この素晴らしい世界へ少年を (フランシス・アルバート)
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棚から牡丹餅

こちら作者の初投稿、初作品となります。
まだまだ拙い文章でありますがお手に取り楽しんで頂けたならこちらとしても嬉しい限りであり、本望でございます。

それではお楽しみくださいませ


ぼんやりとした意識

動かない体

 

弱々しくなる心電図を尻目に自分は布団で横になっている。

 

体に走る痛みと息苦しさは徐々に強くなり、それと入れ替わるように足の指先からじわじわと冷たくなるのがわかる。

 

生まれつき自分は病弱だった。

いつも車椅子に乗り自分で歩くこともできない

外で遊ぶなんてもっての他、できる訳がなかった。

 

学校も行けず病室で本を読むか寝たきりの日々

 

季節が変わり世間を騒がすニュースが流れようとも変わることのない日常

 

外の木が生い茂り、葉が落ち季節が巡ると共に削られていく余命幾ばくもない寿命

 

病院内で出来る話相手はほとんどが自分より後に入院し先に退院して関係は終わる。

 

思い返せば、もとい思い返すほど長くもない人生

 

産まれてから親に苦労をかけさせ親孝行すら出来ない親不孝者の自分

 

両親に迷惑ばかりかけた悔いを残し意識が薄れる

 

風前の灯火となり消える寸前に後悔故に一つわがままを願った

 

『もっと自由に生きたかった』と

 

 

 

 

 

 

 

 

「梔 悠里(クチナシ ユウリ)さん」

 

柔らかく慈愛に満ちた声が聞こえる。

 

 

声に反応し恐る恐る目を開くとそこは先程まで居た筈の無機質な病室ではなく、何もないそれでいて神聖さを感じさせる空間

 

静寂さを孕むその空間は透き通る様に綺麗であったがそんな空間に目を引く者がいた。

いやそんな空間だったから目が引かれたと言った方が正しいだろう。

 

一口に言って天使、いや女神と言えるだろう。

 

産まれてこの方テレビなどで美人美女と言われるのは見たことがあるが目の前にいる人はそれらが有象無象と言えるほどに桁が違う麗人

 

明らかに異常と言える現象に早くも頭が混乱した。

 

「貴方は不幸にもそのとても短い人生が終わってしまいました」

 

混乱している自分を他所に目の前の麗人は話を続ける。

 

 

「貴方には漏れなく生まれ変わるか天国に行くか……大丈夫ですか?かなり混乱しているようですが……」

 

 

仕方あるまい、産まれて凡そ12年の自分には理解すら到底及ばない現象が起きているのだから

 

しかし死んだと言うのは明白のようだ、証拠として病気の痛みや怠さが消え、生前ほとんどなかった調子が良い日以上に何倍も活力が漲っている。

 

病気が治ったと言うと語弊があるため死んで無くなったと言った所か

 

もしここが平原であれば子犬のようにはしゃいでしまったかも知れない、誠に嬉しい限りである。

 

ふと視界を戻すと目の前の麗人が優しい眼差しで微笑んでいた。

 

 

「とても嬉しそうですね」

 

 

感極まっている姿を微笑ましく思い見つめていたようである。いやはやお恥ずかしい

 

 

「確かにユーリさんの生涯は不幸であったと言えるでしょう」

 

「そのためここで天国に行くか生まれ変わるかが選ぶことができますが……」

 

 

ふむ、生まれ変わると言うのは言葉の通りわかるのだが、しかして天国とはいかな場所だろうか

 

私的な妄想ではあるが、事案的な格好の天使に犬共々誘拐された後、犬にそりを引かせるあのフランスをモチーフにした作品のイメージが強い

 

余談であるが初めてあの作品を見たとき『最初は感動』、『その後、畜生』と感じてしまった私はいつか罰せられそうである。

 

 

「違いますよ!?感動的な作品ですし普通に幸せそうな終わり方じゃなかったですか!?」

 

 

ブラック的な思考になるのは今の日本の背景が悪い、ニュースでも結構取り上げられている

 

つまりこう言った思考になるのは環境のせいである、先ほど罰せられそうと言ったが訂正する

俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!!

 

「さっきからキャラぶれ過ぎてません!?プロフィールでは病弱でもっとおとなしい性格と書いてあるんですけども?」

 

確かに床に伏せているときは体は痛いし怠いし病人食しか食べられないとテンションは上がる事がなかった

 

しかし!今はそれもない!自分のテンションはうなぎ登りである!自由に動けるって素晴らしい!

 

それで天国ってどんな場所?

 

「普通ここで話を戻しますか!?流石に貴方のテンションついていけませんよ!?」

 

ノリとテンションが高ければ大体自分のペースが保てるってばっちゃが言ってた、あったことないけど

 

「貴方の場合それはペースを保つんじゃなくて振り回してるだけです!」

 

ハァハァと息を乱す麗人はこほんっと一つ咳をし、息を整えると説明を始める

 

「天国とはのんびりとした所ですよ、日向ぼっこしてのんびりして先人の老人の方達と日がな1日のんびり出来るところです」

 

のんびりしか言ってない気がするのは気のせいだろうか、のんびりする以外には他に何かあるのだろうか?

 

「えっと……先人の方達と喋ったり」

 

それは聞いた、他に何かこう刺激的なことは無いのだろうか?

 

「……」

 

無いのかよ!と自分は頭を抱える、体が動けるようになったから色々遊べると思ったのにこれでは落胆する一方だ

 

もし新しく生まれ変わるとしても折角親から貰った大事なこの体、動かしたいと思うのは性だろう、どうにかならないだろうか

 

「……本当は生まれ変わらせるつもりでしたけど、そこまで言うならわかりました」

 

 

 

「異世界に行って貰いましょう」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、頭に電流めいた物が流れ全身を駆け巡り、衝動のまま目の前の麗人に抱きついてしまった

 

文面だけ見ると犯罪のように見えるが自分はまだ子供だ、許されるだろう、ノーカン!ノーカン!

 

 

「いや、その、まだそういった事は早いです!じゃなくて落ち着いて!」

 

 

頬を赤らめながら慌てた様子で剥がされる、確かに抱きついてしまったのは少々やり過ぎた

 

追記として凄く良い匂いがしたのと胸の感触が変だったことは口に出さないようにしよう

 

 

「と、とにかく異世界に行くなら特典を選んで貰わないといけません!」

 

 

ふむ、時代が変化してしまうアレか

 

 

「それは特異点です!特典です!強力な武器や能力を一つ選んで貰うことができるやつです!」

 

 

なるほどチートか

つまり生き残るために必要な処置と言う訳か、その異世界とやらは中々物騒な臭いがする

 

そこの所はどうなのだろうか?例えば戦争が起きていて片側の勢力の為に兵器として運用されるならば自分が求めた自由とはほど遠くなるだろう、それでは本末転倒である

 

 

「えっとですね……その世界には魔王軍と人類が対立していまして、その世界で魔王軍にやられた人達が生まれ変わりを拒否してしまいまして異世界自体がピンチになっているわけです」

 

 

一息でそう言い切ったのはもう事務的に同じ事を何度も言ってきたからであろう

 

大体は話が掴めた。つまりはその世界を救って貰うために死んだ人に特典と言う餌で釣り上げ世界を救って貰おうと言う魂胆か。

 

まぁ、木の棒と吹けば飛ぶような泡銭持たせられて特効するよりはマシな気はするが。

 

 

「あの~言い方が悪意を含んでますけどまぁいいでしょう……ツッコミも疲れましたし話を戻しますか」

 

是非も無し、話を戻したまへ。

 

 

「何か偉そうな態度になりましたがまぁ良いです、

こちらが特典のカタログになりますが特典はあくまで特典、戦いは強制ではないので特に貴方の場合は任意で行って貰って結構です。」

 

 

そう言って沢山の紙の束を渡されたがそれら一つ一つにやれ全てを断ち切る剣や、やれ山を吹き飛ばすほどの弓やらが書いてあるがあまり興味は引かれない、どうせ振り回すのではなく振り回されるのがオチだ。また戦いは強制ではないと言われたので護身用としては度が過ぎるような気がする。

 

一つだけなら目の前の麗人を連れていった方が良いのではないだろうか?ガイドに美人にツッコミ持ちとならばこれほど優秀な人物は居ないだろう。

 

「ちなみに私はダメですからね」

 

 

ジーザス!いや目の前に天使の麗人が居るからボーシェット!何で?どうして?whyだよ?

 

 

「元の担当、私の先輩がそれで連れてかれちゃいまして、もしこのままどんどん連れてかれちゃうと担当が居なくなってしまいますから天界規定で制限されたんです」

 

先にやった人が居るとは、世界は広いようで狭い、そう常々思う。

 

 

「本当は先輩の引き継ぎとして日本を担当している子も今忙しくて急遽代理として私がいるくらいですから」

 

仕事も倍にと遠い目と哀愁を漂わせながら渇いた笑顔を浮かべる。

天界ですらブラック並みに忙しいとは思わなんだ。仕方ないとばかりに自分は渋々と特典のカタログから選ぶことにした。

 

 

カタログに一枚一枚目を通していく

 

グラム、デュランダル、ゲイボルク、ロンギヌス、ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん

 

いあいあ はすたぁー

 

 

何かおかしいページがあった気がするが無視する。所詮は細事は捨て置いても大丈夫。自分は何も見ていないしラヴなんとかなんて知らない。

 

何枚かめくる内に束ねていた金具が緩んだのだろうか。一枚ページが外れ、足下に落ちた。

 

ふと、それを拾い上げ目を通してみる。

 

 

 

特典の名前は『メリクリウス』

この特典は使用者本人の魔力により水銀を操り色々な事ができる能力。ただデメリットとして使用者の魔力以上の物は作れない。逆に魔力量が上がる、つまり使用者の成長に応じて強くなると言う特典

 

 

これならば自分を最初から過信して破滅する可能性は少ないだろう。魔力と言うものが多くなければの話だが

 

一応他のページをめくり、他にピンと来たものに目を通す。

 

えーとナイアルラ……

 

 

「それはダメです」

 

 

ページを取られてしまった。何かとても不味い物だったのだろうか?宇宙の神秘がわかる気がしたのに、とてもとてもきょうみをひかれてうちゅうがふんぐるいむぐるうなふ

 

 

「ほらほら現実に戻ってくださ~い」

 

 

意識が宇宙にぶっ飛んだがノープロブレム、頭を麗人に撫でられ正気を取り戻した!いあ!いあ!

 

 

「今のページは本来なら禁止された特典何ですけど混じってしまったようですね」

 

 

なるほど、禁止された物だったとは……しかしあの特典は力に溺れると言うより飲み込まれそうな気がしたから選びはしなかっただろう。多分……

 

やはりここはこの特典にするとしよう。ナイアルラ……

 

 

「……」

 

 

メリクリウスでお願いします。

 

 

「素直でよろしい」

 

 

良い子良い子と優しく頭を撫でて来るが目が笑っていない。本気で肝が冷えた。

 

 

 

 

 

 

「それでは特典も決まった事ですしそろそろ異世界に転送しましょうか」

 

 

ふと、棚からぼた餅な異世界転生についワクワクして忘れていた事がある。言葉と服装だ。

 

異世界、全く現代と異なるなら別の文化が発展していてもおかしくはない。それ故に言葉や文字が違う可能性はとても高いだろう。

 

それと自分の服装についてだ。当たり前だが自分は病気で死んだ故に病衣しか来ていない。非常に目立つし安全な所であろうと食べられる、もとい頂かれる可能性すらある。

 

目の前の麗人のようなお姉さんならまだしもそうでない獣に食べられれば心と体から文字通り喪う事になりそして二つの意味で死ぬだろう。

 

なので服を下さい。服を。

 

 

「言葉や文字はこちらで出来るように手配するので問題ありませんが服装は、そうですね……」

 

 

う~ん、と悩みながらそして嬉しそうに麗人はいつの間にかあったタンスから服を引っ張り出している。

 

「これかな?いや、こっちも良さそう」

 

 

てっきり自分で選ぶと思っていたのだが勝手に向こうで見繕ってくれるらしい。向こうの世界の服装などわかる訳がない故に任せた方が良いだろう。

 

しかし服を選ぶ横顔は随分と嬉しそうにそして楽しそうに選んでいる。微笑みながら服を選ぶその横顔は写真にすればフォトコンテスト優勝間違いなし、目の保養である。good!!!

 

 

「はい、こちらをどうぞ」

 

 

麗人はにこやかに服とその他諸々をを渡しその場でクルリと後ろを向いた。若干気恥ずかしいが来ていた病衣を脱ぎ、渡された服に袖を通して行く。

 

アイボリーのシャツ、グローブ、ズボン、皮のブーツ、フード付きの外套、腰布とどれも丈夫な作りであり、ちょっとやそっとでは壊れないだろう。しかもサイズもぴったりである。

 

良い服を貰った事により少し気分が良くなるが感謝だけは忘れずに伝えた。

 

 

「いえいえ、こちらこそ久し振りにファッションを楽しめたので」

 

 

満足気に語る顔を見て、こちらもほっこりとした気分になる。しかしサイズぴったりのかなり良い服だがこれは特典扱いにはならないのだろうか?

 

「いえ、私のタンスにあった私物ですから特典にはなりません」

 

 

なるほど、と思うが少し違和感を覚える。私物と言った筈なのに多少撫で肩だが男の自分にぴったりなのだ。

 

男の自分にぴったり、つまり胸の所が残念と言うレベルでない。

 

パッドか、

 

先程の抱きついてしまった時の感触といい確信が得られた。パッドの麗人、胸が無いことを必死に隠そうとしているのだろう。何と涙ぐましい事なのだろうか……世界は残酷だ。

 

「何かとても優しい目になりましたが、ひょっとして何か哀れんでます?」

 

 

大丈夫、ちょっと泣きそうになっただけ、貴方の努力はいつか報われますよ。多分……

 

 

「ええと、何かとても励まされてる気がしますがまぁ準備も出来ましたし異世界にお送りしましょう」

 

 

麗人が手を翳したその瞬間、自分の足下に魔方陣が神々しく輝き始める。

 

 

「貴方は子供ですから、もし何かわからない事があったら教会で祈って見てください。もしかしたら私と繋がるかも知れません」

 

 

何から何まで至れり尽くせり、感謝感激雨あられ、としていたがとても重要な事を事を思い出す。

 

まだ麗人の名前を聞いてない!バカ!ウカツ!ショギョムッジョ!綺麗な人の名前は聞いておけばっちゃがと言ってた筈だろう!ばっちゃにあったことないけど

 

 

「あぁ、そう言えば忘れてましたね。私の名前はエリスです。女神のエリスです。」

 

 

なるほど女神でござったか!この世の者ではない美しさを持っていた辺りから薄々感じてはいたがやはり女神であるとは。

 

体が徐々に浮き上がり女神エリスとの距離が離れて行く。

 

「貴方の旅路に幸多からん事を」

 

転送されるまで秒読みとなった所で最後に手を振りながら自分も言葉を返す。

 

 

 

行ってきますと、そしてなるべく胸の事は黙って起きますからと言葉を添えて視界は光に包まれた




次回の投稿はまだ未定、されどいつかは書きたい今日この頃、指折れ膝挫こうとも徐々に書き上げて行こうと思います。

(訂正、指は既に折れてます。物理的に)


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犬も歩けば棒にぶち当たる

最近は何故かこちらで書くよりLINEで一旦下書きした方が筆が進むフランシス・アルバートです。
久しぶりの投稿でございますが隙間の時間等に読んでいただけたなら幸いです。


風が頬を撫でつけている。

 

とても幼い頃の記憶に微かに残る懐かしい感触だ。

 

次に感じたのは重力と光、体の重さがはっきりとわかり、そして目蓋越しに柔い光を感じた。

 

恐る恐る自分は目を開ける。

 

一瞬光に目が眩むがすぐに慣れ、目を見開くとそこには壮大な草原が広がっていた。

 

 

いつも窓から見えていた光景より広く何処まででも続く光景に言葉を失う。

 

草原は青々とし、晴れた青空の下にあり、いつかそこを駆け抜ける事を夢見ていた。

 

しかし頬を軽くつねり夢などではない事を自覚する。これは現実だ。腕も足も健康な体と役者が揃い自分の新たな人生が始まる。

 

あぁ、これが異世界、全てが眩しく愛しく、そして儚い

 

自分はやっと自由を手に入れたのだ。

 

その事にとてつもない喜びを感じる。

自由な体に自由な世界、風の向くまま気の向くまま。

 

棒を転がしても行き先を決めるのも悪くはない。

 

 

腕を上げ一つ伸びをした後、特典であるメリクリウスを起動し、水銀を棒状に伸ばす。

 

 

体から何か気力のような物が少量抜けるのと同時に水飴のように粘り気のある銀色の液体が小さく棒状に形を作り一本の千歳飴のような棒が形成される。

 

昔からあるとてもポプュラーな行き先の決め方、棒倒しをやる為に先ほど作った棒を地面に軽く立たせた。

 

アーメン、ハレルヤ、エリス様、異世界の幸多き旅路をお教えください。

 

良く言えば簡易的、悪く言えば適当に祈りを捧げ地面に棒を立て、ゆっくりと手を離すと棒は少し揺れながら倒れ、次の行き先を指し示す。

 

城門、棒は自分の背後にあった城門を指し示していた。

 

目的地は決まった。後はこの足で行けば良い。

メリクリウスを解除し、液体となった水銀を吸収した後に始まりの一歩を踏み出した。

 

 

草を踏む感触と音がとても心地よい。生前はついぞ味わうことのなかった感覚に少し興奮する。

 

一歩、また一歩と踏み出した足は徐々にスピードがあがり草原の上を疾走していた。

 

手足が思い通りに動く、当たり前の様であっても自分に取っては憧れであり、抑制されてきた物だ。我慢など出来るわけがない。

 

全身全霊で草原を駆け抜ける。

風を切る感覚、変わる景色、どれもが素晴らしい

 

 

他人に取っては小さな、しかし自分に取っては大きな幸せを噛み締めながら走り、気が付けば自分は棒が指し示した場所に着いていた。

 

 

「おや、初めて見る顔だな。もしかして旅人か?若いのに立派だな」

 

 

息を整え城門にたどり着くや否や門番が話しかけてくる。

異世界初のコンタクトだがベタな展開とすら言えるが私的にはとても嬉しい事である。

 

 

「ようこそ駆け出しの町アクセルへ、こんな所まで来るなんてよっぽど物好きだが歓迎するよ」

 

 

平和な町なのだろう、見事に門番が門番してない。そんなので良いのだろうか。

 

まぁ良い、突然訳もわからず捕まるよりウン億倍マシである。自分は歓迎の言葉をかけてくれた門番に礼を言い、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗な小川、子供達の無邪気な声、おばさん達の井戸端会議を尻目に綺麗な町並みを堪能しつつも歩いて行く。

 

こう言った平和な光景は見ていても飽きないが一つ重要な事を忘れていた。

 

一体自分は何処に行けば良いのだろう……

四肢が動くからといって少々はしゃぎ過ぎたようだ。

 

絶賛迷子中の自分はまさか人生すらも迷子になるとは思っていなかったのだがこのままでは途方に暮れてしまう。それだけは避けなくては行けない。

 

そう悩んでいる内に進んだせいなのか、ますます道に迷い人通りの少ない場所に出てしまう。

 

今は比較的に明るい時間なので安全と言えるが夜は安全とは言い切れないだろう。

 

日本でさえ、夜道の一人歩きは危険と言われている。異世界の駆け出しの町としても例外ではない筈だ。

 

早急に何とかしなければと焦りそうになるが一旦深呼吸をし冷静になる。

 

日はまだ高い、まだ慌てるような時間じゃない。あわ、あわわわ

 

落ち着け落ち着け、ふんぐるいふんぐるい、いあいあエリスー

 

とても都合が良いがつい神に祈りながら歩く、少しでも良い方向に向かうために

 

 

しかし祈りを捧げる内にふと、あることを思い出した。

それは転送される瞬間に言われたあの言葉だ。

 

 

 

ほわんほわんほわんくちなし~

 

 

 

『もし何かわからない事があったら教会で祈って見てください』

 

 

 

確かにそう言われた。つまり自分に取っての次の目標は教会と言うことで良いのだろう。

思い立ったが吉日、教会に行くための道を知る必要がある。さあ電話屋はどこだ?

 

 

しかしここで更なる失敗に気がついた。

 

迷子でも適当に進んだせいか人通りがない道に出てしまい周りを見渡しても誰もいない。

 

これでは道を訪ねる事も目的地にたどり着くことも不可能になるだろう。

 

絶体絶命(大袈裟ではあるが)

 

そう思い道の角を曲がった時、そこを見つけた

 

 

『ウィズの魔法店』

 

 

人通りの少ない、それこそ静かな場所にそれはポツンと建つその店は看板に書かれた営業時間にも関わらず人が少ない。

 

しかし今の自分に取っては関係なし、店の扉を開けた。

 

「いらっしゃいませ!ウィズの魔法店へようこそ!」

 

直後、ウェーブがかかった栗色の髪のナイスバディな店主がいた。

寂しい所なので店主も氷のようなクールかつ静かなイメージがあったのだがその真逆、目が眩むくらいの営業スマイルで出迎えられる。

 

 

「何かお探しでしょうか?オススメならこの空気に触れると爆発するポーションです。」

 

 

営業スマイルを輝かせながらある意味、爆弾発言をしてくる店主に称賛を捧げたい。ブリリアント!

 

だが自分は道を聞きに来ただけである。ソーリー

 

 

「あ、はい」

 

 

自分の言葉により少しシュンとしてしまう店主さん、確かに道を聞くだけと言うのは店側に取って冷やかし行為に他ならない、店主の顔が曇るのは仕方ないだろう。

 

むしろ曇らせてしまった自分に否はある。すまない本当にすまないと、どこぞの竜騎士の様に謝罪をする。

 

 

「いえ、確かにちょっとは寂しいですが……困っている人は放って置けませんから」

 

 

何とお優しい事か、自分はとてつもない罪悪感に刈られるが今度お金が貯まった時に何か買おうと割り切り、当初の目的である教会への道を訪ねた。

 

 

「教会の場所ですか……」

 

 

この町は初めてなので地理にとても疎い、それ故に迷ってしまったと言うわけだ。

 

 

「成る程、少し待って貰って良いですか?」

 

 

そう言いながら店主さんは紙とペンを用意しサラサラとそれらを使いながら地図らしきものを書いて行く。

 

多分地理に疎い故に地図を書いてくれているのだろう、ありがたや

 

しかし店主さんはある一定の場所まで書き終えた所で唐突に書く手をピタリと止めた。

 

 

「ええと、どちらの教会に行くのか聞いていませんでした」

 

 

どちらのと聞かれ少し戸惑うが女神エリスの名前を出して置けば問題ないだろう。

 

 

「エリス教会ですね。」

 

 

わかりましたと呟き、更に地図を書き込んでいく。

そして待つこと数分、出来上がったのであろう。地図を手渡してきた。

 

 

「ここに行けばエリス教会がありますよ。ただエリス教徒ならわかるかも知れませんが、教会の近くにアクシズ教の教会もありまして……」

 

 

アクシズ教?何やら小惑星の様な名前ではあるが何かあるのだろうか?残念な事にこちらの宗教、政治等にはまだまだ疎い

 

 

「えっ?アクシズ教を知らない?」

 

 

何か驚いた顔をされたが知らない物は知らない、ある意味、箱入り息子なのだから

しかしてそのアクシズ教とやらはなんぞ?

 

 

「アクシズ教はですね、そのちょっと過激な人が多い宗教でして、特にエリス教徒の人には容赦がないと言うか……」

 

 

おつむが月までぶっ飛んでる連中と言う認識で構わないだろうか。

 

 

「言葉は悪いですが、過激な人はそんな感じですね。」

 

 

否定しないあたり相当ヤバい連中なのだろう、触らぬ神に祟り無し、もしアクシズ教に鉢合わせても浄土宗とでも言って誤魔化すようにするとしよう。

 

 

「はい、手書きで申し訳ありませんが教会までの地図です。」

 

 

そうこうしている内に地図を書き終え店主さんははい、と渡してくる。

 

愛嬌のある手書きの地図を受け取り、お礼を伝えて扉を開く。

 

 

「またいつでもいらっしゃってくださいね。」

 

 

入口まで見送ってくれた店主さんにまたいつか必ず買い物にくると言い最後に握手を交わそうとした。

 

 

「んっ!?」

 

 

パチンとした音と共に店主さんは手を引っ込めてしまった。

手袋をしたままだったので静電気でも起きたのだろうか、これは失礼な事をしたと手袋を外し、再度握手を交わす。

 

 

そして地図を片手に自分は店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっとごめん」

 

 

教会への地図を見ながら歩いていたせいか、前を良く見ていなかったため他の人とぶつかってしまった。

前を見ずに歩き、ぶつかってしまったのは自分のためすぐに謝る。

 

 

「良いよ良いよ、だけど地図を見ながら歩くのは危険だから気をつけてね」

 

 

今しがた、ぶつかってしまった銀髪で頬に傷がある人は人差し指を立て自分に注意を促してきた。

 

全くその通りだ。現代でも社会的問題となっている歩きスマホ的な事をやらかしたのは反省せねばならない。

 

歩きながらのながら歩きと言うのは通常の視界より20分の1程に狭まると言う。どれだけ危険かは言わなくても良いのだろう。

 

つまりスマホだけではなく二宮金次郎も危険と言うものだ。

 

 

「君、地図を読んでたと言うことはこの町は初めてかな?」

 

 

手に握る地図を見てそう判断したのだろう、この町にはついたばかりである。とだけ言っておく

 

 

 

「へぇ、なら差し詰小さな旅人君って所かな?」

 

 

小さなと言われムッとしかけるがまだ自分はまだ成長期、焦る必要はない

しかし旅人と言うのはある意味あっている。花丸を送りたい。

 

 

「じゃあさ旅人君、もしよかったらアタシが色々と案内しようか?」

 

 

見ず知らずの人を助けるとは、人が良いのかそれとも何か企みがあるのかと少し警戒してしまう。

詐欺には気を付けろってばっちゃがいってた。あったことないけど

 

 

「もしかして……警戒してる?大丈夫、大丈夫、取って食べようなんて思ってないしお金を取ろうだなんて思ってないよ、ただ君くらいの子が迷子になっていたのが心配だったからさ」

 

 

ただの親切心だよ、と付け加えられる。まぁそこは言いとしよう。しかし何か引っかかる気がするが心配してくれていることは確かなようだ。

お言葉に甘え、案内をしてもらうとしよう。もし何かあったとしても貰った地図で大雑把ではあるが町の地形がわかる。

 

 

「それじゃ、お目当ての教会に行こうか、こっちだよ」

 

 

そう言って気がつけば手を繋がれ道を歩き始める。

繋がれた手はとても柔らかく暖かい、そして安らぎがあり、何故か安心できる手であった。

 

手を繋ぐ

 

産まれてからほんの数える程しか記憶になく、久しく忘れていた他人の温もりが自分には尊く感じられた。

 

周りを見渡せば人々がこちらを見て微笑んでいる。多分仲の良い姉弟に見えるのだろう。少し恥ずかしさがあるがすぐに消えた。

 

ただそっと自分の手を引くその手が不思議と安心でき、抗う事すら忘れ去っていた。

 

心ここにあらずと言った感覚で、されどしっかりとした歩みで教会へと進んで行く。

 

 

 

手を引かれながら、ふと思った。

 

 

 

 

 

 

教会に行きたいと言っただろうか?




びっくりするほど話が進んでないだと……と思った人、挙手を……

本当は今回でギルドに行ってジョブ決めて色々と原作と絡ませる予定立ったのにどうしてこうなった!?

と自分でも思っていますが実はウィズとの絡みが当初にはなく、進めた結果何か私的にとても浅い駄文となったので一旦書き直した結果、何故か膨らみすぎてこうなった所であります。(投稿が遅れたのもそのせい)

次回はギルドからクエストまでを書いて行こうとは思っています。

お楽しみに


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印と縁と神様と

遅くなりましたぁぁぁぁぁぁあああ!!!

何故遅くなったか?用事に勉強に葬式と重なってしまった故にすっかり忘れていたのが本音です。

友人に尻を蹴られて思いだし、急いで書きましたがちょくちょく手直しするかもしれませんが長い眼で見てやってください。


時は過ぎ、自分は教会へと来ていた

 

女神を象ったステンドグラスから柔らかい光が漏れ、幻想的な神々しさを醸し出す教会内は厳かな雰囲気が広がり、実に神聖な場所であることがわかる。

 

粗相の無いよう静かに足を踏み入れるが昼過ぎのためか人は片手で足りる程の数しかおらずほんの僅かな足音でも耳で拾えるくらいに静かであった。

 

 

抜き足、差し足、忍び足、最後に必殺技仕事人と静かに歩き、ちょうど中央に当たる席に腰を下ろす。

 

一番前では熱心に祈りを捧げる人がいたが自分はそこまで信神深い訳ではないため無難に中央を選んだ。深い意味はない。

 

先ほどここに連れてきてくれた恩人(クリスと名乗っていた)は少し用事があるらしく入り口で別れた。すぐに戻ってくると言っていたので多分、お花でも摘みに行ったのだろう。

 

ちょうど一人と言うのも都合が良い、さっさと祈ってエリス様と会話、もとい天命とやらを授かった方が良いだろう。ある意味今の現状は明日無き身に近い。

 

早速お手手のしわとしわを合わせて祈る。

 

 

エリス~……

 

エリス様~……

 

 

祈ったが何も起きない。もしや祈り方が違うのかと思い、合掌していた手の指を折り曲げ合掌する。合掌自体は形は人によって違うと昔教えて貰ったことがあるがやってみなくてはわからない。

しかし祈るだけでは駄目な可能性もあるのでエリス様に関して強くイメージしてみる。

 

 

いあ!いあ!エリス!いあ!いあ!エリス!

 

 

相変わらずうんともすんとも言わない事に少し焦りを感じる。もっと具体的な物を意識した方が良いかもしれない。

 

 

パッド!パッドのエリス様!ツルぺた女神!

 

 

『流石に私でも怒りますよ、ユーリさん』

 

 

突然脳内に響いたその声に驚き、足を椅子にぶつけてしまった。痛い

 

 

『自業自得ですよ、人をバカにするから罰が当たったんです。』

 

 

人と言うより本物の女神、罰が当たるのは当然だろう。しかし何度か祈った時、繋がらなかった故に試行錯誤を繰り返した結果、悪口の様になってしまっただけである。容赦して欲しい。

 

また私的ではあるがエリス様はもっと麗人であることに自信を持った方が良いと思っている。

筋トレ等行い、他で補えば胸が残念な事などマイナスにならず、むしろプラスになるプロポーションを作り出す事だってできる筈だ。

 

 

『ま、まぁわざとではない見たいですし、今回は特別に許しますけど』

 

 

チョロい……と思ってしまった事は秘密にしておこう。これ以上言ったならば説教は免れない。

 

それよりも呼び出す事が出来たなら早速、聞かなければならないことがある。

 

それはこの世界の常識、でもって自分見たいな流れ者が明日の糧を得るために今一番にやっておいた方が良い事は何だろうか?

 

 

『今一番にやっておいた方が良い事ですか……でしたら冒険者登録ですね』

 

 

冒険者?と思うが名前の通り冒険するのだろうか?しかし冒険と言う意味で考え、今までの情報と組み合わせると門番などとは違い武具を身に着けた人々がちらほら思い出せる。

 

例であれば恩人のクリスも腰にナイフをつけていた。

 

ならば冒険者とはその名の通り敵対勢力、魔王軍と闘う傭兵を指すのでは無いだろうか?

 

 

『ええ、その認識で構いません。しかし傭兵と言うよりは何でも屋に近い物でして、場所によってはほぼ日本で言うバイトと同じようなサービス業を受けたりすることも可能です。』

 

 

何でも屋、つまり万屋に近い職業であると言うことか、

 

それならば今現在、絶賛路頭に迷い中の自分でも何とか銭を得ることはできるだろう。問題は最低賃金と福利厚生だがこの世界にあるかはわからない。

 

しかしこの世界に置ける身分を持っていない自分には四の五の言ってられない、仕事はどの時代も甘くは無いし、先ずは始めなければ結果も何も産まれないのだ。

 

基本はどんな事でもPDCAサイクル、覚えて置いて損はない。

 

むしろこの世界の女神であるエリス様が進めた物だ、悪い結果にはならないだろう。

 

ただ登録と言う意味では冒険者組合、もといギルドのような物があると思うが先ずはそこを目指すことになりそうだ。

 

思考に沈むのもそこそこにして、エリス様に礼を言う。

 

 

『どういたしまして、お力になれたようで良かったです。』

 

 

多分忙しい中で自分の問いかけに答えてくれただけでも自分にとってはかなりの収穫である。もしこのまま何も知らなければ冒険者と言う存在に気がつくのはもう少し後になり、結果も全然変わっていた筈だ。感謝、感謝

 

 

そう言えばとエリス様が何かを思い出した様に付け加える。

 

 

『先ほどあなたをここに連れてきたクリスは実は私の従者でして、色々と力になってくれる様に頼んでおきますね。』

 

 

クリスが従者だった事に少し驚いたが教会に行きたいと言う前に連れてきてくれた事を考えれば納得は行く。自分が今現在こうして会話出来ているのに従者が出来ない訳ないだろう。

 

ただ、手を繋がれたのは少し気恥ずかしかった……美人にエスコートさせるのは少し気が引ける所もあったが悪い気はしない……

 

 

『彼女も弟が出来たみたいだと喜んでましたよ。羨ましい限りです。』

 

 

成る程、今度クリスには姉の様に接して見るのも悪くはないだろう。ただ問題としては姉なる人物が自分には居なかったのでまだ姉さん呼びするのが限界だと思うが。

 

 

『お姉さん……えへへ…』

 

 

何か呟きが聞こえた気がしたので再度訪ねて見たが何でもないと言われた。本人がそう言うならば本当に何でもないのだろう。

 

 

『それではユーリさん、お気をつけてくださいね。』

 

 

ありがとう、エリス姉さん大好き!

 

 

と恩返しになるかわからないが姉さん呼び+大好きと言ってみたが。ちょっと、いやかなり恥ずかしい。今度からは普通にエリス様と呼ぼう。

 

 

『ふぇ……!?』

 

 

何かガタガタと音が聞こえたが多分天界が忙しいのだろう。

たまには息抜きをして欲しいと思い、そのまま祈りの手をほどくとフェードアウトするような感覚が走り、プツリと繋いでいた物が切れた感覚がした。

 

通信が切れたと言った方が正しいだろう。何も聞こえなくなったのを確認して席を立つ。

 

ギルドへの道はクリスに聞けば良い、多分外にいると筈である。

 

もし居なくても幸い、ギルドへの道は店主がくれた地図に書いてあった

 

次はギルドに向かう為に静かに移動し扉を開き、教会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やぁユーリ君!」

 

 

教会を出た所にクリスがいたのだが様子がおかしい、顔も赤くして何かあったのだろうか?

 

 

「な、なな、何でもないよ!ほら行こう!」

 

 

手を繋がれそのままぐいっと引っ張られる。いや、ペースが早いため若干引き摺られると言った方が正しいか

 

身長差もあるのでペースが早いと合わせるのが大変ではあるが何か取り乱すような事が起きたのだろう。

 

信頼できる人物であるからこうしてついて行っているが知らない、もといエリス様から何も聞かされてなければ振りほどいて逃げている。

 

 

 

そんなこんなで歩いている最中にクリスが冷静になり、謝りながらペースダウン、自分と歩幅を合わせながら雑談を交え歩くこと数分、ギルドに到着した。

 

ギルドの扉を開き、中に入るが中は少し薄暗く昼を少し過ぎた辺りなので人は少ない

 

 

「いらっしゃいませ!お食事でしたら空いてるお席へどうぞ、お仕事案内なら奥のカウンターへ!」

 

 

ウェイターの女性が元気よくお出迎えし、他の通路へと消えていく。

ふと、昔読んだ中世をモデルにした本を思い出した。

 

 

「ユーリ君、先ずは冒険者登録をしよっか」

 

 

自分は頷き、クリスに招かれる様に奥のカウンターへと進む。ちなみに他の人の邪魔になるといけないので手は離して歩いている。

 

 

「そうだ、エリス様からの伝言を忘れてた。」

 

 

前を歩いていたクリスが何かを思い出した様でその場で止まり、くるりとその場でターンをしたまま此方を向く

 

 

「あそこがギルドの受付で冒険者登録出来るんだけど、実は登録料がかかるから君にポケットの中を見てくれって伝言頼まれてた。」

 

 

登録料……やはりどの世界でも手数料がかかるのは当たり前であったか。

 

ポケットの中をまさぐると小さい袋が入っており、開けると少々のエリスが入っていた。

(ちなみにエリスとはこの世界のお金の単位であってあの女神様ではない)

 

金額にして10000エリス、クリスが言うには多少飲み食いしても大丈夫な金額らしいがこれがなければぶっちゃけ積んでいたかもしれない。

改めてエリス様に感謝を捧げる。

 

 

「ほら、登録しようか」

 

 

お金を財布に戻した所でクリスがそっと背中に手を回しカウンターへ通された。

 

 

「こんにちは、今日はどうされました?」

 

 

カウンターから肩と胸の上部を丸出しにした、扇情的な服装をした受付係が現れた。

集客を狙っての服装だろうがはっきり言って目に毒である、がこれが普通なのだろう。受付嬢の服装から視線を外し、冒険者登録をしたいと伝える。

 

 

「冒険者登録ですね。それでは登録料が1000エリスになります。」

 

 

先ほどの財布から1000エリスを取り出し、カウンターにそっと置く

 

 

「はい、1000エリス丁度頂きましたので冒険者について説明しますね。」

 

 

ギルドの規約、クエスト、冒険者の職業についてと基本的な事の説明を受けたがこれは一般的な常識と言った所である。

 

例えるならば規約は暴れるな、クエストは失敗した場合のデメリット等があるから受ける前には良く考えろ、職業は後でも変えられるから自分にあった物にしろ、と言った具合である。

 

 

「それでは登録カードについて説明しますね。」

 

 

受付嬢が一つのカードを取り出した。見た感じ某ICカードくらいの大きさのプラカードであり、落とさないようにパスケースでも作ろうと思った。

 

 

「この登録カードには冒険者がどれだけ討伐したかが記録されます。そして討伐するとレベルが上がりスキルを修得するのに必要なポイントが与えられますので頑張ってレベルを上げてくださいね。」

 

 

ゲームはほとんどやったことはないが要は相手を倒せば経験値が貰え、その分強くなると言う意味だろう。ただゲームとは違い倒せば強くはなるが戦闘経験の差も出てくる筈だ。つまり現実故にどんな敵でも侮れない。油断大敵だ。

 

 

「ここまでの説明で何処かわからない所はございましたか?」

 

 

今の所はない、もといわからない所がわからない故に無いので大丈夫だと言っておく。

 

 

「それでは此方のご記入をお願いします。」

 

 

説明を終えた受付嬢から一枚の紙を渡され、覗き込むとそこには年齢、身長、体重等々身体的特徴を書き込む空欄があり、横に置いてあるペンでそれらを埋めていく。

 

そして書き終える頃に受付嬢が顕微鏡に球体を付けたのような物を出していた。

 

 

「書き終わりましたか?では此方に手を翳してください。」

 

 

言われた通りに手を翳すと顕微鏡のような物が輝き、下からレーザーが飛び出し、何と言うか改めて異世界と感じる。

 

そしてレーザーが途切れた頃には自分の名前とステータスが登録カードに刻まれていた。

 

 

「少し失礼しますね。クチナシ・ユーリさんですね、ユーリさんは筋力と生命力は平均で、おぉ!魔力と知力がそこそこ高いですね、あとは……」

 

 

そこまで言った所で動きがピシッと止まった。まるでリビングスタチューのようだ。

しかしワナワナと震える受付嬢を見て少し心配になる。何か良くない物でも書いてあったのだろうか、身長が足りず覗き込めない。

 

 

「ぇぇぇええ!!?何ですか!?この数値は!?」

 

 

突然どうしたのだろうか?と言うより何がどうなっているのか見えないから教えて欲しい。

貴女の鈴なりメロンで見えない。

 

メロンで見えない!(重要)

 

 

「敏捷性と器用度、それに運がずば抜けて高いです!」

 

 

足が速くて手先が器用で取っても運が良い。はて?何故そんな事になっているのか。前世では文字通り箱入りお坊ちゃんな自分は走る事なんて出来ずほぼ足が速いかなどわからない。手先が器用と言うのはほぼ手だけで遊ぶことが多かったから納得が行く。

 

しかし運に関してはさっぱりわからない。不運と言うには少し微妙かも知れないが病気で一生を終え、エリス様に出会いこの世界に来た事が幸運として扱われたのかもしれない。

 

 

「これならば上級の前衛職、魔法職以外なら大体なれます!ただレベルが上がればそれらになることも夢じゃありません!」

 

 

受付嬢が興奮気味に詰め寄ってくるがそこはもう少し自重して欲しかった。先ほど言った毒が更に猛毒へと昇華しているのだから。

 

何とか猛毒に耐えつつも今現在、自分がなれる職業をピックアップしてもらう。

 

 

「こちらがユーリさんが選べる職業です。」

 

 

ピックアップされた用紙を渡され、それに目を通す。

 

冒険者、ソードマン、ウィザード、プリースト、盗賊etcと力を使う戦士や上級の魔法使い以外の最早定番と言える職にはほぼなることが出来るらしい

 

そして上級の項目に目を通してみるが不思議と一つの職業に目が止まった。

 

 

"暗殺者(アサシン)"

 

 

盗賊の上級職に近いらしいその職にとても目が引かれる。

名前の通りの職業なのだろうがどんな感じなのだろうか?

 

 

「はい、アサシンですね?。アサシンは主に奇襲のスキルに長け、加えて盗賊、格闘、剣術、付与や初級、中級魔法のスキルを持っていることから意外と万能に闘えるオススメの職業です!」

 

 

「ただ他の本業よりスキルは劣り、力押しに弱いと言った職業だね」

 

 

後ろを振り向くとクリスが立っていた。先ほどから姿が見えなかったが何処かに行っていたのだろうか?

 

 

「ちょっと友達に会いに行ってたんだけど少しざわめいてたから戻ってきた所だよ」

 

 

ふと、周りを見渡すと確かに少数ではあるがギャラリーのような物ができ、こちらを見ていた。

 

ふむ、流石にこうまでも注目されてしまうと些か恥ずかしい。早めに決めてしまった方が良いだろうとアサシンを選び登録を済ませる。

 

いきなり上級職を選ぶことにはやはり不安があるが無理せず自惚れず過信せずと忘れずにしよう。

 

慢心は人間の最大の敵、とかの有名なシェイクスピアも言っている。

 

 

「はい!アサシンですね!!それではユーリさん!スタッフ一同貴方のご活躍を期待しています!!」

 

 

ギャラリーは少ないとは言え騒ぎの中心となった自分は様々な賞賛を投げられ顔を赤くしたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリス、もしかしてこの子がさっき言っていた知り合いの子か?」

 

 

登録を終えた後、クリスに呼ばれて行った所、隣に居た金髪ポニーテールの女性がこちらを見ながらクリスに聞いている。

 

 

「そうそう、アタシの知り合いのユーリ君だよ」

 

 

「成る程、なら自己紹介をしよう。私の名前はダクネス、クルセイダーを生業としている者だ。よろしく頼む。」

 

 

ダクネスと名乗ったその女性はそう言いながら身長の低い自分に合わせるように少し屈み、手を差し出してきた。無論、自分はその手を取り握手をする。

 

握手をするとダクネスは微笑みを浮かべそっと優しく握り返してきた。気品溢れる握手と言うのはこう言うのを言うのだろう。

 

ただダクネスに少し違和感を感じる、冒険者としての品がかなり高い様に思えたからだ。むしろ貴婦人と言った方がしっくりとくる。

 

とても美人であることとこの気品から偉いところからの出なのだろうか、と気にはなったが流石に初対面で聞くのは失礼に当たると思いやめておいた。

 

ただ始めに出会ったクリス、受付嬢、ダクネスとこの世界は美人率が高いのではないかと疑うくらいには美人さんにばかりである。

 

しかも遭遇した誰もが好意を持てる人物であることに対して異世界に来て良かったと改めて思った。

 

 

「それじゃ自己紹介も済んだようだし、初めてのクエスト、受けてみようか?」

 

 

エリス様にありがとうとお礼の祈りを心で捧げながら冒険者としての一歩を踏み出した。

 

 




話が進んでない……だと!?……

と思った方、素直に挙手と言いたいところですが次こそはクエストやら何やらを書いて行きたいと思ってます。

と言うより前回のクエストまでと言うのが強ち間違いでは無くなってしまいましたがこれまで読んでくれた方達の為にも遅い文ではありますが続けて行きたいと思っています。


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あの子のハートを鷲掴み(物理)

お久しぶり、フランシスです。
ちょっと家庭で葬式とかあって書くのが遅れましたがまぁ何とかできました

お楽しみください。


赤く可憐に噴き出す血液

 

血で真っ赤に汚れた服

 

手に握られた未だ脈打つ活きの良い心臓

 

眼前には自分の倍以上ある蛙が色々な液体を巻き散らしながら倒れる

 

その光景は端から見れば猟奇的とも言えるくらいのグロテスクである。

 

同じパーティーのクリスとダクネスは自分の腕を滴る血とは真逆に顔を真っ青にしており、呆然とこちらを見ていた。

 

正直に言おう。

 

やらかした……

 

 

 

 

 

 

 

 

始まりはクリスの初心者講習、もといクエストを受ける事になったのだがそのクエストの内容がジャイアントトード、つまり蛙狩りであった。

 

蛙狩りと聞くとあまりピンとは来ないがエリスから聞くにはとても大きな蛙であり、この時期は産卵のため体力をつけるために人里に降りては家畜を丸飲みにしてしまうらしい

 

その為、毎年人知れずに農家の子供や家畜などが行方不明になるとか

 

私的にゴライアスカエルくらいだと思っていた為にこの話を聞いて少々驚いた

 

家畜を丸飲みと聞くには相当な大きさと考えられるがそれ以前にこのクエストが初心者の物と聞き、改めて異世界の規格に驚かされる。

 

 

またクリスによるとジャイアントトードは、子供にも人気な食材になると言う事で食用としてもギルドが買い取ってくれるらしい。

 

食用と言うことはヨーロッパトノサマカエル、または日本のウシガエルの巨大化した物だろうと思いその姿を思い浮かべ少しだけぞっとした。

 

 

「ジャイアントトードは肉質が淡白で唐揚げとかにすると美味しいんだ」

 

 

唐揚げとな、病院食でもたまに出る唐揚げは量は少なかったが自分の好物の一つでもあるためよく覚えている。

 

そんな美味しい唐揚げになると聞いて少し気持ち悪いと思っていたカエルが瞬く間に輝かしい物に思えてきた。

 

食欲一つで変わるなど我ながら現金なものだ

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私は偵察に言ってくるから、ダクネスはユーリ君と一緒にちょっと待っててね」

 

ジャイアントトードの生息地へと踏み入れる前にクリスが安全のための偵察として草原へと駆けて言った。流石盗賊、足が早い

 

しかしここでダクネスと一緒に残されるのは若干気まずく感じた。

 

 

「えっと、ユーリでよかったな?」

 

 

何か話を切り出した方が良いと思っていた矢先に向こうから先に話を切り出してくれた。

 

 

「君は初心者と聞いている。まだ不安は残るだろうが私達がついているからそう怯えなくていいぞ」

 

 

凛とした表情で告げるダクネスは上級職のクルセイダー、防御においても頼りになるだろう

 

 

「ただ初心者向けとは言え、油断はしないように気をつけろ。油断するとあの大きな口で頭からパクリと食べられてしまうからな」

 

 

ダクネスがジャイアントトードについて油断しないように注意してくるが何やら嬉々としている。

 

騎士と言うことだけあって戦う事が好きなのだろうか?言っていることは正しいがいかんせん段々と恍惚とした表情になり、秒刻みで説得力がマイナスとなっている。

 

ただ丸飲みと言うことならば、死ぬ可能性は頭からかじられるより低いと思える。飲まれたならば口の中ないし腹の中にて大暴れしてやれば良い

 

だがメリクリウスがあるからと言う前提ではあるためやはり食べられないよう注意するべきであろう。

 

 

「そうだ、丸飲みには注意しろ、丸飲みされたならばヌルヌルした粘液であんなことやこんなことに……む、武者震いがとまらん!」

 

 

やはり上級職のダクネスとて怖いものは怖いのだろう。ましてやカエル、女性にとっては生理的に受け付けない人が多いのではないだろうか、

 

今もダクネスは自分の体をギュっと抱きしめ息を荒くしている。昔丸飲みにされた経験でもあるのだろうか?

 

 

「いや、飲まれた事はないが、正直飲まれて見たいとは思っている」

 

 

飲まれて見たいとは恐れ入った。騎士として敵を知り、己を知ると言うことなのだろう。

 

ただされて見たいとは些か体を張り過ぎではないだろうか?もしそれが騎士道ならば日本の根性論も素足で逃げ出すレベルである。

 

 

「あの大きな口に飲み込まれたら私は一体どうなってしまうのだろうか?」

 

ハァハァと息を荒くするダクネスは端から見れば先ず間違いなく不審者だろう。

 

息を荒くする女騎士とショタ、まずいですよ!と何処からともなく獣の叫びが聞こえる気がする。

 

 

「ダクネス……」

 

 

いつの間にか戻ってきていたクリスがダクネス肩に手を置く。

クリスの声はとても低く慈愛に満ちた笑顔とは真逆に怒りが含まれ、淡々とした調子で言葉を発していた。

 

 

「それ以上はユーリ君に悪影響が出るから止めようね」

 

 

その後、クリスによる女神のような慈愛に満ちた地獄の説教が響いたのかばつの悪そうな顔をしたダクネスがいた

 

 

 

 

 

 

「ほら、見えた。あれがジャイアントトードだよ」

 

 

クリスが指を指す先に視線を向けるととても大きなカエルが二匹いた。

 

しかしその姿は予想していた数倍の大きさであり、家畜や人を丸飲みにしてしまうと言うのも納得できるくらいには大きい

 

 

「どう?始めて見るジャイアントトードは?」

 

 

すごく…大きいです…

 

とクリスには返しておいた

想像以上、の一言では表すことすら難しい程の衝撃を受けた。流石は異世界

しかし腹は決めないとならない、どちらにせよ明日の糧を得るためには倒す必要がある。

 

 

「それじゃ戦う前にスキルの習得しようか、ちょっとカード見せてね」

 

 

クリスはそう言うと自分が手元に出した冒険者カードを横から覗いてきた。

 

自然と近くなった体からふわりと良い香りがして少しドキドキするが嫌な感じはしない、むしろ得である。

 

 

「ユーリ君のジョブは主に奇襲とかがメインだからオススメのスキルはこれとかだね」

 

 

クリスはそう言うとスキルを指差す

 

投擲(スロー)壁登り(パルクール)隠密(スニーク)透明(クローク)音感知(エコー)疾走(ダッシュ)、そして盗む(スティール)

 

確かに奇襲にはとても向いているが正面切って戦うのは控えた方が良いと思えるスキルが多い

 

最初から保持していたポイントがそこそこあったのでオススメされたスキルを習得することにした。

 

カードに書かれているスキル名に触れ、右上の肖像に触れる。

 

体から発せられる高揚感

 

遺伝子の一つ一つ、螺旋が組み替えられ更新されている感触

 

これがスキル習得、この世界に置いての対抗手段

 

脳で理解出来なくとも体が動く事が既にわかり、年相応に使いたくなる衝動が強くなった。

 

 

「よし!準備もできたみたいだし早速行ってみよー!」

 

 

クリスの掛け声にオー!と返し気合いを入れ直す。もうすでに飛び出したいが一人で突っ込むのは愚の骨頂だ。戦いのたの字を知らない自分ならば眼前のカエル二匹は驚異である。

 

 

「右は私が殺るから左はユーリ君とダクネ…」

 

 

「いってくりゅ!!!」

 

 

クリスが作戦を伝える前にダクネスが飛び出した。完璧なるフライングである。清々しい

 

 

「あぁ!もう!ユーリ君、ダクネスと一緒に戦って!片方は私が押さえるから!後ジャイアントトードは打撃が効かないから注意して!」

 

 

合点承知之助とクリスに返し、先に交戦しているダクネスの元へ駆け出した

 

 

「後、無理はしないでね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

スキル、疾走を使いカエルへグングンと近づく

 

景色は流れて線になり、遠くに見えていた物が接近するにつれ急激に巨大化する。

 

カエルまで後数十メートルに近づいた所でメリクリウスで柄の長いダガーナイフを作り、投擲する。

 

ダガーは慣性に従いカエルの横腹に突き刺さった。

しかしカエルは此方を見向きもせずにダクネスに夢中である。多分クルセイダーのスキルである囮を発動しているのだろう

 

ならば好機と更に疾走したまま飛び上がり体を水平にした。

 

ドロップキック

 

十分にスピードの乗った体はそれだけで数十キロの重りになり、かなりの衝撃になることを予測し思い切り両足に力を入れた。

 

ドスンと強い感触が足に流れカエルの皮が波打つ、しかし体はトランポリンの様に弾かれ自分は後ろへと転がった

 

 

「ジャイアントトードには打撃は効かない!逃げろユーリ!」

 

 

後ろに受け身を取り立ち上がるとカエルは此方を睨み付けるように向いていた

 

ダクネスが必死になり囮を発動するが気にする様子も出さずに此方を向いたままだ。

 

 

「ええい!こっちを向け!」

 

 

ダクネスがカエルを切りつけようと剣を振りかざした瞬間、カエルは地に伏せた。

 

突如倒れたカエルに目を白黒とさせるダクネス

無理もない、打撃が効かない筈のカエルが蹴りを入れた後に倒れたのだから

 

 

「何をしたんだ?ユーリ」

 

 

何やらダクネスが困惑した表情をしているが簡単な事であると伝える。

 

ただ投げたダガーナイフに蹴りを入れた、それだけだ

 

カエルもといジャイアントトードは打撃が効かないのは知っている。

 

そのために押し込みやすいように柄を長めにしたダガーを投げ、押し込むために蹴りをかました。

 

押し込まれたダガーは内蔵等の重要な器官を切り裂き、致命傷を与えたと言うことだ

 

自分の説明を聞いたダクネスがポカンとした表情を浮かべているがまだクリスが戦っているために無視をして加勢にあたる。

 

 

加勢に加わった時にはカエルはずいぶんとクリスに切られた様で無数の傷が走っていた

 

しかしカエルもやられてばかりではない。その大きな口でクリスを丸飲みにしようと舌を伸ばし反撃をしている。

 

 

「ユーリ君!」

 

 

クリスが回避をし、隙を作ったその瞬間に自分はカエルの背中へと飛び乗り、ナイフを突き立てる。

 

ナイフは深く刺さり血が噴き出すがまだ倒れる気配はなく、振り落とそうと体を揺さぶるが振り落とされないように自分は刺したナイフを右手で掴み、左手を貫手にし傷口へと突っ込んだ

 

ヌルリとした感触と共にプチプチと肉が切れて行くのがわかる。

 

そうして手を突っ込んだ事により伸ばした手の先に脈打つ何かがあるのがわかった。

 

生物に取っての重要な器官、心臓だ。

 

自分は更に腕を深く突っ込み脈打つそれを引っ掴み無理矢理引き抜く

 

 

赤く可憐に噴き出す血液

 

血で真っ赤に汚れる服

 

手に握られた未だ脈打つ活きの良い心臓

 

眼前には自分の倍以上ある蛙が色々な液体を巻き散らしながら倒れる

 

その光景は端から見れば猟奇的とも言えるくらいのグロテスクである。

 

同じパーティーのクリスとダクネスは自分の腕を滴る血とは真逆に顔を真っ青にしており、呆然とこちらを見ていた。

 

正直に言おう。

 

やらかした……

 

 

 

 

 

 

あの後、若干パニックになりかけていた二人をなだめ更にクエストの規定数までカエルを狩り続けた。

 

途中食べられかけ、メリクリウスで針ネズミになり大暴れをすると言うアクシデント以外は普通に終わった。

 

その後、風呂に行くことになったのだがエリス様に貰った服は気がつけば汚れが無くなり臭いも消えるらしく勝手に綺麗になっていたため、念のため水洗いをし、風呂に入る。

 

風呂にゆっくりと浸かり疲れを落としたらクリスとダクネスに連れられギルドへと向かった。

 

 

「それじゃ無事クエストクリアと言うことで、乾杯!」

 

 

景気の良い音が自分を合わせて3つなり響きそれぞれ杯に口をつける。

 

シュワシュワしたジュースは疲れた体に心地よくグイグイと飲める。と言うよりグイグイと飲んでしまう。生まれてからほとんどこういった物を飲んだ事がなかった故にあっという間に飲み干してしまい、お代わりをした。

 

続いて唐揚げ、これは今日狩ってきたジャイアントトードの肉を使った唐揚げであり、噛みつけば油が口にじゅわりと広がる。

 

しかしその割りには身があっさりとしており、揚げ物特有のしつこさがほとんどない。

 

自分は夢中になって食べていたがふと、クリスとダクネスの微笑ましい視線に気がつき少々恥ずかしくなる。

 

この光景を見ていたダクネスが「年相応な姿もあるんだな」と笑っていた。

 

それに対しツンとしてみるが効果なし、クリスも笑いながら宥めてくる。

 

そんな賑やかな食事は自分にとってとても幸せを感じられた。

 

こんなに賑やかな食事はいつ以来だっただろうか、少なくとも掠れ、朧気な記憶が断片的にあるくらいである。

 

周りを見渡せば酒盛りをする男性達、女性に唐揚げを奪われる男性、一心不乱に食べる自分と同い年くらいの女の子

 

どれもが眩しく、どれもが輝いて見えた。

 

ここには自由がある。そして幸せがある。

 

この世界に来てまだ1日立ってはいないがこの先、自由にそして幸せに生きて行けるだろう。

 

 

アーメンハレルヤエリス様と自分は祈った




いつもより少し短いかな?
しかしまだ書くネタはあるので亀更新ではありますが頑張って書いて行きます。


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利益をもたらす物

深夜のテンションで書き上げました!

と言うことで多少長くなりましたが読者の皆様の暇潰しになれば幸いです。

それとお気に入りをくれた方々、本当にありがとうございます!物凄い励みになりました!


うっすらと地平の彼方に日の線が這い出し、朝が来る。

 

頬を撫でるような寒さが部屋を包み混み、そして静寂差を孕む時間、草木も未だ寝るような時間に自分はいつも通りに目を覚ました。

 

いや、いつも通りと言うのは語弊があるだろう。

 

新たに生を得た二日目であるため、いつものようにと言った方が正しいがとにかく自分は目を覚ました。

 

 

目覚めた場所は宿屋、ごく普通のベッドではある。

 

これだけ聞くとただ普通に目が覚めただけのように思えるだろう。

 

クリスが横で寝ていなければの話だが……

 

昨日は初のクエストをこなし、1日の終わりに食事を取ったが寝床が問題となった。

 

本来は駆け出し冒険者と言うのは格安で馬小屋を借りて寝るのが一般的であるらしく自分も駆け出しらしく馬小屋を借りようとしたのだが

 

 

「ユーリ君、今日だけは特別に私が宿代を奢ってあげよう!」

 

 

とドヤ顔しながら無い胸を張っていた。

 

しかし流石に何から何まで面倒を見て貰うのは悪いと思い断ろうとしたが

 

 

「お姉さんに任せなさい!」

 

 

と何処かで聞いた事のある台詞をウィンクしながら言ってきた。

 

その姿には頼れるようなオーラと共に有無を言わさない雰囲気も混じっていたため自分は早々に説得を諦め、大人しくクリスの奢りで宿に泊まる事にした。

 

クリスは更に無い胸を張ったまま上機嫌でいつも使っていると言う安い宿屋へと自分を引きずるように連れてきた。

 

ついた宿屋の外見は中世の民間風の建物であり、室内は木張りで人は少なかった。

 

クリスいわく最近できた宿屋らしく穴場らしい

 

少し物珍しそうに辺りを見渡しているとクリスが鍵を手に戻ってきた。

 

 

「部屋は借りられたから行こうか」

 

 

そう言ってクリスは先に階段を登っていた。

 

その後を追いかけるように階段を登り、クリスへと追い付く

 

 

「ここだよ」

 

 

多分何度かこの宿屋を利用しているのであろう。勝手知ってると言うように部屋の前まで行くと手元にある鍵を差し込み扉を開ける。

 

中はそこそこ広く、大きめの窓にソファーとそして普通のベッドがあった。

 

Lがつくようなホテル、もとい宿屋のようなイメージがあったため、あまりに普通な宿屋に少し安心感を覚える。

 

ちなみにLがつくとは言ったがLoveではない、Leisureの方だ。

Loveだと思った人、手を上げなさい。先生怒るから…

 

しかし一つあることに気がついた

 

ベッドが一つしかないのだ。

 

 

「ユーリ君、先に寝てて良いよ」

 

 

ベッドが一つしかないと思っていた矢先である。クリスが先に寝て良いと言ってきた。

 

しかしベッドは一つ、奢られている分際で使うわけにはいかないと思いソファーに移動する。

 

 

「どうしたの?あぁなるほど、ベッドが一つしかないから戸惑っているんだね。だけどねユーリ君、遠慮することはない。ベッドは使って良いんだよ」

 

 

流石女神の従者と言った所か、とても慈愛に満ち溢れた笑顔で善意100%で言っていることがわかる。

 

ここまで言われたら断るのは失礼にあたると思い、大人しくベッドに入り込む。

 

少し硬めの毛布に布団、そして枕は病院と比べて寝やすいとは良い難いが疲れもあり、すぐに自分は寝入ってしまった。

 

 

そしていつものように起きて見るとクリスが横で寝ていたと言う訳である。

 

クリスはベッドを使ってよいとは言ったがクリス自体は何処で寝る、もしくはベッドを使わないとは言ってはいなかった

 

正しく一本取られたと言う訳だ

 

未だ激しく動く鼓動を抑え、ベッドから這い出る。

 

一旦気分を入れ替えなければ二度寝はできそうになかった。それほど驚いたと言うことだ

 

しかし外に出るとしても何処に行くかは決めていなかった。

 

店はどこも閉まっているだろうしましてや土地勘もお金もそれほど持っていない。

 

窓の外を眺めてもまだ日が昇る直前なのか青みがかった空に真っ暗な建物が広がるたけであった。

 

何か本を読もうにも寝ているクリスの横でランプを使うわけにもいくまい

 

どうするかとぼんやり窓の外を眺めていたが一つ、ふと思い付く

 

日の出を見に行こうと

 

生前では病室の位置により日の出は見ることはできなかったが今なら城壁に登れば見ることは可能だろう

 

ましてや異世界にて初めての朝である。記憶に残すのも悪くはない

 

そうと決まるや自分は机に少し散歩をしてくる旨をクリスへと書き残し、スキルの隠密と透明を発動する。

 

この時間ならば透明は必要ないであろうが屋根伝いに行こうと思ったので万が一にも見つかって怒られないように発動した。

 

クリスが起きないよう、寒くないように少しずれた布団をかけ直して静かに窓を開ける。

 

開けた瞬間に部屋の中より更に冷たい空気が入り込んで来るのですぐに外に出て窓を閉める。

 

そして壁登りを発動し屋根へと駆け上がった。

 

息を吐く度に白い霧に変わり霧散する。

腰布を肩から羽織り防寒し準備を整えた

 

足に力を込めスキルを発動したまま走り、隣の屋根へと飛び移る。

 

派手に屋根へと着地するが隠密のお陰で音はない。

 

そのまま次の屋根へと飛び移る。

 

そうして一つ二つ三つと何回も屋根を飛び移り、慣れてきた時には城壁へとたどり着いていた。

 

城壁は最近治されたのか隙間なく綺麗に煉瓦が積み上げられており、職人の技が伺える。

 

だが登れぬ訳ではない、見張り台の付近には階段やカベホチがあるためそれを登れば良い

 

しかし自分は壁を登ることを決意した。

 

 

 

何故ならそこに壁があるからさ……

 

 

 

と言うのは半分冗談である。スキルを使用しているとは言え万が一見つかって怒られるのが怖いから真ん中を登ろうと思ったのだ。

 

では指をかける隙間がほぼない壁をどう登るか

 

張り付けば良い

 

某スパイ映画のように張り付いて登れば死角を通ることができる。

 

思い立ったが吉日、壁につけた手にメリクリウスを発動させて固定した。

 

そうすると壁にガッチリと固定され落ちることは無くなる。

 

そして固定した手足とは逆の手足を動かし固定、解除してその逆と繰り返せば、あら不思議、城壁の上にたどり着いた

 

妙な達成感と共に登りきった城壁からは宵がまだ残る平原が眼下に映る。

 

少し火照った体に心地の良い冷気が吹き抜け、そして徐々に日が昇り始めた。

 

 

この光景は一生忘れる事は無いだろう

 

この世界で生を受けて二日目

 

初めての朝が来た

 

 

 

 

 

 

 

 

「花鳥風月!」

 

結局あの後、二度寝をしてしまい現在ギルドの食堂にて遅めの朝食を食べようとした所、二階でどうやら宴会芸スキルを使った見世物をやっているらしくギルド内が多少騒がしかった。

 

花が咲き、花びらが舞い、そして至るところから水が吹き出る様は中々見所があり、しかも宴会芸をしているのはとびきりの麗人であるため周りは騒ぎはヒートアップしていく

 

喧騒は多少響くが今までこういった経験がなかった為にとても新鮮であった。

 

宴会芸のスキルはほぼ意味がないと聞いていたのでこんなところで見れるとは思っていなかった為に少し行儀は悪いが見て食べる事にした。

 

 

 

 

「どーもどーも!どーも!」

 

 

 

気がつくと頼んだハンバーグは食べ終わり、宴会芸も一旦終わったようだった。

 

途中クリス達も来ていたようだが駆け出しの冒険者の人と会話をした後に外へと言ってしまった。

 

今日はどんなクエストを受けようか、そう考えているときにクリスとダクネス、そして冒険者の人が戻ってきた。

 

しかし何やらクリスは泣いており、ダクネスはいつもより更に興奮した様子で立っている。

 

クリスはピーピー泣いているがいじわるしてやろうと言う雰囲気があるために嘘泣きしていることがわかった。周りは気がついていないようだが…

 

ただ何かあった事は事実であろう。よって何があったか聞いてみる。

 

 

「あぁ、クリスはこのカズマ少年にパンツ取られて有り金を毟り取られて落ち込んでいるだけだ」

 

 

「おい!アンタ子供に向かって何口走ってんだ!間違ってないけど本当に待て!悪影響だから!」

 

 

カズマと呼ばれた冒険者は慌ててダクネスの口を防いでいる。

 

しかし時すでに遅し、バッチリ聞こえ周りにも聞こえていたらしい、その証拠にカズマのパーティーメンバーが引いている。

 

クリスはこの人に無理矢理パンツを取られたのだろうか、もしそうなら両手両足切り落とすか潰して芋虫、又は達磨にした後にブタ箱へとぶちこむ

 

 

「怖ぇよ!えっ?何?この子もしかして子供の皮を被った悪魔だったりする!?違うから!無理矢理奪ってないから!」

 

 

「ユーリ君!?気持ちは嬉しいけど流石にそれは不味いと思うよ!?」

 

 

なるほど、確かにここだと血で汚れてしまい迷惑をかけてしまうだろう

 

 

「えっ?汚れる方の心配?殺られる方じゃなくて!?クリスさん!どうにかして!本当に殺られちゃう!」

 

 

殺らないか?

 

 

「事故だから!スティール使った時に偶然取れたのがパンツだったってだけだから!」

 

 

カズマがアッー!と声を上げながら体を震えさせている。実際にその通りなのだろう。クリスが今のやり取りを聞いて笑いを堪えている。

 

そろそろ茶番は切り上げるべきだろう。

 

取り敢えずパンツを取った責任の為に小指を出せと言っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後クリスから詳しい事情を聞き、誤解は解けたが有り金を毟り取られたのは本当だったらしく、クリスは稼ぎの良いダンジョン探索に行ってしまった

 

クリスは流石に駆け出しを危険を伴うダンジョン探索へと誘うわけにも行かないととてもすまなそうにしていたがクリスは自分の物ではないし、むしろエリス様の従者である。

 

エリス様から直々に仕事を頼まれている可能性もあるためにそちらを優先するのは自然な事だろう。

 

そう気にしてはいない旨を伝えるとすまなそうな表情を見せたままギルドを出ていった。

 

そして一人でクエストを受けようと思っていた矢先にダクネスが

 

 

「気になっているパーティーがあるのだが、一緒に行かないか?」

 

 

と誘って来たので行って見るとそこには先ほどのカズマととんがり帽子を被った如何にも魔法使いと言った風貌の女の子、それと朝食時に宴会芸をしていた麗人がいた。

 

カズマはこちらを視認すると同時に青い顔をしながら小指を隠す

 

 

「何?何?何の用?お願いします!小指は許してください!何でもしますから!」

 

 

ん?今何でもするって言ったよね?

 

ならば首を出せ!と言うのは冗談である。

 

先ほどの小指発言もドスをにこやかに渡したのも全部冗談であるから安心してほしい

 

 

「冗談にしては目が座ってたぞ」

 

 

もし本当であったならば小指と言わず肋か内蔵の一つは引き抜くつもりであったがこれはやぶ蛇だろう、黙っておいた

 

 

「それでカズマ、この子が昨日言ってたパーティーに入りたい人?」

 

 

「いや、パーティーに入りたいって言ってたのはその横の人だ」

 

 

「この人が昨日言っていた……ってこの人クルセイダーじゃないですか!」

 

 

突然ダクネスが自己紹介として渡していたギルドカードを見た魔女っ娘が素っ頓狂な声を上げる

 

忘れていたがそう言えばダクネスは上級者、驚かれるのも無理はなかろう

 

 

「それで、えっと君は……」

 

 

カズマがこちらを見ながら少しどもっていたので自己紹介をする。

 

 

「クチナシだな、それで何故ここに?」

 

 

ダクネスに誘われたこと、まだ駆け出しであるためにパーティーで戦う事で慣れていこうとしている事を伝える

 

またパーティーを組むのは慣れるまでであってずっと組むつもりはない

 

 

「そっか、じゃあダクネスとそれとめぐみんちょっといいか?」

 

 

カズマはどうやら本気で魔王を倒すと言っている。つまり危険を伴うのは当たり前であり、パーティーに入りたいと言っているダクネスに対しての警告

 

自分は今のところずっとこのパーティーにいる訳ではないので警告には入っていない

 

しかしめぐみんと呼ばれた娘は要約すると魔王など吹き飛ばしてやると意気込み、ダクネスは酷い目に会わされる事を望んでいる。

 

中々に賑やかなパーティーとなっているがある意味リーダーであるカズマは苦労するだろう

 

心中お察ししますとカズマに言うと額に手を当てて少し涙ぐんでいた

 

 

「あれ?まって、もしかして一番良心的なのってユーリだけじゃん……」

 

 

苦労するのではなく既に苦労していたようだ

お互い日本産まれ、苦労するのは何処の世界も同じであると慰めておく

 

 

「日本産まれ?まさかユーリお前も……」

 

 

「緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急正門に集まってください!繰り返します!……」

 

 

カズマが何か言おうと口を開けたその時である。

ギルドから緊急放送が流れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ているようだ

 

そう思えるほど目の前の光景は異様であった。

 

昨日自分が降り立った草原から更にその奥、そこから草原より優しい色合いの何かが大量に迫って来ている。

 

すわ、魔物か?と思い目を凝らす

 

キャベツだった……

 

何を言っているかわからないだろうけどキャベツだ

見間違いだと思い再度見てみるがつぶらなお目目がついてる事ぐらいしか違いがないキャベツだった

 

 

「みなさーん!今年もキャベツの収穫時期がやって来ました!!!」

 

 

やはりキャベツだったようだ、しかしキャベツが空を飛ぶとは、やはり異世界は楽しい

 

 

「今年のキャベツはできが良く、一玉一万エリスになります!」

 

 

一玉一万エリスとは……

 

キャベツの花言葉、利益と言うのは強ち間違いではないのだろう。これは採れば採るだけ儲けものである。張り切って行こう

 

飛んで来るキャベツに五枚扇状にナイフを広げ、スキルの投擲を発動させる。

 

投げたナイフはそれぞれ別のキャベツに当たる事なく、一つのキャベツに突き刺さった

 

もしやと思い重ねて五回投擲を発動する。

するとナイフは別々の軌道を描き、それぞれのキャベツを打ち落とす。

 

続いて両手に合わせて十枚のナイフを持ち、五回投擲を発動すると今度は十本バラバラに突き刺さった。

 

なるほど、スキルは一回の発動につき両手にそれぞれ発動している

 

これは雑魚相手ならば集団でもかなり使えると思う、ただスキルをいちいち発動せねばならず連射ができない。

 

また投擲と言うこともあり射程距離は精々20mが限界だろう。そして殺傷力は他の武器よりは低い

 

しかしキャベツ相手には十分に効果を発揮していた。

 

ただいかんせん数が多い、いくら落としても後から沸くようにお代わりが来る。

 

キャベツが二匹、いや二玉、体当たりするように突っ込んできたが肘と膝にメリクリウスでプロテクターを作り、一玉を右膝と右肘で打ち付けるように挟み潰す。

 

そしてもう一玉に左足を踏み込み、左肘を振り下ろすように振り抜いた。

 

挟み潰されたキャベツは横に潰れ、左肘を振り抜かれたキャベツは顔面が半分陥没している。

 

ビジュアルは最悪だが気にしている余裕はない

 

更にもう一玉が飛び出し脇腹に体当たりされた。

 

一瞬ではあるが強烈なボディーブローを彷彿とさせる衝撃が走るが手で咄嗟に庇ったために大事には至ってない

 

しかし連続で喰らうのは下手したら大怪我はする威力だ。

 

そのためぶつかって来たキャベツを体当たりさせないように掴み引き寄せる。

 

掴まえたキャベツが抵抗を見せる前に膝に乗せ、メリクリウスで保護した手の甲を打ち付けた

 

キャベツだけに瑞々しく水分を振り撒きながら潰れる

 

やはりビジュアルが良くない

 

 

ある程度、ナイフで落とすか格闘で潰した頃、キャベツの攻撃が緩くなった

 

ふと周りを見ると他の冒険者がキャベツにやられ倒れている所をダクネスが囮を発動し守っている。

 

キャベツの攻撃が緩くなったのはダクネスに流れているからだろう

 

ダクネスに集中しているならば好機、側面に回り込みナイフをキャベツの群れに投げまくる

 

濡れ手に粟状態だ

 

しかしダクネスの鎧が砕け、中に来ていたウェアもボロボロになり満身創痍、いや欣喜雀躍している時であった。

 

数えるのも面倒なほどキャベツを機械的に打ち落としていると突如として周りの冒険者達が避難し始めた

 

次の瞬間、生存本能と言うべきか、背中に冷たいこんにゃくを当てられたようにゾッとする悪寒が駆け巡る

 

ダクネスにここから逃れるよう伝えるが

 

 

「後ろに守るべき者達がいるから逃げる訳にはいかない!」

 

 

と騎士らしく返されてしまった。その守るべき者すらも全速力で避難していると知らずに

 

そして次の瞬間、足元に紅蓮の巨大な魔方陣が浮かび上がる

 

その大きさは自分を含めキャベツの群れもすっぽり覆う程

 

嫌な予感の正体は間違いなくこれである。

 

円から逃れようとスキルの疾走を発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言おう。吹っ飛ばされた

 

あの魔方陣から逃れようとしたのだが爆裂魔法の発動の方が早かったらしくギリギリの所でその衝撃を背中に喰らい吹き飛ばされた

 

そして気絶したのだが吹っ飛んだ先にはちょうどカズマが居たらしく心底驚いたそうな

 

その後、カズマのパーティーメンバーであるアクアが治療してくれたのだが自分を吹っ飛ばしたのもカズマのパーティーメンバーであるめぐみんだと聞きとても複雑な気分であった。

 

二日目とは言え酷い目にもあった物だと思う。

 

しかし案外この収穫祭も悪くはなかった。

 

全力で大勢の人と何かをする。運動会等をやったことがない自分はこれがとても素晴らしい物に思えた。

 

そして収穫祭が終わりギルドの食堂は昨日と比べて更に活気があり、何処を見てもキャベツ料理がテーブルに並び目に優しい色合いとなっている。

 

 

「おーい、こっちだ」

 

 

カズマが少し離れた席で手を振っている。

 

自分は夕食で頼んだロールキャベツを持ち、カズマの席へと向かった

 

 

 

やはりこの世界は素晴らしい

 

 




ちなみに作者は花言葉が好きで主人公のユーリ君もそこら辺を考えながら名前をつけています。

花言葉って思ったより面白い物が多いので良かったら皆様も探してみてください


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気になるあの人追いかけて

書きたい物が多過ぎて色々と手を出した結果、二ヶ月も間が空いてしまった……

と言うことで久しぶりの更新


仄かに香る石鹸の匂い

 

少し汗ばむくらいの体温

 

額から立ち上る湯気をまだ冷たい風が拭い去る

 

やはり風呂上がりの夜風とは良い物だ。

 

私的には体を洗った直後に入る露天風呂が一番好きではあるがこれもこれでかなり好きである。

 

自分は上機嫌に夜道をゆったりと歩いて行く。

 

月明かりが薄く照す夜道は不思議と神秘と不気味差を孕んでいた

 

そうして自分の足音だけが響く道を歩いている内に何処か見たことがある道に出る。

 

 

ここは以前、もとい初めてこの世界にやって来た時に迷い混んだ道

 

時間にしては全くと言って良いほど過ぎてはいないが不思議と懐かしさを感じ、そして以前迷った道を迷うことなく角を曲がる。

 

角を曲がった先に出ると一つ看板が見えた

 

『ウィズの魔法店』

 

以前見た時と同じようにポツンと立っている。

 

少し時間的に遅いため、もう店は閉まっていると思っていたが予想に反して店には灯りがついており、扉にはこちらの世界で言う所のopenの看板が吊り下げられていた。

 

この時間まで開いているとは思わなかったために挨拶しようと扉に手をかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんわ、いらっしゃいませ…ってあら?貴方はあの時の…」

 

店に入るなり店主さんがこちらを見てすぐに気がつく

 

数日も立っていないので覚えていてもおかしくはないが、数々のお客さんを相手にしている中で一度チラリと来た客を覚えているとは以外であった

 

「えぇ、その覚えていたのは偶然と言うか…珍しかったと言うか…」

 

何やら店主さんの歯切れが悪いが珍しいと言ったからにはもしかしたら普段からお客さんが少ないのだろう、初めてここに来たときも自分以外居なかった気がする。

 

しかしお店事情をとやかく聞くつもりはない、デリカシーに欠けるからだ。

 

それよりもあの時の御礼を言わせてもらう、ここで教会までの道程を教えて貰っていなければ路頭に迷っていた可能性があったからだ。

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

にこやかに優しく店主さんは微笑む、言葉で表すならぽわぽわ、ふわふわと言った所だろうか

 

そんな店主さんに癒されながら、少し店内の商品を見て回ろうと思い、見ても良いか聞いてみる。

 

普通は聞く必要はないだろうが今の時間帯は結構夜が深い、もしかしたら営業時間を過ぎている可能性がある。

 

「時間は気にしなくても大丈夫ですよ、ごゆっくりどうぞ~」

 

時間は気にしなくても良いと言われたが実際には過ぎているかも知れない。これは早目に何か買って店を出た方が良いだろう

 

あのアニマルの森の借金被してくる、たぬき野郎の店ならすぐに追い出して来ると言うのに、此処の店主さんは針ネズミの仕立て屋のように心が広い

 

多少申し訳ないと思うが商品を見ることにした。

 

 

爆発するポーション

 

空気に触れると爆発するポーション

 

衝撃を与えると爆発するポーション

 

魔力を通すと爆発するポーション……

 

ポーションの棚は見ないことにした。下手に触れると爆発する危険性があり、値段の桁がおかしいし弁償できない

 

ポーション買うってレベルじゃねーぞ!と言った所だろう。

 

ある意味プチバルカン半島と言いたい、使い方が違う?下手したら店が吹っ飛ぶ火薬庫と言う意味では合っている。

 

それからと言う物のほとんど値段の桁がおかしい商品や駆け出しには必要がない物、デメリットが大きい産廃と呼ばれる商品ばかりであった。

 

これは確かに人が入らないだろう、悪いと思うが店主さんには商才がないと言える

 

通常の小物、駆け出し用のアイテムも売っているには売っているがここまで買いに来ることは少ないのだろう。

 

自分は必要そうな小物を幾つか見繕うことにして、小物を手に取っているとき、ふと視界の橋に古びた本が写った。

 

小物コーナーの斜め下に小さく、10cmほど区切られたスペースに古い本が何冊か収まっている。

 

魔道具や魔物に関しての図鑑がそれぞれの本の背表紙に書いてあったが一冊だけおかしな本があった。

 

端から見ればただの本だろうが、背表紙に書かれている文字がおかしい

 

craft book(クラフト ブック)

 

英語でそう書かれていたのだ。

 

英語、この世界の文字ではなく元居た世界の言葉で書かれている。

 

ならばこれは転生者が関わっている可能性が高いと思い、その本を手に取った。

 

しかし、いざ読んで見ようとしたものの本に小さな鍵が掛かっている。

 

 

「その本は昔、私が冒険者の頃に貰った物なんですよ」

 

 

自分が本を手にしていると店主さんが語りかけてきた。

 

 

「随分前に仲間の一人がダンジョンで見つけたんですけど、鍵は無いし、表紙の文字は何が書いてあるかわからないので骨董品として売ったらどうかと言われまして」

 

店主さんは懐かしそうに目を細め、少し思い出に浸るように語っている。

 

しかしこの本を見つけたと言うことはこの持ち主は多分死んでいる可能性が高い、しかも十中八九は転生者の所有物だろう。

 

ただ神聖な気配はしないので特典と言うより、特典によって作られた物である可能性が高い

 

言うなれば準特典物と言ったところか

 

「仲間の鍵開けで一度だけ中を見たことがあるんですが、書いてある内容はちんぷんかんぷんでした」

 

中の内容が気になってきた。

そのため店主さんに少し開けて見ても良いか聞いてみる。

 

「ええ、壊さないなら構いませんよ」

 

何と心が広い事か、普通なら立ち読みなど嫌われてもおかしくはない、あのチョロQだかバケQだかの白いバケ袋も本屋で立ち読みすれば専用ホウキで追い出されると言うのに

 

許可をくれたことに感謝をしつつ、自分は鍵穴に指を入れ、メリクリウスを発動して水銀を流し込み、鍵の構造を理解する。

 

鍵はただのシリンダー錠であったため、中のタンブラーを水銀で型取り、固定化、そのままゆっくりと即席の鍵を捻る、するとカチリと金属が噛み合う音と共に錠が外れた。

 

古い質感を持つ見開きを開け、中を拝見するがそこにはこう書かれていた。

 

Language settings?

 

はて?と首を傾げる

表紙からして英語の書物なのだろうと当たりをつけていたは良いが見開きで書かれていた言葉はまさか言語設定

 

そしてその下には四角の余白がある。

 

これが意味する事は文字を変更することが可能なのであろう

 

もしこれが日本の転生者の手に渡っていれば読める可能性はあったかも知れない

 

 

「その本は開いてもそれしか出てこないんですよね」

 

 

店主さんが苦笑いしながらそう説明するが、もしこれが日本語ならば読めてもおかしくはない、しかし中身はまさかの英語、これは読めなくて当たり前である。

 

試しに頁を何枚か開いて見るがやはり全て英語であった。

 

流石に簡単な英語を読めるレベルでは解読できそうにない。そのため言語設定にて日本語に変換するしかないだろう。

 

クラフトと書いてあるからには地球産の何かが作れることは確かであるため、本を含め幾つかの小物と共に購入する事にした。

 

 

「お買い上げ、ありがとうございます」

 

 

店主さんの営業スマイルを背に扉に手をかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

店で買った小型ランタンが小さく手元の本を照らし、文字を読める程度に写し出す

 

本に書かれた内容は武器の構造についてであった。

昔から現代までの武器が乗っており、それの制作方法すら書かれている。

 

この本は素晴らしい買い物ではあったが言語設定と書かれていた枠に読める言葉を記入し、読める様にしなければならないため、今の今まで読まれる事は無かったのだろう。

 

異世界人に取っては言葉こそが最大の壁と言うことがわかった。

 

少し古く、湿気を吸った紙は普通の紙と比べると僅かに重く、されど心地よい質感を持ち、一枚捲る事に静かにページが次へと移った

 

部屋の中は、夜が深いせいかとても静かであり、窓を撫で流れ落ちる雨の音が聞こえるのみであった。

 

雨は少し強く大粒なのか、下に落ちる水の音は多少なりとも聞こえるがとても落ち着く

 

とてもリラックスした状態で頁を捲っているとき、廊下から別の部屋の扉を開く音が聞こえ、木の廊下独特の軋む音が聞こえた。

 

多分、店主ことウィズさんの足音だろう。

 

何故わかるか?

 

今自分がいる場所がウィズ魔法店の二階だからである。

 

事の経緯はつい数時間前、店から出ようとした時に雨が降ってきていた。

 

その雨は少々大粒であり激しく、また雨特有の匂いが充満し、これから馬小屋、もとい寝床を借りようと思っていたのだが、このままでは濡れ鼠になる、と辟易していた時

 

 

「もしよければ泊まって行かれますか?」

 

 

そう暖かく迎えてくれたのだ

 

最初は少し躊躇した。何もかも至れり尽くせりであり、日本人特有の遠慮が顔を覗かせていた。

 

ましてや会って二回目、名前も知らぬ男を女性の家に上がらせるのは色々と不味いだろうと伝える

 

 

「確かにそうですけど、失礼ですがお客様はまだ子供ですし……むしろ雨の強い夜に外に放り出すのも気が引けまして」

 

 

と言う善意濃縮還元100%で店主さんは提案してくれた。

確かに今から行くには遅い時間であるし雨は強い、馬小屋は風通しが良いので雨漏りする可能性もあった

 

そして馬小屋は大体共有スペースてあるため灯りをつけることができずに今日買った本を試すことはできない。

 

ならば止めて貰った方がメリットは大きいだろうと思い、店主ことウィズさんの家にお邪魔になっていると言うことだ

 

そのため、先程の足音は消去法でウィズさんの物だとわかる。

 

しかしこんな夜更けにどうしたのだろうかと気になり、ランタンを消してそっと廊下を覗くとそこには暗くて非常に見えずらいがウィズさんが階段の下に行き、その先の玄関へ傘を持ち、向かっているのが見えた。

 

随分と遅い時間だと言うのにどうやら出かけるようだ。

 

何か大人の事情、例えるなら借金等の事などがあるのだろうかと思ったがレジを開けたり、お金を手にした様子はない。むしろ見た感じ重苦しい雰囲気はなかった。

 

逢引…と言う考えも浮かんだがそれならばもっと動きやすい服装をするだろうし、そもそも裏通りは人が少ないので時間はもっと早くても良いだろう

 

濃い色のローブにこの時間帯、明らかに人目を意識した行動であることがわかる。

 

しかしこの時間帯は色々と物騒であるためこっそりとついて行くことにした。

 

 

心配0.5割、好奇心9.5割、疚しい思いはない。

 

説得力がないって?

 

0.5割心配しているからこれは疚しくはない、むしろボディーガード(笑)なのだ

 

おねしょたは正義と聞くだろう、えっ…違う?

うるせぇ!自分が正義だ!キュケオーンでも食ってろ!

 

 

 

 

 

 

じっとりと張り付く湿気

 

ひやりと首筋を撫でる冷気

 

見るもおどろおどろしい雰囲気を醸し出す様に石が申し訳程度に並んでいる

 

ここは無縁墓地

 

身寄りがない流れ物が行き着く終着点

 

そして自分も眠る可能性がある場所

 

ウィズさんを追跡している内にここに入って行くのが遠目から見えた

 

墓参りとの考えが頭を過るが、供え用の花(この世界に風習があるかはわからないが)を持っておらず、また周囲を警戒した様子で奥に消えて行った為に墓参りの線は薄いと判断した。

 

何か秘密があるのだろうか、暴いてはいけない物だろうか

 

好奇心の向くまま、自分は無縁墓地へと足を踏み入れる。

 

空気が冷たい、無縁墓地に踏み入れた途端、温度が違う事がわかる。

そして目の前に人魂が複数飛び交い、墓地の奥へと消えて行った。

 

長い病院生活が祟ってか、病院内で人ならざる物を見ることは多かった

 

それ故か人魂くらい驚かないが目の前に飛び交う人魂は次々と奥へ消えて行く

 

ウィズさんが消えて行った先もこの奥であるために関係性はあるだろう。

 

中々キナ臭くなってきたと思っていた矢先に地面が盛り上がった

 

「ァ……アアァァァ……」

 

腐った死体が複数現れた

 

泥にまみれ、所々腐った死体が呻き声と共に這い出してきたが臭いが酷い

 

まるで使用済みの靴下に消臭剤だけぶっかけ、そのまま使い潰した感じの酷い臭いだ

 

思わず外套で鼻を覆い、即席のマスクとする。

外套からはエリス様の落ち着く良い香りが鼻を通り抜け見事に腐臭を打ち消してくれた。

 

エリス様、みんな大好き、エリス様、僕も好きと言うキャッチフレーズが電撃の如く閃いたがすぐに記憶から消すことにした。

 

多分これ以上はひよこのマークの壊数手(エステ)とか言う奴が現れ、目に見えぬ力、その名も消臭力によって臭すら消される。

 

ただ消臭剤エリス様は売れると思う(迷言)

 

 

閑話休題

 

 

話があらぬ方向に行ったが今は目の前の腐った死体、ゾンビをどうにかせねばならない

 

幸いな事にゾンビの足取りは遅く、頼りなさそうな千鳥足をしているのでどうにかなりそうだ、しかし臭い的にあまり近づきたくはない

 

そこで先程の本に書かれていた武器を一つ作り出す。

 

その名もスペツナズ・ナイフ

 

わかりやすく言うとバネの力で刃を飛ばすナイフであり、元々は旧ソビエトの特殊部隊が使用したナイフらしい

 

ちなみにアメリカではバリスティック・ナイフと呼ばれている

 

本当はボウガンやリカーブボウ等が良かったのだがいかんせん、矢がない

 

矢は作り出しても良いのだが、矢羽根がないため次回にする。

 

いよいよ、ゾンビが射程圏内に入ったため、ナイフの刃先をゾンビに向け、刃を発射した。

 

発射された刃はほんの少し放物線を描き、ゾンビの眉間へと消える。

 

直後、ゾンビは映画のように一瞬硬直し、後ろへ倒れた。

 

試作とは言え、ナイフは上手く作れたようだ。

 

もう一本、刃を作り出し、装填、もう一体に向けて発射する。

 

それらの動きをループし、目の前に居たゾンビは徐々に数を減らしていった。

 

本来、この距離ならスキルのスローで手っ取り早くナイフを投げれば良いが、暗器であるこの武器はいざと言う時に役に立つ

 

ゾンビはそのための練習台と言うわけだ。

 

 

そうしてコツが掴める頃には雨も止み、そしてゾンビの死体、もとい死体に戻ったゾンビの山ができていた。

 

しかし奥へ行ったウィズさんは大丈夫なのだろうかと一つ懸念が生まれる。

今見える範囲のゾンビは全て倒したとは言え、奥にはまだいるかもしれない。

 

ウィズさんを追いかけるよう、人魂を辿りながら墓地の奥へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

草木が眠るとそう表現できる静寂

 

夜の森とはとても不気味である

 

視界は悪く、先程まで雨が降っていたために道は泥濘、足を取られそうになる。

 

しかし暗さ故に人魂が良く見え、その行き先を辿れた事が幸いと行ったところだろうか

 

無縁墓地にはあるとは思っては居なかったが、一つおどろおどろしい雰囲気の掘っ建て小屋が奥に建っていた

 

人魂を辿る内についた場所であるが、人魂はこの小屋に吸い込まれる様に入り、そして薄暗く怪しい光と共に人魂は天へと昇っている

 

多分ではあるがあの魂達は成仏しているのだろうと、直感的な物ではあるため根拠はないが少なくとも怪しい気配はしない

 

この小屋にいるのもウィズさんだろう、消去法で考えても確率は高い、むしろあの心優しいウィズさんならば何らかの方法で成仏させて上げていると考えれば辻褄は合う

 

本来ならば帰った方が良いと自分でも思うのだがいかんせん、好奇心が沸いている

 

そっと小屋に近づきドアノブを捻った

 

しかし扉は開かない、押してだめなら引いてみろと言うが純粋に鍵が掛かっている様であるがメリクリウスを流し込み、鍵を開けようとすると更に扉が凍りついた

 

流石に凍りつくとは思って居なかったが扉が使えなくしたと言う事は向こうも扉を使えないためこれは時間稼ぎ、つまりは別の場所から出ると言うことだ。例えるなら窓だろうか

 

凍った扉を無視し、裏へと回り込む

 

すると窓に引っ掛かり、もがいているウィズさんを見つけた。

 

すわ、貞子か!?と有名なホラー映画のワンシーンに似ていたために少し心臓が跳んだり跳ねたりスッ転んだり止まったりしたが大丈夫だ、まだ生きてる

 

ただどうやらウィズさんは窓に挟まって抜け出せないようだ。

 

ランタンに灯りを点けて近づく

 

 

「えっとこれはそのですね、私は決して怪しい者ではなくでですね、ここにはその用事があって、そのえっと、ってユーリさん!?どうしてここに!?」

 

 

発見されたことに動揺しまくっているために言っていることが怪しさ満点にしどろもどろしている

 

その姿がとても可笑しく思わず吹き出してしまった

 

「あうぅ……」

 

ウィズさんがとても恥ずかしそうに顔を俯かせているが挟まっている姿を見るとどうしても笑いがこみ上げくすくすと笑ってしまう

 

しかもウィズさんは挟まって自分で脱出するのが難しそうだ

 

「その、あのですね…引っ張って貰っても良いですか?」

 

やっぱりなとまたもや笑いそうになるのを堪え、羞恥で顔が真っ赤なウィズさんを引き抜くのであった。

 

 

 

 

 

 

「あの共同墓地はロクに葬式をしてもらえなかった貧しい人達の魂が彷徨っているために、定期的に私が天に返してあげているんですよ」

 

帰り道の中でウィズさんは色々と説明してくれた。あの共同墓地の事、この町のプリーストは一文の特にもならないためにこの共同墓地には近寄らない事

 

そしてそれを哀れに思った心優しいウィズさんが成仏させて上げていること

 

今日は雨が降っていたために小屋で魔方陣を書き、成仏させていたようだ

 

別に雨の日にやらなくても良かったのではないだろうかと聞いてみたが、最近あまり行けてなかった為に今日来ることにしたのだとか

 

しかしゾンビ等が徘徊していたために女性一人で来るのは何かと危ないのではないだろうかと心配になるがウィズさんは慣れた様子であり、あまり危ないことはないだろう

 

「そう言えばどうしてユーリさんは彼処に来たのですか?」

 

隣を歩くウィズさんが疑問符を頭に浮かべ、此方を見つめる

 

好奇心でつけていた……とは心にしまっておいた方が良いだろう

 

心配だったと言っておく、まぁこれも嘘ではない

 

その言葉にウィズさんは微笑を浮かべ、自分の頭を優しく撫でる

 

「ありがとうございます、私何かのために」

 

気にする必要はない、これは一夜の恩返し、もといただの自己満足でやったことなのだから

 

ウィズさんはそれを聞き、更に頭を撫で続ける

 

その優しい手つきは氷のように冷たかった、だが手が冷たいならば心はとても暖かいのだろう

 

 

雨上がりの帰路でまだ冷たい空気が吹き抜けるが心はそれ以上に暖まっていた。

 




何度も書き直す内に少しグダった感が無くもない今日この頃、

今回出したウィズさんは個人的に好きなキャラでもあり、実は元々はユーリ君は転生した時にお世話になる予定でしたが変更して今回絡ませました

(と言うよりユーリ君、最初は原作開始8年前にアクアに適当に転生されてウィズ魔法店に落ちてウィズ魔法店の世話になり、原作開始時には24歳の大人でカズマの兄貴だったのだが気がついたらショタになってましたね)


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好奇心はフラグの始まり

久しぶりの更新遅くなりました‼

言い訳と言うよりも本当にこの世からエタる所でしたが何とか復帰し、投稿出来たのでどうぞお読みください

その代わり少し長くなりすぎたので半分に分けてお送りします。

p.s風邪は侮ったらいかん……


ぼんやりとした頭

 

霞んだ視界

 

布団の温もり

 

カーテンの隙間から漏れ、溢れる光が朝が来たと言う事実を認識させる

 

未だ覚めぬ体を布団から起こし、ボヤける頭をシェイクして寝癖と共に意識を戻す

 

自分の異世界での1日が今日も無事に始まった

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、ユーリさん」

 

そう優しく微笑み挨拶を交わすのはこの店の主人であるウィズさん

それに答える様に挨拶を返す

 

「もう少しで朝ごはんができますから」

 

なにやら良い匂いがすると思っていたが朝餉を作ってくれたとの事、素直に嬉しく思い、礼を言う。

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

泊めて貰い、朝食まで頂けるとは思っていなかっために、嬉しい誤算だ。

しかし泊めて貰った挙げ句、朝食をただ食べるだけと言うのは何か申し訳なく感じ、何か手伝える事はないかと聞く

 

「それなら食器を用意してもらえますか?今朝はキャベツのスープなので」

 

了解したと頷き、台所の近くにある棚から皿やスプーンを取りだし、テーブルに並べる。

 

ふとキャベツのスープと聞き、昔見た超激運ショタとチョコレート工場の冒頭を思い浮かべながら台所に視線をやると違和感を感じた。

 

台所がほとんど緑なのだ、圧倒的に緑なのだ

 

レタスにキャベツと目に優しい緑色の野菜がそれぞれカットされ、台所を埋め尽くしている。

 

そして蓋を開け、ウィズさんが味見をしている鍋の中も緑の野菜が煮込まれていた。

 

「ちょうどキャベツが旬ですから、いっぱい買ってあるんですよ」

 

 

ニコニコと微笑みながらキャベツたっぷりの鍋をかき混ぜるウィズさん

 

その光景に少し後退りをすると後ろに置いてあった木箱に足を軽くぶつける

 

すると木箱がガタガタと小刻みに動き、震え始めた

 

中身は緑、キャベツなのだろう

 

いや、正確にはキャベツとレタスであった、葉がそれぞれ違う

 

色鮮やかな野菜が詰め込まれ動き出そうと木箱を揺らしている。

 

そっと視線を外す、自分は何も見ていない

 

しかし木箱に反応してか冷蔵庫まで揺れていた

 

端から見ればポルターガイスト現象の様でそこそこ怖い

 

ただどうでも良い事だがこの場合はガイスト、つまりドイツ語で幽霊と言う意味だが主にキャベツよる現象なのでポルターコールと言ったところだろう

 

若干のカルチャーショックを受けながら、キャベツのスープが出来るのを待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

地球時間にしておよそ8時くらいと言ったところだろうか、正確な時間は見ていないためわからないが大体その時間帯、ギルドにてクエストボードを眺める

 

何をしているか、と聞かれるまでもなく仕事を探しているのは周りから見れば一目瞭然だろう

 

自分はしがない冒険者、もとい地球で言うフリーターだ

日銭稼ぎをして、飯代を稼がねばならないのは世の常であり、当たり前の事である。

 

しかし先程からクエストボードを見ているがあまり良いクエストがない

ゾンビメーカーの討伐など割りの良さそうなクエストもあるが昨夜それを知らずにゾンビを倒してしまったため、受けるのは控えた方が良いだろう

 

また何故か高難易度の依頼ばかりが貼り出されているためにあまり手が出せないと言うのもある。

 

「最近、何故かこの近辺の弱いモンスターが居なくなってしまい高難易度の依頼ばかり残ってしまったんですよ」

 

ふと、ボードとにらめっこをしている自分に後ろから受付嬢のルナが話しかけてきた

 

「未だ原因は不明でして、原因が判明するまでは申し訳ありませんがアルバイト等で日銭を稼いで貰うしか……」

 

申し訳なさそうに言うルナ嬢は小脇に抱えたアルバイトの求人書を渡してくる。

周りを見ると朝からいる数少ない冒険者も同じ求人書を持っていることから昨日の夜ないし、今朝からこの現象は起きているのだろう

 

原因不明の事態ならば早急に解決した方が良い

 

原因については多分ギルドの職員が追求に向けて動いてるはず、ならば人手は多い方が良いだろう

 

ルナ嬢に原因の追求依頼はないか聞いてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

鬱蒼とした茂みを踏み、枝を掻き分けながらも森を突き進む

 

今のクエストは異変の調査、怪しいところを探索し、この異変を探ると言った調査をしらみ潰しに行うだけの至ってシンプルなクエストである。

 

今のところまだこの森は調査をされていないらしく、また強いモンスターが生息している所を優先していたため、応援を呼ぶまでは後回しにするつもりであったらしい

 

それならば、とクエストとしての調査を提案してみた。

 

そしてその案が通り、この森に調査に来ていると言うわけである。

 

余談として受付嬢のルナにまだ新米のショタと言うことも相まって少し渋られたが上級職と言う肩書きでゴリ押してクエストを受注した。

 

この森は比較的弱い生物が生息していると言うが何か不測の事態に備えて煙玉を始めとして色々と逃走用具は用意している。

 

逃げるが勝ち、生きていれば儲け物

三十六計逃げるに如かず

 

石橋叩いてヒビ入れる位がちょうど良い

特に行方不明の二等兵(ライアン)を探す時など人によっては石橋爆破してぶっ飛ばした方が良いだろう

 

やり過ぎ?ドイツの虎(ティーガー)にはそのくらいがちょうど良い

 

話があらぬ方向にホップ、ステップ、ジャブジャブストレートしかけたが周りを警戒しているため問題なし、地図を確認しながら森を進む

 

しかし気配と言う気配がない、鳥やリスと言った小動物さえ見当たらないのを見るとやはり異常なのだろう

 

その時である、少し奥の方で茂みが揺れ動き葉の擦る音が聞こえ、次の瞬間とてもデカイ熊が飛び出した。

 

その熊には見覚えがある。確かクエストボードに貼られていた似顔絵の一撃熊とか言う高難易度モンスター

 

しかし様子がおかしい

 

体の至るところに深く傷が付き、片目は潰れ、片腕が垂れ下がり血を大量に流している。

 

どう見ても致命傷に近い傷であり、息絶えるまでそこまで時間は要さないだろう

そう思っている間に熊は地面に倒れ伏した。

 

手負いの獣ほど危険と言われるが限界なのだろう、目を閉じたまま動かない

 

しかし警戒は解けない、あの熊をここまで追い詰める何かがいるのだから

 

若しくはギルドの職員か他の冒険者の可能性も考えられたので暫し見守る

 

だが誰も来ずにただ静かな時間が過ぎ、そして熊の呼吸が止まり死んだのか敵感知にも反応しなくなった。

 

これは調査した方が良いだろう、近づく前に一本ナイフを作り出し投擲する。

 

ナイフは吸い込まれる様に熊の頭に突き刺さるが反応はない、あまり死体に傷はつけたくはないが万が一生きている可能性を考慮しての行為だ。

 

動かない事を確認してから近づき、体を漁る

 

逃げるときにできたのだろう擦り傷、その他に肩や腹、切り飛ばされた腕は断面が広いからには剣、それもかなり段平な両手剣で切られた傷がある。

 

大きな切り傷であるのに対し、素人目から見てもわかる鮮やかな太刀筋

 

これをやったのはかなりの腕前を持っている者だ

 

しかしこの初心者向けの森に逃げてくるとは余程の強者なのだろう、もしかしたらやった奴がこの異変の原因かもしれない

 

他の冒険者やギルドの職員と言う考えも無くはないがアクセルは初心者の町であり、上級の冒険者は主に王都を活動拠点とするとも聞いた。

その為、ここまでの技量を持った冒険者がいる可能性は低いだろう

 

また更に熊の死体を漁るが、切られた痕に違和感があった。

 

斜め上から下へと切られている、身長が高いものが切ったとしても刃は湾曲を描くか下へ着く様に切り口が残る筈だ

 

切り口は先程言ったように斜め上、つまり何か乗り物に乗った、例えるなら騎士のように馬上から切り落とされたと考えられる。

 

しかしそこまで考えて一つふと思いついた。

 

この足跡を辿れば熊をやった奴に会えると

単純だが異変解決の一歩になるのではないかと思いつく

 

願わくば味方でありますようにとエリス様に祈りながら追跡をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

好奇心は猫をも殺す

 

本来は心配は猫を殺すと言った諺らしいが詳しくは知らない

 

では何が言いたいかと言うと、今現在、自分は見るも怪しい廃城の前にいる。

 

ここまでの経緯を延べると熊の足跡を追跡し、争った形跡がある場所まで来た。しかしそこにあったのは馬の蹄の痕、熊をやった奴は騎士で間違いではないと確信を得たは良いが蹄の痕がとても大きい物であった。

 

それに興味、もとい調査のためと割り振り、馬の足跡を追跡すれば見るからにおどろおどろしい廃城に出たと言うわけである。

 

馬が近くにいると思い、探してみたが小さな小屋と草が延び放題の花壇、そして古い藁の山があるばかりであり、馬や人の影や形は見当たらない

 

多分、件の者は城の中にいるのだろう。不法侵入にならないように少し古めのノッカーを鳴らし、訪ねる意思を見せる。

 

コンコンと風と木の葉の私語だけが聞こえる静寂さの中でノッカーの音は嫌に響いた

 

しかし何も反応がない

 

もう一度鳴らすがやはり反応はなかった。

この城は見た目通り誰も住んでいないのであろう

 

ただ少し気になる扉に手をかけるとあっさりと扉は開いた

 

だが扉に鍵はかかっていた。正確に言うならば引っ掛かっている。

 

誰かに鍵が壊された痕が残っている。しかも真新しい

 

つまりこの城には誰か、いや何が住んでいるのは間違いない事であり、調査の必要があるのは確かである。

 

少々子供特有の好奇心に駆られ、調査と称し探検をすることにした。

 

 

 

 

 

 

今の自分は年相応の冒険心に浮かれ、古い城内を探索していた。

 

炊事場、客間、大きな使用人用の食堂

 

どれもが古びてはいるが埃は被っておらず、深々とした雰囲気を醸し出していた。

 

こう言った場所に対して心を表すならワクワクと言った所だろう

 

大体の人は昔味わった事があるあの感覚だ。

 

沢山ある部屋を一つ一つ好奇心の赴くまま開けて見るがほとんどは使用人の部屋であった。

 

 

 

ただ使用人の部屋を少し見てみると内装は少々豪華な女性の部屋と言った物ばかりであり、質の良いメイド服が各々の部屋にあった事からほとんどの使用人はメイドと言うことがわかる。

 

この城の持ち主は余程のメイド好きだったのだろう、良い趣味をしている。

 

そんなこんなで部屋を調べ、もとい探検しながら城内を探索していると最上階へと続く場所に出る。

 

率直な感想としてお金かけてるな、としか出てこない

 

しかし途中で主人の部屋の様な場所もあったが見栄を張った金のかけ方ではなく、悪徳貴族の様な少々派手な装飾や高そうな壺、よく分からない絵画ばかりが並んでいた。

 

私的には芸術のげの字も知らず何とも言えないのであまり興味は引かれない。

 

余談だが本当に美しいと心から思ったのはエリス様だろう、女神だからと言うのもあるがあれこそ自分は美だと言える。

 

そんな芸術品の数々を尻目に奥へと進むと最上階の部屋の前へとたどり着いた

 

流石は最上階と言った所だろうか、わかりやすく言うならばそれは扉と言うにはあまりに大きな物だったと言えるだろう

 

分厚く、重く、そして装飾が多過ぎた。まさにお城の扉だった。

 

冗談はここまでにして扉に手を掛け、押し開ける。

 

やはり少し古いのか、少々軋む音を出しながら扉は徐々に開いた。

 

「あっ……」

 

誰かの声が聞こえ、ひょっこりと顔を出すと、そこにはエプロンをつけ、叩きを持った首なしの鎧騎士が大勢のアンデットと掃除をしていた。

 

「誰だ!」

 

一番奥に居た首なし、多分このアンデットのボスであろう奴が声を上げると大量にいるアンデットがそれぞれ手に持つモップやホウキを構え始めた

 

そこは剣とかでは無いのかと突っ込みたくはあるが妙に迫力満点である。

圧倒される光景ではあるがいかんせんシュールだ。

 

「子供がこんな所に何の様だ」

 

少々失礼ながら失笑しそうになっていると奥の首なしの騎士がそう問い詰めてくる。

その声色はただ問い詰めようとしているようで殺気などは感じられない、もちろん周りの骸骨達からも殺気はほぼない

 

しかし答えて置いた方が良いだろう、特にボスの首なし騎士、有名どころで言うスリーピーホロウ、またはデュラハンと言えるであろうその騎士は逆立ちしようとも絶対に勝てないと本能が言っている。

 

取り敢えず町の周りに異変があったために調査をしていたと包み隠さず正直に話す

 

「調査か……まぁ嘘では無さそうだな」

 

むしろ嘘をついた所で意味はあるまい、大量のアンデットに囲まれている時点で負けは確定なのだ

 

一騎当千のチート特典ならばこの状況をひっくり返す事はできるだろうが自信の特典では良くて逃走だろう

 

もし逃走すらできなければ煮るなり焼くなりされるか引ん剥かれてエロ同人見たいに乱暴される可能性もある。

 

少年拘束プレイ趣味とか持っていたら別の意味で自分はピンチだ

 

「いや、そんな趣味を俺は持ってないからな」

 

ヤらないのか?

 

「ヤらんわ!」

 

キレッキレのツッコミをされたが貞操は大丈夫そうだ、しかしならば自分は処分されるのか聞いてみる。

 

「俺はこう見えて生前は騎士でな、女や子供、ましてやお前の様な戦意が無いものを殺しはしない」

 

身の保証はされた事に一つの安堵を覚える。しかし周りを囲うアンデットは未だに手にモップ等を持ちながらジリジリと近づいて来ていた。

 

「ただし、情報が漏れると言うのは都合が……まぁそこまで悪くないが一応数日間は拘束させて貰うとしよう」

 

どうやら潔く返してはくれなさそうだ

 

「大丈夫だ、本当にただ少しの間、拘束するだけだ、これは俺のベルディアの名に掛けても良い」

 

暴れんなよ…暴れんなよ…とか、大丈夫大丈夫先っちょだけ…先っちょだけだから…と言う幻聴が聞こえてくる。いやアンデット達から聞こえるそれは幻聴では無いのだろう

むしろベルディアとやらは大丈夫だろうが周りのアンデットがほぼ確実にアウト、絶対に逃げなければヤバい

 

「行け!」

 

ベルディアが指示を出した途端、アンデットが一斉に飛び掛かってきた。

 




実は自分は昔、友人の家で大量のキャベツが冷蔵庫に詰められ緑一色に染まっているのを見て驚いた事があります。

友人いわく実家から大量に送られてきたらしくキャベツ料理が数日は続くとげんなりしながら言っていたのでキャベツ恐るべしと思いましたね。


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一日千秋、濃い一日

大幅に書き直したら文字数が増え、気がついたら1万文字超えるとは……


今回も暇潰し程度にお読みいただければこれ幸いです。

感想と評価、お待ちしております!


一斉に飛び掛かる鎧骸骨

 

閉められた扉

 

降りかかる拘束具(雑巾)

 

一体でも上に乗られたらそこで終わりだろう

 

だからこそ素早く、そして自分を見失わせ、ここから抜け出すしかない

 

三十六計逃げるに如かず

 

ポケットから煙玉を取りだし、地面に叩きつける。

 

ボンと言う音と共に煙が吹き出し、瞬く間に室内が真っ白に埋め尽くされた。

 

それと同時に気配遮断、音消しなどのスキルを発動

 

煙玉により、虚を突かれたせいかアンデット達は少しの間、硬直する。

 

その隙に敵感知を発動すると扉の後ろから反応が幾つも現れた。扉から逃げようとしてもすぐに取り押さえられるだろう、故に別のルートを探す必要がある。

 

そして逃げられる場所がないかと辺りを見渡すと掃除するときに開けたであろう開きっぱなしの幾つもの窓が見えた

あれからなら予想が正しければ脱出できるだろう

 

身長の低さを利用しアンデット達の股の下をすり抜け、またはアンデットを踏み台にし、群れの間を通り抜ける。

 

しかしアンデットとは元々生者の生命力を感知し生者へと襲い掛かるモンスターである。その為すぐに復帰した幾ばくかのアンデットが視界探知から生命探知へと切り替え、煙の中を自分目掛け走り込んできた。

 

だが捕まるわけにはいかない、メリクリウスでメイスを作り、走り込んで来る奴等の足を殴り転倒させる。

 

頭を狙わなかったのは単純に上向きでは殴り辛いのと確実に倒せる保証が無いため機動力を奪う名目で足を狙っただけである。

 

スイングで足をひしゃげさせ、その隙に掴んできた奴はその腕の間接を極め、上体を崩した所で顎を掴み、そのまま地面へと後頭部から叩きつけ、タックルをしてくる者には身長を利用し更に低いタックルでカウンター、双手刈で転ばせ、倒れたところを踵で喉を踏み抜き砕く

 

一体一体はそこまで強くはない、むしろ捕まえようと加減をしているようで一体ずつなら捌けるが数が問題だった。埒が開かないほど多い、何か逆転させる手はないかと模索する。

 

取り敢えず足先に転がるメイスを拾い上げた。

 

しかし拾い上げた時に一瞬だけアンデットが下がるのが見えた。

 

先程メイスを作り出した時には気が付かなかった些細な変化、武器に怯んだと言うよりも武器その物に恐れを抱いた様だ。

 

アンデットが苦手な物、神聖魔法、聖水等の清いものを含め聖なる物が苦手

 

つまり銀が苦手なのはどのRPGでも有名な話だ。今握っているメイスもメリクリウス、つまり水銀で作った銀故に怯んだのであろう

 

何と無しに作った武器が思わぬ嬉しい誤算を生み出し、自然と悪い笑みが溢れる。

 

それ逃げろ、とメイスを投げつけ、また新たに武器を作り放り投げる。

 

気分はちょっとした悪役、一度はやってみたかった事であり、逃げ惑うアンデットを見て愉悦と、かの金ぴか古代王の真似をする様に高らかに笑いを上げながら投げまくる。

 

クハハハハ!強化解除

嘘です、すいません

 

水銀で鎖も作れ、投げて絡ませ転ばせるがそろそろ色々と怒られそうなので普通に武器を作り投げつける。

 

しかし一番効果的だったのは水銀のままでぶっかける事だったが、胸にかけて!胸に!とか叫びながら嬉々として突っ込んできたアンデットがいたのでやめた。

ちなみにそいつは穴と言う穴から水銀を流し込み昇天させたので蘇ることはないだろう

 

そして武器を投げつけつつ窓へとついた時には煙がちょうど晴れた時であった。

 

 

「煙玉にスキル、そして機転の聞かせ方に中々の観察力……良いセンスだ」

 

 

ベルディアが目の前に現れた。

 

多分この首なし騎士だけは煙玉を使おうともスキルを発動しようとも何かしらの方法で自分を見ていたのだろう

 

もし窓から逃げると予想するとしても幾つもある窓からピンポイントで自分が向かった場所にたどり着くのはほぼ不可能な筈だ

 

 

「それで窓から脱出しようとしているようだから教えてやろう、その先はこの城の玄関前、飛び降りよう物ならひとたまりもないぞ」

 

 

ベルディアは多分気遣いでそう言ったのだろう、しかし玄関前だからこそ、この窓を自分は選んだのだ

 

 

「おい、まさか飛び降りる気か!?」

 

 

ベルディアが少し驚愕しているがそのまさかだ

 

窓際の縁に飛び乗り、体を反転させる。

 

 

「良いか!お前はまだ若い、自暴自棄になるな!」

 

 

やはり魔王軍とは言え元騎士なのだろう、その心遣いに思わず微笑する。

 

しかしそれらを無視し、窓の縁から手を離して立ち上がる。

 

 

サラダバー!そう、大声で叫び、羽の様に手を広げて後ろへと跳ぶ

 

空中に浮遊する感覚を一瞬だけ感じた瞬間に自分は落下を始めた。

 

慌てる様子のアンデット達が窓から顔を出し、ベルディアに関してはデュラハンだけに二つの意味で頭を抱えている。

 

落下して行く自分の体

 

普通ならばこのまま地面と激突すれば自分はザクロの様に赤い染みになるだろう

 

しかし絶対に助かる確信があった故に飛び降りた。

 

落下のスピードを上げた自分の体は重力に従い高速で落下

 

数秒もしない内に地上へと迫る

 

 

そして古い藁の山へと体を着地させた。

 

 

 

 

 

 

時は変わってギルド

 

「えぇっ!?首なしのデュラハンが居た!?しかも名前はベルディア!?」

 

ヒモ無しバンジーで命からがら逃げ仰せた自分の報告に受付嬢のルナが素っ頓狂な声を上げ、勢い良く椅子から立ち上がる。

 

そんなに驚く事だったのだろうか、

 

「驚かない訳無いですよ!そのデュラハンは魔王軍の幹部何ですから」

 

まさかの魔王軍幹部だとは思わなかったが意外と大物だったことに驚く

しかし同時にラッキーであるとも思えた。

原因の解明と共に今回の調査の料金は結構期待できるからだ。これで当分の間は依頼を受けなくても食べて行けるしクラフトブックに書かれている物作りもできる。

 

「それにしても女子供に手を出さないと噂のベルディアですが良く御無事でしたね」

 

あのデュラハンが殺す気で来てならば自分は生きてはいなかっただろう、しかしベルディアは拘束しようとしていたのに加えそこまてやる気は無かった

 

ある意味運が良かっただけである。

 

「無事に帰って来て貰えて何よりです」

 

受付嬢のルナが慈しむ様な顔で儚く微笑む

ルナ自身が出した依頼で危険な目に会うのはルナに取ってあまり寝覚めの良い物ではなかったのだろう

根本的にはゴリ押しで無理矢理依頼を受けた自分が悪いのだが早い段階でこうした失敗を踏めた事はとても有益であった。

 

それにしても調査の依頼を受けたらまさか魔王軍との逃走劇を繰り出すことになるとは今日は色々と濃い1日の様な気がする。

 

しかしあれほどの強者から偶然助かると言った奇跡だよりで逃げるのは止した方が良いだろう

 

逃走に必要なのは偶然ではなく必然だ

 

その為の道具や自分をなるべく有利にできる隠し玉を作る必要もある。

 

幸い報酬はたんまりと貰った。後はクラフトブックにて道具の制作方法、それと必要な素材を購入し、今日中に一つは道具を制作すると言うスケジュールを組み立てる。

 

ルナとの会話をそこそこに報酬を受け取った自分はギルドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

草木も眠ると言う使い古された言葉がしっくり来るような時間帯

 

我が儘な、お嬢様なら大人はもう寝る時間だと逆に説教をしそうなくらいに外は暗く、とても静かである。

 

ギルドからの報酬で買った材料、火薬を慎重に小分けにし、メリクリウスの水銀で形作ったケースに一つずつ詰めて行く

 

科学の歴史が産んだ兵器、鉄砲の制作中である。

 

鉄砲と言うよりは銃弾の精製と言った所だが銃本体に関してはクラフトブックにご丁寧に書かれており、パーツ各種をメリクリウスにて制作、プラモデルの様に一つずつ組み立て、試作品として横に置いてある。

 

また銃弾に必要なプライマーは雷酸水銀と言う水銀の一種であるためメリクリウスでイメージすると作れた。

 

本来なら一つ一つパーツを削ったり、調整したり、精密に計算しなければならない銃であってもメリクリウスと言うチート特典のおかげでそんなパーツも水銀からホイホイと作れ、あっという間に一つ完成した。

 

ちなみに制作したのは俗に言う握り鉄砲と呼ばれる拳銃をである。

 

そして銃弾の火薬に関してだがこの世界は以外にも火薬は売っている。煙玉に使用した物がその一つだ。

 

しかしこの世界で銃が発達しないのは一重にスキルと職業の存在があるからであろう。

 

遠距離は確かに強いがスキルによる攻撃が普通にそれを上回る力を発揮し、魔法と言う殲滅型の遠距離攻撃もある。

 

そうとなると複雑なパーツを一つずつ作り、専用の弾を作り、出来たのが音が物凄い出る遠距離武器、しかも制作に結構お金が結構かかるとなると誰も作ろうとは思わない

 

むしろスキルの恩恵や職業補正が乗る弓や魔法を先に使うだろう、ましてやこの世界は地球と比べて巨大生物が多数生息している為に大口径のライフルで吹き飛ばすか急所を狙う技術がなければただの豆鉄砲、人を殺すことには長けていても巨大生物を即座に殺すには至らない

 

かつてノイズと言う国では銃らしき物があった様だが今現在、ノイズはとある理由で滅んでしまい使用していた武器が銃かどうかは推測の行を出ず、デストロイヤーと言う兵器に乗った開発者が最後の技術者らしいが十中八九死んでいる筈なので知ることはほぼ不可能だろう

 

また魔法やスキルが発達しているが故に科学があまり進んでいないとも見受けられる。

 

しかし指先一つで強力な攻撃を繰り出す事ができる銃はそれこそ力が非力な子供や女性であっても使うことができるのが強みだ。

 

スキルに関しては狙撃や属性付与は乗るだろう、効果はそこまで期待できないと思うが……

 

そもそもこの世界のスキルは武器を触媒にしている節が幾つものある。例えるなら弓矢なら狙撃、魔法なら杖と言った様に武器はスキルの増幅機と言える。

 

スキルの力が乗るのは攻撃する面積が多い物ばかりであり、矢、剣、杖とRPGお馴染みの武器達が主である。銃は弾頭の部分が弓矢で言う矢に当たるならスキルの力が乗る面積がとても少なく、その分スキルの恩恵を受け辛いと思える。

 

しかし不意をつける道具としては最適な小型拳銃ならばスペツナズナイフより携帯性は高い、また暗器としては優秀だ。

 

ただ咄嗟に使うには腕に仕込んだ方が良いだろう、取り出して使うよりは高い確率で不意をつける。

 

その為、仕込む土台が必要だ。

 

と言うわけで籠手を制作しました!いや~本当に便利ですねメリクリウス、とどこぞの実況者の様な口調になるが本当に便利である。

 

また耐久性に関して銀は鉄の半分の硬さしかないとされているが、メリクリウスの銀は其処らの物より頑丈になるらしく簡単には壊れない。壊れても作り直せるのもまた魅力だ。

 

力に溺れないようにと選んだ特典ではあるが特典は特典、この世界の基準に置いてもチートだと改めて再認識した。

 

隠しナイフに隠し鉄砲を籠手に付け、動作を確認する。

 

銀色の刃が冷たい輝き放ちながら飛び出し手首を軽く振ると銃へと切り替わる仕組みが作動し、

 

武器が新しく増えた事により気分が少し高揚する。しかし気持ちとは反対に体は正直な為、大きな欠伸が出てしまい、瞼が重くなった。

 

危険物を作る悪い子だとしてもまだ子供、やはり深夜はお眠な時間帯で睡魔がドロリと体にまとわりつく

 

今夜は此処等で切り上げるが吉だろう、幸い雨は降っていない為にウィズさんもこの小屋を使うことはないだろう。

 

勝手に持ち込んだ布でハンモックを作り、意気揚々と飛び乗り横になる。

 

誰もいない空間に向け、お休みと言い意識を手放そうと目を閉じ……

 

 

「あ━━━━━━━━っ!」

 

 

どっかで聞いた事のある大声で意識が覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

突如謎の大声が聞こえ覚醒した意識は警戒よりも驚きの方が勝ってしまい、しばしの間ハンモックの上で呆けてしまった。

 

 

「やめてえええええええ!!!」

 

 

しかし呆けるのもつかの間、ウィズさんの声も聞こえて来たので慌てて武器を装備しハンモックから飛び降りる。

 

あの声は巻き込まれたか襲われたのかも知れない。この町を知った気になり、無法者はいないと思い混んでいたがここは異世界、いることにはいたのだろう

 

だが恩がある知り合いが襲われているならば助けざるを得ない

 

扉を少々乱暴に突き退け、外に飛び出る。

 

外には今はもう見慣れた人魂がふよふよと一定の方向に進み流れていく。その方向に進むとウィズさんの魔方陣が鈍く光を放っているのを発見し駆け付ける。

 

 

「ターンアンデット!」

 

 

一際強い光が見えた時、自分の周りにいた人魂が全て消え去った。

 

 

「きゃー!」

 

 

ウィズさんが悲鳴を上げ、たたら踏む様子が見えた。これは襲われているのに間違いはないと確信を得、犯人であろう影に向かい割り込むようにドロップキックをした。

 

 

「ぐぇっ」

 

 

「えっ??ちょ!?アクアー!」

 

 

人影がカエルの様な声を出し吹き飛ぶ、しかし別の声が聞こえたと言うことは仲間が少なくとももう一人いるのだろう。

 

あまり見えてない中、作り出したワイヤーを声の方向へと投げつけ、巻き付いた瞬間に引き寄せる。

 

 

「うぉぉぉ!!!」

 

 

どうやら声的に男の様だ。うっすらと見える人影もそんな感じである。

 

そして足元まで引きずり終わった瞬間に飛び乗り、手足を拘束したまま首もとにナイフを押し当て、悪人の決め台詞、動くなこいつがどうなっても良いのかを発した。

 

まだ仲間がいるかもしれない、それ故の警戒

 

後ろにはウィズさんもいる。人道的ではないと言えるが実際に人質はとても有効な手段だ。

 

 

「カズマ!カズマ大丈夫ですか!今助けます!」

 

「大丈夫か、カズマ!」

 

小柄な人影と少々背の高い人影が近づこうとしたので首を持ち上げ、更にナイフを押し当て牽制する。

 

卑怯に見えるだろうが確認できただけでも相手は四人、自分達は二人と数では倍の差があるため正々堂々としていては確実に不利であり、勝ち目も薄くなる。

 

また相手のレベルも未知数となるとどんな手であろうとも使わなければ自分のみならずウィズさんも危険になる可能性がある。

 

卑怯言うなかれ、これは戦い、生死がかかっているのだ。

 

 

「うう頭痛い……ちょっと何するのよ!頭打ち付けたじゃない!慰謝料払いなさいよ!慰謝料!」

 

 

「おい!ちょっとまて空気読めよお前!刺激すんなよ!」

 

 

「あらやだカズマさんったらどうしたの?そんな惨めな格好しちゃってププッ!」

 

 

「お前マジでふざけんな!?」

 

ギャーギャーと言い合う二人は状況がわかっているのだろうか、気が抜けそうになるが改めて威嚇するように斜め方向に発砲する。

 

 

「いやぁぁぁぁぁ!私の、私のチャームポイントに掠ったぁぁぁぁぁ!」

 

「ほら見ろ!言わんこっちゃない!」

 

 

更に激しく騒ぐ二人に少し呆れる。本当に仲間なのだろうか

 

しかしそれよりも重要な事を聞いた気がする。先程人質に取ったこの青年は仲間からカズマと呼ばれていた。

カズマと言えば自分と同じ転生者でキャベツ狩りの時に少し面識を持った日本人

 

しかもドロップキックをかました相手に対してこのカズマはアクアと呼んでいたため暗くてわからなかったがこの人質は十中八九、日本人のカズマだろう

 

ならば他の二人は自分ごと爆裂魔法で吹き飛ばしためぐみんと硬さに定評のあるお世話になったクルセイダーのダクネスと言うことがわかる

 

無法者ならばこの無縁墓地で処分して埋めるつもりであったが一応お世話になった人もいる

触れてわかった人柄からして何か間違いがあったのかも知れない、話は聞いた方が良いだろう

自分は空いている片方の手で初級魔法のライトを唱えた

 

 

「ッ!?ユーリ!?どうしてここに!?」

 

 

魔法の光によって顔が見えた事によりこちらを認識し、皆が動きを止める。

 

 

「えっ?俺取り押さえてるのユーリなの?」

 

 

こちらを困惑した様子で見ているカズマの拘束を解き、何があったのか訪ねる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達はこの共同墓地に沸くゾンビメーカーの討伐に来たわけだがいたのはまさかのリッチーだったと言うことでアクアが突っ走ったのが今までの経緯だ」

 

カズマが簡潔にわかりやすく説明したおかげで大体理解できた。

しかしまさかウィズさんがアンデットの王であるリッチーだとは思わなかった故に少し驚いている。

ただウィズさんの優しさや気遣い、滲み出る人情から悪い人には見えない

 

「そいつはリッチーよ!リッチー!そんな腐ったみかんのようなアンデットが墓地でやることなんて良くない事に決まってるわ!」

 

 

アクアが犬歯剥き出しでガルルと唸りながら自分の後ろにいるウィズさんを威嚇する。

しかしウィズさんは確かこの墓地にて迷える魂を天に返していた筈だ。目の前で見ているので間違いはない

 

アクアの威嚇にウィズさんは若干たじろぐがカズマが話ができないとアクアのそれを抑えた事により、ウィズさんは話を始めた。

 

 

「はい、その……私はリッチー、見ての通りアンデット王なのでこの墓地に来る迷える魂の声が聞こえまして」

 

 

そこからウィズさんはポツリポツリと溢すように一つ一つ語った。

この墓地の事、迷える魂が天に還りたがっていること、この町のプリーストは見向きもしないこと

自分は概ね前に聞かせて貰った物なので理解はしているが改めて聞いてみてもやはり悪人とは思えないし見えない

 

何故リッチーなどやっているのだろうかと思ったが人間をやめる事になった理由などそう易々と聞いてはいけない気がして、聞かない事にした。

 

 

「なるほどな、ここにウィズがいる理由はわかった」

 

 

カズマが話を聞き、理解したようで話が進んでいる。今回は初対面と言うこともあり、偶然が重なった不幸な事故だったのだろう

大事に至る前に和解出来たのは幸運であった。

若干1名はまだ納得言ってない顔をしているが敵意は感じられない、もう大丈夫だろう。

 

 

そう思っていた時期が私にもありました

 

 

「そいつはリッチーよ、私達にとっての敵なのよわかってる?」

 

 

アクアがぷんすかと騒ぎ始めた、どうやら納得していないようだ

 

 

「しかもこんな時間にユーリがここにいるのもおかしいわ!はっ!もしかして操られてる?おのれリッチー!子供を操るとは女神の名において許せないわ!滅してやる!」

 

 

突然アクアの周りに青い魔方陣が出現し光輝く

どう見てもウィズさんごと浄化する気満々であり、このまま魔法を発動させたならばウィズさんは良くて大ダメージ、悪くて消滅するだろう

 

咄嗟にワイヤーを作り出し、アクアの首、そして腕を巻き取って拘束する。

 

 

「ちょっと外しなさいよ!」

 

 

しかしステータスが高いのか、もがいて無理矢理ワイヤーを外そうとしていた。

 

だからこそワイヤーの量を増やしアクアを更に締め付け雷属性付与を発動させる。

 

即席のテイザー銃、出力を少し低めにしているので死ぬことはないだろうと思い電気を流した。

 

するとどうだろうか、バリバリと音が出ながら電気が流れ某アニメ風に一瞬白骨化した幻影が見えるがそのまま続ける。

 

 

「あばばばばばばば!」

 

 

続けること数十秒、アクアはプスプスと煙を上げ黒くなり、頭をアフロにしながら突っ伏している。

 

流石にやり過ぎただろうか、と心配するが女神と言うだけ耐久力はかなりあるらしい

 

 

「おーいアクア、頭冷えたか?」

 

 

カズマが心配する素振りを見せずにアクアに話かけている。

パーティーメンバーを攻撃したのだからてっきり何か言ってくるのかと思ったのだが、カズマは先に手を出そうとしたのはアクアと言うこともあり、何も言ってはこなかった

 

 

「私、だずげようとしただけなのにー!わぁぁぁぁぁぁー!!!」

 

 

アクアがわんわんそのままの状態で泣き始めた。アクア本人はアークプリースト、つまり神敵であるリッチーを目の敵にしているが今回の行動はある意味自分を心配して取った行動なのだろう

 

少し罪悪感があるが最悪のケース、つまり敵対してしまうのは回避できただけマシだと思い、開き直ることにした。

 

 

「ほらアクア、最後まで話を聞かないからそうなるんだぞ、今度から早とちりはするなよ」

 

 

カズマが諭すようにアクアをあやし、慰める。

 

 

「アクア、同情はしますが今度から気をつけましょう、ほら泣き止んでください」

 

 

爆裂娘こと、めぐみんは少し同情をしながらアクアを泣き止まそうと励ましている。しかし思うところがあるのか自分には何も言ってはこなかった

 

 

「いいなぁアクア、あんなに拘束されてビリビリされるなんて、とても羨ましい……」

 

 

ダクネスに関しては斜め上なのか下なのかよく分からない反応をしていた。

ダクネスに関しては多分肩でも凝っているのだろう、後で解す事ぐらいならやって上げても良いかもしれない。

 

 

「あの、その、何と言うか私のせいでごめんなさい」

 

 

「いやいやウィズは悪く無いぞ、どっちかって言うと早とちりしたアクアの方が悪いからな」

 

 

何が何やらわからぬ様子でウィズさんは謝っているがカズマがそっとフォローするようにウィズさんを訂正する。

 

確かに先に手を出そうとしたのはアクアだ、しかし手を出してしまったのは自分のためウィズさんが謝罪するのはお門違いであり、謝罪するのは自分の役目だろう

 

アクアに近づき謝罪する。

 

 

「今度ご飯奢って、お酒買ってくれたら許すわ……それと入信」

 

 

最後にナチュラルに宗教勧誘されたがやんわりと断り、変わりにご飯は必ず奢ると約束する。

酒に関しては自分は飲めない+知らないので本人が飲みたいものを一つだけ選ばせて買ってあげることを約束した。

 

 

「そうでなくっちゃ!」

 

 

目に見えてアクアは元気を取り戻し語尾に音符付くくらいご機嫌になった。一先ずこれにて蟠りは解消できたのだろう

 

色々と濃い一日の終わりに思わずため息を空にこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

 

隣を歩くウィズさんがそう感謝の意を表し、お礼を伝えてくる。

その声色は何処か安心した様子であり、また深い慈愛を感じさせていた。

 

成り行きで助ける形になったとは言え、助ける事ができて良かったと言っておく。

 

 

「本当にありがとうございますね、ユーリさん」

 

「ユーリさんが居なかったら最悪本当に召されていてもおかしくはありませんでした」

 

何度も何度もウィズさんは感謝と共に頭を下げてきた。

 

 

「何かお礼ができたら……」

 

 

ウィズさんがそこまで言いかけた所で制止させる。

実際、今回の事に関しては自分は好きでやったことであり、むしろ家に止めてもらった時の恩返しである。

 

そのためにお礼等はいらないと伝える。

逆に一宿一飯の一飯を返したに過ぎないのでまた何か困った事があるならできる範囲なら手伝いをすることを申し出た。

 

 

「ふふ、ユーリさんって義理固いですね」

 

 

ウィズさんはにこやかに微笑み一つはにかんだ

 

 

「でしたら一つだけお願いがあるのですが良いですか?」

 

 

できる範囲ならばやると言った手前、申し出を断る事はない

ショタに二言はないのだ

 

 

「ありがとうございます。それではですね、一つだけ」

 

 

「私の事はウィズって呼んでもらえませんか?」

 

 

それはささやかな願いだがとても大きな願い事に聞こえた。

 

 

「さん付けですと少し距離を感じるので呼び捨てにしてくださいね」

 

 

ショタに二言はない、その願いを了承し、頷く

 

するとウィズさん、いやウィズはありがとうございますと更に微笑み、自分の頭を優しく撫でる。

 

その手は前よりもずっと暖かく、そして優しく感じる。

 

 

前よりもずっと絆、もとい心の距離は近づいたと感じられた。

 

 

 

 

◇オマケ

 

 

 

一件が収まり解散の雰囲気が出始める中で最後にダクネスを呼んだ。

 

 

「どうしたユーリ?」

 

 

ダクネスはいつもの鎧を着けておらず、とてもラフな姿であったためとても都合が良かった。

 

とりあえず少し姿勢を低くさせ後ろを向かせる。

 

 

「何かするのか?」

 

 

頭に疑問符を浮かべながら後ろを向いたダクネスの背中にメリクリウスを付着させる。

そして電気を流した。

 

 

「んにゃあああああ!?」

 

 

微弱な電気を突然流したからかダクネスが変な声を上げ、体をびくりびくりと跳ねさせる。

 

少しくすぐったかっただろうか、もう少し電力を弱める。

 

 

「ユ、ユーリ!?一体にゃにお!?」

 

 

体を震わせながらダクネスは声を上げているので説明する。

 

ただの電気マッサージであると

 

 

「……」

 

 

……

 

なんだろうこの沈黙は

 

少し前、アクアにやった時にとても羨ましそうにしていたため背中が凝っていると思いやったのだが違ったのだろうか?

 

昔本で読んだ胸が大きな人は肩が凝りやすいと言う話があり、ダクネスも凝りやすいと思いやってみたのだが……

 

 

「あぁ、成る程そう言う事ね……」

 

 

カズマがダクネスの方を見て納得したかのように頷く、多少にやけ面、いや鼻の下を伸ばしながら納得している様はあまり格好がついていない

 

そうこうしているうちに時間がたった為に一旦メリクリウスを解除し、電気を止める。

 

 

「ハァハァ……しゅごかったぁ~……」

 

 

ダクネスは腰が抜けたようにそこに座るが効果は出ている様子で肩を動かしていた

 

 

「今度はもっと!もっと強めにやってくれ!!」

 

 

流石に試運転の為に威力をあげることは許可できないと断る

またあまり連続でやっても逆に揉み返しが起きて体に負担がかかってしまうだろう

 

そう言うとダクネスは残念そうにしていたがこれは仕方あるまい、今度はもっと上手くなったらしてあげるのも良いだろう

 

 

「あれよりもっとしゅごいのが……」

 

 

「おーい発情すんな、言っとくが年齢的に手出したら犯罪だからな、リアルおねしょたはアウトだから絶対やめろよ」

 

 

「そ、それくらいわかっている!手なんぞ出すわけないだろう!」

 

 

顔を真っ赤にしながら否定するダクネス

 

ダクネスに関してはクリスの友人と言うこともあり、全面的に信頼はしているので何か間違いを犯すことはないだろう

 

ましてや騎士だ、信頼はしている。

 

その事を伝えるとダクネスは少し照れ臭そうに頬をかいていた。

 

 

「ねぇカズマさん、私ショタの恐ろしさ初めて知ったわ」

 

 

「奇遇だなアクア、俺もだ、あそこまで純粋だとむしろ恐ろしいよな」

 

 

「純粋過ぎるのって怖いですね」

 

 

カズマ達は何やらひそひそと話をしているがあまり聞こえなかった。

だが重要ではないだろう

 

寒空の下で時間も遅い、早目に切り上げて寝ることにした。

 




ここまでお読み頂きありがとうございました。

次の投稿に関しては作者がかなり忙しくなるので少し遅れてしまいます。ご了承下さい

最後に感想お待ちしております


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あの鐘の音は……

お久しぶりです読者の皆さま方

最近やっと忙しい一時的に抜け出せた為に新しい話が書けました。
暇潰しにお読みください。


感想と評価お待ちしております。






追記:部屋の中央に…の所のアイテムを黒い布→意匠を凝らした籠手に変換しました。


肌を湿らす汗

 

薄暗い空間

 

人々の笑い声

 

 

肌を舐める熱気に酒と料理が混ざった香りが充満し薄暗い空間に人々の笑い声が木霊する。

 

昼間から酒精を帯び、顔を赤らめる男達を尻目にその間を抜けるがその際に何故か男性、及び女性に凝視された。

 

 

「あんな娘、居たっけ?」

 

「新しい職員さん?」

 

「あー、いいっすねぇ」

 

女性のヒソヒソとした会話と視線を気にせず、何故か尻を触ろうとする男の手を叩き落とし目的のテーブルまで向かう

 

そして目的のテーブルまでたどり着き、料理を提供する。

 

 

「おはよう、ユーリ君」

 

 

料理を置いたテーブルの先にいたのはクリスであった。

最近あまり見なかったが久しぶりである。

 

 

「うん、久しぶりだね、って言うかユーリ君こんな所で何してるの?」

 

 

見ての通りバイトである。

ここ最近、色々な物を買ったりアクアに色々と奢った結果、少々所持金が心許ないのでバイトしていた。

 

クエストに関してはあのベルディアのせいで依頼が激減、稼ぐ手立てが高難易度のクエストかバイトしかない

 

高難易度なんて受けた日には自分の実力じゃただのフレッシュミートである。折角転生したと言うからには無謀な真似はあまりしたくはない。

 

それ故にギルドにてバイト、主に接客業であるウェイターを始めた。

 

何故ウェイターであるかと言うと皿洗いやレジより小柄で素早い為にウェイターへと回されたと言うことである。

 

 

「へ、へぇ……バイトだって言うのはわかったけどさ……」

 

 

クリスは自分を頭の先から爪先までじっくりと見回し、少し引きつった笑みを浮かべながら

 

 

「何で女の子の格好してるの?」

 

 

じとりと重みを帯びた視線を向けてくるクリス

 

しかしその視線に答えるようにクルリと目の前でターンしてあげた。

 

 

どう?似合ってるでしょ?

 

 

「そうじゃなくて!」

 

 

膝より少し上のスカートをつまみ上げ、もう一度クルリと回転する。

確かに肩から鎖骨、胸当たりまで大胆にカットされた服であるため多少恥ずかしいと思う。しかし男故にサービスは無いしスカートの中には短パンを履いているのでラッキーも起きない

 

初めは多少抵抗があったものの意外と動きやすいために気にしなくなっていた

 

まぁ一番の理由としては自分のサイズの服装がなかったのと周りの職員にべた褒めされた事が原因ではある。

 

 

「なるほどね……理由はわかったよ……」

 

 

少し疲れたような、それでいて濁った眼でクリスはこちらを見る

 

 

「だけどさ、その格好はなんと言うか、毒?」

 

 

毒とは、確かに露出が多い分、目に毒だろう

 

だか似合っているだろう?

 

 

「だからそうじゃなくて!?」

 

 

似合ってない?……

 

 

「あぁもう!似合ってるよ、物凄く似合ってますから!久しぶりに少し話そうと思って来たのに何でこんな事に……」

 

 

自分も同じく自画自賛であるが似合ってると思う

 

しかし投げやりなクリスの態度

 

やはり似合ってないのだろうか……

 

 

「……」

 

 

似合ってないのか……

 

 

「トテモオニアイデス……って言うか普通に着こなしてるのが微妙に悔しい」

 

 

ぐぬぬ、と悔しがりながらクリスは自分を評価する。

 

それよりも今はバイト中なので終わった後でいいだろうか

 

 

「普通ここで話を戻しますか!?流石に貴方のテンションに…って、あれっ?前にも似たようなやり取りが…」

 

 

少しからかい過ぎた様だ、何やらクリスが頭を抱えてショートしている。

だが流石にバイト中な為、これ以上話し込むのは不味いだろうと思いバイトの終わる時刻を教え、元の業務へと戻る

 

今日も一日、良い日になりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

喧騒も絶え、穏やかな日差しが柔らかく店内を照す昼下がり

 

最後に店の奥で一人ポツンと座っていた紅魔族の女の子に料理を持ち運びバイトは終了

 

軽く食事でも取ろうとサンドイッチとお茶を手にクリスの席へと向かう

 

だがそこにはいつもの活発なクリスではなく、ツンとした態度を取るクリスがいた

 

からかい過ぎた事を根に持っている様で少々不機嫌な様子だ

 

いや、良く見れば口元が少し弛んでいるため不機嫌なふりをして困らせようとしている。

 

ならばとフードを目深に被り、反省した様子で、それでいて後悔した様子で雰囲気を暗くする。

 

人間、目を隠せば意外と下手な演技もカバーできる。それを実践して見せよう

 

おもむろにそっとクリスの手を握る

 

 

「ユ、ユーリ君……」

 

 

自分の様子(演技であるが)に気がついたのか逆に不安な様子を見せるクリス

 

本来ならここでドッキリ大成功とするのも良いがそれではつまらない

やられたらやり返す、倍返しだ!

 

ちなみにやられてなくても自分はやり返す

 

 

「ユーリ君!?」

 

 

遂にはクリスはオロオロとし始めたが笑いをこらえて演技に徹する。

 

ごめんなさい、そうポツリと一言溢した。

 

 

「い、いや、その、もう大丈夫、大丈夫だから!」

 

 

クリスは必死に慰めようとしているのか更に動揺し、焦り始める。

しかしここでドッキリ大成功すれば怒られる事は確実、ならば最後に止めをさして流した方が良いだろう

 

そして最後に止めとして禁断にして悪魔の一言を放った。

 

 

ありがとう、クリス姉さん

 

 

完璧なタイミング、完璧な上目遣いの角度、完璧な笑顔と声

自画自賛ではあるがハリウッドもビックリな演技だと思える。

 

決まった、そう思いながらクリスを見ると様子がおかしい

 

ピクリとも動かないクリスの顔を覗き込むと放心した様子で固まっていた。

 

コ、コイツ!死んでる!

 

と言うのは冗談でクリスを起こすことにしたがあまりにも衝撃的過ぎたのかクリスが目覚めるまで少し時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

仕事を終え、いつもの服へと着替えて先程クリスがいた席へと向かう

するとクリスはぐったりと机に突っ伏し、伸びるもとい溶けていた。

 

「はぁ、何か凄く疲れた……」

 

机に伏したクリスは何やら疲れた様にため息を吐き出し、いつもの元気が鳴りを潜めているために労う様にお茶を渡す、疲れているようなので蜂蜜を入れたためいくらか回復するだろう

 

 

「ん、ありがとう」

 

 

ほっとしながら茶を啜るクリス

その姿から何処か疲労した様子が見え、少し弱々しい

 

先程からかったのが原因かと思ったが精神的と言うよりは肉体的に疲労しているようだった

 

何かあったのだろうか

 

 

「いや、最近忙しくってね、神器の回収案件が結構起きちゃってね、てんてこ舞いなんだ」

 

 

神器……転生者の特典、わかりやすく言うならチート

それの回収案件とは中々に大変そうであった。

 

 

「しかも最近になって回収するのが増えてね…ってごめん、なんか愚痴を言っちゃって」

 

 

別に構わないと返す

人間誰でも忙しければ愚痴くらいは溢しても構わないだろう、ましてや女神様の頼み事など責任感過重満載案件など愚痴でも溢さなくてはやってられない物と思える。

 

それが愚痴くらいでも適度なガス抜きが出来るなら聞く身としては本望だ、クリスには世話になっているが故に全然構わない

 

 

「ん、ありがとうねユーリ君」

 

席を立つクリス、もう行くのだろうか?

 

 

「うん、まだ残ってるし回収しないと危ない物もあるから、今度愚痴を聞いて貰ったお礼に何かしてほしい事があったら言ってよ」

 

 

お礼に何かしてほしい事……それを聞いて一つ頭に電気が走る。

 

それならばとクリスに向かい、してほしい事を一つ口にした。

 

 

 

 

 

 

 

青々しく広がる空

 

同じく青々しく茂る草原

 

カタカタと揺れる馬車は心地よく、優しく眠気を誘う。

 

柔らかな日差しの元、一つあくびをした。

 

 

「予想外だったよ」

 

 

クリスは嬉しそうに、それでいて何処か罪悪を感じた苦笑いをしながら呟く

 

そこまで予想外だっただろうか?

 

 

「予想外も予想外、確かにしてほしい事とは行ったけどまさか手伝わさしてほしいとは思わなかったよ。ユーリ君くらいの年ならもっと欲を出して良いんだよ?」

 

 

クリスは少し微笑みながら諭すように話す、その視線はとても慈愛が込められている気がした。

 

しかし別に欲が無いわけではない。

確かに今回はクリスを手伝ってあげたいとは思い、提案したが他にも理由はある。

 

理由は簡単、別の町にも行ってみたかった

たったそれだけの事だと思うなかれ、自由に生きることを決め、この世界に転生してからやりたい事、思い付いた事をやり、とても充実した日々は過ごした。

 

しかし充実しているとは言えアクセルの外、近場の森や平原を抜いて行った事はなかった。

 

だからこそチャンスだと思い、クリスの仕事に同行したのだ。

 

 

「成る程、まぁユーリ君がそれで良いならアタシからは何も言わないよ、だけどこれだけは言わせて」

 

 

「ありがとうユーリ君」

 

 

どういたしまして

 

少々照れ臭い気もするが嬉しい

 

それを気取られないようフードを深く被るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

賑やかな大通り

 

人々や冒険者、馬車が往来し商魂逞しい声があちらこちらから聞こえる。

 

祭りの様な騒がしさはとても活気ついており、何処か心地よい

 

 

「ついたよユーリ君、ここが王都だ」

 

 

冒険者の花形、王都

RPGでも定番なそこはやはりと言うか人が圧倒的に多く、それこそ圧倒される。

 

しかし王都とは…

 

クリスの行く場所は勝手に近場の町かも知れないと思っていたが故にとても驚いている。

むしろ初めは近くの町にて下車した為にてっきりその辺りだと思っていた。テレポートで飛ぶまではだが

 

 

「あぁ、そう言えば行ってなかったっけ?」

 

 

てへっ、とクリスは言っているがこの反応は確信犯だろう、短い付き合いとは言え彼女が何かしらするときには急にあざとい態度を取るのですぐにわかる

 

多分ではあるが自分が行くと言った辺りからサプライズとして黙っていたのだろう、お茶目な事だ。

 

しかし手伝いと言うこともあるからには先に用事を済ませて後日楽しんだ方が良いだろう

 

 

「終わってからの方が目一杯楽しめるし、今から行く場所は昼でも大丈夫だから行こうか」

 

 

こっちだよ、と手招きするクリスについていく

昼でも大丈夫と聞いた感じ夜にやらなくてはならない回収もあるのだろう

 

ふと、頭にある考察が浮かぶ

 

王都で夜に動く、夜に活動するとはまるで人目に触れないように移動しているようではないか

 

もしや他人の家に侵入しているのではないか、と考えた所で止めた

確かに泥棒の様な行為だろう、しかし盗むのではなく回収

ならば問題はないだろう

 

町の外へと歩いて行くクリスに追い付くように小走りにしてついていった

 

 

それから数十分と言ったところか

 

クリスと昼下がりの天気の中、歩んで行くと古びた、苔と草だらけの廃教会が見えてきた。

 

 

「この中のどっかに持ち主を失った特典があるんだけど、ね!」

 

 

教会にたどり着くや否やクリスはよいしょ、と少し大きめな両開きの扉を肩に力を入れて押している。

 

 

「思ったより固いね、この扉」

 

 

固そうに押すクリスを手伝うために自分も扉に手を掛けた。

 

 

「それじゃ321で押そう、行くよ!3!2!1!」

 

 

扉にぐいっと力を入れると扉が開いた。自分の方だけ……

 

 

「あはは…立て付けが悪かったのかな?」

 

 

誤魔化す様にクリスは少し笑い、そして半分開いた扉から中へと入った。

 

中は外見と同じ様に古びていた。しかしステンドグラスから射し込む光に静寂さが相まってとても幻想的である。

 

しかし開けたままの扉から風が入り、埃が舞ってしまった。

 

 

「凄いね」

 

 

確かに凄い

 

しかし見た感じただの教会であるが本当にあるのだろうか

祭壇、椅子、見た所二階もあるようだ

 

 

「絶対ここにある筈、ほらアタシって女神……の従者だからわかるんだ、まぁこれから探すことになるんだけどね」

 

 

探そうか、その言葉に頷き主を失った特典を探すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

探すこと30分、未だに手がかりが掴めないでいた。

 

日は高く、相も変わらず室内を照らしてくれるのは救いだが椅子の下から祭壇、教壇を探るが何も見つからなかった。

 

と言うよりそもそも主を失った特典が長いことここに放置されているのにも関わらず誰にも見つかっていないと言うことは元持ち主がこの教会の何処かへ隠したのは確実だろう

 

しかしその隠し場所も見つからない為に回収するのは骨が折れそうだ

 

 

「見つからないね……」

 

 

クリスも色々とひっくり返しながら探しているためか少々汗をかいている。

 

 

「もしかしたら外にあるかも、ちょっと見てくるね」

 

 

クリスが扉を開けて外へと行った。

 

扉が開き、風が入る事によりまた埃が舞う。

キラキラと舞い漂う埃を眺めながらふと、あることに気がついた。

 

埃が一定の方向に流れたのだ

 

風の通り道となる場所、と言うより風は扉から入っているが何処かへ微かに流れている。

 

その流れた場所を見て進むと教壇の下に風は流れていた。良く見れば微妙に何か違う床だ、絶妙に隠されていた為に気が付かないのは仕方ないだろう。

 

床の一部を捲ると何か模様が出てきた。これはドクロマークだろうか

 

そしてその上部の僅かな隙間がある。多分だがここに風が流れていたのだろう

 

しかしマークがあり、僅かな隙間があると言うことはこれは確実に仕掛けだろう、これを解かねば先には進めない

 

恐る恐るドクロのマークに罠が無いことを確認するが大丈夫そうだ、少しペタペタと触れたり押したり引っ張ったりしてみる。

 

すると引いた時に少しだけ浮き上がった。しかし何か引っ掛かりがあり、引ききれない

 

その為、一旦指がかけやすそうな目の窪みに指を引っ掛け引くとカチリと音がなった。

 

偶然ではあるが当たりだ。引ける所まで引き、手を離してみる。

 

するとドクロのマークは形を変え、Aの様やマークに変化し元の位置へと填まった。

 

何か変化が起きただろうか、と辺りを見回した時、二階の縁、扉の上辺りから棒が何本か生えてきた。

 

しかしその場所は意外と高く、上るのは難しい

ただ扉からよじ登る事ができそうだ。

そして扉に足をかけると扉が少しだけ傾いだ。もしや扉が固かったのは昔誰かが登ったのでは無いだろうか

 

そのまま生えた棒に飛び移り、更にその先へと飛び移るを繰り返すと二階へとたどり着いた。

 

今気がついたのだが二階へ上がる階段は見当たらない。ここは仕掛けで登る所だったのだろう

 

その二階をぐるりと回ると丁度教壇の真上に当たる場所へと出たが、何やらハンドルの様な物が三つあり、その真ん中にボタンがある。

 

とりあえず迂闊に触らず、ヒントは無いかと周りを見ると後ろに額縁に入った文章がひっそりと飾られてあった。

 

『三信条を忘れるなかれ』

 

『一つ、罪無き者、傷つけることなかれ』

 

『二つ、闇に紛れ、目立つことなかれ』

 

『三つ、友を危難に会わせることなかれ』

 

『さすれば道は開かれん』

 

謎解きのヒントだろう、そう思いクラフトブックに一応の記録として書き記してからハンドルを捻ってみる。

 

するとステンドグラスが動き、絵が変わる。

ハンドルにも微妙な変化が起きていた。埃が詰まってわかり難かったが拭き取ればすぐにわかった。

 

Allah

 

よく分からない記号のため更に一つ目のハンドルを捻る。

 

 

Al-Bari'

 

文字が変わったが何処かで見たことがある。

更に捻る

 

Al-Ba'ith

 

あぁ、成る程と気がついた、昔神話等が気になり、本で読んだ事がある。

これはイスラム教の神の名の一覧に乗ってた物だ

 

確かそれぞれに訳があったが何分昔に少し読んだだけの物を思い出せるほど頭は良くはない。

 

頭を悩ませているとクラフトブックから一枚、紙が滑り落ちた。

 

紙を千切った覚えも何か挟んだ覚えも無い、その事を不思議に思いながら紙を広いあげると先程の三信条の物であった。

だが裏に何か文字が出ている。

 

99の美名、イスラムの美名の訳それらが全て載っていた。

元の持ち主が書いたとは思えない、もしや自分が書いたこれに反応したのだろうか

その事を少し不気味に思うが今は必要な情報だ、ありがたく使わせて貰う

 

その記載された訳を見ると最初のAllah、これは神を意味し、その次のAl-Bariは正当なる者、その次のAl-Ba'ithは死をもたらす者と記されている。

 

先程の三信条との共通点として罪無き者、つまり正当なる者の意味を持つAl-Bariがこれにだろうと辺りをつけ、ステンドグラスの絵を変える。

 

そのステンドグラスの絵は何故か市民の形をしていた

 

続いて二つ目のハンドルを回すと似たような物が出てきた。しかしここまでくれば慣れたもの三信条の二番、闇に紛れ、目立つことなかれと言うとおり隠される者の訳を持つAl-Batinを選ぶ

 

ステンドグラスはフードを被った人間の絵となっている。何かで見たような気がするがまた後にし、三つ目に取り掛かる。

 

三信条の三、友を危難に会わせるなかれに用心深きものの訳を持つAr-Raqibを合わせる。ステンドグラスはフードを被った片腕がない人間の絵であった。

 

一体何を示しているのだろうか、今はまだ理解できない

 

そして三つ揃った所でボタンを押す

 

 

ゴーンととても低い、背筋が凍るような鐘が鳴り響いた。

言うなればエリス様に会う前、あの死ぬ直前の感覚

 

失敗したのだろうかと顔を青くしていると一階の教壇部分が動き、地下への通路が現れた。

あっていたことに安堵したが何があるのだろうかと6割好奇心、4割恐怖心の心持ちで地下へ下った。

 

通路はやはり地下と言うべきかとても薄暗い

罠があるかも知れないと思い、罠感知を使用してみるが一つも見当たらなかった

 

たが見つからないとは言え警戒する事に超したことはない、ゆっくりと慎重に通路を進む

 

暗い通路の奥へと進むと一つの部屋に出た。

少し薄暗い部屋には何故か灯りがついており、辺りを照らしている。

 

壁にはあのAに似たマークの布が中央にあり、その周りに色々な年代の鎧や剣、弓に斧、槍に短剣、果てにはアンティークな銃など様々な武具がまるで壁画の如く飾られていた。

 

その光景を表すなら武具の博物館と言ったところか

 

しかしそれらの物よりも異彩を放つ物があった。

 

部屋の中央に鎮座する肩当て、意匠を凝らした籠手、そして骸骨の形をした仮面

 

そのとてつもなく不吉な気配を発する仮面は特典物なのであろう、まず間違いはないと勘が告げている。

 

回収する係のクリスがまだ来ていない

先程鐘が鳴り響いた筈だが気がつかなかったのだろうか、ならば持って行くのもありだろうとその仮面に触れた

 

その瞬間またもやあの背筋が凍るような鐘が鳴り響いた。

 

祝福ではない、葬式の様な忌々しさ溢れるその音色

 

 

『あの鐘の音が聞こえるか』

 

 

次の瞬間、耳に残る厳格な、それでいて恐怖を感じさせる声と共に意識は暗闇へと引きずり込まれた。

 

 




最後の仮面と鐘、それと最後の声誰でしょうかね?(すっとぼけ)

ちなみに途中のステンドグラスの仕掛けはそれを入れたいが為に書きました、あまり深い意味はありません


最後にもう一度、評価と感想お待ちしております!


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神託は下った

前回投稿してUAとお気に入りが爆発的に増え、評価も貰え一時的とは言えランキング11位になり嬉しさで布団をゴロゴロし勢い余って壁に穴を開けたフランシス・アルバートです。

何と言うか、嬉しさとプレッシャーがとても凄いですがこれだけは言わせてくださいね


読んでくれた人、評価をくれた人、誤字報告くれた人、そして感想を書いてくれた人達


本当にありがとうございます!!!

もうね、嬉しすぎて死にそうだったよ



と言うことで次話投稿


黒く全てを飲み込むかの様な闇

 

光を一筋すら通さぬ闇が自分の体を覆っている

 

何が起きたのだろうか

あの仮面に触れた所までは覚えているがそこからはプッツリと記憶がなく気がついたらこの場にいた。

 

辺りを見回して見るがやはり闇、音すらない

 

暫しの間、この不思議な空間にいることに呆けていると、ふと気配を感じる。

 

しかしその気配はとても研ぎ澄まされ、例えるなら猛禽類に睨まれた様な感覚であった。

 

絶対的な何かがいる、だが場所が一切掴めない

 

辺りを警戒したまま、じっとしていると不意に光が灯った

 

 

青い蒼い炎、それが燭台に火を灯すように順に灯り辺りを照らす

 

そして周りが照らされた時、それらは現れた。

 

 

色とりどりのフードを被った者、あの触れた仮面と同じものを着けた者、男、女、子供等々

 

老若男女、選り取り見取りの軍団

 

一人一人が濃厚な死の雰囲気を持ち、それでいて冷たい殺気を体に纏わせ此方を見ていた。

 

 

「久しき人の子か」

 

 

音もなく、気配もなく、それでいて圧倒的なそれは突如として目の前に現れた。

 

牛の様な角が生えた仮面、見上げるような巨躯

血がこびりついた様な黒き大剣を持ち、全てをその剣を持ってして死へと誘う雰囲気

 

周りの者達とは文字通り桁が違う、圧倒的な威圧感を出す、まるで死その物を具現化したかの様な存在

 

それが立っていた。

 

その圧倒的な威圧感は決して逃げることができない圧倒的な差を感じさせ、自ら首を差し出したくなる。

 

自害など生温い、生物としての恐怖

そんな死その物が目の前に立っていた。

 

 

「怯えるな無垢な童子よ」

 

 

それから発せられたのは厳格なる声であった。

 

それは何よりも重く低く冷たい、一つの言霊の様に自分の体を止める。

 

気分は昆虫標本の様にピン止めされた虫の様だ。生きてる心地など殆どない

 

いや、死を前して居るのだから生きてはいるのだろう

 

 

「汝、何用で此処へ来た。虚言は許さぬ」

 

 

圧倒的な雰囲気と生物としての差、抗うことのできない運命を感じさせるその声はただの質問であっても恐怖しか沸くことはない、

質問されただけ、ただそれだけ

 

当たり前な事であり、普通の質問

 

なのに足は震え、声も震え、腰も抜けそうになる。

 

しかし答えなければ死ぬだろう、むしろ答えても死ぬかも知れない

 

だが少しでも長く生きたい、そう本能が言っている。

 

正直に事のあらましを順に喋る

 

女神の依頼である神器の回収、実際はその女神の従者の手伝いでそれっぽい物を見つけたが故に渡そうと触れた所此処に来てしまった。

 

途中震えにより、舌が回らず何度も噛んでしまったが文字通り必死に説明する。無論、嘘偽りはない

 

むしろ嘘など吐く事に意味があるのだろうか

 

 

「その言葉に嘘偽りはないな?」

 

 

ゴーンとまた鐘が鳴り響いた

その音色はやはり背筋が凍るような音であり、本能的に体が震え、体を丸めてしまう。

 

しかし最初とは違い、妙に鐘の音が鳴り響きながら突如として音が聞こえなくなった。

 

恐る恐る体勢を戻し、目を開ける。

 

 

次の瞬間、周りの景色が全て変わっていた。

 

 

大量に舞う白き鳥の羽

 

何処かを山の麓

 

黄昏時の幻想的な黄金の空

 

浮かぶ雲の割れ目から神秘的な光が幾重も降り注ぎ、この光景を一つの宝石としていた。

 

一度死んだ身であるからこそ理解する。

 

見た感じここは幽谷ではあるが例えるなら、ここは言わば三途の川、生の行き着く先、そして全ての終着点、そう言える場所であると

 

 

「童子よ」

 

 

死が語りかけてくる。

 

それは処刑を言い渡さす審判者の姿に見えた。

 

しかしその姿はまさに恐怖であり、畏れのあまり体が震える

 

 

「晩鐘は……」

 

「待ちなさい!」

 

 

判決を言い渡されるその瞬間

 

何処かで聞いた声が聞こえ、見たことがある光が真上から差し込み一人の女性が降りてくる。

その姿は神々しく、幻想的な光に包まれながらもはっきりとわかる美貌

 

あれは、いやあの御方は……

 

 

「其処までです、名も無き山の翁よ」

 

 

クリスの主神にして幸運を司る女神エリス様、その神だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「其処までです、名も無き山の翁よ」

 

 

女神エリスは初めて会った時は慈愛に満ち、優しさを常に纏っていた

しかしそれらは一変して鳴りを潜め、厳格な雰囲気と共に山の翁と呼ばれたそれを視線で貫いている。

 

 

「彼は私の従者であり神託を叶えし者、故に手出しはさせません」

 

 

その後ろ姿は女性らしい細さと小さき背中であったが死を前にして動じず、依然として纏う勇敢さはとても大きな山の様であり、女神に相応しい神気が溢れていた。

 

 

「もしそれでも彼を罰すると言うならば全力を持って貴方を封印しましょう」

 

 

そうエリス様が言い放つと神気が増し、濃厚な死の気配とぶつかり合う。

 

それは一つの渦となり、人智を超えた経験は死神が笑って鎌に首を当てるように意識を刈り取ろうと周りを飲み込む

 

しかし何故だろうか、大地をしかと踏み締め、歯を食い縛り、それに耐えた

 

例えるなら恐怖だ、恩人、いや恩神の姿が気を失ったら最後、二度と観ることが出来なくなってしまうかもしれない。

 

そんな恐怖と想像が頭を巡るが為に自分は耐えた。

 

そんな時間が数十分、体感では数時間に感じられる時間が過ぎた所だろうか

 

時間の概念がわからないが故にとてつもなく長く感じる時間の中で先に口を開いたのは山の翁の方であった。(口を開いたと言うと語弊があるかもしれない。正しくは言葉を発したと言うべきか)

 

 

「女神エリスよ、その言葉、真なる事か」

 

「はいその通り、事実です。」

 

 

エリス様は強く頷き、事実だと肯定する。それはとても力強い返答であった。

 

 

「ならば良い、異教徒の神であろうともこの世界の神、信じるに値する」

 

 

その言葉を皮切りに殺気から死の気配まで全て霧散する。

それに対し、エリス様も神気を徐々に納める。

 

 

「やけにあっさりと信じますね、貴方に取って異教徒の神は信じられない物と思ってましたよ」

 

「汝、異教徒の神ではあるがこの世にて終わりの先に持つ番人なり、我は真なる我を模倣した紛い物に過ぎず、故に真なる汝の言葉こそが正しき物なり」

 

 

そう言う山の翁の口調はとても優しく、先程の声色が嘘のように柔らかい物であった。

 

 

「童子よ、汝の天命は未だ来ず。案ずるがよい」

 

 

殺気が全て消え失せ、また先程まだ鳴り響いていた鐘はもう聞こえない。

 

助かった、ただただその事を実感した。

 

 

「しかし女神よ、汝は一つ誤解をしている。」

 

 

淡々とした声で話を始めたがその雰囲気は少し気まずさが混じっているような気がした。

 

 

「汝の童子は晩鐘は聞いたが名は示されてはいない、故に童子に天命は未だ来ず、ただ真なる事を聞いたのみ」

 

 

まさかの発言であった。しかしあれほどの威圧を出して起きながらただの尋問だったことに驚愕し腰が抜けそうになる。

それなら早く言ってよじぃじ

 

 

「つまり私が出てくる必要はなく、私はいらない子であったと……」

 

 

その言葉にエリス様はプルプルと震え始める。確かにあの庇う姿はとても神々しく綺麗ではあったがもしかして意外にノリノリでやっていたのだろうか

 

だとしたら気まずい、自分が迷惑かけてしまったが故にとても気まずい

 

なのでフォローしておくとしよう

 

エリス様、とってもかっこよくて綺麗でしたから気にしないでと

実際庇って貰った時や駆けつけてくれた時はとても頼りがいがあり、そして安心した。だからこそ早とちりにしたってそれはとても嬉しい事であったと励ます。

 

キャー!ステキー!エリス様ー!流石貨幣にもなってる女神様ー!

 

ちょっと悪のりしたがこれは本心の一つである。

 

 

「いえ、まぁ確かに少し格好はつけましたがそれは威勢をつけるためで」

 

 

あわあわと顔を赤くし捲し立てるエリス様、その姿は先程の神々しさを感じさせず、とても可愛らしい

そんな微笑ましい光景に思わず可愛いと口から溢してしまった。わざとじゃないよ?本当だよ?

 

 

「うぅぅぅ……」

 

 

頭から更に湯気を上げ、顔を更に茹でタコの赤く染め、両手で顔を隠し踞ってしまった。

 

その光景は先程まで緊張感で張り積めていたと言うのに既にいつもの日常の様に戻っていた。

 

ふと、気がついた。

何故いつものと思ったのだろうか、ここに居るのはエリス様と山の翁だけ

いつもの日常、まるでエリス様がいつも近くに居るような……

 

 

「童子よ、名は何と言う」

 

 

少し考えに耽っていたところ、山の翁が話かけてきた。その雰囲気は例えるなら地元の公園で出会ったおじいさんの様に言葉に重みはなく優しさがあった。

 

それ故に始めに緊張していたのが嘘のようにすらすらと自己紹介が出来た。

 

 

「クチナシ・ユーリか、良い、実に良い名前だ」

 

「ではユーリよ、汝、童子とは言え暗殺者の名を持つ者、故にあの仮面を持て」

 

 

あの仮面とは此処に来る原因となったあの仮面であろう

しかしあれは特典、どんな効果があるかは知らないが特典をもう一つ手に入れてしまうことになる。これは回収されてしまうのではないだろうか

 

そもそも他人の特典を扱うことはできるのだろうか

 

 

「我が身は既に主無き身、故に幼き汝の力となろう」

 

 

力を貸してくれる、つまり自分は扱えるのだろう

 

しかしエリス様は許してくれるのだろうか、特典は一人一つ、何か誓約が掛かってもおかしくはない。

 

何故ならばもし持ち主が手放す事になった場合、魔王軍や他の人に悪用されないようにその人専用にしている可能性がある。

 

 

「その事に関しては私から話しましょう」

 

 

いつの間にか羞恥心から復活したエリス様が少しドヤりながら胸を張る。まぁその胸は偽乳であるためにただただ悲しさが溢れるが……

 

 

「特典は一人一つ、これはわかりますね。もちろんもし持ち主が手放す事になったとしても他人に悪用されないように大体の物はロックが掛かっています。」

 

「しかしそのロックが掛かっている神気やそもそもロックが必要ない能力系とは別に他人にも扱えてしまう神器があります。それを私は優先して回収していたのです。」

 

 

ふと転生前の神器カタログを思い出す、確か禁止された物だと言っていたがあれも全てそう言った欠陥があり、とても強過ぎる物や特典配布後に危険性が見つかり禁止された物もあるのだろう

 

 

「えぇ、その通りですユーリ君、未だにそう言った欠陥品の神器もまだまだあります。そしてこの山の翁もその一つです。」

 

「ですが一部の力をロック、そして使用者を貴方に固定するとして、今回は特例で差し上げます。」

 

 

その言葉に少し驚く、この死その者である山の翁が危険と言うのは言わずもがな本能がわかっている。ましてや女神であるエリス様ならその危険は十分に承知していよう。

 

その為、有無言わず回収してしまうと思って居たからだ。

能力に制限をかけたとは言え特典は特典、貰ってしまって良いのだろうか

 

 

「ユーリ君なら大丈夫だと思ったので今回は特別に許可します。あえて言うなら手伝って貰った報酬ですね」

 

 

そんなに簡単に信用して良いのだろうか

 

 

「短いとは言え近くで見ていた女神の目は狂いは無いですから」

 

 

その女神は多少天然であるのが心配だが女神がそう言うなら大丈夫なのだろう。棚から牡丹餅的な物であり、少々不安はあるがありがたく貰う事にする。

 

力はあればあるほど良い、溺れる危険性はあるが自分の場合は弱くそれ故に生き延びるためにも必要な物であるからだ。

 

 

「話は終えたか、新たな契約者よ」

 

 

エリス様と話している間にずっと黙っていた山の翁が語りかけてくる。

その心使いに感謝しながら終えた事を伝えた。

 

 

「そうか、ならばこれだけは覚えよ」

 

「我らの力は鞘の中の刃、闇に生き、光に奉仕するもの、そは我らはなり」

 

 

それだけ言うと山の翁とその周りの者達は一斉に風景に溶け込み、気配が消える。

 

どうやらお開きのようだ

 

 

「では私達も帰りましょうユーリ君」

 

 

微笑みながら軽く手を握ってくるエリス様に頷き、帰る事にする。

 

次の瞬間、転生した時に見たような光が足元から満ち溢れ、光に覆われると同時にまた意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗く橙色の光

 

鼻を少し刺激する埃の匂い

 

頭の後ろから感じるとても柔らかい物

 

恐る恐る目を見開くと教会の天井が目に入った。

 

 

「あっ…起きた、調子はどう?ユーリ君?」

 

 

影になるように自分の顔を覗きこむクリス

どうやら無事戻ってこれた様だ

 

 

「本当に冷や汗物だったよ、まさか外に探しに言っている間に仕掛けを解いて特典に触れているなんて、今度から絶対に手で触っちゃダメだよ。布で包むとかトングで取るとか……」

 

 

神器の回収方法が何やらバッチい物を触るが如くの扱いにとても違和感を覚える。神器は一応神から貰ったものなので汚くはないだろうがお金は他の人も触るから汚いと言う理論と同じやつなのだろうか

 

しかし説教と言うよりは注意をしているクリスの顔を見上げながら思う。

 

 

クリスの膝は柔らかいと

 

先程からツッコミを入れなかったが起きた瞬間膝枕と言うのは意外と驚く、そして恥ずかしい

 

だが悪くない、暫しの間であるが膝枕を堪能する。

 

 

「まぁ今回は無事戻って来れたから良かったよ」

 

 

そっと頭に手を添えられ、優しく撫でられる

 

 

「疲れたでしょ、もう少しこのままで良いよ」

 

 

そのまま優しく慈しむ様に撫でられ、膝枕を継続させられる。

 

あっ……これダメになる……絶対ダメになるやつだ

 

人をダメにするソファーならぬ人をダメにするクリス好評発売中、お値段異常のエリスにてお買い求めください(現品残り1)

 

今のは何であろうか、お値段異常のNiToRo?爆発しそうな何かが頭を巡るがすぐにクリスの膝枕で霧散する。

 

しかしダメになる前に脱出をする事にした。

 

素数を数えて落ち着け、タイミングを見逃すな

ステンバーイ…ステンバーイ…Go!

 

ゆっくりと頭をぶつけない様に膝枕からするりと抜け出す。good escape‼

 

 

「もういいの?」

 

 

また後でお願いしますとだけ伝えて特典を見ることにした。

 

特典は仮面、ドクロの様な仮面であるが見た感じ少し不気味なだけであってあまり危険な感じがしない。

しかし触れたらあの場所に飛ばされて偉い目にあったことから少しトラウマである。

 

 

「託された特典にはもう一部ロックかけてあるから使っても大丈夫だよ」

 

 

恐々とまごついていた自分にクリスが苦笑いしている。その言葉を信じ恐る恐る仮面を被ってみた。

 

刹那

 

世界が急速に溶けた、いや自分が世界に溶けた

 

自分の存在自体が薄くなり音が消える。言うなれば気配遮断と言った所だろうか

 

まさに暗殺者にはうってつけな特典である。

 

 

「後、これは特典じゃないからこれも良いよ」

 

 

そう言ってクリスが差し出して来たのはケースの中に仮面と一緒に入っていた籠手と肩当てであった。

 

籠手の方はとても意匠が凝ってはいるがその造形は芸術品と言うより気品と信念、そして機能性を重視した作りになっている。

 

右手には既に自分で製作した籠手があるので左手に装着、大きさを調整して取り付ける。中々しっくりとした。

 

しかし着けて見るとふと一つピンの様な物があった。

 

 

「その籠手はちょっとした仕掛けがあってね、そこのピンを外して、ここを動かすと……」

 

 

クリスの言うとおりに動かすと籠手のしたから小型の刃が飛び出した。成る程、暗器か

 

右手に似たような物がついているが此方の方が質はとても良い

何度か刃を出し入れさせ感覚を慣れさせる。

 

 

「後この肩当てはマントがつけられる様になってるね、マントはこれかな?」

 

 

クリスがタンスにしまってあった黒い布を肩当てに付ける。

マントは少し小さめの物であり、しかし長さからして片腕をすっぽりと覆うくらいの大きさはあった。

引っ掛かって邪魔になるかも知れないと思ったが後ろに回せば邪魔にはならない

 

黒い布の方は何やら万能布と書いてあったがシルクなのかとてもつけ心地は良い

 

 

「何か凄く暗殺者っぽくなったね」

 

 

馬子にも衣装と言った所だろうか、素朴ではあるがしっくりとくるそれらは確かに冒険者と言う風体であった。

 

しかし透明になり掛かっているとは言え仮面のせいで物凄く怪しく見える。

 

これは必要な時に被るようにしよう

 

荷物を纏めてその場を後にした。

 

 




いかがでしたか?未だに文章はまだまだと言った所ですがお楽しみ頂けたでしょうか?

小説を読む、書くと言った物は自分にとってとてもリフレッシュになるので書いていますが皆様も書いて見ませんか?(突然の布教)

最近突如として評価や感想を沢山頂けたので改めて小説と言うものがとても楽しくなりました。

そして今回が多分年内最後の投稿になると思います。
皆様、来年もどうぞよろしくお願いします。





ps.次回からは少しシリアスな展開になる予定

これからもユーリ君をよろしくね、良いお年を~



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鷹の目

1年と半年!?!?
もう最後からそんなに立ってたの!?


となった作者です。
えぇ本当にすみません

リアルがクソ見たいに忙しくてちょっとずつ書いてたのが思った以上の文字数になって直しては書いてを繰り返してたらこんなに月日がたっていました。本当に申し訳ありません

と言うのも今回の話に登場させるキャラのためにこのすばを何度か読み返したのですが、色々と考察とかしまくった結果1万文字の文章を20回近くボツにしては書き直してを繰り返した結果こんなに時間がたってました…

一応最後までのプロットは大体できているので何とか最後まで書いて行きたい所存です。


茜色の空に冷たい風

 

太陽が地平線へと近づき肌寒さを感じる時間帯

 

町、もとい王都は夕焼けに照らされて家々から光が灯り、更には煙突から煙が登り始める。

 

しかし王都故だろうか、大通りには未だ人混みが出来ており活気に溢れていた。

 

テレビで見た百万ドルのネオンな光景と言う物をふと思い出したが、そのような物よりも王都の方が何倍もの価値があるように感じたのはやはり実物との違いだろうか

 

「そういえば明日はお祭りだったね」

 

クリスが思い出したように辺りを見渡す

 

確かに周りに目を向ければ大通りの隅には出店用の木材やらが置いてあり、頭上を横切るように家から家へと小さな垂れ幕が張られているのが見える。

 

だが普段の王都を知らない分、それがお祭り用の物だとは自分一人では気が付かなかっただろう

 

全ての物が新鮮に目に写る、長い入院生活であった自分には海外を含め他県にすら行った記憶は無い、こうして街を歩けること事態が自分に取っても奇跡に近いと言うことを改めて噛み締めた。

 

そしてお祭りも言わずもがな参加したことはない、知識としては各地の有名な祭りに出向くバラエティー番組を視聴したくらいのものであり、体験した事は少なくとも記憶にはなかった。

 

故にお祭りにはとても興味がある。

 

「そっか、ユーリ君はお祭りを体験した事が無いんだったね。じゃあさ、明日一緒に……」

 

そう言った瞬間にそっと手を前に出し、クリスが『ソレ』を言い終える前に会話を遮る

会話を遮るのはマナー的に悪いと思えるが今回だけは勘弁してほしい。

 

お祭りと言うイベントは楽しむ他に相手をお誘いするのも重要だが、ここはクリス、つまり女性からお誘いするより男性からお誘いするべきだろう

 

そう言った決まりはないが初めてのお祭り故に誰かを誘うことに憧れていた為、自分から誘いたいと思っていたのだ

 

明日一緒に行きませんか?

 

そう一言、クリスをお誘いする。

 

しかしこの言葉は多少恥ずかしくもある。何たってデートのお誘いなのだから

 

ちなみに豆知識ではあるがデートとは親しい間柄の男女が日時を決めて会う約束をデートと呼び、本来は恋愛要素は入ってはいないとのこと

だが最近では一般的に恋愛要素を含めた意味を持つことが多いと言われている。

 

今回のデートのお誘いはクリスとは特別な関係に至ってはいないために普通の意味となる。

 

ただそれでも女性を誘うと言うのは少々勇気がいることを知った。生前はそんな事自体経験することがまず無かったし、初体験と言うものだ

 

クリスは少しの間、きょとんとしたが一瞬間を置いてすぐにいつもの無邪気な笑顔へ変わった

 

「うん!一緒に行こう。折角のデートのお誘いだし」

 

お誘いは成功、感激しながら小さくやったと心の中でガッツポーズを取る。

この世界に来て、いや自分に取っての大きな成功であろう

これには拍手を贈っても良い、ブラボーと心の中で自分に向けて拍手する

 

「でもさユーリ君」

 

にんまりとしながらクリス何かを思い付いたように言葉を続ける

 

「まだ夜までには時間が空いてるし、明日からと言わずに予習がてら今からデートするって、どうかな?」

 

そう言われてはっとする

確かに明日からの必要はないし、今日は前夜祭

地理に疎いと言うこともあるならば今日から下見もかねて廻れるではないか

 

こう言った事に気が回らないのはやはり経験不足によるものだろう、教訓として覚えることにする。

 

では改めて……

 

今から一緒に遊びませんか?

 

「うん!行こう、ユーリ君!」

 

 

 

 

 

 

王都は流石と言うべきかあっちでガヤガヤこっちでガヤガヤとアクセルと比べ物にならない位に賑わっている。

 

道行く道には前夜祭と言うこともあってかズラリと出店が並び、その匂いを辺りに振り撒いていた。

 

その匂いで自然と腹の虫が泣き、切なそうなメロディーを奏でそうになった為に適当にクリスと食べ歩きをする。

行儀は悪い様に見えるがこれこそがお祭りの醍醐味だろう

最低限のゴミ捨てなどのマナーさえ備えていれば文句を言われる事はない。

 

そうしてクリスと少しの間、様々な物を見ながら通りを練り歩く

道には前日と思えないほどに露店が出ており、それは日本でも見知った物が多々あった。

 

フランクフルト、焼きそば、お好み焼き

りんご飴、綿菓子、チョコバナナ

 

冷えたエールにビー玉入りのラムネ

 

定番のヨーヨー掬いや果てには金魚掬い擬きすらあった。(擬きなのは小魚が小型モンスターの一つだとか)

 

冷やかしにならない程度、店を覗き見て小腹が空いたら購入し、二人で食べる

前夜祭ではあるがこの雰囲気を満喫していた

 

そして道を歩いているとクリスが立ち止まった

 

「露店のギャラリーかな?珍しいね」

 

呟くクリスの視線の先には沢山の絵が飾ってある露店

 

店と言うよりは仮設のテントと言ったところだろうか

あまりパッとした感じはなく、少し薄暗い

 

またテントは準備中のためか半ばまでしか建てられておらず、そのせいか少々近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 

ふと、露店の絵を覗いて見る

 

金髪の綺麗な人形のような見目麗しい少女が書かれた肖像画やその他に此方の世界では良く目にする家々とは違う、自分の記憶からしたらイタリアの町のような風景画

 

そんな風景画の隣にはこれまた火を吐き、周りを焼き払い、人々の恐怖を体現したかのような怪物が書かれた見事な水彩画が飾られている

 

しかし種類が多い、先程の絵の他に眼だけ書かれていない虎の屏風絵等、絵がテントのそこかしこに並べ立てられており、少々異様な光景である。

 

そしてそれらの絵は並べられたばかりなのか値段はかかれていないため、売りには出されていないようだ

 

その代わりなのか絵が置いてある所の横のスペースには彩り豊かに衣服が展示されており、値札がつけられていた

 

此方は売りに出している物なのだろう

 

並んでいる服はほぼ女性用の物であり、タキシードドレスと言った変わり種からディアンドル、カーディナルと言った歴史書でしか見たことが無いような民族衣装がずらりと並んでいる

 

値段も見た目とは裏腹に良心的な数字であり、中々に材質は良い

機能性についても行動を阻害され難い様に設計されているため、誰かにプレゼントととしても喜ばれるだろう

 

「どれか気に入りましたか?」

 

服を少々不躾ながら眺めていると後ろから柔らかい、優しい声が掛けられる。

 

振り向くとそこには顔にインクを着け、画材の様な物を両手いっぱいにした美男子が立っていた。

このギャラリーの店主だろうか。

 

「おっと自己紹介がまだでしたね、私はこの店の経営者の虎堅 春仁(とらかた はるひと)と申します」

 

やはり店主であったか

 

これはこれはと自分も自己紹介をする。

ドーモ初めましてトラカタ・ハルヒト=サン、クチナシ・ユーリです

 

アイサツは大事、古記事にもそう書かれている。

 

 

「クチナシ…ユーリ…失礼ですが、もしかして貴方は日本人ですか?」

 

小さく確かめるように日本人と言うワードを囁く

そう言う彼もこの世界ではあまり見ない焦茶色の髪をしており、顔の骨格も日本特有の平たい顔であった。

 

見た感じの年齢は20台なかばか後半、自分より先にこの世界へと来た転生者だろう

 

『彼の雰囲気…アイツに似ているな…』

 

ふと、仮面から男性の声が聞こえた。

気のせいだろうか慢心した王様のような…国民アニメでも聞いた事があるような…

 

まぁそれは置いといて、先程の質問である転生者で間違いないと答える。

 

「やっぱりそうでしたか、見たところ大分若いのにこの世界に転生して来たと」

 

春仁はふむと頷き此方を見ながら何かを考え込んでいる。

多分自分が死んだ理由でも気になったのだろうか

 

「いえ、少し聞きたいことがありまして…もしよければお茶でもどうです?」

 

春仁が聞きたいことがあると言うがこれは多分日本の事だろうと当たりをつける、半ば勘に近いが出会って間もない転生者に気になることと言えばそれ位しかないだろうと思ったからだ

 

クリスと前夜祭を堪能していた所ではあるがちょっとした休憩として話に付き合うのも良いとは思う

 

勿論、クリスの意思を聞いてからであるが…

 

「どうしたの?ユーリ君?」

 

ちょうどのタイミングでクリスが此方へと来た。

その為、簡潔ながらも春仁の紹介をして今までのやり取りを説明する。

 

「うん!ユーリ君が良いならいいよ」

 

快い返事、そして嫌な雰囲気を一片足りとも感じない所を見ると嫌々と言った事は無さそうだ

 

「それではお二人様ご案内、ゆっくりして行ってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独特な絵の具やインクの匂い

 

乱雑に積まれた本や紙の束に書きかけの絵

 

天井には空飛ぶ何かの骨格の模型が飾られている。

 

出された紅茶は綺麗に透き通り、香りはとても芳しい

味に関しては生前に紅茶を嗜むことは無かったので評論家のようにここがこう美味しいとは言えないが砂糖を何個か入れたのでそこそこ甘く飲みやすい

 

春仁の店に招かれ彼の御弟子さんにお茶と菓子を入れて貰い、それらをつまみながら皆で軽い談笑を交える。

 

その時間はゆっくりと流れ、和ましい

 

春仁との会話は何て事ない、転生前の日本の事であった。

 

どんな事が起きたのか、または新しい発見等々であり目を輝かせながら聞き入るその様子はまるで童心に帰っている様であった。

 

特に自分が此方に来る直前にあった歴史的大ニュースであるジャックザリッパーの正体等にはとても食いついていた。

 

そんなこんなで話が盛り上がり、時間も過ぎたのでそろそろお暇させて貰おうかと考え始めた時であった。

 

「すみません、ハルヒト先生いますか!」

 

慌ただしく扉をノックする音、そして焦りが混じった声色が扉から聞こえてきた。

 

何であろうか、突然の事で会話が途切れて時間に空白が生まれたがハルヒトが少し待っていてくださいと立ち上がり、扉を開ける。

 

「お待たせしました…ってあれ?誰かと思えばクレアさんじゃないですか、どうしたんですか?」

 

扉を開けた先に立って居たのは綺麗な白いスーツで固め、腰に剣を刺した麗人

 

クレアと呼ばれた件の麗人はかなり焦っている様子であり、そのためスーツに少し皺がよっている。

 

「あのアイ…ッ!イリス様が此方に入らしていませんか?一緒に祭りを歩いているときに見失ってしまいまして探しても見つからなくて…此方に来ていないかと思ったのですが」

 

「あぁ、アイ…じゃなくてイリス様ですね、今日はお見えになっていませんが」

 

「あぁそんな…ここにも来ていないとなると何処へ行ってしまったんでしょうか、あぁお嬢様…」

 

項垂れ今にも膝を付きそうな残念美人のクレア

見ている側としては初対面と言えどもその姿は思うべき人を心配している様子がありありと見え、少々気の毒だと思ってしまう。

 

放って置く事もできるがあまりにも気の毒な姿に手を貸すくらいはしてあげよう、そう頭を過るが今はクリスとデート中と言うこともあり、自分一人で決める訳にはいかない、その為に相談しようとクリスの方に振り向く

 

だが振り向くと同時にクリスと視線が合い、そして自分の内心を悟ったのか一つ頷いた。

 

根っからの善人なクリス故に今の心境は通じたのだろう、一緒に人探しをしようとクレア達に歩み寄る。

 

「あの~もし良ければアタシ達も探して……」

 

「お嬢様の事なら体のほくろの数からスリーサイズに『自主規制』の周期まで全身全体爪の指先隅々まで細かく調べて…」

 

ぽんと耳を覆う柔らかい感触

 

何やら危険を感じ取った表情のクリスが自分の耳を塞いでいる。

 

しかし塞がれる直前に聞こえた事で全てを察した

 

触らぬ変態に仏無し(誤字に非ず)

 

吹いて消える蝋燭の様に良心が消し飛ぶ、クリスも同じだろう

 

それより良心で助けようとした自分達の善意を返して貰いたい…いや返してきたら返してきたで何か余計な物まで返って来そうな気がするためやっぱりいらない

 

君子危うきに近寄らずならぬ変態には近寄らず

嘆きの変態を芸術家が慰めると言う光景を無情にも眺めていた。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

「お見苦しい姿を見せてしまい、すみません…」

 

あれから数分、落ち着きを取り戻した件の麗人、クレアは少々恥ずかしそうにしていた。

 

「それでお嬢様を探すのを手伝ってくれる人と言うのは貴方達か?」

 

キリッとした態度、自分でなきゃ惚れてるねと誰かが言いそうなくらい様になっているその姿は素直にカッコいい

だが先程のアレが脳内にこびりつき、どうも変な感じがする。

 

しかしそれはそれとして居なくなったお嬢様と言うのはどう言った人物なのだろうか

 

「その前に少し確認したい事があるのだが良いだろうか?ハルヒト殿、あれを貸してほしい」

 

話を聞こうとした時、先にクレアがハルヒトからベルのような物を受け取り机に置いた。

 

「これは嘘を看破する魔道具だ、気を悪くさせてしまうとは思うが必要な事であると理解して欲しい」

 

良いかと確認を取るクレア

この世界に嘘発見機があるとは少々驚きだ

 

しかし嘘発見機で質問されることに気を悪くすることはない、例えばただの人探しならばそこまで相手を疑うことなく頼み事をできるだろう

だがあって数分の人でさえ多少は怪しまねばならない立場にいると言う事から多分相手はかなりのお偉いさんだと推測する。

 

もし自分が同じ立場ならクレアと同じようにするだろう、偉い人は石橋を叩いて渡るのだ

 

「それでは始めましょう。貴方達は国家に仇なすものですか?」

 

「それはないね」

 

クリスと同様に自分もないと答える

そもそも国家に仇なす理由を持ち合わせてはいない

不当な逮捕や危害を加えてくるなら抵抗はするがそれだけだ

 

 

「では2つ目、いくら可愛いからと言ってお嬢様を襲ったり拐ったり、イヤらしい事はしないと約束できますか?」

 

「いやいや、する訳がないよ…」

 

クリスが少々引き気味に返答する。と言うより初対面の娘が可愛いからとセクハラするのは普通はしないし思いもしない

そんな事は当たり前である。勿論貴方も可愛いからと言ってすぐに手を出す訳ないだろう

 

「え、えぇ…そうですとも、私もお嬢様がいくら可愛いからと言って手を出す訳な……」チンッ!

 

……ん?今鳴らなかったか?

 

「いや、鳴っていません」チンッ!

 

部屋の空気が凍りつく

これには何とも言えない、柔和な笑みを浮かべ会話を眺めていたハルヒトでさえ今は表情が引きつっている。

 

「次の質問に移りましょう…」

 

ナチュラルにポーカーフェイスをしたまま彼女は話を流す

嘘を看破する道具を自分で出しながらその道具で墓穴を掘るとは思って居なかったのだろう

 

しかしこれはある意味ヤバいのではないだろうか

 

「性的には手を出してないのでセーフ!」

 

軽いスキンシップだから大丈夫と開き直るクレア、その姿は何故か堂々としており、言動はちょっとアレだが妙に気迫に満ちている。

 

ふと、質問を続けるクレアを見てもしかしたら自分達よりこの御付きが一番お嬢様にとって危険なのではないか、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は彼方を探す、見つけたら必ずハルヒト先生の店に連れてきてくれ」

そう言いながら人混みに消えるクレア

 

「アタシはあっちを探して見るよ」と別方面の人混みに消えるクリス

 

先程質問を全て解答し、一応信頼されたようなので改めてクレアが探すお嬢様の捜索を各自始める

 

本来ならば捜索を手伝う必要は全く無いのだが、あれほど取り乱す姿を見せられたら流石にかわいそうと思ってしまった。

 

懐からクレアに貰った写真を取りだし、迷子のお嬢様を改めて確認する。

野暮ったいローブを被り、そして透き通るような青い目、つまり俗に言う綺麗な碧眼が写っていおり、端から見ても中々の美少女だ

 

『ユーリ』

 

何処からか声が聞こえた

 

『ユーリ』

 

聞き間違えかと思ったがやはり声が聞こえる

しかもこの声は…

 

『聞こえるかユーリ』

 

忘れはしない

昼間に聞いたばかりのその声は重く深く厳格な雰囲気

これは初代様の声に似ている

 

背中に冷や汗が流れた

 

『そう怯えるなユーリ』

 

そう言われても未だに緊張してしまうのは仕方がない事だろう

だがそれは一旦置いておく、何か用があるから話しかけてきたのには訳があるのだろうか

 

『迷い子を探すのだろう、だが汝に取ってそれは厳しい』

 

全くもってその通りである。

人探しなど生まれてこのかた、したことなどない

またこの人混みの中では身長的な意味も含めて探すのは難しいのは明白であった。

 

『故に力を貸そう、仮面を付けよ』

 

先程と同じように真剣な声

その真剣な声の通り力を貸してくれると言うのは本当だろう

 

言う通りに仮面を被る

 

『これからお前に力を授ける、本来ならアサシンの一部しか扱えぬ物だが仮面の力として与えよう』

 

一瞬だけ視界が白くなり直後に高揚感が体を支配する。

 

この遺伝子から発せられる高揚感

 

遺伝子の一つ一つ螺旋が組み替えられ更新されている感触

 

これはスキルを更新した時と同じ感覚であった。

徐々に白くなった視界が元に戻るとそこには別の世界が移っていた。

 

灰色に染まる視界

 

道を歩く人々はまるでマネキンのようになり、世界から色が抜けている。

 

『これはタカの目だ、一部のアサシンが持つ特殊な超感覚だ』

 

慣れない視界に少々落ち着かないが少し待つと視界は元に戻った。

 

『このタカの目は味方は青く写し、目標は金、敵は赤く輝き、市民は写らない』

 

つまりこれでお嬢様を探す事ができると言うことか

しかし先程見た時、市民しか見えなかった

 

『次に彼処にある教会に登れ、ここでは一番高い建物だ』

 

示された場所はクリス教会

その教会の大きさはやはり王都ならではと言った大きさであり、別の建物より頭一つ出ている。

 

そこそこな高さ故に少し骨が折れそうだ

 

早速置いてある木箱と大樽を足蹴に上へと飛び上がり、民家の梁に掴まる。

そこから更に登り、屋根の上へと転がり出た。

 

目標の教会までまだ距離がある

 

後ろに下がり、助走を付けて次の建物に飛び乗り、そのままの勢いで次の建物に飛び移る

それを繰り返し教会が目前に迫ったとき、飛び出してレンガでできた教会の出っ張りへと飛び移った。

 

飛び移ったは良いが次の所までに手が届かない、その為、メリクリウスを起動し無理矢理壁に張り付き、そして上の壁の切れ目に飛び上がる。

 

壁登りのスキルがあって助かった。

それが無ければ自分は登れなかっただろう

 

吊り下げ式のランプでぷちターザンをし、次の梁へ飛び移り、そこから更に上へと壁を登り、遂に一番上に到達した。

 

『ついたか、町を見渡して地形を覚えよ』

 

また示された場所は天辺から少し横にはみ出ている部分に言われた通りに登り、町を見渡す

 

普通に地図を買った方が早い気もしなくはないが頭に地形を叩き込んで置けば地図を見ずに町を歩ける

例えば明日のエスコートとか…

 

そんな事を考えながら道を覚えて行くが何故かすんなりと頭に入る

 

はて、こんなに自分は記憶力がよかっただろうかと首を傾げるが多分仮面の能力だろうと思いあまり気にしないことにした。

 

『覚えたか?なら次にやるべき事はもうわかるだろう?アドバイスはここまでだ』

 

見渡せるほどに視線が通るこの場所

 

ここならば遠くまで見ることができ、目標を発見することは容易いだろう

 

遠くを見渡すように、猛禽類が獲物を狙うようにタカの目を起動させ目標を探す

 

灰色の人混みが暗い海を連想させるように広がり、人が蠢くその様はまるで波のようである。

 

灰色の世界は嫌に冷たく感じた

 

まるで相手を殺すために見つけるような…

 

すると視界の端にちらりと金色に光る物が一瞬移り、再び消える。

 

今のはもしや

 

今のは迷子のお嬢様だろうか

一瞬しか見えなかった為に気のせいだとも思えるが手掛かりがない今は向かうしかない

 

見失う前に行くにはスピードが命

高い場所に登り一瞬とは言え手掛かりを掴めたのは良かったがこの高さが仇となる。

 

教会は隣の建物よりもかなり高いため飛び移る訳にも行かない、地道に降りるのは少々時間が掛かるだろう、これでは見失ってしまうかも知れない

 

少々焦りを感じながら、ふと下を見ると落ち葉を掃除したのか荷馬車に大量の枯れ葉が積まれているのが見えた

 

それを見て思い出す、あの時ベルディアから逃げる為に藁山へと飛び降りた時の事を…

 

思い立ったが吉日だ、あの時のように腕を羽のように広げ、そして大空へと飛び立った

 

空中に浮いた体は重力に従い高速で落下し枯れ葉の山に着地する

 

ガコン!と荷馬車から少々大きめの音がなるが気にせずに目標を追うためそこから飛び出した。

 

『見事なダイブだユーリよ、我等の兄弟ですら失敗して足を折るものすらいたと言うのに、もしや我等アサシンの血が入ってたりはしないだろうな?』

 

どうやら飛び立ったのが相当以外だったのだろう、アサシンの血筋では無いかと思われているようだ。

 

だが確か母方の血に外国の血がほんの少し混ざっていたと言うのは聞いた事があるため、もしかしたら何処かで繋がっている可能性は捨てきれない

 

まぁ今となっては確かめようが無いし割りとどうでも良いと思っている、そんな事より今は人探しだ

 

人混みを掻き分けて潜り抜けると目標が消えた路地の前にたどり着いたがやはりと言うべきか路地は夕暮れ時と言うこともあってかとても薄暗く、何も見えない、だがタカの目はそれすらも見通すことができる。

 

そんな暗闇を見通すためにタカの目を起動した瞬間、視界は灰色に染まり暗闇に隠れていた物全てが浮き上がる

 

でこぼことした石畳、それによく分からない木箱や樽、木片等が乱雑に置かれており足元は大分悪そうだ

 

そしてタカの目が見通したその先には金色に輝く目標が確りと見えた

 

だが様子がおかしい、どうやら壁を背に座り込んでいるようだ

調子が悪くなったのだろうか駆け寄り、お嬢様のお姿を拝見する

 

野暮ったいローブ、綺麗な金髪、整った顔

 

クレアに渡された写真と同じ顔であるが実際には写真以上に気品が溢れている可愛らしいお嬢様だ

 

初対面でもとても可愛らしいと思える容姿は写真で見るよりも美しい

 

しかし聞くにはとても大人しい娘であるとのこと、それならば今回の行動もクレアがあれほど心配するのも納得である

 

あの取り乱し方と墓穴の掘りかたには少々引いたが…

 

とそれは置いといて今は少女の容態だ、少々失礼してローブを捲り確認する

 

「……zzZ」

 

寝ている、迷子になって疲れたのだろうか

疲れたとは言えこんな所で寝るとは肝っ玉が太いのだろう、別状がない事に安堵しため息をついた。

 

しかしこんな所で寝ていては風邪を引いてしまう、ここはさっさとハルヒトの店に連れて行ってしまうのが良いだろう

 

背負おうと屈んだ時にふと視界の端に何か映る

お嬢様の首元に何か刺さっている、針…いやとても短い矢だ

 

これは…

 

 

その時、ふいに足音が後ろから聞こえたために振り返る

 

「おっと、すみません」

 

振り替えると鎧を纏った兵が二人立っていた

 

昼に門の前や町中でちらほら見た警備隊、日本で言う警察的な組織の連中だろう

 

「此方にお嬢様が居ると聞いて来ました警備の物です」

 

捜索隊の連中、クレア辺りが連絡を回したのだろうか

 

「はいクレア様から此方に居られるとお聞きし参りました。お手数お掛けして申し訳ありません、お嬢様は此方で運びます」

 

ちょうど良いタイミング、自分は身長が低いためお嬢様を背負って運ぶのは少々キツイと思っていたところである。

 

お嬢様を引き渡そうとして…やめた

 

少し引っ掛かる事があるからだ

 

先程この警備達はお嬢様がここにいると聞いて来たと言った

しかもクレアの指示でだ

 

なら何故クレアはここに来ないのか、あの人ならば居場所がわかった瞬間に誰よりも先に飛んで来るはずである。

しかしクレアは来ていない

 

何か魔道具で伝えたならば話はわかるがなら何故ピンポイントで居場所がわかるのだろうか

 

そもそもの話、お嬢様の首に刺さっている物からして故意に誰かが眠らせたのは事実だろう、それを連れ去るために来たのだとしたら

 

またお嬢様と言うとおりこの娘が国の貴族か重要な立ち位置にいるならばクレアが始めにした国家に仇成す者と聞いた意味がわかる

そしてそれを人である自分達に聞いたと言うことは人間に裏切り者がいると言う意味だろう

 

ならば最後に確証を得るためタカの目で捜索隊の連中を見る

 

世界が灰色になり、人の顔がマネキンのように見え、そして

 

タカの目に映った警備隊の色は赤色であった

 




何回も書き直しているため、文がおかしかったり矛盾している場所があると思いますが、そっと教えてくださりますと嬉しいです。

感想お待ちしております。


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悪意

数年ぶりの投稿、みなさんお久しぶりですね!

いや、もっと早く書くつもりでしたけども仕事に、あとは大怪我して療養しておりまして
遅くなって申し訳ありません



色は赤色であった

 

 

 

 

コイツらは間違いない、敵である。

 

『切り抜けてみせよ、ユーリ』

 

仮面から声が聞こえる

それは真剣見を帯び、自分を試しているのだろう

 

ならばやることは決まった

 

三十六計逃げるに如かず

 

次の瞬間ナイフを作り前にいる一人の足を突き刺した

 

「グぁッ!なっ何をする!!」

 

突如刺された事に声を上げ、崩れる男

だが後ろの奴が反応し、剣を抜くがそれよりも早く煙玉を取りだし叩き付ける

煙による視界妨害と足を突然刺したことによる動揺で時間を稼げるはずだ

 

コイツらが何者かはわからない、だが今は逃げることを最優先とし少女を背負い直し走りだした

 

人通りの多い場所に出れればそれが一番安全であるが通りに出るには奴等の横を掻い潜らねばならない

だが今はお嬢様を背負っている、通り抜けることはできない

路地の奥へと逃げ、大きく迂回するしかないだろう

 

「くそっ!逃がすな、追え!」

 

足を刺した奴が声を上げるともう一人の奴以外にその後ろから更に複数人現れる

 

追われる恐怖よりもとてつもないめんどくささを感じる、映画の脱走シーンで逃げる主人公もこんな気持ちだったのだろうか

 

退散退散悪人退散

鬼は外の福は内と後ろに向かって大きさにしてパチンコ玉程の物をメリクリウスで作り出してばら蒔く

 

そして玉を踏んだ追っ手は足を滑らし盛大に転けた

 

ちなみに余談であるが古代ローマでは黒豆を背後の影に投げる節分と似た風習があったそうな、今の現状はそれに似ている

邪を祓う意味では同じだが今は全く関係ない

 

蜘蛛の巣のように入り組んだ路地を先程塔の上で頭に叩き込んだ道筋で駆け抜けた

 

「こっちだ!追え!」

 

「いけ!捕らえろ!」

 

「逃がすか!まて!」

 

背後からは沢山の怒号が聞こえ、さながら外のお祭りのような喧騒になっている。近所迷惑も良いところの騒ぎだろう

 

例えるなら突いた蜂の巣の如くと言ったところか

 

 

 

 

 

 

「居たぞ、こっちだ!」

 

 

暫く路地を走り続けるが追っ手が次々と現れる

それに対して嫌な違和感を覚えた

少しおかしいのだ、足止めしながら蛇のような路地を駆け抜けているのに追っ手を撒けない

 

「待ちやがれ!」

 

うるさい怒鳴り声だこと

 

目を血走らせた追っ手をチラ見しながら走り、際に壁に水銀の突っ張り棒をつけて妨害をする

 

しかし追っ手がもたついたのも束の間、嫌な気配を感じ取って伏せると窓をぶち破って男が飛び出してきた

 

「捕まえたぜ!」

 

飛び出した男が背負う少女の足を掴んだ

だが捕まるわけにはいかない

 

咄嗟に籠手に仕込んだ握り鉄砲を後方に発砲、渇いた音が路地に響く

 

「ぐぁ!」

 

弾は肩に命中したようで少女から手を離した

その隙にまたもや走る

 

順調に進んでいる

このまま行けばもう出口だ、通りに出れば人目があり、助けを呼べる。そうすれば連中も諦めるだろう

 

蜘蛛の巣のような道を走り抜け、出口まで一本道となった路地を走る

 

『まて、後ろに飛べユーリ!』

 

出口寸前に差し迫った瞬間、仮面から声が聞こえて咄嗟に踏ん張り、後ろへと飛び退く

 

ドンッ!

 

するとそこに大きめの石が降ってきた

 

それも一つではなく、二つ、三つと止まる事はなくガラガラと積み重なり、しまいには土砂崩れのように降り積もると出口が塞がった

 

『負傷はどうだ?』

 

大丈夫と返す

多少の擦り傷はできたが捻ったりはしていない

 

少女も怪我はない

 

一体何が起きたのだろう警戒する、しかし考えてる時間はない

少女を背負い直し別の道から逃げようと振り向く

 

「やっと追い付いた…たく、苦労かけさせやがって」

 

後ろを振り向くと8人程の男がじりじりと此方に詰め寄って来ていた

 

 

追い詰められ、チッと自然に自分の口から舌打ちの音が漏れる

 

 

出口が突如として閉じられるとは

 

しかも一本道だったことが災いして後方には追っ手が壁の如くよってきている

 

一人ならば出口の山を無理矢理登ることも、何とか男達の間をすり抜けられただろう

たがしかし少女を背負っているために登っても捕まるだろうし、すり抜ける事はもはや不可能だ

 

「おいガキ、今ならソレを渡せば生かしては返してやる」

 

前世で見たテレビで聞いたような台詞を吐いて追っ手はにじり寄る

 

しかしどうせ渡したところで助かるのは言葉通り命だけだろう

 

骨は折られたりだとか殴られ重傷を負わされたりだのさ顔を見たとかで監禁されるか

はたまた奴隷制度がこの国にあるかはわからないが何処かに売っ払うか

 

考えた限りロクな事にはならないだろう

 

最悪と言える状況に少しでも我に幸あれとエリス様に祈った

 

アーメンハレルヤエリス様

 

どうか私達を御守りください

 

 

「おい、早く渡せ」

 

 

プチ祈祷を捧げて居るところに聞こえてくる不機嫌そうな声

 

見ればゴツく山のような巨漢の男がバトルアックスと呼ばれる大きな両手斧を肩に乗せ自分を見下ろしている

 

男の眼光は鋭く、鈍く光る両手斧が雰囲気と相まってそれが妙な威圧感を放っていた

 

この中では一番強いのだろうか、見ればそいつの後ろにいる連中は信頼があるのかとても余裕そうな表情を浮かべている

 

ここは大人しくお嬢様を渡して逃げるべきなのだろうか

そうすれば怪我することもない

 

しかしそれは正しいのであろうか、いや正しくとも自分自身が許さないだろう

 

 

『ユーリ』

 

 

仮面から声が聞こえる

何であろうかと耳だけを傾ける

 

『汝は危機的な状況である』

 

そんな事はわかっている

 

『そして少女一人を抱えたままこの状況から逃げ切る術を持ってはいない』

 

何が言いたいのですか

 

『少女を助けるならば汝の実力では相手を殺めねばならない…この意味、理解できるな?』

 

その言葉に少し、ほんの少しだけ硬直する

人を殺める…それは言葉としてもとても重いものだとは理解した

 

『故に汝に問う、二度と引き返すことの出来ぬ道を歩むことになるがそれでも良いのか?』

 

その問いは重く深く、そして暗い

だが、何故だろうか

 

立ち向かう

 

それ以外に答えが見つからない

何故?どうして?

 

わからない

 

ただ何となく、やらないといけない気がするんだ

 

『そうか…』

 

 

『ならば我等から言うことはもう何もない、汝の勝利を祈らせてもらおう』

 

『小さき者に勝利を』

 

複数人の声が聞こえ、そして沈黙のみが残った

腹は決まった

 

ここからは自分の選んだ道だ

 

背中に背負った少女をお姫様抱っこへと持ち替え男の前に持ち上げる

 

「やっと渡す気になったか」

 

渡す気

 

そんな物、有るわけが無い

 

少女を持ち上げる事によって出来た相手の死角

それを狙い、足の先に刃を作り男の股間を蹴り抜く

 

声にならない叫びを上げ男は反射的に踞った

 

その瞬間を狙いアサシンブレードを首に滑り込ませ、喉を掻き切る

 

まずは一人

 

河豚が水を吐き出す様に血が飛び出し自分を赤く染める

 

少女も血がかかるが不意を突くためにはこうするのが一番であった。コラテラルダメージと言うものか

 

少女を素早く下ろす、いや落とすに近いが地面に寝かせそのついでナイフを作り出し一人の敵にスキル、投擲を発動して投げつける

 

「かはッッ!!」

 

余裕ぶっていたせいか咄嗟に反応できず、ナイフは綺麗に男の喉に突き刺さった

 

二人目

 

間髪容れずにナイフを作りだし更に隣の男に投げつける

 

「うわッ!」

 

反射的に手を上げたのだろう、手に刺さり致命傷を免れる

 

だがそれは致命的な隙である、一瞬気がそれたその瞬間にスキルの疾走で懐に潜り込み、脇にアサシンブレードを何度も叩き込む

人間の重要な臓器の一つである肺、そこを刺されれば間違いなく致命傷だ

 

三人目

 

刺した男を押し退け、更に後ろの男に飛びかかる

 

「まて!まて!やめろォォォ!グペッッ」

 

男は反応が遅れた故に体幹が崩れたのか押し倒す事に成功し、新たに作り出した喉にナイフを突き刺し、止めを刺すようにナイフを捻った

 

四人目

 

「おらッ!」

 

後ろの男は反応出来たのだろう、押し倒し止めを刺している事により一瞬無防備になった自分に剣を振り下ろす…

 

だが

 

スティールッッ!

 

 

しかし先に自分のスティールが炸裂した

 

盗み取ったのは振り下ろした剣

 

剣が手元から無くなったことにより一瞬硬直した男に剣を刺し返す

 

五人目

 

「な、何なんだよこいつは!?」

 

「聞いてねぇよこんなの!!」

 

男達は怖気づき、前に居た奴は腰が引けている

戦意は損失しているのだろうか、だが容赦はしない

後ろに少し下がり巨漢が持っていた両手斧を拾い上げ、投擲する

 

斧は放物線を描き、一人の頭をその重量を持ってかち割った

 

六人目、残り2人

 

「ヒッ、ヒィィィ!!」

 

「化け物、化け物だ!」

 

踵を返し逃げようとするがそうはさせない

逃げる先頭にいる奴の踵に向かってナイフを投げる

 

着ている装備は軽鎧、すね当てや胸当ては装備しているが後ろの踵までは覆えていない

つまりそこにナイフは刺さり健を断裂、男は転ぶ

 

すると前方が急に転げたためか後ろを走る男を巻き込み二人共に転んだ

 

その隙は逃さない、メイスを作りだし一人の頭を何度も殴り、そして潰す

 

これで7人

 

そして最後の一人となった

 

だがまだ殺さない

 

何故ならば情報を引き出していない、だから最後の一人はまだ殺さない

 

足を引きずり這いずるそいつを踏みつけ動きを止めさせた

 

「ヒッ…ゆ、許して!許してくだざい゛!!」

 

涙と鼻水で顔面はべしゃべしゃ

そのまま命乞いをしてくる姿は中々に痛ましい、だが今は別に殺すつもりはない

 

だが追っ手は他にもいるかも知れないため時間はあまりない

 

簡単な質問をして行く

 

何故襲ったのか

 

「お、襲った理由?ただ俺等は金で雇われただけなんだ。あの娘を誘拐しろって」

 

怯えながらも男は弱々しく話す

怯えた様子に嘘の気配はない、本当のようだ

 

だが金でコイツらならず者を雇ったと言うことは依頼主、つまり黒幕が居る

 

少女を誘拐する理由は何だろうか

人さらいして奴隷の線は…薄いとして身代金目的、はたまた別の目的があるのか、まぁどちらにせよロクな事では無さそうだ

 

しかし今誘拐の理由を考えても仕方がない、理由なぞ依頼主に聞けばわかるだろう

 

安全を考慮するとあまり時間はかけたくはない、次の質問に移る

 

では依頼主は誰なのか

 

「依頼主?依頼主…いやそれはわからない…」

 

依頼主がわからない?

一応確認のために少し大きめの鉈を作り脅しをかける

 

「本当だ!本当にわからない!」

 

依頼を出した奴がわからない?

どういう事なのだろうか

 

「黒いローブを纏った奴だった、声からして男だと思う。気味が悪い奴でそいつが金とこの装備を俺達に渡してやれって言ったんだ」

 

気味の悪いローブの男

 

何と言うか使い降るされたミステリーやホラー作品に出てくるいかにも怪しい奴みたいだ

 

しかしそんな怪しい奴に狙われるとはお嬢様も大変苦労なさっている、と自分の事ではないが多少同情する

 

他には何かないか?

 

「も、もう知らない!知ってることは全部話した!!!」

 

怯える瞳に震える声

これはもう収穫は得られないだろう

 

そうと決まればもう戻る準備をする

 

他に奴等が居ないとも限らないし、それに後ろの石の山も今は何もないが安心はできない

 

捜査等は素人である自分がやるべきよりもその道の人に任せるのが一番だろう

 

最後の男の方も生かして捕らえれば後々何かに役に立つかもしれない

そうならば気絶させるのが今のところベストだ

 

今一度鉄棒を作り出して雷属性を付与し、それを男の首に押し当てる

 

「あがががががが!!!」

 

即席のスタンロッドだ、死にはしない

何か凄い悲鳴を上げながら色々と垂らして倒れたが大丈夫だろう

煙吹いて白目向いているが大丈夫だ、大丈夫大丈夫

 

気絶させた男の武器をひん剥き手足を縛り転がす、一先ずこれで情報を手に入れたため安全な場所に移動することにした。

 

作った武器を水銀へと戻して回収する

 

そして回収が終わり、少女を拾い上げた

可愛らしい寝顔、あれだけの事があったと言うのに起きないとは肝っ玉が太いのかそれとも薬が効きすぎているのか

 

さっさと帰ろうと少女をおんぶし、来た道を引き換えそうとして

 

 

 

直後、腹に鋭く鈍い激痛が走った

 

 

 

 

 

 

氷のような冷たさを腹の周りで感じ、次の瞬間には焼かれるような強烈な痛みが走る

 

一瞬の硬直…後に血が吹き出す

だがその硬直により生じた隙に更にもう一度ナイフが振り下ろされ、腹部を刺された

振るわれた方向を見やればそこには保護対象の少女が笑みを浮かべていた

 

これ以上刺されるわけにはいかない

咄嗟にナイフを持つ手を掴み押さえ込む

だが手を掴んだ瞬間、強い衝撃を背中に受け、バランスを崩したまま転がり、地面へと強めに落ちる。

どうやら手を掴んだ瞬間に背に思いっきり蹴りを入れられたようだ

 

ポタリポタリと血が流れ落ち、止まらない

咳き込むと変色した血が喉の奥から溢れて零れ

そして次には四肢が痺れに力が入らず膝をつく、これはナイフに毒が塗られていたのだろう

 

「ひーかかったひっかかったー!」

 

男の声、それはすぐ近くから聞こえた

いや、少女からその声が聞こえる。どういう事だ

 

「シェイプチェーンジ!」

 

そう少女が口にした瞬間、少女の姿がぶれて黒いローブの男へと姿が変わる

 

変身、とその言葉が頭に過った

 

魔法が平然と存在する世界だ、そんな物があるとは自分が知らないだけであってもおかしくはない

 

「ん〜どうだった?俺のシェイプチェンジ、完璧だったでしょ?」

 

ケタケタと男が笑う

 

「油断大敵だょぉ?」

 

明らかな挑発

腹の痛みと共にふつふつと怒りが沸く

 

落ち着け

 

一旦深呼吸をして頭を冷やす

とりあえず今の状況の確認だ

 

腹部、2箇所の刺傷に出血多量で激痛…内蔵に傷がついているかはわからない…

 

四肢の麻痺、手足には力がほぼ入らない…毒が関係しているのは明白

 

意識、出血と毒で視界はボヤけるし聴力も落ちている…危険な状態と言える

 

目の前の男、170cmくらいだが細く見える…フードのせいで顔はわからないが持っているものはナイフであったからジョブは盗賊又は暗殺者だろうか…いや、擬態に似た技はアサシンにはあるがそれとは別…何より魔法のような物をこの『目』が捉えていた

 

つまり…やつは魔法使いである可能性が高い

 

腹部から血が出るがとりあえず止血しなければと、動き辛い手を傷口にあて、メリクリウスを起動し水銀で無理矢理傷を塞ぐ

 

「ん〜?んん?なにそれ?」

 

滴り落ちる血が突然止まったからだろうか

男は首を傾げながらこちらを直視している

 

「ん〜…そんな魔法は記憶にないし〜…もしかして…転生者?」

 

転生者を知っている?

と言うことはコイツも同じ転生者なのか?

 

「ん〜可哀想に、君もこんな世界に落とされたんだね…」

 

「まだまだ若いように見えるからさ〜、悲しさを知る前に〜」

 

終わらせてあげるね?

 

男は空間に手を突っ込み、剣を一つ取り出す

間違い無い…コイツも転生者で特典を持ってる

 

動こうとしても四肢に力が入らない

毒と無理やり傷を塞いでも失血している

 

振り上げられた刃

 

その切っ先が振り下ろされる様子がやけにゆっくりと見えた

 

走馬燈が見える、あの日、病気で命潰える瞬間すら見えなかった走馬燈

 

そして見えたのは…クリスの顔であった

この世界であった色濃く写るもの、そこに君がいた

 

あぁ…そうか、私は君を…

 

「ユーリッッ!!!」

 

彼女の声が聞こえた気がした…

 

 




on…久しぶりに筆をとっても時間軸が全然進まぬ…

もうちょいスピード上げたかったけども技量が全然足りないなぁ…


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血濡れた栄光の手

時がずいぶんと立ってしまった…おまたせしました!

毎回思うのが待たせすぎだろ!?と思いますが、一時を楽しんでいただけるならこれ幸いです

ではどうぞ!


ボヤける視界

 

ひりつくような息苦しさ

 

浮かされるような気持ち悪さ

 

意識がはっきりして行く内に腹部が熱を持ち、痛みが走る

 

まだ自分は生きている?

 

「おぉ目覚めましたか!良かったぁ!先生!先生ッ!!!ユーリ君が目を覚ましました!!!」

 

声の主は昼間にあったハルヒト

ホッとした安堵の表情をしながら、医者…(多分現状に関しては医者であろう)を呼んでいた

 

腹部に走る痛み

 

そうか、私は刺され、そして助かったのだな

 

痛みが一瞬走り、我に返る思考で見知らぬ天井と言うよりはあまり見慣れていない天井を見ながらぼうっとする

 

ぼうっとするのは出血したからだろう

 

『ユーリ君ッッ!』

 

ふと最後に聞こえた声を思い出す

あれは確かにクリスの声だった

 

彼女が助けてくれたのだろうか

 

木製のドアの金具が講義を上げるかのようにギィと鳴り、それと同時に強く打楽器のようにドンと開きながら僧侶姿の者とハルヒトが入ってくる

 

「気分はどうですかな?何処か調子の悪いところは?」

 

グイグイと詰め寄ってくるハルヒト、強いて言うならば出血により少しぼぅっとして、刺された場所が少し痛む程度だろう

 

「そうですか、本当に良かった…」

 

本当に安堵したように深いため息をつきながら、優しくこちらを見据える

その眼差しは子供を心配するような優しいものであり、自身の家族がお見舞いに来た時を思い出した

 

…本当に心配してくれているのか

 

出会った期間はごくわずかとは言え、ハルヒトの人柄の良さがしみじみと伝わる

 

それよりもだ

イリスは大丈夫なのだろうか

襲撃を受け、気がついたらシェイプなんちゃらと言う魔法で入り変わっていた女の子

 

連れ去られてしまったのでは無いかと不安に刈られる

 

「そのことですが…あなた達のお陰で連れ去られる前にクレアさんがアイリス…いえ、イリス様を保護しました」

 

その言葉を聞き、さらに安堵する

そうか…助けられたのか

 

良かった良かったと思いながら、おもむろに最後に聞こえた声を思い出す

 

クリスは何処?

 

その言葉に一瞬、ハルヒトが口をごもらせる

 

「ッッ…それはですね…その…」

 

クリスに何かあったのか

新たな嫌な予感が生まれ、ベットから飛び出す

 

直後に腹痛、傷がまだ疼いて足に力が入らずにその場で少しうずくまる

 

「ユーリ君、無理しないでください、クリスさんも無事ですから」

 

無事?無事とはやはりあの場に来たのは間違いないのか?

 

「えぇ、その通り…あの場で襲撃に会い、そしてあなたをクリスさんはあなた達を助けようと奴らと戦いそして…」

 

 

「刺されました…」

 

 

その言葉に背筋の毛が逆立つ

胸の中がドロドロになり、頭からはタールのようなよくわからないものが吹き出すように憤りと感情がごちゃまぜになって脳をかき乱す

 

「落ち着いてください、ユーリ君!彼女は今隣の部屋で……」

 

隣の部屋、そう聞いた瞬間、痛みも忘れ、ハルヒトと僧侶を押し退けてただ本能的に…反射的に飛び出し、隣の部屋へと向かう

 

熱く、じんじんと這い回るお腹の痛みよりも…自身のことよりも彼女の事が大切と思えた故の行動

 

クラクラと抽象画のように不規則な視界ではあるが、廊下を走り、ノックもせずに扉を跳ね除けるようにして開いた

 

消毒液の匂いが鼻を擦り、静かな空間に跳ね除けた扉の金切り声のような蝶番の音が伸ばされた飴のように嫌に響く

 

クリスは布団で眠っていた

 

包帯を巻かれ、少しだけ血が滲んだガーゼを当てたまま小さく…本当に小さく寝息を立てて横になっている

 

見たところ傷は元々あった顔の傷以外無いように見えるのは魔法で治したからだろうか

 

弱々しく眠る彼女に近寄り手を握る

 

少し冷たい、けども僅かながら感じるぬくもりと先ほども聞こえていた小さな寝息で彼女が生きていることに自然と涙が頬を伝った

 

「ユーリ君…クリスさんは大丈夫」

 

追い付いたハルヒトが背後に立ちながら言葉を紡ぐ

 

「間一髪…クレアさんがその場に間に合い、襲撃者を撃退し、私のところへ駆け込んで来ました、そして治療し、教会にも来てもらい今に至ると言うわけです」

 

「彼女の命に別状はありません、むしろユーリ君…あなたの方が重症だったくらいだ」

 

そう言いながらハルヒトは横に立ち、私の肩を支えながら抱く

 

「ですからユーリ君…彼女の側に居たい気持ちはわかりますが、あなたも部屋に戻って安静にしなさい」

 

そう言うとハルヒトは私に肩を貸すように支え、反対の肩を僧侶が抱えて、先程まで私が居た

部屋へゆっくりと歩き出す

 

クリスが刺されたのは私のせいだ…

そんな罪悪感が重く、背中にのしかかり、今すぐ首を掻き毟って嘆きとともに開放したいくらいの後悔が胸中に居座る寄生虫のように激しく鼓動を揺らす

 

「よいしょ…」

 

先程の自身のぬくもりが残った布団に連れて行かれ、横になるとなおさら一層、罪悪感が胸にのしかかった

 

「ユーリ君、キミは今後悔しているでしょう…だけど今は逆に誇りなさい」

 

「君が居たからイリス様は助かった、君は一人の人を救ってるのだから」

 

慰めの言葉…しかし少しでも癒そうとするその優しさが今は凄く痛くて…そして嬉しかった…

 

「君はまだ子どもです…全てを背負う必要はない…」

 

布団をかけられ、頭を撫でられる

 

「今、イリス様はクレアさんが別のところで保護しています。そして騎士団が犯人を捜査しています」

 

「あなたは十分に頑張った…後は大人の問題であり、ここからは大人に任せて、今はゆっくりと休みなさい」

 

頭を撫でるぬくもりに安心感を覚える

今は少し、そのぬくもりに安心しながら眠りたい…

 

すがるように…ただすがるように…

くりすをおもいながら…まぶたをとじて………

 

 

……………自身を…この身を捧げると誓った……

 

 

 

 

綺麗に花開く夜空の花火

 

キラキラと城下に広がる景色に人々は皆、笑顔であり、お祭りを楽しんである雰囲気が全体から溢れている

 

露天では食べ物や催し物の遊戯が沢山並び、その時期にしか見ることができない光景がより一層、特別な日であると強く認識させるだろう

 

一人の男がベネチアンマスクのような、お祭り用のマスクを付け、ベンチで露天で購入した串焼きを食べながら、目の前の大通りで踊り合う眩しい人々を眺めている

 

(街を出ないとな…)

 

男は今日、街の重鎮を襲撃した

故に祭りに乗じて手配されたルートで街を離脱する予定であった

 

しかして、予定の時間はまだ先である

故に祭りに参加、ではないが街を後にする前に少しだけ街の雰囲気に浸ろうとしていた

 

 

華やかに踊る人々、それを見る目には友達と踊った時の過去の情景が思い浮かび、少し苦々しく思う

 

(俺も昔はみんなと…)

 

走馬灯のように思い出したその光景を柄でもないと自嘲気味に苦笑いしながら、思考を吐き捨ててベンチを立ち上がる

 

(今日はやけに過去の事を思い出す…なんでだ?)

 

こういった日は何か起こる、過去の経験から男は早々に退散した方が良いと決断をし、食べ終えた串焼きをさの串を包んでいた紙と一緒に丸め、近くのゴミ箱まで捨てに行く

 

ドンッ…体に軽い衝撃な走った

 

「なんだぁ?」

 

悪態をつきながら男は、何かがぶつかった方向を見やれば仕立ての良いチロリアン風な…童話で言う赤ずきんのようなチロリアンドレスに身を包んだ可愛らしい少女が尻もちをついていた

 

(ん…!?…なんて綺麗な娘だ…)

 

薄っすらとされた化粧、人透き通るような肌…目立つはずなのに控えめな灰色の髪…人形のような整った美しさと儚さが両立した綺麗な顔に雑誌で見るような長いまつげ

彫刻のような美しさにぬいぐるみのような幼さをかけ合わせた少女に見惚れて固まる

 

しかし少し間を負けたあと男はハッとして少女に手を差し出す

 

「だいじょうぶ〜?お嬢さん?」

 

100%の善意、悪意に塗れて来た男にとって今は従来の故郷の道徳観が働く

 

コクリと頷いて手を取る少女を立ち上がらせた

 

ほわりと香る薄いながらも甘い香り…香水の匂いが鼻から脳を叩き、心臓を一瞬、射止める

 

「怪我とかない〜?汚れてないかなぁ?」

 

男は少しテンパっていた、綺麗な少女に一目惚れと言うものだろうか

とりあえずテンパりながらも出した相手を気遣う言葉が出せるのは過去の癖であり、両親と学校の教育の賜物だろう

 

あまり良い思い出は無いが、今この瞬間、男はそれらに少しだけ感謝をした

 

手を貸して立ち上がらせた少女は申し訳無さそうに、少しあわあわしながら何かを言おうとしている

その隙を逃す男ではない

 

約束の時間はまではまだある

 

高校時代の友達とやったナンパを思い出しながら、少し攻めた

 

「ん?お礼がしたいのかなぁ?」

 

まだあわあわする少女…その手を握ったまま少し大通り方向へ歩き、会話する

 

「ん〜じゃあさ、一緒に踊ってくれたら許して上げるね?」

 

(街を出る時間はもうすぐだけど、ちょっとだけハメを外すのも良いよねぇ)

 

ちらりと時計を確認しながら、今は目の前の事に集中する男

 

心臓バクバク、周りの音はスローに聴こえ、自身の手汗が凄いことになっていないか心配するが、少女もテンパっているみたいであり、言うが早いか踊り場まで手を繋いで一緒に飛び出す

 

 

曲が始まった

 

 

(ちょっとした思い出作りの始まり始まり)

 

男は綺麗な少女を物にする一歩を決めた

曲は始まり、周りは踊り始めているため少女は逃げることができない

曲が終わるまでの数分間が勝負だ

 

1…2…3…4とステップを踏み、少しぎこち無いながらも映画で見るようにくるりくるりと周るロールを決め、ながらもキラキラとした踊り場で二人のテンポを刻む

 

(楽しいなぁ…)

 

男は可愛らしい少女の今、自身の手の内に入れられて居ることを歓喜しながら今この時間を噛み締めていた

 

曲と踊りが佳境に入り、さらに熱を帯びていく感覚が男の体を駆け巡る

 

 

クライマックス…お互い息を合せて最後にステップを決め…お互い体を支え合うようにフィニッシュした…

 

(決まったッッ!)

 

男は心でガッツポーズを取る、少女と踊れた事にやりきった感がとてつもなく出ていたが、まだ終わってない

少し気遣う素振りを見せてまたベンチに移動しながら、次の手を考えて歩く

 

「またね!お嬢さん!いつか一緒に食事にでも…」

 

突然、手がスルリと抜け、少女と手が離れる

 

「どうしたのぉ?ッッ…!?」

 

振り向いた瞬間、少女は抱きついてきた

突然のハグ、驚いた男は急すぎて体が硬直し、思考回路が一旦白くなる

 

しかし直後であった…

体から力が抜け、後ろにあったベンチに自身の意志とは関係なく座ってしまう

 

「あ゛……ぇ゛……」

 

喉に冷たい感覚…そして火傷するような熱さ

声が出ない

 

男が最後に見た光景は

 

 

左手に血で汚れた小さな刃を纏う…一人の暗殺者だった…

 

 

 

 

真実など無く、許されることなど無い……

 

 

 

 

この世界に始めてきた時はまるでゲームのようだと興奮したっけな?

チートのような強力な力、ゲームRPGのような魔物に魔法に魔王の世界

 

高校生ならば興奮する世界に明日もキラキラと輝いているみたいなすんごい日常に俺と友達は興奮しっぱなしだったなぁ〜

 

冒険者になって、魔物を退治してチヤホヤされるチーレムが目の前にあって…あの女神の言う通り特典を選んだ

 

俺が選んだのは『四次元収納』、友達がシンプルに強いのを選んでたから俺は利便性があるこの特典を選んで、沢山物を運んだっけな

 

それでこの世界をエンジョイして、友人たちと沢山冒険をして…して…そして……

 

俺だけが残った……

 

終わらない魔王軍との戦い、戦場で行われる敗残兵の悪逆、ギリギリの人類の存亡をかけているのに私腹を肥やして民を切り捨てる貴族

 

もう耐えられなかった、日本人とチートと言うだけで戦場に駆り出されて友達とかみんな死んで、次々と来る転生者も戦闘能力が低い俺をバカにしたり、好き勝手やったりして

 

俺はこんなのを守りたいために戦ったわけじゃない、友達もこんな奴らのために死んでいったと思うと反吐が出て胸からは恨みと辛みしか出ない…

 

だから魔王軍に取り入って、魔王が世界を統一すれば今よりはマシになるんじゃ無いかって思って…

 

 

俺は人類を救うために、人類の敵となる

 

 

そのためには人を殺さないといけないときもあったから口調を変えて狂ったように演じて

 

泥水すすりながら頑張って、俺の能力を使えば密輸し放題だから魔王軍には目をかけてもらって付き従って

魔王軍と繋がりがある者や悪逆な反吐が出るような貴族にも媚び売って

 

ここまで来たんだ…ここまで来たんだ…アイツが少しでも望んだ平和な世界を実現するためにもここまで来た

 

なぁ…俺は間違ってたのか?いや、とっくのとうに間違ってるなんてわかってる、わかってた

女神に恩を仇で返す感じだけど、俺にはもう無理だった

 

間違ったまま進むしかなかったんだ

 

だから、妥当な終着点なのかなぁ?これがぁ…

 

なぁ…頑張ったよ…だから俺も…お前のも…とに………あのと…き…みた…いに……一緒に…冒険…し…よ……う……な…

 

 

 

 

 

 

『転生し、再度の生を与えられた汝の所業は許されるべからず…されど汝の思いは間違いにはあらず…人それぞれの思いに違いがあり、苦悩があり、道がある……故に今はその苦悩から解き放たれよ』

 

 

 

 

 

 

 

眠れ…安らかに……

 

 

 

 

 




ユーリ君の設定資料とか需要あるかな…
とりあえずプロットは出来上がって最後までの道筋はできているけども、各時間ががががががががか

まだまだエタらんよ…首をろくろっくびにしてお待ちを!ではまた!!!

ちなみに感想とか評価はいつも励みになっております、ありがとう!

いや、本当に感想とか開いた時にあるとドーパミンとか脳汁ドバドバですよねぇ


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