「君の名は。サヤチン」 (日夏孝朗)
しおりを挟む

1話


 
 
「君の名は。サヤチン」
 
 
 
 朝、目が覚めて私、名取早耶香は不思議に思った。
「…………あれ? どうして、私は三葉ちゃんの部屋で寝て………」
 自分の部屋で眠ったはずなのに、どうしてなのか、私は三葉ちゃんの部屋で、三葉ちゃんの布団で寝ていたみたい。まあ、いいや、とりあえず起きよう。あ、鏡に三葉ちゃんの姿が映ってる。
「おはよう、三葉ちゃん。夕べ、私、ここに泊めてもらう流れに、どうしてなったっけ?」
 って、質問したのに三葉ちゃんの姿は答えてくれないで、私と同じ口調で唇を動かして、こっちを見てる。あれ? 三葉ちゃん、どこにいるの? 背後?
「……誰もいない……」
 振り返ったけれど、誰もいなくて、また鏡を見ると動くタイミングまで私と同じに三葉ちゃんの姿が動いてる。
「…え? ………三葉ちゃん……に……、……なってる?!」
 私が顔を触ると、鏡の中の三葉ちゃんも顔を触るし、胸を触ると、いつも重くて大変なのに今日は軽くて小さい、そしてウェストが理想的にスッキリとしていて私は確信した。
「私……私は三葉ちゃんに……なってる」
 鏡に映ってる三葉ちゃんの姿が、いまの自分なんだって理解した。
「…………どうしよう? …………とりあえず、私のケータイに電話かけてみたら…」
 私は枕元にあったスマフォを手にした。高校へ入学するとき、三葉ちゃんと二人で同じスマフォを買ったから、操作はわかる。機種も色も同じだから自分のスマフォかと思うほどだけど、モニターに映った壁紙が違うから、やっぱり三葉ちゃんのだとわかる。ちょっと借りるね。私は履歴からサヤチンを探して、そこへ電話をかけてみた。
「もしもし! 三葉ちゃん?!」
「……ん~……おはよう、サヤチン」
 眠たそうな声で返事してくれたけど、その声が、私の声だ。自分で聞くと恥ずかしい私の声がする。
「やっぱり、三葉ちゃんに私がなってる……。三葉ちゃん! 私たち入れ替わってるよ!!」
「あ~……そうみたいだね。やっぱり同じ機種にするもんじゃないね。色も同じだから、つい、うっかりサヤチンのを持ってきたのかも」
 まだ寝惚けた声で答えてくれる。きっと、着信番号で表示された氏名を見て、たんにスマフォを取り違えたんだと思ってる。そんな普通のことじゃないんだよ、私は事態の重大さを伝えるために叫ぶ。
「入れ替わってるのはケータイじゃなくて私たち!!」
「うっ……サヤチン、声、大きい。もう起きてるから」
「鏡みて! 鏡!」
「鏡ぃ? ……あれ? どうして私、サヤチンの部屋で寝て………」
「とにかく鏡を見て、本棚のとこにあるから」
「うん。あ、これか。…………ええあああ?!」
「どう? 私になってる?」
「なんで私がサヤチンなの?!」
「やっぱり……」
「なにこれ?! どうなってるの?! ねえ?!」
「わからないよ。私も起きたら、こうなってたの」
「どうしよう?!」
「とにかく落ち着いて、鳥居のところで会おう」
「うん、わかった、すぐ行く」
 電話を切って寝間着を脱ぐ。
「やっぱり三葉ちゃんの身体……」
 顔だけじゃなくて、鏡に映る身体も三葉ちゃんの身体だった。
「急ごう」
 制服は同じだから着方もわかるし、三葉ちゃんのタンスのどこに靴下が入ってるかも知ってるから勝手に出して履く。たぶん、三葉ちゃんの方も私のタンスを知ってるから着替えは苦労しないはず。着替え終わって部屋を飛び出したら、四葉ちゃんが起きてきた。
「お、お姉ちゃん、今朝は早いね」
「う、うん。ちょっと急いでるから」
 四葉ちゃんへ余計なことは言わない方がいいかな、と思って私は軽くポンポンと四葉ちゃんの頭を撫でて、階段を降りて外へ出る。靴も、どれが三葉ちゃんの靴か知ってるから迷わなかった。待ち合わせに指定した神社の鳥居へ駆けつけると、すぐに私の家の方向から私の身体が走ってきた。
「やっぱり、私になってるのが三葉ちゃんで、この三葉ちゃんが私……」
「ハァ! ハァハァ! わ、私だ! 私がいる!」
 お互い、自分の姿を自分じゃない視点から見るのは、すごく違和感あって、なんとも言えない恥ずかしさもある。それは三葉ちゃんも同じようで駆け寄ってくると、恥ずかしそうに言ってくる。
「ああ~ん、もお、ちゃんと寝癖を直してから出てきてよ。私、寝癖すごいから」
「……そんな場合じゃないかと……」
 そう言いながら、思わず私は三葉ちゃんの手を伸ばして、私の頬へ触れた。同時に私の手が伸びてきて三葉ちゃんの寝癖のついた髪へ触ってくる。
「「……………」」
 お互いに触り合って、しばらくして確信した。
「「私たち入れ替わってる」」
 見つめ合うと、私の目が私を見てくる。その違和感がとんでもなくて、きっと、三葉ちゃんの方も自分の目に見つめられて、ものすごい違和感があると思うから、二人とも黙り込んでしまう。
「「………………………」」
 長く感じた沈黙を先に破ったのは、私が発した三葉ちゃんの声だった。
「これ、あんまり他人には言わない方がいいかも」
「そうだね……変に思われそうだし」
「っていうか、たぶん言っても信じないんじゃないかな。私と三葉ちゃんの二人で、ふざけてるだけだと思われそう」
「うん、ふざけてるにしては、面白く無いし」
「一応、四葉ちゃんとかにも、まだ話してないけど、私の家族に何か言った?」
「う~ん………おはようございます、って言ったかも。あとは急いで出てきたから何も言ってないはず」
「そのくらいなら平気そうだね」
「でもさ、黙っておくのはいいとして。これ、ずっと私はサヤチンなの?」
「………どうなんだろう……私は、ずっと三葉ちゃんなのかな……」
 ちょっと未来を想像してみる。ずっと、入れ替わったままだと想像すると、絶望的な人生とは思わないけど、やっぱり急に自分が自分で無くなってしまうのは困惑する。もちろん、家族も友達も、すぐそばにいて会える。けど、立場が変わるし、それに慣れたとしたら、もう私は私でなくなって三葉ちゃんとして生きていくことになりそうだし、三葉ちゃんは三葉ちゃんで私として生きていくことになる。三葉ちゃんも悩んでるみたいで、私の首を傾げて私の腕を組んでる。
「ずっと、サヤチンでいるとなると…………う~ん……もし、ずっとだったら、やっぱり家族に説明して寝るところとかチェンジしてもらう?」
「う~ん……生活環境さえ戻れば……あとは外見だけど、三葉ちゃん可愛いし、ちょっと得した気分」
「え~、サヤチンの方が可愛いよ。声もキレイで羨ましかったし。おっぱいだって大きいし」
「屋外でモミモミしないで。人が見たら変な女に見えるから」
 神社の鳥居を待ち合わせに指定したのは、この時間帯は人通りが少ないからだけど、やっぱり自分の手が嬉しそうに自分のおっぱいを揉んでるのは恥ずかしい。なのに、三葉ちゃんは私の手で私のおっぱいを揉み続けて、なんだか自慢げにしてる。
「大きいねぇ。重いねぇ。柔らかくて、いい感触。私も、これくらいのおっぱいが欲しかったよ、まだ成長するかなぁ」
「やめないと、このスカートめくったまま通りを歩くよ」
 しつこいので私は三葉ちゃんの手で、三葉ちゃんのスカートの裾をつまむと全開にあげた。周囲に誰もいないのは確認したけど、それを見て、私の顔が真っ赤になる。
「やめてやめて! 自分にセクハラしないで!」
「先にやったのは、そっちでしょ」
「テヘへ、ごめん、ごめん」
「そろそろ学校に行く時間だし、とりあえずお互い普通に過ごして様子をみよう。戻れる方法があるといいけど」
「そうだね。テッシーのムーとかに書いてないかな」
「あれに書いてあっても信用できないよ」
 一度別れて、お互いそれぞれの身体が所属してる家へ戻る。台所から一葉お婆さんが声をかけてきた。
「三葉、おはよう。なんで外に出とったん?」
「あ、おはようござ…おはよう。…お婆ちゃん。うん、ちょっと三葉ちゃ……ん、じゃなくて。サヤチンとケータイを取り違えてたから交換に」
 あやうく自分で自分へ、ちゃん付けする痛い子になるとこだった。注意しないと、今の私は三葉ちゃんなんだから、三葉ちゃんとして行動しなきゃ。
「お姉ちゃん、これを並べて。お味噌汁を用意して」
「あ、うん」
 四葉ちゃん、お手伝いしてえらいなぁ、と感心しつつ、お味噌汁をお椀へ入れる。この家には何度も泊めてもらったことがあるから、だいたいわかるから大丈夫。きっと、名取家でも同じように三葉ちゃんも苦労はしないはず………けど……うちは両親そろってるから……そのことで三葉ちゃんが傷ついて無いといいけど…………今だって一葉お婆さん、町の選挙放送が始まった瞬間、音量最小にしたし……ご家庭の事情はそれぞれなんだろうけど……うちは普通の家庭だなぁ……パパとママがいて、お姉ちゃんがいて……、私は気を利かせてテレビのチャンネルを変えてみる。
「…アフガニスタンでは市街地で銃撃戦が続き、少なくとも900人が犠牲に…」
「「「いただきます」」」
 三人で朝食を食べて、学校のカバンを持って、いつも通りの通学路に出てみた。ちょうど私の身体に入ってる三葉ちゃんと勅使河原克彦、テッシーも来てくれて、いつもの三人がそろった。
「おう、おはよう。三葉、サヤチン」
「「おはよう。………」」
 うっかり呼び間違えないように、いっそ呼ばないことにしたのは三葉ちゃんも同じみたい。けど、私の顔が悲しそうに泣いていたから心配になる。
「どうかした? ……サヤチン」
 呼び間違えないように三葉ちゃんを呼ぶと、こちらを見た私の瞳が涙を零した。
「なんでもない……ぅっ……ひっく……お母さん…」
 なんでもないって言ったけど、こちらを見て三葉ちゃんの顔を視てる私の目が泣いたまま、私の手を伸ばしてる。それで意味がわかった。三葉ちゃんはお母さんとよく似てきたから、この顔を見て自分より、お母さんを想い出すんだ。この様子だと、私の家でも何かあったのかもしれない。私は私の身体へ駆けよりながら、テッシーに頼む。
「ごめん、テッシー、ちょっと離れてて」
「お…おう…」
 テッシーが2メートルくらい距離をとってくれたので私が問う。
「家で何かあったんでしょ?」
「うんっ…ひっく……ごめん……、朝ご飯のとき、おはよう、お父さん、お母さん、って言ったら泣けてきて……ごめん……変に思われた……ぐすっ…う~っぅ…こんなことで泣いちゃいけないのに…」
「三葉ちゃん……」
 両親そろっての朝ご飯が三葉ちゃんを泣かせてしまったのは、わかる。だって、それは私にとって、ごく普通のことなのに、三葉ちゃんにとっては永遠に体験できないこと。うちへ三葉ちゃんが泊まりに来たときだって、それは友達として振る舞ってるから平気でも、今朝は娘のフリをして、お父さん、お母さんって呼んだら、泣けてきて当然だよ。私は三葉ちゃんの手で私の身体を抱きしめた。
「泣いていいよ。好きなだけ」
「うっ…ひっく……うん……3分だけ……」
 私の顔が頷いて、三葉ちゃんの胸にくっついてくる。
「ううっ……ひううっっ…」
「よしよし」
 泣きじゃくる私の頭を三葉ちゃんの手で撫でてると、心配したテッシーが訊いてくる。
「おい、サヤチンに何かあったのか?」
「……うん。まあ……女の子には色々あるんだよ。………話せる時が来たら話すかもしれないから、今は、そっとしておいて」
「そうか……わかった」
 こんな説明で納得してくれるテッシーが好き。
「ぐすっ……ありがとう、もう平気」
 言ったとおり遅刻しないように3分で泣きやんでくれたから歩き出して三人で登校する。しばらく歩いてると、広場で三葉ちゃんのお父さんの宮水俊樹さんが選挙演説をしてた。
「この糸守町は小さい! けれど、素晴らしい町です! 町民が一致団結して…」
「「「……………」」」
 三人で無視して通り過ぎようとしたのに、俊樹さんが注意してくる。
「三葉! もっと胸を張りなさい!」
「……、あ、…私か…」
 一応、言われた通りに胸を張ってみる。そしたら、隣を歩いていた私の顔が恥ずかしそうに伏せられた。
「「ん?」」
 俊樹さんとテッシーが少し違和感を覚えてるけど、違和感の正体はつかめずにいるから、そのまま歩いて選挙カーが見えなくなると、私は習慣と好奇心でテッシーへねだった。
「テッシー、ちょっと乗せて」
「お……おう…」
 押していた自転車の後部へ、三葉ちゃんのお尻が乗るのを許可してくれた。
「うん、楽ちん楽ちん」
「珍しいな、三葉が乗りたがるの」
「たまにはね」
 いつもなら、すぐに降りろって言われるのに、そのままテッシーは坂の上にある校門まで自転車を押してくれた。
「ありがとう、テッシー。疲れたでしょ」
「平気平気、三葉は軽いからな。誰かと違って」
「……」
 ムカっ、思わず三葉ちゃんの手がテッシーのわき腹をつねる。
「痛っ…、って、そこ三葉が怒るとこかよ?」
「え……えっと、……レディーに対して失礼でしょ?」
「そうそう! おっぱいが重いと歩くのも大変なんだから」
「そこも強調しないで」
「はい、ごめんなさい」
「はははは! 二人とも、なんか今朝は面白いな」
 三人で校舎へ入って、うっかり自分が座るべき席を間違えないように腰を下ろすと、あとは何の支障もなく授業が始まる。けれど、一時間目の途中でスマフォが振動して、サヤチンと表示してる。先生に気づかれないようにメッセージを開いた。
「トイレ行きたい」
 って書いてある。私の席を見ると、かなり我慢してる姿勢だった。実は私も我慢してる。今朝バタバタしてトイレに入れなかったし、なんとなく、いくら女同士で親友でもパンツおろしてしまうのは気が引けたから。けど、このまま我慢してたら、きっと授業中に漏らしそう。それは二人とも絶対に避けたい。だから、私もメッセージを送る。
「私も行きたい。いっしょに行こう」
「うん。手を挙げてくれる?」
「はいはい」
 三葉ちゃんは恥ずかしがりなところがあるから、代わりに手を挙げるけど、今の場合、この手が三葉ちゃんの手で、クラスみんなの注目が三葉ちゃんの身体に集まるんだけどね。
「宮水さん、どうしました?」
「少し気分が悪いので」
「わかりました。誰か…」
「サヤチン、お願い」
「うん」
 三葉ちゃんが私の身体で立ち上がったから、二人で女子トイレへ向かう。
「「……………」」
 授業中の静かな廊下を二人で歩いていく。やや恥ずかしい。これから、することを考えると、なかなかに羞恥心が疼く。
「じゃ」
「うん」
 二人で別々の個室へ入って、それぞれにパンツをおろして洋式便器に座った。
「あ! サヤチン! じゃなくて宮水さん! っていうか、三葉ちゃん!」
 盛大に呼び間違えながら三葉ちゃんが個室の壁越しに声をかけてくる。
「どうしたの?」
「私、けっこう前に飛ぶから便座の奥に座って前屈み気味になってね」
「え? きゃあ?! ……うぅ……そういうことは早く言ってよ。パンツ、濡れちゃったじゃない」
「サヤチンは、しっかり下に落ちるんだね。ふーん……こういう風になってるのか……私のと、ちょっと違う」
「こっちも写メ撮って送ってあげようか?」
「うう、やめてください。ジロジロ見ません」
 二人ともトイレットペーパーで拭いてから、私は濡らしてしまった三葉ちゃんのパンツのことを相談する。
「パンツ、けっこう、おもらしみたいに派手に濡らしちゃったんだけど、どうしよう?」
「う~……早く言うべきだった……」
「ノーパンもスカート丈的に、きついよね」
「体操服の短パンを取ってくるから、それ着て」
「誰のカバンから取ってくるか、間違えないでね」
「は~い」
 三葉ちゃんが持ってきてくれた三葉ちゃんの短パンをスカートの中に履いて教室に戻る。そのまま昼休みまで授業を受けて、テッシーと三人で校庭の木陰でランチにする。
「いい天気ね」
「三葉ちゃん、その卵焼きと、これ交換しよ」
「そうだね。サヤチン、これ好きだもんね」
 もう呼び間違えないくらいに慣れてきたけど、お弁当の中身は私が食べたい物と、三葉ちゃんの食べたい物で微妙に違うのに、私は三葉ちゃんのお弁当を持ってるし、三葉ちゃんは私のお弁当を持ってる。何回か、オカズを交換してるうちに面倒になってきた。
「サヤチン、今日はお弁当ごと交換しない?」
「うん、それいいね。はい」
「お前ら仲いいな。あいかわらず」
「「まあね」」
 食べ終えてから私はテッシーが読んでるムーを覗いてみる。この雑誌に興味があるわけじゃないけど、こうすると距離を縮められるかなって想うから。
「……三葉、面白いか?」
「うん、まあまあ」
「今度、貸してやろうか」
「それは、いい。ちょこっと覗いてるだけで十分だよ」
「私も見てみたい! ねぇ、テッシー! 人格が入れ替わる現象の治し方とか書いてない?」
「はぁ? サヤチン、お前は何言ってんだ?」
「うっ、テッシーが冷たい目で見た」
「変なこと言うからだろ。あっち行け」
「人を邪魔者みたいにぃ」
 怒った三葉ちゃんが私の身体で教室へ戻っていく。テッシー………今のは、ちょっと露骨だよ………邪魔者にされたのが自分の身体だと思うと、けっこう悲しい。
「なあ、三葉」
「…なに?」
「…………」
 珍しくテッシーが何か迷ってる顔してる。まさか、入れ替わってることに気づいてきたのかな。
「…………」
「…………」
「今度の休みによ、遊園地に行かないか?」
「うん! 行く! 嬉しい!」
 って返事してから私が誘われてないことに気づいた。
「サヤチンは、どうするの?」
「優待券があるんだけど2人分だからさ」
「そっか…………………考えておくね」
 あ……やばい……泣きそう……私……フラれた……追い払ったのは、こういうことだったんだ、ずっと誘うタイミングを計ってたんだ……、泣いてしまう前に私はお弁当箱を持った。
「サヤチンと相談してから決めるよ」
 ずるい答えを吐いてから、泣かないうちに教室へ戻った。放課後になって家の近くでテッシーを見送って別れる。
「「じゃあね、テッシー!」」
「おう、また明日な」
 テッシーが見えなくなったので話すべきことを話しておく。
「お昼休みにさ、私、三葉ちゃんがテッシーから遊園地に誘われたんだよ」
「ふーん……二人で行くの? ……ん? ………私は?」
「それが、どの私か、わからないけど、誘われたのは宮水三葉で、誘われてないのは名取早耶香なの。で、優待券は2人分なんだってさ」
「そっか……………。優待券無くても、三人でワリカンすればいいじゃん」
 ありがとう、たしかに、その手はあるけどね………それはテッシーの狙いじゃないんだよ……わざわざ2人分って言って、名取早耶香がいないタイミングで声をかけたんだから。
「…………」
「…………」
「はぁ……」
「……ねぇ、今夜、それぞれの家で寝る?」
 三葉ちゃんが私の口で訊いてきた。少し考えて答える。
「まあ、それが無難でしょ」
「…そうだね…じゃ。わからないことが、あったら、お互い連絡しよ」
「うん」
 道で別れて、私は宮水家に入った。
「ただいま」
「「おかえり」」
 一葉お婆さんと四葉ちゃんが迎えくれる。高齢のお婆さんを四葉ちゃんと手伝って夕食を用意して三人で食べる。うちだとお父さん、お母さん、時間帯によってはお姉ちゃんもいるから、ここの三人は少し淋しいかな。だから、テレビもつけっぱなしで食べるのかも。
「…中国の河南省でビル火災がありパーティー中だった若い男女が200人以上犠牲に…」
「「「いただきます」」」
 美味しく食べ終わって三葉ちゃんの部屋へあがってゴロゴロとしてみる。
「………このまま三葉ちゃんで生きていくなんてこと………そうなったら………」
 すごく疲れていて眠りそうになってくると、スマフォが鳴って表示がサヤチンだった。
「もしもし?」
「ぐすっ……ひっく……そっち泊まっていい?」
 ボロボロと泣いてる私の声が響いてくるから、泣いてるのは三葉ちゃん。
「いいかもしれないけど。何かあった?」
「サヤチンのお母さんに、お母さんって言うの……ひっく……まだ無理……ぐすっ…ぅううぅ…あうぅうっ…言う度に……泣けてきて…ひっく…お願い、そっち泊めて」
「うん。そうだよね………お婆さんに訊いてみる」
 私は一階へ降りて、一葉お婆さんから友達を泊める許可をもらって、表通りに熊避けの鈴を持って出る。この時間帯、糸守町には不審者も変質者も、まず出没しないけど熊と猪は出る。ちょっと待ってると、私の家の方から鈴の音が近づいてくる。
「…ぐすっ……ひっく……」
「そんなボロボロ泣いてたら四葉ちゃんに心配されるからさ。泣くのは後にしよ」
「うん……」
 まだ私の身体も入浴してなかったみたいだから、お婆さんに断ってから、泣き顔を誤魔化すためにも二人でお風呂に入った。慰めるために三葉ちゃんの手で私の身体を洗ってあげる。
「悲しいこと考えないでさ。別のこと考えてみよ」
「うん………じゃあ、やっぱり、おっぱい大きいね」
「そこかい」
 洗い場の鏡で私の目が羨ましそうに私のおっぱいを見てる。だから、私は羨ましく三葉ちゃんのウエストと腿を触った。
「私は、ほっそりした三葉ちゃんの脚とウエスト、最高だと思うなぁ」
「でも、おっぱいイマイチ小さいし」
「これは、これで需要あるよ」
「今度は私が洗ってあげる」
「ありがとう」
 私の手が三葉ちゃんの身体を洗ってくれる。どこをどう洗うと気持ちいいか知ってる本人の洗い方だけあって、すごく気持ちいい。
「私のおっぱい小さいね」
 また、その話題ですか。私の手が三葉ちゃんのおっぱいを残念そうに揉んでくる。だから、揉み返してやる。
「大きいと重くて肩凝るでしょ」
「うん、凝るねぇ。飛んだり走ったりすると、もうボヨンボヨン邪魔になるし。力入れたらブラとか弾け飛ばせたし」
 こいつ、いろいろ試したな、揉む力を強くすると、向こうも強く揉んでくる。
「このこの!」
「うりゃうりゃ!」
 二人で遊んでいたら、四葉ちゃんが裸で風呂場の扉を開けてきた。
「あ、ごめん。まだ入ってた。サヤチンさん、いらっしゃ……い……。そんなに自分らの、おっぱい好き?」
「「……いえ……つい」」
 洗い場を四葉ちゃんに譲って二人で温まってから三葉ちゃんの部屋へ客用の布団も敷いて並んで横になる。私は長い三葉ちゃんの髪をまとめつつ布団に寝たまま鏡を見る。
「キレイで長い髪だよね。私も伸ばそうかなぁ」
「……………」
「どうしたの?」
 振り返ると、三葉ちゃんが私の目で泣いてた。
「ごめん……ぐすっ……後ろ姿……お母さんに、そっくりで……その寝間着も、お母さんのだから……ひっく! お母さんと寝てるみたいで…ひぐぅうう…」
 そう言って抱きついてくるから抱き返した。
「よしよし。泣いていいよ。ただし、四葉ちゃんに聞こえないようにね」
「うん……ぐすっ……お母さん……お母さん……」
 甘えて泣きついてくるから、したいようにさせる。一時間くらい抱いていたら、うとうとしながら寝間着の上から、おっぱいを吸いたそうに何度も唇で噛んでくるから、迷う。
「…………、おっぱい、吸いたい?」
「うん……お母さん…」
「……いいよ。ほら」
 寝間着の襟元をゆるめて、三葉ちゃんの乳首を出すと、私の唇が吸いついてきた。
「…………」
「……お母さん……」
 この子が、おっぱいにこだわるの、大きさが羨ましいだけじゃないかも、仕方ないのかな、まだ甘えたいうちに亡くなったもんね。三葉ちゃんの手で、私の涙をぬぐって抱きしめた。
 
 
 
 

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話


 
 朝、私は目が覚めて自分の身体に戻っていることに気づいた。そう、私、名取早耶香は名取早耶香としての身体に戻っていた。
「………」
 布団の中で三葉ちゃんの身体に抱かれたまま眠っていた。目の前に、おっぱいが見える。三葉ちゃんの乳首も見えるし、何度も私の唇が吸ったせいか、ちょっと赤くなってる。
「…………」
 私は静かに寝返りして離れた。そして、鏡を見る。
「……………戻ってる。………よかったァァ…」
 心の底から安心した。いくら相手が三葉ちゃんでも、ずっと三葉ちゃんで生きていくとなると、どうしようかと思っていたから。
「……いったい、何だったのかな……」
「ん~……」
 三葉ちゃんの身体が寝返りした。おっぱいが出しっぱなしなので寝間着を直して隠してあげると、目を覚ました。
「……あ、サヤチン、おはよう」
「うん、そうだよ、私が早耶香」
「ん? ………あ!!」
 三葉ちゃんが飛び起きて鏡を見る。
「っ! 戻ってる!!」
「そうだよ! 戻ってるみたい!」
「よかった!!」
「うん!」
 三葉ちゃんが抱きついてきたので抱き返して頷き合った。
「戻ってるよ、私の手だ! 私が三葉だよ!」
「そうだね、戻ってるね。私の身体に戻ってる!」
 お互い、かなり不安もあったので元に戻って嬉しいし、すごく安心して抱き合ったまま喜んでいた。
「あ~……よかった。サヤチンがサヤチンだし、私が私に戻ってる」
「夕べは、どうなるかと思ったね」
「うん、あのままだったら、どうしようかと。……うっ、なんか乳首が痛い」
「さんざん吸ってきたからよ。寝ちゃった後は噛んできたし」
「赤くなってる」
 三葉ちゃんが寝間着をめくって自分の乳首を見て、それから、いつのまにか四葉ちゃんが戸を開けて、こちらを見ていたのに二人して気づいた。
「「あ………」」
「…………」
 四葉ちゃんの瞳に布団の上で抱き合う私たちが映ってる。その瞳が遠い目になっていく。
「……お姉ちゃん……サヤチンさん………目覚めたんだ」
「うん、起きたよ。おはよう、四葉」
「「………」」
 目覚めたの意味が三葉ちゃんにはわかってない。けど、むしろ四葉ちゃんの方がすごいと思う。まだ小学4年生のはずなのに。とにかく何事もなかったように挨拶しておこ。
「おはよう、四葉ちゃん」
 私は誤解されないように三葉ちゃんから離れて立ち上がったけれど、四葉ちゃんは静かに戸を閉めて一階へおりていった。
「四葉、なんか変な顔してなかった?」
「普通、友達の乳首は吸わないからね」
「っ………」
 三葉ちゃんが夕べのことを想い出して真っ赤になった。甘えて、赤ちゃんみたいに乳首を吸っていたことは、やっぱり恥ずかしいみたい。しかも甘えたのは自分の身体へ、だし。どれだけ自分のおっぱい好きよって話。まあ、自分の身体へ、というよりはお母さんに似てる自分の身体へ、ってことだけど。今まで亡くなったお母さんのことは、ほとんど言わなかったのに昨日は、お母さんお母さんって泣いてたのも想い出してる感じの顔。そんな三葉ちゃんが私にすがってくる。
「お願い誰にも言わないで!」
「言わないよ。そろそろ着替えてお婆さんを手伝おうよ」
 二人とも制服を着て、家事を手伝って朝ご飯をいただいてから通学路に出た。
「「おはよう、テッシー」」
「おう、おはよう、三葉。サヤチン、なんで三葉と、いっしょなんだ?」
 出てきた方向が普段と違うから訊いてくれた。
「夕べ、三葉ちゃんの家に泊まったから」
「そうか」
「で、テッシーにお願いがあるんだけど」
「何だよ」
「お弁当を取りに行くから、私んちまで送って」
 スマフォにメールでお母さんから、お弁当を取りに寄りなさい、と連絡があったからテッシーに乗せてほしいって頼んでみた。学校とは逆方向の、ちょっとした寄り道になる。
「え~……一人で行けよ」
「乗せてほしいな」
「……チャリ貸してやるから、行ってこい」
「ぶ~っ…じゃ、ちょっと借りるね。ありがとう」
 テッシーに自転車を借りて家まで走る。
「ただいま」
 朝から、ただいまも変かと思いつつ台所へあがると、テーブルに私のお弁当箱があった。
「ありがとう、お母さん」
「早耶香、ちょっと」
「ん?」
「………」
 お母さんが私の顔を見つめてくる。
「どうしたの? お母さん」
「早耶香、昨日、なにか思い詰めた顔をしていたでしょう? もう大丈夫なの?」
「あ……うん。もう平気、ありがとう、心配してくれて」
 きっと、お母さんって呼ぶ度に三葉ちゃんが泣いたからだとわかったから、私は笑顔を返して安心してもらう。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
 家を出て急いでテッシーと三葉ちゃんを追いかけた。自転車なので、すぐに追いつけた。
「テッシー、ありがとう」
「おう」
 テッシーに自転車を返して、そのまま後部に座ってみる。
「降りろ」
「言うと思った」
 諦めて降りた。校門まで乗せていってくれることはないみたい。三葉ちゃんが訊いてくる。
「サヤチン、サヤチンのお母さんに何か言われた?」
「少しだけ、昨日はどうかしたの、って訊かれたけど、平気だよって答えて、それで安心してくれたから大丈夫だよ」
「よかった。ごめんね」
「…………」
 テッシーが何かあったのかな、って顔してるから話題を変えて誤魔化しておく。
「やっぱり乗せてほしいな」
「三葉なら乗せてやってもいいぞ」
「「………」」
 けっこうグサっとくる、こういうの。
「乗るか? 三葉」
「……いい、遠慮する」
 三葉ちゃんがテッシーから30センチくらい離れた。たぶん三葉ちゃんはテッシーのことを友達以上には想ってないはず。少なくとも今のところ。やや普段より重い空気感で登校した。授業を受けて3時間目が終わった後、私が女子トイレへ向かうと、三葉ちゃんもついてきた。トイレの個室へ入る前に私が言う。
「ホント昨日は、どうなるかと思ったね」
「うん、相手がサヤチンで良かったよ、もしも違う人だったら、どうなってたんだろう」
 隣の個室へ三葉ちゃんが入った。それぞれにショーツをおろして洋式便器に座る。
「ぜんぜん知らない相手と入れ替わるってこと?」
「そうそう。とくに男の人とだったら……………超悲惨だよ」
「それは地獄だね。ぜんぜん知らない男に自分の身体と入れ替わられるって、それ死にたくなるほどイヤでしょ。おしっことか、お風呂とか、考えただけでゾッとする」
 おしっこを気持ちよく出しながら、気持ちの悪いことを想像してしまった。
「うん、ありえないよ。ホント、サヤチンが相手でよかった。私たちって特別な関係なのかな?」
「え? 何それ、どういう意味?」
「だから、入れ替わりなんて起こるってことは……たとえば、私とサヤチンには何か運命があるとか」
「運命って、また………けっこう乙女チックなこと考えるのね」
 トイレットペーパーで乙女な部分を拭いてからショーツをあげる。
「サヤチンは、どう思うの?」
「どうって、……たまたま偶然じゃない? ちょっとした事故みたいなものかなって。まあ、それを言い出したら、たまたまぶつかった相手が運命の恋人っていうのも、偶然だったのか運命だったのか、結果が決まってからだとニワトリ卵みたいなもんかもしれないけど」
「ニワトリ卵?」
「たとえ話よ。ニワトリは卵が先に存在してニワトリになったのか、ニワトリが先に存在して卵を産んだのか、っていう堂々巡りな話」
「ふーん……」
 二人で手を洗って、髪の毛を整えると教室へ戻った。昼休みになって、いつも通り三人で校庭の木陰に座った。お弁当を食べていると、テッシーが言ってくる。
「今日は、交換しないのか?」
「「……クスっ…じゃあ、これ」」
 三葉ちゃんとオカズを一つ交換した。それからテッシーにも訊いてみる。
「テッシーにも、これあげる」
 同じオカズをテッシーにもあげようとした。
「オレは、いいって!」
「……そう…」
 そう言うとは思ったけど、やっぱり昨日と距離を感じる。理由はわかるよ。昨日は私、三葉ちゃんの身体だったもん。きっと、今も相手が三葉ちゃんだったら喜んでもらったんだと思う。結局、そういうことだよ。自分が好きな相手には関心あるし近づきたいし大切だけど、そうじゃない相手は、どうでもいいってこと。もしも、入れ替わったまま今日も私が三葉ちゃんの身体だったら、テッシーと仲良く……何それ、情けない私。
「サヤチン……」
 三葉ちゃんがハンカチを差し出してくる。いつのまにか、涙を零していたみたいで視界が歪んでる。
「ありがとう……ちょっと、辛すぎだよ、この肉巻き」
 泣いてしまった理由を誤魔化してお弁当を食べ終えると、三葉ちゃんが誘ってくる。
「ちょっとトイレ行こうよ」
「え? ……うん…」
 何か話がある雰囲気だったから頷いてテッシーを置いて校門近くにある屋外トイレに向かった。内緒話という共通認識ができていたから、二人で一つの個室へ入った。
「………」
「………」
 三葉ちゃんが見つめてくる。
「………何? おっぱいなら吸わせないよ」
「っ! 違うよ! そんな話じゃないもん! っていうか、あの話は、もうしないでよ! お願い、あれは忘れて!」
「ごめん、ごめん。それで?」
「私ね。気づいたの」
 三葉ちゃんが言いにくそうに言葉を選ぶ表情になった。
「もしかしたら、なんだけど……私の勘違いかもしれないけど………こんなこと言うと、自惚れって笑われるかもしれないけど…………テッシーって私のこと好きなんじゃないかな?」
「…………」
 それを否定することも、肯定してあげることも、できない。答えられなくて私は質問に質問を返していた。
「だったら何?」
「っ……ごめん」
 自分でも驚くほど、冷たい声を吐いていたから三葉ちゃんが身を竦めた。
「…………」
「…………」
 三葉ちゃんが恐る恐る私の顔色を見てくる。私は無表情を頑張って装った。
「……………」
「も…もう一つ……サヤチンって………テッシーのこと好き?」
「………………。どうして、そう思うの?」
 もともと、そんなこと女なら勘でわかってたでしょうに、どうして今さら再確認してくるのか、かなり苛立たしい。
「き、昨日、入れ替わっていて感じたの……テッシーの態度とか……言い方とかで」
「……………」
 そうね、そうでしょうね、私も入れ替わって思い知ったわ、前々からわかってたことだけど、ほんの一日だったけど、テッシーが接してくる感じ、ぜんぜん違ったもの、悔しいくらい……っていうか、悔しい……悔しい……、泣いたら、もっと悔しいってわかってるのに泣けてきて、涙を止められない。
「…っ…うっ…」
「サヤチン、私はサヤチンを応援したいよ」
「……三葉ちゃん?」
「だって、私はテッシーのこと友達としか想ってないもん」
「………」
 それも、わかってはいたけど。
「だから、サヤチンを応援したいの」
「………ありがとう……」
「だから………どうしたらいいかな? どうしたら、応援になる? 私、何でもするよ。遊園地に誘われたのも断って、サヤチンと行くように言ってみたらいいかな?」
「………やめて……余計なことしないで……」
「でも……」
「三葉ちゃんの気持ちは嬉しいよ。でも、テッシーの気持ちだってあるわけだから、そんな簡単に、はい、そうですかと、好きな相手を変えられるもんじゃないよ。三葉ちゃん、
恋したことある?」
「……ない」
「でしょ。だったら、急に不自然な態度を取ったりしないで。今まで通りにしておいて」
「……うん………でも、……遊園地は、どうするの?」
「それは、また考えるから………」
 どうしようかと悩んでいるうちに昼休みが終わった。放課後になって、二人とも今まで通りの自然な態度でテッシーと帰宅して、家に帰ると本当に今まで通りの自分の家なので何事もなく眠った。
 
 
 
 朝、私はサヤチンの部屋で目が覚めて叫んだ。
「わっ?! またサヤチンになってる?!」
 鏡を見ると、そこにサヤチンが映ってて、なのに動きは私が動いた通りに動く。
「このおっぱい。やっぱり、すごいなぁ……テッシーだって、こっちの方が、絶対いいのに」
 着替えるのにパジャマを脱いだら、やっぱり大きくて嬉しくなる。
「これだけの、おっぱいがあるんだから、サヤチンも告白しちゃえばいいのに。ホント、すごい……何か挟めるんじゃないかな」
 手近にあったスマフォを、おっぱいで挟んでみる。
「挟める、挟める! すごい、すごい! このまま落とさないように……おおっ、すごい! 落ちない」
 おっぱいでスマフォを挟んだまま、前屈みになったけど、しっかり挟めてるから落ちない。
「これは自信もっていいと思うなぁ」
 おっぱいでスマフォを挟んだまま鏡を見てたら、スマフォが振動した。
「きゃひゃ?!」
 くすぐったくて落としそうになったスマフォを慌ててキャッチして着信相手を見る。私の名前が表示されてた。
「も…もしもし?」
「私だけど……え~っと、名取早耶香なんだけど、身体は三葉ちゃんな私。そっちは、どうかな?」
「私もまた身体はサヤチンだよ。三葉だけど」
「そっか。一回で終わらないんだ……」
「そうみたいだね………どうしよう?」
「う~ん………とりあえず普通に学校へ行こ」
「そうだね」
 電話を切って、制服に着替える。一階へおりて、おしっこしてから洗面台へ行く。バスルームからシャワーの音がするから、お姉さんが朝シャンしてるみたい。サヤチンの家って新しくて羨ましい。お風呂も広いし、台所もシステムキッチンだし。何より、お母さんもいるし、お父さんもいて………って、これを考えると、また泣いちゃうから、考えないようにしないと。サヤチンの歯ブラシを探してると、バスルームの扉が開いた。
「あ、おはよう、早耶香」
「は、はい。おはようござ…おはよう、お…お姉ちゃん」
 いつも四葉から言われてる、お姉ちゃんって言葉も自分が言うとなると、なんだか少し恥ずかしい。しかも、サヤチンのお姉さんも、おっぱい大きい。
「…大きい……どうしたら、そこまで大きくなるの?」
「……。あんたも似たようなもんでしょ」
「そ…それは、そうだけど」
「あ、しまった。腋を剃るの忘れた」
 お姉さんが洗面台の鏡の前で腕をあげてチェックしながら、訊いてくる。
「早耶香、今、何分?」
「えっと…」
 制服のポケットからスマフォを出してお姉さんに向けた。
「サンキュっ、ぎりぎり間に合いそう」
 急いでカミソリを持ったお姉さんが、またバスルームに入っていった。勤務先は役場だからノースリーブは着ないはず。気になって訊いてみる。
「もしかしてデート?」
「まあね」
 あっさり肯定された。やっぱり大人だ。仕事帰りにデートしてるなんてカッコいい。どんな彼氏なのかな。でも、これ以上質問したら悪いよね。私はサヤチンの顔を洗って歯を磨いてからキッチンに入った。そして、心の準備をしてからサヤチンのお母さんに挨拶する。
「おはよう、…お母さん…」
「おはよう、早耶香」
「……」
 泣かない、泣かないんだから、でも胸が熱くなってくる。顔を見られないように背中を向けて冷蔵庫を開けてみた。
「…お母さん…、牛乳、飲んでいい?」
「ええ」
 サヤチンの家には、けっこう牛乳が常備されてる。これが、おっぱい成長の秘訣なのかもしれない、と思うほど私は子供ではない。もし、そんな簡単に、おっぱいが大きくなるなら、きっと、世の中から悩む女子はいなくなる。とりあえず、美味しく牛乳を飲んでから朝ご飯の支度を手伝って、みんなで食べる。お母さんとお父さん、お姉さんとの朝ご飯を今回は泣いたりしないで、落ち着いて食べられた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
 通学路に出ると、テッシーがいた。
「おはよう、テッシー」
「おう」
「………」
 えーっ……その一言だけなの………もう少し愛想良くしてよ、私は悔しいので作戦を考えた。そっと胸のボタンを2つ外してから、テッシーの前に回って前屈みになる。この大きなおっぱいの魅力に気づかせてやる。
「テッシー、今朝は暑いねぇ」
「そうか? ……」
 テッシーが一瞬だけ、前屈みになってるサヤチンの胸元を見て目をそらしてる。よしよし、このまま、もっと、おっぱいを見せつけて…
「へぐっ?!」
 いきなり頭を何かに殴られた。この衝撃は、たぶんチョップだよ。
「痛ぅぅ……」
「朝から何してんの?」
 頭を押さえながら見上げると、私がいた。中身がサヤチンの私だ。しかも目が怒ってる。すごく怒ってる。お母さんが怒ってたときと同じ目で、けっこう怖い。
「………」
「ご……ごめんなさい」
「………」
 サヤチンは黙ったまま、私の手が私のスカートを握って、めくろうとする。
「ああっ?! やめてやめて!」
「次やったら、ノーパンノーブラで登校するから」
「はい、もうやりません!」
「まったく……」
 私の目が、こっちを睨んでた状態からテッシーの方を見て恥ずかしそうに泳いで言う。
「な、なんでもないよ、テッシー。おはよう」
「…そ…そうか…、おはよう、三葉」
 テッシーも赤くなってる。たぶん、私のパンツはギリギリ見られてないはず。
「ぃ、行こうぜ」
「「うん」」
 学校へ歩きながら、テッシーが言う。
「今朝は、お前ら変だな」
「「……ごめん」」
 私は胸のボタンをとめておく。けど、もったいないよ、サヤチンは、もっと自分に自信をもてばいいのに。恋したことない私には、わからないのかもしれないけど、積極的にアピールすれば、なんとかなるんじゃないのかな。ってことを考えてると、私の目が怖いくらい、こっちを睨んだ。
「………」
「………」
 はい、わかってます、おっぱい出したりしません、ブラチラもしません。私は別の話題を考えながら歩いたけれど、何も思いつけない。テッシーも同じみたいで、しばらく三人で沈黙のまま学校へ向かってると、サヤチンが私の口でテッシーに言う。
「遊園地の件なんだけど………私の気分次第ってことでいい?」
「……三葉の? それは、もちろん、お前の気持ち次第だけど……どういう意味で?」
「行く日の朝、私がテッシーと二人で行きたいなって思ったら優待券の枚数通りに二人で行くし、やっぱり三人で行きたいなと思ったら、三人でワリカンで行く。そんな感じの気分次第」
「「………」」
 それって、サヤチンの……名取早耶香の立場と気持ちからしたら、すごく私、宮水三葉が勝手な女に感じられるんだけど、気のせい? 気分次第で決定される日の朝が不安で仕方ないような気がする。なのに、私の目は申し訳なさそうに目で謝ってきた。あとで説明してくれそうだったから、一時間目が終わった休み時間に二人で女子トイレの個室に入って話す。ここなら、私の身体をサヤチンと呼んでも大丈夫そうだから、そう訊く。
「サヤチン、遊園地のこと、あれでいいの?」
「いいの。っていうか、ごめん。私が考えてること、けっこう卑怯」
 サヤチンが私の両手を合わせて謝るように頭を下げた。
「卑怯? なんで?」
「だって、もし、その日の朝、私が私だったら三人で行くって、三葉ちゃんの口で言ってほしいし。もしも、その日の朝、私が三葉ちゃんの身体でいるなら……テッシーと二人で行ってみたいから………ダメ?」
「え、え~っと……私が私だったら……三人で。……私がサヤチンだったら……二人で? …………うん……いいけど、……むしろ、サヤチンはいいの? 私の身体でテッシーと出かけて……二人っきりで、それでいいの? っていうか、入れ替わり、三回目も起こるのが前提?」
「二度あることは三度あるって言うし。一度でいいから、テッシーと二人でデートしてみたいの。たとえ、三葉ちゃんの身体だったとしても。………それに、テッシーだって好きな人とデートした想い出ができるのは、いいことだと想えるから」
「……サヤチン、優しいんだね。相手のことまで考えて」
「ううん、私は最低だよ」
「あ! いいこと考えた!」
「どんなこと?」
「そのデートの前半は、いい想い出をつくって。後半では私の身体はテッシーに嫌われるように行動するっていうの、どう? 三人で行く場合なら一日中、私は嫌なヤツになるの。そしたら、テッシー、あきれて私を好きでいるのをやめるかもよ?」
「……嫌なヤツって、どんな風に?」
「うっ……、う~ん……わがまま言ったり、行儀が悪かったり? 女の子として、こいつどうかなって男の子に思われるような行動とか?」
「それ、パンツ丸出しで歩いたり、おっぱい強調したりするってことだよ?」
「うっ………それは、やめて。あと重ねて、ごめんなさい。でも、おっぱいを自慢するのは、いいと思うよ。絶対、自信もった方がいいって! ボタン2つくらい外して誘惑するの! さっきだってテッシー、チラっと見たもん」
「やっぱり口で言ってもわからないみたいね」
 サヤチンが私のスカートを短くするために、ウエストのところで巻いていく。
「ちょっ……そんなに短くしないでよ。それじゃ、ギリギリ」
「今日一日、これね」
「あうぅぅ…」
 もともと校則指導されないギリギリまでつめてあるから、自転車で立ち漕ぎしたら後ろから見えるくらいにしてあるのに、ウエストで巻かれたら、もう立ってる状態でもギリギリで座ったら正面からパンツが見えるし、たぶん階段でも後ろから見えるくらいにされて私は私の身体に抱きついて止める。
「お願いです、やめてください。そんな短くして外を歩かないで」
「………わかればよろしい。っていうか、この入れ替わりって、けっこう女同士でも危険ね。なんか、羞恥心が相手持ちにならない?」
「…た………たしかに……自分で自分のおっぱい強調したいとは、あんまり思わないかも……けど、でも、これだけ立派なおっぱいなら、自信もって自慢すればいいと思うよ」
「そうね。これだけ細くてキレイな太腿だから一日中見せびらかして自慢することにするよ」
「あわわっ!」
 止めるまもなく私の身体が個室を出て行く。運悪くチャイムも鳴ってしまって、そのまま授業を受けることになっちゃう。しかもユキちゃん先生に私があてられてる。
「宮水さん、この問題をやってみてください」
「はい。……」
 サヤチンはスカートの裾を気にしてから立ち上がってくれたけど、超ギリギリだから歩かれるだけでも恥ずかしいのに、黒板の前に立たれると、きっと前列の男子からパンツが見えちゃう。サヤチンは私の右手で黒板に答えを書きながら、私の左手でスカートから見えそうになるパンツの後ろを隠してる。それでも短すぎてユキちゃん先生が注意してきた。
「宮水さん、そのスカート、短すぎるわよ」
「はい、すみません。明日には直してきます」
「必ずですよ。もう席に戻りなさい」
 巻いてるだけなんだから、今すぐ直してよぉぉ。
「「………」」
 席に戻るサヤチンと目があった。サヤチンは、ぜんぜん恥ずかしそうじゃない。私は、こんなに恥ずかしいのに。昼休みになってテッシーと、ご飯を食べてるときも、そのままだったからチラチラ見られるし。っていうか、テッシーもエロすぎ、どんだけチラ見してんのよ、見るなら、このおっぱいを見ればいいのにィ。そして放課後になって、もっと悪いことが起こった。三人で家に帰る途中、通り過ぎた黒塗りの高そうな自動車が停車してからバックして戻ってくる。あれは、糸守町役場にある町長専用車、もう嫌な予感しかしない。案の定、お父さんが降りてきて私の身体に近づいて叱ってくる。
「三葉、なんだ、そのスカートは」
「…ぇ…。……」
 サヤチンが返答を迷って、こっちを見てくる。私も素直にお父さんの言うことをきく気持ちは普段から無い。こんな勝手な男に、私の生活をあれこれ言う資格があるとは思ってない。もちろん、今回のスカートは直してほしいけど、それでも、この人に言われると反抗したくなる。私が、どう言い返してもらうか考えていたのに、お父さんが手をあげた。
 パシンっ…
 痛そうに私の頬が叩かれて、音が響く。
「っ……」
「目が覚めたか? 恥を知れ」
「……ごめん…なさい…」
 私の目が、こっちを見て謝ってくる。その謝罪がお父さんに向けられたものじゃなくて、私に向けられたものだったから、私はカッとなって怒鳴った。
「いきなり叩くことないじゃない!!」
「なっ……、こ、これは家庭の問題だ! 君は黙っていなさい」
「家庭?! ふざけないで!! あなたは家庭の外にいるでしょ?!」
「むっ………」
「私や四葉が、どんな思いで…、三葉ちゃんや四葉ちゃんが、どんな思いでいるか、考えたことがあるの?! 親のいない家で食べるご飯が、どんなに淋しいか!! 家族そろってる家が、どんなに温かいか!!」
 あんまりにも腹が立って、いつのまにかサヤチンの手でお父さんのネクタイをつかんでいた。
「むむっ………、君の言いたいことはわかった。離してくれ」
「……くっ……」
 手を離したけれど、悔しくて泣けてくる。わかってない、きっと、わかってないよ。
「君が泣くようなことではないだろう。……だが、すまなかった」
「「「…………」」」
 私もサヤチンもテッシーも言葉が出なくて黙っていると、お父さんは立ち去り際に言う。
「三葉は、いい友達をもったな。だが、そのスカートは直しておきなさい」
「……はい」
 サヤチンが代返してくれて、お父さんは町長専用車で行った。サヤチンは黙って私のスカートを巻いていたのを戻した。三人で静かに家へ帰る。サヤチンが私の身体で宮水家に帰っていくと、少しだけテッシーと二人きりになる時間がある。テッシーが言った。
「ちょっとサヤチンを見なおしたぜ」
「……え?」
「三葉のために、あれだけオヤジさんに言ってやれるなんてな。やっぱり、お前ら本当に仲がいいな」
「………どうなのかな……」
 今回は、そういうことじゃない。むしろ、私が私の感情でサヤチンの身体で怒鳴ってしまった。サヤチンに迷惑だったと思う。テッシーが肩を叩いてくれた。
「そんな顔するなって。言うべきことを言ったと思うぜ。サヤチンはさ」
「…うん……ありがとう…」
 私は卑怯だ。言うべきことだったかもしれないけど、私の口で言うべきことだった。勢いでサヤチンの口で言ったのは卑怯だと思う。テッシーと別れて名取家に入る前に、私のスマフォへ電話をかけた。
「もしもし」
 沈んだ私の声でサヤチンが応答してくれたから、すぐに謝る。
「さっきは、ごめんなさい」
「ううん。私こそ、ごめん。調子に乗りすぎた」
「ううん、私こそ」
「………じゃあ、おあいこで」
「うん」
「今夜は、どうする? こっち来て泊まる?」
「う~ん、あんまり頻繁だと迷惑……ううん! うちは迷惑じゃないけど! 迷惑をかける気がすることが迷惑っていうか……あれ? えっと……」
「きゃははは、言いたいことはわかるよ。変に遠慮しないでいいって。私が言うことじゃないかもしれないけど。でも、あんまり頻繁だと、お婆さんたちにも本当に迷惑だと思うし、それぞれに寝よう。三葉ちゃんが大丈夫なら。それとも名取の家で二人で寝る?」
「ううん、もう大丈夫だと思うから。お泊まりは、もっと困ったことがあったときにしよ」
「そうだね。じゃぁ」
「じゃぁ」
 電話を終わって、名取家に入った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 サヤチンのお母さんが迎えてくれる。お母さんを手伝って、夕ご飯はお父さんと三人で食べた。
「早耶香、お風呂に入ってらっしゃい」
「はーい」
 一人で広いバスルームに入った。かなり新しいサヤチンちのお風呂はテレビのCMで見るみたいな楕円形のゆったり浸かれるバスで本当に羨ましい。シャワーの出方も、なんか違うから気持ちいいし。
「………この、おっぱい……見せつけて歩きたいくらいなのに………」
 鏡に映るおっぱいも本当に羨ましい。
「けど、私の太腿を出すのはやめてほしい……自信と羞恥心って、どういう仕組みなのかなぁ……」
 お湯に浸かりながら考えてみる。
「お風呂だと裸でも、ぜんぜん平気だけど、教室だと死ぬほど恥ずかしい……でも、この身体だと、その半分くらいかも……。おっぱいも、自分のおっぱい出すのはイヤだけど、サヤチンのおっぱいだと立派だし……立派ならいいのかな? う~ん……」
 のぼせないうちに揚がってリビングのソファに座った。
「お先です」
「うむ」
 サヤチンのお父さんがテレビでニュースを見てる。
「シエラレオネ共和国では50年に一度の大干魃により食糧不足が懸念されWFOの予測では3万人の餓死者が…」
 時計を見ると、もう9時過ぎ。私は気になることを訊いてみる。
「お姉ちゃんは?」
「………あいつは、帰ってくるのか?」
「外泊するってメールがあったわ」
 洗い物をしながら、お母さんが普通に答えた。
「……。そうか」
「それって、男の人と?」
「…………そうなのか? 母さん」
「早耶香、もう寝なさい」
「はーい」
 訊いてはいけないことだったのかも、サヤチン、ごめん。私は二階へあがってサヤチンのベッドに潜り込んだ。
「……お母さんとお父さんがいて、新しい家で、お姉ちゃんも頼もしくて……おっぱいも大きくて……声も可愛いし……。他人がもってるものって、……つい羨ましくなるよ。巫女もやらなくていいし……町長の娘とか言われないし……私、この家の子に生まれたかったかも。………あとはテッシーさえ、こっちを好きになってくれたら、サヤチンの人生、満点ホームランじゃん」
 ベッドが体温で温まってきたので、もう目を閉じて眠った。
 
 
 
 朝、私は私の部屋にいた。
「戻ってる。………小さな、おっぱいに…」
 おっぱいの大きさで自己同一性を確認できてしまうのが悲しい。
「……小さい……けど、なんとかスマフォを挟んだりできるかな」
 枕元のスマフォを挟んでみる。
「ううぅ……痛い…」
 無理矢理によせて手で押さえつけると、挟んで挟めなくはない。
「でも、これじゃ挟めてるとは言えないよね。はぁぁ…」
 スマフォを布団の上へ落とすと、振動してる。見るとサヤチンからのメッセージが届いてる。
「戻ってる? こっちは戻ってるよ」
「うん、こっちも戻ってる」
 と返信した。
「じゃ、普通に生活しよ」
「そうだね」
 今日は土曜日、どうしようかな、と思っているとテッシーからメールが着た。
「明日、天気が良かったら、遊園地に行こうぜ」
 って誘ってる。
「………私のこと……好きでいてくれるんだ……いつからなのかな……」
 考えると、ちょっと落ち着かない。しかも、サヤチンはテッシーのこと好きだから余計に落ち着かない。こんなとき、妹じゃなくてお姉ちゃんでもいてくれれば、いい相談相手になってくれたんだろうなァ。
「二度寝しようかなァ」
 テッシーへの返事を考えるのが億劫で、もう一度、布団に潜り込んだら、恋愛相談相手にはならない四葉が戸を開けた。
「休みやからって寝てると、また月曜に起きられんよ」
「……わかってるもん」
 二度寝を見抜かれたので仕方なく起きる。四葉が先に生まれて年上だったら私ボロカス言われたかも。四葉は、すごい怖い姉になりそう。起きて顔を洗って天気を見ると、微妙だった。
「明日は晴れるのかな」
 雨が降りそうな、それでいて晴れそうな微妙な天気、テッシーが誘ってくれてる遊園地は愛知県の方だから、スマフォで天気予報をチェックしてみる。
「……明日は晴れか……、私の身体は行くこと決定だから早寝早起きしないと」
 山奥の糸守町から愛知県の遊園地へ遊びに行くんだと、できれば始発に乗りたい。
「四葉に起こしてもらって正解だったかな。宿題も、今日のうちにしとこ」
 天気も微妙だし、外に出ても山奥だからコンビニしかないし。家の中で地味に宿題をしながら、山奥でもスマフォのおかげで可能になった恋愛相談をしてみる。もちろん、匿名で新規アカウントを作成して、私とサヤチン、テッシーみたいな関係を、どう解決するのがベストかを、ネット上で質問してみた。
「なるほど……」
 お昼ご飯を食べ終えて見てみると、いくつか回答がもらえていた。
「一番最低なのは、私まで彼を好きになったとか言い出して友達を裏切ることか……そりゃそうだよね。後から何を言い出してんだよ、って感じだもん。ベストなのは、やっぱり友達と彼が結ばれて、それを祝福してあげるポジションか。………追加で質問してみよ」
 私は追記して問う。
「彼からデートに誘われてるけど、一回、想い出づくりに行くのは、どうでしょうか。それとも三人で行くのがいいでしょうか」
 追記して、すぐに回答が増えた。
「……波乱の予感w……すでに、お前は彼を狙ってる……もうダメじゃん、友情おわり乙……」
 二人で行くことには、かなり否定的な回答がきてる。
「ああ~ん! 違うの! そういう意味じゃなくて、二人で行く場合は私にサヤチンが入ってる状態でってことなの! この質問、消去して入れ替わりのことも含めて相談してみよ。どうせ、捨てアカウントだし」
 どこの誰か、お互い不明なネット上だから、入れ替わりのことを書いてみても大丈夫かなって、質問全体を書き直して投稿したら、また素早く回答がもらえた。
「………病院が来い……アホ女子高生出現……真性の電波少女……夢見がちな年齢……なんのかんの言って彼を盗りたいだけ……友情ご臨終w……この女、さっき似たような質問あげてベストアンサー決めずに削除しやがったから、もう相手しなくてよし……うう~っ…みんな辛口だなぁ……」
 誰一人として入れ替わりを信じてくれないし、それを言い訳にして私がテッシーを盗ろうとしてるって誤解されてる。
「違うのに……あ、この回答は真剣に考えてくれてる雰囲気。君が入れ替わりだと感じるのは、彼を好きになってはいけないという気持ちと、好きになってしまった自分の気持ちがせめぎ合う結果だよ。自分を誤魔化すのは良くない。好きなら好きと、はっきりと友達にも伝えてしまいなさい。君は友達を甘く見すぎている。君の友達だって正直に話せば祝福してくれる可能性もあるから。……う~…結局は、入れ替わりのこと信じてくれてない。私の思い込みだって考えて……まあ、そんなもんかなぁ……このアカウントだと、もう真剣に回答してもらえないかも」
 私はアカウントを破棄して、質問するサイトも変えて、入れ替わりのことは相談しないでテッシーから誘われてるデートを二人で行くことにしているのを当日朝にサヤチンとテッシーだけで行くことになるようドタキャンするのは、ありなのか質問してみた。
「………、あなたは余計なことはしないのが良い。いいアイデアだと思っても、その友達にしたら御節介かもしれないし、それで彼が怒ったりしたら目も当てられない。その友達に一生恨まれたりする危険性あり。あなたは成り行きにまかせて静観しましょう。きっと、その友達は、あなた以上に思い悩んでいますから、ささいなことで感情的になる場面もあるかもしれませんが、我慢強く穏やかに接してあげましょう。……うん! そうしよう!」
 誰だか知らない人に感謝して私は恋愛相談を終わった。
 
 

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話


 
 私は目が覚めて、三葉ちゃんになっていたことを理解して複雑な気持ちになった。
「……これからテッシーと……二人で……」
 今日は約束の日、そして気分次第で二人で行くか、三人で行くか、決めていい立場に私はいる。
「急がないと始発に間に合わない」
 そして、もう結論は出していたようなもので、私は三葉ちゃんの服を着て身支度すると朝食も摂らずに駅へ向かった。まだ、外は暗い。でも、始発で遊びに行かないと時間が無くなる。それくらい私たちは山奥に住んでいるから。
「………」
 複雑な気持ちだった。私はテッシーと二人でデートを楽しめる、けれど、それは三葉ちゃんの身体とテッシーが遊びに行くということ。
「………この選択でいいのかな………でも、行きたい……」
 迷いはあった、けれど、突き進むことにした。たぶん、三葉ちゃんは電話をかけて起こさない限り、まだまだ私の身体で寝ていると思う。駅に着くと、テッシーがいた。今まで見たこともないくらいカッコいい服を着ている。新しいズボンと、カッターシャツも襟のデザインがカッコいいのを選んできてる。いつも、ムーばっかり見てるから、服装のセンスなんて無いかと思ってたけど、意外なくらい似合ってるから、ドキドキする。
「おはよう。三葉」
「……。うん、おはよう。テッシー」
「行こうか」
「……。うん」
 サヤチンはどうするのか、って訊いてもくれないんだ。ここに私一人で現れたってことは、テッシーの理解の仕方は間違ってないけれど、やっぱり淋しい。でも、テッシーにとっては嬉しいこと、なんだろうなぁ。二人で電車に乗って愛知県へ向かった。北陸に近い山奥から太平洋側の海に近い遊園地へ行くまでに何度か乗り換える。道中で私は三葉ちゃんのスマフォから私のスマフォへメッセージを送った。
「テッシーと二人で行ってくるよ。ごめんね」
 そのメッセージに、すぐに返信は来なかった。糸守町を出たときは余裕で座れたけど、だんだん都会に近づくと車内が混雑してくる。もうすぐ遊園地という駅までくると、超満員になってテッシーと身体がピッタリくっついた。
「………」
「……ごめんな……苦しいか?」
「ううん、平気……ありがとう」
 都会の電車内は知ってはいたけれど、ものすごく混んでる。くっついてるのはテッシーとだけじゃなくて隣のカップルや家族連れとも、くっついてる。みんな遊園地に遊びに行く雰囲気の人たち。あまりに混みすぎて、まったく身動きできない。そんな中でテッシーは私を………三葉ちゃんの身体を守ろうと、かばってくれてる。それが嬉しいと同時に羨ましい。まさか、デートの始めから、こんなに密着するなんて思わなかったよ。もう、ほとんど抱かれてるみたいな感じ。
「やっと着いたな」
「うん……はぁぁ……」
 ホームに到着すると、みんな我先にと遊園地の入場ゲートへ向かってるけど、田舎育ちの私たちは体力はあっても混雑慣れしてなくて、とても疲れていたから一息ついてから入場した。
「三葉は何から乗りたい?」
「えっとねぇ」
 場内マップを見て考える。
「テッシーは何がいい?」
「オレは何でもいいぞ。三葉が乗りたいので」
「…………」
「三葉?」
 三葉、三葉か……そうだよね、三葉だもんね……、でも、このまま一日、ずっと三葉って呼ばれるのは、つらい。私は小手先の手段だとわかっていても頼んでみる。
「……。ねぇ、このデートの間、少しだけお願いがあるの」
「ああ、どうした? 何でもいいぞ」
「私はテッシーのことを克彦って呼ぶから、克彦は私のこと、君か、お前って呼んでほしい」
「……君か、お前で? ………いいけど、なんで?」
「そういう気分なの。私って恥ずかしがり屋なの知ってるでしょ?」
「ああ……そうだな…」
「なんか、名前で呼ばれるの恥ずかしくて。君か、お前がいいの」
「わかった。………それなのに、オレは名前なのか?」
「うん。私って気分屋だから。ね、お願い」
「ああ、いいぜ。じゃ、君は何に乗りたい?」
「お化け屋敷以外の全部♪」
「お化け屋敷以外か……サヤチンみたいなこと言うよな」
 ぎくっ……、克彦がククっと笑った。
「ククっ、小学5年の頃にさ、サヤチンの家族と、うちの家族で富士急ハイランドへ行ったんだ。そんとき、サヤチンとお化け屋敷に入ったら、怖くて途中で漏らしたんだぜ。ククっ、これ話したっけ?」
「……ぅ~……それさ! 町に帰っても絶対誰にも言わない約束をサヤチンとしてない?!」
「な……なぜ、それを知って……」
「バカっ!」
「お前が怒ることないだろ?」
「口の軽い男は嫌いです~ぅ!」
 私は克彦を置いて、すぐ近くのアトラクションに並ぶ。どうせ、全部に乗りたいんだから、近いところから制覇していくことにした。置いてきた克彦も、すぐに追いかけてきてくれた。
「いきなり絶叫系か」
「怖いの?」
「オレは平気だけど、三葉…、じゃなくて、君は絶叫系は苦手とか、言ってなかった?」
「あ……」
 そういえば、三葉ちゃんは絶叫系が苦手だったかもしれない。ジェットコースターとかで、あんまり激しく揺すられると魂がぬけそうになるとか言って………実際、魂ぬけて私と入れ替わってるし。でも、乗りたいし、私は平気というか、むしろ楽しい方だもん。
「うん……まあ、苦手だったかもしれないけど、何事も挑戦だよ。っていうかさ、この遊園地に来て絶叫系を避けたら乗る物が半分になるから」
「それも、そうだな。スターライトメテオか」
 克彦が並んでるアトラクションを見上げる。ジェットコースター系だけど、とくに落下を売り物にしててコース上で、ほぼ垂直に落ちる部分もある。それが名称にも表れてるアトラクションだった。順番を待ってる間に克彦が何かを思い出したみたいで言ってくる。
「そういえば、あと何ヶ月かで地球へ近づいてくる彗星があったよな」
「あ、うん。…ティ……なんとか?」
「ティアマト彗星だったかな。あれって、ちょうど糸守町の直上を通り過ぎるらしいぞ」
「ふーん……」
「祭りの日だったかもな。お、そろそろオレたちの番だな」
 幸運なことに私たちはコースターの一番先頭だった。乗り込むと安全バーがおろされ、いよいよ出発になる。
「……緊張するよな、このタイミングは」
「うん。でも、楽しみ。………」
 そう言ったけど、ちょっとだけ不安になった。思いっきり揺すられて三葉ちゃんが恐れてたみたいに魂ぬけたら、どうしよう。ぬけて糸守町にいる私の身体へ戻るなら、まだいいけど、後ろの席の人と入れ替わったりとか、変なことが起きないか、やや不安。
「大丈夫か? 顔色、ちょっと悪いぞ」
「……うん……今さら、どうにもならないし」
 コースターは出発して登り始めてるから、もう止まらない。行くしかない。私は笑顔をつくって、それから頼む。
「手、握ってて」
「ああ」
 克彦が手を握ってくれる。私も握り返して、万が一にも魂がぬけないように構える。コースターが落下し始めた。
「うおおおっ!」
「きゃはははは♪」
 やっぱり楽しい。下へ、上へ、右へ左へ、グルグルと身体がもっていかれる感覚が楽しくて私は笑った。そして、魂はぬけなくて、私は三葉ちゃんの身体にいるままだった。
「はーっ! 楽しかった! 次、あれに乗ろうよ!」
「ぜんぜん平気そうだな」
 握り合っていて、汗ばんだ手を離してコースターをおりる。けど、もう一度、自然に握り合って園内を巡った。お昼ご飯の時間になって、いつまでも三葉ちゃんから返信がないので心配になった。どうしたんだろう、何かあったのかな、それとも、やっぱり二人きりで遊園地に出かけたこと、怒ってるのかな、そんな風に気にかかっていたら、やっと返信が入った。
「おはよう。もう着いてる?」
「とっくに着いてるよ。返信が遅いから心配したけど、そっちは何かあった?」
 と送ったら。
「二度寝してた。テヘ」
「おい」
「だって、いつも四葉に邪魔されるもん。久しぶりに最高の二度寝ができたよ」
「二度寝に最高、最低があるんだ。まあ、いいよ。ごめんね、置いていって」
「ううん、気にしないで楽しんできて」
「ありがとう。じゃ」
 やり取りが終わる頃、克彦がホットドックのランチセットを持ってきてくれた。いっしょに食べながら話す。
「誰とメールしてたんだ?」
「サヤチンだよ」
「そうか」
「……。サヤチン、置いてきて、悪いことしたかも」
「…………」
 克彦が黙ってホットドックを囓る。
「………」
「………」
 私も黙ってウーロン茶を飲んだ。そして、言ってみたくなった。顔が赤くならないよう気持ちを静めて、訊いてみる。
「サヤチンはさ、もしかしたら、克彦のこと好きかもしれないよ? どうする?」
「……どうって言われても、……」
「…………」
「…………」
「サヤチンに好きって言われたら、どうする?」
「………。オレは、お前が好きだから」
「っ…」
 まっすぐ見つめられて告白された。その対象が本当は私じゃないって、わかってるのに顔が赤くなってくるのがわかる。私はポテトを囓ってから文句を言うような声色で言った。
「そんな話……お昼ご飯のタイミングで、しなくても……」
「ごめん。……けど、そういうことだから」
「…………」
「好きな男、いるのか?」
「……………いないよ。私には」
「オレと付き合ってくれ」
「…………考えておくよ……」
 ただのデートのつもりだったのに、克彦は、しっかり告白してくれた。どうしよう。どう返事しよう。そのことを考えていたから、午後からのアトラクションは、あんまり記憶に残らなかった。閉園が近くなって、克彦が誘ってくる。
「観覧車に乗らないか」
「…うん…いいよ…」
 デートの締めくくりが二人きりで、ゆっくり会話できる、そして密室になる観覧車を選ぶのは、他のカップルも同じみたいだったけど、私たちは混み合う前に並んだから、すぐに乗れた。
「これでお化け屋敷以外、全部、制覇できたな」
「そうだね」
「…………」
 克彦から告白の答えを待ってる気配を感じて、私は目をそらして海を見た。
「海が見えるね」
「ああ……」
「また、今度、海にも遊びに行きたいね」
 曖昧だけど、肯定的な答えにもとれる返事をした。
「そうだな。また、君と二人で行きたいな」
「……………」
 また海を見て誤魔化す。このタイミング、イエスならキスするタイミングだし、それを狙ってるのが、なんとなくわかる。今の私には、キスしたい気持ちと、絶対にしたくない気持ちがあるし、そもそも、この唇は三葉ちゃんの唇なんだから、しちゃいけないって気持ちもある。いろいろ考えて誤魔化してるうちに、観覧車が終わってしまった。
「…………」
「…………」
 沈黙が長くならないうちに克彦が時間を確認した。
「あと20分で閉園か」
「そっか……楽しかった。……あっという間だったね」
「せっかくだし、あれに入って。完全制覇にしないか?」
 克彦がお化け屋敷を指してる。
「え~………しかも、日暮れ時に…」
「ジェットコースターは、ぜんぜん平気だったろ? 何事も挑戦とか言って」
「まあ…ね」
 小学5年で、おもらししたトラウマがあるから、あれ以来、この手のアトラクションには入ったことがない。さすがに、高校生になって漏らすとは思わないけど、万が一、三葉ちゃんの身体で漏らしたら……。けど、克彦は完全制覇したいみたい。お昼ご飯もおごってもらったから、ここは付き合おうかな。私も一生、お化け屋敷をさけて生きていくのもなんだから。
「トイレに行ってからね」
「じゃあ、先に並んでおくぞ」
 克彦が並んでいてくれるので手早くトイレを済ませて、お化け屋敷に入った。並んでいるうちからも、怖い雰囲気だったけど、中に入って、すごく後悔した。
「絶対、手を離さないでよ」
「わかってるって」
 いきなり最初の部屋から、完全に真っ暗で何も見えない状態で、すごく怖い。しかも、お化け屋敷のくせに、しっかりとテーマがあって、それが変にリアルで怖い。テーマは一人の男を巡って二人の女が争い合う。その舞台は男が経営するイタリアンレストランで、片方の女が毒殺されかけて身体がボロボロになって、その恨みで毒をもった方を呪い殺すっていう嫉妬と怨恨の連鎖。
「…ハァ……ハァ…」
「そんなに怖いか? まだ、暗い廊下が続いてるだけじゃないか?」
「暗いだけじゃないよ。血とか、人とか倒れてるもん!」
 真っ暗な最初の部屋から、レストランの廊下へ歩いて進むと、壁に血のりがあったり、人形が倒れていたりして、雰囲気と演出がすごくて私は克彦の腕に抱きついて歩いてる。「…ハァ…やっぱり入るんじゃなかったよ…」
「大丈夫だって、オレがいるからさ」
「しかも黄昏時って、本当にお化けが出る時刻なんだよぉ。ムーとか、読むから知ってるでしょ?!」
「もし、出たらムーに報告記事を投稿しないとな。ちょっ、あんまり抱きつかれると歩けないから」
 かなり嬉しそうに克彦が言ってるけど、それどころじゃないくらい、怖い。私はもう克彦の腕じゃなくて腰に抱きつきながら、次の部屋へ進む。そこはレストランらしくテーブルが並んでいて、イスには何人も座っているけれど、顔色が悪かったり、突っ伏して死んでいたりして見るだけでも怖いのに私たちが近づくと動く。
 ガタガタガタっ!
「ひっ?!」
「センサーとモーターで振動しただけだから」
 死体が動いたように思えて私は震え上がったのに、克彦は平気そうに頭を撫でてくれる。これ、一人だったら、絶対無理。足が竦みそうになりながら体重の半分を克彦に支えてもらって進む。次のテーブルに突っ伏していた人形は動かなかった。けど、その次のテーブルにも倒れている死体があって、それが立ち上がって襲ってきた。
「殺してやる!!」
「きゃああああ!!」
「うおっ?! ビビった。人か……人が演じてるのか……ビビったぁ」
 克彦まで驚いてるから、私の方は、もっと怖い。なのに、襲ってきた死体は、ゆっくり追ってくる。
「待て……待て……殺してやる……うわあああ!!」
「ひぃぃっ……」
「こっちのドアから進める! 移動したら追ってこないさ!」
 歩けなくなった私を克彦が運ぶようにして次の部屋へ進んだ。そこはまた暗い廊下だった。
「もうヤダもうヤダ! リタイヤしようよ!」
「富士急と違って、ここはリタイヤシステムが無さそうだぞ。入って、すぐにキャンセルする以外はさ」
「ううっ……やっぱり、入るんじゃなかった……ぐすっ…」
 怖くて泣けてくる。
「…ぅぅっ…ひっく…」
「泣くほど怖いか? ジェットコースターは、あんなに喜んでたじゃないか?」
「コースターは先が読めるからいいの! ぜんぜん違うよ!」
「わかった、わかった。オレが先頭に立つからさ」
「後ろから来るかもしれないから、横にいてよぉ!」
 案の定、廊下を進んでいたら、後ろから何かが追いかけてくる。
 シャーーーっ!
「ひぃい?!」
「これが、毒殺されかけた女の方か……キモい人形を作るもんだなぁ。ほら、どうせ、オレたちには衝突しないように安全装置があって手前で止まるから」
 克彦が観察するみたいに、ゆっくりと人形を見てる。とても気持ち悪い人形でテーマの通り、毒を盛られて皮膚が爛れて美人だったのが、見ることもできないような姿になったもので、私は一目見ただけで二度と見たくない。
「…ハァ……ハァ…」
 トイレに行っておいて、よかった。下手したら、漏らしそうなほど怖いよ。その後も調理室っぽいところや食材室っぽい部屋があって、牛の死体なのか人間の死体なのか、いろんな物が吊されていて突然に動いたりするから気が休まらない。
「…ひぅぅ…ぐすっ…もう……ヤダよぉ……」
「広さ的に、そろそろ終わるから。外から見た感じの建物の広さと歩行距離からして構造は入り組んでるけど、もう終わりなはずだから」
 さすが建設会社の息子って思うけど、よくそんな冷静でいられる。
「ほら、終わった」
「お疲れ様でした」
 やっと終わったみたいでカーテンの向こうに入ると小部屋があって、すぐそこに出口が見えて、血のりの塗装とかがされて無い普通のウェイトレス姿のスタッフさんが笑顔で言ってくれる。
「カップルのお客様には女性の方へ、サービスのお菓子がございます。どうぞ、そちらのディッシュカバーをあげて、お取りください」
 小さなテーブルの上に銀色のお皿あって、同じく銀色のドーム形の蓋がされていた。サービスのお菓子と聞いて私が素直に手を伸ばした時だった。
 ガタン!
 テーブルの奥の壁が開いて、あの毒殺されかけて皮膚が爛れた女が現れて叫んできた。
「私の身体を返せぇ!!!」
「っ……」
 悲鳴をあげることもできないくらい私は驚いて腰が抜けた。
 ペタン…
 その場に座り込んでしまう。
「…ひっ…ハァ…ひっ…ハァ…」
「最後の最後まで、きついな。しかも、これも人が演じてるのか」
 克彦が代わりに、お菓子を取ってくれてる。皮膚が爛れた女は冷静な克彦を無視して私を睨みながら壁の奥へ引っ込んでいった。
「立てるか?」
「…ぅぅ………無理…」
 立とうとして、お尻をあげたけど、すぐに力が抜けて、また座り込んでしまう。
 ジワっ…
 あ……やだ……漏らしてる……下着が生温かく濡れてしまう。
「ぐすっ……ひっく……」
 けど、本当にトイレへ行っておいてよかった。漏らしたのは、ほんの少しだけで克彦にも気づかれてないし、まだ笑顔で私たちを見てるウェイトレス姿のスタッフさんにも気づかれてない。このスタッフさんは最後の罠にハマって私みたいになった女の子を何人も見てきたんだと思うと、ちょっと憎らしい。
「…ぅうう…ぐすっ……ひどすぎる、お化け屋敷だよ……ひっく…」
「立てないなら、抱き上げていいか?」
「え……うん……お願い」
「よっ」
 克彦が立てない私をお姫様抱っこしてくれた。そして、やっと本当に外に出られた。
「ぐすっ……ごめんね……重いでしょ」
「いい筋トレになるさ」
「……ありがとう」
 私は克彦の腕に負担をかけすぎないよう彼の首へ両手を回して抱きつく。これで体重の何割分かは楽になってくれたはず。もう閉園なので、まだ歩けそうにない私を抱いたまま克彦は退園口まで行ってくれた。
「ふーっ…」
 重かったと思うのに、控え目な吐息をついて、克彦は私を退園口にあったベンチへ、ゆっくりとおろしてくれた。
「ごめんね……疲れたでしょ」
「いや、オレの方こそ、ごめん。イヤがってたのにお化け屋敷に入れて。あんなに怖がると思わなくて」
「……すごい……怖かったよ……」
 でも、お姫様抱っこされたのは、いい想い出になるかな。かなり周囲の人たちから見られて恥ずかしかったけど、いい彼氏になるよ、克彦は。
「最後は怖かったけど、でも一日、ずっと楽しかったよ。ありがとう、克彦」
「ぉ、おう! オレも楽しかったぜ」
 そろそろ立てるかな、私はベンチから立ち上がってみる。ちょっと、フラついたら克彦が支えてくれた。
「歩けそうか?」
「うん、もう急がないと糸守まで帰れないよね」
 まだ午後5時だけど、ここから山奥に帰るとなると、今すぐ電車に乗らないと、どこかで泊まることになっちゃう。さすがに、この三葉ちゃんの身体で克彦と外泊はないよね。
「しまった!」
「どうしたの?」
「……いや、せっかくだから記念に何か買おうかと思ってたのに……あ! あそこの売店なら、まだ開いてる。ちょっと待っててくれ!」
 克彦が走って退園口そばにある売店へ駆け込むと、迷いながら急いで買い物して戻ってきた。
「ハァハァ…、こんなんで、よければさ。もらってくれよ」
「………嬉しい」
 克彦が差し出してくれたのは、この遊園地のマスコットキャラがデザインされた可愛い腕時計だった。
「大事にするよ」
「喜んでくれてオレも嬉しい。けど、もう帰らないとな」
「うん」
 すぐに腕時計を手首へ巻いて、駅に向かった。また混み合う電車に乗って克彦と密着することになったけど、朝と違った気持ちだった。朝も嬉しかったけど、とっても緊張した。なのに、今は変な緊張はなくて、ただ心地いい。二人の距離が近くなった気がする。それは克彦も同じように感じてくれてるみたいで、私を守って抱いてくれてる腕が頼もしい。このまま、ずっと抱かれていたい。
「…………」
「…………」
 同じように感じてくれてたみたいで、だんだん田舎に近づいて電車が空いてきても、ずっと抱いていてくれた。けど、最後の乗り換えをすると、もう車内はガラガラで余裕で座れる。二人並んで座ってると、早朝からの長旅だったから身体は疲れていて眠くなる。でも、寝たくない。一分でも一秒でも、今の時間を大切に味わいたい。克彦と手をつないで、克彦の肩に頭をもたげて、静かに座っていられるこの時間は、あと数十分で終わってしまう。
「……このまま時間が止まればいいのに……」
「ん? 何か言ったか?」
「本当に楽しい一日だったよ、ありがとう」
「ああ、オレも………」
 そう言った克彦が見つめてくる。もう車内には私たちしか乗っていない。
「………」
「………」
 見つめてくれていた克彦が顔を近づけてくるから、私は目を閉じた。
「……」
「……」
 キスされる。嬉しい。目まいがするくらい幸せ。
「………」
「………オレは三葉が好きだ」
「っ…」
 夢から覚めた。そうだった、私は私じゃなかった。
「……………」
「オレと付き合ってくれるよな?」
 キスしたんだから当然って流れで言われるけど、それはできない。どうしよう。
「三葉?」
「………今日一日、お前か、君って約束だったのに…」
「あ………ごめん……つい」
「もう魔法が解けてしまったよ」
「………何を言ってるんだよ?」
「……………」
 どうしよう、なんて言って誤魔化そう、三葉ちゃんの唇でファーストキスまでしちゃったよ、この記憶、このことを、なんとかしないと。この記憶は私と克彦のもの、だから、克彦が黙ってれば三葉ちゃんにはわからない。
「……オレと付き合っては……くれないのか?」
「…………うん……ごめん」
「そうか…………今日のデートは、お情けか……さっきのキスも……」
「そういうわけじゃ……」
「もういいっ!」
 克彦が私から10センチ離れて、顔を背けた。すごく克彦を傷つけてしまった。顔を背けてるけど、車窓に反射して見える表情が今にも泣きそう。胸が痛い。私は克彦の肩に抱きついた。
「ごめん、そういうわけでもないの!」
「…………」
「あ! そうそう! 言ったでしょ! 私、かなり気分屋なの!」
「………」
「だから、克彦のこと好きって気分のときもあれば、ぜんぜん、そうじゃない気分のときもあるの! 日によってね、ガラっと気分が変わっちゃうの」
「……そういえば、……ここのところ…」
「でしょ。だから、お願いがあるの。聞いて」
「あ…ああ…、何だよ?」
「私がね、この腕時計をしてるときは克彦のことを好きって気分のとき、そして腕時計をしてないときは克彦のことを友達としか思ってないとき。だから、腕時計をしてない私にはキスした話とかは絶対にしないで。恥ずかしくて逆に克彦のことを嫌いになっちゃうかもしれないから。今日のデートのことも詳しくは思い出したくないかもしれないくらい。でも、腕時計をしてるときは今みたいに仲良くしたいの。ただ、それも誰も見てないときに限って。とくにサヤチンには絶対見られたくないの。それを、わかってほしい」
「………腕時計をしてるときと……してないとき……か…」
「ごめんなさい、こんな極端な気分屋で………でも、今は克彦のこと……好き、だから」
「三葉……」
「ぅ……恥ずかしいから、腕時計をしてるときは、君か、お前にして」
「……わかったよ。そうする」
 もう糸守駅に着いてしまった。遅い時間だけど、町の誰かに見られるかもしれないと思うと、克彦と手をつないで歩くことはできない。夢の時間は終わり、この入れ替わり現象は神さまが私にプレゼントしてくれた儚い夢なのかもしれない。
「……克彦」
 私は駅前に誰もいないことを確認してから克彦を見つめて目を閉じて言う。
「ごめんなさい。きっと気分屋な私は、明日は腕時計をしてないと思うから」
「……オレは君が好きだ。……少々、気分屋でも」
 もう一度、短いキスをしてから二人で帰宅する。うっかり名取家への道に入って克彦が訊いてくる。
「どこに行くんだよ?」
「あ………、えっと、……サヤチンに会おうかなって……ま、もう遅いし電話にするよ」
「サヤチンと仲いいな……、もう遅いから家の前まで送るよ」
「ありがとう」
 克彦に宮水家の前まで送ってもらった。不審者はいないけど、猪や猿が出るからね。家に入って、遅い夕食をいただいて、お風呂にも入ってから、電話で三葉ちゃんと話す。とくに腕時計のことは言っておかないと、まずい。でも、どう言い出そう。迷ってると三葉ちゃんが私の声で訊いてくる。
「どうだった? 今日のデート、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ、ありがとう。ごめんね、置いていって」
「それはいいよ。……っていうか、私の方がサヤチンの身体で、とんでもないことしたから謝らないといけないかも」
「え………何したの? 三度寝、とか?」
「さすがに、あれから起きたよ。そしたら、お父さんがドライブしようって高速道路で大垣まで行って和牛食べ放題の焼肉店に入ったの」
「……食べたのね……思いっきり……」
「ごめん。……最初は遠慮したんだよ。あんまり食べたら太るからって、でも、お姉ちゃんもお母さんも、食べ放題なんだから、もったいないから食べられるだけ食べなさいって言うし。……すごく美味しいし……」
「……はぁぁ……」
「ごめん」
「そのくらいならいいよ。その状況なら私でも食べるし」
「あ…あとね……夜はお寿司だったの。ホントごめん。サヤチンがするはずだった美味しい思いをしちゃって」
「………。お父さん、ずいぶん景気いいけど、何か言ってた?」
「FXなんとかでユーロがどうの、ドル円が、どうのって、よくわからないけど、儲かったから、らしいよ」
「ああ、外国為替のあれ」
「ごめんね、美味しい思いを私がしたのにカロリーはサヤチン持ちで……。けど、クルマのある家って、ホントいいね。お昼からフラッと出かけても糸守が山奥って思えないくらい、さっさと大垣まで出られるし、また、ちょっと走ってアウトレットまで行けるし」
 そういえば、三葉ちゃんちはお父さん不在だから、交通手段が限られるかも。糸守で電車しか交通手段がないと、今日の私たちみたいに早朝の始発に早起きして乗って、帰りの終電に乗るために夕飯も摂らないで移動したりするかも。
「つまり、今日の名取早耶香の身体は二度寝して、大垣で焼き肉を食べて、アウトレットを巡って、お寿司を食べて帰ってきたのね。ってことは帰ってきたのは一時間くらい前?」
「うん、そのくらい。ちょうど、高速道路をおりたクルマから、私の身体とテッシーが駅から出てきたとこ、見えたよ」
「……そ……そう……ニアミスだったね」
 この様子だとキスしたことは見られてないはず、このことは隠し通さないと。勝手に三葉ちゃんのファーストキスを済ませたなんて、とんでもないこと、とても言えない。けど、やっぱり言うべきなのかな……どうしよう……さっきは夢見心地で克彦とキスしてしまって……けど、三葉ちゃんの唇だったのに………これって、取り返しのつかないことじゃ………。
「どうしたの? 急に黙って……やっぱり、食べ過ぎだって、怒ってる?」
「……ううん……そうじゃなくて………私も……とんでもないこと……三葉ちゃんの身体でしちゃったかも……ごめん」
「え………なに食べたの?」
「…………」
 言うべきかな……言わない方が、いいかな……。
「愛知県だからエビフライとか? もっと濃いもの?」
「…………」
 言ったら……どんな反応を………。
「あ、でも遊園地だから……う~ん、わかんないよ、何だったの?」
「……食べ物じゃないの……」
 食欲じゃないんだよ………出来心と申しますか………魔が差したと言いますか……。
「食べ物じゃない、とんでもないことって?」
 私の声が不安そうな声色になってくる。やっぱり、とても言えない。私は誤魔化すことにした。今日の出来事を克彦と話し合ったりして、ボロが出ないためにも、大きな嘘をついて隠したいことを隠すことにする。
「お化け屋敷に入ったの」
「……苦手じゃなかった?」
「うん。それで、すごく怖くて……おしっこ漏らしたの……ごめん」
「えええ?! 私の身体で?!」
「うん……ごめん」
「ごめんって?! 私たち高校生なんだよ?!」
「ホントごめん」
「もう学校いけないよ!!」
「でも、見られたのは克彦だけだから。絶対誰にも言わないでって約束してあるから大丈夫なはず。むしろ、このことは忘れて二度と思い出さないでって」
「うぅぅ……女子高生なのに、おもらしなんて……小学5年生の、おもらしとは違うんだよ。サヤチン、お化け屋敷が苦手なら入らないでよ。また漏らしてるなんて…」
「ちょっ?! なんで、それ知ってるの?!」
「テッシーから聞いたもん」
「いつ?!」
「小学5年生のとき、富士急から帰ってきて、お土産もらったとき」
「それ速攻じゃない! そんな速攻で私との約束を破ってたの?!」
「あ………ここだけの話って、テッシーが言ってたから……聞かなかったことに、できる?」
「ううっ……そもそも無かったことにしたい……」
「小学5年でも、それだけイヤなことなんだよ……もう高校2年だよ……17歳だよ。ぐすっ…恥ずかしくてテッシーに会えないよ。町の人たちに知られたら生きていけない」
「ホント、ごめん。ちゃんと誰にも言わないでって約束したから」
「……信用できないじゃん」
「小学5年のとき、なんで克彦は喋ったの? なんで、そういう話の流れになったの?」
「えっと……あれは……たしか、……あ、思い出した。けど、恥ずかしいから、あんまり言いたくない」
「………言ってよ。そこまで言われると気になるから」
「う~……私とサヤチンの仲だから言うけどさ。羨ましくて、私が泣き出したの」
「……おもらしが?」
「そんなの羨ましくないよ! して欲しくないよ!」
「じゃあ、何が羨ましかったの?」
「ぐすっ……だって、サヤチンっちもテッシーんちも両親いてさ。仲良く計画して二泊三日で遊園地に行っちゃうんだもん。うちも誘ってもらえたけど、お婆ちゃんが断っちゃうし。で、帰ってきたテッシーがお土産くれて、いろいろな乗り物があって楽しかったとか言われたら、私ぼろぼろ泣けてきて。そしたら、テッシーが楽しいことばっかりじゃなくてサヤチンは怖がって漏らして泣いたから、三葉は来なくてよかったかもよ、とか言ってくれて……そんな感じの話の流れだよ」
「そっか……三葉ちゃんを慰めるために……」
 私との約束を………。
「小学生のころは本当に羨ましかったんだよ。すごい妬んでた」
「……ごめんね…」
「テッシーは今回も、すぐに言っちゃうかな……言われたら私、学校いけないよ」
「それは大丈夫だよ。確実に記憶から消してって、しっかり頼んだから」
 実は、そもそも克彦にはバレてないし。ホント入る前にトイレ行っておいてよかった。けど、この話より、もっと大切なことを三葉ちゃんにも認識してもらわないと、いけない。
「あと一つ大事な話があるの」
「ううっ……また、とんでもないこと?」
「ううん……、そうじゃなくて……ただ、克彦との関係」
「あ、そういえば、テッシーのこと名前で呼んでるの?」
「……」
 やっと、気づいたの………けっこう女として鈍いね、三葉ちゃん。
「そうしたい気分だったから」
 もともと勅使河原克彦をテッシーって呼び出したのは三葉ちゃん。その理由は宮水俊樹さんをトッシーって二葉さんが呼んでたのを真似して。だから、私は本当のところテッシーって呼び名を好きじゃなかったりする。
「じゃあ、明日から私もテッシーのこと、克彦って呼んだ方がいいの?」
「そうして、二人は付き合うの?」
「っ?! そんなつもり、ぜんぜんないよ!!」
「だよね……」
「ぅぅ……けっこう人間関係、大変かも……一回のデートで、なんか変わってきてる」
「それは入れ替わりを認識してない克彦の方が、つらいと思う。私たちは知ってるから。知ってる私でも、好きな人に、素っ気なくされるのと、好きな人の好きな人でいるのは、ぜんぜん違うから」
「………私は……どうしたら……」
「今まで通りでいいように、克彦へ言ったの。宮水三葉は、とても気分屋で、克彦と仲良くしたいときもあれば、友達としか思ってない日もあるって。その見分け方も教えた」
「見分け方? ……スカート短くするとかは、やめてよ」
「フフ、それもいいね」
「よくない!!」
「安心して。スカート丈じゃないよ。今日ね、克彦から腕時計をプレゼントされたの」
「へぇ、よかったね」
「……もらったのは宮水三葉よ」
「…そっか……ごめん…」
「ううん、私こそ、つい言い方が、きつくなって、ごめん。嫉妬してるね……。でも、嫉妬は抑えにくいの………この腕時計をもらったのは宮水三葉だけど、三葉ちゃんが三葉ちゃんでいるときに着けてほしくない。私が三葉ちゃんでいるときだけ、着けたい」
「それでいいよ」
「ありがとう。実は、それを前提に克彦へ言ってあるの。克彦と仲良くしたいときは、もらった腕時計を着けてる。着けてないときは、友達としか思ってないとき、そのくらい気分屋だからって………ある意味で、これは私が克彦を好きな気持ちを表す象徴みたいなもの」
「あ~、なるほど、そうすれば、テッシーも混乱が少ないかも」
「ごめんなさい、こんな卑怯なやり方」
「そんなことないよ、なんとか、この入れ替わり現象を二人で乗り切っていこう」
「ありがとう、三葉ちゃん」
「こちらこそ」
 電話を終わって、布団に入って楽しかった一日を振り返りながら寝ようとしたときだった。
 ブブブッ…
 スマフォが振動してる。手にとって見た。
「九州地方で火山性の地震……犠牲者が数十人以上……」
 私には関係ないニュースだったのでスマフォを置いて寝た。
 
 

目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話


 
 私は朝起きて、サヤチンの部屋じゃなくて自分の部屋にいたから、自分が自分なんだろうって、おっぱいの大きさで確かめた。
「……小さい……、お腹すいた……サヤチン、ありがとう、あんまり食べないで過ごしてくれたんだ……それに引き替え、私は焼肉食べ放題の後に、お寿司まで……ホント、ごめん。…あ! でも、私の身体で、おもらしなんかして……ぅうっ……テッシーに、どんな顔して会えばいいんだよぉ………テッシー、ちゃんと約束通りに黙っててくれるかなぁ……学校で笑い話なんかにされたら、もう学校いけなくなるよぉ……人前で漏らしたなんて、恥ずかしすぎ……」
 悩んでると、寝てる間も着けてたらしい腕時計に気づいた。
「これをプレゼントされたんだ………テッシーからサヤチンに……? ……私に? う~ん……複雑だなぁ……とにかく、これはサヤチンが私でいるときだけ使うものだから、片付けておこう」
 私は机の一番上の引き出しへ腕時計を入れて、そのことを忘れないうちにスマフォで送ってから、着替えて一階におりた。
「おはよう、四葉、お婆ちゃん」
「おはよう、お姉ちゃん」
「おはよう、三葉」
「………」
 四葉もお婆ちゃんも、この頃の私が、ときどきサヤチンになってることに気づいてない感じ。サヤチンとは小さい頃からの友達だから、うっかり呼び間違えない限り、けっこうお互いに成りきれるもんね。お腹すいた、朝ご飯、朝ご飯。
「「「いただきます」」」
「今朝のニュースをお伝えします。まず、海外から、アルゼンチンで起きた暴動では2500人以上の死傷者が出たとのことです」
「この卵焼き、美味しい。これ、四葉が作ったの?」
「そうだよ。隠し味にバターを入れてみたの」
「すごく美味しいよ。また作ってね」
「いいけど、微妙にお姉ちゃん、当番をサボるよねぇ」
「ごめん、ごめん」
「昨夜未明、長野県内の高速道路にてトラックと乗用車の事故があり、乗用車に乗っていた家族連れ4人が亡くなったとのことです。一家は東京のテーマパークを訪れた後、深夜に帰宅しているところを事故に遭ったとのことで、長野県警では事故の原因を詳しく調べ…」
 四葉が箸を置いてテレビを見た。
「遊園地に行った帰りかぁ……両親と姉弟……みんな死んじゃったんだ……かわいそう」
「うん、こういうのが一番、かわいそう。でも……せめて行きじゃなくて帰りだから……最期に遊べたんだねぇ」
 私もテレビを見て言うと、お婆ちゃんも箸を止めた。
「ほんにね。せめて、苦しまんと一瞬で済んでおったらねぇ……。三葉、四葉、はよう食べて、学校に行き。もう時間よ」
「「はーい」」
 お代わりしたいくらい、お腹がすいてたけど、せっかくサヤチンが食べないでいてくれたから、我慢する。きっと電車での移動が長かったから、夕飯が遅くなって遠慮してくれたんだと思うし。遊園地では何を食べたのかな、訊いてみよ。カバンを持って通学路に出たら、テッシーとサヤチンに会った。
「おはよう、三葉。…………」
「おはよう、三葉ちゃん。………」
 二人の視線が私の左手首に集まってくる。テッシーが残念そうな顔をして、サヤチンが安心した顔をしてくれた。
「うん、おはよう、サヤチン、……テッシー」
 テッシーに言っておかなくちゃ、絶対、昨日の出来事を学校で言わないように。今なら私たちしか近くにいないから、釘を刺しておける。
「テッシー、昨日のこと学校で誰かに言ったら、ヤダよ!」
「……。あ……ああ、……わかったよ……」
 返事の歯切れが悪いから、すごく不安になる。私は怖い顔をつくって真剣に言う。
「ホントに言わないでよ! 言ったら絶交だから! 超怒るから!!」
「ああ……言わないよ……昨日は、何もなかった……そう想っておくから……」
「三葉ちゃんとテッシー、昨日、何かあったの?」
 サヤチンが訊いてくる。知ってて訊いてくるなんて、ひどいよ、っていうか、サヤチンじゃん、お化け屋敷でおもらししたの。う~っ……この羞恥心とカロリーが相手持ちになる入れ替わり現象、なんとかならないのかな。
「ねぇ、ねぇ、何かあったの? ここは訊くタイミングだよね?」
 ぐぅぅ……、たしかに表面的な会話の流れだと、訊く方が自然だけど、知ってるくせにぃぃぃ、っていうか、自分が漏らしたくせにぃい。
「何もないから! そうだよね?! テッシー!」
「…ああ、……とくに何も無かった。……遊園地に行って帰ってきただけだ……。悪かったな、サヤチン。優待券が2枚しか無くてさ。ごめん」
 そんな悲しそうな顔して、よっぽど、昨日のことを学校で面白可笑しく言うつもりだったのかな、ホント、釘を刺しておいて良かったよ。
「いいよ、気にしないで。私の家はドライブに出かけたし」
「そうか。どこに行ったんだ?」
「えっと……焼肉と…お寿司…だったかな」
「おおっ、豪勢だな。美味かったか?」
「うん、美味しかったよ」
 たぶんね、って顔をされた。はい、美味しかったですよ、ごめんなさい。学校に着いて女子トイレに入ったタイミングで訊いてみる。
「私の身体は、昨日は何を食べたの?」
「朝は電車の中でオニギリと飲み物。お昼は克彦におごってもらってホットドックのランチで、夕食は帰ってから残り物を軽くだよ」
「そっか……ごめんね。……体重、増えてなかった?」
「怖いから、まだ計ってない」
「……ホントごめん」
「もういいよ。私も、とんでもないことしたし」
 サヤチンが思い出して恥ずかしくなったみたいに顔を赤くして口元を手で押さえた。
「克彦に学校で言わないよう釘を刺してくれて、ちょうど良かったよ」
「ぅぅ………言われたら私、学校に来れなくなるよ」
「クスっ…ごめんね。それはそうと、今日と明日、実力テストあるよね、それが終わったら修学旅行」
「うん、そうだね」
「入れ替わりが起こると、ややこしそうだね」
「……たしかに……」
 そう言ってるうちにチャイムが鳴って、私とサヤチンは教室へ戻って実力テストを受けた。実力テストは期末テストと違って、実力で受けるものだ、っていう考え方が糸守では一般的だから、とくに準備はしない。今日は3教科、明日は2教科で、その後は修学旅行への準備になる。今は自分の身体だから、いつも通りに3教科を受けて、放課後になって三人で帰りながら話す。
「三葉とサヤチンは、どうだった?」
「私は、まあまあ」
「私も、まあまあ」
 サヤチンと私の成績は、あんまり変わらない。テッシーも似たようなもの。
「そうか。そう言われると、オレも、まあまあだ」
「「明日は…」」
 サヤチンと同時に言いかけたから、譲る。
「「どうぞ。…………いやいや、そっちが、どうぞ」」
「お前ら、面白いな。ははは!」
 テッシーが笑ってくれた、今日一日なんか暗い顔してたから、よかった。
 
 
 
 翌朝、また私はサヤチンになってた。もう半分、住んでる気になってくるサヤチンの部屋で起きて、朝シャンしてるお姉さんの横で顔を洗って、学校へ向かう。通学路で出会ったテッシーに挨拶した。
「おはよう、テッシー」
「おう、おはよう。今日も実力テストだな」
「そうだね。………」
 実力テスト、私が受けるのは名取早耶香の分になるんだよね、いいのかな、そんなことで、なるべく頑張ろう。あ、私が来た。やっぱり、お母さんに似てる。
「おはよう、三葉。……」
「おはよう、三葉ちゃん」
「おはよう、克彦、サヤチン」
 あの腕時計が私の左手首に巻かれてる。私の顔が、ちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
「これ、ありがとうね。気に入ってるよ」
「お…おう! 気に入ってくれて、よかったぜ!」
 二人の想い出になってるみたいで、よかった、よかった。学校に着くと、サヤチンが話があるからって、二人で女子トイレの個室に入った。ここなら、呼び間違えを気にしないで、お互い話せる。もちろん、あんまり大きな声で、サヤチンの声なのにサヤチンって呼んだり、私の声が三葉ちゃんって呼んでると、個室の外まで響くと、聴いた人が違和感もつから、小声で話してる。
「サヤチン、何?」
「今日の実力テストなんだけどさ、さっき思いついたんだけど、氏名の欄にお互いの名前を書けば、それで自分の分は自分で評価されない?」
「あ! そっか! そうだよね!」
「まあ、似たような成績だけどさ、これでフェアだよね」
「うん、サヤチン、頭いい!」
 作戦会議を終了して個室から出ると、他の女子から言われる。
「この頃、よく二人で個室に入ってるよね。なんか怪しい関係?」
「別に、何もないよ」
 さらっとサヤチンが私の声で答えた。なのに、まだ、からかってくる。
「実は秘密でキスしてたりして」
「っ、まさか。そうだとしてもトイレじゃ雰囲気ないよね」
「おっぱい、吸ったり吸わせたりかな? 授乳室が無いから、トイレになるのかな?」
 ドキッとして、慌てて言っておく。
「そんなことしてないよ! あるわけないじゃん!!」
「「………」」
「もう高校生なんだから、おっぱい恋しいはずないよ!」
「……サヤチン、そんな力説しなくていいから。冗談だから」
「………ぅぅ……」
 力説したから逆に疑われたでしょ、って目で見られた。しかも自分の目に。からかった女子は、もう行ってしまったから、小声で釘を刺される。
「あんなカマかけにもなってない冗談にのって自白みたいに言ったら、変な噂を立てられるよ。そうでなくても克彦との距離感がビミョーに難しいんだしさ」
「う、うん。ごめん」
 あの夜以来、もちろん、おっぱいを吸いたいとは思ってない。あの夜は特別、お母さんが恋しくて気がついたら、そうなってた。なんて恥ずかしい記憶、いっそ消してほしい。
「ほら、そんな真っ赤にならないの」
「…ごめん……」
「クスっ、また吸いたいの?」
 サヤチンが私の唇で怪しく微笑んで、私のおっぱいを手で持ち上げて見せた。
「ぅぅ……からかわないで……もう、そんな気持ちないよ…」
「よかった。本気で吸いたいって言われたら、どうしようかと思うから」
 トイレを出て、いよいよ実力テストを受ける。作戦通り、私たちは氏名のところにお互いの名前を書いて2教科とも提出したけれど、お昼から修学旅行の準備で班ごとに別れての話し合い中にユキちゃん先生へ職員室へ呼ばれた。
「宮水さん、名取さん、ちょっと訊きたいことがあるの」
「「はい」」
「あなたたち、このテスト、何か不正をしてない?」
 ユキちゃん先生が午前中に受けた実力テストを机の上に出してる。私は怖くなって背中に汗が浮いたけど、サヤチンは落ち着いて答えてくれる。
「いえ、何も。どこか、おかしいですか?」
「筆跡は、どちらも似ているけれど……集めたときの席順と列から考えて、名取さんの用紙を宮水さんが書いて、宮水さんの用紙を名取さんが書いて出したように感じられるの。しかも、2教科とも」
 ぎくっ……しまった……そっか、回収するときの席の位置があったよ……どうしよう、素直に謝ったら許してくれるかな。筆跡は、もともと似てたし、さらにお互いの身体に入ってると、ほとんど私たちでも見分けがつかないけど、席順はナ行とマ行だから、けっこう遠い。列ごとに集めるから、束の中での位置で検討がつくんだ、どうしよう。謝ってしまう方がいいかな、でも入れ替わりなんて信じてくれないから余計にふざけてるって思われるかも、どうしよう、どうしよう。
「先生、それは偶然じゃないですか?」
「宮水さん、偶然というのは2度は生じにくいものですよ」
「一度あったことですし、二度もあるかもしれませんよ。集める人が何か寄り道して私や名取さんの分をテテコにしたか」
「……そういうことも……あるかもしれませんが……」
「それに、自己採点の結果で、私は87点と82点でしたけど。サヤチンは、何点だったっけ?」
「え、えっと……83点と85点かな」
「先生、二人の差は1点です。こんな不正をする意味があるんですか?」
 サヤチン、すごい、うまい。先生が考え込んでる。
「……そうですね……わかりました。もう、いいです。変な疑いをかけて、ごめんなさい。教室に戻ってください」
「はい」
「はいっ!」
 私たちは教室に戻る途中で女子トイレに入った。まわりに人がいないことを確認してから個室に入って抱き合う。
「サヤチンすごい! 嘘つきの天才!」
「はぁぁ、びっくりしたね! 席の位置は盲点だったよ!」
「うん! 私なんて、もう白状して謝ろうかって思ってたもん!」
「こういう嘘はつくなら、最期までつき通さないとね。ま、うちは役場勤めの家系だし、官僚的テクニックって感じかな」
「サヤチン、冷静ですごいよ。私なんて冷や汗かいたもん!」
「私も汗はかいたよ。ほら」
 言われてみると、私の身体も汗をかいて制服が少し濡れてる。匂いが、お母さんと同じ匂い。いい匂いがする。
「匂いまで嗅がなくていいから」
「テヘッ…」
「次からは、もうやめないとね。これから、入れ替わりが続くなら、同じくらいの成績になるよう、同じくらい勉強するか、だね」
「そうだねぇ、いつまで続くのかな……終わるのかな? 終わらなかったら困るような……淋しいような」
「そうだね。続くのも困るけど……終わるのも淋しいね……」
 サヤチンが手首の腕時計を見つめて言う。
「そろそろ出ようか、あんまり個室に入ってると、また変な疑いを受けるし」
「うん」
 たしかに、内緒話するときに個室に入るのは普通のことだけど、これだけ頻繁だと周りが変に思うのも当たり前かもしれない。私たちは教室に戻って班での打ち合わせを再開する。班は6人でテッシーもいて、他の3人は仲が悪くもないけど、良くもない普通のクラスメートだけど、その3人同士は仲がいい。だから、たぶん自由行動では班は二手に分かれて、いつもの3人って感じになるはず。しばらく話し合いが進めてたとき、サヤチンが席を立った。
「ちょっと買い出しにコンビニまで行ってくるよ。荷物持ちに男子一人、ついてきて」
 そう言ってテッシーの肩に私の手をおいた。
「おう、わかった」
「じゃあね、サヤチン。何か欲しいものあったら、メールして」
「あ、うん。私も行こうか?」
「二人で十分だよ。残って、打ち合わせの続きしておいて。私たち3人の全権代理として」
「そうだね。一人は残らないとね」
 二手に分かれるとしても、あんまりバラバラじゃダメだから、私たちの意見を反映する役割もいる。私は、その役割をこなして行きたいところを言っていく。一時間くらいして、だいたい決まった。
「テッシーと三葉ちゃん、遅いなァ……」
「「「…………」」」
 他の班員が私を見て、すぐに地図を見る。さらに一時間くらいして二人が帰ってきた。
「ただいま、遅くなって、ごめんね」
「遅いよ、コンビニだけじゃなかったの?」
 注文したジュースを受け取りながら言った。
「ごめんごめん。ついつい」
「悪いな、サヤチン。ちょっと立ち読みしたりしてさ」
「またムーでしょ?」
「いやいや、コンビニにムーは置いてないぞ。あれは某サイトから注文してるんだ。そしてオレはムーを立ち読みしない。必ず買う」
「はぁぁ……もういいよ。だいたい行き先、決めたけど、これでいい?」
 二人に見せた行程表に頷いてくれたから、今日の仕事は、だいたい終わりだった。
 
 
 
 朝、私は自分の部屋の天井を見上げて理解した。
「今日は名取早耶香というわけ……」
 本来の自分なのに、なんだか淋しい。とくに手首に巻く腕時計が無いのが、淋しい。その想いは克彦も別の意味で感じてくれるみたいで、通学路で三人が出会ったとき、三葉ちゃんの手首を見て、淋しそうな顔を一瞬だけした。
「…。おはよう、三葉」
「うん、おはよう、テッシー」
「おはよう、三葉ちゃん」
「おはよう、サヤチン」
 いよいよ明日から修学旅行。最終的な準備をする日。一応は学習の機会なので、行き先のことを図書館で調べたりとか、そんな準備の日だけど、結局はみんな遊び気分だから教室で話したり、コンビニへ行ったりと、のんびりになる。
「オレ、買い出しに行くけど、三葉、いっしょに来ないか?」
「う~ん……また、立ち読みで遅くならない?」
「……。いや、……そうは……ならないようにするけど…」
 昨日、別に立ち読みなんかしてない。二人で公園で話していただけ。ついつい楽しくて二時間も経ってしまったから、とっさに克彦が思いついた言い訳が立ち読みだっただけ。だから、三葉ちゃんの質問は克彦には変に思えるかもしれない。
「…そうか。……まあ、今日は、そんな気分じゃないのか……そうだよな……」
「立ち読みは、お店の人に迷惑だよ」
「……そうだな……」
 あんまりにも淋しそうだから、私が言う。
「今日は私が、いっしょに行きたい」
「……ただの買い出しだぞ?」
「昨日、留守番させられたもん。だから、行きたい」
 ごめん、三葉ちゃん、今日も留守番してください、って視線を三葉ちゃんは受け取ってくれた。
「二人で行ってきたら。私は、ちょっと身体がダルいし、動くのヤダ」
「そうか。………じゃあ、行こうか、サヤチン。三葉、注文あったら送れよ」
「うん、よろしく」
「ごめんね、行ってくる」
「ゆっくりでいいよ」
 気をつかってくれた三葉ちゃんに目線でも謝ってから、克彦とコンビニへ向かった。けど、昨日、二人で話し込んだ公園へ誘ってみる。
「ちょっと寄り道しようよ」
「……まあ、いいか…急ぎの用はないし…」
 克彦と公園に入って、昨日と同じブランコに座ったら、克彦が目を擦った。
「うわっ……既視感……デジャヴ……」
「どうしたの?」
「いや、昨日と、そっくり同じように見えて……ちょうど、三葉が、そんな風にブランコに座ったから」
「……そうなんだ。二人で寄り道してたんだ?」
「ぅっ……ちょっとだけな」
「克彦は嘘が下手だねぇ。あ…」
 うっかり、呼び方を間違えてしまった。克彦も違和感をもって、こっちを見る。
「ん?」
「………ってね! そろそろ高校生だしテッシーって呼び方、微妙に子供っぽくない?」
「まあ……そうだな……ネッシーに似てて気に入ってるけどな」
「………」
 違うよ、三葉ちゃんが考えたから気に入ってるんだよ。
「私はね、自分のアダ名、あんまり気に入ってないよ」
「そうなのか?」
「だって、女の子にチンはないと思わない?」
「……それは、……そうかもな……」
「できれば、そろそろ卒業したい。どうせ、呼ぶなら、早耶香って名前か、それがダメなら、君とか、お前とかの方がいいよ。サヤチンは、卒業したい。考えておいて」
「……ぉ…おう……わかった。そろそろ行こうぜ。いつまでも公園にいたって、しょうがない」
「そうだね」
 昨日は二時間も、いっしょにいてくれたのに。それでも、いっしょにコンビニに行けるだけで嬉しい。でも、手をつないだら、もっと嬉しいんだろうな、私の手で。
「なあ。サヤチ……」
「変なところで止めなくていいよ。気をつかってくれて、ありがとう。どうしたの?」
「三葉のことなんだけどさ」
「…うん、三葉ちゃんが、どうしたの?」
「あいつ、あそこまで気分屋だったか? 前から」
「…………どうなのかな………」
 ごめんなさい、克彦、それは、あなたを好きでいる人格と、友達としか思ってない人格の違いだよ、とてもとても大きな違いだよ。困惑させて、ごめん。
「いらっしゃいませ」
 コンビニ店員のおばちゃんが挨拶してくれる。そして余計なことを言う。
「あら、昨日と今日で彼女が違うのね。さすが、御曹司」
「おばちゃん、御曹司はやめてくれって」
 糸守町のコンビニで働いてる人は、みんな顔見知りだったりするから、おばちゃんたちも遠慮がない。オーナーのおじさんまで話に乗ってくる。
「いつも両手に花で羨ましいね」
「もう、いいから、仕事しててくれよ」
 あんまり色々言われるのは私もイヤだから、ささっと商品を買って店を出た。学校に戻ると、三葉ちゃんがダルそうに机で寝てた。
 
 
 
 翌朝、また私は三葉ちゃんになってた。今まで以上に慣れ親しんだ三葉ちゃんの部屋で起きる。
「修学旅行の初日に三葉ちゃんで行くのか……幸運なのか、そうじゃないのか……」
 私は机の引き出しから腕時計を出して、それを三葉ちゃんの左手首に巻いた。そして、目まい、腹痛、軽い頭痛、下腹部の気持ち悪さを覚えて、机に手をついた。
「ううっ……この感じ……二日目かな……」
 同じ女子なので、わかる。月経だよ、この感じ、しかも三葉ちゃんは正確に28日周期でくるけど、症状が重い方で、つらい。
「ついてないなぁ……旅行初日が二日目なんて……」
 三葉ちゃんが不運なのか、私が不運なのか、とりあえず枕元にあった鎮痛剤を飲んで、ナプキンも枕元に置いていてくれたから、それをトイレで交換してから着替えた。この入れ替わり現象、女同士で起こってるからいいようなものの、もしも男と入れ替わってたら、破滅的に最悪なんじゃないかな、ホント。
「うう~……」
「あ、お姉ちゃん。あの日?」
 一目でわかりますか、小学4年生。
「……う~……四葉って、もう来てたっけ?」
「まだだよ。大変そうだね、毎月毎月」
「あぁぁ……痛い……ダルい……」
 私の月経の3倍、ううん、5倍くらい症状がきついかな。いつも三葉ちゃんが苦しそうにしてたのが、わかるよ。結局、痛みって、その本人にならないと、わかんないよね。男には絶対、わからないよ。
「はぁぁ……」
「今日から修学旅行なのに、ついてないね」
「ホント最悪。温泉も入れないし」
 私は三葉ちゃんの身体を引きずって大きなバックを持って外に出た。ちょっと遅かったから、すでに克彦と三葉ちゃんが私の身体で待っててくれた。二人とも修学旅行のための大きなバックを持ってる。
「おはよう、三葉。………」
「おはよう、三葉ちゃん。バック持ってあげるよ」
 元気そうな私の身体で三葉ちゃんがバックを持ってくれた。それでも私がフラつくと克彦が支えてくれた。
「大丈夫か? ……君、顔色悪いぞ」
 ちゃんと、約束通りに君って呼んでくれて嬉しいけど、今はそれどころじゃないくらい、しんどい。
「…うう~……痛い……」
「どうしたんだ? 修学旅行、大丈夫か?」
「うん、ただの、あの日だから心配しないで」
「うわわっ?! そういうこと男の子に言わないでよ!」
 私の顔が真っ赤になって恥じらってる。三葉ちゃんはホント恥ずかしがり。
「…ハァ…ハァ…どうせ、すぐバレるし……言わないと心配かけるでしょ…。それに、いつも、だいたいバレてるよ…ハァ…」
「お前、ホントに今回、とくにつらそうだな」
「…ハァ……ハァ…」
 うん、ある意味で初体験、初潮ですから。
「チャリに乗せてやるからさ。おい、サヤチン、悪いけど、二人分の荷物をもって歩けるか?」
「うん、頑張る! カロリー燃やすよォ!」
 三葉ちゃんが気合いを入れて、左右の私の肩へ、修学旅行用の大きなバックを二つ、担いでくれる。宮水三葉と名取早耶香の荷物を三葉ちゃんが持ってくれて、克彦の荷物はチャリの前に載ってる。こういうとき、たいてい男子の方が荷物が少ない。私は月経による体調の悪さで、どうにも歩くのもつらいから、二人の好意に甘えた。
「よし、じゃ、オレら先に行くぞ」
 克彦が私を乗せてくれて、学校に向かってくれる。私はフラつかないように克彦の腰へ腕を回した。ああ、ここに抱きつくの、お化け屋敷以来だよ、つらいけど、幸せ。でも、幸せな時間って、すぐに終わってしまう。克彦が頑張ってくれたおかげで、学校に到着して、本当は校庭に整列して点呼しなきゃいけないけど、私は事情をユキちゃん先生に話して、バスに乗せてもらって座ることができた。
「……ハァ……ちょっと薬が効いてきたかな……」
 やっと鎮痛剤が効いてくれたかもしれない。症状が半分くらいになった。しばらくして、点呼が終わったクラスメートたちが乗り込んでくる。
「お前、調子は、どうだ?」
「三葉ちゃん、大丈夫?」
 克彦と三葉ちゃんが心配してくれる。とくに、三葉ちゃんは自分の月経の重さを知ってるから、とても申し訳なさそうに目で謝ってくれた。
「うん、なんとか。……克彦、隣に座って。バスが揺れたら支えてほしい」
「わかった」
 バスの座席数には、全体的に余裕があるから左右2列ずつに一人か、二人が座るんだけど、私が窓際に座っていて、その隣に克彦が座ってくれて、通路の向こうに三葉ちゃんが3人分の手荷物といっしょに座ってくれた。おかげで糸守町から京都まで克彦と過ごすことができる。バスが岐阜県を出る頃には、克彦が上着をかけてくれたから、その下で克彦と手をつないだ。旅行用のバスだから背もたれが高くて前後の席からは私たちの様子が見えないし、通路の向こうに座ってる三葉ちゃんも気づいてない。だんだん眠くなったみたいで私の目が閉じていく。私は鎮痛剤のおかげで眠気を覚えるけど、手をつないでることが嬉しくて寝るどころじゃないし、それは克彦も同じ気持ちでいてくれてるみたい。
「………」
「………」
 三葉ちゃんが完全に寝てしまったことを確認して、それから前後の席にいるクラスメートからも見られてないことを確認してから、克彦を見つめてから目を閉じた。
「「………」」
 キスしてくれた。すごくドキドキする。嬉しい、嬉しい。身体は、つらいけど、気持ちは天国。
「………」
「………」
 まだ三葉ちゃんは私の身体で寝たまま、周りも私たちに気づいてない。もう一度、キスしてほしい、そう想って目を閉じたのにユキちゃん先生がマイクで言った。
「サービスエリアに入ります。お手洗いを済ませた人は、すぐに戻ってきてください」
「「………」」
 克彦も残念そうな顔をしてくれる。三葉ちゃんが起きた。
「ん~っ……お腹すいた。先生! サービスエリアで何か食べてもいいですか?」
「名取さん、ちゃんと話を聴いていませんでしたね。お手洗いだけです!」
「は~い。………三葉ちゃん、おりる?」
「どうしようかな?」
 もしも、みんながおりたら克彦と二人っきりになれるかもしれない。
「おりないの?」
「う~ん……でも、おりないで、おもらししたら大変かな?」
「絶対おりよう!」
 私の手が三葉ちゃんの手を強く引いた。まあ、ここは、おりるしかないよね、二重の意味で生理現象的に。私は手荷物からポーチを出してからおりた。月経の二日目なんだから、ちゃんと交換しておかないと大変なことになるし。女子トイレで必要なことをしてから個室を出ると、三葉ちゃんが小声で謝ってくれる。
「ごめんね、こんなタイミングで……つらいのも、サヤチンに体験させて。来ないといいなって思ってたのに、きっちり昨日の夕方から始まったの」
「気にしないで。仕方ないことだよ。私だって来週くらいには、来る予定だし。あ、私、むしろ軽いから予兆がないの。うっかり服を汚したり、脚に垂れるまで気づかないっての、やめてね」
「うん、気をつけるよ。予定日、スマフォに入れとく。あと、もう、おもらしは絶対にしないでね。お互い、サービスエリアでは、きっちり済ませよう」
 おもらしを絶対に回避したいって三葉ちゃんが拘るのには理由がある。中学の時、古事記を習った課程で、イザナミが産んだ神さまにミヅハノメカミという名があって、それが三葉ちゃんと音韻がかぶる。それだけなら、いい偶然だね、で済むんだけど、その神さまは火之神カグツチを産んだときの火傷で苦しむイザナミが漏らしてしまった尿から産まれてる。おかげで、おもらしの化身みたいな話になって、ちょうど中学で思春期に入ってきた頃で、唾液から口噛み酒を造るだけでも恥ずかしがってた三葉ちゃんは気にしてたりもするから。唾液からお酒を造ったり、おもらしの化身と名前かぶったり、涙ぐむことが多かったり、けっこう三葉ちゃんは水に関わることが多い。何より、男子や女子の一部から、からかわれるのを気にしている。でもね、からかわれるのには理由があるんだよ、町長の娘で、巫女で、おまけに美人とくれば、そりゃァ、やっかみも受けるよ。
「ねぇ、聴いてる?」
「うん。それより、この身体って今日は食欲もないんだけど、食べた方がいいの? 食べない方がいいの? 食べたらバスで吐いたりする?」
「う~ん……乗り物酔いはしないけど、控え目の方がいいかも」
「そうだね、吐いたら、また口噛み酒にかぶせて何か言われそうだしね」
「ううっ……巫女なんか、やめたいよ……せめて、普通の御守りを販売したり、境内の掃き掃除するだけくらいの巫女がよかった」
 二人で話しながらバスに戻ったら、男子の方が早く戻っていて、克彦がムーを読んでた。
「「修学旅行にまで、持ってきたんだ、それ」」
「まあな」
 誇らしげに答えてくれたけど、なぜ、誇らしいのか、男子の考えることは、わからない部分も多い。けど、また隣りに座って上着の下で手をつなぐと、もうムーは片付けてくれた。
「…………」
「…………」
 また、キスしたいなァ。
「あ、見てみて! あれ琵琶湖じゃない?! ほら、テッシー! サヤ…三葉ちゃん!」
 三葉ちゃんが呼び間違えかけながら、車窓から見える大きな湖を指してる。三葉ちゃんは、けっこう、うっかり屋さんだったりもする。とくに日付への注意力が低くて、よく夏服と冬服の入れ替え期日を間違えたり、ひどい時なんか年を気にしなくて四月に下級生の教室へ登校しようとしたりするし。今も自分が名取早耶香であって、こっちのことを三葉ちゃんと呼ばなきゃいけないことを、うっかり忘れてるし。
「おお、大きいな。あれで湖か」
 克彦が車窓を見たから、私も見る。
「わぁ…海みたいだね」
「すっごいね! 糸守にある湖より、ずっと大きい!」
 その大きな湖が見えなくなると、いよいよ京都に着いて、バスは二条城に駐まった。克彦が心配して訊いてくれる。
「君は歩けそう?」
「う~………どうかなぁ…」
「君が行けないなら、オレも待機していようか。一人にはさせられないし」
「それなら、私が待ってるよ」
 三葉ちゃんが気をつかってくれたけど、私は首を横に振った。
「ううん、サヤチンは行ってきて。そうだ、いろいろ写真を撮ってきてよ。それで見た気分になるから」
「わかった。そうする」
 三葉ちゃんとクラスメートたちが出て行って、私は克彦と二人っきりになった。静かな車内はエンジンとエアコンの音だけ。運転手さんも、外でタバコを吸ってる。
「体調は、どう?」
「だんだんマシになっては、いるよ……けど、今日は、ずっと、こんな感じかも」
「そうか、かわいそうにな」
「ありがとう……克彦……ねぇ、キスして」
「……ああ」
 もう誰もいないから、何回もキスした。
「……嬉しい……。大好きだよ、克彦」
「ああ、オレも君が好きだ」
 またキスする。だんだん深いキスをして、腕でも抱き合って、そのことに夢中になっていたから、私も克彦も近づいてくる足音と気配に気づかなかった。
「なにしてるの?!」
「「っ?!」」
 心臓が飛び出るほど、驚いた。
「心配で来てみれば!!」
「「す…すいません…」」
 私と克彦は叱ってくるユキちゃん先生に謝った。
「修学旅行は遊びではありません!」
「「はい」」
「宮水さんは体調が悪いのでしょう?!」
「はい」
「なら、おとなしくしていなさい!」
「はい」
「勅使河原くんはバスを出なさい! 宮水さんは私が看ています!」
「はい」
 立ち上がって出て行く克彦の背中へ、ユキちゃん先生は念を押す。
「修学旅行中は消灯後、客室から出てはいけませんよ!」
「はい」
「消灯前でも女子の部屋へ男子が入ること、男子の部屋へ女子が入ることも禁止されています。いいですね?!」
「「はい」」
 克彦が出ていて、先生と二人になる。なんて気まずい空気。
「………」
「………」
 でも、先生へ言っておかないといけないことがある。
「先生」
「何ですか?」
「……さっき、私と克彦がしていたこと、誰にも言わないでください。絶対」
「え? ……ええ、……それは、……もともと言うつもりはないけれど……ひょっとして、宮水さん、彼に強引にされたの?」
「いえ! 違います!」
「そう……それなら、いいけれど……いえ、良くありませんが。と、ともかく、もしも、不本意な行為を迫られているのなら、ちゃんと助けを求めなさいね」
「…はい……ありがとうございます」
「……キスまではいいと、女の子が思っていても、男の人が止まらなくなることもありますからね」
「…はい…」
「あと、修学旅行中は、キスでもダメですよ」
「…は~い」
 しばらくして全員が戻ってきた。できるだけ何事もなかった顔で克彦を迎える。
「克彦も少しは二条城、見られた?」
「まあ、ちょっと」
「三葉ちゃん、ちゃんと写真を撮ってきたよ。見てみて」
「ありがとう」
 写真を見せてもらっているうちにバスは出発して、今度は清水寺に着いた。
「今度は、どうする? 歩けそうか?」
「う~ん……」
「宮水さん、無理でなければ、ここでは集合写真を撮りますので、おりた方がいいですよ」
 ユキちゃん先生が様子を見に来てくれた。たしかに、集合写真に私だけ写れないのは淋しい。そして、私じゃなくて宮水三葉だけ写らないことになってしまうのは、かわいそう。だから、ダルい身体で立ち上がってみた。
「先生、集合写真だけ撮って戻るって、できますか?」
「バスに一人でいるのは……私も、ここでは引率があって……集合写真があるから、すべての先生方も……」
「じゃあ今度は、私が三葉ちゃんと、いっしょに留守番します」
 三葉ちゃんが提案してくれたけど遠慮する。
「ううん、悪いよ。せっかくの清水の舞台だから、清水の舞台から飛び降りるつもりで見てきて」
「「死ぬじゃん!!」」
 克彦と三葉ちゃんがボケに反応して、つっこみをくれた。こういうところは幼馴染みって気がする。
「冗談だよ。でも、もったいないよ。見てきて。そうだ、克彦とサヤチン、二人で写真を撮ってきてよ。そんな写真を見たいな。清水の舞台の奥にね、地主神社ってところがあるの。その鳥居の前で二人で写った写真を撮ってきて。なるべく笑顔で」
「ふ~ん、そんな神社があるのか。寺なのに」
「「………」」
 三葉ちゃんとユキちゃん先生から複雑な視線が来る。克彦は知らないみたいだけど、この二人は地主神社が縁結びの神さまだって知ってるみたい。とくに、ユキちゃん先生からは、あなたは、それでいいの、どういうこと? っていう視線。でも、あんまり生徒の恋愛関係には立ち入らないでくれたし、時間もないので私たちはバスをおりて、ゆるい坂道だったけど、今の身体にはキツイ坂道を登って、清水寺の正面で集合写真を撮ると、私は近くに座った。
「じゃ、いってらっしゃい」
「おう。達者でな」
「行ってくるよ。気分が悪くなったら、電話して、すぐ戻ってくるから」
 そう言った三葉ちゃんは小声で付け足す。
「できるだけ、いい写真を撮ってくるよ」
「ありがとう」
 二人を見送ってから一時間ほどで全員が戻ってきた。そして、三葉ちゃんは小声で言ってくれた。
「ちゃんと撮れたよ。あと、これ、宮水三葉から、名取早耶香にプレゼントね。だから、この財布から抜いておくよ。で、今は、このまま身につけてるから」
 縁結びの御守りを見せてくれて、それを名取早耶香のスマフォに着けて、その代金を宮水三葉の手荷物にある財布から抜いて、名取早耶香の財布に補給してくれたから、すごく感動して泣きそうになった。
「っ…本当に、ありがとう。大事にするよ」
「御利益があるといいね」
 バスが動き出して本能寺の近くにあるホテルに到着した。
「やっと、落ち着ける」
 まだまだダルい身体で客室に入ると、ベッドに倒れ込んだ。
「う~…ダルい……つらい…」
「宮水さん、あの日?」
「うん、そう」
 他の女子も気づいてくれる。三葉ちゃんが恥ずかしそうにしてるけど、この部屋には女子しかいない。四人一部屋で、普通なら夜中まで恋話で盛り上がるところだけど、そんな気分じゃないし、うっかり話すとややこしくなるから、夕飯を軽く食べて、温泉にも入らずに寝た。明日の朝、私の身体に戻ってたら、出発前に露天風呂には行きたいなぁ、と思いながら。
 
 
 
 修学旅行2日目の朝、私は私に戻ってた。一番つらい月経2日目はサヤチンが過ごしてくれたけど3日目も、まだまだダルいし痛い。そして気持ち悪い。起きたくないくらい重い身体で、仕方なく起きて客室のトイレに入ってナプキンを交換した。
「ぅぅ……痛い……薬も飲もう……あ、この腕時計も外しておかないと」
 外した腕時計を手荷物にしてるリュックの紐に巻きつけて、いつも通りの盛大な寝癖を直す。
「う~……お風呂も入れなかったから……髪がベタついて……身体も気持ち悪いし」
 夕べは、サヤチンに悪いと思いつつも温泉に入って、さっぱりして寝たのに、今は自分の身体が気持ち悪い。
「はぁぁ……」
 タメ息をついてたら、サヤチンがサヤチンの身体で浴衣を着て、客室に入ってきた。
「おはよう。サヤチン、どこか行ってたの?」
「うん、露天風呂! 超気持ちよかったよ」
 気持ちよさそうにピースしてくれた。それで、他の女子が気の毒そうにしてくれる。
「宮水さん、かわいそうにね。名取さん、意外と残酷」
「……。あはは、ごめん、ごめん」
 入れ替わりをわかってないと、生理中の私へ、今のサヤチンの言葉はひどいけど、私たちはわかり合ってる。昨日は私が温泉を楽しめたし、今はサヤチンが温泉に入れた。むしろ、入れ替わりがなかったら、私の修学旅行はダークに終わったかもしれないので、そこはサヤチンに感謝しつつ、悪いとも思う。
「いいよ、いいよ、気にしないで。ここの露天風呂、寝湯があっていいよね」
「「「……………」」」
 あ、しまった、みんなが入浴してないはずの私が、なぜ、それを知ってるって顔になってる。
「え、えっと! ずっと前に来たことがあるの! うん! だから、今回は入れなくても、ぜんぜん平気だよ!」
「そうなんだ。宮水さん、体調は、どう?」
「まあまあかな。私、重いから3日目でも、しんどいよ」
 このまま寝ていたいけど、そうもいかないから着替えて、広間で朝食を全員で食べる。テッシーに会った。
「おはよう。………三葉」
「うん……おはよう…」
「ダルそうだな」
「まあね」
「そんなに、つらいものなのか、……あれって」
「……………そういうこと男の子に話したくない」
 生理のせいでイラつきやすいからかな、けっこう怒った声で返事してしまった。
「……すまん……気をつける……」
 謝ったテッシーが離れていった。
「ごちそうさま」
 私は卵焼きと梅干し、ご飯を半分だけ食べて部屋に戻って少し寝る。
「三葉ちゃん、あと15分で集合時刻だよ」
「…うん……ギリギリに、起こして」
「はいはい」
 サヤチンは元気そうでいいなぁ。あっという間に15分が過ぎたみたいで起こされる。
「三葉ちゃん、起きて。荷物はもってあげるから、身体は自分で持ってきて」
「は~い……」
 起き上がってバスに向かう。もう他のクラスメートは座ってて、空いてる席は昨日と同じ位置だけ。テッシーも昨日と同じところに座ってて、その流れだと、横に座るのが自然だけど、私は通路の反対側に座った。すぐに大きな荷物をバスの下部に入れてくれたサヤチンが二人分の手荷物をもって乗ってくる。
「はい、これ」
「ありがとう」
 リュックを受け取った。それを、隣の席に置くと、もともと置かれてたテッシーの荷物と並んだ。さらにサヤチンの手荷物もあるから、私のリュックの上に置いてもらう。そうしてから、思いついた。
「私さ、この手荷物を肘枕にして体重かけてもいい?」
「あ、うん。いいよ」
「いいぜ。……三葉、そっちに座るのか、一人で」
「うん、広く使いたい。ごめん」
 これでサヤチンがテッシーと並んで座れるよね。そして、ダルい私は、のんびり座れる。昨日と身体の位置を入れ替わって座ったけど、それは身体だけの話で、主観的には同じ位置だったりもする。ややこしい話だよ、今は生理の方がダルくてイヤだけど。
「……ダルい……寝るから、着いたら起こして」
「三葉ちゃん、今日は歩けそう?」
「……着いてから考えるよ…」
 そう答えて、もうダルいから手荷物にもたれて、目を閉じた。隣からはサヤチンがテッシーへ話しかけて何か盛り上がってる気配がするから作戦成功みたいで良かった。
「三葉ちゃん、金閣寺に着いたよ。歩けそう?」
「ぅぅ………どうしようかな……でも…」
 トイレには行きたい、おしっこよりもナプキンの交換はできるときにしておかないと、次は奈良県の東大寺に行く予定だから、途中の休憩場所が少ないって先生が言ってた気もするし。仕方なく私は立った。
「行ってみるよ」
「リュックを持ってあげるね」
「オレが持ってやるよ」
「「………」」
 いえ、その中にナプキンが入ってるので、持たないでください。
「ごめん、サヤチンが持っていて」
「うん」
 バスをおりてサヤチンと女子トイレに入った。用を済ませてサヤチンに言う。
「ここも無理そう。マップを見たら、けっこう歩くよね。金閣寺の周囲を」
「そうだね」
「お昼からの奈良での自由行動に体力を残しておきたいから、私は駐車場のベンチにいるよ。売店でアイスでも食べてるから、テッシーと行ってきて」
「ありがとう……でも、私と克彦のことに気を回して遠慮してるなら……そこまで気をつかってくれなくていいよ。せっかくの修学旅行なんだし、金閣寺、見てみたいなら、いっしょに行こうよ?」
「う~ん……気を回してないわけじゃないけど、歩くのがつらいのも本当なんだよ。金閣寺も写真でいいよ。二人で行ってきて」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるね」
 私はリュックを受け取ってベンチに座って、ぼんやりとする。そうしてる間にも、次々と観光バスが入ってきて、ものすごい数の人が流れていく。
「……人間って、こんなにいるんだ……」
 人口1500人の糸守から出てくると、人の多さにびっくりするし、疲れる。今ここに駐まってるバスに乗ってた人の数だけで糸守町を超えそう。
「やっぱり修学旅行が多いなぁ」
 金閣寺が定番中の定番だから、学生が多い。あと、外国人。
「それぞれの学校に、それぞれの恋愛があって、いろいろあるんだろうな………私も、いつか誰かを好きになるのかなぁ……」
 座って他校生を見てると、やっぱりカップルはカップルってわかるし、女同士、男同士のグループも仲の良さとか、だいたい見てわかる。
「スカート丈も学校によって、いろいろだなぁ……うわっ、あそこまで短くても、先生に注意されないんだ……、もうパンツ見えてるじゃん。恥ずかしくないのかな」
 私の視線を感じたのか、睨まれたから、目をそらしてアイスを囓る。
「退屈だなぁ……行けば良かったかな……あ、戻ってきた」
 サヤチンとテッシーが早めに戻ってきてくれた。二人が歩いてる姿はカップルに見えなくもないけど、やっぱり距離があるかな。もう少し縮められるといいのに。
「おかえり、どうだった? やっぱり金色だった?」
「おう。金ピカだったぞ」
「でも、いい写真が撮れる場所、すごく少なくて大混雑で大変だったよ。三葉ちゃん、来なくて正解だったかも。しかも、その場所が終わったら、ほとんど金閣寺が見えなくなって、ただの庭だったもん」
「そっか」
「まだ時間あるから、お土産屋さんを見て回ろうよ」
「そうだね。ちょっと淋しかったし」
 三人で金閣寺周辺のお店を見て回って、それからバスに戻った。バスが動き出すと、お弁当が配られる。次の奈良県までに食べて、東大寺の駐車場でおりた。鹿がいっぱいいる。
「ここの鹿は愛されてるんだね」
「糸守だと嫌われ者なのにな」
 テッシーが猟銃を撃つ構えを取った。男の子って鉄砲とか爆弾が好きだよね、なぜか。そして、糸守だと鹿は愛される者でも神獣でもなくて、憎まれ殺される者だったりする。畑を荒らすから。私も、たまにお肉を猟に行った人からいただいて、新鮮だとお刺身にするし、焼肉とか、お鍋とかにもする。あの赤身肉は、けっこう美味しい。って、こんな感覚はド田舎の女子高生だけで、きっと都会の学生に話したらドン引きされるのかも。
「勅使河原くん、宮水さん、名取さん。班行動だけど、二手に分かれて回って、ここに集合しないか?」
 班員の一人が予定通りの提案をしてくるから、私たちは頷いた。原則は班行動だけど、二手に分かれるくらいなら先生を誤魔化せるし、問題ないから。結局、いつもの三人で行動して、お寺を見て回るより、鹿と遊ぶのを優先した。しばらくエサをやったりして楽しんでたら、テッシーが言う。
「オレ、鹿を捕まえられないか、本気で追いかけてみるぜ」
「「無理だと思うよ」」
 他のグループの男子も挑戦してるけど、いよいよ人間が捕まえようとすると、鹿たちは走るスピードをあげて逃げちゃうから。
「フフフ、短距離で勝負を決めず、じっくり追い続けてやるんだ。集合時刻までには戻るから、オレが見えなくなっても心配しないでくれ」
「「見えなくなるほど遠くまで追うつもりなんだ……頑張ってね」」
 奈良公園は広いから、本気で鹿を追いかけて走っていくテッシーは、だんだん見えなくなった。
「男の子ってバカなことするよね。サヤチンはテッシーのああいうところも好き? あとムーとか読んだりするところも」
「別に、すべてが好きってわけじゃないから。いいところが好きだし、そうじゃないところは、まあ、そのままでいいんじゃないかな、って」
「なるほど……恋は奥深いなぁ…」
「そうなるときがくれば、三葉ちゃんも、そうなるよ」
「う~ん……なるかなぁ……それはそうと、テッシーは鹿に勝てると思う?」
「無理だと思うよ。相手は馬に近い、走るのが専門の動物だし」
「だよね」
「馬鹿より、バカかもね」
「意外と言うね。好きな人なのに」
「ムー読んでるところも、そんな感じだよ。逆に私が、そこも好きって言い出したら、それは、それで怖くない?」
「たしかに。二人して、どっぷりムーにハマってたら、このカップルは大丈夫なのか、って思うし……、そろそろ時間…え?!」
 スマフォを出すのが面倒でリュックへ着けたはずの腕時計を見ようとして、それが無かったから、私は声をあげて驚いた。
「どうしたの?」
「ないの! あの腕時計が!」
「それって克彦から、もらった?」
「うん! そう! リュックの紐に巻きつけたはずなのに、ないの!」
「そ……そんな……どこで落としたの?!」
「わかんない!」
「……いつから無いの?!」
「えっと………」
 思い出そうとするけれど、時刻を確認するのにスマフォを使ったのか、腕時計を見たのか、ほとんど覚えてない。もともと私って日付や時刻への認識が、いい加減でテキトーだから、下手すると年がわかってることさえ気づかないで一学期の初日に前年度の教室に行っちゃうくらい。
「ちゃんと思い出してよぉ!」
 サヤチンが悲しそうな声で言ってくる。
「えっと……えっと……リュックに巻きつけたのがホテル………そこからは、よく……わからない。ごめん……」
「……それじゃあ……京都から奈良までの………」
「………ホントに、ごめん……」
 無くしたのが糸守町なら、見つかる可能性は、すごく高い。行動範囲も人の数もしれてるから、誰かが拾ってくれても、すぐに話がつく。けど、今は絶望的なくらい行動範囲が広くて人が多い。財布ならともかく腕時計くらいだと拾っても警察へ届けてくれないかもしれない。
「「とにかく探そう!」」
 二人で探し始める。あるとしたら、私の行動した道程だから、覚えてる限り奈良公園の中を今までとは逆に歩いて足元を探す。サヤチンは探しながら泊まったホテルと金閣寺へ電話をかけてくれてる。けど、ホテルにも金閣寺の事務所にも届いて無くて、交番と警察署も検索して電話をかけてるけど、見つからないみたい。私は探しながら、お土産屋の店員さんなんかにも訊いてみたけど、見つからない。そのうちに集合時刻になってしまって、もうバスに戻らないといけなくなった。
「サヤチン、もうバスに戻らないと………ホントに、ごめん。ごめんなさい」
「………ぅっ……くっ……うわあああん!」
 サヤチンが声をあげて泣き出したから、周りの人が驚いて見てる。こんなに泣くなんて、すごく罪悪感を覚える。
「ごめん、サヤチン。落ち着いて」
「なんでよぉ! なんで、無くすのよぉ!」
「ごめんなさい。落ちると思わなくて……ごめん……私が悪かった…」
 本当に私が悪い。腕時計はベルトを腕に巻く設計だから、リュックの紐なんかに巻きつけたら、何かの拍子に金具がゆるんで外れてしまうかもしれない。そのくらいのこと、考えるべきだった。うかつにも、ほどがある。
「ごめん、ごめんなさい。……明日、また電話すれば、届いてるかもしれないから…」
「…ひっく…ぐすっ…ぅっ…うぐっ…」
「本当に、ごめんなさい。……もう、バスに戻らないと……」
 泣きじゃくるサヤチンを連れて、私はバスに戻った。もう遅刻していて、ユキちゃん先生が怒った顔でバスの前にいる。
「遅いですよ。……なにか、あったのですか? 名取さん」
「…ぐすっ…、…………」
 答えに困ってるから私が代返する。
「大事な物を無くしてしまったんです」
「そうですか。それは、気の毒に。……警察には届け出ましたか?」
「はい」
「では、朗報を待ちましょう。もうバスに乗って。あなた達のために5分、遅れているのよ」
「「すみません」」
 謝ってバスに乗ったら、すぐに朗報が迎えてくれた。先にバスに戻って座ってたテッシーが腕時計を私に向けてくる。
「これ、バスの中に落ちてたって」
「あったんだ! よかった! テッシー、ナイス!」
「お…おう……もう落とさないでくれよ」
「うん、気をつけるよ。ごめん」
 受け取った腕時計を見て、また私は罪悪感を覚えた。バスの中で、何度か踏まれたり蹴られてしまったのかもしれない、壊れてはいないけど傷だらけになってる。
「……………」
「……ぐすっ………」
 サヤチンが一瞬だけ、こっちを見て座席に座った。まだ目が赤いから、テッシーが心配する。
「どうしたんだ? 何か、あったのか?」
「「………」」
 答えに困る。この腕時計を無くして泣くのは私の立場なはず、けど想い入れがあるのはサヤチンだから。説明に困って沈黙してるうちにバスが動き出した。明日の目的地が大阪のUSJだから、宿泊地も大阪府内になってる。暗くなっていく道路をバスが走る。私は気分が悪くなってきた。生理中だったのに、腕時計を探して動き回ったからかもしれないし、サヤチンへの罪悪感からかもしれない。
「………」
 一応、吐いたときのために目の前にあるビニール袋を触って、いざというとき、すぐに開けるようにしたら、テッシーが心配してくる。
「吐きそうなのか?」
「……たぶん……大丈夫……」
 身体がダルいから、三人の手荷物を、また肘枕にして気づいた。そっか、こうやって私が体重をかけたりしたから、腕時計のベルトがゆるんで落ちたのかもしれない。私ってバカだなぁ。
「……………」
 今は手に持ってる腕時計を見つめた。
「………」
 重い。
「…………」
 これを持ってるのが、重い。
「………………」
 他人の大切なものを持ってるのが、とても重いよ。もしも、また無くしたりしたら、なんて謝ればいいのか。たまたまバスの中で落ちたから、よかったようなものの、駐車場だったら他のバスに轢かれて粉微塵だったかもしれないし、他の人に拾われて、そのまま返ってこないかもしれない。リュックの底にでも入れれば大丈夫かもしれないけど、それだって100%じゃない。リュックごと忘れたり無くしたりするかもしれない。スカートのポケットだって、何かの拍子に落とすかもしれない。
「…………」
 結局、腕時計は腕に巻いてないと、無くしやすいよ。巻いてるべきだよ、これは。私は腕時計を手首に巻くことにした。
「サヤチン、ちょっと左手を出して」
「え? ………」
「今は、あんまり、この時計をする気分じゃないけど、また無くすと困るから、ちょっと使ってて」
「……でも……それは……」
 サヤチンがテッシーの顔を見る。サヤチンは窓際にいて、テッシーは隣、私は通路の反対だから、ちょうどテッシーを間に挟んでる。私は目的のために演技をして不機嫌な声で言っておく。
「今日は気分じゃないから、サヤチンが持ってて」
「………けど……」
「三葉……それは……オレが、……お前に…」
「気分じゃないから」
「「……………」」
「サヤチン、手を貸して。早く」
「…………」
 サヤチンが迷いながら、左手を出してくれた。それをテッシーの目の前でサヤチンに巻いておく。そうだよ、本来、こうするべきなんだよ、これは。
「じゃ、そういうことだから」
「「…………」」
「………」
 二人から視線を感じるけど、もう私は座り直して気分が悪いから、目を閉じた。バスの中は静かで、他のクラスメートたちも疲れてる感じで、そのまま大阪に着いたし、宿泊先は狭いビジネスホテルだったから、あまり誰とも話す機会が無いまま、寝た。
 

目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。