烏森の魔女ゲーム 〈第2ゲーム〉 (海神アクアマリン)
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第1話
2006年9月7日から8日に起きた「烏森大量殺人事件」
1986年10月4日から5日に起きた「六軒島大量殺人事件」から20年が経ってから起きた事件。
警察の捜査でも犯人は未だ不明。遺体の20体と行方不明の3人で南野家の人間が全員姿を消した。現場には23人全員の血痕が発見されているため、全員死亡の可能性が高いと警察は発表している。しかし。
『これは本当の結末なのだろうか?』
僕は一つの部屋の中に居た。椅子に座り、テーブルを挟んで目の前の彼女と対峙していた。
「一体君とどんなゲームをすればいいんだい?」
「簡単なものですよ。南野邸で起こった殺人事件を人間で説明して、魔女幻想を否定すればいいだけですよ。」
「それなら簡単そうだね。」
「そう思うでしょ!でも、そんな簡単に私は倒せないわよ。それにゲーム盤は南野家の親族会議の日。どちらかが完全に負けを認めるまで永遠にあの日が繰り返されるのよ!新たなゲーム盤で再び殺人を行うわ!それと、今度から私の人間の頃の姿を私の駒としてゲームに参加させるわ。」
彼女自身がゲーム盤に2人存在することになるが、魔女がいてもゲームの人数に影響しないなら人間の頃の優妃が存在する必要がある。だから、2つの駒を用意したわけか。
そうして考えていると、突然莉亜と芽琉と見覚えない人が現れた。
「クロノエル様。莉亜と芽琉、それしてバアル。ここに参上いたしました。」
「おぉ!バアルか!久しぶりですね。2年ぶりでしたよね。あの頃は力不足で呼び出さなくてすまなかったわね。」
「クロノエル様が謝る必要はありません。今はこうやって顕現させることが出来るのですからね。」
どうやらバアルと呼ばれた女性は悪魔のようだ。
「しかし、破滅の七姉妹が呼び出せるのはやはり私にとって都合がいいわね。」
僕が見つめているのにバアルが気づいた。
「話しはリア卿とメル卿から伺っております。クロノエル様の対戦相手の薫さんですよね。初めまして、破滅の七姉妹の長女にしてソロモン72柱が一人、バアルです。」
「バアルは72柱のトップで、この悪魔を使役するのはかなり難しい。だから、魔女になってちゃんと呼び出せるようになったばかりだが、仕事はしてもらうつもりよ。」
「なんなりとお命じください。」
「さぁ、舞台と役者は揃った!今こそ第2のゲーム始めようぞ!」
彼女を倒し、このおかしなゲームをやめさせなければならない。これが、南野家の人間としてできる唯一のことだ。
2006年9月7日10時、黒野の烏森到着。
「やっぱり大きいですね。南野邸は敷地が広すぎてどこに何があるのか忘れちゃいそうですね。」
「優妃ちゃん、本当に広いわよね。私たち兄弟も小さい頃に全員迷子になった経験があるのよ。」
「余計なことを言うなよ。紫音。」
「あら、事実なんだから言ってもいいでしょう。相馬兄様。」
僕達は南野家の親族会議で年に一回本家のお屋敷に集まる。特に今年は特別だ。4年ぶりに優妃が親族会議に参加することになった。
僕達は屋敷に向かうことにした。駐車場からお屋敷まで15分はかかる。その途中で使用人の神威と美紅利と弥勒と業にあった。
「皆様、お久しです。」
「ようこそいらっしゃいました。」
「お荷物は僕と弥勒で持っていきます。」
「お屋敷までは神威君と美紅利さんにお連れしていただいきます。」
この4人の使用人は9年前から南野家に仕えていて、4人とも21歳だ。優妃ちゃんと同い年だったはずだ。
「今回は前回と少し変えているみたいだね。」
「少しは出番をやらないと可哀想だったのでね。」
「お嬢様、紅茶を淹れました。薫様もお飲みになられますか?」
悪魔の淹れた紅茶なんて、正直に言ってあまり信用できない。だが、飲んで欲しそうな顔をされると断り切れない。
「僕もいただくよ。」
最初は信用できなかったけど、バアルの淹れた紅茶はとても美味しかった。こんなにも美味しい紅茶を飲んだことがないと言ってしまいたくなるほどだ。
ここから第2のゲームが始まる。今度の勝利は誰のものになるのか。
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第2話
紅茶を飲みながら考えた。このゲームのルールはどのようなものなのか。それがはっきりしない限り本気で戦うことができない。
「クロノエル。1つ聞いていいかい?」
「答えられるものであれば答えるわよ。」
「このゲームのルールはどんなものだい。」
「そういえば、言ってなかったわね。このゲームは私の用意した殺人の謎を人間で説明すればいいのよ。ただし、私は真実を語るとき『赤い文字でそれを語るわ』これを赤き真実というのよ。」
なるほど、なかなか興味深いゲームのようだ。だが、彼女の用意する殺人は密室トリックを使うものがある。この謎を解くのは難しいかもしれないが、赤き真実というヒントがあれば勝てるかもしれない。
「復唱要求されれば、私は答えられるものなら赤き真実を使うわ。答えたくなければ復唱拒否するわ。それと、あなたにサービスでゲーム盤の外ではバアルがあなたに力を貸してくれるわ。」
「随分と気前がいいね。気前がよすぎて怪しいくらいだよ。」
「安心しなさい。バアルは魔女も人間も関係なく契約するような悪魔です。きっと手を貸してくれるでしょう。」
「ご安心を、薫様。悪魔使いが荒いクロノエル様に報復出来るならいくらでもお力をお貸しします。」
確かに72柱のトップの悪魔なら役立つかもしれない。それだけの力があれば知識もかなり持っているはずだからね。バアルは一時的に僕の使い魔というわけだ。
「そういうことなら、早速で悪いが第1ゲームの第1の殺人について戦おうか。」
「へぇ、いきなりやるんだ。薫お兄ちゃんはやっぱり面白いね。何処からでもかかってきなさい!」
まずはどう攻めるか。そこから考えなくてはいけないな。
「薫様。まずはゲームに慣れる事と理解する事が必要です。初手は見本として私が行かせてもらいます。」
「うん。頼んだよ。」
バアルの申し出は嬉しい事だ。確かに不慣れで理解していない今の状況だと勝てる戦いも勝てないわけだ。
「それでは参ります。復唱要求。被害者は源蔵、春香、優香である。」
「その復唱要求を受けよう。『被害者は源蔵、春香、優香である』これは変えられぬ真実である。」
なるほど、こういう戦い方か。ヒントを聞き出して積み重ねれば答えにたどり着けるわけか。それに赤き真実は証拠もいらないわけか。赤で否定されたら簡単に負けるな。
「バアル、見本ありがとう。」
「お役に立てて光栄です。」
「今度は僕から行かせてもらうよ。復唱要求。源蔵、春香、優香が眠っていた部屋は密室である。」
「それも受けよう。『源蔵、春香、優香が眠っていた部屋は密室である』」
「復唱要求。この館のマスターキーは8本である。」
「それも受けてやろう。『この館のマスターキーは8本である』なお、マスターキーは複製を作ることは不可能。ついでにバアルへの感謝の気持ちを込めてもう一つ赤で言おう。『お屋敷の扉全てマスターキーとその部屋の鍵以外では開かない』」
これは難しい、どの角度から攻めても破るのは時間がかかりそうだ。だが、確認できることはしておかなければいけないだろう。
「復唱要求だ。遺体は薔薇庭園の東屋に存在する。」
「受けてたとう。『遺体は薔薇庭園の東屋に存在する。」
「続けて復唱要求。源蔵、春香、優香は東屋で殺された。」
「復唱を拒否する。」
「復唱拒否、つまりは東屋以外で殺されたというわけだね。」
しかし、クロノエルの表情に変化が見えない。もしかしたら、あの復唱拒否は別の意味のものなのかもしれない。
「薫様。騙されないでください。クロノエル様は人間の心を読むのが得意なお方です。復唱拒否も答えられないからではなく。答えたくないからなのかもしれません。後から赤き真実で一気に潰して心をえぐるつもりなのかも知れません。」
「バアル、本気で主人を倒す気みたいだね。それなら、バアルはこのゲームが終わるまで一時的ではなく完全に契約しなさい。その方が気兼ねなく私も戦えるわ。」
「かしこまりました。許可が出ましたので契約します。片手を出してください。」
言われるがままに片手を差し出すとバアルはそっと手を重ねてきた。すると、眩しい光が突然発生した。バアルが離した自分の右の手の甲を見ると悪魔の紋章が刻まれていた。
「これで契約成立です。一緒にクロノエル様を倒しましょう。」
「あぁ。これからよろしくお願いするよ。」
心強い味方を手にしてゲームが動き始めた。初戦はどちらが勝利をするのか。まだ誰にも分からない。
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第3話
心強い味方ともに戦うことになった初戦。第1ゲームの第1の殺人。これは一見不可能なように見えるが、柔軟な発想で考えれば解けるものだ。
「復唱要求だ。全員24時以降には起きていない。」
「受けよう。『全員24時以降には起きていない。』」
「ならこのトリックでいけるはずだ。犯人は誰でもいいが仮に優妃としよう。優妃は夜中にベットを抜け出しお屋敷に向かい、あらかじめ盗んでおいたマスターキーでお屋敷に侵入。盗んだマスターキーで当主の部屋に侵入して、身動きと口を封じてから窓から下ろして、同じように春香、優香も窓から外に出したんだ。外に出した方法は悪魔の証明だ。証拠を提出する必要なし。外に出て身動きと口を封じられた3人を移動させて薔薇庭園の東屋にて殺害。凶器は悪魔の証明だ。これでどうだ。」
「マスターキーはどうやって手に入れたというのかしら?」
「使用人の美代子さんは親族会議の日だけマスターキーを持ち歩いているが、ほぼ毎年落としたりして無くしているため、紛失してもまた無くしたくらいで済む。」
「なるほど、これは敵わないわね。今回はリザインするわ。まぁ、第1のゲームは私が負けても魔女としてはあまり痛くないから負けてもいいのよね。」
確かに痛くないだろうね。人間の頃の犯行なら人間にできるトリックじゃないと犯行は不可能になり、ロジックエラー でこのゲーム自体が崩壊するだろうからね。ロジックエラー はミステリーにおいてしてはならない重大なミスだ。ミステリー好きの優妃がそんなミスをするとは思えないけどね。
「次は第2の殺人についてだ。バアル、現場の再構築をしてくれ。」
「かしこまりました。現場はお屋敷の一階客間、客間にて秋楽、相馬、蓮司、城助の遺体を発見。テーブルの上に銃を発見しました。」
「復唱要求。秋楽、相馬、蓮司、城助は死亡している。」
「受けてあげるわ。『秋楽、相馬、蓮司、城助は死亡している』」
「クロノエル様。私からも復唱要求です。客間は密室である。」
「それも受けよう。『客間は密室である』」
この密室は簡単だ。第1の殺人の後ゲストハウスに籠城したが、ゲストハウスの客間からは誰でも出れる状態だった。つまり、抜け出すことは可能なわけだ。
「これはさっきの犯人であれば可能な犯行だ。まず、犯人はゲストハウスの客間から出入りが可能だったんだ。ゲストハウスに籠城していれば大丈夫だとみんなが考えていたために出来たことだ。ゲストハウスを出て犯人はお屋敷に入り、当主の部屋に行った。そして武器を手に入れて秋楽、相馬、蓮司、城助を追ったんだ。相手が武器を構えていることに気づいた4人は急いで逃げて客間に逃げ込んだが、マスターキーを所持している犯人は客間に入り4人を殺害。その後、4人が持っていた銃をテーブルの上において取っていないことを証明したんだ。」
「武器を取らなかった証明が何を意味するというのですか?」
「武器を取らなかったということは、自分は武器を取らなくてもいい、あるいはすでに武器を所持しているということになる。」
「なるほど、それは面白い。この第2の殺人もリザインよ。」
これで第1のゲームはほとんどのトリックが解けた。だが、まだ重要なところが分からない。なぜ殺人を犯さなければならなかったのか。なぜ莉亜と芽琉が力を出したのか。
「次に行くぞ。バアル、第3の殺人を再構築してくれ。」
「かしこまりました。現場はゲストハウスの一階客間、客間にて彩芽、紫音、神威、美紅利、弥勒、業、清子、美代子の8人の遺体を発見。当時現場は密室ではなく、扉が開けられた状態になっていました。」
「これに関してはなんとなくなら犯行方法の予想がつくよ。犯人はお屋敷に行くときに最後にゲストハウスを出た人間だ。ゲストハウスをみんなと一緒に出たように見せかけて実はゲストハウスを出ていなかったんだ。凶器Xを使用して出て行った人間に気づかれないように素早く殺したんだ。そして犯行後大急ぎでお屋敷に向かい、怪しまれないようにみんなと合流したんだ。」
「だが、それだとおかしな点もありますよ。凶器Xを使用して殺したとして、それはどこから出てきたのでしょうか?」
「凶器Xは第2の殺人に使われたものを手に入れたのと同じ時に当主の部屋で手に入れたものだろう。当主のコレクションには銃や刀、ナイフ、さまざまな物が存在するから、それを使えば犯行は可能だ。」
「きゃははは!なかなかいい考え方をするわね。第3の殺人もくれてあげるわ。リザインよ。」
これで3つの殺人を解いたが、第4の殺人は分からない。どうやって隼人さんと剛座さんを呼び出したのか。色々と分からない以上、これは勝負するのやめた方が得策だろう。
「第4の殺人はリザインする。今から色々聞き出しても理解できるような気がしないからね。」
「それがいいでしょう。クロノエル様は第4の殺人に関しては薫様達を潰すために本気を出したので、あれを理解して謎を解くのは不可能です。」
「あらあら。戦闘を放棄されるなんて悲しいけど、勝ちを譲られるならありがたくいただくわ。」
これで第1のゲームでの謎解きを終えた。これからが第2のゲームの始まりだ。魔女の手の内が分からない以上下手に動けば死を迎えるだろう。魔女を追い込むことはできるのだろうか。
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第4話
第1のゲームの整理でこのゲームがどのようなものか理解できた。しかし、向こうは遊んでいた。リザインしなくても彼女なら簡単に僕を倒して勝ち誇ったはずだ。完全に年下に舐められてる。
僕達はお屋敷に到着した。お屋敷に着くと使用人の隼人さん、剛座さん、清子さん、それと長男一家とお祖父様に迎えられた。僕達はお屋敷で少し過ごして昼食を食べてから、いとこ達はお屋敷の裏にある花畑に行くことにした。使用人の神威君と美紅利ちゃんと弥勒ちゃんと業君の4人も一緒に行くことになった。
「いやぁ。まさか4人のシフトが空いてるとはね。一緒に来れてよかったぜ。」
「芽亜里、女性なら言葉遣いは綺麗にしなさい。元男子の私より言葉遣いが悪いなんて呆れるわ。」
「優妃に説教される日が来るなんて思わなかったぜ。」
「お嬢様。優妃様の言うように言葉遣いを正さなければまた奥様に怒られますよ。」
「きしし。芽亜里が怒られる。」
「くふふ。芽亜里が怒られちゃう。」
僕は今年の親族会議が一番楽しく感じた。使用人も来てくれたし、4年ぶりに優妃ちゃんも来てくれて、とても充実した時間を過ごせた。
「そういえば、カラスが鳴いてないな。」
「奏太の言う通りだ。いつもならうるさく鳴いてるカラスの鳴き声が全然しないね。」
「それは多分、台風が近づいてるからですね。」
「美紅利の言う通りで、風も強くなって来てるからどこかに避難したんだと弥勒は思います。」
確かに風が強くなってきていた。このまま外にいるのは危険だと考えてみんなお屋敷に戻ることにした。
お屋敷に戻ってから夕食の時間まで時が過ぎた。
「今日の主賓である優妃ちゃんに乾杯。」
「皆さん、ありがとうございます。また親族会議に参加できて私は良かったです。」
「それより早く食事にしようぜ。」
「芽亜里、少しは行儀良くできないのですか。」
「優妃ちゃんの言う通りです。芽亜里、もう少し女性らしくしたらどうです。」
「2人からの説教は流石にキツイぜ。」
そして笑いと笑顔が溢れる中、夕食は食べ進められてお食事が終わった。
「今回はお祖父様が居ないみたいだね。」
「今回は前回の反省を生かして、実は隠していたけど余命1ヶ月のお祖父様を安静にさせたのよ。」
「余命1ヶ月なんて初耳だね。どうして知っていたんだい?」
「電話でよくお祖父様と話をしていたからその話を聞いただけよ。」
そういうことか。孫と話したがるお祖父様は無理をしてでも出てくるが、今回は病人らしくさせたわけか。
「さぁ、今まさに魔女の手紙が読まれているわ!これからゲームが本格始動する!莉亜と芽琉の力を借りずにこのゲームを私が制して見せるわ!きゃーはっはっ!」
「この手紙で親父の隠し財産の存在が出てくるとわな。」
「だが、差出人が魔女な訳がない。どこかにこの手紙を出した張本人がいるはずだ。」
「秋楽お兄様。お父様に話しを聞くことは出来ないのかしらぁ?」
「悪いが親父は余命1ヶ月なんだ。誰にも会う気は無いらしい。」
「それならこの手紙を解釈すればいいのだろうか。」
大人達は魔女からの手紙についての話で頭を悩ませていた。その様子を見るのを楽しむように優妃は見学していた。お祖父様のお気に入りの優妃は何かを知っているのかも知れない、だけど彼女から何かを聞き出すのは難しい。口が固いことで有名で意地悪な優妃が何かを語るはずがないと誰もが思っているんだ。
「大人達の無駄な話し合いにも飽きたから私はゲストハウスに行くわ。莉亜と芽琉も行くわよ。」
「きしし、優妃お姉さんにはついて行くよ。」
「くふふ、優妃お姉さんについて行くのが正解だよ。」
「ゲストハウスに行くならいとこ全員で行こうぜ。」
そういう話しになって子供達は大人達のいる食堂を後にした。
「きゃはは!大人達は無駄な話しをしなくていいのに。次期当主は私なのだからね。」
「まだそんなこと言ってるのかよ。次期当主は決まってないが、私たちの中から出てくるわけがないだろ。」
「何を言ってるの?次期当主は私に決まってるよ。」
優妃は不気味なオーラを出しながら、そんなことを言った。
「優妃、てめぇ。私達にまだそんな戯言を言うならブン殴るぞ。」
「落ち着けよ、芽亜里。証拠がない限り優妃が次期当主なんてことは無いんだからよ。」
「証拠ならあるわよ。」
突然そんなことを言われてみんな固まった。ただ、優妃自身と莉亜と芽琉は不気味に笑っていた。
「しょ、証拠があるなら見せてみやがれ!」
「いいわよ。今日は気分がいいから見せてあげるわ。」
そう言うと優妃はカバンの中から指輪を取り出して自分の中指につけて見せた。指輪にはこの家の印であるカラスが彫られていた。
「そ、そんな。次期当主の指輪を所持してるなんて。」
「あ、ありえねぇ。お祖父様が優妃を次期当主にするなんて。」
「でも、あれを持っているということは、大人達には内緒でそれを優妃に授けたということになる。」
みんな一目で分かる次期当主の指輪の登場で、気持ちが沈んでいった。
「きゃふふ。これは本物よ。5年前に貰ったのよ。これを私が受け取ったのを知っていたのは、莉亜と芽琉とカラスを身につけることを許された使用人だけよ。」
さらに追い討ちをかけられてトドメを刺された気分になった。
次期当主の指輪の登場にゲーム盤はどのように変わるのか。魔女のゲームは危険な方向へと進み始めた。
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第5話
僕達は突然の告白に驚きを隠せなかった。次期当主の座はすでに奪われているなら確かに大人達の話しは無駄だ。当主の隠し財産も彼女の物になる。それを大人が手にするのは不可能だろう。
「僕達は君が次期当主であることを知ったけど、それを大人達に伝えてもいいかい?」
「まだ教えちゃダメ。その時が来たら私が直接言うわ。」
「それなら次期当主様に聞くが、なぜ莉亜と芽琉には教えていたんだぜ。」
「莉亜と芽琉は私を慕っていて言うことも聞いてくれるから、一番信用できる人間として教えたわ。」
つまり莉亜と芽琉は優妃の右腕というわけだ。下手なことをあの2人の前で言ったら直接優妃に伝えられそうだ。
「きゃふふふ。私は次期当主の権限を使う気は無いけど、いざとなれば次期当主として莉亜と芽琉を動かすわ。」
「優妃お姉様。お任せあれ。」
「優妃お姉様。私達はお力になります。」
「It's perfect! 私達はこの南野家をお祖父様から引き継いでさらに偉大なものにしてみせるわ!」
この時僕達3人は優妃、莉亜、芽琉の3人がいつも以上に恐ろしく思えた。だが、僕達は次期当主に逆らう事は出来ない。その方がもっと恐ろしかった。
「まさか次期当主の指輪が出て来るなんて思わなかったよ。」
「あれは本当に存在するものよ。現在わたしがしているのは当主の指輪だけど、あの時は次期当主の指輪を隠し持ってたわ。」
「それにしても、君にあんな野望があったんなんて驚いたよ。」
「うふふ。今回はちゃんと推理しないといけないわよ。だから、私の力を借りたくなったら言いなさい。駒の私が次期当主権限で助けてあげるよ。」
「そんなものに頼る気は無いよ。バアルと僕の2人だけで十分だ。」
しかし、その申し出は悔しいけど魅力的でそれを拒否するのが間違いな気がした。それにクロノエルは憎たらしい笑みを浮かべていた。
「さぁ、時間は過ぎたぞ!第1の殺人の発生だ。現場をよく見て推理して、私を倒してみせよ!」
9月8日午前6時。使用人の照間清子さんが起こしに来た。
「大変です!お嬢様方、お屋敷で大変なことが起こりました!」
とても焦っている様子の清美さんに連れられて僕達はお屋敷の当主の部屋に向かった。当主の部屋に着くとお屋敷にいる人間が勢揃いしていた。大人の制止を無視して入ると、当主と四兄弟全員が死んでいた。
「どうなっているんだよ。どうして親父達が死ななきゃいけねぇんだよ。」
「奏太、今は泣くのをよそう。芽亜里ちゃんや優妃ちゃんの方が悲しいはずだからね。」
「莉亜と芽琉、この扉の魔法陣はなんだと思う?」
「これは黒月の第3の魔法陣だと思います。」
「意味は、魔女は不可能を可能にして奇跡を起こしたり。だったと思います。」
あの3人の口から魔女や魔法陣の単語が出た。普段ならこんな時にそんな話をするなと言うだろうけど、優妃ちゃんが次期当主だと分かった時点で何もすることが出来ない。
「優妃ちゃん、流石に不謹慎ですよ。ご家族や当主様が亡くなられたのですよ。こんな時に魔女の話しはやめなさい。」
それを春香おばさんが言った瞬間、優妃ちゃんは嬉しそうに笑って春香おばさんの向いた。
「口を慎みなさい。私を誰だと思っているのですか。お祖父様から当主の座を引き継ぎし者ですよ。証拠の次期当主の指輪はここにあります。」
そう言って次期当主の指輪をはめた右手を掲げて見せた。その瞬間カラスを身につける使用人は全員頭を下げた。
「隼人さん、これは本物であるかどうか。皆さんに言ってあげてください。」
「優妃様がはめているあの指輪は正真正銘次期当主様の指輪でございます。」
「きゃふふふ。私が本物の次期当主であることが分かったのなら、私に逆らう事は止しなさい。」
「くっ、いつの間にそんな物が渡されたというのですか。」
春香おばさんはまだ現実を受け入れられないらしい。他の大人3人も同様に疑いの目を向けていた。
「これはお祖父様に5年前、直接呼ばれた時に渡された物です。証人は隼人さんと莉亜と芽琉です。」
そこまで言われてはもう何も言うことが出来ない。
「次期当主として言わせていただきます。ここは殺人現場です。これ以上荒らす事は警察の捜査の邪魔になるでしょう。早急に全員この部屋から出ましょう。」
「かしこまりました。次期当主様の命令に従わせていただきます。」
「僕達も指示に従うよ。」
「仕方ありません。我々もここから出ましょう。」
「当主の部屋を出たら一階の客間で籠城しましょう。犯人はまだこの森や屋敷の中にいるかも知れませんから、一箇所に集まっていた方が安全でしょう。」
次期当主である優妃の手によって生きている全員が客間に閉じ込められる形になった。犯人が他にいる可能性もあるが、あの中に犯人が隠れている可能性もある。だから、これが吉と出るか凶と出るか。全く予想ができなかった。
魔女の悪魔の所業は始まったばかりだ。ゲームの本格始動に振り回されることになるだろうが、人間側はそれでも勝てるのだろうか?
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第6話
僕は呆然としていた。突然の次期当主宣言、場の指揮権入手、使用人の操作権利、これらは決して僕達のためでは無いだろうが、彼女にはこの家を守る義務が生まれたからあの行動に出たかもしれないと思うと、駒の彼女と魔女の彼女が別人に思えた。
「どうかしましたか?第1の殺人は起こりましたよ。早く推理を聞かせてください。」
「どうして、駒はあんなにも優しい考え方なのに魔女になったらこうなるのか。意味が分からないよ。」
「うふふ。それも私を知る推理の材料にするといいわ。それよりも、早く推理を聞かせてください。」
腑に落ちないが今は仕方ないだろう。
「それじゃあ、推理を聞かせてあげるよ。バアル、現場の再構成をしてくれ。」
「現場は三階の当主部屋です。当主部屋にて源蔵、秋楽、相馬、紫音、優香の5名の遺体を発見。現場は当時密室でした。」
「早速だが復唱要求。源蔵、秋楽、相馬、紫音、優香は最初から当主部屋に居た。」
「いいでしょう。『源蔵、秋楽、相馬、紫音、優香は最初から当主部屋に居た』」
「続けて復唱要求。当主部屋の鍵は二本である。」
「復唱を拒否する。理由は言いたく無いわ。」
どういうことだろう?部屋の鍵は二本存在するはずだ。それなのに赤で言うことが出来ないなんて、何かあるのかもしれない。
「クロノエル様。復唱要求です。烏森にいる人間は23人である。」
「復唱を拒否するわ。理由は特になし。」
「それなら1つの仮説が立てられる。不特定多数の人間が烏森に侵入していて、その中に犯人がいる。つまり、23人の中に犯人は居なく。24人目以降に犯人がいると言うことだ。」
僕がそれを言い終えるとクロノエルは不気味で気色悪い笑いを浮かべて言った。
「きゃーはっはっ!それなら、22人を調べた後に24人目以降を全て調べればいい!犯人がこの中にいるなら、犯人以外を全て調べればいい!」
「それはどう言うことだい?」
「多分、ヘンペルのカラスの応用だと思います。クロノエル様はタチの悪いことをしますね。」
バアルの言うことは僕でも分かった。ヘンペルのカラス、「全てのカラスは黒い」と「黒くないものはカラスではない」と同値であることである。だから、「全ての黒くないものはカラスではない」を証明すれば、「全てのカラスは黒い」を証明できる。ヘンペルのカラスは証明方法の1つである。
「つまり、私は全ての24人目以降のアリバイを証明すればいい!そうすれば、23人の中に犯人がいることは確定され、24人目以降が否定されると言うことよ!きゃーはっはっ!」
悪魔の証明による24人目以降が封じられた。僕は23人の誰かを疑えるが、出来れば疑いたくなかった。優妃の犯行だって、優妃の姿をした誰かの犯行だと思いたかった。しかし、疑わざるを得ないなら絶対的に疑う。犯人を見つけて全てを終わらせてやる。
「そういえばあれを赤で言ってなかったからその推理になったのでしたね。それなら赤で確定させましょう。『烏森にいる人間は23人である』そして、『24人目以降は存在しない』きゃふふふ。とても愉快でしたよ。薫さんがこうしてモタモタ推理をしている間に私は魔女として成長していく。私が完全に魔女の力を制御できるようになる前に倒すべきですね。きゃはは!」
確かに魔女としての貫禄が出てきた。その上、話し方や僕に対する呼び方も変わり始めた。彼女がまだ完全な魔女でないことは分かった。だが、彼女を倒すには時間が足りない気がした。
「もう一度推理をし直す。犯人は当主部屋の鍵を持つ人間だ。当主を交えた家族会議をあの4人でして居た頃に犯人が侵入。そして4人を連続で殺害。魔女の儀式通りに遺体を仕上げたんだ。」
「当主部屋の鍵は当主の持つ鍵と、使用人室に厳重に保管されているものの2本だ。『当時、使用人室の当主部屋の鍵は使用人であれば誰でも取れる状態にあった』つまり、使用人以外に犯人は有り得ない。」
「確かにそう言えるが、魔女のあなたがそんなことをさせるはずがない。」
「その通り!『当時、当主部屋の鍵は使用人室から出されていない』これは紛れも無い真実だ。それが意味することは、扉を鍵を使わずに侵入した。つまり、魔法で侵入したことを意味する。」
バアルは心配そうに僕を見つめていた。鍵が使用人室から持ち出されていないなら、もう1つのお祖父様の所持している鍵でしか開けられないことになる。どうやって開けさせたのか。これを解かないと先には進めない。
「バアル、一旦別のところに行こう。一度外の空気を吸いたい。」
「かしこまりました。クロノエル様、ゲームの一時中断を要求します。」
「よかろう。いくらでも休むがいい。永遠に戻ってこなくてもいいわよ。あなたには有限の時間しか無い。命を終えれば強制的に私の勝ちなのだからね。」
「安心しろ。僕は戻ってくるよ。君を倒すのが僕の目的なのだからね。」
そう言ってバアルと共に対局部屋を退出した。
魔女の新たなトリックはかなり頑丈だ。これを打ち破り勝つことは出来るのだろうか?魔女は完成したらどうなるのだろうか?
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第7話
バアルと僕は薔薇庭園に来た。薔薇庭園にポツンと置かれているベンチに腰をかけた。僕は頭を悩ませていた。鍵は使用人室から持ち出されていないのに当主部屋に入ることが出来て、その上5人を鮮やかに殺して見せた。当主部屋に5人が居た時には使用人を含む全員が眠っていた。犯行を行える人間はたくさんいる。その誰もが犯行が不可能。これではいつまで経ってもこの謎を解けない。
「バアル、君はこの謎が解けているのかい?」
「クロノエル様がいつも言っていることを考慮すれば簡単に解けましたよ。」
「クロノエルがいつも言っていることっていうのを教えくれないかい?僕では見当もつかない。」
「それは感情を大切にしなさいです。クロノエル様は黒月と白金と感情の3つの魔女の称号を持っています。」
「感情を大切にしなさい」確かに優妃はよく言っていた。感情を読み取れれば人の行動が分かる。そんなことも言っていた。
「待てよ。感情を考慮して考えるなら、お祖父様が心を許すような人が犯人ってことになるんじゃ無いか。」
「源蔵さんが心を許すのは孫とカラスを身にまとった使用人だけです。これだけでもトリックのヒントは出てますよ。」
「分かった。これなら当主部屋に入ることが出来る。バアル、ヒントをくれてありがとう。」
「どういたしまして、お一つ言いたいことがあるのですがよろしいですか?」
「好きに言うといいよ。」
僕がそう言うとバアルは頭を下げて言った。
「私と契約していただきありがとうございます。あなたはこのゲームに勝つ意思が弱いので今からあなたが本気で戦えるように目的を与えます。」
「その目的って何だい?」
「うふふ。『私はあなたのことが好きです』悪魔であり、使用人の1人である私があなたを好きになってはいけませんか?」
突然の告白に僕は戸惑った。彼女の気持ちには答えてあげたい。でも、一体使用人のどの子なのだろうか?
「君は一体使用人の誰なんだい?」
「薫様は質問ばかりですね。私は使用人の美紅利です。使用人の中には最初から優妃様に仕えている者もいます。」
あぁ、なるほどそういうことか。だから彼女は僕をよく見つめていたのか。それなら納得できる。
「そうかい。美紅利、いやバアルとしての君に言いたい。僕は君を頼りにしていた。でも、君は片想いの人を助けるつもりで僕に手を貸していたんだよね。それなら、僕の一目惚れの初恋を君に捧げよう。美紅利の君も、バアルの君もどちらも愛する。だから一緒にクロノエルを倒そう。」
僕が彼女の告白に答えると、彼女は少し涙を浮かべながら笑顔で言った。
「ありがとうございます。2人の目的として一緒に帰りましょう。そして、ここから帰れたのなら一緒に暮らしましょう。」
「あぁ、約束するよ。絶対に僕達の幸せのために勝とう。」
その頃、魔女の喫茶室では。
「バアルと薫さんを一緒にしたのは間違いだったかな。」
「クロノエル様、そんなことはありませんよ。」
「クロノエル様に間違いなどあるはずがありません。」
私を手助けしてくれる莉亜と芽琉は、バアルより頭はキレる。密室を得意とする私と違って、莉亜はアリバイトリックを得意とし、芽琉は時間操作トリックを得意としている。3つを合わせればかなりの物になるが、穴だらけになるかもしれないという弱みもある。
「あっははは!大魔女がこのざまかよ!同じ黒月が3人揃ってこれ!マジでダメダメじゃねえかよ!」
私達は入り口を振り返った。そこには南野芽亜里が立っていた。
「何の用ですか。芽亜里、あなたは傍観者のはずですよ。口を出さないでください。」
「冷たいことを言うなよ。」
芽亜里の姿が変わり始めた。変身後の姿は魔女そのものだった。
「白月の魔女ホワイペルンである私が手を出しても問題ないでしょう。」
芽亜里が黒月の魔女と対になる白月の魔女を名乗った。白月の魔女は満月の夜に全力を出せる者である。あまりに目に魔力が溜まるせいで普段から目を閉じている。
「なんと、ホワイペルン卿であらせますか。先ほどまでの無礼を謝らせていただきたい。」
「謝る必要などありませんよ。それに私は確かに傍観者ですが、黒月と対になる白月ですので少し手助けをしたかっただけです。」
私はメアリ・ホワイペルンを疑った。彼女はここまで観ているだけで何もしてこなかった。それなのに突然手を貸すと言ってきた。どう考えても怪しい。
「使える一手でしたら使いますが、使いにくいものだったら使いません。それでもいいなら言ってください。」
「えぇ、言わせてもらうわ。あの2人はくっつけましょう。完全にくっつけば薫はバアルの言うことに従います。バアルはこちらの手を知っているのだから、知らない手を使えば2人とも混乱して撃沈します。」
「つまり、手駒の一つをわざと相手に取らせてそこから崩していく作戦ですね。」
「私達のやらない方法ですね。ホワイペルン卿はよくそんな方法を思いつきますね。」
確かにこのやり方は謎を大量に配置して特攻していくタイプの私達ならやらない一手だ。
「双子の優秀な魔女見習いにそこまで言っていただけて恐縮です。」
「使い時を間違えなければいい一手ですね。白月の魔女ホワイペルン卿、感謝いたします。」
「うふふ。傍観者として楽しませてもらいますね。」
これが通用すれば大きなダメージを2人に与えられる。私の手を知っているバアルに一泡吹かせることが出来るかもしれない。
「きゃふふふ。上手く倒してやるわ。待っていなさい、バアル、薫。魔女を退屈させないでよね。」
突然結ばれたバアルと薫。2人を引き裂こうと考えていたクロノエルがやり方を変える。これに対応して薫は勝利できるのだろうか?
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第8話
僕達はしばらくして対局部屋に戻った。対局部屋にはクロノエルが1人で対戦相手の席に座っていた。クロノエルは僕達を目視すると笑顔を見せた。
「やっと戻ってきたわね。退屈して死にそうだったわ。」
「クロノエル様。再開しましょう。」
「了解したわ。第1の殺人から再開よ。」
「それじゃあ、もう一度推理を披露するよ。犯人は鍵を使用せずに侵入したんだ。孫の誰かであればお祖父様に部屋に入れてもらえる。鍵を使用したのは当主の源蔵だ。これなら中に入り犯行に及べる。後は鮮やかに5人を殺せば完璧だ。これで推理は完成だ。」
僕がそこまで推理を披露すると、クロノエルは歯ぎしりして悔しげな表情していた。
「まさかこうもたやすく破られるなんて。」
「クロノエル様、単純な物では私を止められませんよ。薫様を操作できても私はあなたの手を理解しています。」
「バアル、本当にあなたは優秀ですね。主人を理解して完全に味方として力を貸す。これだから72柱の1位になれるのですね。」
クロノエルは抑えているが今にも発狂して襲ってきそうだった。
僕達は一階の客間で籠城している。次期当主の命令で犯人を警戒して生き残っている大人には4本の銃を所持するようにした。お屋敷の中を移動するときも1人では行動せずに団体で移動することになった。
「まさか次期当主様がここまで命令を出来て、その上全員の安全を最優先に出来るなんて凄いです。」
「確かに春香さんの言うように私の娘はすごいわ。でもね。あの子は本来は恥ずかしがり屋で人見知りでこんな事が出来るような子じゃないんだけどね。」
「この状況だ。何かがあの子を変えたのかもしれないですね。春香さんも城助くんも自分の子が次期当主になれなくて残念でしたね。」
「蓮司くん、君も息子達が当主になる可能性がほとんど無くなった本当は悔しいんじゃないのかい?」
「まさか、悔しいなんて思うわけがないだろう。優妃ちゃんほど当主にふさわしい子はいないよ。」
僕達は今とても危険な状態にある。ここまで空気の悪い状況だと何が起こってもおかしくない。部屋の奥で椅子に座って周りを見回している優妃はそれを警戒しているようだ。
「あの、すみません。優妃様。使用人一同、一度使用人室と厨房に行きたいのですがよろしくですか?」
「剛座さん、すみませんが全員を行かせるわけにはいきません。5人で行ってください。美紅利ちゃん、清美さん、美代子さんの3人は残ってください。」
「おの、優妃様。私と薫様も外に出ていいですか?こうやって長い間缶詰状態だと息苦しくなってしまいますので。」
「まぁ、いいでしょう。剛座さんと薫お兄ちゃんは春香おばさんとお母様から銃を受け取ってください。外に出たら警戒を緩めないようにしてください。どこから犯人が襲ってくるか分かりませんから。」
「かしこまりました。」
「十分に気をつけておくよ。」
僕と剛座さんは春香おばさんと彩芽おばさんから銃を受け取って客間を出て行った。
「それで、美紅利ちゃん。話があるって言うから薔薇庭園までやって来たけど、一体なんの話なんだい。」
「実は私、薫様のことが好きなんです。ずっと前から好きでした。この屋敷から生還できたら一緒にいさせてください。」
僕はこの告白に戸惑った。でも、彼女が本気であるのがよく伝わってきた。だから僕は出す答えを決めた。
「僕も美紅利のことが好きだ。今から付き合おう。生きて帰れたら結婚しよう。」
「うふふ。嬉しい。薫様、ありがとうございます。」
「伝えたいことは全部伝えられたかい。」
「はい。これで大丈夫です。」
「それならお屋敷に戻ろうか。」
そうして僕達は手を繋いで頬を赤らめて一緒にお屋敷に戻っていった。
「おかしいですね。ここに缶詰があったはずなんですが。」
「この間清美さんが色々やってたから、その時にどこかに移動させたんじゃないでしょうか。」
「そうかもしれませんね。」
神威が辺りを見回すと異変に気付いた。
「剛座さん、警戒してください。」
「どうかしましたか?」
「隼人さまと弥勒と業が居なくなった。」
その言葉を聞いた剛座は怯えた表情になった。銃を構えて警戒し始めた。2人で厨房の外に出て使用人室に向かった。使用人室の前に立った途端に2人は驚きを隠せなかった。
「なんなんだこれは、魔法陣なのだろうか。」
「扉がこの状態だともしかして3人は中で死んでいるんじゃ。」
嫌な予感がした2人は大急ぎでチェーンカッターを持ってきてドアチェーンを切って中に入った。ベットの上を見ると3人の遺体が置かれていた。
「そんな、3人とも別々の酷い殺され方をしてる。」
「一体誰がこんなことを。」
「このことを優妃様達に早く報告しなければ。剛座さん、早く行きますよ。」
「あぁ、早く行こう。」
第2の殺人が起きた。次のトリックも人間側は解けるのだろうか?
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第9話
使用人室で隼人、弥勒、業の3人の遺体が発見された。彩芽おばさんの検死によると死後10分くらいらしい。やっぱり犯人はまだお屋敷の中にいるようだ。
「なんて酷い。遺体が原型を留めている部分が無ければ誰かわからない状態だわ。」
「これは全員見せられない状態ね。」
その酷い有様を目にした優妃は膝から崩れ落ちた。
「そんな、私の責任です。私が外に出る許可を出さなければこの3人は死なずに済んだのに。」
「優妃ちゃんのせいじゃないよ。これは仕方のないことなんだ。僕達のために食料を取りに行って起きた不幸な事故なんだよ。」
僕の慰めの言葉は今の彼女には届かないだろう。完全に自分のせいだと思い込んでるうちは何を言っても無駄だ。
「きゃふふふ。今回のゲームも大詰めよ。どうかしら楽しんでもらえているかしら?」
「こんなゲームを楽しめるわけがないだろう。」
「クロノエル様、早く第2の殺人に行きましょう。」
「それもそうね。私も退屈したくないから早く次のゲームに移りたいわ。」
このゲームも大詰めだが、まだ終わる気がしない。第9の生贄を捧げられて本当のENDを迎えるのだから。まだ終わることはない。
「そろそろ復唱要求をするよ。隼人、弥勒、業は使用人室に居た。」
「その復唱要求を受けるわ。『隼人、弥勒、業は使用人室に居た』」
「さらに復唱要求。隼人、弥勒、業は厨房に行った。」
「受けようぞ。『隼人、弥勒、業は厨房に行った』」
ここで矛盾が生じる。厨房に行ったのに、使用人室に居た。これは殺される前になんらかの方法で使用人室に移動させられたのだろう。
「あっははは!あの3人が静かに厨房を出て行く理由がどこにある?あるはずが無い!私が魔法で移動させたのだから理由など必要ない!」
そこが分からない。理由も無しに隼人さんが部屋を出て行くとは考え難い。何かあるはずなんだ。部屋を出て理由が。
「きしし、莉亜の手によって客間の全員が外に出てないことを証明してあげるよ。」
「ここに来て莉亜の登場か。お手柔らかに頼むよ。」
「きしし、客間は薫お兄ちゃん達が出て行った後に私が簡単な封印を施しておいたわ。特殊な模様を描いておいたシールを扉と窓の両方に貼っておいたのよ。事件発覚までシールは貼られたままだった。つまり『封印された客間から誰も出ていない』アリバイは完璧よ。」
魔女見習いでも赤が使えるなんて最悪な展開だ。
「その他の人にはアリバイがないよ。僕と美紅利は薔薇庭園に居た。剛座さんと神威君も外にいてアリバイがない。外にいる人間には犯行が可能だ。」
「それが不可能なんだよね。『犯行時、薫、美紅利の2人は薔薇庭園にいた』『犯行時、剛座、神威の2人は厨房にいた』これは4人のアリバイがあることを示す赤です。つまり、全員にアリバイがある。殺人を行えるのは魔女だけになるんだよ!」
「どういうことなんだ。全員のアリバイが赤で言われてしまった。」
「きしゃははは!お姉様が楽しそうに遊べてた理由が分かったよ。簡単には思考を停止させない。魔女に勝つことしか考えてない。これは確かに面白いよ。薫お兄ちゃんは最高のオモチャだね!」
魔女見習いってだけでこんなにも最低な性格になるのか。クロノエルの影響は最悪なものしか産まないな。
「あははは。オモチャと言われしまったか。それならトリックを暴いてもっと楽しませてやるよ!」
「きしし、莉亜を楽しませて!初のゲーム参加なんだからもっと遊ばせて!」
「まずは莉亜の密室を破る。バアル、あれは密室であってるよね。」
「あれは完全に密室を構成しています。何人たりとも外に出ることはかないません。」
あれが密室なら出る方法は絞られる。でも、通用するかどうかは分からない。一種の賭けだ。
「それじゃあ、行かせてもらうよ。莉亜は封印された客間から誰も出ていないと言った。しかし、すでに出ていたのならそれは意味をなさない。」
「きしし、馬鹿なんですか?外に出た7人以外に外に出る意味がないでしょうが!」
「外に出る意味ならある。僕と美紅利の話が気になって出てくる人間がいるかもしれない。特に優妃と芽亜里はそういう話に興味があるから出てくる可能性は高い。」
「だとしてもどう理由をつけたと言うんですか?」
「次期当主なら全員の身の安全のためにどこに行ったかのチェックをすると言って出ることも出来ただろう。」
こんな屁理屈まみれでも魔女には少しづつでもダメージを与えられる。
「きしし、赤で宣言します。『7人が外に出てから犯行発覚まで優妃は客間から出ていない』これで次期当主は犯行不可能になりましたよ。」
「本当に次期当主様を慕ってるんだね。でも、君が守ろうとしたせいで新たな可能性が出て来たよ。次期当主が僕と美紅利がどこへ行ったかを知るために莉亜に見に行くように指示したんだ。君が作ったシールは芽琉が貼ったんだろう。つまり、次期当主じゃなくても外に出ることは可能だ。」
「そ、それは。えっと。赤で宣言します。『7人が外に出てから犯行発覚まで全員外に出ていない』」
「残念だけどチェックメイトだ。その全員の中に誰がいるのか赤で宣言してもらいたい。」
「いいですよ。赤で宣言してやる!『あの時客間に居たのは』」
それを言おうとしたところで莉亜はクロノエルに止められた。
「莉亜、見苦しいわよ。私の弟子がこんなにも不甲斐ないなんて、ガッカリよ。」
「うぅ、すみません。リザインします。」
すごく恨めしそうな顔で僕を見つめながら莉亜は言った。悔しそうに唇を噛み締めながら恨みを積み上げているのがよく分かった。
魔女との戦いを順調に進めるが魔女見習いの怒りに触れて生きて帰れるのだろうか?
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第10話
僕達は第2の殺人で魔女側にリザインさせた。しかし、それが原因で莉亜の怒りに触れたようだ。
「莉亜、もう一度チャンスをあげるわ。私は芽琉と一緒に外から観劇させてもらうわ。今度失敗したらさすがに私も怒るわよ。」
「分かっております。あんな失態二度としません。」
「それじゃあ、頑張ってね。」
クロノエルはそう言って退出した。
「薫!バアル!よくも私に恥をかかせてくれたね!絶対に2人を許さないよ!」
莉亜は物凄い形相でにらみながら怒りをあらわにしていた。
「落ち着きなよ。心を落ち着かせないと勝てるものも勝てないよ。」
「うるさい!黙れ!あなたの指図なんて受けるか!さぁ、始めるわよ!この続きであなた達を潰してやる!」
僕達はあれから次期当主と共に客間に戻った。次期当主の優妃は魂が抜けたようにソファに座り込んでいた。今の彼女に話しかけようとする者は居なかった。
「それにしても、この部屋から出なければ死なずに済んだのかしらね。」
「ちょっと、彩芽さん。今はよしましょうよ。優妃ちゃんは傷心してるのですよ。これ以上傷つけるのは可哀想です。」
「あの子は次期当主なのよ!あんな状態じゃ何も出来ないわ!もしも、この部屋にいる生き残りが狙われても指揮が取れないってことよ。」
「確かに今のままだと困るね。優妃ちゃんは的確な指示が出せる子だ。次期当主であり指揮官でもある彼女が動かないのは困るね。」
「蓮司さんの言う通り。はやく復活してもらわないと最悪な事態に対処できなくなる。」
大人達は次期当主の手腕を見込んで自分達を助けてもらおうと考えている。その状況は今の彼女を余計に苦しめることになるだろう。
「ふざけるな!私は失態を犯した!そんな私にみんなを導く資格など無い!」
やっぱり逆効果だった。さらに体を縮こませて体育座りで塞ぎ込んでしまった。その時、突然客間の電話が鳴り響いた。
「優妃様。電話が鳴っていますが、いかがいたしますか?」
その電話に近づこうとする者はいなかった。電話線は切れていて外とは繋がらないはずだし、内線で掛けられる人間もここにいるのが全員のはずだ。その時、優妃が立ち上がり受話器を取った。
「もしもし、誰ですか?」
「きゃーはっはっ!客間にある者達よ!聞こえているか!かなり音量を上げているから聞こえているよな!私は黒月の魔女クロノエルだ!手紙にあった通り貸したものを利子つきで返してもらっているぞ!私を恐ろ!私に恐怖しろ!さぁ、そこにいると全員殺してしまうかもしれないぞ!きゃーはっはっはっ!」
優妃は驚いて受話器を落としていた。その受話器から聞こえてきた魔女という単語とクロノエルという名前に客間にいる者には恐怖を覚えた者もいた。
「皆さん!落ち着いてください!魔女は存在するかもしれない。しかし、この部屋は安全です。鍵がない限り入ることは出来ません。」
僕はそこで疑問に思った。魔女は鍵を持っていないのだろうか?
「僕から質問なんだけど、殺された使用人のマスターキーは全部あったのかな?」
「私が検死した時にはマスターキーは全部あったわよ。何かあるといけないからマスターキーは私が全て回収したわ。」
僕と優妃はホッとした。
「お母様。とりあえず私がマスターキーを預かります。それと今生きている使用人の分も預からせてください。8つのマスターキーがちゃんとあるか確認します。」
優妃はどうやら復活したようだ。再びみんなに指示を与え始めた。次期当主は浮き沈みが激しいらしい。
「8つのマスターキーを確認しました。ですが、犯人がどのような方法で屋敷に侵入して殺人を行なってるのか分かりません。どこか安全な場所があるならそこに移動しましょう。」
「それならゲストハウスに移動してはいかがだろうか。」
「蓮司おじさんの意見を聞き入れます。ここにいても犯人が来る可能性があるなら移動しましょう。」
「莉亜は賛成だよ。」
「芽琉も賛成だよ。」
「それではゲストハウスに移動を開始します!お母様、春香おばさん、蓮司おじさん、城助おじさんは銃を所持して護衛してください。」
若い使用人達よりも経験豊富な人たちを使うのは正しい選択だろう。優妃はやはり指揮官として優秀だ。
犯人に警戒しながら僕達はゲストハウスに着いた。その時、優妃は振り返って驚いた顔をした。
「えっ?蓮司おじさんと春香おばさんと芽亜里と剛座さんと清美さんと美代子さんはどこに行ったの?」
その言葉を聞いてみんなが一斉に振り返ると、確かに後ろにいた6人が居なくなっていた。おかしなことだ。さっきまで一緒にいた人間が消えるなんてありえない。
「私がみんなを探してきます。もしかしたらお屋敷に置いてきてしまったのかもしれません。私が銃を持って行きます。」
「優妃お姉様。莉亜と芽琉もお伴します。」
「僕も行くよ。」
「分かりました。私と莉亜と芽琉と薫の4人で探しに行ってます。」
そして、僕達は消えた6人を探すためにお屋敷に向かった。
第2のゲームも大詰め。怒り狂う魔女見習いを止められるのだろうか?
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第11話
僕達はゲストハウスに向かう途中で姿を消した6人を探してお屋敷に戻ってきた。お屋敷の中に犯人がいるなら無駄だろうと鍵をしてなかったので簡単に入れた。
「ここには居ませんね。客間に残ってしまっているのかもしれない。行きましょう。」
僕達は客間に着くと扉に書かれているものに驚いた。そこには魔法陣が描かれていた。
「優妃お姉様。これは黒月の第5の魔法陣ですね。」
「意味は確か。魔女様は生贄を喜んで受け取りました。魔女様は喜びに満ちた顔で奇跡を起こすだろう。」
嫌な予感がした。優妃は自分のポケットから預かったマスターキーの1つを取り出して扉を開けた。
「なんだこれは。こんなのは不可能だ。あの短時間の間に6人が殺されるなんて。」
「6人とも心臓をひと突きですか。この深さなら即死でしょうね。」
6人は密室の客間で死んでいた。しかし、鍵は全て優妃が所持している。それならどうやって客間の鍵を閉めて殺人を行なったというのだろうか?
「第3の殺人も最悪だね。莉亜もクロノエルと同じであんなことが出来るなんて。」
「きしし、私はもう失態を晒せない。だから、ここまでやらせてもらったよ。さぁ、私があなた達を徹底的に潰してやるわ!」
さぁ、まずはどこから攻めるか。優妃と違ってアリバイは作っているだろう。そこを攻めるのは危険だろうか?
「復唱要求だ。春香、蓮司、芽亜里、剛座、清美、美代子の6人は屋敷から出ていない。」
「復唱要求を受けるよ。『春香、蓮司、芽亜里、剛座、清美、美代子の6人は屋敷から出ていない』ついでに言うと『マスターキーは全て優妃が所持している』だからマスターキーが誰かの手に渡り使われる可能性は限りなく低いと言えるよ。」
「それなら、誰かが集団を離れて6人の気を引きつけて屋敷に留まらせて何らかの方法で客間に連れて行き殺害した。」
「きしし、『優妃、莉亜、芽琉、彩芽、城助、薫、奏太、神威、美紅利の9人はずっと一緒に居た』これだと誰かが離れることは不可能だよ。」
「それなら、死人の誰かが実は生きていて6人を殺害した。」
「なにそれ面白い。『被害者達は確実に死んでいる』誰かが実は生きているなんてことになったら大ごとだよ。」
あの莉亜にここまでやられるなんて何も言うことができない。
「もう限界?それならさらに攻撃させてもらうね。『客間の扉は優妃が開ける前に開けられている』扉に新しいシールを貼って封印してたのにそれが次に確認した時にははがれていた。つまり、6人は一度は部屋を出たのに再び戻ったことになる。」
僕とバアルは戸惑った。クロノエルとは違う手を使ってくる莉亜の対処法が分からない。シールの封印をうまく使う戦い方をクロノエルは使わないから少々厄介だ。
「きしし、さらに言わせてもらうよ。『ゲストハウスの9人は犯人ではない』追加だよ。『被害者の14人は完全に死亡している』お望みなら細かく赤で宣言してあげましょうか?きしゃははは!」
最悪な形になった。この状況ではもうなすすべもなかった。僕にはこれ以上打てる手が無かった。
「きしゃははは!これで終わりですか!負けを認めて魔女を認めますか!」
「バアルと約束した!ここで終わるわけにはいかない!」
「その意思は尊重するよ!それなら第3ゲームで完膚無きまでに叩き潰して汚名返上だ!」
その時、クロノエルがやって来た。
「24時を過ぎた。これにて第2ゲームを終了とする。」
その時、ゲーム盤から何かが燃えるような音がした。そこを見ると烏森全体が炎に包まれていた。なにが起きたのか理解できなかったが、烏森の中から不気味な魔女の笑い声が響くのが分かった。
『南野源蔵。第1の生贄として死亡。』
『南野秋楽。第2の生贄として死亡。』
『南野相馬。第3の生贄として死亡。』
『南野紫音。第4の生贄として死亡。』
『南野優香。第5の生贄として死亡。』
『南野芽亜里。第9の生贄として死亡。』
『南野優妃。魔女の生贄として死亡。』
『南野薫。魔女の生贄として死亡。』
『南野奏太。魔女の生贄として死亡。』
『南野莉亜。魔女の生贄として死亡。』
『南野芽琉。魔女の生贄として死亡。』
『南野春香。第9の生贄として死亡。』
『南野彩芽。魔女の生贄として死亡。』
『南野蓮司。第9の生贄として死亡。』
『南野城助。魔女の生贄として死亡。』
『露御寺隼人。第6の生贄として死亡。』
『神威。魔女の生贄として死亡。』
『美紅利。魔女の生贄として死亡。』
『弥勒。第7の生贄として死亡。』
『業。第8の生贄として死亡。』
『桐崎剛座。第9の生贄として死亡。』
『照間清美。第9の生贄として死亡。』
『安藤美代子。第9の生贄として死亡。』
新たな思いを胸に戦う者達が現れた。一方は恋を成就させるために戦い、もう一方は復讐のために戦う。屈辱を与えられた魔女見習いは暴走する。
烏森の魔女ゲーム。第2ゲーム。生き残れた者なし。
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第2のお茶会
僕は薔薇庭園にバアルと一緒に来た。薔薇庭園の真ん中辺りにあるベンチに2人で腰をかけた。
「薫様、第2ゲームお疲れ様です。」
「ねぇ、バアル。クロノエルは魔女として完成するまでにあとどれくらい掛かるかな?」
「第2ゲームを終えた時点でかなり魔力が上がっていました。多分、第4ゲームには完成すると思います。」
あと2ゲーム以内に倒さないと魔女として本気で動き出せるというわけか。
「そういえば、第2ゲームの最後に烏森が燃えてたけどあれはなんだい?」
「噂くらいは聞いたことがあるのではありませんか?烏森は地面に油を流されている菅が無数にあり、一箇所で火をつければ全てを焼き尽くすことが出来るという噂を。」
確かに聞いたことがある。お祖父様が何かあれば全てをなきものにする覚悟あることも知っている。カラクリや兵器、武器、そういう物に精通している策士とも言えるあの人は戦争をしていた頃に作戦をいくつも立ててきた凄腕の人物だ。
「薫様、ちょっと失礼します。」
バアルはそう言って少し離れたところに行った。
「イポス!アイム!隠れてないで出てきなさい!」
バアルは大声で叫んだ。かなりの大声だ。近くにいたら高確率で鼓膜が破れるだろう。」
「バレましたか。」
「僕にはバレる未来が見えてたよ。」
「そんな未来が見えてたのなら言ってよ。」
「僕はアイムが困った顔が見たかったんだ。」
「全くイポスはいたずらっ子だね。」
薔薇の中から悪魔の女性が2人出てきた。
「イポス、アイム、72柱の22位と23位が何の用ですか。」
「いえ、カオル卿のお手伝いをしようかと思いまして。」
「ついでにお役に立てた時には契約もしてもらおうかと。」
どういうことだろう。僕と契約したいなんて意味がわからない。
「もしかしてカオル卿は知らないんですか?」
「えっ?何を知らないっていうんだい?」
「カオル卿は魔術師の才能があります。あのクロノエル卿が手出しを出来ないのは知らぬ間に防衛魔法を発動してるからです。」
あり得ない。それなら僕とクロノエルが戦う意味がなくなる。
「カオル卿。あなたはまだ人間です。魔術師になるにも元老院クラスの魔女が後見人になっている必要があります。ですが、嫉妬の魔女様はあなたをすごく気に入っています。クロノエル卿を倒さないと思ったらすぐにでも魔術師にして対等にやり合えるようにしてくれるそうです。」
「それはいいね。魔女を倒すのに魔術師の力を使うなんて、実に愉快だ。面白い。」
「薫様。私も2人と同じでそれくらいしないといけないと思います。あくまで最終手段として手元に置いておきましょう。」
「バアルがそう言うならそうしよう。」
その時、少し離れたところから声がした。
「あれ?まだ魔術師にならないの?魔女を嫌うあなたに嫉妬するよ。」
声がした方向を見ると見覚えのない人物が立っていた。
「あなたは一体誰ですか?」
「私は嫉妬の魔女アルクレア。私が後見人になってやるってのに、あくまで人間として戦おうとするなんて嫉妬するわ。」
「どうして僕の後見人になろうと思ったんですか?」
「クロノエル卿は死も破壊も崩壊も支配する大魔女。だから私は嫉妬してるんですよ。嫉妬の根源は潰さないと。」
「なるほど、薫様はクロノエル様の対戦相手だから、それを利用しようと言うわけですね。」
「利用なんて人聞きが悪い。私はただ応援したいだけですよ。」
怪しい。魔女は人を騙して手駒にして遊ぶ。最後は無残に切り捨てる。そう言う話をバアルから聞かされていた。
「もしかしなくても私って信用されてませんよね。それじゃあ、今回は仕方ないからここらで失礼しますよ。でも、魔術師の力が必要になったら呼んでください。いつでも後見人になるわよ。」
アルクレアはケタケタと笑いながら姿を消した。
「カオル卿、私とアイムはいつでもあなたの力になります。破滅の七姉妹に対抗するなら、未来予知と炎の魔法は役に立つと思います。」
「それに私の知恵を与える力を合わせれば強力なものになると思います。」
知恵と未来予知と炎。確かに3つ合わせれば役に立つだろう。悪魔同士の戦闘ならアイムは炎は強力だ。それにイポスの未来予知で作戦も立てられるだろう。これは契約しておいた方がいいだろう。
「君たちの力が役に立つのは分かった。それなら契約しよう。」
「ありがとうございます。カオル卿。」
「カオル卿のお役に立てるように努力します。」
こうして僕にはまた仲間が増えた。魔術師の才能があったとしても何の魔術師なのか分からないと困るものだ。
新たな味方を増やしたカオル。それでも、魔女に勝てるか不安が残った。
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裏お茶会
第2ゲーム終了後の魔女の喫茶室。
「まったく、せっかく任せてあげたのにあんなヘマをするなんて、莉亜にはガッカリしたわ。」
「クロノエル様。第3ゲームは私にお任せください。私一人でどうにかしてみせます。」
「第2ゲームの後半でも危うい戦い方をしていたクセに、あなた一人でどうにかできるのですか?きゃははは!あんたなんかに出来るわけがないでしょうが!」
私は思いっきり莉亜を蹴っ飛ばした。蹴られた莉亜は勢いよく地面に叩きつけられた。莉亜は涙目で私に頭を下げた。
「申し訳ございませんでした。黒月の魔女見習いの名に恥じぬよう戦いますので、もう一度私にチャンスをください。」
「まぁ、いいでしょう。第2ゲームの最後にはなかなかいい戦いをしてたからもう一度チャンスをあげましょう。今度無様な姿をさらしたら黒月の魔女の弟子をやめてもらうわ。すでに芽琉は別の魔女によって祝福の魔女メルヘリアになっている。あなたが弟子をやめても私には痛くもかゆくもないわ。」
「私は芽琉のようにクロノエル様を裏切るような真似はいたしません。クロノエル様の期待に添えるように努力します。」
「期待なんてしてないわ。私は前のゲーム盤を片付けに行ってくるわ。第3のゲームのトラックとかちゃんと考えなさいよ。」
そう言ってクロノエルは姿を消した。
「うぅ。どうして私がこんな目に。魔女の弟子がこんなに辛いなんて。うわーん。」
私が泣いていると陰から声がした。
「あらあら。可哀想にまだ小さいのにあんなにも酷いやり方で育てようとするなんて。クロノエル卿はなかなか最低な魔女ね。」
「えっと、あなたは誰ですか?」
「私は絶望の魔女ヘルケイズよ。あなたの様子はずっと見てたわ。可哀想に、イカれた黒月の魔女の弟子になったせいで傷つけられてしまって、祝福の魔女メルヘリア卿も心配していましたよ。」
私は何が何なのか分からなくなっていた。いろんな情報を一度に聞きすぎた。
「えっ?芽琉を知っているのですか?第2ゲームの途中で弟子をやめて行方をくらましたのに会ったんですか?」
「私は彼女を知っているし会ったわ。彼女の後見人は私よ。私のおかげで芽琉は祝福の魔女になれたのよ。あの子は宣言していたわ。莉亜が勝利して祝福されることをここに宣言すると言っていたわ。」
「私を置いていってた奴なんかに祝福されたくないわ。私はあの子にも屈辱を与えられた。それなら同じくらいの屈辱を私が与えてやる!」
「あっははは!それは面白い。それならあなたの後見人に私がなって屈辱の魔女と復讐の魔女にしてあげるわ。」
私はヘルケイズ卿の誘いを受けるべきか一瞬迷ったが、そんなことを迷う必要などなかった。私に屈辱を与えた芽琉と薫とバアルには復讐をしたかった。それなら迷うことはない。その力を貰おう。
「ヘルケイズ卿。魔女になってからそれを隠すことは可能ですか?しばらくはクロノエル様を騙しておきたいんです。」
「あなたがちゃんと出来るなら隠せるわ。そして、いつでも魔女として動けるようになるわ。」
「それならヘルケイズ卿に後見人をお願いします。今すぐに屈辱と復讐の2つの称号を私にください。」
「分かったわ。南野莉亜を屈辱と復讐の魔女であることをここに認めるわ。」
その瞬間、私の姿が変わりドス黒いドレス姿になった。髪は後ろで一本に大きな赤いリボンで結ばれた。
「これで私も魔女の仲間入り。でも、しばらくは隠さないといけない。しばらくは黒月の魔女見習いの姿で居よう。」
そうして魔女の姿から魔女見習いの姿に変えた。
「おめでとう。屈辱の魔女リアボリス卿。あなたが魔女になれたことを心から祝福します。」
「ありがとうございます。私は第3ゲームの支度をしないといけないのでそろそろ失礼します。」
そう言って私は魔女の喫茶室を後にした。
「クスクス。これでアルクレアとの賭けに勝てるかもしれないわ。絶望の魔女として宣言するわ。薫が勝つことなど絶望的にあり得ないわ。クスクス。」
そして、魔女の喫茶室には誰も居なくなり、第3ゲームの支度が進められた。
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