終わりがもたらしたはじまり (ふぁんた)
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プロローグ1「新生活と驚きの報告」

プロローグ1「新生活と驚きの報告と」

 

「はああ、疲れた・・・」

 

新しい学校からの帰り道、私は大きなため息をついた。四月の上旬とはいえ、まだ冬の寒さが少し残っている。隣では梨子ちゃんも同じようにうなだれ、曜ちゃんは元気そうに苦笑い

 

「Aqoursの名前で私たちのことみんな知ってたからねー。男の子にも女の子にもいろんなこときかれたよ!」

「やっぱり?私なんかサイン求められて断り切れずに何枚か書いちゃったわ・・・」

 

二人とも大変だったんだなあ・・・私もだけど。

 

 この三月、私たちが元々通っていた内浦にあった浦ノ星女学院は沼津にある共学の高校と統廃合した。

 

少子化に過疎化。統廃合の話が出ても仕方がなかった。

 

でも私たちはあきらめたくなくて。大好きな学校を何もしないで無くしたくなかった。その思いがスクールアイドルという選択を私たちに与えてくれた。私たちはがむしゃらに前に向かっていた。「輝きたい」そう思って。かつて学校を守ったμ’sのように。

 

 その願いは半分かなって半分叶わなかった。ラブライブに優勝して、Aqoursの輝きを手に入れることができた。そして浦の星の名前をその歴史の中に刻むことができた。

 

でも、学校を守ることができなかった。

 

 学校を守れないならーーーそう思ったことだってある。でも終わってしまうものは仕方がない。私たちが居たという証を刻もう。そんな思いでラブライブに臨んだ。

 

そして、三年生のメンバー全員がそれぞれの進路へ旅立ち、今。私達元Aqoursの面々は沼津の高校へ通っている。今日は新学期だ。

 

新しい学校になじむことができるか不安だったけど、そんな心配は必要なかった。Aqoursの知名度のおかげで私たちのことはみんな知っていた。でもまさかこんなにいろんなこと聞かれるとは思わなかったよお・・・

 

少し疲れ気味な私と梨子ちゃんの顔を覗き込むように曜ちゃんが言う。

「二人とも、このあとどうしよっか?学校も早く終わったし、なんか食べに行く?」

 

うん、気分変えよう!

 

「いく!私、みかんのお菓子食べたい!」

「私も!チョコレート系!」

「よーし、それじゃあ近くの喫茶店へいくであります!!」

「「おーーー!!!」」

私達基本的にノリがいいよね。

 

「うー・・・調子乗って食べ過ぎた・・・」

「食べ過ぎよ?まさかオレンジパフェ二杯もたべるなんておもわなかったわ」

呆れたように梨子ちゃんが言う。

 

時刻は午後8時。4時間近く喫茶店にいたらしい。店員さんごめんなさい。

曜ちゃんの家は沼津の方なので途中で分かれる。梨子ちゃんとは家が隣なので帰り道も一緒だ。

「すっかり遅くなっちゃったね。お母さん心配してないといいけどなー」

 

その言葉を聞いて私は今朝お父さんに言われたことを思い出した。

「あーーー!!!私、今日大事な話があるからお父さんに早めに帰ってきてっていわれてるんだった!!!」

 

梨子ちゃんが呆れたように私の方を見る。

「なら急がなきゃだめじゃない!って言ってももう手遅れか・・・」

「うぅ・・・怒られるかなあ・・・」

「ま、仕方ないわね。私は帰って曲の続きを書くわ。」

 

曲の続き?ピアノのことかな?今後のスクールアイドルのことはまだみんなで話し合ってる最中だし。

 

そんなこんなで家の前につく。しいたけは相変わらず寝ていた。いいのかなあ、うちの番犬。

 

「じゃあねー、千歌ちゃん。なんかあったらまたベランダね。」

小さく微笑みながら梨子ちゃんは言う。やっぱり美人だなあ。

「うんじゃあねー、また明日―!」

そういうと私は怒られる覚悟で家の扉を開けた。

 

「ただいまー。」

「千歌、おそいよ!」

さっそく美渡ねえに怒られた。

「ごめん、新しい学校でいろいろ話しこんでたらこんなじかんになっちゃった」

「はあ・・・まあいいや、お父さんとお母さんと志満ねえ居間で待ってるよ。」

「はあい。」

遅くなってしまった私が悪い。ここは全力で謝っておこう。

 

「ただいま!そして、すいませんでした!」

我ながら、きれいな土下座だと思う。

「あらあら・・・そんなことしなくてもいいのに」

 

志満ねえはいつもの調子でおっとりそう告げる。お母さんはうふふと笑っている。よかった、深刻な話じゃなさそうだ。

 

「千歌も帰ってきたし、話そうか。」

お父さんが口を開く。普段は旅館を束ねるお父さんも家族の前では人のいいお父さんだ。

 

やっぱり、そんな深刻な話じゃない感じだなあ。

 

「母さんはもう知ってるから、三人からしたらこれは報告になっちゃうかな。今度、我が家に家族が増えることになったんだ。」

 

・・・・。うん、もっかい言って?

 

「家族が我が家に増える。」

 

どうも心の声が漏れてたみたいだ。私達三姉妹は一呼吸置く。

 

そして

 

「「「!!!!!!!!!!!」」」

 

私たち三姉妹の驚愕の叫び声は旅館のお客さんにはもちろんのこと、梨子ちゃんちにまで響いていたようで、すぐに梨子ちゃんから電話がかかって来るのだった。

 



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プロローグ2「活動休止」

内浦で高海家三姉妹が驚愕の叫びをあげる2月前・・・

 

2月某日の東京都にある某ライブハウス。

 

E、A、D、G

 

いまさらチューナーなんてなくてもベースのレギュラーチューニングくらいなんでもないが、念には念を入れてクリップチューナーを起動させる。

 

うん。耳の調子も悪くはない。チューニングはぴったりだ。試しに手癖になっているフレーズを弾いてみる。

ーーー悪くない。だけど・・・

 

使い慣れたwarwickのベースはまだ振り切れていない僕の心を示すように響いた。

 

音は素直で、プレイヤーの心を映す鏡のようだ。

端からみたら、何もかわらないかもしれないけど、弾いている本人からしたらまだ濁りがあるように聞こえる。

 

このバンド最後かもしれないライブだ。見せつけてくれよ。

 

ドアをあける音がする。声を聴かなくてもその金メッシュヘアーと革ジャンで誰かわかった。

 

「コウ、そろそろ開演の時間だぞ。大丈夫か?」

ギターでこのバンド、「Seeker」のリーダーのハヤテが僕に問いかけてくる。

 

「ああ。問題ない。僕らの活動休止前最後のライブ、ぶちあげよう!!!」

「・・・ああ!問題ねえなら行くぞ!キリヤとミツキもばっちりみたいだぞ。」

 

歌いながら毛先を青色に染めたアシメの髪型を整えるキリヤはソファに立てかけてあるサブのギターを手に取るといつでもいいぞといわんばかりに笑う。

 

赤みがかったロングの茶髪を振り乱しながら練習パットをたたきまくってるミツキは自分の世界に入り込んでいたものの、ハヤテが来たことに気づいて我に返った。

 

僕は楽屋においてある大型の鏡で最終チェック。少しワックスをつけて整えた茶色みがかった黒髪。はやりのマッシュベースの髪型。白とグレーの迷彩マウンテンパーカー。SeekerのバンドTシャツ。グレーの細身のジーンズ。そして、あのネックレス。いつも通りだ。問題ない。

 

「全員行けんな?活動休止前最後のライブ、ぶち上げるぞ!!」

熱いこと言ってくれんなあ伊達にハヤテはリーダーやってない。

 

「そんなこと言われなくてもわかってるわよ。あんたこそ、私についてきなさいよ?今日はガンガン強気なドラムたたくからね。」

やや、冷めながらもその目はおもちゃを前にした子供みたいだ。さすが僕らの姐さん。そこに痺れる、あこがれる。

 

「俺も今日は煽りまくるから、お前らも全力で歌って演奏してくれよ?それが俺たちにできる精いっぱいの追悼だ。だろ?」

わかってるよ。キリヤ。お前が一番つらいのにな。一瞬の沈黙。ギター、ドラム、ギタボときてそしてベースの僕の番だ。

 

「見せつけよう。そんで届けるぞ。僕たちの最高のライブを!!」

僕の言葉が終わるのと同時にハヤテが叫んだ。

「Seeker、ぶち上げんぞ!!!!」

「「「「うおおお!!!」」」

 

 

 

ライブはこれまでの中でも最高の出来だった。

 

事務所の社長も、ライブハウスのブッキングマネージャーも口をそろえてほめてくれた。そして、僕たち演者から見る観客席も、いつも以上の熱気だった。

 

キャパ700~900のライブハウスでギリギリのソールドアウト。今、俺たちができる最高のライブを届けられたと思う。

 

―――でも僕たちは、まだ・・・

 

「んじゃ、メンバーでうちあげといきますかあ!!」

ベロンベロンに酔っぱらったハヤテが言う。あちゃあ・・・これは朝までのコースだ・・・

明日が土日でよかった。

 

事務所の人たちやスタッフの人たち、ライブハウス関係者たちとの打ち上げを終えて時刻は午前一時。

 

高校二年生の僕とキリヤは本当は帰らなくちゃいけないのだが、そこはバンドマン。周りに関係者もいるしご愛敬だ。

 

「ほら、ハヤテしっかりしなさいよ!ったく。」

ミツキがハヤテの頭を小突く。キリヤは酔ったハヤテに絡まれてその相手をしていた。

 

大学二年生たちはこんなんでいいのか?と思うと同時に僕とキリヤはなるならミツキみたいな大学生になろうとおもった。

 

「まったく。お前らも成長せんとこはかわらんなあ。活動休止中にそこらへんも含めて成長してほしいもんだ。今日は誰の家の前で降ろせばいいんだ?」

マネージャーの手越さんが苦笑しながら言う。僕もつられて苦笑する。

 

今現在、僕たちを乗せた機材車は僕らの家がある千葉県の方面へ向かって走っていた。

 

「それじゃ僕の家の前でお願いしていいですか?準備もしてありますし。」

「おっけー、コウの家な。」

 

しばらくしたら僕の家についた。僕の苗字、宮木の字が見える。とりあえず持っていくことのできる機材を車のトランクから出して、荷物を僕の家に運び込む。

 

「んじゃあな。残りの機材は後日事務所にとりに来るなり、でかいもんは運ぶから連絡するなりしてくれよ?そ・れ・と」

 

手越さんは大切なことを伝えるとき、語を切る癖がある。わかりやすいサインだ。

 

「どんな形でもいいから曲書いたら見せろよ。お前ら一人一人いい曲書くんだからさ。まあ無理にとは言わんが。」

「はい。」

 

僕らは少し力なくーーー酔いまくってるハヤテでさえもーーー微笑んで、手越さんを見送った。

 

 



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プロローグ3「これからのこと」

「ただいま」

「「「お邪魔します」」」

 

父さんと母さんが起きてるかわからなかったけど、リビングの明かりがついているから起きてたんだろうな。実の息子の僕でさえびっくりするような幼い容姿の母が出迎えてくれた。父さんはまだ仕事かな?

 

「あらあら、みんなできあがってるわねー。ま、あしたは休みだし、ゆっくりしてきなさい。それと」

 

母さんが僕らを愛おしそうな目で見る。

 

「ライブ、見たわ。お疲れ様。しっかり休んで気持ち入れ替えてね。また、楽しいライブ見せて頂戴ね。おやすみ。」

そういうとさっさと二階へ上がっていった。

 

僕は冷蔵庫から買いためていた缶コーラ二本と缶のモヒート、それに缶ハイボール(大)を取り出し、キリヤにコーラ、ミツキにモヒート、ハヤテにハイボールを渡す。

 

「「「「カンパイ!!!!」」」」

 

みんなに向けておつまみの駄菓子を開けて、僕はコーラ片手に母さんが作ってくれたらしい煮物をつまむ。さすが実家が旅館なことはある。めちゃくちゃおいしい。

 

「しかし、俺らも活動休止かあああ」

ハヤテがため込んでいた言葉を吐き出すように突然言い出す。僕らもそろってため息。

 

「お前ら今後どうすんだ?そういやバンドのことばっかでなんも聞けてなかったしさ。」

ハヤテがそういう。しばしの沈黙の後口を開いたのはミツキだった。

 

「私はとりあえずまじめに大学通っていつ活動再開してもいいように単位を稼ごうかな。幸い貯金はあるしね。あとはドラムのサポートでも手越さんに斡旋してもらおうかなって思ってる。」

 

ミツキは大人だ。どこぞの酔いつぶれてる大学生ギタリストとは違う。続けてキリヤも口を開いた。

 

「俺もしばらくは真面目に高校行って勉強するかな。音楽業界不安定だし。一応大学進学も視野にいれないとな。」

意外だ。キリヤもしっかり考えてた。

 

「お前はどうすんだ、コウ?」

キリヤが僕に問いかけてくる。

「まだ、決めかねてるかな。大学には行きたいと思ってる。でも今の環境はかえたいかな。ハヤテはどうすんの?」

 

ハヤテは僕らのことを見まわす。

 

「俺は、音楽もこのバンドもあきらめたくねえ。だから、大学辞めて、いろんな所でまずはギターを弾き倒そうって思ってるんだ。武者修行だな。もともと、大学の単位も危ういしな!!」

おいハヤテ、それは胸を張って言うことじゃないぞ。

 

「その一環でさ、Seekerの今までの演奏見て、バックバンドの誘いを受けたんだよ。とりあえずはそこに行こうと思う。」

「バックバンド?どこの?アイドル?」

ミツキが目を丸くしていう。

「同じようなもんだよ。ラブライブって知ってるか?」

 

キリヤがすかさず反応する。

「スクールアイドルの?!」

「そのとおりい!!!いまはやりのラブライブの運営から、バックバンドに選出されました!!!」

ハヤテは得意がって言う。僕とミツキはパチパチと空拍手。キリヤは目を輝かせていた。

 

ミツキはにやけた顔をして言う。

「スクールアイドルねえ。私も友達がこの間までやってたけど、かわいい子多いよね。」

キリヤは興奮した感じでいう。

「うらやましいな!!!スクールアイドルとか高校生のかわいい子ばっかじゃん、うらやましい!!!とくに静岡のAqoursってグループ、最高なんだよな!この間の大会の優勝者!」

 

姉の影響で歌とギターに入り、ハヤテがきっかけとなってギターを弾いてきたキリヤからしたら、知っていて当然の知識の様だ。

 

でも、Aqoursか。なんかひっかかる。この前母さんがなんか言っていたような・・・。

 

「まあ、みんなとりあえずのこれからは決めてるようだし、景気付けにもっかいかんぱいしようぜ!!」

「「「「カンパイ!!!!」」」」

ハヤテの掛け声とともにぼくらは持っていたドリンクを飲みほした。

 

 

その日は朝まで話しながら飲んでいた。後半はあいつの話ばっかりだ。それでもSeekerの再開時期に関しては誰も何も言わなかった。

 

結局、お昼前に片づけて、各自帰宅を始めた。自分と向き合う時間をみんな作りたくなったんだろう。

 

その日はシャワーを浴びてすぐに寝た。目が覚めたら日曜日の朝だった。

 

昼頃、僕は曲を書こうと思い、パソコンの前に座る。

 

―――でも、まただ。書けない。Seekerにむけた曲を、新しくならざるを得なかった僕らの曲を書きたい。・・・でも一向に書けない。頭に浮かぶフレーズはどれもこれも平凡でSeekerのキャラを表してはいなかった。

 

「クソ!!」

机にこぶしを打ち付ける。何もかわらない。こんな状態がもう半年ほど続いている。自己嫌悪に陥りそうだ。もう一度あの5人でバンドがしたい。でもその思いはもう決して

かなわない。

 

「・・・大丈夫か?」

「父さん・・・仕事はいいの?」

「まあな。休みだって重要さ。」

 

心配そうに僕の方を父さんが見る。大手音楽雑誌の編集長は今日は休日だったようだ。

 

「曲は書けるか?」

わかってるくせに。何も手がつかないから机なんかにあたっちゃったんだ。

 

「実はな。俺に一つ提案があるんだ。」

「え???」

子供のような笑顔の父さん。こういう時の父さん大体ぶっ飛んだことを言い出す。

 

「高校生活最後の一年、母さんの地元で暮らしてみないか?静岡の内浦。私たちはいけないが。」

 

「は?え?学校とかどうすんだよ?!」

「転校すればいい。事情が事情だし分かってくれる。それにお前、昨日環境を変えてみたいって言ってたじゃないか。」

 

聞いてたのか?!

 

いたずらっ子のような笑い方だ。そして優しく言う。

 

「俺はお前にアーティストになれなんて言ってない。だけどお前がその道を選んだんだ。まあこれは俺のせいでもあると思うが。」

 

やさしさの中には父だからわかるようなそんな強さがあった。

もともと今使ってる機材の大半は父さんの仕事柄手に入れてくれたようなものや僕が生まれる前から趣味でバンドをしていた父さんのお下がりの機材も多かった。

 

Seekerがここまで成長できたのも父さんが練習をみてくれたおかげだと思う。

 

「まだ高校生のお前が選択した道は楽な道じゃない。選択なんてしなくてよかった。でも、お前は選択してしまったんだ。アーティストになることを。そして、私も母さんも親として、子供の選んだ道をできるだけまっすぐ進むことができるように助ける義務があると思ってる。」

 

「だからと言って何で静岡なんだ?しかも内浦なんてほとんど知らないぞ!」

 

小学校高学年になるころ、あいつらとSeekerを組んだ。

コピー、オリジナル問わず練習していたし、練習に時間がとられるようになってからは行っていない。内浦に最後に行ったのなんて、軽く7,8年前じゃなかったか。たしか、いとこの三姉妹が居たと思う。

 

「だからよ。」

 

いつからいたのか母さんが父さんの後ろからひょっこり顔を出してぴしゃりと言い切る。

 

「知らない場所、知らない人、知らない空気に触れて、もう一度感性を磨いてきなさい。そして、一年後、自分にしか書けないものをかけるようになりなさい。」

「・・・・」

 

僕は何も言い返せなかった。圧倒的な正論な気がした。

 

「どこに住めばいいんだよ。父さんも母さんもそんなすぐに動ける仕事してないだろ?」

 

「そこは心配ご無用♪母さんの実家は何をしてたでしょうか?」

 

・・・思い出した。

 

「旅館?」

 

「その通り!今朝電話して聞いてみたのよ。そしたら、旅館が大きい分使ってない部屋もあるから、そこを使えばいいって!あっちも割と乗り気だったわよ?」

 

すでに根回し済みかあ・・・僕に退路はなかった。

 

「学校が変わることになるし、不安もあるだろう。もちろんこのままここにいてもいい。だけど―――」

 

「アーティストとして、変わらない。変われない。」

 

最後の言葉は僕が言った。わかってる。この状態が良くないことくらい。

 

だから。

 

「わかった。僕は僕で変わることができるように。高校最後の一年を知らない土地で過ごしてみる。」

 

父と母はにっこりと、自分の息子の決意をほめるように、微笑んだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

思えばこれがすべての始まりだった。

 

これはバンドマンと少女たちの物語。

 

喪失感と創造の中で戦う人々の物語。

 




次回は千歌ちゃんパートになります。
なお、作者はズラ丸推しです。


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第1話「再開?再会。」

「それで昨日はどうしてあんなすっとんきょうな声あげてたの?しかも美渡さんと志満さんまで」

 

バス停でバスを待っているとおもむろに梨子ちゃんが聞いてくる。

新学期二日目。今日は金曜日。まあ仕方ないよね。昨日は、あの驚愕の報告の後すぐに梨子ちゃんから電話がかかってきて

 

「ちょっと千歌ちゃん?!どうしたの?」

梨子ちゃんは慌てた様子だった。

そりゃそうだ。お父さんとお母さんにも旅館のお客さんに事情説明にいかせてしまったし。

 

その時私は電話で

「ごめん、気持ちの整理がつかないから明日言うね。」

こういわざるを得なかった。

 

「なんかね、うちに居候する男の子が来るんだって。いろいろあって高校最後の一年を内浦で過ごすとか。」

 

「びっくりするけど、それだけであんな騒ぎだったんだ・・・」

いや、それはお父さんの言い方が悪い。私は悪くないもん。

 

「私と年が同じいとこなんだ。なんか東京でプロのバンドマンやりながら高校生してたみたい。学校も私たちと同じとこになるんだって。」

 

「千歌ちゃんちに住むってことは私も会えるかな?うふふ、楽しみ!でも、高校生でプロのバンドマンってすごいわね・・・パートは何なんだろう。」

 

ピアノを弾き、Aqoursの曲のほとんどを作曲した梨子ちゃんからしたらバンドマンと聞いてなにか感じるものがあるのかもしれない。

 

「たしか、ベースっていってたかなあ?よくわからないや。あ、ねえねえ、Seekerって知ってる?コウ君・・・うちに居候する男の子のバンドらしいんだけど。」

 

「Seeker・・・?知らないわね・・・そういうことなら今日のお昼になれば、あの堕天使にも会えるし、聞いてみよっか。」

 

相変わらず、梨子ちゃんと善子ちゃんは仲がいいなあ。

そうこうしているうちに降りるバス停につく。バス停では曜ちゃんがニコニコしながら手を振っていた。

 

 

 

「うゆ・・・授業大変そうだね。」

 

「情けないわねルビィ!このヨハネの持つ人類の英知全てを駆使すれば・・・」

 

「よーしーこーちゃん、や・め・るずら。」

 

「・・・はっ!!!」

 

お昼休み、約束の時間になって私は梨子ちゃんと曜ちゃんと一緒に屋上にいく。お昼休みといっても新学期特有の短縮日課で午後の授業はなかった。

 

今日は元Aqoursの一年生メンバーと今後のことを話し合う日だった。

 

「おそくなってごめんねえ、花丸ちゃん、善子ちゃん、ルビィちゃん!」

 

「千歌ちゃ~ん!大丈夫ずら!こっちだよ♪」

 

一年生・・・じゃなかった。二年生のみんなは相変わらずの仲良し。私たちも何も変わっていないから、これで元三年生メンバーがそろえば、校舎は違ってもここだけ浦の星のスクールアイドル部の部室の様だ。

 

「さて、今日こそ決めましょうか。」

 

私たちの間で一番しっかり者(暫定)の梨子ちゃんが話を切り出す。

 

「私達これからどうするの?早く決めないといってるうちにラブライブよ?」

 

空気がちょっと重くなる。みんな決めなきゃいけないのはわかっていた。

 

「先生が今日わたしにスクールアイドル部の件は承認する内諾が出たってつたえてくれたよ!部室もこの土日で整備して、月曜には使えるようにするって。さすがラブライブ優勝ってなると話がかわるねえ」

 

曜ちゃんが空気を読んで明るめな声を出した。

 

私たちが春から通うことになった高校にはスクールアイドル部がなかった。

 

しかし、浦の星でAqoursが活躍していたことは街のみんなが知っていたことで、ラブライブに優勝した元Aqoursメンバーのいる生徒を引き受けるとなると、私たちのスクールアイドル活動の継続を望む声が元浦の星の生徒だけでなく、新しい学校の生徒の中からも上がるようになったらしい。

 

そこで、学校側も考慮してくれてスクールアイドル部の設立に踏み切った・・・ということだ。

 

でも・・・正直どうしたらいいのかわからなかった。

 

ラブライブに学校の統廃合。目の前の問題が多すぎてわたし達は自分達のAqoursのことを考える余裕はなかった。

 

Aqoursはあの9人だからAqoursじゃないのかとか、原動力だった学校がもうないことや、それでも私たちはまだスクールアイドルを続けたいと心のどこかでは思ってること・・・

 

そして何より、Aqoursがスクールアイドルをする上で心の支えになっていたのに、新しいグループをはじめたとして、やっていけるのかな・・・?

 

いろんな思いがごちゃ混ぜになって私たちに襲い掛かるようだ。

 

こんな時、ダイヤさんなら、果南ちゃんなら、鞠莉ちゃんならどんな答えを出すんだろう。

 

「理亞ちゃんたちはもう新しい活動をはじめてるって言ってたよ。新しいメンバーと今度は絶対に勝つって。私達にも期待してるって言ってた。」

 

ルビィちゃんがぴょこぴょこ手を挙げながら言う。

 

「私達を見てくれる全リトルデーモンのためにも期待には応えたいわ!」

 

善子ちゃんの綺麗なヨハネポーズが決まる。みんなは苦笑。

 

「スクールアイドル部はいいとしても…Aqoursは9人のものだと思うしなあ・・・」

 

花丸ちゃんもやっぱりそこに引っかかってるんだよね・・・私もそう。

 

「学校側もいろいろ進めてくれているみたいだし、私たちもとりあえず動きましょう。動かずに考えたって仕方ないわ。」

 

梨子ちゃんがまとめてくれる。うん。迷ってたって仕方ないよね。

 

でも。でも。この胸の中にあるモヤモヤは何だろう。

 

「・・・そうだね!春休みの間、いろいろ考えたけど、動くしかないよ!また前をむこう!」

空元気。そんなことわかってる。だけど、そうやっていうしかなかった。

 

あの閉校祭で、そして、ラブライブで。私たちは前を向くことの大切さを学んだ。

 

曜ちゃんが私の方を心配そうに見る。だけど、すぐに笑顔になって言う

 

「うん、来週からまた頑張ろう!6人だけど、私たちはやっぱりAqoursなんだよ!」

 

「「「「「「おーーーー!」」」」」」

 

短縮日課の春の一日。私たちの決意の叫びは運動部が練習をしている校庭にこだましていた。

 

 

「あ。そー言えば。」

 

屋上での話し合いからの帰り道。

 

私はふと思い出したように、善子ちゃんに聞きたかったことを聞くことにした。

 

「ねえねえ、善子ちゃん。Seekerってバンドしってる?」

 

善子ちゃんの目が一瞬カッと開かれたと思うと興奮した様子で私の顔を上目遣いで見る。腰に手を当てた中腰。

 

無意識でやってるから怖い。これ、男の子がされたらひいちゃうんじゃないかな・・・。

 

「千歌、Seeker知ってるの?!」

「えーっと、まあいろいろあってね?」

 

私自身昨日急に告げられたことだし、よくわかってないところもあるから詳しいことを言うのは後からでもいいよね。

 

「何よそれ。まあいいわ。Seekerはね!私が最も好きなロックバンドの一つよ!」

 

善子ちゃんが胸を張る。コロコロ表情の変わるかわいい後輩だ。でも静岡に住んでる善子ちゃんが知ってるくらいだし、やっぱり有名なバンドなんだ。

 

「Seekerはね、私たちと年も近いのに、メジャーで活躍してた四人組のとってもアツいバンドよ!エモいって言葉がぴったりくる期待の新星ね!激しい曲調と暗さの中に確実な力強さを感じさせる歌詞、これから間違いなくロックシーンに番狂わせを起こす存在って言われてたわ!」

 

言われてた?

 

「でもね、活動休止しちゃったの。しかも無期限で。理由はよくわかってない。いろんな憶測がネットで飛び交ってるわ。そしてその復活を心待ちにするファンは多いのよ!私もその一人だわ!」

 

鞄の中から黒地に大きく白でSeekerとかかれていて、白に黄色、赤に青、それに緑の五色のラインが不規則に引かれているどことなくデジタルチックなイメージを持つタオルを取り出し、両手でタオルの両端をもって広げる。

 

「私も、全国ツアーの時はわざわざ静岡市のライブハウスまでいったわ!とってもアツかったんだから!」

 

「マルも付き合わされたずら。チケットあまったのおおって泣きつかれて」

 

「何よ!ズラ丸も楽しそうにしてたじゃない!」

 

「えへへ・・・普段聞かない曲ばっかだったからとっても刺激になったよ♪」

 

ロックバンドとは無縁そうな花丸ちゃんが言うなら間違いないのかもしれない。

帰ったら、聞いてみよう。梨子ちゃんはその隣で何やら神妙そうな顔をしていた。曜ちゃんはルビィちゃんと今後どんな衣装を作りたいか、構想している。

 

バス停につき、善子ちゃんと曜ちゃんと分かれる。梨子ちゃんは何やら買い物があるらしく、曜ちゃんたちについていった。花丸ちゃんとルビィちゃんは図書館へ向かうらしい。

 

なんか久しぶりにひとりでバスに乗るなあ。リズミカルに揺れるバスの中で私はついウトウトしてしまい、気づいたときには家から最寄りのバス停だった。

 

夕方。危なく、終点まで行ってしまうところだった。

 

寝ぼけまなこで足を進めていると家が見えてきた。しいたけとその子犬たちは今日もぐっすり。いつもと違うのはこんな時間に小型のトラックがあることだろう。

 

「ただいまー。」

 

「おかえり。ぼさっとしてないであんたも手伝って。これ明日こっち来るコウ君の荷物。」

忙しそうに美渡ねえがいう。

 

私たちがコウ君がこちらに来ることを伝えられたのはつい昨日のことだが、もう荷物の手配は済んでいたらしい。

 

ほんと、突然にもほどがあるよお父さん。

 

でも私としては実はうれしい。小さい頃は学校が夏休みになったりすると里帰りでコウ君たち一家が来てくれていた。年が同じこともあって美渡ねえと志満ねえ、たまに果南ちゃんをまじえていい遊び相手だったのをよく覚えている。

 

私たちと一緒に新学期を迎えられなかったのはあちらでの手続き等にてこずったからだそうだ。難しいことはわかんないや。

 

「旅館棟の宿直室を使わせてあげるんだってー。うちの裏口からも入りやすいし、ちょうどいいわねえ。」

手伝いに来た志満ねえが言う。

 

宿直室かあ。うええ、こっから一番遠いじゃん。

 

まあでもよく見たら、そこまで荷物があるわけでもない。壊れやすいパソコンや、雑多な段ボールなどは美渡ねえがすでに運んでくれていたし、まあいっか。

 

「よいしょー!」

私はハードケースに入ったギターとなにやらアタッシュケースのようなバックステージパスが大量に張られた大きな重いカバンを持って奥の部屋にいった。

 

ピンポーン。

うう・・・眠い。今何時だろ?わかんないや。昨日は動画サイトをあさってたら午前3時だった。

 

たしか、お母さんはコウ君のために夕食用の買い出しで朝市行ってから沼津ぶらつくって言ってたっけ。

 

「美渡ねえ、志満ねえいないのー?はあ〜、新聞の集金かな?」

私は居間のタンスを開けて新聞の集金用にとってあるお金を持って玄関をあけた。

まあどうせ、集金のおばちゃんだしいいや。

 

「はーい、今でまーす」

 

そこにいたのは、私と同じくらいの年の若い男の子だった。リュック状のギターケースで楽器を背負い、ボストンバックを持っている。

 

「こんにちは、久しぶり。千歌ちゃん。」

 

「へ・・・。うわあ!!!!!!!!コウ君?!」

 

起き抜けの姿。着てる服は部屋着のカーディガンにオレンジがベースのパジャマ。おまけにとぼけた顔。

 

とてもじゃないけど、男の子に見せていい格好じゃない。

 

気が動転してしまった私は反射的に手をうごかしてしまった。

 

コウ君に向かってそのまま美渡ねえ仕込みの腹パンチ

 

「うぐうっ!!」

 

何が起きたか分からないという顔をしたコウ君はそのままおなかを抑え込む。

 

それと同時にしいたけが私の近くにやってきてコウ君に向かってバウバウと吠え出した。

 

よかったよ、しいたけ。やっぱり番犬なんだねお前。

 

私とコウ君の再会はとんでもない形になってしまったのだった。

 

 




とりあえず書き上げたものを投稿させていただきました。

投稿ペースは考えておりませんが、最低でも週に一度は投稿できたらと思っております。

今現在は学校が休みなので割とペースよく書き貯められています。

気が向いたらどんどん書いてくスタイルです。



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第2話「新生活準備」

内浦行きを決めてからはあっちこっちに飛び回っていろんな場所で話をしなくてはならなくなった。

 

まずは今通っている高校。これに関しては面白いくらい話が進んだ。元々、僕のバンド活動も芸能活動の一環として考えてくれていたところも大きく、私立であったため、手続き自体スムーズに済んだ。

 

 そして、転入先の高校。高海さんのところに聞いてみたところ、千歌ちゃんが通う学校は共学の学校らしく、その学校の転入試験を受けることにした。

 

転入試験といっても面接と調査書、それに学力検査でそこまでの苦ではなかった。大手事務所に所属しているという書類上のインパクトも大きいのだろう。

 

ただ一つ問題となったのは、その受け入れ先の学校が今度統廃合するらしく、新たな生徒を大量に引き受けることになったという点だった。

 

結果的にそのゴタゴタの影響で新学期開始には間に合わなくなってしまった。荷物の搬送等も遅れてしまった。まあいいけど。

 

Seekerのメンバーにも内浦行きのことは話した。最初はみんな驚いたものの、妙に納得したような顔をした三人の顔を覚えている。

「必ず、何かを得て来いよ。」

ハヤテはそう言って送り出してくれた。

 

「行ってきます。」

 

使い慣れたWarwickのベースをギグケースに入れる。身の回りの道具類と、「新しい門出を祝う」といって父さんが買ってくれた新品のI pat、何日か分の服をボストンバックに詰めた。新しい学校の制服はもうあっちに届いていることだろう

 

 あっちは御茶ノ水や渋谷みたいなおおきな楽器屋さんはないだろうし、替えの弦やメンテナンスの道具なんかもしっかり買い込んでおいた。

 

「しっかりな。いい出会いがあるように祈っているよ。」

「迷惑かけないようにね?練習には注意すること。いいわね?」

そう言って父さんと母さんは送り出してくれた。

 

東京駅から東海道線に乗り二時間くらい。沼津駅に着く。

 

自分がもらっていたSeekerとして働いていた分のお給料は母さんがしっかりと管理していて、僕もちょくちょく通帳のチェックはしていたので、自分の手持ちは何となくわかっている。

 

純粋なお給料に僕の作曲した何曲かの楽曲の印税。そこに入っていた額は世間一般の高校生からしたら、破格であるといってもいい。

 

まあ、その分今回の引っ越しや新しい制服のお金の一部が引かれてるんだけど。

 

活動休止中で減るとはいえ、これからも高校生が困らない程度のお金は入ってくるだろう。

母さんたちが高海さんちに月々の僕の生活費は入れてくれるらしいし。お金の面は心配いらないように思う。元々機材とか以外にお金は使わないタチだし。

 

ただ、いつどんな理由でお金を使うことになるかわからない。今年は受験生だし。

 

そんなわけで新幹線を使っていってもよかったんだけど、節約のためにも東海道線を使った。

 

スマホに入っている音楽をランダム再生していたら耳元からNoting’s Carved in Stoneのツバメクリムゾンが流れてきた。

今の僕にとっては祈りの歌だった。

 

沼津駅からバスに乗り、内浦に向かう。

 

想像以上に自然豊かな土地だ・・・。東京近郊にいた人間からしたら、仕方のない感想なのかもしれない。

 

沼津の駅前はまだ栄えていたが、想像以上にお店が少ない。

メンテ用具一式買い貯めといてよかった。

 

お土産のお菓子は東京駅で買っておいたし、高海さんの所いくか。

 

言われていたバス停から割とすぐに着いた。時刻は昼過ぎ。十千万と書かれた看板が見えてくる。入り口近くの犬小屋では大型の犬があくびしながら寝ていた。

 

ここがこれからの僕の居場所だ。絶対に何かつかもう。そう決意し小さくガッツポーズ。

小学生の時に初めて父さんの紹介で出た地元のお祭りでのSeeker初ライブを思い出した。

 

ピンポーン

出ない。来る時間はメールで伝えたはずだけどな。

 

しばらくしたら足音が聞こえて、「はーい、今でまーす!」という間の抜けたような声が聞こえた。

 

引き戸が開く。そこにいたのは確かに千歌ちゃんだった。

――――おもっきり寝起き顔で、おもっきり部屋着のまんまの。

 

「こんにちは、久しぶり。千歌ちゃん。」

「へ・・・・」

 

一瞬の沈黙。

「うわあ!!!!!!!!コウ君?!」

 

その言葉と同時に激しいボディブロウがさく裂し、僕は声にならない声を上げて、その場にうずくまってしまった。

 

さっきまで犬小屋で寝ていた大型犬の鳴き声が春の空にこだましていた。

 

 

「ほんっっっとーにごめんねええ!!!」

千歌ちゃんが僕に頭を下げる。再会にひと悶着あったものの、すぐに千歌ちゃんは我に返り僕を家に入れてくれた。

 

「ほんっと、そそっかしいんだから。コウ君大丈夫?」

「あはは・・・大丈夫です。」

 

高海家三姉妹の二番目の美渡さんはあの再会からすぐに帰ってきた。旅館棟の方に行っていただけらしく、騒ぎを聞きつけ戻ってきてくれたのだった。

 

「私、着替えてくるね!」

そう言い残して千歌ちゃんは部屋に戻る。

10分くらい美渡さんと世間話をしていたら、くるぶし丈のジーンズに女性ものの袖が膨らんで、裾のひろがった白いシャツを着た千歌ちゃんが戻ってきた。

 

「まあお互いのことはおいおいまた話すとして・・・コウ君!内浦にようこそ!!」

 

元気な感じで千歌ちゃんが僕に言う。こういうところは昔と変わらない。いつ来ても必ずこんなこと言われてたってけ。

 

「ありがとう。これからお世話になります。」

僕は千歌ちゃんに頭を下げる。ここら辺しっかりやらないと、バンド間だったら先輩に怒られているとこだ。

 

 気を取り直したところで千歌ちゃんが僕に問いかける。

 

「今日はこれからどうするの?」

「とりあえず荷物をほどいて、いつでも使えるようにしないとなって思ってるよ。新しいwi-fi環境での整備とかもあるし。」

自分の中で決めていたことをそのままに言う。そしたら美渡さんが

 

「wi-fiは旅館のものつかうといいよー。うちのやつだとコウ君とこまで届くか不安だし。」

と言ってくれた。美渡さんは機械に強いのかな?だとしたらありがたい。

 

「あ、千歌。コウ君の荷物の整理終わったらうちや町の案内してあげたら?前に来たの何年も前だから、変わってるところもあるだろうし。」

「うん!じゃ、コウ君、準備できたらおしえてねー!」

「うん、ありがとね。」

 

千歌ちゃんの案内で部屋に向かう。一年間とはいえ、ここがこれからの僕の城になる。いわば創作の間だ。

「わかんないことはなんでもきいてね?」

 

身長の差があるから上目遣いになるのは仕方ない。

でも、だ。

 

いくらお金をもらってバンドをやってるとしても本職は健全な高校生だ。

かわいいと思ってしまう。

 

 

思いの外、荷解きは早く終わった。

 

三時間くらいだろうか。パソコンのセットアップやwi-fiの設定に戸惑ったものの、美渡さんはやはり機械に強く、所々で助けてくれた。

 

「おわったー?」

千歌ちゃんに声をかけられた。そういえば、案内してもらう約束をしてたんだった。

 

「楽器おおいねえ。ギターと大きめのギター合わせて5本もある。あとちっさいキーボードも」

「大きめのギターじゃなくてベースっていうんだよ。」

 

・・・世の中のベースの認知度を上げたい。

 

 全部自分で買ったわけではないけど、確かに多いよなあ。こんなに使うのかって考えるのも、よくわからない人からしたら正直疑問ではあるよな。

 

 ベースはメインで使ってる黒のトラ目(ニルバーナブラックっていうらしい)のWarwickのstremer stage I 4stのpjは手持ちで持ってきたが、そのほかの機材は引っ越し屋さんにお願いした。

BBベースの5弦に初めて父さんからもらったナチュラルな木目の綺麗なBacchusのハンドメイドシリーズのハムバッカー。

ギターは二本。GibsonUSAのレスポールにYAMAHAのエレアコ。

 

どれもこれも音の違いが明確なので、曲を作ることを想定したら持ってきておきたかったものの、高海さんの家への負担を考えて、量を減らした。千葉の実家にはまだ4本置いてある。

 

あとはパソコンで打ち込む用のMIDIキーボードにベース用のライブで使うエフェクターの多くが入ったエフェクトボード、練習機材とインターフェイスその他諸々を兼ねたベース用マルチエフェクター、ギター用のインターフェイスその他諸々を兼ねたギター用の大型マルチエフェクター。

 

「まあね。曲を作ったりするときにいろんな音で試してみたいから。」

どれもこれも作曲したりする際には割とよく使う道具達だ。

 

「へええ、いろいろこだわってるんだ、さすがプロのバンドで活躍してただけあるね!」

 

「ありがとー。」

空返事。わかってはいたけど、過去形が痛い。

 

「コウ君なら、梨子ちゃんといろんな話できるんだろうなー!」

「梨子ちゃん?」

聞いたことのない名前だ。友達かな?

 

「そうそう!梨子ちゃん!私たちにとってもかっこいい曲を書いてくれるんだ!」

 

「曲を?それに私達って・・・」

 

「あ、そうそう!部屋の片付けもいい感じになってるし、おうちの案内するね!」

 

本当はMIDIキーボードの動作確認やインターフェイスの接続などもしたかったが、せっかく来てくれたのに申し訳ない。いったんその用事は後にして千歌ちゃんについていくことにした。

 

それにしても「梨子ちゃん」ね・・・気になるな。今の状況を脱するためのヒントが見つかるかもしれない。

 




今回はコウ君視点で書きました。コウ君が実際に使っている機材は作者の手持ちの機材だったり、作者が欲しい機材なんかを参考にしています。

作中、作者が好きな実在のバンド名を出させていただきましたが、これはどうなんでしょうか?

そろそろ、梨子ちゃんを出したい。

どうでもいいけど、ヨハネはなぜかライブキッズの格好が似あいそうって思います。


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第3話「桜と月」

 そのあとは、千歌ちゃんの案内で旅館と家の中を見て回った。僕の部屋は宿直室という部屋らしく、宿直の仕事も家のお手伝いとして任されるらしい。詳しいことはまた叔父さんに聞いてみよう。

 

「コウ君の部屋から私たちの住んでる家の方は裏口からすぐに行けるから、なんかあったらすぐ来てね!」

千歌ちゃんは元気だ。

 

この家の作り自体は昔から何も変わってないので案内されるうちに思い出してきた。それでもびっくりしたのは、家の玄関先にいた、眠そうにしている大型の犬がしいたけだったことだ。お前、昔はまだ子犬でちいさかったよな?おまけに子犬産まれたって、お前メスだったの?

 

「そっかー・・・あのしいたけ、こんなに大きくなったんだ。」

つい口に出してしまう。しいたけの方も匂いで僕のことを思い出したらしい。今度は吠えなかった。

 

「しいたけ、いっつも寝てるの。おーい、しいたけえ、そんなに寝てるとボケちゃうよー。」

先ほど自分を守ろうとしてくれたしいたけにずいぶんな言いようだ。まあ仕事するときはするんだろう。

 

 そんなこんなで夕食の時間になる。やっと会うことのできた叔父さんに叔母さん、それに志満さんに挨拶をして夕食。叔母さんがわざわざ沼津港の朝市に行って仕入れてきてくれた新鮮なお刺身に特産物の干物。それに母さんもよく作っていた煮物etc・・・

 

上座に叔父さんと叔母さん、両サイドに美渡さん、志満さん。下座に僕と千歌ちゃんが座る。

 

「腕によりをかけて作ったの♪召し上がれ!」

流石姉妹。言い方も母さんそっくりだ。何でこんなにもびっくりするくらい幼い容姿なんだろう?姉妹でこうも似るもんかな・・・

煮物は母さんのものと変わらない味がした。

 

「コウ君は何でまた内浦に来ようと思ったの?」

志満さんが僕に問いかける。なんて答えればいいかな・・・。

 

「自分の見識を広めるため・・・です。」

嘘じゃない。嘘じゃないんだけど・・・何だろうこの罪悪感にも似たモヤモヤ。

 

「ふうん。まあプロってなると色々考え方も変わってくるのかなあ。何かつかめるといいね。」

志満さんはハヤテと同じようなことを言う。

 

しかし、何故だろうか。干物は食べなれないとこうも食べるのに苦戦するらしい。ある程度身はほぐせたものの、まだまだ食べられそうなところが残ってしまっていた。しかたない。残そう。食べ方忘れたし。

 

「ごちそうさまでした。おいしかったです。」

「お粗末さまでした♪」

戻って、もろもろの片付けの続きだなー・・・と考えていた矢先。

 

「あーー!コウ君干物こんなに残してる!!」

千歌ちゃんに突っ込まれた。

「もう!食べ方わからないなら、わからないって言ってよね!」

 

そのまま、自分のお箸でほぐしてくれた。さらに。

「はい。口開けて!」

「え」

「ほら、はーやーくー!」

僕はあきらめて食べることにした。

 

隣では美渡さんが新しいおもちゃを見つけたようにニヤニヤしてるし、志満さんと叔母さんは口元を抑えてうふふふと笑う。一人叔父さんだけ複雑な顔をしていた。

 

っていうか、これ、僕がしっかりしなきゃだめだ。理性を保て!

 

結局一口だけは千歌ちゃんに食べさせてもらったものの

「あとは自分でたべるよ。ありがとう。」

 

といって、残りの干物を食べきる。千歌ちゃんは満足したのか、僕が干物を食べるのを見ると、食後のお茶をすすり、僕がお土産に持ってきた東京ばななをおいしそうにほおばっていた。

 

 部屋に戻り、複数立てかけられるスタンドに立てかけてあったWarwickを手に取る。

 

最低でも一日三時間はベースに触れること。これは僕が心がけていたことだ。もはややらないと気持ち悪いという領域に入っていた。

 

チューニング。問題ない。指の調子。右手左手問題ない。

まずは手癖のフレーズや基本的なフレーズを基礎トレーニングの本を参考に練習。それだけで一時間は優に過ぎる。これは一種の準備運動だ。

 

次にセッションを想定したフレージングの練習。I patから適当なリズムにコード進行を乗せたものをインターフェイスを兼ねたマルチエフェクターにつなぎ、ヘッドホンをつける。

 

コード進行はE♭から始まるジャズ調の進行。キーはマイナーキーでいこう。

コード進行を聞いた瞬間頭の中にフレーズのイメージは出てくる。

でもこれが曲になるかといわれれば、話は全然違う。

 

セッションのように簡単にSeekerの曲が浮かべば。

曲に込める自分の思いってなんなんだ。今の僕が、僕らがどんな思いを込めればいいんだ。そのうえで売れる曲を作る?

 

はっきり言って常人のすることじゃない。

 

だから僕らは、Seekerは、バンドマンである前に一人のアーティストなんだ。

 

アーティストはある意味、常人じゃないから。

 

分かりやすい恋愛のストーリーや不幸自慢のフィクションは安い感動を生むかもしれない。

 

だけどそんなフィクションやそれを助長するストーリーを今は作り出せないと思う。

 

ましてや、今、勢いだけで何かを作ってそんな希薄な曲や歌詞を書きたいとはこれっぽっちも思えない。

 

誰かに・・・、いや、あいつに認められる曲が絶対にできるとは思えない。

 

セッションの練習はそこそこに曲の練習に入る。

とにかく自分の持てる手数を増やしていかなくちゃ。

 

youtubeのアプリからThe whoの動画を開き、ライブでのベースソロをコピーする。

 

指の動き、即興でのフレージング。自分の何十倍もの技術を持つイギリス人ベーシストのコピーを通してその差を痛感させられた。

 

ここまでの練習を毎日できるようになるまで、どれだけの時間がかかったことだろう。数えたくもない。

 

「―――え!」

なにか聞こえたような気がする。静かにしてくれ。ジョンのコピーは骨が折れるんだ。

「もしもーし!きこえてますか!」

「うわあ!」

「あ、ほんとに聞こえてなかったんだ・・・。」

 

そこにいたのは千歌ちゃんだった。僕からヘッドホンを強制的に外して声をかけてきたのだった。

 

時刻は午後九時半。夕食を食べ終わって、練習を始めたのが六時前だったから三時間以上練習していたことになる。

 

「どしたの、千歌ちゃん。」

「すごいねえ、私だったらそんなの絶対弾けないや・・・お風呂空いたから、どうぞってのと、ねえ、今時間ある?」

 

お風呂上がりの千歌ちゃんは三つ編みにしていた部分をほどいていた。石鹸のいい匂いがする。それにパーカーにショートパンツ。足がまぶしい。

 

「まあ大丈夫。」

一日の最低ノルマはこなしたし、まあいいだろう。

「面白いもの、見に行こう!」

「面白いもの?」

 

千歌ちゃんは僕の腕を引っ張るとそのまま、二階に連れてきた。

 

ってここ千歌ちゃんの部屋じゃん!入っていいのか?

 

僕叔父さんに殺されない?

 

「はいってはいって!」

軽すぎでは。まあいいや、入ろう。千歌ちゃんは引き戸を開けっぱなしにして、窓を開ける。

 

「びっくりしちゃうといけないから、ちょっと隠れてて。」

 

来いと言ったり隠れろと言ったり、ほんとに忙しい女の子だ。

 

「おーい!りこちゃーん!」

 

「なあに、千歌ちゃん。こんな時間に。疲れたから寝ようと思ってたのに。」

 

「ピアノ!弾いてみてくれない?なんでもいいからさ!」

 

ああ、なるほど。今、窓越しに話してる相手が例の「梨子ちゃん」らしい。ピアニストだったのか。

 

「何よまた。突然ねー。まあいいけど。」

 

――――綺麗な旋律。でも何でだろう。はっきりわかる。この曲は、まさか。

 

「この曲・・・!僕らの曲じゃ・・・!」

 

何も考えずに反射的にそのピアノを奏でるピアニストを見たいと思った。

 

今奏でられているこの曲。

 

「花束」と題したこの曲を。

 

作ったのは僕だ。

 

そして。僕が目にしたものは。

 

綺麗な赤みがかった髪色をした、澄んだ瞳の少女が目の前のピアノを本当に楽しそうに弾いている姿だった。

 

彼女は僕に気づいていないんじゃないだろうか。それだけ集中しているんだろう。僕が作った僕らの曲をピアノでアレンジしたのか。

 

その姿があまりにも綺麗で。

 

その旋律はたまらなく美しくて。

 

この世界に僕とピアノを奏でる少女以外のすべての人がいなくなったように感じてしまう。

 

空には満月。月に映える姿がどうしようもない位に美しく見えた。

 

最後のフェードアウトの部分を締めくくる。「梨子ちゃん」はこちらを見た。

 

「どうでしたか?コウさん。」

 

「あちゃー、ばれてたかあ・・・」

 

隣で千歌ちゃんがイタズラに失敗したときのような顔をしているが、そんなの関係なかった。

 

たまらず僕は、何も言えずに拍手を送ったのだった。

 

 




コウ君と梨子ちゃんの出会いの章でした。
これからコウ君は元Aqoursの面々と関わっていくことになります。

これからも作中で、コウ君が作ったという設定で何曲かの曲が出てくることになりますが、これらの曲は作者が趣味で作った過去の曲や、書いたことのある歌詞、また、このSSに合いそうな歌詞を書いてそれを載せるつもりでいます。

そうした歌詞の面でも皆さんに見ていただければとおもいます。

次回は千歌ちゃんパートになります。


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第4話「進路調査と新部室」

「おーい!コウ君!今日から学校だよー!」

月曜日の朝6時。コウ君の部屋に行ってコウ君をたたき起こす。

布団のすぐ横にベースが転がっているのを見ると、遅くまでベースを弾いていたらしいことは私にもわかった。

 

「頼む・・・あと5分寝かせて・・・」

「今起きないと学校遅刻だよ!それに!今日は転校初日で職員室で挨拶とかいろいろあるんでしょ!」

 

観念したようで、コウ君は起きだす。

「ごはん、私たちの家の居間にあるからね!先食べてるから!」

私はそう言い残して、コウ君の部屋を出た。

 

20分くらいして、シャワーを浴びて身なりを整えたコウ君が居間に顔を出した。

「学校出るの何時だっけ。」

おもむろに聞いてくる。昨日何度も伝えたのにねぼけてるのかなあ。

 

「7時だよ!うちの前で梨子ちゃんと待ち合わせ!」

ピクン。少しだけコウ君は反応する。そして

「あー。そう・・・」

眠たげに言う。朝は弱いらしい。でも梨子ちゃんには反応するんだねえ。

 

土曜日の夜、コウ君に梨子ちゃんの演奏を聞かせてあげた後、コウ君は梨子ちゃんと私の三人で少しだけ話をしてから自分の部屋に戻った。少し部屋をのぞいてみたら、夢中になってベースを弾いていた。

 

昨日は昼頃に起きてきたから、ずっと弾いてたんだろうな。そのあと、近くのお店や街なんかを軽く案内してあげて、近いうちに一緒にみとしーに行く約束をした。

 

すごく衝撃受けたんだなあ・・・。これは音楽をやってる人たちにしかわからない部分なのかもしれない。

 

「ちかちゃーん、コウくーん」

梨子ちゃんの声がした。やばっ!約束の時間だ。

「コウ君いくよ!!!」

「おー。」

そうして私たちは家を出た

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

放課後。

今日は授業の開始の日だった。

なんの偶然か私とコウ君の席は隣同士。

私とコウ君は並んで教室でうなだれていた。コウ君に至っては机に突っ伏している。

 

「あの・・・大丈夫?」

私か、コウ君か?いやどっちもか。梨子ちゃんが心配して声をかけてくれる。

「あー大丈夫・・・ありがとね、梨子ちゃん」

力なくコウ君が答えた。

 

今回、私と梨子ちゃんはまた同じクラスに入ることができた。曜ちゃんだけ違うクラスになってしまったけど、さすが廃校した学校の生徒を引き受ける学校はもともと大きい。

 

そして、コウ君は私たちのクラスに入ることになった。

転校生あるあるでたいてい転校してきた子は質問攻めにあったりするんだけど、コウ君に至っては別の角度からの質問も多かった。

 

バンド活動で顔が知られているし、謎の活動停止。仕方のないことだろう。

昼休みには、善子ちゃんみたいにSeekerのことを知っている生徒が噂を聞きつけて学年を超えて男女関係なく見にやってきたのだった。

 

私は知らなかったけど、やっぱりバンドが好きな人は知ってるんだなあ。

コウ君は愛想よくふるまっていたけど、やっぱり疲れているらしい。

そんでこのざまだ。

 

そして、私はというと・・・

「千歌ちゃんは進路調査書、どうする?」

梨子ちゃんが聞いてくる

そう進路調査書。

 

私たちは高校三年生。高校を卒業した後の進路のことを考えなきゃいけない時期になったのだ。

 

高校一年生の時はのんびり過ごしていたし、高校二年生からはAqoursがあったから、特に進路なんて考えてなかったけど、もうそんな時期になっちゃったかあああ・・・

 

Aqoursの元三年生メンバーはスクールアイドルしながらそれぞれの進路に進んだんだもんなあ・・・そう考えたら、バケモノみたいなバイタリティしてるように思えてきた。

 

「あはは・・・どうしよっかな?梨子ちゃんはどうする?」

 

「私は今の所、音大を考えてるわ。やっぱりピアノは続けたいし。音楽だけだと難しいところがあるかもしれないから音楽の先生の免許取れるところとか。」

 

「ちゃんとかんがえてるんだねえ。コウ君は?って言ってもバンド活動があるかあ。」

話をコウ君に振る。コウ君がどうするのか実際気にはなっていた。

 

「うーん。特にこれがしたいってあるわけじゃないけど、とりあえず大学には行こうと思ってる。今はバンドも活動休止中だし。」

 

コウ君も大学考えてるのかあ。意外だ。バンド活動を本格化するか、音楽の専門学校にでも行くのかだと思ってた。

 

「ま。今そんなに考えても仕方ないし、進路は自分一人で考えてみましょ。」

梨子ちゃんも進路調査のことはあんまり考えたくないのかも。なぜかそう思った。

 

すると、勢いよく教室の扉があく。

「ヨーソロー♪千歌ちゃん、梨子ちゃん!新しい部室に行こう?ってあれ?転校生君もいる。」

そういえば、曜ちゃんにコウ君のこと話してないんだった。

 

「コウ君この後どうするの?部活動見学?」

「いや、三年生だし、部活には入らないと思うから、かえろうかな。」

「あ、じゃあ私も一緒に帰りたいし、部室寄ってってよ!みんなにも紹介したい!」

なぜこんなに親しくなっているか分からない曜ちゃんはポカンとしていた。

 

「じゃあ、コウ君は千歌ちゃんのいとこでいまはいそーろーってことなんだ?」

曜ちゃんはびっくりした感じでいう。

「そうなの。私も、こんな芸能人が身近にいたなんて知らなかったんだ~」

「芸能人じゃないけどね?」

コウ君が少し困った感じでいう。そこら辺の線引きはわからないや。

 

「新しい部室は部室棟の三階?」

梨子ちゃんがいう。早くみてみたいらしい。

「そうだよ♪私も初めていくから、楽しみ!二年生のみんなは先に行ってくれてるってさ!」

私達も急ごう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

部活動用に作られた部室の集まりの棟、「部室棟」なるものがこの学校には存在する。

四階建ての簡素なアパートのようなイメージをすればおおよそ正解だろう。

 

部活動ごとに学校側の厳正な選考の結果、割り当てられるもので学校側としては、そこを部会等に使ってもらうことが目的らしい。

 

運動部など、部員の規模によっては部室に入りきらなかったりする場合があるため、そういう場合は部の倉庫や更衣室のようになっているそうだ。

また、部室を獲得することのできなかった部活や同好会は空き教室にて活動するらしい。

 

「みらいずらああああ!!!」

部室棟の三階につくと、花丸ちゃんが興奮した様子で声を上げたのが聞こえた。

部室棟三階の角部屋。

長方形型の部屋で、窓付きのシンプル感じだ。

 

ピカピカの部室に浦ノ星からもらってきたパソコンの箱が一つおいてある。それに浦ノ星から持ち込んだ荷物が段ボールにいくつか。

 

ステンレス製の事務机が一つ、入り口から入って奥の右端に置いてあって、木製の大きな机とそれを囲むように配置されたパイプ椅子が部室の真ん中においてある。

 

部室に入って一番奥の正面の黒板には自由に書けるタイプの黒板が掛けてあり、左側の窓からは校外近辺の様子が見ることもできる。

ローラーのついた可動式のスケジュール管理用の黒板も支給され、スケジュール管理もできるという配慮がされている。

 

まあ、浦ノ星の時は黒板にはアイデアという名のイラストが大量にかかれていたわけだけど。

 

部室棟が西側にあることもあり、日当たりとしては万全というわけではない上に、冷暖房が完備というわけではないが、活動には困らない環境であるといっていい。

 

でも何で花丸ちゃん一人?

 

「花丸ちゃん!荷物の受け取りとか、鍵開けとかありがとうね。」

「あ、梨子ちゃん!みんな!と、あとは噂の転校生先輩?何でいるずら?」

「えへへ、まあいろいろあってね。後で詳しいことは話すよ!」

多分、善子ちゃんは会いたがると思うし、何よりコウ君に私たちの活動を知ってほしいところがある。

 

「とりあえず今日はかたづけだね~。PCも設置しないと!ごめん、コウ君、片づけてつだってもらっていい?」

「うん、いいよー」

私は運送業者にお願いして浦ノ星から持ってきてもらった荷物の段ボールを開けて、整理しようとする。

 

っていうか、ダイヤさん、資料としてたくさんのアイドルのDVDとか雑誌を持ってきてくれたのはいいけど、めちゃくちゃ量多いよ・・・

 

なんでもルビィちゃんによると、東京での一人暮らしのために持って行くものを厳選し、その余りが私達の資料らしい。

にしても、この量って…

「花丸ちゃん、ルビィちゃんと善子ちゃんは?」

「あー・・・ルビィちゃんは職員室で授業の質問だって。善子ちゃんは転校生先輩の噂を聞いてどっかいったずら。・・・ここにいるのに」

花丸ちゃんはジト目でどこかにいるだろう善子ちゃんのことを言う。

 

「転校生先輩、こんにちは!おら・・・じゃなかった・・・まる・・でもなくて、おらは国木田 花丸ですっ!よろしくお願いしますずら!」

「ご丁寧にありがとう。三年に転校してきた宮木 コウって言います。よろしくね、花丸ちゃん」

「ズラ!」

花丸ちゃんとコウ君、はたから見るとなんか兄妹みたいに見えた。

 

部室のドアが勢いよく開く。

「ただいまっ!!Seekerのコウに会えなかったわ・・・」

「善子ちゃん、顔上げるズラ。」

「どしたのよズラま・・・」

善子ちゃんが固まる。まあ目の前に好きなバンドのメンバーが急に現れたらそうもなるだろう。

 

「こ、こここここ、コウ!!」

「どーも、宮木コウです。」

「あ、えっと、その、津島ヨハネ!じゃなかった、善子です!あと、Seekerの大ファンです!!!」

「えーっと、よろしくね、ヨハネ・・・ちゃん?」

「ヨハネ昇天!!!」

自分が好きなバンドのメンバーに自分の呼んでほしい名前を呼ばれて恍惚の表情の善子ちゃん。きょうの善子ちゃんは幸運みたいだ。

 

「善子ちゃんキモイずら」

「ヨハネよ!!!あと善子っていうな!!!きもくなーい!!!」

ジト目の花丸ちゃんにいつも通りの突っ込みを入れていた。

 

「ただいまー!なんとかわかったよお~・・・へ?なんで男の人?もしかしてルビィ、部屋まちがえた・・・?」

ルビィちゃんが帰ってきた。人見知りが激しい分、一番難しいかもなあ・・・

「あ、お邪魔してます。宮木 コウです。よろしくね。」

「黒澤ルビィです・・・よろしく・・・おねがいします・・・」

あー・・・やっぱりルビィちゃんは難しいかもしれない。

 

「で、な・ん・で、コウさんがスクールアイドル部にいるのよ?」

普段基本的には呼び捨ての善子ちゃんが「さん」付けってことは相当あこがれの人ってことなのかな?単純に初対面だから?いやどっちもか。

 

「え、スクールアイドル?」

コウ君は不思議そうな顔をする。

 

「何も言ってなくてごめんねえ。こうやって、みんなの前で紹介した方が早いと思ったんだ!」

私は誇らし気に胸を張る。

「私たちは、スクールアイドルグループのAqoursをやってます!あらためましてリーダーの高海千歌です!これでもラブライブ前回大会優勝グループなんだよ!」

 

コウ君に私たちのことを改めて紹介する。

浦ノ星のこと、Aqoursのこと、今は卒業した三年生のメンバーがいたこと。

「そういえば、母さんが前に千歌ちゃんがスクールアイドルがどうのって言ってたような気がする。今思い出したよ。」

仕事が忙しかったらしく、私たちのことは知らなかったようだった。

 

「ところで千歌ちゃんとコウさんはどういう関係ずら?コウ君は今日転校してきたのに千歌ちゃんと仲いいずらね。」

「僕と千歌ちゃんはいとこの関係なんだー。今は千歌ちゃんのおうちに居候してるんだ。」

 

「「「居候?!」」」

事情を知らない一年生の子たちが驚きの声を上げた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「とりあえずまとめると、Seekerが活動休止してから、自分の中の見識を広げるために内浦に転校してきた・・・ってことでいいのね?で、今はいとこの千歌の家に住んでいる。」

「まあそういう感じかな。」

善子ちゃんがまとめてくれる。今日の善子ちゃんいつもと違って堕天使成分へってない?

 

「ていうか千歌!!!Seekerのコウがいとこだったなんて、なんでもっと早くいわないのよ!!!!」

「あはは・・・ごめんごめん。私も知ったの最近なんだあ、えへ☆」

アイドルらしく舌を出して笑ってごまかしておくことにする。脳裏に浮かぶのはつい先日のお父さんのとんでもない言い方だった。

 

善子ちゃんは急に真面目な顔になって言う。

「ねえコウさん。失礼かもしれないけど、なんでSeekerは何も言わずに活動休止しているの?まさか、ベーシストが旅に出るからとか、そんな理由ではないでしょ?」

おそらくSeekerのファンが一番聞きたがるだろう質問だろう。確かに私も気にはなっていた。

よほどのことがない限り、東京からこちらに来たいとは思わないんじゃないだろうか?

 

「・・・説明が難しいから、とりあえず充電期間って感じかな。」

 

一瞬ものすごく複雑な顔をした。困ったような、なんていえばいいか考えるような。

 

そして、泣きそうな。

 

「・・・ごめんなさい。私も失礼だったわ。気を付ける。」

「ううん、大丈夫だよ。まあ、気になる人が多いのは仕方ないし、ラストライブでも必ず帰ってくるとしか言ってないからね。」

「あ、二月の東京でのラストライブ、行かせてもらいました!これ、ラストライブのタオルです!」

「おお!ありがとうー!」

 

善子ちゃんとコウ君はライブの話に花を咲かせていた。後ろでは梨子ちゃんと曜ちゃんが片付けをどうするか話し合っているし、花丸ちゃんはルビィちゃんとおしゃべり中。私は梨子ちゃんと曜ちゃんとの話に混ざることにした。

しかしその矢先。

 

パンっ!

梨子ちゃんのよくとおる柏手が鳴る

「みんな?そろそろ片付けはじめるわよお?まだ、外にダイヤさんの持ってきてくれた、資料がたくさんあるんだから!コウ君も手伝ってくれるわよね?」

 

このモードの梨子ちゃんはヤバイ。私たちはコウ君も含めおとなしくしたがうのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

片付けは思いの外早く終わった。

男の子が一人いるだけで、荷物の運び出しや荷物の配置作業がこんなにも楽になるとは思わなかった。

今は、学校の購買部でお菓子を買ってきて、みんなでミーティングが始まろうとしている感じだ。

 

「ミーティングに僕がいたら悪いから、図書室でも行くね。」

コウ君そう言って立ち去ろうとする。しかし、梨子ちゃんがそれを止めた。

「あ、コウ君ちょっと待って。お願いしたいことがあるから、ミーティングも出てくれないかな?」

「へ?」

お願いしたい事ってなんだろう?なんにも聞いてないや。

 

現状のスクールアイドル部は梨子ちゃんが部長、花丸ちゃんが副部長という感じになっている。

私はあくまでAqoursのリーダーという立場だったので、事務の仕事等は梨子ちゃんたちに任せきってしまっていた。

 

「取り合えず、私たちの直近のライブだと来週の新入生歓迎会には出演を頼まれてるわ。後は6月にラブライブの地区予選。それのちょっと前にスクールアイドルワールドへの出演が依頼されてる。これに関しては長めの間隔での話だけど、その二つの大会に加えて地域振興のためのタイアップソングも作ってほしいって依頼が来てたわ。」

 

梨子ちゃんは正面の黒板に今後の予定等を書き込みながら、話をすすめる。

「来週の新入生歓迎会のライブに関しては持ち曲でいいとは思う。でも、地区予選とスクールアイドルワールドでは、未発表の新曲を発表することが大前提になってる。それに加えて作曲依頼。私たちは今年受験生だし、かなりハードなスケジュールになると思うわ。」

 

梨子ちゃんも疲れた顔をした。なるほど。地域振興の曲かあ・・・

 

「そこでなんだけどね?これはあくまで私の考えなんだけど」

前置きをしっかりと置く。

 

「コウ君!私たちに曲を作ってくれないかな? 花束みたいな素敵な曲をかける人なら絶対いけると思うの。」

 

名案!そこにいた誰もがそう思った瞬間だった。

 




今回の話は元Aqoursの面々とコウ君の初対面でした。

書いててくどいなーと自分でも思いましたが、ラブライブキャラ一人一人がどんな反応をするのか書いてみたいとおもい、あえて自己紹介の所は一人ひとり使いました。
結果的にルビィが一番扱いにくいキャラだってことに気付きました。

部室の描写といい、自己紹介といい、結構くどくなっちゃったなあって反省してます。

前半の進路の話題と、後半の、ヨハネとコウ君の会話、曲作りについてを今回の話では一番かきたかったところで、次回以降につながっていきます。

次回はコウ君パートでのお話となります。まだ時間の進み方が緩やかですが、あと二話か三話で少しは早められると思います。

次回の更新は元旦の夕方ごろを考えております。


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第5話「叩きつけられた挑戦状」

「作曲者として、名前を出す必要はないし、出したかったら出してもいい。私たちに、力を貸してくれないかな?」

「それ、すっごくいいよ~!!!いい意味でAqoursが変わることのできるチャンスだ!!」

 

目の前で梨子ちゃんと千歌ちゃんが盛り上がる。周りの女の子たちも割と乗り気な感じだ。

あー・・・そういうことか。

 

「ごめん。その話はちょっと・・・無理だと思う。」

僕はなるべく淡々と、感情を込めずにじぶんの思っていることを述べる

 

「僕の曲をほめてくれたのは単純にうれしいよ。でも・・・」

今の僕が誰のことを考えて、曲を書けばいいというのだろう。

そもそもアイドルの曲なんて、僕にはわからない。

 

「でもコウ君、すごくベース練習してるし、曲だっていいの作るのに・・・」

「とにかく、ごめん。曲は作れないけど、居候してる身だし、手伝えることがあったら何でも手伝うよ。」

 

帰り道。一人でバス停まで歩く。

あの後、僕はその場にいることがいたたまれなくなってすぐに部室をでた。まだ止めてくれようとはしていたけど、正直やる気にはなれなかった。

他のみんなはおそらくまだミーティングをしているのだろう。

 

しかし、スクールアイドルにラブライブね・・・。しかもAqours。

活動休止ライブの後の二次会でのキリヤとハヤテを思い出した。

まさか、僕の身の回りにこんな有名人がいるとは思わなかった。

 

僕らはあまりテレビには出ていなかったし、出ていても深夜の音楽番組だ。

それに、僕はあまり詳しくはないけど、スクールアイドルが全国的に人気なのは知っている。

 

確か、去年出た春のロックフェスで自分たちの裏でスクールアイドルのグループが出ていたような気がする。

そう考えれば僕らよりも顔が売れてるんじゃないだろうか?特にAqoursはドームを経験済みなわけだし。

 

でも、あの梨子ちゃんが僕の曲をほめてくれたのはうれしかったな・・・。

純粋にそう思った。

僕は土曜日のことを思い返す。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピアノを奏でていた少女が僕の方を見る

 

「初めまして、桜内梨子って言います。コウさんだよね?千歌ちゃんから話は聞いてるよ。プロのバンドマンの高校生でいとこって。この曲、つくったんだよね。」

 

「あ、宮木 コウです。よろしく。コウで大丈夫だよ。」

「あー!梨子ちゃんずるい!私はコウ君なのに!」

「ふふふ、じゃあ、私もコウ君かな?私は梨子でいいよ!」

 

自分の作った曲のピアノを聞いて圧倒されてしまった自分がいた。

 

あんなにきれいで澄んだピアノを聞いたのは久しぶりだ。

まるで、あいつのピアノみたいだ。

 

「学校私たちと同じなんだよね?同じクラスになれたらいいな!月曜日は三人でいこうね。」

「いいねえ、いこういこう!」

 

僕があっけにとられていたから、完全に会話はあっちのペースだった。

でもそんなことがどうでもいいと思えてしまうくらい。

 

彼女は美しかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このまま家に帰る気分にはなれなかった。

適当に街を見て回ろう。ここら辺知らないし。

 

沼津駅前に出ると大きなショッピングビルや、商店街などが見えた。ここだったらいろんな物がかえるかもしれない。

楽器屋さんと本屋さんは探しておこう。

 

商店街を散策していると大きめの本屋さんが見つかった。

ここなら割と何でもそろいそうだ。

 

そのあとショッピングビルに移動する。

 

ショッピングビルの中には本屋さんもあれば、無難な服屋さんもある。

全国的に有名な楽器屋さんも入っていた。

消耗品は買えるだろうし、どうしても欲しいものは注文すればいい。

 

一時間半くらいぶらついてから帰ることにして、バス停に行く。

「あ・・・!コウ君!」

「梨子ちゃん・・・みんなは?」

「千歌ちゃんと曜ちゃんは今後のことを二年生とまだ話してる。作曲のことがあるから、私は先に帰って来たんだ。転入したばっかで、音楽室も使わせてもらいにくいし。それよりも、さっきはごめんね。突然なこと言っちゃって・・・」

「いや、僕の方こそ力になれなくてごめん。」

 

さっきのことがあったから、正直今会いたいわけではなかった。

「コウ君は今帰り?」

「うんまあ。ちょっとこの周りを見て回ってた。」

「このあたりは買い物にいいかもね。」

 

そんな何気ない会話をしてたら、バスが来る。

僕たちは何も考えずに空いている二人掛けの椅子に並んで腰かける。

なんていえばいいんだろう。女の子特有のなんかいい匂いがする。

 

「私も気にはなってるから、聞くんだけど・・・気を悪くしたらごめんね。何で活動休止したの・・・?」

まあ、あんなあからさまな断り方したら気にもなるか。

 

「メンバー全員が曲を書けなくなったから・・・かな。僕も含めて。」

「書けなく・・・なった?」

「ただのスランプみたいなものだよ。だから、ある意味リフレッシュのための活動休止。」

 

実際にはもっといろいろある。でもそれは、今言うことではないし、言われたって困るだろう。

 

「ふうん・・・」

納得してない感じだ。まあ仕方ないだろうな。

「まあだから、今しかできないことをするために内浦に来たんだ。」

「なんか納得できないなあ・・・曲が書けないっていうと?」

 

「そのまんま、だよ。書けるようになれたらなって思うけど。」

そしたらなぜかわからないけど急に不機嫌な表情になる。

 

「自分の中で踏み出さなきゃ、変わるわけないって私は思う。」

 

ものすごく、自分に突き刺さる。

僕は踏み出した…はずだ。だから内浦にいる。

でもやってることは、変わらない。

 

「今から言うことは私の勝手な考えが混ざってるから間違ってたらおこってくれていいよ。」

すごく真剣な梨子ちゃんの声が聞こえる。

 

「コウ君に何があったかは私にはわからない。だから無責任なことは絶対に言えない。でも何かを変えるためには、踏み出さなきゃいけない時ってあるんだとおもう。」

梨子ちゃんは自分に言い聞かせるように言う。

 

「私ね、今から一年前に東京からこっちに来たの。」

「え!じゃあ梨子ちゃんも転校生だったんだ。」

「そうだよ。東京の音ノ木坂っていう高校からね。」

音ノ木坂か、聞いたことがある。たしか音楽に力を入れてる女子高だったはずだ。

「私ね。音ノ木坂でピアノに向き合っているのがつらくなって内浦に逃げてきちゃったんだ。」

梨子ちゃんは自分の昔のことを淡々と語る。

 

「最初は私もピアノに向き合うこと自体が嫌になって、でもそこから変われるように、うごこうとおもえたの。それは、千歌ちゃんが手を差し伸べてくれたから。」

 

「私にとっても大切な、Aqoursがあったから。いま私がピアノに向き合えているのはあの時手を伸ばした私のおかげだと思ってる。」

 

何で梨子ちゃんは僕に対してそんな話してくれるんだろう。

無理に誘い込もうって感じでもない。

「私がそんな感じだったから思うだけなんだけどね。だからコウ君は手を伸ばさなきゃいけない時なんじゃないかなってわたしはおもうんだ。そんなときに手をとってくれる誰かがいれば、救われるんじゃないかなって思うの。」

 

「だから私は手を伸ばしたい。コウ君が手を伸ばしたら届くように。」

 

手を伸ばさなきゃいけない時・・・。

「そうだったんだ・・・。ありがとう話してくれて。」

 

でも。

でも、もう僕には。

いや僕らにとっては。

 

手を取りあえてた仲間はもういないんだよ。

 

もうリサさんには・・・会えないんだ。

 

「ねえ。私たちと勝負しない?」

「勝負?」

「うん。来週、新入生歓迎会で私達、ライブをやることになってるよね?それに見に来てよ。」

「それで?」

「ただ見に来てくれるだけでいい。私たちのライブに感動出来たらその時は・・・」

 

梨子ちゃんは僕の顔を見つめる。

 

「私たちに協力して。」

 

僕はその真剣な梨子ちゃんの目を見る。

大きな瞳。真剣な表情。

 

決して同情や興味本位から出る言葉じゃない真剣さを感じてしまって。

うなずくしかなかった。

「うん。わかったよ。その勝負、受ける。」

 

とんでもない挑戦状を僕は叩きつけられてしまったらしい。

 

 




次回の更新は1月4日(木)の夕方ごろを予定しています。
次回は千歌ちゃんパートでAqoursのみんなでわちゃわちゃする話になります。

[以下作者のあとがき。]

あけましておめでとうございます!2018年初更新でございます。

おかげさまでUAのびてます。お気に入りの数も伸びてます。
ありがとうございます。

ラブライブ!サンシャイン!!もついにアニメ二期が終わっちゃいました。
毎週リアタイで楽しませてもらっていたので終わっちゃうとなんか喪失感ありますね。

そして、映画化決定!うすうす予測はしてましたが公式の発表があるとやっぱりうれしいです。

ところで、作者は毎年、年末は幕張メッセで行われるCDJという年末フェスに行っているのですが、2017年はいろいろありいけませんでした。

なのでその分二次創作にぶつけた感じですね。
ホルモンのライブ一回生で見てみたい。
紅白のWANIMAもカッコよかったです。

ここらで、この物語について少し書いておこうと思います。

こうした青春物の物語自体の構想はだいぶ前からありまして、書いてみたいと思っていた青春ものを僕の大好きな作品と掛け合わせてみたらどうなるんだろう?というところから始まっています。

僕自身は趣味でベースやギターを弾いたり、歌ったりというだけのただの学生ですが、僕の周りで本気でプロになろうとしている人もいたりします。
そんな人から聞いた話なんかも参考にこの物語を作っております。

作者自身結構な見切り発車で物語を始めてしまったところはありますが、そこそこ順調に物語自体の書きためはできていると思います。

最後までこの作品をよんでいただけると作者はうれしいです。

そして、この物語のを読んでみなさんが音楽やバンドというものについて、知っていただけるきっかけになれば、いいなって思ったりしてます。


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第6話「作戦会議」

「ってわけで、私たちとコウ君で勝負をすることになりました。」

コウ君が部室に来た次の日。私たちは梨子ちゃんから昨日コウ君と梨子ちゃんが話したことを聞いた。

コウ君はクラスの男の子たちにどこかへつれていかれたから、今日はいない。

 

「リリー・・・あんた、大胆なことしてくれたわね・・・」

善子ちゃんの顔が引きつっている。

私は、梨子ちゃんの大胆さにただただ驚いていた。

 

「そんな約束させるなんて、梨子ちゃんすごいずらあ・・・」

「うん、梨子ちゃんすごいよ!」

ルビィちゃんと花丸ちゃんは、ただただ、感動している様子だった。

 

「でも、コウ君、今、曲は書けないって言ってるんでしょ?本当に大丈夫なのかな」

曜ちゃんは心配していた。

 

昨日、コウ君の部屋に行ってみたらやっぱりベースを弾いていた。

何を練習していたかは知らないけど、前に部屋に行ったとき以上に真剣に練習していたので、ご飯の時以外話せなかった。

もちろん挑戦状のことだって初耳だ。

 

「確かにコウ君が曲を作ってくれるのはものすごく魅力的だけど、コウ君を感動させられるライブかあ・・・なんか、面白そう!」

率直な私の感想はそれだった。

だってなんかワクワクする。私たちが届けようとする言葉でみんなが輝けるかもしれない。

 

「私ね、勝算はなくても、やってみるべきだって思うんだ。」

「今のコウ君、ピアノから逃げてた時の私みたいで・・・。なんか、ほっとけないんだ。」

 

そっか。

梨子ちゃんだから、あの時の自分とコウ君を重ねてしまうんだ。

「リリー・・・」

 

「うん!やろう!やってみようよ!コウ君を感動させるライブ!」

私は何も考えずに言う。

だって!

私だってやってみたいもん!

 

「千歌ちゃん・・・!!」

 

「私達がまた輝くことのできるチャンスだよ!もし、コウ君が私たちに協力してくれたら、私たち、もっとかがやける!そんな気がする!」

 

「千歌ちゃんが言うなら、私は賛成だよ!」

「おらも!コウさんの曲で踊ってみたいずら!」

「私も・・・まだちょっとだけ、怖いけど、優しい人だと思うし。」

善子ちゃんは考え事をしている。

 

梨子ちゃんは嬉しそうに笑う。

「じゃあ、どうやったらコウ君を感動させられるか、考えてみましょうか!」

「「「「「おおー!!!」」」」」

 

こうして、[コウ君引き入れよう大作戦]がスタートしたのだった。

 

「うーん…」

急に冷静な声を善子ちゃんが出す。

さっきから考え込んでいた善子ちゃんが口を開く。

「リリーの気持ちはわかるけど、コウさんだけにこだわらないで、まずはほかに曲作れそうな人をさがしてみるべきじゃない?」

 

言われてみれば。コウ君が音楽に対して真摯な姿勢なのは私が見ていてもわかる。

だけど、現状では難しいなら善子ちゃんの意見も最もだ。

 

だけど、梨子ちゃんの梨子ちゃんらしくない行動は助けたいっていう、それだけじゃない気がするのも事実だ。

 

「この曲、聞いてほしいの。コウ君が作った曲なんだけど。」

梨子ちゃんが自分のスマホから曲を流しだした。

 

綺麗なピアノのソロから始まるバラードの曲。そこにすべてのパートが合流するようなイントロからその曲は始まった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―優しい歌だ。

私が動画で見た曲はどれも激しい曲ばかりだった。

こんな曲を作っていたんだ・・・

 

「これ、梨子ちゃんがこの前ピアノで弾いてた曲・・・だよね?優しい歌・・・」

 

私はこの歌詞をコウ君が誰を思って書いたのか、すごく気になった。

 

「私ね。千歌ちゃんからコウ君の話を聞いたとき、とりあえず借りられるCD全部借りて聞いてみたんだ。どの曲も確かな力強さがあって好きだった。」

 

「でもこの曲は、本当に大切な人に向けて作ったんだなって。なんだかわからないけど感じちゃったの。そう感じたらすぐにこの曲を作った人の曲を歌いたいって思ったんだ。」

 

「これは、私のわがまま。だけど、私はコウ君の曲に込めた想いを歌ってみたい。だから・・・」

 

「もう大丈夫よ、リリー。」

善子ちゃんが納得したような顔でいう。

「私、こんな性格してるでしょ?だから、素直に誰かと自分の好きなものを分かち合うのが苦手なの。だけど、大好きなみんなが私の大好きなバンドに興味を持ってくれていて、しかも目の前に曲を作ってくれるかもしれないバンドのメンバーがいる。」

 

「私はそんな奇跡がうれしい。私も、コウさんの作った曲をみんなでうたいたい!」

 

「じゃあ改めて作戦を立てましょうか!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「とはいったものの・・・」

私は自然と愚痴をこぼしてしまった。

「いい案・・・うかばないねえ・・・」

みんなでため息。なにかないかなあ・・・

あのあと、意見が出たりはしたものの、自分の意見含めパッとしたものは出ていなかった

 

「ねえ、よっちゃん。Seekerのエピソードみたいなのってないかな?」

「調べてみたことはあるけど、曲についてのエピソードっていうと、雑誌に載ってたりするものくらいしか知らないわ。後はwikiとか・・・。」

 

「うーん、ちょっと調べてみるね」

そのまま梨子ちゃんはスマホに張り付いてしまった。

 

「あ!はいはい!」

曜ちゃんが手を挙げる。

「Seekerのシャツ着てライブするとかは?」

「あからさまにしすぎずら・・・学校のみんなSeekerのこと知ってるんだよ?」

「そうだよねえ・・・」

 

「仕方ない!ここは堕天使の結界を発動し、暗黒魔力の導きでラグナロクを起こすしか・・・!」

「今ここでやってみてほしいずら。」

「うっ!!!」

 

「うゆ・・・ライブで飴を撒こう!!!」

「ルビィちゃん?大喜利はしてないよ?」

「そうだよね・・・」

 

「なら私はみかんを!!!」

「感動するずらか。」

「するよー!私は欲しいもん!!」

「ライブでみかん投げてほしいのは千歌ちゃんだけずら。」

 

「ていうか!大喜利はやってないずらあああ!! 大喜利だったら笑点行くずら!!」

「昇天?!」

「マルはもうツッコミつかれたずら・・・」

 

さっきからこんな調子である。完全に大喜利大会と化していた。

花丸ちゃんは完全にツッコミと化している

私はAqoursの名前を決めた時のことを思い出す。

あの時も半分大喜利みたいになっちゃったんだよね・・・

 

こんなんで来週に迫った新入生歓迎会のライブで感動させられるものなんて作れるのかな?

 

「梨子さーん!!なんかないずらか!!」

ついに梨子ちゃんに助けを求めだした。

こういってはあれだけど、困り顔の花丸ちゃん、かわいいなあ。

 

「あれ?」

梨子ちゃんが驚いた声を上げる。

「よっちゃん。Seekerって四人組のバンドよね?」

「そうよ。それがどうしたの?」

 

「これ、ファンの人の自作のサイトなんだけど・・・インディーズの時代は五人組ロックバンドって書いてある・・・。旧メンバー・・・黒野リサ・・・ピアノ、キーボード。脱退後、サポートとして活動?」

 

 




次回の更新は1月7日(日)正午ごろを予定しています。
次回からいよいよ新入生歓迎会。コウ君もただ見るだけじゃつまらないよね・・・?

[以下作者あとがき]
お正月終わりましたね。作者は明日から学校再開からの月末にはテストですよ。
とりあえず、今月分の更新のぶんはかきためなきゃなあ・・・

今回はAqoursのみんなで作戦会議という話でした。Aqoursの裏でコウ君がどんな感じになってたかについてはそのうち書く番外編にでも書こうと思ってます(未定)

前回と今回のお話で、名前しか出てこない女性を登場させました。この方については、これからも度々出てくることになると思います。そして、のちに絶対に触れることになるコウ君の過去編に絡んでまいります。

すでにありがちな展開が見え隠れしている今作ですが、「それだけではない」ということだけはいまここで書いておきたいと思います。

さて、冒頭にも書きましたが、次回の更新から新入生歓迎会が始まります。
楽しみにしていただけると作者としてはうれしいです。


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第7話「新入生歓迎会(1)」

四月も中旬の土曜日。

中旬に入ると朝方でも春の気温は暖かくて、冬の寒さが薄れている。

入学式は先週の平日の間に終わり、新入生たちの部活見学が始まっていた。

 

あの挑戦状をたたきつけられてから一週間。

その間、僕らは普通に接していた。特に何の変哲もなく。

 

今日は例の新入生歓迎会の日だ

 

普通に話もしていたし、僕だって普通だったと思う。

まあ曲作ってた時のこととか色々聞かれはしたけど。

僕も僕で変わらない。毎日の練習をこなし、受験勉強を進めていた。

 

感動するライブって何だろう・・・?

いつからかそんなことを考えてしまう。

 

確かに自分の好きなバンドや大好きなバンドのライブに熱くなる時はある。

 

初めてフェスに行ったり、初めて大好きなバンドのワンマンでライブを見た時の胸の高鳴り。

 

ただただ曲に合わせて自分の想いをぶつけ、その想いがみんなに届いたと思えたとき。

 

そして、自分にベースという世界を教えてくれたリサさんに巡り合えたあの時。

 

それを僕は感動なんじゃないかって思ってる。

 

でも今。SNSやテレビで聞く感動っていうのは、僕の思う感動と同じなんだろうか。

 

軽い気持ちの誉め言葉なんだ、そんなの。

心が震えて、言葉にもできない。何故か涙が出るようなことなんじゃないか。

 

僕はそんなライブがしたくてバンドを続けていた。

色んな人に僕の思う「感動」を届けたくて。

事務所の言う「売れる曲」じゃない。子供だっていうなら言ってくれ。

 

梨子ちゃんは僕がこんなことを考えてるなんて知らない。

でもそんな僕に彼女は「感動させる」と言い切ったんだ。

 

「教えてくれるなら教えてほしいもんだな。」

そうつぶやいて、僕は部屋をでた。

 

「あ!コウ君おはよー!!」

千歌ちゃん、今日はいつもに増してテンションが高い。

「今日はライブだよ!!!絶対、ぜえーーーったいに来てね!!!」

「時間何時だっけ?」

「13時開始!絶対にきてね!こなかったら怒るから!準備あるから先行く!」

千歌ちゃんはそう言いながら口に朝ご飯のパンを詰め込む。

「ひっへひまーふ!!!」

「こら、千歌!はしたないよ!!」

叔母さんの叱りもなんのその、千歌ちゃんは走り抜けていった。

昔の少女漫画にこんなシーンあったよね?

 

「コウ君は行くの、悩んでる?」

叔母さんがおもむろに僕に話しかける。

「少し・・・。行ったところで、僕に何ができるかわかりませんから。」

 

「あの子張り切ってたわよ。絶対にいいライブにするって。あの子たちと勝負したんだって?」

食後のコーヒーを僕に勧め、叔母さんが僕に言う。

「何で知ってるんですかおばさん・・・」

「あの千歌の張り切りよう見たら理由もききたくなっちゃうわよ。」

 

「あはは・・・。」

「・・・コウ君は音楽の世界に身を置いてたから私の知らないこといっぱい知ってると思う。多分、世間の高校生やあの子たちが知らないようなこともいっぱい知ってるし、考えてるんじゃないかな。」

 

「でもね。私はあの子の親だから、あの子がラブライブに向けてアイドルを一生懸命頑張ってたことをじつは一番知ってると思ってるの。」

叔母さんは愛おしそうに言う。娘として、愛していることを確信してしまう。そんな雰囲気だ。

「あの子、昔からなーんにも成し遂げたことなかったの。できなかったらすぐに諦めたふりしちゃって。いつからかなあ。自分のことを[普通怪獣ちかっちー]なーんて言い出してたわ。」

 

「コウ君にうちに来てもらいたいって私がおもったのは、コウ君が今の千歌やあの子たちと会ったら、どんなことが起こるんだろうって思ったのも理由の一つなの。事情も少しきいちゃったからね。」

叔母さんは僕のことも千歌ちゃんを見るのと同じようなまなざしで見つめてくれる。

ただただ、真剣に。

 

「あの子たちの姿はね。見る人が見たら、無様っていうかもしれない。下手だって笑う人がいるかもしれない。でも、あの子たちが見つけたものは間違いなくあの子たちの中で生き続けてる。その結果があれなんだから!」

海の方を指さす。

そういえばあそこにラブライブ優勝の旗がかかっていた。

「あの子たちの輝きを見たら、きっとあなたの中でも何かが変わるはずよ?私は心からそう信じてる!」

 

輝き・・・?

 

とりあえず、行こう。行ってみなきゃ、何も始まらない。

 

ぼくは、目の前のコーヒーを飲み切る。

「行ってきます!」

「ふふ♪行ってらっしゃい!」

 

 

「必ず、何かつかんでこれるよ。」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おかしい。

 

今日の新入生歓迎会は授業がない日に行われる、部活動紹介がメインのイベントだ。

これは授業時間の都合や、どうせ運動部は土曜日も練習しているからというのはよくわかる。

 

だから結局、上級生は部活動関係者以外は来ないはずだ。

ネクタイやリボンの色が学年によって違うから一発で分かる。

なんでこんなに2、3年いるんだ・・・?

 

「お!コウじゃん!」

クラスメイトのアキラが声をかけてくる。

「おー。どうしたん?」

「俺は、軽音楽同好会の部活動紹介。まだ同好会だからここらで生徒獲得せんとな。お前は?」

「俺は、まあいろいろあってな。」

「ほーん。あ、あれだろ、Aqoursだろ!今年の目玉だもんな!てか、お前は彼女がそこだもんな!」

「は?」

 

確かにAqoursを見に来たことは事実だ。見に来いって言われたし。でも彼女?

「高海が言ってたぜー!お前と同じ家に住んでる!って。スクールアイドルの彼女とかうらやましい限りだ。さすがプロのベーシストはちがうねえ。」

これは、誤解を解かないと後々ヤバイことになる。

「いや、確かに住んでるけど居候だから。千歌ちゃんの家、旅館なんだよ。しかも僕はいとこ。」

「あー、そういうことか。まあ嘘じゃねえよな。」

スクールアイドル部の部室に行った次の日にクラスの男連中何人かとごはんに行った時のことを思い出した。

・・・これは今回の挑戦状とは別に後で千歌ちゃんにお説教する必要がある。

 

「気が向いたら、軽音楽同好会はいってくれよな!お前なら大歓迎だぜ!」

そう言って去ろうとする。・・・僕の腕を引っ張りながら。

「機材準備の人が足りないから手伝って♡」

一瞬僕の頭の中に帰るという選択肢が浮かんだ。

 

「Aqoursってやっぱり人気なのか?」

機材の搬出の確認をしながら、聞く。しかし、アンペグのベーアンにドラムセット一式、マーシャルのアンプにジャズコ、一般的なバンドセットはそろってるんだな。

 

「人気も人気、大人気だよ。なんせ静岡のヒーローみたいな感じになってるしな!来てる上級生の目的はAqoursだろうなあ。みんなかわいいし!俺は花丸ちゃんがおきにいりー♪」

僕が花丸ちゃんの連絡先知ってるって言ったら食いつくなこいつ。

面倒だからそこに関しては突っ込まない。

そんなことを考えてから少し休もうとしていたらアキラのスマホが鳴る。

 

「はい、もしもし。え、・・・うん。はあああああ?!!」

突然の叫び。僕は驚いて、こけそうになる。

「多目的室にギターは置いてあるって・・・おいおい・・・」

なんかものすごく嫌な予感がするんだけど・・・

 

「なあ?コウ君?・・・曲作ってるし、ギター、弾けるよね??弾けるって言ってお願い!!!」

嫌な予感は的中してしまった。

 

 




次回の更新は1月10日の夜を予定しております。
今のところ、書いてて一番テンション上がったのが次の話だったりします。
次回、次々回とコウ君パートと千歌ちゃんパートを行ったり来たりします。
感想、アドバイス等書いていただけると幸いです。

[以下作者あとがき]
読んでいただいてありがとうございます!
2018年、本格的に欲しい機材のために貯金を決意しました。
ほしいベース高くね?

いよいよ新歓始まりましたね。
しかし、ただ事では終わらせないっていう展開になってまいりました。こっからアツイ展開に持っていきたいですねえ(白目)

作中「感動」って何だろうということを書きました。
この部分は作者自身の考え方をベースに書きましたが、個人によって、異なるところもあるのではないかと思います。
そんなズレも楽しんでいただければと思います。

おかげさまでUA、お気に入りともに想定以上いっておりまして、僕自身びっくりしてます。登録してくれた方、アクセスしてくれた方、本当にありがとうございます。

これからも見てくれた皆さんが少しでも楽しめるような物語を書いていきたいと思っております。
これからもよろしくお願いいたします。


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第8話「新入生歓迎会(2)」

「これどーするー?」

他の部活は他の部活でいろんな準備を進めている中、私たちは私達で音源や機材の準備を進める。

 

今日のセットリストや衣装、演出。

ライブのための計画は綿密に立ててきた。

これが、私達の今の姿だ。

三年生がいなくなった今、私達の姿を見てくれているみんなに焼き付けたい。

 

それが、新入生や見に来てくれているみんなを感動させることになる。

そしてコウ君を感動させる。それが今の私たちにできることだ!

 

そして、あと私たちにできるのはコウ君が来てくれるのを願うことだけだ。

大丈夫! きっと来てくれる!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あと3時間で二曲って正気かお前ら!?」

荷物の搬入時間を考えたら、あと3時間もない。

僕は多目的室で半強制的にedwardsのレスポールタイプの黒いギターとマルチエフェクターを渡され戸惑う。

セッションは問題ないにしても今から二曲はさすがにやべえ!

僕の目の前にはアキラ、クラスメイトでドラムのシゲキ、ベースの二年生ユウキ君が土下座している。

ほんとやめてくれ。

 

「たのむ!もうお前にすがるしかないんだよ!リードギターのやつが事故に巻き込まれてこれんくなってるんだ!俺はバッキングのギターとボーカルだからかわりようがないし!」

 

「いや、その同級生のお見舞いはいいのかよ?」

「車にのってたんだけど、大したケガじゃないそうだ。でも、病院での検査があるらしくて、絶対時間内には来れない。だから、もうお前しかいないんだよ!!」

頭が痛くなってきた。

ここまで頼まれて、断れるわけないじゃんか・・・

 

「・・・曲は?」

「THE ORAL CIGARETTSの狂乱 hey kids!!とTOTAL FATのPARTY PARTY!!ありがたい!!!」

この二曲ともベースのコピーをしたことがある。

ハヤテと趣味で練習して、その時ギターを少し教えてもらった。

やっといてよかった・・・。過去の自分に感謝しながらギターの練習に入るのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「私、ジュースかってくるね!」

「うん!準備もなんとかなったし大丈夫!千歌ちゃん、私のもお願いしていい?」

 

私は曜ちゃんからお金をもらうと部室を出て、自販機の方に向かう。二階の多目的室から、エレキギターの音が聞こえる。あそこ、軽音楽同好会が学校に無理言って借りてるってアキラ君が言ってたのを思い出した。

ちょっと覗いてみよう。

 

ん?

 

なんであそこにコウ君がいるんだろう?

しかもベースじゃなくて、ギター・・・だよね?あれ。

来てくれたんだっていう安心感とともに、部活に入るつもりはないって言っていたコウ君の姿が浮かんで疑問が残るばかりだった。

 

でも・・・一生懸命なコウ君、ちょっとかっこいいな・・・

 

ハッとして、私は自販機に急いだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「行けそうか?」

 

一時間経過。ベースをコピーしていた時の記憶と実際に耳元で鳴らしたときの音を頼りに必死にリードの音を拾う。

 

よし、これでいい。

ごまかしにはなるし、原曲通り100%弾けているわけではないが、これで何とかなる!

あと一時間。後は合わせてみて確かめるだけだ!

 

「できたぞ!!!あわせよう!」

「「「おう!!」」」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「新入生の皆さん!入学おめでとうございます!そして、今から、新入生歓迎会を始めたいとおもいます!」

校長先生のあいさつの声とともに司会の子にバトンタッチ。

 

在校生と新入生はともに拍手する。ついに私たちの勝負が始まった。

 

Aqoursのみんなにコウ君が来ていてくれたことを報告するとみんな喜んでいた。

「あとは、私たちの輝きをコウ君に見せよう!」

そういうとみんなで

「「「「「「おー!!!」」」」」」

掛け声を上げた。気合十分!!!!

 

新入生歓迎会は体育館の中で行われている。

全校生徒が余裕で入る体育館の中にはステージと運動スペースがあけられていて、声がよくとおる。

新入生や見に来た人たちは体育館の後ろから半分で区切られたスペースで自由に見ていいことになっていて、出演予定の部活は前半分のスペースの横側に部活ごとに固まっている。

 

前半は運動部を中心とした部活紹介。この部活は空けられた運動スペースを使う。

後半は演劇部や吹奏楽部、チアダンス部や応援部、そして軽音楽同好会や私達といった、ステージを使う予定の部活動が紹介に登壇する。

その際はステージ前まで見ている人たちが来てもいいことになっていた。

機材などの都合もあり、軽音楽同好会はトリ前、私たちは大トリだった。

 

どの部活もすごいなあ・・・一生懸命できらきらしてる!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

運動部の紹介を聞きながら頭の中では必死に音を巡らせる。

曲を作るときの癖か、こうしたらもっとかっこいいんじゃないかとか、あれを入れたいとか余計なことが浮かんでしまう。

 

運動部の発表が終わる。出番が近い。

結局紹介の声や余計な考えのせいで集中して確認できなかった。

休憩と転換。音作りは、もともと持ち主が作っていたプリセットに修正を加えて設定した。

 

「あれ?コウ君!!」

梨子ちゃんが声をかけてくれる。

「ごめん。ちょっと今忙しい。」

申し訳ないがかまっている時間はなかった。

「う、うん。私たちのライブが終わったら、部室来てね?」

「わかった。」

僕はギターを持って体育館の外に一度出る。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いよいよ軽音学同好会の出番だ。今は裏手で入場準備。

こんな緊張はデビュー前のオーディションライブの時ぶりだ。

 

アキラが肩をたたきながら言う。

「本当に済まんかった!気楽に肩の力抜いてやってくれ!」

僕を気遣ってくれているんだろう。でも。

 

「ありがとう。でもやるなら本気だ。妥協は絶対に許されない。」

アキラはそれ以上何も言わなかった

 

司会の生徒の声がした。

「さあそれでは、皆さん暴れていただきましょう!軽音楽同好会のライブです!!!」

 

かかる入場SE。

曲はHello sleepwalkersという僕の大好きなバンドの「猿は木からどこへ落ちる」

僕のテンションは緊張と合わせて振り切れた。

やるしかねえ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ステージ上。

音響を担当してくれている先生に合図を出してSEを切ってもらう。

 

ズクタンっ

最初のドラムの合図が入る。ここはC。

かきならす。

 

「どーも!!!軽音楽同好会と申します!!!どうぞよろしく!!!!!狂乱! Hey!

Kids!」

 

まばらな拍手。一瞬の静寂。

 

自分を見せつけろ。僕を、僕たちを、見ろ!!!!

 

フォーカウント。

初めから飛ばすぞ!!

軽快なギタースラップから入る。ハイハットのリズムに合わせる。

 

ダン!

ベースも合流する最初のキメ!成功だ。

 

そして、この曲最初のキメ台詞。

アキラどう出る?

「かかってこい!!お前ら!!!」

よし!!!

うまくいってる。後ろから前に出てくる生徒が増えた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「何だろう、なんだか、飛び跳ねたくなってくるね!」

軽音学同好会の演奏による爆音が響く中、梨子ちゃんが話しかけてくる。

「そうだねとっても楽しい!!」

「わたしたちも行っちゃおうか!」

曜ちゃんがいたずらっ子みたいに笑って私と梨子ちゃんの手をつかむ。

「ちょっと!私もいくわよ!」

「善子ちゃん待つずらあ~!」

「ルビィもおいてかないでええ!!」

そうして私たちはまだ人が集まり切ってない最前へと向かう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

間奏に突入する。

ミスはあるが悪くない。いい感じだ。

 

でもまだだ、まだ。

全然足りない!

もっと、もっと僕を、いや、俺を!

高ぶらせろ!

 

一曲目が終わる。MCでは軽音楽同好会の紹介文が入る。

 

「・・・って感じで!軽音楽同好会は活動しております!そして、今回、急な事故でこれなくなったうちのバンドのギターに代わり、急きょ、リードギターを引き受けてくれましたメンバーを紹介します!!!」

 

ん?聞いてないけど。

 

「現在活動休止中の大人気バンド、Seekerのベーシスト!宮木 コウ!!」

 

一気にどよめきが広がる。

「今回は急きょのことだったので、メンバー全員で全身全霊、お願いし、本職のベースではなく、リードギターをやっていただいております!」

 

おま、これで、新入生にまで知られる羽目になってしまった・・・

そういえば、練習に必死だったせいで口止め、忘れてた・・・

でもそのおかげもあり、新入生はさっきよりもたくさん前にやってきた。

 

ふとステージの下に目を向けるとAqoursのみんながそこにいた。

梨子ちゃんが手を振ってくれる。

僕はそれに対して軽く微笑んで返した。

 

「次の曲はさっきよりもアツい曲をぶつけるんで!もっと元気なとこ、俺たちにみせてくれ!!PARTY PARTY!!!!」

 

ドラムセットにセッティングされたカウベルを鳴らす。

準備運動だ・・・さあここからだ!

全員で叫ぶぞ。

 

「========!!!」

 

重い音。楽しいリズム。

聞こえてくる声は俺たちと一緒にわかりやすいフレーズを口ずさむ声。

 

さあもっとだ、もっと!!

 

一番は曲の遊び方を俺たちが観客に教える時。

 

二番は観客が俺たちと一緒になって遊ぶ時。

 

そして、この盛り上がりを無くさないままギターソロに入る。

 

こい!俺を見ろ!!!

 

ソロと同時に前に出る。

 

「遊ぼうよ!いっしょにさあ!」

 

自分でも気づかないうちにボーカルのマイクを奪って叫んでいた。

その瞬間前にいた人たちが僕の前に群がる。

 

ソロの目玉の早弾きを弾きまくる。

原曲に比べて、正しいか正しくないか、そんなの関係ない

これが今俺の出せる音だ!!

 

ステージの下から拍手が響いた。

 

やっぱり、このぶっ飛んだ空間が僕は大好きなんだ。

 

これで人に感動を届けられたらどんなにいいだろう。

 

想いが届くことがどんなにうれしいことだろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私達は人がたくさん押しかけて来たところで端の方に逃げる。

すごい熱気だ。

私達のライブとはまた全然違う光景。

 

「これが、コウ君の見ていた景色なんだね・・・!」

私は初めて見る光景にワクワクした。

曜ちゃんがつぶやく

「すごいね・・・!!」

善子ちゃんはステージを凝視。

「これよ!このアツさが魅力なのよね・・・ROCKの!」

花丸ちゃんはびっくりして大きな目がさらに大きくなっている。

「これが・・・コウさんの見てる景色ずらか・・・」

ルビィちゃんはただただ圧巻されてるように言う

「もっとかもしれない。プロでやってたんだから・・・」

 

そして梨子ちゃんは。

コウ君をずっと見ていた。

「かっこいい・・・・」

だれに聞かせるでもなくそうつぶやいていた。

 

何でだろう。なんかチクチクする。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ラスサビがおわる。

 

そしてアウトロ

 

キメ

無事に決まる。

 

良かった。なんとかなった。

「軽音楽同好会でした!!!本当にありがとうございました!!!」

初めの拍手とは比べられない拍手。

終わった瞬間僕はギターをスタンドに立てかけその場にへたりこんでしまった。

 

一瞬だけへたり込んでしまってから、すぐに立ち直る。

片づけないとな。

「大丈夫か。お前、演奏中意識吹っ飛ぶタイプだったんだな。」

「ああ。大丈夫。片付け、しなきゃな。」

「大丈夫だよ!こんなに楽しかったのは久しぶりだ、お前は休んでてくれ。みんな手伝ってくれるらしいし。」

「ああ、ありがとう」

 

裏の方に行くと梨子ちゃんがいた。

「みてたよ!すっごくカッコよかった!」

 

「ありがとね。めっちゃくちゃつかれた・・・」

 

「ふふっ。でも次、私たちのライブ。約束だから見ててね。感動させるものを見せつけるから。」

 

本気の声が僕の脳内に響く。

 

「うん。しっかり見るよ!」

 

どうか僕に。もう一度。

 

感動の感覚を教えてくれ。

 

取り戻させてくれ。

 

本当の僕は、本当の僕たちSeekerは、絶対にこんなもんじゃない。




次回の更新は1月13日(土)の夕方ごろを予定しております。
感想、アドバイス等ありましたら、よろしくお願いいたします。

また、作品中で紹介させていただいた楽曲の公式PVのURLを貼らしていただこうと思います。どの曲も本当にかっこいいので、曲に合わせて読んでいただけると、さらに楽しめるのではないでしょうか?

猿は木からどこへ落ちる/Hello sleepwalkers
https://youtu.be/5dPpdvPM2FM

狂乱 hey kids!!/THE ORAL CIGARETTS
https://youtu.be/C-o8pTi6vd

PARTY PARTY/TOTAL FAT
https://youtu.be/C-o8pTi6vd8

[以下作者あとがき]

冬コミに行っていた後輩に頼んで買ってきてもらったCDを昨日やっと受け取りまして、やっと聞けました。こんばんわ、作者です。

「はみ」さんという方のラブライブ楽曲のアコギアレンジ集なんですが、ボーカルなんて一切入ってないんですけど、ものすごくいいんですよ。すごく落ち着けるというかなんというか・・・。はみさんの演奏力の高さ、そして、ラブライブ楽曲の作成陣のレベルの高さを痛感します。

今回の話はものすごくノリノリで書けました。
どんな場所でも、どんな種類でもステージを経験したことがある方ならなんとなくわかるかもしれません。
ある意味病みつきになりそうな感覚なんですよね、ステージの上って。

本当はもっと書きたかったところもあったりするんですが、著作権等の問題を含んだものになりますので泣く泣くカットいたしました。

ステージの上の感覚を上手にかけてはいないと思いますが、皆さんに伝わると嬉しいです。

次回はAqoursのステージの話となります。正直筆止まりそうとか言えない。

頑張ルビィ!


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第9話「新入生歓迎会(3)」

第9章「新入生歓迎会(3)」

 

「皆さんお待たせしました!ラブライブ前回大会優勝者にして、本校と統廃合した浦ノ星が生んだ、スクールアイドルグループの登場です!皆さん準備はいいですか!?」

 

「「「「「「いえーーーーい!!」」」」」」

 

司会の生徒とみてくれているみんなの掛け合いが聞こえる。

さっきの軽音楽同好会の演奏で一気に会場のボルテージが上がった。

 

暗くなるステージ。

私たちはステージに上がると円陣を組む

 

「さあいくよ!」

軽音学同好会がぶち上げてくれたこの場所をさらに私たちが高める。

「私たちは私たちの輝きを!ステージにぶつけよう!」

「「「「「「おー!!!!!!」」」」」」

 

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「Aqours!サーンシャイン!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

暗くなったステージの下。

前方の端っこに僕がいた。

 

すると、隣の女の子に話しかけられる。たしか千歌ちゃんの友達で浦の星だった子か。

「宮木君!お疲れ!千歌たちの応援するなら、これ持たなきゃね!」

100均で売ってるタイプのペンライトを渡される。青色。

「ありがとう。」

そうしているうちに司会の生徒がAqoursの名前を告げる。

ステージが始まる。

 

すると、隣の女の子が興奮した様子で口を押えながら、驚いた声を上げる

「え、ちょっと待って!!今日のあの衣装まさか・・・!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

PAをお願いした先生とも打ち合わせはばっちりだ。

 

そして今日の衣装は。

 

私達を象徴してくれていた服。

 

浦ノ星女学院の制服を選んだ。

 

私達の想いは、あの場所で育まれたものだから。

誰かに伝えたいなら、私たちの想いを込めたかったから!

 

「「「「「アクアーーーー!!!!!」」」」」

 

たくさんの声援が聞こえる。

これが私たちが作り上げてきた今につながっていってるんだね。

 

「皆さんこんにちは!私たちはスクールアイドル部所属、Aqoursです!!!」

 

割れんばかりの拍手。目の前に広がる青い光の海。今日見てくれている人の中には浦の星の時からの私たちの友達、この学校に入ってからできた友達、たくさんの人がいる。

 

大丈夫!いける!

 

そして、浦の星に迎えることができなかった新入生の子たちへ。

 

そんなすべての人へ私たちの想いを届けたい!!!!

 

「さっそく一曲目![君の心はかがやいてるかい?]!!!」

 

イヤモニから曲が流れだす。

さあ、始まりだよ!!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ステージの上では6人が想像以上に激しい踊りを披露する。

 

全員の声はとても澄んで響いていた。

それがアンサンブルを奏でる。

 

これを踊りながら歌うのは単純にすごい。

 

こんなのちゃんと練習しなきゃできない芸当だ。正直侮っていた。

 

なぜだかわからないけど僕は目の前で起きているライブに目を奪われてしまった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「一曲目は輝きをテーマに作った曲でした!」

拍手が聞こえる。

メンバー1人1人の名前を呼ぶ声も。

私達を見てくれているすべての人が私たちには愛おしい。

 

梨子ちゃんが胸ポケットから原稿を出し、部活紹介を始める。

その間に給水して次の準備だ。

 

「じゃあみんな?準備はいいわね?」

私達は目で合図を出し合う。大丈夫。いける。

 

「わたしたちを高みに導いてくれた曲です![water blue new world]!!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

静かなボーカルから始まった曲は、確かな力強さを感じさせる。

 

動かなきゃ、何も変わらない・・・。

 

そうだ、僕はあの時。

はじめてベースを持った時。

リサさんに出会った時。

「変わろう」って思ったんだ・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ありがとうございます!」

 

「「「「「わあああああああ!!!!」」」」」

 

会場から声が響く気が付かなかっただけで、こんなにもたくさんの人が前に来てくれた。

声を出してくれた。

 

これが私たちの輝きなんだ。

コウ君はどう思ったんだろう。

 

私達はこんなもんじゃ終わらないけどね?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

千歌ちゃんが話し始める。

 

「実は今回!ある曲のカバーを私たちはさせていただきました。最後に聞いてください!」

 

梨子ちゃんが壇上からいなくなったと思うと、ステージの下に配置されているピアノの所にあらわれる。

 

まさか。

 

「Seekerで[花束]!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

優しいピアノが聞こえてくる。

 

ここから先はコウ君の心を揺らすためのライブだ。

この曲には激しい踊りは入れていない。

合唱をベースに曲に合わせたゆったりとした雰囲気の踊り。

 

この曲がコウ君にとって、いや、Seekerにとって大切な想いを乗せたことは曲を聞けばわかった。

だからこそ、私たちはこの曲を歌うことを選んだ。

 

大切な想いを誰かに伝えたいから。

 

「優しい風が 僕を包んでさ」

 

ただ祈るように。やさしさにあふれた声を。

私はそう思いながら歌う。

 

「眠りにつけた日があって」

 

――――自分の気持ちがわからなくなってたとき。

救ってくれたのは、友情を思い出させてくれた千歌ちゃんが、鞠莉ちゃんが、Aqoursのみんながいたから。

私は強くなってるよ!

 

「そんな日は安らかな雨」

 

――――ピアノを弾きながら歌うのは初めて。

うまく歌えるかはわからない。だけど。

私は手を伸ばしたからここにいる。

この思いは傲慢かもしれない。だけど。

助けてあげたい。

届くように。コウ君に私の想いが。

乗せるように。コウ君が大切な人へこめた想いを。

 

「許されたような気がして」

 

――――ほかの人からは変に聞こえるかもしれないマルの方言。

でもAqoursのみんなが認めてくれたから。

こんなオラがアイドルなんて今でも疑問に思うよ。

でも今は楽しい!

コウさんにもわかってほしいズラ!

 

「僕は今ここにいる」

 

――――いつもお姉ちゃんの後ろに隠れてた。

でも、なりたいって思ったスクールアイドルに今はなれてる。

今、お姉ちゃんはいない。

だから、もっと強くなりたい!

 

「戻りたくない あの頃には」

 

――――自分がうけいれてもらえるか、わからなくて怖かった。

だから、堕天使でいようって思った。

だから、学校に行けなかった時もあった。

誰かに認めてほしい。でもなかなか認めてもらえなかった。

Aqoursに入って私は居場所を見つけることができたの!

あなたはAqoursに入る前の私なの?コウさん・・・?

 

「僕は一人だった」

二年生のみんなのアンサンブル。

おびえてるわけじゃない。だけど、みんなの声が少し震えて聞こえた。

 

「作り笑い浮かべ」

「何しているか分からず」

「意味がないことくりかえして」

ワンフレーズごとに二人ずつでアンサンブル。

ここから、この曲のサビ前のフレーズだ。

 

「僕は 僕は 僕は」

全員で歌う。

私達も自分がわからなくなる時がある。

 

コウ君もそうだったんでしょ・・・?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この曲は僕の感謝の曲だ。

あの時、何もわからなかった自分を助けてくれたSeekerに、そしてリサさんにあてた感謝の曲だ。

 

何故だろう。昔の自分をいつもよりも鮮明に思い出す。

 

何故だ。涙があふれてくる

 

頭の中で今まで浮かばなかったメロディができていく。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

サビ。ここまで来たら後は勢いだ。

全ての人に届け!

ここまで応援してくれた私たちの感謝の気持ち。

コウ君に届け!

私達の輝き!

 

澄んだピアノの音色が力強さを帯びて体育館に響く。

 

「どれだけの言葉で君に言えばいいだろう

書きなぐった一ページはゴミ箱に捨てたんだ

色んなことがあったね?

そのすべてが宝物だから」

 

私達は思いを一つにして歌う。

みんながみんな誰かに感謝してるから。

 

私はコウ君と再会できたことも実はとっても嬉しいんだからね!

 

「言葉より 花束を君へ送ろう」

――――最後は私のソロ。

ピアノと一緒に歌い上げる私たちの想い。

これが、私たちの届けたい、感動だよ。

私達の届けたい、想いだよ。

 

ピアノでアウトロを占める。

 

会場内は入って来た時よりも大きな拍手と歓声に包まれた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「今日はありがとな!おかげですげえいいライブできた!」

「ああ、問題ないよ。僕も楽しかったし。」

僕は今、軽音同好会が使ってる多目的室にいる。

Aqoursのライブが終わった後、後片付けを手伝うことになった僕たちは自分たちの持ち場を早めに終わらせ、今は休憩中だ。

 

「この後、暇か?打ち上げでカラオケ行こうぜ!今日のお礼におごるぞ!!」

アキラが元気に言う。

しかし、この後はどうしても外せない用事がある。

 

「すまん、今日はきついわ。」

「まじかよー!来週は?」

「空いてるよー。」

「おっけー!!!来週な!お前らも空けとけよ!」

なんか明日の予定が入った。まあいいや。

 

時計を見たら、終了予定時刻から15分くらい過ぎてる。

「ほんじゃ、行くわ。じゃな。」

「おー!また明日ー!」

スクールアイドル部に行かなくちゃな。

この思いは今伝えないと。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」

私達はライブ成功の祝杯をジュースで上げた。

「楽しかったね!」

曜ちゃんが言う。満面の笑み。

わたしもすごく楽しかった!

 

「ルビィも先輩かあ・・・新入生の子、いっぱい入ってくれるといいなあ!」

「そうだね!マルはちょっと心配だけど・・・。そういえば、コウさんは来るずらか?」

 

「わかんない。さっき、あとで行くとは言ってたけど・・・」

梨子ちゃんが心配そうに言う。

「ここまで来たら、信じるしかないよ!」

「そうだね。」

私が言うと、梨子ちゃんは微笑む。

信じよう。来てくれるって。

 

善子ちゃんは何か考え事をしているようだった。

 

来なかったら、ベースの練習中にいろんな邪魔してやるんだ!!!

私がそう決意した時、部室の引き戸があいた。

 

「おじゃまします。」

真剣な顔でコウ君が言う。

 

「どうだった?私たちのライブ!」

梨子ちゃんが言う。みんなの緊張感が伝わる。

 

「その前に聞かせてほしいんだ。」

うへえ!!

わたしは心の中でずっこけそうになる。

 

「何であの曲を選んだんだ?Aqoursは持ち曲結構あるだろ?僕らの曲だってもっとたくさんある。なのになんで?」

 

梨子ちゃんが答える。その質問を待っていたかのように。

 

「なんでかわからないよ?だけど、一番素直にコウ君の気持ちがわかる曲っておもったから、かな。」

 

「・・・・・・・・・」

コウ君は黙ってしまう。しばしの沈黙。そして口を開く。

「あの曲は、僕が自分の大切な人に向けて書いた、初めて作った曲なんだ。」

ぽつりぽつりと独り言のように言う。

 

「みんなのライブを見て、昔のことを思い出したんだ。なんで曲を書いたのか。なんで僕がバンドを始めたのか。また思い出せた。」

「あの時の自分の想いを少しだけ思い出せた。ありがとう。」

 

大きく息を吸う。

 

「・・・僕の負け。みんなのライブで感動しちゃいました。」

 

・・・・・

 

「「「「「「やったああああ!!!!」」」」」」

 

私達は勝利のガッツポーズ。

 

「じゃあ、これでコウ君の入部決定だね!」

「ふふ!そうだね!」

そう言って梨子ちゃんがコウ君の前に行く。

 

「私たちは何度だって手を伸ばすよ。コウ君が折れそうになったら、手を伸ばして。私たちが必ずつかむから!」

 

「ようこそ!スクールアイドル部へ!」

 

こうしてコウ君はスクールアイドル部の一員となり、私たちの曲を作ることになった。

 

 




次回の更新は1月16日(水)の夜を予定しております。
展開に一息ついたところで次回は番外編っぽい話を投稿しようと思っております。
感想、アドバイス等ありましたら、書いていただけますとありがたいです

[以下作者あとがき]
本日センター試験でしたね。受験生の方が少しでも実力を発揮できたことを祈ってます。
作者はなんの陰謀か大学で単位に関係ない試験受けてきました。なぜだ。

そして、みもりん熱愛おめでとう!個人的に祝福したいニュースです!

やっとこさ、この小説の展開にひと段落つけられました。
完成してはいないもののある程度の構想はしておりまして、こつこつ続けたいと思っております。

今回、作中に初めて自分で書いた歌詞を載せました。
今回書いた歌詞はある意味自分の経験をベースにしています。

自分で過去に作ったことのある曲の歌詞でどこにも上げたりはしていないやつです。
そのうち、ボカロとかで打ち込んだりしたいんですが(笑)

特にこれといったひねりのない歌詞だと思いますし、曲も上げてはいないので、単純に詩を読むことと同じような状態になってしまうと思いますが、そういう面でも読んでくださっている皆さんにアドバイスを頂けたらうれしく思います。



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番外編1「煩悩がありあまる」

今回は番外編となります。今まで読んでない方でも楽しめるかと思います。感想、アドバイス等ありましたらおねがいいたします。


「コウ君―!洗濯物もってきたよー!」

ノックもなしに部屋の扉が開く。

 

部屋で本を読んでウトウトしていたら、千歌ちゃんが部屋にやってきた。

「だからノックしてよー…」

 

新歓が昨日で今日は日曜日。春の日曜日の昼下がりほどいいものはない。暖かいしのんびりできる。

かのビートルズは眠りに向かう前の一番気持ちいいウトウトを「Golden slumbers」という曲に残した。

ちなみに和約は「黄金のまどろみ」という。

 

こんな日はひと眠りした後に、あの子犬二匹と一緒にお散歩したいところだ。

まあ、勝負に負けたからそろそろ曲作り始めないといけないんだけど。

 

それをこの普通怪獣め・・・

 

「うん、ありがとう・・・そこ置いといて・・・」

「まあたウトウトしてる!みとしー行く約束忘れてないんだからね!」

そう言い残してドタバタと去っていく。

 

まあ、こんなふうにしてても仕方ないし、子犬のお散歩でもいくかあ・・・

 

この時の僕の選択があんな事件を引き起こすとは思わなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「おかえりい」

子犬たちの散歩から帰ってきたら洗車中の美渡さんが声をかけてくる。

「ただいま帰りました、姉上」

「うむ、くるしゅうない。」

バカみたいな即興コントができるほど、美渡さんとは仲良くなれた。

リサさんとキリヤを思い出す。懐かしいな・・・

 

「あ、そうそう。コウ気を付けなよー?なんか今日のコウの星座、女難の相が出てるってさー!」

僕の星座・・・しし座か。

「まさか。僕はテレビの星座占いはあんま信じないですし。」

「これがたまーにあたるからこわいんだよねえ。コウの周り女の子一気に増えたし。」

「ははは・・・。まさかあ・・・。」

ちょっと気を付けようと思ってしまった。

 

部屋に戻ってベースの練習をしよう。

そう思った矢先、さっき千歌ちゃんが洗濯物を持ってきてくれたのを思い出す。

あー、片づけないと散らかる一方だしなー・・・

とりあえず、いつも通り分けてあるところに入れることにしよう。

 

Tシャツは一番上で、ジーンズは一番下、下着と靴下は二段目・・・好きなバンドの黒のパーカーはよく着るし、ハンガーにかけて出しておこう。

 

と掛けようと思った瞬間フードの所から何かが落ちる。

 

・・・パンツだ。

 

オレンジの縞々ベースにちっちゃい白いリボンのついた。

 

僕のじゃない。女性もの。

 

落ち着け。これは幻覚だ。目をぱちくりさせる。

 

うん。現実だ。

 

一呼吸。

 

どうすんだこれえええええ!!!!!

 

心の中で大絶叫する。正直に返す?いや、どう言い訳しても嘘くさくなる。

こんなことなら犬の散歩なんか行かないで、すぐに片付けるべきだった。

 

まさかこんな形で女性ものの下着を見ることになろうとは・・・

 

僕だって健全な高校生だぞ!!

 

こっちに来てから、家族は叔父さん以外みんな女性だし、そっちの意味では、割と禁欲してる方だと思う。

ていうか、宿直の手伝いの一環で旅館の警備のまねごとをすることあるんだけど、たまにマジで喘ぎ声が聞こえることがあって、煩悩はたまる一方だ。

 

これを持ち続けるのは理性的にも倫理的にもヤバイ。っていうか、この絵面だけ切り取ったら完全に下着泥棒だ。

下手したら家を追い出される。

何とかしないと・・・

 

こうして、[こっそり下着返却大作戦]をはじめるのであった。

 

まず、このパンツはだれのなんだろう。

叔母さんっていう選択肢はまず排除。下着自体が学生層向けのデザインだし、いくら幼く見えるからといってもさすがにこの下着の叔母さんはいくら僕でもドンびく。

そういう意味では志満さんも排除していいと思う。なんかイメージに合わない。

ものすごく申し訳ないイメージになってしまうけど、AVでいうエロいお姉さん的なイメージがぴったりなのだ。

そういう意味じゃある意味、志満さんが一番自分の理性的な意味ではアレなのかもしれない。

 

ということであてはまりそうなのは千歌ちゃんか美渡さん。パッと考えてどちらがあてはまりそうか考えたら、千歌ちゃんだ。

まあある意味、一番どうにでもなりそうな感じではある。美渡さんだった場合、おそらく失神するまでプロレス技掛けられる・・・

 

というわけで、平静を装いながら、千歌ちゃんの部屋へ向かう。ベストなのはいない時に部屋に忍び込んで30秒以内にミッションを完了させて部屋から出ることだ。僕は部屋着のジャージのポケットに例のパンツをねじ込み、自分の部屋を出る。

 

 

千歌ちゃんの部屋の前。ただでさえ女の子の部屋に無断で入るのは緊張するのに、今の状況はもはや犯罪すれすれな気がしてくる。

ノックで確認しようとした瞬間

 

ガラッ!

 

目の前の引き戸が開く

「あれ?コウ君何してんの?」

「うわあ!」

千歌ちゃんが僕の前に現れる。

「うわあ!は私のセリフだよー!こんなとこ突っ立ってたら私も驚いちゃうよ」

「す、すまん」

「で?なにしにきたのー?みとし―だったら今日じゃもうおそいよ?」

「えっと、歌詞のイメージとかどんなんか聞こうと思ってさ。あと、メロディの簡単なイメージはできたからきいてもらおうかなって」

 

嘘である。

っていうか口から出まかせにもほどがある。

仕方なく自分のスマホの中に録音したデータの「駄作集」と名付けたものをきかせる準備をする。

 

「え、ほんと?もうできたの?聞きたい聞きたい!わたし、飲み物とってこようと思ってたからちょっと中でまってて!」

 

よっし!これで中にはすんなり入れた!あとは適当にしまって、ごまかして帰ればいいだけだ!

部屋に入る。多分あそこだ!あの小さい衣装ケース!

 

ビンゴ!あとはしまえばいいだけ・・・・

 

「千歌ちゃん、今だいじょう・・・」

 

窓の外に梨子ちゃんがいる。

 

改めて今の状況を確認してみよう。

 

右手に女性もののパンツを持った男子高校生が女子高生の部屋で女子高生の衣装ケースをあさっているように見える状況。

そして、それを隣人の、共通の友人にみられている。

 

僕と梨子ちゃんの目が合う。一瞬の静寂。そして。

 

「きゃああああああ!!!」

 

梨子ちゃんの声が頭に響く。

「ちょ、これには訳が!!!!」

「聞こえない!きこえない!キコエナイ!」

梨子ちゃんはその場でフリーズして、耳を手で押さえながらキコエナイ!って連呼してる。

 

そして、そこに千歌ちゃんが帰ってきた。

「梨子ちゃん!?どうしたの!?」

「コウ君が!コウ君が!」

「お願いだから訳をきいてくれえええええ!!!!」

 

唐突だがこの世には混沌(カオス)と秩序(コスモス)があるという現代文の知識を思い出した。

 

このことをカオスっていうんじゃないかな・・・

僕はそう思うしかなかった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・で、パンツをこっそり返そうと千歌ちゃんの部屋に来たってことね。」

あれから、何とかして正気を取り戻してもらって僕は梨子ちゃんに千歌ちゃんの部屋に来てもらった。

千歌ちゃんは梨子ちゃんの横で真っ赤になってぷるぷる震えている。

 

「本当に申し訳ございませんでした!」

僕は土下座。だってそうするしかないもの!

 

「ない話ではないわね。千歌ちゃんそそっかしいし。まあパーカーは盲点かもしれないけど。」

「うう・・・コウ君にパンツ見られた・・・」

 

「とりあえず、そのパンツどこ?」

僕は無言で衣装ケースを指さす。

千歌ちゃんは確認するために衣装ケースの方に向かう。

 

「このパンツ?」

千歌ちゃんが例のパンツを僕と梨子ちゃんに見せてくる。梨子ちゃんは指で目を覆いながらもチラ見してる。僕は目をそらしながらも横目にちらり。

 

「ねえ・・・このパンツ、私のじゃない。」

へ?

「このパンツ、私のじゃない・・・よ?」

「なんだって・・・?」

 

「え、じゃあこれ誰の・・・?」

 

そこに引き戸の外から志満さんからの声がする。

「千歌ちゃーん。ちょっとお手伝いおねがいしてもいい?」

「わああ!志満ねえ今は入っちゃダメ!」

 

「あらあら?・・・何してるの?」

所有者不明のパンツを広げて持つ妹。その妹の前で正座していつでも土下座できるような姿勢の居候。そしてそれを見ている隣人。

・・・ぼくら何してるんだろう。

 

「あらあら・・・?千歌ちゃんの広げてるソレ・・・私のよ?」

「「「志満(さん×2/ねえ)の!?」」」

 

そして、時が止まったかのような静寂。

誰かがザ・ワールドでも使ったんじゃないかな。それだったらどれだけよかったことか。

 

「あなたたち、そこに正座。」

普段絶対にお目にかかることがないような冷たい目をした志満さんがそこにいた

 

「「「へ?」」」

「千歌ちゃんに梨子ちゃん。正座して。」

「「は、はい!」」

 

志満さんの冷たい声が響き渡る。

どうやら僕たちは一番敵に回してはいけない人たちを敵に回してしまったらしい。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あれから三人で事情を説明した。そして、お叱りを受けた。

結果的に梨子ちゃんはお咎めなし(当たり前か)

僕は正直に行動しようとしなかった罰と黙っていることの条件として、一週間志満さんの仕事を無償で手伝うことになった。(宿直の業務でお小遣いもらってたんだけどなあ・・・)

 

千歌ちゃんはそのそそっかしさを志満さんにこっぴどく叱られた後、女将修行と題してどこかに連れていかれた。夜の9時ごろに帰ってきた千歌ちゃんはものすごく疲れていた。

ちなみに花丸ちゃんのところのお寺で「修行」していたらしい。ナムナム。

 

女難の相は本当だったらしい。これからはテレビの星座占いも馬鹿にしないでちゃんとみよう・・・。そう決意させられた。

 




次回更新は1月20日(土)の夕方ごろを予定しております。
今回作中で紹介させていただいた曲はこちらになります。
The Beatles/Golden Slumbers
https://youtu.be/rZSfyykbUQE

[以下作者あとがき]
絶賛学校のテスト勉強の期間ですよ。作者他に勉強したいこととかあるのになあ・・・。
おまけにこんな時期にレポート二本追加とか正気でしょうか?いや正気じゃないだろう(反語)
改めて、ストックを作ってよかったなあって思いました。

今回は番外編ということで日常のドタバタ的な話を書きました。
割とどこにもありそうな感じの話でしたが、きれいにまとめられたんじゃないかな?と個人的にはおもっております。

この話を書いてるとき、そういえば男子高校生的な視点が結構抜けてるかもなあって思いまして、これから本編かいてく中でもキャラを掘り下げられるような視点を大事に書いていきたいなあと思いました

また、今回の話のタイトルは日本の某有名バンドの某有名曲をもじりました。まあ一発で分かりそうなタイトルですよね。あそこのベーシストすごく好きです。

次回は本編更新です。
この作品にアクセスしてくれた方全ての方が楽しめるものを作りたいと思います。これからもよろしくお願いします。感想、アドバイス等お待ちしております。


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第10話「デートの誘い」

「とはいったものの・・・」

 

僕は部屋でAqoursの今までのライブの映像を再生しながら考える。

この子たちに相応しい曲かあ・・・

 

書けるのか?僕に?

 

確か某バンドについての評論サイトに

 

「バンドマンは基本根暗でマッシュヘアを使ってブサイク面を隠した低所得の脳内ピンククソ野郎」

 

みたいなことが書かれていた。

苦笑するしかない。

 

というより、ここまで言い切られると逆にすがすがしさを感じるところもあれば、ある意味あてはまる人たちも多いので、なんも言えない部分もある。

 

それに、脳内ピンクの下りがあてはまるのは男だったら誰でもあてはまるような・・・

 

僕はついこの間起きた事件を思い出す。

 

だからこそ思うのが、僕はアイドルといわれる彼女たちとは正反対の場所にいるのではないか?ってことだ。

 

伝えたい言葉や想いに違いはないのかもしれないが、本当に僕が彼女たちの曲を作っていいのだろうか・・・?

 

あの新入生歓迎会から二週間が経過した。四月も下旬。

 

カレンダーには5月の文字が見え始めて、新入生たちの部活動見学時期もそろそろ終わりだ。もうそろそろ本入部の時期だろう。

 

今日は土曜日。千歌ちゃんは今日は練習で、僕は家で作曲作業だ。

 

入部の手続きを踏んだり、周りにスクールアイドル部に入ったことについて色々聞かれたりと何かとあわただしい期間だった。

 

その間で梨子ちゃんたちと話し合ってとりあえずの作詞作曲を一曲、僕がすることになった。

 

「Aqours・・・海・・・輝き・・・光・・・」

 

ノートに彼女たちを表しそうな言葉を連ねる。

 

とりあえずの曲と歌詞の案はあるので、それを打ち込みながら僕が気に入る感じに編曲していく。

 

疑問は消えない。

 

この曲でいいのか、とかこの歌詞でいいのか、とか。

 

創造することはいつだって戦いなのかもしれない。

 

自分となにか得体のしれないとてつもなく大きなものとの。

 

ただ黙々と曲のメロディをパソコンに僕は打ち込み続ける。

 

その時アキラから着信が入った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「なんでなの・・・?」

 

「なんでずら・・・?」

 

休憩時間。練習場所として使わせてもらっている屋上で梨子ちゃんはぷるぷる震えてる。

 

「なんで一年生の子たちはこないのよ(ずら)!?」

 

私達が直面している問題。

 

それは入部希望者や見学者の圧倒的なまでの少なさだった。

というか、いない。

 

「梨子ちゃん!私達、新入生歓迎会のアンケートの楽しかった企画は一位だったであります!」

 

曜ちゃんが右手で敬礼しながら言う。左手には実行委員会が行ったアンケートの結果だ。

 

「じゃあなんでよー!!!」

 

「梨子ちゃんの言うことももっともずら!マルも先輩ってよばれたいずらあ!」

 

荒ぶる部長と副部長。

 

この二人がここまで荒ぶるのを見るのは初めてかもしれない。

 

「あ、今年の入部状況を聞いてきたんだけど。」

 

曜ちゃんが続ける。

 

「文化部で圧倒的に強かったのは軽音楽部だって。一年生がものすごく入って、同好会から一気に部まで昇格して部室も獲得したとか。」

 

「・・・・コウさんのパフォーマンスの影響ずら?」

 

「ぽいね。入る部活を決めてなかった層があれ見て軽音部に流れたみたい。」

 

「確認するけど!あの人ベーシストだよね?!なんであんなにギター弾けるずら!」

 

「・・・プロってある程度何でもできちゃうってことよね・・・。」

 

「まあまあ、花丸ちゃんに梨子ちゃん!コウ君はうちの部活に所属してるし、大丈夫だって!」

 

わたしは荒ぶる花丸ちゃんを抑えようとする。

 

うーん、副部長の職ってやっぱり責任が重いんだろうか?

 

「それに、この学校、もともとスクールアイドル部があったわけじゃないから、スクールアイドルやりたいって子たちが少なかったのかも。」

 

「あー、それはあるかもねえ。」

 

梨子ちゃんは納得しようとする。

 

私は正直、私達らしくいれたら、どっちでもいいかなって思う。

 

ていうわけで、この問題に関しては私は楽観的だ。

 

「でも、まさか、こんなことになるとは・・・。こうなったら意地でも結果出すわよ!」

 

「やるずらあ!」

 

部長と副部長はやる気がある。よきかな。よきかな。

 

その時、部室にタオルを取りに行っていた善子ちゃんとルビィちゃんが帰ってきた。

 

「あれ?コウさん来てないの?」

 

「え、コウ君今日は家で作曲してるって言ってたけど。」

 

「ルビィ達さっき部室の窓からコウさんみかけたよ!」

 

突然の報告。

 

おかしいなー、話が噛み合わない。

 

「まさか!!」

 

・・・・・

 

「ごめんみんな、僕は軽音楽部に行くことにするよ・・・」

 

・・・・・

 

「ぶっぶーーーーー!!!ずら!!!」

 

ダイヤさんのセリフが継承されている・・・

 

このままだとコウ君があまりにかわいそうなことになりかねないので、一応フォローする。

 

「落ち着いてよみんな!さすがにそんなことはないって。約束破ったりするような人じゃないよ。」

 

「・・・まあ、それもそうね。」

 

「とりあえず、練習しよう!」

 

部員問題はこの二人の中では根深いものになりそうだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

夕方ごろ、練習に一区切りついて帰宅の時間。私たちが部室に行くとコウ君がいた。

 

ノートパソコンに向かってむずかしい顔をしている。手元にはギター。耳元は練習でいつも使ってるヘッドフォン。

 

それとパソコンとはべつに大きな箱みたいな道具が置かれていて、パソコンと接続されている。

 

「ずううらああ・・・!」

 

ヘッドフォンをそっと外し、花丸ちゃんが後ろから脅かす。

 

「うわ!・・・みんなおかえり・・・」

 

一瞬驚いてから、落ち着きを取り戻したようなそぶりを見せる。

 

私がしょっちゅうやってるので、そろそろ耐性付いたのかな?

 

うーん、でもこの手のいたずらは私の特権だと思ってた。

 

「何でここにいるの?今日家にいるって言ってたじゃん。」

 

なんでか分からないけどモヤモヤして少しいらついた声で聞いてしまう。

 

「アキラに軽音部に呼ばれて行ってたんだ。軽音部入れよーって最近よく言われる。」

 

話しながらも手は止めない。この辺りはさすがだ。

 

「やっぱり軽音楽部はいっちゃうずらか!?・・・マルたちに止める権利はないけど・・・」

 

コウ君は笑いながら言う。

 

「いや、保留にしてるよ。たまに練習見るだけでいいからっていわれててさ。まあそんくらいならいいかって。」

 

「入ったわけじゃないずらか・・・」

 

花丸ちゃんの安堵のため息。

 

「曲できそう?」

 

梨子ちゃんが問いかける。どこか不安げだ。

 

「基本的なメロディはできてるよ。ただ、何となくしっくりこなくてさ。仮で作った歌詞もあるんだけどそれも何となくしっくりこない。」

 

「ちょっと聞かせて」

 

ヘッドフォンを耳に着ける。

 

「なんていうか、悪くはないんだけど、インパクトに欠けるって印象・・・」

 

「今は基本的なリズムとメロディだけってのもあるかもしんないけど、こっからどういじろうか悩んでるって感じかな。」

 

梨子ちゃんは少し考え込む。

 

「ねえコウ君、この後時間ある?音楽室借りて編曲してみない?」

 

「いいよ。実際に作ってる子から聞いた方が作業も進みそうだ。」

 

「じゃあ、着替えるから、先に鍵借りて待ってて。」

 

コウ君は機材やパソコンを片付けると、ローラ付きの荷台みたいなやつに縛り付けて部室を出ていった。

 

「じゃあ、私は音楽室行くわね」

 

そういって梨子ちゃんは音楽室に向かおうとする。

 

「じゃーねー。コウ君に遅くなるようだったら連絡するよう伝えて!」

 

「わかったわ。」

 

二人が音楽に向き合ってるのはものすごく伝わるし、わかっていることだ。

 

だけど。

 

だけど。

 

ものすごくモヤモヤする。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「とりあえずメロディはこれでいくとして、あとは乗りやすいビートとベースラインね。メロディをなんの楽器で弾くかとかも考えなきゃいけないなあ。」

 

「アイドルの楽曲だし、バッキングのギターとピアノかなあ。ベースラインに関してはもう好き勝手に暴れまわろうと思ってるけど。」

 

「ロックバンドとアイドルだとみられるポイントが変わってくるよね。うーん、なやみどころだなあ」

 

音楽室でピアノとにらめっこしながら、パソコンから流した音を聞く。

部室にベースとギターも持ってきたかったがまあ仕方ない。ここら辺は梨子ちゃんと要相談だ。

 

「なんか、歌詞もパッとしないんだよね。僕なりにAqoursのイメージで作ろうかなって思って書いては見たんだけど」

 

「確かにありきたりって言われたらそうだよね。いつもはどんな感じで書いてるの?」

 

「変わってるかもしんないけど僕は先に歌詞を書いちゃうんだ。」

 

「歌詞を?」

 

「よく変わってるって言われるんだけどね。」

 

梨子ちゃんは驚いたようにこっちを見る。

 

「最初は思ったこととか、書きたいと思ったことを歌詞にして書いてみるんだ。そしたら、何となくだけど曲のイメージが浮かんでくる。それを歌ってみて録音したらそれをもとに曲作りを進める感じ。」

 

多分僕が曲を書けないのはそもそもの歌詞を書けなくなってるのもあるんだと思う。

 

一体何を書けっていうんだ。何を伝えろっていうんだ。今の僕なんかに。

 

「確かに少し変わってるかも。私はある程度ピアノで作ったのをみんなに聞いてもらってから、千歌ちゃんが書いてくれた歌詞を入れて編曲したりとかってかんじかな。」

 

作る人によってぜんぜん違う。だから音楽は面白いし、苦しいんだろうな。

 

どこにもない答えを暗闇の中で探さなくちゃならない。

 

今の僕には苦しい。

 

「じゃあ、歌詞を練り直してみましょうか?」

 

「うーん。それが早いかも。」

 

すると梨子ちゃんはにっこりわらってこっちを見る。

 

「ゴールデンウィークの最終日、一緒にでかけよう?まだこっちのことよくわかってないでしょ?」

 

「それに私、見たい映画あるんだ。」

 

「うん、いいよ」

 

その言葉に僕は反射的にうなづいてしまった。

 

 

 

 




次回投稿は24日水曜日の昼頃を予定しております。

感想、アドバイス等ありましたら、コメントお願いいたします。
お気に入り、しおり等もよろしければお願いします。

作者個人の都合となってしまいますが、二月は更新頻度が下がるかもしれません。楽しみにしてくださってる方がいらっしゃいましたら申し訳ないです。

[以下作者あとがき]

今月末までテストなんですが、ほんとに大変ですね。
学部専攻でもねえ奴が専門外の講義なんざとるんじゃなかった()

とか言いつつ作者はWANIMAの新しいアルバムかって最近ほぼ毎日聞いてます。個人的にはサブマリンとシグナルがお気に入りですね!なんか聞いてると元気出てくる。
単位ワンチャン!!!!!!

今回は本編更新ということで、次回につながる話を書きました。
ノリ的にラブライブを連想するようなノリをぶち込んだつもりなんですが表現できてたでしょうか?

作中にバンドマンはこういうやつだみたいなのを引用的に書いてしまいましたが、こういう見方があるのも事実でして、僕自身はバンドマンでもなんでもないですが、展開上、そうした意見を書かせていただきました。(ゲス不倫以降こういう見方強まってる気がします。)気分を害された方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。僕個人は、言い訳でもなんでもなく、バンドマンはそういう悪い面も含めてカッコいい人たちと思っております。

名称はあげませんが、割とそういうことを赤裸々に書いているコラムサイトがありまして、僕は割と楽しくよんでおります。

作中出てきた作曲の方法については僕がよくやる方法を選びました。割と限界が来るときは来る方法なんですが、言葉の響きを大事にした曲やインパクトのすごい曲が好きなので僕が曲を作るときはこの方法が多いと思います。

正直書いてると御都合主義っぽくなっちゃうところがたくさんあるんですが、あり得る範囲で現実に沿いながらかけたらなって思ってます。

次回からはデート回になります。作者の想像以上に話が膨らみかけてて、編集が結構大変ですが、展開じたいはできておりますので、ご安心ください。
少しでも多くの方にこの物語を楽しんでいただけましたら、作者としてもうれしく思います。


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第11話「二人でお出かけ」

本当は明日の12時頃に更新しようと思っていたのですが急な用事が入ったため、今日中に更新しようと思います。


田舎の旅館のゴールデンウィークがこんなに忙しいとは思わなかった。

 

内浦自体お店も少なければ、海がきれいな土地っていうイメージだったんだが、その海が観光名所の一つらしい。

 

サーファーやダイバーにとっては名所となっているんだそうだ。

 

他にも沼津まで行けばいろいろな名所があるらしい。噂には聞くけどほとんど行ったことがないから僕は知らなかった。

 

通常の観光目的のお客さんも多く、ゴールデンウィーク中は僕も千歌ちゃんも手伝える時に旅館を手伝えるようにしていた。

 

他は練習に勉強。それに曲作り。

 

僕も千歌ちゃんも割と忙しい日々を送っていた。

 

そして、ゴールデンウィーク最終日。

 

今日は梨子ちゃんと出かける約束をしている日だ。

天気も良くて、春の晴れの日はとても心地がいい。

 

待ち合わせはお昼前に沼津駅前。

 

梨子ちゃんは午前中にしたいことがあって先に沼津に行ってるらしい。

 

今日の服は割と気にいっているワインレッドのジャケットに細身のダメージ加工されたジーンズ、それにグレーのプルオーバーで胸の所に紺の文字でLING DING DONGとか書かれたパーカーにしておく。わりときれい目ファッションだし、こんなもんでいいだろう。

 

待ち合わせの時間までだいぶ余裕があるし、部屋でも掃除しとこう。

 

そういえばこの前、帰ってるときにスクールアイドル部に作曲で入ることになった経緯をアキラに話したら、急に薬局にアキラが寄り、悟ったような目で

 

「お守りだ・・・これをやる。」

 

って言われ、コンドームの箱を渡された。

 

未開封のコンドームの箱は出すことなく部屋のPCの裏あたりに隠してある。

(ちなみに僕はI patと元々使っていた作曲データの入ったノートPC、デスクトップのiMacで、諸々のデータを管理している)

 

ていうか、この家でこれ見つかったらとんでもないことになる。

 

・・・一体僕は何だと思われてるんだろう。

 

という葛藤はするものの。なぜか手が伸びてしまう。

 

封を開け、一つだけ取ると、罪悪感を隠すようにすぐに財布に放り込む。

 

そんな目で梨子ちゃんを見たことなんてないし、そんなことが失礼なくらいわかってる。

 

だけど、理性とはこうも弱いのか。

 

僕は自分自身の弱さと男の悲しい性を思い知り、遊びに行く前に頭が痛くなりそうだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

僕は自分の部屋のドアに立てかけてある木製のプレートを外出中にすると出てこうとする。

 

「あれ?どっか行くの?」

 

千歌ちゃんに見つかった。なんだか誰にも見つかりたくなかったのに。

 

「うん。ちょっと出かけてくるよ。夜には帰るからさ。」

 

「えー。宿題教えてもらおうとおもったのにい!」

 

「・・・まだ終わってなかったの?」

 

僕は呆れる。確かに量は多いがコツコツやれば終わらない量ではないはずだ。

 

「そんな呆れた顔しないでよ!!!」

 

「いや、GWだし、受験生だしでだいぶ前からアナウンスされてたじゃん…」

 

正論が何もかも正しいわけではないことくらいわかっているが、今回ばかりは僕が圧倒的に正しい。そう確信する。

 

「くう…。私もどっか出かけたかったなあ…みとしー…梨子ちゃんに連絡したけど用があって無理って言われたし…」

 

う・・・。梨子ちゃんの用事は僕との約束ということもあり、ちょっとドキッとした。

 

でも、みとしーか・・・。

 

そういえば、こっちに来てからずっと行こう行こうって言っててまだ行ってないんだった。

 

「ごめんごめん。今度時間創るよ。」

 

「うーーー!今度おごりね!!!」

 

そう言って去っていく。

 

え、僕おごるの・・・?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

いつものバスに乗って沼津駅近くに向かう。

 

ゴールデンウィーク最終日の街は平日よりは混んでいて、みんな明日から戻ってくる日常を嫌がりつつも休日最後という微妙な日を楽しもうとしているようだ。

 

駅前でまっていると梨子ちゃんがやってくる。

 

「お待たせ。待っちゃった?」

 

服装はピンクの花柄がポイントに入ったスカートに白いニット。

 

春先っぽい恰好だ。

 

「だいじょーぶだよ。今日の私服かわいいね」

 

「ありがと。コウ君もあんまりみないかっこだね。にあうよ。」

 

そりゃきれい目にしたからなあ。

 

いつもだったらジャージのズボンにパーカー、バンドTシャツって感じだ。何度か梨子ちゃんには部屋着姿を見られてる。

 

それにくらべればおしゃれしているだろう。

 

「今日はどうするの?」

 

「コウ君行きたいところある?とりあえず私は映画見に行くのと、コウ君に見せたいところがあって、その二つなんだけど、どうしよっか?」

 

「あ、沼津港の深海水族館いきたい。駅で看板見たときから気になってたんだよね。」

 

「そういえば、私もそこいったことないなあ。じゃあ、いこっか♪」

 

僕らはそろって歩き出した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

映画を見終わり、時刻は一時半。

 

梨子ちゃんが見たいといった映画は「君の膵臓を食べたい」という恋愛ものの映画だった。

 

生と死、誰かを愛するということ、愛とは。

 

そんなことを考えさせられる映画だった。

 

主人公の女の子の演技もあいまって、ああ恋したい・・・ってなってしまった。

 

そして、なんだか、リサさんのことを思い出してしまう。

 

「おもしろかったね♪」

 

見たかった映画が見れた梨子ちゃんは上機嫌だ。

 

「うん。ヒロインの子もすごくかわいいし、なんか恋したくなっちゃうような映画だね。」

 

するとからかう感じで梨子ちゃんが言う。

 

「ああいう子が好み?」

 

「いや、そうではないけど・・・」

 

しどろもどろになって答える。

 

こういう時なんて答えればいいんだろう?どう答えたらいいかわかるほど僕は長く生きてない。

 

そんな僕の反応を面白がるように梨子ちゃんは微笑んでいた。

 

「おなかすいちゃった。バスで沼津港までいかない?」

 

「そうだね。沼津港、なんだかんだいったことないしなあ。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

バスで沼津港まで行くと降りた瞬間魚の生臭い匂いが鼻につく。

 

空には海鳥が飛んでいて、漁師たちのおこぼれにありつこうとその機会をうかがっていた。

 

ほんとに漁港なんだなあって思う。

 

「あ、ここ、反対側だ。」

 

梨子ちゃんはそういうと海門上の大きな建物を指さす。

びゅうおというらしい

 

「あれ登ろう!」

 

「うわ!すげえなあれ!」

 

僕は興奮してスマホで外観の写真を撮ってしまう。このロマンだれかわかってくれ。

 

梨子ちゃんはそんな僕をみて微笑んでいた。

 

「これすごいよねえ。」

 

二人でチケットを買ってエレベーターで上まで行く。

 

連休の最終日ということもあり、カップルや小さい子を連れた家族連れが二、三組って感じだ。

 

ふと僕らは周りからどう思われてるのか気になった。

 

僕にとっては、居候させてもらってる家のお隣さんで、部活が同じで一緒に曲を作ってる・・・かわいい女の子の友達…って感じだ。

 

多分、そういう認識で間違いはないだろう。

 

端から見たら、僕らはカップルに見えるのかな?

 

「見て見て!!天気いいから、富士山見えるよ!!!こんなにきれいに見えることってあんまないよ!」

 

「わあ!すげー!こんなきれいな富士山初めて見た!」

 

関係ないか。

 

今僕は梨子ちゃんと一緒にいて楽しい。

それだけで十分だ。

 

びゅうおを降りてから、僕達は話しながら食堂のある建物に入る。

 

一般人入場が制限されている競り場所を併設した建物は競りが終わっているはずなのに遅めの昼食を取ろうとする人々で賑わいを見せていた。

 

僕達は比較的すぐ入れそうな海鮮丼のお店に入る。

 

カウンター席に通され二人並んで座ると、本日のおススメ!と書かれた駿河湾で取れた魚介類の駿河丼というメニューを注文した。

 

梨子ちゃんも同じメニューを注文する。

 

こっちに来て海鮮丼食べたのはたぶん初めてだけど、ものすごく美味しい。

 

特に新鮮な生しらすは臭みもなく、生姜醤油に良くあっていた。

 

東京で食べたらたぶん2000円くらいするはずだけど、現地は値段が抑えられていて、高校生でも少し背伸びすれば届く値段だった。

 

食べ終わってお茶をすすりながら、この後の話をする。

 

時刻は3時前だ。とりあえずの予定はこの後深海魚水族館に行って終わりのはず。

 

「さ、深海水族館、行きましょうか。私もシーラカンス見るの初めてなんだよね、楽しみ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「すっごく楽しかったー!!」

 

僕は何も考えずに言ってしまう。

 

「すごくキレイな魚もいたし、独特な魚も多くて楽しかったね!私はグソクムシはちょっと苦手だったけど。」

 

時刻は19:00頃。沼津駅まで戻ってきて、商店街の中の喫茶店で休んでいた。

 

侮っていた…。

 

深海水族館、めっちゃくちゃ楽しい!!

 

全体的にそこまで大きくない建物で館内は照明を極力落とし、深海を表現した水族館となっている。

 

一階部分は深海魚を中心に駿河湾や、各地で取れた珍しい魚類が展示されている。特に個人的にはカサゴがお気に入りだった。あとチンアナゴを生で初めてみた。

 

二階はシーラカンスミュージアムと称され計5体ものシーラカンスが展示されている。内二体は冷凍シーラカンスで世界的にも珍しいらしい。

 

このシーラカンスのかっこよさは完全に男のロマンだ…

 

僕は写真に撮影したシーラカンスの写真をすぐにスマホの待ち受けにした。

 

職員さんの説明も見事なものだった。

 

「これ、なにかってくれたの?」

 

梨子ちゃんが深海水族館の袋を上げる。

 

「梨子ちゃんこそ。何か気になる。」

 

僕達は深海水族館の最後の売店で今日の記念にお互いに何か買うことにした。ここにくるまで中は見てない。

 

そこまで高いものを選ばないのはもはや暗黙の了解だったが、梨子ちゃんは何を選んでくれたんだろう?

 

ちなみに僕はメンダコのポーチを選んだ。ボールチェーンのついたホルダータイプで梨子ちゃんのイメージカラーのピンク色のやつだ。

 

「じゃあ、せーので開けてみよっか♫」

 

「うん、気になるし」

 

「「せーの!」」

 

僕の袋の中から出てきたのはセピアカラーのシーラカンスをかたどった合皮のキーホルダーだった。

 

「うわ!すっげえかっこいい!」

 

それを聞いた瞬間、梨子ちゃんが微笑む

 

「よかった。コウくん、職員さんのシーラカンスの話、すごく熱心に聞いてたし、ものすごく真剣に説明読んだりしてたから、好きなんだなって思って!」

 

僕は興奮して言う。

 

「ほんとかっこよくてさ、あのシーラカンス…。ちょうど家の鍵のキーホルダー無くて何か買おうと思ってたんだ。ありがとう!」

 

「そんなに喜んでくれるなんて思わなかったなぁ。メンダコのポーチもかわいい!バックにつけよ!」

 

そう言いながら、ハンドバックにメンダコのポーチをつける。

 

「そういえば、コウくん、今日何時まで大丈夫?」

 

おもむろに聞いてくる。一瞬ドキンとした。心臓に悪い。

 

頭にコンドームのことがちらつく。

 

煩悩よ、消えろ!!!

 

「明日から学校だけど、まぁ特には。宿直も今日はないはずだし」

 

「そうなんだ。じゃあちょっと一緒に行きたいところあるんだ。かえるの遅くなるかも知んないけど。」

 

「どこ?」

 

「ないしょ。行ってみたらわかるよ。」

 

どちらかといえば、美人なイメージの梨子ちゃんがこどもみたいに笑う。

 

なんで僕の友達はこんなに可愛いんだちくしょう。

 

 




次回更新は1月27日(土)の夕方ごろを予定しております。
感想やアドバイス等よろしくお願いいたします。

[以下作者あとがき]

テスト勉強がつらい。専門外の科目残り三つがエグイのでSS書いて絶賛現実逃避しております。無条件で単位よこせ()

どうでもいい話なんですが、今回のスクフェスのイベントの曲、ドラクエのどっかのフィールドのBGMに似てませんかね・・・?

今回の話は沼津で梨子ちゃんとコウ君がデートする話でした。
もうちょいコウ君と梨子ちゃんの会話を入れていきたかったんですが、文字数が大変なことになりかけたので減らしました。
減らしてこれです、助けてください。

今回の話は自分が一人旅で沼津へ行った時のことを思い出して書きました。
時間の都合で内浦には行けなかったのですが、本当に楽しかったです。

沼津港あたりのくだりはまさに僕が回った道順です。
(ちなみに作者は沼津駅から歩いて沼津港に行きました)

深海魚水族館本当に楽しいところでした。
シーラカンス、本当にかっこいいのでぜひ実物を見てほしいです。
他にも魅力的な生物がたくさんいますし、職員さんたちのお話も聞いてて楽しいです。

ちなみになんですが、コウ君の服装なんかは普段の作者の服を参考にしています。
パーカーの文字には好きなバンドの曲名を使わせていただきました。
GRAND FAMILY ORCHESTRA/リンディンドン
https://youtu.be/s3ufB52PSrk

次回からまた話が大きく動き出します。楽しみにしていただければ幸いでございます。

UAが4200近くになりまして、当初こんなに多くの方にアクセスしていただけるとは思っていなかったのでとてもうれしいです。

もっと多くの方に見ていただけるように精進しようと思います。
この作品を読んでくれているすべての方に感謝します。


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第12話「大切な場所」

普段はパソコンから投稿してるんですが、今日は補講で外にいるのでスマホからの投稿となります。


バスに乗って沼津からきたところはなんといつもの家の近くだった。

 

家の近くのバス停まで帰ってきて、そこから家の前を通り越し、歩いてやってきたところ。そこは、

 

「ここは…」

 

「言わなくても分かると思うけど、ここが浦の星女学院。私たちにとっての大切な場所だよ。」

 

ハンドバックの中からジャラジャラと沢山の鍵のついた束を取り出し、梨子ちゃんは正門の鍵を開ける。

 

・・・・

 

時期は三月まで遡る。

 

卒業式が終了し、まだ三年生たちがそれぞれの進路に進み始める前の話だ。

 

イタリアに旅立つ前の鞠莉さんに私は呼び出された。

 

いつきてもこのホテルは緊張する…。

 

だってこんなところ普通だったらくるわけないじゃない!

 

「桜内様お待ちしておりました。部屋でお嬢様がお待ちです。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

ホテルの従業員の人が案内してくれる。

 

普段仲のいい先輩の家とはいえ、この案内。

 

緊張するなと言う方が無理な話だ。

 

「梨子〜!!!来てくれてありがとうね〜!」

 

ドアを開けると同時に鞠莉さんが私に抱きついてくる。

 

いつも以上に激しい先輩だ。

 

「今日はどうしたんですか?わたしだけ呼び出すなんて。」

 

「もう!そんな焦らないの!ワタシがイタリアに行くまでまだ時間はあるわよ?」

 

私物を取り払った鞠莉さんの部屋はすでにホテルの一室の様相を取り戻していた。出発の時がやはり近いらしい。

 

「梨子にこれを見せておきたかったの。」

 

出されたのは鍵の束とクリアファイルに入れられた重要の印が押された紙だった。

 

ティーカップにハーブティーを注ぎながら鞠莉さんは続ける。

 

「これは浦女の校舎の部屋を開ける鍵と施設入場許可証よ。これがあれば、あの校舎にいつでも入れるわ。そして、これが私からの鍵の貸し出しについての許可証。」

 

「え…なんで、わたしにこんなものをみせるんです?」

 

すると鞠莉さんは落ち着いて言う。

 

「これから浦女の建物はオハラグループが管理することになるの。私はその管理には関われない。」

 

淡々と鞠莉さんは言う。その言葉からはくやしさを感じた。

 

「まだ方針は決まってないけどあの建物はいずれオハラグループが有効活用することになると思うわ。しばらくは多分大丈夫よ。」

 

そっか、校舎はまだ残るのか。少し安心する。

 

「それでね。もし、これから残されるAqoursのみんなが何かにつまづいた時、あの場所はなにかを思い出させてくれる場所じゃないかって思ったの」

 

一息置いて鞠莉さんは言う。

 

「私からの許可証を梨子に預けるわ。この鍵と入校の許可証は沼津にあるオハラグループの不動産店に預けるから、浦の星に行きたくなったら連絡して私からの許可証を見せて頂戴。」

 

そこまで話すと鞠莉さんはテーブルの上のハーブティーに口をつける。

 

「私に?そこは千歌ちゃんの方がいいんじゃ…?」

 

すると鞠莉ちゃんはにっこり笑う。

 

「あいにく、許可証はポンポン承認できなくてね。私は梨子だから預けたいって思ったの。大丈夫。理由はそのうち自分で見つけられるわ」

 

「そんなざっくりしたこと言われても…」

 

私は自分が思う以上に重いだろう意味を持つ紙を読む。

 

「さ、話したかったことはこれだけよ!梨子お腹空かない?私お昼まだだから一緒に食べましょう!?」

 

なんか強引に押し切られた。

 

お昼に出てきたルームサービスは、当分忘れられないくらい美味しかった。

 

・・・・・

 

「…ってことがあってね」

 

薄暗い校舎を進みながら、梨子ちゃんが言う。

 

廃校した学校なんて自分が関わることになるとは思わなかったが、本当に殆どの備品が消えている。

 

「せっかくだから、私たちの大切な場所を知ってもらいたいって思ったんだ。ごめんね。こんな時間まで付き合わせちゃって。」

 

「大丈夫。でもここが噂に聞いてた浦の星か…」

 

薄暗い学校。窓から差し込む月明かりが僕らを照らす。

 

誰もいない学校は僕らの足音が反響しているだけだ。

 

そこから僕たちは色々な部屋を見て回る。

 

今の二年生達が居場所にしていた図書室。

 

噂に聞くぶっ飛んだ金持ちで理事長をしていた鞠莉さんをはじめ三年生達がよく顔を出していたという理事長室。

 

Aqoursが集っていたスクールアイドル部の部室。

 

窓から見える校舎の壁は落書きで汚れているものの、これは最後の在校生達の記念らしい。

 

時間が止まった学校は、いつ息を吹き返してもおかしくはないくらい綺麗だった。

 

「綺麗でしょ?みんなで閉校の前に学校の掃除したんだ。」

 

「ほんとだね。もっと埃っぽいかと思ってた。」

 

「ふふ。見せたいところはここで最後かな。」

 

そこは普通の教室だ。黒板にAqoursと思われる絵が描かれている。黒板アートというやつだろうか。

 

果南さんは知っているが、実際にあったことのないメンバーの2人は卒業したメンバーか。

 

「この教室はね、私と千歌ちゃん、曜ちゃんのクラスの教室だったんだ。あの絵、みんなが描いてくれたんだよ。」

 

僕は静かにじっとその絵を見ていた。

 

その絵を見ているとAqoursがどれだけ愛されてるのかすぐにわかってしまう。

 

その時ふと、Aqoursのみんなのことをモチーフにした歌詞のフレーズがいくつか浮かんできた。

 

帰って早く書かないと。

 

浮かんだものが消えないように僕はいくつかのフレーズをメモすると、月明かりに照らされた黒板に書かれた絵を写真に収めたのだった。

 

・・・・・・

 

「今日は遅くまでありがとう。久しぶり浦の星まで行けたし、たのしかった!」

 

二人で並んで歩く。春だと言うのに夜風が少しだけ冷たい。

 

あと少しで家に着く。

 

「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。でも僕になんで大切なところを見せてくれたの?」

 

単純に思う。僕に浦の星に入っていい資格なんてないと思う。

 

「うーん?なんでだろう?」

とぼけたように言う。ほんとはなにかしら考えはあるんだろう。

 

「理由なんてないの。ただ、もっと私達のこと知って欲しかったんだ。」

 

「そうなんだ。ありがとう。」

 

梨子ちゃんの優しさは嬉しい。

 

でも僕はAqoursにただ曲を作るだけの関係で、同じ部活に入ったとはいえ、それでAqoursという固い絆に結ばれたみんなの中に入り込むことなんてできない。

 

気がつくと、そこには僕の顔を覗き込む梨子ちゃんがいた。突然のことにちょっとびっくりする。

 

あとちょっとドキドキした。

 

「…もしかして、遠慮してる?」

 

ぎくり。

 

見透かされていた。少し不機嫌な顔。

 

「…まだ、みんなと仲良くなれたわけじゃないしさ。三年生のみんなとは仲良いけど、未だにルビィちゃんとかとは絶対に距離あるし。」

 

「それに、みんなにとって大切なAqoursは僕が入り込んでいいほど安いものじゃないと思う。」

 

僕にとってSeekerがそうだから。

 

「ふーん…そんなこと思ってたんだ。」

 

こんなこと言ったら不機嫌になるかと思ったら笑顔。全てを受け入れてくれるような。

 

 

「…大丈夫だよ。」

 

 

その言葉と一緒に梨子ちゃんが突然僕を抱きしめる。

 

 

突然のことに頭が追いつかない。心臓がバクバクする。

 

そのまま耳元で囁く。

 

「コウくんはもう私達の仲間だよ。安心して。」

 

少しの間、僕を無言で抱きしめて、梨子ちゃんは離れた。

 

家まで少しの距離。僕らは無言で歩く。

 

なんとも言えない空気。お互いに恥ずかしがっているような甘い空気。

 

僕はつなぎたいと思うその手を精一杯がまんする。

 

家の前まで来て梨子ちゃんが言う。

 

「私はちょっとだけコウくんの気持ち、わかるよ。みんなの中に入ってくのってちょっと怖いかもしれない。」

 

梨子ちゃんの真剣な顔。

 

「私は、いつでも話聞くから。いつでもコウくんのこと受け止めるよ。だからそのうち、コウくんのことも聞かせてね?心の準備ができたらでいいからさ。」

 

そして満面の笑み。

 

初めて梨子ちゃんと会った日は月が綺麗な日だった。

 

月に映えるピアノを弾く姿を見て、なんて綺麗なんだろうってその時は思った。

 

「…うん。必ず話すよ。」

 

「ありがとう。じゃあね。また明日。」

 

うつむいた梨子ちゃんの顔が少し紅く見えたのは幻覚だろうか?

 

梨子ちゃんがうちに入るのを見送る。

 

ドアを閉める前に手を振るその姿を見送って僕は歩き出した。

 

家まであと少し。なのに。

 

僕は少しの間、家に帰りたくなくなった。

 

この気持ちの余韻をずっと感じていたくなってしまう。

 

僕の体はあの時の梨子ちゃんの体温と声を忘れることができないかもしれない。

 




次回更新は1/30(火)の夜を予定しております。
コメントやアドバイスありましたら、気楽にお願いします。

[以下作者あとがき]

残すところ大学のテストもあと一つとなりました!
やったね!ここまでのテストの単位全部とれててくれ!(熱望)

今回のお話はコウくんと梨子ちゃんのデート後半でした。
最後の最後で結構な爆弾放り込みましたね。
コウくんの心情的にback numberの青い春でも流しながら読んでください。back number失恋ソングばっかだけど(作者嫉妬ファイヤー)

back number / 青い春
https://youtu.be/T10oS02RsGA

前回から引き続きのデート回はこのSSを作成する上で早い段階で構想していた話です。この時の梨子ちゃんはどんなことを思っていたのかも、番外編で出させて頂こうと思っております。

前回で下手にコンドームとかのワードを出したこともあり、どう展開させるか悩んだ部分も正直あります。しかし、ここで下手な展開してしまうと、タグに抵触するばかりか、後々の話が大幅に変わってきそうなので、今回はこうした展開にしました。
本来の展開の仕方なので、作者としては満足です。R-18展開を期待されていた読者の方がいらっしゃいましたら、申し訳ないです。

次回は千歌ちゃんパートの更新となります。

ストックもいい感じに溜まってきておりまして、順調にいけば、二月は予定通り3日に1話くらいの更新ができるかと思います。

じわじわUA、お気に入りが増えてきておりまして、いつも読んでくださっているみなさんに本当に感謝いたします。

おかげさまで、今日でこのSSを始めて一ヶ月を迎えられました。

これからも読んでいただけると嬉しいです。今後ともよろしくお願いいたします。






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第13話「重なる動揺」

夜の更新が少し怪しいので今のうちに更新しちゃいます。


GW最終日にコウと梨子が出かけていた日…

 

「うへぇ…宿題終わらん…」

 

ゴールデンウィーク最終日。私の前にはたまりにたまった宿題の山ができていた。

 

だって仕方ないじゃん!旅館の手伝いとか練習とか色々あったんだよ色々!!

 

梨子ちゃんを頼ろうと思ったらLINEで

 

「私今日用事あるし、帰るのいつかわからないから、難しいよ。あと自分でやりなさい(`・ω・´)」

 

と連絡が入っただけだった。

 

しかし、今回の私は違うのだ!!

 

まだ、コウくんというカードがのこっている!

 

てな訳でコウくんの部屋に向かう。

 

そしたらコウくんは今にも出かけるって感じ。なんか今日はオシャレだ。

 

「あれ?どっかいくの?」

 

後ろから声をかけたらちょっとだけびっくりした感じでコウくんが振り向く。

 

「うん。ちょっと出かけてくるよ。夜には帰るからさ。」

 

「えー。宿題教えてもらおうと思ったのに!」

 

「…まだ終わってなかったの?」

 

呆れた顔をされた。こうまで予想通りの反応だと逆にイラっとする。

 

「そんな呆れた顔しないでよ!!!」

 

「いや、GWだし、受験生だしでだいぶ前からアナウンスされてたじゃん…」

 

正論すぎて言い返せない。そうです、やってない私がわるいんですうーー!!

 

「くう…。私もどっか出かけたかったなあ…みとしー…梨子ちゃんに連絡したけど用があって無理って言われたし…」

 

一瞬。

 

本当に一瞬だけどコウくんの表情が固まった気がする。梨子ちゃんのことになるといつも微妙な反応をするのはなんでなんだろう。

 

「…ごめんごめん。今度時間作るよ。」

 

「うーーー!今度奢りだからね!」

 

そう言い残してそのまま去る。

 

約束してからずっと行ってないんだからそれ

くらいはしてよね!

 

・・・・・

 

「わかんないよーー!」

 

英語はコウくんが帰ってきてからにしよう…英詞を書いてたから、英語は得意なんだそうだ。

 

教えてくれるまでコウくんの部屋からかえらない!

 

そんな感じでできるところから宿題を進めてたらスマホに着信が入る。

 

花丸ちゃん?どうしたんだろう?

 

「もしもし!千歌ちゃん!今大丈夫ずらか!!!」

 

「千歌!大丈夫!?」

 

電話の向こうから善子ちゃんの声もする。ものすごく慌ててるけどどうしたんだろう。

 

「大丈夫じゃないけど大丈夫だよー。どうしたの慌てて。」

 

「たいへんずら!!!マルたち、夏季ラブライブ の選考に出れないことになったずら!!!」

 

「は?」

 

とんでもない話が舞い込んできた。

 

・・・・

 

「で、どういうことなの?!」

 

電話じゃらちがあかないし、ちょうど花丸ちゃんと喜子ちゃんが花丸ちゃんの家のお寺にいるということもあり、宿題の終わらない私の家に来てもらった。

 

「さっきAqoursのアカウントにラブライブ 運営からメールが来てね。」

 

喜子ちゃんがスマホでAqoursのアカウントのGメールを開いてみせる。

 

主にAqours関係のネット管理は喜子ちゃんの仕事だ。

 

「ラブライブ のルールが改正されて、前回大会優勝者は大会参加ができないことになったっていう通達があったの…」

 

私はびっくりして何も言えない。

 

じゃあ私達は何を目標に頑張ればいいの?

 

「喜子ちゃん、それじゃ誤解を生むずら。」

 

「え?」

 

話が見えない。一体どういうことだろう。

 

「順位を決める大会に出場することはできないんだけど、マルたちにはエキシビジョンで出て欲しいってことらしいずら。」

 

「っていうと…?」

 

「機会の平等化ってことなんだって。普通のスポーツと違って人気が左右されるよね?ラブライブ は。」

 

「うん。」

 

私はうなずく。私もそれは嫌ってくらい分かる。

 

去年のスクールアイドルワールドを思い出す。

 

「ラブライブ 優勝経験のある場合、同じグループだとすでに人気が高まりすぎて票が固まってしまう可能性があるってこと。」

 

淡々と喜子ちゃんは告げる。

 

「だから色んな学校が勝つ可能性を高めるために、前回優勝校はその直後のラブライブ …つまり私達だったらこの夏のラブライブ にはエキシビジョンに出て運営と一緒に大会を盛り上げる役目について欲しいってことらしいわ。」

 

私は急なことすぎて頭が追いつかない。

 

「ってことは冬は出られるってことだね?」

 

「そう言うことね。この夏は大会を盛り上げてってさ。」

 

「マルたちからしたらなんか微妙な感じだよね…またみんなで頑張って優勝狙おうって思ってたし…」

 

「みんなはなんて?」

 

「まだ伝えてないずら。とりあえず梨子ちゃんと千歌ちゃんには早めに伝えなきゃって思ったんだけど、梨子ちゃん、繋がらなくて。このメール来たのさっきで偶然善子ちゃんがマルの家で宿題してるときだったし。伝えるならとりあえずリーダーの千歌ちゃんからとも思ったんだ。」

 

「そっか…。でもまぁ目標は失わなそうだし、とりあえずグループに流して詳しい話し合いは明日でいいんじゃないかな?」

 

「…そうだね。マルたちだけであがいても仕方ないし。…それに。」

 

「それに??」

 

花丸ちゃんの眼光が鋭くなる。

 

これは、刺激しないほうがいい奴かもしんない。

 

「千歌ちゃん、宿題やったずらか?三年生、結構宿題出てるーってコウさんにきいたずら。」

 

げ!コウくん、余計なことを…

 

「げ、現在進行形…的な???」

 

笑ってごまかせる。私の知ってる花丸ちゃんなら笑ってごまかせる!そしてジト目で見られるって感じなはず…

 

「…千歌ちゃん。今の私たちの学校、割と自由にいろんなこと認めてくれるよね?」

 

「うん。」

 

たしかに部室棟といい、学校の雰囲気といい緩いかもしれない。

 

「それは生徒に課されてるものも多いからできるずら。」

 

「って言いますと…?」

 

ゴクリと言う唾を飲み込む音が自分の中で聞こえる。

 

「テストや宿題で不備があった場合、部活も休みになるずら!それはぶっぶーずら!リーダーなんだし、責任持ってやるずら!!!」

 

「ひえええ!!!」

 

「わ、私、そろそろ帰るわね?用も済んだし、今日はGW最終日の堕天使集会の生放送が…」

 

「喜子ちゃんも終わってないよね?」

 

「ギクッ」

 

花丸ちゃんのジト目は可愛いんだけど割と精神にくるものがあったりする。

 

「二人ともそこになおるずら!そして宿題やるずら!!!」

 

花丸ちゃんがダイヤさんの役目を継いでしまった…私達はそう思った。

 

・・・・

 

結局夜の七時過ぎまで、私と喜子ちゃんは花丸ちゃんと一緒に勉強することになった。

 

常に花丸ちゃんが私達を監視してくれたおかげで(せいで?)私達は無理矢理に宿題を埋めていくことができた。

「う、うーん…こんなにがっつり勉強したの久しぶりかもしれない….」

 

「わたしも…帰らないと…」

 

時計を見て言う。この春になってバスの時間は増えた。

 

内浦にあった浦の星が統廃合され、沼津に通うことになった学生への配慮ということらしい。

 

「じゃーねー千歌ちゃん!明日また部室で!」

 

「うん!気をつけてねえ!」

 

わたしは二人を見送るとそのまま自室のベッドに寝転んだ。

 

ラブライブに 選考ではなくエキシビジョンとして関わる。

 

ステージに立って輝けるならなんの問題もない…よね?

 

もともと勝ちたかったのは浦の星の名前を残したかったってことや、もっと輝きたいって思ったことがすべての始まりだ。

 

私たちに協力してほしいって言うラブライブ 運営や、私たちを見たいと言ってくれるファンのみんなの気持ちは本当にありがたい。

 

ありがたいんだけど…

 

今の姿は…私たちの望んだ姿なのかな?このまま流れに身を任せていいのかな?

 

「私には難しすぎるよ…」

 

宿題をやりきった疲れなのか、抱えることが大きすぎるからなのか私はそのまま寝てしまった。

 

・・・・

 

目を覚ましたら十時前だった。なんだかびっくりするくらいお腹が空いてしまった。

 

リビングに行くと机の上に二人分の食事が用意されていた。その横ではみとねえがテレビを見ていた。

 

「おはよー。ぐっすりだったねえ。」

 

「みとねえ…誰か帰って来てないの?」

 

「あー。コウがまだ帰って来てないよ。なんか外で食べてくるってさー。あいつも早く言えっての。」

 

「ふーん」

 

お昼前くらいには出て行ったはずだ。本当にどこ行ってるんだろう…?

 

「どこいってるの?コウくん。」

 

「そんなん私は知らないよー。あんたも知らないの?高校生なんだし、人に言わないこともあるんじゃない?」

 

「うん、そうだね。」

 

私は無理に納得しようとする。

仕方ないか。

私とは違う付き合いもあると思うし。

 

ご飯を食べてから部屋に戻ってyou tubeを見る。

 

好きなゲーム実況者の動画が更新されていた。

 

でもなんでだろう。

 

色々重なりすぎて動画のことがあんまり頭に入らない。

 

「あーーーもう!なんかイライラする!」

 

こんなにイライラするのは生理前とかだろうか?はあ…

 

イライラしてても仕方ないので散歩に行くことにする。

 

春の夜風は冷たい。

 

「きゃうん!!」

 

目がぱっちりした方のしいたけの子(名前が決まってないので私は勝手にぱっちりのまつたけと眠そうなたけのこって呼んでる)が私の元にかけてくる。

 

まつたけもたけのこも私やコウくんに懐いているんだけど、たけのこはコウくんの方が好きらしい。今日は犬小屋で寝ていた。

 

まつたけは元気にはっはっ言いながら私に寄ってくる。かわいい。

 

子犬はいいなぁ。和む。

 

相変わらずしいたけは寝てる。時間が時間だし仕方ないけどね。

 

私はまつたけをなでなでする。

 

するとまつたけは満足したのか自分の犬小屋に戻っていった。

 

お母さんに似てマイペースなわんちゃんだ。

 

・・・・・

 

堤防沿いを何も考えずにぼーっと歩くのは楽しい。

 

なんだか、悩みが消えていってくれそうで。

 

このまますべていいように溶けていけばいいのに。

 

少し歩いてそろそろ帰ろうと思った時、ふと周りを見たら、梨子ちゃんがいた。

 

誰かを抱きしめている…。

 

うん。

 

えっ!?

 

ちょ、どう言うこと!?

 

善子ちゃんは家に帰っているはずだし!

 

いや、善子ちゃんだとしても驚きだけど。

 

離れているから何を話しているのかは聞こえない。

 

相手が誰かは見えない。

 

これは、すごいところを見てしまった…

 

私は近くの壁に隠れてそーっと覗く。

 

流石に罪悪感があるものの、それでも見てしまう私は罪深いのだろうか?

 

 

そして、相手の顔が見える。

 

 

相手はコウくんだった。

 

 

え?

 

その瞬間色んなことが頭を駆け巡る。

 

朝の梨子ちゃんとのLINE。

 

梨子ちゃんに電話が繋がらなかった花丸ちゃん。

 

どこかに出かけるコウくん。

 

そして梨子ちゃんの名前を出した時、コウくんが見せた一瞬の表情の固まり。

 

このままここにいたら、ダメだ。

 

頭よりも先に体が動いた。

 

ここから離れなきゃ。

なんでだろう、胸が痛い。

ドキドキする。

ここにいたらダメだ。

 

明日も私達は一緒に学校に行くと思う。

 

明日、私は笑えるのかな。

 

この感情の名前を見つけられるほど私は長く生きていない。

 

目にうっすら涙が浮かんだことに気づいた。

 

この気持ちはなんなんだろう…




次回は2月2日(金)の夜に更新する予定です。
感想、アドバイス等お待ちしております。
次回の更新は本筋を進めるか、梨子ちゃん回にするか少々なやんでおります。

[以下作者あとがき]
今回のまとめ。「千歌ちゃんは見た」

テストおわったー!!!!今日から春休みですわ!!!
でも他に勉強あるんですけどね!ちくしょう!

今回の話はコウくんと梨子ちゃんがデートしてる時の千歌ちゃんのお話でした。いよいよ本格的に関係が動きそうな感じです。
作者としてはこの後の千歌ちゃんと梨子ちゃんがかなり気がかりだったりしてます。どうしよう(白目)

なんて言いつつちゃんと話はできてるのでご安心ください。

今回の話でラブライブの話についても出てきましたが、これについても次回以降きっちり回収するつもりでおります。

ラブライブ優勝と言う大きな目標がなし崩し的になくなってしまったAqours、そして、千歌ちゃんと梨子ちゃんが今後どうなって行くのか、楽しみに読んでいただけると作者は嬉しいです。

次回本筋更新ならば本筋に三年生メンバーのあの人が登場します。

UA5000超えました!読んでくださってる皆さんのおかげですありがとうございます!

これからも頑張ろうと思います。これからもよろしくお願いいたします!


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第14話「突然の来訪者」

「まさかこんなことになるなんてね…」

 

スマホを眺めながら綺麗な金髪をした女性が

ヘリコプターの中で呟いた。

 

「ま、わたしからしたらラッキーなのかも…思っちゃダメなことなんだろうけどね。」

 

ヘリコプターは内浦へ向けて順調に進んでいく。

 

・・・

 

「ごめん、コウ、千歌起こしてきて。あいつ、今日から学校ってこと忘れてまた夜更かししたんじゃないかな。」

 

美渡さんがおもむろに言う。

 

「わかったあ…」

 

「あんたも眠そうね?昨日帰ってきたの遅かったし、何してたの?早くしないと梨子ちゃん来ちゃうよ?」

 

「…わかってる。千歌ちゃん起こしてくるね。」

 

昨日あれからしばらくぼーっと春の海を眺めていた。

 

どうしたらいいかわからなかったんだ。

 

家に帰ってからも正直上の空で、美渡さんと何か話したとは思うが、何を話したか覚えていない。

 

千歌ちゃんも部屋にいたと思う。

 

自分の部屋に行ってから我に帰ったことだけは覚えている。

 

梨子ちゃんの体温が忘れられなくて、あの甘い声が頭から消えなくて、部屋の布団に潜ってからもあの時の映像が頭から消えてはくれなかった。

 

正直眠れていない。

 

実は昨日出かけたのは夢なんじゃないか。

そんなことさえ考えてしまう。

 

でも自分の家の鍵に付いているシーラカンスのキーホルダーは間違いなく昨日のことが事実であることを物語っていた。

 

「千歌ちゃん、朝だよー。今日から学校。」

 

部屋の引き戸をノックすると、制服に着替えた千歌ちゃんが出てきた。

 

「…おはよ。」

 

眠そうと言う感じではない。

そうなんだけど…なぜか元気のない感じだ。

 

「おはよ。早くしないと梨子ちゃんきちゃうよ。」

 

僕が梨子ちゃんの名前を出す時、どんな顔をしているんだろう。変な顔してないだろうか。

 

「…うん、そうだね。行かないと。」

 

「大丈夫?なんか元気ないけど。」

 

いつもはものすごくテンション高いのになんで今日はこんなにテンション低いんだろう。

 

「大丈夫。ちょっと体調悪いだけ。」

 

「そっか。お大事に。」

 

僕らはそのまま居間に向かう。

 

本当にどうしたんだろう…?

 

・・・・

 

「千歌ちゃん、コウくん、おはよう。」

 

梨子ちゃんは昨日と変わらず、僕の前で笑っている。

 

「おはよ。」

 

「おはよう。」

 

いつも通りだ。昨日のことなんかなかったように。

僕も笑えてると思う。顔が赤くなってないかだけ心配だ。

 

「あ!私、忘れ物しちゃった!ごめん先に行ってて!」

 

千歌ちゃんが家に戻っていく。体調が悪くてもそそっかしさは変わらないのかも。

 

「…千歌ちゃんどうしたの?」

 

梨子ちゃんも元気のなさに勘付いたらしい。僕に聞いてくる。

 

「いや、ぼくもわからないんだよね。多分宿題朝までやってたとかじゃないかな?」

 

「…そっか。そういえば私にもヘルプのラインが入ってたわ。」

 

僕らはいつも通りの道を歩いて学校へいく。

 

いつもと違うのは千歌ちゃんがいないこと。

 

いつもと違うのは僕と梨子ちゃんが二人で並んでいるということ。

 

梨子ちゃんと話すのは楽しい。

 

そして、今は二人でいることが嬉しいんだ。

 

昨日の話や、学校の話、曲作りの話をするたびに昨日のことが自分の中で鮮明に浮かんでくる。

 

僕の中の言えない秘密が、僕と梨子ちゃんの秘密が、痛い。

 

なんでだろう。嬉しいはずなのに。

 

わかってるのかもしれない。

 

僕はたぶん、この子のことが----

 

・・・・

 

6時間目が終わって今から部活だ。

 

千歌ちゃんは相変わらずで朝から変わらない。

 

僕はお昼はアキラたち軽音楽部の連中と食べていたが、梨子ちゃんたちはスクールアイドル部の3人でお昼ご飯を食べていた。

 

その時も相槌は打つものの、いつもとやっぱり違ったそうだ。

 

ラブライブ のことが響いているのだろうか?

 

朝、スクールアイドル部のグループラインを見たらラブライブ のエキシビジョンでの参加について、メールのスクショ画面と一緒に花丸ちゃんから説明されていた。

 

みんなが戸惑っている様子はそれに続くコメントからも見て取れる。

 

僕からしたらエキシビジョンに呼ばれること自体、名誉なことなような気がするが、今まで戦ってきた本人たちからしたら拍子抜けなことなのかもしれない。

 

それに千歌ちゃんはAqoursのリーダーだ。

 

常に元気な分、僕には想像がつかないところで悩みがあるのかもしれない。

 

「千歌ちゃん、部室行こう?梨子ちゃんは先に行ってるってさ。」

 

こんな時は僕が元気付けてあげたい。だけど、僕は気のきいた言葉がすぐに出るほど器用じゃない。

 

「うん、そうだね。大事な話もあるみたいだし!」

 

千歌ちゃんは無理に元気を出すように言うと僕の手を掴んで部室に向かって歩き出した。

 

・・・・

 

「…一晩明けたけどみんなどうずら?エキシビジョンの件…」

 

ゴールデンウィークがあけて、久しぶりに来た部室の空気が重い。

 

「突然すぎるよねえ…」

 

曜ちゃんはあたまの後ろで手を組みながらそう言う。

 

「出れないこともないし、冬もあるからいいんだろうけど…なんだかなぁ。」

 

やるせなさ。脱力感。

 

そんな空気が部室を包む。

 

「ま、まあほら!またドームのステージに立てる機会ができたんだと思おうよ!」

 

ルビィちゃんが奮い立たせるように言う。

 

僕も正直その意見に賛成ではある。

 

「当たり前にあると思ってたことが急になくなっちゃったからねえ…」

 

善子ちゃんが言う。

 

僕は胸が痛い。

 

当たり前のものが消える虚しさは僕が一番知っている。

 

そこにある虚しさは理由は違っても同じなのかもしれない。

 

そして無言の時間が訪れる。みんな何を言えばいいのかわからない。

この思いの行き先がわからないんだ。

 

その時、部室のドアがノックされ、扉が開く。

 

「チャオ〜!元気…ではないみたいね。」

 

「「「「「「鞠莉ちゃん?!」」」」」」」

 

元気のなかった千歌ちゃんまで大声をあげる。

 

そこにいたのはぶっ飛んだ金持ちと噂の綺麗な金髪をした卒業したはずのメンバーと聞いている人だった。

 

「突然ごめんね?はい、これお土産。イタリアのお菓子の詰め合わせよ。」

 

「びっくりしたずら。イタリアにいるんじゃなかったの?」

 

本当にびっくりした感じで花丸ちゃんが言いながら、パイプ椅子を出す。

 

花丸ちゃんはすぐにお菓子の箱を開けると、みんなが食べられるように出した。

 

イタリアにいるはずの先輩が突然目の前にあらわれるんだから驚くのも仕方ない。

 

「さっそくだけど、今日来た本題を話すわね。」

 

鞠莉さんがハンドバックの中から一枚の紙を出す。

 

「みんな、Summer Rocksにでてみない??」

 

みんな鞠莉さんが何を言ってるのかわからないと言った感じだったが、ロックが好きな善子ちゃんと僕にはわかった。

 

「「Summer Rocks?!」」

 

二人で大声を上げる。

 

これはすごい話だと思う。

 




次回の更新は2/5(月)を予定しております。
コメントやアドバイスなどなどお気軽にお願いいたします。

[以下作者あとがき]

春休み始まったはずなのに、大学がある時以上に色んなことに翻弄されております。こんばんは、作者です。

最近ドタバタしてまして、マジでストックが作れてないんですよね…3月の更新大丈夫なんだろうか…

こんな時はマンウィズでも聞いて自分を奮い立たせようと思います。
Raise your flag/MAN WITH A MISSION
https://youtu.be/PiQpGzYMVos

datebase/MAN WITH A MISSION feat.TAKUMA(10-feet)
https://youtu.be/d2Kj7YybM5o

あとあれですね、今回のスクフェスの新規追加の曜ちゃんかわいすぎじゃないですか(๑╹ω╹๑ )
作者は曜ちゃん狙いで貯めまくった石使ったら梨子ちゃんSSRとダイヤさんSSR出ました!梨子ちゃんのツインテ新鮮だけど可愛いですね!

本編に鞠莉ちゃん出てきました!そして、「 Summer Rocks」!
このsummer rocksが物語の中で重要なものになってきます。

元気のない千歌ちゃんと心配するコウと梨子。そして、summer rocks。色々な話が出てきましたが、少しでも皆さんに楽しんでもらえる作品を作れたらと思っております。

なにかと翻弄されがちな作者ですが、増える数字や皆さんからのコメントに日々励まされております。これからも読んでいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。





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第15話「考えられない」

「あら、そっちの二人はご存知みたいね。コウよね?はじめまして。Aqoursのマリーこと小原鞠莉よ♡」

 

自己紹介に合わせてウインク。絵になる人だ。

 

「はじめまして、宮木コウです。」

 

「私、Seeker大スキなの!活動休止のこと、聞いてるわ。ミツキは元気?」

 

「ミツキを知ってるんですか!?」

 

本気でびっくりする。

 

もしかして、ミツキが言ってたスクールアイドルの友達って鞠莉さんだったのか?!

 

「だって私のお友達だもの!聞いてみるといいわ♪2年前にSeekerがSummer Rocksに初出場した時に仲良くなったのよ!…リサともね。」

 

「……っ!」

 

驚きのあまり、僕は何も言えない。

 

間違いない。

 

この人は僕らのことを、僕らに起きたことを知っている。

 

あの後のことも知っているのだろうか?

 

それにこの人、フェス関係者なのか?

 

「コウくん、Summer Rocksって何?」

 

曜ちゃんが聞いてくる。

 

まぁロックをそこまで聞かない人は知らなくても仕方がないかもしれない。

 

「毎年、夏に関東で開かれる4日間開催の大規模なロックフェスだよ。多くのバンドやアイドルはこのフェスに出ることを一つの目標にしてる。」

 

「そ!れ!に!」

 

善子ちゃんが手を上げながら言う。

 

「このフェスに出られるってことは、それだけ音楽シーンの注目を集めてるってことよ!若手から大御所までたくさんのバンドやアイドルが出るわ!」

 

「あー!ニュースのエンタメコーナーとかで聞いたことある!」

 

曜ちゃんはポンッ!と手を打つ。

 

「って!そのステージに私たちでるの?!」

 

そして驚いた。本当に純粋な子だ…

 

「曜ちゃん落ち着いて!まだ出るってきまったわけじゃないよ!」

 

慌てふためく梨子ちゃんは同じく慌てる曜ちゃんを落ち付けようとする。まずは梨子ちゃんが落ち着こうよ。

 

こほん。と咳払いをすると落ち着きを取り戻して鞠莉さんに向かい合った。

 

「…で、なんで鞠莉さんが急にそんな話を私たちに?」

 

「うん、順を追って話さなきゃいけないわね。ほんとは社外秘なんだけど、あなた達だしまあいいわ。」

 

カバンのなかから、名簿のような紙を出し、梨子ちゃんに渡す。

 

「私今、パパの会社を手伝いながらイタリアの大学に通ってるの。最近は色々すごくてね。実際に出席しなくても自分の取っている授業のネット配信でなんとかなったりするわ。」

 

やれやれというような動きをする。

 

いちいちモーションが大げさなのはあちらの癖だろうか?それでも外見が日本人離れしてるのでよく似合う。

 

「それでね。オハラグループがスポンサーをしているSummer Rocksのお手伝いをしてるの。これも修行の一環ってやつね。」

 

僕らは鞠莉さんの話を慎重に聞く。

 

「Summer Rocksは私がお手伝いしてる会社の企画する大型ロックフェスなの。それまでもこれを見るために、帰国したりしてたわ。Rockが大好きだからね♡」

 

ウインクをする鞠莉さんがなぜか僕を見ていた気がする。

 

「それで今回ワタシはキャスティングの手伝いを任されてるのよ。そこで、今の日本でのスクールアイドル人気の話が上がってね。それでラブライブ 前回大会優勝グループのAqoursに出てほしいって話しになったのよ。」

 

僕の前にクリップに止められた紙の束を置く。

 

スマホで情報を調べながら確かめて行くと、鞠莉さんの話が嘘じゃないことがよくわかる。

 

たしかにsponserd by オハラグループとなっていた。

 

僕は頭を抱える。

 

一体どれだけ大きいんだろうオハラグループ…大型フェスのスポンサーできるってよっぽどでしょ…

 

「一つ勘違いしないでね。私が強引に推し進めようとしているわけではないわ。これはSummer Rocksの運営で話し合って決めたことよ。」

 

鞠莉さんはキッパリと言い切る。

 

「今のAqoursだったら誰にも文句は言えないくらいの知名度はあるわ。夏の一つの目標にならないかしら?」

 

鞠莉さんはそこまで言うとペットボトルのお茶をあけて飲む。ここまで話したので、口が渇いたらしい。

 

「んー!!やっぱり沼津のお茶は美味しいわね!!…突然なことを伝えて申し訳ないけどね。私も本気よ。もし出るなら9人で出たいとも思ってるわ。それに…」

 

「ラブライブがエキシビジョンになっちゃったからみんな気が抜けちゃうかな?って思ったのも事実だし。もちろんギャラもでるわよ?」

 

僕らは何も言えない。その話をみんなでしていたところだ。

 

「マルはしっかり考えるべきだと思うずら。」

 

慎重な感じで花丸ちゃんが言う。

 

「滅多に立つことができないからこそ、考えるべきだと思う。」

 

どうしたらいいかわからないのか花丸ちゃんは震えている。

 

「…花丸ちゃんはどうしたい?」

 

ルビィちゃんが聞く。ルビィちゃんも少し戸惑っている感じだ。

 

「マルは…たちたい気持ちのが強いかも。また9人でステージに立てるなら…。ラブライブ と別の場所なら、違う輝きが見つかるかもしれない。」

 

素直な思いを花丸ちゃんは告げる。

 

「ならルビィは賛成!ちょっと怖いけど、私も興味あるし!」

 

ぴょこぴょこ動きながらルビィちゃんが言う。

 

ただ、花丸ちゃんに合わせるのではなく、本当に興味があると言った感じだ。

 

「私は断然賛成よ!Summer Rocksに立てるなんて、こんな素晴らしいこと無いと思うわ。」

 

善子ちゃんは興奮を隠せない。

 

そりゃそうだ。

 

僕らだってSummer Rocksのメインステージであるガイアステージの常連になることが目標だったんだから。

 

実際に立ったステージは規模としては下から数えた方の早いリバーステージだったが、これからどんどん上がっていくつもりだった。

 

善子ちゃんは他の子よりそのステージの意味合いを理解している分、思いの強さを感じる。

 

「2年生達はやる気メラメラみたいね。嬉しいわ!ちかっち達はどう?」

 

曜ちゃんが言う。

 

「私はみんなが向かう方向へ。どこまでもついて行くであります!」

 

満面の笑みだ。本当にAqoursのことを信じていることを痛感させられる。

 

「私も出てみたい。ラブライブ に出てから思ったんだ。見たことのない景色をもっともっと見てみたいって!」

 

梨子ちゃんも食い気味に言う。ワクワクしている様子が僕にも伝わった。

 

僕は自分が出るわけではないが、ワクワクしてきた。

 

僕が作った曲で、誰もが憧れるステージでAqoursが輝けるかもしれない。

 

作曲者として、こんなに嬉しいことはないのではないだろうか?

 

そして、Seekerで再び出ることができたらどんなに嬉しいだろう…という思いまで浮かんできた。

 

これは僕らの次にも繋がるかもしれない大きなチャンスに思えた。

 

「fantastic!! これはもう満場一致…」

 

鞠莉さんがハイテンションにいいきろうとしたその時。

 

「ごめん、鞠莉ちゃん。」

 

みんなが乗り気になってる中、千歌ちゃんが重そうに言う。

 

「みんなもごめん。今は…ちょっと考えられない。」

 

うつむきながらそう言う千歌ちゃんは震えている。今にも泣きそうな、脆さを感じた。

 

「why?!…ちかっちが一番でたがると思ったわ…」

 

「ごめん、鞠莉ちゃん。みんなもごめん…私、今日は帰るね!」

 

そのままスクールバックを掴むと駆け足で部室を出て行ってしまう。

 

僕はとっさに駆け出して、千歌ちゃんを追いかける。

 

・・・・・

 

部室棟を出たところで千歌ちゃんを捕まえる。僕はとっさに千歌ちゃんの腕を掴む。

 

「ちょっと待ってよ!千歌ちゃん!一体どうしたんだよ?!」

 

「…コウくんに言っても仕方ないよ。」

 

千歌ちゃんは何があったか言おうとしない。

 

朝から様子がおかしかったけど、本当にどうしたんだろう。

 

「…朝から元気なかったよね?何があったの?ラブライブ のことだけじゃなさそうだけど」

 

「…ごめん、本当にごめん。だけど今、コウくんに優しくされたくない。手、離して!」

 

キッと睨まれる。

 

見たことのないその顔に僕は無性に腹がたった。

 

「っ…そーかよ!じゃあ勝手にしろ!」

 

僕は手を離してしまう。

 

「…ふんっ!コウくんのバカ!」

 

そう言い残して学校を出て行く。

 

僕に止めることはできなかった。

 

・・・・

 

僕は部室に戻る。みんなの心配そうな目が痛い。

 

「千歌ちゃん、大丈夫?」

 

梨子ちゃんが心配そうに言う。

 

「…知らない。何も話してくれないし。とりあえずほっとくしかないんじゃないかな。」

 

「でも…」

 

こうはいっても内心僕も心配なんだ。なんであんなに僕に怒ってるのかわからない。

 

それに最後の「コウくんに優しくされたくない」ってどういう意味なんだろう…

 

「なーんかsmellぷんぷんねえ…」

 

鞠莉さんが呆れたように言う。

 

「ワタシまだ一週間くらい日本にいる予定だし、ちょくちょく内浦には戻る予定だから、早いうちに連絡してね。明日のこともあるから今日はこれで失礼するわ。」

 

そう言い残して鞠莉さんは部室を出て行く。

 

「…ここは私に任せて欲しいな。」

 

曜ちゃんが言う。

 

「私、千歌ちゃんさがしてくるね!」

 

突然なことが続いてみんなあっけにとられている。

 

そのまま曜ちゃんも部室を出て行った。

 

僕は何故かその後ろ姿に色々な思いを背負っているように感じてしまった。

 




次回の更新は2/8(木)を予定しております。
お気軽にコメント、アドバイス等お願いいたします。
次回は千歌ちゃんパート、ようちか回です。

[以下作者あとがき]

夜バイトだったりで更新できるか微妙だったので朝早くから更新しました。おはようございます、作者です。

しばらく勉強のためにバンドからは離れていたんですが、四年生卒業ライブには出てくれと言われまして、ぼちぼちベース弾いてます。某おしゃれなパンクバンドのコピーなんですが、やっぱりバンドは楽しいですね。

そんなバンドやステージの楽しさを文章で伝えられるようこの物語を展開していけたらなあと思ってます。

さて!今回の話でSummer Rocksについて触れました!
夏フェスって設定ですね。

作者はロッキンとサマソニは経験済みなんですが、ロッキンのイメージで話を進めて行きたいと思っております。
(サンシャインSS書いてる人はわかると思うんですが、鞠莉ちゃんに任せれば大体どうにかなる説ほんとですね…)

そして、どうしようもなく感情を爆発させてしまった千歌ちゃん。
コウくんのことも拒絶してしまいました。ますます不安になっていくAqoursの面々にこれからどんなことが起こるのでしょうか。

千歌ちゃんがどうなるのかは曜ちゃんの手にかかっています!曜ちゃん頑張ってくれ!

てな訳で、次回はようちか回となります。

いつも読んでいただいてありがとうございます。これからも皆さんに楽しんでいただけるようなそんなストーリーを作りたいと思っております。


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第16話「今度は私の番だから」

走った。

 

だれにも会いたくない。話したくない。

 

いろんなことがありすぎて私の中はもうぐちゃぐちゃで。

 

昨日の夜見てしまったあの映像が消えてくれなくて。

 

こんなにも痛いなんて思わなかった。

 

そして、自分が嫌になる。

 

コウくんは何もしていない

 

そして、私達に新しいチャンスになるかもしれない話を持ってきてくれた鞠莉ちゃんだってそうだ。

 

もちろん、梨子ちゃんだってそうだ。

 

誰も悪くない。

 

悪いのは…私。

 

全部、私が…悪いんだ…

 

「…なんか、色々あって疲れちゃったな。」

 

学校から離れたことを確認すると私は歩く。

 

これからどこに行こう?

 

家に帰りたいとは今は思えない。

 

こんな時、大人だったらお酒を飲んでたばこを吸うのかもしれない。

 

今そんなことできないのはわかってるけど、ある意味そんなはけ口があるのが羨ましかった。

 

とりあえずあてもなくグルグル歩いてたらいつのまにかバス停に着いてしまう。

 

「結局、家しか居場所ないかな…」

 

自分の住む場所を呪うように呟いた。

 

なんでこんな田舎なのかな。

 

みんなどう思ったんだろう。

 

Aqoursだってそうだ。

 

私のわがままから全てが始まって、いろんなところでみんなを振り回した。

 

今日のことだってそうだ。

 

私のわがまま。

 

黙って頷けば、よかったんだ…

 

ただバスを待つのは何かに負けたような気がしてまたあてもなく歩く。

 

下を向いて歩き続けたその時、肩に手が置かれた。

 

びっくりして振り返ると

 

「やあっっとみつけたぁ!!!千歌ちゃん、もう見失わないからね!」

 

「曜…ちゃん…?」

 

突然目の前に現れたのは息を切らせて全身汗だくの曜ちゃんだった

 

「ちょっと私に付き合って!」

 

あんなことをしてしまったのにそこには満面の笑みの曜ちゃんがいた。

 

・・・・・

 

「凹んでる時はいい景色見るのが一番だよ!」

 

私は曜ちゃんの家から近いびゅうおに連れてこられた。

 

半ば強引だった気もするけど、私には抵抗する気力もなかった。

 

天気が良かった今日の空には真っ赤な夕焼けが浮かんでいて、展望台のちょうど真ん中、海と夕焼けが見えるところにあるベンチに二人で並んで座る。富士山が綺麗だ。

 

「はいこれ、みかんアイスゼリー!好きでしょ!」

 

「…うん、ありがと。もらうね。」

 

少しの間、二人でみかんアイスゼリーを無言で吸う。こんな時でもみかん味は美味しい。

 

「で?どうしたの?千歌ちゃん。朝から元気なかったらしいけど。お昼も上の空だったし」

 

「なんでもないよ…。ちょっと体調悪いだけ…」

 

私はなるべく普通に応えようと努める。

 

だって言えるわけない。こんなぐちゃぐちゃな気持ち。

 

言葉に表せるかもわたしにはわからない。

 

「…ふーん。えいっ!」

 

「ひょーひゃん!?」

 

両手でほっぺを挟んでムニムニされる。

 

「ここは本音を言うところだよ!!…誰にも言えないから悩んでるんじゃないの?梨子ちゃんやコウくんにも。」

 

「……」

 

図星すぎて何も言えない。

 

「それは昔から千歌ちゃんのことを知ってるわたしでもダメなの?」

 

「…え?」

 

「私、本当にいろんな所で千歌ちゃんに助けられてるんだ。だからまた一緒にAqoursできることが決まった時、本当に嬉しかった。」

 

「もし、今千歌ちゃんが困ってるなら私は力になりたい。だから千歌ちゃん。悩んでるなら話して欲しい。」

 

真剣な顔の曜ちゃん。優しさが眩しい。

 

「私、コウくんや梨子ちゃん以上に千歌ちゃんのこと知ってるって思ってる!…私ちゃんと受け止めるよ?」

 

満面の笑顔の曜ちゃんを見る自分の目が涙で霞むのを感じる。

 

とっさに体が動いて、私は曜ちゃんを抱きしめてしまっていた。

 

「よーちゃん!私、私…!また、一人で考えて一人でかかえこんじゃった…!ごめんね、本当にごめんね…!」

 

「…よしよし。色々抱え込んでたんだね…。」

 

私は曜ちゃんに抱きしめられながら曜ちゃんの優しい声に身を委ねるのだった。

 

・・・・・

 

「私、色々どうしたらいいかわからないんだ。」

 

曜ちゃんのおかげで落ち着きを取り戻すことのできた私は話し始める。

 

「Aqoursを取り巻く環境はどんどん変わっていくのに、それに私がついていけてないようで、置いてかれてるみたいで。ものすごく、それが辛いの。」

 

「これでいいのかって。ただ、流れに身を任せていいのかって。そんなことばっかり考えちゃって。そんな時に新しいライブの話が入ってきて…何も考えられなかった。それに昨日…」

 

しまった、口を滑らせた。

 

流石にこれはまずい。

 

「昨日?ラブライブ のこと?」

 

「ごめん、今のは忘れて!」

 

言えない。梨子ちゃんのことなんて。

 

Aqoursにとってもよくないんじゃないかって思う。

 

ムニッ!

 

またほっぺを挟まれる。曜ちゃんの手の温度が伝わる。なんかこれくせになりそうだ。

 

「ちぃーかぁーちゃん!ここは本音を言うところ!言っちゃいけないことなんてないよ!何があっても私の胸にしまっておくから。だから話して?」

 

私は観念して話すことにした。

 

「…昨日ね、コウくんと梨子ちゃん、一緒に出かけてたみたいなんだ。」

 

「コウくんと梨子ちゃん?曲作りのことで何かしてたのかな?」

 

「わかんない。…でも梨子ちゃんがコウくんを抱きしめてるとこ見ちゃったの。」

 

それを聞いて本気で曜ちゃんが驚く。

 

「えっ!…まぁありえない話じゃないのかも…」

 

「何を話してたのかとか、そんなことはわからなかったけど…だけど、それを見た時、見たらダメだって言う思いとなんで?って思いと別になんて言ったらいいかわからない気持ちがあるのに気づいたんだ。」

 

曜ちゃんは黙って聞いてくれている。

 

話していて気づく。

 

私は自分と向き合うことを怠っていた。

 

「なんだか梨子ちゃんもコウくんもどんどん私の知らないところに行っちゃいそうで…。それがすごく怖いの…でもその理由もわからないんだ…」

 

曜ちゃんを見る。曜ちゃんは笑顔。

 

「…そっかあ。千歌ちゃんはあの時の私と同じなのかもね。」

 

「あの時?」

 

なんだろう?正直心当たりがない。

 

「私ね。梨子ちゃんが転校してきて千歌ちゃんと一緒に曲作ってる時、ちょっとだけ嫉妬ファイヤーしてたんだ。」

 

嫉妬ファイヤーにわざわざビブラートをかけて言う。

 

どことなく鞠莉ちゃんを思い出すような動きだ。

 

「嫉妬?」

 

「うん。千歌ちゃんと梨子ちゃんがすっごく仲良くて。いつの間にか私が入っていけなくなりそうに思えちゃったんだ。」

 

切なそうに曜ちゃんが言う。

 

「そんなことないよ!!曜ちゃんがいたから私はいるんだよ!」

 

「…わかってる。あの時、千歌ちゃんが梨子ちゃんが、鞠莉ちゃんが助けてくれたから私は今もAqoursで笑ってられるんだ。」

 

私は予備予選の前に曜ちゃんとステップを作り直したあの日のことを思い出す。

 

あの時、曜ちゃんは泣いて私を抱きしめていた。

 

そんなことを思っていたんだ…。

 

「…千歌ちゃんは今きっとどうしたらいいかわからない気持ちでいっぱいなんだとおもうよ。私だって、ラブライブのことはどうしたらいいかわからない。」

 

そこから一口で残りのみかんアイスゼリーを吸い切ると真面目な顔で私を見る。

 

「でもね、コウくんと梨子ちゃんを見て感じた気持ちの答えはきっと自分の中で見つけなきゃいけない気持ちだとおもう。」

 

「自分の気持ちに素直になって考えてみてよ。千歌ちゃん。」

 

私は目を閉じて考えた。

 

久しぶりにコウくんにあった日のこと。

 

部屋で一生懸命ベースを弾くコウくん。

 

新歓ライブでギターを弾きながら暴れまわるコウくん。

 

玄関先でたけのこを撫でながらうとうとするコウくん。

 

一生懸命誤魔化そうとしつつ最後には結局素直なコウくん。

 

そして、私も忘れていた遠い昔の約束ーーーーーー

 

もちろん梨子ちゃんだって大好きだ。

 

だけど。

 

それは友達としての感情。

 

親友としての信頼。

 

ふと考えて浮かんでくるのは。

 

コウくんだ。

 

コウくんの姿だ。

 

たまらなく切なくなる。

 

「…気がついた?」

 

曜ちゃんの声が聞こえる。

 

「そっか、私…私…コウくんのこと…」

 

優しく微笑む曜ちゃんがそばで見守ってくれている。

 

 

「好きだったんだ…コウくんのことが…!」

 

 

その時、目に涙が溢れてきて、どうしたらいいか自分でもわからなくて。

 

とっさにまた曜ちゃんを抱きしめてしまう。

 

「どうしよう…私!コウくんに酷いこと言っちゃった…!」

 

泣いた。

 

そんな私に曜ちゃんは優しくて。

 

ずっとこうしていれたらいいのにって思ってしまった。

 

「千歌ちゃんは千歌ちゃんの気持ちに正直にいるべきだと思うよ。だって、誰かを好きになるのって本当に素敵な気持ちだと思うから!」

 

泣きじゃくる私の頭を撫でながら曜ちゃんが言う。

 

「千歌ちゃんが落ち着いたらうち行こっか!今日はうち泊まらない?私の知らないコウくんのこと、もっと聞きたい!」

 

「うん…!ありがとう!曜ちゃん!」

 

私は涙を拭いて立ち上がった。

 

私にはしなきゃいけないことがまだたくさんある!

 

とりあえずみんなに、コウくんと梨子ちゃんに、謝らないといけない。

 

でもその前に、曜ちゃんと話してもいいよね?

 




次回更新は2/12(月)を予定しております。
コメントやアドバイス等お待ちしております。
次回は本編更新か番外編かで悩んでおります。

[以下作者あとがき]
春休みなのに、まったくもって心踊らない大学生です。はやくも全てを投げ出して旅行にでも行きたい。こんにちわ、作者です。

色んなものを投げ出したくなった時って個人的には音楽を聞いたり歌うのが一番だって思ってます。Hello sleepwalkersってバンドの夜明けって曲、最高なんで聞いてみてください。

Hello sleepwalkers/夜明け
https://youtu.be/JHJ_00VkPQk

最近だと小説やSSを書いて創作にぶつけるのも一つの楽しみになっております。

今回の話はようちか回でした!この話ものすごく書きたかった話なんですよね。一期の友情ヨーソロー回から思いついた話なんですが、うまくかけましたでしょうか?

千歌ちゃんも曜ちゃんの本当に純粋な部分を書きたいと思っておりまして、こういう雰囲気や空気が生まれるのは、ようちかならではじゃないかなぁと思ってます。

Aqoursのキャラクターの色んな部分をうまく書けていたらいいなって思ってます。

番外編ならば梨子ちゃん回を書きたいと思ってます。
次回は本編ならば、元三年生メンバー登場します!どんな風に話が進むのか楽しみにしていただけると嬉しいです。

いつも読んでくださってありがとうございます。UA7000超えました!コメントを下さる方や、評価してくださった方が居るからこのSSを続けられてます。本当にありがとうございます。これからも頑張っていこうと思います。


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第17話「再集結!」

17話 「再集結!」

 

「昨日は本当にごめんね!」

 

千歌ちゃんが僕らの前で頭を深く下げる。

 

昼休み。

 

僕たちは全員屋上に千歌ちゃんから呼び出されていた。

 

昨日は曜ちゃんの家に泊まったらしい千歌ちゃんは嫌にスッキリした顔をしていて、昨日の元気のなさが嘘みたいだった。

 

昨日の夜、曜ちゃんから個人ライン来た。

 

千歌ちゃんが元どおり元気になったこと。自分のうちに今日は泊まるということ。

 

そして

 

「コウくんはコウくんらしくね!自分に素直に٩(๑❛ᴗ❛๑)۶」

 

ってラインが来ていた。

 

(ついでに「下着の件はデリカシーなさすぎ!」って怒られた。言わないでよ千歌ちゃん…)

 

とりあえずお礼のラインはしておいたけど、一体あれはどういうことなんだろう?

 

曜ちゃんに余計な心配をかけたのなら申し訳ないな。

 

「マルたちは大丈夫だよ。千歌ちゃんは大丈夫ずら?昨日ほんとに様子がおかしかったけど…」

 

心配そうに花丸ちゃんが言う。みんなほんとに心配していたんだからな。

 

「もう大丈夫!…私、色々重なって疲れちゃったんだ。それでイライラしてた。本当にごめんね。」

 

「…まぁラブライブ のこともあったしね。でもそれでイライラすんのはよくないわよ?」

 

何故だ。普段堕天使だの何だの言ってる善子ちゃんが大人に見える。

 

「…うん、ごめんね。」

 

「ま、いいわ。全員にジュースで許したげるわよ」

 

「うへえ…でもありがとね。」

 

「ルビィは不謹慎かもしれないけどちょっと安心したんだあ。」

 

いつもの調子のルビィちゃんが言う。

 

僕の前ではまだちょっとビビっているところがあるが、みんなの前ではこんな感じだった。

 

「え?」

 

「千歌ちゃん、すっごくエネルギーがあってルビィはそれについていくだけで…でも千歌ちゃんだって私と同じようにどうしたらいいかわからない時があるんだなって。ごめんね、千歌ちゃん。」

 

「大丈夫。それにみんながいるから私は今ここにいるんだってわかったから。」

 

力強く言う。ほんとに立ち直ったみたいだ。

 

すごいな曜ちゃん。

 

「もちろん、コウくんだって例外じゃないよ!私たちの仲間なんだからね!」

 

そのまま僕の手を掴む。そして、急にしおらしくなる。

 

「…昨日はあんな酷いこと言って、ごめん。」

 

今更僕に謝るのが恥ずかしいらしい。

すごく赤くなった顔で下を見て言う。

こっちだって恥ずかしくなる。

 

「気にしてないから大丈夫。誰にだってイライラすることはあるよ。」

 

「ありがとう…」

 

僕の手を離すと曜ちゃんの所に戻っていく。

 

「ほんっとーに心配してたんだからね!」

 

梨子ちゃんが食い気味に千歌ちゃんに言う。

 

「近いよー、梨子ちゃん…でもごめんなさい。梨子ちゃんとコウくんには特に心配かけちゃった。」

 

「…それじゃあ部長として、リーダーに聞くわ。Summer Rocksに千歌ちゃんは出たい?」

 

「うん!出たい!新しいところで新しいAqoursの輝きを見つけてみたい!」

 

千歌ちゃんのその言葉を待っていたように僕らは笑い合うのだった。

 

・・・・・・

 

放課後、僕らは今日の活動を無しにして、鞠莉さんの宿泊しているホテルへ向かう。

 

Summer Rocksの出演を伝えるつもりだ。

 

本当は電話でもいいんじゃないかとも思ったが、昨日はあんな感じになっちゃったし、千歌ちゃんたっての希望で直接話しに行くことになったのだ。

 

それにしても、だ。

 

梨子ちゃんからはとんでもないリゾートホテルに住んでいたって言う話を聞いてはいた。

 

そのホテルを経営している会社の社長令嬢という話も聞いていた。

 

聞いてはいたものの。

 

マジでハンパないなー…これ。

 

自分の語彙力のなさを痛感するが、そうとしか言いようがない。

 

少なくとも高校生が足を踏み入れるようなところではないってことは僕にもわかる。

 

にもかかわらず、Aqoursのみんなは僕よりは慣れた感じだ。僕が感心していると

「まぁ何度か来てるから…」

と、梨子ちゃんから斜め上の答えが返ってくるのだった。

 

Aqoursというグループは何か別のところで吹っ飛んだところがあるのかもしれない。

 

ホテルの受付の人にも顔が覚えられているようで、すぐに鞠莉さんに繋げてくれた。

 

「お嬢様に確認してまいります。少々お待ちください。」

 

と言われ、受付近くのロビーのソファーに座ってロビーを見回す。

 

一体何をどうすればこんなホテル作れるお金ができるんだろう?

 

その上しかもSummer Rocksを企画する会社のスポンサーってことは相当大きい複合企業ってことだ。

 

フェス遠征者に向けた宿泊サービスとかにも関係してるんだろうな。

 

世の中上見りゃきりねえなー…

 

「コウくん、来てってさ。」

 

ボーッとしてたら千歌ちゃんが声をかけてくる。

 

僕はさっきから気になっていたことを聞いてみることにする。

 

「千歌ちゃん、なんで今日目を合わせてくんないの?昨日のことだったら気にしてないよ?」

 

今日話してる時もずっとそうだ。

 

目を合わせて話してくれない。いつもだったらめんどくさいくらい前向いて話すのに今日はこっちを見てくれない。

 

途端に慌てたように言う。

 

「そ、そんなことないよ!ほら、鞠莉ちゃん待ってるよ!行こ!」

 

手を引っ張られる。

 

僕は千歌ちゃんに引かれるようについていく。

 

昨日もおかしかったけどある意味今日もおかしい。どうしたんだろう…?

 

・・・・・

 

僕たちは揃ってホテルを進む。

壁には高そうな絵がかけられていて、進むほどに圧倒される。

 

目的の部屋の前に着く。

中からは言い争う声が聞こえた。

 

「ーーーーー!ーーーでしょう!?」

「ーーーー!こんのーーー!こーーーゅう!!」

「ーーーーって!?」

 

なんだかものすごく不毛そうな言い合いをしているように聞こえる。

でも僕らのほかに先客?

 

「あわわ…鞠莉ちゃん誰かと喧嘩してるみたい……終わらないと入れないよお…」

 

怯えてるルビィちゃんの頭を花丸ちゃんが撫でながら言う。

 

「大丈夫ずらルビィちゃん…マルがいくずら。」

「は、花丸ちゃん?大丈夫?」

 

梨子ちゃんが心配そうに言う。

 

「大丈夫ずら…せーっの!鞠莉ちゃん!!ケンカはぶっぶー!!ずら!!!」

 

勢いよく扉を開けた花丸ちゃんに合わせて僕たちは部屋になだれ込む。

 

「は、花丸さん?!そのセリフは私のセリフですわよ!?」

 

「「「「「「ダイヤさん(ダイヤちゃん/おねいちゃん/ダイヤ)!!!!????」」」」」」

 

僕らがそこで見たのはとびきり清楚なルビィちゃんのお姉さん、ダイヤさんが鞠莉さんを壁ドンしている様子とパソコンのスカイプ画面に映る呆れた顔の松浦果南さんだった。

 

「か、壁ドン!!!」

 

なぜかテンションが上がっているような梨子ちゃんの声が聞こえた。




次回更新は2/16(金)を予定しています。
コメント、アドバイス等よろしければお願いいたします。

[以下作者あとがき。]

梨子ちゃんの番外編いつ書けるのか作者は不安になって来ました。完全にタイミング逃してしもた…。どうも作者です。

完全に書く書く詐欺してることになってるんですが、諸々ありまして、なかなかかけずにいます。しばしお待ち下さいm(._.)m

本編に元三年メンバー登場しました!元々のAqoursが再集結いたしました。やっとこさ三年メンバー勢揃いで出せました!まだ果南ちゃんセリフないけど。

果南ちゃん誕生日おめでとー!!!

次回はなぜダイヤさんが鞠莉ちゃんのとこにいるのかというダイヤさん回になります。ダイヤさんの大学生活のぞいてみましょう。

いつも見ていただいてありがとうございます。これからも楽しく読んでいただけると嬉しいです。


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第18話「黒澤ダイヤの憂鬱」

時間は千歌がみんなに謝罪した日の朝に遡る…

 

寝覚め悪く目が覚めた。

 

一人暮らしの部屋。

 

起こしてくれる人はいない。

 

落ち着きなさい、黒澤ダイヤ。

 

自分を律しなさい。

 

頭が痛い。昨日は飲み過ぎてしまったかもしれない。

 

パソコンには飲みながら見ていたアイドルのライブブルーレイの再生画面がチャプター選択の場面で止まっていて、机の上には日本酒を飲む時に使うグラスとカクテルの缶が二つ。

 

そのうちの一本の中にはお酒が残っている。

 

スーパーで特売だった焼き鳥の詰め合わせはすっかり冷めてしまった上に乾燥してしまっていた。

 

寝落ちしたらしい。

 

お酒を日常的に飲むのは20からと決めていたのに…

 

それまでも地元の網元の家柄ということで付き合いの一環で一口程は飲んだことがあるものの、正月のお屠蘇程度であった。

 

大学に入って直後、知り合った人たちと一緒に行ったサークルの新歓飲み会で飲んでからと言うものの、ついつい帰り道に買って帰る生活が続いていた。

 

今日も大学だ。気が滅入る。

飲んだ日の朝はいつもそうだ。

なんとも言えない気持ちになる。

 

原因は周りと自分との違いすぎるところでしょうね…

 

片付けをしてからシャワーを浴びて、そんなことを考えた。

 

GWも大学の授業があり、実家に帰ることができなかった。

 

ほんとはすぐにでも帰って可愛い妹を撫で回して癒されたいところだ。

 

大学に入ってから自分がどれだけ真面目過ぎたのかと言うことを痛感させられている。

連れていかれたサークルの飲み会にしろ、学科の友達との会話にしろ、だ。

 

金銭感覚、大学に入った目的、貞操観念…etc.

 

それまでも鞠莉さんや果南さんに「硬度10」などと言われてきたが、Aqoursではある意味そんな自分の性格も個性であると認められていた。

 

大学に入って色々な人と関わるようになった。

 

幸いにも自分がAqoursであったことを知ってる人は多く、自分から動かなくても話しかけてくれる人は多かった。

 

学部でも知り合いは多い方だろう。普段一緒に授業を受けるメンバーだっている。

 

サークルもダンス系のサークルに入り、アイドル活動の延長線みたいなことをしている。

 

大学では授業の一環で日本文化について学んでいて、そこそこ安定した生活を送っている…はずだ。

 

それでも胸の中に何か穴が空いたような感覚は消えてくれない。

 

自分にとっての大切なものと離れたことによる喪失感。

 

自分と周りとの違い。

 

自分も周りと同じように居たいと思うのに、それを拒む自分がいる。

 

つい二ヶ月ほど前までの浦の星の制服を着てキラキラしていた自分とは違う。

 

あの日々の自分が遠い存在に見える。

 

今では「Aqours」と題された9人のラインが更新されるのを見るのが楽しみになってしまった。

 

なんでもプロのバンドマンをしていた高校生の千歌さんのいとこが新生スクールアイドル部に作曲として入ったらしい。

 

男の子ということで驚いている。

 

ルビィは大丈夫なのかしら…。

 

「ま、そんなこと思ってても仕方ないですけどね…」

 

今日の講義は夕方までか…仕送りにも限度があるし、そろそろ何かしらアルバイトを始めないといけませんね。

 

少しずつ散らかりつつある部屋を気にしつつ、私は家を出るのだった。

 

・・・・・

 

「ほえ〜…ダイヤちゃんすっごく綺麗にノートとってる…」

 

大学に入ってから趣味が同じで仲良くしてるミチルさんが私のノートを覗き込んで言う。

 

「ノート取らないと試験の時に困りますわよ?」

 

ミチルさんの机の上にはルーズリーフが出ているものの、机の下ではスマホを見ていた。画面上ではソーシャルゲームのキャラクターが笑っている。

 

「あはは…まあなんとかなる!」

「はあ…ノートは貸しませんからね。」

「そんなあ!ダイヤちゃん!」

 

梨子さんと曜さんの気持ちがわかりかけてますわね…

 

半ば呆れながらも頭に浮かぶのはAqoursのみんなのことだった。

 

しかし大教室の真ん中で話しながら授業を受けても注意がないとは先生としていいのだろうか?

 

ガチャリ。

 

後ろの方で扉が開く音がした。

 

遅刻する学生は一体どんなこと考えて遅刻するんだろうか?

 

まぁ…自分には関係ないですわ。

 

しかし、なぜか今日は後ろの方が騒がしい。

 

一体何があったのだろう?

 

後ろを振り返る。

 

ホール状の大教室は後ろの方に座っても前が見えるように、階段状の作りになっている。

 

そのため、後ろの様子も前から見ても丸分かりだった。

 

そして、そのイレギュラーっぷりも。

 

その様子は前から見ても目立っていた。

 

そこにいる人物は金髪なものの、染めているカラーではない。

 

留学生はいるものの、どことなく、日本人とのハーフである雰囲気は出ている。

 

綺麗な金髪をサイドで6の字に結ったイタリアにいるはずの自分の親友、鞠莉さんがそこにいた。

 

「チャオ〜☆」とでも言いたげに私に向かってウインクをしながら手を降っている。

 

は???

 

Aqoursが恋しいと思いすぎて幻覚でもみてるの?私。

 

しかし、周りの反応が幻覚ではないことを証明してくれていた。

 

鞠莉さんは自分がどれだけ目立つか自覚しているのだろうか???

 

私は頭を抱えて、机に突っ伏してしまう。

 

何が起きているのか把握できていないミチルさんが私の肩を叩く。

 

「ダイヤちゃん…?大丈夫…?」

 

ミチルさんが心配する声が聞こえた気がする。

 

「ぶっぶーですわ…」

 

「え?」

 

あまりのことに頭の処理速度が追いつかないのか、この一瞬でどっと疲れた…

 

私は生まれて初めて授業中の居眠りをしてしまうのだった。

 

・・・・・

 

「で!なんで鞠莉さんがここにいるんですの?!」

 

講義が終わり、私はすぐさま鞠莉さんの元に飛んで行く。

 

そのまま学食まで鞠莉さんを引きずっていき、お昼を食べながら問い詰めることにした。

 

「わ、私、感激です!!!まさかダイヤちゃんだけじゃなく、鞠莉さんにも会えるなんて!!!私、鞠莉さん推しなんです!」

 

私の隣ではミチルさんが感動していた。

 

ミチルさんはAqoursのことを応援してくれていた。

 

中でも鞠莉さんを推しているんだそうだ。

 

黙ってれば、本当に美人ですからね、鞠莉さんは。

 

だ・ま・っ・て・い・れ・ば!!!!

「ダイヤも細かいことはいいじゃない?ミチルちゃんよね?嬉しいこと言ってくれるわネ!サイン書きましょうか?」

 

「いいんですか!?」

 

ミチルさんはクリアファイルを鞠莉さんに渡す。

 

鞠莉さんはどこから出したのかマジックを出してそこにサインを書き込んだ。

 

「ミチルちゃん、この後ちょーっとダイヤ借りるわね!」

 

「はい!その、頑張ってねダイヤちゃん!」

 

憧れのアイドルに会うことのできたミチルさんのテンションは吹っ切れている。

 

もっとも、私も鞠莉さんも、今はアイドルでもなんでもない学生なんだけど。

 

ミチルと鞠莉さんがテンション高く話している横でお昼のうどんを食べながら、ため息をつくのだった。

 

・・・・・

 

「で、私はどこに連れて行かれるんですの?」

 

ミチルさんと別れ、半強制的に午後の授業をサボることになってしまい、ノートのことが頭にちらつく。

 

大学の近くの駐車場に連れていかれる。

 

そこには派手なカラーをした車が停められていた。

 

そんな私を鞠莉さんは満足げな顔をして見ていた。

 

「そんなプリプリしても仕方ないわよ?まぁ行けばわかるわ。ほら、乗って?」

 

車は何事もなく進む。鞠莉さんの運転技術は上達したらしい。

 

そういえば私も自動車の免許取らないと…。やることが増えた。

 

そんなことを考えつつ、たどり着いた先はビルだった。

 

OHARAの文字があるので、オハラグループの持ちビルだということはわかった。

 

しかし、都心にこの高層ビル。

あらゆるタイミングで驚かされる。

 

「ここの屋上よ♡ヘリを待たせてるの!」

「ヘリ…?まさか…!」

「その、ま・さ・か♪」

 

私は胸の高鳴りを感じながらビルのエレベーターに乗り込んだ。

 

・・・・・

 

そうして私は内浦に帰ってきたわけである。

 

ヘリコプターの中で話は聞いた。

 

なぜ鞠莉さんが日本にいるのか、AqoursにSummer Rocksに出演してほしいということ、それは9人で出演したいということ。あとはつい昨日のAqoursの後輩たちのこと。

 

…まぁ千歌さんにも色々あるのでしょう。

 

私たちだって色んなことがあったわけですし。

 

それに、大事な後輩たちと一緒に行動しているという男の子にも会うかもしれないということ。

 

気になりますわね…

 

大学の男子学生たちのたまに聞こえる会話を思い出す。

 

若い男の人たちの頭の中は下品なことだらけなのかもしれません。

 

これは姉として、先輩として、後輩たちを守らねば!!!

 

そして、コウという少年を見極めねば!!

 

そうこうしているうちにホテルオハラに着く。

 

相変わらずの大きい建物はいつ見ても圧倒させられて、果南さんと忍び込んだ日のことを思い出した。

 

鞠莉さんの部屋に行くとアールグレイの紅茶をすすめられ、二人で向かい合って飲む。

 

しばしの沈黙。しかし私にははその沈黙さえも心地がいい。

 

ここ最近落ち着けたことなんてあったのでしょうか…

 

「で!本題よ!ダイヤはSummer Rocks!出てくれる?」

 

「急にそんなこと言われたって私には考えられませんわ…大学だってあるのですよ?」

 

一応の将来の目標を決めているので考える。

 

出れるに越したことはないかもしれないが、チケット代を出して見てくれている人たちを満足させるものをできるのだろうか。

 

今の自分に。

 

「そんなの私やカナンだっておんなじよ!でも、またみんなで歌えるなら私は歌いたいわ!」

 

「でもいくらなんでも責任が重すぎますわ!スポンサー主の娘でキャスティングの手伝いができる立場といえ、やりすぎですわよ!?」

 

だんだんと口調が激しくなって行く。

 

「ふん!Aqoursのキャスティングは私の独断ではないっていってるでしょう!?スクールアイドル人気を鑑みて、運営の人たちみんなで考えたのよ!」

 

「だからといって学生身分の私たちには荷が重すぎます!」

 

「Seekerはみんな高校生のときに初めてSummer Rocksにたったわよ!!!」

 

「その人たちはその人たちですわ!!!」

 

東京にこんな口げんかを出来る人はいない。そう考えると言い合いさえも愛おしく思えてしまう。

 

それでも絶対おれようとはしないから私は硬度100なのかもしれない。

 

「わーっかりましたわ!それじゃあ果南さんにも聞いてみましょう!!」

 

「いいわよ!ちょうど果南にも連絡しようと思ってたし!」

 

そうして、私たちは現在オーストラリアでダイバー資格取得の勉強中の果南さんにスカイプをつなげることになった。

 

「何?二人ともどしたの?てかなんで2人が一緒に…」

 

「果南さん!きいてくだ…」

 

「カーナーンー!聞いてよー!!!」

 

「私がいいますわ!」

 

「ワタシよ!」

 

だんだんと会話の不毛さは増していく。

 

「ええっと…とりあえず順番で…。」

 

果南さんの声はすでに私たちには聞こえていなかった。

 

そのまま果南さんの存在を忘れたかのように言い合いはエスカレートしていく。

 

「だから!大学はサボりたくないっていってるでしょう!!」

 

「Summer Rocksは将来に繋がるかもしれないでしょう!?こんの石頭!!硬度10!!」

 

「なんですって!?」

 

「ちょっと!ダイヤも鞠莉も急にスカイプしてきて私を忘れて喧嘩しないでよーー!」

 

画面の向こうでは果南さんが精一杯の制止をはかってはいるものの、もはや口げんかはテレビ電話だけでは止めることが不可能な領域に入りつつあった。

 

ついにはほっぺのつねりあいから始まる軽い喧嘩が始まってしまった。

 

私が鞠莉さんを壁まで押しやるような形になってしまい、鞠莉さんも鞠莉さんで一生懸命に抵抗している。

 

はたからみたら私が壁ドンしているようにしか見えない構図だ。

 

そして

 

「せーっの!鞠莉ちゃん!!ケンカはぶっぶー!!ずら!!!」

 

栗毛色の可愛い後輩を筆頭に後輩たちがなだれ込んできたのだった。

 




次回更新は2/20(火)を予定しています。
感想、アドバイス等ありましたら、気軽にお願いいたします。

[以下作者あとがき]

色々重なったからか、風邪ひきました。どうも作者です。

この間まで某イベントでスタッフのバイトしてたんですが、人混みに出たこともあり風邪もらったみたいです。やらなきゃいけないことも重なってダウンしてました。まだ頭と喉が痛い…

今回の話はダイヤさん視点で書きました。

何気に主人公と千歌ちゃん以外の視点で1話丸々使うのは初めてだったような気がします。楽しんでいただけましたでしょうか?

今回の話を書くにあたり、自分が大学に入ってすぐのことを思い出しながら書きました。高校までの生活と全然違うので色々戸惑うんですよね。色んな場所から人も来るから価値観だって全然違うし。

心情的には多くの大学に入ったばかりの人が感じることなのではないでしょうか?

それでも大学は座学じゃ学べないことがたくさん学べる場所だってことが今だから言えます。

春から大学に進学される方や、大学を視野に入れてる方にある意味リアルな大学生の感情を感じていただけたら幸いです。

次回はちゃんと話が進みます。全員集合したAqoursプラス主人公でどんな展開をするのかたのしみにしていただけると嬉しいです。

作者自身諸々あり、今後の更新のペースの保証ができない状態ではあります。それについても今後報告させていただきますが、物語の完結はさせます。

いつも読んでくださる皆様にそうした形で返すことが礼儀であるように思っております。
この物語を皆さんが楽しんでくれたのならば、とても嬉しく思います。


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第19話 「交換条件」

「あー!果南ちゃん!ひさしぶりー!」

 

「千歌ー!久しぶりだね。元気?」

 

ダイヤさんと鞠莉ちゃんは壁ドンしていた自分たちが恥ずかしくなったのか赤くなりながらソファに座っていた。

 

私はそんなこと気にせず果南ちゃんと話す。

 

「果南ちゃんそっちは何時くらい?」

 

「こっちとそっちだとそこまで時差はないからね。こっちは夜の19:00くらいだよ。」

 

「へ?なんで?」

 

あれ?時差ってどうやって求めるんだっけか?

 

「オーストラリアにいるなら当たり前でしょ?日本と経度同じ反対側だよ?」

 

コウくんが横から入ってくる。えー?どういうことだっけ?

 

「久しぶりです、果南さん。」

 

「おーコウじゃん、久しぶりー!何年ぶりだっけ?今こっちすんでんだよね!」

 

コウくんと果南ちゃんは昔話に花を咲かせ始める。

 

今は果南ちゃんが単純に羨ましい。

 

コウくんと素直に話すのが今の自分にはどうしようもなく恥ずかしいから。

 

「そうですわ!あなたがコウさんですね?」

 

「あ、ごめんなさい。自己紹介が遅れました。宮木コウです。」

 

「いつもルビィがお世話になっていますわ。姉のダイヤです。」

 

ダイヤさんはコウくんに丁寧にお辞儀をする。そんなダイヤさんにコウくんはタジタジだ。

 

「いえいえ!こちらこそルビィちゃんには色々お世話になってます!」

 

「おねいちゃん!ルビィそんな迷惑かけてないよ!」

 

ちょっとだけむくれたルビィちゃんはダイヤさんに抱きついて反撃する。

 

いつ見ても仲の良い姉妹だ。

 

パンッ!

 

鞠莉さんが手を叩く。

 

部屋に一瞬静寂が訪れる。

 

「で!今日来た本題はSummer Rocksのことでしょ!関係者全員いるしちょうど良いわ!どうするか決めたのよね?…それと、ちかっちは大丈夫なの?」

 

鞠莉ちゃんは私のことを心配してくれている。本当にいろんなところに心配をかけてしまった。

 

「…うん、もう大丈夫だよ。自分のことが見えてなかっただけだから。曜ちゃんのおかげで色々見えたから。」

 

嘘じゃない。

 

私はAqoursが大切で、コウくんがひとりの男の子として好きだ。

 

それは揺るがない。

 

「…そう。まあ、今度ネホリハホリ話は聞かせてもらうわ。で!Summer Rocksには出たいの?出たくないの?」

 

私は真っ直ぐに鞠莉ちゃんを見る。

 

「出たい!新しい場所で、新しい輝きをみつけてみたい!それが私たちの答えだよ!」

 

「うん♪その答えをまってたわ!」

 

ソファに座っているダイヤさんは頭を抱えてため息をついている。

 

「えーっと…とりあえず教えてほしいんだけど、これどういう状況?Summer RocksにAqoursが出る出ないってどういうこと?」

 

…ん?

 

「あ…。カナンに詳しいこと話すの忘れてた☆」

 

私たちは心の中でずっこける。

 

そして、鞠莉ちゃん以外の全員が叫んだ。

 

「「「「「「「「説明してなかったんかーい!!!」」」」」」」」

 

「ダイヤにだけは言われたくないわよ!」

 

・・・・・・

 

それから鞠莉ちゃんは1から今回のことを話し始めた。Summer Rocksのこと、そして、ダイヤさんがなぜここにいるのか。

 

ダイヤさんの件に関しては私たちも本当に驚いた。鞠莉ちゃんは相変わらずめちゃくちゃする…

 

「なるほどね…色々わかったよ。鞠莉もダイヤもスカイプしてきてからずっと喧嘩してるんだもん、こっちの身にもなってよね。」

 

呆れたようにため息をつきながら果南ちゃんは言う。

 

「私はいいよ。どうせ夏の間は家の手伝いに帰ろうとも思ってたしね。それにまた9人で歌えるのも嬉しいし、それがSummer Rocksなんて、なおさら嬉しいよ!」

 

笑顔の果南ちゃんがそこにいた。

 

私たちが少し悩んでしまったことを聞いた瞬間で即決するんだから、果南ちゃんはすごい。

 

ダイヤさんは呆れているのかため息をついた。

 

「私はやっぱり難しいと思いますわ。」

 

はっきり言う。

 

「最後に私達が歌ったのは三月でしょう?そこからのブランクだってあります!それに、千歌さん達は今年受験生ですよ?ラブライブ もそうですが、両立は大変なんですよ。」

 

う…。痛い所を突かれた。そこはダイヤさんの言う通りだ。

 

進路調査書はとりあえず大学進学で出している。

 

具体的には決めてない部分があるものの、それはコウくんを含む私たち今の三年生全員に共通のことだった。

 

そして実際、私は受験勉強を進めてるかと言われたらまったくもって進んでいない状況だ。

 

「おねいちゃん、ラブライブ頑張りながら受験勉強もしてたよね?」

 

「ル、ルビィ?!」

 

いつになくはっきりとした声でルビィちゃんが言う。その声からは力強さを感じた。

 

「ルビィはおねいちゃんの気持ちもよく分かるよ。自分も辛かったからそれを私たちにさせたくはないんだよね?」

 

ダイヤさんが受験勉強してたのは知っている。それでも私たちの前では顔色変えずにいつも通りのダイヤさんだった。

 

裏で苦労してたんだ…

 

「それでもルビィ達は三年生のみんなの頑張りは見てきてる!ルビィ達だったら辛くても乗り越えられる!だから!」

 

「お願い!お姉ちゃん!」

 

ルビィちゃんが頭を下げる。

 

私たちもルビィちゃんに続いて頭を下げた。

 

「「「「「「「お願いします!」」」」」」」

 

ダイヤさんはびっくりしたような顔をした。そして、ため息をつくとほくろをかく。

 

「…私はラブライブの件に関しては悪い面ばかりではないと思ったんですが…」

 

「わかりました。ルビィに免じて考えることにしましょう…」

 

ダイヤさんは一呼吸おく。少し考えた上で口を開く

 

「私から交換条件が二つあります。それを達成したら私はSummer Rocksに出ますわ。」

 

ダイヤさんはすっかり冷えた紅茶を一口飲む。

 

「皆さんの覚悟を見せてください。」

 




次回更新は2/24(土) を予定しております。
たくさんの方の感想、アドバイス等お待ちしております。

[以下作者あとがき。]

昼間に更新できるかちょっと怪しかったので寝る前に更新してしまいました。こんばんわ作者です。

割と最近忙しくて、なかなか落ち着けてないんですよね。本当に癒しが欲しい今日この頃です。

僕の趣味の一つが水族館巡りだったりするんですが、三月の末に久しぶりに水族館に行けることになったので、それまで頑張ろうと思います。

今回の話はダイヤさんと果南ちゃんへの交渉会って感じでした。
果南ちゃんにやっとこさ出番与えられた…。

僕的にはダイバー資格の取得ってことはたぶんケアンズだろうなあって思って時差とかは考えたつもりですが、どうなんでしょう?オーストラリアは国土の関係で標準時分かれてるんじゃなかったっけ…

現時点では立場上まだまだ出番が与えられていませんが、物語が進む中で重要な立場におけたらなあなんて構想しています。

次回、ダイヤさんの出す条件が明らかになり、その達成のため、動きます。そして、千歌ちゃんと梨子ちゃん、そしてコウの関係が進展するための話となります。楽しみにしていただけると作者は嬉しいです。

いつも読んでいただいてありがとうございます。おかげさまでUA9000を突破し、お気に入りに登録してくれている方が88名となりました。

これからも読んでくださっているみなさんが少しでも楽しいと思えるようなストーリーを作っていけたらと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。





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第20話「合宿(1)」

 

「千歌ちゃん。じゃあいくよ?」

 

「う、うん…」

 

ベッドに座り込んでいる千歌ちゃんを見つめて、僕は問いを投げかける。

 

このままどうしようか…本当に覚悟できてるんだろうか?千歌ちゃんは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…フランス革命の年号とその契機となった襲われた場所は?」

 

「ええっと…1192…年でウィンディーチェの牢獄?」

 

僕と梨子ちゃんは頭を抱える。

曜ちゃんは苦笑いしながら問題集を解きすすめる。

 

「あはは…」

さっきから千歌ちゃんは苦笑いしっぱなしだ。

 

1192年は鎌倉幕府(ていうか最近は1185年になってるよね確か。)だし、ウィンディーチェはリボーンのラスボスのキャラでしょうよ…むしろそっちのが覚えにくくない?

 

なぜこんなことになっているかというと5日前の事を話さねばならない。

 

・・・・・

 

「皆さんの覚悟を見せてください。」

 

ダイヤさんはそう言い切ると、紅茶を飲み干した。

 

「覚悟…って私たち何したらいいの?」

 

千歌ちゃんが不思議そうに言うとそれを受けてダイヤさんは問いかける。

 

「皆さんそろそろ中間テストに差し掛かる時期ですよね?いつです?」

 

「10日後からずら。」

 

花丸ちゃんは諸々のことしっかり覚えてる子なんだなやっぱり。

 

「なるほど…ではそこで全員がすべての科目で60点以上を取ってください!これが一つ目の条件ですわ!」

 

「「全教科60!?」」

 

千歌ちゃんと善子ちゃんが驚いたような声を上げる。

 

「多くの大学では60点が単位取得の最低ラインです。それに半分を超える点数が取れるのであれば、基礎はできてることになるでしょう?」

 

「うっ…」

 

「このおにー!!」

 

千歌ちゃんと善子ちゃんが抗議の声を上げようとする。

 

「だまらっしゃい!!中間テストで点を取れないで、受験とスクールアイドルの両立なんてできるわけないでしょう!!善子さんや今の二年生の皆さんだって、もう来年の話ですのよ?!」

 

千歌ちゃんも善子ちゃんもダイヤさんに抗議しようとするも、ダイヤさんの言い分が正論すぎて言い返せない。

 

一体この二人はいつも何点くらいなんだろう…

 

「それに、全教科60点以上取って、あとは提出物を出せば評定の4は取れる可能性があります。4が取れれば推薦も視野に入るでしょう?どうです?」

 

一切譲る気配のないダイヤさんの気合を感じる。

 

「全教科かあ…まぁ受験生だし、学校の試験なら乗り越えなきゃいけないラインだよね…私はそれでいいわ。」

 

「私もそれでいいであります!」

 

梨子ちゃんと曜ちゃんは前向きな返事をする。まぁこの二人はそんなに悪い点を取るイメージはない。

 

「マルもいいズラ。むしろ全教科80点とか言われなくてよかったずら。」

 

「ルビィもいいよ。先生に色々教えてもらってるし!」

 

この二人は割と余裕なのではないだろうか。

 

花丸ちゃんに至ってはよく本を読んでることもあってか誰も知らないことを言い出すことあるし。

 

「も・ち・ろ・ん、コウさんも含みますわよ?」

 

「へ?…まぁ大丈夫です。」

 

こっちに来てからいろんなことに巻き込まれっぱなしだけど、今回も逃れられないらしい。

 

まぁ三年生になって科目も減ったし、文系科目ばっかな上にSeekerやってた時より勉強時間は取れる。60ならば取れはすると思う。

 

忙しかった時も赤点だけは回避してたしなんとかなるだろう。

 

「そして、もう一つ!これはコウさんと梨子さんへの交換条件になりますわ。」

 

なんとなく僕と梨子ちゃんの名前が並んだ時点でその内容を察する。

 

「今月中に私たち全員が満足できる曲を作ってください。この二つが私からの交換条件になります。うけますか?」

 

僕と梨子ちゃんはお互いの顔を見る。

 

梨子ちゃんは笑っていた。

 

「「やります!」」

 

「覚悟は決めましたね?ではその条件でいきましょう。それと。」

 

ダイヤさんは鞠莉さんの方を見る。

 

「…あなた、後ろから余計なことは絶対にしないようにね?」

 

鞠莉さんはやれやれと言う感じで手を上げる。

 

「言われなくてもそんな事しないわよ?ダイヤの言い分もわからないでもないしね。ちかっちたちに全てを委ねるわ。」

 

そして千歌ちゃんたちを見る。

 

「…ってわけで、頑張ってねみんな!」

 

「なんか大事になっちゃったねえ…。」

 

果南さんは呆れたように笑っていた。

 

こうして僕らの勉強(加えて作曲、編曲)はスタートするのだった。

 

 

 

…んだけど。

 

勉強開始3日後。

 

「わかんない!!」

 

「わからん!」

 

部室で勉強することにした僕たちは、千歌ちゃんと善子ちゃんの進捗っぷりに驚かされっぱなしだった。悪い意味で。

 

「善子ちゃん…授業中いつも寝てるしノートもとってないずら」

 

「ルビィがきいたら、いつも夜の魔力が私を生かす!!とか言ってた…」

 

2年生メンバーはひそひそ話をしてる体で善子ちゃんに聞こえるようにいう。

 

「そこ!聞こえてるんだからね!」

 

善子ちゃんは涙目で反論しようとするも、この場にフォローできる能力を持つ人はいない。

 

「英語に世界史なんか…いらない…私は日本で生きていく…」

 

空欄だらけの千歌ちゃんの世界史ノートを見る。

 

所々に謎の斜め線やクネクネが入っているので、授業中に寝ていることがよくわかった。

 

「そうは言ってもやらないとSummer Rocksには出られないのよ?」

 

梨子ちゃんがいうと千歌ちゃんは余計にむくれる。

 

「わかってるよお…昨日もコウくんに英語教えてもらったもん!」

 

なぜか張り合うように千歌ちゃんは言う。

 

一瞬。梨子ちゃんがこっちを見た気がする。

 

…梨子ちゃんは僕のことをどう思ってるんだろう。

 

「ねえねえコウくん。千歌ちゃん、実際どうなの、英語。」

 

曜ちゃんが千歌ちゃんに聞こえないように僕に聞いてくる。

 

梨子ちゃんは勉強したがらない千歌ちゃんに教えようと必死だった。

 

「正直やばいと思う。今回の範囲の基礎文法も理解できてなかった。」

 

「あちゃー…やっぱしかあ…」

 

三年生なので授業は文系科目だけになった。楽になったかと言ったら全然そんなことはないが、それでも苦手な理数科目が減って助かっている。

 

「…仕方がないずら。」

 

花丸ちゃんが何かを決意したかのように立ち上がる。

 

「勉強合宿、やるしかないずらね。」

 

「善子ちゃんはマルとルビィちゃんでなんとかするずら。千歌ちゃんに関しては、三年生メンバーでどうにかしてほしいずら!」

 

・・・・

 

そんなわけで試験までの残された期間を(主に千歌ちゃんと善子ちゃんが)無駄にしないためにも勉強合宿の開催が決まった。

 

今日は試験5日前。最後の土日である。

そんなわけで土日を使っての勉強合宿が敢行されている。

 

三年生は千歌ちゃんの家。二年生は花丸ちゃんの家のお寺に集結し、今頃勉強しているという感じだ。

 

そんなわけで僕たちは千歌ちゃんの部屋でちゃぶ台を広げてお勉強の真っ最中だ。

 

しかし、この進捗…どうしたもんかな…

 

 

 

・・・・・

 

 

 

こんにちは、ヨーソローこと渡辺曜です。

 

私は今、千歌ちゃん宅でお勉強合宿をしております。

 

しかし!面白いことになってます。

 

私は立場的に色々知ってしまっているので、この三角関係を面白がりつつみているんですが…

 

千歌ちゃんの暴走以降、それらしいことがほとんどおきないんですよね!!!

 

この状況を楽しんでることを本人達に知られたら絶対怒られるとは思うんですが…

 

こんな面白い状況と自分の立場、逃さない手はないでしょうよ!

 

というのも、だ。

 

私や千歌ちゃんは小中は恋愛感情など気にしてもいなかった。

 

梨子ちゃんは知らないけど、私や千歌ちゃんは何度か告白されたことはある。

 

しかし、小中学生の私は、恋愛感情なんて理解もできなかったし、千歌ちゃんに至っては告白された際、悪気一切なく

 

「え?なんで?」

 

的な返しをしていたり

 

「私も○○君好きだよ!私たち友達だもんね!」

 

的な下手したらその男の子にトラウマを植え付けそうなことを平気でいっていたらしいのである。

 

なんにせよ千歌ちゃんに恋した男の子はことごとく精神ボコボコにされ、立ち直るのに時間がかかるという話は聞いていた。

 

なお、私はその後の男の子の方の精神のケアを何度か経験している。

 

(ちなみに私は男の子と普通に仲良くしていたので、告白された時は友達関係を壊さないように断っていた。)

 

そして高校は今年になるまで女子校。恋愛とはかけ離れた環境にいたわけである。私だって、いまだによくわかっていない。

 

その条件はおそらく梨子ちゃんも同じではないかと思う曜ちゃんなのであります!

 

そして、そんな2人が実はコウくんに惹かれている(梨子ちゃんに関しては確証はない)なんて、こりゃもう私の中の世界が変わりかねない出来事なんです!!

 

この勉強合宿何か起こらないわけがない!てな訳で渡辺曜は見守りたいと思っております!

 

「フランス革命とそこから先のフランスの立場はすごく重要って授業でもいってたじゃん。」

 

コウくんは千歌ちゃんに呆れていう。

 

普段の生活を見てるからこそ、だいぶ砕けてるんだろうけど、千歌ちゃんはぎこちなく見える部分がある。

 

「…だって、ここ最近英語しかしてなかったし。」

 

「むくれてもダメだよ。Summer Rocks出たいでしょ?」

 

…うーん、この関係、兄と妹のが似合う気がしてきた。

 

そういえば、ルビィちゃんともだいぶ打ち解けてきたみたいだし、コウくん面倒見がいいからお兄さん的なポジションなのかもしれない。

 

「まぁ、英語の今回の範囲はそこそこ理解してきたみたいだけどね。世界史はホントに覚えないと点取れないからなあ…」

 

まぁそうだよねえ…千歌ちゃん、昔から興味のない事覚えるのが本当に苦手だったし。

 

世界史なんて、カタカナだから単語の音と流れを覚えればすぐだとおもうんだけど、それは私が世界史得意だからかな。

 

もちろん好きな時代は大航海時代!

 

「…なんで私、世界史選んじゃったの…」

 

千歌ちゃんは本気で嘆いている。

 

科目選択のとき、私と梨子ちゃんに合わせて世界史を選択したんだからそこはもう千歌ちゃんの責任だと思う。

 

(っていうか、日本史選んでもどうせ漢字が覚えられないとか、仏像全部同じ顔!とか天皇天皇うるさい!とか言い出すと思う。)

 

「あ、そういえばコウくん。ちょっとアレンジしてみたんだけどどうかな?」

 

お!ここで梨子ちゃんが動いた!これは千歌ちゃんの反応が見ものであります!

 

「おお!聞かせてよ!」

 

ホント音楽のことになると周りが見えなくなるらしい。千歌ちゃん放置されてさっきよりむくれてる。わかりやすいし、かわいいなあほんと。

 

「新しい曲!?私も聞きたい!」

「ダーメ!千歌ちゃんはそのページおわったら!」

「うう!梨子ちゃんのケチ!」

 

なんて言いつつ世界史のワークに向かうあたり、やっぱり千歌ちゃんも根は真面目。

 

「私も聞いていい?」

「うん、曜ちゃんはどうぞ。」

「曜ちゃん「は」って!もう!はやくおわらせるんだからね!」

 

ごめんね千歌ちゃん。私も曲は気になるわ…。

 

・・・・・

 

「どうかな?コウくんが作ってくれた曲をベースに私なりにアレンジしてみたんだけど…」

 

コウくんは梨子ちゃんの持ってきてくれたパソコンに向かいながら難しそうな顔をする。パソコンをのぞいたら、譜面のようなグラフのようなキーボードのようなよくわからない画面が広がっていた。

 

「そうか…ここでストリングス…それにピアノか…音色はもっと派手にして…いっそストリングスなしでシンセとか…ドラムはもうちょい手数増やして…」

 

コウくんはよく分からないことをぶつぶつ言ってる。

 

完全に暗号です。私は解読できません。

 

「うーん、私はこれでもいいとおもうなー。」

 

とりあえず私は思ったことを言うものの

 

「やっぱりストリングス余計かな?おしゃれになるかなって。」

 

あ、だめだ、私完全に蚊帳の外だ。

 

音楽に対して本当に真面目な2人だから、作業中周りが見えなくても仕方ないかもしれない。

 

雰囲気的に仕事人な感じが出ているけど、梨子ちゃんもコウくんも互いに探りあってるのかなあ?ここはよくわかんないや。

 

「僕も編曲中のやつがあるから、試験終わったら、これも含めて色々考えてみるよ。」

「わかった。楽しみにしてるね。」

 

そのまま2人は勉強に戻る。曲も順調に進んでいるらしい。相変わらずむくれた感じでコウくんを見てる千歌ちゃんもちょこちょこ勉強をしているって感じだ。

 

私はとりあえずテストを頑張らないとな。

私も勉強に戻ろう。

 

そのまま私は自分のイヤホンをつけると自分の世界に入り込んで勉強を再開するのだった。

 




次回更新は2/27(火)を予定しております。
お気軽に感想やアドバイス等よろしくお願いします。

[以下作者あとがき]

昨日のリアルなかよしマッチの動画ツイッターで回ってきたんですが、なにあれ可愛すぎではないですか。よしりこおじさんマジ歓喜回でしたね。
それにカーリング選手のにっこにっこにー!!!トレンド入りしててびっくりしました。おはようございます作者です。

一方で大杉漣さんがお亡くなりになったりといろんなことが短期間で起きちゃいました。ぼくはバイプレイヤーズで共演された10-feetのTAKUMAさんのツイッターでの発言がとても印象的でした。

10-feetのまっすぐな言葉って、マジで響く時あるんですよね。10-feetの有名曲を貼っておきますので、よろしければ聞いてください。

RIVER/ 10-feet
https://youtu.be/MPfOYr5YkiM

fin / 10-feet (バイプレイヤーズOP)
https://youtu.be/Ezmt3MVmH94

さてさて!本編は本編で話が動き出す気配を感じさせる話が始まりました。

冒頭は完全に悪ふざけしました。反省はしてない()
色んな漫画でもこういう合宿回って話が動くんですよね。この作品でどんな風に物語が進むのか、楽しみにしていてください。

作品の都合上、ちかりこ以外のAqoursのメンバーの活躍の場所がかぎられてしまうかもしれないので、今後も様々な視点から話を展開することあると思います。

っていうか自分で書いてておもうんですが、ルビィちゃんによく勉強教えてるって設定にした先生の話、書きたいんですよね。本筋に大きくは関わらないからこのssではたぶん書かないとおもうんですが。

スローペースに展開されていく話ですが、その分、細かいところをできるだけしっかり書いていきたいと思っております。

いつも読んでいただき、ありがとうございます。次回も楽しみにしていただけるとさいわいです。




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第21話 「合宿(2)」

うー…何も起きない…

 

私はペンを進めながら、千歌ちゃん、コウくん、梨子ちゃんをチラ見する。

 

時刻は午後6時。昼間千歌ちゃんが梨子ちゃんにジェラったとこくらいしか見どころがない。

 

「ふー、もう6時かー…あ、ちょっと部屋行ってくるわ。」

 

「何しにいくの?ご飯8時にはできるってよ?」

 

おー!千歌ちゃん引き止める!来るか!梨子ちゃん!

 

イヤホン着けながら勉強中かー…こりゃ聞こえてないわ。

 

「日課。練習しないと気持ち悪い。」

 

そう言い残し、手近な勉強道具を持つとコウくんは部屋から出て行った。

 

「うー…私もつかれた…耳から世界史の単語出てきてない?」

 

「だいじょーぶだよー千歌ちゃん。まぁ仕方ないよねえ。色々。」

 

梨子ちゃんはイヤホンを外し、こちらを見る。やばっ!

 

「ずっと同じ曲聴きながら勉強してたし疲れたわ…3時間近く経ったのかな?」

 

あっぶなー!!!幸い千歌ちゃんの秘密は守られている!!

 

「梨子ちゃーん…なんでそんなに集中できるの?すごくない?」

 

「ピアノとおんなじだよー。いつのまにか進んじゃった♪」

 

いつのまにかってあんた…どんだけすごいこと言ってるか梨子ちゃんは分かっていない。

 

集中力って完全に才能なのかもしんないなぁ…

 

「あれ?ちかちゃん、こんな鍵持ってた?」

 

私はシーラカンスのキーホルダーがついた鍵を拾いあげる。二個付いている。

 

どことなく千歌ちゃんのイメージではない。

 

「んー?私のではないよ?」

 

「あ、それ…コウくんのだよ。」

 

反射的に梨子ちゃんが答える。

 

ん…?なんで鍵に付いてる小物なんて知ってるんだろう…

 

「前に私があげたやつなんだ。使っててくれてるんだなぁ…」

 

満足気に梨子ちゃんは言う。

 

うん…ちょっと待って。ちょっと待って。

 

前にあげたってプレゼントしたって事?!

 

千歌ちゃんを見るとむくれたような、少し切なそうな顔をしてる。

 

あー…やっぱり…

 

どうしよう。とんでもないこと、私言っちゃったかもしれない。

 

「曜ちゃん。うちの裏口から出れば、コウくんの部屋に近いから届けてあげてくれない?」

 

唐突に千歌ちゃんはいう。

 

「いいけど、なんで?どうせ戻って来るんじゃないかな?」

 

「部屋の鍵もついてるから困ってないかなって。お願いしてもいいかな?」

 

私は何かを悟ってしまう。

 

たぶん、梨子ちゃんと今、2人で話がしたいんだ。

 

少し不安になる。大丈夫なのかな…千歌ちゃん。

 

でもここは信じるしかない。

 

「…わかった。届けて来るね。」

 

2人の親友を信じよう。

 

「いってらっしゃい。」

 

おそらく千歌ちゃんの気持ちを知らないであろう梨子ちゃんに見送られ、私はコウくんの部屋に向かう。

 

ちょっとだけ、私は不安になった。

 

・・・・・

 

どうしよう…

 

コウくんの部屋の前に来たのはいいけど…

 

緊張する!!!

 

男の子の部屋遊びに行くときなんて、スマブラやりに放課後行ってた小学生の時ぶりだよ!

 

落ち着け、渡辺曜!とりあえず、部屋をノックしないと…

 

三回叩く。返事がない。

 

仕方ない。開けるか…

 

「おーい…コウくん?」

 

ドアに背を向けてなにやら真剣な表情でベースを弾いていた。

 

部屋を見回す。

 

10畳程の正方形の部屋の隅にデスクトップPCの置かれた学習机がある。

 

畳の部屋の真ん中には正方形のコタツ机が置かれていて、受験勉強の道具や、ノートパソコンなんかが整理して置いてあった。

 

あとは楽器とそれに関連する機材。本棚に入ってるたくさんの漫画や小説や、音楽関係の本や雑誌。そして小型のCDラックにはCDが整理されて入っていた。

 

もともと宿直室ということもあり、ユニットバスと簡易キッチン、小型冷蔵庫もついてる。

 

色んなコードや本、CDで多少散らかっているものの、普通の男の子の部屋って感じだ。

 

ヘッドホンをつけて、前に部室に持ってきていた箱みたいな機械に色んな機械を繋げて練習している。

 

私はいつも千歌ちゃんがすると言っていたイタズラを仕掛けることにした。

 

忍び寄って…ヘッドホンを取る。

 

「こーおーくーん!忘れ物!!」

 

「うわっ!ちかち…なんだ曜ちゃんか…」

 

とりあえずコウくんのなかではこの手のイタズラをするのは千歌ちゃんという認識らしい。

 

「ノックしたのに気づかないんだもん。何練習してたの?」

 

「今は曲の練習。好きな曲のコピーかな。」

 

「なになに?私も知ってるやつかなあ。」

 

「多分知らないと思うよ。ジラフポットってバンドのI don't know don't Iってやつ。」

 

……知らない。とりあえず話題を変えよう。

 

「はい、これ。鍵。千歌ちゃんの部屋に忘れてたよ。」

 

「うわ!こんな大事なの忘れちゃってたんだ。ごめん。ありがとう。」

 

…大事なのは鍵?それともキーホルダー?どっちも?

 

喉元まで出かかった言葉を飲み込む。

 

流石に直球すぎる。

 

しかし…どうしようか。

 

今、千歌ちゃんの部屋には帰れない。

 

「部室に持ってきてたギターとベースの他になんか色々あるね。これ全部コウくんのなんだよね?」

 

「あー…まあ色々あって。メインはこれだけどね。」

 

手に持っている黒い迷彩柄のようなベースを見せる。

なんか…高そう。

 

どうしようかな…このままだとここにいるのが不自然になってしまう。

 

そして、私はくるくる部屋を見回しているとうってつけの話題を見つけてしまった。

 

「これ、64のスマブラだよね!?」

 

「お!知ってる人!?」

 

64スマブラの奥深さを理解してる人だったのか!コウくん!

 

「もちろん!小学生の時は負け知らずだったんだよ!今はあんましてないけど、家にもあるよ!」

 

「まじか!千歌ちゃん出来ないから美渡さんとしか出来ないんだよね。やる?」

 

「この曜ちゃんに勝てるかなー?」

 

「望むところ!」

 

コウくんはゲーム用らしいモニターと64を準備する。

 

よし、これで時間は稼げた!

 

千歌ちゃんと梨子ちゃん、しっかりね。

(実際スマブラやりたいのもあるんだけど)

 

・・・・・

 

「コウくん…強い!」

 

「いや、曜ちゃんもめちゃくちゃ強いじゃん。」

 

私達は完全に互角だった。

 

久しぶりって事で5戦くらいプレイしていた。

 

アイテム無しの残機数2の完全実力戦。ステージはプププランド。

 

コウくんのフォックスと私のネスのバトルも熱かったが、何よりカービィ対カービィのバトルが熱すぎた。

 

「ひっさしぶりに熱いスマブラした!Seekerの連中とやった時並みに楽しかった!」

 

「私も楽しかったよー!ここまでやるの久しぶりだから疲れちゃったー。」

 

何も考えずに横になる。

 

久しぶりにゲームに熱中したからか、私はつい、気を抜いてしまう。

 

「…ねぇコウくん。」

 

「ん?どしたん?」

 

64とモニターを片付けながらコウくんが答える。

 

ごまかしながらここまでやってきたけど、流石に限界だ。

 

「…梨子ちゃんのことどう思ってる?」

 

「…え?」

 

びっくりした顔でこっちを見るコウくん。

 

素直にコウくんと話してみるべきだって思った。(スマブラ熱狂しちゃったけど。)

 

「変な意味じゃないよ?ただ、コウくんが梨子ちゃんのことどう思ってるのかなーって。」

 

「えーっと…うーん…困ったな。」

 

お!これは!面白そうな話が聞けそうであります!

 

コウくんは小型の冷蔵庫を開けてコーラを二本取ると一本を私に渡して言う。

 

「なんていうか…よくわからない…かな。」

 

うへえ…

 

ここに来てズッコケそうになることを言ってくれる。

 

「よくわからないって?」

 

「ちょっと気になるっていうか…もしかして僕変だったかな?」

 

よし、カマかけますか!

 

「うーん?どうなんだろう?私はちょーっとコウくんが梨子ちゃんと話す時が私とも千歌ちゃんとも違うなーって思った。」

 

少し考え込むコウくんは慎重に言葉を選んでいるようだ。

 

「あちゃー…ひょっとしたらとかそう言う次元だと思うんだけどなあ…」

 

一生懸命にごまかそうとしてる。

 

「ひょっとしたらって…曖昧だなあ。」

 

「そうかもね。もちろん梨子ちゃんといるのは楽しいし、2人で曲を作ってる時、僕じゃ思いつかないアイデアを持ってて、びっくりする時あってさ。本当に尊敬してるよ。」

 

うーん…。

 

コウくんの中では尊敬の思いと恋愛感情みたいなのがごちゃごちゃになってるのかもしれない。

 

「2人でいるのが楽しいってのが好きかって言われたらよく分からなかったりでさ。千歌ちゃんと一緒にいるのも楽しいし、曜ちゃんといるのも楽しいよ。もちろん、二年生のみんなとも。」

 

「そっか。でも気にはなってるんだね〜。」

 

短時間で一生懸命考えただろうコウくんの言葉を一瞬で粉砕するように、からかうように言う。

 

私、ちょっとイヤな性格しちゃってるかな?

 

コウくんはちょっとだけムッとしている。

 

でもすぐにため息をついた。

 

「曜ちゃんには敵わないかもな…気にはなってるよ。間違いなく。」

 

あっさり認めてしまった。

 

うーん、やっぱり梨子ちゃん優勢なのかな。

 

キーホルダーのことや、2人で出かけてたことをものすごく聞きたい。

 

でも、ここら辺はまたの機会にしないと怪しまれるかな。

 

「コレは知ってる?ps4のFPSゲームなんだけど、よかったらやらない?」

 

コウくんは新しいゲームを収納スペースから取り出す。

 

「へえ!見たことないや!やって見たいかも!」

 

私にはまだ恋愛なんてよくわからない。

 

でもコウくんが色んなことを考えてるのはよくわかったし、本当に優しい人だっていうのは知ってる。

 

梨子ちゃんに関してはまだよくわからないけど、2人がコウくんのことが好きなら、それはとっても素敵なことなんじゃないかなってやっぱり思ってしまう。

 

この三角関係が今後どうなってくのか。渡辺曜もしっかり見守って行きたいであります!

 

と決意を決めたところでコウくんのスマホに着信が入った。

 




次回更新は3月3日(土)の予定です。
お気軽にコメント、アドバイス等よろしくお願いします。

[以下作者あとがき]

あっという間に2月が終わってしまう!!!時間の流れの速さにビビってます。どうもこんにちは、作者です。

もう三月も目の前であっという間の卒業シーズンですね…。僕も自分の進路や人生と向き合わなきゃならない時期が近づいてまいりました。

こんな時は不安になることも多いですが、好きな曲でも聞いて、不安を吹っ飛ばして前を向いてます。

I don't know don't I / ジラフポット
https://youtu.be/HN4zNnuXDBc

さて、本編は前回から引き続き曜ちゃんの視点で話を進めております。コウくんの部屋に行ってスマブラするあたりは完全に僕の曜ちゃんに対するイメージで書きました。絶対スマブラ好きだと思う、曜ちゃん。

秋葉原なんかで割と安くで買えると思うので、よければ皆さんもやってみてください。作中にも書きましたが、本当に強い人のカービィ対カービィは見ててすごく楽しいですよ!

本編の人間関係も進んでいきます。主人公の取る選択を楽しみにしていてください。

次回は曜ちゃんがコウくん部屋で過ごしている時、どんなことが千歌ちゃんと梨子ちゃんの間で起きていたのか書いていきたいと思います。

今日でこのssをはじめて2ヶ月がたちました。当初予想していたよりも多くの方に見てもらっていてとても嬉しいです。皆さんのコメントや日々増える数字が僕の励みになります。これからもよろしくお願いします。





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第22話「合宿(3)」

曜ちゃんにはコウくんの部屋に向かってもらった。

 

曜ちゃんは私の意図を汲んでくれたんだろう。気を利かせてくれたんだと思う。しばらくは戻ってこないんじゃないかな。

 

梨子ちゃんとおしゃべりをする。

 

プレリュードが本当にかわいいのー!って言いながら、芋虫のような小さいぬいぐるみを咥えて遊んで欲しそうに梨子ちゃんの所に来る動画を見せてくれた。かわいい。

 

うーん、しかし、しいたけに怯えまくってた梨子ちゃんがこんなに犬を溺愛するようになるとは…

 

たぶんコウくんは曜ちゃんと部屋でスマブラでもしてるんじゃないかな?

 

曜ちゃん、昔から好きだったし。

 

どう言えばいいのかわからない。

 

でも私はやっぱり、梨子ちゃんの想いを知りたかった。

 

「そういえば、久しぶりに2人だね。」

 

梨子ちゃんは笑いながら言う。

 

さっきまでは居なかったぐしゃぐしゃの気持ちが私に襲いかかってきた。

 

落ち着いて。こんな気持ちに負ける私じゃない。

 

「そうだね。コウくん来てから、基本的に3人が多かったしなー。」

 

私は笑えているかな?

 

「あのキーホルダーどうしたの?」

 

「ああ。あれ、2人で曲作りのために出かけた日に買ったんだ。沼津港の深海水族館で交換で何か買おうってなってね。」

 

「コウくんも男の子なんだなーって。シーラカンスにすごく食いつくんだよ!私は人形のがかわいいって思っちゃった。」

 

笑いながらコウくんがシーラカンスを食い入るように見てる写真を見せてくれた。

 

うーん…たしかにこのシーラカンスはあんまりピンとはこないんだよな…これが男女の違いなのかな?

 

ってそうじゃないって!

 

「2人で出かけてたんだー。私も行きたかったなぁ」

 

棒読みにならないように。

 

いつも通り。いつも通りの私を。

 

「ごめんね。曲を書くためだったから、なにも言わなかったんだ。」

 

梨子ちゃんは基本的にわかりやすいから、隠し事をしてたらわかる。

 

だから、かな。

 

それだけじゃないって思いが私の中で浮かび上がる。

 

あの日見てしまった映像が頭の中に溢れてくる。

 

思い出すんじゃない!

 

「…梨子ちゃんといる時のコウくんってどんな感じ?」

 

やっとの思いで絞り出した言葉を梨子ちゃんにぶつける。

 

「うーん…普通かな?あ、でも色んなこと気遣ってくれたり、自分から色んなことを話してくれたり、一緒にいて楽しいよ。私の知らないことや、私には思いつかない曲を作ってくれるし。あ、でもたまに周りが見えなくなる。」

 

…そうかもね。色んなことに気づいて行動してくれる、優しい人だ。

 

私だってそんなこと、知ってる。

 

「千歌ちゃんといる時のコウくんはどんな感じ?」

 

「うーん、なんて言えばいいんだろう。一緒に居て楽しい感じ!」

 

「なにそれ、わかんない」

 

梨子ちゃんは笑い方まで美人だなって思ってしまう。

 

でも

 

こんな話してても、私が知りたいことは一個もわからない。

 

「梨子ちゃん、コウくん、どう思う?」

 

「…え?」

 

「コウくんのこと、男の子としてどう思う?」

 

私は今どんな顔してるんだろう。

 

何故か顔が熱い。ドキドキしてしまう。

 

梨子ちゃんの言葉が怖い。

 

梨子ちゃんは考え込んでしまう。

 

「突然でなんて言ったらいいかわかんないな…急にどうしたの?千歌ちゃん。」

 

「私…コウくんのこと、ひとりの男の子として好きなんだ。」

 

下を見て言う。今、梨子ちゃんの顔を見れない。どんな顔で見ればいいんだろう。

 

「まだ少ししか一緒に居ないけど、色んなところを見てきて、一緒に居たいって思っちゃった。コウくんに私を見てて欲しいって思っちゃった。」

 

「私、たぶん、梨子ちゃんに嫉妬してるんだ…最低なのはわかってるけど、バカチカだから、さりげなく梨子ちゃんから聞き出すなんてできなくて、結局きいちゃった…」

 

私はつぶやくように言う。

 

こんな私の思いを聞いてくれる梨子ちゃんはやっぱり優しいんだろう。

 

「…そうだったんだ。話してくれてありがとう。」

 

梨子ちゃんはそのまま黙って少しだけ考えると真剣な顔で私を見る。

 

「私は…自分の気持ちがよくわかってないの…」

 

「…え?」

 

「コウくんと一緒にいるの楽しいって思うよ?二人で遊びに行った時だってとっても楽しかった。もっと一緒に居たいって思っちゃった。」

 

「でも、それが本当に好きってことなのかとか、恋なのか、とかそんなこと、わからないんだ。…でも。」

 

途中で区切ってから私を見つめる。

 

 

「私じゃない誰かと一緒に笑ってるの、見るとなんとも言えないくらい、モヤモヤしちゃうんだ。」

 

 

私だ。

 

今の梨子ちゃんは、曜ちゃんに助けられる前の私だ。

 

 

「これが好きってことなら、私は…コウくんのことが好きなのかもしれない、かな?」

 

 

誤魔化すように笑う梨子ちゃん。

 

私の気持ちを知った上で本当に思ってることをぶつけてくれているんだ。梨子ちゃんは。

 

なら私はそれに答えなきゃ。

 

「…私、経験ないから、どうしたらいいかわからないんだ。だけど、コウくんに見てもらえる私になりたいって思う。」

 

 

「負けないよ?梨子ちゃん!」

 

 

力強く、笑ってみせる。

 

これが今の私にできる精一杯だ。

 

「…うん!っていうか、千歌ちゃん、変な顔!」

 

「えー!精一杯キメ顔作ったのに!」

 

私たちは互いに笑い合った。

 

嘘みたいにぐしゃぐしゃの気持ちが晴れる気がする。

 

たぶん、またこの気持ちに襲われる時はあるのかもしれない。

 

でもその時はその時だ。今は梨子ちゃんの想いをちゃんと知って、対等の立場に立てた。

 

それがとっても嬉しい。

 

「ちかー!ご飯できたってー!」

 

美渡ねえが部屋に入ってくる。

 

「わかったー!今行くねー!」

 

「あり?コウと曜ちゃんは?」

 

「たぶん、コウくんの部屋でスマブラしてると思う。」

 

「何!呼びに行くついでに私も参戦する!!今日こそ私のファルコンでコウをたおーす!」

 

テンションの上がった美渡ねえと一緒にコウくんの部屋に行く。

 

やめた方がいいと思うけどなあ…今日はめちゃくちゃ強い曜ちゃんまでいるわけだし。

 

「コウ!私と勝負だ!!!」

 

美渡ねえを先頭に部屋に突入する。

 

「高海千歌ちゃんに桜内梨子ちゃんまで!お前、まじか!!!」

 

「キリヤ落ち着け!とりあえずコウのそっちでの様子を聞き出そう!下手すりゃハーレム築いてるぞ!!」

 

「まずはあんたが落ち着け!!!はあ…ツッコミがあたしだけだとカオスになる…コウ頼むから帰ってきてえ…」

 

「ははは…みんな相変わらずかあ…」

 

 

コウくんと曜ちゃんはラインのグループのテレビ電話で私の知らない人たちと電話していた。

 

いや、正確には顔だけ知ってる人たちだ。

 

youtubeで何度も見た。

 

「Seeker」グループ名表示の欄にはそう書かれていた。




次回の更新は3/7(水)になります。
みなさんからのコメントやアドバイス、お待ちしております。

[以下作者あとがき]

もう三月ですね!昨日は多くの高校が卒業式だったみたいです。卒業生の皆さん、卒業、おめでとうございます。

この時期に合う曲って何だろうなあとか思っちゃいます。たぶんWANIMAがわかりやすかったりするのかな。

シグナル/WANIMA
https://youtu.be/DSZUUnaeWFQ

さて、本編は合宿編の3ということで、ちかりこ回でした。ここまで梨子ちゃんについては視点もほとんど入れずにやってきましたが、ここでやっと梨子ちゃんの気持ちをかけました。

次回は前々から投稿する投稿すると書く書く詐欺を繰り返してた梨子ちゃん視点のデート回です!番外編じゃなく本編にしました。

コウ君と千歌ちゃんの視点が多かったですが、ここから梨子ちゃんの視点を増やしていくことができたらなぁと思っております。

そして、最後にちょろっと出てきたSeekerメンバーについてですが、これから登場を増やして行きたいキャラ達になってます。そして、物語の中でも重要なキャラ達にしていけたらと思ってます。
もし、忘れてしまっていたら、プロローグ2と3を確認していただけると嬉しいです。今やっている話がひと段落したら、番外編と言う形でAqoursのキャラクター視点からオリキャラ達をまとめていきたいと思っております。

UAが一万を突破しました!お気に入り登録してくださる方も96人とありがたいことにものすごく増えて、嬉しいです。

自分の将来のことがありますので定期的な更新が難しくなることもあるとおもいますが、自分の中では完成しているこの物語を完結させるためにこれからも更新は続けていこうとおもいます。

これからもよろしくお願いします。



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第23話「デートの日の私」

一日勉強していて疲れた。

 

それに曲のことで新しく決まったこともあって、テストが終わってからも忙しくなりそうだ。

 

ベッドでは千歌ちゃんがくーくー寝息をたてて寝ていて、曜ちゃんはぐっすり。

 

私は目が冴えて眠れない。

 

理由はわかってる。

 

千歌ちゃんから突然伝えられたこと。

 

私自身がコウくんをどう思っているかということと直面させられたこと。

 

好きなのかな。私。コウくんが。

 

私は2人で遊びに行ったあの日、私が私じゃないような行動をしてしまったあの日を思い出す。

 

・・・・・

 

朝、早めに起きて準備をする。

 

男の子と一緒に2人で出かけるのなんて初めてだ。

 

ずっと女子校にいたからかな。

 

自分から言ったことなんだけど、後から考えたら大胆なことをしてしまった。

 

「プレリュードー!どっちがいいかなあ…?」

 

スカート二個をプレリュードの前に並べる。

 

不思議なものを見るような目で見るプレリュードは花柄が入ったスカートの前までトコトコ歩いてきた。

 

「よし、こっち!」

 

着替えてからちょこっとだけメイクして、忘れ物がないか確認してから家を出る。

 

とりあえず、沼津の小原不動産に行って浦の星の鍵を借りなきゃいけない。

 

時間が余ったら駅の近くのショッピングビルで時間を潰そう。

 

でも…こんな風に服を選んだり、色々考えてるなんて、まるで

 

デート、みたいだな。

 

・・・・・

 

映画を観終わってから感想の話になる。

 

コウくんは主演の女の子を褒めてた。

 

「ああいう子が好み?」

 

からかってみる。たしかにあの子可愛いもんなあ…

 

「いや、そうではないけど・・・」

 

たじたじ。

 

なんだか、千歌ちゃんに似てる雰囲気の役だった。

 

そう考えるとなんだかモヤモヤしてきた。

 

そのままバスに乗り、沼津港まで行くと、反対側に出てしまったのでびゅうおに登る。

 

GWの最終日で、周りは家族連れや、カップル。

 

…私たちはどんな関係なんだろう。

 

友達というのは近いんだろうけど、なんか寂しい。付き合っているかと言われればそれは違う。親友というと浮かぶのは千歌ちゃんや曜ちゃん、Aqoursのみんな。

 

名前が見つからない。モヤモヤする。

 

窓を見ると富士山が綺麗に見える。とってもキレイで思わず声が出た。

 

「見て見て!!天気いいから、富士山見えるよ!!!こんなにきれいに見えることってあんまないよ!」

 

「わあ!すげー!こんなきれいな富士山初めて見た!」

 

なんでもいいや。

 

また考えよう。

 

こんなに富士山キレイなら2人で写真撮ろうって言えばよかったな…

 

よっちゃんにおすすめされて、Snowも入れたのに。

 

そこからご飯を食べて深海水族館に向かう。

 

存在自体はずっと前から知ってたんだけど、いざ近くってなるとなかなか行かないんだよね、こういうの。

 

「わぁ〜…」

 

目の前の深海魚を見て、子供みたいに目を輝かせるコウくんが、とても可愛く見えた。

 

「水族館、好きなの?」

 

私が聞くと水槽を見つめたまま

 

「好きだよー!見てるとものすっごく和むし!東京でも時間できたら行ってたんだ。」

 

「私はあんまり行ったことないけど、なんだか意外だなー。」

 

「そう? でも、この水族館、いいね。深海を再現しててものすごくテンション上がる!カサゴが可愛い。」

 

テンションが上がりすぎて語彙力が乏しくなってるなー、コウくん…

 

コウくんの意外な一面にちょっと驚いた。

 

私も一緒に回りながらキレイな魚達に和まされる。

 

小さな魚もかわいいなあ…

 

水槽を眺めながら、将来飼ってみたいかもなんて思ってしまった。

 

コウくんの影響…かな?

 

一階の展示を回りながら、ヌタウナギの実験教室っていう出し物を見て、二階に上がる。

 

コウくんは興味津々にヌタウナギの分泌液で固まった水に触れていたけど、断言してもいい。

 

わたしにはキツイ!!!!

 

千歌ちゃんや曜ちゃんなら喜んで触るんだろうなあ…

 

二階に上がるとシーラカンスミュージアムという名前が付いていて、いよいよ噂のシーラカンスとご対面した。

 

「ふおおお……」

 

六角形の巨大冷凍庫のなかには冷凍されたシーラカンスが二体飾られていた。

 

さっきよりも目をキラキラさせたコウくんはシーラカンスの顔が入るように前方から撮影する。

 

「わあ…ちょっと怖くない?」

 

コウくんはシーラカンスに夢中。

私の声は聞こえてないな…たぶん。

 

さっき取れなかったし、盗み撮り。

 

なんか罪悪感あるけど、こんな面白いコウくんなかなか見れなそう。

 

「コウくんの顔面白い♪」

 

「え?…あちゃ〜…撮られてたんだ。」

 

シーラカンスを見ていると職員さんがやってきて、色々説明してくれた。

 

どうやら日本でも有数のシーラカンスらしい。

 

そのあと、シーラカンスの生態の話になって、すごく楽しそうに話を聞いているコウくんが印象に残った。

 

最後にミュージアムショップを見物する。

 

適当に眺めていると、そこにシーラカンスのキーホルダーがあるのを見つけた。

 

たぶん、コウくん気付いてないな。

 

「ねえ、今日の記念にさ、お互いに買ったもの交換してみない?」

 

「おー!おもしろそうだから、やってみようよ!」

 

私はすぐにシーラカンスのキーホルダーを取ると、人形のコーナーにいってごまかす。

 

喜んでくれるかな…?

 

・・・・・

 

沼津の駅前に戻ってから、ヤバコーヒーで軽く食べながら話をする。

 

これは間違いなくあの水族館にどハマりしてるなあ、コウくん…

 

交換したものはやっぱりコウくんに気に入ってもらえた。うん、私のセンスに間違いはなかったわね!

 

それに、このメンダコのポーチも可愛い。帰ったらスクールバックに付けよう。

 

この後のことも話して、私は曲のことを振る

 

「曲、どうかな?いいの書けそう?」

 

少しだけ悩むコウくん。スマホを取り出すと操作して私にイヤホンと一緒に渡す。

 

「あれから、ちょっと作ってみたんだけどどうかな?」

 

イヤホンをつけて聞く。軽快なシンセの音から始まる曲は聞いていて爽やかに聞こえた。

 

「すっごく良くなってるとおもう!でもこれまだ短いね。」

 

できてる部分はイントロから一番サビまで。ここからのアレンジがある意味一番大切で、聞いてる人が飽きないように工夫しなきゃいけないところだ。

 

「そうだねー…まだ歌詞も浮かばないし。」

 

「そんなに根詰めないでね?テストも受験もあるんだし。」

 

ちょっとだけ心配になる。

GWは旅館の手伝いや作曲をずっとしてたらしい。

 

千歌ちゃんが言うにはコウくんは夜型生活してるそうだし、受験勉強も、いつかは再開するだろうバンドのことだってあるだろう。

 

重荷になりたくはない。

 

「大丈夫。それに、やるなら本気でやらないと。」

 

遠い目。

 

何かを思い出すようなそんな目。

 

少し考えて呟くように言う。

 

「…確かに誇れるものを作り出さないと僕が僕じゃ無くなるから。」

 

なんでだろう…ちょっとだけ、どきどきした。

 

でも…何を考えていたんだろう…?

 

・・・・・

 

そこから私はコウくんを浦の星に連れていった。

 

思ったよりもキレイな校舎を見て回って、少しでもコウくんが曲を書くヒントが見つかったらいいなって思った。

 

その帰り道、2人で並んで夜の内浦を歩く。

 

「今日は遅くまでありがとう。久しぶりに浦の星まで行けたし、たのしかった!」

 

ちょっと寒い。

 

あと少しで家に着く。

 

もっと一緒にいたい、って私は心の中で思ってしまっていた。

 

「こちらこそ、誘ってくれてありがとう。でも僕になんで大切なところを見せてくれたの?」

 

「うーん?なんでだろう?」

 

ちょっとだけとぼけてみせる。

 

曲が作れなくて苦労しているなら、私はコウくんとその思いを共有したかった。

 

「理由なんてないの。ただ、もっと私達のこと知って欲しかったんだ。」

 

「そうなんだ。ありがとう。」

 

何故だかコウくんが遠くを見てるような感じがした。

 

どこか遠くのことを考えているような、虚空を見つめるような顔。

 

その顔に見て、思い出した。

 

たぶん今のコウ君は、こっちに来てすぐの頃の私だ。

 

そんなことを思ったらコウくんの顔を覗き込んでいた。

 

「…もしかして、遠慮してる?」

 

ちょっとだけジト目を意識して、聞いてみる。

 

コウくんもわかりやすいとこあるなあ…

 

「…まだ、みんなと仲良くなれたわけじゃないしさ。三年生のみんなとは仲良いけど、未だにルビィちゃんとかとは絶対に距離あるし。」

 

「それに、みんなにとって大切なAqoursは僕が入り込んでいいほど安いものじゃないと思う。」

 

なんだか、急にコウくんが遠くにいるように感じてちょっとだけ不機嫌。

 

私は仲間だって思ってるのに。

 

「ふーん…そんなこと思ってたんだ。」

 

こんな時は思っ切り笑顔を作らなきゃ。私の想いは伝わらないとおもう。

 

遠くに行かないでよ…もっと、私の近くにいてよ。

 

そして、私の身体は反射的に動いてしまう。

 

 

「…大丈夫だよ。」

 

 

その言葉と一緒にコウくんを抱きしめる。

 

 

…私は何をしてしまっているの!?

 

心臓がバクバク言ってる。

 

こんな大胆なこと、私できたの!?

 

それでも離れたくなくて、離れたらコウくんが遠くに行っちゃいそうで、抱きしめた。

 

そのまま耳元で囁く。

 

 

「コウくんはもう私達の仲間だよ。安心して。」

 

 

無言になってしまう。

 

突然なことをした。

 

なんでだろう。今の私、私じゃないみたいだ。

 

家まで少しの距離。私たちは無言で歩く。

 

なんとも言えない空気。

 

私もだけどコウくんも恥ずかしかったんじゃないかな。

 

内浦でしかもこんな時間に歩いてる人なんて、滅多にいないから、大丈夫だよね?誰にもみられてないとおもう。

 

私はハンドバックを片手に持って、コウくんの方の手をあけてみる。

 

寒いから、と自分に言い訳。

 

繋いで欲しいっていう思いを隠した。

 

遠くに行かないで…私の近くにいてよ。

 

コウくん…

 

・・・・・

 

家の前まで来た。そこで立ち止まって、コウくんを呼び止める。

 

「私はちょっとだけコウくんの気持ち、わかるよ。みんなの中に入ってくのってちょっと怖いかもしれない。」

 

「私は、いつでも話聞くから。いつでもコウくんのこと受け止めるよ。だからそのうち、コウくんのことも聞かせてね?心の準備ができたらでいいからさ。」

 

今、私にできる精一杯の笑顔を浮かべる。

 

私もコウくんのこと、もっと知りたい。

 

初めてコウくんの曲を聴いた時は全然知らなかった。普段聞かない曲だったし。

 

それでも曲からバンドへの思いみたいなものは伝わってきて、会うのが楽しみになった。

 

「…うん。必ず話すよ。」

 

「ありがとう。じゃあね。また明日。」

 

顔が熱くて、思わずうつむいた。顔、赤くなってないかな?

 

・・・・・

 

ドアを閉める前に手を振って、そのまま階段を上がって、自室に入ると、ベットに横になる。

 

部屋にお母さんが入ってくる。

 

私は毛布を頭からかぶって顔を隠した。

 

今の顔、たぶん世間でいう「女の子」の顔を、した私をあまり見られたくなかった。

 

「梨子ー!!おそいわよー!!」

 

「ごめん、お母さん!友達と話し込んじゃった!」

 

「まったく…気をつけなさいよ?お風呂沸いてるからとっとと入っちゃいなさい。プレリュードの散歩は今日はいっておいたからね。」

 

そう言い残してお母さんは部屋を出て行った。

 

落ち着いたらお風呂に入ろう…それで今日のことを日記に書く…ん…だ…

 

慣れないことをしたせいか私は疲れて寝てしまった。

 

結果的に私は次の日いつもよりも早起きして身の回りの準備に時間をかける羽目になった。

 

・・・・・

 

あの日の私の行動を思い返すと、心臓がドキドキする。あれからまだ一週間とちょっとだ。

 

正直私は自分の気持ちと向き合うのを避けていたんだと思う。

 

千歌ちゃんみたいに自分の気持ちとまっすぐ向き合えたらなって思う。

 

それでも、この気持ちが恋なら。

 

私は。

 

譲りたく、ないな。

 

そう決意すると眠くなってきて、私は眠りについた。

 




次回更新は3/11(日)の予定です。
気軽にコメント、アドバイス等お願いいたします。

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[以下作者あとがき]

久しぶりにベースの練習をしてるんですが、なかなか指が思う通りに動いてくれません。やっぱり楽器は毎日練習しないといけませんね。音感も鈍ってしまう。こんにちは、作者です。

好きなバンドだったらまだのめりこめるんですけど、今回は完全に知らないバンドだし、苦手なタイプのバンドだったんですよね。追いコン大丈夫かなぁ…

半年以上先ですが、秋にNCISの日本武道館公演行けることになったし、テンション上げていこうと思います。

さて、今回はデート回の梨子ちゃん視点でした!やっと書けました。水族館の事も触れられて作者としては結構満足してます。反省点も多いんですが。

今までの話の中で梨子ちゃんの視点を入れることをあえて避けておりました。理由としては千歌ちゃんの自覚の後に梨子ちゃんの視点を入れたかった事や、読者の方が梨子ちゃんがどういう思いで行動していたのかということを想像してみるのも面白いかなぁと思ったからです。

ここから梨子ちゃん視点もどんどん増やしていきたいです。でも、やっぱりコウくんの視点が多いのかな?

次回、テストおよび、曲に関する事の発表となります。どんなストーリーが展開されるのか楽しみにしていただけると作者は嬉しいです。


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第24話 「サプライズ」

5月第4週目の日曜。

 

梅雨が近づいた空は若干曇っている。

 

今日は約束の日だ。

 

私たちはそれぞれの家から鞠莉ちゃんのいるホテルへテストを持って向かう。

 

部屋に着くとすでにダイヤさんと鞠莉ちゃんは待っていて、二年生のみんなも集合済みだった。

 

「いらっしゃーい♪…あら?ヨウだけ?」

 

「うん、3人の分のテストは預かってきてるよ。ちょっと準備があって、3人は来れないんだ。」

 

「…準備?」

 

ダイヤさんはいぶかしむ。まあ無理もない。

 

「後でわかるよ♪」

 

「まあいいですわ。それよりも…」

 

ダイヤさんが言い切る前に私たちの方が動く。

 

「「「「じゃーーん!!!私たちは全員テストをクリアしました!!!!」」」」

 

それぞれのテストを仕分けしたファイルからテストを取り出し、確認する。

 

6教科(現代文、古典、世界史、世界史演習、英語、英語文法)の勉強のバランスを取るのは難しかったけど、それでも最終的にはなんとかなった。

 

勉強合宿だって生きてる。

 

「…確かに取れてますね。千歌さんだけギッリギリですけど。」

 

「あはは…」

 

ダイヤさんが千歌ちゃんの世界史演習のテストを見て言う。

 

その点数は62点。後二つ間違えていたらアウトだった。

 

他は70点代と60点代って感じだ。

 

ほんとなんとかなってよかった…

 

(ちなみに梨子ちゃんは全科目80点代、私とコウくんは70点代と80点代が混ざっているという感じ。コウくんは英語と英語演習は90点代だった。)

 

「わぁ…ほんとギッリギリね…」

 

「善子ちゃんも人のこと言えないずら。」

 

花丸ちゃんはジト目で善子ちゃんを見てる。

 

「ヨハネ!!!…私もなんとかなって本当に良かったわ!!」

 

全科目66点。

 

全科目それで統一できたのは偶然か狙ってなのかな?

 

いや、にしてもすごい偶然もあるもんだな!?

 

「6は悪魔の数字なのよ!私の堕天使の力が66点を引き付けたのね!」

 

あ、これ偶然だ。

 

その後ろではルビィちゃんと花丸ちゃんがお互いに肩を抱き合い、

 

「善子ちゃん、良かったよおおお!!!」

 

「うんうん、マルたち頑張ったずら…たぶん善子ちゃんより頑張ったのはルビィちゃんズラ…」

 

と検討を称えあっている。

 

…一体二年生の勉強合宿はどんな感じだったんだろう…

 

「曜さん、他の三年生はどうしたのです?テストの点が取れているのは分かりましたが、曲も今日聞かせてもらう話になってましたが…」

 

「マルたちもそのことは三年生が秘密にしてたから知らないんだよね。どうなったの?」

 

私はニヤリと笑う。だってこれから起こることに心からワクワクしてるから!

 

「うん!それじゃあみんな、沼津に向かおう!」

 

「「「「「え???」」」」」

 

まあ、そうなるよね。

 

何があるか知らないメンバーを引き連れ、私たちは沼津へ向かう。

 

・・・・・

 

沼津駅についてから言われていた場所へ向かう。

 

昨日のうちに下見はしたし、問題ない。

 

「ねえヨウ?そろそろ何があるか教えてくれない?」

 

「うん、着いたよ!ここ!」

 

私はみんなを地下への階段が伸びるスタジオに連れてきた。

 

「ここは…音楽スタジオ?何も音響にこだわらなくてもパソコンで聞かせてくれたらいいですのに…」

 

疑問に思い続けるみんな。まあまあそう言いなさんな!

 

フロントにいるドレッドヘアのおじさんに話しかけ、奥の方に進む許可をもらう。

 

「ここだよ!果南ちゃんは来れないから、データ送っちゃったらしいけど、みんなにはちゃんと聞いて欲しかったんだ!」

 

ドアに手をかける。

 

分厚い防音構造の二重扉を開けるとそこにいたのは

 

「待ってたよ!みんな!」

 

マイクケーブルにつながったマイクを持つ千歌ちゃん。

 

2段重ねのキーボードの前に立ちながらいつでも弾ける準備をする梨子ちゃん。上段のキーボードはI patにつながれている。

 

いつも練習で使い慣れているらしいベースを持ったコウくん。足元はごっつい箱みたいな物がたくさん置かれた黒い板のようなものが広がっている。

 

そして

 

コウ君でも私達でもない。

 

まさか関わることになるとは思わなかった人たちが準備オーケーって感じでそれぞれの楽器を構える。

 

「シ、シ、シ、シ、Seeker!?!?!?嘘!え!なんで!?」

 

「Why!?なんでミツキがこんなとこにいるのよ!?」

 

善子ちゃんと鞠莉ちゃんの驚く声がスタジオに響き渡る。

 

にっしっしって感じで笑うミツキさんはいたずらに成功した子供みたいだ。

 

私の頭の中でコウくんの部屋でスマブラをしたあの日のことが浮かぶ。

 

・・・・・

 

千歌ちゃんと梨子ちゃんは美渡さんと一緒にコウくんの部屋に転がり込んできた。

 

「もしかして電話中?…失礼しました…あ、ご飯できてるから、電話落ち着いたらきなね。」

 

さっきの勢いはどこへやろ。そそそ…っと美渡さんは去って行った。

 

「Seekerのみなさん、こんにちは!Aqoursの高海千歌です!」

 

「同じくAqoursの桜内梨子です。」

 

とりあえずコウくんのスマホのカメラに映る位置にきて座る。

 

コウくんは全員が映るようにスマホの角度を調整する。

 

「コウ。お前、そっちでハーレム築いてんのか?!」

 

「そーだー!てめえバンド休止中になんてことしてんだー!!!曜ちゃんだけじゃなく、千歌ちゃんにに梨子ちゃんまで!!!」

 

「ハーレムなんて築いてないですよ!?」

 

私は必死でツッコむ。

 

別にハーレムは築いて無いと思うんだよなあ…

 

面白いことにはなってるけど。

 

千歌ちゃんも梨子ちゃんも笑顔。

 

2人が笑顔ってことはうまく話せたのかな?

後で千歌ちゃんに聞いてみよう。

 

ちょっと2人の顔が赤く見えるのは私の見間違い…かな?

 

「あんたらもいい加減にせえ!はあ…。ま、私もちょっと気にはなってたんだけどね。鞠莉からあんたの写真送られてきてびっくりしてたんだ。あの子も何してんの?イタリアに飛んだって聞いてたんだけど。」

 

ミツキさんは色々聞き出そうとしてるキリヤさんとハヤテさんに蹴りを入れて、画面の外に追い出す。

 

それでも這い上がって来ようとするあたり、ある意味2人の執念を感じた。

 

ちょっと嬉しい。私たちはプロで活躍する人たちにも知られていたんだ…。

 

「あー…とりあえず説明するからちょっと待ってくれよ。」

 

それからコウくんはこっちに来てから起きたことを話した。

 

千歌ちゃんとはいとこで今、千歌ちゃんの家の旅館の宿直室に住んでいること、梨子ちゃんや、私達との出会い、新入生歓迎会でのライブ、そしてSummer Rocksとそれに出場するためにダイヤさんに出された条件…

 

「なるほどね…じゃあ、あんたは今Aqoursの子達と一緒に曲作ってるってわけか。曜ちゃんに、千歌ちゃんに梨子ちゃんだよね?鞠莉からちょっと聞いてたよ。うちのコウが世話になってるね」

 

「そんなことないです。コウくんは私にないものたくさん持ってますし。」

 

梨子ちゃんが遠慮しがちに言うと、千歌ちゃんも手を上げて

 

「そーですよ!私なんて、いつも助けられてます!」

 

「いつもハヤテにボコボコに言われて編曲し直してたコウがねえ…」

 

ミツキさんはクスクス笑ってる。

 

なんだか、かわいいと言うよりもかっこいいが似合う女の人だ。

 

「そっかそっか!まあコウはしっかり者だしね!…ところでコウ。曲は書けたのかい?Summer Rocks、いい曲が無いと出れないんだろ?」

 

「うん。今、絶賛編曲中だよ。」

 

「…そっか。あんたが少しでも立ち直れたならよかった。こっちも少しずつだけど持ち直してるよ。安心しなね。」

 

ミツキさんの優しい声がする。

 

…本当に愛されてるんだなコウくん。

 

でもこのバンドに一体何があったって言うんだろう。

 

触れてはいけないとは思うけど、やっぱり気にはなる。

 

前に梨子ちゃんがスマホで調べてた時に出てきた「黒野リサ」って人が関わってるのかな?

 

「俺らにも弾かせろよ。お前の曲。」

 

ハヤテさんがさっきとは違う真面目な顔をしてコウくんに言う。

 

「まだお前らに聞かせられるようなもんじゃねぇよ。」

 

だいぶ砕けてるんだなあコウくん。

 

「じゃあとっとと編曲しちまえ。煮詰め過ぎてもいいもんなんかできねえしな。約束は今月末の日曜日なんだろ?」

 

「…言う通りかもな。」

 

「一個提案があるぞー!っていうか、なんでだれもコウと千歌ちゃんがいとこってのに突っ込まねーんだー!」

 

横からキリヤくんが顔を出す。

 

「その曲の発表!俺らにもかかわらせてくれよ。んで、スタジオでライブやろうぜ!」

 

「…は?」

 

何を言っているのかわからないと言うようなコウくんの顔。うわ、面白い顔してる!

 

「Aqoursの曲は鍵盤多いけど、梨子さんはピアノできるんだろ?だれかボーカル1人連れてきてもらって俺らとその2人でダイヤ様はじめ他のAqoursのメンバーびっくりさせようぜ!コピーとオリジナル一曲ずつでさ!」

 

ダイヤ様…世間から見たらそう言う見方なのかな?

 

「いや、お前急に何勝手なこと言い出してんの?!」

 

うーん、芸術家肌の人は変わってるって聞いたことはあるけど…

なんだか、キリヤさん、千歌ちゃんと似てるとこあるなあ…

 

「パソコンの音よりもその場で響く音の方が絶対に伝わるって!それは俺たちが一番よくわかってんだろ。」

 

「……」

 

真面目な顔をしてコウくんは考え出してしまう。

 

煮え切らないコウくんをみて、ハヤテさんが画面の向こうで動いた。

 

「…キリヤ、お前ナイス!俺もラブライブの大会が本格化する前にアイドルの後ろで弾くのしてみたいとは思うしな!俺は賛成!ミツキは?」

 

「あんたらがそんなこと言い出したらもう止まんないでしょうよ…あたしは別にいいよ?コウは大丈夫?それと梨子ちゃんは?」

 

なるほど…このバンドではコウくんとミツキさんが常識人タイプで、キリヤさんとハヤテさんはブッとんでるタイプか…

 

「いや、僕はいいけど梨子ちゃんや他のメンバーの子だって…」

 

「私はいいよ。」

 

梨子ちゃんはきっぱりと言い切った。

 

「プロの人たちと一緒にバンドで曲が合わせられるなんてこんな素晴らしいこと、そうそうない!やってみたい!」

 

梨子ちゃんもこうなったら譲らないだろうなあ…

 

そして千歌ちゃんまで

 

「私、歌う。コウくんと梨子ちゃんが作った新しい私たちの曲をSeekerのみんなと歌ってみたい!!!」

 

私、乗り遅れてしまったなあ…ちょっと私もやりたかったかも。

 

まあでも今回は仕方ないかな。コウくん絡みのことだし。

 

「…決まりだな。コウ、やるぞ!とっとと曲のデータ送れ!ダメだと思ったところは徹底的にダメ出しすっからな!」

 

ハヤテさんは新しい曲にワクワクしてるって感じでいう。

 

キリヤさんは目をキラッキラさせ、ミツキさんは呆れてる。

 

そうしてテストと並行して私たちのライブ計画はスタートした。

 

・・・・・

 

千歌ちゃんはマイクを握りしめて言う。

 

「今回のために初めて合わしたの昨日だったからコピーとオリジナルで一曲ずつしかできてないけど、聞いててね。」

 

「一曲目はμ'sの曲から選んだんだ!」

 

「ーーーsoldier game!!!!」

 

スタジオの中に軽快なキーボードの音が響く。

 




次回更新は3/15日(木)を予定しております。
お気軽に感想やアドバイスなど、よろしくお願いします。

[以下作者あとがき。]

昨日は夕方からバンド練でスタジオからの近くの鳥貴族で呑んだくれるって言う大学生あるある決め込みました。まだ頭痛い…こんにちは、作者です。

鳥貴族行ったことある人は分かると思うんですが、テーブルごとの境界の壁に鳥貴族の理念みたいなポエムがかかってて、そこから作曲するって言うゲームが始まったんですけど、普通に楽しかったんですよね。アイホンのGarage bandマジで強い。

本日3/11は東日本大震災から7年の日ですね。作者は中学生の時、現地の宮城県で被災しました。その影響もあって、中学校の卒業式、できなかったんですよね。

僕は諸々あって、すぐに県外に出ましたが、避難所で過ごした三日間とやけに綺麗な星空が未だに記憶の中に残ってます。
お亡くなりになった方に追悼の意を示したいとおもいます。

さて、本編はまさかのライブです!かなり強引にライブ展開に持ってきましたが、いかがでしたでしょうか?

コピーでsoldier gameを出したのは、完全に僕の好みです。
ラブライブ シリーズに足を踏み入れたの、こっからなんですよね…僕。

次回はライブ回です。このSSのためにオリジナルで書いた歌詞も次回は載せようと思っております。
ライブ描写とともに、歌詞に関してもアドバイス等いただけると嬉しいです。

いつも読んでいただきありがとうございます。次回も楽しみにしていただけると作者はうれしいです。


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第25話 「グルーヴ」

一曲目のsoldier gameのコピーはコーラスと打ち込みの操作に徹するキリヤがパソコンを操作する

 

梨子ちゃんもマイクの高さの最終調整をする。

 

ミツキのドラムが入る。

 

音色を変えたキーボードと打ち込みで作ったパーカッションの音が反響した。

 

そこにギターが合流し、全パートが合わさる

 

さあ!始まりだ!

 

「ー・ー・ー・ー!--ー----!」

 

千歌ちゃんの声が響き渡る。

 

それに合わせて僕はベースラインを走らせる。

 

ベースが自己主張をしない時代はもう遥か昔に終わったとされている。

 

うねるベースライン。リズムキープが難しい。

 

一体感。それを決して崩さない。

 

その上で。

 

僕は僕を刻み込む。

 

今この場に。ここにいる、全ての人に!

 

この曲はμ'sの中でも何人かのメンバーで選出されて作られた曲らしいが、そのクオリティの高さにびっくりさせられた。

 

僕の認識の中のアイドルにこんな曲はなかった。

 

すごい・・・!

 

弾くたびに痛感する。

 

これを作った人はどんなことを思ってこの曲を書いたんだろう?

 

動き回るベースラインに乗せて体を動かす。

 

考えるな、感じろ…!!!

 

2番に入る。

 

ボーカルを生かすように、それでいて自分の音を出す。

 

奏でられる千歌ちゃんとキリヤ、そして梨子ちゃんのユニゾンが気持ちよかった。

 

聞いててくれ、Aqoursのみんな・・・僕の音を。

 

この曲で、soldier gameで、みんなを僕らの世界の入り口に立たせる。

 

僕がみんなのライブを見てアイドルを知ったように。

 

そうしてアイドルとバンド、二つの世界が交わるんだ。

 

そこから先は----僕らも未知数だ。

 

2サビも終わりに近づく。

 

千歌ちゃんが振り返って、梨子ちゃんの元に行く。

 

「----負けないんだからね?」

 

不敵な笑みを浮かべる梨子ちゃんは僕の顔を見ると何かを千歌ちゃんに言ったようだった。

 

さあ、僕を見てくれ!

 

この曲の最大の見せ場のベースソロ。

 

僕の全身全霊をぶつける。

 

サムはハンマーのように、プルはナイフのように。

 

ベースで、聞いてる人の心を抉れ!!!

 

ハッとした目で見つめるAqoursのみんなを見ることができて満足した。

 

そして間奏に入る。

 

梨子ちゃんが急に練習の時にはなかったアドリブを入れ出す。

 

僕たちは驚いて梨子ちゃんを見る。

 

梨子ちゃんは僕たちを見てにっこりと微笑んだ。

 

そして僕たちも微笑む。

 

「・・・上等!!」

 

その挑戦、受けてやるよ!

 

僕は小さく言うと、梨子ちゃんのアドリブとぶつかるように、でも絶対に演奏を崩さないように、僕はベースラインを紡ぐ。

 

セッションの時間。30秒もないその時。

 

僕と梨子ちゃんはたしかに繋がったことを感じた。

 

ラスサビを千歌ちゃんが歌い切る。

 

とりあえず一曲目。soldier gameは合わせ終わった。

 

我に帰る。

 

「うまくいったね!」

 

汗をかいた千歌ちゃんの笑顔が眩しかった。

 

「梨子ちゃん、途中遊び始めたからびっくりしちゃったわ!でも最高だね、こんな形でセッションってのもさ。」

 

ミツキさえも満面の笑み。

 

「ちくしょー!俺ももっと遊びたかった!」

 

セッションの誘導に成功した梨子ちゃんに嫉妬するハヤテは、梨子ちゃんの才能を理解したんだろう。

 

まあこの曲、ギターソロないし…

 

「俺もギター弾きてえええ!!」

 

…キリヤ、どんまい。

 

選曲したのはお前と千歌ちゃんだからな。

 

まあこのベーシスト得すぎる曲を選択してくれたのには感謝しかないが。

 

次は弾けるんだし、いいだろ?

 

「・・・突然でびっくりしましたわ。それにまさか、μ'sもほとんどやらなかった隠れた名曲を選曲して私たちに聞かせてくださるなんて。」

 

ダイヤさんは鋭い目で僕たちを見る。まるで、獲物を狙うように。

 

「皆さんの演奏力や表現力の高さは理解しました。ですが、肝心の新曲はどうなっているのです?」

 

それに対して、僕は微笑んだ。

 

「今からやります!今僕が書ける、全てをぶつけました。」

 

「Aqoursのみんな、聞いててね。----Marmaid Song!」

 

クローズのハイハットで3カウントを取る。

 

ズクタンっ!

 

気持ちのいいスネアの音が響く。そして入れ替わるように始まったシンセの音とユニゾンするリードギター。

 

響くエイトビートと挟まれる小技。

 

それに合わせるギターのメジャーコードの響きが心地いい。

 

僕はそれに合わせてルート音を弾く。千歌ちゃんの歌が入る。

 

「遠く見たことのない景色 なにがあるか知らぬまま 」

 

この場所は千歌ちゃんの歌とキリヤのパワーコードの刻み。

 

イントロでぶち上げてからAメロ前半で一旦落としていく。

 

「僕は1人この場所に立つ」

 

Aメロ前半。終わりに全パートで合わせて曲にアクセントをつける。

 

「あの日終わった物を 捨てきれずに握りしめた きっといつかは元に戻るって願う」

 

再び刻まれる心地よいビートに乗せてボーカルラインをなぞりながらも遊びまくったベースラインを僕は弾きあげる。

 

「探してた答えが 見つかるかは知らない」

 

アイドルの曲によく見られるPPPHのリズムに合わせる。

 

明るいメロディとキャッチーなリズム。

これでアイドルらしく曲を作れてるんじゃないかな?

 

「今出会えた欠片を抱きしめる」

 

四つ打ちをベースに手数の多いドラムとそれに合わせて響く僕らの音。

 

サビ前のピアノが響く

 

そしてサビ。

 

揺らせ。聞いてる人に感動を届けろ----

 

・・・・・

 

私はマイクを握りしめた。

 

顔が熱い。踊ってもいないのに。

 

バンドなんて初めてだ。

 

でも----なんでだろう。

 

生の音で、人の手で作り出す音楽は心地いい。

 

「輝く海の向こうへと (進め)心の旗を掲げて

一度しかないこの時を (抱きしめて)

今を歌っていたいんだ」

 

梨子ちゃんのコーラスとうまく掛け合わせた。

 

この歌詞は、コウくんが私たちを、そして自分を意識して書いたらしい。

 

輝きたい!

 

私がしばらく忘れていた、ラブライブ に燃えていたあの時のことを思い出す。

 

爆音に乗せて、ラブライブ もコウくんへの想いも、梨子ちゃんに嫉妬していたあの日の自分も全てを込めて、声に乗せた。

 

響け----

 

「いつか泡になっても何かはきっと残るから

刻もう 歌おう marmaid song」

 

いつか終わるのはわかってる。

 

でも、それでも。

 

私たちは、私たちの全てを今ここに刻み込みたい!----

 

・・・・・

 

ギターソロが入る。

 

ハヤテとキリヤは互いに向き合い、バトルをするようにフレーズを弾く。

 

キリヤはソロで急に遊び始めるし、ハヤテはタッピング入れ出すし完全にやりたい放題だ。

 

だが、決して乱れない。

 

僕も負けないようにベースラインを紡いだ。

 

息がぴったり合ってるのはこの師弟コンビだからか。

 

久しぶりに、seekerでのライブだからだろうか。

 

いや…このメンバーだからか。

 

感じたことのないような爆発的な化学反応がここには生まれているんだ。

 

ソロパートを弾き終わった後のキリヤとハヤテの笑顔が眩しかった。

 

・・・・・

 

バチバチだ…。

 

まるで火花が散るかのような、爆音の渦の中で鍵盤の上で指を滑らせながら、横目にSeekerの面々を見る。

 

笑顔。そこには笑顔のSeekerメンバーがいた。

 

こんな平和な戦争があるんだ…。

 

1人1人の自己主張がぶつかり合い、爆発的な化学反応が生まれる。

 

それでいて演奏全体を決して崩さない。

 

これがバンドなのか。

 

間奏が落ち着いて私は静かにピアノを弾く。

 

私は自分が作詞したパートを歌う。

 

私のソロ。

 

「----あの日の僕は何を思ったんだろう」

 

Aqours、コウくん、そして私。

 

千歌ちゃんと出会ったあの日を、

 

海の音を探すために海に潜ろうとしたあの日を、

 

そしてコウくんを抱きしめたあの日を、

 

思い出す。

 

曲を作って、歌詞を書いて。

 

音で繋がって。

 

自分の想いに気付いた。

 

私は、コウくんを、コウくんが奏でる音を、

 

コウくんの全てを

 

 

愛してる。

 

 

好きだったんだ。

 

あの時から、いや、それよりも前から

 

 

「遠く見つめる君を抱きしめた----」

 

・・・・・

 

梨子ちゃんのソロパートが終わる。

 

そこからロールが入ってラスサビ。

 

「希望の旗を掲げて この世界を渡っていこう」

 

この曲がきっと、旗印になることを信じて、ラスサビのフレーズを弾く。

 

「やっぱり君と居たいよ 心の奥が痛いよ」

 

千歌ちゃんの切なそうな顔が、スタジオの鏡に映る。

 

誰だって色んな想いを抱えて今を生きるんだ。

 

そして、僕らの物語はここから始まる----

 

「これで終わりじゃないよね?まだまだ続くから 歌声 紡ごう Marmaid story----」

 

アウトロ。

 

梨子ちゃんのピアノで曲を締めた。

 

・・・・・

 

「す、すごいズラ!!!」

 

花丸ちゃんが手を叩く。その目はキラキラとしていて、本当に良いと思ってくれたらしい。

 

「うん!ルビィこの曲好き!」

 

アイドルが好きなルビィちゃんが褒めてくれるのであれば、間違いはないと思う。

 

善子ちゃんと鞠莉さんはプルプル震えてる。

 

「seekerのライブをこんな間近でしかも、私達の為の、なんて、見れると思わなかったわ…ヨハネ昇天…」

 

そのまま壁にもたれかかる。ありがたい。

 

「fantasticね!metalには欠けるけど、Aqoursらしい、いい曲だと思うわ!」

 

テンション高く言う。そして、スマホを僕らに見せた。

 

「ね!カナン!」

 

テレビ電話を僕たちの方に見せた。

 

「聞いてたよ!生の演奏って、かっこいいね!」

「果南ちゃん!聞いててくれたんだ!」

 

海外にいる果南さんが僕らの演奏聞いていてくれた。

なんだか目頭が熱くなりそうだ。

 

そして、ダイヤさんは

 

「…すごいですわ!!!」

 

静かにしてたと思ったら、一気にテンションを上げて叫ぶ。

 

「生のドラムとベースの奏でる低音の迫力、メロディアスなギターと鍵盤、そして、通常のアイドルの時とは一味違う千歌さんの歌い方!」

 

「バンドとアイドルというのはたくさん聞いたことがありますが、こんなにもすごいものだと思いませんでした…」

 

「いい曲を書くのですね…コウさん」

 

ダイヤさんに褒められた。純粋に嬉しい。

 

僕の作った曲が、Aqoursのみんなに認められた。

 

曲を作ることが、こんなにも楽しいなんて。

 

そして、目の前で認められることがこんなにも嬉しいなんて…

 

『すごいじゃん!こーちゃん!』

 

リサさんが褒めてくれた時のことが頭によぎる。

 

----僕は進めていますか?

 

「…認めるしかありませんね。summer rocksに、私も出ます。Aqours全員でいいステージを作りましょう!」

 

「「「「「「よっしゃー!!」」」」」」

 

僕たちは楽器を持ったままガッツポーズをした。

 

「ねえ!ワタシから提案があるの!」

 

「Seekerのみんなに、バックバンド!お願いしない?」

 

「それ、すごくいいよー!!!Seekerのみんなと一緒にステージできるなんてそんな機会滅多にない!やりたい!」

 

千歌ちゃんがテンション高く言う。

 

マジで?

 

また、僕たちが、Summer rocksにたてるのか!?

 

「また、アンタは何言ってんの…今活動休止中だよ?うちら。」

 

ミツキは呆れて言う。

 

だけど僕は胸の内の興奮を抑えることができないくらい心臓が高鳴る。

 

「いいじゃん!やろうぜ!」

 

ハヤテは完全に乗り気。と言うことは…

 

「俺も賛成でーす!!」

 

キリヤも手をあげる。

 

ミツキはため息をついて僕を見る。

 

「…コウは?」

 

戸惑うことなく僕は言う。

 

「やりたい!あの場所に、Summer rocksのステージにまた立ちたい!」

 

ミツキは僕らを見回すとため息をついた。

 

「…仕方ないね。手越さんに確認して見るよ。鞠莉、細かいことはおいおい決めていこうか。」

 

「それでこそ、よね!Summer rocksが楽しみになってきたわ!!!」

 

「まだスタジオの時間残ってるし、なんか合わせようぜ。Aqoursの曲でもいいし。」

 

ギターのチューニングを確認しながら、ハヤテが言う。

 

「ホントですか!」

 

善子ちゃんが復活してマイクを持とうとする。

 

こうして、僕たちとAqoursはSummer rocksに出演することが決まった。

 

この歩みが合っているのか間違っているのかわからないけど。

 

今、僕は前を向いている。

 

先の不安は一度横に置こう。

 

僕は再びベースを持つと合わせる準備をした。

 

AqoursとSeeker、交わることがないと思っていた2つが交わった音を、グルーヴを、大切にしたい。

 




次回更新は3/27(火)を予定しております。
お気軽にコメント、アドバイス等お願いします。
次回から更新ペースが下がります。詳しくは、活動報告の「25話以降の投稿について」をご覧ください。

[以下作者あとがき]

花粉症辛いんですが、完全にある種の呪いですね。アレルギー体質なのでこの時期ホント困るんですよね…なんとかしたいものです。こんにちは、作者です。

ていうか、海未ちゃんの誕生日が更新した日でした!
おめでとう、海未ちゃん!

やっとこの回書けました!バンドはもちろん、バンドものの漫画だったり、小説だったりも大好きでライブのアツさや、激しさなんかを書きたくてこのSSを書き始めました!なので、ライブの描写は力入れたりしたいんですよねえ…まだまだど素人ですが、いかがでしたでしょうか?

前回のあとがきでも書きましたが、無印ラブライブの曲だと、soldier gameほんとに好きなんですよね。初めて聞いた時、マジでこれアニソン?ってなったの今だに覚えてます。ほんとえげつないくらいレベルたけえ…

そして歌詞も今回、載せましたがいかがでしたでしょうか。僕なりにAqoursのイメージや、この物語を組み合わせて歌詞を書きました。
頭の中に曲の完成形のイメージはできてるんですが時間あんまなくて今は作れないんですよね…色々終わった後に作ってみたいです。

更新ペースがしばらく下がります。気晴らしにもなるので、これからも更新は続けます。必ず次回更新の日程は書きますので、これからも楽しみにしていただけると作者はうれしいです。

次回は今後の展開に関わるかもしれない番外編とオリキャラまとめをしたいと思います。


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番外編2 「あの頃の僕は」

「かわいいー!!」

 

5月最終日。

 

学校が終わって、部室に向かうとたぶん、善子ちゃんの声が部室の外まで聞こえてくる。

 

スタジオライブが3日前。今後のことや諸々のことを計画立て、Seekerのみんなはその日、千歌ちゃんの家(男連中は僕の部屋、ミツキは千歌ちゃんの部屋)に泊まり、次の日には東京に戻った。

 

ダイヤさんは東京に戻り、鞠莉さんはイタリアに一度戻った。やはり講義がやばいらしい。

 

果南さんも6月中にはこちらに一時帰国するそうだ。それに合わせて、鞠莉さんとダイヤさんも内浦に来るらしい。

 

東京では今頃ミツキが事務所に色々話してる頃だろう。

 

荒れないといいけどな…手越さんは僕ら側になってくれるとは思うけど…

 

そんなことを考えて部室に行くと、千歌ちゃんと善子ちゃん、そして、梨子ちゃんがいた。

 

「よっちゃん!恥ずかしいよー!」

 

「いいじゃない!かわいいんだから!ね!千歌!」

 

「うん!ほんとかわいい!」

 

「何話してるの?」

 

部室の端に作ってもらった僕用のスペースに置かれた事務机の上にスクールバックを置いて、学校で作曲する為に持ってきたエレアコを手に取って言う。

 

今日はこの後、次の曲を書くための打ち合わせを梨子ちゃんとする予定だ。

 

このまま放置したら延々と入る隙間がなさそうだ。

 

「コウさん!これ見て!リリーの小学生の時のピアノの発表会の時の写真!」

 

「よっちゃん!恥ずかしいから〜!!」

 

顔を真っ赤にした梨子ちゃんがスマホを取り上げようとするも、善子ちゃんの方が一枚上手なようで、僕にスマホを渡してくる。

 

「へぇ〜…あれ…?」

 

その写真は小学生のピアノの発表会で金賞を取った梨子ちゃんの写真。

 

「金賞」と大きく書かれた賞状を持った幼い梨子ちゃんが満面の笑みを浮かべている。かわいい。

 

そのはずだ。なのに。

 

「これ、僕も写ってる…!」

 

「「「へ!?」」」

 

3人とも、びっくりした顔で僕を見る。

 

「これ、銀賞の賞状もってる、男の子…!僕だ…!ほら、これ!」

 

僕はスマホに保存してある小学生の頃の家族写真と梨子ちゃんのスマホを並べた。

 

「…!ほんとだ!私と、コウくん…昔会ってたの?」

 

「うーん、思い出せない…。ちょっとまた調べてみる。あ、Summer Rocksに向けてなんだけどさ…」

 

写真の話はここで終わった。

 

でも、僕と梨子ちゃん…? ピアノを習っていた時のことを少しだけ思い出そうとする。

 

だけど出てくるのは心踊らない日々の記憶だけだった。

 

・・・・・

 

眩しい…もう朝か…

 

ついさっきまで家でベースを弾いていたような気がする。

 

ふとあたりを見渡す。

 

は?

 

ここは…どこだ?

 

僕は内浦ではないところに立っていた。

 

どこかの駅前。服装は部屋着。

 

前から歩いてきたサラリーマン風の男性とぶつかりそうになる。

 

「あ、ごめんなさ…」

 

サラリーマンの体が僕の体をすり抜けた。

 

は?

 

パニックになりそうになる。

 

落ち着いて考える。

 

あー…そうか、これたぶん夢だ。

 

そしてこの光景。見覚えがある。

 

振り向くと、JRの駅がある。

 

スーツを着た男性が[小学生ピアノコンクールはこちら]と書かれた看板を持って駅前に立っていた。

 

これはたぶん、銀賞をとった、あの時の夢なんだろう。昼間の梨子ちゃんの写真が原因か。

 

これが過去のことの夢なら、幼い頃の僕もいるんじゃないだろうか?

 

どうせ夢なら見に行ってみようか。

 

ショッピングモールに併設された文化ホールへ向けて歩き出した。

 

まだ本気になれないような初夏の蝉の鳴き声が駅前の空にこだましていた。

 

・・・・

 

「ほーら♪コウ、しゃんとしな!」

 

「こんなん、着なれてないから恥ずかしいよ…」

 

母さんと一緒に子供用のタキシードのような衣装を着て楽屋のパイプ椅子に座っているのは小学校四年生の頃の僕だ。

 

まだ、幼くてかわいい。

 

「ここまで来たんだから!頑張りなさいよ!」

 

母さんはそう言って僕を励ます。僕の顔はむくれていて、ちっとも楽しそうじゃない。

 

僕は、ピアノ教室や、ピアノがそんなに好きなわけではなかった。

 

父さんと母さんの勧めで幼い時からやっていただけ。

 

それだけははっきり覚えている。

 

結果的にはその時身につけた知識や経験に今、助けられてるんだけど。

 

・・・・・

 

幼い僕が壇上に上がる。

 

曲目はメンデルスゾーンの「甘い思い出」。

 

滑らかなメロディと柔らかな音が特徴的な一曲だ。

 

僕はお辞儀をするとステージにセットされたグランドピアノの前に座る。

 

顔は仏頂面。楽しくなさそうだ。

 

ーーー音が、硬い。

 

我ながら、年にしてはしっかりと弾けていると思う。大きなミスもない。

 

だけど、音に感情がこもってない。

 

曲の雰囲気のせいもあり、音の硬さが浮き彫りになる。

 

無機質。その一言に尽きる。

 

見ていて辛かった。

 

ーーーー早く、終わらせてあげてくれ…

 

終幕。お辞儀をして舞台袖に帰っていく。

 

僕はこんな音を奏でていたのか…

 

・・・・・

 

そこから2人、小学生らしいピアノを聞く。

 

その2人はピアノを一生懸命楽しもうとしていて、僕の音と違って生き生きしていた気がする。

 

しかし、ミスが連発していて、評価としては良いものではないだろうと思った。

 

そして、赤みがかったセミロングの髪をツインにまとめて、ピンクのドレスを着た女の子が登壇する。

 

----梨子ちゃんだ。

 

今と髪型が違う。だからわからなかったのか?

 

曲目はグリーグの「蝶々」。

 

音が細かく流れることで優雅に飛ぶ蝶をイメージさせる一曲だ。

 

ぺこり、と音がしそうな綺麗なお辞儀をして、満面の笑みを浮かべ、ピアノに向かう。

 

始まりの音が流れる。

 

ところどころ原曲に比べて微かなリズムのズレはある。

まぁそこそこ難しい曲だし、仕方がない部分はあるだろう。

年齢を考えたらできていると思う。

 

前の2人みたいに目立ったミスがない。1つのミスを別の成功で塗り替えるような。前向きな演奏。

 

だけど、それ以上にその音は暖かい。

 

暖かな春の花畑を飛び回る蝶々を想起する。

 

そして何よりピアノに向かう梨子ちゃんの顔は満面の笑み。

 

心からピアノを楽しむように。ピアノと対話するように、音を奏でる。

 

----僕より上だ。間違いなく。

 

痛感した。梨子ちゃんは本当にピアノが好きなんだ。

 

・・・・・

 

そして、賞の発表になる。

 

銅賞、銀賞、金賞の順番。

 

銀賞は僕、金賞は梨子ちゃん。

 

賞をとった3人は並んで記念撮影。

 

これがあの写真だったんだ。僕のアルバムにもあるのかもしれない。

 

そのあと、幼い僕はどこかに行ってしまった。

 

・・・・・

 

文化ホールの入り口の横にある公園。そのブランコに僕は座っていた。

 

散歩ルートにもなっているらしく、歩いている人もいる。

 

僕は何か紙を見つめていた。

 

『技術はできています。もっと感情を込めて、楽しく弾いてください。これからの伸び代に期待します。』

 

ブランコの後ろに立つと僕の持っていた紙を見つめる。

 

今回の点数や、講評が書かれた紙を見つめていた。

 

「ピアノを楽しむ」という項目の点数が他の項目に比べてやたら低い。

 

「…クソっ!」

 

…幼い僕の口の悪さ、なんとかならないのかなあ。そのまま、紙を握りしめた。

 

「きゃー!!!」

 

叫び声が聞こえる。この声はまさか。

 

叫び声を聞いて、幼い僕が声の方にかけていく。僕もそれについて行った。

 

・・・・・

 

そこにいたのはポールにリードを巻かれたポメラニアンに鳴かれている、梨子ちゃんだった。へたり込んでいる。

 

吠えている、というより、人懐っこいわんちゃんが、人に甘えようとしているという構図。

 

今でこそ飼い犬のプレリュードを可愛がっている梨子ちゃんだけど、しいたけに怯えまくってたって前に千歌ちゃんに聞いたわ、そういえば…

 

あんな小型犬も怖かったんだ…

 

幼い僕がそこにわって入ると犬を撫でてあげる。落ち着いた犬は幼い僕の足元まで来ると、人懐っこそうに鳴いた。

 

「あー…ごめんなさいね…この子、子供が好きなのよ。」

 

飼い主だろうおばさんが駆けてくるとリードをポールから外して、その場を去った。

 

「大丈夫?君、金賞だった子だよね?」

 

幼い僕が梨子ちゃんに問いかける。

 

「うう…ありがとう。確か、銀賞の…」

 

幼い僕は軽く舌打ちをした。

 

…僕、どんだけ性格悪いんだこの時。

 

ほら見ろ、梨子ちゃん怯えちゃったじゃないか。

 

「…ねえ、君はなんであんなに楽しそうにピアノを弾けるの?」

 

「…え?」

 

「なんで、あんなに笑顔なの?君。」

 

梨子ちゃんは一瞬考えて幼い僕の方を見た。

 

「…君はピアノがきらいなの?」

 

モロなことを聞いてくる。

 

「今はきらいだよ。前は好きだったけど。やってて楽しくないんだ。好きな曲や、楽しい曲の練習をさせてももらえない。」

 

「コンクールのためにピアノなんて弾いてないよ、僕は。」

 

淡々と言う。少しだけズキンとした。

 

僕はこの時から何も変わってないじゃないか、今だって…

 

僕は子どものままだ。

 

大人になるってなんなんだ?…言うことを聞き続けることか?

 

「私だって、コンクールのためにピアノなんて弾いてないよ。」

きっぱりと言った。

 

「ただ、ピアノの音を奏でるのが好きなんだ。私の心の中を映してくれるみたいで。」

 

「私からも質問!君は音楽がきらい?」

 

幼い僕は戸惑っている。

 

「…音楽は好きだよ。激しいのも落ち着いたのも。でも、今僕がやってるピアノは何かが違うんだよ。何かが…」

 

うつむきながら、幼い僕は呟いた。

 

「頭の中にできていく、音を、歌を奏でたいんだ僕は…」

 

無言で幼い僕を見つめる梨子ちゃんは僕の手を取る。

 

「これ、あげる。」

 

梨子ちゃんに何かを渡される。

 

僕は何を渡されたんだ…?

まったくもって覚えていない。

 

「----さんで----ったんだけど、私はたぶん使わないから。」

 

「…あなたのピアノ、とっても上手だったよ。私よりも上手だった。あなたなら、絶対に奏でたい音が見つかる。私、なんとなく、そう思うんだ。」

 

はじめのところが聞こえなかった。なんて言ってた?

 

幼い僕はそのままもらったものを返そうとする。

 

なぜか僕の足は動かなくなった。

 

「こんなのっ…!」

 

「りこー!そろそろ帰るわよー」

 

公園の入り口から梨子ちゃんのお母さんが入ってきて、梨子ちゃんの手を取る。

 

「じゃあね。次、会えたら、その時は--------ね。約束だよ!」

 

梨子ちゃんは微笑む。最後が聞こえない。

 

そのまま世界全体にテレビのノイズのような電磁波が流れたと思ったら、幼い僕を中心に世界がブラックアウトする。

 

まてよ!お前、梨子ちゃんに何をもらったんだ!何を言われたんだ!

 

幼い僕の手を握ろうとする。やっと動いた足で駆けた。しかし、僕の手は幼い僕の手をすり抜ける。何をもらったかもわからない。

 

そのまま僕は意識を失った。

 

・・・・・

 

…今度はどこだ。ここ。

 

まだ僕の夢は続くのか。

 

見渡すと僕はどこかの島の船着場にいた。

 

どういうことだ?景色的にたぶん内浦のあたりなんだろうけど…なんだか、見覚えがあるような。

 

蝉がさっきよりも激しく鳴いてるから、たぶん時期は夏だ。

 

向こうから幼い僕が走ってくる。

 

「ちかちゃん!はやくはやく!水族館!」

 

「こうくん、はやいよおー!」

 

後ろから幼い千歌ちゃんも走ってきた。

 

たしか、僕、小学生の頃から水族館は好きだったんだよなあ…

 

「こらぁ、2人とも走らないの〜」

 

叔母さんの声が向こうから聞こえる。

 

「まあまあ。姉ちゃん落ち着いて♪怪我はしないでねー!」

 

遠くから、母さんの声もした。

 

看板を見ると、「淡島」と書かれていた。

 

そうか、ここ淡島か。

 

鞠莉さんのところに行くときに通ったとこだ。

 

少しだけ思い出した。

 

最後に内浦に里帰りしたのは小4の夏休み。

 

僕と千歌ちゃんは淡島に遊びにきたんだ。

 

ってことは、この夢の時間はあのピアノの発表会よりも後なのか?

 

・・・・・

 

僕と千歌ちゃん、母さんと叔母さんの4人で淡島マリンパークを周る。

 

そこまで大きくない水族館だけど、島の中にある水族館というだけあって、独特な生物も多くいた。

 

何より、ペンギンがとても可愛かったし、いきものふれあい広場では夢中になってナマコやヒトデをつついていた。

 

ショーもみる。そういえば最近、イルカショーとかアシカショーとか見てないなあ…

 

今はどうなってるんだろう…行ってみたいな。

 

・・・・・

 

マリンパーク内の海鮮丼屋さんで遅めの昼食を食べたあと、船着場近くに戻り、カエル館を見学する。

 

世界的に珍しいカエルなんかもたくさんいる。魚と違うからそこまで得意ではないけど、それでも楽しかった。

 

幼い僕と千歌ちゃんは歓声を上げつつ見ていたけど、母さんと叔母さんは若干引いていた。

 

・・・・・

 

夕方になってきて、空はだんだん赤くなってきた。母さんと叔母さんが話している。

 

「この後どうする?」

 

「そうねぇ、船の時間までまだ時間ありそうだしね…あっちのカフェでちょっと休みましょうか♪」

 

やっぱり母さんと叔母さん、本当そっくりだ。

 

確か年子だったとおもうけど、髪型が近いこともあってか、双子かな?ってくらい似てる。

 

こう見るとなんとなく、面白いな。

 

・・・・・

 

カフェで色々な話をしている母さんと叔母さんの横で、僕らは暇そうにしていた。

 

この時はスマホも普及してなかったし、暇つぶしの手段って本とかだったんだよなあ。

 

「おかあさん!私、ちょっと行きたいとこあるからいってくる!」

 

そのまま千歌ちゃんは駆けていく。

 

「こら、千歌待ちなさい!」

 

「船が来るまでにはもどってくるからー!」

 

そう言って千歌ちゃんはカフェから出て行った。

 

「どうしましょう…」

 

「僕が探してくるから、お母さんたちはここにいてよ。」

 

幼い僕が言う。

 

「僕だって小4だよ?そんなに広いとこじゃないから大丈夫!ケータイもあるし!見つけたら電話するね。」

 

そう言って僕も出口に向かった。

 

・・・・・

 

「ちかちゃん、こんなとこいたの?」

 

船着場の人に話を聞いて、千歌ちゃんが走っていった方向を聞いて探したらすぐに見つかった。

 

カエル館を通り過ぎて、なにやらものすごく急な階段のふもとに千歌ちゃんは座っていた。

 

「あ、こうくん!きてくれると思ってたー!」

 

にぱーって感じで笑う。純粋そのものかこの子は…

 

幼い僕はとりあえずケータイで電話をかけて千歌ちゃんを見つけたことを報告する。

 

「ちかちゃん、おばさんが変われって」

 

「もしもーし!」

 

幼い僕からケータイを受け取ると、お説教が始まったらしく、千歌ちゃんは一瞬だけ、シュンとした。

 

「淡島神社、行きたいからこうくんとみてくるねー!」

 

千歌ちゃんはそう宣言すると強制的に電話を切った。

 

「いこっか!」

 

「行こうってどこに?」

 

「この上!」

 

とんでもなく急な階段を指差す。

 

千歌ちゃんは僕の手を握るとそのまま階段を登りだした。

 

・・・・・

 

「つかれたぁ……」

 

「あつい…みかんアイスゼリー食べたい…」

 

頂上に上がるとそこには夕焼けに照らされた淡島神社の祠があった。

 

そして、夕焼けに染まる、内浦や淡島を一望できる。

 

「うわぁ…!!」

 

「きれいだね…!かなんちゃんが言ってたのこれだったんだ!」

 

幼い僕と千歌ちゃんはその綺麗さに感動した。

 

徐々に昔のことを思い出す。

 

たしかに僕はこの光景を見たことがある。

 

この時…だったのか?

 

「…ねえ、こうくん、おまじない、しない?」

 

「おまじない?」

 

「うん。この前テレビでやってたんだ!」

 

そう言うと、千歌ちゃんはリュックから、自由帳と二本のマジックペン、海苔の空き缶、ガムテープ、たくさんのジッパー式のビニール袋、手持ちのスコップを取り出す。

 

「お互いのお願い事を書いて、この缶の中にいれて、淡島神社の神様にお願いするの。かないますように〜!って!」

 

興奮して千歌ちゃんは続ける。

 

「お願い事は自分の中にとどめるんだよ!缶に入れたら穴を掘って埋めるの!それで、次、ここに2人できた時、それを2人で交換して見るんだ!」

 

そう言うと僕に紙とペンを渡し、祠の近くのわかりやすいところに穴を掘り出す。

 

「次いつ来るかなんてわからないよ?それでもいいの?」

 

「大丈夫!きっと、すぐにまた来れるよ!」

 

これが小学校四年生の夏休み。

 

と言うことは、僕がSeekerを組み出す前の話だ。

 

小学校四年生の秋にベースを知って、すぐにSeekerに入った。

 

それから内浦に来ることもあまり好きじゃないピアノの曲を弾くことも無くなったんだ…

 

「ふぅん…せっかくだし、やろうかな。」

 

幼い僕はペンを握ると何か書き出した。

 

千歌ちゃんも何かを書いている。

 

すると、僕の足がまた動かなくなった。

 

さっきと同じ。また動けない。僕は呆然とこの光景を見るしかない。

 

2人とも書き終えて、紙を折りたたむとビニール袋の中に紙を入れた。

 

「ちかちゃん、ちょっとまって、これも入れたい。」

 

幼い僕が何かを取り出すとそれもビニール袋に入れる。

 

…僕はなにを入れたんだ…?

 

千歌ちゃんはそのビニール袋を海苔の缶の中に入れるとしっかり封をして、ガムテープで口を閉じた。

 

それを穴の中に入れると土をかぶせる。

 

そして、2人で淡島神社の祠に手を合わせる。

 

参拝したあと千歌ちゃんは僕の方を見て言う。

 

「こうくん、目をつぶって?」

 

「こんな感じ?」

 

幼い僕は目を閉じたようだ。千歌ちゃんは僕の前髪を上げたようだ。

 

逆光でその光景はよく見えない。

 

「私のお願い事がかなうかは----けど、今は----ーてもいいかな?」

 

声が聞き取りづらい、また、見てる光景の中に電磁波のようなノイズが流れ出す。

 

逆光でよく見えない。

 

 

だけど、暗い2つの影が1つに重なったように見えた。

 

 

慌てる幼い僕。笑う千歌ちゃん。

 

「今は----ーーだけど、次ここに来れたら-----ね。約束だよ!」

 

照れ臭そうに笑う千歌ちゃんが、僕の手を引いて走ってくる。僕の体をすり抜けた。

そのまま幼い僕と千歌ちゃんが、中心となって、世界がブラックアウトする。

 

お前、千歌ちゃんとなにを約束したんだ?おい!

 

そして、また僕は気を失った。

 

・・・・・

 

目が覚めた。いつもの天井。

たぶん、現実世界だ。

 

変な夢だ。

小学生の頃の僕と梨子ちゃんと千歌ちゃん…?

 

なんでだ…?

 

夢の中のことを思い出そうにも少ししか出てこない。

 

夢はいつも曖昧なもので細かいところまでは思い出せない。

 

ピアノの発表会で梨子ちゃんに会い、その後の夏休み、淡島で千歌ちゃんと遊んだ。

 

それだけしか分からない。夢で見たはずなのに。

 

僕は何かを約束していた…?

 

一体、なにを?

 

「約束」

 

その言葉だけはいやにはっきり覚えている。

 

今日から6月。窓から外を覗くとまだ梅雨になりきっていない空は晴れていた。

 

もうすぐ夏が来る。

 




次回更新の予定は4月中に1、2話を考えております。
4/27は必ず更新いたします。
ご報告になりますが、本SSにイラストがつくことになりました。詳細は下記にて。

[以下作者あとがき]

昨日渋谷に行っていたんですが、ハチ公前の桜が綺麗に咲いていました。寒い冬が終わって春が来ようとしています。これからの新生活、不安もありますが、一生懸命今を重ねて行きたいです。こんにちは、作者です。

もう春ですよ?びっくりする。時間経つの早すぎて作者がビビってます。あと一週間もしたら、また学校が始まって、この時期特有の履修登録だの説明会だの、僕に関しては実習打ち合わせだの色々あってほんといそがしくなりそうだなあ…ってなってます。

めげずに将来のこともやらなきゃなあっておもいます。

さて、今回の話はコウくんの過去編にもつながるお話でした。
いかがでしたでしょうか?それぞれのキャラクターとかを考えた上で、こういう展開にしました。今回の伏線は今後回収できるようにするために前々から構想は練っておりました。

今後、どのような展開をするのかたのしみにしていただけると作者はとても嬉しいです。

そして、皆さんにご報告がございます。本SSになんとイラストを描いてくれる方があらわれました!正直びっくりした。まき乙さん(@maki_otsu)という方です。作者の友達なんですが、ひょんなことからこのSSの存在がバレまして、正直げんなりしてたんですが、絶賛していただきまして、描いていただけることになりました。

とりあえずカラーの一枚絵を描いていただけるようなので、完成され次第、こちらや僕の創作アカ(@emo_haduki)などで告知させていただこうと思います。
もちろん、皆さんからのイラストも大歓迎ですので、描いていただけたらDMしていただけると嬉しいです。

更新の頻度が低くなってしまったにもかかわらず、読んでいただきありがとうございます。作者自身色々あり、更新することが難しくなることもあるかと思います。
今日でこのSSを書き始めて3ヶ月です!この物語は必ず完結させます。最後までお付き合いいただけると幸いです。



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オリキャラまとめ

オリキャラが今後、Aqoursの面々と関わっていくことを考え、オリキャラたちをまとめました。読んでくださる方々に愛されるキャラにしていけるように作者も頑張ろうと思います。


○宮木 コウ

 

SeekerのBa.Cho。高校三年生。今作の主人公。

 

Seeker休止後、いとこの千歌の家に居候し、Aqoursのために曲を書くことになる。メインの機材はWarwick streamer stage Ⅰ4st NB、サブの機材はbacchus handmade series twenty four ash/hum broil (ちなみに作者の愛機)

 

小学4年生の秋、父親に編曲のアドバイスをもらいに来ていたリサと会い、ロックと言うジャンルを知り、リサにベースを勧められて、その才能を開花させた。キリヤよりも先にSeekerに入る。ライブの際、スイッチが切り替わると大暴れしだす。

 

尊敬するプレイヤーはフリー、ジョン・エント・ウィッスル、ヘンリック・リンダー、日向秀和、マコト、イガラシ、佐々木直人。特に好きなバンドはHello Sleepwalkers、Nothing's carved in stone、ストレイテナー、眩暈SIREN、GRAND FAMILY ORCHESTRA、SHANK、リアクション ザ ブッタ、ヒトリエ、LACCO TOWER、Red Hot Chili Peppers、Set It off、Arctick Monkeys、Dirty Loops。無差別に色々な曲を聞く。重めかつ、激しめの曲が好きで、ベースラインが楽しい曲が好き。

 

好きなゲームは64スマブラ、FF、call of duty。

一応、常識人。鈍い。基本インドアだが、水族館に行くのが好き。色んな意味で作者の好みや趣味がモロに反映されてます。

 

 

○風見ハヤテ

 

SeekerのGt. 大学3年生。現在はラブライブ の大会公式バックバンドでもギターを務める。自他共に認めるメタラーで自称「胎教でSlayerを聴いて育った男」キリヤが入る前は北島徹に憧れてリードとギタボをしていたが、キリヤの声を見出し、ギターに徹する。

 

大学中退は認められなかった。喫煙者。吸っている銘柄はアメスピレギュラーの8mm。

 

Seekerの前身となるバンドをミツキ、リサと共に結成。Seekerのリーダー。メインの機材はPRS custom24 10top Quilt KG サブの機材はgibson ES-335(黒) 両親ともにスタジオミュージシャン(父Dr.母Gt.)で小学校の低学年の時からギターを弾いている。初めての機材であるfender japan telecasterは今でも大切にしており、ある場所に置いている。

 

尊敬するプレイヤーはパブロ、ハーマン・リ、トシン・アバシ、E.D.ヴェダー、雅-MIYAVI- 、生方真一、北嶋徹。特に好きなバンドはNirvana、set it off、Slayer、Don broco、dragon force、of mice &men、issues、protest the hero、destrage、Linkin park、眩暈SIREN、Nothing's carved in stone、A crowd of revellion、MAN WITH A MISSION、Fear,and Loathing in Lasvegas、Pay money To my Pain、凛として時雨、THE BACK HORN、マキシマム ザ ホルモン、asking alexandria

好きなゲームは64スマブラ、喧嘩番長シリーズ、龍が如くシリーズ。最近、PUBGやりがち。Seekerの暴走機関。北欧メタルとメロスピを好む。とりあえずパワー系メタラーの系譜。

 

作者は完全にメタルの知識が浅いので、北欧とメロスピとハードコアとdjent少しとかしか分からん。(ていうかハードコアってメタルじゃないよね)勉強します。

 

作者的にはSeekerのイメージにはあるバンドを考えているのですが、一概にジャンル分けできないかもしれないです。そのバンドはロック、エモ、スクリーモとかそんなかんじなのかなあ?

 

○桐原ミツキ

 

SeekerのDr. cho.大学3年生。バンドが忙しかった時はちょこちょこ大学をサボっていたが、現在は真面目に大学で単位取得に努める傍ら、都内でサポートドラマーをしている。

 

ドラムはcanopus(パールパープル)を使用。練習用の機材としてRolandの高い電ドラを使用。

 

幼馴染だったハヤテに巻き込まれる形でリサと共にSeekerの前身のバンドに参加する。コウと同様Seekerの常識人。音楽に関して、完全に初心者と言うところからドラムを始めた。

 

尊敬するプレイヤーはキース・ムーン、大喜多 崇規、アヒトイナザワ。

特に好きなバンドはsunny day real estate、Dirty Loops、5second of summer、ala、ストレイテナー、ヒトリエ、Acidman、teto、04limited sazabyz、RIZE、10-feet、the who、LACCO TOWER

 

ロック全般を好む。好きなゲームは64スマブラ、どうぶつの森、ポケモン。タマゴ厳選までするレベル。毎シーズンごとに高レートを維持し、ツイッターの更新はバンドよりもポケモンが多い。

Seekerのアネゴ。周りに振り回されがち。自称ライブキッズ。料理が趣味。得意料理は自家製ピザ。

こんなお姉ちゃんが欲しかったなあ()

 

○黒野キリヤ

 

Seeker のGt.Vo. 高校3年生。歌のみも多い。

コウと同じ高校に通い、共にSeekerで活躍していた。中性的な声の持ち主。メインはfender usa telecaster(濃紺)サブはfender jazz master(白)

 

ハヤテに声を見出され、バンドに参加する。家族の影響でアイドルの音楽にどハマりする。Gtはハヤテに教わり、ギターボーカルとしても活躍しだす。

 

尊敬するプレイヤーは京寺、細美武士、鈴木重厚、カート・コヴァーン、山中拓也、MINAMI。

特に好きなバンド、アイドルはELLE GARDEN、そこに鳴る、BYEE the ROUND、THE ORAL CIGARETTS、ONE OK ROCK、zazen boys、眩暈SIREN、ジラフポット、アルカラ、flip side、Fear,and Loathing in Lasvegas、passcode、yeti let you notice、the Cabs、ゲスの極み乙女。、μ's、Aqours。ステージからどのようにオーディエンスを盛り上げるかを常に考える。

 

好きなゲームは64スマブラ、ドラクエ、バイオハザード。

デリカシーなし男。作者的には愛すべきバカ野郎にして行きたいと思ってます。

 

手越・・・Seekerのマネージャー。Seekerがデビューするきっかけともなった人物。タバコがやめられない。吸っている銘柄はHi-Light。桑田佳祐のファン。Seekerメンバーに手を焼くも、その才能と復活を信じているアツいRock大好きオジサン。

 

黒野リサ・・・元Seekerのkey.cho。ハヤテ、リサと共にSeekerの前身となるバンドを結成。幼い頃からピアノをしている。コウやキリヤが入る前はベースを弾いたりギターを弾くことや歌うこともあった。

 

特に好きなバンドは東京事変、the HIATUS、Czecho No Republic、level 42、テスラは泣かない。、naco is…、Hello sleepwalkers、眩暈SIREN、weaver、Number girl、zazen boys、クラムボン、凛として時雨、Fear,and Loathing in Las vegas、SOIL&"PIMP" SESSIONS、東京スカパラダイスオーケストラ、女王蜂、amazarashi、two door cinemaclub、ジラフポット、LACCO TOWER

 

コウをバンドに入れた張本人。全てはこの人から始まった。

 

 




次回更新は4/27(金)本編の更新を予定しております。
オリキャラのこんなところが見たい!とかありましたら、コメント、僕のツイッターにリプ、などなどしてください。

[以下作者あとがき]

4月になって、もう下旬に差し掛かるんですね。びっくりする。
時間経つのが早すぎます。

作者はほぼ毎日変わらない日々を過ごしています。
こんなに天気がいいのに僕らは学校にこもってていいのでしょうか…

まあ色んな意味で仕方なかったりするんですけどね。めげずにやろうと思います。

前回が番外編、そして今回はオリキャラまとめとなかなか思うように本編が進められていませんが、全体のプロット通りに話は進んでおります。もうちょい書き進めたいし、なんだったら書きたい番外編みたいなのたくさん出てくるんだよなあ…

これからも書ける範囲で書いて投稿してを繰り返していくつもりです。楽しみにしてくださると作者は嬉しいです。

オリキャラたちが好きなバンドは作者の大好きなバンドをメインにして組んでみました。どのバンドも本当に魅力的です。よろしければ聞いてみてください。他にも紹介したいバンドはたくさんありますよ!!メタルに関しては作者もだいぶ探り探りなんですよねえ…オススメがあったら教えてください。

ちなみに作者はdragon forceに最近ハマってます。

まだ話として関わってきていない設定もありますが、今後ストーリーに盛り込んでいきます。そして、まだ書いていないこともあったりします。


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第26話 「完全なるぶっぶー!!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぴぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

「ずらぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

……阿鼻叫喚。死屍累々。そしてミツキの苦笑い。

 

そんな雰囲気が似合う声が更衣室の中から聞こえてきた。

 

SeekerとAqoursの面々は今、旧浦の星女学院にいる。

 

こうなったのは鞠莉さんとダイヤさんのせいだよなあ…今回は。

 

・・・・・

 

6月1週目の中頃。

 

学校の音楽室で梨子ちゃんと曲を書いていたらミツキから着信が入る。

 

ビデオ通話にして梨子ちゃんにも聞こえるようにする。

 

「もしもし、コウ?と梨子ちゃんもか。色々話固まったから連絡しようと思ってさ」

 

「ん。…でどうだった?」

 

僕は恐る恐る聞く。

 

活動休止の話になった時、大荒れしたことを思い出した。あれは仕方なかったところもあるんだけど。

 

「結論から言うと、認めてはくれた。特に荒れもしなかったよ。」

 

「よかった〜!またハヤテがブチ切れるんじゃないかって心配だったんだ。」

 

「まあ今回は私と、事前に話を通した手越さんと共同で話を進めたからね。あと…」

 

「あと?」

 

「…小原家の名前ってすげえって改めて思った。Aqoursの名前出したらびっくりして態度変わったよ。小原家の娘がAqoursのメンバーって知れ渡ってるみたいだね。正直びっくりしたよ。」

 

僕は何も言えない。

 

…何があっても鞠莉さんを敵にだけは回さないようにしよう。

 

「まあ条件は出されたんだけどね。あくまでもバックバンドとして振る舞えってことで私らは覆面でもしろってさ。」

 

「覆面しながら演奏かあ…」

 

「やったことないからそこも含めて練習しないとね。そこはまた鞠莉と話し合いかな。運営側も6月2週目終わりの最終アーティスト発表でAqoursの名前を出したいんだそうだ。」

 

「練習場所とかどうなりそうですか?」

 

梨子ちゃんが聞く。たしかに僕も気にはなっていた。

 

「あーそれなんだけどね。鞠莉からの提案で浦の星の体育館を使わないかって。」

 

「え!」

 

「梨子ちゃんたちにとって思い入れのある学校なんでしょ?そのためにラブライブやってた話も聞いたよ。私たちがいっていいのか正直不安なとこはあるけど…」

 

「全然!ぜひ来てください!そこで練習できるならとっても嬉しいです!」

 

笑顔で言う。

 

「…ならよかった。それじゃあ練習場所の設営とかのためにあたしらはマネージャーの手越さんと一緒に今週末、また内浦に行くよ。んじゃまたね。」

 

電話を切る。

 

梨子ちゃんは鼻歌を歌いながらピアノを触っていて、本当に嬉しそうだった。

 

・・・・・

 

前回ここにきた時は体育館は見ていなかったが、一般的な作りの体育館だ。

 

ステージ横の日焼けしていない部分は校歌がかけられていたところかな?

 

僕たちはとりあえず事務所や各所に借りたり持ってこれた私物の機材の配置を進める。

 

アンプやドラムの配置、聞こえ方などの配慮もしなくちゃならない。

 

全員分のイヤモニのためのPA卓やアンプの配置など、この人数だけでやるのは骨の折れる作業も多いがなんとかはなった。

 

ハヤテが機材に詳しいことも大きな要因だろう。

 

「機材はこんなもんでいいか?」

 

「手越さん、すいません。わざわざ内浦まで来てもらっちゃって。」

 

「いいよいいよ。お前らが事務所に来なくなってから退屈しててなー。いい退屈しのぎみたいなもんだ。そ・れ・に」

 

「ウチのバンドがサマーロックスでバックやるんだ。下手な演奏させるわけにゃいかんからな。俺やウチの事務所のスタッフ何人かも練習は参加させてもらうぞ。」

 

「テゴちゃーん!愛してるぜーありがとー!」

 

キリヤが手越さんにだきつく。

手越さんは苦笑い。

 

6月1週目の土日。空には雲が出てるものの、まだ晴れだろう。

 

「本当にSeekerのみんなやマネージャーさんは仲いいのネー。やけちゃうわあ」

 

「仲がいいのは良いことですわ。」

 

ダイヤさんはこの話を聞いてからすぐにこちらに向かう準備をして戻ってきてくれた。

加えて鞠莉さんも。

 

果南さんは今月行われるスクールアイドルワールドの前日あたりに東京入りして、ダイヤさんと鞠莉さんと一緒に今のAqoursを観戦するそうだ。

 

今のところは新曲ということで、Marmaid Songでの出場予定となっている。

 

スクールアイドル界隈で僕の曲が一体どれくらいウケるのか…正直僕には見当がつかない。

 

それにしても鞠莉さん、イタリアからこっちに何回飛んでくるんだろう…その財力がすごい。

 

まぁこっちでの仕事もあるんだろうな。

 

「さて、配線も終わったし、音作りと行きますか。適当に曲流すからあとは卓とラックでEQいじるぞ。各自イヤモニのチェックしてくれ」

 

ハヤテの声が聞こえて僕らは準備にかかった。

 

・・・・・

 

「ねえ、ミンナ?ちょっと提案があるんだけど。」

 

「んー?どしたの鞠莉ちゃん?」

 

音作りもひと段落して休んでいたら鞠莉さんが何か言い出して、千歌ちゃんが返す。

 

またとんでもないこと言いださないか少し心配だ。

 

「いや、私たち、プロポーション大丈夫かなー?って思ったのよ。最後に歌ったのが三月の前半とかだったでしょ?あれから3ヶ月だし。」

 

やっぱりアイドルだとそういうところ気になるんだろうか?

 

「うーん、大丈夫じゃない?そこまで大きく変わってる人はいないだろうし…」

 

曜ちゃんが言う。

 

ていうか僕から見たら全員普通に細く見えるんだけど。普通にスタイルがいい。

 

「ほら、だってみんなミツキ見なさいよ。アイドルじゃないのに、こんなにスタイルいいのよ?」

 

Aqoursのみんなの目がミツキに集中する。

 

確かに僕から見ても思うがミツキは美人だと思う。

 

モデル体型って言うんだろうか?そこまで胸やお尻が大きいわけではないけど、スラッとした体型は可愛いというよりカッコいいお姉様ってイメージだ。

 

今日の私服がノースリーブのシャツに黒のパンツということもあって、そのスタイルの良さが強調されていた。

 

「ちょ…そんな見られると恥ずかしいって!」

 

「もぉ〜!ミツキは恥ずかしがりやねぇ!実はお胸もしっかりあるのにい!」

 

鞠莉さんはそう言うと後ろにミツキの後ろに回ってミツキの胸を揉みだす。

 

僕とキリヤはどこを見たらいいかわからずとっさに横を向いて目をそらす。

ハヤテは爆笑。

 

「oh〜!やっぱり実は結構なサイズだったり…!」

「ちょ!…やめんか!」

「あぶっ!」

(挿絵

【挿絵表示】

)

 

ミツキの裏拳が見事に鞠莉さんのおでこに命中し、鞠莉さんは止まった。

 

「いったーい!冗談じゃな〜い。」

 

「鞠莉さんの自業自得です!ミツキさん大丈夫ですか?」

 

「あはは…大丈夫…。ドラムは全身使うからね。下手な運動より消費カロリー多いよ。変に筋肉ついちゃったりするし。」

 

「その気持ち、私もわかるかも。」

 

曜ちゃんがウンウン頷きながら言う。

 

水泳しながらアイドルって、考えてみたら、バケモノみたいなバイタリティしてないか?

 

ダイヤさんは呆れながらも笑っていた。

 

「でもたしかに私たちの今のプロポーションがどうなってるかは気になりますわね。」

 

「必要かと思って保健室の備品もろもろは準備したわ!測ってみましょうか。とりあえず体重。ミツキの体重も確認してみましょ☆」

 

「ちょ!なんであたしも?」

 

「まあまあ!それじゃあ女の子はみんなで更衣室ではかってみましょー!」

 

鞠莉さんになかば強引に連行される形でミツキは体育館の更衣室に消え、Aqoursのみんなはついていく。

 

取り残された男連中はポカンとするしかなかった。

 

・・・・・・

 

持ってきたベース(Warwick)とエフェクター一式をアンプに繋ぐ。

 

久しぶりにこのヘッド(EQ)とキャビネット(アンプ)で音を出すな…。このアンプで響く音を聴くと、安心する。

 

このヘッドとキャビネット…Orange AD200 BASS Mk3とORANGE OBC810(キャビ)はSeekerの音を追求して色々考えた末にたどり着いた機材だ。

 

Seekerとしてデビューして1年目、貯めたお金を放出して買った。

 

その頃は高校1年になるかならないかで、まだまだお給料も少なかった。印税だってそんなになかったし(今も言うほどない)

 

まぁ父さんの知り合いのところで安くしてもらったんだけど。

 

元は自分の尊敬するベーシストが使っていたアンプのメーカーということもあるけど、レコーディングやライブで大活躍していた。

 

ここまで大きい機材だと普通の家では音が絶対に出せない。

 

出そうもんなら一家丸ごと近所から迫害を食らう。

 

だからかな…こんなでかい場所で音を出せるのが本当に嬉しい。

 

しばらくないと思っていたから。

 

適当にフレーズを弾いてみる。

 

重い音が体育館に響いた。

 

ああ…やっぱり僕は、ベースという楽器が好きなんだ…!

 

そのまま僕は気分で手癖になってるフレーズを弾く

 

気分はNCISのspirit inspirationの間奏のフレーズ。

 

…楽しい。体育館に反響する音が心地いい。

 

ここまで反響すると少しのやりづらさはあるが、そこらへんはおいおい片付けていこう。

 

ベースを置いてお茶を飲もうとしたその瞬間。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

恐らくは千歌ちゃんの叫び声が更衣室の方から聞こえて、何事かと思ってしまった。

 

・・・・・

 

更衣室からみんなが戻ってきたかと思ったら、千歌ちゃんと梨子ちゃん、花丸ちゃん、そしてダイヤさんが死んだような顔をしている。

 

「…あえて聞くけど、どうしたの、千歌ちゃん…」

 

「…女の子にそんなこと聞くってよっぽどのデリカシーのなさだよ、コウくん…」

 

だいたい予想はつく。体重増えてたんだろうなあ…

 

「お菓子たべすぎたぁぁぁあ!!!!」

 

顔を抑えながら嘆く千歌ちゃんはその場にへたり込んでしまった。

 

「…ピアノ弾いてたり、曲作ってるとつい甘いもの食べちゃうのよね…ああ…曜ちゃんが羨ましい…」

 

壁にもたれかかる梨子ちゃんは萎えた顔をしている。

 

二人の間で曜ちゃんは苦笑い。

 

「まぁ私はみんなより運動したりしてるから…こっから痩せればいいよ!」

 

恨めしそうな千歌ちゃんと梨子ちゃんの目がすごく印象的だった。

 

「そういえばズラ丸、相変わらずのっぽパン食べまくってたわね。」

 

「美味しそうに食べてる花丸ちゃん可愛いから、ルビィもなんも言わなかったなあそういえば…」

 

「全部胸に行ってると思ってたわ。」

 

呆れたように善子ちゃんが言う。

 

あまり意識しないようにしてるけど、花丸ちゃんの胸の大きさは…その、なんというか、柔らかそうだな…っていうか…

 

いかん、理性を保て!

 

「うぅ…ルビィちゃんはともかく、善子ちゃんにあきれられるなんてぇ…」

 

半泣きで恨めしそうに花丸ちゃんは言う。

まぁたしかに気がついたら何か食べてる感じだったしなあ…

 

「どう言う意味よ!」

善子ちゃんの声が体育館に反響する。

 

「く…屈辱ですわ…!」

 

悔しそうに体育館の床を拳で叩くダイヤさん。正直意外だった。

 

「ダイヤ〜。一人暮らしで不摂生してたんじゃナイ?理由はお・さ・け?」

 

「くっ…今日ばかりは何も言い返せませんわ…」

 

「せっかくお土産にお高めのワインよういしたのにぃ〜ミツキとテゴちゃんと飲んじゃおうかしら☆ ハヤテとメタル談議しながら一杯飲むのもいいわねえ…」

 

「お!鞠莉はメタルわかるのか!?」

 

「もっちろん!特にお気に入りはマリリン・マンソンね!」

 

「おー!!インダストリアルメタル!!うまい酒が飲めそうだー!」

 

「…ぶっぶーですわ…」

 

メタル談議を始めだしたハヤテと鞠莉さんは僕も知らないようなかなりマニアックなメタルバンドの話に花を咲かせ始める。

 

噂には聞いてたけど、本当にメタラーだったんだなあ…鞠莉さん。ハヤテとのメタル談議についていけるって相当だ。

 

一人うなだれるダイヤさんは本当に悔しそうだった。

 

「みんなそんなにわかんないけどなあ。どんくらいふえてたん?元から箱推しファンの俺でもわかんねえよ?」

あっけらかんとキリヤが言う。

 

続けてハヤテもうなだれるダイヤさんを見て

「てか、ダイヤも見た目でわかるほどじゃないんだし気にすることないんじゃね?」

 

これは僕でもわかる。言っちゃいけないことだ…

 

「やめんか!」

 

「あだ!」

 

「つっ!」

 

速攻でミツキからツッコミのチョップが入った。

 

「みんなごめんねえ…うちの男どもは本当にデリカシーないよねえ…」

 

とりあえず近くにいた千歌ちゃんの頭を撫でながらミツキは言う。

 

「ううう…その優しさが痛いぃ…」

 

千歌ちゃんのうめき声が聞こえた。

 

「やるズラ…マルはやるズラ…!」

 

少し危ない雰囲気を放っている花丸ちゃんが呟く。

 

そして目を見開いた。

 

「ダイエット!!!やるズラ!!!今月はスクールアイドルワールドもあるんだからね!やるずらぁぁぁぁ!!!!」

 

花丸ちゃんの決意の咆哮が体育館に反響する。

 

・・・・・

 

「「はぁ〜…」」

 

私と梨子ちゃんは並んで大きなため息をついた。

 

浦の星からの帰り道。この道を歩くのも久しぶりだ。

 

曜ちゃんと善子ちゃんはバスなので浦の星の目の前からバスに乗って帰った。

 

コウくんたちはまだ諸々の確認をしたいらしく、手越さんたちと鞠莉ちゃんも一緒にいる。

 

そっちはそっちで打ち合わせをしなくてはいけないらしい。

 

「まあ、花丸ちゃんもダイエットにヤル気だしてたし…がんばろ…」

 

梨子ちゃんのうなだれた声が刺さる。

 

まさかあんなに増えてるとは…

 

冗談抜きで今月の下旬はスクールアイドルワールド。正直油断してた。

 

コウくん絡みのこととか色々あって、ストレス溜まってついつい食べすぎてた…

 

くそう!

 

微妙に重い空気。

 

私と梨子ちゃんのため息はとどまるところを知らない。

 

「やる気出ないなぁ…ダイエット…」

 

「じゃあちょっとしたゲームする?」

 

梨子ちゃんが言う。ゲーム?

 

「…合宿の時、千歌ちゃんの思いを聞いて、私もあれから色々考えたんだ。」

 

一呼吸置いて、私の顔をじっと見る。

 

 

「私、コウくんのこと、好きなんだって気づいた。それは、千歌ちゃんのおかげなんだと思う。」

 

いつもより真剣な顔をして梨子ちゃんは言った。

 

「だからこそ、私は千歌ちゃんと対等の立場で、コウくんに私の気持ちを気づいてほしい。」

 

その顔は、あの日、海に飛び込もうとした日の梨子ちゃんの顔だった。

 

少し、びっくりした。

 

おっとりした梨子ちゃんが闘志を燃やしている。

 

「今度のスクールアイドルワールドの次の日、自由な時間を作ったよね?」

 

「うん。」

 

私はうなずく。

 

「今回のダイエット、減った体重が多い方が、その日コウくんをデートに誘う。どう?」

 

断る選択肢はわたしにはなかった。

 

「わかった。私と梨子ちゃんの勝負だね!」

 

梨子ちゃんの想いに私も答えたい!

 

---それがこの時の私の想いだった。




次回更新は5月中に1・2話を予定しております。
コメント、アドバイス等ありましたら、お願いいたします。

今回作中で紹介させていただいた曲はこちらになります。
Nothing's Carved In Stone / spirit inspiration
https://youtu.be/ROpGaQiTVm0

[以下作者あとがき]

4月ももう終わりですね。だんだんと暖かくなってきて、過ごしやすくなってます。こんにちわ、作者です。

ぷちぐる!の配信も開始して、函館ユニットカーニバルも今日なんですね!作者は現在ライブ禁してますので、行く方、楽しんだきてください!

新生活が始まったみなさんはそろそろ慣れ始めた時期でしょうか?
僕は相変わらず学校と家の往復とたまにバイトみたいな夜型生活を送っているのですが、そろそろ疲れてきました。

来月末から実習やんかぁぁぁぁ!!!

凹みそうな時はラブライブ の曲の底なしの明るさに助けられております。ほんと前向きでいい曲多いですよね…

久々の本編更新です!いかがでしたでしょうか?作品の中の時間は確実に進みます。

ある意味千歌ちゃんと梨子ちゃんの直接対決ですね!どっちが勝つんでしょう??

そんな感じで次回からはスクールアイドルワールド編に入ります!勝負の結果発表はいつになるのかなあ()

そして、スクールアイドルワールドということはあの方たちが登場します。楽しみにしていただけると作者は嬉しいです。

今日でこの作品を書き始めて4ヶ月となります。いつも、読んでくれてありがとうございます。日々増えていく数字に元気づけられここまでかけてます。これからもよろしくお願いいたします。


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第27話 「スクールアイドルワールド(1)」

「じゃあ、コウくん!私たちいくからね!」

 

「東京で待ってるね。」

 

「いってらっしゃい。明日、僕も間に合うように行くよ。」

 

6月最終週の金曜日。

 

朝早くから重そうなスーツケースを引っ張って千歌ちゃんと梨子ちゃんは東京に向かった。

 

部活動の正式な大会ということで、Aqoursのみんなは学校が公欠となっている。

 

明日の夕方から、スクールアイドルワールドが開催される。

 

今日の午後から会場での打ち合わせがあって、そこからリハなんだそうだ。

 

今回はラブライブの運営と同じ運営元が行う前哨戦ということで、僕に出番はない。

 

だから、自分の部屋でネットの中継を見ようと思っていたんだけど、それを千歌ちゃんに言ったところ、ものすごくむくれられた上に

 

「コウくんも、スクールアイドル部じゃん!!」

 

と怒られた。

 

ちなみに梨子ちゃんにも同じように怒られた。あとはミツキにも怒られた。

 

僕としては区切りがつくまでは東京に戻るつもりはなかったんだけど、まぁこればっかは仕方ない。

 

しかも美渡さんは美渡さんで

「コウも東京いくっしょー?」

 

となぜかニヤニヤした顔で電車賃が入った封筒を僕に渡してくれた。

 

Seekerの連中もみんな揃って行くらしいし、ハヤテに関してはバックバンドだ。

 

旧3年生のみんなも現地で集合することになっている。これに合わせて果南さんも東京入りするんだそうだ。

 

ここまで人が揃っているとしたら、流石に行かないわけにもいかず、僕も東京に向かうことにした。

 

まさか、こんなにもすぐに東京に向かうことになるなんて微塵も思わなかった。

 

・・・・・

 

土曜日。11時の東京。

 

大会の開始は13時からだからだいぶ余裕はある。

 

御茶ノ水に着く。

 

ラブライブ決勝が行われるのはドームらしいが、今回の大会はドームとは別に併設されたホールで行われることになっている。

 

御茶ノ水からは比較的に近い。

 

Seekerが所属している事務所がある場所は秋葉原だけどここから歩いてすぐだ。

 

活動休止以降、御茶ノ水や秋葉原にほとんどきてないけど、少し緊張するな…

 

御茶ノ水で楽器屋さんを冷やかしながらそんなことを思った。

 

適当に歩き回っていると、神田明神の前に着く。

 

「…あの人は元気にしてるのかな。」

 

せっかくだから参拝していくことにした。

 

千歌ちゃんから聞いて知ったけど、この神社はスクールアイドルブームの火付け役にもなったμ'sが練習していた場所だそうで、ファンからしたら聖地なんだそうだ。

 

15円を賽銭箱に放り込んで祈願する。

 

Aqoursが輝けますように。そして…

 

Seekerに明るい未来が訪れますように。

 

・・・・・

 

そこから少し見回してみるけどあの人は見当たらない。

 

名前も把握してないけど、あの時僕にアドバイスをくれたのはあの人だったから、お礼と今の僕のことくらい伝えたかったのにな…

 

まぁ今いないのなら仕方がない。非番なんだろう。

 

それに、僕のことを覚えているかどうかさえも疑わしい限りだ。

 

気づけば待ち合わせの時間まで、ちょうどいい時間帯になっていた。

 

そろそろ向かおう。

 

「あの…すいません…」

 

突然サイドテールに髪をまとめた女の人に話しかけられる。

 

「ん?なんでしょうか?」

 

「アキバドームホールってどちらに行けばいいかわかりますか?私、この辺りは疎くて…」

 

「僕もこれから向かいますよ。よければ一緒に向かいますか?」

 

「本当ですか!助かります!あ、自己紹介が遅れました。」

 

 

「私、鹿角聖良と申します。」

 

 

多分、僕よりも年上だろう聖良さんはものすごく丁寧に僕に頭を下げるのだった。

 

「あ、宮木コウと言います。」

 

慌てて僕も名前を言うのだった。

 

 

・・・・・

 

僕と聖良さんは二人で水道橋方面に歩く。

 

「へえ、妹さんがスクールアイドルなんですか…」

 

「ええ。去年までは私もスクールアイドルだったんですよ。今は家業を手伝いながら、地元の函館の大学に通っているんですがね。」

 

聖良さんは笑いながらそう言う。妹の応援のためにわざわざ北海道から飛んでくるなんて、仲のいい姉妹らしい。

 

「宮木さんはどちらからいらしたんですか?」

 

「僕は内浦から。僕が曲を書いたスクールアイドルが今回の大会に出るんです。」

 

「内浦?!」

 

聖良さんがびっくりして言う。僕までびっくりしてしまう。

 

「どこかで名前を聞いた気がしてました…高海さんのいとこでSeekerのベーシストの宮木さんですよね?」

 

「え、なんで知ってるんです?」

 

それから聖良さんは、AqoursとSaint Snowの話をしてくれた。

 

去年のスクールアイドルワールド、ラブライブ、函館での合同ライブ…

 

正直びっくりした。

 

「じゃあ千歌ちゃんから僕のことは聞いてたんですね。びっくりした。」

 

「私もです。まさか、偶然道を聞いた人が噂の宮木さんだったなんて。」

 

「噂って…大したことはないですよ。」

 

僕は少しバンドや音楽に詳しいだけのただの高校生だし、そんなに大したことはない。

 

「いえ、あなたの作った曲…千歌さんに聞かせてもらいましたが、私、とても好きでしたよ。だけど。」

 

聖良さんがそこで一息いれる。

 

話しながら歩いていたら、アキバドームホールに着いた。

 

待ち合わせ場所を見ると、キリヤがスマホをいじりながら、音楽を聴いている。

 

「…私の妹は、理亞は、負けません。必ず、勝ちます。あの子達は、とても強いですよ。」

 

「それではまた。なんだか、また必ずどこかで会う気がしますし。」

 

聖良さんはそう言うと微笑んでホールの入り口に向かって行った。

 




次回更新は6月中に一話、更新できたらしたいと思っております。

[以下作者あとがき]

ついに実習が始まってしまった。こんにちは、作者です。

大学四年、そして実習ということで何してるか悟ってくださる方は少なからずいらっしゃると思います。

とりあえず準備とか諸々の対応とかに追われてめっさ眠かったりします。

おかげさまで創作に割ける時間がありませんでした。5月これしか更新できない…orz

本当はもっと書きこみたいところや書きたい話なんかもあるんですが、落ち着くまでまだまだ時間がかかりそうです。

ぼやいても仕方ないので、前向きにいこうと思います。

今月は何よりロックファンには見逃せないビックニュースがありましたね!

ELLE GARDENの復活でございます!!

僕自身本当に大好きなバンドだし、好きになった頃には活動を休止していたので本当に嬉しいです。

ライブ当たるといいなあ…

さて、本SSですが、意地でも最後まで書きます。

また以前のように三日に一回は更新できるペースに持っていくのにはもう少し時間がかかると思いますが、秋口には更新ペースを元に戻していきたいなあと思っております。

本SSを、少しでも楽しんでいただけましたら、作者としては嬉しい限りでございます。


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第28話 「スクールアイドルワールド(2)」

時間は前日に遡る。

 

「…私たち、またここに戻って来たんだね…!」

 

金曜1時の梅雨の東京。とても蒸し暑くて、風が私達にまとわりつく。

 

私はドームシティホールと書かれた会場入り口を眺めながら呟いた。

 

「前と会場は違うけどね。私たち、あれからもっと輝けるようになれたのかな?」

 

梨子ちゃんに聞こえちゃってた。

 

でもここは、この大会は。

 

ある意味私たちの原点。

 

0から1へ。

 

その想いがあったから、私たちは今もAqoursなんだ。

 

「変われてるよ!絶対!」

 

眩しい笑顔の曜ちゃん。私と梨子ちゃんの前に立つ。

 

この笑顔にはいつも助けられている。

 

後ろでは2年生のみんなが力強く微笑む。

 

「いこ!千歌ちゃん!」

 

梨子ちゃんに差し伸べられた手を握る。

 

私たちは私達の輝きを見つける。

 

私達の力で!

 

・・・・・

 

会場に入ると独特の緊張感が私達を包み込む。

 

今回はラブライブ 運営史上初の試みとして、バンドの生演奏による大会ということで、ステージで音出しがされていた。

 

「んじゃー、後半のバンドは一旦休憩取りましょう」

 

ステージの上からマイクを通して声が聞こえてくる。PAの指示だろう。

 

しばらくして、ステージからだれか降りてきた。私達の方に来る。

 

「おっす。お前らも早えのな。」

 

最近聞き慣れてきたばかりの声に気がついて、顔を上げるとハヤテさんがいた。

 

「ハヤテさん!今回ギター弾くんですか?」

 

「おー。大会の午後の部のバンドに配属されてるよ。あんま大声じゃ言えないことかも知んないが、Aqoursの曲も俺の担当だ。」

 

「そうなんですか!なんか嬉しいです!」

 

「俺も馴染みのあるやつらの曲が弾けて嬉しいよ。…そういやダイヤは?今日来るって聞いてたんだけど。」

 

ほえ?ダイヤさん?急にどうしたんだろ?

 

「ダイヤさんだったら果南ちゃん迎えに行って、今日は私達のリハーサルが終わった段階で会えたら会おうって感じです。何かあったんですか?」

 

「あー…いや、別にいいんだ、気にすんな。」

 

ハヤテさんはごまかすように笑った。

 

「休憩時間かぎられてっから、もう行くわ。タバコ吸いたいし。んじゃまた後でな。」

 

そのままハヤテさんは去って行った。

 

ジト目の花丸ちゃんは目でハヤテさんを追いながら呟く。

 

「なーんか、ハヤテさん怪しい雰囲気ずら…」

 

「うゆ?怪しい雰囲気?」

 

ルビィ ちゃんはよくわからないような感じで花丸ちゃんに反応した。

 

「これは…スキャンダルの匂い!!!」

 

今日初の堕天ポーズを決め込む善子ちゃんに私たちは苦笑いするしかなかった。

 

うーん、でもなんでハヤテさん、ダイヤさんの話題をごまかしたんだろう?

 

・・・・・

 

ハヤテさんと分かれてからしばらくして、運営の人に呼ばれて、出場グループ全体への説明が始まる。

 

…こういう時って恐ろしく眠いよね。

 

よく知らない偉い人っぽい人の挨拶や大会の目的みたいな話を受け流しつつ、私はボーっと話を聞いていた。

 

・・・・・

 

「久しぶりね。直接会うのはお正月ぶり?」

 

「「「「「「理亞ちゃん!」」」」」」

 

説明会が終わってリハーサルまでの休憩をしていたら理亞ちゃんが話しかけてきてくれた。

 

「本当久しぶりね。ルビィ 達も元気だった?」

 

「元気だよお!理亞ちゃんも新しいグループで頑張ってるって聞いてたから、会えるの楽しみだったんだ!」

 

ルビィ ちゃんと理亜ちゃんが手を合わせて再会を喜んでいる。

ほんと、初めて会った時からしたら丸くなったなあ理亞ちゃん…

 

「そういえば今、理亞ちゃん、新しいグループでやってるんだよね? どんな感じずら?」

 

「ふっ…ヨハネの眼鏡に敵う相手なのかしら?」

 

「あんたたちも変わらないわね…Aqoursも新しくなったって聞いたのに。」

 

理亞ちゃんは善子ちゃんの堕天に苦笑いしながらも、目の奥は3人に会えた事を喜んでいるように思えた。

 

私と梨子ちゃんと曜ちゃんは自然と目が合って、微笑んでしまう。

なんだか、2年生のみんなをみてると微笑ましくなってくる。

 

「理亞〜!そろそろリハの準備してって〜…あっ!Aqoursの…」

 

理亜ちゃんと同じ制服を着た女の子が2人やって来た。

んーと、私は見覚えない…かも?

 

「あ!去年ラジオ局で会った人たちずら!」

 

「えへへ、覚えててくれたんだ。」

 

髪の長い女の子が笑う。

 

「ちょうどいいから紹介しとくね。私たちは [gift] って名前で今回出場してるんだ。髪の長い子がユキで、ゆるふわ髪の子がサラ。」

 

「Aqoursの皆さんよろしくね。」

「よろしくー!」

 

メンバー同士で笑い合いながら理亞ちゃんはグループを紹介してくれる。

 

「私たち3人で、今度は勝つわ。Aqoursにも負けるつもりはない。全力で戦いましょ!」

 

「じゃあね。リハがあるからもう行くわ。」

 

そう言って理亞ちゃんたちは去っていった。

 

負けられないな、負けたくないな。

 

私たちは決意を新たにリハーサルの準備をする。

 

・・・・・

 

リハーサルはいつも通り終わる。

 

前までと違ったのは、出場グループの子達や色んな偉い人達が前よりも多かったことだ。

慣れたつもりでいたけど、やっぱり大会の時は緊張してしまう。

 

6月の中頃にはSummer Rocks出場の話が公開されたし、そういう意味でも注目されても仕方ないのかもしれない。

 

そして夜。

 

お風呂場の脱衣所。

 

そこには体重計が置いてある。

 

「さあ!約束の時だよ!2人の体重を確認しよう!」

 

私たち2人の事情を知っている曜ちゃんが後押ししてくれる。

 

「いよいよだね…」

私は緊張した面持ちで体重計に向かう。

 

「どっちが勝っても恨みっこなしだからね?」

梨子ちゃんがいたずらっぽく笑う。

 

私は下手したらリハーサルの時よりも緊張して体重計に足を乗せた。

 




次回の投稿は7月の末を予定しております。

[以下作者あとがき]

6月中に投稿したかったんですが、色々忙しく投稿が遅れてしまいました。楽しみにしてくれている方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。こんにちは作者です。

5月のおわりから6月中旬まで教育実習に行っていたり弾丸で北海道に飛んだりしてまして、めっさ忙しかったです。

お陰様で教育実習では普通に生活してたら絶対知ることができないようなことをたくさん知ることができました。生徒たちともたくさんお話しして、大変だったけど楽しい時間を過ごせました
読者の方に教員を目指してる方がいるかはわかりませんが、大変だけど目指したい場所が定まったように思います。
最後には色紙とか写真とか色々思い出ができました。

中高生の読者の方、マジで実習生には優しくしてあげてください。実習期間は生徒から助けられるところ多いからホント…

そんな実習期間もやっぱり作者は音楽に助けられておりました。
生徒と触れ合いつつ、自分もこんな感じやったなあとか色々なつかしさを感じたバンドがありましたのでご紹介したいとおもいます。

DAY DREAM BEAT/ ハンブレッダーズ
https://youtu.be/BGqPFJKo7WA

さて、小説本編も少しずつ話は進んでいきます。
今回の話では理亞ちゃんを出すことや、色々考えてる伏線張ったり回収したりと文字数にしては話を進めたと思います。

理亞ちゃんのユニット名に関しましてはあるバンドに敬意を込めて[ ]をつけさせていただきました。
これだけで何のバンド意識したかわかるのしゅごい。

giftという名前は贈り物とか、才能とかそういう意味でつけました。強気な理亞ちゃんにはいい感じなのかなあとか作者は思ってます。

いつも読んでいただいてありがとうございます。
度々になってしまいますが、この物語は必ず完結させます。
作者が落ち着くまでまだ時間がかかるのですが、落ち着き次第、また前のように頻繁に更新していきたいと思っております。


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第29話「スクールアイドルワールド(3)」

「よお、思ったよりも早かったな」

 

聖良さんと別れた後、キリヤの方に歩いていく。

僕に気付いたキリヤが声をかけてくる。

スマホの画面には音楽を再生する画面が写っていた。

 

Linkin Parkを聴きながらも周りのことはしっかり気がつくらしい。

 

「まぁある程度余裕は持ってきたからな。ミツキは?」

 

「あー、今飲み物買いに行ってる。」

 

キリヤは音楽を切ると僕の方に向き直る。

 

「なあなあ、ずっと聞きたかったんだけどさ、お前、千歌ちゃんのことどう思う?」

 

「え??」

 

前も曜ちゃんに同じようなことを聞かれた。あのときは梨子ちゃんのことだったけど。

 

今度は千歌ちゃん?

 

「どうって…仲のいい女の子って感じだけど?」

 

何故かムッとして、語尾が少し強くなってしまった。僕は続けて言う。

 

「てか、またその話かよ。まだハーレム疑ってんのか?」

 

少しだけおどけて見せる。

 

「ふーん…まぁいいや。それならさ。」

 

変なところで言葉を一度区切る。手越さんのクセがこいつにも移ったのか?

 

なにかを決心したような、少し赤くなった顔で僕の顔を見つめる。

 

「…俺が千歌ちゃんを好きになっても問題ねえよな?」

 

「…え?」

 

突然のことで頭が真っ白になる。

 

千歌ちゃんとキリヤの映像が頭の中で行ったりきたりする。突然すぎて、何も言えなくなった。

 

「お、コウももう着いてたのね。あんたの分も買ってきといてよかったよ。ほい、コーラ」

 

ミツキに肩を叩かれて我に帰った。

 

「…おっす。あんがとな」

 

なんとかして言葉を絞り出した。

 

キリヤは今はもうこれ以上何も言わないって感じの顔をしていた。

 

…僕は、僕と千歌ちゃんは、一体どんな関係なんだろう。

 

なんとも言えない距離感。

 

突然のキリヤの言葉。

 

僕はなんとも言えずモヤモヤした。

 

・・・・・

 

会場に入ると今日のプログラムと記念品の缶バッチをもらう。

 

「お!大会公式の記念品じゃん!結構レアなんだよねー!」

 

さっきのいつになく真剣だったキリヤは幻想だったのか?ってくらいはっちゃけている。

 

やはり生粋のアイドル好きとしてはテンション上がるんだろうな。

 

そのまま3人で並んで席に座る。僕は真ん中。

 

キリヤは持ってきたらしいペンライトの動作確認をしていた。

 

・・・・・

 

大会が始まった。

 

私は他のグループのライブを出演者控え席からただただ見つめていた。

 

一生懸命にキラキラしているアイドル達を見つめる。

 

輝きたいと思っているのは私達だけじゃない。

 

だからこそ、負けられない。

 

コウ君が私達にくれた新しい力を証明したい。

 

「千歌ちゃん!次、理亞ちゃん達のばんだって!」

 

ルビィ ちゃんの声がする。

 

「次のグループは[gift]です!」

 

司会のアナウンサーの女の人の紹介が入った。

 

「なんといっても、元Saint Snowの理亞ちゃんのグループですから、私も期待が高まってますねぇー!さあ![gift]の皆さん!ハッチャケちゃってください!!!」

 

その言葉と同時に会場の照明が全て消えた。

 

一瞬の静けさに包まれる会場。

 

入れ替わるようにかかる入場SE。

 

瞬間輝き始めるステージの上の煌びやかな照明。

 

電子音と激しいドラムのSEとレーザーライトの多い照明は嫌でも私たちのテンションを上げてくる。

 

そのまま3人はステージの中央に立つ。

 

逆光で3人の姿が黒くなる。SEが鳴り止んだ。

 

「 [gift]です。どうぞよろしくーーー『Beyond』」

 

・・・・・

 

僕は[gift]というグループが入場してくる瞬間からその異質さから目が離せなくなった。

 

この大会は曲からステージの演出に至るまで自分たちで企画し、それを大会運営に提出する必要がある。

 

その上で出来る範囲で運営側が実現してくれる仕組みになっている。

 

だから曲の良さや、アイドルとしての輝き以外にも演出や見せ方と言ったさまざまな点が評価の対象となっている。

 

このことは梨子ちゃんから聞いてたし、提出書類やステージ造りの案については僕も善子ちゃんや花丸ちゃんを手伝った。

 

だからこそ、だ。

 

入ってくるところから異質だ、と思った。

 

Aqours含め、今まで見てきたアイドルグループは正統派なアイドルなんだと思う。

 

だけどこの空気は絶対に何かが違う。

 

今ここに広がる空間は、そしてこの胸の高鳴りは。

 

初めて行った大好きなバンドのライブを見に行った時のそれに似ていた。

 

・・・・・

 

曲が始まる。

 

激しいドラムソロからはじまり、シンセサイザーのギラついたメロディが入る。

 

それにユニゾンするかのようにコードをかき鳴らすギター。

 

そして理亞ちゃんと髪の長いユキちゃん、ふわふわ髪のサラちゃんの激しい踊り。

 

そして

 

「Beyond the world!!!!」

 

サラちゃんがセンターに来たかと思うと、膝を床につけ叫ぶ。

 

歌詞として認識できるかできないかギリギリの瀬戸際を攻めた歌い方。叫び方。

 

それでも歌詞がわかるのは、叫び方がうまいんだろう。

 

とても同世代の子が歌っているとは思えない光景だった。

 

サイドでは曲に合わせ理亞ちゃんとユキちゃんが踊っている。

 

なんだこれ…

 

こんなの、見たことない。

 

痺れるような感覚が私達を支配した。

 

・・・・・

 

「やっべえかっこいいアイドルみつけちゃったかもしんねえ…しかも、元Saint Snowの理亞ちゃんのグループか…シャウトすげえ…」

 

隣でキリヤが呟いたのが聞こえた。

 

「この曲のドラム、絶対楽しいな…」

 

ミツキはドラムの耳コピをしようとドラマーの出す音に耳を傾けていた。

 

ハヤテは曲に合わせて頭を振りながらステージの上で激しくギターを弾いている。

 

僕はというとただただステージの上のアイドル達に目を奪われているだけだった。

 

すごい。

 

その一言に尽きる。

 

また僕の中にメロディが生まれていくのを感じた。

 

・・・・・

 

「闇の中 何かに怯えていたの」

 

芯のある理亞ちゃんの声が会場に響いた。

 

私は鳥肌が立つのを感じる。

 

ステージの上で踊る理亞ちゃんが昨日まで私たちと話していた理亞ちゃんとは別の人になってしまったかのような錯覚。

 

イントロに比べ静かなAメロだからこそ際立っている。

 

「どうなるかも知らない世界で」

 

「誰か助けて 手を伸ばしても」

 

ユキちゃんとサラちゃんが交互に歌う。

 

特にサラちゃんはあんなに激しいシャウトをしていても、歌声に一切の影響が出ていてない。

 

むしろ、力強ささえ感じた。

 

「誰も助けてはくれないね」

 

3人で歌うパート。踊り、歌。一切のブレがない。

 

・・・・・

 

「あの人はもういない 」

 

理亞ちゃんが歌い出したBメロ。綺麗な声が会場に響いて、出だしのシャウトとの対比が美しい。

 

私は戦慄してしまった。

 

隣では千歌ちゃんがステージをじっと見つめていて、曜ちゃんまで黙り込んでしまっている。

 

二年生のみんなも同じ感じだった。

 

こんな曲、書けるなんて…

 

こんなフレーズの引き出し、わたしにはない。

 

聞いてきた曲が違うと言ってしまえばそれで終わりだけど、会場はステージで放たれる衝撃に呑まれていた。

 

私たちはこのステージをこえていけるの…?

 

・・・・・

 

「それでも歩き続ける」

 

「私はあの日誓ったんだ」

 

サラちゃん、ユキちゃんの順にソロパートが展開され、曲がサビの盛り上がりに向かっていく。

 

「だからこそ見つけた光」

 

3人で歌う。綺麗にハモった声は会場に反響して、全てを飲み込んだ。

 

「砕けた夢 再び集めて」

 

サビの前、突然ピアノの音色だけになる。

 

理亞ちゃんのソロパート。

 

また会場の雰囲気が変わった気がした。

 

サビ前で一度落ち着かせることで、理亞ちゃんの歌声の力強さを、美しさを、強調したんだ…!!!

 

私の中で唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

 

「new world !!!!超えていけ超えていけ声が聞こえた」

 

「break the wall !!!! どんな壁でも打ちこわして 」

 

「輝く星 また掴みたいから」

 

サラちゃんのシャウトと入れ替わるように入るユキちゃんと理亞ちゃんの歌声。

 

破壊と再生を見ているかのような、錯覚をしてしまう。

 

「全てを白く塗り替えていく」

 

理亞ちゃんのソロパートが入って曲はクライマックスに向かう。

 

「Beyond the past!!!!」

 

サラちゃんのシャウトが会場に響き渡る。

 

バックバンドの人たちやハヤテさんまで激しい動きをしながらノリノリで演奏している。

 

アウトロが終わった。

 

「ーーーありがとうございました。[gift]でした。」

 

一瞬の静寂。

 

とんでもない台風が通り過ぎたかのような衝撃。

 

あっけにとられていた会場は誰かが始めた絶賛の拍手が拡散していき、大喝采に包まれた。

 

私たちは[gift]の次。今回の大トリだ。

 

私たちはこれを超えられるのかな…?

 

そのまま[gift]のみんなは退場していった。

 

「[gift]の皆さんありがとうございましたー!!いやあ!すごかったねえ!ギャップ感がすごくて私びっくりしちゃいました!

さあて!今大会の大トリを飾っていただきますのは前回のラブライブ 優勝者、Auoursです!!それでは準備していただきましょう!!」

 

やるしかない!

 

決意して私達は立ち上がった。

 




次回投稿は7月の末から8月の頭頃の予定です。

[以下作者あとがき]

先週末くらいから疲れかストレスか夏風邪をこじらせまして、2日ほどベットで横になる生活をしておりました。

この状態じゃ勉強とかもできないし、小説の続き書こうと思いまして、続きを早めに投稿することができました。未だに声がおかしい。
こんにちは、作者です。

ほんとこの時期に熱出して寝込むとかマジで勘弁してほしい。皆さんも温度差の激しいところを出入りするときとかは注意してください。ほんとシャレにならんくらいダルくなります。

さてさて本編今回も結構話を進めました。

キリヤ君が入り込みそうな予感。関係が複雑になりそうな予感です。

全ての方が納得する選択を主人公がするとは思えませんが、どんな選択を取るのか楽しみにしていてください。

そして、理亞ちゃんのグループの曲。例のごとく曲として作れてはいません。頭のなかにイメージがあるだけです。ほんと作りたかったりしてますが、いかんせん時間が許してくれないです…orz

わかる方にはわかる話かと思いますが、理亞ちゃんたちの曲やグループのイメージとしてはpasscodeというアイドルグループを参考にいたしました。
Saint Snowの曲を聴いた時、多分一番リアルで近いイメージはこのグループだろうなあ…って思ってます。
歌詞はオリジナルで作者がキャラクターイメージなどから書いたものですが、どう考えてもラブライブっぽくねえ、助けて()

MISS UNLIMITED(live ver.)/ passcode
https://m.youtube.com/watch?v=RtYWltM9gu8

初めて聞いた時、一発でかっけえ!ってなったの覚えてます。こんだけ叫べる女の人、そんなに知らない…

次回でスクールアイドルワールドの大会編は終了したいと思います。
そして、近いうちに登場人物たちの人間関係を動かしていきたいと思います。

いつも読んでいただきありがとうございます。空いた時間でコツコツ書いて、でき次第投稿することを繰り返していきたいと思っておりますので、最後まで読んでいただけますと、作者としては嬉しい限りです。これからも頑張っていこうと思っております。今後ともよろしくおねがいいたします。



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第30話「スクールアイドルワールド(4)」

「…やるよ!!」

 

「うん!」

 

私たちは円陣を組んで互いに目配せをした。

さっきの[gift]はたしかにすごいと思う。

私は梨子ちゃんと目が合う。

 

でも私たちも負けられない。

 

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

 

「「「「「「Aqours !サーンシャイン!!!」」」」」」

 

・・・・・

 

「あら、ここにいましたのね?」

 

幕間のタイミングでかけられた声に僕ら三人は振り向く。

 

ダイヤさん、に果南さん、それに鞠莉さんだった。

 

「ダイヤさん!それに、鞠莉さんに果南さん!」

 

「やっほ!コウ直接会うのはほんと久しぶりだね!昔みたいにハグする?」

 

 

果南さんはいたずらっぽい笑顔を浮かべて、元気な感じでそこにいた。

 

昔からあんまり変わらない果南さん。

少しだけ日焼けしたのかな?

 

「な!果南さんのハグとかお前羨ましすぎるだろ!」

 

隣でキリヤが喚く。

 

本当に今日会った時の真面目なキリヤはどこに行ったんだろう…。

 

「果南さんたちは今ついたんですか?」

 

話の流れを元に戻そうと別の話題を振ることにする。

 

「私たちはちょうど理亞さんたち…[gift]のライブが始まるくらいに着きましたの。Aqoursに間に合ってよかったですわ。」

 

「果南の時差ボケとか、ダイヤの二日酔いとか色々大変だったわよネー!」

 

「ちょ!鞠莉さん!その話は…!」

 

うろたえまくるダイヤさん。一体何があったんだろう。

 

「結局間に合ったし、面白い話が聞けたから私はいいわヨ♪」

 

元Aqoursの三年生メンバーたちはお互いに笑いあっている。

 

少し千歌ちゃんから三年生メンバーたちのことは聞いてたけど、お互いのしがらみがあって、それを乗り越えたんだそうだ。

 

…僕らもいつか、今を乗り越えられる日が来るのかな?

 

「ちょうどとなりの席空いたし、座ったら?もうすぐAqoursの出番だよ!」

 

「ありがとうございます、ミツキさん。座らせてもらいますわ」

 

そのまま僕らは思い思いにAqoursの出番を待つ。

 

僕の曲は、僕と梨子ちゃんが作った曲は、どれだけの人に届くんだろう。

 

「お!はじまるぜ!」

 

キリヤの声と同時に会場にかかっていた幕間のBGMが消えた。

 

・・・・

 

「こんにちはー!!!静岡の内浦からやってきました!Aqoursです!」

 

千歌ちゃんの声が会場にこだまする。会場は青を中心とした思い思いのサイリウムが光っている。

 

「新しい私たちを、今日は見てください!」

 

この日のために作った人魚をイメージした衣装に身を包んだみんなが堂々とステージに立っている。

 

普段はおとなしい梨子ちゃんがすごく堂々としていて、かわいいという思い以上にかっこいいと思った。

 

「それでは聞いてください!Marmaid Song!!!」

 

曜ちゃんの声と同時にステージの照明が落ちて、ドラムのカウントが入る。

 

・・・・・

 

私は無我夢中で踊る。歌う。

 

ふと周りを見渡す。

 

梨子ちゃんの歌声と曜ちゃんのコーラス。

2年生のみんなのダンス。

 

花丸ちゃんと私は振付の中で手を合わせた。

 

会場を見渡すと去年は見ることがなかった光景。

 

私たちの色の光、私たちの名前を呼ぶ声。

 

あの時は0だった私たちは、あの時から少しは成長できた。

 

そう感じる。いける。これなら、いける!

 

・・・・・

 

「今大会優勝者に、トロフィーの授与がされます。」

 

大会が終わり、一般投票会場投票も締め切られ、大会優勝者も決まった。

 

今は閉会式が行われ、表彰式が行われている。

 

大会が終わった時点で帰る人もちらほらいたが、僕らは関係者ということもあり、そのまま会場で閉会式を見る。

 

 

「優勝グループの[gift]は前へお願いします。」

 

 

壇上に[gift]が上がり、トロフィーが手渡される。会場は拍手で包まれた。

 

続いてAqoursが呼ばれる。

 

準優勝。今回のAqoursの結果だった。

 

再び拍手で包まれる会場。

 

ハイレベルなグループが出る大会で準優勝。

 

悪い結果じゃない。そこに届いていないグループだって沢山ある。

 

なのになんだ、このモヤモヤは。

 

一体、なんなんだよ…

 

・・・・・

 

「みなさんこの後時間ありますか?よかったら千歌さんたちのところへいきませんか?」

 

大会が閉幕し、お客さんが出始めている会場。

 

僕らも出る準備をしていたらダイヤさんに誘われた。

 

「時間は大丈夫ですけど、僕らいってもいいんですか?みんな大会終わって疲れてるかもしれないし…」

 

「コウさんはもちろんSeekerのみなさんはある意味関係者ですもの。大丈夫だと思いますわ。それに…」

 

「私が千歌さんたちと話したいことがありますしね。」

 

そう告げるダイヤさんはなんていうんだろう…凛とした表情をしている。

 

僕は思わずうなずいてしまった。

 

荷物を片付けて、Aqoursのみんなの元に向かう。

 

出演者の出入り口には終演後のアイドルを労おうと保護者っぽい人だったりが列を作っている。楽屋に行くのに手続きが必要なんだそうだ。

 

そこらへんのセキュリティは下手なフェスよりも万全らしい。

まぁメインが女子高生だし、当たり前の話なんだろうけど。

 

手続きを済ませ、楽屋のほうに向かう。

 

途中の通路にはさっきまでステージで踊っていたアイドルたちが衣装のままでいた。

 

想像以上の結果に喜ぶグループ、反省会を開くグループ、ミスに落胆して涙ぐんでいるグループ…様々だ。

 

みんなはどこにいるんだろう?

 

「ねえ。」

 

突然声をかけられた気がして振り向くとそこにはツリ目でツインテールの女の子がいた。

 

この子、[gift]のセンターだった子だ…!

 

「理亞ちゃん!久しぶりだね〜!」

 

理亞ちゃんと呼んだ少女を果南さんが嬉しそうに抱きしめる。

理亞ちゃんは少しだけ顔を赤くした。

 

「ひ、久しぶり。Aqoursの元三年メンバーのみんながいるからすぐわかったわ…ところで、あなたがSeekerのコウ?」

 

理亞ちゃんは、果南さんにハグされたままで僕の両方を見る。

 

なんだか子犬を見ている気分になった。

 

「僕が宮木コウです。えっと…なんで僕になにか?」

 

果南さんからやっと解放された理亞ちゃんは僕を見る。

 

「あなたが…。ルビィと姉様から話聞いてる。」

 

「ちょっと話せない?私、あなたと話したいことがあったんだ。」

 

「え?」

 

いろんなことに頭が追いつかない。

 

・・・・・

 

「そうか、じゃあSaint Snowの…。聖良さんの妹でみんなの友達だったんだ。」

 

僕は理亞ちゃんに連れられて楽屋から少し離れた自販機コーナーの休憩スペースにやって来る。

 

それぞれ飲み物を買って、ベンチに腰掛けた。

 

大会直後ということもあり、僕ら以外の利用者もいた。

 

「姉様から話も聞いた。びっくりしたんだから。まさか噂の人と会えるとはね。」

 

理亞ちゃんはそこまで感情を表に出すタイプじゃないのかな?

淡々としたはなしかただ。

 

「こんな話をしたかったわけじゃないの。遅かれ早かれ私たちとAqoursのみんなの関係は分かったと思うし。」

 

「まぁそうか。じゃあ一体…?」

 

一度だけ目を閉じて理亞ちゃんは僕の方を向く。

 

「あなたは、何を思ってあの曲を書いたの?」

 

「…え?」

 

言葉に詰まる。

あの曲に込めた想い…

理亞ちゃんは下を向いてしまった。

 

「…今回私たちは、この大会に勝つことができたわ。それは本当に嬉しい。」

 

「でも一方で、何か違うって、そんな思いが捨てきれない。」

 

理亞ちゃんは淡々と続ける。

 

「ちょっと考えたら気づいた。私はとても飢えてるんだって。」

 

「飢えてる…?」

 

「うん。私は、あの時の、前回のラブライブで輝いたAqoursと戦いたいんだって気づいた。」

 

そして、僕を見る。

 

「今のAqoursはあの時のAqoursとはまた違う。それは仕方のないことかもしれないし、今のAqoursが悪いとは思わない。」

 

「だけれど、私が求めてる、私が戦いたいAqoursでもない。」

 

「曲を作ってるあなたに聞きたい。あなたは、今まで以上にAqoursを輝かせることができるの?」

 

一瞬目を閉じて考えた。

 

あの曲に込めたのは、僕が内浦に行ってから感じたことや、Aqoursのこと、そして、自分の中で決心をつけることができない感情。

 

そんな気持ちをぶつけた。

 

僕の書いた曲でみんなが輝くことができるなら…そう思って書いた曲。

 

「馬鹿にしないでくれ。僕があの曲に込めた思いは本物だと思ってる。」

 

「僕は本気で自分の曲でAqoursを輝かせたいっておもってるよ。その覚悟だってしているつもりだ。」

 

出来るだけ感情を出さないように。

 

今感情を出したらどんな顔をするのかわからないから。

 

怒りでもない。迷いでもない。この不思議な感情の名前を僕は知らない。

 

「…そう。あなたの口からその言葉が聞けてよかったわ。」

 

理亞ちゃんは缶コーヒーを飲み干すとそのまま立ち上がった。

 

「じゃあね。私はもう行くわ。姉様も待ってるだろうし。Aqoursの次のステージ期待してる。それと…」

 

「Seekerの次のライブもね。あなたたちのバンドが復活することを願ってるわ。一ファンとしてね。」

 

そう言い残して理亞ちゃんは去って行った。

 

考えなきゃならないことが多すぎる。

 

Aqours、Seeker、Summer Rocks、今日のキリヤ、千歌ちゃんに梨子ちゃん、自分の未来…。

 

すでにキャパオーバー気味な僕は、それでも絶対にAqoursを輝かせると誓った。

 

それが僕に課せられた運命なのかもしれない。

 




次回投稿は8月の末を予定しております。

[以下作者あとがき]

はじめに謝罪します。投稿遅くなって申し訳ありませんでした!!!

言い訳をさせていただきますと、本当に諸々ありまして、急遽北海道とんでったり、今月末も他県に行かないといけなかったりと色々しておりました。

色んな経験ができた時間ではあったんですが、その分小説を書く時間が減ってしまいました。次回はもう少し早く投稿したいと思います。

さて、今回の話はコウくんが改めて覚悟を決める話でした。
理亞ちゃんをこのシーンで出すことはだいぶ前から決めておりました。理亞ちゃんのキャラ、ブレてないかなあ…

曲に込めた思いとかそういう部分はかなり大事になってくるんじゃないかなあと個人的にはおもっておりまして、そういう部分を大切にしていきたいなあとか思っております。

作者は少しずつ落ち着きを取り戻しかけておりまして、色々な創作にかける時間も少しずつ増えては来ました。なので、本作もコツコツと続けていきます。
サンシャインの映画の公開前には終わらせたいなあ。

作者は本日、結構楽しみにしていたライブに行きます!久しぶりだぜ!!!!

次回はコウくんの裏側でAqoursにどのようなことが起きていたのかというお話になります。
そして、あの勝負の結果を書いていきたいなあ。


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第31話 「1から先は」

 

「はぁ…今回は2位かー…いけると思ったのになぁ….」

 

楽屋の床にへたり込んでため息をついてしまう。

みんなを見回すと相当疲れているようだった。

 

「理亞ちゃんたちのアレ見たあとだとどうしてもね…。インパクトじゃ勝てないよ」

 

曜ちゃんは苦笑い。

 

「でも、なんて言えばいいんだろう…すっごく、悔しいね。」

 

ポツリ。

 

ルビィちゃんが呟いた。

それは今の私達全員が抱えた思いだった。

 

0から1へ。

 

私達はその思いでここまで来た。それが私達の支えだった。

 

1から先は?

 

「あんまり落ち込んでも仕方ないし、とりあえず次にいかしましょう?」

 

「そうずら!理亞ちゃんたちには負けられないずら!」

 

善子ちゃんと花丸ちゃんが空気を読んで言う。

 

梨子ちゃんは考えごとを続けてる。

 

「…あの曲、ものすごかった。」

 

「…え?」

 

梨子ちゃんはつい口に出してしまったって感じで呟いた。

 

「…ごめんね、ただなんとなくびっくりしたんだ。あんな魅せ方、わたしには思いつかなかった。」

 

梨子ちゃんが唇を噛む。

 

目は前髪に隠れて見えないが、頰に流れた雫を私は見逃さなかった。

 

「梨子ちゃんは悪くないよ!コウくんと一生懸命に曲作ってくれてたじゃん!私、この曲好きだよ!」

 

私は梨子ちゃんの肩を抱きしめてみるけど、梨子ちゃんが泣き止む気配はない。

 

「っ…悔しいよ、私…ものすごく悔しい…!!」

 

「梨子ちゃん見てたら、マルまで泣きたくなっちゃうよ…!」

 

花丸ちゃんまで泣き始めてしまう。

 

心の中では私だって…泣きたい。

 

だって、本当に、悔しいから。

 

「皆さん、お疲れ様でした。」

 

とても聞き覚えのある凛とした声が聞こえた。

 

「ダイヤさん!鞠莉ちゃん!それに果南ちゃん!ミツキさんにキリヤくんも!」

 

果南ちゃんに駆け寄って抱きしめてしまう。少しだけ涙が流れた。

 

「千歌〜!!実際に会うのは久しぶりだねー!」

 

「あは、恥ずかしいとこ見られちゃったね…。コウくんは?」

 

「コウなら、理亞にどっかつれてかれたワヨ。話したいことがあるらしいワ。」

 

なんであの二人が?後で聞いてみよう。

 

「ん、ハヤテからラインだ。キリヤも来いって。今日の演奏の感想聞かせろってさ。ほら、行くよ。」

 

スマホを見ながらミツキさんが言う。

 

「うぇ?! はあー…まあ、いつものことか。じゃあ俺らは一度退散すっかな。」

 

「じゃあみんなまた後で。鞠莉、落ち着いたら電話してね?」

 

「オッケー!わかったわ!」

 

ミツキさんはキリヤくんの襟首を掴むとウインクを残して去っていった。

 

「…ミツキさんには気を遣わせてしまったかしら。後でお礼を言わないといけませんね。」

 

ダイヤさんはため息をつくと私達の方を向いた。

 

「今の皆さんになんて声をかければいいか、わたしにはわかりません。だから、今日の感想を伝えます。」

 

さっきまで泣いていたみんなが顔を上げて、ダイヤさんを見つめる。静寂だけがそこにあった。

 

「皆さんらしい、皆さんのライブができてるってわたしは感じました。私たちがいなくなった後、どうなっているのかとても気がかりだったのでそこはとても安心しています。」

 

微笑みながら、ダイヤさんは私たちに伝えてくれた。

よかった…私たちは私たちらしくあれたんだ…

 

「でも…私たちは勝てませんでした…」

 

梨子ちゃんが下を見て呟く。

 

「それは、ある意味仕方のなかったことなんじゃないかと思います。」

 

「えっ?」

 

「言葉にするのが難しいですが…私たちは前回のラブライブ で優勝したことで多くの人に認められるようにはなりました。そして知ってもらえた。」

 

ダイヤさんは目を閉じて淡々と話す。私たちに諭すように。

 

「でもそれが浸透しすぎてしまった。新しいAqoursの姿を見せることができていなかったんです。」

 

「でも!コウくんに作ってもらった新しい曲だって…!」

 

納得できない。ダイヤさんだって良いって言ってたのに!

 

「あの曲はわたしも大好きです。そして歌ってるあなたたちも。でも…」

 

「見ているミンナに伝わらなかった」

 

さっきまで黙って見ていた鞠莉さんがダイヤさんに代わって言葉を繋ぐ。

 

「ダイヤ、その先は私が言うわ。あなただけに重荷は背負わせたくないもの。」

 

「鞠莉さん…」

 

果南ちゃんが険しい顔で鞠莉さんを見る。

 

「みんな、よく聞いて。世間は飽きっぽいものよ。新しいものを常に求めてる。自分を貫き通して成功できる人の方が少ないわ。」

 

「みんなに今、足りないのは新しい姿、よ。」

 

私たちは何も言い返せない。

 

新しい学校、新しい部員、新しい出会い。そんな中で私たちは私達のことを考えることができなくなっていたのかもしれない。

 

果南ちゃんがため息をついた。

 

「鞠莉もダイヤもかんがえすぎだよー」

 

その顔は穏やかだ。

 

「たしかに二人の言うことは正しいと思うよ。でもそれは理論的な話。みんなはもっと気楽に考えてみて?」

 

「じゃあ果南ちゃんはどうすればいいと思うの?」

 

花丸ちゃんが問いかける。果南ちゃんの穏やかな顔は変わらない。

 

「んー…千歌、私達、ラブライブ の最終選考の前に円陣くんだよね?覚えてる?」

 

「うん」

 

「その時、なんて言ってたか覚えてる?」

 

「えーっと、確か0から1へって言ったと思う。」

 

それが私達の想いだったから。

 

「そう。そのあと、1から10へ、10から100へとも言ってた。」

 

果南ちゃんは静かにそういうとまばたきをして私達を見つめる。

 

「焦ったってなんもいいことないよ。みんなはみんなの良さがある。だからこそ、無くしちゃダメなところは持ち続けなきゃいけないと思う。」

 

「これからみんなで新しい自分たちを探せばいいよ。時間が許す限りさ!今度は私たちもいるしね!少しずつ変わって、1を10に、10を100にすればいいんだよ!」

 

ウインクをして、ダイヤさんと鞠莉さんを見る。ダイヤさんはほくろをかき、鞠莉さんは舌を出しながら恥ずかしそうにしている。

 

新しい、私達の、姿…

 

「3人の言う通りね!」

 

喜子ちゃんが急に立ち上がり、言う。

 

「リリー!ズラ丸!いつまでもメソメソしてても仕方ないわ、私たちは前向きになって先に進むのよ!そうよね!千歌!」

 

「う、うん!」

 

とっさに言われてびっくりしてしまう。でも、喜子ちゃんの言うことに間違いはない。

 

「喜子ちゃん…ありがとう…。」

 

梨子ちゃんが涙を拭うと喜子ちゃんの手を握った。

 

「Summer Rocksでは新しくなった私達を見せつけるのよ!」

 

喜子ちゃんが堕天ポーズをキメた瞬間。

 

その瞬間、ぐぅぅと喜子ちゃんのお腹が鳴る。

 

顔を真っ赤にして恥ずかしがる喜子ちゃん。

 

思わず笑ってしまう私達。

さっきまで泣いていた二人まで笑ってる。

 

「あははは!堕天使もお腹は空くズラか!」

 

「う、うるさい!堕天使もお腹はすくの!ほら、みんななんか食べに行きましょ!」

 

慌ててる喜子ちゃんが面白くて、可愛くて、もっと笑ってしまう。

 

「ふふふ…!よかったらみんなウチのホテルのバイキングに行かない?ミツキたちも呼んで打ち上げしましょ!みんな近くのとこにとまってるんでしょ?」

 

「お、いいですなぁー!バイキングに向かうであります!」

 

私達は笑いながら帰る準備を始めた。

 

私はそれでもやっぱり梨子ちゃんが元気がないことを見逃すことができなかった。

 

・・・・

 

「ううー…食べすぎた…」

 

「お前も?まぁこんないいホテルのバイキングなんて、そうそうないからな。」

 

鞠莉さんのとこのホテルでの打ち上げに僕たちも参加させてもらい、僕らもホテルに来ている。こんないいところでご馳走してもらっていいのだろうか僕たち。

 

ハヤテは運営側の飲み会に出るとかでこっちには来れなかった。

鞠莉さんとメタル談義ができないと、心底悔しがっていた。

 

今は打ち上げも終わり、ホテルのロビーにいる。みんなは自販機に行ったり、ホテルを見て回ったり、近所を見たいとかで僕らは今、二人でぼんやりしていた。

 

「…なあ、キリヤ、今日の昼間の話だけど…」

 

「あー…その話、今は勘弁してくれ、ちゃんと話しできるかわからねえ。」

 

キリヤはツイッターを見ながらそんな事を言う。

 

「俺の決心がついたらまた言うよ。近いうちに、また、な。」

 

「わかったよ。…俺も色々考える。」

 

そのまま無言になってしまった。

 

正直とても気まずい。いつもなら馬鹿話してるのに。

 

こんな気まずいこと、Seekerの未来をどうするか決めかねてた時以来だ。

 

「あ、いたいた!コウくーん!」

 

静寂を破ったのは曜ちゃんだった。

 

「コウくん、ちょーっと来て!学校のことで大事な話をしたいんだ!キリヤくん、コウくん借りるね!」

 

「おー、持ってって、持ってって。しっかり役に立ってこいよ。」

 

キリヤに送り出され、僕は曜ちゃんについていく。

ホテルを出てふたりで歩く。こうしてみるとすげえでかいホテルだ。

 

「大事な学校のことって?」

 

「んー、口実、かな?実際に用があるのは私じゃないよ。」

 

少し歩くと近くの小さい公園に着く。よく見たらブランコにだれか座ってるんだけど、誰かはわからない。

 

「んじゃ、後はまかしたよ!私は食後のランニングにいくであります!」

 

そう言うと曜ちゃんはすごい速さで僕の前から去って行った。

 

はっきり言う。事態が飲み込めない。

 

仕方なく公園に入るとブランコの上には

 

 

千歌ちゃんがいた。

 

 

「あ、やっと来てくれた。結構待ってたんだよー!」

 

手をブンブン振っている。

 

大会があったのに千歌ちゃん、すっごく元気だ…

 

僕は何故だが鼓動が早くなる。心臓が脈打つ音が僕の体の中で響く。

 

「千歌ちゃん、どうしたの?わざわざこんなとこで。」

 

「んー…ちゃんと会って言うべきかなって。」

 

そうやって前置きをする。

 

「明日、空いてるよね?お願いがあるんだ。」

 




次回投稿は10月下旬を予定してあります。

[以下作者あとがき。]

マジで謝罪します、ここまで時間がかかってしまい申し訳ありませんでした。

自分の将来に関わる現実的なことがあったり、ぼちぼち再開を考えてるバンドの練習をしたり、まだ終わってない実習の準備したり、卒論やったりと諸々やっていたらここまで引きずってしまいました、読んでくれていた皆さん、大変すいません。ここまで待っていただいてありがとうございます。

言ったことは守りたいと思っておりますし、この小説は最後まで完結させたいので、これからも気長に待っていただけると嬉しいです。

本当に映画の公開までに終わるのでしょうか?作者が一番震えてます。

本編として、書きたかったシーンを書けました。表面的な事をサラッと書いたにすぎませんが、音楽が戦い続ける点なのかなって個人的には考えております。

そして、次回はデート回になります。色々な想いの中で揺れ動くコウくんと千歌ちゃんや梨子ちゃん、Aqours、Seekerのみんなを楽しみにしていただけると嬉しいです。


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第32話「私の気持ちは」

 

朝の10時。

 

夏の東京駅は暑くて、立ってるだけで汗が出てくる。

 

僕はラインを確認しながら昨日の夜のことを思い出す。

 

・・・・

 

ホテルから曜ちゃんに連れ出され、僕が公園に来たら千歌ちゃんがブランコに座っていて、明日の予定を聞かれる。

 

「ね、もし明日何もないなら一つお願いがあるんだ。」

 

「んーと、どしたの改まって。」

 

「うーん、なんとなく?なになに、なんか期待しちゃった??」

 

ニヤニヤしながら千歌ちゃんが僕の顔を覗き込む。なんかからかわれてる。今度何かしらで仕返ししてやる。

 

「で、お願いって?」

「うん。梨子ちゃんを連れ出してあげて欲しいんだ。」

 

すこしの動揺。

 

ミツキからすこしだけみんなの大会の後の話を聞いちゃったから。

 

梨子ちゃんは打ち上げでもあんまり元気がなかった。

 

笑ってはいたけどどことなくみんなに合わせてるようなそんな感じ。

 

「なんとなく、コウくんも気づいてるでしょ?梨子ちゃんが元気ないこと。」

 

「…それは分かってはいるけど、僕よりも千歌ちゃん達の方がいいんじゃ?」

 

単純にそう思う。

今どう声をかければいいんだ。

 

音楽で悩んでいるのは僕だって同じことだ。

 

「今の梨子ちゃんの気持ちをわかってあげられるのは、コウくんだと思う。自信持ってそれは言えるよ。」

 

僕は黙ってしまう。千歌ちゃんの真意がわからなくて何も言えない。

 

「それに私ね。明日、ミツキさんと会うことになってるんだ。だから私は明日行けないの。」

 

「だからってことじゃないけど、コウくんに梨子ちゃんのこと任せた!」

 

そう言い切るとブランコの近くに置いたらしい缶ジュースを飲む。

 

「わかったよ。ま、梨子ちゃんが暗いままだと僕も嫌だし。」

 

「よかったぁ〜!!コウくん来るまで色々悩んでたんだー!」

 

明るい顔でそう言うと、ブランコから立ち上がって僕の近くに来る。

 

「それとさ、内浦戻ったら、行きたいところあるから付き合ってね。」

 

「行きたいところ?どこに?」

 

「うん。まだそれは内緒!」

 

そう言うと満面の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ先にホテルもどるね。明日、楽しんできてね!」

 

そう言うとホテルに戻っていってしまった。状況を把握できない僕はとりあえず梨子ちゃんにラインして、明日の予定を確認するのだった。

 

・・・・・

 

東京の池袋。午前10時。駅前の喫茶店でミツキさんと待ち合わせる。

 

コウくんは今ごろ梨子ちゃんと会ってる頃だろう。

 

昨日は二人一組のホテルの部屋で私は曜ちゃんと一緒だったし、梨子ちゃんは善子ちゃんと一緒だったから打ち上げが終わってからそんなに話してはいない。

 

二年生のみんなと元三年生のみんなは今日はダイヤさんのうちに行くって言ってたし、よくわかってないのは梨子ちゃんだけだった。

 

「千歌ちゃん、本当によかったの?」

 

アイスティーを飲みながら曜ちゃんが聞いてくる。

 

「…うん。悩んだけど、やっぱり梨子ちゃんには元気になって欲しいから。今、梨子ちゃんが抱えてる悩みを解決できるのは多分、コウくんだよ。」

 

「…そっか。」

 

「はぁ〜…なんか惜しいことしちゃったよねえ…」

 

正直、未練がないわけじゃない。

それでもこの決断は親友としての決断だ。

 

でもなんでだろう…またモヤモヤが襲ってくる。

 

「あ、あれ、ミツキさんじゃない?」

 

曜ちゃんが入り口の方を指差すとミツキさんが入り口でキョロキョロしてるのが見えた。

 

「あ、ミツキさーん、こっちです!」

 

私が手を挙げると私たちを見つけたミツキさんがこっちにやって来る。

 

「よっ!東京案内してほしいって言ってたから色々考えてたら寝坊しちゃった!ごめんよ。」

 

「大丈夫ですよ〜!それよりこの後どうします?」

 

「私、服が見たいなぁ!沼津じゃ見れないものもあるだろうし!」

 

さっきまでの空気と一変して曜ちゃんが元気に手をあげる。曜ちゃんも曜ちゃんでミツキさんに東京を案内してもらうのを楽しみにしてたらしい。

 

「お!いいね。Seekerの連中、男ばっかだから女の子と服見る機会も減っちゃってさあ。よかったら私のも見繕ってよ!」

 

ミツキさんもノリノリだった。私も今は悩んでたことを振り切る。

 

今は楽しもう!そう心に決める。

 

・・・・・

 

サンシャインシティの中のお店を見て、いい感じの服を見ていたらあっという間に午後3時だった。

 

ミツキさんと私は曜ちゃんの着せ替え人形みたいに色んな服を試して、その中でも気に入った服を買ってあっという間に午後3時だった。近くのカフェで一休み。

 

「やっぱ女の子と服見に行くの楽しいわぁ。あいつらと行くとすぐネタに走るし…」

 

「Seekerのみんなで買い物行ったりするんですか?」

 

私は気になって聞いてみた。

 

「たまにね。私は一人で行くことも多いんだけど、ハヤテは私が連れ出さねえとずっとおんなじ服着てるようなやつだし。ま、最近じゃそういうわけでもないみたいだけど。」

 

メンバーの話をするミツキさんは本当に愛おしそうな目をする。

 

その瞳はコウくんと同じ目だった。

 

「…ミツキさんが羨ましいな。私の知らないコウくんのこと、たくさん知ってて。」

 

口をついて出た言葉は私の素直な気持ちだった。

 

曜ちゃんは察したのか、ストローを口に入れてフラペチーノを飲んでいる。

 

アイスコーヒーをストローで飲んでたミツキさんは目を丸くして私を見ると、微笑んだ。

 

「ふーん…そういう感じか。ハヤテとキリヤの言ってたハーレム云々はあながち間違いでもないわけね。」

 

何も言えずに私は俯いて、頷く。

 

「流石女子高生。可愛いな〜。昔のこと思い出しちゃいそうだ。たしかに聞いてる限りだと千歌ちゃんと梨子ちゃんが一番コウの身近にいるもんね。」

 

「昔のこと?」

曜ちゃんが興味津々って感じでミツキさんの話に食いつく。

 

「昔って言ってもSeeker組むか組まないかくらいの時だけどね。ま、私の話はいいとして…梨子ちゃんは今日コウと出かけてるんだっけか。」

 

「まあそれは色々あってってことなんですけどね。」

 

勝負のこと、昨日の夜のことをミツキさんに話す。

私、ちゃんと話せてたかな…?

 

曜ちゃんとミツキさんと遊んで楽しいのに、またなんだかモヤモヤした気持ちが襲ってくる。

 

気がつくとミツキさんは私の頭を撫でていた。

 

「…千歌ちゃんは優しい子だね。恋愛で自分よりも友達を優先できる子なんてそうはいないよ。」

 

ミツキさんの女性の割に大きい掌がなぜか心地よくて涙が出そうだった。

 

「でも優しすぎるのはダメだよ。じゃないと私みたいになっちゃうからさ。」

 

「伝えたい想いは早く伝えなきゃ。大丈夫。あいつは抜けてる部分もあるけど優しいやつだから。無下にはしないよ。私が保証する。」

 

ミツキさんの言葉の一つ一つが私の中に反響する。

 

想いを伝える…。うっすらと思っていたことが現実味を帯びてくる。

 

私はかつてコウくんとした約束のことを思い返した。

 

「でも、私どうしたらいいかわかんない時あって…」

 

私がそういうとミツキさんは少し考える。

 

「悩んでる時とかはさ、創作にぶつけるのが私は一番いいなって思ってるんだ。」

 

そしてびっくりするようなことを言い出した。

 

「一緒に曲つくってみる?私も手伝うよ。」

 

 

 

 

 

 




たいっっへんお待たせしました。
次回の投稿は12/21(金)を予定しております。

・・・・・

ここまでお待たせして申し訳ありません!!!

前回投稿が多分2.3ヶ月前なんですよね、まじかよ!!!

にも関わらず多くの人がお気に入り登録を外さずにいてくれて僕としては嬉しい限りです、これからまた頻繁に投稿していこうと思いますので、皆さんの日常の中にちょこっとだけ置いていてくれると嬉しいです。

作者は春からの進路のことで色々あったり、卒論書いたりしてました!まだしなきゃならないことたくさんあるし、なんならバンドの練習もしなきゃいけなかったりするんですが、その合間に書いていこうと思ってます。

本編は前回からの話を受けて今回の話になりました。
僕の千歌ちゃんに対してのイメージでこういう話になりました。たのしんでいただけましたでしょうか?

次回はコウくんと梨子ちゃんの話になります。楽しみにしていただけますと作者はめっちゃうれしいです。


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第33話 「変わる二人の関係性」

「遅れちゃった!ごめんね。」

 

向こうから梨子ちゃんが駆けてくる。服装は水色の花柄のワンピースに青いサマーニットのカーディガン。

 

夏っぽい爽やかな格好で、蒸し暑い駅の中に風が吹いたような、そんな感じがした。

 

「大丈夫だよ。来てくれてありがとう。」

 

「ううん、こちらこそ。誘ってくれてありがとう!どこ行こっか?」

 

一晩寝て少しは元気になったのか、梨子ちゃんはいつもの感じだった。

 

ぎこちなくなってしまってないかな?梨子ちゃんの前では少しでもかっこよくいたいって思ってしまう。

 

「前から行きたいなーって思ってたところあるんだ。ジョイポリスって言うんだけど。」

 

「あ、知ってる!屋内遊園地でしょ?行ってみたい!」

 

僕らは電車を乗るために歩き出す。

 

話すことはたわいもないこと。

 

千歌ちゃんがくれた時間だ。心に決めたことを口には出さず頭の中で繰り返した。

 

・・・・

 

お台場に着く。電車とモノレールを乗り継いだものの、思ったよりも早い。

 

「海風が気持ちいいね。やっぱり海っていいなぁ。」

 

梨子ちゃんは笑いながらそう言う。

 

「うん。夏だしもっと蒸し暑いかと思ったけどそんなこともないね。すぐ近くらしいし、行こっか?」

 

「うん!」

 

少し歩くと未来都市をイメージした入り口が見えてきた。そこから入場のチケットを買って中に入る。

 

「わぁぁ!すごいね!何から乗ろうかなぁ…」

 

子供みたいに笑う梨子ちゃん。

とりあえずはここに来てよかったな。

 

このまま昨日のことを振り切ってくれると嬉しいな…。

 

・・・・

 

「ねえねえ、コウくん!次どれ行こっか? 」

 

午後4時ごろ。中にあるカフェスペースで遅くなったお昼ご飯を食べる。

 

ジェットコースターを楽しんだり、占いのアトラクションや、お化け屋敷、色々楽しんでたら時間があっという間に過ぎていた。

 

みんなとの待ち合わせは8時に東京駅。まだ時間的に余裕はある。

 

梨子ちゃんの笑顔は曇りが無くて、見ていて安心感がある。でもなぜか危うさを感じてしまった。

 

「うーん、色々あって迷っちゃうね。このガンシューティングのゲームも楽しそうだなあ。でも梨子ちゃんが元気になって本当に良かった。」

 

梨子ちゃんは少しだけ昨日のことを思い出したようだ。ちょっとだけ困った顔をする。

 

「そんなに落ち込んでるように見えた?」

 

「いつもよりは。自分でもきづいてなかった?」

 

またちょっとだけ困った顔をする。困らせるつもりはないんだけど、なんとなく聞いてみたかった。

 

「ほんっと、隠すのが下手だなぁ私。昨日はびっくりしちゃったんだ。あんな曲、私は作ろうと思ったことがなかった。なのに、見ている人をあんなにも虜にしてた。」

 

ヤバい。また落ち込ませちゃったかな?新曲の話にでも切り替えるか?一応デモのデータは持ってるし。

 

「でも、もう大丈夫。昨日、打ち上げしてる時とかホテルの部屋で色々考えて思ったんだ。」

 

「何を?」

 

「うん。私には私にしか書けない曲がある。今はコウくんだっている。曲をもっと輝かせてくれるAqoursのみんながいる。私には思いつかない遊びを加えてくれるSeekerのみんながいる。だからーーー」

 

 

「私にしか書けない世界を私が作る。もちろんコウくんの力を借りながら、だけどね。」

 

 

目の前で力強く笑う梨子ちゃん。

 

なんて強い子なんだ。僕は、僕はまだあの時から少ししか進めていないのに。

 

脳裏に蘇るのは事務所の上層にブチギレるハヤテ、呆然としたキリヤ、必死でハヤテを止めるミツキと手越さんだ。

 

何もできなかった。自分には。

 

書きたい世界を書く、なんて力強いこと言えなかった。

 

あの時よりは進めていると思う。

 

「そっか。梨子ちゃんが元気になって安心した。僕も頑張らないと。」

 

本心だ。また曲を書こうか。Aqoursじゃない。事務所に言われて書く曲じゃない。

 

Seekerにしか作れない世界を作る曲だ。

 

あのことがあってから書きなぐった言葉を曲にしたい。

 

そう決意した時だった。

 

「うわぁぁぁん!!!」

 

泣き叫ぶ声が聞こえて、はっとその声がした方をみる。

 

3歳くらいの子だろうか?女の子が泣いて座り込んでいた。

 

周りの人が何事かと見つつも見て見ぬ振りをする。

 

「私、ちょっと行ってくるね!」

 

「僕も行くよ。」

 

その子の元に行くとその泣き声の大きさを改めて感じる。子供ってすげえ……

 

よく見ると肩の所に「高橋 カオリ」という名札がついていた。

 

「カオリちゃん…かな?どうしたの?」

 

意を決して梨子ちゃんが声をかける。子どもが安心できるような、優しい声だった。

 

「う……おねえちゃん、カオリのなまえしってるの???」

 

どうやら親のつけた迷子札に気づいてないようだ。

 

てか、今自分で名前言っちゃったなこの子。

 

「なんでなのかなあ?おねえちゃんは魔法使いだからかな??」

 

少しでもカオリちゃんを安心させようとおどけた様子を見せる梨子ちゃん。

 

なんで僕の友達はこんなに可愛いんだよ!

 

「おねえちゃんまほーつかいなの?!」

 

カオリちゃんの顔が一転して明るくなった。

すごい、子どもの心を完全に掴んでる。

 

「そうかもね。カオリちゃんはどうしたのかな??」

 

「…パパ、ママ、どこ?」

 

カオリちゃんの声がまた暗くなった。それを悟った梨子ちゃんはカオリちゃんの手を握る。

 

「そっかあ。大丈夫だよ。おねえちゃんと一緒に魔法で探そう!」

 

「うん!」

 

「こっちにも魔法使いのお兄ちゃんがいるから肩車してもらおうか?」

 

ん????

あ、そういう感じか。

 

「大丈夫だよ。じゃあ乗る?」

 

「うん!おにいちゃん、ありがとう!」

 

兄弟がいないからかな?なんかものすごく新鮮だ。呼ぶことも呼ばれることもないし。

 

・・・・・

 

カオリちゃんを肩車して自分たちのいたフロアから順番に探す。

 

あまり目立たない端の方にきた。

 

「カオリちゃんのお母さ〜ん、いらっしゃいませんか?」

 

すると遠くの方から若い女性がかけてくる。

 

「カオリ!もー!迷惑かけて…ありがとうございます!」

 

「ままぁ!」

 

肩からカオリちゃんを降ろすとお母さんの元へ駆けていく。

 

「全く…。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんにお礼言いなさい。」

 

「まほーつかいのおにいちゃんにおねえちゃん!ありがとう!」

 

「魔法使い…? でも本当にありがとうございます。デート中よね?邪魔しちゃってごめんなさい。」

 

お母さんが僕らのもとに来て申し訳なさそうに謝る。デート…か。そうなんだろうな。たぶん。なんだかこそばゆい気持ちになる。

僕はどんな顔してるんだろう。にやけてないかな?

 

「そ、そんなこと、な、ないです!」

 

さっきカオリちゃんを相手にしていた梨子ちゃんはうってかわって動揺している。顔を赤くしていて、僕まで恥ずかしくなってきた。

 

「ふふ。大丈夫よ。お姉さんかわいいし、お兄さんもかっこいいから。カオリと3人で並んだら若い家族みたい。」

 

「かぞ…!」

 

梨子ちゃんがさっきよりも赤くなっている。なぜだ、僕まで心臓が高鳴るのを感じる。

 

「あらあら…。お節介はおばさんの始まりね。ほらカオリ、もう行くわよ。」

 

「おにいちゃん、おねえちゃん、ばいばい!」

 

そう言って親子は手を繋いで去っていった。取り残された僕たちはふと顔を見合う。

 

梨子ちゃんの顔は真っ赤。

 

「家族みたい…って言われちゃった、ね…?」

 

はにかんだその顔。

 

真っ赤になったその顔を僕はたまらなく愛しいと思ってしまって。

 

心の奥から出てくる言葉を飲み込むことができない。

 

自分の心が思うままに気持ちを言葉にした。

 

 

 

「梨子ちゃん。聞いて。貴方のことが好きです。僕の彼女になってくれませんか?」

 

 

 

僕はどんな顔をしてるんだろう。分からない。

 

でも何故か目の前の梨子ちゃんは涙ぐんでいる。

 

「…私でいいの?」

 

「梨子ちゃんと、居たい。梨子ちゃんじゃなきゃ、ダメだ。」

 

この時だけ。

 

この瞬間だけ。

 

Seekerも、Aqoursも、千歌ちゃんのこともキリヤのことも全部頭から消えた。

 

僕の瞳は彼女しか写していない。

 

「私でよければ、お願いします。」

 

その言葉とともに梨子ちゃんは再び僕を抱きしめた。

 

僕の両手が梨子ちゃんを抱きしめ返す。

 

 




次回更新は1/1にしたいと思います。
次回は今回の話の梨子ちゃんsideとなります。

・・・・・

[以下作者あとがき]

気づいたら今年が終わる!まじかよ!まだなんもやり遂げてねえよ??
こんにちは作者です。

早いものでもう今年も終わりですね。時間の早さにびっくりします。特に今年は進路に卒論に色々あって僕にとってはあっという間に過ぎていった気がします。残りの大学生活、しっかり楽しみたいと思います。(ちなみに僕は大学院に進みます)

年末といえばクリスマス!皆さんはどう過ごしてましたか?

僕は毎年恒例の呑んだくれクリスマスを回避するためにバイトしてました!ケーキ売ってました!生まれて初めてサンタコスしたり、女子高生と一緒になってふざけたりしてました!
こういうクリスマスも面白いなあって思いました笑 24日の大変さはカオスの一言だけど。

さて、この小説なんですが、27日で1周年を迎えることができました! これもこの話を読んでくれるみなさんのおかげです!
話の流れは当初から全く変えてはいないんですが、書きたいところがたくさん出てきたり、色々膨らみすぎて作者もびっくりしてます。これ過去篇とか10話近く使うことになるんじゃないかな……….。

年が明ければラブライブ の映画も公開されます!この小説はアニメ二期の後の世界観ということで、映画での展開を入れることはできないかと思います。これも一つのパラレルワールドとして読者の皆さんに楽しんでいただけますと作者としては嬉しいです。

長くなりましたが今回はこの辺で。年明け一発目にこの話の続きを書いていこうとおもいます。





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第34話 「ハジメテの」

前回のお話の梨子ちゃんsideのお話となります。投稿遅れて申し訳ありませんでした………。


 

時刻はスクールアイドルワールドの夜…

 

打ち上げが終わってからみんなでとまってるホテルの自分の部屋に帰ってきた。

 

よっちゃんはもうちょっと周りを見てくるって言って出て行ってしまった。

 

みんなに気を使わせちゃったかな…?

 

自分でも元気がないのがわかる。

 

今日の理亞ちゃんたちのライブを見た、あの時の衝撃が、曲が、自分の中で鳴り止まない。

 

どうすればいい?どうすれば、みんなをもっと輝かせることができるの?

 

そんな思いが頭をぐるぐる回る。

 

結局勝負は千歌ちゃんの勝ちだった。

 

千歌ちゃんはコウくんに告白するのかも。

 

そう考えると余計なことが頭をよぎって何も手につかない。

 

「あー!もう!」

 

部屋の中で叫んでみても虚しい声が反響するばかりだった。

 

そんな時だった。スマホに通知が入る。

 

「ん…?コウくん…?…えっ!」

 

ラインを見るとコウくんからのメッセージが入っている。

 

『明日、遊びに行こうよ』

 

簡単な言葉でそう書かれていた。

 

どういうこと? 千歌ちゃんは??

 

さっきまでのぐちゃぐちゃの感情は一旦横に飛んでいって、千歌ちゃんの件とコウくんからのラインで頭の中がいっぱいだった。

 

既読つけちゃったし、とりあえず返そう。なんて返そう…?

 

『いいよ(o^^o)』

 

何も考えずに返してしまった。指が勝手に動いた。体は素直らしい。

 

でもやっぱり嬉しい。

 

だって…初恋、なんだと思う。ちゃんとした恋は、たぶん。

 

好きな人から誘われるってこんなにも嬉しいんだ…!

 

だから嬉しかった。千歌ちゃんの件は明日、聞いてみよう。

 

一ついいことがあると前向きになれる。さっきまで考えていた曲のことを一旦自分の中で結論づける。

 

明日のことがあるし、もう寝よう。ラインで待ち合わせの約束はできたし。

 

「よし!もう寝るわ!」

 

寝る前になぜかガッツポーズ。

 

明日はちゃんと、一番可愛い私をコウくんにみてもらいたい。

 

そう思って眠りについた。

 

深夜になって、花丸ちゃんとルビィちゃんの部屋で遊んでいたらしいよっちゃんが慌てた様子でドアを叩きまくって起こしにくるまで。

 

オートロック機能のせいで、締め出してしまっていたらしい。

 

うっかりしちゃったわ……

 

・・・・・

 

「まったく…昨日は大変な目にあったわよ!ズラ丸とルビィのとこ行ったら二人とも寝てるし!」

 

「ごめんって。よっちゃん怒らないでよお。」

 

朝から昨夜のことで善子ちゃんはご立腹。

 

寝癖がついてるあたり、善子ちゃんらしい。

 

「はあ……もういいわよ。リリーは今日どうするの?私たちはダイヤのとこ行くけど。」

 

「私も私で今日は出かけるよ。ちょっと色々ね。」

 

あまりコウくんのことを言わない方がいい。

 

私が顔に表れやすいのはもうわかってる。

 

なんだか恥ずかしいし、私の恋愛とみんなとはまた別の話。そこらへんは割り切らないと。

 

「何よそれ。8時に東京駅だし、遅れないようにね!千歌と曜は早めに出てったみたいよ。」

 

そこら辺は事前に抜かりはない。曜ちゃんとコウくんと遊ばなかった方は東京観光に行くことになっていた。

 

何があったのかは分からない。朝食の時、千歌ちゃんに聞いてみたけど

 

「すっっっごく大事な用事で、コウくん誘えなくなっちゃって…。えへへ。」

 

との事だった。怪しい。怪しすぎる。

 

やっぱり気を遣わせちゃったのかな…?

 

それでも、だとしたら、これは千歌ちゃんがくれた大事な時間だ。

 

私も準備しないと!

 

・・・・・

 

「遅れちゃった!ごめんね。」

 

普段慣れないメイクにちょっとだけ時間がかかって待ち合わせに遅れてしまった。

 

待ち合わせの場所にはすでにコウくんがいた。

 

服装は青をベースにした、モザイク柄の夏用のシャツに白い無地のデザインシャツ、グレーの麻の長ズボンを7分丈にあげた服装だった。首元にはたまにしているネックレス。

 

夏っぽいさわやかな格好だ。

 

「大丈夫だよ。来てくれてありがとう。」

 

「ううん、こちらこそ。誘ってくれてありがとう!どこ行こっか?」

 

たぶん、私がコウくんを一番近くで見てきたからわかる。

 

音楽に向き合う姿を見てきたから。

 

「前から行きたいなーって思ってたところあるんだ。ジョイポリスって言うんだけど。」

 

「あ、知ってる!屋内遊園地でしょ?行ってみたい!」

 

コウくんが私を元気づけようとしてくれてるの、分かるよ。

 

今、楽しい気持ちが強い。

 

思いっきり笑って、昨日の自分を消し去ってやる!

 

・・・・・

 

ジェットコースターや、ゲームセンターで遊んでいたら、結構すぐに時間が経っていた。

 

「お化け屋敷怖かったぁ……」

 

「音がリアルで怖かったね。でも梨子ちゃんに腕引っ張られた時は本当びっくりした」

 

「うぅ…こわかったんだよぉ…」

 

ヘッドホンでリアルな音を聞くタイプの変わったお化け屋敷だったんだけど、なんていうか凄まじくて、途中でヘッドホンを外して、近くにいたコウくんの腕にだきついてしまった。

 

特に考えもしない衝動的な行動だ。

 

色んな意味で二度と行きたくないタイプのお化け屋敷だ。

 

「気分変えよう!占い行こうよ!占い!」

 

「おっけ。でも占いって善子ちゃんみたいだね。」

 

クスクス笑いながらコウくんが言う。

 

あの堕天使に私も毒されてしまっているのかもしれない。

 

・・・・・

 

「2名さま、どうぞこちらからご入場ください。こちらは端末でございます。」

 

占いのアトラクションに行くとすぐに中に入ることができた。

 

入り口でよくわからない端末を渡される。これを差し込むことで占いの結果が出てくるらしい。

 

占いをしてくれる台を自分達で回るようだ。

 

「なんか神秘的な雰囲気だね。来たことないや。」

 

「女の子はこういうの結構好きだと思うよ〜?」

 

私たちはゆっくりと色んな台を見ていく。スタンプラリーのように台を回ったら、最後に「フェンリルの間」というところに進むことになる。

 

ただし、進めるかどうかはわからないという仕掛けになっていた。

 

端末にはそういう仕掛けもあるらしい。

 

端末を差し込むと上のスピーカーから声がした。

 

「フェンリルの間に入るのにふさわしいか見定めます。手を繋いで前を向きなさい。」

 

うぇっ!手をつなぐって…ちょっとハードルが高いような……….

 

しかし脳裏に浮かぶのは夜にコウくんを抱きしめたあの日だった。

 

ぼーっとしてたら、コウくんから手が伸びてきた。

 

「…こういう感じかな?」

 

私の手を握る。恋人つなぎ。びっくりして言葉が出ない。

 

無言で前を向くコウくんは何を思っているんだろう?気になる。

 

相手のことも占いで分かればいいのに。

 

「あなたたちの想いは伝わりました。中へ進みなさい」

 

「「おぉぉ!!!」」

 

周りの人から軽い拍手が起きる。

 

この場所はなかなか入れないようで、攻略方もネットで出回るくらいらしい。さっきすれ違った人たちが言っていた。

 

「…行こっか?」

「う、うん。」

 

私が尋ねると少し戸惑ったコウくんと手を繋いだまま歩き出す。

 

奥の部屋に入るまで、私達は手を繋いだままだった。

 

・・・・・

 

 

「ねえねえ、コウくん!次どれ行こっか? 」

 

思いもよらない占いの結果を受けて午後4時ごろ。中にあるカフェスペースで遅くなったお昼ご飯を食べる。

 

さっきの占いのせいで、私の心臓はドキドキしっぱなしだ。それを誤魔化すように明るく話す。

 

それにしても…。

 

あんまりガヤガヤしたところは得意じゃないけど、たまにはいいかも。

 

そんな風に思ってしまうのはコウくんが隣にいるから…かな?

 

みんなとの待ち合わせは午後8時に東京駅。まだ時間的に余裕はある。

 

「うーん、色々あって迷っちゃうね。このガンシューティングのゲームも楽しそうだなあ。でも梨子ちゃんが元気になって本当に良かった。」

 

…やっぱり気を使わせちゃったかあ。

 

「そんなに落ち込んでるように見えた?」

 

「いつもよりは。自分でもきづいてなかった?」

 

優しく笑いながら、そう言うコウくん。軽くため息をついてしまう。

 

「ほんっと、隠すのが下手だなぁ私。」

 

自分自身に呆れざるを得ない。

 

「昨日はびっくりしちゃったんだ。あんな曲、私は作ろうと思ったことがなかった。なのに、見ている人をあんなにも虜にしてた。」

 

昨日のあの光景。会場が[gift]の発する音に飲まれ、圧巻の拍手を送ったあの光景が頭に焼き付いて離れない。それは今も変わらない。

 

「でも、もう大丈夫。昨日、打ち上げしてる時とかホテルの部屋で色々考えて思ったんだ。」

「何を?」

 

ここは隠さずに素直に私が思っていることを告げるべきだ。

 

「うん。私には私にしか書けない曲がある。今はコウくんだっている。曲をもっと輝かせてくれるAqoursのみんながいる。私には思いつかない遊びを加えてくれるSeekerのみんながいる。だからーーー」

 

私が好きな男の子である前に、私と一緒に音楽で戦う、戦友だから。

 

「私にしか書けない世界を私が作る。もちろんコウくんの力を借りながら、だけどね。」

 

力強く笑ってみせる。

 

ぎこちなくってもいい。

 

まだ悔しさがあるのは本心だから。

 

私が奏でる音で、歌で、私は私を証明する。

 

この悔しさはそのための一歩だ。

 

私は昨日からさらに一歩進むことができた。

 

「そっか。梨子ちゃんが元気になって安心した。僕も頑張らないと。」

 

安心したようにまた微笑んだ。

 

なんでだろう、コウくんの笑顔、癒される。

 

前にキリヤくんと話していた時、コウくんが女の子に対してニブいってはなしは聞いた。

 

せっかくのチャンス。わたしから距離を縮めないと!

 

と決意した瞬間。

 

「うわぁぁぁん!!!」

 

泣き叫ぶ声が聞こえた。

 

あたりを見回す。

 

3歳くらいの子だろうか?女の子が泣いて座り込んでいた。

 

周りの人が何事かと見つつも見て見ぬ振りをする。

 

なんとなく泣いてる姿を放ってはおけなかった。

 

「私、ちょっと行ってくるね!」

 

衝動的に動いていた。

 

「僕も行くよ。」

 

その子の元に行くと声の大きさに圧倒させられる。

 

よく見ると肩の所に「高橋 カオリ」という名札がついていた。

 

ど、どうしよう…!

 

「カオリちゃん…かな?どうしたの?」

 

優しい声を意識して、とりあえず声をかける。

 

そうだ、親戚の赤ちゃんを抱かしてもらった時の自分のイメージ…イメージ…

 

「う……おねえちゃん、カオリのなまえしってるの???」

 

迷子札のこと、多分お母さんは言ったんだと思う。

 

…忘れてるんだろうなあ。かわいい。

 

「なんでなのかなあ?おねえちゃんは魔法使いだからかな??」

 

泣いてるのは怖いからだよね?だったら安心させてあげよう。

 

精一杯、面白いお姉さんになろう。

 

今の私は魔法使いりこっぴーよ!

 

「おねえちゃんまほーつかいなの?!」

 

カオリちゃんの顔が一転して明るくなった。

よし!さすが私よ!

魔法のステッキでもあれば100点満点!

 

「そうかもね。カオリちゃんはどうしたのかな??」

 

「…パパ、ママ、どこ?」

 

あー…やっぱりそういう感じなのね。

うっすらと残る幼い頃の記憶が蘇る。

 

私もこの子と同じくらい小さい頃、同じことがあったような…。

 

あの頃は、確か、その時小学生だった子に助けてもらったんだと思う…。

 

「そっかあ。大丈夫だよ。おねえちゃんと一緒に魔法で探そう!」

 

「うん!」

 

魔法使いりこっぴーは続投ね。その方がこの子も安心しそう。

 

「こっちにも魔法使いのお兄ちゃんがいるから肩車してもらおうか?」

 

コウくんに目配せしながら言う。

だいぶキラーパスしちゃったかなあ…

 

「大丈夫だよ。じゃあ乗る?」

 

「うん!おにいちゃん、ありがとう!」

 

コウくんが察しが良くて助かった。

 

千歌ちゃんだったら「ふぇ?」とか言ってると思う。

 

それにしても、カオリちゃんに肩車するコウくん、すごく優しい顔してるな…。

 

・・・・・

 

カオリちゃんを肩車して自分たちのいたフロアから順番に探す。

 

途中で迷子放送もお願いする。

 

カオリちゃんが、自分でパパとママ探してみたいと言って、泣き出しそうになっていたので、迷子センターの職員さんにこれから回るルートを伝えて探すことにした。

 

アトラクションの順番待ちの列やショップなんかも覗きながら探すが、カオリちゃんの親御さんらしき人は見当たらなかった。

 

結果として、流れであまり目立たない端の方にきた。

 

「カオリちゃんのお母さ〜ん、いらっしゃいませんか?」

 

すると遠くの方から若い女性がかけてきた。すごく慌てた様子で多分お母さんだ。

 

「カオリ!もー!迷惑かけて…ありがとうございます!」

 

「ままぁ!」

 

コウくんが肩からカオリちゃんを降ろす。

すると、一目散にカオリちゃんはお母さんの元へ駆けていった。

 

「全く…。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんにお礼言いなさい。」

 

「まほーつかいのおにいちゃんにおねえちゃん!ありがとう!」

 

「魔法使い…? でも本当にありがとうございます。デート中よね?邪魔しちゃってごめんなさい。」

 

で、デート!?

 

いや、単純に男の子の友達と行きたいところに遊びにきただけ…だと思う。

 

でもコウくんは私の好きな男の子な訳で…あれ? これ、デートになってるよ…ね?

 

昨日のことで頭がいっぱいで肝心なことが抜けてた…私、今好きな男の子とデートしてるんだ。

 

「そ、そんなこと、な、ないです!」

 

さっきの占いの結果、そしてカオリちゃんのお母さんの言葉。

 

私の心臓のBPMはとっくに250を超えて高鳴っている。

 

この速さだと正確なフレーズを弾くのに相当苦労する羽目になる。

 

「ふふ。大丈夫よ。お姉さんかわいいし、お兄さんもかっこいいから。カオリと3人で並んだら若い家族みたい。」

 

「かぞ…!」

 

もう私の心臓は爆発寸前なくらい高鳴っていて、正常に言葉を発することができない。

 

「あらあら…。お節介はおばさんの始まりね。ほらカオリ、もう行くわよ。」

 

「おにいちゃん、おねえちゃん、ばいばい!」

 

これを「尊死」に近い状態って言うのかな…?

 

私いま、どんな顔してるんだろう、尋常なく顔が熱い。

 

「家族みたい…って言われちゃった、ね…?」

 

笑顔を意識して、コウくんに話しかける。

 

コウくんも顔を赤くして、私のことを見つめていた。

 

今まで感じたことのない感情。

 

これが愛なのかな。そんな感情、わかるほど私は長くは生きていないと思う。

 

それでも今、この瞬間、コウくんをとても愛しく感じる。

 

言葉が出ない。なんて言えばいい??

 

永遠に感じられる一瞬。そしてコウくんが告げた。

 

 

 

「梨子ちゃん。聞いて。貴方のことが好きです。僕の彼女になってくれませんか?」

 

 

 

私はどんな顔をしてるんだろう。分からない。

 

頬を小さな雫が流れていくのを感じる。

 

目の前にいるコウくんのまっすぐな瞳を見つめた。

 

ようやく動くようになった口でコウくんの告白に応えようとする。

 

「…私でいいの?」

 

「梨子ちゃんと、居たい。梨子ちゃんじゃなきゃ、ダメだ。」

 

この時だけ。

 

この瞬間だけ。

 

昨日のことも、今作っている曲のことも、AqoursのこともSeekerのことも消えた。

 

さっきの占い…未来を占った結果の言葉が頭によぎる。

 

『今となりにいる人を信じて進み続けなさい』

 

私の瞳は彼しか写していない。

 

改めて、コウくんを見つめ返した。

 

 

「私でよければ、お願いします。」

 

 

涙を拭いて、心からの言葉をコウくんに返す。

 

私はコウくんを衝動的に抱きしめてしまう。

 

少しの間、見つめ合う。

 

私とコウくんの顔が近づいて-----

 




次回更新は3月下旬を予定しております。次回は二年生組から離れ、一年生と三年生がダイヤさんの家に向かったお話を書きたいと思っております。あとがきに映画のネタバレがあるかと思いますので、もしまだみてない方はご注意ください。

[以下作者あとがき]

あけましておめでとうございます()

2019年初投稿は3月目の前のこんな日になっちゃいました。

以前投稿させてもらった活動報告という言い訳にも書きましたが、バイト戦士したり、学校のテストがあったり、ハーメルンを通じて知り合った方々とswitchのオンラインで大乱闘やったり、普通に大乱闘進めたり、私生活で本当に色々あったりとしたため、こんな感じの投稿になっちゃいました。(創作用趣味アカのTwitterは割と頻繁に更新しておりました。)

3月は作者がやっているバンドの大学生活最後のライブがあったり、春からの生活に関わる諸々があったりするので、おそらくまだ投稿に時間がかかるかと思われます。もうしばらくお待ちいただけると助かります。申し訳ありません。

さて、本編ですが、本格的にコウくんと梨子ちゃんにいい感じになっていただきました。

しかし、物語はまだ終わりません。だって書きたいところ全然書けてないし、千歌ちゃんこのまま放置なんて絶対できないもの!

全ての人が納得する結末を迎えられるとは思ってはおりませんが、それぞれのキャラクターが笑顔になれる結末を用意したいと思っております。楽しみにしていただけると作者は本当に嬉しいです。

そして、映画に関することなんですが…まじでどうしようか、考え中です。月ちゃんどうするとか、下手にかませると構成変わっちゃいかねないなぁって感じです。いっそのこと映画スルーするのもアリな気がしてます。(作者は2回見ました。曜ちゃんの色紙と花丸ちゃんの色紙ゲットはテンション上がりました。)

そして、年が明けてから、僕も大好きなバンド Fear, and Loathing in Lasvegasのベーシストのkeiさんがお亡くなりになりました。いちベースを趣味として弾くものとして、とても惜しい人がこの世を去ってしまった、そう感じています。
これからLasvegasがどのようにバンド活動を展開するのか、僕に知る余地はありませんが、また笑顔でライブをするメンバーの方を見たり、激しい展開をする曲を聴きたく思います。

久しぶりの投稿ということもあり、だいぶ長くなってしまいました。ここまで読んでくれてる人いるのだろうか。読んでくれてたら読んでくれてありがとうございます。

本当に長くなりましたが、今回はこの辺で締めたいと思います。次回投稿までお待ち頂けますと作者は嬉しいです。


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