はみ出し者が集まる鎮守府 (フリーメア)
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はみ出し者達

 はい、初めましての方は初めまして。ナナシ猫です。
 今回は四千五百字しかない短い小説です。和葉は出て来ません。


※クロスオーバーについて
 一応、世界観的にはクロスしてますが、タグにある通り設定は全体の1%あるかどうかでしかないです。それでも読んでくれる方はどうぞ。
 ぶっちゃけ、クロス先は分かる人には分かるのではないかと思います。


 『深海棲艦』

 それは五年前突如として世界中に現れた人類の敵。その正体も目的も不明。解っている事は、人間を狙って殺す事、死ねばその場で消える事、『艦』の能力を保持してる事、それ故に対人兵器では決定打が取れない事程度。

 奴らの正体については、突然変異で生まれた生物、生物兵器、沈んだ艦の無念の思いが具現化した存在、など諸説がある─

 

 

 

 

 

「─今更だが、五年間戦ってきて解ってる事が少なすぎじゃねぇか?」

 

 あまたある内のとある鎮守府。そこの執務室で一人の男が深海棲艦の資料を覧て独りごちる。すると、ノックの音が響き一人の少女が湯呑みを乗せたおぼんを持って入ってきた。

 

「提督、入るよ」

 

「ん?時雨か。茶を持ってきてくれたのか」

 

 少女の名は、白露型駆逐艦二番艦『時雨』。黒髪の三つ編みと耳のような癖っ毛が特徴的な、ここの鎮守府に所属している『艦娘』の一人だ。

 

「それと大淀から伝言。そろそろ白露達が帰還するようだから、呼びに来たついでに持ってきたのさ」

 

 時雨は男の問いに答えながら、机に湯呑みを置く。

 この男の名は藤原(ふじはら)海仁(かいと)、この鎮守府の提督である。

 

「もうそんな時間か。分かった、行こう」

 

 提督はデスクワークで固まった体を伸ばし、時雨の淹れてくれた茶を飲む。そして立ち上がったその時─

 

「涼風ーー!!」

 

─外から誰かの怒号が聞こえた。

 

「…またか?」

 

「どうやらそのようだね」

 

 呆れたようにそう言う二人は視線を外に向けた。執務室は二階にあり、そこから港が一望出来るようになっている。その海の上に二つの影が走っていた。より正確に言えば、片方が片方を追いかけているのだが。

 

「夕立のプリン返すっぽーーーい!!」

 

「へへーんだ!返せと言われて返す奴はいないってんだ!!」

 

 追いかけている方は、白露型駆逐艦四番艦『夕立』。亜麻色の長髪で毛先が桜色、時雨同様耳のような癖っ毛が特徴の艦娘。

 追いかけられている方は、白露型駆逐艦十番艦『涼風』。濃い青色の長髪で毛先が鮮やかな青になってるのが特徴の艦娘。

 涼風の右手にはプリンが握られている。つまりはまぁ、そういうことだろう。

 

「いい加減に─」

 

 夕立が足に力を込め空高く跳躍、思い切り右腕を引き絞った。

 

「げっ!?」

 

「─返せーーー!!!!!」

 

「どわーーーー!!!??」

 

 夕立の拳が水面に叩き込まれると、まるで()()()()()()()ように水柱が上がった。飛散した水飛沫が全て落ちるとその場には夕立が一人、涼風の姿が見当たらない。すると、夕立の前方十メートル程先に気泡が見えた。気泡の数が増していき、浮上してきたのは─

 

「あっぶねぇな!?()()()がもうちょい遅かったら直撃してたぞ!?」

 

─涼風だ。水面から勢いよく飛び出しながら叫ぶ。因みに、プリンはプラスチックの箱に入っているので無事だ。

 

「大丈夫っぽい。直撃したところで《障壁》があるから」

 

 涼風の叫びに、夕立はニコッと笑いながらそう言う。が、涼風は納得がいかないようで

 

「だとしてもおめぇの拳は駆逐艦レベルの障壁なんて軽くぶち破るじゃねぇか!!」

 

「そもそも涼風が夕立のプリンを盗ったのが悪いっぽい」

 

「バッキャロー!間宮が作ったプリンだぞ!?これが盗らずにいられるかってんだ!」

 

「それには同意するっぽい」

 

「だろ!?」

 

「すきあり!!」

 

「危な!?」

 

 いつの間に近付いたのか夕立が拳を振るい、間一髪、涼風は頭を下げて回避する。本気で振るったのか、風圧で小さな波が出来た。

 

「あいつら、まだやってんのか…」

 

 自分達が港に降りてきても追いかけっこを続けている二人に、提督が呆れたように呟いた。そこへ新しい艦娘が声をかける。

 

「あら?提督と時雨じゃない。どうしたの?」

 

 声をかけてきたのは、白露型駆逐艦三番艦『村雨』。薄茶色の長いツインテールが特徴の艦娘。

 

「もうすぐ白露達が帰還するそうだから迎えだよ」

 

「そういうお前は…見ての通りか」

 

 村雨は両手に二つの鎖鎌を持っており、これから捕まえてくるのだろうと二人は考えた。

 

「あの二人を捕まえてくるわ。食べ物粗末にしたら二人共死んじゃうから」

 

「僕も行こうか?」

 

「大丈夫よ。じゃあ行ってくるわ」

 

 そう言って村雨は海へと飛び出し走って行く。ある程度まで近づくと、村雨は両手に持った鎖鎌を夕立と涼風に向かって思い切り投げた。

 

「「っ!!」」

 

 二人は直撃する直前で接近する鎖鎌に気付き、夕立は裏拳で、涼風はいつの間に出したのか釵でそれぞれ弾いた。

 

「はいはーい。喧嘩はそこまでよ、二人共」

 

「いきなり何しやがんでぃ!」

 

「邪魔しないでほしいっぽい~」

 

 横やりを入れてきた村雨に、二人は抗議の声を上げた。

 

「あら~?ホントに止めなくていいのかしら?プリンを粗末にしちゃったら、間宮さんどうなるかしらね?」

 

 しかし村雨が頬に指を当て、こてりと首を傾げて笑顔で言うと、夕立と涼風の顔が面白いくらいに青ざめた。ここの間宮は普段は優しいのだが、食べ物のことになると雰囲気が一変する。それを知っているが故に夕立と涼風は大人しくなり、涼風は夕立にプリンを返した。

 村雨達が戻ってくると、提督と時雨にもう二人増えていた。

 

「明石さん、大淀さん。いつからいたの?」

 

「村雨さんが鎖鎌を投げつけた時ですよー」

 

「私も同様ですね」

 

 工作艦『明石』。ピンクの短髪で横髪がおさげ風になってるのが特徴の艦娘。

 軽巡艦『大淀』。黒の長髪に青いヘアバンドと、アンダーリムの眼鏡が特徴の艦娘。

 明石がここにいるのは、もうすぐ艦隊が帰還してくるので《艤装》を回収するため、大淀は丁度昼時になるので皆と一緒に行くつもりで来たらしい。

 その後ろで涼風は提督から軽く説教されていた。

 

「お前が刺激を求めてるのは分かっているが、毎度付き合わされる奴らの実にもなれ」

 

「前も聞いたぜそれ「お前がこの半年間全く直さないから何度も言ってんだろうが」しょうがないだろう?あたいは刺激がない事に堪えられないんだからさ」

 

 が、涼風は両手を頭の後ろで組み、直す気がないことを伝える。提督は頭痛を抑える仕草をするも、それ以上は何も言わない。無駄なのが分かっているからだ。時雨は何も言わず提督に頭痛薬を用意した。

 

「あ、帰ってきたみたいですよ」

 

 明石がそう言い水平線を見ると六つの影が海面を滑っており、六人全員が艤装の他に()()()()を背負っている。見たところ大きな怪我をしている様子もなさそうだ。

 

「白露隊只今帰還しました~。およ?今日も皆待っててくれた感じ?」

 

「そんなことは見れば分かることでしょう」

 

 白露型駆逐艦一番艦『白露』。明るい茶色のボブヘアーと黄色いカチューシャが特徴の艦娘。

 白露型駆逐艦五番艦『春雨』。ピンクのサイドテールで毛先は水色、白いベレー帽をかぶっているのが特徴の艦娘。

 槍を担ぎ深海棲艦の返り血で真っ青になった白露を、斧を背負った春雨が溜息をつきながら横目で見た。

 

「提督、私今回も役に立てましたか…?」

 

「大丈夫です。お嬢様は提督の役に立てられております。ですよね?提督」

 

 白露型駆逐艦六番艦『五月雨』。足まで届くほどの透明感のある青い長髪で毛先が銀色なのが特徴の艦娘。

 白露型駆逐艦七番艦『海風』。足首まで届きそうな程の銀髪を三つ編みにしているのが特徴の艦娘。

 二本の柳葉刀(りゅうようとう)を持った五月雨が不安そうな表情で問い、細剣(レイピア)を持った海風がそれを肯定する。

 

「かー、相変わらず五月雨はあざといなぁ。なぁ姉貴っ」

 

「そんなことよりお腹すいた…」

 

 白露型八番艦『山風』。癖のある緑の長髪を高い位置でハーフアップにしており、動物耳のような黒いリボンを付けてるのが特徴の艦娘。

 白露型九番艦『江風』。紅い長髪でカチューシャから耳のような癖っ毛が飛び出て毛先が青白く、後ろ髪が三つ編みになってるのが特徴の艦娘。

 二本の短剣を腰に差した江風が抱き付きながら話を振ると、クナイを持った山風は眠そうな表情で空腹を訴える。

 

「おう、お帰り。取りあえず全員風呂で汚れ落としてこい。五月雨は役に立ってっから安心しろ。

 腹減ってんだったらさっさと入ってこい。飯はその後だ」

 

「あれ?報告はどうすんの?」

 

「飯ん時で良い」

 

「あ、皆さん。艤装はこの箱の中に入れてってください」

 

 白露達は艤装を外し、明石の用意した二つの箱へ入れ風呂場へ歩いていく。

 

「明石さん、工廠に運ぶの手伝います」

 

「ぽい」

 

「毎度助かります」

 

 春雨は艤装を運んでから行くようで、夕立は春雨を手伝う模様。明石が礼を言い、二人は箱を()()で軽々と持ち上げ工廠へ持っていった。

 

「先に食堂で待ってるぞ」

 

「「「(分かりましたー/ぽーい)」」」

 

 それ以外の面々は食堂に向かう。

 ここの食堂の雰囲気は居酒屋に近く、五十人程度なら入れる広さがある。普通の鎮守府だと足りないかもしれないが、ここは普通よりも人数が少ないので問題ない。

 食堂には常に、二人の艦娘と三人のコックがいる。その艦娘の一人が提督達に気付いた。

 

「あ、鳳翔さーん。皆さん来ましたよ~」

 

「分かりました。もうすぐ出来るので座って待っててください、とお伝えください」

 

「だそうで~す」

 

 軽空母『鳳翔』。 ポニーテールにしたダルグレーの長髪と、若干癖のついた前髪が七三分けになってるのが特徴の艦娘。

 給糧艦『間宮』。茶髪のロングに、赤いリボンと同色のヘアピンが特徴の艦娘。

 

「帰還した奴らがまだ入浴中だから急がなくてもいいぞ」

 

 提督がそう言った直後、鎮守府全体に信号ラッパが鳴り響いた。時間はヒトニーマルマル、つまり今のは昼食の合図だ。しばらくすると人がどんどん集まってきた。白露達も合流し、食事を全員に配る。ここでは例外を除き、全員で食事をすることがルールだ。提督の合掌で全員が食べ始める。

 

「いただきます」

 

『『『いただきます』』』

 

 さてここで、この鎮守府に所属している者達を紹介しよう。

 白露、時雨、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風、明石、鳳翔の元人間である『適性艦娘』が十二名。大淀、間宮の艦の思いが人となった『具現化艦娘』が二名。提督含め、料理人、整備士、開発者の人間が十六名。合計三十名+数十体の『妖精』で構成される小さな鎮守府だ。そして─軍のはみ出し者達が集められている鎮守府でもある。

 

「さて、報告を聞こう」

 

「僕としては、何で北方海域に戦闘に行った訳でもないのに白露が血塗れになったのか聞きたいな。予想はついてるけど」

 

「いやぁ、行き帰りの最中で深海棲艦を倒してたらこうなった」

 

「いくつかの敵艦隊と遭遇したのですが、ほとんどを白露さんが倒してしまって…」

 

「それで彼女だけが返り血塗れになった、と言うわけです」

 

「いつも通り深海棲艦を見つけた瞬間に突撃してくもンだからさぁ、江風達が先に見つけても先取りされンだよな」

 

「因みに北方海域ポイント3-5ですが、敵意のある深海棲艦とは遭遇しませんでした」

 

()()()…よくやってるみたい…」

 

 上司への暴言暴力、命令違反、精神異常者、元死刑囚、周囲から恐れられた者など、優秀ではあるが問題のある者達のみ集められたのが、この横須賀にある鎮守府─『特務隊』である。




 最後まで覧てくれてありがとうございました。
 短編として投稿しておりますが、もしかしたら続きを書くかもしれません。その時はどうぞ、よろしくお願いします。


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招集

 すいません、続きました。
 こっちは息抜きで書いていきますので、気まぐれ更新です。

 ではどうぞ


※2/26、後半の会話を少し訂正しました。


─あたしの槍が(へ級)の喉元を貫く。槍を引き抜くと、喉から青い血を噴き出して海面に倒れた。隙をつくように左からリ級が砲撃してきたから、姿勢を低くして接近、蹴りを胴体に当てて吹き飛ばす。その時、内蔵と骨が潰れて折れる音がした。…骨の方は村雨が興奮しそうだなぁ。

 吹き飛んでったリ級はル級にぶつかったようで、二体とも倒れてた。だから、跳び上がって二体の腹を貫く。一瞬痙攣したけど、すぐに動かなくなった。思ったより深く刺しちゃったみたいだから、足でリ級を抑えて両手で引き抜く。見渡すと周囲にはもう敵がいない。今ので最後だったみたい。

 

《敵艦隊ノ全滅ヲ確認。仮想戦闘ヲ終了シマス。オ疲レ様デシタ》

 

 体中の力を抜いたとき、機械で作られたような声が耳に入った。すると今度は周りの景色が歪んでいき、やがて青い空は天井に、四方八方は壁になって、さっきまで海の上にいたのに今はドッグのような建物の中にいる。 ついでに、深海棲艦の死体や手に持っていた槍も消えていた。

 

(やっぱり駄目だなぁ…)

 

 あたしは溜息をついてから、足の艤装を外して入口近くのスイッチを押す。すると、ガコンって音がして床が出てきた。それを確認してから、汗を流す為に更衣室に設置されてるシャワー室に向かう。

 

 あたしがいる場所は《仮想訓練室》。高さ十メートル、縦横四五メートルのコンテナ状の建物で、自分にあった訓練が出来る。あたしの場合は、さっきみたいに仮想の敵を出して戦ってる。他の子は射撃したり、組み手したり、結構バラバラ。怪我の心配はないから、組み手じゃなくてガチで()りあったりもするけど。主に江風と。

 怪我の心配がない理由?訓練終わったら怪我は消えるから。例え、バラバラになってもね。訓練が始まったら何時の間にか仮初めの体になってるかららしい。提督がイメージ的にはワー○リに近いって言ってた。原理は知らない。提督が機密事項って言って教えてくれなかったから。

 ここで訓練する時は何もいらない。何でかって言うと、必要な物は全部この部屋が出してくれるから。まぁ、入る前に自分で何が必要なのか設定しなきゃいけないんだけど。

 

 さっき溜息をついたのは、別に自分の動きが駄目だったからじゃない。単純にあたしが()()()()()()()ちゃ()()()()()。通常個体じゃ弱すぎて相手にならない。elite(エリート)flagship(フラグシップ)も設定出来れば良いんだけど、最近出現したばっかりだからデータが少なくて再現出来ないんだって。噂のレ級に関しては出会った数が少ないから。レ級とは会ったことないけど、相当強いらしいから是非戦ってみたい。何でも、そこそこ強い艦隊がレ級一体+いつもの敵艦隊にやられたとか。

 

「あ、白露さん。やっぱりここでしたか」

 

 シャワー室から出て水分補給をしてると更衣室に大淀さんが入って来た。大淀さんはあまり体を動かさない艦娘()だからここに来るのは珍しい。まぁ十中八九、あたしを探しに来たんだろうけど。一応、ここに来た理由を聞く。

 

「大淀さん、どうしたの?」

 

「貴女を探してたんですよ」

 

 ほらね、やっぱり。

 

「何であたしを探しに?」

 

「えぇ、提督がお呼びですよ。貴女だけではなく艦娘全員集合との事です」

 

「提督が?」

 

 一瞬、何かしでかしたっけ?と考えたけど、他の子達も呼んでるから違うか。にしても全員呼ぶなら放送で呼べば良いのに。

 

「流しましたが、貴女だけが来なかったから探しに来たんです。集中すると何も聞こえなくなるんですから」

 

 正論すぎて何も言えない。

 

 

ーーーー

 

 

「遅いぞ白露」

 

「ゴメンって。でも聞こえなかったんだから仕方ないでしょ?」

 

 執務室にて。そこには提督とここに所属している艦娘全員がいた。提督が遅れてきた白露に注意するが、反省の色はほぼ無い。期待はしてないのでそれ以上は何も言わず本題に入る。

 

「まぁいい。早速本題に入るが、先程大本営から連絡が入った。明日、一艦隊分の艦娘を連れて大本営に来るように、とのことだ」

 

 それは、ここの鎮守府の実力を認めてくれたという事。しかし、誰一人として喜び者はいなかった。何せここにいる者達は全員、大本営が問題があるとして集められた者達だからだ。故に、そんなことを伝えられても何を今更、という思いしか出てこない。後は、単純にどうでもいいから。

 

「それで?大本営は何の用があって僕達を呼んだんだい?」

 

「姫級の深海棲艦を確認、それについて作戦をたてるらしいぞ?」

 

「何故一艦隊分もの艦娘を連れて行くのですか?」

 

「万が一に備えてらしいが、俺達含めて十の鎮守府は呼ばれてるからな。大本営の艦娘も合わせると百はいることになる」

 

 提督が時雨と海風の質問に答えると、村雨は怪訝な顔をし江風は舌打ちをする。

 

「…そんなに必要かしら?」

 

「チッ、これだから命令するだけの奴は嫌いなンだよ。自分の身だけは守ろうとしやがる」

 

「…提督…そいつら殺しちゃ駄目…?」

 

「駄目に決まってんだろうが。そこの元殺し屋姉妹は連れてかねぇから安心しろ」

 

 良かったような、残念なような複雑な表情を元殺し屋姉妹(山風と江風)は浮かべるが、反論はしない。大本営に行ったら、本当に殺りそうな自分達を理解しているからだ。

 

「誰を連れて行くおつもりですか?」

 

「鳳翔、白露、時雨の三名は決まっている。他は決めてない」

 

「あ、なら私行っても良いですか?」

 

 明石が挙手しながらそう言ったので、理由を尋ねる。

 

「ちょっと新開発した装備をいくつか試したいんですよ。まだ試運転すらしてないので丁度良いかと思いまして」

 

「…程々にしろよ」

 

 一応許可は出したが、大本営に迷惑がかからない程度にしろと釘をさしておく。

 他は夕立と春雨となった。夕立は他にいないなら、春雨は夕立(姉さん)が行くならと。五月雨も役に立ちたそう(メンバーに入ろう)としたが、海風が本気で止めていた。曰く

 

「お嬢様をあんな薄汚い者達の所へ行かせる訳にはいきません」

 

 とのこと。本当に五月雨(お嬢様)第一主義だな、とこの場の全員が思った。

 

「各自、自分の得物は持っていけ。恐らく、というか確実に俺達の陰口を言う奴はいるが、武器をちらつかせておけば多少は治まるだろ。

 ここまでで質問のある奴はいるか」

 

「提督、一つ良い?」

 

 白露が挙手したので、何だと聞く。白露はもし、と続けた。

 

「もしだよ?敵艦隊が攻めてきたらさ─

 

 

 

 

─やっちゃって良いんだよね?」

 

 ニィっと獰猛な笑みを浮かべそう言い、他の者は溜息をついた(鳳翔と間宮は微笑んでいるが)。

 白露は生粋の戦闘症だ。純粋な戦闘力はこの艦隊で一、二を争う。勝てるのは時雨と鳳翔くらいだ。

 頭を抱えたまま、時雨が口を開く。

 

「…何で僕と鳳翔さんが白露と一緒に選ばれたのか分かったよ。彼女のストッパーだね?」

 

「その通りだ。後は、単純に舐められないようにするためだ」

 

「いやぁ…流石にそれはやりすぎじゃないか?」

 

「俺のいない間は大淀に任せる「アタイの話を聞け!」うるせぇぞ涼風。いいな、大淀」

 

「お任せ下さい」

 

「ここに残る者は大淀の指示に従うように。

 連絡は以上だ。他に質問のある奴は?いないなら解散。明日の準備を整えておけ」

 

『『『了解』』』

 

 鳳翔と間宮は食事の準備、他の者も明日の準備を整えに行き、この場には提督と時雨だけが残った。動く気の無い時雨に、提督は声をかける。

 

「時雨、お前も戻れ」

 

「僕は問題ないさ。用意するのは武器だけだからね」

 

 それよりも、と時雨は続けた。

 

「皆に伝えてないこと、まだあるでしょ?」

 

「…鋭い奴だ」

 

 「鳳翔にはもう言ってあるんだが」と言いながら、提督は机の引き出しから一枚の手紙を取り出した。それには、子供が描いたような絵が描かれている。それを見た時雨は誰からの手紙か察した。

 

()()()からのかい」

 

「ああ。不確定の情報らしいが、これに書かれてる情報が本当ならマズいぞ」

 

 時雨は何故、と内容を聞く。そして、提督から返ってきた答えに目を見開いた。

 

「それは…確かにマズいね。それがホントなら、彼女達には感謝しないと」

 

「まったくだ。まぁ五年も戦ってればこういうこともある。上層部はあいつらに感謝すべきだ」

 

「でも、彼女達の事を知らないだろう?言うのかい?」

 

「それはない、と言いたいが、必要を迫られれば言うべきだろうな」

 

 そうだね、と時雨は同意し提督に背を向ける。

 

「どこ行く気だ?」

 

「訓練室だよ。たまには体を動かさないと」

 

「なら俺も行こう」

 

 提督は立ち上がりながらそう言う。口には、笑みが浮かんでいた。時雨も口に笑みを浮かべる。

 

「良いね。仮想の敵は弱すぎるからね。

 武器無しでやるかい?それとも、ありで?」

 

「ハッ、面白い冗談だ。お前が俺に勝てたことがあったか?

 お前は武器ありで良いぞ?俺は素手だがな」

 

 時雨の笑みが更に深まった。代わりに、目からハイライトが消えたが。

 

「へぇ…言ってくれるじゃないか。その言葉、絶対後悔させてやる…」

 

「俺に一度でも勝ってから言え」

 

 二人は言い合いながら仮想訓練室へ向かっていった。

 

 

 因みに、二人の死合(組み手)中に白露が乱入してきたが、これは余談だろう。



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大本営

※前の話の後半、時雨と提督の会話を少し修正しました。


 翌日、提督達は鎮守府を大型クルーザーで出発し、およそ一時間で大本営に到着。提督達は中を歩いていた。因みに他の提督や艦娘、憲兵の視線を集めており、ぶっちゃけかなり目立っていた。

 

「あたし達超見られてんじゃん」

 

武器(こんな物)を持っているので仕方ないかと」

 

 七人中二人が両手武器を持ってる事を忘れてはいけない。

 

「いや、お前らの服装も原因の一つだろ」

 

 提督(藤原)の指摘する通り、白露型と明石はスカートではなくズボンを履いており通常と少し違う、だけなのだが…。

 

「それを言ったら、一番目立ってるのは鳳翔さんっぽい?」

 

 そう言って夕立は鳳翔を見る。鳳翔だけはいつもの和服ではなく迷彩柄の軍服を着ており、腰にS&W M19(コンバットマグナム)を二丁装備していた。

温和(おとな)しいイメージのある鳳翔が軍人の服装をしていれば、そりゃあ目立つ。

 

「提督がなめられないように、とおっしゃりましたので久方ぶりに着てみました」

 

「あぁ、鳳翔さんは元々軍人だっけ」

 

 時雨はそう言いながら、藤原と鳳翔が自分達の鎮守府に着任した時を思い出す。あの時の鳳翔も軍服を着ていた。

 元が一般人だった時雨達ですら、あの時は一瞬硬直した。艦娘学校にいた鳳翔と違ったからだ。しかもリボルバーを片手に持っていた。

 

「この中で一番目立っていないのは私ですよね?ズボン履いてるだけですし」

 

「何をやらかすか分からないって言う意味なら、お前が一番危険だがな」

 

 「何でですかー!」と抗議する明石は七人の中で唯一、専用武器(得物)を持っていない。なんかグッとくるようなモノがないらしい。

 そこに男の声が割り込んできた。

 

「おーおー、騒がしいと思って来てみたら懐かしい顔が見えるじゃねぇの」

 

 七人は一斉に声の方を向く。そこには提督と思わしき男が二人と艦娘が二人いた。白露達が疑問符を浮かべる中、提督が言葉を返す。

 

九十九(つくも)に中野か。久しぶりだな」

 

「久しぶりだね。藤原」

 

「久しぶりね。二人とも」

 

 提督同士で挨拶を交わし、そこに鳳翔も加わった。一瞬、二人は誰だか判らなかったようだが、すぐに九十九と呼ばれた男が指を指し叫ぶ。

 

「あっ!テメェもしかして鳳山(たかやま)か!」

 

「人に指を向けないの」

 

「いででで!?ギブギブ!!」

 

「あ、間違いなく鳳山だね」

 

 九十九に指を指された瞬間、鳳翔は指を掴み腕ごと捻った。溜息をついた藤原に時雨が声をかける。

 

「提督」

 

「ん?」

 

「あの人達は誰だい?」

 

 時雨の問に藤原は、そういえば会った事もなく教えた事もないなと思い、鳳翔に捻ることを止めさせ二人を紹介する。

 

「こっちの男は中野(あきら)。階級は中佐。一見ノホホンとしてるが、思ったことが口に出る毒舌家だ」

 

「ひっどい紹介をありがとう。

 初めまして、中野です。この子は(いなずま)。僕の初期艦で『具現化艦娘』だよ」

 

 「よろしくなのです」と電は頭を下げた。具現化艦娘は自身を顕現した者に似るらしいので、この電も顔に似合わず毒舌家なのだろうかと思いながらもう一人も紹介する。

 

「こっちは九十九悠真(ゆうま)。階級は少佐。柄の悪い見た目通り性格も悪く、気に入ったモノは何でも手に入れたがる強欲家だ」

 

「ハッ、欲しいモノを欲しいっつって何が悪い。

 九十九だ。こいつは俺の初期艦の叢雲。見りゃあ分かるが『適性艦娘』だ」

 

 叢雲は「よろしく」と言って軽く頭を下げた。この叢雲は通常と違い、背が170程ある。駆逐艦娘としては勿論、女性の平均身長より高い。

 厳密に言えば"人間"ではない具現化艦娘は『改二』になる場合を除き身体(からだ)の成長はないが、適性艦娘は元が"人間"であるため身体(からだ)が成長する事がある。そのため通常の艦娘と身長等の見た目が違っていれば、その人物は確実に"適性艦娘"ということだ。

 

「一応こいつらは同期だ。ムカつく事に二人とも階級は俺より上だがな」

 

「藤原が上官をぶん殴ったりするからだよ」

 

「ホントだよなぁ。ま、おかげで俺は助かったけどな。お前が殴らなきゃ俺がやってた」

 

「チッ、それならやんなきゃよかった」

 

 軽口を叩き合う彼らを見て、時雨は仲が良いんだなと思う。因みに藤原の階級は大尉だ。

 

「で、こいつらが俺の指揮する艦娘達だ。白露、時雨、夕立、春雨、明石、それに鳳翔。全員適性艦娘だ」

 

 それぞれが挨拶をした後、藤原は二人に問いかけた。

 

「ところで、お前らは何でここにいるんだ?」

 

「君と一緒。僕達も姫級の作戦会議に呼ばれたんだ」

 

「まさかお前が呼ばれてるとは思わなかったがな。さっき聞いたぜ?お前のとこ、()()()()()()()()()()()()()()らしいじゃねぇか。その戦績を認められてここに呼ばれたってとこじゃねぇのか?」

 

「…まぁそんなとこだろうな」

 

 実際は倒したのではなく()()()()()だけなのだが、それを訂正するとややこしくなるので藤原は曖昧に答えた。それを気にせず中野は話を続ける。

 

「じゃあこのまま会議室行こうか。あ、会議室に艦娘は一人しか連れて行かれないって」

 

「なら鳳翔、いいか?」

 

「分かりました」

 

「叢雲、そいつらを待機室まで案内してやれ。終わったら会議室まで来い」

 

「分かったわ。貴方達、ついてきて」

 

 

 

 時雨達は叢雲に案内された一室で自由に過ごしていると、夕立との軽い組手を終わらせた白露が突然口を開いた。

 

「ねぇ時雨、本当に()()()()()?」

 

「・・・さぁ、彼女達からの情報だから個人的には半信半疑って所だね。それと白露、その話をするなら近くに誰もいない事を確認してからにしてくれないかい?」

 

 時雨は本を読みながら返事を返す。小さく溜息をつきながら「部外者に聞かれるのはマズいよ」と付け加えた。そう言った時雨に、夕立が春雨の入れてくれた茶を飲みながら聞き返す。

 

「時雨はまだ嫌ってるっぽい?」

 

「・・・当たり前だろう?僕が彼女達に好意を抱くと思うかい?」

 

 そこに春雨と明石が話に入り込む。

 

「ですが、もう彼女達とは二ヶ月の関係を持っています」

 

「そうそう。時雨ちゃんの気持ちは分かりますが、せめてもう少し敵意をですね─」

 

 

 

「─何が、分かるって?」

 

 時雨は読んでいた本を閉じて殺気を放ち、明石を睨みつけた。そしてゆっくりと立ち上がる。

 

「もう一度言ってみなよ。機械を弄るためだけに艦娘になった貴女が本当にっ・・・、()()()()()()()()()()()()僕の気持ちが分かるって言うのかい!?」

 

 いつもの時雨からは想像つかないような怒声をあげる。それだけ時雨にとって深海棲艦は憎悪の対象であり、明石の何気なく言った言葉が許せなかった。

 部屋に沈黙が降りると、白露が口を開く。

 

「明石さん、流石に今のはダメだよ。時雨が何で艦娘になったのか、知らないわけじゃないでしょ?

 時雨も落ち着いて。明石さんだって悪気があって言ったわけじゃないんだから」

 

 白露の言葉に明石は「・・・確かに軽率でした」と頭を下げ、時雨は舌打ちをし部屋を出ようとした。頭を冷やすためだ。

 時雨が部屋を出ようとドアノブに手をかけたその時─サイレンが鳴り響いた。

 

「「「「「っ!!」」」」」

 

 五人全員がバッと窓に振り向き、水平線の彼方に視線を送る。このサイレンは、敵が来たことを知らせるものだ。つまり、この大本営に深海棲艦が接近してきているということだ。

 

 

 このサイレンが大本営全体に鳴り響いた時の反応は様々だった。ある者は敵が来る事に怯え、ある者は敵が来たことに疑問を持ち、またある者は獲物が来る事に笑みを浮かべた。

 会議室にて、元帥と大本営の大将含め十三人の提督と護衛艦娘がサイレンを聞いていた。半分以上の提督が狼狽えている中、藤原だけはこの事を予想していたように小さく呟く。

 

「─来たか」

 

 

 

 同時刻、大本営から数十キロ離れた場所に多数の深海棲艦がいた。その数、四十八。先頭にて艦隊を指揮するのはフード付きコートのようなものを羽織り、蛇のような尻尾を生やした深海棲艦。

 それはこちらの艦隊を壊滅に導く、小さくも強大な力を持つモノ。熟練の艦娘ですら苦戦する悪魔─

 

「サァ、艦娘共ノ本拠地ヲ落トス。行ケ」

 

─戦艦『レ級』。ソイツの号令で深海棲艦は進撃を開始する。先には、連合艦隊を組んだ艦娘。

 

「─マズハ アノ艦娘共カラダ」



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襲撃

 はい、こんにちは。
 こっちはタグに書いてある通り息抜きで欲望のままに書いています。不定期で更新していきますし、いきなり更新しなくなるなんてこともあるかもしれませんが、それまではよろしくお願いします。

※2018/10/24 修正
「背中に機関部の代わりに槍を〜」

「背中に機関部と槍を〜」


「─今奴らはどこにいる!?」

 

 会議室で怒号がとぶ。その声に応えたのは大本営所属の大淀だった。

 

「現在第一防衛線にて連合艦隊と交戦中!!ですが既に半分の艦娘が戦闘不能となっています!!」

 

「何としてでも食い止めろ!最悪、大本営まで来なければ構わん!」

 

 大本営の大将の一人が机に手を叩き付けた。それを藤原は通信機で白露に現状報告しながら聞き、鳳翔は冷めた目で見ている。この場にいる艦娘は大淀と鳳翔だけであり、藤原以外の提督達は自分の艦隊を出撃させていた。

 何故、藤原の艦隊は出撃していないのかというと止められたからだ。曰く「貴様らのような奴らは足でまといにしかならん!!」だそう。因みに言ったのは大湊警備府所属の大将─名は清水 誠司─だ。

 

「だぁからお前らはそこで待機して・・・はぁ?こっちに来る?お前何言って・・・。切りやがった」

 

 藤原が舌打ちをしながら通信機を外して鳳翔に言う。

 

「鳳翔、部屋を出て白露を─いや、もう遅いか」

 

「そのようですね」

 

 他の提督は自分の艦隊に指示を出すのに必死で疑問に思う間も無い。指示を出しながらも余裕のある中野が何の事か聞こうとすると─突然、会議室の扉が浮き飛んだ。現状報告をしていた大淀も指示を出していた提督も、その場の全員が例外無く吹き飛んだ扉を見てそれを行った人物を確認する。そこにいたのは、(何か)を蹴ったように足を伸ばした白露だった。後ろにいる時雨達は溜息をつき、明石は苦笑をしてジェスチャーで謝っている。

 誰も言葉を発せない中、白露は清水の前まで歩き何の感情もこもっていない声で言う。

 

「何であたし達を出撃させないの?」

 

「っ、言ったはずだ!貴様らのような奴らは足でまといにしかならんと!」

 

「だから何?足手まといなら足手まといなり時間を稼ぐ事は出来るし、単純に戦力も増える。少なくともここに呼ばれてる程度の力はあるからね。要するにあなたは、あたし達の力を借りたくないだけでしょ。そんな下らない意地で自分の部下もここも危険に晒すつもりなの?」

 

「なんだと貴様!!」

 

 白露の言葉が気に入らなかった清水は怒声をあげ立ち上がる。それを鎮めたのはもう一人の大将だった。

 

「清水、落ち着きなさい。その子の言う通りよ」

 

 その大将の名は河相(かわい) (ゆかり)。大本営所属の、数少ない女性の大将だ。

 

「もう第二防衛線まで攻められてるこの状況じゃ戦力は少しでも欲しい所よ。だったら藤原大尉の艦隊を行かせるべきだと、私は思うわ」

 

「ぐっ・・・だっだが、こんな海軍の面汚しのような奴らの手を借りるなど・・・」

 

「じゃあ何?貴男はろくに実戦経験のない子達を送り出すつもりなの?」

 

 河相のその言葉に清水は黙る。大本営所属の艦娘は多いが、熟練と言える艦娘は半分にも満たない。そのほとんどが出撃し、戦闘不能となってしまっている。現状、増援に行ける艦娘は藤原の艦隊と大本営所属の艦娘のみ。残っている大本営所属の艦娘を出撃させた所で被害を増やすだけだ。それは理解しているが、特務隊の手を借りるのは清水のプライドが許さなかった。

 勘違いしてもらいたくないのだが、彼は悪い男ではない。ただ物凄く頭が硬いだけだ。彼の頭の中では、特務隊は問題のある者が行く所=海軍にとって不利益のある者、という式が立てられているだけである。

 

「─いけるのか」

 

 清水が言葉を発せない中、そう口を開いたのは元帥だった。年齢は五十過ぎだというのに、彼の放つ威圧感はこの場の誰よりもあった。しかし、藤原はそれに臆することなく応える。

 

「殲滅出来るかは分かりませんが、最悪撤退させることは出来るでしょう」

 

 いけるな、と藤原は視線を白露に送る。白露は先程までの無表情が嘘のように、獰猛な笑みを浮かべた。それを確認した藤原は自分の艦隊に指示を出す。

 

「最優先は奴らを撤退させる事だ。やり方はお前ら自身に任せる」

 

 そこで言葉を区切り静かな、それでいて白露と同じく獰猛な笑みを浮かべる。

 

「─『特務隊』の力、見せつけてやれ」

 

 

 

 大本営よりおよそ十キロ地点、第二防衛線では有り得てはいけない光景が広がっていた。

 

「ぁ・・・」

 

「モウ終リカ?日本の艦娘ハ弱イナァ」

 

 艦娘『五十鈴』の首を掴み、レ級は嗤う。

 周囲では防衛線の艦娘全員が戦闘不能となっていた。対する深海棲艦はその数をほとんど減らしていない。

 

 圧倒的だった。駆逐艦はレ級の砲撃一発で大破し、戦艦ですら中破する。レ級が一体だけだったなら、なんとかなったかもしれない。だが、この艦隊にレ級は三体。それだけでも狼狽え、更にレ級は艦載機と魚雷を放ってきた。想定外に想定外が重なり統率は崩れ、その結果がこの現状だ。幸い轟沈は一人も出ていないが、全員が後一発食らえば轟沈してしまう程にダメージは深い。

 

「ネェ、コンナ奴ラ放ッテオイテ サッサト次行キマショウヨ」

 

「・・・私達ノ目的ハ、コイツラノ本部ヲ潰ス事」

 

「ソレモソウダナ」

 

 気怠げなレ級と無表情なレ級に言われ、五十鈴の首から手を離し大本営へ進軍を再開した、その瞬間、背後から砲撃をもらった。

 

「アァ?」

 

 しかしそれは《障壁》に阻まれ、かすり傷すら追わせることは出来なかった。レ級は振り向き、砲撃した人物を確認する。

 

「行かせて・・・たまるものですか・・・」

 

 砲撃を行った人物は、五十鈴だった。ボロボロになりながら息を荒くしていても、膝立ちの状態で主砲をレ級に向け、その目にはまだ戦意が残っている。

 

五十鈴()は軍人よ・・・。この国を守る義務がある・・・。だからっ・・・」

 

─正直に言えば、国を守るなんていうのは建前でしかない。五十鈴(彼女)が軍人となり艦娘になったのは、大切な者を守る為の力が欲しかったからだ。故に戦う。ここから先に行かせるつもりは無い。自身を奮い立たせる為に叫ぶ。

 しかし突然レ級が五十鈴に飛びかかり両手で首を締め始め、言葉を遮った。

 

「がっ」

 

「─殺サナイデヤロウト思ッテイタガ、軍人ナラ話ハ別ダ」

 

 先程まで嗤っていたはずのレ級は無表情となり、その瞳は増悪で満ち溢れていた。レ級は締める力を強くしていく。

 

「ナァ、一ツ聞カセロヨ・・・。軍人ッテノハ自国ノ為ナラ、小サナ村の一ツヤ二ツ、見捨テテ良イノカ?アァ!?」

 

 レ級は憎しみに満ちた声で叫ぶ。他二体のレ級も、声には出さずとも目には増悪が浮かんでいた。

 このレ級達の故郷は()()()()()()()()()()と言っても過言ではない。国の戦争に巻き込まれ、物資が足りなくなれば奪われ、村が助けを求めたら見捨てられた。故に三体のレ級は軍人を増悪し、()()()()()()()()()()

 更に締める力を強くしていき、レ級が五十鈴の首を折ろうとした─その時。

 

「?」

 

 エリヌ(エリートヌ級)が何かに反応、上を向いた瞬間─何かに踏み潰された。

 

『『『ッ!?』』』

 

 ドパァン!という音に振り向いた深海棲艦は、ヌ級の上に座っている人物を見て目を見開いた。そこにいた人物は─

 

「ハロハロー、深海棲艦の皆さん」

 

─駆逐艦娘『白露』。そいつが笑顔で挨拶してきた。パッと見、基本的な白露と変わらないが、背中に機関部と槍を背負っている。だが、何よりも─

 

「─オ前、ドコカラ現レタ?」

 

 そう、そこが問題だ。ここは海上、何かが近づいてきたら誰も気づかないはずがない。

 五十鈴の首を掴んだまま問うレ級に、白露は笑顔のまま上に指を指し答えた。

 

「ん?空からだよ」

 

 何を言ってるんだと言わんばかりの言葉に、思わず深海棲艦達は固まった。それこそ何を言っているんだという話だ。艦娘にも深海棲艦にも、空を飛べる者はいないはずだ。可能性としては艦載機に乗ってきたとしか考えられないのだが、艤装の艦載機は小さく人は乗れない。かといって実寸大の艦載機に乗ってきたのなら気づくはずだ。

 

「あれ?もしかして見えてない?あたし、あれ装備してきたんだけど」

 

 白露が再び空を指さしながらそう言った。それに従って上空を見てみると、何か、飛行機のような影が見える。まさかと無表情のレ級が目を見開き、驚愕の表情で呟く。

 

「『飛行用ジェットパック』…」

 

「正解♪しかも飛行音はしないしステルス機能も付いている特注品だよ〜」

 

 科学は偉大だよねぇ、と腕を組んで白露は頷く。

 なるほど、疑問は解消された。今度は嗤みを浮かべて、レ級は砲台を白露に向ける。

 

「ソレデ?駆逐艦ガ一隻来タダケデ何ガ出来ルンダ?」

 

 その場の深海棲艦全員が白露に砲台を向けるが、それに狼狽える事なく白露は口を開いた。

 

「来たのはあたしだけじゃないよ」

 

 その言葉と共にまずロ級が撃ち抜かれ、レ級の五十鈴を掴んでいた手が撃たれた。数秒遅れて聞こえる二発の銃声。

 

「レイ!!」

 

「問題無イ。ダガ今ノハ…」

 

 撃たれた箇所を擦りながら、レイと呼ばれたレ級は考える。

 今の銃声はスナイパーライフルだ。だが、何故この場で聞こえるのか。陸上ならともかく、ここは海上だ。聞こえるなら砲撃音でなくてはおかしい。

 白露が口笛を吹いて口を開く。

 

「流石鳳翔さん」

 

 白露が見ている方向にレイが視線をおくると、水平線にかろうじて四つの影が向かってくるのが確認出来た─。

 

 

 

『─着弾確認。駆逐艦ロ級は撃ち抜けましたが、戦艦レ級はかすり傷すらついていませんね』

 

「流石にその距離(三〇〇〇m地点)から戦艦を撃ち抜く事は無理だとは思っていましたが、かすり傷すらつかないとは…」

 

 無線機から聞こえる鳳翔の声に、明石が少し落ち込んだ。改良しましょうか、という呟きに鳳翔はこのままで良い事を伝える。

 鳳翔としては長距離射撃で撃ち抜けなくても、妨害出来れば良いと考えているからだ。

 

『ねぇ、そろそろ攻撃していいよね?しちゃうよ?するからね?

─よいしょー!!』

 

『…白露ちゃん、攻撃を開始しました』

 

 白露の気合いの入った声と共に何かが潰れる音が聞こえた。鳳翔からの報告に、刀を腰に差している時雨が眉間を抑える。

 

「どうするっぽい?」

 

 大剣を背負った夕立が、並んで滑っている時雨に問いかけた。時雨は眉間から手を離し、溜息を吐いて艦隊に指示を出す。

 

「はぁ…。鳳翔さんはその場で援護、弾が切れたら僕達のとこまで来て」

 

『いいけど、飽きたらそっち向かうわよ?』

 

「…相変わらずですね」

 

 円盾(ラウンドシールド)と片手剣を装備した春雨が呆れたように呟いた。再度、時雨は溜息を吐く。

 彼女は好戦的という訳では無いが、長距離戦よりも近距離戦を好む。

 

「もうそれでいいよ…。

 後は各自その場で判断、提督が言っていたけど今回の最優先事項は敵艦隊を撤退させること。深追いは禁止」

 

 返事は聞こえないが、白露を除く全員が理解した事を確認、時雨は抜刀した。

 

「─『特務隊』戦闘開始」



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反撃開始

はい、一年と数か月放置しておいて今更投稿です。お気に入り登録してくれている人はいるので、待っててくれたと勝手に思ってます。


 ロ級とヌ級があっさり殺られたのには焦ったが、駆逐艦が援軍ではたかが知れてる─

 

(─ト思ッテイタガ…中々ニシブトイナ)

 

 とにかく攻撃が当たらなかった。砲弾や魚雷に自身の砲弾を当てたり、海面を爆発させて避けたり、槍で砲弾を逸らしたり機銃を弾いたりと。戦い方が普通の艦娘では無い。だが所詮は駆逐艦、向こうからの砲撃は致命傷にならない。だが不可解なのは、こいつを含めた援軍だ。

 間違っていなければ、こいつを含めた駆逐艦が四、工作艦が一、そして恐らく空母が一。援軍にしては数が少なく、頼りない。普通は戦艦等が編成されるはずだが…。そしてもう一つ、奴が()()()()()()()()する。

 

(艤装ヲ改造シテイルノカ…?)

 

 例えば、足の艤装の出力を上げる、とか。まぁそれでも関係ないが。艦隊が来るまでの時間稼ぎをしているのだろうが、向こうには艦載機を飛ばしてある。駆逐艦が防空射撃したとしても空母一隻では対処出来まい。軍人ではない者に恨みはないが、邪魔をするなら沈める。

 

(タッタ一隻で後ドノクライ持ツカ、楽シミダナ)

 

 他二体のレ級(アヴィとセラ)に呆れられる程の悪趣味であることは自覚しているが、そろそろ諦めて欲しい。これだけは()()()()()()からやめられないのだ。

 

─調子にノッてる奴を苦しめる事以上に、愉しい事はないだろう?─

 

 ニィっと口角が上がったのを自覚した。こいつが最後にどんな表情をするのか愉しみだ。

 

 

 

(そろそろキッついよぉ…早く誰か来て欲しいなぁ)

 

 特に春雨。彼女さえ来てくれればだいぶ楽になるのだが。

 白露はそう思いながら攻撃をさばいていく。春雨から砲撃の逸らし方を教わってるとはいえ、防御は苦手なのだ。三十分以上も続けるのは辛い。

 普段は自分一人か時雨達だから回避一択だが、今回はそうはいかない。チラッと目だけで周囲を見れば、轟沈寸前の艦娘だらけ。彼女らを守りながら、自分も沈まないようにしてるのだ。ちょっとだけ先に来たことを後悔してる。まぁ、結果的に五十鈴を救う事が出来たので良しとしよう。

 

─ゾクリ─

 

 悪寒が走った白露がバッと顔を上げると、ルフラ(ル級フラグシップ)二隻とタエリ(タ級エリート)二隻が砲台を向けていた。背後には負傷した艦娘がいるので回避は出来ない。かといって戦艦四隻の、フラ級とエリ級の砲撃を同時に防ぐ事も出来ない。焦る白露だったがピクリと何かに反応、次いで笑みを浮かべたかと思うと槍以外の艤装を消す。ル級らはそれに怪訝な表情を浮かべたが、特に気にもせず砲弾を発射させた。対する白露は海面を踏みしめ─海面を爆発させ爆走。砲弾を無視し、突然の事に反応出来なかった一体のル級の顔面に膝蹴りを入れた。同時に白露の背後から爆発音が響く。しかし白露は気にすることなく、そのまま後ろに倒れかけていたル級にカカト落としを叩き込んだ。

 ついに仲間を見捨てたか、と考えた深海棲艦は白露に砲台を向け─一体のタ級が斬り捨てられる。

 

「─僕達が来たからといって、あっさり攻撃に移るのはどうかと思うよ」

 

 春雨と明石さんが間に合わなかったらどうするつもりだい、とタ級を斬り捨てた人物─時雨は言った。白露は槍でル級を貫きながら反論する。

 

「えぇー、ちゃあんと間に合う位置に来たのを確認したよ?」

 

「万が一の事を考えろって言ってるんだよ。僕は」

 

 言いながら先程斬り捨てたタ級に刀を突き刺した。「考えるの苦手だから無理ー」と白露は言う。

 

「というか、なんで明石さん?もしかして新しい盾でも開発してたの?」

 

「作っただけで試した事の無い『対砲弾シールド』。理論上、戦艦の砲撃十発は耐えられる代物らしいよ」

 

 援軍に警戒しているのか、敵艦が後退した。とりあえず合流しようと思い、白露と時雨も後退する。鳳翔はまだ後方にいるようで、この場にはいなかった。

 

「白露、妹に無茶をさせるのはやめるっぽい」

 

「姉さん、私は大丈夫ですから」

 

「まぁ、おかげでこの盾の性能を試せたので私は満足ですけどねぇ」

 

 大本営の艦娘達の所まで後退すると、夕立が白露に近づき文句を言った。その反対に、試作品を試せた明石は言葉通り満足そうだ。ゴメンゴメンと夕立に謝りレ級らを見ると、何が起きたのか分からないという顔をしていた。

 そりゃあそうだ、と白露は一人納得する。普通に考えて正規空母とレ級の艦載機を軽空母一隻で対処出来るはずがない。それで何故ここに、時雨達が来れたのか。

 答えは単純明快、時雨の艤装が対空特化だからだ。勿論、明石が制作した特注品である。

 

(ま、それだけじゃないけど)

 

 明石の作った対空艤装は性能が通常平兵器と比べておかしい事にはなっているが、それ以上に鳳翔の操る艦載機がおかしいのだ。何故、十分の一以下の数で敵機を翻弄できるのだろう。空母ではない白露には分からない。

 まぁともかく、これでこっちのメンバーはそろった。攻撃に転じよう。本来の旗艦は自分なので、口を開いて指示を出す。

 

「あたしと時雨、夕立でレ級を抑え―」

 

―白露が言い終わる前に時雨が飛び出し。真っ直ぐに突き進み、進路上の深海棲艦を数体斬り捨て、そのまま一体のレ級(レイ)に斬り掛かった。それをレイはギリギリで回避、すぐさま反撃にうつる。それを見ていた白露達は、見たことがない時雨の姿に少し混乱した。

 

「時雨ちゃんのあんな顔、初めて見たんですけど」

 

「瞳孔かっぴらいてるっぽい」

 

「深海棲艦に恨みを持っているのは知っていますが…」

 

「…提督~?どういうこと?」

 

 白露が通信機器に手をあて藤原に問いかけると。すぐに返事が返ってきた。

 

『…すまない。俺にも詳しくは分からない』

 

 間があったのが気になるが、仕方ないと思い気持ちを切り替える。思えば、必要以上に時雨は自分のことを話さなかった。出会った当初は《時雨》とは思えないほどに冷めていたし、協力なんて言葉を知らないんじゃないかと思ったほどだ。まぁ最近は他所の《時雨》のように、正確には彼女本来の表情に戻ってきているのだろうが、深海棲艦が絡むと当時の彼女に戻ってしまう。憎悪をまとい、復讐のためだけに生きている彼女に。その時の彼女を知っているからこそ、戻してはいけない。大切な者を失う悲しみも痛みも想像できないが、これだけは言える。自分も含めて大体の艦娘は年ごろの少女なのだから、今を楽しまないと損だ。艦娘になっていて何を言ってるんだと言われるだろうが、それでも今を楽しむことは出来るはずだ。

 

(あたしはね、時雨。あんたのことがほっとけないんだよ)

 

 九人姉弟の長女を舐めないでほしい。同い年ではあるが、自分は《白露型一番艦》、仮だろうが何だろうが《白露型艦娘》は自分の妹なのだ。姉が妹たちの幸せを願って何が悪い。

 多分だが、復讐心のみで生きるのは心が磨り減るだけで、そのうち心が死んでしまう。それなら、何事も楽しもうではないか。何気ない日常も、人付き合いも、それがたとえ()()()()()()()()()。この考えが異端だということはとっくの昔に自覚している。だがこれが自分だ、これが《白露》になった《白石 亜百合(自分)》の個性だ。だから自分の思うように、どこまでも突き進む。

 獰猛な笑みを浮かべて、白露は改めて艦隊に指示を出す。

 

「あたしと時雨、夕立でレ級を相手する。春雨と明石さんはここで雑兵の相手。鳳翔さんが来たら夕立は後退、二人の手伝いにまわって」

 

─さぁ、戦いの時間だ。レ級と戦うのは初めてだ、期待を裏切らないでくれよ。




ここまで見ていただきありがとうございます

これからもこんな感じのペースで気まぐれ更新していきますが、どうぞよろしくお願いします。


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実力

─突撃してきた白露と夕立に向けて深海棲艦は砲撃を放つ。

 

「春雨ぇ!!」

 

 白露に名前を呼ばれた春雨が円盾(ラウンドシールド)を構え、負傷している艦娘達の前に立った。それを()()に確認した白露は飛んできた砲弾を無視する。その砲弾は春雨達へと向かっていくが、春雨も明石も慌てることはない。

 

「《障壁》展開」

 

 春雨がそう呟くと、盾から《障壁》が展開され、それは背後の艦娘達も包み込むように広がった。展開し終わった瞬間に砲弾が《障壁》に当たったが、ひび一つ入ることは無い。

 春雨専用対艦分離式盾斧(じゅんふ)桜華(おうか)』。普段は片手剣と盾に分離しているが、二つを合わせれば斧にすることが可能。また、盾には《障壁》をため込む機能があり、それを任意で放出することもできる。大きく広げれば薄く、逆に狭く展開すればその分厚くなる。しかし、その機能は特務隊所属の『春雨(春藤 咲良)』にしか使うことは出来ず、他の者にはただの盾と片手剣としか使えない。

 深海棲艦にそのことが分かるはずもなく、ただ驚愕するしかできないが、それは一瞬だった。しかし戦場において、その一瞬は命取りになる。白露は数体の深海棲艦を()()()()()一体のレ級(セラ)の前にでた。

 

「ほい」

 

「っ!」

 

 気の抜けた声と共に突き出された槍を紙一重で躱す。と同時に海中に潜らせておいた尾で下から奇襲させたが、白露はバックステップで回避した。舌打ちを一つ、尾から艦載機を発射させ空中から白露を狙う。それらも白露は上を見ずに全て回避した。

 

(ドウシテ回避出来ルノヨ…!)

 

 少なくとも、尾の方は奴に見えてなかったはずだ。チラ見をしているわけでもない、確実に白露(コイツ)は自分をずっと見ているのに。

 そうセラが思った時、にひっと楽しそうに白露は笑った。

 

「一つだけ教えてあげる。あたしに不意打ちは効かないよ」

 

 理由は分からないが、それは本当だろうとセラは思う。事実、先程から不意打ちは尽く回避されているのだから。

 白露専用全方位索敵艤装『銀沙魚(ぎんはぜ)』。これが、白露に不意打ちが効かない理由だ。白露を中心に直径三百Mの『円』が展開され、範囲内にあるモノの動きを知ることが出来る。デメリットは展開してる間、脳への負担が大きいこと。といっても疲れやすくなるくらいであるが、戦闘中にもなるので注意が必要だ。

 不意打ちが効かないなら、シンプルに行こう。そう考え、セラは腕を硬化させる。棘のようなものが生え、ごつくなった。そんなこともできるのかと、白露は目を見開く。ついで、凶悪な笑みを浮かべた。

 

─あぁ、楽しくなりそうだ─

 

 

 

 レイとセラがそれぞれ一隻の駆逐艦に足止めさせられていることに驚愕する。()()()()とはいえ戦艦、それも姫級に匹敵すると言われるレ級なのだ。それを足止めするなど、只者ではない。

 そんなことよりどちらかの援護を─

 

「─ッ!!」

 

 悪寒が走り、直感に従って横に跳んだ。そのすぐ後、レ級(アヴィ)のいた場所に砲弾が着弾したような水しぶきが上がる。どこから撃ってきたのか、そう思う間もなく水しぶきの中から影が飛び出てきた。咄嗟に腕を硬化させ、顔の前で交差する。金属同士がぶつかる音が響いた。

 

「グッ!?」

 

 そのあまりの重さにアヴィはうめき声をあげるが、押し返した。飛び掛かった影─夕立は着水しながら、自身の大剣が押し返されたことに驚く。流石はレ級、といったところか。

 

(まぁ関係ないけど)

 

 大剣を構え直し、アヴィに向かって滑る。アヴィは近づかせないために魚雷を放った。それを夕立は飛び越え、上から振り下ろす。それを左に回避、至近距離で砲撃を放とうとした。この距離では自分も多少はくらうが、そんなに被害はないだろうと判断してのことだ。

 

「ッ!?」

 

 しかし、夕立が砲弾を()()()()()()ことに目を見開く。手に《障壁》を展開させたことまではわかるが、何故駆逐艦の身で戦艦の砲弾を弾くなんてマネができる。その原理は、夕立が大剣を軽々と振り回していることにも繋がる。

 対艦大剣『紅丸』。刃長二m、重量二十kgという、通常なら艤装のアシストを受けているだけでは扱うことが出来ない代物である。それを持ち、扱うことが出来るのは艤装の力を全てパワーアシストに回していること、そして夕立(新夕 愛)自身の力だ。

 アヴィはこいつはここで排除しなければならないと判断した。後のことなど考えず、全身を硬化させる。この形態になるのは危険だと教えられたが、出し惜しみは出来ない。

 全身をバネにして、アヴィは夕立に飛びかかった─

 

 

 

 時雨、白露、夕立の三人がそれぞれレ級と対峙してる一方、春雨と明石の二人は三十数体の深海棲艦相手に防衛戦をはっていた。

 

「明石さん」

 

「春雨ちゃんも気づきましたか」

 

 明石は対艦銃(改造したAK-47)を乱射しながら春雨に応える。

 先程から違和感があったのだ。一部の艦娘は艤装に近接武器を持っているのでそれらを警戒するのは分かる。しかし深海棲艦は─具現化艦娘もだが─元々は『軍艦』なのだ。軍艦に銃弾は無駄だ。なのに、明石が銃口を向けると()()()()()()()()()()()

 

「最初に侵攻された際に、銃は効かないと()()()()()()()んですがねぇ…って、春雨ちゃんケガしてるじゃないですか」

 

「え?

…あぁほんとですね。気づきませんでした」

 

 明石の言う通り、春雨の左手から血が流れていた。それも、結構な量で。しかし本人は気づいていなかったという。それもそのはず。春雨は無痛症、生来痛みを感じたことは無い。

 春雨が血が流れている箇所に意識を向けると、血が止まった。艤装を装備している間、つまり《艦娘》となっている間は副次効果として傷の治りが早くなるのだ。

 

「艤装の機能は便利ですよねぇ。とはいえ、これが終わったら医務室行ってくださいよ?」

 

 言いつつ、明石は威力を上げた(改造した)手榴弾を深海棲艦に投げる。普通の深海棲艦なら、それが何か分からずに無視するか見続けるかのどちらかだ。

 明石の頭脳は優秀なほうだ、その頭脳が、当たってほしくない考えを思いつかせる。さて─

 

「─ほんっと、当たってほしくない考えは当たるものですね…」

 

 深海棲艦は手榴弾を放った瞬間に、()()()()()予想着水地点から大きく離れた。そいつらに牽制射撃をしながら、倒れた深海棲艦の遺体を見る。それらは消えるわけもなく、血が流れていないモノもいれば、()()()が流れているモノもいた─

 

 

 

 

─体中から血が流れ出ている。そもそも、無理があったのだ。深海棲艦になってまだ数週間のレイと、艦娘になって一年経っている時雨(時宮 梨恵)。二人の間には単純な実力、そして経験の差がありすぎる。

 

「オ前ハ…私達二似テルナ…」

 

 言おうとした言葉とは違う言葉を発して、レイ自身何を言っているんだと思ったが、時雨の目を見て納得した。“目”が自分達と同じなのだ。ということは、言おうとした言葉を聞いてもこいつは動揺しないだろうなと思いながら口を開く。

 

「ナァ艦娘…オ前ラガ殺シタ深海棲艦、()()()()()()()()ゾ?」

 

 目の前の奴が普通の《時雨》なら、《具現化艦娘》だろうが《適正艦娘》だろうが狼狽えるはずだが、自分の予想通りなら─

 

「─だから?」

 

 一切狼狽えた様子も、思考が停止した様子もなく、ただそう言って首を傾げた。やはりな、と苦笑するように心中で呟く。

 こいつは自分達と同じ《復讐者》だ。けれど、決定的に違う部分もある。

 

「ッ」

 

 一切の躊躇もなく斬りかかって来たのを両手で防ぐ。刀と腕の間で火花が散る。

 

「今の君達は深海棲艦だ。それ以下でもそれ以上でもない」

 

 レイ達と時雨の決定的な違い、それは復讐対象の広さだ。レイ達が軍人のみを嫌悪しているのに対し、時雨は深海棲艦及びそれに協力するモノ全てを嫌悪する。つまり時雨にとってレイ達の過去などどうでもよく、今現在彼女達が深海棲艦に属していることが重要なのだ。故に時雨は躊躇をしない。

 押していた刀を引き、そのまま右回転。レイはギリギリの所で回避した─はずだった。

 

「ッ!?」

 

 左肩から血が噴き出す、まるで下から斬られたかのように。体がぐらつく、体勢を立て直さなければ。そう思う間もなく、左肩から右わき腹にかけて深く斬られた。

 まただ、先程から確実に回避しているはずの斬撃が避けきれていない。何故─。

 それが対艦刀『蒼影』が持つ時雨専用の能力、【風刃】。《障壁》を応用し、斬る範囲を伸ばす能力だ。二mまで伸ばすことが出来るが、伸ばせば伸ばすほど脆くなる。

 仰向けに倒れたレイに近づき、時雨は刀を振り上げた。

 

(クソガ…コンナトコロデ…)

 

 せめて最後の最後まで、死んでも恨みを持ち続けてやると時雨を睨みつける。それを見て、何も思わせない瞳のまま時雨は刀を振り下ろした─

 

 

 

「─時雨ちゃん、そこまでよ」

 

 そう言って振り下ろされた刀を、腕を掴んで止めたのは鳳翔だった。時雨はその体制のまま講義をする。

 

「なんで止めるんだい?」

 

「提督からの命令よ。このレ級を含めた、生き残りの深海棲艦を生け捕りにせよ、と」

 

 何故生け捕りにする必要があるのか、それを読んだ鳳翔は口を開いた。

 

「知能を持つ深海棲艦、それも喋ることが出来るのよ?情報を手に入れることが出来る、これがどれほど重要なのか、分からないわけじゃないでしょう?」

 

 舌打ちを一つ、時雨は刀を鞘に納め、背を向けた。そうして周囲を見れば戦闘は既に終わっていたようだ。深海棲艦の数は減っているが、こちらの艦隊は誰もいなくなっていない。それを知っても心は荒れている。深海棲艦、特にレ級が目の前で生きている限り、これがなくなることは無い。

 それでもなお時雨が引いたのは、鳳翔の言葉に一理あると納得したこともある。だが本当の理由は、とあるレ級の情報が引き出せると考えたからだ。父親と弟を殺した─

 

─隻眼のレ級─

 

 手から血が滲むほどに強く握り込む。ソイツだけは、必ず自分が殺す。どれだけの目に合っても。

 その時雨の様子を見て、鳳翔は溜息を吐いた。相変わらず、あの状態の時雨には困ったものだ。さてと、と思考を切り替え、レイに振り向く。

 

「これから貴方を捕縛します。抵抗しないことをすすめます」

 

 レイからしたら、そう言われても動く力すら出ない。とりあえず、生き残った同胞全員に武装解除を命ずる。それに、最後まで抵抗を見せていた深海棲艦も武器を下した。

 

「話が早くて助かります」

 

「コレ以上ハ無駄死ニニナルト思ッタダケダ」

 

 幸い、というべきか。()()()()()()()()レ級となれた二人は生きているようだ。それがわかってホッとする。そして目の前にいる鳳翔を見る。軍服を着ていることから軍人だと把握できるが、抵抗する気が起きない。体が動かないというのもあるが、この鳳翔は恐らく、自分達の知っている軍人とは違うと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─使エナイ奴ラダナ」

 

 十数キロ離れた場所から、その光景を観察していた(見ていた)モノがそう呟いた。その表情には落胆の色が見える。

 

「マサカ、誰一人殺セナイトハ」

 

「─オ言葉デスガ、コチラノ情報不足モアルカト」

 

 そう言ったのはソレの隣に並んでいたモノ。見た目はリ級であるが、そこらのリ級とは桁が違う。フラグシップの更に上、現在は確認されていない、改フラグシップと呼ばれることになる個体の一体。

 その言葉にソレは憤怒することもなく、鼻を鳴らした。

 

「ハッ、確カニナ。ソノコトニ関シテハコチラノ落チ度ダ」

 

 とはいえ、とソレは言葉を続ける。

 

「我々ノ期待ヲ裏切ッタコトニ変ワリナイ」

 

「…始末シマスカ?」

 

 少し考えた後、ソレは構わないと答えた。

 

「奴ラガ持ッテイル情報ナド無イヨウナモノダ」

 

 言いながら興味を無くしたように振り返る。あぁだが、少しだけ役に立ってくれたなとソレは思う。

 

(アイツラトハ少シ楽シメソウダナ)

 

 知っている艦娘とは違う戦い方をしていた、六隻の艦娘。その中でも、大きな増悪を纏っていた者。ああいう者を正面から叩き潰すことが楽しいのだ。最後にどんな表情を見せてくれるのか─

 

「─会ウノヲ楽シミ二シテイルゾ」

 

 その場を立ち去りばがらソレ─隻眼のレ級はそう呟いた。少しだけ、口端をあげながら。



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協力者

 はーい、およそ2年ぶりの投稿でーす。


 場所は北方海域、ポイント3-5。少し前まで姫級の深海棲艦がこの海域を制圧していたが、藤原艦隊が撃破した─()()()()()()()()()()()場所だ。

 

「おりゃああ!!」

 

「ラァァァァア!!」

 

 その海域で、互いに声を上げて槍と剣がぶつかる者達がいた。槍を操っているのは白露、そして相手取っているのは─軽巡級の深海棲艦。しかしその姿は今までの軽巡級とは違い、頭から足まできちんと人型を取っていた。短髪で左目は前髪で隠れ、頭には角のようなモノが二本生えており、右手には剣を持っている。なによりも異様なのは、背中に艦娘と()()()()()()()()を背負っていた。

 

「ハッハハ!!やっぱりオ前との手合わせハ楽しいゼ!!」

 

「こっちの台詞だよ!!」

 

 双方は楽しそうに笑みを浮かべながら得物を打ち合う。戦ってはいるものの、主砲や魚雷を撃ちだす気配は無い。それもそのはず、彼女らは先程軽巡級が言っていた通り、ただ手合わせをしているだけなのだから。

 

「ウフフ、テンちゃんガ楽しそうでなによりダわぁ。あの子ト対等に戦える子ガ私以外いないカラ、とっても助かるワぁ」

 

「こちらとしても助かるわ。白露(あの戦闘症)には苦労するのよ…」

 

 それをまた楽しそうに見ている者達がいた。一人は村雨、疲れたように溜息を吐く。そしてその隣にいるのは─軽巡級の深海棲艦。しかし、機関部の様なものがあるという共通点はあるものの、白露と手合わせをしている個体とは見た目が違う。こちらは頭の上にリング状のナニかが浮いており、背中に槍のような、薙刀のような武器を背負っていた。

 

「─オ前ノ開発スル艤装ハ面白イナ。妖精ノ存在ガアルトハイエ、ヨクコンナ艤装ヲ実現出来ルモノダ」

 

「他とは違う発想力を持つのが私の長所ですからね~。まぁ、失敗の方が多いですけど」

 

 明石と楽しそうに会話をしているのは、雷巡チ級。こちらは今まで確認されているものと同型。その手には、明石の考案・開発した手榴弾型艤装を持っている。

 

「ソレハ当タリ前ダロウ。開発ノ成功トイウノハ失敗続キノ先二アルモノダ。成功ダケヲ求メル奴ハ滅ベバ良イ」

 

「ほんとにそれです。なんでもかんでも成功だけがあると思うなよと。一回同じ気持ちを味合わせるために手伝わせてやりましたよ」

 

「イイナソレ。モシ次ガアレバヤッテミヨウ。マァ無イト思ウガ」

 

 二人─この場合、一人と一体だろうか─は楽しそうな様子から一転、恨み言を吐き続ける。同じ開発者として思うことがあるのだろう。

 

「夕立夕立!モウ一回ヤッテ!」

 

「「「ヤッテヤッテ!」」」

 

「順番にやるから並ぶっぽい」

 

 そう言って夕立に群がり並ぶのは、現在確認されている姫級の一体である北方棲姫と三体のPT小鬼群。一番先頭にいた北方棲姫の脇を掴んで、空中に高く放り投げる。ワー!と嬉しそうな歓声を上げて、落下してきたところを危なげなくキャッチ。それをPT達にも行う。

 それらの、本来は敵同士である艦娘と深海棲艦の交流を微笑ましく見ながら、会話をしている者達がいた。

 

「貴女方の情報のおかげで、こちらから死者を出すことなく勝てました」

 

 ありがとうございます、と鳳翔は目の前の存在に頭を上げる。

 

「気ニシナイデ。私達ハタダ約束ヲ守ッタダケダカラ」

 

 そう答えた声は、少し機械の混じったようなくぐもった声だった。当然だ、その存在は人間ではないのだから。

 

「はい、ですのでお礼を持ってきました」

 

 鳳翔の後ろにいた春雨が、背負っていたクーラーボックスを下す。その中には色々な食材が入っていた。

 

「オ礼ナンテ…。ソッチガ約束ヲ守ッテクレテイルダケデ十分ヨ」

 

「それだけでは足りない、というのが提督の意見です。どのみち、この食材は余ってしまうものなので処分の方法を考えていたところなので」

 

「…ソウ。ソウイウコトナラ受ケ取ルワ」

 

 その存在は港湾棲姫、現在確認されている姫級の内の一体だ。二ヵ月ほど前に彼女らを助けたのが、交流のきっかけ。

 本来、深海棲艦を助けるのはご法度だ。法律や、軍の決まりがあるわけではないが、普通に考えて人類の敵を助ける阿呆などいない。では何故、藤原の艦隊が助けたのかと言えば、二つ理由がある。彼女達にこちらへの敵意が無かったのが一つ。他の深海棲艦に一方的にやられているのを黙って見てられなかったのがもう一つ。

 それから彼女達とは、お互いに約束をした。深海棲艦(以降、港湾組)からは情報を、藤原側は彼女達のことを報告せず存在を隠蔽すること。襲撃が来ることを事前に藤原の艦隊が知っていたのは、彼女達の情報があったからだ。

 

「ソウイエバ、捕ラエタ深海棲艦ハドウシテイルノ?」

 

「私達の鎮守府にいます。明石さんが作成した対艦用の牢屋の中です」

 

 大本営への報告では、この海域の姫級は撃破したことにしてある。敵意が無いと言っても信じないだろうし、信じたとしても拷問や生きたまま解剖されるだろう。それは避けたかった。

 まぁ、なにも善意だけで助けたわけではない。せっかくの意思疎通の出来る深海棲艦(情報源)をつぶさせるわけにはいかなかった。

 

「彼女達は軍人を憎んでいるようなので、それらとはかけ離れている私達の鎮守府の方がいいと判断しました」

 

「ソウネ。ソレデ良イト思ウワ」

 

 ソレニシテモ、と港湾棲鬼は周囲の岩を見渡しながら口を開く。

 

「貴女達ノ提督ガクレタ…()()?ダッタカシラ?アレノオカゲデ、襲撃サレルコト無ク暮ラシテイレルワ」

 

「詳しいことは私にも不明ですが、周囲の景色を歪ませているそうです。広範囲の光学迷彩のようなもの、というのが分かりやすいかと」

 

 そう言いつつ鳳翔自身、その効果をどうやって生み出しているのかは知らない。科学で説明できないということだけは理解でき、又、所謂オカルトの分類に入るのだろうということは予想している。

 まぁ、それを言ってしまえば今のご時世、科学で説明できないもので溢れているのだが。艦娘とか深海棲艦とか。

 

(そういえば藤原さん(提督)、貰い物と言っていましたっけ)

 

 鳳翔は御札を渡してもらったときに軽く説明を受けていた。どうやら藤原はこれがどのようなものか把握しているようだった。更に言えば、貰った相手は鳳翔もよく知っている人物だとも。

 

(はて?誰でしょうか?海軍所属…ではないのは確かですが)

 

 もしそうなら、提督は名前を教えてくれるはずである。そもそも向こうから接触しに来ないのもおかしい…あぁいや、そもそも彼と自分で共通して親しい人物は少なかったか。

 

(となると、候補はだいぶ絞られますが…)

 

 海軍所属でないのなら、残りは彼の家族と()()()()の者。彼の家族にはあったことないので除外。となると陸軍となるが…。

 

(そういえば、あの人と随分連絡を取っていませんね…)

 

 陸軍所属と言う部分で、ある人物を思い出す。数年前まで、それこそ深海棲艦が攻めてきてからも、しばらくは連絡を取っていた。それなのにいつの間にやら連絡が途絶えていた。何故その事が頭から離れていたのだろうかと考えようとして─

 

「─ドウシタノ?」

 

「すいません。少し考え事をしていました」

 

「私デ良ケレバ相談二乗ルワヨ?」

 

「いえ、大したことではありませんので」

 

 そうして二人は雑談を始める。先程まで考えていたことは、もう鳳翔の頭の中から消え去っていた。

 



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