20過ぎから始めるドラゴンクエスト6  (素振りが趣味)
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1話 始まり

稚拙な文章なので申し訳ないです。
初投稿作品ですが、よかったらみていってください。


目の前には新緑の森。鼻腔に土と樹の少し甘いような香りが通り抜けてなかなかに心地が良い。

木々の隙間から降りる陽の光も心地が良く、土と草と葉のベッドにそのまま寝っ転がれば、まさに夢心地――――――

いや、これマジー?

 

――――――どうなっている?

庭で日課の素振りをするために鍛錬棒と木刀を入れた袋をそれぞれ担いで玄関から足を踏み出した瞬間、目の前が真っ白に染まり暴風に飛ばされたような感覚に包まれた。

そして、気が付いたらこの林の中に立っている。

 

とりあえず、これが夢かどうかを確認すべく頬をつねる。痛いな。

 

「マジかぁ」

 

どうやら俺はどことも知れない場所にいるらしい。

「……マジかぁ」

 

このあと滅茶滅茶パニックになった。

 

 

30分後

 

冷静になった頭で現在の状況を確認だ。

 

えっと、自分の名前は【草本 九和】

今日の日付は覚えている。場所はわからんが。見当識障害……まあ、あてはまるのかな。まま、ええわ。

 

所持品 肩掛け式竹刀袋に入った鉄花ちゃん(鍛錬棒)、刀花ちゃん(木刀)、眼鏡、眼鏡ふき、ハンカチ、ティッシュ。

 

――――――ああ、どないしようかな。

とりあえず、喉が渇いたな。幸い、川が近くにある。山の中の水は天然のミネラルウォーターって釣りキチ少年も言ってたし、まあ飲めるやろ。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

俺はここにきて今日一冷静になっていた。

 

???「ピキー」

ぷるぷるとしつつも見事に保ったオニオン体型。穢れを知らぬような無垢な目。微笑んでいるように見える愛らしい口元。何より目を引くのは深海を思わせる美しい藍の体。

 

スライムじゃわ!?

 

思わず四国っぽい方言が出たわ。生スライムとか感動したぞ。いやいや、ここドラゴンクエストの世界かよ。

ドラクエは1~9とモンスターズ系を一通りはやっているが……まさかその世界来てしまうことになるとは。

 

――――――人生何があるかわからんな(キリッ)

いや、これが夢か幻覚でなくて何だというのか。いや、もしかしてこれ何か走馬燈的なもんなのか。もしかしたら家の前が突然地盤沈下してそれに巻き込まれてこんな風に……。

 

……………………。

 

おお、はねてるはねてる。えらしいやっちゃあ!(訳:かわいらしいやっちゃあ!)

あ、川に落ちた。川の流れは緩やかで、そんなに深くなさそうなので大丈夫だろう。

あ、いや、緩やかに流れていく。

 

九和「お、泳げんのかいいいいいいい!?」

オニオン型に流水は酷だったか……。

 

俺は鍛錬棒と木刀の袋その場に放り出し、流されていくスライムへと駆け出した。

 

 

俺はスライムの流れてくる場所に先回りし、受け止めることでなんとか救出した。

水位が膝より低くてよかったです。川舐めたらいかんな。

水位が膝下でも足場が悪けりゃ転倒するねこれ。だって、俺がついさっき転倒したんだもの。

 

川から上がり、スライムを確認。体が動いてなくてちょっとヒヤッとしたが、目が俺の方にじーっと向けられていることを確認して、ホッと一息つく。

 

九和「おっと、大丈夫だったかな?」

スライム「……ピ、ピキ!」

 

うーん、器用に尖った部分を前に折り曲げている。

スライムにこんな感情表現の仕方あったんやね。可愛いやつめ。

スライムを抱いていない空いた方の手が、脊髄反射的にスライムの頭を撫でてしまっている。なんやこの感触。ぷにぷになのにさらさらでふにょんふにょんや。

ベトベトしてるとか天空の嫁は言ってたのになぁ。ああ、俺は勿論幼馴染派だからね。

 

スライムの方は最初に少し驚いたようだが、腕から飛び出したりすることはなかった。

なんかちょっとこの行為ができていることに感動している。本当に綺麗なスライムだなあ。

って、

 

九和「……俺の言葉、わかるの?」

スライム「ピキ!」

 

スライムはもう一度てっぺんのとんがりを前に折り曲げる。

九和「よ、よかったぁ」

 

本日初の安堵の息だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

人語のわかるスライムと知り合った俺は、知っている言葉があれば反応してほしいと伝え、そのままいくつかのワードを投げかけた。

九和「ラダトーム、ローレシア、アリアハン、サントハイム、グランバニア、レイドック「ピキ!」……なるほどにゃー」

 

正直、ドラゴンクエストの記憶は曖昧ですべての町の名前なんてとても覚えてないが、奇跡的に検索にはヒットしたようだ。どうやらここはドラゴンクエスト6の世界らしい。天空シリーズ最後の作品にして天空シリーズの始まりの物語。

 

知らない世界である確率の方が高いと踏んでたからこれはうれしい誤算だった。あとはここがどこなのか、だな。

スライムの生息地隊はトルッカのあたりだったかなあ。いやでもそれはゲーム中のエンカウントの話だし、あんまり当てにはなんないか。

 

とりあえずは、だ。

九和「スライムさんや。このあたりで人里知らんかね?」

スライム「ピキ―」

ついて来いとのジェスチャー。

おお、なんだこのスライム。ちょっと有能すぎないか。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこは館だった。

 

九和「これが幻の生マーズ」

マーズ「ふぉっふぉ、生かえ」

金髪の少女「……生?」

 

九和「あ、すみません。せっかく中に入れていただいたのに」

スライム「ピキ―」

 

マーズ「気にせんでもよい。お前さんがここに来ることはあらかじめわかっていたからのう」

親切なスライムの案内によって俺が訪れたのは、夢占い師のマーズが住む館であった。驚くべきことに俺が訪れた際には既に彼女達は外に出ており、出迎えてくれたのだった。

 

その後、お互いの自己紹介を済ませた後に館に案内してもらったのである。

 

九和(うーん、グランマーズ恐るべし。いや、恐るべきなのはこっちもか)

金髪の少女「?」

 

見たところちょうど高校生半ばぐらいの年齢だろうか。外国人(?)なので外れているかもしれないが、その容姿は幼さを残しつつも非の付け所がなく整っており、背のあたりで束ねた艶のある金髪も相まって物語の中の姫君のようで、どこか気品すらも感じる。

不思議そうに口元に指をあてて首をかしげて思案するようにこちらを見つめている仕草は彼女の実年齢を感じさせるものでありそこがまた、かあいい。

 

マーズ「そろそろ本題に移るぞい」

九和「おっと、はい」

 

マーズ「早速じゃが……おぬし、‘ここ’の人間ではないな」

九和「あ、あ~~えっと、そうですね。うん、そう思います」

 

マーズ「ふむ、どうしてここに来たかはわからないと見える。」

九和「あ、はい?」

 

マーズ「ミレーユや、井戸の水を汲んできておくれ」

 

金髪の少女「はい、おばあちゃん」

スライム「ピキ―」

 

金髪の少女「ふふ、貴方も手伝ってくれるの?」

スライム「ピキ―」

 

金髪の少女……ミレーユはスライムを頭にのせると桶を持って外へと出ていった。うーん、なんというバランス感覚。将来はモンスターマスターかな。

 

 

マーズ「そうさな、どこから話したものか」

マーズはゆっくりと立ち上がると大きな水晶を取り出し、俺にそれを見るように促す。

 

マーズ「この世界には2つの世界が存在しておる。

ひとつはこのワシらがおる【現実世界】そしてもうひとつは【夢の世界】」

九和「……」頷く。

 

マーズ「ほう、このことを知っているようだね。普通は突然こんな話をされても呆けるか鼻で笑うと思うんじゃが」

 

九和「あ、あははは」(笑ってごまかすしかないね)

 

 

マーズ「まあ、よい。【夢の世界】は【現実世界】に住むありとあらゆるものたちの想い、願い、希望を源とし束ねた世界じゃ。ワシら夢占い師はその【夢の世界】を観て、ちょいと人生相談の相手になることを生業としているんだよ」

 

そういうとマーズは水晶に手をかざす。すると水晶の中にどこかの国の街並みが映り始める。

 

九和「あ、えーと。お金が欲しいとか良い暮らしがしたいとか?」

マーズ「うむ。欲からくるものもあれば、幸福な夢、場合によっては悪夢なども含まれる。今回おぬしに引っかかったのはそこなんじゃよ」

 

九和「ヴァ?」

マーズ「おぬしからは何の夢も見えんでなぁ」

 

九和「え、ひどくないです?」

 

マーズ「ふぉっふぉ、そういう意味ではないぞ。おぬしの夢や願い、希望が【夢の世界】に全く影響を及ぼしていない……枠組みの外にあるということじゃよ。

【夢の世界】に全く関係のないものを占うことはワシらにはできんからね」

 

九和「そ、そうですか。

でも、俺がここ来ることは知ってましたよね?」

 

マーズ「何かを連れてスライムが来ることを知っておっただけじゃよ。何かえらく変わったものをな」

九和「あ、そうなんですか」(なにかて)

 

マーズ「そうなんじゃよ。もっとも普通に生活しとる者にはまず気づかれないものではあるがな。ワシのようなちょっと人より敏感な者からするとひどく変わってに見えてねぇ。

まるで真っ赤なじゅうたんの一か所だけ真っ青になっているような、そんな感じなんだよ」

 

 

ガチャ。

ミレーユ「ん、よいしょ……。おばあちゃんとお客さん、お茶はモクレンでいいかな?」

 

マーズ「ああ、そうしておくれ」

 

九和「あ、ありがとうございますね。

……で、え、これなんかまずいんですか?」

 

マーズ「そうさなぁ、そのあたりはまだわからんが……」

 

 

そう話した時、景色が固まった。

同時に俺は不思議な温かい感覚に包まれた。

 

???「そこから先は私が話しましょう」

九和「……ミレーユさん?」

 

空気が変わった。

ミレーユであってミレーユではない。会ってまもなくの関係ではあるが、

目の前にいる少女からは何か清廉な神々しさを感じる。

 

マーズ「なんと、まぁ。これは」

 

ミレーユ?『驚かせてしまいましたね』

九和「え、え?」

ミレーユ?『私の名前はルビス。何者かが夢と現実の世界を支配しようとしています。そして、迷い人よ。理由は明らかではありませんが、貴方は違う世界から来たようですね』

 

九和「え、ええ?」

 

ミレーユ?『それがどのような意味を持つのかわかりませんが、貴方は少々この世界から見ると異質な存在に見える。その異端性がいま世界を支配しようとしている者たちに懸念を抱かせることになるやもしれません。

故に貴方は自分を守らねばならない。生きるために』

 

九和「え、えええ?」

ミレーユ?『旅立ちなさい。そして、生き延び見つけなさい。貴方がここに来た理由を探し出すのです』

 

ふと、その不思議な感覚が去ってゆく。

 

九和「え、ええええ?」

ルビス様は時間がなかったのか、競馬の競走馬の読み上げの如く早口にその内容を伝えていった。素晴らしい活舌だった。しかし正直に申し上げると、ぼーっとしていたのでかなり聞き漏らした気がする。

 

 

ミレーユ「あ、あれ?」きょろきょろ

マーズ「こりゃなんとまぁ……長生きはしてみるもんだね。

まさか精霊様がこの館にいらっしゃることになるとはねえ」

 

マーズは肩を何度か回し、座りなおす。

 

マーズ「お前さんもこりゃなかなか難儀な人生をおくりそうだねぇ」

 

九和「え、これ。

俺がよくわからない存在だから消しに、世界を支配しようとしてる人らが消しに来るってことですか?」

 

マーズは重々しく頷く。

 

九和「え、ええ…………」

 

ミレーユ「あの、話が途中からでよくわかりませんでしたが……まずはお茶を飲んで落ち着きませんか」

スライム「ピキ―」トン

 

ミレーユはお茶を勧め、スライムは俺の膝の上に乗る。

マーズはゆっくり立ち上がると奥から甘い匂いのするあかいジャムを取り出してきた。

 

九和「まあ、親に留年確定の電話をしたときに比べたら万倍……気が楽かなあ」

 

九和(それにまだ親孝行できていないうちに死ぬわけにはいかないしな。……正直、展開が急すぎて思考が付いていかない)

 

 

20過ぎから始めるドラゴンクエスト生活が始まった。

 




小説の書き方ってこれであっているのでしょうか……。
DQ6も数年前にDS版でクリアしたっきりでしたからうろ覚えで。

また、次の話を作るつもりなのでよかったらまたどうぞ。


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2話 出会い

思い付きで書いているので展開がごたごたしていきそうです。
よかったらみていってください。


こっちにきてから1週間が過ぎようとしていた。

だいぶんこっちの生活には慣れてきている。

 

九和「はぁーフッ、はぁーフッ」(九十九、百)

 

朝霧が火照った体に心地よい。森の中の湿った香りが鼻腔を抜け、体内の悪いものがスッと抜けたように錯覚する。

 

刀花ちゃん(木刀)が風をそこそこの音で切る。

刀花ちゃん(木刀)は2㎏近くあり少々重たい娘であるが、4年も振っていればよく体に馴染んだ。綺麗に振れるとは言ってない。

 

ミレーユ「おはようございます。朝から精が出ますね」

九和「あ、おはようございます。まあ、日課ですから。あ、水汲みならやりますやります」

 

水汲みはここにきて自分の数少ない仕事である。ほんの小さな仕事でも確保しておかないと罪悪感が自分を襲ってくる。

 

ミレーユ「ふふ、ありがとうございます。朝ごはん、もうもう少しでできますから」

 

九和「あ、はい。ありがとうございます」(本当によくできた子だなあ)

 

来た当初からミレーユは少々かたくも社交的であり何かとこちらの世話を焼いてくれている。この前聞いた話ではあるがミレーユは現在14歳、半年先の誕生日を迎えると15歳だそうで自分の予想は遠からず。

しかし俺も少し年齢を上に見積もったことから、やはりこの頃からもうすでに少し落ち着いた大人の女性的というか……ミステリアスな雰囲気が出ている。

 

九和(……しかしまあこんなにいい子がなあ)

ミレーユ「?」

 

ミレーユは悲劇的な過去がある。

 

当時、ミレーユの出身地ガンディーノでは王様とマフィア【ギンドロ組】が組んで悪行三昧を行っていた。

そのギンドロ組がミレーユの美しい容姿に目をつけ、ミレーユの育ての親から無理やりミレーユを連れ出し、国王に献上品として差し出したらしい。

幸か不幸か、ミレーユのあまりに美しい容姿にその時の王妃が嫉妬して王様の手が付く前にミレーユを奴隷の身分に落とし、地下牢での生活を強いたとのことである。

そして、その地下牢で出会った老人がミレーユに不思議な力を感じ、地下牢からの脱出を手助けして、ミレーユはガンディーノ国から脱出。ここまでがミレーユに関しての自分の記憶である。

 

現在の時点でマーズのところにたどり着いてるとは思わなかったが。

 

 

 

しかし、目をつけられた彼女は思っていたよりも幼い。

 

九和(確かにかわいいけども)

ミレーユ「……あの?」

 

確かに年齢のわりに大人びているが、いやそれにしたって目をつけるのが早すぎる。

 

 

おお、ギンドロ。若芽を摘むとは何事じゃ。である。

 

いや、まだセーフであるけれども。

 

どう考えてもグランマーズのところまでたどり着いてそんなに時間は経っていまい。それなのに見ず知らずの自分と一匹に朝ごはんまで作ってくれるとは。

 

九和「よいしょ」

ミレーユ「はい、お疲れ様です」

 

彼女が少し大人びているのはそういったつらい経験も影響しているのかもしれない。炊事用の水を部屋まで運び終えた俺は、もう一度外へ出る。

 

まだ原作は開始していない。原作に介入できるなんてそんなことは考えていないが、彼女の悩みの元のひとつふたつ解決したいぐらい思っても……まあ、ばちは当たらないだろう。

 

まずはそのための鍛錬。

 

 

姿勢を正す。足を肩幅程度に広げ、足を一歩分後ろに下げる。そして、跳ねる、跳ねる、跳ねる。

 

九和「一!二!三!」ぴょん、ぴょん、ぴょん。

 

 

ミレーユ「……ぷふっ」

風に乗って、館の開いた窓から彼女の忍び笑い。

九和(早素振りってきついけど滑稽に見えるんだな、やっぱり)

 

朝から何とも言えない気持ちになった。次からは少し館から離れてやると心に誓う。

 

―――――――――――――――――――――

 

マーズ「ふむ、仕事が欲しいとな?」

九和「あ、はい。ミレーユさんは家事、マーズさんは占い、スライムでさえどこからか薬草をこんもり採取してきていたので……」

 

マーズ「いたたまれなくなったと」

九和「はい、その通りです」

 

そう、ここ一週間ほとんど働いていないのだ。やっていることは芋や根菜類の皮むき、水汲みだけである。掃除、洗濯もしたいがそこはミレーユから却下された。

 

解せ……んこともない。あんまり知らない男に洗濯なんてしてもらいたくないよね。

 

前述のとおりミレーユさんは家事を行い、加えてハーブや何かの薬(?)のようなものの調合なんかもグランマーズの元で行っている。

スライムもいつも日中消えていたと思いきや、どこからか薬草や毒けし草、おとといは市場にはほとんど出回らないらしい癒し草なんかもこんもり採取してくる。

俺もミレーユさんやスライムの手伝いを行っているがそれだけでは何か足りないような気がしてきていた。

 

マーズ「そうじゃねえ……。あ、そうじゃ。わしと一緒に夢見の雫を取りにいかないかい?」

九和「え」(それ俺死ぬんじゃない?)

 

自分は原作だと主人公レベル7か8ぐらいでクリアしたことを思い出す。

 

九和(主人公はともかくあのハッサンがあの肉体まで鍛えて初期レベルは2か3。そのハッサンがレベル5か6はないときついあの洞窟に自分が……)

無謀である。

 

マーズ「行くかい?」

九和「あ、大丈夫です」

 

マーズ「よし、それではワシの準備が終わり次第行くかな」

九和「あ、はい」

 

何かを聞かれるととりあえず「大丈夫です」と口走ってしまう自分の癖の本格的矯正を視野に入れた。

 

―――――――――――――――――

 

マーズ「ほいせ、ほいせ」

 

マーズは地面に木の棒で地面に円を描き、その中にいくつかの記号のようなものを記入していく。

 

九和(木の棒でよくここまで細かく描けるな)

ミレーユ「あ、おばあちゃん。どこかいくの?」

 

マーズ「うむ、ちょっと夢見の洞窟までね」

ミレーユ「気を付けてね、おばあちゃん。貴方も……ってその恰好と木剣で行くつもりなんですか」

 

九和「大丈夫だ、問題ない」

 

ミレーユ「ちょっとその顔腹立ちます」

九和「えぇ!?」

 

マーズ「そんなわけにいくかいね。ほら、そこにあるのを着て」

 

九和「これは……」

 

皮の鎧、皮の盾、皮の帽子、両刃の銅の剣。冒険者の初級装備セットともいえる品々が置いてあった。

 

九和「こ、こんなにいいんですか?」

マーズ「なに、気にすることはないよ。昔、占い賃代わりに客が置いていったもんさ」

 

九和「あ、ありがとうございます!」

マーズ「まあ、苦労していくだろう若者へ、老いぼれの贈り物さね」

 

九和「助かります」

俺はまた世話になったことに少しいたたまれなくなったが、命の危機が少し遠ざかったような気がして安心する。

 

九和(これで一撃では……死なないよ、ね?)

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

一通り装備し終え、体の調子を確認する。そんなに重くはない。触ってみると思ったよりも厚みがあり、鍛えていないものに多少殴られた程度では痛みもないだろう。

 

銅の剣は金属であるため多少の重みは感じたがこの木刀(刀花ちゃん)ほどではない。問題は別にあった。

 

九和(自分を切りそうで怖い)

この一言に尽きる。

 

マーズ「さて、いくとするかね。ミレーユ、留守を頼んだよ」

 

ミレーユ「はい、行ってらっしゃい。おばあちゃん、九和さん」

 

和樹「サクッと帰ってくるさん」

マーズ「ほいほい」

 

マーズが先に魔法陣の上に乗り、俺もそれに後続する。

 

マーズ「それではいくかいね」

 

九和「これが生ルーラ」

 

ミレーユ「……生?」

 

マーズ「生て……ルーラ!」

 

次の瞬間、俺の視界が描き消えた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

九和「U〇Jのジュ〇○○クパークのコースター落下の如くおまたがヒュッとすると思いきや羽毛に包まれたようなこの安定感」

 

マーズ「まあ、ある程度は使用者の技量と事前の準備で変わってくるもんさ。ルーラだけ唱えようと思ったらあの魔法陣はいらないからね」

 

九和「やっぱり準備は何事も大事なんですねぇ」

 

マーズ「そう。今回のは行く先の安定化と移動の際の負担の軽減ってところかね。まあ、呪文を覚えていくつもりなら知ってて損はないよ」

 

それを聞くと少し胸が躍る。20を過ぎているが、やはり魔法を使うというのは幼いころからの憧れのような感情があった。

 

今はMP0であろうが、せっかくこっちに来たのだから帰る前に一つか二つは習得したいものだった。

 

マーズ「それじゃあ、いくかいね」

九和「あ、はい」

 

あまりにマーズがいつも通り。よく考えれば主人公が行く前はこの人ひとりで行っていたはずだからそんなに肩ひじ張る必要はないのかもしれない。

 

――――――――――――――――――――

 

 

九和「久しぶりに鍾乳洞見たなあ……」

修学旅行で行ったきりである。

ジメジメした苔の生えた薄暗い洞窟を抜けた先は鍾乳洞であった。ここまでくる道は洞窟には火の消えることのない不思議な松明が壁に設置されており整備されていることがわかる。他にも利用している人がいるのかもしれない。

 

そして、そのまま魔物に出くわすこともなく、あっさりと目的の階層まで来れてしまった。奥には台座があり、大きな壺が設置されている。そこにポタリポタリと一滴ずつ液体が落ちている。

自分の記憶が確かならこの洞窟にはスライムナイトやベビーゴイルといった魔物がいるはずなのだが。

 

 

マーズ「フム、妙だね」

九和「妙?」

 

マーズ「いやね、聖水を使っちゃいるけどここまで静かに来れたのは初めてだよ」

九和「まあ、静かに来れるのはいいことです」

 

マーズ「そうなんだけどね、こうよくわからないことってのは職業柄気になってねえ」

 

そうこう話しているうちに壺のある場所まで到着した。中には透明であるのに雫の波紋が広がるたびに蜂蜜のような色合いを見せる液体が壺いっぱいに入っている。

 

無臭であるが白ワインのようでおいしそうである。

 

九和「はえ~きれいなもんですね」

マーズ「それじゃあこの瓶に入れておくれ」

 

そういうと懐から500mlペットボトルサイズの瓶を取り出す。

 

九和(いや、どこに入ってたんだよ)

俺は了承し、500mペットボトルサイズの瓶にそれを入れる。瓶に入れると中が揺れるたびに甘い色合いとなりより一層美しさが引き立つ。

俺は何度かそれを揺らし、波紋を楽しんだ後マーズにそれを渡すとマーズは頷き、再び懐にしまう。

 

九和(……いや、どこに入ってるんだよ)

 

マーズ「それでは帰るかのう」

九和「あ、はい。……ん、あれは」

 

俺は壺の裏にもう一つなにかの影があることに気づく。

 

九和「これは……」

 

それは両手でやっと包めるくらいの大きな卵であった。白い殻に緑の複雑な模様が描かれており、日本のスーパーではちょっと置けそうにない代物である。

 

九和「……も、モンスターの卵?」

マーズ「こりゃまたどうしてこんなところに……」

 

パキッ

 

九和「あ、これ割れた?」

マーズ「……このあたりのモンスターじゃからそんなに心配はいらぬと思うが下に置いた方がよいぞ」

 

九和「……と、言われましても」

 

放り投げたいのはやまやまだが魔物と言われてもまだ生まれていないし、生まれる途中のものを地面に放り投げることはちょっと後ろめたくてできない。。

 

パキパキッ

 

九和「あ、あああああ……割れ、ああああああーーー」

手の上がむずむず動く。

 

マーズ「あ、ほれ。もうすぐ生まれそうじゃぞ」

 

パキィ!

一際高い音を出すと大きな一枚の殻が剥がれ落ちる。

 

 

それは深い緑色をした猫のようなドラゴンのような妖精のようなよくわからない生物だった。

ざっと見た感じ太いまんまる猫であるが、なめらかな深緑の肌に体には不釣り合いに小さい蝙蝠のような羽根。

エルフのようにとがった耳。悪魔のようなしっぽ。スライムのように無垢な瞳、自然とほほ笑んだ形になる犬歯の二本でた愛らしい口元。

 

九和「おおおおオォーーーー!」

 

生命誕生の瞬間に初めて立ち会った。胸の奥から原因不明の熱いものが混みあがってくる。

 

こんな小さな体であのように硬い殻を破って出てきたのかと思うと少々胸が熱くなった。

 

???「ん、んん……オマエ……ナニ?」

九和「しゃ、しゃべる?」

 

マーズ「ほう……生まれたばかりではあるが言葉が理解できるのじゃな」

???「ニンゲン……?」

 

九和「あ、ああ。はい」

???「……ヘンな、ニンゲンだな、ん……」

 

その時、手の中の生物が小さなくしゃみをする。

 

九和「あ、寒いッスか」

ポケットから薄いハンカチを取り出し、その背にかける。

 

???「……」

 

とりあえず、この子をどうするかである。

 

 

九和「世話する親とかいるんですかね」

マーズ「いや……、こんなところに卵ひとつだけあるところをみるとそういうことはなさそうじゃな」

 

九和「そ、そうですか」

 

マーズ「フェッフェ、おぬしが世話するかい?」

九和「え?」

 

マーズ「そう顔にかいておるよ。

なに、いまさら客が一匹増えたところで変わらんわい」

 

九和「あ、ありがとうございます」

 

この人を見ていると、占い師という職業人は人の観察が上手いとつくづく思う。

 

???「?」

 

こちらの話はまとまった。

 

九和「あの、行くところなければ俺と一緒に来ない?」

 




ミレーユの年齢をちょっと幼くしすぎた気がします。
次話も投稿する予定なのでよかったらまた見てください。


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3話 ポテチ

ポテチ回です。


俺がここにきて3週間が過ぎた。

 

ミレーユ「ここもずいぶんと賑やかになりましたね」

九和「あ、あはは。すみません」

 

???「ニンゲン、イモの皮むき終わった」

スライム「ピキ―」

 

九和「お、ありがとう。ディーポ、スラ子」

 

洞窟で仲間になった不思議な姿をした魔物は現在、マーズの館で俺 たちとともにお世話になっている。

名前を尋ねると「ブラディーポ」という言葉が返ってきたが、こんな見た目のそんな名前のモンスターにあまり覚えがない。

 

プリズニャンとタホドラキーを配合したらこんな感じになるかもしれない。

おそらく新種だろうとあたりをつけた俺は洞窟から館に戻るととりあえず、名前を考えることにした。

 

その結果、話を聞きつけたミレーユが「ディーポちゃんがいいわ」と言い、相手方もまんざらではなさそうだったのでそれに決定。

 

ミレーユ「ふふっ、本人が好きな名前が一番よね」

 

俺は「ブラ子」が良かったのだが、あまり受けは良くなかった。解せぬ。

 

その際、スライムも騒ぎ出したので名前を付けてなかったことを思い出し思案。

ミレーユが「スラリン」というのだがここは俺の「スラ子」に軍配が上がった。

 

スライム本人の受けが良かったのだ。ディーポとミレーユには反対されたが、

 

九和「何はどうあれ、やはり本人の意向を尊重するべきだよねッスよさ~」

 

というと、ミレーユからすごい顔でにらまれた。解せぬ。

 

 

現在に戻る。

 

ミレーユ「料理も少しづつ上達してきましたね」

九和「さすがに毎日芋むいてれば包丁は使えるようになりますよ」

 

共に料理を行う程度にはこの家にも馴染んできている。

コミュニケーション能力の低い自分であったが、さすがに3週間顔を合わせていれば慣れる。

 

というより置いてもらうことへの申し訳なさから、いろいろと必死だったから会話があまり得意でないことを忘れていた。

 

ミレーユ「今日は塩漬け肉とイモと野菜のスープです」

九和「おお、肉ッス」

 

こんな中でもひとつ気づいたことがある。

彼女はいつも炊事や洗濯の際に袖が濡れても腕をまくらない。

一度、袖が濡れていることを伝えたのだが少し困った風に笑うだけであった。

 

その袖の下にはおそらく傷があるのだろうと思う。奴隷生活というのがどういうものか実際にはわからないが、彼女が見せないようにしているということはこちらが安易に触れて関わっていいことではないだろう。

 

ただやはり

九和(……彼女の負担はなるべく減らしたいなぁ)

 

そんなことを考えてしまうのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

九和「うーん、どうしよう……、あ~でもなあ」ザッザッザ!

ディーポ「ニンゲン、スゴい働く」

スラ子「ピキー!」

 

畑を耕して考えを落ち着けようとしたもののどうにもこうにも考えがまとまらない。

 

【ミレーユの弟、育ての親との問題】【主人公一行、初戦の魔王ムドー敗北事案】などが問題としてあがってくるが、よくよく考えてみればこれらについては主人公達が物語の中で解決していくのだ。下手に介入すれば返って良くない方向に進む危険性もあるし、そもそも介入して解決に導く能力があるかと問われれば「ないです」と言ってしまいそうである。

 

しかし、せっかく来たのだから何らかの形で貢献ぐらいしても罰は当たらない気も……。

 

マーズ「こりゃあ、すごい耕し様じゃな」

和樹「あ、ちょっとやりすぎましたね」

 

マーズは近くにあった切り株に腰掛けると俺にも座るように促す。

こちらもそれに応えて少し大きな石に腰掛ける。

 

マーズ「何か悩んでおるようにみえるが?」

九和「……さすが占い師さんッス」

 

マーズ「フェッフェ、おぬしの場合は顔と行動にそのまんま出るからのう」

九和「なぁ!?」

 

マーズ「おぬしぐらいわかりやすいのも稀じゃがな。

いや、あの娘もどっこいどっこいかの」

 

九和「あ、あーーーそうですね」

 

そう彼女は要所要所非常にわかりやすいというか、原作知識抜きにしても隠そう隠そうとしていることが返ってわかりやすい。

 

落とし穴を隠そうと落ち葉をかき集めてこんもりと山になっているような、そんな感じだった。

 

マーズ「フェッフェ、案外目ざといのう。おぬしも」

九和「まあ、毎日顔合わせてますし」

 

マーズ「フェッフェ、どれ、ひとつこの占い師が相談に乗ってやろうじゃないか」

 

九和「……うーん」(この人は物語の中でも旅の導き手となる人だから下手に伝えるとまずい気も……、でも話を悪い方に転ばせる人でもないと思うんだよなぁ)

 

マーズ「そうじゃな、今夜のおかず一品で手を打とう」

九和「…………実は」

 

―――――――――――――――――――――

 

ミレーユ「ん(パリッ)

……これすごくおいしいです!」

スラ子「ピキ!ピキ!」パリパリ

 

ディーポ「これ、ウマい」

 

九和「それではお受け取りください……」

マーズ「フェッフェ、それでは遠慮なく……ん、こりゃあいけるのう」

 

ミレーユ「おイモの実をリンゴみたいにむき始めた時は疲れているのかもと思ったけど、こんなお料理初めて食べたわ」

 

九和「もうちょい薄くすれば食感が良くなるんですけどね」

 

そう、自分が作ったのはポテトチップスである。包丁の使い方がたどたどしいので薄皮とまではいかないが、まあ及第点。オリーブ油を使っているので市販のポテチとは風味も違うし、食感も本家には遠く及ばないが反応は上々である。

 

ミレーユ「貴方の生まれた国ってどこなの?

こんな料理初めて食べたわ」

 

九和「あ、うーん。東の国かな」

ミレーユ「あ……そうなの。東の国にあるのね」

 

九和「あ、いや。まあ、田舎も田舎だから知らないと思うよ」

 

彼女のいた国、ガンディーノは東の方である。故に少し思い出させてしまったのかもしれない。

 

スラ子「ピキ」ガッ!

ミレーユ「え、スラ子ちゃんお代わり?」

ディーポ「……マダ、ホシイ」ソッ

 

スラ子本当に有能だった。あえて空気読まないとか人間でもなかなかできる奴いないわ。

 

マーズ「ほれ、ワシの分をやろう。ワシは二人分あるのでな、なぁ?」

 

九和「あ、あはは……お気遣い痛み入ります」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

俺はあの後マーズさんに夢をみたという形で自分の知るドラゴンクエスト6の展開を打ち明けた。大まかな流れで詳細は省いたものである。登場人物の名前も出してはいない。

 

たどたどしいその話を彼女は時にを思案し、頷きながら聴いていた。そして、最後に魔王を倒した主人公と魔法使いの少女が別れるところで話を終える。

 

マーズ「なかなか興味深い。ただの夢というよりは……予知夢に近いね。まるで絵物語のようだよ」

 

九和「……」

マーズ「もしもお主の言う通りにこの時代が変化していくなら、多くの人にとって希望になる。……じゃが」

と言うと彼女の黒く澄んだ目がこちらを覗き込む。

 

 

マーズ「それで窮屈な思いをしているなら、それは良いことではないね」

九和「ぬ、え?」

 

マーズ「ワシはルビス様の訪問も含めて、おぬしがここに来たのは運命のようなものを感じるんだよ」

九和「う、運命ッスか?」

 

マーズ「左様。ああ、先に言っておくが勘違いをしてはいかんぞ。おぬしに魔王討伐の協力をしろなんて思ってはおらん。

ただ、おぬしの思うように行動すること、それに意味があると思うんだよ。少なくともルビス様はおぬしにここに来た意味を見つけるように、生き延びるようにおっしゃてたじゃないか」

 

九和「ああ、そういえば」

そのあたりかなり聞きのがしたのであまり覚えてはいなかったのだ。

 

マーズ「なに、難しく考えずとも人間生きてさえいれば自ずと道は開けてくるもんだよ。困ったことがあればワシが相談に乗ってやるわい。

さて、今晩の夕食は野菜のスープとパンなんじゃが、ワシとしてはもう一品つまみたいのう?」

 

九和「あー、わかりました。なにか一品提供させていただきます」

 

マーズ「おお、そうか。倉庫のものは自由に使ってよいからな。いや、未来が一つ良い方向に転がったのう」

九和「夕食とこの悩み同列です?」

 

マーズはふっくらした頬を緩めてポヤッと笑むと、そのまま笑って去っていった。あの人もいい性格していると思う。

 

九和「……しかし、まあ」

少々難しく考えすぎていたのかもしれない。そもそも本当に原作通り物語が進んでいく保証もないのだ。少し軽くなった胸の中でマーズに感謝し、再び鍬を振るうのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

そんなこんなやり取りがあり、事前の原作知識はちょっとしたカンニングペーパーくらいに思っておこうと思う。

 

自分がここに来た限り、もう俺の知っている世界ではないのだ……と思う。

 

いずれガンディーノ親子問題と……そうだな、本人が望むならDQ6メンバーがより一層幸せになれるように尽力しよう。

 

とりあえず、この世界に来て一番大きな功績はこのポテトチップスで間違いないだろう。これをポテチと呼んでいいのか定かではないが、何はともあれこの世界にもたらした文化という意味では間違いはないはず。

 

これ帰れたら大手ポテチメーカーからの逆指名待ったなしのはず。サンマリーノあたりに売り出したらそこそこ儲かるのでは……。

 

ミレーユ「どうしたの?」

九和「……あ、いや。

これ使って商売なんて楽しそうかなあ……なんて」

 

ミレーユ「あら、いい発想じゃないかしら」

マーズ「うむ、案外そこそこいきそうな気がするぞい」

 

スラ子「ピキ、ピキ!」

 

スラ子もだいぶんテンション上がっているようである。

 

九和「うーん、これくらいならすぐに誰でもまねできるけど……小銭稼ぎに案外それも悪くないかも?」

 

昔、駄菓子屋で小さいお菓子を買っていた幼少期を思い出す。このポテチもどきでも商売になるかも。思わぬ形で仕事は見つかりそうだった。

 

九和「サンマリーノまで片道どのくらいかかります?」

マーズ「おぬしの足なら普通に片道歩いて3時間」

 

九和「……まあ、いけなくもない距離」

マーズ「ここで調理か向こうで調理かは知らぬが、それにしても荷車引いていくことを考えると―――倍はかかるの」

 

九和「……」

早速躓いたようだった。

 

ミレーユ「……ねえ、おばあちゃん。

彼にも呪文を教えてあげたらどうかしら?」

 

九和「その発想はなかったわ」

 

 

マーズ「うーん、そうじゃのう……。

とりあえず、物はためしかの?」

 




ポテチでした。


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4話 呪文

日本語って難しいです。

読みにくい文章かもしれませんが、よかったら見ていってください。


俺がこちらに来てから1ヶ月経った。

 

九和「コォ―――――――」

 

自然と一体化するように風に耳を傾け大地の感触を足で確かめる。呼吸は深くそして、穏やかに。

 

九和「パァ―――――――」

呼吸を乱すということは、それすなわち心の乱れなり――――。

 

久和「バギィ!!」

 

………………………。

 

九和「ああーーーーーーー」

 

マーズ「まあ、そううまくはいかんわい」

ミレーユ「そうね。まだ始めて一週間だし」

 

ミレーユはマーズの弟子となって一年程経つらしいが、ホイミとキアリーはすぐ覚えることができたそうである。若い段階であまり多くの呪文を使うと魔力の消費面から成長に悪影響があるかもしれないとのことで、現在は新しい呪文は知識だけにとどめて現在は資本となる体を培ったりマーズの手伝いを行うことに専念している。

 

若いうちはやっぱり無茶のし過ぎは良くない。

 

九和「……やっぱり魔力がないのかなあ」

マーズ「いや、見たところ普通のメラ3発分ぐらいの魔力量はある。才能がない訳じゃない」

 

MP6か。

ミレーユ曰く、マーズは魔法の指導者として一流であるそうだ。彼女に才能はなくはないと言われたのだから頑張っていきたいとは思う。

 

そう、前向きに考えるべきだろう。ほとんどの主人公のMPは初期値0である。すでに自分は6である。

 

圧倒的アドバンテージ……かよ。

 

スラ子「ピキ!」スライムの頭上に小さな氷塊が浮かび上がり、少し離れた木に突き刺さる。

 

ディーポ「ポッ」ギュイー

俺の体がなんだか丈夫になった気がする。スカラか。

 

九和「……そっか」

 

マーズ「スラ子、ディーポの方は大したもんじゃて。双方魔力量はまだまだじゃが、教えたら教えた分だけ伸びておるわい」

 

スライム「ピキ」ヒュルー

俺の体がなんだか柔らかくなった気がする。ルカニか。

 

ディーポ「ポッ」ヒュルー

俺の体がなんだかさらに柔らかくなった気がする。ルカニか。

 

この館で一番魔法の才能がないのは俺らしい。

 

九和「この子ら間接的に俺をいじめてない?」

ミレーユ「あら、そうかしら」ギュイー

 

そう言いつつ俺にスカラをかけるミレーユ。これはあくまで守備力の下がった俺への気遣いであると信じたい。

 

あと、最近になって彼女はこちらに敬語を使うことが少なくなっている。前は敬語とタメ口が混じっていたが、突然やってきた他人に距離感がつかめなかったのだろう。思春期にありがちなことである。

 

九和「そうですよ」

 

ミレーユ「……貴方って敬語を使ったりそうじゃなかったりするけど、別に自然に話してくれて大丈夫よ?」

 

俺もまだ思春期を抜け出せていないらしい。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

九和「そんなことよりも、俺はルーラを使いたいんですよ」

マーズ「そうさなぁ、ルーラか。ルーラは少しレベルの高い魔法じゃが、それに関しては裏技がある」

 

九和「あ、そうなんですか?」

ミレーユ「ええ、高価なものだけどルラムーン草という薬草があるの」

 

マーズ「先月、行商から買ったのを思い出してな。なに、出世払いを期待しておるよ」

 

九和「あ、あはは。お手柔らかに」

 

そういうとマーズは奥の棚から1房の草を取り出す。

 

ミレーユ「見た目はただの草だけど、この草を他の草と見分ける方法がありまして」

九和「暗闇でひかるんですよね?」

 

ミレーユ「あら?」

マーズ「ほう、よく知っておるな」

 

マーズは感心したようにこちらを見るが、ルラムーン草はDQ5でルーラと言えばこれというアイテムである。小学一年生の時によくやったのだ。記憶に刻み込まれたアイテムだった。

 

 

マーズ「それでは次にこれをどのように使用すればよいかな?」

 

九和「壺で煮込んでイオラで爆発ですよね」

 

マーズ「ほ?」

九和「え?」

 

ミレーユ「く……くふっ」

 

やはり幼少期の知識なんぞあてにはならない。ルラフェンのお爺さん、絶対イオラ爆発させてたもん。

 

 

――――――――――――――――――――

 

その後、マーズは壺にいくつかの薬品とルラムーン草を入れ何やら言葉を唱え始めた。俺は時間が来れば呼ぶと言われたので外に行って畑を耕している。小学生の頃、イモを植えたり田植えをしたり学校での体験は案外役に立っている。

 

ここ最近は畑を耕しては野菜の種や種芋を植え、また耕すといったことを繰り返している。素人目にも少し湿り気を帯びた良い土っぽい土のように見えたので、収穫が楽しみである。

収穫……いつまでもいていいと言われているが、いつまでいていいのか。ルビス様たしか「旅立て」って言ってたような……気のせいか。

 

それは置いといて、案外他人との生活というのは疲れることが多い。差はあると思うが、人によっては家族と共に生活し続けることを負担に思う人だっているだろう。

 

結構デリケートなことだと思うので、早めにそういった面を考えないといけないと思う。

 

ミレーユ「……」(じー)

 

九和「ん?」

ミレーユ「いえ、相変わらずすごいペースで耕すと思って」

 

九和「そう?」

 

畑にひたすら鍬を振り下ろしているだけなので何とも返答のしづらい。ただ、土を鍬で掘り返すことに関してはどんどん早くなっている。

 

このなにも考えずに鍬を振り下ろす作業を耕すと呼んでしまっていいのか。

 

そもそも

 

 

 

 

九和(【耕す】って……何ですか?)

 

???『知りたいか、小僧』

 

九和『なぁ!?

この声……いや、まさか』

 

その声は驚くべきことに俺の体を伝って心に直接語りかけてくる。その声の源泉をたどって行くと驚くべきことに今の今まで触れていた、絶対に喋るはずがない……ま、まさか。

 

???『そう、鍬である』

九和『く、鍬がしゃべったぁ!?』

 

鍬『そこはよい。

小僧。農民が【耕す】ことの意味を知りたければ目の前のこの大地を耕せ』

 

九和『この大地を……耕す』

 

九和『もう一度我を手に取れ小僧。幾千、幾万、我を振り上げたその先に……必ずや答えは待っている』

 

九和『鍬長(読み方:くわぁぃちょう)』

 

鍬『ほら、行ってこい』クワッ

 

そうして俺は上段に鍬を構える。

 

鍬(……小僧の求めているものはおそらく他から教えられるものの類いではない。その答えはヤツが、自ずから見つけ出すしかないのだ)

 

――これは俺が最高の耕し屋になるまでの物語。

 

 

 

 

ミレーユ「貴方って、たまに自分の世界に入りますね」

九和「え、え、そうです?」

 

ミレーユ「そうですよ。口に出てますし」

 

九和「え、マジっすか」

 

ミレーユ「はい、マジです。何です、最高の耕し屋って?」

 

そう聞き返す彼女の口はすでに笑いを堪えきれていない。普通に恥ずかしい。自分より何歳も年下の子に笑われているとなると尚更である。

 

数時間前の俺の発言を訂正する。敬語とタメ口を巧みに使い分けることができるようになっている。これはミレーユが俺に慣れたのではなく、彼女がこの短期間に思春期の殻を破ったのかもしれない。

 

九和「まことおなごの成長とは恐ろしいものじゃっとんなぁ」

ミレーユ「聞こえてるからね?」

 

―――――――――――――――――――――――――

 

呼び出されたのはマーズが調合を始めて1時間程度過ぎた頃だった。

 

マーズ「下準備は完了しておる。あとはおぬしが壺の前に立つだけじゃ」

 

ついにルーラが使える、それに加えて初めて呪文を使えるようになるという感動に足が震える。

 

九和「は、はい」

 

ミレーユ「立つだけだから大丈夫よ。

少し、煙たいかもしれないけれど」

 

九和「う、ウィッス」

 

マーズ「うむ、それではゆくぞい」

 

マーズがそのあと何かを唱えると壺の中から翡翠色の光があふれだす。そのあと遅れて、同じ色の煙がこちらを包み込む。

 

少し草の甘い匂いがしたが、それ以外変わったところはない。しばらくするとその光も収まり、煙も宙に溶けて消えた。

 

マーズ「うむ、成功じゃな」

九和「魔法っぽいです」

 

ミレーユ「魔法よ?」

 

身体にどこか変わった感覚があるわけでもなかったが、どこか感慨深い。ドラゴンクエストシリーズで回復呪文に次いでお世話になっているかもしれない呪文【ルーラ】

 

行ったことのある街に瞬間的に飛んでいけるのである。その利便性たるやドラゴンクエスト史上でも屈指。ドラゴンクエストの中でも非常に人気のある呪文であり、うどんの付け合わせでいうところのかき揚げクラスの人気である。

 

マーズ「ほれ、固まっておらんで外へ出て使ってみななさい」

 

九和「あ、はい」

 

俺はマーズに促され、外へ出る。

 

 

そのあと、ルーラに関していくつかの説明を受け、行く先を伝え、【キメラの翼】をひとつ受け取る。

 

これはキメラというモンスターの羽根を金具と装飾具で翼のように束ねたマジックアイテムであり【ルーラ】の魔力が込められている。これさえあれば誰でもルーラが使えるという旅の便利アイテム。

 

最近需要が高まっているおり魔法の知識のある職人が手間をかけて作るため大量生産できないとのことで、希少価値の上がっているアイテムでもある。

 

帰りは不安ならこれで帰ってくるようにとのことであった。……そんなに不安なんだろうか。とりあえず、それを俺は上着のポケットにしまう。

 

マーズ「心を静めるんじゃ。行ったことのある場所をできるだけ具体的に思い浮かべなさい」

 

淡い感覚ではあるが、体の中を血液とは違う不思議な流れがあることを感じる。その未体験の違和感に意識が乱れそうになるが、何とかこらえる。

 

他の魔法を使った時とは手ごたえが違う。

 

いける。

 

次の瞬間には俺の口は言葉を紡いでいた。

九和「ルーラ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

目の前には新緑の森。鼻腔に土と樹の少し甘いような香りが通り抜けてなかなかに心地が良い。木々の隙間から降りる陽の光も心地が良く、土と草と葉のベッドにそのまま寝っ転がれば、まさに夢心地――――――

 

初期地点である。所用があったのでルーラを覚えたらここにこようと決めていた。

 

結果を言うと、ルーラは大成功である。行く先指定、着地ともに問題はない。人生初魔法。その喜びは何とも形容しがたい。胸のそこから滝のように興奮が上がってくる。その興奮が冷めぬうちではあったが、あまり遅いと心配されるので頭を切り替える。

 

俺がルーラで着地した場所は大きめの日だまりとなっており、森の中にも関わらず、着地の際に木々に当たることのなかったのはこのためである。

 

さして大きな問題ではないが現在、軽い貧血のような目眩と立ちくらみに襲われているが、魔力を消費したためだろう。しかし、ドラゴンクエスト6のルーラは消費MPは1のはずだから、MP6の俺はあと5回は大丈夫である。

 

九和「ここはいいところだなぁ」

 

そんな言葉が自然と口からこぼれる。その後しばらくしてから所用を済ませ、ルーラを唱えた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

九和「た、ただいまもどりました……」

ミレーユ「おかえりなさ……ちょっと待って大丈夫?」

 

マーズ「こりゃいかん。魔力が欠乏しかかってるね」

 

現在、とんでもない倦怠感に襲われている。小学生の頃、全力でプールを泳いだその帰り際の気だるさを数倍、数十倍に高めたような感覚である。

 

端的に言うとすごく気持ち悪くて眠たい。加えて冷や汗と手足の震えが止まらず、眩暈も酷いことから自分でも何となく少しヤバい症状であることがわかる。

 

おかしい。まだ使用したルーラは2回。ルーラは消費MP1のはずだから、MP6ある俺はあと4回は使えるはず。

 

二人がすごく心配そうにしているが、こっちはこっちで意識をキープするので精一杯である。

 

マーズ「ワシは奥から魔法の聖水取ってくるから、ミレーユはホイミを。症状の緩和にはなる」

ミレーユ「は、はい!」

 

意識を手放したのはそれからまもなくだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

マーズ「フェッフェ、まさかルーラ2回で倒れるなんてね」

九和「……う、反論のしようがないです」

 

マーズ「いや、こちらこそ申し訳ないことをしたね。おぬしの状態をキチンと把握できていなかった」

 

九和「あ、いや。滅相もないッス!」

 

マーズは頭をこちらに下げるが、それはとんでもない。キメラの翼をこちらに渡してくれていたし、事前に魔力欠乏の症状をこちらに説明してくれていたのだ。

 

考えが甘かったのはこちらである。そう言って顔をあげてもらう。

 

マーズ「しかし、おかげでおぬしが呪文を発動できなかった理由がわかったよ。初めての場合じゃったからこうなってみるまで気づかなかったわい」

 

九和「うーん、自分も何となくですけど倒れてわかりました。俺、たぶん他の人よりも魔法使うのに魔力を多めに使うっぽいですね」

 

マーズ「おお、正解じゃ。そういった感覚に関してはお主にも才があるのやもしれぬな」

 

九和「あ、あはは」

 

マーズによると俺は呪文の発動に普通の魔法使いの4倍~5倍の魔力を食うらしい。故に今まで魔法が発動しなかったのは単純に魔力量不足。

 

人間には身体に影響を及ぼすような量の魔力を使う際は、体が勝手にストッパーの役割を果たし、発動を未然に防ぐとのことである。

 

魔法に関しての熟練してきた者や元々才能のある者に関してはその例から外れるとのことだが、魔法に関してほわほわな自分はそのストッパーがかかっていたのだろう。

 

マーズ「ルーラが発動したのは元々魔力をあまり使わない魔法であることに加えて、このルラムーン草が原因なんじゃよ」

 

九和「あ、そうなんです?」

 

話によるとルラムーン草は魔法の才能がないものにもルーラを使わせることができるとのことで、それは一種の強力な暗示のようなものらしい。

 

その影響でこのルーラに関してだけは、そのストッパーが発動しにくくなっているとのこと。そう思うとリメイク版DQ5で大富豪の娘さんと結婚式をあげる際、主人公がルドマンに頼まれて結婚式の舞台であるカジノ船に大人数でルーラして倒れたことを思い出す。

 

DQ5主人公はどこまでも苦労人である。

 

ちなみに俺はどちらとも結婚済みではあるが、強いて言うなら幼馴染み派ではある。浮気?

仕方ないじゃないの。富豪の娘も可愛いし、どちらとも結婚したいのだ。

 

したいことはしたい。

 

マーズ「ほれほれ、戻ってこい」

九和「……ヌゥ!?」

 

また自分の世界に入ってしまっていたようだ。

 

マーズ「とりあえず、ルーラの使用に関しては気を付けるようにな。ミレーユもだいぶん心配していたじゃろ」

 

九和「あ、あはは。結構怒られたような気はします」

 

心配してくれる人がこちらにもいるというのは申し訳なさもあるが、正直少し嬉しい。

 

九和(でも、とりあえずルーラは使えるようになったし順調順調ッスね)

 

とりあえずこちらで生活していくための第一歩は踏み出せた気がする。次はサンマリーノに出掛けて、町長の許可を得るというところだろうかと思い、サンマリーノについての記憶を掘り返していた。




あらかじめプロットを書くって大切だなぁと書いてて思いました。

自分はあんまり練れてませんが、よかったらまたお願いします。


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サブシナリオ 変わったお客さんの訪問

ミレーユ視点でこの1ヶ月振り返るお話です。
最後に少しだけオリ主視点の話があります。

まとまりのない文章ですが、よろしければ見ていってください。


その日はおばあちゃんにお客さんが来ると言われていた。

お客さん自体は珍しいことではなかった。

私がここに来てから約1年、色んなお客さんがここを訪ねるのを見てきたからである。

 

マーズ「今回のお客はちょっと変わり種かもしれないねえ」

と言っていたのがすこしだけ気がかりであった。

 

ミレーユ(いままでも変わった人は何度か来てたと思うけど)

 

皆が皆というわけではなかったが、富豪や貴族のような方、中にはどこかの国の大臣まで来たことがある。そんな中でもお洒落に人生をかけているというおじ様は一際記憶に残っている。

 

そうした人が来るなかでおばあちゃんは一括りに「お客さん」と呼んでいたが、今日はその中でも変わり種ということで、少し興味を引かれたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

実際、その人は変わっていたと思う。

見た目は20歳程度であろうか。

黒髪で焦げ茶色の目、黒淵のメガネ、身長は成人男性の平均程度。背には大きな長袋をかけていて、形から中身は剣と思う。

少しおどおどしているようにも感じたけれど、そのあたりはあまり問題ではない。

 

最初に驚いたのは、彼は凄く綺麗な宝石のようなスライムを連れていた。おばあちゃんの家にも魔法に使う宝石の品はいくつかあるけれど、あんなに深く澄んだ青は今まで生きてきて一度も見たことはない。

 

次に彼の服装である。

近くにある港町サンマリーノにはレイドックという大国をはじめ、いくつかの国と貿易していて多種多様な人間が集まる場所であるけれど、彼のような服装は見かけたことがない。服装だけならまだしも生地の種類すらわからない。

 

3つ目に彼の発言である。

 

彼はこちらが出迎えていたことに対し驚いているようで、頭をペコリと下げ、その後駆け足で近づいてくる。

それ自体は珍しい反応ではなかったのだけれど、

 

彼「これが幻の生マーズ」

マーズ「ふぉっふぉ、生かえ」

 

ミレーユ「……生?」

 

生ってなんだろう。

 

―――――――――――――――――――――――

彼の名前は草本九和というらしい。

彼は予想通りの変わり者だった。

 

彼がこちらに来て、私が一番驚いたのが彼はこちらの字が書けず、読めないと話していたことだった。

彼の国の字を見せてもらったが、そんな字は見たことがなく明らかに別の言語。それはまぁ、乗り掛かった舟。

今後覚えておいて損はないだろうとおばあちゃんに相談して、交代で字の勉強を見ている。

 

年上を教えるという経験はあまりなかったのでなかなか新鮮で楽しくもある。

 

また、剣が入っていると思った袋の中身は長剣ほどの長さの鉄の棒と訓練用であろう片刃型の太い木剣。

どこかの国の見習い戦士かもと思ったけれど、庭でその木刀を振りながらぴょんぴょん跳ねている姿を見て、もしかしたら旅芸人かもしれないと考えを改め直す。

 

そんな彼が来てから不思議なことがいくつか起こった。

 

その例を挙げると、1つ目は彼がここに来た後、温かい何かに包まれて意識が遠のいたこと。

おばあちゃんに聞くと私に神様が宿っていたのだと笑いながら言われて、それって大変なことかもしれないとも思ったけれど、その神様はお客さんの方に用があったとの旨を伝えられてますますお客さんの正体がわからなくなった。

 

それから彼の帰る目処が立つまで一緒に住まわせてもいいか、とおばあちゃんに聞かれた際は驚いたが、おばあちゃんが珍しくおそるおそるといった風に私に聞いたので少しおかしくなってしまった。

ここに来てから私も1年経つけれど、私はおばあちゃんに本当によくしてもらっている。

 

それに私はいろんな人に助けられてここにいるのに、ここで私が断りを入れたらばちが当たってしまいそう、そう思った私の答えは決まっていた。

 

マーズ「いじわるな聞き方だったかのう……」

 

心配そうに言う彼女を見た際、こらえきれず吹き出してしまう。こんな彼女を見れただけでも了承した甲斐はあるというものである。

 

2つ目は魔物の友達ができたこと。

その宝石のようなスライムはとても好意的に接してきてくれたのだ。なんだか子どもの頃の夢が少し叶ったようだった。名前は何というのだろう。

彼はスライムと呼んでいるけど、今度名前を提案してみてもいいかもしれない。

 

 

 

いま、彼はおばあちゃんと共に【彼が帰れる方法】をいろいろ試してみているようだけど、難航しているようだった。おばあちゃんに出来ないとなると、彼が故郷に帰るのはとても難しいことかもしれない。

自分もお義父さんやお義母さん、弟のことを度々思い出すけれど、今はあの国に帰れない。

 

そう思うと、帰ろうと躍起になっている彼が少し妬ましく思えた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

九和が来てから一週間が過ぎたある日、夢見の洞窟におばあちゃんと彼が出かけるらしい。少し不安だったが彼とおばあちゃんを見送る。

不安なのはもちろん普段着と木剣だけで出るつもりでいた彼が原因である。

 

おばあちゃんが前に旅の戦士さんからお礼にもらった皮の装備を渡していなければ本当にあのまま出て行ったかもしれない。

 

見送りの際、ある言葉と顔ではじめて彼に言い様のない無性の怒りを覚えたけど、結局笑いになったのでやはり旅芸人の線が有力かもしれない。

 

夕方ごろ帰ってくると、彼は不思議な生物を連れていた。

魔物だそうだけれど、邪悪な感じはしないし、彼に懐いているようなので私も新しい同居人が増えることに賛成する。

 

その際、彼が名前を付けようとしていたので私も進んで参加。その子の魔物としての名はブラディーポというらしい。

 

彼はそこから「ブラ子がいいと思うな」

と言うとその魔物はすごく残念なものを見る目を彼に向ける。私も少しそう思ってしまったから庇いだてはできそうにない。

 

気を取り直して私も思いついた名前をその子に伝える。

ミレーユ「ディーポちゃんがいいわ」

 

ディーポ「……オレ、ディーポがイイ」

そういうとその子、ディーポちゃんは短い足でピョンピョン跳ねる。

 

前の反応がアレだったので少々不安だったけれど、喜ばれるとその分沸き上がる感情もひとしおだった。

 

ミレーユ「ふふっ、本人が好きな名前が一番よね」

九和「まあ、それが一番ですよね」

 

彼はディーポちゃんに冷たい視線を向けられていたこともさほど気にしていないように見える。

 

……実は故郷の幼馴染が犬を飼っていて、彼女が犬に自分で名前を付けていたのを少し羨ましく思っていたので、この子に名前を付けてみたいと少し意地になっていたとは言い出しづらい。

 

彼は彼なりにこの子にいい名前を付けようとしていて、本人が望む名前なら自分の付ける名前じゃなくても構わないと思っていたのかもしれない。自分の意見が通らなくても柔らかく対応する余裕を感じる。

 

抜けているところがあっても彼の方がやっぱり私より大人なのかもしれない。

 

そんなやり取りをしていると、スライムちゃんも名前を付けてほしいらしく跳ねたりコマのように回転したりしてすごい勢いでアピールしている。やはり彼はまだ名前を付けていなかったようである。そういうところが抜けていると思う。

 

ミレーユ「スライムちゃんも名前を付けてほしいみたいね」

九和「あ、そうだ。つけてなかったですッス。……そうだなあ」

 

ミレーユ「そうねぇ、スラリン……どうかしら?」

ディーポ「オレも、それいいとオモう」

 

スライムちゃんを見るとまんざらでもなさそうだが、付き合いの長い彼の言葉を待っているようでもある。彼は少し長めに思案した後、

 

九和「……スラ子かな」

 

ミレーユ「その考える時間必要だったの?」

 

スライムちゃんも自然とほほ笑んだ形になる口を、心なしか引きつらせているように見える。

 

九和「スラ子……いいと思うんスけど……」

 

そう彼が口にするとスライムちゃんは意を決したように大きく跳ね、満面の笑顔を見せていた。

彼はすごくスライムちゃんに好かれているようである。

これは仕方ないか。

 

趣向は置いておくとして、彼のつけた名前が一番嬉しいんだと思う。ここは私も先ほどの彼を見習うべきだろう。

 

 

九和「何はどうあれ、やはり本人の意向を尊重するべきだよねッスよさ~」

顔が明らかにこちらをおちょくっている。

 

前言撤回。

私は彼の今晩のおかずを一品抜くことを決意する。

 

何、「ッスよさ~」って。

彼は結構根に持って煽ってくるタイプのようである。

――――――――――――――――

 

彼が来てからひと月経った。最初は家事はたどたどしいものだったけれど、少しずつできるようになってきている。言葉の方はまだまだだけど、こちらも順調と言えば順調で簡単な絵本程度なら何とか読め始めている。

 

彼はポテトチップスという異国のイモ菓子をサンマリーノで売り出そうと考えている。すごい勢いで畑を広げているのはイモを植えるためだと思う。

 

私も初めて食べたけれど、今まで食べたお菓子とはまた違ったおいしさで、特に子供にはとても喜ばれそうである。

 

最初にイモの実を延々とリンゴの皮のようにむき続ける彼を見た際は首をかしげたものだったけれど、あんな料理があるなんて想像もできなかった。

調理のあとは少々問題だったけれど。

 

そんな彼はサンマリーノまでの移動手段として先ほどルーラを覚え、しばらくして帰ってきたと思ったら魔力が欠乏して倒れて、今はベッドで休んでいる。

 

おばあちゃんによると、彼はひとつの魔法に人の4~5倍の魔力を使ってしまうらしく、ルーラ2回で倒れたのもそれが主な原因と話していた。

 

そろそろ起きているかもしれないと思った私はお鍋で水とミルクを温め、モクレンと蜂蜜を入れてミルクティーを作る。

 

そして、彼の寝ている部屋へと足を向ける。

 

マーズ「フェッフェ、ワシも三度目ともなるともうミルクテーは飲めんよ」

ミレーユ「き、きっともう起きてると思うわ」

 

2度ほど彼に持っていったのだけれど、彼が眠っていたのでおばあちゃんにも飲んでもらっていたのだ。

 

わざと「ティー」を舌を使わず発音するおばあちゃんもいい性格していると思う。

 

少し彼の悪い影響を受けているのではないか。

 

それに、1か月も共に生活をしているのだから心配になるのは仕方ないのでは。

 

孤児院で生活をしていたころ、よく弟は傷をたくさん作って目に涙を浮かべて帰ってきたことを思い出す。その際、泣いている弟にシスターからもらった蜂蜜の入った温かいミルクを持って行ったことを覚えている。

 

そう考えると私は彼を手のかかる弟のように思っているのだろうか。

 

ミレーユ「ふふっ、あんなにおひげの生えるのが早い弟って」

 

そう考えると手のかかる兄というあたりだろうか。

そうね、そのあたりが適切かもしれない。

 

そんなことを思いながら私は扉を開ける。

 

 

そこには額にスラ子、お腹にディーポを乗せてうなされている少し変わった人がいた。

 

 

ミレーユ「それ、どうなんですか?」

九和「すっごい見てます」

 

スラ子ちゃんは彼の瞳をじっくりのぞき込んでいる。

少し気持ちよさそうで羨ましい。

ディーポちゃんの方は彼のお腹の浮き沈みのリズムがちょうど眠りを誘うのか、安眠している。

少しその触れ合い方は羨ましい。

 

そうではなく

ミレーユ「病人は大人しくしていなさい!」

九和「えぇ!?」

 

――――――――――――

 

ひと悶着あり、少しお茶が冷めてしまった。

彼はそれをごくごくと飲み干す。長い時間眠っていて喉が渇いるのはわかるのだけど、せっかく作ったのだからもう少し味わって飲んでくれてもいいのではと思う。

 

あんまり美味しそうに飲むものだから、そんなに気にしてはいないけれど。

 

彼は私の視線に気づくと、もう中身のないカップに再び口をつけ、

 

九和「うん、おいしいッス。飲んだ後に鼻に抜ける香りが良いッスな」

ミレーユ「……次はもう少し味を楽しんでね」

 

まだ鍋には少し残っているので彼のカップにそれを注ぐ。

 

そういえば、彼とこうして面と向かって向き合う機会はなかった。そう思うとお互いに知らないことばかりな気もする。

 

ミレーユ「ねえ、今日はどこへルーラしてたの?」

九和「ん、ああ。ここから少し離れた森の中。そこに日があたって気持ちのいい場所があるんですよ」

 

ミレーユ「そうなの?」

九和「そうなのですよ。そこでちょっとポカポカしたあとに魔物が出たら不味いなとそそくさと帰ってきたわけです」

 

ミレーユ「ふふっ、貴方って魔物に好かれてるみたいだから大丈夫じゃない?」

九和「そ、そうだといいんスけどね」

 

その後も他愛のない話を繰り返す。彼の方はあまり喋るのは得意じゃないのかよく噛んだりしていたけれど、真っ直ぐこちらを見る瞳が印象的である。

 

彼のティーカップが空になった頃、話が一段落を迎える。

いい機会かもしれない。そう思った私は

 

ミレーユ「故郷へ帰ることはできそう?」

 

と聞いてみる。私は彼が故郷に帰ろうとしていることについてあまり触れてこなかった。

 

けれど、彼が度々おばあちゃんと試行錯誤していたり、スラ子とディーポのことについて相談している姿は何度か目にしているし、それに。

 

九和「……ん、ん~、まだしばらくかかりそうです」

 

この変わった同居人がいつまでここにいられるのか、少し気になるのだ。

 

 

 

サブシナリオ「変わったお客さんの訪問」(完)

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

☆視点変更

 

 

九和「…………」

 

土、草、葉でできた程よいベッドから体を起こす。

初成功させたルーラで少し疲れたので、ちょうどよい加減で陽が差す場所で横になっていたのだ。

 

風で枝葉の擦れる音がさらなる眠気を誘う。ここでもう一度横になってしまうと完全に眠りに落ちてしまいそうなので、気を張って立ち上がる。

 

ここに来たのは所用、【故郷への帰還】について気持ちの整理を目的として来た。

 

1ヶ月間に渡りマーズさんの協力のもとで様々な試行錯誤を繰り返したが、どうにも現状では帰ることが難しそうである。

 

現実だけでなく夢の世界含めて屈指の知識を持つグランマーズの協力を得て、なおも取っ掛かりも掴めていないということで、かなり帰るのは難しい状況と考えている。

 

九和「少なくとも今すぐどうこうできそうな感じじゃないしさ、あーどうしようかな」

 

少し歩いた。

 

久和「あ~、もう、な~あ~、はあ~あぁっと。

スゥ~……ハァ~……」

 

一番最初に立っていたと思われる場所、記憶と重なるようにそこに立つ。

大きく息を吸い、吐く。

 

瞼を下ろし、両の掌を合わせ、黙祷。

 

 

 

 

剣道を昔ちょこっと習っていた頃の名残で、とりとめのなく考えがまとまらない時は物事の整理や気分転換に黙祷をする。

 

何に祈っているのかわからなかったし、祈っている内容自体も向こうに残してきた家族の健康祈願だったりこちらでの生活を頑張る決意だったりとまとまりのないものである。

 

しかし、不思議なもので再び目を開けたときには胸の奥が少しだけスッとしていた。

 

九和「さて、帰るかな。おっとととっと」フラッ

 

少しまだふらつく。

ルーラで着地した日溜まりまで移動した俺は、少しもったいない気はしつつも上着からキメラの翼を取り出す。

 

使いきりアイテムなのに、白い羽と金色の装飾が美しい。やっぱりこれを使ってしまうのはちと惜しい気がする。

 

九和「……」

 

手が止まる。

 

その時俺は、もっともったいない使い方も浮かんでしまった。

 

 

九和「………………………………………………………………また、お金稼いでマーズさんに新しいの渡そう」

 

欲求って逆らい難い。

そう思う。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

マーズ「なに、埋めたとな!」

九和「す、すみません。新しいのを買って必ずお返しします」

 

後日、マーズさんにキメラの翼を使用しなかったことについて聞かれた際、彼女に誤魔化しは効かないので正直に伝える。

 

あの後キメラの翼を黙祷を捧げた場所にハンカチで包んで埋め、なんとか持ち上げられる一抱え程度の石をその上に置いて、小さな碑を作った。

 

キメラの翼の使用方法の中でもここまでもったいない使い方も珍しいだろう。

 

しっかりした動機はないが、このまま帰ることを少し味気なく思うというか、はじめてこちらに来た場所ぐらい覚えておこうというか……。

 

アレである。赤ちゃんが生まれた際に記念にへその緒をとっとく的な感情だと思う。

 

マーズ「フェッフェ、空に投げて使うものを土に埋めて使うとはね」

九和「あ、あはは。自分もそう思います」

 

少しマーズのツボに入ったようである。いまいち彼女の笑いのツボがわからない。彼女はキメラの翼のことは気にするなと言い、部屋を後にする。

 

 

九和「……」

 

今のところ軽い手伝いぐらいでマーズとミレーユに頼りきりの生活。

流石に働き盛りの年齢の男が他人の家でヒモ生活というのは心的に辛い。

 

今回、ルーラの転移先にあの場所を選んだのは、いろいろと心配事はあるがとりあえずここの生活に向き合おうと気持ちの切り替えのためである。

 

まだ帰れそうにないということを突き付けられた気もして漠然とではあるが、寂しいような悲しいような、向こうの家族が心配ではあるが……。

 

とりあえず、

グッバイ・ヒモライフ。はろろ~ん・マイワーク。




視点変更って難しい。

また次回もよかったら見ていってください。


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5話 サンマリーノにて

凄い久方ぶりの投稿です。

かなりオリジナル設定が入っていくと思うので矛盾してたりドラゴンクエスト6の原作の展開からは外れるかもしれないですが、よろしくお願いします!


俺がこちらに来て1ヶ月半ほど経った。

 

九和「さてさて」

 

背の大きな荷袋にはポテチの入った箱、乾燥させると紙のような材質になる紙葉を利用して作った簡易の包み袋の束、腰の袋にはマーズよりいただいた800ゴールド(こんなにもらってもよいのだろうか)。本日の準備は万全なり。

 

このひと箱分のポテチを用意するためにどれだけの労力と時間が必要となったか。

リンゴの皮むきの如く行っていたが指がつりそうになるわ、少し指を切りそうになるわ。

 

ちなみに芋、油、塩もミス・マーズより提供していただいたものである。

……こんなに支援してもらってよいのだろうか。そう聞くとマーズからは「倍返しを期待しとるよ」と言われたので身が引き締まった。

 

 

 

九和「っし、ミレーユさん、いけます?」

 

現在、俺の右手をミレーユが遠慮がちにつかんでいる。

 

ミレーユ「ん、だいじょうぶだと思うわ」

 

ルーラは自分が行き先を知らずとも、同行者が行き先を知っていれば体の一部を接触させることで共に目的地に移動することができる。

魔法陣を描いて、その中に共に入ることでも同様に可能であるが、書くのがなかなか複雑で難しいし、時間がかかるのでこちらの方が早くて簡単と判断した。

 

……うまく書けなかったのだ。

 

今回の目的地は【サンマリーノ】

 

ポテチを売りに行く予定の町である。

俺のMPの関係から日帰りは難しいので、1泊2日のちょっとした旅行でもある。

 

サンマリーノはマーズの館から最も近い町であるため、ミレーユも何度か足を運んだことがあるとのこと。一度行ったことのある場所に思い浮かべるだけで行けるというのは、やはりすごいと小生は思います。

 

 

未成年の女子と2人で行かせても大丈夫なのかとマーズとミレーユに聞くと、1か月以上同じ家で暮らしているし、宿の部屋も別にするのに今更と言われた。

 

何かするつもりなのかとも2人にからかわれ、とりあえず散々である。

情報社会に住まう日本男児にとってそのあたりは何かとデリケートなのに……。

 

 

マーズ「フェッフェ、気を付けての。こやつらの面倒はきちんとみとくわい」

スラ子「ピキー」

ディーポ「ン、留守番」

 

九和「ウッス!それでは行ってまいります。ルーラッ」

ミレーユ「お土産、買って帰るから」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

鼻腔を通り抜ける潮の香り。町の入り口の階段を上がり門を抜けるとレンガ造りの町並みが広がっており、遠くを眺めれば海の上を走る木造の船が地平の向こうへと去っていく。

また町には町人以外にも荷車を引く商人らしき者、せわしなく動く水夫、腰に剣を携えた兵士など多様な人々が見受けられ、石畳の上を行く人の足音と声が町の賑わいを表していた。

 

九和「ここが港町【サンマリーノ】ッスかぁ……!?」

ミレーユ「あら、凄いお上りさんな台詞ね」

 

そう指摘されると恥ずかしいが、こればかりは仕方がない。

 

ドット絵のサンマリーノの町をそのまま大きくしたものをイメージしていたが、完全に当てが外れた。石造りの職人気質溢れる建造物の美しい西洋的な雰囲気のある港町……という印象を受ける。

 

日本からだって出たことがなかったのに、海外飛ばしてファンタジーの世界の港町とくれば興奮しない方が難しい。

 

九和「魔力枯渇酔いも吹き飛びますわ」

ミレーユ「あらあら、でも町を見回るのは後でね。先に用事を済ませないと」

九和「忘れちゃいませんッスよ」

 

今回の主目的のポテチを売り出すことを思いついた際は漠然と「町長さんあたりに許可もらえば出店は行けるんちゃうの?」と思っていたが、マーズに聞いてみると全然違うらしい。

 

彼女によれば、商人たちは基本的に町村の【商人ギルド】なるものに顔を出して許可をもらってから出店するらしい。

 

DQ6に【ギルド】なんてカタカナ一言も出てこなかったと思うが、ゲームでは武器屋にウマのふんやらエッチな本やら売れたりするという謎もあるので、この方面に深く考えても仕方ないと結論付ける。

 

商人ギルドは商品の売買のほかにも商人の権利を守ったり商人のいざこざの仲裁、市場の安定化などを目的として作られているところである。また、商人ギルドがあることで商人と消費者の関係を円満なものに近づけるという役割もある。

小さな農村などでは例外もあるとのことだが、基本的には商人ギルドに入っていることが商人として生活するための前提条件となっているとのこと。

 

ちなみにほかのギルドは『戦士ギルド』『魔法使いギルド』があり、ほぼ同じ役割のものとして僧侶の所属する『教会』が入ってくるらしい。

 

ミレーユ「商人ギルドは……、あそこね」

九和「ほう、かなり大きな建物ッスね」

 

目測でコンビニが横に6つ、高さが4つか5つ、奥にもかなり広そうである。

 

ミレーユ「そうね、他にも商人ギルドの持っている大きな倉庫もあるわ。でも、これでも商人ギルドの中では小さくはないけど大きいとも言えないサイズらしいわね」

九和「ほほう、もっとでかいところもあるんスね」

 

ミレーユ「そう、お城のある城下町……サンマリーノとよく交易しているレイドックにはもっと大きな商人ギルドがあるそうよ」

 

九和「ほほほう、なるほどなるほど」

 

ミレーユ「さ、着いたわ。行きましょう」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ギルドに入ろうとしたらあるある『おじさんに絡まれる』

 

主人公が美少女を連れていたり、主人公が生意気、もしくはナヨッとしていたりするとおっきなおじさんたちが社会の厳しさと理不尽さ、そしてギルドのちょっとした仕組みを教えてくれる一種の様式美的イベントである。

 

 

おじさん「おっと兄ちゃん、可愛い嬢ちゃん連れてるじゃねえか」

と後ろから肩に手を置かれる。

 

九和「え、はい?」

そうして後ろを振り向くと……巨大な布の大袋?……なんだこれは。

 

 

おじさん「どこみてるんだ?」

俺はそのまま声のした方……つまり上へと首を傾ける。

 

首を90度近くまで傾けたところで思考がフリーズした。

 

 

 

―――――――――――それはおじさんというにはあまりにも大きすぎた。

大きく でかく やっぱり大きく そして大きすぎた。

しかし それはおじさんだった。

 

九和「え、あり、ありがとうございます!!」

おじさん「おっ、おう」

 

周りの何人からか吹き出す音が聞こえる。

 

ミレーユ「……プフッ、お久しぶりです。ロレンスさん」

おじさん「おうおう、ミレーユちゃんがこっちに来るとは珍しいな」

 

九和「へ?」

 

ミレーユ「ああ、ごめんなさい。紹介するわ」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ミレーユの紹介によるとこの大きなおじさんはロレンスというらしい。

なんと商人ギルドの副ギルド長であり、マーズ経由でミレーユと顔見知りとのことだった。

商人というよりは重戦士といういで立ちだと思う。

 

あの後に奥へと通されて、現在は机を挟んで向かい合うように座っている。

奥へ通される際、周りの何人かがこちらを見て笑っていたのがなんとも気恥ずかしかった。

 

ロレンス「がはは、悪い悪い。こっちに来るのが珍しいミレーユちゃんにこれまた知らない男がついていたもんだからついからかってしまった」

 

九和「い、いえいえ。」

 

ロレンスはまさしく巨漢であった。2人座って余りあるソファーがちょうどよいサイズに見える。

先ほど振り返った際に正面に見えたのが彼の腹部。腰回りなど俺の2倍、いやもしかすると3倍以上あるかもしれない。

 

俺の身長は170センチ少々程度で身長に対して肩幅が広く割とがっしりした方であるが、彼は少々規格が違った。

 

ミレーユ「くすくす、あの時の貴方の顔ったら」

 

ロレンス「まあまあそう言ってやるな。俺を見てその場でへたり込むやつだっているのに……ああ!ありがとうございます!……なんて連れの女褒められた事に礼するたぁたいしたもんじゃねえか!」

 

少々大げさにその際の様子を再現するロレンス。

た、質が悪すぎないッスか?

というか知り合いがいるならマーズさんも一言伝えて欲しかったのだが。

 

女の子「あまりお客さんをからかうのは感心しないよ、お父さん」

ロレンス「おお、リィ~ニャ~~~!」

 

おじさんの野太い声がカラオケのキー5つ分くらい高くなる。

どこからそんな声が……いや、案外悪くない声だと言っておこう。

 

お茶の入ったティーカップをもって現れたのは少し癖っ毛のある緑がかった黒髪を肩のあたりまで伸ばしたミレーユよりいくつか年下と思われる可愛らしい少女だった。

現在は呆れたような視線を父に送っているが、その表情がなんともまあ様になっている。

 

女の子「リーナだから。……父がすみません。リーナと言います。お茶です」

九和「いえいえ、ありがとうございます。あ、私は九和です」

ミレーユ「ありがとう。久しぶりね、リーナちゃん」

 

リーナ「あ、お久しぶりです、ミレーユさん」

どちらからも少し親し気な雰囲気が出ているところを見るに何度か顔を合わせたことがあるようである。

 

ロレンス「どうだぁ?俺の娘のリーナ。お・れ・の・娘!」

ミレーユ「あらあら、相変わらずですね」

 

リーナ「……せめて人前ではどうにかしてもらいたいです」

 

彼女の父に向ける視線の温度がさらに何度か下がったように見える。

 

 

ロレンス「いやいや、さて、いろいろ積もる話はあるが先に本題に入るか」

九和「あ、はい、実は……」

 

この町で商品を売りたいので商人ギルドに加入したい旨を伝える。

 

ロレンス「お、商人志望か」

九和「はい、いまはとりあえず露店でも開ければと」

 

ロレンス「承知した。とりあえず説明をしておくと商人ギルドはアイアン・ブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナの5つのランクに分かれていてだな。

あとで詳しいことを書いた本を渡すからその際に確認してもらうが、とりあえず行商人と屋台はアイアンだ。アイアンの登録料は200ゴールド、年会費は500ゴールド、屋台を出す際は場所代にその日のうちに得た売り上げの1割を点在している担当者に収めることになる」

 

九和「け、結構かさばるんですね。えっと、すみません。この方面の知識に疎いんですけど10ゴールドでその商品を仕入れて100ゴールドで売れたとしら、利益90ゴールドの1割の9ゴールドではなく、100ゴールドの1割の10ゴールド払わなきゃいけないってことで合ってます?」

 

ロレンス「おう、そうそう。今のはまあ基本だが、こういう知識は貴族出身とか親が商人とか以外は商人に弟子入りするか独学でやってく内に覚えるしかねえ。仕事が増えていけば複雑になってくだろうが、独力でも生活のためなら次第に覚えていくもんだ。時間の空いてる時なら商人ギルドで知識を蓄えればいいさ。本もあるし、実際に働いてる商人から知恵を得るのも商人の腕ってもんだ」

 

 

九和「えっと、すみません。少々お時間を」(やっぱりこれもうちょいコッチ方面勉強しとけばよかったやつや。マーズさんの話では1ヶ月1000Gで贅沢しなければ生活できるって言ってたけど、えっと1年で12000G。とりあえず、ポテチで全部儲けるとしたら原価3割として、場所代1割、こっちの取り分6割で……えーと、10:6=X:12000で、X=20000、え、これポテチだけで20000Gとか、さらに年会費、ええええええ、いや待て待てポテチだけで生活できるなんて端から考えてないわ。落ち着け、えっと、品数を増やす……これはアリ。他には兼業か。魔物倒してお金稼ぐ?まだ2匹しか魔物に会ったことはないけど、実際に倒すとなるとあまり気は進まないし、そもそも勝てるのかどうか非常に怪しい。なにかバイトするか商人に弟子入りするか……)

 

 

 

ロレンス「なかなか面白い顔するな」

ミレーユ「表情豊かね」(昨日もあんな風に悩んでたわね)

リーナ「しゃくれてますね」

 

 

いや、ここまで支援してもらって今更辞めるという選択肢はない。

 

九和「いや、うん。ここまで来たからには登録します。お願いします!」

 

ロレンス「お、そうか!じゃあ、ここに名前を」

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その後1時間ほどかけてギルドのルールの説明や知恵を授けてもらい、登録料200ゴールド支払った後、商人ギルドのルールブックともいうべき小冊子、遅れて商人ギルド員としての身分を証明する名前の刻まれた鉄のメダルを受け取る。紛失時には300ゴールド必要らしいので無くさないようにしなければ。

 

九和「あの、お時間大丈夫なんですか?」

ロレンス「おお、気にするな!今日は非番でな」

 

九和「すみません、ありがとうございます。

あ、そのよろしかったら売り出すつもりの商品を見てもらってもいいですか?

あまりこちらの物価に詳しくなくて少しアドバイスを頂ければと」

 

ロレンス「おお、いいぞ。あまり詳しく話すといかんのだが、大体どんなもんかぐらいのアドバイスはギルドの方でもやってるしな」

 

九和(お、何でも言ってみるものッスな)

ミレーユ「ふふ、よかったじゃない」

 

俺は礼を伝え、荷袋からポテチの入った箱と用意していた紙葉の袋を2枚取りだし、ポテチをそこに詰める。

 

九和「どうぞ、よければリーナさんも」

それをロレンスとリーナに渡す。

 

ミレーユ「あら、私にはいただけないのかしら?」

九和「え、いや……いえ、了解です」

 

ロレンス「ほう、あまり見たことのない菓子だな」

リーナ「ありがとうございます。芋を使った物のようだけど……」

 

九和「これ自体は簡単な調理法なんですけどね。よかったら食べてみてください」

 

商人ギルドの副ギルド長が直々に見てくれるなんてこれはなかなか光栄なことではないだろうか。……これが内心の6割で4割はこれを売り出す件について雪崩のようにダメ出しされるのではとも思っている。

 

ロレンス「おう、すまんな。それじゃいただくか」

リーナ「うん、ご馳走になります」

 

パリッパリッ。

……………………………………………………………………。

パリッパリッパリッ。

……………………………………………………………………。

 

九和(……え、沈黙長くないッス?)

 

もくもくとポテチを食べ続ける3人。2人はまだわかるがミレーユの場合は確信犯だろう。

……空気的に指摘はできないが。

 

パリッパリッパリッパリッ。

 

九和(ちゃ、ちゃーすがやー……ちゃーすがやー……)【訳:ええ、困るんやが、ええこれ……どうすればええねん】

 

すると、2人より先に完食したロレンスが親指の先を一舐めする。大きいのが先行して気づかなかったが精悍な顔立ちをしている彼のその動作はちょっと男ながらにかっこよく感じる。ちむどんどんどん!【訳:胸がドキドキする】

 

いや、妄想している場合ではない。

 

九和「あ、あの……どうですか?」

ロレンス「こりゃあ、お前さん」

 

ロレンスは遅れて完食したリーナに目配せする。リーナは唇を親指の先で拭う。可愛い顔なのに父親譲りの男らしい動作にちょっと、ちむどんど「これは売れる思う」……んど……なんと。

 

ロレンス「芋を薄く切ったもんをオリーブ油で揚げて塩を振りかける。なんで気づかなかったんだというほど単純だが、芋を油で揚げるって発想は聞いたことがねえ」

リーナ「うん、そもそも揚げるという調理は知らない人も多いからまだまだ未発達な分野。盲点だった」

 

2人はポテチについて様々な意見を述べ合う。原価やら売り出す価格やら、揚げる調理法について話し合っている。

 

ミレーユ「あら、貴方の予想以上に受けがいいみたいね?」

九和「……お、う、うん」

 

予想以上に受けはいいので、この一連の中で胸に蓄積された重いもやもやをとりあえず一旦吐き出すことができたのだった。




読み直すたびに誤字を発見してしまうのと展開をどうしようか悩みます(まだまだ序盤ですが)。

DQ6の知識が曖昧な部分があるのでまたプレイしなおしてみようかなと思っています。
次回も投稿するつもりですので、よかったらまたお願いします。


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6話 ポテチ屋出店

原作開始前なのにこのスローペース。語彙力、文章力、想像力が欲しいです。


潮風の香りと温かい陽光でとてもお昼寝をしたくなる今日この日……私、草本九和はポテチ屋台を初オープンいたしました。首から下げた鉄のメダルの重みで身が引き締まります。

 

九和「パリパリサクサク芋菓子ポテチ!少々値は張るけど、おいしいッスよさ―!!

どうぞ、一度だけでもご試食くださいッスー!」

ミレーユ「あら、素敵な宣伝ね」

 

サンマリーノの商人ギルド副ギルド長ロレンスとその娘リーナにポテチの実食をしていただいたところ、かなりの高評価をいただいた。さらに材料の仕入れや商人として必要最低限押さえておくところなどのアドバイスを受けた。正直に告白すると右から左へと情報が抜けてしまった感がある。

 

その後、とんとん拍子に話が進んで、大通り近くのバザーが開かれている場所へと移動し、そこの常在の責任者に挨拶、早速商品を売り出すことに……そして現在に至るわけである。

 

九和「せめて商品の認知だけでもしてもらわないと」

ミレーユ「周りがこれだけ賑やかだと大変ね」

 

他にも多くの屋台が見え、取り扱っているのは、狩の獲物や珍しげな食品、生活用品、武器防具など多岐にわたっており、なかなかの賑わいが見てとれた。

 

そんな中、借り受けた台の上にポテチの箱を置いただけの俺の屋台は客の目を引きにくいので、せめて声と試食で客を釣ろうという考えである。

 

「ん、結構おいしそうな匂いじゃない」

「ま、まって。アマンダちゃん」

 

九和「あ、いらっしゃいませッス!よかったらご試食どうぞ」

 

開店初のご来店者様はミレーユと同い年ぐらいの女の子2人組であった。アマンダと呼ばれた子はつり目の少し性格がきつそうな美人さん、もう一人の子の方は美人というよりは大人しめのかわいらしい女の子であった。なんというかちょっと名前に引っ掛かりを覚える。

 

アマンダ「あら、おじさん気が利くわね。ほら、メラニィもいただきなさいな」

九和「お、おじ……」(まだ20少々……)

メラニィ「お、おじさんなんていったら失礼だよ。あ、ありがとうございます」

九和「あ、いやいや。どうぞどうぞ」

 

2人に試食の分を渡すとアマンダは少し匂いを嗅いでからひょいっと、メラニィは目を近づけて少し眺めてから口に入れる。

 

アマンダ「へぇ、これなかなかおいしいじゃない」

メラニィ「うん!それに食感が面白いね」

 

初のお客さんの反応が上々でほっと内心一息つく。

 

アマンダ「これ、オリーブの香りがするけど、オリーブ油を使ってるの?」

九和「そうですね。薄く切った芋を油で揚げたお菓子です」

メラニィ「あ、揚げるって、えっと焼くってことですか?」

 

九和「まあ、そうですね。鍋に貯めた油を熱してその中に食材を入れる調理法です」

 

メラニィ「えぇ!?」

アマンダ「芋に豪勢な調理してるのねえ」

 

九和「あまりこちらでは馴染みのない調理みたいなんですよね」

 

メラニィ「ふ、普通の家でこんな調理してたら家計が飛びますよ」

アマンダ「その通り。でも、病みつきになりそうな味なのよねぇ。ちなみに一袋おいくらかしら?」

 

九和「はい、一袋5ゴールドです」

アマンダ「まあ当然、安くはないわね」

 

ちなみに約1か月こちらで生活して1ゴールドが日本円で100円程度と目星をつけた。ポテチ一袋500円相当。一袋100グラムもないのに、かなり……いやすごく高いと思う。

 

その理由は材料費である。芋自体は大体10個で1ゴールド程度だが、塩が1キロ20ゴールド、オリーブ油に関しては少なくとも1リットル100ゴールドはするとのこと(ミレーユ談)。日本円で芋10個100円、塩1キロ2000円、オリーブ油1リットル1万円以上である。調理に使う薪も買えば安くはないので、値段がかなり吊り上がっていた。俺なら買わない。

 

それでもサンマリーノに来る前は3か4ゴールド程度と考えていたのだ。しかしロレンスさんから「5ゴールドでもいけると思う」とのアドバイスをいただいたのでこの価格である。

 

ちなみにマーズ宅で作った初めてのポテチの材料費は日本円にして軽く1000円を超えておりました。食後に1回使用した油を捨てようとしたら、それに気づいたミレーユが普段からは考えられない様相で止めに入って来たのは記憶に新しい。あの時ほど彼女がすごい顔をしたのはスラ子の命名時以来である。

 

アマンダ「でもまあ、おひとついただこうかしら?」

九和「えぇ!?」

 

アマンダ「えぇって、高いけど美味しかったわよ。パパに買って帰るわ」

メラニィ「私もひとつ。おじいちゃんが好きそうなので」

 

ミレーユ「ふふっ、よかったじゃない」

九和「あ、ありがとうございます!

あ、湿気に弱いので今日、明日くらいには召し上がってくださいね」

 

値引きはしなかったが初のお客さんである二人のポテチは気持ち多めに詰めておいた。

 

――――――――――――――――――――――

 

その後、呼びかけと試食の甲斐あってか予想を上回るペースで客足が入り、数時間のうちに箱の中のポテトチップスはみるみる量を減らしていった。

 

そして、

九和「ありがとうございました!」

話の長いおじさん「おう、帰って酒と一緒につまませてもらうぜ」

 

ついに完売を迎えたのだった。箱いっぱいに詰め込まれていたポテチの姿はなく、代わりに何とも心地よい重さのゴールド袋が手元に残った。1日粘って7割売れたら上々と思っていたが、結果数刻で完売とはうれしい誤算である。

 

ミレーユ「ただいま。宿とって来たわ」

九和「あ、おかえり。ありがとうございます」

 

彼女は首を傾けて台の上の箱をちらりと覗くと、途端に目を瞬かせた。

 

ミレーユ「おいしいとは思っていたけど、本当にたくさん売れたわね」

九和「いや、俺も正直驚いてますッス」

 

売れたポテチは94人前。1人前5ゴールドなので売り上げは470ゴールドである。

材料費が100ゴールド少々程度なので、場所代抜いて300ゴールド程度の利益であった。金額にしてみるとそこまで大儲けというわけではないが、ポテチの売り出しを思いついた際は小銭を稼ぐ程度の思惑だったので、それを考えると出来過ぎとも言っていい結果だった。

 

九和「ふへっ」

思わず口が緩む。

 

ミレーユ「あらあら、じゃあ今日は何かおいしいものでもご馳走していただこうかしら?」

クスリと笑うと、いたずらっぽくそう告げるのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

片付けを終え本日の売り上げの一割を常在の責任者に納めた後、宿へと向かった。本日の宿屋は石畳がそのまませりあがったようにも見える大きな建造物の中にある。この建造物の中は他にも何件かの店も併設されており、町の憩いの場として賑やかな様子を見せていた。

 

現在は宿に荷物を下ろして、その建物の中の一角にある食事処で舌鼓を打っていた。

 

九和「んぅまッ!ス」

魚の香ばしさと豆のほんのりとした甘みが食を進ませる。今食べている料理は焼いた魚と海老に豆と茸のスープをかけたものであり、他にもウィンナーと付け合わせにパンを2つほど頼んでいた。向かい合うミレーユの席には魚介のシチュー、野菜と肉のピザ、温野菜サラダがあり、あちらもなかなか食欲をそそる品が並んでいた。

 

ミレーユ「でしょう?おばあちゃんが「店主は少々がさつに見えるが安くて美味しい品を出す」ってオススメしていたわ」

そう言うと、彼女はソースたっぷりの肉と野菜のピザに口をつけて満足気に少し目を細める。

 

九和「確かにこれだけ注文して二人合わせて20G少々ってのは驚いたッス。……なんかポテチをあの値段で売ったことに対する罪悪感が出てきた」

ミレーユ「あらあら、でも材料費もかかっているしあれだけ作業していたのだから取りすぎということはないと思うわ」

 

九和「まあ数が数でしたし、湿気てしまうから時間がかけられなかったッスからねぇ」

 

今回の準備にかけた時間は2日であるが、その内のほぼ1日は芋を洗って剥いて切る作業に費やされた。途中で数えるのをやめたが使用した芋の数はおおよそ200~300個程度と思う。芋をすべて切った後は、その芋を水にさらし、干して乾かし、それから揚げの作業に移る。

 

揚げの作業についても、ただでさえ量が多いのに慣れない火の調節でかなりハードな仕事となった。

 

九和「そういえば、使わせてもらったあのフライパンって何か特別性だったりしますッス?」

 

揚げの調理の際、非常に助かったのがマーズ宅にある厚底フライパンである。調理中1度火が消えてしまったことがあり、火打石の扱いになれていなかったため付け直すのにかなり手間取った。しかし、フライパンに芋を入れてみると火の勢いが戻るまでの間もそれまでと変わらず揚げ続けられる驚異的な保温力があった。

 

逆にその保温力のせいで火の勢いが弱まっていることに気づくのが遅れたのだが。

 

ミレーユ「ああ、たしか行き倒れていた商人の方がおばあちゃんに助けてもらったお礼にくれたらしいわ。なんでも有名な鍛冶職人が気まぐれに作った1品ものって話よ」

九和「名工の品なんスねぇ」

 

ミレーユ「そうね。詳しいことはおばあちゃんに聞かないとわからないけれど、あれを使うとお料理がおいしく仕上がるの」

まだまだこんなに美味しい料理はできないけれど、と付け足して食事を再開する。やはりなかなかの人気店のようで、夕食には少し早い時間にもかかわらず席が次第に埋まってきており、仕事帰りと思われる者たちの話声が店内に溢れ始める。

 

ガタイの良い水夫「今日の海の魔物も結構多かったなぁ。こちらが事前に気づいたから襲われはしなかったがヒヤッとするときがあったぜ」

 

ふと少し離れた隣の席からそんな話題が聞こえてくる。

 

恰幅の良い水夫「んだ、最近また増えた気がするだよ。これも魔王の影響かもなぁ」

ガタイの良い水夫「レイドックの王様はまた魔王討伐に乗り出すらしいけど、どうだかなぁ」

笑顔の良い水夫「いや、王様はよくやってるよ。魔王が進行してきたときもあったが民に大きな被害を出す前に追い返してるし、実際何度か追い詰めてる。だが、最後には魔王が霞の如く消えちまうって話らしいぜ。人間おちょっくってんのかと」

 

やっぱり魔物の影響も出ているようだった。こちらに来て1か月以上二匹以外の魔物に会ったことがないので魔物の勢いも少し落ち着いているのかとも考えたがそうでもないらしい。

 

恰幅の良い水夫「ったく、いい話題がねえだなぁ。セーラ王女も去年亡くなられちまったし」

ガタイの良い水夫「バカ!大きな声で話すんじゃねえ!」

笑顔の良い水夫「まあでも、そんな中なのに変わらず国のために身を尽くす王様ってのは、つくづく損な役回りだと思うぜ?俺じゃあとてもとても」

 

そのまま耳を傾けていると、不意に眼鏡が持ち上がる。

 

ミレーユ「さめちゃうわよ。あちらの話題が気になるの?」

ちらりとミレーユは視線だけを隣に動かす。テーブルの上を見ると確かに料理の湯気が収まってきていたので、慌てて魚を口に運ぶ。安いとは言ってもそこそこお金は出してるのだ。おいしく食べなければもったいない。

 

九和「まあ、ちょっとッス」

ミレーユ「あら、気になるわね。何のお話だったの?」

 

などと話していると隣の賑やかな席にもうひとりの男がやってくる。どこかで聞いたことのある声である。

 

話の長いおじさん「おいてめえら!今日はいいもの持ってきたぞ!!」

 

水夫3人「「「だ、旦那ァ!」」」

話の長いおじさん「ほら、酒とつまむぞ」

 

 

ミレーユ「あの包み……貴方の店のお客さんがいたのね」

そう言うとミレーユは納得したように頷く。

 

九和「ま、まあそうッスね」

実際は違うことに関心を取られていたのだが、わざわざ言い直すこともあるまいとそのまま肯定する。

 

ガタイの良い水夫「うま!」

恰幅の良い水夫「こりゃあいい食感だ」

笑顔の良い水夫「フッハ、酒にすげえ合うぞこれ」

 

話の長いおじさん「だろう?」

隣の席は早々にかなり出来上がっているようだが……。

 

九和「こんなうまいもんあるのに、あれだけ喜んでくれるんスねぇ」

と自分たちのテーブルの上を眺める。

 

ミレーユ「そうね。けど、ポテチはシンプルだけどオリーブ油とお芋の豊かな風味がとても良いし、何より他にないあの食感。お酒にもよく合うと思うわよ」

九和「そうッスかね?」

 

ミレーユ「ええ、そうでなければこんなに売れないし、あんなに喜んでないわよ」

 

 

話の長いおじさん「おいてめえら、これ結構したんだぞ!もっと大事に食え!!」

水夫3人「「「それは難しい話だ(なや)」」」

 

 

ミレーユ「ね?」

九和「お、おぅッス」

 

とりあえず初回の出店は成功と言って間違いはなさそうであった。




書いてて内心ポテチこんなに売れていいのか、というか九和は芋切りすぎじゃないのかとも思ったのですが、そこはまあ主人公が頑張ったという風に思いたいです。


またよろしければどうぞ!


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