うわっ…俺の神機、古すぎ…? (銃頭)
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うわっ…俺の神機、古すぎ…?

よかった...新年前にギリギリ間に合った。どうも、銃頭です。稚拙な文章ですが、暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです!!


 

世界を赤くに染める夕日の光が、割れた窓から入り建物内を照らしている。中はそこそこ広く、置かれている元々は備品だった物から何処ぞの会社の受付だと思われる。 しかし、そこに居る筈の会社員が居ない。 居る筈がなかった。 内部はまるで巨大な怪物が暴れたかの様に荒れていた。射し込む夕日の光が寂寥感を引き立てる。 もはや廃墟と呼んでも差し違えないほど荒れた建物内に複数の人影があった。

 

その中に男は居た。

 

癖のある黒い髪と黒い眼の日本人。 まだ若く、外見から10代後半から20代前半位と思われる。 背は高く170cm後から180cm位は有るだろう。 腰にはベルトに繋がれたの弾薬盒(弾薬用の小箱型のポーチ)がぶら下げており、狼の頭の様な刺繍が施されたF式制服の上に黒いロングコートであろう上着を着用している。 男は険しい表情を浮かべ、耳に取り付けた通信機に耳を澄ませたまま微動だにしない。

 

 

『第一部隊、戦闘を開始しました』

 

 

オペレーターから仲間が戦闘に入った知らせが男の耳に届けられる。それは作戦開始の合図。

 

 

「了解しました 」

 

 

通信機を持った男は短く答える。

此方も状況を開始します。と呟く様な声で応えると通信を切り前へ向き直る。 目の前には10数人程の人達。年齢層はばらつきが6割中年、3割若者、残りは高齢と子供だ。 共通する所は全員の服装はボロボロでありある者は不安げに、ある者は僅かな希望に縋る様に此方を見ていた。彼らは作戦エリア内にある建物で隠れ住んでいた難民だ。

 

 

「おい!どうなんだ!?」

 

 

中年位の男性が男に聞く。 場の重苦しい空気に我慢が出来なかったのか、それとも今の状況に耐えらないのか、いや両方だろう、声を荒げて男に返答を急かす。

 

数十分前、男に言い渡された任務は贖罪の街と呼ばれる昔は大勢の人で賑わっていたがアラガミと呼ばれる化物に荒らされ、もはや人どころか一本の植物すら生えぬ廃墟と化しその化物の生息圏となった場所に隠れ住んでいた難民の保護だ。

 

仲間が大型のアラガミ ーーーーー元々、男が仲間達と共に討伐する予定だったアラガミを 足止めしている内にランデブーポイントで待機している回収部隊に引き渡す。

それが男の任務だ。

 

 

「これから北東200m地点にある回収地点に向かいます」

 

 

男は中年男性を刺激しないように丁寧に、淡々とこれからの行動を伝える。

 

 

「ふざけんな!!」

 

 

中年男性は激怒した。そして続ける。

 

 

「外に化物が彷徨いている中を行けっていうのか!?」

 

 

中年男性の叫びに周りの人間も同調して抗議の声を上げる。化物がウヨウヨしている中を行けって言うのか!! 俺たちに死ねって言ってんのか!? だが怒りをぶつけられた当人は眉一つ動かさない。 男は怒りを表す彼らに何の感情を浮かべることなく、淡々と告げる。

 

 

「貴方達の安全は私が保証します 」

 

 

それに中年男性は疑念と軽蔑の目線を向け難色を示す。

 

 

「武器も持っていないゴッドイーターに何が出来るってんだよ!?」

 

 

周りの増長した勢いのまま中年男性は男を罵倒する。 中年男性の言う通り男には武器が見当たらなかった。

 

 

ゴッドイーター

それはフェンリルと呼ばれる組織に所属するアラガミを倒すことの出来る唯一の存在。 彼らはアラガミを構成しているオラクル細胞をその身に宿し神機と呼ばれるアラガミから取れる素材から造られる対アラガミ用特殊兵器を使いアラガミを狩る。 男の右腕にはゴッドイーターの証とも、或いは切っても離せない呪いとも言える体内のオラクル細胞に肉体を喰われないように制御する為の赤い腕輪が嵌めらている。

 

しかし男には神機が見当たらない。

 

 

「・・・・・・ 」

 

 

男は答えない。 代わりに、ゆっくりとした足取りで中年男性に近づいた。

 

 

「っう!?」

 

 

中年男性は何も言えない。 否、何も言えなかった。 男の黒い瞳に宿る鋭さに沈黙せざるをおえなかった。 しかし男はそんな中年男性に話しかけることもなく横を素通りした。

 

 

「っぉい!!無視すnっっ!?」

 

 

中年男性は無視された怒りから男の腕を掴み 引き止めるが驚愕した。 男の腕は硬かった。 それは無駄無く鍛え上げられた鋼の肉体。 ボディビルダーの様な魅せる為でなく、戦う為に徹底的に鍛え、無駄を絞った肉の鎧。

 

一体どれ程の訓練を、鍛錬を積めばこの様になれるのか。 中年男性の驚愕を余所に掴んだ腕を解き男は歩く。 周りの人間は男の態度が気に入らないと、男に掴み掛かろうとしたその時...

 

 

 

 

ズドンッ!

 

 

 

 

一発の銃声が部屋に響いた。

 

 

 

男を除いた全ての人間の動きが止まる。 男の右腕にいつの間にか一丁の夕陽を浴びて赤く染まった黒い銃が握られていた。 恐ろしく大きく、禍々しいソレはリボルバー拳銃...もしもこの場に軍人やガンマニアかいたのならタウロス・レイジングブルと呼ばれるマグナム銃だと分かるだろう。

しかし施されたカスタマイズは異常だった。銃把底部と銃口部分には接近戦を想定したスパイク。何よりもデカイ。バレルを含めて全長40cm以上はある。 とてもじゃないが人間が片手で撃てる品物では無い。 そんな巨大な銃なのに、誰一人発砲する瞬間を視ることは出来ず、いつの間にか手に握られていた。凶器を認識すると同時に何が倒れる音が外から聞こえた。

 

異形の銃を持った男は入り口に向かうと乱暴に蹴りつけ、金具が錆びついた扉を簡単に吹き飛ばす。 男は扉の無くなった出入り口から外に出た。 難民達は距離を置き男は後ろから、一部の者は割れた窓から恐る恐る外に出た男を見た。

 

 

『緊急事態です!そちらに小型のアラガミ反応が接近!!数は5です。さらに、エリア外から複数の小型アラガミが南西50m先から接近中です!!』

 

「確認しました 」

 

 

そこには二本の大きな牙と刺々しく鬼の顔の様な模様をした尻尾が特徴の灰色の狼の怪物、 オウガテイルが5匹。 その内の1匹は入り口の前に眉間に穴を開け倒れていた。

 

しかしアラガミはオラクル細胞の集まり。 単細胞生物群体。 この程度では死ぬことはない。事実、撃たれたオウガテイルは倒れながらも、もがき立ち上がろうとする。男は未だもがくオウガテイルに近づくと足で踏みつけ、オウガテイルの顔を押さえ込む。そして右手に握った異形の神機の引き金を引き、残った弾を全て吐き出させた。

 

オウガテイルが動かなくなるのを確認すると、難民に向けてまた感情を抑えた声色で告げる。

 

 

「落ち着いて裏口から北東に向かってください。少し行けば此方に向かっている回収班と合流できます」

 

 

自分はアラガミの足止めをします。

そう言いながら懐からスピードローダーを取り出し手慣れた手つきで銃弾を装填しアラガミの群れの前に立つ。

 

 

「囮くらいの役には立つますよ 」

 

 

淡々と自傷の様な言葉を述べると男は、銃口をアラガミに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

俺は真守 十郎(まもり じゅうろう)。 ただのしがないゴッドイーターだ。

 

突然だが俺はこの世界の住民ではない。俗に言う『転生者』とか言うものだ。何処にでもいる大学受験を控えた高校生だった俺だが、突然車の衝突事故に巻き込まれたと思えば、気がついたらゴッドイーターの世界に居た。何を言っているか分からない?俺もそうだ。 死ぬほど痛い(多分実際死んでる)思いをしたと思えば、気が付いたら世界は世紀末でマジで人類が滅ぶ寸前の状態である元の世界でプレイしていたゲームの世界に居たなんて、悪い夢かと思った。

 

悲しいことに夢でもなければドッキリカメラでも無い。 しかしいきなりゲームとなっている世界に居るという現実は受け入れられなかった。 現状が理解できずオロオロしている時、運が良いのか悪いのか偶然受けたフェンリルの遺伝子データの定期診断に参加しゴッドイーターとしての適正が判明。 そこからは、あれやこれやといつの間にかフェンリルとか言うブラック企業も真っ青になり裸足で逃げ出す超ブラック企業に就職。

 

ようするにゴッドイーターの一員となった。

 

 

 

 

 

▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわああああああああ

 

 

 

 

 

そう叫んだ俺は悪く無い筈だ。 しかしゴッドイーターにならなければアナグラに不法侵入した難民として外に放り出される可能性がある。 おまけに俺はこの世界の身分どころか無一文かつ身を守る術を持たない。 大変不本意ながら俺はゴッドイーターになることを泣きべそかきながら受け入れた。

 

そうしてゴッドイーターになって二年が経ったの現在。

 

常に慢性的に人員が枯渇しているせいで、俺は久方ぶりの休日に叩き起こされて休日出勤を余儀なくされた。涙が止まらなかった。

 

目の前には廃墟となった街に立つ4匹のオウガテイル。この2年でアラガミを腐るほど見て、対峙してきたが恐怖心が無くなることはなかった。 先輩は「こんな仕事だ、臆病な位が丁度いい」と言っていたが、今だにちびりそうになる。 情け無く思えるが怖いものは怖い。

 

後ろから人が遠ざかる気配を感じる。 オペレーターのヒバリさんの言葉通りなら、目の前のオウガテイルさえ止めれば途中で回収班と合流できるだろう。

問題は俺だ。 俺の神機はピストル型神機。 第零世代神機とも呼ばれる最初期の骨董神機。 近代化改修され、今のアラガミ相手でも戦えるようになっているが第ニ世代である新型神機は勿論、第一世代である旧型神機にすら大きく劣る。

 

さらに俺自身の実力もお世辞にも強いと言えない。 喧嘩すらまともにしたことのない俺が今まで生き残れたのは、元の世界に帰れない現実から逃げる為に我武者羅にやってきた鍛錬とそれに付き合ってくれたピストル型神機が現役だった頃を生き延びた大先輩と泣く子も黙る鬼教官のお陰だろう。それでも新型なんて贅沢言わないからせめて旧型に適合したかった。そう常々思うくらいの性能に差がある。

 

神機を握る右手の親指で神機に刻まれたフェンリルのエンブレムを撫でる。 現実逃避してもしょうがない。 そんなことしていたらあの痴女紛いの格好をした鬼教官に根性を文字通り叩き直される。 あれを受けるのはもう二度とごめんだ。正直ヤーさんよりおっかない。ヤーさんと会ったことないけど。そんなことを考え、それそろおっ始めようかと思っといるとヒバリさんから通信が入る。

 

 

「.....何ですか? 」

 

 

 

『たっ大変です!南西から大型アラガミのオラクル反応を確認!同方向から接近していた小型アラガミ反応ロスト!恐らく捕食されたと考えられます...大型アラガミ、そちらに向かってきます!!到着まで10、いえ5秒!!』

 

 

 

 

 

 

・・・・・え?

 

 

 

 

 

 

 

え?...ちょっ、待っ

 

 

返答する間もなく、遠くで何か重たいナニカが着地した音が聞こえた。音源の方向を見ると赤いマントの様な物を纏った巨大な虎の様な化物がマンションであった廃墟の上に立っていた。虎の化物は身を屈め、次の瞬間その巨体では考えられない位に軽やかに跳んだ。 背中に悪寒が走る。次の瞬間に起こることを頭で理解する前に、俺は全力で後ろへ頭からダイブした。

 

 

 

次の瞬間、真後ろに雷が降り注いだ。

 

雷鳴が轟く。

 

 

 

大音量の空気が弾ける音に耳をやられそうになりながら、衝撃波を受けて地面を転がる。 立ち上がりながら、自分がついさっき居た場所を見た。そこは大地が抉られ、オウガテイルだったものがプスプスと黒煙を上げながらグッタリ倒れていた。 巨大な虎の様な化け物...ヴァジュラが此方を睨めつけていた。

 

ヴァジュラは複数で行動する個体もいる。 目の前にいるのは第一部隊が戦っている仲間か、或いはツガイか。 いや今重要なのはヴァジュラがもう1匹いてそれが俺の目の前にいるということだ。 流石はアラガミ動物園だ。 嫌な汗が止まらない。

 

 

『早くその場から離れてください!逃げて!!』

 

 

通信機からヒバリさんが悲鳴にも似た声で逃げるように言っているのが聞こえる。 このまま戦闘に入れば殺されることが分かっているからだ。 そうしたいのは山々だが逃げれない。 背中を見せればその瞬間やられる。 スタングレネード等の道具を使えば何とか逃げられるだろう。だがそうした場合難民達に矛先が向く。

 

だから逃げれない。

 

逃げることの出来ない理由をヒバリさんに伝えようとした次の瞬間、ヴァジュラが動いた。 悠長に話している時間など無いぞと言わんばかりの勢いで大地を蹴る。 人間一人潰すには十分過ぎる巨体と速度で飛びかかるヴァジュラを右にダイブする様に回避する。 直ぐにヴァジュラに目を向け、目を離さずに距離を取る。

 

やるしかない。

 

やらなければやられる。

 

こんな俺でも一端のゴッドイーターだ。 幾ら骨董神機を使う時代遅れでも、ゴッドイーターになったのが偶然でも俺は守る側の人間だ。 追撃をかけるヴァジュラに向けて高濃度のオラクルを凝縮し精製された特注の銃弾を放ち、牽制しながらバックステップで一定の距離を維持しつつ、ヒバリさんに戦闘の意思を伝える。

 

ヒバリさんは驚き直ぐに止めさせようとする。当然だ。無茶な行為だと理解している。だけどヴァジュラが俺に釘付けになってくれなければ難民に向かう。逃げれば力が無く数も多いあちらに向かうのは明白だ。事実、時折ヴァジュラは北東を気にする。 間違いなく難民の存在に気付いている。そのことをヒバリさんに伝えると同時にヴァジュラが向かってくる。

 

ヒバリさんの返答を待たず強引に通信を切り、左に回避しようとする。突進と共にヴァジュラが発生させた雷が俺を襲う。寸での所でステップで躱すも距離が不十分だったのか電撃の余波を受け、感電してしまい痺れにより足を止めてしまう。

 

 

「っぐ...ぉ!?」

 

 

ヴァジュラが左前脚を振りかぶる。俺の中の防衛本能が警報を鳴らす。喰らえばタダじゃ済まないと。咄嗟に少しでもダメージを抑えるべく身を捩り避けようとしつつ右腕を盾にした。ヴァジュラの攻撃は鉤爪で右肩を引き裂き、俺の体を容易に吹き飛ばした。呼吸が出来ない程の衝撃を受け一瞬、呼吸が止まる。

 

 

「ーーーーーっっっ!!」

 

 

声を上げることも出来ず吹き飛んだ俺は二、三回、固い地面をバウンドし、ようやく止まる。 肺の中の酸素が全て吐き出される。全身、そして右肩に焼ける様な痛みが走る。鉤爪の様な爪で引き裂かれ出来た右肩の傷から血が流れ、握った神機を濡らす。

 

『バラバラになった』

 

そう錯覚させる程の衝撃だった。痛みに悶えている時間は無い。ヴァジュラが追い打ちをかけてくる。 痛む体にムチを打ち、ポーチに無事の左腕を突っ込みスタングレネードをわし摑みピンを口で引っこ抜きすかさず投げる。

 

 

閃光

 

 

ヴァジュラがモロに光を受け、足止め出来ていることを確認すると息を整えながら再びポーチに左手を突っ込む、中から取り出したのは手のひら大のカプセルの様な銃弾。そして、赤い弾頭が特徴の銃弾。

 

 

 

「...良いもんくれてやるよ 」

 

 

痛みに耐えながらニヤッと擬音が付きそうな笑みを浮かべ、赤い銃弾を装填し神機の銃口にカプセルの様な銃弾を取り付ける。地面に奇妙な形の影を落とす神機を左手に持ち替え、右手を添えながらヴァジュラに向ける。

 

ヴァジュラが視力を取り戻し此方を見る。 それと同時に引き金を引く。 カプセルの様な銃弾は勢いよく飛び出しヴァジュラに着弾すると

 

 

爆音

 

衝撃波

 

熱風

 

 

凄まじい爆発を起こした。 今、俺が発射したのはアラガミバレット。 通常、ピストル型神機では口径が合わずアラガミバレットを撃つことは出来ない。 しかし自称スターゲイザーのサカキ博士とリッカちゃんの驚異のメカニズムにより先詰め式にし、発射用の専用弾を用いることにより使用可能となった。火力が絶望的に低く、決め手に欠ける俺の持つ唯一の切り札。

 

しかし、そんな俺の切り札を受け、黒煙の中からヴァジュラは姿を現した。対象は健在。俺は今、苦虫を噛み潰した様な顔をしているだろう。

 

 

「少しは堪えろよ、弱点属性使ってんだからさ」

 

 

そんな俺の気持ちを知らぬと言わんばかりに ヴァジュラは疾走する。しかしダメージは受けているようで動きが僅かに鈍い。これなら躱せる。だが横をすり抜ける形で躱すと待っていたのは ...

 

 

「うぉっ!? 」

 

 

尻尾だった。尻尾と侮るなかれ。十分に人を吹き飛せるパワーとデカさがある。 不意を突かれた俺はモロに顔面に食らい、再び吹き飛ぶ。

 

 

(マジで、やべぇな... )

 

 

未だ血が止まらぬ右肩を抱えながら立ち上がる。しかしヴァジュラは襲ってこなず此方を見ている。 鼻から血が止めどなく溢れ、口の中にじんわりと鉄の味が広がる。尻尾を顔面に貰った際に鼻が折れ、口を切ったみたいだ。 鼻血を拭い、プッと血を唾と一緒に吐き出し思案する。

 

勝機の無いこのままじゃ殺される。だが殺されてやるつもりは毛頭無い。僅かだが勝機は有る。痛みを噛み殺しながら折れた鼻を無理やり元に戻し、ゆらりと立ち上がる。そしてヴァジュラを睨みつけながら神機に弾を込める。

 

 

成功すれば勝率は上がる。失敗すれば間違いなく死ぬ。 一か八かってやつだ。 だが他に妙案は浮かばない。 生き残るにはやるしかない。 ヴァジュラが待つのに飽きたのか此方に向き直る。俺は腰を落とし、右膝を地面に着け、左足を真っ直ぐヴァジュラに向ける。 両腕で神機を持ち、真っ直ぐ構える。 負傷した右腕に力は入らないが、添えることはできる。

 

 

「フゥーーー...ッ!」

 

 

集中。ゆっくりと息を吐き出し、昂ぶっていた気持ちを落ち着かせ、無駄な力を抜く。 ヴァジュラが大地を蹴り、此方に真っ直ぐ向かって来る。 狙うはヴァジュラの眉間。 正確に言うとアラガミバレットを食らい入ったヒビ(・・) 。当てられなければジ・エンドだ。

 

 

一発目、発砲。

 

 

着弾。

 

変化無し。

 

 

続けて二発、三発。

 

発砲。

 

 

着弾。

 

ヒビが僅かに広がった。

 

 

 

四発、五発。

 

発砲。

 

大きく、決定的なヒビが入る。

 

 

 

ヴァジュラが眉間の異変に気付く。

 

もう遅い。

 

 

六発。

 

最後の銃弾を放つ。

 

 

真っ直ぐに飛んだ六発全ての銃弾はヴァジュラの眉間に命中し、砕いた。 結合破壊成功だ。

 

 

 

 

BINGO(当たり)

 

 

 

 

小さく呟いた俺の声は結合破壊されたことで体制を崩し横を転がるヴァジュラの痛みと困惑が篭った叫び声に掻き消された。 俺の神機では小型や中型のアラガミ相手ならまだしも大型相手ではオラクル細胞の装甲が厚くダメージが通り辛い。俺が正面から戦い勝つには結合破壊を狙い、銃弾が通り易くするしか無い。

 

 

集中する為に息を止めたことにより肺の中に溜まった二酸化炭素を吐き出す。まだ終わりじゃ無い。ここからが本当の地獄だ。気持ちを切り替えヴァジュラに向き直る。

 

結合破壊を起こした額から血を滴らせ、ヴァジュラが怒り狂いながら立ち上がる。 オラクル細胞を活性化させ、スパークを起こしながら俺を殺す為に走り出す。 手早くリロードを済ませ、俺もヴァジュラに向かって飛び出した。俺とヴァジュラの距離が15m位になった時、予め握っていたスタングレネードを投げる。再び閃光がヴァジュラの視覚を奪う。ヴァジュラが足を止めた瞬間、俺はヴァジュラの頭を階段の様に駆け上がり、飛び乗る。 俺に気づき振り落とそうと暴れるヴァジュラに必死にしがみ付く。

 

 

「っぐ!ぉおおおおお!! 」

 

 

より多くの力を振り絞る為、腹の底から叫びながらありったけの力を込めて結合破壊した額に神機を捩じ込み、一気に銃弾を全て撃ち尽くす。 結合破壊した箇所から血が噴き出し、身体が血で染め上がる。 ヴァジュラが痛みに悶え、より激しく暴れる。

 

 

「おおおおおッ...!? 」

 

 

血でしがみ付いていた手が滑り、振り落とされてしまう。もう何度舐めたか分からない地面を転がりながら、ポーチから銃弾を取り出しリロードする。

 

 

「・・・仕切り直しだ」

 

 

ヴァジュラの血で濡れた髪を掻き上げながら神機を構える。右肩からの出血は未だ止まらない。骨までは傷付いていないと思うが、だんだん握る力が弱くなり体が一層、重くなるのを感じる。

 

だが、まだ左手で神機を握れる。まだ戦える。動きを止まるな。思考を止めるな。 止まれば最後...死に捕まるぞ。自分に暗示をかける様に言い聞かせる。 生きたい。生きていたい。たとえその先が生き地獄だとしても。ヴァジュラが吠える。俺は歯を食いしばり、立ち上がり、相対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーー“二度”も、死んでたまるかぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

何も持たずにこの世界に来てしまった俺が、唯一持つ“覚悟”を叫びながら、俺は人類の天敵にひとり挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは滅びに向かいつつあるこの地で 、いる筈の無い一人の第零世代神機使い(ガンマン)が過ごした 、どうしようもない程に絶望的で、どこまでもタフな日常の記録。

 

その一端。




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