東方青春録 (青木々 春)
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第1章
拒絶・拒絶


少し遅いですが、新年明けましておめでとうございます。

お久しぶりです。一ヶ月休むとか言って、余裕で二ヶ月くらい休んでました。
投稿したと思ったら他作品の二次創作に浮気って言う最低行為。
あらすじに書いてあると思いますが、完全に東方はにわかなので、期待しないで下さい。

どうぞ。


とある教室。窓から心地の良い風が通り抜け、カーテンを揺らす。

 

 

上品な紅茶の香りのする教室に差し込んだ光は、三人を照らし三つの影を作る。

 

 

たわいもない会話。少年は本を読みながらどこか嬉しそうに笑っている。

 

 

この空間はまごう事なき本物。そう、『本物』になれたかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇。見渡す限りの闇。

 

 

天高く伸びた竹は灯りに照らされ、夜道には十分な光を放っていた。

 

 

ただ、少年の目に映るのは闇。暗く、深く、黒く、ただひたすらの闇だった。

 

 

少年は間違えた。本物を失わぬようにと過保護になり過ぎた。

 

 

それは少女達もまた一緒。間違え、すれ違い、たがっていった。

 

 

その『本物?』は簡単に壊れて行った。

 

 

フラフラした足取りで、ホテルに戻る途中。少年は車に轢かれそうになっている犬を見つける。

 

 

自然と少年は走り出す。ただひたすら無心で。

 

 

ガシャンッ!と大きな音が聞こえ、鉄の匂いが辺りに立ち込める。

 

 

「ワン!ワンワン!」

 

 

少年の耳に響くのは、甲高い声で鳴く犬の鳴き声。

 

 

少年は少女達から拒絶され、世界からも拒絶された。

そして自分自身で自分自身をも拒絶した。

 

少年は世界を拒絶し、世界は少年を拒絶する。

 

 

故に少年を『受け入れない』この世界から弾き出された。

 

 

行き場を無くした少年は、どこかで見たような光景を映し、『全てを受け入れる世界』へ…

 

 

 

 

 

 

冥界へと落ちて行った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「暇ねぇ〜。何か面白い事起きないかしら?」

 

冥界

 

 

閻魔の裁きを終え、成仏、転生を待つ間、幽霊として過ごす場所。

 

そんな冥界に建つ大きなお屋敷。『白玉楼』の一室にお饅頭を口一杯に頬張りながら暇を持て余している亡霊。西行寺幽々子は、つまらなそうに独り言を呟く。

 

冥界といえど季節はある。今の冥界は秋。白玉楼の庭に植えてある桜の木も葉が紅く色付いている。

 

「早く春が来ないかしら…」

 

幽々子は庭に植えてある木を見ながらぼやく。

花の咲かない秋は退屈で、葉が散ってゆく様子を見ると寂しくなる。

 

だからこそ幽々子は春が待ち遠しかった。

 

「あの木の桜はいつ咲くのかしら…?」

 

植えてある普通の桜の木から、一際大きな桜の木、西行妖へと目を移す。

 

西行妖は、何故か春になっても桜が咲かない不思議な桜の木。

幽々子はその事についてずっと疑問に思っていた。

 

 

 

── 妖忌なら桜の一つや二つ。秋でも咲かせられるんじゃない?庭師よね…

 

 

 

なんて下らない無茶振りを考えながら、何を思ったか幽々子は冥界を散歩しに腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜。さすがに寒いわね…。」

 

幽々子は手を擦りながら冥界を歩く。

いくら冥界といえ先程の文の通りに四季はあり、いくら亡霊とはいえ寒さは感じるのだ。

特に強い風が吹くこの頃は、思わず身震いするほどだ。

 

幽々子は外に出たことを内心後悔しながらも、秋風の吹く冥界を歩き続ける。

 

「……あら?あそこにいるのは…。」

 

ただ、そんな憂鬱な幽々子の目に、冥界では珍しいものがめに入ってくる。

それは墓石に寄りかかって、座り込んでいる少年だ。

基本的に冥界には幽霊しかいないものだ。そんな冥界に客とは珍しい。

 

「(人間が迷い込んだのかしら〜?)」

 

ただその少年は、人間というより見るからに…

 

「妖怪さん、かしら?」

 

少し大人びて見えるが、18才くらいの男の子。

 

特徴的なのはその目だった。全くと言っていいほど生気の宿っていないその目は、

さすがの幽々子でも少し驚くようなものだった。

 

「………………」

 

少年何も喋らない。寝ていると言う訳ではなさそうだ。

その目は、しっかりと幽々子の目を見つめている。

 

ただ、その目に幽々子は映っていなかった。

どこか怯えているような、諦めたような、そんな目をしていた。

 

「名前…、教えてもらえないかしら?」

 

幽々子はこの少年に何かを感じていた。それが何かは分からない。

ただこの少年の事が無性に気になっていた。

 

「比企谷……八幡…」

 

少年改め、比企谷八幡はようやく口を開いた。その事に幽々子は何故か大きな喜びを感じていた。

 

「そう…ふふっ。素敵な名前ね。私は幽々子、西行寺幽々子よ。宜しく」

 

「…………」

 

八幡はまた口を閉ざしてしまう。

 

「あなたは何故ここにいるの?」

 

また下を向いてしまった八幡に幽々子は語りかける。

 

「分からない…。」

 

八幡は小さく首を横に振る。自分が何故ここに居るのか。ここは何処なのか。八幡は全く把握していなかった。それは八幡にとってもうどうでもいい事なのだから。

 

「(きっと紫の仕業ね…まぁ問題は無いけど。)」

 

八幡は外部から来たものだと幽々子は考えた。最近は主に幽々子の古き友人の紫の仕業で境界が薄くなり、人間や妖怪も出入り出来るようになってしまっている。

 

「あなたは、何の妖怪なの?」

 

幽々子は続けて疑問をぶつける。

 

「妖…怪……?」

 

八幡が顔を上げ、もう一度幽々子の目を見つめる。何か疑っているようなそんな目を。

幽々子はその目を気にしない様子で話を続ける。

 

「そう、妖怪。あなたは妖怪でしょ?」

 

「妖怪…………」

 

そう言いながら八幡は辺りを見渡しまた幽々子に視線を戻す。

 

冥界には成仏や転生を待つ霊が居る。八幡はそれを始めて確認して、少し驚いた様子だった。

それは幽々子も例外ではない。幽々子の周りにも小さな霊が数体浮かんでいる。

 

「そうか…。本当に妖怪になっちまったのか…」

 

少年は乾いた笑いを上げて、また下を向いてしまう。

 

ー『あら、余りにも目が腐っていたものだから妖怪かと思ったわ』

 

いつしかの記憶をふと思い出す。

目を瞑り、感傷に浸る八幡。幽々子は少年をじっと見つめながら、首を傾げる。

 

「私には何も分からない。けれど…、けれど何故かあなたの事を知りたいの」

 

幽々子は静かに八幡に語りかける。幽々子自身もこの時自分が何故こんな事を言ったのか分かっていなかった。だがこの少年の事を、八幡の事をもっと知りたいと思っていた。

 

「ねぇ…」

 

幽々子が八幡の顎にそっと触れ、持ち上げる。

八幡の目をじっと見つめ、優しく呟く。

 

「疲れたのなら、うちで休憩していかないかしらぁ?」

 

恋愛感情とか、そう言うものでは無いと思う。ただ八幡の事をもっと知りたい。力になりたいと思っていた。何故?それは今は誰にも分からない。

 

「……あ…」

 

すると八幡は、人形の糸が切られたかのように崩れ落ちた。

よく見ると眠っているようだった。

 

「ふふふ、泣き疲れたのかしら?」

 

幽々子は眠った八幡を見て、つい頭を撫でてしまっていた。

あれ?そういえば……。

 

「どうやって白玉楼に運ぼうかしら……。」

 

マイペースはマイペースであった。

 

 




東方の設定は、基本的にオリジナルを混ぜながら二次創作のアニメを基盤にやっていきます。
なので、キャラの口調とかは原作とだいぶ違います。

東方キャラも、基本主要キャラ、最低限のキャラしか出さない予定のであしからず。
ゆっくりと投稿していきます。


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受け入れる世界

二話目です。
休みの内に出来るだけ多く投稿したいと思っています。
俺ガイル原作のような八幡の心理描写を描きたくて、一人称目線にしましたが…うんムズイ。



「何してんだ…俺」

 

俺こと比企谷八幡は今、幻想郷とか言う摩訶不思議な場所の、白玉楼というお屋敷に住み込みで幽々子様に仕える事になってしまった。

 

ほんと、何やってんだろ。

 

「飯……ねぇ」

 

そして今俺は、幽々子様の昼食を作る事になっている訳だが…。

 

幽々子様の朝食を見て度肝を抜かれた。

あれだけ多かった飯が、一瞬にして幽々子様の口の中に吸い込まれていった。

 

とんでもないスピードで箸が踊ってたぞ…。

あれは掃除機だな。もしくはカービィ、桃色の事といい。

 

『くしゅんっ』

 

 

 

 

「材料は貰ったが、この量を作るのか…はぁ」

 

目の前の大量の食材を前にして、思わずため息が出る。

そりゃそうだ、一人でこの量を作るんだもんな…。

 

いつも炊事や家事は、幽霊が仕度しているらしいが…

 

「幽霊手伝ってくれねぇのかよ…」

 

基本的に冥界に来てから警戒されてる節がある。

まだ冥界に来て1日も経って無いが、やっぱり探られるような視線が気持ち悪い。

 

そりゃそうか。顔も名前も知らない奴が突然来たんだからな…。

まあでも、慣れてるしいいか。あれ?涙出てきた。

 

「料理作るかぁ〜…」

 

専業主婦志望だから人並みには出来るが、高校入ってから小町に任せてたからな…。

そう言えば小町元気かな…。ごめんな小町。お兄ちゃん先に死んだみたいだ…。

 

最後までダメなごみいちゃんで…

 

 

 

 

 

ごめんな…。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「幽々子様、良かったのですか?」

 

白玉楼の庭師。魂魄妖忌が気難しい顔をしながら幽々子に尋ねる。

 

「何がかしら〜」

 

幽々子は相変わらずニコニコしながらお菓子に手を伸ばす。

 

「分かっているでしょう?比企谷八幡の事です。素性の知れない妖怪を屋敷に置いておくなど……」

 

妖忌は少し強めの口調で再び尋ねる。

 

「そうね〜、しいて言うなら………」

 

幽々子は真面目な表情になり、しっかり妖忌を見据える。

 

「言うなら………?」

 

「何かを……何かを感じたのよ。彼、八幡に」

 

珍しく少し寂しそうな表情をしながら、曖昧な言葉だけを妖忌に返す。どこか懐かしむような、そんな表情をしながら。

 

「何か……とは?」

 

幽々子の言動と、その寂しそうな表情が気になって、つい疑問を聞いてしまう妖忌。

それもそのはずだ。普段から呑気でマイペースな幽々子が、こんな表情をする事は滅多にない。

あるとしても薄気味の悪い笑みを浮かべてるくらいであろう。

 

「それが分からないのよね〜。自分が妖怪って事も分かって無かったみたいだし、不思議な子よね。ハムハム」

 

しかしすぐにいつもの幽々子に戻り、団子を頬張る。

 

「はあ…分かりました。ただ何か怪しい行動を起こした場合、直ちに斬ります。覚えていて下さい」

 

その様子に妖忌は小さなため息をつき、諦めた様子で立ち上がる。

 

少し不満な表情をしながら部屋をズンズンと出て行く妖忌に、幽々子は苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。

 

 

「あらあら…」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「うん、こんなもんだろ」

 

煮付けの味を確認して料理を完成させる。

 

久しぶりに料理したけど案外出来るもんだな。といっても、簡単なものしか作れないが…。

ただ、いくら簡単な料理でも、皿や盛り付けがいいとなぜか高級感が出るものだ。

 

っと、味噌汁が沸騰しちまう…火を止めてっと。

 

「にしても、量が多い…!」

 

調理台に乗りきらないぐらい多い。本当にこれ一人分かよ…。

まるで宴でもするのかというほどの量。しかし、こんなにも多いと一つ不安が浮かんでくる

 

「運べんのか?これ」

 

そう、俺一人で運べるのかどうかだ。

結局大きなお盆三つに分けて運ぶ事にしたが、この長い廊下を三往復することになってしまった…。

ただ、成人男性の三人分ぐらいの料理を一人で一度に運ぶのは無理。絶対に無理。

 

「おいしょっ…」

 

お盆を持ち上げて運ぼうとすると…。

 

 

 

 

 

「ん?比企谷八幡。幽々子様の昼食が出来たのか?」

 

「ひゃい!?」

 

いきなり声かけるもんだからびっくりして変な声出ちゃったよ、恥ずい…。

ボッチはそういうのに慣れてないんですよ?もうちょっと慎重に扱ってくださいよ…。

 

と、内心下らない文句を垂れる。因みに話しかけてきたのは妖忌さんだ。

 

「す、すまんな…驚かせるつもりでは無かった」

 

その妖忌さんには引かれているがな…。

 

「い、いえ。少しびっくりしただけですから、問題無いです」

 

「そうか……ふむ、料理は上出来のようだな」

 

相変わらずどこか探られてるような気がするが…。

わざわざ俺に話しかけてくる所を見ると、いい人なのかもしれないな。

 

「そうっすかね…」

 

「ああ、幽々子様に早く運んで差し上げなさい。首を長くして待っているぞ」

 

そう言えばもう十二時半か…。早く運ばねぇと。

 

「ウス。それじゃあもう行きますね」

 

それだけ言って、そそくさと妖忌さんの前から立ち去る。

気不味いんで出来るだけ駆け足で。

 

「比企谷八幡」

 

だが、妖忌さんに呼び止められる。

 

「は、はい。何でしょう…」

 

早くしてくれ…ぼっちはこういう気不味いのに慣れてないんだよ。

気不味くなるほど人と話すことなんて滅多に無いからな。

 

「幽々子様はお前を大変気に入っている」

 

「………?」

 

……何が言いたいんだ?

それを利用して幽々子様に手を出そうものなら……みたいな?こわっ

 

「それを利用し、もし我々に牙を向くようなら…わかっているな?」

 

…当たっちゃたよ……………。

 

 

 

 

 

 

それにしても廊下が長い。

これ往復すんのかよ、めんどくさい…。

 

「気に入っている………な」

 

さっき妖忌さんに言われた事を思い出す。

 

幽々子様が何かと俺を気にかけてるのは分かる。

実際今も、助ける義理もない俺を白玉楼に置いてくれているのだ。

ただ分からない。その理由が。

 

 

『へぇ〜…君、面白いね』

 

 

前にどこぞの姉に言われた言葉をふと思い出したが…。

幽々子様とあの人じゃ、少し似てるようで決定的に違う。何より…

 

 

 

 

 

 

 

 

幽々子様の方が何枚も上手だ。

 

仮面こそ付けてないが、その気にさせたら俺なんか簡単に潰せる。一握りだ。

だからこそ何故そんな人が、俺なんかに………………

 

「まあ、どうせ離れてくだろ」

 

人間ってのはそういうもんだ。勝手に人に期待して、勝手に失望する。

あの時だってそうだ…………。

 

俺も、あいつらも間違えていた。

結局互いが互いに理想を押し付けているだけだったんだ…。

お互いの事をよく知りもせず……いや、知ろうともせずに本物になんてなれるはずがない。

 

そうだ、だから俺は………いや、もうやめるか。

もう………今は思い出したくない…。

 

それにしても………

 

「重てぇ…」

 

そんな事をぼやいていると、いつのまにか幽々子様の居る部屋へと着いた。

 

 

 

 

 

「幽々子様、食事を持ってきました」

 

『入っていいわよ〜』

 

幽々子様の部屋へ全ての食事を運び、現在幽々子様に食事を渡すところだ。

襖の奥から幽々子様の確認の声が聞こえ、襖を開け部屋へ入る。

 

「失礼します」

 

「ふふっ、来たわね。楽しみにしてたのよ〜」

 

幽々子様の部屋は、思ったよりこざっぱりしていて、他の和室となんら変わりはなかった。

変わりがあるとすれば、机に置いてある大量の饅頭や団子の大群といったところか…。

 

それにしても、相変わらずずっとニコニコしてるな…。

その笑顔は嘘偽りの無い表情だ。

すぐに分かる。でもつい探ってしまう、その笑顔の裏側を…。

 

「あら、美味しそうね〜。料理上手なのね」

 

「ま、まあ…人並みには…」

 

急に褒められて少し照れてしまった。

朝少し話した時に思ったが、この人と話をしていると直ぐにペースを持ってかれるな…。

 

「ふふふっ…それじゃあ召し上がりましょうか。」

 

凄いスピードで箸を取ってったな…。そこまで腹が減っていたか…。

さて俺は…、食器でも洗っとくか…台所戻ろ。

 

「待ちなさい」

 

部屋を出て行こうとしたところ、幽々子様に呼び止められる。

 

「はい?何でしょう」

 

「これは八幡の分よ?」

 

は?俺の分?いやいやいやいや…

 

「全部幽々子様の食べる分なんじゃ…」

 

「失礼ね〜。いくら私が腹ペコキャラでも三人前も食べないわよ〜」

 

幽々子様は頰を膨らませて少し怒った様子だ。カワイイ

じゃなくて…………

 

「それでも二人前は食べるんですね…」

 

「うふふ、この時期はご飯が美味しくて…。ほら、食欲の秋だから」

 

「つまり秋以外はそこまで食べないと?」

 

「ええ、それはもう」

 

ぜってー嘘だ。あの食欲は例え夏でも抑えられる筈が無い。

今だって幽々子様の箸が踊るように激しく動いて、白米とおかずがどんどん減っていく。

 

「八幡、お米おかわりもらえるかしら?」

 

「はぁ…分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで幽々子様。お話とは?」

 

昼食を終えた後、食器の片付けをしようと台所に戻ろうとしたところ、

幽々子様に再び呼び止められた。

 

「聞きたい事、あるでしょう?」

 

「聞きたい事?」

 

「そう…聞きたい事。例えばこの幻想郷の話、冥界の話、幽霊の話、私の話…とか。ふふふっ…」

 

そう言って不敵に笑う幽々子様を見て、再び感じさせられた。

この人は只者では無い。間違っても牙を剥いてはいけないと…。

 

「………そう…ですね。じゃあ幻想郷ってのは日本とは違うんですか?」

 

この辺の質問が妥当だろ。

実際ここがどういう所なのかも把握していない。

目が覚めたらここに居て、幽霊だとか亡霊だとか、そんな摩訶不思議生物の巣窟だったという訳だ。

 

「日本…八幡、あなた外来人なの?」

 

「えと…外来人?」

 

がいらいじん?全く馴染みのない言葉だな。

幽々子様は下を向いてブツブツと何かを考えているが…。

がいらい………ガイライ………外来種………外来…人?

 

「コホン。質問に答えると、全く違うと思うわ。今の外がどうなってるかは知らないけど」

 

何かを熟考していたみたいだが、質問には答えてくれた。

やっぱりここは異世界みたいなものなのか?

 

いや、でも俺は死んだ筈だが…。あぁ、死んでから転生する的なあれか。

こ◯すばとかもそうだったな。

ん?待てよ…?

 

「外…って何すか?」

 

「多分……あなたがいた世界は、幻想郷では外と言われる場所なの」

 

って事は幻想郷(ここ)の人達は俺の元いた世界の事を認識してるって訳か…。

 

「ここは異世界とは少し違う。八幡の元いた世界から、結界によって切り離された世界。それが幻想郷」

 

俺が思考している間も、幽々子様は淡々と幻想郷を語る。

 

結界から切り離された世界か…厨二心をくすぐられるな。

ん?でもだとしたら俺は死んだわけではないのか?

 

それじゃあなぜ俺はここに居る…?

 

「これは私の友人が言っていた言葉……」

 

「………?」

 

幽々子様がここで言葉を区切る。

顔は少し嬉しそうな、優しい表情をしていた。

その表情を見ていると何とも言えない気持ちになり、つい目を逸らしてしまった。

 

「『幻想郷は全てを受け入れるのよ…それは時に残酷な事…』って、ふふふっ…」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷の事を聞き終わったところで妖忌さんに呼ばれ、

他の話は後ほどということになった。

 

「あ、あの妖忌さん…。これは一体…?」

 

白玉楼の庭。今木刀を持たされ、同じく木刀を持った妖忌さんと向かい合っている。

 

 

 

 

 

……………なんの拷問?

 

「なに、腕試しというやつだ。」

 

「いや、いやいやいやいや、剣とか握った事も無いんですけど!?」

 

ヤバイ。殺される。

生きてても意味無いとか思ってたけど流石に怖ぇ!

 

妖忌さんだとなおさら怖い。

そりゃそうだ。こんなイカツイ爺さん目の前にして、ビビらない方がおかしい。

 

正直、今生きた心地がしない。

 

「加減はする。お主の思う全力をぶつけて来い。」

 

い、いや悪いけど妖忌さん。全力って言われても…俺Zリングとか持ってないから。

カプ・コケコに会いに行って来るからそれまでまってて!

 

「さあ、来い!」

 

まぁ、無理ですよねー。分かってた分かってた。

妖忌さんを見るに、もう聞く耳は持たない様子だしな…

 

とにかく…やるしかないかぁ…。

 

「………」

 

「………」

 

妖忌さんの見よう見まねで剣を両手で構える。

恐怖で手が震えるが、なんとか軸がブレないように…。

 

そして………

 

「…………ふっ!」

 

左足で地面を蹴って踏み込み、間合いを詰める。木刀を縦に大きく振りかぶって…、

そして一気に………………振り落とす………!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことは出来なかった。

 

「なっ!?いつ…のまに…!?」

 

木刀を振り落とそうとした瞬間、もう既に妖忌さんは俺の懐に入り、木刀は俺の首を捉えていた。

全く見えなかった。剣の動きどころか、妖忌さんの動きすらも見えなかった。

その驚いた反動か、思わず尻もちをついてしまった。

 

「ふむ…遅い、遅いぞ比企谷八幡。このぐらいならまだ幼い私の孫でも出来る。」

 

「…………」

 

妖忌さんのその言葉は、何故か俺の胸にずっしりと響いて来た。

 

「剣の振りも遅ければ、踏み込みも遅い。送り足もダメ。まず剣の才能は全く無いな…」

 

別に俺が望んで剣を持った訳じゃない。

半強制的に妖忌さんにやらされただけじゃねぇか…。

 

「そしてお前には覚悟が無い。逃げ続けているだけな奴に剣を握る資格は無い」

 

だから……!別に望んで剣を持った訳じゃないっつうの。

資格が無いんなら、もう二度とさわらねぇよ。

 

「………………私は部屋に戻る。」

 

「………」

 

内心悪態をつきながらも、結局俺は最後まで何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

斜陽が白玉楼の池に金色の影を落とす。

空が赤から紫へと変わって行く様を縁側から眺める白玉楼の主幽々子は、

今日自分の世話係に任命した不思議な少年の事を気に掛けていた。

 

「………大丈夫かしら?あの子。」

 

今日の昼に食事を終えた後、妖忌が八幡を裏庭の方へ連れて行った。

 

心配になった幽々子は後を追おうとしたが妖忌に止められてしまい、

妖忌に任せる事しか出来なくなった。

 

「何で………私は…」

 

あの日。

冥界を散歩している時に偶然出会った不思議な少年。比企谷八幡。

 

幽々子は彼が妖怪という事を直ぐに見抜いた。

それは懐かしい。凄く懐かしい私の大切なナニカに似ていたから。

 

「私も…何かしないとね…」

 

幽々子は彼、比企谷八幡の力になりたかった。ただ純粋にそれだけだった。

その想いを胸に、幽々子が縁側から腰を上げようとしたその時………

 

「幽々子様。戻りました」

 

「妖忌…!八幡は?どうだったの?」

 

八幡を何処かへ連れて行った妖忌が帰ってきた。

 

「比企谷八幡と少し、剣を交えてきまして」

 

「………!大丈夫なの?」

 

凄く心配そうな顔をして幽々子は妖忌に尋ねる。

それはそうだ。剣の達人とも言っていい妖忌さんと剣を交えたのだ。

本気でやれば八幡は怪我では済まないだろう。

 

「えぇ。怪我はさせておりません。」

 

「そう…よかったわ…」

 

「ただ………」

 

「ま、まだ何かあるの〜!?」

 

白玉楼の主は、意外にも心配性らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖忌から見て、あの子はどうだった?」

 

幽々子は気になっていた。他の目から見えるあの子の姿を。

幽々子は不安だった。本当のあの子は、私にしか…いや、誰にも見えないんじゃ無いかと…。

あの子の捻くれた優しさは、誰にも伝わってないんじゃないかと…。

 

「そう………ですね。私から見ると、何かに怯えている。諦めているような…そんなイメージでしたな」

 

「……………」

 

その通りだ。あの子は何かに怯えている。何かを欲している。

だが、何故か全てを諦めてしまったのだろう。

 

今もまるで、空っぽになってしまった自分を埋めるかの様に、家事や炊事に没頭している。

本来の八幡なら、家事・炊事など『めんどくさい』の一言で辞めるのではないだろうか。

 

「ただ、剣の才能は十分にありましたよ」

 

そう、そんな八幡だが、妖忌も彼になにかを見出していたのだ。

剣の才はどう転ぶか分からないが、妖忌の胸には、元の彼(・・・)を見てみたいという一心が宿っていた。

 

「………!そう、妖忌が認めるなんて珍しいわね〜」

 

「えぇ、私には剣しかありませぬ。故に私があの若造の才を引き出せるのは剣のみ。比企谷八幡、その輝きを取り戻せるのは他でも無い」

 

「………………」

 

幽々子はじっと庭の桜の木を見つめている。

 

「幽々子様、後はお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「ふふふっ…えぇ、任せてちょうだい」

 

 

 

 

 

すっかり冷たくなった秋風が、幽々子の頰をかすめて行った。

 

 




比企谷八幡
17歳

見た目、性格などはほぼ原作通り(のつもり)
能力とかスペルカードとかは後に分かって行くと思います。



魂魄妖忌
???歳

皆さんご存知魂魄妖夢の爺兼師匠。
東方の原作には設定のみで登場はしてない…………筈…。
厳格な性格だったとかなんだとかで。
まぁ、性格はオリジナルで作っていきます。




次回『比企谷八幡という人間』




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比企谷八幡という人間

三話目ですね。
今回は少しベタな展開を描いて見ました。



見慣れない暗い部屋。い草の匂い。障子の隙間から入る月明かり。

木で造られた無機質な天井を見上げて俺はあの場面を思い出す。

 

 

ー青春とは嘘であり悪であるー

 

 

いつだろうか。もう覚えてない。

あの作文で俺の人生は大きく変わった。いや、変わる事になっていただろう。

ただ、俺は間違えた。間違えてしまった…。

 

やっと欲しい物が手に入れられると思ったんだ…思ったんだ………

でも、俺が…「失礼するわね?」

 

「え?」

 

こんな時間に誰だ…?

ってまあ…一人しかいないよな………

 

「何か御用ですか…幽々子様」

 

「ふふふっ」

 

襖を開けた向こうに幽々子様が立っている。

廊下からの逆光で、幽々子様が影になり少し不気味に見え、いつものその妖美な笑みが、一層輝いていた。

 

「もう十一時ですよ?少し遅寝じゃ無いですかね。」

 

静かな部屋に、チクチクと針の音を鳴り響かせる時計を指差して、時間を示す。

針は十一の文字を指していて、外は既に1メートル先も見えないほど暗くなっている。

外の世界より街灯が少ないのもあるかもしれないが…。

 

「それは八幡もでしょ〜」

 

「お話があるなら明日に………な、何ナチュラルに人の布団入ってこようとしてんすか」

 

いやちょっとまって!入って来ないで!近い近い、良い匂い!

ごそごそと何食わぬ顔で布団に入ってきた幽々子様は、特に動揺の様子は一切無く、ただニコニコしているだけだ。

 

「あ、あにょ!?だから何で入って!?」

 

「八幡、夜中にそんなに騒ぐと近所迷惑よ?」

 

「いや……近所も何も…」

 

ここ冥界だし。家と言っても白玉楼ぐらいしか無いぞ?

いや、そもそも幽霊って寝るのか?

 

「………八幡」

 

「は、はい?」

 

「お昼妖忌と……何を話したの…?」

 

………。

 

ダウト。この人は俺が妖忌さんと、何を話していたかを知っている。

幽々子様なりに気を使っているのかもしれない。ただそんなエゴを押し付けられても迷惑なだけだ。

 

「……………」

 

「……………」

 

しばらく静寂が訪ずれる。いや、一瞬だったのかもしれない。ただ俺にはその静寂が数分にもわたる程度に長く感じた。

 

いつもニコニコしている幽々子様がこんなにも真面目な顔をしてこちらを見つめる様は、この部屋に中々の気まずさを与えていた。

それはまるで何かやましい事をしてしまい、いつも優しい母に酷く叱られた時の様な空気だ。

幼き日の家族の記憶。あの時はまだ、母ちゃんは俺と良く色々な事を話してくれた気がする。

 

いつのまにか、二人で同じ布団に向かい合って入っている事も忘れて、俺はゆっくりと口を開く。

 

「はぁ…幽々子様」

 

「ん〜?」

 

いつも通りの気の緩む声。違うのは、どことなく陰の入ったその表情だけだ。

 

「幽々子様って…、そういう嘘は下手くそなんですね。」

 

「ふぇ?う、嘘なんてついてないわよ…!?」

 

この人は分かりやすいのか、分かりやすくないのか…。

表情を隠さないくせして、なにを考えているのかわからない。

動揺は隠さない。ただ自分の事を語ることはまず少ない。いや、無いと言っても過言では無い。

 

………まぁとにかく、今は話を進めないとだな。

 

「俺が妖忌さんと何してたか。知ってるんでしょう?」

 

俺がそう言うと、幽々子様は目を丸くして少し驚いている様子。

自分の表情の分かりやすさを理解してないのか?この人は…。

 

「凄いわね〜。こういうのには自信あったのに…何で分かったのかしら?」

 

あ、理解してなかったわ…。

 

「確かに幽々子様は自分のペースに持っていくのは上手ですけど、嘘は元々得意じゃないんじゃないですか?知りませんけど」

 

そう、この人は直ぐに顔に出るタイプだ。

会って一日しか経ってない俺にも分かる。幽々子様の表情はコロコロ変わる。

きっと自分に正直なんだろう。

 

「ふふっ、そうかも知れないわね」

 

ほら、今だって楽しそうな表情をしてる。嘘偽りの無い、楽しそうな表情…。

だが俺は…それを信じる事が出来ない。

 

 

『『幻想郷は全てを受け入れるのよ…。それは時に残酷な事…。』』

 

 

俺は受け入れる事が出来ない。また俺が壊してしまうんじゃないかって…。

欺瞞や嘘で塗り固められた関係は、やがて崩れていく。

少し前に葉山のグループを皮肉ったことがあったが、奉仕部も同じ様なものだった。

 

──共依存の関係

 

昔雪ノ下さんに言われた言葉だ。

ただ、それでも俺は少しの希望を持っていたのかもしれない、奉仕部に見出していたのかもしれない。

それでもあの日、あの修学旅行の日。俺は葉山グループを一時的に繫ぎ止める代償として、「歪んだ関係」が決壊した。

 

これで正解だったのかもしれない。あの依頼によって気付かされたこともあった。俺の求めるものが明確になった。ぬるま湯の様な関係を終わらせたのが、散々嫌っていた葉山グループってのが皮肉だがな…。

 

ただ、明確になったからと言って、冥界に落ちてしまったらしょうがない…。

 

 

もうきっとそれは、手に入らないから…」

 

「……………」

 

再び静寂。

あれ?何で?俺まずい事言った?

 

「………八幡、最後声に出てたわよ?」

 

「まじか………」

 

恥っず!めっちゃ恥ずい。

今すぐ足をバタバタさせながら、枕に顔を埋めて悶えたい。

 

「………八幡」

 

──ゾクッ

 

いつにも増して幽々子様の真剣な表情に、冷たい目、鋭い声。寝っ転がっているにも関わらず、背筋がピンっと伸びる。

その冷たい目で見つめられると、つい目を逸らしてしまい、ここから逃げ出したくなる。

蛇にでも睨まれたかのように体は動かない、再確認した。初めて会った時も思ったが、

 

この人は只者じゃない。

 

怒っている様子はない。悲しんでいる様子も、喜んでいる様子もない。感情が高ぶっているわけでもなさそうなのに、そのたった一言の言葉には、謎の迫力があった。

 

「は、はい?」

 

絞り出す様に情けない声を出して、

 

「あなたは…………何に怯えているの?」

 

すぐに優しく、緩い声に戻る。それでも気は抜けない。

ここで気を抜いたら、今度こそこの人に呑み込まれてしまう気がしたから。

例えそれが、図星を突かれても…。

 

「………何が……ですか?」

 

落ち着いて。出来るだけ落ち着いて答える。依存は無し。それでいて変に拒絶するのも無し。

感情が高ぶってしまったら、こちらの負けだ。

 

なんの勝負をしている訳でもないのに、すっかり幽々子様に圧倒され、慎重になってしまう。

ここで呑み込まれたらまた、同じ誤ちを犯してしまいそうだから。

 

「八幡はずっと何かに怯えている。怖がってる。私にはそれが何なのかは見当もつかないの」

 

あぁ…ほら、まただ。また依存しそうになっている。

優しい幽々子様なら、全てを話し、泣いてすがれば、きっとここで受け入れてくれるのだろう。

また期待してしまう…そしてまた壊してしまう。

ダメだ、この悪循環を止められるのは、誰でもない。俺しかいない。だって自分のことだから。

 

「八幡。私に教えてくれないかしら?あなたの事」

 

やめろ、名前を呼ぶな。またきっと苦しくなる。

物事を成し遂げなり、達成したりする時、必ず犠牲というものが必要になってくる。

子供でも分かること。

 

苦しいのは嫌いだ。辛くて、痛いから。

 

 

失って苦しいなら、犠牲が必要ならば、最初から手に入れなければいいのではないだろうか。

そうすれば、『みんな仲良く』出来る。

 

当たり前だ、何故ならみんな何も持っていないから。

やはりぼっち最強説というのは、冗談じゃなかったのかもしれない。

 

これ以上に期待を持って、何かメリットがあるか?

無いな、無い。何も無い。関係なんて面倒が付いて回るだけだし、無駄な犠牲が出るだけだ。

 

それならば、全員が全員。『お互いのことを受け入れなければ』……

 

「八幡…………八幡!」

 

「…………ぁ…」

 

幽々子様の声で、ハッと目を覚ました様になる。

目の前には、ぼやけていて見えずらいが、幽々子様が居る。

何故ぼやけているのだろうか…顔を触っても、泣いている訳でもないのに。

 

「……八幡、あなたの欲しいものは何…?」

 

まるで誕生日に、子供の欲しいものを聞いている母親の様な言葉。

その先には俺がいて、情けなく目を見開いて怯える様な表情をとっていた。

 

欲しいもの。

 

分からない、全然分からない。全く出てこない。

自分のことでさえ分からないのに、何故こうも俺は奉仕部に対して、知った様な口を聞いていたのだろうか…。

 

「………八幡。私はあなたの事をもっと知りたい。どんな些細な事でもたくさん知りたい…」

 

幽々子様は変わらず優しい声で、慰める様に声をかける。

それでも俺にはその言葉が、魔女の囁きの様に聞こえていた。

 

俺を苦しめる魔女の言葉。

この言葉を信じてはいけない。

またきっと苦しんで、後悔する。

 

ぐるぐるとそんな言葉が、頭の中を駆け巡る。まるで頭の中をかき混ぜられる様な感覚に陥る。

それでもその言葉をも信用出来なくて、捕まる木を無くしたコアラの様な、そんな気持ちだ。

 

「………ごめんなさい…」

 

またも必死に絞り出した声。震えているような、泣いているような、そんな情けない声。

だれに対して謝っているのだろうか。自分自身にも分からなかった。

 

目の前に居る幽々子様か、それとも奉仕部か。それとも愛しの小町や戸塚か、あるいは先生か。

 

意味のない謝罪。

謝ればまた始められるんじゃないかと、やり直せるんじゃないかと、終わらせられるんじゃないかと。

そんな期待でもしたのだろうか。

 

「………もう一度聞くわね…あなたの欲しいものは?」

 

一筋の期待。そうだ、そんな期待を込めて俺はずっと歩いてきたのだろう。

 

『みんな仲良く』

 

理想の世界だ。俺だってそんな世界があるなら行ってみたい。

それでも、俺はずっとその『みんな』に含まれていなかったから良く分かる。

きっとそんな世界は、人間がいる限り不可能だ。

 

それでもその理想を掲げ、ずっと信じ続けていた気にくわない奴がいた気がする。

俺はそいつが、多少は羨ましかったのかもしれない。

 

それでもそいつは、ずっと目を逸らし続けていた。

欺瞞を許し、「信じる」という甘い言葉だけで突き進んでいた。そんな関係なら、捨てた方がマシだ。

 

それじゃあ俺が欲しいものというのはなんだろうか…。

 

欺瞞がなく、大きな嘘もない。依存もなく歪みもない。

そんな綺麗事の様な関係…。

 

知らないという事は恐ろしい事だから…。大切に想っている人に、知らない顔があるのは酷く恐ろしい事だから。

だから俺は知りたい。知っていたい。知って安心したい。

そしてそんな自分の傲慢な想いを、誰かが許容してくれるのなら…それはきっと俺にとって、一番の幸せなのだろう。そして、それが俺の本物というのなら…

 

「…俺は………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物が…欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物が…欲しい」

 

幽々子は驚いていた。

目の前で静かに、そして強くなにかを願う少年のことを。

 

幽々子の八幡への印象は、素直になれないぶっきらぼうだけど優しい子。

 

ただ、今八幡は幽々子に対して嘘や偽りのない言葉を投げかけた。

この少年と会って間もない幽々子だが、この少年がここまで自分に本心を吐き出してくれるとは思っていなかったのだ。

 

「本物………八幡、あなたの言う本物って何?」

 

『本物』。幽々子はその言葉が気になっていた。

八幡が何を求めているのか。その本物を知れば、八幡の心奥に触れられるんじゃないかと。

そんな淡い希望が幽々子の中で渦巻いていた。

 

「分かりません…ただ、俺は知って安心したいだけなんですよ…知らない事は、恐ろしい事だから…」

 

ただ、八幡の想いは、幽々子が思っている以上に複雑だった。

その心奥に触れた幽々子が一つだけ分かったのは…

 

「(知らないと怖いから、自分の大切なものは、隅々まで知っていたい。これって…ヤンデレって言うのよね)」

 

マイペースはいつまで経ってもマイペース。

 

ただ、八幡の言う本物は、外の世界で欲すには、なかなか難しいものだ。

八幡自身もそれは分かっていた。

 

「無理なのは分かってるんですけどね…人を隅々まで理解するなんて不可能だし、側から見れば気持ち悪いだけだ」

 

その通りだった。八幡の言う本物は、ただのわがままでしかない。さらに、先程幽々子が思った通り、只のヤンデレ気質。それは八幡自身も理解していた。

 

ただ、それは外の世界での話。

 

「美しいじゃない。本物…」

 

「でも、でも俺は…壊してしまった…」

 

八幡は、ぽつりぽつりと外の世界での自分を語っていった。

 

奉仕部の事。

あの二人の事。

依頼の事。

自分の事。

 

八幡には本当に大切にしているものがあった。それを全て語った。

その様子を、幽々子は優しく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう…八幡にも大切な人が居たのね…」

 

「………………」

 

幽々子はその奉仕部の二人に、言い表せない何かを感じていた。

 

「そう…そう………よね…」

 

妬みだ。

 

「ねぇ、八幡。」

 

「はい………」

 

ただ単純に羨ましかった。八幡に対する感情が何なのかは分からない。

 

「確かに八幡の言う本物はわがままかもしれない…」

 

「そうっすね…」

 

ただ八幡の隣に居た事に対して幽々子は少し妬ましく思っていた。

 

「ただ、ここはもう外の世界じゃない。『幻想郷』よ?」

 

「それが…?」

 

だから欲しくなった、本物が。八幡の思う本物が欲しくなった。

自分のことを知ってほしかった。

 

「ここは全てを受け入れる世界なの。まだ諦めるのは早いと思わないかしら?」

 

「………でも…」

 

八幡との本物、八幡の思う本物、自分の思う本物が欲しくなった。

そして何より、八幡のことをさらに知りたくなった。

 

「私は八幡の本物に…、なれないかしら?」

 

「っ………」

 

そう、幽々子は欲しくなった。

本物(はちまん)が、欲しくなった。

 

「ずっと思ってたのよ。八幡は誰かに似てるって…」

 

「だれか…?」

 

「えぇ。私の古くからの友人なんだけどね?八雲紫って言う妖怪」

 

「……………」

 

幽々子が自分の友人を語り始め、八幡はそれを黙って聞いている。

 

「紫はね、何でも知ってるのよ?だから紫の話を聞いてると退屈しないのよ〜」

 

幽々子は嬉しそうに友人の八雲紫の事を語って行った。

その話を聞いて八幡は思った。

 

「俺に似ているようには感じないすけど?」

 

「………紫はね、幻想郷を作ったと言ってもいいほどの大妖怪なのよ。

………幻想郷は元々、勢力の弱まった妖怪達が集まっていた場所だったの」

 

幽々子は紫のことを更に詳しく語っていく。

そして幻想郷の事も………

 

「ただ妖怪は幻想郷にとどまりすぎて、外の世界の人間達に忘れられ、居ない者として扱われた。

事実が否定された妖怪と幻想郷は消えかけてしまったのよ…」

 

八幡の知らない幻想郷の事実。妖怪の真実。

一体何百年まえの話なのだろうか…もしくは何千年規模なのかもしれない。

ただ八幡は、なぜ八雲紫が幻想郷を作ったのかがわからなかった。

 

「消えかけた妖怪と幻想郷をなおすために、紫は幻想郷と外の世界の間に常識と非常識の結界をはった。人間の否定の力を逆手にとって、幻想郷を復活させたの」

 

「そして…そして今の幻想郷が出来上がったのよ〜」

 

「なぜ、八雲紫………さんは幻想郷を?」

 

「全てを受け入れる。そんな幻想のような世界を作りたかったみたいよ?」

 

「なるほど……だから似てる…ですか」

 

八雲紫の本当の意は誰にも分からない。

自分を受け入れて欲しかったのか、妖怪を守りたかったのか、はたまた別の野望があるのか…。

それでも幻想を追い求め、ここに幻想郷を作った。それには違いない。

 

「えぇ。形も大きさも違えど、八幡も紫もずっと幻想を追い求めてる。」

 

「………」

 

「紫の作ったこの幻想郷のように、あなたも本物が作れるんじゃないかしら。

もちろん。私も一緒によ〜?」

 

少しイタズラに笑う幽々子の顔から、八幡は目を逸らす事が出来なかった。

 

「幽々子様。」

 

「ん〜?」

 

「そ、その……俺にも…」

 

「………」

 

八幡がどもりながら何かを伝えようとしているのを、暖かい目で見つめる幽々子。

 

「………い、いえ。何でもないです。おやすみなさい」

 

が、くるっと反対側を向いてしまう八幡を見て、幽々子は…

 

「ふふふっ、あらあら…」

 

素直になるにはまだまだ時間が掛かるわね………と親のような目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

この日、一人の少年の心は、紛れもなく亡霊の少女に救われた…

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

障子の隙間から朝日が入ってくる。

眩しい…。昨日寝たのが十二時。流石に遅すぎたな…。

 

「んん〜…」

 

俺の布団の中から聞こえる筈のない女性の声が聞こえる。

ちょっと待て。嫌な予感がしてきた…。

 

恐る恐る布団をめくると…。

 

「くぁ〜。もう朝〜…?」

 

「ゆ、幽々子様…」

 

………これ、なんてTo LOVEる?

 

 

 

ちょっと待て。整理をしよう。

昨日寝ようと思ったら部屋に幽々子様が来て………それで…。

本物が…どうとか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死にてぇ。

 

 

うわああああああああああ!!

何言ってんだ俺!?何が本物だよ!なんだよ本物って!?

ヤバイ。ヤバすぎる。語彙力もヤバイ。

 

「………んぅ〜…、八幡?どうしたの?」

 

「い、いえ、何でもないです…。」

 

めちゃくちゃ恥ずい。

誰か俺を殺してくれ…!

 

「………八幡」

 

「は、はい?なんすか?」

 

「何かあったら、すぐに言うのよ?私はずっと、あなたの味方だから…」

 

「………はい」

 

「ふふふっ、よろしい」

 

本当にこの人はいい人だ。そして叶わない。

今思えば俺はこの人に拾ってもらい、この人に元気付けられた。

幽々子様には、本当に感謝しかない。

 

しつこいようだが、俺は養われても施しを受ける気は無い。それだけはずっと言っている。

これから…返していかないとな……この人に…。

 

「朝飯。作ってきます」

 

「えぇ。美味しいのを宜しくするわね〜」

 

ニコニコしながら手を振る幽々子様を尻目に、寝室を出て台所に向かう。

まだ幽々子様を信頼しきっている訳では無い。

 

疑ってしまうのは昔からの癖だし、俺は悪くないだろ。

といっても幽々子様に借りが出来たのは確かだ。

 

ん?あれは…妖忌さん?こんな朝から素振りかよ…。

 

「む?比企谷か…。朝食の準備か?」

 

「は、はい。そうです…」

 

「そうか、にしても………」

 

「ん?なんすか?」

 

「いや何。昨日より良い目をしているな」

 

「っ、そう…ですかね…」

 

マジかよこの人。そんなの分かんのかよ。

 

「ふむ…。あまり引き止めるのも悪いな。私は素振りを続けよう。」

 

俺も早く飯つくらねぇと。

さっさと台所に…………

ん?待てよ…?剣………か…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、妖忌さん。頼み事が…」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「脇をもっと閉めろ!」

 

「は、はい」

 

「右手に力はほぼ入れないんだ!左手で剣を振れ!」

 

「はいっ」

 

「手だけじゃない。足も意識するんだ。遅れているぞ!」

 

「はい!」

 

今俺は竹刀を持って素振りをしている訳だが………。

俺が頼んだといえきついな…。

 

「一度休憩を挟む。汗を拭いておけ。」

 

「はぁ…はぁ…、はい…」

 

「それにしても驚いたな。剣を教えてくれなど」

 

「まぁ、色々ありまして……。」

 

幽々子様に拾われて、あれだけ助けられたんだ。

俺は施しだけを受けるつもりはない。少しでも幽々子様の為になるのなら、剣を習ってみてもいいだろう。

そしてしかるべき時、今度は俺が………

 

「幽々子様の役に立ちたい………か?」

 

「え?………」

 

何でこの人考えてる事がわかるの?

エスパーなの?

 

「なに、今お主の考えそうな事はこれくらいしかなかろう」

 

「そう…ですかね…」

 

「あぁ。剣の振りが昨日より格段に良くなっている」

 

「でも………俺は…」

 

まだ振り切れてない。外の世界の事を、肯定できてない………。

 

「それでいい」

 

「……え?」

 

「それでいいんだ。まだお前は迷い、悩む時期もあっていいんだ」

 

妖忌さんは真っ直ぐした目で俺を見て言う。

 

「ただ、剣を振る時。その時だけは迷い、悩みを全て捨てろ。忘れるんだ。

自分が何の為に剣を振っているのか。ただそれだけを見るんだ」

 

「………はい」

 

ここに来てから背中押されてばっかな気がする…。

ほんと、情けねぇ。

 

「続きをするぞ、竹刀を持て」

 

「はいっ」

 

なんだか冥界に来て俺の黒歴史がどんどん重なって行ってる様な気がするが…。

たまには良いだろ…こう言う日も。

にしてもほんと…

 

「らしくないかもな…」

 

 




一応ここからがこのクロスの本番ですね。

本来奉仕部に言うはずの言葉を幽々子様に言ってこの先どう変化していくのか…


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初めてのおつかい

インフルにかかってしまった…。
皆さんはインフルエンザ大丈夫ですか?
マスクと手洗いうがいを忘れずに。
本編どーぞ


「人里に行って見ない?」

 

「はい?」

 

いつもの様に大量の朝食を食べ終えた幽々子は、

唐突に八幡へ提案を持ちかけた。

 

「人里ってなんすか?」

 

「人里は人里よ?美味しい食べ物がいっぱいあって〜…」

 

「あ、ああ。分かります。それで、なぜ?」

 

「そうね〜。白玉楼の食材がきれたから買ってきてほしいの」

 

「あぁ…そういえば無くなってましたね…」

 

そう。白玉楼の蔵いっぱいにあった食材は、1週間足らずで全てきれてしまったのだ。

幽々子一人で成人男性二人分以上の量のご飯を、更にそれを毎日食べていれば無理も無いだろう。

 

「それに、八幡も少しは幻想郷を見て回りたいでしょう?」

 

「………まあ、多少は」

 

冥界に来てから早1週間

幽々子の元で働いていた八幡は、慣れない仕事のお陰で冥界以外を見て回る余裕は余り無かったのだ。

 

「それより冥界から外には出られるんですか?」

 

「ええ。最近は紫のお陰で、強い力を持っている者なら冥界に出入り出来るようになってるのよ?」

 

「それでいいのか幻想郷…」

 

「大丈夫よ〜。それなりに力を持っていなければ入れないから」

 

「(なんか大分適当な気がする…。)」

 

幻想郷の適当さが少し垣間見えた一瞬であった。

 

「それに、力のある者って…俺特にそういうの持って無いですけど?」

 

「ん〜?持ってるわよ?」

 

「………え?」

 

人はいきなり自分に超常的な能力があると言われたらどうなるだろうか?

答えは固まるだ。何も言えねぇ。

 

「だって八幡。あなたは妖怪よ?」

 

「あぁ、そういえば…、そんな事言っていましたね…。」

 

妖怪。

 

日本で伝承される民間信仰において、

人間の理解を越える奇怪で異常な現象や、

あるいはそれらを起こす、不可思議な力を持つ非科学的な存在の事。(Wikipedia 引用)

 

そんな摩訶不思議生物が、幻想郷では普通に暮らしている。

 

そして、俺もその内の一人らしい。

 

「それで、俺は何て妖怪なんすか?」

 

自分のことだ、少しは気になる。

それに厨二心もくすぐられるしな…。

 

「そうね〜」

 

「………?」

 

「う〜ん……、言っていいのかしら?」

 

視線を動かさずにジーと八幡の目を見つめる視線と、勿体ぶる様に何かを思考する幽々子に八幡はつい目を逸らし、たじろいでしまう。

 

「え、えーっと、結局何の妖怪なんですか?」

 

「わからないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

いや、静寂と言った方が正しいだろう。

幽々子の一言で、八幡は凍り付いた様に動かなくなっていた。

 

「え…?は?わからない?」

 

「ええ。全く」

 

悪意の無い良い笑顔で答える幽々子に、

再度八幡は言葉を失ってしまう。

 

「え?いや、なんか勿体ぶって考えてたじゃないですか…。」

 

「ええ。妖怪って言った手前、何の妖怪か分からないなんて恥ずかしいじゃない?」

 

「いやそこは素直に言えよ…」

 

頬を赤く染めて、どうでも良い事を恥ずかしがりながら言う幽々子に、

つい素早くツッコミをいれてしまう八幡であった。

 

 

 

閑話休題。

 

「つまり、食材の補充ついでに幻想郷を見て回ってくればって言う事ですね?」

 

「ええ。お釣りは自由に使って来てくれて良いわ〜」

 

「はぁ…分かりましたよ」

 

つい溜息を溢してしまう。

当たり前だ。自分が妖怪だと言われても、何の妖怪かは分かっていない。

自分が誰なのか。それが分からないだけでも相当不安だろう。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

腰を上げ、部屋を出て行こうと襖に手をかける。

一抹の不安を心に抱えながら。

 

「それと………」

 

幽々子に呼び止められる。

 

「まだ何か…?」

 

「いえ、何でもないわ、行ってらっしゃい」

 

「………?」

 

神妙な面持ちで手を振る幽々子に疑問を持ちながら、

ぺこりと頭を下げて、八幡は部屋を出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いるんでしょう?………………紫」

 

八幡が部屋を出て行った後に、

日当たりの良い和室に二つの女性の影があった。

 

「あら?気付いてたの?」

 

「ふふふっ、ええ。途中からね…」

 

空間の裂け目から目玉が覗く『スキマ』

スキマの中から、この世の者とは思えない程の、目も眩む様な金髪に美貌を持つ女性。

 

八雲紫。

 

幽々子の古くからの友人であり、

幻想郷の境界を操る程の能力を持つ実力者。

その美貌が見せる笑みは、今日も怪しく光っていた。

 

「紫が白玉楼(ここ)に来るなんて珍しいわね〜。」

 

「そうね…。確かに久しぶりな気がするわ」

 

「それで?今日はどうしたの?」

 

「……………」

 

口を開かない。

いつもは薄気味悪い笑みを浮かべている紫だが、

今日だけはどこか遠くを見つめている様な、虚空を見つめている様な、そんな表情をしていた。

 

「………紫は、何であの子を幻想郷に入れたの?」

 

幽々子の言うあの子は、ついこの間幻想郷の冥界に来た少年。

比企谷八幡を指しているのだろう。

 

「そうね…それは…」

 

「あの子があなたに…紫に似ていたから?」

 

幽々子は問う。

 

「それは幽々子の感性でしょう?」

 

「違ったの…?」

 

首を傾げる幽々子だが、何となくは理解していた。

八幡が幻想郷に来た理由。それはもっと違う、ナニカが隠されていると…。

 

「分かってるわ…。覚えて無いわよね。貴方『達』は…」

 

「『達』………?」

 

紫の言葉に再び首を傾げる。

亡霊という者は、死んだ人間がなるもの。ただ幽々子は、自分に生前の記憶が無いのだ。

だから理解はしていた。自分に記憶が無いのは。

 

そして貴方『達』。紫はそう表した。それはまるで……………

 

「ねぇ紫。貴方達ってどういう………」

 

「はいはいはい。この話は終わりよ幽々子」

 

「え〜。まだ肝心なところが聞けて無いわよ〜」

 

質問を無理矢理手で制し、話を終わらせる紫。

まるで何かに焦っている様な様子で。

 

「あの子…、いや八幡をここに連れて来たのは私の我儘よ。それ以上でも、それ以下でも無いわ…」

 

「我儘…?」

 

「ええ、そう。我儘…。それと……」

 

「………?」

 

不自然に会話に間を開ける紫に、

幽々子は不思議そうに視線を移す。

 

「彼は、八咫烏よ………」

 

そう言い残し、紫はスキマに戻って行く。

寂しそうな表情を浮かべながら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

「案外賑わってんのな。」

 

八幡は人里の思った以上の賑わいに驚いていた。

肉屋を始め、団子屋、薬屋、雑貨屋など、沢山の店で賑わっていた。

人の住む民家の様なものもあり、民家からは、楽しそうな子供の声が響いていた。

その子供の中に、明らかに人外のものも混じっていたり…。

 

「人里っつっても妖怪みたいなのはいんのか。」

 

人を食べる妖怪も居ると聞いていた八幡にとっては、

人間は余り妖怪を良く思っていないと勝手に勘違いしていた。

 

「あぁ。ここには人外も沢山いるぞ。」

 

「へぁ!?」

 

いきなり後ろから声をかけられて変な声を出してしまう。

また小さな黒歴史を作ってしまった…。

八幡も内心穏やかではないだろう。

 

「(やべっ、変な声出しちゃったよー。これ完全に黒歴史だろ。

うわ、話しかけて来た人苦笑いしてんじゃん…。

っべー。っべーわー。やべーわー。焦りすぎて戸部が移る程べーわ…。

どうすんだよこの空気。誰か何とかしろよ。え?俺が何とかしろって?

いや無理だろ。俺だぞ?そんなコミュ力あると思ってるのか?)」

 

案の定であった。

 

 

 

 

 

「そうか、君は外から来たのか。」

 

「は、はい、まぁ…。」

 

「それにしても妖力を感じるが…。」

 

妖力とは、基本的に妖怪が持つ力。

幻想郷には他にも神力、霊力、魔力などの妖怪や神、人間などに備わった力がある。

 

「あぁ、今は一応妖怪…、らしいです…。」

 

「〜〜!外来人が妖怪になる事もあるのか…!」

 

「なんかそう見たいですね…」

 

自分が妖怪という事実に確証が持てないのか、

自信無さげに八幡は答える。

 

「そうか………。そう言えば自己紹介がまだだったな。私は上白沢慧音。

人里で寺子屋を営んでいる。」

 

「えと…、比企谷八幡です」

 

「八幡か…。どこかで聞いた事のあるような…?」

 

何かを呟きながら慧音は八幡の顔をじっと見つめている。

銀色の長髪に整った顔立ち。そんな年上のお姉さんに間近で見つめられ、

普通の人なら狼狽えてしまうだろう。

 

「あ、あにょ!近い…です…!」

 

それは勿論八幡も。

 

「…!、すまない!取り乱した!」

 

「ふぅ…いえ、全然大丈夫です…」

 

「すまないな。それで八幡は、どこに住んでいるんだ?

もし住居が無いようだったら私がなんとかするが…。」

 

外から来た八幡に対して、住居の心配。さらには

『私がなんとかするが…。』

と、頼もしい台詞。完璧だ、これ程頼もしい言葉はこれまでにあっただろうか?

いいや無い。断言しよう、無い。このドラえもん以上の安心感。間違いない……

 

「(この人めっちゃ良い人だ…!)」

 

大げさである。

 

「ん?どうした?」

 

「慧えもん…。」

 

「ケ、ケイえも?なんだ?」

 

「あぁ、いや、何でも無いです、ハイ」

 

ドラえもんを頭から追い出し、一息置く。

八幡は白玉楼に住んでいるので、住居の心配は全く無い。

 

「住居は問題ないっす。白玉楼に住まわせてもらってるんで。」

 

「そうか、白玉楼に…………って、あの白玉楼か!?」

 

慧音は驚いた様子で目を見開き、

八幡の肩をがっしり掴んで揺らしてくる。

その姿は一見すると結構怖いとかなんとか…。

 

「ひゃ、ひゃい!多分その白玉楼であってると思います…。」

 

「そうか…、あの西行寺幽々子が…」

 

慧音は真剣な顔付きで、

何かを必死に考えている様子だった。

 

「え、えっと…?どうしたんすか?」

 

「あ、あぁすまないな。あの幽々子が人を雇う事に驚いてしまってな…」

 

「…?そうなんですか?」

 

八幡は失礼ながら、幽々子は誰でも見境無く同じ様に人に接する人だと思っていたのだ。

一見すると良い言葉に聞こえるが、悪い意味に捉えるとそれは人を信用し過ぎという事だろう。

 

「ああ、そうだぞ?ああ見えても幽々子は人を見る目があるしな。

だてに白玉楼の主を何年もやっている事はあるぞ」

 

「なんか意外だ…」

 

「おいおい…、自分の主人にそんな事言っていいのか…?」

 

慧音は苦笑いしながら言う。

この後もしばらく話は続いていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、もう行きます。」

 

慧音とのちょっとした話を終えて、

八幡は食材を買う為に慧音に分かれの挨拶を告げる。

元々あまり話すつもりはなかったのだが、

慧音のあまりの気さくさに口下手な八幡でもつい長く話してしまっていた。

 

「あぁ。暇な時にまた来てくれ。こんどはお茶でも出す。」

 

「(本当に良い人だなこの人。)」

 

最後まで慧音の良い人度数は測りきれない程だった。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「八百屋、八百屋…」

 

今俺は白玉楼の食材の買い出しで八百屋を探しているのだが、

人里広過ぎだろ…。

 

厄介なのは、明らかに無駄な店が置いてあるのだ。

いや、無駄な店と言うより同じ様な店が多すぎる。

なんで材木屋が三つも並んでんだよ。激戦区なの?ここ。

 

更に言えば何だよかわ屋って…、ただの厠だろ。トイレだろそれ?

分かりにくいボケかましてんじゃねーよ。

 

「はぁ、八百屋何処だよ…」

 

そりゃ溜め息も出る。

慧音さんと分かれてかれこれ十五分程度は経った。

一応幽々子様から地図は貰っている。

なのに全く見つからない。気配すら無い。

 

………………八百屋の気配ってなんだよ…。

本当にこの地図あってんのかよ。

まぁ、しばらく探索してみるか〜。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!八百屋というより、ここ何処だよ…?」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

 

『地図を見ながら人里を歩いていたら、

いつの間にか森の中にいた。』

 

な…何を言っているのか分からねーと思うが

俺も何をされたのか分からなかった…。

 

「いや、マジでここ何処だよ…。」

 

森。それしか言い表せない程の森。

えぇー…。迷子?この歳になって…?

とにかく人とか探さないとか…。

それ以前にこんな所に人なんて居るのか…?

 

なんて考えてたら後ろの草むらがガサガサっと揺れた。

人…なのか?人だと信じたい。ああ、人だ。人に違いない。

 

そして草むらから出て来たのは………、

 

 

 

 

 

 

 

クマでした。(水曜どうでしょう風)

 

「ははっ……、シカじゃねーのかよ…」

 

真っ黒な毛並みをした熊は、

小さく唸りながらのそのそと近づいて来る。

怖い。体が動かない。

落ち着け。俺も熊も落ち着け。

 

「ウガァァァァ!!」

 

「うぉっ!?」

 

なんて俺の心の叫びを無視してこちらに走ってくる。

ヤベェ、とにかく逃げないと…!

てかデカイ。何あれデカイ。日本の熊の1.5倍ぐらいあるぞ!?

 

あれ?なんか突進して来てない?ねぇ。

 

「グガァァァ!」

 

え?やばっ!?追いつかれた…!もうダメなのか…!?

 

 

 

 

 

 

 

「………あれ?」

 

なんだ?熊の唸り声が聞こえなくなった…?

って、熊が倒れてる?

 

何だよ、目を瞑って死ぬ覚悟したのに…。

いや、死なないなら良いんだよ?

いやでもなんか死ぬ流れだったじゃん。

 

でもなんで熊が………、

 

「まったく…、昔からなんでそんなに面倒事に巻き込まれるのよ…。

 

 

 

 

 

 

八幡」

 

いつのまにか背後に立ち、俺の名前を読んだその女性は、

誰もが魅入る様な金髪に、幽々子様に負けず劣らない美貌を持っていた。

 

女性は不敵に、それでいて楽しそうに、それでいて何処か寂しそうに、

笑みを浮かべていた………。

 




今回は地の文を三人称と一人称を両方書いてみましたが、
次回からは基本的に一人称にします。
モノローグのほうが描きやすいんですよね…。

この駄作にこれからもしばしお付き合い下さい



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幻想郷の賢者

「まったく…昔からなんでそんなに面倒事に巻き込まれるのよ…。

 

 

 

 

 

 

八幡」

 

何もない筈の空間から突然現れた割れ目。その中に女性が立っている。

うわ、なんだこれ。気味が悪いな…。

いや、気味が悪いのはその割れ目以前に、割れ目から覗く目玉の方か。

 

「………………」

 

女性の特徴は、金髪に服装は和服………なのか?

外では見た事の無い様な服だ。

 

頭にはドアノブカバーのような帽子をかぶっている。

そういえばあんな様な帽子幽々子様も被ってたな…。なに?流行ってんの?

 

「………八幡?」

 

…っ!熊が倒れてる?もしかしてこの美人がやったのか?え?凄くね?

でも熊に外傷は無いんだが…。

 

もしかして心臓麻痺的なアレ?うわ怖っ。

なにこの人。デスノート持ってるの?新世界の神にでもなっちゃうの?

 

「聞いてるのかしら…八幡……」

 

いや、まずここ何処だ?今まで人里に居たよな?

いきなり森に来たと思ったら熊に襲われて、そしたら金髪美人に助けられ…なんか俺情けねぇな…。

 

「八幡!!」

 

「ひゃい!」

 

うおっ、びっくりした…。

いきなり声かけるもんだから変な声出しちゃったじゃねーか。

 

「いきなりじゃないわよ…さっきから声かけてました」

 

「あれ?声に出てた?」

 

「八幡……あなた自分が思ってるより顔に出やすいわよ?」

 

マジ?初対面の人でも俺の頭の中読まれちゃうのかよ。

ポーカーフェイスは得意な方じゃないってのは分かってたけど、俺の考えセキュリティ緩すぎだろ…。

…そういえば何でこの人は俺の名前を知っているんだ?

 

「はぁ…まぁいいわ。突然だけど、まずあなたをこの森にとばしたのは私よ」

 

は…?

 

「え、えっと、それはどういう事ですか?」

 

何のために…?

そういえば幻想郷には人を食う妖怪も居るって幽々子様言ってたしな。

もしかしたら、この人が……

 

でもわざわざ熊から助けるか?

俺を食べるのが目的なら、自分で手をかければいい話だ。

だから、何のために…?

 

「そこ、見てご覧なさい?」

 

美人さんが指を指す先を見ると、何とそこには神社がー。

ワー、ナンテコッタイ。

 

そうじゃねーよ。

数分前に人を探してた時、神社に来ればよかったじゃねーか。

でもあんな所に神社あったか?あれ?

 

「あなたをこの森に連れて行って、

いきなり森に連れてこられたあなたは人に話を聞くためにあの神社に入る。

そうやって神社に誘導しようとしたのに……………したのに……」

 

な、なんかこの金髪美人さん震えてない?怒ってない?怒りのボルテージが上がってない?

 

「何で神社の反対方向に歩いた挙句、熊に襲われてるのよ!」

 

うわー案の定だー。

顔真っ赤にして怒ってらっしゃる。

 

それにしても神社に誘導ねぇ…。

この人やっぱり俺を食おうとしてたんじゃ…」

 

「食べる?」

 

「あれっ?声に出てた?」

 

嘘だろ、声に出てたのか?

やばっ、食われる。マジで食われる。本格的に食われる。

 

前に幽々子様を雪ノ下さん以上と称した事はあったが、

この人は幽々子様をも超えるなにかを持っている。

 

圧倒的な力

 

この人から発せられる緊張感はおそらくそれが原因だろう。

 

くそっ、ここは声に出していない事を願うしかないか…。

 

「えぇ、思いっきり出てたわよ?」

 

 

 

 

殺される。

こんなん無理ゲーだろ…俺にどうしろってんだよ。

 

いや、まだ諦めるのは早い。

某ジョセフ・ジョースターも言っていた…そう……ここは…。

 

「逃げるんだよォ─────ッ!」

 

話の途中?迷子になる?そんなん関係あるか!

全力で逃げろォ!地獄の果てまでなァ!

 

キャラが迷走してきたな…。

 

「えぇ!?ちょっと、待ちなさいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば、はぁ…はぁ…大丈夫だろ…」

 

きっつ。こんなに走ったのは久し振りだぞ。

まぁまだ森の中なのは変わりないんですけど。

 

にしてもあの人は絶対ヤバイ。関わっちゃいけない類の人だ。

ほら俺のアホ毛センサーがビンビン反応してる。

 

「よくこんな遠くまで走って逃げたわね…」

 

「いやまぁ、俺も必死だったしな」

 

自分でも驚いてる。俺ってあんなに速く走れたのか…。

今の走りなら余裕で世界狙えるぞ。火事場の馬鹿力ってすげぇな。

 

「そう…ふふっ。じゃあどうしてそんなに必死になってまで逃げたのかしら…?」

 

「どうしてってそりゃ、捕まったら食われ………うぉ!?」

 

いつの間に後ろに立ってた!?

いや、それ以前にどうやって追い付いた!?

 

ここまで結構距離はある筈だし…、金髪美人の服装はあまり走りに適しているとは思えない。

なのにどうやって俺の背後に近付いた?ワープか?いや、違う…。

はっ…!まさかっ…!まさかこいつ…!

 

 

 

 

世界(ザ・ワールド)を……!?」

 

「ジョジョネタから離れなさい。」

 

「………」

 

何でこの人がジョジョを知っているのかは置いといて……。

いくら走っても追いつかれる様じゃ、もう逃げ場は無いも同然か。

 

「そう構えないで。私はあなたの敵じゃないわ」

 

敵じゃないっつたってなぁ…。

 

「信用出来ると思います?」

 

「無理ね」

 

そう、無理だ。

多分この金髪美人はおそらく人間じゃない、妖怪だ。

何となく雰囲気で察せる。

 

先程も言ったが、この人は幽々子様以上に危険な香りがする。

雪ノ下さん以上の幽々子様を越えるこの人。

絶対人間じゃない。危険過ぎるだろ。

 

ていうか雪ノ下さん以上の『人間』がそこら辺にちらほら居てたまるもんか。

地球滅亡するわ。←言い過ぎ

 

「そうねぇ…八雲紫って言ったら分かるんじゃないかしら?」

 

「八雲…紫?」

 

八雲紫。確か幽々子様の昔からの友人だよな…?

幽々子様から話を聞くに、結構仲が良いらしいが…

流石にそれを信用しろってのはなぁ…。

 

「あんたが八雲紫って確証が無いだろ」

 

うん。無いな。

確か幽々子様が話してた八雲紫の特徴は…。

 

金髪で、日傘をさしてて…幽々子様と同じ様な帽子で……

『スキマ』って言う空間の割れめが…………

 

八雲紫ぃぃ?えぇ?マジぃ?

 

「えぇーと、うん。やっぱり人は疑い過ぎない方が良いな」

 

「どっちなのよ…」

 

八雲紫は呆れた様にため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「入って良いわよ?」

 

今俺は八雲さんに神社に案内されている訳だが、この神社は八雲さんの物なのか?

生活感が全くと言っていいほどに無い。

綺麗にはなってるが、机と座布団以外は家具が無い。

 

「あの、この神社って八雲さんの…」

 

「紫。」

 

「え?」

 

「紫で良いわ」

 

えぇ、さすがに歳上を呼び捨てする訳にはいかないだろ…。

それもきっと歳上だろ?

 

見た目は20代前半って感じはするけど、なんて言うんだろ……

オーラ?雰囲気?そんな感じなのがBBA………うぉ!?なんだ今の殺気!?

 

「私はまだ17よ」

 

「いや嘘付けよ」

 

ひぃ!ついツッコンじゃったけど睨まないで!

分かった!分かったから!そんな冷たい視線を浴びせないでっ!

 

「んんっ。とにかく、敬語も無しにしてちょうだい」

 

ん?敬語も?

 

「いや、さすがにそれは…」

 

ないだろう。

目上の人には敬意を持って。

 

唯一母親に念を押されて教育された言葉だ。

それに俺自身にもタメ口する勇気無いし。

 

「いいのよ、あなたから敬語を使われると違和感しか感じないから…」

 

「……………」

 

この人はどこか俺の事を知っている様に話す節がある。

初めから名前を知っていたり、『相変わらず』と言っていたり。

 

今もそうだ。

 

「あの、紫さ…」

「敬語」

 

「「……………」」

 

はやっ!敬語への反応はやっ!

まだ喋り終わってなかったぞ…。

 

「はぁ…分かった。紫」

 

こればっかりは仕方ないか…。

 

「ふふふっ…何かしら?」

 

なんか一気に機嫌良くなったな…。

案外この人分かりやすいかもしれない…。

そんな事より……

 

「紫は最初から俺の事を知っている様な節だったが…どこかで会ったことあったか?」

 

少なくとも俺の記憶には無いが…。

ただそんな筈はないだろう。現に紫は俺の事を知っている様だったし…。

 

「……………」

 

あれ?なんかまずい事聞いた?すっごい寂しそうな顔してるんだけど…。

 

え?泣き出したりしないよね?

そんでもって『キモタニが泣かせたー』とかならないよね?

 

まずあれ俺が泣かせた訳じゃねーし。佐藤の野郎絶対に許さん。

 

「………それは神社に入ってから話しましょうか…」

 

「あ、あぁ…」

 

本当になんだったんだ?

 

 

 

 

 

 

「それで、どこかで会ったか、だったわね…」

 

「あぁ」

 

神社の一室で座布団に正座し、俺と紫は向かい合っている。

特に会った記憶は無いんだけどなぁ…。

もしくはあのワープみたいな能力が関係あったりするのか?

 

「その前にこのスキマを説明しないとね…」

 

そう言って紫は、先程の割れ目を何も無い空間から出す。

うん。何度見ても気味が悪い…。

 

それにしてもスキマ…ねぇ。

 

「スキマってなんだ?」

 

この割れ目の事をそう言うのか?

 

「ええ。このスキマは、あらゆる空間を移動する事が出来るのよ」

 

あらゆる空間…?

つまりさっき紫から逃げた時に追いつかれたのも、ここに連れて来た方法も、

全てこのスキマで行なってたって事か…。

ワープみたいなもんか?

 

「ふふ…そうね。簡単に言えばワープみたいなものよ」

 

「なんで考えてる事が分かるんですかねぇ…」

 

「そんなことより」

 

そんなこと?俺にとっては全然そんな事じゃないんですがそれは…。

 

いや、でもまぁ小町にも顔に出やすいって言われたしなぁ…。

やっぱり俺ってすごい分かりやすい性格してんのか?

 

「どこかで会ったという質問に対して、私の答えはyesよ」

 

「………」

 

マジか。俺全然覚えてないんだけど…。

向こうは覚えてるらしいけど、俺は全く記憶にないぞ…。

あれ?これってすっげぇ失礼じゃね?

 

「大丈夫よ…。あなたが覚えてないのは分かっているから」

 

「だからなんで考えてる事がわかるんですかね…」

 

「さっきも言ったでしょう?あなたって凄い分かりやすいわよって」

 

ア、ソウデスカ。

 

やっぱり分かりやすいのか…。

17年間生きてきて今日初めて知ったぞ。

自分じゃ分からない自分っていうのも沢山あるんだな…。

 

って感心してる場合じゃない。

 

「えぇ…と。俺と紫はどこで会ったんだ?」

 

「………」

 

…まただ。また寂しそうな表情をしている。

時折見せるその表情を見ていると、なんだか胸が締め付けられる様な感覚に陥る。

 

ただどこか懐かしい感覚もする。

この懐かしさは、幽々子様と居る時と同じ感覚だ。

一体なんなのだろうか、この感覚は…。

 

「そうねぇ。どこから…いえ…」

 

「………?」

 

なんだ?紫は何を伝えようとしている?

 

「やっぱりまだそれは言えないわ…いや、言わない方がいいわ…」

 

「なんでだ…?」

 

「…一つ言うなら、あなたは幻想郷に来た事があるわ」

 

俺が?幻想郷に?

ダメだ。全く思い出せない。

 

俺が覚えてないっていったら、小さい頃か?

ていったら保育園の時くらいか。そのぐらいなら記憶は曖昧だしな…。

でもいくら保育園の時に幻想郷に来たとしても、そんな衝撃的な事を忘れるか?

 

う〜ん……。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…色々とまだ話せない事もあるけど、雑談ぐらいは出来るでしょう?」

 

「え?雑談…?」

 

ざ、雑談?あの紫雑談?なにを企んでいる…?

いや、まぁ会って数分しか経ってないけどね?

 

ただ紫はあまり意味の無い会話はしないというイメージがある。

 

それに正直この人読めないから距離感わからないんだよなぁ…。

読めないといったら幽々子様もか。

 

ただ、何故か二人には雪ノ下さんと違って苦手意識は持てない…。

これが憎めない奴っていうアレなのか?

それにしても…雑談ねぇ…。

 

ほんとに何を企んでいるんだ?」

 

「なんで私が企んでいる事になってるのよ…。」

 

「「………」」

 

 

 

 

 

「………俺ってほんとに分かりやすいんだな…」

 

「いや、今回は声に出してたわよ」

 

「そうか…」

 

この癖は早く治さないとだな。いずれ不幸を呼ぶ気がする…。

………今のフラグだったか…?

 

「まぁいいわ。何を話そうかしら?ふふふっ…」

 

なんか随分と楽しそうだな。

一気に機嫌が良くなった。

 

「面白い話なんてできねぇぞ?」

 

「知ってるわよ?」

 

「あぁ、そこ肯定するのね…」

 

普通はお世辞でも『そんな事ないわよ』とか言っておくところだろ…。

いや、まぁ言われても嬉しくないけど…。

 

「だって八幡昔から口下手だったから。」

 

「ほっとけ…」

 

昔から……ねぇ…。昔の俺は随分と紫と親しかったみたいだな。

なんか俺覚えてないから、凄い罪悪感感じるんだけど…。

 

「あぁ、そういえば、もう一つ言っておくべき事があったわね。」

 

「あん?言っておくべき事?」

 

なんだ?言っておくべき事?

出来るなら幽々子様の食欲の抑え方を教えてほしい。え?無理だって……?

うん。無理だな。(確信

 

「えぇ…、あなたを幻想郷に入れたのは、私っていう事」

 

「ほーん。そうなんだ……はぁ!?そうなの!?」

 

え?マジで?

ってことは、もう一度現世に帰れる可能性があるって事か?

 

いや、まだ幽々子様に恩返しが終わってないから帰るつもりはないけど…。

また小町と戸塚に会えるかもしれん!

 

戸塚ぁぁぁぁ!戸塚ぁぁぁ!!

 

「残念ながら外には戻れないけど。」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「そ、そうか…。因みになんで戻れないんだ?やっぱり死んだからか?」

 

俺が幻想入りして初めに冥界に落ちたのは、現世で死んだからか?

普通は幻想入りで冥界に入る事なんて滅多にないって幽々子様も言っていたしな…。

 

「いいえ。あなたは死んだというより、存在が消えたという方が正しいわね」

 

あぁ、これも幽々子様から聞いたな。

存在が否定されると、否定された者の存在は現世から消えるって。

どっちにしろ現世には戻れない……か。

 

「八幡の場合は少し特殊だったけど…」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

ボソっと紫がなんか言った様な気がしたが聞き取れなかったな。

俺に難聴主人公スキルは無いはずだが…?

いや、俺の場合、難聴主人公というよりただの難聴か…。

 

「いえ、なんでもないわよ」

 

「そ、そうか…」

「ん?それなら紫は現世の様子とかも見れるのか?」

 

「ん?えぇ。見れるわよ?実際あなたの中学生時代も見ていた訳だし」

 

「え?………んなっ…!」

 

もしかして…、もしかして俺の厨二時代のアレやコレも…?

こ、この野郎…何ニヤニヤしてやがる…!クソっ。殴りてぇこの笑顔…。

 

大体プライバシーの侵害だろこれ…。

また俺の黒歴史が一つ刻まれた。…まだニヤニヤしてやがる。

 

この雰囲気BBAめ………あ」

 

「今…なんて言ったかしら…?」

 

 

 

早速フラグ回収しちゃったよ……。

 

 




誤字脱字多いかも。

五話目です。
おおまかな設定と展開は決まってるけど、
細かいところが決まってないので次の投稿までに、時間が空くかもしれません。

一応ヒロイン“的”ポジションは、ゆゆさまとゆかりんです。






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不器用な『妹分』との距離

妖夢は現時点ではまだ少し幼いです。見た目の変化はほぼ無いと思ってもらっていいです。

後、今回一部深夜テンションで書きました。文法がめちゃくちゃで話が頭に入ってこないかもしれないけど、許して…!



※報告※

突然ですが、『章』で話を区切る事にしました。
更に突然ですが、今回で第1章が完結です。



紫とたわいのない会話をした後、今は食材を買い終わり白玉楼へ戻っている途中だ。

 

 

なんか『白玉楼の買い出し』って言ったら、みんな荷台寄こすんだよな。

幽々子様の食欲は人里にまで広まっているのか…。

 

 

結局今は八百屋さんから借りた荷台で、大量の食材を運んでいる。

 

 

(やっと冥界に着いた…重すぎるだろこれ、何kgあんだよ)

 

 

そんな事を考えながら、俺は白玉楼へと歩を進める。

白玉楼への道はもうそう長くない。

 

 

 

冥界。

 

冥界というと最初のイメージは暗い様な、そんな雰囲気を想像していた。

ただそんな事は全くなく、冥界の空には青空が広がっている。

桜の木も立ち並んでおり、花が開けばさぞかし綺麗な事だろう。

 

ただ、あいにく今の季節は初冬。

桜の木々からに着いていた紅や黄色に染まった葉は落ち、

地面で凍り付いていた。

 

お、そんな事を考えていたら白玉楼についたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰りました」

 

決して大きな声ではないから聴こえてはいないだろう。

いや、大きな声が恥ずかしいとかじゃないぞ?

 

ただ、出て行く時は『行ってきます』帰ってきた時は『ただいま』これ、常識。

 

まずこの大量の食材を蔵に仕舞わないとな。

それにしても、これを蔵に運び入れる作業を考えると気が遠くなるな…。

 

(ざっと考えて四往復ぐらいか。はぁ…。)

 

思わずため息をこぼしてしまう。

でもこんな所でずっと突っ立ってても仕方ない、運ぶか…。

俺は野菜の入ったカゴを持ち上げるが…。

 

「おいしょっ…………ナニコレ重っ!?」

 

な、何だこれ?本当に野菜か?鉄の塊とかじゃないよな…?

入っている食材は、

大根3本に人参3本。白菜3玉に玉ねぎが……etc

 

あぁ…。これは重いわ。

 

「うん?比企谷、帰ったのか。」

 

「っ……よ、妖忌さん…は、はい、今帰りました」

 

いきなり話しかけられるもんだから、ついビクッとなってしまった…。

なんか俺妖忌さんと話す時、いつもそうなってないか?

 

「ふむ…この大量の食材は流石に重いだろう。これは私が運んでおこう」

 

「えぇ?いや、さすがにそれは悪いですよ」

 

確かに力も体力も妖忌さんの方が上だろう。ただ、半人半霊といえど妖忌さんは結構歳だ。

ここで全て妖忌さんに任せる程、俺は性根が腐っちゃいない。

 

本当は手伝って欲しいがな…。

 

「ここは俺が全部やるんで、妖忌さんは休んでてください」

 

「………ふむ…」

 

俺がそういうと、妖忌さんは何か考えた様子になる。

あれ?俺なんかまずい事言っちゃったか…?

 

「実を言うと、今孫が白玉楼に来ていてな…」

 

「孫……ですか?」

 

妖忌さんの孫。

少し前に妖忌さん自身に、稽古の途中で聞いた事があった。

名前は聞いた事がないが、半人半霊の7歳の女の子と言っていたな…。

 

「あぁ、幽々子様がな…………。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

あの後、妖忌さんから説明があった訳だが…。

 

妖忌さんの孫は、俺が来る少し前までは白玉楼に住んでいたそうだ。

ただ、常識やマナーなどを学ぶ為に、少しの間妖忌さんは寺子屋に預けていたらしい。

 

それにしてもさすが妖忌さんだな…。

普通7歳の孫を一人で寺子屋に預ける事なんてしないぞ?

 

本当にあの人は厳しい。孫にまで厳しいとは思わなかったが…。

 

 

最初はお孫さんを寺子屋に預ける事を幽々子様は反対したらしいが、

 

妖忌さんは稽古に仕事。

幽々子様は………うん。無理だな。

 

そんなこんなで寺子屋に預ける事になったらしい。

 

 

ただ、いくら妖忌さんといえど孫を一人で寺子屋に預けるのは心配だったらしく…。

そこで白羽の矢が立ったのが俺という訳だ。

 

『なら、八幡に任せれば良いんじゃないかしら〜。』

 

という幽々子様の一言で決まったらしい。

 

うん、つまり仕事が増えた。

やばい、俺どんどん社畜になっていってるな…。

 

まぁ、とにかく今は幽々子様に詳しい話を聞きに、

幽々子様が居る茶室へと向かうべく、冷えた廊下を歩いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えーっと…茶室はここであってるよな?

白玉楼は無駄に広いから未だに迷うんだよな…。

 

 

「失礼します」

 

 

襖をノックして茶室に入る。

 

 

「あら八幡。お帰りなさ〜い」

 

 

幽々子様は、いつもの様にニコニコ笑顔で手を振って帰りを迎えてくれる。

ん?見慣れない子供が居るな。この子が妖忌さんのお孫さんか?

 

この子の顔………どこかで見たような…?

 

「幽々子様。この子が?」

 

あぁ、小町だ。いや、顔も雰囲気も全くにてないけどな?

表情が小町が家出した時の表情と一緒なんだよな…。

 

小町…元気かな…

 

 

「あら?妖忌から聞いていたの?そうよ〜、この子が妖忌の孫の妖夢よ。可愛いでしょ〜?」

 

ほーん。妖夢って言うのか。銀髪なのか?それとも白髪?アルビノか?

まぁ俺には違いなんてよく分からんが、白いショートの髪に、黒いリボンの付いたカチューシャをしている。

 

7歳っていうぐらいだから見た目は幼いが、なんか大人びた雰囲気だな…。

 

どこかルミルミを彷彿とさせるな。

 

「魂魄妖夢です。宜しくお願いします。」

 

「お、おう。比企谷八幡だ…」

 

あらやだ大人…!

いや、そうじゃなくて、本当に7歳なのか?

まだ警戒をしてるってのもあると思うが、妙に大人びてんな…。

 

 

いや、でも今まで周りに大人しかいなかった訳だもんな…。

そりゃそうに育つか…。

 

「それで八幡に妖夢の世話を頼みたいんだけど・・・。頼めるかしら〜?」

 

幽々子様が、申し訳なさそうな目で俺の顔を除きこんでくる。

 

あ、少し涙目になってる。

幽々子様には申し訳ないけど、なんかもう少し見ていたい…。

 

 

「そ、そうよね。八幡は忙しいものね…ごめんなさい、他を当たるわ…」

「そうですよ幽々子様。いきなりこんな事頼んで、比企谷さんに失礼です」

 

あれ?俺が早く答えないもんだからなんか変に話進んじゃったよ…。

 

「あ、あぁ。別に俺はいいですよ?今更仕事の一つや二つ変わらないですし…」

 

「本当?無理してない?」

 

幽々子様が心配そうに覗き込んでくる。カワイイ。

じゃなくて…妖夢の世話引き受けるのは理由がある。

 

「はい。大丈夫ですよ。小さい子の面倒を見るのは慣れてるんで。」

 

そう、小町だ。

 

妖夢には失礼だが、家出をした時の小町とどこか重ねてしまったのだ。

いや、似てるといった方が正しいか…。

 

 

妖夢の事はまだ何も分からない。

でもどこかあの時の小町と似ている。寂しそうな表情。

いくら大人びているとはいえ、まだ子供だ。

 

 

理由なんてそれだけでいい。

つまり、妖夢を妹の様に感じてしまったのだ。

 

やっぱり千葉の兄として、こればっかりは放って置けない。

 

今の俺を見て小町はなんと言うだろう?

 

 

 

『小町以外の妹を作るなんてポイント低い!』か?

いや、違うな。

 

 

 

それなら『やったねお兄ちゃん!義姉ちゃん候補ゲットだよ!』か?

それも違うな。相手は幼女だぞ?

 

 

 

じゃあ『車に轢かれて冥界に落ちてまで妹の事考えるなんて…

小町的にはポイント高いけど少し気持ち悪いよ…?』か?

うん。これだな。

 

 

 

 

自分で言ってて少し悲しくなったが、これで良い。

これぞ千葉の兄妹(おれたち)の絆だからな……キモいな…。

 

 

「まぁ、その、なんだ。妖夢、宜しくな…」

 

「は、はい。宜しくお願いします…」

 

妖夢と小町は違うってのは分かってる。

それに俺の妹は小町だけだ。

 

それでも妖夢はどこか放っておけない。

 

小町と重ねているのは確かだが、小町と妖夢は全く似ていない。

え?さっきと言ってることが違うって?

 

似ているのは表情だけだ。後は全く似てない。

これからは妖夢を『妹分』として、関係を築いて行こう。

 

大体小町程アホな子なんてそうそう居ないだろう。

 

ただ、表情だけでも小町と似てるのなら、一度妖夢を小町と重ねてしまったなら、それは放って置けねぇよな…。

 

うん、やっぱり俺は重度のシスコンらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拝啓。小町

 

少し不器用な『妹分』が出来ました。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

妖夢が白玉楼に来てから、いや、正確には戻って来たが正しいのか。

仕切り直して、妖夢が白玉楼戻って来てから2日目だ。

 

今日の天気は晴れで。

白玉楼の中庭には、昨日の夜に降った今年の初雪が積もっている。

 

「なぁ、妖夢」

 

「はい、なんでしょう」

 

俺はいつも通り幽々子様に朝食を作り、食器の片付けをした後に、

今は妖夢と部屋でお茶を飲んでいる。

 

今日一日は妖夢と二人で居なさい。って幽々子様に言われたが、

あの人は何を企んでんだか…。

 

「少し散歩にいかねぇか?」

 

「さんぽ…ですか?」

 

妖夢は怪訝そうな表情で、俺を見てくる。

まぁ、そうだよな。なんの前触れもなく散歩に誘ったらそうなるよな。

 

「あぁー…そうだ。少し外を歩かねえか?」

 

ほんと、こういう時だけ上手く返せない自分が嫌になる。

 

「わ、分かりましたっ…」

 

いや、それは妖夢も同じみたいだな…。

妖夢はいそいそと外出の準備をしている。

 

俺も準備するか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに冷えるな」

 

「そうですね…」

 

白玉楼を出て今冥界をうろついている訳だが、

これはたから見れば7歳の少女を連れ出している不審者だよな?

 

まぁ冥界には魂と幽霊ぐらいしか居ないから大丈夫だろ…。

 

「「………」」

 

それにしても会話が続かねぇ…。

 

まぁ俺も妖夢も器用な方じゃないしな…。

そりゃそうなるか。ここは誘った俺が話を振らなきゃな…。

 

「な、なぁ妖夢。寺子屋では友達とか居たのか?」

 

なんだこの、家に久し振りに来てくれた孫に対してお爺ちゃんがする様な話題…!

 

「いえ、必要ないので」

 

「そ、そうか…」

 

話終わっちゃったよ…。

 

友達が必要ないね…。まぁその言葉には同感だな。

妖夢が何を思って友達が必要ないと言っているのかは分からないが、俺は要らないな。

あんな偽善と欺瞞で塗り固められたアクセサリーみたいな関係……。

 

チッ、リア充爆発しろ」

 

「りあじゅう?りあじゅうって何ですか?」

 

あ、やべ。心の声漏れてた…。

 

「あ、あー……ま、まぁ爆発物だ…」

 

うん。まだ妖夢は知らなくていいんだ。

あんな汚ならしいもの…。

 

「爆発物…ですか?」

 

「あぁ、諸悪の根源と言っても良いな」

 

うん。間違った事は言ってないな。

何が青春だよ…ただの自己満足だろ。

 

「爆発物で諸悪の根源ですか…よく分かりませんが、比企谷さんはりあじゅうを持ってるんですか?」

 

「…………いや、俺は持ってないな」

 

うぐっ…!無意識に俺の心をエグっていきやがった…!

妖夢……恐ろしい子…!

 

「そうですか…それなら、そのりあじゅうという物はどんな物何ですか…?」

 

何でこの子こんなリア充に興味津々なの?リア充にでもなっちゃうの?

それと、冗談抜きで妖夢にリア充なんて造語を教える訳にはいかない。

 

「い、いや、妖夢にはまだ早いと思うぞ?」

 

「そうですか…今は良いです。ただいずれ斬ります」

 

妖夢は不満げに言うが、うん。良かった…。

変な言葉を教えて妖忌さんに殺されるだけは勘弁だしな…。

 

「あぁ、そうしてくれ………って斬るってなんだよ…」

 

「この世の物は、取り敢えず斬れば分かります」

 

妖夢は、フンスっと鼻を鳴らしながら胸を張って言う。

妖忌さん………一体どんな教育をしたら7歳がこんな事になるんだ…?

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

そんなこんなで話していくうちに、最初は消え入りそうだった会話も、段々と会話のドッチボールは早くなって行き、今や妖夢はたまに笑顔を見せながら、楽しそうに話す事も珍しくなくなった。

 

 

お爺様は偉大だとか…、

 

幽々子様はめちゃくちゃだとか…、

 

寺子屋で習った事や、初めて見た物。

 

 

妖夢は沢山の話を、楽しそうに話している。

俺も柄にもなくどこか嬉しくなって、外での生活や、話を妖夢にすると、嬉しそうに聞いてくれる。

 

(あぁ、天使だ…)

 

なんてくだらない事を考えながら、

妖夢と俺は、雪の積もった石畳の上を並んで歩く。

 

 

決してその距離は近くはないが、いつかその距離は縮んでいくだろう。

 

 

なんてセンチメンタルな事を、冥界の綺麗な雪景色を見ていると、つい考えてしまう。

 

そんなキザっぽい事を考えていると、妖夢がまた別の話を始める。そして俺は、それを静かに聞く。

寒さなんて忘れて夢中になっては話す妖夢を見て、妖夢の幼さを改めて感じた。

 

 

 

 

 

(幻想郷での生活ってのも、案外悪くないかもしれないな…)

 

下らないことを考えながら、二人で雪の道を進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

八幡と妖夢が散歩をしている最中、

白玉楼の蔵の中で、怪しく紫色に筋の様に光るナニカが…。

 

その怪しい光は、ひとりでに動き出した──

 

 

 



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第2章 〜麗刀異変〜
バカルテットと自己紹介


オリジナル異変です。
オリジナル設定もこれから入ってきます。
つまり原作との矛盾が出てきます。

バカルテット+大妖精は寺子屋の生徒って設定にしました。いいよね?(威圧

あと、口調はオリジナルが入ります。
原作通りだと、結構口調が被るんだよなぁ…。




妖夢が白玉楼に来てから、もう二ヶ月が経った。

 

え?進むのが早いって?

仕方ないだろ、二ヶ月の間それといって何もなかったんだから…。

あったとしても、いつも通り幽々子様の爆食いぐらいだな。

 

そして、今日は買い出しの日な訳だが……

なんだか人里の雰囲気が暗いな…。

 

俺は、人里の住人の話を聞くために耳をすませた。

 

『ねぇ、聞いた?まただって…』

 

また?なんのことだ?

 

『あぁ、またか…。次々と妖怪が廃人になって行ってるって話だろ?』

 

妖怪が…廃人に…?

そんな事がありえんのか?

 

幻想郷での妖怪は、人間より遥かに寿命がながく妖力も強い。

そんな妖怪が『次々』と廃人になるなんて事は滅多にないだろう。

そういえば俺も妖怪だよな…。

 

ま、大丈夫だろ。

 

『妖怪だけじゃなくて、妖精まで廃人になったって噂だけど…?』

 

妖精?妖精までも廃人になってんのか…。

妖怪限定って訳じゃないなら、無差別に事が進んでるって訳か…?

 

『でも…、なぁ…。』

『そ、そうだよなぁ…?』

 

ん…?なんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よ、妖怪が減るなら、しばらく平和に過ごせるよな…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだったな………。

 

 

幻想郷だろうと、人間は人間だ。

こればっかりは外の世界と変わりない。

 

妖怪などといった不思議な力を持つものが居れば、それを邪魔に思うのが人間だ。

そりゃそうだ、自分より圧倒的な力を持っているのだから、恐怖を感じ、嫌悪感を抱いてもおかしくはない。

 

妖怪は人間を襲うものだ。中には人間を食料とするものも少なくはない。

 

もしそんな人間が外の人間に知れ渡ったら、どうなるのだろうか。

無論、排除を試みるだろう。

そして、そういう時だけ全世界が一致団結する。妖怪という名の人間の脅威に、理不尽を、不条理を押し付け、敵に仕立て上げる。本質を見抜こうともせずに…。

 

妖怪の味方をする人間や国が出てきてもおかしくはないが、そんなのはごく少数派でしかないだろう。

そんな少数の人間は、もちろん同じ人間に迫害される。だからこそ、それを恐れて口には出せない。奉仕部に入ったばかりの由比ヶ浜がいい例だ。

 

まぁ、俺も平和に過ごせるに越したことはないがな。

……食材、買いに行かなきゃだな。

 

最初は八百屋n…「大ちゃぁぁぁああああんっ!!!!」

………なんなんだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな声がした方に来た訳だが、明らかに人外の五人の幼女を何人かの取り巻きが囲んでいた。

よし。あの五人組を幼女五人組と呼ぼう。

 

ってそんな下らない事を行ってる場合じゃないな。あれやばくねーか?一人倒れてるぞ?

 

………ま、まぁ、誰かがなんかしてくれるだろ…うん。

俺は食材買いに行かないとな…。

 

「大ちゃぁぁぁぁああん!!」

 

「…………」

 

いや、早くしないと幽々子様がお腹空いてぶっ倒れるからな。

その前に食材を買って帰らないと…。

 

「誰か!大ちゃんが!大ちゃんが!!」

 

「………」

 

いやいや、まぁもし声をかけるとしてもな?一度白玉楼に戻ってからじゃないとな。うん。

よしそうだ、そうしよう。

 

「大変なのだー!大ちゃんがー!」

 

「………」

 

いやいやいやいや。だとしてもだろ?

こんな泣き喚く少女達を放っておく人なんて…。

 

「うわぁぁぁん!大ちゃぁぁん!」

 

「………」

 

俺が心の中で葛藤をしている途中でも、周りの取り巻きは一つも行動を示そうとしない。

 

 

幻想郷だろうと、人間は人間だ…。

 

 

ついさっき自分で言っただろ、これ。

 

俺もその人間の一人だ。

うん。ここは見て見ぬ振りを決め込むか…。

 

よし。八百屋に向かおう。

 

ただ、そこで俺の行く手を邪魔したのは妹との会話だった。

 

 

 

『お兄ちゃん。困ってる人が居たら、どんな人でも助けてあげるんだよー?あ、今の小町的にポイント高い!』

 

 

 

………いや、少し声かけて行くか。目立つのは嫌だが。

うん、今の八幡的にポイント高い!………キモいな。

 

「はぁ…。おい、お前ら…」

 

「あ!お、お兄さん!大ちゃんがぁぁ〜…」

 

触覚(?)みたいな物をはやした緑の髪の子が涙目で話しかけてくる。

ただ、必死に何かを訴えかけようとするが、焦って言葉にならず、泣き崩れてしまう。

 

事案発生だな…。

腐った目の男が、泣いている幼女達に話しかけてるっていうね。

しかもその内一人は倒れてるぞ…。こんなん事案だろ。

 

「あー……。えーっと、何があった?」

 

比較的落ち着いて………いや、放心状態の金髪の幼女に尋ねる。

 

「大ちゃんがいきなり倒れて…、それで、、それで…」

 

金髪幼女も焦った様子で、あまりうまく話せていない。

まぁこんな時だし、仕方ないか…。

 

「落ち着いて話せ。大丈夫だ、大丈夫……な筈だ…。」

 

うん。大丈夫だ。自信ないけど。

ただこういう時は、落ち着かせるのが一番だって聞いた事がある。

 

「チルノ達と冒険してたら…、大ちゃんがいきなり倒れて………」

 

……チッ。ここじゃ取り巻きもいるし、落ち着いて話せないか…。

一旦この近くの寺子屋に行くか…、慧音さんもいるかもしれねーし。

 

「よし、一度寺子屋に行くぞ。」

 

「て、寺子屋…?」

 

俺は倒れている子供を抱え、他の子供達を連れて寺子屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んで、寺子屋についた訳だが…。

慧音さんいるのか…?

 

「ん?八幡か………って、何故大妖精が倒れているんだ!?」

 

「あ、ああ、慧音さん。さっきそこで倒れているのを見つけて…」

 

良かった…。慧音さん居たのか…。

 

「そ、そうか…。とにかくっ!寺子屋に入ってくれ!チルノ達も!」

 

「「「「は、はぁい……」」」」

 

人外幼女四人組は泣きそうになっている。

 

俺は慧音さんに寺子屋の教室まで案内される。

ふぅ…。まぁこれで一旦落ち着けるか…。

 

まて?大妖精?チルノ達…?

慧音さんはこの幼女五人組の事を知っているのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず八幡。」

 

「ひゃいっ…!?」

 

真剣な表情をして低い声で話すから、つい声が裏返ってしまった…。

待て、これ怒られる感じの雰囲気?なんで?

 

幼女に手を出したからとか…?

いや、ちょっと待て。これは下心があった訳じゃなくてね?

さすがに喚いてる少女達を放っておけなかったって言いますか…。

 

うん。だから俺は悪くない。

 

「ありがとう…!」

 

はい?

 

「はい?」

 

いや、心の声と同じに間抜けな声出しちゃったよ。

まぁ、ちょっと予想外だったしな…。

 

「この五人は、うちの生徒なんだ」

 

「あ、あぁ成る程。だから………」

 

この幼女五人組の事を知っていた訳か…。

 

「あぁ。八幡が居なかったら、多分誰もあの子達に声をかけていなかった…」

 

いや、俺も最初は見捨てようとしてたんだけどな…。

うっ…!罪悪感で胸が痛い…。

 

「さ、さすがに一人ぐらいは声をかけてたんじゃ…?」

 

「霖之助とかなら声をかけていただろうが…。人里での妖精の扱いは軽いからな」

 

「あぁ、納得…」

 

幻想郷でもそういうのはあるんだな…。

差別行為って言ったら少し大きすぎるかもしれないが。

 

「それで、八幡。あの子達何があったんだ?」

 

また慧音さんは真剣な面持ちになる。周りに緊迫した空気が流れる。

そりゃそうか…。自分の生徒が意識不明の状態で運ばれてきたらそうなるよな…。

ただ、残念ながら俺はまだあの子達から何も聞けていない。

 

「あー…それが俺もまだ何も聞いてないんすよ…。」

 

すみませんね。役立たずで…。

 

「そうか…あの子達も焦っている様子だったしな…。仕方ない…か…。」

 

「・・・・」

 

部屋に静寂が訪れる。

慧音さんは、下を向いて何かを思考している様だ。

まぁいつもなら適当に理由を作って、関わらない様にしていたが…。

ここまで関わっちまった分、今回ばかりは無理そうだな。

少しぐらい協力はしないとか。

 

「あ、あの…。」

 

「うん?どうした…?」

 

慧音さんを呼びかけると、思考を止めてこちらを向いてくる。

 

「さっき人里で聞いたんすけど…。」

 

「ん?何をだ?」

 

さっき人里で聞いた事。

つまりは妖怪や妖精が次々と廃人になっているという話。大妖精…だったけ?

とにかく、その大妖精も意識不明。何か関係があるんじゃないかと俺は考えた訳だ。

 

「妖怪や妖精が、次々と廃人の様になっているって話です…。」

 

「なっ!?それは本当か…!?」

 

慧音さんは俺の肩をガシッと掴んでくる。

いや、痛い痛い痛い!

 

「は、はい…。」

 

「〜〜〜ッ!そうか…。異変…か…。でも何故…?」

 

また慧音さんはブツブツと思考を初めてしまう。

 

それにしても異変?異変ってなんだ?

 

「あの…、慧音さん。異変ってなんすか?」

 

「妖怪が…いや、妖精も…?なら……妖力か…?だとしても…」

 

あぁ、これ聴こえてねーぞ…。

うん、長引きそうだな。

 

慧音さんに異変という物の意味を聞くのを断念し、

寺子屋の教室から出て行こうとしたその時に、教室の外からガタッと物音がした。

今度はなんだ…?

 

 

 

 

 

 

「あ、お兄さん…。」

 

寺子屋の戸を開けると……。

案の定幼女五人組・・・いや、大妖精が抜けて四人組か。

 

「はぁ…なにしてんだ?」

 

「い、いや〜。さ、散歩に行こうかと…。」

 

水色の髪の幼女が答える。

いや、散歩って…。絶対今の話聞いてただろ…。

 

「そうか…その異変とやらをどうにかしようとすんのが、お前達にとっての散歩なのか…?」

 

「「「「ギクゥッ!」」」」

 

いや、ギクゥッって…。四人同時にギクゥッって…。

口で言う奴初めて見たぞ…。

 

「慧音さんも心配してんだし。子供は大人しくしとけよ。」

 

何歳かは知らんけど。

もしかしたら俺より年上かもしれんな…。

 

「こ、子供じゃないぞー!」

「そーだそーだ!」

「そのとーりよー!」

「そーなのだー!」

 

「あーはいはい。」

 

四人同時に喋るな。うるせぇ…。

それ以前にこいつらに危険な真似はさせられない。

お世辞にも強そうとは思えないからな。

 

いや、待てよ?ここはなんでもありな幻想郷だ。

もしかしたらこの四人組は幻想郷最強の……!?

 

・・・いや、ないな。

 

「とにかく部屋戻って大人しくしとけ。」

 

しっしっと手を払って四人組を慧音さんの居る教室に追いやる。

慧音さんはまだなんか考え事してるし……はぁ…。

 

厄介な事件に関わっちまったな…。

食材の買い出し…どうしよ。

 

俺がそんな考えに浸ってる隙に……。

 

「よしっ!今よっ!」

「うわー逃げろー!」

「逃げるのだー!」

「あたい達が大ちゃんを救うんだー!」

 

幼女四人組が寺子屋を猛ダッシュで出て行く。

くそっ…!あの幼女四人組逃げ出しやがった。

 

「あ、あの、慧音さん?」

 

「ふむ…、いやしかし…。ただ…巫女が…。妖刀か……?」

 

まだブツブツ考え事してるよ…。

 

………え?これ俺が追っかけんの?

 

 

 

 

 

 

……マジかよ…。

 

俺は幼女四人組の後を追いかけるべく、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか走って追い付いたが・・・。

飛べるなんて聞いてねぇ…。

妖忌さんの厳しい剣の稽古で体力はついたが、さすがにこれはきつい…。

 

「はぁ…はぁ…。おい…待てよ…。」

 

息を整えようと必死に呼吸する。

冬の冷たい空気が肺に入り、物凄く辛い。

 

「ヒィッ!?ゾンビッ!?」

 

ヒデーな…。

いやまぁ、腐った目の男がはぁはぁ言いながらゆっくり近付いて来るとなると、

ゾンビか変態しかいないよな。

 

「お、落ち着いてミスティア!このゾンビみたいなのはさっきのお兄さんよ!」

 

触覚っぽい何かが生えた緑の髪の子が訂正する。

うん。ゾンビじゃなくてお兄さんだよー。問題ないよー。()

訂正の仕方に問題はあるがな。

 

「はぁ…はぁ…、ふぅ…。んで?なんで逃げた?」

 

「むっ…。お兄ちゃんこそ!なんですとーかーするの!」

 

今度は水色の髪の子がムッとした表情で聞いてくる。

ストーカーって…。いやまぁやってる事はそうなんだけどな?

 

「ストーカーじゃねぇ…。それより、そろそろお前らの名前を教えてくれ…。」

 

そうしないと作者が限界なんだよ!

いちいち『水色の髪の子』とか、『金髪の子』とか。

 

あれ?作者ってなんだ?

 

「「「「・・・・」」」」

 

ん?なんでそこで黙るんだ?

 

「ねぇ…。この人だいじょぶなの?」

「うーん…。悪い人には見えないけど…。」

「そお?目がドロドロに腐ってるわよ?」

「でも慧音先生と知り合いみたいだけど…。」

「そーなのかー?」

「うん。なんか難しい事話してたよー?」

「とにかくっ!何かあってもあたいの最強パワーでなんとかできる!」

「「「えー…。」」」

 

あぁ…警戒されてるのね…。

水色の子に限っては全く警戒の色が見えないがな。

 

「よしっ!自己紹介しよう!」

 

「お、おう…。よろしく頼む…」

 

随分といきなりだな。

いや、子供なんてそんなもんか。

 

「じゃぁ…リグルから!」

 

水色の髪の子がなんの前触れも無く、触覚っぽい何かが生えた緑色の子をさす。

やけにいきなりだな…。

 

「ふぇ!?私!?」

 

まぁそうなるよな。

うん、分かるぞ…分かるぞその気持ち。普通はテンパるよな…うん。

あれで直ぐに応えられるリア充共がおかしいよな。

 

「え、えーっと…。り、リグル!リグルよ!」

 

「「「…………」」」

 

「なっ、なによー!悪い!?」

 

分かる…!分かるぞーその気持ち…!

なんかこいつとは気が合いそうな気がする。

 

緑の髪の子改めリグルは、涙目でぶつぶつ文句を言いながら拗ね始める。

あぁ、かわいそうに…。

 

「はぁ、全くリグルは…。今度は私が自己紹介させてもらうね?」

 

リグルの自己紹介が終わり、今度は鳥っぽい羽が生えた子が自己紹介を始める。

なんの羽だあれ?触りてぇ…。

 

 

 

 

 

「私の名前はミスティア!」

 

羽の生えた子改めミスティアは満足気に自己紹介を終えたが・・・

 

「「・・・・」」

 

沈黙

 

………うん。これあんまリグルと変わらなくね?

い、いや…これは言わない方がいいのか?いやしかし…。

 

「え、えーと…えーと。うーん…。」

 

ミスティアは周りの沈黙に耐えられなくなって、なんとか他の言葉を捻り出そうとしている。

これはマズイ。このままでは俺の時の自己紹介にもプレッシャーが掛かってしまう…!

なんとかせねば…!

 

「あー…。別に無理に自己紹介にこだわらなくても…。」

「そ、そうだよね!じ、自己紹介なんかこだわらなくても良いよねっ!うん!」

 

焦った様子で食い気味にその場を誤魔化し、凌ぐミスティア。

 

うん、そうだ。自己紹介なんてなんの意味もないんだよミスティア。

ボッチにとっての障害でしかないんだよ。だから落ち着け。ワタワタするな…。

 

「まっ、いっかー。次はルーミア!」

 

水色の髪の子が次は、フヨフヨ浮いている金髪のリボンを付けた子に指をさす。

この金髪の子からは一番危険な匂いがする…。

 

「んー?わたしー?」

 

金髪の少女はフヨフヨ浮くのを止めて、下に降りてくる。

 

この金髪の子はなんか何考えてんのか分かんないんよな…。

のほほーんとしてる様に見えて、凄い危険な様にも見える。

いや、俺にとっては幻想郷の住民全員が危険に見えるまでもある。

 

「うん!ルーミアの番だぞー!」

 

「じゃぁ・・・私はルーミア。お前は食べても良い人間?」

 

お、おう…。随分とクレイジーな自己紹介だな…。

こいつこそ人を食べる妖怪って奴なのか…?

 

「い、いや。悪いが俺は妖怪・・・らしい…。」

 

「そーなのかー。」

 

両手を左右に大きく広げた謎のポーズでまた空中にフヨフヨ浮いていってしまう。

ほんと、掴み所のない奴だな…。

 

「じゃあ最後はあたいだ!」

 

うおっ。いきなり声をあげるもんだから、少しビビってしまった…。

バk・・・じゃなくて少し頭が弱い子が無い胸を張りながら自己紹介を始める。

 

「あたいはチルノ!幻想郷最強の力を持つ氷の妖精だー!」

 

なん……だと……。

まさかこいつッ!本当に幻想郷最強のッ…!?

 

「という夢を見たのか」

 

まぁそんな事がある訳がないか…。

少なくとも俺よりは強いだろうが、さすがにババっ……紫や幽々子様以上のはずがない。

 

………ないよな…?

 

「バカにするなー!」

 

チルノが騒ぎ始める。

おい。ジタバタすんな…!

 

「あぁ…、また始まった。」

 

いつのまにか拗ね終わって、俺の隣に居たリグルが呆れた声でチルノを見る。

リグル、もう拗ねるのはいいのか?目元がまだ赤いぞ?

 

「お前ら…いつもこんなに騒がしいのか…?」

 

一人は最強最強うるさいし…。

一人は勝手に拗ね始めるし…。

一人は落ち着きがないし…。

一人は何考えてんのか分かんないし…。

 

よし。この四人組をバカルテットと名付けよう。

 

「まぁね!」

「そうよ!」

 

「いや、褒めてねーぞ?」

 

胸を張って答えるミスティアとリグルに俺はすかさず返す。

ダメだ。話が通じねぇ…。

 

「とにかく!大ちゃんはあたし達が助ける!」

「そーなのだー!」

「そうよそうよ!」

「そうだー!」

 

各々でまた騒ぎ出すバカルテット。

うん。やっぱバカルテットって響きいいな…誰が考えたんだろ…。

 

「あー…。分かった分かった。そのかわり…」

 

「「「「そのかわり…?」」」」

 

バカルテットは声を揃えて聞いてくる。

ほんと君ら仲良いね。

 

「俺も着いて行く。お前らだけじゃ危ないしな…。」

 

「「「「捻ねデレだ…!」」」」

 

待て、なんでその造語が幻想郷まで広まってるんだ…。

この造語作ったの小町だよな?

 

「よし!お兄ちゃんが仲間に入るなら、自己紹介してもらおう!」

 

いや、仲間に入るなんて言ってないぞ?

寧ろ仲間に入らないから自己紹介無しで良くね

だってこれ自己紹介という名の公開処刑だろ?

 

自己紹介(公開処刑)だろ?

 

あーほらもう、子供達がキラキラした目でこっち見てるよ。

 

「あー…。比企谷八幡だ…。」

 

「「「「………」」」」

 

それだけだ。

 

「……ぷっ。」

「ふふっ…。」

「ぷっ…くすすっ…。」

「ふっ…ふふ…。」

 

くっ…!笑うなら笑え!

そしてそのまま殺してくれ…!

 

 

 

 

「「「「あっはっはっはっはっはは〜!!」」」」

 

 

 

 

くっころ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで俺とバカルテットとの初めての会合は、奇妙な自己紹介で幕を閉じた。

この後大妖精の意識を取り戻すために異変の解決とやらに向かうのだが

バカルテットとの会合が招いた一時の甘さか、俺の………

 

(なんとかなるだろう…)

 

という緩い考えのせいで、最悪の結果を引き起こす事になる──

 

 

 

 




話が進むに連れて東方の原作との矛盾が多くなると思いますが、
出来るだけ少なくするので…許して!


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恐怖と無力

自分が弾幕ゲー好きになったのは東方からだったなぁ…。
懐かしいなぁ…兄のを借りて勉強も碌にせず東方をやっていた夏の思い出(センチメンタル

ただ東方は2作品しかやった事がないっていうね。


「おい…こんな所にその異変の原因があんのかよ…。」

 

現在バカルテットと共に大妖精の意識を取り戻すために

その異変とやらの解決に向かっているのだが・・・

 

周りに見えるのは闇、闇、闇。どこぞの山の洞窟の中だ

 

「間違いない!この辺からものすっごい強い妖力が溢れ出てるから!・・・多分」

 

「おいチルノ、最後の言葉まではっきりと聞こえてたぞ。」

 

チルノの頼りない勘でここまで進んで来た訳だが、本当に頼りにならない。

さっきから何処に向かっているのかすら分からん。

 

「まぁまぁ、妖力なんて皆んなそんな感じだよ?」

 

「そうよ…外来人の八幡には分からないと思うけど、皆んなそれぞれの感覚の問題なのよ。」

 

とミスティアとリグルが言う。

それにしても適当過ぎやしませんかね…

 

って、チルノはもう洞窟の先に進んでるし…。

 

 

「待ちなさいよチルノ〜」

「待って〜」

「そーなのだー」

 

「ほ〜ら、あたいに追いつけるかな〜?」

 

いつのまにか追いかけっこみたいなのが始まってるし…こいつらは本当に異変の解決に向かっているのか…?

 

とは言っても、強い妖怪とに出て来られても困るしな…

これぐらいが丁度いいか。

 

「…ったく、あんまりはしゃぐな…危ねぇぞ。」

 

「「「「はぁ〜い」」」」

 

この洞窟に来るまでこの四人組と話して分かったが、こいつらは意外にも素直な性格だった。

話してみると可愛い奴らだ・・・・・いやロリコンじゃなくてね?

 

まぁ俺が勝手にただのくそガk……聞き分けのない子供だと思っていただけだがな。

 

「八幡!遅いぞー!」

 

チルノが俺を呼びかける。

ほんとに…元気だな。あれ?今の俺すっげぇじじぃくさい?

 

「あぁ分かった今い………く……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ!?」

 

なっ、なんだ今の…!?

身体中の毛が全て逆立った様な…全身に電気が走った様なそんな感覚…!

 

んだよこれ…こんな感覚始めてだぞ…?

バトル漫画の主人公かなんかかよ…。

 

「…?八幡…?どうしたのよ…?」

「どーしたのだー?」

「うん?どうかしたんだい?」

「先行くぞー?」

 

バカルテットが心配そうに俺の顔を除き込んでくる。

 

ダメだ…その洞窟の奥に行くのは危険な気がする・・・いやはっきりとは分からんけど…

とにかくこの先へは行かせな…「誰…!?」

 

「誰か居るのか…!?」

 

暗闇の奥から声が聞こえ、洞窟に声が響く。

 

俺の声じゃない…バカルテットでもない…。

じゃあこの声の主は誰だ…?

 

「出て来て下さい!」

 

さっきの声とまた違う声がしたぞ?二人居んのか…?

まて、もしさっきの電気の様な感覚の正体がこの声の主たちなら・・・あれ?これ詰んだ?

 

「出て来ないなら…こちらから行くぞ…。」

 

バカルテットは俺にしがみついて涙目になっている…

この声の主が異変の正体だった場合目的は達成出来るが、正直倒せるとは思えない。

 

 

もし異変の正体が人や妖怪。妖精を見境なく食べる妖怪だったら?

 

妖怪、妖精の意識を奪う妖怪だったら?

 

 

そうじゃなくても今の俺にバカルテットを…いや、自分さえも守れる力を持っていない。

つまり異変の解決以前の問題だった。少し甘く見すぎていた…。

あぁ、助けてくだされ…神様仏様小町様…

 

ただ、そんな俺の考えもつゆ知らず、容赦なく洞窟の奥から二つの足音が近づいてくる。

そして出て来たのは・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「あー!ブン屋のー!!」」」」

 

・・・・ブン屋…?

 

「あや?人里の妖精さんがたじゃありませんか。」

 

「なんだ…妖精か…。」

 

出て来たのは、カラスの様な羽を生やした少女と、犬の耳の様な物をはやした少女だった。

見た目は俺と同い年ぐらいだ。

 

バカルテットの知り合いか?

なら安心だが…。

 

「んー?この男性は見た事がありませんねぇ…外来人ですか?でも人間しては妖力が異様に高い様な…」

 

羽を生やした少女がジロジロこちらをうかがってくる。

いや、なんか近い近い!なんで女性ってのはこんなにいい匂いがするんだ…

 

「文さん、失礼でしょう?名乗りもしないで…。」

 

「おっとそうでした!私は射命丸文!特ダネだらけの面白味しかない新聞、文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)を出版する鴉天狗の少女!清く正しい射命丸です!」

 

射命丸さんはビシッと敬礼をキメながら自己紹介をする。

新聞か…幻想郷にもそんなのがあんのか。

 

「私は付き添いの犬走椛だ。」

 

犬走さんは淡白に挨拶を済ませる

なんか真面目そうな人だ…。

 

「俺は、ひきぎゃ…比企谷八幡です。」

 

うん、噛んだ。

 

「八幡さん…ですか…」

 

俺が噛みながらも簡単に自己紹介を終わらすと、射命丸さんは再びジロジロと舐め回す様にこちらを見てくる。

っていうか、この幻想郷では名前呼びが普通なのか…?

 

「すまないな、怖がらせてしまって」

 

犬走さんは、俺らに向かって頭を下げてくる。

 

うわ、すっげー罪悪感。

全然犬走さんは悪くないのに…。

すっげー罪悪感(二回目

 

「い、いえ…全然大丈夫っすよ。」

 

俺が犬走さんに断りを入れると…

 

「怖がってないもーん!」

「そーなのだー」

「そーよそーよ!」

「あたいったらサイキョーね!」

 

俺の後ろでバカルテットが騒ぎ出す。

お前ら全員涙目になってたじゃねぇか…。

 

 

 

バカルテットが騒いでいる間に、射命丸さんは俺のすぐ横隣にスッと並ぶ様に近付いてくる。

 

なんだ?この行動…?

 

「八幡……さん…」

 

射命丸さんはトロンとした表情で口に木の枝を物を咥え、顔を近づけてくる。

体はもう完全にぴったり近付いている。

 

待て…!それ以上顔を近づけたら……!近い近いいい匂い!

 

「あっ、あにょ!にゃにやって…!?」

 

射命丸さんが咥えている枝先はもう俺の口先に当たり、少し動かせばキスをしてしまうという程の距離になり、思わず狼狽え、後ずさってしまう。

 

「ん?って・・・ホントに何してるんですか!文さん!」

 

俺の状況に気づいた犬走さんが、俺から射命丸さんを引き剥がしてくれた。

 

べっ、別にっ!ちょっと残念とか思ってないんだからねっ!

うん、キモい

 

 

 

 

「・・・はっ!私は何をして…!」

 

射命丸さんがトロンとした顔からようやく元に戻った

ホントになんだったんだ…?

 

「はぁ…文さん、だからあなたの付き添いは嫌なんですよ…!」

 

「んなぁっ!?いきなりどういう事ですかそれはー!?」

 

おいおい…なんか揉め始めたぞ…?大丈夫なのかよ。

まぁ、俺もバカルテットと一緒に傍観しておこう…

 

「いっつもいっつも予測不可能な行動を取って!振り回されるこっちがどれだけ大変だか知ってます!?」

 

「特ダネは何処に落ちてるか分からないんですよ!常に予測不能なんですっ!」

 

「そーですかそーですか…じゃあさっきのも特ダネですねー。文さんの新聞に載せるといいですよ…」

 

「ん?さっきの?さっきのってなんですか…?」

 

「『新聞屋の射命丸文。人間の男性と熱愛発覚』…って!」

 

「…なっ!?違いますぅー!さっきのは本能的な……

 

うん。すっげぇ不毛な争いしてる。

 

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 

まとめると、射命丸さん達は今回の異変を突き止め記事にすべく、大きな妖力を追ってこの洞窟に辿り着いたらしい。

 

『ほらねっ!あたいは間違ってなかったんだ!』

 

と、チルノは胸を張って威張ってたが、射命丸さん達が言うにはここには何も無かったそうだ…

チルノ…ドンマイ…!強く生きろ…!

 

 

まあそんなこんなでこの洞窟には何も無いって事だ。

つまり帰れる。よし、帰ろう。

 

買い出しから帰る時間から大幅に遅れている…。絶対妖忌さんに怒られるが、これ以上遅れたらもっと大変な事になる。

 

帰らねば…!

 

「えーここには居ないのかー」

 

チルノが口を尖らせて言う

お前ホントに大妖精を助けようとしてんのか?楽しんでね?

 

まぁ、でも・・・

 

「安全に越したことはねーだろ」

 

多分さっきの電流の様な感覚はこの天狗二人だろう。

この二人も相当な実力者ってとこだろ…俺のアホ毛センサーもビンビン反応してるしな。

 

「ん?はっ!そろそろ行かなくては!」

 

射命丸さんが何かを思い出した様に声を上げる。

 

「この後何か用事ありましたっけ?」

 

犬走さんが首を傾げる。

さっきまで不毛な言い争いしてたのに…いつの間に終わったんだよ…

 

「何言ってるんですか!此処にネタが無い以上他のネタを探さなくては!」

 

「ん?意外ですね。文さんならこの外来人…八幡に取材すると思ったんですが」

 

外来人に取材…か…。よっぽど外来人が珍しいんだろうな。

 

でも新聞に載るのは御免だな…。

 

「先週の新聞の最後に、異変の事を取材するって載せちゃったんですよー!」

 

なんだその次回予告みたいなノリ…新聞にそんなの載せるなよ…。

特ダネは常に予測不能なんじゃねぇのかよ。

 

「…なっ、なんで新聞にそんなの載せるんですか!何が特ダネは予測不能なんじゃないんですか!?結局自分で自分の首を絞めてるじゃないですかぁー!」

 

あ、思ってた事全部犬走さんが言ってくれた。

犬走さんもそう思ってたのね…

 

「うぅ〜…だってそっちの方がみんな新聞貰ってくれると思ってですね…」

 

「だってじゃありません!」

 

あんたら親子かよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃっ!後で取材宜しくお願いしますねー!」

 

他のところに取材をしに行くと射命丸さんと犬走さんは洞窟から出て、どこかに飛んでいく。

結局最終的に取材の約束まで取り付けられてしまった…。

 

「私たちほぼ空気だったんだけど…」

「そーなのだー!」

「まぁしょうがないわ、作者の能力が足りないのよ」

「なんかメタい!」

 

バカルテットが騒ぎ出す。

ホントにお前ら空気だったよな…

 

「騒いでないでそろそろ帰るぞ…慧音さんも心配してるだろうしな」

 

「えー!どうせなら此処を探険してから帰ろうよ!」

 

おいチルノ、馬鹿言うんじゃねぇ…。さっきから我慢してたけどここ意外と寒いんだぞ?いや、意外でもなんでもないか。

今は冬だ、真冬だ。雪は降ってはいないが、積もってはいる。そんな中洞窟に入ったらどうなる?

 

凍え死ぬわ…!

 

これ以上ここに居るなんてバカなの?死ぬの?

 

それに加えてちょっとした山を登って来た訳だ。つまり結構足腰にも来てる。

更にトドメは買い出しだ。白玉楼を出て、もう2時間ちょっとぐらいは経過している…

 

以上の事から、ここに居るメリットが一つもないんだよ。

 

これは出来るだけ早く帰って幽々子様と妖忌さんに土下座した方がいいな。うん、そうしよう。

 

「却下だ。帰るぞー」

 

「えぇぇー」

 

チルノからブーイングが飛ばされるが、知ったこっちゃねぇ…。

こっちはそろそろ帰らないと本気でやばいんだよ…!

 

「んー…でも八幡は用事があるみたいだからしょうがないんじゃない?」

 

よし、よく言ったミスティア!良いぞ!

 

「そうね…無理矢理付き合わせちゃった訳だし…」

「そーなのだー。無理にこれ以上迷惑かける事になるよー?」

 

よし。リグルもルーミアもこう言ってんだ、チルノも諦めるだろ。

 

「う〜ん…そうだなぁ…仕方ないかぁ〜…」

 

ああそうだ。仕方ない仕方ない。だからさっさと帰ろう。

そして妖忌さんに怒られよう…はぁ…。

 

「あたし達だけで行くかぁ〜…」

 

・・・・は?

 

「そうねー」

「そうだね」

「そーなのだー」

 

お前らも帰るんじゃねぇのかよ…。

てっきり諦めてくれたと思ったんだけど?

 

「い、いや慧音さんが心配するぞ…?」

 

「もう遅いでしょ?」

「結局同じなのだー」

「そうよね…」

「うん。違いないね」

 

こいつら、揃いも揃って。でもこの感じじゃ頑固そうだな…

はぁ…仕方ない…

 

「分かった…少しだけな…」

 

「「「「はちまーん!」」」」

 

バカルテットが抱きついてくる。

こいつら最初からこのつもりだったな…。

 

まぁでも、少しは信頼されてるって証拠か。

 

「さっさと見て帰るぞ…」

 

もう2時間も3時間も変わりないか…。

さっさと見て帰って土下座だ。うん、土下座すんのは確定してんだな…あれ?目から汗が…。

 

とにかく、バカルテットだけでこの洞窟の奥に行かせるのは、やっぱり心配だ。

何もないとはいえ、多少の危険もあるだろうしな…。

いや、俺がどうこう出来る問題じゃないが、居ないよりマシだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ッ!」

 

まただ。またこの感覚だ…。なんとなくこの洞窟の奥から感じる。

 

この感覚は射命丸さん達のものじゃなかったのか…?

勘違いとかで終わらせられる程のちゃちなもんじゃないしな…。

 

やっぱりこの先は危険だ…。

 

「八幡?先に行くぞー?」

 

チルノは俺の事を気に掛けながら、洞窟の奥へ進もうとする。

 

分からない…何が起こってんだよ…。この先に何があんだよ…。

 

ただ今俺が言える事は、こいつらをこの先に行かせてはならないという事だ。

………どうする…

 

「八幡?ホントにどうしたのよ…」

 

リグルの心配した声が聞こえる。

 

そうだ…子供というのは、欲望や本能、自分の心の赴くままに行動する。

つまり知識欲や探求心。そして妖精や妖怪としての本能のままに動く。

 

こいつらは精神的には子供だ。ただ、確かに知識欲も探求心も強いが、

俺が考える最も強いものは食欲と本能………つまり…。

 

「なぁ…お腹空かないか…?」

 

「「「「空かない」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ダメか。

 

 

 

 

 

「んー?あれ?ここで行き止まりかー。」

 

どうやらもう洞窟の最深部についたようだ。

 

ここまで分かれ道も無くただの一本道だったが、ホントに何も無いな…。

え?じゃあ俺の感じた感覚はなんだったの?勘違い?マジか…。

 

「むー…。もう終わりかー…」

 

「そうみたいね…」

 

バカルテットは口を尖らせて文句を垂れているが、これでなんかあったらどうしてたんだよ。

確実に大惨事になってたぞ。

 

ただ、本当何も無いんだな…。

あるとしてもボロボロの皿やグラスと思われるガラスの破片。後はお札か…。

お札なんかがあるのは異常な気がするが、案外幻想郷じゃ普通だったりする。ルーミアの頭にも付いてるぐらいだからな。

 

 

 

 

………ん?おかしくないか?

問題なのは『なぜこんな所にあるのか』だ。この洞窟は分かれ道も無い一直線の洞窟だったが、洞穴というには余りにも大きかった。入り口から奥に着くまで、歩けば五分はかかるぐらいの大きさだ。

 

だからここに皿やグラスがあるのはおかしいよな…?妖怪の住処とかか?だとしたら相当危険だ。

動物?わざわざこんな所まで運ぶか?それに動物がここまで運べるとも思えない。

 

冬眠に適した環境という訳でもない。

人間が居たとかか…?

 

「むー…帰るしかないかー…」

 

チルノはまだ口を尖らせている。

 

なんなんだ…ここは?

 

「仕方ないわよ。ブン屋の天狗も何もないって…いって…?」

 

「…リグル?どうしたの?」

 

「チルノ!後ろ!!」

 

うおっ!?なんだ?いきなり叫んで……っ!?なんだ…あれ…?

 

「ふぇ?・・・〜〜っ!?」

 

チルノの背後にいたのは、日本刀だ。

 

いや、ただの刀じゃない。黒い瘴気の様な物を纏って浮いているのだ。

んだよ…あれ…妖怪なのか…?

 

ってこれチルノが不味くないか?

 

そう思った瞬間、俺に選択の余地無くチルノ目掛けて刀が振り下ろされた。

 

「「「チルノ!」」」

 

勢い良く振り下ろされた刀は地面を砕き、洞窟内に砂埃が立ち込めた。

 

ち、チルノは…無事なのか…?

 

いや、こういう時は大抵無事……なんてふざけた事を考えてる場合じゃない。

ホントにチルノが死んでいるかもしれないのn……

 

「あっぶなーい!」

 

「よかった!チルノ!」

 

良かった…生きていたか…。

 

「くそー!不意打ちとは卑怯な!あたいの最強パワーをくらえ────ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『氷符「アイシクルフォーム」ッ!!』

 

おぉ!なんか分からんがすごい強そう…!

 

チルノから大量の氷が刀に向かって放たれる。

が、その氷は刀に当たる事なく、全て避けられ直ぐに間合いを詰められる。

 

 

ってあの技チルノ自身がガラ空きじゃねぇか…!そんなに間合いを詰められたら…!

 

「チルノ!月符「ムーンライトレイ」ッ!」

 

ルーミアが手を構え、ビームを出す。間一髪でチルノは助かったが…全然ついていけねぇ…これがヤムチャ視点か。

 

「チルノ!大丈夫!?」

 

リグルとミスティアがチルノに駆け寄り、ルーミアは未だに刀を睨んでいる。

俺は、ただ見ている事しか出来ない…。

 

「うぅ〜…あたいの攻撃を避けるとは…やるなぁ……」

 

チルノは完全に目を回してるな…。

 

あの刀…。強い。相当強い。多分だがバカルテットじゃ敵わない。

妖力とかまだよく分からんが、そんな気がしてならない…。

 

「くそぉっ!チルノの仇ぃ!隠蟲「永夜蟄居」!」

 

チルノが助かったが、友人を傷つけられ、リグルの顔は怒りに染まっていた。

 

くそっ…なんだよこれ…足がピクリとも動かない…。

 

怖がってんのか?

チルノ達が、あんな幼い子達が戦ってんのに…。

 

「落ち着いてリグル!怒りに任せてもやられるだけ!」

 

ミスティアの方が俺より冷静じゃねーか…。

 

ここから今すぐ逃げ出したいと思ってる自分に腹がたつ…!

 

俺はどうすればいい…。

いや、落ち着け…いつも通りでいい。

 

「はぁぁぁ!」

 

ミスティアは、光の弾の様な物を刀にぶつけて戦っていた。

 

考えろ…考えろ…。

 

ふぅ…そうだな、まず本来ぼっちというのは群れない生き物だ。

つまり連携を取ってとか、みんなとかの考えはない。絶対ない。少しでも協力すれば…と言う考えを捨てろ。

 

俺には力が無い。俺は無力だ。さて今の俺に何が出来る…?

 

 

……何も出来ないな…

 

 

そうだ…いくら最強のぼっちといえど、リア充といえど、この『幻想』の前では無意味だ。

異世界転生の主人公の様に、現代の力を見せつけ「すげぇぇぇぇ!」とはならないのだ。

そう、なんの意味もなさない。

 

ただ、いくら無駄でも無意味でもやってみるだけ損はない。ソースは俺の奉仕部時代。

あの時も問題の先送りぐらいは出来た。

 

なら今回も同じだ。バカルテットが刀に襲われてるのも、文化祭で委員長が逃げ出したと同じ程度の問題だって事だ。違うか、違うな。

 

「ルーミア!危ない!」

 

ミスティアの叫ぶ声。

咄嗟にルーミアの方を向くと、刀に弾幕を撃っているルーミアの背後にもう一本の刀が迫っていた。

 

なんで二本あるんだ…!?さっきまで一本だったぞ!?

 

 

ルーミアに向けて刀は大きく振り上げ、そして勢い良く振り下される…!

 

今度こそ…死ぬ……?

くそっ!俺にも…俺にも力があったら…!

 

「「ルーミア!!」」

 

 

そこで俺は考えるのをやめた。

 

 

ただただ無心になり、ルーミアの元へ走った。いつかの入学式の様に、ただただ…無心に…。

 

「───ガァ…ッ!!アァァアッ!?」

 

いつの間にか俺は、刀とルーミアの間に出ていた。

 

左腕が引き千切られた様な激痛が一瞬走る。

 

 

イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ

 

 

ただその直後、一瞬にして痛みは消えた。

 

「「「〜〜〜!!」」」

 

戦っていた三人が、俺に声を掛けてくる…。

ただ、何を言っているのか全く分からない…。

 

イタ……イ…

 

 

 

 

 

ここで完全に俺の意識は途絶えた。

 

 




洞窟での射命丸のあれは本能的なものです(分かる人には分かる

ヒロインになるかって言ったら…多分ならないと思う



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嘘吐き

カルテって言葉が出なくて五分ぐらい悩んでた。

キャラが崩壊していきます。原作との矛盾も増えていきます。



底冷えのする今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?私は……

 

「どうしてこうなった…」

 

入院してます。

もう一度言おう、どうしてこうなった…

 

記憶が無くなった訳ではない。もちろんルーミアを庇って日本刀に斬られたのは覚えている。

ただ一番の難点は左腕が無いのだ。

 

いや、冷静に言ってるけど目が覚めた時は思わず大声をあげそうになったな。

そりゃそうだろ。

 

あれ?左肩が軽いな〜って思って左腕見たら、左腕が無かったんだぞ。

こんなのトラウマ級の衝撃だろ。ま、俺の中学時代のトラウマ程ではなかったがな。

 

といってもさっき起きたばっかりだから今も少しテンパってるが…。

 

そこで病室の扉が開き、人が入ってくる。

 

「あら?起きたのかしら?」

 

「え?えーっと…」

 

失礼だけど誰?

変わった服装をしている。赤と青のほぼ2色のみの服。

特徴といえば、綺麗な銀髪をしている。見た所年上のお姉さんだな。

 

帽子からして医者か…?

 

「あぁ、自己紹介がまだだったわね。私は八意永琳、この病院を営んでいる医者よ」

 

「ひ、比企谷八幡です…」

 

やっぱり医者だったか。

さっきは入院してるとか自分で言ったが、ここが病院だという確信はなかった。

 

ただ今疑惑が確信に変わった。ここは病院だッ!(あたりまえ

 

 

辺りを見渡すと、焦げ茶色の木目調のベットや家具。よく映画とかで見る明治時代ぐらいの病院風だ。

 

「そう、比企谷…八幡ね。成る程…」

 

八意さん何か意味深に俺の名前に反応する。いや、変な名前だってだけか…。

そういえばバカルテットは大丈夫なんだろうか?

 

「あ、あの。あいつらは大丈夫なんすか?」

 

「あいつら?…あぁ、あの四人組の事?」

 

八意さんが首を傾げて尋ねてくる。

どの四人組かは分からないけど多分その四人組です。

 

「はい」

 

「えぇ。誰も目立った怪我はないわ。あなたのおかげよ」

 

ま、眩しいッ!八意さんの笑顔が眩しいッ!

 

「今は外で待機してもらってるわ。あなたに会いたがってたわよ。」

 

ほーん。あいつらが…なぁ…。

ルーミアが下手に罪悪感を感じてなきゃいいが。

 

「さて、それじゃあ質問させてもらっていい?」

 

質問?体調とかか?だとしたら何ともないが。

 

「質問…ですか?」

 

「えぇ。あなたが出会った…刀について」

 

あぁ成る程、刀。

今この話題から出る刀というと、俺が洞窟で見たあの刀のことだろう。

 

黒い瘴気を纏った日本刀。多分俺の左腕が無くなったもあの刀に斬り落とされたのだろう。

 

「刀ですか…。俺特に何も知らないんすけど?」

 

あの洞窟で見たのが初めてだしな。

特に話せることも無い筈だ。

 

「今まで見たこともない?」

 

「はい」

 

まず日本刀自体そんなに見たことがない。あるとしたら妖忌さんの日本刀ぐらいか…。

幻想郷の外じゃなかなかお目にかかれないもんだしな。

 

「本当の本当に?」

 

…?なんでこんな聞いてくるんだ?

 

「は、はい。そうっすけど」

 

「そう、分かったわ」

 

そう言って八意さんは手元のカルテの様な物に書き込む。

ん?そういえば俺があいつらを庇って左腕がなくなったって事は分かる。ただあの状況からなぜバカルテットは助かったんだ?

いや、生きているに越した事はないが、あの状況だったら俺もあいつらも多分死んでいた。

 

まぁ、誰かが助けてくれたっていうのが一番考えやすいか…。

 

「次は…、左腕を失ったことにショックは?見たところ落ち着いているけど…?」

 

「……いえ、その事に関しては現実逃避してるだけです…」

 

うん。全然受け入れられてない。さっきからなるべく左腕を見ないようにしているからな。

 

でも左腕がなくなったからって悪いことばかりではない…筈だ。

そう、シャンクスだ。シャンクス思い浮かべろ。あれ?シャンクスって右腕だっけ?左腕だっけ?あれ?

・・・もうどっちでもいいか。

 

「でもやっぱりショックは大きいんじゃない?」

 

八意さんが心配そうに聞いてくる。

 

「いえ、精神面には自信があるんで」

 

うん。女の子のリコーダーを盗んだとか冤罪をかけられて、クラス中に謝罪を求められても泣かない程度には鋼のメンタルを持っているつもりだ。

 

そうだな、俺のメンタル鋼過ぎて錬成とか出来ちゃうレベル。

いつか俺が鋼の精神術師とか言われちゃう時代が来るかもな。

 

あ、片腕ないから丁度いいかもしれん。

 

「そ、そう…でも大丈夫よ。すぐに左腕を治してあげるから」

 

八意さんが優しく微笑む。天使やぁ…。

ていうか左腕を治すって…

 

「いや、さすがになくなった左腕は治らないっすよ」

 

八意さんなりの冗談か?

だったらなんか悪い事したな…。

 

「いや、治るわよ?」

 

え?マジで治んの?幻想郷の医学ってそんな進んでんの?

幻想郷の医学・薬学は世界一なの?

 

「…左腕の事は少し置いといて、最後の質問としましょう。八幡も疲れるでしょうしね」

 

それと幻想郷での名前呼びは普通なのね…うん。もう慣れた。

 

「は、はい…」

 

八意さんが一度息を吐き、優しそうな顔から真面目な顔になる。

その場に緊張が走る。

 

「なんで…彼女たちを助けたのかしら?」

 

「………」

 

………助けた…な。いや、助けたとは少し違う気がする。

 

確かに俺には全くと言っていいほど助ける理由も義理もない。

我ながら偽善的で欺瞞的だったと思う。

 

やっぱり俺は憧れているのだ、欲しいのだ、本物を…。

 

あの時、幽々子様と話したあの時。あの人となら本物は手に入ると思った。

 

ただ俺はあの人の事を何も知らない。あの人は俺の事を理解しようとしてくれている。

俺のことを知ろうとしてくれている。なのに俺は何も知らない…あの人の事を。

 

そして俺は知ろうともしない。そんな自分が情けなくて…

 

だから認めて欲しかったのかもしれない。

 

その傲慢さ故に、あいつらを庇ったのかもしれない。

 

分からない。自分自身が分からない。

俺は『本物』が欲しい。ただ俺にとっての『本物』とはなんだ…?

 

そんなあやふやな物のためにあいつらを庇った。

俺は、ただそれだけの…最低な人間だ…。

 

「別に…目の前で死なれるのは目覚めが悪いだけですよ…」

 

だから俺は嘘を吐く。自分の嫌う欺瞞を行う。

 

「「……………」」

 

辺りに静寂が流れる。

八意さんは俺の目を真剣な表情でジッと見つめてくる。

 

「はぁ…分かったわ。『今は』それでいいわ」

 

「…『今は』?」

 

「えぇ、『今は』。まだ八幡にはやるべき事がいっぱいあるんだから」

 

含みのある言い方をして、八意さんはいたずらそうに笑う。

大人の美貌、というのだろうか。つい顔を背けてしまった。

 

「そうっすか…」

 

「そうよ。まだまだいっぱいね。だから…」

 

「………?」

 

「迷った時にはいつでも来なさい。相談ぐらいには乗るわ」

 

そう言って八意さんは、どこか嬉しそうな表情を浮かべて笑う。

ほんと、頼もし過ぎるこの人。

 

「それじゃ、この後はお見舞いに来た人が何人かいるから。会うといいわ」

 

お見舞い?あぁ、そういえばバカルテットが居るって言ってたな。

怪我がなければいいが…。

 

「あぁ、それと」

 

「はい?」

 

「血を流したあなたをここに運んで来たのは紫よ。お礼を言っておきなさい」

 

あぁ、成る程。紫見てやがったのか。

だったらバカルテットに怪我はないだろうな。

 

「それじゃ、ごゆっくり〜」

 

そう言って八意さんは病室を出て行く。

すると10秒もしない内に、ノックの音が響いた。

 

「入るわよ…」

 

「あぁ」

 

声的には紫だろう。なんかいつもより声が低い気がするが…。

とにかくここまで運んで来てくれたんだ。お礼を言わなきゃな。

 

「八幡。調子はどうかしら?」

 

「まぁ、ぼちぼちだな」

 

病室に入ってきたわけだが、やっぱり声のトーンが低い気がする。

別に怒らせる様な事はしてない気がするがな…。

 

「そう…八幡、あなたはなんで妖精を助けたのかしら?」

 

……またその質問か。さっきも八意さんに聞かれたが、答えは同じだ。

 

「目の前で死なれちゃ目覚めが悪いからな」

 

大嫌いだ。欺瞞も偽善も虚言も。だから俺が大嫌いだ。

 

「そう……いつもの私なら呆れて笑いながら流せるけど、今回は別よ…」

 

パシーンと鈍い音が病室に響く。音の発生源は俺の頬、平手打ちの音だ。

そう、俺が紫にビンタをされた。頬にヒリヒリとした感覚が走る。結構強めに叩きやがったな…。

 

「八幡…ごめんなさい…」

 

「………」

 

なんなんだよ…人の頬を勝手に平手打ちしといて、勝手に謝って…。

一人で忙しすぎんだろ…。

 

「あなたが自己犠牲しようが構わない。だってそれを止めるのが『私達』の役目だもの…昔から」

 

いつもの様に紫は俺の事を知った風な口調で話を初める…。

俺の何が分んだよ…お前に…。それなのに知った風な口を聞くなよ…

 

「八幡…あなたは本物が欲しいんでしょ?」

 

なんでそれを…?幽々子様か…?

 

「それなのになんでそんな下らない嘘を吐くの?あなたはどこまで変わったの?」

 

下らない嘘?変わった?紫は俺の何を知っているんだ?

なんの話をしてんだよ…

 

「俺は何も変わっちゃいない…」

 

「そうね…あなたにとっては何も変わってない。そう…“何も進歩してない”」

 

「…ッ」

 

その言葉は、なぜか俺の胸にずっしりと響いた。

締め付けられる様な…重りを乗せられたような…そんな感覚に陥った。

 

「もう一度聞くわ。なんであの妖精たちを助けたの…?」

 

「俺は……」

 

あいつらを庇ったのは、本物を見つけたかったから…明確なものにしたかったから…認めて欲しかったから…

そんな汚い雑念で…俺はあいつらを庇った。

 

ただ俺は怖いのかもしれない。その雑念で、本物が手に入るかもしれない関係をまた壊してしまうのは…失望させてしまうのは…。

だから俺は…

 

「同じだ…目のまでで死なれちゃ目覚めが悪いからな…」

 

嘘を吐く。

 

欺瞞を行い相手を騙す。

 

「…また下らない嘘?」

 

「だから…下らない嘘ってなんだよ…!」

 

つい声を荒げてしまう。

いや、荒げるというほど大きな声は出してはいないが、紫の反応に対して少しカッとなってしまった。

 

「あなたは本物が欲しいんでしょ?なのになんで嘘をつくの?欺くの?」

 

「そ、それは…」

 

紫が何故本物のことを知っているのか、それがもう気にならないほど俺の心は動揺していた。

 

なんで嘘を吐くか?なんで欺くか?失望されるのが怖いからだ。

答えを出すのは簡単だ。ただそれが声には出せない。当たり前だ、声に出せば失望させてしまうかもしれないから。

 

声の形が積み上げ、織り成す物は綺麗なものばかりではない。

いくら綺麗な布や織物でも、一本の汚い糸が混ざればもうそれは売り物にはならないだろう。

 

それと同じでいとも簡単に崩れてしまう物だろう。関係というものは。

 

「「………………」」

 

二人の間に沈黙が流れる。

 

「はぁ…幽々子を呼んでくるわ。外で待っててもらってるの」

 

「……あぁ…」

 

幽々子様も来ているのか…。

随分といろんな人に迷惑かけたな。

 

「あ…それと、新しい博麗の巫女が見つかったのよ」

 

「・・・博麗の…巫女?」

 

博麗の巫女?どこかで聞いたような聞いてないような…?

それ以前になんで今俺にその話をしたんだ?

 

「だから…それだからもう…あなたはもう休んでいいのよ…」

 

そう言い残し、紫は病室を出て行った。

博麗の巫女…。少し気になるが、今はそんな事を考えている場合じゃないだろう。

 

・・・幽々子様も来ているとなると…壊れる覚悟はしなくちゃだな…。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

ノックの音が病室に響く。今日で2度目だ。

紫と幽々子様か?それにしても早すぎる気がする。紫が出て行ってからまだ1分も経っていないしな。

 

「し、失礼します…」

 

慣れない様子で入って来たのは、赤いリボンの目立つ金髪少女ルーミアだった。

畏まったことを言うのが慣れてないのか、永遠亭に慣れていないのか、少しオドオドした様子だ。

 

「あっ!八幡!」

 

「うぉっ!いきなり飛びついてくるな…!」

 

俺を見つけた途端にルーミアが飛びついて来た。

この感じじゃ特に怪我もしてなさそうだな…。っていうか…

 

「一旦…離れろ…!」

 

「わはー!」

 

 

 

 

 

 

少年祈祷中

 

 

 

 

 

「んで?他の奴らはどうした?」

 

病室に入って来たのはルーミアのみで、他の3人は見当たらない。

飽きて帰ったか?

 

「待ちすぎて皆んな寝ちゃった」

 

あぁ…まぁ子供(精神年齢)だもんな…。

 

「ルーミアは眠くないのか?」

 

「うん、私は大丈夫!」

 

眩しい程の笑顔でルーミアは答える。

といっても、もう夜も更けて夜中だ。こんな少女に無理をさせる訳にはいかない」

 

「む〜、子供扱いしてる〜」

 

「あれ?声に出てたか?」

 

「うん、思いっきり」

 

これは癖なのか…?だとしたら厄介だな。

するとルーミアの顔がいきなり神妙な面持ちになる。

 

「それと…八幡…」

 

「うん?どうした?」

 

「ごめんなさいっ!」

 

ルーミアは急に頭を下げて謝ってくる。

洞窟でのことだろう。やっぱり少なからず罪悪感は感じちまうよな…。

 

「あー…ルーミア。変に罪悪感は感じなくていいぞ?別にお前だから助けた訳じゃない」

 

「うー…でも〜…」

 

ルーミアは納得のいかない様子で首を捻る。

なんかあざといな…狙ってるんじゃないんだろうが、なんかあざとい…。

 

いや、幼女は皆んなあざといか。

 

「んじゃあ…今度人里の美味しい料理屋にでも連れてってくれ」

 

「…っ!うん!」

 

満面の笑みを浮かべてルーミアは返事をする。

ルーミアは意外と大食いだからな…。多分俺より食う、あの体で。

 

「それとルーミア。他の奴らに怪我はないか?」

 

「心配なの?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくる。くそっ可愛いけどウゼェ…。

 

「いや、別にそういうんじゃねぇけど…」

 

「じゃあ教えてあーげない!」

 

「おいおい…」

 

ウザ可愛いってルーミアのためにある言葉なんじゃねぇの?

ルーミアの場合はウザ可愛いにあざとさを付け足してもう最強だな。

 

いや、幼女は皆んなあざといか。(2回目

 

「で?結局怪我はないのか?」

 

「うん、全員無事。良かった…ホントに…良かった…」

 

「……………」

 

……ルーミアにとってのあいつらの存在は相当でかいんだな…。

これこそ『本物』と呼べる関係なのかもしれない。

 

「なあ、ルーミア」

 

「んー?」

 

「ルーミアにとって本物ってなんだ?」

 

俺は何を聞いているんだ…?それもこんな幼女に…。

 

「ほんもの?」

 

分かるはずがないのに、藁にもすがる思いで聞いてしまった…。

本当に情けねぇな…俺…。

 

「あー…ルーミア。やっぱりなんでもな…

 

「よく分かんないけど、楽しくって美味しかったら何でもいいのだー!」

 

…まあ特に深く考えてる訳ないよな。

楽しく、美味しく……か…。

 

 

 

 

 

そこで病室にノックの音が響く。多分紫と幽々子様だろう。

 

「八幡、入るわよ?」

 

案の定紫の声だ。

失望された時の、壊してしまった時の想像の恐怖が俺の手を小刻みに震わす。

 

「ふぅ…どうぞ…」

 

俺は、二人を病室に招き入れた。

 

 




なにこの終わり方…?

あと心理描写がムズイ。
分かりにくかったですよね、ホントすみません。


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自己嫌悪

急に更新が止まってしまって申し訳ありませんでした。受験ですハイ。

更新ペースはものすごく遅れます。



「八幡、入るわよ?」

 

「どうぞ…」

 

病室の扉の外から紫の声が聞こえる。外で待機していた幽々子様を連れて来たのだろう。

 

正直に言おう、今俺は物凄く怖い。

前まではこんな事なかった。昔からこういうのには慣れているつもりだった。

 

冤罪をかけられて虐められたり

 

物を隠されて虐められたり

 

単純に暴力で虐められたり

 

虐められてばっかりだな…あれ?涙出てきた。

 

…とにかくもう慣れていた。

でも今は違う。俺は奉仕部という本物に成り得る関係を持った。

 

 

『大切なものを作るってのはね?それと同時に自分を弱くするんだよ』

 

 

そんな様な台詞がどこかのアニメであった気がする。

そう、俺は奉仕部という大切な関係を作って“しまった”んだ。

 

昔の俺が見たらなんていうだろうか?

 

滑稽に思うだろうな。

本来群れずに孤高の存在を貫くボッチが、『一人になるのが怖い』と不安に煽られている。

 

だから俺は、確実に弱くなった…。

 

「八幡!怪我は大丈夫なの〜?」

 

幽々子様が心配した様子で病室に飛び込んでくる。

本当にこの人は優しい。幻想郷に来たあの時、俺の事を救ってくれたのは紛れもなくこの人だ。

 

俺はこの人のお陰で変われた。そう思っていた。いや、今もそう思っている。

 

「左腕が…そう、でも永琳なら治せるわよね…よかった…」

 

ただ同時に複雑なのだ。

俺はこんなにも簡単に、単純に変わってしまうのかと…。

 

妹の小町でも、戸塚でも俺は変わることはなかった。それは奉仕部(あのふたり)でも同じだ。

 

あの日、平塚先生に無理矢理入部させられた訳の分からない部活。

 

あそこでも俺は変わることはなかった………いや、元から変わるはずがないのだ。

 

なぜなら俺はぼっちだからだ。

 

ぼっちというのは、優位な立ち位置にいながらも不利な立ち位置にもいる。

リア充というものはカーストというものを組む。

 

 

ただぼっちはその何処にも属さない。故にクラス内政治に気を遣わず、いくらでも上位カーストを高みの…いや、低みの見物ができ、優位な位置に立てる。文化祭の相模の時のがいい例だ。ぼっちならいくらだって牙を剥くことができる。

 

 

ただここで忘れてはいけないのは、不利な立ち位置にもいるということだ。

つまりカーストに属さず、最底辺にいるぼっちは、常に周りから蔑まれ、疎まれる。

 

そう、認められることがないのだ。まぁ俺も認められたいとは思っていなかったが…。

 

「ルーミア…だったかしら?私たちと八幡は大事な話があるのよ。少し席を外してくれないかしら?」

 

「うん。分かったー!八幡、またねー!」

 

「あ、あぁ…」

 

ただ今はこうしているのが心地よいと思っている。誰かに認められたいと思ってしまっている。

 

だから自分勝手にも、俺は今までぼ自分が否定された様な気持ちになってしまう。だからこそ複雑なのだ。

 

 

こんなにも簡単に変わってしまった自分が嘘の様で

 

今までの関係や積み重ねが否定された様で

 

そんなことを考えるようになった自分にも嫌気が差して

 

 

不快だ。自分に対してここまで嫌悪感を示したのは初めてだった。

自分自身が全く見えない…全く分からない…。

 

幻想郷に来た時からあった自分を見失う様な不安が此処に来て大きくなってきやがった…。

そう、俺はぼっちだ、ぼっちだったんだ…いや、むしろ一匹狼とかカッコいい肩書きまで持っててもいいまである。

 

 

そんな俺が今は…

 

認められたくて、否定されたくなくて、勝手に否定された様な気分になって、

 

まるで子供の様に世界が色付いて見える。

いつから俺はこうなったんだ?変わってしまったんだ?

 

「八幡…幽々子も交えてさっきの話の続きをしましょうか…」

 

紫の一声で話の続きが始まる。

 

「さっきの質問の続きよ。あなたはなんで嘘をつくの?自分が嫌う欺瞞を続けるの?」

 

紫が聞いてくる。一方幽々子様は、心配そうにこちらを見つめている。

その視線が、今の俺にはとても痛かった。

 

んだよ…そんな目で見んなよ…。期待しちゃうだろうが。

 

そして欺瞞を使う理由は分かっている。ただ本音を言って失望されたくない。

自分の汚いところを隠す様に欺いて、穴を埋める。俺の嫌う欺瞞そのものだ。

 

ただ今、俺はその大嫌いな欺瞞を使っている。なんでだ…なんでだよ…。

 

腹が立つ。そんな自分に、とてつもなく腹が立つ

 

 

綺麗事を並べて言葉出すのは簡単だ。

ただこれ以上俺は俺を否定したくない。欺きたくない。

 

本音を口に出すのも簡単だ。

ただこれ以上二人に否定されたくない。失望されたくない。

 

だから俺の言葉はそのどちらでもない邪道を行く。

本音を混ぜた欺瞞を言葉にして、その言葉の凶器でまた傷つけるのだ。

 

「……るせぇよ…」

 

「…八幡?どうしたのかしら〜?」

 

いつもの様にまったりとした口調で幽々子様が聞いてくる。

ただ今はそれどころじゃない。

 

「うるせぇよ…」

 

自分でも驚く程低い声が出た。

幽々子様も紫も少しびっくりした様子でいる。

 

「迷惑なんだよ。そうやっていちいち構ってきて…。なんだ?俺の事を憐れんでいるのか?同情でもしてんのか?だったらやめろ。正直言って迷惑だ。お前らの気持ち悪い偽善に付き合わせんな。不愉快だ。」

 

そうだ…俺はこんな奴だった。やはり自分で自分を見失っていた。

 

今の俺はどんな表情をしている?

きっとクズに磨きがかかった様な顔をしている事だろう。

 

 

────あぁ、そうだ。俺は結局変わってなかった。“進歩していなかった”んだな…

 

 

そう、何も変わっちゃいなかった。

俺はこんなやり方しか出来ない、ただのぼっちの高校生だ。

 

だからもう恐怖は無い。失望して離れて行ってくれ。

もう否定されるのはたくさんだ。だから俺から否定してやった。

 

さぁ、存分に非難してくれ…。

 

「「……………」」

 

そのはずなのに……

 

「ふふふっ…あらあら…」

「ふふふふ…」

 

なんでお前らは笑ってんだよ…

なんだ?嘲笑してんのか?生憎だが俺は笑われるのはもう慣れてんだよ。

 

「なんで笑ってんすか…」

 

「いえ、違うのよ〜?ただ…嬉しくって〜」

 

「そうね…少しはいい方に変わってるんじゃない?」

 

嬉しい?変わってる?訳がわからん…。

ただこちらにもまだ策はある。いつも通りの最低な策が。

 

「はぁ…まあいいです。それと幽々子様…」

 

「ん〜?何かしら〜?」

 

さっきも言ったが、これは最低な策だ。でもやるしかない。

それしか道は残されていない。

 

「あなたはいい人すぎますよね…」

 

「…?どういうこと〜?」

 

幽々子様が聞き返してきたところで、俺の顔は歪んだ笑顔を作る。

 

「ま、そのおかげで同情を誘って住居を手に入れられましたけど」

 

その歪んだ笑顔のまま幽々子様の目を見て吐き出す。

ヘドロの様に汚い、それでいて尖った言葉を…

 

「……え?」

 

その瞬間幽々子様の目には光が宿っていなかった。

 

これでいい。これでようやく楽になれる…。

さぁ、今度こそ否定しろ。失望しろ。離れて行け…。

 

「八幡…あなた…」

 

紫がこちらを物凄い殺気を出しながら睨んでくる。

そして殺気を出した紫は、強者というに相応しい雰囲気をしていた。

なんだこれ…年甲斐もなくチビりそうなぐらい怖ぇ…。

 

ただ紫は幽々子様の事を本当に大事に想っているのだろう。

いくら下らない嘘だとか、俺のやり方を知っていても、大切な友人が侮辱されたらどう思う?

 

答えは…

 

「いくらあなたでもそれは許せないわ…」

 

こうなるだ。

 

「お、落ち着いて紫!私は大丈夫だから…!少し驚いただけよ〜!」

 

「そんな表情をしながら言っても説得力がないわよ…」

 

さっきより生気の無い様な表情をしている幽々子様を見ると心が痛む。

いや、生気が無いのは幽霊だから当たり前か…?………今はそんな事言っている場合じゃないな。

 

これは俺の為であって、本能的な自己防衛手段でもある。なんならハチマンっていう新しい動物が登録されても良いレベル。

 

「お、落ち着いて〜。ね、一度頭を冷やしましょ?」

 

「ふぅ…そうね、少し取り乱したわ。」

 

らしくもなく取り乱している紫を幽々子様がなだめる。

 

ただこれで終わりとなると少し寂しいところもあるな…。

ほんの数ヶ月の間だったがこの二人は…いや、妖忌さんや妖夢。慧音さんもだ。ここで出会った人達は俺の本質を見ようとしてくれた。

 

それも偽善なのか欺瞞なのかもう分からないが、もしそれが偽物だったとしても、そのぬるま湯が心地よく感じてしまった。

 

きっとこの後二人は俺のことを否定するだろう。失望するだろう。

 

ただ今の本当の俺を見たらもっと失望するだろう。

 

それなら俺から否定する。

もうこれ以上偽物を作らないように…

 

「八幡…」

 

幽々子様と紫が近づいてくる。

 

虚言が嫌いな紫は俺に心底失望しただろう。

 

優しすぎる幽々子様は胸が痛かっただろう。

 

だから俺が終わらせる。いつものやり方で。いつもの様に。

俺が一番嫌う、欺瞞というやり方で…。

 

「何か勘違いしてないかしら〜?」

 

…………はい?

 

いつもの様にまったりとした口調で言った、幽々子様の言葉の意味が理解出来なかった。

勘違い?特にそんな覚えはないが…

 

強いて言うなら中学時代の折本の時の勘違いぐらいしか…。うっ、頭が。

 

「何の事だって顔をしてるわね。幽々子はあなたが私たちを誰かと勘違いしてるって言いたいのよ……最も私もそう思っているけど…」

 

今度は紫が口を開く。

誰かと?誰かって誰だよ。ぼっちだから誰かと勘違いする程知り合いいねーよ。

 

「そうね、はっきり言うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は雪ノ下雪乃じゃないわよ?」

 

は?何言ってんだ?そんなの当たり前だろ?

紫は紫だ。八雲紫だ。そんなもん猿でも分かる。

 

「私は虚言も言うし、嘘も吐くわよ」

 

は?いやいや、俺の知っている八雲紫は……………あれ…?

紫が虚言を吐かない?そんなこと聞いたこともない。

 

じゃあ誰だ?そうだ…雪ノ下だ…。

 

俺以上に偽物を嫌って、本当は小さくて弱い…そして強い雪ノ下雪乃だ。

いや、これも俺のこじつけや押し付けかも知れないが…。

 

「ついでに言っとくけど、幽々子もね」

 

分かってる…分かってるはずだ…。

分かっているはずなのに頭が混乱する。

 

俺はこんな大きな勘違いをしていたのか……?

場所が変わって、環境が変わって、関係が変わっても結局こうなるのか…。

 

勝手に理想を押し付けて、勝手に失望する。

ただ失望されるのは怖くて、俺は現実から目を背ける。そう、ただの甘えだ…。

 

「それに、幽々子はそこまで優しくないわね。」

 

「友人にそんな言い草…酷いわ〜」

 

「ふふふっ、冗談よ。」

 

俺が熟考している間も二人は楽しそうに談笑している。

紫や幽々子様を奉仕部と重ねていた事には問題はない。一番の問題は、偽善、欺瞞、優しさ。全ての俺の理想を押し付けていたことだ。

 

八雲紫は嘘をつかない。

 

西行寺幽々子は誰よりも優しい。

 

一体そんなこと誰がいつ言っただろうか…。

否、誰も言っていない。

 

「さて、八幡。」

 

「〜〜っ!」

 

いつも通りの筈の幽々子様の声が、やけに冷たく感じ、大げさに反応してしまう。

 

「あなたは、どうしたいのかしら〜?」

 

「俺は…」

 

言葉に詰まる。

俺はここで過ごせば何か変わると期待していたのかもしれない。

またやり直せると思っていたのかもしれない。

 

だからこそ、

 

虚言は吐かない雪ノ下雪乃。

優しすぎる由比ヶ浜結衣。

 

その二人の面影を、関係のないこの二人に押し付けてしまっていたのかもしれない…。

 

「はぁ…どうやら頭を冷やすのはあなたの方だったようね」

 

紫の口から出た言葉は、やけに鋭く俺の胸に突き刺さった。

 

結局失望されちまったな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦失敗かしら?」

 

「八意さん…」

 

幽々子様と紫が病室を出て1分経ったか経ってないかというところで、八意さんが病室に入ってくる。

 

「なんのことですかね…」

 

「別に隠さなくていいのよ。あなたとは初対面だけど、よく幽々子や紫に聞くもの。あなたの事は」

 

なに勝手に話してるんですかねぇ…まさか個人情報とかまで流されちゃったりするの?

それで教えてない筈なのに何故かみんな俺の家知ってて、ポストに泥詰められたりしちゃうの?

あの後理不尽に俺だけが親父に怒られたんだよな…親父絶対許さん。

 

「別に心配しなくても個人情報とかまでは知らないわよ」

 

なんかナチュラルに心読まれたんだが…

 

「それで?これからどうするの?」

 

「そうですね…」

 

頭を冷やせと言われた手前、しれっと白玉楼に戻るわけにもいかない。

適当に人里をぶらつきますかね…。

 

でも…何もしなくていいのか?

いい訳ないよなぁ〜…。

 

「大事なのは、幽々子や紫への罪悪感じゃない…あなたがこれからどうしたいかよ。幽々子も言っていたでしょう?」

 

八意さんが腕を伸ばし、頭を撫でてくる。

別に魔法や妖力とかを使ったわけじゃないだろう。だが、心が落ち着きどこか安らぐ。

 

「あなたは…どうしたいの?」

 

暖かく、優しい声が耳元で響く。

 

俺はどうしたいか…

それはきっとまだ見つかってない。

ただ漠然と、朧げとなら分かる。

 

ずっとずっと欲していたもの。

 

ある時はあの奉仕部に求め、ある時は幽々子様に求めた。

 

ただ今までの俺はただのワガママだったのかもしれない。

綺麗事の様な関係を築くなら誰でも良くて、そのくせして奉仕部を引きずって。

 

 

見定めよう、今度こそ。

 

 

俺が何をしたいのか。誰と作りたいのか。

きっとそれは重要なことの気がするから。

 

押し付けやこじつけ。こればかりは自分を客観的に見れなければ、治らないかもしれない。

それでも俺は、無理だと分かっていても偽善も欺瞞もない。嘘をついたとしても、自分を欺くことがない。

 

そんな関係が、そんな幻想の様な関係が…

 

「俺は…やっぱり…」

 

 

 

────本物が欲しい

 

 




受験の為しばらく更新ペースが遅れます。


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バカルテットへようこそ

作品タイトルに俺ガイル要素がないのに気付いたので、変更しました。

幻想冥界記録→東方青春録

まぁこの作品に青春要素はないんですけどね。
それと一応バカルテットメイン回です。


「お師匠様、お師匠様。よかったのですか?」

 

雪の降る竹林の中に屋敷が一つ。

本来視界が狭まる筈の雪の日の竹林。

ただ、その大きな屋敷はそれをも覆う存在感を示す。

 

名は永遠亭

 

その永遠亭の一室に二つの影が動いていた。

 

一人はウサギのような耳が生えた少女。

一人は美しい銀髪の女性。

 

「何がかしら?」

 

「外来人ですよ。いくら酷い怪我をしていたといえ、わざわざ結界を解いてまで…」

 

「ほんの一瞬よ。現にもう結界は元に戻したわ」

 

暖かそうなお茶を飲みながら銀髪の女性は話を聞く。

 

「む〜…それにしてもリスクが高すぎますよ。幻想郷の賢者、それに冥界の主にまでここの存在がバレたんですよ?」

 

「ウドンゲは彼女たちが月の民と繋がっていると思うの?」

 

「そういう訳じゃないですけど…」

 

ウドンゲと呼ばれたウサギ耳の少女は、どこか不満気に銀髪の女性をジト目で見る。

 

「…わかってるわ。いずれ彼女たちとも、ぶつかる事になるもの…」

 

「…?それはどういう…」

 

永遠亭が月明かりに照らされ、二人の影を作る。

銀髪の美しい彼女は、その髪が光に照らされ、やけに妖美な雰囲気を纏っていた。

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

ちゅんちゅんちゅん…と毎朝の恒例かごとく鳥の鳴き声が聞こえる。

うるせぇ…昨日は色々あって眠れなかったからやけにうるせぇ…。

 

「はいはい、起きればいいんだろ…起きれば。ふあぁああ…」

 

碌に寝てないが、大きく蹴伸び。

さて、顔を洗うか。洗面所へ……って洗面所はどこだ…?

 

そういえば少し忘れていたが、ここは永遠亭だとかいう病院だったよな。

当たり前だが、俺が洗面所の場所を知るはずがない。

 

そこで、病室の扉が開く。

 

「あら、起きたわね」

 

病室に入ってきたのはお世話になっている八意さんだ。

 

昨日は天使のような微笑みを見せてくれた。

トツカエル、コマチエルと来たらヤゴコロエルか…語呂悪いな。

 

「すんません、なんか迷惑かけて…」

 

「いえ、大丈夫よ。それと腕の調子はいかが?」

 

ん?腕?あ、そういや俺腕斬り落とされたんだったわ。

全然気付いて……っ!?

 

「治ってる…?」

 

「ふふふっ。あら、今更ね」

 

腕を動かしても問題ない。義手でもなければプラスチックとかでもない。

本物の肉だ。血が通った人の腕。まるで違和感がないから気付かなかった…。

 

「え、えぇ。快調ですね。気付かないくらいに」

 

本当にどんな技術を使ったのだろうか…。

失礼にも、幻想郷は外より科学が発展しているように見えない。それと同時に医学もだ。

 

いや、ただ幻想郷は魔法や術といった摩訶不思議な物が発展している。

それでどうにかして治したのかも…。

 

え?どうにしたって?知るかそんなもん。

 

「そう、それは良かった」

 

八意さんが満足気に微笑む。

病室に入って来たのは俺の容態を見るだけだったのか、八意さんは病室を出て行こうとする。

 

「朝食を用意するわね。あ、あと…」

 

「……?」

 

「洗面所なら廊下に出て右に進めばあるわよ」

 

なんかこの人にはずっと敵わない気がするわ。

というより俺なら幻想郷の住民全員に敵わないまでもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開け、廊下に出ると冷たい風が部屋に入ってくる。その風が体に当たり、身震いする。

真冬だもんな…そりゃそうだ。さらに言えばエアコンもないから、病室も暖かいという訳ではないのだが…

 

 

廊下に出て右。

その方向に顔を向けると、向こうに洗面所らしき部屋が見える。

そしてその手前にうさ耳の生えた女性…………なんだあれ、モフりてぇ。

 

ここの従業員とかか?

それにしてもブレザーの制服的な服装を見る限りでは、看護師って訳じゃなさそうだが…

 

いや、幻想郷の看護師の服装が外と同じかどうかも怪しいか。

実際幽々子様や紫も、外ではあり得ない服装している訳だしな。

 

そんな事を考えていると、うさ耳の女性がこちらに気付き、振り向く。

 

一瞬、ほんの一瞬だけ目が合う…………

 

 

 

 

『鼓動』『動揺』

 

 

 

 

な、なんだ?今の…一瞬自分が自分じゃなくなったような感覚が…いや、厨二病じゃなくてな?

心臓が高く、大きく波打ちバクバクと鳴らす。

怒りや悲しみといった感情が同時に出てくるような…振り幅がなくなったような…。

 

「〜っ!外来人…!」

 

やけにオーバーリアクションを取りながら、思いっきり目を逸らされた。

なにこれ?結構傷つくんだけど…。

 

それと、先程の感覚は嘘だったかのようにおさまって、もう何事もなかったようになっている。

なんだったんだ…?

 

「どうしよう…目を合わせてしまった…」

 

かのうさ耳さんはなにか熟考している様子。

そんなに俺と目が合うのが嫌でしたかそうでしたか…。

 

「睡眠薬を…うーんでも相手は人間だから…解けるとは思えないし…」

 

ずっと考えている様子だ。少し声ぐらいかけてみるか…。

なんか俺のせいっぽいし。

 

「あの〜…」

 

「時間が解決して……う〜ん…でも…」

 

☆無☆視☆

 

せいせいするほどの無視。

『あれ?俺って存在してたっけ?』と思っちゃうほどの無視だったぞ今の。

 

いや、違うよな。聞こえてないだけだ。そうだ、そうに違いない…………そうと信じたい。

もう一度話しかければきっと反応してくれる事だろう。

 

よし、ここは気張れ比企谷八幡。長年のボッチ魂を見せるんだ。

 

「あ、あの〜」

 

「………でも、やっぱり…これが…こうなって…」

 

はい、お約束。

 

と、冗談も程々にして、そろそろ反応してもらわないと困る。主に俺のメンタルが。

広い廊下に二人しか居ないのにもかかわらず、無視されるとか…さっきから俺のメンタルズタボロなんだよ…!

 

とにかく次反応がもらえなかったら、大人しく洗面所に向かうとしよう。

その時に洗うのは顔じゃなくて涙だがな…。

 

「あの〜、すみません…」

 

「ふぇ?」

 

ようやく反応してくれた三回目。三度目の正直とはまさにこの事を指すのだろう。違うか、違うな。

とにかく反応してくれたのは喜ばしい事だが、『ふぇ?』ってなんだよ『ふぇ?』って。かわいいかよ…。

 

すると、うさ耳さんは驚いた様にこちらを見てくる。

 

「あ、あれ?普通だ…狂ってない…」

 

狂ってる?俺狂ってるとか思われてたの?そうか…普通じゃないとか思われてたのか…。

あれ?おかしいな。反応もらえて喜ばしいはずなのに、目から汗が…。

 

結局、洗面所で洗うのは涙になるのか…。

 

「あ、あの。どこもおかしくないですか?例えば…なんだか感情がお抑えられなくなったり…」

 

感情が抑えられない?字面だけで見ると凄く厨二臭いが、さっき似たような感覚に陥った。

もっとも、すぐに治ったから勘違いだと思うが…。

 

「いや。一瞬そんなことがありましたけど、特に今は…

「一瞬?今一瞬あったって言いました?」

 

お、おぉう…食い気味に聞いてくるな…。

 

「は、はい。まぁ一瞬なんで俺の勘違いだと思いますけど…」

 

「一瞬…?どうしてでしょう…でも…あれが…」

 

あぁ…また思考の海に潜ってらっしゃる。

 

 

 

 

 

 

あの後真剣に熟考しているうさ耳さんを一旦放っておいて、洗面所に来た。

 

鏡で自分を見る。

 

いつも通り鏡の向こうから、冴えない顔をした腐った目の男が、こちらを覗き込んでいる。

斬り落とされたはずの左腕は、何事もなかったかのように存在していて、問題なく動く。

 

 

水道をひねって水を出す。

手を受け皿の様にして水を溜め、バシャバシャと顔に掛け、念入りに洗う。

 

「ふぅ…」

 

よし、こんなもんでいいだろ。後は八意さんが朝食を持って来てくれると言っていたな…。

朝食を食べた後に歯を磨いて…………

 

この後の行動を軽く整理していると…

 

「はちま〜ん!」

 

「がっ!」

 

謎の物体が顔に飛びついてくる。

ていうか痛い。ものすごく痛い。

 

「お、おい。離れろチルノ…!」

 

そう、その謎の物体の正体はチルノである。

 

「はちまぁん…八幡の腕がぁ…腕がぁ…!」

 

チルノは俺にしがみついたまま顔をくしゃくしゃにして泣きわめく。

 

「一旦落ち着け…!」

 

彼女は彼女なりに、ルーミアと同じで責任を感じているのだろう。

いくら子供(精神年齢)とはいえ、やはり責任というものは付いて回る。

 

イタズラ好きな子供でも、人の大切な物を壊してしまったら後ろめたさはあるだろうし、責任を感じるのはごく普通の事だろう。

 

ただ、今回は俺が勝手に庇った事なのだ。そこまでチルノ達に責任を感じさせるわけにはいかない。

まぁ、歳上としてもな。(精神年齢)

 

「チルノ、もう腕は…

「ちょっとチルノ!怪我人は慎重に扱わなきゃダメでしょ!」

 

いや、遮るなよ…。

横から俺の言葉を遮りながら出て来た少女は、リグルだ。横にはミスティアも一緒に居る。

そしてその後ろにはルーミアがフヨフヨ浮いている。

 

バカルテット大集合だ。

 

「いや、だから…

「八幡、ごめんね?私たちのせいでこんなことに…」

 

ミスティア俺の言葉を遮りながら、が申し訳なさそうに頭を下げてくる。

なんだ?俺に発言権はないのか?

というか、やめてくれ、頭を上げてくれ…!幼女に頭を下げさせるとかはたから見れば、犯罪者以外の何者でも…

 

「おやおや、目の腐った患者様が、幼女に頭を下げさせている」

 

廊下の角から声が聴こえてくる。

 

見られたか…この光景を…。

思わず陸に上げられた魚のようにピクピクと口角が釣り上がり、油のキれた自転車のようにギギギッと首を声のする方に回転させる。

 

案の定うさ耳を生やした幼女がこちらをニヤついて見ている。

先程の洗面所へ行く前に出会ったうさ耳さんとは、また違ったうさ耳さん。

 

ややこしいが、こちらのニヤついたうさ耳さんは幼女で、先程のうさ耳は少女といったところだ。

 

そんな事よりマズイ、この光景は。幼女のうさ耳さんが言うように、

 

『目の腐った男が幼女に頭を下げさせている』

 

という、犯罪臭のする光景“のみ”を見られてしまったのだ。

ただ、それは誤解も誤解、大誤解だ。

 

少し前に、『誤解は解けない、既に解は出ているからな』

 

とかドヤ顔で言ったが、こればかりは解かなければならない。

教師からテスト用紙を無理やりぶんどってでも解かなければならない。

 

「いや、ちょっと待て。これはだな…」

 

「おぉっと、何も言わないで。問題ないから、ちょっとお師匠様に報告するだけだから」

 

問題ありまくりんぐなんだよ…!なに?幻想郷は話を聞かない奴が多いの?

ただ、このまま犯罪者の印象を押し付けられて過ごすのは危険極まりない。

 

「い、いや、だからこれは誤解でだな…」

 

「誤解?既に解は出てるんで、解ける事はないでしょうねぇ〜」

 

こいつ…

相変わらずニヤついた笑顔のまま煽ってくる幼女のうさ耳さん。

俺じゃなきゃ手が出ちゃうね。

 

「ちょ、ちょっと!違うから、私が謝っているだけであって、八幡は悪くないのよ!」

 

あぁ、ミスティア。お前がこんなにも頼もしく見えるぞ…。

これからはミスチーって呼んでやろう……………やめとこう、キモいって言われて終わりだな。

 

「だとしても、だよ。はたから見れば犯罪臭すごいよね」

 

「ムムム…」

 

ミスティアと幼女うさ耳さんの間に火花が散る。

やめて…!仲良くして…!

 

「ま、今回は初犯て事で見逃すよ。次はちょっと賽銭箱に投げてもらう事になるけど」

 

肩をすくめながらそう言ううさ耳さんは、やけにいやらしい顔をする。

賽銭箱に投げるものって…金のことか…?

 

「元はと言えば誤解なんだが…」

 

それに初犯てなんだ、初犯て。俺がまるで犯罪者みたいじゃねぇか…。

いや、まぁ犯罪者の様な目をしている事は自覚しているが、実際に犯罪を起こしたことなど一度もない。

 

そう、ボッチとは人畜無害な生き物なんだよ。

誰にも噛みつかず、無色透明の空気のように生きていく。

 

ボッチほど日本の治安に貢献している人間は居ないだろう。

 

「ん、そういえば自己紹介してなかったね、私は因幡てゐ。好きに呼んで」

 

「あ、あぁ。ひきぎゃやだ…」

 

噛んだな…いや、他人事のようだが俺の事だ。

初対面と話すと高確率で噛む、それがボッチの特性の一つだ。

 

もう噛みどころか神の領域だろうな、これ。

きっと俺の名前が八幡なのも何か関係している筈だ………………いや、あり得んな。

 

「「………………」」

 

周りに静寂が走る。

チルノ達バカルテットも、呆れた様子でこちらを見ている。

 

「もしかして患者様は、ボッチという人種?」

 

もしかしなくてもボッチという人種だ。

いや、俺はボッチの中のさらにボッチを行く、エリートボッチだ。

前にも言ったが、なんなら八幡という新しい種族として登録されてもいいレベル。

 

因幡は馬鹿にしたような目でこちらを見ているが、ボッチである事は隠す事じゃないし、恥ずかしがる事でもないのだ。

それどころか自分がボッチである事を誇ってもいい。

 

漫画やアニメでよく言うだろ?己をよく知る事が強さへと繋がるって。

逆説的に、人とコミュニケーションを取らず、自分と向き合う時間が多いボッチは最強と言える。

 

ボッチ最強、ボッチ万歳。

 

「なるほど〜。人とのコミュニケーションが苦手で、社会から弾き出されたはみ出し者という訳だ」

 

「ぐっ…」

 

何この子、意外と毒舌…!

特に悪びれもなく、普通の顔をして毒を吐くから恐ろしい…。

 

ただ、それは違うぞ因幡。ボッチというものは…「あぁー!やっと見つけたー!」

 

今度はなんだ…?

 

「げげっ、見つかったー!」

 

因幡が渋い顔をして、逃げ出す。

その視線の先には、先程洗面所で会った方のうさ耳さんだ。

なんだか鬼の形相をして、因幡を追っている様子。

 

それを間抜けな顔をして見る俺と、バカルテット。

 

「まだ仕事がいっぱいあるんですよー!」

 

追ううさ耳さんと、逃げるうさ耳さん。

うん、なんというか…せわしないな。ついていけない…。

 

 

 

 

 

「そ、それより、八幡!左腕は大丈夫なの?休んでた方が…」

 

リグルが話を変えようとばかりに、俺の左腕の心配をしてくる。

 

心配してもらっているところ悪いが、もう既に左腕は治っているのだ。

まぁ、バタバタしてたしな、さっきまで気付かないのも無理はない。

 

「いや、俺腕あるんだけど…」

 

「「「「へ…?」」」」

 

バカルテットが揃って間抜けな声を出す。

まぁ、その反応が妥当か。バカルテットの反応を見るに、斬り落とされた腕を治すという事は幻想郷でも普通ではないのだろう。

 

「え、えぇ?」

「あ、あれぇ?」

「そ、そうなのかー?」

「あたいのサイキョーパワーのおかげね!」

 

それぞれ困惑した表情で、反応を述べる。一人だけ的外れな奴が居るが…。

 

………そういえば大妖精はどうなったのだろうか…。ここで聞くのは野暮かもしれないが、やはり気になってしまう。

一度首を突っ込んでしまった訳だし、更にいえば大きな被害も被った。

知る権利があるといったら微妙だが、聴いてもいいだろう。

 

「なぁ、大妖精はまだ目覚めてない…よな」

 

「……うん」

 

チルノが悲しそうに答える。

やはりまだ大妖精は目覚めてないのか…だとすると十中八九あの刀が原因だろう。

俺の左腕を斬り落とした、あの刀が………。

 

「そうか、それじゃあ刀の話になるな…」

 

「「「「…………」」」」

 

辺りに静寂が訪れる。

 

それはそうだ。あの刀に散々な目に遭わされた訳だからな。

 

ただ、紫や幽々子様なら簡単に刀を倒せるのかもしれない。

実際紫は俺が洞窟であの刀に出会った時に見ていたらしいしな。

 

でなければ、永遠亭に怪我をした俺を運べるはずがない。

あそこに紫が居なかったらとっくに俺は死んでいるはずだ。

 

ただ、何故俺が気絶するまで見ていたのか…。

助ける理由が無いと言われたそれまでだが、そうだったら最終的に助けた理由に説明がつかない。

 

だとしたら、何か紫なりに考えがあった可能性が高い。

 

はっきりとは分かってないが、ならば紫の力を借りる訳にもいかないだろう。

あの刀を倒せる力があるのなら紫に片付けて欲しいが。前文の通りにそれはナシ。

 

それじゃあどうするか……

 

「もう一度あたいのサイキョーパワーでたおす!」

 

「「「「無理だ」」」」

 

「なっ、なにをーっ!」

 

満場一致で可決。

チルノが幻想郷でどれほどの実力者なのかは分からないが、先の戦闘を見る限りチルノでは無理だろう。

 

それじゃあどうするか…俺自身は妖怪とはいえ、そんな大きな力を持っている訳でもない。

今から妖力の使い方を学んだところで付け焼き刃にしかならないだろう。

 

妖忌さんから剣術を学んでいるとはいえ、戦闘に使えるほどの実力はない。

 

やはり誰かに協力を仰ぐしか…。

 

「でも、八幡…」

 

「…あ?」

 

俺が考えていると、ミスティアが話しかけてくる。

その表情は申し訳なさそうで、幼いながらも責任という二文字の言葉がのしかかっている様だった。

 

「元は、私たちの問題だし…」

「うん八幡は巻き込まれちゃっただけだから…」

 

ダメだ、こいつらにこんな表情をさせてはいけない。言いたいことはわかっているつもりだ。

つまり、なにも関係のない俺を巻き込んで、多少の負い目を感じているのだろう。だからこれ以上関わることはないと…。

 

ただ、これはこいつらが悪いのではない。勝手に放って置けなくなって、勝手について行って、勝手に巻き込まれた俺の自己責任だ。

 

ただ、それは今回も同じだ……

 

「まぁ、その…なんだ。言いたいことは分かるが、これは俺が勝手にやったことだ。次も俺は勝手にやらさせてもらうだけだ」

 

そう、次にもしバカルテットがあの刀と戦う事になるのなら、俺はその時勝手について行くだろう。

そして勝手に巻き込まれて、勝手に左腕を斬り落とされるのだ……………ダメじゃねえか…。

 

「でも…」

 

やはり納得しない。ただ、今度はバカルテットと俺だけで行くという訳ではないのだ。

 

「あー…今度は俺らだけで行くとかそんな馬鹿な真似はしないで、他の人に協力してもらったりすれば大丈夫だろ。それこそ慧音さんとか…」

 

そう、困った時の慧音さん。本当にこの人に頼めば大抵の事はしてくれそうだ。さすがケイえもん。

それに慧音さんなら頼みを受けてくれる可能性は高い。

大切な生徒の問題だ。刀のことを話せばすぐに協力してくれるだろう。

 

「先生に?んー…」

 

ただチルノはなぜか悩んでいる様子。それは他も同じで、リグルやミスティアも首を捻って悩んでいる。

なんかさっきからこいつらやけに頼りたがらないな…。

戦力外の俺はともかく、妖怪としても歴史の長い慧音さんも頼りたがらないとは…。

 

「なぁ、なにか頼っちゃいけない理由とかあんのか?」

 

思わず聞いてみる。紫や幽々子様は現状を見て頼れないとしても、他に協力してくれる妖怪はたくさんいるだろう。

それこそ慧音さんや、射命丸さんたちも異変の取材として協力してくれるかもしれない。

 

さらに言えば今回の異変は、妖怪にも影響を及ぼす異変だ。

誰かしら手伝ってくれる可能性は高いだろう。

 

「う〜ん、もちろん大ちゃんが助かるならいいんだけど…なんていうか〜…う〜!」

 

リグルは何か自分の中で葛藤している様子。

 

「うん、なんていうか……よく分からないけど、他の人には頼りたくない」

 

それはミスティアも一緒で、理由は分からない。ただ何故か他の人には頼りたくない。単純なそれだけだった。

 

「そんなの簡単だよ!大ちゃんはあたいたちの仲間だよ?“だからあたい達が助けないと“!」

 

ただチルノは違った。リグルとミスティアと同じようにただそれだけの単純な理由だが、はっきりとしていた。

仲間だからこそ、仲間の自分たちが助ける。単純明快な理由だ。

 

そうか…こいつらはきっと誰にも頼らずここまで来たから、いつのまにか『頼りたくない』となってしまったんだろう。

 

バカルテットは、大妖精のために自分たちだけで未知の異変に挑んだ。

それは関係のない奴らから見れば、妖精やそこまで強い力を持っていない妖怪“だけ”で挑むのは愚行だろう。自惚れだ。

 

ただ、彼女らは自分たちで仲間を守りたい一心なのだ。

 

これは扱いの軽い妖精だからこそなのだろう。

誰も見向きもしない。誰も手を差し伸べてくれない。

 

嫌われている訳でも、好かれている訳でもない。

それは一緒にいるミスティアやリグル、ルーミアも一緒。

 

だからこそ自分たちだけで自分たちを守る術に憧れた。それが形になって誰にも頼らない。

もし頼ったところで、誰も手を差し伸べてくれないから…あの時の様に、あの人里でバカルテットに初めて会った、あの時の様に…。

 

ずっと嫌われてた俺は、こいつらの気持ちを完全に理解する事は出来ないが……あれ?涙が出てきた。

 

……とにかく、それらが彼女らの、誰も頼りたがらない理由だろう。

ただ残念だったな。

 

「そうかよ…なら俺にもその権利はあるな」

 

「「「え?」」」

 

『異変をなんとかしなくてはいけない』

 

もう既にそんな気持ちはなかった。

 

『異変をなんとかしてやりたい』

 

その気持ちの方が強かった。

もちろんバカルテットに同情した訳でも、正義とかいう曖昧なもののために動くのではない。

 

その…なんだ。文化祭の時も言ったが、今まで一番頑張ってきた奴が『誰かを頼れ』と責められるのはお門違いだ。

バカルテットが今まで頑張ってきたかは知らんが、今回の異変に関しては敢闘賞をくれてやりたいぐらい活躍した。

………結果を残しているかは別としてな?

 

だからこそ、戦力になるか分からないが少しでも協力したくなった。

 

「おいおい、自己紹介の時仲間になったはずだぞ?半分強引に…それともなんだ?友達料とか払わないといけない感じ?」

 

まぁ自信はないし、出来るかは分からないが、多少は力になれるかもしれない。

 

こんな時『俺が誰にも頼らずに終わらせてやるよ』とか言ったらカッコいいのだろうが…。

ハードルはいつだって低くだ。俺は最善を尽くす、ただそれだけ。

 

「屁理屈ね」

「屁理屈だね」

「へりくつ?」

 

バカルテットには散々言われているが…。

あとチルノ、お前は屁理屈の意味ぐらい覚えておけ。

 

「あー…まぁとにかくだ。俺も多少は協力するって事だ。多少は…な」

 

その一言で、誠に遺憾ながらも俺のバカルテットの仲間入りが確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、さっきからルーミアはなんでなにも喋らないんだ?」

 

「あはは…朝は光を遮断しているから、ほぼ前が見えてないのよ…」

 

ふわふわと浮いているルーミアが、何度も廊下の壁にぶつかっていた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

バカルテットとの話を終え、意外にも午後には既に退院出来た。

実際、左腕は治っているし、正常に動くからもう入院は要らないのだがな…。

 

今は永遠亭の玄関で、八意さんに見送ってもらっているところだ。

横には因幡とうさ耳さんもいる。

 

ちなみにうさ耳さんの名前は鈴仙・優曇華院・イナバというらしい。

 

小学生並みの感想だが、名前なげえ…

 

それにしてもやはりこの永遠亭はどこからどう見ても病院じゃないな…。

内装を見た限りでは古風を感じる病院に見えたが、外装はというと、普通のお屋敷だ。

 

それを八意さんにそれとなく聞くと、少し苦い顔をされたので、追求はやめた。

知られたくない事だってあるだろうしな。

 

「竹林の外まで案内するわ、てゐが」

 

因幡の案内か。こいつ若干苦手なんだよな……なんてわがままは言ってられないな。

聞いたところ、ここは迷いの竹林とかいう場所らしい。

 

とてつもなく広大で、いつも深い霧が立ち込めているという。

人間が迷い込んだら、余程の強運じゃないと出られないとかなんとか…。なにそれこわい

 

「えぇ〜私ぃ〜?」

 

「はぁ…少しくらい手伝って欲しいわ」

 

案内を面倒くさがる因幡に、八意さんが容赦なく冷たい笑顔を浮かべる。

なにあれ、こっわ…あんなの向けられたらちびる自信がある。

 

やはり普段優しい人ほど、怒ると怖いという説は本当なのだろう。

 

「はいはぁ〜い」

 

因幡が気怠そうに返事をする。

そういえばバカルテットは、八意さんが『任せて』と言っていたが、どうするのだろうか…。

 

「妖精達も、後で私たちが帰らせるわ」

 

おぉ、それはありがたいな。

 

「…………てゐが」

 

「ちょっとぉ!?」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

竹、竹、一面の竹。

竹林というとあまりいい思い出はないが、それも忘れてしまうほど広大な竹林だ。

霧も濃く、既に自分がどこを歩いているのかも分からない。

だが、もう既に永遠亭を出てから数十分は歩いている事だろう。

 

「ねぇ、患者様」

 

すると今まで鼻歌を歌っていた因幡が話しかけてくる。

今更だが、その患者様呼びはなんなんだろうな…。

 

「…なんだ?」

 

「本当は能力で一人で帰らせてもいいんだけど…竹林の外まで送るのは大サービスだからね?」

 

ん?能力?サービス?

なんのことだ?

 

「………?因幡、それはどういう…

「は〜い!ここを真っ直ぐ行けば竹林の外に出るから。私の案内はここまでね。バイバーイ!」

 

無理矢理話を遮られる。

なんだかこいつにはいつも話を遮られている気がするんだが…。

 

ただやけに意味深な発言といい、今回はすごい気になる話の遮り方だ。

出来るのなら聞きたいのだが…

 

ただ俺のそんな気持ちも無視して、因幡は霧の深い竹林の中に消えて行ってしまった。

ほんとに…

 

「なんなんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶え間なく濃い霧が流れる竹林。

一匹の兎は、楽しそうに笑う。

 

 

 

 

「……………幸運を…ふふっ」

 

 

 

 

──────タラッタラッタラッタ♪可愛いだんす♪

 

 

 

その日の竹林に、少女のご機嫌な歌が響いた。




文字数多い割に、全然話が進まなかった…


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程度の能力

一部深夜テンション。
誤字脱字や文の作りがめちゃくちゃかもしれないです。


肌がヒリヒリする様な寒さ。パラパラと降る雪は、俺の肌に落ち、やがて熱で消えてゆく。

永遠亭を出た後の俺は、人里で団子を食べながら遠くを見つめていた。

 

あいにく今日の天気は雪で、絶好の異変解決日和とはいかない。

と言っても別に今日異変を解決しようとしたわけでもなく、なるべく早く解決策を練らないといけないと考えていただけだ。

 

バカルテットの異変解決の手伝いをするといっておきながらも、あいつらは流石に連れていけないだろう。

あいつらには悪いが、危険に晒すわけにはいかないからな。

 

ただ俺が異変を解決できるわけでもなく………

 

「さて、どうするか…」

 

誰かに頼るってのもありだが、手伝ってくれるかどうか…。

 

慧音さんならワンチャンと思ったが、今バカルテットは慧音さんのもとにいる。

聞いたところ異変を解決すると息巻いているところを、慧音さんに止められているらしい。

つまり今は慧音さんの協力を仰ぐ事は出来ないという訳だ。

 

なら射命丸さんとかか?でもあの人どこに居るのか知らないしな…取材をするだけして、手伝ってくれるとも限らない。

妖忌さんはどうだ?いや、今は個人的な理由で白玉楼には戻りたくないな…。

 

ならば…

 

「やっぱり八幡だぁ!」

 

そうやって手伝ってくれそうな候補を頭の中で探し出しているうちに、どこからか子供っぽい声が聞こえてくる。

声色的には女性だろう。そしてその声の主ははっきりと俺の名を呼んだ。誰だ?

幼女に知り合いはバカルテットぐらいしか居ない。

 

妖夢もギリギリ幼女に含まれる可能性もあるが、彼女を示すには、少女という言葉が一番適切だ。

 

その声の主の想像がつかなくなったところで、声のした方向に振り向く。

 

──ドスン

 

振り向いた瞬間、鈍い音が俺の腹から聞こえてくる。声を出す暇もなく、俺は体のバランスを崩される。

謎の黒い物体が俺の腹に飛び込んできたのだ。その謎の黒い物体とは、お察しの通り先程の声の主。

 

幼女が飛び込んでくるなんて、なんて羨ましいんだ!と思う人も居るだろうが、そんな事を考えられる余裕はなかった。

なんとその幼女は、プロ野球選手の投げたボール並みのスピードで突っ込んで来たのだ。

おまけにその幼女にはツノが生えていた。そう、サイやシカなどに生えているあのツノだ。

 

別にツノが生えている事に驚きは無い。ここ幻想郷じゃ、ツノが生えている妖怪が居てもおかしくないだろう。

いや、実際ツノの生えた妖怪は結構の数居る。

 

ただ、今回の話は別だ。ツノの生えた幼女が、物凄いスピードで頭から突進してきたんだぞ?

俺の頭の中にはたった二文字の言葉が浮かんでいた。

 

──死ぬ

 

本当にまずい。一瞬走馬灯の様なものが見えるぐらいまずい。

その走馬灯を説明するならそう…

 

幽々子様がご飯を食べていたり…

小町がカマクラと戯れていたり…

幽々子様がご飯を食べていたり…

妖夢が妖忌さんと稽古をしていたり…

幽々子様がご飯を食べていたり…

紫が扇子を片手に笑っていたり…

幽々子様がご飯を食べていたり…

 

「………ガッ!?」

 

そのまま俺は地面に倒れた。その時に頭をぶつけた衝撃で、ようやく走馬灯の様なものが消える。

というか俺の走馬灯はあんなのでいいのか…?

 

「八幡、久しぶりー!八幡の妖力を感じて、こっそり地上に飛び出して来ちゃった!」

 

一方その声の主は呑気に俺の腹に顔を埋めていた。こいつ…俺の気も知らずに…。

ところで、なんだか俺のことを知っている様だが、残念ながら俺はこの幼女を知らない。

改めて容姿を見直しても全然面識がない気がする。

 

見た目は幼女。ただその体に見合わないほどの大きいツノ。ツノは二本生えていて、横に大きく伸びている。

これが縦に長いツノだったのなら、俺は今頃串刺しにされているだろう。

 

他に気になるところと言えば…腰につい付いているひょうたんだ。蓋が緩いのか、さっきから少しづつ水の様な液体が溢れている。

ただ、あれは水では無い、さっきから酒の独特な匂いがこの幼女から香ってくる。つまりはこれは酒か…。

 

幻想郷はこんな幼女でも酒を飲めるんだな…法律どこ行った…。

 

「もう仕事はいいのか?八幡」

 

「ん、えぇっと…?」

 

仕事?白玉楼のことを言っているのか?でもこいつとは面識ないはずだけどな………まてよ…?

 

『あなたは幻想郷に来たことがあるわ』

 

不意に紫の言葉を思い出す。この幼女も、俺が幻想郷に来た時に知り合った妖怪なのだろうか…。

いや、ほぼ確定でそうだ。ならば俺が幻想郷に居た時の事を教えてくれるかもしれない。

 

何か理由があって紫は言いにくいみたいだが、それでもやっぱり気になるものは気になる。

俺は幻想郷に居た事を全く覚えていない。本当に幻想郷に来た事があるのかを疑ってしまう程。

それでも俺が妖怪だったり、この幼女の様に面識のないはずの人に一方的に知られていたり…。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

ただの好奇心だ。自分の事を知りたいと思うのはごく自然な事だと思うし、当たり前のことだ。

だから俺はこの幼女に話を聞くことにした。

 

 

 

 

それがまた厄介を呼ぶのだが………

 

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

 

「えぇ!?覚えてない!?」

 

「あ、あぁ」

 

なかなかのオーバーリアクションで少し驚いたが、それほど親しい仲だったのか…?

人里から少し離れて山の中。今は生い茂る草花に隠れ、消えかけた山の道をゆっくりと幼女と歩いている。

あまり人里で妖怪は歓迎されないからな、あそこじゃ落ち着いて話せない。それに、伊吹は人里に居ると、なにかと都合が悪いらしい。

 

ちなみにこの幼女は、『伊吹萃香』というらしい。

 

種族は『鬼』。

 

鬼は結構な酒飲みらしく、伊吹もその例に漏れず酒飲みらしい。今日はまだ飲んでないとか。どうでもいいですねわかります。

そして今は丁度、幼女改め伊吹に、幻想郷に居た時の事を覚えていない話をしているところだ。

 

「紫のことも幽々子のことも!?」

 

紫も初対面の頃に、俺のことを知ったような感じだったことから、きっと紫もその時に面識があるのだろう。まだ話せないと言っていたが…。

一つ分かった事といえば、この伊吹の反応を見るに、俺が幻想郷に居たという事がほぼ確定したという事だ。

ただ、同時に気になることも一つ増えた。

 

「紫はそうだが…幽々子様もなにか関係があんのか?」

 

伊吹は先程幽々子様の名前も出した。幽々子様とは、俺が修学旅行の後に幻想郷に来た時が初対面だと思うが…。

幽々子様も俺を知っているような様子はなかった。幽々子様と面識があったというのは考えにくい。

 

「え?あぁいや、なんでもないなんでもない!そんな事より…」

 

はぐらかす様に話をずらそうとする萃香に、疑いの目を向ける。

その視線に気づいたのか、伊吹は気まずそうに目を逸らす。

おい、これ絶対なんかある奴じゃねぇか…。

 

「そんな事より!何か聞きたい事があるなら、あたしが出来る限り答えるぞ!」

 

ここで先程の幽々子様のことを聞けばいいのだが、流石にそれは意地悪が過ぎるな…。

 

「…んじゃあ、俺はなんの妖怪なんだ?」

 

気になっていた素朴な疑問をぶつける。

幻想郷に来てもう2ヶ月ぐらい経つが、まだ俺は自分の妖怪の種族を把握していなかった。

なんなら自分が妖怪という事に確証が持ててないぐらいだ。

 

「八幡は八咫烏だ。幻想郷でも指折りの実力者だったな。ま、私にはぜ〜んぜん敵わないけどなー!」

 

「さいで…」

 

なんだか失礼なことを言われたが…。

それにしても八咫烏か…どれだけ俺は八という数字に縁があるのだろうか…もはや呪いのレベルまである。

 

八咫烏というと、一番に思い浮かぶのは、太陽の化身という事だろう。

俺が太陽の化身か……ないな。

 

八咫烏は導きの神とも言われていた様な気もする。

俺が導きの神か………もっとないな。むしろ俺が導いて欲しい。

 

中二の時に知った知識を必死に絞り出していたが、もうこれまでだ。

俺が八咫烏について知っていることといえば、太陽の化身であることと、導きの神であるということ。そして、足が三本あるということぐらいしか知らない。

 

自分がなんの妖怪なのかを知れば、なにか思い出すかと思ったが、そんなに役に立ちそうな情報じゃなかったな…。

 

「それで、能力は…」

 

「あぁ………いや、待て。能力ってなんだ…?」

 

能力

 

萃香の口から出た聞き慣れない言葉に、思わず質問してしまう。

紫のスキマや、バカルテットが出していた弾幕の様なもの。この幻想郷には妖怪や妖精という存在以外にも、不可思議なものが存在している事は知っている。だとしたら、それらを能力と言うのだろうか。

 

だったら納得がいく。

紫のスキマも、バカルテットの弾幕の様なものも、所謂典型的な『能力』だ。ワープをしたり、光の弾をぶつけたり。

 

「あー、そっか…幻想郷では、大体の人や妖怪達は能力を持ってるのよ。もちろん八幡も」

 

「紫のスキマみたいなものか?」

 

「そう!紫でいうなら、『境界を操る程度の能力』」

 

境界を操る程度の能力か…。そういえば幽々子様が、幻想郷は結界により切り離された世界と言っていた気がする。

その能力は幻想郷設立と、何か大きな関係があるのかもな………まぁ俺が考えても仕方のないことだが。

境界といっても、なんの境界なんだろうか。もし、境界と名のつくものなら、なんでも操れるとなると…考えるだけで恐ろしいな…。

 

「そんで…俺の能力は?」

 

そんな恐ろしい能力が、俺にもあるかもしれない。そう考えると、厨二心がくすぐられる。

いや、よく妄想しただろ?強大な能力が抑えられなくなって右腕が…!とか。

それに、決して簡単に踏み入っていいものじゃないのだろうが、やはり自分のことなら出来る限りの事は知っていたい。

 

「『”かんかく“を操る程度の能力』」

 

躊躇うことなく萃香の口から出たのは、一度聞いただけでは理解しにくい能力だった。

「程度」というのも少し気になるところだが、今はいいだろ。

 

「かん…かく?」

 

「そう、八幡の能力は、かんかくを操れる能力だ」

 

かんかく

かんかくを操る能力。

 

何故だろう、何故か馴染むその言葉。いや、一度幻想郷に来た事があるのだから、体がその言葉を覚えているのかもしれない。

自転車の漕ぎ方やプールでの泳ぎ方は一度覚えれば忘れないと良く言うものだ。

生き物というのは、何かを繰り返しやれば体で覚えてしまうもの、それはまるで本能の様に…。

 

ただ、”かんかく“を操ると言われてもすぐにはピンとこないものだ。

感覚なのか…間隔なのか…もしくは、俺が知らないだけでもっと”かんかく“という言葉があるかもしれない。

 

「なぁ、それってどんな能力なんだ?」

 

自分だけでの考察では、能力を把握することが難しかったので、すぐに能力の意味を聞いてしまう。

 

「分からないよ?」

 

ただ、伊吹から当然の様に出たのは、頼りない言葉だった。

その言葉につい、ポカンと間抜けな表情を浮かべてしまい

 

「……え?」

 

間抜けな声も出ていた。

 

「いや〜、恥ずかしながら覚えてないんだよな〜、これが」

 

それでも自分の能力が知れたのはデカイ。

これならあの刀をどうにか出来る可能性も上がった訳だし、自分のことを知れたというのは、単純にいい収穫だ。

これで能力の詳細まで知れたら、もっとよかったんだけどな…今はそんなわがままを言っている場合でもあるまい。

 

「でも、なんだかワープみたいな事してた様な…」

 

ワープ。

なんとなく伊吹の口から出た言葉は、結構重要なものだった。

そして、なんとなく能力の想像がついた。なんとなく想像がついた。きっと“間隔”を操る能力だ。

 

側から見ればワープに見えるが、ただその物と物の間隔を操って、あたかもワープしたように見せただけ…この可能性が一番高い。

もしそうなら、なかなか分かりやすくていい能力だ。だがこれをうまく活用出来るかは別だがな。

 

「なるほどな…」

 

「ほかに聞きたい事は?」

 

「いや、特にもう……あー、ひとつだけ」

 

聞きたい事は沢山あるが、さすがに全てを聞く訳にもいかない。そうすればきっと日が暮れてしまう。

それに、この伊吹萃香という人物が頼り甲斐のある人物かと聞かれたら、俺は言葉を濁すだろう。出会ってまだ数分しか経っていない訳だが、なんとなく察した。

先程の能力のくだり。そう、あの豪快な性格だ。良く言えば豪快で鈍感だが、悪く言ってしまえば確定性が無い。それは勿論情報も例外ではない。

ただ一つだけ、一つだけ聞きたいことがある。

 

「ん?なんでも聞いてくれよー」

 

「能力ってどう使うんだ?」

 

どう使うか以前に、使い方が分からなければ元も子もない。

他の程度の能力とやらによって、能力を使う感覚が違うのなら聞いても無駄だが、聞いておいて損はない。

その先にまた『活用』という新たな問題が出てくるのだが…。

 

「へ?能力の使い方?“感覚”に決まってるだろ!か・ん・か・く!」

 

………こいつに聞いた俺が馬鹿でした。

 

「あー…わかった。感覚な…」

 

曖昧な答えを返して、場を濁す。

鬼ってのは本当に豪快な種族なんだな…。種族で性格や気性が決まってしまうなんて、どこか皮肉な話だがな。

いや、もしかしたら俺がぼっちなのも、八咫烏という種族だからなのかもしれん。だとしたら俺は悪くないな。種族が悪い。

 

「さて…質問も終わったし、私はそろそろ帰らないと」

 

「あ?帰る…?」

 

「そ、地底に!」

 

え、なに?鬼って地底人なの?というか地底とか本当にあったのか…。

 

「これ以上ここに居て、人間に見つかるのはまずいからな〜」

 

なんだか訳ありみたいで…。

それにしても幻想郷に地底なるものが存在したとはな、世の中は広いというのはまさにこの事だろう。

まだまだ全く知らないことがありそうだ…。

 

「んじゃ!さっさと記憶取り戻して、一緒にお酒飲もうね〜!」

 

「お、おう…」

 

すごいスピードで走って行く伊吹を送り、ため息をつく。まるで嵐の様な奴だったな…。

 

自分の事を知れたのはいいが、少し気疲れしてしまう。

あっという間に伊吹は見えなくなり森に一人取り残される。変な奴だったが、悪い奴では無い気がするな…伊吹萃香。

 

俺の知らないことが沢山あるこの幻想郷で、俺の知らない俺を知っている人が二人も居る。なんだか記憶喪失になったようで、変な気分だ。いや、実際に記憶を失っているらしいから、記憶喪失と言っても差し支えないが…。

 

それでも外の世界で今まで生きて来た記憶はあるわけだから、それ以上に奇妙だ。

 

さて…結局能力の使い方なんて都合のいいことは聞き出せず、あの刀への対抗手段は未だ無いままだ。

やはり誰かに頼るのが得策か…。

 

「ん、靴紐が…」

 

なんとなく、意味もなく下を見て、靴の紐が解けているのに気付く。外で使っていたスポーツに適した紐靴だ。

幻想郷に来たばかりの時は、服や靴がなかったので、白玉楼にあった和服や下駄を履いていたが、やっぱり外で着ていた服や靴の方が勿論着心地が良くて、外で着ていた衣服を使っている。

ただ、幻想郷に来て歩く機会が増えたからなのか、最近良く靴紐が解ける気がする。

 

俺は体制を低くし、靴を結び直そうとする。

 

 

──ビュンッ

 

 

……なんだ?今の音は…。

いや、聞き慣れた音でもある。何か鋭い物が空気を斬る音。そう、妖忌さんが真剣で稽古をしている時に良く聞く音だ。

ただ問題なのは、なんでその音がこんな山の中でするのかという事だ。

 

そこで、俺の頭から何かがハラハラと落ちてくる。これは………

 

 

「髪の毛…?」

 

 

あぁ、そうか。なるほど。

少し遅れて俺の横から、ミシミシッと木が倒れる音が聞こえる。

この髪の毛はきっと俺の髪の毛だ。さっきの空気を斬る音は、俺の頭を掠めていった斬撃音。

 

つまり俺は靴紐を結ぼうとかがんだら、“偶然”避けられたという事だ。

その避けた斬撃はどこへ行くかというと、俺の横にある沢山の木々達だ。だから木が倒れた。

 

そしてその斬撃音の正体。それは…

 

「………………」

 

なんとも言えない、異様な存在感を放つその『刀』。

そう、バカルテットと行った洞窟に居た、俺の左腕を切り落とした、大妖精の意識を奪った……あの刀だ。

黒い瘴気を纏い、刀だというのに殺気を放っている様にも感じる。

 

「おいおい…嘘だろ…」

 

嗚呼、助けてください神様仏様小町様!

別にあの刀があの洞窟から出ないなんて誰も言ってない。ただ、ゲームとかだとボスはダンジョンにとどまっているものだ。

だから無意識的に刀は、ずっと洞窟に居るものだと信じていた。

 

こんなところでエンカウントとは…レベル1の村人が、ただの白玉楼の従者が、どうやってこの危機に対応すればいいのか…。

こんなことなら伊吹に能力の使い方を多少でも聞いておくんだった…。

 

もしかしたら紫が居るかも知れない、なんて淡い希望にすがりたいが、あいつが見ていたとしても最後までは助けてもらえないだろう。

じゃあどうするか………。

 

 

 

 

逃げる以外ないだろ。

 

「くそッ…」

 

俺は全速力で駆け出した。当てもなく、とにかくあの刀から逃げるため…。

 




萃香と八幡は面識がありますが、紫の様に対等には見られてません。
何度も言いますが、受験のため更新は遅れます。


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美しさと思念の万華鏡

「あっぶねっ…!」

 

全速力で森の中を駆ける。無我夢中に走っているからか、もうすっかり自分の場所が分からない。

その最中もあの瘴気を纏った刀は絶え間なく斬撃を飛ばしながら、一直線に追って来る。この斬撃もバカルテットが使ってた弾幕ってやつの一種なのか…?

 

ただ不幸中の幸い。なぜかその斬撃を“運良く”避けられているのだ。

石につまずいたところ頭を斬撃が掠めていったり、逃げた方向と逆に斬撃が飛ばされたりと、今日の俺はなかなかの幸運と言っていい。

 

それにしても、病み上がりにする仕打ちじゃないだろこれ…ついこの間左腕斬り落とされたばっかりだぞ…!

 

──ビュンッ

 

そんな鈍い音をたてながら、逃げる俺を刀は追いかけてくる。

このまま逃げ続けても体力が尽きて追いつかれるだけだ。ただどこかに隠れるといっても、こいつがどういう基準で追ってているのかも分からない。それこそ妖怪や妖精を狙っている刀だ。妖力に反応して追って来ているなら、隠れてもどうしようもない。

 

じゃあ、誰かに頼るしかないか…。

 

でも誰に?今から冥界にいっても、途中で体力は尽きるだろう。

紫はどこに居るかも分からんし、助けてくれるかも分からん。

人里に行ったら助かる可能性はあるが、絶対犠牲者が出る。

 

それに、今は右も左もわからない森の中。人里以前にここがどこか分からない。

 

「…っはぁ…くそッ…どうすんだよ…はぁ」

 

呼吸が乱れるので、なるべく喋りたくないが、ついこの状況に悪態をついてしまう。

助けを呼ぶのは無理。隠れるのも逃げ切るのも無理。ならばどうする…何か利用出来るものは…。

 

考えろ…こういう時こそぼっちの特性を活かす場面だ。ぼっちというのは基本的に思考力が高い。対人関係や友人関係に割けるべきリソースを全て自分に向けているからだ。

自分の中で反省と後悔と妄想と想像を繰り返して、いずれ心理や哲学までに辿り着く。もう頭の中にもう一個の世界作れちゃうレベル。いや、本当に。

 

そういえば、妖怪や妖精とかの異種族が廃人と化しているのはこいつの仕業なんだよな…。

 

妖怪が廃人に…妖力を…なら…。

 

賭ける価値はあるかもしれない。

もし本当に妖力に反応し、妖力を吸い取り妖怪を廃人にしているのなら、妖力を込めた何かを……そう、弾幕だ!………でも弾幕ってどうやって作んだよ…。

 

そういえばさっき伊吹に聞いたよな…能力の使い方。

 

『そんなもの感覚だよ!』

 

感覚…感覚な…。なんとなくミスティアがやっていた様に手に力を込めて集中してみる。

感覚なんて言われても一つも分からんが、とにかく試してみるしかない。今は弾幕を出さないと始まらない。

 

掌に意識を貯め、なんとなく形を作るイメージで。

 

集中しろ…感覚、感覚だ………“かんかく” …………は?

 

「っはぁ…っはぁ…なんだ、これ?」

 

掌を見てみると、そこには鳥の羽の様なものが浮かんでいた。

普通の鳥の羽より二倍くらいの大きさで、どういう仕組みか、淡く光を放っている。

 

これが弾幕か?だとしたら結構呆気なく出せたな…。

 

あまりの呆気なさに少し驚いたが、出せたのなら話はこれからだ。

弾幕の仕組みがどういうものかは分からないが、もし妖力を込めて作られているのなら使える可能性がある。

 

そう、弾幕に反応させて、弾幕を追わせればやり過ごせるかもしれない。

 

まぁ前提としてあの刀が妖力に反応してくれなきゃ困るわけだが…。

やってみるだけ損はない、俺は弾幕を動かすイメージで刀の方へ飛ばす。

 

案外うまく操れるもんだな…もう少し難しいと思っていた。

自分の思った通りに動いてくれる弾幕を見て、少し嬉しくなる。

 

──スゥッ

 

静かに俺が出した羽の形をした弾幕が飛んで行く。

その弾幕は、刀に当たることなく横を素通りし、刀の向こう側の地面へと突き刺さる。

よし、狙い通りだ。後はあの弾幕に反応してくれたら逃げ切れる…もちろんまだ油断は出来ないが、ホッと息を吐いてしまう。

 

さて………どうだ?

 

『…………』

 

ピタっと刀が止まる。

成功か…?こう思ったのもつかの間、刀は弾幕を気にすることなくまたこちらに向かってくる。

 

失敗…とは言い難いが、そこまで反応を示さなかったか…なんなの?焦ってんの?

 

ただ、多少は反応を見せた。弾幕の妖力が強ければもっと反応してくれるんだろうが、妖力の込め方なんて分かるはずない。

一つの弾幕で一瞬でも動きを止められるのなら十分だ。うまく利用すれば逃げれるかもしれない。

 

よし、勝ち筋…というより逃げ筋は見えた。

 

後は助けを求められる場所に…………どこだよそこ…。

いや、とにかく逃げなきゃならないか…あいつが俺の妖力に反応しなくなるほど遠い場所に。

 

『…………』

 

未だ不気味なオーラを全開に出して追ってくる刀に、また羽の弾幕を打ち込む。そしてその弾幕に刀が一瞬反応を見せて止まった瞬間に、出来るだけ遠くに逃げる。この繰り返しだ。

 

気は遠くなるが、距離はどんどん離せている。このまま逃げ切れるな…。

 

にしても単純なもんだな。これなら人間の方が数倍は怖えわ。

ただ妖力に反応して、そちらを追う。考える頭を持っていないだけマシだ。ほら、人間を見てみろよ、あの刀以上にドス黒い瘴気纏ってるぞ。

 

ただ、今の俺には出来るだけ遠くに行って逃げきるという単純なものしか解決策が残っていないが、流石にもう体力も底が見えてきた。運動が苦手な訳でもない。言っても中の上か中の下だ。それでももう既に5キロ程度は走っていて、息も上がってきている。

 

かと言ってこんな山奥に助けてくれる人なんて居ないだろうし、一人でどうにかするしかないか…。

 

人間というのは、一度は孤独と向き合い孤独に戦わなきゃならない時がある。俺は今がその時だ。

 

あれ?でも俺ってずっと孤独じゃね?おい、永遠に孤独と戦ってんじゃねぇか。

いや、まてよ?つまり逆説的にぼっちは最強の戦士という事になる訳か…。

 

『──────ッ!!』

 

「うぉっ!?」

 

そんな俺の考えも無視して、いきなり刀が声を上げる。いや、雄叫びの方が近いかもしれない。まるでなにかを『宣言』するかの様に…。

 

「…………は?」

 

いきなりの大きな音にびっくりしていたのもつかの間。

つい反射的に刀の方へと振り向くと、目の前にはなんと…万華鏡が広がっていたのだ。

 

なにを言っているのか分からないと思うが、ただひたすら美しい巨大な万華鏡。

 

円柱の筒を除くと見える、あのカラフルで綺麗な昔ながらの玩具。

小さい頃駄菓子屋で母ちゃんに買ってもらった気がする。今はどこにあるか分からないが、随分長く持っていた気がする。

 

あの筒を除けば違う世界に行けた。たくさんのビーズが鏡に反射し、無限大の幻想を見せていた。

筒を回せば回すほど色々な世界が見れた。そしてどれも綺麗だった。

 

その万華鏡が、今目の前に広がっているのだ。迫って来ているのだ。

 

思わず魅入ってしまい、吸い込まれてしまいそうなその美しさに、思わず足を止めてしまう。

 

これは…弾幕なのか…?

 

しっかりと、一つ一つ見れば先程までの斬撃の弾幕が色づき、それが綺麗に並び、美しい万華鏡を魅せている。

 

言うならば弾幕の万華鏡だ。本当になんなんだよあれ…見惚れてしまうが、あれは弾幕だ…。きっと当たったらタダじゃ済まない。もちろん弾幕は万華鏡の様に複雑に敷き詰められてるので、避けることも困難だ。

 

──死ぬ

 

さっきも伊吹に頭突きされた時思ったが、今は全く違う意味だった。

 

避けるのが不可能という訳ではない。弾幕と弾幕の間には一人分くらいの隙間はある。並みの妖怪ならきっと避けれる。

ただ、生憎俺は限りなく人間に近い妖怪なんでな。これは無理だわ。

 

その万華鏡は止まることなく俺へと近づいてくる。俺を飲み込もうと。

 

あんな黒い瘴気を纏った刀がこんな綺麗な弾幕を出すなんてな…

 

 

もう足は動かない

 

ただ呆然と万華鏡の様な弾幕の大群を見つめているだけ

 

思わず魅入ってしまって

 

吸い込まれそうになってしまって

 

 

「向いてねぇわ…」

 

あぁ…綺麗だな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷さん!」

 

聞き慣れた様な、聞き慣れてない様な声が聞こえてきた。

誰だったか…あぁ、妖夢か………いや、妖夢?

 

「なんでお前ここにいんだよ…」

 

ここに居るはずのない声が聞こえてきてハッと我に帰る。間違いない。俺の後ろから走ってくるのは魂魄妖夢だ。

幼さを感じさせない凛々しい顔つき、銀にも見えるその白髪に、黒いカチューシャが目立つ。剣は既に抜刀していて、今にも飛びかからんと黒い刀を睨みつけている。

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど、あんまり無いッ!」

 

いや、そのセリフかっこいいけど、なんか曖昧だな…。

妖夢は地面を強く蹴り、刀に向かってどんどん加速していく。ただその刀の前にはあの弾幕の万華鏡があるわけで…おい、そんなに突っ込んでいって大丈夫かよ…!?

 

「はぁぁっ!」

 

ただ妖夢はそれを気にもせず弾幕に突っ込み、剣で相殺する。もちろん全ての弾幕を消せた訳ではないが、少なくとも妖夢の前にあった弾幕は全て妖夢の刀により消え失せ、俺もすぐに避けることが出来た。

 

そのまま妖夢は刀に飛び掛かり、一撃を食らわせる。大きな音が響いて、そこからは鍔迫り合い。

 

なんだか人が握っていない剣と鍔迫り合いとか不気味な光景だが、妖夢の一撃に怯んだ様に刀は鍔迫り合いを辞め後ろに退がる。

ただすかさず黒い刀は体制を立て直し、妖夢に向かう。戦う意思はあるんだな…ただ妖力に反応しているだけの刀だと思ってたが…。

 

「そんな単純な剣筋で、私の剣には届きませんッ!」

 

鉄と鉄が強く打ち合う音。時折黒い刀が出す弾幕を妖夢は華麗に避け、時には相殺し、間合いに入った瞬間剣で斬りつける。

 

一見妖夢がおしている様に見えるが、黒い刀は怯むことはあっても、ダメージを受けている様子はない…それよりなんか動きが機敏になってきてね?

 

まさかこいつ…!戦いの中で成長している…!?

 

いや、冗談もほどほどに、黒い刀は妖夢の動きを読んでいるかの様に対応出来るようになっている。

最初こそ妖夢の方が素早く動いていたが、今じゃほぼ互角の様になっている。

 

一つ気になるのは、反比例して妖夢は動きが鈍くなっている気がするのだ。

 

「ッ…!…ッ!!」

 

まずい…いつのまにか妖夢がおされている形になってしまった…。

まるで嘲笑う様に刀は妖夢の動きに合わせ、弾幕を撃ち込んでいる。もちろん妖夢には余裕が無くなって行き、苦い顔になっていく。

 

そしてやっぱり妖夢の動きがさっきより鈍い、このままやってもいずれ負ける。素人の俺でもわかる。

 

「妖夢、一旦逃げるぞ!」

 

妖夢に聞こえるように声を張り上げて言う。

 

「いえ、まだ負けてません…!いや、負ける訳にはいきません!」

 

いや、なんか熱くなっちゃってるし…。

ただ、ここは妖夢がなんと言おうと絶対に逃げなきゃならない。妖夢と刀の実力差はもちろん、『二本目』の刀も気掛かりだ。

 

バカルテットと洞窟に行った時も、もう一本の刀のせいで俺の左腕は斬り落とされた。

 

もしここでもう一本の刀が出てきたら、妖夢はもちろんやられてしまう。そう、殺られてしまうのだ。

逃げてもどうにか出来る訳じゃないが、それでも二人仲良くご臨終よりは何倍もいい。

 

よし、俺だけでも逃げよう、そうしよう。と、言いたいところだが流石に放って置けない。

 

何としてでも妖夢を連れて逃げなきゃならない。

もう一本の刀はもちろん、既に妖夢はあの黒い刀一本に圧倒されてる。

 

今ならまだ俺でも介入出来る余地はある。今すぐ妖夢を引っ張って逃げ………

 

『……………』

 

「妖夢!後ろ…!」

 

「え…?〜〜ッ!!」

 

俺の警告を聞いたのか、直感的に危険を感じたのか、妖夢は間一髪のところで『二本目』の黒い刀の弾幕を躱す。

 

思った以上に早く来やがったな…二本目の刀が。なんなの?社畜なの?

ただ、またしても不幸中の幸い。妖夢が躱した弾幕は、その対角線上に居たもう一本の刀に当たったのだ。

 

「さっさと逃げるぞ」

 

その隙に妖夢の手を取り全速力で逃げる。二本は流石に勝てないと悟ったのか、妖夢は何も言わずについてくる。

さて、このままずっと逃げているわけにもいかないな。どうせ追いつかれるし、もしかしたら挟み撃ちに合うかもしれん。

 

「なんで…あの刀が二本…っはぁはぁ…」

 

妖夢に至っては既に息が切れている。半人半霊とはいえまだ少し幼い、見た目は小町の二個下ぐらいの妖夢だ。無理もないな…。

 

「さぁな…なんか洞窟に封印されてたっぽいが…」

 

確証はないが、洞窟で出会ったあの黒い刀。地面に落ちていたお札。この条件だとそう考えるのが妥当だ。

洞窟の奥底に封印されてたっぽいが、だとしたらあれって相当危険な刀だったりするのか…?いや、妖怪を廃人にする時点でもう危険すぎるが…。

 

「洞窟?あの刀は…っはぁはぁ…白玉楼の蔵に封印されてたはずですが…」

 

白玉楼の蔵…?いや、別におかしくはない。実際刀は二本あるわけで、今も後ろから追ってきている。

その一本は白玉楼に封印されてたのかよ…幽々子様管理甘くね?

 

「刀は二本あるからな…それぞれ洞窟と白玉楼に封印されてたんだろ」

 

さて、あの刀のことを知りたいのはもちろんのこと、まずはこれからどうするかを考えなきゃいけない。

さっきも言った通り逃げ続けるわけにもいかないし、戦っても勝てる確率は低いだろう。妖夢も俺も限界が近づいている。

 

「んなことより、これからどうする?…っはぁ…ふぅ…」

 

「とにかく…っはぁ…白玉楼まで走ります…」

 

「体育会系かよ…どれだけ距離あると思ってんだ…っはぁはぁ」

 

俺が萃香と別れ、刀と遭遇した場所からどの方向に走ったかは分からんが、もう右も左も分からない。

だいぶ走ったが、一層森は深くなっているだけで未だ人の気配も妖怪の気配も無い。何で妖夢と出会えたのかが不思議なくらいだ。

ただ、もし偶然俺が刀から逃げている方向が白玉楼の方角だとしたら、すこしでも希望は見えてくるんだがな…。

 

「いえ…っはぁ…この方角なら…すぐそこの筈です…!」

 

………偶然って怖い。悪いことじゃないが、なんだか今日の俺の運勢は異常に良い。

明日からどこぞの上条さんなりに不幸が続いたりしないよな…?いや、ツンデレ電撃ヒロインに追いかけられるのならそれはそれでありだが、残念ながら現実は非情だ。もしこの刀をやり過ごせたとしても待っているのは仕事だけだ。

 

ただ白玉楼が近いなら希望は見えた。こちらから否定しておいて情けない話だが、何かあったら幽々子様や妖忌さんに助けを求められる。

もしくは妖夢だけでもな…。

 

「で…後何キロぐらいだ…?」

 

「………2キロぐらいですかね」

 

いや、遠いだろ…。

でも選択肢なんて残っていない。白玉楼に逃げる以外の選択肢はな。

 

「妖夢は…ふぅ…走れるか…?」

 

「問題ないです…っ…はぁはぁ…」

 

妖夢がこう言ってんなら大丈夫だろ…。

いや、本当は大丈夫じゃないのだろうが、かくいう俺ももう数十分はずっと走っているわけで、妖夢を深く気にしている余裕もない。

走ることだけに集中しないと、すぐにバテそうなくらい余裕がなかった。

 

「はぁ…はぁ…」

「はぁはぁ…ふぅ…」

 

聞こえるのは俺と妖夢の息遣いのみで、刀は音もなく俺たちの後を追ってくる。

まずいな…さっきので少しは距離は離せていたが、もうすぐ後ろにいる。回り込んだり挟み撃ちをする頭が無いだけが助けか…。

 

ならまた弾幕に反応させて、一瞬動きを止めている間に距離を離せばいい。

 

掌に羽の弾幕を作って、また刀の方へ飛ばす。

 

もちろん二本とも刀は弾幕に反応を見せ一瞬止まり、再び俺たちを追ってくる。その間に距離を離す。

出来ることなら妖夢の弾幕に手伝って欲しいが、妖夢は走りに集中して気づいていないな…。

 

「もう…ちょっと、もうちょっとです…!…はぁ…」

 

妖夢が息を切らしながら声をあげる。

そうだ、ここまで来ると見覚えがある。冥界へ繋がる結界のある場所だ。

 

よし、ここまで来れば安心だ。

 

なんて思ったのはフラグだっただろうか。

中学の時のトラウマから、女性関係でのフラグは細心の注意を払って警戒していた。

なのになぜこのフラグは回避出来なかったのか。

 

こんな事を思えば何かが、何か悪いことが起こるのは火を見るよりも明らかだ。

 

俺の少し後ろを走る妖夢を確認しようと後ろを振り返る。

必死になって息を荒くして走っていた。ただ、しっかりとついてきていた。

 

 

その時だった

 

他の木より目立つ、一際大きな木

 

まるで見下す様にそこに生えていて

 

根気強く大きな根を張り巡らせていた

 

テンプレ通りに落とし穴にハマるかのように

 

妖夢はその巨木の根に足をかけ

 

 

 

──転んだ

 

「あたっ…!」

 

こいつ…!こんな時に天然を発揮してきやがった。

 

「わ、私に構わず行ってください…!」

 

いや、なに予定調和の様なセリフ吐いてんだ。一度言ってみたかっただけだろ…!

走って妖夢へと駆け寄る。もちろん黒い刀は目の前で、生きた心地がしない。

 

ヤバイ…とにかく離れないと。

 

どうやってだ?妖夢を抱えて後ろに飛ぶか?俺にそんな力も運動神経もない。

走って逃げてもこの距離ならざっくり逝かれる。ダメだ、もう策は残されていない…。

 

万事休す…か。

 

諦めたその時だった。

まるでそれすらもフラグかの様に、今の状況も合わせて1セットだったかの様に、グルンと視界が変わった。

 

「「………へ?」」

 

周りには草が生い茂り、木々がこれでもかというほど生えている。さっきと変わらない森の風景だ。

ただ、周りにある木の形や生えている場所、日の当たり方や草木の身長が全く違っていた。

 

当たりを見渡して見れば、さっきまで目の前に居た黒い刀が遠くに見える。ただ見えないわけじゃない。遠くに見えるのだ。

 

それならここはさっきと同じ森で間違いない。

ただ刀の目の前に居たはずが、今俺たちは刀から五十メートルは離れた所に居る。

 

「比企谷さん…ふぅ…あれ」

 

息を整えながら指をさす妖夢の目線を追う。その先にはさっき俺が目視した黒い刀があり、それと同じ場所にさっき妖夢が足をかけて転んだ一際大きな木があったのだ。

 

つまり刀が移動したのではなく俺らが移動したってことか…?

いや、考えてみれば当然だ。視界が変わった理由も説明がつく。つまり…

 

「間隔………か」

 

程度の能力とやらの仕業の可能性が高い。だとしたらなんで今発動出来たんだ?“偶然”や“幸運”にしてはあまりにも出来すぎている。

………いや、驚いている暇はねえな。俺は考えるのを後にして、妖夢の手を引っ張ってまた走り出す。

 

 

 

冥界に向けて。




いつも終わり方雑ですみません。
次回で第2章完結かなぁ。


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