるか分かったもんじゃない。それこそ、八雲紫に認められた博麗の巫女でもない限りは無理だろうさ」

 

 鬼の四天王にここまで言われる我が家の結界。やっぱ紫様はすごい方なんやなって。特に何がすごいって、それを張ったの自体は俺ってところが……。

 博麗の巫女、先代の存在はこの世界ではどういった扱いになっているのだろうか。記憶ごとなかったことにされているのか、はたまた結界の才能がない脳筋か、結界に特化していたのか。せっかくあっきゅんと知り合ったのだし今度にでも聞いてみようか。

 

 さて、そんなこんなで里をぐっると一周してみたものの、これと言って物珍しいものはなかった。博麗の巫女さんは既に動いているのかいないのか、入れ違いになっていてもおかしくはない気がする。

 

「面白いほどなにもなかった。このまま元凶にまで突っ走るのもありだけど、どうしますかね萃香さんや」

「茉裏の好きにしたらいい。私は酒の肴になるような出来事があればそれで満足だからね」

「じゃあ、することもないですし行きますか。博麗の巫女さんとかにもそのうち会うでしょ。多分」

 

 向かう先は迷いの竹林。そして、その竹林の中に佇む館、永遠亭。それが今回の異変の首謀者がいる場所である。

 永遠亭じたいは病院のようなもので、人里の人からも信頼が厚い場所だ。しかし、直接永遠亭に向かう者は月に数人いるかどうかである。なぜか、里から永遠亭までそれなりの距離がある。更には、迷いの竹林と呼ばれるほど、複雑怪奇なな場所に建っているためおいそれと行くことができない。病院に行くのに、妖怪に食われてちゃ本末転倒だからね。

 じゃあ、なぜそんな不便な場所が人里から厚い信頼を買っているのか。一つは、その腕の高さ。月の技術は地上に比べかなり発展している。故に、医療技術も高い。本来であれば治すことのできない怪我も治すことができる。これだけなら、かえって恐れられそうなものだが、他に医者らしい医者もいないためか疑問に思う者は少ない。霊力とか妖力とかがある世界だから余計に。

 そして、もう一つ。永遠亭自体に行かなくても、交流自体が少ないわけではないからだ。週に数度、永遠亭の使いとして薬を売りに来る少女がいる。名を鈴仙優曇華院因幡。何時ぞや見た変装が下手な薬屋だ。彼女は月の兎。経緯は忘れたけど、なんやかんやで地上に来て永遠亭のお手伝いをしている。

 彼女の売っている薬は痛み止めだったり解熱剤だったりで現代であればありきたりなものだが、幻想郷となれば貴重品も貴重品。さらには、その薬もお手ごろな値段ときた。それを売っているのは変装できていると思い込んでいる微笑ましい美少女。里の心を掴むのも時間の問題だった。

 

 そんなこんなで、永遠亭は信頼を勝ち取った。このまま何事もなく、幻想郷での生活を過ごしていく。永遠亭の未来は確約されていた。

 

「詳しいもんだ。八雲の所の奴らはみんなそんなに忙しいものなのかい?」

 

 道すがら永遠亭の事を少しばかし説明し、そこに異変の首謀者がいることも打ち明けた。違ったら違ったで別を当たればいいだけだしね。

 

「これに関しては、俺の方がちぃと特殊なだけ。原因も大体はわかってるけど、それが合っているのかどうかまではまだ分からんから、その辺りはご本人様方に確認取りましょ。さ、迷いの竹林に到着だ」

 

 説明がある程度終わると同時に足を止め、頬に伝う汗を乱雑に拭った。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ。インターネット上で有名なこのセリフ。今まさに我が身を持って味わっていた。竹林と声に出して言えば可愛いものだが、今、目の前の広がるのはそんな可愛らしいものではない。月の明かりは勿論届くはずもなく、中に放り投げられた声は不気味に反響し飲み込まれていった。

 

 ゴクリッ、無意識に唾を飲み込む。一歩を踏み出す勇気がこんなにも、隣にいる最強がこんなにも心不足感じることになろうなんて思いもしていなかった。

 

 拭っても拭っても止まらない汗、無意識に流れ始める涙、行きたくないと震える心。

 そんな時、背中に強い衝撃が走った。唐突のことに声を上げることができず、別の意味で流れる涙をこさえ、衝撃を放った相方を睨みつける。

 

「随分と手の込んだ人祓いだ。入口はココじゃないってことらしい。どうだい? 少しは気が楽になっただろう?」

「……おかげさまでお目目ぱっちりだわ。気分悪い」

「多少なりとも結界ってやつに抵抗がありそうなアンタですらそうなるってことは、相手側も本気って事なんだろう。私には効かないが」

「なにそれ羨ましい」

「本来であれば避けられる側の存在に効くと思うのかい? 曲がりなりにも鬼の四天王を名乗っちゃいないよ」

 

 ごもっともすぎてぐうの音もでない。

 

「それじゃ、本当の入り口を探し出して、みっちりこのお月様についてお教え願うと致しましょうかね」

「けっこう根に持つんだね」

 

 あたぼうよ。こちとらちびりかけてんだぞ。

 さあ、竹林探索と行こうじゃないか。

 

 おい、萃香なんだそのやれやれって感じの仕草は。こちとらマジで怖かったんだからなだからおいていこうとしないでくださいお願いしますいやだぁ!! ひとりはいやじゃあ!! 

 




お読みいただきありがとうございます。

こう、ぱっとせんのうぅ
いっそのことゴリゴリの戦闘でも書いたらどうにかなるんじゃろうか?

では、また次回まで~


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第23話 だが、おれは、主人公じゃない。

ワクチン接種一回目終わったンゴ。

二日目に死んでたンゴ。


 赤色が抱きかかえたそれから溢れてくる。

 ついさっきまで豪快に笑っていたはずなのに、一切の笑み無く、ただ息苦しげに呼吸音が響く。

 

 豪華絢爛とまではいかずとも、十二分な高級感を漂わせる和室を力の抜けたその体を抱えひた走る。

 床に続く赤色は、さあどうぞ此方ですよと言わんばかりに跡を残し、それを見て無性に腹が立った。

 

 どうして、どうして、どうして、どうして……。

 

 疑問ばかりが頭の中に響く。否、疑問の余地などない。答えは簡単だった。俺は、異変というものを、あまりにもなめ過ぎていたのだ。俺は、捨て身になってでも何かを守ろうとする者の覚悟を甘く見過ぎていたのだ。

 

 襖を蹴破り、部屋の隅に抱えていた相方を寝かせる。これぐらいなら、寝てれば治る。少女はそう言った。それが嘘か本当か分からないが、少なくとも、背に聞こえる足音は嘘ではない。

 

 信じるしかなかった。

 

 俺が、どうにかするしかなかった。

 

 補助輪もない、ましてや手加減などしてくれるほど甘ったるい相手でもない。

 

 殺す。一切の希望もなく、ただ、迫ってくる相手を殺す。

 これは、そういうモノだ。

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 俺と萃香は人祓いの結界と竹林の天然の迷路を抜け、無事永遠亭へと抜けることができた。建物内から争っているような音はしていないので、恐らく自機組はまだ来ていないと予想。暇だからお邪魔しようという事になった。

 

 玄関の前で一言声を掛けるも、帰ってくるのは静寂のみ。一言断りを入れながら俺たちは永遠亭へと足を踏み入れた。

 

 しばらく屋敷の中をうろついていたが人っ子一人の気配もない。萃香も同じことを言っていたからそれは間違いなかった。故に奇妙だとも。

 これだけ、生活感も残っているのに誰も見当たらない。奇妙以外の言葉で言い表せれるわけがない、と。

 襖を開けながら、軽く声を掛け部屋を探索する。隣の部屋の襖に手を掛ける。そして、射貫かれた。

 

 なんの前置きもなかった。襖に手を付けスライドさせようとした瞬間、襖ごと体が吹っ飛んで、痛みにうずくんなりながら隣を見たら腹に風穴が空いた萃香が居た。

 勿論、弁明もしようとした。慌てて萃香を担ぎ上げ状態を聞きながら。何らかの術式で再生能力を阻害されているし、力も抑えられている。

 鬼の四天王が一撃でこれなのだから、俺が喰らえば死ぬことは免れない。八雲だという事も、危害を加えに来たわけじゃないことも、異変の大まかな全容を知っていて、月の住人がアンタたちを見つけたわけじゃないことも。

 

 しかし、それらはすべて一蹴された。

 

『貴方のどこに、信用に足るものがあるのかしら』

 

 間違いない。どれもこれも、吐こうと思えば簡単に吐ける嘘。

 

『仮に、貴方の言っていることが全て本当だったとして今後、私たちの障害になりえない。その保証は一体どこにあるのかしら』

 

 目に光は宿っていなかった。こちらの話を聞く気などない。あるのは、今ある平穏を守る。ただそれだけ。

 

『貴方みたいな人間。いっぱい見てきたわ。何度も、何度も、何度もッ』

 

 詰み、だった。

 

『どうして、貴方たちは私たちの平穏を奪おうとするの……?』

 

 流れた涙を見た瞬間。俺は萃香を抱え走っていた。あれは、話し合いがどうとかという問題ではない。少なくとも、俺がどうにかできる相手ではない。

 

 そして、今、俺は俺で覚悟を決めた。

 蹴破った襖で萃香を隠し、声を掛けた。どうにか時間を稼ぐ。だから、早く治してくれ。と。

 

 五大老が一人、八意永琳。八雲紫と並ぶ実力者としても描かれることが多い。元は月の住人だったが、地上に残りたいと言ったかぐや姫の為に同胞たちを皆殺しにし、逃亡。実際がどうだったのかはさておいて、穏やかな別れ方ではなかったのは明白。青と赤の特徴的な服に腰まで届く銀の髪。瞳に光はこもっておらず、もう、勘弁してくれと叫ぶように涙が流れ続ける。手には金色の弓。威力は伊吹萃香、鬼の四天王を一撃で追い詰めるほど。喰らえば即死。近接戦はあまり得意とはされていない、固定砲台のようなキャラだが未知数な点が多すぎる。

 

 だが、いくしかない。俺が死なないためにはこれしかない。大切なものを守るためには飛び込むしない。

 覚悟を決めろ、決めろ、決めろ、決めろッ!!!! 

 

「シッ!!」

 

 脚を強化してのヤンキーキック。十数メートルはあるであろう距離を一瞬で詰め、大振りの攻撃。そんな悠長な攻撃当たるはずもなく、手を軽く添えられ天井に叩きつけられた。恐らくは合気の類。相手の力を利用する武術の一種。

 

 地面にならいざ知れず、真逆の天井という受け身すら取れない状況。天井から、重力にしたがい地面に落ちる。二度の衝撃に脳はパニックを起こし、肺の空気は全部外に吐き出された。

 ただ、脚を握りつぶされなかったのは幸いか。はたまた、肉体の強化は不得手なのか。

 

 俺のことはいつでも殺せると確信したのか、八意永琳は萃香の方へと向き直る。

 

 ああ、それでいい。こうでもしなきゃ不意打ちの一つも出来やしねぇ。

 再び霊力を脚に回す。この時点で気付かれているだろうがこちらを振り向く様子はない。ならば好都合。さっきよりも幾分か早い速度。狙うは胴。下手に的が小さいところを狙うよりもマシだろ。

 

 そして、放たれた殺意の一撃。俺の頭を打ち砕く振り向きざまの裏拳。

 

 ありがとう。

 

 思わずそう呟きそうになった。

 もしこれが、美鈴さんのように体術を得意としている相手であればどうしようもなかった。

 もしこれが、レミリアのように慢心する奴であれば行動自体が無駄になっていた。

 

 美鈴さんの感じ取る事さえできない一瞬のできごとではなく、レミリアのように慢心した故の読みようのない一撃でもない。

 辛うじて、己の危機察知能力と動体視力で、辛うじてその軌跡を追うことができる攻撃。そして、隠すつもりのない本気の殺気。

 

 だからこそ、俺はその裏拳の腕を両手で掴み、その力を利用して建物の外まで吹っ飛ばすことができるのだから。

 

「うぉらぁああ!!!!」

 

 俺自身、特段力を加えたわけではないが、腕に掛かった負担は小さくはない。

 相手が起き上がる隙を与えないよう、体勢を立て直そうとしている所に三発。いずれも当たることはなかったが、八意永琳を確実に萃香の所から引き離すことができた。

 

「第二ラウンド。お互い、傷つけたくないものが近くにあったんだ。これぐらい離れとけば気にしなくて済むだろ?」

 

 追いかけるように外に出る。背には萃香。退くことは許されないし、俺が時間を稼ぐには永遠亭を背に向けてなければいけなかった。

 

「その弓。最初の一撃以外は使ってないよな。ってことは、アンタが居た先に何かがある。先にじゃないにしろ、あの周辺には何かがある。さあ、撃てるもんなら撃ってみろよ。大切な姫様に当たっても知らねえけど」

 

 露骨に表情を歪めた八意永琳に、内心ほっとする。永遠亭の主、と呼ぶべきかは疑問が残るが、お姫様である蓬莱山輝夜。かの有名なかぐや姫だ。八意永琳、蓬莱山輝夜、そして、藤原妹紅。この三人は不老不死の妙薬である蓬莱の薬を飲んでいる。つまりは死なない。死ねないのだ。

 だから、八意永琳、彼女がもしその力を最大限に活用し蓬莱山輝夜ごと俺たちを殺そうとすればアウト。

 だが、彼女は建物内で主力武器である弓を使っていない。絶対ではないのだろうが、出来る事なら傷つけたくない。そういった思考をしていると判断した。

 

 まあ、だからといって肉弾戦で勝てるって訳じゃないんですけど。

 

 汗が目に入り掛け、視界が滲んだ瞬間、目の前に体を捻らせた姿が映る。上段、脳が理解するよりも早く体は守りの態勢に入っていた。

 腕を顔の横に立て、脚を踏ん張る。衝撃。体が一気に宙を浮き永遠亭の屋根へと吹き飛ばされた。空中で態勢をマシなものにし、二度三度大きく転がりながら少しでも痛みを和らげる。銃を持っていた腕はへし折られていた。

 視界が赤く点滅するのを無視して、無理やり起き上がる。口の中から吐き出されたそれはが唾液か、血か分からない。

 

 そうしたところで、八意永琳は悠々と屋根へと上ってきた。間隔てきに萃香の方へは向っていない。何かしらが逆鱗にでも触れたのだろう。

 もう一丁の銃を右手で抜き、構える。赤色に染まった視界では彼女の服が何色なのかもはや判別が付かない。金色に輝いていた弓も、それに番われた矢も、何時ぞや見たレミリアの弓矢と酷似していた。

 

 化け物相手に多分一分は持ちこたえているのだから、俺としてはかなり善戦したほうだろう。

 

 強く、固く、こちらを殺さんと証明するかのように響く金切り音。死にたくないから頑張っては見たものの、結局俺は主人公でもなんでもなくて、こうして、ただ、突っ立ている事しかできない。

 左腕は折られてて、立っていれば立っているほど、自身が本当に立てていられているのかも怪しくなってくる。右手に持った武器はあまりに重く眼前に持ってくることさえ難しい。

 

「しにたく……ねえぇなぁ…………」

 

 不意に出た、心の吐露。紛れもない本心と共に一際大きくなった金切り音。

 

 死にたくない。それが、今までの原動力で生きる意味だった。死ぬのが怖いとか、大切なものを失うのが怖いとか、たくさんの怖いが入り混じって、結局、ただただ生きたいという願望に結びついていた。

 その怖いといものさえも、きっと後から付いて回ったものかもしれない。

 今となっては、当時の気持ちを思い起こすことは難しいけれど、生きたいという思いに変わりはなかった。

 

 だが、おれは、主人公じゃない。

 

 ご都合主義で、何かの奇跡が起きて、格上を倒すなんて夢物語は起こりえない。

 だが、希望に縋ることは出来る。少しでも時間を稼いで、最強の相棒が復活するかもしれない。博麗の巫女さんたちが到着して助けてもらえるかもしれない。そう言った、主人公という奇跡に希望を抱き、縋り、死に物狂い、死にたくないって叫ぶことぐらいは、出来るんだ。

 

 矢から手が離れる。それと同時に体を倒し斜め前へ。人一人は軽く飲み込める程度の太さとなった矢が、俺のいたところを通り抜ける。屋根の瓦は溶け、射線上にあった竹は消し飛んだ。

 背中を掠ったのか、はたまた余波か、肉を焦す嫌な臭いと、全身に行きわたる鈍痛。全身から力が抜けそうになるのを必死に押しとどめ、崩れる体勢を無理やり反動へと変え懐へと潜り込む。

 勿論、相手もそんな易々と懐を許すわけもなく、一歩引いてまた弓を構えようとした。それに応対するように、右手を蹴り上げ、無理やり銃口の位置を上げ、発射。

 それが、鉛玉ではなく、霊力の弾と分かったからか、同じく霊力を使って応戦した。目に見えるほど濃い力の塊は壁のようになり、俺の攻撃を受け止める。

 受け止めた壁は、霊力の弾と相殺しあい、そして、霧散した。

 

 八意永琳は起こりえないものを前にして固まっていた。

 1の攻撃を100で余裕を持って、持ちすぎて、警戒を込めてまで受け止めた筈の八意永琳。それが、相殺されたのだから無理もない。

 

 だから、俺は言ってやるんだ。

 懐に潜り込んで、銃口を押し当てながら、

 

 八雲印のお味はどうだい? 

 

 五度、その引き金を引く。

 一度目で、その弓矢が消え、

 二度目で、その体から力が抜け、

 三度目で、全身の倦怠感が増し、

 四度目で、引き金を引くこともままならなくなり、

 五度目で、右手から銃がすり抜けた。

 

 これだけやって、動きを抑制できるのは僅か数秒。脚を踏ん張り、握ることもできない拳を握り、顔をしかめながら困惑の色を浮かべているその顔面に向けて、今、持ちうる全力で、

 

 ぺちゃり

 

 という、擬音が似合う攻撃を繰り出した。

 

 間違いなく、今、俺が出せる全力がこれ。死なないために、必死に足掻いてもがいた結果。格上も格上。そんな存在に、今出せる全力を見舞ってやったのだ。

 

 全身から力が抜ける。しかし、来る筈であろう地面への衝突は訪れない。

 それは紛れもなく、希望を掴んだ証だった。

 




お読みいただきありがとうございます。

不完全燃焼感は拭えないが、そこそこいい感じにできたんじゃあなかろうか。
自画自賛はやっていかないとね。

では、また次の機会に
ばいちゃー


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第24話 やってみる価値はあるのかもしれないのかなぁ

ワクチン接種二回終わりましたb


 覚醒、激痛、即座に危険信号がはなたれ、視界が赤く、やがて意識朦朧としぷつんと途切れる。

 例えようにも例えられないその経験。それを幾十も繰り返せば、断片的なものだとしても、自身がどういった状況に置かれているかも分かってくるもの。

 

 覚醒から激痛を脳が理解する一瞬。その一瞬にある違和感。背中の空白。体に所狭しと繋がれた管。暴れられないようにか拘束された四肢。

 激痛の最中、思い出される記憶には、空白を理解する為の光の軌跡。

 

 それ等を全部思い出し、理解できるまで、幾百と生と死を実感し続けた。

 

 時間にしておよそ120時間程。日数にすれば五日。俺はこの地獄を彷徨っていた。らしい。らしいというのは、寝ていた、意識がなかった時間の方が長かったため。その時の状況自体は他人から聞いた話だから。

 聞いた相手は八意永琳。初めて会った時とは別人かと思うほど大人しい人だった。少なくとも、出会っていきなり弓矢をぶっ放す人には見えなかった。

 猫かぶりがよっぽど上手いのか、なんて事も思ったがどうやら違ったみたいで。鈴仙優曇華院因幡の能力のせいだという事が判明。

 

 鈴仙優曇華院因幡こと、ウドンゲ。月から来た兎さん。役職は軍人。その辺りは上手いことぼかされて確証はないが、多分そっち関係の役職。それも、前線を張るタイプ。

 ウドンゲは、死ぬことが怖くて地上まで逃げてきた。

 それを、同じく月から逃走中の八意永琳らが保護。一時は難を逃れたが、今回の異変でウドンゲとは違う別の月兎が地上に来た。来てしまった。

 ウドンゲは捕まえに来たのだと、殺しに来たのだと錯乱し始めた。

 その月兎自身にウドンゲをどうこうするつもりはなくても、直接会ってもいないし、会話できるような状況でもなかった。

 ただ、空から兎が来たという事実だけを知り、呑み込み、捻じ曲げた。

 その際、能力が暴走。ウドンゲの狂気を操る力が永遠亭全体に広がり、抵抗する暇もなく吞み込まれた。

 結果、あの異変が起きた。

 

 偽物の月、竹林に張られていた人避けの結界。地上に降りてきた玉兎にこの場所がバレないように。月の住人たちが、罪人である我らを見つけられないように。

 

 その後、ウドンゲをひっつかまえて正気に戻した博麗の巫女さんと、その他複数人の証言、狂気の波動が途切れたことによる混乱も相まって異変は収束を迎える。

 

 俺はこの時、背骨が見える程度に肉が蒸発していたらしいがなんやかんやで生き残っている。

 

 と、時系列も登場キャラもなんだかちぐはぐな気がするが、それはここがゲームの世界ではないという事の証明だろう。

 時系列ははっきりと何月何日の何時何時なんてご丁寧な部分まで覚えていないが、少なくともこんな短いスパンではなかったはず。

 異変解決の為に動いていたのは、博麗霊夢、霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイド、レミリア・スカーレット、そして、八雲紫。の、計五人。

 そして、解決ではないにしろ異変の行く末を見守るために行動していたのが、八雲茉裏こと俺と、伊吹萃香の二人。

 本来であれば、上記五名に含め、十六夜咲夜と、冥界の主である西行寺幽々子とその護衛の魂魄妖夢の全八名が参加している。

 

 まあ、だからなんだという話なのだが。

 

 ちなみに、俺が背中をアビャーッされているときに俺を支えてくれていたのがレミリアだったらしい。

 レミリア自身は、今回の異変に首を突っ込む予定はなかったらしいのだが……。あの時の光の矢、その直線上にあったのが紅魔館だったとのこと。

 矢は紅魔館を守る結界をぶち破りそのまま突き進もうとしたのを、レミリアが相殺。優雅なティータイムを邪魔しやがって。と、プッツンした結果そのまま全速力で永遠亭に突撃し死に掛けの俺を受け止めたのだとか。

 もっと言えば、あの光の矢、質量とか貫通力とか、威力部分だけで言えばレミリアの一撃を優にこえるとかなんとか……。距離と結界があったが故に相殺できたとかなんとか……。

 

 文字通りの人外魔境幻想郷である。

 

 そして、俺が持っている記憶とは似ている点も多いが、違うところも間違いなく存在する幻想郷。不安要素が一切ないわけではない。こうして、ベットの上でグータラ過ごしてますけども。

 まず、明らかな歴史の変化。というよりは、記憶にある歴史と、今いる異世界の歴史との齟齬。これが明らかに大きくなっている。俺の記憶が何時まで通用するのか……。

 今までが、全て記憶通りの異変だったかと問われれば間違いなく否だが、まったく通じなかったわけではなかった。だが、今後は、全く記憶にない異変の発生、発生場所が同じだけの全くの別ものの異変が起こる可能性もある。むしろ高いと言っていいのかもしれない。

 まあ、これは妖怪大戦争というまったく知らない異変の経験もあるので今更だろう。

 

 問題は、俺の心の問題。覚悟の問題。

 今回の異変に首を突っ込むにあたって、あまりにも考えが甘すぎた。心のどこかで話し合いができるだとか、自分に対しての実害はほとんどないだろうという考えが確かにあった。

 

 だって、そうだろう? 

 

 大戦争の時も、紅魔異変の時も、妖怪の山に入った時も、伊吹萃香と対峙していた時も、言葉が通じていたのだから。

 命の危険が訪れる前に、一度クッションを挟んで回避できる可能性があったのだから。

 

 今回だって、会話をして傍観に回れると思っていた。奇襲で伊吹萃香が倒れるなんて想像すらしていなかった。

 

 不安要素なんて言葉で、まるで自分自身には一切の非がないように取り繕う。ベットの上で何もしないで過ごしているのは、ただ、怖いから。

 

 もし、なにかの拍子に八雲の気に障ったら。

 

 初めて向けられた、真正面からの明確な殺意。

 今までだって、さっきの一つや二つは向けられてきた。実際殺されかけもした。藍様なんか四六時中だ。だが、アレとコレは本質的に違うモノだと理解した。

 藍様のは、所詮ごっこ遊びだと。子供が特に何も考えず、蟻やバッタを殺しちゃってもいいやぐらいの軽いもの。

 

 所詮、俺という個人はその程度の存在に過ぎない。

 

 八意永琳の殺意を突き付けられ、漸く、ようやく自覚した、させられた、目を背けていただけなのかもしれない事実に心臓が締め上げられる。

 

「大丈夫、大丈夫……いままでだって、なんとかなってきたんだ。今回はちょっと危なかったけど、考えを改めるいい機会だと思えば……」

 

 誰もいない病室で、自分を慰める。大丈夫、大丈夫だからと。言葉をつぶやくたび、心臓の鼓動が大きくなっていった。

 

 

 迷いの竹林は常に暗い。

 あの後、気が付けば寝付いていた。目が覚めたら体の向きを変えられ包帯を変えられていた。まだ、完全に完治していないのだろう。触られている背中に違和感を覚える。あとめっちゃ痛い。

 

 永遠亭の誰かと会話するのは嫌なので寝たふりを決め込む。いや、だってそうでしょうよ。相手が永遠亭の誰であれ、一度は敵対しちゃってるし、八意永琳以外ならともかく、八意永琳その人だったら気まずい雰囲気なんてレベルのものじゃなくなりますよええ。

 

 包帯の上を触られるたび、声が出そうになるのを我慢する。しばらくして、取り換えが終わったのだろう。体の向きを戻された。

 ガチャガチャと道具を片付ける音が聞こえる。

 やがて、その音も聞こえなくなると、台車を押す音と足音が遠ざかっていくのが聞こえた。そして、襖を開いて、閉じる音が耳に届く。

 耳に意識を集中させ、部屋の様子を探る。

 

 …………よしっ。

 

 部屋の出入り口付近で腕を組み、こちらを見つめる八意永琳と目が合った。

 

 え、なんでいんの? マジでなんでいんの? 

 異変の概要とかその他もろもろはこの間話したじゃん? もう話すことないじゃん? 気まずいだけじゃん? 

 

 こっちの心境なんて察してもらえるわけもなく、八意永琳は口を開いた。

 

「おはよう。やっぱり寝たふりだったのね」

「あ、あはは……。ばれてーら」

「そりゃあ、何時もなら喘いでいるのに今日はだんまりなんですもの。不審に思うのも当然でしょう?」

「間違ってはないけど、声を漏らすとかさ、もうちょい表現のしかたをだね」

「間違っていなければいいじゃない。それで? 我慢していた理由は?」

「いや、曲がりなりにも殺されかけた相手に笑顔で挨拶なんて出来ないんで。それが理由っすかね」

「そ、問題が無いようならそれでいいわ。私たちには、そんなこと、もう理解できないことだしね。もし、傷口が開くような事があれば直ぐに報告しなさい。そもそも、傷口が開くような行動をしないように」

 

 もう少ししたらリハビリに移るからそのつもりで。そう、言い残し部屋を出ていく八意永琳。思っていたよりもフランクというか、接しやすい方みたいで胸をなでおろす。

 異変の概要を聞かされた時は、報告書を淡々と読み上げる機械みたいだったから驚きが強い。

 

「こういうのが甘いって事なのかもしれないが、あんなに悲痛に笑われると罪悪感が勝っちまうなぁ」

 

 もう理解できないことだしね。

 

 さっき、八意永琳が口にした言葉。俺の殺されかけたってところに反応したんだろうが……。

 

「どーにもこーにも、胸のつっかかりがとれそうにねぇなぁ」

 

 その顔に惹かれただとか、そーいった話ではないのだけれど。

 何時かの拾い物のように、ただの気まぐれ。

 元々、不法侵入まがいのことをしたのはこっちで、その罪滅ぼし。

 主要キャラとの繋がりを作る。

 

 なんてなんて、頭の中でいろんな理由を作っていって、吐いた言葉が。

 

「やってみる価値はあるのかもしれないのかなぁ」

 

 なーんて、すこしぐらい主人公というものを目指してみたい男心だったり。

 




お読みいただきありがとうございます。

私は何を書きたかったんだ( ;∀;)

こういうときって全く関係のない話をかきたくなるんですよね。
アグネスタキオンとウェーイwwwwwする話とか書きたい。

不定期で書こうかな…………


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第25話 縁があればそのうち会える

朝と昼の気温差でバグりそう。

今回で永夜抄は終わりとなります。
なかなかに不完全燃焼ですがね。


 ウェイ!! わたし茉裏!! 絶賛リハビリ中なの!!!! 

 べーわ、リハビリマジで舐めてた。まともな動作ひとつ行うたびにその個所から背中に向けてべらぼうに痛いでやんの。

 

「僕思うんですよ。普通こういうのって、痛みとかがほぼほぼ引いた状態で、鈍った体を元に戻すためにするものだって」

「その問いも何回目かしらね。一生まともに動けなくなってもいいって言うのなら今すぐにでもやめてあげるけど? 重症、重体、致命傷、どの言葉であろうと正しい表現に当てはまらない程に酷い状態から回復出来て、更には、ちょっと頑張るだけで元の日常に戻れる。それを、投げ捨てられるなんてとんでもなく素晴らしい感性の持ち主なのね。羨ましいわぁ」

「うぐぐ……!!」

 

 そう、この問いかけ、本日だけで実に12回目である。それだけの生き地獄を現在味わっているのだ俺は。

 何というべきか、そう、ごぽごぽにわいた熱湯をぶっかけられている感じ。熱いを通り越して痛いに変換されるあの感覚。もしくは、鉄くぎを体に沿って撃ち込まれているような……。

 兎に角、辛い。この一言に尽きた。

 

 背中半分が消し飛んだ状態だったのは事実で、それを無理やり治したのも事実なのだ。恐らく、ここでリハビリの手を止めれば本当に再起不能になる。言いようのない確信があった。

 

 にしても、リハビリ中のこの女医、とてつもなくイイ笑顔で笑う。それはもう、イイ笑顔で。サディスティック・スマイルである。こわい。

 だれだよ、罪悪感がーとか、やってみる価値はあるーとかのたまわってたやつ。めっちゃニッコニコだわ。女王様も真っ青だわ。

 リハビリの手を止めれば動けなくなるのは事実なのだろうが。ただ、半分は彼女の憂さ晴らしが混じっているようで気が気ではない。

 

 必至に両手両足へ力を籠め、壁を伝い歩いていく。倒れようものなら、前で待機している女医が受け止めてくれる。ご褒美タイムとかほざきそうな奴もいそうだが、背中の激痛で息をするのもやっと。

 歩くだけでも激痛が襲ってくるというのに、倒れこむという不測の事態に心構えなんて出来ているはずもなく痛みは倍ドン倍。

 ちなみに、意識を失おうものなら口の中に訳の分からない薬を突っ込まれて強制的に起こされる。一応、眠気覚ましの栄養剤みたいなものらしく、安全ではあるらしい。信じるか信じないかは俺次第である。

 

 さて、こんな地獄のような日々でも、たまには嬉しいこともあったりする。容易に想像できるとは思うが、お見舞いだ。

 レミリアだったり、小鈴店長だったり。週に二回ほど誰かしらが様子を見に来てくれている。

 その中でも一番驚いたのは、紫苑が来たこと。

 紫苑の不幸体質は尋常なものではなく、紫様の結界や、伊吹萃香の規格外の怪力、適応能力が無ければ一緒にいる事すら難しい。

 それを、少しでも改善すべく、博麗の巫女さんに紫様の結界と類似したお守りを作ってくれと依頼していた。

 

 つまり、完成していたのだ。その、お守りが。

 

 紫様の結界の結界とまで言わずとも、訪れる不幸が些細なもの。頻度も極めて低いらしく、我が家から人里を通り越し、永遠亭に辿り着くまでに起きた不幸な事態、実に三回。

 そのどれもが、石に躓いた、砂埃でくしゃみが出た、指に棘が刺さった。と、まあ、何と些細な不幸か。

 以前の状態であれば、石に躓き頭を踏まれされど気付いてもらえず近くを通った動物の起こした砂ぼこりに咳き込みながら前を向いていない子供に突き飛ばされ両の手を鋭利な木片が貫いていたことだろう。

 控えめに想像してもここまで予想できる。

 更に驚く事に、紫苑が永遠亭を訪れたのは一度だけではない。四度だ。その四度とも、多くて三回。少なくて一回で済んでいるのである。

 

 これが嬉しくないわけがない!! 

 

 まあ、本音を言うと少し寂しい気もする。それに、彼女が里を歩くところを最初に見れなかったのも少し悔しい。少しね、少し。

 

 何はともあれ、これで多少は彼女も退屈しなくて済むだろう。とりあえず、寺子屋に通わせてみようとは思うのだが、慧音先生が許してくれるかどうか。生徒でなくても、復任てきなポジションとして。むしろそっちの方がいいかもしれない。

 寺子屋がだめなら駄目で、鈴奈庵で一緒に雇ってもらえばいいし。給料はあってないようなものだから、多分許してくれるはず。それでも駄目なら、畑仕事の手伝いだ。読み書き計算は俺が教えて行けばいいしな。

 

 服ももう数種類買っておこうか。一番最初に出会った時の物よりはマトモなものを着させてあげられているが、結局は男が適当に貰った古着に過ぎない。紫苑自身が着たいと思えるものも複数枚買っておいて損はないだろう。

 

 萃香にも色々お礼を考えとかないといけないな。アイツは、服とかってよりも物珍しい酒とかの方が喜びそうだ。レミリア辺りからワインでも貰ってこようか。酒には詳しくないし、誰かに助言を求めたいものだが。

 

「さっきから考え事ばかりしているようだけど? 私の手伝いは不要ってことでいいのかしら?」

「すいまっせん!!」

 

 なかなか話を切り込むタイミングなんてものはない。

 リハビリが終われば、患者に調合と、お医者様は忙しく、この後の時間は眠くなるまで一人っきり。

 相談どころか、雑談する相手もそういないのが事実である。そのぶん、たまのお見舞いが嬉しいのだが。

 

 そういえば、原作ではレミリア達が月に行く話もあった。

 その時、紫様とまだ見ぬそのご友人、西行寺幽々子の二人は裏で月のお酒を盗んでいた。はず。あんがい永遠亭にも少しくらい残っていたりしないだろうか? 

 別けて貰えるかは分からないが、少し聞くぐらいであれば問題もなかろうて。

 

「うん、今日はこんなところかしら。後のことはウドンゲに任せてあるから、何かあったら呼びなさい」

「うっす」

 

 しかし、聞く暇もなく赤青のお姉さまは去っていくのであった……。

 そこから、鈴仙さんと八意先生が入れ替わり、あれよあれよと会話もなく浴室へ連れられまたもやベットの上。完全に避けられていると肌で実感し、俺の一日は終わる。

 一応、コンタクトは取ってみた。が、どうにも異変の一件以降負い目を感じられているみたいで目も合わせて貰えない。おっちゃんかなしい……。

 薬とかは伝手で買おうと思えば買えるし問題はないのだが、こう、露骨に避けられるとわりと心に来る。

 

 さて、ベットの上。こうなってしまうと、本当にやることがない。体調管理も徹底的にされているため、口にできるものは用意された水だけ。

 誰か来てくれないかなー、と思いつつ、竹筒に入った水を飲む。

 

 たまーに、お見舞いでもなんでもなく、暇、もしくはいたずら後の避難場所として因幡てゐも訪ねてきたりもする。

 あの子、一緒に兎も入ってきて一気に部屋が賑やかになるし、話してて苦にならないから楽しいんだよな。男友達みたいな。それと、兎可愛いし。

 本人曰く、鈴仙はこの部屋に入ろうとしなから、隠れるにはもってこいでさ。とのこと。

 事実だから別に目くじら立てたりしないけどさ、せめてもう少しオブラートに包んでほし方なぁって。

 

 そして、永遠亭に住む主。いや、姫といった方が正しいか。姫こと、蓬莱山輝夜。

 八意永琳と藤原妹紅と同じ薬を飲み、不老不死となった存在。そして、その薬、蓬莱の薬を飲んだことで罪人となり月から地球へと追放された令嬢。

 

 親しみやすい名前で呼ぶとするのなら、竹から生まれたかぐや姫。

 五人の貴族に見初められ、無理難題を吹っ掛けた。帝すらも魅了させたその姿はまさしく絶世の美女と呼ぶにふさわしいのだろう。

 本来であれば、とっくの昔に月へと帰っている筈だが、こっちでは八意永琳の協力のもと、月からの使者を皆殺し。そして、逃亡。

 今は、幻想郷の竹林でひっそりと暮らしている。

 ついこの間、ド派手に色々とやらかしていたのは割愛する。

 

 そんな姫様だが、未だ顔を合わせた事はない。永琳先生の口からも聞いたことがない。

 もしかしたら、この世界には蓬莱山輝夜という存在がなく、別の誰かに置き換わっている? なんて事も考えたが、てゐ曰く、姫様は居て、自分の部屋でぐーたらしているらしい。

 性格は完全に気分屋の愉快犯。藤原妹紅とは犬猿の仲で、目が合えば殺し合い。容姿は美しいを体現したようなもの。その一方で、着ている服は自身の持った能力をフル活用し着替えをめんどくさがる程のめんどくさがり屋。

 

 能力の詳しい所までは分からないが、原作でもふわっとした能力は多かったので出来ているってことは出来ているのだろう。そう言い張っている可能性も否定はできないが。

 

 一部の人に刺さりそうなむわッと人物。そんな人物像が、てゐからの情報だけを参考に出来上がっていた。

 

 そして、いつものようにご都合主義よろしくそのお方が俺の病室に、

 

「来てくれるはずもなく、こっちからは会いにも行けない。一回くらいコンタクトとっておきたいんだけど」

 

 ちょっと前に、体の半分が無くなっている。少しだけでも保険は多くかけておきたいというのが心情。あまり、大ぴっらに動きたくないのも事実だけど。

 

「会いに行くにしても、行かないにしても、体を動かせないんだから考える必要もないか。縁があればそのうち会えるだろうし」

 

 そう結論付け、毛布を被りなおす。まだ、たいして眠いわけでもないがやることもなし。

 ゆっくりと瞼を閉じる。

 どうしても、何かしらのことが頭をよぎるが、どうにかこうにか落ち着かせ、自分の息遣いしか聞こえなくなったころには意識はプツリッと途切れていた。

 

 

 

 ずっとわかっていたことなのに、

 いつかは、くる、ことなのに、

 あのときわたしはたえられなくて、

 そっと、そのからだにはりつけた。

 

 これで、もう、はなれられない。

 ああ、ああ、うんめいのひと。

 

 いつか、いつかわたしを、だきしめて。

 




お読みいただきありがとうございます。

姫様出てこないんかいって思われるかもしれませんが、はい、その通りです。
まあ、今後、多少は出てくるんじゃないかなーって。

さて、次は花映塚ですが、茉裏くんは生きて帰れるのか……。

それでは、また来月お会いできることを……。

ばいちゃー


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第26話 笑っていた。なら、それでいいのだ

なんとか間に合ったですます。

決してFGOのメインストーリーを進めるのに躍起になって忘れていたなんて過去はありません事よ?


 永遠亭を退院した俺は、サディスティックスマイルこと八意永琳に見送られながら迷いの竹林を後にした。

 迎えには萃香が付き添ってくれて、約一ヶ月と半月ぶりに土の感触を確かめた。

 体に多少の違和感は感じはするものの、日常生活を続けているうちに元に戻る。と言っている女医さんをガン無視で土の感触を全力で味わってた。安心感すごいねこれ。

 

 里を通っては畑の手伝いに行っているジジババ達や寺子屋の子供たちに囲まれ、なかなか愛されてるもんだと実感。

 そうしていると、慧音先生と小鈴店長に捕まり説教。小一時間ほどへいへいすんませんと嬉しいやら恥ずかしいやらでニヤニヤしながら聞いていた。

 とはいえ、ずっとそのばに二人の説教を聞いているわけにもいかない。萃香の助け舟もあり、二人から脱出することに成功。その後は特に何事もなく帰路につくことができた。

 

 一ヶ月。短くはないその時間が経っていたとしても、見慣れた光景というのは実に心が落ち着く。住処にしている森じたいにはあまり良い思い出があるわけではないが、それでも、不思議と嫌な気持ちはなかった。

 

 森に入り、獣道を進んでいく。草木が生え変わり、多少戸惑いながらもただ一点を目指して歩く。萃香がいるから安心安心。森に入る前はそう思っていたものも、気が付けば萃香のこと自体が頭からすっぽ抜け、歩いていた足はやがて速くなり走り出していた。

 

 ずっと、ずっと通ってきた道をがむしゃらに走り抜ける。目の前にはボロボロの小さな家。小さな家というより、小屋に近い。

 

 壁や屋根には幾重にも張りなおされた板。

 慣れない大工仕事でなんども指を挟んだ。尖った木片は何度も皮膚を貫通した。

 そりゃそうだ。だって、最初は道具すらもなかったのだから。金槌のかわりに大きめの石。木の板は里で売られているような立派なものではなく朽ちた倒木。縛るためのロープや縄は木の皮や蔦を集めて。

 

 

 最初は一人。幻想郷に来てそう長く経っているわけでもないが、人肌が温もりが何もないというのは、とても寂しかった。

 紅魔異変が落ち着き、終わらない冬が訪れた。そんな日に、一人の少女を拾った。

 

 そこからは、まあ、生活する相手が増えたってだけ。最初は俺自身嫌がっていたけど、そうだな、すくなくとも、嫌なことからは目を背けられる程度には忙しくなったんだと思う。

 余裕なんてものは後からでも付いてくるんだって。

 それに、あんなに必死に生きようとしてるやつを見ててこっちの余裕が無くなるってもんよ。矛盾しているように見えるけど、そういうもんなんだなこれが。

 

 それからは、二人で壊れたところをトンチンカンってね。その頃には、道具も多少はマシになってたし、食糧にも昔ほど困ってなかった。人脈ってのは大切なんだ。

 

 そうして得た、一人の家族ともいえるべき存在。出かけているとき以外はだいたい一緒。退屈も、寂しさも感じなかった。ただ、純粋に毎日を過ごせた。先のこと先のことって、切羽詰まることが減っていった。

 一緒に過ごした時間は、一番長い。必然的に俺の拠り所ってやつになってたわけだ。

 

 だから、嬉しかった。家に帰ってこれたことが。紫苑の元へと戻ってこれたことが。嬉しかった。

 里の知り合いたちに会ったのも、慧音先生や小鈴店長の説教も全部嬉しいかった。萃香が迎えに来てくれた時だって、泣きたくなる気持ちを抑え込んでいた。

 だが、だがそれ以上に紫苑に会えるという喜びは、唯一無二の同居人に会えるという喜びを超えるものはない。

 

 目の前の家の戸を勢いよく開ける。中には着替え途中で半裸の紫苑。喜びが現実になった。驚いた紫苑の顔。いてもたってもいられず、土足のまま家の中へと駆け込み紫苑の体を抱きしめ抱え、

 

「見ないうちに随分肉付きがよくなりやがってやっぱ博麗の巫女さんのお守りの効果も出てたりすんのかな人里にいったらしいけどどうだ友達になれそうな奴とか見つけられたか慧音先生とか小鈴店長にはもうあったか? まだ? それなら明日にでも会いに行こうどうせならレミリア達にも会いに行ってみるかなかなか面白い奴だぞっとその前に博麗の巫女さんにお礼を言いに行かないといけないのかお土産何がいいと思うやっぱ酒かなレミリア達に頼んでワインとか貰って持っていってもおもしろそうだけど素直にお菓子とかぐらいの方がよかったりするのか博麗の巫女さんの好みがわかんねぇから決めようがなまああとで決めればいいかそうだまだ日も高いしどうせなら人里に飯でも食べに行くか何が食べたいって聞いても分からんだろうからあっちに行って決めることにしようぜ紫苑が俺のいない間どのくらい人里に行ったのか知らないけどそれでも俺の方がまだ先輩だからな色々案内してやれるきっと驚くぞ団子にうどん蕎麦すき焼きラーメン餃子お好み焼きにパスタやカレーどれもこれも独特な進化をしている途中だが大外れはそうそうない外れはあるけどレミリア達のおかげで洋食中華を中心にいろんなもんが増えてきてるさあ行くと決まれば即実行いっくぞー!!!!!!」

 

 

 顔面に肘を食らいましたなんでや。

 

 

 家主である俺は居候である紫苑相手に正座をし、本日二度目となるありがたーい説教を聞かされていた。

 

「嬉しいのはわかるけど、いきなり抱き着かれると驚くからやめましょう。おへんじは?」

「はい。すいませんでした」

 

 この居候、俺が入院中の間、人里でかなりお手伝いをしていたらしい。主に寺子屋。

 食べ物などであれば多少なりの備蓄もあるし、魚や山菜は取れるが、日用品ともなると里に出る必要があった。が、しかし、我が家に金銭的余裕などあまりなく、どちらかと言えば物々交換という肉体労働で食費等を賄っている状況。

 加えて、それらの交渉は俺が全部やっていた。服が欲しければ服屋でバイト、食糧が欲しければ農家、金が欲しければ雑貨屋。ってなぐあいに日雇いみたいな感じであっちにふらふらこっちにふらふらしてたわけだ。

 おかげで古着だったりの中古品を貰う頻度も増え、少しずつ貯金も出来ている。とは言っても、せいぜいが一度の買い物で軽い贅沢ができる程度だが。

 

 そして、生活の要ともいえる俺が入院。消耗品や壊れてしまった道具類を買い直す事ができなくなってしまった。

 取り敢えず里に出てみよう人一杯だしお金なんて持ってない、そもそも買い方を知らない。取り敢えず色々見て回ってみようってな感じで里を見て回っていたそうな。

 そして、里を物珍しそうに回っていたところを慧音先生に捕まり、そのままお手伝いとして受け入れてもらっていたとかなんとか。

 

 まあ、そんなこんなで生まれたのが

 

「大体なんでそんな大けがを負うようなところに行ってみようなんて思ったのか……。しかも、これが初めてじゃない? 馬鹿なんですか阿保なんですか死にたいんですかあなたが死んだら私は一体どうしたらいいんですか」

 

 目の前でぷりぷりと怒っていらっしゃる新生紫苑ちゃんなわけですね。あの頃の無邪気な紫苑は一体いずこへ……。

 口調まで変わってしまって……。これは慧音先生に抗議しなきゃ。

 

「はぁ……。取り敢えず、真っ先に言うことがあるとおもうんだけど、ね、マツリ?」

「ん、ただいま」

「…………おかえりなさい」

 

 すこしの沈黙の後、彼女は満面の笑みで答えてくれた。

 男子ですら三日もすれば変化するのだ、一か月もあれば神も変化しようというもの。

 

 けれど、目の前には一切変わらない、温もりがあった。眩しさがあった。家族がいた。

 

 この一時を決して離したくない。失いたくない。お互いの無事を確認しあうように自然と抱きしめあう。

 その体温、息遣い、鼓動、全てを感じて、お互いに生きていることを確認しあう。

 

「お前を拾った当初はこうやって暖を取ってたっけか」

「そう、昔の事でもないのに、すっごい懐かしい」

「それだけ今が幸せって事だろ。良いことじゃねぇか」

 

 紫苑の抱擁が強くなる。それに合わせて力を入れる。絶対に離さないと返すように。

 

 そう、絶対に離さない。

 

「それはそれとして、萃香!! 酒盛りっすぞぉ!!」

「お、終わった? 私だけ蚊帳の外にするなんていい度胸してるじゃぁないか。今夜は寝かさないから覚悟しなよ」

「え? え? 今のこの状況からそういう話になるの?」

「うるせぇ!! 病み上がりがなんぼのもんじゃい里に飛び出てさかもりっすっぞぉおお!!」

「おおおぉおお!!」

「そ、それはわかったからせめてはなして!! あだめだ話聞いてない!!」

 

 紫苑を抱え上げ、家の外へと飛び出す。来た道、帰ってきた道を萃香と共に全力疾走。少なくとも病み上がりの死にかけ男がする行動ではない。

 でも、腕の中にいる紫苑の顔は笑っていた。なら、それでいいのだ。

 

 そう、決して慣れないことをして恥ずかしがっているわけではないのだ。

 照れ隠しなんかじゃないんだからね!! 

 

 

 

 この後、萃香共々民衆の真ん中で説教されたことを追記しておく。

 ……なんか以前似たようなことあった気がするけど、気にしたら負けだね!! 

 




お読みいただきありがとうございます。

三日程度で書いたわけですか、なかなか楽しくかけて満足満足。
オチが一緒?んなもんしらねぇえ!!
FGOにうまぴょいに原神にOW(回線落ち酷くてシルバーに落とされた)にAPEXにDBDに少しだけヴァロラントその他もろもろやってたら時間がなかったんだよ。

取り敢えずFGOもアヴァロンルフェがもうすぐ終わるので多少は余裕ができると信じたい今日この頃。

んじゃまた来月お会いできるのを楽しみにしております。
ばいちゃー


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第27話 チルノ+背負われて寝ている=助けなきゃ!!

新年あけましておめでとうございます。
今年も細々と頑張っていきますので、何卒よろしくお願い申し上げます。


 退院、説教のコンボを食らい、またそれなりの月日が経った。

 季節外れの桜は散り、夏の緑葉がゆっくりと変色してくる。そんな夏と秋の真ん中あたり。暑すぎず、寒すぎない。そんなちょうどよい季節の変わり目。

 

 退院後は紫苑と一緒に紅魔館に挨拶しに行ったり、人里で服を物色したり、紫苑の仕事ぶりを見学していたり、萃香に引きずられて飲みに行ったりと、なかなかに充実した時間を過ごしていた。

 

 こんな時間が一生続けばいいのにキャッキャウフフと思っていたら、辺り一面花だらけ。野花に向日葵、百合、紫陽花、金木犀に散ったはずの桜や梅。

 それに呼応するように、妖精たちの元気が振り切れた。

 もーう、あっちでドッカン、こっちでドッカン。個の力は弱いとはいえ、人間とは違い自然を操る力に加え数も多い。

 

 かく言う俺も絶賛妖精さんたちに追われていたりラジバンダリ。

 背中から飛び交ってくる、土や石のような物理的なものを投げてくる、ゲームでよく見る弾もあれば、植物をウネウネと這わせてきている奴までいる。

 そして、当の本人たちは無邪気に笑い、ひとしきり遊んだあと捕まえた人間を離してバイバイと手を振る。かと思えばまた追いかけだすの堂々巡り。

 数が多いから逃げるのにも一苦労で、今俺は合計多分20近くの妖精と睨み合ってる。うそ、一方的に逃げてる。

 

「俺は人里に買い物に行きたいだけなんですううぅうう!!」

 

 週に数回は美鈴さんとの地獄の鬼ごっこの成果もあって、今のところ致命的なミスもなく逃げ続けることに成功している。

 押し寄せる津波がごとく、なんだかすっごいおもしろいにんげんがいるんだってわーいあそぼーの感覚で振り払うごとに目の前に増えていく妖精。

 

「邪魔じゃあぁあああああ!!!」

 

 それを無我夢中に蹴散らし里へと走っていく。

 蹴散らした後、後ろから聞こえる笑い声は間違いなくホラー映画のそれだった。

 

 やっとこさ人里に到着すると、ひんやりとした空気が火照った体を急激に冷ましていった。

 人里には前回の異変と同じ結界が張られている。が、万能ではない。あれだけの数、ざっと見た感じ百は超えてそうである。控えめにいって気持ち悪い。

 そう、そんな数が一度に結界に突撃すれば一時的に機能が低下してもおかしくはない。

 しかし、心配することはない。なぜなら、私たちには彼女がいるから。

 そう、幻想郷最強(自称)として名高い彼女が!!!! 

 

「あとは任せた!! (チルノ)!!」

 

 門をくぐったと同時に感じたひんやりとした空気。それは、一体の妖精から発せられた自然現象。

 息を整えるため立ち止まったと同時に、背後から聞こえるピシピシと軋む音。

 未だ鳴り止まない心臓を無視して振り返ると、両手を前に突き出している青い髪の小柄な少女。いや、幼女といった方がしっくりくるだろう。今まであった中でトップクラスで背が低い。しかし、その背中に浮かぶ三対の氷の結晶は、身長を優に超えている。三つ合わせれば俺の身長を超え、恐らく二メートルはいくだろう。

 何時もであれば身長に見合った結晶の大きさをしているのだが、そとの妖精よろしく多大に異変の影響を受けているのだろう。

 そして、その突き出された両手の先には俺を追ってきていた妖精たちが一人残らず氷漬けにされていた。

 

 チルノ

 最強を自称する妖精。事実、妖精の中であれば間違いなく上位の実力を持つ。最強と言っても過言ではないのだろう。

 では、いまならどうか……。博麗の巫女という守護者、レミリア等の挑むこと自体がおこがましい圧倒的強者、相手がだれであれ一方的に負けるなんてことはない。筈だ。

 

 故に、危険。

 

 俺もそれなりに幻想郷で生活をしてきた。その中でチルノはかなり人里に根付いている存在となっている。

 つまり、里の人間はチルノに危険性を抱くまでのラグが存在している。そんな状態でチルノが自身の力の大きさに気付き、里を攻撃し始めたとしたら? 

 考えたくもないが、犠牲者が10人程度で収まれば良い方だろう。それだけ今のチルノの力というモノは強大になっている。

 

 今回の異変に大きく首を突っ込むようなことはしないが、里にいる間は常に警戒しておいた方が身のためだな。

 

「ふっふーん!! アタイったら最強ね!!」

『チルノちゃん、ありがとうね。これ、飴ちゃん。また危なそうなときは呼ぶから、遊んでおいで』

「はーい!!」

 

 槍を持った門番のお兄さんに飴ちゃんを貰いご満悦なチルノ氏。ふうむ、警戒するだけ損な気がしてきたぞぉ。

 

 貰った飴ちゃんを口の中で転がしながら、満面の笑みを浮かべている。

 口癖のアタイったら最強ねを舐めながら発しているものだから、可愛さが倍ドン倍。

 なんだこれは、なんだこの可愛い生き物は……ッ!! 

 

 まあ、それはそれ。可愛いのは認めるが、うちの紫苑ちゃんの方が百億万倍可愛いので俺には至って関係はない。

 

「助かった。さんきゅーなチルノ」

「ふふん!! アタイは最強なんだから当然よ!!」

「ああ、さすがは最強だ。えらいぞぉ。ところで、他の入り口には誰が付いてる?」

「えーと……炎のねぇちゃんと、慧音先生と、ルーミアとリグルと」

「なるほど、それだけ聞ければ十分だ。ありがとな」

 

 へへんと鼻を鳴らす仕草。どこまで行っても可愛いなコイツ。

 取り敢えず、チルノの情報からすると里の守りに自体に問題はなさそうだ。

 博麗の巫女さんや魔理沙の名前がなかったという事は、二人は既に異変解決に向けて動いていると捉えていいだろう。

 妖精たちが活性化し始めたのが四日前。花が咲き乱れたのがつい昨日の話。流石に様子見ではいられなくなった、ってところだろうか。

 

 今回の異変、原作では花映塚。外の世界、60年前に起きた何かで多くの人間が死に、その霊が幻想郷の結界のゆるみ云々で湧き出てきてしまった。みたいなのが通説になっていたはず。

 この異変自体は過去にもあったとかなかったとか。この辺りは原作で触れられることはなかったが、稗田阿求の蔵書を探すか、本人に聞けば分かる事なので置いておく。

 ただ、結局これは俺の知識にしか過ぎない。実体験でもなければ未来視的なあれでもない。つまり、今後起きることに一切の確証を持てない。

 

 そもそも、俺の知識と完全に合致しているモノが幾つあったというのか。

 

 弾幕ごっこはなく、程度の能力なんて回りくどい言いまわしもない。

 この二つの時点で俺の知識はぼほぼ否定されているようなものだ。

 

 死んだとしても、何ら不思議ではない。

 むしろ、いまこうして生きているのがおかしいのだ。

 

 結局俺は、普通の人より霊力の使い方を理解し、多少の応用ができる。その程度なのだ。

 異変に首を突っ込むなんて片腹痛い。誰かに頼まれたわけでもなく、ただの好奇心。繋がりを~なんて言ってはいるが、突き詰めて行けば、好奇心以上の何物でもない。

 そして、その好奇心のせいで大切なものを失いかけた。多少は学んだつもりなのよ? これでも。

 

 ただ、まあ、今回の異変に限って言えば参加したかった。と言うのが本音である。

 好奇心と言えば好奇心なのだが、四季映姫・ヤマザナドゥ、閻魔様である彼女に会って聞きたいことがあったから。

 聞きたいことは至極単純。俺が死んだ場合、俺はどうなるのか。

 紫様の駒であって式神でも何でもない俺は、寿命で死ぬ。病気でも死ぬ。胸にナイフを突き立てられても勿論死ぬ。体の半分が消し飛んで生きている今が可笑しかっただけで、普通に死ねるのだ。

 で、あればだ。この世界の住人ではない俺は、別の世界の死後の世界に連れて行ってもらえるのか。死にたいとはまったくこれっぽちも思ってはいない。が、実際どうなるのかぐらいは知っておきたい。

 っていうそんな不安な男心なのよ。

 

 けど、さっきも言ったように参加したかっただけで、参加するつもりはない。

 紫様とかに命令されたりでもしない限りは、一足先に里に来ている筈の紫苑と里の警備に当たる予定。

 

「取り敢えず、寺子屋に向かってみるか。チルノもくるか?」

「いくー」

 

 異変のせいか、さっきまでの元気は鳴りを潜め、眠たそうに瞼をこすっている。

 チルノは妖精の中ではかなり上位の存在、他の下位妖精よりも感情の起伏が激しいのかもしれない。

 

「ほら、おぶっていってやるから」

「……うん」

 

 それに、何時もの数倍の力で能力を行使してしまっているのも急激な疲れに繋がっているだろう。

 子供だから、というのもあるだろうが。年齢は俺の数倍、数十倍だとしても、心も体もまだまだ幼い。

 背中に乗った冷たい重さと規則正しい息遣い。少なくとも、体調の悪化等ではなさそうなことに安堵し、寺子屋に向けて歩き出した。

 

 異変の真っ只中とはいえ、結界に守られた里の中。忙しなさは三割増しといったところで、慌てているというよりは、統率の取れた陣形と言った方が確かな気がする。

 どこの誰誰の備蓄が少ない、古い衣類はこっちに、避難所への道筋は頭に叩き込んだか。場慣れしている、と評価すべきなのだろう。あまりの活気の良さにこっちが異変が起きていることを忘れてしまいそうだ。

 

 そして、チルノの人気の高さと、俺の知名度というものも身に染みた。

 チルノは持ち前の無邪気さから、俺はわけのわからない無茶とふらりと手伝いに来る風来坊のような立ち振る舞いから。

 日頃から、それなりに声を掛けられてはいたが、チルノを運んでいるのもあってか今日は一段と歩みが遅くなってしまった。

 一歩歩けばジジババが、二歩歩けばがきんちょが、三歩歩けば若者たちが、どうしたどうしたもってけもってけと、チルノを心配し、日ごろから世話になっているからと兎に角なにかしらの物を持たせようとしてくる。

 俺一人ならここまでならない。しかし、チルノ+背負われて寝ている=助けなきゃ!! になってしまった里の連中を止める方法はあいにくと持ち合わせていなかった。

 

「持たせるのはいいけど、少しは量を考えてくれマジで」

 

 悪態をつきながら、持たせられた着替えやら食糧やらを落とさないよう移動を続ける。

 ひぃひぃ言いながらやっとこさ寺子屋に到着。一度荷物を下ろし、ノックしてもしもし。

 しばらくして、中から忙しない足音と紫苑の声が聞こえた。

 

「はーい、って茉裏!!」

「よっ。色々持たされたから手伝ってくれ」

「また随分と、いや、でも着替えとか布類は助かったかも」

「そりゃよかった。チルノも異変の影響かただただ疲れただけなのか寝ちまってな。どっかで横にさせられないか?」

「大丈夫。ただ、うん。見て貰った方が早いかも」

 

 チルノを紫苑に預け、下ろしていた荷物を抱える。両手で持っても重たいのに、よく持ってこれたな俺……。

 なんだか焦っている様子の紫苑を怪訝に思いながらその背を追う。

 

 付いた先は教室。そして、その中に横に寝かされている四つの影。

 

 光を屈折させるちからを持つ、サニーミルク

 音を消す力を持つ、ルナチャイルド

 気配を探ることができる、スターサファイア

 そして、今は休眠している筈の春告げ妖精、リリーホワイト

 

 この四人が、息苦しそうに息を荒げながら眠っていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

一年がたつのも早いもの。この作品もはやくて三年目を迎えることとなりました。
まあ、実際一年ちょっとの間は息抜きでほぼほぼ更新していなかったわけですが。
それでも、一つの作品を三年も書き続けていると思うとなんだか感慨深いモノがあります。

さて、今作も一応終わりに近づいてきたのかなってぐらいには進んだと思っております。
今年いっぱいで終わるか、終わらないかどっちかなーってぐらい。
それまで、少しでも皆様の少しの時間を楽しませることができるよう頑張っていきますので、今後ともごひいきにしていただければ。

では、良い一年となりますよう、皆様の健康を願っております。


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第28話 さあ、覚悟はできた

コロナやばば
二年も東方祭行けてなくてツラタン。


 夜が訪れた。異変は解決に向かっているのかは分からない。少なくとも、慧音先生が寺子屋に戻ってくることはなかった。

 目が覚めたチルノに大きめの氷を作ってもらい、それを砕きながら看病に当たってはいる。が、光の三妖精と、春告げ妖精は未だ布団の中で苦しそうに息を荒げていた。

 

「根本的になにか勘違いをしている気がする」

「マツリ? 勘違いって?」

 

 蹴とばされた寝具たちを拾い集めていた紫苑が聞き返してきた。

 俺は氷を砕きながら返答する。

 

「いや、なんでこの四人だけが異変の影響を別の形で受けているんだろうって思ってな。名無しの低級妖精は暴れまわって、チルノは元気ハツラツから一時的な休眠。もし、この四人が前者に属するなら暴れまわっていないと可笑しいし、後者ならチルノのようにただ寝ているだけって状態が普通」

「それぞれで影響が違うだけじゃないの?」

「そうだとして、このまま大人しく良くなっていくと思うか?」

 

 三妖精のうち一人、サニーミルクがのたうち暴れ始めた。布団類は非力な妖精とは思えない勢いで吹き飛び、地面を転げまわる。

 タイミングを読み、その小さな体に覆いかぶさる。まだなんとか抑え込めることができた。目は据わり、じっと一点を見続けていた。

 大人一人が全力で抑え込めなければ大人しくできない。油断のできない時間が一分ほどしてサニーミルクはまた落ち着きを取り戻した。

 

 このやりとりをもう何度やってきたか。

 暴れるのはなにもサニーミルクだけではない。ルナチャイルド、スターサファイア、リリーホワイト。全員が、突如として暴れ始める。

 

「同時に暴れ始められたらどうしようもない。それに、異変解決まで全員が生きていられる保証もない」

「生きてるって……でも、妖精は死んでも生きかえる」

「あんまりこの話を掘り返したくはないんだが、紫苑は自分が何度も死んで生き返ってるって何となく理解してたんだよな? けど、記憶は持ち合わせていない。あったのは自分自身に関する、貧乏神としての知識だけ」

「……この子達も、そう、なの?」

「貧乏神みたいな神様のソレとは勝手が違うがな。一つ確かなのは、妖精が死んだあと同じ名前を持って生まれてくるとは限らない。ってことだ。リリーホワイトぐらいだろうな、自分自身がリリーホワイトだって言えるのは」

 

 紫苑に妖精の生体について軽く説明する。

 妖精とは自然の権化。例えどの様な手段を取ったとしても完全に消し去ることはほぼ不可能。個々の能力は大きくはないが、自身にまつわる自然等を操る力を持つ。

 特に、チルノやサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア、リリーホワイトといった固有名詞を持って生まれた存在は身近にある自然ではなく、自分自身でその操作する物質を生成することができる。名前を持たない妖精も出来なくはないが、名前を持つ妖精と比べるとその能力差は天と地の程の差がある。

 そして、妖精の消滅、つまりは死。人間や動物等と同じように致命傷を負えば死ぬ。肉体は損傷に応じての時間経過で塵と化し、消滅。そして、次の日の朝には同じ、あるいは似た容姿の妖精が生まれる。発生すると言った方が正しい。その段階で名無しかどうかが決まっている。

 

「言ってしまえば、似た容姿で何度でもその場に発生するだけの赤の他人なんだ。自分の名前が言えないわけじゃない。そんなものないんだから、言えなくて当然。

 名前もなく、容姿も違う。けれど、同じ光の、氷の、春を告げる妖精。ただそれだけで、それだけのことで同じ存在として、チルノとして、サニーミルクとして、スターサファイアとして、リリーホワイトとして、名前を呼ぶなんて事、俺にはできない」

 

 それが、たとえ紫苑。お前だったしても。

 

 もし、紫苑が死んで生まれ変わって、記憶が無くて、俺と紫苑が出会っても、俺は紫苑を紫苑として見ることができない。

 今までと近い接し方は出来るだろう、これまで通りに近い形で話しかけ、微笑み、飯を食らって眠る。

 ただ、それだけを続けるだけるだけならいくらだってしてやれる。

 

 けれど、いま俺が紫苑という存在に対して抱いている愛情は一切注がれないだけ。ただ、それだけの話。

 

「それだけ……って」

「それだけなんだよ。どうあがいても。周りの奴らは関係ないし、きっとまわりは愛してやれだの、分からないでもないだの、無責任だの好き勝手に言って、俺は新しく発生したお前を別の愛情をもって接するだけ。俺はいっっッさい困らない。

 …………で、済ませられたら良かったんだがなぁ。

 こいつらと俺の接点は少ないから、このまま祈って朝を迎えてもいいんだが。ここにいる三人は俺の最愛の人、神様? の教え子で、そしてもう一人はその友人ときたもんだ。なら、必死こいて解決策を探すしかない。紫苑の悲しむ顔なんて見たくないからな」

 

 だから、安心しろ。必ず助ける。

 

 紫苑の頭を軽く撫で、少し頭を冷やしてくる。それまで頼んだとその場から逃げ去った。

 こんな時に不謹慎だと理解はしているモノの、少し照れくさい。いや、ごめんウソ。むっちゃ恥ずかしい。今まではノリっぽい感じでしか言ってなかったぶん半端なくはずい!! 

 

 だが、おかげでやる気は十二分。頭を井戸から汲み上げた水で軽く濡らし物理的に頭を冷やす。

 さあ、考えろ。こっからが正念場だぞオレ。

 

 花映塚。春夏秋冬、季節を問わず全ての植物が活性化する。それに応じて自然の権化である妖精たちが活性化。暴走。辛うじてなのか、人間を殺す、同族を殺すといった事にまでは至っていない。

 そんな中、妖精の中ではひときわ強力な個体、チルノは間違いなく異端な存在だろう。能力の制御が上手くいっていないのか一撃撃った瞬間に眠ってしまった。その前にも能力の使用があったのかは不明だが、そうだとしても発動直後に眠くなっているというのは可笑しいとしか言いようがない。

 

 ここまで見れば、チルノだけ違う形で異変の影響を受けているように見える。

 

 そして、光の三妖精のサニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。

 春告げ妖精のリリーホワイト。

 

 この四人もチルノと同じく妖精の中では強力な存在としてカウントされる。チルノほど殺傷能力が高いわけではないが、光の三妖精は簡単に人間を殺せるだけの力を持っている。彼女たちにその気と知識がないだけで。

 サニーミルクは光の屈折、

 ルナチャイルドは音を消す、

 スターサファイアは気配を消す、

 リリーホワイトは能力といっていいのか疑問が残るが、春が来たことを伝える力を持つ。

 紫苑に説明した通り、この四人は名前持ち。強力な妖精。つまり、条件としてはチルノと同じはず。

 しかし、チルノがただ眠っていたのに対してこの四人はもがき苦しみ、今も布団を荒らしているのだろう。

 

 低級妖精とも、チルノとも違う。どこかに条件がある……って訳でもない。

 結局は理性があるかどうかの違いにすぎない。理性が強いとでも言えばいいのか、やってはいけないラインというのを超えようとしない理性。

 低級妖精は人間一人を殺そうと思えば数で押すしかなくなる。そこまでして人間を殺すメリットはないし、する道理もない。

 それに対し、名前持ちである妖精たちはやろうと思えば簡単に人間を殺すことができる。それを意識して、あるいは無意識に一線を越えないよう制御ができる。

 

 そして、今回の異変こと花映塚は自然の活性化、暴走。蛇口から50の水しか出していないのに、常に100の水を出すように供給され続けているような状態。一言で言えば栄養過多とかそんな感じ。

 そして、その供給された水が溜まり続けるのは自身の肉体。低級妖精が本能のままに暴れまわるのは限界を超えてしまわないようにいつも以上にエネルギーを使う事でガス抜きをしていたわけだ。人間からしたらはた迷惑この上ないがその内容も俺が追われていた通り遊びの域を出ていない。そして現に犠牲者は出ていない。上手くガス抜きできているわけだ。

 じゃあ、チルノはどうだったか。彼女は名前もちで無意識的に一線を越えようとはしなかったタイプだ。能力、ガス抜きは俺を助けた通り人間では手に余る数の妖精等の迎撃で上手いことガス抜きが出来ていたのだろう。門番の人たちもチルノにかなり頼っている節があったのでwinwinの関係というやつだ。

 

 では、肝心の室内四人。異変発生後、肉体の活性化を不調として認識。助けを求めるべく寺子屋を訪れた。しかし、肝心の上白沢慧音は居らず留守を任された紫苑がいた。紫苑は先に来た光の三妖精を保護。この段階では多少苦しそうにはしていたものの、まだ元気に話をしていたそうだ。後に軒先に落下してきたリリーホワイトを保護。この辺りから光の三妖精たちの容態も悪化。熱にうなされるように苦しみ始めた。

 それからしばらくして俺とチルノが寺子屋を訪れる。

 

 まあ、これだけ色々言っておきながら確たる証拠は何処にもない。もしかしたら、何事もなく明日の朝には四人とも元気に飛び跳ねているかもしれないし、異変も丸ッと解決されているかもしれない。

 だが、それは逆に言えば明日の朝には四人の姿はなく異変は依然と続いたまま。なんてこともあり得るという事になる。

 

 無い頭で必死に考えた何一つ証拠の無いそれを突き付けてどうにかしようなんて烏滸がましいにも程がある。しかも出した答えがガス抜き戦法ときたもんだ。

 しかし、やらぬ後悔よりやる後悔。動かなければ自体は進まない。主人公がいる世界だからとはいえ、ここは俺の知る世界じゃない。原作キャラと呼ばれる存在が死んだとしても不思議ではない。

 

 

 そして、惚れた女の手前、おめおめと事が潜むのを待っているなんてカッコ悪いだろ? 

 

 

 いざとなれば紫苑が止めに入ってきてくれるだろう。

 俺の為に悲しんでくれるのであれば、それはそれで悪くないのかもしれない。

 こちとら、死に物狂いでやりなれてるんだ、いくらだってしてやるさ。

 

 さあ、覚悟はできた。

 

「命がけの鬼ごっこと行こうじゃないか……ッ!!」

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、なにかとイチャコラしておりましたが面と向かってかつ真面目に言うのは初めてと言事で、初心なんですねぇ。
次回で花映塚も終わるかな。今年中には完成させたいところ。

では、また来月ねー


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第29話 ふらふらと歩いているだけ

えるでんりんぐしたい


 考えを何とかまとめ、教室へと戻る。流石に寝込んでいる四人のそばで話すのもアレだったので廊下へと場所を移した。

 言い淀む時間も惜しいので率直に、馬鹿正直に、寝込んでいる妖精たちの対応について話してみた。

 

「──ってな感じに思うんだけどさ、どうよ?」

「どうよ? って言われても、気が狂ったとしか思えないけど」

 

 とんでもないことを言い始めたぞこの馬鹿は。とでも言いたげなジト目が俺を射抜いた。

 

「まあ、理屈は分からないでもよ? 他の子達と状況が違うのは私も理解してる。どうにか手を打たないといけないって事も。

 だけど、マツリが命を張る必要まではない。私にとってあそこにある四つの命より、マツリが大事。

 一人で離れた時点でなんとなく察しは付いていた。ああ、この人はまた自分の命を軽く見ているんだって」

「軽く見てるわけ」

「あるよね? ないんだったら、私をもっと頼ってもいいんじゃないかな。いい? マツリ。しっかりと私の今から言う言葉を聞いてね」

 

 私は今とても怒っています。

 

 まるで聖母のように子供に向けるかのような笑顔で、体からは隠しきれない怒気を放ちながら、ハッキリとそう口にした。

 控えめに言ってクッソ怖いです。へ、へへ、足が震えてやがるぜ……

 

「あそこの四人よりマツリが大事。寺子屋や人里よりもマツリが大事。私自身よりもマツリが大事。この世界からマツリがいなくなった時が、私が死ぬとき。もし、マツリが誰かに殺されたならその一族全員を死ぬよりも不幸にして絶望の淵にまで叩き落して殺した後に私もマツリの後を追う。マツリが今ここで死ねって言うなら私は何の憂いもなく死ねる。それが貴方に殺されるのであれば、それ以上の幸福はない」

 

 紫苑は笑顔を浮かべたまま、現実を突き付けるかのように言葉を紡ぐ。

 教室の中。擦りガラスを挟んで妖精たちがもぞもぞと動き出しているのが見えた。

 

「マツリが私のためを思って、進んで危険へと足を踏み入れようとしているのは分かってる。分かってるけど。あんな事があった直後に行かせられると思う? ねえ?」

 

 笑顔、笑顔、笑顔……しかし、そこに含まれるのは紛れもない怒気。

 何かしらの理由をつけて話をそらしたい気持ちも大いにあるが、横目で見える動き始めた妖精たちは理由になりえない。たったいま否定されてしまったから。

 大丈夫だと信用させたいがこっちは前科持ちの一度死んでいるような半端者。

 どれだけ弁明しようと俺の声が届くことはないだろう。

 やっとの思いで声に出せたのはたったの一言だった。

 

「……おもい、ま、せん」

「結局この人はいくんだろうなぁとか……。覚悟はしていたつもりでも、目の前で自信満々に言われたらさすがの私も怒るよ? 怒ってるんだよ? 分かる?」

「……はい」

「……本当に分かってるのか怪しいけど、まあいいや。そういう人だってのは知ってるわけだし。私も、別にそういうところが嫌いって訳でもないから。ただ、目の前に頼れる存在がいるならちゃんと頼って。そして、もし、私が頼りないって思うんだったら、今日、いまからその認識を塗り替えてあげる。だから、今回は私に任せて」

 

 そう言って、視線を教室へと移す紫苑。教室の中から、立ち上がりジッとこちらを覗いている眼が八。生気も狂気もない目が、すりガラス越しにありありと見て取れた。

 

「これ、預かってて」

「え、あ、ああ。って、おいこれ!!」

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 そう言って手渡されたのは、紫苑の不幸を抑えるためのお守り。

 制止する暇もなく教室へと続く扉を開き、中にいる妖精たちと対峙した。

 

 

 そこからは、もうすごいとしか言いようがなかった。

 

 紫苑は襲い掛かってきた妖精たちを腕力なのか、他の力なのか分からないが外へと片手で放り投げ自身も外へと出て行った。

 慌てて追いかけると既に戦闘が始まっていた。いや、あえて鬼ごっこと言う表現のままで進めていこう。

 

 今の妖精たちは大の大人、それも男性一人と腕力で互角に張り合える。恐らくは火事場の馬鹿力。窮地に立たされている事から生じたリミッター解除なのだろう。

 そして、それはなにも腕力だけに限った話ではなかった。チルノがそうであったように彼女たちもまた自身の出力を制御できていない。人一人は余裕で飲み込むほど大きな弾幕が紫苑を襲っていた。

 幸いなのは一人一人が連携を取り合おうとはしていなかったことぐらいか。

 

 一人は姿が見えず、

 一人は気配が追えず、

 一人は音もなく近寄り、

 一人は上空から永遠と鬱憤を晴らすように白色の弾幕を飛ばし続ける。

 

 控えめに言って何が起こっているのかさっぱりだった。

 姿の見えない暴力が、気が付けば目の前に迫っている暴力が、音もなく忍び寄る暴力が、全面を焼き尽くす暴力が、

 

 ただ、何もせずにふらふらと歩いているだけの紫苑に当たらないのだから。

 

 

 

 マツリが入院している間、考えていたことがある。

 私の力、自他共に問わずただ不幸にするこの力について。

 私は貧乏神だ。

 どんなに足掻いても不幸のどん底から這い上がることができない。けれど、他者を底へと引きずり込むことができる。

 質の悪い神様。

 

 そう、思い込んでいた。

 

 貧乏神とは、不幸をまき散らすだけの神様じゃない。幸運を招き寄せる神様でもあるんだ。

 でなきゃ、私がマツリに出会えるはずがないんだから。

 

 だから、練習した。不幸を、幸運を、私の力をキチンと制御出来るように。

 もちろん簡単なことじゃない。

 貧乏神が幸運を招き寄せるのはあくまで結果論。手を取って尽くしてくれた相手に最終敵に幸運を運ぶだけ。その間は不幸が降り注ぎ続ける。

 だから、本質的に一方的な幸運を授けることは出来ない。と、思う。

 でも、不幸の度合いをある程度操作できるようにはなった。

 いましているのはそれ。

 私自身が持つ不幸をサニーミルク、スターサファイア、ルナチャイルド、リリーホワイトの四人へと強制的に割り振っている。

 対比で言うと二対八ぐらい。対象が多いからね。一人相手ならまだ五分五分くらいだとおもう。

 それでも、一方的にやられるなんてことはなくなる。

 

 どうかな……。私なりに頑張ってたんだけど、少しは頼りになれそうかな? 

 

 

 正面からサニーミルクの見えないタックル。

 気配を隠し足を引っかけてくるスターサファイア。

 音もなく背後を取り強打してくるルナチャイルド。

 上空で鬱憤を晴らすリリーホワイト。

 

 脚を掛けられ前のめりにおっとっと。こけないように態勢を立て直そうとふらふらとしていたら狙いを外したサニーミルクがスターサファイアとごっつんこ。後ろから殴りかかってきていたルナチャイルドを巻き込みごちゃごちゃに。身動きが取れないところへリリーホワイトの鬱憤弾幕がドーン。

 

 ただ歩いていただけなのに、目の前には一方的と言わざるをえない結果だけが残っていた。

 さっきのような事が一度だけならまだ理解は出来なくとも納得は出来よう。

 しかし、一度だけでなく鬼ごっこが始まってからただの一度もそれ以外の事が起きていないとなれば、理解は出来ても納得は出来なくなっていた。

 

 いやそらそうでしょ。

 こっちとしては、大丈夫かしらうちの子とっても心配だわぁあぁあ駄目よ脚を引っかけられて見てらんないっ!! 

 から、………………いったい何を見せられているのだろうか。

 になってるんだから。

 天と地、雲と泥、兎と亀。もう、ぽけーッとしながらその様子を口が開いたまま見てただけだったわ。

 なにあのこつんよい。りふじんだわりふじんよ。

 

 まあ、そんなよく分からない現象を見せられてものの数分で制圧完了。リリーホワイトは鬱憤を発散しきったのかツヤツヤとした肌になってるし、三妖精共は散々鬱憤に巻き込まれて頭アフロになってるし。ここはギャグ漫画の世界じゃないんだが? 

 

 もう、わけがわからないよ。

 

 その後、戻ってきた紫苑にお守りを返し軽く説明を受けた。俺の周りにまた一人チートキャラが増えた。そして寝た。

 そして、先ほどまでの暴れっぷりは何処え消えたのか。三妖精は寝込むわけでもなく子供らしく外を遊びまわっている。

 リリーホワイトは上空をふよふよと漂い時々馬鹿でかい声で春ですよー!!!!! 控えめに言ってうるさい。

 

 まあ、何はともあれ無事こっちの問題は解決できたわけだ。

 人だろうと妖精だろうとそれ以外だろうと、溜め込み過ぎはよくないってことだな。

 

 紫苑の能力については頭がポンコツになってる今だと全然理解できていないので、後日改めて聞けばいいだろう。そもそも疲れたのか速攻で寝たから聞くに聞けない。

 

 ……時刻はいまどの程度だろうか? 

 少なくともまだ日が昇ってくる気配はなく、お月様もハッキリと見えている。

 そして、目の前を色とりどりの花びらたちが横切っていく。異変が解決したのだろう。季節を問わず咲き誇っていた植物が急速にその命を終わりへと進めていった。

 

 異変が終わる。紫苑は教室の隅で規則正しい寝息を立てている。

 リリーホワイトは異変が終わったことを悟ったのかふわふわとどこかへ飛んで行ってしまった。

 三妖精は夜、恐らくは深夜を過ぎているこの状況でもはしゃぎにはしゃいでいまなお追いかけっこ。アフロは治っていた。

 

 そして俺。

 今回の異変で大した活躍も出来ずただ見ているだけ。

 いままで無理に首を突っ込んで来ただけに少し新鮮。

 三妖精も春告げ妖精もみんな無事で、紫苑の成長を目の当たりにした。外にはその証拠が月明りに照らされている。涙が流れた。

 

 寺子屋の正面は春告げ妖精の弾幕により地形が荒れに荒れ地殻変動でも起きたのではないのかと錯覚してしまうほどに変貌していたのだから。

 

 そんなこと我関せずと言いたげに聞こえる寝息に、三つの笑い声。

 

「…………これ、慧音先生にどう説明、しよっか、な…………は、はは、あははは」

 

 そして、乾いた俺の笑い声が誰にも届くことはなく満点の星空に飲まれていった…………。

 




お読みいただきありがとうございます。

紫苑ちゃんもチートキャラの一人になりましたやったね!!
ちなみに紫苑ちゃんの能力を私はよく理解していません。
貧乏神について調べてこんな感じかな―ぐらいの軽い気持ちで書いてるのであしからず。

では、また来月にて。
ばいちゃー


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第30話 一人、立っていた

エイプリルフールです。みなさんはどのような嘘をつかれたのでしょう。
ぼくですか?
吐く相手なんていませんが?


 おおよそ一年。騒がしい異変の連続を乗り越え、幻想郷は落ち着きを取り戻していた。

 一年前の異変は花映塚と記録され、人々の間では妖精乱舞とか百花繚乱とか妖精大運動会とかいろんな呼び方で定着している。

 もっとも、その話題を上げる者も一年と長い時間が経った今ではほとんどいないのだが。

 

 さて、この一年。正直言って語ることが殆どない。

 上げるとするなら……そうだな、白狼天狗達、河童達と仲良くなった。将棋で一度も勝てたことがない。

 パチュリー・ノーレッジに魔法について教えて貰うようになった。使える使えないは置いておいて、知っておいて損はないから。紅魔勢相手にチェスで勝てたためしがない。

 半年近くかけて寺子屋の修繕を終わらせた。一人で。慧音先生は異変の最中に起きたことだから大丈夫だと言ってくれたけど、流石に隕石落下事故でもあったんですかみたいな状況は見逃せなかった。だから取り敢えず砂場にしてみた。一人で。えらくない!? 先生相手に囲碁で勝てるビジョンが見えない。

 霧雨魔理沙ともう少し仲良くなった。パチュリーに魔法を教えて貰う過程で仲良くなり、彼女の作った試作品を使わせてもらっている。だいたいばくはつする。俺はこの子相手にトランプで勝てる日が来るのだろうか。

 あと、新しい友人としてアリス・マーガトロイド。パチュリーと魔理沙つながりで出来た魔法仲間だ。魔力の糸を使えるようになれば色々と応用が利くという事で、ご教授してもらっている。霊力でやっている分、なにかと勉強になるそうだ。この三人とボードゲームなりをするとなぜか俺だけ一文無しになる。

 

 なんか負けてばっかな気もするけどそれはあくまでゲームの話。

 武術関係は美鈴さんにまだ教えて貰って、手加減されてる一撃ぐらいなら合わせられるようになった。まあ、威力を相殺できているわけでも、受け流せているわけでもないので吹っ飛ぶんですが。手加減とはウゴゴ……。

 んで、魔法関係の魔女三人衆。魔法自体は使えないけど仕組みさえ知ってれば似たようなことができるよ。ってことで色々勉強中。

 で、出来そうだったのが汎用性の高い魔力糸、を霊力で再現すること。今は一本を大体二メートル程度で出せる。強度は人間程度なら持ち上げられるし、やろうと思えば切断できる。扱いはかなり難しいけど。

 その糸を複数の人形に付けて操ったりとかはできない。先端に重しとか付いてないから鞭みたいな扱い方になるけど……、まあ、当たらないよねーってっ感じ。

 なので、切れ味をもうちょっとどうにかしたいねって話し合ってる。

 魔理ちゃんからは魔法の道具を譲ってもらってるから、攻撃手段だったりはかなり幅広くなった。

 

 そして、紫苑。あっちはあっちでヤバいことになってる。

 紫苑も自身の力を制御できるようになった。その不幸を他人に向けてか、自身に向けてかを操れるようになった。

 控えめに言って訳が分からない。レミリアが苦戦する、美鈴さんが迂闊に近寄ることができない、萃香が能力に頼る、そういったレベルに位置している。

 勝つこと自体は出来ないにしろ、幻想郷の最強格たちがこぞって苦戦するという事は、紫苑もまた幻想郷最強格の一人に数えられるのだろう。

 スーパー紫苑ちゃん爆誕である。

 本人としては、戦闘能力が欲しいわけではない。というのが玉に瑕だが。

 

 さて、語られない、語る必要のない昔話はここらで切り上げるとしよう。

 俺は今とある用事で博麗神社へと訪れている。その用事とは先ほど挙げたスーパー紫苑ちゃんのお守りの厄払いだ。

 方向性を操ることができるようになったとはいえ、その影響力を消失させることができる訳じゃない。

 つまり、溜まるものは溜まっていくのだ。

 だから、定期的にお守りを俺が預かって博麗神社に持っていき妖怪の山でお祓いをしてもらっている。博麗神社で行わないのは妖怪の山にその手の専門家がいるから。鍵山雛。疫病神だ。彼女に厄を乗せ、川に流し厄を払う。

 ただ、本来行っている厄払いの儀式と日時がズレている為、博麗霊夢に手伝ってもらって上手いこと調整しているらしい。

 

 さあ、ながいながい階段を登り切り、赤い鳥居をくぐる。額にはうっすらと汗が滲んだ。秋風が紅葉と共に火照った体を冷やす。

 神社なのだから礼儀作法云々あるのだろうが、律儀にやっていると大したものを祭っているわけじゃないしさっさと入って来いと巫女さんに言われて以来素通りである。決してそこに私面倒ごとを起こしに来ました!! とでも言いたげな緑髪の巫女と鬱陶しそうに相対している茶髪の紅白巫女が言い争っているからではない。そう、俺は以前に言われているのだ。私を待たせるくらいならそんな事してないでさっさと来なさい、と。水で手を清めている所を言われているのだ。これはいたしかたのない事なのだ!! 

 

 さあ、居間にでも座って待ってますか。

 

「待ちなさいよアンタ……!! ッ」

 

 あれれ~??? おかしいなぁ~??? 足が前に進まないぞぉ~??? 

 

「アンタッ、私に散々借りがあるわよねぇ?」

「いや、ちょっと緑髪の巫女服擬き着ているような知り合いなんていないんで、そんな知り合いがいるような方を僕はご存じないので離してもらってもいいですかねッ!!」

「ふざけんじゃないわよッ こっちは訳の分からない事ばっかり言ってるコイツと朝っぱらから面を向かい合わせてんのッ!! 見て見ぬふりなんてユルサナイ」

「ひえッ……なにこのひとこわ私は家に帰らせてもらいます!!」

「家ってそれ私の家でしょうがいいからこいつをどうにかしないさいよッ!!」

 

 あまりにも切羽詰まった博麗の巫女さんに押され、恐る恐る後ろを見る。

 俺の腰に両手を回し全体重を乗せ行かせまいとする博麗の巫女さんをさらに抑え私何も悪い事してませんとでも言いたげに目をキラキラさせている緑髪のヤバい奴。

 どう考えても東風谷早苗なのだが……なんかヤバい奴ってイメージを勝手に持っていたけど本当に関わりたくないと大声を上げて逃げ出したくなるほどヤバい奴臭がプンプンする。

 

「……………………いやぁ、控えめに言って関わりたくないかなぁって」

 

 そう言って紅白巫女を引き剝がそうとした時、緑巫女こと東風谷早苗であろうその人物と目が合った。

 翡翠色の瞳は吸い込まれそうな程に美しく、長く伸びた緑色の髪は不自然な体勢からでもよく手入れされていることが分かる。頭には特徴的なカエルの髪飾りに、白蛇の髪留めのようなもの。見れば見るほどその姿は知識の中にある姿と合致していく。

 てか、幻想郷にいる巫女さんは脇を出さないといけない決まりでもあるのだろうか? 

 

「あ、どもっ」

「こんにちは。貴方も守矢神社を信仰しませんか?」

「あ、いやぁ~遠慮しておきますぅ」

 

 下手な鉄砲数うちゃ当たる。信仰勧誘だとしてももうちょいまともな誘い方をしようぜ? されたとしても信仰するつもりもないけど。

 

「あのぉ~お嬢さんはどうしてこちらの神社に? というか、そろそろ話してもらえませんかね?」

「実は私、つい数時間前にこっちに来たんです。理由としては、笑われるかもしれませんけど、私のいる神社、守矢神社の神様たちが信仰を得られず消えかかっていたのでこっち、幻想郷に来たんです。こっちなら、信仰を得られずとも、限界するだけの力は補えるからと。

 ですが、信仰心がなければ結局意味がない。一から集めるのは勿論だとしても、時間が掛かります。

 だから、私、考えました!!」

 

 なんかすごい早口で話し始めたし、結局よく分からないけど、切羽詰まって逃げてきたのかなーってのはわかった。

 そして、次に出てくるであろう言葉に僕はいまどきがむねむねしています。

 

「幻想郷にある他の神社を制圧して分社にしてしまえばいいと!!」

 

 んー????????? 

 

 あれ、この子ってこんなに阿保の子設定だっけ。もう少しこう、抜けてるけど基本的に常識人枠だったと思うんですけれど。

 

「あ、申し遅れました。私、東風谷早苗って言います。つい先ほど幻想郷に引っ越してきた守矢神社の風祝、巫女を務めさせていただいてます。今後ともよろしくお願いいたします」

「あ、これはどうもご丁寧に。自分はマツリって言います」

「ねえ、私を置いて会話を続けないで貰っていいかしら。何がご丁寧によ、状況を考えなさいよ状況を」

「まつり……まつりですか? それって草冠に末と裏の?」

「ああ、よくわかりましたね。その通りですよ」

「無視しないで貰える!?」

 

 なんだか俺の腰に手を回している変女が騒がしいが気にしない。こっちはどう変に刺激を与えずにこの変女を対処するかで脳がパンクしそうなのだ。

 にしても、この緑巫女、よくマツリの漢字を一発で当てられたな。最近は物忘れも酷くて自分でも忘れそうになるのに。書き物しないって怖いね。

 

「いやぁ、二年前に話題になりましたから。でも、これならいくら頑張っても見つからない筈です」

 

 瞬間、脳が警鐘を鳴らした。聞くな(聞け)と。

 

「男性の大学生であそこまで大々的に取り上げられるのも珍しいですからねぇ」

 

 口の中がやけに乾く。唇が一気に渇き、呼吸が荒くなる。

 

「部屋には生活感が残っており、台所にはその日に買ったパスタと、誰かが入っていたとしか思えない状態のまま放置された風呂桶」

 

 耳が彼女以外の声を遮断する。

 

「大学生活も始まったばっかりなのに、無断欠席が一週間。不審に思った教授が家族に連絡。くうぅぅ~!!!! 現代の神隠しとして何度もドキュメンタリーで取り上げられて、流石の私でも覚えちゃいましたもん!!!! 

 

 霧生茉裏さん。ですよね!!!!」

 

 あたまのなかにしらない(しっている)きおくがながれこんでくるちちとははとじぶんじしん

 

 あまりの情報量の多さに脳はパニックを起こし、処理しきれないものは喉の奥から吐瀉物として吐き出された。

 頭を殴られたかのような痛み、いままで忘れていた事実、過去それらのものが俺を俺として再構築していく。

 

 しかし、困惑したのはほんの数分に過ぎない。

 そりゃあそうだ。要は幻想郷に来たばかりの頃の記憶が蘇っているだけなのだから。それに、似た経験は一度している。

 

 そう、それだけなら……

 

「ですが、ご安心ください!! そんな貴方をご家族のもとに戻してあげます!! なんて言ったって私は軌跡を操れるのですから!!」

 

 そして、博麗霊夢の腰を掴んだままなにやら呪文のようなものを唱え始めたと思えば、俺の目の前には紛れもない父と母が住む家。我が家の目の前に俺は一人、立っていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

まあ、帰省の一つくらいさせてあげないとねぇってことで。

では、また次回~


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第31話 何があってもバッチコイの状況

暑くなったり寒くなったり体が環境についていけないですたすけて


 空は赤く、もう忘れていたアスファルトのどことなく焦げたような嫌いになれない臭い。雨でも振ったのか、吹いてくる風はほんのり冷たく肌へと張り付いた。

 もう忘れてしまっていた現代、元の世界の景色。数年前まではそれが当たり前だった住宅街という景色に新鮮味を覚え、だんだんと以前のように懐かしさがこみ上げてきた。

 幻想郷では存在していない電柱が、現代の便利さを現している。

 

 訳も分からず突っ立っている俺。その目の前には代わり映えしない実家。

 

 夢? いや、現実。五感に浴びせられる情報はそれを確信させていた。

 インターホンを鳴らすべきなのか、それとも離れて紫様とコンタクトを取るべきなのか。

 伸ばしかけた手を何度も引き戻し、やめておこうと決める。創作の世界だと思っていた幻想郷を、今の精神状態でどう説明したらいいのか分からない。しかも、幻想郷のこと自体には一切触れずに説明を知ろなんて無茶が過ぎる。

 

 そもそも、出会い頭に何と言えばいいのだ。どのような顔をしていればいいんだ。笑顔にただいま? 泣きながら? 

 分かるはずがない。分かってたまるかそんなこと。

 

 お互いの為に合わないのが正解なんだ。

 

 伸ばしかけた手を完全に引っ込めて、踵を返す。

 アニメなどで感動の再開だとかいろいろある。いま、俺が直面している状況もそういったものに分類されるのだろう。

 けど、精神状態が伴っていない以上どうしたらいいのか分からないというのはきっと正常なもので、やめておこうとしたのも間違ってはいなくて。

 

 けど、でも、お約束というものは実在していて。

 

 踵を返したその先に、ここ数年見てこなかったスーパーのビニール袋を持った主婦の姿を見つけてしまって、あっちもまた俺のことを見つけたようで、

 

 服は雨に降られたのかほんのり湿っており、髪もびしゃびしゃ。そして、その上からでもわかる大粒のソレは、三年近くたった今でも覚えていてくれた証。

 三年近く経ついま、容姿なんて大きく変わっているだろう。それでもなお、分かってくれる事実に、自然と言葉が出た。

 

「ただいま、母さん」

 

 

 

 それから泣きじゃくる母をなだめ、家の中へ。家の中は掃除が行き届いており、生活感はほとんど感じられない程だった。そんな中で、俺の部屋だけは引っ越し直後から殆ど触れていないらしく、学生らしくそれなりに散らかっていた。

 引っ越す前に片付けたのかと散々言われ、言われるたびに片付けたと返す。その実、本は乱雑に本棚に押し込められ、半端なキーホルダーだったりよくわからない小物は机の引き出し。大体の物は押入れに押し込んだりと、まあ、捨てるのがめんどくさくて適当に押し込んでいたのが思い出せる。

 多少は捨てたし、押し込んだというほどぎゅうぎゅう詰めまでにはしてないと思い込んでいた。でも、時間が経って開けてみると、やったなコイツ感がすごい。

 昔の服は殆ど入りそうになかったが、ジャージを羽織る程度は出来たのでそれを着て居間へ。

 そこには、嬉しそうに買い物袋の中身を片付けている母親の姿。

 

「取り敢えず着替えてきたけど、やっぱり殆ど入らないわ。自分で言うのもあれだけど、筋肉ついてガタイが良くなったからなぁ」

「そうねぇ、玄関先でボーっとしているアンタを見つけた時は見間違いかと思ったもの。なんだか大きい人が家の前にいる!! ってね」

「なら、なんですぐに俺だって分かったん? 結構見た目変わってると思うんやけど」

「何言ってんだか。そんなの私がアンタの母親だからに決まってんでしょ。お父さん、仕事切り上げて帰ってきてるらしいから。ゆっくりしてなさい。アンタには聞かないといけないことが山ほどあるんだからね!!」

「……言わないって選択肢は、ないっすかね?」

「あるとおもう?」

「…………ウッス」

 

 居間のソファに深く腰を下ろす。向こうでこのふかふかさを感じようと思ったら紅魔館にまで行かないといけないから、なんとも贅沢に感じる。

 新鮮ながらも、慣れた手つきでテレビの電源を付ければ料理番組が始まっていた。三分で作るアレだ。

 後ろからは洗い物をしているのだろうか、水の流れる音が聞こえる。

 このまま久々のテレビを満喫してもいいのだが、それ以上に親孝行だろう。あとどの程度いられるのかも分からないし、これが本当に今生の別れになるかもしれない。やれるだけのことはしておきたい。

 

 鼻歌を歌いながら溜まっている食器類を片付ける母の隣に立ち、一緒に作業を進める。泡の付いた食器を受け取り、それを水で流す。じゃぐちってべんり。

 

「めっずらしい」

「そんなことあるかもしれない」

「マツリ、何食べたい?」

「なんでも」

「なんでもが一番困るんだけど」

「母さんが作ってくれたものなら何でも喜んで食べるよ」

「褒めてくれてありがとうだけど、言ってる内容は変わってないことに騙されるほどボケてないわよアンタの母親は」

「んー、じゃあ唐揚げとか?」

「男の子ねぇ」

「三年たってんだから子って程小さくもないわい」

「親からしたらどれだけ経っても子は子なのよ」

 

 そういうもんかと流し、料理が始まるとそのまま台所から追い出された。ゆっくりしてろとのこと。

 幻想郷では基本何かしら動いていることが多かったのでかえってその要望は困ったり。

 いや、割とマジでやることがないぞ? 実家に帰るとやることがないなんて聞いたことがあるが、これがそうなのだろうか? そもそもそれは三年近く音信不通だった場合でも適応されるのだろうか? 

 

 なんて、どーでもいいことを考えたりしながら軽いストレッチをすることに落ち着いた。

 テレビから流れる人の声に、後ろから聞こえる家族がいる生活音。当り前が当たり前でなくなったあの日から忘れていたもう一つの日常。いまでは、それが非日常に満ちたもの。いやはや、人生なにがあるか分かったもんじゃないね。

 

 というか、結構のんびりしているが幻想郷側は大丈夫なのだろうか? 

 いや、俺一人がどっかに行った程度で劇的に変わるなんてことはないことは百も承知だが、紫苑とか萃香あたりが暴れん坊将軍になっていたら何かとマズい気がする。

 

 足を広げてからだみよーん。

 だって、あの二人が本気出したら幻想郷半壊できるぜ? 知らんけど。

 けど、守矢神社への襲撃はしでかしそうで怖いんだよなぁ。守矢神社の二柱と貧乏神どっちが強いかは知らないけど、現状で考えると軍配が上がるのは紫苑のほうだよな。

 片や二柱とはいえ消えかけの瀕死状態。対して、形こそ違えど人々から受け入れられてる貧乏神。神の力ってのが信仰心から来ているのだとすれば、間違いなく紫苑の方が強いだろ。

 そこに萃香も加わる可能性がある。アイツ、紫苑のこと割と好きだからな。カチコミ行こうやって言われたら二つ返事で行くに決まってる。面白半分で。

 

 …………頼むから厄介事を起こさないでくれよ。

 

 そんな悩みもほどほどに、やがて揚げ物の空腹を誘う匂いが漂ってくる。

 そろそろかとストレッチを切り上げ配膳の手伝いにでもと立ち上がった時、玄関の鍵が開く音が聞こえた。

 鍵を開けた本人は焦っているのか、ドッタンバッタン大騒ぎ。何度か何かにぶつかった音がした後、一瞬の静寂が来て、ゆっくりとリビングの扉が開く。

 扉の先にいた人物は台所の方を向き、母さんに指差され、その方向へと向き直した。

 目と目が合う。母さんと同じく、三年ぶりの再会。顔にかけたメガネはズレていて、スーツはだらしなく右肩だけ脱げていた。どこかで転んだのか、ズボンの膝部分が破けて血がにじんでいる。

 なんともまあ、だらしない形での再会なことで。

 

 まるで幻覚を見ているかのように茫然としている父を見据える。

 

「ただいま。父さん」

 

 母にしたように、何時もの、いつも通りの日常を口ずさむ。

 父さんの目尻には涙が溜まり、やがてリビングのカーペットにシミを作り始めた。

 鼻をすする音が聞こえる。息をのむ声が聞こえる。

 

「お、おかえり。おかえり、茉裏。よく、帰ってきたな」

 

 何気ない返事と共に、俺は父さんに抱きしめられていた。その肩は酷く震えていた。

 

 

 それから、母さんの料理に舌鼓を打ち、片付けまで済ませた。

 会話はそれほど多くない。共有の話題もないし、なにから切り出せばいいのかが分からないからお互いに困ったちゃんになってた。

 その間にある程度心の整理は済ませていたので、俺の方は何があってもバッチコイの状況。

 

 食卓に座り、目の前にはお茶のみ。向かいには神妙な顔をした父と母の姿。

 何をしでかしたって? 三年間音信不通で行方不明になっていただけだが? 

 いやはや、色んな奴を相手にしてきてそれなりに場慣れもしている筈ですが、両親というものは両親というだけで緊張するものですな。

 

 まあ、何が言いたいかと言うとですねはい。

 

 家族会議(地獄の時間)の始まりだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

次回、家族会議。

本当はここに入れようと思ったけど、リアルがちと忙しかったのもあって次回にぶち込みます。

んじゃ、また来月ねー


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第32話 いってきます!!

もうここなにも書かなくてもよくね?


 最初に口を開いたのは父だった。どこにいたのかと。

 俺はそれに沈黙で返した。

 次に口を開いたのは母だった。怪我はしてないかと。

 俺はそれに沈黙で返した。

 

 二人は少し考えた後、再び言葉を発した。

 俺は呑気にお茶をすすっていた。多分インスタントのやつなんだろうけど、懐かしさも相まってうめぇわ。

 

 今度は先に母が、危ない目に合わなかったのかと。

 緊張してるときってやけに喉が渇くよね。

 続いて父が、脅されているのかと。

 お茶無くなっちゃた……。

 

 そんな呑気な立ち振る舞いをしていると、両親はお互いに顔を見合わせ深くため息を吐いた。

 いや、俺も分かってるんすよ? でも、話せないんだもしょうがないじゃん。

 

「あのなぁ、茉裏。確かにお前が無事に帰ってきたことはとても嬉しい。だが、何一つとして情報もないままだと心配したままなんだよ」

「少しだけでもいいから、話してくれないかな?」

 

 二人が懇願するように俺の顔を覗き込む。空になった湯飲みを机に置き、二人の顔を見つめた。話せません。

 それを肯定、話してくれると取ったのか二人は再度質問を投げかけてきた。

 

「何処にいたんだ?」

「言えません」

「危ない目にあったりとか」

「言いません」

「どうやって帰ってきたんだ?」

「黙秘権を行使します」

 

 二人は頭を抱えた。

 いや、質問に答えれる部分もあるのよ? けど、どこからボロが出るか分からない、自分の置かれている現状を把握しきれていない以上は話そうにも話せないのだ。

 …………ちょっと両親に会えて浮かれているの事実だけど。親を困らせるのは子の特権なのよ。

 

「おまえなぁ」

「話そうと思えば話せるけど、俺だってどう説明したらいいのか分かんないんだよ。下手に話しても余計に心配させちゃうだろうし」

 

 だとしてもなあ、といった具合で渋る父に、じゃあこしようと俺はおもむろにジャージを脱いだ。

 作務衣は着たままだったので、更にそれの帯を緩める。

 鍛えられた肉体に両親は声を漏らし、直ぐにその口を堅く結んだ。

 そりゃそうだ。前振りからして何かあったのは容易に想像ができる。そして、危険な目に会ってきたのであろうことも。

 しかし、想像と実物を見る事は全くの別物。

 何処の親が身体全体に致命傷であろう傷を携えて帰ってくると覚悟ができるのか。ましてやここは平和ボケなんて言葉が生まれるほどの国。

 事実、先ほどまでとは打って変わり二人の顔は青白くなっていた。

 

「背中は見ないほうがいいよ。まあ、そういう事だから、言えることが無いの。ごめんね父さん、母さん」

 

 いまにも怒鳴り散らしそうに口を開けたと思えば、ぎゅっと紡ぎ泣きそうになっているのを堪えている。

 差し伸べられた手は目的地を見失いやがて力なく帰っていった。

 静寂が俺たちの間に生まれる。

 

 …………思った以上にショックを受けていらっしゃって俺もはんのうしづらいですッ!! 

 

 体の傷のほとんどは藍様に付けられた修行の跡。確かに致命傷も多くあるが、身内、あの頃を身内っと言って良いのかは置いといて、知らない間柄ではなかった。顔見知り以上友人以下って感じ? 

 向こうも面白半分でやってたから多分死んでも死ななかったと思う。永遠亭の事を経験している以上、これは確信に近い。

 背中も本来は表と同じく傷だらけだったが、永遠亭の一件で丸ッと消えているので大きく深いものでもない限りは残っていない。

 こうやって考えると死地に飛び込んだ割には五体満足で帰ってこれてるって割とすごいのではと思ったり。いや、一回間違いなく死んではいるんですが。

 

 と、昔話は置いといて、いまは目の前の二人をどうにかしよう。

 出来るだけ刺激を与えないように、優し気で、柔らく言葉を発していく。

 

「心配しないで大丈夫。って断言出来たら良かったけど、それは出来ない。さっきのを見たら分かると思うけどね。ただ、俺もそう簡単にやられるつもりはないし、そもそも死ぬために今まで必死に足掻いて来たんだ。二人が思っている以上に俺は強くなったよ。心も、体もね。それが、そういった場で致し方なくってのが瑕だけど」

「…………そう、なんだな」

 

 父から絞り出されるようにして聞こえてくる小さな返事。

 簡単に割り切れる訳が無いだろうッ!! 、そう言っているような気がした。

 そんな中、いち早くこの空気を破ったのは母だった。

 

「……分かりました。分かりたくなんてないけど、割り切らないといけな。ところ、なのよね。その言い方だと、ここに帰ってくることは、考えていないんでしょう?」

 

 言いにくいことをズバズバと言ってくれるものだ。

 帰る、この家に。両親が待つこの家に。もしかしたら、これが最期の時間になるかもしれない。そして、俺自身がここに留まるという選択肢を考えていない。きっと、見透かされている。

 謎めいた確信とともに力強く頷いた。一瞬、母の瞳が揺らぐ。

 

「そう……。そっちで気になる子はできた?」

「うん。命にかけてでも守るべき人が」

「そう。なら、待たせる訳にも行かないわね。いつごろ帰るの?」

「分からない。もしかしたら明日かもしれないし、一週間先かも知らないし、一年先かもしれない。もしかしたら、あと数分かもしれない。だけど、どれだけ時間が掛かっても、俺は帰るよ。愛する人が待ってるから」

 

 その時、鈴の音がなった。玄関のインターホンや電気家具等の音とも違う、神秘的で澄み切った音。

 二人にも聞こえたのだろう。音のする場所を探してキョロキョロしている。

 

「噂をすればなんとやらってやつ。もういかないと」

 

 鈴の音の中に異質な音、インターホンの呼び出し音が鳴った。慌てて母さんが見に行くもの、画面には何も映し出られておらず、また物音も聞こえてこない。玄関から出て来いという事なのだろう。

 

「母さん。唐揚げ美味しかった。父さん。怪我したところはちゃんと手当てしておきなよ?」

 

 椅子から立ち上がり、リビングのドアを開ける。聞こえている鈴の音がより鮮明に響く。

 

「一応、また帰してもらえないか話してみる。どうなるかは分からないけどね。それじゃあ──」

 

 最後、最期に何と言って締めればいいのか分からない。最後、最期、もう二度と会えないかもしれない。そして、それは自分の意志でもある。

 余裕ぶって、強い顔して、大丈夫だからって蓋をして。その場をなんとかやり過ごして、最後の最後で大決壊。

 喉はひりつき呻き声のようなすすりしか出てこず、正面に立っている二人が歪んで見えた。

 

「まったく、最後くらいシャッキとしなさい!! また会えるように掛け合ってくれるんでしょう? だったら、また会えるわ。きっと、必ず。だって、私たちは家族なんですもの」

「いいか、茉裏。家族ってのは心で繋がっているんだ。今日、俺はそれを確信した。また会える。絶対に。次帰ってくるときは、茉裏の大切な人を紹介してくれ。父さんとの約束だ」

 

 そう言って二人は俺の体を抱きしめた。しばらく、その温もりに包まれてもう大丈夫。と、二人の抱擁から抜け出す。

 見送るよと言われ、玄関先まで一緒に向かう。

 玄関のノブを掴む。

 これを捻り押すだけで、きっと幻想郷へと飛ばされるのだろう。

 

「父さん、母さん」

 

 父は強し、母も強し。両親と言うのは子を前にすると無類の強さを発揮するもののようだ。

 なら、多くの言葉はいらないだろう。

 なら、終わりの言葉もいらないだろう。

 なんせ、後ろにいる二人は、俺の両親なのだから。

 

「──いってきます!!」

「「いってらっしゃい」」

 

 後ろを振り返りながらドアを押し開ける。それと同時に生暖かい風が頬を撫でた。

 手を振る両親の顔は笑っており、釣られて俺も笑ってしまう。

 

 その光景を最後に俺の体は無重力に近い何かを感じ取った。

 アスファルトも電柱も、民家も植物も、光という存在も闇という概念も一概に存在しない。ただ、四方八方上下左右に所狭しと存在している眼球が俺のことをじっと見据えていた。

 

「実家もそうだったけど、この空間も随分と久しぶりだなー」

 

 ふわりと体を浮き上がらせるように力を抜き、何もないはずの場所に地面があるように着地する。

 不思議な感覚に多少気分が悪く……いや、やっぱ気持ち悪いわ。

 

 最後にこの場所を使ったのはいつだったか? 少なくとも幻想郷に初めて訪れた時は通ったはず。その時は落ちるように身を任せていた。

 なら、今回もそうしていればいいのかもしれない。だが、それは御免被る。いや、マジであれ三半規管とかわけわからんことになんだよ……。頭に血が上ってるようにも感じるし、横から押し流されているようにも感じるし、内臓が押し潰されているようにも感じるんだよ……。

 上に押し上げられているのか、下に落ちているのか、横に流されているのか、前に押されているのか、後ろにひかれているのかが油断したら一瞬で分からなくなるから……。

 

 幻想郷に来た後も、何度か通った経験があって導き出した答えが、自分の足で歩くだった。

 この空間、紫様の隙間の中なわけだけど、認識しているって思い込めばそれがあるように感じれる。

 だから、俺の足の下には地面がある。だから、勿論のこと歩くことも可能だ。

 

 さて、歩くことが可能になったとはいえ何かできるわけでもない。

 俺をじっと見つめている眼球に近づいて触れることもできない。こちらが動けばその分向こうも離れる。というより、近づけているのかが怪しい。

 何時もなら、そのうちどこかに放り出されるのだが、今回は事が事だ。放り出されるにしてもそれ相応の覚悟がいる。

 かといってどこに放り出されるんですかー!! と叫んでも隙間を操る我が主様こと紫様にコンタクトが取れるわけでもない。取れていたとしても無視されている可能性だってある。

 

 どうしたものかと頭をひねると、目の前の空間に新たな隙間が開いた。

 入れということなのだろうか? おずおずと近づくと、そこから一人の女性が出てくる。

 

 あまりにも美しい金の髪はこの異空間でも異色を放ち目を離すことを許さない。紫色のドレスにフリルのあしらわれた洋傘。逆の手には扇子が握られ、口元隠していた。表情を読むことは出来ないが、恐らく笑っている。

 

 その姿を認識したと同時に、生物としての危険信号が鳴り響く。気が付けばその場に跪いていた。

 八雲紫。俺の主であり、幻想郷を管理するもの。

 

「顔を上げなさい茉裏」

「はい」

 

 跪いたまま顔だけを上げる。

 目の前にはドレスのスカート部分。もう少し顔を上げ、主の視線に合わせる。ふんわりと香るのは金木犀だろうか? 

 

「流石に驚きました。能力の暴走とは言え本当に貴方を外に連れ出してしまうんですもの。それも、私の力をこじ開けてね」

「紫様、その件についてなのですが」

「待ちなさい。話したいことがあるのは分かっているわ。けれど、先にしてもらわないといけないことがあります」

 

 手にした扇子を閉じ、軽く振る。すると、俺の目の前に一つの隙間が現れた。

 見て見ろという事なのだろうが、一体何が? 

 

「あ、あー…………」

「そういう事よ」

 

 隙間の先には妖怪の山と思しき場所と、えらく暗い印象を受ける神社。いや、これ物理的に黒くなってない? 気のせい? 

 

「私が直接手を下してもいいのですが、立場が立場。更には、不幸という不安定なものを対処するのは面倒なの。やってくれるわよね?」

「あ、いやえーっと……行きたくないかなぁーなんて…………」

 

 主のいう事は絶対。だとしても嫌なものは嫌なのである。なんか近くを飛んでいる、いや、いた妖精や天狗が蚊取り線香のごとく落ちていくのが見える。

 控えめに言って行きたくないですぅ…………。

 

「あの後、霊夢が貴方の所の貧乏神、依神紫苑ちゃんだったかしら? の所まで行って事情を説明したの。そうしたら彼女怒っちゃったみたいで、萃香と一緒に乗り込んでいっちゃたのよねー。

 妖怪の山は幻想郷のバランスを保つ重要な場所。貴方がもう少し気を張ってくれていたらってどうしても思っちゃって。ねぇ?」

「………………いかせて、いただ……きます、はい……」

「素直な子は好きよ」

 

 扇子を広げなおしクスクスと笑う。凄い、すっごい殴りたい。消されるからそんなことしないけど、すっごいしたい!! 

 

「あんまり女性を殴りたいなんて思ってはダメよ?」

「前も言いましたけど、急に心を読まないでください。心臓に悪いです」

「あらごめんなさい。事が終わったら話す場を設けるわ。聞きたいこと、あるんでしょう? ご褒美が欲しかったら頑張りなさい」

 

 そして、目の前の隙間から突風が吹き荒れた。むこうとこちらが繋がった。

 場所は妖怪の山山頂付近。高さはおおよそ10か15メートル。

 

「行ってまいります。話の件、よろしくお願いします」

「ええ、確かに」

 

 霊力を足に纏わせ隙間へと飛び込む。途端に不幸という無差別な嵐が身体に叩きつけられたのが分かったが、これと言った影響が感じられなかった。

 枝の一本でも刺さるかと身構えていたが杞憂に終わった。

 

 無事地面に着地し、神社のある方向へ直ぐさま進んでいく。あからさまに物々しい雰囲気が空を覆っているが極力視界に入れないように。

 

 正直行きたくない。ひっじょ──ぉおうに行きたくないが、行くしかない。紫様からの命令だし、珍しく対価が用意されてるし頑張るしかないなぁって。

 

 

 お話するまえに死ななければいいなぁ…………

 

 




お読みいただきありがとうございます。

なんやかんやで自炊生活になりましたが僕は元気です。
料理楽しいけど片付けが面倒ですねぇ。

取り敢えずパッパとマッマの登場はこれでおしまい。
茉裏くんが頑張ればまた出てくるんじゃぁ無いっすかね。


ではまたまた次回にね(。´・ω・)?
前書きって必要(。´・ω・)?


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第33話 一緒に生きていきたい

いっしょういっしょにいてくれや

ってことです


 十数メートルの高さから何事もなく着地し、それになんの不思議も抱くことなく目的地に進んでいく。俺も化け物に片足突っ込んでんだなぁって感慨深くなる。

 一歩、また一歩と進んでいくたびに、体をねっとりと纏わりつくような嫌な風に寒気を覚える。心臓が早鐘を打ち、危険信号を鳴らしている。

 

 落下しているときにも感じたし、なんなら体のどこかに風穴一つ程度は覚悟していたので、この嫌な感じには大して驚きはしなかった。

 むしろ、いま五体満足で地に足をつけられていることに驚いている。

 

 少し視線を上に上げれば、木々の隙間からやけに濁った曇り空が覗いていた。そして、黒い人影が一つ落ちて行ったのが見えた。一対の翼のようなものが見えたことから、天狗なのだろう。曲がりなりにも妖怪の山を支配している天狗が目的地に到達することも出来ていなかった。

 

「まじで蚊取り線香状態じゃねぇか……本格的にヤバくないかこれ」

 

 事態の深刻さを理解した上で再認識し、重い足を懸命に動かす。

 今、俺の周りを取り囲っているのは一種の防衛反応に近い。なにかよく分からないが嫌な予感がして立ち止まったら目の前を車が横切っていった。元の世界では稀にある、アレである。

 それが連続して俺に襲い掛かってきていた。しかし、立ち止まる訳にもいかないので懸命に嫌がる体を前へと押し出している。

 最初こそは大したことはなかった。しかし、近づくにつれて不幸という嵐はその勢力を強めていく。

 それにつれ呻き声や嗚咽と言ったものが茂みの奥から聞こえてくるようになった。

 

「八雲のおかげか、はたまたお守りのおかげか、それとも紫苑が無意識的に避けてくれているのか……。進めてるだけ軌跡ってことだわな」

 

 まだ余力のある天狗や野生動物は我先にと逃げ出していき、その余力すらも奪われたものは蹲り助けを乞う。そのどちらにも属してないのは泡を吹き倒れていた。

 

 ここまで来ると不幸とか関係ないのでは? いや、ここにいること自体が不幸なのかと一人納得し彼らを見捨てていく。

 

 重い足をを付き動かしながら進んでいく。距離としてはそこまでなかったはずだが、目的の守矢神社に着くころには服が汗で重くなっていた。

 多少の吐き気を催しながら、鳥居の内側を観察する。目視で見る限りは大きな変化は見つけられない。ただ、明らかに守矢神社の内側と外側では不幸の密度が違うように感じられた。

 行きたくないと鳴りやまぬ警告を無視し、一歩、神社の境内へと足を踏み入れる。先ほどまでとは比べ物にならない、全身をねっとりと覆うソレに体が凍り付く。

 喉の奥、胃の底から這い上がってきたものを吐き出す前に堪え飲み込み、揚げ物の油臭さが口の中を支配した。

 近場に会った手水舎へとなんとか足を延ばす。水源が途切れているのか、水は出ていないものの溜まっていた水を口に入れゆすぐ。

 幾分かマシになった状態に、多少なりとも心の余裕も生まれたいやうそですごめんなさいきがぬけたしゅんかんに──―

 

「…………すっきりしたぜ!!」

 

 手水舎の排水に向かって豪快に胃の中のものをぶちまけてしまった。溜まっている水で何とか見た目だけは綺麗にしたものの、まだ微かにツンとした臭いが鼻を突く。

 ま、まあ、元をたどれば緑巫女がこちらの了承を取らず幻想郷から追い出したせいなので俺は悪くない。悪くないったら悪くないのだ。

 

 完全にシリアスをぶち壊しに行っているが、そうでもしていないとこっちの精神が持ちそうにない。これは天狗も野生動物もなりふり構わず逃げ出すわ。色々と対策チックなことが出来ているであろう存在がこれなのだから。

 

 いまにも力が抜けへたり込みそうな体を、手水舎の柱に寄りかかり何とか立てている状態。

 恐らく事件の中心は本殿か、居住区辺り。真っ直ぐ歩けば一分程度のその距離が憎たらしいほどに遠く思える。

 何度も、何度も力の入らない手で足を殴る。弱弱しい音と共にふっと全身から力が抜けた。

 口は酸素を求めながらも開いてはいけないと脅迫されたかのように堅く閉ざされ、視界はジェットコースターに乗っているかと錯覚するほど安定しない。

 足は勿論、腕にも、腰にも首ですら力が入らない。力の抜けた足はズルズルと地面へと引き寄せられ、腕はだらんと投げ出された。上半身が起き上がっているのはある種の軌跡に近く、たまたまバランスよく座り込めただけ。首はそれが鳴りを潜めるのを待つように下を向く以外の選択肢を取らせようとはしなかった。

 

 生物としての本能。この世界に来たばかりに見た理不尽な暴力とも、生存権を巡っての争いとも、他者自身に向けられた殺気とも、圧倒的過ぎるが故に頭を垂れるしかないそれとも、違う。

 ただ、過ぎ去るのを待つしかない天災。生物が抗う事すら許されない絶対の象徴。ただ、祈り安全を願うことしかできないソレが、この本殿に凝縮されていた。

 もし、自身の感覚が正常なのであれば、今全身を取り巻いているソレは天狗と吸血鬼の生存争いの時に見せた藍様の力の奔流と同等かそれ以上。

 しかし、質の悪さで言えば間違いなくこちらに軍配が上がるだろう。

 

 次第に体の感覚が薄まっていく。ふわふわとした夢心地に固く閉じられた口の端から、唾液が薄らぼんやりと光を受けながら地面へと滴り落ちる。

 ただ、助けてほしい。この場に居たくない。帰りたいかえりたいかえりたいかえりたい…………。

 

 …………だからこそ、進まねばならない。

 

 もう、残っていない腹の底から胃酸が噴き出てくる。鼻の奥を喉の奥を不愉快なもので溢れ返させながら地面へと突っ伏した。

 そして、動かない体を、動かせない体に身じろぎしながら抗う。

 

 帰りたい。なら、一緒に帰らないとダメだろう。ついさっき両親と約束をしたのに、ものの数時間で守れませんでしたじゃ格好付かないだろうが馬鹿なんじゃねえのか俺!? 

 

 幸いと言って良いのか悪いのか、視界は常にクリアだし、思考も問題なくできている。だからこそ、現状の重さを、この先に渦巻いているモノのヤバさを認識してしまえる。

 

 足も、腕も、腰も、肩も、口も、脳も、心臓も、行くな馬鹿か死ぬぞやめろ阿保だろ進むな、あるものは力が抜けて使えず、あるものは警鐘を鳴らし正気へと引き戻そうとし、あるものはその速さを上げ必死にそのヤバさを伝えてくる。

 

 我が体のことながら、随分と必死になっているものだ。

 

 何時だって綱渡り状態だったのに、今更何を焦っているのか。

 紫様の駒になったあの時も、初めて幻想郷の土を踏みしめた時も、吸血鬼の本気を垣間見た時も、鬼と絆を交わした時も、体の半分を持っていかれた時も、タガの外れた妖精たちを相手取った時でさえ、安全安心だったことなんて無かったろうに。

 なんなら、常日頃から奪う側の人間が今更危険に晒されるだけで怖気ついてんじゃねえぞなあおい。

 

 頭で認識できていなくても、心に残り続ける違和感を拭えたことなんてないだろうがッ。

 

 奪う側ならとことん奪え。死ぬことが怖いなら死ななきゃいいだけの話だろう? 生きたいだけなんて甘えた答えを吐き捨てて、今もみっともなく生きていられればいいなんて言える訳ねぇよなぁおいッ!!!! 

 

「…………ッあ!! だ、ったら、よぉッ!! 言ってみ、せろよおいッ!!」

 

 ふわふわとした夢心地が一転、視界が真っ赤になって現実へと引き戻される。なんとまあ、ご都合主義の主人公のようで嫌になる。

 

「アイツと、一緒に生きていきたいってッ!!!!」

 

 ああ、でも、主人公になるのは悪くない。

 俺の為の主人公。大切な人を迎えに行ける、ちっぽけで弱っちい、そんな主人公。

 

 震える腕を地面に押し付け、体を勢いよく持ち上げる。

 勢いあまって倒れそうになるのを、膝を使って受け止める。

 いう事を聞かない上半身に活を入れ、大きく開いた口から求めてやまない酸素が舞い込む。

 警鐘鳴らす脳に一瞬の隙が生まれ、振り上げた腕で心臓を打つ。

 全身を脅かしていたモノが晴れるかのように、全身の力が程よく抜け、張り詰めた緊張感がやってきた。

 

「…………ふぅ。行けるか? 行けるな、良しッ。八雲の一派として、一人間の茉裏として、大切な人を迎えに行く主人公として。いま、迎えに行くぞ。紫苑」

 

 踏み込み、駆ける。迷う必要なんてない。だって、迷惑をかけてきたのはそちらからなのだ。

 歩いても一分かそこらの距離を全速力で駆け抜けて、本堂の中へと続く半開きの扉を蹴破る。

 

「ダラッシャァあああああ!!!!」

 

 扉はへし折れ、内側へと勢いよく飛んでいく。中は薄暗く、明かりらしい明かりはない。だが、その場にいる全員の姿をハッキリと見て取れた。

 一人は本堂に祀られている像の目の前に陣取り、吹き飛んできた扉を片手で弄んでいる。よく見知った顔。伊吹萃香だ。ようやく来たと言わんばかりにニヤニヤしているのであとでこってりと絞らねばなるまい。

 その隣には結界を張って自身の安全を確保している博麗の巫女さんの姿。こっちに気付いていないところを見るに、かなり余裕がないのだろう。

 それより手前。この部屋が薄暗くても視界を確保できている原因。不気味な青白いオーラを纏っている紫苑だ。蹴破った扉が掴んでいた対象に当たったのか、右手を見つめている。

 入口にいる俺よりももう少し奥。失禁しているのか涙なのかは深く言及はしないが、とても乙女がしていいものではない状態で転がっている緑巫女こと東風谷早苗。可哀想ではあるが自業自得である。

 そして、萃香と紫苑の間に倒れ伏す一柱と、それに縋りつく一柱。八坂神奈子と洩矢諏訪子。八坂神奈子は自慢の御柱が投げ出され、自身も咳き込み立ち上がる余裕はなさそうだ。

 洩矢諏訪子は比較的余裕はありそうなものの、戦意は完全に喪失している。

 

 想像以上にひどい状況だな……。特に緑、いや、触れないでおこう。

 

 触れないでおこうと心に決めたので、その方を完全に無視し紫苑の元へと向かう。

 一歩近づくにつれて、手水舎の所とは比べ物にならない重圧がのしかかってくる。間違いなく藍様以上の重圧のそれを、意地と空元気だけでさも悠然と歩いていく。

 

 吹っ切れたらなんとなく虚勢を張れるもんよ。

 

 ある程度近づくと、萃香がニヤニヤと遅かったじゃんと声を掛けてきた。勿論返事を返せるような余裕は一切ないので黙ってろちび助がと心で叫んでおく。てか、どんだけ余裕なんだよお前は。そんだけ余裕あるなら止めてくれよばーか。

 

 そんなことを考えながら、紫苑の持ち上げられた右手を取る。

 

「帰るぞ、紫苑。心配かけてごめんな」

 

 それと同時に紫苑の顔が俺の方を向く。一瞬見えた生気のない目に光が戻り、その目尻に大粒の涙が溜まっていく。

 ゆっくりと落ち着いていく重圧に安堵しながら、目の前に鼻をすすっている紫苑の肩を抱き寄せた。

 

「もう、会えないって…………言われて…………」

「大丈夫。ここにいるよ」

 

 胸の中で泣きじゃくる紫苑をなだめ、静かに寝息を立て始める事には、紫苑から放たれていたオーラというものは完全に鳴りを潜めていた。

 

 ここに、妖怪の山を襲い、守矢神社を壊滅にまで追い込んだ不幸の嵐はなんともあっけなく過ぎ去ることになった。

 

 

 

「来るなら来るで、もう少し早く来なさいよ…………」

「いやー、あれは霊夢の言い方が悪いと思うぞ私は」

 




お読みいただきありがとうございます。

書いてる時と読んでる時だと長さに違和感覚えて立ち直り早くねってなるたすけて

また来月じゃあね!!


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第34話 シャッターを切り続ける

くそあっちぃ…………

東方の新しいアプリが出ましたね。
とりあえず、石を全ブッパしてたら霊夢と華扇が来ました。
その後に妖夢がピックアップされましたかなしい。


 ひいふうみいよ…………俺、洩矢諏訪子、八坂神奈子、土下座中の東風谷早苗。

 全員が軽い自己紹介を済ませるなか、洩矢諏訪子と八坂神奈子の少し後ろで震えながら額を地面に擦り付けていた。

 

 異変解決から翌日。疲れも取れきれないまま博麗の巫女に後処理の話し合いを押し付けられた。当の彼女は今頃お家でぐっすりしている事だろう。ふぁっきゅー。

 萃香と紫苑は自宅待機。理由としては主に二つ。

 一つは紫苑の能力が先の異変で不安定になっているため。萃香は万が一の為に待機してもらっている。対価として俺の肝臓が死ぬが、コラテラルダメージとして受け取っておこう。

 ちなみに、萃香自身が紫苑の不幸の中で平然としていたのは紫苑自身が萃香を無意識的に対象から外していたということと、萃香の能力で不幸や存在感といったものを薄めていたかららしい。なんという便利機能なのか羨ましい。

 

 そして、二つ目の理由が、この話し合いの後に紫様との会合がある為だ。

 会合の内容は、守矢神社の処遇について。とんでも事件を巻き起こした原因であり、幻想郷の中核である博麗神社に喧嘩を売ったこと。見て見ぬふりは流石にできないわなそりゃあ。

 まあ、そこら辺は紫様が上手いこと纏めてくれることだろう。

 

 それよりも、

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──―」

 

 このお通夜みたいな空気をどうにかしてくれないだろうか。

 

 土下座中の東風谷早苗から聞こえてくる謝罪の声。洩矢諏訪子と八坂神奈子はそれに触れず、固く口を結んでいるだけ。

 多分、一方的な被害者である俺が口を開くまで弁明することも許されていない的な感じなのだろう。が、俺としては両親に出会えたし何も悪いことづくめだった訳ではない。むしろ、感謝している部分の方が多いほど。

 そりゃあ、大変な部分もありましたよええ。

 いきなり? なんの前触れもなく? 気が付いたら実家の目の前で? 帰ってきたら来たらで紫苑が暴れてるし? 天狗達ですら近づけないそれを止めて来いとか言われるし? はぁーだわハァー…………帰ってお布団入って寝たい。

 

「あー、とりあえず後ろの嬢ちゃんは顔上げて、そう。で、お口チャックな」

 

 しかし、そういうわけにもいかないのが当事者兼従者の悲しいところ。

 とりあえず、東風谷早苗にうるせぇから黙ってろとおぶらーとに伝え、泣き止ませる。ガクブルしながら両手で口を塞いでいるのがちょっと可愛いからムカつく。

 

「まず、今回の件について俺からアンタらに言えることはない。紫様がどう判断するか次第だ。俺個人としては両親に再開もできたし感謝している部分もある。が、それとこれはまた別問題。後ろの子がもう少し落ち着いていればこんな一大事にはならなかったわけだからな」

「分かっている。私たちの監督不届きだった。すまない」

「……ごめんなさい」

 

 八坂神奈子が謝ると、それに続いて洩矢諏訪子も謝罪を述べた。東風谷早苗は口を塞ぎながら頭を下げている。

 そこまで忠実にお口チャックしなくても……。

 

「東風谷早苗も、幻想郷に来た時の反動かなにか知らないけど、喧嘩を売る相手は考えな。新しく信仰がーとかなんとか言っていたが、幻想郷には現状一つ、博麗神社しかない。んで、博麗神社は幻想郷そのものにも、人里にも、妖怪たちにとってさえ重要な場所だ。そんな場所を幻想郷の管理人である八雲紫から預かっているのが、あの紅白の巫女さん博麗霊夢。そこに新参者どころか蛮族まがいの奴が来たらそりゃあ顔も合わせたくないだろ。あとでしっかり謝りに行っときな」

「それは分かっている。分かってはいるが、門前払いされないだろうか?」

「そんなもん俺は知ったこっちゃない。神事とか堅苦しい決まりごとの中にいる神様にはちと分かりづらいかもしれないけど、こういうのは形が大事なんだよ。その後はどうとでもなる。信頼を得たいならそれ相応の行動を取ればいい。なあなあの関係でいいならそのまま付かず離れずを維持してればいい。人間なんてそんなものよ」

 

 人里の中にだって多少なりともそういうものは存在する。外の世界に比べるとその濃度と言うべきものはかなり薄いものだが。

 例えば酒の強さ、例えば足の速さ、腕っぷしの強さ等々……。腕っぷしが強ければ夜間の警備が多くなるし、弱ければ記録係みたいな事務仕事が任せられやすい。

 なあなあの関係と言っていいのかいまいちぱっとはしないが、そういった友好関係の強弱は間違いなくあった。

 

「ま、つらつらと上から色々物申してるけどそんなに気負わなくていいと思うよ。殺されかけた相手と酒飲んでるような人だし。それも頻繁に」

 

 紅魔館でパーティーを開くわどんちゃん騒ぎしてたり、遅れた桜を見ながら宴会開いたりしているような人間ばかり。

 気負うだけ損なのだ。

 

「それはそれでどうなんだ? いや、私にも似たような経験はあるが」

 

 八坂神奈子の目が洩矢諏訪子を映す。

 確か、洩矢諏訪子の納めてた土地を八坂神奈子が襲ったんだっけ。んで、なんやかんやで表向きの神が八坂神奈子で、裏側、裏? 隠された? よく分からないけど洩矢諏訪子がひっそりともう一柱の神として存在している。みたいな。

 

 なんだかめんどくさくなってきた。元々俺はこの三人と話すことが主目的ではない。

 あくまで、紫様からの褒美を受け取るために来たんだ。場所の指定が守矢神社でなければ俺はここには居ない。

 

「ゆるーく行けばいいんだよゆるーく。俺なんて生きたいから生きてるような人間だぞ? そんな奴が言ってるんだからゆるーく。この間はごめーんねって手でハートマークでも作ってりゃいいんだよ。お返事どうぞ」

「あ、ああ。分かった」

 

 無理やり会話を切り上げたと同時に、誰も居なかったはずの後ろから声が掛けられた。

 その声に聞き覚えがあるのかと問われれば、そりゃああるに決まっている。散々俺の体をズタボロにしてくれたではなく鍛えぬいてくださったお方のものなのだから。

 

「久しいな茉裏。どうだ? 後で稽古の一つでもつけてやろうか?」

「お久しぶりです藍様。有り難いお誘いではありますが、今回は辞退させていただこうかと。今日この場はそういった場所ではない筈ですので」

「そうか、それは残念だ」

 

 少し残念そうな笑い声が後頭部辺りから聞こえてくる。どれだけ痛めつけたいのだろうか。八雲藍の招待については色々吟味されていた筈で、その中の一つに傾国の美女妲己や玉藻の前だという説がある。もしかしたら、国を傾かせたのは美しさに加えこのサディスティック故にかもしれない。

 

「あら、私は別に構わないわよ?」

 

 やめてください死んでしまいますせっかく助かりそうだったんですから。

 

「そうだったのね残念。久しぶりに貴方たちがじゃれあっているのを見られると思ったのに」

 

 少し、いやかなり億劫ながらもその場で姿勢を正し後ろを向く。

 そこには口元を扇で隠し表情が読めない紫様と、それに付き従えるように一歩隣で頭を下げる藍様の姿があった。

 紫様の姿を確認すると同時に、深々とその場で頭を下げる。

 

「褒美の件はそこの二柱との話し合いが終わってからでもいいわね?」

「勿論です。私も立ち会った方がよろしいですか?」

「いえ、必要ありません。どうしても居たいというのであれば止はしませんが、何時ぞやの光景を思い出したくもないでしょう?」

「ひとつだけ、いえ失礼間違えました。ひちょちゅだけ、でしたか。 なかなか愉快でしたねあの時は」

 

 お暇させていただきます…………。

 紫様の下がりなさいの声と、藍様のクスクス声に見送られながら襖を開ける。

 わざわざ数年前の記憶を掘り出さなくてもええだろうに…………。

 プークスクスと言わんばかりに袖口で表情を隠している藍様に、それでは失礼いたちまちゅと声を掛けてみたらものの見事に吹き出された。

 普通に気にいっとただけかいアンタ。あと汚い。

 

 気恥ずかしさを隠しながら、部屋の中へ一礼し後にした。

 時刻はまだまだ早く。爛々と輝く太陽は真上に昇ってすらいない。

 さてどうしたものかと考えていると、ちょいちょいと服を引っ張られた。何事ぞやと引っ張られた方を見てみると、恐らく俺と同様に外に放り出された東風谷早苗の姿があった。

 

「どしたん?」

「あ、えっと……」

 

 純粋な疑問を言葉に出すと、彼女はばつの悪そうな顔で固まった。言い出そうにも言い出せない、そんな雰囲気が感じられる。

 

「改めて謝罪したいとかなら、ほら、どうぞ。別に逃げたりも責めたりもしないから満足いく形で終わらせてくれ」

 

 大方そのあたりだろうと決めつけ、軽く手を広げる。

 うじうじされても鬱陶しいだけなのだから、さっさと終わらせてくれたまえよの精神だ。有り難く思いたまえよわっぱ。

 

「あ、あの、でも、それじゃあ申し訳が……たたない、というか……」

「ガキが余計な心配してんじゃないよ。大人の度量を舐めんな。いいから、こういうのはありがたーく受け取っておだてときゃいいんだよ。はい、お辞儀して。ごめんなさいは?」

「ご、ごめんなさい……」

「はい、よくできました」

 

 腰を折り、か細い声で謝罪の声が聞こえる。その頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でてやるとキャッと可愛らしい悲鳴が聞こえた。

 けしてめんどくさいからスキンシップで誤魔化しているわけではない。

 ……外の世界だったら通報されてるんカシャだろうなこれ──―

 

 ──―カシャ? 

 

「いやー、白昼堂々逢引きとは、流石の私も照れてしまいますねー。貧乏神様辺りにでも見せたら少しは涼しくなるのでしょうか?」

 

 そこには、カメラをこちらに向け無遠慮にシャッターを切り続けるクソ烏の姿があった。

 




お読みいただきありがとうございます。

ちょい短めだけど、一旦切ります。
長くなりそうだったのでね。

ではまた来月に


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第35話 ガキーガキーンバァンバァンで!!

ガキーガキーンバァンバァン!!


 手の上で愛用のカメラを弄ぶクソ烏。

 適当に邪魔してそのカメラをぶっ壊してやろうかとも思ったが、止めておいた。

 可哀想だからとかそんな理由ではなく、その脅す材料があるが為の優位性を保つためだ。

 

「ど、どどどどうしましょうきりゅ」

「その名前は頭がパンクするから茉裏で呼んでくれ」

「わ、分かりました。えっと、それで、どうしましょう茉裏さん」

「なんも問題ないから、気にしなくていいぞ。こいつの名前はあー射命丸文ってな。新聞記者みたいなもんだな。そっちにもいただろ? 芸能人とかの熱愛報道を嬉々として流したり、遺族の事を何も考えずに虚偽を流すような奴ら。それと同族」

 

 なんとなく言わんとしていることが分かったのか、東風谷早苗は可哀想なものを見る目でクソ烏を眺めていた。

 

「なんて紹介をしてくれやがるんですかねこの人間は」

「でも事実だろ? 現に、積極的に勧誘してるお前より、地道に誠意を持って接してる姫海棠はたての新聞の継続購入がいいらしいじゃねえか。態度と質、この両方が勝っていないとこの結果にはならないと思いますがねぇ」

「私とはたての新聞の売り方はまったくの別。はたてが一人一人に定期購読を進めている一方で私は号外などで買い手を増やして行く。売り上げで言えば私の方が圧倒的ですが?」

「その時だけな」

 

 バチバチッとお互いの視線が交差する。初めて会ったあの日以来のこの関係、今更変えられるはずもなし。変えるつもりもなし。

 ただまあ、色々と初めてな奴が隣にいるので程々でやめておこう。

 

「からすてんぐのしゃめいまるあやさまのしんぶんはせかいいちー。ほら、これで満足しただろ? 忙しいんだから帰れ帰れ」

「いやですー。私だって仕事でここまで来てるんですから、そんな簡単に帰られる訳ないでしょう。私たちの領地に無断で侵入してきて、いきなり問題行動。見て見ぬ振りができますか?」

「さあ? そんなもの俺の知ったこっちゃない。が、椛たちが巻き込まれるんならやめとけとだけ言っとく。相手が悪すぎるんだから、素直に大人しくしときな」

「それができないから困ってるんでしょうが。脳みそ入ってます?」

「現場に辿り着くことも出来ない奴らがしゃしゃり出てくるんじゃねぇよって言ってるんだが……、理解できなかったのか鳥頭? ああ、すまん、鳥はまだ三歩覚えていられるんだったか」

「できないからって言われて、こちらも仕方なく赴いてることに察しが付かないんですかねぇ。来なくていいなら来たくなんてありませんよメンドクサイ。そもそも辿り着く云々もまだ作戦立案前の段階の話。どんな危険が待ち受けているのかを把握もせずに突っ込むだけしか能がない単細胞とは一緒にされたくはないデスネ」

 

 肩に巻いてあるホルスターに手を伸ばす。それに気づいたのだろう、クソ烏も腰にぶら下がった刀に手を伸ばしていた。

 まあ、ぶっちゃけ勝算はない。が、お互い殺してしまっては後が怖いので形だけのものだ。殺意は駄々洩れだけど。舐めた真似してッとぶっ殺すぞクソ烏(下等生物)を形だけして、先手を取った方の勝ち、みたいなもん。

 他から見たら、何やってんだアイツらってなってると思う。

 いやだって、片や末端も末端とはいえ一応が八雲一派。片や組織図的には上位に位置する烏天狗。どっちかが死んでみな? 戦争よ戦争。

 だから、お互いの鬱憤晴らしの為に勝負の真似事してるわけ。

 一瞬で終わるし、獲物が違うからお互いの性能差で埋めにくい。こちらは拳銃、相手は刀。近づかないといけないクソ烏に、捉えられないから相手の一挙手一投足で予測を付けないといけない俺。まあ、当てるつもりがないからこのくらいが丁度いい。

 今のところ二勝三敗で負け越しているので、ここで負けたら間違いなくメンドクサイことになるので是が非でも勝っておきたいところ。

 

 ホルスターから銃を抜き、無造作に一発。

 

「きゃぁあ!!」

 

 弾は甲高い音を立てて射命丸文の頬を掠めた。抜き放たれた刀で軌道を逸らされたのだろう。

 瞬間、射命丸文の体がブレる。チラリと視界を照りつく眩い光に体を逸らす。視界に移ったのはいやらしい笑みと光を反射する逆刃。峰内を狙った横一線。

 後ろに退いた力を利用して、足首を重心に横蹴り一線。

 重く、鈍い音が辺りに響く。

 足は射命丸文の片腕で受け止められていた。

 

「妖怪ってなんでそんなに怪力なんだろうねぇ!!」

「貴方がひ弱なだけでは? プークスクス」

 

 プークスクスと聞こえてきそうな……、いや、言ってるわ。俺にだけ聞こえるように言ってたわコイツ。

 

 受け止められた脚に霊力を回し、瞬間的に力を上げ振りかぶる。

 射命丸文はそれを軽く受け流し、大きく宙を舞って着地。着地地点に三発、乾いた音が鳴り、同様に三度甲高い音が響いた。

 

 けしてなんかのはずみでやっちゃったぜとかならないかなーとかおもってはいないうん。

 

 多少なりとも意識が外れているうちに畳みかける。射命丸文のときほどではないが、東風谷から見れば十二分に視線が追い付かない速度で間合いを詰める。

 射命丸文は余裕綽々といった感じで佇んでいる。辿り着く前に二度発砲。一度目の甲高い音が鳴り、二度目は切断された。

 

 だから、言ってやった。

 

「ばぁあかぁあ!!」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔で固まっている射命丸文の腹にヤンキーキック。射命丸文の口から息が吐き出され、大きく吹き飛ぶ。

 一度、二度、三度ほどバウンドし受け身、体勢を立て直していたころには銃口がこんにちは。

 

「これで三勝三敗、だな? カメラのデータは消しとけよ負け鳥」

「チッ……。えーえーそうですともそうですともまいりましたーけしておきますぅー」

「うっわめんどくさ」

 

 倒れている射命丸文に手を貸すわけでもなく、自身の服に付いた埃を払う。起こさないのか? 起こすわけないじゃないですかヤダー。

 

「そこの廊下を曲がってすぐの部屋、そこに家の主人と神様たちが話し合ってる。下手なことせずにさっさと用を済ませて帰れクソ烏」

「わーってますよ下等生物」

 

 口の中の血を吐き出し、射命丸文は振り返ることなく言われた部屋へと入っていく。

 

「やーっとどっか行ったか。んで、緑巫女はどこいった?」

「ここにいますよ!!」

 

 神社の回廊の下から、頭だけをひょっこりと出している緑巫女の姿。

 やけに目がキラキラしてるけど、アナタ元気ね。真隣でドンパチ始まったら外の人間はまともに会話も出来ないと思うのだけれども。

 

「いやー、凄かったですね!! ガキーガキーンバァンバァンで!!」

「語彙力が死んでる。曲がりなりにも目の前で殺し合いが起きてたんだから、もうちょっとこう、あるでしょうよアナタ。いや、まあ、お互い殺すつもりはなかったけども」

「カッコイイです!! あんなの映画やゲームの世界でしか見たことないですよ!!」

「まあ、うん……、そうだろうね」

 

 東風谷は目をキラキラさせたまま、手で銃の形を作り発砲音を真似したり、刀を握ってる感じを出しながら振り回していたりと忙しなく動いている。

 さっきまでのどんよりムードよりは百倍マシだが、これはこれでメンドクサイ。

 

「つってもまあ、アイツは実力の半分以下でやってるんだろうが」

「え」

「えって、まあ分からないのもしょうがないか来たばっかだし。一応あの射命丸文って天狗は幻想郷最速を名乗ってる。元々種族として速さに特化した天狗に加えて、アイツは風を操る。他の天狗も天狗の団扇である程度操れるんだろうが、アイツのソレは訳が違うからな」

「どっちも風を操ってるのにですか?」

「あー、そうだな……。天狗の団扇はその場の風を操る。だから、密閉された空間や、風が弱い日とかだと効力が薄い。のに対して、射命丸文は風を生み出し任意に操作が出来る。突風もそよ風も、天狗の団扇も合わせて使えば嵐でさえ生み出す事が出来る。規模がどの程度まで広げられるかは知らないがな」

 

 実際、妖怪の山中であれだけ自由を許されているのもその力が関係している。理由は単純明快、捕まらないから。

 諜報活動として里に降り、持ち前の速度を持って情報を取得。加えて趣味が新聞作成。

 上も天狗の社会性に下手に縛らず、ある程度自由に動かしていた方が都合がいいのだろう。捕まらない諜報員。間違いないく接待レベルの存在だ。

 

「んで、さっきの模擬試合でアイツはその能力を使わなかった。これだけでもハンデありまくりなのに、空も飛んでない。天狗の団扇もな。使ったのは刀だけだし、身体能力もかなりこっちに合わせてくれてるだろうな。ま、血を吐かせれたってことは、それなりに効いてはいるんだろうけど」

「あ、あれで実力の半分以下……。え、じゃあもし本気を出されてたら」

「そりゃあもう気付かないうちに首チョンパよ」

 

 あ、あははと乾いた声が隣から聞こえる。

 顔からは血の気が引き、口元は引くついていた。

 

「ま、お互い殺すつもりはなかったから問題ないさ。あわよくばとは思ってはいるが……。それに、射命丸文自体は幻想郷最速であって幻想郷最強とかって訳じゃない。むしろ、アイツより戦闘能力が高い奴なんかごまんといる。覚えてるか分からないが、この間の角の生えた幼女とか。それこそ、今日来ている二人、八雲紫に仕える九尾、八雲藍様。この人は幻想郷最強って呼んで差し支えないだろう。最近、猫又の妖怪を勝手に式にして紫様に怒られたらしいけど」

「八雲藍様、ってあの後ろについてきていた方ですよね?」

「そうそう」

「最強って事は、八雲紫様の方はあまり強くないって事ですか? 幻想郷を維持してるとは聞いてますけど。その護衛とか?」

「護衛なのは間違いない。けど、紫様と藍様が勝負しても勝ち目はないかな。藍様に。紫様は最強とかそんなレベルの存在じゃない。絶対なんだ。幻想郷のルールそのもの。勝つ負ける最強最弱とかの話じゃない。どうあがいても、どうがんばっても、八雲紫という存在は存在している時点で全てに勝っている。そういう存在なんだ」

 

 口で説明するのも困るレベルでね。そう、最後に付けたし、射命丸文が神社を後にするのを見送る。やっぱ空を飛べるのって便利だよなぁ。

 

「え、いつの間に」

「大方、天狗側との会合の日時決めでもしに来てたんだでしょ。天狗は一方的に被害者だし、日程を決める権利ぐらいは譲っとかないと。どうせここに定住するのは紫様が許すだろうし。守矢一派が少しでも負い目を感じないための計らいってところか、いつもの図太さか。さ、もう少ししたら向こうも終わるだろうし、どうせなら神社の中を適当に案内してくれると助かる」

 

 ひらひらと手を振り、東風谷に案内を促す。

 グワシッと勢いよく掴まれた手を見れば、目を爛々と輝かせた東風谷と視線が交わった。

 

 あ、これは長くなる奴

 

 そう、思いやっぱやめておこうかなーと断りを入れる暇もなく、東風谷のマシンガントークと共に俺は神社の案内を受け入れるしか選択肢が無くなっていた。

 




お読みいただきありがとうございます。

ガキーガキーンバァンバァンです
ガキーガキーンバァンバァンなんです

ぶっちゃけ、目の前であんなんされたらワクワクすると思う。
あくまで自分に被害が出ないって分かってたらだけど。

では、また次の機会に。
ばいちゃ~


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第36話 掛かってはいけない場所に力が掛かって壊れてしまわないように

あたまがくるくるぱーになるよ(゜ー。)


 これが守矢神社の納屋でーこっちの廊下を進むとートイレについてーくるっとまわって裏門だー……。

 …………いや、もういいっす東風谷早苗さんお腹いっぱいですたすけて。

 

 東風谷早苗に引きずられること早二時間。

 早口オタクもびっくりの饒舌さで神社内を案内されていた。てか、なんでわざわざトイレまで案内されてるの俺? 

 君、曲がりなりにも女子高生だよね? おじさんをトイレに手を引いて連れて行く絵面を考えて貰ってもいいかな? 

 

 しかし、そんな珍道中もようやく終わりを告げる。

 裏門を抜け更に外壁について説明しようとし始めた緑の悪魔に制止が入った。

 

「二人とも、話が終わったから戻って来なさい」

「嬉しいのは見たらわかるけど、一度熱が入り始めると止まらなくなるのは早苗の悪い癖なんだから。ごめんね、えーっと、茉裏くんだっけ?」

 

 引きずられたまま顔を上げれば、そこには呆れた様子の八坂神奈子と、苦笑いを浮かべる洩矢諏訪子がいた。

 

「あー、っと、アンタらには特別かしこまらなくてもいいか。今更だし」

「……曲がりなりにも神を二柱前にした人間の態度ではないね」

「はっはっはっ、神よりトンデモナイものに従えてるんでね。それに、貧乏神はほとんど身内みたいな状態だし。ついでに鬼神も」

 

 崇め奉れば神となり、恐れおののけば妖と化す。

 だとすれば、あのロリは間違いなく神だろう。実際どうなのかは知らんけど。

 

「だとしても、もうちょっとこう、あるんじゃない普通?」

「ちょーっと余裕が出てきたからって頬っぺた膨らませても可愛いだけですぜ、祟り神様? いや、土着神って言った方がいいのか?」

「どっちでも構わないよ。改めて、洩矢諏訪子。一応、この神社の表向きの神様」

「八坂神奈子、わざわざ言う必要もないだろうが、この神社の主だ」

「うん、ご丁寧にありがとう。ただ、ね? 二人ともさ、この状況をどうにかしてから自己紹介なりなんなりをすればいいと思うんだ僕は。首根っこ掴まれて引きずられたままだからね俺?」

 

 ………………しばらくの静寂の後、忘れてたとでも言いたげな表情を浮かべられ、俺は東風谷早苗の腕から解放された。

 やはり、神と言えど年には勝てぬ。つまりはそういうことなのだ。

 じゃないと、制止かけといて引きずられたままの青年に自己紹介なんてとんでも行動に出るはずないもん。殺されそうだから言わんけど。

 

 服に付いた埃やら砂利やらを払い落とし、改めて二人を見据える。

 八坂神奈子に洩矢諏訪子、に、抱えられた東風谷早苗。なんとも滑稽な状態だが、日本の神話の中でもかなりの古株たちと言うのだから末恐ろしい。東風谷早苗も、一応は現人神にも分類されるとかしないとか。

 

「……人の顔をまじまじと見て、そんなに面白いものでもないだろう?」

「俺の目の前に広がっている光景だけを評価するなら、これ以上に面白いものもそうないけど。女子高生が幼女に抱えられてんだから。しかも小脇に。もはや扱いがペットだぞあれ」

「否定はしない」

「否定はしてやれよ神様」

 

 八坂神奈子の発言に不服を申し立てている東風谷早苗だが、状態が状態の為ひどく滑稽である。

 

「と、こんなところで道草喰ってる場合じゃないのか」

「ああ、私たちの話は終わったから、次は君の番だ。場所はさっきの所と言えば分かるか?」

 

 あいよ、と短く返事をし肯定の意を示す。

 その時、八坂神奈子も洩矢諏訪子もなにかを言いたげだったが無視だ無視。

 

「アンタらも、こっちに来て色々大変なんだ。他の心配より自分の土台固めをしっかりやりな」

 

 返事を聞く必要もない、足早にその場を去る。

 可能性としては二つ立てている。覚悟は…………ぶっちゃけ出来てない。けど、色んな意味でやるしかないし行くしかないんだ。

 

 人間、後戻りが出来ればどれほど楽になるんだろうなぁ。

 

 やけに長く感じる廊下を、脳内会議を回転させながら進んでいく。踊りはするけど進んでないのは内緒だ。

 紫様に聞きたいことは山のようにある。それこそ、聞いていいのなら実年齢、ようは彼女の妖怪としての出典てきなものとかも聞いてみたい。本人すら知らない場合もありそうだけど。人間ってなんで人間なんですかって聞くようなものだし。

 

 ただまあ、実際聞いてみない事には何も始まらないわけで。

 気が付けば、最初に対談していた部屋の前まで来ていた。部屋の中からは紫様と藍様の声が聞こえる。

 

 一度大きく深呼吸をして、部屋に入る前に声を掛ける。が、その前に紫様からうじうじしてないでさっさと入って来いと急かされた。

 意を決して戸を開くと、お茶菓子をつまみつつ湯飲みを傾ける紫様と藍様

「紫様、男の子が意を決しているときに茶々入れないでください」

 

 それらをみての一言目が嫌味と言うのも、大概なものだ。慣れって怖いね。

 

「あら、時間は有限なのだから大切に使わないと」

 

 その気になれば時間なんてもの止められるヒトが何を言っているのか。

 

「出来ないことはないけれど、あれって結構大変なのよ?」

「心を読まないでください心臓に悪いので」

「あら、ごめんなさいね」

 

 扇で口元を隠し、楽しそうに笑う紫様。ある意味、このやり取りも恒例行事になりつつある。

 そして、扇を勢いよく閉じる。パチンッと小気味いい音が部屋に響く。それと同時に俺は膝をつき首を垂れていた。恐らくは藍様も形は違えど首を垂れている事だろう。

 

「八雲紫様の命により、茉裏、ここに参じました」

「よく来たわね茉裏。頭を上げて楽にしなさい。今日は貴方への褒美の件としてこの場に呼びました」

 

 頭を上げ、紫様の姿を視界にとらえる。相も変わらず恐ろしい程に美しいことで……。

 藍様も先ほどまで頭を下げていたのか、ゆったりとした立ち振る舞いでその場に腰を下ろしていた。

 艶やかな仕草で座ることを促され、紫様の体面に正座する。

 

「それで? 何が知りたいのかしら」

 

 分かっていたこととはいえ、無性に緊張する。

 次第に大きくなっていく鼓動がやけに耳に刺さる。

 質問できる回数なんて決まっていない。一つかもしれないし、時間の限りかもしれない。

 口の中が渇き、じっとりと手汗が気持ち悪く感じてくる頃にようやく言葉を発することが出来た。

 

「ど、どうして、どうして私の生まれ故郷が存在しないと、嘘を吐かれたのですか」

 

 これが、俺の考えられる限り多くの情報を引き出せるとした答えだった。

 他にもいろいろ考えてはいたが、やっぱ目の前にするとすごんじゃうっていうかー控えめに言ってクッソ怖いです泣きたい。

 

 紫様は扇で口元を隠し、どう答えようか悩んでいる様子。

 そ、そんなに変な質問だったせうかね…………???? 

 

「いえね、人間ってどの程度の現実までなら直視できるのか私には理解できなくて。どこまで言って良いものかしらね?」

 

 な、なるほどー

 

 ナチュラルに心を読まれているがもうツッコむ気力なんてものはない。

 

「私自身、紫様の仰られる現実と言うのが分かりませんが、耐えれるだけ耐えてみますので、どうか、お話しください」

「……そ、そういうのなら遠慮をする必要もありません。まず、一つ。私は貴方に嘘を吐いたつもりはない」

「そう……です、か。ということは、あの二人は」

「本当の意味でのご両親ではない、でしょうね。それを貴方がどう捉えるのかは自由ですが」

 

 目を伏せ、表情を隠す紫様。

 俺は、何も言いだすことが出来なかった。

 

「平行世界、並列世界、パラレルワールド……呼び名こそ多くありますが、その本質は一つ。我々が住むこの世界とは決して交わることが無い世界線。茉裏が飛ばされた場所もあくまでその一つ。実際、茉裏が言っていた『福岡県』という場所は存在していませんでした」

「……紫様はその世界線を越えられるのですか? だとすれば」

「さっきも言った通り、私は貴方に、茉裏に嘘を吐いたことはありません。確かに、私はこの幻想郷と外の世界、ひいては交わることのない世界線を行き来できる力がある。それは、暴走状態だったとはいえこの神社の巫女も可能でしょう」

 

 紫様は扇を閉じ、静かに言葉をつづけた。

 

「しかし、どのような存在にも限界というものはあるのです。茉裏はこの世界をゲーム、つまりは空想のものとして知っていると、私たちに話してくれました。ですが、私の知る限り、この世界を創作物として扱っていた世界はなかった。この時点で私の力の範疇を超えているのです」

「でも、でもですよ!? その、なんて言えばいいかわかんないっすけど、こう、見る角度を変えるとかして、みたりすれ、ば……」

 

 紫様は首を振る。諦めろと言わんばかりに。

 

「見る角度、方角、方法、どれを変えようと意味がなかった。私が観測できる範囲に幻想郷を創作物として扱っている場所はなかった。試していないと思いますか? 観測する存在を更に観測する存在もいる、さらにそれを観測する存在も。つまり、終わりがないのです。人一人の世界を辿ったとしても、数字では到底表示できない数の世界がある。それが、最低宇宙規模。

 茉裏、貴方が求めているのは宇宙という空間から砂粒一つを探し当てる…………それよりも遥かに困難なことなのです」

「じゃあ!! 他の世界の紫様に助けてもらうとか!!」

「確かに、そうしていけば見つかるかもしれない。私より強い存在などごまんといるでしょうから」

「じゃあ!!」

「ですが、そんなことをしていたらこの世界が崩壊するかもしれません。

 私の観測できる範囲に八雲紫という存在はいなかった。観測できていない可能性は否定しきることはできませんが、少なくとも私と私が出会うことで生じるパラドックスはないと判断し、数日前は茉裏を迎えに行くことが出来ました。もし、あの世界に別の八雲紫がいたとしたら、迎えに行くのにはさらに時間が掛かっていた事でしょう。

 だからこそ、私は最初に貴方を消そうとしたのですから」

「この世界の正当な外側、つまり、東風谷早苗がいた世界、この幻想郷の正当な外の世界にも俺が、霧生茉裏がいるから…………そして、俺がマヨヒガに来た段階で外の世界の俺は実在していた。つまり、世界の消滅が有り得たから消されそうになった。別の世界の自分自身に出会うのはそれだけのリスクが伴う、だから」

 

 掛かってはいけない場所に力が掛かって壊れてしまわないように、危険因子は取り除いてしまおう。そういうことである。

 

「でも、いまそれを俺に言っても大丈夫なんですか? もし、また外の世界に迷い込んで、そこで俺に出会ったら」

「その心配はありません」

「な、なんで?」

「この世界の霧生茉裏は既に死んでいますから」

 

 …………へっ? 

 




お読みいただきありがとうございました

うーんこの
正直これで合っているのかがとても不安であるが、そんなことは気にせず突っ走っていくんだぜそれしか出来ないんだぜ

それでは、また来月に
ばいちゃー( ゚Д゚)


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第37話 抉れた月が俺の目の前に現れた

この手の話を書いてる分には楽しいけど、いざ投稿しようと思うと矛盾とか伝わるのかとか色々ふあんになっちゃう( ゚Д゚)


「この世界の霧生茉裏は既に死んでいますから」

 

 あまりにも、あまりにもあっさりと告げられた事実。

 反応らしい反応もとれず、唖然と口を開いたまま時間が流れる。

 

「…………そ、っかぁ…………行方不明とか、でもなく、死んでた、かぁ」

 

 正直に言えば、全く予想していなかったわけではない。

 東風谷早苗が現代の神隠しだーとか言っていたり、実家がやけに殺風景だったりしたのはストレス的な、そういう事なのかもしれないな、程度には。

 こっちの俺は、霧生茉裏は、本当に行方不明なんだなって。どこほっつき歩いてるんだか、どこかでおっちんじまってんじゃないだろうな、程度には。

 

「予想は……してたつもりだったんだけど、やっぱ直に分かると、キツイッすね。殺人ですか?」

「もう少し詳しく言うのであれば不法侵入からの強姦殺人ね」

「ええ……こっちの俺も男ですよね? 男勝りな女とかじゃなくて」

「そうね。鍵をかけ忘れたまま風呂に入ったところを襲われて、そのまま絞殺されながら。最終的には埋められて、犯人も自殺。そのまま発見されずに迷宮入りってところかしら」

「絞殺に強姦って、証拠いくらでも出てきそうなもんじゃねぇか警察仕事しろよ……。え、てか、下手したら俺もそうなってた……?」

「否定はしないわ」

 

 あの日って、俺カギ閉めてたっけ…………? 昔のこと過ぎて思い出せねぇ。

 

「まあ、証拠隠滅には多少なりとも私たちも関わっているのですけれど」

 

 さりげなく落とされた二つ目の爆弾に、今度は完全に脳が硬直していた。

 頭の中の俺は、おぼろげに思い出された新居の中でポカンと空を見つめていた。きっと、紫様と相対している俺もそのような表情になっている事だろう。

 

「あら、こっちは予想できていなかったのかしら?」

 

 状況が理解できず、声も出さないまま静かに頷く。

 だって、そうだろう? 事件が迷宮入りし、俺の死体は発見されず犯人ものうのうと自殺した。それを許したのが今目の前にいる存在のせいだと悪びれるわけでもなく淡々と告げられたのだから。

 憎悪とか怒りとかはそりゃあもう出てくるはずもないさ。死んだ俺は俺じゃないんだから。

 ただ、どのタイミングとかは分からないけど、迷宮入りって言われているほどだから結構な時間が経っているはずなんだよ。それこそ、俺がマヨヒガに迷い込んだ時、同時タイミングで事件が発生していると想定も出来る。すくなくとも、ここ数ヶ月のでき事ではないってことだ。

 つまり、紫様に、当時の紫様にそこまでするメリットがないってことだ。

 

 いつも通り俺の心を読んだのか、紫様がパンクしている俺に説明を始めた。

 

「そうねぇ……。霊夢から名前の話は聞いたでしょう?」

「名前っていうと……個を確立させるとか、あやふやになるとかってやつですか?」

「そう。それと似たようなものね。名前はその存在をこの世界に結びつける役割を持っているわ。けれど、アナタの場合は少し事情が違う。まだ、観測できる範囲であればまだしも、その外から来てしまった完全なイレギュラー。

 なにか手を打つにも下手に手を出せないし、かといって放置も出来ない。ただ、この世界に同じ存在を居続けさせる訳にもいかないから、ちょーっと強姦魔さんをお手伝いしてあげました」

「はあ、でもそれと名前にいったいどんな関係が?」

「茉裏、いえ、霧生茉裏」

 

 なぜわざわざフルネームで呼んでくるのだろうか? 

 てか、上の名前で呼ばれると気持ち悪いのでやめていただきたいのだが。

 

「それが理由よ。貴方が本来の名前を認識してしまうと、この世界との結びつきが強くなる。だけれど、既に貴方はこの世界に存在しているから、魂が座るべき椅子を見失ってしまうの。だから、気分が悪くなる。

 逆に、名前を呼ばれなかったら魂はその場を漂い続けるだけ。新しく用意される椅子を待っているだけ。だから、普通に生活ができる」

「じゃあ、その新しい椅子ってやつを用意すれば……、いや、無理なのか? 椅子を新しく用意しても、そこに座る魂が変わる訳じゃないから、本来存在してはいけない椅子が二つになって、結局世界に影響を及ぼす。

 つまり、もう一人の俺、この世界の俺を抹消し、霧生茉裏の魂が座るべき椅子を空けなければ、世界にも俺にも明日はない」

 

 パチパチパチとゆっくりとした拍手が上げられる。概ねその通り。と、お墨付きを頂き、再び説明が始まった。

 

「新しい椅子が準備できないのであればどうすればいいか、奪っちゃえばいいじゃない。ねえ? 同姓同名の本人同士だとしても、顔も合わせた事の無い他人同士なのに変わりはないし、私には全く興味がないもの。

 存在を消して、この世界からいないものと認識されてしまえば後はこっちのもの。後は、ご両親の記憶に貴方を刷り込んで、神隠しだと騒がれている事件がもう少し沈静化すれば、貴方の椅子が手に入る。

 まあ、完全に手探り状態で後手後手に回っているのは否定できませんが。失敗はしていないんじゃないかしら。現に、昔ほど気分が悪くなるなんて事はなくなっているようだし」

 

 確かに、博麗神社で感じたアレに比べれば雲泥の差だと言えよう。

 あの頃はまともに呼吸をするのがやっとで、いまだと気分が悪くなる程度。頭がパンクしそうになるのは相変わらずだが、間違いなく事は進んでいる。

 それが、この世界の俺という存在が消えかかっている為なのは少し思うところはあるが。

 ま、鍵かけ忘れた方が悪いよね!! 

 

「私が言うのもアレだけれど、貴方も随分吹っ切れるようになったわね」

「心を読むのはやめてください。そうっすね、こんな状況に数年も置かれ続けて……正直いうと、分かってるんですよ。紫様が俺のことを助けてくれてる、って言ってしまいたくもないんですけど。記憶処理って言うんですかね? 認識阻害の方が正しいか。視界に入る情報で姿形が違く手も、頭の中なのか、人間って言う魂が感じているのか、何時まで経っても慣れないあの感覚。

 幻想郷に来てもう、三年だか四年だか…………そんだけの期間を人殺しに費やしてたら嫌でも肝が据わるってもんですよ」

「気付いてたのね。結構強く掛けたのだけど」

「それこそ、イレギュラーな存在で済ませられるのでは?」

 

 それを言われると言い返せないと困り顔を浮かべられ、同時に俺が人殺しなのが確定した。

 色々と分かることが多い一日だなぁなんて、心は何処か別の場所を向いている気がする。

 取り敢えず、心が余裕があると勘違いしているうちに聞けることは聞いておこう。雰囲気的に大体のことは教えてくれそうだし。

 

「俺が依神紫苑の不幸に耐性があるのも、イレギュラーであることが原因ですか?」

「それもあるでしょうけど、私の認識阻害も一役買ってるわ。行き場のない不幸は溜まり続けるでしょうけど、そのお守りに溜まっているようだし。無暗に開けない事ね、どうなるかなんて私にも分からないわ」

 

 お守りというと、巫女さんがくれたやつか。

 ……ってことは、このお守りに数年分(貧乏神付き)の不幸が溜まってるってこと??? 

 

「軽い爆弾じゃないですか」

「軽くで済めばいいわね」

 

 楽しそうに笑みを浮かべる紫様。笑い事じゃないんだよなぁ。

 

「この認識阻害の、人だか妖怪になりかけてるのかは分かりませんが、そこだけ解除とかってできますかね? やっぱ、なにも分からないまま殺すってのは、分かってしまった以上気が引けて」

「出来るわよ。あとでやってあげるわ」

「ありがとうございます」

 

 フィードバックとかあったりするのだろうか? もしそうなら、覚悟はしといたほうがよさそうだけど。

 

「外の世界に、両親に会いにいくのはもう無理…………ですかね。場所は違えど、一応親に当たる人ではあるみたいだし」

「もうちょっと事が落ち着いたら考えてあげるわ。それまでに、あの子の体質をどうにかしなさい」

 

 すんなりと許してもらえた。意外である。

 

「他に聞きたいことはあるかしら」

「あー、そうっすね」

 

 障子の外には少しだけ赤みがかった日の姿。思っていたよりも話していたみたいだ。

 質問自体はまだまだあるのだが、そろそろ心の限界も近い気がする。多分緊張が解けた瞬間吐く。

 そんな意味不明な確信を持ちつつ、一つ思いついた事を尋ねてみた。

 

「なんで、俺にここまでしてくれるんですか? 言っちゃあ悪いですけど、初対面の相手、しかも世界を滅ぼす可能性がある危険因子を残しておこうとする意味が分からないです。いや、助けてくれていた事には感謝しているんですけど。あの初対面の時点で、ここまでしてくれるのがなんでかなーって。さっさと殺して知らない顔をしていればいいのになーって思い、思っちゃいまして」

 

 …………紫様はなにも喋らず、湯飲みに残ったお茶を飲み干した。そして、ゆっくりと口を開く。

 

「茉裏に一目惚れしたからよ」

 

 夜には早いというのに、抉れた月が俺の目の前に現れた。

 




およみいただきありがとうございました

あいらびゅー

つまりはそういうことなのだ
あいはせかいをすくうのだ

またらいげつなのだ
ばいばいナのだ


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第38話 なるようになってくれ

これを投稿する前に牛の出産がありました。
最後の方は急いで書いてるので大目に見てね(;´∀`)


 抉れた月から聞こえた言葉に息が詰まる。

 一目惚れをした。それだけならば大変に喜ばしいことだろう。

 しかしながら、今の俺には紫苑という大切な人がいる。色々ごたついててゆっくりした時間が取れていないのがとてもふがいないが、それでも大切なことに変わりはない。

 彼女の存在が今現在、そしてこれから俺の中でより大きくなっていくのは自明の理だ。

 

 だから、端的に言うのであれば、答えられない。

 俺は、霧生茉裏、八雲茉裏という存在は主人の八雲紫という存在から渡された好意を受け取れるほどのキャパシティがない。

 それこそ、多重婚が認められている国の出身であったりすれば余裕があるのかもしれない。それが当たり前なのだから。

 だが残念なことに、俺は紛れもなく日本人。好きな人以外とは浮気判定の重罪人。そう刷り込まれている。それが悪いだとかって話でもないのだが…………。

 

 故に、逃げに走る私が咎められる筋合いはない。

 

「らんさまランサマ藍様」

「どうした茉裏」

「ウチらのご主人様がご乱心ですけど、止めなくていいんすかアレ」

「おや、茉裏は一世一大の告白を乱心で済ませるのか?」

「済ませるもなにも……ねぇ?」

 

 いやらしげに笑う藍様に、再び紫様の方へと目を向ける。

 抉れた月に光を宿していない瞳、上気した頬に微かに上下する肩。辛うじて威厳こそ保てているモノの何時決壊するか分からない。

 襲われたらなすすべなくヤられるだろう。ヤの文字がどちらになるのかは本人だけが知っている事だろうが。

 

 藍様も紫様も、まごうことなき絶世の美女。幻想郷に住む住人の多くは美男美女だとは思うが、それとはまた一線を画す。

 美と呼ばれるものの体現と言っても差し支えない。すくなくとも、この二人以上に美しい女性を見たことがない。

 そもそも女性に優劣をつけること自体が烏滸がましいのだが。

 

 そして、その美のベクトルも今現在厄介なものと言える。

 婉然とした中に、妖艶、妖美、艶麗、男をくすぶるモノがめいいっぱいに詰め込まれている。

 少し気を抜けばすぐにでも押し倒したくなる衝動に駆られる。

 

 そういったお香でも炊かれているのか、と思い至ったが、それらしきものは見当たらない。もしかしたら見えていないだけで炊かれているのかもしれないが、スキマの中とか。

 

「あー……っと、紫様?」

「なあに?」

 

 語尾に余計なものが付きそうな返事の仕方に唾をのむ。ダーリンとかアナタとか言われなくて本当に良かった。

 

「お気持ちは嬉しいのですが、私にはちょっと荷が重いかなー……なんて、おもったりおもってなかった、り…………」

「そう……そうねぇ」

 

 実際その通りで、気持ち通りの言葉を口にした。そしたら、思いのほかヤバそうな感じはない。

 これは、生きて帰れる……? 希望の光は我にありですか? 

 

 一抹の希望を胸に宿らせ、もう少し強めに否定しようとした時だった。

 

 紫様の持つ扇が軽く振るわれる。咄嗟に身を投げ出した。音もなく、衝撃もなく、後ろを振り返れば、

 

「ぁ…………あ???」

 

 幻想郷の一角に巨大な谷が生まれていた。

 

 壁を、鳥居を、山を両断。辛うじてそれ以上は藍様が押し留めているらしく、妖怪の山をも凌駕する大きな九つの尻尾が衝撃波を受け止めていた。

 数十秒したのち片腕と八つの尻尾を半ばから消滅させ今なお血を流し続けている藍様が帰ってきた。

 自身の中で絶対的力を持つ存在の一人が、死力を尽くして受け止めてなお、それを完全に防ぎきることはできない。

 

 まごうことなき別格。

 

 藍様は血を止血する様子もなく、顔を青くさせながら紫様に傅いている。

 紫様は何食わぬ顔で扇を開いては閉じを繰り返していた。

 

「そ……、そこまで、することかよ」

 

 咄嗟に漏れた言葉に慌てて口を塞ぐ。余計なことは言わないようにと両手で、必死に。

 汗や涙や鼻水が、体の防衛機能が一瞬で崩れ去り垂れ出てくる。それを、スキマから伸びた紫様の指がやさしくぬぐった。

 

「そこまでと言うほど力を出していないのに、茉裏ったら大げさね」

 

 微かに笑い、俺の顔を弄繰り回す紫様の手が体液でべちゃべちゃになる。それを愛おしそうに見つめると、ゆっくりと口元へと運んで行った。

 ちろりとソレを舐めると、はしたないわねごめんなさいと頬を紅くし急いでその手を拭っていた。

 恥ずかしがる場所が違うと思うんですけどね僕は。

 

「今度は少しだけ強くしちゃおうかしら」

 

 紫様の前に生まれた小さな球体。薄紫色に輝くそれが、妖力に似た力の奔流だという事に気が付くのは容易だった。

 藍様の体が震えている。それは多量に出血している弊害や、さっき受け止めた衝撃の余韻でもない。恐怖、ガタガタと汗を流し怯え、目尻に涙を浮かべているのは、間違いなく恐怖の表れだった。

 

 ピンッ

 

 小気味よい音と、風を切る音が顔の横を通り過ぎていく。真っ直ぐに真っ直ぐに真っ直ぐに…………。

 やがてソレは妖怪の山の中腹辺りに着弾した。刹那、そこを中心に一瞬渦のようなものが見え、次の瞬間、俺の視界から妖怪の山が消えていた。

 

 文字通り、まるっと抉られたかのように消えていた。

 

 それは、おそらく、俺の友人も知り合いも、毒舌を吐き合う相手も、全てを込みで。

 

 それを理解しても、理解なんて出来るはずがない。頭か心か、人間の防衛機能というものでそれを正しく認識したくないのがありありと感じ取れた。

 吐き気を催すなんて、まだ余裕があった方なんだと実感する。本当に壊れるってのはそんな余裕すらなく全部垂れ流れているのだから。

 

 口からも、下からも、気が付けば垂れ流れていて、気持ち悪いなんて感じる暇もない。

 

「茉裏」

 

 呼ばれる。体が震える。

 

「まつり」

 

 呼ばれる。体が止まる。

 

「マツリ」

 

 よばれる、力が抜ける。

 

「茉裏」

 

 抵抗なんて出来るはずもなかった。

 

「貴方は私の物よ。返事は?」

 

 声が出ていたかなんてわからない。

 ただ、谷は消え、妖怪の山は元に戻り、藍様の傷も癒えていた。お互いに汚してしまっていた箇所も気が付けば綺麗になっており、幻覚だと言われた方が納得がいくレベル。

 時間が巻き戻ったのか、それとも一から修復されたのかは分からないが、間違いなく言えることがある。

 

 八雲紫こそが絶対であると。

 

「接し方は特に変える必要はないわ。あの子とも仲良くしてあげて頂戴。ただ、忘れてはいけないことが一つ増えただけ。貴方は私の物。貴方は私の操り人形。大丈夫、ちゃんと愛してあげるし、自由だって与えてあげる。でも、忘れた時はこれじゃあ済まない。本当の所は、こんな脅迫じみた事はしたくなかったのよ? だから、あの子と仲良くすることも、沢山の交友関係を築くことも、色んな子に色目を使っていたことも、全部許してきた。でも、否定するのはいけないこと。拒否するのはいけないこと。貴方の一番は私で、私の一番は貴方。それ以上でも以下でもないそれが全て。愛って凄いのね、いままでキラキラして大事にしていた幻想郷がどうでもよくなるほどだもの。

 だから、私を受け入れてくださいな骨の髄まで愛してくださいな。この身が他を潰したく無くならないように」

 

 そっと伸ばされた手を震えながら掴む。掴むしかなかった。

 紫様は笑っていた。静かに、静かに、笑っていた。

 静寂が訪れる。日はゆっくりと沈み、部屋が段々と暗くなる。

 

「あら、もう暗くなってきてしまったのね。どうしましょう、もう少し明るくしておきましょうか? それとも、暗い方がお好き?」

 

 手が引き寄せられ、軽々と机を飛び超え紫様に抱かれる。ふんわりと甘い匂いが漂う。

 女性特有の柔らかさ。男からすれば興奮必須のはずだが、今の俺には恐怖でしかない。

 

「緊張しなくてもいいわ。私だって男相手は初めてなんですもの」

 

 耳元で囁く言葉の割にはするすると俺の服を脱がしていく。

 少し視線を逸らせば、部屋の四方がおびただしい量のお札で密封されていた。これほどまでに安心安全なセキュリティ状態の密室もそうそうないだろう。

 離れたところで藍様が目を伏せた。大人しく生贄となれ、そういうことなのだろう。

 

 いつの間にかすべての衣類を剝がれ、紫様の肢体も露になっていた。

 

 天井の染みならぬ、お札の枚数でも数えていれば終わっているのだろうか? 

 

 そんなことを呆然と考え、金色の瞳からハイライトが消えた紫様のその行為に身を委ねた。

 

 

 もう、なるようになってくれ…………。

 

 




お読みいただきありがとうございました

ゆっかりーん
やはりゆかりんはぜったい
まつりくんはしょせんゆかりんのあやつりにんぎょうにすぎないのです

では、また来月
またね!!


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第39話 おんなのひとってとってもこわいですね

あけましておめでとうぅうう!!!!
はっぴーにゅーいやー!!!!

いやー、年を超えました。
この作品どこで完結するのでしょうか作者にも分かりませんふしぎだなー(゜-゜)


 朝チュンである鳥が憎い。

 目が覚めると、全身を襲う疲労感に加え酷い腰痛。

 服は着ておらず持ち上げた上半身は産まれた時と同じ。恐らく布団の下の下半身もそうだろう。

 ちらりと横に視線を映せば、無防備にも一糸まとわぬ姿で寝息を立てる我が主様こと八雲紫。金色の髪が障子から漏れている朝日を反射してとても眩しい。

 藍様は部屋の隅で正座をしたまま不動。彼女とは事を起こしていないが、途中から横でやり方を指南し始めたの忘れてねぇえからな。なーにがなかなか立派なものをだ駄狐様コノヤロー。

 

 八雲紫と寝た。

 状況で言えば間違いなく不可抗力なのだろうが、それでも事実は事実として残っている。

 部屋の中に漂う汗臭さ、他人の家で一体何をしているのだろうかと悲観する。

 幸いなのは部屋への侵入はされていないだろうということぐらいか。部屋全体を覆っていたお札は剝がされているものの、障子の破れや、戸と戸の間の小さな隙間などの場所には覗かれ防止の為にかお札がまだ残っている。

 

 別に紫様の事が嫌いだとかって訳じゃない。むしろ、好きだ。ただ、その好きというのはlikeの方でloveではない。

 嬉しくないのかって問われれば、そりゃあ勿論嬉しいさ。とんでも美人が俺を好いてくれて抱かせてくれる。願ったり叶ったりだわ間違いない。

 ただ、普通に好きな、愛する相手がいる。素直に喜べねぇだろばかやろー……紫苑になんて説明すればいいんだよマジで。

 

 てか、俺の手に負えないんですってこの八雲紫って存在は。ちょーっとえいって扇を振っただけで山を両断させるんだぞ? なんならちょっとデコピンしただけで山一つが消えるんだぞ?

 いやー……キツイッす……何が一番キツイかって、もう後戻りなんて出来ないのが一番キツイっすね。

 だってよ? どう頑張っても逃げられないんだぜこのとんでもご主人様から。

 紫苑を殺して俺も死ぬ!! そして二人は地獄だか天国だかでハッピーエンド!! 八雲紫から逃げられて愛する人とずっと一緒勝ったながはは!! ……魂握られてますやんオレ。死んでもそのまま回収されますやん。そもそも紫苑は貧乏神だから記憶なくして生まれ直すだけだし。そもそも地獄にも天国にも行こうと思えば行ける世界だし。その辺の定義曖昧だからよくわかんないど、旧地獄とか三途の川はあるから、物理的にも捕獲される。

 

 ……もーいや、考えたってどうしようもないですわ。あてくしむずかしいことわからなくてよ。

 

 少し冷えた体を再び布団の中へ。少ししっとりとした布団の中は程よく気持ち悪く、思考を逸らすには持って来いだった。

 まあ、逆に考えれば? 愛想つかされたりしなければ? 寿命こそ分からないけどほぼ不死身みたいなものだし? 全部が全部悪い事じゃないわけだし? もうむりふて寝しよぐぅ。

 

 考えることを放棄し、隣で未だ可愛らしく寝息を立てるご主人様を恨めしくも思いながら瞼を閉じた。

 思考を落とす直前、それでいいのかお前とか聞こえたけど、ぼくちんなにもわるくないし なにもしらないばーか。

 

 

 

「ってことがありまして今にいたります」

「そんな話を久しぶりの出勤だというのにさめざめと語られている私の方が可哀想だとは思わないのかい?」

 

 場所は変わって鈴奈庵。ワタクシメのバイト先である。

 目の前にはちびっこ店長こと本居小鈴が、カウンターに頬杖を突きながらジト目で睨んでいた。

 

「ここ……どのくらいかも忘れたけれど、定期的に長期の無断欠勤。確かに? 週に何回だとか、何曜に出てこいだとかってのは決めていなかったさ。君の後ろにただならぬ事情があるのも察していた。だから、深くは踏み込まなかったし、心配していてもそれを表には出してこなかった。けれど、けれどだよ?」

 

 ゆっくりとカウンターから立つ小鈴店長に、すこしだけ尻込みしてしまう。身長差が30近くはあるというのに。

 やがて、彼女は俺の前に立つ。しゃがめと言わんばかりに地面を指しながら。

 

「……ウッス」

 

 抵抗する気力も起きず、静かに憤慨する彼女の前に膝をつく。さながら、親の説教を受ける子供だろうか。

 

「そんだけ汗臭くてヤッテきましたって臭い漂わせながら堂々と店の敷居を跨ぐんじゃないよ。わかったらさっさと水浴びでもして出直せ」

「…………ハイッ」

 

 下手な怒号よりもよっぽど怖い怒声にちびりそうになりながら、いそいそと店を出る。店の外、流石に共同井戸に行く勇気も今現状あるはずもないので、近場の川で体を流す。きっと完全に消えるなんてことはないだろうが、しないよりはマシだろう。

 さて、どうやって暖を取ろうか。火打石持ってないし、体を濡れて寒いし、濡れたまま服きれないし。なんて思っていると、小枝の束を抱えた小鈴店長がとてとてと歩いてきた。

 

「……大方、なんの準備もなしに川に飛び込んでいるだろうと思っていたけど、流石にそこまで理性が飛んでいるわけではないようだね」

「全面的に俺が悪いんで強く出れないっすけど、流石にその評価には遺憾を示しますよ店長」

「遺憾を示しているのは私の方だよ変態」

 

 小鈴店長は手慣れた手つきで枝を組み上げ、火打石で火をつけた。ものの十秒程で煙が上がり、枝に火がつきごうごうと燃え始める。

 ついでとばかしに上着を脱ぎ、川で洗う。近くの石を持ってきてそれに被せ火のそばへ。その隣に腰を下ろし、既に座っていた小鈴店長と向き合った。

 

「で、だ。一店員の茉裏くん」

「はいなんでしょう小鈴店長」

「なぜ君はわざわざ解放された後に私の所へときたんだい。それに、先の話を聞いて思ったことだが、よく返してもらえたね?」

「えーっと、まあ、その色々ヤッた後に二人して起床したあと、お互いなんやかんや顔を合わせづらくまた来るからと言い残して帰られました。はい」

「想像以上に初心なんだねぇ……。いや、生きている存在である以上そういうこともあるだろう。で、だ。なぜ私の所に来たんだい?」

「いやー、だって素直に帰ろうにもこれじゃあ帰りづらいっじゃないっすか。ねえ?」

 

 そうかそうかと小鈴店長は何度か頷いた。どうやら俺の心境を分かってくれたようである。えがったえがった。

 だって、色んなヤバい臭いを残したまま家に帰ってみんしゃいよ。もう、おこだよ? 紫苑ちゃんおこになっちゃうよ? 今度こそ俺死んじゃうかもじゃんイヤじゃんそんなの。

 だからというか、まあぶっちゃけどこでも良かったんだけど、なーんか一番気が楽に突撃かませそうなのがここだったわけで特に他意はない。立地とかを度外視すれば小鈴店長かレミリアのどっちかなのは違いないけど。

 

 うんうんと一人かってに頷いていると、おもむろに小鈴店長が焚火を突いた。火の調整かなと代ろうとした時、炎に燃やされ炭となった小枝の欠片が胸元へと飛来する。

 

「うおぁったちゃあああああああ!!!」

「今回はそれで許してあげよう。次はない」

 

 このアマやりやがった!! 

 慌てて川へ飛び込む。一瞬にして燃え上がった体温はこれまた一瞬で冷却される。立ち上がった時に吹いた風はより一層体を冷やし、同時に自分が酷く惨めに思えた。

 

「やあ、おかえり」

「ああ、ただいまこのやろう」

「一瞬だったのだから跡が残るほどでもないだろうに。大げさな」

「だったら今からでもアンタの顔面に擦り付けてやりましょうか???」

「責任を取ってくれるのであれば構わないよ」

 

 ほらと顔を差し出してくる。

 長いまつ毛に潤った唇。こちらを真っ直ぐに見つめてくる瞳は緋色に近い橙色。焚火に当てられ少しだけ上気した頬はいやに艶やかだった。

 そして、昨夜の出来事がフラッシュバックする。己が腕の中で喘ぐその姿を。見境なしだし、せめて姿くらい変えろよ俺……。 どっちにしろ最低か。

 

 小鈴店長の鼻先をつまみ、少し赤くなったところで離す。

 

「ぷえー」

「寝言は寝て言いやがりませ店長」

「まったく、酷いじゃないか。そもそも私たちの年齢こそせいぜい四つ五つ違う程度だろうに」

「寝言は寝て言いやがりませ店長」

「確かに年に対して成長は乏しいが……それでも私は20をだぞ? やはり胸か」

「曲がりなりにも20になる女性が男の前で恥ずかしげもなく胸を揉み始めるんじゃないよ」

 

 はあ、と一つため息。

 この世界に来てもう、四年ぐらいは経つのか? 一時期はカレンダーもなかったから詳しく覚えてねえなぁ。

 

「ねえ、店長」

「なんだい店員」

「結局のところ、どうやって帰ったらいいと思います? 隠し通せるかな?」

「そんなもの私が分かる訳ないだろう。それと、隠すのはやめておいた方がいいんじゃないかな? 彼女の場合だと特に。少し前のアレが里でも起きるのは御免だぞ」

「っすよねぇ」

 

 ごもっともな回答に頭を抱える。下手に隠して紫苑が妖怪の山の時のようになったのであれば、きっと今度こそ紫様が出てくる。不幸という不安定なものを処理するのは面倒。出来ないではなく、面倒。つまり、面倒さえ考えないのであれば悠々と処理できるということ。それこそ、昨日、妖怪の山を消した時のように。

 幻想郷は紫様にとって宝箱だ。だが、今現在、その上に俺が立ってしまっている以上、事が起きらないとは限らない。

 

「素直に話して、謝り倒すのが吉……なんですかねぇ」

「君の双肩に里の、幻想郷の未来が掛かっているんだ。無暗な行動だけは起こさないでおくれよ。と、言っても……もう遅いかもしれないが。検討を祈る」

 

 唐突に顔を青ざめさせ立ち上がり去っていく小鈴店長に疑問符を、そして背後に気配。あ……(察し)

 いやいや、紫苑な訳がない。だって、萃香が見ているんだぞ? 抜け出せる……酔っ払って寝た? いやいやいやそんな訳wwwありえる……ありえますねぇ……。

 

 後ろを振り向く。ギギギッ、まるで油を指していない機械を動かすように。しかして、それは拒まれる。万力のごとき力が顔に加えられ振り返ることを拒否された。

 耳元で囁かれる。ひどく、つめたく、するどく、怒気と殺気もいりまじった、声が。

 

「はなして、クレルよね?」

「…………ヒャイ」

 

 拝啓 こっちのお父様 おんなのひとってとってもこわいですね いつかまた いきてあえることをおいのりしていてください

 

 視線を正面から横に移す。人間としての心理なのか、後ろを見ようとしてしまう。してしまった。

 視線が交差する。光を拒絶した深淵のごとき瞳と。




お読みいただきありがとうございました。

多分、多分だけど今年中に完結するとおもいますん……タブンネ

何はともあれ、今年も何卒宜しくお願い致します。
この時期は人混みがすごいから風邪やらコロナやらには気を付けるんだぞ!!

では、また来月だ!!
ばいちゃー


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第40話 夜の帳は下りていた

よっす、久しぶりに東方祭に行ってきたよ楽しかったよコスプレしたよ。
あと、家族がコロナになってたよ無事だったよ。
そして、相変わらず何を書けばいいのか分からなくなってたよかなしいね。


 へいよーくーるにいこうぜおれ。

 この万力から逃れる術を考えるんだ。

 

 まずは状況の整理と行こう。

 紫様と諸々やったあとの臭いを引っ付けたまま鈴奈庵に来て店長と川辺で半裸の俺。

 

 ……いやもう無理では? 

 

 数え役満とかそんなレベルの話ではない希ガスル。麻雀分かんねぇけど、多分そんな感じ。

 だって、紫様とやってる時点で殺されても文句言えないのに、加えて店長と川辺でキャッキャウフフしてたら、ねぇ? 

 

 素直に謝る? っつってもどう謝るよ。下手に謝っても頭パァーンッ!! なりかねないのに。

 一周回って開き直るか? いや、それが一番駄目でしょバカなのかバカだったわ……。

 

 ふうぅむ万事休す。現在進行形で頭蓋骨から嫌な音が鳴り響き、耳元では心地よいはずの吐息が段々と機械音チックになり始めている。

 

 …………まつ毛長いなコイツ。

 

 動かない顔の中で唯一動く眼球を動かし、視線を横にやる。もう、目と鼻の先、いや耳の先には死んだ魚のような目をした紫苑。

 ふと思った、予想だにしていない行動をとれば取り敢えずの死地を脱却できるのではないのだろうか? と。

 

 霊力を首元に集中し、一気に捻る!! 

 移る視界、一瞬音が聞こえなくなり、紫苑の顔が視界に入ると同時に世界がスローモーションに移り変わる。

 驚いたように目を見開き呆気に取られている紫苑、やがてそれは彼女の万力がごとき手……青筋立ってるんですけど、手のひらに青筋立ってるんですけどぉ??? え、マジでヤバかったやーつ?

 次第に無茶をした反動なのか首全体とその上下が熱くなり、唇に柔らかい感触を感じた刹那嫌な音が直接脳に響き渡った。俺の首が可動域を超えかけた音だった。

 

 結果として首を痛め、頭を鷲掴みの状態から顔面を鷲掴み状態へとランクアップした。

 おかしい……俺は確かに死地を脱却するために行動を起こしたはず……事実、首の回転を止められなかったという事は、逃げ出せる余地もあったということ……。いったいなにがおこっているんだ……??? 

 

「ところで紫苑さん」

「ナンでシょうマツリさん」

「さっきよりも手に込められている力が強くなってきている気がするのは、僕の気のせいでしょうかミシミシ言ってるんですけれども」

「別に、ワタシもイヤじゃないけど、今じゃないよね。まずは説明シてほシいシ。やっぱり、初めてが外なのは恥ずかしいかなーって」

「一体ねんのことを言っているのか皆目見当もつかないが紫苑ちゃんに露出癖があったことにいままつりくんはとってもおどろいていてててててつぶれちゃうまつりくんのあたまがざくろみたにつぶれちゃうよぉおおおお!!!???!?!?」

 

 ミシミシッ!! と嫌な音が響き渡る。数秒なのか数十秒なのか分からないが、そう長くない時間をやけに長く感じながら万力の力がすこしだけ弱まった。

 

「し、しおんさまがそんなげひんなしゅみをおもちなわけがないですよねえあははははははぁくぁうぇddrftgyふじこlp」

 

 足から地面の感覚が無くなる。顔を掴んだ鉄の指がミヂミヂと顔にめり込んでくるのが分かる。

 

「ダレと ドコで ナニをしたの?」

「ゆかりさまにさそわれてもりやじんじゃでせっくすせいこういをしてましたぁあ!!!!」

 

 ピシッと嫌な音が耳を劈く。ある意味で、永遠亭ぶりの物理的死を体験している。

 

「しんじゃうしんじゃうから!!!! おれだってしおんがいるからってことわったけどむりだったんだもん!!!! あいしているひとがいるからってかんべんしてくださいって!!!!」

 

 後頭部に強い衝撃。

 叩きつけられたと分かったのは、馬乗りになり顔面を押さえ付けたままの紫苑が顔を赤らめていたのが、指の隙間から見えたから。

 

 遠くか、はたまた近くか分からない場所から言い争うような声が聞こえたのを最後に、俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 恥ずかしがるタイミングも場所も意味が分からないけど、いきていられれば、いい、な、ぁ…………

 

 

 

 目が覚めた。見覚えのあるようなないようなそんな場所。和室。部屋の隅にこれでもかと本が積み上げられているのを見つけ、なんとなく今いる場所がどこだか思い至る。

 未だに痛む頭を押さえ……包帯巻いてあるのに血ぃでてらぁ。色々申し訳ないが、恩人に当たる相手の家を汚すわけにもいくまいて。

 徐々に湿り気が増している後頭部を抑えながら、いるであろう人物の名を呼んだ。

 

「てんちょー、てんちょー?」

 

 呼ぶ声に気が付いたのか、隣の部屋から足音が二つ。扉が開き見知った顔が二つ、足を止めて佇んでいた。

 

「あ、すんません。包帯の変えとかってあります?」

「あるにはあるが、なぜ君は包帯を外そうとしているんだい??」

「傷口が開いたのか血が滲んできてまして、頭なのもあって結構どばどば出てきちゃいまして。布面積を増やすために致し方なくデスネ」

「わ、わたしのせいでまつりが」

「紫苑はトリップする前にこっちを手伝いなさいな。この程度で死んでたら俺は一体何回死んでんだって話ですよ」

「本当に、なんであの出血量で死んでいないのかが私にはさっぱりだよ」

「慣れ……ですかねぇ……」

「馬鹿なことを言うだけの口が残っているのはいいことだ。替えの包帯を持ってくることにしよう」

 

 まあ、本気で答えるなら八雲としてそれなりに動いているからですかねぇ。とは言えるはずもなく、小鈴店長は部屋の奥へと戻っていった。

 にしても止まらんな、包帯で抑え込んでいるから吹き出したりはしてないけど。包帯が意味をなしてないぞ。

 

「紫苑、ちょっと服脱ぐから手伝ってって、いつまで俯いてんのよアンタ……」

「…………」

「あのねぇ……悪いのは俺なの。お前は適当にふんぞり返って自業自得なんだからプンプンッとか言ってればいいんだよ」

「言えるわけ!! ないでしょ……そんなこと……」

 

 俯いたまま顔を振る紫苑。どうしたもんかと唸る俺。さりげなく包帯を置いて我先にと退散する店長。

 あの人、目線を合わせる事すらしなかったぞ……少しくらい可愛い店員の為に気を利かせてくれてもいいんじゃないんですかねぇ。

 どうしたもんか、取り敢えず包帯を替えるか。流石にこのままじゃマズいし。

 遠くにあった包帯を手繰り寄せ、俯き布団を握る紫苑をよそにいそいそと変えていく。片手だとやりにくいです誰か手伝ってくれないかなー……チラチラ。

 なんて一人もんもんとしていると、俯いた紫苑がポツリポツリと語りだした。手伝っては貰えないようで茉裏くんは悲しいです。

 

「……私は、茉裏の力になりたかった。ずっと、ずっと独りだった私を、救ってくれたから。無視されなかった、話し相手になってほしいって言われて嬉しかった。

 茉裏が、勝手に命を懸けて死にかけた時、とっても怖かった。また独りになるんじゃないのかって。この人がいなくなったら、私は何の為に生きて行けばいいんだろうって。

 だから、強くなった。自分の力を抑えられるように、少しでも貴方の力になれるために。

 茉裏の隣に自信をもって立てる様にって。一緒に歩いて進める様にって。

 迷惑なんてかけるつもりなかった!! 茉裏が連れていかれた時も、さっきの時も、迷惑なんてかけるつもりはなかったんだよ……? 

 でも、裏が他の誰かと仲良くしているだけで、モヤモヤってなる……。

 抑えが利かなくなって、他の誰かに取られるくらいなら壊しちゃえばいいって…………抑えきれなくなって…………。

 こんなことなら、あの日、死んでたらよかった……」

「それだけは言っちゃダメだろなあおい」

 

 紫苑の話を聞きながら、どうにかこうにか包帯を巻き終える。しかして、手持ち無沙汰になった手に再び仕事が回ってきた。

 俯いた紫苑の頬を右手で掴み、左手の親指で眉間をぐりぐりする。

 

「死んでたらよかったは、流石に馬鹿にしすぎだろ俺のこと。え、あれか? 俺の行動は全部無断でしたお疲れ様ーWWWって言いたいのか? ふざけんじゃねえよ。ただでさえ食うもん一つにすら困ってた頃にお前を拾って、ここまで一緒に頑張ってきて、俺が無茶したら紫苑がキレて、紫苑が暴走したら俺が止めに入って…………そうやって、なんだかんだ一緒にやってきたのに、馬鹿にすんのも大概にしろやマジで。

 俺はお前を拾って、一緒に暮らして後悔したことなんて一度もない。あるとしても俺自身の無鉄砲さに嫌気が差してたぐらいさ。いつかお前に愛想付かされるんじゃないかって。

 あーもう、くそっ、なんて言えばいいんだ学がないのが嫌になってくるなマジで。

 こちとらタダでさえ両親と死別じゃねぇえけど、別れてんだ。これ以上、俺を独りにしないでくれ、簡単に、死んでたらよかったなんて、言わないでくれよ…………たのむから」

 

 お互いに何を言えばいいのか、何を伝えればいいのか分からない。

 けれど、確かに伝わるのは、相手を想う気持ち。

 お互いに肩を寄せ、特に何かを話すわけでもなく時間が過ぎていく。お互いに声が震えていたのはきっと勘違いなんかじゃなかった。

 

 

 それから、しばらくして、鈴の音と共におれは鈴奈庵を後にする。

 大丈夫だから、安心して待っていてくれと。今度は落ち着いて、説教聞くからさ。

 

 夜の帳は下りていた。

 




お読みいただきありがとうございました。

ま、仕事は空気とか関係なしに来るものですから(´・ω・`)

では、また次回~


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第41話 ふくまれていない

2月って28日までじゃんとあわてんぼうのちゃるもんさんになってました



 外、一瞬の浮遊感の後、どこかの森の中へと足を踏み出す。

 

 見覚えなんてものはなく、木々の隙間から差し込む月明りだけが唯一の目印だった。

 特に考えるわけでもなく、いや、極力考えることを辞めながらごく自然に足を進める。

 

 やがて、影が見える。

 

 木にしがみ付く、影が。

 近づくと、それはこちらに気が付いたのだろう。その真っ黒な腕を伸ばしてくる。

 それを弾き落とし、困惑しているソレに躊躇いなく銃口を突き付けた。

 銃というものがなんなのかを知らないのか、影はただ、困惑したように佇んでいた。

 

 乾いた音が破裂する。

 

 それに驚いたのか、寝ていたはずの鳥が一斉に飛び立ち、木の葉を揺らした。

 影は黒い液体をまき散らしながら、気を背にずり落ちる。

 どちゃっと鈍い音がして、目の前の光景が切り替わる。

 

 暗い森の中、浮遊感はなく、ただ、赤い場所に佇む二人。

 一人は少年、赤い水の中で静かに横たわっている。その表情は暗くて分からない。

 そして、もう一人は俺。

 

 脳にこびり付いた光景が修正されていく。

 

 影、爛れ、白、他にもたくさん……。

 それらの光景が上塗り……いや、いままで塗られていたペンキを無理やり剥がすようにべりべりと。

 赤、あか、アカ……。

 

 少年が、少女が、男性が、女性が、老紳士もいれば幼女も、老婆も居れば青年も、ことごとくが赤くなる。

 そして、その場に立っているのは毎回、俺、ただ、ひとり。

 

 つまりは、そういうことなのだ。

 つまりは、そういう、こと……なのだ。

 

 マヨヒガで出された条件。俺が、この世界に居つくにあたっての条件。

 一つは八雲として行動すること。八雲の機密を外部に漏らすなよ。そして、この異世界に俺、霧生茉裏という椅子がないがために、その存在が消えないように紫様が施してくれた救済措置のようなもの。

 

 そして、もう一つ……博麗の手が出しづらい仕事を代わりに処理する。

 

 幻想郷という場所には大きく分けて二つの種族がいる。人間と人間でないもの。人間でないもというのは例えば、神、妖精、妖怪。

 博麗はこの二つの存在のバランスを保ち、博麗大結界を維持するのが役目だ。

 そう、二つのバランスを。

 神や妖精の力が強くなり過ぎれば、それは災害の前兆。妖怪の力が強まれば人里の危機。どちらにせよ、幻想郷という場所を保つにあたってろくなものではない。

 では、人間の力が強くなり過ぎた場合はどうなるのかという話だ。簡単だ。人の世が始まる。

 神も、妖精も、妖怪も、更に言えば動植物ですら、人間という災いの前には敵わない。

 だからこそ、外の世界では数多の動植物は絶滅においやられ、神秘と呼ばれるものは駆逐された。

 動植物が生きているのは一重に、人間とって圧倒的に利益が生まれるが故の温情だ。

 

 人は賢い。程度こそあれど、この二文字に偽りはない。

 かつて、摩訶不思議な到底理解しえないものを神と、妖精と、妖怪と信仰し恐れ敬ってきた。

 それらが、賢智によって暴かれ、当然のことで抗えない、抗う必要がないと烙印を押された。

 

 人の世が始まった。

 

 幻想郷は、そんな烙印を押された……つまり、忘れられた者たちがかつてのまま生きられる場所。

 人間に捨てられた彼らは、皮肉なことに人間がいなければ存在できない。

 人間の持つ神秘への妄信が、神が神として、妖精が妖精として、妖怪が妖怪として存在させる。

 

 言ってしまえば、幻想郷という場所は大きな人間牧場なのだ。

 

 だってそうだろう? 手を振るっただけで地形を変質させる。しかも、俺の住処の結界や人里の結界、更には博麗大結界の管理に加えて、異物の俺の魂の管理まで……そんな存在が人里の結界を大きく出来ない訳がない。

 

 じゃあ、なんでやらないのか。

 

 単純だ。人間が増え過ぎないように。

 

 だが、人間の繫殖力は異常だ。無駄に高い寿命に生命力や知識。それらを加味すると……ネズミやゴキブリの比じゃない。

 必然的に人間のキャパシティは超える。妖怪と人間のバランスが崩れる。

 

 じゃあ、どうするのか。

 これも簡単だ。増えた分は消せばいい。

 

 ああ、確かに妖怪退治もあるだろうさ。半端に強く、理性の無いやつは脅威でしかない。

 他にも、妖力に当てられ妖精や人間が半妖に変質するパターンもある。特に妖精は力の使い方を知っているだけメンドクサイ。

 人間相手が一番楽だよ。何もしてこないし、助けに来たって思ってんだもん。必死に手を伸ばして、払われたら逃げようとするけど、結局、夜の闇に怖気づいてしまう。あとは引き金を引いておーしまい。

 

 もう、分かるだろ? 博麗という存在がナニをする存在なのか。

 

 博麗ってのは幻想郷のバランスを維持する存在。

 妖怪退治の専門家で、人殺しのスペシャリストだ。

 

 そして、俺が、そんな博麗の暗い部分だけを背負わされた操り人形ってわけだ。

 

 ガキもジジイも、男も女も、ババアに半端のなりそこない。全部全部殺してきた。

 だって分かんないんだもん。視界の奴らは人型のナニカで? 頭の中ですらおぼろげで? 何をどうすればいいってんだよふざけんな。

 

 …………嘘だよ。分かってた。どうすればいいのか分かんないなら、わざわざ面と向かって紫様に人殺しをさせられていたなんて言う訳ないっしょ? 

 

 ただ、実感しただけだよ。いま、この瞬間に。

 

「俺って…………人、殺しちゃってたんだなぁ」

 

 空を見上げると、俺にだけ月明りが差し込んでいる。

 返り血も殆ど浴びていない、純真無垢だと言いたげな格好の俺を。

 

「…………萃香、いるんだろ。鬼の中で同族を殺した奴ってどういう扱いになるんだ?」

 

 風が吹き抜ける。いるはずのない場所に、友人に話しかけるように。

 言葉は帰ってきた。何もない場所から、声だけが。

 

「バレてたか」

「お前は何処にでもいるだろ。で、どうなんだ」

「同族殺しねぇ…………状況次第としか言えないが、まあ、ウチは負ける奴が悪い。だから、茉裏の行いを咎めるつもりもなければ、それが悪いことだとさえ思えない。死んだコイツが悪いんだ。人間観点からいくとどうなのかは知らないが」

「そうか…………弱い奴が、悪い、か」

「そうそう、だから深く考えずにさっさと帰って来な。こちとら暇でしょうがないんだ。精々夜が明けるくらいまでしか我慢ができないよ」

 

 そして、声は聞こえなくなる。多分、もう一度話しかけても返答はないだろう。

 

「鬼相手に気を遣わせるとは、よっぽどひどい顔をしてるんだろうな、おれ」

 

 死体を見る。ものの見事に額には風穴が出来ている。困惑したままの顔で、暗闇に沈む表情はとてもではないが穏やかとは言えない。だが、無駄に苦しんでいるようにも見えなかった。

 

「わるいな。俺も、生きたいんだ。恨むなら、こんな時間に外をほっつき歩いてたアンタを恨んでくれ」

 

 そっと、その瞼を閉じさせる。少しはマシな表情になっただろう。

 死体に背を向け、森の中へと歩みを進める。後は、紫様が処理をしてくれることだろう。

 

 俺の仕事は、増え過ぎた人間の数を減らすことなのだから。

 そう、幻想郷の守護者として。

 

 やがて、感じる浮遊感。目の前は森の中ではなく、人里にある鈴奈庵。月明りに照らされたその身には、少しだけ掛かっていた筈の返り血でさえきれいさっぱりなくなっていた。

 

 現実を直視したからだろう。かつて感じていた筈の違和感はない。

 あれだけ止まることのなかった手の震えはなく、夜風に当たりほんの少しだけ肌寒い。

 止まることのなかった涙もなく、欠伸をしていると誰に言うでもなく誤魔化す必要はない。

 冗談交じりに止まらない言葉を紡ぐ必要もなかった。

 

 ごく自然に、何事もなかったように、事実、心の中は想像以上に穏やかなまま戸を開く。

 始めてきたときとは違い、かび臭さも本が乱雑しているわけでもない。ただ、ごく普通な本屋の姿。

 

 奥の居間へと音を殺して進むと、そこには静かに寝息を立てる本居小鈴と、そんな店長を抱き枕のように抱えて寝ている紫苑の姿。

 そばに腰を下ろし、紫苑の髪をそっと持ち上げる。少し身じろぎした後、また寝息を立て始めた。

 

 ふと、声が漏れる。誰のものか…………誰でもない、自分自身の声。

 

「ああ、そっか……おれ、こわれちゃったんだ」

 

 りかい、リカイ、理解。

 自分自身の人間としての機能、感情が壊れてしまっている事実に直面。もう、戻る事は決して出来ないという事実への理解が。

 

 髪に触れていた手に水滴が落ちる。やがてそれは雨となり、二人を起こしてはいけないと、部屋の隅へと移動した。

 その間も、涙が止む気配はない。

 

 声を殺し、部屋の隅で涙を流す。

 服を握りしめ、後悔や自責、妥協、怒り悲しみ、浮かんで混ざって分からなくなる。

 

 

 ああ、

 だが、

 かなしいかな、

 そこには、ひとまじりもの殺した相手への罪悪感だけはふくまれていないのだから

 

 




お読みいただきありがとうございます。

にんぎょうさんこわれちゃったねぇ

さあ、はしっていくよぉ

またじかいー


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第42話 誠心誠意、尽くさせていただきます。

最近、部屋の中に蛾が入ってきて鬱陶しいですが僕は元気です。


 朝が来た。憎たらしいほどに眩い太陽が昇り、暗かった部屋を照らしている。

 やがてその光は部屋で寝ていた少女二人に降り注ぎ、その安眠を邪魔しだす。

 

 小さな呻き声の後、どちらかがむくりと起き上がれば、それにつられるようにしてもう一人も体を持ち上げる。

 まだ眠たそうに目元を擦る二人を見て、俺も同様に重たい腰を上げた。

 大きく伸びをすれば小気味のいい音が鳴る。あれから一睡もできず、かといって何かをするわけでもなくぼーっとしていた。漠然と考えていたのは、なんで俺なんだろうなーって。他にもいっぱいいたのになーってくらい。

 

 分かってるよ? そんなこと考えて至ってしょうがないことくらい。

 なっちまったもんはしょうがねぇし、今更どうこう出来るような問題でもない。ゲームとして知っていた世界の登場人物として過ごせるなんて夢のような状況じゃないかと誤魔化そうとしたし。

 

 でも、どうしても考えちまうんだよなぁ。

 こんな夢のような状況で、どれだけ現実離れした話を聞いたって、俺の手は見えない血で染まってしまっているって。

 そんな同族殺しの俺が、このままのうのうと何することなく生きていていいのかなーって。

 

「……ん、おあよまつり」

「おう、おはようさん。二人ともさっさと顔洗って服直せ。いたいけな女子が見せてはいけない格好になってるぞ」

「……寝起き一発目の言葉がそれとは、もう少し麗しい女子の妖艶な姿を見てこう…………なにかあるだろう?」

「口も回ってなけりゃ頭も回ってねぇですね店長。いいからさっさとやることやりなさいよ。あんまり遅いと萃香が爆発すんだよ」

 

 二人を無慈悲にもたたき起こす。涎を垂らしたままうろつこうとしてんじゃないわよずぼら娘ども。

 そんな二人を見送り、今後の予定を考える。必要な時に切り替えていかないとね。

 

 幻想郷、東方project、異変……、守矢一家が来た異変は風神録と呼ばれるもの。ことの中身にしては全くの別物であったが、元の世界を基準に考えるとするのであれば時系列自体に変化はないように思われる。

 ただ、問題がいくつか。同じことの繰り返しになっているとはいえ、スパンというか、発生時期が読めない。

 ゲームの中では数週間から数ヶ月は経っているはずがたったの数日で異変が発生している。

 これは一重に、この世界が俺の知るゲームではないということの裏付けにもなる。ここは正真正銘の異世界であると。

 そして、もう一つ。紫苑の存在だ。特殊な状態であったとはいえ、一日会えないだけで妖怪の山を壊滅に追いやった。あのクソ烏が言うには作戦立案段階だったそうだが、それが本当かもわからないし、作戦を立てたからどうこうできるような代物でもない気がする。辺り一帯を皆不幸にするとか、どうやって対策しろって話だし。

 常に俺か、紫苑の能力に物理的にも能力的にも相性がいい萃香が居れば大丈夫なんだろうが……そうもいかないのが現実というもの。そんなことが出来ていればそもそもあんな惨劇は起きなかった。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと、だ。

 次の異変が起きた時や、何らかの拍子で俺が死んでしまったらどうなるのか。で、ある。

 

 そりゃあ、今現在であってでもそうそう死なないとは思うよ? 曲がりなりにも八雲紫と関係を持っているわけでもないし。実際、生死の境から生きて帰ってきてるわけだし。

 そこらを歩いてる男どもよりは百倍死ににくいとは思うワケ。でも、絶対じゃないのよそれ。

 八意永琳の光の矢をもろに喰らえば即死だし、伊吹萃香の怪力なり能力なりで圧殺、レミリア・スカーレットの雷で灰に、射命丸文の目にも止まらない速さで首チョンパ……やだ、この世界物騒すぎ? 

 

 まあ、あれだ、死ぬ要因が多すぎるって話。なんなら、これからも異変に首を突っ込んでいくとなればその要因の数は倍ドン倍!! 

 順当に行けば次が緋想天、地霊殿の順になるのだろうか? かたや天界の問題児と、かたや地獄の問題児。しかも、そのどちらもがトンデモパワーの持ち主ときたもんだ。出来れば関わり合いになりたくはない。

 

 緋想天は紫様ぶち切れ案件になるのは間違いないだろうから、もしかしたら先手を打ってるかもしれないけど。問題は地霊殿なんだよなぁ……。

 だって、順当に考えて地霊殿の舞台である地獄って放射線やばそうじゃない? 

 地霊殿の異変の全容って確か、なんやかんや八咫烏の力を持っちゃった霊烏路空が調子に乗ったか暴走したかってお話でしょ? で、その力ってのが核融合だか核分裂だかで、最終的に発電機扱いされるんじゃなかったっけ。

 うろ覚えだけど、重要な部分は間違えてないはず。

 で、核融合だか核分裂だか忘れたけど、どう考えても放射線ヤバいでしょ。レントゲンなんて比じゃないよこれ死んじゃうよこれ。

 じゃあ、行かなきゃいいじゃんって? 俺もそう思う。けど地霊殿って、ゲームの頃の推しがいるんだよねぇ……行きたくなぁい?? 生きたいよなぁ!! 

 

 あ、一瞬背筋がヒヤッとした。

 え、何あの子、ついに心まで読めるようになっちゃった? 

 

 まあ、冗談はさておいて。地霊殿には行かなきゃならんのよ。あ、推しとかじゃなくてね? 今後の生活基盤てきなものも考えてね? やっぱり現代っ子としても電気は魅力的なのさ。

 家まで電気を引ければ……そもそも電化製品がないからいみな…………河童に頼めば風呂ぐらい作ってくれるかなぁ…………。

 

 なにはともあれ、目先の問題としては緋想天。そして、地霊殿に行くまでに何らかの方法で体を強化しなければならないわけだ。

 放射線じたいは、博麗の巫女や霧雨魔理沙なんかが平然と行き来してたし案外どうにかなるのかもしれないけど。対策を立てておくに越したことはないよね!! 

 

「マツリ、準備できたよ」

「あいよ。んじゃ、お邪魔しました店長。俺たちもう帰りますんで」

 

 着替えてはないけど、身だしなみをある程度整えた紫苑を迎え、小鈴店長に別れの挨拶を。いたいけな少女の家に朝っぱらから長居してもアレだからね。

 と、思ったのだが、どうしてか小鈴店長は俺の袖を握りしめて離さない。一体どうしたというのかね? 

 

「店員くん。少しだけ愚痴に付き合ってくれ。なに、そう時間は取らせないさ」

「いy」

「つきあってくれ」

「……はい」

 

 嫌ですと断ろうとしたが、有無を言わさず愚痴に付き合うことに。なんだってばよぉ。

 

「例えばの話なんだが」

「もうすでに愚痴じゃないっすねそれ」

「店番をしていたら」

「続けるんすね」

「最近顔を見せていない店員がひょっこり顔を出してきたんだ。それも、ぷんぷんぷんと生臭い体でね。訳を聞くと浮気もどきをしてきたから匿ってほしいという。気は乗らなかったが、店員くんとはそれなりの仲だと自負していた。だから、せめて臭いを落として来いと言って川に放り投げた。そのあと、焚火も起こしてやって暖を取らせたら、正妻との修羅場にぶち込まれた。間一髪それそのものに巻き込まれるのは回避したものの、そのあとよくわからない負傷をして、結局巻き込まれる。一日を棒に振ったなぁ、けど、店員くんの為だ少しくらいは我慢しようと顔を洗っていると、そそくさと店から出て行こうとしていた。正妻は被害者だからしょうがないのかもしれないが、店員くんの行動としてはどうなのかなぁと思った次第でね。

 もちろん、そんな特殊な状況は極めて稀だとは分かっている。だが、万が一があるからね。君の意見を聞かせてほしい。

 私が同じ立場に立たされた時、私はどう対処すべきだったのか、そして、彼に何を要求できるのか…………どう思うかな? 店員くん?」

 

 ……………………誠心誠意、尽くさせていただきます。

 




お読みいただきありがとうございました

つよく……つよくならなきゃ……

んじゃ、また来月までさようなら。
新社会人も頑張ってなー('ω')ノ


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第43話 ッし!!、もういっちょ!!

GW???? なにそれおいしの????


 れっみりあちゃーんきゅうけつきにしておっくれ~~~

 

「顔を合わせて早々に考えることがそれでいいのか?」

「なんで僕の周りには人の心を読み取れる存在がぽんぽん現れるんですかね? 紫様以外からも心の平穏を奪われたらもう、人間不信どころの騒ぎじゃなくなっちまうぜ?」

「私含めて二人なのだろう? それだけで済んでいるのだからいいじゃないか」

「心を読める奴が二人もいる時点でそれだけで済んでるとは形容しねぇんだよアホンダラ」

 

 それに、その力がメインの奴だっているんだからなやめてやれ? 

 

「それで? 吸血鬼になりたいと?」

「あー、まあ、手っ取り早いのはそれだから、どんな感じなのか聞きに来た感じっすかね」

「どんな感じ……どんな感じなのだろうな? 人間ではない私には皆目検討もつかん」

 

 レミリアの手で弄ばれていたティーカップが音を立て砕け散る。

 中に入っていた真紅の紅茶が、レミリアの部屋に敷かれた真っ赤な絨毯に黒い染みを作った。

 

「人間は脆い。その脆い人間が私と同程度の固さになる。私からすれば、ただそれだけの事だ。基準が違う、故に、私には想像も出来ん。貴様とて、何故人間として生きているのか問われても、回答に困るだろう?」

「まあ、確かに。人間だからとしか言いようがないわな」

「だろう? 客観的に見れば嬉しそうにしている奴が多い気もするが、真でどう感じているのかなんて私には理解できん。人間から吸血鬼に変わった奴の気持ちなんてもってのほかだ。それとも……いまここでその体験を目にすれば、貴様のその渇望も潤うのかな?」

「と、いうと?」

「いるだろう? いまここに一人」

 

 そういって指差したのは入口に控えていた一人のメイド。

 何故か俺が名付け親になってしまっている十六夜咲夜だ。殆ど会話をしたことがない。

 

「それも人間に変わりはない。もう少し成熟してからと思っていたが、たいして変わるものでもあるまいし、いまここでやってしまおうか」

「正直見たい気持ちの方が圧倒的に強いんだけど見たらなんか色んな意味で引き戻れなさそうだし遠慮するわ」

 

 目をキラキラさせ待っていましたとでも言いたげな顔で口元が緩んでいた十六夜咲夜さんの顔がスンッと無表情になる。目にハイライトが入っていないですよコワい。

 

「そうか、それは実に残念だ」

「心にも思っていないことを平然と言える度量があるのはよぉーくッ分かったわ」

「そういうなマツリ。そもそもとして私は貴様を眷属にする気はもうない」

「だから、眷属になった奴らの心情を知ったところでどうにもならないと」

 

 誤解が残っていそうだが、概ねその通りだとレミリアはいつの間にか元通りになっていたティーカップに口を付けた。

 にしても誤解とな? 

 

「誤解、と言うべきか……。あるいは、畏怖というべきか……」

「畏怖って、なにが?」

「貴様……八雲のどちらかと寝ただろう? 流石の私とて、あの二人から唾を付けられている男を手駒にしようとは思えん」

 

 …………え? 

 

「いやいやいやまてまてまて何で知ってるん????? え? 噂でも広がってるの?? てか噂にしないといけないレベルの事でござったか!?!?」

「うるさいぞ人間。それだけ臭いを放っておきながら自分でも気が付いていなかったのか」

「え、俺臭い? マ?? もう二日三日は過ぎてんだけどえ臭いマジ??」

「ああ、臭い。あの女の臭いがずっと鼻に纏わりついてきてるわ。ただ、貴様が思っている臭いではない。分かりやすく言うのであれば力の残滓みたいなものだ。別に体臭などの話ではない。妖精や人里の大衆程度では判別はできないものだ」

「あ、そうなのね。それならよかt……いや良くなくない??? それ結構な、えっ」

「貴様がここに来るまでに誰に遭遇したかは知らないが、少なくとも屋敷の住人達には既にバレているだろうな。メイド妖精の中でも、勘の良い奴は気付いている事だろう。かなり強烈なマーキングのようだからな。屋敷の結界を維持しているパチェと門先で合っている筈の美鈴は気が付いていないという事はまずない」

 

 サラッと言ってのけた事実に頭を抱える。え、じゃあなにか? 俺はいままで紫様と床を一緒にしたことを公言しながら歩いていたという事になるのか? 地獄かな? 

 

「ち、ちなみに、なんですけどぉ……それを消せたりとか、はぁ~」

「できない、したくないからこそ貴様を眷属にしたくないと言ったのだろう?」

 

 でっすよねぇ!! 俺覚えてるもん!! むかしコイツ俺のこと眷属にしてやろうかとか言ってたもん!! 俺が断っただけで言ってたもん!! 

 はぁ……もういい、いやよくないけど、もういい。んで、これってどれくらいで消える……分からない、っと…………無期限、の可能性も、ある…………スゥ──―

 

「もうお嫁にいけないッ!!」

「せめて庭で遊ばせている貧乏神は連れて行ってくれよ?」

「ひどいわッ!! わたしはこれから隣に女を連れて、行く人々に【あ、コイツ別の女とヤってるな】って思われながら生きて行かないと行けないのよ!! もう少し優しくしてくれてもいいじゃない!!」

「曲がりなりにも、貴様を蒸発させられる相手に傲岸不遜な態度を取れる時点で優しくもなにもないだろうに」

「それはそう」

 

 レミリアの本気のデコピンで消し飛ばされると思うんもん俺。

 まあ、今後はそれを込みで気を付けて誰かれ接していくしかないかぁ。素直にいやだなぁ。

 

「さて、話を進めようか」

「もうちょい感傷に浸らせてもらえませんかね? あ、だめ? うっす」

 

 レミリアの指先にいっそ神々しさすら感じられる赤黒い針が浮かぶ。一瞬にして背中がじっとりと滲みだした。

 ふざけすぎた。なんだかんだと乗ってくれるが、指先の動き一つで俺くらいなら消し飛ばせる相手だ。警戒して損はない。いや、間違いなく俺が悪いんだけどねうん。

 んで、話を進めるって、他に何かあったっけ? 

 

「あるだろう? どうして急に吸血鬼に興味を持った」

「あー……言ってなかったっけ?」

「私が聞き逃していなければ、ないな」

 

 あー、開口一番に心を読まれたから言い忘れてたか。

 いや、でも、理由ってもあれよ? くっそくだらんよ? いや、死活問題といえばそうなんだけど、内容自体はくだらないというか……。

 

「あれっすな、単刀直入にいうなら手っ取り早く強くなれるから。だな」

「本当にくだらないな」

「だから言ったのに……。八つ当たり気味にその赤いのひゅんひゅん俺の周り飛ばすの辞めてもろて。もう少し詳しく言うなら、寿命を延ばしたいんだよ。あと、再生能力的なのも出来れば。んで、そうなったときに、真っ先に思いついたのがオタクの十六夜咲夜だったわけ」

 

 親指で後ろを指さす。流石に俺から指名を受けるとは思っていなかったのか、きょとんと自分自身を指さし首をかしげていた。

 

「ほら、強大な力にはそれ相応のうんぬんかんぬん言ってたじゃん? じゃー取り敢えず、って感じ。んで、少なくとも吸血鬼の眷属ないし、吸血鬼になれれば寿命なり伸びるんじゃねって」

「なるほどな。確かに十六夜咲夜の寿命は伸ばしてはいる。だが、それは十六夜咲夜の力もあってこそだ。私が十六夜咲夜の運命を視て、十六夜咲夜の力でその運命を切除する」

「ん? 運命を切除?」

「時間停止だと本人は思っていたようだが、本質は違う。自身の望む形に運命を切り取り、変質させる。前に話しただろう? 運命とは川のようなものが幾つにも交わっていると。十六夜咲夜は、それを思い通りに操作できる。自身限定とはいえ、その認識を拡大させれば屋敷内であったり、対峙している誰かの運命も相対的に十六夜咲夜の運命に引きずり込まれている。時間が止まった中で行動しているように感じるのは、本人が最も認識しやすい形に動いているからだろう。そして、代わりに支払われているものが、寿命」

「切除された先の運命、未来って事か」

「そういうことになる。自身を中心に集まってくる川の流れ、それを自ら断ち切っているようなもの」

「供給源がなくなるのか」

「ああ。そこで、私が極力必要のない運命へと導いている。数こそ増やすことは出来ないがな。能力的な強さで言えば、私よりも圧倒的に強力なものだ」

 

 だから、最終的には眷属にする。私よりも早死にはするだろうが、そこらの人間よりは数百年は長く生きるだろうよ。そう締め、彼女は口を閉じた。

 色々驚き桃の木なことだらけだが、必要な情報としては、眷属になったところで今とたいして変わらないということ。

 あと、後ろで少し誇らしげに胸を張っている十六夜咲夜さんの力がやべーって事。

 

 暇つぶしになにか付き合えと、テーブルの上にカードが広げられる。

 なにすんの? ポーカー? いいけど、ルールぐらいしか知らないからな俺。

 

「そもそも、貴様が欲しているものも、アイツに頼れば一発だろう」

「そうかもしれないけどさー、素直に頼るのもなんか違うっていうか……」

「人間とはめんどくさいものだな」

「本当に、めんどくさいよ人間は。俺も素直に頼れるだけ素直ならねぇ」

 

 何度か手札を交換し、出来たペアを公開する。

 レミリアの手はスペードのストレートフラッシュ。

 俺の手はワンペア。

 

「なんにもかんにも、足りてねぇもんだなぁ」

 

 せめて、目の前の奴の鼻を明かしてやるぐらいの実力はねぇえとお話になんない、か。

 めんどくさい人間なりに意地汚く頑張ってみるしかないのかねぇ。

 

「ッし!! 、もういっちょ!!」

 




お読みいただきありがとうございます。

久しぶりのレミリアたん十六夜咲夜を添えて。
次も久しぶりの方が出る予定ですわよ!!

では、また(´・ω・`)
ばいちゃ~(∩´∀`)∩


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第44話 やめてくれ切実に

ちょっとあまりにも時間がないのでこれで堪忍やで


どもども、つい最近ちびりそうになったまつりくんだよ。

なんでかって? いやぁ……ご主人様こわいなって。

 

一ヶ月前に紅魔館にレミリアに会いにいったんよ。

そこから二週間くらいして、幻想郷に地震が起きたわけね? 連続して細かいものから、どデカいのも不定期に。

で、あ、これ緋想天始まったなって思ったんよ。まあ、今回は様子見でいいべって思ってたんやけどね。

 

…………おうちこわれちゃったあはは

 

そりゃあそうだわ。隙間風とか雨漏りとかはどうにかしてたけど、根本的にはオンボロ小屋なわけで。

寝てるときに嫌な予感がして、咄嗟に紫苑を庇った時に倒壊したお家の下敷きに。不幸中の幸いなのか、オンボロ小屋だったおかげか大きな怪我はしなかった。打撲と擦り傷程度よ。これが日ごろの行いってやつだな!!

 

で、だ。私のせいでって紫苑がなったわけだけど、そこはずっきゅんして落ち着かせた。

萃香も倒壊したのに気付いて直ぐに駆けつけてくれたし、怪我も大したこともない。もっと言えば結界にも問題がなかった。が、とある一件によりタガが外れたあのお方がブチギレルには十分だったよう。特に、一切関わっていない状況で想定していない出来事に俺が悪い意味で関わってしまった事にご立腹の様子。

萃香が青ざめてそそくさと逃げ出す光景に吐き気を覚えつつ、何時の間にかオンボロ小屋を復活させていた紫様が立っていたわけよ。

紫苑は恐怖で震えて腰抜かしてたし、ある種の元凶の俺が下手に声もかけられない。頼みの綱の藍様は耳を絞って知らん顔。

 

にっこりと微笑んでまってなさいと一言。紫色の隙間の中にその姿を消した。直後、再び大きな揺れ。そして、地面に叩きつけられたナニか。人らしい原形を留めているだけのソレが、この異変の元凶だというのは即座に理解できた。

そして、隠すつもりのない紫様の圧にちびった。うん、最初嘘ついた。ちびりましたはい。それはもう盛大に。

 

辛うじて息のあるソレを前に、優雅に歩いてきた紫様はこう言う。殺しはしないが、次はない。そういってソレの腹を蹴り上げて物理的に送還した。

その後、なんかもういっぱいなでまわされてゆかりんとしおんとぼくのさんにんでなかよくスヤァしましたはい。

 

とまあ、ちょっと思い出すのもイヤな状況のまま緋想天は終わりを告げたのです。

紫様もそのまま何事もなかったかのように帰っていったし、聞くなって事なのでしょう。知らんけど。

 

「で、それがどうして私の家に来る理由になるんだ?」

「同じオンボロ小屋に住む仲間として交流をと思って」

「ぶっ殺してやろうか??」

 

きゃーもこたんこわーい……おーけー落ち着いて話し合おう。だからその手に持たれた熱々の急須を置くんだ。

俺が今いるのは迷いの竹林に住む藤原妹紅宅。原作でもお馴染みのあの恰好、白のシャツに、赤のモンペ姿だ。

 

「正直に言うと迷っただけっすねー。本当は永遠亭に用があったんだけど。ま、おたくでも問題ねぇかなって。むしろ適任まであるか?」

「アイツらの代わりって時点で嫌なんだが」

「まあまあそういうなよ藤原妹紅……車持皇子いや、藤原不比等の娘さん」

 

部屋の温度が跳ね上がる。それもそのはず、藤原妹紅から文字通り炎が噴き出しているのだから。

 

「その反応、マジでその人の娘なのか」

「鎌でもかけましたってか? 遺言はそれでいいんだな?」

「そりゃあ困る。なんせ俺は死にたくない一心で生きてきたからな。アンタの神経を逆なでしたことに罪悪感なんてのは微塵も感じてないが、確認のためとでも思って許してくれや。なんせ、今から逆鱗に触れるんだから」

「ほお? いまこの状況でさらにアタシを怒らせると?」

「うん。不老不死の藤原妹紅、蓬莱の薬を飲んだ蓬莱人のアンタに聞きたい。いままでどんな思いで生きてきたんだ?」

 

炎が揺らめく。鋭い刃となった炎が、咄嗟に顔面を庇った掌に突き刺さる。

流れ出る血液が泡立ち、沸騰しているのが分かった。

 

「あぎぃああぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!」

「どうした? 人の逆鱗に軽々しく触れたんだ、それ相応の覚悟ぐらいしてきてたんだろ? もうちょっと頑張れよ」

 

手が捻られ、麻痺し始めていた痛みに新たな激痛が加わる。

体温が上がり、視界も揺らめく。

このままでは死ぬ。幻想郷に来て慣れたくなかったその感覚に、自然と体は動いていた。

勢いが衰えない業火、我を忘れたかのように冷たい視線を向けてくるその真紅の瞳。そして、終わりを告げるその背に生えた不死鳥の翼。

 

しかして、その翼は無残にも切り落された。

 

「ぱちゅ…………じきでゴホッゴフッ!!!!」

 

口の中から赤黒い液体と、とんでもなく熱いであろう咳が言葉を封じる。

いい加減抜けやなんて悠長なことを言える暇もなく、藤原妹紅の体を蹴り飛ばした。

抵抗するわけでもなく、そのまま部屋の壁に背中を打ち付ける姿に拍子抜けする。なんだこいつ。

刺された場所に霊力を送り、治癒能力を高める。幸いと言っていいのか分からないが、その炎の熱で出血が続いているなんてことはなかった。

体内の血管に霊力を纏わせ、体の状態を正常なものへと戻していく。十秒程度あれば言葉を発することも出来る。その間アチラさんはピクリともしないけど。

 

「あ、あーテステス。どうよ、パチュリー直伝なんちゃって霊力ブレード。本当はもっとほっそい糸にして使うトンデモ兵器なんだけど。ま、動かない相手になら十分でしょ。で、いつになったら寝たふり辞めるん?」

 

…………動かないんですけど。え、死んじゃった?

 

「なら一回きっちり殺しといたほうがいいか。生き返るところ見てみたいし。そいじゃ失礼して、南無」

「南無じゃねえよ、馬鹿かオメェは」

「あ、生きてた。で、どうよ? ちったぁお話する頭になったか?」

「……死ねゴミ」

「わーお純粋な罵倒だー。負け犬風情が吠えてんじゃねぇぞガキ」

「うるせぇ、お前になにが分かんだ」

「分かんねぇし、知りたいとも思わん。だが、お前の経験が俺にとって有益になるのなら、俺は死なない程度にお前を煽り続けるわ」

 

だから、ほら座って座ってと家主に座る事を進める押しかけ失礼男。しっかりにっこりと笑いかけて座る事を勧めるのが大事だ。

 

「……アンタ、何者だよ」

「一回会った時に見たでしょ? 鬼を友人に持って、同居人が貧乏神、主は八雲のごく普通の一般人でさ」

「それを一般人と呼ぶにはいささか無理があるんじゃないかなぁ」

 

ま、固いことは言わずに色々ゲロってくれやもーこたん。

 

「やっぱ今ここで殺すべきなきがしてきた」

「本気になったら俺なんて瞬で消し炭なんだからやめてくれ切実に」

 




お読みいただきありがとうございます。

ちょっとなにかと忙しかったのでかなり短いですが許してニャン(=^・・^=)

では、また来月~


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第45話 本能ってのは怖いもの

投稿するの忘れてたんゴ(´・ω・`)ゴメンネ


「…………で、結局なにが聞きたいんだ」

「もこたんって不老不死じゃん?」

「ああ、そうだよ。忌々しいことにな」

「で、さっきの反応からして、1000年以上は生きてるじゃん?」

「さっきもそうだったが、すっげぇ笑顔で人の神経逆撫でしていくのなお前」

「人生の大先輩相手に遠慮なんていらないかなって」

 

そーいう問題じゃねぇだろと愚痴るもこたんに再びにっこりと笑いかける。中指を立てられた悲しい。

 

「で、その間に絶対孤独の時間なりあったと思うんよ。その頃の話が知りたい。出来れば炎を出しながら」

「わかったなんで炎?」

「いやぁ、こんど行くかもしれない場所が旧地獄でして。どのくらい熱い場所かも分からんので、まあ、その訓練みたいな?」

「はぁー地獄ねぇ。お前みたいなクソ野郎にはお似合いだな!!」

「はっはっは!! ちげぇねぇ!! ま、地獄にすら俺の席はないんだろうけど。ま、そんなわけでオナシャス」

 

もこたんは軽くため息をついて、先ほどみた炎の翼を出現させた。

少し落ち着きを見せていた部屋の温度が急激に上がっていく。サウナに入っているのと似た感覚だが、湿度が高いわけじゃなくむしろ乾燥している。砂漠とかこんなかんじなのだろうか。

 

「で、1000年かそこいらの記憶を話せって事だけど。正直なところ、あんまり覚えてない。そりゃあ最初の方は人恋しさに集落とかを回ってたけど。こんな髪じゃあ、よっぽど奇怪なところでもない限り石を投げられておしまいだった」

 

そう言って自身の髪を弄ぶ。白とも銀とも取れる異様な髪色。そして、白髪には不釣り合いな若々しい肉体。現代のファッションと比べても奇抜な部類に入るだろうソレは、昔であれば忌み子や厄災として扱われた。

そして、奇怪な場所は、その容姿と似た伝説が伝わる村とかを指すのだろう。それこそ、現人神や神の御使いとして崇め立てられたとしたのなら。

 

「流石に八雲のとこの奴なだけあって、これぐらいは簡単に気付くよな。…………ああ、そういうこともされたよ。私も、私に良くしてくれた奴も。幸いなのは、初めてがちゃんと好きな奴だったことぐらいか。そのあと生贄だって目の前で殺されたけど。

私が、行く場所場所を追われて疲弊しきったところに手を差し伸べてくれた奴だった。場所がどこかもわからない。一つ言えるのは雪が降る場所ってぐらい。そして、ソイツの村が大雪で喰うものに困ってるってこと。

それなのに、ソイツや村の連中は私を迎え入れてくれた。そもそも、人として扱ってもらえなかった私にはひどく響いたね。

その頃はまだ、この力を制御しきれなかったから熱気が駄々洩れ。ただ、幸いだったのはその村に伝わる土地神が炎にまつわるものだったこと。私の周りがあったくて雪もすぐに解けるから、そりゃあもう重宝された。御使いだーとかなんとか言って。

そして、同時に祭りの準備も進んでいた。私が来る前から決まってたからしょうがないし、止められるわけもない。祭事というものがどういうものであれ、部外者が立ち入ってはいけないなんてこと、私でも良く知ってる。

ソイツも納得してたし、両親も死んで独り身。村長たちも申し訳なさそうにしていたのは今でも覚えてる。

数年に一度訪れる大寒波、これを鎮められるのは、生贄の男と、番となる女。二人がまぐわって、果てるときに男を殺し女に力を宿す。男と女、相反する力を手にした女は土地神の力を借りて寒波を遮る。なーんて、昔はありふれた儀式。

その儀式が行われる頃には、私はソイツが好きになってたし、村長たちからその話は散々聞かされた。旅の人に迷惑はかけられない。けど、御使いの者としてどうか番役を果たしてくれないかって。

快く了承した。

男は白無垢、女は緋袴。連れていかれた洞窟の中で事を為した。そして、私の下に寝るソイツの首が落とされた。

あの時の感情ってなんなんだろうな? いまでも、1000年以上が過ぎた今でもわからない。私は、この力を使って村を救って、冬が過ぎたころに村を出た。

虚しかったのか、怒りで我を忘れてたのか、悲しみに明け暮れいたたまれなかったのか。

100年か200年……、死ぬことだけは出来なかったからただボーっとして気がする。唐突に襲って来る焦燥や孤独、死への羨望、生への憎悪。そんな感情を掻き消すように、奇怪な村を探しては乗り込んで、人の温もりってやつに触れようとした。好きになった奴もいた。最後まで添い遂げた時もあった。肉体関係だけの時もあれば、監禁され代わる代わる相手をした時も、体をそぎ落とされて、皆で不死になろとか言ってそれを食って高笑いしてるような村だってあった。

それでも、人がいるという事実と、一生かかっても死ねない、死ぬことが許されない事実の天秤は簡単に優劣を決めてくれたよ。

実際、覚えてるのなんて一割二割程度。言葉に表せば、とんでもないことに聞こえるし、事実そうだけど。それ以上に辛かったのは、思い出せない…………いや、思い出したくない空白の孤独の時間。私の心が蓋をした記憶の方だ。

不老不死なんて、聞こえはいいだけの…………まやかしでしかないんだ」

「はえー、大変やったんやねぇ」

「反応かっる!! しかもどちゃくそ失礼!!」

 

何を言うか。一周回って言うことがなくなっただけだい。

 

「にしても、人恋しい、ねぇ。もし、誰かしらを同じ不老不死に出来たとしたらやってた?」

「してた」

「あら以外」

 

即答する藤原妹紅の目は特段変わりなく、淡々と事実を述べていた。

 

「今でも、この地獄に引きずり込みたい気持ちはある。同時に、誰にもこの地獄へと足を踏み入れさせたくない気持ちも」

「でも昔は違った」

「ああ。大切なものは全部壊されて、人として扱われる事すらない。獣か、それ以下か。そんな状況で、気を許せる奴がいたのなら……私は迷わず同じ地獄へと引きずり込んでいた。ま、薬がないからそんなこと出来ないんだけど」

「あったらやってたと。蓬莱の薬、先生なら作れるのか?」

 

八意永琳。俺の背中を消し飛ばしてくれやがった張本人。月の頭脳にして、蓬莱の薬の制作者。東方projectの中では珍しく、知識や技術力が能力として書かれている人物。

 

「作れるんじゃないか? 最低でも三つは作ってるだろうし、もう一つぐらいなら出来るだろ。作ってもらえるかは知らんけど」

「そりゃそうか。姫さんの願いでもなければ作らなさそうだわ」

「逆に蓬莱人を殺す薬を作れるのか聞いたら、作れるって言ってたし」

 

作れるんだ。いやまあ確かに、不死殺しの逸話なんて神話の中にはそれなりにあるけども。

 

「あー、なんだったか。蓬莱人の不老不死ってのは、飲んだ奴の全盛期に固定するものらしくてな。私が飲んだ時も、直ぐにこの体まで成長した。概念的な存在ともとれるとかなんとか」

「藤原妹紅はこれ!! って決めつけられている感じか」

「んー……多分? じゃあ、どうやって殺すかってなると、その概念を引き剥がすことになるらしい。詳しいことは教えてくんなかったけど」

 

概念を引き剥がす……蓬莱の薬の効能を上回る年齢の強制進行とかそんな感じだろうか? それか、存在そのものをないものとして格付けるとか。

 

「んー、素人だからわかんね。でも、今でも死にたいって思ってるわけじゃないんだろ?」

「半分正解、半分外れ。その話を聞いた時、そりゃあもう大暴れした。私をころせーって。返り討ちだったけど。んで、その日も挑んで負けて吹っ飛ばされて、体が再生していくのを感じながら落ちた先が」

「上白沢慧音の所だったと」

「先読みすん気持ちわるい」

「流石に酷くない?」

「そこで散々説教されてさ。不老不死であることをいいことに体を無下にするなーとか、色々言われた。一番効いたのはあれだね、たかだか1000年程度生きただけのガキが、世界も知らずに勝手に絶望してるんじゃない。だって、私の方が年上なのにだよ? 何様だっての。でも、なーんか、嬉しいというかなんというか、良かったんだよ」

「え、なに、被虐願望ですか?」

「燃やすぞ?」

「すんません」

「……ま、そんなこんなで、私は今も特に意味もなく生き続けてるんだよ。過去にとらわれながらも、ね。さ、帰った帰った。さっきから汗が出なくなってきてんだから」

 

そのまま、藤原妹紅に家を追い出される。帰り際に、話し相手ぐらいにはなってやると言っていたのは間違いなく彼女なりの思いやりなのだろう。不老不死、あるいはそれに近しい存在を目指している俺に対しての。

 

「にしても、本能ってのは怖いものだ」

 

藤原妹紅と上白沢慧音。藤原妹紅が彼女を良かったと感じたのは、藤原妹紅を殺せる数少ない存在だからだろう。

歴史をなかったことに出来る上白沢慧音は、間違いなく藤原妹紅ひいては蓬莱人の天敵。出会うべきして出会った。

 

俺は、紫苑に出会うべきして出会ったのだろうか。

存在が不安定なまま彷徨っていた紫苑と、存在が不安定なまま生きている男。

お似合いなのかはさておいて、一緒に居たいという気持ちは変わらない。

 

どうやって寿命を延ばそうか。一緒にいるためになにをすべきか……分からないことだらけのなか、はるか遠くに水柱。

 

新たな異変が、来る。

 




お読みいただきありがとうございます

いやー、忘れてたわ普通に。
ま、なんにせよ、ようやくの地霊殿編。
ここまで来るの、ほんとうに長かったわぁ( ̄д ̄)

じゃ、また次にお会いしましょう。
じゃね~


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第46話 んじゃ、行ってくる

はろはろー
ようやくここまで来たわーって感じだわー


 時刻は午後を回り昼飯時。自宅にて、装備品もろもろを確認していた。

 とはいっても愛銃の点検程度なのだけれど。

 

 さて、銃の点検をしながら少しばかり情報を整理しよう。

 

 まず、二日前、博麗神社近辺に間欠泉が湧く。その噂は一気に広がった。あれだけド派手に出てたらそりゃそうかって感じだけど。ただ、二日経った今、それ以外の情報は出回っていない。

 季節は秋終わり、東方projectの世界で間欠泉と言えばとある一つの異変。旧地獄からのSOS、東方地霊殿が上げられる。

 しかし、相も変わらずと言うべきか、発生時期はズレている。ゲームの世界であれば、地霊殿編が始まるのは冬の真っただ中だったはずだ。しかし、今は冬とは言え雪も降っていない冬の初め立冬。

 それらを鑑みると、本当に博麗神社に温泉が湧いただけなのかもしれない。

 

 しかし、自体が動いたのは今日の午前。その間欠泉を通り異形の存在が確認された。その多くは無害な人魂であり、放っておいてもそのうち帰っていくため問題はない。が、その数が多すぎた。ただでさえ、地上では見ることのない奴等が出てきているのに、数百にも及ぶ人魂が間欠泉を出たり入ったり。たまーにふら~っと人里に降りてきては、里の外の連中に取り憑いては暴れだす始末。

 正真正銘地霊殿編が始まった瞬間だった。

 

 弾はFULLの15発とマガジンが1。あんまり貰えないのよこれ。

 

 博麗の巫女さんと普通の魔法使いさんは既に出発しているか、今出ているってところだろうか。サポートとして、八雲紫とアリス・マーガトロイドが地上で待機。ここからもしかしたら増えるかも知れない。ゲームだと、加えて射命丸文、河城にとり、パチュリー・ノーレッジ、伊吹萃香の四人がサポートとして付いている。

 まあ、こっちの世界だと紫様一人で本来なら事足りるはずなので大事にはならないだろう。

 え? なんでそんなに詳しいのかって? だって、萃香と仲いいから勝ってにべらべら喋ってるから……いいかなって。

 

 ただ、伊吹萃香といえど、いや、伊吹萃香だからこそ、その間欠泉の先には行きたくないらしい。旧地獄になにか思い入れでもって思ったけど、普通に考えて、そりが合わねぇって別れた相手に大手振りながら会いには行けないわな。

 こっちが気にしてなくても、向こうが気にしてるパターンだってある訳だし。

 だから、何時ものごとく紫苑の事を任せることにした。なお、現在進行形で部屋の隅っこで拗ねている。

 

「実際危ない目にあうかもわからないんだから、大目に見てくれてもいいんじゃないかなぁ」

「うっさいばかあっちいけ」

「それで死にかけたり、外の世界に飛ばされたりした奴が言うと説得力皆無だねェ」

 

 にまにまと酒を煽り、足蹴にされている俺を笑ってみているクソガキの言葉に何も言い返せない。事実だからしょうがないね。

 実際死にかけてるというか、死んだも同然の状況に追い込まれてもいる。外の世界に送り出されて、最悪帰ってこられなかった可能性も全然あった。

 今回の地霊殿、場所が場所なだけあって、危険度で言えばいままでで一番高い。

 なぜか? 単純に考えて核融合出来る奴が暴走してるんだからそりゃぁ危険でしょっ、ていうね。

 

 地霊殿の異変の全容。それは、守矢一派の旧地獄進行によるもの。その際にとある一羽の地獄鴉、霊烏路空に導きの神であり、太陽神の御使いとも言われる八咫烏の力が宿った。宿らせられたとも言えるが、むしろ宿らせたが正しいのだが。

 しかし、地獄のとはいえ結局は一獣、神の力を御しきることは出来ずに暴走。親友である火焔猫燐が地上に助けを求めた。

 

 要するに、また守矢か案件。

 

 地霊殿の異変の全容が今述べたものと全く同じかは分からないし、流石に全部が全部完璧に覚えてるわけでもないので実際のものとしても記憶に齟齬は存在しているだろう。

 それに、守矢も幻想郷のルールだったり、八雲紫の存在を知らないわけがないので無暗に秩序を乱す行動をするとは思えない。

 なので、考えられるものとしては三つほど。

 一つ、八雲紫からそとの世界で発達している技術、つまりは電気の供給ラインを整えるよう言われた。決行するも、霊烏路空が暴走。

 二つ、電気の無い生活を嫌い、発電所を設立したかった。が、霊烏路空が暴走してしまい今に至る。つまり、想定外の出来事である可能性。

 三つ、どこぞの緑巫女の暴走第二弾。

 

 ………………流石に一か二のどちらかだろう。三つ目だと男女平等パンチでは済まない気がする。

 

 まあ、大雑把な全容としてはこんな感じになる。そして、度々出てきている名前、霊烏路空がこの異変の原因の一人。彼女は、先に上げた通り、守矢関係でその身に八咫烏の力を宿した地獄鴉。使う力は核融合。

 核分裂ほどの危険性はないとされているとかなんかではあるが、ないわけではない。専門家ではないから詳しくは知らないけど、多分そう。素人目からすると核分裂も核融合も大して変わらんのよ。

 で、そんなところに行くって話をしてないんですけど行くこと自体は早々にバレてたみたいでして…………あとは根掘り葉掘りごぜぇますはい。

 

「行かなきゃいいじゃないか。別に紫にとやかく言われてるわけではないんだろう?」

「そうだそうだー!! 少しはこ、こいびとうのことも考えろー!!」

「それはそうなんだけどぉ……。てか、今更恋人呼びぐらいでつまりなさんなよ」

 

 実際、異変の中心に向かっているのは全て俺の独断。行く必要があるのかと問われれば、まあ、まずないよね。

 ただ、今回はっていうかこれからって言うか…………ッちょっと行く理由が出来たんっすよ…………ねぇ。

 

 いや、そのぅ…………自己満足って言われてら否定できないんですけどぉ、まあ、一種の線引きと言いますかぁ。

 

「じれったい」

 

 うい。まあ、はっきり申し上げますと、紫様の式になるためっすね。

 

「なんだそれ。あんだけべったりなら頼んだら二つ返事だろうに」

 

 うん。俺もそう思う。けど、普通に考えて八雲紫の式が一般人って駄目じゃない? 

 俺が一般人がどうかって聞かれたら確かに微妙なライン打倒は思うよ? そうじゃなくて、下級妖怪に真っ向からあたって勝てない雑魚が八雲紫の式になれるだけの価値があるのかってこと。

 そりゃあ、人里の人間よりは強い自信はある。ちまちまとだけど修行だってしてきたし、それなりに修羅場も超えてきた。

 そんな中で俺が出来た事ってなに? 舌戦で相手を平伏させた? 知恵や力で屈服させた? ないない出来るはずがない。付け焼刃の弁舌力にすこーし戦える程度。結局戦力としてはいつでも切り捨てられる駒から脱していないのよ俺は。

 横のつながりはそれなりにあるから、一概にそうとは言えないかもしれんが。それを差し引いても精々糸に繋がれてない人形レベルよな。自分からも、人からも動かしてもらえない。

 

「だから、ここらで一発。安直だし、結局紫様がいるから一命は取り留めるだろうなんて甘い考えがあるのも否定はしない。でもま、やれることやれば糸に繋がれた人形程度にはなれるのかなって。そしたら、正式に紫様の式にしてもらって…………寿命とかその辺の厄介事からは解放されるのかなって。一人にはできんだろこの厄介娘」

「まつり…………嬉しいけど厄介娘ってのは否定させて」

「それはそう。だったら、っちゃっちゃといって帰って来な。その間は私がこの厄介娘の相手をしといてやる」

 

 えー!! っと大声を上げている紫苑。いやアンタ…………どうあがいても否定はできないでしょうに。

 

「まあ、そーいう訳だ。だからさ、留守の間は頼んだぜ? もしかしたら、しばらく帰ってこられなくなるかもしれんし」

「…………付いていっちゃダメ?」

「ダメとは言わんが、いざ前に出られたら俺のやることなくなるし。そもそもとして、十中八九ズタボロにされる俺を見てて手を出さないなんて出来るか?」

「できる!!」

「無理だろ。俺が無理なんだから。ま、諦めて家を守ってなさい。茉裏くんは意地でも一人で行きますからね」

 

 一人(紫様とかいう最強の保護者付き)と、少し締まらない感じではあるものの、要は腕試しみたいなもの。ゲームで言うなら……強化クエストとか限界突破、的な? 

 

 後ろでブーブー恨みつらみを投げかけてくる可愛い奴を放置して、簡単な荷物を纏め上げる。言っても、水とロープ、あと何時ぞやから余ってる謎のカロリーメイトのようなもの。愛銃二丁を腰に巻いたホルスターに。今回は戦いに行くので、服の下には隠さない。

 

「んじゃ、行ってくる」

「てらー」

「…………いってらっしゃい」

 

 気の抜けた声と未だ不服そうな声を聴き、家を出る。足周りに霊力を纏わせ木の上まで。本日は快晴なり、雪の代わりにふよふよ白っぽいモノが漂っていること以外はなんらいつも通り。

 足場にしている木を思いっ切り蹴とばして、目指すは博麗神社の少し先。一度の踏み込みで住居としてる森を抜ける。地面に着く瞬間、もう一度強化。今度は地面を踏み込み加速。人里や紅魔館に向かうときにはわざわざこんな事はしないが、ウォーミングアップも兼ねて出し惜しみはしない。

 霊力の総量は変わらないが、使い方ひとつで強度も燃費も変わるというのだから相変わらずの不思議パワーである。使ってる奴が何言ってんだって感じだけど。

 もこたんがブチギレた時にやった霊力ブレードとか、もっと細く練り上げれば目に見えない細さで簡単に木もぶった切れるヤベェ代物だし。なのに燃費はいいって言うね。熟練度って大事なんやなぁって。

 人里の上を飛び越し少しばかり方向転換。妖怪の山の方角へ。

 間欠泉の場所は博麗神社と妖怪の山の間あたり。あくまで博麗神社の方が近いってだけ。

 そして、何度かぴょんぴょんしてると見えてきた見えてきた。

 

 温泉の湯けむりと、湯を吐き出してる間欠泉。今は落ち着いて、出てくる量も少し。時折ぶわぁー!! っと出るみたいだけど。だが、本命はこっちじゃなく、そこからまた少し離れた大穴。間欠泉とは違い、温泉が湧いているわけでもない、底が見えない大穴。人魂や異形のモノが出てくるわけでもなく、ただの穴。実際上から見てみるとわりと大きい。家一軒程度だったら余裕で落ちるレベルの大きさ。

 少し軌道を調節しその手前に降り立つ。一応と思って持ってきたが、ロープでどうこうできる深さではないことを確認。色々認識が甘かったなぁ…………どうしよ。

 

 勿論ワタクシは飛べませんので、えーロッククライミングはじまるー? 

 

 なんて、準備運動をして深く考えず飛び降りる。

 時折壁際を掴みながら、速度を調整。こうして、俺の旧地獄探索はゆるーく始まったのだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

んじゃま、ゆるーく続けていきましょうかね。

では、また来月に


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第47話 気張っていこうか、茉裏くん。

引っ越しやらでドタバタしてるんゴ


空が掌に収まるほど小さくなったの見て、この命綱なしのロッククライミングを終えたことを実感する。

深さは………結構ある、多分500mぐらい? 知らんけど。

んで、やっぱ熱い。想像よりは涼しいけど、動いてなくてもじんわりと汗をかく程度には。

 

そして、道は一本大きなのと、小さなのがチラホラと。大きなのが旧地獄に続く道で、小さいのが妖怪たちの住処だったりするのだろうか。

 

そして、その大きな道からはドンパチやってる音がもう、響いてきてるわけですねぇ。血気盛んかぁ??

 

その争いから逃げてきた妖怪たちは、人間である俺に気付いても我関せずと小さい穴へと入っていく。なるほど、避難所としても機能しているのか。

 

ま、その辺りにはまったく興味がないので、さくさく進んでいくとしよう。

 

大きな道を進んでいくと、そこは旧地獄街道そして旧都が、まさしく悲惨と言うべき姿で佇んでいた。

繫華街と思わしき場所でド派手に輝くごんぶとびーむが変な曲がり方をしていたり、建物が丸ごと投げ飛ばされていたりすることさえ除けば綺麗な場所である。うん。

しかして、その中央に繫華街には似つかわしくない洋風の建物。地霊殿。そこら一帯だけ被害が一切見受けられないのは、そこの主の能力なのか別の何かなのか。

何はともあれ行ってみない事には始まらない。

 

ささっとお邪魔しますよー。

 

 

「…………いや、そんな軽いノリでお邪魔されても困るのですが」

 

現在地霊殿入口。俺の前にはロリっ子が立っている。言わずと知れた幻想郷ロリっ子代表、古明地さとりその人。小五ロリですよ皆さん!!

 

「よく分かりませんが、とにかく貶されている事だけは分かりました」

 

あ、あんまり心読まない方がいいと思いますよ?

 

「え? なにいっやあ、ぁあああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」

「言わんこっちゃない……ってか、好きで覗いてる訳でもないんだっけか。紫様も、いい加減にしないと一緒に寝てあげませんからね」

 

目の前で頭を押え蹲る小五……じゃなくて、古明地さとりの背中を擦る。

日頃から紫様とかいう、勝手に心を読んでくるような人を相手にしているのだから、今更心読まれても何も思わない。

むしろ、古明地さとりの場合は妖怪としての性質なのだからマシである。

ただ、まあ、独占欲マシマシの紫様からしてみれば何処ぞの馬の骨とも分からんやつがいきなり割って入ってきていい気持ちでは無いのだろう。

そもそも人の心を常に見て欲しくは無いのだが。

 

さて、すこし良くなってきたのか古明地さとりの呼吸も安定してきた。

いやぁ……今の一瞬で一体なにをされたのだろう。知りたくもありませんね。

 

「そろそろ大丈夫かい? 古明地さとりさんや」

「………え、ええ。お見苦しい所をお見せしました」

「いやいや、しょうがないって。相手が悪いし、初対面でそれを見抜けってのも無理あるし………ま、今回は天変地異にあったとでも思って水に流してくれ」

 

不可抗力なんだろうけど自業自得なのは違いねぇし。ぼくちんわるくない。

 

「そうはっきりとされると私としては微妙に納得しづらいですが、事実ですからね。私が大人になりましょう」

 

ロリっ子が何か言ってらぁ。俺の脇腹ぐらいの身長の小娘が意地を張っても怖くとも何ともないんだよなぁ。

でも、そう考えるとロリっ子共の中では比較的大きめなのか? どっちにしろ小さい事には変わりないか。

 

「さっきからちいさいやら小娘やら………曲がりなりにも妖怪相手によくそんな事が」

「いやだって、アンタよりヤベェ奴を散々相手してきてるし。悟り妖怪の、相手の心を読む力を完封できる立ち位置にいるってなると………ねえ?」

 

うぎぎとでも聞こえてきそうな表情と歯ぎしりに、優越の顔を浮かべる。

 

「さて、気を取り直して、茉裏だ。八雲紫の下にて色々やってる。その感じだと思考は読めるみたいだけど、あまり深層まで見ようとするのはオススメしないぜ」

「ええ、そのようですのでやめておきましょう。古明地さとり、この地霊殿の管理をしています。お帰りは回れ右ですよ?」

 

古明地さとり。さとり妖怪、あるいは覚。対象物の胸の内を見ることが出来る妖怪。実際の妖怪も、猿に近い、人間のような見た目をしている。特徴的なのは第三の目を持っていること。よくあるのは額にもう一つ目があるものだが、いま目の前にいる彼女は触手のようなものに丸い眼球を持っている。サードアイって呼ばれる奴だ。

薄紫の髪に桃色と青を基調とした少しフリル付きの服装。髪はぼさついているのか、この蒸し暑さのせいで髪が痛んでいるのか。

 

「あっはっはっは!! そんなに邪険にしなくても、直ぐに出ていくから安心してくれ。俺の目的はここにはない。ただ、その目的が取り込み中のようなんでな、それならって挨拶に来ただけだよ」

「確かに、派手にやってるわね」

 

そうだ、この辺りだけ攻撃が届いてないようだけどなんでなん?

 

「また急に、思考だけで会話を始めましたね。別に構いませんが」

 

心を読まれるって分かってる前提で、本当に大事なところは紫様が隠してくれてるっぽいし。こっちの方が楽っちゃあ楽なだけ。特に他意はない。

あと、もう少し加えるなら、口の中が乾燥するのが嫌だ。あっついねんここ。

建物の中なら熱波もないだろうけど、見ず知らずの人間を屋敷に招き入れるほど警戒心がないわけでもないだろうし、なら喋らなくてもいいかなって。それに、そちらさんは緊急時で正直切羽詰まってるんっしょ? なら、無駄な心配増やすのもなーって。

 

「親切なのか不躾なのかわかりませんね。緊急時だと分かっていて、手を貸しに来たわけでもなく、ただ無駄話をする為だけに家主に会いに来る時点でどうかと思うわ」

「それはすまん。ただ、その心配事はもう少しすれば解決されるだろうし、間接的に手助けする形になるから許してニャン」

「きもッ」

 

シンプルな罵倒は傷つくからやめてください。

で、結局なんでなん?

 

「攻撃が地霊殿に来ない理由、でしたか。………覚妖怪の力の本質、とでもいっておきましょう。心を読む、つまりは意識を辿る力。この第三の目を閉じた時、私たちは相手の心を読む力を失う代わりに、辺り一帯に無意識を振り撒く力を得られる。

その光景を目の当たりにした時、私はこの力の本質を理解したわ。心を読む力はその一端。私たちの本質は、無意識と意識の狭間とも言うべき本能を読み取る力。あるいは、それを強制させる力。

ここは危険だから避けよう、なんとなく違う道を進もう、そういったものを強制させる」

 

つまり、ここらを攻撃するのはやめておこうって思わせることで、攻撃が届いてない。って感じ?

 

「概ねその通りです。まあ、完全ではないですから。こうして、敵意もなしにやって来る存在を遠ざけたり、内側からの攻撃には弱かったりするわ」

 

なるほどなぁ。

じゃあ、今から町がもっと悲惨になる可能性があっても特に気にする必要はないってことか。

 

「いや、それは気にしてほしいのだけれど」

「それが一番ネックだったからさぁ、それが分かればこっちのもんよ。じゃあ、急に邪魔して悪かったな。もうちょっとしたらアンタの心配事も解決するだろうから、頑張れよ」

「はぁ………程々に。復興の指揮を執るのは私なんですから」

 

あいあい。

 

さて、ドンパチしてた音は鳴りを潜め休戦中か勝敗が付いたのか。

ここからが、この異変においての大一番。気張っていこうか、茉裏くん。




お読みいただきありがとうございます。

仕事を辞める兼ね合いで、引っ越しやらでドタバタしております。
なので、来月、再来月と、少し投稿が遅れる可能性だったり、量が減ったりすると思います。
ですので、ゆっくり待っていてもらえればと思いますん(´・ω・`)

では、また来月お会いできるのを楽しみにしております。
ばいちゃ~


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第48話 打つ手なし

くっそ短い+中途半端=(´・ω・`)ゴメンニ


地霊殿を後に、旧地獄の繫華街を歩いている。

街は悲惨なもので、左を見渡せば焼け野原が広がり、右を向けば土台ごと建物が抉られたのかぽっかりと大穴が。

紅魔館の時もかなり悲惨な光景にはなっていたが、二日も経てば元通りになっていた。魔法使いさまさまで、パチュリー・ノーレッジが文句を言いながら直したらしい。

それに対して、この地底。少なくとも東方projectの世界においてそのような便利キャラがいた記憶がない。

しかし、代わりと言うべきか、鬼たちの仕事が総じて建築関係だったりする。らしい。土蜘蛛の方だったかもしれない。ともかく、建築家が多いイメージが個人的にあったりなかったり。

 

「まあ、でも俺には関係なし。結局他人が汗水流してるのを傍目から頑張ってんなぁって思う事しかしないのよ」

 

だから、この現状にも対して思うことはない。

 

「バックアップがあるとはいえ、相手はあの星熊勇儀。伊吹萃香と肩を並べる化物。人間には荷が重いのは分かり切ったこと。だから、これはちょーっと想定外」

 

トリップ状態と言うべきか、その半透明の横顔には何も映っていない。笑顔も、哀愁も、怒気も激発も。なにも、映っていない。

そして、近くには顔見知り以上友人以下とでも言うべき相手、霧雨魔理沙が困惑した表情で腰を抜かしていた。

 

勝てる見込みなんてないだろう。

何度も言うが、相手は星熊勇儀。鬼の四天王が一角。単純な力技だけなら、伊吹萃香すらも凌駕するとさえ言われている化物。勝てる方が可笑しいのだ。人として。

 

確かに、今回の俺の目的は実力を示すことで、手っ取り早く分かりやすく鬼の四天王である星熊勇儀に勝ち星を上げられればとは思っていた。少なくとも、自身を細分化できる萃香や多種多様な攻撃をしてくるレミリアよりは勝率は高いだろう。

力でごり押してくるのであれば、知恵知略でどうにかする。それすらも聞かない理性を持った化物よりはよっぽどやりやすい。

だが、それでも勝てる見込みなどないと断言できる。地霊殿に寄り道をして、わざわざ戦闘が終わったであろうタイミングを見計らって、多少なりとも消耗しているであろう所を、なんて浅はかな考えもあった。

 

「でも、辿り着いたさきで目的の相手が負けてるとか思わんじゃーん。蟻が像に勝てるとか思わんのよマジで。相手星熊勇儀だぞ? 鬼の四天王なのわかってる?」

 

像、星熊勇儀を片腕で壁にめり込ませている蟻、博麗霊夢の姿。軽いパニックを起こしながらも状況を整理するために思考を巡らせる。

星熊勇儀は……多分死んではない。と、思う。少なくとも、博麗霊夢はレミリア・スカーレットや紅美鈴に敗北している。星熊勇儀が彼女たち以上の存在であると断言はできないが、同格かそれ以上の存在。そして、それはたった数年の時間で埋められる差ではない。ましてや、星熊勇儀の土俵、怪力と言う点において博麗霊夢が星熊勇儀を壁にめり込ませるというのは不可能なのだ。

 

だが、現実としてそれが起きている。一体、どんなカラクリが………、いや、そうか、あったわ一つ。正真正銘のチート能力が。

 

まず、東方projectの世界において、各キャラクターたちは程度の能力というものを持っている。

程度の能力というのは、一つの能力に不特定多数の力が内蔵されているという暗示だと言われている。

例えば、レミリア・スカーレット。彼女の能力は【運命を操る程度の能力】

体術の師、紅美鈴なら【気を操る程度の能力】

我が主、八雲紫は【境界を操る程度の能力】

鬼の伊吹萃香なら【密と疎を操る程度の能力】

そして、今現在壁に押し付けられている星熊勇儀が【怪力乱神を持つ程度の能力】

 

この世界と東方projectの世界では大なり小なり違う部分はあるだろう。だが、大筋からは変わってはいない。

恐らく星熊勇儀の【怪力乱神を持つ程度の能力】も基本的な部分は似ているのだろう。怪力乱神、生物としての限界を凌駕した力を得られる能力。だとすれば、やはり博麗霊夢が星熊勇儀に怪力で勝つのは不可能だ。

 

博麗霊夢がその力を使っていないのであれば。

 

博麗霊夢の力、程度の能力は【空を飛ぶ程度の能力】

随分と弱っちそうな、シンプル過ぎる能力。だが、その根底は別にある。

空を飛ぶ、つまりは無重力。彼女にとって、圧力も、脅しも、地球の重力、つまりは法則さえも存在し得ないものとなる。

そして、それらを凝縮した博麗霊夢の技が『無想転生』

ありとあらゆるものから宙に浮き無敵となる技。正真正銘のチート能力。

 

はっきりと断言しよう。

 

今この場に彼女を止めることができる存在はいない。

そして、それは八雲紫も同様で負けはしないが勝てもしない。事実確認? 出来るわけない。ただの勘だよ。

八雲紫の能力は対象がいなければ意味をなさない。分かりやすく言えば、マイナスやプラスに対して絶大な力を持つのが八雲紫。対して博麗霊夢の力は0。常に0だから、何者にも干渉されない。

 

拙い説明で恐縮だが、打つ手なし……ってわけだ。

 




お読みいただきありがとうございます。

引越しでごたついているのだ、許せ(´・ω・`)

それじゃぁのー


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第49話 絶望感が足りねぇ

絶賛無職なう
厳密に言うと有休消費が終わったんゴ


 さて、打つ手なしと言いはしたが、何をしないわけにもいかない。改めて状況を整理しよう。

 

 まず、ここに来るまでの間にすれ違った妖怪たち。曲がりなりにも地獄と呼ばれた場所に住む、そして、鬼の四天王である星熊勇儀に付いてきた鬼たちも同様に、人間には目もくれず逃げて行った。そんな特殊な状況に置かれた彼らが脇目も振らず逃げていく事実。彼らにとっても、今起きている事象と言うのは異次元の出来事なのだろう。

 

 次、地霊殿。出会ったのは古明地さとりだけだったし、会話も殆どしていないが有益な情報がなかったのかと問われれば否である。今現在、地底の世界は戦地がごとく倒壊した建物が並ぶ荒地。そんな中にポツリと一切の無傷を保っている建物が地霊殿。その理由は、古明地さとり並びに古明地こいし、悟り妖怪と呼ばれる彼女たちの力の本質によるもの。さとりは心を読み、こいしは無意識を操る。彼女たちの本質、意識と無意識の狭間とでも呼ぶべき心を操る力。それを地霊殿全体に張ることで、意識的に、あるいは無意識的に地霊殿を傷つけることが出来なくなる。外からは。

 

 続いて星熊勇儀。彼女は地霊殿の妖怪たちの頭。鬼の四天王なだけあって、その実力が低いはずもなし。そんな彼女が一方的にやられているという事実。

 

 そして、腰を抜かしている霧雨魔理沙。彼女に助けを乞うても、対して意味はない。というより、彼女に助けを乞うぐらいなら、紫様に声を掛けた方が確実だから。地霊殿で呼び掛けら、対して別の要求もなく聞き入ってくれた。まあ、ちょっと後が怖い気もするが……、いずれにせよこちらの声は間違いなく届いている。

 

 んで、問題の博麗霊夢。おそらくは無想転生状態のチート状態。紫様に助けを求めても、正直どうなるのか分からない。紫様が負ける、という姿は想像しにくいが、その可能性を否定できない程度にはトンデモ状態。

 そして、それだけヤバい状態だというのに紫様本人が出てきていないというのも不思議な点だ。もしかしたら、まだ様子を見ているのか、俺の思っているほどヤバい状態ではないのか…………、どの可能性も捨てきれないのが嫌なところだ。俺の意図を知って活躍の場を用意してくれているぐらいであってほしい。

 

 ここまでで脳内処理僅か一秒!! とか、言ってみたいものだが冷や汗だらだら流しながら多分しっかり三分ぐらいは使ってる。

 向こうに攻撃の意思がないのか、何かしらのトリガーを引いた瞬間バンッなのか。

 

 軽率な動きはしたくないが…………どうあがいても勝てる見込みはない。

 動くしか、ない、か。

 

 極力足音を鳴らさずにそっと霧雨魔理沙へと近づく。

 

「よ、まりちゃん。元気かい」

「お、おま……どうしてここに」

「色々訳アリでね。今回の異変の元凶は地霊殿にいる地獄烏の暴走だ。俺にはどうしようもないから、何時ものお二人さんにどうにかしてほしかったんだが…………それどころじゃないのは見たらわかる。けど、どちらか一方を放置するわけにもいかない。動けるか?」

「…………どうにか、できるのか?」

「いやぁ無理でしょ」

「即答すんなよな」

「攻撃は効かない、鬼を抑え込む怪力。もし俺が知ってる情報通りなら瞬間移動も出来る。勝てる勝算がどこにある?」

「そう、か……そうだよな」

 

 霧雨魔理沙は顔を俯かせた。地面に付いた手を握りしめ、その肩は震えている。

 やがて、顔を上げた。彼女との付き合いが少ない俺でもわかる。覚悟を決めたのだと。

 

「霊夢がああなったのは私のせいだ。あの鬼の一撃を避けられなかった私を助けるために、霊夢は。だから、私もアイツを止める。流石に一人に任せられないしな」

「いや、地霊殿行ってよ」

 

 だから、それを蹴り飛ばすのも人生の先立ちとしてやるべきことだろう。

 きょとん顔が可愛い。ついでに取れるもんは取っておこう。

 

「いや、おま……ここは共闘する場面だろ!?」

「あんまり大声出すなよまりちゃん。バレるだろうが。大好きな親友を止めたい気持ちも分からんでもない。似たような経験はつい最近やったからな。だが、今回は俺に任せろ。てか、博麗霊夢はともかく、地獄鴉は十中八九オレじゃあ止められん」

 

 だって、おれ空飛べねぇし。

 

「向こうが具体的にどんな状態かは分からんが、広範囲高火力を叩き出せるオマエさんなら一人でも、まあ、どうにかできるだろ、俺よりかは。こっちは残骸があったりでまだ動きやすいし、最悪、頼る相手もいる」

「ええぇ……納得できねぇ」

「うるせぇ。俺自身一番納得で来てねぇんじゃいぼけぇ。いいから、博麗の裏方役として尻拭いさせると思ってっさっさと行って来い。人生の先立ち舐めんなよ?」

 

 頭をぐしゃぐしゃとかき乱し、曲がった箒を手に取る。黒色の魔女服から土を払い、帽子を被りなおした。震えは止まっていた。

 

「さっすが、んじゃ任せたぜ」

「そっちも」

 

 そう残し、凛々しい顔に笑顔を浮かべ飛んでいく。それでこそ主人公ってもんだ。そうだろ、博麗霊夢? 

 

「ちょっーっと気付くのが遅すぎたんじゃないですかねぇ!! せんぱい!!」

 

 魔理沙が飛んで行った直後に感じた嫌な感覚、咄嗟に振りかぶった裏拳はブレた彼女の頬を確かに刈り取った。

 

「……ありゃ?」

 

 大げさに吹っ飛んだわけでも、致命の一撃になったわけでもないが、あまりにあっけない。

 瞬間移動か単純な速度で詰めてきたのかは分からないが、少なくとも、今言える確実な事実がある。

 

「攻撃が……当たった……え、マジでなんで??」

 

 攻撃が当たるのであれば、星熊勇儀が負けるはずもなし。故に、無想転生は展開されていたはず。なら、霧雨魔理沙が飛び立ち、それに関与していた俺が敵認定され詰めてきた瞬間に無想転生の効力が切れた? 可能性としてはあるにはあるが、あまりに偶然が過ぎる。なにより、博麗霊夢の雰囲気は変わっていない。強いて言うのであれば、殴られた事による困惑が見て取れる程度。

 

 つまり、彼女にとってもイレギュラーなわけだ。

 

「…………こんなタイミングで勝算ありな試合だとか、どんな出来レースって話だよな」

 

 しかして、身体能力、体術、霊力の総量、技量とすべてはあちらが上。油断するはずもないが、気を抜けば死ぬ。

 

 相手が困惑しているだとか、そんなものは気にしていられない。

 足に霊力を回し三歩の距離を過剰に詰め寄る。みんな大好きヤンキーキック。これがわりと素人の割には威力の出ることでること。

 

 何度も言うが、無想転生とはチート状態。簡単に言うと相手の攻撃が当たらず、自分の攻撃は当たる。僕の考えた最強のチートみたいな力だ。

 恐らく、博麗霊夢もそれを理解しているのだろう。日常的に使わないのは、反動やら条件が厳しいためか。

 なんにせよ、今の彼女の頭に避けるという言葉はない。先の裏拳がその証明だ。

 そして、博麗霊夢はいま困惑、混乱している。なぜ、効力が切れていないのに攻撃が当たったのか? って。

 

 そんな簡単に困惑するはずがない? そんな簡単に絶対が打ち破られたからこそ、自身の隠し玉が突破されたからこそ困惑し混乱しているのだ。

 

 だから、ほら、俺の足裏がモノの見事に博麗霊夢の鳩尾を打ち付けてる。

 

「ダラッッシャァ!!!!!!!!!」

 

 防御の態勢もとらず、回避の予兆もなし。直撃、吹き飛ぶ。見えない何かで受け身を取る。

 

「なんでか知らねぇけど、アンタの天敵って立ち位置みたいだな俺」

 

 すかさず銃身を抜き一発。甲高い爆発音と共に射出された弾丸は彼女の体をすり抜けた。

 

「これはダメなのか。そうか、だったら楽しい楽しい答え合わせを一緒にしようじゃぁあないか、なあ、博麗の巫女さん」

 

 手を握り、再び距離を詰める。一歩二歩三歩。バトル漫画のように音を超えんとする圧を霊力と言う不思議パワーでねじ伏せる。

 眼前に迫ったその額に合わせて固く握った拳を飛ばす。合わせるよに伸ばされた手の平で流される。

 勢い余った速度を回し、目にも止まらぬ速度で蹴りを放つ。狙いは顎。足刀が鎌のように鋭利に確実に刈り取る。が、博麗霊夢のお祓い棒がそれを真正面から受け止めた。そして感じる殺気。感じる野戦の勘が鳩尾へと霊力を回し、銃を宛がい防御する。

 続く衝撃、肺から押し出される酸素と血液は博麗霊夢に当たる事すら許されない。宙を舞う感覚はやがて重力を感じ始め地面に激突。咄嗟に起き上がった時、そこが大穴の底だと気付いた。博麗霊夢は何ぐわぬ顔で俺を見下ろしている。

 

「……銃は銃の役割を果たさず、鈍器としてしか利用できない。技術力は軒並みあっちが上。だが、まあ、これが実力差ってものだよな。うん……マジでなんで当たってんのか分かんないけど、正直、レミリア・スカーレットとか八意永琳とか伊吹萃香とか紅美鈴とか、うちの貧乏神に主様に比べたら全然だな。絶望感が足りねぇ。攻撃が当たるから言えることだろうけど」

 

 あー、口んなか切ったかなぁ。吐き出してみる唾液は確かに赤色で、これが現実であることを嫌でも証明している。

 

「あんなこと言っちまった手前なぁ、退くに退けないし。ガキのけつ拭くのも人生の先立ちとして、博麗の裏方役としてもやらなきゃいけない事か」

 

 痛む体に鞭を撃ち、震える体に嘘を吐く。

 

「答え合わせは終わってねぇぞ巫女さんや。しっかりと付き合ってもらうから、覚悟しとけ?」

 




お読みいただきありがとうございます

まあ、一旦こんなもんでどうっすかね?
次で博麗戦が終わればなぁって思っとります。

ではまた来月お会いいたしましょう
……次の更新までに転職出来てるといいなぁ(´・ω・`)


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第50話 あの世で合おうぜお嬢ちゃん

イケオジだったらもっと様になってなぁって


 よくよく思い返せば、まともな奴と戦った事ねぇなぁって。

 だって、手負いの人間とか半妖とかを除いたらさ、そのほとんどが人間一人にどうこうできる奴じゃないわけで。事実、一方的にやられ続けてきたわけよ。

 そんな俺が、あの博麗霊夢と殺りあってるって考えるとちょっと感慨深くてなぁ。だって、主人公だぜ? 東方projectってゲームの。こっちにはないらしいけどさ。俺は知ってるわけよ。いやはや、事実は小説よりも奇なりってのは存在するんだねぇ。

 

 防戦一方だけどね俺。

 そらそうよ。相手はまがりなりともこの世界の主人公で、博麗の巫女っていう戦闘のプロフェッショナルなんだから。無我の境地みたいなものに至れるわけがないんだから、少しでも思考を柔らくするために無駄なことも考えてんの。阿保だよなぁ俺。

 

 上中下と繰り出される拳を受け流し、相手の脇腹を狙った膝蹴りは結界に阻まれ押し返される。右足だけで立っている不安定な状態を見逃してもらえるはずもなく、人中目掛けて博麗霊夢の拳が飛んでくる。

 しかし、その拳は空を切った。右足の自由も自ら奪うことで生まれた重力という名の不自由に身を任せ辛うじて拳の軌道から免れる。鼻先を掠めジリッとした痛みが身体を動かすのを強要してきた。地面に両手を付きクロスさせ回転力を生みだし後ろへ跳び下がる。が、距離は一瞬にして詰められ態勢を立て直す余裕はない。

 

 もうちょい猶予をくれてもいいと思うんですけどねぇ!! 

 

 跳び下がった勢いを殺さないように二度、三度と大きく飛び跳ねる。星熊勇儀の一撃か、はたまた博麗霊夢の一撃か分からない大穴の底には瓦礫がそれなりに残っていた。それを遮蔽にしながら博麗霊夢の隙を作りたいんだけど……、そもそもとして距離を永遠に詰められているので叶わずじまい。

 拳や蹴り、お祓い棒が風を切りながら俺の体を傷つけている。辛うじて避け切っているの本当に偉いマジで偉い。

 汗と血が混ざり目に入ってきても動きを止めることは決してない。現実にはコンテニューも無ければ残機もない。一度当たればハイ終わり。

 それを知ってなお、彼女は今の今まで正面切って木っ端から化物に至るまで多くの存在をねじ伏せてきた。であれこそ、出し惜しみなんかできるはずもなし。

 

 淡々と言葉を発することもなく、目の前の存在を排除する。それに対して、俺は逃げて逃げて逃げまくる。瓦礫の隙間を凸凹したいびつな地形を飛び回る。

 

 さて、ここで一つ問題だ。俺や戦いを知らない人里の連中と、この幻想郷という世界において主要キャラと呼ばれる彼女たち。この二つの存在において、一番の差は一体どこだと思う? 

 霊力の質や量? 腕力? 能力の有無? ああ、どれもそうだろう。だが、もっと明確にかつ分かりやすいのがあるだろう? 正解は

 

「やっと、整った…………うぇるかむとぅまいわーるどってな」

 

 空を飛べるか否か。

 

 妖精は空を飛び、それぞれにあった力を宿す。

 小、中妖怪は腕力であったり、その巨躯であったりで人間を圧倒する。

 人里の人間は、武器を手に戦うか逃げ惑う。

 霊力も腕力も能力も、どれも間違いではないのだろう。だが、飛べない連中と飛べる連中ではあまりにもその優位性には差がありすぎる。

 そりゃあ、例外もあるとは思うが……、普通に考えたらそうだろ? 飛び道具でも限界はあるもんだ。

 

 さあ、前置きはいい。

 ここで、一つ思い出してほしい。ここ最近俺が身に着けた技に霊力ブレードなんてものがあっただろう? 

 もう、勘のいい奴なら察しが付いたか? 俺がなんで防戦一方だったのか。

 結局のところ博麗霊夢も人間だ。そりゃあ、俺とアイツのスペックに差があるのは分かってるが…………要は人間だってこと。

 そして、防御や移動手段として結界を使ってはいたが…………俺との戦いでは一度もその結界を攻撃には転用させてない。

 やろうと思えばレミリア・スカーレットと同じように首チョンパなんて簡単だし、結界の中に閉じ込めてしまっても博麗霊夢の勝利は明確なものになる。

 じゃあ、なぜしないのか。俺が知り合いだからってのもあるかもしれないし、夢想封印のせいで結界の使用に制限があるのかもしれない。もしくは、夢想封印を発動しているときにはそこまで気が回らないのかもしれない。つまり、理由なんて分かんないけど、アイツは今のところ結界を攻撃に転用していないってこと。

 そして、それと同時に空を飛ばず俺と同じ地上戦を選んでいる。

 

 そんな美味しい状況を見逃すほど、俺も優しくないんでね。

 

 フェアじゃないとか、むしろここまでやってフェアだって言ってやりたいわ。

 

「さて、さてさてさて。わかるか、博麗霊夢。色々不格好だが、俺がアンタと対等にやり合うにはこれ以上やりようがねぇ。おかげで霊力もすっからかんだ。短期決戦…………付き合ってくれや」

 

 瓦礫と瓦礫、地形と地形、瓦礫と地形、地形と瓦礫。その間に張られている細い、細い、細い糸。ただ、良くしなる頑丈なだけの糸を博麗霊夢と俺の周りに張り巡らした。

 本音を言うなら、杭なりナイフなりでもっと広範囲にもっと多く用意したかったがこれ以上は無理だった。大体、直径40メートルより大きいくらいか。

 強度も今は弱いが、俺が近づけば人一人ぐらいは受け止めきれるハズ。

 

 近くの糸に足を掛け踏み込む。糸は元の状態に戻ろうと軋みを上げた。そして、初めて博麗霊夢が得物を構えた。

 

 弾き出される。一瞬音を置き去りに、その反動で引き裂かれる皮膚から肉が見え血が噴き出すのを余った少ない霊力で繋ぎ合わせ皮一枚保たせる。

 俺の霊力の総量が100だとすれば、余ってるのはせいぜい10程度。無駄遣いは出来ない。

 

 雑多に多くの事を学んできた。話術に体術、霊力の使い方や応用の仕方。それ以外にも色々と。

 だからまあ、なんと粗削りな事かと自分自身が嫌になっちまうね。

 

 俺の熟練度じゃあ音速を超え、超え続けているこの一瞬を御しきる事は出来ない。

 少しでもその負荷を減らし、速度を下げるように無理やり空中で体を捻る。体中から骨の折れるような嫌な音と、喉の奥からせりあがってくる鉄臭いものを我慢して掲げられた一本の腱を振り下ろした。

 

 生身の人間からは想像できない衝撃に、地面が陥没し亀裂が入る。どこぞの怪力乱神には程遠いだろうがそれでもなその大穴に傷跡を残す一撃。我が武術の師にも多少は通用する会心の一撃はいとも容易く受け止められた。

 

「一撃で終わるなんて甘っちょろい、要は我慢比べ……無想転生をした博麗霊夢の絶対を、俺の意地が突破できるか…………」

 

 あと、4か5は行けるはずと、そう思い直ぐに離脱しようとした。意識が飛びそうなのを声を発して繋ぎ止め、広く浅くなんでも続けて見るもんだとちょっと成長した自分が嬉しかった。

 だからかな、限界、いや、死の香りとか言っとく? そう、永遠亭で八意永琳と相対した時に感じたソレを感じた訳よ。

 

「あ、死んだ」

 

 両手で掲げられたお祓い棒には、うっすらと結界が張られているのが分かる。いや、お祓い棒だけにではなく、博麗霊夢の体全身にうっすらと薄い膜が。

 この瞬間、俺の勝利は亡くなった。辛うじて掴むことが出来ていた細長い糸がするりと手から零れ落ちていく感覚。

 博麗霊夢がゆらりと拳を伸ばし、俺の腹に当て軽く踏み込む。ただそれだけで、地面が割れ、俺の作りだした傷跡が消えた。

 体の中がぐちゃぐちゃにかき回される感覚と、足を掴まれている感覚。嫌な予感が飛びかけている意識の中で

 

 事態を認識しきる余裕もなく、体が地面に叩きつけられる。何度も、何度も顔面を、背中を、腕がひしゃげ握られている足首は万力に潰れ、握られていない足も衝撃に付いていけず骨が砕けているのは明らかだった。

 何度も、何度も、地面には血溜まりができ、叩きつけられている衝撃のせいかその血溜まりは人の形を成していた。

 

 まだ、辛うじて博麗霊夢の持っている肉塊が人として認識できるのは、茉裏が余った霊力を肉体強化に使用し続けていたおかげか。まだ、息はある。

 

 博麗霊夢は興味を失ったのか茉裏の足を手放し、ただ何もせず天を仰いでいた。

 これから何をすべきなのかを考えているのか、無想転生という絶対を解除しようとしているのか、ただ特に意味もなく佇んでいるのか……。

 ふと、視線を茉裏に移した。

 彼の手が博麗霊夢の見たことのないナニカを握っていた。だが、それは知っている。そのぽっかりと開いた口から塊が飛び出してくる。それは私には意味がないことを、博麗霊夢は知っている。

 

 故に、避けなかった。故に、脅威がないと判断した。判断してしまった。

 

 飛び出してくる霊力の塊、そこに染み付いた師であり超えられない存在の香り。

 避けられない、絶対を打ち破る力になりえないと判断してしまっている以上、彼女の動きは間に合わない。

 

 それでもなお、紙一重で避けてしまうのは天才と言わざるを得ないのだが。

 今回に至ってはそれでは足りなかった。

 

 頬を掠める霊力の塊、絶対が溶けていく感覚、霊力の膜も溶け、体がだるく動かない。

 沈んでいく男の腕、ぬるりと鉄塊が零れ落ち、自然と手に持っていたのは、彼女を越さんとする秀才の汗の結晶、砕けながらもその中身は残っていた。

 

 意志と執念を持って、中身ごと小瓶を嚙み砕く。口内喉胃と体の内側に新たな傷ができるのが分かる。

 意地と気力を持って、四つん這いになり、彼女の腰に抱き着く。

 

 平凡と悪態を持って、震える体を抑え込み、満面の笑みで彼女に説いた。

 

「あの世で合おうぜお嬢ちゃん」

 

 瞬間、体の中で霊力と魔力が複雑に絡み合う。双方が双方を殺そうとただでさえボロボロの体に鞭を撃つ。取り繕っていた肉体から血が噴き出し、やがてソレは漏れ出る光となる。

 

 本来混ざり合わない力が無理やり混ざろうとし、ただでさえ少なくなっている霊力が霧雨魔理沙の作った魔力回復薬によって暴走。それにつられ魔力が霊力を無理やり抑え込もうとするが肉体の方が持たない。結果、外に出ようとする。だが、霊力は魔力に襲い掛かり魔力が耐えきれず暴走。行き場を失い、いま、肉体の意識が飛んで事によってそれを抑え込める者はいない。

 

 ふっと、力が茉裏から抜け拘束から脱出する博麗霊夢だが、体がだるく動けない。彼女の脳が、博麗の勘が無想転生という絶対が解かれた今、逃げろと警鐘を掻き鳴らす。

 

 しかし、もう遅い。

 

 独りの秀才と、一人の平凡が意地と汗と血によって天才に牙を剝く。

 霊力と魔力が無理やりお互いを飲み込み、溢れ出した反発した力が茉裏の体から溢れ出した。

 

 巨大な爆発音が、地底を響かせた。

 




お読みいただきありがとうございます。

バクハツオチナンテサイテー

………便利なんよ(´;ω;`)

では、また次回~


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第51話 何年後の話になるのだろう

あ け お め (´ω`*)

いやー………去年までには終わらなかったね
もうちょっとだけ続きそうでゴンス


 ふと、目が覚める。森の中、どこか見覚えのあるその場所。いや、見覚えのあるなんて表現の仕方はきっと怒られてしまう。

 目を覚ました場所。そこは、この幻想郷の地に足を付けた時の最初の目的地。そして、俺の帰るべき場所。

 

 どこか、いつもより明るい気がするけど。見間違えるはずもない。

 体を見る。五体満足、俺の最後の記憶……こういうときって直前の記憶って忘れてるもんじゃないっすかね? 

 

 渾身の一撃は軽々と受け止められ、お返しとばかりに何度も何度も地面に叩きつけられた。最初の痛みは思い出しただけで全身を強張らせた。だが、それ以上に痛みが無くなっていく感覚にこそ恐怖を覚える。

 今まで味わってきたのは俗に言う一撃必殺だとか、精神攻撃に近い物が多かったからなぁ。死んでいくって感覚はああなんやろなぁ……知りたくなかった。

 

「はぁ……思い出しただけで気分が悪い……。まったく、なにが勝算アリだばっきゃろい。ズタボロもズタボロじゃねぇか」

 

 悪態を吐きながら、恐らくこの心象世界の中心へと向かう。

 もはや通り慣れた道を進むと当然の如く我が家が見えてくる。それ以上でもそれ以下でもない。八雲紫様お手製の結界に隙間風が愛おしいボロ小屋。俺一人じゃ限界があった修繕も、萃香が来てかなりまともになった。隙間風とはいっても風が強い日に感じる程度で、雨漏りも基本なし。最初の事の風が吹き抜けない場所や、雨漏りをしない場所を探さないといけない頃に比べると、まさしく雲泥の差と言えるだろう。

 

 さてと、扉を開けたらいったい誰がいるんじゃろな。まあ、無難に紫苑とか、なんだかんだの関係を持ってる萃香とか、両親とかか? 

 特に深く考えもせずすっと扉を開く。

 

「そこで私の名前が出てこないのは、従者としてどうなのかしら?」

 

 そしてすっと扉を閉めた。

 

 ……いや、まあ、出来ると思うし心の片隅には存在していたよ? 出会い方のアレでレミリアとかクソ烏とか巫女巫女ズとか紫様とかーみたいな? 

 で、これ一種の走馬灯的な感じだからさ、だと思っちゃってたからさ? あんな生々しく反応されるとは思わないじゃん? 

 それこそ、出会った時の状態がフラッシュバックとか、こっちの行動に関係ない言動されるとか、そういうのを想像してたわけよ。

 

「うじうじしてないで早く入って来なさい」

「あはいすいません」

 

 もはや条件反射である。俺は一生このお方には頭が上がらないんだろうなぁ。

 自分の家に失礼しますとなかなかに違和感ありまくりな事をしながら、家の中に上がる。いつも食卓として使用している質素なテーブルや、暖を取るための火鉢といったもの。食材を入れておく箱の中には雑多に野菜や干物が入れられており、その近くにはぬか漬けの壺。更にその隣には紫様から未だ定期的送られてくる保存食等が入った木箱が置かれている。洋服ダンスなんて洒落たものはなく、葛籠が数個。俺も紫苑も良く服が破れるので、替えの服と縫い合わせる為の布が入っている。

 改めて部屋を見回しても、かなり質素と呼べる生活空間ではないだろうか。

 今でこそ、里の手伝いや色んな所とのコネがあるからまともな生活が送れてはいるが、最初の頃はもう、まともに食べられるものもなかったのだから……いい生活になったなぁ。

 

 紫様に促されるまま、テーブルを挟んで対面に座る。椅子はないので正座だ。

 

「それで、紫様? なぜこのようなところに?」

「茉裏、あなたは死にました」

「そんなあっさり言うんですね。いや、まあ、なんとなく分かってましたけど」

「そ、分かっているのなら話は早いわ。貴方には今後、私の式として生活を続けて貰います」

「やっぱそうなりますよねぇ」

 

 予想通りというか、求めていた地位ではあるのだから不満はない。

 ただ、少し自分自身に釈然とはしていないのも事実だ。

 

「なにか不満でも?」

「心、読めるんですから、わざわざ言わせなくても分かりますよね?」

「あらやだ、こういったものは当人の口から聞くのが一番うれしいものじゃない」

 

 ね? と、かわいらしく微笑んで見せる。あと、あなたが微笑んでも可愛いというより妖艶なんで、今この場においては得物を見つけた蛇みたいっすよ。嫌いじゃないっすけど。

 

「はぁ……、まあ言ってもいいですけど、いや、うーん……なんだかなぁ。隠してるとかじゃないし、てか、何人にかは言ってるし今更だけど……、やっぱ恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよなぁ」

 

 チラッと紫様に視線を移しても、早く早くと急かすようにニコニコしているだけ。

 実際隠しているわけでもないので構わないのだが、こう、急かされるとなかなかにやりづらいものがある。

 

「まあ、あれっすよ。実力なり名声なりが伴って、伴ったうえで八雲藍や八雲紫という存在の隣に立ちたかった。ほんとうに、好意を寄せられて肉体の関係も持っちまった相手にこういうのは本当に申し訳ないんっすけど……俺の一番は紫苑です。それとは別に、紫様の事が一番ってのも事実です。肉体関係ってのも一つの理由ではありますけど、それでも、間違いなく俺の心には複数人考えるべき存在がいて、その中で常に心の中を揺蕩っているのがお二人なんですよねぇ。ほんっと、一夫多妻制が当たり前の世界に生れ落ちてたらどれだけ気が楽だったか。

 最初というか、ついさっきまでは……ほら、言いましたよね俺。この世界をゲーム、創作物として知っているって。だから、ふと思ったんですよ。見た目や恰好から、紫苑も紫様も萃香やレミリア、クソ烏に博麗霊夢、霧雨魔理沙、東風谷早苗、慧音先生とか小鈴店長……そういった側面を知っているがゆえに俺はそういう対象として見てしまっているんじゃないかなーって。ゲームの主要キャラたちだから。この想いは簡単なもので、だったら、ゲームで知っている、一番好きだったキャラクターに出会った時、俺は一目惚れでもするんじゃないかと。

 だって、それだったら、ある意味気が楽じゃないですか。この感情ってのは、作られたものだって言ってるようなもんなんですから。

 ま、結果は違いましたけど。古明地さとり……ゲームだと一番好きだったはず。推しキャラってやつですね。紫様が色々介入されていたみたいですけど、それを差し引いてもうんともすんとも心が動かなかった。

 ふぅ…………愛してますよ、紫様」

 

 ぼんっと、紫様の顔が爆発する。

 意外と初心っすねぇ。

 

「だから、最初に言った通り、実力なり名声なりってのものを身に付けたかった。叶わぬ夢でしたが。いやぁ…………さすがは博麗の巫女。強いっすわ」

「ンンッ、だとしても、彼女を瀕死にまで追い込んだのも事実。それだけでも、十分に誇るべき戦果であることに違いはありません。それに、あの子は転生状態。その状態を知らなかったわけではないのでしょう?」

「それはそうかもしれませんが…………どうせなら、勝ちたかったなぁって思うのが男心ってもんですし。なにより、俺の実力もまだまだだなぁって」

 

 そう、結局俺は最後の死力を持って自爆特攻まで仕掛けた状態で負けているのだ。瀕死と明確な死には埋められない間が空いている。埋めることのできない圧倒的実力と運が。

 

「戦いには運も関わってくるのは知ってるけど…………こうもはっきり付けられちゃいますとねぇ」

「運も実力のうち。貴方が私の下に来た時点で運は茉裏に味方しているように感じるけど……そうではないのでしょうね。でしたら、少し試してみましょうか」

 

 あらやだわ、話が転んで嫌な予感がびんびんしてきましたわ。話が飛び過ぎではなくて??? 

 

「幸い、茉裏を式にするまでにまだ時間はありますもの。貴方の言う実力、私の前で遺憾なく発揮してみてちょうだい」

 

 そう言って紫様はぱちりと扇を閉じた。それと同時に藍様が紫様の隣に立っていた。

 

「あの子の様子は?」

「治療も終え、容態も安定しております。問題ないかと」

 

 まって、ねえまって??? 

 

「そ、念のため橙を付けておきなさい。貴女にはしばらくやってもらわないといけない事があるから」

「かしこまりました」

 

 もしかしなくてもそういう流れになってます? 

 

「時間はたっぷりとあるもの」

「いや、だとしても実力差ってものもがあってですね?」

「星熊勇儀に挑もうとしていたのと対して変わらないでしょう? それにほら、藍に勝てたら貴方の方が式として優秀って言えるんじゃないかしら?」

 

 んなわけない。八雲紫の右腕が腕っぷしが強いだけで定まるわけがない。

 そもそも、星熊勇儀に挑むと言っても多少なりとも体力を消耗した後を狙っていたし、勝手に力技でしか挑んでこないと踏んだうえで、大妖怪としてならまだ勝ち目がなくもないと思って挑もうとしていたのだ。

 

「この空間はあくまで精神。死んでも死なないようにしてあげるから、主人を辱めた罰として、精々がんばりなさいな」

 

 そして、世界が変わる。場所は森、俺が初めてこの幻想郷に足を付けたその場所。

 紫様はお茶を啜りながら手を振っている。

 

「…………マジです?」

「どれ、久しぶりに手合わせといこうじゃないか、茉裏」

「…………マジです??」

「貴女の持っていた持ち物は一通り持たせておいたわ。運も実力のうち。そういうのであれば、そう悲観するものでもないでしょう?」

「……………………まじかぁ」

 

 そして、紫様が合図と言わんばかりに扇を閉じる。パチンッと小気味よい音が精神空間の森に響き渡り、俺の意識が作り出したのか鳥たちが一斉に飛び立った。

 いやはや、精神世界って嫌だね。だって、ある意味気絶したくてもできない。ましてや相手が相手だから紅魔異変や萃香の時みたいに降参もできない。

 

 やるしかない空間で、すっと離れていく己の体を見つめながら遠のかない意識の中、絶叫も出来ないまま、覚悟を決めるしかなかった。

 

 俺の頭は、八雲藍のたった一本の尻尾に跳ね飛ばされ、首から外れていた。

 噴き出る血が噴水の如く、彼女の尾を紅く湿らせる。

 

 時間はたっぷりとあるとは言っていた、死にもしないとも言っていた。

 ただ、もし仮に最強の九尾を跪かせることが出来るとして…………それは一体、何年後の話になるのだろう。

 




お読みいただきありがとうございました

怒涛の連戦………書ききれるのでしょうか
不安がこみ上げてきております。

新しい一年、風邪なりインフルなりと猛威をふるう時期でもありますので、皆さんお気を付けて。

それではまた次回~


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第52話 ―――回目

そろそろ仕事探さないとなぁ(ニート)


1回目

何もできずに死んだ。精神世界というだけあって、首が飛んだ後も意識があった。

 

2回目

気付いたら首と肉体が繋がっていた。そして、起き上がろうとした瞬間目の前が真っ暗になった。多分だが、頭を消し飛ばされたんだと思う。

まだ、痛みというものが来なかっただけマシなのかもしれない。

 

17回目

起きては消され起きては消され、最初は感じなかった痛みも状況を理解したのか幻覚痛を帯び始めた。頭に熱湯をかけられている、あるいは氷水の中に浸されている。精神世界でありながら頭を吹き飛ばされる。感覚というものを言語化する機関が失われてなお、表現のしようのない痛みが襲ってきていた。

 

66回目

飽きたのだろう。起きた瞬間に消されることはなかった。だが、両手足を切り飛ばされた。達磨状態のままのたうち回ることも出来ず、身をよじりながら絶命するしかなかった。

一撃で命を刈り取る、そのある種尊さとでも呼ぶべき命に対するマナーがどれだけ大事なものかを身をもって知る事となった。

 

129回目

血が流れる。あの尾で料理をしているかのような愉しそうな笑みで。

抵抗しても無駄だった。たかが人間の力じゃ止めることはおろか逃げることも出来なかった。

血が流れる。遠くに離れた自分の手足からも、自分の体からも。

そして、意識が途切れ、浮上してくる頃にはきっと、きれいさっぱり何事もなかったかのようになっているのだろう。

 

298回目

手足をもがれた。鳥の足をもぐように、魚の頭をねじり落すように。腕を掴まれギリギリと力が加わって、何かが抜ける感覚。体の芯が抜ける感覚。それについては詳しくないけれど、普通は有り得ないと分かる、分かってしまう。どこからどこまでかは分からないけど、骨を引き抜かれたぐらいは分かってしまう。

 

301回目

頭をもがれた。再び目が覚めた。目の前にいたソレに頭を掴まれた。痛み、苦しみ、悲しみ、恐怖、懺悔、後悔、そして、良くも悪くも興奮。死ぬ瞬間に人間の脳は脳内麻薬だかを分泌させるらしい。そんな興奮が生きる気力を奪いながら、死にたくないという無駄な足掻きを続けさせる。

力の入っていない、いや、自分でも想像できない程の力でその腕を握りしめるが、相手の頑丈さの方が圧倒的に上なだけ。やがて、ゴチュリという人体から発してはいけない音と共に意識が途切れた。

 

1289回目

炎で炙り殺された。じっくりと、じっくりと四肢から炎が伝って、やがて全身を覆いつくした。どれだけ転げまわっても、どれだけ地面に体を擦り付けてもその炎は体を貪っていく。

毛が、皮膚が、脂肪が、筋肉が溶け爛れ、血液が沸騰し意識を覚醒させながら絶命する。

 

3752回目

炎が炎が炎が炎が……精神世界とは、かくも辛いものなのだろうか。どうして死なせてはくれなんだ。

せめて、意識だけでも飛んでこの感情や衝撃から解放してくれれば多少は楽になれるのに。

意識は鮮明とし、逃げることを許さない。心にいるのだから、その心が壊れることもまた、ない。

 

8294回目

水が全身を包み込む。長い永いながい時間をゆっくりとゆっくりと丁寧に丁寧に……皮膚がふやけ、やがて肉体を構成する脂肪たちが水の中に浮かび上がる。黄色みがかった油が水中に漂い、毛の一本一本が抜け落ちていく感覚が分かる。定期的に送られてくる空気を、肉体は無意識に、折れたい心と反比例するかのように求め折れることは許されない。やがて、肉体は崩れ落ち、気が付けば同じことを繰り返す。

 

8658回目

一回一回の死へ繋がる道程が長いからか、いやでも彼女たちの表情がよくわかる。真正のサディスト? 違う。悪魔や化物? 違う。あれは、建国の女王。どんなものでも至極当然し実行し、それが当然の事だと思い込んでいる存在。彼女にとって、今行われているコレは、起きて当然なのだから。でなければ、そんな何も感じさせない視線をしていないだろう。

 

16588回目

突如として全身がいきり立つ。直立のまま動くことが出来ない。それを浴びてしまったがゆえに、全身の細胞が死滅、感覚器官が停止した。自分自身がどういった状態になっているのか理解できないまま、体の生命維持を担っている器官の感覚が止まっていく感覚が直に植え付けられていた。

 

29474回目

気が付く、動けない、気が付く、動けない、気が付く、動けない、気が付く、動けない、気が付く、動けない……耳に残る耳鳴りから、それの正体が漸くわかった。これは雷だ。全身を焼け焦し、器官を殺す。自然界で最も強力なエネルギー体の一つ。それをおもちゃのように扱いながら、片手間のようにこの体に落とされていたのだ。

 

52398回目

ある種原点回帰と言うべきか、この体は磔にされ幾千もの針を絶命するまで一本一本丁寧に、縫い針の穴に糸を通すように毛穴に刺された。痛かった。感覚がある事に感動を覚えたのも束の間、感覚があることに絶望を覚えた。

最初は違和感がある程度だった。だがやがて、痛みが伴い軽い痺れが襲ってきた。

そして、やがて汗が針の刺さっていない毛穴から噴き出てくるようになって、最終的には汗が内側で滞留している感覚が襲い始めた。その気持ち悪さを訴えることは出来ない。体を身じろぎすればその少しの衝撃で汗がうねりを上げ激痛が走るのだから。

 

59635回目

針は全身に刺される。つまりは、人間の急所、男女問わずのものもあれば、男性特有の場所にも刺される。一度絶命してしまえば、もう一度その感覚を味わなければならない。必死で意識を保とうとすればその分別の激痛が襲い掛かってくる。逃げ場など、もとよりなかった。

 

 

105896回目

潰される。透明な何かに、ゆっくりとゆっくりと。やがて透明な箱の中にあった逃げ場はなくなり、軋みを上げながらこの体はひしゃげていく。

腕が折れ、足はあらぬ方向へ、胃が、膵臓が、肝臓が、腸が、肺が筋肉や線維に押しつぶされる。肉体から吐き出された血液がさらに箱の中を埋め尽くして……。

 

179963回目

透明な箱の外、そこでただ佇むだけのソレに必死に声を掛けた。もう無理だと、助けてくれと。届いていようがいまいがそうすることしか俺にはできなかった。

狂えるのなら狂ってしまいたかった。だが、この世界はそれを許容してはくれなかった。死んで、生き返って、意識はハッキリとして、死の直前がなかったかのようにクリアで、永遠に終わらない死への慣れが身体を蝕んでいた。

 

368454回目

透明な箱の中、声を上げ続ける。それが叶ったのか箱が迫ってくる感覚はなかった。代わりに、ナニカが襲い掛かってきた。息苦しい。全身が痒い。痛い。暑い。寒い。溶ける、溶ける溶ける溶けるとける

チーズのように溶けていく体をただ、見守る事しか出来なかった。

やがて蒸発していくのを、全ての感覚を覚えながら見ている事しか出来なかった。

 

549635回目

とけるトケル溶けるトケルとける

薬品か、毒か、はたまたただの熱なのか。未知のそれへの恐怖心は拭いきることは出来ない。

溶けるとけるトケルとける溶ける

 

986552回目

たすけて

たすけてください

 

2688495回目

いやだいやだいやだ

 

58954762回目

おれがなにをしたっていうんだ

 

452364879回目

なんでまいかいいしきがはっきりしてるんだ

 

3487156235回目

…………………………しにたい

 

64515687453回目

しねない

 

258462587496回目

おわりたい

 

3561847489652回目

おわれない

 

754916591523547回目

いしきをてばなしたい

 

6587481594775132回目

てばなせない

 

58749124895118417回目

しょうきをうしないたい

 

149845618742311988回目

しょうきをうしなえない

 

7489456123897456189回目

―――――――――たすけて

 

985689465198465198465129846512948651238496517417849561846517845123849651327451298645132984561320741528954612385016457621705907759049574149572054917409545754909670571054795105759571057854101517007047590715947005479415957050591571106750590451―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――しおん

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ま、普通に考えて無理って訳ですわ。
いやはや、早々に狂えたら茉裏くんも楽だったろうにねぇ……

では、また来月お会いいたしましょう
じゃぁねぇ~(/・ω・)/


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第53話 厄除けの守り

短めだよん


揺らぐ思考、とろける思考、されど鮮明に現実を突き付ける。

記憶も感情もみなすべて、貴様のものであると訴えた。

手放したい、吞まれたい、思考を、狂気に。

許されななか、精一杯手を伸ばした。伸ばしたつもりで呼んだ。

 

嗚呼、だからこそ自分に嫌気が差す。

 

身体が崩れていく。

 

一体俺は何のためにここにいる?

自分で望んで? 違う。

 

両手足を細長い鞭のようなものが巻き付き、ギリギリッと締め上げていく。それに体は悲鳴をあげて皮膚が破け、血が流れ血管が破裂し肉が千切れ骨が砕けた。

 

薄れゆく意識の中で、ピクリと指が動いた。

 

では、なぜ?

しるかんなもん。

 

皮が剝げる、肉が剥げる、繊維が剥げる、ぐちゃりと音が聞こえてくる。一体ナニに当たっているのか分からない風が妙に冷たい。

 

薄れゆく意識の中で、ピクリと体が跳ねた。

 

俺はただ、自分自身に胸が張れるようになりたかっただけなんだよ。

紫苑に助けを求めちまうような軟弱な男でも、こんだけやられて終わりじゃあ誰一人にも顔向けできねぇ。てか、そもそも終わりがあるのかも分からねぇから、折れてる暇なんてねぇんだわ。

 

気が付くのが遅い?

 

切り開かれた胸の内、師玉を扱うかのように弄ばれる芯が跳ねる。

 

そりゃどうも、こちとらただの一般人なんっすわ。

 

跳ねる跳ねる跳ねる跳ねる。

 

何度も何度も殺されながらでも、思考は回って諦めすら許されていなかったらそりゃあ嫌でも向き合いますよ。

 

血が巡り、血管が形成され、肉が生まれ、皮が生える。

 

じゃあ、なぜ今更かって? そりゃあ、忘れてたとかそこまで気が回らなったとか色々あるでしょうよ。一般人だぞコノヤロー。

感嘆の顔を浮かべるわが師の顔面に全力の回し蹴り。いやはや、我が体術の師にも勝るんとちゃいますかね? 流石に無理か。

 

さて、俺のイメージで師を超えるなんてイメージは無理。だけれども、強い程度には押さえ付けられる。それでも、足りない。もう一つ、ナニカを超えるための決定的なもの。

 

「ようやくか、待ちわびたぞ茉裏」

「すっごい楽しそうに殺してくれてたくせによくもまあいけしゃあしゃあと言えますね藍様」

「ふむ……紫様のお力添えもあるとはいえ、もう少し壊れていると思っていたが……。思った以上に成長をしていたんだな。初めの師として嬉しい限りだ」

「それは今からもっと嬲れるからとかそんな理由ですよね? うっわ、無言で笑ってやがる……」

 

藍様の尾を二本の腕で捌きながらも口が弾む。四方八方から襲い掛かってくる尾の波に劣勢を強いられる。眼球が潰され腕がへしゃげ脚が顔が横腹が食い破られても、こちらの再生力の方が上なのか仕留めきることは出来ていない。

 

身体を貫く尾を掴み勢い良く引っ張る。水が炎が針が雷が尾から体へと流れ込んでくる。内側から引き裂かれていく感覚は嫌悪感以外の何物でもない。

だが、今更、その程度では止まらない。その程度では止まれなくなってしまった。俺をそんな存在に仕立て上げたのはアンタだろう?

 

やがてふっと軽くなり、眼前まで近づいたその顔は相も変わらず美しい。潤った唇、サラリと靡く金色の髪、目を強調するまつ毛、眩いその目は獣を彷彿とさせる真紅に染まり、顔全体のバランスも素晴らしい。

 

コンマ数秒遅ければ唇と唇が重なりかねないその時間、めいいっぱい開かれた手の平がその顔面を変形させた。

 

衝撃、吹き飛ぶ、逃がすはずもなく、掴む、勢いを下へ、土、大地、押し付ける。

 

轟音

 

その場を中心に大地が爆ぜた。

衝撃に岩が跳ね上がり、地形が変わる。地面から伝わる衝撃に辺りの木々は吹き飛び、パラパラと雨の代わりに砂が降ってくる。

 

「まあそんな簡単にくたばる玉じゃぁないっすよね」

 

腕が掴まれる。自然を破壊しつくせる剛力をもってしてもなお押し返される。掴まれた手首が嫌な音と共にへし折られた。

 

「だめじゃないか茉裏。相手を殺したいのであれば、その手を緩めては。息の根が完全に止まるまで、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。その手でもって刈り取らねば。経験したばっかだろう?」

 

腹が蹴破られ、上空へ放り投げだされる。雲も掴めそうな高さに至ろうとしたところで動きが止まった。貫通され再生が始まっていた腹部に、九本の尾が無理やりねじ込まれていた。

 

「探求するものにおいて終わりと呼ばれるものは存在しない。内側から食い殺すなど、似たような事はしたが……これはまだ試したことがなかっただろう? あとで感想を聞かせてくれよ? なあ、茉裏」

 

ぎちぎちと尾が開こうとする。

それを抑え込むように肉体が再生する。

 

俺がしているのは、夢であればなんでも出来るってこと。だから、死のうが肉体は再生するし。山を握りつぶせる化物相手に善戦出来てただけの話。ここは俺の精神世界らしいからな。それぐらいはできるだろ。

ただそれも想像できなければ意味がない。俺の中で八雲藍は絶対的強者なわけだ。どれだけ、勝てると思い込んでも、どこかで「無理」の文字がちらつく。

だからこそ、あと一手が足りないんだ。

 

再生破壊再生破壊再生破壊破壊再生破壊破壊破壊再生破壊再生破壊破裂

 

やがて終わりはくる。ただ、新しい始まりが見えてくるだけ。腹部を中心に両手足に頭が綺麗に散り散りに吹き飛んだ。それと同時に瞬時に体が再生する、ことはなくそれぞれの部位が八雲藍の尾に貫かれた。

 

……………いやぁー、やっぱ無理じゃないっすかね?

地力の差がありすぎますもん。むしろよく頑張った方だと思いますぜ?

かの大妖怪、その筆頭的そんざい九尾を相手に。いや、もちろん手加減はされてるとは思いますがね?

高々人間一人の実力でも、運でもどうしようもないですって。そう、高々人間ひと、り……の?

 

ふと目に付いたそれ。

落ちていく拳銃とは違うソレ。

いったいいつから持っていたか、現代人においても過去の人においても結構な割合で持っているもの。

ソレがぷらりと首から先の骨の突起に引っ掛かっていた。

ただの人間であれば、だからなんじゃと思えども。いま、この我が身は特別なものである。そして、ソレとある二人から確約を貰える正真正銘の

 

 

厄除けの守り

 

 

もう一度とでも言いたげにズルリと尾が引き抜かれる。

自由に落下していく我が身は元の姿に、拳銃もホルスターの中に納まっている。そして、今の今まで、我が最愛の神からの想いを一心不乱に受け止めてきてくれていたソレを握る。いやはや、すっかり忘れてたわ。こんなんあったあった。

 

尾が迫るお守りの封を解く

 

ふと出てきたのはぐしゃぐしゃの黒ずんだ紙。そこにはがったがったの文字で「きりゅう まつり」

俺の、名前だ。

忘れていた、特殊な境遇にいたがために、貧乏神の不運を受け付けない。だとしても、その「きりゅう まつり」という存在に乗ってしかるべき不運が消えるものではない。

 

「ずっと、守ってくれてたんだな。お疲れ。じゃあ、アイツからの想い、全部今ここで解き放っちまおうぜ?」

 

名前の書かれた札が急速にどす黒くなり風に乗って細かい塵となる。それと同時に数年分の……いや、貧乏神と一緒にいたという、人も悪魔も天使も神ですらも抱え込むには大きすぎる不運が降り注いだ。

 

ここは夢の中、精神の中、そう、俺の。であれば、その不運が向かう先も、紫苑していたように指向性を持たせることだって出来る。

 

「それじゃあ、今日ぐらいは勝たせてもらいますよ。ね、八雲藍師匠?」

 




お読みいただきありがとうございます。

デジャヴとか言ったらだめなんだぞ?

では、また次回~
ばいならちゃ~(=゚ω゚)ノ


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