二度の人生を得たら世界に怒られ英霊になりました…。 (チェリオ)
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第00話 「プロローグ・追加された伝説と騎士」

 えーと、活動報告にも書いたように…
 『今まで原作に沿う形で進めて来たのですが、内心無理に進めていたり、設定がごちゃったりしてどうしようかと悩んでいまして、つい最近になってオリジナルの展開を含んだ物語を頭の中で構築しましたのでそちらを採用しようかと』
 と考え、書き直しました。

 内容が大きく変わりますが、これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。


 1612年前後にかの有名な劇作家、ウィリアム・シェイクスピアによりアーサー王伝説の作品が発表された。

 

 物語はひとりの少年が魔術師マーリンに拾われるところから始まる。 

 少年の名はサーウェル。

 平凡な家庭に生まれた彼は争いごとに村が巻き込まれ、両親を失ってしまう。

 たまたま少年を見つけたマーリンは魔術適正の高さと魔力量の多さを見極め、自らの弟子として育てる。

 サーウェルは自身を強化する事と土属性の魔術に長けており、青年と呼ばれる年代になる頃には円卓の騎士並みの実力を得ていた。

 

 魔術を教えられたサーウェルはマーリンに勧められるまま、アーサー王主催の大会に出場してガウェインに当たって敗退する。

 肉体強化を行えば互角に近い戦いは出来たのだが出場したのは剣術大会。魔術の使用は控えたのだ。

 大会終了後。対戦相手だったガウェインが戦い方に疑問を抱いて非公式に試合を挑んだのだ。

 結果は引き分け。

 この驚くべき結果に円卓の騎士の半数以上が彼を騎士として手元に置いておくことを王に進言。

 料理が得意であったことから料理人として働き、王に見込まれてからは王専属の料理人として仕えた。

 

 騎士団を挙げての黒きドラゴン退治では大きな深手を負わせて勝利に貢献し、不仲だったモードレッドとアーサー王の間を取り持ったりと色々な働きを見せる。

 

 

 

 物語の最終章ではランスロットとギネヴィア王妃との不義の恋で崩壊し始め円卓からアーサー王の最後まで描かれる。

 それまでのアーサー王伝説であればモードレッドが反乱を起こすのだが、この物語では違うのだ。

 

 アーサー王が反乱を起こしていないモードレッドを殺そうとするのだ。

 信じていたランスロットの裏切り。

 裏切りにより命を落とした騎士達。

 修復不能なほど崩壊した円卓。

 これらの事により王は疑心暗鬼になってしまった。

 悲しみに不安に苛まれた王はモルガンが関わっているモードレッドを怖がり恐れた。

 

 この時には仲は良好でお互いに信じあっていた。

 だからこそモルガンが唆してモードレッドが裏切ったら?

 もう耐えきれる自信はない。円卓どころか心が崩壊してしまう。ならばいっその事……。

 

 そんな不安に飲み込まれてしまった王は兵を挙げてモードレッドを討つ事を決意。

 信頼しきっていた王からの仕打ちにモードレッドは愕然とした。

 何故こんな事になったのだと項垂れていたモードレッドを救おうと駆け付けた人物―――サーウェルはモードレッドの前で騎士の誓いを立てて王を裏切る事を宣言した。

 サーウェルの思いは仲の良い二人の殺し合いを何としても阻止すること。

 その為にはまず戦いを止めなければと動き出したのだ。

 交渉に取引と何度も打診したが聞き入れられず、最終的に戦へと発展してしまったが。

 アーサー王は歴戦の騎士達を連れ、サーウェルは騎士姿のゴーレムを大量に用意し戦った。

 

 結果はアーサー王の軍勢の半数以上を喪失させ、ゴーレムは全機消失というものになった。

 

 カムランの丘でサーウェルが戦っているのに籠っている訳にはいかないと戦いに参加したモードレッドは、アーサー王との一騎打ちを挑む。

 アーサー王は剣と槍を振るい未だ躊躇っていたモードレッドを圧倒し、倒す寸前まで追い込んだ。

 最後の最後にサーウェルがモードレッドを庇い、槍を受け止めたところをモードレッドの一撃を受け、それが致命傷となり命を落とすことになる。

 サーウェル自身もモードレッドの身代わりとなった際の一撃で命を落とす。

 最後を看取ったモードレッドは残っている騎士達と斬り合い、戦いの果てに命を散らした…。

 

 

 この作品はシェイクスピアが発表したものではあるが、大本は彼の友人が残した記録より書き起こしたものである。

 友人は資産家で、ロンドンへ渡る道中出合った老人である。

 

 

 老人の名はウォルター・エリック。

 莫大な資産を保有していたエリック家最後の当主。

 彼も変わった人生を歩んできた。

 

 若い頃の記録はほとんど残っていない。

 出生記録や両親が若い頃に亡くなったという記録しかなく、この頃は何をしていたか全くつかめない。

 青年期もまた然り。

 

 彼の名が出て来たのは五十歳頃である。

 ロンドンに移住してきた彼は莫大な資産をまるで湯水のごとく浪費し始めたのだ。

 それも全部演劇関係にだ。

 何かしら公演があると知れば連日詰めかけたり、複数の劇団のパトロンになったり、新しく建設する劇場建設費の援助などなど。当時の演劇関係の人物からすればありがたい話だろう。無茶な話以外は二つ返事で資金を回してくれるのだから。

 特にシェイクスピアとはパトロンと言うよりは友人関係を築いていたようでかなり親しく、そして多くの支援を行っていたらしい。

 

 そんな舞台狂いの彼がシェイクスピアと出会ってから十五年程経つと、演劇関係以外にも資産を用いるようになった。

 ――『アーサー王伝説』の発掘作業。

 

 アーサー王伝説はただの物語と思われている反面、実際の事だと研究している方々がいる。

 ウォルターはとある地域の土地を購入し、大規模な人員を用いて発掘事業に着手。

 その際に発掘された物はすべて目を通し、いつも手帳に何かを書き記していたらしい。

 

 発掘作業は三年に及び、その後は掘り起こした地を元に戻して売り払い、前と同じ日々を繰り返した。

 この事に作業に従事していた労働者は何も出てこなかったんだなと当時の新聞記事で語り、世間も金持ちの無駄遣いと笑っていた。

 二年後、彼の死後にシェイクスピアがあの作品を発表するまでは。

 

 遺言に則り、ウォルターの屋敷の管理することになったシェイクスピアは彼の屋敷を一般公開した。

 屋敷には掘り起こされた土の一部に数々の発掘された品々が並べられ、厳重な警備が配置されていた。が、正直発掘された品々はアーサー王伝説と関係なく、それほど価値あるものではなかった。

 

 一体の木造人形を除いては…。

 

 当時の一流人形師を巡り作らせた一品で当時では見られない程精密できめ細やかな造形に拝見しに来た人々は見惚れて時間を忘れるほどだったそうな。

 その人形は生前にウォルターが書き残していたメモ帳に記載されていた“モルド”という物語に登場するゴーレムの軸の模造品らしい。

 モルドとはサーウェルの手により創り出された最高傑作のゴーレムで、他のゴーレムと違い意志を持っていたと作品で語られている。戦闘自体も可能だが本来は給仕用に造られたもので、造られたきっかけはモードレッドを揶揄う為と言う悪戯が理由との事で、外観はモードレッドそっくりだとか。

 他にもウォルターが残した手帳にはサーウェルに関する記述があり、ほかにも何かしら発掘したのではないかとアーサー王伝説の研究科が探していたりする。

 

 こうした事からウォルター・エリックは資産家やアーサー王伝説の研究者として知られ、シェイクスピア関係の番組などで取り上げられることになる…。

 

 

 

 

 まぁ、彼の変わった人生の中で一番変わっている事を知る人はいないのだが…。

 

 

 

 

 床も天井もない漆黒の世界。

 存在するのは薄っすらと輝く私と私が腰かける長椅子。

 そして左右に立てられた姿見の鏡。

 

 ハァ…これはどうするべきなのでしょうか…。

 金城 久(かねしろ ひさし)はぼんやりと正面を見つめる。

 

 僕は平々凡々な生活を送っていたと思う。

 別段高い目標もなく、ドラマチックな人生も歩んでいない。

 普通に働き、何の目標もなくただ生きて、小さな喜びと小さな不幸を呪いながら大きな変化のない変わり映えのしない日々を過ごしていた。

 

 死後に転生なんて体験をさせられるまでは…。

 

 訳が分からないまま、映画などで見た事ある昔のヨーロッパで資産家の息子として生を受け、新たな人生を歩いて行くことになるのだが、元が元だけに平凡にその日その日を過ごして来た。

 別に何かがしたい訳でもないし、これで良いかと暮らしていました。

 

 けれどさすがに暇すぎました。

 テレビも普及していないこの時代には現代のように娯楽が少ない。

 本を読んだりもしましたが歳を重ねるごとに目が悪くなってきましてね。45歳辺りになると文字がぼやけて読めないのです。

 どうするかと悩んでいた頃に演劇の話を耳して劇場まで足を運び観覧。

 久々の心躍る娯楽にすっかりのめり込んでしまいました。

 ただ劇場まで自宅が遠かったのと、住んでいる地域では劇場が少ない事が難点でして、50歳手前でロンドンへ移住しようと思った訳です。

 

 大きな馬車を数台購入し、いざロンドンへと向かっていた道中、意外な人物と出会い意気投合。

 まさかあのシェイクスピアに出会えるとは夢にも思いませんでした。

 ……少々言動や行動が大仰な芝居がかっていて胡散臭さはありましたが…。

 

 どうやら彼らもロンドンへ向かうらしく、ならばと相乗りを提案して、行くまでの間は彼の話を延々と聞きました。

 それからは彼が公演したものもそれ以外も見まくった。パトロン活動も始めて多くの人と関わりを持って前世に比べて充実した日々を送ったと自負しています。

 

 そんな生活が続き、新しい趣味でも見つけたいなぁとぼやいたところ『脚本を書いてみるのは如何かな?』とウィリアムに言われたのだ。

 当時の私はすでに50を越えたおじさん――いや、お爺さんと言っても良いような年齢。今更脚本家としてデビューする気もないし、自身の文章能力が高く無い事は百も承知。だから適当に返事を返して流した。

 けれども頭が待ったをかけた。

 『別段人に見せずとも良いのではないか』と。

 

 つまり自分だけの小説――ゼロからオリジナルを書くのも良かったが二次小説を書いてみるのはどうだろうか思ったのだ。

 あの時代は現代日本より神話や伝説が身近だったような気がする。

 私は数ある伝説の中で【アーサー王伝説】を手に取った。

 そこから毎日のように設定を考え、ストーリーを構築し、閃いたアイデアをアイデア帳に書き込んだ。いつも持ち歩いているノートを覗き見ようとしたウィリアムとの攻防は楽しかった。

 

 サーウェルと言う主人公の名前を決め、大まかな流れを書き込み、あとで隙間を埋めていく。

 料理が得意だったり、魔術師としての才覚を持って居たり、ゴーレムを作れたりと色々書いたさ。

 アーサー王伝説と関わりあるとされる地域の一部を買い、発掘作業も行って資料集め……は、あまりうまくいかずにお土産に掘り起こした砂を大量に持って帰ったっけ。

 他にも作品に登場するゴーレムの見本に木製人形の設計図を書き、職人に見せたら変態か変人と言われたのだが何故だろうか?

 

 二年をかけて書き上げたメモ帳はもはや黒歴史。

 ………良し、封印しよう。

 

 さすがに自分で捨てるのは気が引けたので信用できる人物に処分して貰おうと遺言を書き残した。

 もう歳だったし、身体も悪くなっていましたからね。

 

 他にも家の事も頼んだりもした。代わりに残った資産を自由に使ってくれと…。

 

 

 

 誰も黒歴史を自由にしていいとは言っていなかったのですが、何故作品として発表しているんですかねぇ!!

 知識で得た内容は亡くなった友人に捧げる作品として発表された事には感動した。そこまで想っていてくれたのだと。されど黒歴史は勘弁してほしかった。

 

 その結果、私は二度目の生を終えてここに居る。

 

 ――英雄の座…。

 

 僕にはこんなところに居座る資格なんてないのですがこれもウィリアムのせいです。

 転生なんて言う貴重な体験はしましたが基本的にただ人である私が英雄である筈がない。

 

 今やアーサー王伝説の一部となり、サーウェルが英霊になるのは理解しましょう。

 納得もしましょう。

 受け入れもしましょう。

 ですが僕と儂まで英霊の座に居るのはおかしいでしょうに。

 

 僕、金城 久は左へ視線を向ける。

 そこにある姿見の鏡には久の姿はなく、黒いコートを着込み、シルクハットを被り、天辺に赤い水晶が付いた杖を持った儂、ウォルター・エリックがこちらを見つめている。

 次に右へ視線を向けると漆黒の鎧と槍に鉈のような剣を装備した私、サーウェルが微笑みを向けて来る。

 

 僕も私も儂もなんでこうも揃って椅子に腰かけてるのはどういうことなのでしょうねぇ。

 

 こう座っている間にも聖杯なるものから多彩な知識が流されてくる。

 出来れば僕も儂も戦いなど参加したくはないものなのです。

 まぁ、騎士であった私は別なのでしょうけど。

 え?戦うのは好きではないと。

 

 そうでした、そうでした。

 そう書きましたね。

 

 誰かが呼ぶ声がする。

 出来れば平和な日常を謳歌したいですが致し方ありません。

 儂が仕出かしたことで生まれた私なのです。

 自分の尻を拭いに行かないと怒られそうですし…わざわざ私のような不忠者を呼んでくださった方に申し訳ありませんから。

 

 まもなく、召喚される事を理解して瞼を閉じる。

 もし、万に一の確率でも出会えるならアイツは殴ってやろう。

 そう心に決めて。

 

 サーウェルは呼び出しに答える。



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第01話 「召喚された黒の魔術師」

 本日二話目の投稿。


 ――聖杯大戦。

 あらゆる願望を叶えることの出来る聖杯を巡って七人とマスターの元に、七騎のサーヴァントによって行われる聖杯戦争の亜種聖杯戦争。

 今まで聖杯戦争を模した聖杯戦争の亜種は幾度となく行われてきたが、この聖杯大戦はそれらとは大きく違っていた。

 亜種聖杯戦争のほとんどがサーヴァントを呼び出すも聖杯を手にすることの出来ないものばかり。この結果は当然で必然と言える。なにせ聖杯とは器と願いを叶える膨大な魔力あってこそ発現するのであって魔力だけ集めた所で意味はないのだ。

 

 ユグドミレニア一族という、様々な事情で魔術師の世界からはじき出された者らを吸収し、巨大化した一族―――否、魔術師の集合体が存在する。

 そこの当主は以前の聖杯戦争参加者で優勝こそ果たせなかったものの聖杯の元である大聖杯を奪取することに成功。それを用いて聖杯戦争を行おうというのだから魔術協会も聖堂教会も大慌てである。

 

 聖杯大戦は大聖杯の予備システムである【七騎のサーヴァントが同一勢力に統一された場合のみもう七騎を対抗するために召喚できる】と言うのを使ったもので、14騎ものサーヴァントを争わせるという。

 

 ユグドミレニアはその聖杯大戦を行うと宣言し、魔術の管理・隠匿・発展を使命とする魔術協会は対抗すべく優れた魔術師を集めた。そしてこの事態に聖杯戦争では監督役である聖堂教会も魔術協会に加担する動きを見せている。

 

 聖杯大戦の舞台はヨーロッパのルーマニア。

 ユグドミレニア一族の選抜された魔術師と、魔術協会から選りすぐられた魔術師、聖堂教会の神父と聖杯大戦に参加するマスターがルーマニアの地へと集まりつつあった…。

 

 日本でアサシンを召喚しようとしているユグドミレニアの魔術師ともう一人を除いて…。

 

 

 

 

 

 

 黒の陣営に所属している魔術師にロシェ・フレイン・ユグドミレニアという幼い少年が居る。

 彼は幼き頃より魔術師としての英才教育を受け、今では十三歳の身でゴーレムマスターと謳われるほどの天才魔術師だ。

 命を賭ける事になる聖杯戦争に挑む魔術師は大なり小なり悲願が存在する。

 今回の参加者で言えば一族の繁栄に特殊な魔術回路にて動かない足を治す事、人類の救済などなど人それぞれである。その中で彼、ロシェ・フレイン・ユグドミレニアが聖杯に望むことは無い。

 

 ―――否、願いはあるにはあるがそれは聖杯に願う事ではなく、聖杯戦争に参加したことで叶う事。

 ロシェは両親の顔を知らない。いや、覚えていないのだ。

 生家であるフレイン家は代々人形工学で知られた一族で、生まれた子供の世話や教育をゴーレムに任せっきりにするという変わった教育方針をとっている。代々受け継がれる刻印の移植が可能となるまで魔術工房から出る事はなく、親とはっきりとした意識で対面したのは移植の時ぐらいだろう。

 そんな魔術師の中でも特殊な環境下で育ったロシェは人間に対して何ら興味を持たず、ゴーレムに対してのみ関心を向ける人物に育ってしまった。

 

 ゆえにロシェが望むのは自分より優れたゴーレムマスターであるサーヴァントの召喚。さらにはサーヴァントよりゴーレム技術を授かる事だ。

 

 莫大な資金に力を誇るユグドミレニア一族の長、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアはその考え自体に何ら異論を持ち得なかった。寧ろ歓迎すべき事だった。確かに現在の魔術師の中ではゴーレムマスターとして右に出る者はいない。だが、ロシェのゴーレムでは腕の立つ魔術師に対して足止め程度にしかならない。もし相手が一騎当千のサーヴァントとなると足止めどころかそこいらの雑草を踏みつぶすのと何ら大差がないだろう。

 しかし、歴史という膨大な時の中で謳われるほどのゴーレムマスターの称号を持つサーヴァントが作った作品ならばどうだ?資金があり人手も魔力も足りている黒の陣営では幾らでも生産出来る。足止めどころか脅威になり得る可能性だってある。

 

 街灯も消えかかっている暗い夜道をロシェは息を切らしながら懸命に走る。

 質の良いカッターシャツが汗でびちょびちょに濡れて気持ち悪いがそんなことに構えるほど余裕はない。明るい茶色の癖っ毛を大きく揺らしながら足を動かし続ける。

 

 背後から駆け足で駆けてくるであろう足音が響き渡る。

 実際ロシェを追う形で三名の人物が走って距離を狭めていた。男女問わずその手にはハルバートや槍といった武器を手にしている。表情からは殺気や怒気などの感情は読み取れず、何の感情もなくただただロシェを見つめていた。

 

 

 ロシェは追われている。

 赤の陣営からではなく、黒の陣営によってだ。

 ダーニックはロシェが稀代のゴーレムマスターをサーヴァントとして召喚しようとしたことは喜ばしいと思った。だが、ロシェが呼ぼうとした人物だけは許容できなかった。

 幼い頃よりゴーレムに関する書物に目を通していたロシェはシェイクスピア作のアーサー王伝説に興味を持っていた。そこに登場する魔術師サーウェルは王専属の料理人であると同時に優れたゴーレムマスター。中でも円卓の騎士を模したゴーレムの性能は本人にも劣らないものだったという。

 それほどの高度なゴーレム技術を知りたいし学びたい。

 ダーニックもそこに関しては同意だが裏切りの騎士と称されている者を味方とするには問題が大きい。

 

 だからサーウェルではなくアヴィケブロンを召喚するように指示を出した。

 確かにアヴィケブロンも稀代のゴーレムマスター。知識も技術も優れているのは明白。なのだが昔から慣れ親しんだ書物に愛着もあってどうしても従いきれなかったのだ。ダーニックからは聖杯大戦を行う二か月前にゴーレムを生産体制を整える為にも召喚してくれと言われたが、召喚する前にロシェは資金を持ち出してユグドミレニアの拠点であるミレニア城砦を飛び出した。目指した先はサーウェルに関する資料を書き記した原本が置いてあるイギリスのウォルター・エリック邸。

 飛行機でイギリスへ飛び、エリック邸に近い安宿に身を置いた。そこから一週間かけてサーウェル関係の遺物を調べ、ようやく召喚まで漕ぎ着けたというのに追手が辿り着いたのだ。

 宿へと押し入って来たユグドミレニア一族で生産されたホムンクルス達。護身用に置いておいたゴーレムを暴れさせ何とかその場を逃げ果せることは出来た。

 だけどこのままでは確実に追い付かれる。

 

 宿から走り続けようやく目的地が見えて来た。

 

 「ゴーレム達、ボクより他の者を通すな!!」

 

 必死に叫んだ声に反応してこの近くに潜ませていたゴーレム達が起動し立ち上がる。

 真っ白な面を付けたような細身のゴーレムは尖った腕を振り回して、後より追って来たホムンクルスに斬りかかる。

 ホムンクルス三人に対してゴーレム四体。数の差で勝っているロシェのゴーレムが負ける事は無い。その後ろより迫っている者が居なければ…。

 

 目的地であるウォルター・エリック邸の扉に魔術を行使して鍵を開けて中へと飛び込む。

 鍵を閉める時間さえ惜しく感じて大慌てで展示物に目を通し、探している原本と呼ばれるサーウェルの資料を覆っているガラスケースを叩き割る。勿論子供の腕力でそう簡単に割れる己ではないが魔術を用いればその限りではない。

 原本を抱きしめると地下へと繋がる階段へ走り出す。

 

 「へぇー、まだ居たんだね。ほら退いた退いた」

 

 扉の向こうよりどこか抜けた声が聞こえた。

 追手が来ることは分かり切っていた。だから安宿にも身を潜める緊急退避場所や空き家などにもゴーレムを隠して、何処で会っても良いように準備を進めていたのだが、彼―――いや、アレには全くの無意味だった。

 

 黒の陣営に召喚されたライダー(騎乗兵)のサーヴァント。

 

 宿にも訪れたのだが、どうやら危害を加えるような戦い方は好まない様だ。

 戦闘も物足りないであろうゴーレムを相手に楽しみながらどこか手合わせをしているかのようだった。攻撃はゴーレムに対してのみでロシェが逃げ出すと魔獣に跨って空より追ってくる。極力怪我をさせないために体力を失わせて抵抗できないのを待つのだろう。

 

 今まで足止めを命じたゴーレムは悉く粉砕された。この屋敷前で戦っているゴーレムもすぐさま破壊される。大慌てで地下へと繋がる階段を駆け下りて中央に立つ。

 

 地下室には人型の木造の人形や発掘作業で収集した砂や使用したシャベルなどの道具、演劇での台本などが壁に沿う形で展示されている。以前三日前に訪れた際に召喚するならここでと警備員に見つからない様にゆっくりと日にちをずらしながら魔法陣を書き込んだのだ。

 幸いここには監視カメラなどなく、客も少ないので暇そうな警備員がたまに回るだけでやり易かった。

 

 ポケットにしまっていたナイフを取り出して指先を切り、傷口より滴る血を陣へと垂らす。

 ポタ、ポタと血が地面に落ちると魔術により隠されていた魔法陣が姿を現してうっすらと発光する。

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。手向ける色は“黒”。

  降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

  閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

 目を瞑り意識を集中させながら召喚に必要な呪文を唱える。

 うっすらと一階の入り口付近より大きな物音が響いた。おそらく扉を破壊して内部に突入したのだろう。彼らの目的は召喚前のロシェを連れ戻す事。ここでサーヴァントを呼び出されると召喚前と言う条件としても連れ戻すにしても不味い。

 召喚によって発する魔力を感知してこちらに向かってくる足音が近づくがそのまま詠唱を続ける。

 

 「告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

  誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者。

  我は常世総ての悪を敷く者。

  汝三大の言霊を―――」

 「はいはい、そこまで」

 

 あと少しと言うところで眼前に現れたライダーから首筋にランスの先が向けられる。

 死ぬかもしれない状況にごくりと生唾を飲み込む。対するライダーは困ったように笑い、頬をポリポリと掻く。

 

 「ごめんね。マスターからの命令でさ。召喚する前に君を連れ戻すように言われているんだ。傷つけたい訳でもないしさ、大人しく捕まってもらえないかな?」

 

 ランスの先を下に向けた瞬間に詠唱を続けようかとも思ったが、サーヴァントの身体能力を考えると終える前に腕っぷしでねじ伏せられる。

 もはやサーウェルは諦めて、ミレニア城砦に戻るしか道は無い…。

 

 

 

 

 

 

 ………嫌だ…。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 ここまで来たんだ。意地でも召喚して見せる。

 諦めかけたロシェであったが意を決して口を開く。

 

 「汝三大の言霊を纏う七天!」

 「え、ちょっとさすがに止め――」

 

 詠唱を再開すると焦って止めようと動き出すライダー。

 三歩ほどしか離れていない距離で取り押さえるのは簡単だ。それだけ人間とサーヴァントには身体性能だけで差がある。

 しかし、ライダーは取り押さえられなかった。

 召喚も終えていない、ゴーレムも配置していないこの部屋にはロシェとライダー、あとはホムンクルスが三人しかいない。

 ロシェの背後で何かが動いたのだ。

 人の形をした何かが…。

 何か居たのかと意識を向けると仰向けで展示されていた木製の人形が上半身を起こしたのだ。

 理解し難い一瞬の出来事にライダーはほんの少しだがロシェの事を完全に意識より外してしまった。

 その一瞬、コンマ数秒あれば最後の一文を唱えるには充分すぎた。

 

 「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 最後の詠唱を口にすると同時にロシェとライダーの間で風が発生する。

 思わず目が開けれずに瞼を下ろすとふわりと土の香りが鼻孔を擽った。土だけではなく草や花、木々の香りが広がる。

 

 「わきゃ!?」

 

 ライダーの悲鳴らしき声が漏れ、鈍い音が響いた。

 風が収まり、恐る恐る瞼を上げるとばさりと真紅のビロードマントを靡かせる騎士の背が瞳に映った。

 騎士の視線の先には「イタタタ…」と後頭部を軽くなでながら壁に大きなへこみをつくったライダーが座り込んでいる。

 

 禍々しい鱗のような物に覆われた漆黒の鎧。

 血に浸けたような真紅のビロードマント。 

 ライダーに向けて振ったであろう鉈のような短く分厚い剣。

 

 本に記された通りの人物にロシェは興奮を隠せないでいる。

 ライダーを警戒して剣を向けつつ、辺りを見渡した後にロシェを彼は優しくも温かい瞳を向けた。

 

 「主を裏切り、主を死に追いやった私を召喚した新たな主よ。

  我が剣は貴方の矛。

  我が魔術は貴方の力。

  我が肉体は貴方の盾。

  ここに不忠の騎士でありますが貴方様に忠誠を誓い、キャスター(魔術師)のクラスを持ってサーウェル参上仕りました。

  主よ。何なりとご命じくださいませ」

 

 とても大きく感じる背を前にしてロシェは安心感を覚える。

 これがロシェ・フレイン・ユグドミレニアとサーウェルの初の出会いであり、この物語の始まりである。



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第02話 「黒の戦い」

 黒の陣営に召喚されたライダー―――アストルフォは頭を掻きながら立ち上がる。

 自分を召喚したマスターの命令は逃げ出したロシェっていう魔術師を強制的にも連れ帰る事。

 正直やる気はない。無理やりなんて性に合わないし、やりたくない。

 でも、行かなければ令呪を使用するなんて言い出すんだもん。

 令呪はサーヴァントを縛る絶対の命令権。ひとたび命じられれば抗う事は不可能だ。

 無理やり連れてこいなんて言われれば本当にそのようにふるまう事になる。

 さすがにそれは嫌だなぁと引き受けて来てこれだ。

 

 「あー…不味いなぁ。これって不味いよねぇ」

 

 対峙して立ちはだかるは黒のキャスター。

 サーヴァント同士の戦いは避けたかったんだけど仕方がない。

 

 「えーと、君は黒のキャスターで良いんだよね?」

 「あぁ…その通りだ。そちらは?」

 「ボクは黒のライダーさ。つまり君の仲間ってことだね、うん」

 

 どこか腑に落ちないのかちらっと背後に居るロシェに視線を向ける。

 多分だけど事実かどうかと確認を取っているんだろう。

 大きく頷く事から本当なのだと理解して尚、キャスターは剣を収める事はしなかった。

 

 「貴方が黒のサーヴァントと言う事は理解した。

  されどこれはどういう状況かお教え頂きたい。」

 「まぁ、長い話だしさ。剣を下ろしてゆっくり話さない?」

 「それに関してはお断りさせてもらおうかの」

 

 即答された事にも驚いたがそれ以上にガラリと口調が変わった事の方が気になり首を傾げる。

 口調を気にしているアストルフォを気にも留めずキャスターは剣先を向けたまま殺気立つ。

 頬をポリポリと掻きながらも説明すると納得したのかうんうんと頷いていた。

 

 「と、いう訳で君を召喚する前に連れ戻せばベストだったんだけどね。まぁ、しょうがない。しょうがない。一緒にミレニア城砦に来てもらうよ」

 「あ、それもお断りさせてもらいます」

 

 マスターの反応を見るまでもなく即答したキャスターに首を傾げる。

 あからさまにどうしてと表情と態度で聞いて来るアストルフォに剣を構える。

 先ほどの威嚇目的に剣先を向けるのではなく戦闘態勢。

 対応すべくランスを向け、お互いに戦闘態勢を取っていつでも動けるように相手を見つめる。

 

 「まずは我が主を連れて行かせれば罰が待っているのでしょう」

 「あの当主やボクのマスターの感じからそうだろうね」

 「却下です。主の身の安全だけを保証されても甚振られるのを覚悟に連れて行くことなどできない。それに―」

 「それに?」

 「まだ小さな少年を寄って集って無理やりにでも言う事を聞かせようというそちらの考えに同調出来ない!」

 「ちょっと待って!?君は何をしようとしているのか分かっ――」

 

 鉈に集まった魔力量から宝具を使用している事に感づいたアストルフォは制止をかけようとするが、身体が重くなったようでうまく動けない。

 まるで背後の壁に引き寄せられる……風や引力ではない。

 身体中に何かがまとわりつくように重い(・・)のだ。

 

 「押し潰せ―――幻獣の骨鉈(グライデン)!!」

 「クッ、アルガリア!君の力を見せてやれ―――触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア!)

 

 鉈とランスが狭い室内で激突する。

 力を押し殺せずランスごと搗ち上げられたアストルフォはそのまま宙へ飛ばされ、天井を貫いて表まで吹っ飛ばされた。

 「イテテッ」と着地の際に尻餅をついてしまったお尻を労わりながら立ち上がる。

 

 派手に飛ばされた割に怪我の類が低いのはアストルフォの宝具【触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)】のおかげだけではない。

 触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)はカタイの王子アルガリアが愛用した馬上槍の伝説を具体化した物なのだ。

  触れた物をすべて転倒させる(・・・・・・・・・・・・・)

  つまり鎧で守っていようが術式で固めていようがどこかに触れただけで膝から下を強制的に霊体化させる。魔力供給も一時的にだけどカットできるから治らない。

 先の状況で言えば相手の剣と激突する直前に槍先が相手の方に触れたのだ。

 いくら宝具の一撃としても踏ん張りを利かせなければ思ったほどの威力を出すことは出来ない。

 

 「まぁ、それだけでもないんだろうけど」

 

 踏ん張りが利かなかったにしてもあの威力は低すぎである。

 もしアレが最大出力だとしたら三流以下のサーヴァントもいいところだ。

 円卓と互角に戦えた騎士があの程度の筈がない。

 何かしらの理由で出力を抑えたとしか思えない…。

 

 なんにしても動けない彼ではもう戦えないだろう。

 さっさとマスター君を捕まえて撤収するのみ。

 

 

 そう思っていた。

 

 

 カツン、カツンと金属音が響き、入口より彼は現れた。三名のホムンクルスを抱え、黒のキャスターがマスターを庇うように先頭を歩く。

 確かに足は霊体化させた。が、侮っていた。

 彼は騎士と言うよりも魔術師。

 そして稀代のゴーレムマスターでもあるのだ。

 足の代用品など地面すらあれば創り出せる。

 

 土で練り合わせられた触手のようなものが背中より地面に伸びて、しっかりと支え歩いていた。

 

 「はぁ~、これは長引きそうかも…」

 「それは私としても不本意ですね―――そもそも儂の家が大変なことになったしのぉ…」

 「さっきから思っていたけど君ってなんかおかしいよね」

 「否定はしませんよ。僕もそう思っておりますから」

 

 会話を交えながら隙なく構え合い、もはや話し合いの余地はないと判断し、本気での殺し合いかと笑みを漏らす。

 さぁ、戦いならば名乗りを挙げなければならない。

 声高らかに名乗りを挙げようとした瞬間、己のマスターであるセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアにより念話が届く。

 

 ≪退きなさいライダー≫

 

 これからなのにと少し残念ではあるがこれはこれで良かったのかも知れない。

 ため息を吐くもののクスリと笑った。

 槍を地面に刺して、肩幅に足を開き、腰に左手を当て、右手を伸ばして指をさす。

 

 「ボクの名前はアストルフォ!シャルルマーニュが十二騎士が一人、アストルフォ!君の名前は?」

 「……名乗りと言うのは慣れていないのだが…元王専属料理人でモードレッドが騎士、サーウェルだ」

 「また今度出会った時は敵同士ではない事を祈っているよ。じゃあ、またね」

 

 そう告げて走り去っていく………なんてのは時間が掛かるから途中でヒポ君を呼んで飛び乗る。

 また近いうちに出会う事になる。

 ボクの勘がそう言っている。

 敵でないことを祈りはするが、敵として現れるなら今日のお返しをしなくちゃね。

 

 

 

 

 

  

 飛んでいったライダーを見送ったサーウェルはとりあえず抱えて来たホムンクルス達を屋敷の側に置いて、眠りの魔術が解けてないかを確認する。

 サーウェルは敵に属していた彼らを放置しようと思ったのだけれども、二人の人格が拒否したのだ。さすがに崩壊しかねない場所に置いておくのは出来ないと言って…。

 置き終わると背後の大穴がぽっかりと開いた屋敷を見つめる。

 脳内でウォルターが「儂の家が…」とずっと呟いているが私としてはここでじっとしている訳にはいかない。

 

 (それには僕も同意します。これだけの騒ぎですから人が大勢来るでしょう) 

 

 「そうじゃなくて姿を隠したいという意図なんだが…」

 

 足がこの様では戦いは避けた方が良い。

 何もない膝下を一瞥するとため息を吐いた。

 回復魔法は無意味。

 呪いか宝具特有の固有能力か。どちらにしても私では解くことは叶わない。勿論魔術にひとかけらも関わっていなかった儂も僕も不可能だ。師匠なら何とか出来たかも知れないが…。

 とりあえず代用品を造って持たすしかないかと思考を切り替えて顔を上げる。

 

 「大丈夫ですか先生」

 「えぇ、これぐらいは………って先生?」

 「はい!先生は先生です!!」

 

 なんだろうか。

 凄いキラキラした眩しい笑顔を向けて来る。

 そしてこの上なく興奮しているようだ。

 会話が成り立ってない。

 とりあえず目立つので人払いの結界を敷き、話を聞くことに。

 

 私達のマスターであるロシェ君はこの世界では有名なゴーレムマスターで、サーヴァントの私に要求するのはゴーレム技術の指導らしい。ゆえに先生。どうもこういう純粋な意志ゆえの視線というのはどうもむず痒いものですね。

 別段秘匿すべきとも思わないのでそれは構わないが、もう少し欲があっても良いのではないだろうか?まぁ、私も儂も僕も別段望みらしい望みはない訳ではあるがね。

 

 「ふむ…私としては構いませんが宜しいのですか。今の行動は明らかに同陣営に対する敵対行為をやらかしてしまった訳ですが…」

 「別に構いませんよ。ユグドミレニア一族に未練がある訳でもないですし、そもそもボクとダーニックの関係性なんて技術者とパトロンの関係性ですから、作るのではなく先生の教え子となった今パトロンとか必要ないですから。先生がそう判断したならばそれが正しいでしょうし。特に戦闘に関してはボクでは先生の役に立てるかどうか怪しい訳ですから」

 「そ、そうですか…」

 「では、早速ですが教えて欲しい事がいっぱいあるのですが良いでしょうか?」 

 

 (僕、思った事があるのですが…)

 (奇遇じゃな。儂もじゃ)

 (((この子――――ゴーレムの事しか頭にない!!)))

 

 荒れ果てた儂の家をバックに、道路のど真ん中で教えを乞うとは如何な状況か。

 ここは青空教室かなにかでしょうか…もう夜で青空見えないが。

 軽い頭痛を感じながら苦笑いを浮かべる。

 

 「授業の前に移動をしましょうか。ここに居ては捕捉されたままですからね」

 「はい、わかりました先生。差し当たって何から始めましょうか?」

 「では彼女と一緒に家の中から荷物を持ってきてもらえますか?」

 「彼女?――――うわっ!?」

 

 首を傾げるロシェ君に指をさして教えると入り口に立って居る木造人形に一瞬驚き、目を輝かせて観察し始めた。

 彼女―――と言うべきかアレはモルド。

 モードレッドをモデルに創り出したゴーレム。

 今は支柱である木造人形しかないがね。

 

 私が召喚された時にアレもこちらに出てきてしまったらしい。

 第四宝具として設定されている事から間違いないだろう。

 モルドは他のゴーレムと違って意思があり、自立して行動が可能。戦闘も行えるがサーヴァント相手には分が悪すぎる。そして宝具として使用する場合は選ばないといけないし、一度しか使う事は出来ない。

 

 「モルド、地下室にある土の持ち出しを頼みます。マスターには儂の手帳、舞台の台本…ほかに使えそうな物があるならば――本来なら主のお手を煩わせるのは――」

 「これぐらい良いですって。先生の為ですから」

 

 うわー、キラキラした瞳が眩し過ぎる。

 高い期待がプレッシャーを与えてきているんですが…。

 

 家の中に入って行った二人を見送ると地面に転がっている小石を右手で複数拾って左手で撫でる。

 短く息を吹きかけると四方八方にばらまく。

 地面に落ちた小石は淡い赤色に発光し、その中の数個が飛びあがり何かに激突する。

 

 カラスに蝙蝠、犬―――野生の生き物ではなく魔術師の使い魔たち。

 

 面倒だ…。

 マスターはすべてこちら任せの趣味人。

 戦力は負傷している私と未完成のモルド。

 人の身であるマスターの事を考えると資金も食糧も住み家…否、住み家でなく隠れ家か。兎も角やる事が多すぎる。

 あー…聖杯大戦が終わるまでイギリスに居たら駄目だろうか。駄目だろうな。

 拠点の確保に防御魔法、罠にゴーレムの製造…やる事は山ほどあるが現状真っ先にするべき事はマスターの替えの衣類を買うべきか。

 

 あのままでは風邪を引きかねない。汗でびしょびしょというのも衛生上頂けない。

 

 目についた黒の五人乗りの車に近付き、フロントガラスより中を覗き込む。

 盗みとは前世では考えられない事だが背に腹は代えられない。足の確保は必須条件だ。土とか結構な量がある事だし。

 

 魔術を行使して防犯装置の有無を確認し、鍵は……土をねじ込んで鍵穴に固めて開ける。

 魔術師の最高峰であろう師匠より教えられた魔術。

 こんなことに使って良いんだろうか…。

 

 バレなければいっか。

 

 

 

 ―――――ゾクリ。

 

 

 

 今誰かの視線を感じた。

 ………まさか…な。

 

 「どうしましたか先生?」

 「いえ、なんでも………ないです」

 

 気のせいだという事にして手帳(黒歴史)と台本を受け取り、モルドに袋に詰めた土塁を後部座席に置かせて、運転席に座る。

 

 (ところで誰が運転するんじゃ?儂は馬ぐらいしか無理ぞ)

 (奇遇ですね私も馬しか乗れません)

 (それって遠回しに僕に運転しろって言ってます?確かに普通免許もってましたけど乗ったことあるの普通車で小さいのですよ)

 ((・・・・・・・・・))

 (あの無視するの止めて下さいませんか。分かりましたよ運転すれば良いんですよね)

 

 初日から疲れた顔をしたサーウェルは車を出した。

 いろんな意味で何処に向かおうか悩みつつ…。




 カークランド・サーウェル
 筋力C
 耐久C
 俊敏E
 魔力A+
 幸運C

 身長187cm
 体重 73㌔

 ●宝具
 ・■■■■■■
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 
 ・グライデン
  種別:対人宝具
  幻獣の骨と牙で作り出された長剣。剣と言っても刃は平べったく、打撃を与える為の鈍器。
  魔力が行き渡りやすいようにサーウェルが製作した武器で、宝具解放時には魔法により過度な重力が付与されており直撃を受ければ幻想種であるドラゴンですらただではすまない。
  敵単体に超強力な攻撃&高確率でスタン付与(オーバーチャージで確率アップ)

 ・トゥルヤーグ
  種別:対人宝具
  マーリンとの修行時代から使用していた伸び縮み可能な構造の投擲用の槍。構造的に内部は空洞となっており、魔力を内部により多く貯めれる魔力操作の訓練に使っていた。
 その後、マーリンより幻獣の爪を貰って強化の練習台にもしている。
 黒きドラゴン討伐では貯めに貯めた魔力を先端から解放する事でドラゴンの身体を貫通するだけの力を得た。……ただ退治のときに狙いから外した為に狙ったところには絶対当たらないようになっている。
 敵単体に強力な防御無視攻撃<オーバーチャージで威力UP>

 ●ゴーレム

 ・モルド
  サーウェル最高傑作のゴーレム。
  戦闘能力はゴーレム以上サーヴァント未満。最高傑作と言う事である女性そっくりに仕上げ、質感、機能まで人間と同様にあつらえてある。しかも自分で考え判断する知能と性格を有する。

●スキル
・■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 
・高速詠唱
 魔術の詠唱を高速化するスキル。
 FGO時効果:自身のNPをすごく増やす

・魔力放出
 武器や自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出させて能力向上を行なうスキル。
 絶大な能力向上を行なえる代わりに魔力消費が激しいので燃費は非常に悪い。
 FGO時効果:自身のバスターカード性能をアップ

●クラススキル
・陣地作成C
 自身のArtsカード性能を少しアップ

・道具作成C
 自身の弱体付与成功率を少しアップ


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第03話 「赤のサーヴァント」

 赤の陣営に召喚された赤のセイバー―――モードレッドは機嫌が悪そうに鼻を鳴らした。

 

 機嫌も悪くなるのもしょうがない。

 召喚に使用された媒体は忌々しくも円卓の欠片。

 自身を女と扱われることを嫌う為、召喚されてすぐマスターに「女か?」と言われ激怒。

 最後にはあのモルガンと似た雰囲気を纏った赤のアサシンとの顔合わせだ。

 機嫌を悪くするにあたっておつりがくるほどの事柄が連続して起これば当然の事だろう。

 

 その機嫌の悪いモードレッドの隣で召喚したマスターである獅子劫 界離(ししごう かいり)は運転しながら苦笑いを浮かべる。

 

 「お前さん、本当に行くのか?」

 「―――あ?」

 

 今更ながら問われた言葉に片目を吊り上げて振り返る。

 魔術師らしからぬ風貌のこのマスターを思ったよりも気に入っていた。

 と、いうのも魔術師のイメージと言えば無駄にプライドが高い頭でっかちの印象が強い。さらに宮廷魔術師を見ていれば胡散臭さまで加わってあまり好きな人種では無かった。

 

 鍛えているのであろう筋肉質の大柄な肉体に、戦いによって出来た顔の古傷。

 服装は見栄だけの無駄な装飾は省き、動き易く戦闘の邪魔にならないものを選んである。

 何より戦場慣れしているのが雰囲気で分かる辺り気に入った。

 武器も古臭い魔術道具でなくメインは銃にナイフと魔術のみの攻撃に拘りがない。

 変に凝り固まって手段を選ぶ連中よりも、こういう手段を選ばない輩のほうが戦場では生き残る。

 

 あとは…そうだなぁ。

 奸物のおもねるような類の奴でなくて安心したぐらいか。それと行動力もか。

 

 モードレッドより中々の高評価を貰っている本人はちらっと地図を確認して前へと向き直りぼりぼりと頭を掻く。

 

 「行先だよ。マジでイギリスへ向かう気か?」

 「おう」

 「理由はあれか…神父が言っていたサーウェルが召喚された可能性云々か」

 「ったりめぇだ!アイツが居るんならまず一発ぶん殴っておかないと気が済まねぇ!!」

 

 あの雰囲気がおもっくそモルガンに似た気に入らない赤のアサシンを召喚したマスター―――シロウ・コトミネ。

 所属は魔術協会ではなく聖杯戦争においては監督役に回る聖堂教会。

 監督役でありながらマスターとして派遣され、魔術協会と共に赤の陣営に加わっている。

 召喚されたモードレッドは獅子劫に連れられ、シロウ・コトミネが居る教会へと赴いた。

 

 そこで黒の陣営で真名が分かっているのはランサーがヴラド三世という事と、黒のアサシンがまだ合流していないなど簡単な現状の説明が行われた。ヴラド三世と言えばルーマニアの英雄。知名度補正も入ってかなりの強敵になるのは必至。だが、モードレッドが気になったのはイギリスでの一件のみ。

 アーサー王伝説研究家としても知られるウォルター・エリックの屋敷にて英霊が召喚されたとイギリスに拠点を置く魔術協会の者より報告が上がった。そもそもは黒のマスターの一人がイギリス入りした事から監視を始めていると、仲間割れか黒のサーヴァントに襲われ、最終的にサーヴァントを召喚して撃退したのだとか。剣を持っていた事からセイバーだと当初は思われたが、魔術を行使して監視していた使い魔をあっさりと全滅させたこと、そして容姿に装備品など鑑みてサーウェルだと断定されたのだ。

 

 獅子劫もアーサー王伝説は知っているが、何故こうもサーウェルに対してイラついているのかが分かっていない。それなのに教会を出るや否やイギリスに行くぞの一言でずっと車を運転しているのだった。

 

 「ぶん殴り優先でこのルーマニアの首都からイギリスへ向かうなんざ俺達ぐらいだろうな」

 「良いじゃねぇか。ぶん殴ったついでに討ち取っちまえば」

 「旧知の仲なんだろ?良いのか」

 「良いに決まってんだろ。それに戦場に敵味方分かれて立ってんだ。迷う暇なんかねぇ」

 「――だな。まったくもってその通りだ。いらん事聞いたな」

 

 頷いたモードレッドが座席を倒して寝る体勢に入ったことで車内が静かになる。

 ラジオでも聞くかと手を伸ばすが、それを操作するぐらいなら先に煙草を吸うかと窓を開けて懐から煙草を取り出す。

 咥えた辺りで火が付け難いと思い、咥えた煙草を元に戻してため息を吐き出す。

 

 「にしてもイギリスまで運転か。さすがに億劫だな」

 「ん?あぁ、だったら俺に任せろ」

 「ああ?運転できるのか」

 「俺の騎乗スキルはBだぜ。どんな馬だって乗りこなしてみせらぁ」

 「そいつは助かる」

 

 サーヴァントは寝る・食うなどを必要としない。

 休みを入れながらイギリスまで運転しなくて済むと思うと気が楽になった。が、獅子劫 界離はこの後、己の発言を深く…深ーく反省するのであった…。

 

 

 

 

 

 アジアのある島国には早起きは三文の得ということわざがあるらしい。

 僅かでも得るものがある……これに私は異を唱えよう。

 

 「おはようございますマスター!まだ日も昇りきっておりませんが急用にて失礼致しますよ!」

 

 気持ちよく寝ていた安眠を妨げられ、ぼやけた意識に喧しい騒音が叩き込まれる。

 眼鏡を付けていないので視界までもぼやけており、よく見る為にも安眠を妨げた怒りも込めてその対象を睨みつける。

 ぼやけた視界でも分かる大仰な動きににやついた髭面。黄緑色のスーツに左腕を隠すように羽織っている黒のマント。

 

 昨日の召喚時に戯曲マクベスのマクベス将軍を呼び出そうとして、召喚してしまった作者―――ウィリアム・シェイクスピア。

 

 ベッドより上半身を起こし、寝ぐせの付いた髪を撫でる。

 叩き起こされただけでも不機嫌だというのに、叩き起こして来た者がシェイクスピアだと分かって不機嫌さがここに極まった。

 眉が険しく歪み、大きなため息が漏れる。

 

 「おやおや、気分がすぐれぬ様子。何か煩わしい事があったかのようですな」

 「えぇ、そうよ。察しが良くて助かるわ…」

 

 言葉とは裏腹に左手の甲に装備している木製の車輪を回転させる。

 彼女の名はジーン・ラム。

 【疾風車輪】という二つ名持ちのフリーランスの魔術師である。

 魔術協会の要請で聖杯大戦に参加した赤の陣営のマスターの一人。

 

 回っている車輪は飾りでもおもちゃでもない。

 インド発祥の投擲武器の一種のチャクラム――彼女の場合は別名の【戦輪】か【飛輪】のほうが好ましいか――であり、それこそが彼女の武器。

 それが回転し始めた事は加減は置いておいて、戦闘態勢に入ったことを意味する。

 

 優秀な魔術師と言えどサーヴァントに対して戦闘態勢に入った所で戦いどころか威嚇にもならない。

 ……………目の前の例外を除いて。

 

 「おお、落ち着かれよマスター!吾輩手荒なことは――」

 「分かっているわよ。だからこれ以上騒がしくしないで」

 

 慌てた様子で両手を上げて無抵抗のアピールをするシェイクスピアにドスの利いた睨みを向ける。

 サーヴァントと召喚される者は武勇に秀でた者や知略に優れや者、魔術に精通した者などが召喚されてきた。これは聖杯戦争という戦いの場で競い合うが為に、戦いに向いた英雄たちを召喚しなければならないのでそうなる。

 そもそもサーヴァントとして呼べるのは世界に刻まれた人物達。自ずと神話や伝説に名を遺す強者がひしめいている。しかし世界に名を知らしめた人物は争いのみにならず。

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ、ピタゴラス、ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ、ニコラ・テスラ、アルベルト・アインシュタイン、ガリレオ・ガリレイ、アイザック・ニュートンetc.etc.

 音楽に絵画、学問など各分野で名を広めた人物もいる。

 

 劇作家ウィリアム・シェイクスピアもその一人だ。

 俳優として、作家として成功した彼が一騎当千のサーヴァントと対峙出来る筈もなく、魔術師相手にも戦えば負けるという戦闘能力が皆無と言って良いほど弱いサーヴァント。

 キャスターのクラスを得ているものの、魔術工房も礼装の制作や使い魔を従える事も出来ない。

 唯一出来る事と言ったら固有スキル【エンチャント】を使用しての強力な付与を付け加えれる事。

 

 いつまでも回していても意味がないので車輪の回転を止めて、ベッド脇にある棚の上に置いた眼鏡をかける。

 

 「で、用件は何かしら?教会…あるいは神父からの招集かしら」

 

 予想として浮かんだものを言ってみたらシェイクスピアは首を振るばかり。

 

 「確かに神父から言伝は預かりましたが魔術協会からの事はなにも」

 「言伝と言うのは?」

 「本日予定していた集合時間を遅らせるとの事でした。黒の陣営に動きがあったようなのです!!」

 「―――そう」

 

 そう…そうとしか答える事が出来なかった。

 マスターとしてサーヴァントを従えて参戦することも出来ず、自らが戦闘に介入することも出来ないこの身では、やる事がないのだ。せいぜい赤の陣営が勝つように多少支えるぐらいだろうか。または部屋で読書でもしておくぐらいか…。

 

 なんにせよ後は待つだけ。

 赤の陣営が勝利したときに生き残ってさえいれば報酬は頂ける。

 長年欲しかった魔術書が時計塔でオークションにかけられるとの事で、報酬から最低でも三冊は手に入れれるだろう。

 今はそんな事だけを考えておこう

 

 「なにやら暗い雰囲気ですなぁ…さて、そんな雰囲気を払拭すべく外にでも参りませんか?」

 「・・・・・・・・・」

 「朝の澄んだ空気に日が昇る空の元に出ればそのような暗く重苦しい気持ちも払しょくされましょう。どうせ年をとるなら、陽気な笑いでこの顔にシワをつけたいものですなぁ!」

 「はぁ…分かったから大声を出さないで」

 「これは申し訳ない。すでに馬車の準備は整っております」

 

 窓から外を見ると確かに古風な馬車が止められてあった。

 どうやって出したのかは問題ではない。現代の街で馬車など目だって仕方がないのだ。

 

 「とりあえず馬車はいらないわ―――もしかして遠出するつもりだったのかしら?」

 「まぁ、そうですなぁ……少々、行きたいところがありまして」

 「……はぁ…いいわ。でも馬車は街から離れたところに用意しなさい。目立つわ」

 「畏まりました。では、準備が終わるまで外で待っておりますぞ、マスター」

 

 部屋から出て行ったことを確認して、ジーンは何度目かのため息を漏らす。

 普段着に着替えようとベッドから起き上がり、遠出ならとバッグに持ってきていた着替えを除く、本や魔術関係の私物をバックに入れて持って行った方がいいかしらと考える。

 

 

 

 この時、ジーン・ラムは知る由が無かった。

 シェイクスピアが黒の陣営がイギリスで戦闘を行ったという事実、親友であるウォルターの屋敷が被害にあった事、さらに赤のアサシンが捉えた黒のサーヴァントの姿を神父と赤のアサシンが話し込んでいるところに割り込んで入手したのだ。

 イギリスと言う地にウォルターの屋敷、さらには漆黒の鎧に真紅のビロードマント、鉈のような剣を持ったサーヴァントとくれば一目瞭然でサーウェルと分かった。

 

 親友が調べ、自身が作品とした英霊が呼び出された!

 

 そう思うと心が弾み、会ってみたいと思ってしまったのだ。

 つまりシェイクスピアが向かおうとしているのは……………遠出にしても限度がある。

 そして半ば投げやりだったジーン・ラムが許可した事で彼女の運命を大きく変えてしまった事は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ【完璧な王? ぱーと①】

 

 モードレッドは初めて目にした瞬間、騎士王に見惚れてしまった。

 母からは倒さなくてはならない敵と言われたが、完璧すぎる王の姿に不可能だと悟った。

 言われた事には背くが自分の意志で騎士王の剣の切っ先の一部となる為に仕えようと……。

 

 近くで見た王は遠目で見ていたよりも完璧だった。

 我欲が存在せず、必要な物・量しか欲せず、不必要な物は存在しない。

 まさに完璧な王だと俺は陶酔していた。

 

 ある日。

 言われたのだ。

 俺はあの騎士王の血を引く嫡子。

 そう聞かされた瞬間歓喜で満たされ、王に認めないと冷たくあしらわれた時には絶望で満たされた。

 

 俺の心には憎悪しかなかった。

 全てを壊してやる。

 そう思っていた…。

 

 「凄い顔しているな」

 

 通り過ぎる騎士達が慄いて道を開けていく中、一人の青年が声を掛けて来た。

 振り向きながら隠そうともしない怒気が相手に向かっていくが暖簾に腕押し…まったく気にも留めていない。

 

 相手はサーウェル。

 王の専属料理人を務めている料理人兼騎士だ。

 なんでも噂では宮廷魔術師のマーリンの弟子であり、ガウェイン卿とも渡り合える猛者だとか。

 確かに鍛えているようだがとてもあのガウェインに渡り合える猛者には見えない。

 

 話し掛けるなと突き放したが、奴は通路の真ん中に立ちはだかって避けようとはしない。

 苛立って剣を抜きそうになった俺に「何かあったか話してみろ。少しは気が楽になるかも知れないぞ」と言って来た。

 気が楽になるなんてことはないだろうが、良いだろう。

 こいつに鬱憤をぶち撒いてやろう。

 

 ただの気まぐれに近い行動だった。

 その後はもう一人でずっと話し続けた。今まで抱いてきた想いに、裏切られたような今の心境。いらん事まで話してしまった。その間、奴は真顔で怒る事も同情する事もなくただただ聞いていた。

 話し終え、何をしているんだと冷静に思った辺りで何処とも言わずに付いて来いとだけ言われ、しかめっ面を浮かべながら後をついて行った。

 向かった先は奴の職場である厨房。

 なんでこんなところにと口にする前に席に座ってろとだけ言うと、王の夕食の準備に取り掛かり始めた。

 何がしたいのか分からぬまま、座っていると準備が出来た料理が運ばれてきた。

 鶏肉に人参、じゃが芋などの具材がふんだんに使われているシチューにカリッカリに焼かれた香ばしい匂いのパン。

 

 いつもの食事のような乱雑さはなく、盛り付け方も綺麗に整えられている。

 というか見た事もない珍しい料理に目を見張る。(アーサー王は五世紀頃でシチューが確立されたのは十六世紀以降)

 

 「どうぞ」

 

 勧められるままにスプーンを突っ込んで一口食す。

 美味かった。

 雑多ではないのは見た目だけでなく、味もだった。

 マイルドで優しい味わいと温かさが身体を温める。いや、温められたのは身体だけではない。

 食べた事のない美味しさに手が進み、食べ終わりかける頃には先ほどの怒りが嘘のように頬が緩んでいた。

 そんな事に気付かず最後の一口を口に運んでいると―――…。

 

 「サーウェル!今日の夕食はなんで…しょう……か」

 

 ――目が合った。

 変装の為か使用人の服装を着た騎士王が見た事の無い興奮気味な笑みを浮かべた様子を。

 

 ――間が開いた。

 スプーンを咥えたまま目にした騎士王に驚く俺と、俺がここに居る事に理解が追い付かない騎士王。

 一言も口を開かないサーウェル合わせて沈黙しているので静寂だけが部屋を満たす。

 

 ――感情が消えた。

 満面の笑みを浮かべていた騎士王の表情がいつもの無表情へと変わった。

 まるで感情が抜け落ちたようだ。

 

 「貴公はこんなところで何をしている?」

 「……食事をしております」

 

 あまりの出来事に怒りが湧くより混乱していて敬語で返してしまった。

 再びの沈黙。

 耐え切れず思わずパンを頬張る。

 ザクっとパンが音を立てた事で騎士王は動き出した。

 

 「―――ッ!?何故にモードレッドが食べているのですか!」

 「えぇ!?いや、俺はその…そう!サーウェルに勧められて…」

 「サーウェル!!」 

 「ふぁ!?ちょっと落ち着いてくだs――」

 

 決して見る事の無かった王の姿にモードレッドは呆然と眺めるしかなかったのであった…。



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第04話 「懐かしの顔ぶれが敵陣営という事実」

 マスターとサーヴァント。

 パスを繋いだことでお互いの過去を夢のような形で見る事があるという。

 だからこれはボクの先生――サーウェルの記憶なのだろう。

 

 石造りで作られた工房に鎧姿ではなく薄汚れた布地の服を纏ったサーウェルと、純白のローブで顔を隠している青年らしき人物の二人が並んでいた。二人の前にある作業台の上にはサーウェルの武器である(グライデン)が転がされている。

 

 「さぁて、ちょっとしたおさらいだよ。君に作ってもらったこの鉈の原材料は何だったかな?」

 「詳しい内容は聞いてない様に思うのですが…」

 「そうだったかな」

 「そうですよ。いきなり豚の骨を持って来たよとか言ったら、すぐにこれで武器を作るんだとか」

 「知っているじゃないか」

 「豚の骨で私は納得してませんよ師匠。微妙に魔力を帯びていたの覚えているんですから。何処からどうやって持ってきたのやら…」

 

 呆れたような視線を向けようとも師匠と呼ばれたローブの青年は全く気にせず微笑むだけであった。

 そして何処からともなく木箱と大きな骨を同じく作業台の上に転がした。

 大きな骨を見たサーウェルの目が驚きと興奮から見開かれる。

 

 「これはもしやあの黒いドラゴンの骨ですか!?」

 「御明察。君の言う通り君が恥ずかしくも皆の前で外して、円卓のみんなで袋叩きにして倒した黒いドラゴンさ」

 「・・・・・・この鉈で頭かち割りましょうか?」

 「真顔で師匠を脅すものではないよ」

 

 本気で殺気立ったサーウェルは手に持った(グライデン)を作業台に戻し、もう一つの箱を開けてぽかんと口を開けた。

 箱の中身は獣の手足だろうか…。

 

 「嫌がらせ?」

 「おや?お気に召さなかったかい」

 「いえ、とても強い魔力を感じる事から貴重なものと分かりますが…なんですこの切断された猫の手足は?」 

 「これで鉈を強化するんだ」

 「師匠。前に仰られましたよね?会話はきゃっちぼーるだとか…これでは円卓の騎士と王との会話の方が成り立ってますよ」

 「それ皆二つ返事しかしてないよね?否定が一切ない肯定するだけの作業を会話とは呼ばないよ。何にせよそのドラゴンの骨で強度が、その手足の爪を使えば切れ味が格段に上がる筈さ。勿論君次第ではあるけど」

 「師匠に合格が貰えるように頑張りますよ」

 「期待しないでおくよ」

 「せめて励むように言いましょうよ」

 

 そう呟きながらも骨と猫の手足を手に取りながらぶつぶつと思案に浸り、どうしようかと手段を模索する。

 先生もこうやって魔術を身に着けて行ったのかと眺めながら、ゴーレム作りでないことに多少の不満を覚えるが、これはこれで先生の事が知れて良かった思う事にする。

 

 ――――ふふ。

 

 ローブの青年がこちらにちらりと視線を向けて微笑んだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 あり得ない。

 これは目の前で起こっている事柄でなく、サーウェルの記憶の筈である。

 なのに目が合うなど…それもこちらを認識したような…。

 

 いや、錯覚だと決めつけながらも凝視してしまう。

 

 人差し指を立てた右手が口元に向かう。

 まるで静かにと告げるような仕草。

 

 アレはこちらを認識している。

 ゾクリと背筋が凍り付くような感覚に襲われると急に視界がぼやけて意識が遠のき覚醒して行く。

 

 

 

 

 

 

 私は極めて異例なサーヴァントだ。

 聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは過去・現在・未来において世界に認知された存在。

 それは武勇であったり、知略であったり、学問であったりと多種多様なもので名を馳せた人物。

 

 私は円卓に並ぶ実力者であり、かの有名な魔術師の弟子としてアーサー王伝説に組み込まれた事で世界に認知された。

 だが私は私であっても儂でも僕でもある。

 多少名が知られている程度の資産家である儂とその他大勢に分類されるような僕の三つの人格によって私という存在は形成された。

 そもそもが作り物の英霊。

 存在しなかった筈の存在。 

 

 だからどうした?

 私は私だ。

 私は私を認知し続ける限りサーウェルとして生きていこう。

 

 元々騎士道精神を大事にしてきた騎士ではないし、主を代えて主に刃を向けた不忠者であるが、マスターであるロシェ君にこの命がある限り忠誠を誓おう。

 彼が私に師事を求めるのなら全力で答えよう。

 例えどのような事態になっても抗おう。

 

 そう…。

 どんな事態になってもだ…。

 

 「やっと会えたな―――サーウェル」

 「久しぶりですね。まさか貴方まで召喚されているとは…。意外に縁というのは深く結び合っていたらしい」

 

 パチパチと火花が散り、二人の視線がぶつかり合う。

 対面するのはサーウェルが二度目に仕えた主であるモードレッド。

 手には王位継承を示す燦然と輝く王剣(クラレント)が握られている。

 サーウェルには相手のステータスを見抜くようなスキルは無いが相手が円卓であるなら話は別だ。

 円卓メンバーとは何度も関わりを持ち、特にモードレッドとは何度も剣を合わせた事もあって、戦い方や癖まで頭に入っている。

 ………一番関わりがあるのはマッシュポテト製造機ことガウェイン卿だ。

 彼にはよく料理を手伝ってもらったなぁ。

 

 逆に相手もこちらの手口は知っているのは痛いが、アドバンテージがない訳ではない。

 本来持っている筈のない第三宝具。

 一度きりの奇襲になるが決まれば確実に座に還すことが出来るほどの宝具。

 掠っただけでもモードレッドが戦闘不能に陥る事は間違いないだろう。

 ただそれを使えば自身すら座に還りそうになるだろうが…。

 

 モードレッドの宝具と思われる燦然と輝く王剣(クラレント)は王より話を聞いていたし、宝物庫で何度か見せて貰った記憶がある。だいたいの特徴に性質も知っていれば対処法もある。

 

 睨みつけるモードレッドの殺気が辺りを包む。

 モードレッドの横に居たマスターらしき男性は離れ、ロシェ君は殺気に慄きながらも離れずに私の側で待機している。

 

 「テメェはなんでいつもこう…いや、いい」

 「言葉を飲み込むとはらしくない。言いたいことははっきり言うべきだ。これから殺し合うなら尚更の事」

 

 そうだ…。

 サーヴァントとして呼ばれたからにはこういう事もある。

 仲の良い者同士が殺し合う事だって可能性はゼロではないのだ。

 彼女は赤の陣営…外れたと言っても黒のサーヴァントである自分を見逃すはずがない。しかも相手は一人ではない…。

 少し離れた位置にサーヴァントの反応。

 位置的には私の背後を取っている事から挟撃する気なのだろう。

 

 鋭い眼光はそのままで握っている燦然と輝く王剣(クラレント)を肩に乗せる。

 

 「なら言わせてもらうが……お前さぁ、俺を馬鹿にしてんのか?」

 「まさか、君を馬鹿になどすれば後が怖い。相手の隙を作り出すために激高させるのも手だが、君の場合は怒らせれば怒らせるほど荒々しさが増し、勢いはとどまる事を知らない。そんな状態の君を押し切れるほど私は強くはない」

 

 間違った事は言っていない筈だ。

 なのにモードレッドは俯いて肩をプルプル震わせている。

 向こうのマスターはこちらを笑いながら覗いている。

 何故だと疑問を持っていたがそれらはモードレッドの一喝によって掻き消された。

 

 「テメェはなんで敵と接敵しても肉を焼いてやがんだ!!」

 

 広い草原の真ん中でお借りしている車に積み込んであったバーベキューセットを使い、牛肉と野菜を交互に刺した串を焼いていたのだが、言われてから納得して手を止めるサーウェルであった。

 

 

 

 

 

 

 ロシェ・フレイン・ユグドミレニアはごくりと生唾を飲み込む。

 焼いた串を乗せた皿を中央に置いた長机を挟んで赤の陣営の二組と対峙していた。

 彼はゴーレムに関してなら現代の魔術師の中で随一かも知れないが、他の技能となると偏りが発生する。その中でも人に興味が今までなかったことから相手の腹の探り合いなんて言うものは持ち合わせておらず、交渉術ともなれば皆無と言って良いほどだ。

 でもやるしかないのだ。

 アーサー王伝説に紡がれる万全の状態のサーウェル先生であるならば英霊が二騎いた所で互角に戦えると信じれる。けれどもボクが召喚したサーウェル先生は戦闘においては大きな欠陥を持っている。

 

 元々剣術の才能が皆無な先生は魔術により肉体を強化せねば円卓の騎士と渡り合うほどのステータスを得ることは出来ない。

 逆に肉体を強化さえ出来れば円卓最強の騎士であろうとも渡り合う事が可能。

 だが、先生は第三宝具を体内に無理にねじ込んだ状態で現界しており、そのせいで肉体を強化するのに大量の魔力を食うようになっている。それも全力で行使すれば三十秒と経たない間にボクを死に至らしめるほどに…。

 自身にかける強化魔術以外ならば使用は可能だが、そんな状態では勝ち目はない。

 

 ゆえにボクは交渉を持ちかけたのだ。

 

 対面するマスターはフリーランスの死霊魔術師(ネクロマンサー)獅子劫 界離(ししごう かいり)に、同じくフリーランスの魔術師で【疾風車輪】の二つ名を持つジーン・ラム。

 魔術師の世界では腕利きと呼ばれる術師達。

 ゴーレムを持ち合わせていない現状の自分では万に一つも勝ち目のない相手だ。

 

 ジーン・ラムは見定めるように睨み、獅子劫 界離は難しい顔をしながらも乗り気であった。

 

 「では、お前さん方は俺達の仲間になりたいんだな」

 「はい、その通りです。ボクらは黒の陣営には戻れないですし、戻る気もありません」

 

 すでにどういう経緯があって黒の陣営と敵対したかを素直に話したロシェは赤の陣営の味方になる為に必死に頭を回す。

 ここで死ぬわけにも先生を殺させる訳にもいかない。

 たった一騎で聖杯大戦を生き抜くことは不可能な以上は赤の陣営に付くしかない。

 

 この結論にサーウェルは否定することは無かった。

 寧ろ、それがロシェが選んだ決定なら黙って従うとの事。

 

 「貴方が言った事柄を事実と確かめるには時間が要るわ。下手な対応するよりはここで仕留めた方が得策」

 「まぁまぁ、そう言わさんな。黒の陣営である彼がこちらに下れば得るもんも大きい。メリットはデカいさ」

 「勿論ボクが知る限りのユグドミレニアの内部事情はお話いたします。が、サーヴァントの真名などは言う事が出来ません。多分黒の陣営のサーヴァントの真名を全員知っているのはダーニックだけだと思いますので」

 「現代におけるゴーレムマスターの助力が頂けるんなら願ったり叶ったりだ。しかもユグドミレニアより一騎脱落させてこちらの戦力は多くなるんだからな」

 「危険よ」

 「なぁに、保険はかけるさ。な、セイバー」

 「おうよ!変な動きを見せたら問答無用で切り伏せる」

 

 どうやら獅子劫の方は受け入れてくれる気でいるらしいが、ラムはそうではないようだ。

 注意深く観察し、妙な動きがあれば些細な事でも殺しにかかりそうな気配を漂わせる。

 

 「私は断固反対よ!もしそっちが味方にすると言っても―――」

 「あー…マスター。分かっておいでかと思いますが吾輩にかのサーウェルとの戦いを望まれているのなら結果は一目瞭然。吾輩が瞬殺されて座に還る事になるでしょう」

 「…………そうだったわ」

 「なにせ吾輩は魔術や戦いやらは苦手ですからな!」

 

 爽やかな笑みを浮かべるサーヴァントに苦笑いを浮かべる。

 堂々と私は戦えませんと宣言したのだが…。

 

 案の定、獅子劫は苦笑いを浮かべ、モードレッドは怪訝な表情を、ラムに至っては頭痛を起こしたのか頭を抱えていた。

 ただ一人、サーウェル先生だけは知っていたかのような当然だなと言わんばかりの態度を取っていた。

 

 「さっきも言ったように保険だけはかけさせて貰う。良いな?」

 「勿論です。早々信用は出来ないでしょうし…ねぇ、先生―――先生?」

 

 にっこり微笑んだ先生はボクの後ろから向かい側に向かう。

 モードレッドやマスター達が警戒する中、サーウェルはシェイクスピアへと近づく。

 どうして自分の方に近づいて来るのか理解できていないシェイクスピアは疑問符を浮かべている。

 

 「私が誰か分かりますかな?」 

 「えぇ、存じておりますとも。サーウェル殿…いえ、黒のキャスター殿と呼んだ方が――」

 「言い方を変えましょう。儂の事が分からんかウィリアムよ」

 「―――ッ!?その口調はまさかウォルゥツゥア!?」

 

 最後まで喋ること叶わず、綺麗なアッパーが決まり、皆が皆呆然としている中でサーウェルだけ清々しい表情を浮かべていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ【完璧な王? ぱーと②】

 

 王は完璧な筈だった…。

 

 王との繋がりを知って喜び、王に否定され絶望したあの日。

 すべてが崩壊した。

 

 まるで無垢な少女のような笑み。

 感情のまま揺れ動くアホ毛。

 頬を膨らませて怒る様子。

 

 こいつは誰だと思った俺はおかしくない筈だ。

 

 というかあのサーウェルとか言う奴は何もんなんだ?

 ぷんぷんという擬音が出そうな感じで怒っていた王を逆に一喝し、説教を始めたのだ。

 円卓の騎士でも貴族でもない料理人がだ。

 

 内容は俺に対する言葉の数々。

 「貴方は本当に人の心が解らないんですか?」とか「言い方と言うものがあるでしょうに」などを淡々と言い、さすがに黙っていた王も「王としての問題です!口出し無用で」言い返すが――

 

 「王を強調するのですかそうですか…なら王の口に直接料理が入るのは不味いですよね。毒見係を今からでも呼んできましょう。あぁ、折角温かいシチューが冷めてしまいますが仕方ないですよね。王の食事ですから」

 

 この言葉で沈黙……というか撃沈されて俺との話し合いと相成り、渋々だったがどうして俺が王を継ぐ者として駄目なのかなどを話してくれた。確かに王が求める次代の王の理想が高い上に俺にはまったく当てはまらないものであった。嫡子としてもいろいろ言われ最後は口喧嘩。

 普通王と騎士が口喧嘩とかありえないがここ(サーウェルの調理場)ならそういう上下関係がないらしい。

 なんにしても怒鳴り合いして少しはすっきりしたよ。

 それに関してはサーウェルに感謝している。

 

 結果、俺は騎士としてとりあえず頑張るつもりだ。

 認められるような王を模索しながらな。

 

 さて、騎士としての務めはとりあえず置いておこう。

 ここでは役職もあってないのだから。

 

 「いや、何故ここに居るのだモードレッド」

 「ここに居る以上目的は同じだと思いますが?」

 

 机を挟んで不満そうな王とにやついた笑みを浮かべたモードレッドが向かい合って座っている。

 調理台ではぱちぱちと油の跳ねる音が聞こえ、サーウェルが切った野菜を白い液体に浸けたりと料理の準備を行っていた。

 

 「喧嘩はしないで下さいよ。殴り合いとかされたら埃が立つんで」

 「なんでサーウェルはモードレッドの同席を許可したのですか!?」

 「王がここで食事をしている事をばらされたくなければなんて言われたのですが断っても良かったですか?」

 「―――ッ……仕方ありませんね」

 

 なんか王の扱い方が分かった気がする。

 まぁ、食事に関しては分からないでもないけど。

 なんたって円卓メンバーの大半が腹に入れば何でもいい感じだし。それにいつ戦があっても良い様に早食いは基本。ゆっくり味わう事もない。そもそも料理の基本がおかしい。ガウェインとか芋を握り潰したのを料理として王に出したこともあったぐらいだ。

 サーウェルにその話をしたら「何そのマッシュポテト…」と呆れていたっけ。

 その後食べたポテトサラダとかいうマッシュポテトは美味しかったなぁ。

 

 「そういや今日は何食わせてくれんだ?」

 「てんぷらっていう料理で、野菜や海鮮物を油で揚げるものだそうです」

 「前々から思っていたのだが何処からそのような料理を調べている?」

 「師匠がどこからか見た(・・)そうですよ」

 

 そう言いながら食材を油の中に入れ、音を立てて揚げ始めた。

 じゅわ~と音を立て、香ばしい匂いが部屋いっぱいに溢れる。

 それぞれ皿に分けられたてんぷらなるものが並べられ、二人の前に置かれる。

 

 クキュルルル~…。

 どちらか分からないが腹の虫が鳴いた。

 

 「その塩を付けるかツユに浸けるかして食べるそうです」

 「そうか……では!」

 

 キリっとした表情でフォークをてんぷらに突き刺すとさくりと音を立てた。

 そのまま塩を少し付けて小口でかぶりつく。

 するとふにゃりと王の表情が柔らかくなり、笑みが漏れていた。

 

 続いて自分もと突き刺してかぶりついた。

 さくりとした歯ごたえの良い衣に油で揚げたのにそこまでしつこくない。それに野菜の歯ごたえも良い。

 

 「おかわりを」

 「―――ッ!?」

 

 二つ目にフォークを伸ばしていたら、王が追加の催促をしていた。

 別に競っている訳ではないが、なんだか気に入らない。

 がっつくように食べ、同じくおかわりの催促をすると二人分を同時に揚げていたのか二皿出される。

 さくり、さくりと音を立て食べる王を横目で見ながら、汚くない程度にそれより早いペースで食べきる。

 

 「サーウェル。おかわり頼むぜ」

 「―――む」

 「良いけど結構食べるな」

 

 野菜を切り始めたサーウェルを他所に膨れたような表情をした王に対して勝ち誇った顔を見せつける。

 ペースが上がり、王も催促する。

 

 皿が置かれるまで二人の視線がぶつかり合い火花が散る。

 そして三皿目が置かれるとお互いにペースを確認し、上げては上げられ早々に平らげる。

 

 「「おかわり!!」」

 「誰が競って食えっつったよ!っていうか味わって食いやがれ!!」

 

 最後はサーウェルの一喝にて我に返る二人であった…。



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第05話 「赤と黒」

 黒の陣営の拠点、ミレニア城砦。

 ユグドミレニア一族の拠点にしてこの度の聖杯大戦にて拠点としている古城。

 周辺には魔術を用いたトラップや索敵網が引かれ、城内を生産されたホムンクルス達が巡回したり作業に従事していたりしている。

 当主であるダーニック・プレストーン・ユグドミレニアは玉座に腰かけている己が召喚し得たサーヴァントに控える形で立って居た。

 玉座に腰かけている黒の槍兵(ランサー)―――大国の侵攻を幾度となく打ち破ったルーマニアの英雄で、串刺し公として知られるヴラド三世は整列しているメンバーへ静かに視線を向ける。

 

 三騎のサーヴァント達とそれぞれのマスターが立ち並ぶ。

 

 降霊術と人体工学にて稀有な才能を持ち19歳の若さでダーニックの後継者とされる少女―――フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 彼女は足の魔術回路が変質している為に歩くこと叶わず車椅子での移動となり、その車椅子のハンドルを握っているのは黒の弓兵(アーチャー)―――ギリシャ神話に登場する半人半馬のケンタウロスの大賢者ケイローン。 

 フィオレの弟で凝り固まった魔術師らしい考え方は無く、どちらかというと現実的な青年のカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 純白のドレスを着こなした虚ろな瞳をした可憐な花嫁の姿をしている黒の狂戦士(バーサーカー)―――ヴィクター・フランケンシュタイン博士が作り出した人造人間フランケンシュタイン。

 

 そして一人項垂れている黒の騎兵(ライダー)―――シャルルマーニュ十二勇士が一人の中性的な美少年アストルフォと、黒魔術による呪殺を生業としているセレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。

 

 「―――少ないな」

 

 呟かれた一言にアストルフォは呻き声を漏らし、セレニケは冷たい視線を向ける。

 そう、少ないのだ。

 聖杯大戦は七騎対七騎のサーヴァントが陣営に分かれて殺し合う。

 というのにここに居るのは半数強の四騎のみ。

 

 黒の剣士(セイバー)は命令を受け離れているから別にしても、二騎も足りないことになる。

 ヴラド三世の言葉にダーニックは大きく頷き、セレニケは忌々しそうに鞭を振る。

 

 「まったく…召喚前に捕えれなかったばかりか逃がしてしまうとは」

 「うぅ~、ごめんよ。でも仕方がなかったんだよぉ」

 

 現在黒の陣営のサーヴァントで合流していないのは魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)

 気配遮断を行えて奇襲を行えるアサシンが居ないのも痛いのだが、それ以上にキャスターが居ない事の方が問題だ。

 元々の計画では魔力供給源であり戦力であるホムンクルス達同様にキャスターの技術を用いたゴーレムを大量生産し配備する予定だった。

 対人戦闘であれば他の魔術師が制作したゴーレムや今あるホムンクルスでも構わないのだが、相手がサーヴァントとなると話は別だ。この城の全ホムンクルスを一騎にぶつけた所で鎧袖一触。時間稼ぎになるかも怪しいレベル。

 だからこそ稀代のゴーレムマスターの技術を用いたゴーレムの生産を予定していたのに、それがすべてご破算だ。

 ゴーレムの軍隊に二騎のサーヴァントが抜けたこの状態はとても芳しくない。

 

 「してダーニックよ。黒の暗殺者(アサシン)はどうなっている?」

 「ハッ、それが未だに連絡が取れず一族の魔術師を送り込んで詳細を探ろうかと」

 「……ふむ」

 「そろそろセイバーがルーラーと接触する時間です」

 

 全員の視線が飛ばした使い魔より送られてくる映像が映し出される中央に注がれる。

 

 

 

 

 

 

 日も昇りきっていない明朝…。

 草原のど真ん中に続いている道路には人っ子一人どころか走っている車一つ見当たらず、静寂だけが辺りを満たしていた。

 つい数分前までは…。

 

 激しくぶつかり合って生じた金属音が響き渡り、塗装された道路が削られ舞い散る。

 

 透き通るような白い肌をぴったり張り付くように覆う黒と脚や腕を保護する金色の鎧を纏った赤の槍兵(ランサー)―――インドの叙事詩【マハーバーラタ】に語られる太陽神スーリアの子、【施しの英雄】カルナ。

 

 薄い褐色肌に黒と白銀の鎧を着こなし、背には手にしている鎧と同色の鞘を背負っている黒の剣士(セイバー)―――ドイツの英雄叙事詩【ニーベルンゲンの歌】に登場する名剣バルムンクの所有者、【竜殺しの大英雄】ジークフリート。

 

 目にも止まらぬ―――否、目にも映らぬ(・・・・・・)速度と技が交わされる闘いを見届けるはユグドミレニア一族にホムンクルス技術を持ち帰り、黒の陣営の兵力拡大とマスター以外の魔力供給源の確保を可能とした黒のセイバーのマスター、ゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 そしてもう一人は紺色系のドレスと騎士甲冑を混ぜたような鎧を着用し、布地を巻きつけた旗を手にする女性……。

 百年戦争で活躍したフランスの英雄で聖女。

 今回ルーラーのクラスを持って呼び出された【オルレアンの聖処女】ジャンヌ・ダルク。

 

 この場で黒の陣営と赤の陣営のサーヴァント同士が戦うというのはどちらのマスターからしても予想外の出来事であった。

 なにせ赤のランサーは黒のセイバーを狙って来たのではなく、ルーラーを排除しようと現れたのだ。

 

 裁定者(ルーラー)とはマスターではなく聖杯(・・)により召喚されたサーヴァントで、聖杯戦争そのものが破綻するような事態を防ぐ役目がある。

 サーヴァントの真名を看破できる【真名看破】と、参加している全ザーヴァント一騎に対し二画ずつ保有している令呪【神明裁決】の二つのクラススキルを聖杯より与えられ、十キロにも及ぶ範囲のサーヴァントに対する知覚能力、高い対魔力を保有している。

 真名を知れるというのは聖杯戦争に於いて有利に立つということだ。

 相手の特性を知ることは出来るし、喚び出された英霊によっては死んだ原因や何かしらの誓約、弱点を知り得ることが出来るのだ。

 

 一般的なサーヴァントに比べ特権を得ている彼女を敵に回すのは、デメリットが大き過ぎて価値がない行為だ。無駄にサーヴァント同士の戦いが増える事も鑑みて勝てる保証も低くなっている。実力で押し負かす事が可能な者もいるだろうが敵に回すぐらいなら、中立を保たせ続けた方が得策である。

 それなのに赤のランサーはルーラーの排除を行おうとしたのだ。

 

 考えられる理由は幾つかあるが、まだ情報が少なくて判断がつきにくい。

 が、ルーラーを知っての行動であるならそれは――――ルーラーが止めようとする聖杯戦争を破綻させようとしている可能性が高いか…。

 

 何にせよ赤の陣営の計画は察知した黒の陣営の乱入にて潰えた。

 しかし予定外だったのは黒の陣営にとっても同様である。

 ルーラーを殺そうと襲って来たという事で赤のランサーは共通の敵となった為、ルーラーと共闘して赤のランサーを倒そうとゴルドは目論んでいた。が、ルーラーは両者が戦うというのなら裁定者としてこの戦いを見守ると不参加を表明した。

 ゴルドは憤慨し焦りもしたがルーラーの言葉も一理ある。

 裁定者(・・・)とは規定に基づいて公平でなければならない。

 赤のランサーが命を狙ってくるのであればルーラーは自身を護るために武力や権限を行使し、黒と赤のサーヴァント同士が戦うのであればそれは聖杯大戦で行われるサーヴァント同士の戦闘で手を出す道理がないのだ。

 理解はすれど納得は出来ないといった表情でゴルドはただ戦いを見守る。

 

 予期せぬ戦いとは言え剣と槍を交える両者にとっては都合が良い。

 

 研ぎ澄まされた剣戟と桁外れの槍術が何度も交差し、周りを――空気を――互いを傷つけあう。

 壮絶で恐ろしくも美しい殺し合いに薄っすらだが両者とも微笑んでいる。

 

 それが英霊としての、戦士としての、彼ら自身の本質かどうかは分からない。

 されど二人は見分けも付かぬほど薄っすらとだが楽し気に微笑む。

 

 どんな形でさえこのような英雄―――強者と得物を交える度に血が沸騰したように騒ぎ心が躍る。

 

 だがこれで終わりはしない。

 黒のセイバーの斬撃は光を帯びて大地を切り裂きながら突き進む。

 斬撃は赤のランサーの直前で灼熱の炎によって防がれる。

 自身を護った炎と散っていく斬撃の輝きで視界を塞がれた隙を突いて黒のセイバーが一直線に突撃して斬りかかる。

 突如現れた白銀の刃を金色の槍で受け止め、流しながら首を跳ねようと振るう。

 首を逸らして回避するも矛先が頬を撫でて鮮血が流れる。そんな些細な傷など気にも留めずに振り抜いて無防備になった懐へ身体を滑り込ませる。

 今度は下から上への斬り上げに対し、振り切った槍を振り戻すのは不可能と判断し、持ち手を滑らせることで左手で握り防御の体制を整えた。しかし黒のセイバーの一撃に対しては不十分であり、赤のランサーは勢いを殺せずに空中へと吹き飛ばされる。

 この機を逃すまいと脚に力を込め、地面に小規模とは言えクレーターが出来上がるほど蹴り赤のランサーのもとへと跳び上がる。

 まるで待ってましたと言わんばかりに槍を高々に掲げた赤のランサーの周りには赤く輝く灼熱の炎が複数現れ、槍の動きに合わせて火球の雨となり降り注ぐ。剣で守るが完全には防ぎきれず直撃を許してしまうがダメージはあるものの肉体には傷は残ってはいない(・・・・・・・)

 火球の直撃により地面へと叩き返された黒のセイバーは流れ弾で真っ赤に焼かれ、どろどろの溶岩のようになっていた地面に足を一瞬だけ取られてしまった。そこを上空より降下してきた赤のランサーの一振りが襲い掛かる。

 慌てて振った剣と槍が激突して鈍い金属音を響かせる。

 今度は黒のセイバーが吹き飛ばされ、大岩へとめり込んでしまった。

 そこへ赤のランサーが突っ込み大岩の半分が砕け散り、もう半分は両者の得物により生じた斬撃により粉みじんに斬り刻まれた。

 

 剣と槍を交わす両者は表情をピクリとも動かさず、その場で動きを止めたかのように拮抗し、力を籠め続けた。

 刹那という時の中で繰り広げられ、永遠と繰り広げられそうなこの戦いは唐突に幕引きとなった。

 

 どちらも気付いてはいる。

 黒のセイバーの剣戟も赤のランサーの槍術もどちらも一撃一撃が必殺と呼べるようなものである。

 並みのサーヴァントであればすでに満身創痍、もしくは英霊の座へと帰還を果たしているところだ。

 なのに二騎とも無傷と言うのはお互いに並みではない防御力―――防御系の宝具を持っている他考えられない。

 

 ジークフリートは竜の血を浴びて不死身となり、カルナは神々でさえ破壊は困難とされる鎧を纏っている。

 これはまだ聖杯大戦の緒戦の初戦。

 互いのマスターとしては手の内、特に真名に繋がりかねない宝具の使用は控えたいところ。

 最大火力を誇る宝具をマスターにより封じられ、通常の攻撃では殺しきれないという手詰まり。

 

 これ以上の戦いは無用と考えるのが妥当。

 結局、両者はルーラーをその場に残したまま撤退し、赤と黒の陣営初の初戦が幕を下ろしたのである。

 

 

 

 

 

 

 赤の陣営が拠点としているルーマニアにある聖堂教会の小さな教会。

 この教会には聖堂教会より派遣された聖杯大戦監督役兼赤の陣営の暗殺者(アサシン)のマスターを務めるシロウ・コトミネが居り、礼拝堂にて数枚にまとめられた資料に目を通していた。

 赤のセイバー組&キャスター組みより送られた情報は本来ならば同陣営のマスター達と情報共有すべきものなのだが、赤の陣営ではシロウだけが知ればそれで良くなっている。

 ――否、したのだ(・・・・)

 

 魔術協会一級講師フィーンド・ヴォル・センベルン。

 【結合した双子(ガムブラザーズ)】デムライト・ペンテル&キャビィク・ペンテル。

 【銀蜥蜴(シルバーリザード)】ロットウェル・ベルジンスキー。

 

 魔術師の中では一流と謳われる者達で、赤の陣営で槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)狂戦士(バーサーカー)のマスター。

 アサシンのおかげで今や単なる傀儡となり、曖昧で無意味な思想や会話に耽っている。

 いずれは令呪を譲渡して貰う訳だがそれはまだ早い…。

 

 なんにせよ四人はシロウの傀儡でサーヴァントを維持するだけの存在。

 情報を知らせただけ無駄というもの。

 

 資料を読み耽るシロウは頬を緩めて笑みを浮かべる。

 黒の魔術師(キャスター)であるサーウェルとマスターのロシェ・フレイン・ユグドミレニアが黒の陣営を抜けて赤の陣営へと鞍替えをした。

 拠点より離れて何をしているかと思えば、召喚するサーヴァントについてユグドミレニア当主と対立し、陣営に敵対してでも強行していたのだとは思いもよらなかった。

 単に倒すよりも仲間に加えられたのは僥倖。

 しかもサーウェル自身もマスターの無事を約束してくれるのなら協力を惜しまないという。

 かの者のゴーレム技術を用いればこちらの兵力も上がり、事を有利に運べるのは間違いない。

 

 嬉しい一方で扱い辛いのが難点だが…。

 召喚してそれほど経って居ないというのにサーウェルとロシェの信頼関係は強固だと報告書にはあり、下手にロシェを傀儡にしようと動けば敵対されるのは間違いない。または他のマスターの現状を知られても同じ可能性が予想される。そのあたりは注意が必要か。

 ため息を吐きながら進行状況を振り返る。

 

 ジーン・ラムが傀儡にする直前にここを離れてしまい、獅子劫 界離が単騎で行動すると判断した以外は順調。

 だが、気は緩められない。

 何が起こるか分からないのが聖杯大戦だ。

 己の夢を叶える為にも失敗は許されないのだから。

 

 「随分疲れているようだな?」

 

 不意に声をかけられ、振り返ると黒を基調としたドレスを着こなす妖艶な美女が居た。

 自身が召喚したアサシン―――暴君でありながらも王としての高い能力に多くの素質を備えており、アッシリア帝国に君臨した女帝で【人類最古の毒殺者】セミラミス。

 アサシンとして召喚されているものの二重召喚(ダブルサモン)という希少なスキルにより魔術師(キャスター)の能力を有している。

 

 「この前のように膝枕してやろうか?」

 「遠慮しておきます」

 

 あの時は寝ている内にされたのであって自身の意志ではない。そもそもされるのは恥ずかしくて困ってしまうのだから控えて欲しい。

 何が不服なのだと言わんばかりの表情に困り顔で返すしかないシロウは話題を逸らすべく何か話題がないかと思案する。

 

 「そうだ―――彼女(・・)はどうですか?」

 「どうと言われもな。あの鬱陶しい小娘なら一室与えて縛り付けているが。アレは本当に使えるのか?」

 「使えますとも。あの膨大な魔力消費の手立ても思いつきましたし」

 

 そう言って資料を渡すとシロウの倍以上の速度で読み、何度か頷きながら返して来た。

 情報によれば、黒の陣営はホムンクルスを大量に作り出して魔力供給源にしているのだとか。ならこちらも似た方法を用いれば良い。

 

 「魔術協会に魔術師の派遣を頼まないといけませんね」

 「また傀儡が増えるな」

 「ああ、それと彼女には―――」

 「そう何度も言わずとも理解している。奴の名など出せばここが戦場になる。マスターとしてはその後の惨劇の方が許容できないのだろう」

 「えぇ、彼女を解き放つには場所が必要ですからね」

 

 使い辛いのか使い易いのか分からない彼女に対して苦笑いを浮かべ、セミラミスは何処か楽し気に微笑みを浮かべるのであった。



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第06話 「第三の陣営」

 カランカランと入り口に取り付けられた鈴が鳴り、店内に来客が来たことを知れ渡らせる。

 中には商品がびっしりと狭い店内に並べられ、盗まれない様に簡単には外せない様に固定されていた。

 客は自身しか居らず、カウンターで新聞に目を向けていた老店主の険しい表情が向けられる。

 決まっていない、探し物、何が置いてあるかなどを見るのであればその視線を受けたまま店内を見て回るのだが、今回は買うものも決まっている。

 迷うことなく獅子劫 界離は老店主が居るカウンターへ足を運ぶ。

 新聞をカウンターに置いて、右手をカウンターの下に隠しながらこちらを見据える。

 

 「注文良いか?」

 

 愛想よく笑みを浮かべたが返って来たのは「……あぁ」というそっけない返事だけだった。

 物騒な物を扱う店と言っても客商売なのだからもう少し愛想を良くしても良いと思うのだが…。

 と、思ってみたが大きな体格に厳つい風体、サングラスに大きな傷跡。

 そんな堅気の人間ではなさそうな男が入って来たのならば悲しい事ながら警戒するのが当然だと納得してしまった。

 

 「AK-47にM4カービンを一丁ずつ」

 「AKは駄目だ。在庫切れだ」

 「おいおい、あそこに並んで…」

 「md.63(AIM)なら売ってやる」

 「あー…なるほどね。ならカービンを二丁、AIMを一丁」

 「アンダーにランチャー(グレネードランチャー)は付けるのかい?」

 「いや、AIMにはいらない。カービンは両方に光学照準器とサイト、それからショットガンとグレネードを片方ずつ」

 「弾も居るんだろ?」

 「勿論」

 

 銃を弾丸をカウンターに並べる老店主を眺めながらポリポリと古傷を掻く。

 なんたってこんな買い物をしてんだかと思うが、これもこれで役に立つってんだから安い買い物だ。

 通常武器ではこれから戦うであろうサーヴァントに傷一つ付けることは出来ない。

 ファンタジー系の漫画では堅固な皮膚を持ったドラゴンなんかには防御力の薄い腹ばいや目玉を狙う描写が有ったりするが、サーヴァントは例え目玉にその辺のナイフを突き立てようとしたって止められてしまう。銃もまた然り…。

 例え対戦車ライフルをゼロ距離でぶっ放したところでたじろぎもしないだろうよ。

 

 ならなんでそんな武器を買っているかというと俺達と居る赤のキャスター―――ウィリアム・シェイクスピアの固有スキルを知ったからだ。

 何でも物に文字が書けれれば強力な付与(エンチャント)を行えるとか。

 簡単に言えばその辺の小石に奴が文字を書き綴れば宝具にもなれるってこった。ま、程度は知れるがな…。 

 

 「そうだ。あとイーグルにスコーピオン、MP5なんかも欲しいな」

 「…売れるのは嬉しいがなんだい?あんた戦争でもおっぱじめる気か」

 「まぁ、そんなところか」

 (なぁ、俺はこれが欲しいんだが!)

 

 霊体化したモードレットからの言葉に耳を傾け、どの銃を欲しているか目を向けるとそこには機関銃と対戦車ライフルが置かれてあった。

 大きなため息を吐き、咥えていた煙草を老店主に向ける。

 老店主の視線が煙草の先に向けられると動かして空中に魔術で文字を刻む。

 真正面から魔術に掛かって虚ろな瞳になったのを確認して会計を済ます。

 一応時計塔より必要経費という事で請求は受けてくれるとの事だが、さすがに払ってくれるか心配になって来た。

 

 「ま、良いか。じゃあ帰るか」

 (またあの墓地に戻んのかよ)

 「この大荷物持ってな」

 

 並べられた弾薬に銃器に目を向けてまた大きなため息を吐き出す。

 それでも運ぶだけの自分達の苦労に比べたら銃器から無数とも思える弾薬にエンチャントし続けるシェイクスピアの苦労に比べれば幾らかマシか。

 そう思いながら銃器を担ぎ銃器店をあとにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い地下の一室。

 薄っすらとした蝋燭の灯りがひんやりとした冷気漂う空間を照らす。

 ルーマニアの共同墓地の地下納骨堂を仮拠点として待機しているロシェ・フレイン・ユグドミレニアは今この時を喜びと共に過ごしていた。

 決して狭くてほの暗い地下が好きとか、墓場などを好んでいるとかではない。

 ここには二騎のサーヴァントが一緒に待機している。

 一騎はジーン・ラムという赤の陣営所属のマスターが召喚した赤のキャスター、ウィリアム・シェイクスピア。

 そしてもう一騎は自身のサーヴァントのサーウェル。

 

 正直二人共サーヴァントとしては異例な存在である。

 魔術師(キャスター)でありながら魔術を行使出来ないというシェイクスピアに、特異な肉体強化の魔術を体内の遺物のせいで行えず複数人の魂を持つサーウェル。

 サーウェルの中にはウォルター・エリックと金城 久という二人の魂も共存しているらしく、ジーンと界離が推測するには自分と関りを持ったエリックと性質が近しい久の魂で自身の魂を補強しているのではないかと言っていたが別段興味はない。

 例え魂が三つ共存していようと四つ共存していようとサーウェルがサーウェルであるならば問題とも思っていない。

 

 「先生!これでどうでしょうか」

 「ふむ、まだ無駄が多いですね。これでは予定の半分も動きますまい」

 「そう…ですか」

 「ですがこの短期間で良く成長しています。そう焦ることもないでしょう」

 「本当ですか!?」

 「えぇ、貴方は良く出来ておりますよ」

 

 ふわりと優しく温かい手が頭を撫でる。

 心地よい感触に頬が緩み満面の笑みを浮かべてしまう。

 

 ボクは人というものに関心がない。

 ゴーレムの研究さえ出来れば人と関わりを持たなくても良いと思えるほどに。

 そうは思っても生きていく為にも研究をするにもお金は必要な訳で、魔術師でパトロンになってもらう必要性があったので付き合いはしなくてはならなかった。

 ユグドミレニアのダーニックともそうだ。

 パトロンとして資金を回してくれる代わりに幾つか仕事も請け負ったりした。

 人とは本当に面倒な生き物だ。

 言っている事と思っている事が真逆だったり、どうやって相手を欺こうかなどする奴も多く、それに対して感情や動作、雰囲気を感じ取って真偽を確かめて接するなど面倒この上ない。

 

 だけれど先生――サーウェルだけは別だ。

 この人には裏表が存在しない。

 会話するたびに難しそうな含みは存在せず。そう言ったらそのままの意味であるだけなのだ。

 ゴーレム技術を学びたいと乞うた所「良いですよ」の二つ返事だけでダーニックのように交換条件などは一切持ち込まず、ただただ教えてくれる。

 

 高く優れたゴーレム技術を無償で伝授し、裏表の策謀もなく接してくれるサーウェル先生は人で唯一好ましい人物と言える。

 それと人の手がこうも温かく、優しげだったと言うのは初めて知った。

 

 ボクは果報ものだ。

 これほどの人物と人生の中で出会えた喜びは二度と味わう事は無い。

 それがこうも若いうちに巡り合えた事を果報と言わず何と言おうか。

 

 それにしてもここの面子は先生を酷使し過ぎだと思う。

 ボクらはやむを得ず黒の陣営より赤の陣営に移り、未だ信用されていない事は理解しているが、人使いが荒いというのはどういうことなのだろうか。

 

 ここまでの道のりは長かった。

 ずっとキャンピングカーの中での生活。

 インスタント食品で食事を済ませようとしていた所を「インスタントだけでは栄養が偏る」と言い、それ以降は朝昼晩と運転時の夜食などの食事当番を請け負い、暇で死にそうだというモードレッドの相手を度々とって機嫌を直させ、シェイクスピアが剣戟の見本を見たいと言えば狭い車内でも周りに被害が出ない様に動きを見せたり、ずっと運転している界離と運転を代わったり、読む本が無くなったジーンの願いで魔術の講師を務めたりと多忙だった。

 ボクの先生だというのに…。

 

 思い出すと少し腹立たしく思い、多少なりともイラついて来る。

 

 「どうしましたか?少し集中力が乱れましたね。休憩に致しましょうか?」

 「い、いえ!すみません…少し考え事をしてしまいました」

 

 いけないいけない…先生がこう教えて下さっているのにいらない事を。

 気分を入れ替えてちゃんとしなければ。

 

 「おお!吾輩良いアイデアが浮かびました!」

 「五月蠅いわよ。静かにしてなさい」

 「いやはやこの胸の高鳴りを吾輩抑えるすべが――」

 「地下空間で叫ぶな!」

 「ふべら!?」

 

 突如として喋り出したシェイクスピアは帰って来たモードレッドの拳一閃で見事に撃沈されその場に伏した。

 落ち着こうとした矢先に別の件ではあるが苛立ちが募る。

 

 ボクはあのセイバー―――モードレッドが嫌いだ。

 

 なにせ出会った当日に先生を思いっきりぶん殴ったのだから。

 出合った初日にエリックがサーウェル先生の身体を借りてシェイクスピアに殴り掛かったその後、俺の目の前で勝手に死ぬんじゃねぇよと殴り掛かったのだ。

 話を聞いた限り先生は間違っていないとボクは思ったのですが、モードレッドは納得できず、先生も先生でその殴られた結果に納得している様子。

 先生が納得されたのであればボクに文句を言う資格はない。資格は無いがこの感情は止められない。

 

 「おうおう、お子様は今日も勉強か。真面目なこって」

 「戻ったぞってお前さん達も帰って来てたのか?」

 「おかえりなさい。そして戻らせて頂きましたよ」

 「そっか。セイバーの予想は当たってたってこったな」

 「ったりめぇだ!あんな奴の所に居残るなんてあり得ねぇっての」

 

 この墓地に到着し、数日を過ごしたボク達は二手に分かれて行動することになったのだ。

 界離とモードレッドは銃器店に向かい弾丸と銃器の入手。

 ボクとサーウェル先生、それとジーンとシェイクスピアの四人は赤の陣営の神父に顔見せに行ったのだ。

 予定では話を済ませた後、単独で動こうとしているセイバー組と離れて、そちらに合流するものだと思っていたのに先生は「あ、私も自由に動かせてもらいますね」と断り、無理やりにでもジーンも引っ張ってその場を離れた。

 今でもあの行動は奇怪に思える。

 理由を問おうとした時に帰ったらゴーレムの授業の続きをしましょうと言われて忘れていたが…。

 

 「先生は何故あの神父の誘いを断られたのですか」

 「おや?考え事とはその事でしたか」

 「いえ、考えていた事は別件なのですが気になって」

 「そうですねぇ」

 

 サーウェルは少し眉を潜めながら言い淀む。

 なにか言い難い事なのだろうか。

 手間を取らせてしまうようなら別に無理に聞く気もない。

 問いを取り下げようかと思っていると言葉が纏まったのか困ったような笑みを浮かべて口を開いた。

 

 「あのアサシンがモルガンと似た雰囲気を漂わせていたからですかね」

 「モルガンってあのアーサー王伝説に登場するモルガンですか?」

 「そうですよ。大概アレと同じ雰囲気の女性に関わると碌なことがない。さらにあのシロウという胡散臭い神父とセットならばなおのこと近づかない方が良い」

 「胡散臭い?シェイクスピアよりも?」

 「ウィリアムの胡散臭さは素のなのじゃて。で、あちらのは油断ならない胡散臭さなので」

 「ふ~ん…ま、先生が仰るのであればボクとして信じてついて行くだけですけどね」

 

 はははと笑いながら笑みを浮かべているとカタカタと奥隅で物音が鳴り、全員の視線が自然と集まる。

 視線の先にはペンを握った死人の手が動き出して設置してあった紙に文字を書き出し始めた。

 界離がそれに近付き書き終わった手を退けて書き出された紙にざっと目を通した。

 

 「さて、時計塔からの指示が来たぞ。シギショアラに向かえってさ」

 「黒の陣営が動いたのかしら?」

 「それは分からんが…どうやら魂食い(・・・)をしている奴が居る。それの対処しろだとよ」

 

 魂食いをしているならば相手はサーヴァント。

 サーヴァント同士の戦いとなると先生は…。

 

 「それでだサーウェル。アレ、出来ているか?」

 

 不安に思うロシェと不敵な笑みを浮かべる界離の視線を受けたサーウェルは一瞬固まった後にゆっくりと…本当にゆっくりと頷いた。それも凄い量の冷や汗を流しながら。

 

 「で、出来てますよ。時間が無いために一騎は不完全ですが…」

 

 よく見ると微妙に手も震えている。

 そしてちらちらと振り返る先には布が掛けられた盛り上がりがあった。

 昨夜先生が徹夜していたらしく、朝からあったのは知っていたのだが…。

 

 「ようやくの出番でしょうか」

 

 布より聞き覚えのある(・・・・・・・)声が聞こえ皆が振り向く。

 ふわりと布が舞い、中より人―――否、ゴーレムが姿を現した。

 

 後ろでポニーテールでまとめた金髪。

 翡翠の宝石のような輝きを持つ鋭い眼光。

 ピシリと燕尾服を着こなした女性。

 

 穏やかに笑みを浮かべた彼女は右手を胸に当てながら会釈する。

 

 「サーウェル様の給仕用ゴーレム“モルド”。

  只今を持ちまして職務に復帰致します。

  皆さまどうぞよろしくお願いいたします」

 

 見た目はモードレッドそっくりでも中身は正反対なモルドに皆が目を奪われた。

 そして青筋を浮かべたモードレッドによって制作者のサーウェルは宙を舞う事になったのである…。




 次回は一月十日投降予定。

 では皆さま、少し早いですが良いお年を


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第07話 「シギショアラでの攻防戦 其の壱」

 明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。


 フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。

 異質な魔術回路によって車椅子生活を送りながらもユグドミレニア一族内で最も才ある魔術師として有望視される少女。

 実力だけでなく穏やかで思慮深く、凛とした性格もあって周りからの印象も良い。

 だからこそか彼女はユグドミレニアの拠点“ミレニア城砦”より離れ、シギショアラへと訪れていた。

 シギショアラは古き良き街並みを現代に残す観光地であるが、聖杯大戦中に観光する為だけにサーヴァントを連れて向かうなどありえない。彼女がこの地に訪れたのは黒のアサシンと交渉することが目的である。

 まだ聖杯大戦が始まってからそう日も経ってないというのに黒の陣営は危機的状況に追いやられていた。

 マスターの一人、ロシェ・フレイン・ユグドミレニアが黒の陣営を離反。しかもサーヴァントを連れて赤の陣営へと鞍替えし、サーヴァント関係の情報を除いての情報流出&ゴーレム関連の技術提供している可能性が発生。戦力として考えていた稀代のゴーレムマスターによるゴーレムの大量生産が不可能となり、ジャック・ザ・リッパーを召喚しようと自身と相性が良い日本へ赴いたマスター“相良 豹馬”が遺体で発見されたりとすでに多くの戦力と二騎ものサーヴァントを喪失するという予想だにしなかった最悪の出だしとなってしまった…。

 このままでは五騎対八騎という圧倒的不利のまま全面衝突してしまう。

 そこで黒の陣営は未だどっちつかずのサーヴァント――黒のアサシンを交渉により引き込もうと画策したのだ。

 しかしここでまた問題が発生してしまった。

 黒のアサシンは人間の核である心臓を喰らい魔力を回復させる魂喰いをしながら日本からルーマニアへと渡り、派遣したユグドミレニアの魔術師も例外なく心臓を抉られ殺害された。

 先にダーニックに伝えてあった真名がジャック・ザ・リッパーだったこともあり、こちらに害をなすような存在であるならば引き込むよりも対処しないといけなくなる。これ以上のサーヴァントの消失を防ぐためにシギショアラにはフィオレと黒のアーチャー“ケイローン”と弟のカウレスと黒のバーサーカー“フランケンシュタイン”の二組が送り込まれた。

 安全を優先しつつも顔も分からない殺人鬼のサーヴァントを呼び寄せる為に自身を餌としながら夜の街を徘徊する。

 数分置きに連絡を取り合い、情報を共有するのと同時に互いの無事を知らせ合う。

 シギショアラでも何件も殺人事件を起こしており、街に人が少ないのは好都合。

 人殺しが横行している夜の街を出歩くなんて警戒している警官か物見遊山の一般人。

 その二択だと思っていたフィオレは自身の考えの浅さを呪いつつ対峙する男性に視線を向ける。

 

 漆黒の鎧に真紅のビロードマントを羽織った騎士。

 背後には見覚えのある裏切者、ロシェ・フレイン・ユグドミレニアの姿もあった。

 心の動揺をしっかりと押さえながら微笑みを浮かべて語り掛ける。

 

 「久しぶりですねロシェ」

 「フィオレ…」

 「お知り合いのようですね」

 「はい先生。フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニア。ユグドミレニアのマスターの一人です」

 「…のようですね。ここに来た理由は凡そ見当は付きますが厄介なことになりましたね」

 「やはりと言いますか同じ目的のようですが出会ってしまったからにはやるべき事は一つ」

 

 膨れっ面のロシェの頭を軽く撫でてサーウェルは鉈のような剣を握り締めた。

 戦闘態勢を取ろうとしていると遠くより破砕音や金属同士がぶつかる甲高い音が響いてきた。

 どうやらカウレスも戦闘に入ってしまったらしい。

 出来れば援護に向かいたいところだけれどもそうも言ってはいられない。背を向けた瞬間に斬り捨てられる可能性もあり得るのだから。

 

 「戦う前に少し宜しいでしょうか?」

 「――聞きましょう」

 「戻りなさいロシェ。今戻るのであれば今回の件は不問に成すようにダーニックおじさまに掛け合いましょう。断るのであれば赤側の魔術師同様に我らユグドミレニアの地を踏み荒らした愚行の代償を払って貰います」

 「一度裏切り情報を漏らした私達を許すと?あり得ませんね。黒のランサーはブラド三世とお聞きします。伝承通りだとするとかの者が裏切者を許すとは断じて思えませんし、黒を裏切り、赤を裏切るなどしたら信用は皆無でしょう。のこのこついて行ったところを処分。または囲んで令呪を奪って無理やりに従わせるかでしょう。そしてマスターに対する扱いはもっと苛烈になる恐れがあるのであれば、私は己が命に懸けても抗いましょう」

 「それが裏切りの騎士の答えですか。ロシェも同意見なのですか?」

 「当然です。ボクにとって先生こそがすべてなので、邪魔するのであれば誰であろうと従う気はありません」

 「なら仕方がありませんね。アーチャー」

 「―――ッ!?石壁よ!」

 

 ケイローンが車椅子より手を放して瞬時に弓に手をかけるとサーウェルは跪いて地面に触れる。

 すると自身を隠すように五枚ほどの石の壁が地面より生え、放たれた矢が三枚ほど砕いたが四枚目で防がれた。

 防がれた事で背後の雰囲気が一気に変わり、寒気を感じるほどの鋭さが伝わってきた。

 次の一矢には先の一撃とは異なったものとなるだろう。

 フィオレの予想は的中し、石の壁を増やして防御を固めたというのにたった一矢によってすべてを貫いた。

 石の壁は粉砕されてまわりに散らばり、居る筈のロシェとサーウェルの姿は忽然と消え去っていた。逃げ出したのかと脳裏を過ぎった瞬間、ケイローンにお姫様抱っこされてその場より離れる。サーヴァントによる急激な上昇により浮遊感を感じながら目の前の光景に息を呑む。

 

 先ほどまで自分が座っていた車椅子に無数ともいえる槍が降り注いだのだ。

 あと一秒でも遅れていたら自身が車椅子のように無残な姿を晒していただろう。

 ゾッとする感情が押し寄せる中、ケイローンは優しく降ろしてから力強く弓を引いて矢を連射する。

 矢が放たれた上空にはロシェを背負いながら跳躍したのであろうサーウェルがいた。

 手を振るうたびに空中に散らばっている石飛礫が魚群のように動き矢を何とか食い止める。が、機関銃のように放たれる矢を完全に防ぎきる事は出来ずに数本がサーウェルを掠って傷を増やしていく。

 着地して鉈のような剣を構えるとケイローンと睨み合う。

 

 「これほどの弓兵に出会えるとは驚きです。私と違ってさぞ名のある英雄とお見受けします」

 「こちらも驚いていますよ。まさかこうも防がれるとは思っていませんでしたので。さすがは名高き魔術師マーリンの弟子と言ったところでしょうか」

 

 穏やかな笑みだというのに不敵に笑っているようにも取れるケイローンに安堵を覚えながらフィオレは見守る。

 魔術師として優れていてもこのサーヴァント同士の戦いに参加することは出来ない。

 ならばしっかりと見届けよう。

 ()向こうも(ロシェ)そのつもりであるならば尚更。

 

 「しかしアーサー王伝説のサーウェルと言えば円卓に並ぶほどの近接戦闘主体の魔術師の筈。なのに貴方は武器を構えたとしても近づきもしない。体調でも悪いのかな?」

 「さぁ、どうでしょう」

 「いや、近接戦闘を恐れている」

 

 ピクリと眉が動いた事をケイローンは見逃さず、「素直な方だ」とぽつりと漏らして困ったよな笑みを零す。

 対してサーウェルは大きく息を吐き、剣を握り直す。

 

 「押し潰せ―――幻獣の骨鉈(グライデン)

 「宝具!?ですが近づけさせねば―――ッ何!」

 

 大きく剣を振り上げ宝具を開放し突っ込んで来るサーウェルを迎撃しようと弓を構えるが、放つ間際に弓は大きく動いて斜め下へと向き、ちょうど放たれた矢は地面に直撃して土煙を立てる。

 その土煙を突破して斬りかかってきた一撃が右腕を掠り、僅かながら鮮血を流させた。

 

 「再度押し潰せ――」

 「宝具の連続使用!?」

 

 宝具を連続で使用するとなると大なり小なり魔力を消費する。

 見た所単純な高威力の一撃というものであるが、こうも連続して使われると厄介である。

 決してケイローンの宝具が負ける事は無い。寧ろ宝具の打ち合いとなれば負ける筈の無いほどの格差がある。だが魔力の消費もさることながらこんな初戦で知られるわけにはいかない。宝具の解放は真名に繋がる事が多く、真名が知られればサーヴァントによっては弱点を知られることになる。

 ケイローンはどちらにも該当する。

 だから使いたくない。使えない。

 ここはケイローンが耐え切る事を切に願うばかりだ。

 ……そう思っていた。

 

 「グライデン!」

 

 二度目の宝具の一撃は振り向きざまの薙ぎ払い。

 弓を置いて受け流そうとしたケイローンがバランスを崩したように跪いた。

 剣先が首と重なり刃が迫る。が、ケイローンは咄嗟に後ろに倒れる事で避け切った。―――そして笑った。

  

 「チッ、三度目の正直か!!グライデン!!」

 「三度目はありませんよ!」

 

 体勢を立て直しながらの振り下ろしを避け、左手で手首をつかんだケイローンは、右手で腹部に一撃を入れて流れるように後ろに投げ飛ばした。

 背中から地面に叩きつけられたサーウェルは短い呻き声と口から血はを漏らして転がった。

 

 「失礼、これがパンクラチオンです」

 

 笑みを浮かべたままのケイローンの余裕のある態度と違ってサーウェルは口内に溜まった血を吐き出して、痛みで苦悶に歪む表情のまま何とか立ち上がろうと必死である。

 ロシェが心配して駆け寄るがその行為は自身の首を絞めるに等しい。

 大きなダメージを負った状態で守るべきマスターが横に居たのでは本来の力を発揮して闘う事は不可能。

 

 「降伏をお勧めしますよ。これ以上貴方は戦えない。いえ、戦えても戦う事は出来ないでしょう」

 「どういう…意味でしょう…」

 「理解しているでしょうに白を切ると言うならあえて答えましょう。アーサー王伝説を読みましたが貴方の強みは円卓の騎士に並ぶほどの底上げする強化魔術にあった。しかし理由は解りませんが貴方はそれを使えないでいる。さらに先ほどの一手で素の実力を測りましたが万に一つも近接戦闘で勝つことは出来ない」

 「はっきり言いなさる。事実だけに反論が出来ないですね」

 「あと宝具の仕掛けも理解しました」

 「仕掛け?仕掛けとはいったいどういうことですかアーチャー」

 「アレは対象に掛かる重力の方向を任意で変更するというものです」

 「あぁ…だからあの時」

 

 言われて納得した。

 放つ間際に地面に向けられた弓もケイローンがバランスを崩した際も予想だにしなかった重力による負荷に寄るもの。

 よくよく思い返してみればあの鉈自体に何か特出した威力や能力を発揮したようには全く見られなかった。

 

 「付け加えるならばこれならば仕掛けが解れば対応は容易い。なにせ刃先にしか重力の始点を設定できないのだから」

 「せ、先生!」

 「情けない声を出さないで下さい我が主――――僕達(・・)はまだ負けてませんから」

 「この状況で―――ッ!!」

 「アーチャー!!」

 

 ――斬りつけられた。

 サーウェルに注意し過ぎていたとは言えまさか近くにもう一騎(・・)居たとは露とも気付けなかった。

 魔力の反応もなく突然現れた隻腕の騎士は建物の陰より跳び出してケイローンの左肩を切り裂いた。大怪我ではあるが戦闘不能になるようなものではない。歯を食いしばり剣を食い込ませた相手を睨み、後ろ蹴りを放って吹き飛ばす。

 隻腕の騎士は顔色を変えることなく吹っ飛び、建物の壁をぶち破って行った。

 

 「ようやく使えました。まったく大変ですよ。私が注意を引いて、僕が操り、儂がタイミングを見図る。面倒この上ない。じゃがこれしか戦える術は持っておらんのでな」

 「失念していました。貴方は稀代のゴーレムマスターでもありましたね」

 

 魔力を送ってケイローンに治癒をしながら振り返ると壁を破った隻腕の騎士は砕けた腹部を露わにしながら立ち上がった。

 状況が一変した。

 ケイローンは左肩をやられて弓は使えないし、近接戦でもハンデを抱える事になった。

 肉体強化は出来ずとも土系の魔術を行使できるサーウェルに、痛みを一切感じずサーヴァントに傷を負わせれる武器を持ったゴーレムに囲まれている。

 先ほどまで有利だったこちらが不利に陥り、フィオレも見守るだけでなくせめて援護を行おうと戦う覚悟を決める。

 

 「さて、形勢は逆転しましたが我々はここいらで退かせて頂きましょう」

 「逃げるのですか先生」

 「一騎仕留める好機ではありますが勝機は逃しました。手負いの虎ほど怖いものはありません。私は撤退を進言致します」

 「先生がそう仰るのでしたらボクは従いますよ」

 「では参りましょう我が主」

 

 そう言ってロシェを抱き抱え一目散に逃げだしたサーウェルを見送ったフィオレは大きく安堵の息を漏らした。

 これが聖杯大戦。

 これがサーヴァント同士の戦い。 

 今になって震え出した手をしっかりと押さえる。

 抑えようとしても決して抑えれるものではないがそうしていないと恐怖で表情が歪みそうで怖かった。

 ふわりと優しくケイローンの手が震える両手を包み、温かさが恐怖を和らげる。

 

 「マスター」

 「ありがとうアーチャー。情けないところをお見せしてしまいました」

 「いえ、貴方は立派に役目を果たしていましたよ」

 「本当にありがとう」

 

 ようやく笑みを浮かべれたフィオレはこれ以上の戦闘は危険と判断し、カウレスに撤退の指示を出しながら合流地点に急ぐのであった…。



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第08話 「シギショアラでの攻防戦 其の弐」

 街中に響き渡る金属音…。

 それも二か所ぐらいから聞こえる。

 つまり(シェイクスピア)アイツ(サーウェル)も戦い始めたって事だろう。

 クソが!!

 何俺より先に始めてんだよアイツら。

 

 「おいおい…罠かこりゃ?」

 「知るかよ。あっちはあっちで何とかすんだろ」

 「あのキャスター大丈夫か」

 「サーウェルなら心配ねぇよ。確かにあいつ自身は弱くなっちまったが魔術が使えない訳じゃない。それにアイツの宝具」

 「宝具?あー、そりゃあ一緒に居たんだから知ってるか」

 「片腕さえ使えればやつは何とかするさ。使い方ミスったら俺達までお陀仏だがな」

 「敵より危うい味方って…」

 

 ニカっと笑いながら言い放つモードレッドに獅子劫 界離は後頭部を掻きながら肩を竦める。

 昼間までは機嫌が悪かったのが今では嘘のようである。

 というのも現代の街並み見物しようと思っていたというのに何処か見覚えあるような古い建物ばかり。

 後からマスターよりこのシギショアラは古き良き街並みを売りとした観光地と聞いてがっくりと肩を落とし、期待を大きく裏切られた憂さを晴らすようにやけ食いを行っていた。

 食事的意味でなく精神的意味で消化不良を起こしたモードレットにとってサーヴァント同士の戦いなどそれらを解消するものとなってしまった。ゆえに戦いが始まると分かると先を越された苛立ちはあるものの楽しみで仕方がない。

 好戦的なモードレッドに対して呆れよりも頼もしさを感じる。

 短く息を吐きながら頬を緩める獅子劫は、物音も立てずに数十メートルもの距離を詰められた事にも、ナイフが切り裂こうと喉元に突き付けられた事にも気が付かなかった。

 気付いたモードレッドは獅子劫を斬らないギリギリで剣を振り抜いてナイフを弾き飛ばした。

 まぁ、気付いていない獅子劫からしたらいきなりモードレッドに剣を向けられたので驚いてそのまま腰を付いてしまった。何事かと問うよりも背後にした足音に顔だけを向ける。

 

 月夜に照らされた綺麗な短い銀髪を僅かに揺らし、あどけない表情を浮かべる少女。

 とても可愛らしく、美しい少女ではあるが異様な違和感が漂う。

 腹部や背中、太ももを露わにした露出が非常に多い服装もそうだが、殺人鬼が出没している街でこの時刻を一人で出歩いている事も弾け飛ばしたナイフを持っていた事も、掠めたと言えど切り傷を受けて泣き言一つ漏らさない。

 何もかもが異常な少女。

 

 「生憎そいつは俺のマスターでな。こちとら暇してたんだ。相手なら俺がしてやるよ」

 「音一つしなかったな。黒のアサシンか」

 

 ズボンに付着した土を払いながら立ち上がり、辺りを見渡して見るがマスターらしき人影は無し。

 モードレッドはナイフを弾き飛ばした辺りから鎧を装着し、戦闘準備を済ませている。

 ならばマスターとしてやることは決まったし、サーヴァントはサーヴァントで殺し合うだけだ。

 

 「セイバー。俺は人払いの結界と奴さんのマスターを探して見るが…」

 「おう。こっちはこっちでやるさ」

 

 離れていく様子を確認することなく睨み合う。

 否、暗殺者のサーヴァントなど一騎討ちで戦えば勝ち目は最優のサーヴァントであるセイバー。それもこの俺が負ける事なんざあり得ない。が、アサシンの強みは気配遮断による奇襲。霊体化しようと攻撃する際には実体化するので自分に対しては何ら問題なく対処し得ると豪語出来るが、今警戒を緩めてマスターを狙われれば護りようがない。

 ゆえに気を抜く事無く睨みを利かしているのだ。

 そんな視線を気にもしていないのか掠めた傷口を不満そうに見つめている。

 

 「斬られちゃった。酷いことするね」

 「なぁにが酷いだ。魂喰いしているテメェに言われたくねぇよ」

 「良いじゃない別に―――ねぇ?」

 

 ニタリと邪悪な笑みを浮かべると同時に形状が手術用のメスに似たナイフを投げつけてきた。

 投げつけられた二本のナイフは正確に鎧の隙間。

 視界を確保する為に覗いている眼球へ…。

 剣を振るってナイフを弾くとアサシンは笑みを浮かべたまま後方へと跳んで霧の中へ(・・・・)と消えて行った。

 先ほどまで周りに霧などは無かった。

 つまりアサシンの宝具かスキルの類と推測されるが別段何か変わった様子は………いや、足に違和感がある。麻痺しているとか痛みがあるとかではない。ただ僅かに重いのだ。ならこの霧の効果は俊敏の多少のダウンか。

 

 ―――中々やるね。

 

 霧で視界が塞がれ、気配を遮断しているのか位置が解らないし、声も辺りに拡散しているようで特定する要因にならない。

 姑息なアサシンに苛立ちを露わにし、モードレッドは声を荒げる。

 

 「抜かせアサシン(暗殺者)風情が!つかテメェ本当に英霊か?殺人鬼の間違いじゃねぇのか」

 

 ―――あれ?よく分かったね。

 

 「なに!?」

 「……私達はジャック・ザ・リッパー」

 「―――ッ!?切り裂きジャック(・・・・・・・・)だと!!」

 

 背に乗りかかり、耳元で囁いたアサシンに驚きを隠せないまま剣を振るうがあっさりと後方に退くことで避けられる。

 まったく殺気を感じられなかった。

 つまりのこのこ姿を現して言葉を投げかけただけなのだろう。

 ふざけた奴だ。

 それよりも未だに驚きを抑えきれない。

 自ら真名を明かした事よりもこいつが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)という事実。

 辺りを再び見渡すが姿どころか気配すら掴めない。

 

 顔側面でスンスンと匂いを嗅がれた音がするまでは…。

 

 「テメェ!」

 

 今度は剣を振るうよりも肘打ちを喰らわせてやろうとするがまたも避けられ霧の中へと姿を消す。

 しかも今度は消える直前に六本ほどナイフを投げつけて来やがった。易々とナイフを剣で叩き落すがモードレッドのヘイトはすさまじい勢いで上がり続けている。

 

 ―――あぁ!やっぱりだ。やっぱり女の人だ。

 

 何かが頭の中で弾けた。

 怒りが込み上がるどころか逆に冷静に戻れた。

 笑みさえ漏れ出て来る。

 

 ―――それなら…それなら…うん、そうしよう…。

 

 「ハッ、舐めるなよクソガキが!――――赤雷よ!!」

 

 霧の中より声が拡散するがもはやそれすらどうでも良い。

 兜を解除して素顔を晒して獣のような獰猛な笑みを浮かべ、周囲に赤い雷撃を放って霧を霧散させアサシンを無理やりに炙り出した。

 きょとんとしたアサシンに剣を向ける。

 

 「終わりだアサシン!」

 「アハハハハ!()だよ!まだお腹空いているんだもん!!」

 

 セイバー(モードレッド)アサシン(ジャック・ザ・リッパー)は各々の得物を握り締め、獲物を狩ろうと猛スピードで突っ込んだ。

 荒々しく獰猛な一撃一撃が必殺足りえる剣戟をジャックは軽やかな身のこなしとナイフで何とか捌いて、威力こそ低いが手数と小回りの利くナイフの猛攻で攻める。

 斬り合いを続けるがこの二人が斬り合いだけで終える筈も無く、隙あらば片や拳や蹴りを使い、片や投げナイフを用いて斬り合いから乱雑な何でもありの殺し合いと変わり果てる。

 このような戦いが長く続くはずもなく、アサシンの表情には徐々に焦りの色が濃くなってきた。

 投げナイフは数が減るばかりで有効打を与えられず、避け切れない一撃を何とかナイフで捌いている為にナイフを伝わって腕にダメージが蓄積してきた。そしてモードレッドにはダメージらしいダメージは無い。

 先ほどのような笑みは消え去り、無表情となったアサシンは距離を取ってモードレッドをただただ見つめる。

 急に下がったことに警戒し追撃に出ることなく観察する。

 

 「これじゃあ私達が負けちゃうね」

 「ったりめぇだ。テメェが俺を相手にした時点で勝ち目なんざねぇんだよ」

 

 ―――フフ、それはどうかな?

 

 また霧が発生し、辺りを埋め尽くしてアサシンを覆い隠した。

 

 ―――此よりは地獄。私たちは炎、雨、力――殺戮をここに。

 

 ゾワリと身の毛がよだつような感覚に襲われ、危機感を募らせた。

 これが何を意味するのかは解らない。しかしモードレッドの直感と経験が危険性を訴えかけている。

 赤雷を再び放って霧を払う。

 

 「解体聖母(マリア・ザ・リッパー) !」

 「チィイイ!!」

 

 一瞬だった。

 黒い霧を纏ったアサシンが異様な気配を漂わせ斬りかかって来る様子が視界に映ったのは。

 自身が回避し得るギリギリを見計らって剣を投げ、魔力放出を用いた爆発的加速を用いて一気に後方へと飛び退く。

 大きく悲痛な声が聞こえた気がしたがそれよりも今は距離を取って体勢を整えるのが先決だ。

 飛び退くために踏みしめた地面は勢いに負けて砕け、アサシンの霧とまではいかないが土煙でその場を覆っていた。

 

 「―――痛い…痛いよぉ…」

 

 土煙の中から右肩の三分の一ほど切り裂かれて鮮血を流し、傷口を押さえながら苦悶の表情をするアサシンが現れた。

 予想以上に上手くいった事に安堵の息を漏らす。

 よくアイツ(サーウェル)とは手合わせもしていた。

 剣術の才能がないと見切りをつけていたアイツは魔術やその場のものを利用して仕掛けて来やがる。

 その中でも一対一の模擬戦で奇襲を仕掛ける事を得意としており、似たような手も使われてきた。いつも同じではなくアレンジや策の一部として使われていたが、今回はそれらを受けていたおかげで対処しきれたわけだ。

 

 「素直に喜べねぇがな」

 「…うぅ…痛いよおかあさん」

 「さてと、後は―――って待ちやがれ!!」

 

 トドメをさすだけだと壁に突き刺さった剣を回収し、涙を浮かべるアサシンに近付こうとすると、アサシンの姿は霊体化してこの場から消え去った。

 あの状態で仕掛けて来るとは思えねぇ。

 つまり逃げられたのだ。

 アサシンであるからして気配遮断を用いられれば捜索は困難。というか不可能に近い。

 追い詰めた獲物を逃がしてしまったモードレッドはわなわなと肩を震わし、街中に響き渡る荒々しい叫び声を挙げた。

  

 

 

 

 

 

 六導 玲霞(りくどう れいか)はソファに腰かけてカップに口を付ける。

 彼女は黒のマスターの一人、相良 豹馬(さがら ひょうま)にアサシン召喚後に生け贄にされる予定だった。

 だけど召喚されたあの子(ジャック・ザ・リッパー)は私を殺さなかった。寧ろ生きたいと願った私こそマスターと認め救ってくれたのだ。

 右手を奪い令呪を自身に移させて、持っていた資料と彼の言葉から聖杯戦争(聖杯大戦)と魔術師の知識を得て、あっさりと殺した。

 魔術師でないからジャックの援護は出来ないが、魔術師で無いからこそ出来る事もある。

 魔力の供給が出来ない事から一般市民に溶け込んだり、自身の容姿に経験からあの子のごはんを手に入れる為に人気のない場所に誘い込んだり。

 この生活は嫌いではない。

 いや、逆に今の方が幸せを感じている。

 元々は裕福な家柄であったが幼い頃に両親が亡くなってから転落人生を味わってきた。

 流されるままの人生であったが今は違う。

 殺されそうになる直前まで生きる事すら希薄だった自分があの子の母親のように過ごしていると幸せを願うほどにまで考えが変わった。

 私達はマスターとサーヴァントの主従の関係ではなく、お互いに親子として認識している。

 あの子にとって私が母親であるように、私にとってあの子は我が子なのだ。

 

 「遅いわねジャック…」

 

 時計を見つめるといつも以上に遅い事に心配が募る。

 この街でも多くを殺し、警官たちが集まり始めたし場所を変えようとしたのだが、また魔術師が来たとの事で最後の食事に出かけたのだ。

 いつもならさっくり殺して余っているのなら心臓を土産に帰ってくるのだが…。

 不安に襲われながらも待つしかない六導は帰って来たあの子の為に夕飯を用意しておこうと立ち上がってキッチンへと足を運ぶ。

 冷蔵庫の中には皿に乗せられた魔術師の心臓がラップをかけられて置かれている。

 これは魔力回復用だから置いておいて、残りの食材を見渡し、ハンバーグを作ろうと頷く。

 材料を台に置き、ボールやら調理器具を用意する。

 

 「―――おかあさん」

 「お帰りなさいジャック―――ッ!?どうしたの!大丈夫?」

 

 音もなく声が聞こえた。

 振り返らずともそれがあの子の声だと言うのはすぐに分かった。

 帰りが遅い事から心配していた分、声が聞けて安堵感が込み上げてくる。

 想いは心に留まらずに表情から溢れ出る。微笑みを浮かべながら振り返るとそこには血だらけのジャックが苦しそうに座り込んでいた。

 慌てて近づくが怪我を目にして動きが止まる。

 効果があるかは別として小さな怪我なら人間に施すような簡易な治療は行える。だがジャックの怪我は自分では手が付けられない。

 肩が三分の一ほど斬られ、手で押さえているものの鮮血が溢れ出る。

 自身が魔術師であれば回復の魔術をかける事も可能であったろうが、魔術師ではない六導には手の施しようは無い。

 

 「やられちゃった…ごめんね」

 「良いの。良いのよジャック」

 

 血で服が汚れるのをお構いなしに優しくジャックを抱きしめる。

 傷口に触れぬように、彼女を包むよう優しく…。

 触れ合った温もりが多少痛みを和らげ、幾らか表情が緩和された。

 

 「どうしたら良いかしらね」

 「残っている心臓を食べたら少しは治ると思う」

 「そう。なら今日はそれを食べて我慢しましょう。すぐに移動したいけれど見つかっちゃうわね。ごめんね。私に魔術が使えれば良かったのに」

 「おかあさんのせいじゃないよ。私達がおかあさんの言う事を聞いていたらこんなことにならなかったんだから」

 

 痛くて仕方が無い筈なのにジャックの声色はとても優しく、私に対する想いでいっぱいだった。

 本当にこの子はいい子なのだ。

 優しく頭を撫でてにっこりと微笑む。

 

 「―――ッ!?離れておかあさん!!」

 

 いきなり突き飛ばされて驚きを隠せなかったが、怪我を負った肩を庇いながらもう一方でナイフを手にして臨戦態勢を取るジャックの姿に全てを悟った。

 ジャックの視線の先には出入り口の扉があり、鍵をかけてあった筈なのにゆっくりと開かれた。

 そこには漆黒の鎧を纏い、真紅のビロードマントを靡かせた騎士が立って居た。

 

 「君が黒のアサシンか―――手負いのようじゃが追い込まれた獣ほど厄介よのぉ…―――とはいえ放置する訳にも行かないでしょうこれは」

 

 ころころと口調が変わる騎士にジャックはじりじりとにじり寄る。

 素人目でも分かる。

 今のジャックではアレには勝てない。

 だけど逃げるに逃げれない。

 いや、ジャックだけなら逃げ切れる。

 私が居るから逃げれないのだ。

 あの子は本当にいい子だから…。

 

 「おかあさん!?」

 

 六導はジャックを庇うように騎士に立ちはだかった。

 勿論目の前の騎士がこの行為により情けをかけて来るとは思えない。

 寧ろマスターが自ら前に出た事で仕留めに掛かるだろう。

 これで私は殺され、ジャックは逃げる事が出来る。

 でもあの子は優しいから泣いちゃうだろうし、敵討ちを考えるだろう。

 ならばその前に令呪を持って…。

 

 「やれやれ、女人は斬りたくないのだが」

 

 騎士――サーウェルはそう呟き、グライデンを握り締めた…。



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第09話 「シギショアラでの攻防戦 其の参」

 街中だというのに破砕音と銃声が木霊する。

 塗装された地面が粉砕され砂塵が舞い、銃弾が飛び交う。

 赤のキャスターことウィリアム・シェイクスピアは初の聖杯戦争らしい戦いに興奮を禁じえない。

 相手は純白のドレスを着飾った赤毛の女性。

 手にするは大きな機械らしき球状の両手持ちの大槌。

 前髪で隠れてはいるが大きく動くたびに揺れて敵意を剥き出しにした瞳がこちらを捉える。

 

 「ウァアアアアアア!!」

 

 叫び声と共に振り回す一撃は見た目と異なり、一撃で肉体を砕き残骸と変貌させるだけの威力を持っている。

 受け止めるだけでも腕どころか肩ごと持って行かれるだろう。

 ゾクリと興奮交じりの緊張が身体を駆け抜ける。

 

 「まったくもって面白い!」

 

 そう面白い!

 相手の一撃を喰らわず、掠めず、受け止めずの無理難題を突き付けられ、こちらの武装は私が付与した弾丸を装填したスコーピオン(vZ61短機関銃)デザートイーグル(大口径自動拳銃)のみ。

 一応低ランク宝具入りしているとは言え普通に人を撃つような威力は無い。寧ろ打撃武器のような威力しか出ていないようである。スコーピオンの連射に対しては避ける事もせず、当たってもよろけもしない。デザートイーグルの方は威力が高くて直撃すれば痛がっている素振りを見せた事から効果有り。ただ問題は装填数が七発と少ない点だ。

 下手な乱射は避けなければならない。

 装填している余裕など有りはしないのだから。

 

 「しかぁし!勇猛果敢な英雄の如し不屈の精神を持ってして!我が身の危険を顧みずに懐に飛び込めば!」

 

 大きな武器の弱点は何と言っても取り回しの悪さだ。

 ナイフなどと違って振るう動作一つ一つが大きくなり、威力の代償に隙が自ずと生まれてしまう。

 サーヴァントと言えどそれは変わらず、恐ろしい速度ではあるが隙が生まれた。

 恐れることなど一切せずに懐に飛び込んでデザートイーグルに装填されていた残弾四発を叩き込む。

 小さく声を漏らして空気を吐き出させるが、その眼には痛みよりも敵に対する殺意しか映し出されていない。

 危険を察知して後方に飛び退く。

 勘が当たり先ほどまで居た位置を大槌が通り過ぎる。

 最悪だ。

 敵は交戦可能な状態でほぼ無傷。

 対してこちらは有効な攻撃手段は弾切れ。

 振り戻しすとそのまま猛ダッシュでこちらに突っ込んで来る。

 アレだけの力を持って居るのだ。体当たりを受けただけでどうなる事かは想像に易い。

 咄嗟にスコーピオンを構えて敵サーヴァントではなく向かいの建物辺りへと向ける。

 建物の陰より戦いを見つめていた青年がぎょっとした表情を浮かべ慌てるが、そうはさせまいと飛び退いて大槌を振り回し、我が身で受けてでも全弾防ぎきった。

 距離が開いた事でデサートイーグルを口で咥え、弾切れになった弾倉を排出して次の弾倉と入れ替える。この間スコーピオンで数発ずつ牽制して押し止める。

 

 「なるほどなるほど…知性無く暴れ回るバーサーカー(狂戦士)と思いきやマスターを護るだけの理性を持っておられましたか。いやはやこれは何とも面白いですなぁ!!」

 「五月蠅い!!」

 

 横合いからイライラを通り越して怒りを露わにしているジーン・ラムに殴りつけられたシェイクスピアは勢いで書き綴っていた文字の上に線を描いてしまった。

 

 「戦っているのは貴方ではないでしょうに。その口は閉じられないのかしら」 

 「おおおおぉ、何という事だ!吾輩の原稿が…とまぁ読めない事もないですな」

 「貴方は一体何をしているの…」

 「ははは、これは妙なことを。吾輩は作家ですよ。ならばやることなどひとつでしょう!!」

 

 頭を押さえてため息を吐く己がマスターに笑みを浮かべたシェイクスピアは再び戦闘中の両者に視線を移す。

 黒のバーサーカーらしき少女に銃で対抗するサーウェルのゴーレム“モルド”。

 モードレッドそっくりな見た目の割には冷静な対応で今まで凌ぎきっている。

 

 「もう少し暴れ回ると思っていたのですがね。彼女に似て」

 「それ本人に言ったら斬首されますよ?」

 「何を申されますかマスター殿。斬首の前の一撃で座に帰すでしょう」

 

 まったくもってこの方々は私のひ弱を理解出来てないと見える。

 身体能力は一般人とさして変わりなく、戦闘技術に魔術知識も持ち合わせがない。

 つまりスキルやサーヴァントの特性さえなければマスター達と同じ耐久性しかないのです。

 

 「自慢するように言う事じゃないでしょそれ」

 「事実なので仕方がありませんな」

 「あと弾丸を付与したのに効いて無いじゃない」

 「ははははは、酷な事を。あの書く面積が少なく書き辛い円弧に悪戦苦闘して数夜であれだけの数を揃えただけでも大変な作業なのですよ。生前には体験することの無かった作業で面白みはありましたがね」

 「笑っている場合!?このままだとあの子負けるわよ。援護とか出来ないの?」

 「手を貸したいのは山々ですが吾輩に戦闘能力は皆無ですからな。これの扱い方さえ解ればまた話は違ってくるのですが」

 

 手にした銃器を見せるとジーン・ラムは気まずそうに眼を逸らす。

 魔術に長けた魔術師。

 戦闘方法も魔術基本なのでこういう銃を使用することがないらしく、安全装置というのがどれなのかすら解らず凶器と成りし銃器がただの鈍器でしかない現状。

 そもそもこの戦闘からして想定外のものであった。

 敵は一般人を襲う悪鬼羅刹のような行い続けるサーヴァント。

 黒の陣営よりのはぐれアサシンと当たりを付けていたにも関わらず、出会ったのは黒のバーサーカー。

 援軍にモードレッドかサーウェルが駆け付けると思えば街の彼方此方から戦闘音が響き渡っている。

 不意の出会いはどうやら吾輩たちだけでないらしい。

 

 「赤のキャスター様」

 「おぉ、吾輩に御用でしょうか?」

 「キャスター様の弾丸(付与付き)の効果が低く有効打を与えきれません。この場の情勢をひっくり返す、または撤退し得るだけの術をお持ちではありませんか?」

 「ふ~む、あれば使いたいのですが…」

 「そうですか」

 

 返した返答に対して何の感情も乗せずに納得したらしき言葉が漏れた。

 モルドは何かを決意したのか大きく頷き牽制を続けながらこちらをちらっと確認する。

 

 「私の役目は主のマスターの護衛。有効的攻撃手段が見つからないこの状況下では撤退が良いと判断致します」

 「それはそうでしょうな」

 「しかしそうなると御二方を連れての撤退は難しく、成功率も格段に下がります。となれば…」

 「なれば?」

 「主の勝率を上げる為に合流すべく御二方には犠牲、もとい囮になってもらうしか――」

 「おっとお待ちをモルド殿!」

 

 完全に置き去るつもり満々のモルドに制止をかけるシェイクスピア。

 サーヴァントに成ろうが死ぬことは怖いし痛いのはご免被る。それ以上にこの物語(・・)を見届ける前に退場など死ぬより辛く作家として耐え難いものである。

 何としてもそれだけは阻止しようと自身が持っているものを思い返して、一つだけ可能性のある手段を口にする。

 

 「吾輩の宝具であれば撤退することも可能かと」

 「でも貴方の宝具は…」

 

 吾輩の宝具は吾輩が書き綴った物語を対象者の精神に働きかけて体験させる宝具。

 言わば対心宝具とでも申しましょうか。

 どんな相手であろうが吾輩の物語に捕えれるこれならば撤退も容易に行えるはず。

 ただし条件があって、相手の真名が解らなければ使用できないという点。

 この事を話してあるジーンは相手サーヴァントの真名を解き明かさねばならないという難易度の高さを理解している。

 けれどしなければここで終焉を迎えてしまう。

 

 「なにか相手を特定する条件はございませんか?」

 「性別女性、獲物は鈍器、服装は純白のドレス、頭部に機械らしき角と耳当てらしきものを確認」

 

 いろんな作品を知っている知識を総動員させる。

 近しい者は居ても完全に当てはまるものは無し。

 さらに思考を深めていく。

 あの鈍器を扱う様子には何かしらの技術は見受けられない。しかしそれは理性を失いがちなバーサーカーなので確証は得られず今は放置。

 なら機械部分を装着している事で推測できないものか?もしや機械工学で世界に名を記した人物とか?女性科学者に絞るがそれらしい人物が居ない。というか科学者であのような鈍器を振り回す者など思えないのでこれも放置。

 ドレスを着ている事からどこかの王族か貴族の可能性はないか?もしくは純白のドレスから連想するとウェディングドレスがある。ならば結婚に関係すとか願望を抱いていたとか…。

 考えれば考えるだけ当てはまる人物に見当が付かずに時間だけが過ぎて行く。

 せめてもう少しヒントがあれば…。

 

 「まだ掛かりそうですか?」

 「もう暫しお待ちを!考えに考えを重ねておりますが女性で絞るとなると…」

 「女性と認識せぬ方が宜しいかと」

 

 

 ・・・・・・・・・はい?

 

 

 「主より記憶の一部を移されているのでその限りですが、サーヴァントとは実際と物語では性別が異なる事が多々あるのではないでしょうか?」

 

 モルドの一言にシェイクスピアはゆっくりと頷いた。

 サーヴァントと物語では性別が異なる。

 確かにそうだ。

 吾輩ともあろうものが勝手に思い込んで視野を狭めるとは。

 現に近くに良い例(モードレッド)が居たにも関わらずこの体たらく。

 作家としてあるまじき失態だ。

 それに性別を読者に勝手に推測させる手など作家としては在り来たりな手段ではないか。

 性別を無視すると絡まった謎がするりと解けて一人の人物―――否、怪物の名が浮かび上がる。

 流れるように筆を走らせて原稿用紙を文字で埋め尽くして行く。

 

 「まったくもって不甲斐無い。この失態は全力で取り返すと致しましょうか……マスター」

 「良いわ。宝具の解放を許可します」

 「では吾輩が脚本を手掛けた一夜限りの物語!一時ではありますがどうぞご堪能下さい―――フランケンシュタイン」

 

 建物の陰より覗く青年の目が見開いて驚きを露わにした事で予想は確信と変わり、書き綴った原稿用紙が宙を舞いバーサーカーを囲みこんだ。

 吾輩たちからすれば誰も居ない虚空に対して怯え、一歩二歩と後ずさる。

 

 「さぁ、逃げますよ」

 「待ちなさい敵のマスターを倒せば…」

 「戦域を離脱します。ジーン様失礼致します」

 

 このメンバー内の最高戦力であるモルドは跳び上がり、屋根へと降り立つとこちらに進行方向を知らせてそちらへと駆ける。

 相手はサーヴァント出なく魔術師なら自分でも戦えるとジーンは構えるが青年との間でシェイクスピアの宝具に当てられたバーサーカーが今度は暴れ出し、青年に近づくのも困難。

 止むを成しと撤退を選択し、先に逃げ出したシェイクスピアを追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 おまけ【碌でも無い師匠】

 

 朝日が昇るよりも早く寝所で目を覚ましたサーウェルは寝ぼけ眼を擦って立ち上がる。

 王専属料理人としての職務が騎士の務めより優先され、王の朝食の支度を行う為に誰よりも早く職務に従事する。

 そもそも騎士は騎士でも嘱託騎士。警備や哨戒任務は元より想定されておらず、有事の際に召集される形での契約。

 半ば無理やりだった気もするが…。

 

 ため息交じりに着替えて支度を整え厨房へ向かう。

 魔術で実験している農園があるがあちらはゴーレム達に任せているし、昨日確認したばかりだからまた今度で良いだろう。

 さて、王の食事はどうするべきか。

 下手に手を抜いたり、乱雑な食事にすると口には出さないけれど表情で訴えかけてくるものだから言われるより心に効く。

 通路を進みながら思考を王の朝食一択に集中し、厨房への扉を開こうとすると甘い花の香りが鼻孔を擽る。

 先ほどより大きく深く長いため息を漏らすと半眼で背後へ振り向く。

 

 そこには澄んだ早朝のような爽やかな微笑みを浮かべた魔術師らしいローブを着た青年に見える老人が軽く手を挙げて居た。

 あの騎士王の剣の指南を施し、王へと導いた稀代の魔術師であり、王に仕える宮廷魔術師。そして私、サーウェルを拾い、育て、魔術を教えた恩師である師匠。

 内部での扱いは散々で王に唯一「そいつ」呼ばわりするほど呆れ、頭を痛めさせられたトラブルメーカーの女好き。王ならば控えめに色事に弱いというのだろうが私ならそうハッキリ表現する。

 

 「何用ですか師匠…」

 

 朝から…いや、朝でなくとも関われば厄介事に巻き込んで来るであろう人物に会いたくはなく、口から出た言葉にはそれらの感情が上乗せされて出てしまった。

 出てしまっても本人も自覚があるのか気にしてないのかそのまま会話を進めようとする。

 

 「勿論あるともさ。そのために会いに来たのだから」

 「せめて時間を考慮して頂きたい……コーヒーで良いなら入れますが?」

 「そうだね。君の聖域(厨房)へ入らせてもらおう。それと砂糖とミルク有り有りで」

 「はいはい」

 

 厨房へと招くと他の騎士達に進めたが不評な焙煎したタンポポコーヒーの小瓶を手に取る。

 何でもコーヒーなる飲み物の代用品なのだとか言っていたがよくこんな苦いのを飲もうと思ったものだ。

 湯を沸かしてタンポポコーヒーの準備をしながら取り置きのスコーンとカスタードクリームを用意する。王にはしっかりしたものを用意するが師匠の場合多少手抜きでもまったく問題ない。

 とりあえず厄介事(師匠)を片付ける為に王の朝食は頭の片隅で考えつつ話は進める。

 

 「で、用とは一体?まさかまたあのコーヒー豆を栽培しろって言われるんじゃあ…」

 「いやいや、アレは君が栽培失敗した時点で諦めたよ。代わりにタンポポの種を渡して栽培を頼んだのだから」

 「というかいきなり豆を生産してくれはないでしょう普通。タンポポはまだ分かりましたけどね。あー、あれ綺麗なわたみたいになって女性陣からそれなりに人気が出てますよ」

 「ほぅ、それは良い事を聞いたよ」

 「………まさかまた女性絡みですか?」

 

 よく分かったねと言わんばかりの笑みを浮かべられて頭を抱えたくなる。

 女性関係での話とはまた厄介なものを―――違うな。女性関係なら巻き込まれるだけで大した被害でないし、巻き沿いを喰らう事も無い。考えようによっては他の厄介事に比べればマシではないか。

 

 「今度の相手が何処の何方かは存じませんが私が出る幕はないと思うのですが?」

 「それがあるんだな。君だからこその出番がね」

 「私だからこそ?」

 「これさ」

 

 渡されたのは一枚のメモ用紙。

 書かれているのは何かのレシピらしいが…。

 

 「なんですまかろんってのは?」

 「さぁ?」

 「おい」

 「だって見た(・・)だけでどういうものかは分からないんだから」

 「これを作れと?それを女性にプレゼントするんですか?」

 「そう言う事。出来れば早急に頼みたいな」

 

 何度目かの大きなため息を漏らしレシピを睨む。

 出来ない事は無いが…。

 

 「了解致しました師匠。今日の夕方までに用意いたしましょう」

 「うんうん、話の分かる弟子で助かるよ」

 「それはそれとしてこちらも用があるのですがね」

 「なんだい言ってご覧」

 「その話は私からしましょう」

 

 扉がゆっくりと開き、絶対零度の冷たさを纏った王が師匠を視界に捉える。

 

 「おや、また私が何かしたかい?」

 

 向けてられていないというのに威圧感で背筋が凍り付きそうだというのに、その向けられた本人は平然としてどれの事かなと思い当たる節が多すぎてどれだか分かっていない様子。

 

 「サーウェルから聞きました。私の鎧を切り裂いた――――を素材として提供したそうですね!」

 「あー、うん。あれは彼に必要な物だったからね」

 「何も言わずに回収していったと聞きましたが!!」

 

 怒声が響き、平然と受け流す応酬をBGMにサーウェルはタンポポコーヒーとスコーン、カスタードクリームをテーブルに置くと王の朝食作りに専念する。

 やはり師匠は厄介事の種だ。

 私の平穏な厨房を返してほしいのだが…。

 後ろで繰り広げられる喧騒に視線を向けるが止みそうもない。

 諦めてサーウェルは無心で朝食の準備を続ける。

 

 

 

 ……まさかつまみ食いをしにやって来たモードレッドも合流して喧騒がさらに大きくなったり、師匠のリクエストを簡単に請け負った事でこちらに矛先が向いたりとさらに厄介事が増えるとは思いもしなかった…。



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第10話 「城砦へ向けて」

 投稿遅れ申し訳ありません!
 この作品を含んだ三作品の投稿日直前に、最新話が気に入らずに三作品とも書き直しに入り、今になってしまいました。


 シギショアラでの予期せぬ黒のサーヴァント達との戦闘を終えた獅子劫達は場所を変え、だだっ広い草原で次なる戦闘に向けて準備を行っていた。

 と、言うのも正直敵サーヴァントに真向から戦えるのはモードレッドのみで、用意していた武装やゴーレムに問題が生じたので、早々に改善しなければ同数で攻められたら確実に押し切られることが判明したからだ。

 シェイクスピアの付与した弾丸はサーヴァントにダメージは負わせれるものの威力が低すぎて有効打にならず、サーウェルのゴーレムに至っては操作する魔力量に問題があり戦闘継続時間が想定外に短縮された事がシギショアラの戦闘で判明した。

 銃器の一番の問題は弾丸の威力と付与する為には文字を連ねるスペースにある。弾丸自体書くスペースが少なく付与の効果が十全に受けられない。よってスコーピオン、MP5は付与した分以上に補充はせず、デザートイーグルとモードレッドが追加したデグチャレフPTRD1941とKPV 重機関銃の14.5x114mm弾を大至急で付与している。

 他にもM4カービンにmd.63(AIM)もあるが、赤のアサシンのマスターであるシロウ・コトミネより日本刀の付与依頼もあるのでとりあえず放置。

 次にサーウェルのゴーレムであるが、アレはゴーレム内に疑似魔力回路を構築して稼働をスムーズにするのと同時に簡易の強化魔術にて単騎の性能を向上させる機能があって、現代のゴーレムよりもサーヴァントに近い出力を誇る事が出来る。が、しかしながらメリットに対してデメリットもあり、疑似魔力回路を動作させるという事は操作している者の魔力を消費するという事。つまりサーウェルのマスターであるロシェから搾り続ける事である。

 生前のサーウェルは魔力の回復速度も貯蓄量も異例であり、何百であろうと扱う事が出来たが一般魔術師が同じように行うとコンマ単位で魔力が枯渇し、大概が死亡するだろう。なので元プログラマーであった金城 久がより細かく疑似魔力回路を調整して扱いやすくしている。

 さらに同時に使用するという目的は置いておいても、破壊や損傷した時の事も考えて追加で制作しなければならない。

 

 キャンピングカーを止めたすぐ脇で作業台を土より作り出したサーウェルは、三騎目のガウェインに似せたゴーレムを制作しつつ、右隣で作業しているロシェにゴーレム技術を教えながら、左隣で弾丸や日本刀の付与しているシェイクスピアの話し相手などを務めている。

 ここが人目の付くところでなかったのは幸いだろう。

 なにせサーウェルが作るゴーレムは簡易的な物を除けば人体に寄せられる。ゆえに作業台には全裸の成人男性が寝っ転がっているように見えるのだ。一般人が見たら速攻で警察に連絡されかねない状況だ。

 まぁ、ここは人通りが少ない上に離れた道路よりは見えないようにしてあるのでそんな事態になる事は少ないだろう。

 

 不安要素を抱えつつサーウェルにシェイクスピア、ロシェを除いた面々もそれぞれに準備を怠らない。

 獅子劫は運転続けで溜まった睡魔と疲労を回復する為に車内で睡眠を取り、ジーンはモルドと共に銃関連の動画を再生しているパソコンより銃器の扱い方を学習している。

 そして金城 久(・・ ・)ウォルター・エリック(・・・・・・・・・・)も準備を行っていた。

 サーウェルを形成する元が同一の魂である二人であるが、本体(サーウェル)より意識(思念)ゴーレム(端末)へと送る事で単体で動けることが判明し、準備時間を短縮する為に作業に当たっている。

 

 ちなみに二人共戦闘能力は皆無でシェイクスピア並み―――いや、宝具がないので以下の性能しか有していないので戦いには参加できない。

 

 金城はロシェが作ったマネキンのような人型ゴーレムに意識を移して、新たに調整した疑似魔力回路の確認作業を行っている途中であった。

 

 紫色の鎧を纏った生真面目そうな青年がシェイクスピアの付与を受けた剣を振るう。

 無駄がなく、振るう一振り一振りに美しさと強さを垣間見る。

 見事と言うしかない剣戟を対戦相手を務める少女(・・)は軽やかに回避し、距離を離すと隠していた投げナイフを投擲する。飛来する八本の投げナイフを一刀で弾き、離された距離を詰める。

 走るたびにガシャガシャと鎧が音を立て、少女はそんな相手に面白そうに笑みを浮かべた。

 子供と大人ほどの体格差があるというのに迷う事無く懐へと跳び込んだ。

 見た感じだとぶつかり合っただけで吹き飛ばされそうなものだが、サーヴァントとしての性能を得ている少女とサーヴァント以下人以上程度の性能しか持たない未完成な相手に恐怖は抱かない。寧ろ手加減しているくらいなのだからこうでもしないと面白みがない。

 それに自分の間合いは手の届く超近接戦なのだから。

 

 「行っくよー」

 

 場に似つかわしくない抜けた一言に反応を示す事は無く、青年は脳内(情報源)より記憶(データ)漁って(読み込んで)は疑似魔力回路へと命令を下す。

 素早く何度も繰り出される二本のナイフを記憶にある剣技を用いて対抗する。

 いくら手加減されていると言え性能差がある相手に剣よりナイフの方が有効な距離という圧倒的な不利を、拮抗させている剣技の高さは忌々しくてもモードレッドも感心するしか他ない。

 

 離れた所でサーウェルに作られた二騎目のランスロット似のゴーレムとジャック・ザ・リッパー(・・・・・・・・・・・)の模擬戦を鑑賞していたモードレッドは如何にも不満げに睨みを利かす。

 

 「ふぅむ…やはり見た目は子供でも戦闘能力はサーヴァントと言ったところですなぁ。しかし子供を戦わせるのは心が痛い。嫌な大人になったものだ」

 「そう言う割には楽しそうに聞こえるのだけれど?」

 「かっかっかっ、良い大人でも無かったですからね。それに彼女にとっては良い遊びでしょう」

 「私としては怪我をして欲しくはないわ」

 「なら後でお茶を楽しむと良い。サーウェルの作る菓子もまた美味しいらしいですからの」

 「ふふ、それは楽しみね」

 「――――おい」

 

 普通に会話しているウォルター・エリック(金城同様のゴーレム)と六導 玲霞に対して苛立ちを口にするのを我慢していたモードレッドはさすがに限界に達し、怒気を含んだ一言を漏らした。

 ジャックに視線を向けて反応のない六導は顔も向けず、振り返ったのはウォルターのみであった。

 

 「どうしたのかのぉ?」

 「どうしたじゃねぇよ!なんであのクソガキを引き込んだんだよ!!」

 

 モードレッドの苛立ちは最もだろう。

 魔力を回復するためとは言え、一般人も巻き込んだ黒のアサシンであるジャック・ザ・リッパー。

 シギショアラではモードレッドと一戦交えた相手。

 戦闘は有利に進めたが、女と称されたうえに逃がしてしまって悔しさと腹立たしく思っている相手が一緒に居るのであれば当然であり、そもそも敵だったのもが自然に一緒に居るというのがそもそもおかしい。

 怒りを露わにするモードレッドに対してウォルターは困ったと言わんばかりの雰囲気を漂わし、怒りと言う炎に油をぶっこんだ。

 

 「何を解りきった事を。戦力の拡充は戦いにおいては必須じゃろうて。戦いに疎い儂でも知っておる事を戦いに身を投じていたお主が知らぬわけはなかろう」

 「テメェ――」

 「いや、理解はしても納得出来ぬっと言ったところかのぅ」

 

 腹立たしいがウォルターの考えには理解はしている。

 モードレッド達はこれから黒の陣営と本格的な戦闘に突入するだろう。

 聖杯大戦として陣営同士の戦いは最優先されるものであり、聖杯大戦から聖杯戦争への通過点。

 陣営同士の戦いが集結すれば同陣営同士の聖杯戦争が行われるのは必須。

 であるならば敵陣営との戦いで消耗を少なくするために戦力を拡充する必要性がある。

 しかもモードレッドとサーウェル、ウォルターの三名は黒の陣営より赤のアサシンとシロウ・コトミネを感覚的に危険視しており、そちらへの備えも重要だと考えている。

 黒の陣営所属のサーヴァントを引き込むことで当面の敵である敵陣営の戦力を減らし、尚且つ自分達の戦力を拡大するのは良い案だと思う。

 思考で理解したとしても心が納得するかは別問題だ。 

 

 考えを読まれた事も相まって機嫌は悪くなっていく一方。

 ここに獅子劫が居たら面倒臭いと思いつつも、口を挟んで気を紛らわしていただろうが、本人は夢の中へと旅立ってここに居ない。

 

 「彼女は英雄ではなく殺人鬼。かの有名な騎士王に仕えていた騎士としては複雑じゃな。が、ああいった狂犬の類を使いこなせるかでも王の器を計れるのではないかね」

 「―――ッ!!」

 

 一瞬だった。

 モードレットの一振りによりゴーレムの首は跳ね飛ばされ地面を転がった。

 転がった頭を踏みつけ睨みつける。

 

 「テメェ如き道楽者が王の何たるかを語ってんじゃねぇ」

 「これはすまんかったのぅ。では儂は戻るとするかの……」

 「うるせぇ!二度と出てくんな!!」

 

 ガシガシと原型を残さぬほど頭部を踏みつけるモードレットは怒りの矛先を変える。

 言うまでも無くサーウェルである。

 

 「サーウェル!あのジジイは二度と出すな!」

 「そうは言われましても確約は出来ませんよ。彼は彼で役に立つのですから。それよりロシェ君のゴーレムを壊さないで下さい。悲しむじゃないですか」

 「先生。今度はもっと丈夫なのを作って見せます」

 「あー、はい。期待してますよ」

 「誰が悲しんでるって?」

 

 そんなやり取りの中、キャンピングカーより獅子劫が降りてきた。

 サングラスで目元は見えないがかなり眠たそうに気配だけでも理解できる。

 足元もふら付いてだいぶ危ない状態で出て来たという事は何かあったと思うべきだろう。

 

 「何かあったのですか?」

 「あぁ、シロウ神父からミレニア城砦に攻め込むと連絡があった」

 「おお!敵陣へ乗り込むのですな!」

 「城攻めか。いっちょ派手に行くか」

 

 暴れたいモードレッドに物見遊山なシェイクスピア。

 そんな二人を眺めながらサーウェルは嫌な予感を覚える。

 あんな状態で獅子劫が運転できるのだろうかと…。

 

 数分後、その予感は的中し、運転を申し出た金城を跳ね除けて興奮気味のモードレッドがハンドルを握り、キャンピングカーは物理法則を無視する動きでミレニア城砦に向かって行くのであった…。

 

 

 

 

 

 

 赤の陣営はセイバーとキャスターを除いてセミラミスの宝具“ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン(虚栄の空中庭園)”に集結していた。

 現代科学を駆使しても再現不可能な超大型の浮遊要塞。

 西洋の遺跡を彷彿させる建物で構成されるこの宝具は一個の都市である。

 内部にはアサシンでありキャスターの力を行使できるセミラミスが作り出した竜牙兵数千に竜牙兵に翼が生え、飛行可能な竜翼兵も同数程度控え、外部には大軍級の攻撃が行える漆黒の十一枚の巨大プレート“ティアムトゥム・ウームー(十と一の黒棺)”という迎撃術式を完備している。

 その虚栄の空中庭園の最深部に近い一室に一人のサーヴァントが何かをすることも無くただ座り込んでいた。

 

 虚ろな瞳でぼんやりと壁を見つめているが、彼女が本当に見ているのは過去に対する懺悔と後悔のみ。

 何故自分がここに居るのか?

 どうして聖杯戦争なんてものに参加しているのか?

 私は何をしたいのか?

 何一つ理解せずに黙して記憶を辿るばかり。

 召喚されて幾度と繰り返された行為を続け、最後にはあの場所へと至る…。

 

 「うあぁ…ああ…」

 

 脳内に広がる惨劇と結果に酷く心を締め付ける。

 ある筈のない血の咽かえる臭いに吐き気を催し、耐え切れない後悔の念に精神が苛まれ、罅割れそうな激痛が脳を襲う。

 籠手をはめた手で痛む頭を抑える。

 頭部に食い込み頭蓋がめきめきと悲鳴を上げ、魔力が籠っていない攻撃では傷一つ付かない肉体に食い込んで皮膚を突き抜け血管を損傷させ血が噴き出る。

 そのままでは自滅してしまうというのに一向に力は緩まない。

 寧ろそれを望んでいるかのように力が一団と籠められる。

 

 「またか…」

 

 呆れたような声が呟かれると彼女の手首に結び付けられていた鎖が引っ張られ、無理やりに頭部より離される。

 獣のような唸り声を挙げながら鎖を力任せに千切ろうとするもサーヴァントと言えども易々と腕力だけで千切れるような品物ではない。

 

 「本当に使えるのか?」

 

 また誰かの声が聞こえる。

 漏れ出した涙で霞む瞳をその者らに向ける。

 聞き覚えの無い声に見覚えのない男性と女性。

 服装からも由縁ある人物ではない。

 

 ―――良かった。殺さないで済む…。

 

 瞳を逸らし、記憶を辿る作業に戻る。

 

 「使えますよ。悲しくも彼女はこうなったからこそこの戦いでは真価を発揮できるのです」

 

 神父らしき人物の呟きが耳に嫌というほど残る。

 それと隣の部屋から魔力を注がれているのが伝わり、手足に込める力が一団と増せる。

 さぁ、この忌まわしい鎖を千切ろうとするも、それ以上に増えた鎖が手足どころか身体全体を縛り付けて身動き一つさせまいと巻き付いた。

 酷く煩わしいがこの鎖には感謝しても仕切れない。

 私がこうして大人しく出来るのはこの鎖のおかげなのだから。

 

 もう殺したくない。

 殺させたくない。

 仲間を殺したくない。

 村を焼きたくない。

 懇願する民を斬り捨てなくていい。

 諭そうとする騎士を見せつけにしなくていい。

 彼を、彼女を、老人を、母親を、父親を、子供を、赤子を、人も、物も、あの子も、あの人を殺したくない。

 

 「では皆さん行きましょうか。ミレニア城砦へ」

 

 どうでも良い。

 そこが何処だろうと関係ない。

 誰か…誰でも良い………お願いだから…私を………。

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ【私と太陽の騎士】

 

 私と彼とが出会ったのは師匠に無理やり連れていかれた王主催の大会だった。

 剣術は得意では無いというのに参加させられ、運悪く初戦で円卓の騎士であった彼と戦う羽目に…。

 

 当時の私はそれを悪いことだとは思っていなかった。

 寧ろ負けは確定しているのでさっさと終われると思って運が良いとも思っていた。

 勿論のことであるが全力で挑みましたよ。

 結果は幼子が一騎当千の騎士に挑むようなものでしたがね。

 周りからの嘲るような笑みに馬鹿にする声が飛び交いましたが気にすることなく敗北を受け入れました。

 悔しさはあったものの、これは仕方が無いと割り切っていたのを今でも覚えています。

 

 それがいけなかったのでしょうか。

 否…師匠が関わった時点で偶然ではなく必然だったのでしょうね。

 

 対戦相手であったガウェイン卿の目に不審に捉えられたのです。

 師匠は最後まで観戦して自分をその場に留まらせたのもそれらすべてを見ていたから。

 大会が終了し、帰ろうとした矢先に彼に呼び止められ、先の一戦で得た疑問をぶつけられもう一試合を求められたのだ。

 

 “手加減したのではないでしょうが、貴方の戦いには違和感を覚えます”

 

 その言葉には不快感ではなく純粋な興味があった。

 私とて悔しさは残っているので戦う事事態はやぶさかではない。

 剣術のみでなく何でもありのルールであるならばまだやりようはある。

 

 筋力増強、速度上昇、魔力による障壁などなど魔術により肉体を強化させ、周囲の土を変質させた魔術も行使した。

 得意な魔術を使用しての戦闘に僅かながらでも自分が有利に事を進めれるという思い上がりを酷く思い知らされたよ。

 

 地面より無数の槍を出現させると掠りはしたものの見事に躱され、足止めに足元を泥沼へと変質させても真正面から突破され、動きを止めようと土壁で四方を囲むが一振りで薙ぎ払われる。

 圧倒できると思った一撃は受け止められるし、反応速度は熟練の剣技と彼のセンスで押し返される。

 

 恐ろしさよりその類稀なる腕に戦いながらも魅了されてしまった…。

 あれこそが真の騎士というものなのだろう。

 

 戦いで心が躍ったのはアレが初めで最後であった。

 

 あの一戦で何故か騎士になる事を進められ、師匠が料理が得意なことを漏らしていつの間にやら料理人として採用されてしまった。

 まぁ、悪いことばかりではなかったけど、大変な目には幾度と合されることになったんだ。

 

 「終わりましたよ。次は何を?」

 

 背後で爽やかな笑みを浮かべる彼に振り返り、困った笑みを浮かべる。

 円卓の騎士である彼に私は今料理を教えている。

 と、言うのも王より頼まれたからだ。

 何でも以前料理を出された事があったのだが、握り潰した芋だったそうな。

 王の頼みもあるが、料理人としてそれを料理と認識している彼の常識を直したいというのもあって教えているのだが、円卓の騎士としても多岐の仕事を抱える彼の事情を考えると時間のかかる本格的な物は教えられない。

 ならば師匠が見たという料理の中で野菜とまよねいず(マヨネーズ)を混ぜたポテトサラダなるものを作っているのだが、難点としてはメイン食材であるジャガイモを潰す事だ。そのままでは固く、アツアツにして潰すとなれば熱が邪魔する。

 

 だというのに彼は触れば火傷をしそうなぐらい熱いジャガイモを素手で握りつぶしているのだ。

 さすがは太陽の騎士と言うべきか。あの程度では熱いとも感じないのだろうか。

 

 羨ましさと呆れを混じらせた視線を向けたサーウェルは引き続き作り方を教えていく。

 完成した料理は王に振舞われ、無心に食べるのではなく表情をほころばせた様子にガウェインが個人的に料理を師事してほしいと頼み込んで来るのは当然であっただろう。 



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第11話 「全面戦争 初戦」

 「んー…おっかしいなぁ」

 

 月夜が照らす夜空を上半身は鷲、下半身は馬の幻獣“ヒポグリフ”に跨って眺める黒のライダーことアストルフォはぽつりと漏らした。

 

 聖杯大戦を行うに当たってユグドミレニア一族は長い年月を費やしてきた。

 当主のダーニックは大聖杯を奪取してからこのルーマニアのミレニア城砦の地下へと隠し続け、呼び出すサーヴァントを選定し、召喚するに必須となる聖遺物を獲得。

 年月もさることながら膨大な資金も費やし、持てる全てを出し切るようにこの戦いに挑んでいる。

 大量生産した魔力タンク兼歩兵戦力のホムンクルスに、稀代のゴーレムマスターが生み出したゴーレム軍団。

 ルーマニアの地で絶対的な力を得るヴラドⅢ世を含めた世界に名を轟かす英霊達。

 敵は大聖杯を手に入れようとミレニア城砦に攻め込むしかなく砦を持ち、防衛に周るだけの黒の陣営は有利――に事を運ぶ予定だった。

 

 狂ったのは黒の陣営の一人、ロシェの裏切りからだ。

 ロシェはダーニックの指示を無視して別のサーヴァントを召喚、アストルフォとの戦闘後に赤の陣営に寝返った。さらには黒のアサシンのマスターと連絡が途絶、シギショアラの街で補足したものの赤と黒の陣営同士の衝突になってしまい見失ってしまう。

 

 予定していたサーヴァントは七騎から五騎へと減少し、ゴーレム軍団を得ることは不可能となったわけだ。

 

 ここまででもかなりの痛手を被ってしまったというのに、赤の陣営は追い打ちをかけるように予想外の手段を用いてきた。

 一個の都市ごと浮かべたような巨大な空中要塞。

 地上には数千もの竜牙兵が闊歩し、空中は竜翼兵が要塞を護るように飛行している。

 要塞ごと移動し、大軍を率いて現れた時には絶望すら感じた者は多かったろう。

 けれどサーヴァント達もダーニックも諦めておらず、持てる戦力を持って迎撃を行っているのだが、予想外に状況は黒の陣営に傾いている。

 

 『ライダー。状況を報告しなさい』

 

 マスターのセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアからの念話に反応しながら戦場を一望する。

 開戦時とそうは変わらない戦況に不思議そうに首を傾げる。

 

 「報告って言ってもさっきと何ら変わりないよ。至って順調だよ」

 

 真下で繰り広げられている竜牙兵とホムンクルスの大軍同士の激突は拮抗状態を保っているが、後方より支援していた赤のアーチャーは黒のセイバー“ジークフリート”と黒のバーサーカー“フランケンシュタイン”が抑え込み、黒のアーチャー“ケイローン”は師弟関係にあった赤のライダー“アキレウス”と接戦を行い、周囲を焼き尽くす高火力を放つ赤のランサーは黒のランサー“ヴラドⅢ世”が抑え込むどころか優勢に戦いをしている。

 残る赤の陣営のセイバーにバーサーカー、アサシン。そして裏切者の黒のキャスター“サーウェル”の姿も確認されていない。一騎当千のサーヴァントをこの状況下でも隠す理由が分からずに、ダーニック達は困惑している。

 ただ赤のキャスターだけはあの空中要塞を維持、またはコントロールする必要が有りそうなのであそこに居るだろうと予想は出来る。

 では他は何故?

 疑問が自身からも発生するがひとまず放置しておこう。

 

 「ボクは予定通りやれば良いんだよね?」

 『勿論よ。行きなさい私のライダー』

 

 念話越しにマスターがに邪悪な笑みを浮かべている姿を想像できる声に苦笑いを浮かべる。

 帰ったらまた舐められるんだろうか…。

 がっつりと精神が削られるような感覚に襲われるが、今気にするのはそっちではないのでとりあえず放置しておく。

 ニカっと笑みを浮かべて突っ込んできた竜翼兵の間をすり抜けながら、馬上槍を思いっきり振り回す。

 人であればかなり厄介な相手である竜翼兵もサーヴァントの前では雑兵と変わりなく、振るうたびに数体が砕け散る。

 脆すぎる。

 脆いのだがあまりに数が多すぎる。

 負けることはないのだが飽きは来る。

 

 「もう!全然減らないよぉ―――良し。こういう時はっと」

 

 これが赤のランサーなら黙々と倒して行ったかも知れないがアストルフォは面倒になっている。

 多く持つ宝具の中からお目当てのものを探し出し、高らかに小さな角笛を掲げる。

 

 「それじゃあ一列に並んで。行くよぉ恐慌呼び起こせし魔笛(ラ・ブラックルナ)!」

 

 真名を開放すると角笛は巨大化し、アストルフォに巻き付くように展開された。

 周囲を囲むように展開していた竜翼兵は、現れた宝具を危惧してか一気に距離を詰めようとするが、サーヴァントからしてみれば遅すぎる動きで焦る必要すら感じさせないものであった。

 

 「散れ!」

 

 吹かすと周囲の竜翼兵が音波に飲み込まれ、一瞬で数百の竜翼兵が粉々に粉砕された。

 障害物のない空間をヒポグリフが駆け抜けて、アストルフォは空中に浮かぶ要塞へと接近したのだが…。

 外壁上に一人の女性を視認した。

 興味深そうに眺めるドレス姿の女性はサーヴァントで間違いないだろう。

 しかも空中要塞に居るという事は赤のキャスターの可能性が高い。

 

 「赤のキャスターとお見受けする。どうかお覚悟を!」

 「外れだ。我はアサシンだ。が、魔術にも多少心得があってな―――失墜(おち)ろ」

 

 周囲の空間に陣が描かれ、咄嗟に魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)を手にする。

 紫がかった電撃のようなものが自分とヒポグリフに襲い掛かるが、魔術万能攻略書により発生した対魔力によって霧散させた。

 本当は別の名前だったんだけどどうにも思い出せず、仮の名前を付けたがこれでもAランクの対魔力が得られる。

 赤のアサシンは感心したような顔で短く息を吐いた。

 

 「これは驚いた。我の魔術を防ぐとは」

 「ボクの方にも備えはあるからね」

 「ではこれはどうかな?」

 

 ぱちんと指を鳴らすと今度は先の数倍もの陣が複数現れ、周囲を囲むと眩い光で覆われた。

 目つぶしという訳ではなく、先ほど以上の電撃の攻撃により目が焼けるような光が発生しただけだ。威力は比べ物にならないほどで魔術万能攻略書(ルナ・ブレイクマニュアル)の対魔力を貫き、ヒポグリフとアストルフォに大きなダメージを与えた。

 電撃が止むと同時にヒポグリフは消え、アストルフォは頭から地面へと降下する。

 何の術もなく頭から激突して煙幕のように土ぼこりが舞い上がる。

 

 「イタタタ…たんこぶが出来ちゃうよ」

 

 普通の人間なら死んでいた所だがサーヴァントにしたらこの程度では死ねないし、寧ろダメージになっていない。

 頭をなでなでと摩りながら上を見上げると何もなかったように浮遊する要塞が見える。

 現状どうしようもない事に対してどうしようかと悩み始めると、遠くから近づいてくるエンジン音が耳に届く。

 

 

 振り向くと自身へと速度をあげながら突っ込んでくるキャンピングカーが映った。

 

 

 「うわぁあああ!?」

 

 猛スピードで蟹走りの如くドリフトしながら迫ってきたキャンピングカーを何とか避け切るが、慌て過ぎたのか顔面から地面に突っ込んでしまった。

 ぶつけた鼻頭を抑えながら振り返ると、タイヤ痕を派手に残して停車するキャンピングカーよりサーヴァントが降りてきた。

 

 見忘れる訳がない。

 聖杯大戦初のサーヴァント同士の戦いを行い、自分が相手を務めた元仲間。

 

 「元気そうだね君」

 「そちらは随分とボロボロだけどね」

 

 立ち上がり、馬上槍を構える。

 相も変わらず鉈のような剣を構えて対峙するサーウェル。

 背を向けたキャンピングカーより怒声が響く。

 

 「オイ。お前が先に出んのかよ」

 「ここは私に任せて頂けますか?モー…セイバーは先へ」

 「……チッ、敵城の一番乗り済ませてるから後から追って来いよ」

 

 短くそれだけ会話を済ませるとキャンピングカーは再び発進して猛スピードで戦場を駆けて行く。

 残った二人は見つめ合いながら膠着状態を保つ。

 止まったままでは埒が明かず、アストルフォは頬を掻きながらぽつりと言葉をかける。

 

 「一応聞くけど赤の陣営として参戦したんだよね?」

 「はい。赤の陣営側に付いて―――いえ、赤のセイバー陣営(・・・・・・・・)に加わってここに立っております」

 

 妙な直しに疑問を抱いて首を捻る。

 何と無しに理解した。

 薄っすらとした勘程度だけど気のせいじゃないと思いたい。

 

 「う~ん、ちょっとこれは勘なんだけどさ。君達もしかしてボク達と仲間になれるんじゃないかな?」

 「可能性は無きにしもあらずと言ったところでしょうか。勿論現状は不可能ですが…」

 

 少し残念だなぁと呟きながらも望みが無いわけではない事に笑みを零す。

 正直言えばあの日の事を後悔していた。

 あの少年は助けを求める者の瞳をしていた。それをマスターの命とは言え無理やりにいう事を聞かせようとした自分。断ったところで令呪を使われただろうというのは言い訳だ。

 ボクは英雄としてあるまじき行為をしたと思っている。

 それを防いでくれた彼には感謝しているのだ。

 

 「それでそれで君はボク達と戦いに来たと」

 「我が主君の命はそれに近いですが、ここに来たのは私情」

 「と、いうと?」

 「貴方との決着を付けに来ました」

 

 困ったような表情で語られた言葉よりその表情自体が多くを語っていた。

 ごちゃごちゃと考えるなんてらしくない。

 負けず嫌いの騎士が自分を指名して現れたんだ。

 ならばやる事は一つしかない。

 

 「そっか。そうなんだね。―――良し!」

 

 元からそれしかないと言われればその通りだが、心持がだいぶん変わって感じる。

 今は凄く晴れ晴れとした気持ちで槍を振るえる。 

 

 「元騎士王専属料理人兼騎士で、現在ロシェ・フレイン・ユグドミレニア様のサーヴァント、サーウェル!貴殿に一騎打ちを申し込む者なり」

 「シャルルマーニュが十二騎士が一人、アストルフォ!受けて立とう!!」

 

 不敵に笑い合った二人は飛び掛かり、振り下ろした得物同士が激突して辺りに余波で薙ぎ払う。

 まるで一緒に遊んでいるかのような無邪気な笑顔を浮かべて…。

 

 

 

 

 

 

 モードレッドは懐かしさのあまりニヤケ面を晒してしまう。

 アイツが先陣を切るなんてあの時(・・・)以来なんじゃないか?

 

 「何か面白い事でもあったの?」

 

 唯一同乗している(・・・・・・・・)ジャック・ザ・リッパーが首を傾げながら疑問を口にする。

 英霊でもないただの殺人鬼のジャックに悪感情しか抱いていないモードレッドだが、今は気分が良くて普通に「おう」と肯定した。

 赤の陣営も黒の陣営もぶつかり合っていて自分達に対応することは出来ず、ただ敵地をドライビングするだけというのもつまらない。暇潰しがてら昔話を聞かせてやるのも良いかも知れないな。

 

 アレは何時だったか…。

 そうだ。

 ブリテンの地に黒いドラゴンが現れた頃だった。

 人気の少ない地に巣を作り、大人しくしていれば何もなかったかも知れないが、ドラゴンは上空より狙いを定めて人間を襲い出した。

 時には食事。時には遊び道具として多くの民を殺した。

 王は騎士を送りつけたが、ドラゴンの硬い鱗に覆われた表皮を貫けずに敗退。

 次は円卓の騎士を含んだ大規模な討伐隊を差し向ける事となり、俺やランスロット、ガウェインを含めた円卓の騎士が五名が討伐隊に組み込まれた。

 討伐隊には当時は鉄で出来ていた鉈を主武器としていたサーウェルも居り、見た時は驚いたものだ。

 道中の休息の時に声を掛けると「騎士としてでなく調理班として同行している」との事だった。

 まぁ、ドラゴンとの遭遇まで日数があったし、道中芋か干し肉だけの食事からサーウェルの飯にランクアップしたと思えば食事が楽しみになったという事でそれほど気にしなかったが、考えてみればおかしなことばかりだった。

 

 何故行軍中のサーウェルは他の食糧班と行動を共にせずに陣形の中央に居るのか?

 何故いつも隣にガウェインが監視するように居たのか?

 何故マーリンがにやにやと笑みを浮かべていたのか?

 

 答えはドラゴンと遭遇後、王の口から告げられた。

 

 ―――サーウェル。ドラゴン討伐の先陣を切る事を命じる。

 

 あの時のサーウェルの驚きようと言ったらもう思い出しただけでも笑っちまうよ。

 キッチンでは冷静沈着で調理中は真剣な表情を崩さないアイツが目を見開いて口をあんぐり開けてからおろおろと狼狽えるんだ。笑っちまうだろ?

 

 Q:私は調理班として呼ばれたのでは?

 A:―――すまない。そうでも言わないと実戦を嫌っている事から道中逃げ出しそうだったのでな。

 

 Q:ドラゴンの装甲は剣では貫けぬと聞きましたが?

 A:―――マーリンから聞いている。何でも貫通特化の魔槍を保有しているらしいな。

 

 Q:魔術強化によって近接戦は行えますが肉体的に得意という訳ではありませんので…。

 A:―――魔槍を使用後、魔術での後方支援を任せよう。

 

 何とか逃げ道を探しては口にしても、王により一刀両断にされ、結局は渋々先陣を切らされることになったんだ。

 槍っつても投擲用の槍だった事もあってアイツは投げたら速攻で下がろうとしていたよ。

 何故分かるかって?

 足はドラゴンでなくすぐ振り向けるようにしてたし、腰がもろに逃げ腰なんだよ。新米の騎士でもあそこまで酷くねぇってのに。

 そして奴は言われるがまま槍を投擲したんだ。

 

 「で、ドラゴンは死んじゃったの?」

 「いや、生きてたよ。アイツ肝心なところでミスりやがってな。胴体を狙っていた筈なのに右翼に当てちまったんだよ」

 

 一撃で仕留めそこない、それまで余裕を見せていたドラゴンは目の色を変えて襲って来たさ。

 なにせ逃げようにも翼を砕かれて飛ぶことも出来ないし、槍は翼だけでなく右腕まで貫いてしまったんだからな。

 手負いの奴ほど恐ろしいもんはない。

 必死な抵抗に俺達円卓の騎士も本気で斬り掛かり、サーウェルの魔術による支援を受けて討伐するには討伐したが想定していた以上に被害は大きかった。

 あのドラゴン退治以降アイツは戦場に赴いた際には決して臆するような事はしなくなったんだ。

 もう二度と自分の愚かな行動で味方に被害を出さないようにと。

 

 「へぇ、そうなんだぁ」

 「っと、無駄口が過ぎたな。テメェ、やる事忘れてねぇな!!」

 「うんと………解体?」

 「違ぇよ馬鹿!」

 

 ようやくミレニア城砦に接近し、数体のホムンクルスが立ち塞がるがモードレッドは城砦にしか目を向けていない。

 ジャックの方は解体しようかとホムンクルスしか見ていないが、無駄な事に時間を裂いている暇はない。

 

 「俺達がやる事はあん中にある大聖杯の捜索だ。邪魔する奴は倒せば良いが、逃げる奴は放っておけ!良いな!!」

 「解かったよ。邪魔する奴だけ解体すれば良いんだよね」

 「――――それで良い」

 

 舌打ちしながらとりあえず肯定しながらモードレッドは鎧を装着して天井を突き破って外へと躍り出る。続いてジャックも飛び出し、二騎は立ち向かってくるホムンクルスだけを切り裂き、城内へと侵入を果たした。

 全ては他の赤の奴らと黒の陣営を出し抜いて自分達が大聖杯を手に入れる為に。



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第12話 「全面戦争 動く第三勢力」

 「ウゥアアアアアア!!」

 

 フランケンシュタインは避ける事も躱す事もしないどころか概念すら持っていないように、アーチャーに対して我武者羅にただ前へ進むべく駆け抜ける。

 最悪だとアタランテは苦虫を潰したような面で、弓を構えては矢を放つ。

 英雄・英霊であるサーヴァントであるからしてただの人間相手なら前衛を行える。

 殴るだけでも一国の軍隊でも相手に出来る自信がある。

 得物を手にし、魔力供給を安定させれるならば三千世界とて一騎で滅し切れる。

 だが、サーヴァント相手ならばいけない。

 誤差の範囲内で同じ土俵に立つ彼ら彼女らの戦場ではそうはいかない。

 

 「これだからバーサーカーは!!」

 

 目前まで迫ったウエディングドレスを着たフランケンシュタインの一撃を躱し切り、距離を取ろうと後ろへと跳躍する。

 同時に振り抜いて立ち止まった標的に二、三発矢を撃ち込んでおく。

 どうせ痛みなど感じてないのだろう。

 どうせ何事もなかったように突っ込んで来るのだろう。

 頑丈な肉体を無防備なまま晒し、重鈍な凶器を振り被ってこちらの命を絶たんと向かってくるのだろう。

 

 せめて足を止めようと力を込めた一矢を膝へと放が、矢は直撃する寸前で叩き落された。

 忌々しくも足を止めていたフランケンシュタインの横をすり抜け、接近するジークフリートへ矢を向ける。

 

 「すまないが――ここで倒させてもらおう」

 「厄介な!」

 

 弓兵でありながらも現状狂戦士と剣士の二騎の相手をしなければならない。

 ちらりと横目でカルナの方向を見るがあちらはあちらで戦っている。

 正直この戦場は赤側が不利過ぎる。

 サーヴァントの数が足りないというのにシロウ・コトミネは赤のバーサーカーの出撃を渋っている。さらに大規模な攻撃手段を有している空中庭園は移動と防衛するばかりで自ら戦闘に参加する意欲を感じさせない。

 さらにこちらの有力な二騎が押されているという事もある。

 神性持ちあるいは神造兵器でなければ傷一つ受けることの無いアキレウスに、魔力消費は激しいが大規模な火力を誇るカルナ。

 サーヴァントの中でも高い戦闘能力を持つ二人でも黒の陣営を押しきれない。

 向こうには場所がルーマニアという事で補正が入って通常以上に強くなっているヴラド三世と、名前までは知らされてないが神性スキルを持ち、アキレウスと対等に渡り合えるサーヴァントが居るらしい。

 当初ならカルナが抑えてアキレウスで敵サーヴァントを複数抑えるという策で行けたが、現状それも叶わなくなってしまい八方塞がり。

 後はシロウ・コトミネが言う作戦が上手く行くことを願うばかり。

 

 接近してくるジークフリートは距離を詰めながら剣を振り被る。

 フランケンシュタインのように振り被って足を止める気はないらしい。

 後ろに距離を取ってもそのままの勢いで詰めてくるか…。

 覚悟を決めなければならないだろう。しかしながらただでやられる気はない。

 そんな思いを抱きつつ弓を振り絞ったアタランテはちょうど中間に落ちた影に気付いて手が止まる。同様にジークフリートとフランケンシュタインも警戒しつつ立ち止まる。

 空から何かが振って来て、勢いによって砂ぼこりが立ち、確認がし辛い。

 お互いに何があるか分からない状況で迂闊に動けず距離を取って、砂ぼこりが晴れるのを待つしかない。

 

 「アイタタタ…どんだけ吹っ飛ばすんだよアイツ」

 

 目を凝らして見つめていると土ぼこりの中から姿を現したのは、腰を強打して摩っているアストルフォであった。

 不利だった状況がさらに上がって最悪となる。

 ただでさえ二騎を相手にしていたというのにここに来てさらにもう一騎追加など対応仕切れるわけがない。幸い落ちてきたアストルフォは状況を理解しておらず無防備。

 好機と見たアタランテはすかさず矢を射るが、咄嗟に前に出たジークフリートが身を挺して庇う。

 

 「うぇええ!?ちょ…大丈夫!?」

 「問題ない。動けるかライダー」

 「勿論動けるさ」

 

 矢が通じていない。

 舌打ちする余裕もなく迂回するようにフランケンシュタインが迫る。

 ここまでだろう。

 一旦撤退を視野に入れて行動しなければ殺られる。

 

 「石壁よ」

 

 小さな呟きが耳に届き、振り向くとそこには漆黒の鎧に真紅のビロードマントを靡かせた騎士が立っていた。

 フランケンシュタインの目の前に地面より壁が生え、突然の事に足を止めさせる。そして次の瞬間には壁の中腹より横向きに壁が生えてフランケンシュタインの腹部に直撃して吹っ飛ばす。

 

 「貴様は黒のキャスターだな」

 

 直に会った事は無いがシロウより報告は聞いていたので、すぐにそれが黒を裏切ったサーヴァントだと理解した。

 

 「えぇ、そうですが…嫌な所に出てしまったようですね」

 「前衛を任せれるか?」

 「無理ですね。今の私では一騎が精々」

 

 セイバーのような出で立ちだったために多少期待したが、やはり現状は変わらないか。

 

 「ですので―――石棺よ」

 

 すぐ近くで地面が盛り上がり、あっと言う間に棺のような形へと変貌する。

 

 ―――起きよ。

 棺の蓋が開いて中より騎士の鎧を着用した隻腕の青年が姿を現す。

 ―――戦闘態勢。

 脇にあった剣を手に取り立ち上がり正面を見据える。

 ―――正面の二人を敵対勢力と視認せよ。

 瞳が動いて相手をしっかりと捉える。

 ―――隣の女性は仲間だ。 

 ちらりとこちらへ視線を向けて来る。

 

 「ゴーレムマスターだったな」

 「逐一命令せねば動きません。それと性能はサーヴァントに劣ります」

 「何もなかった先ほどよりずいぶんとましだ」

 「では、私は支援に回ります」

 

 数では互角だがこれがどうなる事か…。

 向こうもアストルフォを新たに含めてこちらと戦う気満々らしい。

 視線を合わせて戦闘に備える。

 

 先に動いたのは黒の陣営だった。

 敵の先鋒を務めるのはフランケンシュタイン。

 馬鹿みたいにまた正面より突っ込んで来る。

 対してサーウェルは焦る事もなく周りに目を配り、短く息を吐き出して微笑んだ。

 

 「下がれベディ!―――石槍!!」

 

 フランケンシュタインの進行方向に待ち構えるように地面より土の槍が生え、槍先を得物で薙ぎ払う為にも足が止まる。

 その横をライダーが走り抜ける。かなり高い突進力で突き進むが、同じ要領で土の壁が何枚も展開され…。

 

 「アイタァアアアア!?」

 

 顔面から突っ込んで行った…。

 バーサーカーでも立ち止まるだけの知性を持っていたのに、あちらは考え無しかと呆れながら槍先を薙いだフランケンシュタインの膝に矢を撃ち込んだ。

 唯一突破したジークフリートが剣を振り被る。

 迎撃するはサーウェルのゴーレムだが、真っ向から斬り勝とうとはしていない。

 躱したり、受け流したりして足止めに専念させて動きを鈍らせている。

 

 ―――いける!!

 前衛としては弱々しいがそれをカバーし得る能力と技術。

 しかし油断して気を抜けば一気に瓦解する。だからその前に方を付けなければならない。

 

 意気込みを胸に次の矢を構えた。

 

 ―――ガァアアアアアア!!

 

 森からここまで届いた咆哮に手が止まり、この場に居る全員の動きが止まった。

 その叫びは全員の胸中に不安を抱かせるには充分な異質な叫びであった…。

 

 

 

 

 

 

 ミレニア城砦近くにある森の中に、聖堂教会の神父であるシロウ・コトミネの姿があった。

 通常のマスターなら自身のサーヴァントを前面に押し出して、身を隠すのが上策である。下手に前に出ても敵性サーヴァントに補足されれば、一部の例外を除いて殺害されるのは必至。

 戦場から離れていると言っても危険地域で、いつサーヴァントが向かってきてもおかしくない状況で、彼は悠々と散歩でもしているかのように歩いている。

 別段死にたがりという訳ではなく、ここを歩いているのは待ち合わせをしているからに過ぎない。

 

 「お待たせ致しました。頼んでいた物は出来てますか?」

 「勿論です。こちらで宜しいかな?」

 

 ようやく出会えたシェイクスピアとジーン・ラムに微笑みを向けながら頼んでいた品の催促を口にする。

 さっさと戦闘地域より離れたいシェイクスピアは頼まれた日本刀を持って、足早に近づいて差し出した。この日本刀はシェイクスピアのエンチャントにより強化された物で、これならサーヴァントを仕留めることも可能となる。

 受け取った日本刀を握り、刀身を鞘より覗かせて日本刀の状態を確かめると満足気に頷いた。

 

 「要求通り…それ以上ですね。どうですキャスター。今からでも私の下に来ませんか」

 「急な話ですな。しかもその言い方ではまるでマスターを裏切ってと言わんばかりではありませんか」

 

 「貴方は聖杯に願う望みではなく、その過程を閲覧したいのでしょう。なら私は特等席を準備できますよ」

 

 その提案はシェイクスピアにとって渡りに船であった。

 なにせ彼は指摘された通りに聖杯への願いではなく、誰かが手にするまでの工程に興味があるだけだ。

 獅子劫達と共に前線近くに行くよりは空中庭園で眺めていた方が身は安全だし、何よりこの物語を観測しやすい。

 

 「なるほど確かに確かに。それはとても魅力的で心が躍ります」

 「なら―――」

 「ですが残念ながら私は応じることが出来ない。なんとも悲しく惜しい事ではありますが、貴方とはここでお別れのようだ」

 

 風が吹いた訳でもないのに草木が騒めいた。

 同時に駆け抜ける足音に反応して刀を鞘より抜き放って、躊躇う事無く振るう。

 激しい金属音と火花が散った。

 敵対者を視認すると紫色の鎧を着た騎士であった。

 

 「そういう事ですか」

 

 後ろに跳躍しながら懐に忍ばせていた黒鍵を指と指で挟んで複数本構えるが状況を理解して投擲する前に動きを止めた。

 目の前のランスロットタイプのゴーレムもそうだが、右斜め後方に銃器を構えた獅子劫とガウェインタイプのゴーレムが剣を構え、左斜め後方には銃器を手にしたモルドとロシェが待機しており、完全にシロウは囲まれていた。

 

 「貴方は黒の陣営に戻ったという事でしょうか」

 「先生から貴方は信用できないと仰られました。ならそれはボクの敵です」 

 「貴方がたをこちらに受け入れるのを認めてしまったのが裏目に出てしまいましたか。まさかこうも味方から刃を向けられるとは…」

 

 交渉の余地のないロシェに苦笑を浮かべ、獅子劫やラムにも視線を向けるがどちらも似たような反応だ。

 

 「出来れば殺さずに済ましたい。投降してくれると楽なんだが」

 

 冷静かつ容赦のない瞳がこちらを睨みつける。

 熟考する余裕はなさそうだ。

 しかしながら投降や誰かの言いなりになる気はない。

 シロウ・コトミネにも叶えたい大望があり、それは手の届く位置にまで引き寄せられておるのだ。

 諦めきれる筈もない。

 

 「で、どうするのかしら?たった一人でサーヴァントを相手に……訂正するわ。魔術師三人とサーウェル特製のゴーレム三機を相手にするつもりかしら」

 「確かに分が悪いですね」

 

 例え日本刀を持っていても数の有利と地の利を得た相手に勝てる保証はない。

 構えていた手をぶらりと下げて抵抗の意志は無いように見せる。

 

 「残念ですがここでお別れのようです」

 

 諦めて死を選んだような言葉に油断せず、獅子劫はトリガーに指を掛け、脳天へと狙いを定めた。

 シロウ・コトミネはここで終わる。

 イレギュラーさえ無ければその筈であった。

 

 「本当に残念で仕方がありませんよ。味方陣営を殺してしまうかと思うと心が痛みます。ですがこれも人類の救済の為――――バーサーカー」

 「ガァアアアアアア!!」

 

 木々の間より何者かが跳び出してシロウの前に着地した。

 異常な身体能力に呼称したバーサーカーというクラス名。

 理解した獅子劫とラムは示し合わせたかのように木々で姿を隠す。

 それがどれほどの意味があるかなどは承知のうえで…。

 

 「クソッ!俺達の行動なんて予測済みだったって訳か!!」

 「いえ、元々彼女は制御が難しく連携が取れないので控えさせていただけでしたが、それが光明と成ったようです」

 

 「そろそろアサシンが目的を達成させるところでしょうから良い頃合いです」

 

 戦場を知らないロシェでもコレは不味いことは理解している。

 例えサーウェルのゴーレムが三体あろうともアレには勝てないと察している。

 

 「これは不味いですよ!」

 「言われなくとも解ってる!こういう時は逃げるぞ!!」

 

 獅子劫の判断に従って一目散に逃げだすマスター達を掩護するようにモルドはスモークグレネードを辺りに投げて離脱する。

 慌てる様子もなく見送ったシロウは安堵の吐息を漏らす。

 

 「逃げますか。良いでょう――私は追わないでおきましょう」

 「私ハ―――ワタシハ…」

 「お行きなさい。あちらには貴方が探している者、欲している物がありますよ」

 

 シロウの言葉を耳にしたバーサーカーは目を見開いて、示された方向を充血した瞳に睨みつける。

 遠くに見える古城…。

 目標を捉えたバーサーカーは喉を潰さんばかりの咆哮を上げ駆けだした。

 鮮血で染まり、所々が破れている青のバトルドレスを纏った彼女は、漆黒に染まる聖剣とみすぼらしい槍を手に走り続ける。

 自らの望みを叶えるだけを願い、仲間と共(・・・・)に戦場へと遅参するのだった…。



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第13話 「全面戦争 裏切りと共闘」

 ――咆哮が聞こえた。

 それは聞こえたか聞こえないかの僅かな声。

 勇ましくも悲しくもある魂の叫び…。

 

 僅かでも聞き取ったモードレッドはミレニア城砦内より外を見つめる。

 窓より咆哮が聞こえた方向へと視線を向けようともその姿は映らない。代わりに憎らしい奴らが微かに映る。

 舌打ちしながら駆け出す。

 

 「ここでもないねぇ。あれ、何処に行くの?」

 

 駆け出したのを防衛戦力であった武装したホムンクルスを解体したジャック・ザ・リッパーは、首を傾げて疑問符を投げかける。足を止める様子がないことに慌てて追い掛ける。

 

 「ねぇねぇ、どうしたの?」

 「うるせえ!テメェは聖杯を―――ッ!?」

 

 探しとけと言い終わる前にモードレッドは足を止める。

 走っていた廊下に影が落ちる。

 月明かりが雲によって遮られたのなら気にしない。が、月明かりを一部遮った物の影は雲では無く、見ただけでも人工物の類だと理解する。

 振り返って窓より上を見上げるとそこには降下を始めた空中庭園の姿があった。

 何をする気だと眺めていると空中庭園の下に建っていた屋敷が上部から崩れ、引き寄せられるように空を舞う。…いや、引き寄せられるようにではなく、実際に引き寄せられている。

 

 「――チッ!」

 

 目の前で奪われる大聖杯。

 遠くから聞こえるあの人の悲痛な叫び。

 自身の願いを叶えるのであれば迷う事無く大聖杯へと駆けるべきだ。

 苛立つモードレッドは舌打ちひとつ慣らし、大聖杯を後回しにして後者へと向かおうとする。

 

 「大聖杯は任せる。俺は別にやる事が出来た」

 「やる事?」

 「あぁ、ワリィな…」

 

 立ち止まりそれだけ告げられたジャックはキョトンと驚き、にっこりと満面の笑みを向ける。

 

 「良いよ。なら行ってくるよ」

 「――任せた」

 

 ジャックは空中庭園が吸い上げている方へと走り出し、モードレッドは窓を突き破って駆け抜ける。

 あの人の下へと向かう為に。

 

 

 

 

 

 

 ―――悪夢か。

 

 ロシェは先生に頼まれた事柄を完遂出来なかったという罪悪感より、背中にビシビシと感じる圧を発するサーヴァントに対して悲痛な悲しみを覚える。

 森の中を駆ける獅子劫 界離にジーン・ラム、ウィリアム・シェイクスピアに続いて走り続けながら、ちらりと背後を振り返ると、青色のバトルドレスに手には聖剣らしき武器に鎧こそ違うもののモードレッドに瓜二つの顔立ちが瞳に映り込む。

 

 何度も目にしたあの青いバトルドレスに手にする聖剣エクスカリバー。

 モードレッドに瓜二つのその顔。

 先生(サーウェル)の仕えた王であり、先生を殺した騎士王“アルトリア・ペンドラゴン”

 

 悲痛と苦しみに歪む表情の赤のバーサーカー(・・・・・・・・)にロシェは忌々しく睨みつける。

 

 邪険にされたモードレッドと騎士王の間をとりなし、意地で早食いを開始した二人を諫めたり、マーリンの厄介事に巻き込まれたりする日々。

 色々面倒な目にも合いながらも調理場で繰り広げられる騎士王とモードレッドのやり取りを穏やかな笑みを浮かべて眺めていた

先生。

 先生がその日々やあの最期をどう思っているのかを察する事は出来ないが、一つだけ分かる事がある。

 あの人と先生を絶対に戦わせる訳には行かない。

 いや、あのような騎士王を見せる訳にはいかない!

 

 「斬り捨てろ!!」

 

 足を止めて命令を発する。

 今にも追い付こうとしていたアルトリアは上段より斬りかかったゴーレムの一撃を防ぎ、狂戦士(バーサーカー)を得てアップした腕力任せて押し返す。

 

 「アァァ…アア!」

 

 弾き飛ばしてゴーレムを正面より見据えたアルトリアは信じられないものを見たかのように、目を見開き慄いた。

 それが一体何を意味していたのかをロシェは知る由は無かった。

 が、それこそ最悪の選択を取ってしまった瞬間だった。

 血涙を流し始めたアルトリアは憎らし気に表情を歪めてゴーレムを睨みつける。

 その夢で見て来た表情と大きく異なる禍々しい顔に短く悲鳴を漏らしてしまう。

 

 「ソウカ…貴公マデ私ヲ裏切ルカ……ランスロット卿!!」

 

 叫びあげて聖剣を高らかに掲げて何かをしようとしたが、その前に甲高い発砲音と同時に後方へと吹っ飛んで転がった。

 何事か理解できずに辺りを見渡したロシェは、デグチャレフPTRD1941を片手に全力疾走してきたモルドに抱えられ一気に獅子劫達と合流させられる。

 

 「離脱します」

 「駄目だ!!アレは先生に出会う前に何とかしないと」

 「ゴーレム如きでサーヴァントを倒せるならこの聖杯戦争は当に決着がついてます。冷静になって下さい」

 「―――ッ!?……すみません」

 

 淡々と言われた言葉に熱くなった心が覚め、冷静になって謝罪を口にする。

 先を見つめると森を抜けたところで獅子劫達が、ここに来る前に調達した八人乗りの大型車へと乗り込もうとしているところであった。

 

 「遅いぞ何してた」

 「叱咤は後に。出してください」

 

 森の方へ視線を向ければアルトリアは立ち上がり、先ほどしようとしていたように聖剣を振り上げた。

 何をする気なのかは理解できないがさせるのは不味い。

 ロシェは素早くランスロットを模したゴーレムに時間を稼ぐように命じる。

 倒す事は不可能だとしても遅延行為なら多少は出来るだろう。

 

 振り上げられた聖剣は地面に深々と突き刺され、周囲は真紅に染まる。

 赤々と輝く森の中に薄っすらと何かが…誰かが浮かび上がった。

 それは騎士だ。

 軽装備の鎧に剣と盾を手にした騎士。

 否、それだけではない。

 体格を一回りも二回りも大きく見せる鎧を着込んだ重装備の騎士。

 騎馬に跨り槍や自軍の紋章が描かれた旗を手にする騎兵。

 己の身長より長い槍を手にする騎士。

 様々な装備を付け、得物を手にする騎士団。

 

 時間を稼ごうとしたゴーレムはアルトリア(バーサーカー)は発動した宝具により蹂躙され、瞬く間に土くれへと還った。

 

 「出すわよ」

 

 六導 玲霞の声が社内に響くと車は全速力で走り出す。

 見た目に反して荒々しい運転に車内は大きく乱される。

 あっちこっちに転がりそうになったロシェはモルドによって無事だが、ジーン・ラムも獅子劫 界離もウィリアム・シェイクスピアも床の転がって抗議の視線を向けていた。

 

 「おい!なんて運転するんだ!!」

 「あら?貴方のサーヴァントに教わったのだけれど」

 「教わる相手を確実に間違えている気がするわ」

 「吾輩もそうは思いますが、今はアレから逃げることが先決でしょう」

 「それで何処に向かうのかしら?」

 「ミレニア城砦へ。あの爺さんが上手く事を運んでくれることを信じてだけどな」

 

 当初の予定とは狂い、応用を利かすと獅子劫に連絡してきたウォルターを信じて敵地へとロシェたちを乗せた車は進むのであった。

 

 

 

 

 

 ミレニア城砦は混乱の真っただ中にあった。

 戦場にサーヴァントが出払っている状態での、赤陣営の空中要塞での奇襲。さらに大聖杯の奪取などを敢行されれば当然と言えば当然だろう。

 フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは弟のカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと共に当主のダーニック・プレストーン・ユグドミレニアの下へと向かっていた。

 

 「どういう事だ!何故ここに居るのだ!!」

 

 曲がり角の先からゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの怒声が聞こえ、曲がり角より顔を覗かせるとそこには怒りを露わにするゴルドと不審げに通路よりダーニックの室内を睨んでいるセレニケ・アイスコル・ユグドミレニアの姿があった。

 何事かと二人に並んで中へと視線を向けるとダーニックと対面している一人の人物がそこに居た。

 

 誂えられたスーツにシルクハット、杖を手にした老人はその鋭い眼光と嘴のような鷲鼻をダーニックからフィオレ達の方へと向けた。

 かなりの高齢者のはずなのに姿勢は一切の乱れなく、長年かけて得た力強さが瞳に籠っていた。

 

 「落ち着け。話を続けようか」

 

 それはゴルドに向けられたのか、あの老人に向けられたのかは分からないがダーニックは話を続けるつもりらしい。

 

 「誰だよあの爺さん」

 「ウォルター・エリックと言ってたわ。何でもサーウェルの一面のひとつとか」

 

 セレニケが出した名前にフィオレは思い出す。

 確かアーサー王伝説を研究していた人物で、サーウェルの存在を調べていた資産家。

 一面のひとつの意味が理解しきれなかったが、今重要なのはそこではない。

 そのサーウェルの関係者が何故ここにいるのかだ。

 ウォルターは静かに口を開いた。

 

 「儂らからの提案は一つ。赤側のバーサーカーを倒すまでの共闘」

 「我らを裏切り、奴らを裏切った貴様たちを信じろと?」

 「信じろなど烏滸がましいことは言わないさ。ただ利用しろと言っておる」

 

 まさかの言葉にフィオレを含めて眉を歪ませた。

 すでに二度に渡り黒の陣営と戦闘を繰り広げたサーウェルの使いが、共闘を口にすれば当然そうなる。

 特にセレニケとフィオレは戦ったサーヴァントのマスターとなれば尚更だ。

 だがそれを口にすることはない。

 空気は読めるし、今交渉している相手はダーニック。

 なら黙って静観が適切だろう。

 そう判断した二人を差し置いてゴルドが憤怒を露わにして一歩も二歩も前に出る。

 

 「ふざけるな!貴様らの力を借りずとも我らは――」

 「――吠えるな若造」

 

 部屋中に響き渡る怒声を静かに放たれた言葉が消し飛ばした。

 言葉に込められた威圧に鋭い視線が向けられたゴルドは息を呑み口を閉ざした。

 黙り込んだのを確認してウォルターは続ける。

 

 「本来の計画であれば儂らは戦闘のどさくさに両方へ攻撃を仕掛けて乱戦に持ち込んで、大聖杯を奪う計画じゃったがあの赤のバーサーカーを見たらそれどころでは無くても。あれは中々儂らに因縁深い存在で放置できん」

 「だから倒すまでの共闘か」

 「それにもはやユグドミレニアには現時点で勝機はないじゃろう?

  ユグドミレニアは大きな力と資金を持っておる。始めであればユグドミレニア一族の勝機は揺るがないと思っておったが、現状はもうそうではない。

  赤側がここに大聖杯がある事を知っており、奪う手段を模索していた事からあのうさん臭い神父めは同じぐらい前から準備を進めていたと見える。

  すでに大量の資金を消費し、防衛線を有利にする砦は崩壊。戦力であるサーヴァントは数で負け、多を占めるホムンクルスは大きく数を減らされた。そして止めと言わんばかりに大戦の要である大聖杯を奪われた。

  これから大聖杯奪還の為にサーヴァントを動かしても、あの赤のバーサーカーが召喚した大量の騎士によりミレニア城砦は蹂躙され、マスター達は皆殺しに合うであろうよ」

 

 何の感情も無く、淡々と突き付けられる事実をダーニックは静かに聞き続けた。

 表情には忌々しく思うところがあったのだろうが、訂正や批判は一切せずにありのまま受け入れた。

 

 「確かに少しでも戦力が欲しい状況ではあるな」

 「儂らを後方に置けとは言わぬ。あの赤のバーサーカーを倒すために力を貸す―――いいや、貸して貰いたい」

 

 上から“貸せ”でも対等に取引するのでもなく“貸してほしい”と減り下った言葉に深々と頭を下げた行動に、ダーニックは微笑む。

 

 「ふふっ、良いだろう。赤のバーサーカーを倒すまでの共闘だ」

 「良いのですかダーニックおじ様」

 「こうなってしまっては致し方ない。それにこのままでは我がユグドミレニア一族の悲願が潰えてしまう」

 

 質問に簡潔に答えたダーニックは四人の間を通り過ぎて何処かへと向かおうとする。

 っと、その前に部屋を出た辺りで足を止めて、ウォルターへと振り返る。

 

 「最前線を任せる。精々役に立って貰うぞ」

 「畏まった。役に立たせてもらおう」

 

 それだけ言うと歩みを続けて去って行った。

 交渉が済んだウォルターも早々に部屋をあとにしようとしたが、その前にフィオレは気になった事があり呼び止める。

 

 「一つ質問があるのだけれど…」

 「何かなお嬢さん」

 

 こちらに向けられた表情はゴルドに向けられたものと違いとても穏やかな表情であった。

 だからと言って彼に対する警戒心は消えることはない。

 

 「貴方は赤のバーサーカーを見たからと仰られました。しかし現れてからここに来たにしては早すぎる。貴方は何をしにここへ来たのですか」

 

 予想は出来る。

 だからこそ聞いてみたい。

 ウォルターは少し考える素振りをして、一人納得したように頷いた。

 

 「儂の肉体は土くれで出来ており、改造するには容易く再度作る事は可能。乱戦となれば敵地に忍び込んで使い捨ての駒として指揮官を潰すのに向いていると思わんかな?」

 

 笑いながら答えられた内容にタラリと冷や汗ひとつ流す。

 もしも赤のバーサーカーが現れずに自分の所に来ていたら…と怖がったわけではない。

 そんな事を百も承知であったダーニックが二人っきりで交渉していた事実。

 何故と疑問も沸くが、どうやってダーニックを交渉の場に付かしたかの方が断然気になり、同時にこの老人が恐ろしいものに見えた…。

 

 

 

 

 

 

 咆哮が聞こえたのはモードレッドだけではなかった。

 ミレニア城砦より森に近かったサーウェル達にはより良く聞こえていた。

 声の主を察するだけでなく、森で作戦を実施していたマスター達が失敗した事も…。

 苦虫を潰したような面を晒し、殺気を向けて来たアタランテから跳躍して距離を取り、ゴーレムへの命令権を自分に戻しておく。。

 それらの事にジークフリートもフランケンシュタインもアストルフォも不審に思って攻める手を止めた。

 

 「貴様…裏切ったな」

 「伝わったようですね」

 

 身の危険を感じながらもそれ以上にマスターとの繋がりを確認し、無事だという事に安堵する。

 マスターが無事なのは良いが自身がいま最も危険な事には変わりない。

 後方には赤のアーチャー(アタランテ)、前方にはジークフリートにフランケンシュタインにアストルフォなどの黒のサーヴァント。

 完全に挟まれた状況に表情が歪みそうになる。

 焦りを出さぬように気を付けながらアタランテの言葉に答えて行く。

 

 「裏切りに裏切りを重ねる――信用を一切合切失う行為ですが、あの神父とアサシンにはモルガンに似た嫌な感じがしたんですよ。ああいう類は絶対何かしら厄介な事を仕掛けてくるでしょう」

 「だから我々を裏切るか」

 「貴方達というよりは神父を裏切ったが正解なのですが、まぁ同意語としてとられるでしょうね」

 

 会話を続けながらこの状況を打破しようと思案する。

 前方の黒のサーヴァント達を蹴散らしてこの場を脱出―――不可能だ。生前の私ならいざ知らず、現状の私では接近戦に持ち込んだ時点で敗北する。

 なら後方の赤のサーヴァントを倒す―――無意味だ。例え倒せたとしても黒のライダーに追い付かれるし、疲弊した上で三騎を相手にすることになる。

 黒の陣営に戻るか―――あり得ない。私は裏切者で、さらに裏切りを重ねた事を察している彼らが私を受け入れる筈がない。

 とりあえずこの場を生き残る為に赤のアーチャーに今は共闘しようと持ち掛ける―――無駄だな。私ならそんな相手を囮にして撤退を行う。

 どれだけ思案しても打破する方法は浮かばない。

 焦りで冷や汗を掻きそうになる。

 

 「さて言い残す事はあるか?」

 「たくさんありますがそれら全て聞いてもらえますか?」

 「時間稼ぎなら待つ気はない。それに私が待ったところでお前は死ぬだろう」

 「潰されるか斬られるか貫かれるかされるでしょうね」

 

 会話を長引かせても無意味。

 なら命を使い潰す覚悟で彼らに少しでも手傷を追わしてモードレッドに託す。

 それしかない…。

 

 そう思い込んだ瞬間、黒のサーヴァント達の表情が変わり、戦闘態勢に変わった。

 後ろから放たれた強弓に、剣を構えて突っ込んできた黒のセイバー。

 絶体絶命のピンチにサーウェルは覚悟を決め―――次の瞬間にはその覚悟は無駄に終わっていた。

 

 「…何故?」

 

 漏れたのはそんな一言。

 赤のアーチャーがサーウェルに向けて放たれた矢は、通り過ぎた黒のセイバーの一振りで弾かれた。

 何がどうなっているか理解できなかったサーウェルに不用意にアストルフォが近づく。

 

 「マスターからの指示さ」

 「一体どういう…」

 「なんでもウォルターって人が交渉しに来て、赤のバーサーカーを倒すまで共闘することになったんだってさ」

 「……そうか」

 

 同じ魂から生まれたというのに理解しかねる。

 否、同じ魂が基でも生きてきた時代も経験も異なればこうも違いが出るのかと納得し、サーウェルはアタランテに向き直る。

 共闘すると聞いてもこちらにも唸り声を向けているフランケンシュタインを気にしながらだが…。

 

 「形勢は圧倒的不利だな」

 「逃げられると困ります。黒の陣営に助けてもらった感謝に首のひとつでも提供したいところですからね」

 「それは無理な相談だな」

 

 強気に不敵に笑ったアタランテはある方向を指差した。

 警戒しつつそちらに視線を向けると何かを聞き取り、感じ取った…。

 

 地面が揺れる。

 地震や爆発などによる揺れではなく、規則正しくリズムを刻む。

 一つ一つは微かなものでも群となり、力強く踏みしめられた足音…。

 隊列を組んで進む騎兵に歩兵。

 見覚えのある旗を掲げた一団に寒気を畏怖を抱き、サーウェルは二歩も三歩も下がった。

 不味い…不味い、不味い不味い不味い!!

 血の気が引く思いに駆られながら一団の進行方向を確認すると、取り戻したかのように顔色は戻り、さらに険しい表情を晒す。

 

 「ゥウウウ…」

 「なにアレ?何処の騎士団?」

 

 騎士団の中より騎兵が真っ先に突っ込んで来る。

 対して身構える黒の陣営より先にサーウェルが石槍を複数地面より生やして槍衾を形成する。勢いを殺しきれなかった騎馬は石槍に突き刺さったが、騎士達は馬に刺さると同時に飛び降りて槍や剣を手に襲い掛かって来た。

 そのどさくさに紛れてアタランテは姿を消していたが、もはや気にする余裕はない。

 

 「撤退です。貴方がたの要塞前まで後退しましょう」

 「ウゥ?」

 「賛成だな。アレだけの数を相手にするのには不安がある」

 「ってちょっと待ってよ。アレ全部サーヴァント!?」

 

 驚きの声を挙げるアストルフォの言葉に焦りは大きくなる。

 

 あの時の騎士王は酷く心を病んでいた。

 なにせ子と公言しなくても少なくとも良好な関係を築いたモードレッドを、危険だと認識するほど精神が疲弊していたのだ。狂気に支配された彼女はカムランの丘に到着するまでに多くの者を殺した。

 道中に村があるなら背後から討たれるかも知れないと焼き払い、旅人や商人が並んで歩いていると敵と認識して攻撃させたり、行いに付いて行けずに隊列から離れた者には裏切者として首を刎ねた。

 歩けば歩くほど死人が出来、彼女に従う騎士達は忠誠心のみで狂剣を振るう悪鬼羅刹と変貌して行った。

 そんなものがこの世に現界してしまえば世界は跡形もなく蹂躙され続けるだろう。

 ミレニア城砦の黒陣営だけで済めば良い。

 だが、予想ではあるが騎士団はそのまま突き進み、近くの街や村を潰して行くだろう。

 それだけはさせれない。

 聖杯大戦に無関係な人を巻き込む巻き込まないとかではなく、騎士団の皆にも騎士王にもそのような事をさせたくない一心でだ。

 

 「先の魔術で何とか出来ないのか?」

 「出来るのは多少の時間稼ぎでしょうか。陣地を構築して迎撃できれば良いのですが…」

 「仕方ない。乗って!!」

 

 アストルフォは幻獣のヒポグリフを呼び出し、後ろに乗るようにサーウェルに促す。

 その警戒心の無さには考えるところがあったものの、先に行って準備をしなければいけないサーウェルには渡りに船。従って後ろに飛び乗る。

 同時にベディヴィエール型のゴーレムを石棺に入るように命令して地中に戻しておく。

 飛翔して駆けてミレニア城砦へと戻るジークフリートとフランケンシュタインよりも先に向かう。

 心に焦りが生じているサーウェルに対してアストルフォは笑っていた。

 それが妙に気になりサーウェルは首を傾げた。

 

 「なにがそのように面白いのですか?」 

 「だってさ。君、ボクと最初に会った時のこと覚えてる?」

 「勿論ですよ。出合い頭にマスターを狙い、足を消されたのですから忘れる訳がないでしょう」

 「ウッ…そこは忘れておいてほしかったかな」

 

 乾いた笑みを浮かべながら頬を掻く。

 皮肉を込めた冗談はそこそこにサーウェルは微笑む。

 

 「今は…今だけ(・・・)とは言え仲間ですね」

 「覚えてくれてたんだ。っふふ、頼りにしているよサーウェル!」

 「こちらこそ貴女(・・)を頼らせて頂きますよ」

 

 二人は同じような笑みを浮かべる。

 ただ……。

 

 「ところでボク男だよ」

 「―――え!?」

 

 その発言でサーウェルの表情は驚きにより膠着するのであった。



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第14話 「全面戦争 庭園突入」

 お久しぶりです。
 七月の投稿以来二か月ほど書けず、今月まで投稿無しとなり申し訳ありませんでした。
 今月より毎月一話投稿に戻ります。


 黒の陣営は窮地に立たされていた。

 確保していた大聖杯は奪われ、本拠地であったミレニア城砦の一部が崩壊、そこに雪崩れ込んでくる赤のバーサーカーによる現出したサーヴァントの群れ。

 目を覆いたくなる事実の前に嘆いている暇もなく、黒の陣営は両陣営の裏切者である第三陣営と手を組んで城砦を攻めて来るサーヴァントの撃退と大聖杯の奪還と言う二つの作戦を実行するのだった。

 そして大聖杯を奪い格納した赤のアサシン“セミラミス”の宝具、虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)内では壮絶な戦闘が開始された。

 

 見事な装飾が施された塵一つ無い通路に火炎が走り抜ける。

 生物が受ければ血液が沸騰し、一瞬で蒸発するほどの火力を持つ火炎は地面より伸びた複数の杭により受け止められ霧散した。

 散った炎へ向かって二本の矢が放たれるが矢は目標物に当たる前に迎撃に放たれた一本の矢により弾け飛ぶ。

 

 「返して貰おうか盗人ども」

 「――断る。そしてここから先に進ませる訳にもいかない」

 

 火炎の余熱も消え去りヴラド三世(黒のランサー)が姿を現し、淡々と答えながらカルナ(赤のランサー)が立ちはだかる。

 ルーマニアの英雄であるヴラドは知名度補正と領土を得た事で、元々のステータスを大きく上回る力を得ている。

 対するカルナは高い火力と技を持ち、単身で空を駆ける機動力を持っているが、魔力補充が現在はバーサーカーを優先している為に追加での補充を受けられない状態にある。

 地上で斬り結び、決着の付けれなかった英雄二人。

 出合ったのなら敵味方関係なくやる事は一つ。

 視線がぶつかり合い、今にも火蓋が斬り落とされそうな間を嬉し気に笑みを浮かべたアキレウス(赤のライダー)が駆け抜けた。飛び出した敵に目もくれないヴラドはそのままカルナへ向かって無数の杭を生やして行く。

 無視された訳ではなく己が相手を見据えたヴラドの対応にアキレウスは不意打ちなどは行わず、元々狙っていたヴラドの後方に居るケイローン(黒のアーチャー)へと襲い掛かる。

 

 「やはり私狙いですか」

 

 読んで居たがその読みすら突破しようと迫るアキレウスに覚悟を決めて弓を仕舞い、槍に触れると流れるまま後方へと投げ飛ばす。

 不死属性を持ち神聖属性持ちでしか攻撃の通らない事はアキレウスを知るケイローンにより黒の陣営に知れ渡っており、そのためアキレウスの相手は自然に唯一神聖持ちのケイローンが務める手筈になっている。

 ゆえに地上でサーウェルと一緒に戦いがっていたが、こちらに振り分けられてしまったアストルフォ(黒のライダー)が気を取り直して二本の矢を放って来たアタランテ(赤のアーチャー)へと槍を構えて突撃す。

 

 「地上での再戦だよ!」

 「弓兵に真正面から無策で突っ込むとは愚かな!!」

 

 睨みながら力を籠めるアタランテは見逃さなかった。

 何か含みがあるようなアストルフォの笑みを…。

 警戒を強めた瞬間、アストルフォの背より何かが舞い上がった。

 仕込みがあったかと忌々しそうに射角を挙げて飛翔物へ矢を射るが、飛翔物は天井へぶつかるや否や加速し自身に向かって突っ込んで来るではないか。

 

 「アハハ、女の人だ――――解体するよ」

 

 少女の容姿に似合わない程の殺気を放ちながら、目を爛々と輝かせたジャック・ザ・リッパーに歯ぎしりする。

 歯軋りしたのは弓兵である自身がアサシンとライダーの二騎により接近戦を仕掛けられそうになっているからではなく、ジャックが自身が護りたがっている子供の容姿で迫る様子に少しとて躊躇いそうになったことにだ。

 相手はアサシン。

 そうでなくともサーヴァントであるからには子供の容姿だろうて容赦はしない。

 後方へ距離を取りながらすかさず矢を放ちながら牽制を掛ける。

 さすがにバーサーカー(フランケンシュタイン)のように受けながらも突っ込んで来ることはなかったが、アサシンだけあって動きが軽快だ。一対一の狩りであるならば仕留めれない相手ではないがもう一騎のライダーが馬鹿みたいに突撃してくるから注意が逸れる。

 

 四対三のサーヴァント戦。

 アキレウスとケイローンも、ヴラドとカルナも互角の戦いを見せていた事から決着は早々にはつかない。

 唯一と言って良いのがアタランテに襲い掛かった二人が有利というぐらいだ。

 当初はアストルフォ単体で相手をする筈だったが、モードレッドに頼まれて一人大聖杯を頼まれたジャックが大聖杯強奪にかこつけて庭園に忍び込んでいたのが幸いした。

 しかもジャックは渡されていた携帯電話より事情を聴いており、確認も取れた事で共同戦線に素直に参加したのは時間も限られた黒側にしてみれば大きい。

 あとはジャックとアストルフォがアタランテを討ち取り、ヴラドに加勢するか先に進んで赤のアサシン(セミラミス)を討ち取れば事態は黒陣営に大きく傾く。

 

 

 その筈だった…。

 

 「―――ッ!!馬鹿な…」

 

 地上では互角以上の戦いを繰り広げていたヴラドが押されているのだ。

 それも一つの分野とかでなく、技の切れも腕力も速度もカルナの火力を抑えきれていた杭の力も比べるまでもなく落ちている。

 信じられない事実に当の本人が一番驚きを隠せないでいる。

 対してカルナは素で「調子が悪いなら出直すか?逃亡するなら追いはしない」と告げるものだから、王としての矜持があるヴラドは冷静さを欠いて斬りかかる。

 さらに状況が悪化していくヴラドとカルナの戦いを庭園へと移ったダーニックが上の通路より見下ろしていた。

 彼の領土ではなくセミラミスが支配する空中庭園では王としての能力が限定され、能力を発揮できていないヴラドは押されてついには膝をついてしまう。

 その光景により眺めていただけのダーニックは口を開く。

 

 「立ちなさいルーマニアの王よ。己が願望の為にもここで消え去りたくはないでしょう」

 「ダーニック……、何故ここに?」

 

 驚きを隠せないヴラドはダーニックに問うが問いの答えは返ってこない。

 それどころかいつになく高圧的な態度が目立つ。 

 

 「我々は何としても大聖杯を取り戻し、どんな手を使ってでも我がユグドミレニアに勝利をもたらさねばならないのです。そう、どんな手を使ったとしても…ね」

 「貴様…まさか私にあの宝具を使えと言っているのか?」

 「それ以外に勝機があるとでも?」

 「―――貴様ッ!!」

 

 何をしようとしているのか察したヴラドが怒鳴るが、ダーニックは気にも止めていない様子。

 

 「あれって何かヤバくない?」

 「どうでも良いよ。それよりもこっちの方がヤバいよ」

 

 ダーニックとヴラドの会話と雰囲気に危なげなものを誰もが感じ取り、口にしなかったことをアストルフォは口にした。

 話しかけたジャックからは返答と一緒に蹴りを喰らわされる。

 戦闘中にいらんことを言うな――なんて理由ではなく、隙を狙ったアタランテの一矢を回避させる為に蹴ったのだ。

 さすがに吹っ飛ばすことは出来ないけど顔の角度を変えさせいて掠める程度で済ませることは可能であった。

 

 右手をかざして高らかに命じる。

 その命令は自身のサーヴァントが最も忌むべき行為。

 死後に後世の者らが付け加えた物語により生まれた呪い。

 自身の生き様や一族を侮蔑するような付け加えられた怪物を具現化させる宝具。

 これを使えば殺すとまで脅されたが、ここで使わなければ敗北は必須。

 

 「宝具鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)を発動せよ!!」

 「ダーニック、貴様ぁ!!」

 

 令呪によって強制的に起動した宝具によりヴラドの肉体は豹変する。

 左胸から杭が飛び出、腕や爪や八重歯が伸び、筋肉量の増加。

 目は赤く輝き、ぎょろりと飛び出る。

 己が忌み嫌う吸血鬼に変化するのを何とか押し込めようと藻掻くヴラドの意に反して吸血鬼化が進む。

 

 「私はぁ…私は吸血鬼などでは…吸血鬼などではないのだぁ…」

 「第二の令呪をもって命ずる!大聖杯を手にするまで生き続けろ!!」

 「―――ッ!!」

 

 このままでは吸血鬼となり、英霊ヴラド三世の意志が掻き消えてしまう。

 消え去る前に己にこのようなことを仕出かした愚者にヴラドは襲い掛かる。

 突進しながらダーニックの腹部に槍を突き刺し、串刺しにして睨みを利かす。

 

 「くぁ…」

 「貴様の思い通りにはならぬ」

 「重ねて第三の令呪をもって命ずる―――我が存在をその魂に刻み付けろぉ!!」

 

 血を吐き出しながら最後の令呪を使ったダーニックは、ヴラドの後頭部を掴んで自らの首筋に押し当てる。

 吸血鬼化して起こった強烈な喉の渇き。 

 それが鼻孔より体内へ行き渡る新鮮な血潮の香りにより鮮明に血液を欲せさせる。

 踏みとどまっていたヴラドの意志は吸血鬼の欲求に呑み込まれ、血液を求めてダーニックの首筋に噛みつき血を啜った。

 

 「これで良い!これで我が長き夢が―――成就する!!」

 

 ダーニックが叫ぶと肉体が掻き消えヴラドと一体化する。

 一つの身体に二つの意志が存在し、ヴラドは藻掻き暴れる。

 様子を伺っていたサーヴァント達は呆気にとられた。

 

 「乗っ取り!?そんな事が…」

 「令呪の力か?」

 「馬鹿な…あり得ん!!」

 

 苦しんでいたヴラドは大きく跳躍して待機させていたホムンクルスの群れの中に降り立った。

 このホムンクルス達は対サーヴァント戦を想定して連れて来たものではなく、広い庭園内を効率よく索敵して聖杯を見つけ出すためにつれてきたのだ。

 そのホムンクルスの一人を捕まえると首筋に噛みつき、水音を立てて血液をむさぼり啜る。

 飲み切ったホムンクルスを放り捨ていると次のホムンクルスへ噛みつく。

 吸われて投げ捨てられたホムンクルスは立ち上がり、呻き声を漏らしながら周囲で無事なホムンクルスへと襲い掛かり血を啜る。

 異様な光景が続き、ホムンクルスのすべてが吸血鬼ヴラドの眷属にされ、血を求める化け物へと変貌を遂げた。

 満足そうに血を吸い終えたヴラドはサーヴァント達に向き直る。

 

 「フハハハハ。さて、私の聖杯を返してくれ!!」

 

 吸血鬼の力によって強化された杭が周囲に生える。

 飛び退いた英霊達が貫こうと徐々に範囲が広がっていくが、何者かが振り払った一撃にて食い止められ、その者に怪訝な表情を浮かべた。

 

 「…ルーラーか」

 

 ルーラー(裁定者)

 聖杯により呼び出されたマスターいらずのサーヴァント。

 召喚される事事態が稀であり、召喚されたという事はその聖杯戦争は世界に歪みをもたらす可能性があるという。

 その為の裁定者。

 その為の中立のサーヴァント。

 

 忌々しいルーラーの登場にヴラドを乗っ取ったダーニックは睨みつける。

 ルーラーは見ただけで相手の真名を暴く“真名看破”、10キロ四方にも及ぶサーヴァントに対しての“知覚能力”などの能力が与えられ、その能力の中で一番厄介なのが参加しているサーヴァントに対して使用可能な令呪を二画ずつ保有している“神明裁決”がある。

 これを使用すればヴラドに命令を下す事も、この場に居る全サーヴァントによる討伐も可能となる。

 一度黒の陣営に訪れた事もあり、ルーラー…ジャンヌ・ダルクの性格は凡そ見当がついている。

 彼女ならば必ず吸血鬼などという存在を許すはずがない。

 

 「令呪をもって命ずる!!」

 

 思っていた通り令呪を用いての束縛に吸血鬼化したヴラドの力で対抗する。

 無理やり解除出来たがどうやら端っから予想はしていたジャンヌはあまり残念そうな表情はしていなかった。

 

 「やはりだめですか……事情はおおむね把握しています。聖杯戦争の調律の為、一時的には貴方がたには協力体勢を敷いて頂きたいのです。彼を倒すまでは休戦を」

 

 突然の裁定者からの提案にこの場に集うサーヴァント一同が動きを止める。

 視線が向けられる中、ジャンヌは強い瞳を皆に向けて続ける。

 

 「もしあの吸血鬼が、いえ、吸血鬼の眷属にされた者が一人でも外に出れば世界は彼らで溢れ、世界は吸血鬼により飲み込まれてしまいます。この吸血鬼達を外へ、そして聖杯の元へ辿り着かせる訳には行きません」

 

 彼らは英霊だ。

 殺人鬼であったジャックを除いた英霊達は事の重大さを受け止めており、英霊として語られた彼らの意思はそのような物を容認することは出来やしない。

 全員が協力しようと大きく頷いた。

 

 「ルーラー、ジャンヌ・ダルクの名において、この場に集う全サーヴァントに令呪をもって命じる。吸血鬼を打倒せよ!!」

 

 令呪により力が全身を巡り、それぞれの意志が一つの目標へと向けられる。

 最早英霊と呼べる存在ではなくなってしまった世界を破滅へと誘える怪物。

 

 先に動いたのは吸血鬼側だった。

 血を吸われたホムンクルス達が意思も持たぬゾンビ(動く死体)ともグール(食人鬼)とも見える吸血鬼の眷属になり、唸り声を挙げながらただひたすらに突き進んでくる。

 囮だという事は誰の目にも明白。

 案の定、眷属たちの頭上を跳び越えたヴラドは壁を足場に通り抜けようとしていた。

 追うのは当然後者なのだが、囮だからとあの眷属の一匹たりとも逃がす訳にはいかない。

 

 「アハハハハハハ!」

 

 アタランテやケイローンが矢で射貫く前に、ジャックより放たれた投げナイフが眷属たちの脳天を貫く…否、頭蓋ごと頭部を吹き飛ばした。

 令呪によるブーストにより受けた威力にご満悦そうに眷属の群れの中へと跳び込み、二刀のナイフで次々と人体らしき肉片が宙を舞い、臓物や血潮により壁が赤く染め上げられる。

 ジャックが飛び出した事で眷属は任せたと言わんばかりに残りはヴラドへと攻撃を集中する。

 

 アタランテが放った矢を回避しつつ通り抜けようとしたヴラドは死角より襲い掛かったケイローンの蹴りをまともに受けて壁に叩き込まれる。呻き声を漏らす暇も与えられずにケイローンの矢がヴラドを壁に固定し、アタランテの矢がさらに突き刺さる。

 このままでは不味いと判断したヴラドは身体を霧状にして矢から逃れ、再度聖杯へ向かって進もうとするがそこにアストルフォが襲い掛かった。

 脳裏にアストルフォの宝具の効果が過り、受け止めずに回避に専念。

 躱し切ったと同時にアキレウスが神速で突っ込む。

 至近距離で振るわれた槍によって身が削られ痛みがそこら中より響く。

 が、それに構っている場合ではない。

 アキレウスの穂先を素手で掴み、衝撃にて皮膚が吹き飛んで血管や肉が露出するもすぐに再生され元通りに修復される。

 驚きを隠せないアキレウスを槍ごと振り上げて地面に叩きつけ、衝撃で舞い上がった土埃を煙幕代わりに利用してアーチャー達の射線から身を隠す。

 弓兵にとっては良い手だったかも知れないが、カルナにしてみれば関係ない事であった。

 

 槍先より放たれた炎が土煙ごとヴラドを焼く。

 火達磨にされて金切り声を挙げながら現状を打開しようとジャンヌに向かって飛び掛る。

 

 予想していなかったのか飛び掛られたジャンヌは手にしていた旗を両手で掴み、ヴラドの猛進を真正面から受け止めた。

 炎が消え去り、焼きただれた皮膚が再構築され、血を啜ろうと開かれた大口より牙が覗く。

 何とか押し返そうと両足を踏ん張り、両腕に力を籠める。

 

 「――触れれば転倒!(トラップ・オブ・アルガリア)

 

 背後よりアストルフォの槍がヴラドの腹部を貫いた。

 痛みによる悲鳴を挙げながら両足が消滅したヴラドは床に転がり、これ幸いにとジャンヌが旗を振るって壁にと叩きつける。

 壁は衝撃により大きな凹みを作り、衝撃を殺し切れなかったヴラドはバウンドするように地面へと激突。

 この隙を逃すまいとアタランテとケイローンの矢が突き刺さり、再び霧状にして逃げるがその先にはアキレウスが待ち構えており、通り様に左腕を斬り落とされる。

 勿論修復するだろうがこの状況でその時間すらも命取りになるのは必須。

 回復を待たずに右腕の腕力だけで逃れようと宙へと舞う。

 

 「―――詰みだ」

 

 飛翔したカルナが槍を振るい、より一層強い火力で焼かれる。

 さすがの吸血鬼もこの攻撃には耐え切れずに床に転がると呻くだけで身動き一つできない様だ。

 止めを刺そうと槍を振り上げ、カルナの一撃によりヴラドは聖杯大戦より退場した………。

 

 

 いや、する筈だった。

 

 突然カルナ、アタランテ、アキレウスが苦しみ出し、その場に膝を付いたのだ。

 急な事態にケイローンもジャンヌもアストルフォも戸惑い、その隙にヴラドは再び腕の力だけで飛翔する。

 続いて生えた左腕も使って通路を突き進む。

 

 「ちょ!どうするのこれ!?」

 「追います!」

 

 慌てるアストルフォにジャンヌが即座に答え、三人は残っている眷属をジャックに任せて後を追う。

 通路内には侵入者用のトラップが設置されていたものの、サーヴァント相手には足止めにしかならず、三騎は負傷することなく突き進んでいた。

 しかしながらヴラドに追い付くことは終ぞできなかった。

 あの負傷具合でトラップが作動しているのにも関わらずだ。

 

 嫌な予感がジャンヌとケイローンの脳裏に浮かぶ。

 トラップは自分達だけでヴラドには作動させていないのではないか?それは誘い込むように…。

 

 通路を抜けた先には部屋があり、開け放たれていた扉より一歩踏み込んだところで三騎とも足を止めた。

 

 そこに居たのは神父の装いをした涼し気な笑みを浮かべた白髪の青年と、幾つもの剣が突き刺さり灰と化していながらもギリギリ原型を残しているヴラド三世が横たわっていた…。



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第15話 「全面戦争 騎士王との対決 前編」

 先月分投稿出来ずに申し訳ありません。
 


 空中庭園で戦闘が行われている中、地上でも大規模な戦闘が行われていた。

 赤のバーサーカーであるアルトリア・ペンドラゴンによるミレニア城砦攻め。

 宝具によりサーヴァントとして具現化した狂乱の騎士達の猛攻により、ユグドミレニア一族の防衛線は次々に突破されていた…。

 調整は施したと言ってもホムンクルス。

 強弱はあるだろうがサーヴァントを相手にするにはきつすぎる。

 ゆえに現在地上の最前線を保たせているのは戦闘に特化したサーヴァント達。

 ジークフリートにフランケンシュタイン、モードレッドの三騎。

 準戦闘要員のモルドはミレニア城砦前の最終防衛ラインにて待機し、シェイクスピアは構築されている最終防衛線より戦場を眺め、肌で感じながら執筆活動に大忙しだ。

 

 その最前線で戦うモードレッドは激高しながら剣を振るう。

 あの騎士の鏡と言えた騎士王が不信に苛まれながら向かったカムランの丘。

 王の狂気を知りながらも忠義の為、王の為と自らも狂気に呑まれた騎士達。

 数だけ多い敵ってだけでも腹立たしいというのに、あの騎士達だと思うと余計に憎しみが増す。

 怒りを込めた力任せの一撃が一人どころか五人纏めて横薙ぎにする。

 

 「糞が!斬っても斬っても切りがねぇ!!」

 「ウー…」

 

 同意したのか近くで騎士を得物で叩き潰したフランケンシュタインが唸る。

 大地が埋め尽くされるほどの騎士は居なかった筈だ。

 如何にホムンクルスが敗れようと確実にモードレッド達三騎が倒している。なのに数が一向に減らない。否、寧ろ増えているようにも感じる。

 苛立ちを口と剣で発散しながらも不満が生まれる。

 唯一口に出していないジークフリートも味方(ホムンクルス)だけ減り、敵騎士だけが増えているような現状に違和感と憤りを感じてはいる。

 憤りに関しては相手にと言うよりは現状を打開できない自身に対してだ。

 宝具を使えば状況は大きく変わるのだろうが…。

 その想いが通じてかマスターであるゴルド・ムジーク・ユグドミレニアから命令が下った。

 

 「了解したマスター。下がれバーサーカー、赤のセイバーよ。宝具を使用する!」

 

 突然の声に反応してモードレッドとフランケンシュタインが振り返り、すぐさま理解して射線上から退避する。

 すると空いた隙間に騎士達が入り込むがジークフリートは動じない。

 

 「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす」

 

 構えた聖剣に魔力が流れ、膨大な力が蓄積されるのが肌身で感じる。

 溢れる力は輝き、周囲を照らす。

 

 「―――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!」

 

 ジークフリートが上段より剣を振り下ろすと黄昏の剣気が放たれ、騎士達を呑み込みながらアルトリア・バーサーカーを屠ろうと突き進む。

 夜を照らす輝きはなんの障害も無く突き進み、王をも呑み込むだろうと思われた(・・・・)

 

 「…卑王鉄槌。極光は反転する」

 

 聞こえる筈がないのだが王の声が聞こえた気がする。

 背筋が凍り付きそうな冷たい声に対し、怒りがふつふつと湧き上がる。

 なにかが起こると勘が告げる。

 王を呑み込む結果ではなく、自分達の意に反する事態が起こると。

 

 「―――光を呑め!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

 

 アルトリアより対城宝具が放たれ、漆黒が対抗するようにジークフリートの黄昏の剣気に真っ向から激突する。

 お互いに拮抗して周囲の騎士達は余波により消失。

 闇夜を照らす宝具のぶつかり合いが落ち着き、再び闇と静けさが戻ると消え去った筈の騎士達も戻っていた。

 現状に苛立ち舌打ちをするモードレッドに獅子劫からの指示が届く。

 

 「遅いんだよったく、最終防衛ラインまで後退しろってよ!」

 

 後方でホムンクルスの指揮を執っていたサーウェルがようやく勝機を見つけたのだろう。

 喜ばしい事だが悪態を付き、さっさと後方へと駆けだす。

 続いてフランケンシュタインとジークフリートも後退を開始する。

 ホムンクルス達をその場に残して…。

 

 

 

 

 

 

 「えぇい!何だというのだあのサーヴァントは!!」

 

 苛立ちを隠そうともしないゴルド・ムジーク・ユグドミレニアの怒声が指令室と称された一室内に響き渡る。

 ロシェは五月蠅いなぁと思いながらもホムンクルスにモードレッド達撤退までの時間稼ぎの指示を出す様子を眺める。

 この一室にはゴルド、フィオレ、カウレス、セレニケのダーニックを除く黒の陣営のマスター達。協力体制を敷いた獅子劫にロシェ、そして指揮を執っているサーウェルの姿があった。

 姿の無いモルドは最終防衛線で待機、居ても五月蠅いシェイクスピアは屋上で見物。やる事がない六導とジーンも戦場を屋上より眺めていた。

 現状に苛立つゴルドにフィオレが落ち着くように宥める。

 

 「落ち着いてくださいゴルドおじさま」

 「これが落ち着いてられるか!もう城前まで来ているというのに!!」

 「だからこそ冷静に対処せねばならないのです」

 「う、うむ…そうだ……そうだな」

 

 一時的とは言え落ち着きを見せたゴルドに獅子劫は苦笑いを浮かべて軽く手をあげて注目を集める。

 

 「撤退させたって事は何か策が練れたと考えて良いんだな……キャスター(・・・・・)

 「サーウェルで構いませんよ。どうせバレていますので隠す必要もありません」

 

 微笑を浮かべた表情にロシェは安堵する。

 戦いが始まって以来、険しい表情を浮かべて思案を巡らす様子に気圧されていたので、それだけの余裕が出来たのだと思ったからだ。

 安堵感を胸に獅子劫の問いを続ける。

 

 「先生。勝ち目があるんですよね」

 「勿論です」

 

 全員の視線がサーウェルに集中する。

 ここで現状を打開する策が無ければこのまま仲良く討ち死にするしかない。

 

 「現状の厄介なのはあの騎士達を召喚する宝具と長距離にまで届く対城宝具の二つ」

 

 ホムンクルスではサーヴァントの騎士を相手にするのは厳しい物があり、遠目で眺めていたが数が減った様子がない。

 減らない兵士に、当たれば一撃で葬れるであろう長距離攻撃。

 まるで動く城砦だ。

 それを少ない兵力で攻略するのだ。

 少し考えただけで絶望しそう…。

 

 「どう考えても魔力消費量は甚大でしょう。しかしながら何度も使用している所を見るに魔力消費の問題を解決した現状で魔力切れを狙うのは愚策に終わる可能性があります。手段に関しては予想は出来ますがね」

 

 ロシェは口を噤んだ。

 サーウェルが言った予想できるというのは、赤側に寝返った際に伝えたホムンクルスを用いた魔力回復の事だと理解したからだ。ホムンクルスでないにしろ同様の方法を用いたであろうことは明白で、それを口にすることはしたくなかった。

 無論であるがここに居る半数は理解しておきながらも口には出さない。

 ゴルドなどなら理解したら罵声を浴びせていたところだろうけど、そんな事よりもしなければならない事があると分かっているからだ。

 

 「宝具を攻略するほかありません」

 「馬鹿か貴様は!」

 

 食って掛かるゴルドにロシェは負の感情を露わに睨むがサーウェルがそっと遮る。

 よく周りを見るとゴルドみたいに苛立ちを露わにしていないが疑問符を浮かべている様子だった。

 

 「見えんのかあのサーヴァントの群れを!アレを突破して肉薄しようとしても対城宝具で薙ぎ払われるわ!そして近づいたとしてもサーヴァントを自身の周囲に展開されたら……」

 「えぇ、理解しております。その上で問題を排除します」

 

 再び怒鳴るゴルドをフィオレとカウレス、見かねて獅子劫も宥めに入る。

 そんなゴルドに一切の興味のないセレニケが話の続きを促す。

 

 「本当にそんな事が出来るの?」

 「出来ますよ。まずあの騎士を召喚する宝具ですが、人数に上限がある事が今までの戦闘で分かりました」

 「減れば増やして数を補充する…道理で減らない訳だわ。それに魔力補給に目途があるからこその戦法よね」

 「左様です。加えて両方を同時に使われるようなことがあれば打つ手なしでしたが、先の対城宝具の撃ち合いの際に減った数が戻っていなかった所を見るに、宝具の同時使用は無理なのでしょう」

 「つまり何か。対城宝具を撃たせている間に騎士を減らすのか?」

 「違います。騎士を減らさぬように引き付けて、対城宝具に対城宝具をぶつけている間にサーヴァントを接近させて討ち取るという簡単なものです」

 「簡単って…」

 

 言うのは易し…。

 そう易々と事を成せるわけもなく、実際には問題は幾つも生じるだろう。

 対軍宝具を使うとなるとどちらかのセイバーが残り、防衛も考えたらフランケンシュタインを置くことになる。となれば騎士王を倒しに向かうのはどちらかのセイバーとサーウェルのみ。

 果たして本当に上手く行くのだろうか。

 

 「仕方がない。セイバーに対軍宝具を再び使用させよう。ここの護りでバーサーカーを置くとして、接近するのはそちらのセイバーとキャスターになるか」

 「いえ、相手は騎士王。私と彼女(モードレッド)だけでは不安が残りますので、私ではなく龍殺し殿(・・・・)に行ってもらいましょう」

 「おい、ちょっと待てよ。一応言っておくがバーサーカー(フランケンシュタイン)は撃ち合いは出来ないからな」

 「はい。撃ち合いの役目は私が請け負います。とっておきの対城宝具がありますので、黒のバーサーカーには発射時の援護を願います」

 「解かった。バーサーカーに伝えておく――」

 「先生…駄目ですよ」

 

 話がまとまり、他に案もない事からそれで行くかと流れが出来上がったが、ロシェ一人は納得できずに異を現す。

 唱えた意味を知らずに怪訝な表情を向けられる中、サーウェルだけ罪悪感溢れる表情で見つめ返してくる。

 

 「我が主よ。申し訳ありません」

 「駄目です!」

 

 眼前で跪いて頭を垂れる。

 怒鳴っても嘆いても止まってくれないだろう。

 でも止めずには居られない。

 先生のあの宝具を使用した際、どのようなことが起こるか分かったものではないのだ。

 死ぬ可能性だってある。

 我侭だと分かりながら止めようとするロシェは、面を上げたサーウェルの瞳を見て言葉が詰まった。

 

 「どうか約束を果たせない私を恨んで下さい。

  そして厚かましいようですが私に役目を果たす機会を」

 

 もうこの人はボクを見てはいない。

 先生の心はあの丘に今もあるんだろう。

 赤く染まった乾いた大地に…。

 令呪で自分を連れて逃げ出すように命じようかと葛藤するが、そんな事をすれば先生は二度とボクを見てはくれないだろう。

 流れ出そうな涙をぐっと堪えながら睨みつける。

 

 「…分かりました。けど生きて帰って下さいね、サーウェル(・・・・・)

 「――――最善を尽くします」

 

 深々と頭を下げてサーウェルは去って行く。

 見送る事しか出来ない自身に激しい怒りを覚えて拳を握り締める。

 

 

 

 

 

 

 前線が後退した事で一気に騎士達がホムンクルスを打ち倒して雪崩れ込んできた。

 最終防衛ラインには残存しているホムンクルス数体とモルドが待機しているが、焼け石に水滴を垂らす程度の事しか出来ないのは明白。

 正面からぶつかり合えば確実にミレニア城砦はあっと言う間に騎士達に制圧されるだろう。

 

 ふわりと上空を跳んだ。

 闇夜を背景に純白のドレスを纏いし少女が空を舞う。

 見惚れるほどの美しさを持った彼女、フランケンシュタインは手にしていた得物を振り上げ、降下するにつれて黄緑色の電流を纏った一撃が振り下ろした。

 

 「ゥウウウウアアアアアアア!!」

 

 叫び声と同時に騎士団の中央に振り下ろした一撃は周囲の騎士を風圧と電撃によって吹き飛ばす。

 何事かと理解できなかった騎士達も敵サーヴァントを視認して隊列を組みなおす。

 フランケンシュタインは隊列を組みなおす様を威嚇だけして攻める事はしなかった。

 マスターからの指示は着地地点の防衛ただ一点のみ。

 

 「助力感謝!」

 

 続いて跳び下りたサーウェルはフランケンシュタインと背を合わせる。

 陣形を立て直すのは想定済み。

 その時間を生かして希望の一手を打つ。

 出来ればこんなものは使いたくなかった。

 戦いによって荒れた大地にあの丘を重ねつつ、サーウェルは腹部を軽く撫でる。

 これは王に対する不忠の表れであり、私の様な者を召喚して下さったマスターの想いを踏み躙る行い。

 酷い裏切り行為でありながらも、ここで使用しなければ確実にマスターは騎士王によって蹂躙され、朝日が昇るよりも早くに屍を晒す事になるだろう。

 それだけは何としても阻止しなければならない。

 例えマスターの願いを無下にしても許すわけにはいかないのだ。

 大きく深呼吸を繰り返し、ようやく覚悟を決めたサーウェルは右手を天へと掲げる。 

 

 「王より簒奪せし最果ての光よ。我らに立ちはだかる者を討ち、救いを与えよ」

 

 祈るように囁いた一言。

 呼応するようにサーウェルの付近に金色に輝く粒子が舞い上がり、囲むように周囲を漂う。

 神秘的な光景の真っただ中でマスターの号令を待ち、ロシェの泣きそうな叫びが響き渡る。

 

 「令呪をもって命じる……宝具を解放せよ!!」

 

 大きく頷き、令呪の後押しを受けたサーウェルは高く上げた右手を振り下ろして、自らの腹部に突き刺した。

 金色の粒子に血飛沫が混じるが気にすることなく、苦悶の表情を浮かべたまま腹の中からナニカを引き摺り出した。

 それこそは騎士王アルトリア・ペンドラゴンが所有していた槍で、サーウェルに死を与えた凶器であり、死の間際に騎士王から奪ってしまった宝具。

 ただ舞っていた粒子が槍の出現に呼応するように寄り付き、槍に螺旋状に粒子が舞い踊る。

 

 「務めを果たしてください!せんせええええええ!!」

 

 再度投げかけられた言葉に笑みを漏らす。

 不忠の騎士に勿体なき主ばかりだ。

 引き抜かれた槍が何なのか解って大慌てで騎士が押し寄せるが、もう恐怖も何も感じない。

 高らかに簒奪してしまった聖槍の名を叫ぶ。

 

 「最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

 

 抜き出した槍を渾身の力を振り絞って前に突き出すと周囲の暗闇を照らし尽くすほどの輝きが放たれ、進行方向に存在した騎士達を呑み込みながらアルトリア・バーサーカーへと突き進む。

 対するアルトリアは黒く染まった聖剣を掲げ、宝具を使用しての迎撃を行ってくる。

 解りきっていた。

 そして霊基にひびが入るような損傷覚悟で取り出して弱り切ったサーウェルと狂化されたとはいえ万全な状態のアルトリア。

 聖槍を使用したとはいえ押し負けるのは目に見えている。

 だから―――。

 

 「行ってくださいモードレッド!龍殺し殿!」

 

 ロンゴミニアドより放出された輝きに並ぶ形で一台の馬が駆け抜ける。

 サーウェルが急ぎ拵えた急増品の馬。

 防御性能は著しく低いがその速度性能は現行のバイクなどには追い付けもしない速力を発揮する。

 手綱を握るは騎乗スキルを保有するモードレッドで、後ろにはジークフリートが乗っている。

 サーウェルの声にジークフリートは頷き、モードレットは通過する瞬間にぽつりと漏らした。

 

 「…行ってくる」

 

 微かにだが聞き取れたサーウェルは大声で笑う。

 状況を理解した騎士達が一斉にサーウェルを狙って突っ込んで来るが、フランケンシュタインが近寄った者を片っ端から薙ぎ払う。

 同時にホムンクルス達が背を向けた騎士に仕掛け、モルドが手にしていた付与付きの弾丸が装填された機関銃で撃ち抜く。

 乱戦の最中で笑う姿は異様。

 けれども笑わずにいられない。

 それほどに彼の心は清々しい気持ちでいっぱいだったのだ。

 

 「最後の働きなのです。我が身を捨ててでも勝利を!」

 

 腹部からゴボっと血が溢れ、痛みから解放されようと無意識に力を抜こうとした拳に力を籠める。

 足を踏ん張らせ、押し返されないように必死にロンゴミニアドを突き出す。

 

 黒い輝きとロンゴミニアドの輝きがせめぎ合う。

 押し負けるは使い手の不出来さゆえ…。

 理解しながらも敗北を易々と受け入れる訳にはいかない。

 後ろには不忠の騎士ながらも慕ってくれる主が居る。

 前には私を信じて背中を預けるあの子が居る。

 そして最奥には済ました顔をしてはいるが泣きじゃくっている(・・・・・・・・・)王が居る。

 

 踏ん張っている脚が地面を抉りながら徐々に後方へと押される。

 解ってはいたがもう暫し耐えなければ…。

 

 「ウウウラァアアアア!!」

 

 背後より斬りかかった騎士をフランケンシュタインの一振りが殴り飛ばした。

 傷つきながらも戦う彼女に負けじと咆哮を上げながら耐える。

 

 ぷつりと音がした。

 限界を超えた。

 力が入らない…。

 輝きが徐々にか細くなる。

 このままでは勢いよく黒い輝きがここら一帯を襲う。

 最悪の状況が脳裏に過るが、そうはいかなかったらしい。

 黒い輝きも衰え消失したのだ。

 どうやらあの二人が王の下に辿り着いたのだろう。

 

 「あぁ…なんとか…やり遂げれましたか…」

 

 王のもとに辿り着いた二人を信じ、全力以上に出し切ったサーウェルはそのまま地に伏した…。

 身体から何かが抜け落ちる感覚と共に…。



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第16話 「全面戦争 騎士王との対決 後編」

 明けましておめでとうございます。
 今年もどうぞよろしくお願いいたします。


 空中庭園より脱出した黒陣営のサーヴァントと共に“ルーラー”ジャンヌ・ダルクは下に広がる光景に魅入る。

 多くのホムンクルスが死骸となり大地を覆う。

 されど無表情で命令を与えられて動く事しか出来ない彼女・彼らは最期の一瞬まで武器を振るい命を溶かす。

 騎士風のサーヴァントの一振りで薙ぎ払われ、臓物の一切合切を撒き散らした。

 地獄絵図だ…。

 いや、英雄譚などで彩られた戦場だろうが歴史の教科書に乗っていないような小さな争いでも否応がなく繰り広げられてきた殺し殺されの命のやり取り。

 自身が関わった戦場でもそうだ。

 有り触れ、慣れる事の無い戦場。

 

 「これは酷い…」

 

 多くの骸が転がる。

 絶望的な状況下でジャンヌはさらに絶望的な願いを抱いていた。

 赤の陣営は確実に止めなければならない。

 シロウ・コトミネは単なるマスターではなかった。

 前回の聖杯戦争を生き残ったサーヴァント。

 そんな彼は大聖杯を用いてナニカを成そうとしている。

 

 死者が…。 

 生者の様な死者が。

 アンデットの様な怪異が。

 人間の様なナニカが世界を変えようと動いている。

 

 身命を賭しても彼の計画は阻止せねばならない。

 しかしながらルーラーの特権をもってしても彼を―――彼らを止める事は自身単騎では不可能極まる。

 すでにシロウ・コトミネ…否、真名天草四郎時貞は赤の陣営に所属しているサーヴァントの大半を支配下に置いている。

 赤のアーチャー(アタランテ)赤のランサー(カルナ)赤のライダー(アキレウス)赤のアサシン(セミラミス)、そして地上で猛威を振るっている赤のバーサーカー(アルトリア)

 赤のセイバーと赤のキャスターが黒の陣営と行動を共にしていただけ戦力が減少していても、一騎で五騎………天草も含めれば六騎を相手取るなど無謀以外の何物でもない。

 ゆえにジャンヌは黒の陣営と協力して赤の陣営を倒そうと画策している。

 黒の陣営には全サーヴァントが揃っている上に、赤の二騎が加わって数的には上回っている。が、現状地上がたった一騎で押されている状況から芳しくない。

 下手をすれば地上のサーヴァントは討ち取られ、ミレニア城砦に残るマスター達は残らず刈り取られるだろう。

 そうなれば地上だけでなく庭園に突入したサーヴァント達も宿主を失って時間経過とともに消失する。

 

 忌々しそうに戦場を眺めていたジャンヌは突然の眩いほどの輝きに目を覆う。

 

 「うおっと!?ナニコレ!」

 「あれは…宝具!?」

 

 アストルフォのヒポグリフに相席させてもらったジャンヌはミレニア城砦近くより放たれた宝具と、駆けていくサーヴァント二騎を捉えて希望はまだあるとミレニア城砦へと急行する。

 彼の野望を止める為に。

 

 

 

 

 

 

 懐かしい輝きにアルトリアは苦悶の表情を浮かべる。

 輝きを発したのが自分が想う聖槍であるならば、持ち手は彼で間違いないだろう。

 想い浮かべた相手に対し、補給し続けられている魔力を持って宝具を起動させて放つ。

 何もかもを呑み込む暗闇が輝きに向かって伸びて正面から激突する。

 一時は均衡を見せたが向こうを押して暗闇が相手ごと飲み込もうと突き進む。

 しかしそうはいかずに押し止められた。

 強い意思と誇りを感じて握っていた手が若干緩んだ。 

 出力が弱まって宝具は止まり、向こうも同様に輝きが消え去り静かな夜へと戻る。

 約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)は届かなかったが感じる。

 彼は倒れたのだな。

 また私の手によって…。

 悲しみに身を焦がすような思いを抱きながら、再び騎士達を呼び出そうと―――。

 

 ナニカが飛び出した。

 死角から現れた訳ではない。

 彼に意識を集中していた為に認識するのが遅れた…。

 

 素早く剣を構えて現れた者を睨みつける。

 しかしそのナニカは分かれて一つは宙へ舞い、もう一つはそのまま突っ込んで来る。

 突っ込んで来るナニカは馬だった。

 生物ではなく全身を土で作られた彫刻の様な馬。

 この土細工には覚えがある。

 瞬時に繰り返された懐かしさを払うように薙ぎ払い、宙を舞ったナニカを睨みつける。

 

 「テメェ、何してやがんだ!!」

 

 振り下ろされた一撃を剣で受け止め、力任せに押しのける。

 着地した相手に戸惑いその名を口にする。

 

 「モード……レッド…なのか…」 

 「ハッ!他の誰に見えるんだってぇの。狂化されてそこまで耄碌したか!!」

 「―――ッ、モードレッド!!」

 

 思い返される狂った激情に身を任せて斬りかかるが、側面からモードレッドより先に降りたジークフリートが先に斬りかかる。

 意識を集中していただけに予期せぬ奇襲に動きが乱れる。

 そこを狙ってモードレッドも混ざって猛攻がアルトリアを襲う。

 二人共最優のセイバークラスであるがそれ以上にずば抜けた技量を有している。

 だというのに二人の猛攻を凌ぎながら、乱れた体制を立て直した。

 

 「…手強い」

 「ったく、バーサーカーだってのにしっかりしてるじゃあねぇか…クソが!!」

 「こちらの連携が上手くいっていないのもあるだろう」

 

 連携が上手くいかないなら互いに邪魔にならないように好きにやるだけの話だ。

 左右に分かれて斬りかかる。

 挟撃にさすがのアルトリアも傷を負い始め、させまいと挟撃から誘導や移動することで方向を限定して斬り合う。

 決して手は休めない。

 少しでも時間を与えれば騎士達を召喚する宝具を使用される可能性がある。

 そうなれば作戦は失敗。

 サーウェルは無駄死にとなってしまう。

 絶対それだけは避けなければならない。

 ジークフリートの一撃を流して距離を取ろうとしたアルトリアに急接近する。

 足を止める事無くその勢いのまま下段からの斬り上げでエクスカリバーを弾く。

 両手は握り締めたまま上にあり、モードレッドの眼前にはがら空きの胴が晒される。

 

 …軽い。

 否、軽すぎだ。

 率直な感想を抱いき、これは誘いの一手だと直感で悟った。

 嫌な勘は当たり、背後より隠れていた騎士達が得物を手に斬りかかって来る。

 騎士を切り払うのは簡単だ。

 振り向きながらひと薙ぎに出来る。が、逆に王に背中を晒せば上段からの斬り下ろしでやられる。

 逆もまた然り。

 王に一撃を入れれば背後より串刺しにされる。

 どうせ殺られるなら王を止める事を選ぶ。

 

 衝撃が覚悟を決めたモードレッドを襲う。

 それは正面からでも背後からでもない。

 側面からの体当たり。

 押し退けられたモードレッドの視界には背中で騎士達の攻撃を受け止め、王の一撃をその身に受けながらもお返しにと左腕を切り裂くジークフリートの姿が…。

 

 「テメェ!」

 「決着を」

 「―――ッ、言われなくても!!」

 

 押し退けられ崩れた体制を瞬時に立て直し、もうジークフリートは視線から外す。

 狙うは王の首のみ。

 

 「貰った!」

 「まだ!」

 

 跳びながら斬りかかるモードレッド。

 左手は使えないが右手でエクスカリバーをしっかりと握り締めて斬り捨てようと振るう。

 

 朝日が顔を覗かせ、闇夜の終焉を告げる。

 世界は大地は太陽に照らされ、瞬間的に世界はオレンジ色に染め上げられる。

 

 世界がブレた。

 一瞬であるがオレンジ色に染まった光景がカムランの丘に重なったのだ。

 モードレットを切り裂こうとした一撃が止まる。

 僅かな隙。

 この隙こそが勝敗を決した。

 

 遅れてしまった一撃がモードレットに届くよりも先にクラレントがアルトリアを斬り捨てた。

 切り裂かれた表皮より鮮血が飛び、モードレットは赤く染まる。

 

 「王よ。貴方の負けだ」

 

 淡々と告げたモードレット。

 その表情はどこか曇り、瞳には一筋の線が出来上がっていた。

 満足気にアルトリアは笑う。

 

 「あぁ、貴方の勝ちだ」

 

 徐々にアルトリアの身体は光の粒子となり風景に溶けてゆく。

 消え去るその瞬間まで決して目を逸らさない。

 

 

 「ありがとう…私の――――」

 

 ふわりと粒子が舞い、朝日の中に消え去った。

 残ったのは荒れた戦場とモードレッドと座り込むジークフリートのみ。

 朝日を見つめながらぽつりと呟く。

 

 「ったく、手間焼かせるんじゃねぇよ…」

 

 勝ったがなんとも後味の悪さに胸が軋む。

 カムランの丘と違って勝利者となったが勝利の余韻などは存在せず、なんとも言えぬ思いだけが漂った…。

 

 

 

 

 

 

 アルトリアの消滅と同時に騎士達の動きが鈍り、同様に身体を光の粒子へと変えながら消え始めた。

 赤く染まった大地から空へと粒子が舞う。

 幻想的な光景が広がる様子に興奮気味にシェイクスピアは文章を殴り書き、光景を眺めるよりも任務を優先するモルドはシェイクスピアが付与を加えた弾丸を撃ち尽くす勢いでトリガーを引く。

 王が消滅した事で戦闘目的を無くして消滅を受け入れているが、待っている時間が惜しくて仕方がない。

 

 「道が出来ました」

 「行きます!」

 「了解致しました。援護致します」

 

 ロシェが駆け出し、撃ち尽くしたKPV重機関銃を投げ捨てたモルドはホルスターに収まっているデザートイーグルを確認し、スコーピオンとMP5を手にして後に続く。

 周囲には立ち尽くして消滅を待っている騎士がいる。

 彼らはもはや戦う気など無いが、可能性がある以上はマスターの安全性を確保する為に排除するのが良いだろう。

 道は出来ているので近い騎士だけを排除し、ロシェが駆け抜ける前に安全性を確保していく。

 向かう先にはフランケンシュタインの近くで倒れ込んでいるサーウェル。

 

 サーウェルは死に体である。

 腹部からロンゴミニアドを引き抜いてから消滅のカウントダウンが始まっているほどに。

 ただそれは即座の消滅ではない。

 回復不可能な風穴があいてしまったが為に供給量以上に魔力が漏れ出しているという結果、魔力がキレて存在を維持できなくなり消えるというもの。

 

 「先生…先生!」

 

 必死に走り、倒れ込むようにサーウェルの下に辿り着いたロシェは呼びかけながら、まだ消え去っていない身体を揺するが目を開けてはくれない。

 背後から自作のゴーレムに入ったままのウォルターと金城が、屈みこんで様子を伺う。

 

 「どうゆう状況なのです?」

 「えっと、やはり魔力が漏れ出ている感じです」

 

 医者が触診するように触って魔力の流れを確かめ、予想していた通りだと悔しそうに顔を歪める。

 人体であるならば血管や損傷部に処置をし、表皮を繋ぎとめるなど雑ではあるがやりようはあるのだ。

 しかし彼はサーヴァントで人体に対する治療が如何ほどの効力を持つというのか。

 

 「宝具を引き抜いたせいなのでしょうけど…」

 

 助けるなんて到底無理だ。

 ロシェは自身の力量と知識からそう判断する。

 そもそも治療しようにもどうやって塞げばいいのか見当もつかない。

 絶望漂う様子にウォルターは気に押せずに口を開く。

 

 「なら簡単じゃな。穴が空いているのが問題ならば塞げばいいだけじゃろう」

 「そんな簡単なことでは…」

 

 あからさまに首を傾げて問うウォルターに泣き出しそうになりながらロシェは否定するが、カカッと笑ってニヤリと微笑む。

 その様子に疑問符を浮かべながら見上げるロシェに、仕方ないですねと金城が小さく笑った。

 

 「簡単じゃろうが。儂ら(・・)で塞げばよかろう」

 

 ウォルターの何気なさげに言われた一言に固まる。

 理解し切っていないままに言葉を続ける。

 

 「儂らはこやつに関係しておるから出てきたわけではない。基本魂が一緒なのじゃ」

 「生活環境と体験してきたことが異なって性格は違いますけどね」

 「でもどうやって!?キャスタークラスのサーヴァントでもいれば話は別ですけどもここには先生しか…」

 

 助けを求める様な視線を向けるロシェは、金城 久とウォルター・エリックの魂を収めた無機質で表情なんて有って無いような泥人形より言わんとすることを察する。

 何という重圧だ。

 何という責務だ。

 何という………。

 不安を口に、戸惑いを言の葉に、恐怖を表情に出そうとするも音は出ず、顔は歪むばかり。

 

 「君がやるしかないよ」

 

 手が震え、喉は痙攣を起こしたようにひくつき、呼吸をしようとすれば過呼吸で短い呼吸音が漏れる。

 苦しそうに悶えるロシェの肩に二人が手を置いて震えを止める。

 

 「儂らを構築しとるのはサーウェルに馴染みのある時代の土。それに儂らの魂を混ぜるだけの事。そう難しく考えるな」

 「出来ますよ。貴方はサーウェルの弟子…なのでしょう」

 

 二人の優し気な声色と温かく肩に置かれた手、そして寝るように消失するサーウェルを見て覚悟が決まった。

 何をどうやっても先生を助けるんだ。



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第17話 「全面戦争 戦争後」

 小規模なサーヴァント同士の戦闘ではなく、各陣営が参戦した聖杯大戦の名に相応しい大規模戦闘が行われたミレニア城砦周辺は見る影もなく荒れ果てていた。

 敵を迎え撃つはずのミレニア城砦そのものは半壊し、防衛機能は完全に消失してただの大きな屋敷としか機能していない。

 魔力供給源兼戦闘要員として大量生産していたホムンクルスは三分の一にまで減らされ、製造する為の工房は戦闘の影響で設備の大半が破損。戦力の増強は短期では不可能な状況に追い込まれた。

 これだけでも黒の陣営にとっては痛すぎる被害だ。

 しかしこれだけ終わってくれればまだ良かったというもの。

 黒の陣営であるユグドミレニア一族の当主、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアが最高戦力であった黒のランサーのヴラド三世と融合し、世界に災いをもたらす化け物として討伐されて死去。

 聖杯大戦に勝利する為には必要だった最高戦力と総指揮官を同時に失う事態に加え、最良のクラスであるセイバーであったジークフリードも消滅してしまった。

 ジークフリートは協力体制を取った第三勢力のセイバー(モードレッド)と共にミレニア城砦に迫りつつあった赤のバーサーカーの撃破の為に出撃し、モードレッドを庇った際にB以下の魔術・物理を無効化させ、B以上の魔術・物理を削減する随時発動型の宝具“悪竜の血鎧”が唯一発動していない背で受けてしまいそれが致命傷となり退場。

 戦力をがたがたにされた上に大聖杯の強奪を許してしまうという不始末。

 

 ダーニックの後継者だった事で現在のユグドミレニアの総指揮を執る事になったフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは頭痛が起こる頭を軽く抑える。

 勿論やられるだけではなく赤の陣営にも被害は出た。

 赤のバーサーカーの撃破に、大量の竜牙兵を倒した………が、竜牙兵に至っては媒介さえあればいくらでも数を揃える事が出来るので被害に入るかどうかは相手の媒介の貯蓄具合によるので何とも言えないが…。

 

 それにしても気が滅入る。

 こちらのサーヴァントはアストルフォにフランケンシュタイン、ケイローンの三機。

 赤の陣営には四騎のサーヴァントが居り、中にはヴラド三世でも手を焼くほどの英霊が二騎もいるのだ。

 戦力的に非常に不利になっているというのに、向こうは大聖杯を持ち逃げしたので今度はこちらが攻め込む事になる。

 空を飛行する空中庭園にだ…。

 アストルフォならヒポグリフに乗って飛行できるが、他の二騎は空を駆ける事は出来ない。

 勝率はほぼ0に近いだろう。

 さらに追い打ちをかけるように黒の陣営内部でも乱れが見える。

 私と弟のカウレスは問題ないのだけど他の二人は正直不味い状態になりかけている。

 自らのサーヴァントを失い、ホムンクルスを製造したゴルドは何処か覇気がなく、今はただただ言われた仕事を熟しているだけの存在となってしまった。

 ユグドミレニアの悲願に一切の興味がなく、我欲の強いセレニケに至ってはアストルフォにご執心で、彼を失うような攻撃に参加するぐらいならアストルフォを連れて逃げ出す可能性が高い。

 一応監視を付けているが有って無いようなものなので、動き出す前に何か豊作を考えなければ。

 

 いや、悩みの種と言えばもう一つある。

 

 「貴方がたはこれからどうするのですか?」

 

 振り返りながら瓦礫に腰かけて煙草を吸う黒と赤が混ざり合った第三陣営のマスターが一人、獅子劫 界離に問いを投げかける。

 彼ら第三勢力は赤との戦闘に協力してくれたが、完全な味方と言う訳でもないだろう。

 問われた獅子劫は煙草を咥えたまま、後頭部を困り顔のまま掻く。

 

 「どうする…か。多分だがアンタら黒の陣営と協力していく―――と思う」

 

 どうにも歯切れの悪い解答に首を傾げる。

 彼らは黒側からも赤側からも裏切者の集まり。

 先の戦いで第三陣営はサーヴァントを討ち取った事実から和解は難しいはず。

 ならばこのままこちらと協力体制を敷いたままにすると思っていたのだが…。

 

 「ルーラーからは何も?」

 

 聖杯戦争の裁定者であるクラス“ルーラー”。

 そのクラスが与えられた英霊ジャンヌ・ダルクは天草四郎時貞を世界に影響を与える敵とみなし、かなり弱まった黒陣営にもその協力を要請してきた。

 どのみち黒陣営と戦わねばならないのでこちらにもルーラーにも利がある。

 だから要請を受けるのにそう時間が掛からなかった。

 

 「協力要請は受けたよ。うちのセイバーも赤側のアサシンを倒すまでなら協力するって言っていたしな」

 「なら他に何か問題でも?」 

 「まぁ、ちょっとな。兎も角後はキャスター…いいや、サーウェルが目覚めてからだな」

 

 こちらの内部事情も散々だが、どうやらあちらも問題が起こっているらしい。

 ただそれがどういったものなのかは解りはしない。

 はっきりと口にしなかったことから口にし辛いという事なのだろう。

 無理に聞き出す事はしない。

 現在サーウェルはロシェの治療(・・)を受けた後、ミレニア城砦で無事だった一室で休んでいる。

 部屋に移してから三時間近く目を覚まさず、心配しているロシェがずっと側に付いたままだ。

 

 「目覚めれば良いのですが…」

 「大丈夫だろう。万が一にも起きなかったらセイバーが宝具でも使って叩き起こしてくれるって」

 

 笑いながらそんあ冗談が言える彼が酷く羨ましく思える。

 それだけ余裕があるのか、本当にそうしかねないのか分からないが…。

 一応城砦内で撃たないで下さいねと注意して、側で控えていたケイローンと共にカウレスたちの様子を見に行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 サーウェルは目を覚ました。

 鈍い思考を叩き起こして(・・・・・・・・・・・)瞼を開けて、寝かされているベッドよりなんでもない天井を見つめる。

 何が起こり、どうなってしまったのか。

 自分が覚えている範囲の記憶を呼び起こし、自分が見ていない(・・・・・)記憶を覗き込む。

 どうやら死に間際の私をロシェ君が救ってくれたようだ。

 身体に魔力を巡らして調子を確認する。

 流れに問題はない。

 聖槍が刺さっていただけに詰まり、乱れ、潰されていた事を考えれば問題がない事こそ問題なのだが…。

 生前通りとは言わないけれどもそれに近いぐらいには流れが良い。

 これは漏れた穴を塞いだだけでなく、ゴーレム作りで教え込んだ回路で出来る限りで繋げたのだろう。

 まぁ、それだけではないが…。

 左手を誰かが握って温かく、顔を向けて確認すると眠りながらぎゅっと手を握り締めているロシェ君の姿が…。

 

 「お目覚めですね」

 

 部屋の隅で直立に立ったまま待機していたモルドが、顔を動かした事で起きた事を知って起動した。

 ロシェ君を起こさないように左手はそのままに上体を起こす。

 起動したモルドは声を掛け、ベッド脇に寄って立ち止まる。

 

 「察しましたがロシェ君が直してくれたようですね」

 「はい。お加減は如何で?」

 「魔力の流れに問題はない。寧ろ全盛期に近くなっている」

 「それは何よりです」

 

 何より…か。

 モルドの言葉を口の中で転がし、静かに飲み込んだ。

 確かに燃費も格段と良くなり、魔術の行使も以前に比べて使い易く、これなら近接戦に挑んでも問題ない。

 しかし…しかしだ。

 もう彼らの声は聞こえない。

 ロシェ君はゴーレム作りの腕はかなり上がっているが、だからと言って私の乱れた回路を組めるほどではない。

 身体に沁み込むように、作られた回路と元々あった回路を繋げたのはウォルター・エリックと金城 久がサーウェルの魂に同化した事もあったのだろう。

 そのおかげなのか身体に魂が良く馴染む………そんな感じがしないでもない。

 

 「……せんせい?」

 

 ぼんやりとした瞳で顔を上げたロシェがサーウェルを視界に捉えた。

 先のモルドとのやり取りで起こしてしまったのだろう。

 見つめていた瞳に光が灯り、目元には溢れんばかりの涙が貯まる。

 

 「先生!!」

 

 強く呼ぶ叫ぶと同時に腰辺りに抱き着き、わんわんと泣き始める。

 優しく…本当に優しく頭を撫で、泣き止むまでしっかりと受け止める。

 

 「先生…もう…もう一人で行かない下さいよ」

 「えぇ、勿論っと断言したいところですが今までが今までに信用はないでしょう。ですが命を救われた恩があります。二度と勝手な真似はしないと誓いましょう」

 

 安心したかのように泣きながらも笑みを浮かべ、うんうんと何度もうなずく。

 目元が腫れるまで泣き、ようやく落ち着いた事でサーウェルはちらりと扉の方に意識を向けていた。

 何者かの気配が扉の向こうからする。

 魔力探知の類を使った訳でなく、普通に足音が近づいてそこで止まっているのが分かったからだ。

 相手も隠すつもりがないらしい。

 

 「それで何用でしょうか」

 

 そう声を掛けて扉の方へ視線を向けると、ゆっくりと開いた扉より一人の少女が姿を現した。

 黒のサーヴァントには居なかった顔だ。

 ボロボロとは言え黒の陣営の本拠地に赤のサーヴァントが紛れ込んでたとして、こうも堂々と姿を現すとは考えにくい。

 と、なると候補は一騎に絞られる。

 

 「始めましてですね。私はルーラー、ジャンヌ・ダルクと申します」

 

 やはりと呟きながらどこか王に似た面影のあるルーラーを見つめる。

 するとロシェが警戒の色を浮かべながら、護るように立ち塞がり、表立って動いていないがモルドも隠し持っている銃に手を伸ばしていた。

 そんなモルドを手で制し、ロシェの肩に優しく触れる。

 

 「ルーラーは聖杯戦争の裁定者。いきなり仕掛けて来るとは思えません」

 

 だから大丈夫だという想いの籠った言葉を聞き、ロシェはさっと横に避ける。

 間からロシェが退いた事に笑みを浮かべるものの、戦闘態勢を維持しているモルドには警戒は解いてはいない。

 少し近づくも一定の距離で立ち止まる。

 

 「私は貴方とお話に来ました」

 「話と言いますと?」

 「私が対処すべき事案は赤の陣営であることは明白ですが、それでも確認は必要ですから」

 「査問…と言う訳ですか」

 「協力してくれますよね?」

 「勿論です。マスターに危害が加わらない限りは―――ですがね」

 

 殺意の籠ったサーウェルの視線を真正面より受けたジャンヌは一度目を瞑り、開くとしっかりと瞳を見つめながら大きく頷いた。その反応にサーウェルは他に言う事は無く、視線を緩めてジャンヌの言葉を待つ。

 

 「では、早速―――――」

 

 クキュルルルルルルルr~…。

 お互いに真面目な表情で向き合っていた中で、誰かの腹の音が鳴り出した。

 多少頬を赤らめながら表情に出さないように恥ずかしさを堪えているルーラーを見れば出どころは一目瞭然。

 ここで口にするのは簡単だが、口にしないのがマナーというものだろう。

 あえてスルーして聞かなかった事にしてしまえば彼女の羞恥心も多少は和らぐ筈だ。

 何の反応もないサーウェルになんとも言えない表情を浮かべたが、コホンと咳払いすると再び真面目な表情に戻る。

 

 「では―――」

 

 クウウウウウウウゥ…。

 話を再度やり直したら腹の音まで再び鳴り始めた。

 今度こそ真っ赤に染まり、恥ずかしさから俯いて何も言いだしてや来ない。

 これでは真面目な話など無理だろう。

 

 「まずは食事にしましょうか?」

 

 苦笑いを浮かべながらサーウェルはロシェとモルド、そしてジャンヌを連れて調理場に向かうのであった。



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第18話 「次の戦争の為の準備」

 十日に投稿遅れて申し訳ありませんでした。


 聖杯大戦が開始される前と今では状況が大きく異なった。

 ルーマニアでヴラド三世を召喚し、事前に用意を行ってきた黒の陣営ことユグドミレニア一族優勢かと思われ、魔術協会と聖堂教会は協力体制を敷いて事に当たると息巻いていた頃の面影は今はない。

 裏切者(サーウェル)予想外の事態(ジャック)によって二騎が指揮系統を離れ、戦力が減少したまま聖杯戦争の火蓋を斬り、拠点だったミレニア城砦の大部分とサーヴァント数機を失った。

 赤側も単独行動に出た組(モードレッドにシェイクスピア)が出た事以外に聖堂教会のマスターが前回のサーヴァントで、他のマスターを操ってサーヴァント掌握したりと当初の予定は消え去った。

 混沌とする両陣営で自分が一番運があるのではないだろうかとジーン・ラムは思い返しながら紅茶を口にする。

 マクベスを召喚しようとして作者であるシェイクスピアを召喚したときはどうしたものかと頭を悩ませたが、彼の行動によって操られることもサーヴァントを取り上げられることもなく、なんやかんや戦闘に参加してもこうして怪我一つ追う事無くここに居る。

 自らの手で勝利を掴むことは出来なくとも、何とかなりそうな気はする。

 

 ミレニア城砦での両陣営の戦いが終了した翌日。

 今後の話を詰めるべく、残存している黒の陣営と第三勢力となるジーン達はミレニア城砦内の会議室にて顔を合わせていた。

 真面目な話をするべき場であるのだろうけど、流れている空気は何処か異端なものと化している。

 

 両陣営の中央に座る“ルーラー”ジャンヌ・ダルクは赤の陣営の動きを看過できないと、赤側――シロウ・コトミネに対して敵対する事の表明と協力の要請を口にしてから、何杯目か分からないシチューに舌鼓を打っている。

 耳は傾けているもののそれほど興味がないのか器に口を付けてシチューを啜り、分厚いパンをかっ喰らうなど食事をしているモードレット。

 自分は食事していないもののジャックに仲睦まじく食べさせては、ほっこり微笑み合っている六導 玲霞。

 シェイクスピアに至ってはテーブルの端で上機嫌に紙に文字を綴って顔すら上げない。 

 そんなシェイクスピアに紅茶を出したり、おかわりのシチューを装ったりパンを持って来たりするエプロン姿のサーウェルに、サーウェルから離れたくないのか付いて回るロシェ・フレイン・ユグドミレニア。

 話し合いに真面目に参加しようとしているのは獅子劫 界離ぐらいしかいないのではないか。

 私はもう見守るだけで良いのではないかと思う。

 

 まぁ、それは黒の陣営も同様であるが…。

 自分のサーヴァントが脱落した事にやけ気味なのか酒を飲み、サーウェルが用意した摘まみを口にしているゴルド・ムジーク・ユグドミレニア。

 ボーと呆けているのかそれとも何かしらの意図があるのかは分からないが、ずっと小さく唸っているだけのフランケンシュタイン。

 ジャンヌとモードレットの食事量に驚きつつ、何故か張り合う様に食べ始めたアストルフォ。

 話し合いに参加どころか会議室に訪れもしていないセレニケ・アイスコル・ユグドミレニア。

 まともに話し合いに臨んでいるのは前当主ダーニックの後継者で現在ユグドミレニア一族の指揮を執っているフィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアと彼女のサーヴァントであるケイローン、そしてカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアの三名だけだろう。

 

 「こんな空気で切迫した状況だ。堅苦しい物言いは良いだろ?」

 「えぇ、こちらとしても率直に話を進めたいところです」

 

 獅子劫とフィオレの言葉で話し合いが始まった事に気付いたジャンヌはゴクリと飲み込んで、食事の手を止めて姿勢を整える。

 やっと始まるのかとサーウェルが焼いたばかりのクッキーを口にする。

 

 「私達はランサーを含め二騎ものサーヴァントを失い残るは三騎士のみ」

 「こちらも似たようなもんだ。サーヴァント数で言ったら四騎だが、知っての通り戦闘可能なのは三騎だけでな」

 「どちらにしても天草四郎時貞と敵対するには戦力が足りない」

 「なら共闘するのが一番手っ取り早い訳だ」

 「奴を倒す前の一時的な共闘」

 「倒した後にまた殺し合いだな」

 

 お互いに微笑んでいるのだが、漂った雰囲気が笑ってはいない。

 それを感じ取ってカウレスが引きつったような笑みを見せる。

 気持ちは解かるが“なるようになれ”の精神で眺めているジーンは表情をゆがめる事すらなかった。

 

 「ルーラーとして天草四郎時貞は止めなければなりません。それと同じく彼女の…彼女達(・・・)も問題視しております」

 

 ジャンヌはそう言うとジャックに険しい視線を向ける。

 聖杯によって召喚されるルーラーは捌くためのルールが決められている訳ではない。

 呼び出されたサーヴァントにその采配は任されるわけだ。

 ジャンヌにとって魂喰いをして一般人にまで手を出していたジャックは裁くべき対象なのだろう。

 天草四郎時貞を討伐するのに共闘することで数は揃った。

 あとはここで一騎斬り捨てれるかどうか…。

 私達にとっては戦力が減少する訳だが、拒めばルーラーを敵に回す可能性が発生する。

 答え難くて獅子劫は困ったように笑みを浮かべるばかり。

 咄嗟に動きを見せたのはサーウェルただ一人である。

 

 「私に敵対しますか?」

 「止む無しとなればですが…交渉の余地はおありで?」

 

 やらせないという確固たる意志を見せたサーウェルに引き続き、食事をしていたモードレットも止めて剣を手にしていた。

 頑なに頷く気配の無いジャンヌと一触即発の睨み合いが続く。

 黒側にしてみればここで戦闘が起こって共闘する側の大幅な戦力低下は避けたいところだ。

 下手に遺恨が残ったりすると背後から討たれる可能性も出て来るので、出来れば穏便に済んで欲しい所。

 視線が集まる中、ジャンヌが口を開く。

 

 「罪には罰を与えなければなりません」

 「それは理解します。が、今処罰するは戦力の低下を意味します。そんな愚行を見逃すわけにはいきません」

 「貴方は彼女達を護ろうと…いえ、違いますね」

 「私は我がマスターを生かすために最善の手を打っているだけです。下手に戦力低下でマスターを危険に陥れる訳にはいかない」

 「つまり共闘を終えれば罰しても良いと?」

 「後であるならば如何様にでも。未知の脅威よりは眼前の脅威を排除すべきですから」

 「解かりました。天草四郎を止めた後にしかるべき処置はさせて頂きます。それで宜しいですね」

 

 大きく頷いた事で危険は過ぎ去った。

 だが、これからが本題だ。

 

 「あー…どうやってアレに追い付くかだがアテはあんのか?」

 「はいはーい、ボクならすぐに追いつけるよ」

 

 突如として割り込んだアストルフォに眉を顰める。

 確かに飛行能力のあるライダーであるからには追い付ける…ただそれだけだ。

 

 「一騎であの空中要塞を攻略できますか?」

 「……無理だね」

 「しかも敵にはアーチャー…そちらのアーチャーの言う通りなら名高き狩人アタランテの迎撃が考えられます」

 「それに天草四郎を含めた全員を相手にすることになるので、この場合は“全員で”と言う事ですよ」

 

 最初の勢いは何処に行ったのかケイローンとサーウェルに言葉を重ねられるたびに、小さく大人しく不貞腐れて行った。

 落ち着いたアストルフォに変わってフィオレが口を開く。

 

 「移動手段は問題ないです。飛行機をチャーター致しますので」

 「なら移動手段は問題ないな」

 「けど要塞攻略のカギはやはりアストルフォと言う事になるでしょうね」

 

 付けていたエプロンを取って、アストルフォに近付いたサーウェルは懐よりナニカを取り出し、それをそのまま差し出す。

 

 「これを」

 「ほぇ?」

 

 差し出された筒状の金属を受け取ったアストルフォは首を傾げた。

 ぎゅっと握り締めた瞬間、筒の先より先の鋭い槍が伸び、魔力の帯び方から理解してギョッと驚いて目を見開く。

 

 「ちょ、これって宝具じゃないか!?」

 「えぇ、宝具ですが何か?」

 

 噛み合っていない二人の会話に、参加していないようだった全員が視線を向ける。

 それもその筈。

 共闘すると言っても宝具の一つを敵となる相手に渡しているのだから。

 ユグドミレニア側は怪訝な顔をし、モードレットあたりは呆れたようで納得したような表情を浮かべて食事に戻った。

 

 「単騎で飛行できる貴方は機動力があり、小回りがある。要塞には防御機構が備わっていると推測されれば当然ながらそれの破壊を担当するでしょう」

 「そりゃあそうだけど…良いの?」

 「必要でしょうから。狙いをつけて投げるだけでその宝具は起動します。私の逸話通りの槍ですから外れますけど必中しますよ」

 

 外れるのに必中とは可笑しなことを言う。

 冗談のつもりなのか、真実なのかは解からないがとりあえず槍状から最初の筒に戻し、アストルフォは腰に下げた。

 話し合いはさらに続くが、後は獅子劫に任せてサーウェルはフィオレに一室使用許可を取り、ロシェとゴルド、そしてアストルフォを連れて退席するのであった。

 

 

 

 

 

 話し合いが続く。

 それは今後を左右する大事な事だとは理解してはいる。

 が、正直に言えば興味がない。

 僕は何処かズレているらしいがそれこそどうでも良い事だ。

 部屋を後にしたボク達は元々キャスター用に用意されていた工房に訪れていた。

 アレだけの被害を被ったミレニア城砦であるが、地下工房であったここは比較的に被害は少ない。

 ロシェがここを訪れたのはサーウェルの手伝いと師事を受けるためにある。

 現在サーウェルは消耗している。

 本人は聖槍が抜け、ロシェが万全ではないが修復し、金城とウォルターの二人の魂が一つに戻った為に全盛期に近いステータスにまで戻る事に成功したのだが、それでも単騎で赤のランサーことカルナや赤のライダーことアキレウスを高い勝率で討ち取るのは難しい。

 消耗しているのが彼が生み出した戦力。

 円卓の騎士を模したサーヴァントとも多少であるが戦えるゴーレム達。

 最初に生み出したベディヴィエールはアタランテと共に闘った際に破損して修復しなければならず、ロシェに指揮権を渡していたランスロットとガウェインはアルトリア・バーサーカーによって粉々に破壊されて消失。

 修復作業もしなければならないが、まだ未完だった四騎目となるトリスタン型のゴーレムの完成と、材料の量的に最後となる五騎目のゴーレムの制作を急がなければならない。

 それと同時に空中要塞攻略時にアストルフォの支援になるように飛行型の簡易ゴーレムを何機か作る予定もあるので中々に大変だ。

 大変だと思いながらロシェは満面の笑みを浮かべている。

 何しろゴーレムが大好きな少年だ。

 師匠であるサーウェルの工程を見える上に習える機会なんてこれからの方針云々よりも大事であった。

 そして今はそれらとは異なるゴーレムを作成しているのだが…。

 

 「そうそう。そこはもっと滑らかに。くびれはもう少しあった方がいいわ」

 

 幸せそうだった表情が、ある人物の声を認識するとあからさまに嫌そうな顔に変わる。

 ロシェの先には話し合いに参加していなかったセレニケが居る。

 今制作されているのは彼女の為のゴーレム。

 あの女の私用の為のゴーレムに先生が手を煩わされている事実に腹が立つ。

 

 「ロシェ君」

 「――ッ!!はい、なんですか先生」

 

 クスリと微笑みながらサーウェルがロシェを呼んだことで、表情を先生用の笑顔に変えて見上げる。

 

 「彼女が求める水準は高く、要求は事細か、そして決して手を抜く事は無い。私はゴーレムマスターとしてその要求の悉くを完遂すべきだと思うんだ。どれだけ彼女の事を君が嫌っていたとしてもだ」

 

 先生の瞳から熱意を感じる。

 確かにセレニケの熱意は妥協がない。

 ゴーレムマスターでもある先生としてはやり甲斐のある仕事なのだろう。

 

 「例え変態チックな望みの為だとしても…ね」

 

 そこはやっぱり思うところありだったんですね。

 けど止める訳にはいかない。

 先のゴーレムマスターとしての誇りもあるとは思うが、そもそも今制作しているゴーレムはアストルフォの代わりとなる彼女の玩具である。

 アストルフォに対して強い執着を持っている彼女は失う危険性の高い最終決戦において姿を消す可能性が出てきた。

 空中戦を行えるアストルフォは空中要塞攻略において必ず必要となる存在であるのと同時に、これ以上の戦力低下は勝算自体が少なくなってしまう。

 そこでセレニケが求める容姿に自分を慕いながらも簡単に心を手に入れないという非常に面倒な精神を持った泥人形で代用して貰う事に。

 最初こそ難色を示していたものの、モルドで確かめた食感は人間と変わらず、さらに彼女の好みである美少年を形だけ作ったところ好評で、快く数十体ほどで手を打ってくれたのだ。

 ちなみにモデルは円卓の騎士の面々を幼くした容姿である。

 後、王のショタモデルを作ったところ、モードレッドに殴られてしまった…。

 

 そして件のアストルフォと言うと…。

 

 「ねぇねぇ!似合ってるよね?似合ってるよね!」

 「とてもよくお似合いですよ」

 

 新たなマスターとなるホムンクルスに女装させては同じ衣装姿で見せに来るを繰り返している。

 セレニケからアストルフォを預かったのは良いのだが、マスターを誰にするか問題があった。

 他の黒の陣営のほとんどはサーヴァントが健在で、唯一失ったゴルドとアストルフォは性格上合わないと判断。生き残ったホムンクルス達の中で一人魔術を行使できる珍しい個体が居たのでとりあえずその子をマスターに据えたのだ。

 ジークフリートが倒れた付近にて負傷していたところを救助されたので、アストルフォによって“ジーク”と命名。

 製造されたばかりだから幼いと言えば当たり前なのだが、彼は他のホムンクルスに比べて幼く少年に見える。顔立ちも男らしいという訳もなく中性的で整っている。

 アストルフォと共に女装していても違和感がない。

 …まぁ、ロシェからしたら別段興味も無いからどうでも良さそうな視線を向けるだけなのだが…。

 

 「…アストルフォのショタ版もよろしく」

 「追加ですね。構いませんがジーク君のは良いんですか?」

 

 呆れるほどの欲を発揮しているセレニケだが、どうしてかジークに対してはそう言った感情が働かない様だ。

 少し悩みながら険しい表情を浮かべる。

 

 「何でかしら。彼を見ていると愛でて壊したいというよりはただただ壊したくなるのよ」

 

 不思議そうにつぶやかれても同意できないし、する気も微塵もない。

 テキパキと要求を満たす造形をこさえて、少年サイズのゴーレムを作り上げていく。

 意思を植え込む作業があるものの、少年と言う小さなサイズで戦闘用に考えなくていいので簡単に出来る。これが戦闘用になると意思で動く分、作業が複雑化して時間が足りなさ過ぎるらしい。しかもモルドより下のレベルの者しか出来ず、サーヴァントに対してほんの少しの時間稼ぎが出来る程度。

 労力に対して成果が伴わない。

 

 「あの時二体を失わなければ…」

 「悔やむのは後で良いでしょう。今はゴーレム作りに集中しましょう」

 「はい、先生」

 

 バーサーカー戦の後悔が過るが、先生にゴーレム作りに集中しましょうの一言に、意識はゴーレム作りに切り替わり、決戦に向けてロシェは夢の様な時間を過ごすのであった。



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第19話 「庭園突入作戦」

 先月投稿出来ず申し訳ありません。
 こうでもない、ああでもないと考えこんだら書くに書けなくなり、今月になってしまいました。

 今月より十日と二十五日の月二投稿に変更しようと思います。


 天草四郎時貞率いる赤の陣営がミレニア城砦より大聖杯を強奪し、空中庭園にて移動して数日。

 月のない新月の夜に大型飛行機群が後を追って飛んで行く。

 その最前列の大型飛行機上部にジャンヌ・ダルクは立ち、先を進む空中庭園を睨みつける。

 あそこに彼―――天草四郎時貞が居る。

 人類救済を謳い、大聖杯を手に入れた前回の聖杯戦争で召喚されたサーヴァント…。

 今や彼こそが赤のサーヴァントを纏めるマスターであり、調停者として自分が召喚されることになった元凶。

 

 彼が行う人類救済。

 それがどのような者かは解らない。

 もしかしたらとんでもなく素敵な計画かも知れないし、到底理解出来ないような非道なものかも知れない。

 どちらにせよその行為自体が裁定者として自分が決めたルールを超えた行為。

 良し悪し関係なくルーラーとして止めるべき事柄である。

 

 血も財も大半を消失してしまったユグドミレニアが用意した大型飛行機上部に立ち、次などない文字通り最後の機会であるこの作戦に全身全霊を持って挑む。

 

 周囲には同じく大型の飛行機が編隊を組んで飛行しており、何処に誰が居るか分からないように魔術的にジャミングをかけているので、向こうから視認できるのは私ともう一騎のみ。

 実際は大型飛行機群にはジャンヌを含めて二騎しかいない。

 庭園内に侵入するマスターと護衛を務めるフランケンシュタインらは安全だと思われる最後方に居り、アストルフォにサーウェル&ジャックは別行動。モードレッドに至っては単独行動で参戦するというだけでどういった手段を用いるのかとかは不明。

 不安は残るが、もはやこれ以上の手も手段も時間もない。

 出来るか出来ないかではなくやるしかないのだ。

 ジャンヌは小さく息を吸い、届きはしないだろうが聞いているであろうと声をあげる。

 

 「天草四郎時貞!」

 『吠えるな。見苦しい』

 

 やはり聞いていた赤のアサシンことセミラミスが返答を返す。

 眼前に文字の羅列が浮かび上がり、その中央にセミラミスの姿が投影される。

 その表情は余裕に満ち溢れ、笑みまで零しているように伺えた。

 

 『マスターは人類救済の準備に忙しくてな。おぬしらに構っていられる時間がないのだ』

 「赤のアサシン。彼は本当に大聖杯の力で人類を救済するつもりなのですか?」

 

 あの天草四郎時貞――いえ、シロウ・コトミネと名乗り、赤の陣営のマスターの一人として召喚した彼のサーヴァント。

 才色兼備であったアッシリアの女帝であるならば、知らされて居なくとも察しはついているだろうと当たりをつける。

 当たりと言うか確信に近い。

 が、そんな女性が敵からの問いに対して、あっさり本当の事を話すとも思えないのも確かだが…。

 

 『さて知らぬよ止めたければ必死に追い縋って来るが良い』

 

 セミラミスが笑みを浮かべたと同時に庭園周囲に浮遊している十一枚の漆黒のプレート―――迎撃術式“十と一の黒棺(ティアムトゥム・ウームー)”より光り輝く光弾が線を引くように駆け抜ける。

 光弾に触れた飛行機は爆発して周囲に破片と爆炎を撒き散らす。

 

 それがこの最後の大戦を飾る狼煙となった。

 

 庭園より空中を掛ける戦車が飛び出す。

 赤のライダーであるアキレウスのチャリオットは、馬鹿正直にこちらに向かって突っ込んでくる。

 彼が先鋒を務めるのは至極当然な采配。

 否、配置しなくともアキレウスならばこちらに突っ込んで来ただろう。

 性分というのもあるが、ジャンヌ以外に姿を見せているサーヴァントがこちらには居る。

 アキレウスの師であるケイローン。

 

 恩師であり、今回の聖杯大戦では敵同士となった彼らは互いに闘志を向けており、ケイローンの読み通りにアキレウスはジャンヌに目をくれる事もなく、ケイローンに向かって突き進む。

 無論ケイローンは迎撃するが、連射される矢の悉くが躱され、アキレウスは速度を落とすことなくケイローンが足場にしていた飛行機に突っ込み貫通して行った。

 機体上部から翼へと駆け、近くの飛行機に飛び移ろうとしつつも矢を放つ。

 またもそれらを躱しながら突っ込み、ケイローンが着地した飛行機目掛けて突撃を敢行する。

 突っ込まれると分かっているケイローンは迎撃しつつ、また別の飛行機に飛び移ろうと右翼から左翼を駆けて行く。

 三機目に飛び移った頃には一機目は爆発炎上して雲へと沈み、二機目が爆発して炎に包まれる。

 なんと出鱈目な戦闘だろうか。

 アキレウスの戦いっぷりを横目で伺っていたジャンヌはそう思ったが、出鱈目なのはその師も一緒である。

 飛び移った三機目に魔力を流し、硬化させると同時に90度傾かせ、突っ込んでくるアキレウスに対して巨大な盾として使ったのだ。

 さすがにこれは貫通し切れなかったのか、アキレウスは槍ではなく拳の一撃で飛行機を殴りつける。

 そして四機目に移り、飛行機の盾でその様子が見えていないケイローンはあたかも知っていたかのように、アキレウスが居る位置へと矢を放っていた。

 矢の直撃を受けた飛行機も爆発し、戦端が開かれてからすでに四基もの飛行機を失った。

 

 「―――フッ!!」

 

 アキレウスとケイローンの戦闘に気を向けながらも、周囲を警戒していたジャンヌは向かってきた矢を旗で弾き飛ばす。

 飛んできた方向へ視線をやると、そこには赤のアーチャーであるアタランテが弓を構えてこちらを見つめていた。

 次の矢が放たれるかと構えていると十と一の黒棺の一枚が輝き、発射体制に入っている事を知る。

 自身の身は護れても足場である飛行機は確実に撃沈されるので、放たれた光弾を躱す事も受ける事も許されない。

 一直線に放たれた光弾をジャンヌは躱さず、受け止めずに受け流した。

 光弾は旗に振れ、上空へと向きを変えて進んでいく。

 すかさずそこを狙ってアタランテの矢が放たれるが、それを予想して飛行機前方へ振るように光弾を流したので、矢はジャンヌに触れる事無く光弾に飲み込まれる。

 苦虫を潰したような顔で、アタランテが何やら叫んでいる。

 ここでは何を言っているかは解らない。

 だが、放った矢が空中に空いた穴に入って行ったことで何かを仕掛けてきた事は容易に察した。

 

 「―――ッ!?後ろから!!」

 

 背後から聞こえた風切り音に気が付き、振り返りながら旗を振るうと二本の矢に当たる。

 どうやらセミラミスの魔術によって矢をどこからでも放てるようにしたらしい。

 これは厄介と思いながらも、アタランテがこちらに注目しているのは悪い状況ではない。

 

 (ここまでは予定通り…後は彼らが何処までやれるかです)

 

 本命でありながらも囮であるジャンヌは周囲から放たれる矢と光弾に注意しながら、彼らの作戦が上手くいくことを願う。

 

 

 

 

 遠くより爆発が起こる様子を見ていたアストルフォはペちんと両頬を叩いて気合を入れる。

 彼はこれより空中庭園の防衛網を崩すという役割を担う。

 ヒポグリフという空中を自由に飛行できる利点を持つ彼が、その役割を担うのは当然の選択ではあったが、熟せるかどうかは別問題である。

 十一枚もの防衛術式の破壊だけならまだしも、姿を見かけていないカルナが出てくる可能性が非常に高い。

 カルナと戦闘しながら防衛術式を破壊するなど至難の業。

 それでもアストルフォがやらなければならない。

 いや、アストルフォにしか出来ない。

 気合も覚悟も決め、アキレウスをケイローンが、アタランテをジャンヌが惹きつけている間に接近しようとしたアストルフォに“十と一の黒棺”が狙いをつける。

 一射、二射、三射と放たれた光弾をヒポグリフが回避し、アストルフォは誇らしげに笑みを浮かべる。

 

 「大丈夫?」

 「今夜のボクは特別さ。マスター、しっかり捕まっててね。このまま空中要塞まで突っ込むよ」

 

 なにせボクの為(・・・・)に出撃日をずらす事になったんだ。

 それだけの活躍を見せなきゃってね。

 後にいるマスターであるホムンクルスのジークに微笑みかけ、正面に向き直るといつになく真面目な表情を向ける。

 

 「我こそはシャルルマーニュ十二勇士が一人、アストルフォ!いざ、お相手仕る!!」

 

 名乗りを挙げ、速度をあげる。

 ジークがぎゅっと抱き着いている腕に力を籠める。

 一射ずつの光弾では当たり辛いと考えたセミラミスは、三枚の“十と一の黒棺”を集めて魔力を中央に収縮する。

 一枚では得られないほどの高出力の光弾を放つ気だ。

 だけどそんなぐらいで臆する事は出来ない。

 立ち止まる事は出来ない。

 

 「さぁ、刻限だ。我が心は月は無く。恐怖に震えされど断じて退きはしない!」

 

 出撃日をずらすというのはユグドミレニア一族にとってはデメリットであった。

 なにせ日が、時間が過ぎれば過ぎるほど空中庭園は離れて行き、ユグドミレニアの勢力圏であるルーマニアより脱してしまう。

 しかしながらずらす原因となったアストルフォ…正確にはアストルフォが持っている宝具は空中庭園攻略には必須であり、それを使用するには月の出ない夜を待つしかなかったのだ。

 そして本日月は無く、月によって理性を蒸発させた彼は理性を取り戻す。

 忘れてしまっていた宝具の真名と共に。

 開いた魔導書よりページが空へと舞い上がり、アストルフォの頭上で金色に一枚一枚が輝く。

 宝具の使用を察したセミラミスであったが、脅威とは認定せずにそのまま三枚による光弾を放つ。

 

 「宝具解放―――破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)!!」

 

 アストルフォの宝具解放によって頭上を待っていたページが正面に展開され、放たれた光弾を受け止めるように打ち消していく。その光景には気持ちが良いほど爽快で、自然と笑みが漏れだしてしまう。

 

 「…凄い」

 「これぐらいで驚くのはまだ早いよ。よし、アイツの宝具と勝負だ」

 

 ジークの驚きを含んだ一言に気分を良くしながら、二射目を準備しているというのにそのまま真っ向より突っ込んだ。

 放たれた光弾はまたも打ち消し、接近で来た一枚目のプレートを砕く。

 集まっていた一枚を破壊するとそのままの勢いで二枚目を連続して破壊していく。

 こんな感じで全部壊せたら楽で良いのになと思いつつ、三枚目に立っていたサーヴァントと目が合った。

 赤のランサー、カルナ…。

 

 「悪いが落ちて貰う」

 「行くぞヒポグリフ!」

 

 出て来たかと内心焦りながら、槍を構えて突撃する。

 向こうも迎撃すべく、速度を上げながらこちらへと降下してくる。

 二人は急激に近づき、得物を振るう。

 

 「こけおどしだな」

 

 カルナの方が断然早く、ヒポグリフごとアストルフォを切り裂いた。

 しかし切り裂いたにしては手応えはなく、切り裂いた筈の者達は闇夜に消えるように消失した。

 

 「これは…次元の跳躍か」

 「その通り!」

 

 驚きを露わにしたカルナの背後にアストルフォが突如現れ、振り返り様に横薙ぎに槍を振るう。

 またも手応えは無く、アストルフォらの姿は消失した。

 今度は喜びから笑みが漏れる。

 

 「驚きだ。これほどの英雄がまだこの世に居たとは」

 「お褒め頂き恐悦至極。期間限定だけど今日の僕は一味違うよ」

 

 称賛を受けたアストルフォは気を緩める事無く、次のプレートへ向かう。

 勿論そうはさせまいとカルナの追撃を受けるが、次元を跳躍して回避し続ける。

 続けるが当たり前のことだがその分魔力を消費し、マスターであるジークに負担がかかる。

 まだ余裕はありそうだが何時までも相手をしている訳にもいかない。

 そうこうしながらも五つ目を破壊したアストルフォ。

 もう破却宣言は打ち消す容量を超えてしまったが為に使用不可。

 我が身とヒポグリフだけで半分以上を壊さなければと思うと焦りも募る。

 

 「もうしつこい!なんなのさこの出鱈目なランサーは!?」

 

 魔力消費など無いかのように高火力を持って追撃してくるカルナに対して悪態を付く。

 

 「このままだと埒が…」

 

 埒があかない――と、口にしようとした時、接近する魔力反応を感じて笑みを浮かべる。

 カルナも気付いたようで足を止めて上空を見上げる。

 

 「遅いよ。まったくもう!」

 「作戦通りでしょう」

 

 上空より振るや否や鉈をカルナに向けて振り下ろすサーウェル。

 一瞬の足止めの隙にアストルフォは次のプレートに向かって突撃する。

 

 サーウェルはジャックと共に別行動をとっていた。

 それは小型機で上空より接近し、ジャックは庭園への降下。サーウェルはカルナの足止めを担うというもの。

 二人は飛行能力がなく、近づくには防衛術式の破壊が必須だったために参戦が遅れてしまったのだ。

 六枚目から七枚目に移ったアストルフォはちらりとサーウェルの様子を伺う。

 

 サーウェルは飛行できない。

 が、空を行けない訳ではない。

 背負ったリュックサック内の土を魔術で空中にて固形化し、魔術を持って自身の体重を軽くして、魔術のブーストによって固形化した土を蹴って駆け上がっていくという荒業。カルナと剣を交えたサーウェルはその荒業を使って距離と取ったり、カルナの攻撃を回避したりして空中庭園へと降り立とうと必死に位置調整をしている。

 助かったのは事実なのだが、あまりのこっけいさに笑いが込み上げてくる。

 そんな中、サーウェルが乗っていた小型機は庭園に向けて墜落していき、サーウェルが作ったゴーレムが納められた棺桶二つを持って中よりジャック・ザ・リッパーが飛び出してアタランテ目掛けて降下して行く。

 気付いたアタランテは迎撃するも小型機内には盾代わりに用意していた鳥型のゴーレムが大量に飛び立ち、ジャックを護る盾、または回避する為の足場として活躍していく。

 

 そしてカルナの追撃がなくなったアストルフォは七枚目、八枚目、九枚目と破壊していき残りは二枚となる。

 残り二枚ではあるがすでにアストルフォもヒポグリフも疲弊しており、二枚を破壊するもの一苦労な状態へと陥っていた。

 一枚がこちらを狙いをつけた辺りでアレを使おうと決める。

 出来れば使用せずに返してあげたい所だったけど…。

 

 「マスター、槍を!」

 

 ジークは言われると背負っていた棒をアストルフォに渡す。

 手にするとその棒を振るい、中に収納されていた穂先を跳び出させる。

 

 「頼むよ。貫けトゥルヤーグ(外れるも必中の槍)!」

 

 祈るようにサーウェルより渡された宝具の槍を投げ、槍と光弾の射線上より退避する。

 槍は真名を叫ばれたことで解放され、強い魔力を帯びて目標に向かって飛んでいく。

 そうはさせまいと予測進路に向けて光弾が放たれる。

 光弾に飲み込まれ消失する筈であった槍は、飲み込まれる事無く目標に向かっていく。

 

 トゥルヤーグはサーウェルが外しながらも龍に直撃させた話を宝具にしたもので、その能力は高い貫通能力と必中、そして大きく軌道がズレるという点にあった。

 目標としていた十枚目に向かっていたトゥルヤーグはがくんと軌道がズレ、光弾を躱すとまたも大きく軌道を変えて、狙っていた地点よりズレて直撃を果たし、トゥルヤーグはプレートと共に砕けた。

 曲芸の様な攻撃にセミラミスも驚く中、迎撃に当たっていた十一枚目がアストルフォによって破壊された。

 

 「任務完了!さぁて、行くよマスター!」

 

 進路を変えてアストルフォも庭園に向けて突入する。

 防衛術式を破壊した事でジャンヌがそのまま前進。

 後方で待機していたマスター達やフランケンシュタインを乗せた小型機も乗り込もうと前に出る。

 ケイローンとアキレウスを除いた者らの戦場は空中から庭園へと移行するのであった。

 



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第20話 サーウェルVSカルナ

 サーウェルは庭園上部に立ち並ぶ建物の一角に立っていた。

 対峙するは赤のランサーことカルナ。

 自身の霊基や腕前、戦士が纏う雰囲気からして格の違いを察してしまう。

 出来る事ならケイローンに援護して欲しい所であるが、彼は彼でアキレウスと戦闘中。

 遠目ながら飛行機上にて殴り合いを繰り返している。

 あれではどちらが勝つか分からない上に、終わっても無事と言う訳にはいくまい。

 即座の援軍は望めないとすれば全身全霊を持ってこの大英雄に勝利せねばならない。

 体内に渦巻く負の感情を空気と一緒に吐き出し、右手に聖槍(ロンゴミニアド)、左手には(グライデン)を持って構える。

 いつ踏み出すべきかと悩んでいるとカルナが構えていた槍を降ろした。

 

 「頼みがある」

 「…聞きましょう」

 

 そう告げられサーウェルも得物を下げる。

 ほぼ初見の相手を警戒せず武器を降ろすなど油断にしか見えないだろう。

 けれど何故か彼は不意打ちや騙し討ちをしてくる気配が少しもないのだ。

 なんというか彼が放つ雰囲気が純粋に澄んでいるように感じたからだろうか…。

 

 「俺達のマスターを救ってほしい。彼らはこの庭園の一室に幽閉されている。アサシンの毒で操られ、天草四郎によって令呪を奪われ、この聖杯戦争からは脱落している」

 

 真っ直ぐ瞳を見据えたままそう告げてきた。

 最早マスターでもないのに義理立てをするのかと口に出しそうになって辞めた。

 多分私が同じ目に合ってもそうするだろうと思う。

 ただし、私の場合は自分のマスターのみだろうけど。

 

 「安心するといい。そうでなくとも召喚したマスター達は捕縛する話になっている。抵抗さえしなければ殺す事もない。無事に地上に送り返す」 

 「感謝する。これで俺も肩の荷が降りた」

 「出来ればそのまま戦争から降りて頂ければありがたいのですが」

 「それは無理だろう」

 

 表情一つ変えずに彼は答えた。

 再び槍が向けられた事でこちらも構える。

 身体に魔力を流していつでも魔術を行使できるように準備は済ませてある。

 

 「先ほどの礼だ。全身全霊を持って戦おう」

 

 敵だというのに話していて清々しい気持ちになる。

 円卓にも色んな騎士が居たがその誰とも違う心地よさがある。

 出来れば戦わずに肩を並べれたらどれほど良かっただろう。

 同時にそんな相手に魔力の出し惜しみをして戦おうと画策していた自分が恥ずかしくなってくる。

 

 「こちらも今持てる全力を持って貴方に立ち向かおう」

 「では―――行くぞ」

 

 足元が爆ぜた。

 カルナは純粋な力、サーウェルは魔術による強化による踏み込みで足元を抉って相手に肉薄する。

 洗礼された一撃がサーウェルに向けられるが、ロンゴミニアドで受け止めグライデンを振り下ろす。

 と言っても片手でカルナの一撃を防ぎきれるわけもなく、一瞬でも受け止めた槍を弾くのに振り下ろしただけだ。

 獲物が下に下がった事で頭上を跳び越えて背後へと回る。

 鋭い視線が動きに合わせて追って来る。

 短く「囲め石壁」と呟いて彼の周囲を石壁で囲んで視界と動きを遮る。

 無論長く持つはずはない。

 視界を遮ったのはコンマ数秒で、次の瞬間には一振りですべてが砕け散っていた。

 あまり意味の無いようで、僅かな攻撃の機会にサーウェルは「穿て石槍よ」と叫び、着地した足場から石材の槍を幾重も生やしてカルナへと向かわせる。

 

 視界を回復し、正しく認識したカルナは動じない。

 ヴラド三世との戦いで同様の攻撃を幾度も体験しているのだ。

 それも格段に速く、鋭く、威力の高いものを。

 慌てる様子もなく片手を上にあげて軽く降ろす。

 動きにナニカあるのかと凝視したサーウェルは頭上に赤く輝く高魔力体の槍が円陣を組んで、穂先を向けている事に気付くのが遅れた。

 

 「ずらせグライデン!」

 

 慌ててグライデンの重力操作で穂先を僅かにずらし、その場を飛び退く。

 直撃こそ回避したものの、地面に直撃した爆風で地面を跳ね、ゴロゴロと転げまわされる。

 向かっていた石槍はまたも一振りで破壊され、カルナは地面を転がるサーウェルに急接近する。

 間合いに入るとサーウェルは魔術で脚力と腕力を強化して地面を押して空中へと跳ねた。

 人にとって死角たる頭上を取り、槍を付き出そうと構えるもその腕は一向に伸ばす事は無かった。

 

 ……目が合ったのだ。

 それも高魔力を宿した瞳と。

 

 先と比べ物にならない焦りを感じ、空中に足場を構築してその場を跳ぶ。

 太ももに激痛が走り、歯を食いしばりながらなんとか着地する。

 振り返ればカルナの瞳より一直線に放たれた輝きが真っ直ぐ走り、なぞったものをすべて溶かしては吹き飛ばしていた。

 直撃すれば足どころか下半身が消し飛んでいた。

 それを考えれば鎧が削られ、太ももの半分以上が焼け爛れたぐらい何でもない。

 

 「ブラフマーストラ・クンダーラ(梵天よ、我を呪え)

 

 飛び上がったカルナが赤く輝く光槍を投擲した。

 直撃は不味いが回避は不可能。

 グライデンを使用し、先をずらしながら流そうと振り下ろす。

 触れた瞬間肩まで焼け爛れるも苦痛に構ってはいられない。

 意地で流して後方で巨大な爆発が起こる。

 

 息が荒くなるも頭はまだまだ冷静だった。

 カルナに勝利するには持久戦に持ち込む事を一番だと考えていた。

 ヴラドとの戦いで幾らか情報は得ており、彼がかなりの魔力を使うサーヴァントであることは解かっていた。

 ゆえに持久戦に持ち込めば自然と魔力切れを起こして戦闘続行不可能となる。

 そう思っていたサーウェルはそんな甘い考えを捨てきった。

 彼に対して持久戦など不可能だ。

 そんなことしていたら間違いなく自身が先に消え去っているだろう。

 思念をロシェに飛ばし、許可を取ってロンゴミニアドに魔力を送る。

 カルナを倒すには聖槍の一撃を持って他にない。

 それを察したのかカルナは追撃することなく槍を高らかに掲げた。

 

 「俺はお前を打ち倒すための絶対破壊の一撃が必要だ」

 

 纏っていた鎧の一部が粒子に還り、槍へと集まっていく。

 何をする気だと浮かんだ疑問は瞬時に宝具を使用する気だと理解して解消される。

 周囲がカルナを中心に放たれる熱量(魔力)に当てられ溶けては波打つ。

 まるで火山の火口……否、溶岩に囲まれているかのように熱く重い。

 

 「神々の王の慈悲を知れ」

 

 ―――不味い。

 あれ程の威力を迎え撃つにはあまりに出遅れた。

 今から魔力を込めて宝具を放っても間に合うかどうか。

 瞬時に思考を巡らせたサーウェルはグライデンを眺めて剣先をカルナに向ける。

 

 「是に封じられし幻獣達よ。今こそ力を解き放ち、己が存在を示せ」

 「絶滅とは是、この一刺し」

 

 短い詠唱を呟くとグライデンに罅が走る。

 中から魔力が漏れ、邪悪な気が周囲に撒かれる。

 長年に使わせてもらっていた彼らに心の中で礼を述べ、しっかりと己が敵を睨む。

 

 「焼き尽くせ―――ヴァサヴィ・シャクティ(日輪よ、死に随え)

 

 黄金の鎧を吸収し、巨大な矛を持った槍から今までとは比べ物にならない程の巨大で高魔力の光線がサーウェルを蒸発させようと向かってくる。

 対してサーウェルは逃げる事も焦る事もなく、落ち着いた様子で一息つきながら最後の一言を告げる。

 

 「宝具崩壊―――グライデン(目覚めろ幻獣達)

 

 グライデンが弾けると同時に黒い光が辺りを包み、カルナが放ったヴァサヴィ・シャクティを受け止めた。

 目を見張るカルナの前にはサーウェルの前に巨大な黒いドラゴンが立ち塞がっている姿が映った。

 だがそれだけだ。

 龍種が現れる事は驚きであるが、蘇ったわけではなく一時姿を現しただけ。

 そして防げるのはほんの一時のみ。

 すでに現れた肉体は溶解し、悲痛な雄たけびを上げている。

 一瞬で蒸発しなかった辺りは、さすが龍種と褒めるべきだろう。

 

 そう思っていたカルナは身体を深く斬りつけられて血を噴き出した。

 何事かと驚きに飲み込まれる。

 サーウェルはドラゴンの後ろに居り、斬りつけるにしても攻撃手段は何もないはずだ。

 否、あると思って警戒してサーウェルを見ていただけに奴の攻撃でない事だけは確か。

 ならこの一撃は何なのか?

 カルナの疑問を解消したのは視界の端に映った一匹の獣。

 猫のようだがもっさりとした毛から覗く爪は鎧であろうが切り裂くほどの鋭利さを持ち、瞳は憎悪や殺気とは違った悪寒をもたらせるには充分な感情を持っていた。

 アレは魔獣などではない。

 災厄の獣の類…。

 

 「王より簒奪せし最果ての光よ。我らに立ちはだかる者を討ち、救いを与えよ」

 

 獣に注意が逸れた一瞬だがサーウェルを見失ってしまったカルナは、ヴァサヴィ・シャクティの射線上から避けて槍を構えるサーウェルを見つけた。

 すでに聖槍には高魔力が収拾され、その矛先がこちらに向けられていた。

 

 「―――ロンゴミニアド(最果てにて輝ける槍)!!」

 

 放たれた輝きの飲み込まれたカルナは驚き、ふっと微笑んで輝きの中に消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 状況が大きく動く。

 アストルフォが天空要塞の防衛術式を砕いたので取り付く事事態は用意となり、すでにサーウェルとジャックが庭園内で戦闘を開始している。

 庭園上より夜空を照らす程の輝きが起こり、一つの戦闘の終結を知らせる。

 小型機で庭園に向かっていたカウレスは誰の戦闘が集結したのかと機内を見渡す。

 機内にはサーウェルのマスターであるロシェにジーンとシェイクスピア、フィオレとゴルド、それと武装したホムンクルスとゴーレムが搭乗している。

 ここに居ないセレニケはアストルフォをサーウェルとの契約でジーク渡しているので聖杯戦争からは脱落しているのもあってミレニア城砦にて魔術師でないので支援が出来ない六導と共にお留守番となっていた。

 脱落と言う点では同じであるゴルドであるが、彼はジャックが持って行っているゴーレムへの魔力供給から指示を出す役割があるのでここに居る。

 見渡したところ、ロシェが満面の笑みで喜んでいたので間違いなくサーウェルがカルナに勝ったのだろう。

 これは良い兆しだ。

 正直なところ、誰もがサーウェルではカルナに勝てはしないと思い込んでいた。

 出来ても時間稼ぎが関の山だろうと。

 天草側のサーヴァントが敗れた事で戦況はこちらに傾く。

 後はサーウェルに続いてケイローンが勝利すれば………っと、淡い期待を抱いたカウレスは夜空を駆ける一つの輝きに目を向けた。

 輝きは上空。

 雲よりも高い位置から伸びていて、頬を窓に押し付けるように見上げてみるとそこには射手座が弓を構えた状態でそこに居た。

 射手座と言えばその元となったケイローンだ。

 彼の宝具かとフィオレを見つめると彼女は悲しそうに左手を握り締めていた。

 出発前にケイローンに令呪を使って強化していたのを知っているが、まだ一角令呪は残っていた筈。

 なのにその手の甲には令呪は存在しなかった。

 それがどういう意味を刺しているのかを悟り、カウレスはそう上手くは行かないものだなと苦悶を浮かべる。

 

 ゴーレムが操縦する小型機は庭園に向かって着陸態勢に入る。

 未だに攻撃を受けないのはジャックがアタランテを押さえているのと、まだ到着こそしていないが敵の目を惹きつけた上に攻撃の悉くを弾いたジャンヌ、そしてアストルフォが空中庭園の防空術式を砕いてくれたおかげだ。

 着陸地点を見下ろしたカウレスは異変に気付いた。

 近くにはアストルフォとジークが待機しているのだが、ナニカが巻き付いているように見える。

 徐々に距離が近づいた事でそれが鎖と気付いた時、恐怖を肌身で感じる事になった。

 二人を縛り付けた諜報人である赤のアサシンことセミラミスが手を向け、魔法陣らしきものを空中に展開しているのだ。

 非常に不味い。

 魔術によって多少機体を硬化することは可能であるが、サーヴァントの攻撃を防げるほどではない。

 爆発させられれば確実に死ぬ。

 冷や汗が噴き出る中、一機の戦闘機がセミラミスに向かって突っ込んで行った。

 躊躇う事無く減速せずに突っ込んだ戦闘機が爆発を起こす。

 爆炎の中から苦々しい顔をしたセミラミスが出てくるとすぐさま姿を消した。

 そして少し遅れて爆炎よりモードレッドが姿を現した。

 性格なのだろうけど派手に来たな。

 おかげでアストルフォ達もこちらも無事だったのだが…。

 

 無事に着陸を果たした事でシートベルトを外し、「行くぞ」とフランケンシュタインに声を掛けて立ち上がる。

 すると裾を誰かに捕まれ、振り返ると不安げなフィオレと目が合った。

 

 「気を付けるのよカウレス」

 「大丈夫だって。そっちこそ気をつけてな」

 

 カウレスはこれより空中庭園内に突入する。 

 目的は敵対勢力の排除と赤のマスター達の救出。

 当初はマスター達が抵抗するのであれば排除であったけど、ロシェより伝えられたサーウェルとカルナの会話よりその抵抗どころか意思さえあるか怪しい。

 今後の事も考えれば救出が一番だろう。

 中々に危険で難しい事であるが、機内にて待機するゴルドとフィオレも危険な事には違いない。

 何しろ古代の街並みを再現している空中庭園上部に小型旅客機が着陸しているのだ。

 馬鹿みたいに目立つし、それがこちら側の足だと気付くだろう。

 下手すると見つかった瞬間、優先的に破壊される可能性すらある。

 だからお互いに無事を祈り、カウレスは庭園に降り立つ。

 ロシェにロシェの護衛を命じられたモルド。

 ジーンに非戦闘サーヴァントのシェイクスピア。

 武装ホムンクルス数体と正直戦力として頼りになるのはフランケンシュタインだけだ。

 先ほど居た筈のモードレッドはもう姿が見えない事からセミラミスを追って行ったのだろう。

 つくづく団体行動に合わないなとため息を漏らし、アストルフォの状態を見定める。

 彼らは術式破壊でかなりのダメージを受け、魔力の消費をしているので少し休ませる必要があると判断し、とりあえずここに残して行こうと思う。

 ジャンヌとは後で合流するとして、今いる面子で先に進むしかない。

 というかシェイクスピア辺りは機内に残ると駄々をこねると思っていたのだが…。

 予想と反したシェイクスピアへ振り返ると新しい玩具を手にした子供のようにキラキラした瞳をしていた。

 

 「いざ行かん。この戦争の根源たる聖杯の下へ!」

 

 敵地のど真ん中で高らかに叫ぶシェイクスピアにジーンは呆れた視線を向けつつも、慣れた様子で注意すらする気はないらしい。

 なんとも笑ってしまう光景に気が緩むが、すぐさま張り直して庭園を睨み、この戦争に勝利すべく踏み出すのであった。



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