この世界がループしていることを俺は知っている (超高校級の切望)
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恐竜編1

 この世界が繰り返していることを俺は知っている。もう35年ほどになるか。

 繰り返す日常に刺激を求め、俺は様々なことをやった。ある一年では学校をさぼり格闘家に弟子入りし、ある一年ではたまたま知り合った怪盗に弟子入りし、ある一年では剣道家に、ある一年では学士号持ちに、ある一年ではホストに、ある一年ではある一年ではある一年ではある一年ではある一年では。

 繰り返しの一年で変化が一つ起きた。

 同クラスの何名かの声が変わったのだ。その中で特に怪しいのが野比のび太。親はいったいどんな恨みがあって我が子にこんな名を付けたのか不明だが、彼の家には銅鑼右衛門とかいう狸の神らしき存在が居るらしい。

 未来のロボットだっけ?忘れた。

 そうだ、忘れていた。未来からのロボットにしろ狸の神にしろ、一番怪しいじゃないか何故気づかなかった。

 しかし明確な証拠がない。状況証拠だけでは犯人を暴けないというのは何ループ目かの師匠である眼鏡をかけた小学生初等部の師匠の言葉だ。

 

「というわけで夜まで張り付いてみたものの、そもそもその銅鑼右衛門に会った方が速くないか?」

 

 まあ相手は不可思議な道具を扱い野比にジャイアンとの喧嘩を勝利させたりジャイアンの歌をやめさせようとしたかと思えば無理矢理チケットをかわせたりする思考がさっぱり解らん謎の存在だ。警戒してた方がいいだろう。

 

「………ん?」

 

 と、その時、人目を忍ぶように野比が現れた。何かを持ち走っている。滅茶苦茶遅いが。

 後付けると池のある公園に着いた。こんな所で何をする気だ?

 

「おーい!ピー助ー!」

 

 ピー助?なんだその辺な名前は。この辺りに鳥でも放し飼いしてるのか?と、その時……

 

「ピューイ!」

「…………は?」

 

 恐竜が現れた。正確には魚竜。首長の水生生物だ。太古の………

 ふーん、あれオレンジだったのか。そして背中に変な模様会ったのか。驚き桃の木……さて、現実逃避はそろそろやめよう。やはり野比、正確には野比のところの狸は時間に干渉する力を持っているようだ。出なければこのご時世に恐竜が現れるはずがない。

 

「よしよし、良い子にしてたかい?」

「ぴゅい!」

「動くな」

「………へ?」

 

 持ってきたサバイバルナイフの刃を当て制止を要求する。ピタリと動きが止まった。恐怖で硬直しているようだ。素人か?

 

「だ、誰!?黒マスクの仲間!?」

「あ?」

 

 黒マスク?なんだそりゃ。と、その時俺は敵意に気づきその場から飛び退く。俺の居た場所を空気の固まりが通り抜ける。

 風の谷に行った時学んだ風とは違うな。あれは渦を巻いてた。どっちかつーとその昔王子の体を狙い国から追い出された魔女の子孫を自称する師匠の使ってた魔法に似てる気がする。

 

「……おまえか」

「のび太君!大丈夫かい!?」

「ドラえもーん!」



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恐竜編2

 そういえば、魔法を教えてくれた師匠によると先祖は青い狸にしてやられたそうだな。

 神秘が今より深かった古の時代で、だ。ふむ………

 

「逃げるか」

「あ!」

 

 俺はあくまで魔法使いの弟子。本場の魔法使いを倒すような相手と正面切って戦うつもりはない。

 幸いにも恐竜が居るんだ。使わせてもらう。

 

「─────」

 

 指を咥え笛の音を響かせる師匠の先祖に使えていたという先祖代々の配下の家系の一人から教わった操獣術。

 

「ッ!?ぴゅい………ぴゅういぃぃ!」

「ピー助!?」

 

 逆らった?くそ、思ったより絆が深いな。が、隙は出来た。俺は地下世界に迷い込んだ時、河童みたいな奴らを狩って食ってたんだ。幸い小さな森がある。逃げさせてもらうぞ。

 

「ま、待て!何かないか何かないか………こけおどし爆弾!」

 

 正直に虚仮威しと教えてくれてありがとう。お礼に落とし物を返してやろう。飛んできたニヤリと笑った顔が描かれた玉を蹴り返す。「え?」と間抜け面を晒した瞬間光と爆音が響きわたる。何だ、ただのスタングレネードか。まあこの音と光だ。テレビ局もよってくるだろうし、追ってはこれないだろう。

 

 

 

 

 

「のび太君大丈夫?」

「う、うん……」

 

 ドラえもんの言葉に部屋で腰を落とし息を大きく吐く。外では消防車やパトカーのサイレンが聞こえてきた。

 

「さっきの、黒マスクの仲間なのかなあ?」

「わかんない。声は、子供の声だったと思う」

「うん。のび太君ぐらいだったかなぁ……」

 

 僕と同じぐらい……まだ子供なのか。ひょっとしたら黒マスクの仲間ではないのかもしれない。でも、ナイフを持って脅してくるような奴だ。油断は出来ない……

 

 

 さて、どうするか。

 あれから数日、向こうから接触はない。バレてなかったのか………?

 だとしても、漸く掴んだ足掛かりをミスミス逃す手もない。今まで異常に思えなかったように、何時この記憶を普通じゃないと思えなくなるか………。

 

「本当だって!僕は、恐竜を飼ってたんだ!」

「………ん?」

 

 その声に空き地を見てみるとこの前のメガネが剛田と骨川に押さえられてスパゲティに顔を近づけていた。

 

「………何してんだ?」

「え?」

「お前は、同じクラスの………誰だっけ?」

「ジャイアン、ほら……明沢マワリだよ」

 

 ヒソヒソと剛田に話す骨川。まる聞こえだ。しかしこのスパゲティ、そこらのレストランじゃまず食えねー高級品だな。

 

「た、助けて明沢くん!」

「なあ野比、お前恐竜飼ってるんだって?」

「嘘に決まってんだろ。な、のび太?」

「嘘付いたバツで鼻からスパゲティ食わせてるんだよ」

 

 また変なことするな。

 

「う、嘘じゃないよ!」

「嘘付けぇ!」

 

 さて、これはひょっとして分かれ目なのだろうか?此奴は間違いなくループに関わっているはずだ。未来から来たロボットを持っているのだから間違いない。未来から来たロボットなんつー妙なもんと関わってんだ、間違いない。

 

「なら、その恐竜に合わせて見ろよ。それからでも遅くないだろ?」

「えー、どうせ嘘に決まってるじゃん」

「じゃあもし本当に恐竜がいたのにスパゲティ食わせたらお前等が鼻からタバスコ飲むか?」

「「…………」」

 

 俺の言葉に鼻を押さえる二人。

 

「ジャ、ジャイアン。証明して貰ってからでも良いんじゃない」

「だな……よし、早速見せろ!」

「あ、うん!明沢くんありがとう!あ、そうだ!しずかちゃんも呼んでくる!」

 

 

 

「のび太君は見ないの?」

「見ない!」

 

 謎の青い狸、ドラえもんの出した桃色のテレビの画面を眺める。タイムテレビと言って過去未来現在様々な場所を覗き見る道具らしい。

 恐ろしいな、これ一つ過去に持ってけば歴史が変わるぞ……。

 

「よし、時代合わせが終わったよ」

「おー!本物の恐竜だ!」

 

 映ったのは太古の海。生きて動いている首長竜……その中でこの前の恐竜を見つけた。一匹だけ種類が違うからわかりやすい。

 

「で、どれがのび太の恐竜何だ?」

「この虐められてる奴じゃない?」

「!?」

 

 剛田と骨川の言葉に野比がバッ!と振り返りタイムテレビを除く。

 

「ピ、ピー助!?何で……!」

「そりゃ、見るからに種類が違うからな。此奴は多分エルスモサウルスだな……何でアメリカに日本の首長竜送ってんだ?」

 

 これは別に俺が恐竜博士ってわけじゃない。昔、地底世界に迷い込んだ時に本物を見たんだ。

 

「ああー!本当だ、座標を間違えてる!」

 

 ドラえもんの叫び声に野比が顔色を変える。

 

「た、助けに行かなきゃ!タイムマシンだして!」

「う、うん!」

「俺等も行こうぜ!」

 

 野比の言葉にドラえもんが頷き引き出しの中に飛び込むと……え、何してんの此奴等……?と、困惑してると剛田が俺の腕をつかみ引っ張ってくる。

 これが、俺が最初に関わった野比に課せられた最初の試練だった。昔の俺に言いたいね、ほっとけば終わる。関わったばかりに、お前は面倒なことに巻き込まれ続けることになってしまったんだ、ってな……。



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恐竜編3

「ブハ!」

 

 上に乗った砂を押しのけ顔を上げる。何処だここは、何かやたらと霧が濃い。この潮のに臭い、海か?

 事前の記憶を探る。確か自分がループしている原因の可能性があるドラえもんという狸のようなロボットとその所有者である野比、その友人剛田、骨川、源と共に引き出しに飛び込み、時計だらけの謎の空間を進み、ここにいた。

 

「………ふむ?」

 

 そういえば過去をみるテレビを見た後、助けに行くと言い出してたな。その後引き出し………時計……時間を移動する装置、タイムマシンか?ならここは、恐竜時代?

 周りからザフザフと砂の中から野比、源、骨川、剛田が出てきて最後にドラえもんがタイムマシンと共に姿を現す。そして、そのタイミングで霧が晴れてきた。

 青い空に、それを反射する青い海。背後には眩しいばかりの日射しに曝され輝く緑の森。空を大きな影が横切った。

 

「プププ、プテラノドン!」

「本物か!?」

「ドラちゃん、ここって………」

「そう。白亜紀の世界だよ」

「………………マジか」

 

 潮の臭いも、緑の臭いも、生物の気配と全て本物だと訴えかけてくる。時間の移動、そんな事が本当に可能なのか……。なら、当然時間を巻き戻すことだって出来るはず……。

 

「彼処、ピー助と別れたとこ!」

 

 と、野比が二つの足跡と大きな何かを引きずった跡がある場所を指さす。あのフタバスズキリュウが通った跡なのだろう。野比が走っていき、剛田達もそれに続く。俺もそれを追う。

 

「………ん?」

 

 明らかにピー助とかいう恐竜ではない恐竜の足跡があった。鋭い爪……肉食恐竜か?と考え込んでいると野比がペットの恐竜の名を叫ぶ。暫くして海の向こうからピー助らしいオレンジ色の恐竜か現れた。骨川が握手を求めるように手を伸ばすとピー助も前足を伸ばす。知能が高いな、脳が大きいんだから当たり前か。

 

 

 

 

 折角の白亜紀だから遊ぼうというドラえもんの提案の下ドラえもんの不思議道具で水着に着替えた俺達。深海クリームとエラチューブという道具を使い海に潜る。

 凄いな、水圧を感じないし、鼻から息ができる。

 にしても、やけに透明度が高い。人が生まれる前の海はここまで綺麗だったのか。しかしドラえもん、明らかに何かを隠してたな。チラリと見れば何やらタイムマシン弄っている。

 

「…………これはまさか、帰れない?」

 

 このまま四月になったどうなるんだろう?何時もならループして終わりだが、ここは遥か過去の世界。

 実験してみるのも一興か。取り敢えずは飯だな。海の幸だらけだし……俺は一度陸に上がり、適当な木の枝をへし折り先を尖らせると海に再び潜った。

 

 

「うんめぇぇぇ!」

「古代の魚も、案外味は変わんないんだね」

 

 焚き火を囲み俺の捕った魚を焼き食べる一同。木の実なんかも放り込んでおく。取り敢えず熱しておけば寄生虫がいても大丈夫だろう。毒がないことは皮膚に当てたり舌で舐めたりして確かめてある。

 この時代の魚もなかなかだな。しかしドラえもん、何でも入るポケットの中には調味料まであったのか。

 

「………ん?」

 

 何か音が聞こえる。地面が規則的に揺れ出す。

 

「何だ?」

「地震……?」

「違うと思う……」

 

 困惑する野比達。確かに、これは明らかに地震ではない。もっとヤバい。

 ズシンズシンと言う音に加え、バキバキと枝をへし折る音が聞こえる。現れたのは巨大な影。13メートルはあるな。

 

「ティ、ティラティラティラ!ティラノザウルスゥゥゥ!?」

「グウウウウ」

 

 哺乳類の獣達とは全く異なる鳴き声。野比達がドラえもんと共に焚き火の後ろに隠れるが火は涎で消えかける。

 

「───────」

「グウウウ!?」

「ちょちょちょ!明沢くん!?」

 

 野比達から距離を取り指を咥え音を鳴らす。ティラノは音に反応して俺を睨んでくる。違うな、音程を変えて、リズムを………

 

「………………」

 

 やがてティラノから殺意が消えていく。いや、元々飯を食った後なのか、そこまで殺気を感じなかった。しかし完全におとなしくなった。

 そのまま森を指さすと森の奥へと消えていった。

 

「か、帰ろう!」

 

 ティラノが居なくなった瞬間野比が叫び走り足す。ドラえもんが慌てて止めるが剛田達も走り出す。よほど怖かったのだろう。ていうか彼奴等未来の道具操作できるのか?と、野比が座席に座った瞬間吹っ飛んだ。

 

 

 

 

「「「故障!?」」」

「あの黒マスクに襲われた時に壊れたみたい」

「あの時に……」

「そそそ、それってつまり……」

「私たち、帰れないって事……」

 

 ドラえもんの告白に顔を青くする一同。まず最初に剛田がドラえもんに掴みかかり、骨川がそれに続く。野比と源が止めようとしてピー助が遊びだと思ったのかドラえもんの首輪を咥えて持ち上げる。

 

 

 

 壊れたのは空間移動装置のみなので時間移動には問題ないらしい。しかし再び時間移動を行うには出発した地点、つまり野比の家の、野比の部屋の引き出しの座標に向かう必要があるらしい。かなりの無茶ぶりだな。この時代、日本はまだ海の底だろうに……。

 そんな事出来るわけがないと泣き出す一同。野比がタケコプターがあると言う。

 話の流れと名前的に物を小さくする道具でタイムマシンを縮めて、そのタケコプターとかいう空飛ぶ道具を使い移動するか、説明的にテレポート装置を使えばどうかと提案したが電池が持たないのと地図がインプットされていないと否定。

 骨川が電池を休ませながら使えばどうかと提案。当初は海があると否定した源、しかし今はまだ大陸が繋がっており歩いてある程度まで進める、それでいこうとなった。

 

「ところで、明沢君……さっきのティラノの事なんだけど」

「ああ。俺が操った」

「やっぱり。でも、どうやって?」

 

 まあ当然疑問に思うわな。別に、俺にとって隠し立てするようなことでもない。

 

「昔、獣使いの術を知る者に習ったんだよ。それの応用。恐竜は初だったけど、この分なら問題なさそうだな」

「秘密道具も使わずそんな技術が………でも凄いよ!それなら恐竜に襲われる可能性がぐっと減る!」

「………あまり期待されてもな。まあ、俺は俺に出来ることをやるさ……時にドラえもん、野比」

「のび太で良いよ」

「俺、ジャイアンな」

「ボクちゃんスネ夫」

「しずかで良いわよ」

「………ドラえもん、のび太。一年を繰り返す道具って、あったりするのか?いや、正確には時間は進んでるが年を取らず、発展してるが違和感を持たないなんて事………」

「んー、なくはないけどかなり大がかりかなぁ。時空警察が動くし……どうして?」

「いや、少し気になってな。ほら、お前って何でも出来そうだし……」

 

 まあこの反応からして、ループ(時間は進んではいるから違うか?)は此奴の仕業ではない。時空警察……名前からして時間移動を利用した犯罪者を取り締まる警察組織の目を欺ける程の組織か、あるいは時間警察そのものがループに関わっていると見るべきか。面倒なことになった……



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恐竜編4

 翌日の朝、タケコプターを使い空を移動する一同。

 マワリは初めての飛行に悪戦苦闘しながらも何とか空へと浮かぶ。

 

「うまいじゃねえか!」

「それに比べてのび太君は………」

 

 のび太は海面スレスレを飛んでいた。

 

「これ、どういう理屈で動いてんだ?」

 

 ヘリコプターのようだがプロペラは普通、本体より大きくなくてはならない。そうでなくては下に向かう風が本体に当たり下に落とそうとするからだ。そもそも生身でこんなに上昇したら高山病になる。

 

「まあそこは未来の技術さ。21世紀に開発された特殊なメタルのエネルギー波形が重力に四次元方向の───」

 

 何やら難しい理論を語り始めたが取り敢えず近い未来技術革命が起きて結果の、今の時代では再現不可能な何かと覚えておこう。と、のび太が追い付いてきた。

 

「遅いぞ、のび太!」

「大丈夫?」

「うん!」

 

 のび太が応えると彼の持つケースが揺れる。中から顔を覗かせたのはスモールライトで小さくなったピー助だ。

 

「ピュイ、ピー!」

「こらピー助! おっこちゃうよ!」

「ピイイ!」

「え? 外が見たいの? も〜」

 

 仕方なく落ちないようにピー助を支えるのび太。ピー助の気持ちは少しは解ると、マワリは周囲を見る。翼を持たぬ身で空を飛ぶのは、存外気持ちが良い。

 

「海岸線に沿って北へ!」

「北へ!」

「北だぜえ!」

 

 森を抜け荒野が見えてきた。トリケラトプスの群れが見え、ジャイアンとスネ夫が近付けば親が威嚇してきて慌ててドラえもん達がジャイアン達を連れ戻す。

 しばらく飛べばまた森が見え、大きな川も見える。

 空からいろんな恐竜が見える。時折地面に降りドラえもんのポケットから未来の栄養食を食べるが味気なく、古代の貝や魚、樹の実を集める。

 

「ドラえもん。毒物の種類がわかる道具はあるか?」

「あるけど………有毒かどうか確かめるだけで良いんじゃない?」

「種類によっては痛み止めに使えるし、滅菌も出来る。解熱や下痢にも効くのが作れるしな」

「最近の小学生はすごいなぁ。でも大丈夫! お医者さんカバンがあるから!」

「それはそれ。単純に、古代の植生に興味あるんだ」

「勉強熱心だね。はい………」

「ありがとう」

 

 

 

 

 集めた食材を鍋のようなひみつ道具に入れれば大量のソーセージが出来た。木の実とか沢山入れてたのにどういう理屈がさっぱりだがなかなか美味い。

 夜はテニスボール程の大きさから人が泊まれるサイズになるキャンピングカプセルを使った。地面に指すと大きくなるのだ。獣よけか、高い位置まで伸びる。

 基本二人部屋なのでドラえもんとのび太。ジャイアンとスネ夫は二人。しずかちゃん、マワリは一人で使う振り分けになった。

 

「何でもありだな、未来の道具。まあそれはピー助にも言えることか」

 

 首長竜は古代水生爬虫類の一種であり、水中生活に特化した生態だ。子供の頃ならいざ知らず、成長しきった体で砂浜を移動できるものなのだろうか? まして長い首を空気中でもたげるなど………。

 まあちょっと前の図鑑ではティラノが直立していたりと、恐竜の生体は未だ謎に包まれているのだ。実は筋肉が現在の動物より出力が高いなんてこともあるのかもしれない。

 

 

 

 

 それから数日。空路と陸路を繰り返し砂漠を超え、樹海の中。タケコプターを休める時間。川の水を飲んでいるとピー助が家族のいるパキケファロサウルスをじっと見ていた。家族が欲しいのだろうか?

 だからこそ、今から彼の同種がいる場所を目指すのだが。

 

「…………はぁ」

「うわ! なんだよのび太!」

「ドジが一人いると皆が迷惑する!」

「ご、ごめん………足が………」

 

 文句言われ謝りながらも立ち上がらない。いや、立ち上がれないのだろうか? 疲労だろう。子供だけの旅。人一倍体力の少ないのび太が真っ先に限界になっただけで、ジャイアンもスネ夫もしずかちゃんも、もちろんマワリにだって無関係な話じゃない。

 

「ドラちゃん、あれは!」

 

 と、しずかちゃんが指差した方向を見ると中型の獣脚類の恐竜、オルニトミムスの群れが走っていた。

 

「しめた、おーい! うぶ、べ!」

 

 駆け寄ろうとしすっ転び坂を転がり落ちるドラえもん。居なくなったかと思えば後続の群れがやって来て、ドラえもんが団子を投げるとよっぽどいい臭いでもしたのかオルニトミムス達は団子を食い立ち止まる。

 

「桃太郎じるしのきびだんご! さあこれでオルニトミムスは僕達の友達になったよ!」

 

 何で出来てるんだろうあの団子。念の為作っておいた薬を嗅がせておくマワリ。

 

「さあ、出発だ〜!」

 

 団子を食べさせたドラえもんを主と認識してるのか逆向きに乗ったのび太を無視して走りだすオルニトミムス達。櫓もなく、当然ながら乗り心地が良いとは言えない。

 身体能力が高く崖から飛び降り下の池に漂着していた丸太の上を駆け抜けていった。

 

「今夜はあの火口湖に、キャンプしよう!」

 

 ドラえもんの言葉に火口湖を見れば桃色の湖が見えた。藻か何かが繁殖しているのだろうか。

 火口湖につくとオルニトミムス達は野生へと帰っていった。それと入れ替わるように、巨大な雷竜の群れがやってきた。

 

「ディプロドクス!? いや違うな、もっとでっかい。ア、アラモサウルスだぁ!」

「スネ夫ぉ! 食われちまうぞ!」

「ドラちゃん……」

「大丈夫、草食でおとなしいから踏み潰されないように気をつければ………」

 

 おとなしいという言葉通り、足元のスネ夫達を気にせず湖に顔の先をつけていくアラモサウルス達。ここは彼等の棲家なのだろう。

 乾燥対策か、群れの仲間に水を掛けている。スネ夫が恐る恐る触ったりジャイアンが抱きついたり、のび太とドラえもんが頭に登ったりしてる。

 しずかちゃんは言葉通り花を積みに茂みに入り何故か生まれたてのアラモサウルスの子供を引き連れて来た。

 

「呑気なもんだ………ん?」

 

 と、不意にアラモサウルス達が顔を上げる。何かを警戒するように独特の鳴き声を放つ。

 そう言えば象なんかは耳が悪いから足で音を聞いていたなと思い出しマワリが地面に耳を付ける。

 大型……それも二足歩行の足音。発生源に顔を向ければ、木々をへし折りながらティラノサウルスが現れた。




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恐竜編5

 ティラノサウルス。あるいはTレックス。

 骨の構造から推測される噛む力は3630キロ前後。円錐形をした長さ18センチの歯で計算すると、1平方センチ当たりの力は3万0300キロといわれる正しく最強の恐竜と称される怪物。

 化石に刺さっていた牙や傷から多くの恐竜を餌食にしていたと聞くが、まさか雷竜までもを捕食対象に選べるとは。

 

「グオオオオオオ!!」

「「「っ!!」」」

 

 大気を揺する方向を上げ、ティラノサウルスはアラモサウルスの群れに向かって駆け出す。

 対するアラモサウルスは、尾を鞭のように振るう。

 先端が音速を超えたその一撃はティラノの巨体を吹き飛ばすも、相手は古代と百獣の王。立ち上がり咆哮を上げる。闘志は未だ衰えず。

 

「おいマワリ! こっちだ、こっち!」

 

 ジャイアンの叫び声に振り返れば地面の窪みから呼んでいた。ピー助やドラえもん達もそこに隠れている。すぐに向かおうとして、ティラノがアラモサウルスの一体を押し倒し発生した波に飲まれそうになる。

 

「っ!!」

「チビちゃん、待って!」

 

 それは避難に遅れたしずかちゃんも一緒で、ともに歩いていたアラモサウルスが波に流されそうになっているのを見て慌てて手を伸ばす。

 

「何やってんだ源!?」

 

 枯れ木に隠れていたというのに何故身を乗り出すのか。アラモサウルスをなんとか掴んだしずかちゃんだったがティラノは襲いにくいアラモサウルスの大人からか弱い人間と子供のアラモサウルスに目を向ける。

 

「あ、ああ……」

 

 恐怖で腰が抜けたのか動けないしずかちゃんにゆっくり近付くティラノ。初めて見る生き物に警戒しているのだろう。

 

「しずかちゃん!」

「ピュイ!」

「うあ!」

「助けに……うお!?」

 

 飛び出すのび太にピー助にドラえもん。ジャイアンも飛び出そうとしたがスネ夫に足を捕まれ引きずり戻される。

 

「逃げろ! 隠れろ! ピー助ぇ!」

「ピューイ!」

 

 バタバタ走るのび太とポケットから色んなものを出して何かを探すドラえもんを抜いたピー助がティラノの前に立ち塞がるが、水棲でしかも魚を餌にしているフタバスズキリュウのピー助では時間稼ぎにしかならない。のび太も追いつくが慌てていたドラえもんは桃太郎じるしのきびだんごを落としてしまう。

 

「グルル………」

 

 と、その時プオー、と言う音が響く。ピー助の鳴き声とも違う、その動物があまり耳にすることの無い音にティラノが振り返る。

 

「マワリ君!?」

 

 そこには骨を削って作った笛を吹くマワリの姿が。

 ティラノは音に反応し振り返ると、再び笛の音。

 

「ギャオオオオ!!」

 

 自然界において咆哮とは威嚇と、縄張りの象徴、仲間との連絡。音が違う以上、これは前者のどちらかであり、ティラノは続く笛の音に相手が己を恐れていないと判断する。先程よりも警戒しながら近付いてくるティラノ。

 マワリは片手に笛を、片手を後ろに回し、昨日の残りのソーセージをカバーを向いて取り出す。

 

「……………」

 

 嗅覚に優れていたというティラノはその匂いに反応。右に、左に揺らすと顔が揺れる。

 もう一度笛を吹き、反応し吠えようとしたティラノの口にソーセージを投げた。

 

「…………」

 

 一口にも満たぬそれは舌の上を転がり飲み込んだティラノから敵意が薄れる。再びソーセージを出し、笛の音と共に投げる。

 学習してきたのか笛の音の音量を下げて吹くと反応しだした。

 前回と違い、エサを求めてやってきたティラノ。追い返すとなるとかなり面倒そうだが………。

 

「そりゃ!」

 

 と思っているとドラえもんが桃太郎じるしのきびだんごをティラノの口に向かって投げ、ティラノはあっという間におとなしくなった。

 

「うまくいったぁ……」

「………うわ、ずる」

 

 繰り返される一年の中で学んだ猛獣使いのスキル。習得に一年かかったそれは、未来の道具を前には団子一つに劣るらしい。

 

 

 

「はい、皆さんにご挨拶」

 

 頭に乗ったドラえもんが言うと頭を下げるティラノ。ドラえもんが落ちた。

 

「すごいすごい! 僕ものせて!」

「俺も俺も!」

 

 ティラノ、と言うか恐竜はやはり男の子のあこがれなのかのび太とジャイアンが乗りたいとせがむ。最初は怯えていたスネ夫も結局乗って、アラモサウルスに謝らせて落ちた。

 

「……………未来の道具ってすげぇなあ。これなんてどんな成分で出来てんだ?」

 

 仮にも食品なのに原料名は無記入。

 しずかちゃんはアラモサウルスの子供に指を舐められ、のび太はピー助にソーセージを与え、ジャイアンはティラノにソーセージを与えていた。なかなかどうして変な光景。

 夕方頃になるとピー助達恐竜組は仲良くなりピー助の後にアラモサウルスの赤ちゃん、ティラノの順番で歩いていた。

 

 

 

 その夜、皆が寝静まったキャンピングカプセルに近づく一つの影。アンテナをはやした目玉のような物がピー助達のカプセルに近づき

 

 ボン!

 

 と飛んできた石に破壊される。

 

「…………追っ手か?」

 

 ピー助を狙っているという連中………黒マスクの放ったロボットだろうか? つまりは、補足された。明日以降の旅は、厄介事が多そうだ。



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