とある科学の《絶対零度》 (魔王の後継者)
しおりを挟む

prologue
01 能力開発


主人公  御桜(みさくら) 蒼(そう)

現在中学二年生
日本人




 

 

「蒼く~ん」

 

 

呼ばれて、振り返る。

するとたくさんの子供たちが其処にいた。皆、一様に笑顔を浮かべて聞いてくる。

 

 

「蒼君、超能力者になるって本当?」

 

「本当なの?」

 

「すごーい!」

 

「何だ、その話か。……才能が有ったらな。なれるかも知れないらしいぞ?」

 

 

この町は子供が多い。

昨年病気を患って療養に来て以来、この町の人には良くしてもらっているのだが、とりわけ子供たちはよく俺のところにやってくる。

いつの間にか周りにいて、よく迷惑をかけてくるのに何故か元気をくれる子達だ。

 

 

「じゃあ大丈夫だね!」

 

「蒼くんだもん!」

 

 

そして根拠もなく俺を信頼している。

そして何よりも何故か俺に異様に懐いている。

 

 

「でもこの町を出ていっちゃうんでしょー?」

 

「えー?それは嫌だー!」

 

「いなくなっちゃうの?」

 

 

子供は勝手だ。

基本的に自分のことを中心に考えていてそれでいて言っていることはめちゃくちゃだ。

学園都市に行かずにどうやって能力者になれっちゅうねん。

 

 

「……まあたまには此処に来るよ」

 

「本当!」

 

 

ただこういう風に満面の笑みを浮かべられるとどうにも……嫌いになれないんだよなー

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

「……何か数日前の事なのに懐かしいな」

 

 

あれから数日、遂に学園都市に到着。

思ったことといえば人が多い。

学生が多い。うん。それくらい。

 

 

町を出る前夜にみんなが送別会をしてくれたのだが嬉しかった。

しかしながら食い過ぎてリバースしてしまうという情けないこともありました。

今となってはすでにもう思い出です。

 

んでー、あー、今は、あー、

……怖い。

 

今アレだ、所謂手術台の上に寝てるの。

今更怖くなってきたわけです。

 

これから無能力者(レベル0)にしろ超能力者(レベル5)にしろ、ただの人では無くなるわけだ。何よりも頭の中いじられるということが怖い。

まあ今更どうにもならないが。

 

本来俺は昨年くる予定だったのだが病気を患って来ることができなかったのだ。

だからといってなにが変わるわけでもないのだが……

 

さて眠気も襲ってきたし……お休み。

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

そしてさらに数日経ち、術後の経過観察終了。

この後の能力測定で自分のレベルが分かるわけだ。

高望みはしていません。レベルは1あれば満足。2あったら大喜びするよ。

一応今日測った結果が正確かどうかは分からないから数日後に再測定するらしいけど。

 

因みに未だこの町に来て外をほとんど歩いていません。

何か色々見て回りたい物とかあったのになー。

この後の能力測定が終われば遂に外にでれる。それが嬉しくて仕方がないのです。

だってアレですよ?この都市って世界で一番科学が発達してるところですよ?あちこち見て回りたいじゃないですか!

あの子達に写真送るって約束もしたし!

 

 

「それでは始めますよ」

 

 

始まるらしい。

と言うことでまた後で。

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

結果が出た。

そしてその内容を見て蒼は驚愕する。

 

 

「……うおお、まじですか」

 

 

いや~驚いた。まじですか。

いやいやいや、でもこれはー、予想外。

 

 

 

 

 

  能力測定結果

 

  ――level4

 

 

 




とりゃー!
何となく書き始めました。
禁書目録は立ち読み派、超電磁砲は妹に借りる派の作者です。
アニメは一応ova以外は見てます。
アニメオリジナルのところはやるか分かりません。
でわまた読んでいただけたら幸いです。

誤字脱字、意見、アドバイスありましたらお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 超能力者【レベル5】

 

能力測定結果

 

大能力者(レベル4) 停止能力

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

「……俺が、……レベル4?」

 

 

初の能力測定結果を見て蒼は驚愕していた。

というか激しく狼狽していた。

 

能力開発を受けても約50%の学生がレベル0、つまり殆ど能力が使えない人達であり、おおよそ自分もレベル0またはレベル1程度だと思っていたのだ。

喜びなど当の昔に通り過ぎて困惑しているのである。

 

あの後能力に関して色々な説明を受けその後研究所をでたものの、その内容はあまり頭にはいっていない。

なにを血迷ったかまた子供の面倒を見ていたくらい混乱している。

今もクレープの屋台に並んでいるが特になにも考えてはない。

なにを注文するのかすらだ。

ぼーっとしているといつの間にか俺の番が回ってきていた。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

どちらになさいますか?と聞かれたので取りあえず無難そうなのを指さして頼む。

そして商品と一緒にカエルをデフォルメした何かかわいらしいストラップをもらう。

 

 

「申し訳ありませんが先ほどの方でゲコ太ストラップの配布は終了です」

 

 

ドサリ、と音がしたので振り返ると制服を着た女の子が膝を突いて絶望したような表情を浮かべていた。

 

 

「……大丈夫ですか?」

 

 

すると女の子が顔を上げて呟く。

 

 

「……ゲコ太ぁ」

 

 

……ゲコ太?

蒼は少し考え、思いつく。

ああ、あれか。さっき貰ったストラップのことか。

 

 

「……えーと、良かったらコレ、あげます」

 

「え、良いの!」

 

 

女の子はぱあっと表情を明るくし、聞いてくる。

そこまでほしかったのか。

 

 

「別にこれが欲しくて並んでたわけじゃないですしね」

 

 

ストラップを渡す。

 

 

「ありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

「良かったですね。御坂さん」

 

 

横から女の子が言う。

ミサカ?どこかで聞いたような……まあ良いか。

 

 

「おにーちゃん!もっかい遊ぼ!」

 

「……これ食べ終わったらな?」

 

 

あれだよ、きっと俺子供に好かれる体質してるんだよ。

ほらまたにこにこ笑顔。

どうするのが正解なのかは分からない。

 

 

「うんわかった!」

 

 

しかし、まあ物分かりの良い子が多いなこの街は。

あの町の子供は非常に物分かりが悪かったからな~。

とりあえずベンチに座ってクレープを食べる。

 

まぐまぐまぐ。うまい。

クレープは食べたことがなかったが美味しいものだな。

 

食べているとさっきの女の子達とさっきいなかった二人の四人組がやってくる。

何か二人増えたな。まあいいけど。関係ないし。

と思っていたらそのうちの一人が話しかけてきた。

 

 

「先程は私のお姉様がご迷惑をおかけしたようで」

 

「誰があんたのよ!」

 

 

ほう、つまり……

 

 

「レズビアン?」

 

「違う!!」

 

 

怒鳴られた。怖っ。

 

まあそれはそれとして、

 

 

「別に気にしてませんよ?あのストラップが欲しくて並んでたわけじゃないですしね」

 

 

そんな話をしていると花を頭に着けた女の子が話しかけてくる。

 

 

「あの、子供お好きなんですか?」

 

 

……アレ?子供好きなの俺?

うーん。分からん。

 

 

「……分からないけど、うーん。まあ数日前この学園都市にくるまで居た町は子供が多かったからな~。その影響かも知れないけど何故か子供にかまっちゃうんだよね」

 

「そうなんですか~」

 

 

ぽわーっとした顔で考えている。

なにこの子ちょっといじりたくなる顔してるな。いじらんけど。

 

 

「あ、申し遅れたわね、私は御坂御琴、常盤台中学二年生よ」

 

 

御坂が丁寧に自己紹介してくる。

 

 

「じゃあ俺も自己紹介させてもらうね?俺は御桜 蒼、よろしく」

 

「私は白井黒子、お姉様の唯一無二のパートナーですの。常盤台中学一年生ですの」

 

「私は佐天涙子です。柵川中学一年生です」

 

 

……ん?柵川中学?そこって……

 

 

「柵川中学?そこ確か俺が編入するとこだったような?」

 

「「ええっ!」」

 

「わ、私も柵川中学です。柵川中学一年生、初春飾利です」

 

 

おお……偶然だ。すげー。

 

柵川中学は別に特別何かが有るわけではない普通の中学校だ。

レベルが判明したときもっと他の学校にしたらどうかと勧められたくらいだ。

レベルが高ければ良い学校にいけるとか何とか。

別に良い学校にいけるとかそういうことに興味がある訳じゃないからどうでも良いことだけれど。

 

 

「ぐうぜんですねー、あれ?」

 

 

ん?どうした?

 

そこで花飾りの少女……初春が何かに気づく。

 

 

「あそこの銀行何で昼間から防犯シャッター閉めてるんですかね?」

 

 

んー?あ、本当だ。確かに少し変ではあるなぁ。

 

 

「あれはー、銀行が休みなのか銀行強盗が来たときの訓練とかじゃない?」

 

「そうですかね?」

 

「もしくはー、本当に銀行強盗が来てるか」

 

 

全員が固まって唖然とする。

別に考えられない可能性じゃ無いだろうに。

 

 

「ま、まさかー」

 

 

信じられない。そう言った表情を浮かべて佐天が否定しようとした瞬間。

シャッターが爆発した。

 

 

「うわ」

 

「「!」」

 

「えっえっ?」

 

 

そして当然次の瞬間広場はパニック状態になる。

 

 

「初春は怪我人の有無を確認!お姉様と佐天さんと御桜さんはそこにいて下さい!」

 

 

白井が指示を出す。

 

 

「はい!」

 

「えー」

 

 

初春が即座に返事をし、御坂が不満を漏らす。おいおい。

見ていると、白井が腕につけていた腕章を相手に見せる。

 

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!」

 

 

ジャッジメント?たしか学生から有志で募った治安維持の団体だっけ?

まあいいや。白井はその風紀委員なわけだ。

 

うおお、相手が手から火を出した。

発火能力者(パイロキネシスト)ってやつだ。すげー。

 

その後あっという間にその能力者を制圧してしまった。

いやー、すごいな。

 

……あれ?佐天はどこに行った?

 

 

「!」

 

 

居た!

強盗につかみかかっていってる。

子供を庇って、か。

良い覚悟してるな。

 

 

「くそっ!」

 

 

強盗が佐天の顔を蹴ろうとしたしかし、その蹴りが届くことはなかった。

 

 

「うん?足の方を止めようとしたんだけどな」

 

 

強盗の足が止められたわけではない。

足の前の空間が停止し、不可視の壁ができ、蹴りを阻んだのだ。

 

 

「ちっ」

 

「黒子!こっから私の喧嘩だから手……出させて貰うわよ?」

 

 

佐天を蹴ろうとした強盗にキレた様子の御坂が横を通るときすれ違いざまに呟く。

 

 

「ありがとね」

 

 

うん?ああ、あれか。

 

 

「思い出した!」

 

 

捕まえられた強盗が騒ぎ出す。

思い出した?なにを?

 

 

「風紀委員には捕まったら最後!身も心も切り刻み、再起不能にする極悪テレポーターがいるという噂!」

 

 

え?マジで?

 

 

「それだけじゃねえ!その極悪テレポーターを虜にする最強の電撃使い……あの超電磁砲!」

 

 

超電磁砲(レールガン)』?たしかレベル5の第三位の……

 

 

「電気!まさか!?」

 

「ええ、あの方こそが学園都市230万人の頂点7人のレベル5の第三位」

 

 

御坂がコインを打ち上げそれが放物線を描く。

そして強盗犯が乗っている車が前に御坂が居るにも関わらずアクセルを踏み、突っ込んでいく。

おいおいなにもみんなしてないけれど大丈夫なのか?

 

そして次の瞬間、前に撃ち出されたコインは一気に加速し、閃光となる。

 

「『超電磁砲(レールガン)』御坂御琴お姉様。常盤台中学が誇る最強無敵の電撃姫ですの!」

 

 

 

 

 

 

通りで聞いたことがある気がしたのか。

 

……学園都市に来ていきなり凄い娘と知り合ったな俺。

 

 

 

 




ヤッホー。
山は危険だと思う作者です。

今回まではプロローグ的なものです。

次から本編にはいる予定です。

別に蒼くんはロリコンではないです。
子供に甘いだけ。

誤字脱字、意見、アドバイス、感想ありましたらお願いします。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 停止能力【オールストップ】

雲一つ無い空。

鮮やかな青色を見せる空とは対象的に少年は気分が悪かった。

大通りを歩けば側溝に足をつっこみ、路地裏のような細い道を通れば道に迷い、その他数々の不幸に見舞われ少年――御桜 蒼は非常にローテンションになっている。

今朝方荷物が届き、荷解きが終わったところまでは良かったのだが、その後周辺の散策がてら散歩に出かけたらこうなったのだ。

 

今日は厄日というやつだなー。と思いつつ若干顔をしたに向け、歩く。

 

歩いていると数人のガラの悪そうな男性が横並びで歩いてくる。

迷惑な奴らだ、と思いながら道の端により、通過するのを待つ。

蒼の横を通ったそのとき、一番は端の人物が蒼に肩をぶつけた。

今のは明らかに相手がぶつけてきたため注意しようかと一瞬迷うも、面倒事は避けた方が良いと前を向き、立ち去ろうとする。

 

 

「おい、ちょっと待てよ」

 

 

しかし、肩をぶつけた男が蒼を引き留める。

馬鹿なのかーと思った。

明らかに自分からぶつかってきておいて相手を喧嘩口調で引き留めるなどと。

 

 

「お前人にぶつかっといて謝罪も無しかよ」

 

「…………」

 

 

やはり馬鹿なのか、と思い踵を返し立ち去ろうとする。

当然その態度は相手の鼻につき、怒らせる。

 

 

「てめぇ!シカトこいてんじゃねぇぞ!!」

 

 

柄の悪そうな奴Aが殴りかかってくる。

 

蒼はそれを意に介すことなく捌き、腕をつかみ足を払って投げ飛ばす。

 

ドサリと音を立てて落ちた相手がきちんと受け身を取ったことを確認しつつ他のガラの悪そうな人達に向き合う。

 

 

「あの、流石に横に避けて立ち止まってる人に自分から肩をぶつけていちゃもんをつけるのは無理があると思いますよ?……それと細身の人が必ず弱いとは思わないことです」

 

 

仲間の中で一番大柄なAが投げられたことが信じられないのかぼーっとしているガラの悪そうな奴B~Fを置いてその場を立ち去った。

……やはり今日は厄日だ。

 

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

 

先日も思ったがやはり実は俺は子供に好かれやすい体質なのだろうか。

公園のベンチに座っていたら、話しかけてきた子供が居たので適当に話をしていたらいつの間にか子供が集まってきて遊びに参加することになっていた。

 

鬼ごっこに始まり、増やし鬼、缶蹴り、エトセトラ、エトセトラ。色々やったんです。

しかし、色々やると手加減することでよけいと体力を使っているこちらとしてはそれなりにキツいわけでして、ベンチで再び休憩、と言うわけです。

 

 

「だぁーっ、あっつー!少し休憩とりましょう」

 

 

隣のベンチから聞き覚えのある声が聞こえる。

横を見てみるとそこには。

 

 

「あれ?御坂、何してるの?」

 

 

超電磁砲(レールガン)』御坂御琴がそこにいた。

風紀委員の腕章をつけて。

記憶が確かなら御坂は風紀委員では無かったはずなのだが。

 

 

「探し物よ、子供用のカバン。見なかった?ピンク色で花の柄が着いたやつ」

 

 

少し考え、そして気が付く。

 

 

「あれじゃないの?」

 

 

そして指を指す。

 

 

「「え?」」

 

 

茂みから出てきた犬を。

 

そして御坂の横にいた人が言う。

 

 

「あれよ!あの犬捕まえて!」

 

 

そして、次の瞬間犬の動きが止まる。

 

 

「……捕まえれば良かったんだよね?」

 

「うん……」

 

 

何かよくわからないまま停止能力を使い、犬の動きを止めた蒼だった

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

あの後白井と初春がバックの持ち主の女の子を連れてきてバックを私一件落着した。

御坂は最近噂の虚空爆破(グラビトン)事件に関連しているものだと思っていたらしくそれで必死になって探していたらしい。

バックが戻ってきた女の子が嬉しそうなのは良かったのだが、問題は今風紀委員でも無い俺がこの子を送っていくことになったことだ。

この子のすんでいるところが俺のすんでいるとこの近くらしいが……いや、もういいや。

その件の女の子はカバンが戻ってきたのがよほど嬉しかったらしくくるくると回っている。

それをぼーっとみながら歩いていくと、女の子が工事現場に入っていく。

 

 

「お、おい!危ないぞ!」

 

 

建設中の建物の下の小さな花を摘み取ろうとしていた。

――――次の瞬間。

 

ガラァン!!!!

 

 

「えっ?」

 

 

大きな音を立てて屋上の鉄骨が崩れた(・・・・)

 

 

「!!」

 

 

鉄骨が落下し、少女の上へと落下していく。

 

助ける!?どうやって!?間に合わない!?停止させる!?出来るのか、あれだけの質量を持った物体を!?

焦った蒼の頭には研究者の言葉がフラッシュバックしていた。

 

(君の能力では広範囲、そしてかなりの数の物を停止させることが出来るが、大質量の物を停止させることが出来ない。そして小さすぎる物も、特に目に見え無いくらい小さい物を停止させることは出来ない。それを覚えておくと良い。)

 

あの研究者はそう言っていたが……………………出来なくてもやるしかない!

 

 

止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ

 

 

「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれえええええええぇぇぇ!!!!!」

 

 

能力の強さは演算能力の高さと速さで決まる。

ならば当然必死になり今までにないほどに集中していた蒼が、本来持ち得ないほどの能力を発揮し、鉄骨を停止させたのは必然だったのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

 

「うえ……」

 

 

鉄骨を停止させ、あの女の子を助けられたのは良かったのだが頭が割れるようにいたい。驚いて長時間止めすぎた。

女の子が声をかけてくるまで気付かずに能力を使い続けてたからな……

まあしばらく声をかけられているのにも気づいてなかったから二十分位かな。

とりあえず重いものも停止させられる……みたいだよな?

女の子はちゃんと送り届けたし、もう暗いし、帰って……寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




くるっくー!

夏休みの宿題が終わっていない作者です。

何だかんだ言っておきながら本編は次回からですごめんなさい。

と言うことで次回からレベルアッパー編です。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻想御手≪レベルアッパー≫
04 虚空爆破【グラビトン】


 

――――――学園都市 とある研究所

 

一人の男がデータをチェックしていた。

 

 

「主任?そのデータがどうかしたんですか?」

 

「ん?ああ、少し、ね」

 

 

そう言いながらデータを一つ一つ確認していく。

そこで隣の研究者が気づく。

 

 

「あれ?このデータ、数値の割に……」

 

「気づいたかい?このデータ数値の割に能力が反映されていない。つまりこれは加減がされていると言うことだ」

 

「数値から見ればそうなんですけどでも加減する意味ってありますかね?」

 

 

そう言われた男は笑う。

 

 

「ああ、今の言い方だと意図的に聞こえるのか」

 

「と、言うと?」

 

 

男の含みを込めた言い方に研究者は疑問符を浮かべる。

 

 

「この加減は意識的にされたものではなく、無意識に行われた物だと言うことだ」

 

「それは結構危険なのでは?加減が無くなったらどうなるか……」

 

「なので加減がはずれないように重さと細かさについて制限をかけておいた。ああ、勿論次の能力測定の時には外すつもりだよ」

 

 

ふふふ、と言う笑い声はそのまま闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

青い空、高いビル、そしてそれとは一切関係なく部屋で枕に顔を埋める俺。

 

みなさんこんにちは、御桜 蒼です。

転校初日は疲れます。学園都市でもそこは普通の学校と変わりません。

初日は何とか切り抜けました。

激疲れました。

もうこのまま寝よう。

 

ピンポーン

 

インターホンが鳴る。

誰か来たなー。

起き上がり、玄関に出る。

 

 

「はい、ってああ、君か」

 

 

昨日の鞄の子だ。

あの後異様になつかれている。

 

 

「うん!おにーさん!ここいこ!」

 

 

そういってチラシを渡される。

セブンスミスト?洋服店か……

そういえばあんまり服持ってないな。ついでに買うか。

 

 

「いいよ。行こうか」

 

「わーい!」

 

 

と言うことで行くことになりました。

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

さーて。ふう。

 

…………………………此処はどこだ……

分かったのは昨日迷ったのは厄日だったからと言うわけではないらしい。

極度の方向音痴の様だ。俺は。

あの子はチラシの地図を見ていたからおそらくたどり着いているだろう。

とりあえずまあ、はぐれましたー。

此処はどこ?セブンスミストってどこにあるの?

さて、どうしますかねー。

うむー。やっぱり人に聞くのが無難ですよね。

うん。

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

とりあえず何とか着きましたセブンスミスト。

道に迷い、人に尋ね、最短距離の倍以上の距離を歩き遂に着きました。

ぐねぐねぐねぐねと迷い続けました。

普通に迷うような道ではないのだが。

とりあえず中に入ってあの子探しますか。

一階を見て回り、次に二階を見て回る。

いないなーと思いながら三階にあがる。

あ、いた。ツンツン頭の男の人と一緒にいるな。あの人が連れてきてくれたのかな?

というか鏡の前にいるの御坂?

 

 

「おーい!」

 

「あ、おにーさん!」

 

「あ、御桜」

 

「だれ?」

 

 

やはり御坂か。

まあその手に持ってるパジャマの趣味に関しては何もいわないで置こう。

 

 

「えーと、ほんとはその子と一緒に来る予定だったんですが俺の方向音痴のせいではぐれまして」

 

「ああ、おにーさんが消えた!とか騒いでいたのはそう言うことか」

 

 

そんなことになっていたんですね……

まあ突然居なくなれば騒ぐね。うん。

 

 

「ごめんね。道に迷った」

 

「おにーさん迷子?」

 

「うん」

 

 

そういえばよく迷子になったんですよね俺。

やまにいってそうなんしたこともありましたー。

 

 

「おにーさん?」

 

「あ、ごめんぼーっとしてた。此処にしばらくいるからみたい服見てきたら?」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

 

ふむ。とりあえず今日の教訓は女子の買い物は大人子供に関わらず長い!

今はお手洗いに行っているが俺の服は五分ほどで買い終えたのにこの子は俺が来る前から選んでいたはずなのにきまったのは俺より遅いとは……

うむ。買い物は出来るだけ避けよう。

 

ちなみに初春と佐天もいました。

なかなかに話し込んでしまいました。

と言うかさっきから初春は電話してるし、あ終わりました?

 

 

「御坂さん!御桜さん!」

 

「ん?」

 

「はい」

 

 

初春が焦った様子で二人を呼ぶ。

 

 

「例の虚空爆破事件の続報で、この店が次の標的らしくて……」

 

「なんですって!?」

 

「……本当ですか!?」

 

 

虚空爆破!?ようは爆弾だよね!?

 

 

「お二人は避難誘導に協力してもらえますか?」

 

「分かったわ!」

 

「了解です」

 

 

三人で避難誘導をしていく。

若干の混乱もある中避難誘導をあらかたすませて二人と合流する。

 

そういえば

 

 

「あの子見ませんでした?」

 

「え?まだ戻ってなかったの!?」

 

 

二人でおろおろする。すると電話をしている初春の所にあの子が戻ってくる。良かった。

すると御坂があの子が持っているカエルのぬいぐるみを睨みつけている。

ん?カエルのぬいぐるみ?

 

 

「おねーちゃーん。メガネをかけたおにーちゃんがおねーちゃんにわたしてって」

 

 

携帯を持ったまま初春がほっとしたのも束の間、次の瞬間ぬいぐるみが収縮を始める。

そしてそれに気づいた初春がすぐさまぬいぐるみを投げ捨てその場から飛び退く。

 

 

「逃げて下さい!あれが爆弾です!」

 

 

爆弾!?アレが!?ぬいぐるみの中とかえげつない!

 

とっさに御坂がレールガンを撃ち出すためにコインを出そうとする。

しかし、

 

 

「!?」

 

 

焦った為かコインを落としてしまう。

 

アレでは間に合わない!

 

こうなったら俺が…………どうする!?

と言うかどうやって止める!?爆弾自体を停止させても収縮した状態だと粒子が戻ろうとするから解除した瞬間爆発するし移動もさせられなくなるしかえってだめだ!

粒子の収縮を止める!?止めたところで結果は同じだし!と言うか分子以下の大きさの物質は停止出来ない………………粒子の停止?確か熱はあらゆる原子の振動で発生している。ならその熱運動を停止させれば爆発を抑えられるのでは……

細かい物の停止だって出来ないと言われた大質量の物質の停止が出来たんだ!こっちにも可能性は有る!!

 

 

「より細かく、より細かく、より細かく!……止まれぇぇぇ!!!」

 

 

爆弾が爆発した瞬間辺りは冷気で包まれ、爆弾の辺りが銀世界と化していた。

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

とりあえず。

出来ました。熱運動の完全停止。

なんかできないって言われたことが次々出来るなー。

能力が定まってきたから、とかなのかな。

まあいまいち良く分からないがいいや。

あの後御坂がどこからか一連の虚空爆破事件の犯人を捕まえてきた。

一連の事件は風紀委員を狙った物だったそうです。くわばらくわばら。

 

それにしても熱運動の完全停止、と言うことはあの瞬間あの場所は絶対零度に達したと言うことだ。危険だな。出来るだけ使うのは避けるようにしようと思いながら立ち上がる。

するとそこに美琴がやってきた。

 

 

「いいの?何かみんなあの場を救ったのは私だと思ってるみたいだけど。今名乗り出ればヒーローよ?」

 

 

それを聞いて蒼は笑う。

 

 

「あはは、別にヒーローになりたくてやったわけではないですし、目立ちたくないのでこのままの方が俺にとってもいいんですよ」

 

 

笑いながら言ってはいたが全く嫌みには聞こえず、寧ろ、美琴は破顔した。

 

 

「そう、ならいいわ」

 

 

笑顔を浮かべながら言う美琴を視界に写しながら思う。

 

そう、別に手柄が欲しいわけではない。

俺が欲しいのは………………平穏、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっほー!どあっほー!

風邪気味で熱がでている作者です。

第4話でしたー。今回から幻想御手≪レベルアッパー≫編です。
次回更新はいつかは分かりませんがきちんと更新しますのでよろしくお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05 暴走愚妹【みさくら のどか】

 

風紀委員(ジャッジメント)一七七支部

 

初春と白井、そしてその先輩の固法が仕事をしていた。

その最中、固法が思い出したように口を開く。

 

 

「そういえば、この支部に新しい風紀委員が入ることになったわ」

 

 

この支部は十分人が足りていることを考え、二人の頭に疑問が浮かんだ。

 

 

「……え?」

 

「新しい人ですの?」

 

「ええ。別の学区から転校してくるのにあわせてうちの支部に入るそうよ。今日の夕方に来るそうだからその時に初顔合わせになるわね」

 

 

転校、となんとなく納得する。

 

 

「初春さんと同じ柵川中学に入る一年生だそうよ」

 

「一年生?」

 

 

新しい情報で新しい疑問が浮かぶ。

入学したばかりの一年生が夏休みに転校は少し速すぎるのではないかと。

 

 

「まあ詳しくは本人に聞いて頂戴ね」

 

 

そう言って話を打ち切り、三人は仕事を再開していった。

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー」

 

 

午後五時。

風紀委員一七七支部に俺、御桜 蒼は来ていた。

件の新メンバーをお連れするためである。

 

 

「あれ?御桜さん?話していた新しい人って御桜さんだったんですの?」

 

「そうなんですか?」

 

 

白井と初春が言った言葉に蒼が笑いながら答える。

 

 

「いや、違いますよ。俺は連れてきただけです」

 

 

それを聞いて初春の肩が少し落ちる。

それに気付いた白井が話を切る。

 

 

「それで?新人さんはどちらですの?」

 

 

すると話が聞こえたのか奥から固法が出てくる。

 

 

「あ、もう新人さんがくる時間だったのね」

 

 

そして、蒼がいることに気づく。

 

 

「あれ?この人は?」

 

 

それを初春がフォローする。

 

 

「この人は私と白井さんの知り合いで、新人さんを連れてきてくれたそうです」

 

「ああ、そういうこと。ありがとうございます。じゃあ新人さん、入ってきてくれる?」

 

 

初春のおかげでささっと紹介が終わり、固法が新人を呼ぶ。

 

 

「はい」

 

 

返事をして入ってきたのは長髪のきれいな黒髪が特徴の女の子だった。

やや高めの背に整った顔立ち。鋭い目つきが隣の蒼とよく似ている。

 

 

「御桜 和です。みなさんよろしくお願いします」

 

 

御桜、そう名乗った少女は続けてこう言う。

 

 

「兄様の学園都市内への転校に合わせて同じ学校に転校するためこの度第七学区に引っ越してきました!」

 

 

和は笑顔でそう言うがそれを聞いて蒼は渋い顔をする。

 

そのことに気付いた三人も苦笑いを浮かべるが、和はそれには全く気付いていない。

 

 

「兄様共々よろしくお願いします!」

 

「いや、俺風紀委員では無いんだけど?」

 

「それは分かっています!」

 

 

二人の会話がコントのようなのでみんな笑ってしまう。

 

 

 

 

 

和気藹々とした空気の中時間は過ぎていき、暫くして蒼の妹と言う話を聞きつけて、佐天と美琴がやってきた。

 

 

「へぇー、確かにお二人目元とかそっくりですね!」

 

 

佐天が二人の顔を見ながら言う。

 

 

「よく言われます」

 

 

そしてなぜか自慢げに和がそう答える。

 

 

「彼女はレベル4の反射能力者(リフレクター)なのよ」

 

 

固法が和の能力を告げる。

 

反射能力。

ただ単純に自分に触れた物を跳ね返す力。たとえそれが何であろうとも。

レベル5とレベル4の差は大きい。

学園都市の第一位、一方通行(アクセラレータ)のベクトル操作と違い物を操ることは出来ない。流れの向きを変え自分を加速することも出来ない。あくまで反射、自らに関わらない力に関してはいっさい干渉することは出来ない。

だがそれでもたとえ何であろうとも跳ね返すことの出来る和の能力はレベル4に分類されていた。

 

 

「はい。でもレベル4って言っても反射能力は受動的、あくまで守備的な能力ですから、みなさんこれからよろしくお願いします」

 

 

和がそう言って頭を下げる。

 

 

「さすが兄妹と言うか礼儀正しいところまでそっくりね」

 

 

と美琴が微笑み、

 

 

「本当ですね」

 

 

と佐天が同意する。

 

そして風紀委員一七七支部の面々は、

 

 

「こ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

初春は緊張しながらもきちんとそれに答え、

 

 

「こちらこそよろしくお願いしますわ」

 

 

白井は対称的に冷静に応じ、

 

 

「こちらこそ、そしてようこそ風紀委員一七七支部へ。歓迎するわ」

 

 

そして最後に先輩である固法がピシャリと締めた。

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

それぞれの自己紹介も終わり、歓迎ムードでわいわいと話している中、白井が思いだしたように美琴に話しかける。

 

 

「そういえばお姉さま」

 

「ん?何よ黒子?」

 

「昨日の虚空爆破(グラビトン)事件の犯人、本当にお姉さまが捕まえた男で正しいんですの?」

 

 

黒子のその質問に反応したのは美琴ではなく、蒼だった。

 

 

「と、言うと?」

 

 

急にまじめな雰囲気に少し戸惑いつつも落ち着いて白井は答える。

 

 

「昨日の男の能力は異能力(レベル2)。しかし一連の事件を鑑みましてもあの能力は大能力(レベル4)クラスなんですの」

 

 

それは、おかしい。

学園都市に来て日が浅い蒼でも、能力開発が地道にゆっくりと行われて行くものだと言うことは知っている。

つまり……

 

 

「前回の身体検査(システムスキャン)の時から急激に成長した、と言うことですか?」

 

 

考えられるのはそれぐらいだ。

 

 

「珍しい事象ですけどその可能性もありますの。……ですが犯人の登録された能力と強さ(レベル)が異なっているケースは今回が初めてではありませんの」

 

 

白井の発言を聞いて美琴が何か思い当たったように佐天に話しかける。

 

 

「ねえ、佐天さん、昨日言ってた『幻想御手(レベルアッパー)』ってのの事もう一度詳しくみんなに話してあげてもらえないかしら」

 

 

そして佐天が一通り話し終わった後、全員が怪訝な表情を浮かべる。

それもそのはず佐天の情報は皆バラバラでまとまりがなく不確定な要素が多い物だったからだ。

そしてそれらの噂に共通していることはただ一つ、『使うだけで簡単に能力の強さ(レベル)を格段に上げる』と言うことだ。

 

 

「……佐天さんの言っていることは本人の言うとおり噂の域を出ませんし、信じがたいことですけど確か学習装置(テスタメント)と言うを使って五感全てから情報を入力してレベルを引き上げる、といったモノが急激なレベルをあげる方法としてあると思いますけどこれは簡単な方法ではないですね」

 

 

と、和が言う。

がそれに続くように蒼が言う。

 

 

「んー?でもそれなら五感に作用できれば良いわけだよね?なら共感覚性を利用したら?」

 

「共感覚性ですか……確かにそれなら五感に訴えることは出来ますけど能力に影響するほどとは思えません」

 

 

そう言って二人が悩み込んだとき白井が口を開いた。

 

 

「ほ、ほらほらそんな確証のない話をしても仕方がありませんの!また進展があったら御桜さん、ああどっちも御桜さんでしたの!……蒼さんもお呼びしますからそのときにしてくださいまし!」

 

 

そしてそのまま蒼と和の兄妹は部屋から追い出された。

……なぜ?

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

二人を追い出し、帰ったのを確認した後白井と美琴は話をしていた。

 

 

「ねえ黒子?何であの二人を追い返したの?」

 

 

美琴の質問に白井はげんなりした様子で答える。

 

 

「あの二人を残しておいたらネットに書き込んだ人に聞き込みに行くとか言い出しかねませんもの。風紀委員の和さんならともかく、一般人の蒼さんにそういうことをさせるわけにはいきませんもの」

 

 

白井の発言を聞いて美琴がニヤリと笑う。

そしてその表情を見て白井がたらりと冷や汗を垂らす。

 

 

「じゃあ私達で聞き込みに行きましょうか」

 

 

反対しようとするも笑顔と正論紛いの言葉で押し切られる。

 

結局、そうさせないために二人を帰したのに一番それをしそうな人を残してしまったがために白井の行動の意味は無駄となった。

 

 

 

 

 

 

 

 




ハロー!

文化祭直前の作者です。
主人公の妹、御桜 和の登場です。

身内に風紀委員がいた方が物語の展開が楽だろうと考え登場させました。

オリキャラの紹介はレベルアッパー編が終わり次第公開しようと思います。

それではまた次回。

誤字脱字、意見、感想ありましたらお願いします!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 幻想御手【レベルアッパー】

 

二人揃って白井に追い出された後、帰路に着き歩きながらもまだ二人の会話は継続されていた。

二人とも中性的な顔つきなので端から見たら兄弟なのか姉妹なのか分からないが取りあえず美形だな~と周りの注目を集めている。

まじめな顔つきで話し合っているので声をかけようとする人はいないが。

 

 

「いやそもそも能力開発は頭の開発の元々副産物的なもので実際能力を上げようとして実験をするのは何か違う気が……」

 

「話脱線してるぞ」

 

 

ちょくちょく話がそれたりもしているがきちんと蒼が気付く。

関連していることから話がそれることもそこそこあるわけだ。

 

話に夢中になって帰り道から脱線してることには二人して気づいていないが。

 

 

「……でもあれでしょ? 能力の強さなんて結局演算処理能力の高さに比例してるんだから外部に演算処理装置みたいなものを用意すれば……」

 

「いやでも兄様、そもそも能力は現在人以外は使えないわけで……」

 

 

段々話が深くなっていくにつれ二人の歩行速度が上がり、ヒートアップしていく。

 

 

「だからみたいなものであって機械じゃなくてもいいんだよ。今は脳波を固定する方法もあるのだからそれで一定のまとまりを作ってやれば演算処理能力は向上するわけで……」

 

「いやだからその能力のまとめる都合のいいものが……………………」

 

 

そこまで言いかけて和が固まる。

固まって冷や汗を流す和を疑問に思い蒼が声をかける。

 

 

「和?」

 

 

ハッとして気づいた和が口を開く。

 

 

「あります。……能力者が常に無意識で放出しているものが。……AIM拡散力場を利用できるならですが」

 

 

蒼も言われて気づく。

AIM拡散力場を利用できるなら確かに今自分が言った推論が可能だと。

同系統の能力者でネットワークを構築すれば能力のノウハウを共有し、且つ演算処理能力を向上させることで能力は十分に上がりうる。

そして次に思い出したのが机上の空論である、虚数学区。

学園都市に来る前や来た直後調べたありとあらゆる研究や噂の中の一つ。

もしかしたらレベルアッパーが有るとしたら開発者は人体を使った超大規模演算機器を作ろうとしている、もしくは虚数学区を再現しようとしている……?

 

前者にしろ後者にしろこの推論があっているなら恐らくレベルアッパーの使用者の意識は失われる。

なぜならレベルを上げる事が目的で作られたのなら意識を保っている必要があるがこの推論の通りならば使用者の意識を保つ必要は無い。

……だとしたら相当拙いだろう……

 

考え込みながら歩く蒼。

前を見ずにあるいていたので人にぶつかる。

 

 

「あ、すいません」

 

 

謝って、気付く。

ぶつかった相手はこの間の柄の悪そうな奴らだった。

相手も気づいたのか表情を変えて口々に言う。

 

 

「て、てめえはこの間の!」

 

 

Aさんが怒鳴りつけ、

 

 

「前はまんまと逃げやがって!」

 

 

Bさんが都合良く記憶を改竄し、

 

 

「何の能力を使ったのかしらねーが!」

 

 

Cさんの言葉に能力使ってないし、と思いつつ、

 

 

「今日はてめえからぶつかってきたんだ!容赦しねえぞ!」

 

「そうだぞてめえ!!」

 

 

DさんEさんに呆れつつ、

 

 

「レベルアッパーを使ってlevel3になった俺たちの力、見せてやるぜ!」

 

 

Fさんの言葉に反応した。

 

レベルアッパーだと?まさかの展開。

情報が向こうから歩いてやって来ましたね……

 

 

「兄様……」

 

「ああ、分かってる。ちょっと君らにレベルアッパーについて聞かせてもらおうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

 

 

あのあと、()()()()()に快く情報提供してもらい、現在手元には"レベルアッパー"という名前の楽曲が入った音楽プレーヤーがある。

まさか名前そのままだったとは、と思いつつそれを眺める。

 

 

「音なら正確に脳に情報を取り込むのに向いてますね兄様。視覚的な情報元よりも受け手に影響されにくいですし」

 

 

視覚的な情報元では受け手の着目点などによって情報の発信者の意図通りに伝わらないケースが発生しやすい。

それに対して音、聴覚的な情報元では発信者の意図通りに情報を伝えやすいのだ。

それが信号パターンならなおさらである。

そう思いながら机の上に置き、和の方を向く。

 

 

「まあ取りあえずこれは明日皆に伝えるとしますかね」

 

「そうですね。……じゃあ私もそろそろ寮に帰ります」

 

 

そう言い、立ち上がる和。

 

 

「おやすみ~」

 

「おやすみなさい兄様」

 

 

挨拶をして和が出て行ったのを確認してから再び音楽プレーヤーに目を向ける。

そして考える。

……"レベルアッパー"いったい誰が作ったものなんだ?

予想が正しいとしたら高レベルの能力者に憧れる学生達の心を利用しているに同じプログラムだ。

それほどのものを作っただけの知能は尊敬に値するが、これは許されることなのか…………?

思考が頭の中でぐるぐると迷い、纏まらない。

 

 

「よしっ」

 

 

声を上げて起き上がる。

 

 

「思い悩んでいても仕方ないし、寝よう」

 

 

考えを自分の奥底へ押し沈め、気持ちを切り替え明日へ備えることにしたのだった。

 

 

「zzz…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………そしてその翌日。

虚空爆破事件の容疑者、 介旅初矢が警備員(アンチスキル)の取り調べの最中、突然謎の昏睡状態に陥ったと言う連絡が蒼の元に届いた。

 

 

「…………最悪の予想通り、ってことですかね……」

 

 

 

 




ぐーてんもるげん!
皆さんお久しぶりです。

今回は少し短めですね。
マジ恋が一段落着いたのでまたちょくちょく更新していきます。
皆さんよろしくお願いします。

次は木山せんせーの登場ですね。

でわでわ、あでゅー!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 木山春生

連絡を受けて急いで家を出て病院に向かい早くも三十分。

行けども行けども目的地にたどり着くことができない。

周りをキョロキョロと見渡す蒼。

 

 

「………………あれ?やっぱりまた道に迷った?」

 

 

…………迷子モード、発動中。

 

 

 

 

 

●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

 

 

 

 

あれからさらに十分後、未だに到着しない蒼に黒子が連絡し、迷子が露見。

黒子が救出しにこなかったら一生迷ってたんじゃないかな、俺。

そして今はファミレス。介旅初矢は外傷や身体に異常はなかったらしい。

昨日話し合っていたとおり脳に大きな負荷がかかってるんじゃないか、と言うのが俺の見解だが今は確かめようがないし取りあえず発言は保留しておこう。

 

 

「迷子の蒼さんも到着しましたし、そろそろ木山先生にお話を伺いたいのですが」

 

 

目の前にいるこの女性は木山春生さん。

大脳生理学の専門の学者さんらしい。専攻はAIM拡散力場。

今黒子にさらっといじられたのはスルーしておこう。

 

 

「そうだな、それでは先程の続きだがなぜ同程度の露出でも水着は良くて下着はだめなのかという……」

 

「「「いや、そっちじゃなく」」」

 

 

木山先生が始めた話に美琴と黒子と和がツッコミを入れる。

あなた達は何の話をしてたんだよ……。

 

美琴が「しかたないわね」とため息をついて幻想御手について話し始める。

ウェイトレスがドリンクを運んできて、蒼がドリンクを飲み終え、グラスの底で水分がズズズ、と音を立て始めた頃、

 

 

「あーー、つまりネット上で噂の『幻想御手(レベルアッパー)』なる物があり、キミらはそれが昏睡した学生達に関係しているのではないか――とそう考えているわけだ。」

 

 

木山先生が表情を鋭くして言う。

 

 

「はい。上の方で学生に注意を呼びかけるという案も出たそうなのですが――「ねえ、白井」何ですの、蒼さん」

 

 

蒼は窓の外を指して言う。

 

 

「あの少々お馬鹿な行動をしている二人は話しに混ぜなくていいんですか?」

 

 

そして窓の外には窓に張り付いている佐天と横で手を振る初春がいた。

 

 

 

 

二人が入ってきた後、話が進む中、視線を泳がせながら話を聞いていると

 

 

「能力を向上させると言った代物である以上脳に干渉するシステムである可能性が高いと思われます。ですから『幻想御手(レベルアッパー)』が見つかったら先生にそれを調査していただきたいんですの」

 

「構わんよ、むしろこちらから協力をお願いしたいくらいだ」

 

「ありがとうございます」

 

 

途中から会話に入った初春はやっと理解したようで会話に口を入れはじめる。

 

 

「『幻想御手(レベルアッパー)』の話だったんですか?」

 

「あ、『幻想御手(レベルアッパー)』ですか?それなら――」

 

 

ポケットを漁り何かを取り出そうとするが

 

 

「ええ、『幻想御手(レベルアッパー)』の所有者を捜索して保護することになると思いますの」

 

 

白井の言葉を聞いて固まる。

……何か隠したなー。んー、まあ状況からするとレベルアッパーでも発見して自慢でもしようと思ってたらこの話だったって感じかな?

まあ、いいか。

 

 

「何でですか?」

 

 

と初春。

まあ、ふつうに考えて副作用があるかも知れないからだろうな。

………………何か忘れてるような……

 

黒子が初春に副作用があるかも知れないからということと、急激に力を付けた学生が犯罪を起こす可能性があるから、と言う二つの問題点を述べたあと、動きが固まっている佐天に初春が気づき声をかける。

 

 

「どうかしました?佐天さん」

 

「えっ、いやっ、別に……」

 

 

焦った様子の佐天がグラスを倒してしまう。

 

 

「あっ、すみません!」

 

「いや、大丈夫だ……こぼれていないしな」

 

 

そう。そこにはグラスが倒れているのに中身がこぼれていないという異様な状況が完成していた。

 

 

「兄さまですか」

 

「ん、」

 

 

和の言葉にストローを上げて答える蒼。

佐天が倒したグラスからこぼれそうになったコーヒーをとっさに形状固定停止したのだ。

蒼に木山先生が訪ねる。

 

 

「君の能力か。念動能力(テレキネシス)か?」

 

「……さあ?詳しいことはまだわかりません。停止能力と言うらしいですけど念動能力(テレキネシス)の派生なのかもしれないですね」

 

 

そこで何かを思い出したように和が声をかける。

 

 

「兄様、アレもってきました?」

 

 

……アレ?何だっけアレって………………あ、アレか。

 

 

「そう言えば昨日親切な若者から情報提供を受けまして、入手して来ました。幻想御手(レベルアッパー)

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

その言葉に美琴、黒子、初春、佐天が驚愕の表情を浮かべる。

ポケットから携帯音楽プレーヤーを取り出し、机の真ん中に置く。

 

 

「音楽プレーヤー?音声媒体なんですの?」

 

 

それに対して蒼はやや微妙な表情を浮かべ、

 

 

「うーん、何というか音声信号という方が正しいのかな?恐らくだけどこの音声信号をきちんと受けとるためにやっぱり共感覚性も関与しているように思われる。この音楽ソフト自体に五感に作用するような働きがあってその上で、脳波を一定にロックすることでAIM拡散力場を利用したネットワークを形成し、その影響で副作用的に一時的に能力が向上しているのが幻想御手(レベルアッパー)の働きだと仮定しているよ、俺は」

 

 

虚数学区のことはあえて伏せながら言う。都市伝説上では全く異なるアレを持ち出しても話の信憑性を下げそうだしな。

 

 

「能力を向上させることがレベルアッパーの本来の目的じゃないって事!?」

 

 

美琴ががたりと音を立てて立ち上がる。

 

 

「まだ推論に過ぎないですよ。ま、でもレベルを上げるのが目的のソフトじゃ無いのはほぼ確定でしょうね。使用者が意識を失ってちゃ意味ないですし、何より先程言ったネットワークの形成がレベルアッパーの目的なら、使用者が意識を失っていても問題ないはずですしね」

 

 

そして付け加えるように言う。

 

 

「極めつけが『幻想御手(レベルアッパー)』って言う名前ですよね。能力開発が思うように進んでいない学生達のコンプレックスをくすぐり、目の前に甘い罠を垂らし、思慮もなく飛びついた愚者を釣り上げる。本当にえげつない」

 

 

木山先生が『幻想御手(レベルアッパー)』の入った音楽プレーヤーを受け取り言う。

 

 

「まあ、開発者の意図はどうあれ、受け取っておこう。研究所に戻ったら解析してみるよ」

 

「「「「「お願いします」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分後、話が終わり立ち去るときに木山先生が昔教鞭を振るっていた、と言ったときの表情に少し引っかかりを感じたが気にするほどのことでもないか、と思い気にしないことにした。

 

 

「あ!?ゴメーン!私用事あったんだー」

 

 

また今度ね!!、とわざとらしく声を出して抜け出す佐天。

…………ふう。

 

 

「すいません、今日は俺はここまでで。和、レベルアッパーのサイトちゃんと教えて上げてね」

 

「了解です兄様」

 

 

じゃあ、と手を振ってその場を立ち去り佐天を追う。

しばらく周りを探していると、夕日が射し込む駐車場で音楽プレーヤーを見つめる佐天の姿があった。

 

 

「ああ言われたけどせっかく見つけたんだし手放したくない。まだ使ってないからいいよね、ですか?」

 

「えっ…………」

 

 

急に話しかけられたからなのか考えを当てられたからなのか驚き、顔を上げる佐天。

 

 

「えっ、といや、これは……」

 

「……別に俺は回収したりはしませんよ。そう言うことは風紀委員の仕事ですし。ただ、使ってないから良い、そう考えてるならやめた方が良いですよ」

 

 

蒼の言葉に佐天が怪訝な表情を浮かべる。

 

 

「使ってからレベルアッパーを解除する方法は見つかってないので、回収はその人が使ってないから意味のある行為な訳なのでそれを使う気なら一時的なまがい物の能力のためにこの先の自分の人生を植物人間として過ごすだけの覚悟がある、と言うなら俺は止めません。君にとって能力と言う物はソコまでの価値があるって言うならですけどね」

 

 

佐天は何かを言おうとしたがぐっとその言葉を飲み込みうつむく。

 

 

「よく考えて、後悔しない選択をして下さいね」

 

 

蒼は佐天の肩にポン、と手をおいてそう言い残しその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「………………ホント、どうしたらいいんだろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「可愛いは正義」この言葉の意味を理解したような気がしました魔王の後継者です。

東京レイヴンズのコンちゃんが可愛かったです。
初春と同じ声ですね。ちょっと前まで超電磁砲がやってたのでどうしてもダブります。
次回投稿は何時になるかわかりませんがきちんと書きますので。
でわでわ、あでゅー!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 柔能く剛を制す。

うあー。眠い。

昨日の夜じゃなくて朝にトレーニングはするべきだったかな……。

なぜ維持トレーニングだけで止めておかなかったんだ……。バカですか俺は……。

いや、しかし、ホント眠い……。

 

ふぁ、とあくびをしながら歩く。

もう昼前なのだが全然眠気がとれない。

まあ、週に四、五日は何もなしに眠いのだが。

 

レベルアッパーの調査の約束してなかったら部屋で寝てたのにな……。

 

 

「どうしました?兄様?」

 

「眠いんだ」

 

 

和の問に即答し、そのまま歩く。

くそー。約束してなければなー。

今頃布団の中で夢見心地だったはずなのになー。

ぼーっとしながら歩いているとふと、和が立ち止まる。

……ん?和は何を見てるんだ?

 

 

「……佐天さん?」

 

 

和の視線の先を追うとどこか虚ろな目をした佐天が見える。ふらふらとしていて少し足取りが危ない。

昨日は言い過ぎましたかね?……まあ、良いですか。

さっと視線を切って前へ進む。

 

 

「……兄様」

 

 

何だよ。言わなきゃ俺は何もしないよ。慈善家じゃあないですからね。

あの様子じゃ心配になるのは分かりますけど。

すると、俺の考えを読みとったのか和は頬を膨らませる。

 

 

「私は追いかけます」

 

 

そう言い、佐天の消えた方へ走っていく和。

……あー、もう。やっぱこうなりますか。

 

 

「しょうがないか……」

 

 

そして、俺は二人のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………これはこれは、また何とも言えない状況ですねえ。

佐天と和のあとを追った先でもめている複数の人に出くわした。正確にはその状況を見ている佐天を俺たちが見ているという状況が正しいのですが。

……聞こえてくる会話から察するにレベルアッパーの取引現場、しかも交渉決裂したところだろうか。

不良とおぼわしき男の蹴りが太めの男性の腹に入る。

 

 

「…………ッ!」

 

 

思わず飛び出そうとする和を右手で制し様子を見る。

男達に見つかり足早に去ろうとする佐天の足が止まる。

…………さて、どうします?佐天。

 

 

 

 

少し迷ったあと佐天は振り返り男達に向かい合う。

そして、男達に向かって言った。

 

 

「もっ もうやめなさいよ!」

 

 

佐天の言葉に男達の動きが止まる。

 

 

「その人ケガしてるし、す……すぐに警備員(アンチスキル)がくるんだから」

 

 

震えながら佐天がそう言い切る。

 

……よく言った!よく言いきったな佐天!

 

 

ふるえる佐天に男の一人が近づく。

そして佐天の横の壁に蹴りを入れ、佐天を脅す。

 

 

「今何つった?」

 

 

おびえた様子の佐天に男が次の言葉を紡ぐ。

 

 

「ガキが生意気言うじゃねーか。何の力もねえ非力な奴にゴチャゴチャ指図する権利はねーんだよ」

 

 

………………

ちょっとイラッとするな今の言葉。

 

 

「…………ハイ、ストーップ。ソコまでですよ」

 

風紀委員(ジャッジメント)です」

 

 

俺と和の登場に男達と佐天が驚く。

しかし驚いた表情を男達が見せたのは一瞬で、次の瞬間には油断した表情を見せる。

 

 

「何かと思えばガキが二人ばっかし増えただけじゃねーか」

 

 

外見だけで相手を判断しやがって。そう言いながら近づいてくる男の足を払い、バランスを崩した男をそのまま地面へと叩きつけた。

 

 

「「!」」

 

 

一瞬で地面に叩きつけられ気を失う男を見て残りの二人が驚く。

気を失った男を一瞥し残りの二人へ視線を向ける。

 

 

「一応忠告しておきますが、向かってくるなら叩いて潰す」

 

 

低く鋭い声が響く。

それを聞いて一人の男がぴくりと眉を動かす。

そして腕を動かすとふわりと鉄パイプが持ち上がる。念動能力者(テレキネシスト)か。

 

 

「言ってくれるな。どうやら能力者のようだが、ガキのくせにその鼻につく高慢ちきな態度イラつくぜ。……その高く伸びた鼻ヘシ折ってやるぜっ!!」

 

 

…………まだ能力使って無いんだけどな……。

そう思いながらそれを避けようとすると横から和が前にでる。

ん?何を……?

 

 

「せい!」

 

 

和に触れた物体が全て跳ね返る。……ああ、そう言えば反射能力だったか。

まっすぐは跳ね返さなかったようで鉄パイプは男に当たらず落ちる。

そして驚いて唖然としている男の鳩尾に正拳突きを叩き込む。

鳩尾に正拳突きを食らった男が倒れ残りは一人となる。

 

しかし、妙だな……。

何で仲間を全員倒されたのにこいつはこんなにも余裕綽々でいられるんだろうか?

 

 

「カカカカカッ、おもしれー能力だなぁ。そっちの男の能力はわかんねーがそっちの女の能力は反射か」

 

 

そう言ってニヤニヤとした表情を浮かべる。

いやな感じがしますね~。

 

 

「俺がやる。下がってな。あと警備員(アンチスキル)に連絡頼んだ」

 

「いや、兄様一応一般人何ですけど……」

 

 

今そんなこと気にするな、と思いながら構える。

するとふと、視線の先に心配そうに見つめる佐天が見える。

 

 

「そう言えば佐天、君は無能力者に価値がないとかって思ってるみたいですけど」

 

 

その言葉に佐天が肩を震わせる。

 

 

「そんな訳ないですからね」

 

「!」

 

 

佐天が面食らったように顔を上げる。

 

 

「そもそも能力者ってこの学園都市で能力開発を受けた人間しかいないわけで、もし能力を持たない者に価値が無いなら学園都市の外にいる人たちは全員価値がないってことになりますよ?そもそも警備員(アンチスキル)だって能力持ってるわけじゃないんですし能力使わなくたって能力者と渡り合う術はありますよ」

 

 

え?と話を理解しきれていないのか困り顔になる佐天。

 

 

「んまあ、言うは易し、行うに難し、です。とりあえずまず能力を使わずに彼を完封してみますか」

 

 

俺のその言葉に反応する男。

 

 

「能力を使わずに完封だ?なめてんのか?」

 

「……いや、別に?」

 

 

実際、なめてかかることは出来ない。

相手の能力がわかっている訳ではないし恐らくあの余裕はその能力からきているものだ。

そこそこ強力な能力だと見て間違いないだろう。

とりあえずまず能力が何かを理解しないとな。

 

 

「まあ、良いか。まずテメエからボコボコにしてやるよ!」

 

 

そう言って蹴りを出してくる。

その蹴りを左手でガードしようとした瞬間、悪寒が走る。

 

 

「っ!」

 

 

蹴りが当たる直前後ろにとんで回避する。

蹴りが微かに腹を掠りヒヤリとする。

 

……おかしいな?完全に回避したはず何だが目測でも狂ったか?

いや、違うな。狂ったんじゃない。狂わされたのか。

回避することに気を取られて十分な確認を怠ってしまったが一瞬あの男の脚がおかしな方向に曲がっているように見えた。どういう能力だ?遠近感を狂わせる、とは違うような気がするな。

 

表情が変わり少し戸惑った様子の蒼に気を良くしたのか男が追撃してくる。

 

……これを見極めて能力に仮説を立てるか。

 

蹴りの軌道を予測しガードの体制をたてる。

そして蹴りが襲ってくる。

蹴りの軌道を見逃さないように注視していると気づく。

 

……やはり脚がおかしな方向に曲がって見える!

つまり、コイツの能力は…………!

 

先ほどと同じように直感がこのままではまずいと告げる。

とっさにガードを落とすとその上に蹴りがたたき込まれる。

 

 

「…………ッ!」

 

 

ガードには成功したもののダメージが響く。

しかし、分かった。こいつの能力は光をねじ曲げ本来と違う点に焦点を結び、虚像を見せる能力だ。

遠近感が狂うわけだな。近接戦ならまだましか。遠距離からの射撃なんて絶対当たらないぞコレ。

 

 

「……ああ?どうしたよ?」

 

 

にやにやしながら男が聞いてくる。

今の俺の表情が焦っている様にでも見えているのだろう。

 

 

「何でもないですよ。ただあなたの能力のタネが分かっただけですよ」

 

 

男の表情が怪訝なものに変わる。

 

 

「へえ?言ってみろよ。答え合わせしてやんぜ?」

 

 

……さっきからそのニヤニヤした表情がうっとうしいな。

男に張り付いたニヤニヤとした笑みを見て少し苛立ちながら自身の考えを告げる。

 

 

「焦点。光をねじ曲げる事によって別位置に焦点を結び、虚像を見せる。それがあなたの能力だ」

 

 

それを聞いてぴゅう、と口笛を男が吹く。

 

 

「すげえな、こんな少しの間で答えまでたどり着いちまうとはな。けどよぉ、それが分かったからって何になんだ?」

 

 

男がそう言う。

それを聞いて蒼はため息をついて()()()()()

 

 

「あ?どうしたよ。あきらめちまったのかぁ?」

 

「違いますよ。役に立たないから視覚は切り離した。それだけです」

 

 

男の挑発を適当に流す。

視覚的情報を補うために感覚を鋭くし、聴覚、触覚を中心にして周囲の情報をかき集める。

相手の息づかい、空気の振動、あらゆる情報から相手の位置を予想する。

相手が地を蹴る音が聞こえる。そして、風を切る金属の音。

 

 

「危ない!」

 

 

佐天の声が響く。

問題ない。どういう軌道で相手が迫ってきているかは把握できている。

次の瞬間、ビュッと鋭い風切り音が頬の横をかすめる。

そしてそのまま残った相手の腕をつかみ、懐に潜り込み重心の下に入り込み持ち上げる。

背負いそのまま投げる。そして自身の上を通る瞬間引き手を離し相手を投げ飛ばした。

 

 

「ぐあ!」

 

 

そして背中から落ち頭が地面に打ち付けられる前に地面と頭の間に足を差し込んだ。

 

 

「……ふぅ。危なかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

到着した警備員(アンチスキル)に男達の身柄を和が受け渡しとりあえず一件落着となった。事情を聞くとかで和は警備員(アンチスキル)の詰め所に向かった。

 

そんなわけで今は佐天と二人な訳なのですが……

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

会話が滞っております。

非常に気まずい状態です。

へるぷみー。

 

 

「えと、あの、」

 

「ん?何か?」

 

 

佐天が話しかけてきて膠着が崩れる。

 

 

「す、すごかったです」

 

「……そうですか。んで、まだ能力がなければ何も出来ないとか価値が無いとかって思ってる?」

 

「……いえ、多分、もう大丈夫です」

 

 

多分、ね……

少しかみ合っていない会話の中、思う。

 

今回で佐天の意識から能力者の絶対的優位の価値観が完全に崩せたとは到底思えない。

能力を使っていなかったとは言え結局俺は高位能力者なのだ。つきあいも浅い。

しかしもうこれ以上に俺が佐天にしてやれることは何もない。

短いつきあいとはいえ佐天が高位の能力に憧れているのは分かっている。

その佐天に高位能力者の俺がレベルアッパーを使うな、と言うのは間違っているように感じるのだ。勿論、頭ではその考えこそが間違っていて今すぐ止めてやるべきだ、そうわかっているのだ。

しかしそれでも、佐天にレベルアッパーを使わせたくないと思っていても、止めない。止められない。ただ使わないようにそういう方向に示唆をするだけ。

ただ使ってしまわないように彼女の心を信じるだけ。それだけしか、出来ない。

 

 

「蒼さんも、レベルアッパーは使っちゃだめだって思いますか?」

 

 

突然の佐天の問いに面食らう。

今考えていたことを見透かされていたかのようなタイミングだったからだ。

 

 

「……良い悪いじゃないでしょう。副作用で意識を失ってしまうことはほぼ確定的ですし、しかも手に入れることが出来た力も限定的でレベルアッパーによってもたらされただけの虚偽の能力。勧めることは到底出来ませんね」

 

 

俺の答えに佐天はため息をつく。

そしてポツリ、ポツリ、と語り出す。

 

 

「学園都市に来る人って大方が能力者になりたくって来るわけじゃないですか」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 

実際学園都市に住む学生の大半は能力者に憧れてこの街に来たのだろう。

俺がこの街に来る前にいた町の子供達も能力者に対する憧れは少なからず持っていた。

 

 

「私も能力者になりたくってこの街に来て能力者になるんだーとか思ってて、でも最初の身体検査(システムスキャン)の結果はレベル0。あなたに全く才能はありません。そう言われちゃって」

 

 

確かに学園都市の学生の約50%はレベル0なのだ。佐天の身に起こったことはこの街では珍しくもない、二人に一人は起きている悲劇なのである。

そして世界で最も科学が発達しているこの学園都市でさえ能力の開発には才能に大きく左右されているというのが能力開発の現状なのである。

 

 

「で、そこでレベルアッパー、なんていかにもなものが出てきて、最初は私でも能力者になれる夢のようなアイテムだって思ったけど、やっぱり得体の知れないモノは怖かったし、苦労して手に入れるはずの能力を楽しててに入れようって言うのがほめられたことじゃないのは分かります。分かりますけど…………ッ」

 

 

話をしている佐天の手に力が入る。

 

 

「…………けど、やっぱり生まれ持った才能の差は受け入れなきゃいけないってことなんですか!?」

 

 

佐天の真剣な問い。

眼差しから本気度が伺える。

だからこちらも真剣に答える。

 

 

「分からない。その問いの答えは俺には分からない。その問いに対してもともと高位能力者の俺が答えて良いものだとは思えないし、確かに今の能力開発は才能に依存している部分は大きいだろう。でも、先のことはいっさい分からないし、科学の進歩は著しい。それはこの学園都市も例外じゃないのだから将来的には誰もが高位能力者になっているかも知れない。でもそれは誰にも分からないことだから俺の答えは分からない、だよ」

 

「………………」

 

「ごめんな、曖昧な答えで」

 

 

黙りこくってしまった佐天に謝る。

しばらく黙って下を向いていた佐天だがすっと顔を上げる。

立ち上がってこちらを向く。

 

 

「えと、ありがとうございました」

 

「…………うん」

 

 

そして右手を差し出してくる。

その右手には音楽プレーヤーが握られていた。

 

 

「レベルアッパーです」

 

「良いのか?」

 

 

俺の問いに佐天は笑って、

 

 

「私には必要ないですから」

 

 

そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




にゃんぱすー

のんのんびよりに萌えている作者です。お久しぶりです。
今回はボリュームアップでお送りしております。過去最大。
誤字脱字、意見、感想などあったら書いてくれるとうれしいです。

でわでわ、あでゅー!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 多才能力【マルチスキル】

不良との戦闘の三日後、俺は風紀委員177支部に来ていた。

 

因みにあの後黒子や初春にこってりと絞られた俺は、バレないようにこれからは闘おうと心に決めたのであるがまあその話はおいておこう。

 

今日は何故此処にいるのかというと、今までに集めたレベルアッパーの情報を交換するためだ。先ほど情報交換が終わり、初春が木山先生のもとに集めた情報を伝えに行ったところだ。初春は「早く昏睡状態になってしまっている人たちを助けたいんです!」と張り切って出て行った。何かやらかさなければいいのだが…………

 

 

「……それでは、私たちも行きましょうか、お姉様」

 

「ええ」

 

 

そう言って黒子と美琴が立ち上がる。

 

 

「どこに行かれるんですか?」

 

 

そう聞くと、黒子が答える。

 

 

「初春は今木山先生のところへ行っていますし、和さんは他の風紀委員支部にヘルプに出ています。みなさん頑張っていらっしゃるのに私だけじっとしているわけにはいきませんの。ので、私たちも出来ることをしようと思って今から病院へ行って新たに何か分かったことがないか聞きに行くところですの」

 

 

で、御坂がそれについて行く、と言ったわけですか。

ふむ。それなら俺がついて行っても問題ないよな……?

 

すっと美琴と黒子の方へと向き直り、言う。

 

 

「それ、俺も同行させてもらって良いですか?」

 

 

頷く白井を見て、思う。

……それにしても白井、服の下はボロボロだろうに頑張るなあ。

 

 

 

 

 

 

白井は俺が不良と闘った日、別の不良と闘ったそうです。 和談

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今、病院に来ていた。何やら患者たちについて分かったことがあるらしい。

俺たちはカエル顔の医師に連れられて部屋に入り、パソコンを見ながら話を聞いている。

 

 

「『幻想御手(レベルアッパー)』の患者たちの脳波に共通するパターンが見つかったんだよ?」

 

 

そう言いながらパソコンのディスプレイに脳波のパターンを医師が表示する。

ふむ………………。

 

 

「人間の脳波は活動によって波が揺らぐんだね? それを無理に正せば……」

 

「人体の活動に大きな影響が出るでしょうね」

 

 

医師の言葉に続けられるであろう言葉を述べる。

 

 

「蒼の仮説にかなり近いわね……」

 

「誰が何のつもりでそんなことを……」

 

 

それら言葉に医師は頷き、言葉を続ける。

 

 

「僕は職業柄、色々と新しいセキュリティーを構築していてね? その中の一つに人間の脳波をキーにするロックがあるんだね? それに登録されているある人物の脳波が、植物状態の患者のものと同じなんだね?」

 

 

そう言って医師がその人物の顔写真が表示される。

そこに映っている人物は、みんなが知っている人だった。

 

癖のある髪、目の下にあるクマ。その女性の名は………………

 

 

 

「「「……木山、春生!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目ですわ!木山春生のところに行った初春と連絡が取れませんの」

 

 

病院で白井はそう言った。

あの後警備員(アンチスキル)に連絡し、今は風紀委員177支部に木山の足取りを追うために戻ってきている。

 

……初春も何らかの方法で真実にたどり着き、木山にそれがバレて捕まったって考えるのが犯人が木山である以上自然かな。それにしたって、連絡が取れないのは心配だな……

 

 

「警備員から通信です。AIM解析研究所に到着したようですが、木山も初春も消息不明だそうです」

 

 

って言うことは初春は木山と一緒にいる可能性が高いって事か……

あ、そういえば。

 

 

「白井、警備員に研究所の機材にさわらないように言って欲しいんですけど……恐らく、情報の機密保持のために所定の手順たどらないとデータ消えるようにされてると思うので……」

 

 

俺がそう言うと、黒子が渋い顔をして蒼の方を見る。

 

 

「蒼さん、もう遅いですの……」

 

「Oh…………」

 

 

マジか……

レベルアッパーの解除方法がそこにしか無かったらどうするつもりなんだ?木山がすべてを完全に記憶してるとは限らないだろうに…………

 

 

うなだれていると御坂が立ち上がるのが見える。

そしてこう言い放つ。

 

 

「私も出るわ」

 

 

じっとしてるのは性に合わないし、と呟き黒子に言葉を続ける。

 

 

「黒子は警備員からの情報を回してちょうだい」

 

 

ふむ。いいのか?

 

 

「お姉様っ!? 初春も風紀委員のはしくれですの。いざとなれば自分の力で…………」

 

 

そして自信なさげに続ける。

 

 

「多分何とか……運が良ければ……その…………」

 

 

おいおい、そこは信じてあげようよ。…………心配なのは同感だが。

というかまあ、木山が警備員に対して何の保険もかけてないとは思えないし、何が起こるか分からないからな……。

 

 

「よし、じゃあ御坂、行きましょうか」

 

 

言い合いをしていた二人が同時に蒼の方に向き直る。

 

 

「なに言ってるの!?」

 

「蒼さんまで何を言い出すんですの!?」

 

 

なぬ。矛先が二つともこちらに向いた。

それと御坂。君にそう言われる筋合いはないぞ。

 

 

「別に、大した理由なんてないですけど……初春は友達ですし、御坂も白井も友達です。その友達の御坂が初春を助けるために出るのに俺が出ない理由はないですし、怪我人の白井にむりさせるわけにはいかないですし、ね」

 

 

黒子はばつの悪そうな顔をして視線を逸らし、御坂は言葉に詰まって固まる。

 

 

「それに、いやな予感もするので」

 

 

その言葉を聞いて黒子と美琴も表情を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タクシーに美琴と乗り込み、警備員が木山と接触しているという場所へ向かう。

時間とともに緊張感から焦りが増し、背中から汗が流れる。

 

そして数分後、地響きとともにドォン!という轟音が響く。

 

 

「な、何だぁ?」

 

「「ッ…………」」

 

 

何かあったのは間違いない。そう思い、更に焦る。

いったい何があったんだ……?

 

 

「早くあそこまで……!」

 

 

美琴が運転手をそう言って急かすがさすがに無茶だと断られる。

 

 

「だーーッもういいわ、此処でおろして!」

 

 

っおい!?御坂先行くなよ!?

ああもうっ!

 

 

「おじさん!お釣りは良いです!」

 

 

料金を払い、釣銭を受け取る暇も惜しんで美琴を追いかける。

 

 

「御坂!」

 

 

電話をしながら走る美琴の横につき、美琴に声をかける。

ちょっと待って、と美琴に言われ、美琴の電話が終わるのを待つ。

途中で〈能力者〉やら〈複数の能力〉やら気になる言葉が聞こえる。

アレ?能力者って学生しかいないんじゃなかったっけ……?

能力も一人一つのはずでは…………

 

少しして話しに切りがついたのか美琴が蒼に話しかける。

 

 

「時間がないからかいつまんで話すわね」

 

 

それは助かる。とにかく時間がないからな。

 

 

「木山春生が警備員と交戦してるらしいわ。…………しかも複数の能力を使って」

 

 

聞き間違いじゃあなかったか。

複数の能力、ね。いくつ能力を持ってるか分からないし不安材料が増えただけだな。まあ、レベル5の御坂もいるんだし、そうそう負けないとは思うが…………

 

それにしても複数の能力か……

幻想御手(レベルアッパー)』の副産物かなんかなんだろうな……。レベルアッパー使用者の脳を繋げて創られた巨大なネットワーク。他人の脳波を押しつけられた能力者の能力が一時的に向上したのだ、その本人である木山春生がそれらを使えない道理はない。

そもそも一万人近い能力者がレベルアッパーを使用したと聞く。

その一万の脳を統べる木山が、一般的な能力者の枠に当てはまるとは考えにくい、か。

 

それらを考えながら、非常階段から高速道路に駆け上がるとそこには地に伏せる警備員とそれらを見下ろす木山の姿があった。

横には横転した警備員の車や、その残骸が転がっている。

すると、端に寄せてあった赤い車の中に人影が見える。

急いで近寄ると、その人影は初春だった。……気絶してるな……。

 

 

「安心して良い。戦闘の余波を受けて気絶しているだけだ」

 

 

振り向くと、声の主は木山だった。

 

 

「教えてくれてどうもです」

 

 

木山はこちらを一別すると、次の言葉を紡ぐ。

 

「高位能力者が二人、その上一人はレベル5か。しかし、御坂美琴……学園都市に七人しかいないレベル5の君でも、私のような敵と戦った事はあるまい」

 

 

そして木山はこちらを向き、言い放つ。

 

 

「君に一万の脳を統べる私を止められるかな?」

 

 

……あれ?さらっと除外された?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

念動能力(テレキネシス)発火能力(パイロキネシス)風力操作(エアロハンド)、とりあえず理解できただけでも3つ、間違いなく複数の能力を使っている。

つまり………………

 

 

「驚いたわ。本当に能力が使えるのね。 しかも……『多重能力者(デュアルスキル)』!!」

 

 

ということになる。

木山はそれを聞いて少し眉を動かす。

 

 

「その呼称は適切ではないな。私の能力は理論上不可能とされるアレとは方式が違う」

 

 

そう言って指先を動かす。

すると、水溜まりから亀裂が走り、蒼と美琴の間に大きく水の壁が立つ。

…………水流操作(ハイドロハンド)か!?

 

 

「言うなれば、多才能力(マルチスキル)だ」

 

「呼び方なんてどうでも良いわよ。こっちがやることに変わりはないんだから」

 

 

攻撃を回避しながら美琴が言う。

 

……それはそうだな

 

そう思いながら木山が放った発火能力と風力操作の合わせ技で放たれた攻撃を、停止した空気の壁で受け止める。

とっさに空気を停止して壁を作れるくらいには能力に慣れてきている。うわー、便利ー。

 

そしてすれ違いざまに美琴が電撃を飛ばすが、木山の能力で電撃を地面に逃がされる。

そして、次に発動した能力で地面が崩される。

 

 

「くっ!」

 

「!!」

 

 

うわー!?地面がー!?

…………あれ?落下してない?何じゃこりゃ。

……うーん。これは物体の位置を停止させてるのか。壁を創る要領で足場を創っていると。……思ったより便利だな停止能力。

 

複数の能力。それにしてもやっかいだなー。

すとっと音を立てて着地する。

 

 

「便利ねその能力」

 

「うん。意外とな」

 

 

軽口を叩いている間にも木山から攻撃が飛来してくるが全て停止した空気の壁に阻まれる。この停止の壁は分子の配置が崩れないのだ。それは決して変形することのない理想的な物体、即ち【剛体】だ。

 

 

「……厄介な能力だ。御坂美琴よりもそちらの方が厄介な能力だな……」

 

 

その言葉にカチンときたのか美琴が突っかかる。

 

 

「……電撃を攻略したくらいで勝ったと思うなっ!!」

 

 

美琴が電撃を飛ばすが木山から発せられた能力によって難なくはじかれる。

 

 

「…………アリ?」

 

 

そしてそのまま美琴が張り付いている柱に指を向けると先ほどの能力が発せられ、柱に大穴があく。すると鉄板が外れ、美琴が落下する。

 

 

「もう止めにしないか?」

 

 

突如木山がそう言う。

 

 

「私はある事柄について調べたいだけなんだ。それが終われば全員解放する」

 

 

ふむ。確実に解放されるのなら学生たちに危険が及ばないのであれば悪くない取引だな……。

 

 

「誰も犠牲にはしない……」

 

 

「ふざけんじゃないわよっ!!」

 

 

木山の言い分に美琴が食いかかる。

 

 

「誰も犠牲にはしない?アンタの身勝手な目的にあれだけの人間を巻き込んでおいて、人の心をもてあそんで……

こんな事しないと成り立たない研究なんてろくなもんじゃない!! そんなもの見過ごせるわけないでしょうがっ!!!」

 

「……いや、そうは思わない」

 

 

美琴の反論に蒼が口を挟む。

 

 

「この学園都市において重要なのはそれの善悪じゃない。学園都市、ひいては統括理事会にとって利であるか害であるかです。木山先生の研究が良くないものだから正当な方法をとれなかったとは限らない」

 

 

木山はほう、と頷き、

 

 

「レベル5とはいえ所詮は世間知らずのお嬢様だな。そちらの少年の方がよっぽど理解している」

 

 

木山は続けて語り続ける。

 

 

「大体学園都市において学生たちに行われている『能力開発』。あれが安全で人道的なものだとでも思っているのか? 学園都市は能力に関する重大な“何か”を隠している。学園都市の学生たちはそれを知らずに日々脳を開発されているんだ」

 

 

……能力に関する秘密?

確かに能力開発は言い換えてしまえば学生たちを利用した人体実験だ。確かに完全に安全だと言い切ることは出来ないだろう。能力に関する秘密か……気になるな……。

 

 

「なかなかおもしろそうな話ね……。アンタを捕まえた後でゆっくり調べさせてもらうわっ!!」

 

 

美琴の操る砂鉄が木山に向かって迫るが当たったと思ったが横の廃材に刺さっている。

…………あの不良の能力か……

 

木山が手を振り上げると美琴と蒼の上に空き缶がばら撒かれる。

そして次の瞬間空き缶が勢い良く収縮していく。虚空爆破(グラビトン)ッ!?

 

御坂の分は御坂で何とかするだろう。問題は俺のほうだな!!

一歩下がり自身の上に撒かれた空き缶を視界に入れる。

 

―――凍てつけッ!!

 

 

「グッ!」

 

 

まだなれていないため頭痛が走るが上を見ると空き缶がすべて凍っている。

絶対零度。一度しか使っていないが成功した。

土壇場だったけど成功して良かった。

 

美琴の方を見るときちんと電撃で破壊して爆破を防いでいた。

 

 

―――良かった、と思ったのも束の間美琴の後ろで爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――御坂ぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さん、新年開けましておめでとうございます。
新年とともにこちらの作品を投稿させていただきました。
今年もよろしければ私の作品をご覧になっていただければ光栄の至りです。


感想あればよろしくお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 虚数学区

美琴はすべての爆弾を破壊し、無事に済んだはずだった。

しかし、美琴の背後から出現した爆弾により、美琴は倒れた。

 

━━━御坂はどうなった!?目の前にあった爆弾は全て破壊していたはずだ。

……テレポートか何かの能力で爆弾を背後に送ったのか?くっそ!何をやっているんだ俺は!

 

頭にどんどんと血が上っていく。

木山春生に対しての敵意がどんどん高まっていく。

 

━━━いや、落ち着け!熱くなったらまずい!相手は熱くなっていて倒せる相手じゃない!

御坂は……ん?この気配、まさか起きてる?やられたふりか?なら……

 

冷静になって美琴の無事が分かった蒼は、次の行動を開始する。

木山の意識から完全に美琴を外すべく。

 

と、そこで木山が口を開く。

 

 

「もう止めにしないか?御坂美琴とは違い君はこちらの事情に関してもある程度の理解があるようだし、先程も言ったように演算が終われば皆すぐに開放する。誰も犠牲にはしない」

 

 

木山の言った言葉に対してほんの数瞬考えてから言葉を返す。

 

 

「…………確かにレベルアッパー使用者の回復の手段が分かっていない以上、確実に開放されるのであればその取引に応じるのも有りかとも思いましたけれど、やはりだめですね。誰も犠牲にしない?もうすでに犠牲なら出てるじゃないですか。自業自得とはいえレベルアッパー使用者の昏睡状態によって失った時間は戻ってきませんよ?すでに犠牲者を出しておいて誰も犠牲にしないというのは少々虫がいいんじゃないですか?」

 

 

蒼の答えに木山はふぅ、とため息をついて言う。

 

 

「つまり、君も私の邪魔をするということかい?」

 

 

木山の問いにニヤリと笑みを浮かべて答える。

 

 

「そうなります。ですが……」

 

 

次の瞬間、木山の意識の外から美琴が現れる。

 

 

「あなたを止めるのはあくまで御坂ですよ!」

 

「そういうことよ!」

 

 

次の瞬間、勢いよく木山に電流が浴びせられる。

 

━━━……あれ?御坂、やりすぎじゃあ……

 

蒼の木山への憐憫に満ちた視線に美琴は気づかず、倒れた木山に向かってぼそりとつぶやく。

 

 

「いくらアンタでもさすがにあんなトンデモ能力は持ってなかったってわけね……」

 

 

そしてその直後蒼の若干引いた視線に気づき、言う。

 

 

「大丈夫よ、ちゃんと手加減しといたから……うっ!」

 

 

話している途中に走り出した痛みに美琴は顔をしかめる。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「……大丈夫……これは……帰山の記憶……?頭に……直接……流れ込んでくる……」

 

 

突然頭を抱えだした御坂に蒼は困惑する。

 

━━━記憶……?

 

 

「木山の生徒……?その子たちを……対象にした実験?……起こるはずのなかった事故?……」

 

 

美琴から断片的に伝わってくる情報に困惑する蒼。

 

━━━一体どういうことだ?木山の記憶を見ている?木山の生徒を対象にした実験?そこで事故が起こった?今ここで御坂が見た記憶はこの状況と何か関係があるはず……まさか木山はその子供たちを助けるためにこの事件を起こしたっていうのか?まさか……

 

 

「~~~~っ!観られた……のか……!?」

 

 

木山が苦悶の表情を浮かべながら起き上がる。

 

 

「何で……あんな事に……」

 

「くっ…………フフフフフ」

 

 

木山が半ばやけくそ気味に笑い声をあげる。

 

 

「あの実験の正体は『暴走能力の法則解析用誘爆実験』 能力者のAIM拡散力場刺激して暴走の条件を探るものだったんだ…… あの子たちを使い捨てのモルモットにしてね」

 

「「!?」」

 

 

蒼と美琴が驚愕する。

 

━━━人体実験!?能力開発のために子供を犠牲にしたのか!?そこまでするのか…… 神ならぬ身にて天上の意思にたどり着く者 (  LEVEL6  )って言うのはこの学園都市の研究者にとってそれだけの価値があるということか……。それもそうかレベル6っていうのは学園都市における最終目的だものな。だけど……子供を犠牲にするっていうのは胸糞悪いな……

 

 

「だったら……それこそ警備員(アンチスキル)に……」

 

「それで済むんならこんなこと起こさずに樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の申請をしていると思いますが……」

 

 

美琴の言葉を否定するとそれに同調するように木山が言う。

 

 

「その通りだ。23回。それが私がツリーダイアグラムの使用申請をして却下された回数だ。……統括理事会がグルなんだ、警備員が動くわけがない」

 

「…………」

 

「でも……それじゃアンタのやってる事も同じになっちゃうんじゃ……」

 

「君に何がわかる!!」

 

 

美琴の言ったことに木山がかぶせ気味に言い返す。

迫力のある言葉。強い意志が感じられ、その言葉の重みに美琴がたじろぐ。

 

 

「あんな悲劇二度と繰り返させはしない。 そのためなら私は何だってする。 私はこの町のすべてを敵に回しても止まるわけにはいかないんだ!!」

 

 

木山がそう叫んだ直後、様子が一変する。頭を抱え、苦しみだしたのだ。

 

 

「ぎッ、あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

 

「ちょ……ちょっと……」

 

 

美琴が木山の様子に心配したのか、声をかけるが聞こえていない。

 

 

「がッ……ぐ。ネットワークの……暴走?いやっこれは……AIM(虚数学区)……の」

 

 

そして木山の頭から勢いよく謎の物体が飛び出した。

その見た目は胎児に近くそして何より……

 

 

「キモいな…………」

 

 

 

 

 

 

それがなによりの感想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

化け物が誕生した。

 

━━━能力乱発、大暴走の無双中です。御坂が攻撃するたびにでかくなってる気がするし、て言うか絶対でかくなっている。だって今2メートル近くありますもん。

 

 

「~~っ、何なのアレ!?」

 

「いや、俺に言われましても……」

 

 

━━━御坂の電撃が直撃して爆ぜても血が出ないし、即座に再生するし通常の生物の枠に当てはまらないことだけははっきり分かるけど……

 

 

「御坂さん!蒼さん!こっちです!」

 

 

初春が二人を呼ぶ。

 

 

「初春さん!?」

 

「何でここに!?」

 

 

初春の方に向かおうとすると、化け物が氷塊を作り出してこちらに飛ばしてくる。

 

 

「ッ!」

 

 

それを蒼が停止した空気の壁で反らす。

追撃が来るかと思い様子をうかがうも攻撃が来る様子はない。

 

 

「追撃してこない?闇雲に暴れてるだけなの?」

 

「どっちにしろ初春を逃がさなければいけないので追ってこないのはラッキーです」

 

「私逃げません!まだ私にもできることがあるはずです!!」

 

 

蒼が言ったことに初春が強く反論する。

 

 

「いやー……俺たちにもできることがあるのか分からないんですけど……」

 

「木山先生なら、木山先生ならアレを止める方法を知っているはずです!」

 

「それはそうかもしれないですが……」

 

 

教えてくれると思いますか?とは言わなかった。初春の目が信用できる、とそう物語っていたから。

 

 

 

 

 

 

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

「AIM拡散力場の集合体?」

 

 

木山春生はそう言った。

あの化け物は1万人のAIM拡散力場の集合体だと。

すなわちあれは虚数学区なのだ。学園都市の少し深い部分を探れば必ず出てくる代物。

学園都市に蔓延している都市伝説とは全く異なっているものだが。

そんなことは今は関係ない。

 

 

「知っていたらアレを止める方法を教えてほしいんですけど……」

 

 

それを聞いて木山が自嘲気味に笑う。

 

 

「それを私に聞くのかい?だいいち私が何を言っても君たちは信用しないだろう?」

 

 

そう言った木山に初春が両手を突き出す。

 

 

「私の手錠木山先生が外してくれたんですよね?」

 

「それはただの気紛れだ。そんなことで私を信用すると?」

 

 

更に初春は一歩詰め寄って言う。

 

 

「それに、子供たちを助けるのに木山先生が嘘をつくはずありませんから」

 

 

それを聞いて木山はあきれたようにまったく、と呟いて言う。

 

 

「アレ、仮にAIM猛獣(バースト)とでも名付けようか。AIMバーストはレベルアッパーのネットワークが生み出したも怪物だ。ネットワークを破壊することさえできれば止められるかもしれない」

 

「レベルアッパーの治療プログラム!」

 

「それを試す価値はあるだろう」

 

 

━━━……やることは決まったな。

 

AIMバーストを見つめる。

俺たちの相手はあれか。

 

 

「決まりですね。初春はそれを持って警備員(アンチスキル)のところに。その間、俺と御坂でアイツを止めます」

 

 

美琴がうなずき、初春がわかりました、と返事をする。

 

視線の先に映るAIMバーストを見据えて言う。

 

 

 

 

 

「じゃあ行きますか!」

 

 

 

「ええ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




…………お久しぶりです。
インフルやら何やらで色々今年大変なスタートを切った作者です。
次回からはもう少し更新スピードを上げたいですね。出来れば今月中にもう一回。

次はいよいよレベルアッパー編大詰めです。
えーっと、アニメオリジナルの『乱雑解放【ポルターガイスト】』編なんですけどどうしましょうか……次のレベルアッパー編最終回終わった後キャラ紹介を挟む予定ですので皆さんの意見をそれまでに聞かせてくださるとありがたいです。その意見と私個人の独断と偏見をもとに決めたいと思います。*現段階では全く決まっておりません。
あと私のページに貼ってあるラインのIDなのですがタブレットが故障して修理に出しているためつながりません。ツイッターも同じく。基盤を変えるそうなのでデータがすべてなくなるそうです。この機会にパズドラ卒業します。

……それではいろいろ書きましたが皆さん。誤字脱字や感想ありましたら乱雑解放編への意見とともにお願いします。ではまた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 幻想猛獣【AIMバースト】

2014 2/16 17:37
最後に追記しました。


 

幻想猛獣(AIMバースト)が暴れだして数分。

警備員(アンチスキル)はほぼ壊滅状態だった。

黄泉川や鉄装は他の警備員(アンチスキル)の面々が倒れている中、意味がないと分かっていつつも銃撃を続けていた。否、続けざるを得なかった。何故なら、この付近にはアレが在るからだ。

退避するわけにもいかず、街を守るため発砲し続ける。

しかし、ここで化け物に銃弾を撃ち込み続けていた黄泉川が、触手の一撃で壁際まで吹っ飛ばされる。

 

 

「あっ、隊長!?」

 

 

さらに畳みかけるように問題が発生する。

 

 

「えっ、嘘!?……た、弾切れ!?……嫌ッ、来ないで!」

 

 

カチカチと銃から弾切れを意味する音が響く。

恐怖で足が竦み動けない鉄装に向かってノロノロと触手が近づく。

触手が鉄装に触れる、まさにその直前。

目の前にあった触手が電流によって焼き払われた。

その一瞬後に蒼が飛び込み、鉄装を救出する。

 

 

「あ、ありがと……って、あ、貴方たち誰?一般人がこんなところで何してるの!」

 

 

鉄装は礼を言いかけたところで相手が一般人であることに気づく。

 

 

「ったく。どいつもこいつも一般人、一般人って……」

 

「……まあ、俺たちは風紀委員(ジャッジメント)でない以上一般人であることは事実ですし……。まあそんななこと言っててもしょうがないんですけど……」

 

 

美琴の洩らした不満の声に蒼が呆れた声でツッコむ。

 

 

「とにかく!ここは危険よ!すぐに避難しなさい!」

 

「いや、逃げるのは…………ッ!」

 

 

再び迫ってきた触手を回避。

その直後に美琴が電撃で破壊する。

 

 

「逃げるのはそっち! アイツはこっちが攻撃しなければ寄って来ないんだから」

 

「それでも、撤退するわけにはいかないじゃん」

 

 

脇腹を抑えながら、黄泉川が遠くの施設を指さす。

指の示す先の巨大な施設を見る。

 

 

「アレがなんだかわかるか……?」

 

「いえ……なんですアレは?重要施設だから退避してないんでしょうけど……」

 

「アレは原子力実験炉じゃん」

 

「え……?マジ?」

 

「!?」

 

 

黄泉川の発言を聞き驚愕に目をむく。

何故警備員(アンチスキル)が身を挺して化け物の進行を止めようとしているのか、はっきりと理解する。

そんなものが近くにあれば確かにあんな化け物を残して逃げるわけにはいかないだろう。

 

そこで鉄装が階段を上る一人の少女の存在に気づく。

 

 

「何やってんの、あの子!」

 

「あれは木山の人質になっていた……。くっ!この混乱で逃げ遅れてるじゃん」

 

 

黄泉川の言葉に美琴が首を横に振って言う。 

 

 

「違う。初春さんはもう人質でも逃げ遅れてるんでもない……。頼みがあるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初春を警備員(アンチスキル)に任せて蒼と美琴が幻想猛獣(AIMバースト)と対峙する。

むやみに暴れまわる幻想猛獣(AIMバースト)に美琴電撃を当てて注意を引く。

その一撃で胴体に風穴があくがすぐに再生する。

 

 

「アンタの相手は私たちよ!」

 

「……まあそういうことです」

 

 

やる気満々の美琴と冷静で無表情の蒼の対照的な二人。

攻撃を受けた幻想猛獣(AIMバースト)が反応してこちらを向く。

 

 

『GYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 

幻想猛獣(AIMバースト)が鳴くと同時に頭部から光線が打ち出される。

 

 

「くっ!」

 

 

それを停止した空気の壁で防ぐ。

蒼の能力は戦闘に向いている。停止の力は防御面に応用が利きやすく、形状を固定することもできるため、武器としても使える。それに相手が生物であれば、体を凍らせることで対象を殺すことも可能だ。

だがしかし、それは相手が通常の生物であればの話。

相手は一万人の力場の塊。通常の生物の常識は通用しない。

幻想猛獣(AIMバースト)が発した攻撃が全方位に向けて拡散し、放たれようとする。

 

━━━させるか!

 

 

「~~~~ッ!凍れ!!」

 

 

その一瞬、幻想猛獣(AIMバースト)の動きが完全に停止する。

そして次の瞬間、動こうとした幻想猛獣(AIMバースト)が凍り付く。

 

 

「やったの?」

 

「……いや、やっぱり無理みたいです」

 

 

数秒の後に幻想猛獣(AIMバースト)の体が崩壊するも、完全には崩れず、すぐに体が再生し始める。

凍り付いても死なない。まさしく化け物だ。

 

体の半分以上が崩壊したにもかかわらず十秒足らずで再生が完了し、復活する。

 

 

「打つ手が無いんですけど……ここを通すわけにはいかないんですよね……」

 

「あたりまえよ!」

 

 

再び伸びてきた触手を美琴が電撃で吹き飛ばす。

しかしそれも今までと同様にすぐに再生する。

 

━━━早くしてくださいよ、初春。俺も御坂もこれが相手ではそう長くはもたないかもしれないですから。

 

 

次々と迫ってくる触手を美琴が電撃で防ぎ、能力で飛んでくる攻撃を蒼が防ぐ。

 

そこで、蒼が気付く。

 

 

「……この音は……?」

 

 

五感に働きかけるような音。それが辺り一帯に響き渡る。

 

 

「ッ!」

 

 

美琴が電撃を放ち迫る触手をまたも破壊する。

すると、どうだろう。先程まで攻撃を受けてすぐに再生していた幻想猛獣(AIMバースト)がその再生をやめた。

 

 

「初春さん、やったんだ……!じゃあ、悪いけど、これでゲームオーバーよ!」

 

 

電撃で美琴が幻想猛獣《AIMバースト》を焼き尽くす。

同時にその巨体が地に伏す。

 

再生していない。ならば今の一撃で終わったか……?と思いふう、と息をつく。

 

 

「やった?」

 

 

「気を抜くな!まだ終わっていない!ネットワークの破壊には成功しても、あれはAIM拡散力場が生んだ1万人の思念の塊だ。普通の生物の常識は通用しない!」

 

「話が違うじゃない! だったら、どうしろって!?」

 

 痛む体を引きずりながらもやって来た木山の言葉に方法を求める御坂の声に、

 

「核が、力場を固定させている核のようなものが、どこかにあるはずだ! それを破壊すれば……」

 

 

『ntst欲kgd』

 

 

木山の言葉をさえぎって幻想猛獣(AIMバースト)から人語ではない、嫉妬や羨望、苦しみや絶望が入り混じった悲鳴のような何かが聞こえる。

 

 

『kg苦s』 『n墳kd』 『dknr嘆yjtnj』 『w羨』 『ki遭bgnq』 『g助sm』 

 

 

その声は幻想御手(レベルアッパー)を使った者たちの声。

先程は自業自得と断じた者たちの悲痛な叫び。それは学園都市に来て日が浅く、且つ高位の能力者である蒼には理解できるはずもなかった才能という壁に苦しんできた学生たちの悲鳴。

 

それらを聞いて蒼も覚悟を決める。

 

 

「さがって、巻き込まれるわよ」

 

 

美琴が木山に警告する。

 

 

「構うものか! 私にはアレを生み出した責任が……」

 

「あんたが良くても、あんたの教え子はどうすんの!? 回復した時、あの子たちが見たいのは、あんたの顔じゃないの? こんなやり方しないなら、私も協力する」

 

 

美琴の言うことに蒼も同調する。

 

 

「そうですよ。何ができるかはわかりませんが俺も協力しますよ」

 

 

驚きで目を見開いてこちらを見る木山。

それを一瞥して美琴が言う。

 

 

「あとね、アイツに巻き込まれるんじゃない。私が巻き込んじゃうって、言ってんのよ!」

 

「む……」

 

 

大規模の電撃を美琴が放つ。

幻想猛獣(AIMバースト)は瞬時に木山が行っていたように誘電力場を形成し、美琴の電撃を防ぐ。

しかしそれは数秒で効果を失った。誘電力場を形成する物質を蒼がすべて停止させたのだ。

 

 

「蒼も逃げていいのよ?巻き込まれるわよ」

 

「……問題ないですよ。大丈夫です。それに電撃には割と慣れてます」

 

 

えっそれはどういう意味……と美琴が蒼の言葉に反応するがそれを無視して幻想猛獣(AIMバースト)を見据える。蒼の様子を見て美琴も向き直る。

そして美琴が幻想猛獣(AIMバースト)、否。幻想御手(レベルアッパー)使用者に語り掛ける。

 

 

「……ごめんね。苦しんでるのに気付いてあげられなくて。でもさ、だったらもう一度頑張ってみよ」

 

「その通りですよ。最近学園都市にやってきてぽっと出で高位能力者になった俺が言っていいことじゃあないかもしれませんがあえて言わせてもらいますよ。理想が、能力者になりたいって夢があるなら、こんなところで苦しんでいる暇があったらさっさと起きてもう一度努力しろ!!」

 

 

━━━能力者になりたくてこの街に来て、能力者になれなくて、才能という壁にぶつかって、やりきれなくなるという思いもわかる。そこに幻想御手(レベルアッパー)なんてものが現れたら使ってしまうのも理解できないわけじゃない。でも、それでも、諦めるな!歩き続けてたら先はある。でもそこで止まったらもう先はない。起き上がる手伝いはしてやる。だからもう一度、立ち上がって、歩き出せ!!!

 

頑張ってそれでも駄目で挫折して幻想御手(レベルアッパー)に手を出してしまった者たちの気持ちは蒼にも理解できた。彼らにもう一度だけ頑張れというのは残酷なことかもしれない。けれどもそれは大事なことだ。それが分かっていれば良い。人間誰だって挫折することはある。大切なのはそこから起き上がること。そして再び歩み始めること。そしてそれができるものはとても強い者だ。

 

 

「アンタって意外と熱い奴だったのね」

 

「なんですか急に」

 

 

美琴が叩いた軽口に蒼が目を細める。

 

ピンッと美琴がコインを指ではじく。はじかれたコインが宙を舞い放物線を描く。

 

幻想猛獣(AIMバースト)が最後の足掻きか触手を一斉にこちらに向けて来る。

 

 

「いいかげん、鬱陶しい!」

 

 

しかし蒼が能力で触手のみすべて凍らせる。

 

それを見て木山は思う

(この力、薄々思っていたがおそらく間違いない。彼女だけでなく、彼も━━━━、)

 

次の瞬間美琴が打ち出した彼女の代名詞、超電磁砲(レールガン)幻想猛獣(AIMバースト)の内部を貫き、そのまま核を破壊した。

 

(━━━━超能力者(LEVEL5)だったのか━━━━。)

 

 

 

 

 

 

○ ● ○ ● ○ ● 

 

 

 

 

 

事件が終結してしばらく経ってからやってきた警備員(アンチスキル)の増援に遅せえよ、と思いながら体力が尽きて動けない美琴の分も事情を説明し終え、美琴を連れて、木山の前に行く。

 

 

「あの……その、どうするの? 子どもたちのこと」

 

 

美琴が木山に問う。

 

 

「もちろん、諦めるつもりはない、もう一度やり直すさ。刑務所だろうと、世界の果てだろうと、私の頭脳はここにあるのだから」

 

 

美琴がほっとした表情を浮かべるが一拍おいて告げられた次の言葉に表情が引きつる。

 

 

「ただし、今後も手段を選ぶつもりはない。気に入らなければその時は、また邪魔しに来たまえ」

 

 

ええー、と蒼も思いながら警備員(アンチスキル)の車に乗せられて連行されていく木山を見送った。

 

 

「やれやれ、懲りない先生だわ」

 

 

そう呟いた美琴にクスりと微笑み、

 

 

「そうですね」

 

 

と呟いた。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

 

 

 

 

 

幻想御手(レベルアッパー)事件の翌日。

蒼は自分の頭の開発を行った研究室に来ていた。

理由は蒼の能力の再測定のためだ。

そこで若い研究者が蒼に話しかける。

 

 

「やあ、御桜君よく来たね。主任も奥で待っているよ」

 

「はい。奥に行けばいいんですね?」

 

「ああ、そこで主任からいくつか説明がある」

 

 

研究者のその発言を聞いて一度測定をしているのに説明?と疑問を持つも口にしない。

歩いていくと固い床がコツコツと音を鳴らす。

奥に行って待っていたのは蒼に能力についての注意事項を教えたあの男だった。

 

 

「主任。御桜君をお連れしました」

 

 

男はうむ、と頷き言う。

 

 

「やあ、御桜君。待っていたよ」

 

「……どうも」

 

 

主任と呼ばれたその男に会釈をする。

 

 

「さて、御桜君早速で悪いが能力測定を始めたいと思う。だがその前に君の能力だが……」

 

「大質量の物体も相当小さい対象でも停止させられることですか?」

 

「その通りだ。気づいていたのかい?」

 

 

主任研究者の言葉をさえぎり蒼が言った言葉に男は頷く。

 

 

「まあ、君の能力に一時的な制限をかけるために言った嘘だったのだがね。君は脳に与えられた壁を自分の意思で取り払ってしまったわけだが。だがもうその制限は必要ない。もう十分に能力も安定しているだろうしそれ以外の注意事項は以前と同じだ。再度説明の必要はあるかい?」

 

 

主任研究者の言葉にいえ、と否定の意を示す。

 

 

「では身体検査(システムスキャン)を始めよう」

 

 

 

 

 

 

○ ● ○ ● ○ ●

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

身体測定(システムスキャン)が終わり、能力の測定結果がでた。……はずなのだが……

 

━━━まあなんというか……研究者のみなさん完全に沈黙していらっしゃる。何か問題でも発生したのか?

 

蒼の困惑を察してか研究者たちが口を開く。

 

 

「御桜君。この結果だが少し時間をもらえないか?」

 

「……?それは構いませんが……」

 

 

その後、数分話が続きこの日の研究所での用は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

 

 

 

 

二日後蒼は研究所に呼び出された。

呼び出される際に学園都市上層部がどうとか発表がどうとか言われたけれどいまいち要領をえず、理解できなかった。詳しい説明は今日とのことだが。

 

そして今は研究所にいる。

先日からいた研究者たちに加え、先日はいなかったここの研究所以外のマークを付けた研究者がちらほら見え、彼が……などと蒼の話をしている者もちらほらと居る。

 

そこで、先日の主任研究者が蒼の前にやってきた。

 

 

「やあ、御桜君。急に呼びつけて悪かったね。君の能力についての結果だが先日話した通り学園都市上層部……統括理事会に報告させてもらった」

 

「?」

 

 

なぜ自分の能力についての話で統括理事会が?と思う。

自分の能力は事前の測定ではレベル4、確かにレベル4の能力者は少ないがわざわざ統括理事会が関与するほどではない。

そんな蒼の疑問に答えるかのように主任研究者は口を開く。

 

 

「まず結論から言わせてもらうが君の能力強度(LEVEL)超能力者(LEVEL5)、序列は第三位だ」

 

「はい?」

 

 

研究者の言葉に思わず聞き返してしまう。

それも当然だ。超能力者(LEVEL5)の第三位と言えば御坂美琴。

言わずと知れた常盤台のエース『超電磁砲(レールガン)』だ。

突然そんなことを言われても理解できようはずもない。

 

そんな蒼の様子には特に反応を示さず主任研究者は続ける。

 

 

「まず君の能力、……完全停止能力だが能力の範囲、規模、強さすべて申し分ない。序列についての理由だが君には説明はまだしていなかったが序列は能力研究の応用が生み出す利益が大まかな基準となっている。君の能力は応用が生み出す利益は間違いなく『超電磁砲(レールガン)』より下だ。だが君の能力の能力強度はかの学園都市最強の能力者、『一方通行(アクセラレータ)』に勝るとも劣らない。さすがに第二位である『未元物質(ダークマター)』には能力強度で勝っていても及ばないがね」

 

 

━━━……俺の能力がLEVEL5?いやいやいや、話がぶっ飛びすぎだろう。しかも強さは第一位並み?冗談が過ぎるだろう。……いや、冗談じゃないのはわかっている。ここまで研究者が集まって冗談など言わないだろう。

 

主任研究者が続ける。

 

 

「君はわが研究所初の超能力者(LEVEL5)だ。さしあたっての質問だが君のことを世間に公開しても構わないかね?」

 

「……ええ、構いません」

 

 

主任研究者の言葉に蒼は頷く。

 

 

「ありがとう。これで私からの話は終わりだ。何か質問はあるかね?」

 

「……いいえ、ありません」

 

 

主任研究者の言葉に首を振って否定する。

 

 

「では、もう帰ってくれて構わない。今日はわざわざご足労願い、感謝するよ。」

 

 

その言葉を聞いて踵を返しその場から立ち去る。

 

━━━、今日は少ない時間にいろいろ衝撃的なことを聞きすぎた。こういう日は早く帰って寝るに限るな。

 

そうしてこの日は寮への帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日、新たなる超能力者(LEVEL5)の誕生というニュースが学園都市中を駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは作者です。
幻想御手【レベルアッパー】編最終回でした。
今回の話もですが漫画を混ぜつつのアニメ準拠ですねこの作品は。
とりあえず次はキャラ紹介を投入して閑話を挟んで次のシリーズに行きたいと思います。
余談ですが乱雑解放【ポルターガイスト】編をカットした場合は改革未明【サイレントパーティー】編は絶対に入りません。かと言って乱雑解放【ポルターガイスト】編をやったからと言って必ず改革未明【サイレントパーティー】編をやるとは限りませんのであしからず。
ツイッターはパソコンで復旧しましたので意見はそちらにでも構いません。
では、誤字脱字、意見、感想ありましたらよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間
とある二次小説の人物紹介


前回の話ですが投稿二時間後ぐらいに追記してあるのでご注意。


・人物紹介

 

◎御桜 蒼 【みさくら そう】

 

・年齢 13歳

 

・身長 167cm

 

・体重 56kg

 

・誕生日 12月24日

 

・血液型O型

 

・能力 完全停止能力(オールストップ)

 

・能力名 『絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 

*この世に存在する全てのモノに干渉し、停止させる能力。

能力範囲は観測できている限りでは学園都市全域だが実際は確実にそれ以上。

運動の停止、形状変化のみの停止、座標の固定、etc……、など能力の発動および応用範囲は多岐に及ぶ。

故に能力を駆使して空気の形状、位置座標の固定などを同時に行い空中に立つなどの荒業も可能。

分子の停止、というのは形あるものに関しての小ささの限界であって決して能力の本質ではない。

この世に存在する全てのモノには能力そのものも該当し、能力そのものすらも停止させることができるがこれに関しては本人が直接干渉(触れるなど)しなければならないため、非常に危険。

木山や本人の予想では念動能力(テレキネシス)系の能力だが、実際のところは定かではない(というかおそらく違う)。

無意識下で常に能力が発動しており、本人の意図、認識していない外部からの影響を自動で処理している。

存在を確認していれば黙止していない対象でも能力の対象にできる。

停止という能力の特性上相手への遠距離攻撃は基本的に絶対零度で凍らせるなど致死性の高い攻撃方法のみなので遠距離での対人戦闘を本人は好まない。

 

 

 

・家族構成 父 妹 義母

 

家族は父と妹と義母と自分を含めての四人。

父親は世界中を股にかける闇の大武器商人。

そのため世界中のどこにいても命を狙われていた特殊な立場だったが2年前に父親の敵対していた組織が完全に壊滅したため現在はある程度落ち着いている。

それが理由で自分の命を守るためにいくつか武術を習ったが合ったのは柔術だけで他はみんなやめてしまった。

母親は自身が経験した三度目の戦闘で他界。

そのため狙われる原因となった父とは非常に仲が悪い。(一方的に蒼が嫌っている)

妹との関係は良好。ただし妹は母親が違う。(当時は妾で今は父親と再婚したので義理の母親の連れ子が一応の立ち位置)

 

 

・容姿 茶色の瞳に黒髪のセミロング、女顔

 

父親が純日本人で母親がイギリス人と日本人のハーフのクオーター。

容姿は母親似だが、特徴はほぼ完全に日本人である。

女顔は変装がしやすいから、という理由で気に入っていたが、一度男物を着ているのに男にナンパされてからは自信が持てなくなった。

 

 

 

・備考

 

学園都市の能力者の頂点である超能力者(LEVEL5)の一人。

特殊な生い立ちからか自身に対する価値観が一般人とは異なる故に独特の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を持っていると思われる。

自身の持つ独特の価値観はプラスの方だけに働いているわけではなく、能力を今まで無かったものとして信頼しきれておらず、結果的に能力に回す演算能力を他にまわしてしまっているため能力を全開にして使用できていない。

能力の強度を決める演算能力は学園都市最強の能力者である『一方通行(アクセラレータ)』にも劣らないうえに、その力が全て停止能力一点につぎ込まれているので純粋な能力(ちから)の強さなら本来は『一方通行(アクセラレータ)』よりも上である。

特技はハッキング。

趣味は映画観賞。(主にB級)

昼寝をしながらボーっとするのが休日の楽しみの一つ。

大怪我をしたことが発端で、その後病気を発症したので一年の療養をしていた。

生まれつき自身のリミッターを外せるという特殊能力を持つ。

 

 

 

 

◎御桜 和 【みさくら のどか】

 

・年齢 12歳

 

・身長 149cm

 

・体重 42kg

 

・誕生日 10月3日

 

・血液型A型

 

・能力 反射能力(リフレクト)

 

・能力名 能力と同じ

 

*己に触れたモノを全て反射する力。

触れたモノの行方を直線的に操作することはできるが跳ね返した力を曲げるなどの反射の域を超えた力は発揮することができない。

偏向反射などは可能。『一方通行(アクセラレータ)』のように力そのものを操っているわけではなく、あくまで触れた力の方向を変える受動的な能力。

ただし触れたモノの質量や力の大きさに関係なく反射できる。(威力を増すことも減らすことも可能)

 

 

 

家族構成  父 母 兄

 

兄である蒼とは異母兄妹である。

世界中を転々としていた蒼に対して警備が厳重な施設で母親とほぼ二人で暮らしていたため時々来る兄には思いきり甘えるように母親に言われてその通りに育ったためブラコン気味。

兄とは違い父親との関係は良好。

 

・容姿 黒い瞳の黒髪ロング

 

純日本人。

目元が蒼に似ているらしい。

 

・備考

 

一つのことに熱中しだすと周りが見えなくなるタイプ。

大能力者(LEVEL4)だが受動的な力なのであまり普段は使用していないが、自身に飛んでくる一定以上の質量を持った物体を反射するように設定している。

特技は家事全般。

蒼と同じように自己防衛の意識が徹底している。

蒼と同じく武術を習っており古式空手を習得している。

 

 

 

 

 

 

 




この人物紹介ですがオリキャラが登場すればその都度更新していく予定です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 御桜 蒼の休日①

PLLLL、PLLLL……

 

時刻は午前4時。

携帯電話の甲高い着信音で目が覚める。

 

 

「……ん~……誰だ、こんな朝早くから……」

 

 

早朝でテンションが低く、気分も悪い。

周りの暗さで今の時刻が日の出前だということも理解する。

 

携帯電話を手に取り、開いて相手を確認する。

 

 

「うあ~……」

 

 

相手を確認した途端、さらに気分が悪くなる。

 

表示されている文字は『開発主任』。

 

こんな朝早くから何の用だ、と相手を確認し、蒼の機嫌が明らかに悪くなった。

正直、あの開発主任は苦手、というか嫌いなのだ。

 

通話ボタンを押して右耳にあてる。

 

 

「……もしもし……」

 

 

自分でも驚くほど不機嫌な声音が出る。

 

 

『ああ、御桜君。早朝からすまないね。君に少々聞きたいことがあってね』

 

 

それなら後にしろよと思う。

なぜに午前4時。

 

こちら側の不機嫌さが伝わったのか研究者が次の言葉を紡ぐ。

 

 

『すまないね。こちらも徹夜明けでね、後回しにすると忘れて寝てしまいそうでね。……まあ、冗談はおいておくとして本題に入ろうか。……君の能力名だがどういう名前にしたい?』

 

「……はい?」

 

 

いまいち意味が分からない。

俺の能力は完全停止能力じゃないのか?

 

研究者の言葉がいまいち呑み込めない。

 

 

『言っている意味が理解できているかな?……超能力(LEVEL5)では後になってから自身の申請で能力名を変えるものが居てね、まあ第一位の【一方通行(アクセラレータ)】などが例になるのだがね。後になって変えるのも面倒だからと言う訳で君に希望があれば聞いておこうかと思ってね』

 

 

━━━心底どうでもいいわっ!そのために朝4時に叩き起こしたのかこいつは!

……まてよ?確かに能力を知られたらその瞬間に悟られるって言うのは良くないんじゃないか?

いやまあ、隠す必要もないのだが……。

まあ確かに完全停止能力(オールストップ)ってまんまだしな~……。

御坂みたく必殺技的なのがあれば……と言っても俺の能力は派手さは皆無なんだけどな……。

うーん、必殺技、必殺技……。

うーむ……あ、そうか必()技っていうならそういえば絶対零度を生み出せたっけか……。

じゃあ、英語にしてアブソリュート・ゼロでいいか。うん。

横文字にすると大抵の言葉は良く聞こえるし。

 

そう思いいたると同時に研究者にその旨を伝える。

 

 

『ふふっ、了解したよ。学園都市の超能力者(LEVEL5)、その新しい第三位。 では、君の能力名は今日から【絶対零度(アブソリュート・ゼロ)】だ』

 

 

ほくそ笑んだであろう研究者の笑みが聞こえたが無視をする。

 

そして、その答えを聞いても今なお思うことは変わらない。

 

 

こんな朝早くから電話かけて来るな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

○ ● ○ ● ○ ● ○ ● 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後目が冴えてしまい、結局眠れなかった。

 

━━━……あの野郎……。どうしてくれようか……。

 

延々と不満の考えが浮かび上がる。

不機嫌さ全開の頭でそんなことしか思い浮かばない。

そうして不満ばかり考えるが意味がないのでやめる。

 

 

「さてと。今日はどうするかな……」

 

 

現在の時刻は7時。

日も出ているし気分を切り替えるために出かけようかなと考える。

 

━━━あ~……映画でも見に行こうかな~。

あ、でもこの街にB級、C級の映画やってるのかな~。

丸一年B級C級しか見てなかったからなんとなくメジャーなのよりこっちの方が良くなっちゃったんだよな~。慣れって恐ろしいよな~。

あそこの館長の趣味に浸食されったってことだよな~。

 

そんな意味のないことを考えながらパソコンをネットに繋ぎ、検索をかける。

 

 

「お~、意外とあるなぁ……。一番近いのは……ここか」

 

 

そのページを開き情報を確認する。

 

 

「えーっと、9時からやってるのか。今やってるのは……『宇宙ゴキブリVS地球ゴキブリ』……なんだこれおもしろそうだとまったく思えないな……。よし、見に行くか」

 

 

面白くなさそうといったにもかかわらず見に行くと言い出すあたり、マイナー思考に浸食されている。

 

そんなことはさておき、服を着替えて出かける準備を始める。

現在の時刻は8:20。

映画館までの距離がこの寮から20分ほどの距離なので余裕を持って出るならちょうどいい時間だ。

 

そう思い、寮を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか……予想と違ってでかいなぁ……」

 

 

マイナー映画なんてやってるから小さい映画館を予想していたのだが普通に大きかった。

ちょっとした裏道を挟むからか人の通りは少ないが、まあ学園都市の中だけあって普通に道はきれいだし、ある程度は開けている。

 

 

「おっと」

 

 

周りをきょろきょろ見ながら入ろうとすると人とぶつかりそうになる。

 

 

「すいません。お先、どうぞ」

 

 

蒼より20cmくらい低い身長……145cm前後のフードをかぶった女の子?であろう人に先を譲る。

 

すると、その女の子は視線を蒼の方に向けて言う。

 

 

「私に先を譲るとは超見上げた心がけですね。この行動に免じて今ぶつかりそうになったことは超見逃してあげます」

 

 

━━━……超?なんだか変わった子だな~。それに高くてかわいらしい声。やっぱり女の子かな。

 

そう思いながら女の子が入った後に続いて入る。

 

すると、女の子が振り向いて言う。

 

 

「あなたは今日は何を見に来たんですか?一応言っておきますがここはB級以下の超マイナー映画しか上映してないですよ」

 

 

女の子の突然の言葉に一瞬戸惑うも冷静に言葉を返す。

 

 

「え?……ああ、問題ないですよ?俺はB級以下の映画が上映してる映画館を探してここに来たので。えーっと、今日見に来たのは『宇宙ゴキブリVS地球ゴキブリ』ですね」

 

 

その女の子にそう告げると、女の子ははっきりとした口調で語りだした。

 

 

「ああ、その映画ですか。そんな超C級臭のする名前にもかかわらず製作者サイドの勇気というか無謀というかそんな感じの暴走で本気でハリウッドを目指したにもかかわらず超失敗したC級映画です。タイトルだけでまず超敬遠され、ろくにお客は入らなかったそうです。まあ、ハリウッドを目指しただけあって絵やCGのクオリティだけは超高いそうですが」

 

流暢に語りだした女の子の知識に蒼は舌を巻く。

 

━━━もしかしなくてもこの子はマイナー映画好きなのかな、俺と同じで。

 

そんなことを思いながらそう言う。

 

 

「へえ~、そうなんですか。お詳しいですね」

 

 

━━━まさかのこのタイトルでのハリウッド狙いとは。

明らかに失敗しそうなタイトルにもかかわらずハリウッドを目指したとは。

いくらなんでもチャレンジャー過ぎるなさすがに。

……それにしても、始めてくる場所はどうしても落ち着かないな……。

 

そう思いながらそわそわとしていると三度、女の子が話しかけてくる。

 

 

「……その映画でしたら私も超見る予定でしたから良ければご一緒しましょうか?」

 

「……いいんですか?お互い名前も知らないのに」

 

 

蒼の言葉に女の子は数秒の間をあけて答える。

 

 

「……別に超構いませんよ。名前ならお互い名乗ればいいだけの話ですしね。なにより、学園都市で同じくらいの年のマイナー映画好きの同好の士にあったのは超初めてですのでちょっと普段より少し機嫌が良いだけです」

 

 

━━━女の子の言葉にこの街はマイナー映画が好きな人は少ないのかな?

……まあ学生ばかりのこの街でマイナー映画好きばかりがいるのもおかしな話か……。

 

女の子の言葉にそう自分で納得して結論づけてから改めて自己紹介を始める。

 

 

「そうなんですか……。じゃあ、よろしくお願いします。俺の名前は御桜 蒼です。まあ、蒼とでも呼んでください」

 

 

蒼が自己紹介すると、女の子がフードを外す。

まず目に映ったのは茶色の短髪。

その次にすっと整ったかわいらしい顔立ちに少し大きめの目。

先程の口振りでは中学生ほどであろう小柄な体。

俗に言う、美少女のカテゴリーに属する少女がそこにいた。

 

━━━……御坂や白井、佐天や初春も美少女だと思うけどこの子もまた美少女だな……。

……というか学園都市にいる子は結構美人さんが多いんだよなぁ。

…………ああ、だからか。最近美形な人との遭遇率が高いと思ったら学園都市全体のレベルが高いのか……?

 

そんなくだらないことを考えているとその少女が自己紹介を始める。

 

 

「私は絹旗 最愛です。超よろしくです」

 

 

 

 

 

 

この女の子、絹旗最愛との出会いが蒼のこの日を騒がしくする始まりとなるとはその時はまだ予想もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 




にゃんぱす~

魔王の後継者です。
幕間、スタートです。2か3話で終わる予定です。
乱雑解放編ですがやらない方向で行こうと思います。まだ決定ではないですが。
乱雑解放編やらない場合は改革未明編はやらないと言いましたが姉妹編が終わった後に意見を聞いて決めることにします。
次回は今月中には投稿するのであしからず。
では、また。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 御桜 蒼の休日②

 

 

 

『━━━ゴキブリ、それは最強の生物』

 

「「(超)何でですか!」」

 

 

映画のナレーションに蒼と最愛は同時に突っ込んだ。

 

 

映画【宇宙ゴキブリVS地球ゴキブリ】。

初っ端からのネタのブチ込みに二人そろって反応する。

普段ならば他人に迷惑がかかるのでできないことではあるが、流石C級と言うべきか二人のほかに人はいない。

世界観は28世紀。

26世紀後半に人類が滅んでからその後表舞台にじわじわと現れ始めたのはゴキブリだった。

ゴキブリたちは少しずつ知性を身に着け始め、文明を成していった。

冒頭はゴキブリたちの文明が平和に日々を過ごしているところから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

 

「超予想外の展開でした……」

 

「そうですね……まさか地球ゴキブリにあんな秘密があったなんて……」

 

 

映画鑑賞の後、蒼と最愛は喫茶店に来ていた。

映画【宇宙ゴキブリVS地球ゴキブリ】は予想外に予想外の展開を重ね、名前からは想像もできない大作だった。

おそらく名前で敬遠され続けていたのだろう。

きちんと注目さえされていれば、大成功とまではいかないかもしれないが、成功はしただろうなというのが蒼の素直な感想だった。

 

 

「最高だったのは戦闘シーンの作画です。超圧巻のクオリティーでした」

 

「作画のクオリティーが高いとは絹旗さんに聞きましたけど確かにあのシーンの作画は気合の入り方は他とは段違いでしたね」

 

 

映画が予想以上に面白かったがために、二人ともテンションが高い。

 

 

「……随分長居してしまいましたし、そろそろここを出ましょうか」

 

 

蒼が時計を見て提案する。

もう二時間もいる。そろそろ潮時だろう。

 

それを聞いて絹旗も時計を確認する。

 

 

「そうですね。超長居してしまいました」

 

 

そういって立ち上がった時に蒼がサッと伝票を取る。

 

 

「? 私、自分の分は払いますよ?」

 

 

絹旗が蒼に言うが、蒼はその言葉に首を振って答える。

 

 

「これくらい、俺が出しますよ。それほど多いわけでもないですし、遠慮なさらないでください」

 

 

絹旗は、一瞬きょとんとした表情を浮かべた後直ぐに小さく吹き出した。

ほとんど表情を変化させていなかった絹旗の浮かべた笑顔に蒼は一瞬ドキッとしたが表情に出さない。

 

 

「超分かりました。ここはお言葉に甘えておきます」

 

 

頷いてそのまま代金を払って店を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

 

━━━店員さんに可愛い彼女さんですね、と言われたが……苦笑いしかできなかった。

何と言うか……聞こえなかったよな?聞こえてたら迷惑だったよな……さっきからこっち向いてくれないし……やっぱり聞こえてたのかな……。

 

なんて事を蒼が考える中、絹旗の頭の中は焦り一色だった。

顔が真っ赤に染まっているため蒼を直視できなくなっている。

 

(ななななななな、なんですかさっきのは!?わわわわわ、私がかかかか、彼女!?ありえません、超ありえません!わわわわわ、私に彼氏なんて!いい、いる訳が……)

 

と、絹旗は考えながら隣をちらちらと窺う。

 

 

画して、隣を歩きながらちらちらと隣を窺い合う男女の奇妙な図が完成したのである。

 

チラチラと、お互いに窺いあう二人はそのまま並んで歩き続ける。

だんだんと気まずい空気が形成されていき互いにドンドン話しかけ難くなる。

埒が明かないと思い、蒼が意を決して話しかけようとしたその時。

 

その空気を壊す、空気を読めないやつらがいた。

 

 

「ねえ君、可愛いねえ俺たちと一緒に遊ばない?」

 

 

その声は、蒼を無視して絹旗のみにかけられた。

チャラチャラとした格好の男が三人。全員が一様ににやにやとした表情を浮かべている。

絹旗は男たちの態度にムッとした。そして次の瞬間迷惑そうな表情を浮かべる。

男たちのこちらをなめきった態度は二人の神経を思い切り逆なでしていた。

特に完全に無視された蒼の苛立ちは一層強かった。

 

 

「ねえ、君~。黙ってないでさぁ~俺たちと一緒に遊ぼうよ~」

 

 

男たちの一人が絹旗の肩に手をかけようとする。

 

 

「む……」

 

 

パシン、と乾いた音が響いた。

絹旗が男の手を払いのけようとした瞬間、蒼がその手を払いのけたのだ。

男たちのにやけた表情が一瞬引っ込むもすぐに戻る。

表情が戻った理由はすぐに知れた。

 

 

「あ~君、男物の服着てるから男かと思ったけど実は女の子?よく見ると君もかわぃ……おぐぉ!?#$%&%$#&%$」

 

 

しかし、その言葉は蒼の逆鱗に触れた。

 

男の言葉にならない悲痛な悲鳴が漏れる。

蒼の蹴りが男の股間に炸裂していた。勢いは強く、狙いは的確。

周囲の男たちがとっさに股間を抑えるほどに痛々しい光景だった。

蒼の冷たい視線が周りの男たちに向けられる。

 

男たちはその視線で我に返る。

 

 

「はっ!てめえよくもコータ君を!!」

 

 

コータ君なる三馬鹿Aをやられた三馬鹿Bが激昂する。

しかし、

 

 

「うぎょぉっ#$%&’&%$#”#」

 

 

二人目の股間をつぶされた哀れなバカが誕生する。

 

股間をけられた三馬鹿A、Bが白目をむいて失神する。

それを見て三馬鹿Cは再びとっさに股間を抑える。

 

 

「戦闘中に余所見か?」

 

 

股間を抑えていた三馬鹿Cは為すすべなく頭を横から蹴り飛ばされた。

そして、糸の切れた操り人形のように地に伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

 

 

三馬鹿をものの見事にのしてしまった蒼は、絹旗とともにダッシュしていた。

完全にやりすぎた。間もなくあそこには警備員(アンチスキル)が到着するだろう。

 

 

「超やりすぎなんですよ!」

 

「それは認識してます!」

 

 

いろいろ理由が重なっておまけに逆鱗にまで触れられてしまったためブチ切れてしまい、蒼は完全にやりすぎてしまったのだ。一番の理由は他にあるのだが。

 

路地を抜けて二人とも一息つく。

 

蒼は肩で息をしていた絹旗が息を整えるのを待つ。

 

━━━、あ~完全にやりすぎた。久しぶりに完全にキレてしまった……。

 

絹旗を待っている間、後悔にさいなまれる。

やりすぎた自覚ははっきりと蒼にもあるのだ。

 

 

「まったく……超限度ってものがるでしょう……」

 

「いや、まったくもって……」

 

 

はぁ、と絹旗がため息をつく。

呆れている様な疲れた様なそんな溜息である。

 

あはは、と蒼は苦笑いを浮かべる。

 

 

「何であそこまで超怒ってたんですか?いくらなんでもあれは……」

 

 

男たちの痛々しい光景を思い出して絹旗も少し憂鬱になる。

女性である絹旗にはわからない痛みではあるが、アレは想像を絶する痛みなのであろうとは予想ができる。

 

そこで、蒼が口を開く。

 

 

「え~と……まあ、理由はいろいろあるんですけど……。う~んと、……まあ、女に間違えられたから?」

 

 

蒼の言葉に不服なところがあったのか絹旗は半眼になる。

ジトーっと冷たい視線で見られた蒼はうっ……と後ずさる。

 

 

「ホントにそれだけですか?私には超そうとは思えないんですけど」

 

 

━━━何か、見抜かれてる?何故に……

 

絹旗に見抜かれて少したじろぐ。

 

 

「ええっと……笑いませんか?」

 

「超理由によりますが……善処はします」

 

「んじゃあ、まあ……」

 

 

絹旗の言葉に、一拍を置いてから言う。

 

 

「絹旗さんが、迷惑そうにしていましたので……」

 

 

蒼が本当の理由を言う。

すると絹旗は一瞬間をあけて、

 

 

「ふふふっ、あははは!」

 

「笑わないって言ったのに……」

 

 

蒼の言葉に大爆笑している絹旗に蒼は不満の声を漏らす。

ほほを紅潮させて大笑いする絹旗には蒼のその声が聞こえていないようだが。

 

 

 

 

 

 

 

ほどなくして絹旗の大爆笑が収まる。

 

 

「あっはは、ふぅ。久しぶりに超爆笑しました」

 

 

目じりに溜まった涙をぬぐいながら絹旗が言う。

蒼は少々むくれた表情で沈黙を貫く。

 

 

「さすがに悪かったですよ。超笑いすぎました。ぷふっ」

 

 

最後に笑ったのを聞き逃さず、蒼はさらにむくれる。

こういうところに蒼の妙に子供っぽいところが表に出ている。

 

 

「全然悪いと思ってないでしょ絹旗さん」

 

「……超そんなことありませんよ」

 

「なんですか今の間は」

 

 

コントのような会話が続く。

二人は趣味のほかにも意外なところに共通点があり話題の種が多かった。

三馬鹿たちが絡んでくる前の気まずい空気がなかったかの様にきれいに続く会話は、二人にとってとても楽しい時間に感じられた。

 

しかし、会話の終わりは突然に訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!絹旗ー!」

 

 

この金髪少女の登場によって。

 

 

「あ、フレンダ」

 

 

フレンダと呼ばれた少女は絹旗の知り合いのようだ。

そして、本日二回目。この街美少女が多いなとまたも蒼は思う。

 

 

「どうしたんですかフレンダ」

 

「いや~ちょっと見かけたから声をかけたってわけよ」

 

 

絹旗ははぁ、と軽くため息をついてから蒼の方を見る。

 

 

「あ、こちらは御桜 蒼さんです。割といい人です」(キレた時の目つきは超怖かったです。麦野並み、レベル5級の怖さでした)

 

「別に、お世辞はいらないですよ?どうも、御桜 蒼です」

 

「私はフレンダよ」

 

 

軽くお互い挨拶を交わす。

割と人当たりのよさそうな人だな、と蒼が思った直後。

フレンダさんは特大の爆弾を落としてくれた。

 

 

「で、結局二人は付き合ってるのかって聞きたいわけよ」

 

 

先程自然消滅した特大の爆弾を彼女は、いとも簡単に放り込んでくれた。

 

時が、凍り付いた。

冷たい空気が流れ込む。

 

そして、一気に熱が上がった。

 

 

「「ななななな、何を言ってるんですか!?」」

 

 

二人して顔を真っ赤にしてフレンダに迫る。

蒼が右肩を、絹旗が左肩をつかみ前後に激しく揺らす。

 

 

「ななな何だって言うわけよ!ちょっと聞いただけってわけよ!」

 

「まあ……」

 

「それなら……」

 

 

落ち着きを二人とも取戻し、フレンダを開放する。

フレンダは解放された瞬間、開口した。

 

 

「で、結局二人は付き合ってるのかって聞いてるわけよ」

 

 

再び爆弾投下するために。

 

 

「「だから、何でそうなるんですか!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。

空は茜色に染まり、すっかり夕暮れである。

フレンダは途中で逃走し、それを追いかけているうちに話はすっかり有耶無耶になっていた。

互いに少しずつ意識したままではあるが。

 

 

「今日はなかなか楽しかったです」

 

「それは良かったです」

 

 

絹旗の言葉にそうが丁寧に返す。

絹旗の発言にはまだ照れがあるが、蒼はいたって冷静に表面上はふるまっている。

 

 

「ま、まあ?今日はなかなか楽しかったですから?私が超暇だったら?また一緒に休日を過ごしてあげても構いませんよ?」

 

「ふふっ、何で疑問形なんですか。……ええ、ぜひお願いしますよ。絹旗さん」

 

「……ぃぁぃ」

 

「え?」

 

 

ボソリ、と絹旗が言ったことを蒼が聞き返す。

一瞬間をあけた絹旗は、蒼の顔を見据えて、再び言う。

 

 

「最愛で超いいって言ったんですよ!」

 

「え?」

 

 

絹旗の言葉に驚いた蒼が間の抜けた声を出す。

そして数秒の間をおいて蒼は復活し、再びきちんと返事を返す。

 

 

「ええっと……分かりました。…………最愛。っと、俺のことも蒼で良いですよ?」

 

「えっ!……超分かりました。…………蒼」

 

 

傍から見たら見たら、完全にむずがゆくなる光景である。

二人の間にぴったり10センチほどの間があって非常にもどかしい状況である。

そこで、絹旗が思い出したように言う。

 

 

「あ、……そ、蒼。まだ連絡先を超交換していませんでした……」

 

「そういえば、そうですね。交換しましょうか」

 

 

絹旗が携帯電話を出し、続いて蒼も取り出す。

二人は赤外線通信を使用してちゃちゃっと交換する。

そして交換し終えた後、互いに向き直る。

 

 

「では、今日は超サヨナラです。……蒼」

 

「ええ、また連絡しますよ。では、また」

 

 

別れの挨拶を交わして、別れる。

 

 

 

こうして、絹旗最愛との出会いから始まった、ある意味騒がしく、忙しい一日が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




にゃんぱす~


魔王の後継者です。
すいません。更新が少し遅くなりました。
オリジナル話は書くのに少々時間がかかってしまうんです。
書いてる時にいろいろ迷うので。まあ、書いてるとき楽しいんですけどね。
次はできるだけ早く更新したいと思います。
4月9日の誕生日までには何とか……。うん、更新します。

では、また。

感想などあったらよろしくお願いします!

次から姉妹【シスターズ】編スタートです!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

妹達≪シスターズ≫
14 マネーカード


遅くなりました。
久々の更新です。


夏休みも中盤にさしあたった8月10日。

夏の照りつける日差しに熱された灼熱の空気を身に纏いながら、蒼は一人で街路を歩いていた。

 

 

「あっつういーー……」

 

 

こんなにあの町は暑くなかったぞ……と愚痴をこぼしながらとぼとぼと歩く。

確かにこの町は暑い。

コンクリートで完全舗装された地面は直射日光を受けその熱を吸収し、大気に放出する。

その熱で暖められた空気が蒼の感じるこの暑さの原因の半分だ。

土の地面で、コンクリート舗装がほとんどされていない田舎町とは暑さが違って当然だろう。

そして感じている暑さの原因の半分以上の理由はその格好にあると言えるだろう。

真夏なのに長袖。

熱がこもらないような素材で作られてはいるものの、服は本来の熱を閉じ込め寒さを和らげる機能を発揮して暑さを増強し、蒼を苦しめていた。

蒼がこんな恰好をしているのにはもちろん理由がある。

単純に蒼は直射日光に弱いのだ。

学園都市最強クラスの能力者であるLEVEL5の一人の蒼だが、存外弱点は多いのだ。

 

ボーっと何を考えるでも無く蒼は歩いていた。

7月の内に夏季休暇の宿題を終え、何もやることもなかった蒼はなんとなくの感覚で出かけたのだがこれが良くなかった。

蒼は一人で出かけて当てもなく歩き続けて30分、見事に迷子になったのである。

何故にこの男は方向音痴を自覚している癖に路地裏の道などを通りショートカットしてみようなどと無謀なことを考えるのかなど彼に対してのツッコみたいところは満載だ。

そうして当てもなくただ直射日光を避けるようにして路地裏を歩く。

 

この暑さの中外に出るのは馬鹿のやることだったなあ……。

 

暑さにやられ、項垂れる。

とぼとぼと歩いていると、ふと思う。

 

あれ、こんなにも路地裏の道って人が多いものだっけ?

 

気づいたのは、人通りの多さ。

現在蒼が歩いているのは路地裏。

薄暗くて湿気も多く、監視カメラの死角にすらなっている様な場所。

到底普段から人通りがあるようになどとてもではないが思えないような場所だ。

だがすでに路地裏に入ってからもう5人とすれ違っている。

この路地の雰囲気からすると異様な多さの人通りだ。

すれ違ったのは小学生くらいの男児や、中学生くらいの女子、それに女子高生らしき二人組や、少々ガラの悪い男。

一見して彼らには共通点が無い様に見える。

だが、彼らに共通する点が一つだけある。

それは皆、足元を見ながら歩いていること。

皆一様に、何かを探すかのように下を見ながら歩いているのだ。

 

まさかみんなこのあたりで落とし物をしたわけでもあるまいに。

一体何をしているのやら。

 

そう思い、俺も下を見ながら歩いてみる。

 

何か意味のある行為なのだろうか。

流石にあるか、意味がなければ何人もこんなことはしないだろうしな。

 

軽い気持ちでそのまま歩いていくと、だんだん人通りが少なくなっていく。

いつの間にかより細い道に入り込んでいたみたいだ。

 

 

「ふむ……ここには人もいないな」

 

 

立ち止まって適当に周りを見回す。

かなり入り組んだ道に入り込んだみたいだ。

ふう、と軽くため息をつくと、ふと道の端にある室外機の下、そこからはみ出た白い封筒が目についた。

 

何でこんなものが……?

 

封筒を手に取り、裏も見て見るが、何も書いていない。

 

落とし主の手掛かりはなさそうだな。

まさか封を切って中身を見る訳にもいかないし、どうしたものか。

 

そんなことを考えながら封筒を手に持ってなんとなく持ち上げたりして見ると、封が空いていることに気づく。

もしかしなくても、最初から開いていたのだろう。

さて如何したものかと首をひねる。

 

……しょうがない、他に如何こうする事も無いし見るか、中身。

手掛かりを探すためだ、うん。

 

他に何もすることもないので、自己弁護をしながら中身を取り出してみる。

すると、中から出てきたのは金色のカード。

学園都市において最もメジャーなプリペイドカードの一つ。

マネーカードだ。

カードを摘み上げて顔の前に持ってくる。

 

……まさかの貴重品だよコレ。

というかアレだな。

コレだ、みんなが下見て歩いていた理由。

きっとみんなこれを探してたんだな。

何でそう思うかって?

だってこの封筒よく見たらもう一つあるもの。

ここから60m位離れた4つ先の室外機の下にも。

 

取り敢えず歩いてもう一つの封筒も広い、やはり封が空いていたので一応中身を確認してみると当然の様に中にマネーカードが入っていた。

どうせ置いたのは同じ人物だろうとあたりをつけてマネーカードを一つの封筒にまとめる。

さて如何したものかとボリボリ頭を掻きながらボーっと考えていると、曲がり角から人の声が聞こえてきた。

 

 

「……取り敢えず風紀委員(ジャッジメント)のとこに持ってくかな」

 

 

そう呟いてから封筒を上着のポケットの中に入れ、ズボンのポケットから携帯を取り出し、ルート検索アプリを起動する。

風紀委員(ジャッジメント)一七七支部へ向けて、先程と同じような重い足取りで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは~」

 

 

風紀委員(ジャッジメント)一七七支部につくと、見知った顔が何人か座ってお茶をしていた。

ソファに座ってくつろいでいるのは御坂美琴。言わずと知れた常盤台のエース、超電磁砲(レールガン)だ。

対面にその後輩で空間移動能力者(テレポーター)の白井黒子が座り、蒼の妹である御桜和が二人にお茶汲みをしている。

 

何でそんなにくつろいでんのさ、アンタら。

 

そんな中でもパソコンに向かって仕事をしている真面目な子が初春飾利だ。

 

……今日は固法先輩はいないみたいだな。

 

 

「あれ、兄様どうなさったんですか? 」

 

「いや、ちょっとこんなものを拾ってな」

 

 

室内に入って挨拶した俺に軽く手を上げながら美琴が返事をし、黒子もこんにちはですの、と返してくる。

和が俺に用事を訊ねてきたので封筒を取り出しながらそう言う。

その封筒を見て和が少し疲れた様な表情を浮かべた。

 

 

「兄様も拾われたんですか? 」

 

「俺も、と言うことはやっぱり路地裏で下を見ながら歩いてたやつらはこれを探してたんだな」

 

 

封筒の中からマネーカードを2枚とも取り出しひらひらと指でつまむ。

そのままマネーカードを興味の薄そうな目で一瞥した後、ゆっくりとテーブルの上に置く。

カードに向けられていたわずかな興味はテーブルの上に置いた瞬間に霧散し、失った興味を補填するかのようにそれを美琴達へと向ける。

 

 

「それで、御坂達もマネーカード(これ)を拾われたんですか? 」

 

「あーうん、私と黒子がね。

買い物先にショートカットしようと思って裏道通った時に」

 

「なるほど」

 

 

裏道で拾ったのか。

携帯を取り出して地図アプリを起動する。

拾った場所を訪ねて地図アプリで見てみると監視カメラも設置されていないような細い道だった。

そのあと初春に話を聞くとここ数日第7学区のあちこちでマネーカードを拾ったという報告が上がっているらしい。

蒼や美琴達もその一人だということだ。

当然報告せずに猫糞(ネコババ)してるような奴もいるようで、たぶんさっき見たような積極的にマネーカードを探してるような輩であろうが、実際は報告の倍以上になりそうだということだ。

 

 

「でもそんな話、わたくし聞いていませんわよ? 」

 

 

話を聞いた黒子が初春に言う。

初春は特に表情を変えることなくこちらを向いて説明を始める。

 

 

「貨幣を故意に遺棄・破損する事は禁止されていますがマネーカードは対象外ですので特に通達はしていません」

 

 

なるほど、別にマネーカードをばら撒こうがどうしようがルール的には問題ないのか。

それで白井は知らなかったわけだな。ふむ。

それにしてもなんでまた、マネーカードなんかをばら撒いているのかね。

 

初春の話を聞きながら疑問に思う。

だが初春の話が続いているようなので思考を一旦打ち切って話を聞く。

 

 

「カードの金額はまちまちで下は千円くらいから上は五万円を超えるようなものまで、決まって人通りの少ない道に置かれています。

カード・封筒ともに指紋は出ていません」

 

 

いやほんと何を考えてるんだその人は。

いったいこれにいくら使ってるんだその人。

かなりの金額を使ってるだろう。

金持ちの道楽ならいいけど、こう、人通りの少ない道に決まって置かれているっていうのが気になるな。

なんと言うか、まるで監視カメラの死角に人の目による監視網を作っているかのような……

そんな感じだ。

 

初春の話をそこまで聞いたところで思った。

実に下世話な話ではあるが実際相当な金がかかっているであろうことは間違いなく事実だ。

何か厄介なことが絡んでなければよいが、と思う。

初春が話を続けるようなのでもう一度思考を打ち切る。

 

……意外と長いな、この話。

 

 

「ただ、もう結構噂が広がっているので宝探し感覚で裏道をうろつく人も多いみたいですね」

 

「噂になってたんですか……知らなかった」

 

「兄様はその手の噂に疎いですからね」

 

 

初春の言葉にボソリとつぶやくと横で和が一言いう。

黒子たちもああそれで……と言っているところを見るに、噂には疎いようである。

 

 

「それで、問題は無かったのですが、今度はカードを奪い合ったり武装無能力集団(スキルアウト)の縄張りに入り込んだ学生が絡まれたりで……」

 

「放っておく訳にもいかなくなってきたというわけです」

 

 

初春の話の最後を拾って和が話を締める。

黒子も難しい顔をしているところを見るとこれから彼女たちは忙しくなりそうだと蒼も思う。

黒子はため息をついて椅子から立ち上がると美琴に言う。

 

 

「お姉様、残念ですがデートはまた今度…………」

 

 

本当に名残惜しそうな表情でそう言う黒子に、美琴は笑顔で言う。

 

 

「ううん、私一人で行ってくるから気にしなくていいわよ」

 

 

本人は気を使わせないように言ったつもりかもしれないが、黒子は軽くダメージを受けていた。

美琴はじゃあね、と軽く挨拶を告げて部屋から出ていった。

それを見届けた蒼も、カップに注がれた紅茶をぐいっと飲み干し、立ち上がる。

 

 

「んじゃ、俺も帰りますね。

皆さん頑張ってください」

 

「あ、はい。ありがとうございます兄様」

 

「さようなら、蒼さん」

 

「お、お疲れさまです」

 

 

和、黒子、初春がそれぞれ別れのあいさつに対する返事をくれたのを聞き取ると扉を開けて外に出る。

そして青空を見上げて思う。

 

 

…………………暑いし、部屋帰って寝るかな。

 

 

思い立ったが吉日とでも言わんばかりに思考を即決し、寮に向けて歩き出す。

さすがに何度か来て風紀委員(ジャッジメント)一七七支部からの帰り道くらいは覚えているので今は携帯のアプリは使っていない。

寮に帰るまでの道すがら脇道があるたびにそこを覗き込んでみる。

噂になっているというのはやはり本当らしく、かなりの人がわき道に入っていっている。

 

…………宝探し気分、と初春は言っていたか。

 

初春の言っていた言葉を思い出しながら脇道に入っていく面々の表情を観察してみる。

すると、なんだか楽しそうな表情を浮かべているものが多いことに気が付く。

 

…………宝探し、か。

おそらく金が手に入って且つ探す過程を楽しめているこの状況はまさにその通りなのだろう。

彼らはそこに潜んでいる危険性、スキルアウト等には目を向けてはいないんだろうな。

 

そう思う。

楽しむのはいい。

悪いことなわけはない。

だが同時に楽しむだけで良い訳が無い、と蒼は思う。

ただ目の前のことを楽しむことだけに没頭していれば、気を付けていれば回避できた危険を回避できない。

だからこそ、そうはいつでも楽しみながら周囲より一歩引いているのだ。

危険に、誰より早く気付けるように。

 

そして、そうやって生きてきた蒼の勘が告げていた。

近いうちに、身近なところで何か不吉なことが起こる予感を。

 

 

 

 

 

 




第4話でしたー。今回から妹達≪シスターズ≫編です。
次回更新はいつかは分かりませんがきちんと更新しますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。