ガルパン 意味無し二次短編 (rockless)
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1話

この話は、劇場版に登場した戦車のセンチュリオンのエンジン音が、とっても渋かったので書いたものです。過度な期待はしないでください


「西住ちゃーん!ビッグニュースだよー!」

 

 プラウダ高校との準決勝戦を勝利した大洗女子学園。試合後の休息日の次の日のこと、訓練のために戦車ガレージに集まっていた戦車道履修者たち、その中にいた隊長のみほに、学園生徒会長の杏が喜び叫びながら走ってきた

 

「新しい戦車が見つかったんだよ!!それもすごいの!!」

 

「ホントですか?!」

 

「うん、さっき自動車部に回収を指示して来たところだから、もうそろそろここに着くと思うよ!」

 

 杏の言葉にみほや他の戦車道履修者たちが期待に胸を膨らませる中、自動車部が戦車運搬車を運転して戦車ガレージの前までやってきた

 みほたちはガレージから走って出て、回収されてきた戦車を見る。そして驚いた

 

「せ、センチュリオン?!」

 

「な、なぜにこの戦車が大洗にあるのでありますか?!第二次世界大戦の終盤に試作され、終戦後に量産された重巡航戦車でありますよ?!ハッキリ言って、今のウチにある戦車とは格が違うのであります!!」

 

 運搬車の荷台に載っていた戦車を見て、みほと同じあんこうチームの装填手を務める戦車マニアの優花里が驚きつつも戦車の解説をした

 

「いやー、それがさー学園艦の貨物搬出入エリアの隅っこにさ、放置されてたんだよね。それをそのエリアの管理主任が教えてくれたんだよ。廃艦のことが、艦内全てに知られちゃったからさ。『この戦車使えないのか?』ってさ」

 

「でもなんでこんな高性能の戦車が残ってたんだ?」

 

「そうですよね。20年前に戦車道を廃止した際に、めぼしい戦車は売りに出されたと、記録には残されたましたし・・・」

 

 杏の説明に、みほと優花里と同じくあんこうチームの麻子や華も疑問を持つ

 

「もしかしたら、規定違反な戦車なのかも・・・」

 

「その可能性はあるであります。センチュリオンなら、規定に適合しているのはA41の試作車のみであります」

 

 みほは残されていた理由を不安視し、優花里もそれに同意する。規定に適合しないとはいえ高性能戦車ならば、売却額は結構な額になる。しかし規定に合わせて手直しする手間とお金を考えると、購入を渋られるのも納得がいくからだ

 

「いや、それは無いと思うよー」

 

「一応持ってくる前にそのあたりはチェックしたけど、整備すればこのまま試合に出せる、規定に適合した戦車だったよ。しかも放置されてた場所がよかったから、三式中戦車に次ぐ状態のよさだよ」

 

 しかし、みほの不安を戦車をここまで運搬してきた自動車部の面々が否定した。彼女たちは大洗女子学園の全ての戦車の整備を受け持つ優秀なメカニックたちである。戦車道の車両規定もキチンと把握しているので、万に一つも見落とすことはない

 

「まーどうして残ってるのかは知らないけど、使える戦車ならありがたく使わせてもらおうよ」

 

「そうですね」

 

 杏の一声に、みほも頷いた。次の決勝戦の相手は強敵も強敵の黒森峰学園である。20輌まで使える規定の中、三式中戦車やポルシェティーガーが加わったとはいえ、まだ8輌しかない大洗女子学園には1輌でも多くの車輌数がほしいのが本音だった

 しかし・・・

 

「でも、誰に乗ってもらえばいいか・・・」

 

「あー、そーだよねー。いい戦車ならしっかり使える人に乗ってもらいたいもんねー」

 

「はい・・・」

 

 残念ながらみほにも杏にも、乗り手の心当たりはないのであった

 自動車部が戦車をガレージの中に入れるため、セミトレーラの運搬車を巧みなハンドルさばきでバックで入れていくのを見ながら、頭を悩ますのであった

 そのときである

 

「あ、見て。センチュリオンだよ」

 

「ホントだ。いーよねセンチュリオン。エンジン音が低いいい音でさ」

 

「そうそう。アメリカのマッスルカーみたいなね。ワイルドスピードに出てくるアメ車とか」

 

「まぁ、センチュリオンのエンジン作ってたのはロールス・ロイス社だからイギリス製なんだけどね」

 

 ガレージに入っていくセンチュリオンを見ながら話す4人の生徒がいた。これ幸いと、杏がその4人に近付いていく

 

「やぁやぁ君たち。戦車詳しいね。興味あるのかな?折角だから乗ってみないかい?」

 

「ゲッ、生徒会長・・・」

 

 普段奇行が目立っている生徒会の会長に声を掛けられ、4人は後退りをした

 

「まぁまぁ、そう構えないでほしいな。今、あのセンチュリオンに乗る人たちがいなくて困ってるんだよ。知ってると思うけど、次の決勝戦で負けると大洗女子学園は廃校、学園艦も廃艦だからさ。できれば乗ってほしいなぁーって」

 

 杏はニコニコと笑顔で4人の『お願い』をする。廃校、廃艦と不安を煽る言葉を並べ、4人を追い詰めていく

 

「あ、あの!お願いします!戦車、乗ってもらえませんか?」

 

「うっ・・・」

 

 今にも逃げ出しそうな4人に、みほが駆け寄って頭を下げて頼み込む。さすがにここまで大洗女子学園の戦車隊を引っ張ってきたみほに頭を下げられ、4人は困惑する

 

「どうする?」

 

「正直あまり気は乗らないよ」

 

「あの人にバレたらたぶん怒られるし」

 

「でもセンチュリオンだよ?」

 

「「「「うーん・・・」」」」

 

 4人は向かい合ってしゃがみ込み、話し合いをする

 

「高校生の間は戦車道には関わらないって決めたじゃん」

 

「でも廃校になると面倒だよ?」

 

「あの人にバレたらもっと面倒だよ」

 

「カヴェナンターに押し込まれて蒸されちゃう?」

 

「「「「・・・」」」」

 

 4人をドヨ~ンとした空気が包み込む

 

「ま、まず乗るか乗らないか、を決めよう」

 

「そ、そうだね。それで乗るならどう誤魔化すかを」

 

「乗らないならどうやってここから逃げるかを」

 

「じゃあ乗りたい人、挙手」

 

 4人が小さく手を上げた

 

「全員かよ。まぁやっぱり、廃校はイヤだし」

 

「履歴書の学歴欄がごっちゃになるからね」

 

「イチイチ転校理由を聞かれて『廃校になったからです』って答えるのも面倒だし」

 

「もっと面倒なのは『転校?なんか問題でも起こしたのか?』って勝手に想像されることだよ」

 

 結論が出て、4人が立ち上がって、みほに向き直る

 

「わかりました。戦車道に参加します。私は工学科2年の・・・」

 

「?」

 

 自己紹介をしようとしたとき、名前を言う前に4人がアイコンタクトをした

 

「・・・ハートです」

 

「じゃあ私はスペードで、同じく工学科2年生」

 

「クラブです」

 

「ダイヤです」

 

「えっと・・・」

 

 本名を名乗らない4人に、みほは困惑する

 

「まぁ、私たちの本名が出ないほうが、あなた自身のためにもなるので、深く考えないでください。ね?」

 

「は、はぁ・・・?」

 

 

 

 

 

 数日後、自動車部によるセンチュリオンの整備が終わり、新たに結成された工学科チーム、ごりらチームの初めての訓練が行われる

 ハートが車長、ダイヤが装填手兼無線手、クラブが砲手で、スペードが操縦手に就いた

 

「ごりらチームって・・・」

 

「まー本人たちがいいって言うんだからいいんじゃない?」

 

 砲塔の側面にチームエンブレムとして、エ○ゴリ君みたいなゴリラのキャラクターが厳つい笑顔でマッスルポーズをキメている姿のステッカーが貼られている。それを見て、あんこうチームの通信手の沙織はやや引き気味に言葉を漏らし、チーム名を許可した杏が暢気に返す

 

「アーアー、テステス。車内聞こえる?」

 

「装填手、オッケー」

 

「砲手、オッケー」

 

「操縦手、オッケー」

 

 車長のハートが咽頭マイクに手をやり、音声チェックを行う

 

「準備はできた?最終チェック」

 

「装填装置、砲弾積み込み、通信機、オッケー」

 

「主砲、砲塔旋回、動作異常なし」

 

「操縦席、計器類、全て正常」

 

 始動前の各部の最終チェックを入念に行うと同時に、各乗員同士のやり取りの確認をする

 

「じゃあそろそろやろうか。エンジン始動」

 

「エンジン始動」

 

 操縦席のスペードがエンジンを始動させる。低く唸るようなエンジン音がガレージ内に響く

 

「アハ、やっぱりいい音」

 

「ちょっと吹かしてみてよ」

 

 装填手のダイヤと砲手のクラブが、嬉しそうにエンジン音に耳を傾け、スペードがスロットルを開けてエンジンの回転数を上げる

 

「さて、音に酔いしれるのもいいけど、周りが期待の目を向けてるから、やろうか。戦車前進」

 

 ハートの指示でセンチュリオンが前進し始め、ガレージからゆっくりと出て行く。ガレージから車体が完全に出ると、加速し始め、グラウンドを疾走する

 

「進路やや右、門を出て訓練用エリアへ」

 

 スピードに乗ったセンチュリオンがクンッと右に曲がり、グラウンドから戦車道訓練用エリアへの門に向かう。4メートルほどしか開いていないその門を、全幅3.4メートルのセンチュリオンがそのままの速度で通過する

 

「ターゲット、11時方向」

 

「装填完了」

 

「照準完了」

 

「撃て」

 

 行進間射撃でセンチュリオンの主砲が発射される。放たれた砲弾は、射撃訓練用の的に命中した

 

「左旋回180度・・・次ターゲット、1時方向」

 

「装填完了」

 

「照準完了」

 

「撃て」

 

 センチュリオンが左に180度旋回、旋回中に砲弾の装填を行い、車体の旋回が終わるとほぼ同時に主砲の照準も定まり、次のターゲットへの射撃も狙い違わず命中した

 

「右旋回90度の後停止・・・ターゲット正面」

 

 ハートの指示通りに、センチュリオンが90度曲がって停止する。センチュリオンの前方の離れたところに最後のターゲットが置かれている

 

「いつでも撃てます」

 

「よし、撃て」

 

 砲手のクラブの言葉に、短く射撃命令を出すハート

 結果は、言うまでもない

 

 

「あー終わった終わった。お疲れー」

 

「あーやっぱり体鈍ってるわ。砲弾が重い重い」

 

「私も止まってる的なんか外したらどうしようって緊張しちゃった」

 

「ごめんね、旋回で少しドリフトしちゃった」

 

 センチュリオンがガレージに戻ってきた。エンジンの止まったセンチュリオンから、4人が気だるそうに降りてくる。そんな4人を、戦車道履修者たちは皆、驚きの表情で出迎える

 

「西住殿、あの戦車の動き、もしかして・・・」

 

「うん・・・」

 

 センチュリオンの動きに気付くものがあったみほと優花里。みほはそれを確認するために4人に駆け寄る

 

「あの、4人はもしかして・・・っ?!」

 

 4人の正体を言おうとしたみほの口を人差し指で押さえて遮るハート

 

「私たちが何者か、それをハッキリと明言されると、私たちはこの学園が廃校になるのと同じくらいに困るの。そして、それはあなたにとっても、同じことじゃないかな?西住流さん?」

 

「っ?!」

 

「私たちが何者か、あなたは知らない。私たちは、あなたが予想した答えの真似事をしているだけ。ネットに落ちてた動画を見て真似したらできましたってことで。オッケー?」

 

「・・・」

 

 ハートは、みほが自身が言ったことを理解したことを見届けると、手を引っ込めて4人でガレージから去っていった




オリキャラ4人の具体的な設定はありません

原作開始時点のウサギチームのようなノリで、尚且つ戦車道の経験者であること、の2点だけです

使用戦車がセンチュリオンなのは前書きの通りです。チーム名のごりらは・・・ホラ、ワイルドスピードにはドミニクにホブスにと、ゴリマッチョがいるから・・・


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2話

『三式中戦車、走行不能』

 

「アーララ、もう1輌落ちたよ」

 

 脱落を告げる無線に、ごりらチームの面々は早くも気力を奪われた。諸般の事情で身バレを防ぐため、それぞれパーティー用のゴリラマスクを着けている

 

「マジかー」

 

「まーでも、普通にそうするよねー。だって、こっち9輌に対して、向こうは20輌だもん。おまけに八九式なんて向こうからしたら数に入ってなさそうだし」

 

「だよねー」

 

 試合が始まって僅か十数分の出来事、黒森峰の戦車隊が森を抜けて大洗女子の戦車隊に襲いかかる。重戦車の砲撃を受けてたった今、この試合より隊に参加したアリクイさんチームの三式中戦車が撃墜されたところである

 

「でも三式のおかげでフラッグ車は守られたから、怪我の功名ってやつなんだよね」

 

「それなー」

 

「ってか隊長は元黒森峰なんだから、この開幕突撃を予測できなかったのかな?」

 

「してても、せいぜい急いで移動するくらいしかできないし、防ぐのは無理っしょ」

 

 やる気のないやり取りをしつつも、センチュリオンはしっかりと動かし、殿としてフラッグ車のあんこうチームのⅣ号戦車や、三式中戦車と同様にこの試合が初参加のレオポンさんチームのポルシェティーガーのフォローに入る

 

「とりあえず足を止めさせる。榴弾装填」

 

「ほい榴弾」

 

「照準、パンターとティーガーⅡの間の地面。撃て」

 

「りょ、っと」

 

 センチュリオンから榴弾が発射され、指示通りの位置に着弾する。破裂した榴弾の弾殻がパンターとティーガーⅡの履帯と転輪に傷を付けた

 

『あんこうチームより各車へ、もくもく作戦開始します』

 

「ごりらチーム了解。スモーク開始します」

 

 一列に隊列を組んだ大洗女子の戦車たちがスモークディスチャージャーから煙幕を展開する。ごりらチームは最後尾に付く

 

『前方の丘を越えます。例の方法を取りますので各車準備をお願いします』

 

「例の方法ねぇ。ホントにあの子は西住流なの?」

 

 装填手のダイヤがみほの発想にぼやく。その間にセンチュリオンは最後尾から煙の中を通って一番前に移る

 

『全車停止、ワイヤー固定』

 

「はい、ワイヤー」

 

「うい」

 

 ダイヤが車長のハートにワイヤーを渡し、ハートが車外に出て、センチュリオンとポルシェティーガーをワイヤーで繋ぐ。登坂能力の低いポルシェティーガーを他の戦車で引っ張り上げて、時間を短縮するのがこの手段の目的である

 

「センチュリオンの600馬力でも、さすがにP虎は重いからなぁ」

 

「次に馬力があるのは、M3の400馬力だっけ?」

 

「だと思う。っで、Ⅳ号とⅢ突の300馬力。ルノーB1も300馬力だけど、スモーク係でワイヤーは繋がないからね」

 

「はぁー、ただいま」

 

「おかー。えー、ごりらチーム準備完了しました」

 

『ウサギチーム準備完了です』

 

『カバさんチーム、オッケーだ』

 

『あんこうチームも準備整いました。それでは牽引開始します。まずは速度を合わせて慎重に、前進開始。パンツァー・フォー』

 

 

 坂を抜け、競技エリアの207地点にある小丘に、簡易的な戦車壕を作り陣地を構築した大洗女子。丘の麓には黒森峰の戦車隊がズラリと並ぶ

 

「ハハハ、壮観ってね」

 

「攻城戦は防衛側の3倍の戦力が必要って言うけどさ。本当に3倍の戦力を揃えられると、防衛側は泣きたくなるって今わかったよ」

 

「マジ同意。まぁ搦め手で攻めてこない分、やりようがあるからマシだけど」

 

「確かに」

 

『攻撃開始!』

 

 自軍と敵軍の戦力差にセンチュリオンの4人は笑いと呆れに包まれる中、みほから攻撃命令が下る

 

「じゃあ対角のP虎狙おうとして側面晒してる戦車を集中して撃っちゃって」

 

「はいよー、わかってるって」

 

 事前の打ち合わせ通り、大洗女子にあるたった2輌しかない重戦車を左右の端に配置し、どちらかの重戦車を狙う相手戦車をもう一方の重戦車が狙うという連携プレーで、砲塔や車体側面を次々に打ち抜いていく

 

「はーい、ヤク虎登場」

 

「センチュリオンでも正面はキツイか。側面もいい感じに昼飯角度になってるし、足狙いで」

 

「りょ」

 

 足止め目的で、クラブがヤークトティーガーの転輪を狙い、発射。ヤークトティーガーは転輪が吹き飛び、丘の中腹で操縦不能になってしまう

 

『ヤークトの足が止まった今がチャンスです。ここから撤退します。カメさんチーム、例の作戦を実行してください』

 

『りょーかい』

 

 丘の麓にいる黒森峰のさらに後方から、ヘッツァーが突っ込んできた。1輌の戦車にいいように掻き回されながらも、同士討ちを恐れて手を出せず、混乱する黒森峰

 

「多少の犠牲もやむなしなら同士討ちなんて気にしなきゃいいのに」

 

「だよね」

 

 混乱して、丘上の本隊の存在を忘れてヘッツァーを狙おうとする戦車に、呆れながら1発撃ち込んで撃破する

 

『陣形が崩れました。突破します』

 

 簡易の戦車壕から飛び出し、混乱する黒森峰の戦車たちの間を縫うように1列で丘を駆け下りていく。ポルシェティーガーを先頭にし、その反対側にいたセンチュリオンがまた最後尾となり、スモークを展開して、丘を後にした

 そんな大洗女子の戦車隊を、混乱からいち早く復帰したティーガーⅡが追おうとするが・・・

 

「さて、その足で追っかけてこれるのかな?」

 

 ハートがそう呟いた瞬間。ティーガーⅡの足回りが故障を起こし、操縦不能で止まるのであった

 

 

 丘から撤退後、模擬住宅地エリアまでやってきた大洗女子の戦車隊。途中、ウサギさんチームのM3が渡河中にエンストを起こすトラブルがあったものの無事復活。戦力を失うことなく移動することができたのだったが・・・

 

『ま、マウス?!』

 

 団地の間を逃げるⅢ号戦車を追い駆けていた大洗女子の戦車隊。しかしその前に超重戦車マウスが立ちはだかる

 

「カモチーム、車体砲に榴弾装填。履帯と転輪を撃って破壊!急いで!」

 

『りょ、了解!!』

 

 一番マウスに近い位置にいるカモさんチームのルノーB1に、ハートが指示を出す。マウスの履帯が破壊され、後退が止まる。マウスはその場で砲塔を回そうとするが、砲身が団地の建物にぶつかり、大洗女子の戦車隊にまで向くことは無かった

 

『全車後退してください』

 

「ごりらチームより作戦提案よろしいでしょうか?」

 

『なんでしょう?』

 

「アヒルチームがここに残ってマウスを押さえ込んでもらいたいと思います。アヒルチームがここでマウスにペチペチ撃ち込んでいれば、競技規則上、マウスの乗員は修理をできません」

 

 一見なんでもありに見える戦車道の試合だが、実際は細かいルールが存在する。例えば乗員が戦車外に出ることにも安全上の観点から規定があり、『修理等で乗員が戦車外にて作業を行う場合、当該戦車が戦闘状態にある空間に無いこととする』と決まっている。要するに、『砲弾が飛び交う場所では危険だから、選手は戦車内にいるように』という意味である

 

「砲がこちらに向けられないここは、対マウスの安全地帯。装甲の薄い八九式でも撃破される心配はない。例え八九式の主砲がマウスの装甲にダメージを与えられなくても、攻撃している以上、そこは『戦闘状態にある』と言えます。隊長流に言うなら『ペチペチ作戦』でしょうか」

 

『う、うーん、少しズルイ気が・・・』

 

「そうでしょうか?バスケのファウルトラップだったり、サッカーのオフサイドトラップのような、ルールを利用した作戦ってあるじゃないですか」

 

 っと、渋るみほにハートは、あえて他のスポーツの例えを出す

 

「バレーでも、背の低い選手を一旦下げて、1点を守るためだけのブロッカー役として背の高い選手を入れる。ワンポイントブロッカーなんて手を使ったりしますし」

 

『ワンポイントブロッカー?!隊長!やります!私たちが大洗女子のワンポイントブロッカーになります!!』

 

 バレーの例えが琴線に触れたアヒルさんチームの典子は、無線で熱く作戦の実行を上申する

 

「もちろんリスクはあります。今こちらに向かってる敵本隊の戦車が1輌でも救援に来れば、アヒルチームは追い払われるか撃破されます。そうなればマウスの修理が始まり、再び行動可能になります。ですが、無理にマウスを撃破しようとすれば、こちらも少なくない犠牲を負うことになります。マウスとの戦闘を回避することで稼げる時間、負わずにすむ犠牲を考えるなら、そのリスクをとるだけの価値はあるかと」

 

『・・・わかりました。ペチペチ作戦を実行します。でもそのためにまず囮だったⅢ号を』

 

 っとそのとき、センチュリオンが発砲した。別の建物の陰からこちらを窺うように顔を出したⅢ号戦車に命中し撃破の白旗が上がる。団地の建物を回り込んでⅢ号戦車が偵察にしに来ることを予め警戒していたクラブが砲をそちらに向けていたのだ

 

「敵Ⅲ号戦車の撃破確認。隊長、指示の続きをどうぞ」

 

『あ、はい。アヒルチームはここに残ってマウスへの攻撃を続けてください。足回りや砲身を狙って、できるだけ修理に時間がかかるようにしてください。救援が到着した場合は応戦せず逃げてください』

 

『了解です!』

 

『残りの戦車はこれから移動を開始します。パンツァー・フォー』

 

 

「おい軽戦車!修理できないだろ、そこを退け!」

 

「いやです。それに八九式は軽戦車じゃないし」

 

「中戦車だし」

 

 

『敵本隊、住宅地エリアに到着』

 

『こちらアヒルチーム。敵救援到着につき、撤退します』

 

 偵察に出ていたウサギさんチームからの敵本隊の到着と、マウスの下に残ったアヒルさんチームからの敵救援の到着による撤退の無線が同時に届いた

 

『マウスの修理の時間は長くても20~30分ほどだと思われます。こちらまでの進軍速度を考えると、そこからさらにもう20分ほど。合わせて40分程度、これが私たちに残された時間です。残された時間で、敵フラッグ車を討ち取るには、相手をできるだけ分散させる必要があります』

 

 他のスポーツなら長い40分も、戦車道の試合となれば決して長いとは言えない時間となる

 

「さて、そろそろ私らもスコアを稼がせてもらいますか」

 

「お、じゃあ本気出しちゃう?」

 

「やっとか。正直他車のフォローばっかで飽き飽きしてきたとこだよ」

 

 これから挑む最終決戦に、大洗女子の面々がより一層の気合を入れる中、ごりらチームの面々はやっとやる気を出したかのように、試合に本腰を入れ始める

 

「しかし、わざわざ自分の尻に火をつけるような作戦を提案するなんて、ドMだよね」

 

「えー、だって何も言わなかったら、マウスを撃破しようとしてたかもじゃん。隊長だって西住流なんだし。それでP虎を失ったら、あの役をやるの私たちじゃん。それこそドMだよ」

 

「まー確かに、あの役はやりたくないからねー」

 

 試合前のブリーフィングで聞いた作戦内容を思い出すごりらチーム。今までセンチュリオンが他車のフォロー中心に動いていたのには理由があった。それは今までの戦闘での損失車輌によっては、これから行われる最終作戦で、とある嫌な役回りをしなければならない可能性があったからだった

 

『それでは最後の作戦、フラフラ作戦、開始します』

 

「了解」




操縦不能は白旗が上がっていないので修理して復帰が可能な状態です

車外作業についてのルールは勝手に作った設定ですが、あってもおかしくはないかと・・・

修理作業の所要時間については適当です。でもガルパンの世界だとホントできんの?ってくらいに早い復旧作業ですよね。11話の直下さんとか、劇場版でチハに履帯切られたパーシングとか


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3話

 一方観客席・・・

 

「まさか、八九式でマウスを押し留めるなんて・・・」

 

「小よく大を止める、と言ったところかしら」

 

 聖グロリアーナのダージリンとオレンジペコが大洗女子のマウス封じ策を見て驚いていた

 

「ですが、これで大洗はマウスが復帰して前線に着くまでに勝負を決めないといけなくなりました」

 

「そうね。それにしても、試合が始まって随分経つけど、大洗は初めに三式中戦車を撃破されて以降、1輌も失っていないわ」

 

「!・・・確かに。元々の車輌数や戦力差にばかり目がいってましたが、黒森峰は初めの三式以降、1輌も撃破できてない。対して大洗は既に6輌、相手戦車を撃破しています」

 

「黒森峰を相手に今までこんなに損害無く戦えた学校があったかしら?」

 

 

『こちらウサギチーム、エレファント、ヤークト、任せてもらっていいですか?』

 

『お願いします』

 

「おーおー、1年生たちはやる気だね」

 

「よきかな、よきかな」

 

 黒森峰の中でも重装甲、高火力の2輌を自ら引き受けると申し出た1年生のウサギさんチーム。そのやり取りを聞き、カカッと笑うごりらチーム

 

「私たちも負けてはいられないよね」

 

「そうだねぇ」

 

 ハートはそう呟いた後、咽頭マイクに手を当てる

 

「こちらごりらチーム、これより敵本隊へ突撃、指揮系統の霍乱を行います。各車はタイミングを見て敵を攻撃し、戦力の分散に務めたし」

 

「いっくよー」

 

 操縦手のスペードがエンジンを全開にしてセンチュリオンを加速させる

 

「ひゃっはー」

 

 住宅地のブロック塀を突き破り、黒森峰の本隊の真ん中に飛び出たセンチュリオン。急な襲撃で対応ができない中、ラングに1発撃ち込んで撃破する

 

「まずは1輌。そんで次!」

 

「こんのっ!各車応戦!」

 

 続いてパンターの側面を撃ち、2輌目を撃破。対応が遅れたことに、黒森峰の副隊長エリカが応戦を指示するが、小丘での戦い同様、同士討ちを恐れて発砲できずにいる

 

「なにやってるのよっ!!たった1輌に!!」

 

「あのティーガーⅡの車長がうるさいから黙らせて」

 

「オッケイ」

 

 キューポラから顔を出して叫んでいるエリカを見つけ、ハートが指示を出す。センチュリオンが別のパンターを砲撃で撃破しながらティーガーⅡに体当たりをかました。修理したとはいえ足回りに損傷を負っているティーガーⅡは、その衝撃で再び足回りが壊れて操縦不能に陥る

 

「うっぐぐ・・・やったわねっ!絶対ぶっ飛ばしてやる!!」

 

「おっと、キレたか。沸点低いなぁ。ティーガーⅡが撃つかもしれんから注意ね」

 

「りょ」

 

 衝突の衝撃に耐えた後、怒りの表情に染まったエリカを見て、ごりらチームは警戒する。直後、ティーガーⅡが発砲するが、スペードが車体の向きを変えたことで、車体側面に当たった砲弾は浅すぎる入射角により弾かれた

 っとそのとき、機を見た大洗女子の他チームが、黒森峰の本隊に攻撃を始めた

 

「そろそろ下がるよ」

 

「りょ」

 

「じゃあ下がる前にフラッグ車にご挨拶っと」

 

「間違って撃破しないでよ」

 

「わかってるって」

 

 クラブが黒森峰のフラッグ車のティーガーⅠの砲塔側面に掠らせるように1発砲撃をする。副隊長のエリカが怒りで我を忘れていて、他戦車も混乱している状態に対処するため、その原因のセンチュリオンを排除しようと砲撃体勢に入っていた隊長車であり、フラッグ車でもあるティーガーⅠだったが、センチュリオンの砲弾が掠ったことで定めていた照準がズレてしまい。発砲できずにセンチュリオンの撤退を許してしまうのだった

 

「やろうと思えばやれたけどね」

 

「ただ勝てばいいってものでもないってね」

 

「そうそう。他の学校ならいいけど、黒森峰は西住流が後援だからね。隊長のことを考えると勝ち方にもこだわらないといけないから。ここで撃破してお家騒動になったら、私たち確実に巻き込まれるよ」

 

「そういうこと。じゃああとは適当に遊撃戦で戦力を潰していこっか」

 

 

『こちらあんこう、HS地点に進入しました。レオポンチーム現在位置を教えてください』

 

『こちらレオポン、同じくHS地点入りました』

 

「いよいよ最終局面。っと、停止。前にヤク虎が飛び出るぞ」

 

「了解」

 

 無線に耳を傾けていたハートだったが、前にある交差点のカーブミラーに映ったヤークトティーガーに、迎撃の指示を出す。無警戒で交差点に飛び出てきたヤークトティーガーの側面に砲弾を叩き込む

 

「ヤークトティーガー撃破確認。追跡していたウサギチームへ、横取りしてごめんね」

 

『いえ、助かりました。ありがとうございます』

 

「にしても、M3でどうやってヤク虎を撃破するつもりだったんだろうね?」

 

「さぁ?ほぼ接射でも装甲抜けないから、履帯ハメとか?」

 

 ハートはヤークトティーガーを追跡していたウサギさんチームに一応謝りを入れておくが、他のごりらチームの面々はどう撃破するのか疑問だった

 

「こっちはこれからレオポンチームの援護に向かうけど、ついて来ますか?」

 

『はい、同行します』

 

 

『こちらレオポン。なんかねー、黒高の人が乗り越えようとしてるんだよねー』

 

「ちょっとまずいね。急がないと」

 

「門から入ってる余裕無いし、フェンス破るよ」

 

「おっけー」

 

 フラフラ作戦の最終段階。フラッグ車同士の1対1を作り出すための門番役のポルシェティーガーが突破されかけているとの無線に、正規のルートだと間に合わないとスペードは、HS地点の敷地を隔てる金網のフェンスに向かってセンチュリオンを加速させる。それに備え、ハートも一旦戦車内に避難する。50tオーバーの体当たりで金網フェンスを、まるで紙のように破り去って通過し、ウサギさんチームのM3もその後に続く

 

「敵集団視認。ウサギチームはパンターを、こちらはヤークトパンターを狙う」

 

『了解しました』

 

 再びキューポラから顔を出したハートが敵集団の戦車の構成を確認し、ウサギさんチームに目標指示を出す。比較的装甲の厚いヤークトパンターを主砲の強いセンチュリオンが、装甲の薄いパンターをM3に任せるという定石通りの内容である

 

「攻撃開始」

 

 ハートの指示でセンチュリオンが発砲し、ポルシェティーガーを乗り越えるための足場となっていたヤークトパンターを撃破する。砲弾を受けてことで、位置がズレてしまい、ポルシェティーガーに乗りかかっていたティーガーⅡは摺り落ちて戻される。そして三度足回りが壊れる

 

「またあのセンチュリオン!!」

 

 突破を邪魔されてエリカが再度怒りに染まる中、センチュリオンの背後からウサギさんチームのM3が飛び出て、待機していたパンターを撃破する

 

「今度は、逃がしてあげないからね」

 

 そうハートが言うと、壊れて外れた転輪の奥の車体に、センチュリオンの主砲を叩き込まれ、ティーガーⅡは走行不能になった

 

『黒森峰フラッグ車、走行不能。優勝は、大洗女子学園!!』

 

 同時に、大洗女子の優勝を告げる無線が入ったのだった

 

 

「うちは結局7輌生存か。結構残ったね」

 

「黒森峰は・・・え、3輌?」

 

 試合終了後、観客席前に戻ってきた大洗女子と黒森峰の両校選手たち。ごりらチームは観客用の大型モニターに映された残存車輌の情報を見て、圧倒的な内容に驚く。黒森峰の戦車隊で生存していた車輌は、足回りの修理をしたマウス、マウスから追い払ったアヒルさんチームを追跡し続けたパンター、もう1輌のティーガーⅡだけであった

 

「マウスとまともにやりあってたら、わからなかったかもね」

 

「確かに、あそこで車輌を失ってたら、最後の分散も中途半端になってただろうし」

 

 っとそのとき、ハートのタンクジャケットのポケットの中の携帯電話が震えた

 

「・・・このタイミングでくるって・・・」

 

「いやいやまさか」

 

「いくらなんでも早過ぎるって」

 

「とりあえず出よう。待たせるのは悪手だよ」

 

 携帯電話に表示された名前を見たハートは、着けたままのゴリラマスクの中で、顔を青くさせる。他のメンバーに促され、恐る恐るその電話に出る

 

「も、もしもし」

 

 携帯をマスクの中に突っ込んで通話する

 

『優勝おめでとう、アイリ。リカやカナ、ナオもかな?』

 

「あ・・・愛里寿ちゃん?」

 

 ハートことアイリは、電話越しに聞こえてきた、抑揚の無いやや幼い声に、言葉を失う

 

『すごい偶然。私もね、今センチュリオンに乗ってるの。でもなんでみんなゴリラのマスクなんて被ってるの?』

 

 Oh・・・バレテーラ

 アイリは他のメンバーに首を横に振って知らせた。各々、頭を抱えたり、ガックリと項垂れたりしている

 

「い、いやーこれはちょっとしたお茶目心といいますか、なんといいますか・・・そ、それより、センチュリオンのエンジン音はいいですよね。流石ロールスロイス製、いい仕事してます」

 

『・・・』

 

「愛里寿ちゃん?もしもし?」

 

『・・・嘘つき』

 

「愛里寿ちゃん?!もしもし?!」

 

 涙声で一言だけ言い捨て、相手は電話を切ってしまった

 

「・・・まぁ予想できたことだけどね」

 

「「「「ハァー・・・」」」」

 

 全国大会を優勝し、廃校は回避されたが、彼女たちには新たな試練が立ちはだかるのだった




観客席の聖グロ・・・実は裏設定として大洗女子のセンチュリオンは、昔戦車道を廃止した大洗女子から聖グロが伝統を無視して購入しようとしていたが、直前でOG会の圧力で話がポシャって、そのまま搬出入エリアに放置されていた・・・という感じ

横取りヤク虎アタック。ここからウサギさんチームは原作とは違う方向に成長します

圧倒的ではないか、我が軍は・・・な結果については、まぁ特に考えずに書いてますが、ごりらチームが突撃して撤退後、黒森峰の残ってる車輌数は11かな?っで、その内、修理中のマウスと、アヒルチーム追跡中のパンター、フラッグ車のティーガーⅠとエリカのティーガーⅡを除いて7輌。もしかすると、ティーガーⅠはフラッグ車という理由から、エリカのティーガーⅡは修理を妨害されないため、護衛が付いていた可能性もあるから、そうなると自由に動けるのが5輌しかない
大洗女子側のフラッグ車のあんこうと門番役のレオポン、ペチペチ作戦後別行動のアヒル、遊撃戦をしているごりらチームを除いた3輌で分散させれば、大洗女子1輌当たりのマッチアップが1~2輌くらいだから、案外無理でもないのかな、と・・・

やっと出てきたオリキャラの本名と島田愛里寿。偽名の由来は不思議の国のアリスからでした。そこからハート→愛→アイリで、あとはアイリ→リカ→カナ→ナオのしりとりです


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4話

 全国大会から少し経ったある日、大洗女子が凱旋エキシビションマッチが行われている

 

「ハァー・・・」

 

『大洗・知波単連合、攻撃部隊準備整いました。守備隊の状況はどうですか?』

 

「こちらごりらチーム、対象はこちらに真っ直ぐ来てます。迂回する様子は無し。戦力差から見て持って5分ですね」

 

『了解です』

 

 ゴルフ場の林の中で、待ち伏せをしているごりらチームの車長アイリは、大きなため息をつきながらも、隊長車であるあんこうチームのⅣ号戦車からの無線に応答する

 

「ハァー・・・」

 

「何?どうしたの?さっきからため息ばっかりついて」

 

「あぁいや、こないだの決勝戦のことで、中学時代の友達とちょっと・・・」

 

「喧嘩?なら早く謝りなさい。長引かせてもいいことないわよ」

 

「う、うん・・・そうなんだけさ・・・電話に出てくれなくて」

 

 同じく守備隊のレオポンさんチームやカモさんチームの車長のナカジマやそど子が、ため息ばっかりついているアイリを心配する

 決勝戦後の電話以降、アイリたちは愛里寿に何度も電話をかけているが、全く繋がらないのだった

 

「やっぱ直接会いに行くしかないのかな・・・」

 

「でも今、大学選抜チームの指導してるんでしょ?会ってくれるかな?」

 

「困ったなぁ・・・」

 

 っとそのとき、守備隊の戦車たちの前の地面に敵の放った砲弾が突き刺さる

 

「各車応戦。ただ、まだ序盤なのでここで撃ちすぎると、後半弾が無くなるから注意。無駄弾を撃たないように、しっかり狙って確実に当てるつもりで撃つこと」

 

『了解です』

 

『了解しました』

 

『了解であります』

 

 アイリの指示を聞いた、レオポンさんチームのポルシェティーガー、カモさんチームのルノーB1、そして連合を組んでいる知波単学園から回された九五式軽戦車が発砲を始める

 

「IS-2の正面はP虎やウチでもやっぱ抜けそうにないか・・・各車、狙いはT-34に集中してください。カモチームと九五式はT-34の横の燃料タンクを狙って。小さいけど時間使ってしっかり狙っていっていいからね」

 

『了解です』

 

『了解しました』

 

『了解であります』

 

 守備隊を突破しようとするプラウダ高校の戦車隊との砲撃戦が始まり、T-34やIS-2の砲弾が守備隊の目の前の坂に突き刺さった。アイリは比較的正面装甲の薄いT-34に狙いを集中させ、少しでも撃破をして戦力の減少を狙う。砲が弱く、撃破を狙えないルノーB1や九五式軽戦車には、燃料タンクを狙わせて、後半の燃焼切れによる行動不能を狙う作戦を指示する

 

『知波単第1中隊が突撃を敢行につき、我々も続くであります!戦車前進!』

 

「ふぁっ?!」

 

 突然九五式軽戦車からそんな無線が飛んできたかと思うと、九五式軽戦車は前進を始める

 

「ちょ、マジ?!カモチーム、進路塞いで、早く!」

 

『りょ、了解!』

 

 慌ててアイリはカモさんチームに九五式軽戦車の進路を塞ぐように指示を出し、ルノーB1の側面で九五式軽戦車の前進を止めた

 

「止めないでください!ここで突撃に続かなければ、先輩方に会わす顔がないであります!」

 

「ここで突撃したら間違いなく撃破されるよ」

 

「突撃して散るのが我が知波単の伝統であります!」

 

「いや、散っちゃダメでしょ」

 

 撃破されることが前提の言葉に、ナカジマがキューポラから少し顔を出してツッコミを入れる。攻撃の手が緩んだことで、プラウダ高校の戦車隊の攻勢が強くなる

 

「こちら守備隊、防衛ライン崩壊、撤退しそちらに合流します」

 

『了解しました』

 

「撤退なんて嫌であります!」

 

「我慢しなさい」

 

 ルノーB1が無理やり九五式軽戦車の進路を変えさせて撤退に移った

 

「えっと、福田さんだっけ?勘違いしてるようだから言っておくけど、突撃ってのは『死中に活あり』の精神で生き残るために突っ込むものだよ。『死なば諸共』で突っ込むのは突撃じゃない。生きて帰ってこそ、突撃は意味があるんだよ」

 

 

 ゴルフ場から、戦いの場所は大洗の市街地に移行した。大通りから入り組んだ路地に入るが、聖グロリアーナのクルセイダー部隊が大洗・知波単連合チームの先回りをしようとしてくる

 

『ごりらチーム先行してください。重量差で突破してください』

 

「了解。ナオ」

 

「おっけー」

 

 操縦手のナオがセンチュリオンを加速させ、Ⅳ号戦車を追い抜いた。そのまま進路を塞ごうとしたクルセイダーに体当たりをして弾き飛ばした。52tで600馬力のセンチュリオンと20tで340馬力のクルセイダーの重量差と馬力差は凄まじく、飛ばされたクルセイダーはガードレールを越え、水路に落ちて盛大な水飛沫を上げた

 

「あらら、落ちちゃったよ。あそこの水路って深さはどんなもんなのかな?」

 

「さぁ?海が近いから潮の干満差にもよるだろうけど、流石に完全に水没するほど深くは無いんじゃない?」

 

「まぁ一応回収しやすいように早々にこの場所から離れてあげよう」

 

「そだね」

 

 走行不能になった戦車の回収のルールとして、対象戦車が戦闘状態にある空間にある場合は回収を後回しにするという決まりになっているので、ごりらチームの面々は水路に落ちたクルセイダーの乗員を心配して、早めにその場を後にしていくのだった

 

 

 少しの間、大洗知波単連合のフラッグ車のⅣ号戦車と聖グロリアーナ・プラウダ連合の追いかけっこが続く中、進路の先回りをした場所にウサギさんチームがいた

 

「こちらウサギチーム、後ろのほう、任せてもらっていいですか?」

 

『お願いします』

 

 Ⅳ号戦車が通過し、チャーチルやマチルダ、T-34が後に続いて通過し、最後のIS-2が通過するところでウサギさんチームは行動を開始した

 

「撃て」

 

 M3の副砲が発射された。砲弾でIS-2の右の履帯が切られ、IS-2は停止した

 

「よし、行って」

 

「ウッシャー!!」

 

 ウサギさんチームの操縦手の桂利奈がM3を発進させ、IS-2に一気に接近する

 

「切れた履帯の隙間に主砲を捻じ込んで奥の車体を撃つ。ごりらチームの先輩たちがやってた必殺の一撃」

 

「私たちだって!」

 

 全国大会決勝戦のとき、重戦車の相手を買って出たウサギさんチームだったが、エレファントはともかくヤークトティーガーを撃破するプランは、実は彼女たちには無かったのだ。エレファント撃破で行った作戦は、紗希の機転に救わいれて成功したが、ヤークトティーガーはその方法では撃破できないことはわかっていた。最悪逃げて時間稼ぎに徹するつもりだった。だけど、ごりらチームの方法を取れば、自分たちでも重戦車を撃破できる。それを証明するために最後の一撃に向かう

 

 しかし、直後彼女たちの想定外の事態が起こる。右の履帯を切られたIS-2は、残っている左の履帯のみを動かし、車体を旋回させる。同時に砲塔も旋回させ、接近するM3に主砲を向ける。最後の一撃用に主砲は温存し、M3の車体の高い位置にある副砲で下にある履帯を狙ったため、俯角があまり取れず、その分目標までの距離を取るしかなかったことが仇となり、接近するまでに主砲の指向が間に合ってしまったのだ

 

「少しヒヤッとしました。ですが、まだまだです」

 

 IS-2の車長のノンナは、ウサギさんチームの機転を褒めながら砲撃をした。M3も接近しきれていないが、相打ち狙いでIS-2の足回りに主砲を撃ち込む。M3は撃破され白旗が揚がるが、IS-2は転輪が吹き飛ぶだけで車体に損害は出なかった

 

『ノンナ、遅れてるわよ!』

 

「すみませんカチューシャ。思わぬ伏兵に足回りをやられました。伏兵への対処は済みましたが、復旧に少々お時間をいただきます」

 

 

「ミホーシャ無茶しすぎ!」

 

「どうしますか?」

 

 エキシビジョンマッチ終盤、大洗磯前神社から石階段を駆け下りるあんこうチームのⅣ号戦車。追跡していたT-34に乗るカチューシャとIS-2に乗るノンナ

 

「追いかけるに決まってるわ。ミホーシャにできて、カチューシャにできないことなんてないわ」

 

「そうですね。では私は戻って迂回します。先ほど足回りをやられて、痛めていますので」

 

「わかったわ」

 

 T-34が石階段から降り始め、ウサギさんチームに履帯や転輪を撃たれ、足回りに損傷を負ったIS-2は来た道を戻る

 IS-2が大鳥居のところまで戻ってきて、Ⅳ号戦車の先に回ろうと道を左折しようとする

 

「っ!停止!」

 

 何かに気付き、IS-2を停止させるノンナ。直後、車体が浅く入った砲弾を弾いた。もしも、ノンナが停止を指示していなければ、左折により車体が旋回し入射角が深くなり、砲弾を弾くことはできなかっただろう

 

「うわ、気付かれたよ」

 

「カン良過ぎ」

 

 IS-2に向かって砲撃した戦車、センチュリオンのごりらチームは相手の勘のよさに辟易する

 

「後輩チームの敵討ち、といったところですか」

 

「ん?なんのこと?」

 

「ウサギのマークのM3です。全国大会決勝戦であなたたちがティーガーⅡを撃破した方法をアレンジしてました。指導しているのではないのですか?」

 

「いや、全く」

 

 ノンナの指摘を、アイリは否定する。事実、アイリたちは誰一人として、他のチームに指導らしい指導はしていない

 

「もし、あの子たちが私たちのやったことを真似たのなら、それはあの子たちが自分で考えてやったことだよ。ホント、ついこの前まで全くの素人だったとは思えないよね」

 

 アイリは後輩の成長に笑顔を浮かべる

 

「まぁ、そんなわけで、後輩が頑張った以上、先輩も結果を残さないといけないわけよ。実を言うと私たち、この試合でスコア稼げていないのよね。だからここらで大物を取りたいなって」

 

「・・・わかりました。受けて立ちます」




劇場版のエキシビションマッチ。ごりらチームは守備隊スタート。だから福田の九五式が突撃しかける件に微妙な差異があり。装甲を抜ける抜けないはそのテの知識が無いので適当

アイリの突撃論は決勝戦で体言してます

ハート=アイリは前話で書きましたが。他キャラについては、クラブ=リカ、ダイヤ=カナ、スペード=ナオ、となっています

走行不能戦車の回収のルールは、これも勝手に作った設定。そこが戦闘空間だと、走行不能になった戦車が無くなると、それを盾にする戦術もとれないし、なにより回収員が危ないから、あってもおかしくはないだろうなって

ウサギチームの変化の兆し。劇場版の戦法だと、結局あれでどうやってIS-2を撃破するのか、いまいちわからない。ヤークトのときのように背後に用水路のような大きな溝があるわけでもなさそうだし。これなら、撃破できる可能性はあったし、結果として足回りにダメージを残せたから、行動を制限することができたから、失敗はしたけど意味はあったってことで


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5話

『ただ今、電話に出ることができません。ピーという発信音の後に』

 

 Pi

 

「ハァー・・・」

 

 エキシビションマッチ終了後、懇親会代わりのお風呂タイムもそこそこに、また愛里寿に電話をかけているアイリだったが、今回も電話に出てもらえず、ため息をつく

 エキシビションマッチは最終的に、大洗・知波単連合のフラッグ車であるあんこうチームのⅣ号戦車が撃破されて敗北で終わった。アイリたちのセンチュリオンとノンナのIS-2の一騎打ちは決着がつかないまま試合終了となった

 

「どうだった?・・・って、ダメか」

 

「ホントどうしよう・・・」

 

「ここまで電話に出てもらえないなら、一旦時間を置くのも手かも」

 

「ハァー・・・」

 

 

「大洗女子学園は、8月31日を以って、廃校となる」

 

 大洗女子の学園艦に戻ってきた戦車道履修者たちだったが、『KEEP OUT』のテープで封鎖された校門がそんな彼女たちを出迎える

 

「どういうことですか?全国大会で優勝すれば廃校処分は取り消しだって」

 

「あの約束は確約ではなかったらしい」

 

「そんな・・・」

 

「だからって何で繰り上がるんだー?!」

 

「検討した結果、年度末では遅いということがわかり、8月31日を以っての廃校処分ということが決定した」

 

「それじゃ、私たちががんばったのは、なんだったんですか・・・?」

 

「すまない・・・」

 

 杏と他の履修者たちのやりとりを、アイリたちごりらチームは傍観することしかできなかった

 

「みんな、会長の話は聞いたよね。寮の人は荷物をまとめて、自宅通学の人はお家の人と引越しの準備に取り掛かってください」

 

 杏の意を汲んだ副会長の柚子が、履修者たちをとりなして、各々帰宅の途につき始める

 

「ホント、なんだったんだろうね・・・」

 

 

「結局さ、残ったのは愛里寿ちゃんとの軋轢だけ。あー笑えない」

 

「あーやってらんない」

 

「やっぱり高校生の間は関わらなきゃよかった」

 

「それもこれも全部あの生徒会のせいだよ。小者臭い悪巧みなんかするから大人にいいように使われるんだよ」

 

 次の日の朝、大洗女子学園艦は廃艦処分のためにひっそりと出港した。大洗女子学園の生徒たちは付近にある廃校になった小学校を間借りして集団生活を始めていた

 工学科の生徒であるアイリたちは、最低限の生活環境の確保のため、校舎内の掃除と補修をしていた

 

「はーアホらしくなってきた」

 

「とか何とか言いつつも、作業の手は止まらないんだね」

 

 悪態をつきながら作業をするアイリたちを、通りかかったナカジマたちレオポンさんチームの面々がツッコミを入れた

 

「そりゃまぁ、不満タラタラですけど、やらなきゃ終わらないですから」

 

「校舎がこんなボロボロのままだと、居心地悪くてストレス溜まりますし」

 

「こういうときのための工学科の技術実習の授業ってのもありますし」

 

「他のみんながやってるのに、自分たちだけサボると風紀委員がうるさそうですし」

 

 各々が言っていることがまるで言い訳のようで、レオポンさんチームの面々はクスクスと笑う

 

「なんですか?」

 

「あぁ、ゴメンゴメン。けど、わかるよ。結局のところ、友達との喧嘩とか、廃校とか色々あって、手を動かしてないと落ち着かないってことでしょ」

 

「まぁ、そうですね。それは否定しませんよ」

 

 アイリたちは高校から大洗女子学園に入った生徒であり、たった1年と少しだけだったが、あの場所は間違いなく自分たちの居場所だった。それを奪われて、荒れる気持ちが無いと言えば嘘になるのだ。自分たちを置いて学園艦が出港していく姿を見送ったあの時、間違いなく彼女たちの中は悲しみの気持ちで一杯だったのだ

 それと同時に、自分たちの居場所を守るために戦ったことを、なぜ愛里寿に責められなければならないのか、というイライラも新たに生まれてきたのだ。自分たちはあんな気持ちにならないために、ただ必死で戦っただけなのに、それでも一応は謝ろうと、この廃校舎に着いてからも数回は電話をかけているのに、1回も出もしないのだ

 

 っとそのとき、ジャンボジェットの旅客機のような飛行機が、超低空で彼女たちのいる廃校舎の上空を通過した。高音で大音量のエンジン音が、校舎の窓ガラスをビリビリと揺らす。その音と飛行機の姿に、戦車道履修者たちは、一斉に走って校舎の外に出て、近くの太い県道道路までやってきた。そこにはサンダース大学付属高校の輸送機から、廃校のによる処分を免れるため、一時避難のために預かってもらっていた大洗女子の戦車たちが返却のために投下されていた

 

「なんか、戦車を見ると安心する・・・」

 

 ウサギさんチームの言葉が、戦車道履修者たち全員の気持ちだった。それはもちろんアイリたちも同じだった

 

「ねぇ、リカ、カナ、ナオ」

 

「なぁに、アイリ」

 

「ま、だいたいわかるけど」

 

「同じく、付き合い長いもんね」

 

 何かを決心したアイリに、他の3人が笑顔で返す

 

「行こう。会いに」

 

 

 投下され、返却されたセンチュリオンの点検をレオポンさんチームの4人に任せ、その日のうちにアイリたちは大洗町を出発をした。会いに行くと言っても、相手は島田流の後継者で、現在大学選抜チームの指導をしているという忙しい身の人物である。アポ無しでは絶対に会うことなどできない

 まず彼女たちが向かったのは、自分たちが所属する島田流戦車道道場の支部だった。アイリたちは10歳から島田流戦車道道場に通っていた。そして支部同士の交流戦で、アイリたちと愛里寿は出会った。そこで腕を認められ、中学3年間、彼女たちは愛里寿を車長とした1つのチームとして研鑽を積んでいたのだ

 個人的な連絡が通らないならば、島田流戦車道道場の正規のルートでアポを取ればいい。いくら愛里寿が13歳でも、後継者として活動をしている以上、公式の手順でアポを取ろうとしている私たちを無視はできない。最低でも断るという対応をしなければならない。それならそれで次の手を考えるまでだ・・・っとアイリたちは考えていた

 いたのだが・・・

 

「あなたたちが愛里寿に公式の手順でアポを取るということは、あの子となにかあったのね?」

 

「は、はい・・・」

 

 アイリたちは翌日、島田流の本部事務所の応接室に呼び出され、愛里寿の母親であり、現島田流家元の島田千代と話している。まさかの母親登場である

 

「私たちは、中学を卒業して、学園艦の高校に進学する際、愛里寿ちゃんと約束したんです。『また、この5人で戦車に乗ろう』って。でも、私たちが通っている大洗女子学園が廃校になると聞かされて、全国大会で優勝すればその処分が撤回されると聞いたので、たまたま乗り手の当てがなかったセンチュリオンに乗って参加しました。それが、愛里寿ちゃんには約束を反故にしたように思われたみたいで・・・」

 

 4人を代表したアイリは内心ビクビクしながら事の次第を説明する。事戦車道に関しては娘にも厳しく指導する千代だが、それ以外ではかなり甘い親バカ気質であることを、アイリたちは知っているからだ。今回のような戦車道に関係すること、しないことが混ざった問題だと、どちらに転ぶかわからないのだ

 

「電話も出てもらえないから、直接会って話そうと思って、公式の手順で連絡を取ろうとしたのですが・・・」

 

「事情はわかったわ。あの子は今、大学選抜チームの合宿で・・・」

 

 っと、千代が愛里寿の居場所を教えようとしたとき、応接室の扉がノックされる

 

「どうぞ」

 

「失礼します。家元にお客様です」

 

 事務員が入室してきて、千代に用件を伝える。それをアイリたちは一旦気を抜いてテーブルに出されている紅茶を飲み・・・

 

「客・・・?今日はそんな予定は無いはずですが・・・」

 

「それが、西住流の家元の西住しほ様が」

 

 ブーっと噴出しはしなかったが、盛大にむせて咳き込んだ

 

「え?ナンデ?ニシズミリュウナンデ?!」

 

「予定は無かったって、電撃訪問?」

 

「電撃戦は戦車道の試合だけにしてよ」

 

「アワワワ・・・」

 

 4人はパニックになりながら小声で話し合う。まさか愛里寿との仲直りのために来たはずが、日本戦車道の二大流派の家元の会談に遭遇してしまうとは、誰が想像しえただろうか。まさに人生こんなはずじゃないことばかりである

 

「ちょっとこれまずくね?」

 

「疑問系じゃなくまずいよ」

 

「あーせめて制服なんて着てなかったら言い訳のしようもあったのに・・・」

 

 アイリたちは全員、家元からの呼び出しなので、正装として大洗女子の制服を着ている。ここで西住流の家元であるしほに自分たちのことがバレたら、娘のいる学園に島田流の門下生。しかも家元と個人的な仲もある生徒がいることが知られてしまう。そうなった場合、どんな面倒事に発展するか。想像もしたくなかった

 

「帰ろう、帰ればまた来られるから・・・」

 

「そだね」

 

「家元、来客の対応もおありでしょうし、私たちはこれで・・・」

 

「あら、そう?」

 

 満場一致で撤退を決意し、4人は席を立ち、そそくさと応接室を後にする。しかし彼女たちはこの状況で失念してはいけない事実を1つだけ失念している

 

「あ・・・」

 

 応接室から出て廊下を歩いていると、つい先ほどまで自分たちがいた応接室に通されている西住流の家元であるしほの姿があった

 この本部に来客用の応接室は1部屋しかないのだった

 

「待ちなさい」

 

 しほが4人を呼び止めた

 

「なぜ、大洗女子の生徒がこんなところにいるのです?」

 

 終わった・・・さらば愛しき平和な学園生活・・・

 4人は天を仰いだ

 

 

「まさか大洗女子に島田流の手が入っていたとは、さすが忍者戦法の島田流。忍び込ませるのはお手の物と言うわけですか」

 

「言いがかりもいいところですね。そもそもそちらの問題で娘さんは大洗女子に転校してきたはずですが?」

 

 しほと千代、2人の家元の間に火花が散っている・・・ようにアイリたち4人には見えた。今4人は千代が座っているソファの後ろに立たされている

 

「そんなことより、本日の訪問の用件を伺いましょう」

 

「ゴホン・・・文科省教育局、並びに日本戦車道連盟から連絡が届いているかと思いますが、この度大洗女子学園と大学選抜チームとの試合が決まりました」

 

「「「「っ?!」」」」

 

 しほの話の内容に、アイリたち4人は目を見開いて驚いた

 

「大学選抜チームの役員を務める島田流家元にも、承諾を頂きたく」

 

「そういうことでしたら、こちらも全力でお相手いたします」

 

 千代の言葉に、4人はもはや口から魂が抜け出そうになっていた

 

 

「あんのクソ会長!大学選抜チーム相手に勝てると思ってんの?!」

 

「あーもう、どうせまた大人にいいように使われちゃったんだよ!!」

 

「30対9なんてバカじゃないの!!」

 

「向こうからしてみたら射的だよ射的!的がちょっと反撃するかもしれないけどねっていう程度!!」

 

 大洗町に帰り、他の戦車道履修者たちと合流して、現在試合会場のある北海道に向かうフェリーの上である

 

「ハァー、結局本部事務所まで行ったのに愛里寿ちゃんと会うことができなかったし」

 

「その代わり、これから試合をするんだけどね」

 

「それなー。本当、どんな顔して試合に出ればいいわけ?」

 

「またゴリラマスク被る?」

 

 まさか仲違いしている相手とこれから試合をするとは、夢にも思わなかった4人である

 

「でもさ、これである意味よかったのかも。やっぱり戦車のことで起こった仲違いは、戦車で片を付けないと」

 

「そだね」

 

「ついでに勝って、廃校処分も撤回」

 

「全部やってのけようじゃん」




オリキャラたちが戦車に乗らなかった回

アイリたちは工学科だけど、普通科と一緒に集団生活・・・っというか1学年あたり、普通科が最低でもA~Fまでの6クラス?で、船舶科・情報科・被服科・栄養科・工学科・水産科・農業科が各1クラスずつでも7クラス。普通科はⅠ科とⅡ科があるみたい?それで生徒数減少って、女子校なのに定員フルに集まったらどんだけのマンモス校なんだよ
ちなみにこの話の中のレオポンチームの4人も勝手に工学科の設定だったり

愛里寿との出会いのアレコレ。勝手な設定は毎度のことで、まーありえなくはないかなっていう程度だとは思ってる

結局バレたくない人たちにバレてしまう4人・・・もう、ゴールしてもいいんじゃないかな。西住流をライバル視する島田流としては、西住流の指揮下で島田流の門下生が戦わされることをよく思わず。西住流(西住しほ)から見たら、みほを西住流から見て邪道の戦い方に染めた犯人がこの4人と見られてもおかしくない(事実は違うのだが)。つまりどちらの家元からも睨まれる結果となり、4人にとっては不幸以外の何物でもない


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6話

「殲滅戦・・・ってなんだっけ?」

 

 試合会場に到着した大洗戦車道チームの面々。そこで文科省教育局の役人から告げられた試合内容に、一同は驚愕する。大学選抜チーム30輌と大洗女子学園9輌の殲滅戦ルールでの試合。ウサギさんチームの言葉が、まるで現実逃避に聞こえるほどの圧倒的不公平な試合構成である

 

「あの!30対9の上、いきなり殲滅戦と言われても・・・」

 

「プロリーグは殲滅戦が基本ルールとなるので、この試合もそれに準じてもらう。辞退するなら早めに申し出るように」

 

 隊長のみほの抗議も役人は取り合わず、絶望的な状況に他のメンバーたちも表情を曇らせた

 

「あなた方は、これでいいのですか?」

 

「どういうことかな?」

 

 そんな中、アイリは役人と、その隣で申し訳なさそうにしている日本戦車道の理事長に向かって口を開く

 

「明日の試合はエキシビションマッチの扱いで、練習試合ではないですよね?しかも廃校問題も関わった重要な意味を持つ試合です。それを30対9の殲滅戦で行えと、強要する文科省や日本戦車道連盟は、この試合で世界に『これが日本の戦車道だ』っと表明するということです。さて世界各国の戦車道ファンや戦車道連盟が知ったらなんて思うでしょう?世界大会の誘致に影響が出そうですね?」

 

 練習試合はあくまで練習であり、公式試合の扱いではない。対してエキシビションマッチは公式の試合である。アイリの言葉に、役人は眉一つ動かさないが、理事長は『それは困る』と顔が青くなる

 

「さらにあなたは今回の試合はプロリーグのルールに準じると言いました。つまりこの試合は、『これがこれから発足予定のプロ戦車道リーグですよ』っと宣伝することにもなりますね。さてこんな不公平が平気で許される競技を見て、『わー楽しそう』なんて思う人がいるでしょうか?出資協賛する企業が出てくるでしょうか?」

 

「先ほども言ったが、試合に不服なら辞退すれば」

 

「違うでしょ?『辞退すればいい』、ではなく『辞退してほしい』ですよね?文科省と日本戦車道連盟が認めた公式試合で、こんなとても試合と呼べないような不公平条件、成立させて前例を作ってしまったら日本戦車道界の汚点にしかなりませんし」

 

「・・・」

 

「ってことで、やりますよ。ただ、例えあなたの望みどおり私たちが負けて学園が廃校になっても、あなた方もそれなりの損失を負うことになりますけどね。ま、世の中絶対はありませんし?こんな不公平条件押し付けておきながら、もし私たちが勝ちでもしたら、あなた方は大恥もいいところですね?」

 

「今からでもせめてフラッグ戦に、って?!」

 

 理事長が役人にルール変更を言い出したが、役人はそれを無視して去っていった

 

「あーあ、キッツイなぁ。どうするよ?」

 

「林に誘い込んで各個撃破?」

 

「突撃して乱戦に持ち込んで指揮車狙いとか?」

 

「引き撃ち・・・はキツイか」

 

 アイリたち4人は試合場の地図を囲み、作戦会議を始める。今までの本気半分な態度から一変した4人に、他の戦車道履修者たちは驚きで言葉を失う

 

「とにかく今は案を出そう。取捨選択して詰めるのはそれからだよ」

 

「そうだね」

 

「戦力差3倍以上だし、この遊園地跡で篭城戦も難しい」

 

「車外スピーカーでタイマン呼びかけたりとか?」

 

「相手が乗る乗らない以前に、声が届く距離まで近づけなさそう」

 

 必死で頭を捻り、作戦案を出していく4人

 まるで・・・

 

「お前たち、本気で勝つつもりなのか?」

 

「ハァ?何言ってんの?」

 

 生徒会広報の桃が4人に声をかけた。恐らくこの場にいる全員が思った疑問を、4人に向かって投げかけると、アイリはそんな桃を睨みつけながら返した

 

「いや、だってどう考えたって勝ち目があるとは思えん」

 

「ハッ!今年から戦車道を復活させて全国大会優勝しろと隊長に迫ったヤツと同じ人間だとは思えないね」

 

「だって、あのときはそれしか方法が・・・っ!」

 

 何かに気付いた桃はそこまで言って口が止まる

 

「そうだ。今回も方法はこれしかない。この毎度のこと詰めの甘い会長が、腹黒い大人にいいように利用されながら持ってきたチャンスに縋るしかない!『勝てるのか?』じゃない、『勝つ』んですよ!」

 

「相手の30輌の編成の詳細がわかれば・・・」

 

「大学選抜は確か、主力がパーシング、偵察用にチャーフィー、隊長車は愛里寿ちゃんだから、前にセンチュリオンに乗ってるって言ってたから、今回はそうだと思う」

 

「でも隠しだまがありそうだからなぁ・・・」

 

「相手の編成もそうだけど、問題は相手がこっちの編成を知っているのがなぁ・・・情報戦ですでに負けてるのが厳しい」

 

 アイリが桃に向かっている間も、リカたち3人は真剣な表情で話し合いを続けている

 

「それに、『こんなのお前らに勝ち目なんてあるわけねーだろバーカww』っと高を括ってるあの役人の態度見て、おめおめと引き下がるなんて冗談じゃない」

 

「・・・」

 

「一応八九式以外は、距離にもよるけど、相手を撃破可能なんだよね。なら八九式には徹底して履帯狙いで、足回りに不安要素を与えられたら、機動力を削ぐことができる」

 

 桃が何も言わなくなると、アイリはそんな桃に興味を失ったかのように話し合いに戻った

 

「山岳地帯におびき出して、各個撃破はどうでしょう?」

 

「西住・・・」

 

 真剣に作戦を話し合ってる4人に、みほが参加する

 

「山岳地帯か、林のほうが見通しが悪くて分散させられないかな?被発見までの距離も縮められるから、砲の弱い戦車でも相手を撃破できる可能性が上がるし。煙幕を使って視界を奪って同士討ちを誘ったりできそうじゃない?」

 

「さすがに経験が多い大学選抜チームに同士討ちを期待するのは難しいんじゃないかな?」

 

 それから徐々に話し合いに加わるメンバーが増えていく。カバさんチームの暦女4人が過去の戦争を例にした作戦を提案したり、アヒルさんチームのバレー部が根性論を展開したりと、いつの間にか圧倒的不利な戦いを嘆く者はいなくなっていた

 

 

「・・・っで?昨日あんだけ話し合ったのに、結局無駄骨だったってわけ?」

 

「そうっぽいね」

 

「熱くなってたのがバカみたい」

 

「むしろ役人にあんだけ啖呵切って、結局増援が来てるってのが・・・超ハズい」

 

 試合開始前の作戦タイム。仮設テントの外でアイリたちが呆然としている。彼女たちの視線の先にはズラリと並んだ30輌の戦車。黒森峰のティーガーのⅠとⅡにパンター、プラウダのT-34とIS-2とKV-2、サンダースのM4、聖グロリアーナのチャーチルとマチルダとクルセイダー、継続のBT-42、アンツィオのCV-33、知波単の九七式中戦車と九五式軽戦車

 

「ぶっちゃけこれでもまだ結構不利だよね。連携確認どころか全員の顔合わせすらしてないし、相手にはこっちの編成はまたバレてるし」

 

「性能面でも、真っ向勝負するにはキツイ戦車が多いし・・・」

 

「ってか、増援してもらっておいてなんだけど、なんで知波単が6輌も・・・その中の2枠くらいを黒森峰かプラウダの戦車に、いや、せめてシャーマンかマチルダ、クルセイダーにでも渡してくれたら」

 

「アンツィオのCV-33は、まぁ火力的には戦力外だけど、乗ってるのは腕も確かな人たちだから、偵察に徹してくれるだろうし、いいんだけど。知波単は突撃癖がなぁ・・・来てくれただけ感謝しなきゃなんだけど」

 

 呆然としながらも、冷静に戦力を分析することを忘れない

 

「そういえば、戦力が揃ったことはいいんだけどさ。ウチの隊長って30輌の大隊指揮なんて取れるのかな?高校戦車道じゃ上限は20輌だし、黒森峰にいた頃でだって経験なんて無いはずだよね?」

 

「確かにね・・・」

 

「まぁ、それは信じるしかないね」

 

「そうだね。なんたって、たった数ヶ月で新規参入に近い戦車道を再開した学校を全国大会で優勝させたんだから」

 

 ふとみほの指揮力に疑問を持ったアイリたちだが、すぐにその疑問を払拭する

 

「それに、あの隊長は間違いなく『持っている』人間だよ。愛里寿ちゃんと同じ、言葉にできない、才能だけじゃない、才能とは違った『何か』をね」

 

 

 試合開始して、大隊長のみほは隊を3つに分けた。右翼を進むたんぽぽ中隊、中央を進むひまわり中隊、左翼を進むあさがお中隊である。アイリたちごりらチームのセンチュリオンは中央のひまわり中隊に入っている

 

「こっつん作戦ね・・・正直いきなり大隊30輌での作戦を考えろと言われて、考え付くだけマシな部類なんだけど」

 

「よく言えば正攻法だけど、悪く言えば捻りが無い、か・・・」

 

「島田流で、経験豊富な大学選抜チームなら、裏なんていくらでもかける」

 

「うーん・・・」

 

 アイリはみほの考えた作戦に難色を示す。そして少し考えた後、咽頭マイクに手をやる

 

「センチュリオンから中隊長と中隊副隊長へ、丘の奪取は止めるべきだと思います」

 

『はぁ?!何言ってんのよアンタ?!』

 

『理由を聞こう』

 

 アイリの進言に、中隊副隊長のカチューシャと中隊長のまほは正反対の声色で返す

 

「相手はこちらが連携確認もできてないインスタントチームであることを知っています。ついでに言うのなら、あなた方増援が来てくれたことが、我々大洗女子学園にとって想定外であったことも、です。そんな状況でパッと思いつき、実行できうる作戦はそう多くありません。現在実行中のこの作戦も、相手は読んでいると考えるべきです」

 

『つまり罠の可能性が高いということか?』

 

「そうなります。相手の戦車の全ての編成もわかっていないわけですし。孤立するのは危険かと。この中隊には黒森峰とプラウダの重戦車と、他火力の高い車輌が入ってますので、真っ先に狙われるとしたら、この中隊だと思います。そろそろ相手もこちらの中隊編成を確認してるはずです。恐らく見通しのいい湿原があるたんぽぽ中隊のほうを適当な戦力で引き付けて、林を進むあさがお中隊を別動隊が強行突破、丘を取った私たちを本隊と別動隊で包囲する・・・ってところですかね」

 

 アイリは島田流としての自分が予測した相手の行動を伝えた

 

『それでも、丘上を取った私たちのほうが優勢じゃない?!』

 

「ここからは相手の編成がわからないですから不確定要素が多いですが、それでも丘上の私たちをまとめて撃破できる策が向こうにはある、としか・・・」

 

『そんなの考えてたらキリないわ!』

 

『確かに、根拠に欠けると言わざるを得ない』

 

 2人の言葉に、アイリは咽頭マイクから手を離して舌打ちした

 

「ハァー・・・そんな固い頭だから全国大会でウチに負けたんだろ・・・警告はしたからな」




役人とのやり取り、実際あの試合の結果に関わらず、あの役人は出世コースから外れますよね。世界大会の誘致に躍起になってるなら、普通大事にはしたくないんじゃないのって思うけどなぁ・・・

増援はセンチュリオンが増えた分は黒森峰のパンターを減らすことで帳尻合わせ。ってか、なぜ増援の枠は知波単が6枠なんだろう・・・?にしても変幻自在、臨機応変の戦術で戦う島田流に、連携確認すらしてないインスタントチームって・・・無謀だよね

センチュリオンはひまわり中隊でスタート。行動中にチームの欠点、作戦の穴を上に進言するも効果なし。この時点でカールを予想するのは4人が島田流でも流石に無理


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7話

「だから言っただろ!!クソがっ!!」

 

 アイリがセンチュリオンの車内で盛大に毒づく。戦車の外では規格外とも思える大きさの榴弾が、巨大な爆発で丘の頂上のひまわり中隊を襲う

 

『パンター走行不能です』

 

『3発目が発射される前に移動しろ』

 

「結局犠牲は自己責任かよ。これだから西住流は!!」

 

 黒森峰から加わったパンターが走行不能になったと無線が来て、今更中隊長のまほが回避行動を指示し、アイリたちの不満が高まる

 

「移動なんてできると思ってんのか。もうここは半包囲されてんだ」

 

 操縦手のナオの言葉通り、丘の頂上から移動をしようとした戦車は、包囲しているパーシングに砲撃を受けて、頂上に押し戻される

 

『おい中隊長どうにかしろー!やられたー!!』

 

『やられてないよ!!』

 

「泣ける・・・」

 

 味方の士気を下げるカメさんチームの叫び声の無線に、ガックリとくる

 

『このまま正面の坂を下りて、たんぽぽ中隊に合流する。中隊続け』

 

「中隊長が真っ先に逃げるのかよ。もうヤダこの中隊」

 

 中隊長の指示とともにまほの乗るティーガーⅠが発進、まほを注視していたエリカのティーガーⅡがすぐさま反応して発進して撤退を始める。機動力があるヘッツァーと三突が反応よく発進させて続き、プラウダの戦車がワンテンポ遅れて発進して撤退を始める

 

「まずい、プラウダが出遅れた!」

 

「ったく、結局尻拭いだよ!」

 

 試合に勝つため、プラウダの戦車たちを失うわけにはいかないと思っているアイリたち、操縦手のナオがセンチュリオンの加速を緩めて自ら殿として最後尾に付く。絶えず規格外クラスの巨大榴弾の砲撃が降り続く丘からの撤退戦が始まる

 

「フンッ、なによ!カチューシャには当たんないんだから!!」

 

「余計なことしてるヒマがあるならさっさと走れ中隊副隊長!!」

 

「うっさいわね!!」

 

『前方よりパーシング!!』

 

 自分の乗るT-34の近くに着弾し、恐怖を振り払うかのようにキューポラから顔を出して叫ぶカチューシャに、フォローしているアイリが怒鳴る

 

「ちょっとまずいな」

 

「全速で逃げながら、できるだけ不規則に進路を揺らして回避や弾いたりをしてるけど、いつまで持つかわからないよ!」

 

『~~~~~~』

 

『~~~~~~』

 

「何しゃべってんのコレ?」

 

 無線から、日本語以外の言語が流れ始め、通信手のカナが困惑する

 

「声からして、プラウダの2人だよね。ノンナさんと、クラーラさんだっけ?」

 

『あなたたち、だから日本語で話なさいって言ってるでしょ!!』

 

 外国語で話す2人にカチューシャが注意した次の瞬間、クラーラの乗るT-34が減速する

 

「止まるなぁああーっ!!!」

 

『っ!!』

 

 アイリの怒鳴り声に、クラーラの息を呑む音が無線に入る

 

「何のために、わざわざ出遅れたお前らの後ろを走ってやってると思ってんだ!!お前らの戦車が後の戦いで必要だから、こんな危険を犯して殿なんてやってんだろ!察しろよ!」

 

『ですが!!』

 

「あんたらまとめてちゃんと私たちが逃がす!!だから前だけ見て逃げろ!!」

 

『命令よクラーラ!撤退を続けなさい!!』

 

『・・・はい』

 

 アイリの言葉に同調したカチューシャの命令で、クラーラの乗るT-34は再び加速し始める

 

「リカ、とにかく撃って、撃破されたらお終いなんだから、弾撃ち切るつもりでいっていいから。撃ったら撃つだけ弾の分の重量がなくなって車重が軽くなるし」

 

「オッケー!」

 

 逃げながら応戦したセンチュリオンの砲弾が、パーシングを1輌撃破した。それによって慎重さが生まれたパーシングの追跡が僅かに緩む

 

「ホラ!追跡の手が緩んだから、とっとと逃げる!!」

 

 

「パンター、BT-42、チハ新旧、各1輌ずつ計4両が走行不能でありますか・・・」

 

「でも、こっちもカールとパーシング4両撃破してるし」

 

「26対25ですか」

 

「あんなことがあっても、車輌数でまだ勝ててるのが不思議なくらいだ」

 

 丘から撤退し、新たに編成したどんぐり小隊が巨大榴弾砲撃の正体だったカール自走臼砲とその護衛パーシングを3輌撃破した。現在は生存車輌全て合流して、遊園地跡を目指している

 

「だから言ったでしょ。島田流を甘く見るなって。臨機応変、変幻自在ってことは、要は何でもありってことなのよ。文科省にポンと渡されたあんな代物をこんな短時間であれだけ使いこなすんだから」

 

 アイリがまほとカチューシャを責める。撤退後、携帯でネット検索して調べたら戦車道のルールが更新されていて、オープントップ車輌も天板を追加で取り付けることで使用を許可する旨が追加で記されていた。更新日時は昨日である。これによりカール自走臼砲が使用可能となり、恐らく文科省の手配で大学選抜チームに渡されたのだろう。とアイリは推察した

 

「私がフォローしてやらなかったらどうなってたか・・・中隊が壊滅、いや全滅だってありえたよ」

 

「そうだな・・・すまなかった」

 

「謝るなら私だけじゃないでしょ。我先に逃げてプラウダを置き去りにしたんだから。それと大隊長にも」

 

「わかってる」

 

 その後、まほはプラウダのメンバーやみほに謝るが、カチューシャもアイリの進言を無視していたので、あまり強く出られず。大隊長のみほに至っては相手が実の姉なので、なおさら何も言えず、ほぼ形だけの謝罪で水に流される

 

「それで、これからの方針は?」

 

「チームを再編成して局地戦に持ち込んで、個々の特性と連携を活かして戦います」

 

 大隊長のみほの口から、再編成の言葉が出たことに、アイリたち4人はホッとする。そんな中、カチューシャの乗るT-34がセンチュリオンの隣にやってくる

 

「ねぇ・・・あの、さっきはありがと。べ、別にカチューシャは助けてもらわなくても自力でどうにかできたけど!・・・でも、クラーラを止めてくれたことは感謝するわ」

 

「そりゃどうも。こっちはジョン・マクレーンの気分が味わえたよ」

 

「??・・・っと、とにかく!お礼は言ったからね!」

 

 アイリの言った意味がわからなかったカチューシャは、恥ずかしそうにそう言ってプラウダの戦車たちのもとへ戻っていった

 

「初めからそれだけ素直なら、私たちの忠告も聞いてくれればよかったのに」

 

 

『敵集団は正面入り口にまもなく到着』

 

「ねぇ、あんな砂煙立つなんておかしくない?雨上がったばっかりだよ?」

 

 ジェットコースターのレール上から遊園地の周辺を監視しているアンツィオのCV-33からの無線に、正面入り口に待機しているセンチュリオンのキューポラから上半身を出したアイリが、見えている光景に違和感を唱える

 

『こっちに陣地を構築する時間を与えないように速度を上げて向かってるんじゃないの?』

 

「もうここに来て十分な時間は経ってるはずだよ。今更急いでどうするのさ」

 

 同じく待機しているティーガーⅡのエリカがアイリの違和感に否定的な意見をするが、さらにその意見を否定するアイリ

 

『こちら正面入り口。監視偵察中のCV-33、こちらに向かっている敵集団の戦車の大凡の速度を教えてくれ』

 

『速度?あー、うーん、30キロ出てるかどうかって辺りじゃないか?不整地だし、それでも飛ばしてるほうだと思うが』

 

「そんな速度であんな砂煙が立つか?雨が上がって30分は経つが、ついさっきまで曇ってたんだ。湿度だって高いからそう短時間で地面なんか乾くかよ。煙幕の可能性がある」

 

『大隊長、正面入り口は陽動の可能性あり。通用門、並びに西裏口の戦力を固めたし』

 

『了解です。各出入り口の戦力を再配置します』

 

 

「こちらセンチュリオン、通用門到着しました」

 

『大隊長車、了解です。以降はダージリンさんの指揮下に入ってください』

 

「了解」

 

 戦力の再配置の結果、今度は通用門の配置となったアイリたち4人のセンチュリオン

 

『あら、嬉しいわ。私、1番好きな戦車ってセンチュリオンなの。まさかセンチュリオンを指揮できるなんて思わなかったわ』

 

「結構扱き使われてるので、できれば労わってほしいですね」

 

『残念ながらそれは約束できないわ』

 

 ダージリンのその言葉とともに、通用門が外からの砲撃で破壊される

 

『チャーフィー、いざ尋常に勝負!!』

 

「意気込みはいいけど、オンマイクで無駄に叫ぶなよ・・・っ?!」

 

 ローズヒップの乗るクルセイダーが破壊された通用門に突撃をしていく。しかし、アイリは破壊された通用門の粉塵の中から出てくる戦車がチャーフィーではないことに気付く

 

『戻りなさいローズヒップ!!』

 

 アイリが咽頭マイクに手をやってオンマイクするより早くダージリンの警告が飛び、クルセイダーは狭い通路で180度ドリフトターンをして旋回し、来た道を戻ろうとする。そんな中、先頭を切って通用門から入ってきた戦車が発砲。粉塵の中で視界が無い中、クルセイダーの旋回時に壁に擦った音を頼りに砲を向けただけなので、運よくクルセイダーの砲塔側面で弾かれ、弾かれた砲弾は通路の壁に当たる

 

『あれは、T28重戦車!』

 

「隠しだまその2だね」

 

『こりゃどう見てもこっちが主力だぞ』

 

『どうするのよ?このままじゃ突破されるわ』

 

 再び訪れた想定外の事態に、通用門組は軽いパニックになる

 

「いや、これは逆に利用できるよ。カナ、榴弾装填しておいて」

 

「わかった」

 

 作戦を閃いたアイリが、車内に指示をしながら、咽頭マイクに手をやる

 

「クルセイダーへ、次T28が発砲したら、さっきのドリフトターンをもう一回やれない?それでT28の砲身を巻き込んで圧し折れたら、T28は射撃不能になるよ」

 

『面白いですわ。やってやりますわよ!!』

 

 ローズヒップが覚悟を決めたその瞬間、T28が発砲し、砲弾がセンチュリオンの目の前に突き刺さる。T28の再装填の隙を突き、クルセイダーが通路に飛び込む

 

「旋回時に車体側面を砲身にぶつけて!」

 

『了解ですわ!チキンレースなら得意中の得意ですのよ!』

 

「いや、チキンレースは当たっちゃダメでしょ」

 

 クルセイダーがT28の前で旋回し、横滑りしながら車体側面からT28の砲身に体当たりをかました。T28が砲身ダメージ回避のために、砲身を少しでも上に向け、その行為によりクルセイダーが下から砲身を掬い上げる形になる。いくら重戦車の大口径砲身とはいえ、20tの戦車の体当たりに耐えるほどの強度はあるはずもなく、砲身は根元からグニャリと曲がった

 

『やりましたですわー!』

 

「そして、これで仕上げっと、リカ」

 

「任せて」

 

 クルセイダーが通路から出てきたところで、センチュリオンから榴弾が発射され、T28の片側二重履帯をまとめて千切り飛ばす

 

「後ろのパーシングたちはT28が邪魔で通れず、だからと言って、この戦闘状態の中での修理はルール上認められないし、仮に修理に入れても車幅ギリギリの狭い通路での作業はし辛いため、通常より時間もかかる」

 

「おまけに履帯の修理はできても、砲身は修理できない。だから結局攻撃には参加できない、っと・・・」

 

「これぞ通用門再封鎖&T28封じ作戦ってね」




開幕ピンチ。結局フォローに回る4人。もうこれが彼女たちの戦車道なのでは?
でもウィキでプラウダの各戦車の速度や重量、エンジン出力を見て、原作でカチューシャのT-34が最後尾って不自然ですよね。IS-2やKV-2のほうが重量あって速度が遅いのに、出遅れても最後尾を走り続けてる意味はなぜ?撤退中だから、最高速に近い速度を出してるから、出遅れた中でもさらに最後に発進しても追いついて抜けるはず・・・彼女が中隊の副隊長であり、プラウダの隊長であるという責任から殿をしているって考えると筋が通る?でも結局原作だとプラウダの戦車は彼女の乗る戦車を守って脱落していくわけで・・・

劇場版のカールの撃破方法って、遠くからマズルへピンホールショットじゃダメだったの?会長あたりならできたでしょ?

チーム再編成でまた黒森峰、プラウダ組と組まされるアイリたち。イライラしてるので言葉使いも荒くなってます

T28については、アニメのプラウダ戦でウサギチームが主砲を折られても白旗が出なかったので、まだ走行不能ではないです


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8話

『敵センチュリオン、西裏門を強行突破!!なんだあれは?!化物か!!』

 

「とうとう動き出したね、愛里寿ちゃん」

 

 通用門が再封鎖されて、早数十分。最低限の戦力を通用門に残し、残り2つの出入口に戦力を再配分した結果、戦闘は膠着状態となっていた。しかし、監視偵察役のCV-33からの驚愕に染まった声での連絡に、アイリたちは顔を顰める

 

『こちら西裏門の西です。知波単全車走行不能。申し訳ありません!!』

 

『同じくサンダースも全車やられたわ。気をつけて、敵が雪崩れ込むわよ』

 

 西裏門の警戒を任されていた知波単学園の戦車たちと、再配分で回されたサンダースの戦車たちがまとめて撃破され、遊園地内に大学選抜チームの戦車隊が侵入し始める

 

『正面出入口の状況を教えてください』

 

『こちら正面出入口、敵は少数。だが連携がよく、攻勢に出られず、付き合わされている感がある』

 

『わかりました・・・正面出入口、通用門、共に放棄してください。敵戦車を全て遊園地内に引き込み、プランFで戦います』

 

 

 遊園地内のサファリエリア、そこに2輌のセンチュリオンが対峙している。一方は大学選抜の黒のセンチュリオン。もう一方は濃緑にゴリラのチームエンブレムと大洗女子の校章が貼られた大洗女子学園のアイリたちが乗るセンチュリオンである

遊園地内の各所で戦闘が行われている中、アイリたちのセンチュリオンは大学選抜チームの目を掻い潜り、愛里寿のセンチュリオンのところまでやってきた。忍者戦法の島田流の教えを受ける大学選抜チームだが、彼女たちもまた、島田流の門下生なのだ

 

「久しぶり・・・愛里寿ちゃん」

 

 アイリたちのセンチュリオンに搭載された車外スピーカーから、拡声されたアイリの声が発せられる

 

「少し、大きくなったね。髪も伸びて大人っぽくなったかな」

 

 アイリがかけた言葉に、砲弾が返ってくる。操縦手のナオがセンチュリオンを前進させて砲弾をかわす。アイリは愛里寿の拒絶の姿勢に一瞬表情を曇らせたが、すぐに引き締める

 前進し、加速したアイリたちのセンチュリオンが、愛里寿のセンチュリオンにぶつかりそうになるが、愛里寿のセンチュリオンが僅かに後退して衝突は回避される。すれ違い間際、アイリたちのセンチュリオンが発砲。愛里寿のセンチュリオンが角度を変えて弾き、弾かれた砲弾がライオンのオブジェの頭を砕いた

 

 その後も、2輌のセンチュリオンが狙って撃って回避するを繰り返す。あるときはゾウのオブジェを体当たりで破壊しながら。またあるときはキリンのオブジェの後ろ足を車体で折り、倒れたオブジェ越しに発砲して胴体を木っ端微塵にしたり・・・その動きはとてもそれぞれが4人の乗員で動かしているとは思えないほどに、統率されていて、まるで戦車が一つの生物のように見えるほどである

 

「愛里寿ちゃん、私たち謝らないよ」

 

「っ!」

 

「だって愛里寿ちゃんとの約束を違えたつもりはないから」

 

「っ!!」

 

 アイリの呼びかけの言葉に愛里寿が表情を変える。そして反論代わりに砲弾が飛んでくる

 

「あのときの約束は、私たちは今も変わらず思い続けてる」

 

「・・・だったら、だったらどうして?!」

 

 愛里寿が叫んだ。愛里寿の声が聞けて、アイリは内心喜ぶ

 

「学校を、学園艦を守りたかったからだよ。島田流で愛里寿ちゃんと一緒にすごした時間よりは短いけど、あそこも私たちにとっては間違いなく居場所だから。失いたくない場所だから。生徒会は適当で下らないことしかしないし、小さめの規模の学園艦だから大して面白いものがあるわけでもない、唯一のメリットが公立校の学費で学園艦の教育を受けられることってだけだけど・・・」

 

「なんか言ってて悲しくなるね」

 

「だけどねー、今は違う」

 

 アイリの言葉に、リカが突っ込む。カナが通信機を操作して、無線通信を車外スピーカーに出力した

 

『あんこうチーム、巨大迷路でカメさんチームと共同でパーシング2輌を撃破』

 

『こちらカバさんチーム、時代劇エリアにてマカロニ作戦ツヴァイ成功しパーシング2輌を撃破!だけど3回目失敗し走行不能。すまない』

 

『プラウダチーム、三式とポルシェティーガーと共同でウェスタンエリアでパーシング5輌撃破したわ!』

 

『こちらダージリン、プラウダの頼れる同志の力を借りてT28を片付けたわ』

 

『こちらアンツィオ!偵察がバレてチャーフィーに追われてる!誰か助けてー!!』

 

『こちら江戸村エリア、ローズヒップですわ。チャーフィー1輌と相討ちですわ。ごめんなさいですの』

 

『ウサギチーム、ジェットコースターのレール上のでCV-33を攻撃中のチャーフィー2輌を撃破しました』

 

『助かったーありがとう!!』

 

『黒森峰チーム2輌、パーシング3輌と交戦中、かなりの腕だ。連携もいい』

 

 スピーカーから次々と戦況の報告連絡が上がってくる

 

「そんな学校を、学園艦を取り戻すために、みんなが頑張ってる。私たちには戦車を動かすスキルがある。それで居場所を取り戻せるなら、私たちは迷わない」

 

 てゆーか・・・っとアイリは言葉を続ける

 

「なーにが『嘘つき』だ!愛里寿ちゃん、私らが大洗女子学園に進学したら、自分は飛び級して大学生とか!!そんで大学選抜で戦車乗ってて、自分はどうなんだ、自分は?!」

 

「っ?!」

 

 ズビシッと指を刺してアイリが愛里寿に矛盾を指摘する

 

「私らと一緒に戦車乗りたいなら、高校に飛び級でくればいいのに、なーんで大学入っちゃうかな?!」

 

「だって!高校戦車道は西住流が蔓延ってるからってお母さんが・・・あとお母さんが大学戦車道連盟の理事やってるから」

 

「そんなのどーだって、いーじゃん。私らと一緒に高校戦車道界に島田流広めていけば!!黒森峰やっつけて、島田流最強ガッハッハってやればいいじゃん!!」

 

「むぅ~~~」

 

 アイリの言葉に、愛里寿は隊長としての上っ面が剥げていく。かつてアイリたちと一緒にいたときの、歳相応の子どもらしい表情に戻っていく。ちなみに両戦車とも戦闘中である

 

「だいたいこの試合でそっちが勝って、なんのメリットがあるのさ?!高校戦車道のイメージ悪化と縮小は、回りまわって大学戦車道の競技人口減少に繋がるんだよ!!売られた喧嘩だから買うまでってのは西住流の思考でしょ!!」

 

「っ!・・・私にも、守りたいものがあるから、勝ちたいんだ!」

 

 愛里寿のセンチュリオンがアイリたちのセンチュリオンに体当たりをした。アイリたちのセンチュリオンのサイドスカートが歪み、金属が擦れる音が車内に響く

 

「まずい。履帯がサイドスカートに擦ってる。このままじゃ切れかねない」

 

「んじゃ、決めるしかないよね。カナ、1回だけでいいから、装填時間を短くして」

 

「アハッ、今でも結構頑張ってるほうなんだけど・・・まぁ1回だけなら」

 

「ナオ、リカ、――――――」

 

 アイリが、操縦手と砲手の2人に作戦を指示する

 

「オッケー」

 

「いっちょ驚かせて上げますか」

 

 そうして2輌のセンチュリオンは、もう何度目かになる真正面からの対峙となる。両車が真っ直ぐと加速して接近していく

 

「撃て」

 

 早めのタイミングでアイリたちのセンチュリオンが発砲する。砲弾は愛里寿のセンチュリオンの操縦手が最小限の操縦で回避した

 

「よっこいしょういちっと!!おっけー」

 

 カナが自動装填機並みの早さで砲弾を装填する。安全性を度外視して片手のみで砲弾を砲弾架から持ち上げ、同時に他の作業をもう片方の手で行うことで、装填時間を約半分に縮ることに成功する

 

「向こうは多分、必中距離まで引っ張ると思うから」

 

「こっちはもう避ける気ないけどね」

 

 両車の距離が20メートルを切ったところで、愛里寿のセンチュリオンが発砲した。アイリたちのセンチュリオンが砲塔正面に砲弾を食らうと同時にリカも発砲

 

「っ?!」

 

 愛里寿がアイリたちのセンチュリオンの発砲に驚く。さらにナオがセンチュリオンの変速機のギアを1つ下げ、センチュリオンの加速が増した。砲塔正面への被弾による衝撃、発砲の反動、そして増した加速の慣性モーメント。3つが合わさってセンチュリオンの車体前面が持ち上がる。ウィリーのような体勢でアイリたちのセンチュリオンが愛里寿のセンチュリオンにぶつかろうとする

 しかし、愛里寿のセンチュリオンの操縦手がそれを回避するため、進路を変えた

 

「チッ、外れる!」

 

 アイリの言葉に、ナオが反射的にさらにスロットルを開けた。回転が速くなる履帯に、サイドスカートの干渉が負荷となり、片側の履帯が切れる。左右のバランスが崩れ、ウィリーの体勢が維持できなくなり、履帯が無くなり前進する力が無くなった方へ捻りながら車体が倒れ始める

 その方向が、幸か不幸か愛里寿のセンチュリオンの変えた進路と重なった

 

「愛里寿ちゃん、車内に避難してよ!」

 

 アイリの言葉と同時に、アイリたちのセンチュリオンは愛里寿のセンチュリオンを押し潰すように倒れて乗り上げる。アイリたちのセンチュリオンは愛里寿のセンチュリオンのやや前方部に重なり、愛里寿のセンチュリオンの主砲身を折っていた。さらに約50tのプレスに左右両方のサスペンションは耐え切れず破壊され、駆動系も破損していた。また、アイリたちのセンチュリオンも砲塔正面の被弾により走行不能判定が出される

 結果、両センチュリオンから、走行不能の白旗が上がる

 

「ふぅー・・・」

 

 アイリは深く息を吐いて自身を一旦落ち着ける。そして咽頭マイクに手を当て、オンマイクにして口を開く

 

「こちらごりらチーム、センチュリオン・・・大学選抜チーム隊長車センチュリオンを、相討ちにて撃破!!」

 

 数秒後、無線から歓喜の声が割れんばかりに入ってくるのだった

 

 

 結果として、試合は大洗女子学園チームが勝利した。隊長の愛里寿を失った大学選抜チームの下がった士気と、逆に勢い付いた大洗女子学園チームの士気の差は如何ともし難く、試合終了時に大洗女子学園チームで生存していた車輌数は10輌を越えていた

 

「愛里寿ちゃん」

 

「・・・ごめんなさい。その、嘘つきって言って」

 

 勝利に沸く大洗女子学園チームの輪から外れた場所で、アイリたちと愛里寿がいた。愛里寿はアイリたちに頭を下げて自身の言ったことを謝罪する

 

「もういいよ。気にしてないから。私たちも、知らせなかった落ち度はあるから」

 

「仲間外れみたいにしちゃってごめんね」

 

「それに、私たちは謝ってほしかったんじゃないよ」

 

「そうそう。ただ、わかってほしかっただけだから」

 

 そう言って、4人は大洗女子学園の仲間たちのほうを見る。愛里寿も同じように視線を向けた

 

「楽しそう。ちょっと羨ましいかな」

 

「なら来てみる?」

 

「え・・・」

 

「別に驚くことでもないじゃん。試合中も言ったけど、飛び級できるんだから大洗女子にも通えるでしょ」

 

「でも・・・」

 

 愛里寿は戸惑いながら、回収車に乗ったアイリたちのセンチュリオンを見る。センチュリオンの乗員は4人なので、アイリたち4人と愛里寿の5人だと、1人あふれてしまうのだ

 

「そこはほら、生徒会に頼んでセンチュリオンを売っ払って、5人乗りのを買えばさ」

 

「あーうん、愛里寿ちゃんが仲間になるなら、あの生徒会はそれくらいやりそう・・・」

 

「あ-でも、あの渋くていいエンジン音のセンチュリオンを手放すのは惜しいなぁ」

 

 アイリの提案に、リカとナオがそれぞれ反応する

 

「ってかさ、アイリの代わりに愛里寿ちゃんが車長になってもらったらよくない?」

 

「「「それだっ!!」」」

 

「いやいやいや!『それだっ!!』じゃないよ」

 

 カナの言葉に、リカとナオと愛里寿が揃って反応した。アイリは思わずツッコミを入れる

 

「私どうするのさ?!」

 

「うーん・・・戦力外?」

 

「今までお疲れ様?」

 

「あなたとは遊びだったのよ・・・?」

 

 リカたち3人が愛里寿を囲むように抱き付いた。愛里寿は抱き付かれたことに少し照れながらもハーレムを主張するかのように左右にいる2人に腕を回す

 

「えと・・・ごめんね、アイリ」

 

「ぐぬぬ・・・悔しい!でも可愛いから許しちゃう!!」

 

 そしてアイリもまた、愛里寿に抱き付くのだった




T28封じと通用門再封鎖で各出入口で膠着状態になっているので島田愛里寿が単独で強行突破して防衛ラインに穴を開ける。知波単とサンダースはかませ的に全滅・・・知波単の変化の兆しはどこへやら・・・

すぐにアイリたちと島田愛里寿の戦闘シーンになってますので、観覧車先輩の出番無し。無線の中で頼れる同志が本当に頼れてる件。車外スピーカー?みんなの戦車にも付いてるんでしょ?試合開始前に使ってたし・・・

最後の決着の仕方が無茶苦茶という意見は受け付けません。だってフェイズエリカでは継続のT28がウィリーするんだぜ?

悲報、アイリ、他乗員をNTRされる。ちなみにアイリは元々通信手という設定。センチュリオンは装填手と通信手が兼任なので、元々装填手のカナがそのポジションに、余ったアイリが車長になってただけです

意味も無く、テーマもないこんな話を読んでくださり、ありがとうございました


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