Nameless Story 1人孤独に立ち向かわざるをえない者 (ロイヤルかに玉)
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どうせ独りで任務だろ?分かってんだよ、んなことは!

初めまして、ロイヤルかに玉と申します。
リアルで少しだけ暇な時間ができたので、少し前から考えていた作品を投稿しようと思い、投稿させていただきました。タグにある通り不定期更新なので、その辺はどうか業容赦ください。

以前、小説投稿していましたが投稿経験があるとは思えないほどの駄作なのでご注意ください。
誤字脱字、変な日本語の指摘、ご感想やアドバイスなど大歓迎なのでどうぞよろしくお願いします。





「半年か……」

 

大きなスクリーンに映された今日の日付と時間を見て呟く。

 

俺がこの世界で戦い、生き残る力……神機に適合し、半年が経った。

成り行きで神機使いとなり、訓練を積み実戦へ出て、なんとか生きてきた。

 

 

 

 

まあ……神機壊れちゃったんですけどね! 極東が誇る超技術者、楠リッカさんでも修復不可能なぐらいに。

 

 

 

つまり、俺は最早戦う事すらできない役立たずと言う訳だ。悲しいなぁ……。

まあ、神機が無くたって偵察くらいはできるし、神機使いであるが故に、強化された高い身体能力で色々とできる。

偵察任務の他に、外部居住区に食糧の配給に行ったり、警備や物品の管理など、フェンリル職員の仕事をこなしている。給料が少しアレだが、元々任務の報酬が命がけの仕事にも関わらず釣り合っていないので今更だろう。(個人の感覚)

 

「さて、もう夕方だしそろそろ休むかな。残業なんてクソ食らえ」

 

今日は朝から食糧の配給に外部居住区を回り、疲れた。配給であるが故に量が少ないだの文句付けてくる奴をなんとか説得したりと中々にハードである。

 

 

あーあ、この前いきなり「今度新人が入るから」って部屋追い出されたし、従業員用の部屋に空きが無い。

上に住居のことで相談を持ちかけたが、少し待ての一点張り。

この広いエントランスが今の部屋でもある。

 

俺の部屋であり皆の部屋である。

 

おい、プライベートもクソもあったもんじゃないな。

フェンリルよ、君たちは大事な社員が「良好な環境の中で生活を営む権利」を脅かされているというのに何故動かないんだい? ホントに君たちはブラックだね。

 

 

 

欠伸をしながらエントランスの階段を下りた。

 

「あ、済みません。ユウさん、緊急の偵察任務なんですけど、お願いできますか?」

 

階段を下りると同時に横から声がかかる。

受付嬢のヒバリちゃんだ。

 

「あー、俺にできる事ならいいけど……」

 

マジかぁ……こりゃ残業だな。嫌だなぁ…。

どうせ一人孤独に任務だろ? 分かってんだよ、んな事は!

 

なんかさぁ……尽く俺が偵察任務行くときとか、警備するときとか何故かいつも俺1人なんだよね。偵察任務が1人ならまだ分かるよ? 神機使いは常に不足してるからさ。

いや俺神機持ってないけど。

でも警備するときに1人ってどういう事やねん。警備に人員割けないっておかしいだろ。そんな事してるからアラガミに防壁突破されたり、頭の狂った連中が強盗に入ったりするんだぞ? 人手があれば、せめてもの足止めや応援を呼んで時間を稼ぐとかできるんだよ?

何考えてんの? 

 

 

 

まあ、緊急なら仕方ないか。誰かがやんなきゃいけないしな……。でも残業手当位ついてくれたって罰当たらないんじゃね?

 

「任務の内容ですが、市街地での調査です。基本は平常通りの偵察任務で構いませんが、中型種や大型種のアラガミが居た場合はすぐに報告をして欲しいそうです。また、小型アラガミが多数いる場合でも同様に報告をお願いします」

「ふーむ、妙な任務だな。ま、了解した。至急急行する」

「送りのヘリを準備いたしますね」

「それは助かる。出発時間は?」

「ユウさんの準備ができ次第、出発できるとのことです。ヘリの番号4番です。ゲートの先で既に待機されているので準備ができ次第向かってください」

「了解した」

 

カウンターを離れ、エントランスの隅に大量の物資が入った箱を並べて、床に座っている人物の元へ向かう。

 

「よう、おっさん」

「おう、兄ちゃん。これから出発かい?」

 

男は被っている帽子取り、頭を掻きながら言葉を紡ぐ。財布を取り出して、fcを取り出して手渡す。

 

「いつものを5個頼む」

「あいよ」

 

おっさんが錠剤を5つ手渡してきた。

 

「いつも回復錠買っていくが、兄ちゃんが大きな傷作って帰って来るところなんて見たことないぜ? 溜め込んでいるんじゃないのか?」

「軽い傷でも放置しておくと後々厄介な事になりかねないからな。念の為さ。壊死して切除なんて冗談じゃないからな」

 

神機使いである以上、傷の治りは常人の時よりも早いが、きっと癖になっているのだろう。

そもそもな話、こんな錠剤を1つ飲むだけで傷口が塞がるなんてとんでもない話だ。

多少怪我したって錠剤飲めば忽ち傷口は塞がる。本来なら薬塗って包帯巻いて安静にするもんだ。明らかに動くのすら辛そうな傷を受けても戦いを継続できる薬なんて、世紀の大発明だ。

 

 

「じゃ、行くか」

 

おっさんに手を振り、出撃ゲートへ。

 

ゲートをくぐり、ヘリポートへ向かう。

ヘリポートには既に発進準備を完了しているヘリが一機ある。念のため、番号を確認すると、ヒバリちゃんの言う通り4と数字が刻まれていた。

 

ヘリの乗り込み、操縦者に声を掛ける。

このパイロットとはそれなりの付き合いをしているので、砕けた口調で話せる。

尤も、彼がフレンドリーなのもあるだろうが。

 

「こんな時間にすまんな。助かるぜ」

「ああ、気にするな。疲れているのは皆同じさ」

 

パイロットは少し笑みを零しながら答える。

 

「離陸するぞ」

 

そう言い、ヘリは宙へ浮く。そしてある程度の高度に到達すると、ヘリは全方へ進みだした。

 

 

目的地へ到着すると、俺はそのままヘリから飛び降りた。ヘリはこのまま支部まで戻ってもらい、帰りは徒歩だ。これでも足には自信がある。神機使いになった事で、更に足には自信が付いた。まあ、ヘリとか空飛ぶものには敵わないが連続でステップをすれば車と並走ぐらいはできる。

 

ヘリを見送り、通信機を起動する。

 

 

「こちらユウ。目的地へ到着した。偵察を開始する」

『了解。先程連絡した通り、大型や中型、小型が多数徘徊している場合は早急に連絡をお願いします』

「了解」

 

通信を切り、通信機をポケットにしまう。

建物の壁を背に、音をたてないように移動する。

 

時折、上空や後ろも確認しながら移動し、大きな建物を見つけ、素早く大きな建物の扉へ移動する。静かに扉を開け、中に入ってまた静かに閉める。

 

かなり老朽化しているな。崩れない事を祈るか。

建物の屋上など、高いところから見下ろして周囲を把握するのが一番なんだが、ザイゴートの存在を危惧すると、どうしてもできない。それなら高層の建物の窓からの偵察が安定する。

まあ、窓から見るという事は全体を把握できなくなるので短所でもあるが。アラガミと戦う手段を持たない俺ではアラガミに捕捉されるのはまずい。

それがザイゴートなら他のアラガミを呼ばれ、尚更だ。

 

 

階段を上り、それなり階層まで来たので窓から市街地を覗き込む。

 

 

「グボロか。市街地のこのエリアじゃあまり見かけないな。他には、コクーンメイデン2匹か」

 

別の窓から覗きこむとコクーンメイデンやオウガテイルが数匹見える。

 

コクーンメイデンの数が少し多いな、そしてグボロ……。

 

通信機を起動する。

 

「こちらユウ、市街地エリアA-2、D地点にグボロ・グボロ1体にコクーンメイデンを7体を確認した。コクーンメイデンは同エリアに群生している。数が居れば厄介だ。対処を推奨する」

「了解、ユウさんはそのまま偵察を続けてください」

「了解。何かあればまた連絡する――っ!」

 

 

急いで通信を切り、物陰に隠れる。

 

人のものではない足音が聞こえた。

オウガテイルあたりだろう。あの老朽化した階段を上って来たとは考えにくい。

何処かにそれなりの穴が開いており、ジャンプして昇ってきたといったところか。

 

足音がだんだん大きくなってくる。息を潜める。

 

 

「グウウゥ……」

 

吐息を漏らしながらオウガテイルが姿を現した。

オウガテイルは辺りを見回すと、壁に喰らいついた。

大きな音を立てながら飯を食ってる今がチャンスか、このまま隠れていても見つかる可能性があるし、足早に去るぜ。

 

そう思い、抜き足で足早にその場を離れようとしたら、コンクリートが噛み砕かれる音の他に足音が聞こえた。急いで瓦礫の陰に隠れる。

ちっ、もう1体か。こいつも飯タイムに入ってくれればいいんだが……。

しかし、願いとは裏腹にオウガテイルはあたりを見回しながら近くを徘徊する。

 

くそっ、仕方ねえか。

ポーチから回復錠を数錠取り出し、コンクリートを食っているオウガテイルに投げつける。

 

回復錠をぶつけられたオウガテイルは振り向いてもう1匹のオウガテイルに吠える。

吠えられたオウガテイルも吠え返した。

2匹のオウガテイルが、互いに気を取られている隙に、足早にその場から離れた。

 

 

 

「ッ!」

 

下の階層へ降りようと階段に足を掛けると、老朽化した階段が崩れた。

咄嗟ではあるが、空中で体勢を整え、静かに着地する。

まずい、オウガテイルに気づかれたか? だとしたら、こっちに来るのは時間の問題だ。本当に気づかれたかは分からないが、気づかれたと仮定しよう。常に最悪の状況と仮定し、行動するのは良い事だ。仮定するのはこちらの自由だ。

 

辺りを見回すと、壁に穴が開いており外に繋がっている。ザイゴートやサリエル辺りが食い荒らして開けたのだろう。兎に角、利用させてもらおう。

穴から周囲にアラガミが居ないか確認してから飛び降りた。

 

地面に着地すると、すぐに物陰に隠れる。

辺りは既に暗くなっており、西の空がほんのり赤い。

 

 

周囲の確認をしつつ、通信機を起動する。

 

「こちらユウ。今のところ特に異常はない。このまま任務開始地点へ戻りつつ偵察をし、帰還する」

『了解しました。お気をつけて』

 

 

 

開始地点へ戻る途中、食い荒らされたビルにコンゴウの姿を捉えた。

コンゴウは群れを成すアラガミだ。もしかしたら仲間があのビルに潜んでいる可能性がある。

 

ビルに近づき、中に入る。

抜き足で移動しつつ、コンゴウを探す。

耳を澄ませば足音が聞こえてくるので近くには居るようだ。

 

「…………よし」

 

その場で地面を思い切り踏みつけて大きな音を出す。そしてすぐに瓦礫の陰に隠れる。

すぐにドタドタと大きな足音を出しながらコンゴウがやってくる。

 

コンゴウは辺りを見回し、すぐに移動していった。

 

 

どうやら、コンゴウは1体しかいないようだ。

 

再び通信機を起動する。

 

「こちらユウ。市街地A-2のB地点にてコンゴウを1匹補足した」

「了解。その他に異常はありませんか?」

「特にないな。もうじき、任務開始地点へ到着する」

「分かりました。何かあればまた連絡をお願いします」

 

通信を切り急ぎ足で任務開始地点へ戻った。

 

 

このまま何事も無く戻れれば良いが……。油断していたら上からガブッとやられてしまう。いや、ヴァジュラ辺りならペチャンコにされてガブッとされるだろう。結局喰われるのは変わらないが。

 

 

「こちらユウ、これより帰投する」

『了解しました。徒歩で帰投とのことですが……今現在、別の現場の迎えのヘリが向かっているので合流して相乗りしてください』

「お、丁度いいな。了解した」

『そのまま北東に移動すると、丁度ヘリの帰投ルートとなります。ヘリのパイロットには私から連絡をしておきますね』

「助かる。世話になってばかりだな」

『いえ、これも私の仕事の1つですから』

 

それだけ言い、通信は切れた。

 

 

 

ヒバリちゃんが言った通り、北東へ走りつつ時折上空を確認しながら移動するか。

 

 

 

数十分後、ヒバリちゃんが言っていたヘリが来た。ヘリのパイロットから無線が入った。

 

『既に連絡は受けております。このまま下降します』

「いや、ある程度の高さまで下降してもらえば十分だ」

 

その場で跳躍してヘリに掴まる。

そしてドアを開けて、中に入る。

 

「済まない、手間を取らせた」

「いえいえ」

 

ヘリの中には白衣を着た男女が数名乗っていた。研究者か……。実地で実験でもしたのか……。でも護衛が居ないし妙だな。まあ、俺みたいに神機使いの仕事ができない役立たずには関係ない事だ。別に話す事も無いしな。

 

 

 

 

 

「あれは……!」

「……あん?」

 

パイロットが驚いたような声を上げた。

ヘリの窓から、アラガミ装甲壁の向こう側で煙が上がっているのが見えた。

まさか、アラガミが防壁を……。ちっ、先に防衛班が到着してくれていればいいが……。

 

 

「済まないが、あの辺りを通ってくれないか? 飛び降りてそのまま向かう。後はこのまま帰投してくれ」

 

煙が上がっている所を指さしながらパイロットに言う。パイロットも同乗している科学者たちもどよめきの声を上げる。

 

「し、しかしあなたは今神機を……」

「そんな事言ってる場合じゃねえ。囮ぐらいにはなれる。撃退するつもりなんてねぇよ」

「わ、分かりました」

 

パイロットは渋々頷いた。

ヘリがある程度、煙が上がっている地点に近づく。

 

あまりギリギリまで近寄るのは危険だな。ここまでで良いか。

 

「十分だ。俺が降りたらすぐに此処から離脱してアナグラへ帰還してくれ。送迎感謝する」

 

パイロットにそれだけ言い、ドアを開けて飛び降りた。

 

 

 




ユウ (16?)

2070年フェンリル極東支部入隊
出生〇月4日 身長165cm

姓、出身地、以前の記録などは無く経歴は不明。
神機との適合率は低く、その他の成績なども平均以下であるが、戦闘に関してはそれなりのセンスを持ち、入隊一か月で実戦に出れるようになった。
入隊から三か月後、想定外のアラガミとの戦闘で神機を破損し、神機使いとしての仕事は不可能になった。現在はフェンリル職員がこなす様々な雑務を受けている。
破損された神機は現在、楠リッカの手によって護身程度のナイフに改造された。

運の悪さか、偵察任務や警備など危険度のある仕事をする際には何故か1人である。


容姿
黒髪・黒目の如何にも日本人。


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最後まで独りだったらどうにもならんよ

2話目です。
主人公の経歴が不明とのことですが、主人公は時々ある発言をしますが、その発言の中に経歴に関してのヒント(答え)があります。主人公は以前、何処で何をしていたか予想してみてくださいね。当たった方には特に何もありません。


悲鳴とアラガミの咆哮が辺りに響く。

オウガテイルが建物を壊し、ザイゴートが逃げ惑う住民を追い駆ける。

 

アラガミの元へ向かいながら無線を起動させる。

 

「ヒバリちゃん、神機使いはまだ手配できないのか!?」

『今防衛班が現場に急行しています! ユウさんは住民の避難を!』

「了解。任された!」

 

無線を切って、ポケットへ入れる。

 

「……ッ! オラッ!」

 

一般人に喰らいつこうとするザイゴートに瓦礫を投げつける。瓦礫はザイゴートの体に当たると粉々に砕け散った。

当然の結果だろう。だが、ダメージを与えるつもりなど毛頭ない。

 

ザイゴートは俺に標的を定めたようだ。ザイゴートが空気の塊を吐きだしてきた。

 

向かってくる空気の塊を横に躱す。

 

第六感が上から危険が迫っているのを訴えた。

 

その場から身を投げると同時に、上空からオウガテイルが襲いかかってきた。

オウガテイルの背中に飛び乗ると俺を振り落とそうと暴れる。腰に差してある対アラガミ用ナイフを抜き、オウガテイルの目に突き刺す。視覚を潰された事でパニックでも起こしたのだろう。一目散に走り出す。

 

「コイツは良いロデオマシンだぜ!」 

 

このまま外部居住区疾走しようか、オウガテイルよ。

ん? あ、あかん! 目の前にコンゴウが!

 

その先にコンゴウが瓦礫を喰らっており、コンゴウ目掛けて体当たりを仕掛けた。オウガテイルがコンゴウに激突する寸前にオウガテイルから飛び降りる。オウガテイルはぶつかった衝撃で地面に倒れ、両足でなんとか立ち上がろうと足掻いている。

 

「グオオォ!」

 

食事の時間を邪魔されたせいか、気が立っているコンゴウはオウガテイル殴り飛ばした。「今度はお前だ」と言わんばかりに俺を睨みつた。

 

この神様気取りモンキー、俺とやるつもりらしい。受けて立ちたいところだが、生憎こっちは懇切丁寧に相手してやる程暇じゃない。

 

腕を振ってきたが、それをバックステップで避ける。

 

まだ逃げ遅れた住民がいるか……。ちっ、こっちだって辛いっての……。

 

「はやく逃げろ! 長くは持たねえぞ!」

 

住民に怒鳴り散らし、逃げるよう催促すると、住民は悲鳴を上げながら逃げる。

コンゴウが逃げる住民を追いかけようと動き出した。

 

しかし、コンゴウはピタリと動きを止めて瓦礫の山を見た。そこには小さな女の子が泣きながら座っていた。

コンゴウが女の子を喰らおうと走り出す。

周囲のオウガテイルも女の子に気づき、我先にと動かない恰好のエサの元へ走り出す。

 

「うちの子がぁ!」

 

母親と思われる女性の悲鳴が響く。

 

 

太い鉄の棒を拾い上げて、力任せに折る。乱暴に折ったため、先っぽが上手く尖がった。

鋭い方をコンゴウ目掛けて投擲した。

 

鉄の棒はコンゴウに命中して地面へ転がった。

 

コンゴウがこちらを向く。

そして、その場からステップを繰り出して一気に女の子の元へ向かう。

ステップから更にステップを繰り返し、この場にいるすべてのアラガミをも超える速度で女の子の元へ駆ける。

 

しかし、既にオウガテイルが大きな口を開けて女の子に喰らいつこうとしていた。

くそ、流石に間に合わねえか……? 

 

いや、間に合わせねえといけねえ。

 

渾身の力で地面を蹴りつけ、女の子の元へ跳ぶ。オウガテイルの牙が女の子を捉える直前で抱き上げつつ転がる。

 

立ち上がり、周囲の状況を確認。見るまでもない、囲まれている。

 

「もう大丈夫だ。ほら、ママのとこに行くぞ?」

「うん……」

 

しゃくりながらも頷く女の子に、いい子だと声を掛け、女の子をしっかり抱いて走り出す。

オウガテイルが飛びかかってくるが、スライディングをしてオウガテイルの真下を潜る。

すぐに立ち上がって走り出すが、数十メートル前に立ちはだかるオウガテイルが尻尾から無数の大きな棘を飛ばしてきた。

おいおい、冗談じゃねえぞ! 少々危険だが、横へ躱しつつ1本の棘を横から掴む。

手から鮮血が飛び散り、痛みと熱を感じる。

 

「ちっ、またザイゴートか」

 

ザイゴートが猛スピードでこちらへ向かってくる。

オウガテイルの棘をザイゴートの目に投げつける。

 

棘はザイゴートの目に刺さり、ザイゴートは地面に落ちる。

先にまだオウガテイルやザイゴートの群れが待ち構えている。

 

「しっかり掴まってろよ」

 

女の子に注意をし、更に走る速度を上げる。アラガミの群れまであと数メートルの所で高く跳躍し、アラガミ共を踏み台にしてジャンプで群れを突破する。

 

「さて、最後の難関か。通してもらうぜコンゴウ」

 

コンゴウは姿勢を低くし、背中のパイプからザイゴートが吐きだすものより大きな空気の塊を撃った。サイドステップで回避し、ポケットからスタングレネードを取り出し、安全ピンを口で引き抜く。

安全レバーをしっかり握り、使うタイミングを見計らう。

 

「お嬢さん、目ぇ閉じてな」

 

女の子にそう言い、スタングレネードを投げつける。

スタングレネードはコンゴウの目の前で光と爆音を放ち、コンゴウの視覚と聴覚を奪う。

 

その隙にコンゴウの横を素通りして、母親と思われる女性の元へ行き、女の子を降ろす。

 

「ああ、良かったぁ。ホントに良かった!」

 

女性は女の子に抱き着く。

 

「早く行ってくれ。ここは危険だ」

 

喜んでいるところ悪いが、状況は変わらない。一刻も早く非難してもらわなくては。

俺が1人居たところで稼げる時間なんてたかが知れている。

 

「ありがとうございます! このお礼はいつか……!」

「気持ちだけで十分だ。さあ、早く」

 

女性は女の子を抱き上げて走る。抱かれている女の子が手を振ってきた。

手を振りかえして、俺は後ろから迫ってくる敵に向き直る。

 

両手を構え、足を肩幅に開いて戦闘態勢に入る。さて、応援が来るまで一人孤独に立ち回るか。

 

 

コンゴウが腕を振り上げた。その隙に、一気にコンゴウの懐に飛び込んで足払いをして地面へ倒す。

ふと、後ろを見てみると、ザイゴートがこちらに向かってきていた。

咄嗟に身を投げて逃げようと、足に力を込める。

しかし、ザイゴートを一筋の光線が貫き、地へ落とした。

 

今のは銃形態の神機から放たれたレーザー。

そして見事に、動く的(ザイゴート )の急所を撃ち抜く。ここまで精度の高い狙撃をできるのは俺が知る限りは……。

 

「ふ、ジーナか。相変わらず見事な腕だな」

 

応援が来てくれたようだ。まったく、出来る事なら最初から仲間と共に立ち向かいたいものだな。まあ、来てくれただけでもありがたい。

 

 

「グアアアァ!」

「ッ!」

 

仲間のスナイパーに感謝していると、コンゴウが雄たけびをあげながら、一気に距離を詰めて殴りかかってきた。

迫る拳を躱しつつ、コンゴウの腕を両手で掴んでコンゴウに背を向け、思いっきりを引っ張る。

 

「オラァァァ!」

 

雄たけびで体を奮起し、コンゴウを背負い投げて地面に叩きつける。

 

そして、対アラガミ用ナイフをコンゴウの目に突き刺す。

 

「よし、ッ!」

 

ザイゴートが大きな口を開けて迫ってくる。

 

「いや、問題ないか」

 

呟いた瞬間、俺の真横をレーザーが通り抜け、ザイゴートの目を貫いた。

 

俺の隣にスタッと音を立てて、レーザーを発射した人物が降りたつ。

 

「怪我は無い?」

「助かったぜ、ジーナ。相変わらず見事な腕だ」

「フフ、お褒めに預かり何とやらだわ」

「他の連中は?」

 

ジーナが神機の引き金を引き、レーザーを発射しつつ答える。

 

「もう到着するわ。それにしても相変わらず無茶するのね?」

「まあ、相手がコンゴウやシユウのようなヒト型なら、十八番の体術で応戦できるからな。だが、ピンチの仲間を装甲も無いのに庇ったりするお前にだけは言われたくないな」

 

流石にヴァジュラとかは無理だ、あんなんどうにもならん。あんなん投げるって無理だろ。

 

「グゥゥ……」

 

コンゴウが潰れた片目を手で覆いながら俺を睨みつけた。

 

俺の隣にまた1人助っ人が降りたつ。

 

「待たせたなユウ!」

「待ってたぜタツミ、さっさと終わらせちまおう。スタグレ、行くぞッ!」

「おう!」

 

俺はスタングレネードを地面へ叩きつけ、辺りを眩い光が包み込む。

周囲のアラガミが目を閉じて、ダウンしている。その隙にタツミが神機をアラガミの急所に突き刺し、一撃で沈める。そして一気に他のアラガミの元へ移動し、急所へ神機を突き刺す。

 

コンゴウが起き上がった。

タツミ目掛けて体当たりの態勢に入る。俺は連続ステップを用い、コンゴウの背後に回ると同時に奴の弱点である尻尾を、対アラガミ用ナイフで斬りつける。

 

ダメージなんて知れてるが、敏感な所を切られたら気が散るだろう。

案の定、コンゴウが俺に気を取られる。そしてコンゴウの胴体をジーナの神機から射出されたレーザーが貫く。コンゴウが悲鳴と共に地面に倒れた。

 

「ここだ!」

 

タツミが跳躍し、神機を捕食形態に切り替え、真上からコンゴウを喰らい千切る。

 

「よし! 討伐完了!」

「お疲れ様、2人とも」

「そっちもな。まったく、こんな夜中にご苦労な事だ」

「ま、俺達は防衛班だからな。住民を守るのが俺たちの仕事だ。俺はこの後、住民の安否確認をするから先に行くぜ」

「じゃ、私も手伝うわ」

「そうか、なら俺はこの辺りの被害状況を確認しよう」

「ああ、助かるぜ。んじゃ後でな」

 

タツミとジーナに手を振り、辺りの状況を確認するために2人とは別の方向へ歩いた。

 

 

 

 

「はあ~やっと帰って来た……」

 

被害状況の確認も終わり、支部に戻ってエントランスのソファーで寛ぐ。

時計を見てみれば、既に0時を過ぎ、翌日となっていた。

明日……いや、今日か。

今日も忙しいかも知れんし、早くに寝た方がいいか。睡眠不足は仕事の敵だからな。

寝る前になんか飲んで一服してから寝るか。

 

ソファーから立ち上がり、財布を出して自販機へ向かう。

 

「さて、どれにしようかな……」

 

よし、このジュースにしよう。何味かわからないけど。

青い缶のジュースを買う。

 

「しかし、冷やしカレードリンクってリッカ以外に飲む奴居るのか……?」

 

榊博士といい、天才ってのはなんかずれてるよな……。

 

再びソファーに腰を掛け、缶を開ける。

 

「あ、ユウ。戻ってきてたんだ。隣良い?」

「おう、ついさっきな。そっちも終わったのか? リッカ」

 

楠リッカ。神機使いやってるなら誰もがお世話になるであろう整備士だ。

機械もの全般に強く、神機以外の事でも彼女にはお世話になっている。ちなみにこの前はラジオを修理してもらった。本人曰く、延命しただけで買い換えた方が良いらしい。

 

「ううん。ちょっと一服しに来ただけ。新型神機の調整が忙しくてね」

「新型神機? なんだ、適合者でも見つかったのか?」

「うん、明日適合試験だからね。皆噂してるよ」

 

そう言いながら冷やしカレードリンクを手に、俺の横に腰を掛けた。

 

「それ、美味しいか……?」

「うん、美味しいよ? 一口飲む?」

「い、いや……遠慮しておこう。カレーの気分じゃない」

「そっか」

 

コイツ……なんでそんなに美味しそうに飲めるんだ……? 

案外、飲んでみればいけるのか……? いや、やめておこう。好奇心はなんとやらだ。

 

「やっぱり、神機壊しちゃった事気にしてる?」

 

突然リッカが口を開き、聞いてきた。

 

「……すまん、あれ程お前に忠告されたのに……」

「ううん。きっと、ユウの判断は正しかったと思うよ」

「それでもだ、俺がもう1歩先を読めていたら……神機を壊す事はなかった」

 

神機使いになって当初、上手く神機を扱う事が出来なかった。それを見かねたリッカが指摘してくれた。

 

『神機だって生きてるんだよ? 無理やり押さえつけたら誰だって嫌がるでしょ?』

 

イラついている俺にリッカがそう指摘してくれた。

確かに、無理やり押さえつけられるなんて俺も御免だ。誰だって嫌な気持ちになるだろう。

むしろそれで嫌な気持ちにならない奴なんて居ないだろうが……。

やっぱり気持ちってのは大事だよ、うん。

 

そのおかげで神機を……いや、神機は俺に力を貸してくれた。ある意味、一緒に任務に出撃する味方よりも頼れる相棒だ。

 

そんな相棒を、俺はフェンリル入隊3か月目で失ってしまった。

任務の途中、厄介なアラガミが乱入し、味方が食われそうになり、俺は一か八か、神機を投擲した。神機はそのアラガミに突き刺さり、悶絶するアラガミを……神機(相棒 )諸共崖から落として九死に一生を得た。だが、大切な相棒を失くし、俺は上からお叱りを受けた。

そして、その厄介なアラガミはある凄腕神機使いに討伐され、俺の神機は戻ってきた。

無残な姿となって。

 

 

「神機はきっと、俺の事なんて嫌っているさ」

「そんな事は無いよ。だって、ユウは神機が神機としての役割を果たせなくなっても、廃棄せずに使っているでしょう?」

 

リッカが俺の腰に差してある対アラガミナイフを見つめながらそう言った。

 

「そうかな……。まあ、そうだといいな……」

 

やっべぇ……。リッカから話を振ってくれたからいいけど、話題が終わった瞬間何を話せば良いのか……。俺ってあんまり人付き合い良くなかったからこういう時は本当にどうすればよいのか困る。何か話題振ろうにもそんな面白い話なんて無いし……。

 

「調子……どう?」

 

リッカは俺の腰に差してある対アラガミ用ナイフを見つめたまま言った。

 

「ん? ああ、絶好調だぜ。こいつのおかげで神機が無くてもそれなりに立ち回れる。リッカ姉さん様様だぜ?」

「あはは! それならいいんだけど、銃弾にオラクル細胞を塗布するのとはまた訳が違うし、作るのに少し頭を捻ったからちょっとね……。でも、ユウが使うからこそだと思うよ? その子が輝くのは」

 

このナイフは、俺の神機だったものだ。俺の神機はほぼ原形を留めていない無残な姿で俺の元に戻ってきた。ひび割れて今にももげてしまいそうな刀身、無残に粉々になった装甲。しかし、ひび割れた刀身の一部が一瞬光ったように見えた。俺はリッカに相談した。

刀身のこの光った部分だけを使って、何とかアラガミに……どんなに小さい手傷でも良いので負わせられるようにしてくれないかと。

そしたらリッカはその刀身部分を持って作業室に籠り、数日後……。

俺にこのナイフを渡してきた。使わなくなった神機のグリップ部分に正に達人の技といった所か、どんな細工をしたのかすら分からない程、上手く刀身をつけていた。

 

『本当に護身用だよ? アラガミに対するダメージなんて高が知れてるし、捕食もできない。理論上、倒す事はできるけど、小型のアラガミでも日が暮れるどころか最低でも一日中戦うぐらいじゃないと活動停止まで追い込めない。つまり、これでアラガミを倒すのは不可能だよ。きっと、そのナイフを使う事自体がほぼないと思う』

 

なんて言われたが、こいつには大いに助けられた。どんな武器も使いようによってその性能は何倍にも引き上げられる。ようするに技術の問題さ。

 

「お前、あの時驚いた顔してたよな? このナイフが役に立ったって礼を言いに行ったら」

「そりゃそうだよ。まさか、アラガミの目に刺して視覚を奪うなんて使い方をするとは思わないもん。装甲も無いのにアラガミの目の前に飛び込んでいく事自体正気の沙汰じゃないのに」

 

リッカが呆れながら言う。確かに、この時代じゃ普通に考えたら自殺行為かも知れない。

だが、俺は自殺行為とは思わない。立派な戦法だ。銃を持っている相手でも一気に間合いさえつめれば無力化は余裕だ。片手でも使いやすいナイフの長所とも合っている。

 

「あ、私そろそろ行くね。明日は新人さんにとっても、神機(あの子 )にとっても大切な日だから、最高の状態にしてあげたいんだ」

「そうか、頑張れよ。でも無理はするなよ? 寝不足は仕事の敵だ」

「うん。分かってるよ。じゃあ、おやすみ」

「ああ」

 

リッカはエレベータに乗っていった。

 

俺もジュースを飲み干し、缶をゴミ箱へ捨てる。

 

「おし、寝るか。どうせもう誰も来ないだろうしな」

 

ソファーに座り、そのまま目を閉じた。

 

 

 




楠リッカ

俺が特に世話になった人ベスト5にランクインしている恩人だ。
彼女に本当に助けられた。特に対アラガミ用ナイフに驚かされた。
ナイフ1本あれば全然違うぜ。

彼女は神機も生き物だと言っており、俺も神機に適合したばかりの時は俺が神機に振り回された。彼女からアドバイスを貰い実戦にこぎつける事が出来た。アドバイスを貰った途端、神機はあばれ馬から信頼に足る相棒になった。やっぱり、気持ちって大事だな、うん。


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世の中には言って良い事といけない事がある。

3話目です。
タグにある通り、作者の知識は未熟なので間違いなどがあったらご指摘をお願いします。
主人公が普段こなす、フェンリル職員の業務内容などは全く分からないので詳しい方が居たら是非教えてください。


「……さ……ん。ゆ……さ……ん」

 

誰だよ、気持ちよく寝てるのに。まったく、俺の至福の時間である睡眠タイムを邪魔するとはとんだ不届きものだな。他人の至福の時を邪魔するなど――

 

 

「人間の所業ではない!」

 

クワッと目を開いて大声で怒鳴る。

 

「きゃあ! ユウさん! びっくりさせないでください!」

 

可愛い悲鳴をあげるヒバリちゃん。叱られてしまった……。

 

「あ、すまん。ちょっと変な夢を見ていて……」

「そうですか……。あの、ユウさんはいつもエントランスで寝泊まりしていますが、まだ住居が見つからないんですか?」

「上に相談しても暫し待ての一点張り。部屋借りようにも俺の財布の中身はすっからかんだ。人生と言う名の賭博に負けて綺麗さっぱりすっちまったよ。素寒貧だ」

「ユウさんの歳ってまだ15、6ですよね? それで人生語られても……。それにフェンリル職員ならそれなりに給付を貰っている筈では?」

 

うぐ……世はフェンリルの天下、つまりフェンリルは勝ち組だ。必然的に給料は良いが……。ちょっとこの場では言えないんだよな~。どうやって誤魔化そうかな~。

 

「まさか……また賭博ですか……?」

 

ヒバリちゃんがジト目で俺を見てくる。や、やめてくれよ……そんな目で俺を見ないでくれ……。惨めになる自分と心なしか興奮気味の自分に板挟みにされちゃうから……。

あれ? 後者ってこれ只の変態じゃ……。

 

「ええと、まあ……。ほら、この仕事って結構運が関わって来るじゃない? つまり運試しをしようと……」

 

この後滅茶苦茶叱られた。こういう時に限って喜んで囮になってくれるタツミが居ないのだ。

こんな朝からお説教を受けるとはぁ……。今日は気が滅入るぜ。

 

よーし、今日も一日雑務をがんばるか。

今日は倉庫の棚卸を頼まれている。朝っぱらから棚卸はちょっときついが仕方ない。

 

 

 

「……………………それで何の用ですか、榊博士」

 

物資の個数を確認していると、普段、倉庫ではエンカウント率が1%にも満たない人物と顔を合わせた。

 

「いやー、ちょっとお願いがあってねー」

 

陽気と言うか、何と言うか……。

正に狐と形容される細目と、常に顔面に貼り付けた笑みで、感情の起伏が判然としない人物だ。これでもゴッドイーターの生みの親らしい。 人類を保護する対アラガミ防壁の技術基盤を開発したのも彼らしい。

俺も結構この人には世話になっているから無下にはできないんだが……厄介ごとばかり持ってくるのは勘弁していただきたい。

 

「ちょっとアラガミの素材をね……」

「はあ……。あのー博士は俺の事を工作兵かなんかと勘違いしてません? ちょろまかすのだって大変なんですよ?」

 

そう言いつつ、アラガミ素材を保管している倉庫のカギを取り出す。

 

「この前だって下手したらばれたかも知れないんですよ? 物品科の人も監視カメラの数増やすとか言ってるんですから……」

「大丈夫さ。明日にはちゃんと素材を取ってきてもらって、倉庫に戻しておくから」

「とりあえず、後でラボまで持って行きますよ」

「では、頼んだよ」

 

やれやれ、なんで敵の基地でもないのに監視カメラを警戒しないといけないんだ?

アラガミの素材じゃなかったら、偵察に行ったついでに資材を回収して持ってくるんだが、アラガミ素材は無理だ。この前なんてカレルに高い金払って素材を譲ってもらって数が合うようにしたのに。

あ、そう言えばカレルに払った金を榊博士が清算しておくとか言ってたくせしてまだ清算してもらってねえな。ラボに届けに行ったついでに聞いてみるか。

 

 

数時間後、頼まれた物を箱に入れて榊博士のラボに向かう。

すると、ラボから支部長が出てきた。

支部長に道を譲り、礼をする。

 

支部長は俺に目もくれず、去っていった。

まあ、彼からすれば神機壊した役立たずに構ってはいられないのだろう。

 

ラボに入ると、そこにはソファーの上で静かに眠っている少女と、その少女に注射器を刺そうとしている榊博士が居た。

 

俺は通信機を取り出し、警備班に所属している同僚に周波数を合わせた。

 

「俺だ、今ラボにちょいとヤバイ奴が。ああ、ヤろうとしていた」

「まあまあ待ちたまえ!」

「申し開きなら俺じゃなくて偉い人にしてくれ。じゃあな博士、あんたには世話になった」

「だから誤解だよこれは!」

 

 

 

「成程、その子が新型神機の……」

「そういう事さ。今から血液検査など、その他諸々の検査をするんだ」

「あ、そうだ。丁度いい、検査が終わったらその子を部屋まで運んでおいてくれ」

「あんた俺をパシリかなんかと勘違いしてるだろ!」

 

結局言いくるめられて、俺は今博士の検査が合わるまで茶を啜って寛いでいる。

 

「いやはや、実に興味深い! この数値には驚いたよ!」

「俺に言われたってチンプンカンプンだよ。あんたがそこまで驚くって事は相当すごいんだろうけどよ」

 

さっきから榊博士がうるさい。「これは……!」とか「素晴らしい!」だとか研究者でもなんでもない俺に話を振られたって分かんねえよ。

それにしても……。

 

静かに眠る少女を見る。

一言でいえば銀髪が特徴的だ。年は俺と同じぐらいだろう。

こんな少女も戦いに行くのか……。そうだよな、そんな世の中だよな。

いかんな……自分の価値観ってのは、この世じゃ役に立たないらしい。

 

いつも世も、戦いだらけ、虚しいな。 ユウ、今日の一句。

 

 

「よし、検査は終わったよ。それじゃあ、彼女をお願いするよ」

「はいはい、とりあえず頼まれた物は箱に入ってるからな。あと、清算の件忘れないでくれよ」

「ああ分かっているよ。あ、彼女の部屋は新人区画の101号室だよ」

「元・俺の部屋じゃねえか!」

 

 

そんな訳で俺は今新型ちゃんを背負って元・マイルームに向かっている。

 

あ、待てよ。確か部屋にはちょいと過激な本を置きっぱなしにして居た筈。丁度良い機会だ。回収してしまおう。なんだかんだ言って結構良い値がしたんだよなあの本。

やっぱ俺も男だからな。まあ、本能には抗えない訳よ。

 

彼女の部屋に到着し、彼女をベッドに寝かせて本を捜索する。

うーん、何処にしまったかな。あんまり部屋に他人を入れたりしないからそこまで複雑な場所に隠さないと思うんだが……。3か月も前だからなぁ……。記憶を必死に辿るが思い出せんぞ。

 

「う……ん……」

「ッ!?」

 

まずい! 彼女が起きてしまう! 眠っている女性の部屋を物色しているところを見られたら社会的にまずい……! 状況的に見つかったら弁解の余地は無いぞ!? 

ええい! 撤退だ!

 

 

俺は連続ステップで部屋を飛び出した。

 

 

 

「ええと……予備部品の在庫数が……15個か……2、4、6、8、10……よし、合ってるな」

 

俺は再び倉庫で物資の数を確認している。

次はバッテリーか……あん? 数が合わねえぞ? まあ、取り合えずリストに加えておくか。

 

 

「よぉ、今日も楽しそうだな」

 

陽気な声がした方を向く。

 

「これはこれは、リンドウさん。こんな所で珍しい」

「いつものやつと、配給の食糧を少しだけ出して欲しいんだが」

「出して欲しいじゃなくて、ちょろまかして欲しいの間違いでは?」

「ははっ、そうとも言うか」

 

リンドウさんの頼みとは、コロニーに収容しきれなかった人たちを集めた村の防護壁として試験的に栽培している「アラガミを喰らう木」の餌の事だ。オウガテイルやザイゴートくらいの小型アラガミは食ってくれるので気休めにはなる。そして配給の食糧とは集落の人達に配るものだろう。今までは俺が裏ルートから仕入れたり、リンドウさんが権力行使で何とかしていたが、とうとう供給が追い付かなくなったのだろう。今度よろず屋のおっさんに他の安いルート紹介してもらうか。

 

「あっちの方には餌のストックはどれぐらい残っているんですか?」

「ん? あー……まあ、そこまで……」

「あんまり多くは持っていけませんよ? ぶっちゃけると物資をちょろまかすのはそろそろ限界ですよ。食糧の方は何とか裏ルート見つけて確保しますから」

「おお助かるぜ。頼れる雑用が居ておじさんは嬉しいねぇ」

 

リンドウさんが笑いながら言う。頼れる雑用って……。まあいいや。

 

「あ、お前さんも一緒に行かねえか? あの数に餌やるとなると1人じゃどうもな……」

「時間が掛かりますが、棚卸が済んだら手伝いに行きますよ。」

「仕方ねえな。とりあえずおっさん1人で餌やりに行くか」

「ソーマでも連れてきゃいいじゃないですか。サクヤの姉さんだっていますし……」

「んーと言ってもなぁ……」

 

まあ、周囲に秘密にしているのでそう気軽に連れていけるもんじゃないか。

 

「んじゃま、取り合えず頼んだ物出していつものバギーに積んどいてくれ」

「了解しましたよ」

 

リンドウさんが手を振りながら倉庫の出口へ向かっていった。それを見送り、すぐに物資の数を確認する作業に戻った。

 

 

とりあえず、餌と食糧をバギーに積んでおくか。

 

ダンボールに餌と食糧を詰め込んで両腕に抱えて早歩きで車庫へ向かう。

訓練所の前を通りかかると、使用中のランプが点灯していた。

誰が使っているか分かるように使用者の名前が表示されている。

 

神薙ユウナと藤木コウタ……? 聞き覚えがあるようないような……。

 

「あ、新型ちゃんと……新人君か?」

 

すると、使用中のランプが消えた。訓練がどうやら終わったようだ。

あ、扉の前に居たら邪魔になるな。

扉の前から退くと、スライド式の扉が開き2人の神機使いが出てきた。

 

新型の子ともう一人……ニット帽を被った男子の方が藤木コウタだろう。

旧型のアサルトか……。あれって確かツバキさんの神機じゃねえの? そうか、引継ぎか。運が良いな。ツバキさんの神機は様々な改良を施されて居た筈。最初から良い相棒に恵まれたようだ。

 

「なあユウナ、博士の講習まで時間あるけどどうするんだ?」

「私は予習でもしようかなって思ってるよ」

「うおっ、真面目だな……」

 

2人は何気ない会話をしながら去っていった。

 

訓練どうだった? みたいな感じで気の利いた事を言うか迷ったがやめていおいた。

あの2人はきっと第1部隊に配属されるだろう。多分、関わりなんてそこまで持たない。

 

現にリンドウさん以外の人とはそこまで関わりは無い。

ソーマとはまだ神機が健在だった時に一回だけ一緒に任務に言ったぐらいだ。大して口もきいていない。その時にはエリックも居たな。エリックは本当にいい奴だ。神機無くして凹んでいる俺を慰めてくれた。貴族みたいな権力あるやつって嫌な奴しか居ねえが、あいつだけは別だ。彼には命を落とすことなく神機使いを引退してもらいたいもんだ。

 

あとはサクヤさんか。彼女とも2回ほど任務に同行させてもらった。衛生兵をやっているだけあって優秀だ。もうぶっちゃけ優秀としか言えない。そしてあの服装は実にけしからん。ついでに雨宮教官もけしからん。俺が入隊した時点で上乳と横乳のダブルコンボが完成していた。

 

リンドウさんとは「アラガミを喰らうの木」の件でもそうだが、よく関わる。

彼は一言でいうと……うん、最早何も言うまい。普段はあんな暢気なように見えるが、隙が無い。戦闘時、気だるそうにしながらも一切の容赦がない。油断とは何かを考えさせられる。

 

 

 

 

あ、なに1人で熱く語ってるんだろ俺。さっさと行くか。

 

 

物資をジープに積み込み、車庫から出てくると、物品科の職員に遭遇した。

いかん、ちょろまかしたのを悟られないようにしなければ……。

 

「お、ユウ。午後からの棚卸はやらなくていいぞ。ついさっき部下が出張から時間よりも早く帰ってきてな。部下にやらせる」

「あ、そうですか。了解しました」

 

よっしゃー今日の仕事片付いたぞー! 後はリンドウさんの手伝いをして今日の仕事は終わりだ。

 

通信機を取り出し、リンドウさんに連絡する。

出発まで時間があるな、さてどうやって時間を潰すか……。

そうだ、エントランスでソファーに座って金縛りごっごでもするか。(唐突)

 

早速エントランスでソファーに座り姿勢を正し、そのまま身動きせずに固まる。

 

「…………」

 

なんかあれだな、虚しいな。いや、逆に考えるんだこの虚しさが心地よいと……。

いや、思えねえよ。虚しさが心地よいってどういう事やねん。

自分が悲しくなってきたよ……。だがここでやめたら男が廃る。もう少し続けるか。

 

ん? あれは……! ジーナ!

 

俺の視界に移ったのは凄腕スナイパーのジーナ・ディキンソン。第3部隊に所属しており、アラガミを狙撃しないとソワソワする変わった女性だ。

間違っても「嘆きの平原」とは言ってはいけない。

 

あれ? 今一瞬睨まれたような……?

 

何か睨まれるようなことをしたか俺? 「嘆きの平原」と心の中で思ったが口には出していないからセーフの筈……。

 

ジーナはそんな俺の隣に腰を掛けた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

む、無言の圧力……! 怖ぇよ! ああもう無理ですー!

金縛りごっこを中断してソファーから立ち上がり、足早に去ろうとエレベーターに向かう。

 

「次は無いわよ?」

 

 

背筋が凍りつきながらも、エレベーターに入る。

 

「はあ……ビビったぁ……。やっぱ嘆きの平原は禁句だn」

 

 

ズドン

 

何故だぁ……?

 

幻聴だと思いたいが……銃声を聞き、俺は気を失った。

 




ジーナ・ディキンソン (22)

自己中のシュンや金の亡者カレルといった曲者が所属している第三部隊隊員の中では比較的、まともな性格の持ち主……だと思ったけど実はかなりの戦闘狂もとい狙撃狂。
出世や名声といったものに興味が無く、アラガミを撃ち抜くことを生き甲斐としている。
アラガミとの戦いを「生と死の交流」と呼ぶ。
独特の価値観を持っているせいか、戦闘時には自分の身を省みない無茶な行動をとることも多い。

胸元の大きく開いたカシュクールを着て、中々大胆な格好をしている。俺も出会った時は胸元に目が引き寄せられたよ。これが万乳引力の法則だ。

あ、間違っても「嘆きの平原」と心の中で思ったり、口に出してはいけn


ズドン


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桁外れの実力を持つ人が同行した時の安心感は異常

ユウ スキルリスト

スタミナ     LV10
ステップマスター LV10
ステップ距離   LV10
アスリート    LV10
スタミナ自動回復 LV10
ふんばり     LV10
ユーバーセンス  LV10
連続ステップ   LV10
他力本願     LV10

ユウ「何? ゲームにはないスキルもあるだと? これぐらい無いと凡人は生き残れないんだ。すいません許してください!何でもしますから!」


「お……い……ウ……」

 

「……ん?」

 

微かな声に意識を戻し、目を開けると、そこにはリンドウさんの顔があった。

 

「ん? リンドウさん?」

「なんでお前さん、こんな所で寝てるんだ?」

 

あ、そうだ。俺はエレベーターで……。

 

「い、いや……。嘆きの――」

「嘆き?」

「いや、なんでもないっす。色々と嘆いていたら嘆き疲れて寝てしまったらしいです」

「なんだその泣き疲れてみたいな……。調子悪いなら餌やりも無理しなくていいぞ?」

 

リンドウさんの優しさが染みるぜ……。やっぱ理想の上司ですわ。いいか、社会よ。

これが聖人だ。よく覚えておけ。 

 

「いや、仕事をする分には支障はありません。大丈夫です」

「そうか。んじゃ、少し早いが出発するか」

「ええ、そうしましょう」

 

リンドウさんと共に車庫へ向かい、先ほど物資を積んだバギーに乗り込む。

ちなみに行きは俺が運転する。無免だがな。どうせ事故ったってアラガミのせいにすれば問題ないね。何かしらあったらあいつらの仕業にすればいい。

最高のスケープゴートとはあいつらの事だ。

 

 

防壁を出て数分後、リンドウさんと世間話をしながらバギーを走らせる。

 

「あ、ユウ。ライター無いか? 俺のやつ切れてた」

 

ポケットを探り、ライターを取り出してリンドウさんに手渡す。

 

「すまんな。ちょいと借りるぜ」

「あ、あげますよ。どうせまた後で吸うんでしょ?」

「おー良く分かってるなぁ。んじゃ遠慮なく貰っておくぜ」

 

隣で煙草の煙が上がり、独特の匂いが微かに鼻を刺激する。

俺は煙草を吸わないが多分肺は副流煙でボロボロだろう。昔は周りの人間は皆吸っていたのでニコチンやタールが溜まりに溜まっているだろう。

なんで非喫煙者が喫煙者よりも肺がボロボロになってるんですかね……?

 

 

しかしこのバギー前に整備出してからアクセルの感度良くなってるな。ちょっと踏んだだけで良い音を出しやがる。

 

あん? 数メートル先にコクーンメイデンが数匹生えてやがるな。

 

 

「リンドウさん、あれどうします?」

「放っておくか。群生している訳でもねえし、相手してたって面倒なだけだからな」

「んじゃ、少し迂回しますよ」

 

ハンドルを切りつつアクセルを踏む。

コクーンメイデンがこちらに気づき、オラクルの弾を撃って来た。高く飛んだオラクル弾はバギーの軌道を読んでいるかのように落ちてくるが、オラクル弾が俺の頭上数メートル辺りまで来たところで、真上を影が通り過ぎてオラクル弾を掻き消した。

 

隣でリンドウンさんが神機を片手に座っていた。

 

「やれやれ、良い狙いしてやがるな」

「まあ、勉強熱心な連中ですからね。もしかしたら、前に喰らった人間は狙撃のスペシャリストだったかも知ない。喰らったものを学習する……厄介な敵ですね」

 

人間とは常に進化する生き物だが、アラガミの進化スピードは速すぎる。いつかは神機が通用しなくなるアラガミも出現するかもしれない。

やっぱり人類には勝ち目がないかも知れないな。だが、それでも今生き残っているって事はすげえ事だ。進歩したよ、人間は。

 

「お、見えてきたな」

 

リンドウさんが指を指した先に森が広がっている。普通の森はアラガミに喰い荒らされ、その数は激減し、滅多に見る事は無い。だが、あの森は別だ。あの森の木はアラガミを喰う。流石にヴァジュラ程の大物となれば不可能だが、オウガテイル程度なら喰らってくれる。あの森を超えた先に極東支部では収容しきれなかった一般人が暮らしている。

 

バギーから降りて、ダンボールを開けて中から偏食因子のケースを取り出す。

 

「今日はこの辺りの餌やりだけですか?」

「ああ、とりあえずこの辺りの餌やりを済ませれば当分は餌やりの必要は無い。このまま食料を持って行って、餌をやりつつ進んで行って集落を目指すぞ」

 

リンドウさんは神機とケースを持ち、俺は小銃を背負い、食糧を詰め込んだバッグを片手に森に入る。

 

 

2人で木の根元に偏食因子を打ち込みながら進む。

途中で、オウガテイルが数匹徘徊していたが、オウガテイルが木に触れた途端、気から巨大な棘が飛び出し、オウガテイル貫いてそのまま取り込む。

 

「相変わらず、不気味なもんですね……」

「まあな。だが、この不気味なものが住民たちを守っていると思ったら不思議なもんだろ?」

 

 

リンドウさんとオウガテイルが木に捕食されるところを見物していると、遠くからサイレンが鳴った。

 

「ッ!」

「集落にアラガミが侵入したらしいな」

 

 

「さっさと――」

 

リンドウさんが神機を担ぎ、駆けだそうとしたところで俺は通ってきた道の先から気配を感じ振り返る。リンドウさんが俺に話しかける。

 

「どうした?」

「いや、大物の気配が来てますよ」

「何? 大型か?」

「恐らく。森から離れた地点でヴァジュラの目撃が多いと情報があるので恐らくは」

「相変わらずの五感だな。それで適合率が低いなんて信じられないぜ」

 

リンドウさんが頭を掻きながら言う。リンドウさんの表情は先程までとは打って変わり、真剣な眼差しをしている。

 

「俺はヴァジュラの方へ行く。ユウはこのまま集落に向かって住人の避難だ。死ぬなよ」

「了解です。そちらもお気をつけて」

 

腰に下げてあるスタングレネードを1つリンドウさんに投げ渡し、リンドウさんはスタングレネードを受け取ると駆けて行った。

俺もスタングレネードを手に、地面を蹴って集落へ駆けだした。

 

ステップからステップを繰り出し、更にステップを繰り返して、集落へ高速で移動する。

気配を探ると、周りには小型のアラガミが潜んでいるようだ。

その内、木に喰われるだろう。ここは無視だ。しかし、補足されても厄介だ。偽装フェロモンを使っておくか。

 

ポーチから錠剤を取り出し、飲み込む。

 

もっと速く、アラガミよりも速く。更に足を速く、地面を蹴る時はより強く、ただひたすら急いだ。

 

獣道の先で光が見えた。警報の音も大きくなっている。間違いなく出口だ。

 

 

光へ飛び込み、一旦足を止める。

住民たちの悲鳴の中にアラガミの鳴き声はない。アラガミの気配はするがそこまで強くは感じない。まだ被害は出ていないようだ。

 

とりあえず広場へ行くか。

 

 

「あ、ユウさん! 急に警報が鳴って――」

「分かっている。落ち着いてくれ。住民たちの避難はどれくらいかかる?」

「皆一目散に逃げてるから、そう時間はかからない筈だ」

「まだアラガミの姿は見ていないんだな?」

「あ、ああ。貯水池の警報が鳴ったからきっと……」

「分かった。様子を見に行ってくる。今頃リンドウさんも向かっている筈だ。安心してくれ」

 

それだけ言って、俺は貯水池へ向かう。

どんなアラガミだ? 正直大型だとかなりまずい。気配を探りながら向かうか……。

 

気配の大きさ的には大型ではないが……2匹か……。

コンゴウやヤクシャなら厄介だな。あの2種は同種との連携を得意としており、1人で相手取るとしたら少し厄介だ。

 

貯水池に到着すると、そこには大きな砲門を携えた鰐――グボロ・グボロが唸っていた。

 

「ちっ、グボロか。厄介といえば厄介だな」

 

1匹しかいないって事はもう1匹は――

 

「ッ!」

 

その場から飛び退く。俺が立っていた場所に紫色の光弾が降っていた。

あのグボロに意識を集中し過ぎていた。おかげで周囲の気配感知が疎かになっていた。

一瞬の油断が命とり。だが、もう同じミスは犯さん。

 

俺に気づいたグボロも砲門をこちらに向けて、高圧の水の塊を発射してきた。

サイドステップで躱し、更に間髪入れずに連続ステップで移動し、隠れているスナイパーに狙いを絞らせない。

 

「あの光弾、ヤクシャか。攻撃の規模からヤクシャ・ラージャと考えにくい。さて、どう立ち回るか……」

 

対アラガミ用ナイフに小銃、スタングレネードが1つ。とても相手取る事は出来ない。くそ、神機があれば……。

リンドウさんが助太刀に来るまで、住民たちの方へ行かないように誘導しつつ粘るしかないか。

挑発フェロモンを使い、グボロの後ろに回り込む。

グボロが後ろの俺を押しつぶそうと後ろへ跳躍してきた。高く跳躍し、グボロのバックステップを躱し、空中で小銃を構えて引き金を引く。

しかし、小銃から放たれたオラクル細胞を塗布しただけの弾丸は通用しない。

 

 

「……ッ!」

 

グボロの正面降り立つと、グボロは飛び込みつつ噛みつこうとその巨体を弾ませた。グボロの下を潜るようにスライディングをして切り抜ける。

グボロの方に向き直ると、俺は大きな影に覆われた。俺は上を見ずに、バックステップでその場から移動する。

 

ドンッ!

 

大きな着地音を立てながら、右腕に遠距離型神機・ブラストと似ている、銃火器とも呼べる武装をしたアラガミがこちらを睨んでいる。

 

「やれやれ、すばしっこい(フェンリル)は嫌いか?」

 

右手に小銃、左手にスタングレネードを構える。

 

乱戦こそが戦の華ってか? 昔の連中ってのは余計な事を言いやがる。

さてどうしたもんか……。

 

先に動き出したのはヤクシャの方だった。ヤクシャが大きく跳躍する。

ヤクシャを目で追うと同時に、一瞬だけグボロがこちらに砲撃を撃ったところを捉えた。ヤクシャから目を離さずに横へ移動する。砲撃をやり過ごしたところで、ヤクシャは右腕の砲門からオラクル弾を撃ちだす。なんだコイツらの連携抜群じゃねえか!? クソっタレが!

 

オラクル弾を、身を反らして紙一重で回避する。

 

すぐに連続ステップで距離を取りつつ様子を探る。

グボロが自身の砲門を天に向け、砲弾を発射した。砲弾は空中で拡散し、俺へ向かって降り注いできた。

 

「上等だ! そんなへなちょこ弾に当たると思うなよ!」

 

小銃を背負い、対アラガミ用ナイフを抜いて駆けだす。

拡散した分、弾は大きくない。最低限の動きで躱せる! まずはヤクシャだ。降り注ぐ砲弾を躱しつつヤクシャへ突撃する。

ヤクシャはしゃがみ込み、一際大きなオラクル弾を撃ちだす。体を捻り、弾を避けて

一気にステップで加速――そして跳躍。

 

ヤクシャの肩に飛び乗り、対アラガミ用ナイフでヤクシャの目を切りつける。

 

「ガアッ!?」

 

ヤクシャが短い悲鳴を上げ、俺を狙ったグボロの砲撃に晒される。暴れ出す直前にヤクシャから飛び降りて、すぐにグボロへと向かう。

 

砲弾の雨が止み、グボロは俺を近づけさせまいと砲門を向ける。だから当たらねえって言ってるだろ?

斜め右にステップをし、続いて斜め左にステップ、ジグザグを描く軌道でグボロに近づく。

 

グボロとの距離まであと数メートルといった所で。グボロは体を捻った。

身体が勝手に反応し、高く跳躍すると同時にグボロは勢いよく鰭で殴りかかってきた。グボロの背後に降り立ち、対アラガミ用ナイフで尾鰭を数回切りつけ、バックステップで距離を取る。

 

「人間みたいな真似しやがっ――ッ!」

 

ヤクシャがグボロの陰から飛び出し、猛スピードで駆けてきた。

一瞬で距離を詰め、左手の爪で俺を引き裂こうと左腕を振ろうとしてきた。凶爪をギリギリ躱す。しかしヤクシャはもう1度腕を振るう。もう1度紙一重で躱すと、今度は右腕の砲門で殴りかかってきた。

 

「ウッソだろ!?」

 

ヤクシャの股下へ飛び込み、難を逃れる。しかし、視線の先で既にグボロが攻撃態勢に入り、背びれの模様の目が俺をロックオンしているかのように見つめていた。

背後からも危険を感じ、振り返るとヤクシャが左腕を振り上げていた。

 

「ッ! クソ生意気な!」

 

対アラガミ用ナイフを口に咥え、ヤクシャの攻撃を誘う。ヤクシャの左腕を回避しつつ両腕で掴み、ヤクシャに背を向ける。

 

「ハハっタナハホがッ!(かかったなアホがッ!)」

 

渾身の力でヤクシャを引っ張る。

 

「ヌオオオオオオッ!」

 

ヤクシャの体が浮き上がったと同時に、グボロの砲門から巨大な砲撃が放たれる。

砲撃が俺に届くまであと数メートルの所で、ヤクシャを盾代わりに背負い投げる。砲弾はヤクシャに炸裂した。だが、あまりの衝撃にヤクシャ諸共吹き飛ばされてしまった。

 

「ハア……直撃よりはマシだが……なぁ……」

 

「グウぅ……」

 

ボロボロになったヤクシャが俺を睨みつけながら立ち上がる。肩鎧や左腕が吹き飛ばされ、大量の血液を垂れ流している。

 

「おうおう。随分辛そうじゃねえか? どうした? お得意の遠距離攻撃でかかって来いよ」

 

俺は中指を立てながら挑発する。

ヤクシャは砲門を俺に向ける。撃たれる前に、一気にヤクシャとの距離を詰め、ヤクシャの顔に対アラガミ用ナイフを突き刺す。

 

「グゥオ!」

 

ヤクシャは悲鳴を上げながら地面へ転がる。片腕を失くし、バランスが取れなくなったこと、そして大きなダメージによる体の限界この2つの要素がヤクシャを地面へ倒す要因となった。

 

地面をのたうち回るヤクシャを放り、グボロへと意識を向ける。

 

「へっ……」

 

笑みがこぼれる。勝利を確信した。

俺の様な凡人とは違い、桁外れの実力を持つ猛者が赤い神機を手に疾走していた。

 

俺はスタングレネードを見せながら、彼を見る。彼の眼差しから俺は全てを察した。頷きながらスタングレネードの安全ピンを引き抜き、地面へ叩きつける。

 

バシュッ!

 

破裂音が響き、閃光が辺りを包み込む。

光が消えると、そこには突然感覚を奪われ、困惑と共に地面へぐったり伏せるグボロ。奴の後ろでは既に猛者が神機振る直前であった。

 

猛者が神機を振ると同時に、大量の鮮血が飛び散り、グボロは一太刀で絶命した。

 

「リンドウさん、ちょいと遅いですよ」

「悪いな。相手が中々のじゃじゃ馬……いや、じゃじゃ猫でな。まあ、まずは片づけるか」

 

リンドウさんは再び神機を構え、高く跳躍し、横たわっているヤクシャに赤い神機、ブラッドサージを突き立てた。

 

ヤクシャは一突きで生命活動を停止した。断末魔を上げる事も無く……。

 

残ったのは、いつか蒸散するオラクル細胞の塊2つと、絶対的強者と戦う術を失った兵士だけ。

さっきまで1対2で絶望的な状況だったのがあら不思議、規格外が1人加わっただけで覆るどころかこっちの勝利で終わってしまった。なんてこった、ホント桁外れな実力だよリンドウさん。もうこの人1人で良いんじゃないかな?

 




雨宮リンドウ (26)

俺が世話になった人ベスト5にランクインしている。俺の大恩人だ。
普段は軽口を叩いているが、冷静な判断力と行動力を兼ね備えた人物でもある。
他の隊員の信頼も厚く、彼とミッションを出撃した者は生還率90%を越えているらしい。
偏食因子の適合率が極めて高く、平均値の3.2倍を記録している。
つまり一般的な神機使いの3倍以上の身体スペックを持つ。 また戦闘力もかなり高く、正に激戦区・極東支部のエースとも言える人物だ。
ちなみに、軽口を叩きながらコンゴウやオウガテイルなど中型・小型を小突くようになぎ倒していた。この人、人間じゃねぇなと思った瞬間である。

ビールが大好きなので物頼むときはビールを持参すると、快諾してくれる可能性が高くなるぞ!


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(^o^)<もう無理ですー

UAが200突破してて唖然とした。今日一番の出来事です。


「はあ~やれやれ、ビールが飲みてぇなァ……」

 

「まだ日は高いですよ。そんな自堕落な事してたらサクヤさんや雨宮教官に怒られますよ?」

 

気だるそうにリンドウさんが煙草を吸いながら隣を歩く。アラガミの襲撃があったので被害状況を確認している。集落の中心にまではアラガミは攻めてこなかったようで、破壊された建物などは特にない。

 

 

リンドウさんが通信機を取り出し、通信を始めた。

軽口を叩きながら受け答えをするリンドウさん、すると……。

 

「おいおい、そりゃないぜ! おい! 切りやがった姉上の奴……」

 

「なんかあったんですか?」

 

リンドウさんが溜息をつきながら通信機をしまい、口を開く。

 

「防衛班のとこのシュンが単独行動に走ってヴァジュラと交戦中らしい。ちなみにバイタル反応的に長くは持たねえから、近くにいる俺に救援に行けとよ」

「うへぇ……あいつまたかよ……」

「そういや、お前さんあいつと仲良かったよな」

「ただの喧嘩仲間ですよ」

 

集落を後にし、リンドウさんと一緒に止めてあるバギーまで戻り、すぐに走らせる。

ちなみにリンドウさんが運転しているんだが、中々スピードを出す。まあ、のんびり向かったらシュンがヤバイから当然の事であるがちょっと……気分が……。しかもちょっと揺られてお尻が……。

ああ……胃にあるものが喉まで来たよ。食事中の方、申し訳ありません。

身を乗り出してリバースする。

 

「ヴォエぇ……」

 

「おいおい、嘘だろお前!? アラガミ相手してる時はあんな大立ち回りしてるくせして酔うのかよ!」

 

「いや、それとこれとは話が別――ヴぉえー!」

 

「しゃーないな。着くまでに全部出しとけよー」

 

酷ぇ! 不調の人間を扱き使うつもりだよこの人! いやそもそも全部出すも何も食った物なら全部出てるよ! 既に胃液らしきものしか出てないよ! よくよく考えれば胃液って体内で分泌されるものだから理論上半永久的に出るよ! 出し切るとかそう言う問題じゃないよこれー! うえっ、気持ち÷――いや、気持ちを割ってどうすんだよ! 

冗談言ってる場合じゃねえ! マジであかん!

 

 

(^o^)<もう無理ですー

 

バギーから飛び降り、連続ステップを繰り出してバギーと並走する。

リンドウさんは呆れた表情で俺を見ている。いや、そんな目で見られたって無理なものは無理ですよ。もう少し迅速かつ丁寧な運転を心がけてくださいよ。

 

 

通信機を取り出してヒバリちゃんと通信する。

 

「あ、ヒバリちゃん? シュンの野郎今どの辺に居るか分かるか?」

 

『ユウさんですか? シュンさんの救援にはリンドウさんが向かっているのですが……』

 

「あ、俺今リンドウさんと一緒にいるんだよね」

 

もしかして俺の腕輪のビーコン反応無い系? ホント最悪の精度だな! 前もあったよなこんな事。おかげさまで徒歩で帰ることになったよ。まったく、物ってのは現場の声を聞いたうえで作るのが普通だろうに。別に資源無くて切羽づまっているって訳でもあるまいし、それで出し惜しみしてるから不測の事態に陥って優秀な人材を失う事に繋がるかもしれないんだぞ! 極東支部(うち)の技術員を見習えよ。

 

『ユウさんの腕輪のビーコン反応はありませんが……。リンドウさんと一緒ですね? 状況把握しました。シュンさんは今ユウさん達が居る地点から北西4.6キロ先でヴァジュラと交戦中です』

 

「了解した」

 

通信機を懐に戻してリンドウさんに声を掛ける。

 

「リンドウさん。シュンなら北西4キロ程先に居るらしいですよ?」

 

「うーん、そうか。ユウ。じゃんけんしようぜ?」

 

「え? まあいいですけど」

 

「「じゃんけんポン」」

 

俺はパーでリンドウさんはチョキ。俺の負けだ。

 

「おし、シュンの救出はお前に任せるぞ。俺は安全地点でお前らを待ってるぜ」

 

「おぉい! リンドウさん! そりゃないでしょう!? こんなロクな武装もしてない一端の偵察兵に何ができるっていうんですか!?」

 

「ははっ! 冗談だ。俺は周りに他のアラガミが居ないか確認して安全を確保しておく」

 

「それ結局、俺がシュンを助けに行くのは変わりないですよね?」

 

「なーに、お前さんはデカい作戦の時、救護班に同行して戦闘継続不可能になった奴を安全地帯まで無事運びだしてるだろ? たかが1人の救出くらい朝飯前の筈だ」

 

いやいや、応戦する術がない状態で床ぺロしてる奴を戦場から運び出すって相当難易度高いんですよ!

でも、役割を交換しても神機がない俺じゃ何もできない。やっぱり、リンドウさんの判断は理に適っているよ。最早神機使いとして戦力外の俺がたった1人でこなすには少し重い仕事だが、此処には俺とリンドウさんの2人だけだ。なら、やってやろうじゃねえか。

 

「ま、了解しましたよ」

 

「おう。任せたぜ。集合場所はこの地点だ。死ぬなよ。2人揃って生きて帰れ」

 

タブレットで地図を表示し、赤い印を表示する。このマーカーが合流地点だな。よし、記憶した。

 

気合を入れて地面を蹴って北西へ大きく跳躍し、並走していたバギーを置いて、遥か先まで跳ぶ。

 

 

 

 

「居た!」

 

シュンがボロボロになりながらも神機を構えてヴァジュラと対峙している。絶望的な状況でもまだ戦おうとするあたり、大した根性を持っているよ。その根性をもっと有効活用してくれれば、助かる奴は大勢いると俺は思う。

 

シュンの隣に立つと、シュンは驚きながら口を開いた。

 

「な、ユウ!? 何でお前が!? こいつは俺の獲物だぞ!」

 

「バーカ、神機持ってない俺がどうやってこんな化け猫叩きのめすんだよ! お前を救助してくれって上から指示されたから来たんだよ」

 

「はあ!? 助けなんていらねえよ! いいから引っ込んでろ! お前神機が無いんだろ? 死んじまうぞ!」

 

「アホ抜かすなこのヴァーか! お前を此処で放ってたら俺とリンドウさんが怒られるんだぞ!」

 

「げっ、リンドウさんも来ているのかよ!」

 

「ガアアアアアッ!」

 

ヴァジュラが雄たけびを上げて、騒ぎ立てる俺達にうるさいと言わんばかりに吠える。

帯電しながらヴァジュラは跳躍し鋭い爪で襲いかかって来る。俺とシュンはその場から身を投げて回避する。

ヴァジュラは手負いのシュンを狙って雷球を放つ。

 

「いっ!?」

 

シュンが慌てて装甲を展開し、雷球を防ぐがあいつの装甲はバックラーだ。完全に衝撃までは受け止められない。しかも満身創痍の体じゃ、ちょっとしたダメージも致命的だ。

このままじゃシュンが持たない。

 

ヴァジュラの尻尾に飛びつき、対アラガミ用ナイフで尻尾を滅多刺しにする。

 

「ガアアッ!」

 

流石に急所を小突かれたら煩わしく感じるだろう。ヴァジュラは暴れて俺を引き剥がそうとする。お望み通り、手を離してヴァジュラの尻尾から距離を取る。

先に煩い蠅を潰すつもりか、ヴァジュラは俺を睨みつける。

シュンを見ると、地面に神機をついて、荒く息をしている。ヤベェな、そろそろ限界だろう。俺1人撤退するだけなら楽だが、負傷者を連れてでは話が違う。とりあえず、シュンのバイタルを回復させるか……。あの様子じゃ回復錠は使い切っただろう。

なら……。

 

「ガアッ」 

 

ヴァジュラが右腕を振りかぶる。すぐにサイドステップで距離を取りつつ、ポーチから小さなケースを取り出す。ケースを握り潰すと、俺の手に黄緑色に輝く暖かい球体ができる。

回復球――神機使いの傷を忽ち塞ぐ回復錠よりも効果があるアイテムだ。回復球をシュンへ投げつける。回復球はシュンにぶつかるとシュンの体を包み込む。

 

すると、シュンの傷は忽ち塞がり荒かった呼吸も安定し始める。

 

「一応……礼は言っとく」

 

「素直じゃねえな……」

 

ほら、何だっけ……? こういうツンとしてて素直になる……そうだ、ツンデレだ。

いや、男がツンとしてデレても嬉しくないな。可愛い女の子がするべきだな、うん。

 

ヴァジュラはマントを発光させながら天高く吠えた。ビリビリと音がすると、肌に違和感が走る。それは次第に大きくなり、危険を感じヴァジュラから距離を取る。すると、真横を影が通り過ぎて……シュン!? よせ! ヴァジュラは今――

 

ヴァジュラに向かって神機を手に突撃するシュンに反射的に手を伸ばす。

 

「ガアアアアッ!」

 

ヴァジュラが青白い稲妻に包まれ、青い電撃は周囲へ飛び、地面を、壁を抉った。

 

「グッ、ウッ……」

 

あれ程の威力、無事である筈がない。あの野郎、せっかく傷を塞いだってのにとんだ無茶を……! シュンは装甲を展開しながら、地面に膝を突いて呻き声を漏らしていた。今にも意識を手放してしまいそうな目をしており、最早限界であることを示していた。

 

「シュン!」

 

意識を飛ばすなと喝を入れるように、名を呼ぶ。

 

「う、るせぇよ……! 聞こえてら……! ちくしょ……まだだっての……!」

 

悪態をつきながら、ヴァジュラを睨みつけるシュン。しかし、既に勝敗は明白だ。ヴァジュラは右腕を振り上げた。確実にとどめを刺そうと、青い稲妻が爪を包む。

足に力を込めて、一気に開放する。一瞬でシュンの元へたどり着き、シュンの腕を掴んで投げ飛ばしてヴァジュラから逃がす。既にヴァジュラの攻撃は来ているが、問題ない。想定済みだ。

 

 

ヴァジュラの爪は止まっていた。

 

「俺が何も考えずに敵の攻撃に飛び込むはずがないだろ?」

 

ホールドトラップを直前に設置しておき、それがたった今効力を発揮した。ヴァジュラは体の自由が効かずに動けないでいる。

この時を待っていた。後はスピード勝負だ。

 

投げ飛ばしたシュンの元へ向かい、シュンを担ぐと足早に撤退する。

連続ステップで飛ばしたいところだが、担いでいるのが怪我人だ。そんな訳にもいかないだろう。とにかく、リンドウさんと打ち合わせした通りの場所へ急がないとな……。

 

 

 

「たくっ! 怪我人を投げ飛ばすなんてどういう神経してんだお前!? どっかの衛生兵は誤射して吹き飛ばすわ、救出に来た偵察兵は怪我人を投げ飛ばすわで救護する奴には碌な奴が居ねえのかよ!」

 

「やかましいわボケェ! 折角回復してやったのにまた傷増やしやがって! お前が突っ込まずにあのまま撤退してたら、何事も無く離脱できたんだぞ!? 運ぶこっちの身にもなれや!」

 

「何だと!? 大体、お前がもっと早くホールドトラップをつかってりゃ倒す事だってできたかも知れないんだぞ!?」

 

「なぁにぃ!? クソ生意気なガキめ! アラガミが蹂躙する極限空間から人様死なせずに運び出すのにどれ程の技術が要ると思ってんだ! ぶっちゃけ、こんな任務俺にやらせるフェンリルが怖いわ! 偵察兵の限界越えとるわ! そもそも偵察兵の仕事じゃないわ!」 

 

「お前にガキなんて言われたくねーよ!」

 

「んだとぉ! ガキをガキ呼ばわりして問題あるか!」

 

 

リンドウさんと合流した後、シュンを包帯でグルグル巻きにしてバギーの後部座席に転がしたら、シュンが文句垂れて来たのでこちらも文句をつけて醜い言い争いを展開していた。

 

「ホントお前さんら仲良いな……」

 

ほら、シュンのせいでリンドウさんが呆れているだろう。大体、こんな自己中と仲が良いなんて俺は絶対認めねえからな! とりあえずシュンは支部に帰ったら荒治療に命令違反の処罰、減給の3連コンボを食らう事になるだろう。ざまぁないぜ!

 

 

 

「はあ~疲れた……ホントに疲れた」

 

支部に戻ると、シュンは医務室に連行されリンドウさんは新型ちゃんと任務に行き、俺はソファーでぐったりしていた。

 

「ゲンさん、シュンの奴にガツンと言ってやってくださいよ」

 

俺は向かいのソファーに腰を掛けている老兵に文句を垂れた。老兵――ゲンさんは呆れた顔をしながら頬を掻く。なんか今日は人様に呆れられる回数が多いな。

 

「俺が言ったところで聞くような奴か、それはお前が一番知ってるだろう?」

 

「リンドウさんにも言いましたけど、別に仲が良いって訳じゃないですよ……。只の喧嘩仲間です」

 

「そりゃお前、喧嘩するほど仲が良いってやつだろ」

 

「冗談はよし子さんですよ。そうだ、一局やりませんか? 買った方が飲み物奢るって事で」

 

「ほう、まだまだ若い奴に負けんぞ。受けて立ってやる」

 

テーブルの下に置いてある将棋盤を取り出し、駒を並べる。

今日こそ1本取るぞ。やられっぱなしってのは気にくわないので今日こそは……!

 

 

「ほう、少しは腕を上げたようだな?」

 

「いつまでもやられっぱなしってのは恰好悪いじゃないですか? 今日こそは1本取らせて貰いますよ、ゲンさん」

 

今日はとても調子がいいぞ! 次の手はどうすれば良いか、自然と頭に浮かんでくる。まあ、ターミナルで将棋に関して調べて勉強したので当たり前だが。流石『コンゴウでも分かる!将棋初級編』だ。むしろこれが分かんないと俺の知能は連携と力技しか能がないコンゴウ以下って事になるから意地でも理解したのだが。

あ! この局面は本に書いてあったとこだ! 手が生き物の様だ! 手が脳に追いつかねぇ! 分かる、分かるぞぉ! 読める、読めるぞぉ!

 

「王手だ。出直してきな」

 

(^o^)<うわーもう無理ですー

 

 

敗北したので、財布から150fcが天に羽ばたいて逝きましたとさ。めでたしめでたし。




百田 ゲン(62)

俺が世話になった人ランキングベスト5にランクインしている。
新人研修担当の引退したゴッドイーターで元軍人だ。
彼は神機がピストル型だった頃の最初期の神機使いだ。俗に言う第0世代というところか。まだ神機の技術使用にも大きな危険が伴っていた当時、初めて神機使いに志願した軍人でもある。
最終階級は大尉らしい。彼ら第0世代がどうにか中型のアラガミを倒したことで、現在の神機の礎ができた。
長年の渡る戦いによるものか、腕の負傷のため引退しており、フェンリル極東支部の神機使い達の相談役をしている。
落ち着いた人物だが昔は「鬼」と呼ばれていたとか……。
シュンなどの一部の若手からは煙たがられている。

まあ、ぶっちゃけ軍で目上の人間に生意気な口をきこうものなら鉄拳制裁が当たり前だが、ゲンさんは心が広いのだろう。だから、かつてゲンさんに鍛えられた新人たち――現在最前線に立っている古参神機使い達は心の広い人が多いのかもしれない。


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アモルに体当たりされた。痛かったです。

初っ端から下品な話で盛り上がってます。下ネタ注意です。


さあ今日も一日頑張るZOY☆

 

仕事を始める前にトイレでも行くか。偵察任務に出て漏れそうになって立ちションなんてしようものなら上か後ろから喰われてしまう。死因が用を足している時に不意を突かれて喰われたとか恥ずかしいからな。

 

そういや、汚ねえ話だけど男子の諸君は用を足すとき、2WAY射撃になった事は無いかな?

不意に2WAY射撃になって便座カバーなどがダメージを受けた日にはため息が出るよな。

そもそもな話、大便器に立小便したら目に見えないレベルで飛び散って床や壁にダメージを与えているから注意な。

 

なんでこんな下品な話で盛り上がってんだろ俺。とりあえず用を足すか――

 

「え、何これ?」

 

トイレに入ると、便座カバーと左の壁、右の壁が思いっきり濡れていた。

おい誰だよ!? 3WAY射撃した奴! せめて掃除してから出てけよ! 掃除のおばちゃんが可愛そうじゃねえか! 人間の所業ではない!

 

用具入れを開けて、ゴム手袋を装着する。このままにしておくのも汚いので掃除する事にした。トイレを綺麗に使うのは当たり前の事だ。というか張り紙あるじゃねえか。おばちゃんに掃除させないで自分らに掃除させないと分からないだろうな。掃除の大変さってのは。

 

 

掃除を終わらせ、俺自身も用を足してエントランスへ任務を受けに行く。

 

「おはようヒバリちゃん。偵察任務が来てるって聞いたんだけど」

 

「おはようございます。平原地域で多数の反応があるので調査をお願いしたいとのことです」

 

「了解した。至急現場に急行する」

 

そんな訳で今日のファーストミッションは平原で調査だ。さっさと終わらせてくるか。

 

 

 

先程、平原地域まで調査しに行ってきた、多数の反応の正体はコクーンメイデンが群生していただけだった。まあ、こんなもんだよな。楽な仕事で助かった。

ん? 2人男女が仲睦まじく話している……。2人とも右手首には俺と同じ赤い腕輪をつけている。あの2人を見ていると腕輪がペアルックに見えてきた。

ね、妬ましい……! こちとら仕事に精を出しているのにあいつら……楽しそうに……!

あの2人の足元に手榴弾転がしてぇな。余裕で吹き飛ばせる気がする。

 

「ユウさん、新しい任務が来てますよ?」

 

「え? 新しい任務?」

 

「はい、今度は発電施設跡での偵察をお願いしたいそうです」

 

「分かった。急行する」

 

 

 

偵察の結果、小型アラガミが多数徘徊している程度だった。しかしやけに上からの奇襲が得意なオウガテイルが居たな。6回ぐらい上から襲ってきたぞアイツ。まあ、たかがオウガテイル、大したことは無いだろう。上を警戒しつつ戦ってれば問題ないだろう。

 

「あ、ユウさん。新しい偵察任務が届いてますよ?」

 

「え?また?」

 

 

 

市街地エリアで偵察してきた。コンゴウ君とリアル鬼ごっこをしてきた。途中でコンゴウ堕天種君も参加してきた。俺より足は遅かったです。その後、アモルが現れました。あいつはいつも逃げるくせして、俺が神機を持ってないから調子こいたのか、体当たりで攻撃してきた。痛かったです。

 

なんで小学生の日記みたいになってんねん。いや、それよりもアモルだよアモル。あいついつも神機使いを見たらとんずらこくくせして、何故か俺に体当たりを仕掛けてきた。俺もアモルは攻撃してこない筈だと思って油断してたけど、何やねんアイツ。丸腰の奴が相手なら倒せるとでも思ったか。蹴飛ばしてお星さまにしてやったよ。

 

「ユウさん、榊博士から調査して欲しい事があると……」

 

「今日の俺フル稼働してると思わない? ヒバリちゃん」

 

「いつもと変わらないじゃないですか?」

 

笑顔で返され、間の抜けた返事を返す事にした。

しかし、榊博士か……。また厄介な仕事を持って来たわけじゃないだろうな。

 

 

 

「極東支部より、遥か南に位置する島を調査してもらいたいんだ」

 

「島? 島って太平洋側にはいくつもあるじゃないですか。何処の島ですか?」

 

「ここだよ」

 

榊博士が地図の上に指を置き、示す。

此処は――。

 

「……………………皮肉だな」

 

榊博士には聞こえないようにボソッと

 

「ん? 何か言ったかい?」

 

「いえ? 何も?」

 

榊博士曰く、世界にはアラガミの出現以降、人の身では立ち入る事の出来ない場所があるらしい。そこにはアラガミとは違う何かが居る等といった仮説が立てられており、つい先日この島にだけはアラガミが出現しない事が分かったらしい。極東支部はあまり積極的ではないが、数年前から太平洋に存在する島々の調査をしていたようで、他の島には普通ににアラガミが出現しているが、榊博士が示したこの島には不思議な事にアラガミが出現していないとの事。距離が距離なので中々調査が進まなかったが、不測の事態に対応且つ、調査に回せる神機使いが居るので丁度良いと判断したらしい。

 

そうだな、ある程度不測の事態に対応できて調査や偵察、雑務しかできない暇な人間が今榊博士の目の前に居るからな。

 

「調査自体は定期的にで構わないよ。距離が距離だからね」

 

「分かりました。ただ早い方がいいでしょう? ヘリに空きが出来次第、一回調査に向かおうと思います」

 

俺がそう言うと、榊博士は眼鏡の位置を直た。

 

「分かった。だが、気を付けるんだよ。アラガミが出現しないと言う事が事実だとしたら、アラガミを超える何かがいると言う可能性がある。そして、それが人類にとって害か無害かは分からないからね」

 

「承知の上です。ただ、ボーナス弾んでくださいよ?」

 

 

 

「ここで構わない。降りたらすぐに戻ってくれ」

 

「分かりました。お気をつけて!」

 

ヘリのパイロットに礼を言い、ヘリから飛び降りて地面に着地する。ヘリはすぐに極東支部へ帰投していった。アラガミが出現しないか……。

しかし、至る所に喰い荒らしたような跡がある。どうやらアラガミが出現しないという話はデマだったようだ。今まではただヘリの上から観測していただけらしいので、アラガミがレーダーに引っかからなかっただけだろう。

 

この島の南西端に火砕丘が位置している。まずはそこへ行こうか。道は……多分こっちだな。喰い荒らされて凸凹になった道……。変わらないな此処は……。

火砕丘の麓に着くと、地面に手を置いてそっと地面を撫でた。

 

「はは……来ちまったよ……」

 

自然と口に出し、土の中で眠る今は亡き命に、魂に語り掛けていた。

 

しかし、アラガミが居た形跡はあるのにアラガミが全く見当たらない。意識を集中して周囲の気配を探ってみたが、まったく気配がしない。

 

アラガミが出現しない――ではなく、アラガミが近づかない? それも変な話だ。仮にそうだとしたら、この島そのものがアラガミ装甲壁と似た原理を持っているという事になる。

 

とりあえず、島を一周してから榊博士と連絡を取ろう。何も今日中にこの島を調べる訳ではない。気長に調査するとしよう。この島について解析するのは博士の仕事だ。

こんなものがあっただとか、報告するだけでボーナスがもらえるんだ。最高の仕事じゃないか。

 

* 

 

 

「成程、アラガミ喰い荒らされた形跡はあったが、肝心のアラガミが1匹も居ないか……」

 

榊博士が顎に手を当てて呟いている。

 

「一回りしたけど、喰い荒らされた形跡自体がそこまで無かったな。齧ってみたらあまりにまずくてやっぱり喰うのを辞めたって感じだな」

 

「中々興味深いね。アラガミ装甲壁と似た性質を持つ島か……」

 

ソファーに腰を掛け、茶を飲みながら寛ぐ。この茶、中々美味である。これで甘いものがあれば完璧だった。

 

突然、ラボの戸が開き、俺と博士は入り口を見る。そこには新型ちゃんと新人君が立っていた。ああ、なるほど……。あの退屈な講義か……。俺も受けたから分かるぞ。いってることちょっと難しくてチンプンカンプンで話聞いていたら眠くなってきて……。

 

「ああ、待っていたよ。少し待っていてくれ。講義の資料を準備するから。ユウ君、手を貸してもらえないか? 2人は座って寛いでいてくれ」

 

「ああ了解」

 

ソファーから立ち上がって、機材の準備をする。

 

「あん? 博士、このケーブル何処にぶっ差すやつです?」

 

「それはモニターの裏の……そう、そこだ」

 

「ユウ君も講義を受けないかい?」

 

「勘弁してください、俺にあんなごちゃごちゃした話が理解できる訳ないでしょう?」

 

「まあまあ、君の座学の成績は少し如何なものかと思ったから、復習だと思って」

 

えぇ~。マジでチンプンカンプンなんだよなぁ……もう途中から寝落ちしようかな。

 

「そんな訳で2人とも、今日限り君たちと一緒に学ぶ同級生だ。彼もまだ入隊して半年しか経っていないから君たちと同様、まだまだ新人だ。年も近いし、互いに親しみ易いと思うよ」

 

いや、受けるなんて一言も言ってないんでけど……。ホントに話し勝手に進めるの好きだなこの人。しゃーないか、寝落ちしてサボったろ!

 

「ユウだ。とりあえずよろしく」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしくな、ユウ!」

 

新人君――コウタって結構フレンドリーだな。つ-かコミュ力高くねえか? そして新型ちゃん――ユウナはガッチガチに緊張しているようだ。

 

「まあ、そんな硬くならずにさ? コウタみたいに砕けた感じが丁度良いぜ? 俺も入隊して1年も経ってないんだ。同期みたいなもんさ」

 

「は……う、うん。分かったよ」

 

若干、あれだがユウナも友達と話す感じでしゃべる。まあ、その内慣れるだろう。最初は苗字にさん付けで呼んでたけど、少し仲が良くなったら普通に名前を呼び捨てで呼ぶみたいな感じだろう。

 

3人で並んでソファーに座った。ここから地獄のような退屈な講義が始まる。いや、勉強とかもそうだけど、内容が理解できれば楽しいのだろうができなければつまらないことこの上ない。持たざる者は辛いよ……。

 

 

 



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お前ホモかよぉ!

更新が遅くなり申し訳ありませんでした。


「……………」

 

あ、ボーっとしてたな。ミスター・榊による地獄の講義は終了した際に、受講者に多大な疲労を感じさせる特殊効果がある。俺は効果を受けないと言う完全耐性は持っていないので勿論多大な疲労を感じ、魂が抜かれたようにエントランスのソファーで座り、ボーっとしていた。

 

「やべえな、仕事する気起きねえな。もう何をするにしても気力が沸かん」

 

ちなみにユウナは講義終了後すぐにリンドウさんと一緒に任務へ出た。コウタはサクヤさんに同行して行った。あの2人には驚かされた。もしかしたら2人は相手の効果を受けないと言う完全耐性があるのかもしれない。いや、コウタは明らかに寝ていたから効果を受ける以前の問題だな。効果の対象になってないな。

 

 

さて、金貰っている以上仕事しないって訳にもいかないか。気乗りはしないが、やる事やるかぁ……。

 

ソファーから立ち上がり、エレベーターに乗る。行き先を選び、壁にもたれ掛って到着まで気長に待つ。すると、エレベーターが止まった。まだ目的の階層ではないので誰かが相乗りしてくるのだろう。此処で相乗りしてきたのが雨宮教官や支部長だったら気まずすぎて死ねる。苦手なんだよなぁ……あの2人……。

 

扉が開き入ってきたのは青フードが特徴のソーマと、自称華麗な神機使い、エリックだった。

 

「やあ、ユウ。奇遇だね」

 

「よお、エリック。ソーマも暫く顔合わせてなかったな」

 

「…………」

 

2人に手を上げて挨拶するが、ソーマは無反応だ。相変わらず何考えてるのか分かんねえな。フード取れば大分雰囲気変わると思うんだがなぁ……。

 

「これから任務か?」

 

「いや、これから束の間の休息と言うやつさ。ひとまず、部屋に戻って英気を養うよ。華麗に戦うためには休息は必要不可欠だからね。おっと、僕の部屋はこの階だから、先に失礼するよ。ユウも華麗に自身の務めを果たしてくれたまえ」

 

「ああ、ごゆっくり」

 

エリックはエレベーターを降り、去っていった。

 

「…………」

 

「…………」

 

おいヤベェよ、気まずいよ。この青フードいつも俺に関わるなオーラ出してるもんだから、話しかけづらいぞ。いっつも険しい顔してるなこいつ。

う~ん、良い奴ではあるんだがな……。

 

「新人、中々しぶといな」

 

うわ! いきなり話しかけてきやがった! びっくりしたじゃねえか。しかも開口一番がそれかよ……。ふむ……。

 

「ああ、おかげさまで半年目だよ。こんなクソっタレな職場でも続くもんだ」

 

「ふん……」

 

クソっタレな職場――ソーマの任務に俺が初めて同行した時、言われた言葉だ。いきなり「ようこそ、クソっタレな職場へ」って言われて困惑したね。まあ、確かにクソっタレな職場だな。そこは否定しないがな。

 

「先日の外部居住区襲撃の時、前線に居たらしいな。神機も無いくせに前に出るな。余計な死人が増えるだけだ。あの襲撃こそ規模はたかが知れてる。だから運よく死なずに済んだだけだ」

 

「そうだな。神機は無いし、余計な事かもしれないな。だが、自分から死に行っちまうような奴には言われたくねえよ」

 

「ちっ、生意気な事をほざきやがる……」

 

口じゃ悪態ついてるが、心なしか笑っているようにも聞こえる。こいつとの付き合い方は少しコツがいるが、仲良く出来れば愉快なものだ。エリックの愉快さには及ばないが。

 

「お、俺の行先の階だ。んじゃな」

 

ソーマに手を振り、エレベーターから降りる。

よし、さっさと仕事こなすか。

 

 

 

 

「一回作業始めれば気力が戻るんだよな。ホント気まぐれな肉体と精神だよ」

 

風邪気味で調子悪くても作業してれば気にならなくなって楽になるんだよな。調子悪いのに仕事してりゃ楽になるって人間の体ってホント分かんねえな。あれか? 俺が気まぐれな性格だから俺の肉体も気まぐれなのか? なあ、肉体よ。君は俺の性格が気まぐれだから君も気まぐれなのかい?

 

エントランスに戻り、長椅子で寛ぎながら自問自答?する。傍から見れば滑稽だな。自分でも馬鹿馬鹿しく思うわ。

 

 

目の前を裕福そうな少女が横切る。あれって確かエリックの妹じゃねえか? いつもなら親御さんと一緒に来てるはずだが……迷子か? ウロウロしているが……。

 

「お嬢さん、人探しか?」

 

長椅子から立ち上がり、少女の近くに寄って屈んで問う。小さい子と話すときは目線を合わせると警戒されずに済むぞ。ロリコンには必須テクニックだな。なんで犯罪を助長させること言ってんだ俺は。これじゃ犯罪予備軍と呼ばれても文句言えねえぞ。

 

 

「お父さんときたんだけど、偉い人とお話があるからここで待ってなさいって言われたの。でも、エリックに会いたくてさっきから探しているけど見つからないの」

 

「人探しなら、あそこのお姉さんに聞いてみな。放送で呼び出してくれ――」

 

ヒバリちゃんの方を向くと、タツミがヒバリとしゃべって――いや、あれじゃ仕事の邪魔だな。おのれタツミ、なんて間の悪い奴……。しかし、仕事を妨害されているにもかかわらず、ヒバリちゃんはタツミの言葉に耳を傾けながら作業をしている。なるほど、あれがプロか。

 

「あっちのお姉さん忙しそうだから……。案内するよ。一応俺エリックとは友達だから」

 

「ホント!? ありがとうお兄さん! 早くエリックに会わせて!」

 

エリック妹を連れ、エレベーターに乗り込む。エリックの部屋がある階に着くと、奥の扉を指さしながら説明した。

 

「あそこがエリックの部屋だ」

 

「うん! ありがとう!」

 

そう言ってエリック妹は俺が指差した扉へ走っていった。

ふっ、兄妹水入らずが良いだろう。他人の俺はクールに去るぜ。

というのは建前であのままエリックに会ったら妹の自慢話を延々と語られる事が目に見えている。と言うか、延々と語られた。こちとら残業で疲れてんのにそんな事お構いなしに聞かされた。多分、ソーマも俺と同じ犠牲者だろう。

 

 

さて、エントランスに戻って寛ぐか。もしかしたらシュンがいるかもしれんな。会ったらとりあえず、荒治療に命令違反の処罰、減給の3連コンボを食らっただろうから「ねえねえ、今どんな気持ち?」って聞いて煽ろうかな。

 

心をウキウキさせながらエレベーターに乗り込む。エレベーターが動き出すが、すぐに止まる。どうやら先客ならぬ後客の様だ。まあ、乗ってくる奴が知り合いである可能性なんてちょっとしたもんだから、恐らく名も知らない他人だろ。

 

扉が開いた瞬間、胸がその存在を俺に主張してきた。

うお!? でけぇ! これほどまでに見事な果実の持ち主は中々居ないだろう。心なしか何回か見覚えがあるものだが、気のせいだろう。さて、この果実の持ち主は――!?

 

「あ……どうも……」

 

「ああ」

 

(^o^)<うわー雨宮ツバキ教官だー

 

なんてこった、少し前に雨宮教官や支部長と相乗りしたら気まずいなって心の声のせいか!?

見事にフラグを回収しちまったな。心の中で思っただけでフラグ立つとかどんだけだよ。これもう無心で生活するしかねえじゃん。いや、無理だよ! んな芸当できたらそれだけで食っていけるわ!

 

「………………」

 

「………………」

 

 

アカン、これは実にアカン。何で1日に2度も同じ思いしなきゃならんのだ。気のせいか、エントランスに到着するまでの時間が長く感じる。

 

 

「先日の外部居住区襲撃の時、前線に居たらしいな」

 

「え、ええ……」

 

うわぁお説教だ……。仕方ねえ、ひたすら「はい」と言うしかねえな。

ぶっちゃけさ、上の人に怒られて「はい」って答えてると「「はい」って言ってりゃいいって問題じゃねえぞ」ってキレられることが多々あるんだけど、「はい」がダメならなんて言えばいいんだよ。無言なんてそれこそダメだろ。それとも俺の頭が悪いから「はい」しか言葉が出てこないのか? 頭の良い奴はどうやって受け答えしているんだ? いや、頭が良かったらまず怒られるヘマなんかしねえからそれ以前の問題か。ホント出来の悪い奴に厳しい世の中だな。出来ないなりに頑張っている人だって居るんだからその努力をしている姿勢を褒めるべきじゃねえのか? 

 

 

仕方ねえ、お叱りを清聴するか。

 

「本来なら厳罰だ。何故、何も処罰が無かったか分かるか? タツミからお前の事を不問にして欲しいと頼まれた」

 

「タツミが……」

 

「私にも立場がある。そう簡単に例外を許すわけにはいかんのだがな……あそこまで食い下がられると少々気の毒でな」

 

「俺ってば支えられてばっかりだな……」

 

「しかし、次は無いぞ。今後違反をしたら容赦なく懲罰房に放り込んでやる」

 

怖いねえ……。まあ、なんだかんだ言って牢屋にはお世話になってるからな。今じゃ仲良しよ。入らないに越したことはねえがな。今回は助かったぜ。タツミの心遣いと――

 

「雨宮教官の慈悲に感謝します。ありがとうございます」

 

教官に頭を下げる。すると、エレベーターが止まり、扉が開く。

 

「次からは注意しろ。あと、住民の避難・救助……よくやった」

 

それだけ言い、雨宮教官はエレベーターを降りた。扉が閉まり、再び動き出す。

 

いや、まあ……。ちゃんと見てくれる人は見てるんだな……。悪い事ばかりじゃねえか。

とりあえず、今夜はちょっと高い酒でも持ってタツミの部屋にでも遊びに行くか。

 

 

エントランスに戻り、物資関係の資料に目を通す。

定期的にそれぞれの科で集会や会議があり、その際に今後の方針などを纏めたり、決定をする。俺はまだ平社員だから会議とかには出れないので集会に出席して資料を見ながら説明を聞くしかやっていないが、中々内容が濃い物で時々資料に目を通しておかなければいけない。というか、復習しておかないと仕事に支障が出る。俺は色々こなしているので頭に入れなければいけない内容も並の職員よりは多い。まあ、ベテランにも敵わないが。あくまで広く浅くやっているだけだ。

 

「しかし、棚卸を月1でやれってか……めんどくさいな。配給の方も、また外部居住区の住民が増えたから、1件当たりの数量を計算してか……」

 

配給される物資や食料の数は一定じゃないから一々計算しないといけないからな。まあ、この辺りは専門の人がやってくれるだろう。俺はただダンボールをトラックから降ろして手渡すだけだ。楽な仕事さ。

 

 

「あ、コウタじゃん。おっす」

 

「よっ、ユウ。サボりか?」

 

「ちげえよ。これでもちゃんと翌日の段取りだとか頭の中でしてるんだよ」

 

「そんな風には見えなかったけどな……」

 

思考が読まれた!? こいつ……!? こりゃただの新人じゃねえぜ。こいつが頭角を現すときが恐ろしいな……! 

 

「ところでユウ。お前、この後暇か?」

 

「あん? 晩までなら暇だぞ」

 

「んじゃ俺んち来いよ」

 

 

マジかよコイツ。出会って一日も経ってないのにもう実家にご招待かよ……。いや、あのね? もうちょっとよく考えてからね? お互い入隊して1年も経ってないじゃん? まだ色々と経験とかさ、不足してるじゃん? だからそう言うのはちょっと早いんじゃ……。

いや、そんなアホな事があるわけないやん。ホモENDって一部の人からしか需要ないやん。

とりあえず……。

 

「お前ホモかよぉ!」

 

「違ぇよ! 何でそんな結論に至るんだよ!?」

 

わお、凄い慌てよう。中々のリアクションだな。これからも偶に吹っかけてみるか。

とりあえず、今回はからかうのはこの辺にしておこう。

 

「いや、冗談だ。俺もそっちの気は無いぜ?」

 

「いやあったらビックリだよ! 職場初の男友達がガチだったらこっちが複雑で何とも言えねえよ!」

 

それには同意だな。俺も複雑すぎてコメントできないな。

 

 

 

 

そんな訳でコウタ宅に行ってきた。あいつのおふくろさん美人だな。そしても妹は可愛かった。あの露出している肩にそそられたぜ。ありゃ誘ってんな(確信)。

こりゃどうやら、数年後にはコウタの事をお義兄さんと呼ぶことになりそうだ。

 

 

 

「さて、タツミも部屋に戻ってるだろう」

 

高い酒が入った袋を引っ提げ、タツミの部屋へ向かう。

 

 

部屋の扉をノックし、声を掛ける。

すぐにタツミが出て来てくれた。

 

「アポなしで済まんな。暇なら男2人で寂しく飲み明かそうぜ」

 

袋を見せながら言うと、タツミはすぐに素敵な笑顔で答えた。

 

「お、良さそうなの持って来たな。入ってくれ。今、ちょいとつまみになりそうなもんだすからよ」

 

「邪魔するぜー」

 

そう言って部屋に入る。

椅子に座って酒を取り出し、タツミに注ぐ。タツミも俺のグラスに酒を注いでくれた。

 

「「乾杯」」

 

そう言ってグラスを軽くぶつけあい、酒に口をつけた。

喉が焼けるような感覚に陥った。そこから意識が朦朧としてきた。

 




未成年の飲酒は禁止です。良い子も悪い子も真似しちゃダメですよ。


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お前は死んでくれるなよ

ソーマ・シックザール(18)

支部長の息子さんだ。
弱冠12歳で神機使いとしての初の任務に赴き、 以来、常に第一線で戦い続けている。
戦闘能力だけであれば部隊長クラスをも凌ぐが、 度重なる軍規違反や単独行動で問題が多い。
反抗期なのか分からんが、支部長とは仲が悪い。エレベーターで乗り合わせた時は気まずいなんてものじゃなかった。
「彼が所属した小隊や同行したゴッドイーターは死ぬ」なんてジンクスがあるが死ぬのは本人の落ち度なのでソーマは悪くないと思うぞ。

まあ、ソーマが化け物染みているのは他の連中と同意見だ。
なんか混じってるんだよな……。


ああ……暇だな。警備ってマジで暇だな。巡回とかならまだいいが、立ちっぱでひたすら見張るのは暇だな。そもそも支部の中には大人数が徘徊しているんだから潜入とか無理だろ。それこそ透明人間でもない限りは。まあ、こんな所に潜入なんて余程の馬鹿しかしないだろう。仮に俺が透明人間なら女風呂を覗くがな。

 

「大体なんで俺1人で警備やねん。もしもの事態が起こったらどうするんだよ」

 

あー暇すぎて死ぬわ。暇疲れしちまう。仕方ねえ、この小銃で銃剣ごっこでもして遊ぶか。

 

背負っている小銃を構え、銃剣術を観客が居ないが披露する。体も鍛えられて一石二鳥だ。

さあ、君も銃剣ごっこで体を鍛えつつ暇を潰そう! 今なら期間限定ブーストでパラメーターの上昇率が1.8倍だ!

 

 

ユウの攻撃力が1上がった!

ユウの命中率が0.3%上がった!

ユウの精神力が2上がった!

ユウのスタミナはこれ以上上がらない!

ユウの防御力が0.5倍された!

 

お、防御力が倍になったぞ! すげえ! そしてスタミナは例の如くか。

 

ん? 0.5倍……? 半分になってるじゃないですかーヤダー!

 

 

どうすんだよこれ……1発でも直撃食らったら致命傷じゃないか! これじゃソーマに言われた通り余計な死人が増えてしまうではないか……。まあ、今この瞬間もどこかで誰かが命を落としているんだ。生きていると言う事実を喜ぼう。

俺もいつかはくたばって……。その時はどこか遠くで誰かが今この瞬間も誰かが命を落としているんだろうと思うんだろうな。世の中って……アレだな。不思議だな。

  

 

 

 

 

警備も交代の時間が来たので俺はエントランスのソファー、特等席で寛ぐ。

エントランスのモニターを見ると、画面の横に数字が表示され、その数字が1秒ごとに減っていく。1減る時もあれば一気に7も減ったりと一定ではない。

あの数字は今生き残っている人間の数だ。当然、フェンリルがカウントしていない人もいるだろうが、なんだかんだ言って目が離せない。

毎日1秒ごとに減っているのに0までとてつもなく遠い。逆に言えば人類は数が多い上にしぶといと言う事だろう。

 

しかし、アラガミも強くなってきているな。まだ第1世代あたりはアラガミも弱かったらしいが……。

最近じゃアラガミが神速連撃連携でゴッドイーターをハンティングしてくるからな。

 

猿4体に囲まれて屠られた神機使いも数知れず……。俺も猿4体に囲まれた時はまずいと思ったよ。ありゃもう逃げるしかねえな。

いやーアレはやばかったな。

 

 

 

 

 

前後左右をコンゴウが立ち、俺は絶望的に状況に陥っていた。

 

偵察任務の途中、コンゴウと鉢合わせしてしまい、近くにはフェンリルに保護されなかった人たちが身を寄せ合っている建物もある。此処でドンパチやるわけにはいかんと思ってコンゴウを引きつけつつ逃げたが、次第にコンゴウの数が増えていき、結局4体に増えた。

 

神機も無し、無線も繋がらない。正に絶望。

 

この時、俺の脳裏に電流が走った。

 

そういや、リンドウさんがオウガテイルの群れをぶった切っている時に飛び掛かってきたオウガテイルを蹴っ飛ばしていたな。神機を使わずともアラガミにある程度の抵抗はできるのか? ダメージは与えられないだろうが、吹っ飛ばすなりしてある程度の隙は作れるか?オラクル細胞と適合した事で身体能力が強化されている今なら相手の体格がこちらより上でも行けるだろうか?

 

いや、どちらにしろ八方塞なのは違いない。できる限り抵抗をしなければ。残念だったな猿共、この世界には昔から楽に飯にありつける方法なんて無いんだぜ?

 

「ガアッ!」

 

コンゴウが一斉に襲いかかる。両手を俺に向けて我先にと。

俺を掴んで口へ運び、食い千切るつもりだろう。だが、遅い。

 

最小限の動きで向かってくる手を掻い潜る。前、左右、背後、すべての手を避ける。

感覚を少し研ぎ澄ませば死角からの攻撃にも対応できる。体が反応する。

 

8本の腕が一斉に襲いかかる中、一瞬の隙を突いてステップでコンゴウから距離を取ってバックステップを繰り返す。

コンゴウ達は逃がさぬと言わんばかりに追ってくる。一匹がジャンプして殴りかかってくるのに対し、斜め右背へ跳び他のコンゴウの動きに気を配る。2匹目と3匹目は攻撃態勢には入っていない……。4匹目は――。

 

4匹目の何処へ? 考える前に体に言い聞かせる。すべての攻撃を躱せと。意識と体は感覚を研ぎ澄まし、俺の体は大きく後ろへ下がる。直後、俺が立っていた場所に4匹目が上空から回転しつつ激突する。

 

「ちっ……」

 

舌打ちをしつつコンゴウ達を見ると、3体向かってくる。前の1体が跳躍すると、後ろのコンゴウが空気の塊を撃つ。

横へ避けてすぐに構える。先程跳んだコンゴウが仕掛けてくる筈だ。

 

「ガアアッ!」

 

雄たけびと共に拳を叩きつけようと襲い掛かる。拳を受け流しつつ、コンゴウの腕を掴んで引っ張る。一回転と同時に他のコンゴウへ投げ飛ばす。コンゴウとコンゴウが激突し、2匹は大きく体勢を崩す。

大きな隙、それを逃すのは愚か者の極み。一気にステップで体勢を立て直そうとするコンゴウに近づき、突き蹴りを腹部に入れる。コンゴウは驚いたような声を上げながら吹き飛ぶ。

 

「グウ……」

 

他のコンゴウは驚いたか固まって動かない。得物を持っていない絶好の獲物が自身の同族を吹き飛ばしたのだ。そりゃだれでもビビるだろう。

 

逃げるなら今がチャンスだな。

一気に駆けだし、遅れてコンゴウ達も動き出す。しかし、このまま逃げるスピードを上げれば逃げ切れるだろう。

 

「なっ!?」

 

数十メートル先の地面にコンゴウがもう1体立ちふさがった。

5体目!? ええい、しゃらくせえ! 押し通る!

対アラガミ用ナイフを抜き、ナイフを蹴って飛ばす。只投げるだけでは速さ・威力共にイマイチなものだ。だが、蹴って飛ばせばどちらも改善される。デメリットとしてはコント―ロールが難しいが、そこはその時だ。コンゴウの顔面目掛けて蹴っ飛ばしたので、当たればチャンスが来る。当たらずとも気を引くことはできる筈だ。

 

ナイフはコンゴウの顔に刺さり、コンゴウは短い悲鳴を上げながら顔を押さえる。

その隙に距離を詰め、ステップと同時に掌底をコンゴウの腹に繰り出す。

コンゴウが地面に倒れる前にナイフを引き抜いてコンゴウを踏み台にして高く跳んで距離を稼ぐ。

 

ナイフを構えたまま駆け、その場から離脱した。

 

 

 

 

と、一か月前にこんな事があったのだ。

 

よく生きてたな俺。おまけに掠り傷の1つもなしだよ、ノーアイテムだよ。パーフェクトだよ。完全撤退だよ。アナグラ日誌に載るよ。え? 対アラガミ用ナイフ? あれはアイテムじゃなくて武器だからノーカウントだ! ノーカン! ノーカン! ノーカン!

 

五体満足で生きて帰って来たけど、コンゴウに掌底をかましたときに結構痛かったんだよね。猫が全身の毛を逆立てるみたいな感じで、ジーンときた。だからアラガミを素手でブッ飛ばすときは蹴りにしよう決意したのは余談だ。

 

 

 

「おーいユウ。D地区の配給に行くんだが、人手が足りないから手ェ貸してくれぇ!」

「了解、今行きますよっと」

 

少し勢いをつけてソファーから立ちあがる。

 

さて、パパッと終わらせるか。

 

 

 

 

「何事も無く終わったな。毎日こんな風に物事がうまくいけば文句は無いんだがな」

 

無事に配給作業も終わり、再びエントランスに戻ってきたのだが、エントランスはいつもと雰囲気が違った。皆喪服を着ていた。

 

何度も見た光景だ。誰かが命を奪われたのだ。この職場じゃ珍しい事ではない。最初は知人が亡くなったのかと不安になったが、俺の知人は皆しぶといので心配する事は無いだろう。自分に関係ない奴が亡くなっても不謹慎だがホッとするものだ。

 

「あ、リンドウさんじゃん」

 

リンドウさんは喪服を着て、モニターに映っているニュースを見ている。

 

「お疲れ様です」

「おお、お疲れさん」

「また……ですか」

「ああ。残念だ。そういや、お前さん仲良くやってたよな。エリックの奴とは」

 

は……? え、何? 死んだのエリックなのか?

エリックが……死んだ……?

冗談きついですよと笑いたいところだが、それはできねえ。こんな雰囲気で冗談かませるほど俺も馬鹿ではない。

エリック……。

 

「油断して上から奇襲されたらしい」

「まさか……。ソーマの奴が一緒だったんでしょ? あいつに気づかれる事無く奇襲したって言うんですか?」

「ソーマだって万能じゃねえ。それにまだ経験の浅い新型も居たんだ。色んな要因が重なりすぎた」

「………………」

 

何故だ、エリック。何故……。お前言ってたじゃねえか、妹の為にって……。妹がアラガミ怖がってるから、守るために極東に来たんだろう? その妹をお前が泣かせちゃ世話ないだろうが。  

エリック、お前1人戦って死んだって人類が未曾有の危機に瀕しているのは変わらないんだぞ?

だが、お前の帰りを待っている人たちの人生は大きく変わるぞ? ソーマだってお前の事は少なからず思っていた筈だ。知り合いが目の前で殺される気持ちってのはお前だって理解している筈だろうが。 

 

 

「……………………はあ」

 

いや、もう居ない人間の事を心の中で愚痴ったって変わらねえだろう。いつまでも引きずっていれば今度は俺が二の舞になる。

 

 

「おっと時間だな。お前さんは……」

「分かるでしょ? こんな薄汚れた制服一着しかないんですから出る訳にはいかないでしょ? 勝手に逝くな馬鹿と心の中で伝えといてください」

「了解だ」

 

リンドウさんはそのまま葬儀会場へ向かっていった。

 

葬儀が終わり、その後は全員で英霊の冥福を祈り、飲み物を頂く。何度も経験した事だ。半年しかいない俺でも一連の流れは全て分かる。つまり、既に数えきれないほど経験していると言う事だ。今までは赤の他人の死。只何も思わずに缶を傾けて、無言を貫く。

 

だが、今回は違う。

 

 

 

 

「エリックに」

 

そう言ってタツミが飲み物を掲げると、俺達も一斉に掲げた。

飲み物を持って皆で集まる。普通なら楽しいもんだが、状況が状況だ。

 

ソーマの顔でも拝みに行くか。あいつの強がりでも聞けば、少しは気分が晴れるかもしれない。

 

 

「よう、ソーマ」

 

ソーマに近づき、声を掛ける。しかし、「ふん」と鼻息が聞こえる。ありゃ、態度に出てないが少し参っているようだな。だが、コイツが欲しがっているのは「お前のせいじゃない」とかの言葉じゃない。それに、こいつが欲しがっている言葉を掛ける気は無い。こいつが欲しがっている言葉ではなく、こいつに必要な言葉を掛けるとしよう。まあ取り越し苦労だろうが、念を押すということで。

 

「分かっているだろう?」

 

エリックの事は気にするなと言う事だ。此処でこの台詞を口外するのはよろしくないので包んだつもりだ。こいつまで野郎の二の舞にする訳に行かねえ。

 

「言われるまでもねえ。それだけの話で一々しゃべるな」

 

フードを深く被り、背中を向けたまま言う。

やれやれ、声から機嫌が悪いから失せろと言っているのは分かる。放っておくと死に行っちまうような奴だから、心配ではあるんだがな。

 

「んじゃ、失せるとするか」

 

ソーマに背を向ける。

 

「お前は死んでくれるなよ」

 

それだけ言ってソーマから離れた。

 




アニメゴッドイーターでリンドウさんがオウガテイルに蹴りを入れて吹き飛ばした描写を見た時は「ファッ!?」って思ったのは私だけではないと信じたい。


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いつだって上横下乳の3連コンボ~♪

更新が遅くなり申し訳ありません。


さて、この缶をさっさと空にしちまおう。こんな雰囲気で飲むなんてまずくて舌がどうにかなりそうだ。缶の中身を一気に飲み干そうと考えて傾けようとしたら、視界に憂い顔をしている奴が映った。

ユウナか……。この職場に来て初めて同僚が食い殺されるのを見たんだ。あんな顔しても仕方ないか。よし、半年とはいえ先輩だからな、少し慰めてやろう。

 

「よう、ユウナ」

「あ、ユウ。お疲れ」

「ああ、お疲れさん」

「まあ、エリックの事は気にするなとは言わないが、気持ちに白黒つけとかないと二の舞になっちまうぞ?」

「うん、分かってる。でも、目の前で誰かが死ぬのは……」

 

まあ、分かる。だが、コイツは既にある程度の覚悟ってのは持っている。此処に来る前に地獄でも見たか……。

 

しかし、異質だな。ソーマも異質だが、ユウナも何か持っている……いや、表現が違うな。混じってるな、限りなく殆んど。

ソーマは周りから化け物なんて呼ばれているが、俺はまさしくその通りだと思っている。

あいつの能力は全てにおいて並の連中の上を行く。あいつのチャージクラッシュを目にした時、確かに感じた。ソーマだけは別だと。

常日頃からある程度感覚を研ぎ澄ませているが、支部内に居てもアラガミの気配がいくつも感じられる。神機使いの体の一部がアラガミなので当たり前なのだが、並みの連中からはアラガミの気配を感じるならもう少し集中しなければいけない。普段感じているアラガミの気配は大きく分けて3つ。

1つは神機から発せられる気配。

もう1つはソーマから感じられる気配。そして最近、もう1つより強くアラガミの気配が感じ取れる。それがユウナから感じられる気配だ。

ソーマは何かが混じって壊れたような感じだが、ユウナの場合は何かが混じっているが、均衡を保っている気配。

 

「ユウ?」

「すまん、ちょっと考え事だ」

 

「ねえユウ。どうして神機が使えなくなったの? 腕輪は封印されていないようだけど……」

 

ああ、まあ気になるよな。別に隠すような事でもないからしゃべるか。

 

「入隊して3か月目、ある任務に出た時にちょいとイレギュラーなアラガミが現れてな。一緒に居た奴が俺だけでも助けようと奮戦したんだが、そこらのアラガミとはわけが違ってな。このままじゃ2人ともヤベェってなって俺は一か八か神機を投擲した。後はリンドウさんの命令その4、不意を突いてぶっ殺せを実行してな。ぶっ殺すはできなかったが崖から突き落として九死に一生を得たんだ。だが、神機はアラガミに刺さったまま崖下へ落ちてな」

 

ホントにイレギュラーだよ。てめぇの事だぞ、ゴッドイーターキラー・スサノオ。神機を好んで捕食するとか反則だろう。

 

「その後、その厄介なアラガミはある凄腕の神機使いに倒され、俺の神機は戻ってきた。無残な姿になってな。んで、リサイクルして今はこんな風になった」

 

対アラガミ用ナイフを見せながら説明した。

 

「リンドウさん、ユウにもあの命令を?」

「まあな。俺も初陣は心臓がバクバクしたさ。あの命令にツッコンだな。おかげで緊張がほぐれたのを覚えている」

 

本当に理想の上官だよ、リンドウさん。あんたになら何処へでもついて行ける。だから、死なないでくださいよ。置いてかれる側の気持ち、あんたなら分かる筈だ。

 

「ユウは神機使いになる前はどうしてたの?」

「ん? どうした急に?」

「いや、何か気になっちゃって」

 

神機使いになる前か……。まあ、言っても信じてもらえないだろうから、無職と答えておこうか。

 

「無職ですが……何か?」

「あ、ごめん……」

「いや、気にするな。すまんな、意地悪い返し方で」

「てっきり、私と同じで学生だったのかなって」

「学生? 悪いがまともな教養なんて受けてねえぞ? てか学生だったのか?」

「うん、狼鳳軍事高校に通ってたんだ」

「あん? 普通に名門やん。エリートやん。マジかよ」

 

成程、これが持てる者か。この世に神様が居るなら言ってやりたいな。

『お前ら人々には平等じゃねえのかよ、クソが落ちろ』って言いたいな。

そいうや、同期に居たな。学校から来た奴。今はちょっと本部へ行ってるが……。

まあ、口を開けば下ネタが高確率で出てくるから査問会だろうな。いや、それ如きで本部までは行かないか。ならちゃんと仕事があるんだろうな。

 

「どうしたの?」

「ああいや、同期でユウナと同じで学校出てる奴がいてな。下ネタ野郎でな。下ネタを気にしなければ愉快な奴だが」

「そんなストレートに言ってるの? その人」

「あー軽く例を上げれば……。まあ、女であるお前に言っちゃ悪いが、好きな女には処女でいてもらいたいとか、そんな事を言う奴だな」

「男の人が集まれば、する話なんてそんなものじゃない? いつ死ぬかもわからない状況に身を置いていると、下世話な話は多くなると思うけど」

「もしかして下品な話とか気にしない系?」

「うーん。お父さんがそんな人だから慣れたかな。いつもお母さんにぶたれてたけど。ストレートじゃなければ平気だとおもうよ」

 

笑みを零しながらユウナがしゃべる。これを見ると、とても何かが混じっているように見えない。いや、待て待て。そんなことより、女相手になんて会話してるんだ俺は。

 

「さて、そろそろお開きの時間だ。今日は早めに休むことをお勧めするぜ? 睡眠不足は仕事の敵だ」

「ふふっ、そうするよ。ありがと、何か気分も晴れてきた」

「そりゃよかった。んじゃな」

 

ユウナに手を振り、俺は立ち去る。

この缶を空にして少し夜風に当って来るか。

 

 

 

そんな訳で屋上に来たぜ。だが……。

 

「ウオ!? 外寒! 無理だわこれ。風に当ってたら風邪ひくわ!」

 

俺は物の数秒で屋内に戻り、暖を取りに戻る。

あー眠いな。今日はもう寝るか。しかし、エントランスはしんみりした空気が支配しているからなぁ。

そんなところで寝れる程図太い神経してねえよ。エリック、お前が死んじまったことで俺は寝る場所を追われたぞ。どうしてくれる。

 

 

「あー怠。ホント寝不足はダメだな」

 

結局昨日はエントランスで寝る事は出来なかった。最終手段で懲罰房の鍵を拝借して檻の中で寝たよ。思ったけど牢屋にベッドがあるって充実してるな。これなら捕虜も喜ぶぞ。

 

「お、おはようさん」

「ああタツミ、おはよう」

 

タツミも眠そうな顔をしており、奴も俺の顔を見て察したらしい。互いに労わる。

 

「そういや、お前さん。新型がまた極東に来るって聞いてるか?」

「ん? 初耳だな」

 

新型がもう1人か。新型を2人もそろえている支部ってアナグラしかないんじゃねえのか?

まあ、最前線だから戦力が充実させるのは当たり前か。

 

「去る奴がいれば来る奴もいる。今日もアナグラは平常運転だな」

「上手い言い方するじゃないか」

 

やっぱタツミってセンスがあるな。

 

「さて、俺もそろそろ行くか」

「任務か?」

「ああ、ブレ公と新型ちゃんを連れてな」

 

ブレ公とユウナか。そういやブレ公のフルネーム知らねえな俺。ブレンダンまでは分かるんだが……。そもそも外人の名前ってフルネームで覚える気が起きないんだよな。

 

「ブレ公、エリックの事で凹んで無かったか?」

「態度には出てないが……ここまで言えば分かるだろう?」

「まあな。把握した。気を付けてな」

「ああ、ありがとさん」

 

タツミと別れ、俺も今日の仕事を始める。

 

 

 

 

ダメダ。今日は仕事する気分じゃねえ。

 

ああ、そういや明日車両のオーバーホールじゃねえか。いやぁめんどくせぇなぁ。何で整備士でもない俺が手伝わなきゃならんのだ。そもそも神機使いの馬鹿力でボルトやナットを締めようものなら破壊不可避だぞ。そんな力加減なんぞできないぞ。重たい部品を運ぶだとかならいくらでもできるが。そもそも資格持ってねえから弄っちゃいかんだろ。

 

 

「なあ、聞いたか? ロシア支部から来る新型。支部長が引き抜いてきたらしいぜ?」

「おう、めっちゃ美人らしいな! 今日到着だろ? 早く見てみたいなぁ。できればお近づきに……」

「やめとけやめとけ。どうせ配属は第1部隊さ。俺らとは接点なんてできないだろうぜ?」

「ちぇ、いいなぁ。第1部隊の男共」

 

ほう、タツミが言っていた例の新型か。そうか、美人なのか……つーか女か。第1部隊の男女比が整ったな。しかし一気に新人を3人も面倒見ないといけないのかリンドウさん。まあ、副官のサクヤさんもフォローするだろうから何とかやっていけそうだな。ソーマは……あいつ絶対我関せずのスタイルを貫くだろうな。

 

 

「キャッ」

「うおっと」

 

考え事をしながら廊下を歩いていたら曲がり角で誰かにぶつかった。ぶつかった相手は赤色の帽子を落としたので、拾い上げる。

 

「ああ、すまな――」

 

驚いたよ。とても大胆な格好をしていやがるこの女。

露出の高い服装に銀髪、そしてユウナとは対照的な蒼い瞳。そして純白の肌。

ロシア人か。

確か新しく配属される新型ってロシア支部から来るんだよな? じゃあこいつが例の……。

いやそんなことより、自然と目線がある部分に吸い寄せられてしまう。そう、乳だ。下乳だ。つまり、極東に上乳のツバキ教官、横乳のサクヤさん、下乳のこの女、3連コンボが揃ってしまったと言う事か。なんて恐ろしい……!

噂じゃ支部長がロシア支部から引き抜いたとのことだから支部長はつまり……。彼とはもしかしたら上手い酒が飲めるかもしれない。

 

「気を付けてください。常に周囲に気を配れないんですか? それでよく生き残れますね」

 

え、何この露人。めっちゃ煽って来るんだけど。

 

「ああ、済まないな。仰る通りだ」

「いえ、別に。では」

 

そう言って俺の手から帽子を引っ手繰ってかぶり直すと去っていった。

 

ああ、彼女とは上手くやっていけないな。多分彼女とは価値観が違う。まあ、神機持ってねえから一緒に任務なんてある筈がないが。

多分、あの手の人間と上手く付き合えるのってリンドウさんやユウナぐらいじゃねえのか?

 

 

さて、今日は地下街の偵察任務だったか。あそこクソ暑いから嫌なんだよな。

 

 

 




雨宮ツバキ (29)


フェンリル極東支部にて第一~第三部隊の指揮統括及び新人神機使いの教練を担当している。
仕事に一切の私情を持ち込まず、常に冷静かつ厳格さを崩さない為、多くの隊員は彼女が履くヒールの足音で震え上がる。ちなみに俺も震え上がった内の1人。

現在は引退しているが元ゴッドイーターで、神機の運用に危険や課題が残る中、10年もの間戦い続けた高い実力の持ち主。
遠距離神機使いとしては極めて優秀で、他の追随を許さない程、高い成績を納めていた。

素晴らしいまでの上乳である。跳び込みたい。


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ちょっと止まってろお前!

投稿が遅くなり申し訳ございません。


 

 俺のすぐ近くには超高熱の赤い川。めっちゃ熱い。兎に角熱い。俺が神機使いじゃなかったら近づく事すらできないだろう。この赤い川が一面に広がり、最早それは海と言っても過言ではないだろう。

 

「あ~! あっちぃ! 脳みそがドロドロになっちまうぞおい! だから地下街は嫌なんだよ!」

 

 制服の上着を脱ぎ、腰に巻きつけながら不満を口にしつつ周囲を警戒する。

 

 アラガミが見境なく捕食をして行ったせいでマグマにぶち当たり、溶岩が溢れ出してこのような状態になった。ホントクソだなアラガミ。マグマで溶けろや。

 

 

ザッ、ザッ

 

「ッ!」

 

 足音を聞き、素早く近くの瓦礫に隠れて息を殺す。

 姿勢を低くしながら瓦礫から顔を出し、周囲を見渡すと、数十メートル先に蠍型のアラガミ、ボルグ・カムランが餌でも探しているのか、瓦礫を漁っていた。

 

 地下街ではシユウを良く見かけるが、カムランもそれなりには目撃するな……。とりあえず、報告だな。まずはここから離れるか……。

 

 カムランの動きに気を配りながら、抜き足で移動する。

 

 よし、大分カムランからは距離を取れたな。さっさととんずら――ッ!

 

 騒音と共に殺気を感じてその場から飛び退く。先程まで立っていた場所を炎が飲み込んだ。

 炎が飛んできた弾道の先にマグマの中から砲門を覗かせつつ赤色のグボロ・グボロ――グボロ・グボロ堕天が姿を現した。

 

「キェェェェ!」

 

 耳を劈くような鳴き声を聞き、俺は溜息を漏らす。どうやら一番警戒していた奴に感づかれたようだ。

 

「さて……どうすっかな……」

 

 地下街じゃ狭くて思うように立ち回れない。瓦礫は邪魔だし、マグマは俺の移動範囲を大幅に刈り取っている。しかし、奴さん方は邪魔な瓦礫は体をぶつけるだけで破壊でき、足元がマグマであろうが何事も無いかのように移動する。完全にフリーだ。

 

 とにかく逃げるしかねえか……。だが急いでどこかに身を隠すなりしてやり過ごさないと、騒ぎを聞きつけて他のアラガミも集まってくる。そうなったら隠れるのは勿論、只逃げるだけで一苦労必要になる。

 

 奴らに背を向け、走り出す。

 

 背後から熱を感じ、斜め右へステップする。横を炎の弾丸が通り抜けて行った。

ちっ、あぶねぇな。しかし、こんな狭いところで追いかけっこも得策じゃないか? 少し相手してやるか。今度こっちの番だ赤グボロ。

 方向転換をし、逆にこちらから赤グボロへと向かう。

 

 赤グボロまで数百メートル、攻撃を躱しつつ進んでこちらから仕掛ける。スタングレネードを手に持ち、駆ける。

 

「キィィィ!」

 

 赤グボロの背後からカムランが跳躍と共に姿を現した。

 カムランは赤グボロを守るように立ちふさがった。カムランの素材名には騎士と付く。正に仲間を守る騎士だろう。だが、通らせてもらうぞ蠍野郎。

 

 カムランが姿勢を低くし、巨大な針を無数に飛ばしてきた。いくつもの放たれた針を掻い潜る。受け流しつつ、針を横から掴む。右手から鮮血が吹き出し、痛みを訴えるがそれを無視し、針を握り締めたままカムランへと突撃する。

 

 

 カムランの目の前に到達すると、カムランは尾針で突き刺してきた。

 紙一重で尾針を避け、スライディングでカムランの股下を潜り抜ける。カムランの背後に回り、そのまま赤グボロへ向かう。ここで一気に決める。更にスピードを上げて駆ける。

 赤グボロは砲門から炎を乱射するが、前へ進みつつ体を捻るなど、最低限の動きで止まることなく、走り続ける。すると赤グボロは炎の乱射を中断し、力を溜めるかのように動きを止めた。次の瞬間、奴の砲門から紫色の液体の塊が飛び出し、弾け飛んだ。

 

「酸の雨か……! 小癪な奴め」

 

 ステップで一気に移動し、範囲外へ逃げ、高く跳躍する。

 カムランから拝借した巨大な針を構え、赤グボロの横鰭を目掛けて落下する。

 

「ちょっと止まってろお前!」

 

 渾身の力で針を横鰭に突き刺し、地面まで深く突き刺して赤グボロをその場に縫い付ける。

 

「ガアアアッ!」

 

 赤グボロが悲鳴を上げながら暴れるが、縫い付けられていない横鰭と奴の胴体しか動かない。

 

 よし、今度はカムランか。ここまで来れば勝ちだ。

 カムランに向き直ると、奴は盾を構えたまま猛スピードで突進してくる。高く跳躍し、カムランの頭に張り付いて、スタングレネードの安全ピンを噛んで引き抜く。カムランが静止し、俺を振り落とそうと暴れる。

 スタングレネードをポイ投げし、カムランから飛び退いて離れる。

 

バシュッ!

 

 

 音と共に辺りが眩しくなる。

 

 

 カムランは奇声を発しながら、盾を地面へ叩きつけて辺りを見回す。まだ奴の視界は回復していない筈だ。今のうちに撤退させてもらおう。

 狭い細道に隠れるように入り、抜き足で移動する。まだカムランの鳴き声が聞こえてくるが次第に遠くなってくる。しばらくは赤グボロと共に俺を探し出そうとするかもしれんが、すぐに諦めるだろう。

 

 細い道が終わり、少し開けた場所に出た。

 

 あそこの瓦礫の陰で気配を探るか。しかし、やけに強い気配の奴がいるな。ただの大型とは違うようだが……。

 

 更に意識を集中して気配を探る。

 

 大きすぎるな。接触禁忌種か? しかし何でこんな所に……? そう易々と出現するようなものじゃない筈だ。いや、以前から極東地域は何かがおかしい。俺が3か月前に遭遇したスサノオ、そして偵察任務で時折見かける、ハガンコンゴウやセクメトなどの第2種接触禁忌種。

 

 どいつもこぞって集まってきているみたいだな。極東には上手い物でもあるのか?

 考えていると通信が入った。

 

「こちらユウ。どうした?」

 

『ユウさん。緊急連絡です。ユウさんが居る周辺で巨大なオラクル反応を2つ検知しました。これ以上の任務は危険ですので帰投してください』

 

「2つ? 了解。至急帰投する」

 

 通信を切り、通信機をしまう。

 

 大きな反応が2つ……。俺の察知じゃ1つしか探れないが……。

 

 

「ッ!? 何ッ!?」

 

 ついさっき察知した大きな気配がこっちに一直線で向かってきている……!

感づかれたか!? いや、だとしたらそのアラガミの索敵能力はあまりにも高すぎるぞ!?

 とにかく隠れてやり過ごすしかねえか……!

 

 息を潜め、姿勢を低くして瓦礫に隠れる。

 なんだ? 気温が下がってきている……? そんな馬鹿な話が……。すぐ近くにマグマがあるんだぞ……?

 

「グゥゥ……」

 

 響く唸り声を上げながら気配の主が近寄ってくる。抜き足で移動し、そのアラガミの姿を一目見ようとゆっくり瓦礫の陰から顔をのぞかせる。

 ヴァジュラの様な獣じみた身体、人間の顔。あまりに異質なアラガミだった。

 気温の低下は奴の仕業か。まあ、ヴァジュラと同じ形状のマント。マントの色が青いからイメージできるのは氷属性だ。しかし、本当に異質だな。特にあの人間の顔。

 

『アラガミが人を敵と認識し始めた結果かもしれない』

 

 榊博士の言葉が脳裏を過った。

 禁忌種は、昔人々が崇拝した神により近い形状に近づき、そのほとんどが人の顔を持つ、異形の多いアラガミの中でもさらに特異な外見に進化している。

 

「分からんな…………。敵……か……」

 

 考え事をしている暇じゃないさっさと離脱しよう。

 

 

 

「新種か」

「恐らくは。骨格から見てヴァジュラ種である事は間違いないかと」

 

帰投後、すぐに雨宮教官に報告した。俺が見た全てを報告し、考察を交える。

 

「周囲の気温が低下したことから氷属性、ヴァジュラが極地に適応した堕天種とも考えましたが、先ほど報告した通り、顔面部位がヴァジュラと異なり人間の顔を模していました」

「基本種のアラガミが身体の一部を変化させた状態か、つまり禁忌種ではないか? それがお前の考えか?」

「はい」

「まだ結論は出せんが、その可能性は高いだろう。環境に適応した場合、変わるのは体色を始め、部位の耐久力等だ。現に堕天種は見た目、体の構造そのものが基本種と変わっているものはいない。だが、もう1つ気になる点と言えば……」

「ええ。驚異的な索敵能力。こちらからは目視もできない程の距離にも関わらず、一直線に俺が隠れているエリアまで来ました。あれ程強力なアラガミに奇襲を掛けられたら間違いなく絶望的状況に陥るでしょう」

 

しかし、瓦礫に隠れている俺を探し出す事は出来なかった。あれ程の索敵能力があるなら俺を探し出す事も容易の筈だが……。

 

「可能性としては聴覚が異常発達しているか、それともお前を視認していたザイゴートが真っ先に新種を呼んだかのどちらかだろう」

「考えられるのはその2つですね。場所も丁度見通しの悪い地下街です。視覚がずば抜けて高いザイゴートならこちらが気づく前に視認もできるでしょう」

「何にしても、作戦行動中は警戒態勢を大幅に引き上げねばなるまい。まだ検知されたもう1つの巨大な反応の正体は掴めていない。例の新種も実際の能力は如何ほどのものかも不明だ。幸い、新種の姿形は判明している。この情報を得られただけでも大きな進歩だ」

 

 後日、会議で話が纏り次第、新種に関しての情報が公表されるだろう。新種に関しては調べたいところだが、仮に索敵能力が聴覚によるものだとしたら調査は難航するだろう。まだ姿も確認できないアラガミの事もある。偵察も今まで以上に慎重にしなければいけないようだ。

 

 さて、時間もできたな。例の島の調査をしに行くか。

 




ヨハネス・フォン・シックザール (45)

フェンリル極東支部を管轄する支部長。
政治家としての才能があり、彼の優れた手腕は対アラガミの最前線から未来に至る対策まで発揮されている。
昔は研究者であり、色々あって廃業した模様。
防壁に覆われた世界へ退避し、アラガミからの被害を避ける「エイジス計画」を推進している。
ソーマの親父さんであるが、仲は悪いらしい。


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うっそだろお前

お久しぶりです。1年以上間が開いてしまい本当に申し訳ありませんでした。
リアルでのトラブルにより、PC含め色々とお釈迦様になってしまい投稿どころではありませんでした。
書き直しをして、当初の物語進行予定とは大幅に異なり、早めに完結を迎える事に致しました。
完結までの土台は出来上がっているので、それに書き足しを加えて投稿と言う形になります。

1人としていないかもしれませんが、楽しみにして頂けた方にお詫び申し上げます。

そして実際に声を上げて発現したい言葉があるのですが、それを言うと周りから狂人だと思われるので此処で、これだけは言わせてください。
皆さまもご一緒に……せーのっ!

「Fu〇king earthquake death!」


「相変わらず、アラガミの気配はしないな」

 

 榊博士から頼まれているある島の調査。アラガミはこの島に滅多に近寄らないと言う事が分かってただけで、それ以上は何も分からない。何故近寄らないのかすら分からない。考えられるとすればこの島そのものが偏食因子で構成され、対アラガミ装甲壁と同じ様な原理であるからと言う考察しかできない。

 

「しかし、相変わらず硫黄臭いな」

 

 悪態を突きつつ、土を少し瓶に詰めてポケットにしまう。この島が偏食因子で構成されているなら地質を調べた時に検出に引っかかるだろうと安易な考えだ。実際に調べるのは榊博士だが。

 

「もうしばらく調査を続けるか、山の方にでも行くか」

 

 山の麓に洞窟を発見した。この島には洞窟がいくつもあったのだが、殆んどが崩れて塞がれている。更なる調査には洞窟の中にも入らないといけないが、この洞窟が他の出口に繋がっている可能性も低いし、いつ崩れても不思議ではない。それに洞窟の中は高温だ。地下街で仕事した後に入りたいとは思わない。

 洞窟に入って崩落を起こしたら1人じゃ対処は難しい。少なくても2人で調査をするべきだろう。

 

「なんかアレだな。疲れたから帰るか」

 

 通信機を取り出しヘリを呼び、ヘリが着陸するポイントへ向かって歩き出した。

 

 

 

「分かった。時間を見つけて検査してみよう」

「お願いしますわ」

 

 榊博士に土を詰めた瓶を渡し、研究室を後にする。

 

 

 エントランスに戻ろうとエレベーター向かう途中、病室のドアが開く音がしたが気にも留めずに歩く。

 

「あ、ユウ。お疲れ様」

 

 この声はユウナか。病室から出て来たって事は任務中に負傷でもしたのか。

 

「ああ、お疲れさん。怪我でもしたのか?」

 

「あ、ちょっとね」

 

 手首に巻いた包帯が見せながら言う。そういや、ユウナってもう実戦に出てるんだよな。まだ1か月も経ってないよな? 持てる奴は持ってるんだな……。確か博士も神機との適合率が凄まじいとか言ってたか。

 

「ねえユウ。この後私の部屋寄ってかない? 前に良いコーヒー豆貰ってさ」

 

 コーヒーか……まあブラックじゃなければ飲めるし、いいか。

 

「そうか、んじゃご馳走になろうかな。コウタ辺りも誘うか?」

 

「コウタは任務で留守にしてるよ? 誘ったら誘ったでバガラリーを長時間見せられるともうけど」

 

 ユウナが苦笑いしながら言う。ああ、犠牲になったか。俺もあいつの家に遊びに言った時夜通しで見せられたよ。それなりには面白かったが。 

 

「それもそうか」

 

 

 

「ちょっと待っててね」

 

「ああ」

 

 元・俺の部屋に入るのも久しぶりだな。最後に入ったのはユウナを部屋に運んだ時か。あの時結局俺の秘蔵コレクションを回収できずに終わったな。いや、まあ今回収しようと部屋を物色するのは色々とまずいのでしないが。あれはもう諦めるしかないだろう。悲しいなぁ……ボンキュッボン!なグラマラス体型のお姉ちゃんがたくさん映っていたんだが……。

 

「ユウ、砂糖入れる?」

 

「悪いが多めで頼む。前にブラック飲んで悶絶したんだ」

 

「ふふっ。了解」

 

 マジでブラックコーヒーはアカンわ。あんなん飲めたもんじゃない。いや、冷やしカレードリンクとどっち取るって言われたら苦渋の選択でブラックを選ぶが。前に警備してる時に同僚がブラックを御馳走してくれたが、嬉しいが嬉しくないと言う気持ちを味わった。

 あ、甘くてもロング缶はNGな。無駄に甘すぎて量も多いから糖尿病不可避だわ。

 ちなみにブラック派が多い整備班の間じゃ甘いロング缶は嫌がらせコーヒーと呼ばれている。

 

「はい、お待たせ」

 

「ああ、ご馳走さん。頂きます」

 

 まず1口。口の中にちょっとした苦味と甘さが広がるが、見事にマッチしている。

 

「ああ、いいな。丁度良い加減だ」

 

「そっか。良かった」

 

ユウナもコーヒーを口にし、良い感じと言いながら頷く。

 

「ブラックは平気なのか?」

 

「うん。甘いのも好きだけど、その日の気分で変わるかな?」

 

 ブラック飲めるって大人だな。俺はお子様だが。まあ、心は子供だからお子様で当たり前だろう。

 

「ここでの生活は慣れたか?」

 

「うん、おかげさまで。そう言えば、前に部屋に住んでた人って誰だろ? ちょっと忘れ物があってさ」

 

「あん? 忘れ物?」

 

 忘れ物なんてしたか? 秘蔵コレクション以外は確かに持って行った。まあ、私物なんて無いから、服の1着でも忘れたんだろう。

 

「うん。ちょっと言いにくいんだけど、その……ちょっとえっちな本でさ」

 

 ファッ!? ウッソだろお前! やべえよやべえよ……。

 

 

「ああ、それ俺の知り合いだわ。お前さんが入隊する前に他の支部に転属したんだ」

 

 咄嗟の嘘である。

 嘘突きは泥棒の始まりである。だが、泥棒と軽蔑されても知られたくない事が沢山あるんだ。ふしだらな男と笑うがいい。

 

「そっか……転属か……。人の物だし捨てる訳にもいかないし……」

 

「あー、じゃあ俺が明日にでも社内便で送っとくわ」

 

「それなら、お願いできるかな?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 ユウナから秘蔵コレクションを受け取った。気を使ってくれたのか紙袋も用意してくれたのでこれで安心だ。よーし、今日は猿になるぞー。

 あ、待てよ? でも俺部屋が無いから何処で猿になれば……。流石に紙袋を持ち歩くのもアレだし……。仕方ねえ、俺の住まいが決まるまでロッカーに封印しておくか。

 

 この後ちょっとした世間話をして、丁度良い時間になったのを確認する。

 

「んじゃ、長居するとアレだし失礼するぜ。ご馳走さん」

 

「うん、またね?」

 

「ああ」

 

 そう言ってユウナの部屋から退室し、俺は速攻で更衣室の自分のロッカーに急ぐ。

 ロッカーの戸を開け、もう1着の制服を押し退け、紙袋を奥へ突っ込んで戸を閉める。

 

「よし」

 

 しばらくエロ本はお預けだ。

 はぁ……金溜めて外部居住区で部屋を借りるか……。しかしなぁ……。

 財布を取り出し、ひっくり返すと缶ジュースを数本買えるぐらいのfcしか出てこない。

 ヤベェな……金欠だな。騙されたと思ってカレルの儲け話にヤケクソで乗るしかないか……。いや、偵察任務を受けてコツコツ稼ごう……。

 

 

 

「そんな訳でヒバリちゃん、偵察任務ないか? 何でもいいぜ?」

「検索してみますね。少々お待ちください」

 

 

 あーあ、俺も神機が健在ならな……。よりにもよってなんでスサノオが出てきたんだが……。ホント最近の偵察班って手抜き仕事ばかりだよな。まあ、連中を攻めたところで無駄なのでいつまでも愚痴るわけにも行かないか。

 

「申し訳ありませんが偵察任務は入っていないですね」

「マジか……。じゃあなんでもいいから俺でもできる任務ってないか?」

「それでしたら第3部隊の物資補給をして頂けないでしょうか? エイジス周辺で防衛線を張っているのですが、連日に渡って戦闘を繰り返している状況でして……。先程、支援要請を受けて補給の手配を進めているんです」

「よし来た! 俺に任せてくれ! こういう時こそ足の速い俺の出番だ」

 

 

 

 そんな訳で、物資をバッグ一杯に詰めてエイジスへの直行ルートを全力疾走中だ。

 

 とりあえず、物資はジーナに渡しておくか。偏見だが、シュンに渡すとなんかアレだしカレルに渡したら横領されそうで信用ならない。あの癖が強い連中の中で一番まともなのがジーナだから仕方ない。いや、ジーナもジーナでちょいとイカれている所があるが……。

 

「ヒバリちゃん、ジーナって何処にいるか分かる?」

『ジーナさんは……D-5地点ですね。詳細を端末に送りますね』

「そりゃありがてぇな。ありがとよ」

 

 端末にマップとジーナの現在地が送られてきた。

 後はこのマークの場所まで走ればいいわけだな。さっさと終わらせて報酬金をゲットだ!

 

 

 しばらく走っていると、スナイパーを手に歩く女性が見えた。ジーナだ。

 

「あら、あなたが来たのね」

「ああ、物資もこの通りだ。一応要請された物は持って来たが、足りそうか?」

 

 バッグを降ろし、ジーナに中身を確認して貰う。

 

 

「……大丈夫そうね。もし足りなくてもまた要請すれば、最速で来てくれるんでしょ?」

「まあな。 ん? そういやシュンと金の亡者はどうした?」

「今は個別で哨戒中。状況もそれなりに落ち着いてきたの。支援要請をしたのも今のうちにと思ってね」

「あー成程。あと数日でアナグラに戻って来るのか?」

「恐らくはね。でも、最近はちょっと異常ね。よりにもよって強力なアラガミばかり出現するなんて。まるで……何かに引き寄せられているみたい」

 

 

 

 最近の異変にジーナも気付いているんだろう。今までと何かが違うと言う事が。

 

 

「――ッ!」

 

 急に大きな気配がやってきたな……。 

 この気配、明らかにこちら側に敵意を向けている。

 

 

 咄嗟にジーナを抱き上げて、その場から跳び退く。

 紫色の光線が俺とジーナが立っていた場所を焼き払った。

 

 

 

 

「あの攻撃は……サリエルか」

「早速来たようね」

 

 この戦闘凶め、目を輝かせやがって。

 

 ジーナを降ろし、対アラガミ用ナイフを構える。

 空から猛スピードで紫色の塊が接近してきた。よりにもよって堕天種か……!

 

 

「ジーナ、どうする?」

「決まっているわ。死合いましょ?」

 

 神機を構えて、笑みを浮かべた。

 俺は小さく溜息を吐いて、対アラガミ用ナイフを取り出す。

 

「んじゃ、踊って来るわ。頼むぜ」

「ええ、楽しんで来て」

 

 俺は高く跳躍し、空中ステップでサリエル堕天に接近する。俺の横をいくつものレーザーが通り過ぎ、サリエルへ向かう。サリエルはレーザーを避け、こちらへ接近してくる。ナイフをサリエルの顔目掛けて投擲するとサリエルはナイフを弾いて防ぐ。

 

 再び俺の横をレーザーが通り、サリエルに直撃する。

地面に降り立ち、挑発フェロモンを使ってから弾かれて落下したナイフを回収しに向かう。サリエルは俺に向かって無数のレーザーを放って来た。綺麗な曲線を描きながら追尾してくるレーザー。一発ずつ確実に回避してやり過ごす。

 

バーカ、そうやって俺しか見てねえから……。

 

サリエルが俺に気を取られている内に、ジーナの銃弾がサリエルの頭に着弾した。着弾した弾からいくつものレーザーが放たれ、サリエルの体を貫いた。

 

 おいおい、えげつねえバレットだな。あんな物撃たれたら内臓破壊待ったなしだ。あんなん思いつくとかどうかしてるぜ! 

 絶対食らいたくないな。少なくても誤射姫には絶対にあんなバレット使わせちゃならねえ。

 

 おっとナイフを回収しないとな。とりあえず、前に出て奴の気をこちらに向けさせるしかねえか。今はジーナが要だ。

 

 ナイフを回収し、サリエルへ向かって跳躍する。

 しかし何かに頭を踏まれて、地上へ落下した。

 

「ナイスだぜ、ユウ!」

 

「シュン! この野郎覚えとけよ!」

 

 俺を踏み台に高く跳んだシュンはサリエルの頭に神機を振り降ろした。しかし、狙いが僅かに狂ったのかサリエルの頭の一部を斬り落としただけだった。

 

 サリエルはシュンを叩き落とそうと腕を振る。

 

「クソっ!」

 

 シュンはシールドを展開して打撃を防ぎ、すぐに捕食形態に切り替えてサリエルの足に喰らいついた。

 

 あの野郎、やるなら1発で決めてこいや! 世話が焼ける!

 

 俺は再び跳び、今度こそサリエルに張り付こうとした。

 

「気が利くな」

 

「カレル、お前もか!」

 

今度はカレルに踏み台にされて再び地上へ落ちる。

 

 

「なッ!? 引っ込んでろカレル!」

 

 カレルに怒鳴るシュンだが、怒鳴られたカレル本人も煩わしそうな顔をして口を開く。

 

 

「黙ってろ」

 

 カレルはサリエルに張り付き、銃口を直接当ててゼロ距離で連射した。

 サリエルは血を吹き出して悲鳴を上げる。だが決定打にはなっていないようだな……。

 

 よし、ここいらで連携としゃれ込もうか。丁度火力要因も居る事だしな。

 

 サリエルにぶら下がっているシュンを見ながらどんな連携で行くか考えて跳ぶ。

 

 シュンは捕食を諦めてサリエルから離れる。

 

「シュン、そのまま落ちてこい! 上まで飛ばすぞ。今度こそ決めろや!」

 

「へっ、しょうがねえな。しっかり飛ばせよな!」

 

 シュンの片足を両手で受け止め、思い切り腕を振り上げてサリエルが滞空する位置よりも高く投げ飛ばす。

 

「退けカレル! おりゃあああぁ!」

 

 シュンはサリエルの頭に神機を突き刺し、そこから神機振り抜いてサリエルの体を断ち切った。

 

 しかし最後の足掻きか、サリエルの頭の目玉が開いてシュンを睨みつける。

 

 次の瞬間、レーザーが目玉を貫いて爆発した。

 

 下を見れば、ジーナが神機を構えて立っていた。

 

 

 

「ちっ、余計な事を……」

「あら、険しい顔をしていたからピンチだと思ったけどお節介だったかしら? それにしてもあなた達、仲が良いのね」

 

 ジーナは俺達3人を見ながら笑う。

 

「な、こんなガキと金の亡者と仲が良いって冗談じゃねえよ!」

 

 シュンが顔を真っ赤にして否定する。

 

「そうだぞジーナ、俺が人様を踏み台にするような金の亡者と斬るしか能のないバカと仲が良い訳ねえだろ」

 

 俺も否定する。

 

「お前ら、金の亡者とは言い草だな。だが同意見だ。俺をコイツらと一緒にするな」

 

 カレルも否定する。

 

「ほら、仲が良いじゃない。ふふ」

 

 ジーナは笑う。

 

 

 結局男3人であーだのこーだの言いながらの論争がしばらく続いた。

 




神薙 ユウナ(17)

2071年フェンリル極東支部入隊
出生2054年12月31日 身長167cm 体重5――丁度穴があけられて見えない。

誕生日すげえな。
新型神機を操る期待の新人だ。
ソーマと同じくただならぬモノを感じる。
元々は狼鳳軍事高校に通っていたが適性のある神機が見つかり入隊したとの事。
言える事はただ1つ、良く分からん!

容姿は銀髪赤眼。

誰でもいい。銀髪と白髪の区別方法を教えてくれ。正直見分けがつかん。


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日本語って難しいよね♡

調子に乗ってまた投稿。当たり前だよなぁ?
あ、ホモじゃないよ。当たり前だよなぁ?


 

「やれやれ、疲れたぜ」

 

 サリエル堕天種をなんとか撃破した後、第三部隊はもうしばらくエイジス島付近で防衛線を張るようなので物資を置いて支部に戻ってきた。

 

 しかし、初っ端から味方が居る状態で戦闘開始は珍しい。

 今まではなんだかんだ1人で対処して応援を待つしか出来なかった故に新鮮な気持ちである。疲れたとは言ったけど大して疲れていないのだ。

 

 ん? なんか日本語が変だな。

 まあとにかく俺が何を言いたいのかと言うと、日本語使ったって日本語になるとは限らないよ♡って話だ。

 

 

自分で良く分からない事を言っている俺の耳に、ある足音が聞こえてきた。

 

そう、何度も聞いた足音だ。

 

 しかし、ここはエントランスだ。人々の声や足音、モニターの音声などが様々な雑音が抜鉤するこの空間で特定の足音を聞き分けるなんて無理は話だろうが、俺はその足音に対して恐怖を覚えた事がある故に、俺には分かるのだ。

 

 

カツ……カツ……。

 

 

こ、このハイヒールの音は……間違いない! やはり……!

 

 

 

「ユウ。お前に用がある」

「あ、雨宮教官。ご用件とは如何様な……?」

 

 雨宮教官に話しかけられ、俺は震えながら直立立ちで聞く。彼女がヒールの音を響かせながら歩いている時はまずい状況を表す。こちらから報連相アタックを仕掛ける時はどうと言う事は無いが、彼女から仕掛けてきた時は俺のメンタルによろしくない事がやってくる。

 

「先程偵察班で数名負傷者がでた。いずれも一時戦線を離れる事になった。そこで、お前にいくつか偵察任務を負担してもらう事になった」

「わ、分かりました」

「では早速、任務へ出てもらう。この任務には藤木コウタを同行させろ。座学では一通り学習させたが、実地での行動は初だ。色々教えてやれ」

「りょ、了解です」

 

 

 俺はヒバリちゃんから任務を受注して、任務内容を確認する。

 

 防壁外部周辺市街地域の偵察か。通常通り事が運べば帰る頃には丁度夕方か。

階段を上がると、既にコウタが準備を済ませていた。

 

「よ、ユウ。よろしくな」

「ああ、んじゃ行くか」

 

 

 

 

 任務開始地点へ到着して任務内容を確認する。

 

「偵察任務は初めてだよな?」

 

 コウタは雨宮教官を使っていた神機の適合者だ。経験を積めば化けるだろうな。だから此処で死なせるわけにはいかない。だから念を入れるとしよう

 

「あ、ああ。よろしく頼む」

「まあ緊張しなくていい。任務にも支障が出るからな」

「いや、でもそんなこと言われてもな……」

 

 コウタは落ち着きなく目を泳がせていた。よく見れば汗もかいている。

 

 「仕事に入るか。座学で習ったかもしれないが一応復習だ。なに、討伐任務と比べりゃ楽なもんだ。お前なら問題ねえよ」

 

「それでも緊張するんだけどな……」

 

「偵察班の任務はアラガミを見つけたら種類、頭数、動向をオペレーターに入電する。基本これだけだな。そんでアドバイスは3つだ。見つかるな、戦うな、的確な情報を。この三つな」

 

指を3本立てて順々に説明を続ける。

 

「りょ、了解」

 

 少し困惑しているな。ふむ、まあコウタは第一部隊だからな。戦闘を避けるって言うのはアレか……。しかし偵察任務だからな。

 

 とにかく任務を開始しよう。

 

 

 

「基本は壁を背にしろよ。こういう市街地じゃ、少し開けた場所に出る時は一回物陰から顔を出して周囲を警戒しろ。後、壁を背にしても上には注意しろ。上から食い殺された奴は数知れないからな。ついでにもう1つ、壁を背にしていても不用意に音を立てないようにな」

 

「え、なんで?」

 

「壁の向こうや建物内に居るアラガミが足音に気づいて壁をぶち破って瓦礫ごと喰い殺しにくることが多々ある。実際喰われた奴もいる。見た事は無いが」

 

「…………」

 

 顔を青くしているコウタと共に抜き足で路地を移動する。

しかし、多いな。気配の大きさ的には中型か。一回高所から見渡した方がいいか。

 

「コウタ、あのビルの屋上へ行くぞ」

「ビルの……なんで態々?」

「高いところから見た方が効率的だ。周囲にはウジャウジャ居るぞ」

「なっ!? マジで――」

「ッ!」

 

 コウタの口をふさぎ、声を遮る。ドタドタと足音がして路地の先の広場をコンゴウが通って行ったのを見えた。

 

 アラガミ達をやり過ごしながらビルへ向かう。

 しかしビルの入り口は瓦礫で塞がっている。

 

 仕方ねえか。窓割ってビルに入るか。早速ナイフを取り出す。

 

「コウタ、あの建物を射撃して破壊してくれ」

「え、アレか? 分かった」

 

 コウタが引き金を引き、銃弾が発射され建物の一部が音を立てながら崩壊する。すかさずナイフで窓ガラスを壊す。そしてコウタに先に入れとジェスチャーで伝える。

 ビルに入り、崩した建物を確認するとコンゴウが数匹集まって建物を警戒していた。

 

「コンゴウみたいな耳の良い奴が居る時はああやってわざと離れた所で音を出して連中の気を反らしている内に行動だ」

「成程な、すっげー……」

 

 コウタと共に屋上に到着すると、姿勢を低くして下を確認する。

 

「屋上からも偵察するときも上空と周囲の警戒は忘れるなよ。シユウやコンゴウは勿論、オウガテイルもジャンプで上まで昇ってくることもあるからな。あとはできるだけ遮蔽物に身を隠せ。ザイゴートの視力はバカにできねえからな」

 

 コウタに捕捉事項を話し、周囲を警戒しつつ下に目を向ける。

 

「コンゴウが多数。数的に、この辺りを根城にしているな。事前情報じゃこのエリアの周囲でコンゴウが乱入してくることが多々あったらしい。事前の情報も役に立つからな。任務詳細も頭に入れておけ。そして俺達の持ち帰った情報が次に此処へ来る奴の命綱に成り得るんだ」

 

 その後、コウタと共にコンゴウを監視し、他のアラガミも発見次第入電して任務終了時刻に合わせて開始地点へ移動した。

 

 

 

 

「まあ、偵察任務はこんな感じだな」

「中々ハードだな……。ユウ、神機が無いのによく平気な顔してるな。同じ1年目とは思えないぜ……」

「ま、腐っても半年はこのクソっタレな職場で生きてるからな。焦らず着実に力をつけて行けば万事どうにでもなる。その為にも、『死ぬな』だ」

 

 コウタと共にアナグラに帰還し、ラウンジで報告書を纏めながら会話を弾ませる。初陣にしてはそれなりに良い動きをしていた。

 少し油断しやすいところが課題だが、コイツは化けるぞ。

 

「なあ、ユウ」

「ん?」

 

 書類にペンを走らせながらコウタが口を開く。俺もペンを走らせながら適当な返事を返す。

 

「ユウも入隊した頃は俺みたいな感じだったか?」

「あーそうだな。誰だって入隊した頃はそんな感じだぜ? でもお前とユウナは逸材だ。俺なんて丸1か月訓練を積んでやっと実戦だったからな」

「マジで!? 任務中はベテランみたいな動きだったからてっきりすげえ奴なんだなって……」

「ベテランって程数はこなしちゃいねえよ。そもそもベテランなら神機ぶっ壊すとか馬鹿な真似はしねえ。ま、努力次第でどうにでもなるってことだ。防衛班のタツミだってそうだぜ? あいつ、適合率はアレだったが努力であのレベルまで漕ぎ着けたんだ。何とかなるさ、生きてればな。あ、そこの項目はシンプルにこんな書き方で良いぞ」

 

「お、サンキュ。こんな感じで良いか?」

 

「おう、大丈夫だ」

 

 しばらくすると、ユウナがコウタを呼びに来た。どうやら緊急で任務が入ったらしい。コウタには代筆しておくから行って来いと送り出し、俺は静かなラウンジでペンを走らせていた。

 

 

 

 

 報告書を提出した後、俺に偵察任務が入った。

 

 

 

 

 愚社の空母。

 

 アラガミ出現の混乱の中で火事場泥棒を行っていた集団の拠点だった空母。

 かつてはその無法者共と、それに抵抗する集団の戦場だった。しかしアラガミによってその戦いは共倒れに終わり、擱座した空母はそのままになっている。皮肉にも争いは世界を喰らうアラガミによって止められた。

 

 崩壊した吊り橋のタワーに登る。上から周辺を見回すが、視界にグボロが映り、入電を入れる。

 

「小型多数、中型はグボロ以外に無し……か」

 

 いや、もしかしたら屋内や瓦礫に隠れているのかもしれない。上から見ただけではどうしても屋内や大きな瓦礫の影などが視覚になる。

 

 海を見ると真っ先に視界に移るのはエイジス島。

 「アラガミ装甲」によって守られた超巨大「アーコロジー」を建築し、人類安息の地を作るエイジス計画により、鋭意制作中の島。

 

「あんなん出来たって意味があるのかね……」

 

 人が強力な兵器を作り出すのと同じく、アラガミもより強力になって牙を剥く。その度に神機使いがアラガミを討伐し、コアを持ち帰り、より強固な装甲壁を作る。エイジス島が完成しても現状は変わらないだろう。

 あんな島には正直興味が無い。

 

ただ、第3部隊に補給物資を持って行ったとき、一瞬だがとんでもない気配……いや、気配と言うか説明できない何かを感じた。とても巨大で、それこそ全てを飲み込んでしまう程の何かを。例の島といい、エイジス島といい……島ってのは不思議なものだ。

 

 さて、島云々の考察はお終いにして仕事に戻るか。

 

 タワーから飛び降りて、物陰に身を隠しながら進んで空母に乗り込む。

 

「お、廃棄された閃光弾か。良いもの拾ったな。コンバートすりゃそれなりの量のマグネシウムになるから重宝するんだよなこれ」

 

 閃光弾をポーチにしまい、偵察に戻る。

 

 

 しかし、いざ近くまで来てみればアラガミの気配だらけだな。中型の気配もそれな入りに感じる。なんでこんなに集まっているんだ?

 任務の事前情報には特に何も書かれていなかった筈だ。 

 

 いつでも奇襲に対処できるようにスタングレネードを手に取り、使用できるように準備をしつつ慎重に動く。

 

 

 

 ん、あの青フードは……。

 

 廃墟に見知った男が入って行くのを目撃した。

 ソーマの奴、相変わらず単独任務か単独行動か。ただ、空母エリアで任務予定なんて聞いちゃいない。それなら支部長が腕利きに依頼している特務ってやつか。

 

 奴が許可なしにほっつき歩くとは思えないしな。 

 こんなアラガミの巣に1人で放り込まれるとは、極東支部(ウチ) もブラックだな。

 ふむ、余計なお世話かもしれんが、旅は道連れ世は情けだ。背中を見守るとするか。丁度こっちも暇だしな。

 

 

 

 気配を完全に遮断し、足音にも気を配りながらソーマの後をついて行く。時折周囲を警戒し、ソーマとの距離を一定に保ちながらゆっくりと進む。

 アラガミの気配が段々多くなってきた。

 ソーマも気付いたのか、周囲の確認をする頻度が先程よりも増している。まずいな、このまま戦闘になったらアラガミが集まってきて多勢に無勢だ。ここいらであいつにも帰投を推奨しておくか。

 

 

「おい、ソー――」

 

「ッ!」

 

恐らく、無意識に起こる反応だろう。ソーマが振り向くと共に凄まじい速度で神機を横に振ってきた。

 

「ヒエッ!」

 

 こちらも攻撃を上回る速さで、しゃがんで回避する。

 

 

「お前……」

「あっぶねー。バスターをあんな速さで振るとか流石だな」

 

 ソーマは戦闘態勢を解いて睨みつけてきた。

 

「こんな場所でなにしている? 命でも捨てに来たのか?」

「冗談、仕事だ仕事。偵察班も人手不足でな。それでソーマこそ、ここで何やってんだ? 空母で任務の予定なんざ入っていなかったと思うが?」

「お前には関係ない。仕事を終わらせてさっさと帰れ」

 

 やっぱり事情があるようだな。だが、周囲はアラガミ祭りだ。こんな状況で残すわけにも行くまい。

 

 どうやって説得して連れて帰ろうか考えていると、ソーマが無線を取り出して通信を始めた。

 

「任務対象との接触無し。索敵を――了解した」

 

 ソーマは無線をしまい、神機を担いで歩き出した。

 

「死にたくないなら早めに仕事を切り上げろ」

 

 どうやら帰投命令が下ったようだ。

 

「そりゃ、周囲はアラガミ祭りだ。こんな状況で仕事をさせようなんて考える奴は居ないよな? 俺も帰るわ」

 

 俺もソーマに続いて歩き出したら、ソーマはこちらに振り返り、いきなり神機を突きつけてきた。

 

「お前は一体何者だ。ただ適合率が低く成績も平均以下の新兵だと思っていたら、戦い慣れした立ち回りをしやがる。壁の外で生きていたにしてもだ。情報が少なすぎる」

「お、おいなんだよ急に。まあ、落ち着け。そんな物騒なもん突き付けられちゃ落ちいて話もできやしねえ」

 

 両手を上げながら言葉を紡ぐ。

 ソーマは神機を降ろし、再び担いで口を開く。

 

「どんな奴でも、生まれて生きて来た奴には必ず足跡がある。だがお前はどうだ? その足跡が少なすぎる、いや足跡なんて存在しないに等しい」

 

 コイツ感が鋭すぎるぞ……! 化け物かよ。

 

 

「なんだばれてんのか。ああーそうだな……全部答えるつもりはないが、お前の言い分は正解だ。ただ特別な事情があって以前は軍に居た。だから戦い慣れした立ち回りもできる。それだけだ」

 

「……そうか、まあいい。別に興味はない」

 

 そう言ってソーマは歩きだし、俺も後に続いて歩き出した。

 

 しゃあ態々聞かんでええやん……。

 




ゴッドイーター3をプレイしている時、「ぬおおおおおー」って情けない感じの叫び声が聞こえ、ジークの声か?っと思ったらユウゴの声で草生やした。


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仕事する夢や出勤する夢を見るとマジで鬱になる。

月曜の朝に仕事する夢や会社に出勤する夢を見る→目が覚める→鬱になる→アアアアァァァ!!!!


 空母エリアからソーマと共に帰投し、俺はいつもの定位置で寛ぐ。

 

 報告書を書いて提出したのはいいが、特に任務も無く雑務も無い。つまり暇なのだ。

 しかし、暇な時間に訓練するような真面目な人間ではないのでただ座って時間を無駄に過ごす。

 

 

 

「眠くなってきたな……。まだ晩飯前だが、少し寝るかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、意識があるが微妙にはっきりしないこの感じ……夢だな。夢を見ると休んだ気にならないから体が怠い事この上ない。

 

 

 

『諸君……いよいよ我等の真価が問われる時がきた』

 

 散々聞いた台詞に意識が覚醒し、辺りを見回すと洞窟の中だった。

 

 辺りを見回すと壁にスピーカーが付いていた。先程の声はこのスピーカーから出ていたのだろう。

 

『軍の一員として、誇りを持って戦ってくれる事と信ずる。この島は、最重要拠点である。もしこの島が敵の手に渡れば、ここは爆撃の拠点となり敵はこの地から本土へと攻撃をせしめんとする』

 

 久しぶりに見たな。遠い様で遠くないただの記憶だ。

 心当たりがあるとすれば、ソーマに前は軍に居たんやでって喋ったからか。それしかないな。

 

『本土のため、祖国のため、我々は最後の一兵になろうとも、この島で敵を食いとどめることが責務である! 各々、10人の敵を倒すまでは死ぬことは禁ずる。生きて、再び祖国の地を踏めること無きものと覚悟せよ』

 

 何回も聞いた台詞だ。もう何回玉砕する覚悟を決めたもんだか数えていない。

 

『矛は常に、諸士の先頭に在り』

 

 

 10人殺るまで死ぬな……か……。まったく、こちとらただの兵卒だっての。

 

 俺は立ち上がって、武器を手に洞窟の出口を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 いきなり目の前の景色がアナグラのエントランスに切り替わった。

 

「……ああ、覚めたか」

 

 途中で夢から覚める事が出来た。いや、覚めて良かった。あの後そのまま敵と一戦おっぱじめた筈だから流石に夢の中でまで戦っていたら疲れる。

 疲労回復のための睡眠で何故体力を消耗しなければいけないのか、これが分からない。

 マジで記憶の整理とか必要ねえから変な夢見せるなや。仕事行く前に仕事する夢や出勤する夢を見るとマジで鬱になるからヤメ-や。その日のモチベーションダダ下がりやで……。

 

 

 そういや、夕飯の時間か。

 モニターの端に表示されている時間を見ると、丁度良い時間だ。

 

 久しぶりに食堂で食うか。

 fcケチって食堂に行かないでレーションばっかり食ってたからな。今日ぐらいは少し贅沢しよう。

 

 

「げっ、今日のメニューはトウモロコシ定食かよ。前に食堂で食った時もトウモロコシ定食だったぞ」

 

 

 そういや……かなり昔に見た夢だが、砲撃機能が付いたトウモロコシと麦わら帽子を盾にお伽噺に良く出てくるドラゴンに立ち向かう夢を見たか……。

 こちらはドラゴンを倒すために大真面目なのだが、こんな珍妙な武器に葬られる当のドラゴンは何ともやるせない気分になるだろうな……。

 

 

 

 トレーを持って食堂を見回すも、時間が時間だ。開発部や技術部の人たちで混んでいる。

参ったな。神機使いは仕事なんて不定期だから時間通りに食事にありつけない事は多々あるが、非戦闘員は丁度食事をする時間だ。

完全に来るタイミングを間違えたと思ったが、一ヶ所だけ空いている場所を見つけた。

 

 しかし……。

 

 食堂の隅の席、正確にはアリサとかいう新人の周りだ。

 やっぱりか。評判が良くないとは聞いていた。新型だからと旧型神機使いを見下して、技術部の人を顎で使うと。でも、まさかこれ程嫌われているとは思っていなかった。遠巻きに悪口も聞こえる。

 

 

 アリサから席を空けた所に腰を掛けてトレーを置く。

 

 アリサはこちらを一瞥したが、なにも言ってこなかった。俺も特に話題はないので静かに食事を取る。

 

 少しして、食堂に見知った顔が現れた。

 ユウナだ。混雑した食堂で席が見つからず、困っていたがこちらが丁度空いていると気がついたのか、こちらへやって来た。

 

「ユウ、アリサ、お疲れ様。隣良い?」

 

「ああ」

 

「お好きに」

 

 別に同席を拒む理由も権利もないのだし、好きに座ればいいと思うのだが律儀だな。

 

「アリサ、この前の参考書の続きって持ってる?」

 

「持っていますが……」

 

「気が向いた時で良いから貸してもらえないかな?」

 

「分かりました」

 

 ああ、第1部隊では上手くやっているのか。それとも同じ新型だからか何か通じるものがあるのか……。まあ、俺には関係ないか。さっさと食ってシャワー浴びて寝るか。エントランスで。

 

「そう言えばユウが食堂にいるのって初めて見たよ。いつも、レーションで済ませてたよね?」

 

「ああ、今日は贅沢しようと思ってな。普段は金欠故、食費も節約しねえとしけないんだ」

 

「そっか。でも、体調崩したりしない?」

 

「いや体調崩しても、医療班に点滴の申請して打ってもらえば1時間程度で調子が戻るから大丈夫だ」

 

 まあ、点滴もfcが掛かるからあまり申請はしたくないんだがな。

 いやーにしてもやっと半分とちょっと食べたが、腹いっぱいになってきた。長い事レーションとちょっとしたもので食い繋いできたから胃袋もかなり小さくなったらしい。

 

 あ、やべえ。胸やけが……。吐きそう……。

 

 まずい、こんな所で吐いたらちょっとした伝説を残してしまう。さっさと胃袋に詰め込んでトイレに駆け込むか。

 

 次、ユウナに話しかけられる前に……。幸いアリサと会話している。

 行儀が悪いがトレーを持ってトウモロコシの粒を口に放り込み。無理やり飲み込んで席を立つ。

 

「先行くわ。ごゆっくり」

 

「あ、うん。お疲れ様」

 

 ユウナに手を振り、足早に食堂の出口へ向かう。

 なんかアリサの奴、ジト目で見ていたが気のせいだろう。そんな事よりトイレに急がねば。

 

 

 

トイレに籠ったが結局リバースはしなかった。恐らく、リバースしても大丈夫な状況になったので心に余裕が生まれ云々したのだろう。危機は脱した。軽くシャワー浴びて後は寝ようと思ったが、自販機でジュースでも買おうと思ってエントランスに戻るとリンドウさんと鉢合わせした。

 

 

「よ、ユウ。ちょいとおっさんに付き合ってくれや」

 

「また飲むんですか……? この前ラウンジで泥酔してサクヤさんに引っ張られてこっぴどく怒られたばかりでしょう……」

 

「固い事言うなよ。今日は気を付けるさ」

 

 前はそんな事言って結局お察しの結果だったんですがそれは……。ぶっちゃけ、俺も雨宮教官に飲み過ぎていたらお前も止めろと叱られたんだよなぁ……。

 

「ああ、分かりましたよ。酔ったと判断したら自室まで引きずっていきますからね」

 

「よし来た。さっさと行こうぜ」

 

 

 

 リンドウさんに連れられてラウンジへ向かい、カウンター席について注文する。

 

 

「「乾杯」」

 

グラスをぶつけ合って互いに飲む。

 

「はぁーやっぱりうめぇなー」

 

「苦い。苦すぎる」

 

 リンドウさんの感想と正反対である。こんなん飲めんわ。ビールなんて一体何がいいんだか……俺には理解できん。

 

「なんだ、酒の良さが分からないか。まだお子様か?」

 

「一応、十代後半なんですけどね。誰かさんに飲まされてるもんで……」

 

「んな事言って前はタツミも含めて3人で酒盛りしただろうが」

 

「2人は俺よりも年上で階級も差があるんですよ? 断れる筈が無い」

 

「ハハッ、何お前も共犯さ。開き直って酔っちまえ」

 

 

 大笑いするリンドウさんを尻目にグラスを空にして、次はカクテルを頼む。

 いつも奢ってもらっている故、自分で飲んだ分ぐらいは払わないといけないが、俺も金欠なので安くてアルコールも弱いカクテルが最適解なのだ。少しでもきつくなってきたら水に変えれば良い。

 

「なあ、ユウ」

 

「はい?」

 

 

 急にリンドウさんが静かに言葉を紡いだ。

 雰囲気に圧されて俺も真面目にリンドウさんを見る。

 

 

「お前と出会って、もう半年だな」

 

「そうですね。リンドウさんに助けてもらった命、無駄にはできませんよ」

 

「最初に出した3つの命令、真面目に守ってくれているようで何よりだ」

 

 死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良かったら不意を突いてぶっ殺せ。あ、これじゃ4つだ。

 リンドウさんがいつも口にする命令だ。

 

「いつかですよ……いつか必ず、その命令を破らなければいけない時がやってきます」

 

「じゃあ、約束だ。仁義に厚いお前なら約束は必ず守るだろう」

 

  

 狡い人だ。俺がどういう人間なのか分かっているからこんな事を言う。

 普段はおちゃらけている癖に、人を全く不快にさせない上に物事の核心を突くかのように鋭い事をしてくる。そりゃ、普段すっとぼけている奴が何気なくした発言が的を得ていたりするのは良くある例であるが故分かるが……この人の場合は別だ。

 思考すべきことはしっかり理解した上で常に考えている。とても慎重な人だ。この人になら何処までもついて行ける。そんな気持ちにされてしまう。

 

「仁義に厚いからこそ、捨てなければいけないモノもあるんですよ」

 

「普通なら命令無視すんな、約束守れやってお説教垂れる筈なんだがなぁ……何故か、お前にはそれができない。何でだろうな……」

 

「大昔のある国の兵士は『誇り高く潔く死ぬ』って思想が精神に刻まれていますからね。俺は偶然、その思想に近い考えを持っているんでしょう」

 

「不思議なもんだな。俺からすれば異常な思想だが、そいつらにとってはそれが当然なんだろうな。決意は簡単に変えられないってか……」

 

 

 リンドウさんは煙草を取り出して火をつけ、口に咥える。

 

 

 決意は簡単に変えられない……確かに決意を固めた奴ほど厄介な奴は居ないと聞いたことがあるし実際はそうなのだろう。

 

 『誇り高く潔く死ぬ』……凄まじいものだ。ある種の戦術でもある。追い詰めた敵が補給や増援を望めず撤退も不可能な状況で、爆弾抱えて雄叫びを上げながら突撃してくるんだ。精神的なショックを起こす奴もいるだろう。

 

 死しても尚とはよく言ったものだ。

 

 だが逆に言えば突撃を撃退できれば早々に決着をつけられるから敵が仕掛けてくるのを待ち望む者だっている。事実、突撃をほぼ完封できる戦術だってある訳だ。嵌れば実質、突撃なんて無駄死になる。

 それなら今度は夜間に突撃してやろうとなる。暗い道で爆弾持って雄たけび上げながら突っ込まれたら脅威にも程がある。

 

 ぶっ飛んだ思考はまたぶっとんだ思考で迎え撃つこの応酬。そうまでしなければ勝てないと言う事か……何と言うか、双方共にぶっ飛んでいると言うべきか。

 

 

「ユウ、命令を破る時がきたらお前は何を考える?」

 

「その時になってみないと分かんないですよ。でも、後悔だけはしないですよ。自分で決めたんですから」

 

「こりゃまた、決意の固い事で……」

 

「最期の瞬間位は自分で決めても罰は当たらないでしょう。俺達、生まれる場所も時代も選べないって言う出来レースを強制されているんですから」

 

「自分で決める……か」

 

 

 煙草を灰皿に置き、残り僅かなグラスの中身を一気に飲み込み、リンドウさんはもう1杯注文した。

 俺ももう1杯、カクテルを頼んだ。

 




藤木コウタ(15)

出生2056年6月20日

2071年フェンリル極東支部に入隊。第一部隊所属。
アサルト型神機。この神機は以前雨宮教官が使用していたらしい。
ユウナとは同期で同じ日に入隊している。家族思いで良い奴。家族思いの奴に悪い奴は居ない(確信)
言っちゃ悪いがシスコン。

偵察任務に関しては中々筋が良い。少なくても経験を積めば俺よりもできるようになる。第1部隊所属なので討伐は勿論、偵察も御座れと万能になるだろう。部隊長になっても何ら不思議ではない。
だが、バガラリーを夜通しで見せられるのは勘弁頂こう。


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お~すっげぇ針針してんぜぇ~?(錯乱)

固い奴は嫌いだよ。テメエに言ってんだぞ、セクメト
脳死切断特化近接勢からすればセクメトは最早剛炎タワーの神融種。
銃使えよって話ですけど使ったら近接レートが100%じゃなくなる故に使いたくない(痛切)


「地下街じゃ世話になったな蠍野郎。いや、あの時の個体かどうかは知ったこっちゃないが」

  

 

 目の前には既にボロボロのボルグ・カムラン。

 大方他のアラガミと縄張り争いでもしてコテンパにされたのだろう。そして今、そのイライラを俺にぶつけようとしている。

 

 

 例の如く偵察任務に来ており、市街地の偵察を行っていたのだが任務の途中、廃材を拾いに来た民間人がカムランに襲われているのを発見し、民間人を逃がしてどうやって逃げようかと考えていたところだ。

 

 スタングレネードは残り1つ、ホールドトラップも残り1つ。足止めできる回数は2回。ホント神機が無いとやってられんぜ。

 

 カムランが飛び掛かかってくるがバックステップで避けて注意を向けながら、周囲を小走りで回り位置取りをしつつ、次の攻撃に備える。

 

 カムランが咆哮と共に尻尾を振り上げ体を捻り、こちらも即座に跳ぶ。

 予測通り、尻尾による回転攻撃で周囲を薙ぎ払った。空中ステップで一気に接近し、対アラガミ用ナイフを抜刀して頭に突き刺すが金属音と共に火花が散り、俺は急いでカムランから跳び退いて距離を置く。

 

「ちっ! これだから硬い奴は嫌いなんだ」

 

 悪態を突きつつ冷静に動きを観察して攻撃を躱し続ける。

 瓦礫を持ち上げて投げつけても、両腕を合わせて鬼の顔を思わせる盾で防がれ、盾を構えたまま走り出してこちらに向かってくる。

 

 跳躍で躱し、カムランを踏み台にしてもう一度跳び再び距離を取る。すると奴も大きく跳び上がり、尻尾を叩きつけてきた。

 

 大きく後ろへ跳ぶが、着地の隙を突くかのように針を飛んでくる。

 

 空中ステップで地面にギリギリ足がつかない高度で躱し、空中ジャンプで再び高く跳んで建造物の屋根に上る。

 

「仕方ねえ。少し遊んでやるか」

 

 屋根から降りてカムランが飛ばして壁に刺さった針の中でも特に長い針を引き抜き、槍術の構えを取る。

 

「かかって来い」

 

『キェァァッ!』

 

 咆哮と共に巨体を弾ませて飛び掛かってくるが、体当たりを躱して跳躍で顔付近に張り付き、口に針を突き入れる。

 

 カムランが悲鳴を上げながら暴れ、俺を振り落とそうとする。

 

 お望み通り、降りてやるか。

 カムランを思い切り踏みつけて大きく跳躍し、距離を取って着地する。

 

 カムランの口から赤い液体が漏れだしているのが見え、ざまあ見ろと言葉が漏れる。

 外殻が硬い奴にはこうやって内側を攻撃するに限る。

 

 カムランが尻尾を振り回して周囲諸共薙ぎ払おうとするのを察知し、宙へ身を投げつつ翻す。

 俺の真下を尻尾が凄まじい速度で通り、着地と同時にダッシュで距離を取るがカムランは飛び掛かりと共に盾で叩き潰そうと襲い掛かってくる。加減をしながら地を蹴り、距離を調整しつつバックステップで躱し続ける。

 カムランが妙な動きを見せ、後ろではなく横へのステップを繰り出すと同時に尻尾を叩きつけてきた。あのままバックステップをしていたら間違いなくペシャンコだった。

 

 カムランが隙を晒した好機。ここで攻めるか。

 

 一気に接近して他のアラガミによって傷つけられたであろう足の傷に針を突き刺し、宙返りで大きく距離を取る。

 

 カムランが振り向くと再び針を飛ばしてきた。手に持つ針で飛んでくる針をすべて弾き落とす。そしてもう1本長い針を手にしてそれをカムランに投げつける。

 

 針を盾で弾かれるがすぐに別の針を投擲する。足元には無数に針が転がっている。何本でも投げれるぞ。

 

 針を弾かれては再び針を投げ、針が刺さってもまた針を投げ――

 

 針針針針――針ばっかじゃねえか! お~すっげぇ針針してんぜぇ~?(錯乱)

 

 

 何本かはカムランに刺さり、僅かに動きが鈍くなっている。

 1本を軽く投擲し、すぐに別の針を拾い上げて距離を詰める。

 

 再び足の付け根に針をありったけの力で突き刺す。

 

 カムランは悲鳴を共に態勢を崩して、盾を地面について倒れ込む。そして足に針を突き刺して地面に縫い付ける。もう1本の針も同様に使い、地面に縫い付けて動きを止める。

 

 カムランを尾先の巨大針で俺を貫こうしたが、当然躱す。そしてカムランの胴体に刺さっている針を引き抜き、ついでに腕も縫い付ける。そして尻尾も縫い付けて完全に動きを止める。怒りの声を上げて足掻くが針は抜けない。

 

 これが極東式数分クッキング『カムランの針疑獄』だ。お味は保証できないがな。まあ、ソーマが捕食攻撃をする際に不味そうな肉だと言っているので不味いのだろう。

 

 

 無線を起動してオペレーターに連絡を入れる。後は近場の神機使いに任せよう。

 しかし、動けない獲物を見逃すバカな獣は居ないから他のアラガミに喰われる可能性が大きいだろう。

 

 

 神機が無くても何とかなる時は何とかなるもんだな。まあ、カムランみたいに武器になる物を飛ばしてくるアラガミ限定だが。

 

「よし、帰るか。なんか針針して疲れたわ。しかしなぁ……帰ったらまた雑用か……せや! 徒歩で帰って定時まで時間稼いだろ!」

 

 帰投の連絡だけしてのんびり歩いて帰る。アラガミが居たら入電だけして逃げるけどさ。

 一応仕事はしているので文句は言われない筈。

 

 いやーにしても昨日は凄い夢を見たぜ。

 

 

 俺って昔からかなりの頻度で武装した人間とかと戦う夢を見ているんだが、昨日の夢は刺激があった。

 俺が荒野で車を運転(多分無免)していたらいきなり霧が立ち込めて、禿頭で額に数字が書かれているおっさんが4人現れてな。

 

 4人のおっさんはフラフラしながらこっちに向かってきて、「邪魔くせぇな轢くか」って思ってアクセル全開にして突っ込もうとしたらおっさんが俺を見た瞬間、眼を光らせて何処からともなく銃を取り出して俺は「ファッ!?」って声を上げたんだ。

 

 そしたら無線が入って「逃げろ! 髑髏部隊だ! 今は逃げる事だけを考えろ!」って言われてな。

 

 そのまま俺は頭を低くしてアクセル全開でおっさん4人に突っ込んだんだが、おっさんたちは姿を消して轢逃げアタックは不発に終わったんだ。そのまま全速力で逃げていたらおっさん4人が凄まじい速度で追っかけて来てな。

 

 その時察したね……。俺の轢逃げアタックは姿を消して躱したんじゃなくて、単純に身体能力にもの言わせて躱したって事をな。

 

 あいつら化け物やで……。普通に走って車と並走するわ、牽制を兼ねて銃を撃ったら見事なステップで躱すわ、ジャンプして車を飛び越したと思ったら銃を乱射してくるわでとんでもねえ奴らだったぜ。

 

 挙句の果てにマチェットを車に刺してきて車両をスクラップにされた俺は地面に投げ出された。

 あいつらマチェット片手に歩いてきてある程度近づいたら瞬間移動して斬りつけて来たんだ。攻撃を受け流しつつマチェットを奪い取っておっさんの腹に突き刺したところで夢から覚めた。

 

 いやー俺よく生きてたな。しかし、あの走りとステップとジャンプは実に見事だった。

 

 

 そんな訳で彼らの真似をして帰投しよう。

 

 まずはあの走り、腕を高速で振って足も高速で動かして――いや、いつもやってるがな!

 まあいい、次はステップだ。こう、地面を思い切り蹴ってビュンビュン連続で――いや、既に会得してるわ! それどころか空中でもやれるわ!

 次はジャンプだ。こう……なんて言うか、目の前に障害物があると仮定してそれを大きく飛び越えるイメージで――いや、それただのジャンプやん! 空中でもできるしスタミナが続く限り連続で何回でも跳べるわ!

 

 なんだよ……結構できんじゃねえか……。

 

 

 やっぱ神機使いって人外だわ。

 あ、俺もその人外に仲間入りしていたわ。

 

 ん? 待てよ? アラガミをぶっ潰すのに俺なら全力攻撃が数発必要だが……小突いただけでぶち殺しているリンドウさんやソーマは人外の中の人外と言う事か。

本当の化け物は身内にありってか。おっそろしいぜ……。

 

 

 *

 

 そんな訳で無事、帰投して報告書を書いたら丁度定時なのでお疲れっした―と足早に退散してエントランスで寛いでいる。残業? 必要ねぇよそんなもん。時間までに仕事を終わらせられないそいつの落ち度だ。俺? 勿論余した仕事は明日に回したさ。

 当たり前だよなぁ? 明日本気出して終わらせれば何の問題も無いさ。

 

 

 暇だな。ターミナルでサーフィンでもするか。

 ターミナルの腕輪はめ込むところに腕を突っ込んで腕輪認証を済ませてモニターを弄る。

 自室ではなく態々エントランスでデータベースを閲覧することで嫌いな奴の邪魔をするのは気持ちいいZOY♪ まあ自室なんて無いんですがね!

 

「お、週間アラガミ討伐数ランキングだと? 見てみるか」

 

 

 第5位 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ

 

 ほう、あの露人中々やるじゃない。

 

 第4位 スマイル・一太郎

 

 いやすげえユニークな名前だなおい。誰だよスマイル・一太郎って……。なんか逆に読んだらしっくりくるのは気のせいか……?

 

 第3位 ソーマ・シックザール 

 

 まあ、第1部隊だからなそりゃそうか。でも意外だな。俺の予測じゃ1位と2位はリンドウさんとソーマで独占しているもんだと思っていた。

 

 第2位 雨宮リンドウ

 

 ファッ!? あのリンドウさんが2位……だと……?

おいおい、こりゃとんだ番狂わせだぜ……! 1位誰だよ……!

 

 第1位 神薙ユウナ

 

 ファファファのファッ!? ウッソだろユウナ! リンドウさんとソーマを差し置いて1位ってどんだけ逸材なんだよッ! アラガミスレイヤーかな? 

 いや、しかし……あんまり想像できないぞ……。結構穏やかな性格だと思ったんだが……戦場に出たら「アラガミは皆殺しだ」とか「ぶっ殺せ! ぶっ殺すんだ!」って言いながらヤクザの如く暴れ回っているのでは……?

 

「…………見なかったことにするか。今日からユウナじゃなくてユウナさんだな」

 

 画面を切り替え、別の記事を見ようと思った矢先――

 

「あれ? ユウ、戻ってたんだ」

 

「ふおぉ!?」∑(゚Д゚)

 

 ユウナさんに声を掛けられて驚いて情けない声を出した。

 

「あ、ごめん。驚かせちゃった?」

 

「い、いや……気にしないでください。勝手に驚いた俺が悪いんです。ユウナさんには非はありません」

 

 いかん。じつに遺憾。いや、残念に思ってどうするねん。確かに衝撃の新事実を知った直後に件のユウナさんとエンカウントするのは俺の人生的に残念かもしれんが……。

 と……とにかくユウナさんの逆鱗に触れないよう、口を慎まなければ……!

 

「なんで敬語なの……?」

 

「い、いえ! お気になさらず! ただ、週間討伐数ランキングでトップだったので敬意を示さねばと思い――」

 

 だ、駄目だ! 紡ぐべき言葉が見つからない! このままで機嫌を損ねてしまう可能性が無きにしろ非ず……!

 

「あ、ああ……。そういう事……。ただ視界に入ったアラガミを倒していただけだから多いだけだよ」

 

 苦笑いしながらとんでもねぇ事言いましたよこの人。ただ視界は入ったってそれ要するに視界に入った奴を片っ端からぶちのめしたって事じゃん。しかも俺は見逃さなかったぞ。

 討伐数内中型アラガミ6体、大型アラガミ1体って書いてあったぞ。視界に入ったら大型中型であろうが躊躇なくぶちのめしに行ったって事じゃん。まさかこの前医務室から少しだけ怪我したって言って包帯巻いて出て来たけど、その時大型とやり合ったわけじゃあるまい。

 

「一応聞いておきますけど、この前怪我したって言って包帯巻いてたけど……」

 

「うん、丁度その時だよ。ヴァジュラの攻撃を装甲で弾こうとした時に力加減間違えてちゃってさ。衝撃を受け止めきれなくてちょっとね……」

 

「装甲で……弾く……? 弾く…………弾くッ!? What!?」

 

 弾くってアレだろ? 武術で相手が繰り出してき攻撃を弾くあっちの弾くだろ?

 

「うん。上手く弾けたらアラガミがバランスを崩して大きな隙が生まれるから積極的に狙ってるんだけどね。雷球とかなら弾き返しやすいんだけど、咄嗟だったのもあるけど前足のフックを弾くときにミスしちゃってさ」

 

 対人戦闘で相手の攻撃を弾くならともかくアラガミの攻撃って弾けるのか……。いや、そもそも雷球を弾き返すってどういう事やねん。理解が追いつかんぞおい。

 

「やっぱりアラガミが近接攻撃をしてきたら剣形態でカウンターした方がいいかな……。でも臨機応変にできないといざと言う時に困るし……ユウならどうする?」

 

 いや、俺に聞くなよ。組手とかならともかくこっちの倍の体格誇る敵に対してカウンターやら弾きなんぞできねえよ。俺だってただ半年早くフェンリルに入っただけで実際には名ばかりの先輩やぞ?

 

 やっぱりアラガミスレイヤーじゃないか!

 信じられないだろ? この子、フェンリルに入隊してまだ1ヶ月程度しか経ってないんだぜ?

 

「すまん。3か月しか神機握ってない俺にそのアドバイスは無理だわ」

 




アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(15)

2070年フェンリルロシア支部入隊→2071年フェンリル極東支部転属

ロシア支部から赴任してきた、新型神機使いだ。実力は高いらしいが、高飛車な性格と新型を扱うが故のエリート意識を持っていて気位が中々高い。
美少女ではあるのだがな……。
後、俺の予測が当たっていれば結構ズボラな性格だと思う。部屋に服とか散らかってそう。


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力加減なんざ必要ねぇんだよォ!

ちょっと長いです。
下ネタ注意です。
あとホモじゃないよ。


 唐突だが大問題だ。金がねえ。無一文ってわけじゃけえねど金がねえ。別に浪費しただとかそんなわけじゃない。ギャンブルも最近は自重している。

 じゃあなんで金がないのかと言うと……。

 先日、車両整備班の手伝いをしている時だ。俺はシリンダーヘッド、まあ要するにエンジンで大事な部分だ。そのシリンダーヘッドにシートリングって言う名称のこれまた大事な部品をハンマーで打ち付けるんだが、これを打ち込もうとした時だ。

 

 俺は一応神機使いであるが故に単純にパワー等は一般人を遥かに凌ぐ。だから絶妙な力加減でうまくハンマーで打ち付けなければいけないのだが……。

 力加減が難しくて上手くリングをはめられなくてね。もうイライラして――

 

 

『あああああああ面倒くさいンゴォ! 力加減なんざ必要ねぇんだよォ!』

 

 

 頭に血が上ったら自制心とか効かないから思いっきりぶっ叩いてシリンダーヘッド諸共粉々にしてしまったのだ。

 

 

 

『うっそだろお前wバカじゃね? 笑っちゃうぜ! 注文しねえといけねえじゃねえか。金額ちょっと負担しろよおい』

 

 

 そう言われて全財産の殆どを持っていかれた。だから金がないのだ。

 ぐぬぬ……。どうしたものか……。せや! スタングレネード売りつけて儲けたろw

 とりあえずスタグレを大量に生産せねばいけないか。確か第2倉庫にマグネシウムと爆縮体が腐るほどあった筈……。全部引き出して合成して作るか。

 

 そんな訳で倉庫からマグネシウム&爆縮体を袋一杯に詰めてよろず屋さんの隣に座って作業に取り掛かる。

 

「なあ兄ちゃん……。なんで俺の横でスタグレ作って売ってんだ?」

 

「いや、他に場所が無くてな。営業妨害するつもりは微塵もねえから勘弁してけれや」

 

 

 

よいか? ここに適量のマグネシウムと爆縮体があるじゃろ?

( ^ω^)

⊃マ  爆⊂

 

これを

( ^ω^)

⊃)マ爆 (⊂

 

こうして

( ^ω^)

≡⊃⊂≡

 

こうじゃ…

( ^ω^)

⊃スタングレネード⊂

 

 

「兄ちゃんそれどういう原理だ?」

 

 よろず屋のおっちゃんが質問をしてきた。

 良くぞ聞いてくれたぜ、おっちゃん。

 

「ふっ、素材合成士1級の資格を持ってりゃ誰でもできるさ」

 

 おっちゃんと世間話に花を咲かせながらマグネシウムと爆縮体をくっつけてスタングレネードを作りながら籠に放り込む。籠がいっぱいになったところで一旦、生産を中止した。

 

「さて、いくらにして売ろうか……。500fcでいいか」

 

 紙に500fcと書いて籠に張り付ける。そして俺はサングラスをかけて客を待つ。ホントはメッシュのタンクトップも準備したかったがそんな金は無い。

 

 

 

「お、ユウ。商売でも始めたのか?」

 

 タツミが話しかけてきた。記念すべきお客さん第1号になるだろうか。

 

「あらいらっしゃい! ご無沙汰じゃないっすかー」

 

「いや、そこまでご無沙汰じゃない気が……。とりあえず8個売ってくれ」

 

 おう、8個も買ってくれるとはこれは幸先がいい。しかし、タツミとは良くして貰っているので少し値引きしてやるか。

 

「かしこまり! お友達価格で400fcでええで」

 

「マジで? サンキュー」

 

 タツミにスタグレを8個渡して3200fcを受け取る。

 

「またのお越しをお待ちしてナス!」

 

 タツミに手を振り、俺は再び床に座り込んで次の客を待つ。

 

 

 座っている俺の目の前に帽子をかぶった生意気そうなガキ……シュンが怪奇な目でこちらを見ていた。

 

「お前何やってんの?」

 

「よう、シュン。見ての通りだ。親切心でスタングレネードを売ってやってるんだ。買うか?」

 

「安くしろ。500は高い」

 

「いきなり値引き交渉とはたまげたなぁ……」

 

 こ、こいつ……! 普通に済ました顔して安くしろって図々しいにも程があるだろ……。

 こういう時は『もう少し安くできないか?』とかこんな感じで交渉するもんだろ……?

 これって俺の偏見? 

 いや、しかし……あんまり安くすると俺が損をしてしまうので……。

 

「とりあえずカレルでも呼んで来い。俺が言えた事じゃないが、シュンよ。言っちゃ悪いがお前交渉には向いてないぜ」

 

「んだとぉ!?」

 

「どうどう落ち着け、値引きはできんが10個買ってくれるなら1個サービスしてやる。これでどうだ?」

 

「ちっ、わーったよ!」

 

「毎度あり」

 

 シュンに11個スタグレを渡してfcを受け取る。

 

 シュンを見送り、その後も見知った顔が来たので商売を続けて籠に詰め込んでいたスタグレは空になった。とりあえず在庫を補充しようと思ったが一休みしようかと思い、自販機へ向かう。

 

 後ろから誰かに袖を引っ張られた。

 

 

 誰だと思い振り返れば、袖を引っ張っていたのはエリックの妹だった。

 

「…………どうしたお嬢さん?」

 

「神機使いの事……教えてください」

 

 

 上目づかいが可愛いのだが、神機使いの事教えろってどういう事や? 

 何を教えればいいんだ? 

 

「私、神機使いになりたいんです」

 

「そ、そうか……。頑張れよ」

 

 ぶっちゃけ適合する神機が無いと、なるもクソも無いから俺がどうこうできる問題じゃないんだが……。それに適合試験通って初めてトレーニングとか座学を受けるわけで……。

 

「だから教えてください」

 

「…………いや、ほら……適合する神機が無いと神機使いの勉強だとかトレーニングだとかできないからさ……」

 

「適合する神機ってなんですか?」

 

 

 Oh……そこからか……。

 参ったね。取りあえず、一服したいな。

 

「OK、色々詳しく教えるよ。とりあえず、何か飲みながらのんびりやろうや」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 

 

 そんな訳で一服してからエリックの妹に神機使いについて色々教えている。

 そして今更だがエリックの妹はエリナと言う名前らしい。とても可愛らしい名前である。数年後が楽しみである。

 あ、俺ロリコンちゃうで? YESロリータNOタッチ。

 エリナは一生懸命俺の言った事をノートに書き込んでいる。途中で話が派生してアラガミの事とかアナグラの施設の事やら色々喋っている。

 

「ところでエリナ……もう20:00なんだが……」

 

 ぶっちゃけ晩飯抜いて説明していて腹が減ってるんだが……と言うか疲れて眠いのだが……いつになったらこの説明会に幕を下ろす事が出来るのだろうか……。

 

「あともうちょっと! もうちょっとだけ! おねがーいー!」

 

「ああ、分かったよ。分かったから肩を揺さぶらないでくれ」

 

 

 

 

 

「お兄さん! 今日はありがとう! また教えてねー!」

 

 お父さんに手を引かれながら無邪気に手を振るエリナに手を振りかえし、俺はソファーにドカッと座り込む。

 

「…………疲れた……。子どもの体力ってすげえな」

 

 きっとエリナは家に帰った後に今日学んだことを復習するんだろうな。俺にはできない芸当だ。

 

 今日も中々ハードな1日だったな。茶でも飲んで寝るかな。

 

 

「あ、ユウさん。偵察任務をお願いしたいのですが……」

 

「いいよ! こいよ!」

 

 限界を通り越しているが最早ヤケクソである。

 

 

 

市街地エリア

 

 22:00から任務だったので仮眠を取って出撃した。

 

 

 とりあえずアラガミを見つけ次第入電して今はヴァジュラの動向を追っている。

 小型しかいなかったのだが、大型の気配が近づいてきたの放っておく訳にもいかず、気配のする方へ来てみればヴァジュラが我が物顔で廃墟が並ぶ街を徘徊していた。

 しかし、今日は雲1つ無い満月で助かった。月が出ないと夜道はマジで暗い。そして真っ暗闇でライトを使うのはあまりよろしくない。

 

 

 ヴァジュラは大して目立った行動はしていない。オウガテイルに奇襲をかけて喰ったり瓦礫を食べたりしているだけだ。

 

『ガァ……』

 

「ん?」

 

 ヴァジュラが呻き声を上げながら奇怪な行動を始めた。

 

 

 

「ええ……」

 

 これを見たら誰もが困惑するだろう。これで困惑しないならそいつは中々図太い神経をしている。

 

 聞いて驚け、ヴァジュラがガーゴイル座りをしている。

 

 もう1度言うぞ。ヴァジュラがガーゴイル座りをしている。

 

 誰もが困惑するだろうが、事実だ。あの電気猫はガーゴイル座りをしているのだ。

 

 

『ガァ……ガガッ(で、でますよ……)』

 

「は?」

 

 今鳴き声と共に何か聞こえた気がするが気のせいだろう。俺は万物の声を聞ける耳なんて持ち合わせていない。だが、先ほどの幻聴とガーゴイル座りから俺は嫌な予感を感じた。

 

 1つだけ言える事はある。

 

 飯食ってる奴とその手の表現を不快に思う奴は今すぐ左向きの矢印を押すか、マウスのホイールを思いっきり回せ。

スマートな板で見てるなら、思いっきりスワイプしろ。

 

どうなっても知らんぞ! いいか!? 俺は忠告したからな!

 

 

 

 

『ガアアアアッ!(ああああああッ!)』ブツチチ

 

 

 

 

 

 俺は壁を背に体育座りをして自分に問う。別に難しい問いではない。だが、答えを導き出すまでにかなりの時間を有するだろう。それだけは確かだ。

 

 そして俺は今一度、自身に問いかける。

 

 

 

 

 俺はただ偵察任務に来ている筈なんだが、一体何を見せられているんだろうか。

 

 

 

 

 

 衝撃の光景からどれ程の時がほど経過したか。真っ暗だった空はいつの間にか明るくなっている。

 

 解は導き出せなかった。だって、なんでこんな事で悩まねばいけないねんって結論に至った故。

 

 だが、各地で見る鍾乳石のように見える物体はアラガミの排泄物が硬化したモノらしいので決定的な瞬間を見る事が出来てしまったと言う訳だな。

 

 

「いや、嬉しくねえよ。見たいとも思わねえよ」

 

 

 無線に連絡が入り、俺は応答する。

 

『ゆ、ユウさん!? ご無事ですかッ!? 腕輪のビーコン反応は有ったのですが、何度呼びかけても応答が無かったので……!』

 

「ああ、済まない。色々あってな。偵察に関しては問題ない。今のところヴァジュラしか確認していない。一旦帰投する」

 

 

 

 帰還用のゲートをくぐってエントランスに着くとリンドウさんとアリサを除いた第1部隊員がブリーフィングを行っていた。

 

 邪魔になるとまずいな。

 

 自販機でジュースを買い、誰も通らないであろう場所で手すりに寄り掛かって特等席(ソファー ) が空くのを待つ。

 ああ、炭酸飲料うめえ……。いくらでも飲めるぜ。

 

 第1部隊の話を盗み聞きすると、これから市街地エリアへヴァジュラの討伐に行くらしい。

 確実に俺にとんでもない光景を見せてくれたヴァジュラだろう。

 悲しいな……。見られたくない所を見られた挙句の果てにアラガミスレイヤーとベテラン2人と期待の新人にぶっ殺されるとは……。まあ、これも自然の摂理よ。

 

 

 第1部隊が解散していくのを見ると俺は空いたソファーに腰を下ろしていつもの如く寛ごうかと思ったが、任務後は報告書を提出しないといけないので書類を広げてペンを取り出して記入を始める。

 まあ、書く事なんてどんなアラガミに遭遇しただとか、民間人が襲われていたので手助けしただとか、体調に不良は無かったとか、後は俺には関係ないが神機に不調は無かったかだとかそんなもんだがな。

 

 偵察任務の報告書は何処のエリアのあの地点が崩落してああなっただとか、アラガミが根城にしているとか書くものが多い。ただアラガミを見つけて入電するだけじゃなくて戦場の状況も細かく書かないといけない。書類を1枚1枚片づけていると俺の横に誰かが座り込んで書類の横に見覚えのあるノートが置かれた。

 

「お兄さん! 今日も神機使いの事教えて!」

 

 エリナが目を輝かせながら座っていた。

 

 ああ、報告書書いたら寝ようと思ったけどそれは叶わぬ願いになりそうだ。

 今日こそは夜に任務が無い事を祈ろう。

 

 

「書類書き終わったら教えてあげるからちょっと待っててくれ」

 

 それだけ言って俺は書類に向かってペンを走らせた。

 

 

「よし、終わりっと。受付の人に書類出してくるからちょっと待ててくれ」

 

「うん!」

 

 書類を纏めてオペレーターに提出する。今日はヒバリちゃんではなく、男性のオペレーターだ。

 

「これ、さっきの任務の報告書だ」

 

「確かにお預かりしました。お疲れ様です」

 

 オペレーターに挨拶だけして、エリナの元へ戻る。

 

 

 

 

「まあ、近距離の立ち回りについてはこんなもんだな」

 

「遠距離の立ち回りはどうするの? 私が神機使いになる頃には新型神機が普及してるかもしれないんだよね? それなら遠距離の立ち回りも教えて欲しいの」

 

「悪いが、遠距離は俺には教えられない。その内、腕の良い先生を紹介するから勘弁してくれ」

 

 ジーナ辺りなら射撃のプロフェッショナルだから暇な時間があるか聞いて頼んでみるか。カレルとかだと面倒くさがって絶対引き受けねえだろうしな。金を払えば別だろうがいくら持っていかれるか分かったもんじゃない。

 

 

「訓練って見学はできるんですか?」

 

「見学?」

 

 まあ、別にトレーニングルームの申請さえすれば訓練はできるが……いくら大富豪の一族とはいえ見せてよいのだろうか? 

 いや、ばれなければいいか。

 

「分かった。特別に見せてやる。でも、誰にも言うなよ? ばれたら後で兄ちゃんが怒られれちまうからな」

 

 

 ターミナルで申請をしてエリナを連れてトレーニングルームに入り、エリナはオペレータ室から訓練を見てもらう事になる。

 

 近接型神機のモックアップを用意して構える。

 

 俺の本来の神機はショートブレードだ。

 他種ブレードに比べて格段に小型かつ軽量で設計された刀身で手数の多さ、攻撃スピードは全ブレード中ダントツのピカ一だ。

 機動力に極振りしているステータスを持つ俺とは相性抜群の神機だ。

 

 ブザーが鳴ると殺風景のトレーニングルームが市街地に代わり、オウガテイルやコンゴウのダミーアラガミが姿を現して襲い掛かって来る。

 

 オウガテイルの飛び掛かりを躱し、踏込と共に神機を振って首を斬り落とす。すぐさまその場から動き、次の標的へ距離を詰めて2匹目の片足を切断して頭部に神機を刺し入れる。

 

 そして高く跳躍して前方へ神機を構え、一直線にコンゴウへ滑空して背中に突き刺さる。

 

 暴れるコンゴウに振り落されないように神機を抜き、後頭部へ突き刺して斬り上げ、その勢いを利用して再び空中へ。

 今度は空中ステップを連続で発動して、宙を浮くザイゴートを斬り裂く。再び神機構えて地上のオウガテイルにダイブして突き倒す。

 

「ッ!」

 

 背後から気配を感じて振り向きながら勢いに任せて神機を振って、殴りかかってきたコンゴウの拳を斬り裂く。

 

 

 片腕を潰されてもしぶとくもう片方の手で殴りかかってきたが、拳を躱して懐に潜り込んで突き蹴りを腹に打ち込んで吹き飛ばす。

 

 ダミーアラガミなら攻撃を弾けるのだが……実際のアラガミは訓練用のダミーとは違って力も桁違いなので実戦じゃそんな芸当はできないだろう。

 ユウナの奴、どうやってアラガミの攻撃を弾いているんだろうな……。

 正直、あいつの中にいるとんでもないモノが関係しているとしか思えないわ。あれこそ、生まれ持った天武の才と言うやつかね……。

 

 思考に耽っている間に次の標的が向かってくる。こちらも距離を詰めて神機振って返り討ちにする。

 

 被弾しないように立ち回っている内に訓練終了のブザーが鳴って夕日に照らされた市街地は殺風景なトレーニングルームに戻った。

 

「ま、訓練はこんな感じだな」

 

「すごい! 凄いよお兄さん! すごくかっこよかった!」

 

「ははっ、ありがとよ」

 

かっこよかった……ね……。できればエリックに言ってやってほしい言葉だ。

 

 

「さて、少し休憩でもするか」

 

「うん!」

 

 

 自販機で買ったジュースを飲みながらエリナにどうして神機使いになりたいのか尋ねると

 最初はエリックが死んだなんて信じようとしなかったが、悲しむ父親を見てやっとエリックの死を受け入れた。

 エリックの様な神機使いになって、アラガミの居ない世界を作りたいと思い、こうして神機使いの勉強を始めたらしい。ちなみに父親には内緒で勉強しているらしい。

 エリックが聞いたらどう思うだろうか?

 

 大事な妹にそんな危険な事をはさせられないと言うだろうか? 

 それともエリナの夢を応援するだろうか? 

 

 俺はエリックではないので何も言えない。ただ、1人の人間が俺に聞いてきたので俺も1人の人間として答えるだけだ。

 エリックよ、別に俺の事を恨んでくれても構わないぞ。エリナが危険な道を歩むのを止めなかったからな。

 




エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ(11)

裕福そうな少女だ。何を隠そう、あの上田……じゃなくてエリック・デア=フォーゲルヴァイデの妹君である。
最愛の兄貴を失ってとても気の毒であるが、それが当たり前の世の中だ。
しかしやはり、まだ幼いこの子には本当に酷である。
それでも前を向いて進む決心……実に素晴らしいものだ。
頑張れエリナ! 応援してるぞ!



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脆い希望

windows 10が使いこなせない。これは慣れるのに時間がかかるゾ(確信)


 突然、帰還用のゲートが開いてそちらを見れば、俺は驚いた。

 

「ッ!?」

 

 まず、ボロボロになったソーマ。あのソーマがボロボロになっているなんて余程の事だ。

 そして同じくボロボロになりながらもアリサを背負っているユウナ。

 精鋭第1部隊のサブリーダーを務めているサクヤさんが、覇気の無い顔でフラフラした足取りで、こりゃまた手酷くボロボロのコウタの肩を借りて出てきた。

 

 

「え、どうしたお前らッ!?」

 

 慌ててソファーから立ち上がって第1部隊に駆け寄る。ソーマ、ユウナ、コウタは顔を伏せてサクヤさんは涙を流し、そしてアリサも涙を零しながら『ごめんなさい』と呟いている。

 

 後ろからドタドタと慌ただしく足音が響く。

 

「すいません! 退いて下さい! すぐに医務室へ!」

 

 医療班にアリサは担がれ、サクヤさんも肩を借りてエレベーターへ。

 

 唖然としているエリナの元に戻る。

 

「悪いけど、今日の勉強はここまでだ。今日はもう帰りな。また今度な」

 

「う、うん」

 

 状況が状況、幼い少女にだってただ事ではないと察する事ができるだろう。

エリナを見送ってコウタの元へ向かう。

 

 ソーマとユウナはそこまででもないが、コウタは傷だらけで服も泥だらけだ。

 俺はコウタに肩を貸して医務室まで同行する事にした。

 

「全く、無茶しやがって。まずは治療だ」

 

「あ、ああ。わりぃ……」

 

「ソーマとユウナもだ。おい、ソーマ。手当ぐらい受けてけ」

 

 

 ユウナは素直に頷き、ソーマは舌打ちをしてそのままエレベーターへ向かう。

 

 

 ソーマは案の定、途中で消息不明になって結局3人で医務室へ。

 

 

 アリサは集中治療室へ、サクヤさん別室に。

 

 そして手当を受けたユウナとコウタから事の経緯を聞いた。正直聞く前から嫌な予感がする。重要な人間が1人足りない故。

 予感は外れていてほしい。だが、そんな望みは絶たれた。実に脆い希望とはこのことをいうのだろうか。。

 

 

 リンドウさんが脱出不可能な孤立した状況下に追いやられ、そして新種アラガミの群れに襲撃された。

 リンドウさんが撤退命令を出して命辛々離脱したがリンドウさんは残って敵と交戦中。

 

「俺達と入れ違いで他の部隊が救援に向かっているって……」

 

 コウタが暗い声で言う。

 

「そうか、こればかりは祈るしか出来ねえな、クソッ」

 

 俺も神機があれば今すぐにでも……。

 くそ、所詮は戦いに敗北した負け犬である俺にはどうする事も出来居ねえってのか……。

 何の為に此処に来た、何の為にこの世界で生きるための力を得た……?

 恩人の1人もロクに救えないとは…………情けないにも程がある。

 

 いや、無力を嘆いても何にもならん。もしかしたらリンドウさんも何とか離脱しているかもしれねえ。周囲を手当たり次第に探してみるか。

 

「とにかく、良く生きて帰って来た。俺もちょいと周辺の探索に行ってくる。逃げ足の速いリンドウさんの事だ。離脱してその辺ほっつき歩いてるかもしれねえ」

 

「ユウ……」

 

「とにかく、今は休めよ。後は引き受けた」

 

 

 医務室を出てエレベーターに乗り、エントランスに出ると俺は一気に出口へ駆けてアナグラを飛び出し、外部居住区を突っ切って装甲壁を越えて壁の外へ。

市街地エリアへ駆けた。

 

 

 

 リンドウさん、一体何処にいるんだ……。

 

 気配を探ろうにも強力な気配がウジャウジャしており、その中で1人の人間の気配を探るのは困難だ。

 この強力な気配……明らかに大型種、だが並の大型とは違う。何度か遭遇した事がある接触禁忌種と同等の気配。おまけにこんなに数が居るとはな……。

急いでリンドウさんを見つけないと……。

 

 

 

 ある程度近くにいるなら感じ取れる筈――ッ!

 

 突然、影に覆われた。

 

 咄嗟にその場から身を投げる。

 

 先程まで立っていた場所に巨大な氷柱が突き刺さり、冷気が辺りへ漂う。

 

 そして氷柱の上から何かが降ってきて、氷柱は砕け散って白い霧が立ち上る。霧の中から、地下街で見たあのアラガミが現れた。

 アラガミは俺を睨み、雄たけびを上げた。

 

「この人面猫……テメエなんぞに構ってる暇はないんだが……なッ!」

 

 対アラガミ用ナイフを抜き、構える。

 

 今の雄たけびで仲間が集まってくるかもしれない。

 いや、待てよ……好都合だ。これなら救援部隊と捜索隊も負担が軽くなる。このままできる限りこいつらをおびき寄せて何とか市街地から離れたエリアまで引きつけるか。

 

 挑発フェロモンを使い、俺は人面猫に中指を立てつつ移動して引きつける。

 

 

 

 

 人面猫の視界に捉えつつ駆け、周囲に意識を向けて他のアラガミの気配がする場所へ向かう。

 

 人面猫は冷気を放出し、青色に煌めく塊が俺の方へ飛んで来る。当たる直前、ステップで一気にスピードを上げて回避する。

再び向かってきた塊を跳躍で凌ぐが、次々と向かってくる冷気の塊。態勢を変え、軽く跳び、空中で体を捻り、時にはスライディングで体勢を低くして躱す。

 

 

 

『グルルッ!』

 

 人面猫は小賢しく動き回る俺に怒ったのか、今度はマントを光らせ、空中で俺の身の丈ほどある氷柱を数えきれないほど生成して一斉に、そして絶え間なく飛ばしてくる。

 

「チッ!」

 

 先程の塊よりもデカい……引きつけずに確実に躱すべきか……!

 飛んで来る氷柱を走りながら避けるが、これでは埒が空かない……。 

 

 道の先にそびえたつ廃墟からもう1匹が姿を現した。もう1匹も俺に気付いて駆けてくる。

 

 他の気配はほぼ逆の方向か……!

 何とか後ろの奴を躱して行くしかねえか。

 

 次に飛んできた氷柱を避けつつ、方向転換して氷柱の嵐に真っ向から向かう。

 ジャンプして氷柱の側面に着地、そして再びジャンプ。足が冷気で凍るよりも早く跳び、次から次へと氷柱を渡って人面猫へ近づく。

 

『ゴォッ!』

 

 人面猫が猫パンチ、スライディングでパンチを潜り避けて顔をナイフで斬りつけるが容易に弾かれる。

 

 やはり硬いか……!

 体に張り付いてマントの下に潜り込んでナイフを突き刺すと、すんなり刃は入って行った。

 どうやら胴体は斬撃でも通りそうだ。

 人面猫が吠え、周囲の気温が急激に下がる。ヤバイと頭が訴え、同時に思い切りその場を蹴って距離を取る。背後で冷気が放出されて冷たい空気が首を伝って背中へ回る。

 

 そのまま走り続けて3体目の元へ向かう。

 

 2匹を確認しつつ走るが、2匹は駆けながら冷気を放出して巨大な氷柱を作っていた。

 

「あいつら、互いの冷気を合わせて…!」

 

 俺は制服の上着を脱ぎ、走りながら巨大な氷柱を警戒する。

 

『『ガアァッ!』』

 

 2匹は共に咆哮を上げる。すると巨大な氷柱は一直線にこちらへ飛んできた。

 

「喰うだけの獣にしては中々……だが……!」

 

 高く跳躍して巨大な氷柱の上へ。上着を踏みつけながら巨大な氷柱に乗る。

 

 

「ヒュー。楽ちんだぜ。風も中々……おっと」

 

 

 上着が徐々に凍っていく。上着が凍りつくギリギリまで氷柱の上で待機しながら後ろの2匹を見るとまだ俺を追ってきている。

 

 廃墟の並びにチラッと3匹目が見えたので思い切り息を吸い込み、指を加えて指笛を鳴らす。3匹目が音のこちら側へ向かってきたのを確認する。

 

 そして飛んでいた氷柱が地面に擦れ初め、制服も凍っていないところがあと僅か。

 その場から思いっきりジャンプして地面に着地し、そのまま走り続ける。

 

 

 3匹目も合流して俺は3匹の人面猫に追い駆けまわされている。

 

 3匹は口に冷気を溜めこんでレーザーのように吐き出してきた。

 

「うおッ!? あぶねッ!」

 

 紙一重で回避する。レーザーが直撃した箇所は凍りつき、綺麗な氷塊ができていた。あれは何があっても食らってはいけない攻撃だな。

 

 

「まずいな。あんなものに被弾したら、もれなく芸術sん……もれなく芸術s、品に仕立t……芸術品にされる」(妥協)

 

 

 

 

「ん?」

 

 一瞬、何かが上空を通ったような……。

 

 

 上をちら見すると後ろの3匹とは別の個体、4匹目がいくつかの氷柱を作り出してこちらに飛ばしてきていた。

 

 

「ヌオオオオッ!? 秘義! ジグザグステップゥ!」

 

 説明しよう! 読んで字のごとくのステップである! 以上!

 って、こんなクソ忙しいときに解説なんてさせんなッ! 

 え? 別に頼んでない? それは失敬。

 

 

「しかし……! ぬおっ! 流石にッ! ぬうん! 4匹相手はッ! きついなッ!」

 

 冷気の塊、氷柱、冷凍ビームと次々に放たれる攻撃をすべて回避しながら走る。流石にきつくなってくる。思ったより遠距離攻撃が厳しいな……。引きつけられるのは精々5匹までか……!

 正面には廃墟、丁度窓ガラスがある。

 

「ッ! しゃらくせぇッ!」

 

 意を決し、顔を腕で覆いながら窓を突き破って中へ入り、そのまま横穴を抜けて外へ。

 

 人面猫共は廃墟をものともせずに崩しながら追ってくる。

 次に目に留まるのは食い荒らされて所々に穴が開いている高層ビル。

 

 高層ビルの壁を駆け上り横穴に入って内部から屋上を目指す。

 

 

 

 

 

 階段を登ろうとした瞬間、危険を感じて屈む。

 

 轟音と共に冷気が吹き荒れ、崩れて落ちていく壁の向こうに人面猫2匹が冷凍ビームをあちこちに放っていた。

 

 轟音と共に揺れが襲い、まともに歩けない。どうしようか思考していると床が崩れ落ちてそのまま下へ落ちていく。

 

「クソっ!」

 

 空中ステップで大きめの瓦礫に向かい、落下する瓦礫から次の瓦礫へ。崩れ落ちて行くビルの瓦礫を伝いながら昇っていると、上の階から人面猫が飛び出しこちらに降りてくる。

 先回りしていたか……遠距離でビルを崩す役と、接近してくる役に分けたか……!

 

 スタングレネードを取り出し、ピンを引き抜いて投げつけると爆音と共に光を放つ。

 

『ガアアッ!?』

 

 人面猫は目をやられ、体勢を崩してそのまま落ちてくる。

 そして人面猫の体に飛び乗り、体を足場にしてジャンプをし、ビルの内部に再び飛び込む。

 何とか凌いだかと一息つこうとすると、煩い音が壁の向こうから聞こえ、耳を澄ますと音はすぐ傍まで来ていた。慌てて壁から離れる。

 

 壁を突き破って1匹が姿を現した。

 

 俺の背後で壁と床が崩れ落ち、断崖絶壁になる。

 

 目の前の獣が前足を振り上げ、俺は獣の懐へ飛び込んで前転して転がる。

 前足が床を崩し、獣は態勢を崩す。

 

 咄嗟に鉄骨が視界に映り、無理やり引き抜いて獣の後ろ脚付近の床に鉄骨を思い切り突き刺して蹴りつける。

 鉄骨は床を崩し、獣諸共落ちていった。

 

「へッ! 下で寝てろ! うおっ!?」

 

 ビルが先程よりも揺れ、床が角度をつけ始めた。

 どうやら、ビルが斜めに倒れ始めているようだ。

 

「げっ!? 流石にやべぇか!?」

 

 確か、ビルの傍は地盤が崩れて崖になって居た筈……。このまま倒れて丁度そこの地盤が緩かったりしたらビルが滑りながら落ちていって真っ逆様だ。

 

 

 

 屈んで衝撃に耐えながらビルが倒れるの待つ。

 

 

 重力に引っ張られて壁が床になる。

 真横になったらしいな。一回外に……。

 

 天井の穴から外に出ると、その先には奴らが待ち伏せしていた。

 

 奴らは俺を見つけると一斉に駆けだしてくる。すると、再び轟音と共に地面――ビルが斜めになっていく。

 

 まさか、今地盤が崩れた系? 

 そして奴らは普通に向かってくる。あいつらマジでしつけえな!

 

 

 俺は奴らに背を向けて下り坂を走り出すが、奴らの氷柱や冷凍ビームが襲いかかってくる。おまけに瓦礫やがけ崩れによる落石も降りかかってくる。

 足場にも注意しながらなんとか攻撃を凌ぐが、途中で角度が更に急になって獣たちはバランスを崩して転び、そのまま滑りながら落ちてくる。

 

 俺もバランスを崩して尻で滑りながら落ちる。先は切り立った崖になっており、対アラガミ用ナイフを抜く。

 

 摩擦でケツが熱い。

 

 このままじゃケツに火がついて悲鳴を上げて爆走する事になる。

 

 ギリギリの所で地面にナイフを突き刺して落ちないように踏ん張る。瓦礫と共に人面猫共は無様に崖下へ落ちて行く。

 

 そして揺れが止んで俺は立ち上がる。

 すぐに退避しようと崖に背を向けた。

 

 

『ガアッ!』

 

 背後から鳴き声と共に気配を感じ、その場で高く跳躍する。

 

 崖を登って来たのか……獣が1匹だけ上体を乗り出し、前足の爪が俺の居た場所の空気を切る。

 そのままナイフを構え、獣の顔に着地と同時に目玉に突き刺して獣から飛び降りる。

 

『ガアアアッ!?』

 

 獣は前足を滑らせながら足掻き、前足で地面にしがみ付こうとするが爪は地面を抉り、更に崖が崩れただけだった。

 そのまま獣は悶絶して悲鳴を上ながらが崖下へ落ちて行った。

 

 

「ふう、なんとかなったか。とりあえず、暗くなるまで何とかリンドウさんを探してみるか」

 

 

 リンドウさん、どうか無事で。

 

 

 その後、夕日が完全に沈むまで俺は市街地エリア周辺を探索したが、リンドウさんは愚か人影1つも見つからない。今日はここまでだ。

 明日、任務や仕事が入らなければまたリンドウさんを捜索しよう。

 




明日は大晦日ですね。今年も色々悪い事ばかり起きたので来年こそは良いことがあって欲しいですね。
皆様、良いお年を。


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うそ……俺のIQ、低すぎ……? 

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。

話は変わりますがいつの間にかUAが3900突破してて驚きました。
今年最初の驚きでもあります。



 アナグラに戻ると、俺を待ってくれている人がいた。

 

 その人は封印された腕輪を右手首に嵌め、実に見事で豊満な果実を2つ胸につけている人だった。そう、誰もが恐れる雨宮ツバキ教官だ。

 

「私の言いたいことは分かるか?」

 

 ええ、分かります。分かりますとも。でも俺はそれを受け入れる訳にはいかないのです。ですからそれなりの抵抗としてあえて教官の言いたい事は当てません。

 しかし、この勝負はパスできない。ならば……有意義な情報で話を逸らすまでだ……‼

 

 受けてみろ、結婚できなさそうな20代ランキング第1位の雨宮ツバキ……‼

 

「新種アラガミについてですね。顔は堅いですが、胴体なら斬撃が通りますよ。あと氷柱撃ってきたり、冷凍ビームも吐いてきま――『違う馬鹿者』

 

「私は以前、次違反をしたら問答無用で懲罰房に放り込むと言ったな? そして私は一言も『雨宮少尉の捜索に向かえ』とは言っていない。勝手に判断した上での身勝手な行動、これは違反と呼べるのではないか?」

 

 あ、めっちゃ怒っているぞこの人。こうなってしまっては俺が取るべき行動は1つ、土下座と共に謝罪をして罰を受け入れる事だ。

 知ってるか? 自首すれば刑罰が軽くなることがあるんだぜ……? 常に最善の道を探すことを怠るなって世話になった人にも何度も言われた。

 

「誠に申し訳ございません。どうぞ思うが儘に……」

 

 両膝を突き、額を床に擦り当てて誠心誠意の態度を示す。

 

 そして俺は懲罰房にぶち込まれた。南無。

 

 

 

 

 昨日、俺は懲罰房に入れられ冷たいベッドの上で一晩を過ごし色々あって今は机に向かい、反省文を書いている所だ。

 無駄に枚数を指定されてやる気をなくした俺は心にもない事を書き並べていた。

 

 果たして刑罰は軽くなったんですかね……? そもそも俺の昨日の行動は自首ではなく自認なのでは……?

 うそ……俺のIQ、低すぎ……? 

 

 先程、人面猫に関しての情報を聞かせろとの事で拘束されたまま雨宮教官に別室へ連れて行かれた。傍から見れば尋問紛いの事になりながらも、俺は奴らの攻撃手段などについて詳しく説明した。ちなみに先日人面猫と交戦したユウナ、コウタ、ソーマからも情報を聞き、俺の情報とも照らし合わせて解析していくとの事。

 

 そして、俺は勝手に心の中でここまで有意義な情報を持ち帰った恩賞に懲罰房から出してもらえるだろうと錯覚していたが、退出際に雨宮教官からB4サイズの紙を5枚手渡され、俺は絶望のどん底に落ちた。

 

 

 反省文を書き上げ、休憩しようとリラックスをしていたら遠くから足音が響き、俺は慌てて机に向かう。徐々に足音は近くなり、気配が俺の牢の前で止まった。すぐに誰だかわかった。この強すぎる気配を放っているのは2人、そして2人のうち1人は絶対にこんな所に足を運ばないと俺は分かっている。

 

「ユウナか。おはようさん」

 

「うん、どっちかと言うと……こんにちはの時間だけどね。ユウ」

 

 そういや牢の中に時計なんてねえから時間なんて分からねえな。起きてしばらく残った眠気と死闘を繰り広げていたら雨宮教官に連れ出された故。

 

「はい、差し入れ。皆には内緒ね?」

 

 ユウナが袋に入れたプリンを手渡してくれた。

 

「ああ、助かるぜ。実は何も食ってなくてな」

 

 早速蓋を剥がして、スプーンを突っ込んだら根元からプラスチックのスプーンは折れた。

 

「あッ……」

 

「マ?」

 

 ユウナは呆気にとられ、俺はマジかよ思いつつ無残なスプーンを見つめた。

 そしてユウナが、換えのを持ってくると言い出したが、それを制止して護身用ナイフで掬って器用に食べる。

 

「器用だね……。ちょっと行儀悪いけど……」

 

「男ってのはそんなもんさ。ごちそうさん」

 

 食べ終わると、ユウナが容器を捨ててくれるとの事なので渡した。

 

 

「リンドウさんの行方に関しては、今正規の捜索隊が出てるから報告を待てって指示が出てるよ」

 

「そうか……雨宮教官も辛いだろうな。たった1人の肉親なんだ。一番飛び出して探しに行きたいのはきっと教官だ」

 

「うん……」

 

「そう言えば、サクヤさんとアリサは?」

 

 リンドウさんの次にあの2人が気がかりだ。

 ましてや、サクヤさんはずっとリンドウさんの事を愛していた筈だ。もしリンドウさんが命を落としたら、後を追いかねない。

 

 そしてアリサだ。あの怯え様というか……何と言えばいいか……。ただただ、異常だ。

 このご時世だ。両親をアラガミに喰われたなんて珍しい話じゃない。だが、謝罪の言葉を呟いていたあたり、自分の責任だと感じているのだろう。そして錯乱している間にリンドウさんを孤立状態にしてしまった。彼女は落ち着つけるだろうか……。

 

 ソーマは……また強がっているのだろうか……。

 

 しかし、ユウナとコウタもここが踏ん張りどころか。今まで自分たちの道を示していた隊長が居なくなり、部隊はバラバラ。

 そもそもな話、アラガミとの終わりなき戦い。これはとても不公平で不利な戦いだ。

 

 考えてみれば、この時代の戦士はあまりにも若すぎる。ユウナとコウタも自分がしっかりしなければと思っているだろうが、本来なら戦場なんて知ってはならない年なのだ。友達と学び、競い、笑い合う年頃の筈だ。赤い紙がばら撒かれていた時代じゃあるまいし。

 

 誰も死なせたくないから他者を遠ざけるソーマ。『死ぬのは自分一人で十分』なんて考えができるのは大したものだ。1人の人間として尊敬できる。

 だが、そんな考えができてしまうのも悲しい事だ。

 

 アリサも可愛そうだな。幼い頃に両親を失った子どもは何時の時代にもザラにいるが、只でさえその傷を抱えて生きなければいけないのだ。そこにアラガミとの生存競争。まるで出来レースとも言わんばかりに仕組まれている。

 

 俺には愛する人なんていなかったから何とも言えが、辛いのは確かだろう。世界で1人しか居ない唯一の肉親。世界で1人しか居ない唯一の想い人。

 手を伸ばしても救えない悔しさに後悔。俺には一生理解できないかもしれん。

 

 

 ああ、戦友たちよ。俺達がそれぞれの信念を持って戦い、その結果得られたもの……否、せめて残す事が出来たモノは……こんな悲しい世界しかなかっただろうか?

 結果論かも知れんが……あの時、俺達があの結果を変えていたら……もしかしたらアラガミは出現せずに平和な世界になっただろうか? ただ何処かで歯車を狂わせれば何もかもが変わっただろうか?

 

 こんな世界にあの戦いの敗北者が1人取り残されて何になる? 

 俺が苦労するだけだ。疲れるだけだ。

 

 正直、叫びたいところだ。置いて逝くなと、何故俺が此処に居るのだと。

 

 だが、それは俺にとっても彼らにしても……弱さだ。

 俺達は強く在らないといけない。愛を捨てて戦いに生きる道を選んだのだから。

 化け物に囲まれようが、満身創痍で動く事も出来ない絶望的状況に陥っていようが決して弱さを晒してはならない。否、弱さなどあってはならない。

 

 生き残らないといけないんだ。

 

 名誉ある戦死を遂げても、それは俺からすれば敗北だ。どんなに無様に地に倒れようが、尻尾巻いて逃げ出そうが生きているなら勝利だ。リンドウさんだって言っていた。生きてれば万事どうにかなる。

 まだこの国が日本と呼ばれていた頃は遠い昔じゃない。あの戦いの後も生き残った連中がどうにかしてくれたんだろ。

 ほら、生き残る事の重要性が証明された。

 

 

 

「ユウ? どうしたの、難しい顔……って言うより怖い顔だけど」

 

「いや、気にするな。ちょいと考え事さ……」

 

 

 よりにもよってリンドウさんのような人が居なくなり、新種のアラガミが出てくるとは俺の意識が過剰かもしれんが、仕組まれているとしか思えない。

 いいだろう。何処の誰だか分からんが、上等じゃないか。

 人間だろうが神様だろうが、真っ先に煽り倒してやる。裏で小細工ばかりして自力じゃ何もできない臆病者だとな。

 

 そうこう考えている間に、もう1人の気配が近づいてくる。何度も俺の様な問題児を絶望のどん底に落としてきた主の足音だ。俺には分かる。

 

「神薙、ソイツの牢の前でなにをしている?」

 

「あ、雨宮教官……えーとっ」

 

「神機も無いのに無茶するなと優秀な後輩からありがたいお言葉を頂戴していたんですよ」

 

 ユウナに対してちょっとしたフォローだ。プリンの礼もあるしな。

 

「まあ良い。ユウ、出ろ」

 

 ただそれだけ言って牢を開けた。

 

「もう釈放ですか? 流石に早いのでは……」

 

「現場は常に人で不足だ。いいからさっさと出ろ」

 

 了解と言って牢から出る。軽くストレッチをして伸びをする。ずっと反省文と格闘していたせいで体が鈍ったようだ。まあ、まだ鈍るだとかそんな年じゃねえけどさ。

 

「14:00に執務室へ来い。頼みたい仕事がある。ついでに反省文はその時に提出しろ」

 

「了解しました」

 

 敬礼を返すと雨宮教官は去っていく。俺もユウナと共に独房エリアを出てエントランスへ出る。

 

「それじゃ、私もこの後任務があるから」

 

「ああ、差し入れありがとよ。気を付けてな」

 

 ユウナとも別れ、俺は時間になるまで例の島について榊博士と話をしようと思ってラボラトリへ向かった。

 

 

 

「それで今のところは特に問題は無いと言う事かい?」

 

「ええ。これ以上調べるなら……洞穴の中に入っていかないといけないですわ」

 

 榊博士が顎に手を当てながら唸っているの向かいで俺は茶を飲みながら溜息を吐く。

 

 正直、あの島を調べている場合じゃなくなったよ。今は極東のエースが消息不明、そして追い討ちを掛けるように新種が出現。それに禁忌種も以前より更に見かけるようになっている。

 

「状況が状況。それに雨宮教官から仕事が入る予定なので、しばらくはあの島については保留が最適じゃないですかね」

 

「ああ、確かにね。しかし、参ったね。君に頼みたいことがあったんだが、先日ツバキ君と打ち合わせをした時、既に先約を入れていると聞いていたから代わりに誰に頼んだものか……」

 

 この人からの頼まれごとは中々に厄介だ。今回ばかりは雨宮教官に感謝だな。

 まあ、まだどんな仕事か聞かされていないので、もしかしたら雨宮教官からの方が厄介かもしれん。まあ雨宮教官から頼まれた時点で拒否権なんて無いだろうがな。

 

「とりあえず、時間も近いので行きますわ。まあ、ほんの力添えぐらいなら俺にもできるかもしれないので一応聞いてください」

 

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

 

 

 ラボラトリを後にして役員区画へ向かい、雨宮教官の執務室へ向かう。

 

 

 




今年の大晦日は驚いたぜ……GE3でフレの認定手伝っていたらアメン・ラーの捕喰攻撃が飛んできて上手く回避して誰も喰らわなかった筈なのにあいつは次の瞬間バーストしやがったんだ……。俺が何を言っているのか分からねえと思うが俺も何が起こったのか分からないぜ……。
その時はフレはスカイプ越しにこう言葉を紡いだ。

「はえ~補喰攻撃が成功したと思い込んでバーストしたんすね~」

こんなバグに遭遇したら困惑不可避なんだよなぁ……。


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勝負の女神ってのはイカレタクソBBAだ

台詞の行間って空けた方が見やすいのだろうか、それとも閉じた方が良いのか迷う。


 

 ラボラトリを後にして俺は雨宮教官の執務室の前に立つ。

 さて、一体どんな仕事を頼まれるのか……面倒事じゃありませんように……。

 

 願掛けをする。まあ、俺は無神論者だがな。祈って何とかなる世の中なら誰も苦労はしない。

 

 駄菓子かし、違う。駄菓子なんて今のご時世そう簡単に食えるわけないだろう! いい加減にしろ!

 

 だがしかし、本当に万が一マジで面倒なことだったら……神よ、お前を〇す……!(純粋な殺意)

 

 

 

「失礼します」

 

 声を掛けてから戸を開き、中に入る。

 

「来たか。ああ、そこで良い。すぐに済む」

「それで仕事とは?」

 

 早速本題について聞く。ぶっちゃけ立ちっぱなしは疲れるから早く座りたいのだが……まあほら……目の前に上司が居たらリラックスできないじゃん? 

 だからいつもの特等席で寛ぎたいわけよ。

 

「新種アラガミの動向を追い、長期的に調査をしてもらいたい」

 

 マジで? めっちゃ厄介事やん。またあの人面猫共と鬼ごっこしないといけないの? 神よ、やはりお前は処す。菊門広げて待ってろよ。

 しかし、ちょっと流石にこれは予想外……何とか辞退できないものか……。

 

「何故、階級も低く実績のない俺を……?」

 

 そう、『長所が無い俺にこんな仕事頼んでも無理ですよ』と遠まわしに伝えるまでだ。俺と全く違う価値観を持つ雨宮教官が俺の意を汲んでくれるかは別の問題だが……。

 

「お前の能力に関してはある程度把握している。それに、お前はごく少量の偏食因子を摂取すれば平気且つ長期間は活動できると榊博士から伺っている。お前が適任だ」

 

 確かに携行型の偏食因子ぶっこめば数週間は余裕で持つな俺。自分で思うのはあれだが結構野戦向きな肉体をしている。

 メディカルチェックとか忙しいから全く受けないし、ぶっちゃけ一々投与もめんどくさいから博士に頼んで携行型を貰ったんだよな。

 大体感覚で摂取するタイミングが分かるからその時に自分で腕輪の穴にプスッとやってる。

 

 大量に携行型をもたせりゃ長期間の調査もできるな。確かに適任だ。ここまで言われちゃ言い訳並べても無駄だろうな。それに長期で出れるなら、任務のついでにリンドウさんを探す事も出来る筈だ。

 

「分かりました。その仕事、確かに引き受けました」

「よろしい。早速明日から調査に出発してもらう。明日、12:00よりエントランスにて担当オペレーターより、詳細を聞きブリーフィングと準備、13:00に出発してもらう」

「了解」

 

 俺は敬礼をして執務室を後にする。

 

 

 

 

 さて、明日から忙しくなるな。

 あ、そうだ。制服の上着を支給申請しないとな。あの人面猫の氷柱に乗っかってサーフィンしてたから足が凍らないように足元に敷いていたのだが、見事に氷漬けになった。

 なんだかんだ使える物はフル活用するべきだろう。消耗品なら尚更だ。どうせボロボロになってきてるからその内取り替えようとは思っていたので丁度いいだろう。

 

 ターミナルに接続して手続きをする。ついでに明日の任務に役に立ちそうなものも無いかチェックするか。あんまり高いのはNGだがな。

 階級や実績に応じて金額の上限が決まっているが、無償支給でという素晴らしいものがある。まあ、上限超えれば自己負担、給料や報酬から天引きされてしまう。つまり俺の唯一の娯楽である賭博に使う金が無くなる。

 

 長期の任務だもんな……容量の大きい水筒でも持って行くか。

 流石に水は不可欠だ。食べ物は……とりあえずレーション持って行って切れたらその辺漁るか、覚悟を決めて土を食うか。いやまあ、火さえ通せば食べれるだろう。多分。

 

 しかし、どうしたもんか……。アラガミの木に囲まれたあの集落が一番気掛りだ。

 これからは餌やりも満足に行けるか分からねえな。あの木が好物喰えずにヘソ曲げたら何するか分からんねえしな。近づきさえしなければいいだろうが、集落の人間にも言っておかねえとな。

 しかし、集落に寄る時間なんてあるか……? 

教官から頼まれた任務のエリア外に集落はある。エリア外へ出てしまうと腕輪のビーコン反応でばれてしまう。

 

「ハァ、厄介ごとが次から次に……」

 

 

 ターミナルから離れ、よろず屋さんで買い物をしようと1階へ降りる。

 オペレーターがエリックの父親と話していた。その傍にはエリナもいた。エリナがこちらに気づき、こっちへきた。

 

「お兄さん、こんにちは!」

「ああ、こんにちは。今日も勉強しに来たのか?」

「ううん。今日はお父様が偉い人にお話をしに来ただけなの」

「そうか。エリナ、俺は明日から暫くアナグラに居ないんだ」

「そうなの……?」

 

 ああ、やっぱりがっかりしている。

 あんまり暗い顔を見たくはないがこればかりは仕方ない。子どもを置いて仕事に行かなければいけない親の気持ちが分かるような気がする。

 

「ああ、しばらく勉強は休みだ。でも、偶に髪の毛が銀色で瞳が赤いお姉さんが居るからそのお姉さんに聞いて見なさい。そのお姉さんは新型だし、アナグラの期待の星だからきっと良い勉強になると思うぞ。でも、お姉さんのいう事はちゃんと聞くようにな?」

「ホント!? 分かった!」

「あ、お姉さんには俺から聞いたって内緒だぞ?」

「? うん、分かった」

 

 普段、温厚な性格だろうけど怒らせたら分からんからな。帰ってきて『よくも面倒事押し付けやがったなこのクソ野郎』って言われて斬られる可能性も無きにしろ非ず。

 

 エリナの父親も話が終わったらしく、こちらへ歩いてくる。エリナも父親の話が終わったのだと知って父親の元へ歩いて行く。2人は手を繋いで出口へと向かっていった。エリナが振り返ってこちらに手を振ると、エリナのお父さんもこちらに一礼し、俺も礼を返した。

 

 2人を見送り、よろず屋へ向かう。

 

「おう、兄ちゃん。今日はどうした?」

「ちょいと長期の任務でね。必要な物が多いんだ」

「そうかい。まあ、入念に準備するのに越した事はねえな。好きなだけ見ていきな」

「とりあえず、回復錠にレーションと偽装フェロモンを頼む」

 

 中々難しいものだ。偵察故にできるだけ嵩張らないようにしなくてはいけないが長期的な任務であるから必要な物も多い。この辺りの管理が本当に難しい。

正直な話、教官に何持っていけばいいかと聞きたいところだ。しかし、それはできない。だってあの人おっかないもん。

 

 とりあえず準備は既に完了したが、明日の出発時間までに暇な時間は山の様にある。

 あの新種が出没しているエリアの周辺状況に関しては特に注意すべき点は無いようだが……一応今までの偵察任務で探索しているエリアなので、そこいらの連中よりかはあの辺には詳しい。

 

 よし、やる事が無いが……金は少しある……。それならやる事は1つだ。

 

 

 トランプと賽子ちゃんが俺を呼んでいる! 賭博所へレッツゴー! ヒャッハー!

 

 

 

 

「なんだ兄ちゃん。またカモられに来たのか?」

「ふっ、悪いが今回は秘策があるんでな。泣きを見るのはそっちだぜ……!」

 

 賭場にて俺はサングラスの兄ちゃんから軽く挑発されたが、俺はその挑発をスルーしてテーブルに座る。

 

「さあ、始めようぜ……搾り取られるのは俺かアンタか……究極のブラックジャックを……!」

 

 

 1戦目、相手がいきなりブラックジャックを揃え俺は敗北。だが、ここからだ。そう、勝利のピースは早速俺の手に舞い降りた。行くぜ、秘策!

 

「俺は次のゲーム、倍の額を掛ける」

「ほう……?」

 

 2戦目、俺はバーストして敗北。

 

「まだまだぁ! 次はさっきの倍だぁ!」

「ヤケになったか……? しかしなんだこいつから感じられる根拠のない自信は……?」

 

 3戦目、俺は惜しくも敗北。だが、まだまだ。

 

「3連敗だな。時の運に見放されたようだが……?」

「ふっ、どうかな? 次は更にさっきの倍だ!」

「こ、コイツ……! イカレテやがる……」

 

 4戦目、俺はついに初勝利を収めた。

 

「ちっ、無駄に掛け金がでけえな……」

 

 グラサンが俺に紙幣を渡した。そして俺は次の勝負で1戦目と同じ金額を掛けた。

 

「今度は少額……? ッ!? まさかお前ッ!」

「ふっ、いまさら気づいても遅いぜ! 俺が要した秘策、それは……」

 

 ただ負けるごとに金額を倍にする事で1回でも勝利すれば利益になる方法だ。これがあれば資金の続く限り、俺は決して崩れない。

 

「成程、だが……。運をものにできなかったらすべてが崩壊する方法。崩すのは容易い」

「ふんっ、言ってろ。すぐに破産させて泣きっ面を拝んでやるぜ!」

 

 

 

 3分後……。

 

「ぐああああああッ!? 7連敗だとぉ!? 資金がああああああぁ!」

 

 俺はまさかの7連敗を喫し、資金が底を突いてしまった。

 7連敗だぜ? 

 7回連続で負けたんだぜ? 

 128分の1の確率を見事に引き当てたんだぜ? 

 そのくせクジとかじゃはずればっかり引くんだぜ?

 俺が何を言いたいのかと言うと、勝負の女神ってのはイカレタクソBBAだ。

 何? 試行回数? 独立事象? 大数の法則?

 

 あーあーあー聞こえませーん!

 

「ここまでだな。その方法は長くは稼げない。引き際と言うモノを考えんとな? だが、そんな引き際を考えられる頭を持っているなら、そもそもこんな賭場になんて来ない。お前は最初からアウトって事さァ!」

 

 

 こ、コイツ……! ド正論過ぎて何も言い返せねえ……!

 

 

 

 俺は少し潤っていた財布を真冬にし、その日はアナグラのエントランスで燃え尽きたかのように座った。

 

 

 

 

 

翌日、任務の担当オペレーターより詳しい説明を受ける。

 

「説明は以上です。分からないことがあればいつでも聞いてください」

「了解した」

 

 持ち物のチェックは任務説明を受ける前に済ませているのでヘリの準備ができ次第すぐに出発できるように待機する。

 

 とりあえず、現地に着いたら集落に周波数を合わせて連絡するか。別に急いで伝える要件でもない。もし、繋がらなかったら場所を変えてまた連絡すればいいだろう。

 

「あ、ユウさん」

 

 オペレーターに呼ばれ振り返る。追加の連絡だろうか。

 

「ヘリの行き先付近で救難信号があって防衛班の大森班長も相乗りすることになったので一応」

「ああ、分かった。出発の時間に変更は?」

「いえ、大森班長もすでに待機しているのでヘリの準備が出来次第すぐに発てます」

「OK、了解だ」

 

 タツミも一緒か。すぐ近くだし、手伝いぐらいならいいだろう。

 

 

 

 

「悪いなユウ。手まで貸してもらって」

「いや、気にするな。困ったときはお互い様だ」

 

 ヘリの準備が完了して俺とタツミは早速乗り込んで目的地へ向かう。

 

「しかし、態々防衛班のリーダーが出向くなんてな……。お前がいないんじゃブレ公達も困るんじゃないのか?」

「なに、あいつらなら平気さ。俺はあいつらのことを信じているからな。だから安心して任せられる」

「確かに、俺とあいつらじゃ付き合いの長さが違うか。ご尤もだ」

「なあ、ユウ」

「どうした?」

 

 タツミの顔がより真面目な顔になって俺も飄々とした態度を変える。

 

「リンドウさんの事、探すつもりなんだろ?」

「ああ、勿論だ。なーに、お前らの分までしっかり探してやらぁ。任せとけ」 

 

 大分前のことだが、外部居住区で仕事をしている最中にタツミが墓参りをしているのを見かけ、最初は親族かと思ったが付き合いの長い戦友らしい。

 タツミも大事な人間を目の前で失って悔しい思いをしてきたのだろう。だから諦めきれない。

 

「頼むぞ、ユウ」

「ああ」

 

 タツミが拳を突き出し、俺も拳を合わせる。

 ヘリも目標地点に到達したらしく、高度を下げ始める。タツミはこの高さで十分だとパイロットに伝え、ヘリのドアを開ける。

 

「さて、助けを待ってるやつがいる。さっさと助けてやるか!」

「よっしゃ、仕事の時間だ」

 

 2人でヘリから飛び降りて降下した。




主人公が賭博でやっていた方法は実際にカジノなどで使われますが、何も考えずに使うと速攻で破産します。ルーレットで連続で赤が10回なんてザラに出てしまう故。良い子も悪い子もよく考えて使おう!


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仕事や出勤する夢を見たら鬱になるって言ったよな⁉

今回は5千文字超えてしまいました。ちょっと長いです。


 タツミと共に救難信号を出した奴を発見し、周囲の安全を確保して廃墟の中で身を隠す。

 

 

 発見に至るのに1日掛かりだったが、特に要救助者も少しばかり深い傷を負っているだけで応急手当てをしてできるだけ安静にして治療をすれば大丈夫らしい。

幸い、タツミも手当てに慣れており、ちょうどアナグラで待機しているカノンに応急処置の指示を貰いながら何とか出来た。

 

 後はヘリを待つだけだ。俺は自分の任務に取り掛かろうと考えたが、ヘリの到着は明日になるらしく、負傷者もいるので今日はそのまま3人で固まっていろと雨宮教官から指示を貰った。

 

 

「体調はどうだ?」

「ああ、大丈夫です。すみません、僕が皆と逸れなければ……」

 

 こいつは同じ部隊の仲間と任務中、俺が今追っている新種のアラガミと遭遇して運悪く逸れてしまい、深い傷を負って動けなくなっていたらしい。

 

「しかし、奴らめ。活動範囲がさらに広がっているな……」

「確か索敵能力が高いって言ってたか、でも俺が見た感じ索敵能力は並み程度だと思うが……」

 

 タツミの意見は尤もだ。遠く離れた俺を嗅ぎつけるまで敵能力が高いならこの場所だって既に感づかれる可能性が高い。

正直、偶然あの場にザイゴートが居ただけだと思っている。

 

「厄介なのは群れでいる事だな。1頭増えるだけで一気に戦況が傾いちまう」

 

 深刻な顔をして頭を掻いてため息をつくタツミ。俺も厄介な任務に就かされたものだと肩を竦める。

 

「そろそろ、明かりを消したほうがいいな」

「だな。あとは黙って待つしかねえ」

 

 火を消して外へ意識を向けながら壁に背を預けて座る。

 

「お前は先に休んでろ。怪我人はさっさと寝て、さっさと怪我を治すのが仕事だ」

「わかりました。すみません。ありがとうございます」

「見張りは交代しながらでいいんだよな?」

「ああ、だがユウは少し長く休めよ? お前は明日から本格的に動くんだろ?」

「お言葉に甘えるよ。済まないな」

 

 

 

 少し仮眠をとったらタツミと見張りを交代して夜明けを待つ。

 

 気配を感じ取ろうと意識を集中してもあまりアラガミも居ないみたいだが油断はできない。あいつら地面からいきなり出てくることがある。 

 いきなりこの廃墟の中に出現する可能性もある。偵察任務やってて唐突な出現が一番驚く。目の前で地面から湧いて出たらもう最悪。中指立てて罵倒してとんずらする。

 

 

 しばらく見張りを続けているとタツミが起き上がりこっちへ向かってくる。

 

「ユウ、もう朝まで休めよ。後は俺が見ておく」

「ああ、済まないな。今度奢るわ」

 

 タツミに礼を言って壁に背を預けて座り、目を瞑る。

 

 

 

 

 *

 

 

「え…………は?」

 

 目を覚ますと目の前には荒野が広がっていた。

呆気にとられていると、右腕に違和感を感じて見てみると、右手首にあるはずの神機使いの証である腕輪がなくなっている。

 

 今の服装もフェンリルの制服ではなく、俺が神機使いになる前の服だ。

穴だらけで穴が開いた個所からは血が流れている。

 

「…………っ!」

 

 血を見て今の自分の状態を認識した瞬間、体中に激痛が走って膝を突く。

 

 くそっ、これから仕事だぞ⁉ こんな夢見せんなや……!

 俺前言ったよな⁉ 仕事したり出勤する夢を見たら鬱になるって言ったよな⁉

 

 心の中で愚痴を溢していると、視線の彼方から武装した兵隊がこちらへ攻め込んできた。

 

「ああ、やっぱりか…………ちっ! 仕方ねえ。肩慣らしだと思ってやってやるか……!」

 

 いつの間にか手元には折れた刀剣が握られており、俺は飛んでくる銃弾や斬撃の嵐に飛び込んだ。

 

 

 

『とうとう至ったか……。強き魂よ。それこそ、見切りの極意である』

 

 

 どこからともなく聞こえた声で、俺は思い出した。

そう、この夢は……追い詰められた事によって限界の殻を破った時の――声の言う通り、至った時の……あの時だ。

 

 

 

 

「ユウ!」

「うおっ⁉」

 

 タツミに起こされて俺ははっとする。

 

「随分険しい顔をしてたがどうした? 賭博でぼろ負けでもしたか?」

「いや、仕事する前に仕事する夢を見てな。そして今モチベーションは最悪だ」

 

 タツミと笑いながら、朝を迎えた。

 しばらく待つとヘリがこちらへ向かっているとの連絡が入り、俺もそろそろ出発しようと思い、タツミに言う。

 

「ああ、分かった。助かったぜ、気を付けてな」

「そっちこそ気をつけろよ? またな」

 

 タツミと要救助者に手を振って俺は周囲を警戒しながら廃墟を出る。

 

 

 

 ある程度離れた場所でアナグラへ連絡を入れる。

 

「こちらユウ、遅れたが任務を開始する」

 

『了解、異常があればすぐに報告を。非常事態に陥った時は救援要請をお願いします。くれぐれも無茶な行動は控えるように』

 

「了解。交信終了」

 

 アナグラとの無線を切って、周波数を例の集落へ合わせる。

 

「あー、ユウだ。聞こえるか?」

 

『ユウさんですか? どうしたんですか無線を寄越してくるなんて……』

 

「ちょいと厄介な仕事が入ってな。しばらく俺もリンドウさんも木の餌やりに行けないんだ。だからあまり近づいて木を刺激しないようにしてくれ」

 

『そ、そうですか……。食糧の方は何とかなりますから暫くなら平気です』

 

「悪いな。俺もできるだけ仕事を早く終わらせてそっちへ行けるようにする。済まないが辛抱してくれ」

 

『いえ、2人のおかげで私たちは助かったんです。このくらいへっちゃらですよ』

 

「……何かあればすぐに連絡してくれ。切るぞ」

 

 

 それだけ言って俺は無線をしまい、あの新種の気配を探りながら探索を始めた。

 

 

 

 *

 

 

 あの新種自体はすぐに見つかり、早速追跡を開始して情報をアナグラへ送る。

アラガミ同士の戦闘を盗み見して観察する。氷を用いた攻撃などを使い、物理攻撃はヴァジュラと同じ様な体当たりや前足によるフックなどだ。

 新種には厄介な特徴がある。それは活性化すると体の肉質が硬化する事だ。

 活性化前まで有効打となっていたアラガミの攻撃を受けてもあまり大きな傷に至っていなかった。

 

 得た情報を随時アナグラに報告して順調に任務を遂行させる。流石に今日はここまでだな。日が出ている内に、隠れる事が出来そうな所を探し、そこを拠点にしたい。

 

 

 

 かつては栄えていた地域だ。身を隠せる建物なら沢山あるが、特に丈夫そうな建物を選ぶ。

 

 壁を背に座り、レーションを齧って周囲の気配を探る。

 まだ、うじゃうじゃいるようだな。そして一際大きな気配が新種か。

 リンドウさんの気配は全く感じられない。

 

 

 そうだ。そう簡単に物事なんて上手く運ばないさ。丁度運よく任務の途中でリンドウさんを見つける事が出来てそれでアナグラに連れ帰る……。そんなミラクルなんて起きる筈がない。そろそろリンドウさんの捜索も打ち切られるはずだ。

 

 今はとにかく任務に集中しなければな。新種のせいで更に死人が増えるなんてリンドウさんが悲しむ。

 

 

 

 決意を新たに、任務に励んで早3週間が経過した。

 

 新種の情報もある程度集まり、つい先日アナグラからの連絡で新種のアラガミはプリティヴィ・マータと呼称され、第二種接触禁忌種に分類されたとの連絡がきた。近い内に第1部隊に討伐を要請するらしい。そして、俺が追っている黒いヴァジュラに関してはまだ何の音沙汰も無い。俺もまだ遭遇していないため、不明な点が多い。兎に角プリティヴィ・マータを追っていればいずれ黒いヴァジュラにも追いつくだろうと言う考えでマータを追跡している。

 

 そろそろ食料も携行品も付きそうなので一旦アナグラへ補給しに戻るか、補給物資の申請をしてこちらまで届けて貰う必要がある。

 

 なんだかんだ言ってクアドリガと遭遇して爆撃されまくり、仕舞いにはミサイルを飛ばしてきたのでそのミサイルに乗ったり等色々ぶっ飛んだことをやらかしていた。ほかにも禁忌種と接触してしまい、面倒な事に成ったりもしたがこの通り大した傷は受けずにピンピンしている。

 

 今のところはマータに感づかれる事無く順調に調査が進んでいる。ある程度情報は集まったので黒いヴァジュラとご対面といきたいものだ。

 

 そう思いながらマータを監視していると、奴が何かを聞きつけたように空を見上げてすぐに駆けだした。俺も慌てて無線の周波数をアナグラに合わせながらマータを追う。

 

 しかし、無線が全くつながらない。

 コクーンメイデンが群生してジャミングでもしているのか……?

 マータは市街地エリアを抜けて、平原エリアに向かっていった。暗雲から雨が降り注ぎ、俺の足音を雨音で消してくれるので多少派手に動いても感づかれない筈だ。

 

 マータが吠え、飛び跳ねる。

 

 

 マータが向かうその先には……ユウナとアリサが居た。

 

 

 2人はマータに気づいて攻撃を回避する。

 

 俺は無線を使って救援要請を掛けようとしたが、無線はまだつながらない。よくよく考えれば俺が市街地エリアから抜けた時点で連絡が来る筈だ。来ないと言う事は恐らくあちらもこちらに無線が繋がらずに対応に追われているかもしれない。

 

 救援が期待できないならやる事はただ1つ。

 

 スタングレードを手に俺もマータの元へ向かう。

 

 

 マータが氷柱を作り出し、2人へ放とうとしたところで俺は安全ピンを引き抜く。

 

「2人とも伏せろ!」

 

 警告と共にスタングレネードを投げて周囲を光で包む。

 

『ガアアッ!?』

 

 マータが驚きながら、態勢を崩す。

 

 

「ユウ、どうして……」

「コイツの調査でな。3週間近くこいつに張り付いて今に至る」

「神機を持っていないのに危険です! 早く下がってください!」

 

 辛辣なアリサから信じられない言葉が飛び出すが、それに驚くのは後だ。

 

「足は引っ張らん。囮が居るだけでも違うだろ?」

 

「でも……!」

 

「……分かった。第1部隊隊長としてユウの戦闘介入を許可します。でも、危険だと判断した場合は撤退の指示に従ってもらうよ」

 

 ユウナから言葉が紡がれ、俺はただ一言、了解とだけ答えてマータに向き合う。

 

「リーダーがそう言うなら構いません」

 

 

 

『ガァアアアッ!』

 

 

 マータが吠えて飛び掛かってくる。

 

 各々がステップで攻撃を避ける。

 

 まずはマータに接近して対アラガミ用ナイフで後ろ脚を小突いて注意をこちらに向けさせる。そしてユウナが斬撃、アリサが銃撃で攻撃してマータは悲鳴を上げる。

 マータがマントを光らせると気温の急低下を感じてユウナと共に跳び退くと、奴の周囲に冷気が放出される。

 

「近接戦闘に移行します!」

 

 アリサが銃形態から剣形態へ神機を変形させる。ユウナは剣形態から銃形態へ切り替えて、銃撃をしながら距離を取りつつ移動する。俺は挑発フェロモンでマータの気を引きながら走る。

 

『ガァッ!』

 

 マータが右フックや噛みつきで襲い掛かるがどちらも回避し、その間にユウナの銃撃が何度もマータの胴体を貫く。そしてアリサが渾身の斬撃で前足を切り裂いて態勢を崩す。

 

 しかし、マータの頭上に氷柱が生成されて氷柱の先はアリサを狙っている。

 

「アリサッ!」

 

ユウナがアリサに声を掛けて危機を知らせるが、これは間に合わない。俺が居なければな。

 

「ッ!」

 

 地面を思いっきり蹴って一瞬で距離を詰めてアリサを抱え上げてそのまま跳び退く。

 

「ちょっ!? ちょっと、降ろしてください!」

 

 アリサが顔を赤くしながら訴えかけてきたのである程度マータから離れると地面へ降ろす。

 

「あ、あの……ありがとう……ございます……」

 

「気にするな。こっちも悪かった。これしか手段を知らないが故な」

 

 マータがこちらを睨み、吠えると俺とアリサを冷気が包み込む。

 

 嫌な予感がして俺はアリサに下がれと言って跳び退くとアリサも同時に下がる。

 先程立っていた場所に地面から氷柱が生えた。あのまま動かなかったら確実に串刺しになっていただろう。

 

 周囲を影が覆い、振り返るとマータが前足を振り上げていた。

 

「まずっ!」

 

 紙一重で回避するがマータがもう片方の足を振った瞬間、俺と前足の間に一瞬で人影が割り込んで来て得物を振った。

 

 振られた得物は見事にマータの爪を砕き、前足を大きく切り裂き、奴は悲鳴を上げながら地面へ倒れた。

 

「任せてくださいッ!」

 

 そしてアリサが猛スピードでマータの顔面に神機を突き刺し、引き抜くと銃形態に変形させて再び剣を差し入れた傷に銃口を突っ込んで引き金を引く。

 

血が飛び散り、人のような顔は弾けとんだ。

 

「ふう、なんとかなったね」

「悪いな。助けられた」

「コアの回収をしてしまいましょう」

 

 ホッと一息つくとアリサに促され、ユウナの神機は捕食形態へ切り替わり、マータの体に食らいつく。

 

 噛み千切るような惨い音が数回響くと捕食形態は剣形態へ戻った。

 

 

 

 

「あの、ユウさん」

 

 アリサに声を掛けられて俺はアリサに向き直る。

 するとアリサは頭を下げて謝罪してきた。

 初対面時にいきなり失礼な事を言ってしまった事を気にしていたようで、顔を合わせる機会があれば謝りたかったとの事。

 

「ああ、気にするな。あの時の台詞はご尤もであるからな」

「それでも、あなたの気持ちなんて考えもせずに暴言を吐いてしまい、ごめんなさい」

 

 再び頭を下げてきたアリサに困り、ユウナに助けを求める視線を送るがただ笑顔を返されて頷いていた。

 いや、どうしろと……。

 

 困り果ててどうするべきかと思った直後、新たな気配を感じた。

 先程まで相手をしていたマータとは次元が違う気配を感じた。

 

 

 俺は2人の首根っこを掴んでその場から一気に跳び退くと、青く輝く冷気を纏ったプリティヴィ・マータが地面へ降りたった。

 

 

「こいつは……」

「さっきの奴とは……違う……!」

「でも、戦うしかありません!」

 

 2人は神機を構え、俺もいつでも動けるように戦闘態勢に入った。

 

 

 




見切りの極意

俺が神機使いになる前に至った境地だな。諦めるという意味の見切りじゃないぞ?
武術で「相手の動きで出方を決めること」ってニュアンスだ。

メタなことを言うとGEプレイヤーの諸君が予備動作でどんな攻撃が来るのか察するのと同じだよ(小声)

シンプルだ。相手の動作でどんな攻撃が来るかっていうのが分かるだけだ。
俺が滅多な事じゃ被弾しないのも見切りの極意を会得しているからだ。
精神的な鍛練を極めれば何れはたどり着くらしく、誰でも会得はできるとのこと。
修行の先生曰く、誰でも会得できる、即ち持たざる者――凡人に残された最後の手段らしい。

才能を持つ奴がこの境地に至ったら、万物を見切れるようになるらしい。

万物ってなんだよ(哲学)


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被弾理由がスタミナ切れとか情けなくて悲しすぎる。

パフェ&高タイム狙ってる時にスタミナ管理ミスして息切れ→被弾→やり直し。
本当に切ない。
じゃあ無我の境地捨ててプレイヤースキルでなんとかしろって話ですけどね。


 突然現れた青く輝く冷気を纏うマータ。奴はこちらを睨みつけ、一気に距離を詰めての体当たりを仕掛けてきた。

 

 焦って2人を突き飛ばし、咄嗟に両腕を交差させて防御するが両腕に激痛が走ると共に吹き飛ばされて廃墟に叩きつけられる。

 

「グゥ!? ……がハッ! ッ!」

 

 痛みを堪えてスタングレネードを使う。

 

「ユウ! 立てる?」

「リーダー! 私が奴を引きつけます!」

 

 すぐにユウナが駆け寄ってきて、肩を借りるとそのまま一気に跳躍で移動して物陰に隠れた。

 

「すまん……油断した。腕が痺れただけだ。すぐに治るさ」

「しばらく此処で休んでて。私とアリサで何とかするから」

 

 そう言うとユウナはアリサの元へ向かって行った。

 

 2人は何とか新手のマータと渡り合うが、新手のマータは先程の奴とは違い。基本的な動きも早く、氷柱を生成する時間も短い。

 なんとか2人で銃撃による援護と近接攻撃を仕掛けるが、ユウナはともかくアリサには疲れが見えてきた。

 

 くそ、仕方ねえ。回復錠を使うか。

 ポーチから回復錠の詰まったケースを取り出して蓋を開けて中に入っている回復錠を口に放り込んで数回齧って飲み込む。

 

 すぐに腕の痛みが引いて傷が塞がるのを確認してから物陰から飛び出す。

 

 マータが氷柱を大量に生成して絶え間なく飛ばしてくる。アリサは銃撃、ユウナは神機で迎撃する。

 

「悪いがしばらく堪えてくれ! 突破口を開く!」

 

 2人に言い、氷柱の嵐に真正面から向かう。氷柱から氷柱へと飛び移りながら距離を詰めてナイフを取り出し、マータの顔に突撃して目に突き刺す。

 

「ガァアアアッ!?」

 

 マータが暴れだし、吹き飛ばされるがユウナが受け止めてくれた。アリサがオラクル弾を飛ばしながらマータへ近づき、ユウナは「後は任せて」と言って凄まじいスピードでマータへ向かっていく。

 

 しかしマータが咆哮を上げると一気に冷気が放出されて2人は吹き飛ばされる。

 奴の周囲には次々と氷柱が地面から飛び出してこちらの接近を許さない。

 

 先程から纏っている冷気がマータを包み込んでアリサとユウナの銃撃が弾かれる。

 そしてマータが駆けだすと先程とは比べ物にならないスピードで接近戦を仕掛けてくる。

 アリサが装甲を展開して攻撃を防ぐが、衝撃を完全には受けきれず吹き飛ばされ、マータは一瞬でアリサの背後へ回り込む。

 

「させない!」

 

 ユウナが割って入って攻撃を弾き返すが、マータは大きく後ろへ跳んで距離を取って氷のブレスを吐き出す。

 

 ユウナは神機を振ってブレスを切り払うが、その隙を突いてマータは駆けだした。

 

 

「やらせん!」

「止める!」

 

 俺とアリサが跳びながら切り付けるがあまりに硬く、こちらの手が痺れる。

 

「ちッ!」

「硬いッ……」

 

 着地すると周囲には冷気、予感する。

 

「アリサッ! 離れろ!」

 

 大声で叫んでその場から跳び退くと、地面から再び氷柱が飛び出してくる。

 氷柱に着地してすぐにジャンプして次々と地面から飛び出してくる氷柱を避けながらマータを追う。

 

 ユウナがマータと一騎打ちを繰り広げ、互いに1歩も引かずに戦う。

 アリサも神機を構えてユウナを援護しようと銃撃を仕掛けるがマータの纏っている冷気がオラクル弾を防ぐ。そしてユウナの足元に冷気が収束していた。

 

「ユウナッ! 地面から来るぞ!」

 

「ッ!」

 

 俺の声に反応して空中で装甲を展開して攻撃を防ぎつつ、その衝撃を利用して吹き飛ばされる。しかし、マータが間髪入れずに氷柱を作り出す。アリサが氷柱を銃撃で破壊するが数本は破壊しきれずユウナへ飛ばされた。

 

「撃ち落とす!」

 

 ユウナも銃形態へ変化させて後退しつつ向かってくる氷柱を迎撃するが動きながら次々と氷柱を作り出して撃ちだすマータは距離を詰めてくる。

 

 ユウナの足元に再び冷気が集まる。

 

 俺はステップで一気にユウナの元へ向かい、ユウナを担ぎ上げてその場から退避する。

 

「ごめんッ! 助かる!」

「氷柱を頼むぞ」

 

 ただそれだけ言って俺は足元から飛び出してくる氷柱を躱しながら駆ける。

 

「アリサッ! 撤退するよ! 私が銃撃で援護するから退避に専念して!」

「了解です!」

「しかし、マータもしつこいぞ。何とか動きを止めたいが……」

 

 氷柱を撃ちながら駆けてくる奴を撒くのは容易じゃない。

 

 どうするべきか考えているとマータは冷気の塊を口から空へ放出し、塊は空を覆って次々と上空から氷柱が降ってくる。

 

「キャッ!?」

 

 アリサの真横に氷柱が落ちて衝撃で吹き飛ばされる。

 

「アリサッ! ユウッ、ごめん!」

 

 ユウナは俺の腕を解いてアリサの元へ向かう。

 

「おいおい、無茶な真似を――」

 

 挑発フェロモンを使うがマータは俺に見向きもせずにユウナとアリサの元へ。

 前足に冷気を纏って攻撃態勢に入る。

 

「2人とも逃げろッ!」

 

 

 俺の声も虚しく、ユウナはアリサを庇ってマータの攻撃に直撃する。

 アリサが吹き飛ばされたユウナを受け止めようとしたがあまりの衝撃故か2人共吹き飛ばされる。

 

 

 

 

「グゥ……ア……ゥ……」

 

「リーダー!」

 

「伏せろッ!」

 

 アリサがユウナを抱き上げる。マータはとどめを刺そうと前足を振り降ろすがそれよりも早くスタングレネードを投げつけてマータの視界を眩ませる。

 

 急いで2人に駆け寄り、ユウナを担いでアリサを脇に抱えて跳んでマータからできるだけ離れる。

 

「ユウナを連れて先に逃げろ」

「でも、ユウは……!」

「俺もお前らが逃げ切ったらなんとかあいつを撒いて後で落ち合う。行け!」

「分かりました。無茶だけはしないでください!」

 

 そう言ってアリサは神機を片手にユウナを担いで走っていく。

 俺はマータの目の前に移動し、中指を立ててクイっと曲げてかかって来いよ挑発する。

 

 挑発が通じたのか、怒声を上げて襲いかかってきた。バックステップで距離を保ちつつ次々と繰り出される攻撃を躱し続ける。マータが宙返りをしながら空へ跳び、氷柱を生成して撃ちだしてくる。

 

 降りかかってくる氷柱を回避しつつ、アリサが逃げた方向とは逆の方向へ引きつける。

 

 地面に着地したマータは走りながら氷のブレスを撃ちだして逃げる俺を仕留めようとするが、ブレスも紙一重で躱し、背後の地面に直撃すると氷柱が地面から生成されて逃げ道を封じられる。

 

「やべッ!」

 

 マータが一瞬で目の前に移動してきた。

 

 

 一瞬、視界に違和感を感じた。

 

 冷気を纏った爪を振り上げた瞬間、振り降ろされる爪を回避した直後に間髪入れずにもう片方の足で殴りつけてくる光景が見えた。

 

 

 

「ッ!」

 

 驚きと共に目の前には迫る爪、そして俺は先程見た光景とは違う行動、最低限の動きで爪を回避した。すると先ほどの光景で見たとおり、マータはもう片方の足でフックを繰り出してきた。

 

 それも上手く躱し、跳んでマータを飛び越して背後に回りバックステップで距離を取る。

 

 なんだ今の……?

 

 まるで未来予知……。いや、これはただ純粋に精度の高い見切りか。奴の行動から更にその先の行動までが視えた。

 成程、これが万物を見切る……真の見切りの極意……か……。

 

 

 見切りの極意……俺があの戦いで極限状態に陥り、限界と言う名の殻を破った証。

 敵の僅かな動きからどんな攻撃を仕掛けてくるか、それから次の行動を読み取る武術の極致の1つ。

 絶え間のないただ純粋な研鑽の果てに鍛え上げられ、完成された精神を持って辿り着く領域。

 

そして……真の見切りの極意。

それは万物をも見切る神の御業とも称されている。万物とは未来を含むと言う事か。

万物を見切る……ただ見るだけではなく、聴く事も感じ取る事できると言われている。

 お伽噺に出てくる鬼などの、人の手に余るような怪物を打倒した者は、この領域に居るらしい。確かに生身で鬼退治とかぶっ飛んでいる。

 

 ただ見切の極意を会得すれば、強敵との戦闘や極限状態で一時的にこの領域に片足を突っ込めるらしい。

 完全に会得して制御するには研鑽は勿論必要だが、絶対に不可欠なものがある。

 

 1つは天武の才。この領域に近くして生まれるのも、才の1つだろう。

 

 そしてもう1つは……天性の肉体。

 

 この2つを併せ持つ存在が完成された精神を持って初めてこの境地に至ると教えられた。

 

 

「クッ……」

 

 直後に凄まじい脱力感に襲われて膝を突き、呼吸も荒れる。

 全身の筋肉に思うように力が入らない。ここが戦場じゃなかったらそのまま横に寝転がりたいものだ。

 

「ハァ……ハアッ……ハァ……」

 

 天性の肉体が必要……そういう事か。確かにこの状態に耐えられるのは生まれ持った強靭な肉体が必要だな。俺も中々頑丈な方だとは思っていたが……その俺がこの体たらく……。

 

 

 マータが振り返り、俺に狙いを定めて飛び掛かってくる。爪に冷気を纏わせて確実に俺を殺そうとしている。

 奴の爪がどんな軌道で迫るかまでわかるってのに……体がスタミナ切れを起こして回避できないなんて……なんともまあ馬鹿らしい……。

被弾理由がスタミナ切れとか情けなくて悲しすぎる。

 

 せめて致命傷を少しでも軽くしようと頭を腕で覆い、攻撃に備えた。

 

 

 空中の巨体から振られた爪は俺を斬り裂くことなく、砕け散ってマータは諸共吹き飛ばされた。

 

 俺の前に立つ神機使い、ただ一振りであの冷気を纏った強靭な爪を砕き、果てには巨体を吹き飛ばした。

 

 

「フー……」

 

 神薙ユウナが神機を構えて一瞬でマータとの距離を詰めて、一閃――

 

『ガアアぁッ!?』

 

 マータの顔の一部から肩を斬り飛ばし、切断された部位が血をまき散らしながらグチャりと音を立てて地面へ叩きつけられた。

 

『グゥ……グゥアァッ!』

 

 マータは怯えるように逃げ出していき、ユウナはこちらを振り向いた。

 

 赤い瞳が……獣のように縦に割れた瞳孔に変化しており、先ほど受けた傷は音を立てながら肉の繊維を編んで再生していた。

 ユウナから発せられる尋常ではない気配、いつも彼女から感じる気配と全く同じだった。

 

 危機に陥った宿主を守るために出てきたか……。あまりにも強力な獣の如く生存本能。

 あまり刺激しないようにしないと、俺も敵だと判断されて奴の二の舞になる。

 

 ユウナの瞳は元通りになり、目が閉じて地面へ倒れる。

 

「な……おい、ユウナ!」

 

 慌ててユウナに駆けより、アリサも戻ってきた。

 

「アリサ、一体何があった?」

「分かりません。急に苦しみだして……眼もあんな風になってそのまま……」

「そうか……とにかく、他のアラガミが嗅ぎつけてくる前に離れるぞ」

 

 ユウナを担ぐ。

 

 アナグラは遠いな。それにアナグラの方向には結構な数が居る。ここからなら集落が近いか。幸い、アラガミの気配も少ない。何とか凌ぎながら行けるか。

 出来るだけ戦闘を避けたい。俺もアリサもかなり疲弊している。ユウナはしばらく目を覚まさないだろう。

 

「何処へ行くんですか?」

「近くにちょいと頑丈な集落がある。そこへ向かう。悪いが遊撃を頼む」

「分かりました。リーダーの事、お願いします」

 

 俺がユウナを担いで移動を始めると、アリサが周囲を警戒しつつ後に続いた。




真・見切りの極意

読んで字の如く。前回紹介した見切りの極意の強化版だな。
悪い鬼を退治するお伽噺でよく聞かされたものだ。

桃から生まれた彼&鉞担いだ彼「万物見切るで~」

強い(確信)

ちなみに俺に習得は無理だ。ぶっちゃけ成長限界が近いもん。
ユウナなら会得できる(根拠のない自信)


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これが俺なりの優しさってやつよ……!

更新が遅れてしまい申し訳ありません。
修正するうちに「やっぱここ変えた方がいいんじゃね?」とか「やっぱりここで会話を挟みたいな」等となってしまって修正という名の追記である。


 何とかアラガミに遭遇することなく集落を囲むアラガミを喰らう木の群生する森までたどり着く。

 

「アリサ、遊撃はもういい。後は木が何とかしてくれる」

「木……ですか?」

 

 アリサは首を傾げ、この木について軽く説明する。

 

「この木が……アラガミ……?」

「そういう事だ。前までは偏食因子を打ち込んで偏食を制御してアラガミの侵入を食い止めたんだが、しばらく餌やりにこれなくてな。恐らく木も偏食が変わっている。あまり刺激しないようにな。ま、触れさえしなければ大丈夫だ」

 

 

 森を抜けて集落に着き、集落の少年がこっちに走ってきた。

 

「ユウ兄ちゃん。来てくれたんだね!」

「ああ、元気そうで何よりだ」

 

 少年の頭を撫でて俺は集落の中心へ向かう。

 

 

「ユウさん、久しぶり。その人たちは……」

「ああ、同僚だ。悪いが休ませてやってくれ」

「分かりました。皆、手を貸してくれ!」

 

 

 

 

 ユウナは別室で寝かされ、アリサも手当てを受けている。俺は住人と近況について話し合う事にした。

 

「偏食因子のストックがまだあるのか……」

「ああ、この前リンドウさんが置いて行ったんだ。それで、もしユウさんが来たら餌やりを頼むって」

 

 あの人、自分に何かあったら……と言う状況を想定でもしていたのか……?

 ストックの量からして当分は平気だぞ……だとしたら本当にあの人には敵わないぜ……。

 

「そうか。食糧はどうだ?」

「自給自足でなんとかなってるよ。ある程度節約すれば余裕でもつさ」

 

 

 どうやら、当面の間は平気なようだ。

 偏食因子のストックもあるので、このクソ忙しい状況を何とか抜け出せれば今までのようにできるだろう。ただ餌やりが俺1人だけなので必然的に疲れる事になるが仕方あるまい。

 

 正直、此処をユウナとアリサに知られた以上、2人にも頼みたいが精鋭部隊のリーダーと優秀な神機使いがしょっちゅうアナグラを空けるのはまずいだろう。

 

 リンドウさんはその辺上手く折り合いをつけていたがユウナやアリサは性格上難しそうだ。

 

 今後の事を考えていると、扉が開いてアリサが部屋に入ってきた。

どうやら手当は終わったらしい。

 

「ユウナはどうだ?」

「静かに眠っています。呼吸も安定しているので安静にしていれば意識を取り戻すと思います」

「そうか。アリサ、ゴタゴタの後で悪いがちょいと手を貸してくれ」

「はい、分かりました」

 

 

 アリサを連れて倉庫から偏食因子をケースに入れて運ぶ。行き先はあの森だ。

 森へ向かいながらアリサの森での作業について説明しておくことにした。

 座学ではトップレベルの成績を誇っていたらしいので理解も早く教えるこちら側も大いに助かる。

 

 

「それではさっきの説明通りに?」

「ああ。偏食因子を打ち込んで木の偏食を制御するんだ。根の辺りに打ち込めばOKだ」

「分かりました」

 

 そう言ってアリサは手際よく偏食因子を打ち込んでいく。

 俺も早速作業に取り掛かって手早く終わらせた。

 

 

 偏食因子を打ち込み終えた。ケースを担いで集落へ戻る途中でアナグラの近況についてアリサから聞いた。

 

 まずアリサはユウナが時間を作ってリハビリに付き合ってくれたおかげで、あまり時間もかからずに戦線に復帰できた。ユウナは今までの実績を認められて第1部隊隊長に就任。サクヤさんも若干不安はあるが持ち直して戦闘には支障はないとの事。

 そしてつい先日、第1部隊は見事にプリティヴィ・マータを撃破して、今は黒いヴァジュラの動向を追っている。しかし最近は禁忌種が頻繁に出現するようになり、アナグラは人手不足。ユウナもリンドウさんの特務を引き継いで単身任務に出ており忙しいようだ。

 ソーマの奴も何かを探しているようで、まだまだ厄介ごとは片付かないようだ。

 

 アリサと今後の動きについて話し合った。

 ユウナが目覚め次第、俺達は3人でアナグラに戻る事になったのでとりあえずユウナが目覚めるまでは待機だ。

 

 しかし参ったな……。気まずい。

 ぶっちゃけアリサと共通の話題なんて無いし、俺は別に気にしていないが初めて顔を合わせた時のことを引きずっている様子。

 今この場であの時の事は気にするなと言っても余計逆効果だろう……。

 なんて言えばいいんだ? 「第1部隊はどうだ?」とか? 

いやいやリンドウさんの事があるだろ、地雷踏み抜いてどうするねん!

 

「ユウはリンドウさんの事をどう思ってましたか?」

 

 場の気まずさに頭を抱えているとアリサから突然質問が飛び出してきた。

 

「理想の上司だが?」

「そう、ですか。私は最初、あの人の事を旧型だからと馬鹿にしていました。それでも……空を見て動物に似た形の雲を見つけろって、そしたら気持ちが落ち着くって言ってくれました」

「そ、そうか。あの人らしいと言えばらしいな」

 

 リンドウさん、仲間には寛容だからな。アラガミには容赦無いけど。

 

「今でもたまに頭に過るんです。そんな人を死に追いやってしまって私は何赦されているのだろうって。勿論、リーダーや他の人もそんなことは無いって言ってくれます。それでも――」

「納得できないか?」

「はい……」

 

 若さ故に悩むね……。まあ普通の年頃の女の子の悩みではないのが確かだが。

 しかし、俺は精神科医じゃない。ましてや万が一の確率で治療を受ける方だ。酷い人間だと言われても否定できないが、優しい言葉なんて出てこない。

 

「赦される事なんてないさ。失敗も悪事もな。だから納得行くまで向き合え。ほらアレだ。リンドウさんから貰った命だろう?」

「貰った命……ですか」

「そう、親以外の他人にだって貰い物して人間出来ていくんだぜ? 恩返しとか償い以前に、自分の与えたモノがどんな使い方されるかって方が気になるもんだ。よーく考えてみると良いさ」

「リンドウさんが……何を思ってくれた命……。そうですね。私、勝手に考えていました。どうすれば償いになるのかなんて」

 

 水差すようで悪いがこれは俺個人の見解だ。ぶっちゃけ他人の考えなんて読めないから知ったことじゃないんだが……。

 まあ、アリサが今の悩みから少しでも解放されるならそれでいいってことにしよう。これが俺なりの優しさってやつよ。

 すまない、こんな遠回しな方法しかできないんだ……。まともな教養なんざ受けていないが故……!

 

「さて……じっとしていても暇なだけだし、森周辺の様子でも見てくるか……」

「それなら私も――」

「いや、お前は休んでおけ。あんな化け物とやり合っていたんだ。逃げ回るだけの俺よりお前らのほうが負担は大きい。休めるうちに休みな」

「……わかりました」

 

 

 アリサも不満はあるが納得はしてくれたので、すぐに戻るとだけ言って俺は森へ向かった。

 

 

 

 周辺の様子見をする前にしばらく偏食因子を打っていないエリアを確認したが特に異常はなさそうだ。こちらとしても侵入してくるアラガミさえ退治して補喰してくれればそれで良いのだが。

 リンドウさんが居ない今、この木の面倒を見続けるのも厳しくなってきた。あれだけ探しても見つからないのだ。そろそろ現実を受け入れるべきかもしれんが、諦めきれない。

 

 そのうち、榊博士に相談した方が良いのかもしれない。まだこの木はそこまで研究はされていない。調べれば餌やりをしなくてもよくなる可能性も十分ある。

 

 

「……! 木の揺れが……いつもと違う……?」

 

 

 突然周囲の気が揺れ始めた。

 近くにアラガミが居ると木が少し揺れ、棘を伸ばしてアラガミを貫いて喰らうのだが……。

 

 バキッと何かが折れる音がして、俺は音のした方向を警戒しつつ木の陰に隠れる。

 

 木が倒されたか……しかし、気配から察するにあまり大物ではないようだが……。

 気配を探ると、それはこちらへ一直線に向かってきた。

 慌てて伏せると目の前の気が中央でへし折られて俺の頭上を何かが通り過ぎ、すぐに距離を取って逃げる。

 

 何度か聞き覚えのある鳴き声だが、少し違和感がある。

 

「うおっ⁉」

 

 敵の姿を拝もうと振り返ると目の前には火球が迫っていた。咄嗟に体を捻ってやり過ごして背後で爆音が聞こえ、爆風が背中に吹き付ける事を気にせずに奇襲を仕掛けてきた奴を見た。

 

 赤い翼の鳥人が翼であり、手でもある両腕に炎を纏ってこちらへ近づいてきた。

 

「これはこれは、神機使い諸君から硬すぎてクソクソ呼ばれている剛炎タワーの化身、クソメト――じゃなくてセクメトさんでありませんか」

 

 

 シユウ種の禁忌種、厄介だな……。ただのシユウならまだしもよりにもよって禁忌種か……。いや、電気シユウもアレだが……。

 遠距離型の破砕には滅法弱いが近接武器に対して高い耐性を持っていて旧型近接の神機使いにとってはただただ面倒くさい奴だ。俺も一度だが交戦経験はあるのだが……硬すぎて怒りを通り越して泣きたくなる。斬っても斬ってもカキンカキンって火花が散って本当に面倒くさい。

 

 

『グゥオオオっ!』

 

 雄たけびと共に大きな火球を放ち、再び火球を回避する。当然ここは森の中、アラガミの木は『当たり前だよなぁ?』と当然のように燃える。

 

「おいゴラァ! 自然を大切にしろやぁ!」

 

 せっかく餌をやったりして面倒見てたのにパーにしやがったこいつ。

 あーなんかなー……すげぇ力に覚醒して素手でアラガミ倒せたりするっていう奇跡とか起きねえかなー。

 

 セクメトが再び火球を作り出した瞬間、俺の真横を青い玉が通り過ぎてセクメトの手を爆撃して火球が大きな爆発を起こした。

 爆発に巻き込まれた奴は悲鳴を上げながら地面に膝を突く。

 

 

「ユウ、無事ですか⁉」

「ああ、助かった。正直、神機が無いからどうしようもないんでな」

 

 アリサが救援に駆けつけてくれた。

 

「あれは、セクメトですか……。資料でしか見たことがありませんが」

「なーに、奴の倒し方は至って単純明快さ。破砕系の弾でひたすら銃撃だ。接近戦はあまりお勧めしない」

 

 俺が簡単に助言をするとセクメトは炎を纏って滑空攻撃を仕掛けてきた。

 アリサと共に跳んで回避すると、早速アドバイス通り銃撃を始めてセクメトは爆撃に悲鳴を上げつつ怯む。

 

 

 アリサの神機が弾を出さなくなり、すぐに近接形態に切り替えた。

 

「ごめんなさい。弾切れです」

「おし、少し奴と踊って気を引いてやるからチャンスを見つけて仕掛けろ」

「分かりました」

「先に突っ込む。頼んだぞ」

 

 それだけ言うと一気にセクメトと距離を詰めて対アラガミ用ナイフを抜刀しつつ斬りかかる。ナイフは容易く弾かれてセクメトの反撃が迫るが紙一重で回避して遠距離攻撃を誘発しないように至近距離で立ち回る。

 

 アリサがセクメトの背後へ回り込んで背中を切りつけて離脱してセクメトがアリサへ向くと俺はセクメトに飛びかかって翼の隙間にナイフを突き刺す。

 

『グゥ……⁉』

 

 鬱陶しいと言わんばかりに俺へ回し蹴りを繰り出してくるが、跳躍で避けてそのまま頭部を切りつけて背後へ回るとすぐにアリサが飛び込んできて翼を一閃して離脱する。

 

「アリサ、まだか? 踊るなんてかっこいい事ほざいたが要するに粘るってだけだからな! 急いでくれ!」

「分かっています! もう少し凌いでください!」

 

 セクメトが四方八方に火球を撃って回避しつつアリサを急かす。アリサも一発ずつ躱しながらセクメトへ接近する。

 

 

 

 火球の嵐を掻い潜って、一気に距離を詰めて斬りかかるがセクメトは両手で地面を叩きつけて衝撃波を放ち咄嗟に地面を蹴って後ろへ飛び退く。

 

 無茶な回避で後隙を晒してしまい当然奴は拳に炎を纏って殴りかかってくるが何とかギリギリで躱す。

 奴はすぐにアリサへ目標を変え、勢いよく跳んで距離を詰めてアリサへ殴りかかる。

 

「アリサ、迷うな!」

「ッ!」

 

 アリサは迫る拳にあえて攻撃を仕掛けて炎諸共拳を切り裂いた。

  

『グゥオ⁉』

 

「これなら!」

 

 素早く捕喰形態へ神機を切り替えてセクメトの肉を食い千切ってバースト状態に移行する。

 

「隙を作る! やっちまえ!」

 

 叫びながらセクメトへ飛びかかり、奴の目を切りつけた。

 

『グゥ……⁉』

 

 目を押さえながら隙を晒したセクメトを、銃形態へ変形させつつ胴体に銃口を向けて至近距離で爆撃する。

 

 アリサとセクメトは互いに吹き飛んだ。

 

「……!」

 

 油断を伺わせない表情をするアリサと下半身がボロボロになったセクメトが向かい合い、アリサが近接形態へ切り替えて駆けた。

 

 踏み込みと共に下半身の傷口を一閃して片足を斬り飛ばして地面へ倒れるセクメトの頭部に神機を突き刺して更に地面へ叩きつけて放り投げた。

宙を舞うセクメトにアリサは跳躍して体を回転させつつ神機を振り抜いてセクメトを一刀両断した。

 

 

「活動停止を確認しました」

「ああ、やったな。助かったぜ」

 

 無残な姿になったセクメトを2人で見下ろし、アリサの神機が死骸を捕喰してコアを回収した後、俺たちは集落へ戻った。

 




赦すと許すの違いがよくわからない今日この頃。
暇だったら今度ググってみます。


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(˘ω˘)スヤァ…………

ユウ「悲報 ワイ、身バレする」


 集落へ戻るとユウナが目を覚ましており出迎えてくれた。

 

「アリサ! ユウ!」

「リーダー! 目覚めたんですね。怪我はどうですか?」

「うん、休めば大丈夫そう。2人とも、助けてくれてありがとう」

 

 ユウナに微笑みながら礼を言われるが助けてもらったのはこっちなのでむしろ礼を言うのは俺の方なんだがな。

 よくよく考えれば2人を助けようと思って乱入したけど結果的に逆に助けられたからもしかして俺ってめっちゃかっこ悪いのでは……。

 

「いや、助けられたのは俺の方さ。礼を言うのはこっちさ」

 

 自虐しながらもちゃんと礼を言う。

 人間関係とはこういう小さなことから出来上がっていくのだ。

 

 

「さて、ユウナも目覚めたし当初の予定通りアナグラへ戻るとしよう。悪いが連絡とってくれねえか? 俺の無線、無線としての職務を放棄していてな」

 

 役に立たない無線を見せながら2人に頼むと快諾してくれる。

 

 ユウナがアナグラと連絡を取り、しばらくすると無線を切った。

 

「明日近くにヘリで来てくれるってさ。詳しい降下地点は後で送ってくれるからとりあえず此処を発つ準備を先にしておこう」

「了解です」

「OKだ」

 

 ユウナとアリサは神機と携行品をまとめ、俺も携行品を整理する。

 

 準備が出来ると俺たちは特にやることがない。せいぜい大型や中型アラガミが森に入ってきたら返り討ちにする準備といったところか。

 

「やべぇ……暇だ。暇疲れするぞ」

「暇なのは同意しますけど、口に出さないでください……」

「アリサも暇って口に出してるよ。あ、私も口にしちゃった」

 

おいおい、こういう時こそコウタの出番だろう。なんであいつ肝心な時に居ないんだ。

まったくタツミと言いコウタと言い……アナグラの男連中は肝心な時に居ないから困る。

 

 

「2人とも」

「(。´・ω・)ん?」

「どうしましたリーダー?」

「恋バナでもしない?」

「ええっ⁉ り、リーダー⁉」

 

 俺も開いた口が塞がらない。まさかあまりにも暇でとうとうおかしくなったのか……?

 ユウナらしからぬ発言だ。

 しかし、恋バナか……。このメンバーまだ知り合って半年もたってないんだぞ……? ましてや我々人類のために戦う身。恋愛どころではないからまともな話ができるのだろうか? 

 というか恋バナって同性同士でやるもんじゃないのか……?

 

「ふふっ、冗談。ちょっと唐突な発言すれば暇つぶしになるかなって」

「も、もう……リーダーは真面目なのかユニークなのかわかりません」

 

 

「すみません、ユウさん。ちょっと手を貸してもらいたいんですが……」

 

 集落の人間に声を掛けられて俺はよし来たと心の中でガッツポーズを決める。

 

「ああ、丁度退屈してたところだ」

「それなら私も手伝うよ」

「はい、世話になってばかりですから恩を返さないと」

 

 

 

 集落の人間に案内されたのは仮設住宅が集まっているエリアだ。

 稀にだが難民が森へ逃げてきて迎え入れたりしているうちにそれなりの人数になって、仮設住宅を建てるとのこと。資材はまだ余っているが、男連中は森の外へ資材を回収しに行ったりで男手が足りずに力仕事が辛いらしい。流石に資材回収から建設までやったら過労で倒れる可能性もある。怪我人だって居るし、無理やり働かせるわけにもいかない。

 

「力仕事ならお安い御用さ」

 

 そう言って俺は早速作業に取り掛かる。

 数週間だが一応建設業の経験はあるので段取りさえ上手くすればスムーズに作業はできる。

 ユウナとアリサも手際が良いので当初の予定よりも作業が進んだ。

 日も沈んで作業は終わり、食事をとってしばらく寛いだ。

 

「お疲れ様です。おかげで助かりました」

「いや、気にするな」

「汗もかいたでしょうからお風呂の準備をするのでゆっくりしてください」

「ああ、何から何まで悪いな。先に2人を入れてやってくれ。なんだかんだ疲れてな。風呂入るのもちょいと大儀なんだ」

 

 それだけ言って外へ出て屋根へあがって寝転がる。

 

 

 ああ、寝転がる瞬間が一番幸せだわ。これで晴天で草原だったら最高だった。まあ、最も草原で日向ぼっこなんてもうできないだろうが……。

しかし星空の下で寝転がるのも中々新鮮味があって良いものだ。

 

 

「…………ねむいな。ちょっと一服」

 

 

 

(˘ω˘)スヤァ…………

 

 

 

 

 

『だれか、たすけて』

 

 

 

『だれか、助けて。お願い』

 

 

間違いない。誰かが助けを求めている。でも誰だ? 誰が呼んでいるんだ?

 

 

 

 

 

「ユウ?」

 

「ん⁉」

 

ハッとすると、ユウナが俺の顔を覗き込んでいた。

 

「ああ、寝てたか……」

「私たちお風呂あがったから今度はユウの番だよ?」

「そうか、ああ起き上がるの怠……」

 

起き上がってふと思い、ユウナに聞いてみた。

 

「なあ、さっきに誰も助けてとか叫んでないよな?」

「え? 誰も言ってないけど……」

「そうか、助けてって聞こえる夢でも見たか……」

「…………もしかしたら、何処か遠いところで言ってるかもしれないよ」

「遠く?」

「うん。根拠はないけど、そんな気がする」

 

ユウナが空を見上げながら言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 翌朝、すぐにヘリの降下地点へ向かい、丁度来たヘリに乗ってアナグラへ戻った。

 

 アナグラに戻ると、2人と別れて一旦任務の経過報告をした。報告書に関しては後日で良いと言われたが、声のする場所を割り出したらすぐに向かわなければいけない故に途中報告を出すと提案して報告書を書き上げる。

 

「こちらが報告書になります。任務中の報告では軽く振れたことに関しても詳細を記入しています」

 

 雨宮教官に書類を手渡す。

 

「よろしい。出発は明日にしろ。今日はもう休め。ご苦労だったな」

「了解。失礼いたします」

 

 雨宮教官の執務室を後にして、エレベーターへ向かう。

 

 

 屋上へ行って声を聴いて場所を割り出そうかと考えた。

 扉が開き、エレベーターを降りて野外への扉へ向かう。近づけば自動で開き扉を潜ると、それなりに強い風が吹きつけてきた。

 

 あまり屋上には来ないがなんだかんだ此処から見える夕日は絶景だ。

 

 しかし、意外なことに先客がいた。それもまた以外な人物だ。

 

 シックザール支部長が静かに夕日を眺めていた。

 

 人目に付くところで気配察知するのに座っていたら頭のおかしい人間に見られても可笑しくはない。どっかに隠れて支部長が戻るのを待つべきか……。

 

 そんなことを考えた直後に支部長は俺の方へ振り返った。

 

 まるで諦めたかのような冷たい目に見えたが、顔は決意を固めた人間の顔をしている。

 何度か同じような顔を見た。敵にも味方にも決意を固めた顔をしている奴がいた。

 そして味方ならとても頼もしく、敵であったらとても厄介だったと鮮明に覚えている。

 

 

「ユウ君……と言ったかね? 此処に来たのも何か縁か……。少し話はどうだい? なに、息抜きに話し相手が欲しくてね」

 

 支部長から話だと……? 一体何の話だ。まさか上乳、横乳、下乳の3連コンボに関してか? 

 ぶっちゃけ俺は特にこの人とも関わりは無いし、この人も貴重な神機をぶっ壊した俺の事に関しては興味が無いもんだと思っていた。

 断ってさっさとあの声の居所を探りたいが……。

 

 

「構いません」

 

 仕方なく了承し、支部長の隣へ。

 

 

「そう言えば長期の調査に出ていると聞いたよ。それで聞きたいことがあったのだが、特別なアラガミを見ていないかね?」

「特別なアラガミ……?」

「君は感受性が人よりも強いと聞いている。他のアラガミとは違うものを感じとった事は無いかね?」

「いえ、特には……」

 

 特別と言ってもどんな感じの気配なのかが分からないから判断できない。人には人それぞれの、アラガミだって種類や個体によってある程度変わってくる。

 

「そうか。なら良いのだが……。あと、君には聞きたいことがあったんだ」

 

 

 支部長が真面目な顔をして俺を見る。

 

 

 

「君はどうやって此処へ来た? そして何故、留まっているのかね?」

 

「………………」

 

 こちらの目を見つめて断言した。この人気づいているのか……?

「たまっている」じゃないぞ? 「とどまっている」だからな?

確かにアナグラから程近い外部居住区の富裕層が集まっているエリアにはちょっとそう言う感じのお店もあって大変興味があるがな。

 

 しかし留まるね……。少なくとも生きてる人間に使う言葉じゃあない。

 俺が何者なのか知っているのか……? これが『何処から来た』なら分かるが……『どうやって此処へ来た』だから……恐らく俺の出身に関しては既に分かっている。

 

 いやまさか、あの戦いの事なんてノルンにすら載っていないぞ? 

 ただ、「世界を巻き込む程の大きな戦いがあった」としか記載されていない。

 そして俺自身も有名人じゃない。

 俺は只の無銘の兵士だ。墓も無ければ、慰霊碑に名前を刻まれている訳でもない。

 ただ「勇敢な戦士達、此処に眠る」という感じで略されているに違いない。

 あの戦いはそんな戦いだった。孤独な一兵卒は名前すらも忘れ去られる。

 

「俺がどういった人間なのか、どうやって知ったんですか?」

「なに……簡単な事さ。君の眼は我々の知らない戦場を見ている事を物語っていた。それに君が此処へ来たとき、この荒廃した世では珍しい格好と珍しい物を持っていた。」

 

 

 

「今の時代、軍刀なんて使う者は居ない。ましてや折れた刀だ。ただ、あの刀には随分血を吸わせたように見受けられるがね」

 

 納得できる理由を述べられ、俺は黙るしか出来なかった。

 確かに、折れた軍刀なんぞその辺には落ちてないからな。

 

「6年程前、旧ロシア地区で連合軍がある作戦を行ってね。私はその作戦を『旧人類最後の足掻き』と称した」

「6年前……。確か融合炉を自爆させてアラガミを殲滅する作戦でしたか」

「そう。そして半年前、君が此処へ来た。まさか、本当の意味での旧人類が現れるとわね。私自身も元は技術屋だ。時を越える方法があるのなら興味は沸くさ」

 

勘が良いと言うべきか……。まさかここまで見破られるとは思わなかった。

 

「成程。まず、「どうやって来たか」ですが、俺にもわかりません。死にかけたらアラガミの目の前に居ましたよ。「なぜ留まっているか」の返答ですが、俺の質問に答えてくれるなら答えますよ。そして俺からの質問です。エイジス島には何が居るんですか?」

「何が居る……とは?」

「俺はあなたの言う通り感受性が人より特殊、いや……戦いを重ね己を研鑽し続けた結果ですがね。偶に感じ取るんですよ。エイジス島からとんでもないモノを」

「ふっ、何が「あるか」ではなく、「居る」……か。君も予測はできているのではないかね?

そしてそれがどんなものなのか」

 

 普通の奴なら『何故ばれたのだ?』と言う顔をするが、支部長の顔を違った。この人は、覚悟ができている。目的の為なら手段も辞さない。そして何より、俺を見つめるあの眼だ。

 

 同じ様な眼を何度も見ている。だから、分かる。この男は最後をどのように迎えるか…………。

 

 これがこの人の……人間性か。だが、悲しいな。この人の歩く道は孤独だ。

 だが、それも承知の上なのだろう。

 素晴らしい。実にすばらしい。権力を手にしても堕落せずに決意を押し通す気概。人であればだれもが欲する権力という力でさえ、彼はただの手段としか見ていない。

 かつての権力者共や尻尾巻いてとんずらする上官に見習って欲しいものだ。

 

「贅沢だと自覚はありますが、あなたの様な尊敬できる者の下に付きたかった」

 

 この人は俺達にとっては敵かもしれない。だが、こちらも敬意を払おう。

 

「何故留まっているのか、ただ単純ですよ。来ちまった以上、やるだけやるしかないんですよ。例え勝ち目が見えなくてもね」

「成程、ただ単純にその理由か。君だからこその覚悟、私は君を評価するよ。そして哀れに思う。そのような覚悟と考えがその年で出来てしまう時代に生まれた事を」

 

 支部長は納得したように頷き、褒め言葉と憐れみを送ってきた。

 

「君にはある質問をしてみたい」

「どんな質問ですか?」

「荒れ狂う海で船が沈み、海に君は放り出されたとしよう」

「俺船酔いがひどいんですけど」

 

 俺の言葉を見事にスルーして支部長は言葉を続ける。

 

「君は幸運にも漂っていた板にしがみついていると、君と同じように海へ放り出された者がいる。2人が板に掴まれば間違いなく板は沈む。君はどうする?」

「ああ、そういう事ですか。俺は泳げるんで、泳げない奴に譲って後は泳いで帰りますけど」

 

 嵐の海を泳いで帰る程度なら俺達の十八番、根性論が火を噴くぜ!

 

「世間ではそれを蛮勇と言うのだよ」

 

 これは中々鋭いツッコミが帰ってきた。

 

「蛮勇だって極めりゃ下手な勇気よりかはマシですよ。泳いで帰るつもりですが、もし戦意が滾ったら海に挑んで深く潜るかもしれません。自然災害なんて歯向かってなんぼっすよ」

「フッ、そうか。それも1つの選択か。時間を取らせて済まなかったね」

「いえいえ、俺も有意義な時間でしたよ。手助けはできませんが、応援はしますよ」

 

 

 支部長は俺に背を向けて歩き出し、扉が閉まる音を確認して俺は座り込んで意識を集中させて声を聴く。

 

『助けて』

 

 まだ生きてるな。

 

『誰か、助けて』

 

 方向は分かった。後は距離だ。

 

『お願い。助けて』

 

 より強く助けを求めているな。それなら探しやすくなって手間が省ける。

 

 

『イヤだ。やめて。誰か。神様』

 

 こんなご時世に神に祈るとは……相当追い詰められているようだ。

 ますます助けてやらねえと目覚めが悪いな。

 

『助けて!』

 

「ッ!」

 

 目を見開き、助けを求める声の方向を向く。

 

 この方角は……海の向こうか。

 

 仕方ねえ。此処なら安全だし、試してみるか。

 

 万物をも見切る神の御業、真の見切の極意。

 神の御業と称されるなら、神様に助けを求める信仰深い信者を救わねえといけねえだろう?

 

 精神を今まで以上に研ぎ澄まし、意識を集中させる。

 

『助けてッ!』

 

 より強く、その声を聴いた瞬間、俺の視界には様々な光景が映った。

 

 

 

 灰だ。すべてが灰に変えられている。

 そして下衆な笑みを浮かべ、堕落を極め、あまりに醜い人と言う名の生き物。

 鉄格子とアラガミにとても近い人の気配。

 

 何より驚いたのは、アラガミに近い存在の両手首に嵌められた手錠の様な腕輪だ。

 そしてその手は……とても小さかった。間違いなく、子どもの手だった。

 俺とは血が繋がっていない弟や妹の手より小さい手だった。

 

 とうとう子どもにさえ強いるか。絶望との終わり無き戦いを。

 

 未来は過去があるからこそだ。これも過去を駆けた俺の不始末か。

 

 だが、これが何処なのかは分からない。せめて、手がかりが欲しい。

 声の主は……あの子だ。この子だけは何が何でも助けなければいけない。

 

 

 

『ユ……ウ』

 

 

 今の声……いや、そんな筈が無い。何故戦場で散った彼らの声が俺の耳に聞こえる?

 しかし幻聴や聞き間違いで済まない程はっきりと、確かに何度も聞いた声が聞こえた。

 

 

『ユウ、此処だ。此処から助けに行け』

 

『少年、奴らを許すな』

 

『若者よ、頼む……せめて1人でも多く。我々は……1人でも多く殺した』

 

『でも、君は1人でも多く救ってくれ』

 

『此処だ。我々の欠片と魂が眠る、この場所だ』

 

『我々の最期の地だ。硫黄香る、戦場だ』

 

『今度は殺しに行くのではない。救う為に行くのだ』

 

 

 

 

         頼んだぞ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!」

 

 様々な光景の後に聞こえた、覚えのある声……。

 気高く勇敢で最後まで強者として戦った戦士たちの……戦友達の声だ。

 

「ハァ……ハア……」

 

 やはり凄まじい疲労が襲ってきた。実際に戦闘では使えないだろうと思っていたが、何も戦闘で役に立たないから役立たずではない。

 おかげで救えそうだし、彼らの願いも果たせそうだ。

 

「ああ、分かっている。俺に任せろ」

 

 決意を彼らへ知らせるように、天に言葉を紡ぐ。

 

 




思ったけどあの世界観で風俗とかってあるのか……?

でも風俗が近くにあっても多分こうなる。


「風俗生きたいんゴォォォ!」→賢者タイム突入→「ふう、別にもうええわ」


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ンホオオオおおっ!! ぎもちぃぃぃぃ!

全然関係ない話だけど近所の家で赤ちゃんが生まれたので腕をちょっと触らせてもらったらすごく柔らかくてぷにぷにしていて驚いた。


 呼ばれてきたぜ。かつての戦場にな。

 懐かしいな。つい昨日の事のように思い出す。

 

 敬愛する上官が「突撃ィ!」と号令と共に全員で雄たけびを上げてこの荒れ果てた大地を駆けたものだ。

 

 

 硫黄香るこの島に、助けを求める声の手掛かりがある筈だ。

 手がかりがあるのはいいんだが、帰ったら雨宮教官に何と説明したものか……。ディアウス・ピターの手がかりがこの島にあるかもしれないとホラを吹いてこの島に来たのだが……こんな島にあんな怪物が居る筈もないんだ。なんの成果もなく帰ったら『貴様ふざけるな』と鉄槌が振り下ろされる事は明白だ。

 

 考えても仕方がないので今はやるべきことをやろう。 

 しかし、この島も中々の広さだ。一体何処から調べればいいのだろうか……。

 今までの調査の具合から何かあるとすれば、かつて俺達が作戦の為に掘った洞窟だけだ。万が一崩落すれば1人では一発アウトなので入らなかったが、他に手がかりがあるとすれば、洞窟の中だろう。

 

 

「仕方ねえよな。頼むから崩れるなよ?」

 

 もし崩れたら神よ、お前を殺す(純粋にして確かな殺意)

 

 意を決して洞窟の中に入り、ライターを使って周囲を照らして暗い道を照らして奥へ進む。

 

暫く奥へ進み、後ろを振りかえれば暗闇の中、外の光は最早見えなかった。更に奥へ進むと風が前から微かに吹いた。

 

 

ライターの火が照らす暗闇の遥か先に小さな光が見える。

 

 その光を目指して足元に気を付けながら歩いていくと、形が崩れていて断定はできないが手と思わしき骨が視界に入った。指と思わしき数本の骨が拳を握るかのように曲がっている。

 この骨だった戦士は最後まで戦おうとしたのだろう。

 

 骨を拾い上げて壁の傍に置いて、握られた手の骨を解く。

 

「…………戦争は終わったぞ。ま、現在進行形で別の脅威と生存競争中だが、俺らの出番は無しだ。ゆっくり休め」

 

 それだけ言って骨に拝み、その先へ行く。

 

 

 

     『じゃあ、休ませて貰うよ。呼びに来てくれてありがとな』

 

 

 気さくな声が聞こえた気がして、俺は手を軽く上げて歩き続ける。

 

 

 やっと光の元までたどり着くと、光は宙に浮く小さな結晶が放っていた輝きだった。

 

『お願い…………誰か』

 

「大当たりか、待ってな。今行く」

 

 頭に響く声を聞き、この結晶から発されていたものと確信した。

 そしてゆっくり結晶に触れた。

 

 

 結晶が突然、眩しい光を放ち咄嗟に目を腕で覆って隠す。

 

 

 

 

『名も無き兵よ、灰に気をつけろ』

 

『如何に荒ぶる神の力を得た君とて、長く灰に触れれば身体は朽ち果てる』

 

『だから、我々が君を包んで盾になろう』

 

『ただし、長くはもたん。急ぐんだ、ユウ』

 

 

聞き覚えのある4人の声が聞こえた時、体が光に包まれると暖かさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ? ……ん!?」

 

 

 腕で顔を覆っていたらごく自然な風を感じて腕を退けて目を開ければ、そこには異様な市街地だった。

 

 

「何だ此処は……」

 

 アナグラ近辺の市街地エリアとは全く違うな。

 あの一番高い建物……教会……か?

 しかし、気がかりなのは周囲の建物に付着しているマグマみたいな物体だ。

 

 近くまで寄ってよく観察すると、マグマではなくアメーバ状の何かだ。

 溶かしているではなく、喰っている。つまりこれもオラクル細胞と言う事か……。

 

 しかし、こんな物なんて見た事も聞いた事も無いぞ?

 こんな物があるんだったら榊博士が知らない筈が無い。新人が受ける講義でこんなものを見た覚えはない。コウタじゃあるまいし寝ていた訳でもない。

 

 意識を集中すれば、周囲からアラガミの気配だって感じ取れる。

 

 だが、感じ取った気配の中に異質なものが混じっていた。

 感覚的にはソーマから感じられるものに近いか……。場所は……あの一番大きい教会の様な建物だな。

 

 向かってみると、教会でなく礼拝堂だ。資料でしか見たことない故、実物を見るのは初めてだ。やはり、此処は極東では無いのか……。こんな立派な礼拝堂があったらノルンに何から記載してある筈だが、そんな資料は見たことない。

 

階段を上って礼拝堂へ入ると、隅っこに小さな子供が苦しそうに肩で息をして蹲っていた。

 

 音を立てないようにゆっくり近づくと灰色の頭髪にボロいの布キレ一枚だけを羽織っている。

 髪の長さから女の子だろうか? 

 どちらにしろ、こんな子どもをこんな所で1人にして置く訳にはいかない。

 

「なあ、君」

 

 声を掛けると、女の子は体を震わせてこちらを見た。

 

 

「ヒッ……!?」

 

 女の子が俺を見た瞬間、怯えた。

 ちょっと傷ついたが場所が場所だ。怯えるのは仕方な――

 

「来ないで……!」

 

 女の子は後ろに隠していたのか身の丈ほどある神機の様な物を俺に向けた。

 そして、女の子に両手首には一対の腕輪が装着されていた。

 

「ッ!」

 

 あの両手首の腕輪は……。あの時視えた……!

 声も助けを求めていたあの声にそっくりだ。それじゃあ、この子が……。

 

「いやァ!」

 

 女の子が一気に距離を詰めてきて刃を振った。

 

「ヌおッ!?」

 

 咄嗟にバックステップで回避する。

 おいおい、なんだこの子⁉ こんな子供が凄まじい速度で接近してきたどころか武器の振りも鋭い。

 

 突然の出来事に困惑していると、女の子はすぐに追撃を出してくる。

 

「ちょっと、待ってくれ! 俺は……」

 

「やだ! やだ! やめて! お願い!」

 

 涙を尻目に溜め、半狂乱になって神機をひたすら振り回してくる。対アラガミ用ナイフに手を掛けたが思い止まる、ここで武器を見せればこの子は更にパニックになるかもしれないと考えが過って回避に専念する。

 

 

 

『シャッ!』

 

 横の大穴から大きな蜘蛛のようなアラガミが女の子に飛び掛かかろうとした。

 

「ッ⁉ 伏せろ!」

 

 斬られるのを覚悟して女の子に飛び込んでそのまま共に床へ転がる。

 蜘蛛の攻撃は寸の所で避けられたようだ。

 

『キシャッ!』

 

 蜘蛛が赤く光る球体をこちらに飛ばしてきた。

 

 横の女の子が飛び出し、刃で球体を切り捨てて一気に蜘蛛まで距離を詰めて一閃して一撃で蜘蛛を真っ二つにした。

 

「ハア……ハア……ッ! うぅ……ハア……」

 

 苦しそうに呼吸を繰り返すのが痛ましい。

 

「おい、大丈夫――」

 

 女の子が俺に向かって武器を振ってきた。

 

「ッ!」

 

 攻撃を躱して女の子に抱き着く。

 

「大丈夫だ、俺は何もしない! もう怖くないから大丈夫だ」

 

 そう言いながら、女の子の頭を優しく撫でてしっかり抱き寄せる。

 

 女の子は武器の形を変え、小さな刃を俺の脇腹に突き刺してきた。

 

「ッ……! 大丈夫……俺は敵じゃない。落ち着いて」

 

「…………ッ!」

 

 女の子が武器から手を離すと、武器は光の粒になって消えた。

 ふう、めっちゃ痛ぇ……。でも……なんとかなったか。全く災難だぜ……。日頃の行いが悪いからこうなるのだろうか……。

 安堵するが脇腹の痛みは引く訳ではない。

 

 

「うぁ……あぁ……ウァ……ふえぇ……グスっ……うわああああああ!」

 

 

 女の子は我慢が解けたのか大声で泣いた。

 

 や、やべえよ! この年頃の女の子ってどうすれば泣き止むんだ⁉ 俺子育ての経験なんてねえぞ⁉ 

 クソ、修行や喧嘩に明け暮れたガキ大将だった自分が憎い。ちゃんと学校に通うべきだった……!

 女だったらこういう時母性本能が云々でなんとかできるのだろうか……。しかし俺は男だ。股間にはちゃんと可愛げのないゾウさんがぶら下がっている。

 

 

 そういや、ガキの頃だったか……山の中散歩してたら変な爺に金の玉を貰ったな。

 

 

爺『ほう、こんなところに一人で来たのか坊主。よし、お主に良い物をやろう。金の玉じゃ。儂の金の玉じゃ。あ、ついでにもう1個やろう。儂の金の玉じゃ』

 

 山から帰ったら速攻で捨てたよね。当然だけど。

 

 ってこんな下らねえ事思い出している場合じゃないわボケェ!

 どうすればこの子が泣き止むのかを考えなければ……。

 

 そうだ、心の中には違う性格の自分が何人もいるっていう話があったな。1人じゃだめなら別の自分に力を貸してもらおう。

 別の自分……これ所謂パワーワードじゃね?

 

 

 

俺『そんな訳で目の前の女の子をどうやって泣き止ませるか考えたいと思う。案のある者は挙手した後に発言せよ」

 

俺2号「はい。襲って無理やり黙らせる」

 

俺『死んでくれたまえ』

 

俺2号「ウボァー!」

 

俺3号「こんな性犯罪者が2番手とか嘘やろ? 冗談きついわー」

 

俺4号「赤ん坊みたいに抱き上げてあやせば?」

 

俺5号「いや、年齢的に10~12歳位だろ? 無理があるわ。ひたすら頭を撫でた方が良い」

 

俺『ぶっちゃけそれぐらいしか思いつかないよな』

 

俺3号「自分の事を女だと思い込んで母性本能を無理やり出せばいい」

 

俺『無理に決まってんだろ常考」

 

俺6号「じゃあ股間にぶら下がっているゾウさんを切り落とせば? そしたら女になれるよ」

 

俺『だから無理だって言ってるダルルォ⁉ 次舐めたこと言ってみろ? お前のゾウさんとサヨナラバイバイさせてやる』

 

俺7号「はい、快楽堕ちさせる」

 

俺『7って縁起の良い数字だけどお前はクソだな。死にたまえ』

 

俺7号「ンホオオオおおっ!! ぎもちぃぃぃぃ!」

 

俺3号「ヒエっ……」

 

俺4号「ヒエっ……」

 

俺5号「ヒエっ……」

 

俺6号「ヒエっ……」

 

俺『うっわキッモ……なんだよこいつ……』

 

俺3~6号「お前だよ」

 

俺『あっ、そっかぁ……」

 

 

 

 

俺s「カクカクシカジカアーダコーダ」

 

 

 

 

 話し合いの結果、抱き上げてそっと抱きしめつつ頭をなでることで泣き止んでもらうことになった。

 

 

 女の子を抱き上げ、頭を撫でながらあやす。

 

 

「よしよし、怖かったな。いい子だ、偉いぞ」

 

 あやしながら優しい言葉を掛けるともっと強く制服を掴んでくる。

 さっきまで使ってきた神機の様な武器といい、普通のゴッドイーターとは違うようだ。

 だが、今はただの女の子だ。

 

「ふああああああッ! ごめ……! グスッ、ごめんな……さい……うぅ」

 

「謝らなくていいんだ。俺こそ、怖がらせてごめんな?」

 

 泣きながらでも謝ろうとする女の子をあやしながら、驚かせてしまった事を詫びる。

 女の子が頬を擦り付けてくる。子ども特有の柔らかさが少し気持ちいい。

ああ、子供の肌ってこんな暖かくて柔らかかったけか……。

 生まれたばかりの義弟を思い出す。とても小さかったな……。頬をつつけば、くすぐったそうに微笑んでいた。義父が『この子だけは己の身に代えても守らなければ』と口にしたら義弟は急に泣き出して2人して困ったものだ。

 

 

 女の子が泣きやみ、目を赤くする。まだ尻目に涙が溜まっており、指で拭う。

 

 

「ホラ、目が真っ赤だ。可愛い顔が台無しだ」

 

 

頬を優しく撫でると、顔を胸に埋めてくる。

 

「俺はユウ。君は?」

 

「……エレナ。エレナ・ペニーウォート」

 

「そうか。エレナか、良い名前だな。よろしく、エレナ」

 

「うん……」




3発売前にPV見たときにアレ?ショートの振りなんか遅くね?って感じて嫌な予感がして見事的中したけどアプデで徐々にだけど段々改善されてきてると思う。

え、カスバレ? いや自分、銃縛ってるんで……。(一一切り替えるのが面倒くさくて使ってないだけ)


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もう許さねえからなぁ?(憤怒)

NPCの復讐の憤怒発動の台詞に惚れる。


 なんとか泣き止んで落ち着きを取り戻してくれたのでとりあえず瓦礫の陰に身を隠し、座り込んで一息つく。

 エレナは俺にぴったりくっついて両手で俺の制服を掴んでいる。

 

 

「エレナ、どうしてこんな所に居たんだ?」

 

「看守達がアラガミを倒して来いって言って無理やり連れて来られて……。でも怖くて……」

 

 看守……ああ、分かったぞ。あの光景の下衆共だな。牢屋の向こうで下劣で気色悪い笑みを浮かべていたあいつらの事で間違いなだろう……。

 マジで腐ってんな。まだエレナは十歳かそこらだろ。まさか、腕輪も無理やり適合試験を受けさせて付けたんじゃあるまいな……。

 つか、倒して来いってなんだよ。あいつらもゴッドイーターだろ。自分で行けよ。

 

「エレナ、その……どうして腕輪が2個もついているんだ?」

 

 ずっと疑問だったんだよな。だって腕輪が2つだぜ? 腕輪って神機を制御するためにつけるものだろう? それが2個ついているってことは神機2刀流という浪漫がある。

 あ、でも2刀流って見る分には格好良いけど実際に自分が使おうとしたら使いづらいにも程があるよな。ぶっちゃけ2刀流できる奴を見ると素直に器用だなと尊敬する。

 

「ユウは私たちの事を知らないの? AGEだから……だよ?」

 

 AGEってなんぞや……。そんなもん聞いたことないぞ……。

 

「ウーム……。聞いたことないな……。寝ていたらいつの間にかあの礼拝堂の前で突っ立っていてな。此処が何処かも分からないんだ」

 

 

 エレナによると、灰域と呼ばれる災害が起きてそれに伴って生まれたゴッドイーターらしい。その灰域に高い耐性を持っているらしく長時間は灰域の中でも行動できるとの事だ。

 ちなみに今現在居るこの場所も濃度は低いが灰域の中らしい。

 

 戦友達の言葉の意味が分かったな。つまり、俺は今戦友達に守られているから死なずに済んでいるらしい。長くはもたないって言っていたって事は早くエレナを連れ出さなければいけないか。

 

「私、サテライト拠点の孤児院に居たの。でも、ペニーウォートの人たちが来て子供たちを集めていたんだけど、私は怖かったから逃げようとしたら無理やり……。皆連れて行かれて、腕輪を嵌められて……!」

 

 エレナが震えながら語り始め、エレナを抱き寄せて背中を擦る。

 

「それから一度も皆に会ってない……。看守たちは超・甲判定だ。レア物だって言ってて、私だけ狭い牢屋の中に入れられて、あいつらに……」

 

「大丈夫。もう話さなくても良い。大丈夫だ」

 

 もう許せんぞ!ペニーウォートのカス共! 

もう許さねえからなぁ?(憤怒)

 今なら自力でバースト状態に移行できそうなほど高ぶっていやがる。

 

 タツミや同期は仲間が致命傷を受けたら『テメェ、やりやがったな!?』とか『一度死なねば分らんようだな!』と怒りと共に神機開放状態になっていたな。

 彼らの気持ちが分かった気がする。

 

 しかし、ペニーウォート……ああ一々ペニーウォートって呼ぶの面倒だな。 もうぺ二カスでいいか。 

 あいつら……マジで考えただけで腹が立って来たぞ。きっとエレナの友達はみんな適合失敗で……。それにレア物って……人様を物扱いするとか人として終わってんな。

 偉大なる戦友達が連中を許すなと言うのも頷ける。いやまあ、俺らのご先祖様だって残虐非道な事はしただろうが、少なくても俺たちはそんなことはしていないのでこれはこれそれはそれだ。ここはやっぱりけじめを付けるという建前で直々にぶっ潰すしかないか。しかし、それなりの組織だろうな……。 

 1人でエレナを守りつつ潰すのは中々至難の業だ。

 とにかく、エレナを連中の手が届かない安全な場所に送り届けてからだな。戦争の次はアラガミ退治、そして今度はまた人間が相手か。俺って戦う宿命でも強いられているのだろうか……?

 

 

 

 しかし、この子を助け出すのは中々骨が折れるな。

 俺達神機使いは生きて行く上で偏食因子の投与が必要不可欠だ。だからペニーウォートに行かなければ偏食因子は置いていないだろう。偏食因子云々に関しては俺も同じだ。携行した数から半年程度は問題ないと思うが……。

 

 もう1つ手があるとすれば、ペニーウォート以外のミナトか。エレナに合う偏食因子を作ってもらう事が出来るだろう。だが、右も左も分からないこの土地でどうすれば……。

 

 いや、考えていても仕方ない。時間は無いのだから悩んで止まる暇があるなら1歩でも進まないといけないな。

 

「エレナ、これから遠くへ行って暮らせる場所を探さないか?」

 

「遠く……?」

「ああ、連中の所には戻りたくないだろう? だから、一緒に探さないか? 怯えずに暮らせる場所を」

 

「でもアイツらは追って来るよ! 見つかったら今度はユウが殺されちゃう!」

 

「大丈夫さ。俺がエレナと一緒に探したいんだ。危険なんて百も承知さ」

 

「…………ユウ。どうしてそこまで優しくしてくれるの?」

 

 ふむ、まずいな。何か理由を付けなければ警戒されるか……。しかしなんて建前を述べたものか……。

 まあ、傍から見れば不審者と言われても否定できる証拠がない以上それっぽい理由が必要だな。

 

「なに、思い出すだけさ。血が繋がっていないが弟が居てな。生まれたばかりで……ホントに小さな手をしていた。指で頬をつつくと嬉しそうに笑いやがってな」

 

「……………………」

 

「だが、俺が兄ちゃんらしいことをできたのはそれが最後だ。訳ありでな。結局何もしてやれなかった」

 

「ユウは後悔してるの?」

 

「ああ。少なくても、エレナをこのままペニーウォートに連れていかれたら俺はまた後悔するだろうからな」

 

「…………わかった。私、ユウと一緒に行きたい」

 

「決まりだな。その前に……」

 

 制服の上着を脱いでエレナに羽織わせる。

 こんなボロい布キレ一枚は流石にまずい。しかし、制服はかなりぶかぶかだな。とりあえず手を出せる所まで袖を捲ってやるか。

 

 袖を捲り、携帯していた包帯で固定してエレナの手が出るようにする。もう1巻き包帯をエレナの腰に巻きつけて制服がはだけないようにする。

 

「これで良し。俺のお古で悪いけど、我慢してくれ」

 

「ううん。ありがとう、とっても暖かい……」

 

 

そりゃさっきまで俺が着ていたからな。

 

 

「ユウ、手」

 

エレナが手を出してきた。エレナの手を握ると握り返される。

 

「よし、行こうか」

 

「うん!」

 

 

俺はエレナと2人で礼拝堂を後にした。

 

 

 

 

 まずは高いところから周囲を見渡してみようか。

 何か人気のある建物があればいいんだが……。

 

 

 エレナを抱き上げて崖を駆け上って上まで上がる。

 

「うーむ、何もないな……」

 

 人が居る場所なら装甲壁が見えるのでそれを目印にしようかと思ったが、見渡せど視界に映るのはアメーバ状のオラクル細胞に捕食された建物と捕食対象を探して徘徊するアラガミ。

 神機使いの姿も見当たらない。

 

「ユウ、近くに繁華街だった所があるの。そこで地図とかあるかも」

 

「おっと耳より情報。よし、そこに行くか。どっちにあるんだ?」

 

 エレナに案内されながら歩くとすぐに繁華街は見えてきた。

 やはりここも礼拝堂周辺と同じような状態だ。

 

 

 

「…………アラガミか」

 

 俺達の先には小さな翼を首から生やした騎士の様なアラガミが居た。

 

 新種か。いや俺にとっては新種だろうが、この世界では普通に存在を確認されているアラガミなんだろう。

 両手の針のような武器……。気を付けるのはアレだな。

 

「ユウ、戦うの?」

 

「何とかしたいな……。あんなのがうろついていたら満足に探索もできねえからな。くそっ、神機さえあれば……」

 

「ユウ、これ……使って」

 

 エレナが手に光を集めると、装甲がついてない近接型神機のような武器が作られた。

 武器に『食べちゃダメだよ。力を貸してあげて』と言って手渡してきた。

 

「使わせてもらう。下がっててくれ」

 

「うん、気を付けてね」

 

 

 

 武器を構えると、奴も丁度こちらに気づいたのか雄たけびを上げて向かってきた。

 

 

 迫る針を躱し、側面に回り込んで斬りつけてすぐに離脱して距離を取る。

 

 針を構え、一瞬で距離を詰めて突き攻撃を咄嗟に剣で防ぐが、そのまま後ろに押されて壁に叩きつけられる。

 背中の痛みを無視して次の奴の攻撃に備える。

 

「ちッ!」

 

 奴がもう片方の針で刺してきたが、攻撃をギリギリで避けて針に斬撃を叩き込んで針を折り、追撃を掛けようと突き攻撃で頭部を狙う。

 

 

 

『KIIIIIIIッ!』

 

 

 

「ぐあッ!?」

 

得物の先端が奴の頭部を貫く直前で奴は突然咆哮を上げ、声量だけで空気が大きく振動して耐えきれずに吹き飛ばされる。

 

 受け身を取って剣を構えるが、耳の中でキーンと音が残る。人間吹き飛ばす程の力だ。鼓膜が破れないで済んでいるのは奇跡だ。

 

 

 奴が跳び上がり、上空から針を突き刺そうと降りてくる。

 

 大きく距離を取って攻撃を躱し、再び斬り込みを掛ける。

 剣で2度斬りつけると、奴も反撃を返してくるが跳んでやり過ごして更に空中から剣を振り下ろす。

 

 しかし奴も両腕の針を交差させ、剣を受け止められそのまま弾き飛ばされる。

 

「やるな……」

 

 受け身を取って構え直すと追撃の突進突きで迫ってくるが、剣を振りかぶってタイミングを計る。

 

「おらァ!」

 

 掛け声と共に突き攻撃を叩き斬って返り討ちにして吹き飛ばす。

 

 

『KIッ!」

 

 奴も負けじと両足の爪を地面に食い込ませて衝撃を殺し、跳躍して片腕を振り下ろし、体を一回転させつつ側面へ回り込んで剣を振るが、針で防がれる。

 

「ッ!」

 

奴の背の翼が肥大化して大きな翼になり、赤い羽根がこちらめがけて襲い掛かってくる。

 

 後方へ飛び退きつつ剣で被弾しそうな羽根を斬り落とし、着地と共に剣を蹴り飛ばす。

 

 奴も馬鹿じゃない。どうせ後隙を突こうと接近したらまた咆哮で吹き飛ばそうとしてくるに決まっている。だからこちらは遠距離攻撃をさせてもらう。

 

 空を切りながら回転する剣は奴の体に突き刺さり、奴は地面に膝をつく。

 その隙を逃さずに一気に接近して剣を掴み、即座に振り抜いてそのままアラガミを切り伏せる。横に倒れたアラガミはまだ僅かに動いており、再び剣を掲げて頭部に突き立てた。

 

 アラガミは動かなくなり、俺は念のため頭部を真っ二つにしてエレナの元へ向かう。

 

 

「ユウ! 大丈夫……?」

 

「見ての通りさ。ありがとな、貸してくれて」

 

 そう言って俺は武器をエレナに渡すと武器は光の粒になって消え去った。

 

 本当に不思議な力だ。

 無理やりAGEにされた頃からできるようになったらしく、それを見た看守達からボロボロになるまで利用されたのだろう。

身に着けた布切れが隠していない肌には痣や傷が見えており、看守の命令が遂行できなかったら殴られ蹴られ、鞭で打たれて体を傷つけられていたのだろう。

 

「ユウ、耳……」

 

「ん? ああ、大丈夫だ。大きい音をいきなり聞いてびっくりしているだけだ」

 

 アラガミの咆哮をモロに食らったせいで耳鳴りが酷く、無意識に耳を弄ってしまっていたようだ。それがエレナに目には耳をやられて辛そうに見えるのかもしれない。

 

「しゃがんで。ん……」

 

 エレナの指示通りしゃがみ込むと、俺の両耳を手で包み込んできた。耳が暖かくなるのを感じると耳鳴りが嘘のように消えて無くなり、違和感も無くなっている。

 

「ありがとな。エレナ」

 

「んん……」

 

 頭を撫でようとしたら手を掴まれて、頬擦りされる。どうやらエレナは頭を撫でられるより頬を撫でて貰う方がお気に入りらしい。

 

「よし、気を取り直して地図探しするか」

 

「うん!」

 




「対抗適応型ゴッドイーター(Adaptive God Eater)」通称は『AGE』

普通の人間じゃ10分も持たない危険領域灰域の発生に伴い、造り出された新たなゴッドイーター。
従来のゴッドイーターと違い、灰域に対する強い耐性を有し長時間の潜行を可能らしい。

極めて高い感応能力および身体能力を持ち、よりアラガミに近い存在だとか。
確かに、AGEの気配はソーマとそっくりだ。
AGEには、灰域への潜行、探索、物資の回収、アラガミの討伐、といった危険な仕事が課せられるが、彼らに与えられる報酬は極めて少ない上に使い捨ての駒扱いをされているとか。

かつて日本に蔓延ったブラック企業が彷彿される。


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うっわ、キッモ……!

3のアプデで紅煉灰域って追加されましたけど、どうやってクリアしろと言うんだ……。


 店っぽい建物を見つけて中に入る。

 物を退かして漁りを暫く繰り返していると、地図の様なものが出てきた。

 

「うっわ、ボロボロじゃん。まあ、無いよりはいいが……うーん……」

 

 地図だと思うんだが……。形的に日本じゃねえな……。なんだこの形……?

 ああ、駄目だな。こんなん役に立たねえわ。そもそも地図を手に入れたってこの場所がどの辺なのかかが分からないと意味がない。

だからボロボロでまともに読めない地図じゃ駄目だな。

 

 手に取った地図を投げ捨て、お目当てのものを探すが全く見つからない。

 

 

「エレナ、見つからねえな。一回外に出るか。埃ぽくって敵わねえ」

 

「うん」

 

 一緒に外に出て、壁に寄り掛かる。

 

「ユウ、この辺りはペーウォートが近いから急いで離れた方が良いかもしれない」

 

「近いなら腕輪のビーコンで嗅ぎつけられるか。じゃあさっさと――ッ!」

 

 

 何かが飛んで来る気配を感じ、首を傾げると顔の真横を何かが通り過ぎ、壁へぶつかり消滅する。

 壁には弾痕、そしてそれはよく目にする特徴的な跡だ。

 

「オラクル弾か……」

 

 おっかない世の中だ。アラガミだけじゃなく、同じ人間にも殺されるかもしれないなんてな。

 

 

「動くな!」

 

 瓦礫の陰から帽子をかぶった男が銃の様な物を構えて出てきた。

 男は背中に神機を背負っており、右手首には腕輪を嵌めていた。

 

 

「ァ……ッ!」

 

 エレナが怯えて俺の後ろに隠れる。

 

「キサマ、何処のミナトの所属だ。そのAGEは我々の所有物だ。みだりに接触して物としての価値を貶めた責任を追及し、賠償金を請求する」

 

 何やコイツ……。

 

 困惑である。困惑の極みで候。

 突然攻撃してきた挙句に責任追及からの弁償しろってガイジかよ。いや頭おかしいにも程があるだろ。いきなり値下げ交渉してきたシュンが可愛く見えるぞ。

 

 

「テメエこそ何処のどいつだ?」

 

「ユウ、ペニーウォートの人間! 逃げて!」

 

 早速来やがったか、ロリコン野郎。

 

「ハウンドA、任務を放棄するとは良い度胸だな。度重なる命令違反、挙句に神機の損傷。そろそろ調教が必要だな? そう思わないか雌犬?」

 

 うっわ、キッモ……!

 コイツレ〇プ魔かよ……。気持ち悪すぎる。下水でも覗いている気分だ。

 なんか口の中で唾液が大量分泌され始めた。

 いやまあ、ただ子供が好きなら分かるんだが……そう言う考えを持つのはいかんだろう。全世界の子供好きな紳士たちに土下座するべきではなかろうか。

 

 男はニヤつきながらエレナを舐めるように見て、怯えたエレナは震えながら俺のシャツを掴んで縋るように抱き着いた。

 

 怯えているエレナの頭を優しく撫でて男に罵声を飛ばした。

 

「おい性犯罪者。お前YESロリータNOタッチって知ってるか? テメエみてえなキモい奴がいるからただの子供好きなおっさんが悪者にされちまうんだぞ?」

 

「貴様ッ! 轟弄するか!?」

 

「事実だろ。大体いい歳して何考えてんだお前、気持ち悪い」

 

 いきなり男は銃の引き金を引いた。

 オラクル弾が再び向かってくるが、今度も首を傾げて回避して男に中指を立てる。

 

「クッ! おのれェ!」

 

 男が銃を構えると、引き金を引くと数発の弾が迫るのに対し、俺はエレナを抱き上げて屋根へ飛ぶ。

 

 幾つもの弾が迫り、澄ました表情を意識して余裕を見せながら回避する。

 男は銃を捨てて背中の神機を取り出して、跳躍して斬りかかってくる。

 

 ただ振り降ろされた神機を躱すとすぐに追撃を仕掛けてくるが、何ともまあお粗末な動きだ。

 

 攻撃を回避しつつ呆れる。

 

 コイツ、アラガミとまともに戦闘した事無いんじゃねえのか?

 それぐらい粗末な神機捌きだ。基礎訓練とか絶対やってねえぞコイツ。

 いや、ただ単に禁忌種パレードが頻発する極東がイカレテいるから俺の眼にはそう見えるだけか?

 

 

「おいおい、丸腰の相手になに手こずってんだお前」

 

「クッ!」

 

 男が神機を銃形態へ切り替えて、銃口がこちらを向いていた。

 

「ほう、新型か。良い物持ってやがるな。だがテメエの様な三流には勿体無いんじゃねえのか?」

 

 

 挑発を飛ばすとともにオラクル弾がこちらへ向かってくる。片手でエレナを肩に担ぎ、弾を避ける。

 対アラガミ用ナイフに手を掛けるが、この程度の相手には武器も必要ないと判断を下してナイフから手を離す。

 

「貴様、……投降する気になったか?」

 

「いや、全く? お前みたいなルーキー相手に武器使うのは可愛そうだと思ってな」

 

「舐めるなァ!」

 

 男がキレているのを尻目に、エレナを降ろして肩に手を置く。

 

「エレナ、ちょっと待てってくれ」

 

 

 男が剣形態に移行して斬りかかってくるが、斬撃を紙一重で躱して男の腹部に拳を叩き込む。

 

「ぐッ!?」

 

「おいおい、こんなもんか? 殴り殺すのも時間の問題かもしれんな」 

 

 男の首を掴んでそのまま体ごと持ち上げて手に力を込めると、男は悶え苦しみながらも俺の手を離そうと抵抗する。

 

 このまま握りつぶそうかと考えた直後、轟音が聞こえて振り返ると、大きなオラクル弾が錐もみしつつ飛んで来た。

 

「…………!」

 

 

 男をそのまま弾へ投げつける。

 

 次の瞬間、男は爆発と共に吹き飛び動かなくなり、体からは焼かれたのか煙が微かに立ち上っている。

 

「肉の壁とは便利なもんだ」

 

「ちっ、使えん奴め」

 

 もう1人仲間が居たか。

 

「投降しろ。命は助けてやる。それでも、我々の所有物を貶めた責任は追及するがな」

 

「お前もかよ。どんだけこの子に御執心なんだよ」

 

 なんでどいつもこいつエレナに執着してるんだ。

 ペニーウォートには性犯罪者しかいないのか……(偏見)

 果たしてペニーウォートにまともな人間は居るのだろうか……。俺はまともな奴は居ないに1fc賭けるぜ。

 え? 賭ける金額少なすぎだろうって? こっちも金欠なのさ。

 

「その犬は他の犬と違って特別だ。一定量のオラクル細胞を意のままに操作し、偏食因子の投与も不要。そしてガキ共の中じゃ群を抜く戦闘能力。食事はアラガミの肉片で済む。コストがかからない便利な狂犬だ」

 

「はっ、耳寄り情報だな」

 

 成程、そいつは驚きだ。だから神機の様な物を自在に作れたり、子供にしては高い能力を誇っている訳だ。だが、偏食因子の投与が不要なのは朗報だ。

 これでエレナが暮らせる場所をゆっくり探す事が出来る。

 

「バランに引き渡せば、億は下らん。お前の様な放浪者に価値が分かるか? それとも、その犬を連れ去って売り捌くか? ハウンドA、そいつも考えている事は同じだ。バランならば待遇も良いだろう。さっさと戻って来い」

 

「嫌だ! 私はこの人と一緒に行く! ユウとずっと一緒に居る! 来ないで!」

 

 エレナが俺に抱き着いて拒絶を示す。

 

「ちっ雌犬がッ……! 分からんようだな!」

 

 

 

 男も神機を構えて、襲い掛かる。

 

 エレナを下がらせ、迫る神機を躱して距離を取る。男は追撃を繰り出してくるが、すべての攻撃を最小限の動きで回避して懐に潜り込み、腹に拳を打ちこむ。

 

「ガハッ!?」

 

 悶える男の腹に突き蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「しつこい奴は嫌われるぜ? そして俺もしつこい奴は嫌いだ」

 

「黙れッ! 物の価値すら分からん放浪者が!」

 

 男が怒りと共に叫びながら神機を振りかぶるが、今だにエレナを物扱いする奴の言葉に普段は温厚な俺も流石にカチンときた。

 

「口の利き方に気をつけろよ若造」

 

「ヒッ――」

 

 男が一瞬怯え、攻撃が俺を捉えるよりも早くカウンターを打ち込んだ。首を掴んでそのまま地面へ叩きつけて肘を男の腹に叩き込む。

 

「グアッ!?」

 

 倒れたまま悶える男の帽子を取り、髪の毛を掴んで再び拳を叩き込む。

 鼻血と口からの出血で血まみれの顔を鷲掴みにして持ち上げる。

 

 

「全く、おめでたい奴だ。テメエよりも星条旗掲げた兵士達の方が遥かに手強かったぜ?」

 

 そして後頭部を壁に叩きつけて男の掌に護身用ナイフを突き立てて壁に縫い付け、もう片方の腕を圧し折る。

 

 

「ギャアアアアッ!?」

 

「騒ぐな。アラガミが集まって来るぞ?」

 

「さて、見事にナイフが刺さったな。ここまで深く刺したら、もう片方の手で引っ張らないと抜け……ああ、そうか。圧し折れていてな。悪かった」

 

 地面へ垂れている手を踏みつけると苦痛に顔を歪ませるが、生意気にも睨みつけてくる。

 

 男の眼前に対アラガミ用ナイフを突きつける。

 

「ここから近いミナトの場所を吐け。そしたら助けてやる」

 

「東だ! 東に行けばミナトがある! 早く抜いてくれ!」

 

「OKだ」

 

 手を貫いているナイフを握り、更に差し込む。

 

「ギャアアアアッ!? 何でッ!?」

 

「お前が嘘ついた可能性もあるしな。それにただ東って言われてもな。抽象的すぎる。それにな、ナイフを抜いてやるなんて一言も言ってないぜ? 助けてやるよ、この腐った世界の柵からな」

 

「き、貴様……!」

 

「まあ、悪い行いをしたら返って来るって事さ。神様なんて居ないから天罰なんて下らんが、代わりに俺が裁いてやる。ありがたく思え」

 

 ナイフをもう1本取り出す。ひと思いに楽にしてやるために首に突き付けて、切っ先が刺さり喉から血が漏れ出して男は悲鳴を上げる。

 

「ユウ、待って」

 

 

 エレナの声で俺はナイフを止めた。

 ナイフを持つ俺の手を握って、真っ直ぐに俺を見て言葉を紡ぐ。

 

「私が……やる」

 

 エレナがそう言い、俺はナイフを男から離して後ろへ下がる。

 

 

「…………!」

 

 黙ったまま、苦しそうに息をする男に近づいてエレナは手を翳す。

 エレナの手にオラクルの光が集まり、神機の様な形になる。

 

「ま、待てハウンドA! 俺を助けたなら待遇を改善してやる。お前の望むモノもくれやる。だから、ソイツを殺して俺を助けろ!」

 

 

 男の命乞いを聞き、黙っていたエレナがようやく口を開いた。

 

「ふざけないで。私はハウンドAなんて名前じゃないし、ペニーウォートでもない。私は皆を奪ったお前達を、絶対に許さない」

 

 エレナが手を震わせているのを見て、気が変わった。

 神機を握るエレナの手を優しく両手で優しく包む。するとエレナが神機を持つて手の力を緩め、俺は神機を持つ。

 

「やっぱりエレナが殺すまでもない。その男にはそれすらの価値がない。せっかく綺麗な手をしているんだ。こんなクソ野郎の血で汚すなんてとんでもない」

 

 そうだ、これ以上……この子を汚すわけにはいかない。恐怖に震える男に刃を突き立てた。

 

 

 男は目を見開いて崩れ落ち、ナイフに縫い付けられた手が一瞬痙攣して動かなくなる。

 

 

「エレナはやっぱり優しいな。だって、優しい顔をしているんだから。だからそれでいいんだ。優しいままで居てくれ」

 

「ッ……! うんッ……!」

 

 

 エレナが涙を零し、俺に抱き着いてくる。

 抱き上げると頭に手を回して頬を擦り寄せてくる。静かに泣くエレナの背中を優しくさすりながら、旧繁華街を後にした。

 

 

 

 

 エレナと暫く歩き、日が暮れ始めたのでそろそろ腰を落ち着ける場所を探そうとも思い、東へ向かいつつ目ぼしいところが無いか探しながら歩いていると、丁度雨を凌げそうな廃墟を見つけて今夜はそこで休む事にした。

 

 

 夜も更けてくると、肌寒くなる。俺とエレナは神機使いであるが故にある程度環境に適応できる。といってもまだエレナは子供だ。いくら神機使いとはいえ、心配になってくる。

 

「エレナ、寒くないか?」

 

「うん、くっついてれば温かいから平気」

 

 さっきからずっとベッタリくっついてくるので少々対応に困ってしまう。子守なんてしたことが無いので甘えてくる子供に対して精一杯甘えさせてやるべきか、それとも多少は厳しく接するべきか等全く分からない。

 

「腹、減ったな。ホラ」

 

 気付けば腹が減ったのでレーションを取り出してエレナに手渡す。しかし、レーションを受け取ったエレナは不思議そうに手にしたレーションを眺めている。

 

「これって食べ物?」

 

「ああ、ちょっと味は薄いがな」

 

 レーションを口にしながら説明すると、エレナも俺と同じように口に放り込んで齧る。

 

「美味しい……」

 

「そうか。なら良かった。まだあるから食べな」

 

「うん。でも、ユウの分がなくなっちゃう。私はもう大丈夫」

 

「育ち盛りは食うのが仕事だ。気にするな」

 

 エレナにもう1個手渡す。

 育ち盛りだからな。よく食べないといけない。

 

「……そうだ。はい、半分こ。あーん」

 

 暫く考えた後にそう言って、俺にもう半分を食べさせようとしてくる。

 いい歳した男が小学生ぐらいの女の子に食べさせてもらうとか、かなり恥ずかしい。

 ぶっちゃけ、知り合いにこんな所を見られでもしたらある意味悶絶する。

 

 しかし、笑っているエレナを見ると拒むのも気が引けるので大人しく受け入れる。

 

「ああ、ありがとう」

 

「うん、どういたしまして」

 

 眩しいぐらいの満面の笑み。ああ、この子を助け出せて本当に良かった。

 だが、まだ終わりじゃない。まだエレナが安心して暮らせる場所を探さないといけない。

 いつかはきっとお別れする時が来るのだろうが、そんな現実を今教えるのは心が苦しい。

 もし、このまま帰れなかったら俺は戦友たちの加護が無くなって灰域で命を落とす事になるだろう。

 まだタイムリミットが俺にしか無いだけまだマシか。

 

 

「…………っ」

 

「どうした?」

 

 エレナが急に力一杯シャツの裾を握り締めてきた。

 どうしたかと思い声を掛ける。

 

「ユウ、行っちゃヤダ……」

 

 暗い事を考えていたのが読まれたのか、エレナが泣きそうな声で抱き着いてきて胸に顔を埋めてくる。

 

 

「どこにも行かないから大丈夫だ」と、言ってやりたいがそれは後々エレナの気持ちに酷い嘘として重くのしかかるので黙ってエレナを抱いてあやす事しか出来ない。

 

 泣き疲れたのか、いつの間にか寝息を立てて眠っていた。起こさないようにエレナを横にして膝枕をして頭を撫でると、手を掴まれた。

 そのまま手を抱え込むように、体を丸めて嬉しそうな顔をしながら眠っている。

 

 俺も眼を閉じる。

 ある程度気を張って眠れば、アラガミが近くに来たら気配で起きれる。

 単独行動をする上で大事な技能だ。2人で交代しながら眠ればぐっすり眠れるが、エレナはまだ子供だ。ペニーウォートで酷い扱いを受けており、心も体も弱っている筈。

 出来るだけ食事や睡眠などをしっかりさせないといけない。

 

 

 

「ュゥ……ずっと……」

 

 夢の中でも俺が出てきているのか寝言を口に出す。随分懐かれたものだ。だが、悪くない。

 子を持つ親の気持ちってのはこれに近いかも知れないな……。

 




なんだかんだ3も発売から1年3か月程ですね。長いような短いような……。


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嫌な予感しかしねえ

外出自粛……?嘘つけ、絶対ブラック企業勤めのリーマンには関係ないゾ(確信)

それはともかく皆様、コロナはそうですが体調管理には注意してくださいね。
手洗いうがい規則正しい生活が一番の予防策だと思います。自分も周りもしっかりしないといけないですが、周りがダメならせめて自分だけでもしっかりしないといけませんね。


 光が差しこんできて目を覚ます。

 エレナはまだ眠っている。

 

 あれから何度かアラガミの気配を感じて目を覚まし、こちらに来ないか息を殺してやり過ごすのを何回か繰り返した。

 幸いな事にアラガミに気取られる事無く、一晩を過ごす事が出来た。

 

 

「ぅ……ん。ユウ、おはよう」

 

 エレナも丁度目を覚ました。

 

「ああ、おはよう」

 

「うん。……へへ」

 

 笑いながら、握ったままにしている俺の手を頬に当てる。

 

「飯食べたらすぐに出発するぞ」

 

「うん!」

 

 

 

 兎に角東へ向かって歩き続けるが、時折見晴らしの良さそうな場所に登って遠くの景色から防壁を探す。

 しかし、中々見つからない。エレナから詳しく聞くと、ミナト等は地下にあるらしい。

地上で見える施設とは灰域踏破船と言う移動要塞を受け入れる門の役割をしており、本当に港としての機能を果たしている訳だ。

 

 地下にあるとはいえ、完全に安全という訳でもないらしい。灰域が活性化すると灰嵐という災害を引き起こし、それに飲み込まれて滅んだミナトもいくつかあるらしい。

 例え防壁が見えたとしてもそこは既に滅んだミナトである可能性もある。

 

 ペニーウォートの様な非人道的なミナトもあるかもしれないのでよく調べた上で接触するべきだろう。

 

 

 途中でエレナが抱っこをねだってきたので抱き上げるとまた嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。

 まだ甘えたい年頃だし、近い内に別れがやってくる。今だけは存分に甘えさせてやろう。

 

 

 

 しかし当てのない旅とはこの事だ。とりあえず東へ向かっているが、いくら歩いても目に見える景色は浸食された大地と灰が舞う異様な光景だ。

 旅と言うものには憧れはしたが、実際には心細いものだ。偏食因子が必要なくなり灰域でも生きていける体になるとか都合の奇跡が起きて欲しいものだ。

 だが現実は非常である……と。

 

 エレナの頭を撫でながら歩を進める。頭を撫でてやると首に顔を埋めてきて少々くすぐったいが嬉しそうな顔を見るとそれも些細な事だ。

 

 

 

 

 

 出発から大分時間も経ち、歩けば歩くほど辺りは暗くなっていく。

 

 だが、まだ時間的には夜じゃない。何故暗くなっているか。見上げればすぐに分かった。

 

 遥か彼方で真っ黒な煙が波のように動いている。

 煙の嵐か。また妙な物を拝んでしまった。

 

「灰嵐……」

 

「灰嵐? あれがか……」

 

 

 話を聞いて分かっていたが見るからにヤバそうだな。あれに飲まれたら問答無用でアウトだ。

 おいおい、まさかこっちに来ないだろうな……。

 流石に嵐から走って逃げるなんて俺には無理だぞ……。時折灰嵐を確認しつつ進むしかないか。あんなものがすぐ傍にあるなんて気が気じゃないが……。

 

 

 このまま進めば渓谷地帯に入る。此処から見渡した感じだとかなり複雑に入り組んでいるように見えるのであまり通りたくはないが……。灰嵐がすぐ近くで発生している以上回り道も危険。だが渓谷に入ったとして灰嵐が進路を変えて渓谷地帯へ進行してきたら一巻の終わり。とても行動しづらい状況だ。

 

 灰嵐が去るのを待つのが確実だが……あまり悠長にできないのが現状。

 暫く様子を見てから今後の動きを決めるとしようか。

 

 

「エレナ、しばらく一休みだ。ゆっくりしよう」

 

「うん」

 

 岩陰へ向かい、エレナを下ろして腰を下ろす。

 

 

「ユウは何処から来たの?」

 

 唐突な質問に呆気を取られた。

 

「そっか、俺の事なにも詳しく話はしなかったな。あ、俺はずっと東から来たんだ」

 

「東? でも、ユウはこのあたりの事は……」

 

「東って言っても海の向こうさ。アラガミが出る前は元々島国だった」

 

「ユウは何時からゴッドイーターになったの?」

 

「うん? ああ、そうだな……。一応半年以上前になったばかりだ。でも、気絶して目を覚ましたらあの礼拝堂の前に突っ立っていたんだ。少なくとも俺がゴッドイーターになった時なんて灰域なんてなかったからな。数年単位で気絶していたらしい」

 

 思ったんだが、この世界には極東支部はあるのだろうか……。実際、調査していた島の洞窟内で眩しい光に包まれて気が付けばあの礼拝堂の前に居た。人に話しても信じてもらえないようなことが起きているんだ。実際に何が起こったのかわからない。だが、灰域なんて俺は知らない。

 ここは御伽噺でよく出てくる平行世界なのか、それとも何年も先の未来なのか……。

 

「ユウも1人ぼっちになったんだね……。寂しいね」

 

「そうだな、友達にもう会えないかと思えば心に来るものがある。でも、平気さ。独りには慣れているからな」

 

「ううん。独りじゃないよ? 私が居るもん。だから、ずっと一緒」

 

「そうか。そりゃあ……寂しくなんて無いな。ありがとな、エレナ」

 

 隣に座っているエレナに体を寄せられる。頭を撫でると腕を両手で掴まれてそのまま抱きしめられる。

 

「ユウ、暖かい……。ユウ、ギュってして」

 

 エレナが胡坐の上に乗って抱き着いてくる。俺も両腕を回して軽く抱きしめる。

 此処まで懐かれると照れ臭くもある。まだエレナは多感な時期に入っていないのだろう。誰にも隔てなく懐くと変な男に引っかかるかもしれないのでそこが心配でもある。

 

 

「…………ッ!」

 

「ユウ?」

 

 エレナが首を傾げると、すぐに抱き上げて身構える。

 

 向こうからアラガミが群れを成して迫ってきていた。

 

オウガテイルにザイゴート、礼拝堂でエレナを襲った蜘蛛に角を持った4足歩行の獣……大きさから察するに小型だと思うが……。

 しかし数が数だな。此処で戦ったら中型や大型が乱入してこないとも限らない。アラガミだって互いに捕食し合うことがある。大型が小型を喰うのはある意味自然を再現している。強い個体に弱い個体が喰われるとの同じだ。

 

 ましてやエレナを守りながらは厳しい。防衛班の連中ならこういう時は手慣れたもんだろうが、俺は偵察班だ。タツミのようなことはできない。

 

「エレナ、渓谷に逃げてそのまま抜けるぞ。大分長い渓谷だ。悪いが我慢してくれ」

 

「大丈夫、ユウも無理しないでね?」

 

「もちろんだ、無茶は嫌いなんでな」

 

 エレナにそう笑いかけ、奴らに捕捉される前に渓谷入っていった。

 

 渓谷は危険極まりない場所だ。足場の悪さに逃げ道の少なさ。アラガミにこんなところで襲撃されようものならひとたまりもない。

 足早に駆けつつ意識を集中させて周囲の気配を感じ取りつつ、接敵しないように渓谷を進む。

 

 

 それでもアラガミの巣でアラガミに遭遇しないなんてコイントスで連続で10回以上同じ面を出すのと同じようなものだ。

 

 遥か向こうでシユウがオウガテイル捕食しており、もし奴が俺達を見つけたら間違いなく食いにかかるだろう。

 

「エレナ、頼めるか?」

 

「うん」

 

 エレナを下ろして剣を頼む。

 手を翳すとオラクルが集まり、剣が形成されて俺は手に取ってそのままスピードを上げて食事中のシユウに不意打ちを仕掛けた。

 

 シユウがこちらに気づくと同時に目に斬撃を入れてシユウの視界を潰してそのまま首に剣を突き刺して振り抜く。

 

 血飛沫が上がってすぐに離れてエレナを迎えにいき、抱き上げるとすぐに駆けだす。

 

 

 ある程度広く、足場も安定している場所へ出て少し気が抜ける。

 

「ユウ、ずっと向こうに凄い気配が居る」

 

 エレナが進行方向を指さして言う。

 

「俺が感じ取れないってことは、まだ近くではないな。どこかで進路を変えて――」

 

 

『GAAA!』

 

 聞き覚えのある雄たけびが聞こえ、振り向くと高台に立つクアドリガがこちらを見据えて前面装甲を展開していた。

 

 大きなミサイルが飛び出し、ミサイルは俺を追ってくる。岩壁に背を向けてミサイルをギリギリまで引き付けて跳躍で躱す。

 

「何っ⁉」

 

 ミサイルがスピードを落として曲がり、岩壁に激突しないでそのまま俺についてくる。

 

「おいおい、此処のクアドリガ極東よりつえぇぞ⁉」

 

 地面へ向かって空中ステップで空を駆け、一気に地面へ着地して駆けるが後ろを振り返ればミサイルはまだ追尾してきている。

 どんだけ誘導性が高いミサイルなんだ……。

 

「ユウ、私に任せて」

 

 抱き上げているエレナが手を翳すと掌にオラクルが集まり、それを後ろのミサイルへ発射した直後に背後で爆発が起きる。

 エレナの迎撃が成功したらしい。

 

「サンキュー!」

 

「どういたしまして」

 

 しかし安心はできない。後ろをチラ見すればクアドリガが追ってきている。

 図体の割には素早く、中々距離を離せないでいる。

 

 奴の背中に添えつけられたミサイルポッドが蓋を開くのが見えた。

 

「おいおい、まさか……」

 

 『GAAAAAA!」

 

 雄たけびと共に大量の小型ミサイルが飛び出し、徐々に迫ってくる。

 走りつつ跳び、着弾してきた小型ミサイルを躱すがキリがない。仕掛けるしかないようだ。

 

 途中で方向転換してクアドリガへ向かって駆ける。

 

 ミサイルもちゃんとついてきているのを確認してクアドリガと距離を詰め、奴の下をスライディングで潜り抜けると爆発が背後で何発も起こり、そのまま距離を取って様子をうかがう。

 

 流石に倒れはしないか、だがそれなりに痛い思いをしたらしい。前面装甲が結合崩壊を起こしている。

 

『GAAAAAAッ⁉」

 

 クアドリガが咆哮を上げると、跳びあがって前足のキャタピラで踏みつぶそうと振り下ろしてくる。

 

 飛び退いて躱すが、着地するとまだ地鳴りがする。奴の口が大きく開くと炎が噴き出して業火に背を向けて逃げる。

 

 まさかあんな攻撃を仕掛けてくるとは……!

 少なくとも俺は奴のあんな攻撃を見たことない。更に捕食して攻撃手段を覚えて俺の知るクアドリガとはまた違う進化を遂げたのだろう。

 

 奴がミサイルポッドを開き、遥か上空に大量のミサイルを打ち出す。

 

「…………こいつ、やりやがった」

 

 嫌な予感しかしねえし、その予感はすぐに当たるだろう。

 何かが落ちてくる音と共に、上から無差別攻撃ともいえるミサイルの雨が降ってきた。

 エレナをしっかり抱き寄せ、被弾しそうになりつつも何とか回避して凌ぎ続ける。その間にも奴は既に大型ミサイル発射準備をしている。

 このまま撃たれたらまずいと言うのは分かるが、状況が状況だけに阻止するのは難しい。

 

「任せて!」

 

 エレナが俺の考えを察してくれたのか再び掌にオラクルを集めてクアドリガの前面装甲の中にセットされているミサイルに打ち込むと、大爆発を起こしてクアドリガが悲鳴を上げて、態勢を崩す。

 

 

 

 次の瞬間、蒼い装甲を纏った竜のようなアラガミが突然クアドリガを吹き飛ばして吠える。

 

 

「なんだありゃ……!」

 

「さっきの強い気配……!」

 

 クアドリガも吠え返して前脚で叩き潰しに掛かるが、蒼いアラガミは拳を握って前脚をパンチで弾き返してそのまま空いた手をクアドリガの頭部に叩きつけた。

 

 頭部を潰されてクアドリガは倒れ、蒸散すると蒼いアラガミは咆哮を上げてこちらを睨んできた。




エレナ (10~12?)

灰域で活動できる次世代ゴッドイーター・AGEの女の子だ。
なんでもこの子は特別で偏食因子の投与不要、オラクルを一定量だが自在に操れる力を持っており、それを応用した傷の修復や再生など何度か助けられている。


この世界が未来なのか、平行世界なのか分らんが泣いて助けを求める子を放っておくことなど断じて認めない。

今はこの子の事を一番に考えてやらなければ。


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知恵を持つとは厄介である。

コロナの脅威が着々と迫っていますね。
こういう日は外になんて出ないで酒を飲みながらアニメを見るに限る……だよな?


 クアドリガを一撃で沈め、姿を現したアラガミがこちらを睨む。

 全身を蒼い鎧のような鱗で覆っており、お伽噺に出てくる竜のような姿をしたアラガミだ。

 

 

「あらら……想像以上にヤバそうだな……」

 

 さて、どうする? 

 あんな化け物をどう料理したモノか……。此処が極東なら俺は戸惑うことなくユウナさん率いる第1部隊に応援要請をするが、流石に化け物じみた戦闘力を誇る彼らでもパラレルワールドに出張はできない。

 

 別におっぱじめるのは構わないが、戦闘音を他のアラガミが感知して集まってきたらエレナに危険が及ぶ。

 

 

 思考している間にアラガミは行動に出た。

 大きく息を吸い込み、こちらへ向かって青い炎の塊を飛ばしてきた。

 

「ッ!」

 

 エレナを抱き上げたまま、素早くその場から跳び退く。

 蒼い炎が俺達の居た場所へ着弾すると、その場所は凍りつき、冷気の余波が身体を包む。

 

 氷属性か……。ブレスの形状から炎かと思ったが……。氷属性を操るアラガミに碌な奴は居ない。無駄に硬いコンゴウやクアドリガ、クボログボロの堕天種然り。

 最近は鬱陶しくて活性化すれば硬くなるプリティヴィ・マータとかいクソ。どいつもこいつも硬すぎて近接攻撃がアホらしくなる。

 

「エレナ、悪いが頼む」

 

 俺が手を出すと、エレナは頷いて俺の手を握る。

 光の粒――オラクルが手を包み込み、オラクルは神機に良く似た剣を形成する。

 

「ありがとな。隠れてろ。もし他のアラガミが来たら大声で教えてくれ」

 

 エレナの頭を撫でて、俺は剣を片手にアラガミを見据える。

 

 

『GYAAAAAッ!』

 

 アラガミが咆哮を上げると、両腕に装着している変わった形の籠手から巨大な刃が展開された。

 

「えッ」

 

 背中の突起物から冷気を放出し、地面を滑るように一気に距離を詰めてきた。

 

 あの巨体にも関わらず、ただでさえ的の小さい俺の首を正確に狙った刃による一閃。

 

 

 間一髪屈んで回避するが、もう片方の腕の刃を振りかぶる。

 

 咄嗟であるが体を捻りつつ跳ぶ。

 俺の真下を青い刃が過ぎ去り、着地と共に背後へ回り込むように地面を蹴って短距離を移動する。

 

 背後を取ったからと言って油断はできない。攻撃に移りたいが、ここは様子見だ。

 相手の出方を伺うのは、戦闘では基礎中の基礎だ。

 

 案の定奴は腕を振りつつこちらへ向き直り、容易に俺の接近を拒否する。

 あのまま不用意に近づけば真っ二つにされていた。

 

 広範囲をカバーする巨大な得物。そして、その鈍重な得物を使いこなす隙のない動き。

 実に厄介だ。おまけに遠距離攻撃も完備ときたものだ

 

 遠近両刀のアラガミか……。骨格は全く似ていないが、スサノオを思い出す。奴も遠近を自在に使い分ける相手だった。

 星の数ほどいるアラガミの中で、よりにもよって第1種接触禁忌種と同等のアラガミと出会うとはなんたる不運だ。

 

 

「辺り一帯、凍らされるのは厄介だな」

 

 下手に距離を取ってブレス攻撃を誘発するとそこら一帯凍り漬けで足を滑らせる可能性がある。あまり近づきたくはないが、仕方ないか。

 

 地面を蹴り、一気に懐へ潜りこんで胴体へ斬撃を入れる。

 

 アラガミは後退した後に宙返りしつつ距離を取るが、すぐにステップで距離を詰めて剣を振る。

 数回斬りつけた直後、奴は半歩後ろへ下がって刃を振ってくる。

 

「ッ!」

 

 跳躍で斬り払いを躱し、奴の真上を位置取る。剣を構えて奴の尻尾の付け根へ剣先を向けて滑空する。

 奴の尻尾の付け根に剣を突き刺してそのまま背中の突起物へアラガミの体を伝って向かい、剣で斬りつける。

 

 この部位を破壊できれば、こいつの機動力をある程度下げれるかもしれん。

 

『GUu……!』

 

 アラガミが両手を地面へ付け、身構えると突起物から冷気が漏れ出して辺りを包む。

 

「おい、まさか」

 

 察すると共に避けろと頭の中に考えが過り、即座に跳び退いて距離を取る。

 

 

『Guuuuuuッ!』

 

アラガミの雄たけびと共に青い冷気が周囲を包み、あまりの余波に剣を地面へ突き立てて膝を付いて堪える。

 

「…………くそ」

 

悪態をつかざるを得ない。ブレスの誘発を防ぐためにハイリスクを承知で接近戦をしたのに、あんな範囲攻撃まで持っているとは……。

 あの攻撃を誘発させない為には、奴と正面から斬り合うしかねえって事か……。

 

 奴の周囲は凍りつき、冷たく青い結晶が渓谷の景色を映している。

 

 

 こちらが次の攻撃に備えようと、構えた直後に奴は高く跳んで鋭い爪を叩きつけようと一回転しながら振り降ろす。

 軽く横へ跳び、その後隙を狙うように展開された刃が迫る。

 

 素早い追撃であろうが視界に映った時点で回避は余裕だ。所謂見てから回避。

 なら、見えない攻撃はどうだと言う話だが……。

 

 次の手は既に分かる。

 

 僅かだが冷気を感じ、追撃は最低限の動きで回避する。

 

 振り終わった腕で口元を隠したらしいが、口元からの冷気でバレバレだ。見えないなら感じ取れ。正しくこれである。

 見る、聞く、感じる。これらを極めた技能こそが見切の極意だ。

 

『GAAッ!』

 

 案の定、腕を退かして即座にブレスを撃って来たが、こちらは既に回避態勢万全だ。

 横へ軽く跳んで余裕を持って躱す。

 

 しかし今の攻撃を見るに、喰う事しか能のない癖に中々頭の回転は良いらしい。

 

 

 獣が知恵を持つのは本当に厄介極まりない。

 例えば人を喰った事のある熊がそうだ。人を喰い人間の味と匂いを覚えた熊は山に迷い込んだ人間が山の何処にいるか御見通しらしい。だが、御見通しだから襲いに行くのではなく、待ち伏せをする。人間が通るであろう場所でだ。

 

 腕に付いた刃による攻撃に注意を向けさせ、振った腕で口元を隠してブレス攻撃を悟らせぬようにした。こいつは人間が情報を認識する際、殆んどを視覚に頼っていると言う事を知っている。人間喰い続けた進化なのかは不明だが、これは中々の脅威だ。

 

 

 アラガミの背後から何かが伸びて、上空から俺目掛けて降ってきた。

 

 咄嗟に後ろを跳んで躱すと、それは奴の尻尾だった。

 まさか地面に突き刺さしてくるとは思わなかった。見た感じでは、ただしなやかな尻尾で薙ぎ払うか叩きつけるぐらいしか攻撃手段が予想できなかった。

 

 尻尾が引き抜かれ、尻尾の先端は氷で覆われて先端が尖っていた。

 

「マジかよ……」

 

 恐らく冷気を放出した際に尻尾の先端を凍らせて俺と戦いつつ地面に擦りつけて削って尖らせていたのだろう。

 

「ああ……知恵を持つってのは本当に厄介だ」

 

 悪態を突きつつ、剣を構える。

 アラガミが姿勢を低くする。何か仕掛けてくると思い、慎重に見極める。

 

 奴の背後で尻尾が地面と水平になっているのが視界に入った。こちらが跳躍すると同時に、半回転と共に尻尾で薙ぎ払いを繰り出してきた。

 

 躱されると思っていたのかアラガミは体を捻りつつ跳び、背中から冷気を放出してこちらへ向かいつつ、爪を振り降ろしてきた。

 空気を蹴って空中を飛ぶように移動して追撃を回避する。しかし、逃がさないと言わんばかりの連撃が迫る。

 

 態勢を変えて両足を上空へ向けて空気を蹴り、地面へ向かって空中を跳ぶ。

 連撃から逃れたがすぐに奴へ向き直ると、奴は背中から更に冷気を放出しながら刃を展開して腕を薙ぐ。

 

 スライディングで刃を躱して懐に潜り込んで奴の脇腹に一太刀いれ、続けて剣を払いつつ横へ跳んで斬りながら距離を取る。

 

 アラガミは宙へ跳び、空中で巨大な氷の槍を作り出してこちらへ投擲してくる。

 

 巨大氷槍を躱すと、物量作戦に変更したのか小振りであるが氷の槍を両手で作り出しつつ片方の手で投げつけてくる。

 

 回避で捌ききれない氷槍は剣で砕き、アクロバティックに動いて上手く氷槍を躱す。そして再び巨大な氷槍が飛んできたのに対して回避と同時に氷槍へ跳び、そのまま氷槍を足場代わりに蹴ってアラガミへ向かって跳ぶ。

 

 奴は刃を展開し、それを対抗して俺は剣の上に両足を乗せてスケボーの感覚で奴の攻撃を待つ。

 

 迫ってきた刃の腹をスケボーの要領で滑りつつやり過ごして跳び、剣を構えて肩へ滑空して突き刺さる。

 

『GAAAAッ!?』

 

 アラガミが態勢を崩して諸共地面へ落下する。

 地面へ衝突する寸前に跳び、距離を取った。

 

『Guuuuu……!』

 

 アラガミは再び刃を展開して駆けてくる。こちらも剣を構えて駆ける。

 まずは懐へ飛び込んで刃をやり過ごし、数回剣で斬りつける。そしてすぐにステップで奴から離れて相手の動きに合わせて距離を調整する。

 

 奴が攻撃態勢に入り、こちらも身構えて攻撃を待つ。

 

 刃が振られると共に回避に専念し、付け入る隙があると即座に判断を下して剣を振る。

そして再び距離を取り、近接攻撃を誘発させる。

 

『GAAAAA!』

 

 アラガミが両腕を振りかぶる。

 両の刃を交差させるつもりか、大振りな攻撃になる筈だ。

 

 

 交差する刃をバック宙で躱し、着地と共に腰を落としたまま剣を構え、渾身の突き攻撃を奴の片腕にかます。

 

 そして剣を引き抜き、そのまま腕を伝いながら跳躍して奴の上空へ。

 

 

「セアァッ!」

 

 

 剣を上段で構えて奴の頭部目掛けて振り降ろす。

 

 

 奴は頭部を守るように腕を交差させ、驚くことに自身の両腕にブレスを吐いた。

 

 腕は瞬く間に氷に覆われ――

 

 

 ガキィッ!

 

 

「こいつ……ッ!?」

 

 自身の腕を凍らせて分厚い氷で覆い、こちらの攻撃を防いだ。

 

『GYAAAAAAAッ!!!!』

 

「ぬおっ!?」

 

 雄たけびと共に両腕を振り解くと共に氷は割れ、俺は空中へ弾き飛ばされる。

 刃が氷を貫いて飛び出した。

 

 そしてそのまま俺目掛けて刃が振られる。

 

「ユウ!」

 

 エレナの声を聞いて歯を食いしばり、すぐに態勢を整えて空気を蹴りつけて空中ステップで攻撃をギリギリ回避する。

 

 地面へ着地して、剣を構える。

 

 

 アラガミも自身の腕に張り付いた氷を砕いて、俺を見据える。

 背中の突起物から冷気が放出され、すると奴は宙へ浮かび上がり、再び刃を展開する。

 

 そしてこちらへ猛スピードで迫ってくる。

 

 奴との距離が数十メートルといった所で突然、奴の背中で爆発が起きて奴はそのまま地面へ激突して不時着する。

 

 

『GAAAAAAAッ⁉』

 

 

 周囲を見渡せば、周りに幾人もの神機使いが銃形態で構え、青いアラガミと俺を包囲していた。

 

 

 こいつらは……ッ! あの制服、ペニーウォート……!

 

 連中の中には見覚えのある制服を着ている神機使いもいる。

 

 

「やれ!」

 

 

 連中の内の1人が叫ぶと、一斉に射撃が始まりオラクルの弾丸が嵐のように飛び、俺は回避に専念する。

 

 

『GYAAAAAA!?』

 

 青いアラガミが何発かは掻き消したり被弾しても耐えたようだがすぐに悲鳴を上げて砂埃と共に血飛沫を飛ばし、地面へ倒れる。

 

 銃声が止み、顔を上げるが砂埃で何も見えない。

 

 

「ハウンドAの拘束を急げ! 腕輪のロックを施行!」

 

「大人しくしろ雌犬が!」

 

 ハウンドA――エレナか!

 

「嫌ァ!」

 

 ガチャンと音がしてエレナの悲鳴が聞こえてすぐに声のした方向へ走って砂埃を抜けると、そこには両手を手錠のように腕輪で拘束され、男2人に両腕を掴まれて首輪をつけられたエレナが怯えながらも助けを求める目で俺を見ていた。

 

「ユウ! 逃げ――」

 

 助けを求めているのに紡いだ言葉は俺を案じての言葉だった。

 当然放っておくことなんてできない。

 

「発言の許可はしていないぞハウンドA! 大人しくしろ!」

 

 帽子をかぶった男がエレナに怒鳴って頬を殴りつけた。俺は地面を蹴りつけて一気にエレナの元へ向かう。

 

「女子供に何しやがる! さっさとその子を開放しろや!」

 

 叫びながらエレナを殴りつけた男に飛びかかろうとするが、背後から何かが飛んでくる気配を感じ、振り返るとともに剣を振る。

 

 飛んできた物体――オラクル弾を斬ると爆発を起こして体に熱と激痛を感じて吹き飛ばされた。

 

「ぐあっ⁉」

 

地面へ叩きつけられてすぐに起き上がる。

 

「ユウ! 逃げ、ンンッ⁉」

 

 エレナは口を縛られ、そのまま連れていかれる。

 

「おいクソが! 待て!」

 

 追おうとするとすぐに銃声が鳴り響き、傍で爆風に吹き飛ばされて地面へ転がる。

 

 

「もういい。やれ」

 

 誰かがそう言うと、1発銃声が鳴り、上空から爆音が聞こえ、地鳴りが聞こえてきた。

 何事かと思い、上を見れば周囲の岩壁が崩れて上から岩が雪崩のように落ちてきた。

 

「っ⁉」

 

 咄嗟に剣の腹で体を守るようにしゃがみ込んで衝撃に備えたが、頭に何かがぶつかった感覚がした直後、痛みと共に気が遠くなる。

 

 くそがぁ……俺は、まだ……。エレナ…………。 

 

 




ペニーウォート

エレナが所属させられていた組織だな。AGEを捨て駒扱いしているらしい。
まあ、アラガミ出現前の過去にも奴隷だのなんだの色々あったからアレだがホント人間って変わらないな。

でもなんの罪もない子どもにとんでもない事をするのはどうかと思う。
子どもって一応俺達からすれば宝みたいなもんだし? 誰だって宝物を壊されたり傷付けられたりすれば怒るよね?

まあ要するにな……ペニーウォートもう許せんぞおい!(憤怒)


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秘技・雷返し

私の知り合いの知り合いの親戚の話なんですが、胃潰瘍になって勤め先に連絡したら『胃潰瘍?コロナじゃないからヘーキヘーキ。んな事どうでもいいからつべこべ言わずにコイホイ!』と言われたらしいです。

恐ろしすぎる。


『お願いします。あの子を……どうか……』

 

 

 

 

 女性の声がして目を開けると、朧げな視界の中で血まみれの地面に倒れていた。

 起き上がろうとするが体にうまく力が入らない。

 

 すぐ傍で苦しそうな呼吸が聞こえ、振り向くとエレナによく似た女性がオラクルに浸食された右腕を押さえながら蹲っていた。

 

 

『ごめんね。ダメなお母さんで……。ちゃんと生んであげられなくて……』

 

 先程聞こえた声と同じだ。

 女性は腹に手を当てて涙を流しながら、宿った命に謝っていた。

 

 

『ぐぅ……ぅぁああああァアアアッ!』

 

 

 聞いているだけで体がざわつく叫び声と共に女性はオラクルに包まれて巨大な鳥のようなアラガミになった。

 

 苦しげな雄たけびを上げて大きな砂埃を上げて飛び去った。

 

 砂埃に飲み込まれて咄嗟に目をつぶるが砂粒が体に当たる感触はない。それに気づいて目を開ければ目の前で先ほど飛び去った筈の鳥型アラガミが倒れていた。

 

 アラガミは体中を食い荒らされており、見るも無残な姿だった。そして蒸散が始まり、アラガミを構成するオラクル細胞が散った。

 

 この場所じゃ聞こえる筈のない赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。

 

 重い体を引きずって近づくと赤子が産声か、母の死を悲しんでいるのか泣いていた。

 薄くだが髪の毛も生えており女性と同じ灰色だった。アラガミが赤子を丸呑みしているわけではなかった。あの女性はアラガミ化しても、ずっと子を宿し続けた。

 そしてオラクル細胞は宿っていたこの子を喰わなかった上にずっと守っていたとでも言うのか……。

 

 生命の神秘を目のあたりにしたが、今はそれどころじゃない。

 

 

『お願いします。あの子を……助けて……』

 

 

 あの赤子は……エレナか……。

 

 

 

 

『ユウ、起きろ』

 

 ああ戦友達よ、態々起こしに来たのか。死んでなお大儀だな。

 

 

『立て。名も無き兵よ』

 

 いや、立ちたいのは山々なんだが……。

 

『急げ、手遅れになる。君もあの子も』

 

 分かっている。だから今動くところだ。

 

『義息よ、らしくないではないか?』

 

 義父さん……。

 

『お前は生きている。生きている者がやらなければいけない。遠い過去、この世を駆けた我々を代表して、奴らに教えてやるが良い』

 

 おいおい、たかが一兵卒に何求めてんだよ……。

 

『あとは目を開くだけだ。さあ……!』

 

 

 

 また戦友たちの声が聞こえ、ハッとすると目の前には岩、隣を見ればそこにも岩。振り返っても岩。

 

 岩の間に挟まった右手を無理やり引き抜こうとするが、力が入らず何もできない。

 皮膚が焼けただれた左手の痛みを堪えつつ腰のポーチへ。

 

「グゥ……ァ……ウゥ……!」

 

 回復錠を詰めたケースを取り出し、蓋を開けて何錠か口に放り込んでかみ砕いて飲み込む。

 

 体の痛みが引き、激痛による気怠さも軽くなり、深く息を吸って右手を引き抜く。

 

 起き上がろうとするがそれでも決して軽くない痛みが走り、歯を食いしばりながら岩に手をかけてゆっくり起き上がる。

 

 

「ハア……ハア……」

 

 爆風に巻き込まれたときに火傷を負った上に落石に当たったせいで所々青く腫れている。頭から何かが流れる感触を感じて触ってみるとそれは勿論血だ。

 

 岩の上に上って周囲を見渡せば、そこにもう人影はない。

 

 脳裏に浮かぶのは怯えて涙をうっすらと浮かべながら俺を見つめるエレナの顔。

 

 

「くそ、情けねえ……助けを求める女の子1人も碌に守れねえとは……!」

 

 岩に拳をたたきつけると痛みが走り、岩はひび割れる。

 

「ふざけるなァ! 馬鹿野郎ォ!」

 

 空に向かって大声で叫ぶ。直後、背後で何かが切り裂かれる音が聞こえた。

 振り返ると何かが上空から空気を斬りながら飛び、俺の足元に突き刺さった。

 

「エレナの……」

 

 エレナが作り出し、貸してくれた神機のような剣がそこにあった。剣がカタカタと震え、俺の腰に差してある対アラガミ用ナイフも震える。

 なんでこの2つは震えてるんだ? 俺にどうしろというんだ……?

 

 ナイフを抜くと、エレナの剣が光の粒になってナイフに集まり、光は刀身を形成する。

 これじゃあまるで……装甲のない近接型神機だ。

 

「相棒、力を貸してくれ」

 

 神機を掲げると、CNSから触手が飛び出して俺の腕輪の窪みに入り、結合する。

 

 

「…………必ず救い出す。故に少し本気を出すとしよう」

 

 

 神機から生えた触手はある方角を示す。エレナはあっちに居ると、そう言うように。

 

 

「エレナ、必ず行く。もう少しの辛抱だ」

 

 

 痛みを訴える体を気にも留めずに示された方角へ向かい、渓谷の出口へ向かう。

 

 

 

 渓谷を抜けると、タイヤの跡を発見し、それは確かに神機の示した方向へ向かっている。

 地面を蹴りつけて一気に距離を跳び、着地と共に更にその足で地面を蹴ってまた一気に距離を飛ぶ。跳ぶように走り、タイヤの跡を追う。

 

 

 目線の先には小型アラガミの群れを発見して神機を構えて斬りこむ。

 

 

『GYAAAAAッ⁉』

 

 目の前に居るアラガミだけ斬り伏せ、そのまま駆け抜ける。横から飛びかかってくるアラガミは片手間に返り討ちにして最低限、進路上のアラガミだけ斬り倒す。

 

「ッ! 暇じゃねぇんだよ俺は……」

 

 上空から気配を感じて神機を構える。すでにシユウが両翼を広げて突進してくるが踏み込んで腰を落とし、思い切り突っ込んできたシユウの頭部に神機を突き刺す。

 

『GAッ⁉』

 

「邪魔だ」

 

 シユウを地面へ叩きつけ、足を止めることなく走り続けようとするがやはり妨害は終わらない。

 

 緑色の甲殻と角を持つアラガミの体当たりを軽く跳んで避け、そのまま踏み台にしてジャンプ、浮遊するザイゴートの目玉に神機を突き刺す。

 

 すぐに神機を抜き、地面へ落ちるザイゴートを踏み台にして跳び、別のザイゴートへ飛びかかる。

 

 大口を開けるザイゴートに対し、神機を横に一閃。

 空中で上下真っ二つにしてそのまま着地、駆け続けてすぐ目の前のオウガテイルを蹴り飛ばし、そのまま転がる奴を飛び越えると今度はコンゴウが雄たけびを上げながら迫ってくる。

 

 神機を走りながら構えた。CNSが光り、神機が何を伝えようとしたのか察する。

 

 コンゴウは回転しながら体当たりを仕掛けてくるが、跳躍と共に宙返りしてそのままコンゴウの真上を取り、同時に神機の切っ先を真下のコンゴウへ向ける。

 捕喰形態へ切り替えて獣の口でコンゴウの背中を食い千切る。

 

着地すると体の奥底から力がみなぎり、神機のCNSも強く輝き、脚に力を込めて一気に駆けだす。

普通に走るよりも早く、より長く走れる。

 

 神機開放状態――活動中のアラガミを捕喰攻撃で噛み千切り、喰らう事で一時的であるが身体能力を強化することができる。

 

 半年前、神機を失って以来か。相棒、ありがとよ。

 

 

「さて、斬り抜けるぞ」

 

 まだ進路上には妨害するかのようにアラガミ共が立ちふさがる。群れの中に一際大きな体、ヴァジュラを発見するが止まることなく走り続ける。

 

 目の前に飛び出してきたオウガテイルが尻尾で薙ぎ払おうとしてくるが、振るわれた尻尾が当たるよりも早く神機を捕喰形態へ切り替え、オウガテイルの尻尾に喰らい付かせる。

 

 神機を尻尾に噛みつかせたままオウガテイル諸共上空へ跳び、そのままヴァジュラへオウガテイルを投げつける。

 

『GAAAAA !』

 

 ヴァジュラは投げつけられたオウガテイルを爪で切り裂き、その隙をついて捕喰形態を維持したまま滑空して神機を構える。ヴァジュラの肩を噛み千切って地面へ着地してそのまま走り抜けるが、ヴァジュラはしつこく回り込んできた。

 

 そしてヴァジュラは咆哮と共に雷球を作り出して放ってきた。

 

「よかろう…………相手をしてやる。秘技――」

 

 高く跳び、刀身を盾に雷球を受け止める。

 

 電撃は刀身に纏わり付き、そのまま空中でヴァジュラを含めたアラガミの大群に対して上空から薙ぎ払うように神機を振った。

 

「雷返しィ!」

 

 電撃が巨大な刃のように放出され、雷の刃はヴァジュラ諸共小型の大群を焼き払う。

 

ヴァジュラ以外は焼け焦げて蒸散し始めた。

 

 唸り声をあげてヴァジュラは後方へ大きく飛び退き、さらに強力な電撃を放ってくるが、もう1度跳んで電撃を神機で受け止めて突きの構えを取る。

 着地する直前に神機を突き出すと、切っ先から電撃が槍のように飛び、それはヴァジュラの顔面を貫いた。

 

 雷獣の顔はすでに原型を留めておらず、顔を失った巨体は地面に倒れた。

 

 

 空中にて雷を得物で受け止め、それを着地するまでに撃ち返す。これが『秘技・雷返し』である。

 

 

 

 昔、軍の上官から習った。

 あの日は空を分厚い雲が覆い、昼間なのに暗かった。そして一瞬視界が光った後にゴロゴロと雷が鳴っていた。

 

 鍛錬していたらいきなり上官がやってきた。

 

上官「暇だから秘剣を伝授するで。準備しいや」

俺「かしこまり!」

 

 

 

練習中……練習中……練習――グエー感電したンゴー。

 

 

 

上官「これが雷返しだ。分かったか?」

俺「はい」

上官「よし、じゃあやって見せろ。オラぁ雷くれてやらぁ!」

俺「はい雷返し」

上官「はい雷返し返し」

俺「アン〇ルフおじさーん!!」ビリビリっ

 

 こんなことがあって俺は雷返しは極力使うまいとしていた。だって打ち返した雷をまた打ち返してくるとか普通誰も予測しねえよ。

 まあ、雷ぶつけてくる人間なんぞ軍の上官連中以外に居る筈がねえからそもそも雷返しをする機会なんてまず無いが。

 

 よくよく考えれば上官たちってマジで常軌を逸した存在なんだな。武器を空に掲げたら晴天なのに雷が落ちて電撃を武器に纏わせるんだぜ? 

 雷返し以外にもいろんな技を伝授された。

 

 一番難しかったのは構えて3回同時に斬る最早魔法の域に達した技と一回の刺突に3回の突きを内包した技だったな。俺こそ完全にものにできなかったが。

 あれはぶっちゃけ秘剣じゃなくて魔剣だと思う。

 

 

 

 

 さて、雷返しのおかげで周囲のアラガミを一層できた。これでしばらくは邪魔されずにエレナを追いかけることができる。こうしている間にもエレナはひどい目に遭わされているかもしれない。何としても、連中から奪い返さなければ。

 

 

 走り続けているうちに、日が落ち始めるが寝る暇はおろか休む暇もない。少しでも早く追いかけなければいけない。休まずに戦い続けるなんて神機使いになる前からやっている。慣れたものだ。夜になっても建物や地形を捕喰しているアメーバ状のオラクルは光を放っているのであまり暗くはない。方向がわからなければ神機が示してくれる。後は如何に早くたどり着くことができるかだ。

 

 あれこれ考えるよりも走ったほうが正解だ。そう思い、俺は駆けだした。

 

 

 

「…………!」

 

 気配……こっちに向かってくるが、気配のする方向を見ても何も居ない。上かと思い見上げても何もない。ただ暗い空。

 じゃあなんでこっちへ向かってくるんだ……。

 

 

 地響きが聞こえ、構える。

 

 

 下かッ!

 

 

 咄嗟に飛び退くと俺が立っていた場所の地面が盛り上がり、土が舞い上がって雄たけびと共にアラガミが姿を現す。

 

 甲冑のようなフォルム、そして印象深いのは左腕の大きなドリルだ。

 当然こんなアラガミは見たことがない。

 さて……先ほどの地中からの攻撃は勿論だが、あのドリルによる直接攻撃だけは喰らってはいけないか。

 

『Gooo……!』

 

 アラガミが大きく息を吸い込み、ブレス攻撃かと思い構えた直後――

 

『Gooooッ!』

 

 氷のブレスが一直線に飛び、素早く身を傾けて回避する。

 

 奴はすぐに距離を詰め、左腕のドリルを振りまわしてきたのに対し、後ろへ下がりつつ最低限の動きで躱すが、奴はただがむしゃらにドリルを振り回す。

 躱わされようが関係ない、当たればよいと言わんばかりである。

 

 そして、ドリルを振り上げてからの叩きつけを回避。

 

 隙をついて懐へ飛び込もうとした瞬間、もう片方の手で殴りかかってきた。

 

「甘いッ!」

 

 捕喰形態を展開しつつ跳び、アラガミの肩を噛み千切ってバースト状態に移行、アラガミを踏み台にして飛び退く。

 

 着地と共に駆け出し、奴の周囲を動き回り撹乱しつつ隙をついて斬りつけ、距離をとって離脱する。

 

 アラガミがドリルを地面に突き立てると、地面にひびが入った。

 危険を感じて飛び退くと、アラガミの周囲の地面が隆起して岩塊が飛び出した。

 

「ッ! ならば……!」

 

 空気を蹴って空中ステップを行い飛び出した岩塊に飛び移り、更に足場にして跳ぶ。

 岩塊から岩塊へと渡りながら高速で移動し、アラガミの背後へ回って神機を突き刺す。

 

『Guoooooo!?』

 

 アラガミが悲鳴を上げて、こちらへ振り向きつつドリルを振ってくるがその場でのスライディングで回避して再びを背後へ回り、神機を掲げて踏み込みと共に振り下して尻尾を切り落とす。

 

 

『GOOOOOO⁉』

 

 鮮血が飛び散り、アラガミは悶えるが怒りの雄たけびを上げてドリルが高速回転を起こし、それを地面へ突き立て、そのまま地面をカチあげると冷気の嵐をこちらへ飛ばしてくる。

 

 横へ飛んで躱すとアラガミは一度跳んで地面へドリルを突き立ててそのまま地中へ潜った。

 

 気配を感じつつ動き回り、奇襲を警戒する。地面がひと際大きく揺れ、飛び出したアラガミは冷気の塊をこちらへ投げつけ、俺はそれを回避する。しかしアラガミは再び地面へ潜っていった。

 

「ちッ! 無駄な時間を……!」

 

 

 こちらは一刻も早くエレナを追わなければいけない。遅延行為に付き合ってやる義理はない。

 

 再び出てきたと思ったらまた冷気の塊を投げつけて地面へ潜り、こちらは捕喰形態へ切り替えて神機に岩塊を咥えさせてアラガミを待つ。

 

 そして出てきたアラガミが飛び出すと同時に俺も跳び、迫る冷気の塊に対して岩塊を投げつける。

 

 岩塊は冷気の塊を砕いてそのままアラガミに命中する。アラガミは体勢を崩して地面へ倒れ、神機を構えて一気に接近して神機を一閃。

 

 アラガミのドリルを斬り落とし、そのまま首へ神機を突き立てて地面へ縫いつけ、動きを止める。

 

 更に神機で首を削ぎ落す。

 

 頭部が地面へ落ち、アラガミの動きは完全に止まり、死体を捕喰してコアを体から食い千切る。

 

 

「相棒、遠慮なく喰っておけ。これから大立ち回りだ」

 

 

 光るコアを神機でかみ砕いて飲み込ませ、俺は先を急ぐために駆けだした。

 

 エレナ、必ず助ける。だから、もう少しだけ……我慢してくれ。

 

 




秘技・雷返し

雷は地に足ついた者の全身を駆け巡り一瞬にして動きを封じてしまう。
空中の一瞬、刀身に雷を受け、返す秘儀がある
それを雷返しと呼ぶ。

即ち、地に足つけぬ、雷返しなり。


昔、軍の上官から習った技だ。
まさか返した雷をまた返されるとは思わなかった。本当にえらい目に遭った。
おかげで半日は身動きが取れず、上官はそのまま俺を放置して酒を飲みに帰った。
新手の放置プレイである。


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阿保くせぇボケがァ!真っ向から叩き潰してやらァ!

不定期と言いつつ週一の更新になってきている……。
よし、今週の内にもう1話頑張って出して不定期更新を守ろう。


 

 

 夜中も休まずに走り続け、東から日が顔を出し始める。

 徐々に明るく照らされていく大地を駆け、進路上のアラガミは斬り伏せ、身体能力にものを言わせて常人では超えられない地形を一足飛びに駆け抜ける。

 

 

 

『KIIIIIIッ!』

 

 横から耳をつんざくような雄たけびが聞こえて振り返ると先日討伐した両手に針を持つ鳥のアラガミが追ってくる。

 

 アラガミが針を構えて一気に距離を詰めてくるのに対し、一時的に歩を止める。

 目の前には突き出された針が迫る。

 

 体を捻りつつ受け流すと共に、片足で針を踏み地面へたたきつけ、深く地面に突き刺して針の上に乗る。

 

 思いもよらない反撃に驚いたのか動きを止めた。その隙をつき、首を一閃。

 最後に神機で捕喰して胴体を噛み千切る。

 

「邪魔だっての」

 

 

 無残なアラガミの死体を蹴飛ばして先へ急ぐ。

 

 

 

 

 

「あれは…………」

 

 

 遥か遠くに建物らしきものが動いているのが見えた。

 エレナから聞いたな。あれが灰域踏破船ってやつか。

 よく見れば、その船にはペニーウォートの連中が来ていた制服と同じマークが描かれている。

 

 

 見つけたぞ……! エレナ、もう少しの辛抱だ。

 

 

 駆けだして船を追うが、徐々に距離は離れていき、このままでは見失ってしまう。

 だが、そうはさせない。必ず追いつく!

 

しかし邪魔するように小型・中型が地面から湧きだしてきた。

 

「ちっ、邪魔だ!」

 

 跳んで神機を構えながらアラガミ達に斬り込み、駆けながら迫るアラガミを次々と切り伏せてひたすら船を目指す。

 しかし、アラガミは続々と地面から湧いて出てくる。

 どうしてこう、俺が急いでいる時にはこうなんだろうな……!

 

 これ以上は相手にしてられん!

 

 攻撃を中断して群れから離脱するが、走る俺の前に先ほど討伐した両手に針を持つアラガミが再び立ちふさがる。

 しかし、そのアラガミは先ほどの個体と違って青い体色をしていた。

 

 

 アラガミが針を交差させて振り抜くと氷の斬撃が飛んできた。

 

 スライディングで斬撃の真下を潜り抜け、そのまま斬りかかるがアラガミは片方の針でこちらの斬撃を防ぎ、もう片方の針で反撃してきた。

 

 咄嗟に刀身を盾にして弾き、即座に反撃を返すが刃が捉えるよりも早く奴は跳びあがって空中から急襲を仕掛けてきた。

 

 後ろへ飛んで回避するが、アラガミは再び跳びあがって急降下攻撃。

 ギリギリで避けて、切りかかろうとするとアラガミの足元に冷気の塊が作られており、危険を感じて咄嗟に跳び退くと同時に冷気が弾けた。

 

 

「後隙潰しか。この世界のアラガミは随分頭の回転が速いようだな……!」

 

 着地の隙を狩るように両腕の針で刺突を何度も繰り出してきた。

 

 刀身で防ぎつつ後ろへ下がるが、奴も前進して逃がさんと言わんばかりに猛攻を仕掛けてきた。

 

 攻撃を防いで次の刺突が当たるよりも早く跳び、捕喰形態に切り替えて真上から喰らい付こうとするが、アラガミは両腕の針で神機の牙を受け止められた。

 

「マジかよ」

 

『KIIIII!』

 

 アラガミにそのまま放り投げられ、受け身を取って立ち上がるが既に奴は背後の翼を広げて青い羽根を冷気の嵐と共に飛ばしてきた。

 

 

 神機を捕食形態へ切り替えて、近くの建造物へ伸ばし噛みつかせる。

 

 そのまま神機に引っ張られてその場から離脱する。

 

 建造物を食い千切り、瓦礫を咥えさせてアラガミへ投げつけると瓦礫は粉砕されて砂埃が舞う。

 

 一気に距離を詰めて砂埃を突っ切り、アラガミに不意打ちを叩き込む。

 更に跳躍して神機を振り下ろすがアラガミも針を交差させて神機を防ぎ、逆にこちらが弾き返された。

 

 空中でそのまま突き攻撃が向かってくるが、刀身を盾にして被弾を防ぐも吹き飛ばされる。

 

「ッ!」

 

 即座に神機を捕食形態へ切り替えて、アラガミの腕へ伸ばして喰らい付かせる。

 

『KIIIIIIっ⁉』

 

「千切れろ!」

 

 腕を食い千切り、そのまま噛み千切った腕を引き寄せて左手に持つ。

 そしてバースト状態に移行して2つの得物を手に接近する。

 

『KIIIッ!』

 

 

 アラガミの攻撃を神機で弾き、奪い取った針で肩を刺して怯んだ隙を突いて斬撃を入れる。

 

 反撃を振ってくるもスライディングで股下を潜り抜けて方向転換と共に足を切り払い、怯んだアラガミの首へ針で突き攻撃を仕掛けるがアラガミが針に噛みつき、凌がれた。

 

「なら――翔鷹!」

 

 針から手を離し、瞬時に捕喰形態へ変えつつ翼状の捕喰器官を広げて前方へ跳び上り、同時にアラガミの脇腹を食い千切る。

 

空中でアラガミの方へ向き直り、捕喰口を展開する。

 

「ついでだ」

 

 直滑降して次はアラガミの片翼を食い千切った。

 

『KIIIIII!!』

 

 ものの数秒で体を二か所も食い千切られてアラガミは悲鳴を上げた。

 しかし、人間が悲鳴を上げてもアラガミは喰うのをやめない。ならばこちらも奴らが泣き叫んだとしても喰らうのはやめない。

 

 一気に距離を詰めて食い千切った脇腹へ斬撃を叩き込んで胴体を切り落とした。

 念のため、頭部へ神機を喰らい付かせて噛み砕く。

 失った残りの遺骸は蒸散を始めた。

 

 

時間をくったか……。

 

 

 船を見れば、先程よりも遥か遠くへ移動していた。

 漂う灰も濃くなり、視界が悪くほぼ見失う直前だ。

 

 

 すぐに駆けだして船を追う。

 

 

「ちっ、流石に間に合わねえか……。だが、指咥えて見失うのも癪だ……!」

 

 

 神機を背負うと、触手が伸びて腰にしっかり巻き付いた。

 

「相棒、飛ばすぞ!」

 

 それだけ叫び、走る速度をさらに上げて全力で船を追う。

 

 途中、湧いてきたアラガミはすべて跳び越すか素通りする。

 または台の代わりに使ってジャンプして船を追うことに専念する。

 

 横やりや背後からの遠距離攻撃などを警戒して周囲に気を配りつつ、次々と立ちふさがるアラガミを通り抜けて進む。

 

 荒れ果て荒廃した市街地に入り、空中を浮遊するザイゴートの群れ発見した。

 

「手段を選んでいる暇はないか」

 

 意を決してザイゴートの群れに飛び込み、次々と踏み台にして空高く駆けあがってそこから空中ステップで何度も空気を蹴りつつ飛ぶ。

 

 走るよりも飛ぶ方が早いが、それでも船はまだ遠い。

 

 神機に手を掛けると腰に巻き付いた触手は神機のCNSへ戻り、捕食形態を展開すると同時に滑空する。

 『滑空穿孔式・穿顎』は神機自体から発せられる推進力を利用して滑空する。

 

 この高度でやれば大分距離を稼げるはずだ。

 

 空中で空気を裂きながら船を追う。

 

 

 地面へ着地するとすぐさま駆けだして船を追う。

 

 

「…………くッ……灰が……」

 

 流石に、これ程の濃さじゃきついか……。体が妙に苦しい。

 ただの人間なら10分も持たずに息絶えるのが灰域と呼ばれる場所だ。エレナに聞いた話では、普通の神機使いでも調整した偏食因子を接種すればある程度は行動できるらしい。だが俺はただ戦友たちに守られているだけだ。

 この加護ともいえる護りが何時までもつのかは分からない。

 

 こちらに気づいて吠えているオウガテイルを跳び越し、そのまま通り抜けると今度はグボロがが背中をこちらに向けてノロノロと歩く。

 背びれへ跳び、そのままジャンプ台替わりに使って大きく跳ぶ。

 

『GOOAAAAA!』

 

 グボロの雄たけびが聞こえ、確認のために振り向けばこちらに水塊を撃ち、途中で弾けて拡散する。建造物の壁に着地してすぐに跳び、また壁へ足を付き、更に跳ぶ。

 

 

 

 

 着地して走りだそうとしたとき、空から幾つもの光の玉が降り注いだ。

 

「なにッ」

 

 降りかかる光の玉を躱しつつ駆け抜ける。轟音が響く中、砂埃を突っ切る。

 

 後方に居たグボロや小型アラガミは無残な姿となり、上空から光が差すのを感じて上を見上げれば、見たことのないアラガミがゆっくりと降下してきた。

 

 

大きな顔と小さな頭部、そして頭部の上に光の輪……正に異形のアラガミともいえる見た目だ。ぶっちゃけどう表現すればいいんだ……こいつ。

 

 

「ちっ、こちとら急いでるてのに……」

 

 こんな奴に時間を掛けている暇はない。だが、アレほどの遠距離攻撃を持っている奴を野放しにしてエレナを追いかけるのは得策でなはい。ふざけた見た目をしているくせに厄介とは腹が立つな。

 流石に先ほど仕掛けてきた攻撃の雨を掻い潜りながらペニーウォートの船を追うなんて自殺行為だ。

 

 

 全身が硬そうな装甲に覆われており、見るからに相手取るのが面倒くさそうな奴だ。

 遠距離攻撃が主な攻撃手段だろうが、あの巨体だ。不用意に近づけば体当たりで轢き殺されるかもしれんな。

 

 神機を構えると、奴の大きな顔が口を開く。

 

 口の中が光り、そのまま光線をこちらへ向けて放つ。

 

「うおっと」

 

 体を軽く捻って光線をギリギリで躱し、神機を構えて斬りかかる。

 

 

『COOOOOOOッ!』

 

 刀身が奴を捉える直前で雄たけびを上げた瞬間、装甲がオラクルを纏って更に拡大させてバリアが出現して弾き飛ばされた。

 

「小癪な……!」

 

 地面に手をついて受け身を取り、態勢を整える。

 

 奴の口から光線が再び発射される。横へ跳んで避けようとすると光線が曲線を描いて追尾してきた。

 

 マジで面倒くさいなこの野郎……こっちは時間が無いんだよ……!

 

 迫る光線をギリギリまで引き付けて回避してすぐにアラガミへ近づいて神機を振るが、バリアで防がれる。

 

 しかし、バリアに傷が入った。

 連撃を叩き込んでやれば破壊できそうだな。

 

 背後へ回り込んで何度も神機を振って一点集中でバリアを攻撃すると、バリアに大きな亀裂が入った。亀裂のど真ん中に神機を差し入れるとバリア全体に亀裂が走って粉々になった。

 

 アラガミにしがみついて何度も神機を突き刺し、最後に思いっきり突き刺した後に神機を振り抜く。

 

『GOOOOOOOOッ!』

 

 アラガミが悲鳴を上げ、血が噴き出した。血に濡れるのはごめんなのですぐに跳び退いて距離を取る。

 

 奴が上昇し光輪が光った直後、大量の光線や光弾が四方八方に放たれた。

 

 跳び退いて攻撃を回避し、近くの壁を駆け上って奴へ跳ぶ。

 

『GOOOOOOッ!!!』

 

 数本の光線がこちらへ向かってくる。

 

 神機の上に乗り、光線をレール代わりに滑りつつ接近する。光線・光弾の嵐が襲い掛かるが、神機を乗りこなして光線から光線へと乗り移って回避しつつ距離を詰める。

 

 しかし、奴はすぐにバリアを張り直した。

 

「ッ……。阿保くせぇボケがァ! 真っ向から叩き潰してやらァ!」

 

 光線のレールから跳び、神機を両手に持って空へ掲げて上段の構えを取る。

 

「カアァーッ!」

 

 掛け声と共に振り下ろした神機はバリアを一撃で叩き割った。

 

 バリアの破片が散らばる中、着地した直後に突きの構えを取り、跳躍してアラガミに突撃して大きな顔に神機を突き刺す。

 

『COOOOO! COOOOOッ!』

 

 悶絶するアラガミに構うことなく踏み台にして跳びあがり、降下回転しつつ神機を振り下ろして、装甲を切り落とす。

 

 アラガミは地面へ落ち、その隙を逃がさずに頭部に捕喰形態で喰らい付かせて噛み千切る。

 神機開放状態に移行して、奴の上に乗って大きな顔に神機の切っ先を向けて口へ突き入れる。

 

 そのまま神機で口諸共顔を切り裂いて藻掻いていたアラガミは息絶えて蒸散した。

 

 

 船が走っていった方向を向けば、灰で覆われていた向こう側は晴れており、遥か遠くに巨大な建造物を発見した。

 

 そして、神機から伸びた触手はその場所を指し示していた。

 

 

「なんだ、案外近くにあるじゃねえか……。エレナ、今行くからな」

 

 

 目的の場所へ早く到着するため、地面を蹴って駆けた。

 




グウゾウ面倒くさくて反吐が出る。でもレイガンってあんまり使う気になれない。
でも考えればそもそも銃自体使わないスタイルだから結局BAでごり押ししている自分が居る。


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落ちろ!

ちょっと長くなったので分割して投稿します。


 

 

 

 

いざ近づいてみれば、とても巨大な施設だな……。

 正直、組織の規模が予測できん。

 

 

 目の前の建造物には歯車的な何かに囲まれている馬?のマークが描かれている旗が立っている。歯車に馬か……一体どう言った理由でシンボルにしたのか是非とも理由を聞いてみたい。

 

 ペニーウォートの灰域踏破船も施設の入り口らしき場所に止まっている。

 船を受け入れている、つまりあれはミナトか。

 補給のためによったのか、他のミナトにエレナを売れば億はくだらないと連中の発言から考えるに、エレナを引き渡す先のミナトか……。

 

「相棒、エレナは何処にいる?」

 

 神機が応えるようにCNSから触手を伸ばし、指し示したのは目の前の建造物やペニーウォートの船ではなく、地面だった。

 

 ミナトは灰域の被害を防ぐために地下に建造されている。つまり、エレナは既に船ではなくこのミナトの中か。どうやらこのミナトがエレナを引き渡す相手らしい。

 

 いや、考え事は後だ。とにかくエレナが居る筈だ。幸い神機がエレナの場所を示してくれるので侵入と脱出に専念すれば良いだろう。

 

 

 

 ミナトに近づきながら侵入、救出、脱出を試行錯誤する。

 戦略を考えると言うのは中々難しいものだ。リンドウさんやサクヤさん、タツミ、ユウナの凄さが良く分かる。

 そういえば、いつも上官が言っていたな。

 

『戦略とは最悪な状況で尚且つ己の身一つしかない前提で企てろ』ってな。

 

 確かに、いざ侵入すれば連中は俺の事を全力で潰しに来るだろうし、数だって奴らが上だ。

 こちらは既に消耗状態でたった1人。

 装備もこちらは装甲のない近接旧型神機。連中は新型神機だ。勿論装備は劣っている。

 こちらは孤立無援だが奴らは数の暴力でごり押し、他には交代して補給をしながら徐々に追い詰めてくる作戦もあり得る。

 

 何だろうな……さっきから頭の中である歌が響いているんだ。

 

 

「兵士は敵より少ないぞ~♪弾薬敵より足りてない~♪装備も敵より劣ってる~♪だーけど闘志は負けてない~♪」

 

 

 あ、口に出ていた。ぶっちゃけ連中に勝っているものと言えば闘志ぐらいなもんだよな。

 

 他にもいろいろなバリエーションの歌が頭を過るんだが……口にすればなんか、とてつもなく巨大な絶望に立ち向かっているような感覚に陥ってしまい何とも言えない気分になるのでもう考えるのはやめよう。

 

 

 すぐ傍まで近づき、侵入経路がないか周囲を探る。

 

 

「おっ」

 

 運よく大きな通気口を見つけた。幸い俺でも通れるぐらいの大きさだな。よし、後は鉄格子を神機でぶった切って中に侵入すればOKだ。

 

 神機を構えて鉄格子を一閃して身を屈めて中に入る。

 

 

 うわ、カビ臭。

 

 

「通気口から侵入するなんて漫画の世界だけだと思っていたぜ。まさか実際にやることになるとは……」

 

 

 周囲には人の気配が腐るほどあり、それに交じって神機使いの気配、神機使いよりもアラガミに近いAGEの気配が入り乱れている。流石に数までは把握できない。

 

 

 しかし、本当にソーマに似ている気配だなAGEってのは。待てよ、そう考えるとまさか五感も優れているわけではあるまい……。いや、最悪な状況を前提に考えろ。ソーマ並みに感覚の鋭い奴がゴロゴロいるならスニーキングする上では間違いなく最悪な状況だ。

 なら、慎重に行動するだけだ。物音から呼吸に至るまですべてを最小限にな。

 そうだ、俺はソーマに声を掛けるまで尾行しても気づかれなかったじゃないか、自分の感覚を信じろ!

 

 そう、俺の感覚を信じる俺を信じろ! 

 (。´・ω・)ん? なんか色々と言葉がおかしいような……。

 ま、日本語って難しいから仕方あるまい。だよな? 

 

 

 細心の注意を払いながら通気口を進み、廊下や部屋の様子を鉄格子越しに覗き、神機の示す方向へ向かうように進む。

 

 しかしバカみたいに広い施設だな……。見たことのない機材がズラリと並んでいる。廊下通る人間の中には白衣を着て如何にも研究者ですよと言う格好をした奴らが忙しなく歩いており、当然銃を持った神機使いも2人1組、3人1組で哨戒しており通気口から出ようにも出れない。

 

 

 暫く進むと広そうな部屋と思われる通気口に入ったようだ。鉄格子越しから中の様子を覗くとエレナと同じ年頃の子供が何十人も整列していた。

 全員同じ黒い服を着ていて、両手首にはエレナと同じ腕輪とそれぞれの手には神機が握られている。

 張りつめた空気だ。無表情で何も言わず、微動だにせず前だけを見ている子供たちの姿に言葉を失う。

 

 

 

 

「では基本の型からだ……始めっ!」

 

 子どもたちの前に体格の良い男が現れ、彼もまた両手首に腕輪を嵌めていた。

 男の一声で、子供たちが一斉に神機を振り始める。

 列を崩さず決まった動きを繰り返す光景は俺も見慣れたものだ。だが、俺の知っている景色と違うものがあるとすれば得物を振るのは子供であるかどうかだ。

 

 

「貴様らは戦士だ。神を滅ぼすバランの剣……AGEだ。命令通りに行動し、ただバランに尽くせば良い。それが出来ない者に居場所はない。即刻処分されるものと覚悟しろ」

 

 

 男から厳しい言葉が出ると、子供たちは無表情ではあるが恐怖を与えられたのか、より一層素振りに力が入る。

 

 

「次は組み手だ。互いに実力を競ってもらう。成績不振者には制裁が下される。心して掛かれ」

 

 男が番号を呼ぶと返事と共に2人のAGEが前へ出て向かう合う。

 

 ロングブレードとショートブレードを持ったAGEが互いに得物を構える。

 

「始めっ!」

 

 男の号令と共に2人は掛け声を上げながら神機を振りかぶって激突する。

 

「やああああああ!」

「たあああああああ!」

 

 ショートブレードを持つAGEが何度も打ち込み、ロングブレードを持つAGEは刀身を盾にして防ぎ、ショート使いが一瞬攻撃の手を緩めた瞬間にロング使いは得物を振って次の攻撃を弾いてショート使いの腹に蹴りを入れる。怯んだ隙に神機で殴りつけ、そして決着。

 

 ヒエっ……やべぇ……。

 子どもたちには全く躊躇がない。組手なら腐るほどやっているが殺すつもりでやったことなんて無いぞ……。

 目の前の敵をただ倒すべしと洗脳されているとでも言うべきか。いや、洗脳じゃないか。

 純真無垢な子供だからこそ何色にも染まる。こちらからすれば異常だが、あの子たちにとっては、アレが普通なのだろう。

 

 それからしばらく組手が続いた。

 

 

「本日の訓練はこれまでだ。解散」

 

 男の号令と共に、子供たちが訓練場から出ていく。

 

 

 そうか、此処がバランか……。あのペニーウォートの男、エレナを売れば億はくだらないとか言っていたな。確かにエレナは特別だ、そりゃ何処の組織も喉から手が出るほど欲しがるだろう。

 

 エレナ……。

 

 このままじゃエレナが……あんなに優しい子に……鬼になれと言うのか……。どれだけ歴史を重ねても人は変わらないか……。俺たちが後世に託すために命を張って戦場を駆けたずっと先の未来がこの結果とはな……悲しくなってくる。

 せめて、エレナだけでも……救い出さなければいけない。なあ戦友達よ、けじめを付けないといけないようだ。

 もう後悔なんてたくさんだ……だから、力を貸してくれ。

 

 

 

 

 訓練場から人の気配がしないことを確認すると、鉄格子を一閃して通気口から脱出して床に降り立つ。

 

「ふー体が痛ぇ……」

 

 神機がエレナの居場所を教えてくれる。

 

 扉を開いて廊下へ出るとあまり人の気配はしない。さて、エレナの居場所まで行くにはどうしても接敵するだろう。こういう時は変装が定番だな。そして、変装するなら手頃な奴をとっ捕まえて身ぐるみ剥いでトイレの用具入れに縛り付けて置くのが定石だ。

 

 そんな訳でまずはWCを見つけよう。

 

 

 

 気配から逃げるように廊下を小走りで駆けてトイレを探して駆けこんで用具入れに籠って誰かが来るのを待つ。

 

 

 暫くすると足音が聞こえて息を潜める。

 

 入ってきたのは小銃を持った神機使いだ。トイレの外には誰の気配もしないので丁度1人らしい。

 よし、お前に決めたぞ。用具入れから顔を出して音をたてないようにゆっくり動く。

 

 男が便器の前に立った瞬間飛びかかって背後から首に腕を回して締め付ける。

 

「フェンリルだ! 大人しくしろ!」

「何すんだおまっ――はなせこら!」

「1人に勝てるわけないだろう!」

「馬鹿野郎おまえ俺は勝つぞお前!」

 

 随分と乗りの良いい見張りだが……。

 

「ちょっと眠ってろお前」

「あー放せコラ!」

「落ちろ!」

 

 首を絞めつつ男の腹にパンチを入れると男は力なく項垂れた。

 

「落ちたな。縛らなきゃ」

 

 男が羽織っているバランのシンボルが刺繍されている灰色のコートを脱がし、男のズボンを下ろしてそのまま男に巻き付ける。ついでに用具入れに入れてあったスポンジを口に突っ込んでベルトをテープ代わりに口に巻き付けて縛る。ついでに足に打撃を叩き込み、足の形を歪ませておく。これで立つのに時間がかかるだろう。

 男から取り上げた帽子をかぶり、神機の先端をズボンに差して背中に背負い、その上からコートを纏って変装完了だ。

 

 神機を隠したので後は帽子を深くかぶりつつトイレを出る。

 

 懐に柔らかい感触を感じると、神機から伸びた触手が出てきてエレナの居場所を教えてくれる。

 

 

 ここから更に下か……。なんか地図とかないのか、このミナトは。ぶっちゃけ迷宮みたいなもんだぜ。

 

 エレベーターが発見できれば手当たり次第に階層を移動し、神機の反応を見るだけでエレナが居る階層を割り出せるのだが……。

 

 怪しまれないように哨戒する振りをしつつエレベーターを探す。

 

 忙しなく動いている奴が後をつけてみるか。忙しい奴ほどとにかく上や下へ行ったり来たりするものだろう。

 

 

 

 

 

 中々忙しそうな奴が見つからない。

 

 そう思いつつ、気を抜かずに哨戒の振りをしつつ施設内を探索していると目の前から見覚えのある男が歩いてきた。

 

 先程、子供たちの訓練を仕切っていたAGEの男だ。随分厳つい顔をしている。

 それに隙が無いな。見張りの神機使いなどは正直大したことは無いが、やはりどこの組織にもエースと言うのは存在するという訳か。

 

「…………」

 

「…………」

 

 男と目を合わせないように横を素通りするが、後ろから聞こえていた足音が止み、男は歩くのをやめたと感じた。

 

 これでこちらも立ち止まれば怪しまれる可能性がある。ここはそのままスルーだ。頼む、俺に声を掛けるなよ……おっさん。

 

 願いつつそのまま歩く速度や歩き方は自然体を装い、男から離れた。

 




続きもすぐに投稿します。


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相手が悪かったな。お嬢ちゃん

ゴッドイーター3はストーリー的に人VSアラガミじゃなくて人VS人だなと思ったので今回は対人戦メインです。


 

 

 暫く歩き、男の気配も遠くなった。一瞬だけ気を抜くがすぐに気を引き締めなおす。

 

 

「ん?」

 

 何かが腕を伝ってきたのを感じ、袖を捲ると神機の触手の先端が腕輪に接続される。

 

 

 

「っ⁉」

 

 

 突然眩暈がしたと思えば、視界に移る景色は先ほどの景色と打って変わっていた。

 

 身なりの良い小太りの男とペニーウォートの制服を着た男が話しており、小太りの男がこちらを見ながら口を開く。

 

『このガキが本当に超甲型? 嘘じゃねえだろうなぁ?』

『間違いない。送った資料を確認してくれ』

『まあ良いい。嘘だったら困るんでな。確認してから金を支払う』

『それで構わない』

 

 これは……エレナが見たものか? 

 まさかもう引き渡しが始まっているのか……!

 

『しかし、見た目は他のガキと同じだな? なあ?』

 

 小太りが髪を掴んで軽く引っ張ったのに対してエレナが頭を振って男の手を振り払う。

 

『なんだこの雌ガキ? 俺を睨みつけやがって……俺はな、テメエみたいな生意気なガキが嫌いなんだよ! ただの実験体が!』

 

 小太りの男の拳を頬に受けて倒れかけるも、エレナは男に噛みついてやり返した。

 

『ギャアァ⁉ 放せクソ!』

 

 すぐにペニーウォートの男に取り押さえられ、小太りの男がナイフを取り出して顔に近づけてきた。

 

『生意気なガキが! 逆らうな虫けらがァ!』

 

 頬に鋭い痛みが走った瞬間、視界は元に戻っており目の前は殺風景な廊下だった。

 

 

 

「エレナ……!」

 

 走り出して神機の示す方向へ急いだ。

 

 

 すれ違う人間には目もくれず、神機の示した方向へ向かっていると神機は見張りが常に立っている扉を示した。俺はそのまま扉へ向かった。

 

「待て貴様、その制服は小隊長クラスか。この先は許可を得なければ入れないのは分かっている筈だろう? む、それより、貴様見たことがない顔だな? 昇格したばかりか?」

 

「邪魔だ」

 

「何――」

 

 男の顔面に拳を叩き込んで一撃で黙らせる。

 倒れた男から扉のキーを取り出して認証させると扉は開き、先を急ぐ。

 

 階級がなければエレナのもとにはたどり着けない。ならば、もはや変装なんて意味がない。

 

 バランの制服を脱ぎ捨てる。

 

「む……っ! 貴様、何者だ⁉」

 

「立ち入り制限を無視したか⁉」

 

 男が2人こちらへ向かってくる。

 

「止まれ! さもなくば発砲する!」

 

「やってみろ」

 

 男が2人そろって銃口を向けて引き金を引こうとするが、銃口から鉛玉が飛ぶ前に一気に接近して殴りかかる。

 

「グあぁ!」

 

「き、貴様――」

 

 1人を片付け即座に1人の顔面を小銃で殴りつける。

 

「ゴハァッ⁉ ガあっ……!」

 

 地面に倒れた男の口に銃口を突っ込む。

 

 

「ペニーウォートから連れてこられた灰色の髪のAGEはどこだ? 答えないなら風穴空ける」

 

「こ、この先に……」

 

「………………」

 

「………………」

 

 居場所さえ聞ければそれでいい。だが、口の軽い奴だ。上が上なら下も下だな。

 

 銃口を男の口から離す。

 男が安心したような顔をした瞬間、顔面に拳を叩き込んでそのまま蹴り飛ばす。

 

 転がる男を放って通路を進んでいると監視カメラが至る所に見える。走りながら小銃を撃ってカメラを破壊しながら進む。

 

警報音が鳴り響き、赤いランプが点灯して通路を赤く照らす。

 

「何事だ⁉」

 

「侵入者か⁉ 捕らえろ!」

 

「抵抗するなら殺せ!」

 

 今度は男3人、次から次へとキリがないな。

 

「テメェらの首なんざ数に入らねんだよ。分かるか? 殺す価値もねえってことだ。さっさと退けや」

 

 流石に安い挑発じゃ乗らないか。

 こちらが小銃を乱射すると哨戒の3人は物陰に隠れる。

 応援を呼ばれたらまずいので足を止めることなく駆け抜けて、男たちの隠れた場所へ接近する。

 

「なっ⁉」

 

「ぬぅん!」

 

 小銃の持ち手で男を殴り、更に小銃を別の男に投げつけて一気に距離を詰め、男の注意が小銃に向いた隙をついて掌底を男の腹に叩き込んで吹き飛ばす。

 

「くそっ! 大人しくしろ!」

 

 男が小銃を乱射してくるが銃弾を避けつつナイフを取り出して投げる。

 ナイフは男の足に突き刺さり、男が悲鳴を上げて床に膝を突く。

 

 悶える男の頭部に肘鉄を見舞う。

 

 3人をぶちのめすと周囲の気配が一斉にこちらへ向かってくるのを感じる。急いで走り、暫く通路を進むと神機から生えてきた触手がは急に天井を指した。

 

「上…………逃がすか」

 

 神機を取り出すと、神機が震えて僅かだが体に力が漲る。力任せに神機で天井を斬ってそのまま上の階へあがる。

 

 瓦礫が散らばり、排気管や圧縮された気体の管でも斬ったのか凄まじい勢いで風や煙が噴き出てくる。

 この階層でも警報が鳴り響き、ランプが赤い光を放ちながら点滅する。

 

「くっ、下の階の侵入者か⁉」

「周囲の哨戒班とゴッドイーター、AGEを集めろ!」

「仲間が居るかもしれん。警戒態勢に移行しろ!」

 

 怒鳴り声が聞こえる中、スタングレネードを取り出して転がす。

 

「グレネードだ!」

 

「伏せろ!」

 

 声と共に爆音と閃光が周囲を覆い、俺はその中を駆け抜けてエレナを追う。

 パイプを見つけたら手当たり次第に神機でぶった切る。

 

 煙で最早前は見えないが、神機を頼りに移動して扉を潜る。

 

 

 見張りや向かってきた戦闘員を返り討ちにしながら進み、暫く進むと広い通路に出た。

 

 

 通路の先には俺と歳がそう変わらない女性とエレナと同じ年頃のAGEが神機を手に立っていた。2人とも俺が見たこともない一対の神機を携えている。

二刀使いか、それ以前に1対2では少々分が悪いが、そこはまあ……経験と技量でカバーするか。

 

「おっさんの言う通りね。さーてルル。試験も近いし、ひと踏ん張りしよっか」

 

「うん、ニケ」

 

「そんな訳で侵入者のお兄さん、覚悟してもらおうか?」

 

 ニケと呼ばれた女性がそう言い、俺に神機を向けてくる。

 

「女子供ぶん殴る主義じゃないんだ。さっさと帰りな」

 

 事実だ。相手が女子供だとやりにくい。

 

「女だからって甘く見てると……痛い目見るよ」

 

 彼女は先ほどとは打って変わって殺気を纏い、こちらを睨みつける。

 おーおー、恐ろしい女だこと……ヤバい女は好みじゃないんだがなぁ……。

 

「ニケ、私が行く」

 

 ルルと呼ばれた少女が一対の神機を構えて一気に接近してくる。

 

 中々のスピードだが……。

 

 神機を構えないで直立不動で立ち、幼いAGEの動きを見る。これは中々将来有望だな。

 アクロバティックな動き、踊るような立ち回りで翻弄。

 俺の手に持つ神機を叩き落とそうと攻撃を仕掛けてくるが、軽く受け流す。

 

「まだまだ!」

 

 先ほどよりも素早い動きで翻弄して再び、神機を狙ってくる。

 

 受け流すと再び神機を狙って攻撃を振ってきた。多少の違和感を覚えたが、すぐに察した。

 

 ほう、そういう事か、人を傷つけるのに抵抗があるようだ。だから俺の神機を弾き飛ばし、武装解除させて戦意を削ぐつもりか……。まあ、相手が同じ子どもなら通用するだろうな。

 生憎とガキの頃は生粋のヤンチャ坊主だった故、俺には通用しない。神機が弾き飛ばされても殴る、引掻く、蹴る、絞める、噛み付くと攻撃手段はいくらでも残っている。

 

 少女の攻撃に対して神機を軽く振り、弾き飛ばした。

 

「うあッ⁉」

 

 弾き飛ばされた少女は壁に激突して床へ倒れ込んだ。

 

「ルル!」

 

「相手が悪かったな。お嬢ちゃん」

 

 次はニケと呼ばれた女性と向き合う。

 

「お前じゃ俺には勝てん。俺の気が変わらねえうちに、さっさとそこのガキを連れて帰りな」

 

「冗談。あんたこそ、さっさと降参したら!」

 

 余裕を崩さない表情のまま構え、向かってくる。

 

 やはりスピードはルルと呼ばれたあのガキ以上か。

 素早い連撃に対し、こちらは神機を構えずに最低限の動きですべての攻撃を紙一重で避ける。

 正に嵐の如く猛攻であるが、見切ってしまえばどうということは無い。

 

 既存のゴッドイーターよりも高い身体能力を持つAGE、だから神機使いはAGEに勝てない……否、ならばこちらは経験と不屈の闘志を持って返り討ちにするまでだ。

 

 連撃の手が緩んだと思えば、ニケが後ろへ跳び退いて距離取り、その判断に素直に感心する。

 

 こちらが遠距離攻撃を持っていないと分かっているので距離を取っての様子見、それでも油断をすることなくしっかりこちらを見ている。仮に俺が遠距離攻撃を仕掛けたとしても凌がれたに違いない。かと言って折角距離と言うアドバンテージを得たのに何も行動しないと言うのは歯痒いものだ。

 

 ソーマが放つチャージクラッシュのように遠くまで届く攻撃の1つでも会得しておくべきだったか。 

 そんな芸当俺にできるのかは知らんが。

 

 

「ふーん……まさかおっさん程強い奴が他に居たなんてね……」

 

「おっさんだとォ⁉ ふざけんじゃねーよお前お兄さんだろぉ⁉」

 

「アンタに言ってないよ。耳おかしいんじゃないの?」 

 

 中々鋭い突っ込みが返ってくるが、話を戻そう。

 

「で……俺がお前の援交相手となんだって?」

 

「うわ、援交なんて一言も言ってないのに……。やっぱ頭おかしいな、こいつ」

 

 このアマ……失礼な奴だな……『貴様失敬だな! おい名を名乗れ!』と怒鳴りつけてやりたいところだ。

 

 

「そらあっ!」

 

 隙をつくように再びニケが飛び込んできたので、迎え撃とうと構える。

 

 

ガシャッ!

 

 

「ッ⁉」

 

 彼女の神機が変形して両端に刃の突いた薙刀に変形した。複雑な軌道を描いて迫る斬撃から咄嗟に距離を置き、追撃に意識を集中する。

 

「ハアァッ!」

 

 自在に得物を振り回して隙を見せない堅実な攻撃をひたすら避ける。

 

 

「驚いたな。他には?」

 

「くっ、まさかここまでとはね……」

 

 ニケが諦めたかのように項垂れた。しかし演技だろう。

 見抜いて構えると、奴もだまし討ちは通用しないと悟ったのか突っ込んでくる。

 

「セアッ!」

 

「甘いわ」

 

 突き攻撃を受け流し、刀身を足で踏みつけて神機を封じる。

 

 ニケが神機から手を放して懐に手を潜り込ませたのを見て、即座に神機を蹴り上げて距離を取る。

 

 しかし、そのまま蹴り上げた神機を掴んでもう1度突き攻撃が迫る。

 

こちらも後ろへ跳び退きつつ一回転と共に回し蹴りで神機を蹴り飛ばしてニケを丸腰にする。

 

 ニケが懐からナイフを取り出した。

 

 

「せああぁ!」

 

 背後から気配と共に掛声を発しつつ斬りかかって来る少女。

 

 攻撃を受け流して、片手で首を掴んで壁に叩きつけて神機を手放させる。

 

「くっ⁉」

 

 

 隙を突こうと駆けだしたニケにルルを突き出す。

 

「動くな。さもないとこの子を殺す」

 

「ニケ、私はいいから早く……」

 

 余計なことを喋る少女の首を握る手に更に力を籠めると、ルルは苦しそうな声を絞り出す。

 とうとう、子どもにこんな言葉を言わせるか……。

 

「はっ、何が女子供を殴る主義じゃないさ……鬼畜の所業じゃん」

 

 そう言ってニケは動きを止めるが、奴の目はまだ俺の隙を狙っている。

 

「女子供に『自分の事はいいから』なんて台詞を吐かせる世の中の方が鬼畜じゃねえか?」

 

「で、あんたどうするの? このまま現状維持でもそのうち新手が来るわよ?」

 

「じゃあ……」

 

 ナイフを取り出してルルを軽く切りつけてニケに投げ渡す。

 

「何の真似?」

 

「なに、ちょっとした毒をナイフに塗っていてな。今すぐ処置すれば助かる。俺の気が変わらねえうちにさっさと失せな」

 

 勿論嘘だが。大体俺はシュンみたいに毒でジワジワ追い詰める真似なんてしないさ。

 

「なんの毒か言ってみなよ。お馬鹿さん」

 

 あ、やべ……バレてるやんけ……。だがその台詞が来るのは予測している。

 

「俺が朝一番で捻りだしたアレを塗ったものだ。雑なつくりだが猛毒だぞ?」

 

 尻を軽く叩きながら発言。すると――

 

「うわ……。……で、そんな嘘を信じろとでも?」

 

 ニケが引きながら蔑んだ目で見てくる。それでも嘘だと言い切られ、内心焦る。

 流石に嘘は通用しないか。ならば、このまま2人をまとめてぶちのめせば問題あるまい。

 

「ならこのまま一戦やり合うか? 新手が来る前にお前らをぶちのめすのは容易いが」

 

 

「…………次は容赦しない。退くよ、ルル」

 

「でも、ニケ……!」

 

 捨て台詞を残してニケはルルを担いで立ち去り、廊下の角を曲がって行った。

 一応、背を向けた瞬間戻ってきて刺されるのも癪なので完全に気配が去るのを待つが、どうやらまだいるらしい。

 

「そこに居るのは分かってんぞ。さっさと行かねえと死んじまうぞー?」

 

 足音だけ響いて徐々に遠くなっていく。気配も遠くなっていった。

 やっぱり背中見せた隙に一矢報いる気でいやがったか。末恐ろしい女だ。あんな奴は敵に居たら本当に厄介だ。

 

 

 周囲に気を配りつつ先を急ぎ、目の前の扉を神機でぶち破ると少し開けた場所へ出た。

 

 




ちなみに次回も対人戦メインです。


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迷えば、死ぬぞ

ちょっと長くなってしまいました。申し訳ありません。


 

 

 随分広い部屋に出たな。

 神機が反応する限り、このあたりにエレナが居る筈だが……。

 

 

「ユウ!」

 

 追い求めていた者の声が聞こえ振り向くとエレナが拘束され、その後ろには小太りの男にペニーウォートの制服を着た男が立っていた。

 

「こんなところまで……しつこい奴だ」

「よくもやってくれたなクソガキ、死刑じゃ済まさねえぞ?」

 

 2人とも、特に小太りの男はご立腹だ。だが、ご立腹なのはこっちも同じだ。

 エレナの顔に横一文字の傷。その痛々しい傷から血が流れているのを見た瞬間、怒りのメーターは振り切れた。

 

「…………っ」

 

 右手に持つ神機が震える。俺の右手が震えているわけじゃない。

 神機が震えている。

 恐怖や痛み、悲しみでもない。俺と同じ怒りだ。

 元々はエレナがオラクルで作り出した剣だ。主人を傷つけられて怒りに震えるのも頷ける。

 

「死刑じゃ済まない? 上等だやってみろ、若造ども」

 

 2人に殺気をぶつけた刹那、背後から気配を感じて咄嗟に神機を構えて攻撃を防ぐ。

 

 ニケやルルと違って重い一撃だが、何とか押し返えそうと力を籠める。

 

「お前は……!」

 

 弾き返そうとするとすぐに相手は飛び退いて距離を取った。

 

「ゴウ、その虫けらを殺せ!」

 

「……………」

 

 ゴウと呼ばれたAGE、訓練場で子供たちが行っていた訓練の指揮をしていた奴だ。そしてつい先程通路ですれ違ったな。

 見ただけでも分かる、こいつは相当の手練れだ。

 何より、顔に出てやがる……強者の風格が。

 

 

 ついさっき一撃を防いで分かっている。奴の攻撃は速く重い。

 今までは人間相手なら得物なんて使わずとも圧倒できたものだが、こいつが相手なら話は違う。

 

 神機を構えた直後、相手に一瞬で距離を詰められて目の前に奴の神機が迫る。

 

 

 

 速く重さがあるゴウの神機を受け止める。

 

「……やるじゃねえか、おっさん」

 

「随分余裕だな。いつまで持つか見ものだ」

 

 偏食因子とオラクル細胞の恩恵に甘えたて来たわけじゃないらしい。闘いの基礎ってのをよくわかっているようだ。

 そうだ、忘れちゃならねえ。神機使いの身体能力は所詮借り物の力である事を。

 

「敵を前にして考え事とは、余裕だな?」

 

「ああ、気にするな。あんたの力に感心していただけだ」

 

 互いに神機を弾き合い、いったん距離を置くと互いに踏み込んで神機を振る。

 神機による斬り合いへ移行した。

 

 こちらが斬れば防ぎ弾かれ、奴からの反撃を防いで弾きまた攻撃、といった具合で剣戟が続く。

 

 踏み込んで横一閃の斬撃が跳躍で躱され、ゴウは空中で神機を構えた。

 

 体重を乗せた重い斬撃を防ぐがあまりの衝撃に後ろへ押されるも態勢を立て直すが、既に奴は突きの構えに入っていた。

 

 繰り出された刺突を受け流し、神機の先端を踏みつけて地面へ叩きつける。

 

 だが奴の対応は速く、すぐさま神機から手を放して回し蹴りで牽制されて後退せざるを得なかった。

 

 すぐに追撃を仕掛けるが容易く防がれてしまい、弾き返される。すでにゴウは攻撃態勢に入り、神機を振っているが落ち着いて動きを見極めて攻撃を回避する。

 

「っ!」

 

 急な下段攻撃を仕掛けられ、体を捻りつつ跳んで咄嗟の搦手に何とか対応。

 

 下段攻撃をやり過ごし、蹴りを空中から浴びせるが、片腕を盾に防いで顔色1つ変えずにゴウは反撃を繰り出してきた。

 

「ふっ!」

 

 咄嗟に神機で防御するが、空中で受けたこともあって吹き飛ばされる。

 

「やるな」

 

 心の底から感心したいところだが、頭の中じゃ既に次の手を模索している。

 

 しかし、生半可な攻撃は通用しないか。まあ、子供たちでさえ表情を歪ませるどころか鬼気迫る迫力で組手をしているんだ。

 奴らに戦いを教えているこの男は当然子供たちよりも強靭な精神と肉体を持っているだろう。

 

 神機を構えなおし、奴を視界から外さないようにしっかり見る。

 

 奴が動くのを確信した直後、こちらも駆けだして神機を振った。

 

 神機同士がぶつかり合い火花が散るのを合図に剣戟を繰り広げ、途中で打撃も混ぜ合わせて接戦する。

 

片手で神機を振り、その勢いのまま回し蹴りを放つが、奴も同じように蹴り技を放つ。

 

 互いの利き足が交差した瞬間、押し切られると共に足に鈍い痛みと衝撃が走って吹き飛ばされた。

 

 地面へ落ちる瞬間に受け身を取ると既に追撃が迫る。

 

 身を一回転翻しながら後退してやりすごし、即座に大きく踏み込んで斬り払う。

 

 咄嗟に防御されるも、そのままゴウを後ろへ押し返す。

 更に踏み込んで突き攻撃を繰り出すが神機の先端めがけて奴の神機が振られ、喧しい金属音が響くと共に襲い掛かる衝撃に耐えられず身が強張る。

 

 

 構え直すが既に横薙ぎが迫り、姿勢を低くして神機を潜り抜けて側面へ回り込み、間髪入れずに掌底を叩き込むも腕で防御される。

 奴が神機の持ち方を逆手に変えたのを見てすぐさまバク転し、逆手に持ちかえた神機での斬り払いを避ける。

 

 軽く後ろへ跳んで間合いを調整して神機を構える。

 

 

「その若さで俺を相手に粘るとは、それなりの修練を積んでいるようだな」

 

「おうさ、正剣・変剣・剛剣・柔剣と一通りは嗜んでいるんでな。楽に殺せるとは思いなさんな」

 

 

 余裕を見せていると、その隙をつくかのように神機の切っ先が迫る。

 神機の刀身を盾に防御して弾き返そうとした構えた直後、ゴウが突き攻撃を中断して跳躍から宙で一回転して神機が振り下ろさる。

 

 咄嗟にサイドステップで躱すもそのまま横薙ぎの追撃が繰り出されるが跳躍してゴウの肩に手を置いて背後へ回り込み、隙だらけの背中を狙う。

 

 躱されることを予測してあえて軽く神機を振った。

 

 当てる気のない斬撃は跳躍で躱されるが、予測通りだ。

 一気に前方へ大きく踏み込む。

 

「むッ……」

 

「ふんぬッ!」

 

 勢いよく神機を横薙ぎに振るが、行動を読まれるも表情を変えることなく、装甲を展開されて斬撃を防がれた。

 

 すぐに蹴りを繰り出すが、バックステップで後ろへ下がってやり過ごされて蹴りは不発に終わり、こちらも距離を取って神機を構え直す。

 

 

「……ここまでだ。受けてみろ」

 

 ゴウが錠剤を呑むと、奴の殺気が異常に強まった。神機のCNSが光を放ち、奴は神機開放状態に移行した。

 

 今の錠剤は強制開放剤か、身体に掛かる負担が大きいのでなかなか使われないが使用するということは――奴には俺を短期決戦で沈める自信があるという事だろう。

 

 相手の大技は距離を取ってやり過ごせってそれ一番言われ――

 

 しかしゴウは大技では無く、ナイフを投擲してきた。

 

「っ!」

 

 咄嗟に神機で弾き落とすが、気づけばゴウは目の前まで接近していた。

 

 体を一回転させて神機を振ると、風圧と共にオラクルを纏った神機が一閃されて周囲を薙ぎ払う。

 

 何とか防いだが一撃があまりに重く、手が痺れる。

 

 だが、痺れを感じた直後に何かが俺の周囲を切り裂き、体の至る所に激痛が走った。

 

 

「ガァッ……⁉」

 

 体中の至る場所が切り裂かれ、激痛と共に血が流れる。

 

「ユウ⁉ いやぁッ!」

 

 エレナの悲鳴が聞こえ、膝を突き、手を床について倒れないように努める。

 しかし眩暈を感じ、血だらけの床が歪んで見える。全身に汗をかき始め、脚がガクガクと震え始める。

体を騙していた事を忘れていた。むしろここまで体は耐えた方だ。瓦礫の下敷きになった挙句、回復錠がなければまともに体を動かす事も出来なかった。肉体はとっくに限界を迎えている。

 

あと残っているのは気力ぐらいか……。

 

 

 

 致命傷を貰ったと認識した瞬間、心臓がひと際大きく、さらに激しく鼓動をする。耳に確かにドクンと音が聞こえ、体中が異常に熱くなる。

 

 頭にある思考が浮かんできた。それは紛れもなく本能の叫び。

 

 痛みを――超えろ。如何なる致命傷を受けようと、狂犬の如く敵に喰らい付くまでだ……。

 

 手足が無くなって首だけになってもまだ牙がある。

 

 よくある都市伝説だ。死んだ筈の兵士が白い軍服を着て攻め込んできた敵を返り討ちにした逸話がある。例え死しても俺たちは戦い続ける。

 

 さあ、戦闘続行だ。

 

 歯を食いしばり、平気であると思わせるように立ち上がる。

 一瞬でも弱さを見せると言うことは、つけ入る隙を見せるのと同じだ。

 

 

 

「バーストアーツ、我らAGEの力だ。だが、耐えるとは……気力だけで尚も立ち上がるか。その精神性は見事」

 

「なるほどな、必殺技ってやつか。ノルンの特撮映像でよく見たやつだ」

 

 

 ゴウが構えると神機がオラクルを纏う。

 すぐに神機を構えてガードするがあまりに重すぎる。一撃受けるごとに後退りして押され始める。

 重い連撃の後に更に重い一撃を受けた直後、唐突に危険を感じて飛び退く。

 

 だが間に合わず、顔に何かの斬撃が掠った。

 

「ッ!」

 

 俺の居た場所をオラクルの刃が切り刻む。

 先程俺を切り刻んでくれたのはあれか。

 

 痛みが走った場所を触ると赤く生暖かい液体が手につき、シャツで拭う。右頬をやられたか、目じゃなくて助かった。まだ運が良い方だな。

 

 

「……2度目で見切るか、手練れと剣を交わすのは久方ぶりだ」

 

「アホ抜かせ。元は名も無き一兵卒さ。さっき言ったろ? 剣術なんて嗜み程度で習っただけだ」

 

「惜しいものだ。その力を持ちながら、なぜ凶行を成す? 貴様の行動は他者への害であることに変わりはない。法に逆らっているのが分からない歳でもあるまい」

 

 まあ、確かにな。

 少なくてもこの世界じゃAGEは所詮ただの物でしかないのだろう。それを取り返そうとするのは傍から見れば強奪と変わりないだろう。

 卿に入れば卿に従えと言葉の通り、それに逆らう俺は犯罪者なのだろう。

 だが許しを請うつもりなど毛頭ない。

 

 犯罪者?大いに結構。既にこの身は他人の血で汚している。

 

「悪だと誹りたければ誹るが良い。目の前で助けを求め泣いている幼子の1人も碌に救わない世の中なんぞこちらから願い下げだ」

 

 

「………………そうか」

 

 ゴウが神機を構え、こちらも神機を構えて互いの切っ先を向け合う。

 

 

「栄光や称号など不要、ただ己の信念をこの一刀に乗せて振るうのみ」

 

 

 そうだ……エレナを救うためなら、相手が神でも鬼でも喰らい付こう。

 

 互いに距離を詰めて神機を振り、激突と共に衝撃が手を伝って全身に回る。

より早く、より強く攻撃を打ち込み続けて剣戟を展開する。

 

 神機同士の激突で火花を散らす応酬を繰り返した後、一度距離を置くと向こうも同じ様に構えを解かずに絶妙な足裁きで距離を取る。

 

 

 

「「師匠!」」

 

 聞き覚えのある声がして振り向くと先ほど去っていったニケとルルの2人がやってきた。

 

 どうやら嘘は見破られたらしい。

 

 2人とも神機を構えて臨戦状態。

 まずいな、1対3……状況は最悪。悠長に戦っている暇はない。少なくてもこの男に人質は通用しない。

 

「手を出すな。お前たちでは敵わん」

 

 ゴウから意外な言葉が飛び出し、2人は動きを止める。

 

「いいのか? 数の暴力ってのは最高のアドバンテージだぜ?」

 

「足手纏いとは如何なる敵よりも厄介だ。俺自身の手で貴様に引導を渡す」

 

「そうか。その心意気、気に入った」

 

 

 得難い好敵手とは正にこの事をいうのだろうが、実に遺憾だ。

 もっと別の形でこの男と会いたかったものだ。なんの柵も無ければ……ただ心行くまで互いの武を競い合った事だろう。だが、それでも……この出会いに感謝しよう。

 

 かつての戦いではそもそも作戦の準備等で消耗し、疲弊しきった体で思うように全力を出せなかったが故に無様を晒した。洗練し続けた技や経験が活かせないままに戦死、これは1人の兵士として……とても無念でもある。

 

 本当に……ここまで熱くなったのは何時以来だろうな……!

 

 

「では、果たし合おうか。行くぞ、凌いで見せろ」

 

「ッ!」

 

 ゴウも俺の本気を察したのか表情を固めて神機を構える。

 

 神機を左腰辺りに添え、納刀の構えから一気に距離を詰めて最速の居合を打つ。

 

 奴も良い反応をして神機同士が激突し、轟音を響かせながら奴を後ろへ押し戻す。

 そのまま踏み込みと共に加速し、神機を持った腕で肘打ちを繰り出して奴の腹を貫く。続いて反対の手でもう1度踏み込みつつ掌底を放ち、吹き飛ばす。

 

「くっ!」

 

 吹き飛ぶも受け身を取って態勢を整え、一気に距離を詰めて反撃へ転じて突きが迫る。

 

 

迫りくる刀身の腹に斬撃を打ち込んで受け流しつつ弾き、反撃に出ると咄嗟の防御で防がれる。

 防がれた直後に腹へ蹴りを入れ、一瞬怯んだ隙をついて神機を横に薙ぐも回避され、もう1歩踏み込んで薙ぎ払うがバックステップで凌がれた。

 

「…………………」

 

 ゴウの表情から何を考えているか分かる。

 

「攻撃の速度、重さ、そして基礎能力すべてで上回っているのに何故押し切れぬ?って顔だな」

 

「ッ……!」

 

 更に表情を強張らせ、即座に距離を詰めて攻勢に出てきた。

 

 迫る斬撃を弾くと更に速度が増した連撃が襲って来るが、こちらも少しペースアップして弾き、今度はこちらから仕掛ける。

 

 奴もこちらの攻撃を弾き返しつつ反撃を絡めてくるが、反撃を更に弾いて反撃を返し、僅かでも後隙を晒した方の首が飛ぶ応酬を繰り返す。

 

 

 ゴウが後ろへ下がった直後、神機を構えたまま地面を滑るように一瞬で接近して斬撃を繰り出し、刀身を盾に防ぐと凄まじい衝撃と共にそのまま後ろへ吹き飛ばされる。

 奴は追撃に入った、このまま決着をつけるつもりだろう。

 

両足でしっかり着地し、神機を上段に構える。

 

「カアーッ!」

 

 威圧しつつ踏み込んで神機を振り下ろすが、奴は威圧されるも咄嗟の防御で防いだ。だが元から叩き斬るつもりで振り下ろした斬撃。

 

「ぬぅ……!」

 

 ゴウの表情からも分かる。今の斬撃は凄まじい衝撃を与えただろう。だが、この男は見事に凌ぎ、今だ易々とは崩れない。それが更に戦闘本能を刺激する。

 

「この程度の筈がない! あんたの限界のその先、見せてもらうぞ!」

 

 この技の真骨頂――再び神機を素早く振り上げ、振り下ろしを仕掛ける。

 この攻撃も防御して体勢を崩したゴウへ即座に肩先で体当たりして吹き飛ばす。

 

 

 

「師匠!」

 

「待ちな、ルル。今手を出しても通用しない」

 

「でも!」

 

「癪だねぇ……あいつ、さっきは全く本気を出していなかったんだから……!」

 

 

「何をしていやがるゴウ! さっさとそのガキを殺せ! お前らも何突っ立って見ていやがる!」

 

 小太りの男が怒鳴りつける。こちらとしても久しぶりに強い奴と戦ってテンションが上がっていたのだが……。煩い奴だ、俺は俺よりおしゃべりな奴が嫌いだ。

 

「うるせえぞデブ。戦う力も持たない負け犬に威張る権利なんてねえよ」

 

「こ、この虫けらがぁ……!」

 

 

 小太りの男が怒りに震えたその時、ゴウは俺へ一直線に向かって神機を振ってきた。

 攻撃を弾き返し、斬撃を入れると防御されるがもう1度神機を振ると、今度は弾き返されて反撃が飛んでくる。

 

 跳躍で反撃を躱すと、奴もジャンプしてそのまま追撃を仕掛けてきた。

 

 空中で何度か剣戟を繰り広げ、互いに着地すると再び切り結んで火花が何度も散った。

 少し距離をとって神機の切っ先を向ける。

 

「いやぁ、見事。首を落とすのにここまで手こずるとはな。だが、そうこなければ面白くない」

 

「狂犬め……」

 

 顔をしかめるゴウを余所に、今まで一度も見せていない構え――霞の構えを取る。

 

 ここまで戦闘本能が掻き立てられるとはな……! そうだ、これが戦うと言う事だ。俺達戦う者たちの本望だ。だが、今回は悠長に戦闘を楽しんでいる時間はない。エレナを救いだすのが先決だ。一か八かやってみるか、あの技を。

 

 

さて、多少の不出来はご容赦願おう。

 

 

「あいつ……まだ上が……!」

 

 ニケは雰囲気から感じ取ったのだろう、驚いた顔をしている。

 若造共、教えてやる。

 

 国家の安寧と発展、愛する者達の幸せを願い、各々が己の信念を貫き激戦へ挑んだ今はもう名も無き者の力を。

 

 さて、信念の一刀を見せてやるとしよう。

 

 

「ああ、そうだ。先ほどの礼だ。忠告してやる」

 

 先程、こいつはバーストアーツとやらを放つ前に『受けてみろ』と予告してくれたのだ。ならばこちらも必殺の一撃を放つ前に忠告しなければいけないだろう。

 

 

 

 呼吸を整え、集中して波1つ無い水面を意識する。

 

 

      

 

        

 

             「迷えば、死ぬぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 かつて上官の口から忠告されたその言葉を合図に、神機を一振る。

 

 一振りで軌道の異なる二つの斬撃を同時に繰り出した。

 




またGERをプレイしていますが、プレデタースタイルが楽しすぎる。


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怖気ろ

ゴッドイーターオンラインが1年ちょっとでサービス終了してかなり驚いたのが懐かしい。時間が過ぎるのは早いですね。


 

 

 

 

 

「なっ――」

 

 驚きながらも咄嗟に装甲を展開して1つの斬撃を防ぐが、別の軌道を描くもう1つの斬撃は肩に深い刀傷を与えた。

 ゴウは傷を負いつつも飛び退き、着地してすぐに膝を突く。

 

『迷えば、死ぬ』

 

 戦いの心理でもあるこの言葉、かつて上官の口から何度も聞いた言葉だ。

 

 

 だから忠告した。この斬撃、迷えば首が飛ぶ故。

 

 

 

「凌いだか。やっぱ完全に会得しないと意味はないか」

 

 予測はしていたがやはり凌がれたか、完成には程遠いので当然だが。普通の奴なら突然の出来事に困惑している間に首が飛んでいるところだが、この男には通用しないようだ。

 

「ニケ、今の……なに……?」

 

「神機を……ただ振っただけ。あれで未完成って……冗談きつい……」

 

 

 

 おうおう、皆さん驚いていらっしゃる。小太りとペニウォのクソは今俺が何をしたか気づいていないようだが……。

 ルルとか言ったか、あのガキ……。何かは分からないが何か起きたのかは察したらしい。そこに気づけるあたり、天武の才か、師の教えが良いのか。こんな恐ろしいガキンチョが居るとはねぇ……怖い怖い……。

 

 

 

「バーストアーツとは似て非なるものか…………」

 

「残念ながら、今のは真人間の頃に覚えた技だ。そんな大層なもんじゃねえさ」

 

 

 そう、ただ大昔の事だ。燕を斬ろうと思い付き、見事切り払った男の絶技だ。

 

 それが受け継がれてきただけだ。だが、その男の絶技を完全に再現した者は存在しない。最初に受け継いだ者もあと一歩で完成に至らず。

 絶技になりそこなった技は、また受け継がれ、受け継いだ者もまた完成させるには至らず、それが脈々と続いた。

 

 巡り巡って師は完成直前までこぎつけたようだが、惜しくも帰らぬ人となり、師を失った上、何より俺自身の才能も及ばなかった。

 故に独学で会得しようとした結果、劣化に劣化を重ねて同時に2回しか斬れない上に狙いも甘い。

 

 ただ勘の良い奴や目の良い奴、迫った危険を本能的に直感できる奴にも当たらなければ、甲冑を着て全身ガッチガチのフル装備の奴にも通用しない。

 生憎とただの刀で鉄を切るなんて領域になんて達していない。

 

 

 「次は当てる」と言いたいが、同じ技が2度も通用する程この男も甘くはないだろう。

 戦友達には『一発限りの不意打ち。おまけに狙いも甘い、防御される可能性も高い。お前のその技はクソッタレな三流技だ』とバカにされたものだ。

 

 実際、ゴウと相対していたのが俺よりも剣技に秀でていた戦友ならば一太刀は凌がれるも、二の太刀で肩ではなく首を断っていただろう。

 

 もし、神が居たとして俺をこの世界に呼んでいたならそれは思いっきり人選ミスである。

 まあ神話とか見れば分かる通り神って思考回路おかしいから当然と言えば当然なんだが。

 だがしかし、それに振り回されるのはいつの時代も我々人間だ。こちらとしては本当に堪ったもんじゃない。

 

「さて、リベンジするか? ただ構えて斬るだけだから何度でもできるぞ?」

 

 当然のように嘘をつく。

 

「くっ……」

 

 ゴウが慌てて立ち上がろうとした時、背後から気配を感じ、咄嗟にその場から飛び退く。

 

「おっさんはやらせない!」

 

 ニケが一対の神機を手に、ゴウの隙をカバーするように立ちふさがる。

 

 ニケの背後でゴウは態勢を整えて神機にオラクルを纏わせて空気を切りながら突きを繰り出してきた。切っ先を覆うオラクルが螺旋を描いて大きなドリルのように迫る。

 

「ちっ!」

 

 神機を構え、片足を高く浮かせて神機を豪快にフルスイングする。

 

 

ガキィン!

 

 

 今まで打ち合った剣戟の音とは比較にならな程の金属音が響く。

 

「ぬぅ……! ハァ!」

 

 ゴウの神機の切っ先に更にオラクルが集合し、盛大に弾けた。

 

「クッ……!?」

 

 

 神機から何かが割れる音が聞こえた刹那、凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、視界には神機の破片が宙を舞っているのが見えた。

 

 

 

「ちぃッ!」

 

 受け身を取って着地する。折れた神機の刀身が徐々に光の粒に変わっていき、対アラガミ用ナイフに戻ってしまった。

 

 

「降参しろ。貴様の負けだ」

 

 

 

 ゴウがこちらへ神機を向けて勝利を宣言する。

 

 

 

 

「へっ、ほざきやがる」

 

 やれやれ、慣れない剣術なんてやるもんじゃないな。久しぶりに強者と戦ったせいで熱くなりすぎたようだ。熱くなったら見切りの極意も意味がない。

 そもそも未完成の技をかます時点で俺はまだ奴を甘く見ているという事だ。

 

 油断も慢心もしちゃならねえよなぁ……なら本気も本気、一丁やってやるとするか。

 俺をここまでやる気にさせたのは、この世界じゃお前らが初めてだ。

 

 

 

 心配そうに俺を見つめるエレナに、薄く微笑む。

 

「エレナ、お前は……必ず俺が護り抜く」

 

 

 

 

「誇りに懸けてな」

 

 

 

 

 対アラガミ用ナイフを逆手に持って、構える。

 

 

 さて……俺は冷静にやる方が向いているのでな。悪いが、得意分野でやらせてもらおう。

 

 

 

「見切りの極意、見せてやろう。ここが勝負所よ」

 

 宣言と共に一気に距離を詰め、ゴウの側面を通過するとともに斬りつけると、確かな手応えを感じる。

 手元を見れば、ナイフには血が付着していた。

 

「ゥ……ッ!」

 

 一瞬の一撃を受け、焦りを見せたゴウが得物を振る前に間合いを詰めてナイフを振ると、奴も攻撃を中断して防御しつつ反撃の時を伺い、瞬時に反撃を仕掛けてくる。

 

 反撃を回避して、側面へ回り込んでナイフを振るも刀身で防御されるが、反撃の暇を与えないように何度も斬りつける。

 

 元から正面からぶつかり合う気など無い。軽い攻撃であっても急所へ入ればそれで終わりだ。故に、全力で攻撃を仕掛ける必要など皆無である。

 

 反撃を紙一重で回避して懐に潜り込み、首目掛けて突きを繰り出すも防がれ、巧みな足裁きで距離を離されるが、こちらも軽い足取りで流れるように間合いを詰めて死角へ回り込む。

 

 目、首、胸と急所を的確に攻める。

 

 奴はこちらの素早い攻撃に防戦一方、弾き返そうにもこちらの攻撃が軽く速い上に、ほぼ零距離での戦闘でこちらは小回りが利くナイフである故に弾こうと構える事も出来ないだろう。

 

 例え攻撃を割り込まれたとしても、紙一重かつ軽かに回避してすぐに攻めに転じる。

 

 

「はあっ!」

 

 急所を庇いつつ、横薙ぎを繰り出してきた。

 

 ナイフがゴウの体に傷をつけ、こちらが即座に離脱すると奴はそのまま攻めてきた。次々に迫る連撃を後退、サイドステップ、体を捻る、反らせるなど最低限の動きで凌ぐ。

 

 絶妙な足裁きで攻撃を凌ぎ、反撃を入れると防がれ、また反撃が迫ると今度はこちらが避けてやり返す。

 

 振ったナイフが防がれると金属音と共に小さな火花が散る。

 得物だけじゃなく打撃による打ち合いを展開し、全身を最大限に活用して攻めと守りを両立させる。

 

 ゴウが渾身の横薙ぎを振る。

 

 体を屈めて攻撃を躱した直後に滑るように真横へ回り込み、反応されるよりも早く攻撃を繰り出すが狙った個所を腕で庇い、振り向いてこちらの連撃に防御を割り込ませたが、防がれることは想定済み、このまま攻撃を続ける。

 

「くっ……!」

 

 良く反応しているが、険しい顔をしている。

 

 フェイントをかけて背後へ回り込んで攻撃するが天性の勘か、うまく防がれる。

 

 こちらの動きに慣れたか、攻撃が届かない絶妙な距離で速さに重点を置き、神機を軽く振って牽制を兼ねた攻撃を仕掛けてくるが、こちらも僅かに後退してギリギリで避けつづけて隙を伺う。

 回避と共に側面へ回り込んでも、素早い攻撃に付け入る隙を与えてくれない。何度か後退しながら攻撃を凌ぎ、再び攻撃を仕掛けられた直後に神機の刀身の腹に攻撃を叩き込んで弾く。

 

 そして背後へ回り込んで攻撃を当てる直前で寸止めをし、再び側面へ回り次の攻撃も寸止めし、奴が振り向くと共に死角へ回り込み、急所を狙って攻撃を入れるが、体を逸らして急所からは逃れた。

 

 そのままこちらのペースを崩さないでフェイント、寸止めや本気の攻撃や打撃を打ち込み続ける。何度か反応されて反撃を貰いかけるが紙一重で避けて即座に打撃を打ち、それなりの隙にはナイフで攻撃する。

 

 側面や背後、死角への回り込みも併用して更にゴウを追い詰める。

 

 

「速い……おっさんが……手も足も出ないなんてね……」

 

「そんな、師匠……」

 

 外野の声が聞こえるが、今はこいつを何とかすることに集中しよう。

 

 

「ゴウ、何を手こずっている! さっさと始末しろ!」

 

「今のうちに移動するべきだ。時期に応援も来るはずだろう。来い、ハウンドA!」

 

 ペニーウォートの男の声が聞こえてはっとする。早くこいつを片付けないと逃げられる。

 

「い、痛い! 引っ張らないで!」

 

 エレナの悲鳴が聞こえ、すぐに終わらせると決意し懐に潜り込み――

 

「邪魔だ」

 

 言葉と共に腰を落としつつ肘鉄を叩き込み、素早く踏み込んで両手に持ったナイフでゴウの腹部を突き刺す。

 

「ヌウっ⁉」

 

「師匠!」

「おっさん!」

 

 2人から驚きの声が発せられ、俺はそのままゴウを蹴飛ばしてエレナの元へ向かいつつスタングレネードを準備する。

 

 

「何っ⁉」

 

「クソ! おい、奴を何とかし――」

 

 小太りの怒鳴り声が響くがスタングレネードを投げつける。

 

閃光の中で俺は視覚以外の五感を頼りに取り戻すべき者の元へ駆ける。

目の前の気配、手で触れると柔らかく、温かい感触を感じて優しく抱きかかえてその場から何回か飛び退く。

 

 

 光が収まると抱えた少女の顔が目に映る。

 

 

「…………っ! ユウぅ!」

 

 エレナが胸に頬を擦り付けて泣き出す。

 

「よしよし、もう大丈夫だ」

 

 エレナの声に気づいた連中が一斉にこちらを向く。

 

「な、実験体が! 何してやがる! 早くあいつを殺して取り戻せ!」

 

 ゴウが神機を銃形態へ変えてオラクル弾を発射するが、好機と見てオラクル弾へ跳ぶ。

 

 運がいいぜ……オラクル弾は雷属性の弾、これは利用しないなんてただの馬鹿さ。

 ナイフでやるのは初めてだが……。

 

 空中でオラクル弾を受け止めて雷を対アラガミ用ナイフに纏わせて小太りへ迫る。

 

「こ、このガキィ!」

 

 小太りの男がピストルを取り出してこちらへ向けてくる。

 

「妬くな妬くなロリコン親父、感電すっぞ~! 秘技・雷返しぃ!」

 

 雷を纏ったナイフで目の前を切り払う。

 

 電撃の刃が小太り男を飲み込む直前、ゴウが割って入り装甲で防ぐが周囲は薙ぎ払われて周辺の機器は爆発を起こして部屋は黒煙に包まれる。

 

 

 今の内だ、エレナは取り返した。もうここに長居する必要はない。

 

 ドアをへ接近するとともに蹴り破り、広間を出て通路を走る。

 

 

 とにかく上を目指す。此処が地下なら上を目指せば必ず外に出られるはずだ。

 

 

 

「逃がさんぞ!」

 

 通路の先からペニーウォートの制服を着た神機使いが向かってくる。

 

「邪魔だ!」

 

 エレナを片手で肩に担ぐ。

 迫る斬撃を回避して、逆手に持ったナイフで切ると見せかけて、右ストレートを顔面に叩き込む。

 

「ぶあぁ⁉」

 

 男を殴り飛ばし、そのまま通路を突き進むが向こうからバランの制服を着た神機使いや、AGEが神機を手に向かってくる。背後を見れば同じように既に囲まれている。

 

 

「ハアアッ!」

 

 幼いAGEが神機を片手に斬りかかってくる。

 

「エレナ、目を閉じろ」

 

 エレナの視界を空いた手で覆い、斬りかかってきたガキを睨みつける。

 

 

 

 

             

            「怖気ろ」         

 

 

 

 

 

「ひっ」

 

 一言紡ぎ、気迫でガキを威圧すると、顔を青くして俺を化け物に見えているとでも言わんばかりに怯えて神機を床に落とす。

 

 周囲に居た子供たちは皆、戦意を喪失して床にへたり込んだ。

 

「何をした……! 囲め! 奴と目を合わせるな!」

 

 バランの制服を着た神機使いが大声で叫び、周りもハッとして戦闘態勢に入って囲まれる。

 

 ちっ、せいぜい子供騙しが関の山……大人には通用しねえか。

 

 

 エレナをしっかり抱きかかえて対アラガミ用ナイフを構える。

 

「ユウ、私が」

 

 突然エレナにシャツの袖を引かれると、深呼吸したエレナの表情は強張り眼から闘志を感じ、雰囲気が一転する。

 

 

「……ッ!」

 

エレナから何かが放出され、抱き上げている俺が真っ先に呑まれたにも関わらず、特に体に変化はない。

 

「ぐぅ……なん……だ……これは……」

 

「力が……入らん……!」

 

 しかし、周囲の神機使い達が床に膝を突き、幼いAGE達に至っては気を失い、倒れながらも意識を保っているのは僅かだ。

 

 今、気迫で威圧したのか……? 俺がさっきやった事のを見ただけでここまで……。 

 

 

 エレナが拘束された両手で対アラガミ用ナイフに触ると、オラクルに包まれて刀身が再生して先程のような神機になる。刀身がオラクルを纏って眩い光に包まれた。

 

「ユウ、上に向けて!」

 

 言われた通り天井へ向けて神機を掲げると、切っ先から金色の斬撃が飛んで天井に激突、轟音と共に天井が崩れると、遥か上に青空が見える。

 

「ユウ! 行こう!」

 

「ああ! しっかり掴まってろ」

 

 エレナをしっかり抱いて天井の穴を通り、壁や瓦礫を伝って空を目指し、灰が舞う青い空へ駆けあがった。

 

 

 

 

 

 

 さーて、外に出ればこっちのもんだ……! アラガミとの追いかけっこで鍛えた足を活かす時が来た。

 

「エレナ、飛ばすぞ」

 

「うん!」

 

 エレナをしっかり抱き寄せ、思いっきり地面を蹴って短距離を飛ぶように走り続けると、既にバランのミナトは徐々に小さくなっていった。

 

「凄い。飛んでるみたい」

 

「その気になれば空だって走れるぞ」

 

 そう言って跳躍し、更に空中ステップで空気を蹴りつけて前へ進み、高度が落ちつつも再び空中ステップで空を跳ぶ。

 

「わぁ……!」

 

「いいもんだろ? 疲れるがな」

 

 

 しかしさすがに息が切れかかり、地面へ着地して息を荒くして必死に酸素を貪る。

 

「ふぅ、中々跳んだな。多分自己新記録だ」

 

 岩に座って、少し休んでいるがエレナはずっとくっついて離れようとしない。

 

 そういえばエレナの腕輪って手錠みたいにロックされてるけど、これどうすればいいんだ?

 うーむ、よし……ぶった切るか。

 

「エレナ、腕輪を離そう。両手を向けて少しじっとしてくれ」

 

「うん…………」

 

 

 対アラガミ用ナイフを抜刀して2つの腕輪が繋がっている境目をよく狙う。

 剣術、ちゃんとやっておけばよかったな。

 

「…………そこだ」

 

 言葉に合わせてナイフを振り下ろすと、腕輪は綺麗に分断されてエレナの両手が自由になった。

 

 ふう、うまくいって良かった。俺って寸法を測って物を切ったら絶対に数ミリずれているんだが、測らないで目視で適当に切ったらピッタリなんだよな。

 

 エレナは夢でも見ているかのように腕輪を見ている。そして――

 

 

「…………っ、ふええぇ……ユウ……ひっく、ユウぅ……ユウぅ!」

 

 エレナは我慢が解けたのか、涙を流しながら抱き着いてきた。

 

「うあああぁ……痛い、痛かった……怖かったよぉ……ユウぅ……」

 

「ごめんな。ちゃんと護ってやれなくて……」

 

 泣きじゃくるエレナの背中に手を回して背を摩り、優しく抱きしめる。

 

「ユウが、死んじゃうかもって……怖かった……! 嫌だァ……ユウぅ、ずっと一緒に居てよぉ……1人にしないでェ! ふあああああぁ!」  

 

 幼くて優しい子が吐くこの言葉は、とても聞くに堪えない。

 悲痛な叫びをあげて体が痛みを訴えるぐらい強く抱き着かれるが、それを黙って受け入れる事しかできない。

 

 

 

 それからエレナはずっと泣いた。泣きじゃくるエレナをただ優しく抱き上げて撫でる事しかできない。

 

 本当に……情けない男だよ、俺は……。

 

 



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甘いッ!(カウンター)

CVをやっていたらピターが出てきて困惑したのを唐突に思い出した。
そして女主人公をキャラクリしたときにアクセサリで頑張って胸露出を再現しようと奮闘した思い出も蘇ってきた。




 日が傾き始めた頃、ようやくエレナは泣き止んだ。まあ、泣き止んだと言っても、俺からくっついて離れようとしないが。

 

 左手を痛いぐらいに掴まれて、決して離れようとしない。

 ただ、黙ってこの痛みに耐えるしかないだろうな。この痛みは、エレナの心の痛みには遠く及ばない。しっかり受け止めてやらないとな。

 

 

「ユウ……怪我、治すね……」

 

 エレナがそう言って俺の右頬に手を触れると頬が暖かくなる。ゴウから受けた傷を防ごうとしてくれているんだろう。

 

「エレナ、いいんだ」

 

 エレナの手を握って頬から離す。

 

「でも……」

 

「せっかくエレナとお揃いになったんだ。2人でお揃いの方が良いだろう?」

 

「お揃い……うん!」

 

 エレナの右頬にも横一文字の傷痕、丁度俺が先ほど負った傷は少し斜めだがほぼ横一文字だ。

 女の子の顔に傷があって、自分が傷を治してもらうなんてできない。

 それに顔の傷は相対した相手をビビらせたりするのに使える。

ましてやこれほど大きな傷だ。初対面なら激戦を潜ってきた猛者なのだと思わせることができるだろう。

 

 

「さて、バランとペニーウォートのクソ共もしつこいかも知れないからな。先を急ごう」

 

「うん。あ、ユウ」

 

 立とうとしたらエレナに引き留められる。

 

「ん……」

 

 エレナが頬に口づけをしてきた。

 

「はは、ありがとな」

 

 エレナの頭を撫でて立ち上がり、しっかり抱き上げて再び駆けだした。

 

 

 

 しかし、腕輪のビーコン反応ってのはどこまで反応するんだろうか……。とにかく遠くへ逃げ続けないとまたあいつらに追いつかれてしまう。

 奴らだって馬鹿じゃない。またエレナが攫われたら今度こそ助け出せないかもしれん。ましてやバランに至っては大きな規模だ。ゴウと言ったか、あの男ほどの奴がゴロゴロいるかもしれん。流石にあんなのを数人も一度に相手はできん。

 

 エレナの腕輪は物理的に切り放したから、拘束されることが無くなった。いざと言うときは俺が時間を稼いでいるうちにエレナを逃がすことも視野に入れる必要があるか……。

 この世界の神機使いのレベルは分からんが、先程バランを脱出する際にエレナが威圧して奴らの動きを止めた。

 

 そもそも考えればAGEが神機使いより身体能力が高いと言ってもガキを態々拘束する必要なんてあるのかと言う話だ。AGEが従来の神機使いより高い身体能力があると言っても所詮は子供だろう。成人すればそりゃ拘束する必要はあるが、子供にも腕輪による拘束を施す時点でいくら子供でも野放しにすれば危険だと知っているからでは……?

 

 この予想が当たっているなら、それ程AGEの力は大きいと言う事だ。それならエレナ1人でも余程のことがない限りは返り討ちにできるだろう。

 

 しかし、エレナを見れば不安そうな顔でしがみついている。

 

 不安そうな表情で考えを改めた。

 

 どんなに身体が強くても、心が弱ければ意味がない。

 そうだ、俺が今この子の唯一の味方なんだ。そんな俺が護らなければいけない子に期待をしてどうする。

 

 

 荒れた大地を駆け抜けると、荒廃した街が見えた。

 

 街に入ると、周囲にはアラガミの気配がそれなりに感じられるが、気配の大きさから小型ばかりのようだ。この規模の街なら容易に撒くことができるだろう。

 

 暫く街を探索して使えそうなものがないか探すか。

 

 

しかし辺りの建物は屋根が壊れ、壁は崩れて中を覗くと荒らされた形跡があるものばかりだ。

 まだ屋根が残り、壁もあまり崩れていない建物を探すが中々見つからない。

 

 エレナも辺りを見回しながら探してくれるが、そもそも俺より目の良いエレナが見つけられないなら俺にだって見つけられない。

 

 

 暫く歩くと古い血痕を見つけた。

 それなりに時間がたっているようだな。誰かが此処を通ったが、アラガミに襲われたか……それとも敵対している人間にやられたか……。

 

 何もアラガミだけが敵じゃない。事実元の世界でもアラガミを信仰する宗教団体が一般人を拉致してアラガミに生贄と称して喰わせるなどと言ったことが起きている。宗教云々は信仰の自由なので別に煩く言わないが何の罪もない人間を拉致して喰わせるだなんて完全に狂ってるな。

 そこまでアラガミを崇拝しているなら自分たちから生贄を出せばいいだろうに、無関係の人間拉致する時点でただの悪党だ。否、悪党の風上にも置けん。

 

 

 まあ頭の可笑しい奴に絡まれても困るからさっさと移動するか。

 

 

 バランやペニーウォートが追ってきている可能性もある。寄り道していると追いつかれる。

 街の端を目指しつつ探索しよう。目ぼしいところが無ければそのまま街を発って東へ進もう。

 

 エレナをしっかり抱き上げて歩を早めた。

 

 

 

 

「川か……」

 

 目ぼしい建物は見つからなかったが、川を見つけた。

 人は定住する地を見つけるときはまず川を探すと聞いたような覚えがある。

 丁度東へ向かっている川だな。この川を辿れば人の住む場所にたどり着けるのではないか……。

 少し根拠に欠けるが、何も考えなしに進むよりはマシだろう。

 

 川を辿っていくと市街地を抜けて再び破壊された道路や食い荒らされた大地に出た。

 

 夜は極力動きたくないので、日のあるうちに進まなければいけない。

 ただでさえこちらは徒歩、奴らは灰域踏破船があるので追いつかれるのは時間の問題だ。ひたすらビーコン反応の届かない範囲外まで移動して、奴らの追跡を撒かなくてはいけない。夜になっても奴らは進めるがこちらは迂闊に動けない上に、一度距離を迫られたら追跡を撒くのが一気に困難になるだろう。

 

 バランの設備を見るところ、ハイテク技術を使っているのは一目瞭然だ。腕輪のビーコン反応を辿るレーダーの性能も高いと踏んでおくのが妥当だろう。

 

 

「エレナ、しっかり掴まってろよ?」

 

「うん……」

 

 エレナがしっかり体に抱き着き、それを確認して再び駆ける。

 

 

 地割れが起き、一般人では越えるだけで一苦労する道のりを一足飛びに越えていくと、大きな渓谷が見えた。

 

「おいおい、また渓谷かよ」

 

 渓谷には正直良い思い出が無いんだがな……。しかし、川が向かっている以上は入るしかないか……。

 だが、先日の渓谷よりも遥かに大きいようだ。これならアラガミを撒きつつ抜ける事もできるかもしれん。いざと言うときは川に飛び込んで流れに身を任せる手もある。

 水の中にグボロが居たら……。いや、何とかしよう。水中でもグボロを返り討ちにできるぐらいじゃ無いと神機使いは務まらんだろう。

 

 

 即決で渓谷へ入っていき、隆起した段差を跳び越え、不安定な足場を素早く駆け抜けてひたすら川を辿っていく。

 

 

 

 足早に駆けていくと遥か前方に青い光が落ちて砂埃を巻き上げた。

 

「くッ!?」

 

 エレナを砂埃から庇いつつ、少しだけ目を開いて光が落ちた場所を見れば、人影のようなものが剣らしき物を両手に構え、青い炎が人影を包んだ。

 

 

「ッ……! エレナ、下がっていろ」

 

「え、ユウ?」

 

 エレナを急いで降ろし、対アラガミ用ナイフを抜いて構える。

 

 

 その直後に、轟音と共にそれは一気に迫ってきた。

 

 砂埃を切り裂きながら斬撃が襲い掛かってきた。

 

 

 影の正体は人なんかではなく、アラガミだった。下半身から青い炎を噴き、そして女性の様な上半身。だが、真っ先に視界に映るのは両腕とも言える刃。腕刃とでも呼ぶべきか。

 

 その腕刃が今目の前まで迫ってきている。

 

 ナイフを構えて迫る腕刃を受け止めるが、下半身――ブースト機構から青い炎を噴出して高い推進力を加えた攻撃に耐えきれる筈も無く、そのまま弾かれて吹き飛ばされる。

 

「クッ!?」

 

「ユウッ!」

 

 エレナの声に応え、受け身を取って立ち上がり、大した傷は追っていないとアピールする。

 

 しかし、エレナの声に反応してアラガミは両の腕刃をエレナへ向けて構えた。

 青い稲妻がバチバチと音を立てながら、両腕の刃に集中する。

 

「野郎ッ!」

 

 俺がエレナの元へ駆け出し、エレナまであと数歩という所でアラガミは青いレーザーを放つ。

 

「ぁ……」

 

 迫るレーザーを前に身を強張らせるエレナへ、地面を思い切り蹴って一気に駆ける。

 レーザーがエレナを飲み込む前に、押し倒して何とか2人揃って危機を脱する。

 

 安堵せず、すぐに立ち上がってエレナを抱き上げてその場から跳び退く。

 

 俺が宙へ跳んだ直後に、アラガミも空中まで後を追ってきて腕刃を振り抜いてきた。

 身体を捻って斬撃を躱し、アラガミを踏みつけて高く跳び、距離を取る。

 

 

「ユウ!」

 

 エレナが俺の手を握ると光の粒が集まり、俺の手にはオラクルの剣が握られている。

 

「ありがとな。よし、あの野郎ぶっ潰してくる。待っててくれ」

 

「うんッ! 頑張って!」

 

 エレナを降ろし、俺は剣を構えて一気にアラガミとの距離を詰めて剣を振る。

 斬撃は腕刃に受け止められるが、今度はこちらがそのまま押し返して追撃を仕掛ける。

 

『ッ!』

 

 アラガミの下半身から青い炎が吹き出し、追撃を受け流して流れるよう俺の背後へ回り込んできた。

 振りかえると既に腕刃が振られ、その刃はすぐ目の前まで迫ってくる。

 

 剣を逆手に持って剣の腹をアラガミに向けて構え、片方の手で裏側から剣を押さえる。

 

 

 腕刃が剣に触れる直前に、勢いよく体を捻りつつ片方の手で剣を押す。

 

「甘いッ!」

 

 剣の腹で攻撃を受け止めつつ払い退け、そのまま先程とは逆に体を捻って剣でアラガミを斬りつけてブースターに大きな傷を入れる。

 剣を順手に持ち替えて攻撃を仕掛けるが、アラガミも素早く身を退いてやり過ごし、腕刃を交互に振りつつ距離を詰めてくる。

 

 後退しつつ、一つ一つ斬撃を回避して反撃を繰り出すも容易く弾き返されてしまう。

 

 アラガミが両腕刃を交差させて振り抜き、咄嗟に防御するもあまりの衝撃に耐えきれず押し返され、隙を突くように腕刃を構えて突進を仕掛けてきた。

 

 横へ跳んで突進を躱すも方向転換をして再び突進を繰り出してくる。

 

 ジャンプしてやり過ごすと共に真上から頭部目掛けて攻撃するが、もう片方の腕刃を盾にして防がれた。

 

「ちぃッ!」

 

 アラガミが再び向かってくるが、剣を構えてすれ違いざまに攻撃しようとタイミングを計る。

 

『COOOOOッ!!』

 

 生物とは思えない雄たけびを上げてアラガミは空中へ跳び、そのまま俺目掛けて腕刃を振りかぶって空中から急襲を仕掛けてきた。

 

 

 斬撃を紙一重で躱して腹目掛けて剣を突き刺す。

 

『CAAAAAAAAAっ!?』

 

 咆哮と共に腕刃が青い電撃を纏った。

 

「何ッ!?」

 

 不意に出された回転切りを咄嗟に剣で防御するが、衝撃までは完全に防げず態勢を崩して地面に膝を付く。

 

「ユウ! まだ来る!」

 

 エレナの声が響くが、崩された態勢を立て直した頃にはアラガミは宙へ跳び、両腕刃を地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 地面へ両腕刃を叩きつけられるとアラガミの周囲には青い電撃が拡散し、俺は電撃に飲み込まれる。

 

 

「グァ……! ッ……!」

 

 全身に焼けるような痛み、電気で体が痺れて震える。

 

 

「ユウ、逃げてッ!」

 

 エレナの悲鳴が耳に届くが、体は青い電気を帯びて思うように動けない。痙攣するように震える体、目の前には腕刃を構えてこちらを見るアラガミ。

 

 くそっ、動けッ!

 

 痺れて自由が効かない。

 

 奴が構えると、それはまるで居合抜きの構えだった。

 あれを食らえば真っ二つは免れないぞ!

 

 

 アラガミの下半身が青い炎を吐いた。

 




修正前のハバキリってこいつ出るゲーム間違えてんじゃねえの?と思うぐらい苦戦した。


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滾ってきたわァ!

お待たせしました。大分更新が開きましたが、ちょっと短いです。


 アラガミが凄まじい速さで迫り、既に腕刃は振り抜かれている。 

 

 

「お願いッ! 負けないでッ!」

 

 

 エレナの声が聞こえた瞬間、体が光に包まれて体に自由が戻った。迫ってきたアラガミに対して咄嗟に左手を構えると左手に何処からともなくオラクルが集い、左手はオラクルに包まれた。

 

「……ッ!」

 

 左手を包み込んだオラクルはアラガミの腕刃を防ぎ、咄嗟に腕刃を握り込む。

 体の周囲は光の輪が囲み、力が漲ってくる。

 

 

「ッ! 邪魔だぁ!」

 

 そのままアラガミを投げ飛ばして、周囲を見るとエレナも俺と同じように光の輪に囲まれており、俺を囲む輪とエレナを囲む輪は光の糸のようなもので結ばれていた。

 

 なんだこれは……。この光の輪は一体……これもエレナが……?

 

 

「痛ッ!」

 

 突然頭痛が走り、目の前には殺風景な景色ではなく、優しそうな壮年の女性にエレナと同じ年頃の子供たちが見えた。女性は優しい笑みでこちらへ手を差し出していた。

 

 

 視界が元に戻り、アラガミが不意打ちを繰り出してきたが、剣で受け止める。

 あれ程重かった攻撃が、今では嘘のように軽い。

 

 左手を包んでいるオラクルは徐々にだが棒状に形を変えて先端は尖がり、槍になった。

 

「……ッ!」

 

 咄嗟に槍を薙いでアラガミの頭部に叩き込んでアラガミを吹き飛ばし、左手に槍と右手に剣を持って構える。

 

「へっ、懐かしいな……!上官の真似事だが……。いいぜ、やってやる」

 

 槍と剣を自在に扱うかつての上官の後ろ姿を思い出し、懐かしさから軽く笑う。

 

 上官と刀で打ち合いをし、やっとの思いで上官に一撃を入れることができた時、上官は何処からともなく槍を取り出して刀と槍を同時に構え、こう叫んだ。

 

 

「滾ってきたわァ! 行くぞォ!」

 

 

 地面を蹴って接近する。

 

『AAAAAAAッ!?』

 

 表現できない悲鳴を上げ、がむしゃらにこちらへ腕刃を振る。

 

 剣と槍を交互に使って矢継ぎ早に攻撃を凌ぎ、体を一回転させつつ側面へ回り込んで剣を横に薙ぎ、アラガミの下半身に斬撃を打ち込んで態勢を崩す。

 

 そして踏み込みつつ槍で頭部を狙って突くが腕刃で顔を覆って守るが、槍の切っ先が刃を貫いて腕刃は砕け散り、アラガミが悲鳴を上げる。

 

 ヤケクソに繰り出してきた突き攻撃をこちらも剣の突きで受けとめ、隻腕になった奴へ槍を突き出すがアラガミも後退するも、切っ先が僅かに胴体を掠めた。

 

 

 アラガミが大きく距離を取って腕刃に電撃を纏ってその場で振ると、雷の刃が飛ぶ。

 

 回避し、接近しようと駆けるが奴は近寄らせまいとひたすら腕刃を振って雷の刃を飛ばしてくる。

 

 次々と迫る電撃の刃を躱しつつ徐々に近づくが、槍を持っているためあまり身軽に動けない。

 

 迫る雷刃を躱し、即座に剣を次の雷刃へ投げつけて相殺。更に一気に剣まで跳び、アラガミ目掛けて蹴り飛ばして後を追って駆け出す。

 

 回転しながら空を切って飛ぶ剣は次々と雷刃を掻き消しながらアラガミへ迫るが、アラガミも腕刃を振って剣を弾き飛ばす。

 宙で舞う剣を左手でキャッチして右手に持ち替えた槍をアラガミの脳天へ振り下ろす。

 

「槍ってのはこう使うんだオラぁ!」

 

 穂先がアラガミの頭部の一部だけを叩き潰し、致命傷を与えた。

 

『AAAAAAッ!? AAAAAAッ!』

 

 それでも後ろへ下がりつつ、腕刃を構えて振り抜こうと構えるのを見て、こちらも槍を地面へ突き刺して剣を左腰に添えて居合の構えを取る。

 

 

 アラガミが青い炎を噴きだすと共に腕刃を振り抜き、こちらも駆けだして剣を振る。

 

 アラガミの腕刃は俺の頭上を通って空を切り、こちらの居合はアラガミの胴体を一閃、直後に返す刀でもう一閃して十文字に斬りつけた。

 

 十字の傷から血が噴き出し、その巨体は地面へ崩れ落ちた。

 

 槍で頭部の一部を叩き潰して視覚を奪っておいて正解だった。

 

 

 

 俺を囲んでいた光の輪も消え、剣と槍も消滅する。エレナの元へ行こうと振り向くとエレナがすぐそこまで走ってきており、抱き着いてきた。

 

「っと。心配かけたな」

 

「ッ……ユウ……ユウぅ……!」

 

 胸に顔を擦り付けて泣きじゃくり、抱き上げてあやす事しか出来ない。

 

 

 

「よしよし、大丈夫だ。な? 泣き顔より笑顔の方が似合ってるぜ?」

 

 先程から何とか泣きやませようとあやしているのだが、一向に泣きやむ気配が無い。

 ずっと胸に顔を埋めて嗚咽しており、良い方法が無いものか頭を抱える。

 

「だって……だって……銃持った人たちが、皆でユウを撃って……。痛いのに、ユウはやり返しに行ってまた撃たれて……そしたらユウがぁ…………」

 

 この言葉を聞いてはっとした。

 

 さっき見えたおばさんや子供たちは……間違いなく、エレナの記憶。そして俺と繋がっていたエレナは俺の記憶を……。

 まずいな、流石に子供には刺激が強すぎる。おまけにエレナはペニーウォートやバランでのことで大人に対して恐怖心を抱いている。大人たちに銃を向けられる光景なんてトラウマを呼び起こすような物だろう。

 

 

「なに、昔の記憶さ。現にこうして元気にピンピンしてる」

 

 背中を優しく叩く。しばらくすれば、エレナも泣きやんだので地面へ降ろす。

 

「さ、こんな事がまた起こらないとは限らない。行こう」

 

 手を差しだすと、エレナは一回涙を拭って俺の手を取る。

 胸に抱き寄せてすぐ後ろをついて行くように歩き出した。

 

「歩きづらくね?」

 

「これがいい」

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

 後ろのエレナの様子を見ながら歩く。顔を俯かせているが、何だか顔を赤くさせている気がする。熱でもあるのではないかと思い、注意深く見てみるが呼吸などは乱れていない。

 ただ泣いて腫れた顔を見られたくないだけかもしれん。

 

「ユウ、暮らせる場所が見つかったら……お別れ……なの?」

 

「そうだな……エレナを連れて行くのは人間としては正しいかもしれんが、この世の中じゃ違法だからな。もう指名手配されているだろうし、人のいる場所では生きていけないだろう。偏食因子も接種できなくて終わりだな」

 

 死ぬのは分かっているさ。だが、この子のためなら命だって惜しくはない。

 

 まだ携行型偏食因子のストックはある。1つ使えば数週間はもつ。まだ猶予はあるだろうが、俺を灰域から守ってくれている戦友たちの加護があとどれ程持つのか……。

 

 仮に灰域を脱することができても結局アラガミ化して終わりか。

 アラガミ化すると喰らう本能に支配されてしまうって座学で習ったが、実際どんなものなのか分からない。

 そう易々と本能に振り回されるつもりなど毛頭ないが、エレナに危険が及ぶのは容易に想像できる。となれば……そうなる前に自害するしかないという訳か……。

 やっぱ死ぬのって怖えなぁ……。

 

 

「もし、だよ? もし、ユウも偏食因子を打たなくても大丈夫になったら……ユウが悪い人って言われなくなったら……一緒に居てくれる?」

 

「そうだな。そんな奇跡が起こったなら、エレナが嫌だって言うまで一緒に居るさ」

 

「嫌じゃないよ。ユウ、大丈夫になったら……私を――」

 

 最後の方が上手く、聞き取れなかった。もう1度聞こうと思ってエレナを見ると、顔を真っ赤にして俺の腕を両腕で抱きしめた。

 子どもとは言え、流石ゴッドイーター。腕が痛い。

 

 だが子供には反抗期という避けられぬ時が来る。俺もきっと臭いとかキモイとか言われるのだろう……。

 やっべ、それもそれで鬱になりそう。いや、そうなる前にあの世へ逝けるなら、ある意味運がいいかもしれん。

 

「エレナ? ちょっと腕が痛い……。そのまま強く締めたら折れるんだが……」

 

「嫌、ずっと離さない」

 

 仕方ない。しばらく我慢するか。

 

 

 

 腕の痛みに耐えつつ、歩いていれば渓谷の下流域辺りに到達した。

 既に荒廃しているが集落も発見した。

 

 まだ屋根も壁も残っている建物が幾つもあり、中を覗いてみれば埃まみれで薄汚いが布などが床に落ちている。寒さも凌げそうだし、願ったり叶ったりだ。

 

 

 日が暮れて暗くなっているので、今日はここで夜を明かそう。

 しかし、今日は久々の激戦だった。バランに攻め入り、エレナを救い出し、剣を持ったクソみてぇなアラガミの襲撃と……波乱万丈の一日だった。

 

 正直かなり疲れた。ゴウとの戦いで久しぶりに本気を出したせいか、疲れがどっと襲って来る。

 

 廃墟に入り、散乱した物を片付けて壁を背に座り込む。

 エレナもぴったりとくっついて座っている。さっきの事が余程堪えたのだろう。

 本当はこんなことがあったなんてしゃべらずに黙ってあの世までもっていくつもりだったが……。

 

「エレナ、腹減ったろ?」

 

 エレナに布を羽織らせて腰のポーチを探る。

 

「ううん。今日はずっと傍に居たいから、いい」

 

「そ、そうか……」

 

 

 壁に背を預けたまま、欠伸をする。

 エレナが左手を離し、そのまま胡坐の上に跨ってきた。

 震える手でシャツを掴んでいる。

 

「どうしたんだ?」

 

「ねえユウ、どうしても欲しいものがあって、それが誰かに取られそうになったらどうする?」

 

 なんだ心理テストか?

 うーむ、ぶっちゃけ無欲な事で近所じゃ評判だった故に中々想像できんな……。

 

「私は……取られる前に自分のモノにする」

 

 そう言って両肩に手を乗せて体を寄せてくる。

 

「え、エレナ……?」

 

 急にエレナの纏う雰囲気が変わり、顔を覗き込んだ瞬間――

 

「だから、ごめんね。ユウ」

 

「え――」

 

 

 唐突な謝罪をされたと思えば、いきなり首に歯を立てられて大した力で噛まれていないのにも関わらず、切られたような痛みが走った。

 

 何とかエレナを押しのけようと軽い力でゆっくりとエレナの肩を押すが、両手首をがっしり掴まれて壁に押さえつけられる。

 傷口から血を啜られ、それが終わると傷を舌で撫でてきた。何かを塗り込むように撫でられると、体が危険を訴える。

 

 

 体内に良くないものが入り込んできた。これ以上はまずいと。しかし、体が言う事を聞かずなんの抵抗もできない。

 

「エレ……な……」

 

 名前を呼ぶも意識が遠のき、そのまま意識を保てず目を閉じた。

 

 




今回ちょっと短いからお詫びに次回はちょっとえっちぃ感じにするんでお兄さん許して。
あ、ホモじゃないよ? 当たり前だよなぁ?


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幕間 ~私だけの――~

今回はR17.9ですよ。やったぜ。滾ってきたわァ!
よくよく考えれば初めて主人公以外の視点だった。


『俺はユウ。君は?』

 

 

 

『そうか、良い名前だな」

 

 

 運命的な出会いだった。 

 

 今、私の手を引いて前を歩いてる人。

 いつでも助けに来てくれる私だけのヒーロー。

 

 アラガミからも、私達を酷く扱う大人たちからも守ってくれるとっても強くて優しい人。

 

 

 初めて会ったときは、怖くて私はユウに酷い事をしてしまったのに、ユウは優しく私を撫でながら許してくれた。

 

 

 神機使いは皆、酷い人ばかりだと思っていた私の考えは間違っていた。

 

 

 私に着せてくれた青い制服。ペニーウォートに居た頃何度か見たことがあるマーク。他のAGEが羽織っていた継接ぎで作ったマントとよく似たマークが背中に入っている。

 

 とっても暖かくて、これを着ていればこの人の温もりが感じられる気がする。

 それが嬉しい。

 

 

 この人は神機使いになってまだ半年と言っているけど、とてもそうは思えない。両腕の痛々しい傷に、バランで戦った時に体中を斬られて破けたシャツからも古い傷が見える。

 

 でも、一番不思議なのは……後ろ姿がとても寂しい事。

 1人だけ置いて行かれたみたいにも見えるし、たった1人で何処か遠い所へ行こうとしているようにも見える。

 

 

 私がオラクルで作った剣をまるで自分の体のように使いこなして、今じゃ私の中のアラガミも、この人には心を許している。それどころか、戦うときは生き生きしている。

 

 

『お前の事は、必ず俺が守り抜く。誇りに懸けてな』

 

 

 嬉しかった。正直、攫われてバランに連れてこられた時にはもう、ユウに会えないんだと思った。

 あの言葉を紡いだユウは……格好良くて、そしていつもと違う感じがした。

 

 ユウは戦えば戦うほど、ユウから感じられる気配が強くなっていき、私も中に居るアラガミも見惚れていた。

 

 

 

 いつの間にか、私はこの人の事が大好きになっていた。

 もっとこの人の事が知りたい。もっとこの人と一緒に居たい。

 

 手を繋いでほしい。 

 

 腕を組んでほしい。

 

 頭を撫でてほしい。

 

 頬を撫でて欲しい。

 

 抱きしめて欲しい。

 

 私だけ見て欲しい。

 

 黙って遠くを見通しながら歩くユウには、まだこの気持ちは届いていない。

 でも、絶対に届かせようと……私は決意を固めた。

 

 

 

 

 *

 

 

 でも、ユウが見たことないアラガミと戦った時だ。ユウが追い詰められてアラガミがユウに止めを刺そうとした時だ。

 

 私はユウを助けたいと思って力の限り叫んだ。すると温かい光が私とユウを繋いで、ユウがアラガミを吹き飛ばした。

 

 その時、見えてしまった。

 

 

 

 暗い雲に覆われて、轟音に人の雄たけびや悲鳴が入り混じる中、沢山の銃を持った人たちがユウを囲んでいた。

 

 

 ユウは血まみれで、息を荒くして折れた剣を手に銃を持った人たちを睨みつけていた。

 

 左腕は力なく垂れ、血が伝っていた。

 

 

『What can you do with such a body⁉』

 

『ハァ……ああ?何言ってやがる。グゥ……大方……腕の事か、腕一本潰したぐらいで……良い気になるなよ……!」

 

『Shoot! Shoot!」

 

「…………っ⁉」

 

 ユウは銃で撃たれ、倒れ掛かるも踏ん張って「行くぞォ!」と叫んで折れた剣を片手に銃を持った人たちに立ち向かっていく。

 

 

 

 必死に呼び止めた。

 

 

「嫌だ、ユウ! 置いてかないでぇ!」

 

 私の叫び声は走り去っていくあの人には届かなかった。

 

 そんな光景が終わる頃には、ユウはアラガミを倒していて一息ついていた。

 

 安心できず、駆けだして抱き着いた。 

 

 怖い。とっても怖い。この人後ろ姿を見て感じた通りだ。ユウが何処か遠いところに行ってしまいそうで、怖い。

 この人は、1人で誰も手の届かない程遠い場所へ行ってしまうような気がする。誰にも気が付かれる事無く、あの記憶のようにたった1人で走り去ってしまう。

 

 

 嫌 だ

                        欲 しい

         ずっ と   一緒 が良い

 

        逃がすな        怖い

              

              欲しいなら 手に入れろ。    

 

        自分だけのモノ     にしろ。   

 

   誰にも渡すな。

                 自分だけのモノだ

 

 

ぁ……何、これ。

 

 

ユウが、欲しい……? だめ、ユウは私の……!  

 

 

 なんだか怖くなってユウをもっと強く抱きしめると、胸が早く脈打つ。

 

 頭の中に何かが流れ込んでくると、会ったこともない人がこちらへ剣や銃を向け、違う光景が見えるとアラガミが雄たけびを上げて襲い掛かろうとてくるのが見えた。

 

 

 嫌ぁ……見せないで……もうやめて……。

 ユウを取らないで……酷いことしないで……。

 

 

 

『どうか、あの子を……』

 

 女の人の声だ。

 

 認識すると、私と同じ髪の毛と瞳の色をした女性がアラガミになる光景が見えた。

 

 ああ、この人は……私の……お母さんだ。

 

 そしてアラガミになったお母さんが倒れると、蒸散が始まった。

 蒸散が終わるとそこには、赤ちゃんの頃の自分が泣き声を上げていた。

 

 そっか、ユウは見たんだ。私は、アラガミから生まれた……。

 だから、私だけ他の人と違うんだ。

 

 

 

        そうだ。   だから奪え、自分だけのものだ。

 

 

 ダメ、ユウは誰のものでもない……!

 

 

 やだ、やめて。ユウへの気持ちを、黒く染めないで。

 

 

               私のモノだ。 

 

 早く独占しろ。

 

            他の雌に奪われる。

 

 

 奪われる……ユウが、奪われる……? だめ、それだけは絶対に嫌!

 

 他の雌になんか絶対に渡さない。私以外には指一本触れさせない。寄り添っていいのは私だけだ。

 

 ユウと離れるなんて絶対に嫌だ。暮らせる場所なんて要らない。

 ユウが居れば私はそれでいい。

 

 そうだ、繋ぎ止めなきゃ。私から離れられないようにずっと。誰かに奪われるなんて絶対に嫌。それなら私だけのモノにする。私が居ないと生きて行けないようにすれば良い。

 

 

 ああ、私ってすごくオカシイ。正気の沙汰じゃない。好意や愛なんてとても呼べたものじゃない。でも、欲しい。彼の全部が欲しい。

 

 

 なら、無理やりにでも。

 

 

 悪い事を言っているのは自分自身であることを理解すると共に、黒い気持ちが芽生えた。

 

 

 

 *

 

 

 荒廃した集落に入り、屋内入ってユウが座り込むと、私も一緒に座って左手を抱き寄せる。

 

 

 どうしたんだろ……。

 

 

 体、熱い。どうして……?

 

 

 

 ふと視界に割れた鏡が映り、鏡に映っている私はこちらを見つめて、口を開けた。

 

 

 

             早く、繋ぎ止めろ。           

 

 

 

 口の動きはそう語っていた。

 

 

 私はユウの左手を離し、胡坐で座っているユウに跨ってシャツを強く掴んだ。

 

「ねえユウ、どうしても欲しいものがあって、それが誰かに取られそうになったらどうする?」

 

 ユウは悩んでいる。この人に欲しいモノなんて、きっとない。

 

 

 でもね、私は……ユウが欲しいの。

 

 

「私は……取られる前に自分のモノにする」

 

 

 そう言って両肩に手を回して強く掴んで体を寄せる。

 ユウ、今ユウの目の前に居るのはあなたの事が大好きで、独占したいって思ってるアラガミだよ? ただの女の子じゃないよ?

 

 

「え、エレナ……?」

 

 

「だから、ごめんね。ユウ」

 

 

 

 そして私はユウに一言謝り、首筋に噛みついた。

 

 

 牙となった歯を軽く立てて首筋に傷をつけて、そこから出てきた血を啜る。

 

 ユウが私を押し戻そうと肩に触れてくるが、とても優しくゆっくりと押してくる。

 やっぱり、ユウは優しい。でもその優しさも全部、私だけに向けて欲しい。

 両手首を掴んで壁に押さえつけて行為を続け、オラクルを唾液に混ぜて舌で傷口に塗り込む。

 

 

「……ッ!」

 

 

 ユウの手から力が抜けて、そのまま顔を俯かせた。

 

 首から口を離し、ユウの頬に触れる。

 

 私が連れていかれてから、ずっと休まないで助けに来てくれたのだろう。バランで他の人間とも戦い、ついさっきはあのアラガミと戦って怪我も多く普通なら倒れておかしくない。本当に疲れていたのだろう。記憶の中のユウもすごく疲れているのにそれでも戦っていた。少しぐらい休んでも良いのに。

 

 でも、休んでいるのに顔は険しい表情をしている。

 きっとまだ誰かや何かと戦う夢を見ているんだろう。いつもこの人は戦っているんだ。

 

 ユウの頭に手を置いて、彼がしてくれるように優しく撫でてみる。

 気のせいか分からないけど、ユウの表情が緩んだ。

 嬉しい。私が触れたらユウは反応してくれた。彼の中には私がちゃんと存在している。自意識過剰と言われると耳は痛いけど、ユウは私の事を意識してくれている。その事実が嬉しい。

 

 でも、女の子として意識されているか分からないから、複雑な気持ちも混ざる。

 

 ならば、『無理やりにでもそうさせてしまえ』

 

 

 

 分かっているよ。

 

 

「ユウ、ごめんね。でも、ユウが欲しい……」

 

 『欲しい』なんて初めて思った。今まで何も欲しいモノなんてなかった。

 いや、欲しいと言う考えがそもそも無かった。孤児院で院長や皆と一緒にいたから、何も欲なんてなかった。ただこの生活がずっと続くだろうから特に欲しがるものなんてないと思っていた。

 

 でも、欲しいモノが出来てしまった。ただ、この人が欲しい。

 

 眠っているユウのシャツをはだけさせて、胸に手を触れると心臓の鼓動が伝わってくる。

 

「…………早い、生き急いでる……?」

 

 ドクン、ドクンと自分の心臓の音と比べれば、ユウの心臓はドクッドクッと早く脈打つ。

 

 どうして焦っているの? なんで生き急いでいるの? 

 

「駄目だよ、ユウ。そんなの絶対にダメ。ユウはもう何処にも行かせない」

 

 左胸を触れて言い聞かせる。

 

 改めて見ていれば、ユウの体には痛々しい傷が沢山ある。私も色々な傷があるけど、ユウにはもっと酷い傷跡がある。

 撃たれた傷、刺された傷、斬られた傷、殴られた傷。

 

 私と同じように顔に刻まれた横一文字の傷……。

 

 頬に口を近づけて軽く傷跡を舐める。

 

「ッ……」

 

 私とお揃いだと、笑いながら言っていた。もし、私があいつらに連れていかれなかったら、この傷を負うことは無かっただろう。でも、この傷は私とユウを繋いでくれる証の1つかもしれない。

 

 でも1つだけじゃ全く足りない。

 

 

 左胸――心臓のあたりにに口をつけ、軽く歯を立てる。

 

「んッ……」

 

 口の外から液体が入って来るのを感じた。苦いけど、ユウのモノだと思えば何ともない。

 ユウの身体に、私を受け入れる場所が出来た。唇を強く噛んで自身の血を口に含む。

 血と唾液の中にオラクルを混ぜ合わせて、傷つけた箇所に舌で塗り込む。

 

 私がユウの中に入って行った。外側からも、内側からも私のモノとして染め上げてやろう。

 

 

「ハァ……ッ! ハァ……ユウ……」

 

 体が熱い。

 熱さで一瞬頭がクラっとしたその時。

 忌々しい記憶が頭を過った。

 

 ペニーウォートで看守に甚振られ、牢屋へ戻されている時だ。

 通路の牢屋から女の人の苦しむような声が聞こえて、私は牢屋を見た。

 

 看守が壁に女性のAGEを押さえつけていた。彼女は引き裂かれた衣服を着て、涙を流しながら看守の暴行を受け入れていた。

 

 

「…………ッ」

 

 あいつらの事なんてどうでもいい。ユウが居ればそれだけでいい。

 

 気が付けば呼吸が荒くなり、お腹の下が熱くなってきて熱さは全身に巡ってくる。

 

 ユウの手に自分の手を重ねて握ると、優しく握り返してくれた。

 胸がさっきよりもドキドキする。今度は耳に口づけする。

 

「ハァ……ユウの匂い、良い……。ぁ……」

 

鼻をくすぐる香りでもっと体が熱くなって息が荒くなる。ずっとユウを見つめていたら、ふとユウの髪の毛が数本だけ自分と同じ灰色に染まるのが視界に入った。

 

 

 早速、中で私がユウを染めているようだ。このまま染め続ければ、ユウの体は私と合うように作り変えられる。

 傷だけじゃない、全部お揃いだよ、ユウ。

 

 黒い髪は私と同じ灰色に。

 瞳も私と同じ黄金色に。

 

 

 こんなに早く変化が起きるなんて……。ユウ、受け入れてくれたんだ……。

 

 全部染まり切れば、ユウは本当に私のものになる。全部染まれば、私はユウと家族になる。

 互いに愛し合う関係になる。私はユウしか愛せないし、ユウも私しか愛せなくなる。体が変化を受け入れたということは、ユウが心の底で私を愛してくれている証だ。

 もし、何も変化がなければそれはそれでショックだが、それならもっと私をユウの中に刻み込めばいい。私がユウを一方的に縛り付けて愛することになるけど、他の雌に取られるよりはまだマシだ。

 

 首輪も手錠も足枷も全部つけて、私と繋げよう。そしたらずっと一緒になる。

 ユウ、ずっと一緒だよ。例えアラガミになってもずっと、ずっと……。

 

 この人と添い遂げ、命を育んでいきたい。それが私の願いだ。

 

 

「お母さん、産んでくれてありがとう。大好きな人に出会えたよ。大好きな人を、自分だけのものにできるよ」

 

 

 

「ユウ……大好き。ずっと、一緒」

 

 愛する人の唇に己の唇をつけ、舌を強引に割り込ませた。

 

「ん……。んん……ハァ、ゆう……もっと、もっと欲しい……」

 

 ユウから着せてもらった上着を脱ぎ、床に敷いてその上にユウを寝かせる。

 なんだか私がユウを押し倒したみたいだ。

 

「ぅ…………」

 

 まだ険しい顔をしているユウを見て、私はもう1度唾液にオラクルを混ぜてユウの口に移す。

 するとユウの体が少し震え始める。突然体内に普通は入らないであろうものが入ってきて驚いたようだ。

 

「ぐ……ぅ……」

 

「ユウ、大丈夫だよ。ゆっくり休んでね」

 

 身じろぐユウの耳を甘噛みして抱きしめると、徐々にユウの体は震えが無くなり、落ち着きを取り戻した。

 

 ユウから寝息が聞こえ、久しぶりにぐっすり眠ったのだろう。先程まで表情が硬かったが、今は穏やかな顔をしている。とてもミナトにたった1人で攻め入る人間には見えない。

 

 頬に手を当て、いつもユウがやってくれるように優しく撫でる。

 

 またユウの髪の毛が数本だけ灰色になった。

 ああ、どんどん染まっていく。もっと私に染まって、ユウ。

 

 ダメ、もう……抑えられない。

 

 

「はぁ……お腹、熱い…………。ゆう、もっと……!」

 

 口づけをして舌を絡ませて唾液を舐めとり、舌で転がしてから飲み込む。もう1度口づけをして舌同士を絡ませる。

 

 口を放すと互いの口から唾液が糸を引いていた。もう1度口を付けて唾液も全部絡めとって飲み込む。

 

 もうダメ、体が熱い。熱いのに……下腹部が凄く熱くて、下着が濡れている。

 そっか……私、ユウの赤ちゃんが欲しいんだ。

 

 体を最低限隠しているボロボロの布切れを脱ぎ捨て、下着も邪魔で破き捨てた。

 

 肌同士が触れ合うと体の火照りは強くなる。

 

「ユウ、もっと……しよ……?」

 

 一糸纏わぬ姿でユウの上に跨り、夜が更けるまで私はユウを愛し続けた。

 

 

 




昏睡レ〇プ! 野獣と化したAGE

話は変わるけどブーストハンマー強すぎィ!
やっぱ破砕は強いってはっきりわかんだね(確信)


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俺はロリコンじゃない。OK?

数年前だけど女性アバターでインフラしてたら年齢聞かれて引いた。
「ワイ男やで」って返したら速攻で消えて草不可避。やっぱそういう目的なんすね~怖すぎィ!


 

 

 

 

 ああ、朝か。

 

 自然と欠伸が出る。

 

 ん? 俺っていつの間にか横になって寝ていたのか。少し気が抜けたようだな。確かに激戦続きであったが……だからと言って気を抜いてよい理由にはなるまい。

 

 なんか腹が暖かいな。湯たんぽでも抱いて寝てたのか俺は。 

 

「あ~なんか怠いな……。はあ……あ?」

 

 

 視界にはとんでもない光景が映った。

 

「な…………何故…………?」

 

 なんで俺は服を着ていないエレナを抱いて寝ているんだ……?

 そして腹が暖かい理由はこれか。確かに人肌は温かいな。

 

 

 いや可笑しくね? 大体なんで俺は一糸纏わぬエレナを抱きしめて寝ていたんだ?

 そもそも何故俺のシャツのボタンが外れて開けてんの?

 

 周囲を見回すとボロボロの布切れが落ちていた。

 

 あれってエレナが羽織っていた布切れだよな? 俺が着せた上着は……。

 

 

 

 

 俺の下に上着が敷いてあった。

 

 ますますわからん。なんで俺はエレナに着せたはずの上着の上で寝ていた……?

 これもうわかんねえな……(思考放棄)

 

「ぅ……んん……」

 

 俺の腕の中で寝息を立てていたエレナが目を覚ます。

 

「あ……」

 

 やばい、すげぇ気まずい。

 

「へへ、ユウ。おはよう」

 

 恥ずかしがる様子もなく微笑みながらエレナは言葉を紡いだ。

 気のせいか、昨日よりもエレナが艶々している気が……まあ、気のせいか。

 

「エレナ、服はどうしたんだ?」

 

「肌、くっつけたら暖かくて……。もっとユウを感じたくて、邪魔だったから……」

 

 エレナが少し頬を染めて目を背けながら言う。途中で恥ずかしさが限界点に達したのか俺の胸に顔を埋める。

 

「そ、そうか。でも、男にあんまり体を見せるもんじゃないからな? お父さんとお母さんから貰った体だ。大事にしてあげなさい」

 

「うん。でもね、ユウなら良い」

 

 エレナの頭を撫でると嬉しそうに頬を胸に擦り付けてくる。

 

 エレナが起き上がろうとしたので目を逸らして壁の方を見る。

 布切れ一枚羽織るだけだからそう時間も掛からないと思ってしばらくしたら振り返ると、エレナは愛おしそうに自分の腹を撫でていた。

 

「腹の調子でも悪いのか?」

 

「ううん。お腹が暖かくて、なんだかホッとするの。ユウ、暖かいだもん」

 

「そうか」

 

 暖かいだけにホットか、誰が上手いこと言えと突っ込まれそうだが。

 

「………………」

 

 今更だけど、俺エレナに何もやましい事なんてしてないよな……?

 

 股間にぶら下がっているムスコには何の異常もない。だが、この妙な気怠さはどう結論付けようか……。

 そして、なぜエレナは妙に艶々しているんだ……?

 

 おい、おいおい、おいおいおい、俺大丈夫だよな? エレナはまだ10~12歳だぞ⁉

 まさかの肉体関係持ったとかアウトだぞ⁉

 

 冷汗が噴き出してきた。背中がゾクッとする。これは……恐怖……!

 俺は、恐れている……! 自分が犯したかもしれない大きな罪を……恐れている……!

 

 恐怖とは正に過去からやってくる。

 

 聞き覚えのある言葉だ。

 

 此処は当事者?に確認を取って白黒はっきりさせるしかないようなだ……!

 なあムスコよ、大丈夫だよな? お前の返答次第ではマジで事案だぞ? 俺の物語即終了するんだぞ⁉ 

 

ムスコ「大丈夫やで~。ちゃんと童貞守ってるで~」

 

 そうか、良かった。俺は罪なんて犯していなかったんだ……!

 

ムスコ「そうだよ。そもそも己の童貞も満足に守れない男に一体何が守れるんですかね?」

 

全くもってその通りだなムスコよ。HAHAHAHAHAHA!

  

 

 心の中でムスコに確認を取り、安堵して高笑いをした。そのまま心の中で高笑いを上げる。

 エレナが上着に袖を通し、俺が解けている包帯を巻きなおして上着が開けないように固定する。

 

 

 

心の中の俺「ふう、EDを発症させなければ即死だった。感謝しろよ主人格」

 

 いやどういう事やねん。なんだよEDを発症させないと即死する状況って。逆に見てみたいよ。てかEDってマジかよ! ぶっこく時どうするねん! 

 

 

 

 

 まあ遅かれ早かれ死ぬだろうから別にええか。

 いやーしかし昨日の剣を持ったアラガミとは激戦だった。

 全く、相手をスタン状態にして大技かますなんてつまらねえ真似しやがって。 そう言うのは非力な人間がやるべき事であって人間凌駕したあの化け物がやっちゃいかんだろう。

 

 

「ユウ、しゃがんで」

 

「ん?」

 

 エレナに腕を引かれ、腰を下ろして視線を合わせる。

 

 

「ん……」

 

「――――」

 

 エレナの唇と俺の唇が重なり、突然の出来事で思考が停止した。

 

「はむ……」

 

「っ⁉」

 

 思考停止で固まったいたらエレナの舌が口内に侵入して舌に絡み、エレナの手が俺の頭に回されて暫く水音を響かせてエレナの舌が俺の舌に絡み続けた。

 

「んん……」

 

 エレナが唇を離すと俺とエレナの口の間に唾液が糸を引いて床へ落ちる。

 ほう、唾液ブリッジというやつか……これが……。いやなんで感心する必要があるんだ。馬鹿じゃね?

 

 

「ユウ、またしようね?」

 

「あ、ああ」

 

 突然のディープキスに困惑不可避である。そういえば、ディープキスって中々興奮するって聞いたが俺の下半身は反応しなかったな。つまり俺はロリコンじゃない。OK?

 

 

「ユウ、もう1回……」

 

 え、インターバルと言うものはないんですかね?

 

「あ、ちょっとあれがあれしてアレだから後でな?」

 

「分かった……」

 

 やんわり断り、エレナがしょんぼりするするのを見て若干申し訳なく思う。

 

「…………うーむ」

 

 しかし何だかエレナを見てると、頭がボーっとするな。見惚れているかのような……。

 いかんいかん。子ども相手に何変な事考えているんだ俺は。さっきロリコンじゃないと自分自身を戒めただろう。これじゃペニーウォートのクソ共と変わらないクソ野郎じゃないか。そこまで腐っちゃいないぞ。

 

「あーエレナ? どうして急にキスなんて……」

 

「大好きだからしたいだけだよ」

 

 大好きか……。ここまで懐かれるとは……何時か来る別れの時が億劫になる。

 

「………………」

 

 なんだ……? 胸と首筋になんか違和感を感じるな……。痛いとか痒いじゃなくて、熱くなったんだよな。

 うーむ、一体……。

 

「そ、そうか。俺も好きだよ」

 

 大好きなんて、初めて言われたな。とりあえず無難な返答をしておくとしよう。

 

「……! うん!」

 

 エレナが頬に唇をつけてきた。

 結局頬にもキスするのか、失笑を禁じ得ないでござる。

 

「照れくさいから勘弁してくれ」

 

 頭を掻きながら、窘めるがエレナはそのまま頭に手を回して頬擦りをしてくる。

結局頬擦りもしてくるのか……。しかし寝起きって肌が油ギッシュだからエレナの顔が汚れてしまわないか気にかかる。

 

 兎に角、移動をはじめないといつまで経っても状況は変わらないし、今現在もアラガミが近くを徘徊している。おまけにバランやペニーウォートの連中がまだこちらを追跡している可能性もある。

 

 囲まれると言う最悪の状況になる可能性もあるので素早く行動しないとな。

 

 

 

 廃墟を出て移動を始める。

 

 

 

 エレナに腕を掴まれ、膨らみかけの胸の間に挟まれているが意識しないように歩く。

 何かと気苦労が堪えず神経が徐々に擦り減っていくのを知ってか知らずか、エレナは腕を放さないようにしっかり抱き寄せ、空いた手を俺の手と繋いでいる。

 

「…………」

 

「ユウ?」

 

 エレナが俺の視線に気付いて首を傾げ、ハッとする。

 ああ、まただ。何でだろうか、エレナを見ていたら頭がボーっとする。いつの間にか見蕩れている。俺、マジでどうしたんだろうな……。

 

「いや、ちょっとな。先を急ごう」

 

 

 

 気を取り直して前を見て歩く。

 神経を研ぎ澄ます。常に周囲に気を配り、物陰に身を隠したり足音を立てないように進む。

 

 

 

 

 出発から大分時間も経ち、辺りは暗くなっていく。

 

 だが、まだ時間的には夜じゃない。何故暗くなっているか。見上げればすぐに分かった。

 

 先日目撃した灰の嵐だ。

 

「また灰嵐か……」

 

 ホントにこの世界は崖っぷちだな。あんな脅威がその辺で起こっているとかまじやべえって。

 

 

「大丈夫、私がユウを守るから」

 

「そりゃ安心だ」

 

 幸い俺達の進む方角で発生していないのはありがたい。とりあえず、時々灰嵐の様子を確認しながら進もう。

 流石に連中もあんな脅威が近くにあるのに追跡をしようとは思わないはずだ。

 

 

「ユウ」

 

「どうした?」

 

「ユウは、他に好きな人……いる……?」

 

 この化け物にいつ襲われるかもわからない状況で恋バナ仕掛けるって中々肝が据わっているなエレナ。顔を真っ赤にして可愛い奴め。

 

 しかし、どう答えたもんかな……。

 

 俺とて叶わなかったが初恋はしている。想いを伝える前に戦場へ飛ばされたが。

 だが思ったんだが、人を好きになるってそれただそいつとパこりたいだけなのでは……?

 結局男ってそう言うもんだよね? 

 でもいけないと思うなー。パこりてえなら風俗に行けよと言う話だから好きな人とは何なのだろうか? 子孫繁栄の本能を越えた先にあるモノなのか。それこそが真の愛と言うやつなのではないだろうか?

 いやまあ何が言いたいと言うとだね? 恋愛って難しいよねって事さ。

 

 よし、そろそろエレナに返答をするか。

 

「さっきも言っただろ? エレナが好きだ」

 

 子どもにはこの返しが一番だ。流石にジーナとか知り合いの女性陣に同じ質問されて「お前が好きだ」なんてとても言い返せないが。

 

「……! 私も大好き!」

 

 顔が真っ赤だ。煙でも吹くのではないかと不安に思う位真っ赤だ。そしてその状態から大好き宣言は心に来た。

 微笑ましいものよ、思想相愛。いや、だからこれじゃ俺ただのロリコンじゃん。

アナグラの女性陣全員にドン引きされるの未来が見えてくるぜ……。

 

 

「ユウはどんな人が好み?」

 

「んー……しっかり者で一途で心の優しい人」

 

「しっかり者……」

 

 エレナが腕を放して、俺の手を握ったまま俺よりも少し前を歩く。

 

「急にどうしたんだ?」

 

「ユウの好みの女になるの。だからしっかり者になる。しっかり者は何時までもくっついたりしないでしょ?」

 

「一途だな」

 

 ただ声に呼ばれ、導かれたから助けただけなんだが……。彼女の眼には俺がヒーローにでも映ったのだろうか? 

 ここまで懐かれると別れの時が来たとき、何と言えば良いか頭を悩ませなくてはいけない。

 悩みの種が増えていく……。前途多難とは正にこの事。

 先人たちは実に為になる言葉を残してくれる。

 

 

 

「ねえ、ユウ」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

 微笑んだ表情を見ると、再び胸と首が熱くなり、すぐに押し殺す。

 

「急にどうしたんだ?」

 

「私はユウに救われた。いつ死んじゃうかも分からない世界で、私を助けてくれた。そこから好きになって、大好きになった。大好きだからお礼を言うの。ただそれだけ」

 

「そうか、どういたしまして」

 

 この子は本当に良い子だ。こんな良い子が生まれる世の中はまだ捨てたもんじゃないが、ペニーウォートとか言う連中みたいに根っから腐ってる奴だっている。

 良い奴もいれば悪い奴もいる。世の中釣り合いが取れなければいけないのに、釣り合いは全く取れていないときたもんだ。悪い奴が多すぎる。本当にどうかしている。

 

 だからこそ、俺はエレナを助けたいと思っているんだろうな。

 この子にはいつまでも笑っていて欲しいものだ。この子の為ならなんだってできる。そんな気が根拠もないのに何処からともなく沸いてくる。

 

 それに納得している自分に呆れつつ、俺はエレナに手を引かれながら歩く。

 

 できる事なら一緒に居てやりたいが……。俺は既にバランに攻め入ってエレナを誘拐した犯罪者として他のミナトにもマークされているだろう。エレナも俺と同様だろう。

 形式上はバランの所有物と言うことになっている筈。下手なミナトに駆け込んだら引き渡される可能性も高い。

 

 目ぼしいミナトに着いたら、暫くAGEの境遇や他組織との関連性も見極めたのちにエレナだけを接触させて保護してもらわないといけない。

 着々と別れの時は近づいている。俺の体よ。頼むからこの子が安心して暮らせる場所が見つかるまでもってくれよ……。

 

 そう思った矢先、先程よりもエレナが強く手を握り締めてくる。

 

「…………ッ!」

 

 

 まるで絶対に離さない。何処にも行かせないと言わんばかりに。

 

 

「エレナ? どうしたんだ?」

 

「ユウ、1人で何処かに行っちゃいそうだもん。だから離れないようにしてるだけ」

 

「…………ッ……!」

 

 エレナと目を合わせた途端、首に何かが巻きつく感じと心臓を鷲掴みにされるような感覚が襲ってきた。

 

 眩暈がして膝を突く。

 

「ユウ……大丈夫?」

 

 身体に熱が迸り、エレナに握られている手がとても熱い。気づけば息も少し荒くなっている。

 意識が朧気になって咄嗟に空いた手が動き、エレナの腰に手を回して抱きしめる。

 

 

 いや、何をやっているんだ俺は。今日は朝からおかしいぞ本当に。

 

 

「んっ、ユウ……」

 

 顔を赤くし、もじもじするエレナを視界に入れると再び首と心臓に違和感が。

 歯を食いしばって堪え、これ以上変な真似をしないためにも、そのままエレナを抱き寄せて、腰に回した手で自分のシャツを思い切り掴む。

 あまりに強く握ったせいで掌に少し伸びてきた爪が食い込んで痛い。

 

 

 

「ユウ、やっぱり――」

 

 

 身体の熱と衝動を抑えるのに必死でエレナの声を聞いていなかった。聞き返すと「ありがとう、とっても嬉しい」と微笑む。

 

 

 

 エレナから離れ、先を急ごうとするとすぐに手を握られる。今度は意識しないように気を強く持つ。

 

 

 しかし、気を強く持とうにも胸や首から発生した熱さは全身に巡って熱さに呆けているとエレナを意識してしまう。

 

 くそ、なんなんだ……! 歯止めがきかなくなりそうで、恐ろしくなる。このままじゃエレナに……。ああくそ、なんなんだ本当に……!

 川に頭突っ込んで文字通り冷やしてやろうか。

 

 そう思い、エレナに手を離してほしいと伝えると、寂しそうな顔をしながらも承諾してくれた。

 そして川に頭を突っ込もうとしたとき、水面に異常な光景が映っていた。

 

 水面に映る俺の首には鎖が巻き付き、手首や足首に杭が刺さり、杭も鎖で繋がれている。

 

 なんだ、これじゃあ極悪人じゃねえか。そんな悪いことした覚えなんて――あ、戦争で敵国の兵士何人も殺ってるからアウトだ。

 

 てかそれだと出兵した連中は皆アウトやんけ!

 

 

 実際に自分の体を確認するが鎖も杭もない。

 

 安堵しつつ川に頭を突っ込んで数秒息を止めてから顔を上げるが、熱さは一向に収まらず、どうしたものかと頭を抱えたらエレナが頬を摺り寄せてきた。

 

「ユウ、大丈夫だよ。私が居るから」

 

 頭も撫でられ、抱きしめられると熱さは徐々に引いていき、熱さとは違う温もりを感じて暫くこのままで居たいと言う考えが過る。

 

 

 ああ、頭の中に靄がかかったような……このまま一緒に……。

 

 

 

『待てい馬鹿義息、それ以上染まるでないわ。愚か者め、首を出せ』

 

 

 頭に響いた唐突な死告と共に、軽く後頭部を小突かれた感じがしてすぐに正気に戻って気をしっかり持つ。

 

 

 いかんいかん、俺はとんでもない事を……。戒めなければ……。

 

 




関係ないけど虫歯ってクソだよね。


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だからロリコンじゃねえって言ってるダルルォ⁉

遅くなって申し訳ありません。


 これ以上、妙な真似をしないためにもと思い、別の事に集中する。

 エレナを抱き上げてただひたすら渓谷を駆け抜ける。

 

 

「ユウ…………」

 

「舌噛んじまうぞ? 大丈夫だ。やっぱ運動しないとな……!」

 

 エレナの頭を撫でながら跳ぶように駆け、岩場を次々と飛び越えて進む。

 

 身体を動かしてれば熱も気にならねえ。風邪気味でも仕事してれば気にならねえのと一緒だな……! 初めて気分屋な体が役に立った。

 

 

 さあ、どんどん行くぜ……うん? 

 

 なんだこのゴゴゴゴゴって音……?

 轟音が聞こえて後ろへ振り返れば灰嵐がこちらへ向かってきていた。

 

「ユウ……灰嵐、こっちに来てる……」

 

「やっべェ! しっかり掴まってろ!」

 

 エレナをしっかり抱きかかえて走る速度を上げる。

 

 

 最悪だ。運が悪いにも程がある。自然災害?と追いかけっこなんて冗談じゃない。

 

 

 

 地鳴りで脆い足場が崩れ、瓦礫を渡って背後に迫る脅威から逃げ続ける。

 

 道を選んでいる暇など無い故、アラガミが跋扈する道を突き進み、攻撃を仕掛けられれば何とか回避し、時にはエレナがオラクルのバリアを張って守ってくれる。

 

 戦っている暇など無いのでひたすら躱しながら進むしかねえ。

 

 時には壁を走り、時には切り立った崖を駆け下り、駆け上りただひたすら走り続ける。

 

 

「……………ユウ、灰嵐から飛んでくる! 気を付けて!」

 

「飛んで……?」

 

 後ろを向けば灰嵐の中から電撃が一直線にこちらへ飛んできた。

 

「うおっ⁉ なんだよおい!」

 

 跳んで躱すと次から次に電撃が飛んでくる。

 

 ギリギリのところで電撃を躱しつつ駆け続けるが、周囲に気を配りつつ走るのも中々きついものがある。

 

「ふ……ふぅ……」

 

一瞬、気が抜けた直後に電撃が飛んできた。

 

「ユウ!」

 

 エレナがオラクルのバリアを張って電撃を防ぐが、バリアと干渉した電撃は爆発を起こして背後からの凄まじい衝撃を受けて吹き飛んだ。

 

「ッ!」

 

 何とか両足で着地してすぐに駆けだすが、エレナが呼吸を少し荒くしていた。

 

「エレナ、大丈夫か?」

 

「う、うん。平気」

 

 心配させまいと笑顔で言うが、表情から無茶をしているのは見てわかる。

 

 駆けつつ背後を見れば、灰嵐の中から何かが光を発しながらこちらへ向かっているのが見える。目を凝らしてよく見ると大きな人のような形に見える。

 

 

 灰嵐の中の影が飛び出した瞬間、背中にゾクリと悪寒が走った。

 

 

「…………っ⁉」

 

 光る巨大な右腕が電撃を纏い、骸骨の面を被った巨人が姿を現した。

 

 

 アラガミ……か⁉ おいおい、シャレになってねえぞ……あんなもん……!

 

 

『GOOOOOOOッ!‼!!!』

 

 かなり距離があるにも関わらず、その咆哮は耳までしっかり届く。

 巨人の咆哮に灰嵐が呼応するかのように激しさを増して勢いが強まる。

 

「灰域種――違う、ユウ! 逃げて!」

 

 聞きなれない単語が気になるが、エレナの言う通りあいつはヤバい……!

 指定接触禁忌種、いやそれ以上じゃねえか……!

 何だってあんな化け物が……! 

 

 

『GOOOOOOOッ!』

 

 巨人が電撃を纏った右腕を振り払うと電撃が幾つも飛びこちらへ雷の嵐が向かってくる。

 

 駆けつつギリギリで躱し続けるも攻撃の激しさは増すばかりでこのままじゃどんどん追い詰められていく。

 迫る電撃を大きく跳んで避けるも他の電撃が迫り、空中ステップで躱しつつ、対アラガミ用ナイフを抜刀して雷を受け止める。

 

 

「グゥ⁉…………ッ!」

 

 なんだこの雷、今まで受けてきた雷とは訳が違う……! このままじゃ、受けきれねえェ……!

 

「ッ!」

 

 エレナが咄嗟に手を右手に重ね、オラクルが集まってナイフは神機を模した剣に形を変え、何とか雷を受け止めきった。

 

「…………くぅ…………ウラァ!」

 

 雷の斬撃をアラガミに返すが、雷の刃はアラガミが左腕で振り払って容易く掻き消され、骸骨から覗く眼光はこちらを睨み、電撃を纏う右腕を振るうと幾つもの雷球が生み出され、一斉にこちらへ飛んでくる。

 

「くっ……⁉」

 

 消耗しきった体に鞭を打って縦横無尽に空中を駆けつつ飛んでくる雷球をひたすら躱しつつアラガミから逃げる。

 

 神機となったナイフを握る手が震え、これ以上奴の攻撃は受けるなと訴えてくる。

 たった一撃受け止めただけで体中の力がごっそり持っていかれた。それどころかエレナに手を貸してもらえなければ受けきれずに直撃したことだろう。

 

 逃げるしかないが、逃げるのも困難とは……本当にどうかしている……!

 

 

 迫る雷球を何とか躱す。

 

 1人で躱すなら訳ないが、抱いているエレナの事を考えて回避しなければいけない。俺が当たらなくてもエレナに被弾したら何の意味もない。

 

 

 アラガミの様子を見れば、奴は動きを止めてこちらを睨みつけている。

 しかし、骸骨面の口元に電撃が集中して徐々にその大きさを増している。

 

 危険を感じてひたすら遠くへ飛ぶように空気を蹴る。

 

 

『GUOOOOOOOOOっ!』

 

 凄まじい雄たけびと共に巨大な雷弾が口から放たれ、辺りを照らす。

 

 

 巨大な雷弾が迫り、とてもじゃないが躱しきれない。せめてエレナだけは……!

 

 

「エレナ、少しだが何とか抑える! 俺を踏み台にして地面へ跳んで逃げろ!」

 

 

 エレナを背中に回らせ、巨大雷弾に対して得物を両手で構えて突きを繰り出す。

 

 

「ガああああァァァ⁉クソがァ!死ぬっつーのッ……‼」

 

 切っ先から電撃が弾けて体が衝撃に襲われる。

 

 

 エレナ、早く……!

 

 

 

 

 エレナに逃げろと伝える為振り向く。

 

「ダメェ!‼!!」

 

 エレナが叫び声をあげ、大量のオラクルが彼女の背中に集まってオラクルは赤く煌めきながらエレナの背中から飛び出し、翼のように形を変えた。

 

「なっ――」

 

 驚いた瞬間、翼に包まれて赤い翼が雷弾を防ぎ、凄まじい衝撃が走るがすぐに翼は振り払うように広がり、その拍子に雷弾をアラガミへ打ち返した。

 

 

『GUOOOOOOOO⁉』

 

 アラガミが悲鳴を上げて爆発に巻き込まれ、エレナは俺の腰に手を回してそのまま飛び立つ。

 

 

 

「ハァ……ハア……」

 

「エレナ、これ以上無理したら……!」

 

「嫌ァ……。ユウは……私が……! もう、酷い事なんてさせない……! 絶対、絶対……!」

 

 エレナに何度も呼び掛けるが、エレナは譫言のように俺の名を口にしていた。

 暫くそのままエレナに抱えられたまま飛び、呼び掛けてもやはり無反応。しかし、エレナの瞳から涙が流れたその様を見た瞬間――

 

「ッ⁉」

 

 また熱が……くそ、こんな時に……! 

 

「ハァ……うぅ……」

 

 エレナが呼吸を荒くして苦しみだすと高度が下がり、下には水面が広がっている。渓谷の下流域に出たか。

 

 翼は徐々に形が崩れ始めて光の粒子を振りまきながら、小さくなっていく。

 灰嵐は遥か遠くに見え、今の飛行で大分距離を離したようだ。

 

「ハぁ……ぁ……ゆう、ごめん……。もう、飛べない……」

 

 エレナがぐったりし、慌てて抱きかかえる。しっかり抱きしめて水面へ落ちつつ空気を蹴って陸地へ向かう。しかし、陸地につくより落下する方が早い。

 俺もさっき雷を受け止めたせいで大分消耗し、体に鞭打たないと動けない。

 

「く……。エレナ、冷たいけど……ごめんな」

 

「大丈夫、ユウ。一緒なら、私は大丈夫だから……」

 

 疲れた表情をしつつ笑って答えてくれる。

 

 川へ落ち、エレナをしっかり抱いて泳ぎ、陸地へ向かう。

 

 

「ハアッ! ハァ……」

 

 何とか陸地へ上がろうと岸に手を掛けて上体を乗り出すと辺り一帯に小型アラガミが徘徊しており、慌てて身を屈めて姿を隠す。

 

「エレナ、暫く我慢できるか? このまま岸を辿って泳いでいく」

 

「うん、大丈夫……。ユウも、無理しちゃだめだよ?」

 

「ああ、分かってるさ。さ、泳ぐぞ」

 

 

 エレナを背負って音を立てないように静かに泳ぎ、アラガミの気配や音を頼りに周囲に気を配りつつ泳いでいく。

 アラガミに見られそうになったらエレナに教えてもらい、一回潜って暫く泳ぎ、エレナに顔を出してもらって周囲を確認してもらう。

 

 

 暫く泳ぎ、アラガミの気配も無くなりエレナに確認してもらっても敵影はなさそうだったので急いで陸に上がる。

 

「ふぅ、流石に……堪えた……」

 

 

 地面に膝を突いて、少し休む。

 

 

「ユウ、大丈夫? すごく疲れてる」

 

「ああなに、これぐらい平気だ。さ、急ごう」

 

「うん」

 

 エレナと手を繋いで小走りで川に沿って進む。

途中で雨も降ってきた。

 

 これ以上、身体を冷やすのはまずいな……。まだ幼いエレナには辛い状況だ。雨風凌げる場所があれば……。

 

 

 岩山を超えて、さらに続く川の先に少し大きな建造物が見えた。

 

「ミナト……かな……? 装甲壁に灰を飛ばすためにプロペラが設置してたら多分ミナトだと思うよ」

 

「しかし、プロペラは回ってないぞ……? なんだか壁も食い荒らした形跡がある」

 

 

 急いで近づいてみると、エレナの言った通り装甲壁にプロペラが設置されていた。しかし、既に停止し、壁には食い千切られた跡が見える。それに壁の向こうには灰が舞っており、誰が見ても廃墟にしか見えないだろう。

 

 装甲壁よりも大きな建物が灰域踏破船を受け入れる為の設備、つまりあの地下にミナトがあった筈だ。雨風凌げるなら何でも良い。とにかく中に入ろう。

 

 喰い破られた後のような場所から侵入し、中は真っ暗で天窓からうっすらと差す光が頼りだ。地下へ続く階段を発見するが、明かりがないので降りる訳にはいかない。

困っていたら事情を察したのかエレナがオラクルを集めて小さな火の玉を作って照らしてくれた。

 

 さて、アラガミの気配はしないが……。いやアラガミなんぞいなくて良い。居たら居たらで斬るけど。周囲の安全確保は基本中の基本だ。

 

 歩いていると、扉を見つけた。開けようとするが中々開かず、別に物音立ててもアラガミは近くに居ないのだから扉を蹴り飛ばす。

 部屋の中を照らしてもらうとそこには牢屋が並んでいた。

 牢屋の通気口から光が差しており、この部屋は地上に近い場所なのだろうか……。

 

 

 エレナも複雑な表情をしている。

 

 牢屋の中には硬そうなベッドが並び、せめてもの情けなのか掛布団代わりに布が床に落ちている。

 

 丁度良い。体も拭けるし、服が乾くまで包まる事もできる。

 

 

 牢屋の扉は開いており、中の布をすべて取ってその部屋を後にする。

 

 

 先程の階段を上って今度は施設の上を散策する。

 

 襲撃されても緊急脱出できるように窓のある部屋を探す。そこで今日は休もう。エレナもかなり消耗しており、これ以上は体に掛かる負担が大きくなる。

 

 

 エレナは左手をしっかり握って懸命についてくる。エレナを左腕で抱え上げて探索を進める。

 

 

 目当ての部屋はすぐに見つかり、すぐに休む支度をする。

 しかし、水に入り雨に濡れたおかげでびしょびしょだ。さっさと体を拭いて、そのあとはある程度服が乾くまで包まっていないとな……。

 

「体拭かないと風邪ひいちまうな。エレナ、一回脱いで体を拭こう」

 

「うん」

 

 エレナが上着を脱いでいる間、外を見るが雲行から雨は一晩続きそうだ。

 しかし、あんな化け物まで居やがるとは……。

 

 脳裏には奴の姿が焼き付いて離れない。エレナが灰域種云々言っていたが……どうやらその灰域種とは違うようだ。だが、間違いでもあるまい。あの巨人は灰嵐の中から飛び出し来たのだ。そして奴の咆哮に呼応するように灰嵐は激しさを増した。

 灰域と何か関係がある筈……。

 

 

「ユウ、体拭かないと……」

 

 振り向けばエレナが布だけ持って生まれたままの姿で立っていた。

 

「体冷えるぞ。早く包まって……」

 

「嫌、ユウも一緒じゃないとダメ」

 

 駄々を捏ねられ、仕方なくシャツとズボンを脱いで体を拭く。

 

 ちなみにパンツは絶対に脱がない。

 自分で言うのあれだが、股間にぶら下がっている俺のムスコは中々に可愛げのないモンスターだ。そんなグロテスクのモノを多感な時期が近い女の子に見せる訳にはいかない。

 だから駄々を捏ねられてもこれだけは譲れん……!(絶対にして確固たる決意)

 

 体を拭いている間にエレナはシャツもズボンも棚に掛けて干してしまい、身体を拭き終わったら手を引っ張っられ俺はそのまま布の上に座らせられ――

 

「えい」

 

 布を羽織ったエレナに抱き着かれてそのまま横に押し倒された。

 

 あ、ちょっと柔らかい感触。うんうん、成長途中でまだまだ期待だな…………ってもう完全にロリコンじゃん! だからロリコンじゃねえって言ってるダルルォ⁉

 戒めよ、戒めよ…………煩悩退散煩悩退散。

 俺だっていい年だぜ? 何考えてねん、ぺ二カスの奴らと同じやんけ。

 

 




次回はR指定の限界に挑戦しちゃうぞ 


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ぶっちゃけ男なんて出せば終わりだ。

友人A「彼女に生理来ないって言われたんやが……」
俺「だからゴムの近藤さんは準備しておけとあれ程………」
友人B「悲しいなぁ……悲しすぎて反吐が出るぜ」
俺「えぇ……なんで反吐が出るんですかね……?」

後半の会話はともかく、何事もしっかり先の事を見据えておくのが大事ですね。


「へへ、暖かい……。ん……」

 

 嬉しそうに体を摺り寄せられ、拒否る事も出来ず小さく柔らかい感触に関心を向けないように無心になる。

 EDになって良かったな。これでムスコを滾らせてしまったら一巻の終わりだ。

 

「ねえユウ。ユウは小さい時ってどんな子だった?」

 

「小さい時……あーまあ……欲がないヤンチャ坊主だったな」

 

 近所の奴と殴り合いをしたりして、乱暴なガキだと思われそうだが欲がない奴ってのは大抵大人しい性格だ。不思議ちゃんとして見られたかもしれんな。性格に関しちゃ、義父も無欲な人だったからその影響かもしれん。まあ欲と言っても力への渇望は人一倍強かったか。その人の背中を見て育った俺自身も修行だとかに学校そっちのけで打ち込んだもんだ。おかげさまでまともな教養は身についていないがな。

 

 だが強さを手に入れたかと聞かれれば……頷けないな。

 

「へえ……。ずっと優しい性格だったのかなって思ってたからちょっとびっくり」

 

「男なんてそんなもんさ。まともに生きてりゃ色んなこと経験して知らぬうちに人に優しくなれる」

 

 

「…………だからユウは……私がアラガミに近くても一緒に居てくれるの?」

 

「エレナはエレナだろ? 例え他の奴がエレナをアラガミだと言っても、俺はエレナの事は優しくてしっかり者の女の子だと思っているさ」

 

 確かにあの翼をはじめ、エレナには驚かされてばかりだが……おかげで命拾いている。

 不思議なものだ。助けに来たはずなのに逆に助けられているなんて……未だに散った戦友たちのおかげで生きながらえている事実もあり、自分が情けなくなる。

 結局誰かに助けてもらわないと生きていけないのだから。

 

「今まで自分だけ、他の人と違う感じがして寂しかった。それでも孤児院の皆や院長さんは優しくしてくれた。でも、私だけ残して皆……なんで……皆居なくなっっちゃうの……」

 

 エレナが胸に顔を埋めて震える。

 

「泣きたかったら沢山泣けばいい。俺もずっと傍に居る事はできないかもしれない。だから、今のうちにたくさん甘えてくれ」

 

「うん……ユウ。…………でも、ユウが居なくなるなんて嫌だよ。ずっと一緒が良い……。置いてかないでよ、ユウ……」

 

「ごめんな、エレナ。泣かせてばかりだな……俺は」

 

 上体を起こし、エレナを優しく抱きしめて頭を撫でる。

 

「もう、泣かないよ。だって、ユウの好きな人はしっかり者だから……いつまでも泣いたりしないよ」

 

 涙が頬を伝っているが、それでも笑いながら言う。

 

「そうか、立派だな。でも……無理しなくていいんだ」

 

 確かに好みのタイプは優しくて一途でしっかり者だ。だが、この条件が絶対という訳ではない。そこまで求めていたら相手何て見つからないさ。人生妥協が大事だからな。

 エレナは頑張り屋だが、そこまで無理して欲しくはない。

 

「んん……」

 

 エレナが体を摺り寄せてきて暖かい。素肌同士だと小恥ずかしいものがある。

 

 

「ユウ、良い匂い……」

 

 胸に顔を埋め、頬を擦り付けながら嬉しそうに言うエレナ。

 そして今まで感じなかった熱が再び襲って来る。今までの比にならない位の熱さでそれを押し殺してエレナを優しく抱きしめる。

 

「…………っ」

 

 酷い熱さだ。頭がクラクラして意識を保つのが難しい。

 エレナからも良い匂いがして、熱さは衰えることなく襲って来る。

 

「ん……凄く熱い。えへへ、なんだかユウと繋がってる気がする。同じ気持ちでいるのが嬉しい」

 

「そうか、エレナも同じか。どうしちまったんだろうな、俺達2人揃って」

 

 苦笑いしてエレナの頬を撫でると手を掴まれて頬擦りされて、指を咥えられて指先を舌で撫でられる。

 

「んん……ぅ……。ごめんね、ユウ。熱いのは……私のせい」

 

「……いや、でも……」

 

 俺はエレナに何もされていない。いや、もしかしたら裸のエレナを抱いていた時……。

 

 

「ユウ、私ね。普通の人よりもアラガミに近いんだよ?中に居るアラガミもユウの事が大好きだから……欲しいの」

 

「そうか、モテモテだな俺」

 

「ユウ、怒らないの? 私のせいで、ユウは熱くて苦しいのに……」

 

「確かにちょっとやりすぎかもしれないが、ちゃんと謝ってくれたんだ。それに女の子に好きになって貰えるなんてこれ程嬉しい事は無いからな」

 

 

「もう、優しすぎるよ……。大好きじゃ……済まないよ、ユウ……」

 

 エレナに口づけされて、熱も激しくなって何とか耐えるが呼吸も荒くなってエレナを抱きしめる力が強くなる。

 

「へへ……ユウ、顔真っ赤だよ?」

 

 そう言うエレナも顔を赤くして呼吸を荒くしている。

 

「エレナも真っ赤だな」

 

「うん、ユウの事大好きだもん。大好きな人と肌をくっつけて抱きしめてもらえるなんて凄く嬉しいんだよ?」

 

「ははっ、そうか。俺も嬉「ん……」」

 

 口を口で塞がれ、次の瞬間にはエレナの舌が入ってきて舌と絡んでくる。

 何回も唇奪われればもう流石に動じないさ。

 それに、もう拒否ったら駄目だよな。ちゃんと受け入れてやらないと……女の子が勇気を出してここまでしてくれるんだ。

 

 

「ん……」

 

 更に激しく舌を絡めてきた。時折水音が響き、その音を聞いて何とも言えない感情が込み上げてくる。

 

 

 うわぁ、背徳感半端ねえ……きっつ……。

 小学生ぐらいの子とディープキスとか道徳に反するとかそういうレベルじゃねえぞ……。まだ相手が好意的だから良いけど、それでも堪えるものがある。

 

 

 

理性「おい、やめろォ!これ以上は……いかん!」

 

ムスコ「うわぁ!凄まじい勢いでワイに血流がァ!ええいここは通さん。秘儀!血管収縮ゥ!」

 

 ナニィ⁉ここでムスコを覚醒させたら俺はぺ二カスと変わらない性犯罪者になってしまう。それはまずい! 耐えろォお前らァ!

 

 心の中の自分とムスコにエールを送るが、そうしている間にもエレナはキスを続けている。

 

理性「クソ、ムスコよ……耐えろォ……お前しかもう……」

 

 理性―っ!

 

 

ムスコ「く、EDの真の力を見るがいい! 最終秘儀・ベン〇ブロック!」

 

 ち、違う! 確かにブロックだけどそれは違うよ!

 

 

血「無駄な足掻きを……ブロックやめーや」

 

ムスコ「グああああ⁉ もう無理ですーああああああもう終わりだぁー!滾ってきたわァ!」

 

 ムスコーっ!

 

 

 ああ、終わったな……何もかも終わった。ムスコが真の姿になってしまった。力を開放したムスコが布越しであるがエレナに存在を主張する。

 

 

(悲報)ワイ、ついに性犯罪者になってしまう。

 

 

 

「ぁ…………ユウ……えっち」

 

「oh……」

 

 キスを終えたエレナがしおらしく言い、俺は罪悪感と背徳感に頭を抱えた。

 

「でも嬉しいよ。ユウが私の事を女として見てくれたってことでしょ?」

 

 嬉しそうにしているところ大変申し訳ないが、体裁的に大変よろしい事ではないんだなこれが。ただ歳の差があるならいいさ。でも君は社会的に言えばまだ幼いんだ。そして俺はいい年――つまり物事に対して十分に分別のある年齢なんだ。

 そんな奴が幼い子に性的興奮を覚えるってあってはいけないことなんだよ。

 

 

 

「あのねユウ。私ね、ユウのお嫁さんになる」

 

「いきなり逆プロポーズとはたまげたなァ……」

 

「料理とかはまだできないけど、練習してできるようになる。それに、もう赤ちゃんだって産めるよ?」

 

「あの、エレナさん……?」

 

 ちょっと話が飛躍しすぎでは……。

 

「ユウ、赤ちゃん作ろ?」

 

 頬を紅潮させたエレナに再び押し倒され、そのまま両手を押さえつけられた状態で口づけされ、再び口内を舌で蹂躙される。

 

 

「ンん……ハァ……ユウの胸、ドクドクしてる。私も一緒だよ? ユウと繋がりたい、ユウの赤ちゃんが欲しい。ユウ、私をお母さんにして?」

 

 遂にエレナの手が俺の腰回りに迫り、何とか押しのけようとするも体を襲う熱で力が上手く入らず、抵抗もできずに最後の封印が解かれてしまう。

 

「わぁ……おっきい……」

 

 エレナにまじまじと見つめられ、そして体を密着させてくる。

 

 

 ヤバいヤバいヤバいって……!

 なんとか、何とかしなければ……。このまま流されたらバッドエンドや!いやエレナにとってはハッピーエンドかもしれんが俺からすれば完全にバッドエンドだ!

 くそ、この期に及んで力づくができないあたり俺もとことん甘い男のようだ……力づく以前に腕を押さえられて身動きがとれんがな!

 

 誰か……あ、そうだ。さっき義父が物理干渉して俺を正気に戻してくれた。義父なら物理干渉して助けてくれるはずだ……。

 

 

 義父さん助けて――――――――! 

 

 

 

 

 

 義父さん―――――!

 

 

 

 

 

 

 心の中で助けを呼ぶ。…………返事がない。見捨てられたようだ。

 

 

 

 

「……? お父さんになるのはユウだよ? ん……」

 

 ナチュラルに心を読まないでくれ。

 

 

「お腹……熱くて、疼いてる。元気な赤ちゃん産むからね。でも、女の子が生まれたらユウが大変かな……」

 

「一体何が大変なんだ……仮にできたとして。確かに俺は男だから女の子の気持ちなんて分からないがな。そもそも子育て自体大変だから性別が云々じゃないと思うんだが……」

 

「だって、私の子だもん。絶対ユウの事をお父さんじゃなくて男の人として好きになるから襲われちゃうよ?」

 

 

「………………………………」

 

 

 それマジでアカン奴ッ――――――――!‼!‼! って襲われる前提で言うなし……。

 

 じょ、じょ冗談じゃねえ! 近親はマジでアカンって! 業が深すぎるぞ!?

 

 

 何としてでも最悪の結果だけは阻止しなくては……! 

 

 

 どこがとは言わないが……ぬるっとした感覚を感じ、必死に抵抗を試みるがそれより早く両手首を握られて完全に封じられる。エレナは口元を釣り上げて嬉しそうな顔をする。

 

「ん、準備できたよ。ユウ、滅茶苦茶にしてあげるね?」

 

 ああ、とても可愛らしい笑みである。だが、俺から見れば凶悪である事この上ない笑みではあるが。

 イヤだ―怖すぎィ! もうホント無理無理無理無理無理無理無理!

 

 

 エレナが腰を浮かせた。

 頬を紅潮させて息も荒く、両手を握る力も強い。絶対に離さない、逃がさないと言わんばかりの力だ。金色の瞳は焦点が合っていないように見える。

 

「今は赤ちゃんの為に交尾する雄と雌で、私たちは番だよ? へへ、元気な赤ちゃん産むからね」

 

 いかん……や、ヤられる……! こ、このままでは……このままでは……!

 だが抵抗もできなければ、自分はEDであると思い込むことによって実際にEDを発症させると言った芸当も最早意味をなさない……ああ、もういっそ……このまま天井のシミを数えておくか……。

 

 

 

 いや、まだ……まだだ……! まだ終わっちゃいねぇ!

 

 落ち着け、チャンスはまだ……!

 

 

 

「ユウ、ジッとしててね」

 

「え、あ……」

 

 

 クチュ――

 

 煽情な水音が聞こえ、触れ合った。どこがとは言わないが。

 

 

「ん…………ぁ、滑っちゃう……」

 

 (;・д・)…………。

 

 

「ぁん……もうちょっと……先の方、ん……」

 

 

 (;゚д゚)…………。

 

 

 

「ん、ユウ。今日ね……赤ちゃんの日だよ。だから、一杯シよ……?」 

 

 

 耳元で囁かれ、耳たぶを甘噛みされて驚き身を硬直させたとき――

 

 クチュッ――

 

 水音と共に、遂にその時が来てしまった。

 

 

「へへ、捕まえた。もう逃げられないよ? はむ……ン……」

 

 

 \(^o^)/

 

 

 舌を絡ませながらエレナはゆっくりと腰を下ろしていき、今まで感じたことのない感覚に包まれ始める。

 

 

 

「え、エレナ! ちょっと待ってくれ!」

 

「ふえ?」

 

 何とか口を離してエレナに待ったをかける。

 

 こうなったら、ヤケクソだ……! 成功しても失敗しても恨みっこなしだ! だが、もし失敗したら俺自身を憎しみで殺す……!

 

心の中の俺「恨みっこ有りやんけ」

 

 

 とにかく説得を試みる!

 

 

 

「実はだな!出産って滅茶苦茶痛くてだな!それこそ男がもし出産の痛みを体験すればあまりの痛みにショックで死ぬくらい痛いんだ!いくら赤ん坊ができるって言っても今のエレナじゃ負担も大きいし、何より命の危険だってある!エレナもお腹の中の子どもも危ないから今はまだ早いと思うぞ⁉何より、まともな医療も受けられない状況じゃ猶更危険だ!今のエレナもあまり健康状態は良くない。そんな状態での妊娠は流産だとかの可能性が大きいし、それは何よりエレナが辛い思いをするだろう。一番つらいのは他でもないエレナとお腹に宿った子どもなんだ」

 

 ぶっちゃけ男なんて出せば終わりだからな。過ちを犯し、取り返しのつかないことになると苦労するのはいつだって女の子だ。

 

 

「…………赤ちゃんも、危ない…………」

 

 エレナがお腹に手を当てて考え込む。

 

「そうだ、エレナをそんな危険な目に遭わせたくは無い。だから、エレナが大きくなったら……その時エレナが俺の事をまだ好きでいてくれたら結婚しよう。その頃には俺はとっくにおっさんだと思うけど、ずっと待ってるからさ!」

 

「ユウ…………うん」

 

 エレナの握る力が弱まり、腰を離してムスコを開放すると腹部に跨る。

 俺は安堵して体から力が抜ける。

 

 ふー助かったぜェ……。マジで子供産むのって命がけって言われてるからな……一時の感情で取り返しのつかないことになり、更に最悪の結果になってしまったら心に酷い傷を負うのは明白。そんなことを認める訳にはいかない。

 それにしても我ながら見事なマシンガントークだった。だが、これでまた1つエレナに酷い嘘をついてしまった。

 

 

「でも約束だよ? 絶対ユウのお嫁さんになるから、ずっと待っててね?」

 

「ああ……勿論だ」

 

「もし、他の人に靡いたら……滅茶苦茶にして私じゃないとダメな体にするからね?」

 

「あ、ああ」

 

 しかし、エレナはそのまま俺の手を掴んで自分の胸に当てた。

 柔らかい感触、そして掌の真ん中には少し硬いものが当たる。

 

「あの…………エレナ……さん……?」

 

「赤ちゃんは作れないけど、一緒に気持ち良くなろ? はむ……」

 

 エレナのもう片方の手がムスコへ伸びていき、柔らかい手の感触を感じると同時に口づけされて舌同士が絡み合う。

 ああ、結局こうなるのね……。いや、逆に考えるんだ。大きな過ちを犯すよりかは遥かにマシだ。

 

 

「ンッ、……大好き。もっと、シよ?」

 

 

 

 そして窓の外が暗くなるまで、エレナと慰め合った。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 ああ、これが賢者タイムの更に先をいく賢者タイムか。1人でぶっこいた時以上に重い。

 

 横になってエレナと抱き合い、気怠さと精神的な圧に悩まされる。

 一方エレナは満足そうな顔で胸に頬を摺り寄せている。

 

「ユウ、もっと……」

 

 エレナがまた口づけをしてきた。当然ディープキスである。

 何回目のキスだこれ……。ここまでくれば完全にキス魔だぜ、エレナさん……。

 

 

 この背徳感の重さよ……。はぁ、マジかよ……。

 いや、本番に至らなかっただけまだ良いよな……。これでやっちまったらもう背徳感や罪悪感なんて今の比じゃなないだろう……。

 

 

「んん……。ユウ……ん」

 

 キスを終えたかと思うと、更に足を絡ませて体を摺り寄せてくる。

 やべ、身体が熱くなってきた。このままじゃ歯止めが利かなくなる。まだ気怠さの方が勝っている、もう寝ちまおう。そうすればこっちのもんだ。

 

「エレナ、もう休もう」

 

「うん。あ、手繋ご?」

 

 片方の手でエレナの手を握り、もう片方の腕をエレナの背中に回して優しく抱きしめて目を閉じた。

 

「ぁ……。ふふ……」

 

 

 嬉しそうにエレナも腕を俺の背に回し、体を更に密着させた。

 




親戚「この前無事出産したんだ~」
俺「おめでとナス!」
親戚「んでつい先日奥さんが2人目妊娠したんだ~」
俺「早すぎィ!」

歳の差約10か月差の兄弟ではなかろうか。


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やめないか!

レゾナントオプスも遂にサービス終了ですね……。スタッフの方々、お疲れ様です。
まあ、自分はやってないんですけどね……。



 

 

 

「…………………………」

 

 

 目を覚ましたのは良いが……エレナはまだ眠っている。昨日色々あったからな……。

 エレナがしっかり抱き着いているので起こしてしまうのも申し訳無く、身動きが取れない上に昨日の件のせいでエレナを意識してしまう。

 意識している女の子と裸で抱き合うなんて男にとってはこれ以上にない興奮剤である。

 

 

 このまま起きるのを待つか。

 

 

ムスコ「自分、覚醒いいっすか?」

 

 やめないか!

 

 

 

「ん、ユウ?」

 

 エレナが目を覚ました。

 

「ああ、おはよう。エレナ」

 

「うん。おはよう」

 

 挨拶を交わすとエレナは早速と言わんばかりにキスをして舌を絡めてくる。

 昨日散々受け入れて、今更拒否るなんてできる筈がないのでただ受け入れるしかない。

 

「はむ、んん……。ふふ、ユウ」

 

 嬉しそうに体を摺り寄せてくる。

 依然として体に熱が襲い掛かってくる。熱を振り払うようにエレナを抱えて起き上がり、無理やり頭に残る気怠さも払いのける。

 

 

「エレナ、服を着よう」

 

「うん」

 

 立ち上がって服を着て、エレナも制服の上着に袖を通す。

 

 布を1枚持っていくか。1枚あれば寒さもある程度防げるので便利だ。エレナの体を冷やすわけにはいかない。

 

「エレナ、布を一枚持っていきたい。巻いても大丈夫か?」

 

「うん。いいよ」

 

 布をエレナの腰に巻きつけ、出発の準備を整えエレナを抱き上げて部屋を出て、階段を降りつつ周囲を警戒して明かりが差し込む出口へ歩く。

 

「ユウ、自分で歩けるから大丈夫だよ?」

 

「俺がそうしたいんだ。気にするな」

 

 

 外へ出ると、相変わらず灰は舞っているが、お天道様は陽気に世界を照らしている。いいなぁ太陽は陽気で……。

 

 

 歩き始めると、エレナが話しかけてきた。

 

「ユウ、どうして名字を言わないの?」

 

「ん? ああ、まあ……俺って養子だしな。それにもう家族も居ないし、勝手に名乗るのもな……」

 

 そういや、誰も俺の名字云々なんて気にしなかったよな。まあ、俺も全然気にしなかったからアレだが。

 

 

「結婚したら困っちゃうね。名字が無いと私がユウのお嫁さんって証明できないもん」

 

「はは、確かに。名字が無いと不便だな」

 

「後どれくらい大きくなったら赤ちゃんを産んでも大丈夫かな?」

 

 唐突だな……。なんか性格が俺寄りになってないか……?

 しかし子どもねぇ……。昨日あれだけ赤ん坊が欲しいなんて言ってたからそりゃ気になるか……。

 

「あーそうだな……」

 

 まあ、20代が安定してるんじゃないのだろうか。経済力的な問題は置いておいて。

 もし子供が出来たらギャンブル何てできないな。酒も煙草もできないだろうし、護らなければいけない存在も居るし、男もプレッシャーヤバいだろうなァ……。

 育児ってのホントに大変なんだろうな。あのご時世でよく俺を養子として引き取ってくれたもんだよ、義父も義母も。

 

「20代くらいが良いんじゃないのか? つまり早くて後8~10年だな」

 

「そっか……うーん。待ちきれないから、私から襲っちゃうかもしれないなー」

 

「勘弁してくれ」

 

「へへ、冗談。でも赤ちゃんが欲しくなったら……いつでもいいよ? 頑張って元気な子を産むから……」

 

「良い嫁さん候補を持って俺は幸せ者だな。友達に自慢してやりたいもんだ」

 

「候補じゃないもん、絶対お嫁さんになるよ。今だってお腹はユウの赤ちゃんが欲しいって疼いてるもん」

 

「そ、そうか。それにしても結婚か。縁のない話だと思っていたから何ともな……」

 

「私ね、結婚したらしたいことが沢山あるの」

 

「へえ、何がしたいんだ?」

 

「ユウに手料理作ってあげて、赤ちゃんにもミルクをお腹いっぱいあげたいの。あ、あと赤ちゃんが寂しくないように2人は欲しいかな。いっぱいミルクを出さないといけないからユウ、一杯ミルクが出せるように沢山揉んでね?」

 

 そう言って俺の手を掴み、自身の胸に持ってきて柔らかい感触を感じて咄嗟にエレナから目を逸らす。

 

「あ、照れてる?」

 

 笑いながら聞いてくるエレナ。とても嬉しそうに笑っている。

 

「それは俺が揉まないとダメなのか?」

 

「うん。揉んでる内にユウもエッチな気分になって、襲ってもらえるかもしれないからね。そしたらしっかり抱き着いて一番奥で……ね?」

 

 時たま襲ってくる熱や火照りに呑まれたら冗談抜きでエレナを押し倒してしまう可能性があるので何としてもそれは避けねばなるまい(鋼の意思)

 

「あとは……家族で色んなところに行ってみたいかな」

 

「このご時世じゃ厳しいなそれは……」

 

 

 楽しそうに未来の事を話しているエレナを見ていると、辛くなる。

 

 近いうちに死ぬってのに、覚悟が出来なくなる。

 この子にとっての幸せや願いはきっと俺では叶えられない。俺にできる事は如何に悲しさや寂しさを軽くできるかだ。

 そう考えれば、エレナの想いに応えるのが一番なのかもしれない。だが、俺が死んでもエレナの道はこれからも続く。責任も取れないくせに体を重ねるだなんて出来ない。

 

「ユウ、その……偶にでいいから……昨日みたいにしたい」

 

「昨日みたい?」

 

「うん……。肌をくっつけて、ちょっとエッチな事したい。昨日ね、凄く嬉しかったんだよ?やっと、想い合えるようになったから」

 

「そ、そうか……」

 

「あ、あとね? お風呂で洗いっこもしたい。背中だけじゃなくて、向かい合って」

 

「ええ……それは流石に恥ずかしいんだが……」

 

「昨日裸で一緒に気持ち良くなったのに?」

 

 揚げ足を取られる。なんだか今日のエレナは凄い攻めて来る。

 

「好きな女ってのは……特別なんだよ。あらゆる意味でな」

 

「……ッ! うん!」

 

 本当にエレナは俺の事を…………。

 ああ、マジで堪える。隠し通すのがこんなに辛いとは……。

 戦争で散々相手の命を奪っておいて何言ってんだって話だが、戦争とはそうしなければいけないものだからって理由があった。だが、エレナに関しては俺には正当性もクソもない。

 最初から優しくなんてしないで、すぐにまともなミナトに連れて行ってやれば結果は変わっただろうか……。はは、こんな思考する時点で男として終わってるな自分。

 ほんとにどうしようもねぇわ。

 

「ユウ?」

 

「…………エレナ、俺は酷い男だ。きっとそのうち分かる。だから……」

 

 俺が消えたら、忘れて欲しい。そう言葉を紡ごうとしたら、エレナの手が強く上着を掴んだ。

 

 

「嫌。そんなの絶対にダメ。ユウ、それ以上は嫌だ。聞きたくない」

 

 エレナが手を離して、地面に立って俺の前に立つ。

 普段の優しい顔とは打って変わって、真剣な表情。そして、空気が張り詰めていくのが感じた。

 

 エレナの背中にオラクルが収束して、それは大きな翼となり、更に形を変えてシユウ種とよく似た翼手に形を変えて、オラクルの翼手は俺の肩を掴む。

 

「ユウ、それ以上言ったら……押さえつけて無理やりにでも私と契らせる。私が居ないと生きていけない体にする。だから――」

 

 金色の瞳は本気だと物語っていた。

 エレナが寄ってくる。翼手が無理やりにでも俺をしゃがませようと力を込め、抵抗もできないので大人しくしゃがむ。

 

「そんな事言わないでよ、ユウ……」

 

 エレナは暗い顔をして俺の頬に手を添える。

 添えられた手は震えており、震えを止めるように右手をエレナの手に添える。

 

「ごめんな」

 

「うん、良いよ。旦那さんの事を許してあげるのが、良いお嫁さんだもん」

 

 そう言って抱きしめられ、少し柔らかい胸に顔が埋まる。頭を優しく撫でられ、それがとても落ち着く。

 

 

 

 エレナに感謝を伝え、彼女は嬉しそうに笑う。気を取り直して歩きだす。

 手を彼女の小さな手に握られ、しっかり握り返すと頬を摺り寄せてくる。

 

 そうだ、もう長くは無いが……それなら、一生分の愛情を注ごう。きっと、それが一番の最適解だ。

 

 

 

 

 

 

 暫く歩くと、規模の小さい市街地が見える。

 幾分か灰が濃いがあの程度なら問題は無いだろう。あれ以上の場所を今まで何度も通ってきた。

 

 

 市街地に入り、どこかで休憩を取ろうと思い良さそうな場所を探す。

 

 …………人の気配……?エレナと良く似た気配だから、AGEか?

 だが1人しか察知できない。こんなところで何を……?

 放浪者…………いや、ただこの市街地に任務で来ているだけか。エレナのように特別な事情があるなら放浪者でも頷けるが…………。

 

 とにかく接触するのは避けないとな……。

 

「ユウ、向こうから人が……」

 

 エレナの示した先を見れば、布に身を包み、頭も隠している人間がこちらに向かっていた。

 その者の手には神機を保管するケースが握られ、神機使いであることは確定が、あいつはAGEではない。左腕に腕輪は見受けられない。

 この世界にもユウナやソーマのように特別な事情をもつ奴が居るのだろう。

 

 奴もこちらを視認しているが、武装することなくそのまま近づいてくる。近づけば近づくほど分かる。奴も紛れもない強者だ。バランで一戦交えたゴウよりも強い気配を感じる。あれこそ正に歴戦の猛者であるだろう。

 

 冷静に分析する一方で焦る。もし奴と一戦やるのなら、エレナを守りながら戦うことになるが、それは今までの戦いで困難を極めるだろう。

 

 

 

 そう考えている間に奴は近くまで来た。体格の良さから男性か。左目から首にかけて痛々しい傷跡がある。

 隻眼――片目が見えないのは戦闘においては不利だが、最近できた傷ではない。つまりそんな状態にも関わらずこの世界で生き残っている事が強さの証明でもある。この男、一体……。

 

 

 男が俺の顔を見た瞬間、その顔に動揺が走ったように見えたが、すぐに男は表情を元に戻して口を開いた。

 

 

「名を訊ねたい。聞かせてくれないか」

 

 聞き覚えのある声……?

 

「ユウだ。この子はエレナ。あんたは……?」

 

 男は頭を覆う布を下げ、その顔は俺の知る男によく似ていた。

 

「済まない、名乗るのが遅れた。アインだ」

 

 

 男は俺の頭に浮かんでいた名とは異なる名を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 アインに敵対の意思がないようで、俺たちは屋内に入り腰を下ろして話に耽っていた。

 エレナもあまり警戒しておらず、この男も好意的なのが話し合いに興じる決め手だった。

 アインからも興味深い話を聞けた。まず、ここは欧州である事。そして灰域の発生やミナト、今現在で脅威になっている灰域種と呼ばれるアラガミについても聞くことができた。

 

 聞けばこの男、辺境にあるミナトのオーナーらしく、とにかく知識が豊富だ。

 

「凡そ検討はついているようだが、バランはお前達を探している。数日前に、手配書が提示されている」

 

「やっぱりか。となれば、逃げ道が限られるな」

 

 さて、どうするか……欧州全域にバランの手が回っているのと同じだな。欧州を脱出すれば済む話だが、そうも行かない。灰域は世界中で発生しておりその中をなんの目印も無く彷徨うのは自殺行為に等しいらしい。そんな自殺行為に等しい事を今までやってきて生きているのは余程運が良いのか、とにかく戦友たちの加護に感謝だな。

 

 

 

「…………お前たちが良ければ、俺のミナトで受け入れよう」

 

「おいおい、犯罪者扶助だなんてまずいだろう?」

 

 この男、何故ここまで好意的なんだ。怪しいとは言わないが、ここまでするメリットがあるのか……?

 

「俺のミナトは少し事情が違う故、余所から文句は言われない。それに、こちらとしては提案を受けて欲しい。お前も、あまり時間は無いはずだ。偏食因子の調整をしていないだろう?」

 

「………………確かにな。だが…………」

 

 

 従来の神機使いでも調整した偏食因子があれば灰域内でも活動は可能らしい。俺には戦友たちの加護があるが、それがいつ効力を失うのか分からない以上、残された時間は少ないと見積もって間違いない。

 

 

「どうしてそこまで肩入れしてくれるんだ?」

 

 当然の疑問をぶつけるが、アインは黙った。いや、言って良いべきか迷っているようにも見受けられる。

 

 

「…………戦友に良く似ているから。と言うのが本音だ」

 

「戦友?」

 

「ずっと昔の話だ。ある男に恩ができてな。今となっては返すことのできない、質の悪い恩だが」

 

 返せないなら、そいつはもう居ないのだろう。それにこのご時世、大方予想はつく。

 

「…………戦死か」

 

「ああ、忘れもしない。情けない事に手酷くやられてな。転がってる間に、その男が片を付けた。代償か、奴は物言わぬ帰還を果たした。ただ後悔した。たった1人で誰も届かない場所へ逝きやがった」

 

「そうか、残されるってのはつらいもんだな。俺も散々置いて行かれた故、ある程度理解はできる」

 

 言葉を紡ぐと、エレナが腕を抱きしめる力を強くした。アインが戦死した男は『たった1人で』っと紡いだ瞬間、手を握りしてめもう片方の腕で俺の腕を抱きしめた。

 エレナを安心させるために頭を撫でる。

 

「ふ、随分懐かれているようだな。その子の為にも、提案を受けてもらいたい」

 

 俺達を見ながらアインは軽く笑い、言葉を紡ぐ。この男も中々策士だ。エレナの為と言えば、俺が応じるのを分かった上で言い方を変えたのだろう。

 

「俺も、アンタによく似た男を知っている。そいつとはあまり関りは持てなかったが、仲間思いの良い奴である事は確かだった。あいつには、生き残って欲しいものだ」

 

「そうか、近くに舟を停めている。連絡を取り次第、出発しよう」

 

 アインは俺の言葉を聞くと、片目を一瞬だけ見開いてすぐに元に戻し、通信機を取り出して連絡を取るために外へ出て行った。

 

 

「アインさん、ユウの事を見ると悲しそうだった。そんなに似ていたのかな?」

 

「どうだろうな。だが、このご時世だ。似ている人間を見ると、そうなっちまうんだろう」

 

 

 連絡を追えたようでアインが外から戻ってきた。

 

「待たせたな。案内しよう」

 

 アインがケースを担ぎ、俺もエレナを抱き上げて外へ出る。

 

 

 

 直後に危険を感じた。

 

 アインも危険を察知したようで共にその場から飛び退くと、俺たちが出てきた建物は紫色の炎に飲み込まれ、熱気と衝撃波に襲われ、エレナを庇うように抱きしめる。

 

 

「厄介な奴が来たようだな……」

 

 アインの言葉と共に熱気と衝撃波は弱まり、燃える残骸の上に座するように見たことのないアラガミが降り立つ。

 

紫色の球体に座り、鳥の顔をしたアラガミ……。こいつはただのアラガミじゃない。昨日、灰嵐の中から飛び出した雷を駆使するあの巨人のようなアラガミとほぼ同じか……。

 それに紫の炎とは、また珍しいものを見てしまった。

 

 

『COOOOOOOOっ!‼!』

 

 

 

「灰域種……いや、変異種か……!」

 

 こいつは危険すぎる……だが、恐れる訳にはいかない。エレナを守る為なら、どんな敵が相手でも喰らい付いて噛み殺すまでだ。

 

「来るぞ!」

 

 アインの言葉と共に奴は襲い掛かってきた。

 




オンラインがコンシューマーゲームで発売していたら絶対に購入したと思いますね。
ぶっちゃけバリバリのアクションゲームをスマホでやるのは操作性等の問題で個人的に嫌でしたので。
なんでスマホなんだ……バンナムさんよォ……。


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悪いがここでお別れだ

ダスティ・ミラー設立って時系列的にどの辺なのだろうか……。


 

 

 襲い掛かってきたアラガミの攻撃をアインと共に跳び退いて回避し、エレナがオラクルを集めて剣を作ってくれた。

 

 着地してエレナを下ろし、剣を構える。

 アインもケースから神機を取り出して構えた。

 

 

「……………………」

 

 アインの神機を見て偶然とは恐ろしいものだと驚く。奴の神機はソーマの得物とよく似ている。同じ旧型神機、違うのは色合いだけか。だが、今は奴に集中しよう。

 

 

 アラガミの両手に紫色の炎が集まって球体となる。

 

「ユウ、灰域種の攻撃は一撃一撃が致命傷になる。防戦を心掛けろ」

 

「了解。そっちも無理するなよ!」

 

 アインの忠告を受け取り、剣を構えるとアラガミは突っ込んできた。

 

 距離を詰めると共に腕を振ると、手に掴んだ球体が炎を噴きだして辺りを薙ぎ払われる。

 何とか凌ぐが、奴は攻撃の手を緩めることなく仕掛けてくる。

 

「ッ!」

 

 奴の頭上からアインが神機を振り下ろして、肩へ斬撃を叩き込む。奴はアインへ攻撃を仕掛けるが咄嗟に装甲を展開して防ぎつつ地面へ着地する。

 

 アインへ連続攻撃を仕掛けようとする奴に接近して背後を斬りつけるがすぐに奴は跳び退いて両手の炎球から幾つもの火の玉を飛ばし、俺はその場で火の玉を切り払いつつ後退する。

 アインが俺の目の前に飛び出すと共にチャージクラッシュを繰り出し、凄まじい衝撃波を飛ばす。

 

 今までベテランのバスターブレード使いは何人か見たが、アインのそれは群を抜いている。流石は歴戦の猛者と言ったところか、心強い事この上ない。

 

 衝撃波が火の玉を飲み込みつつ、アラガミへ迫るが奴もも炎の出力を上げて熱線を繰り出して衝撃波とぶつかり合う。

 

 一気に奴との距離を詰めて跳び、奴の首を斬りつけると態勢を崩し、俺はアラガミを足場にしてすぐに跳んで離脱してチャージクラッシュの衝撃波から退避する。

 

 土煙が舞い、まだ煙の中で紫の炎は揺らめている。

 

 アラガミが雄たけびを上げると、土煙は吹き飛ばされる。

 

「流石は灰域種か……しかし妙だな。捕食攻撃を行わないとは……」

 

 アインが冷静に分析する傍ら、奴を睨みつけて構えたまま備える。

 

 

「ユウ、あのアラガミ。なんか変」

 

「変?」

 

「普通のアラガミとは違うけど、なんでかは分からない……」

 

「警戒は怠るな。一度の被弾が命取りになる」

 

 

 アインの忠告を素直に受け、構え直す。

 

 

『COOOOOOOOッ!‼!』

 

 アラガミが炎球を投げつけてきたが、アインは背に神機を構えて装甲を展開しつつ受け止めてそのまま流れるように神機を振り上げて炎球を弾き返す。

 

 弾き返された炎球を掴んで奴は再び接近してくる。エレナを下がらせ、アインと共に散開して奴を囲む。

 

 奴がどちらかに攻撃を仕掛ければ仕掛けられた方は凌ぎ、その隙にもう片方が背後から叩いて奴と渡り合う。

 

 奴がアインへ攻撃を仕掛けると、背後から斬撃を入れようと剣を振ったが奴の体は炎と共に消え、気配も感じ取れなくなった。

 

 

「…………!」

 

 

 困惑していると頭上から気配を感じ、跳び退くと奴の腕が俺が先ほどまで立っていた地面に叩きつけられた。

 

 瞬間移動……⁉ 冗談だろう……!

 

 信じられないが、奴は確かに……。そう思った矢先に奴は再び姿を消した。

 

「っ!」

 

 次はアインの背後に現れるが、即座にアインは振り向きつつ神機で防いだ。

 

「そのまま!」

 

 地面を蹴って突きを攻撃を繰り出すが、もう片方の手で受け止められた。そのまま弾き返されてアイン共々吹き飛ばされるが受け身を取って着地し、すぐに構える。

 しかし、奴は再び姿を消した。

 

 次はまさか……!

 

 エレナの元へ駆けると、奴は予測通り姿を現してエレナへ襲い掛かるがギリギリでエレナを抱きつつ、剣を振って攻撃を弾きながら跳び退く。

 

 更に追撃を仕掛けようとする奴の動きが止まった。

 

 

「やらせん……!」

 

 アインが神機を捕喰形態へ変形させ、捕喰口を伸ばしてアラガミに喰らい付かせて引っ張って動きを止めていた。

 

「ハァ!」

 

 アインがアラガミを引っ張ってそのまま地面へ叩きつけ、高く跳んで上空から神機を振り下ろすがアラガミも咄嗟に腕に炎を纏って盾に防ぎ、アインの神機と奴の腕の間から火花が散る。

 

 エレナを下ろして剣を左腰に備えて居合の構えを取り、一呼吸おいて一気に接近すると共に剣を振り抜いた。

 

 アラガミの腕を切り落とし、それまで抑えていたアインの攻撃が直撃する。

 

『COOOOOOOO!』

 

 悲鳴と共に姿を消し、俺達から距離を取った場所に瞬間移動で逃げた。

 腕から血ではなく、紫色の炎が噴き出して奴は先のない腕を押さえながらこちらを睨みつけてきた。

 そしてその場に斬り落された腕が炎となって消え、次の瞬間には奴の腕は再生していた。

 

「再生……」

 

「厄介な能力を……」

 

 再生能力があるなら耐久力も半端ではないだろう。この戦い、長期戦になるぞ……。

 

「再生能力を持つ以上、これ以上の戦闘は避けるべきだ。他のアラガミが集まってきたら一気に不利になる」

 

「同意見だ。だが、隙を突くのも一苦労だぜ……あのアラガミは」

 

 

「奴に一撃を放つ。その間に全力で撤退する」

 

 アインはそう言って神機を構え、刀身にオラクルを凝縮させる。凝縮されたオラクルに更にオラクルが集まり、限界まで凝縮されたオラクルは青い光を放つ。

 この一撃を打てば確かに目くらましにだってなる。もし直撃すれば奴もただでは済まないどころか一撃で粉々に吹き飛ぶのかもしれない。

 

 

「エレナ、おいで。しっかり掴まってろよ」

 

「うん!」

 

 

「行くぞ、喰らえ!」

 

 

 アインが神機を振り下ろすと先ほどとは段違いの衝撃波が飛び、辺りを破壊しながらアラガミへ迫る。衝撃波にアラガミは飲み込まれ、それを確認してすぐにアインと共に走り出して市街地の出口へ向かう。

 

 

 

「ユウ、まだ追ってくる!」

 

 

 エレナの警告と同時に目の前に先程のアラガミが姿を現した。

 

 

「しつこい奴め……」

 

『GAAAAAAAAAッ!』

 

 雄たけびを上げ、炎を纏って突撃を仕掛けてきた。

 

 跳び退いて着地してエレナを地面へ下ろして剣の切っ先を向け、アインも神機を構え直して奴の出方を窺う。

 

「エレナ、隠れてろ」

 

「う、うん」

 

 アラガミは巨大な炎玉を作り出し、空へ掲げると炎玉から幾つもの火の玉が放たれ、散開して攻撃を躱しつつ接近する。

 

『GUUUUUUUッ!』

 

 アラガミが業を煮やしたのか更に攻撃は激しくなり、アインが目の前で装甲を展開して炎弾を受け止める。しかし、激しさを増す攻撃に徐々にアインが押され始め、背を押して堪える。

 

「ユウ、炎は斬れるか?」

 

 アインが冷静に問いかけてきた。

 

「朝飯前だ」

 

 

「ふ、そうか。なら時間を稼いでくれ」

 

 アインは不敵に笑い装甲を閉じ、すぐさまアインの前に躍り出て迫る炎弾を剣を振って掻き消し、背後でオラクルの凝縮を感じながらひたすら剣を振り続ける。

 

 炎弾を掻き消し続けていると、オラクル弾がアラガミへ飛び、巨大な炎玉に着弾すると共に爆発を巻き起こしてアラガミは突然の爆発に怯んだ。

 弾が飛んだ方向を見るとエレナが両手を翳していた。

 

「ナイスだぜ、エレナ」

 

 褒めると嬉しそうに頷き、すぐに向き直って突きの構えを取って地を蹴る。

 アラガミの胴体に剣を突き刺した直後にそのままアラガミを足場にして宙へ跳び、脳天目掛けて剣を突き刺す。

 

『GYAAAAAAッ⁉』

 

 アラガミが悲鳴を上げて地面へ倒れて暴れる。

 

「下がれ!」

 

 アインの声と共にその場から離脱した直後、オラクルの衝撃波にアラガミは飲み込まれて跡形もなく消えた。

 

「急ぐぞ」

 

 アインが警戒を解くことなく促し、エレナの元へ駆けよってすぐに抱き上げ、アインの後を追う。

 

 

 

 市街地の出口が見え始め、やっと着いた矢先に紫の光で周囲が照らされ、上を見れば先程のアラガミが手にしていた紫炎の玉が幾つもこちらへ降り注いでいた。俺達を囲むように落下して周りは建物は燃えながら崩れ落ち、周囲は炎の壁に包まれた。

 

 

「っ!」

 

 

 先程のアラガミが空よりゆっくりと降下してきた。

 

「こいつ……!」

 

 冷静なアインも表情を険しくしてアラガミを睨み、奴はそんなこと知らぬと言わんばかりに炎を集め始め、こちらは身構える。

 両手に持つ炎を合わせ始め、紫炎は形を変えて目の前のアラガミと同じ姿に変化した。

 

「なっ……!」

 

「分身だと……」

 

 姿形に差異は無い。これで両方に姿を消されれば次に現れた時、どちらが本物か分からなくなる。

 

『『GYAAAAAAAAAAAAッ!‼!!』』

 

 分身と共に咆哮を上げ、ただでさえ煩い雄たけびが二重に聞こえて顔をしかめた。

 

 

 分身の方が本物よりも前へ躍り出て力を溜め始めるように周囲の炎を壁を吸収し、分身は巨大な炎の塊になり、炎の揺らめきが激しくなった瞬間、更に膨張した直後に弾け、幾つもの熱線を放出して辺りを焼き尽くし始めた。

 

「退避しろ!」

 

 アインの叫びと共にエレナを担いだまま逃げるように跳び、こちらへ向かってくる熱線を躱しつつ距離を取るが、熱線が着弾すると共に大きな爆発が起こり、その爆風に吹き飛ばされた。

 無数の熱線の内一つが無防備なこちらへ飛び、エレナを庇いつつ身を逸らすが左肩に熱と激痛が襲い、あまりの激痛に声をすら出せず体から力が抜けた。

 

「ッ…………!」

 

 空中でアインに担がれ、エレナはオラクル弾を地面へ撃って大きな砂埃を巻き起こしてアラガミがこちらを見失った隙を突いて瓦礫の影へ隠れた。

 

 

「ユウ! しっかりして!」

 

「ガ……ァ……グ……!」

 

 エレナが必死に呼びかけてくる。返事をしたいがあまりの激痛にまともに声すら出せない。肩は焼けただれ、出血も酷く赤黒く染まり、骨が見えていた。

とてもじゃないが立っていられない。今まで生きてきて何度か致命傷は負っているが、これ程の負傷は生まれて初めてだ……!

 

 

「この傷は………………」

 

 アインは肩の傷を見て何かを思い出したかのような表情を一瞬だけ見せた。

 

「ユウ、じっとしてて」

 

「っ……?」

 

 エレナが肩に両手を翳すとオラクルが集まり始め、傷が徐々に塞がり始め痛みも徐々に引いて行った。しかし、だんだんオラクルの収束が乱れ始めた。

 

「ハァ……ハァ……ゥ……痛みだけでも……」

 

 エレナが酷く疲れたような表情をして呼吸も荒くしていた。

 

「エレナ、もういい!」

 

「ハア…………」

 

 しかし、あと少しで傷が塞がる所でエレナが息を荒くして倒れる。

 

「エレナ!」

 

 慌てて抱き上げるが、エレナはとても疲れた顔をしながらも俺のシャツを掴んで口を開く。

 

「だい、じょうぶ……。ごめん……ね。ちゃんと治せなくて」

 

「良いんだ。ありがとな。大分楽になった」

 

 エレナの頭を優しく撫でる。ほっとして緊張が解けたのか、エレナは気を失った。

 

「あまり悠長にできんな」

 

 まだあのアラガミは俺達を探している。それに、瞬間移動に分身を作り出す能力……撒くには、どうしても囮が必要だ。だが、俺もこの傷ではアインの足を引っ張るだけだ。せめてエレナだけでも……。

 どうやら、覚悟を決める時が来たようだ。

 

 

「アイン、この子を――」

 

「待て、それ以上は聞くに堪えん。囮ならば俺が買って出る」

 

 アインにエレナの事を頼もうとするが、それよりも早くアインは反対の意を示す。だが、この状況はどうあがいても絶望的だ。

 

「ユウ、早まるな。お前が死ねば、その子はどうする? その子にはお前しかいないのはお前が一番分かっているはずだ」

 

「だが、他に手は――」

 

「生きる事から、逃げるな」

 

「ッ!」

 

 突然、アインの口から放たれた言葉に息をのむ。何故、ただの言葉でここまで……。だが、この言葉からは大切なモノを感じる気がしてならない。

 

「かつて、俺が所属していた部隊で唯一の至上命令だ」

 

 不思議な言葉――いや、命令だ。その命令があれば、どんなに絶望的な状況でも突破できるという確信が芽生えてくる。言霊と言ったか、案外馬鹿にできないものだな。

 

「そうか、良いな。実に、実に良い命令だ。だが、その命令は受けられん。俺には……重過ぎる」

 

 軽く笑いながら言うと、アインの表情が曇った。

 

 

「お前…………」

 

「後生だ。エレナを頼む。最後に時間をくれ」

 

 

 

 赤の他人である俺とエレナを助けようと囮を買って出てくれたこの男になら、エレナを任せられる。

 

 俺は腕の中で眠るエレナに向き直る。

 

「エレナ、悪いがここでお別れだ。短い間だったが、一緒に過ごせて楽しかった」

 

 頬を撫でながら、別れの挨拶を一方的に交わす。

 

 良い思い出が作れた。もっとこの子と一緒に居てやりたかったが、それは叶わないらしい。

 

 全く、運命の女神様ってのはとことん空気の読めないクソアマらしい。

 縋る神の居ない時代なのに神様を信じて助けてってお願いしたのに、テメェらときたらテメェらの存在を信じてくれたか弱い女の子の1人も碌に救わないのな。

 

 俺がくたばったら覚えとけよ。地獄から這い上がって『これは試練なのです』とかほざいて踏ん反りかえってるテメエら全員地獄に引きずりおろしてやるからな。

 

 

 

「エレナ、達者でな……。一杯食べて一杯寝て、大きくなれ。そして俺よりも良い男捕まえて幸せになれよ」

 

 エレナを抱きしめ、頬に軽く口づけをする。アインに視線を戻してアイコンタクトで『頼む』とただそれだけ告げる。

 

 アインにエレナを渡し、スタングレネードを取り出し、アインにポーチを手渡す。

 

「俺にはもう必要のないもんだ。役立ててくれ」

 

「ユウ、1つ聞かせてくれ。もし、仲間に言葉が届くとしたら……何を伝えたい?」

 

 アインがポーチを受け取り、問いかけてくる。

 仲間か……思い浮かぶのはアナグラの連中だな。そうだな、もし届くのなら……伝えたいのは感謝と、想いか。

 

 

「世話になった、愛していると伝えたい。彼らは俺にとっては何よりの宝だからな」

 

「そうか。お前の仲間に会えたなら、確かに伝えておこう」

 

「ふ、よろしく頼む。此処は請け負った」

 

 

 安全ピンを抜き、俺達を探して周囲を見回しているアラガミの目の前に姿を曝け出す。

 

 奴が俺を睨み、咆哮を上げて向かってくと共に、スタングレネードを地面へ叩きつける。

 視界を奪われるが、強力なアラガミ程スタン状態からの回復は早い傾向になると思って間違いない。数秒しか稼げないが、アインの足にすべてを預けよう。

 既にエレナを抱えたアインは出口へ走り出している。

 

 

『GYAAAAAAっ!』

 

 アラガミが吠え、炎の玉は牙を生やしてこちらへ向かってくる。

 剣で弾こうと構える。

 

 

『ユウ、絶対に触れるな!死んでも避けろ!』

 

「っ!」

 

 ギリギリで跳び退いて距離を取る。

 死んでも避けろとは、どうやら普通の攻撃ではないと言う事か。確実に回避するしかないようだな。

 

 

「おい、腐れアラガミ。遊んでやるよ、かかってこい」

 

 アラガミに中指を立てて挑発すると、奴は雄たけびを上げ、風圧が襲い掛かる。

 風圧に耐えつつこちらも腰を落として構えると、奴は炎を纏って飛び掛かってきた。

 

 

「悪いな、戦友達よ。奴に一撃かましたい。手を貸してくれ」

 

『仕方ねえな。高くつくぜ?』

『どれ、一撃添えようか。其方に合わせよう』

 

 

 二人の声が聞こえ、背後にただならぬ気配を感じる。深く腰を落とし、突きの構えを取る。

 

 

 

 迫るアラガミへ踏み込んで、顔に渾身の刺突を繰り出す。

 

 

 俺の放つ刺突がアラガミの目元に直撃した瞬間――

 手ごたえを3回感じ、鮮血が3度勢いよく噴き出し、奴は悲鳴を上げて地面へ転げ落ちた。

 

 2人の戦友が手を貸してくれたおかげで成功したようだ。以前、ゴウにかました3回同時に斬る技の突きバージョンだ。

 

 片眼を吹き飛ばされたアラガミの残った瞳孔がこちらを睨みつける。人間なら片眼潰されても強い奴は強いが、獣畜生はどうだろうか……。

 

 

『GYAAAAAAA!』

 

 アラガミが雄たけびを上げると、凄まじい衝撃波が発生して堪らず吹き飛ばされて瓦礫の山に激突し、痛みが走って何とか瓦礫を退けてアラガミを見る。

 

 アラガミの背から紫炎が噴き出し、その炎はまるで翼のように見える。

 

 

 

 奴は炎の玉を作り出し、徐々に炎は凝縮を続けている。

 何処からどう見ても強力な攻撃を放つために力を溜めているのが一目で分かる。瓦礫の山から脱出し、剣を投擲するがあまりの熱のせいか、剣はオラクルの粒子となって呆気なく消えた。

 

「何⁉クソっ!」

 

 危険を感じ、急いで背を向けて駆けるが背後で爆音がして振り返ると紫炎はドーム状に広がり、瓦礫や地面は飲み込まれ、炎が迫る。

 

 紫炎に包まれる奴と目が合った瞬間、視界に違和感が走った。

 

 

 すぐそこまで迫っている炎は消え去り、紫炎の翼と炎を纏った奴が俺の背後を見据えており、後ろに何かあるのかと思い振り向いた。

 

 そこには一回り成長したエレナが神機を握り、アラガミと対峙しており、一息を置くとエレナがアラガミへ突撃してエレナの神機とアラガミの攻撃が交差した瞬間再び 視界に違和感が走り、紫色の炎はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 ああ、今のは……。あんなに嬉しそうに甘えてきた可愛いあの子が、本当に立派になった。

 正直、見惚れてしまった。あの子に迫られたのが自慢できるくらいだ。

 

 

「別嬪さんだな、俺の目に狂いは無かったか。約束、守ってやりたかったなぁ……。ごめんな、エレナ」

 

 

 走馬灯――とは違うが、最後に良いものを見れた。だが、後悔もある。

 脳裏に走るのは『お嫁さんになる』って微笑みながら言うあの子の顔だ。

 

 

 遂に熱気を感じ、目を閉じる。

 

 

『ユウ、まだ終わっていないぞ』

 

 

 何処からともなく戦友の声が響き、目の前が光に包まれた。

 

 




コロナ怖すぎィ……。
皆さんも気を付けてくださいね……。いやまあ、自分がどんなに気を付けても周りも気を付けなかったらどうしようもないですがね……。


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不一致‼

外で作業をしていたら野良犬にド突かれて「なんやねん」っていったら吠えながら逃げて行った。マジでなんやねん。


 

「………………」

 

 目を開ければ、綺麗な川が流れる草原が広がっていた。

 

「ふむ、死後の世界と言うやつか……。と言う事は、俺はあのアラガミの炎に灰にされたと言う事だな。癪だなおい」

 

 久しぶりに美しいと思える光景を目にした。

 神機使いになってからこれ程の景色は映像でしか見たことがない故にとても新鮮な気持ちになる。最後に見たのは……真人間の頃に戦場へ駆り出される前だったか。

 

 兎に角、歩いてみるとしよう。どうせ立ち止まっていても何にもならないだろうしな。

 しかし、行先は地獄だと思っていたのだが……まあなんだかんだ神機使いになってから人助けや人命救助を行って善行を積んだからだと思えば不思議ではないか。とは言っても、命を救った数より命を奪った数の方が圧倒的に多いので確証は無いが。 

 もしかしたらこの場所が天国行か地獄行を決められる場所かもしれん。

 それにしても死後の世界ってあるもんなんだな。全然信じていなかったが、これなら信じざるを得ないだろう。

 

 思い返しながら歩いていると、遠くに人影が見えた。

 

 

 あの人に尋ねてみるか。話の通じる相手だといいんだが……。

 

 近づいてみると徐々にはっきり見えてきた。女性だ。

 右手首には俺と同じ赤い腕輪、そして何度も見た灰色の髪の毛、そして何度も見つめた覚えのある黄金色の綺麗な瞳。

 

 しかし、俺が良く知る子とは顔はそっくりだが違いはある。エレナが成長したらこんな感じになるのだろうか。

 

 女性は俺を見て頭を下げた。

 

 

 

『ユウさん、でしたね。娘を救ってくれたこと、感謝します。本当にありがとうございました』

 

「あんたはエレナの……」

 

『ええ、あの子の母です。ずっとここから見守っておりました。それしか、できないですから』

 

 

 まあ、そうだよな。心配で仕方ないよな。だが、見ていたのなら俺はどう反応すればいいんだ? 肉体関係を持ってしまう直前だった故に、下手な事を言えない。

 とりあえず……謝罪するべきか?「お宅の娘さんと関係を持ってしまうところでした。申し訳ありません」とでも言うべきか……。改めて思うが俺って最低クソ野郎やんけ。

 いやまあ、実際そうだが……。

 

『良い名前も付けてもらえて、優しい子に育ってくれたみたいでホッとしています。でも、灰域――世界中であのような出来事が起こり、そのせいであの娘は辛い目に遭ってしまった。私は何もできずにただ見てるだけ、あなたが居なかったらきっと……』

 

 まあ灰域の発生がある種の分岐点と言っても過言じゃないかもしれん。灰域のおかげであの世界を生きる多くの人間の人生が大きく変わったのは容易に想像できる。

 

 

「俺はあの子を何度も泣かせた挙句、酷い嘘をついた。挙句に約束も破ってしまった。謝るのはこちらの方だ」

 

『いいえ、あの子はあなたの事を恨んだりなんてしませんよ。誰かの為に泣ける心優しい子です』

 

「だからこそ、こちらも胸が痛いんですがね……」

 

「ふふ、そう思うならあの子の元へ戻ってあの子の望みを叶えてやってください。私も孫の顔が見たいですから」

 

 覚悟はしていたが、いざそう言われれば血の気が引いていくのを感じる。そうりゃそうだ。アラガミになってでも身籠ったまま守り続けた愛娘が穢されるなんて気が気じゃないよな。

 俺も男だ、エレナから迫ってきたなんて責任転嫁はしない。身動きが取れなくなる前に拒否らなかった俺の落ち度だ。

 

「やっぱり……見てますよね?」

 

「当然です。私も旦那にあんな風に迫ったんですよ? 血は争えないと言う事ですね」

 

 この親にしてこの子ありとはこういう事なのだろうか……。旦那さん、あんたも大変だねぇ……。

 

 顔も知らないエレナの父親に同情する。でも美人に迫られるとか男としては最高なのでは……? 

 

『話の途中で悪いが、時間だぞ。ユウ』

 

 

 背後から気配を感じると同時に聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「お前……」

 

 いつの間にか、戦友たちが周りに立っていた。

 

『ユウ、お前はまだ生きている。だから、元の場所へ戻るんだ』

 

 川があるので三途の川かと思ったが、どうやら俺は死んでいないので渡れないようだ。

 

『だが、これだけは覚えておけ。何故過去の存在であるお前が時を超えたのかは勿論、この世で起こる事は全てには必ず何かしらの理由がある』

 

『お前は呼ばれたのだ。誰に呼ばれたかは知らんが、あるとすれば人の世の神か。戦いに長けた者を呼ぶのなら理由も明白。相手は人か、お前たちがアラガミと呼ぶ獣かは分からんがな……』

 

『だが、今回の件は本来ならお前は関わるべきではなかった。まあ、俺達が首を突っ込ませたんだが……』

 

「関わるべきじゃない……それはつまり……」

 

『少なくても、神とは個人の事など考えない。恐らくお前が世話したあの子も見捨てるつもりだった筈だ。それを我々が手引きしてお前に首を突っ込ませた。もし、私が神なら自分の敷いた盤上を進まないお前には違反としてペナルティを与えるだろう』

 

「おいおい、それが事実ならその神ってただのクソ野郎やんけ」

 

 なんて身勝手な奴だ。頼んでもいねぇし頼まれた覚えもないのに勝手に契約紛いの事して規約も提示されてねえのに違反したり自分の気に食わないことをしたらペナルティって横暴だとかそんなレベルじゃねえぞ。

 なるほど、御伽噺で聞いたことがあるぞ。これが神の御業、身勝〇の極意か……たまげたなぁ……。

 

『恐らく、何らかの形でペナルティとなるものがある筈だ。くれぐれも用心しろ』

 

「分かった」

 

 

 言葉を紡ぐと、体が光に包まれ始めた。

 

『悪いが、もう俺たちは助けてやれない。分かっているな? 迷えば死ぬ。後の事は頼んだぞ』

 

 

『ユウさん、どうかお元気で。もし、あの子に再会出来たら……エレナをお願いしますね』

 

 エレナの母は笑顔で言った。

 

 

 そして視界も光に包まれ何も見なくなり、体が浮くような感覚を感じながら目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい風を受けているのが分かり、瞼を開ければ俺は落下していた。

 

 遥か下には極東支部が見え、それは段々近くなっている。

 

 

 

「おわああああああぁッ!? いきなり落下死なんて冗談じゃねえェよぉおおおおおお!」

 

 

 クソがァ……よりにもよって遥か上空で投げ出しやがった……このままじゃ投身自殺現場になっちまうぜ……人間の所業ではない!

 いや、それよりもこの現状を打開しなければ!

 

 俺は今、落ちている。

 

 まずは落下する速度を計算して、それから地面にぶつかった時の衝撃を計算して、そのダメージを俺の防御力と引き算して残りHPを求めてこれが0じゃなければ……ってそんな事を計算する時間もねえし、そんなことして何になる!

 大体落下する速度を求める公式や最終的な数字を求める式も知らんし、電卓ないと計算できねえよ。

 

 そもそもな話だ。物体の落下する速度を求めるってそんな事をして一体何が楽しいんですかね?(唐突にして強烈な物理学ディスり)

 

 

 風を切る音が耳に響く。

 

 極東支部の屋上はすぐそこまで迫っている。

 

 

「うわああああああああもう終わりだぁー!」

 

 着地するとともに凄まじい衝撃が足を襲い、これはまた凄まじい激痛。

 

 

「不一致!」(迫真の表情)

 

 

 何故か分からんが、高いところから落ちて着地したらこう言わなければいけない気がした。

 

 

 

「お~痛ってぇ~……」

 

 つい痛みを感じたその箇所を手で擦ってしまう。

 両足を高速で擦る。

 

「ふぅ……」

 

 多分元の世界に戻ってきたのだと思うが……。

 もしかしたらここも平行世界でアナグラに戻ると平行世界の俺がエントランスで寛いでいて鉢合わせする可能性が無きにしろ非ず。多分俺の事だからドッペルゲンガ―だと思って問答無用で潰しにかかってくる可能性があるので気を付けなければいけない。

 

 と言うかこっちの世界の俺も見切りの極意を会得していたら勝負はどうなるんだろうな。見るに堪えない泥仕合になると思うのだが……。

 

 さて、こっからどうするか……とりあえずエントランスに……。

 

 

 

 

 ドゴォン!

 

 耳に響く轟音に、ため息をつきながら下の様子を確認するために柵から身を乗り出す。

 

「おいおい、なんだなんだ……」

 

 

 見てみれば、外壁が宙を浮く見た事のない2体のアラガミに破壊されていた。

 

 破壊された場所が心当たりのあるところで冷汗が出てきた。

 

 あの辺りは……ラボラトリ……。

 柵を乗り越えてアナグラの壁を駆け下り、ジャンプでバルコニーに着地して再び壁を駆け下って、急いでアラガミの元へ駆ける。

 

 

 

 

「シオォッ!」

 

 壁の穴からソーマの叫び声が聞こえる。

 アラガミを見ると人間の女性の様な姿をしたアラガミの腕には純白のドレスを身に着けている白い人形のような少女が抱えられていた。

 

 対アラガミ用ナイフを抜き、アラガミに近づくがもう1体の大柄なアラガミが背中から青い火を噴き出して上昇してきた。ナイフを振って頭上から奇襲をかけるが、大柄なアラガミの腕で弾かれて宙へ飛ばされるが空気を蹴って再び攻撃を仕掛けるも、急上昇でやり過ごされた。

 

 

「ちぃッ!」

 

 頭上を見れば大柄なアラガミが拳を突き出し、咄嗟に防御するが空中で衝撃を受け止めるなど不可能故にそのまま地面へ吹き飛ばされる。

 

「ぐッ……」

 

 エレナに塞いでもらった肩の傷に痛みが走り、見れば傷が開いて血が流れてきている。どうやら傷口が広がったらしい

 

「…………ぬぅ……ッ!」

 

 痛みを無視して態勢を変え、無理やり空気を蹴って奴が破壊した壁の横穴に飛び込んで、転がりながら床に着地するとそこにはユウナとソーマが立っていた。

 

「ユウッ!? 今まで何処に居たの!? ってどうしたのボロボロだよ!?」

 

 ユウナが俺に近づいてきて傷を見ると驚いている。

 

「ああ、気にするな。ピターにちょっかい出したら返り討ちにされてしばらく寝てただけだ。さっきのいざこざで傷口が開いたな。それより奴は……」

 

 

 ピターにやられたなんて嘘だが、我ながら見事な咄嗟の嘘だ。

 

 

「そんな事言ってる場合じゃない! 早く手当てを!」

 

 ユウナが救急箱を持ってきて俺を無理やり床に組み伏せてシャツを剥いで傷の手当てをしてくれた。

 

 

「で、お前ら一体何が在った訳? 痛ててててッ!? ユウナさん、もうちょっと優しく――」

 

 治療を受けながら経緯を聞こうと思ったら、ユウナが中々の荒治療をしてくるもので悲鳴を上げる。

 

「動かないで!」

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 えーと、とりあえずまとめると……。

 

 アラガミに攫われた人形は実は特異点とか言う終末捕喰のコアで、第1部隊で匿っていたけど支部長にばれた矢先にあのアラガミに襲撃されて見事に攫われてしまったと。

 めでたしめでたし。

 

 いや、やばくね? 

 俺がアナグラを暫く離れていたら全人類絶体絶命のピンチに陥ってるやん。流石に展開が速すぎるんじゃないんですかね支部長? 

 俺が平行世界で色々やってる間に間にとんでもない事になっていた。

 最早話しについて行けなんですがそれは……。

 

 最早世界滅亡の危機でピターとかリンドウさんの仇どうこうの話じゃなくなってて失笑を禁じ得ない。

 

 

 さて、これからどうすれば良いのだろうか。元の世界に戻ってきたのも束の間、絶体絶命の危機に瀕しているとは己の不運を呪うしかない。

 

 

 

「シオが攫われたのね?」

 

 サクヤさんの声が聞こえて振り向けば、サクヤさんとその隣にアリサも居る。

 

「お前ら、戻ってきたのか……」

 

 真剣な表情をしているサクヤさんとアリサにソーマが少し驚きながら言う。

 

「勝手に縁を切ったんじゃなかったのかよ」

 

「あなた達だけじゃ心細いと思って戻ってきたんですよ」

 

 え、何。なんかこいつら喧嘩でもしてたのか? 

 俺の場違い感が半端じゃないんだが……しばらく黙ってよう。

 

「実はエイジスへの再侵入の方法を探っていたんだけどね……。正直打つ手無しなの」

 

 

「きっと、アナグラの地下にエイジスへの道はあるよ」

 

 皆が振り返ればそこにはコウタが居た。

 おぉ、続々と第1部隊員が集まってると思ったら集結したぜ……。

 

「コウタ……! アーク計画に乗ったんじゃ……。ううん、戻ってきてくれてありがとう」

 

 あ、アリサがコウタにデレた……!? なんかいつの間にか第1部隊の絆深まってね? 

 なんかソーマも雰囲気が柔らかいと言うか……まあ、丸くなっているし……。

 

「でも、いくつかのルートがあるからどれが一番早いかは……」

 

「一番早いルートなら知ってるぞ」

 

 俺が口を開くと、皆がはっとして俺を見る。

 第三部隊への物資配達へ行った時に一番早いルートを使った事がある。扉のパスワードも覚えている。まあ、仮に変えられていてもブチ破るがな。

 

「ユウ! 消息不明になったって聞いて心配していたのよ!」

 

「というか何時からそこに……?」

 

「ご心配をお掛けして申し訳ないです、サクヤさん」

 

 そしてコウタも驚いた顔をしている辺り、俺は完全に蚊帳の外だったらしい。

 話をしながらも肩の傷を治療していたユウナさんに優しさを感じた。

 

 

 さて、話の空気を感じるに第1部隊はエイジスに向かうのだろう。

 俺もなんの抵抗も無しに終末捕喰とやらで死ぬ気は毛頭ない。支部長には応援すると言った手前申し訳ないが全力で妨害させてもらおう。

 

 

「俺は先に行って扉を開けておく、準備ができたら地下まで来てくれ」

 

 

 ユウナに礼を言い、立ち上がってシャツを着てエレベーターに乗った。

 

 




車の運転中に歩道のど真ん中でネコがパコってて困惑した。犬にド突かれた件と言い今日は何か変な一日です。


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あぁ^~味方が頼もしすぎるんじゃぁ^~

ご近所さんがコロナに感染したと聞き「終わったな。何もかも」と言いつつ手洗いうがい・消毒を徹底する我が家に困惑を禁じ得ない。


 エイジスへ繋がる通路の扉の前に立ってパスワードを入力するがモニターに文字が表示される。ちょっと難しい単語が並べられているが要約すると「第1ロック解除、解除キーを使えやオラ」だ。

 

 解除キーをもっていない俺は当然頭を抱えた。

 

「やべぇ……解除キーとはな。先に行って空けておくなんてかっこつけた事言ったのに……」

 

 大分遡るが第3部隊への支給品を届ける為にこの通路を使ったときはパスワードだけで開いたのだが……。いや、支部長は用心深い。リンドウさんやサクヤさんが嗅ぎ回ったこともあって厳重にしない筈がない。

 

「仕方ねえ、扉ぶっ壊して無理やり開けるか。この状況だ。ぶっ壊したところで問題もクソもないだろう」

 

 

 どうやら……義父より伝授された技を使う時が来たらしい。ただの全体重をかけたドロップキックだが、猪の突進にさえ打ち勝つ最強のドロップキックだ。神機使いになって身体能力が強化された今の状態ならばこの程度の扉なら容易くぶち敗れる筈。例え1発で開かなくても結局はただの蹴りだ。何度でも打てばその内開くだろう。

 

 扉から距離を取り、助走をつけてドロップキックをかまそうとしたら後ろから襟を掴まれて渾身のドロップキックは不発に終わった。

 

「何をしている馬鹿者」

 

「こ、これはこれは……雨宮教官、本日もお綺麗で――」

 

「口説き文句は不要だ。お前には聞きたい事と言わなければいけない事が山の様にあるのだが……」

 

 何という事だ……! ここで雨宮教官に捕まってしまうとは……! まずい、ここで一戦交えるしかないのか……だが雨宮教官は強い。まだ俺が入隊して半月の頃だったか、支部内にまで侵入してきたオウガテイルを鉄骨で突き刺して床へ縫い付けほんの一時凌ぎであるが動きを止めて見せたことがある。

 少なくてもこの人を止めるのに……1人は囮が必要だな……!

 

 

 皆、済まん! 扉は神機でなんとかぶっ壊して俺の屍を越えて行け!

 

 

「ツバキさん……!」

 

 背後からサクヤさんの声が聞こえて俺と雨宮教官は振り向く。第1部隊のメンバーは集合して神機を担いでいた。

 ああもう、君たち間が悪すぎィ! 

 

「結局、全員集まったようだな。心配するな、誰もお前たちを捕えたりはしない。この通り、アナグラも箱舟騒動でメチャクチャだ」

 

 あれ、別に戦う必要ない的な話の流れかこれは?それならそれで良いのだが……。

 

「箱舟賛成派はとっくに行ってしまったよ」

 

 

「雨宮教官は……?」

 

 ユウナが雨宮教官に聞くと、教官は笑みを零した。

 

「弟の不始末は、姉が片を付けねばな。さて、解除キーは私が持っている。行くのだろう?」

 

「はい!」

 

 ユウナが答えると全員が頷いた。

 

 

 

 その時、警報が鳴った。

 

 

 

『緊急事態発生! アラガミが外部居住区に侵入! アナグラに残っている神機使いの皆さんは至急現場に急行してください!』

 

 

「そんな!」

 

「ちっ! こんな時に……」

 

 奴らめ、人出不足なのが分かってて攻め込んできたわけじゃあるまいな……。

 

「仕方ない。2手に分かれて……」

 

 

 あの害獣どもホント空気読まないな。いや、待てよ? 賛成派が行ったって事は反対派は残っているって事だな?

 

 俺の脳裏には、明らかにアナグラに残っているであろう、ある2人の神機使いが思い浮かぶ。幸い2人ともベテランの神機使いだ。

 

「雨宮教官。箱舟反対派の神機使いはある程度は居るんですね?」

 

「ああ。と言っても殆んどが賛成派だがな。極僅かだ」

 

「ユウナ、部隊を分ける必要は無い。こっちは何とかする」

 

「何言ってるのユウ!? 神機も無いのに!」

 

「神機はねえが、俺が挑発フェロモンで引きつければいいだろう。お零れは残っている連中に任せる事になるが」

 

 全部見切って躱しながら壁の外まで連れて行って、残ってる神機使いが片づけるまでの耐久競争だろ? 

 俺の回避技術は更に磨きがかかった。あの異世界でもそれなりの激戦で極限状態に陥ったおかげでまた限界を越えちまったよ。そろそろ俺が生まれた時より有している素質、成長限界が近そうだが……。

 

「神薙、こいつなら大丈夫だ。お前たちの戻る場所、必ず守り通そう。だから行け」

 

「…………分かりました。皆、行くよ」

 

 ユウナの言葉に全員が頷き、雨宮教官が扉を開ける。

 そして第1部隊は通路の先へ消えて行った。

 

「さて、我々も向かうとしよう。残りの者達も準備が出来次第、すぐに向かう筈だ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

「ところで、相当の深手を負っていたようだが支障はないだろうな?」

 

 雨宮教官がボロボロのシャツから見える傷を指摘しながら確認を取ってくるが、別に動けない程ではないし、ある程度処置もされている。戻ってきてからの処置で問題あるまい。

 ロッカーから取り出した予備のポーチに携行品を積み込みながら問題ないと返答する。

 

「今現在、人手不足の為斥候や偵察を送ることができない故、侵入してきたアラガミの種や規模は把握できていない。先日より新種も活発化しており、イレギュラーが起こるものと考えておけ」

 

「分かりました。何とか対応します」

 

「貴様が帰還したら反省文と始末書が雁首を揃えて待っている。必ず帰還しろ」

 

「了解。出撃する」

 

 

 

 

 補強しているエリアから偏食因子が練り込まれている鉄骨を拝借し、それを肩に担いで雨宮教官に敬礼。

 そして出撃ゲートを潜る。

 薄暗い通路を歩き、ヘリポートへ向かう。

 

 

 さて、一世一代の大立ち回りをしてくるか。だが、役者が足りないな。具体的には後2人。

 

 

 通路の先の扉が開き、光が差しこむ。

 

 通路を出てヘリポートへ出ると他の通路から出てきた神機使いが横を歩いていた。しかも見慣れた顔だ。

 

 左横にはショートブレードを携え、赤い制服に身を包んだ防衛班・班長、大森タツミ。

 

 そしてタツミの更に横には、クールビューティーで眼帯が特徴的な凄腕スナイパー、第3部隊のジーナ・ディキンソン。

 

 それぞれの得物を携えて俺達はヘリへ向かう。

 

 ここで、大分前にノルンで鑑賞した復讐者達のテーマが流れれば最高であった。

 

 

 

「なあユウ。詳しい話は後で聞くが、その傷で大丈夫か?」

 

「ああ、問題ない。やっぱりお前なら残っていると思ってたぜ?」

 

「そりゃ、俺は死ぬまで防衛班だからな」

 

 当たり前だと言わんばかりに答えるタツミ。

 こんな異常事態にも拘らず、やはり我らが防衛班・班長は通常運行であった。

 

「全く、人が心配していたのに何食わぬ顔してひょっこり帰って来るのね? 損したわ」

 

 ふぅっと軽く溜息をつきながら呆れるジーナだが、普段無表情の彼女が薄く笑みを浮かべている。どうやら満更でもなさそうだ。

 

「悪いな、ジーナ。でも心配してくれてありがとよ」

 

「防衛戦終わったら3人で飯でも食いながら箱舟を見送ろうぜ?」

 

「だな」

 

「あら、お行儀悪くない?」

 

 

 あぁ^~味方が頼もしすぎるんじゃぁ^~

 むしろ今まで単独で立ち向かって時間稼ぎばかりしていたのだ。今回位、味方に甘えても罰は当たらないだろう。

 

 

「しかし、よくもまあ人のいないタイミングで攻め入ってきたな……」

 

 タツミが呆れながらある方向を指さすとその先には黒煙が上がり、騒がしそうなのが容易に想像できる。

 

 

 

「ヘリの操縦者、見つかったわ。今此方へ向かっているわよ」

 

 通信機を切ってジーナが神機を床へ下ろす。

 

「操縦者居なかったら徒歩であそこまで歩く羽目になったな」

 

 ジーナは装填するバレットを確認して戦闘準備を整え、タツミも軽く体を伸ばして準備運動をする。俺も軽くストレッチをした後に鉄骨を軽く振って体を温めた。

 

「さて、気張っていくか」

 

「班長、どういう作戦で行く?」

 

「んーそうだな……」

 

 タツミが少し考え込んだ。すぐに思いついたのか笑いながら言う。

 

「戦線を一気に押し戻し、そのあとは臨機応変に敵を殲滅する。シンプルに行こうぜ」

 

「3人でできるとは到底思えないけど……」

 

「ジーナ、嬉しそうに否定しても説得力無いぞ」

 

 ジーナこそ否定はしたが、きっと心の中では心行くまで命のやり取りができると思って楽しみにしているようだ。

 

「何、俺達ならできるさ。見せてやろうぜ」

 

 タツミが神機を掲げながら俺達を見る。

 

「そうね。こんなに面白い事、そう経験はできないわ」

 

 ジーナも神機を掲げてタツミの神機に銃身を当てる。

 

「とことんやってやろうじゃないか。俺も乗ったぜ」

 

 対アラガミ用ナイフを取り出して2人の神機に重ねて当てる。

 

「さあ、行こうぜ!」

 

「ああ!」

「ええ」

 

 

 戦前の儀式を済ませると丁度ヘリの操縦者が到着した。早速ヘリに乗り込む。

 

 

 

「あの、ユウさん。ちょっと鉄骨が嵩張るんで離陸したらスキッドにぶら下がってもらっていいですか?」

 

「あ、うん。了解」

 

 そしてヘリが離陸するのを確認して操縦者からもOKサインを貰って、鉄骨を片手に持ったまま身を乗り出してスキッドに掴まってぶら下がる。

 

 

 最後まで締まらねえなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘリは丁度アラガミの大群の真上。装甲壁に穴が開き、そこからゾロゾロ入ってきている。

 

 

「よし、この辺りで十分だ!」

 

「分かりました。少し降下します」

 

 操縦者が徐々にヘリの高度を落とし始めるのと同時にジーナが身を乗り出した。

 

「さあ、始めましょう?」

 

「出撃だ! 何としてでも此処を守るぞ!」

 

「あーこちらユウ、大森班長の指揮下に入る。交信終了」

 

 無線を切ると目の前をジーナが降りて行き、それに続いてタツミも降りていく。

 俺もスキッドから手を離してタツミに続く。

 

 ケースを取り出し、筋力増強剤錠と体躯増強錠を乱雑に口にいくつも放り込み、かみ砕いて飲み込む。

 よし、薬もキメて準備OKだ。

 

 

 どれ……ちょいと気合入れてくか!

 

 

 

 鉄骨を振り上げながら落下する。

 

 

 そしてザイゴートを思い切り殴りつけながら地面へ着地する。

 目の前を向けばそこはアラガミの群れ、ジーナが神機を構えて俺達の前にタツミが出てきて神機を構える。

 

「此処を簡単に抜けれるとは思うなよ。まとめて相手をしてやる、掛かってこい!」

 

 タツミが宣戦布告をした直後にアラガミ達は我先にと襲い掛かってきた。

 

 

 前方には多種多様なアラガミの群れ、対するはタツミ率いる即席の防衛班。

 今ここに、たった3人の防衛戦が幕を開けた。

 

 




DLCで黒いカリギュラと戦えるのを楽しみにしていた人挙手。✋


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うわ、クソメトやんけ。おら死ねや

もう許さねえからなァセクメトォ?
ホントに2の『原初の荒神』じゃ世話になったよ……。
殺生石で体力残り僅かにしてからの轢き逃げ滑空でNPC諸共床ペロさせやがって……。


 ジーナの先制射撃と共にタツミは神機を構えてアラガミの群れに切り込み、俺も後に続いて跳躍して一気に群れの中央へ跳んで鉄骨を叩きつける。

 

「オラァッ!」

 

 鉄骨をフルスイングして群がる小型をまとめて吹き飛ばす。

 

「はっ、どうだ! 偏食因子を練り込んだ鉄骨の味は! 吹っ飛ばされてえ奴からかかってきなァ!」

 

 とにかく視界に映った奴を片っ端から鉄骨でぶん殴って吹き飛ばす。

 オウガテイルを吹き飛ばした先にはタツミが立っており、吹き飛んだオウガテイルを切り裂いた。

 

「気を付けてくれユウッ! 味方を吹き飛ばすなんてカノンだけで十分だ!」 

 

「悪いなタツミ! 気を付けるわ!」

 

 タツミに謝罪しながら鉄骨を振ってアラガミ達を空中へ飛ばすと、宙へ吹き飛んだアラガミはすべて、急所をレーザーに打ち抜かれて地面へ落ちた。

 

「ユウ、ジーナ! 固まって戦うぞ!」

 

「了解!」

 

「分かったわ」

 

 俺とタツミは共にジーナの元へ向かい、各々の背中を預ける。

 

「ジーナは遊撃、ユウは俺と共にジーナを庇いつつ周囲のアラガミを掃討する。俺はオラクルが溜まったらジーナに受け渡す。ユウ、その一瞬の間は任せるぞ!」

 

 タツミの素早く迅速な指示に頷く。

 

「任された!」

 

「行くぞ!」

 

 タツミの号令でアラガミの群れに突撃してジーナを庇いつつタツミと共に周囲のアラガミを薙ぎ払う。2人に攻撃を当てないように気を配りつつ、アラガミを吹き飛ばす。

 

 タツミも襲い掛かってくるアラガミの攻撃を凌ぎつつ急所を確実に断ち切って一撃で倒しつつ捌く。

 

 ジーナは上空のアラガミを撃ちつつ、遠距離攻撃を行おうとしてくるアラガミを狙撃する。

 

 

「中距離! グボロが攻撃姿勢に入ったわ!」

 

「ユウ、頼む!」

 

 グボロに一番近い故に即座に指示を飛ばされ、素早く身構える。

 

「あいよ、任せな!」

 

 グボロの砲門からアラガミ達の間を潜って水の塊が向かってくる。俺は2人の前に立って鉄骨を構える。

 

「ドリャーッ!」

 

 鉄骨を振って水の塊を掻き消すが水飛沫がかかって制服が濡れる。

 

「ナイスだ! このまま油断せずに行くぞ!」

 

「ああ!」

 

 俺の横をタツミが駆け抜け、後を追ってアラガミの群れを突撃を仕掛ける。

 

「何匹か逃がした様ね……!」

 

「他の箱舟反対派連中もこっちに向かってる! そいつらに任せるぞ、俺達はここで出来るだけ食い止める!」

 

 タツミが神機を振りながらジーナの呟きに答える。

 

 

「ッ!」

 

 多すぎる気配の中、何かがこちらへ向かってくる。アラガミにしては早いッ!

 周囲に気を配りつつ気配のする方向をちら見する。

 

 小型のミサイルが5発もこちらへ飛んできている。

 

「ちッ! クアドリガのミサイルか! 5発来るぞ!」

 

 こちらに向かってきている攻撃に気づいて2人に警告するとタツミが即座に指示を出す。

 

「ジーナッ!」

 

「了解!」

 

 

 タツミの指示に応答したジーナが銃口を空へ構えて引き金を引く。

 発射されたレーザーはミサイルのど真ん中を見事貫通。

 轟音が空から響き、ジーナは狙撃を続ける。

 

 しかし隙だらけのジーナへ、シユウが爆炎弾を放った。

 

 咄嗟に鉄骨を構えてジーナを庇う。衝撃と熱が身体を襲うが、次は横から攻撃の気配。

 もう1匹のシユウが爆炎弾を放つ。

 

「クソっ! 間に合わ――」

 

 

 ジーナを庇うようにタツミが立ち塞がり――

 

「セアッ!」

 

 

 装甲を展開と同時に神機を突きだし、爆炎弾を弾き返してシユウへぶつける。

 

「人間卒業おめでとう、大森班長!」

 

「鉄骨で戦うお前に返すぜその台詞!」

 

「ふっ、2人とも心強いわ」

 

 ジーナが最後の狙撃を行い、ミサイルはすべて迎撃された。

 

 

「弾切れ寸前……タツミ!」

 

「ああ、今受け渡す! ユウ、頼むぜ!」

 

「了解! できるだけ急いでくれや!」

 

 

 隙を突くかのようにコンゴウが跳びかかってくるが、鉄骨を突きだしてコンゴウを押し返し、そのまま前方一帯を薙ぎ払って小型を吹き飛ばす。

 

 

「okだ! 助かった!」

 

「少し減って来たわね。ただ、大型が控えてるわ。ユウ、鉄骨じゃ厳しいわよ?」

 

「現地調達だな。なんとかするさ」

 

 鉄骨を担ぎ、懐から挑発フェロモンを取り出して使う。

 アラガミが一斉に俺を睨み、襲い掛かってくる。その場で高く跳躍してアラガミ達を踏み台にしつつ、飛んで来る遠距離攻撃を躱しながら2人から距離を取る。

 

「ジーナ、ユウの援護だ」

 

「分かったわ」

 

 タツミも駆け、俺に気を取られているアラガミの急所に強力な不意打ちを叩き込んで一撃で沈める。

 

 

 

「直上! 注意しろ!」

 

「あいよ!」

 

 

 気配は読んでいる。

 

 バックステップで後ろへ後退すると俺が居た場所にヤクシャ・ラージャが降りたつと共に爪を振り下ろして地面を抉った。

 ラージャは鉤爪を振り回し、周囲の小型を切り裂きながら俺に向かってくる。

 

「ッ!」

 

 爪を躱して鉄骨を突きだして顔に当てるとラージャは怯み、頭部にオラクル弾が付着した直後、弾けて無数のレーザーが飛び散ってラージャの顔をグチャグチャにする。

 

「サンキュー!」

 

「ッ! ユウッ、上よ!」

 

 ジーナの叫びが聞こえ、上を見るとボルグ・カムランが尾針を構えて襲い掛かってくる。

 

「ぬぅんッ!」

 

 鉄骨を盾にして針を受け止めるが、あっけなく破壊される。

 咄嗟に後ろへ跳び、針を回避する。

 

 しかし、カムランは素早く尾針を引き抜いて再びこちらに狙いを合わせる。

 

 

「させるかァ!」

 

 タツミが跳躍しながら神機を振って構えられた尾針を弾く。

 

『KIッ!? KIEEEEEッ!』

 

 カムランが雄たけびと共にタツミを狙う。

 

「どこ見てやがる!」

 

 死んでいるオウガテイルの尻尾を掴み、振り回してカムランの足にぶつける。カムランは態勢を崩して転び、タツミは再びジャンプしてカムランの尾針から尻尾の一部までを断ち切った。

 

 宙を舞う巨大な針、これはチャンスだ。

 

「ジーナ!」

 

「そういう事ね!」

 

 ジーナが針の先端辺りを狙撃すると弾丸は針を貫いて砕く。

 ジャンプして対アラガミナイフを取り出す。

 俺を追って小型・中型も跳んで追ってくる。針をチャッチしてナイフの先端に突き刺して無理やり連結させて即席の神機を作る。

 

 そして即席神機を振り回し、追ってきた小型と中型を返り討ちにして地面へ着地する。

 

 

「まだ来るわね。ああ、とても楽しいわ」

 

「ユウ、今のうちにキメ直しとけよ」

 

 タツミが神機担ぎ、首を鳴らしてから言葉を発する。

 

「そうさせてもらう」

 

 丁度ドーピングの効果時間が途切れる頃だ。ケースを取り出して中の錠剤を口に詰めて噛み砕いて飲み込む。

 

「その内過剰摂取で倒れるわよ」

 

 ジーナから耳の痛い事を言われるが、神機紛いの武器でまともに戦うにはこれが必須だ。

 

「なに、その時はその時だ。ジーナ、頼む」

 

「あら、私は衛生兵ではないのだけど?」

 

「お前ら、追加のお客さんがお見えだ。相手するぞー」

 

 

3人で笑みを浮かべ、再び群れに突撃をかける。

 

 

「先陣を切る!」

 

 タツミが高く跳び、空中で神機を捕食形態に切り替えて群れに滑空攻撃を仕掛けて数多のアラガミを喰い千切る。

 

「神機解放!」

 

 タツミの神機が光を放ち、タツミは先程とは桁違いのスピードで戦闘を続ける。

 

「流石ッ!」

 

 突きの構えを取ってステップで一気に加速し、コンゴウの顔に突き刺してコンゴウの体を足場代わりに使って跳び、こちらへ向いたコンゴウの口に即席神機を突き刺して生命活動を停止させ、地面へ着地して刺さったままのコンゴウを投げ飛ばす。

 

 すぐ近くでバースト状態に移行したタツミが奮戦して次々とアラガミを斬りつける。上空をオラクル弾が飛び、レーザーが弾けてアラガミを追い急所を貫く。

 

 

「ッ! 甘いッ!」

 

 シユウが回し蹴りで不意打ちを掛けてきたが姿勢低くして躱し、即席神機を足へ突き刺して動きを止めると、タツミの神機が頭部を突き刺さり、振り抜かれる。

 頭を落とされたシユウはそのまま地面へ崩れた。

 

 俺とタツミは互いに背中を預けて目の前の敵を切り伏せる。

 

 

「ん?」

 

 

 俺達を影が覆い、その影の主は電撃を纏った拳を突きだしてきた。

 

 

「ユウ、任せろ!」

 

「任せた!」

 

 俺は姿勢を低くして構え、タツミは向かってくる拳に対して装甲を展開して受け止める。

 襲い掛かってきたのはハガンコンゴウだった。

 タツミが電撃を纏う拳による衝撃と電流を根性で持ち応えている間にハガンコンゴウの顎を下から突き刺し、タツミは力が弱くなった隙を逃すことなく拳を弾き返して神機で頭部を一刀両断する。

 

 

「ハガンコンゴウか。一撃で首落とすとは……流石だなタツミ」

 

「やっぱ出て来たか禁忌種。なかなかハードだな」

 

 まさか禁忌種まで来るとはな……。こりゃ激戦だ。

 

 

 

 

「っ……! 来たか、油断するなよ!」

 

 タツミの言葉と共にその場から跳び退く。

 

 俺達が居た場所を、炎を纏いながらシユウの禁忌種……セクメトが爪を叩きつけてきた。

 

「うわ、クソメトやんけ。おら死ねや」

 

 即席神機を振るもセクメトは紙一重で回避して反撃してくるがこちらもギリギリで回避して反撃する応酬を繰り返し、セクメトの翼手による打撃を避ける。もう片方の翼手による打撃が迫るが即席神機で拳を貫いてカウンターを決めてそのまま地面へ叩きつける。

 

 

『GUOッ⁉』

 

「斬ッ!」

 

 拘束されたクソメト、そしてタツミは既に左腰に神機を備え、納刀の構えを取っており隙を逃すことなく首へ神機を振り抜いた。刃は見事セクメトの首を捉えた。

 血飛沫と共に首が飛び、首のない亡骸が地面に転がった。

 

 

「あなた達、ホントにセクメトが嫌いなのね」

 

「当然だ、硬すぎてイライラする。おまけに他のアラガミと徒党を組んできやがる」

 

「こいつは生きてきゃいけない奴だ。殺さなきゃ」(使命感)

 

 同じショートブレード使い同士、考えは同じ。

 故にクソメトを確実にぶっ殺すための戦術をタツミと考案した。誰かが動きを止めた隙、または攻撃の後隙や不意を突くなどの前提条件はあるがそれを満たしたとき、納刀の構えから居合を繰り出して首を断ち一撃で倒すものだ。

 

 そのため、タツミには真人間時代に会得した居合切りを伝授した。

 恐らく今後は教えるのが上手いタツミが、ショートブレードを使う後輩たちに居合切りを伝授してくれるだろう。

 禁忌種と交戦を許可されたショート使いはまだ少ないが、極東のショート使いは誰もがクソメト絶対殺すマンと化す運命にあるのだ。

 

 

 

 小型、中型がまだまだ向かってくるのを見て気合を入れなおしてタツミと共に再びアラガミの群れに切り込みを掛けようと駆けた時――

 群れの向こうから巨体が飛び出して目の前に降り立ち、咄嗟に得物を構えた。

 

 

『GYAAAAッ!』

 

 

「ッ!? 新種か!?」

 

「こいつは……!」

 

 俺達の目の前に立ちふさがったのは、平行世界で見たあの両腕に刃を持つ青いアラガミだった。

 

 

 

 




タツミ兄貴タフすぎてスタメンだった。


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くたばっちまえ!

今更ですが味方がかなり強化されてます。まあ、極東だからね……。



 

 まさかあのアラガミが来るとは……己の不運を呪うしかねえな……。

 

 突然、無線に連絡が入りタツミが応答する。

 

『タツミさん! 識別不明のアラガミ反応を感知しました。対応できますか⁉」

 

「ああ、俺達は退く訳にはいかない。何とかするさ。ヒバリちゃん、オペレートを頼む」

 

『了解しました!くれぐれも無理をしないように!』

 

 タツミが神機を構え直し、俺も即席神機を構えてすぐに動けるように態勢を整える。

 

「厄介そうね……」

 

 ジーナも駆けつけてきた。

 

 

「距離を取りつつ、落ち着いて動きを見極めろ!」

 

 タツミの指示を聞きつつ、2人よりも前へ出て構える。

 

「へっ、知った顔だ。俺が前に出る。両腕から展開されるブレードに注意しろ!」

 

 俺が2人に警告すると、早速奴の両腕から青いブレードが姿を現した。

 

「ブレードってアレか?」

 

 タツミの質問と共に奴は走り出してこちらに向かいながら周囲の小型や中型を邪魔だと言わんばかりに切り伏せながら突撃を掛けてくる。

 

 

「そうそう、アレだ。スパスパ斬れるから気をつけろよ」

 

「確かによく斬れてるな……って感心してる場合じゃねえぞ!」

 

 2人と共に攻撃を避けて散開して立ち回る。

 

 奴は回転と共に尻尾を振って周囲を薙ぎ払い、俺とタツミはジャンプで躱して滑空攻撃でそのまま奴に突き刺さるが当然アラガミは暴れ、俺達は必死に神機を更に深く突き刺そうと粘るが、突然頭上から光に照らされた。

 

 無線に通信が入り、青いアラガミの他に大型の反応が検知されたと言う情報が入り、周囲を見渡した。

 アラガミは居ないが、突然上空から光に照らされた。

 

 2人して上を見上げれば、光の玉が宙にいくつも設置されており、眩しく輝いている。光の玉の向こうに浮かぶサリエルが不敵に微笑んでいるように見えた。

 

「げっ!?」

 

「やべッ! 退避だ!」

 

 光弾は俺達に襲い掛かり、諸共青いアラガミを攻撃する。同士討ちである程度弱ればいいんだが……奴はまだピンピンしている。

 

「クソっ、この戦況でサリエルは厄介だな……!」

 

「ジーナ、頼めるか!」

 

 悪態を突く俺を余所にタツミはすぐに対策を講じる。

 

「ええ!」

 

 ジーナがオラクル弾を発射しながらサリエルを追うが、奴は軽快に銃撃を避けて更に上空へ逃げて行く。

 

「しかたねえ! ユウ、先にサリエルを始末するぞ!」

 

 

 

 しかし青いアラガミはそうはさせないと片腕のブレードを展開してこちらに向かってきた。

 

「ユウ、行けるな」

 

「余裕だ」

 

 防御の構えを取り、タツミは装甲を展開する。

 

 共にブレードによる攻撃を受け止める。

 

 衝撃に耐えられず後ろへ押されるが、歯を食いしばり腰を入れて踏ん張ると足元からズザザッと靴と地面が擦れる音が徐々に小さくなり、何とか受け止める。だが一瞬でも気を抜けば弾き飛ばされる故に一切の加減をしない。

 

「ぬう……!」

 

「ジーナ、こいつを踏み台にして行け!」

 

 

 タツミの指示に従ってジーナは青いアラガミを踏み台にして高く跳ぶ。しかし、サリエルまでまだ高度が足りない。

 

「タツミ! 一気に押し返してジーナのサポートに行くぞ!」

 

「ああ! 合わせるぞ、せーのっ!」

 

 

「「オラァ!」」

 

 

 同時に全力で力を込めて奴を押し返す。

 

 俺とタツミは同時に跳躍し、俺は足を延ばす。俺の脛にタツミが両足を乗せて着地する。

 そして伸ばした足を思い切り振り上げてタツミを高く飛ばす。

 

「ジーナ!」

 

 タツミはジーナに近づき、手を延ばしてジーナの腕を掴んで振り上げる。

 

 ジーナはサリエルより高く跳び、サリエルは自身の真上を舞うジーナを見上げていた。

 そしてジーナが銃口を向けて引き金を引くと、レーザーの嵐がサリエルを蹂躙し、悲鳴を上げてズタズタになって墜ちて行った。

 

 

 俺が着地してタツミも着地すると、アラガミは跳躍してジーナに攻撃を仕掛けようとしていた。

 

「くっ……!」

 

 ジーナがスタングレネードを使って空中でフラッシュが起こり、アラガミは突然の光に怯んで地面へ落ちる。

 

 『GUUUUU!』

 

 アラガミは目が見えないながらも器用にバック中をして俺達から距離を取って氷の槍を右手に作り出し、視力が元に戻ったのか狙いを定めて投擲してきた。

 

「おいおい、冗談じゃねえぞ!」

 

 タツミが文句を言いながら装甲を展開して防御するが、強力な攻撃に耐えきれず直撃は免れたが弾き飛ばされて地面へ転がる。

 

「タツミ!」

 

『GAAAAAAA‼!‼!』

 

 アラガミはタツミへ向かってブレス攻撃の態勢に入った。

 

「ブレス攻撃か! 流石にまずいぞ!」

 

「くそ、バックラーで受け止める攻撃じゃねえぞあの槍……」

 

 タツミが悪態をつきながら何とか立ち上がる。まだ万全じゃないタツミの前へ出てブレス攻撃を代わりに喰らうつもりで構える。

 

 

「任せなさい。2人とも下がって」

 

 ジーナが俺の目の前の地面にオラクル弾を撃ちこむと、地面にめりこんだオラクル弾から炎が吹き上がり、炎の壁が奴のブレスを防ぐ。

 

 

 俺の隣に来たタツミと顔を見合わせて互いに頷き、得物を構える。

 

 

 奴のブレス攻撃が終わった瞬間、地面を蹴ってタツミと共に炎の壁を突っ切ってアラガミの両腕をそれぞれ貫く。

 

『GYAAAAAAAッ!?』

 

 アラガミが悲鳴を上げている隙を突いてジーナが頭部にオラクル弾を打ち込み、着弾と共に爆発を起こして頭部を結合崩壊させる。

 

 奴はブレードを展開して力任せに薙ぎ払おうと構え、俺は地面へ伏せてやり過ごし、タツミはバックステップで距離を取る。

 

 

 攻撃を回避された直後、背中のブースターから冷気を放出して空中へ跳び上がる。

 

「飛行能力まで……」

 

「宙へ浮かんだ、つまり……デカいの来るぞ!」

 

 雄たけびと共に片腕のブレードを展開すると奴の視線はジーナへ向き、狙いを定めた。

 

「ッ!? ジーナ狙いかッ!」

 

「ユウッ! カバーに回るぞ!」

 

 タツミが指示と共に駆け出し、俺も続く。

 

『GUAAAAAAッ!』

 

 奴がブレードを振り上げてジーナへ滑空し、ジーナは後方へ跳び退いて何とかブレードを躱すが奴はもう片腕のブレードを展開して構えた。

 

「クッ!?」

 

 ジーナが険しい顔を見せつつアラガミを睨みつける。

 

「させるかァ!」

 

 タツミが猛スピードでアラガミの股下を潜りつつ跳び、ジーナを片腕で抱え、装甲を展開して攻撃を防ぐが諸共空中へ吹き飛んだ。

 

「ユウッ! 今だ!」

 

 タツミの指示に頷き、奴の背に飛び乗って即席の神機を構える。

 

「女執拗に狙うとは、見下げ果てた奴め! くたばっちまえ!」

 

 罵声と共にブースターへ即席神機を突き刺す。

 

『GYAAAAAAッ!?』

 

 悶絶しながら暴れ出して俺は吹き飛ばされる。

 

「ウッ!?」

 

 地面に叩きつけられながらも、受け身を取って立ち上がる。

 

「無事か!?」

 

「何とかな」

 

 タツミはすぐにフォローへ回るためにすぐ傍で神機を構え直し、ジーナも適切な距離を持って狙いを定める。

 

「助かったわ、2人とも。サポートは任せて」

 

 

『GUGYAAAAAAッ!』

 

 奴は右腕に稲妻を纏い、空中へ浮かび上がると冷気の嵐が襲いかかる。

 ジーナが咄嗟に先程ブレスを防いだバレットを使い、事なきを得るが空中の奴は稲妻を纏った腕を急降下と共に叩きつけようと向かってきた。

 

「下がるぞ!」

 

 俺の声と共に2人は即座に従って後ろへ下がる。

 

 腕が地面に叩きつけられると地面を電流が走り、俺とタツミは咄嗟にジーナを庇う。

 

「クッ!? スタンか……!」

 

 身体が痺れて動けない。まさかこんな攻撃まで持っているとは……。

 このアラガミ、本当に厄介極まりない。このまま動けない俺達に重い一撃をかます気だろう。

 

「グっ……小癪なァ……!」

 

「2人ともッ!」

 

 そしては再びブレードを展開して振りかぶる。

 

「そういう事ね。なら……」

 

 ジーナがブレードの付け根を狙撃して爆発が起きる。

 

『GYAAAAッ!? GYAAAAAAAッ!』

 

 奴は攻撃を中断して再び空中へ跳び、もう片方の腕のブレードを展開する。

 俺とタツミは体の痺れを気合で克服して神機を構える。

 

「タツミ、奴のとこまで吹っ飛ばせ!」

 

「ッ! しくじるなよ!」

 

 タツミが神機を構えて俺が刃の腹に乗ると、勢いよく神機を振って奴のとこまで投げ飛ばされる。

 

「飽きたんだよその攻撃はよぉ!」

 

 ブレードの根元を即席神機で渾身の力で突き刺す。先ほどの狙撃で薄くだが亀裂が入っていたブレードが砕けた。

 そして砕けたブレードの破片の中でも特に大きいものを掴んで腕を伝って背中へ回ってしがみ付く。

 

『GAAAAAAAAAッ!?』

 

 アラガミが悲鳴を上げて俺を振り落とそうと空中で暴れるが、しがみ付きつつブースターへ近づいてブレードの破片で表面を斬りつけ、傷口に即席神機を突き刺す。

 

 更にアラガミは暴れる。

 

「この……! さっさと落ちろォ!」

 

 突き刺した即席神機から手を離し、神機の柄頭に踵落としを決めて更に突き刺す。

 

『GYAAAAAAッ!?』

 

 たまらず落下し、俺はタツミにブレードの破片を投げつける。

 

「後は頼むぞ!」

 

「任せろ!」

 

 タツミは破片をチャッチして二刀流になるが、アラガミは接近するタツミへ氷弾を吐くが紙一重で避けて、地面に落ちたアラガミに接近して2つの武器を構えて踏込む。

 

「斬ッ!」

 

 タツミが2つの刃を交差させて奴の頭部を切り裂くと、鮮血が飛び散って奴はぐったりと倒れた。

 

 

「流石だ」

 

 俺は呟いて地に伏せたアラガミから飛び降りて着地し、タツミへ近づく。

 

 呻き声が聞こえ、俺と2人も表情を硬くする。

 

「まさか……!」

 

「こいつ、まだ……!」

 

 奴がまだ生きているのに気付き、距離を取る。

 

 

「へッ、中々タフだな!」

 

 タツミが油断することなく構えて不敵に笑い、続いて俺も構え直す。

 

「なら、とことんやってやろうじゃねえか」

 

「2人とも、油断しないで」

 

 得物を構え、次の攻撃に備える。

 

 

『GUUUUU……!』

 

 アラガミは起き上がり、俺達を睨みつけるもそのまま去っていった。

 

「逃げた……?」

 

「いや、ただの他力本願だろう。見ろ」

 

 タツミの指さした方向を見ると、ため息が出る。

 

「極地適応型クアドリガか……。それに小型もワラワラと……」

 

「まあ、あのアラガミよりかはまだマシね」

 

 3人で神機を構え直す。

 

「2人とも、片づけるぞ」

 

「「了解」」

 

 タツミの言葉に頷き、共に得物を手に斬り込みを掛け、ジーナも狙撃するために標準を合わせた。

 

 

 

 小型を切り伏せつつ、クアドリガの攻撃を避けながら接近して数回斬りつけ離脱を繰り返していた。

 

「ああ……硬いな。こんな時ブレ公が居ればな……」

 

「居ない奴の事言っても仕方ねえさ。こじ開けてジーナに始末してもらおう」

 

「だな……。んじゃ、もう一回連携としゃれ込もうか」

 

「よし、突っ込むぞ!」

 

 2人で得物を構え、クアドリガへ突撃を掛けた。

 

 クアドリガはミサイルを何発も発射して周囲を手当たり次第に爆破するが俺とタツミはノンストップで駆ける。爆撃が激しさを増し、砂埃が舞い上がる。

 タツミと距離を取って走り、爆撃を分散させつつ掻い潜る。

 

 

 一気にステップで砂埃を突破すると、視界の端に同じく爆撃の嵐を掻い潜って砂埃を突っ切ったタツミが見えた。奴もこちらが視界に入ったようでこちらへアイコンタクトをしてきた。

 

 仕掛けるか、班長。俺もタツミに目で返す。

 

「ユウ、続け!」

 

 タツミが叫び、跳躍して滑空攻撃でクアドリガの前面装甲の隙間に突き刺さる。指示通り俺も続いてステップで前面装甲に接近してタツミと同様、隙間に即席神機を刺しこむ。

 

 タツミは先程のアラガミから奪い取ったブレードの破片も突き刺した。

 

「さあ、合わせるぞ!」

 

「okだ」

 

 呼吸を合わせて神機を振り抜き、無理やり前面装甲をこじ開けて弱点をむき出しにする。その瞬間、幾つものオラクル弾が弱点部位に着弾した。そしてタツミと共に距離を取ると、装甲は閉じる。

 

 直後に奴の内部から凄まじい音が木霊し、前面装甲から大量の血液を噴き出してクアドリガは倒れた。

 

 

 

 他の小型と中型も掃討しようと神機を構えた時――

 

 

 地鳴りが聞こえた直後、地面が揺れる。

 

「地震か!」

 

「ちょっと揺れが大きいわね……」

 

「なんだウロヴォロスか? 冗談きついぜ」

 

 

 周囲を見回すと、遥か遠くでとてつもなく大きさの形容できない何かが空高く昇って行っているのが見えた。

 

「なんだありゃ……!?」

 

「アラガミ…………?」

 

 2人も空へ飛んでいく何かに驚きを隠せないでいる。

 

 アラガミの様な何かは空高く飛び去り、光の粒の様なものが舞ってくる。

 あのデカブツ……方角的にエイジスか……? ユウナ達、やったのか……? 

 

「きれいだが、まずはこいつらだ」

 

 俺がアラガミ共へ振り向くと、アラガミ達は背を向けてゆっくりと去っていく。

 

「こいつら……どうしたんだ?」

 

「さあ……だが……」

 

 タツミは地面に座り込み、俺は地面へ仰向けになる。

 

「守り切ったぜ……皆の帰る場所をな……」

 

 タツミの言葉に頷いて目を閉じる。

 

 ああ、疲れた……。

 あの平行世界から殆んど休む間もなく、ずっと連戦だったな。今日はぐっすり眠れそうだ。

 

「おし、帰るぞお前ら。お疲れさん」

 

「そうね。第1部隊も迎えてあげないと」

 

「だな。さっさと帰るか」

 

 立ち上がって得物を担ぎ、3人並んでアナグラへ歩き出した。

 




極東と言っておけば何とかなるこの世界。


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ふざけやがってェ!このガバガバのポンコツがァ!

やっとBURST編に突入。


 

 

 

「ふー……」

 

 雪が風と共に吹き付ける旧寺院、冷たい雪の上で対アラガミナイフを構えて呼吸を整える。

 

 

「いやー参ったね……。緊急の偵察任務に駆り出されて……こんな化け物に遭遇とは……」

 

 

 年がら年中雪が降る廃寺で正体不明の反応があると聞いた時点で嫌な予感はしていたさ。

 

 

  GUGAAAAAAッ!

 

 

 初めて相対する新種のアラガミ。白い竜人の様なアラガミは爪に炎を纏って雄たけびを上げた。

 

 

 落ち着いて繰り出される攻撃をすべて避けつつ距離を取る。攻撃方法や行動パターンを見極める為に。

 

「さて、おっかなびっくり立ち回るか。テメエの攻撃、全部見切ってやらぁ」

 

 そして俺は奴に向かっていった。

 

 

 

 

「やはり、あの反応は新種だったか」

 

「ええ。確か先日も偵察班が接触してたはずでしたよね。俺も実物みて気づきましたが、防衛戦の時に遭遇した青いアラガミと似たような骨格ですよ」

 

 あのアラガミの攻撃を凌いで粗方情報を集めて撒いてとんずらこいてすぐに報告書を書き、詳細確認の為に雨宮教官の執務室を訪れていた。

 

「全く次から次へと……」

 

 流石の雨宮教官も頭を抱えている。

 

 そりゃそうだ。先日起きた事件がな……。

 突如エイジス島に出現したアラガミ、アルダノーヴァの急襲によってエイジス島は半壊。そして極東支部・支部長ヨハネス・フォン・シックザールが崩落に巻き込まれて死亡。

 

 それが世間の公式見解だった。そして、支部長が秘密裏に進めていたアーク計画は闇に葬られた。

 

 当然極東支部は後始末に追われていた。空席の支部長はどうするか、本部や他の支部から「テメエらに何やってんの? バカじゃね?」とお言葉を頂いたりと様々だ。

 

 そして俺も後始末に追われて書類を整理したり、賛成派の職員が仕事投げ出して箱舟に乗ったおかげで山のように積まれた仕事等を手分けして始末。勿論外部居住区での配給の対応などもしなければいけない。おまけに空気の読めないアラガミとかいう害獣共が攻めてきた際に装甲壁を幾分かぶっ壊してくれたおかげでそちらの補強作業の手伝いなどやる事が多すぎて全く休めていない。ちなみに最近やたらと支部近くでアラガミが目撃されるので神機使いも大忙しだ。

 

 あ、あと先日の防衛戦や今までの偵察任務での戦果が認められ、新兵から偵察兵になりました。パチパチ~。

 どうよ? 俺まだ入隊して半年とちょっとしか経ってねえのにもう新兵卒業だぜ? 

 だけど他の連中の出世スピードが尋常じゃないくらい早すぎて俺が一番遅いんだぜ? 

 

 ユウナに至っては少尉、俺が偵察任務のイロハを叩き込んだコウタは上等偵察兵になった。どんどん追いつかれ、追い越されていくぜ……!

 このままじゃ俺、窓際族確定だな。まあ、社内ニートよりかはマシなんじゃないんですかね……?

 

 

「とにかく、早急に対策が必要だな。近い内に第1部隊に討伐任務を任せる事になるだろう。今日はもう休め。ご苦労だったな」

 

「了解しました」

 

 

 

 

 

 執務室を後にして、俺は榊博士の研究室へ向かう。

 

 何でも話さなければいけない事があり、今日中になんとか来て欲しいとの事だ。

 しかし面倒事の嵐に吹かれているこの現状、明らかに面倒事が舞い込んでくるに決まっている。だから俺は適当な理由で榊博士の頼み事を断らなければいけない。

 過労死だなんて冗談じゃない。

 

 

「博士、入って大丈夫です?」

 

「ああ、待っていたよ。さ、入ってくれ」

 

 扉を開き、研究室に入りソファーに腰を掛ける。

 博士と2人で茶を啜りながら話を始める。

 

「まず、君に調査を頼んでいた島だけど……消滅した」

 

「は……? え……?」

 

 いきなり衝撃的な発言で俺はポカンと口を開けた。

 

「本当に言葉通りなんだ。沈んだではなく、消えてなくなったんだ」

 

「なぜ?」

 

「分からない。ただ、気に留めておく必要があるだろう。アラガミやオラクル細胞など常軌を逸したものが存在するとはいえ、不可解であるよ」 

 

「さ、さいですか……」

 

 しかし、何故か納得がいく。

 あの島は平行世界へ行くための場所で、助けを呼んでいたエレナを助けたから役目を終えて消えたのだと思うと不思議と納得できる。

 多くの兵士が散り、俺達の墓場になった場所がエレナを助ける為の糸口になるか……不思議なもんだ。

 

 

「まあ、仕事が終わったってことですよね?」

 

「とりあえず、報酬は支払っておくよ。手を煩わせたね」

 

「いや、報酬はいいですよ。結局何も分からずじまいでしたから」

 

 エレナを助ける事が出来た。それが最高の報酬だ。

 俺は断りを入れて、研究室を後にする。

 

 

 

 

「とりあえずこの書類、ここに判子押しておいて。内容は確認しているからただ判子だけお願い。もしかしたら、他の班の判子が押されていない書類があるかもしれないから、もし有ったら担当の班で確認してもらってくれ」

 

「分かりました」

 

 事務官から書類の束を受け取ってラウンジで何か飲みながら作業をしようと思い、早速ラウンジへ歩き出す。

 

 

 

 コーヒーに砂糖をたっぷり入れて啜りながら、ひたすら指示された場所に判子を押して次から次へと片付ける。

 

 あ、未記入の書類を発見。

 とりあえず判子を押せるものはすべてやってしまおうと考えてその書類だけ除外する。

 

 ああ……目が痛くなってくる……。マジで書類仕事とか柄じゃないんだよなぁ……。タツミの奴が端末弄りながら疲れた顔をしている理由が良く分かる。

 やっぱり現場が一番だ。しかし不思議な事に人間とは殆んどがあれこれ指示する立場に成りたがる。

 しかし、いつになったらこの書類地獄から解放されるんだろうか……?

 

「あ、ユウ。探してたんですよ」

 

 アーク計画を阻止した功労者の1人、アリサが話しかけてきた。

 探していたと言ったが、何か用だろうか。

 

「ああ、アリサ。どうした?」

 

「はい。先日、ユウが接触した新種、ハンニバルについて聞きたいことが……」

 

 アリサが向かいの席に座って、書類を出す。

 

「先程、討伐作戦が発令されて資料を貰ったんですけど、詳しく聞きたいことがあるんです」

 

「ああ、分かる範囲でなら構わんぞ」

 

 その後、具体的な攻撃パターン等、習性が無いか等を聞かれて知る限りの事を話した。

 アリサが広げた資料を確認しながら意見を交換する。

 

「後留意する点と言えば、資料には載ってないが胸の中にある炎だな」

 

「胸の中?」

 

 丁度胸が良く見えるように映している物が無い。

 

「あ、丁度見えないな。偵察班の部署に行けば、他に写真や詳しい資料もまとめられて居たはずだ。さっき俺が持ち帰った情報もとりあえずまとめられて居る筈。必要ならコピーして持ってくるか?」

 

「あ、是非お願いします」

 

 アリサが頷き、俺も頷き返して席を立った。

 

「ごめんなさい。忙しいのに。そうだ、この書類見ておきましょうか?」

 

「あ、それただ判子押してただけだ。別にいいぞ?」

 

「いえ、私ばかり悪いですから。判子はこの場所で良かったですか?」

 

「ああ、悪いな。そこで大丈夫だ」

 

 

 俺は早歩きで部署へ向かい、資料を取り出してコピー機に掛ける。

 資料のコピーをもってラウンジへ戻る途中、「あっ」って思った。

 

 失敗したな。未記入の書類、整備班の判子も必要だったからリッカに詳しい事聞くのに整備室に寄れば良かった。

 

 ま、後でいいか。別に急ぐ訳じゃねえしな。

 

 

 

~偵察班部署にて~

 

 

コピー機「新種アラガミの写真のコピー何て必要ねぇんだよ!インクを無駄にしやがって神機使いの屑がこの野郎……。もう紙詰まり起こすからな~?ほら見ろよ見ろよ」

 

 

 ガガガガ(迫真の紙詰まり)

 

「ふざけやがってェ!このガバガバのポンコツがァ!動けッ、動けって言ってんだよクソがァ‼」

 

コピー機「乱暴するのやめちくり~紙詰まりしてるから詰まった紙取り除けって言ってるだろルルォ⁉」

 

 

 

 

 

「悪いな。待たせた」

 

 急いでコピーした写真をもってラウンジに戻った。え?コピー機?ああ…………バラしてやったよ。

 

「あ、いえ。丁度こっちも終わったところですよ」

 

 なぬ? 終わった?

 え、もう終わったの? 早くね? 早いよな? まさか書類仕事もできる系? マジかよ、万能だなアリサ。

 

「すげえな。もう終わったのか」

 

「ただ判を押すだけですから。あと、未記入の書類がいくつかありましたよ。

討伐班の記入が必要な書類はリーダーに頼んでおきますよ」

 

「ああ、済まない。何から何まで悪いな」

 

 とてもありがたい事だ。めっちゃ有能すぎるだろ、こいつ。これじゃ初対面でボロクソ言われても黙って頷く事しか出来ないわ。

 

「とりあえず、これが新種の胸だ。中で炎が燃えているように見えるだろう?」

 

持って来た資料のコピーを広げて指しながら説明する。

 

「確かに。でも、何故こんな所に……? ブレス攻撃の為でしょうか……」

 

「それもあるかもしれんが、博士曰く膨大なエネルギーを溜めこんでいるらしい。

もしかしたら、生命維持の危機に陥ったらこれを開放して周囲を吹き飛ばしたりするかもしれないな」

 

「炎に対する対策をできる限り万全にしなければいけませんね……。そういえば、ここの炎の剣と槍ってなんですか?」

 

 アリサが文章を指さしながら聞いてくる。

 

「ああ、手に炎を纏ってそれを剣や槍の形にして攻撃してくる。炎の剣で二刀流になったら注意が必要だ。移動しながら剣を振りつつ暴れ回るからな。対策は距離を取るか、装甲を展開してひたすら凌ぐか、見切って全部躱すかだな。ま、お前らの隊長殿ならカウンターを決めそうだが」

 

 資料を捲りつつ、ハンニバルが剣や槍を構えている写真を探し、発見すると写真を指さしながら口頭でどのような攻撃を仕掛けてくるか説明する。

 

「距離を取るか、防御に専念ですね。分かりました」

 

「大体こんな所だな。資料は持って帰っても構わんぞ」

 

「分かりました。ごめんなさい、忙しいのに」

 

「いや、気にするな。討伐作戦、気を付けてな」

 

 アリサは席を立って資料を持って行った。

 

 俺はアリサが終わらせた書類を纏め、未記入の書類はそれぞれの部署で確認して貰おうと思い立つ。

 

 とりあえず整備班を訪ねようと思い、リッカを探す事にした。大抵整備室かエントランスに居るだろうから、まずはエントランスから見てみるか。

 

 

 エレベーターを降りてエントランス内を見渡すが、リッカは見当たらない。いつも頭にゴーグル掛けてるから見つけやすいので居るか居ないか判断がすぐにできて楽だ。

 

 

「あ、ユウも書類仕事?」

 

 名を呼ばれて見てみれば眼鏡をかけた女子に話しかけられた。

 誰だこいつ――ってユウナか。眼鏡を掛けていたので一瞬、誰か分からなかった。

 

「眼鏡なんてしてたのか?」

 

「生まれつき目が良すぎてね。書類仕事とかしていると、疲れるから眼鏡をしているだけだよ」

 

「ああ、そういう事……」

 

 そう言えば、ソーマもラウンジで本を呼んでいる時は眼鏡していたな。

 

「………………」

 

 ユウナが不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「なんだ、俺の顔になんかついているか?」

 

「あ、そうじゃなくて……。ユウって髪の毛を黒染めしてたの?」

 

「黒染め? これは地毛だぞ」

 

「あ、そうなの? ユウの髪の毛、数本だけ灰色になってるからてっきり……」

 

「灰色? 白髪の間違いじゃねえのか?」

 

「いや、誰がどう見ても灰色だと思うけど……。アーク計画の時に戻ってきた時からじゃなかった? それにこめかみのあたりの肌がちょっ色白になってて目立つよ?」

 

 

…………髪に関しては多分、エレナだな。灰色と聞いた時点で心当たりはそれしか思い浮かばない。こめかみ周りが色白……まあ、気にすることでもないだろう。

 

「……そうか。だが心当たり何て無いぞ?」

 

「体の調子でも崩れたりしたんじゃない?」

 

「まあ可能性はあるな。さっさと終わらせて休むわ」

 

「うん。それがいいと思うよ。ふー、後は部屋でやろうかな。ユウはまだ仕事?」

 

 種類を纏めてユウナが立ち上がって伸びをする。

 

「ああ、箱舟賛成派の尻拭いを手伝わねえといけねえからな」

 

「そっか、あんまり根を詰めないようにね? お疲れ様」

 

「ああ、お疲れさん」

 

 

 ユウナは書類を持ってエレベーターに乗り、俺も整備室へ向かうために別のエレベーターに乗った。

 

 

 エレベーターが下降し始めると。急に首と胸が熱を帯びて眩暈を起こして壁に手をつく。

 

「…………く、またか」

 

 体に倦怠感を感じ、関節痛が激しく走り、呼吸も荒くなって少し辛い。

 あの防衛戦の直後から倦怠感や関節痛などが生じるようになった。

 

「…………っ!」

 

 頭痛がすると、周囲の気配が全く感じ取れなくなって急な症状に困惑するもすぐにそれは収まった。

 

「ふう……」

 

 日に日に悪くなるわけでは無いが、ぶっちゃけ体調の良い日は無い。体調が悪いか、凄く悪いかのどちらかだ。

 

 

 エレベーターが止まり目的の階に到達した。

 

 

 

 

「リッカ―、居るかー?」

 

「あれ、どうしたの?」

 

 リッカがゴーグルを外してきょとんとしている。

 

「悪いが、この書類確認してくれ。判子も欲しいんだが……」

 

「うんうん。あー前の会議で上がってたやつかー。結局現状維持になったんだ。OK。事務部屋の机に判子が置いてあるから勝手に押しちゃっていいよー」

 

 

「ああ、分かった。悪いな、邪魔して」

 

 リッカは整備室を出て行き、去り際に謝って事務部屋に入り、リッカの机の上の判子を借りて書類に押して事務室を出て行く。

 

 

 整備室を通り、エレベーターを目指す。

 

 

「ッ!」

 

 俺は誰も居ない筈の整備室で何かの気配を感じて振り返って見回す。

 

 なんだ、一瞬なんか妙な気配が……。

 周囲を見回すと、視界にリンドウさんの神機が映った。

 

「………………?」

 

 気のせいと言う事にして俺はエレベーターに乗ってエントランスに戻った。

 

 




まだ無印をプレイしている時、階級がいつの間にか『ゴッドイーター』になっていてファッ⁉ってなった頃を思い出した。


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ほう、手品か。他に特技は?

ハンニバル種は戦いやすくてあぁ~いいっすねぇ~


 

「こちら、ユウ。目標を再度補足した」

 

『了解。そのまま追跡をお願いします』

 

「了解した。交信終了」

 

 

 無線を切って俺は先日遭遇した白いアラガミ――ハンニバルを追っていた。

 

 先日、第1部隊がハンニバル討伐作戦を実行して見事にハンニバルを倒し、コアを回収したと思ったらハンニバルが復活し、攻撃を仕掛けてきた。ユウナがコウタを庇い、神機が大きく損傷したらしい。

 

 正直、耳を疑ったね。

 倒したはずなのに復活して襲い掛かって来るとか恐ろしいにも程がある。つまり、今ハンニバルを倒す手段が無く、叩きのめしてコアを奪ってすぐに撤退してという感じで文字通り撃退の姿勢でなければならない。

 

 ハンニバルの不死性を破る為の会議も行い、大方の対策を講じる事が出来た様でその準備をしている。流石は最前線の極東支部、対策が早いぜ。

 そして俺は更なる情報収集の為、こうしてハンニバルを追っている訳だ。

 

 つい先日、平原エリアにてタツミとブレ公、そしてカレルがハンニバルと交戦した後に無事撃破してコアを回収した。対策の為に奴のコアが必要になったらしく、一度倒したら撤退してを繰り返しながら対策を進めつつ追い詰めていくとの事。

 タツミ達は一度戻り、俺はこのまま追跡を続けた。

 

 そして地下街エリアに移動したので俺も後を追って、今はマグマが一帯を埋め尽くす煉獄の地下街にて任務を行っている。

 

 

「さて、今のところは特に動きに変化なし。ただ、雑魚アラガミを見つけたらぶっ潰して喰っているだけか」

 

 

 この地下街を自分の新たな縄張りとでも言うように我が物顔で歩いている。

 視界に映るアラガミは片っ端から襲い掛かって喰らう。正直、同じ大型にも果敢に戦いを挑んでいき、果てには倒して喰らう。

 同じ大型でも上と下があると言う事を認識させられる。

 

 

 水筒の蓋を開けて水を飲み、水分補給をしながらハンニバルを追う。

 

 場所が場所なのでこまめに水分補給をしなければいけない。空腹は何とかなるが、喉の渇きは早急に何とかしなければいけない。

 しかし、水も少なくなってきたのでそろそろ一回戻らなければいけない。いやまあ、地下街から外に出れば水溜りだとかはあるんだが、飲むのはちょっとな……。雨水溜めたり、木の枝から滴る水滴を溜めて飲み水にしていた事はあったが……。それをすると赤痢がやばい。

 あと贅沢ではあるんだが、くっそ不味い。

 

 

 仕方ない。一回戻――ッ!

 

 

 敵意を感じて、上を向くとハンニバルが拳を握って急降下して拳を叩きつけようとしたのに対し、咄嗟に後ろへ跳んで距離を取る。

 

 何度か跳び退いて様子見すると、奴はこちらを睨み、雄たけびを上げて大きな足音を響かせながら向かってくる。そして腕を広げて爪を構えた。

 

 十分に引きつけ、爪を交差させ始めると同時に跳んでハンニバルの逆鱗を踏み、再びジャンプして背後へ回り込む。

 

 ハンニバルも素早く前方に跳びながら反転し、火球を吐きだしてきた。

 

 火球を躱すとハンニバルは右手に炎の槍を持って地面へ突き刺し、槍が地面にささると衝撃波が発生して吹き飛ばされる。

 

 

「ッ! 油断したな……!」

 

 受け身を取って立ち上がると、既にハンニバルが距離を詰めて爪を振り降ろしてきた。

 振り降ろされる爪を最小限の動きで回避して対アラガミ用ナイフを抜いて斬りかかるが、容易く籠手で防がれる。

 

 そして危険を感じてバックステップで距離を取ると、同時に裏拳を繰り出された。

 

 少しでも反応が遅れれば手痛い一撃を貰うところだった。

 

「人間みてえな動きには驚いたが、俺には通用しないぜ?」

 

 攻撃パターンは人間とあまり変わらない。ただデカくて炎吐けて、衝撃波も出せる人間だと思えば対処には困ら…………それ最早人間じゃ無くね?

 

『GUUUU…………』

 

 呻き声を上げて尻尾を捻ると、半回転と共にこちらを薙ぎ払ってくる。

 尻尾が真横まで迫ってきたと同時にバック宙で躱す。

 

 間髪入れずにハンニバルが右手に炎を纏って地面に叩きつけると、足元が赤く光りながら熱を発する。

 慌ててステップで跳び退くと、赤く光った地面から炎の柱が出現する。

 

 

「ほう、手品か。他に特技は?」

 

 ハンニバルに中指を立てて挑発すると今度は炎の剣を右手に作り出した。

 情報通り、炎を武器の形状に変えて扱うか。搦手が来なければ対処は容易いが……さて、あんな化け物に搦手を考える知恵があるのか確認させてもらおうか。

 迫ってくる炎剣を最小限の動きで躱すが、再び炎剣を振ってくる。

 

 2発目を紙一重で躱し、今度は足元を薙ぎ払うように振ってきた。

 

 跳んで躱し、空中の俺に炎剣を突き刺そうと構えた。

 空気を蹴って宙を移動し、炎剣から逃れて壁の瓦礫に捕まってぶら下がる。

 

 「ッ!」

 

 ハンニバルも跳んで炎剣を構えながらこちらへ向かってくる。

 

 突き出された炎剣をその場から跳んで回避するが、後隙を狙うように尻尾を叩きつけられて吹き飛ばされる。

 

「グァッ……ッ!」

 

 痛みを堪えるが、真下から強い熱気を感じ見てみれば下は一面マグマ。

 

 

 何とか態勢を整えて空気を蹴って壁へ掴まるが、既にハンニバルがマグマを掻き分けながら迫っており、咄嗟に手を離して壁に足を着き、壁を走って逃げるがハンニバルも俺を追い駆けつつ、火球を吐き出してきた。

 

 

「流石に……きついな……」

 

『GAAAAッ!』

 

 

 マグマに沈んでいない地面を見つけると同時にハンニバルが吠え、炎剣をこちらに投げつけてきた。

 炎剣は回転しながら壁を焼き切りつつ追ってくる。

 

 真後ろまで熱を感じ、咄嗟に体を捻りながら壁から跳んで炎剣を躱す。

 

 上手く地面に着地してハンニバルへ向き直ると、ハンニバルは口から炎を吐いて辺りの地面ごと焼き払おうとしてきた。

 

 

「うおッ!? そりゃ無いぜ!」

 

 迫りくる炎に背を向けて走り出し、逃げ続ける。

 

 逃げいる内に炎は勢いが弱くなったのを感じ走りつつ振り返ると、燃えている地面を踏みつけながらハンニバルが2本の炎剣を両手に構えて突進してきた。

 

「ハァ⁉ 二刀なんざ聞いてねえぞクソがっ!」

 

 二振りの炎剣を躱すが、すぐさまハンニバルは炎剣を振り直してくる。避けるともう片方の手で炎剣を振り、それを避けるともう片方の炎剣が迫りくる。

 

 何とか攻撃を躱して凌ぐ。

 只の斬撃だけでなく、突き攻撃、そして炎剣を順手から逆手に持ち替えて様々な角度からの連続攻撃を仕掛けてくるので全く付け入る隙が無い。

 

 次に炎剣を振られるよりも速く懐へスライディングで潜り、そのまま尻尾を躱して背後へ回るが、ハンニバルも回転しつつ炎剣を振る。

 

 

『GUGAYAAAッ!』

 

 2つの炎剣を合わせ、1本の巨大な炎の剣が作られた。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 そしてハンニバルが炎の大剣を振ると、炎の斬撃が飛んできた。

 

「くッ!」

 

 身体を横へ転がして、炎の斬撃を躱す。しかし、ハンニバルは炎の大剣を地面に引きずりながら接近し、振り払う。凄まじい熱気が飛んで来るが我慢しつつ回避に専念する。

 

 

『ユ……さ……ユウさ……!』

 

「ん!? どうしたッ!?」

 

 無線が入り、ヒバリちゃんの声が聞こえてきた。

 

『ユウさん、ご無事ですか!?』

 

「ああ、何とかな! 今ハンニバルとダンスしている最中なんだ。後にしてくれる……ッと!嬉しいんだが……!」

 

 繰り出される斬撃と炎を躱しつつ、後退する。

 

『そちらの状況は把握しています。今、第1部隊が地下街エリアに到着してそちらへ向かっている筈です。離脱してください!』

 

「そいつはありがてえ。了解だ」

 

 

 攻撃を躱しつつ、スタングレネードを取り出して使うタイミングを計る。

 

 

 

 

「横に跳べ!」

 

 

 

「ッ!」

 

 

 背後から声が聞こえ、何かが迫ってくる気配を感じて横へ身を投げ出すと、背後からオラクルの衝撃波が通りすぎてハンニバルを襲った。

 

 

『GAAaaaッ!?』

 

 

 あっぶねー今の俺じゃなかったら当たってたぞ。極東のエースは容赦のない事で……。

 

 

「随分無茶をしたな。下がれ」

 

 白いバスターブレードを手に俺の前にソーマが降りたつ。

 

 

「こちらソーマ、討伐対象と接触した。交戦する」

 

 

 無線に呼びかけると、神機を構えハンニバルへ向かっていく。

 

 ハンニバルが炎剣を振ると、ソーマは背を向けつつ装甲を展開し、攻撃を受け止めながら素早く踏み込んで神機を振り上げてハンニバルの顔面を切り裂く。

 

 ハンニバルが籠手でソーマに殴りかかるが装甲を展開して防ぐ。

 

 青色のオラクル弾が何処からともなく飛んできてハンニバルを撃ち抜く。

 オラクル弾は再び飛んでいく。ハンニバルは籠手を盾にして弾丸を防ぐが、その隙を突いてソーマは足を切りつけた。

 

「へっ。ユウ、元気そうだな!」

 

「後は任せてください!」

 

 コウタとアリサが神機を構えながら飛び出し、攻撃を続ける。

 

 ハンニバルは跳び退くと共に、幾つもの火球をアリサとコウタに吐き出した。

 

 アリサは剣形態に切り替えて、装甲を展開し、俺はコウタを担いで火球の嵐へ飛び込む。

 

「ちょちょ、ユウ! 当たるから!」

 

「当たらねえから」

 

「ああもう! 当たったら恨むからな!」

 

 コウタはヤケになりつつも神機の引き金を引き、俺はコウタを担いだまま火球の嵐を掻い潜る。

 

 ソーマも素早く駆けて火球を躱しつつハンニバルへ近づく。

 

 そしてハンニバルは炎剣を作り、俺達を薙ぎ払おうとする。

 

「コウタ! 奴の上まで投げるぞ! かましてやれ!」

 

「OK!」

 

 コウタを1回転共に上空へ放り投げて、コウタは奴の逆鱗に攻撃を浴びせる。

 

 しかし、ハンニバルはそのまま炎剣で地面を薙ぎ払ってきたがソーマと共に跳んで回避する。ついでにソーマの腕を掴んで更に上空へ投げる態勢を取る。

 

 「悪いが、後は上手くやってくれ!」

 

 「な、おい」

 

 謝罪と後の事を託し、ソーマを投げ飛ばす。

 

「オラ跳べやァ!」

 

 

 

 ハンニバルが俺を睨みつけて炎剣で突き刺そうとしてくる。

 

「そのまま!」

 

 アリサが声を上げ、壁を蹴って空中を素早く移動して俺の襟を掴んで引っ張り、間一髪のところで助けてくれた。

 

 

「くらえッ!」

 

 ソーマが急降下して神機を振るが、ハンニバルは籠手でソーマの攻撃を受け止めた。

 

「隙ありっと!」

 

 コウタがハンニバルの背に着地し、再び跳んで顔面に零距離で銃撃を浴びせるとハンニバルは堪らず態勢を崩し、ソーマが神機を構え直してもう1度振り下ろす。

 

 白い鋸はハンニバルの肩を切り裂く。

 

 ソーマが力尽くでそのままハンニバルを地面へ叩きつけるがハンニバルは抵抗して空いた手で攻撃しようとするのを既に駆けだしたアリサが腕へ神機を振って弾き返して剣形態のまま銃口を向けて爆撃して腕を吹き飛ばす。

 

 

 そして俺の横をユウナが一瞬で通り過ぎ、ハンニバルの頭部へ一直線に向かう。

 

 ユウナが神機を振り抜いてハンニバルの顔面を斬り崩し、口へ神機を突き刺して動きを止める。

 

「ソーマッ!」

 

 ユウナが叫ぶと、ソーマは再び跳んでハンニバルの真上で捕食形態へ切り替えて、構えて急降下。

 

 神機がハンニバルの背中に喰らいつき、そのまま肉を食い破って鮮血が飛び散る。

 

 そしてハンニバルは咆哮を上げた後に力なく地面に倒れた。

 

 

 

 ユウナがコアを回収し、すぐに撤退しなければいけないとの事で急いで地下街から脱出する。

 

 

 

 

 

「悪いな、おかげで命拾いしたぜ」

 

 地下街から脱出して周囲を警戒しつつヘリの迎えを待つ間に、最初に駆けつけてくれたソーマに礼を言うと、「気にするな」とまさかの言葉が返ってきて内心困惑している。正直、無視されるか神機もないのに前線で出しゃばるなとお言葉を貰うかと思っていた。

 

 しかし、ソーマの神機……この色はやはり……。

 

 アーク計画の後にソーマの神機は色が黒から白色へ変わった。そしてこの神機は見覚えがある。

 あの世界でソーマに似た顔をしていたアインが持つ神機と全く同じなのだ。実際アインの神機をじっくり見る暇なんて無かったので全く同一かは分からんが。

 まあ……刀身が白い神機ならたくさんあるが、アインとソーマの神機に共通して言えるのは捕食形態まで真っ白な色をして居る事だ。普通なら黒色の筈だからな。ただの偶然にしては少々不気味だ。だが、あの男は青いオラクルを刀身に纏って凄まじい一撃を放つがソーマはそれらしき芸当を見せていない。それにアインと比べればまだ若い。

 

「どうした? 神機が気になるか?」

 

 ソーマがこちらの目線に気づき、問いかけてきたのでついでだと思って聞いてみる事にした。

 

「ソーマ、アインって名に聞き覚えあるか?」

 

「いや、無いな」

 

「そうか。ならいいんだ。失踪途中で世話になってな。随分お前さんに似ていたもんでな。とすると他人の空似だな。気にしないでくれ」

 

 

 




~GE3灰煉種戦にて~

バルバルス・イラ~地面に潜って遅延しやがってよォ!心底イラつくぜえええ!

アグニ・ヴァジュラ~ファッ⁉怒り時オートヒールにカウンター⁉アアアァァ‼

ヌァザ・アイル~なんやこの設置技⁉威力高すぎィ!心底イラつくぜええ!

メラム・マルドゥーク~毒なんざ関係ねーんだよ!(ヒートドライブ脳死ぶっぱ)

ティラニ・ハンニバル~いいゾ~これ(珍しく快勝)

バルムンク・レガリア~ガン〇ムやんけ!アァアアア鬱陶しぃンゴォォォ!‼!‼!

ティラニが唯一の癒しでした(血涙)


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イ゛ェアアアアッ!!!!!!!!

実際どんな味なんだろうか、初恋ジュース


「お疲れ、ユウ」

 

「ああ、助けられたなコウタ。ありがとよ」

 

「へっ、いいって事よ!」

 

 自販機でジュースを買ってコウタと共に一息つきながら新人区画の休憩所で休む。

 

「あ、そう言えばユウって昇格したんだろ? なんか祝いにちょっとパーティーでもしようぜ? 今まで忙しかったから全然提案できなかったけどさ」

 

 コウタの提案に驚いたが、今でも十分忙しいから無理だと思うんだが……。それに俺も補給を終えたらすぐにハンニバルの追跡に出ないといけないからそんな暇もないんだが……。

 

「悪いが、すぐにハンニバルの追跡に出ねえといけないんだ」

 

「マジで? 変わってもらうとかってできないのか?」

 

「適任が俺だけだからな……。それに雨宮教官には逆らえん」

 

「まあ、それは分かる気がする。仕方ないか。またの機会だな。あ、そうだ。プリン味のレーションでも持って行けよ」

 

「お前さり気無く俺にとんでもない食い物を押し付けようとするんじゃない」

 

「冗談だよ冗談」

 

 エントランスに戻ろうとする前に空き缶をゴミ箱へ捨て、ふと自販機を見れば何やら見慣れないジュースが目に留まった。

 

 

「初恋ジュース? なんだ新作か?」

 

「ああ。しばらくアナグラを空けてたからユウは知らないか。榊博士が構想に十年もの歳月を費やし、断水と節電の協力を呼びかけて、遂に完成させた究極の嗜好品だ」

 

「ちょっと待て。博士が作ったのかこれ?」

 

 正直とても嫌な予感しかしないのだが……。それに構想に十年ってどういう事よ……。

 博士、これ才能の無駄遣いじゃないのか? 

 あんた、こんなもんに十年かけてどうするんだよ。もっとアラガミとの戦いで役に立つもん作れたんじゃねえのか?

 大体何だよ初恋って。熟れた時期なんざとっくに過ぎて発酵してるだろ、年齢的な意味で。 

 

「と、とりあえず後で飲んでみるか」

 

 財布からfcを取りだして自販機へ投入して初恋ジュースを選ぶ。

 

「え、マジで飲むの? 色んな奴騙して飲ませた俺が言うのもアレだけど、ぶっちゃけお勧めしないぞそれ」

 

「まあ、リッカが冷やしカレードリンクなんて好んで飲んでるんだからもしかしたら行けるかもしれないぞ?」

 

「あ……ああ、そうかもな……。じゃ、俺も行くわ。次の任務、気を付けてな」

 

 

 コウタと別れ、エントランスに戻っていつものソファーで寛ぐ。

 どれ早速飲んでみようではないか。

 

 初恋ジュースの蓋を開けて、匂いを嗅いでみたが特に変な匂いはしない。

 

 

「あら、ユウ。お疲れ様」

 

「ユウ。お疲れ……あっ」

 

 丁度口をつけたと同時にサクヤさんとユウナが来た。

 ユウナがやってしまったかと言わんばかりの反応が気になった途端、口の中が阿鼻叫喚の渦に叩きこまれた。

 

 

「イ゛ェアアアアッ!!!!!!!!」

 

 

 声にならない悲鳴を上げて、一瞬宙へ浮かぶ感じがした後に床に倒れた。眼が勝手に見開き、体の痙攣が止まらない。

 

 な、なんだ……! 何が……起こった……? 

 

 何かサクヤさんとユウナが必死に呼びかけているような気がするんだが、声どころかいつもエントランスを賑やかにしている人の話し声や足音、モニターの映像の音など雑音すら聞こえない。

 体中のあらゆる器官が俺の生命を維持しようと奮闘しているが、心臓がバクバク鳴り、何かが喉を登ってきて、口まで到達すると、血と共に透明な液体が零れてきた。

 

 

 ああ、なんてことだ。これもう助からねえわ。

 マジかよ、こんな事で死ぬとか未練しかないんだが……。

 

 俺は意識が遠くなり、眼を閉じた。

 

 

 

 

「…………?」

 

 目を開くとそこは医務室の天井だった。

 

「あら、目が覚めた? はい、水よ」

 

 サクヤさんがコップに水を注いで渡してくれた。

 

「ああ、すみません」

 

 俺、どうしたんだっけ……? なんで医務室に居るんだ?

 水を飲みながら記憶を辿ってみる。

 

 確か地下街でハンニバルと交戦に入ってひたすら攻撃を躱していた筈なんだが……そこから先が思い出せない。サクヤさんに聞いてみるか。

 

「あの、サクヤさん。俺、地下街でハンニバルと戦っていたんですけど一体何が起こったんですか……? 全く思い出せないんですが……」

 

 なんかサクヤさんが驚いたような顔しているんだが……。

 

「ユウ、もしかして……。思い出せない?」

 

「? ええ、全く」

 

 

 う~む、横から他のアラガミの攻撃でも貰ったのだろうか……。でもあの時は周囲には他の気配は……。

 

 

「まずいわね、あのジュース。アレルギーかしら? 軽く記憶障害までも引き起こすなんて……」

 

「え? 記憶障害?」

 

「ああ、なんでもないのよ。ハンニバルは無事第一部隊で討伐してコアを回収、一度帰投したのよ」

 

 サクヤさんから説明を受けてそれでとりあえず納得した。やっぱり横やりを貰って気絶したのだろう。もしかしたら俺が気づけなかっただけかもしれん。俺もまだまだ、か……。

 

 扉が開き、誰かと思えばソーマが入ってきた。

 

「ああ、起きたか」

 

「なんだ見舞いにでも来たのか? 大した怪我はしてねえぞ?」

 

「何の話だ?」

 

「ちょっと、ソーマ」

 

 サクヤさんがソーマの肩を掴み、二人でなにやらコソコソと話している。

 俺は耳が良いのでこれくらいの距離なら聞こえるのだが……なんか耳の調子が悪いな……。

 もしかして歳か……?

 それともあれか? 突発性難聴的なやつか? 参ったな。補聴器買う金なんて持ち合わせていないのだが……。

 

 

 

「冗談だろ?」

 

「本当よ」

 

 ソーマが信じられないと言わんばかりに言ったんだが、サクヤさんは事実だと言う。一体何の話をしているんだ……?

 

 話が終わったらしく、二人がこちらを向く。

 

「いや、てっきり傷を負ったと思ってな。何ともないならそれでいい。じゃあな」

 

 ソーマは医務室を出て行った。

 

「ふふ、本当に丸くなったわね」

 

 サクヤさんが微笑みながら言うと、俺もそれに同意した。

 

「さ、私も行かなきゃ。折角だからゆっくり休みなさい? それじゃ」

 

 そう言ってサクヤさんも医務室を出て行き、俺は一人天井と睨めっこした。

 天井のシミの数でも数えるか。

 

 

 

 

 13……14……。

 

 天井のシミの数を数えるのを18ループ程したあたりで医務室のドアがノックされた。

 

 

「入ってどうぞ」

 

 

「よ、ユウ。元気そうだな」

 

「見舞いに来たわ」

 

「「失礼します!」」

 

 

 タツミとジーナ、そして見覚えのない男女が入ってきた。

 

「ああ。タツミ、ジーナ。っと、その2人は?」

 

「ああ、先日防衛班に配属された新人だ」

 

「2人とも新型なの」

 

 

 ああ、そういや新人が来るとかそんな話があったか。

 悲しいなぁ……こんなアラガミパラダイスに配属とは……悲しいなぁ……ああ、悲しいなぁ……。

 まあでも極東で経験を積めば何処の支部に転属しても通用するから決して運が悪いとは言う訳でもあるまい。

 成程、良い面構えだ。こりゃ良い神機使いになるぜ。

 女の方はちょっと恰好がアレだが……下手すりゃパンチラを拝んでしまうかもしれん。

 男の方は……何事もそつなくこなすタイプだな。将来有望だ。でもなんか存在感が薄そうだな。大抵の奴が名前を忘れてしまうかもしれんが、そういう奴ほど陰で人知れずデカい事をしているのだ。もし、こういう奴が敵に居たら厄介極まりない。

 

「初めまして! 第2部隊所属、アネット・ケーニッヒと申します!」

 

「同じく、第3部隊所属、フェデリコ・カルーゾです!」

 

「ユウだ、よろしくな。緊張しなくていい、気楽にしてくれ」

 

 元気の良い2人だ。俺も半年前はこんな感じだったか……。んでタツミに『そう緊張するな、気楽にな?』っと言われたか。

 

「俺なんかすぐに追い越して、良い神機使いになってくれ」

 

「あら、先輩としてちょっと情けないんじゃない?」

 

 ジーナにツッコみを入れられるが神機ぶっ壊した時点で神機使いとしては3流以下だし、これからも見込みは無い。

 

「おいおいジーナ、神機ぶっ壊したバカに教えられることなんて何があるんだ?」

 

 肩を竦めながら、ジーナに問う。

 

「ま、こんな事言ってるけど神機無しでもアラガミと一戦繰り広げる中々肝の据わった奴だ。立ち回りだとかは詳しいだろうから色々聞いてみろよ」

 

「「はい!」」

 

「さて、療養中だしあんまりうるさくしちゃ迷惑ね。今日の所は退散するわ」

 

「じゃあな、ユウ」

 

「「失礼します!」」

 

 

 4人を見送り、天井のシミを数える作業に戻る。

 

 

 

 

 

 

「っ…………!」

 

 体中に痛みが走り、胸が苦しくなり呼吸も荒くなる。

 またこれだ……この状態に陥る頻度が増えてきた。そしてこの状態になる度、徐々に苦しさの度合いは大きくなってきている。

 任務や仕事中にこの症状が出ないのが唯一の救いだ。一度ハンニバルの長期偵察任務前に診察してもらったが特に異常はなしだ。

 

 徐々に痛みが引いていき、解放される。

 

「ふぅ……」

 

 

 

 一睡しようかと思って横になろうとした時、ノックがされた。

 

 

「どうぞ~」

 

 するとユウナが医務室に入ってきた。今日は客が多いな……。

 

「具合はどう?」

 

 ユウナが椅子に腰を掛けて聞いてきたので、大丈夫だと返答する。

 

「あ、そうだ。あの集落の事だけど、今は第1部隊で分担してアラガミの木に偏食因子を打ってるから安心してね?」

 

「マジか。悪いな、只でさえ忙しいのにこんな事任せて」

 

「いいの、気にしないで。榊博士も偏食因子の持ち出しを特権で許可してくれたからリンドウさんやユウがやっていた程大変じゃないよ」

 

 マジで? ってことは博士に正直に話したら別に横領する必要は無かったんじゃ……。

 あちゃー、無駄に遠回りしてたか……。でも、これで良かったのだろう。

 

 安心していたら、ユウナは俺と違って不安な表情をしていた。

 どうしたのかと聞こうとしたら、ユウナが先に口を開いた。

 

「ユウ、聞きたいことがあるの。大丈夫?」

 

「ん? ああ」

 

 

「アーク計画の直前…………MIAの時、何がったの?」

 

「…………まあ色々とな……」

 

 察しが良いのか、よく気付くなユウナよ。

 

「肩の傷を手当てした時、声が聞こえてきたんだ。女の子の声。とても寂しそうに『行かないで。一緒に居てよ』って」

 

「声か…………」

 

エレナ……。

 いつも脳裏に過ってくる。正直、帰ってきてからあまり心の底から笑ったり楽しいと思えたことは無い。ただあの子が達者に暮らしているか、気になってしまう。あの走馬灯のようなもの……紫色の炎を纏ったアラガミと対峙していた神機使いがエレナの未来の姿ならば……少なくてもあの歳までは元気に過ごせたのだろう。

 

 

「そうか…………話せば長くなるから割愛するが、ちょいと知り合ってな。助けられもしたし、随分懐かれた」

 

「その子、ユウの事が大好きなんだろうね。ユウ、MIAになる前と随分変わったよ」

 

「そうか?」

 

「うん。なんだか、凄く大人びてる。それに、よく心配事をするような顔をしてるよ」

 

 大人びたか……。確かに、エレナと過ごすうちに変わったかもしれん。はは……笑えないな、あの子の事を妹のように、娘のように思っていたのに助けられたどころか、育てられていたのは俺の方か。

 

「ユウ、その子と一緒に居てあげて。協力できることがあるなら私も尽力するから、その子の傍に居てあげて」

 

「もう、無理なんだ」

 

「どうして?」

 

「MIAになる前、声が聞こえた気がした云々って言ったろ?その子の声だった。でも、もう声は聞こえない。それにな、体にもガタが来ているんだ。自分の身の事は自分が一番分かる。あまり長くはないだろう」

 

「そんな……! それなら猶更……!」

 

「おいおい、男が苦しんで悶えている無様を晒せってか? あの子にとって俺はヒーローなんだよ。ヒーローがそんな醜態見せる訳にもいかないし、俺も見られたくない」

 

「でも……! もうその子には……ユウしか居ないんだよ?声から分かるよ、同じ女子だもん。女の子なら、好きな男の子と最期まで一緒に居たいって思う筈だよ」 

 

 

「参ったなぁ……。…………ユウナ」

 

 軽く笑い、俺はすぐに真剣な顔をしてユウナの方を向いて呼ぶ。

 

 

「もしその子に会ったら、俺の代わりに支えてやってくれ」

 

「…………男の人って、ホントに自分勝手なんだから……。分かったよ、その子の名前、聞かせて」

 

「エレナだ、灰色の髪の毛に金色の瞳。すぐに分かる」

 

「了解、任せて。でも、ユウも約束して?最後まで諦めないって。生きる事から逃げないって」

 

 またその言葉か、本来ならとっくに死んでいる筈の俺にはちと重い言葉である事この上ない。腐っても軍人であるが、流石にその命令は守れない。『死んでも戦え』位の命令なら化けて出てきてとことん戦ってるところだが……。『生きる事から逃げるな』なんて少なくても俺が経験した中で一番果たすのが難しい約束であるぞ。

 

「ああ、約束しよう」

 

 多分無理だ、だが……やるだけやらないとな。エレナとの約束も破っちまった上に更に約束破るなんて……エレナに怒られちまう。

 

 

 

 




これは投稿直前の出来事です。



PC「ほら見ろよ見ろよ」(唐突なブルースクリーン)

俺「アアアァァァァァァッ⁉」




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一番乗りは俺が頂くぜ!

今回ちょっと短いですね。


 

 

 翌日、俺は無事退院して早速ハンニバル追跡に出ようとしたのだが、雨宮教官に止められ11:40に重要な知らせがあると言われ、その時間まで暇なので偵察班の部署へ行ってハンニバルに関して新しい情報がないか資料を探すことにした。

 

 

「あ、お疲れさん」

 

「ああ、お疲れ」

 

 室内には先客が2名。

 同じ偵察班の同僚達だ。1人は忙しそうに端末を操作し、もう1人は笑顔で電話対応中だ。彼らとはあまり一緒の任務に就くことは無いが、それなりの仲だと思う。

 

「ハンニバルに関して新しい情報とか入ってないか?」

 

「いや、特に無い筈だ。俺も俺で別件で調査を頼まれていてな」

 

 端末を操作し、資料に目を通したりと大分事務仕事が板についている。

 もう1人も端末を操作、資料を引っ張り出してきて次々と捲りながら話を進めている。

 

 

「その件に関しては支部長からも説明の通り……え、いやァ……そういわれましてもこちらも他の支部から要請が……」

 

 悲しいなぁ……無茶な事頼まれてんだろうな。ぶっちゃけ人手不足で手を借りたいのはこちら側だからな……。

 

「それに新種の件で……はい。ああ……はい。分かりました……」

 

 受話器を置いて暫く同僚は笑顔のまま固まり一拍置くと額に青筋が浮かび上がり、机に鉄槌打ちを振り下ろした。

 

 

「クソがァーーーーーーッ!‼!‼!」

 

 憤怒の雄たけびが部署内に響く。

 受話器を置いた次の瞬間キレる。電話対応あるあるだ。

 

「どうしたんだ。また厄介事か?」

 

 

「クッソ!クソがァ!こっちが下手に出てりゃ調子扱きやがって!こちとら新種に禁忌種のオンパレード、挙句にエイジスでのいざこざで近隣に被害が出ててそっちの対応で手一杯だってのに、本部まで来て詳細を説明しろだアァ⁉しかもテメエらの仕事手伝えとか頭湧いてんじゃねえのか!むしろ応援を頼みたいのはこっちなんだよォ!大体送った資料に事細かに書いてあっただろうがよォ!何処に目玉付いてんだよ⁉クソがァァ!要らねえ仕事ばっかり増やしやがってェ!心底イラつくぜェ!!‼!」 

 

 

「どうどう、まずは支部長に相談だ」

 

 同僚が相も変わらず端末操作しつつ嗜め、憤怒に駆られた同僚は鼻息を荒くして徐々にクールダウンしていく。

 

「クッソー……マジで面倒くさいぞおい。他の部隊が忙しい=こっちも忙しいのによ……」

 

 クールダウンしつつもぶつくさ呟いて頭を抱える同僚。

 そういえば、こいつ前も本部から無茶言われて無かったか?

 

「なあ、あいつって本部と何かあったのか?」

 

 黙々と作業を進める同僚に小さな声で聞く。

 

「元々本部所属で、周囲と反りが合わずこっちに来たんだ。実際にお偉いさんからも無茶言われてたらしいぞ。それでも仲の良い同僚は居たらしくてな。口は悪いが友達思いの奴だ。そこに付け込まれてよく厄介事を押し付けられるらしい。転属しても根本的な解決にならないあたり、人間関係ってのは面倒くさいってのを痛感する」

 

 なるほどな……確かに面倒くさいなそれは。

 

「邪魔しちゃ悪いから消えるわ」

 

「ああ、またな」

 

 部署から出て廊下を歩く。窓に雨が叩きつけられているのに気付いた。いつの間にか雨が降っていたか。

 

「出るまでに止めばいいが……」

 

 

 

 

 集合時間も近くなってエントランスで待っている内に第1部隊と防衛班の面々まで揃ってきて、一体どんな知らせかとハラハラした。

 

 そして、時間になり、雨宮教官がエントランスに来た。

 

 

「先日、旧廃寺付近で何者かの遺留物が見つかり、DNAパターンを照合した結果、対象をほぼ雨宮リンドウ大尉と断定した。本日12:00をもって捜索任務を再開する」

 

 その言葉にどよめきが走った。

 旧寺院か……確か高値で取引される闇色の大翼だかがよく発見される辺りだったな。大方金目当ての奴が片っ端から拾っていったら偶々リンドウさんの遺留物にぶち当たったってところか。運命と言うべきか、世の中ってのは上手い事で来てるのな……。

 

 

「生存自体はほぼ間違いないが、腕輪の制御を失って久しいためアラガミ化の進行が懸念される。接触には十分な注意を払うように」

 

 雨宮教官は少しだけ微笑みながら、言葉を紡ぐ。

  

 

「いい年して迷子の愚弟を……よろしく頼む」

 

 しかし教官の言った通り、腕輪はピターの腹から発見された。MIA判定からかなり日がたつ。最悪な状況も考えられるな……。いや、こういう時位は素直に喜ばないとな、じゃないとマイナスな事を考えちまう。ネガティブな事ってのは考えば考える程程嫌なことになりかねない。

 

 

 こうして集会は終わり、各々が嬉しそうに安堵の言葉を口にしている。

 

 皆がエントランスの1階に集まっている中、俺はさっさとリンドウさんを捜索しつつハンニバルを追跡しようと思い、足早にアナグラを発った。

 皆、はやく捜索に出たいだろうが一番乗りは俺が頂くぜ!

 

 

 

 

 ハンニバルが確認された市街地へエリアへ到着して無線を取り出す。

 

「目的地に到着した。索敵、追跡を開始する」

 

『了解! 何かありましたらすぐに連絡を!』

 

「了解。交信終了」

 

 

 無線を切って、俺はハンニバルを追い駆ける。

 

 さぁて、前日は卑劣にも他のアラガミに横やりを入れられたが……。今度はそうはいかんぜ。

 

 

 ハンニバルを探して駆けだす。  

 

 

 奴は地下街で第1部隊に敗れ、コアを回収された。だが持ち前の能力で復活してたのだろう。

 俺が1日医務室で寝転がっている間に、地下街合エリアから市街地エリアまで一気に移動していた。

 

 こちらとしては、市街地エリアの方が近場なのでありがたい限りだ。

 一応、ハンニバルを追跡しながらもリンドウさんの捜索も行っているが、手掛かりは愚か気配も感じ取れない。やはり、遺留物が落ちていた廃寺エリア付近に居るのかもしれない。

 

リンドウさんの捜索任務でもあれば、真っ先に受注するのだが……。しかし、なんだかんだ言って極東は広いからな……。基本的に捜索は防衛班や偵察班が出るとの事だ。流石に第1部隊がアナグラを長期的に空けるわけにはいかないだろう。

 

 俺もリンドウさんの捜索は頼まれているが、どちらかと言えば任務を優先しろとのお達しなので直接接触でもしない限りは任務に集中しろと怒られるだろう。

 

 一番乗りは頂くぜと啖呵きっておいて、この様である。情けないぜ……。

 

 

 物陰に身を隠しながらハンニバルを探す。強力なアラガミが辺りをうろついているせいか、小型や中型アラガミはあまり見かけない。

 

 そういえば、榊博士によるとハンニバルの籠手の施されている意匠性のモールドは上位のアラガミにしばしば見受けられる特徴との事。

 他に例を出せば、テスカトリポカの前面装甲か。

 あの部位にも人の顔が描かれているし、実際にテスカは暴れ出すと周辺が浄土と化す程だ。

 実際に俺もあいつは嫌いだ。広範囲攻撃ばかりで回避するのに苦労する。

 

 だが、一番記憶に残っているのは奴のミサイル攻撃だ。

 発射されたミサイルがいつの間にか頭上に転移していて、それをぶち落とすとか言う超常現象起こしてきた時は流石に困惑した。

 

 

 

 「…………?」

 

 遠くから爆音が響いてきた。

 

 大方ハンニバルが暴れているのだろう。こちらとしては探す手間が省けたのでありがたい限りだ。さて、早速向かうとしようか。

 

 音が聞こえた方向へ駆けた。

 

 

 

 

 「うわぁ……ラーヴァナじゃん。」

 

 

 

『GYAAAAAッ!』

 

ハンニバルは怒りに震え、奴の怒りの矛先はヴァジュラ神属禁忌種、ラーヴァナへ向けられていた。

 ヴァジュラ種の接触禁忌種。機械と獣の丁度中間のような姿をしており、ヴァジュラが兵器類を積極的に捕食して進化したらしい。

 背部の小型太陽で炎を操る能力を得ており、背中の砲塔か炎弾を発射するなど遠距離攻撃が強力だ。

 

 そして禁忌種相手でも果敢に立ち向かうハンニバル。

 まあしかし、ハンニバルは不死だから例えやられても復活できるからこそ、好戦的なのだろう。

 とりあえず、アナグラに連絡しておくか。

 

 

 

 アナグラに連絡し、少し離れた場所から2匹の戦いを眺めていたが、どちらも一歩も引かない戦いを繰り広げている時にもう1体のラーヴァナが乱入してハンニバルと2対1の状況を作り出した。ラーヴァナはヤクシャと同じく連携を得意としているのでハンニバルが不利か。まあ、あいつ不死身だからラーヴァナの絶望的状況は変わらんが。

 

 

 ラーヴァナによる度重なる砲撃、遂にハンニバルは倒れた。2匹のラーヴァナは早速ハンニバルを捕食しようと奴の死体に近づくが倒れているハンニバルから炎が立ち上って復活した。

 

 

『GAAAAAッ!』

 

 倒したはずの敵が蘇り、ラーヴァナ2匹は困惑の声を上げるがそれを気にする事なくハンニバルは炎の剣を作り出して自身の逆鱗に突き刺した。

 そして逆鱗は破壊され、ハンニバルの背中に炎を翼が現れる。そしてハンニバルは力を溜めるかのように体を丸め、翼によって宙に浮く。

 

「やべっ! こっちも危ねえぞ!」

 

 焦って近くのがれきの陰に隠れ、ラーヴァナも危険を察知したのか尻尾を巻いて逃げ出す。

 

 

 ハンニバルは一気に溜めた力を開放して周囲に炎の嵐が吹き荒れて必死に逃げるラーヴァナを焼き尽くした。

 

 焼け焦げて地面に転がるラーヴァナはハンニバルに掴まれ、そのまま口まで運ばれて噛み千切られる。

 喰うのに飽きたのか、半端に喰われた死体を投げ捨てて再び歩き出す。

 

 俺も気付かれないよう、姿勢を低く足音に気を使いながら後を追う。

 




「RESONANT OPS」がサービス終了しましたね。
約2年半程でしょうか、お疲れ様です。


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そんなちんけな炎なんざ、ぶち抜いてやる!

味方が強化されるならアラガミも強化されて当たり前だよなぁ?


 

 

 

 ハンニバルを追跡している内に市街地エリアから外れ、大分極東支部から離れた。

 これ以上遠くへ行かれると追跡する側としては辛くなる。このまま追跡を続けるか、いったん諦めて再び反応が支部周辺で確認されるまで様子見に徹するかを判断を仰いだが、とりあえず追跡を続けて様子を見て今後の行動に関しては判断を下すとのことなのでまだ追いかけろとお達しを受けた。

 

 最悪ヘリで迎えを寄こすとの事だが、こういう時に限って何かしらの問題――例えばアラガミが徒党組んで攻めて来た等の事態が発生しとりあえず迎えに行かせるヘリは無いと言われ歩いて帰って来いと宣言される可能性が大きい。

 

 ハンニバルはどんどん極東支部とは真逆の咆哮へ向かっていき、気配を殺して追いかける。

 先程から一直線で周囲に目も向けずに移動しているのが腑に落ちない。

 まあ特殊なアラガミの括りに入るので新たな発見があったとしてもなんら不思議ではないか。

 

 

 見渡しの良い荒地に入った瞬間、ハンニバルが動きを止めて辺りを見渡し始め慌てて地面に伏せるも奴は徐々にこちらへ近づいてきた。

 

 

 や、やばい……! ヤバいって! こっちに来るんじゃない!

 

 

 奴と目が合った瞬間、奴は覚えのある顔を見て雄たけびを上げてすぐに襲い掛かってきた。

 

 

 

 奴の爪が叩きつけられる前にその場から跳び退いて躱す。

 

 

 「さぁて……地下街じゃ横やり貰って無様を晒したが今度はそうはいかないぜ」

 

 周囲に気を配りつつ、ハンニバルの動きをよく見る。

 

 案の定無線が繋がらない。支部へ方角へ後退しつつハンニバルを誘い出すか。支部で反応を感知してくれればすぐにでも討伐隊を編成してくれるはずだ。 

 

 奴が両手を構えて空気を爪で切り裂きながらの突撃をギリギリまで引き寄せて跳び退いて躱す。

 

 次にハンニバルは腕を交差させて、炎を纏う。腕を振り抜くと炎の壁が作られて薙ぎ払うように迫る。

 空中ステップで更に後ろへ跳んで躱してやり過ごすが既に奴はこちらへ跳び込みつつ尻尾を叩きつけてきた。

 

 体を逸らすとすぐ横に尻尾が振り下ろされるが、油断せずに奴を見ると振り向きつつ炎の剣を振り抜いてきた。

 

 屈んでやり過ごすと頭上から未だ熱気を感じ、軽く距離を取る。

 

「ッ!」

 

 隙を与えないと言わんばかりに今度は炎の剣を投げつけてきた。炎の刃を横へ跳んで躱すと次は炎の槍を両手に持って突きを仕掛けてきたのに対し思い切り後方へ跳び退くが奴は炎の槍を放り投げた。

 

「なっ」

 

 ハンニバルが尻尾を炎槍の柄に巻き付けて叩きつけてきた。

 

 横へ跳んで咄嗟に躱すが奴はそのまま尻尾を振り払って薙ぎ払いを繰り出し、即座に高く跳んで真下を炎槍が通るのを確認して着地し次の攻撃に備える。

 

 奴は空いた手にもう1本の炎槍を作り出して両手の2本に尻尾で掴んだ1本、合計3本の得物を構えて突撃を仕掛けてきた。

 

「三槍流とか最早意味不明だっての!」

 

 つい悪態をつき、後退して攻撃を躱しつつ隙を伺うが、牽制代わりに尻尾の槍で地面を薙いでくるのでただひたすら回避するしか方法がない。

 流石に回避するのにも限界が見え、一か八か思い切り跳び退くが態勢を崩しかけ、急いで身構えたと同時に突然ハンニバルの側面に人影が現れて頭部目掛けて神機を振った。

 

 

 

 ハンニバルも視界の端の違和感に気づいたのか炎槍を手放して籠手で斬撃を防御して奇襲をかけた神機使いへ反撃を仕掛けるがその神機使いも素早く装甲を展開して反撃を防御して衝撃を利用して上手く距離を取って構え直す。

 

 

 亜麻色の髪と瞳が印象的でこちらとあまり歳が変わらない若い神機使いだ。しかし普通の神機使いとは違う。

 黒い腕輪を着けた神機使いなど聞いたことがない。神機のパーツも見たことのないものだ。黒を基調とした神機と服装に気品を感じる。

 

 男は無線を使って口を開く。

 

「フライヤ、標的と遭遇。だが、神機使い1名を確認。照合を頼む」

 

 

 標的……ハンニバルの事だよな。てことはこの男もハンニバルの追跡を……いや、そんな話なんて聞いていない。

 無線を使って支部へ連絡を取ろうとするがノイズが酷く一向に繋がらない。

 

 ちっ、ホントに役に立たねえ無線だな……! もっとマシな物を支給しろや……!

 

 

 

「何? ビーコン反応が感知されない……? 了解した。とにかく標的との交戦に入る」

 

 

 男はそう言って神機を構えた。

 

「そこの神機使い。奴は俺が引き受ける。下がっていろ」

 

 亜麻色の髪を揺らして凄まじい速度でハンニバルへ突撃を掛けるが奴も炎の剣を作り出して振り、男の神機とぶつかる。体格の差があるにも関わらず男は互角の剣戟を繰り広げる。

 

 対アラガミ用ナイフを抜き、助走をつけて跳んでハンニバルの顔面に勢いよくナイフを叩きつけた。

 

 

 視界を突然遮られた挙句に傷をつけられ怯み隙を晒したハンニバルに男が数発斬撃を叩き込んで堪らずは奴は跳び退いてこちらへ火球を吐く。

 体を逸らして火球を避けてハンニバルへ接近する。隣を男が駆けていった。

 

 ハンニバルが炎を吐いて焼き払おうとしてくるが男と共に跳んでやり過ごすも既にハンニバルは炎の剣を両手に構えていた。

 

「くっ……軽率だったか……」

 

 隣から聞こえた呟きを無視して筋力増強剤を入れたケースを取り出し、蓋を開けて乱雑に錠剤を口に放り込んで齧って飲み込む。体中に違和感が走り、力が漲り体自体も軽くなる感覚がする。

 

 

「こうすりゃ問題ねえよ!」

 

 対アラガミ用ナイフをハンニバルの頭部目掛けて投擲した。

 過剰なドーピングで剛腕になった状態で投擲したナイフは凄まじい速さで奴の頭部へ向かい咄嗟に炎の剣を盾にしたがナイフは炎を貫いてハンニバルの片目に深く突き刺さった。

 

 ハンニバルが顔を覆って悶えている内に着地して一気に駆けだして距離を詰める。

 男が強力な斬撃を叩き込み、悲鳴を上げて苦しむ奴の目に突き刺さったナイフの柄を握って勢いよく振り抜く。

 

 鮮血が飛び出して制服が汚れるが気にしないで距離を取る。

 

「済まない。助かった、感謝する」

 

「礼ならあの野郎叩きのめしてからで頼む」

 

 男の言葉に返し、ハンニバルへ意識を向けて構えると奴は身を屈める。

 すると奴の傷口が炎に包まれた。

 

「っ!」

 

 炎が消え去るとそこにあった筈の深い傷は綺麗に消えていた。

 

「その場での再生能力か……」

 

 流石は不死のアラガミか……。確かに、既にコアを摘出すれば再生させること無く霧散するように神機は改良された。

 だが、コアの摘出をするためには一度倒して活動を停止させなければならない。つまり、1度倒されなければいけない。

 故に即座に再生できるように新たに能力を獲得したか……それとも今まで隠し持っていたか……どちらにしろ厄介だ。

 

「一度でも倒すことができればこちらの勝利……。ならば、再生する暇も与えることなく倒すのみだ」

 

 男は冷静に分析したのだろうが、誰もが考えるその結論に結局行き着く。

 

「簡単に言ってくれるな……!」

 

 この兄ちゃん、俺を戦力に数えているのでは……?

 こんなナイフで奴に有効打なんて与えられん。ましてやあの再生能力、俺の攻撃は最早通用しないだろう。

 

『GUuuuuu!」

 

 奴の背で揺らめく炎の翼が肥大化し奴は宙へ浮き上がり、全身に炎を纏い始める。

 

 あの動作は――広範囲に渡る攻撃か!

 

 跳び退いてできるだけ距離を離すと同時に男も後退して装甲を展開する。

 

 奴が天へ雄たけびを上げると同時に凄まじい炎が嵐のように周囲へ放たれ、大分距離を取ったのにも関わらず熱気が届く。

 

 激しいの炎の柱がこちらへ向かい、跳んで躱しつつ次から次へと迫る炎をひたすら躱し続ける。視界の端に装甲で炎の嵐を防ぐ男も見えたが、険しい表情をしながらも態勢を崩すことなく耐えている。

 

 

 

 炎の勢いが収まり始め、奴の方へ目を向けると既に奴は炎を纏ったまま男へ突進していた。

 男は横へ飛び退いてやり過ごすし、反撃で斬りかかるがハンニバルも急ブレーキをかけつつ尻尾で薙ぎ払い、牽制した後に飛び退いて距離を取った。

 

「厄介な敵だ……。普通のアラガミとは格が違うか……」

 

 男はそうつぶやくも表情は先程までと同じく冷静に敵を見据えている。

 互いに出方を見ているのか動く気配がないのを見て、俺は仕掛けようと考えて奴へ接近する。

 

 俺の接近に反応して両手に炎剣を持って振り払った。

 

 軌道をよく読んで紙一重で躱しつつ更に距離を詰めると奴も最適な距離を維持しようと後退する。

 斬撃を躱すと奴が一回転して尻尾が迫るがスライディングでやり過ごして反撃に注意しつつ近づく。

 

『GYAAAAAAA!』

 

 奴が雄たけびと共に跳んでこちらへ炎剣を振り払ってきたがあえてこちらも跳び込んで炎の斬撃を躱して懐へ潜り込む。

 

「ちっ!」

 

 ハンニバルは再び跳んで剣を槍へ形状を変化させ、突き刺そうとしてきたがそのまま前方へステップをして躱す。当然背中を向けて隙を晒している俺へ攻撃をするだろうが――。

 

『GYAAAAAAA!?』

 

 背後からハンニバルの悲鳴が聞こえた。

 振り返れば案の定、あの男が神機を奴の背中に深く突き刺し、振り抜いた。

 

 ハンニバルも痛みを堪えつつ距離を取って、屈んで傷に炎を纏い始めた。

 

「させんッ!」

 

 男が神機を変形させて、氷属性のオラクル弾を奴の背中へ命中させた直後、冷気が放出されてハンニバルが苦痛に悲鳴を上げた。

 

 

 この男、新型か…!

 

 奴は巨大な炎の剣を作り出して地面に突き刺して盾代わりにして身を屈めた。

 これじゃ妨害ができないか……いや、手はまだある!

 

「くっ……!」

 

「おい、雷属性の弾を高出力で打てるか⁉ 俺目掛けて最大出力で撃ってくれ!」

 

「な、何を……!」

 

 男の困惑の声を聞きつつ、駆けだして高く跳躍する。

 

「いいから撃てェ! 突破口を切り開くだけだ!」

 

「ッ!」

 

 男が巨大なオラクル弾を撃ち、雷がバチバチと音を立てながら弾丸となる。迫るオラクル弾に対アラガミ用ナイフで受け止めて強力な電撃をナイフに纏う。

 

 今に見てろ……! そんなちんけな炎なんざ、ぶち抜いてやる!

 

「オラ、とっておきをくれてやらァ! 秘剣・雷返しィ‼」

 

 電撃を帯びたナイフを振ると巨大な電撃の刃が飛び出す。

 放たれた電撃の刃は炎を切り裂いて一瞬でハンニバルを飲み込む。

 

『GYAAAAAAAA‼GAAAAAAA!!』

 

 今まで聞いたことのない悲鳴が響き、奴は地面に倒れて打ち震えている。

 

「今だ! やっちまえェ!」

 

 男に叫ぶとすぐさま駆けだして渾身の斬撃をハンニバルの頭部に叩き込んで一瞬ハンニバルの体が痙攣してそのまま地面に倒れた。

 

 着地すると、既に男はハンニバルのコアを摘出していた。

 

 

 男はこちらへ歩き、敬礼をした。

 

 

「協力、感謝します。私はフェンリル極致化技術開発局所属、ジュリウス・ヴィスコンティと申します」

 

「極東支部偵察班のユウだ。よろしく頼む」

 

 随分誠実な男のようだ。歳は俺と変わらないだろうが……随分大人びているように見える。かなりのエリートだな。動きを見てもベテラン連中と遜色ない。

 だが、悲しいな。ここまで独りである事が板につく人間てのはそうそういない。

 

「申し訳ないが、今回の件は内密にしてもらいたい」

 

 この男のおかげで命拾いしたようなものだ。恩人の頼みを無碍にするわけにはいかないだろう。

 

「分かった。その腕輪等聞きたいことは山ほどあるが、野暮なようだ。心の中にしまっておこう」

 

「そうしてもらえるとありがたい。ただ貴官のビーコン反応が検出できないようなので、極東支部も捉えられていない可能性があります。良ければ近場までお送りしましょう」

 

「それは願ってもない事だ。是非よろしく頼む」

 

 

 ジュリウスと名乗った男は頷き、帰投要請をするとほんの数分でヘリがやってきたた。

 

 

 

 

 

 

 ヘリに乗ってふと気になって気を集中させる。

 案の定、ジュリウスから妙な気配を感じる。ソーマやユウナ、AGEとはまた異なる感じだ。やはり黒い腕輪が関係しているのか……?

 

「ジュリウスさん、アンタ……特異な体質でも持っているのか?」

 

 端末を操作しているジュリウスに問いかけると、少し驚いたような顔をしたがすぐに無表情に戻った。

 

「何故、そのように?」

 

「いや、感覚……ただの勘だ。別に言いたくないなら構わないさ」

 

「私も貴方に疑問があります。失礼ながら、あなたの経歴を調べさせてもらったのですが……不思議だと感じざるを得ません」

 

「そうか。大方……歳もはっきりしていないし、出身も不明。名字すらない。不思議なのは分かるさ。ちょいと訳あり、だが特別な事情ではない。入隊以降の経歴は間違いない」

 

「その割には、今年入隊した者の動きではなかったと思いますが……」

 

「経歴こそ消えたが軍に居てな。戦い慣れしているだけさ。真人間の頃からヤンチャしていたんでな」

 

「真人間で雷を返す技量をお持ちとは……感服です」

 

「それはこちらの台詞だ。当初ベテラン連中でも手子摺っていたハンニバルを相手にあそこまで安定した立ち回りには舌を巻いた。実に見事だった」

 

「いえ、私も詰めが甘かった。まだ経験不足です」

 

 向上心の塊とでも言うべきか。見習いたいものだが、中々手が届く領域ではなさそうだ。

 

 

 さて、とりあえずアナグラと連絡を取るしかあるまい。

  

 このあたりで下ろしてもらえばいいか。ハンニバルの反応が消えて俺の反応も消えたなら、まだハンニバルは生きていて反応に無いだけ、このまま追跡すると嘘をついてリンドウさんの捜索もできるかもしれない。

 我ながら良い案だ。

 

 

「このあたりで十分だ。世話になった。今回の事は他言無用だと約束する」

 

「分かりました。どうか宜しくお願いします」

 

「このまま降りるから高度はそのままで良い」

 

 ヘリのドアを開ける前に、ジュリウスに敬礼をして、取っ手に手を掛ける。

 

「ジュリウスさん、独りってのは辛く険しい道だ。だから……己を信じ、仲間を信じて歩くと良い。必ず応えてくれる仲間と会える筈だからな。良い仲間は、良い奴の元に集まる故に――なんて古い奴らのお言葉さ。頭の片隅にでも入れて置けばきっと役に立つぜ?」

 

 柄にもなく気障な事を言って、ヘリの扉を開けてそのまま飛び降りた。




次の幕間を誰視点にしようかちょっと悩む。ぶっちゃけそこまで絡みの多いキャラが居ないからなァ……。個人的に物語の構成が下手だとしょっちゅう陥る事態だと思う。


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よし、足止めして遅延行為だ。

ゴッドイーターの新作出ないかな~


 

 

 ジュリウスと別れ、アナグラに連絡を入れると予想通り、俺のビーコン反応と共にハンニバルのオラクル反応を掴めなくなったとヒバリちゃんから説明を受けた。

 とにかく無事であることを伝え、ハンニバルについてはまだ生きていると虚偽の報告をしてこのまま追跡することを進言したが、先程のビーコン反応の消失の件もあって上から帰投命令が出たので諦めて指示に従った。

 

 このまま追跡が許可されればハンニバルを追跡する振りをしつつリンドウさんの捜索を行えたのだが……。今回ばかりは仕方あるまい。また新たな個体が出現でもしない限り、俺もリンドウさんの捜索に加えられる可能性だってあるのでまだ不貞腐れるには早いだろう。

 

 

 

 *

 

 迎えのヘリを待っている途中、緊急連絡が入った。

 市街地エリアへ向かえと雨宮教官から指示を受けた。

 

 

「市街地エリアですか……。確かに俺の現在地から向かえば近いですが、何か問題でもありましたか?」

 

『お前が追跡任務に出ている間、リンドウの捜索をしていたブレンダン、カノン、アネットの3人が識別不明のアラガミに襲撃され、ブレンダンとカノンが消息を絶ったのだ。つい先ほど、カノンの腕輪のビーコンは反応を掴み、現地で救出した。そしてブレンダンのビーコン反応が市街地エリアで検知、先程極東周辺を捜索していたユウナに至急向かわせるが、距離が距離だ。お前の方が近いだろう。現場へ先行して偵察・捜索を頼みたい』

 

 ブレンダンとカノンが……大方アネットを逃がすためか……。全く無茶しやがる。

 まだ日が浅いルーキーに悲しい思いをさせるのは流石にアカンだろう。さっさと探し出して連れ帰ってやるか。 

 

「了解した。現場に急行する」

 

 無線を切って、全力で地面を蹴って飛ぶように走り市街地へエリアへと急ぐ。

 

 

 

 もう少しで市街地エリアだと言うところで無線が入り、応答する。

 

 

『ユウ? もう市街地エリアへ到着したの?」

 

 サクヤさんから連絡が入った。

 他にもアネット、ユウナもブレンダンの捜索のためこちらへ向かっているらしく、アナグラから指示で俺が向かっていることも知り、連絡を寄こしたか。

 

「もう少しですね。人が隠れるには絶好の場所ですから、探す側も難儀なもんですがね……」

 

『ビーコン反応の大体の位置はアナグラで感知したのよ。でも、周囲に大型アラガミが徘徊してて迂闊に近づけないの。私たちは先に大型アラガミを叩いて周囲の安全を確保してから捜索に移るわ。今そっちに座標を送るからそのあたりから捜索して欲しいの」』

 

 大型か、確かに気配はするが……サクヤさんとユウナならどうと言うことは無いだろう。ブレンダンの安全を確保すると言う意味でも先に討伐した方が最善か。 

 

「分かりました。そちらもお気をつけ――」

 

 遥か先から3体のシユウが何かから逃げるようにこちらへ向かって走ってくる。

 

『ユウ? どうしたの?」

 

「いえ、ちょいと邪魔者が来たもので」

 

 

 そしてシユウ達の足元に黒い炎が円を描きながら出現してそのままシユウ達の足元で燃えながら回る。

 

「……?」

 

 兎に角、嫌な予感がしたのでシユウ達から距離を取った次の瞬間、炎は黒い火柱となって3体のシユウを焼き尽くして空へ舞いあがり轟音を立てた。

 

「ッ!」

 

 それなりの距離で離れていても、ここまで熱気がやってくる。

 

『ユウ⁉ どうしたの⁉ 応答して!」

 

 サクヤさんも無線の向こうから響いた轟音に驚き安否確認をしてきたので無事だと告げて構える。

 

 黒い炎が地面を燃やし、その中で翼が焦げ落ちたシユウが這って今だなお逃げようとしている。その時、強い気配を上空から感じて上を見れば、黒いハンニバルが鋭い爪を構えて急降下していた。

 

 

「あー済みません。ちょっとそっちに行けそうにないですねこれは……」

 

『ユウ、何があったの?』

 

 よし、足止めして遅延行為だ。

 

「ハンニバルですよ。兎に角、今はブレンダンの捜索と救出を優先してください。俺はこいつが市街地エリアへ行かないように何とか足止めしておきます。アナグラに宜しく伝えてください。流石に無線しながら躱す余裕は持ち合わせてないのでね」

 

 

 それだけ言って無線を切ってポーチへ戻す。

 

 

「黒色……変異種か」

 

 そのまま這っているシユウの頭を爪で貫き、口元から黒い炎を漏らしながら黒いハンニバルは俺の方を向く。

 

 

 「ちッ!」

 

 突然黒いハンニバルが爪で引き裂こうと振りかぶった。

 しかし、何だか一瞬だけ動きに迷いがあるかのように感じた。

 

 バックステップで距離を取ってやり過ごすが、黒いハンニバルは踏込と共に籠手で裏拳の構えを取っていた。

 こちらへ迫ってくる籠手を跳んで体を捻り、ギリギリで回避する。

 

 そしてすぐに距離を開けつつ下がって間合いを保つ。

 

 

 普通のハンニバルと違う点は籠手が逆の手にあるぐらいか……。

 

 観察したところ姿形に差異は見受けられないが、只色違いな訳でもないだろう。

堕天種か……? 色は違うが炎を操ると言う点は同じだ。色が違うというだけではないだろう。

 

 

 だが、厄介な事になったのには変わりはあるまい。勿論、コイツも再生能力を持っている筈だろう。それならこの黒いハンニバルに対する対策が新たに必要になる。

 

 今は適当に相手にして行動パターンや攻撃方法や特性を観察するしかないか……。何とかサクヤさんたちの所へ行かないようにしないとな……。流石にこいつが彼女らと交戦している大型アラガミの所へ乱入したら面倒くさい事になる。

 

 そんな事を考えている間にハンニバルは黒い炎の剣を手に持って斬りかかってくるが、咄嗟に斬撃を躱して次の攻撃に備える。しかし奴は炎の剣を構え直し――

 

「ッ!」

 

 ロングブレードを扱う神機使いのようにゼロスタンスの構えを取った。

 

「な……!」

 

 ゼロスタンスの構えを取った奴が一瞬、リンドウさんと重なった。

 

 

 迫る斬撃を回避するが、素早く2撃目を振ってくる。

 

 咄嗟に跳んで躱すが、ハンニバルも跳んで剣を上段に構えた。そしてその姿がまたリンドウさんに重なる。

 

 炎剣を真上から振り下ろしながら一回転。これでは神機使いとほぼ同じ動きだ。

 

「クッ!」

 

 空中ステップで離脱して着地と共に距離を取るが、ハンニバルも着地と共に駆け出してこちらへ向かってくる。

 

 踏込と共に斬撃が繰り出され、宙返りで躱すが目の前には炎剣の切っ先が迫ってきていた。咄嗟に体を捻って切っ先から逃れ、地面を蹴ってハンニバルの股下に潜り込んでそのまま背後へ抜ける。

 

 しかし尻尾による薙ぎ払いが迫り、再びバックステップで距離を取る。奴も薙ぎ払いと共に振り向き、スムーズに攻撃に移ってきた。

 

 

 奴が炎剣を構えた時――

 

 

『避けろ! 早くッ!』

 

 

「なッ!?」

 

 リンドウさんの叫び声が聞こえて混乱しながらも攻撃を躱す。

 

「な、なんで今……!」

 

 そして黒いハンニバルは炎剣を消して、動きを止めた。

 不審に思い、一歩近づくとすぐに雄たけびと共に襲い掛かってきた。

 

 

『早く逃げろッ! うろちょろすんじゃねえ!』

 

 

 再びリンドウさんの声が聞こえ、まさかと思って迫りくるハンニバルを見る。

 

「まさか……。冗談だろ」

 

 俺は呟きながら攻撃を躱して距離を取る。

 

 

 間違いない。この黒いハンニバルは……リンドウさんだ。

 くそ、手遅れだったか……。ここまで姿が……。しかし、まだ完全に意識まではアラガミにはなっていないようだ。

 だが、時間の問題なのだろうか……。何か、何でもいい。何かきっかけがあれば何とかなりそうな気がしてくるんだが……。

 ここまでアラガミ化が進行しても意識はまだある。少なくても自分の肉体を抑制することができるなら……もしかしたらアラガミ化してもまだ可能性が……。

 分かっているさ。そんな前例なんて存在しないことぐらい。

 だが、不思議とそう考えてしまう。可能性は0に等しい。だが、やる事は決まった。

 

 ただ、ひたすら呼びかける。それだけだ。後はリンドウさん次第だ。

 

 

「リンドウさん! そんな化け物に意識を明け渡すなんて、あんたらしくねえな! 俺が尊敬する雨宮リンドウと言う男はそんなやわじゃねえぞッ!」

 

『GYAAAAAッ!』

 

 奴は吠えるが、それでも俺は言葉を紡ぐ。

 

 ハンニバルに中指を立てて叫ぶ。

 

「たかが雑兵の1人も殺せねえ獣畜生に、あんたが遅れを取る筈がねえだろうが! そんな奴はさっさと捻じ伏せてアナグラへ戻るぞ!」

 

 俺は言いたい事をすべて叫んでから構え、次の攻撃に備えた。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

「ハアッ……ハアッ……ふう……」

 

 大見得切ってからどれくらい時が経っただろうか……。流石に息が上がり始める。

 それもそうだ。今まで休憩なしでひたすらハンニバルの攻撃を躱し続けてリンドウさんに叫び続けた。どっちかって言うと、声の出し過ぎで辛い。

 しかし、呼びかけ続けた甲斐はあったのか時々動きを止めたり、攻撃の際に一瞬だけだが迷いが生じて隙が生まれている。

 リンドウさんも何とか理性を保とうとしているに違いない。正直、なんとかハンニバルを戦闘不能にできればリンドウさんの意識が前面に出てきて活路が見いだせそうな気がするが、アラガミ化した神機使いに有効打を与えれるのはアラガミ化した神機使いの神機のみと言うふざけた方法しかない。

 

 ここまで侵食が進んだら他人の神機が通用するのかわからない。座学じゃ飽きる程アラガミ化した神機使いへ対処法を聞いたが、いざ実践となると勝手が違う。アラガミ化した神機使いに遭遇したことなんて1度もないと言うのもあるが、聞くのと実際に行うと言うのは違う。

 

『GAAAAッ!』

 

 ハンニバルは黒い炎の塊を口からいくつも吐き出してこちらへ飛ばしてくる。

 1つ1つ冷静に回避しつつハンニバルの行動にも注意を払う。遠距離攻撃に気を取られた隙を突いて近接攻撃を繰り出してくるなど頭脳プレイもしてくるので油断ならない。

 

「やはりかッ」

 

 読み通り、ハンニバルは腕を広げて爪を構えながらこちらへ突進してくる。

 この攻撃の対処法は分かっている。よく引きつけて躱すだけだ。

 

 腕を交差させようと動かした瞬間を狙って跳躍して躱す。

 そしてハンニバルの頭を踏みつけて更に高くジャンプするが、ハンニバルも跳び上がって追撃を仕掛けてくる。

 

 空中で体勢を変えて地面へ向かって空気を蹴り、一気に急降下して追撃を凌ぐ。

 奴は空中で炎の槍を形成してこちらへ投擲してくるが、体を捻りつつ跳んで避けて次の攻撃に備える。

 

 次の攻撃は炎剣による斬撃。距離を取りつつ躱せば問題は無い。

 

「こいッ!」

 

 迫る炎剣を最低限の動きで躱し、大きな隙を作らないように後退しつつ凌ぐ。

 途中で籠手による打撃や尻尾を叩きつけてきたりと、こちらの意表を突く攻撃を的確に仕掛けてくる。

 

 炎剣を逆手に持ち替えて地面へ突き刺して突撃を掛けてきた。

 炎は地面へ燃え広がっていき、俺は焦って跳んで腕を交差させて防御を固めた直後、既に眼前まで迫っていた奴の籠手が直撃する。

 左腕に激痛が走り、そのまま吹き飛ばされた。

 

「クッ!」

 

 何とか受け身を取り、靴が地面に擦れてズザザと音を立てながら砂埃を起こす。

 籠手に直撃した左腕が激痛を訴えており、力が思うように入らない。しばらく左手を庇いつつ立ち回らなければいけないか。

 

『GYAAAAAッ!』

 

 ハンニバルはとどめを刺そうと爪を振り上げながら、飛び掛かってくる。

 後ろへ跳んで躱し、次の追撃をバック宙で避けてひたすら距離を取る。ハンニバルが拳を握って叩きつけようと振り降ろす。拳が俺を潰すよりも速く、スライディングでハンニバルの股下を潜って背後へ回り込んで尻尾を警戒しつつ距離を取る。

 

 

 奴は地面を抉り取り、地面だった岩をそのまま持ち上げてこちらへ投げつけてきた。

 

「おいおい、冗談だろ」

 

 岩を避けて構えるが回避後の隙を突くかのようにこちらへ攻撃を仕掛けてくる。しかし、俺へ向かっていた攻撃は中断されて、動きが止まった。

 この隙を逃さずに距離を取って間合いを開けて次の攻撃を待つ。

 

 

「リンドウさん……ッ」

 

『Guuuuuu…………』

 

 ハンニバルが動きを止めて、ふと視線が俺から明後日の方向へ向いた。

 構えを解かず、いつでも動けるように意識しつつ一瞬だけハンニバルの向いた方向を見れば、コンゴウの群れが通っていた。

 

 

『GYAAAAAッ!』

 

 次の瞬間の雄たけびを上げてこちらを放ってそのままコンゴウの群れを追い出した。

 

「なっ、リンドウさん!」

 

 

 追いかけるべきか……。正直、携行品が切れそうだから補給に戻りたいが、リンドウさんの意識が無くなって完全にアラガミ化したら……。

 だが、このまま追うのもあまり得策じゃないな……。

 

 とにかく、サクヤさんたちに合流しよう。




仏像で暴漢をぶん殴る夢を見たんですが流石に罰当たりですかね……?でも抵抗しないと刺されますし……仏様は許してくれるだろうか。


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遠距離攻撃なんざ使ってんじゃねえ!

今回ちょっと短いです。


 

 サクヤさん達へ連絡を取ったが、サクヤさんたちは大型アラガミと接触、交戦に入ったので俺はそのままブレンダンの捜索を始めた。

 

 

 

 

 

 「無事……じゃなさそうだな、ブレンダン」

 

 何とかブレンダンの居る所までたどり着き、アラガミから身を隠してブレンダンに応急手当てを施す。

 

 至る所に傷を作ってそこから流れる血、そして一番酷いのは右足の脛だ。何かに斬られたかのような傷が布で隠されていた。

 

「すまないな。手間を掛ける」

 

「気にするな。包帯も取り替えないとな……」

 

 既に血を吸って赤く染まった布にこれ以上の期待はできない。

 だが、俺も包帯の持ち合わせはない。

 仕方ない、制服破って使うか。制服だとかの支給品の申請には年に一定回数までと制限があるので買わなければいけないが仕方ないだろう。

 

 制服を破って水筒の水で洗い、がっちり絞ってからブレンダンに巻く。

 

「染みるぞ」

 

「ああ。……ッ」

 

 ブレンダンは少し顔を顰めるが、声は漏らさずに手当てを受けてくれた。

 おかげで手当てはし易かった。

 

 

「お前も任務中だったといのに、手を煩わせた。すまない」

 

「謝る必要はねえ。生きているならそれでいいさ」

 

 さっきから謝罪の言葉ばかりだな。別に気にする事は無いのに。

 ブレンダンは真面目すぎる。いや、真面目なのは良い事だ。だが悪く言えば頑固な性格だ。

 しかし、あのハンニバル―リンドウさんはどうするべきか……。

 折角生存の可能性が浮上したと言うのに……もうアラガミ化してしまったでは何ともやりきれない。

 諦めるしかねのか……?

 

「ユウ? どうかしたか?」

 

 難しい顔をしていたであろう俺はブレンダンの声でハッとする。

 悟られないように自然体で誤魔化す。

 

 

「それにしても、識別不明のアラガミ相手にたった1人なんて無茶が過ぎるぞ」

 

「そうする他なかったんだ。アーク計画で、俺は守るべき人々を見捨てる道を選んだ。だから、今度こそ守らなければいけない」

 

 そうか、そういえばブレンダンは箱舟賛成派だったか。まあシックザール元支部長の考えも間違いではない。むしろ見方を変えれば正しいだろう。

 誰もが各々の考えをもってアーク計画に関わった。

 タツミもカノンもブレンダンが箱舟賛成派になったことに対しては気にしてないだろう。 

 

「タツミもカノンも気にしちゃいないと思うが……それじゃあ気が済まないか?」

 

「ああ、タツミもカノンも理解を示してくれた。だが、俺は……」

 

「なら自分で納得が行くまでとことんやればいいさ。他でもない自分の決意だろう? 一生背負って生きて、そして誰かに諭される事なく死ぬ奴なんて遥か昔からごまんといる。白黒つけれるのは自分だけだと思うぜ?」

 

「……そうだな。納得がいくようにか……なら、まずは早く戻って2人を安心させなければな。ユウ、俺はすぐにでも動ける。どうする?」

 

「ブレンダンのペースに合わせたいが、あまりグズグズできないな。アラガミの気配が集まってきている」

 

「そうか。なら、思い立ったが吉日だな」

 

 ブレンダンは神機を手に立ち上がり、俺はブレンダンに肩を貸して2人でアラガミに気づかれないように移動を始めた。

 

 

 幸いにも此処は廃墟が並んでいるエリアだ。身を隠す場所なら沢山ある。サクヤさん達も大型の1匹や2匹軽く捻ってすぐ――ほら、無線に通信が入ったぞ。

 

 丁度身を隠せる所が多いエリアだ。隠れるには最適だ。

 

 

『ユウ、そっちはどう?』

 

「ブレンダンは無事ですよ。今は廃墟の密集地域で身を隠しながら進んでいる所です」

 

『良かった。私たちもアラガミの掃討をしながらそっちへ向かうわ。気を付けてね』

 

「了解です」

 

 

 

 通信を切った直後に足音が耳に入った。

 

「ッ! ブレンダン、隠れるぞ」

 

「分かった」

 

 小声で言い、物陰までブレンダンを連れて行って休ませ、様子を伺おうと物陰から顔を出してアラガミを警戒する。

 

 ポーチからスタングレネードを取り出し、いつでも使えるようにしてから再び静かに移動を再開するが……。

 

 いざって時はブレンダンの神機を置いて逃げるしかねえか……? 

 今からでもどこかに隠しておいて、後程回収班に任せるって言う手もあるが……。

 正直、神機は使わないなら最大の荷物なので置いて行った方がこちらも動きやすくなる。

 

「ブレンダン、ちょいとよろしい状況じゃない。いざって時は神機を置いていく可能性もある」

 

「……わかった。戦えない以上、余計な荷物になる。仕方ないだろう」

 

 

 感覚を研ぎ澄ませて周囲のアラガミを把握し、奴らの動きに合わせながらこちらも行動して極力接触を避ける。

 

 

 

ブレンダンと共に移動を始めて数時間、ブレンダンが流石に疲れを見せ始めたので一回屋内へを隠して休憩を取る事にした。

 

 

「ブレンダン、傷はどうだ?」

 

「特に異常はない。痛みはあるが動けない程でもない。大丈夫だ」

 

「そうか…………」

 

 サクヤさん達と合流出来たら、まずはちゃんとした手当てをしてもらおう。俺じゃあただ止血しただけだ。サクヤさんに見てもらった方が確実だ。

 

 

「――ッ!」

 

 

 何かがこちらへ飛んでくる気配を感じて咄嗟に対アラガミ用ナイフを構える。

 

 大きな窓ガラスを突き破ってザイゴートが屋内へ入ってきた。

 

「ちっ、こんな時に……!」

 

 負傷して思うように動けないであろうブレンダンへ奴が襲い掛かる直前、ザイゴートへ飛びかかって目玉に対アラガミ用ナイフを突き立てると血が噴き出し苦痛にザイゴートが吠える。

 

 まずい、早く黙らせないと……他のアラガミが寄ってくる……!

 

「ユウっ! そのまま抑えてくれ!」

 

 ブレンダンが体を引きずりつつ巨大な刀身を振り下ろしてザイゴートが叩き潰された。

 

「…………ッ! くっ……」

 

 ブレンダンが膝を突いて息を荒くしてすぐに駆けよって肩を貸して壁へ寄りかからせる。

 

「済まん。怪我人に無理させちまった」

 

「ふ、気にするな。お前が無事でよかった」

 

 呼吸を整えるブレンダンから離れ、意識を集中させると何匹かこちらへ向かってる感じがした。ザイゴートの悲鳴を聞きつけたか……!

 

 今ブレンダンを動かすのはまずいか。唯でさえ相当の負担を掛けている。

 外に出てユウナたちが駆けつけるまで凌ぐか……。騒ぎともなればあいつらもこっちの場所が分かる筈だ。

 

 「ブレンダン、此処で隠れていろ。外に出て騒ぎを起こせばサクヤさん達も気づくはずだ。一応無線で連絡を入れおいてくれ」

 

「分かった。だが、無茶はするなよ……危ないと思ったら俺を放って逃げてくれ」

 

「その時はその時だ。お前も担いで逃げる」

 

 それだけ言って割れた窓ガラスから跳び出て石ころを拾って別の建物の窓へ投げつけてガラスの割れる音を響かせる。

 

 

 

 直後に上空から気配を感じて見上げると建物の屋上からオウガテイルが大口を開けて飛び降りてきた。

 

 咄嗟に回避すると続々と小型が集まってくる。ブレンダンが隠れている建物から距離を取って挑発フェロモンを使い連中の気をこちらへ向けさせる。

 

 奴らはほぼ一斉に襲い掛かってくるが躱す事だけに集中してひたすら迫る攻撃を凌いでブレンダンの元へアラガミが向かわないように目を配りつつ逃げる餌を演じる。

 

「ふっ!」

 

 隙を見つければ対アラガミ用ナイフで相手の目玉を傷つけて視界を潰し、少しでも攻撃の手が緩むように立ち回る。

 

 しかし目を潰してもその内、鼻で匂いを嗅ぎつけてこちらの居場所を特定してくるかもしれないか。ハンニバルのように再生能力を身につけたアラガミが他に居ても可笑しくはない。やはり攻撃に転じるのは失策か……。

 

 距離を取りつつ迫る攻撃を回避して凌ぎ続けるが奴らもそれなりに頭が回ったのか遠距離攻撃をする個体、近接攻撃を仕掛ける個体で別れて襲い掛かってきた。

 

 それでも何とか凌ぎ続けると上空からオラクルのレーザーが飛んで内一体を貫いて動きを止めた。

 

 どうやらサクヤさん達が到着したらしい。

 

『ユウ、遅れたわね。今ユウナとアネットもそっちへ向かっている筈よ! 援護するから何とか凌いで頂戴!』

 

 サクヤさんから通信が入り、通信しつつ次々と的確にアラガミの急所を打ち抜く技術に感服する。

 

「分かりました。ただ、ブレンダンの隠れてる建物にアラガミが向かいそうになったらそっちを優先してください!」

 

 それだけ言って通信を切り、レーザーが飛んできた方向を確認してサクヤさんが狙撃しやすいように立ち回る。

 

 サクヤさんも遠距離を攻撃を仕掛けようとするアラガミを優先的に落とし、死角である空中から攻撃を仕掛けてくるザイゴートも即座に撃ち落としてくれたおかげで大分立ち回りが楽になった。

 

 

 

「ハァアアアッ!」

 

 空中から掛け声と共にアネットが神機を振り下ろしつつ降下し、真下のアラガミを叩き潰した。

 

「ユウさん、遅れました! 交戦に入ります!」

 

 張り切っているアネットが意気揚々とアラガミに突っ込み、そんなアネットに死角から攻撃しようとするアラガミをいきなり現れたユウナが両断して見事にフォローする。

 

「ッ!やらせん、遠距離攻撃なんざ使ってんじゃねえ!」

 

 遠距離から赤いオウガテイル――ヴァジュラテイルが尾の先端から炎の玉を打ち出そうとするが、跳び上がって頭上に渾身の踵落としをめり込ませるが、ヴァジュラテイルがこちらを睨み、咄嗟にそのまま踏み台にして跳び退いて反撃を回避する。

 そして今度は口から炎を噴くが、地面を滑るようにユウナが割り込んできて神機を一振りして炎を掻き消し、俺は突きの構えを取って一気にヴァジュラテイルへ距離を詰めて眼に対アラガミ用ナイフを突き立てた直後、悶えようとしたヴァジュラテイルはユウナの神機に切り裂かれて絶命した。

 

「ユウ、私を上に投げて!」

 

「跳んで脛に乗れ、思い切り蹴飛ばすぞ!」

 

 それだけ言って思い切り跳躍すると、すぐにユウナも跳んで着いてきた来たのを確認して足を伸ばして脛にユウナが両足を付けると同時に思い切り足を振り上げる。

 

 高く跳んだユウナは神機へ銃形態へ変形して上空から銃撃しつつ降下する。

 次々とアラガミは銃撃に倒れ、残ったアラガミもサクヤさんの狙撃に貫かれ、アネットの一撃で粉砕されてユウナが地上へ降り立つ頃には既にアラガミの掃討は終わった。

 

 

 

 

「ブレンダンさん……良かったです……!」

 

「心配をかけたな。おかげで命拾いした」

 

 アネットは安心したのか涙を浮かべて喜び、ブレンダンもサクヤさんの手当てを受けて先程よりかは大分良さそうだった。

 

 ユウナは先ほどブレンダンの捜索のために出撃して入れ違いになったタツミ達の元へ向かった。なんでも付近で識別不明の反応が検出されたらしい。

 

 俺もとりあえずアナグラへ戻る事にした。

 何より報告しなければいけない事があるのだから。 




バースト編も終わりが見えてきましたね。まあ、3編がちょっと長かったのでアレですが……。


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己の命令1つ守れん奴が俺に指図してんじゃねェ!

更新が大分遅れてしまいました。申し訳ございません。


 

 

 アナグラへ戻り、とりあえず黒いハンニバルの事を伏せて報告した直後の事だった。

 間の悪い事にタツミ、シュン、カレルの3人が黒いハンニバルと接触してしまったらしい。途中でユウナが加勢に入ったのでハンニバルも急に大人しくなってそのまま去って行って事なきを得たようだが……。

 

 正直、すぐにでも黒いハンニバル――リンドウさんの追跡に出たかったのだがアナグラも黒いハンニバルに警戒を強めたおかげで待機命令を下されてしまい、俺も動けなくなってしまった。

 

 

 さて、どうしたもんか……。ここまで頭を悩ませたのは久しぶりだ。アラガミの襲撃でもあればどさくさに紛れてそのまま――って作戦も考えたがそう都合よく事が運ばないのは世の常と言うべきか。

 

 

 

 じっとしてても始まらないので適当に支部内を徘徊しながら次の手を考えるが、中々良い案が浮かんでこない。戦ってるときは多少頭の回転が速くなるのだがこういう時はどうも駄目だ。

 

 

「――ツ!」

 

 突然立ち眩みを感じて咄嗟に壁に手をついて体を支える。

 

 体が酷く重くなって床に膝を突き、気づけば息も上がり始めた。灰域種から受けた方の傷が急に熱を帯び、痛みが走って右手で押さえる。治療を受けはしたが……紫色の炎何て不気味なものを貰った故に何が起きても不思議じゃない。

 アインも灰域種の攻撃は一撃一撃が致命傷に繋がると警告していただけあってその理由が分かる。

 

 ここで調子悪そうに座っていたら周りの注目を買うことになるし、一回トイレの個室にでも籠っておくか。

 

 何とか立ち上がって近くのトイレに入り、個室へ急いで戸を閉めて鍵をかけて便器の蓋を閉じて腰を掛ける。

 

 

 クソ、あの灰域種アラガミめ……。とんだ土産を持たせてくれたな……!

 

 灰域種か、エレナやアインが厄災のアラガミとまで呼んでいた存在。あんなものが出現する可能性があるだなんて冗談きついな……おまけに更に上位種の対抗適応型アラガミと呼ばれるものも居るらしい。

 今はリンドウさんの事を優先にしたいが、どうしても気になってくる。一次大戦、二次大戦と言い、アーク計画と言い、世の中とは常に激動していないと気が済まないのか。

 

 

 痛みも徐々に引いてきたのを合図に個室を出るが、手洗い場の鏡を見て驚いた。

 

 灰色に変色した髪の毛が増えており、肌の色も色白の部分が更に広がり、何より驚いたのは瞳の色だ。一見すれば何も変わりないのだがよく見てみると片目だけ色調が僅かだが違う。

 

 灰色の髪を見ればエレナの事が頭を過る。

 あの子は今どうしてるだろうか。いや、アインも一緒なんだ。心配するだけ野暮ってもんだろうが……それでもやっぱり心配だ。ちゃんと食べて、ちゃんと寝て元気に暮らしていれば良いのだが――いや、約束破った男の台詞じゃねえか。全く、俺ってやつはどうしようもねえ野郎だ。

 

 トイレから出て、エントランスへ戻って寛ごうと思い歩を進める。

 

 「…………なんだ?」

 

 感じたのは以前、神機保管庫で感じた人のような、アラガミのような妙な気配。

 あの時は気のせいだと思ったが、どうやら違うらしい。全く、こんな時に面倒事が舞い込んできたものだ。

 

 厄介な問題は早急に片付けるのが鉄則だ。 

 

 微かな気配を集中して辿っていくと、そこは医務室だった。中から誰かの話し声がして耳を澄ましてみた。

 

 

『それじゃあ、リンドウさんはエイジスに……?』

 

 ユウナの声か? しかし誰と話しているんだ? ユウナ以外の声何て聞こえないが……だが、今の言葉に無視できないワードが入っていた。

 

 エイジス……黒いハンニバルは……リンドウさんはエイジスに現れると言う事かな何の根拠もないが、今はとにかく行動すべきだな。

 命令違反になるが仕方あるまい、事は一刻を争う。

 

 「行くか、エイジスへ」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 そして、エイジスに到着して大きな広間に出ると、青い月が夜空で輝いていた。

 

 

 

 

 

 

              『GYAAAAAAAAAッ!』

 

 

 

 黒いハンニバル――リンドウさんがこちらを見て、雄たけびを上げていた。

 

 

「さて、悪いですがもうひと踏ん張りして貰いますよ。リンドウさん」

 

 勝率が1%も満たない賭けだ。最早リンドウさんの自我次第。俺はただ呼び掛けるしかできないが、それでも信じよう。

 何、勝ち筋の無い戦いなんて既に経験している。諦めの悪さだけは死にかけようが直らないらしい。

 

 ハンニバルがこちらへ襲い掛かろうとしたとき、突然オラクルの銃弾がハンニバルへ着弾して爆発を起こした。

 

 

「ユウナ、お前……」

 

 後ろには神機を構えたユウナが神機を剣形態へ切り替えて歩いていた。

 

「此処にいるってことは……そういう事で良いんだよね?」

 

 対アラガミ用ナイフを抜いて俺も構える。

 

「やり方は任せる。好きに使え」

 

「うん。行くよ」

 

 ユウナはそう言うと同時に神機を構え、ハンニバルはこちらへ襲い掛かってきた。

 

 

 

「ユウ、私がタイミングを計る。スタングレネードを!」

 

「了解だ」

 

 スタングレネードの準備をして俺はハンニバルの周囲を駆けながらユウナの指示を待つ。

 ユウナはハンニバルの攻撃を弾き、その度に反撃を入れる慎重な戦いを展開する。

 

 ハンニバルが周囲を薙ぎ払おうと尻尾を丸め、それを確認したユウナは素早く後ろに跳んだ。

 

「ユウ! 攻撃の後隙!」

 

「合点!」

 

 尻尾による薙ぎ払いを跳んで躱し、素早くハンニバルの目の前へ空中ステップで移動してスタングレネードを地面へ叩きつける。

 

 周囲に破裂音と閃光が広がり、ハンニバルは目を押さえながら蹲っている。

 

 直後にユウナが素早くハンニバルの上を取り、捕喰形態に神機を変化させて急降下と共に逆鱗に喰らいつく。

 

『GYAAAAッ!?』

 

 ハンニバルが痛みに悶えながら体を激しく揺らし、ユウナは暴れるハンニバルから素早く退避する。

 

「神機解放! 攻勢に出る!」

 

 そしてユウナは凄まじいスピードで駆け出し、神機を振ってハンニバルに怒涛の連撃を叩き込み、神機が一閃される度に鮮血が飛び散る。しかしハンニバルも軽快な動きでユウナの連撃から逃れ、素早く炎の剣を作り出して両手に構えて2本の炎剣でユウナの神機を受け止める。

 鍔迫り合いになるが、ハンニバルは動けないユウナにブレスを放とうと大きく息を吸い込む。

 

 地面を蹴ってユウナに近づき、そのまま担ぎ上げて離脱する。

 

「ごめん! 助かった」 

 

「気にするな。安心してガンガン攻めろ」

 

「お願い!」

 

 ユウナを降ろし、すぐにハンニバルへ向かっていく。

 俺の横を大きなオラクル弾が通過して次々とハンニバルに着弾して爆発する。しかし、ハンニバルも慣れたのか、ユウナの遠距離攻撃を炎剣で斬って消滅させてこちらへ向かってくる。

 

「ユウナ、隙を作る! 俺の事は気にしないでデカいのかませ!」

 

 ユウナにそれだけ言って、炎剣による連撃に立ち向かう。

 迫る炎剣を紙一重で熱を感じつつ凌ぎ、途中で突きや下段攻撃など搦手も繰り出されるがとにかく引き付けて回避してユウナの攻撃をサポートする。

 

 数撃躱すごとにハンニバルの肉体は爆発に襲われ、たまらず俺から距離を取って今度はユウナへ向かう。

 

 ユウナが迎撃しようと引き金を引くが、オラクル弾は尽く躱されるか斬られて消滅させられ、銃撃は諦めて剣形態に切り替えハンニバルへ向かう。

 

 剣戟を繰り広げ、俺は隙を伺いつつ適度な距離を保ちつつ周囲を移動する。

ユウナに攻撃を弾かれた隙を狙って籠手のついた腕にしがみ付き、籠手と肉の間にナイフを突き入れる。

 

 

 ハンニバルが俺に気を取られた隙に、ユウナの一撃が胴体を切り裂いた。

 

 すぐにユウナと共に奴から距離を取るが、奴はこちらへ炎弾を吐き出してくる。

 

「任せて!」

 

 ユウナは炎弾が当たる直前に装甲を展開、同時に神機を振って炎弾を弾き返した。

 ハンニバルが跳ね返された炎弾に被弾して苦痛の悲鳴を上げるが、すぐにユウナへ接近して籠手で裏拳を放つ。

 

「くっ!」

 

 神機がユウナの手から弾き飛ばされ、俺の方へ飛んできた。

 

 

「ウオッ!?」

 

 俺は咄嗟にユウナの神機を天高く蹴り上げてしまった。

 

「済まんユウナ!」

 

「気にしないで! 集中!」

 

 ハンニバルはユウナへ爪を振り降ろすが、ユウナは上手く回避して攻撃を捌いている。

 爪による攻撃をジャンプで躱すがハンニバルは待っていたと言わんばかりに裏拳の構えを取った。

 

 一か八か降ってきたユウナの神機を蹴り飛ばすと神機は回転して空気を斬りつつハンニバルの逆鱗へ突き刺さる。

 

 

『GYAAAAッ!?』

 

 逆鱗に神機が深く刺さり、ユウナはすぐにハンニバルの背中に飛び乗って神機を抜いて再び捕喰形態へ切り替える。

 神機から展開された捕喰形態は普通の獣の口と違い、大きく更に獰猛そうな獣のモノだった。

 

 

「臨界解放式・天ノ咢ォ!」

 

 

 神機はハンニバルへ食らいつき、その肉を食い千切る。

 

 ハンニバルは悶絶して地面へ倒れて苦しむ。

 そして、ユウナからは何時ぞや感じたあの気配を感じた。

 

 

 ユウナの瞳は獣のように瞳孔が縦に割れ、その表情は一変して静かに怒る獣のような顔をしていた。

 

 そして立ち上がったハンニバルは劫火球を吐き出すが、ユウナが神機を両手で勢い良く振ると斬撃の衝撃波が飛び出し、劫火球を容易く掻き消してハンニバルを襲った。

 

『GUUUUU‼!』

 

 炎剣を作り出し、ユウナに斬りかかるが斬撃は軽く振った神機の一振りで容易く掻き消された。

 そしてユウナが神機を切り返してハンニバルの腕が斬り飛ばされた。

 

『GYAAAAッ!?』

 

 そして間髪入れずにユウナはハンニバルの頭部に斬撃を叩き込んで鮮血が飛び散り、頭部の半分を失ったハンニバルは地面へ倒れた。

 

 

「ふう……」

 

 ユウナが一息つくと瞳は元に戻り、それと同時に膝を突いて少し呼吸を荒くしている。

 

「ユウナ、今のは……」

 

「ちょっとね……。大丈夫、ちょっと疲れるだけだから。心配しないで」

 

 苦笑いしながら言葉を紡ぐユウナ。

 そんな深い事情まで探る趣味も無いのでとりあえず話はそれで終わろうとした時、僅かにハンニバルから敵意を感じ、身構えると共にハンニバルの肉体から炎が吹き出してハンニバルの傷や半分になった顔が炎と共に徐々に再生していた。

 

『GUGAAAAAAAAAッ!』

 

 そして、いきなりハンニバルは起き上がってユウナを籠手で殴りつけようとする。

 咄嗟にユウナを庇おうと突き飛ばすが籠手による打撃をモロに喰らい、凄まじい衝撃を感じて血を吐き出しながら吹き飛び、壁に激突した。

 

背中にも激痛が走り一瞬だけ意識が遠くなるが、なんとか膝を突いて倒れるのを堪えた。

 

 

「ッ……! ガッ……ァ……!」

 

 

「ユウ! 大丈夫!?」

 

 ユウナがこちらへ駆けてくるが、声を振り絞った。

 

「気にするな……! 気をつけろ!」

 

「ッ!」

 

 俺の言葉にユウナは素早く神機を構えて炎と共に再生しているハンニバルと相対する。

 

 

 

 

 

 

「リーダー!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえて振り向くとそこには第1部隊メンバーが勢ぞろいしていた。

 

 

「リン……ドウ……?」

 

 サクヤさんが言葉を紡ぎ、ハッとしてハンニバルを見た。

 

 そこには炎を纏いながら傷を癒すハンニバルの胸部にリンドウさんが捕らわれているように上半身のみ姿を現していた。

 

 ついに、リンドウさんの顔を拝む事が出来た。そうだ……あと一歩だ、きっと。

 

 第1部隊とリンドウさんが言葉を交える。

 ただ、リンドウさんは既に意識を保つ限界が近そうだ。正直、呼びかけるだけではどうしようもないだろう。何とか……何か方法を……。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 折角会えた人との言葉を交えているところ、話の腰を折るようで失礼極まりないだろうが……。

 

 

 リンドウさん……もしかして、引っ込抜けるんじゃね?

 なんか両腕と下半身がハンニバルに埋まってるだけだから、もしかしたら引き抜けそうな気がしてならない。

 もし引っこ抜けたら俺が最速でアナグラまで担ぎ込んで偏食因子打って腕輪を新しいのをつけて怪我を治療すれば普通に助かるんじゃなかろうか……。

 

 

「…………よし。………勝機ッ!」

 

 呼吸を整え、床を思い切り蹴ってリンドウさんへ跳んでハンニバルを包む炎を力尽くで突破してリンドウさんの肩を掴む。

 足はハンニバルの胸部に掛けて、リンドウさんの脇に手を通して思い切り腰を入れて引っ張る。

 

 

 ただし、表現できない熱さに苦しみながら。

 

 

 

 

「ぬおおおぉぉぉおあああああついぃぃぃぃンンンンおおおおおおおおおッ!」

 

 

 

 

「おい、何してるバカ!」

 

「ユウ! 死んじまうぞッ!?」

 

 怒声と驚愕の声が聞こえるが、大きく息を吸って叫ぶ。

 

「バカ野郎ォ! 悠長に話す暇なんかあるかぁ!? 引っこ抜けそうなんだから引っこ抜くだけだけじゃボケェ!」

 

 

『グ……よせ。早く逃げ……お前…』

 

「うっさいわボケェ! 俺が引っこ抜くつったら引っこ抜くんだよォ! 口答えしてんじゃねえお前よオォン⁉」

 

 

 

 クソ! ビクともしねえ! これじゃあ、ただ俺が火傷するだけじゃねえか……!

 ええい……こうなったら、ソーマとコウタにも助力を……。男3人の馬鹿力で引っ張るしかねえ!

 残念だったなハンニバル! 

 こっちにはバスターを軽々振り回すソーマパイセンが居るんだぜェ!?

 テメェとの綱引き合戦――もといリンドウさん引き合戦なんざもう終わりだッ!

 

 

『ここから……逃げろッ! これは……命令だァ!』

 

「うおっ!?」

 

 リンドウさんが叫ぶと、俺は背後から大きな手に掴まれてそのまま投げ飛ばされて地面へ叩きつけられるが痛みを堪えてすぐに立ちあがる。

 

 

「無駄だァ!諦めろリンドウ!己の命令1つ守れん奴が俺に指図してんじゃねェ!」

 

 

 叫びながら対アラガミ用ナイフを構えて突撃を仕掛け、傷の再生を終わらせたハンニバルが雄たけびを上げるが怯むことなく奴に斬りかかる。

 

 

 

「リンドウさんッ! 生きる事から、逃げるなァ!」

 

 ユウナがいつの間にかリンドウさんの神機を左手に握ってオラクルに侵食されつつも突撃していた。

 

 ハンニバルの胸部に対アラガミ用ナイフを突き刺し、ユウナはハンニバルの顔を切り裂き、露出したコアへ侵食された左手を叩き込んだ瞬間、意識が遠くなりそのまま意識を手放してしまった。

 




レン「なんかおまけがついてきたんですけど、どうしましょうか?」


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難儀なもんだな

なんか調子がちょっと出てきたから勢いに乗って投稿します。


「うん……? ここは……」

 

 

 俺はいつの間にアナグラのエントランスで倒れていたようだ。

 

 

「初めまして……ですね」

 

「ッ‼」

 

 突然の呼びかけに驚いて振り返れば、そこには男とも女とも言える中性的な顔立ちをした奴が立っていた。そしてそのすぐ傍でユウナが倒れていた。

 

 

「僕はレン。リンドウさんのかつての戦友です」

 

 戦友と言ってるが、こいつの気配は以前感じた気配と全く同じ。だが、気配を感じ取れただけでこいつの姿は見たことがない。人間なのかこいつ……。

 

「色々ツッコミたいが、それは置いておくとしよう。ここは何処なんだ? アナグラにしては、妙だが……」

 

 

「先程、ユウナさんがハンニバルに攻撃したときに、少し手違いがあってユウナさんとリンドウの意識が強く感応した結果僕たちの意識が――」

 

 感応と言う言葉が出てきた瞬間、脳が働くのを拒否しだした。こうなれば最早俺の理解力はどうにもならんので彼には悪いが一言で纏めて貰う他ない。

 

「ああ、済まん。平常時は頭の回転がよろしくないんだ。シンプルに言ってくれないか?」

 

「そうですね……安っぽく言うと、リンドウの意識の中です」

 

「OK。把握した」

 

「しかし、妙ですね。貴方の意識まで引き込んでしまうなんて……ユウナさんは一回リンドウさんの神機に接続したからともかく」

 

 レンガ深く考え込んでいるのを尻目に周囲を見渡すと俺たち以外に誰もエントランスに居ない。とりあえずユウナを俺の特等席でもあるソファーに寝かせる。

 気づいたが制服の至る所が真っ黒焦げであるのに気づき、また支給申請をしなくてはいけない。ぶっちゃけ無償支給の制限越えてるからポケットマネーが必要になるんだよなぁ……。

 

 

「とにかく、この空間に長居すればリンドウとユウナさん、そしてあなたと僕の意識が溶け合ってしまって消滅してしまうかもしれません。まずは脱出をしなくては」

 

 消滅ってうっそだろお前……滅茶苦茶ピンチじゃん。しかしどうすればいいんだ? リンドウさんの意識の中だからリンドウさん見つけ出して何とかして貰うしか

手がないのでは?

 

「まずはあなたより弱っているリンドウの意識を呼び起こす必要があります。そのためには彼の記憶を辿り、意識に刺激を与えて起こすしかないですね」

 

 リンドウさんの記憶か……なんかあんまり見てはいけないものまで見えてしまうのではないだろうか。

 流石に人のプライベート見るのは気が引けるが……。

 

 

 「このゲートの先がリンドウの記憶の中でも特に印象に残っている場所へ繋がっている筈です。そこで起こる出来事に干渉すれば恐らく……」

 

「よし、行ってくる」

 

 なら話は早い。さっさと片付けないとな。こんな道草くってる場合じゃない。何とかリンドウさんを助けないとな。折角あと一歩と言うところまで来たんだ。このままチャンスを無駄にするわけにはいかない。

 

「レン、悪いがユウナを頼む。もし俺が戻らなくてもユウナならなんとかできるかもしれん」

 

「分かりました。申し訳ないですが、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 ゲートを潜ると、周囲が暗闇に暗闇に包まれて熱気を感じふと暗い周囲を見渡せばそこはマグマ溢れる地下鉄跡だった。

 

 

「ここは……」

 

 周囲の探索をしようと歩き出した瞬間地響きと共に何かが地面を突き破ってその巨体を現した。

 

 

「スサノオ……!」

 

 ボルグ・カムラン神属禁忌種のスサノオが立ちはだかり、雄たけびを上げてこちらへ襲い掛かってきた。

 

 

 飛びかかってきた巨体から距離を取り、奴の動きを見ながら対アラガミ用ナイフを抜こうとするが、いつも腰に差してある筈のナイフがない。どこかに落としたかと焦るが、制服に固定してあるナイフを差すホルダーもなくなっており、すぐにここが意識の中だから得物が無い事に気づく。

 

「ん……? アレはッ⁉」

 

 スサノオの胴体に何かが刺さっており、良く目を凝らして見れば、かつての俺の神機だった。

 

 このスサノオ……あの時の個体か……! 

  

 レンが言っていた通りか。ここはリンドウさんの意識、あのスサノオを倒したのもリンドウさんだ。ならあの時の個体が現れても可笑しくはないか。

 

 忘れもしない、苦渋の決断で神機を壊す羽目になったあの日を。おかげでナイフ一本でアラガミと渡り合う羽目になったんだ。

 

 

 「おもしれェ。あの時は世話になったな……倍にして返してやるよ……!」

 

 勝機を見出した俺はスサノオへダッシュで近づき、奴は両の捕食口から光弾を乱射するがその手の攻撃には完全に慣れているので次々と迫る光弾を紙一重で避けつつ距離を詰め、次は尻尾の剣を振り下ろしてくるがそれも躱してそのまま足から胴体へ伝い神機を引き抜く。

 

『GYAAAAAAA!!!!』

 

 鮮血を噴き出しながら怒るスサノオを尻目に飛び退きつつ神機を見る。

 CNCから触手が伸び、それは腕輪の溝に入った。

 

「さて、相棒。久しぶりやってやるとしようぜ!」

 

 答えるようにCNCが光り輝き、神機を構えてスサノオへ突撃を仕掛ける。

 

 スサノオが剣で地面を切り払ってくるがそのまま跳躍しつつ切り上げて下段攻撃を凌ぎながら斬撃を喰わらせ、もう一回転して勢いに任せて神機を振って奴の胴体を切り裂く。

 

 痛手を負った奴は跳び退きつつ捕食口から光弾を打ち出してくるが、再び接近しつつ被弾しそうな光弾は神機で掻き消して飛び込みと共に神機を捕食形態へ移行してスサノオの胴体の肉を喰らい千切り、バースト状態へ移行してそのままスサノオを足場代わりに跳んで奴の真上を取る。

 

 

「ッ!」

 

 奴が尾剣を振って俺を斬り落とそうとする前に再び捕食形態へ移行してそのまま壁の方へ伸ばして壁に喰らい付かせて縮ませて引っ張てもらう。

 

 地面へ着地して振り向けば捕食口で殴りかかってきたので装甲を展開して攻撃を防ぎ衝撃を受け流しつつ、距離を取る。

 

 こちらへ捕食口で喰らい付こうとする奴の行動に合わせ、神機を左腰に添えて居合の構えを取り、奴が腕を振りかぶると同時に一気に距離を詰める。

 

 

「十字!」

 

 

 振り抜きで横一閃した直後に返し刀で今度は角度の鋭い斜めに切り下し捕食口を十字に切り裂く。

 

 悲鳴を上げる奴の捕食口には歪な十文字が刻まれ、傷からは大量に血が溢れ出る。最早片腕は潰れたも同然だろう。

 

 

『GYAAAAAAA!!!』

 

「ハっ、良い様だな。名前の割には大したことねえなァ⁉ 蠍野郎!」

 

 

 挑発に乗ったのか尾剣を振り下ろしてくるが、軽快に回避するも今度は突きを打ってくるがそのまま跳躍で躱して尾剣の腹に乗って今度はこちらが突きの構えを取る。

 

 そして奴が動くよりも早く跳び込み、胴体に神機を突き刺した直後に斬り抜きながら更に跳んで、頭上から神機を渾身の力で振り下ろして頭部を叩き斬ろうとするが、奴も咄嗟に身を捩って頭部真っ二つは凌がれた。だが頭部の一部を叩き潰せたので良しとしよう。

 

 着地した隙を狙うように尾剣を突き刺してきたが迫る攻撃に神機を添えて軽く受け流しつつ身を翻した直後に踏み込んで反撃の斬撃を尾剣に叩き込む。

 

 尾剣の先が割れ、奴は悲鳴を上げて藻掻き苦しむ。

 

「最大の武器が最大の弱点とは難儀なもんだな……」

 

 

 

『GYAAAAAAAッ‼』

 

 

 怒りの雄たけびか、こちら目掛けて頭上から尾剣を突き刺そうとしてきたがバックステップで跳び退く。しかし、尾剣の切っ先が突き刺さった箇所が光り輝く大爆発を起こして輝く爆風がこちらを飲み込もうと迫る中、装甲を展開して腰を落として耐える。

 

「グッ……!」

 

 凄まじい衝撃波で一瞬でも気を抜けば吹き飛ばされるだろうが、安易な油断はしない主義だ。更に足に力を入れてただ耐え凌ぐ。

 

 

 衝撃が和らいだと思った瞬間、装甲に爆風とは異なる強い衝撃を受けてそのまま吹き飛ばされた。

 

「ちっ! 小癪な……!」

 

 爆風を凌いでいる間に今度は物理攻撃をかましたのだろう。

 流石にただでさえ爆風の防御に体力を使った上に強力な打撃まで防いだ。これ以上攻撃を受け止める事はできない……!

 

 追撃を貰う前にこちらから仕掛けるしかないか!

 

 

 地面を蹴ってスサノオの正面に飛び込んでジャンプと共に神機を上段に構え、渾身の力で振り下ろす。

 

「カァッー!」

 

 気合で振り下ろした斬撃を尾剣で防ごうとしたのだろうがそのまま尾剣諸共叩き斬ってひび割れた尾剣の亀裂は更に広がって一部は砕けて最早剣と呼ぶには語弊がある状態まで結合を崩壊させた。

 

 

 しかし相手は禁忌種、怯むことなく捕食口で殴りかかってきた。

 咄嗟に装甲を展開して防ぐが衝撃の強さも大きく後ろへ押し戻され、奴は既に武器としての役割を果たさない尾剣で周囲の地面を薙ぎ払うように振り、すぐに装甲を解除して高く跳んで下段攻撃をやり過ごしてスサノオの頭を踏んで再び高く跳び、奴の頭部目掛けて落下してそのまま左手をスサノオの首に回して後頭部へ回って首に神機を突き刺した。

 

『GYAAAAAA!! GYAAAAAAッ!』

 

 暴れ狂う奴に臆することなくそのまま神機を両手で握り、渾身の力で力任せに振り抜いて首を落とした。しかしまだスサノオの気配の強さは完全には消えておらず、急いで首の断面に神機を捕食形態にして突っ込ませて怪しい光を放つコアを引きずり出してそのまま手でコアを掴んで神機を突き刺す。

 

 暴れ狂う巨体が動きを止め、地面に崩れたのを確認して地面へ着地する。

 スサノオの死体はすぐに霧散し、その場所から光が溢れた。光が徐々に大きくなってゆっくりと周囲を飲み込み始めてあまりの眩しさに目を閉じて腕で顔を覆う。目を開ければそこはエントランスだった。

 

 しかし、レンとユウナの姿が見えない。2人は一体どこへ……。

 

 

 ゲートへ向かって開けようとするが全く開く気配がしない。先程はすんなり開いたと言うのに……とにかく扉を片っ端から開けてみるか。

 

 その後エントランス内の扉をすべて開けてみようと試みたが全て閉ざされており八方塞だった。試しに神機でぶった切ろうとしたがびくともしないどころか傷すらつかない。

 

「たくっ、何だってんだ――エレベーターがあったか」

 

 エレベーターのボタンを開けてみれば反応して扉が開き、中に入り新人区画のボタンを押すが無反応。ベテラン区画のボタンを押せば反応してすぐにエレベーターが止まり、扉が開くとそこは俺も知っているベテラン区画の廊下だ。

 

 リンドウさんの部屋へまっすぐ向かい、扉を開けるとそこにはユウナとレン、そしてリンドウさんが居た。

 

「ユウ!良かった、無事に戻ってきたんだね?」

 

「心配をかけたな。リンドウさんは……」

 

 リンドウさんの右腕は既に異形なものになっており、当の本人は苦しそうに右腕を押さえている。

 

『二、にげろ……俺の事は、放って……』

 

 譫言のように呟いており、その眼には俺はおろかユウナも映っていないのだろう。

 

「リンドウの意識も限界みたいですね。貴方がスサノオを、ユウナさんがウロヴォロスを倒し、リンドウの意識を刺激したおかげで彼の意識がある場所もはっきりしました。今もそこで本当のリンドウは自分を侵食するアラガミと戦い続けている筈。急いで向かいましょう」

 

 今はこいつウロヴォロスって言ったか? 俺より遅れてユウナがウロヴォロス倒しに行って既に戻ってきてるってヤバくね?ユウナが強いのかそのウロヴォロスが弱いのか、これもう分かんねえな……。

 

 

「ユウ、レン。急ごう」

 

 ユウナの言葉に頷き、エントランスへ向かいゲートを潜ろうとした時、急に敵意を感じて神機を構えた直後――

 

 

 エレベーターが破壊され、煙の中から何者かが接近してきた。こちらへ異形と化した爪で襲いかかる。

 

「っ!」

 

 神機で爪を受け止め、そのまま弾き返した。

 

「っ! なんでリンドウさんが……」

 

 襲い掛かってきたのは先ほど部屋で佇んでいたリンドウさんだった。だが、様子がおかしい。苦しそうなうめき声を上げながらこちらを向くと、頭部にハンニバルを思わせる片角が生え、アラガミ化した腕も先ほどよりも侵食が進み、肩からは突起が出ており焦点の合ってない紅い眼がこちらを見据える。

 

「いけない!ここまで侵食が……!」

 

 レンの言葉に反応したのか、リンドウさんは右手から神機のような巨大な剣が生え、それを手にレンに斬りかかろうとした。

 

 咄嗟に2人の間に割って入り、リンドウさんの得物を神機で受け止める。

 

「ユウ!」

 

 ユウナも神機を構えるが2人に声を飛ばす。

 

「来るな、先に行け!俺はここでこいつの足止めをする!」

 

「でも……!」

 

「時間がないんだろう⁉ 早く行け!」

 

「…………っ! レンっ!」

 

「分かりました。ここはお願いします!」

 

 頷いてそのままリンドウさんを押し返して神機を構えた。

 

 

 




バースト編も次回辺りで終了ですがハンニバルとの戦闘が多く、くどかったのは反省。
でも個人的に良アラガミだから書きたい葛藤。


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悪いが通行止めだ。此処は通さん

そういえば「パチスロ ゴッドイーター ジ・アニメーション」ってありましたけどどうなんですかね?


 

 神機を構え、攻撃に備えていつでも動けるように苦しそうに唸るリンドウさんを視界に捉える。

 

『グゥ……ウゥ……ガァァ‼』

 

 悲痛な叫びを上げながら得物を振り上げ、接近してくるリンドウさんの攻撃を神機で受け止める。

 

 「……ッ」

 

 流石の馬鹿力だ……安易な防御は体力を消耗するだけでこちらの状況を不利にするだけか。捌ききれない攻撃は装甲で受け止めた方がマシだな。

 3人で掛かればすぐに片が付くだろうが、レンの反応からしてあまり時間は残されていないだろう。極東のエースが助力してくれると助かるが、状況が状況。

 先へ進んでもらおう。

 

「2人とも行けェ! こっちも片付いたらすぐに向かう! 心配するな!」

 

 徐々にリンドウさんに押され始め、腰を落として必死に堪えて2人が進む時間を稼ぐ。

 

「ユウナさん、行きましょう!あのリンドウはリンドウ自身を侵食しているアラガミです。ここまで妨害してくると言う事は、奴も相当焦っていると言う事です。リンドウ自身も限界が近い筈、急がないと手遅れになります」

 

「っ……分かった。ユウ!」

 

 ユウナの言葉に頷き、そのままリンドウさんの皮を被ったアラガミを弾き飛ばし、2人はゲートを開いてその先へ消え、アラガミも得物を片手に吠えながら2人の後を追おうとする。

 

「悪いが通行止めだ。此処は通さん」

 

 ゲートの正面に立ちふさがって神機を構えて斬りかかる。

 

『ウがァ!』

 

 雄たけびと共に攻撃を防いでそのまま諸共吹き飛ばそうとしてくるが、される前に腹に蹴りを入れて無理やり引き剥がして再び構える。

 

 ……っ、刀身の大きさからバスターブレード相当……純粋な力、地力は奴に軍配が上がるか。真正面から切り結ぶのは得策じゃない……。

 

 迫る刀身を弾きつつ横へ受け流し、戦い方を考えるがその隙を突くようにアラガミは更に力を込め始め、受け流そうと神機の刃を合わせた直後にそのまま力づくで吹き飛ばされる。

 

「クッ!」

 

 片手を床へ着いて態勢整えるが既にアラガミはこちらへ斬りかかってくる。神機を捕食形態へ切り替えて、エントランスの天井に伸ばして喰らい付かせ、そのまま縮ませて天井へ体を引き寄せてその場から離脱する。

 

アラガミも攻撃を中断してこちらへ向かって垂直に跳び上がり、神機を剣形態へ戻して落下しながら神機を構える。

 

『ガアァッ!』

 

「せあッ!」

 

 掛け声と共に神機を振り、互いの刃がぶつかり合って火花を散らしつつ空中で何度か切り結ぶ。相手が鈍重な武器なら空中で仕掛けりゃ幾分かこちらが有利だが、攻撃はすべて巧みに防御された。

 攻めを諦め、奴の得物を踏み台に跳び、奴から距離を取って宙を舞う。

 

『グゥ……!』

 

 苦しそうなうめき声を上げた瞬間、奴の背中に翼のようなものが生え、そのまま猛スピードでこちらへ斬りかかってきた。

 

「マジかよッ……!」

 

 迫る巨大な刀身を防ぐために装甲を展開するが、空中で受けたことも相まってそのまま壁へ吹き飛ばされて背中から壁へ激突し、痛みを堪えて次に備える。

 

 今度は得物の切っ先をこちらへ向けて突き攻撃をしてこようとするのに対してすぐに壁を蹴って跳び、床へ着地する。

 

 壁に刀身が突き刺さり、奴は乱暴に抜いて翼を羽ばたかせてこちらへ急襲する。

 奴の動きをよく見て神機を構え、振られた刃が当たる直前で躱し、反撃を叩き込むが翼を盾にして凌がれた。

 

「っ⁉」

 

 すぐに後ろへ飛んで距離を取って神機を構えつつ、次の攻撃に備えるとすぐに斬撃が迫る。思い切って奴の刀身の腹に斬撃を叩き込んで力尽くで弾き、無理やり隙を作らせてそのまま突き攻撃で翼による防御が間に合わない足を狙うが奴は跳躍して切っ先は空気を貫く。

 

 跳んだアラガミが巨大な得物を叩きつけるように振り下ろし、後方へ軽く跳びつつ神機の刀身で防ぐ。刃同士の接触で喧しい音が響く。凄まじい衝撃に耐えつつ踏ん張りつつ神機を床へ突き刺して耐える。

 

 アラガミが突き攻撃の態勢に入ったのを確認し、すぐにアラガミへ向かって距離を詰める。

 

 

 まだ翼の動かし方に慣れてねえようだな。機動力さえ上回れば……!

 

 

 迫る切っ先を受け流しつつ足を振り上げて刀身に踵落としを決めて床へ叩きつけ、 すぐに態勢を整えて肘打ちをアラガミの腹に打ち、即座に裏拳を叩き込む。

 最後に肩先向けてそのまま体当たりを仕掛けてアラガミを吹き飛ばし、踏み込んで突き攻撃を仕掛けるが異形と化した腕で切っ先を受け止められ、そのまま弾かれて鋭い爪がこちらへ迫り、咄嗟に身を退いてやり過ごす。

 

『グゥアッ!』

 

 近くのテーブルを持ち上げてそのまま投げつけられ、跳んで躱すが奴はその隙を突いて得物を取りに行こうとした。

 

「待ちやがれ!」

 

 させまいと神機を投擲するが、右腕で弾き飛ばされて床に転がる。

 

 アラガミが得物を手にし、空いた手で再び壁を掴んで引き剥がし、残骸をこちらへ投げつけてきた。

 

 

「あぶねえなおい!」

 

 迫る壁の残骸を避けるとそのまま得物を振りかざして襲い掛かってきた。

 振られた刀身を避けて腕を掴み引っ張りつつ足払いをし、投げ飛ばそうとするが空いた手で腕を掴まれ無理やり放り投げられた。

 

 壁に叩きつけられて起き上がろうとすると頭上から刃を振り下ろされ、その場で後転して起き上がり、壁を破壊しつつ得物を振り回される。

後ろへ下がりつつ何とか躱して凌ぎ続けるが、奴は鉄の棒のようなものを左手に持って振りかぶり、咄嗟に躱す。

 唯の鉄の棒とはいえ、あの剛腕で振り回されたら下手な武器より高い殺傷力を誇るだろう。

 鉄の棒での突きを受け流して左腕を掴み、打撃を関節へ叩き込んで腕が曲がらない方向へ圧し折る。

 

『ガァアアアッ⁉』

 

 苦し紛れに奴が巨大な刀身で大振りの振り下ろしを仕掛けようとした隙を突き、懐へ潜り込んで腕を交差させてアラガミの腕を挟み込んで攻撃を防ぐ。

 

 ぶっつけ本番……やるしかねえな!

 

「無刀流!」

 

 交差させて両腕でアラガミの腕を巻き込みつつ捻り、無理やり得物を手放させて刀身を蹴り飛ばす。

 

 アラガミが俺を押しのけて得物を取ろうと跳び、俺も奴よりも早く落下する得物へ向かうために思い切り地面を蹴って跳ぶ。

 奴の手が得物の柄に届くところで刀身を床へ蹴り飛ばして妨害する。

 

 着地した直後、奴は爪で引き裂こうと異形の腕を振るが爪が俺の体を捉えるよりも早く腰を落として正拳を腹部へ叩き込むが強烈なカウンターを堪えて反撃を繰り出してきた。

 咄嗟に躱し、今度は左手で殴りかかってくるが紙一重で躱してこちらも早さ重視の反撃を繰り出して次の攻撃に備える。

 

 向かってくる打撃を受け流しつつ背後へ回り脇腹に回し蹴りを入れるが、これも耐えられて振り向きつつ反撃の裏拳が迫り、焦って身を屈めてやり過ごして顎をアッパーカットで打ち上げる。

 

『グゥ……ウがァ!』

 

 怯みつつも屈んで爪を振り抜き下段攻撃を仕掛けてくるが、こちらは高く跳び上がって跳び込み蹴りを空中から浴びせ、着地から続けて片足で回し蹴りを叩き込み即座にもう片足で蹴りを脇腹に直撃させてアラガミを蹴り倒す。

 

 しかし相手も受け身を取って態勢を整えてこちらを睨みつけてくる。

 

 そして異形の右手を翳すと、床に落ちている奴の得物が霧散し消えたか思うとすぐに奴の手から生えてきた。

 

「マジかよ」

 

 驚きつつも、こちらも床へ転がる神機を拾い上げて構えるとすぐに奴は得物を振り上げて襲い掛かってきた。

 

 跳躍して得物で叩き潰すように振り下ろし、横へ跳んで躱し後隙を突いて近づくと奴はチャージクラッシュの態勢を取った。

 それを確認して焦って距離を取って離れるが掲げられた刀身にオラクルが収束して禍々しい気配を放ち、奴は雄たけびと共に踏み込んで振り下ろした。

 

 身体を逸らして何とか両断を回避するが、床にオラクルが収束し始めたのを見て第六感が警笛を鳴らし、即座に装甲を展開して床へ向けると同時に無数の棘が床から飛び出し、咄嗟に跳ぶ。

 

「っ⁉」

 

 爆発が起こると思ったが、棘は予想外だ……!

 神機の装甲はバックラーなので完全に身を守る事はできない。防御し損ねた棘の切っ先が体の至る所に突き刺さった。

 咄嗟に跳ばなければ串刺しの刑に処されるところだった。

 

 

 しかし次の瞬間、刀身が叩きつけられた床から光の柱が伸び、光が収束を始めてオラクルが膨張を始めた。

 

 咄嗟に身構えてつつ装甲を向けるが、直後に凄まじい爆発が起こり防御は空しく崩されて強い衝撃を全身で感じ、吹き飛ばされた。

 

 

「がッ……!」

 

 

 壁に叩きつけられて激痛が体を襲い、床へ落ちて転がる。

 

 

『ガアァッ‼』

 

 立ち上がる頃には奴に追撃を仕掛けられ、歯を食いしばって激痛を訴える体に鞭打って無理やり構える。

 

「舐めるなァ!」

 

 片足で立ち、体を捻り剣を両手で持って振りかぶる。

 そして浮かせた足で思い切り踏み込み、渾身の力で勢いのままに剣を振る。

 

「吹っ飛べぇ!」

 

 アラガミの胸部から脇腹を斬り裂いて吹き飛ばす。

 

 起き上がったアラガミへ一気に距離を詰めつつ突きを放つ。

 奴が刀身で防御しようと身構えるのを見越し、突き攻撃をすると見せかけて前進しつつ神機を下方から斬り上げてその勢いで跳ぶ。

 

 予想外の攻撃に反応が遅れた相手がこちらを振り向く頃には、既に頭上を取り落下するとともに奴の首に手を回してそのまま背後を取って背中へ神機を突き立てて腹まで貫通させる。

 

『ガッ⁉」

 

 

 神機を一気に抜いて傷口へ突き蹴りをかまして吹き飛ばす。

 

 吹き飛んで瓦礫に叩きつけられた奴は傷口を押さえながら膝を突き、勝機とみてジャンプ斬りを仕掛けるが巨大な刀身を盾に防がれる。

 刃が衝突した直後、互いに弾き返してそのまま切っ先を相手に向け、同時に突き攻撃を繰り出した。

 

 迫る巨大な刀身の切っ先を何とか体を捻って躱しつつアラガミの胸に神機を突き立てる。

 

『GAAAAッ⁉』

 

 アラガミが悲鳴と共に目を見開き、口から血を噴き出して異形の右手が得物を手放し、床へ落ちた。

 

『GAA……』

 

 そのままリンドウさんの姿をしたアラガミは崩れ落ちて体が徐々霧散を始めて跡形もなく消え、神機に付着した血も塵へ変わって消え去った。

 

 

「たくっ、手間取らせやがって……!」

 

 

 ユウナとレンの後を追おうとゲートへ走り出した瞬間、突然床全体が眩い光を放ち始めて周囲の景色も光に包まれる。

 

 

 これは……手遅れか……? それとも……2人とも、やったのか……?

 

 

 




ライジングエッジのブラッド・バーストアーツで皆さんが好きなのはどれですか?
私はスワローライズが好みです。


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クソがァ、全く動けねェ!(;;゚Д゚)

子どもの時って年末ってなんか凄い楽しみだったけど、今は逆に鬱になる。
もう無理ですも。
休みが欲しいですも(切実)


 あぁ、身体中が痛ぇ……。なんでこんなに痛いんだ……?

 

 目を開けようとするが意思に反して瞼は開かず、内心焦る。

 

 え、なんで開かないの?可笑しくね?まるで誰かが開かせないように押さえつけられているみたいだ。今更気付いたが手も動かせず、寝返りもできない。

 

 クっ、これが金縛りか……! 

 そういえば……金縛りって幽霊の仕業とかって噂話があったよな?全く死んでなおも人様に迷惑かけるとは元人間の屑がこの野郎……。

 クソがァ、全く動けねェ!(;;゚Д゚)

 クソ、クッソ! クソがァ!なんなんだよこの腐れ幽霊がよォ!俺に何のうらみがあるんだよテメェ、心底イラつくぜぇえええええええ!

 

 

「あ! ……あぁ……いってぇ……」

 

 憤怒に駆られ頭に血が上り興奮すると共に全身の所々から痛みが走り、中々の激痛でふと目が開いた。

 視界に入ったのは医務室の天井だった。

 

 

 起き上がろうと上体を起こそうとすると、体中に激痛が走るが歯を食いしばって痛みを堪えて床に足を着いてベッドに腰を掛ける。

 

 掛布団をずらしてみると、パンツ一丁で体の至る所に包帯が巻かれていた。

 

 包帯のを少し捲ると焼けただれた皮膚が見えて咄嗟に包帯を戻して冷静に考える事にした。

 俺はリンドウさんの意識の中に居たが、実際にはあの炎で焼かれて瀕死状態だったか。

 とりあえず情報が必要だ。あの後どうなったのか、リンドウさんやユウナ、レンはどうなったかのかが気になって仕方ない。

 

 

「とりあえず、制服何処だよ……」

 

 待てよ、よくよく思い出してみれば制服とか殆んど燃えたんじゃね……?

 俺がリンドウさんを引っこ抜こうとしてるときにジュウって音がしてたけど、あの音ってやっぱり俺がこんがり焼けた音じゃないのか?

 

 とりあえず、近くに着るモノが無いか探すか。

 

 痛みを堪えて震える足取りでベッドの手すりや壁に手を付いて医務室をうろつくが、何も見つからない。

 

 

 

 その時、廊下から誰かの気配を感じた。

 

 ヤベェ、まさか医務室に入ってきたら……!

 まずい……! パン一で包帯グルグル巻きの変態が医務室を物色していたとか色々まずいぞ!

 

 しかし、ベッドまで戻ろうにも体は激痛で上手く動かない。このままでは……!

 

 

 せや! 跳んでベッドの上に着地すれば危機は免れるぞ!

 

 

 頼む俺の足、あともう少しベッドまで近づいてくれ!

 必殺技の『フライング偵察兵ポセイドン』はこの距離では届かん!

 

 

 

俺の足『無茶言わんといて、アー折れそ……。もうさっさとポセイドンしろや。多分届くよきっと』

 

 分かった! 行くぞ足! 

 

 心の中で『ヤアアアあああァ‼』と叫んで身をベッドへ投げ出す。

 そしてベッドにすら届かず床に着地、同時に体に更なる激痛が走り、俺はそのまま力なく床に転がる。

 

「届かなかった……」

 

俺の足『そもそも、ボロボロで歩くだけで辛いのに跳べるわけないやん。バカじゃね?』

 

 

 謀りやがったなこの足がァ!

 

 

 案の定、医務室の扉が開いた。

 ああ、終わった――いや、ベッドの近くで倒れる事によって何とか起き上がろうとしたが、上手く立てずに床に倒れてしまったと言う状況にも見えなくはない。

 

 しかし誰が見舞いに来たのだろうか?

ふと振り返ると、そこには雨宮教官が立っており、俺の事を呆れたような目で見ていた。

 

「あ、あの……」

 

 き、気まずいぞ。流石に気まずいぞ。気まずすぎるぞ。気まずくて頭おかしなるで……。

 

「何をしている? 怪我人はさっさと寝て療養しろ」

 

 雨宮教官が俺の首を掴んで持ち上げて乱雑にベッドに寝かせてくれた。

 ちょっとやり方が雑すぎるんじゃないんですかね?

 

 そういう所があるから男が近寄――やべっ、睨まれた。

 

 

 そんな訳で俺が気絶した後に何があったか、一通り説明された。とにかく、シンプルに言えばユウナがまた無茶した事とリンドウさんが無事に戻ってきたとの事だ。やはりユウナとレンが上手くやってくれたのだろう。おかげで俺も無事に帰ってくる事が出来たと言う訳だ。

 

 正直、リンドウさんが無事に戻ってきたと聞いて他の話があまり頭に入ってこなかったが……今だけはそんなことを気にしないで素直に喜びたいものだ。

 

 雨宮教官が医務室を去ったのと入れ違いでリンドウさんが見舞いに来てくれた。

 

 リンドウさんも体中に包帯を巻き、右腕はアラガミの腕に変貌しているが、手の甲に神機のCNCの様なものがあった。

 なんでもこれのおかげでアラガミ化の進行が治まったとの事。

 

 

「悪かったな。急に行方を眩ませちまって」

 

「全くですよ。俺なんてリンドウさん探している間に、マータとか言う人面猫4匹と命がけの鬼ごっこをする羽目になったんですから」

 

「ははっ、だが五体満足に生きてるじゃないか」

 

「死ぬなって命令したの他でもないリンドウさんでしょう? 当然ですよ」

 

 互いに笑いながら言葉のチャッチボールを始める。

 色々な事を話した。一緒に面倒を見ていた例の集落の事や、アラガミ化したリンドウさんに手酷くやられた事、リンドウさんの意識の中でどうしたのか等を話す。

 

「そうか、お前も……」

 

「大したことはしてないですよ。ユウナとレンが居なけりゃ俺もお陀仏だったわけですし」

 

「まあ、なんにせよ……随分世話をかけたな。ありがとな、ユウ。ユウナにも、お前にも教えられたな」

 

「え、何がですか?」

 

「生きる事から逃げるな。それと、己の命令一つ守れん奴が指図するな。全くその通りだな。覚悟はとっくに決めたと思っていたんだが……決まっちゃいなかった」

 

 参ったと顔に表しながら言葉を紡ぐ。

 そういや、そんな事を口走ったな。頭に血が上ると余計な言葉を紡ぐ癖は直したいと思っているが中々に難しい。

 

「兎に角、もう大事な人を置いて行ったら駄目ですよ? 悲しませた分、しっかり向き合ってあげないと」

 

「…………ああ、そのつもりだ。それにしても、お前も大分変ったな」

 

 リンドウさんは一瞬、目を見開いたがすぐに表情を戻して笑う。

 

「ユウナにも言われましたけど、そんなに変わりましたか?」

 

「随分大人びてるぞ。一瞬、歳上に感じた」

 

 まあ……生きてきた年数はともかくとして、実際に生まれた時代的にはあなたよりも遥かに早いですからね。本来ならオラクル細胞とか言う発生して50年ちょっとでイキってるのよりもずっと年上やぞ。

 

 

「あ、リンドウさん。実は1つだけお願いがあるんですが……」

 

「お? なんだ言ってみろよ?」

 

「リンドウさん引っこ抜こうとして制服燃えたんで新しいの支給申請だすんですけど、俺もう支給上限に達してるんですよね。次に支給を申請したら手数料かかるんですよ。ちょっと負担して欲しいなーなんて……配給ビールと交換で」

 

「ああ分かった。それぐらいならお安い御用だ」

 

「マジですか。ありがとうございます」

 

 俺は頭を下げて礼を言う。

 よし、良かった。これで出費が少しだけ抑えられるぞ。

 

 

 リンドウさんも医務室を去り、俺は暇になった。

 

 

「暇だな。金縛りごっこでもして遊ぶか」(唐突)

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 金縛りごっこを初めて1時間程経った頃、ノックの音が響き、俺は金縛りごっこを中断して「はいってどうぞ」と声を掛ける。

 

 

「容体はどう?」

 

「ユウナか。悪いな、あのアラガミを片付けるのに手間取って助太刀に行けなかった。苦労を掛けたな」

 

 入ってきたユウナに労りの言葉を掛ける。

 

「ユウが足止めしてくれなかったら間に合わなかったかもしれないんだよ? 謝る必要なんてないよ。あ、レンがね。ユウにありがとうって言ってたよ」

 

「そうか。せめて俺も礼の一つくらいは言いたかったが……」

 

「レンの事は気づいていたの?」

 

「いや、詳しくはわからん。ただ人間の気配じゃなかったからな。得体は知れないが、不思議な体験ばかりしたんでな。奇跡の1つと言う事にしておく」

 

「そっか。うん、それがいいよ」

 

 

「ユウ、お邪魔するよー」

 

「これはこれは、整備班のリッカさんじゃないですか。どうしたんだ?」

 

 

「うん、ちょっとだけいい知らせがあってね。聞きたい?」

 

 

 いい知らせ?

 一体なんだろうか……。ぶっちゃけ何なのか思いつかんぞ……。

 

 俺はとりあえず頷いた。

 

「じゃあ、教えるね。ハンニバルのコアを利用したら、ユウの神機を再生できるかもしれないんだ」

 

 

「な、なんだってー!?」

 

 

 ヤベェよこの人。今サラッと凄まじい発言をしやがった……!

 これは朗報だ。しかし性能は壊す前より幾分か落ちてしまうし、本来は投棄するレベルで破損した神機を修復するので試験など何回も通さないといけないなど色々と条件はあるが……それでもアラガミと真っ向から対抗できることに変わりはない。

 

「リッカ、一応聞いておくがドッキリじゃないよな? 誰かがドッキリ大成功ってプラカードを持って出てくるなら今の内だぞ?」

 

「態々嘘なんてつかないよ。4月1日じゃないし」

 

 リッカが苦笑いしながら答えた。

 

「ただし、さっきの条件もあるし『再生できるかもしれない』だからね? だから『ちょっとだけ良い知らせ』なんだ」

 

「でも、可能性はあるんだろう?」

 

 リッカが頷き、俺は是非とも修理をお願いした。

 

 

「じゃ、私はそろそろ戻るね。お大事に~ってそうだ。ユウナ、今の内に神機のメンテナンスをすることになって、整備班からメールを送ったから申請書出しておいてね?」

 

「うん。分かった。戻ったらすぐに提出するよ」

 

 それだけ言ってリッカは医務室を後にし、ユウナも端末を取り出して内容を確認している。

 

「神機に何かあったのか?」

 

「そういう訳じゃないけど……リンドウさんの神機を無理に使ったせいでメディカルチェックとかしないといけないって言われて、私もずっと待機命令出されててさ」

 

 そういえばリンドウさんの神機と自前の神機をハンニバルの口に突き刺してエグイことしてたな。顔には出さなかったが、内心困惑したのは記憶に新しい。

 俺でもせいぜい首を斬り落とす位だが、流石にぶっ刺してクパァは失笑を禁じ得ない。

 

 

 

「悪いなコウタ。手間ばかりかけちまって」

 

 コウタに肩を貸してもらい、もう片方の腕で杖を突いて廊下を歩く。

 

 

「気にすんなって。辛かったら言えよ? ゆっくり行こうぜ」

 

 コウタはスーツを着て身嗜みを整えおり、俺は着替える手間+金銭の問題で正装を用意できなかったので結局いつも通りの制服だ。ちなみに新しく支給して貰った新品だ。今日はとてもめでたい日だからな。泥を被った格好はできない。

 

 

「いやー結婚式なんて楽しみだなー。サクヤさん、綺麗だろうな」

 

 

 そう、今日はリンドウさんとサクヤさんの結婚式だ。

 

 俺も療養していないといけないが、杖を突けば何とか歩けるので勿論参加することになった。流石に患者衣で参列するのはあれなので、時間こそかかったが何とか制服を着て、さあ会場へ行こうと思ったらコウタが迎えに来てくれたという訳だ。

 肩を貸してもらいおかげで大分楽だ。

 

 

 

「お、重役出勤だなユウ」

 

「ようタツミ、お前もさっさと意中の相手口説き落として派手な式でも挙げろよ」

 

 茶化してくるタツミにこちらも反撃して互いに笑いながら会場に入る。

 

「あ、やっときましたね。もうすぐ始まりますよ?」

 

「ああ、分かった」

 

 紅いドレスに身を包んだアリサに案内され、コウタと共に席に座って暫くすると式が始まり、最初は支部長でもある榊博士や身内である雨宮教官が挨拶をしてついに主役の登場だ。

 

 リンドウさんはタキシードが良く似合っている。そしてサクヤさんはただでさえ別嬪さんだが、ウエディングドレスを身に着けて超別嬪さんになった。

 

 

 式が終わるとパーティーになり、タツミをはじめとした連中にあんまり無茶するなよとツッコミを入れらたり、笑いながら思い出話に花を咲かせたり、実に有意義な時間を過ごした。

 

世の中捨てたもんじゃないなとしみじみ思う。

今日だけは、戦いの事なんて忘れてもいいだろう。

 

 

 

 ドリンクを飲んで一息つくと、急に胸と首が熱を帯びて眩暈までして鼻根をつまんでみる。特に楽にならないが、このまま何もしないよりはマシだと思いそのまま今度は鼻根を押す。

 

 

 

「ユウ―、写真撮るから行こうぜ! ん、どうした?」

 

「いや、ちょいとな」

 

 コウタを誤魔化して、グラスの中身を一気に飲み干して席から立ち上がった。

 

 

 




夜中に仕事関係の電話が入ってきたらげんなりする。やめちくり~


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幕間 ~約束~

遅くなりましたが明けましておめでとうございます。
コロナに振り回された1年でしたが、めげることなく今年も元気に過ごしたいですね。
今年も宜しくお願い致します。


「とりあえず、今日の検査は終わりだよ」

 

「うっす。で、俺は一体にいつになれば任務に出られるんですかい?」

 

 2時間半に及んだ右腕の検査がようやく終わって書類を纏めている榊に聞くが、返ってくる返事は曖昧なものと予想する。

 

「前代未聞な出来事だからね。慎重に事を進めるのは当然さ。サクヤ君とゆっくり過ごせる良い機会だと思うよ?これから忙しくなることを考えればね」

 

 やっぱり人の事をこき使う気満々なのなこの人。

 

「次の検査まで日が空くだろうから、当日不調にならないように体調管理に気を配るように頼むよ。それじゃ」

 

 書類をもって研究室を出て行った博士に続いて俺も研究室を退室してエントランスへ向かう。

 

 

 かぁーっ、暇だなァ。どうすっかなー。ビール――はダメだよな。半端な時間に飲むとサクヤにどやされちまう。訓練場で軽くウォーミングアップは…………ああ、面倒になったな。やめるか。

 

 

 エントランスへ到着して階段の下へ目を向ければ、極東三バカトリオ+αがトランプを片手に睨み合っていたのを見つけた。

 

 

「くっそ、今月ピンチなのに負けられるか……!」

 

「ピンチの癖して賭けババ抜きに乗ったのかよ」

 

「うるせー、ほっとけ」

 

「とりあえず今はシュンが持ってるって事だな」

 

「馬鹿に駆け引きは無理だな」

 

「んだとォ! オラ、ユウさっさと引けよ!」

 

「なんで俺に八つ当たりするんですかね……? カレルも火に油注――アッ!」

 

「オッシャー!」

 

「ここまでつまらない勝負は初めてだ。分かりやすすぎるだろお前ら。ユウ、さっさと引かせろ」

 

「ちょっと待て。今シャッフルするから」

 

 ユウが手に持つカードをシャッフルして目を閉じてカレルに引かせる。

 あいつってトランプだとかやる時は良く顔に出るっけか。目をつぶって時の運に任せるのも手段の1つだろう。

 

「引かれる時に目を閉じる辺り、シュンよりかはマシだよな。流石は生粋のギャンブラー」

 

「なんなのお前ら?さっきからディスりまくってるけど」

 

「いや、俺何も悪口行ってないだろう?てか俺って褒められたのか?」

 

「世間一般的にギャンブルは良くないものと言う認知だ。後は分かるな?早く引けタツミ」

 

「へいへい。お、先に上がるぜ」

 

「は⁉ マジかよお前!」

 

 タツミがカードを全て手放してソファーから立ち上がり伸びをし、こちらに気づいて声を掛けてきた。

 

「リンドウさん、検査は終わったんですか?」

「ああ、無駄に長くて参った。お前さんら、賭け事は姉上に見つかると面倒くさいぞ?」

「今日の晩飯誰が払うかですから金のやり取りはしないですよ」

 

 引くカードを選びながらユウが金銭の貸し借りではないから問題ないと言うが、そもそもこういう現場を押さえられたら姉上から雷が落ちる気がするのだが……。

 

「上がりだ。馬鹿同士楽しめ」

 

 次にカレルがカードをテーブルの上に置いて立ち上がり、残った2人を煽る。

 

「「こいつと同類にするな」」

 

 結局いつもの2人の直接対決になった。

 よく罵り合っている2人だが、度々勝負事となれば最後に残るのはこの2人だと言う事実を思い出した。勝負の神様も面白い事をする。

 

「早く引けよユウ。ビビってんのか?w」

 

「テメェなんか怖くねえよ! ええい面倒だ! どちらにしようかな神様――なんぞ必要ねぇんだよォ!こっちじゃオラぁ!」

 

「外れだぜユウw」

 

「うっそだろお前w笑えるなあいまいみー」(錯乱)

 

 ユウが錯乱して変な事を口走っている間に素早くシュンがカードを引き、テーブルに2枚のカードを捨てて「上がりィ!」と叫んで立ち上がる。

 

「おいおいマジかよ……」

 

 今回の敗北者がテーブルに散らばったトランプを片付けながら項垂れる。そんな奴に気にすることなくタツミ達はメニユーを言う。

 

「俺唐揚げ定食な」

「俺は日替わりランチ」

「白ボルシチ」

「お前らホントこういう時遠慮ねえよな」

 

3人の要求に未だに杖を突いて立ち上がった怪我人はぶつくさ文句を言いながら財布を開く。

 

「おーいユウー」

 

「なんすか?」

 

「俺晩酌セットで頼むわ」

 

「図々しいなアンタも!って金足りねえじゃん。ちょっと下ろしてくるわ」

 

 そう言って杖を突きながら階段を上りターミナルへ下ろしに行った。

 

「あいつって下ろすほど貯金溜まってんのか?」

 

「さあ?でもリンドウさん居ない時に車両整備の補助してる最中に部品ぶっ壊したみたいで良い金額持ってかれたらしいっすよ」

 

「あいつもシュンに負けず劣らずの馬鹿だなやはり」

 

「おうカレル、テメェさっきから何かと突っかかって来るが喧嘩売ってんのか?」

 

 このやり取りを見ていると返ってきたと言う実感がある。俺が居ない間に皆頼もしくなったなと感じる。暫く見なけりゃ、人ってのはこうも違って見えるもんかねぇ……?

 ユウは大分大人びたと思っていたが、他の連中も大分成長している。特にユウナやコウタ、ソーマにアリサを見たときは驚いた。隊長をやっていた頃はこのメンツを引っ張るのは骨が折れるかと思ったが、今はそれも懐かしい思い出だ。今年入隊した連中がここまで成長するとは驚きだ。

 

 

「リンドウさん?」

 

「いや、後輩たちが逞しくなっているのを見て……おっさん感動してんだ」

 

「なんだそれ……まっだおっさんって年でもないだろ、リンドウさん」

 

 タツミは苦笑い、カレルは端末を弄り、シュンが呆れた顔してツッコミを入れてくる。

 くだらない話をしている間にユウが戻ってきて食事代のfcを3人に渡し、俺にも手渡してきた。

 

「冗談のつもりだったが……」

 

「安いやつくらいなら御馳走しますよ。結婚祝いってことで」

 

「んじゃありがたく貰って置くわ」

 

 

 極東3バカトリオ+αと俺で少し早いが晩飯を食おうと食堂へ向かう。

 少し早いだけに食堂は人が少なく、俺たちは纏まって席に着く。

 

「しかし、最近妙じゃねえか? アラガミが良く活性化して何かと忙しくて敵わねえぜ」

 

 タツミが食べながら呟き、全員がそれに同意する。

 

「なんだか妙な偏食場の乱れがあるとか噂が立っているな。まあ、その分報酬の良い任務が回って来るんで文句はねえが」

 

 どうやら噂としてだが、広まっているようだ。最近は少し特異な偏食場の乱れが至る場所で発生しており、それに伴ってアラガミの活動が活発化している。未だに原因が分からない以上、後手に回るしかない。あまりこの現象が続くと徐々に消耗していき、苦しくなる。

 

「それじゃさっさと出向いて片っ端から倒しちまえばいいだろう?アラガミが居なけりゃ何の問題もなくなるわけだし」

 

「だから偏食場の乱れが普通のモノと違うから警戒しつつ守りを固めているんだろうが」

 

 シュンの言葉にカレルが反論して互いに口論となってそれをタツミとユウが間に入って止める。

 

 

「どっちにしろこれから忙しくなるだろう? タツミ達は防衛、俺は偵察、リンドウさんは遊撃、それぞれやる事も違う。こうやって暇なときは情報交換は良い機会だろ?」

 

「んだな。アネットとフェデリコも大分慣れてきたし、こっちも方針も考えないといけないな」

 

「稼げる任務さえ寄こしてくれれば文句はない」

 

「あ、抜け駆けすんなよカレル!」

 

「報酬の良い任務はその分危険だ。大抵リンドウさんか第1部隊に振られるんじゃないのか?」

 

「ちっ、なら頼み込んで同行させてもらうしかねえか。あ、ユウ。お前も割の良い偵察任務があったら誘えよな」

 

「ああ、もっとも病み上がりの人間にそんな危険度の高い任務回すとは思えないがな」

 

 ユウがジャイアントトウモロコシの粒を口へ運びながら言う。

 

 

 

 食事が終わっても暫く話し込み、防衛班組は明日に備えて早めに寝ると言って戻っていき、ユウも病室へ戻ろうとするが、晩酌に付き合えとラウンジへ連れて行った。

 

「酒じゃなくていいのか?」

 

「飲酒する怪我人なんて居ないでしょ普通」

 

 ソフトドリンクを片手に椅子に腰を掛けてテーブルに寄りかかる。ユウを尻目に

 グラスの酒を一気に飲み干し、瓶からもう一杯分グラスに注ぐ。

 

 

「レンの奴、もう少しお前とも話してみたいって言ってたぞ」

 

「そうですか。いやはや、奇跡ってのは侮れないもんですね」

 

 ユウもグラスへ口をつけ、テーブルに置いて一息つく。

 

「それにしても……顔の傷と言い、白髪と言い苦労をしたようだな」

 

 横一文字の深い傷に、髪の毛は白――よく見れば灰色か。色々あったことは察することができる。最近のこいつはよく何かを心配している顔をしているらしい。それもアーク計画の後から。ユウも一時期MIAになったらしく、その間に何かあったのだろうが…………聞くだけ野暮かもしれない。

 

「この苦労、リンドウさんもあと数年で分かると思いますよ?」

 

 後数年で分かる……? どういうことだ? だが妙に説得力があるのは何故だろうか。

 ホントに最近は大人びているように感じる。こいつの方が年上なんじゃないかと勘違いする程に変わった。一体何がここまでこいつを変えたんだ?

 

 

「しかし、こんな時間まで飲んだくれていいんですか?奥さんが寂しがるんじゃないですか――って噂をすればですね」

 

 ユウの発言でハッとして奴が見ている方を見ると、そこにはサクヤが立っていた。

 

「リンドウ、ユウはまだ怪我人なのよ?こんな時間にまで付き合わせるのも悪いわよ?」

 

「いえいえ、俺も医務室で寝たきりだと暇疲れしてしまうもんで、誘ってもらえて丁度良かったんですよ」

 

「ごめんなさいねユウ。リンドウ、明日また右腕の検査でしょう?備えて早く休みなさい」

 

「え、暫く日が空くって博士は言ってたぞ?」

 

「緊急で検査項目が増えたから端末に連絡したけど返信が返ってこないって博士から連絡が来たのよ……」

 

 呆れて言葉を紡ぐサクヤを尻目に端舞うを取り出して受信履歴を見ると確かに博士からその旨の連絡が来ていた。

 

「ん、ああホントだ。すまんすまん」

 

「それじゃそろそろお開きですね」

 

「だな。悪いな、付き合ってもらって」

 

 

 ユウと別れ、サクヤと一緒に自室へ戻る途中でサクヤにユウの事を聞いてみた。

 

「サクヤ、ユウって大分変ったと思わないか?」

 

「確かに、雰囲気は前までと比べれば全然違うわ。きっと…………何かあったのね」

 

「そうか」

 

「それに、最近顔色が良くない日が多いわ。バイタルも不調に偏っている事が多いって聞くし、心配だわ」

 

「そりゃ初耳だな」

 

せめて火傷の傷が完治するまで何事もなければいいが。

 

「なあ、サクヤ」

 

「ん?」

 

「明日、午後から非番だろ? 出かけようぜ?」

 

「どうしたの急に?」

 

「いや……心配かけた分、ちゃんと奥さんに構ってやれってユウに説教されてな」

 

「あら、ならエスコートはお願いしようかしら?」

 

 明日の約束を取り付けて2人で部屋へ戻った。

 レン、気づけば色んな奴に助けられていた。そしてお前にもな。お前から貰ったこの命、無駄にはしないからな。また会おうと約束したんだ。その時まで胸張って生きてやるよ。

 

 




ゴッドイーターの新作を願いつつ、今年もぼちぼち投稿していきます。


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へ、変態だ―!!

かなり前の話の前書きで出てきた友人Aがご入籍いたしました。
おめでとナス!


「ふう、こんなもんか」

 

 体の調子を確認し、トレーニングを終了する。

 

 リンドウさんとサクヤさんの結婚式から数日、最早杖を突く必要も無くなり、今は時間を見つけてトレーニングを行い、鈍った体を元に戻そうとしていた。

 明日には仕事に戻れるとの事なので、たった今本格的に体を動かした。とりあえず久しぶりの仕事だ。今日はもう体を休めておこう。

 

 アレだな。大怪我すれば余程の緊急事態でもない限りは療養と言う名の休みが貰えるからこれからは偵察任務に出るたびに、何かしら致命傷を負えば休めるんじゃなかろうか?

 実際、学校出身の同期は確か学校に出るのが面倒くさくて足で壁を思い切り蹴りつけて骨折して休んだ事もあるとか言っていたか。

 

 いや、しかしな……。ただ休みたいがために骨を圧し折るだなんてやりたくないな。

 

 

 さて、今日の午後には医務室から退去だし……私物の片付けを済ませておくか。

 

 

 医務室へ戻り、筆記用具など私物を片付けている最中、コウタから貸してもらったバガラリーの単行本を返すのを忘れていたことに気づき、袋の中に並べて入れる。

 大方片付けたので私物を部署まで置きに行き、エントランスへ向かう。

 

 

「ヒバリちゃん、コウタって任務に出てるか?」

 

「いいえ、昨日の晩に任務へ出て明け方に帰投したのでアナグラ内に居ると思いますよ?外出の届も確認されていませんし。お呼びしてみますか?」

 

「いや、寝てるかもしれんしとりあえず部屋まで行ってみるわ。ありがとな」

 

 ヒバリちゃんに礼を言って新人区画へ向かい、コウタの部屋を目指す。

 もしかしたら寝てるかもしれんし、一回呼んでみて返事がなけりゃ出直そう。別に返すのはいつになっても構わないと言っていたしな。

 

 

「コウタ―、起きてるか?借りた本返しに来たんだが……」

 

「ああ、空いてるから入れよ」

 

「邪魔するぞー」

 

 扉を開き中に入るとコウタがターミナル前に立っており、何やら難しい顔をして画面とにらめっこしている。

 

「テーブルの上置いてくぞー。それでそんな難しい顔してどうしたんだ?」

 

「バレットエディットで新しくバレット作ってるんだけど中々上手くいかないんだよ」

 

 疲れた顔をしながらため息をついている。任務明けなのに精力的な事だ。

 

「ああ……あの頭がこんがらがっておかしくなるやつか」

 

 バレットエディットってのは銃型の神機を扱うガンナー達が強力な弾丸を作成するため、日々知恵を絞る苦行だ。一応銃身ごとに参考例等があるからそこから持ってきても良し。自分で一から作るのも良しだ。

 

「ところで、どんな弾を作るかイメージで来てるのか?」

 

「着弾して炸裂するようなやつと、後は弱点属性がばらけてる群れを倒すのに各属性の弾を同時にばら撒けるやつだな」

 

 中々複雑なバレットを作ろうとしているなコウタよ。着弾して炸裂……あ、ジーナが似たようなバレット使っていたか。

 

「後者はともかく前者ならジーナが似たようなバレットを持っていたはずだぞ?レシピ聞いた方が早いんじゃねえか?」

 

「マジで⁉ じゃあ時間ある時に聞いてみるか……」

 

 いつの間にか俺もバレットエディットに夢中になって男2人で無い知恵を絞りつつ時間を忘れて試行錯誤していた。

 

「此処こうしてみりゃいいんじゃね?」

 

「お、ちょっとプレビューしてみるか。あ、交差消滅だ。じゃあ発生時間を変えて……」

 

「別のモジュールと被るんじゃね? …………やっぱり交差消滅したな」

 

「じゃあ角度をつけて接触しないように……」

 

 なんだよ、中々面白いじゃねえか……。だがこれをほぼ毎日繰り返すのは御免だから嫌だな。やっぱ頭使う仕事は向いていないと言うのが実感できる。

 

 コウタと2人で悩み、一服して頭を休める為にジュースを飲みながら談笑していると、端末に連絡が入った。

 

「どうした?」

 

「げっ、博士からの呼び出しだ。こちとら病み上がりだっての……」

 

 端末に入ったメールには榊博士から今すぐ支部長室にしてほしいと記載されており、恐らく仕事の話だと確信してげんなりする。

 

 

 

 コウタと別れ、部屋を後にして役員区画へ向かい、廊下を早歩きで進んで支部長室の前へ来たらノックする。

 

「博士―急用って何ですか?」

 

「ああ、来たね。とりあえず入ってくれ」

 

 促されてそのまま支部長室へ入る。

 

 

 

「実は、メディカルチェックで気になる点があってね」

 

「気になる点?」

 

「君の偏食因子が微弱だが不安定になっているんだ」

 

「ん? それってちょっとヤバイのでは……」

 

「ああ、大変よろしくないね。しかし、原因が分からない以上こちらも八歩塞がりでね。だから、より精密に検査するために本部へ行って貰いたいんだ」

 

「本部!? ええ……」

 

 マジで? めんどくせぇな! 

 なんだってあんなクソみてえな所に行かねえといけないんだよ。

 本部の人間あんまり好きじゃないんだよな。いや、全員嫌いって訳じゃねえがやっぱり本部ともなれば偉い奴がたくさん居るだろう?

 実際にフェンリルに入隊して数週間した時本部から偉い人が来てやれ礼儀が云々だとか文句つけやがって……。

 権力者がうざいのなんの。いやまあ、俺があんまり権力持ってる奴に対して勝手に敵対心持っているのが悪いんだけどさ。

 

 権力持った奴の横暴が罷り通る世の中で育ち、それで弱者が酷い目に遭っているのを見るとな……。

 治安を守る仕事をしている奴が、市民が逆らっただとかくだらねえ事で殴って挙句の果てに殴殺してそれを隠蔽したりだとか、クソみてえな一面ばかっり見ていたもんだからこんな偏見持ったって仕方ねえと思うんだ。

 

「すまないが、重大な問題なんだ。理論上、神機使い既にアラガミ化している状態なんだよ。ただ、制御されていると言うだけさ。制御が外れれば君たちの知識としてあるアラガミ化に派生する。その制御が不安定だと言う事はいつ爆発するか分からない爆弾なんだ。そんな危険な状態で対応策も練らずに野放しにするのは危険極まりない。アナグラ全員の命を危険に晒しているのと一緒だよ」

 

 

 いや、それは勿論わかっている。

 別に絶対本部になんぞ行きたくねえと言っている訳じゃない。

 

「了解です。大人しく検査を受けてきますよ」

 

「すまないね。苦労を掛けるよ」

 

 

 *

 

 

「はあ、参ったね……」

 

 出張申請書に記入しながら溜め息を吐く。めんどくさい。ただただ面倒くさい。出来る事ならバックレたいものだ。

 しかし何なんだろうな。偏食因子が不安定って。原因も分からないときたもんだ。

 ぶっちゃけ榊博士に分からないなら、誰にも分からないんじゃないか?

 精密な検査って言ったけど、これで分からなかったら俺は一体どうなるんだろうな。

 もしかしたら本部に残って原因が解明されるまで缶詰状態にでもされるのではなかろうか…………いやいや冗談じゃねえ。それだけはまっぴらごめんだ。

 

 

 頭を抱えていると、俺と同じ様に頭を抱えたリンドウさんがラウンジから出てきた。

 

 

「リンドウさん、頭抱えてどうしたんですか?」

 

「ああ、そう言うお前も頭抱えてるがどうしたんだ?」

 

「いや、ちょっと面倒事が舞い込んできましてね」

 

「そうか、俺は飲んでたらサクヤに『飲みながら羽根散らかすなコラ』って怒られてな。掃除するから出てけって言われた」

 

「で、ラウンジで飲んできたと?」

 

「ああ、そんなところだ」

 

 

 この人いつも飲んでるな。まだ時間的にお日様は高いぞ。

 戻ってきて早々堕落した生活に戻っているな。先日の結婚式でタキシード来てシャキッとした姿を見て恰好良いと思った俺の純情を返してもらいたい。

 

 向かいのソファーに腰を下ろして煙草を吸いながら溜息を吐く。

 

 

「なんだかんだ大変っすね。同棲生活」

 

「最初は慣れねえかも知れねえが、慣れれば手放せない日常さ」

 

 リンドウさんはサクヤさんの部屋で一緒に暮らしている。リンドウさんの元自室はユウナが使っており、ユウナは部屋を返そうとしていたが、リンドウさんはそれを断ってサクヤさんと同じ部屋で暮らす事になった。

 

 

「そういや、出張申請書を書いてるが何処に行くんだ?」

 

「本部ですよ。なんか俺の体内の偏食因子が微妙に不安定らしくて原因らしいものも見つからないから精密検査受けて来いって言われたんですよ」

 

「そりゃ、災難だな。身体に異常はないのか?」

 

「特にこれといった症状は無いですよ」

 

 

 申請書を書きながらリンドウさんと世間話に興じていると。リンドウさんの端末が音を発し、端末を確認した。

 

「おおっと、掃除終わって書類仕事があるから戻って来いってさ」

 

「それじゃ早く戻らないと余計な雷落とされますよ?」

 

「だな。んじゃなー」

 

 リンドウさんは立ち上がってエレベーターに乗り込んでいった。

 申請書も出来上がったので提出するために立ち上がり、受付へ向かった。

 

 

 *

 

 書類提出から2時間後に出発しろと言われて焦って最低限の荷物を確認する。

 まさか本部のヘリが来ていて、2時間後に帰るからついでに乗って行けと言われるとは思わなかった。まあ、無駄に手間を食うよりかはマシだよな。燃料だってただじゃねえし。

 

 荷物っつても持っていくの何て財布と証明書、検査の書類、多分使う事は無いだろうが護身用のナイフぐらいなものだ。ちなみに対アラガミ用ナイフはリッカに預けている。時間を見つけて修復作業をしていくとか言っていたので結構時間がかかるとは言っていたが、気長に待つとしよう。

 

 しかし、時間まで暇だな。グラビア本でも見て目の保養でもするか。本部に着いたら検査ばかりで自由時間なんてあるか分からんし。

 

 そんな訳で更衣室のロッカーの奥底に封印されていたムフフな本の封印を解き、適当な表紙を被せて屋上へ向かう。

 屋上へ出ると、手すりにもたれ掛って早速1ページ捲って読みふける。ボンキュッボンなグラマラスな女性の写真を堪能する。

 お、この人神機使いなのか……。下着姿に赤い腕輪がいい感じのアクセサリで中々……そろそろ可愛げのないムスコが元気にな――(。´・ω・)ん?

 

 

ムスコ「なんか来ねぇわ。無理だわ。なんか違うんだよなぁ……」

 

 (;゚Д゚)ええええええ⁉ うっそだろお前wこの前一発で滾ったじゃん!

 

 いや、だがムスコの言う通りだ。何か違う……! 全く滾ってこない……!

 まさか、これが大人になると言う事か……!

 ――否ッ!! それは大人になるのではなく、枯れると言うのだ!

 こんな事があっていいはずが……!

 

 胸と首が異常に熱くなり、眩暈がすると共に頭に声が響いた。

  

『もし他の人に靡いたら……滅茶苦茶にして私じゃないとダメな体にするからね?』

 

「ファッ⁉」

 

 い、今の幻聴……まさか……エレナ……⁉

 色々と事案だが……あの時の記憶を鮮明に思い出してみるか。一応行為一歩手前の所まで進んでしまったが……。

 思い出せ。女性と言うにはまだ幼く、今後の成長に期待できる少し柔らかいあの感触を……! 女性らしい体に変わろうとしているまだ未発達な……!

 

 

ムスコ「滾ってきたわアァアアアァァァァッ!!‼!‼!」

 

 

「へ、変態だ―!!」

 

 

 『悲報・ワイ、いつの間にかマジのロリコンになっていた模様』

 

 ま、マジかよ……。エレナ、もう既にダメな体になっているんだが……。他の人に靡くって写真でもNGなのか……。道理でこんな紙切れで興奮できない筈だ。やべぇな、この腐った性癖を墓場まで持って行けと……冗談キツいぜ。もし、ロリ―タ系の本を所持しているのをバレたらもう何もかも終わりなんだが。いや、そんな本を所持しなければいいだけの話ではあるんだが……ガス抜きもできないなんて生き地獄だぞ……。

 

ムスコ『悪いけどワイは既にあの子の虜だから他の女じゃ無理やで?』

 

 お前もう黙っとけ。




正月休み中、毎年酒飲んで寝ている筈が結婚祝いや出産祝い等のマナーを必死に調べる世間知らずの筆者の姿がそこにあった。


J( 'ー`)し「お前どうしたんや?」

1月4日、「おはよう」の代わりに母から出た質問であった。




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おー怖い怖い。

未だにルビの振り方が覚えられない。


「やっと着いたか。長い空の旅だった……」

 

 出発の際にはコウタやタツミが見送りに来てくれた。コウタからお土産宜しくと言われたので忘れないうちに買った方がいいだろう。

 あー疲れた。ヘリに揺られるのも中々堪える。

 ヘリのパイロットとかよく何時間も操縦できるな。俺だったら途中で飽きて居眠り扱くぞ。

 

 ゲートを通ってエントランスに出ると、アナグラとは比にならないぐらい広い。

 

 資料によると、案内してくれる奴が居るとの事だ。とりあえずゲートの傍で待機していれば出迎えに来るとの事らしいので邪魔にならないところに突っ立っていることにする。

 

 

「よ、ユウ。約4か月ぶりか?」

 

 俺と同じようにフェンリル制服に身を包んだ男が声を掛けてきた。

 

「ああ、ジャックじゃねえか。まだセクハラ発言してんのか?」

 

「ははっ、会って早々辛辣だな?」

 

 俺の言葉を笑って受け流したこいつは同期のウィル・ジャクソン。

 名前がちょっと長ったらしいから俺はジャックって呼んでいる。下ネタ大好きなセクハラ野郎だ。

 

「悲しいことにセクハラ野郎こと、俺がお前の案内役だ」

 

「ナチュラルにこっちの心を読むな。しかし、神機使いのお前が案内役? なんだ本部って暇なのか?」

 

「まあ、忙しくねえのは確かだな」

 

 ジャックの後を追いつつ、互いの近況を話す。

 

「極東じゃ色々いざこざがあったみたいだな」

 

「ああ。そっちもそっちでなんだかんだ忙しかったんじゃないのか?」

 

「忙しい奴は忙しかったんじゃないのか。俺こそアメリカ支部でちょいとやる事があったが……」

 

「ほーん……」

 

 ジャックが隣で端末を弄り、俺に画面を見せてきた。

 ただ一文のみが表示されていた。

 

人狼部隊(ルー・ガルー)って知ってるか?』

 

 なんか名前からしてロクでもない雰囲気を感じ、こいつが態々こんな回りくどい方法で聞いてきたあたり、あまり口にして良い事でないのがなんとなく察せたのでこちらも端末を取り出してメールを開き、本文に返事を書いてジャックに見せる。

 

『知らん。どうせ碌なもんじゃないだろ?』

 

『その通りだ。だが、お前の耳に入れておきたい』

 

 一々画面に表示してやり取りするのも回りくどいので誰にも盗み聞きされなさそうな場所で話せと伝える。

 

 *

 

「んで、ここがお前の宿泊する部屋だ。幸いな事に医療棟のすぐ近くだ」

 

「そりゃ助かる。正直、迷宮にしか見えなくてな。あまり動きたくない」

 

「そりゃそうだ。俺だって偶に迷うもん」

 

「お前もかい」

 

 

「なあ、ユウ」

 

「何だよ」

 

「女の子とパコりてえな」

 

 唐突過ぎるだろコイツ。さっきシリアスな話したばかりなのにいきなり下世話な話を切り出すってマジでこの男の思考回路はどうなっているのだろうか。

 

「アンタ正気か? そんなにヤリてえなら風俗にでも行けばいいだろうが」

 

 ホントに下世話な話しかしねえなこの猿野郎。いきなり「女とパコりてえ」とかそれを男の俺に言われても困惑するだけなんだよなぁ……。

 

「いやーサクヤさんとか良いよなぁ……」

 

「お前人妻に手ェ出すとかイカレてやがるぞ。質悪ぃな」

 

「え!? サクヤさん結婚したの!?」

 

「ああ、リンドウさんと結婚したぞ。昔からの馴染みなんだから当たり前だろう?」

 

「マジかー。なあ、極東には良い感じの女の子とか居ないのか?」

 

「あん? 良い感じの……?」

 

 こいつが知ってる女性ならジーナと誤射姫辺りか……。あとユウナとアリサはこいつが異動した後に配属されているから知らねえか。

 そういや、アリサって年頃の男子には中々刺激の強い格好していたな。多分こいつがアリサに会ったら速攻で口説きに行ってドン引きされて終わるんじゃなかろうか。

 

「まあ、股間にぶら下がっているムスコによろしくない恰好した女は居るぜ」

 

「マジで!?」

 

「まあ、お前みたいな奴が口説いたところで『ドン引きです』って言われて撃沈するだろうが……」

 

「何それ、ちょっと言われてみたい……!」

 

 

 (^o^)<うわー無理ですこの人―。

 

「お前ちょっと今のはマジねーわ」

 

「ユウなら分かってくれると思うんだが……」

 

「いや、分かりたくもねーしテメエと同類とか冗談じゃねえよ」

 

 

 ほら、こんな会話してるもんだからなんか女性職員にヒソヒソ話されてるじゃねえか。おいおい俺も査問会にお呼ばれとか冗談じゃねえぞ。

 ジャックに行くぞとハンドサインを送ってその場を離れる。

 

 人気のないバルコニーへ向かい、眼下に広がる居住区や商業区を見下ろしながら先程の話の続きを聞き出した。

 ジャックが端末から音楽を流し、話の続きをする。

 

「まあ、良くある特殊部隊だ。と言ってもフェンリル自体、特殊な部隊ってのは数えきれないほどいるし、お偉いさんしか知らない部隊もある。人狼部隊もその例に漏れずだ」

 

「俺らみたいな入隊1年も経ってない連中が知って良い話じゃ無くね?」

 

「その辺りの調査が、入隊直後の俺への仕事だったってわけさ。そういう任務を請け負うのが入隊の条件だった。前任者が親戚でな。何の因果か、俺が適合した神機の元の主がその人のなんだ。極東の言葉で、白羽の矢が立ったとでも言えばいいか」

 

 元からそのつもりで入隊したのか。まあ、経験積むなら極東が最適だろう。実際にこいつは優秀だった。同期の中じゃ断トツで、あまりに優秀だったから本部に引き抜かれたと思っていたが、元より経験を積んだらすぐに本部へ引っ張られていく予定だったか。

 

「で、人狼部隊ってのは対人・アラガミ討伐なんでもござれの連中だ。アラガミ化した神機使いの処理もするとの噂だが……」

 

「明らかにかかわりたくない連中だなそれは。厄介な仕事を押し付けられたな。同情するぜ」

 

「同情するなら風俗で遊ぶ金をくれ。ま、おふざけはさておき……連中、フェンリル高官と癒着してるらしくてな」

 

「へー、やっぱり裏って怖いわ」

 

「特に、極東所属は気を付けた方が良い。本部のお偉いさんは榊支部長を敵視しているからな。それについてはシックザール前支部長もそうだったが……」

 

「まさか、俺をどうこうする気か?」

 

「さてな。だが、お前の事情は把握している。事前に榊博士から連絡が入っていてな。蹴落とし合いで地位を手に入れた連中だ。いつ爆発するかもしれない危険物を抱えようとするほど間抜けじゃないことを祈るよ」

 

 博士にもいつ爆発するか分からない爆弾的な表現をされたか。頭の良いい奴ってのは皆、思考が似ているのか。

 

「兎に角、本部じゃあまり動かないようにした方が良いい。ターミナルを弄るのにだって細工されていても可笑しくない。こういうところは何でもかんでもやれ認証が云々ばかりだ。時間指定できる爆弾ってのは便利なもんだろ?」

 

 おー怖い怖い。ホントに生きる辛くなる環境だなこういう場所は。ジャックに同情するし、そんな連中に牽制を掛けている榊博士も苦労しているんだな。シックザール支部長もアーク計画進めながらお偉いさん相手に奮闘していたか。惜しい人を亡くしたな。

 

 

 

 ジャックと話しこんでいる内に晩飯の時間になり、俺とジャックは食堂へ向かう。

 とりあえず最安値のメニューを頼み、ジャックは普通に山盛りで食べる。

 

「何だユウ、もうそろそろ1年経つのにまだ食が細いのか?」

 

「お前が食いすぎなんだよ。それに万年節約だ。お前こそ随分羽振りがいいな」

 

「ああ、先月所属している部隊の副隊長に就任してな。まあ、役職手当ってやつさ。報酬の高い任務も回ってくるようになったしな」

 

「お前それに加えてさっきの仕事してんの? 体壊すぞ」

 

「誰かがやらないといけない仕事だ。しかし、何かお前の食事の量見てるとなんかアレだな。ほら、食えよ」

 

 そう言って俺の皿にから揚げを乗せてきた。

 

「ああ、すまん」

 

「いいって事よ」

 

「そういや、お前入隊する前は学校通ってたって言ってたよな?」

 

「ああ、それがどうした?」

 

「どこの学校だ?」

 

「狼鳳軍事」

 

 ああ、そりゃ成績優秀なエリートだわな。俺の成績2倍にしてもこいつの成績に届かなかった。あ、そういやユウナも狼鳳軍事の出身だったか、もしかしたら知り合いかも知れないな。

 

「お前学校に居た時に神薙って奴居なかったか?」

 

「神薙? ああ、別の学科だな。会話した事はねえが知ってるぞ。学年主席のスーパーエリートだ」

 

「マジか。そいつ今極東で第1部隊の隊長やってんだ」

 

「ほーん、神薙もフェンリルに入隊したのか。しかも第1部隊って極東が誇る最高戦力じゃねえか。流石はスーパーエリートだな」

 

 エリートの中のエリートって訳か。確かジャック自身は成績に関しては中の下って言ってたか。そしてユウナはエリート集団のトップか。そりゃ優秀だわな。

 というかジャックでさえ中の下なのに、俺はジャックの半分以下の成績って単純に考えればヤベェな。いや、まあ学校の成績を訓練や筆記の成績と比べてどうするんだって話だが。

 

 

「あ、副隊長」

 

 女の子の声がして2人して振り返るとそこには俺達と同じように右手首に腕輪を着けた少女が立っていた。

 

「おう、リサ。どうした?」

 

「実は午前の戦術指南で聞きたいことがあったんですけど……」

 

「ああ、都合の良い時でいいから連絡寄越せ」

 

「はい、ありがとうございます。あ、そちらの方は?」

 

 リサと呼ばれた少女が俺に気づいてジャックに聞く。

 

「ああ、俺の同期だ。ユウ、こっちは同じ部隊所属で俺が教育担当しているリサだ」

 

「極東支部のユウだ。よろしくな」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 そう言って頭を下げてリサは食堂を後にして行った。

 

「教育担当って事は直属の部下か?」

 

「ああ。俺こそまだ入隊して1年も経過してねえから経験積んでおくって事で1人だけ新人の教育を任されたんだ。教育方針に関しては先輩方に相談しながらやってる。まだ手の及ばないところもあってな、先輩にも力添えをして貰って何とかやっている。俺は不甲斐ない先輩だが、よくついて来てくれるよ」

 

「お前マジで体壊れてんじゃねえのか。さっきの仕事に通常任務に、更に新人の教育ってオーバーワークだぞ」

 

「良く食って良く寝れば何とかなるぞ。多分」

 

 すげえな、皆。

 俺の周りの人間揃って優秀すぎて俺だけ取り残されているような気がしなくもない。

 一応後輩にあたる筈のユウナとコウタも今じゃ俺より上だしな。その内アネットやフェデリコにも追い越されるんだろうな……。

 




ゴッドイーター3プレイ前

ワイ「〇犬居るってことは切断特化ショートがあるに違いない。速攻で作るからなァ?」

プレイ後

ルーガルー「お待たせ」(貫通複合)

ワイ「ふざけんな!」(破砕武器へ浮気)

ルーガルー「あァァァんまりだァァアァ‼」


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おいいいッ!?

更新があまりに遅れてしまい申し訳ありません。


「それじゃ、スキャンを掛けるのでリラックスしていてくださいね」

 

 白衣を着た気のよさそうな壮年の男性が俺に笑いかけながら言う。

 

 返事をしてそのまま体の力を抜いて全体重を台に預ける。

 

 身体が青色の光に照らされて、何度か俺の頭から足を照らしながら往復して光が消えると俺が横になっている台は移動を始めてスキャン装置から離れる。

 

「はい、起き上がって大丈夫ですよ。特に体に異常はありませんか?」

 

「いや、特には」

 

「それでは次の検査に移るので別室で待機していてください」

 

 

 そう言われて俺は部屋を後にして指定された部屋へと向かう。

 とりあえず椅子に腰を掛けて腕を伸ばすと、欠伸も出た。

 

 

 ただの検査なのに朝から忙しい事この上ない。

 採血に尿検査、果てには身長と体重も測って視力検査に聴力検査。

 そして何より俺以外にもメディカルチェックや追加検査、再検査などで医療棟も人でごった返しているので待つ時間も多い。

 

「お待たせしました。次の検査に移るのでついて来てください」

 

 戸が開くと先程とは違う人が呼びに来た。

 

 この後も心電図検査、呼吸機能検査などまだまだ続く。

 結局時間は昼を過ぎてしまったが、このまま残りの検査をしてしまうとの事で昼飯を抜いてそのまま検査を続けた。

 

 

 

「お疲れ様です。本日の検査で身体に異常がなければ明日には偏食因子の検査に移ります。

明日の検査も大変ですのでゆっくり休んでくださいね」

 

 看護師に言われて俺は頷く。

 

 

 医療棟を後にしてこの後どうするか考えたが、この広い本部を歩き回ると迷子になりかねないので流石に本部を散策すると言うのはしたくない。

 

「そうだ、ジャックの奴今日は訓練するだとか言ってたな。どんな訓練しているのか見物でもするか」

 

 

 目的地を決めて地図を頼りに訓練室へ向かう。

 

 

 

 

 特に迷うことなく目的の場所へたどり着いた。

 特に行く宛ても無くフラフラするから迷うのであって明確に場所を決めておけば特に迷うことなく辿りつける。やはり道中でいろんなものに気を取られるから駄目なんだな。

 

 しかし流石は本部だな。訓練室もアナグラと比べれば天と地の差だ。設備は勿論最新式で手入れまでよく行き届いている。

 

 

「よおジャック、冷やかしに来たぜ」

 

「おお、態々来たのか。お前も訓練に混ざりたいのか?」

 

「冗談言うな。こちとら暇疲れしてんだ」

 

「まあ、朝っぱらからだもんな。お前食堂に居なかったが飯抜きでやったのか?」

 

「ああ、今日の夕食はいつもより美味しく感じるかもしれん」

 

 空腹は最高のスパイスとはよく言ったものだ。

 

「軽く食べればいいじゃないか。リサ、休憩だ」

 

「はい!」

 

 ジャックの指示を受けてリサは神機を降ろした。

 

 鎚のような形をしているブーストハンマーと言う名称だったか。実物は灰域の世界で敵が手にしていたモノを見たことがある。しかアネットも似たような神機を振っているがあちらはバスターブレードだ。

 

「ポール型神機か。極東じゃ見ないな」

 

「ブレード型に比べて複雑な機能・機構を持っているおかげで安定性に難があってな。そもそも欧州と極東でパーツの相性が悪いからな。極東地域じゃまず見かけないだろう」

 

 見るからに重そうだが、バスターブレードが短くなっただけじゃねえのか?

 個人的にチャージスピアを機会があるなら使ってみたい。

 

 

「へー、俺も使ってみてえな……」

 

「お前適合率絶望的な数値だったろ? 諦めろよ」

 

 ジャックにツッコまれ、事実なので黙るしかない。

 

「よし、ユウ。ちょいと付き合えよ。リサ、今から時間を15分やる。こいつに一発当てて見ろ」

 

「え!?」

 

「ファッ!?」

 

 え、何言ってんのこのセクハラドMモンキー。一発当てろってあんなもんでぶん殴られたら致命傷どころか運が悪かったら死んでしまうんだが……。

 

「ふ、副隊長! 流石にそれは……!」

 

「いいからやってみろ。俺が当たったと判断したら割って入って受け止めるから」

 

「わ、分かりました!」

 

 元気よく返事して神機をこちらへ向けて構えるリサ。

 

「おいいいッ!? 何本人の意思を無視して勝手に始めてんだコラァ! 大体当たったと判断ってなんだよ!? もうそれ当たってんじゃねえか! お前が割って入る頃にはとっくにペチャンコになっとるわ!」

 

「おら隙晒してるぞ! 不意をついて――」

 

 

 ん? なんか聞き覚えのあるありがたいお言葉が聞こえたような気が――

 

 

「ぶっ殺せ!」

 

 

 女の子が発現するには過激すぎる言葉と共に、神機が火を噴きながら向かって来る。

 

「うおッ!? あぶねェ!」

 

 バック宙で神機を躱してすかさず距離を取る。

 

「速い……ッ!」

 

「リサ、使える物は何でも使え!」

 

「はい!」

 

 リサがスタングレネードを取り出してこちらへ投げつけてきた。

 ちょっと待ていくら訓練だと言ってもスタグレ使うか普通。ジャックの奴、戦い方を徹底的に叩き込んでいるらしい。

 腕で顔を覆って光を遮るが、目の前から気配が迫ってくる。

 

「ッ!?」

 

 横に躱すと隣から凄まじい轟音が成り、先程立っていた場所にクレーターが出来上がっているに違いない。

 目を開ければ既に目の前でリサが神機を横に薙ごうと構えていた。

 

 今度は体を捻りつつ跳んで攻撃を躱すが、リサはすかさずブーストを起動させた。

 

「ッ!」

 

 火を噴きながら迫る神機を紙一重で躱して次の攻撃も躱す。

 

 そして大きく後ろへ跳んで距離を取るが、ブーストで更に加速して一気に距離を詰めてくる。

 

「せいやッ!」

 

「甘いぜ」

 

 攻撃を受け流して背後へ回り込む。

 

「クッ!」

 

 リサが身体を捻って振り向きながら神機を振るが、それも余裕を持って躱す。

 

「ハア……ッ! 手ごわいですね! ユウさん」

 

「リサ、使える物は使え。よく考えろ。スタミナ切らしてる場合じゃねえぞ」

 

「ところで後何分?」

 

 俺がジャックの方を向いて聞くと共に気配がすぐ傍まで迫ってくるのを感じ、バックステップで距離を取る。

 向き直ると既に神機が迫り、ギリギリで躱すとリサはそのまま一回転と共にもう1度殴りつけてきた。

 

「おっと!? まさかの一回転!」

 

 何とか避けるが――

 

「副隊長!」

 

「ッ!?」

 

 リサの言葉にハッとしてジャックの方へ向いた時、ジャックが神機――ロングブレードを構えて突き攻撃を繰り出してきた。

 

「おまっ!?」

 

 驚きながらも凌ぎ、2人から大きく距離を取って落ち着いて2人の動きを観察する。

 

「交代だ。人の動きもよく見ておけ。的の小さい敵と仲間が戦っている時、どのタイミングで攻撃を差し込むかを考えろ」

 

 ジャックが助言らしいことを言っているが、俺には分かる。そう、こいつは助言してカッコいい事言ってるが本当は……。

 

「テメエも戦いたいだけじゃねえかッ!」

 

「まあな!」

 

「せめて本音を隠せ!」

 

 ジャックは如何にも正攻法で攻めて来るがそれは罠だと気づいている。時には逆手に持って斬りつけてきたり、蹴りも絡めるといった攻撃を所々で取り入れて攻めてくる。

 

 普通に神機を振るいつつ、忘れた頃に搦め手を繰り出してきて俺の油断を待ちつつ攻める。それなりに組手などで対戦しただけあって俺との戦い方が良く分かっている。

 

 ジャックの攻撃を凌いでいると、ジャックが急にバックステップで距離を取った。

 直後に背後から危険を感じて横へ跳ぶと、リサが背後から神機を振り降ろして俺の立っていた床を粉砕していた。

 

「まだまだ!」

 

 リサが床を蹴って一気に接近してきて神機を振る。

 

 ジャックの攻撃よりかは鈍重なので対処は楽だ。

 

「いいぜ。来な!」

 

 俺も諦めてリサの相手をすることを決意して構え直した。

 

 

 その後、ジャックに止められるまで俺はリサの攻撃を回避し続けた。

 

 

 

 

「そこまでだ。時間切れだ」

 

「ハア……ハア……ハア……ありがとう、ございます……!」

 

「こちらこそ、良い鍛錬になった」

 

 リサが息を切らしながら頭を下げてきたのでこちらも一礼する。

 

「さて、素直に評価できる点もあれば……スタミナ管理をはじめとした咎めるべき点もある。この後反省会だな」

 

「はい!」

 

 ジャックの奴なんだかんだ言ってちゃんと見てるんだな。新人にやらせるには無茶ぶりが過ぎるがしっかり教育してんだなと思い、俺は2人のやり取りを見つめる。

 

 

 

 

 2人の反省会も終わり、3人で夕飯を食べる為に食堂へ向かう。

 

「さて、ユウ。付き合わせて悪かったな。詫びと言っちゃなんだが、奢ってやるよ」

 

「言われなくても時間外で働いたんだからたかるつもりだ。ありがたく頂くぜ」

 

「リサ、好きなの食えよ。今日は奢りだ」

 

「は、はい」

 

 と言っても俺は小食なので昨日と同じメニューだ。

 リサも遠慮して安いメニューを頼んでいた。ジャックは昨日と同じく山盛りで持ってくる。

 

 

「それにしてもユウさん、途中で2対1で攻められてもどうして対応できるんですか?」

 

「まあ、経験だ。見切りっての練習すりゃ誰でもできるようになる」

 

「油断や仲間庇ったりしなけりゃ、掠りはするがモロに被弾する事はねえよな」

 

「そうなんですか……。やっぱり極東で鍛錬を積んだお二人にはまだまだ届きませんね」

 

 

 これぐらいで驚いてちゃ極東に来たら腰抜かすぜ?

 敵の攻撃を弾き返すアナグラ最強の神機使いをはじめ、とんでもない猛者共が激戦を繰り広げている。

 

 しかし、リサも磨けば光るだろう。こればっかりはリサのティーチャーの手腕次第といった所か。新人ながら考えつつ動くと言う事が良くできている。

 

「にしても、リサも中々戦闘センスがあるな。戦っているうちにどんどん学習していく」

 

「そ、そんな私なんてまだまだですよ……」

 

 褒め言葉位素直に受け止めればいいのにな……。謙虚な事だ。

 

「粗削りだが、このまま鍛錬を重ねれば化けるぜこいつは」

 

 ジャックが自慢げに言う。

 

「ふ、副隊長までそんな……!」

 

 照れてはいるが、数年すれば一流の神機使いになっているだろう。そうなってくれればジャックも鼻が高いだろうな。

 誰かに教えるって言うのは中々大変かもしれんが、やりがいはあるのかもしれない。俺はやりたいとは思わないが……。

 

 さて、明日は本格的に偏食因子の検査か。何事も無ければいいんだが……。

 




編集をするごとに段々最終話が近づいてきてなんだかんだ終わるな~と思うが実際の所は「ここやっぱりこうするか」って感じで手を加えるのが多すぎて無駄に長くなっているだけと言う事実。


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アイエエエエエエッ!?

耳鳴りがすると幽霊が近くに居るってよく聞くけど寝ようとしたらよく聞こえてくる。つまり私の自室には……。



 翌日、偏食因子の検査の為に俺は十畳ほどの部屋に案内された。様々な形の機械に囲まれてベッドが設置されており、その上にコードが大量に接続されているヘッドギアが置いてある。

 

 担当医によると、これを被って横になれば良いとの事だ。

 

『では、始めますね。リラックスしてください』

 

 マイク越しに担当医の声が聞こえ、周囲の機械から唸りを上げ始め、しばらくすると熱気を感じ始める。

 

 ああ、やべえ。これってなんか怠さが襲ってきてとてもじゃないが起きてられないんだよな……。

 

 ヤベェな。身体が重くて最早目を開けてられない。

ああもういいや。寝よ。

 

 そして俺は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 ふと、気が付けば目の前には白く綺麗に塗装された天井があった。

 アナグラと違い、何処を探しても沁み1つ見当たらない。いや、集中してじっと見てれば1つぐらいあるかもしれん。

 

 天井の染み1つ探すために為に全力を出す男が此処に存在すると言う事を誰か覚えていてくれ。

 

 とうとう染み1つ探すのにも飽き、しばらく天井をぼーっと見つめ、それから上体を起こし、辺りを見渡す。

 

 

 最近、医務室でばかり寝ている気がする。まあ、仕方ないよね。戦う者は医務室で寝るのが副業だ。

 

 

 

「はあ、でも動く気になれねえな。ジャックを冷やかしに行ったらまた無茶な訓練に付き合わされる可能性が大きいから嫌だしな」

 

 体が怠いので動かすに気にはなれない。訓練なんて以ての外だ。しかし、ここから動かないと言う事はこのまま飯の時間まで寝るしかやる事がない。正直、起き上がるのすら怠いから飯も抜いて良いのではと思っている。

 

 明日の昼に極東へ帰るのでお土産等も明日の午前中で買えるだろう。

 手荷物とかは殆んど持ってきてねぇから準備も既に完了しているようなものだ。

 

 1人遊びでもしようかと思ったが1人しりとりから1人じゃんけんまで網羅しているので少し捻りを加えないとな。

 

 前は金縛りごっこをやったから今日は……。仕方ねえ。死体ごっこでもするか。

 

 バタン、キュー。

 

 そして迫真の死体ごっこが始まった。

 

 

 

『……………………なんか体がフワフワするな』

 

 急に違和感を感じて起き上がったら、今まで感じていた怠さが無くなりすんなり起きれた。

 

 ベッドから立ち上がり、もう1度周囲を見回すと目の前のベッドで白目剥いて寝てるバカが1人居た。

 

 

『………………………』

 

 鏡を見れば目にする顔だな。白目剥いてマヌケ面をしていて、見てて面白い。

 しかし何でコイツ白目剥いて死んだように寝てるんだろうな。

 別に致命傷的なものは見当たらないし、何か病でも患っているわけでもなさそうだ。

 いや、なんで俺はコイツの顔を何度も見た覚えがあるんだ?

 此処極東じゃなくて本部だぜ?

 

 

『…………………』

 

 そもそも考えれば、なんで俺が目の前で白目剥いて寝ているんだ? 

 おかしくね? おかしいよね? じゃあなんで俺は今立ち上がっているんだ……?

 

 

(。´・ω・)ん? 俺……?

 

 

(。´・ω・) …………。

 

 

 

『ファアアアアアアアッ!?』

 

 アイエエエ!? オレ!? オレナンデ!?

 

 

 おおおおおお落ち着け!

 冷静に状況を整理するんだ!

 俺が立ち上がって周囲を確認したら、俺が起き上がったベッドに、俺が寝ている。

 

 いや意味が分からん! 何で!? これもう分かんねえな(思考放棄) 

 

 いや、流石に思考放棄して諦めている場合じゃねえぞこれは!

 やはり俺はまだ冷静じゃないようだ。冷静だ。冷静になるんだ。

 

 そうだ、錯乱した奴は1発ぶん殴ればハッとする筈だ!

 行くぞ俺! 歯を食いしばれぇ!

 

 決断と共に歯を食いしばり、俺は自分の頬に拳を叩き込むが拳は俺の頬をすり抜けていた。

 

 

『アイエエエエエエッ!?』

 

 本日2度目の絶叫。

 

 落ち着け。落ち着け。落ち着け。

 そもそも体が透けているんだから通り抜けるに決まってるだろう、状況的に。

 

 そうか、なら目の前で暢気に寝ている俺をぶん殴ればいいんだな!

 

『最後の1発くれてやるよオラァ!』

 

 目の前で寝ている俺の頬に拳を叩き込むと、俺の拳は俺をすり抜けることなく俺の頬を捉えて俺の頬に激痛が走った。

 

『痛ってェ!』

 

 いや、落ち着いたけど……。これからどうすればいいんだ?

 

 

 そうだ、こういう時はエロい事考えて別の所に意識を向けて頭の中を真っ白にしよう。

 

 そう、ジーナとかカノンとか知っている女性陣の際どい水着姿を想像して……。ああ、そういえばカノンって見事な物を持っているな。挟まれたい。

 すると、俺の目の前で寝ている俺の股間の辺りで見事なテントができたと思ったら急に萎んだ。

 

 

『アッチョンブリケェェェッ!?』

 

 

 本日3度目の絶叫。

 

 

 

 まだまだこんなもんじゃ終わらんぞ。幽体離脱するのは良い事だ。(錯乱)

 

 

 ん……? 幽体……離脱……?

 

 あ、おk。把握した。

 

 成程、状況が読めた。俺は死体ごっこしてそのまま幽体離脱したんだな。

 

 うんうん。納得納得。

 

 

『って、できるかぁ! 意味分かんねえよ! なんで離脱してんだよ!』

 

 

 俺は俺をぶっ叩いた。バシッと音がして俺の頬に痛みが走り、白目剥いてる俺の頬が赤く腫れた。

 

『と、とにかく! 戻らねば――』

 

 いや、待てよ。俺は霊体だが、干渉できるんだ。このまま本部をさ迷い歩いて悪戯しまくれるのでは……?

 

『よし、ジャック。昨日のお返しをしてやる。飯奢った程度で俺のご機嫌を取れると思ったら大間違いだ』

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で俺は訓練室へ向かう。

 

 ジャックはリサと共にベンチに腰を掛けていた。

 

「副隊長、今日もお時間を取っていただいて済みません」

 

「気にするな。訓練位ならいくらでも付き合ってやる。遠慮なく言え」

 

 何このリア充。これ見よがしに見せつけやがって。しかも、この絶妙な距離感!

 ああ、爆弾設置して吹き飛ばしてえな。

 

 とりあえず、ジャックを横から押した。

 

「うおッ!?」

 

「キャッ!」

 

 リサに覆いかぶさるようにジャックは倒れる。そして2人は顔を赤くして見つめ合う。

 

 

『……なんかこっちが恥ずかしくなってきたぞオイ!』

 

 

 リサがジャックの制服を掴み、ジャックは恐る恐るリサの顔に手を当てる。

 

「ッ! すまんッ!」

 

「い、いえ! 私こそ、ごめんなさい!」

 

 2人はハッとして慌てて起き上がる。

 

「よし、訓練再開するか」

 

 ジャックが頬を赤くしながらリサに言い、2人は歩いて行った。

 

 

『……………………末永く爆発しろクソっタレ』

 

 

 俺はただ一言呟いて、訓練室を後にした。

 

 

『ハアーなんかなー悪戯して面白い事にならねえかなー』

 

 誰にも聞かれることが無いので、遠慮なく口に出して本部内を彷徨い歩く。

 

 

 そしての俺の視界の端にシャワールームと書かれたプレートが目に入った。

 

 シャワールームだ。

 

 男子諸君、シャワールームだ。

 

 大事な事だから何度でも言ってやる。今、目の前にはシャワールームがある。

 

『………………』

 

 なあ、これってチャンスなんじゃねえのか。男子なら誰もが夢見た事だよな?

 

 そう、女性の神秘的な姿を見る事が出来るのだ。男なら誰しも考えた筈だ。自分が透明人間なら覗きがしたいと……!

 

 

『……………』

 

 シャワールームに1歩近づき、俺は正気に戻る。

 

 

 待て待て!

 駄目に決まってんだろ! 人として理性ってのがあるだろうが!

 覗きなんて最低の行為だ。そんな事を許されるはずがない!

 

 

悪魔「何善人ぶってんだお前。ほら素直になれよ? 覗きたいんだろ? そして触りたいんだろ? ん? 違うか?」

 

 くっ、やはり出て来たか!

 だが、お前の誘惑には俺は負けん!

 悪魔が居るなら天使だっている筈だ!助けて天使さんー!

 

 

 

天使「…………」

 

 

 

 グラサンで髪型オールバックの天使が出てきた。

 

 え、何この悪を体現した天使。天使のコスプレしたヤーさんじゃないの?

 

 

『…………あの……天使さん……ですよね……?』

 

天使「ヤれ」

 

『え』

 

悪魔「え」

 

天使「覗け。触れ。そして、犯――」

 

悪魔「待て!それ以上の発言をやめろぉ!」

 

天使「貴様、悪魔の分際で正義を騙るか……! 正しく無い悪などこの世には不要! 消え失せろォ!」

 

悪魔「ウワー」

 

 天使の拳が悪魔の眉間を貫き、悪魔は煙と共に消滅した。

 

 

 何故だ……! 悪魔よりも悪を体現している天使が出てきやがった……!

 大体『正しく無い悪』ってなんだよ……。意味が分からねえ……。

 そして天使にあるまじき凶暴性ってこれもう天使の皮を被った悪魔じゃん。こいつの方が悪魔じゃん。

 

天使「貴様も理性ガ-と抜かしているくちか」

 

 グラサンの向こうで眼光が鋭く俺を見ているのだろう。俺は何も答えなかった。今滅茶苦茶困惑しているのに冷静な受け答えができるものか。

 

天使「腑抜けが。身体を貸せ。俺がヤる」

 

『じょ、冗談じゃねえ! F〇〇K YOU!』

 

 天使の皮を被った悪党に、中指を立てて俺は慌てて部屋へ戻る。

 

 

『頼む! 神は信じねえが仏様は信じるから頼む!』

 

 未だに白目剥いている自分の体にダイブをした。

 

 

 

「はっ!」

 

 起き上がると、俺の体はちゃんと俺の思い通りに動いていた。

 

「ハア……ハア……はあー……」

 

 そして溜息をついてベッドへ背中から倒れ込む。

 

 良かった……戻れた……。疲れた。今日はもう飯抜きで寝よう。どうせ明日には帰るんだからヘリに揺られて疲れるだろうから備えよう。

 

 

 




交差点を右折する時だった。
2匹の猫が横断歩道を渡っていた。
更に2匹の猫がやってきた。
そしてやってきた猫がいきなり横断歩道を渡っている途中の猫に覆いかぶさってパコり始め、私は困惑しつつハンドルを切り右折した。危うく縁石にぶつかるところだった。


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舐めてんじゃねえぞオラァッ!

更新がほぼ一か月遅れてしまいました。申し訳ありません。


「もう行くのか」

 

「ああ。検査結果は極東に送られて、それをあちらでも確認して後日結果を俺に知らせるらしい」

 

ヘリポートにてジャックとの別れの挨拶をする。

 

 

朝早く起きたので少し運動をしてから朝食を摂り、その後にお土産には何を買っていけばいいかジャックにアドバイスを貰って一通り無難な物を手に提げてヘリポートまでやってきた。

 

 

「また来いよ。なんなら転属でも構わんぞ」

 

「なんだかんだ極東が気に入ってるから転属はねえわ」

 

「そうか。生きてればまた会えるだろう」

 

「だな。お互いくたばらないように気を付けつつ頑張ろうや」

 

「ああ、またな」

 

 

 ジャックと拳を合わせて俺はヘリに乗り込む。パイロットが離陸開始と発言するとヘリは浮き始めた。

 

 窓からジャックに手を振り、ジャックも俺に手を振りかえす。

 

 

 

 

 *

 

 

「極東区域に到達、極東支部までもうしばらくです」

 

 長い空の旅でウトウトしていたら、パイロットの声で目が覚める。

適当な返事を返して窓から下を見下ろせば何度も任務で訪れた市街地エリアが広がる。

 

 

「…………?」

 

 大型アラガミの気配を感じるが……妙だ。そこいらの大型とは訳が違うな。禁忌種や変異種に近いか。普段なら調査のためにここでヘリから降りるところだが、流石にそれは勝手が過ぎるか。

 どうせアナグラでも反応を感知できている筈だ。何かしらの対策は考えているだろう。

 

 アナグラに着くまで暇なので少し仮眠でも取ろうかと思い、座ろうとした瞬間に突然ヘリが強い揺れに襲われた。

 

「どうかしたのか?」

 

「地上からアラガミの攻撃がッ!」

 

 パイロットが焦りつつアナグラへ通信を試みるが、何も応答がない。さっきの揺れで機械がイカれたか。

 

 パイロットの隣に位置取り、地上を見下ろすと紫色の炎の塊がこちらへ飛んできていた。

 

「っ」

 

 パイロットを座席から引き離し、そのまま担いでヘリのドアを蹴り破って宙へ跳びだした。

 直後、ヘリに紫炎が衝突して爆発を起こし、爆風を受けながら地上へ落下する。

 

 建物の屋根に着地し、身体に掛かる衝撃を我慢する。

 人を抱えていなければ衝撃を逃がせたんだが、こればかりは仕方がない。さて、面倒なことにな――

 

 目の前にハンニバルが突然姿を現し、咄嗟に跳び退くと共に俺が立っていた場所へ白銀の籠手を叩きつけた。そこから屋根全体に亀裂が走り、嫌な予感と同時に崩壊してパイロット諸共下へ落ちていった。

 

 

「くッ!」

 

「ぐ、ぅ……ぁ……」

 

 隣からうめき声が聞こえてみればパイロットが片腕を押さえ、苦しそうに悶えていた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「す、すみません……腕が……」

 

 押さえる腕を見れば、医療の心得がない俺でも骨までやられているのが分かる。青く腫れて痛々しい。

 だが、悠長にしている暇じゃない。さっきのハンニバルがすぐに襲い掛かってくるだろう。

 

 パイロットを担いでその場を離れようとしたら、紫色の炎に照らされて熱を感じる。

 

 奴め、焼き払うつもりか……!

 

 パイロットに少し耐えろと言って急いで崩落した建物から脱出して近くの瓦礫の陰に隠れる。ゆっくりとパイロットを下ろし、瓦礫に背中を預けさせて楽な姿勢を取らせる。

 

 通信機を取り出し、アナグラへ繋げる。

 

『こちらアナグラ、どうされましたか』

 

 男性のオペレーターが応答し、こちらの状況を伝えると既に第1部隊がこっちへ向かっていると言われた。暫く囮をして時間を稼ぐしかないようだな。

 

「俺は奴を引き付ける。悪いがここで待っていてくれ」

 

 それだけ言って瓦礫の陰から跳び出すと側面に気配と同時に危険を感じ、飛び退くと紫炎の剣を携えるハンニバルがこちらを睨みつけていた。

 

 紫色の炎……なら侵喰種……じゃないよな。体の色は白だが、原種と比べれば紫色の部位が見受けられる……。明らかに変異種だな。

 

『Guuuッ!』

 

 唸り声をあげた直後に奴は目の前から姿を消して背後に回り込まれた。

 

「っ!」

 

 咄嗟に屈んで炎剣による横薙ぎを回避し、飛び退いて距離を空けるが奴はあっという間に距離を詰めて再び攻撃を繰り出してきた。次もギリギリで躱すが、更に連続攻撃を仕掛けられて何とか掻い潜ってハンニバルの背後へ回るが、凄まじいスピードで尻尾が迫ってきた。

 

 両腕を交差させて何とか防御するが、あの大きさの尻尾を凄まじい速さで叩きつけられたらただじゃ済まない。歯を食いしばって激痛に耐えつつ吹き飛ばされ、何とか受け身を取ってすぐに態勢を整える。

 

 立て続けに奴が迫り炎剣の切っ先が俺目掛けて向かってくる。

 

 最低限の動きで尚且つ紙一重で熱さを感じながら躱し、もう片方の手が爪で空気を切り裂きつつ迫り、跳んでそのままハンニバルの頭を踏みつけた拍子に高く跳んで周囲を確認する。

視界に食い荒らされた建物が見え、食い荒らされた穴から見るに広い空間を持っているのが分かる。

 

 一直線にその建物へ向かい、奴を待ち伏せる。

 

 此処なら奴の動きもある程度制限できる。

 

 奴が暴れればそのまま生き埋めにしてある程度の時間は稼げるだろう。

 

 

 ハンニバルは横穴から侵入してこちらへ拳を叩きつけてくる。

 何とか躱すが、このハンニバルはとにかく速い……! 何とか攻撃に対応できているが、一瞬でも気を抜けば反応が遅れてお陀仏になる。乱戦ではこいつ以上に厄介な奴は居ない程に、脅威の速さだ。

 

 両の爪で引き裂こうと攻撃してくるが、落ち着いて躱しつつ隙を伺う。

 

『GYAAAAAッ!』

 

 突然、雄たけびを上げたかと思えば炎の剣を両手に持ち、2本を合わせて1本の巨大な炎剣が完成してそれを振り回そうとした。

 

「こいつ……ッ!」

 

 熱気に襲われながらも直撃は避け、壁や鉄骨を背にして建物の崩落を狙いつつ立ち回る。

 

『GUUUUU!‼!』

 

 イライラしてきたのか炎の大剣を床へ突き刺すと、床一面が紫色の炎に包まれ始め、咄嗟に跳ぶが床から紫炎の柱が幾つも飛びだしてきた。

 

「うおっ⁉」

 

 空中ステップで宙を蹴って次々と現れる炎柱を回避しつつやり過ごしていると建物が崩落を始め、瓦礫が紫炎で燃えながら降って来る。火傷覚悟で振ってくる瓦礫へ跳び、即座に次の瓦礫へ跳んで上りつつ脱出して外へ降り立ち、紫炎に包まれる建物の残骸を見る。

 

 瓦礫の間から光が一瞬煌めき、その直後に紫色の爆炎が轟音と共に弾けて瓦礫を吹っ飛ばし、炎の向こうからハンニバルが爪をこちらへ向けて突っ込んできた。

 

「くッ!」

 

 爪での突き刺しを受け流し、そのまま腕を両手で掴む。

 

 

「舐めてんじゃねえぞオラァッ!」

 

 

 雄たけびと共に腰を入れて引っ張り、背負い投げでハンニバルを地面へ叩きつけた。

 

『Gu……』

 

 地面へ叩きつけられたハンニバルはこちらを睨み、やり返そうと炎剣を手に取って振り下ろしてきたが、俺の目の前にユウナが躍り出て装甲を展開して炎剣を受け止めた。

 

 突然敵の出現でハンニバルが困惑した隙を突いて、コウタがハンニバルの眼前に飛び出して、高出力のバレットを撃ちだしてハンニバルは怯んで態勢を崩した。

 

 

「ユウ、待たせたな!」

 

「済まんコウタ。悪いがお土産は奴のおかげで灰になった」

 

「え、マジ?」

 

「呑気なこと言ってないでこの人を連れて撤退してください。医療班に要請を出しておいたんで、合流してそのままアナグラへ」

 

 

 アリサがパイロットを担いでやってきた。

 パイロットをアリサから渡され、背負う。

 

「ソーマ、こっちに合流して」

 

「悪いが、此処は頼む」

 

「任せて。アリサ、左右から攻めるよ。コウタは奴の弱点を!」

 

 ユウナは素早く指示を出し、神機を構えてハンニバルへ向かい、アリサもユウナに続いて駆けていく。

 

「ユウ、本部での土産話、後で聞かせろよ!」

 

 コウタがそれだけ言って銃撃しつつ駆けていき、俺も撤退を始めた。

 

 

 

 ハンニバルの変異種を第1部隊に任せてヘリのパイロットを背負って医療班との合流エリアに着き、そのままアナグラへ帰還した。

 出張先からやっと帰ってきたと思えば、早々災難に巻き込まれてかなり疲れた。

 

 とにかく手続きが必要なので受付へ向かう。

 

 

「ではこちらが出張報告書になります。提出をお願いしますね」

 

 ヒバリちゃんから書類を手渡された。とりあえずさっさと書き上げて休むとしよう。

 はあ、少ない小遣いを使って折角お土産を買ったのにハンニバルの変異種とか言う腐れアラガミにパーにされちまった。金の恨みは食べ物以上に恐ろしい事を教えてやりたいところだ。

 

 

 報告書を早急に書き上げて、再びヒバリちゃんに渡すと榊博士が呼んでいるとの事で俺はそのまま研究室へ向かう。

 

 

 

「さて、慣れない場所で缶詰状態で検査したせいで疲れも溜まっているだろうけど、今はとてもよろしくない状況でね」

 

「なんかあったんですか?」

 

「第2のノヴァが出現したのさ」

 

 

 うわーすっげぇ不吉なワード……。

 

 俺が本部に出張している間に極東はとんでもない脅威に襲われたらしい。

 

「エイジス事件」の顛末でノヴァが月へと飛び立った際、母体から引き千切られた莫大な量のオラクル細胞群が地球上に残留した。「ノヴァの残滓」と言うべきか。

 これが変質して新たなアラガミと化すことが懸念されたため、極東支部は順次回収、厳重に管理されながら沈静化作業が進めていた。

 

 だが、保管施設から「残滓」の流失が発生。貯蔵庫は内側から喰い破られており、恐れていた事態が現実となった。

 「ノヴァの残滓」より誕生したアラガミを、極東支部は「第二のノヴァ」すなわち終末捕喰の後継者であるとして討伐作戦を実行したらしい。

 

 この第2のノヴァがとても厄介なアラガミで神機による攻撃をほぼ無効化する防御力を持っていたらしい。単純に『硬い』ではなく、神機が選り好みして「こんなん喰えんわアホらし」と職務放棄した結果まともにダメージを与える事が出来なかったらしい。

 

 しかも知能も高く、1度目の作戦時は死んだふりして逃走。

素の戦闘能力も他のアラガミとは別次元で2戦目にはソーマ、コウタ、アリサに重傷を負わせて医務室送りにしたとか。

 

 対策としては、こちらも神機を特殊なアラガミのコアで強化してぶつけると言う筋トレして殴れとも言わんばかりの対策法だ。

 極東地域にはノヴァの残滓を捕食して特殊な進化を遂げたアラガミが何体か存在しており、そいつらのコアが必要らしい。

 第2のノヴァも普通のアラガミは食べ飽きたらしく、こちらと同じく特殊な進化を遂げたアラガミのコアを狙っており、争奪戦の真っ最中だとか。

 

「先程君を襲ったハンニバルの変異種もそのアラガミの内の1体さ」

 

「とりあえず、まずは第2のノヴァですね。俺もできる事はやりますよ」

 

 

 いやーしかし俺ってなんで大事な時に居ないんだろうな?

 ピターとリンドウさんの仇云々の時は異世界に。

 アーク計画の時は都合悪くアラガミが攻めてきてエイジスには行けずに、防衛戦を展開。

 リンドウさんを助ける為に飛び出すも、結局敵の足止めをしてやっと救援に迎えると思ったら意識が飛び、目を覚ましたらハッピーエンド。

 

 そして今回は本部にただの検査で出張している間に世界滅亡のカウントダウンが知らない間に始まっていたと。まあ、知らない間に終わる前に戻ってこれたので間に合ったと言う事にしておこう。

 

 とことん肝心な時に役に立たん男であるな自分。自分で言ってて悲しくなってくる。

 

 

「ふむ。無事ハンニバルの変異種を討伐できたようだ――こ、これは…………!」

 

 榊博士が突然驚きの声を上げた。

 

「ヒバリ君、第1部隊に任務更新の連絡だ。彼らに繋いでもらえるかい?」

 

『分かりました。少々お待ちください』

 

 榊博士が焦りながらヒバリちゃんに通信して忙しそうに手を動かす。

 

 

『博士、珍しいですね。どうかしたんですか?』

 

「つい先ほど、空母で極めて強力なオラクル反応を補足した。まさに我々が探している超弩級アラガミと呼ぶに相応しいものだ。恐らく突然変異的に発生したものだろうが、このアラガミのコアを獲得できれば戦況はこちらに大きく傾く筈だ。何としてでもノヴァよりも先にコアを手に入れたい。任務直後で悪いが『榊博士!緊急事態です!』」

 

 ヒバリちゃんから緊急事態と報告を受ける。

 

『第2のノヴァが当該アラガミのポイントに高速で接近中!ポイント到着まで推定3――秒です!』

 

「な、何だって……!」

 

『博士!俺たちは現場に急行する!』

 

 ソーマからの連絡を最後に通信が終わり、榊博士は背もたれに寄りかかってぼそりと言った。

 

「頼む、間に合ってくれ……!」

 

 空母エリアか……。俺の足でも間に合わないな。結局俺にできることは無いと……はぁ……ホント役に立たん男であるな自分。

 

 

 

 それから暫くした後、第2のノヴァがコアを喰らい、逃走したと残念な報告がされた。

 

 




次回の更新も遅くなると思いますが、ご了承ください。


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そうか、覚悟か……。

ワイ「GWや!モンハンやるぞー!」
上司「コロナだからどうせ何処も行かないんやろ?じゃあ仕事するしかねえよな?」

コロナとか言うそびえ立つゴミ、ホントクソ


 

 

 

 

 

 

 

 第1部隊がアナグラに帰還し、駆けつけると幸い4人とも大した怪我はしていない。

 

 4人は俺の特等席を占領して項垂れている。

 話を聞けば、アーク計画の時に連れ去られたあの白い人形のような少女に助けられたらしい。

 地球やアナグラの皆を壊さないために月へ飛んで行ったと……恐らく、あの時の事だろう。空へ飛んで行き、あのデカ物を引っ張って行った。

 見た感じは華奢ですぐに壊れてしまいそうな外見だったが、その子は覚悟を決めたんだろう。

 

「俺は、シオの決意も……親父とお袋が人類の未来に抱いた想いも……どちらも無駄にしたくない」

 

 ソーマが言葉を紡ぎ、その顔もまた覚悟を決めた目だった。

 

 

 

 

 突然、周りの音が聞こえなくなり、しない筈の硫黄の匂いが鼻を擽り、頭の中で誰よりも勇猛だったある男の言葉が聞こえた。

 

『本土のため、祖国のため、我々は最後の一兵になろうとも、この島で敵を食いとどめることが責務である! 各々、10人の敵を倒すまでは死ぬことは禁ずる。生きて、再び祖国の地を踏めること無きものと覚悟せよ』

 

 

 そうか、覚悟か……。

 

 

 

 ソーマが第1部隊の面々を見て、こう言った。

 

「ノヴァを止める為に、俺に力を貸してくれ。頼む……!」

 

 頭を下げてきた。

 頭何て下げるもんじゃないと止めようとしたら、コウタがソーマの肩に手を回して陽気な声で笑いながら言う。

 

「今更なーに言ってんだよ!」

 

「ホントですよ。そう思っているのはあなただけじゃないですよ」

 

「ソーマ、力は貸すものじゃなくて……合わせるものだよ。やるよ、皆でね。まだ手はある筈」

 

 

「よう、腹は決まったみたいだな」

 

 リンドウさんがサクヤさんとリッカを連れてエントランスにやってきた。

 

「第2のノヴァを追跡していて分かったことがあるの。班に分かれてブリーフィングをしましょう」

 

 

 サクヤさんから提案され、俺たちは勿論タツミ達や名前も知らない神機使いも加わり、ブリーフィングが始まった。

 

 リンドウさん達がノヴァを追跡した結果、奴は山岳部で休眠状態に入り、所謂『サナギ』の状態らしい。羽化すれば成体。つまり、幼体の段階で極東最強戦力を半壊にまで追い込んだ奴が更に強くなると言う事だ。

 

 ここからはぶっちゃけ偏食傾向が云々で専門的な話になったので付いていけなかったが、要するに下剤を混ぜた飯を食わせて弱ってる間にぶち殺せって作戦だ。

 その為には第1部隊にはノヴァに専念して貰わないといけないので、それ以外の部隊で山岳部を包囲するように防衛線を張り、侵入してくるアラガミに邪魔させないように場を整える必要がある。

 

 そしてここで残念なお知らせがあるのだが、神機を持てないので後衛でサポートか前線での負傷者の救護をしろとのお達しが来てしまった。

 

 

 後方部隊を編成し、ミーティングが始まり前衛部隊や第1部隊との打ち合わせをして互いにその時の状況に応じた対応方法を確認して必要な物資などを準備して備える。

 

 後方部隊は一足先にノヴァの居る山岳地帯へ向かって拠点の設営を行うとのことで物資の確認をした後にすぐ出発した。

 

 

 

 *

 

 

 

「さーて、忙しくなってきたな……!」

 

 第2のノヴァ討伐作戦が始まり、第1部隊がノヴァと交戦を始めた直後、戦いに触発されたのか余計なアラガミも集まってきた。

 第1部隊の邪魔はさせないと各班隊長の指示によって侵入してくるアラガミと交戦を開始した。

 

 

「ちっ、こっちで負傷者が出た! 誰か後方に引っ張って行け!」

 

「こっちに投げ渡せ! 下がらせる!」

 

 アラガミの攻撃を掻い潜りながら負傷者を抱えている神機使いに声を掛け、手荒ではあるが投げ渡された負傷者を担いで部隊の後方へ下がり、医療班の元へ向かう。

 

「ッ!」

 

 目の前に現れ、逃がさんとするシユウの攻撃を躱してそのまま逃げるも奴が炎弾を放とうとするのを他の神機使いが横やりを入れて妨害し、時間を稼いでくれている内に撤退する。

 

「酷い怪我だ。ゆっくり休めよ」

 

「ぐっ、済まん……」

 

 負傷者を医療班に任せ、ついでに物資をもって先程の場所へ戻る。

 

 アラガミの数が多い上に、負傷者が出て徐々に追い詰められている。

 アラガミの追撃を受けているアサルト使いの元へ駆け、敵の攻撃に被弾する直前で担ぎあげてその場から跳んで離脱する。

 

「ありがと! 助かったわ」

 

 アサルト使いにOアンプルを投げ渡して他の神機使いの救援に向かって戦場へ駆け、俺を狙うアラガミの攻撃を躱しつつ他の神機使いへ襲い掛かろうとするアラガミへ跳び乗る。

 

 小銃をアラガミの目につっこんでオラクル細胞を塗った弾丸を発射して怯ませるが、振り落とされて地面へ転がるも素早く受け身を取って距離を取る。

 

 アラガミは俺に攻撃をしようと突進し、引き金を引きつつ後退するが全く意にすることなく向かってくる。

 引き金を引いても弾が飛ばなくなり、弾切れを起こした。アラガミの攻撃をギリギリで回避して顔を小銃で殴りつけるが、小銃はバラバラに砕けてしまい、すぐに跳び退いて距離を空ける。

 

 アラガミがこちらへもう1度攻撃を仕掛けようとしたとき、その背後から他の班に所属している筈のフェデリコがチェンソー型の神機を構えて跳び、アラガミの脳天に突き刺してそのまま肉を裂いた。

 

 フェデリコが神機を引き抜いてこちらへ向かってきた。

 

「ユウさん、救援に来ました!」

 

「1人か? 随分無茶したな」

 

「いえ、俺含めて何人かタツミ班長からこっちの救援に行くように指示を受けたんですが……途中で侵入してきたアラガミと交戦に入って僕は先に来たんです。先輩方も片付け次第向かうと」

 

 タツミの奴、そっちもそっちで手一杯なはずなのに格好つけやがって……。だが正直助かった。流石は防衛班の班長、良く戦場を見ている。

 

 

「あ、後タツミさんからこれを渡せと……」

 

フェデリコが片手に大きな得物を持っており、良く見るとそれはカリギュラのブレード部分だ。

 

「タツミさんがカリギュラの腕を結合破壊してこれを奪ったんですが、ユウさんに渡せばよいと……」

 

「成程……よし来た、得物がありゃ百人力よ。フェデリコ、背中は預けるぞ」

 

「は、はい!」

 

 フェデリコから受け取ったブレードを手に持ってアラガミの大群に突撃を掛け、フェデリコも神機を銃形態に変形させて援護射撃をしつつ着いてくる。

 迫る攻撃を受け流して回避しつつ、腕や足の付け根と言った動きを制限できる箇所を両断して身動きを封じ、隙があれば首や脳天を断ち切って切り伏せる。

 

 背後からコンゴウの雄たけびが聞こえて振り返れば無防備のフェデリコに殴りかかろうとしていた。

 地面を蹴って一気にコンゴウとフェデリコの間に割って入り、コンゴウを腕にブレードを突き刺してそのまま地面へ叩きつけて動きを封じる。

 

「今だフェデリコ!」

 

「は、はい! ハアッ!」

 

 神機を剣形態に変形させて渾身の一撃を振り下ろしてコンゴウの頭部を粉砕し、次の敵へ向かっていき、フェデリコも続く。

 

「フェデリコ、コアの回収は任せるぞ! 首を落とそうが、手足を吹き飛ばそうがコアが残ってりゃその内霧散したオラクルで再結合しちまう」

 

「はい! っ……ユウさん! 遠距離から砲撃です!」

 

 フェデリコの声に反応して横を見れば、グボロが大きな水の塊を発射しており、なんとか躱すも奴は立て続けに撃ち、次の砲撃をブレードを弾きつつ受け流してそのままグボロへ突撃する。

 

 既に間合いに入ったが、奴が至近距離での砲撃を強行したのを確認する。

 跳んで回転しつつブレードを振り、回転の勢いをつけた鋭い斬撃で水の塊を両断し、もう一回転して斬撃を繰り出してグボロを切りつけ、悲鳴を上げたグボロの鰭にフェデリコが神機を突き刺してチェンソーの刃を回転させて斬り裂く。

 

 絶命したグボロを放って、次へ行こうとした瞬間上空から光の玉が無数に飛んできた。

 

 防御に遅れたフェデリコを担いでその場から大きく飛び退いて空を見上げれば、サリエル、その堕天種、そして禁忌種のアイテールがこちらを見据えていた。

 

「そ、そんな……! 禁忌種まで……!」

 

「はっ、いつもの事だ。油断するなよ!」

 

 そうフェデリコに喝を入れたと同時に3体は額の眼から無数のレーザーを放出してその雨は無差別に降り注ぎ、他の神機使いは勿論アラガミも巻き添えをくらう。

 

 フェデリコを担いだままレーザーの雨中を駆けて躱せないレーザーはブレードで掻き消して奴らの元へ突っ込む。

 

 このまま無差別にやられちゃ、ただでさえ疲弊している他の連中が持たん。こいつらを誘き寄せるか……。フェデリコには荷が重いかもしれんが……。

 

「フェデリコ、悪いな。後で好きなだけ恨め。殴らねえと気が収まらないなら何発でも殴らせてやる。だから、今はこの地獄に付き合ってくれ」

 

「な、殴るなんてとんでもない! 覚悟はできています! 俺にできる事なら、絶対にやり遂げます!」

 

 フェデリコの覚悟を聞き、俺は挑発フェロモンを使って宙を舞う3体の意識をこちらへ向けさせる。

 

 3体に背を向けて走り出し、奴らは攻撃を飛ばしながら追いかけてくる。

 

「フェデリコ、銃で迎撃しろ。当たらなくても良い。移動は俺に任せて撃って撃って撃ちまくれ!」

 

「了解!」

 

 フェデリコが銃形態へ切り替えて銃撃を開始し、俺はひたすら襲い来る攻撃を躱して駆け続ける。

 

 目の前が崖になっているがそのまま跳んで飛び降りる。

 

「くっ……! 当たれ!」

 

 フェデリコは迫りくる光弾を撃ち落とし続けるが、うち1つがそのまま一直線にこちらへ向かってきた。

 振り返ってブレードで掻き消そうとするもブレードと光弾が接触した瞬間、光弾は弾けてフェデリコ共々吹き飛ばされた。

 

 何とか態勢を整えてフェデリコの腰に腕を回して更に空中ステップで宙を蹴るが、人を担いだ状態だと流石に辛い。

 

「クソっ!」

 

 追撃を仕掛けるサリエルたちにこのままでは為すすべはない。だが……!

 

「フェデリコ、お前を奴らの所に飛ばす! 神機でぶっ刺してやれ!」

 

「っ⁉ ……はいッ! 任せてください!」

 

 焦りながらも冷静にふるまうフェデリコの腕を掴んでそのまま引っ張り一回転と共に奴らの元へ投げ飛ばし、フェデリコは見事に先頭のサリエルに神機を突き刺した。

 

サリエルが悲鳴を上げ、他の2体が狼狽えている間に俺も空気を蹴って一気に堕天種の元に跳んで首を掴んで額にブレードを突き刺す。

 

このまま頭部を斬り落とそうとブレードを握る力を強めた瞬間、突然紫色の光に照らされた。

 

 

「アイテール……!」

 

「こ、この攻撃は……!」

 

 アイテールが額の眼から紫色に輝く衝撃波を放ち、俺はブレードを盾に、フェデリコは装甲を展開して衝撃波を防ぐが空中で尚且つサリエルの体と言う足場が悪いせいで衝撃を完全に防げずに吹き飛ばされた。

 

 そしてアイテールはそのまま吹き飛ばされて落ちるこちらに紫色の大きな光弾を幾つも宙へ配置し、それらを一斉に撃ち放った。

 

「フェデリコ、俺に雷属性の弾を最大出力で撃てェ!」

 

「ッ⁉ 済みません!撃ちます!」

 

 いきなりとんでもない指示だが、それでも俺を信じて従ってくれたフェデリコに報いる為に気合を入れる。

 

 高密度の電撃弾をブレードで受け止めると、刀身は電撃を纏い、それをアイテールの攻撃目掛けて振りかぶる。

 

 渾身の力でブレードを振ると電撃の刃が飛び出してそれは紫色の光弾を全て飲み込んでそのままアイテール諸共その背後に居たサリエルと堕天種も巻き込んだ。

 

 

「す、すごい……!」

 

 

 フェデリコに遅れて地面へ着地し、煙を上げながら3体が落ちてきた。

 

 サリエル2体は瀕死で弱っているが、アイテールはまだ余裕で宙へ浮かぶ。

 

 アイテールの攻撃を躱しつつ、宙へ逃げようとするサリエル目掛けて腰を落として突きの構えを取って一気に突進。

 

 

 サリエルの腹を貫いた直後にブレードを振り抜き、鮮血が噴き出して活動が停止。

 

 フェデリコはアイテールと接戦を繰り広げ、サリエル堕天種が横やりを入れようと光弾を放つ。

 

 そうはさせまいとフェデリコの元へ跳び、光弾を叩き斬る。

 

「助かりました!」

 

「気にするな。サリエルを先に仕留めろ。こいつは俺が相手する」

 

 そう言ってアイテールに斬りかかり、アイテールはこちらの斬撃を腕で防御しては弾こうとするが咄嗟に距離を取って構え直す。

 奴がくるりと回転すると光弾が宙を浮き、その光弾に意識を向けた隙を狙って腕を叩きつけてきた。

 

 ギリギリで躱すが、視界の端でただ浮いていた光弾が光の帯を出しながらサリエル堕天と戦うフェデリコの元へ向かっていった。

 

 

 こいつ……最初からこれが狙いか……!

 

「フェデリコ! 後ろだ!」

 

「っ!」

 

 

 俺の声に気づいて、フェデリコは光弾を装甲で受け止めるが、隙を晒したフェデリコにサリエル堕天が額の眼から強力な攻撃を放とうと構えた。

 

 殺気を感じ、向き直るとアイテールが更に腕を叩きつけてくる。

 跳躍で躱してアイテールを踏み台にして高く跳び、サリエル堕天の頭部目掛けてブレードを投げつける。

 

 ブレードは回転し空を切りながら飛び、サリエルの首に突き刺さった。

 突然の攻撃に怯んだサリエルの隙を逃すことなくフェデリコが神機で更に頭部を叩き潰す。

 

 フェデリコが上手くやり、安心した矢先にアイテールが体当たりを仕掛けてきた。咄嗟に横へ身を投げて躱すが、すぐにUターンして向かってくる。

 

 

「デァアアアッ!」

 

 フェデリコの雄たけびが聞こえたかと思う真横を何かが通り過ぎ、それはアイテールに突き刺さった。

 今真横を通って行ったのはフェデリコの神機だった。

 

 態勢を崩したアイテールが地面へ墜落しつつ向かってくるがジャンプして躱したついでに突き刺さっている神機の柄頭に踵落としを決めて更に突き刺す。

 

 

『Cuuuuaauaaaa!』

 

「これでどうだァ!」

 

 フェデリコが俺の使っていたブレードを両手に持って跳び、勢いよく振り下ろしてアイテールを一刀両断した。

 

 

「ハア……ハア……ユウさん、怪我はありませんか⁉」

 

 神機をアイテールの死骸から抜き、コアを回収しながらこちらの安否を確認してくるフェデリコ。

 

「ああ、おかげで助かったぜ。感謝する」

 

 フェデリコからブレードを手渡される。

 

「よ、良かっ――」

 

「っ!」

 

 

 危険を察知して飛び退いた。

 

 

 跳び退くとそこに巨大な炎弾が着弾して爆発し、凄まじい速さでセクメトが飛びだして無防備のフェデリコへ襲い掛かり、咄嗟に装甲を展開して防御するも装甲を掴まれた。

 

 ちっ、こっちが消耗するを待っていたってのかこいつ……!

 

 咄嗟に引こうとするフェデリコをもう片方の手で掴み上げ、放り投げる。

 

 フェデリコの元へ跳んで何とか受け止めて着地すると、セクメトは翼手を広げて突撃を仕掛け、隣のフェデリコを下がらせてブレードを振って迎え撃つも奴はそのまま俺を跳び越し、背後に回り込んできた。

 

 振り向きつつ構えると既に炎を纏った回し蹴りが迫り、屈んで蹴りをやり過ごしてそのまま斬り上げる。

 

『Gu! 』

 

 斬撃を躱され、反撃の拳が迫る。

 地を蹴ってジャンプでセクメトの頭上へ飛び、ブレードの切っ先を向けて全体重をかけて突き刺すがセクメトは翼手を翻しながら軽快に跳んで回避する。

 

 着地と共に左腰にブレードを添え、居合の構えを取った。

 セクメトの手っ取り早い倒し方を考案したのは俺とタツミだ。此処でできなくてどうする。少しはやるようだが、所詮はセクメトだ。

 

「フェデリコ、今だ!」

 

 俺の合図でフェデリコが2回銃撃を放ち、セクメトは1撃目を弾き、2撃目を跳んで躱した。

 そして、着地するであろう場所へ一気に踏み込んで、ブレードを振り抜いて抵抗しようとしたセクメトの首を抵抗される前に斬り落とした。

 

「ナイスだぜフェデリコ。おかげで楽ができた」

 

「い、いえ。皆さんが特訓をつけてくれたおかげです!」

 

 謙虚な事だ。だが頼もしい。

 

 

「さて、大分他の連中と離れたが早いうちに戻らねえとな……」

 

 

 

 

『第2のノヴァのオラクル反応が消滅しました! 作戦成功です! 周囲の神機使いは敵を掃討した後、帰投準備を進めて下さい』

 

 突然喜ばしい連絡が入り、一息いて即座に構え直す。

 まだそこかしこにアラガミが居る。

 

「ラストスパートだ。さっさと終わらせて帰投準備するぞ」

 

「了解です」

 

 フェデリコと共に他の神機使い達の元へ駆けつつ、道中のアラガミを討伐する。

 勝ち戦を確信したことで士気も上がったのか殲滅にはそう時間はかからなかったらしく、俺とフェデリコが戻る頃に粗方片付いていた。

 

 

「お疲れさん。おかげで助かったぜ。ありがとな、フェデリコ」

 

「いえ! 俺も何度も助けられてしまいました。ありがとうございます!」

 

アナグラへ戻り、フェデリコに労りの言葉をかける。

 

「あの、ユウさん。もしよければ、今度俺に特訓をつけてください!」

 

「特訓? 特訓ならブレンダンが良いメニュー考えてくれるだろ?奴に特訓をつけてもらった方が良いと思うが……」

 

「いえ、ブレンダンさんの特訓も勿論受けます。ユウさんの剣技、参考にしたいと思って……それに銃撃を利用したあの攻撃も習得したいんです! お願いします!」

 

 剣技って言うほどじゃないが……せいぜい二流が良いとこだ。銃撃を利用……雷返しの事か……。まあ、できて損はないから教えるのは構わんが……。

 

「二流剣技でも良いなら付き合うさ。ただし、銃撃を利用した技ってのは電撃相手にしか使えないから相手は選ぶぞ?それでもいいか?」

 

「勿論です! よろしくお願いします!」

 

フェデリコが元気よく頭を下げた。

 

 

 

 




今月中にあと2~3回は投稿したい(願望)


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心底イラつくぜェェェ!

プログラムの更新するたびにスピーカーの調整不可になったり起動してもデスクトップが表示されなかったりして何度も再起動しないといけなくなって怠すぎる。
今回のサブタイトルは私の心の声でもあります。




 

 

 第二のノヴァ討伐作戦は完遂され、作戦区域に持ち込んだ物の撤収が始まった。

 テントを片付け、不要な物資も車両に詰め込んでとにかく忙しない。

 

「お、ユウ。仕事熱心だな」

 

 車両が1台こちらへやってきて、目の前で停車する。 

 停止した車両からタツミが降りてきた。アナグラで書類仕事をやっているもんだと思っていたが……。

 

「お疲れさん。そっちの仕事は済んだのか?」

 

「ああ、ある程度な。元々戦友の墓参りで休みを取る予定だったからな。ブレ公がこっちの事は任せろって言ったんで引継ぎしてきたんだ」

 

「態々手伝いに来たのか? 仕事熱心なのはそっちじゃねえか」

 

「墓参りが終わっても暇な時間があるからな。先にこっちに来たのさ。さて、後片付いていない所は?」

 

「今から向かうところだ」

 

 

 物資を箱に詰めて車両に積み、タツミも周囲に指示を飛ばしつつ撤収作業を行う。

 防衛班でもない奴に指示を請われるあたり、流石の信頼と人望とでもいうべきか。

 

「あ、車両にもう積めないぞ。もう1台持ってくるか?」

 

「んじゃ連絡頼むわ。お前ら先にその車両でアナグラへ戻ってくれ」

 

「分かりました!」

 

 タツミの指示にまだ若い神機使いが頷き、車両の座席にも積めるだけ積んで見送り、俺も他の回収班に運搬車両を回してもらえるか聞いた。

 

 

 

「今から向かうってさ。あとF地点が撤収完了したついでに、まだ積み込める車両で寄ってくれるとよ」

 

「Fからならすぐだな。先に小さい荷物を纏めて置いておくか」

 

 タツミの指示通り動き、粗方まとめたところで丁度車両が到着した。

 小さい荷物は全てその車両に積んで行き、空の車両も到着した。

 大きい荷物をそちらに積み込んでこの地点での撤収作業は終わり、他の地点ももうすぐ終了と連絡を受けたのでそのままアナグラへ戻る事にした。

 

 タツミと共に移動用の車両に乗ってアナグラへ戻る。

 

「あ、ユウ。悪いが居住区に入ったらそのまま墓地へ向かってくれないか?」

 

「OKだ。近くなったら教えてくれ」

 

 

 通信で他の車両にこのまま外部居住区で寄り道をすると連絡し、アナグラの方にもその旨を伝えると許可が下りたのでそのままタツミの言う通りにハンドルを切って墓地へ向かう。

 

 

 *

 

 タツミと共に墓地を暫く歩き、立ち止まってタツミが膝をついた。

 

 墓には『マルコ・ドナート』と彫っており、タツミが線香に火をつけて墓前に置いて手を合わせる。

 面識こそないが、俺も手を合わせておこう。

 

「俺と同期でな。適合試験を無事に終えて、痛みに悶えている時に声を掛けてきてな」

 

「適合試験か。死にはしないが、阿保かと言わんばかりの痛さだったな」

 

 斬られる撃たれる殴られるとはまた違う激痛だった。体の内側から攻撃されていると言えば分かりやすいか。

 

「同期の中じゃ断トツで優秀な戦果を挙げていて、俺なんてその時は神機もまともに扱えなくてかなり焦っていたっけか。皮肉屋だったが、俺に気負わせないように気遣ってくれた」

 

「そうか、良い奴だったんだろうな。どんな顔をしているのか見てみたいな。きっと、優しい顔をしてるんだろう」

 

「ああ、優しくて強い奴だ。最後まで防衛班として責務を果たした。自分の命と引き換えに住民を救ったんだ。もし、俺がその時に落ち着いていれば、もっと強ければって悔やんでばかりだ。だから、神機に振り回されるお前を見たときになんだか放って置けなくてな」

 

「おかげで俺も神機を扱えるようになった……と。まったく、知らない内に色んな奴に助けられてばかりだな。友達や恩人に『しっかりしろ情けねぇ』ってどやされちまう」

 

「ははっ、人の縁ってのも面白いよな? カノンが適合した神機の前任はこいつだしな。ま、カノンの誤射率をみたらきっと墓の下で爆笑するに違いねえけどな!」

 

「俺も吹き飛ばされるのはもうごめんだ。ブレ公には悪いが」

 

 墓参りも終わり、アナグラへ戻るために車を走らせる。

 

「そういやユウ。そろそろ髪の毛黒染めした方が良いんじゃねえのか? 大分目立ってきてるぞ」

 

 タツミに指摘された通り、灰色に変色した髪の毛が大分増えて遠くから見れば白髪にしか見えない。この際イメチェンついでに染めちまおうかとも考えたのだが、金がかかるので結局やらず、黒染めも面倒でしていない。

 

「しかし白髪じゃなくて灰色なんて不思議だよなー。別に身体に異常はないんだろ?」

 

「ああ、至って健康だ。多分な。こればっかりは本部での検査結果が来ないと分らんが……」

 

 しかし、発作みたいに苦しくなるのはなんでだろうな……。髪の毛の事より体の方が心配だ。段々体が蝕まれていくのが実感できる。

 

 

「あ、俺実家に帰るから途中で下ろしてくれ」

 

「ああ、分かった」

 

 

 途中でタツミを下ろしてアナグラへ戻り、既にほかの連中が撤去してきたものの片づけをしていたので俺も途中から参加した。

 

 

 

 

 

「ああ、今日はあっちぃな」

 

 急に目が覚めたらと思ったらエントランスの気温が異常に高い。色々な機器が稼働熱をだして基本的にアナグラ内は気温が高い故に冷房が効いて快適な筈なのだが……。

 なんでもアナグラの至る場所で空調設備が急にイカれたとか……。設備の担当者が見たところ完全にお陀仏らしく、替えを頼んでいるらしい。

 

 外に出てみたが、異常気象か季節外れの暑さでおまけに風すら拭かない。吹いても生暖かい風で不愉快だったので諦めて屋内に戻ってきたところだ。

 

 

「あ~あっちィ……」

 

 コウタが熱さでぐったりしながらエレベーターから降りてきた。片手に自販機で買ったであろうジュースを持っている。

 

「ユウ、平気そうな顔してるな」

 

「残念ながら平気そうに見えても、内心暑さで相当イラついてるぞ」

 

 寒いなら重ね着するなり毛布に包まるなりして何とかなるが暑さはどうにもならない。マジなんなんですかねこの暑さ、心底イラつくぜェェェ!

 

 

「よう、お前ら。この熱さには敵わんなぁ」

 

 

 イライラして怒りに震えているとリンドウさんも上着を脱いだ状態でやってきた。

 当然片手にはキンキンに冷えているであろうビール缶が一本。昼間から酒かとツッコミたいがそんな元気もない。

 

「まさか空調がイカれるとはな」

 

「アナグラの設備も古いっすからね……」

 

 3人で熱さに悶えていると続々と人が集まってきた。

 ブレンダンやカレルにシュン、むさ苦しい男がエントランスに集まった。

 

「ブレンダンはともかく……お前も熱さに強いのか、ユウ」

 

 まあ真人間の頃に炎天下の中、作戦のためにスコップでひたすら穴を掘っていたからな。

 ブレンダンは平気そうだな。こんな時でもきちんと制服を着て身だしなみを整えている。

 

「くっそ、タツミの奴は今頃実家でくつろいでんのかよ……」

 

「外も大して変わらんと思うがな。今日は気温が異常に高くなっているからあいつも伸びてるんじゃねえのか」

 

 異常気象も近年増えているせいか、今日は極東全体は夏日のようだ。

 

「あれ、そういや今日女性陣見てねえな」

 

「シャワーでも浴びてんじゃねえの? 流石に汗だくの姿で人前に出たくないだろう」

 

「あっちぃ、もういっそのこと任務行こうぜ。廃寺辺りに」

 

 シュンの提案に全員が賛成し、早速受付で廃寺エリアで発注されている任務を探しに行った。俺も廃寺へ行く事を考えたが生憎と偵察任務は発注されていないので諦めてエントランスに居座っていた訳だ。

 

 

 あ、そうだ。

 

 この時、俺は閃いた。榊博士の研究室ならどうかと。

 研究室ってほぼすべての設備が独立して動いているから無事なのでは……?

 

 そんな訳で早速研究室へ向かう。

 

「博士―入りますよー」

 

 研究室へ入ると思った通り冷房が効いており、先程までの熱さなんて幻覚なのではないかと疑いそうなほどに快適だ。

 しかし、部屋の主である榊博士は難しい顔をしていた。

 

「珍しく難しい顔してどうしたんですか博士」

 

「ん? ああ、君か。何か用かい?」

 

「ただ涼みに来ただけですよ」

 

「ああ、そういえば空調の調子がよろしくないらしいね」

 

 余程難しい問題に直面していたのではないだろうか。俺が研究室に入った事にすら気づいていないなんて余程の事だろう。

 

「実は本部からの来賓が来る事になってね。その来賓が中々の曲者でね……」

 

 第2のノヴァを片付けたと思ったらまた面倒な話が舞い込んできたのか。

 

 とりあえず必死に頭を抱えている博士の邪魔をするのも悪いので、名残惜しいが冷房のきいた天国から出ることにした。

 

 エントランスに戻る途中、自販機で冷たい飲み物を買って飲んでから戻ろうとすると端末にメールが届いた。

 ベンチに腰を掛けて飲みながら端末をみるとジャックからメールで近いうちに極東に来るとメール本文に書かれていた。

 

 あいつ、随分急だな。奴も内情調査で忙しいはずだが……いきなり極東に来るとは……本部で何かあったか?

 

 端末を操作して奴に連絡を取ろうと思ったが、会話やメールでのやり取りを盗み見されている可能性がある事を思い出し、通信ではなく簡潔にメールで極東に到着する日が何時になるのかだけ打ち込んで送った。

 

 

 




特にリアルでのトラブルが無ければ明日も更新できるかと思います。
もし更新されなかったら察していただけると幸いです。



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機動力は何よりも優先すべきだ(個人的主観)

上司「1日だけど出張行ってくれ。コロナ持ってくんなよ」
ワイ「かしこまり!」


コロナ渦で出張とか頭おかC


 

 ジャックから連絡を受けて5日後、奴が極東へ到着した。

 

 ヘリからジャックが荷物を片手に軽快に降りて、こちらへ気付くと手を上げる。

 

「よう、ユウ。今度はお前が出迎えか?」

 

「そういう事だな。支部長から案内するよう言われてるんでな。荷物の方はどうする?」

 

「ああ、持っていく。念のためな」

 

 強風に吹かれながらジャックを連れて屋内へ戻り、支部長室までの道中で何故今回極東へ来たのか聞いてみた。

 

「まあ、お偉いさんからの命令さ。この後、本部からもう2隻ヘリが来る手筈でな」

 

「もう2隻? なんでまた?」

 

「そのヘリに乗ってんのさ。極東を良く思ってないお偉いさんがな。もう一隻にはフェンリルの多額の投資をしているお人が乗っている」

 

「前話した人狼部隊(ルー・ガルー)と癒着してる奴か?」

 

「ああ。察しが良くて助かるぜ」

 

 博士、凄まじく面倒くさい事になっていますよ。これは榊博士の胃が捻じれる可能性が微粒子レベルで存在している。

 

「じゃあ何か?お前そのお偉いさんの護衛で来たのか?」

 

「おいおい冗談はよしこさんだぜ?俺は別件って扱いで来てるだけだよ。ちゃんと連中に気取られないように派遣って形で来てる。それに、奴ならしっかり人狼部隊を連れてくるはずだ。だから、用心しろよ?」

 

 

 ジャックとそんな話をしている内に支部長室に到着した。

 

「博士―ジャクソンを案内してきましたよ」

 

 

「ああ、入ってくれ。済まないがユウ君は少し席を外して欲しい」

 

 どうやらあまり知られたくない事を話すらしく、俺はお邪魔虫のようだ。

 

 

「いえ、俺もちょいと用事あるんで行かないといけないんで……」

 

「悪いなユウ。また後でな」

 

 ジャックと別れ、やり残した書類を片付ける為に部署へ向かう道中でリンドウさんに遭遇した。

 

「お、ユウ。ジャックの奴はもう来たのか?」

 

「今支部長室で博士とお話し中ですよ? リンドウさんこそ暇そうですね?」

 

「ああなに、今からお客さんが来るんでな。少し世話になった人だから出迎えぐらいはしないといけないと思ってな」

 

 どうやら本部からくるお偉いさんと以前交流があったらしく、そろそろヘリが到着するのでヘリポートへ向かうところだったとか。

 

 人狼部隊を連れてきているなら、一回連中の面を拝んでおくのも悪くないだろう。どんな連中なのか気になる。

 

 

 ヘリポートへ出て、ヘリを待つ間にリンドウさんにそのお偉いさんがどういった人物なのか訊ねる事にした。

 

「リンドウさん、その世話になった人ってのはどんな人なんですか?」

 

「んー? あーまあ……厄介な人だな」

 

「リンドウさんがそこまで言うなんて余程ですね」

 

「ああ。エイジス計画や、本部直轄の特殊部隊にも個人で出資していてな。だが、ただ出資するわけじゃなくエイジス計画の内情を知るためにシックザール元支部長の周囲に網を張っていてな。俺も以前、ある特殊部隊の監視・調査を任せられた事があってな。エイジス計画の調査をする際に情報提供もしてくれた」

 

「へー、投資する癖して信用はしていなかったと」

 

「ま、あえて泳がせるつもりだったんだろう。そしていざアーク計画が露呈し、混乱する上層部を収拾し、自分が厄介に思う連中をシックザール元支部長に与した裏切り者、特殊部隊を不正利用しようとした不届き者として処分して資産諸々を取り上げて実質握ったと言っても間違いじゃない。今や企業連合にも大きな影響力を持っている中々の切れ者さ」

 

 

 リンドウさんと話をしている内に雨宮教官もヘリポートへ来た。

 

 そして2隻のヘリが見え、着陸すると高そうなコートを着てスーツに身を肥えた男とフードを被った神機使いが2人出てきた。

 

 もう1隻のヘリからはこれまた高そうなコートにスーツを着た壮年の男性、そして同じくフードを被って顔を隠した神機使いが3人降りてきた。

 

 俺は警戒されないように遠巻きに呆けた顔をしながら見る。

 

 肥えた男がリンドウさんに近づいてきた。

 

 

「久しいな雨宮君。遅れたが、結婚おめでとう。奥方殿にもよろしく伝えておいてくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 リンドウさんは露骨な苦笑いを浮かべながら言い、ツバキ教官がリンドウに不敬だと叱るように彼より前に出て頭を下げる。

 

「お久しぶりです。理事に就任されたとお聞きしました。おめでとうございます」

 

「おお、ツバキ君。ありがとう、皆の期待に応えられるように努める所存だよ。今後ともよろしく頼むよ」

 

 2人に手を上げ、ヘリポートを後にする理事と呼ばれた男に続いて神機使いと身なりの良い男がヘリポートから出て行った。

 

 

 

 

 

 

「ほお、これが一番重い重りか」

 

 実はジャックにトレーニング用に足首に付ける重りの中でも特に重い物を譲ってもらえないか聞き、あいつは快くOKしてくれた。そしてこちらへ来るついでに持ってきてくれたという訳だ。

 

 早速装着すると、かなりの負荷が足に掛かっている。トレーニングのみならず任務にでもつけていくか。いざと言うときすぐに外せるような仕様にもなっているらしく、ヤバいと思ったらすぐに外せばよい。

 正直、先日遭遇したハンニバルの変異種のスピードには驚いた。ギリギリで躱せた攻撃も多く、反応できても体が動かなければ意味はない。

 あのスピードから繰り出される連撃を余裕で回避できるぐらいにならないとな。

 機動力は何よりも優先すべきだ(個人的主観)

 

 

 そんな訳でブレンダン先生に組手の相手をしてもらえないか聞き、快諾して貰えたので今から一戦やるところだ。

 

「済まないブレンダン。忙しいだろうに」

 

「気にするな。お前との組手は良い特訓になる。こちらとしても願ってもない事だ」

 

「じゃあ、行くぜ」

 

「ああ、来い」

 

 

 互いに接近し拳を打ち込み、空いた手で迫る拳を受け止める。それはブレンダンも同じ。

 そこから下がりつつ回し蹴りを繰り出すがやり過ごされ、後隙を潰してそのまま裏拳を打ち込むが腕で防御され即座にブレンダンの左フックが迫り、受け流しつつ再び蹴りを繰り出すと見せかけ、拳を繰り出す。

 

「ふっ!」

 

 ブレンダンは体を捻って拳を躱して反撃に出ようとするが、空いた手で鉄槌打ちを繰り出す。

 

 ブレンダンは腕を交差、振り下ろした手首を挟まれて払いのけられ、肘打ちが迫る。

 

「っ!」

 

 咄嗟に後ろへ跳んでやり過ごした。

 

「ユウ、あまり動きにキレがない。不調か?」

 

 ブレンダンは俺の動きがいつもより遅いと感じたのか心配の言葉をかけてくる。

 恐らく重りのせいだろう。重りを付けた動きにまだ慣れていないのもあるが……。

 

「少し気怠さがな。気分転換の運動だ。少し加減してくれ」

 

「分かった。気分が悪くなったらすぐに言ってくれ」

 

 そのままブレンダンが踏み込んで肘を叩きつけてくるが腕で防御し、今度は連続で回し蹴りを仕掛けられ、一撃目を躱し2撃目を防御、そして素早くしゃがみんこんで足払いが仕掛けられ、咄嗟に跳んで足を振り下ろすもブレンダンはそのまま床に手を着いて跳び退く。

 

 すぐにブレンダンへ跳んで再び足を振り下ろすが交差させた腕で防がれ、素早くブレンダンの腕を足場代わりに軽く跳んで更に蹴りを肩目掛けて打つが足首を掴まれてそのまま放り投げられる。

 

 着地と共に受け身を取るも既にブレンダンが迫り、踏み込んでパンチを繰り出し顔を逸らしてギリギリで回避。

 反撃を打つが跳び退きながらガードされ再び距離が空く。

 

 再び接近と共に打撃を打ち込んで即座に足払いを掛けるとブレンダンが態勢を崩すが、すぐに受け身を取って追撃を躱し反撃を繰り出され、こちらも咄嗟に防御しつつパンチを打つがブレンダンが拳へ肘を叩きつけて弾かれた。

 

 直後に空いた手のパンチが迫り、拳を頭突きで迎撃してブレンダンが驚きつつ下がったのを見逃さずに体を捻りつつ跳び浴びせ蹴りを仕掛ける。防御が間に合わないと判断したのか、蹴りを肩で受けて衝撃を利用して後ろへ跳び退いた。

 

「はっ!」

 

 ブレンダンが一気に距離を詰めて肘打ちを繰り出し、咄嗟に防御するが即座に空いた手で掌底を打ち、ギリギリで躱すが次は体当たりを仕掛けられ、腰を落として受け止めようとするも思っていた以上に強い力でそのまま吹き飛ばされた。

 

 受け身を取って跳び退きつつ態勢を整えて着地する。

 

「流石だなブレンダン」

 

 重りをつけている分、咄嗟に繰り出された威力の劣る体当たりなら受け止め切れると思ったが、生まれついての体格に驕らず鍛え続けているブレンダンの力がかなり上手だったか……。

 

「ユウ、ここまでにしよう。あまり体に負担を掛けるものじゃない」

 

「ああ、そうしよう。良い運動になった。またよろしく頼む」

 

「こっちも良い鍛錬になった。また誘ってくれればいつでも相手をしよう」

 

 

 訓練室の壁に背をつけて床に座り込み、息を整える。

 流石に重いな。だが、この重りをつけて戦うと言うのも中々刺激があって良い。今度はジャック辺りに付き合ってもらうか。

 

「ユウ。俺はこの後、装甲壁周辺の見回りがある。先に行くぞ」

 

「そうか、気を付けてな」

 

 ブレンダンを見送り、俺も訓練終了の申請をして訓練場を後にして書類仕事を片付けようと思い偵察班の部署へ赴くが、役員区画を通る途中で妙な気配がした。

 

 

「…………」

 

 気配のする方向を見れば、フードを深く被って顔を隠している集団――人狼部隊が歩いてきた。すれ違いざまにふと見てみれば一番前を歩いている男がこちらへ視線を送ってきた。しかし、そのまま素通りして歩いて行った。

 

 やはり妙な連中だ。気配の質が少し普通の神機使いと違う。ソーマやユウナ、AGEともまた違う。だが、特殊な生い立ちである事は間違いないだろう。

 本能的に言えば、嫌な気配だ。正直、感じ取っていてあまり気持ちの良いものでは無い。

 

 

「ん?」

 

 端末に連絡が入り、通信に出てみればそれはリッカからだった。

 

 

『ユウ? ちょっと今時間ある?神機の事でちょっと』

 

「ああ、大丈夫だ。整備室でいいのか?」

 

『うん。許可は取ってあるからそのまま入ってきて良いよ』

 

 通信を切って、リッカの元へ向かう事にした。

 

 

 

 

「で、神機がどうかしたのか?」

 

「うん。ある程度再生の目途は立ったんだけど、ちょっとね……」

 

 重大な問題らしいが、とりあえず攻撃ができるなら何でも追いのだが。

 

「そうなのか?」

 

「神機はアーティフィシャルCNSで制御されているのは知ってるでしょ? 原因は分からないけど、妙なオラクルが混じっているせいでCNSの制御能力の一部機能が不安定なんだ」

 

「不安定?」

 

「博士にも相談したんだけど、八方塞でさ。幸い、負荷を減らせばある程度安定するからその方針で決めたんだけど……負荷を減らすのに削らないといけない箇所の相談だよ」

 

「ほーん、ある程度の制限があるってことか」

 

「その通り。ユウの場合は近接型だから……刀身部のオラクル細胞の集中率、神機開放状態での出力とかを上げないといけないからまず削れる要素は装甲かな?ユウの戦い方を見るに基本は回避でしょう? 一応神機開放状態の持続時間と刀身部のオラクル集中率を減らせばバックラー程度なら付けられるけど……」

 

 リッカが端末を操作して数値を入れると神機の能力が%表示で表される。装甲が無い場合とある場合で出力の差が大きい。

 バランスを取った場合の数値、出力に重点を置いた場合の数値、装甲をつけて安全性を考慮した場合の数値などそれぞれの方向での調整したときに出せる神機の能力を何通りか見せてもらった。

 

「正直に言えば総合的な数値で見ると装甲を付けた場合の出力は大体第1世代初期の出力よりも低いから、当時よりも強く進化しているアラガミと戦うには火力不足かな……。偏食傾向の更新は問題なくできるから攻撃が通用しないって事は無いだろうけど……」

 

「じゃあ装甲削って出力に振ってくれ。どうせ主な任務は偵察、アラガミと真正面からぶつかるってことはないだろうからな。装甲を削って身軽になったと思えば良いだろう」

 

「それじゃ、装甲部分を削って出力に重点を置いて調整するよ。まだ時間はかかるだろうけど、楽しみにしててね」

 

「ああ、期待している。済まないな。何から何まで」

 

 




変異株の感染も確認されてきましたが、早く収束して欲しい。
去年に続いて今年も連休を潰してくれた腐れコロナは首吊れ(直球)


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ならばお前もクソメト絶対殺すマンだ

ゴッドイーターの新作は……まだか……。


 

偵察班の部署へ戻って書類を片付けていると、同僚から一服付けろと缶コーヒー(ブラック)を手渡され、引き攣っている頬を悟られないように笑顔で受け取る。

 

 

に、苦すぎる……! 飲めたもんじゃない……! ぶっちゃけた話、もう香りから無理だ。口をつけようとしたときに苦い香りで反射的に顔を顰めそうになる。

なんでどいつもこいつもこんなもんを美味そうに飲めるんだ……? 砂糖、砂糖が欲しい。いや、砂糖入れるならいっそのことココアでよくね?

 

「そういや、本部から来た護衛の神機使い達って何者なんだ?明らかただ者じゃないオーラを醸し出してるけど」

 

「なんでも本部直轄の特殊部隊だとか……」

 

「へー本部ってすげぇな。そういや、禁忌種討伐専門の部隊も居るとかって聞いたな」

 

「おいおい、都市伝説だろ? そんな連中居るならアナグラに派遣しろって話だって」

 

「禁忌種なら俺達だって相手してるだろ?」

 

セクメト――じゃなくてクソメトにハガンコンゴウ、俺は交戦回数は少ないがテスカトリポカ、アイテール。そういやマータも禁忌種だったか。極東の連中は当たり前のように相手している。運悪く新兵が禁忌種に遭遇して喰われるなんて胸糞悪い事もあったか。

 

 その禁忌種はどうしたかって?

 

 そりゃ勿論、我らが極東最強の神薙隊長が単身で蹴散らしてきたよ。

 

 

「そうそう、俺この前ショートに乗り換えてな。タツミさんに鍛えてもらってんだ」

 

「ならばお前もクソメト絶対殺すマンだ」

 

「ええ……」(困惑)

 

 唐突な俺の発言にショートに乗り換えた彼が困惑した。

 当然と言えば当然だろうが、極東のショート使いはクソメト絶対殺すマンになる定めなのだ。この運命からは逃れられない。

 

「そういやお前元々、ショート使いだったか。しかしなんでだ?セクメトと相性最悪だろ」

 

「時がくればタツミが教えてくれる。震えて待て」

 

 存外嬉しいものだな、自分たちの技が受け継がれていくのは。今頃地獄で鬼と斬り 合っているであろう剣術バカの戦友や師も喜んでくれるだろうか。

 

 地獄で不敵に凶悪な笑みを浮かべながら鬼と斬り合ってる戦友の顔が自然と想像できる。

 

「ふー今日もハードだったぜェ……」

 

 偵察任務に出ていた同僚が髪を濡らして帰ってきた。

 帰投後すぐにシャワーを浴びて着替えてきたのだろう。制服も汚れていないのでその状態から考えれば。

 

「いやーお偉いさんの護衛してる部隊マジでやべェな」

 

 手に持っていたペットボトルのキャップを空けて中身を飲み干し、ドカッと勢いよく席に座って言った。

 

 人狼部隊(ルー・ガルー)が任務に同行でもしたのだろうか?

 一体どうしたのかと聞くと興奮気味に語りだした。

 

「元々単独で偵察してたんだけどさ、平原エリアでマータを確認してさ。報告したら近くに人狼部隊(ルー・ガルー)が居てな。そのまま討伐してもらうから追跡しろって指示を受けてさ。いざ、連中が到着したらどうなったと思う? ただの蹂躙さ。あいつらの連携が凄まじくてな。ぶっちゃけ連携は第1部隊よりも上手いぜ?」

 

「蹂躙なら第1部隊だって当たり前のようにしてるだろ?」

 

 同僚のツッコミに反論するように熱くなって語る。

 

「ただの連携じゃないんだよ! まるで心の中で打ち合わせしながら戦ってんじゃねえかって言うぐらい統制された動きなんだよ。何処を潰せば動きを封じられて、じゃあ誰がやるかだとか、各々の判断ってのは違うだろ筈だろ?なのに会話の1つもなしに全員悟ってるかのように動いてるんだ。やべぇってマジで!」

 

「なんか専用の通信網でもあるんじゃないのか?マジだったら本物の化け物だぜ?」

 

 そんな馬鹿なとでも言いたげな表情で興奮する彼を嗜める同僚の横で熱心に端末を操作している奴がこっちに端末を見せてきた。

 

「妙な連中なのに変わりねえぞ。ほら、本部のコンピューターにちょちょいっと仕掛けたが情報が何もない。ログを見る限り編集の痕跡もない。データ自体残さないっての訳ありだ。ここまで徹底するなんて余程だぞ」

 

 息をするように本部にハッキングを仕掛けるこいつは置いておいて……。だとしたら連中も相当だな。ジャックの言う通り本当に隙が無い連中だ。

 

 

「気にしたって仕方ねえさ。今は目の前にある紙の束を片付けちまおう」

 

「だな」

 

 

 そうだ、とにかく今は目の前の仕事を片付ける事を優先しよう。

 

 

 

 

「ふ―終わったー。ホントデスクワークは向いてねえわ」

 

 立ち上がって背筋を伸ばして大きく仰け反る。

 

「先行くぜー」

 

「ああ、お疲れー」

 

 

 部署を後にして歩いていると、先からジャックが声を掛けながら近づいて来た。

 

 

「終わったのか……って早速重りつけてんのかお前」

 

「まあな。少しでも鍛えないといけないんでな」

 

「ああ、そうそう。明日から防衛班のヘルプに入る事になったから、何かあったらよろしくな」

 

「仕事の事は博士と話したのか?」

 

「ああ、基本的に連中(人狼部隊)の話をするときは研究室だな。こっちの尻尾はすぐ捕まえられるが、奴らの尻尾はそう簡単に掴めないんでな」

 

 となれば基本的に作戦会議や話し合いは研究室でか。

 

「あのお偉いさん神薙隊長に夢中らしい。事あるごとに声かけて食事だのに誘ってらぁ」

 

「え、なにあの爺ロリコン?キモっ……」

 

「神薙を本部へ引っ張るつもりだろうな。そうすると極東の士気は下がるだろう。全く偉い癖しておつむが弱いのは良く分かんないな。ガキの頃は勉強して頭が良くなれば偉くなれるって教わったが」

 

 

 

 ジャックと話しながら役員区画を歩いていると先の廊下で戸が開き、件のお偉いさんが出てきた。

 

 ジャックは慌てて俺に隠れろとジェスチャーで伝え、素早く近くの観葉植物の陰に隠れた。

 何処からともなく人狼部隊が現れて理事の背後と横を守るように立ち、理事が歩き出すと共に奴らも足並みを揃えて歩き出した。

 

 

 共に様子を窺っていたジャックと顔を見合わせると、奴が理事の歩いて行った方を親指で指しながら頷き、俺も奴の意図を読み取って2人で遠くから追跡することにした。

 

 

 護衛の人狼部隊に気取られないように遠巻きに見ると、理事と護衛の内の1人が部屋に入っていき、残された4人は2人が扉の両脇に控え、もう2人は去って行った。

 

「今理事と入って言った奴、女だな」

 

「え、何お前分かんの?」

 

 どっかの白いバスター振り回している奴よりも深くフードを被り、体もマントで覆っているため体系は勿論性別すらも判別できない。にも関わらず遠くからぱっと見で断言するこいつの観察眼には驚かされた。

 

「間違いねえ。女の匂いがプンプンするぜ……! そして私腹を肥やした中年太りしたおっさんと一緒に若い女が2人きりで部屋に入る……これはもう確定だな」

 

「お前査問会に呼ばれるのそういうとこだぞ」

 

「ふん、査問会が怖くてスケベ根性発揮できるかってんだ」

 

「何ちょっとカッコ良いこと言ってんのお前。後胸張って言う事じゃないからな?」

 

 

 これ以上は見てても何も変わらないと言う事で俺とジャックはその場を後にし、結局ジャックは経過報告をしないといけないらしく研究室へ向かうと言い、俺もいつもの特等席で寛ごうとエントランスへ戻る事にした。

 

 

 

 途中でエレベーターを待っていると便所からドレスに身を包んだユウナが出てきて口元を押さえ、疲れたような顔をしていた。

 

「ユウナ、どうした顔色悪いが」

 

「本部から来たお客さんと会食してさ……。作法だとか意識すると慣れなくてね。なんだか疲れちゃって……ハァ……」

 

「お、おう……大変だな」

 

「ぶっちゃけ迷惑な話だよな。大方スカウトでもされただろう?」

 

 ジャックは誰もが思う事を口にして、俺とユウナは同意した。

 

 

「ジャクソンとユウ、知ってたの?」

 

「この前榊博士から偶然な……。博士も大分頭抱えてたが……」

 

 共にエレベーターに乗り込み、扉が閉まり上へ上がっていく。

 

「本部に来て直轄の部隊に所属して欲しいって開口一番で言われたよ……」

 

「神薙隊長、俺が言うのもアレだが……男ってのはただ女とパコりてぇだけだから気を許しちゃいけないぜ?」

 

「息をするようにセクハラ発言やめーやジャック」

 

「あー、ユウが前言ってた下ネタばかり言う人ってジャクソンの事?」

 

 そういえばユウナにはセクハラ発言ばっかりの野郎が居るって言ったことがあったか。

 

「お前も中々辛辣な紹介をしてくれるなユウよ」

 

「お前とつるんでいたせいで俺も査問会に呼ばれそうになったからな。あの時、雨宮教官に問いただされた際の俺の胃の捻じれ具合は尋常じゃなかったぞ」

 

「ちょっと当時の2人を見てみたい気がする。今度、リンドウさんに聞いてみよっと」

 

 ユウナが笑い、俺とジャックも静かに笑った。

 エレベーターから降りて3人で歩いていると、大きな窓ガラスが外の景色を映し出す。

 

 そういや、もうすぐで1年になるのか。早いもんだな……。俺こそ灰域が発生している世界で数日過ごして帰ってきたら大分時間が経っているからホントに早く感じる。

 外の景色を眺めながら歩いていると、薄くだが俺達3人の姿も映った。

 

「…………」

 

 ほぼ灰色に染まっている髪の毛が目立って気になる。まだ黒髪が残っているが、日が経つごとに灰色が増えて今は灰色の方が比率は多い。瞳も両目の色調が以前と比べれば「あれ? なんかちょっとだけ変わってね?」程度だが異なっており、徐々に体が作り替わっている居るような錯覚に襲われる。

 

 しかし、健康診断などで異常はない。面倒くさいから染めたと言う事にしている。

シュンに老いぼれ扱いされたか……白髪じゃねぇよクソガキ。まだテメェより若いっての。

 

「んじゃ、俺研究室寄るから」

 

 ジャックがそう言って去って行き、俺もエントランスに向かうためにユウナと別れようとすると、ユウナは俺の方――いや、外の景色か? 呆けるように見ていた。

 

「ユウナ、俺もエントランス行くからここで」

 

「え、ああ、うん。お疲れ様。また明日」

 

 軽く手を振って別れ、俺はエントランスの方へ向かって言った。

 

 

 




皆さん、コーヒーはブラック派ですか?
私はそもそも進んでコーヒーは飲まないですが。


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幕間 ~嫌悪~

皆さん、予防接種は受けましたか?
私はまだです。

予防接種受ける→人が密集する開場へ行かなければいけない→逆に危なくね?→効果があるのかも怪しいから猶更恐ろしくて行けない。


 

「…………ゥ、ッ!」

 

悶えるような熱を感じて目が覚める。

 

「はあ……嫌になる……」 

 

汗で体が湿り、ベッドもシーツも若干だが湿っている。

先日も異常気象で凄まじい暑さだったせいで、部屋着やシーツを洗濯したのだがまた洗わなければいけない。

 

 

 つい昨日の事だ。榊博士から……本部からの来賓が私を食事に誘い、相手をしてほしいと言われた。

 任務が立て込んでいるのもあって断ろうとしたのだが……相手はフェンリルに多額の寄付をしている人らしく……流石に博士も気の毒だと思い、話だけならと応じた。

 

 本部の上層部で理事を務めている人と出資をされている人、3人で会食になり、普段は来賓をもてなす部屋を使った。

 

 正直、気持ち悪かった。理事と呼ばれる男が舐め回す様な視線で見てきて、気分は最悪だった。

 開口一番で本部直轄の部隊への転属などの話振ってきたり、そのたび言葉を濁しかなくなりはっきり言うと面倒くさい。

 

 

 極めつけには会食が始まる2時間前に部屋に理事から荷物が届き、その荷物は手触りから高級品だと感じ取れるドレスだった。しかし、問題があった。

 

 露出が凄まじかった。胸元が開け、丈も短い。姿勢を意識しないと下着が見られてしまうのではと思うぐらい。普段のアリサやサクヤさんの服装よりも過激的だ。

 

 とてもじゃないが着られない。神機使いである故に、よく無茶をするなと小言を言われる程に突破口切り開くために自身を顧みない行動を取る事も多々ある。

 お陰で体に傷や痣もあるのであまり人に見せたくはない。

 仕方ないのでサクヤさんの結婚式のときに来たドレスで会食に赴いた。

 

 理事には開口一番で体に痣や傷があって人に見せたくはないので身に付けれず申し訳ないと頭を下げた。

 相手は快い返事を返し、こちらも出過ぎた真似をして済まないと謝罪された。

 

 出身や経歴など互いに話し合い、時間が来たので会食は終了してとりあえずその日は解散となったが、暫く彼らはアナグラに滞在するらしくそれを聞いて気が重くなるのを隠して彼らと別れた。

 ずっと気持ち悪さを感じていたせいか吐き気がしてトイレに籠った。

 

 

 本当に気持ち悪い。ここまで他人に嫌悪感を覚えたのは初めてだ。

 

 

 

時計を見ればまだ朝早い。

 

「偶には湯船に浸かろうかな」

 

浴槽に水を溜めるという中々出来なかった贅沢な入り方を終えてから着替えを済まし、朝食も済ませる。

 任務の準備は昨日の内に終わらせてあるので確認するだけで終わり、結果的には時間を多く余してしまった。

 

 

 暇なのでエントランスに行けば誰か居るかと思い、向かうとカウンターの上部に設置されている席でユウとジャクソンが頭を押さえて項垂れていた。

 

「おはよう、2人ともどうしたの?」

 

「朝早いな神薙隊長、俺ならこの時間に目が覚めたら2度寝決め込むぜ。う……!」

 

「ああユウナか、おはようさん。うぅ……頭いてぇ……」

 

 2人のこの状態、昔お父さんがよく陥っていた状態に酷似している。何処からどう見ても二日酔いだ。

 

「2人ってまだ未成年でしょう? 大丈夫なの?」

 

「詰め寄られたら、チョコ喰ったらまさかの酒入りで2人してやられたって誤魔化すさ」

 

「タツミの奴も酔いつぶれたしな」

 

 ジャクソンからタツミの名が出たので恐らく3人で飲み明かしたのだろう。タツミも未成年に飲ませているのを知られたら危ない気がするが……。

 

「大体テメェ飲みすぎなんだよジャック。俺もタツミもそこまで強くねえよ」

 

「ちょっと水でも買って来るよ」

 

「ああ、悪いな。後で金返すわ」

 

「良いってそれぐらい」

 

 

 エントランスの階段を降り、出入り口に設置されている自販機で水を買って2人に渡す。

 

「「あ^~水が染みる……」」

 

 2人がハモリ、同時に顔色もだんだん良くなってきている。水を飲んだだけでこんなに早く回復するものなのだろうか……。

 ジャクソンも底知れない所があるし、ユウもユウでとんでいる所があるから2人が特別だと言う事にしておこうか。

 

「2人とも今日は任務?」

 

「部署で書類仕事」

 

「こっちは装甲壁の更新する箇所の防衛だ。まあ、酔いつぶれた班長には頑張っても貰うしかないが……」

 

「酔い潰したのは他でもないお前だけどな」

 

「あ、そっかぁ……」

 

 ユウのツッコミにすっとぼけるジャクソン、息をするように漫才をする2人。

 きっと漫才のようだと言えば否定してくるだろうけど……。

 

「さて、ユウ。酔い覚ましに軽く打ち合うか?」

 

「この戦闘狂め、そんなやりたきゃ付き合ってやるよ」

 

 突然、ジャクソンは唐突に言い出してその言葉に対してユウも面白そうだと言わんばかりの顔をして立ち上がる。

 

「2人とも急にどうしたの」

 

「訓練所で乳繰り合――「やめないか!」

 

 セクハラ発言を止めるようにユウの拳がジャクソンの頬を一瞬横切り、ジャクソンは頬を庇いつつ軽やかに回避して頬を摩る。

 

「あっぶねー。今本気で殴ろうとしただろっ」

 

「お前なら回避するだろうと信じたうえでの攻撃だ」

 

「〇〇だろう運転は危ないって習っただろう!」

 

「それとこれとは話が別だ。時間も惜しいし、さっさと行こうぜ」

 

「あ、じゃあ訓練場の使用申請『言い出しっぺの法則って知ってるか?』しておくわ」

 

 やっぱり漫才にしか見えない2人のやり取り。ちなみに私も誘われたが任務も控えてるから見学と言う事で一緒に訓練所に向かった。

 

 ついでに審判もやって欲しいと頼まれたので快く引き受け、2人がモックアップ神機を互いに構える。

 

 

「じゃ、制限時間10分で一撃当たったらそこで終了だよ? では……始め‼」

 

 

 声を合図に2人が凄まじいスピードで動き、モックアップ神機同士が激突する。

 ユウに関しては以前から共闘したこともあったので流石の速さだが、ジャクソンも負けていないどころか若干だがユウよりも早い。

 

 ジャクソンが一撃打ち込み、ユウは巧みに防御で応戦して2撃目を弾いて少し態勢を崩したジャクソンへ即座に踏み込みつつ反撃を繰り出すが咄嗟の防御で防がれ、続けて得物を振るも逆に2撃目が弾かれユウは後ろに下がる。

 

 その隙を突くようにジャクソンは文字通り鋭い突き攻撃を仕掛けるもユウは体の軸をずらして受け流し、驚くことにジャクソンが持つ得物の腹を踏みつけて床へ叩きつけた。

 ジャクソンはそれを分かっていたのか足を大きく開いて態勢を安定させて力尽くで得物を振り上げてユウを後ろへ押し飛ばす。

 

「っ!」

 

 ジャクソンが不敵に笑いながらその勢いのまま得物を振るが、ユウは冷静に防ぎつつ姿勢を変えて受け流した。

 

「おっと!」

 

 受け流されて床へ滑り込んだジャクソンは足払いをするように下段攻撃で牽制し、ユウは跳んでそのまま空中から蹴りを浴びせようとするが腕で防がれ、ユウは反撃を警戒したのか即座に蹴りを防いだ腕をそのまま足場代わりに使って跳び、距離を取る。

 

 

 どちらもレベルの高い立ち回りをしている。

 神機使いが対人戦と言うのは中々無い話だが、反武装組織の鎮圧などに当たる場合もあるので訓練しておいて損はないだろうが、それにしては2人とも戦い慣れしすぎている。

 

「お前絶対リサも交えて訓練したときの事を根に持ってるだろう⁉」

 

 『リサ』と聞いた覚えのない名前――恐らくジャクソンの同僚だろうか。とにかくユウとジャクソン、リサと言う人の3人で訓練してユウは苦労したらしい。

 

「君のような勘の良い同期は嫌いだよ。今度は痛い目見るかもねェ!」

 

 ユウが腰を落として突きの構えを取ったと視認した直後――いつの間にかジャクソンへ距離を詰めて渾身の突き攻撃を放つ。

 

 ジャクソンが刀身を盾にするが、あまりの衝撃で受け止め切れないでいるところをユウは素早く刀身を足場にして跳び、全体重をかけた蹴りを放つ。

 

「いっ⁉」

 

 ジャクソンは身を投げ出して床を転がって何とか回避して態勢を整えて構え直した。

 

 

 互いに踏み込んで得物を振って激突する。

 片方が攻めれば片方が守りに徹し、時に互いの立場が逆転して剣戟の応酬が何度も続き、傍から見ても達人同士の戦いだと良く分かる。

 2人とも自分より早く入隊し、その分の経験があるのを考慮したとしても……とても入隊1年目でできるような動きではない。

 

 

 2人の戦いを眺めている時、急に体が熱を帯び始めて息苦しくなる。

 

「…………っ!」

 

 何とか堪え、深呼吸をして体を落ち着けるが2人に隠し通すことはできないようだ。

 2人はこちらを一切見ていないのにも関わらず、同時に手を止めてモックアップ神機を下ろし、こちらへ駆けてきた。

 

 

「昨日もだろ。休んだ方が良いぞ?」

 

「兎に角終了だ。ユウ、神薙隊長を連れて行け。後片付けと終了申告はやっておく」

 

「分かった、頼む。ユウナ、行こう」

 

 ユウがジャクソンにモックアップ型神機を投げ渡した。ユウの肩を借りて共にエントランスへ戻り、ソファーに座ってユウから水を手渡される。

 

 

「あ、リーダー。ユウもおはようございます」

 

 水を飲んで一息ついた直後にアリサが来た。

 

「おはよう、アリサ」

 

「アリサ、今日ユウナと任務か?」

 

「はい。ソーマとコウタも一緒ですよ。開始まで時間はまだありますが……」

 

「こいつ、今日は少し調子が良くないらしい。休ませたいところだが、今本部の馬鹿共が来てるだろう?出会う度に小言がうるさいようでな。アナグラ離れた方がマシなんだと。だからフォローしてやってくれ」

 

「出撃は控えて欲しいのですが……はあ、分かりました。リーダー、私が前衛に回りますのでコウタと後方支援をお願いします」

 

 アリサの言うことに頷き、ユウにも感謝しないといけない。調子が悪いならアリサの事だから休ませようとしてくるだろうが、今は理事と会うのは気が重い。ユウもそれが分かっていて気を使ってあえてフォローするように頼んだのだろう。

 

 ユウも時間なのでそろそろ行くと言って仕事へ向かい、私とアリサは任務の作戦を練り直すためにコウタとソーマがエントランスに揃うまで互いに意見を交えた。

 

 

 

 

 

 市街地エリアの中では特にアナグラから離れている地点で今回の目標が捕捉された。

 今回は車両で向かい、コウタが運転している間に神機の最終調整をし、途中でソーマがコウタに神機の最終調整をしろと言って運転を代わった。

 

 

「…………着いたぞ」

 

 車両を停め、神機との接続をしながら外へ出てレーダーに表示される目標の地点まで警戒しつつ向かう。

 街中でも特に入り組んだ場所へ入り込み、警戒を強めて一瞬だけ気配を感じるとソーマも何かを感じたらしく、神機を構えた。

 

 アリサとコウタにも構える指示をして気配を感じ取る。

 

 

「ッ…………来るよ! 散開!」

 

 

 合図とともに建物の壁が破壊されて何かがそのままこちらへ降って来る。

 一足先に指示を飛ばしたおかげで全員余裕をもって奇襲に反応できた。

 

 強力な冷気を肌に感じて相手を睨みつけて神機を構える。

 

「これは……あの時のプリティヴィ・マータ! 識別不明の反応の筈なのにどうして⁉」

 

 アリサが驚くのは無理もない。以前交戦した冷気を纏っているプリティヴィ・マータ。

 普通のマータと違い体格も大きく、纏う冷気も以前と比べて増して強力になっている。あの時は――無意識の間に致命傷を与えて撃退できたらしいが、今のこちらは地力が上がり、神機連結解放<リンクバースト>状態に移行できれば無意識化で行使した力を完全に制御して戦える。

 

 だが、強くなったのは向こうも同じ。油断をして良い筈はない。

 

「こいつはヤバそうだな……!」

 

「ソーマ、あまりリーダーに負担は掛けられません!できるだけ早く撃破しましょう!」

 

「分かっている。俺が前に出て気を引く。動きを知っているお前は隙へ差し込め」

 

 そう言ってソーマは地面を蹴ってマータへ向かっていき、私は神機を銃形態へ変更してコウタと共に射撃を始める。

 アリサもマータへ向かっていき、マータの死角から攻撃を仕掛けるがアリサの神機がマータへ触れる直前で冷気がマータの体表を覆うように凍り付いてアリサの攻撃が上手く通らなかった。

 

「くっ……!」

 

 アリサが顔をしかめて咄嗟に引くと地面から氷柱が飛び出した。

 ソーマの足元にも冷気が集中したのを視認し、ソーマに叫ぶと即座に退避して足元から生えてきた氷柱を回避する。

 

 

 マータが吠え、辺り一帯へ向けて氷の槍を作り出し無差別に放つ。

 

 ソーマがコウタを庇うように装甲を展開して防御し、私とアリサは迫る氷槍を躱しながら接近し、火属性のバレットをマータ向けて撃ち込む。

 

 火の玉は冷気と衝突して蒸気となり、冷気による防御が弱まった一瞬を突いてアリサの神機が突き刺さし、即座に飛び退くアリサへ冷気の塊を吐き出す。

 

「させない!」

 

 神機を剣形態へ切り替えながら冷気の塊へ突っ込んで叩き斬る。

 

 マータがこちらへ気を向けている間にソーマとコウタが死角へ潜り込んでコウタが銃口を向けてバレット連射し、続けてソーマがバスターブレードを叩き込み、マータは悲鳴を上げて飛び退く。

 

 方針は決まった。同じ部位に攻撃を重ねて冷気の防御を薄くしたところで直接叩く。

 

『GUuuuッ!』

 

 怒りに身を任せたのか見る者を圧倒する形相でマータが飛び跳ねて空中から大量の氷槍を降らせ、全員が回避に専念する。

 誰も被弾こそしなかったが、マータや味方へ距離がバラバラになり4人全員距離が離れ連携が難しくなる。私たちを引き離すために今の範囲攻撃を繰り出したのだろう。

 

 そしてマータが地面へ降り立った瞬間、マータを起点に冷気が辺り一帯を覆い、周囲から氷柱が飛び出し、更に全員の距離を離れていき包囲するように飛び出す氷柱に動きまで制限される。

 

「くっ‼」

 

 マータが目の前に現れ、爪を振り下ろしてくるがソーマが割って入り装甲を展開して受け止めつつ即座に刀身で反撃を仕掛け、マータの爪を破壊する。

 

「無理するな、下がれ」

 

 そう言ってそのままマータへ斬りかかり、コウタの銃撃が飛び怯んだ隙にソーマの一撃がマータの体を抉る。

 

 『GUUUUッ!』

 

 逃がさんと言わんばかりに空中で氷槍を作り、無差別に放つ。

 

 向かってくる氷槍を神機で壊そうとした瞬間、マータは冷気を吸い込み、白い霧に変えて解き放って周囲を覆った。

 

「皆!攻撃を仕掛けてくるよ!注意して!」

 

 目くらましに間に攻撃が来ると思い、叫んで気配を探ると突然近くで轟音が起こった。マータの攻撃ではないが……今まで感じていたマータの気配が遠くなっていった。

 

 

 何――ッ!

 

 突然脇腹を刺された直後、身動きが取れなくなり口を塞がれた。

 誰かに手で口を塞がれ、傷が熱く疼き視界が眩んで意識を手放した。

 




先日カビの怪物と素手で戦う夢を見た。
素手で挑むとか汚すぎる。夢の中の自分の思考回路を疑う事が多々ある。


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上でふんぞり返ってるだけの奴が一番嫌いなんだよ

まさかWindowsアップデートで失敗した挙句マウスを破壊してくるとは思わなかった。マウスに至っては新品に買い替えても認識しないと来たもんだ。
アプデと何とかマウスを認識させようと3日奮闘する羽目になった。

お陰で無駄な時間を過ごせたよ、やってくれたなMicr〇soft……!



 

 

 

山のような種類仕事を順調に片付けていき、一服付けようと自販機でお茶を買って飲んでいた。

 

「コーヒーよりお茶だな」

 

 やっぱりお茶って美味いわ。この苦みは好みだぜ……コーヒーの苦さとはまた違う。

 

 飲みながら部署へ戻り、席について仕事を再開している内に同僚の1人が任務から帰ってきた。

 

「お疲れさん」

 

「お疲れー」

 

 早速偵察の結果と任務の報告書を纏めている。

 そういえばこいつ元々本部に所属してたらしい。ちょっと人狼部隊(ルー・ガルー)だとか理事の事とか知ってんじゃないのか?

 

 

「なあ、ちょっと聞きたいんだが……」

 

「うん?どったの?」

 

「今本部から偉い人来てるじゃん?どんな奴なんだ?」

 

「さあな。俺も詳しい事は分からんが……ああ、そういや黒い噂があったか」

 

「噂?」

 

 何時の時代も権力者は悪い噂を囁かれるものだが、実際に悪い事してそうな顔してるからな……あのおっさん。

 

「奴から指名されて任務に行くと帰ってこないだとか。指名されるのはほぼ女性神機使いで、実際に何人かMIAになってる筈だ。真偽はともかく、下の人間の声なんざ上に届く筈もなく……だがな」

 

 そういや女性(ジャック曰く)を部屋に連れ込んでいたか。

 と言う事は肉体関係迫って口封じってやつか……。ぶっちゃけ想像できるのはこれぐらいなものだ。

 

「じゃあ、あいつ護衛してる連中については……」

 

「護衛の……ああ、本部のデータベースに侵入しても情報が無かったとかって連中だろ?アレばっかりは知らねえぇな。まあ、護衛してるってことは相当の手練れじゃねえの?俺こそ顔を合わせた事なんて無いが。そもそも本部は人が多すぎて把握しきれんし」

 

 やはり情報関係は徹底しているか……。ジャックの言う通り、中々尻尾を捕まえさせてくれない連中のようだ。

 

「ああ言う奴に関わると碌な目に遭わないぞ?詮索はやめとけ」

 

 折角の忠告を無碍にするようで申し訳ないが、既に厄介事に巻き込まれている可能性が大いにある。それでも、『分かった。そうする』と頷いて端末に向き直って作業に戻り、入力作業を再開する。

 

 

「あ、なあ此処の処理ってどうすればいいんだ?」

 

「ん? ここをこうすればええんやで」

 

「済まん、助かる」

 

 完成したデータを見直して記入漏れ等がない事を確認して印刷する。

 

「それって何所に提出だ?」

 

 印刷し終え、資料を順番通りに纏めようとしたら聞かれ、雨宮教官へ出すと答えると、ついでにこれも持って行ってくれと頼まれると共に印刷機が動き出す。

 

 

 出てきた資料を手に取って纏め、雨宮教官の執務室へ向かった。

 

 

 

 

 

「やはり、周辺のアラガミは数を減らしているか」

 

「間違ありませんね。俺も先日の偵察で特別に許可を貰って任務区域より先の様子を見ましたが、大型や中型は勿論、小型も大した数を確認できていないです」

 

 作っていた資料と言うのは最近、アナグラ周辺のアラガミが減少している事に関しての真偽だった。長期任務や重要任務などで空けている連中を除き、人員を総動員してアナグラ周辺の偵察・調査を行ったが本当にアラガミの数が減っている。

 

「また何かの前触れだと覚悟した方が良いようだな」

 

「ええ、最悪のパターンを想定しておけばいざ動く時にもスムーズな行動ができるかと」

 

 雨宮教官はまず油断をしない人だ。今回の件も、傍から見ればアラガミが少ない=少しは平和だと考える奴も一定数要るだろうが、短期間でここまで数を減らすと言う事は――凄まじい勢いで強力なアラガミが捕食しているとも考えられる。そして捕食を続け、進化したアラガミの次の狙いは間違いなくアナグラだ。

 

「できる事なら、敵が仕掛けてくる前に打って出たいものだが……簡単に動けないな。上層部は状況を楽観的に見てばかりだ。前線を知らない者が上だと、何より危険に晒されるのは下に居る者だ」

 

「確かに、今危惧している状況を伝えたところで帰ってくる返事は予想できますがね」

 

 極限を知らない奴は、物事を楽観的に見る傾向になる。生まれついて慎重すぎる位が丁度良いようなきがするが……。

 

 雨宮教官の端末に連絡が入り、それに目を向けた教官は一瞬だが眉間に皴を寄せ、立ち上がる。

 

「急用が入った。話はまた後日だ。下がれ」

 

「了解」

 

 雨宮教官も執務室を後にし、早歩きで去って行った。

 

 

 俺も部署へ戻ろうとエレベーター向かおうとしたとき、聞き覚えのある声が途中の扉から聞こえてきた。

 

 

『だから今すぐに繋げと言っているだろう!』

 

 

 本部からのお偉いさん、理事の声だ。イラつきが混じる声が聞こえ、誰かと通信をしていると思うが……相手までは分からない。

 

 険悪な雰囲気が感じられる。偉い人の内輪揉めって聞いてて面白いのでこのまま聞き耳を立てる事にした。丁度護衛の人狼部隊も見当たらない。此処で失言でも録音してジャックに教えてやるのはどうだろうか。

 

 そんな訳で端末を取り出して録音モードにして扉に当てる。

 

 

 

 

『こんばんは理事。退屈な本部を離れて久々の外はどうかね?』

 

「余計な前置きは良い。技研から通達が来たが神薙の身柄拘束後の指示、どういった了見だ?」

 

『無論、身柄を拘束できればまずは理事の好きなように使って構わない。用が済んだらこちらへ寄こして欲しいと言うだけさ』

 

『ならば構わんが……。ところで本部の神機使いが1人極東で妙な動きをしているがこれはどういうことだ?』

 

 ジャックの事か……! まずい、感づかれているか……。

 

『ああ、何でも極東には妙な神機使いが居て、そいつの監視らしい』

 

「妙な神機使い?」

 

『妙と言っても、神機を失って一時期MIAになっていた無能さ。体から普通の神機使いとは異なるオラクルを検出されて先日、本部へ精密検査のため来ていたらしいが……オラクルの詳細が分からない故、偏食因子の制御機能が不調を起こしてアラガミになられたら大変だ。その神機使いの同期を監視に付けたらしい』

 

 お、俺の事か……! しかも無能って言いやがった……! くっそ、戦争も知らねえ若造が舐めやがって……! 

 上でふんぞり返ってるだけの奴が一番嫌いなんだよなおい。

 

「ほう、その神機使いに興味がわいた。女か?」

 

『男だが? この好色じじいめ。はぁ、神薙の身柄が技研へ渡るのは1年以上かかりそうだな』

 

「ちっ、男ならどうでも良い。技研へ譲るのは2,3年かかるだろうよ。なに、飼っている間は丁重に扱う。顔と体つきも申し分ない。十分愛で、儂の子を産んでもらった後に譲ってやろう。実験の材料でも何でもすると良い」

 

『おいおい、程々にしてくれよ。神薙は優秀な母胎なんだ。それに、あんた何時だか目をつけてた神機使いの女性が既に妊娠していたのに腹を立てて嬲った後に細工した偏食因子でアラガミ化させたんだろう?それで丁重に扱うと言われてもね……』

 

 …………こ、こいつ……外道なんてもんじゃねえ……!

 同僚の言っていた噂とやらは本当だったって事か。こいつらを野放しには出来ねぇな。それこそ本当に消さねえと犠牲者が増える一方だ。

 

『ところで、極東を何とか傀儡にしようと意気込んでいたらしいが、どうなんだい?』

 

「ふん、無駄な足掻きに手を焼いているわ。ペイラー榊、食えぬ男だ。ヨハネスが亡き今、引き入れるのは容易だと思っておったがな……。研究だけが取り柄の男と思っていたが、そこは認めてやろう」

 

『へぇ、アンタが認めるなんて相当だな。でも、気を付けた方が良い。極東には遥か昔から『鬼』が出ると言われているからね』

 

「下らん、アラガミの方が恐ろしいわ。お前も尻尾を掴まれんようにうまく隠せ。む……? 少し出てくる。また連絡を取ろう」

 

『ああ、分かった。それじゃあ、そっちの都合のつく時間を追って知らせてくれ』

 

 

 ジャックに知らせた方が良いな。あいつ、今どこにいるだろうか。メールでも送ってみるか。とりあえず博士の研究室へ向かおうと思い、端末を操作しながら小走りで廊下を駆ける。

 

 

 メールを送り、研究室へ向かう途中でジャックと鉢合わせした、

 

「ユウ、丁度良かった! 今すぐ研究室へ来てくれ!」

 

 

「お、おう」

 

 

 *

 

 急いで研究室へ入ると、そこにはユウナを除く第1部隊とリンドウさん、サクヤさん、雨宮教官も揃っていた。

 榊博士が忙しそうに端末を操作しており、ますますただ事でないことが察せられる。

 

「揃ったな。んじゃ情報の共有と行こうか」

 

 リンドウさんの発言に全員が頷き、アリサの口から紡がれた。

 

 

「ユウナが行方不明?一体何があったんだ」

 

 驚きだがまずは冷静に聞く。以前交戦した冷気を纏うマータと交戦中、視界を霧で奪われ轟音が響いて霧が消えた頃にはユウナは神機を残して姿を消していたらしい。

 ユウナが居た場所に血痕があった。

 

 血の量から致命傷ではないらしいが、近くを捜索すると第1部隊の誰のものでもない足跡が発見された。

 

「神薙は攫われたと言う事で間違いは無かろう。そして、攫ったのは……」

 

 人の手が介入したと言う事は……さっきの盗み聞きから確信しているが、間違いなく理事の指示だろう。

 チャンスが来るのをずっと狙っていたのか、これ程早く手を仕掛けてくるとは……。

 

「理事の護衛隊だ。榊博士に頼んで奴らの動向を時間ごとに追ってもらっていたんだが、神薙隊長が消息を絶った時間が丁度連中が近くで任務かは知らんがうろついていた」

 

 ジャックと榊博士が先に手を打っていたおかげで犯人が分かった。確かにシステムが完全に独立している研究室からなら悟られずに奴らを探れる。

 

「くそっ、なんでユウナが……何の目的で」

 

 コウタが悔しがり、その問いにジャックが答える。

 

「惨い話だが……あらゆるアラガミを屠る戦闘能力、高い感応能力に神機適合率、そして驚異的な潜在能力。研究者からすれば喉から手が出る程欲しい母胎だろうな」

 

「その通りだジャック、ほらよ」

 

 ジャックに端末を投げ渡し、受け取ったジャックに録音音声を再生するよう言うと、多少音が拾えていないが先程の通信が再生された。

 

 

 

「そ、そんな……そんなの酷すぎます。人をなんだと思って……!」

 

 アリサが怒りを覚え、ソーマ自身も似たような扱いを受けたことがあるのか顔を険しくしており、コウタは怒りで震えている。

 

「3人とも、今は落ち着いて考えましょう」

 

 サクヤさんが3人を嗜め、今後の事をどうするべきか話し合う事にした。

 

 

「私は理事とその護衛隊について調べる為、情報管理室へ行ってくる。今回の事は榊支部長とも話し合ったが内密にする」

 

 雨宮教官はそれだけ言うと研究室を後にしてジャックはテーブルに地図を広げる。

 

「ふむ、やはり理事の護衛隊はユウナ君が失踪した地点の近くでまだ反応が掴めている。ジャクソン君の予測は的中していたね」

 

 榊博士が立ち上がり、モニターに周辺の地図を表示させて赤い点が5つ固まっている箇所を指し示しながら言う。

 

 

「まずい状況だ、神薙隊長は既に連中の手に堕ちた。正直今すぐにでも行かなければ手遅れになる可能性がある。今本部から連絡が来たんだが、ロシア支部から航空機が1隻極東へ向かって発ったらしい。恐らく神薙隊長を連れていくためだ」

 

 ジャクソンの言葉を聞き、今まで忙しそうに端末を操作していた榊博士が手を止めて険しい顔をしている。

 

「何らかの手段でユウナ君の腕輪からビーコン反応を出さないように細工されているとして、完全に向こうへ連れていかれたらどうやっても助け出せなくなるだろう。ユウナ君の情報も改竄され、ビーコン反応も腕輪に細工をされて完全に反応を感知できないようにされたら……こちらは打つ手がなくなる」

 

 

 端末に通信が入り、博士が応答すると「なんだって⁉」っと声を荒げた。

 その瞬間、モニターに表示されている地図上でアナグラ付近に赤い点が幾つも現れアナグラを囲むように配置されている。

 

 

「ヒバリ君、ツバキ君に連絡を! すぐにアナグラの神機使いを緊急招集して当たらせてくれ!こちらも一刻を争う事態になった」

 

「博士、何があった?」

 

 ソーマが冷静に問うと、その答えは案の定だった。

 

「多数のアラガミが装甲壁付近に集まっている」

 

「な、こんな時に限って……!」

 

 アラガミの数は減っている筈――いや、狙ったかのようなアラガミの侵攻……まさか理事め、何か小細工をしたか。アラガミとやり合っている間にユウナを連れて行かれちまう。

 狼狽える中、リンドウさんが頭を掻きながら考えて地図を指さす。

 

「よし、お前ら。第1部隊は出撃して正面のアラガミを片付けながらユウナが失踪した地点へ向かえ。防衛は俺が残ってやる」

 

「んじゃ、俺とユウは一足先に出て目的地へ行って捜索・および救助だな」

 

「作戦と言うにはお粗末だが、時間がない。とにかく時間との勝負だ」

 

 リンドウさんの言葉に続き、ジャックが地図の上に5個の磁石を置く。

 

「皆、一つ言っておく。理事の護衛隊ってのは本部直轄の特殊部隊だ。手練れである事は間違いない。神薙隊長を救うならこいつらとぶつかる事になる。最悪殺害も考えろ。暗器やピストルでも持ってけ」

 

 そういうとジャックは研究室の片隅置いてあるアタッシューケースをテーブルの上で開け、そこには携帯に適した形状のナイフとピストルが収められてあり、全員に配る。

 

 地図の上の5つの磁石を指さす。

 対人・アラガミ討伐なんでもござれの連中であり、アラガミ化した神機使いの始末もしている連中。

 手練れであるが、こちらもアラガミ討伐に秀でた精鋭・第1部隊と対人戦闘の経験なら俺は勿論、ジャックも居る。

 

 そして数はこちらが上。勝てない戦ではない。

 

「ツバキ君に車両使用の許可を出してもらった。こちらからも情報の提示・オペレートとできる限りの支援をする。無事、ユウナ君と一緒に帰ってきて欲しい」

 

 全員が言葉に頷いて研究室を後にする。

 第1部隊+αで廊下を駆ける。

 

「ジャック、俺は車両を出しておく。神機を持ったらゲートにまっすぐ向かえ」

 

「分かった。頼むぞ」

 

 廊下を駆けつつジャックに言い、途中で別れるとリンドウさんも俺と同じ方向へ着いてきた。

 

「ユウ、悪いが乗せてけ!先陣切ってできるだけあいつらの道を空けておきたい」

 

 リンドウさんの言葉に頷いて2人で車両格納庫へ急ぐ。

 

 

 




コロナと暑さで今年は例年よりもイライラしております。
だから台風、こっちに来るな。


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せいぜい気をつけろ

お久しぶりです。
皆さん、コロナワクチンは打ちましたか?
2回目を打ったら高熱で3日間ダウンしていました。

ちなみに友人は高熱でダウンしているのにも関わらず性欲を持て余したらしいです。

『ムラムラする→ぶっこく→汗を掻く→そのまま高熱が微熱まで下がる→翌日には平熱に下がった』との事。




 

 車両を出し、後ろにリンドウさんが乗り込んだのを確認してエンジンを始動させてアクセルを踏んでゲートまで移動する。

 

 すぐにジャックが神機を携えて待っていた。

 後ろに乗り込み、しっかり掴まれと言って思い切りアクセルを踏んでギアをチェンジして最高速で装甲壁へ向かう。

 

 既に他の神機使いやアラガミが交戦を始めており、リンドウさんが腕から神機のような得物を取り出して射撃を開始する。

 

 アラガミを躱しつつ装甲壁の外へ出るとまだウジャウジャと道を塞ぐようにアラガミが跋扈し、リンドウさんがボンネットの上に立って得物を構える。

 

「まっすぐ進め! 邪魔な奴は斬り倒す!」

 

 リンドウさんの言う通り、ハンドルは斬らずにアクセルを踏み込み、更にスピードを上げていき、襲い来るアラガミはリンドウさんが斬り飛ばす。

 返り血で車両を汚しながら突き進み、途中でリンドウさんはボンネットから地面を降り立った。

 

 直後に通信が入り、ジャックが応答する。

 

『俺はここでアリサたちを送ったら防衛に回る! 全員、必ず生きて帰ってこい!』

 

「「了解!」」

 

 ジャックと共に答え、そのまま更にスピードを上げていく。

 

 

 

 *

 

 途中でアナグラから通信が入り、応答する。

 

『2人共、聞こえる?』

 

 サクヤさんの声が聞こえ、応答する。

 

『2人共、目標地点までアラガミの少ないルートを案内するわ。多少遠回りになるけど、ソーマ達は射撃で応戦できるから早いルートを進ませる。目標地点を挟むようにするわ』

 

 

「じゃあ、俺達はとにかく急いで到着して連中の気を引かせている間にソーマたちに背後を突いて貰う作戦ってことですね」

 

『ええ、相手が未知数だからどこまで通用するのかは分からないけど……作戦に囚われず、臨機応変の対応も必要だから注意するようにして。3人も今アナグラを出たわ』

 

 

 コウタ達も出発したか。

 

「ジャック、ロシア支部から発った航空機は後どれくらいかかる?」

 

「機体の詳細は分からんが10時間前後じゃねえか?」

 

「なら、機関を最新式で色々魔改造したと仮定して到着まで後7時間とするか」

 

「お前いつもこっち側が不利になる事を前提に考えてるよな」

 

「実際に肝心な時に事が上手く運んだことがあるか? 俺は無いな」

 

「言われて見ればそうだな。ハンデ背負うのはいつもこっち側だ」

 

「だろ? そんな訳で更にスピード上げるぞ」

 

 同意を得て更にアクセルを踏み込んで悪路を突き進み、車両が跳ねるのを無視してハンドルを切る。

 

 

「あ、サクヤさんからだ。……此処左に回ってけってさ」

 

「了解だ」

 

 ジャックの指示に従ってハンドルを切って車を進ませて行き、目的地は段々近くなる。

 神機の最終調整をしながらジャックが話しかけてきた。

 

「まったく、面倒な男だ。悪知恵だけは一丁前とはこの事か」

 

「お偉いさんなんざ皆そうだろ?」

 

「元々、理事の野郎は極東支部を駒にするのが目的で今回の件に発展したんだ。思ったより榊博士が曲者で面倒くさくなったからせめてと思って神薙隊長に手を出したんだろう」

 

「理事の通信相手といい碌な奴いねえじゃねえか。そんなんだから本部なんざ信用できねぇんだよ。」

 

 ジャックと会話しながら運転していると、端末に連絡が入り手に取ろうとすると代わりにジャックが手に取って応答した。

 

 

 

『ジャクソン君、ユウ君! 急いでくれ!』

 

 榊博士が珍しく焦った声をして叫び、俺とジャックは突然の音量に顔を顰める。

 

 

『博士?何かあったんですか?』

 

 端末からコウタの声が聞こえた。あいつらとも回線が繋がっているようだ。

 

『とにかく急いでほしい。ユウナ君の反応を感知出来たが、バイタルを始めとしたパラメーターが狂い始めている。特に偏食因子の乱れが強いんだ!』

 

『博士、それってどういう事ですか!? リーダーに何が……』

 

 アリサが叫び、再びジャックと共に顔を顰める。

 ジャックに音量下げろとジェスチャーし、頷きながらジャックが端末を操作する。

 

 

『偏食因子の乱れとは本来あってはならない事だ。確かに禁忌種のパルスは神機使いの偏食因子やオラクル細胞に影響するが、ユウナ君は他の神機使いと違って偏食因子、オラクル細胞は共に安定をしており多少の偏喰場程度ならそう易々と乱れる事はない。それが乱れたと言う事は……ユウナ君の身に危険が迫っている可能性がある』

 

 

 博士の焦り様からも、とりあえずヤバいと言う事だけは分かった。

 

 

 

 急ぎたいのは山々だが……どうやらそう上手く行かないのが世の常だ。

 

 

 

 

「既に戦いは始まってるってか? ユウ、感づいてるな?」

 

『そちらで何かあったんですか?!』

 

 ジャックから端末を奪って口を開く。

 

「こっちは早速歓迎会だ。そっちも用心しろよ。切るぞ」

 

 端末の電源を落として懐にしまい、気配を探る。

 ジャックが神機を構え、俺もいつでも動けるように準備する。

 話に耽っている間に、既に目的地へ入っている。当然奴さんらは既に動いている。

 隠せていない殺気を全身で感じる。喰い殺す気満々なようで何よりだ。こちらも遠慮なく返り討ちにできると言うものだ。

 

 

 直後、後ろから何かが空を切りながら追ってきてすぐ真後ろまで迫ったところでジャックと共に高く跳んで車両から離脱した。

 

 車両が何かで貫かれ、爆発を起こして燃え盛る炎が辺りを照らす。

 

 着地して煙の昇る方を見ると、煙の中からチャージスピアを携え、フードを深く被り上質な布で体を覆った神機使いが姿を現した。

 

「物騒な歓迎だなおい、しかも……3人か」

 

 ジャックの言葉と共に背後には顔を隠した2人の神機使いが降り立った。

 2人はショートブレードを構えてこちらへ殺気を向ける。

 

「さて、2対3か。不利な状況、どうする軍師殿?」

 

 ジャックに質問すれば予測通りの答えが返ってきた。

 

 

「2手に別れれば良くね?」

 

 まあ、かつては硫黄香る島にて5人同時に相手取ったこともある。3人ぐらい捌けねえと上官にどやされちまう。

 

「最悪1対3になったらどうするんだ?」

 

「ガン逃げで遅延しまくって片方が神薙隊長を救出した後にとんずらだ」

 

「ま、3人ぐらいなら……。真人間の頃は硫黄臭ぇ中5人同時に相手取ったこともある。こういうパターンは慣れっこだな」

 

「心強い事で。確かに、たかが人間3人程度……空で性悪女(ヘルキャット)4匹に追いかけ回されるよりは遥かにマシだな――硫黄……?」

 

性悪女……空……? こいつ、まさか……。

 

 

「「おい、まさかお前――」」

 

 互いに台詞が被り、互いに全く同じタイミングで黙る。

 

「「…………………」」

 

 沈黙の後、俺とジャックは互いに異なる方向を向いた。

 そしてスタングレネードを手に持ち、安全ピンを外す。

 

「「せいぜい気をつけろ」」

 

 互いに異なる方向へ駆け、スタングレネードを後ろへ放り投げてそのまま飛ぶように走る。

 

 ジャックが凶悪な笑みを浮かべていたが、それは俺も同じだろう。

 戦友達よ、『海軍とは馬が合わん』って言ってたが、存外そうでもなさそうだぜ?      現に今は肩を並べて仲良く戦ってらぁ……!

 

 背後で炸裂音と光を感じ、出来るだけジャックと距離を離そうと走るが、駆けだして少しすればスピア使いが宙を舞いながら正面へ回り込んできた。

 ショート使い2人の気配は遠くに感じるので、ジャックの方へ行ったか。

 

 丸腰に1人、武器持ちに2人、理に適っていると言えばそうだが……1人で俺を止める気でいるのは些か舐められているようだ。

 

 チャージスピア使いはフードと布を脱ぎ捨てて得物を構える。

 スピアの先端が展開して更に尖り、力を溜めるような構えから突撃を仕掛けてくる。

 

「ッ!」

 

 体を少し逸らして回避するが、奴は即座にバク転しつつこちらへ距離を詰めて槍を振るう。

 空中から薙ぐように振られた得物を下がりつつ回避して次の攻撃――突きを誘うが奴は着地から一気に接近し勢いよく槍を振り回してこちらの動きをけん制しつつ絶妙な体捌きで適切な距離で攻めてくる。

 

 舞うようにスピアを振り、隙を探すが攻勢に出るには高いリスクを背負う事になる。

 

 だからこそジャックから貰ったピストルの出番だろうが、衣服そのものが防弾であるなら意味はない。こちらの手を晒すだけになるので狙うなら布に守られていない急所だが……確実に当てるにはそれこそ十分な隙を突く必要がある。

 

 懐のピストルに手を掛け、何か仕掛けると警戒させつつ一方的な連続攻撃を往なすが急に攻撃のリズムを変えて素早くスピアを振る。

 途中で突きを繰り出してきたが、こちらが突きを蹴りで弾こうと身構えた瞬間に突きを中断し、軽快な足裁きで間合いを詰めて石突に相当する部分で殴りかかってきた。

 

 咄嗟に首を逸らし、やり過ごして反撃の突き蹴りを放つが穂で防ぎつつ距離を取られた。

 

「中々やるな」

 

 接近しつつ相手がスピアを振りかぶった瞬間を狙ってナイフを投擲してそのまま距離を詰めるが、ナイフを腕で受け止めて血を流したままスピアが横薙ぎされ、咄嗟に跳んで敵を飛び越える。

 

 しかし着地した瞬間、一瞬で距離を詰められて穂が頭を捉える軌道で振られた。

 

「ッ……怖気ろッ!」

 

 睨み、大声と共に殺気をぶつけるとほんの一瞬だけ迷いが生まれた事で回避が間に合った。

 

 子供騙しの威圧、精々動きを鈍らせるだけか。次は通用しないだろう。

 

「ッ……!」

 

 敵は数秒表情を険しくさせた直後、今までと同じく無表情となって更に苛烈に攻撃を仕掛けてくる。

 足払いや薙ぎによる連撃にフェイントを絡めて一切の隙を晒さすことなく迫り、後退しつつ往なして懐のピストルに手を掛けた直後、今までで特に早い横薙ぎを繰り出される。

 咄嗟だが態勢を低くして躱しつつ、ピストルを取り出して銃口を頭部へ向けて発砲する。

 

 

 キィン!

 

 

「ッ⁉」

 

 片方の手で頭部を守り、その手は黒く染まり光沢を放っていた。

 体を――硬質化……!? こいつ一体――!?

 

 そしてスピアを地面へ突き刺し、そのままスピアを支点に回し蹴りを繰り出された。

 ピストルを手放し足首を両手で掴みそのまま投げ飛ばし、すぐにピストルを拾おうとする。

 

しかし、奴は投げ飛ばされた直後にスピアの穂を展開して空中から急襲突きを仕掛けてきた。

 

 渾身の突き攻撃、これを待っていた。

 

最小限の体捌きで受け流した直後に片足で神機を蹴り上げ、急な力の方向転換に態勢を崩した相手に対して一気に接近して空いた腕で肘鉄を腹部に叩き込む。

 

 怯む隙を突いてピストルの銃口をスピアを握る手へ当て引き金を引く。

 

 男はスピアを手放して撃たれた手を庇いながら下がり膝をつき、隙を晒した男へ跳び掛かり顔を掴んで後頭部を地面へ叩きつけ、更に続けて拳を蟀谷に叩き込んだ。

 

 男は意識を失ってそのまま地面へ転がり、男の体を探り隠し持っている武器を全て回収し、肩を思い切り踏みつけ得物を振るえないようにする。

 

 

 命は勘弁してやるか。

 まあ、神機無しでアラガミが跋扈するこの場所から安全圏へにげれればの話だが……それでも片腕は使えるんだ特殊部隊名乗るならこれぐらいやって貰わねえとな。

 

 

 しかし、体を黒く染めて硬質化して防御……普通の神機使いとは確かに違う。刃で鋼を斬る技量があれば話は別だが……。

 体の部位を硬質化、つまり鋼の拳や蹴りが飛んでくるとは恐ろしい事この上ないな。堅牢な防御は攻撃に転じるとはよく言ったものだ。

 

 特殊部隊たる由縁の特異能力……。ジャックの奴も本当の意味での人外を2人同時に相手取るとは流石に分が悪いか。

 救援にいくか…………奴を信じてユウナの救出に向かうか……とにかく動かないと始まらない。

 

さっさと行くとするか。

 

 




前書きの話を病み上がりにされた私は勿論困惑した。
私は今年中に何回困惑すれば良いのだろうか……。


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泣けるぜ……

リアルの都合上、軽く編集する時間すらない程多忙になる可能性が浮上してきたのでできるだけ早く完結させたい(願望)


 

 青い月明りに照らされながら道を駆けていると、突如地中から気配を幾つも感じて立ち止まって身構えた。

 

「なんだ……? まるで謀ったかのように…………」

 

 

 感じられる気配そこまで強くはない。精々小型アラガミか。

 

 

「ちっ、コクーンメイデンか」

 

 直後にコクーンメイデンが砂埃を巻き上げながら出現して瞬く間に囲まれた。

 明確な数は分からないが兎に角多い。さて、こいつらの包囲網+攻撃の雨を掻い潜らないといけない。

 

 

「ユウ、跳んでください!」

 

 アリサの声が聞こえて指示の通り大きく跳び、先程まで立っていた場所にオラクル弾が着弾すると膨張し始め、そして大きな爆発を起こした。

 

 砂埃はコクーンメイデンが出現したときよりも大きく巻き上がりそのまま砂埃を避けて着地すると建物の屋上からアリサが降りてきた。

 

「済まない。助かった」

 

「いえ、合流出来て良かったです」

 

「1人か? ソーマとコウタは……」

 

「到着早々で突然アラガミが地中から湧いて出て囲まれてしまって……。私が囮になってソーマとコウタはリーダーの捜索にあたってもらったんです」

 

「妙だな、アラガミの反応ならアナグラで感知できなかったのか?」

 

「全員の通信機が不調を起こして繋がらないんです。コクーンメイデンが多数発生しているか、そもそも敵の罠だと言う可能性も……。」

 

 アリサの言葉を疑うわけでは無いが、俺も試しに通信機を取り出して操作するが全く繋がらない。

 コクーンメイデンなら気配を察知すればと思い、集中するも小型アラガミの気配は全くしない。

 

「罠だと考えた方が良いだろう。原因がコクーンメイデンだとしても、敵の偶然は必然。いっそのこと常にジャミングで通信を絶たれた状況だと仮定して動いた方が得策だな」

 

 とにかくこちらもユウナを探さなければ……。もしジャックと合流出来ればそのまま奴と戦っている2人と交戦に入る事もできる。こちらにはアリサも居るし、幾分か有利か。

 

 歩き出した瞬間、何かが空気を切る音が聞こえて咄嗟にアリサを抱えて跳び退く。

 

 俺とアリサの真下を刃物が何本か通り過ぎて地面へ落ちた。

 

「ナイフ……⁉ それじゃあ――」

 

「ガルー5と連絡が取れなくなったが、お前がやったのか?」

 

 

 アリサの声を遮るように低い声が聞こえる。

 声のする方向を見ると、薄暗い暗い路地から顔を隠した男が姿を現した。

 

 手に持っているのは先程見覚えのあるショートブレード、こいつ1人か?

 おいおい……ズッコケジャックめ、まさかくたばった訳じゃねえだろうな……。

 

「あなたが理事の護衛……リーダーは何処に居るのか答えてもらいますよ!」

 

 

「すぐに会わせてやる、アリサ・イリ―ニチナ・アミエーラ。主からの命令なのでな。だが無名の雑兵、貴様はここで死ぬ」

 

 男が俺を指差し宣言、それに対し俺も男に中指を立てた。

 

「開口一番で雑兵呼ばわりとは恐れ入った。相手してやる」

 

 間違っちゃいないが、そこらの雑兵だと舐めてかかってると痛い目見る事を教えてやらねえといけないなこれは。

 しかし、アリサは連れていく……人質にするつもりか……。女子供を盾にするとは相変わらずみっともない真似しやがる。

 

「私を連れて行ってどうするんですか?人質ですか?」

 

 アリサも俺と考えは一緒らしい。声に呆れが含まれており、それには俺も激しく同意できる。

 

「主は麗しい女性に目が無い。気に入った女は囲わなければ気が済まない質だ」

 

「ナッ⁉」

 

「うわぁ、キッモ絶対頭沸いてるゾ」

 

 男である俺でさえ悪寒が走ったぞ今の。当のアリサ本人に精神的ダメージを与えられる前に何とかしなければいけない。

 

「行こうぜアリサ、正真正銘のキチガイだ。あのデブの護衛って時点でこいつも碌な奴じゃねえよ」

 

「貴様、私と主を愚弄するかァ⁉」

 

 

 うお、いきなりキレた!やっぱやべー奴じゃん。

 

 男が怒りに身を任せて突然斬り掛かり、アリサを抱えて跳び退く。

 

「うぅ……」

 

 アリサが口を押えて必死に堪えている。まずい、よもや精神へ攻撃してくるとは予想外だ。

 

「アリサ、無理す――ッ!?」

 

 いきなりオウガテイルが地中より湧いて出てきたのを見て構える。

 アリサも吐き気を押し殺して神機を構えると、オウガテイルの群れの中を先程の男がゆっくり歩いて来る。

 オウガテイルは男に関心を示さず、そのまま道を空ける。

 

「どうして、アラガミが……!」

 

「連中、妙な能力を持っているんだ。これが奴の能力だな」

 

「特異能力の存在を知っている……ガルー5め、能力を行使したのにも関わらず敗北したのか……無能め」

 

 男が俺を指差した直後に指先からオラクルのレーザーが飛び、咄嗟に上体を横へ逸らして回避する。

 

 能力を2つも……ああ、めんどくせえ奴だ、厄介極まりない。

 ジャック……マジでやられちまったのか……?

 

 

「逃がさん。ハァッ!」

 

 

 男が空に手を掲げると5本の指からレーザーが飛び、空高く昇ったレーザーは空中で拡散して降り注ぎ、俺とアリサはレーザーの壁で分断され、ハッとしたころには周りをレーザーで囲まれ、動きを制限される。

 

「アリサ・イリ―ニチナ・アミエーラを捕らえろ。この雑兵は私がやる」

 

 男が俺の目の前に、オウガテイルはアリサへ。

 

「アリサ、何分持つ?」

 

「何分でも持ちますよ。ただ……リーダーが心配です」

 

「じゃあできるだけ早めに片付ける」

 

 アリサにそう言って、男と向き合って中指を立てつつ身構える。

 

「貴様、嘲るのも大概にしろ!」

 

 神機を片手に振りかぶり、迫る攻撃を紙一重で躱し後退しながらやり過ごすが、既に後ろはレーザーの壁。これ以上は下がれない。

 

 男の攻撃を受け流してそのまま背後へ回り込んで、肘鉄を打つが神機を持つ腕で防がれて眼前に奴の指が現れ、咄嗟に首を曲げて撃ちだされたレーザーを回避。

 

 片手で相手の手を払い除け、もう片方の手でナイフを取り出して刺しにかかるが男は空中へ跳んで距離を取った。

 

 

 

 あいつ、息が上がっているな……。

 このレーザーの囲みを持続させるのに、それなりの消耗があるようだ。なら、このまま遅延行為――だが時間がない故、早急に黙らせる必要がある。

 

 一気に距離を詰めると奴は牽制の斬撃を繰り出すが、ショートブレード程度の得物との戦闘方法は会得している。どうとでも対応できよう。実際にレーザーに囲まれて動きを制限されている中でも容易く戦えている。

 

 斬撃をやり過ごして踏み込み、腹部に掌底を叩き込むと男は吹き飛び、その体はレーザーに触れるが男の体はレーザーをすり抜けたかのようにものともしない。

 

 何だ? 見せかけか?

 

 バレットで言う装飾弾か?

 

 ナイフを一本、レーザーへ放り投げるとレーザーは砕けちって破片が散らばる。

 

 本人には当たらないと……どういう理屈か不明だが……まあ、敵が有利なのはいつもの事だ。気にする必要もないか。

 

「死ね」

 

 男がこちらへ指を向けて再びレーザーを照射してくる。足を執拗に狙ってくるので軽快な動きをしつつ、相手の指の動きをよく見ながら回避する。

 

 そして軽く跳ぶと同時にピストルを取り出して発砲する。

 男は咄嗟に神機の刀身を盾に防ぎ、レーザーの照射が止まりその間に一気に距離を詰めつつ引き金を引いてレーザーを使わせなぬようにする。

 

 至近距離へ入り、拳を打つ。

 拳は男の頬を捕らえ、殴り飛ばすが追撃を仕掛けようにもレーザーが邪魔で近づくのに時間がかかるせいで躱しながら近づく間に態勢を整えられる。

 

 男が受け身を取ってそのまま接近し、神機を振るがその攻撃を受け流して回り込むが素早い振り向きと共に刃が振られ、反撃の機会を掴めずに回避に専念させられる。

 

「ッ!」

 

 神機による乱舞を往なし続けるが反撃の糸口が見つからない。いっそのこと足の重りを外して一気に攻めるか、だがこれは最終手段だ。

 

 まだ人狼部隊はこいつを倒しても3人……奴らの中に高い索敵能力を持つ奴がいる可能性も考慮すれば、この戦闘も見られているだろう。当然対策も考えてくるはずだ。

 

 

 さて、どう崩すか……!

 

「鬱陶しい虫め、死ねぇ!」

 

 中々攻撃が当たらずイラついたのか大振りな攻撃を仕掛けられ、それをやり過ごして肩先でタックルを決めて相手を突き飛ばす。

 

 冷静なのか……頭に血が上りやすいのかどっちだこの男、忙しない奴だ。

 

 

 

『GAAAAAAッ!』

 

 

 隣でオウガテイル叫び声が聞こえ、振り向くとオウガテイルが突然倒れ始めていき、皆霧散していった。

 

 

「ガルー3……あの一兵卒に敗れたと言うのか⁉」

 

 

 ガルー3……アラガミが消えたと言う事はアラガミを操る能力はこいつではなく、そのガルー3の能力、こいつの能力は手からレーザー放つ能力か。

 

どちらにしろ今がチャンスだ。

 

 

「アリサ、頼む!」

 

「了解です!」

 

 アリサが神機を銃形態へ切り替えてレーザーの合間を縫ってオラクル弾を撃ちだし、それは男の足元に着弾して膨張を始め、男は慌てて飛び退く。

 

 爆発を起こして土煙を巻き上げる中、男の居るであろう場所へ一気に向かい、拳を握る。

 

 砂埃を脱出すると目の前の、男は目を見開いて俺を見ていた。

 

 

「お前さ、ヴァジュラとお前のさ、子供が出来たらどうするよ?え?ヴァジュ山ヴァジュ太郎の誕生か?」

 

「は――」

 

 拳を男の顔面に叩き込んでそのまま殴り飛ばすと、囲むレーザーは全て消え失せた。

 

 

「あの、最後の何ですか?」

 

 アリサがドン引きするような顔で聞いたきたので俺は当然だと言わんばかりにこう答えた。

 

「いや、おしゃべりな奴だったから俺も対抗しようと思ってな」

 

「だからって意味不明すぎます。ドン引きです」

 

「泣けるぜ……」

 

 呆れるアリサを尻目に倒れる男へ近寄って、男の両肩に足を振り下ろして肩を破壊して神機の使用、能力の行使をできないようにする。

 

 命までは奪わんさ。せいぜいアラガミだらけの危険地帯から逃げれるように祈るふりでもしておくか。

 

 アリサが複雑そうな顔をしているが、俺はアリサの目を見てはっきり言う。

 

「…………同情はいらねえぞ。こちらに明確な殺意持って襲い掛かってきた以上、こいつらは紛れもない敵だ。特殊部隊名乗るなら神機と能力使わずに生還してみろやって話しだ。極論になるが……こいつの命とユウナの身、どっちが大事だ?」

 

 アリサに「さっさと行くぞ」とだけ言って走り出すとアリサも後を追って走り出した。

 ジャックやコウタ、ソーマと合流するために気配を頼りに、薄明るい空の下を駆ける。

 

 

 




最近特に異常はないのに寝汗が酷い。

あ、お前さ、体温調節機能さ、洗濯だってタダじゃねえからガバッて余計な事すんじゃねえよお前よオォん⁉


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これ以上、好き勝手させてなるものか……!

運転免許学科試験にて

夜の道路は危険なので気をつけて運転しなければならない。

答え:×


理由:昼夜問わず気をつけて運転しなければならないから


紛らわしすぎる。
最後に『朝や昼は安全なので気をつけなくてもよい』とか付け足すべきなのでは……?

なんで運転免許取る為に問題考えた奴と心理戦せにゃならんのだ……?


「さっき、ガルー3と言ってましたけど誰かがその人を倒したってことですよね?」

 

 隣を走るアリサが唐突に聞いてきたので事の経緯を説明することにした。

 

「当初はジャックと行動してたんだが、ガルー5とあのレーザ-野郎にガルー3かは知らんが敵3人と接触してな、ジャックと別れて行動したんだがガルー5が1人で俺と交戦。てっきりジャックの方に2人が行ったと思っていたんだが……」

 

「それじゃあ、ジャクソンが……」

 

「恐らく、レーザー野郎の言葉から察するにだがな。まあ、ジャックも相当の手練れだからな。あれぐらいやって貰わないと困る」

 

「後残る護衛は2人――ん、アナグラから通信……」

 

 アリサの通信機に連絡が入り、端末からサクヤさんの声が聞こえてきた。

 

『アリサ、無事⁉』

 

「はい、ユウも一緒に居るので問題ありません」

 

『ユウも一緒なの? 良かった、ユウのビーコン反応が消失したらジャクソンに連絡しても繋がらないし、あなた達とも急に連絡が取れなくなって……』

 

 また俺の反応消えたの? マジでこの腕輪不良品なんじゃねえのか?

 

「アリサ、榊博士に聞きたい事がある」

 

 人狼部隊(ルー・ガルー)の特異能力、恐らく何らかの研究が関わっているのは間違いない。

 榊博士なら何か知っているかもしれん。

 

 アリサが博士に繋いで通信機を貸してくれた。

 

「博士、聞こえますか?」

 

『ああ、アリサ君からある程度窺っているが……。ふむ、『アーサソール』と言う部隊は知っているかい?』

 

「なんすかそれ」

 

『表向きは接触禁忌種の討伐を専門とした部隊だよ』

 

 そういえば、偵察班の同僚がそんな事を言っていたような……。都市伝説って馬鹿にされてたが実在したのか……。

 

「その禁忌種討伐部隊がどう関係あるんです?」

 

『アーサソールはオラクル細胞を用いた技術による、人間の精神面への干渉技術確立のための……所謂モルモット部隊だ。人間の精神に干渉する強い捕喰場を持った接触禁忌種を討伐させることでデータを収集していんだ』

 

「じゃあ、その実験が成功した結果が……」

 

『研究成果やサンプルは全て失われた筈だが、何らかの形で研究データが残っていたんだろう。それをもとに遂に完成、更に応用したのだろう。偏食場とはアラガミが放つ偏食因子やオラクル細胞を不安定にさせるパルスだ。これを利用して体内の偏食因子やオラクル細胞に手を加えたと言うのが私の見解だ』

 

 実際に連中の気配を探れば、質は他の神機使いは勿論ユウナやソーマとも異なっている。その原因が偏食場だとすればまあ、合点がいくか。

 確かに肉体の硬化は様々なアラガミが活性化した際に行う事があるし、あのレーザーもサリエル種のものを縮小したような規模だが、追尾性は実際にサリエルのレーザーを彷彿とさせる。

 アラガミを操る能力も上位種が下位種を率いるのと同じだろう。

 

 

『博士、ユウナの反応を感知出来たわ! でも、これって……』

 

『これは……サクヤ君、ジャクソン君やソーマたちにも繋いでくれ』

 

 

 博士の言葉に焦りが見え、通信が繋がったとサクヤさんの声が聞こえる。

 

 

『全員、とにかく急いでほしい。ユウナ君の反応を感知出来たが、先程から目標エリアの近辺で移動を繰り返しているようなんだ。ただ、バイタルを始めとしたパラメーターが狂い始めている。特に偏食因子の乱れが強い。とにかく急いでくれ!』

 

「博士、それってどういう事ですか!? ユウナに何が……」

 

『偏食因子の乱れとは本来あってはならない事だ。確かに禁忌種のパルスは神機使いの偏食因子やオラクル細胞に影響するが、ユウナ君は他の神機使いと違って偏食因子、オラクル細胞共に安定をしておりそう易々と乱れる事はない。それが今乱れたと言う事はユウナ君の身に危険が迫っていると言うことだ』

 

『それに移動をしていると言う事は、何とか逃げ出せたようだが神機もない状態では危険だ』

 

「リーダー……!」

 

 端末にユウナの場所が示され、俺とアリサはその場所へ向かう。

 

 

 

 示された場所へ向かい、ユウナの捜索を始めるが彼女の気配が察知できない。気配を感知できない=それ程までに弱っているのが分かる。

 

 ジャック達も近くにいるようだが、合流した方が良いか?

 だが手分けして探した方が効率も良い――ッ!

 

「ユウ」

 

「分かっている。そりゃ奴さんも血眼でユウナを探すだろう。こうして鉢合う可能性も十分にある」

 

 アリサが構え、俺もナイフと拳銃に手を掛けて同じ方向を睨む。

 そこには今までの刺客と同様、顔を隠した男が1人立っていた。

 

 

 男が手を構えた直後凄まじいスピードで跳び掛かってきた。

 

 こちらも跳び掛かり、奴の攻撃を己の腕で防いだ直後に男を蹴り落とす。

 男は軽い身のこなしで態勢を整え、その手にはスタングレネードが握られていた。

 

「ユウ!」

 

 アリサの叫び声と共に奴は地面へ叩きつけ、焦って腕で顔を覆う。

 炸裂音と光を感じながら後ろへ跳び、気配を注意深く探るが全く感じ取れない。

 

 目を開ければそこに既に男の姿は無く、アリサも周囲を見渡して警戒し、こちらも気配を探るが感知できない。

 

 

 俺達の始末よりもユウナの捜索を優先したか……。

 

 

 先を越されまいと捜索を再開しようと走り出したとき、遠くで銃声が鳴り音のした方向を向くと火属性のオラクル弾が空へ打ちあがっていた。

 奴らの罠か、あるいはコウタが……。

 だがコウタの物だとしたら奴らも気づく筈……俺達の到着が早い事に賭けたか……なら、やる事は1つ。

 

「アリサ、しっかり掴まってろ」

 

「え」

 

困惑するアリサを担いで思いっきり地面を踏み、飛ぶように駆ける。

 

「ちょ、ちょっとユウ⁉ 貴方はいつも……!」

 

「舌噛むぞ。俺は移動に専念する。周囲の警戒をしてくれ」

 

「ああもう‼ 分かりましたよ!」

 

 ヤケになった言葉を最後にアリサは黙り、徐々にオラクル弾が見えた地点に近くなってきた。

 

 人が4人の気配……これはユウナか……だがうち1つは歪な気配だ。恐らく人狼か。

 徐々に気配は近くなり、思考しながら走る。

 人狼は残り2人、不測の事態に陥って救難信号かは分からんが兎に角急ぐ。

 

 

「ッ!」

 

「リーダー!」

 

 ジャックとコウタに……鎌型の神機――ヴァリアントサイズを手にした女性とその後ろには肩から胸近くまで大きな傷を負って血を流すユウナが理事に腕を引かれて倒れていた。

 

 理事の奴、なんでこんな場所に……⁉ 俺達以外にアナグラを発ったヘリや車両なんて無い筈だろう……。

 くそ、どんな絡繰りか分からんが……まずい状況なのは確かだ。

 

 ジャックを見やると胴体から血を流し、膝をついて険しい表情をしていた。

 

 

 アリサが飛び出し、俺も高く跳んで上空から奇襲を仕掛けようとするが突然体が重く感じて思うように動けず無様に地面へ落ちる。

 

 

「ぐえっ!」

 

「ああ、お前もかユウ」

 

「アリサ!」

 

「なんですか、これ……偏食場……?」

 

 アリサも含め、全員が険しい顔をしており奴らへ向き直る。

 

 ヴァリアントサイズを構えた女は凶悪な笑みを浮かべて俺とアリサを見る。

 

 

「ハハッ、また馬鹿が来た。理事、こいつらどうします?」

 

「久しいねアミエーラ君。最も君は私の顔を見たのは初めてだろうが」

 

 理事がアリサへ気持ち悪い笑みを浮かべて話しかけるが、アリサは震える体に鞭を撃って神機を構える。

 

「私は話をしに来たわけじゃありません」

 

 理事を睨みつけてやる気満々だ。やるのは構わんが……この鬱陶しい体の重さは……。

 

「おいおい、この体が重いのは何だ? テメェもらしくねえ怪我してるな、ズッコケジャック」

 

「あの女の能力だろうよ。最初負傷したユウナを発見して運ぼうとした矢先にこの様だ」

 

「ちっ……お前もユウナも……その傷、放って置けば命に触るぞ」

 

「おい、もう1人来るぞ……?」

 

 何とかしなければと構えるが、そうしている間にコウタの言葉にハッとした時、理事の隣へ先程姿を晦ませた男が降り立った。その背には翼が生えており、それが奴の能力だと確信する。

 

 状況は最悪……。全く、なんでいつもハンデ背負った状態で戦らねえといけねぇんだろうな……!

 

 

「やる気十分……。さて、早速で申し訳ないが……ここではアミエーラ君以外には死んでもらわなといけない」

 

 

 理事は俺とジャックとコウタを指差し嘲笑う。

 

「ソーマ君はある研究班から是非実験に付き合ってもらいたいらしくてね……ただし、モルモットとして。そして、アリサ君は……ユウナ君共々調教して儂のものになって貰おうか」

 

 気持ち悪い笑みを浮かべてアリサを見る理事。

 

「正直、君たちが此処まで来て護衛を3人も倒すとは驚きだよ……。それも、そこの一兵卒2人にねぇ! 全く腹立たしい!何のために能力を与えてやった⁉ 何のために特殊部隊の名を与え優遇したと思っている⁉」

 

 理事は突然怒りだし、隣の男を殴りつける。しかし男は何事もなかったように立っている。

 

「さて、ユウナ君。君も神機使いならその傷ぐらいすぐに塞がるだろう」

 

 理事はユウナへ近づき、体を触って姿をその肥えた体で覆うようにこちらから見えないように背を向け、何かを引き千切るような素振りをすると理事の横に女性用の下着が落ちた。

 

 正気か、このジジイ……⁉ あいつは怪我人だぞ……‼ 放って置けば命に触る怪我を負っている状態で暴行を加えられたら……。

 

「ッ…………!」

 

 

 声にならない悔しさを帯びた息が聞こえ、その瞬間にアリアが飛び出した。

 

「リーダーから離れて!」

 

 アリサが叫び、神機を振りかぶると今まで静かに佇んでいた男が動いた。

 男の背中から翼が飛び出し、それは刃物のように鋭く尖りそのままアリサへ向かうが咄嗟に装甲を展開して防ぐ。

 

「そう急くな、アリサ君。君も疲れているだろう?」

 

「仕方ないですよ理事。ガルー3が呼び出した大量のアラガミを私の効果範囲内で全滅させるほどの奮闘をしたのですから……疲れが出て当然ですよ」

 

 女が俺達の前に立ちふさがり、神機を地面へ突き刺す。

 

「それじゃ、本格的に鈍くなって貰おうかしら」

 

 女がそういって自分の肩を覆う布をはぎ取る。

 布で覆われていた箇所は歪だった。

 

 オラクルに侵食された肩にアラガミのコアがめり込んでおり、コアが急に光り始めると今まで体に感じていた重さが急に大きくなり、膝をつく。

 

「ク……!」

 

「う、重……!」

 

「動けねェ……くそ……!」

 

 全員が膝をその場に膝をついて息を荒くして何とか立とうとするも、立ち上がる事すらままならない。

 

「禁忌種と同等、いやそれ以上のパルスか……!」

 

 ジャックの言葉でこの女の能力はこちらのオラクルや偏食因子への干渉だと気づくが、既に気づいても遅い状況……あの女に近いジャックが押さえつけられたように険しい表情を浮かべて耐えている様子から察するに、あの女に近い程この能力は強く作用するか……。

 

「さて……アリサ君をこちらへ」

 

 理事の言葉に女は頷き、アリサへ近づくと神機を蹴り飛ばしてそのままアリサの引きずって理事の元まで連れていかれる。

 

「やめ……て、アリサは……関係ない……!」

 

 睨みつけるユウナの首を乱暴に掴みながら、理事は笑いながら言う。

 

「関係ない?いや、儂に目をつけられた時点で関係なくないのさ。君たちを孕ませた次は……そういえば受付の子も興味をそそる顔立ちだったか、ハハハハハ!」

 

 アリサの服も乱暴に掴んで理事は服を剥ごうとする。

 

「何、君たちも羞恥を感じるだろう。残りの3人に君たちの肌を見る権利など無い。ガルー1、ガルー2……殺せ」

 

「了解」

 

 ガルー2と呼ばれた女が答えジャックの首にヴァリアントサイズの刃を宛がい、ガルー1と呼ばれた男はコウタの前に立つ。

 背中から生える翼は槍のように変形してコウタと俺の脳天を狙う。

 

「や、やめてェ!」

 

 アリサの悲鳴が響き、それを聞いた理事は憎たらしい笑みを浮かべる。

 

「アリサ君、悲しむ必要はない。すぐに心地よい気分になる。安心すると良い。ガルー1、ガルー2、やれ!」

 

 ガルー1の翼はそれぞれ狙いをつけ、ガルー2はジャックに神機を振りかぶった。

 

 くそ、動け‼

 

 また戦友を失うなど冗談じゃない。これ以上、好き勝手させてなるものか……!

 何のために神機使いになった? 何のために化け物の細胞を体に取り入れた?

 何のために見切りの極致へ至った?

 

 鬼になる覚悟なんてとっくにできてる筈だろうが……! 

 

 

「後悔して死ぬが良い。一般神機使いの諸君!」

 

 理事が高らかに笑い、ユウナとアリサの表情は悲しみに支配され声が出せず涙を流し、2人共目を背けた。

 

 

 




試験とは……出題者との心理戦です。


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ぶち〇すぞテメェ!

今回は少し長くなってしまいました。
長文だと何処で区切るべきか本当に悩みます。即決できる人が羨ましい。


 

「後悔して死ぬが良い。一般神機使いの諸君!」

 

 理事が高らかに笑い、ユウナとアリサの表情は悲しみに支配され声が出せず涙を流し、2人共目を背けている。

 

 

 

「死ぬかボケェ!」       

 

「ふざけんな!」       

 

「舐めるなァ!」

 

 

 否定の叫びと共にコウタとジャックも叫び、迫る死を回避して俺はガルー1に拳を叩き込み、ジャックはヴァリアントサイズを弾き返し、コウタは理事へ向かって引き金を引いた。

 

 

「ひっ……!」

 

 オラクル弾は理事を横切り、ジャックが神機を捕食形態に変形させて捕食口をユウナとアリサへ向ける。

 

「超広範囲式・ミズチィ!」

 

 三つ首の大蛇の如き巨大な捕喰口を飛ばし、ユウナとアリサを咥えて引き寄せて2人を取り返す。

 

「好き勝手させるかァ!死ねェ!」

 

 ガルー2がヴァリアントサイズを振りかぶってジャックへ斬りかかろうとし、ジャックは引き寄せた2人を守るように身を挺し、避けられぬ攻撃を正面から見据える。

 

 

 そこへ、ソーマが白い神機を携えて飛び出した。

 

 

「させん!」

 

 ソーマが2人の間に割って入ってガルー2を弾き飛ばす。

 

「おや……ソーマ君、随分成長したね。……その目つき、ヨハネスによく似ているよ」

 

「御託はいい。貴様が親父の名を口にするな」

 

 ソーマは理事へ神機を突きつけて睨む。

 

 こっちに流れが来たか。なら今できる事は――

 

 近くにアリサの神機が落ちており、アリサへ蹴って飛ばす。

 地面を転がる神機を拾い上げてアリサも構え直す。

 

「一転攻勢ってか? さて、たっぷりと礼をしてやるよ」

 

 ジャックが神機を構えるが、そんな奴の前に立って俺は構えて口を開く。

 

「アホ抜かせ! そんな傷じゃ無茶だ!お前もさっさと下がれ!」

 

「此処は俺が残る。行け」

 

 ソーマが前に出てきて神機を構える。

 

「コウタ、アリサ! ユウナを連れて行け!」

 

「ついでにジャックもだ! こっちも片付いたら後を追う。早く行け!」

 

 

「分かりました! すぐに応援を呼びます!」

 

「お前らも無茶するなよ!」

 

 

 3人はユウナと共にこの場を去って行き、ソーマと俺はガルー1とガルー2、そして怒りに体を震わせる理事を睨んで身構えた。

 

 

 

「そいつらを始末して奪い返せ! この際、シックザールは殺しても構わん!」

 

 怒る理事が2人へ命令を出し、ガルー1は翼を刃に変えた。ガルー2は神機を構えソーマを睨みつける。

 

 

「ソーマ、女だからって惑わされんなよ」

 

「お前こそ、足元掬われるなよ」

 

「気を付けるも何も、アンタ等死ぬんだから関係ねえだろぉ⁉」

 

「ガルー1、ガルー2! やれェ! 死に晒せ屑共がァ!」

 

 理事の罵声と共にガルー2がソーマに斬りかかり、ガルー1もこちらへ向かってくる。

 

 

「口の利き方に気をつけろ若造」

 

 声にドスを効かせ、構える。

 

 ガルー1が刃を振り、紙一重で回避して打撃を打ち込もうとする。

 即座に刃は分厚い盾に形状を変えてガルー1を守り、攻撃を中止して今度は盾で守られていない側面へ回り込んで蹴りを入れようとするも翼はそのまま盾の形状のままドーム状となってガルー1を囲んでこちらから手出しできないように防御を固めた。

 

 数歩下がると即座に形状は変化して先端が刃の鞭になって迫り、屈んで刃を躱すも今度は叩きつけが襲い掛かり、大きく飛び退いて危機を脱する。

 

「くっ……あの女の能力か……」

 

 ガルー2の能力はまだ発動しているらしく、どんどん体が重くなっていく。

 さっきのは所謂火事場の馬鹿力で無理やり動けたが、限界を超えて力を発揮した体には疲労が色濃く残る。それはジャックとコウタも同じはずだ。

 俺が先にバテてちゃ顔向けできない。

 

 翼は更に形状を変えて刃付きの鞭が3本に増えてあらゆる方向から襲い掛かり距離を取りつつ躱し続けるが、消耗した状態で長期戦は下策だ。何とか突破口を……!

 

 

「ッ!」

 

 ナイフを一本理事へ向かって投擲し、鞭の合間を縫って跳ぶナイフは理事の足へ突き刺さった。

 

「ギャァアアアッ!?あああああああ!」

 

 理事の叫び声に2人が反応した。

 

 

「そこだッ‼」

 

 ソーマが発した言葉と共に、その隙を突いて距離を詰めて浴びせ蹴りを叩き込んでガルー1を吹き飛ばし、ソーマの方からも金属音が響いてガルー2が地面を転がる。

 

「く、クソ! この無能共がァ! いいか⁉ 儂は先に行く。そいつらを殺して神薙とアミエーラを連れてこい!分かったか‼」

 

 理事はそう言って足を引きずりながらからこの場を離れ、追いかけようとすると殺気を感じてその場から跳ぶ。

 

 跳んだ場所に異形の刃が振り下ろされていた。

 

 見てみればガルー2のヴァリアントサイズが展開状態になってそのまま振り回す。

 

「アァアアアアァアアッ!」

 

 

 雄たけびに耳を塞ぎながら無造作に振られる異形の刃を躱し続ける。

 

 

 

 ガルー1が翼をロングブレード並みの長さの刃に形状を変化させて迫り、先制の刃が薙がれる。

 

 咄嗟に刃を躱して距離を取る。

 

「はっ、私の能力を忘れたか⁉ 最大出力で行使してお前らを止めてガルー1が止めを刺せばすぐに終わる!」

 

「その程度の偏食場、(化け物)には通用せん」

 

 ガルー2が能力を使うもソーマはそんなもの知らぬと言わんばかりに神機を振ってガルー2は舌打ちをしてソーマの攻撃を防ぐ。

 

「ちっ、生まれついての化け物がッ!」

 

 

 

 これでガルー1と全力で戦える。ただこちらが幾分かマシな状態なったとはいえ、それでも奴の攻防一体の能力は厄介、なら攻める隙はおろか守る隙も与えなければ済む話だ。

 

 ガルー1から距離を取って両足の重りを外して、地面を蹴る準備をする。

 

「ッ!」

 

 身体が軽いなんてものじゃない。

 

 とっくに限界を迎えたつもりだったが……まだ成長途中らしい。さて、軽くウォーミングアップから始めるか……!

 

 

「参る」

 

 一言宣言して一気に地面を蹴ると瞬く間に自分でも驚くほどに距離を詰め、困惑しつつもパンチを仕掛ける。翼の防御はギリギリ追いつきそうだが、拳が翼に触れる前に寸止めして側面へ回り込むが、思いの他力加減が上手く行かない。

 

 それでも蹴りを入れるが翼は形状を変えて針を伸ばし、こちらの攻撃と奴の反撃が相打ちになると考え蹴りを中断して翼の防御が届かない箇所へ回り込む。

 

「ッ……!」

 

 ガルー1が焦った顔をするが、そのまま翼をドーム状にして全方位に対して防御した。

 

 あの翼もオラクルだとすれば、触れれば喰らい付いてくる可能性もあり、触れるのは避けたいが……一瞬のうち――オラクルに喰い付かられるよりも早く離せば行けるか……?

 ものは試しだ、仮に腕一本使えなくなったところでもう片方あれば戦える。

 

 暫く守りを固めるガルー1の周囲を何周も周り、ドーム状の壁にパンチを打ち即座に引き戻す。様々な方向や角度から打撃を浴びせるがびくともしない。

 ガルー1の周囲を高速で移動し、様子を窺うと一瞬防御を一部解除した。

 

 即座にガルー1へ体当たりを仕掛け、地面を転がるガルー1に追撃の蹴りを入れ、そのまま上空へ蹴り飛ばす。

 

 空中で態勢を整えが翼を巨大な手に変えた。地面へ手を突っ込み、手一杯の岩を握りつぶしてこちらへ投げつけてきた。

 

「はっ!」

 

 砕かれた岩の破片をそのまま足場代わりにして跳び、破片から破片へ跳び移りつつ接近して一気にガルー1の目の前に跳び、足を振り上げて踵落としを肩へ浴びせるが、肩へめり込んだ足を掴まれそのまま投げ飛ばされて地面へ叩きつけられる。

 

 

 即座に態勢を整えて身構え、追撃をギリギリで躱し反撃の拳を叩き込むとすると翼で防御される。

 

 防御をすぐに解除したかと思うと翼は5本、それぞれ長さの異なる刃付きの鞭へ変化して周囲を無差別に斬り裂くように振りまわす。

 

 ガルー1の周囲を回るように立ち回り、動きをよく見て観察する。

 

 防御に3本、攻撃に2本使っているか。

 

 周囲を移動して攻撃を誘えば、一瞬の間は鞭は3本のみ、3本なら付け入る隙はある。

 

 さっさと終わらせて理事を追わなければいけない。

 

 正面に立って攻撃を誘い、迫る2つの刃を受け流して背後へ回り込んで携帯したナイフを全て一度に投擲して即座に突っ込んで一瞬の隙を突く為に集中する。

 

 飛ばした数多のナイフを3本の刃付き鞭が迎撃する間に、今自分が出せる最高速度で側面回り込み、踏み込みと共に拳を腹部へ叩き込む。

 

 ガルー1は口から血を吐き散らかしながら吹き飛び、建物の壁に激突した。

 

 

 ヴァリアントサイズを持った女と交戦していた筈のソーマが神機を携えてこちらへ来た。

 

「手を貸すか?」

 

「頼む。そっちは?」

 

「気絶させて両足を圧し折った。念のた為神機も壊した。放って置いても問題ない」

 

「流石だな」

 

 

 壁へ叩きつけられたガルー1へ警戒しながら近づく。

 

「ガフッ……!」

 

 

 血が噴き出し、返り血を浴びる。

 

 ガルー1の懐から一枚紙が落ち、血で汚れる。

 

 弱弱しい呼吸だけが聞こえ、落ちた紙切れを拾い上げると写真だった。

 写真に付着した血を拭うとそこには映っていたモノに驚いた。

 

「写真か……?」

 

 写真に写っていた人物は灰色の髪に黄金色の瞳、忘れもしないあの子に――エレナにそっくり女性の写真だった。そしてすぐに思い出す。この写真に写っているのは、この世界へ帰る直前――生と死の狭間で出会ったエレナの母親だ。

 

 どういうことだ……。何故エレナの母親の写真をこいつが……!

 なら、あの世界は……灰域は一体……。

 

 

「頼む……返してくれ……」

 

 弱弱しい声でガルー1は震えながら手を伸ばし、俺は写真を手渡す。

 ガルー1を壁を背に座らせて、追及する。

 

「お前はこの人とどういう関係だ?」

 

 写真を指さしながら聞くと、ガルー1は口を開く。

 

 

「知ってる……のか、そうか……やはり……サラの、親戚か……?俺は、サラの……ぐっ……!」

 

 

 エレナの母、サラと言うのか……。

 

「サラが妊娠して、それを機に……結婚したんだが……あの男、理事がサラとお腹の子を人質に……」

 

 

「それが奴に従っていた理由か」

 

 ソーマが険しい表情をしており、俺も最早内心は穏やかではない。

 

 奴め……やはりとんだ外道だ。

 あいつのせいで、エレナは……。親の愛も受けれずにあの子は……。

 

「あんた、頼む……サラを……お腹の子を頼む……!俺を容易く倒せたアンタなら……」

 

 ガルー1が震える手で俺の肩を掴み、その眼に確かな力を感じる。

 

「後生だ、頼む……!約束してくれ……!今此処で……!」

 

 胴体を起こしながら歯を食いしばり、俺を見る。男の手を掴み、頷く。

 

「ッ……。分かった……。安心して眠れ」

 

「……あ、りが……とう……あんたが優しい人で……良か……っ」

 

 ガルー1は安心して事切れ、眠るようにその身を地面へ倒した。写真を手に取り、懐にしまう。

 そして理事が逃げ行った道へ歩き出すと、肩をソーマに掴まれた。

 

「待て、今はあいつらとの合流を優先するべきだ」

 

「済まん。今回ばかりは譲れない。悪いがそいつを頼む。せめて弔いたい」

 

「ちっ…………分かった、行け。だが深追いはするなよ?」

 

 

 ソーマに頷き、血の跡が続いているのを発見して跡を追って駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 血の跡は荒廃した施設の屋内へ続いており、ゆっくりと跡を辿る。

 

 

 瓦礫やモノが散乱している部屋へ着き、血痕はここで止まっている。気配を探ると瓦礫の陰に隠れているのが分かる。

 その瓦礫を蹴飛ばすと、小太りの男が腰を抜かして後退りした。

 

 

 

「き、貴様、こんな……ただで済むと思うなよ⁉ すぐに査問会にかけて極刑に処して――」

 

 理事を睨みつけるとそのまま口を止め、胸倉を掴んで写真を見せた。

 

「この人は今どこにいる? 答えろ」

 

「わ、儂を見逃すならその女に会わせてやる!だから――」

 

「俺は何処に居るかって聞いてんだよ! テメェのような下衆の手引きなんざ必要ねえよ!早く答えろ!」

 

 俺は理事の腹に拳を叩き込むと口から透明な液体を吐き、その液体が手に掛かって汚れるが気にすることなく今度は蹴りを肩へ入れる。

 苦しそうに蹲って必死に呼吸をする。

 

 息を荒くしたままこちらを睨みつけてようやく口を開いた。

 

「み、見逃してくれるなら教えてやる!言う事を聞かんかァ!」

 

「ならさっさと言えや!ぶち殺すぞテメェ!」

 

 胸倉を掴み、壁に叩きつけて怒鳴りつける。

 

 言葉に困ったように、絞り出す言葉を選んでもごもごと言い、それを聞いてすぐに嘘だと分かった。本当に助かりたいならすぐに言う筈だが、態々もごもごとしている辺り本当の事を教えるつもりはない腹が見える。

 

「見え透いた嘘ついてんじゃねえぞオラァ!正直に言えや!」

 

 理事の顔にイライラが爆発したかのような怒りが現れ、怒鳴り始めた。

 

「黙れェ!その女、儂が目をつけてやったのに勝手に他の男のガキを孕んで嬉しそうにしていた!それが気に食わん!だから膨らみ始めた腹をしたその女を犯した後、アラガミ化させて野に捨て置いてやったわァ!今更どこかで他のアラガミに食い散らかされただろうなァ!良い気味だ!」

 

 目の前が真っ赤になり、目の前に居るこの男を惨たらしく嬲り殺そうと手を振り上げた瞬間――天井が爆発と共に崩落を始め、咄嗟に後ろへ跳んで床の上を転がりその場から退避し、敵かと思い構えるが舞い上がった埃と煙が視界を覆っているせいで何も見えない。

 

 何かの影が埃の中から穴の開いた天井へ飛び出し、視界が晴れて理事の居た場所へへ近づくと、理事は無残に切り刻まれて絶命していた。

 

「…………ッ!」

 

 クソッ! 何だってんだ……一体誰が殺った……! 俺以外に誰かこの付近に居たってのか?

 

 ジャックへ連絡を取り、事の経緯を説明するとすぐに向かうと言われ、瓦礫をどかして理事の遺体を引きずり出して床に放り捨てる。

 

 兎に角、今はアナグラに戻る事が先決か……。

 




なんだかんだ完結も近いので今年中には何としても完結させよう(鋼の意思)


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なんだよいきなり。怖い事言いやがって

また大掃除の時期が来たか……。上旬の内に殆ど終わらせようと決意を固めるも、結局億劫になって何もしないで下旬に焦るのが恒例。


 誘拐騒動も終わり、ユウナは逃亡の途中で負った負傷と偏食因子を乱された為暫く療養のため医務室へ連れていかれた。

 

 アナグラへ帰還した俺達は研究室へ集合し、今後の事を話し合った。

 まず発見した理事の遺体に関してだ。

 理事を手に掛けようとした瞬間に突然の爆発で吹き飛ばされ、起き上がった頃には既に理事は何者かに斬り刻まれて死んでいた。

 しかし、あの場に他に人誰かが居たとは思えない。あの時は俺も頭に血が上っていたので周囲の気配察知を怠っていたにしてもだ。

 

 遺体は今検視に回されているが、とりあえず結果が分かるまで保留と言う事になった。

 

 

 本部も大混乱の最中らしく、榊博士も本部からの問い合わせに奔走している。

 

 

 そして人狼部隊(ルー・ガルー)

 ガルー1――エレナの父親の遺体はソーマがアナグラまで運んでくれた。ガルー2と呼ばれた女は身柄を一時極東預かりとしてジャックが本部へ戻る際に連れて行くらしい。

 ジャックが殺ったガルー3の遺体も回収し、残りの2人は今捜索隊が探しているが今の所何の連絡も来ていない。無事に逃げおおせたか、アラガミに丸ごと喰われたかのどちらかだろう。

 ジャックからは『余計な情けは復讐の火種だぞ』と小言を言われたが、殺しに来るなら望むところだ。『じゃあ次はちゃんと息の根を止めるようにする』と言い、ジャックは呆れたように首を振った。

 

 

 研究室の扉が開き、リンドウさんが肩を鳴らしながら入ってきた。しかも片手にビールの缶を持って。

 

「よーお疲れ。全く、急な戦いの後の報告書ってのは面倒くさいな。くー染みる」

 

「ちょっとリンドウ……」

 

 サクヤさんがリンドウさんを嗜めるが、博士が『別に構わない』と手で制す。

 

 アナグラの方も俺達が戻る大分前にアラガミ達が退いていき、中には倒れて霧散する奴も現れてある意味混乱を極めたらしい。俺達が戻ってきた頃には既に戦いも終わっており、タツミに『サボってどこ行ってたんだ』と茶化された。

 

 

「皆、今日は疲れただろう。まだ日は高いけど、もう休んだらどうかな?」

 

 博士の言う通り、とにかく疲れた。ガルー2の能力のせいで大分消耗したせいか、いつもの倍は疲労が溜っている気がする。

 

「働き詰めだったな。明日も忙しくなるかもしれんし、休んだ方が良いか」

 

 ジャックの言葉に全員が頷き、コウタは欠伸、アリサは眠そうな顔、ソーマもやれやれと言った表情をして出ていった。サクヤさんもビールを飲んで怠惰モードに入ったリンドウさんを連れて出ていく。

 

「ユウ、俺は明日の昼前には本部に戻るぜ。世話になったな」

 

「なんだ、もう少しゆっくりしていけばいいだろ」

 

「さっさと帰って来いってお達しが来てな。荷物纏めて明日の空の旅に備えて寝るわ。それじゃ博士、また明日挨拶に顔だしますんで」

 

「ああ、ゆっくり休むと良い。今回は助かったよ、ありがとう」

 

 ジャックも出ていき、俺も博士に挨拶して研究室を後にした。

 

 夜中からずっと動いてたしな。流石に全員に疲れが見える。正直俺もかなり疲れており、今横になれば数秒で眠れる自信がある。

 だが、その前にやる事があるので休むのはそれを終わらせてからだ。

 

 

 エントランスへ出て、ターミナルに接続して欧州エリアでフェンリルの保護下にある孤児院を探す。

 

 確かエレナは孤児院の出……そういえばサテライト拠点とか言ってたか……。

 検索してみるが全くヒットしない。

 

 

 あの時……エレナがバランに連れ去られた直後に見た光景では、アラガミ化した母親の体からエレナは無事に生まれていた。もしかしたらどこかの孤児院で保護されているかもしれないと言う0に等しい可能性に賭けてターミナルに齧りつく。

 

 しかし、探し出すなんて不可能か。もしかしたら手遅れかも知れないし……名前だって違う名前を付けられている可能性もあるし、それこそ似たような容姿の人間も居る。

 

 思い至った所で、結局できる事なんて無いのだろうか。虚無感しか感じられない。

 

「諦めきれねえよ……」

 

 

 探しに行きたい。手がかりはエレナの母親の写真のみだが……僅かな可能性であるが賭けるしかない。体にはガタが来て短い命なのは分かっている。だが、それでも諦めきれない。

 

 

 兎に角、研究室へ向かって博士に相談だ。

 まず極東に居る限りどうしようもない。博士に話を通し、何とか欧州へ派遣でも転属でも何でも良い。とにかく欧州へ行って片っ端から写真を頼りに聞き込んで手探りだが探すしかない。

 

 研究室につくとノックをして許可を貰うと入室し、博士へ近づく。

 

「博士、少し話が……」

 

「どうしたんだい? 妙に改まって」

 

 単刀直入に言い、欧州への転属を願い出た。

 理由を訊ねられてほぼ嘘偽りなく正直に答え、事情も話したが返答はされず、博士は難しそうな顔をした。

 

「事情は把握したよ。けど、難しいね……」

 

 博士は転属が難しい理由を正直に話し、その理由は尤もだった。

 まずアナグラは人手不足だ。余所に人員を割く余裕はない。それに神機を使えない神機使いを転属させたところでどうにもならない。神機こそ修復中であるが、修復で来たところで俺には体の異常の事もあり、外へ出すのも危険だと判断できる。

 

「写真の神機使いに関しては情報をこちらで集めてみるよ。しかし、仮にその神機使いの子が見つかったとして……君はどうするんだい? その子を引き取るのかい?」

 

 博士の言葉に頷くと、険しい道になると忠告してくるが……それは承知の上だ。博士も俺の顔を見て『分かった』と頷く。

 

 

 博士に礼を言って頭を下げ、写真を手渡して研究室を後にする。

 

 本部で受けた検査の結果が何の異常もないものと判断できれば欧州へ転属ではなく派遣と言う事で話を通してみると博士も言ってくれた。とにかく待つしかないか……。

 流石にそろそろ休むか……だが、まだ日は高い。エントランスで喧騒の中眠るのは流石に無理だ。

 人気のないフロアをうろつき、ベンチに腰を掛ける。

 背もたれに体を預けて目を閉じた。

 

 

 

 

「ん……?」

 

 涼しい風が吹くのを感じ、目を開ければそこはなただ広い荒地。

 

 何だ……夢か……?

 それにしては妙な夢だな……リアルと言うか……何て言うべきか……。

 

 遥か彼方から誰かがこちらへ歩いてくるのが見え、目を凝らしてみればそれは全人黒づくめで人の形をした何かだった。

 そいつがこちらに掌を向けた瞬間、赤い電撃が宙を走り咄嗟に身を翻して躱す。

 

 突然攻撃を仕掛けてきた奴の方を振り返ればそこには奴は居らず、代わりにディアウス・ピターが唸り声を上げながらマントの下に隠した刃の翼を展開して襲い掛かってきた。

 

 

 

「ッ!」

 

 ハッとすればそこは先程の廊下。

 

 ピターは影も形もない。

 

 随分リアルな夢だったな。なんでピターが……?  

 俺はあいつと戦ったことなんて無いはずだが……。

 

 しかし、おかげで目が覚めて寝れなくなった。端末で時間を確認するとまだ日付は変わっていないが子供は寝る時間だ。大分眠ったが、あまり疲れは取れていないような気がしてならない。

 こうなったらとりあえずベンチで寝転んで時間を潰すしかないようだが……寝転んでいても正直硬いベンチじゃ体の節々を痛めるだけだ。

 喉も少し乾いたし、ラウンジにでも行ってなんか飲んで眠気が来るまで適当に時間でも潰すか。

 

 

 早速起き上がり、ラウンジに向かう。

 

 夜中ではあるが職員は勿論神機使いとはよくすれ違う。夜中にまで仕事はご苦労な事だ。それとも俺らみたいに昼の間に休んで夜に仕事の可能性もあるが。

 

 

 ラウンジに入ると夜中である故か空いており、カウンターには1人しか座っていない。

 

 

 って座ってるのジャックか。あいつ、ゆっくり休むとか言っておいて飲んでるのか。

 

 備え付けのグラスを手に取り、飲み物を注いで席を1つ空けて座る。

 

「なんだ奇遇だな」

 

「お前休まなくていいのか?」

 

「そう言うな。また暫くアナグラに来れねえかもしれねんだからよ」

 

「酒か?」

 

「いや、自重して茶さ。酔いつぶれて予定の時間すっぽかすわけにはいかないからな」

 

 ジャックがグラスを呷り、一息つく。

 

「もう一年経つな。俺達がフェンリルに入隊して知り合ってから」

 

「互いに忙しかったからな」

 

 

 

「なあ、ユウ。初めて会った時さ、お前……すげぇ血生臭かったんだよな」

 

「なんだよいきなり。怖い事言いやがって」

 

 唐突に物騒な事を言いだすジャックに困惑する。

 

「お前、そのままこの時代(こっち)に来たんだろ? 俺は所謂生まれ変わるってやつだけどさ」

 

 何だ、こいつ転生でもしてきたのか。前世の記憶をはっきり覚えてるって事か。

 正直前世の事を覚えているなんて信じられなかったが、現にこいつの証言からそれは有り得ると言う事は分かっている。

 空で性悪女(ヘルキャット)に追いかけ回されるなんて聞けば、生前何してたかすぐに思い当たる。

 

 

「正直、あの時死んだのか……まだ生きてるのか自分でも分からん」

 

「硫黄臭い中か……相当血を浴びただろう? 」 

 

「なんでわかる?」

 

「人ってのは殺されたときにな……恨みや怨念が殺した奴に纏わりつくんだよ。そしてその殺した奴がまだ誰かに殺されれば、今度はそいつの恨みが最初に殺された奴と一緒にまた纏わりつくんだ」

 

 なんつったけそういう感じの……確か生物濃縮だったか……。

 

「どんどん怨念は溜まり、いずれは器を壊しちまう。そして器の壊れた人間は人間じゃなくて鬼になる。この(極東)には鬼が出ると言う伝承があるのはそれが起因しているのさ。お前、渦巻いてたぞ?オカルトに疎い俺でも分かる程にな。まあ、現代の人間は鬼の怖さを知らず、アラガミを恐れているから気にしないだろうが……」

 

「鬼になる……か……。てことは上官連中は皆鬼ってことか」

 

「お前、偏食因子に問題が起きてるだろう? 偶然にしちゃ、出来すぎてないか?だからもう溜め込むな。もう、鬼を斬る剣聖なんてこの世に居ないんだからな」

 

 

 そういや……大昔に兵士と民草あわせて死者数千にまで登り、当時血で血を洗う戦乱の時代においてもっとも悲惨な殺戮の舞台となった国があり、その地には後々まで鬼が潜んだと聞いたことがあるな。

 

 上官がまるで経験したと言わんばかりの深刻な表情で語っていたか。

 

「迷えば飲み込まれて終わる。だから迷うなよ。俺もお前を斬るなんて御免だ。それは他の連中だってそうだ。仲間殺しなんて冗談じゃねえ」

 

 それだけ言うとグラスの中身を一気に飲み込んで「じゃあな」と肩に手を置いてジャックはラウンジを出て行った。

 

「鬼か…………」

 

 頭を掻くと、灰色に染まった髪の毛が1本カウンターの上に抜け落ちた。

 

 




冬はアイスバーンが本当にクソ。コロナもクソ。インフルエンザもクソ。
なんで冬ってクソばっかりなんですかね……?


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ちょっとこれは想定外だな

時間がある内に投稿。




 翌日、俺はガルー1――エレナの父親の墓前で手を合わせた。

 

 頼まれたのに、情けない事だが八方塞だ。できる限り善処はすると心の中で墓へ語り掛けて後にした。

 

 

 気付けば端末に連絡が入っており、研究室へ集まって欲しいとの事だった。

 

 

 

「博士、第1部隊+α呼んでどうしたんですか?」

 

 研究室へ到着すれば、既に俺とユウナ以外は集まっておいた。ユウナは今回の話からは除くらしい。

 

「さて、本題に映るが……ユウナ君の傷から何やら妙なオラクルが混じっていてね。質の悪い事に、ユウナ君の肉体と結合しているんだ」

 

「んー?どういう意味ですか博士?」

 

 コウタが首を傾げ、リンドウさんは頭を掻いてパッとしない表情を浮かべ、俺も言葉の意味が分からず唖然としている。

ソーマとアリサ、サクヤさんは理解できているようだが……首を傾げている俺達に呆れながらアリサが言葉を紡いだ。

 

「博士、兎に角説明を。あの3人には後で噛み砕いて教えておきます」

 

「今はユウナ君の体に痣として残っている部分にそのオラクルが混じっていてね。そしてユウナ君を問いただしてみれば理事から逃げ出し、その逃走中にローブで身を隠した怪しい人間に斬られた傷らしい。君たちの中に心当たりがないかと思ってね」

 

「ローブを身を隠した人間……いえ、そんな奴は居ませんでしたが……」

 

「俺も心当たりが無いな。つか人狼部隊の連中じゃねえのか?あいつらもローブ来てるだろう」

 

「ジャックにも確認取ってみた方が良いんじゃないのか?」

 

「いや、ジャクソン君には彼が本部へ発つ前に聞いたよ。彼も心当たりはないらしい。それに妙な事に、理事の遺体の検視結果にもユウナ君と同じ妙なオラクルが検知されているんだ」

 

 理事の死体にも……?ってことはユウナに傷負わせた奴と理事を殺した奴は同一人物って事か。

 

「ユウ君、君の言う通り……理事は何者かによって殺害された。そしてその犯人はユウナ君にも……。とにかく味方では無いのは確かだ」

 

 ユウナに傷を負わせたときはすぐに逃げ、理事は殺していった……何がしたいんだ? 確かに味方とは思えねえが……。

 

「ただ注意して欲しいって事さ。勿論、ユウナ君から具体的な情報を纏め次第、全神機使いの端末に詳細を送信させるけどね。ユウナ君が暫く動けない以上、君たちに大きな負担がかかるだろうけどよろしく頼むよ。他部隊への人員借りも何とか都合をつけてもらうようにお願いするつもりだしね」

 

 

 つまりその怪しい奴に注意しろって事だな。

 悩んでいても仕方ないので待つとしよう。果報は寝て待てとかってことわざがあったような気もするし。

 

 解散となり、それぞれの仕事に戻った。

 

 

 

「ユウ、これが頼まれていたバレットよ」

 

 エントランスに出ると、ジーナが俺を待っていたようで渡すものがあると言い、懐からバレットを出した。

 フェデリコに特訓をつける為にジーナにあるバレットの作成を頼んでいた。

 

「済まないジーナ、助かった。どうしても頭使うのは苦手でな」

 

「これくらいならお安い御用よ。でも、何に使うの? 正直、役に立たないバレットよ?」

 

「フェデリコに稽古をつける事になってな。その時に使うのさ」

 

 フェデリコから『秘儀・雷返し』の極意を教えて欲しいと頼まれたが、実戦で覚えろだなんてスパルタ教育を施す趣味も無い。

 だが雷が必要なので、自発的に雷属性の弾を自身へ当たるように軌道を調整してもらった。

 

「へぇ……興味があるけど、生憎任務でね。残念だわ」

 

「フェデリコがその内特訓の成果を見せてくれるさ。期待して待ってろ」

 

「それじゃあ楽しみにしておくわ。ふふ、フェデリコとアネットには早く自分より良い神機使いになってくれって先輩としては情けない事言っていたけど、ちゃんと先輩してるじゃない」

 

「早く良い神機使いになって欲しいからこそってな。腐っても先輩だからな」

 

 

 ジーナを見送り、フェデリコと訓練場へ向かう。

 

 まずはウォーミングアップからだ。

  

 互いにモックアップ神機を構え、向かい合う。

 

「まずは体を慣らすぞ。動きや後隙を観察して的確に撃ち込んで来い」

 

「分かりました! 行きます!」

 

 意気は良し。気合十分で踏み込み、フェデリコが振るうロングブレード型の得物が迫るが紙一重で躱し、フェデリコの側面を回り込む。

 

「ッ!」

 

フェデリコが返す刃で得物を横に振り、軽い跳躍で躱しそのままフェデリコを踏み台にして跳ぶ。

 

「ハアッ!」

 

空中なら逃げ場はない。そう判断した故にフェデリコも跳び追撃を仕掛けてくるが、空気を蹴って更に跳んで追撃をやり過ごして互いに距離を離して着陸して得物を構える。

 

「いい判断だ。普通の奴なら空中で叩き斬られてそれで終わっていた」

 

「流石です、ユウさん。それにまだまだ余力を残している様子……」

 

 フェデリコは言葉を紡ぎながら構えを変えて得物の切っ先をこちらへ向けた。

 

 

 む……この構えは……。

 

 察すると同時にフェデリコは踏み込んで床を滑るように一気に距離を詰めて渾身の突き攻撃を仕掛けてくる。

 

「ふっ」

 

 

 突き攻撃を受け流し、足を振り上げてそのままフェデリコの得物を踏みつけて床へ叩きつけた。

 

「うわっ⁉」

 

 突然、意図せぬ力が加わり、態勢を崩したフェデリコに得物の切っ先を突きつけた。

 

「く……参りました」

 

 フェデリコが得物を離し、両手を上げた。

 

「いや、驚いた。さっきの突き技、何処で覚えた?」

 

「以前、タツミさんに特訓をつけてもらったときに……」

 

 成程、タツミが教えたなら納得だ。あいつは俺の剣技を全部会得している上に、上達も俺より早かった。現に新兵のフェデリコが剣を習ったばかりだった当時の俺よりも形になっていた。

 

「まあ、相手が俺じゃなかったら上手く嵌まったかもしれんな」

 

「やっぱりユウさんには通用しませんでしたか。タツミさんもまだまだ先があるって言ってましたし……」

 

 突きだけで終わっては未完成だ。その先へ追撃を派生させて初めて完成する。追撃の斬撃を入れるもよし、態勢を崩した相手の踏み台に跳び、落下と共に斬る・突き刺す。跳躍と共に切り上げる……と言った具合に派生していく。派生先は様々だが、相手や状況に適した追撃を仕掛けて初めて完成する。

 

「突きだけで終わらず、そのあとの追撃を仕掛けて完成だ。どんな追撃を仕掛けるかは人それぞれだ。突き自体は元々、防御を崩す為の技だからな。後はお前さん次第って事さ。だからタツミもそこまでしか教えなかったんだ」

 

「え、待ってください。じゃあ、タツミさんに教えたのって……」

 

「俺だ。ちなみに素手やナイフみたいな小物でも再現できる」

 

「そうだったんですか……! タツミさんはただある神機使いに教わったって言ってて、勝手にリンドウさんみたいな人だろうなって思ってて……」

 

「そうか、リンドウさんみたいに威厳のある人じゃなくて済まなかったな」

 

「あ、いや、そういう意味では……!」

 

「冗談だ。悪かった。さ、剣技についてはタツミの方が教えるのが上手いからあいつに丸投げするとして……本題だな」

 

「は、はい! 雷を返す技ですよね?」

 

「ああ、とりあえずモックアップ型じゃ話にならんからお前の神機を持ってこい。申請は出してるな?」

 

「はい!」

 

 

 モックアップ型神機を隅へ置き、フェデリコはケースから神機を取り出して接続を始めた。

 

「よし、フェデリコ。まずはこのバレットをセットして試しに撃って見ろ」

 

 ナイフを構えてフェデリコの隣に立ち、雷属性の弾が発射されると緩く旋回して向かってくる。

 

 軽く跳躍し、ナイフの刀身で雷の弾丸を受け止める。

 素早く床へ向けてナイフを振ると電撃の刃が飛び、床へ激突して弾けた。

 しかし、ただのナイフで受け止めたのが原因か。ナイフは既に刀身は見るも無残な状態になっていた。

 

 ただの電撃じゃなくてオラクルだからな……当然と言えば当然か。

 

 

「す、凄い……」

 

「やり方は単純だ。電撃を空中で受けて着地する前に振って飛ばす。突きで出すと槍のように飛ぶ。ただ、雷を受けた状態で着地するなよ」

 

「もし、失敗して着地してしまった場合は……?」

 

「雷が全身を駆け巡り、逆に痛い目を見る。俺に教えてくれた人曰く、何人か死人が出ているらしい。まあ、真人間だったらの場合だ。神機使いなら痺れるだけで済むだろう、多分」

 

 

 

 

 

 

 

「間に合――うわ!?」

 

 雷属性のオラクル弾が神機の変形にもたついてるフェデリコにヒットして雷が弾けてフェデリコの体が吹き飛ぶ。

 

 

「ちょっとこれは想定外だな」

 

 フェデリコは少々不器用らしく神機の変形にもたついてしまっている。

 何事もそつなくこなすところを見ていた故に、意外な短所を発見してしまった。

 しかし困った。これでは一向に特訓が進まない。もう1度ジーナに頼んで着弾までの時間を調整してもらうか……?いや、だがただでさえ忙しい中あのバレットを作ってもらった手前頼むのは気が引ける。

 

「す、すみません。まさかここまで自分が不器用だとは……」

 

「いや、誰にだって苦手はある。克服しようと努力できるのは良い事だ」

 

 新型じゃない俺にはまるで分らんな。こればっかりはアドバイスもできない。

 

 

 仕方ない、ナイフはまだある。俺が空中で受け止めている間に変形を完了してもらい、俺の雷返しを返して貰おう。

 

 フェデリコに思いついた案を提案し、その流れで特訓を行う事になった。

 

 是非ともフェデリコには頑張って会得してもらいたい。

 ナイフは俺のポケットマネーで購入している。今持っているナイフは3本。つまり練習4回以降は俺の財布がダメージを受けると言う事だ。なんとかナイフを追加購入する前にフェデリコには会得してもらいたい。

 

 

 結果は一回目でフェデリコは雷返しを会得したようだ。

 試しに2回目、3回目と続けたが何の問題もない。後は実戦で怖気ずに受け止めて返せれば問題ないだろう。

 やはり才能があるようだ。神機の変形にもたつく欠点も慣れれば解消できるだろうし、どうとでもなるだろう。

 

 頼もしい後輩が出来て大変心強い。

 

 

「ユウさん、今日はありがとうございます!」

 

「ああ、気にするな。こっちとしても良い経験になった。これからもがんばれよ」

 

「はい!」

 

 

 フェデリコと別れ、エントランスに戻ると端末に連絡が入った。

 

 榊博士からだ。

 

 本部での検査の結果が出た……それに関してか。

 

 さて、何事も無ければ良いが……。

 




そういえば学生の頃職場見学で自衛隊の基地に行き、なんやかんやあって感電した事を思い出した。


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参ったね、こりゃ

ー仕事中ー

ワイ「工事するでー」ドドドドドドドドド

イッヌ「ワンワン」ガブッ

ワイ「おー痛ってェおい!噛みやがったなお前!ざけんじゃねえよこのク〇犬‼」 

イッヌの飼い主「そこで工事してるのが悪いから自己責任でしょ」


ワイ「憤怒」 


 

 検査の結果……。何も問題なければ良いが、アーク計画からずっと不調だからな……禄でもない事になっているに違いない。

 

 

 重たい気分のままラボラトリに到着し、研究室の戸を開ける。 

 

 

「ああ、待たせて悪かったね。早速、本題に移るとしよう」

 

「原因が分かった様で安心できますよ」

 

 

 俺の言葉を聞いて、博士は少し顔を歪ませた。

 

 ソファーに腰を掛け、博士が資料をテーブルに広げ指を指して説明してくれる。

 

「検査の結果、肩の傷から今までに例のないオラクルが見つかった。パターンから見ても、ユウナ君に結合している妙なオラクルとはまた別種のものだね」

 

「肩の傷……」

 

 紫炎を操るアラガミから受けた傷か。確か、灰域種と言っていたか。

 エレナが塞いでくれたおかげで助かったが……。

 確かに、ただの傷じゃねえのは喰らった瞬間に分かった。身体を内側から削られるような感覚……質の悪い激痛だったのは覚えている。

 

 その辺のアラガミとは次元が違うアラガミ、厄災のアラガミと呼ばれるにふさわしい強さを誇っていた。

 

 

「そのオラクルが君の体の偏食因子に影響を及ぼしているようだ。正直、ユウナ君に結合しているオラクルより厄介だろうね。全く解析が進まないんだ」

 

「え、それって……」

 

「ああ、とてつもなくまずい状況だ。正直、何が起きるか私にも分からない」

 

 博士の言葉に俺は顔を顰める。

 険しい表情から博士の知識をもってしてもどうにもできない問題と言うのが察せられる。

 

「理論上、神機使いは既にアラガミ化している状態だと言うのは知ってるね? 制御を維持するのは難しいんだ。偏食因子の過剰投与と投与不足の他に、神機使いとしての活動限界、偏食因子とオラクル細胞を制御する腕輪のエラー……制御ができなくなる可能性は数えきれないほどある。そして、君の傷から見つかった物……。正直、お手上げだよ」

 

「その、もう駆除とかできないんですか?」

 

「現在の医学では不可能だろうね。私から推奨、いや支部長権限で命令する。まずはこれ以上前線に出ない事、勿論腕輪は封印するよ。そして私や専門家の監視の元に居る事」

 

 

 榊博士の言葉に俺は衝撃を受けた。

 それは最早戦う事すらできない事を意味していた。

 

 せっかく、リッカが神機を修理できるかもしれないと提案してくれたのにも関わらず、突き付けられる現実。

 

 

「どんな影響を及ぼすか分からない以上、アラガミ化だけは何としてでも食い止めないといけない。そのオラクルの及ぼす影響は未知数だ。君の活動限界を大きく短縮させると言った事が起きない可能性も否定できない」

 

 そっか、俺神機ねぇから俺がアラガミ化したら俺を殺せる神機がねえもんな……。神機が修復できると決まったわけでもないし。

 

「リッカ君がハンニバルのコアを使って君の神機を再生出来ないか試しているだろう。申し訳ないが、神機が再生しても君に持たせることはできない」

 

 

 おいおい、こんな酷い話があってたまるかよ……。エレナを探すこともできないだろうが。

 

「どちらにしろ、ツバキ君には連絡をさせてもらうよ。後日、腕輪の封印処理の日程が決まり次第、ツバキ君を通して通告するよ」

 

 

「…………分かりました」

 

 

 そこからはあまり記憶にない。礼だけ言って頭を下げて研究室を出て、ラボラトリのベンチにとりあえず腰を掛け、今に至る。

 

 

 

 

 

「…………参ったね、こりゃ」

 

 

 とりあえず、リッカに謝りに行くか。あいつの事だから俺の責任じゃないとかって言うだろうが、それじゃあこっちの気が済まない。

 俺が頼んだ以上、ちゃんと頭を下げなきゃならんだろう。

 

 

 エレベーターに乗って神機保管庫を目指す。

 

 

 

 近くの整備員にリッカが何処にいるか聞き、整備室に居ると聞いたので礼を言って神機保管庫を後にする。

 

 整備室の扉を開けると、リッカが椅子に座って冷やしカレードリンクを飲みながら書類に目を通していた。

 

「ん、どうしたのユウ……そっか、神機の事?」

 

「ああ、話が速くて助かる」

 

「まあまあ座って。あ、クーラーボックスに飲み物あるから飲みなよ」

 

「ああ、悪いな」

 

 ボックスを開けてお茶の缶をとって椅子に腰を掛ける。

 

「すまない。せっかく提案してくれたのに」

 

「いいって、そんな。博士からも、ユウの神機を引き継ぐ人が現れた時の為に修復しておいて損は無いってそのまま頼まれてるから無駄なんかじゃないよ」

 

 リッカが笑いながら答えた。

 

「ユウは腕輪を封印された後、どうなるか決まってるの? 前線に出れないって事は偵察任務とかもできないって事でしょう?」

 

「ああ。確実に偵察班から異動になるだろうな。今まで通り、他の部署に手を貸しながら色々やっていくのか、デスクワーク専門になるのかは分からない」

 

「そっか、もし暇だったら整備班にも手伝いに来てよ。力仕事が楽になるからさ。なんなら整備士目指す?」

 

「頭使うのは嫌だから勘弁してくれ。力仕事ぐらいなら喜んで手伝うがな」

 

 

 

 *

 

 

 現実を突き付けられた日の翌日、俺は雨宮教官に呼び出されて執務室に出向いていた。

 

 案の定、腕輪の封印に関してだった。色々と手続きが必要でその後の待遇などに関しても説明があって、雨宮教官から直々に説明を受けている。

 

 本来、腕輪の封印とは神機に適合して規定の年数が経つか、士官としての能力を認められれば神機使いを引退と言う事で腕輪を封印する事になる。

 もし引退せずに神機使いとして活動を続けた場合、やがて活動限界を迎えてアラガミ化してしまうため、生き延びようが神機を手放す事になる。

 

 俺の場合は特例中の特例だ。規定年数に達してもいなければ士官としての能力なんて皆無である故、その後の待遇に関しても変更する場合があるかもしれないとの事。

 今のところは教練担当の雨宮教官の補佐をする事になった。

 

 苦手意識を持っている上司との仕事、こればかりは流石に胃がキリキリと悲鳴を上げて、冗談ではないと言わんばかりに訴えてくる。

 

「では、腕輪の封印処理は明日になる。不明な点があればまた聞きに来い」

 

「分かりました」

 

 

 教官に頭を下げて一礼し、執務室を後にしようとした。

 

「ユウ」

 

 教官に呼び止められて振り返る。

 

「お前は神機を失いながらも己の責務を遂行した。アーク計画、リンドウに関してもよくやってくれた。戦場に立てないと言っても悲観するな。各々がそれぞれの戦場に立っているのだ。今後の働きにも期待している。よろしく頼むぞ」

 

「了解」

 

 敬礼を返し、執務室を後にする。

 

 

 

 エントランスに戻ると、いつものように騒がしく人が行き来している。

 明日には実質神機使いを引退、今日は封印されていない腕輪をつけて居る事ができる最後の日だ。だが忙しなくしている奴らには関係ない。だからいつものように見える。

 神機使い引退なんて他の連中からすればずっと先の事だろう。俺が一足早くその先に着いている筈なんだが、何だか自分だけ取り残されているような気分だ。

 

 

 

「お兄さん!」

 

 聞き覚えのある声がした方を向くと、エリナがノートとペンを持って立っていた。

 

「今日も勉強か?」

 

「うん!」

 

 そうだな、戦場に出れなくてもできることはある。未来の神機使いの育成も現役だろうが引退していようが大事な仕事だ。

 

「そうか。よし、座りな。のんびりやろうや」

 

「うん!」

 

 そう言ってソファーに腰を掛けてエリナもテーブルにノートを広げて勉強会が始まった。

 

 

 そういえば、俺が教官の補佐になったらもしかしたらエリナにも訓練だの座学だのを教える事になるのか。座学か……結局頭使わねばならんのか。

 まあ、まだエリナに適合する神機が発見される可能性も低いだろうから本当にもしもの話だが。

 

 

「ねえお兄さん。どうして極東じゃ皆ブレード型神機を使っているの? あっちじゃポール型神機って言うのを使ってた人が多かったんだよ?」

 

「ああ、前に教えたアーティフィシャルCNSってあるだろう? 欧州製パーツは極東支部製のアーティフィシャルCNSと相性が悪くてな。だから神機使いの中でも特に適合率が秀でている人にしかポール型神機は許可できないんだ」

 

「極東には適合率の高い人が居ないの?」

 

「いや、ユウナなら適合率が高いから扱えるぞ。確かポール型神機の試験運用も担当しているからな。俺も先日初めて知ったが」

 

 

 先日、ユウナと飯を食べている時に本部での事を話してポール型神機の話題になり、ユウナは試験運用を担当していると暴露した。しかし、運用の際にはパーツなどその他諸々含めて欧州へ発注などが必要で手続きが面倒らしくあまり乗り気ではないとの事。

 

 本人によると、前回の会議で2、3年後には極東支部でも設備を揃えて正式運用に移れる目途が立ったとの事。

 

 

「それじゃあユウナさんに聞いたら教えてくれるかな?」

 

「ああ、多分な」

 

 

 その後もエリナの勉強に付き合い、彼女にも迎えが来て帰って行った。

 今度、戦術マニュアルでも渡してやるか。俺のお古だけど。

 

 丁度夕方だなと思ったら、腹が空いている事に気づいたのでとりあえず腹ごしらえだと思い、食堂へ向かった。

 

 

 安上がりなメニューを頼み、トレイを持って歩いているとタツミに呼び止められた。

 

「第2部隊勢ぞろいか」

 

 タツミの他にブレ公と誤射姫も一緒に食事をしていた。

 一応「邪魔するぜ」と一言言って席に座り、食べ始める。

 

「そういやユウ、明日で腕輪の封印だろ? 偵察班から異動したら何処に配属されるんだ?」

 

「今のところは雨宮教官の補佐をする事になっている。ある程度経験を積んだらまた別の部署に異動になるか、そのまま教練担当になるかだな」

 

「それなら、鍛錬の時は付き合って貰う事があるかもしれんな。その時はよろしく頼む」

 

 

 ブレ公はクソ生真面目なので選り好みせずに様々な自主トレを行っている。

 あまり重要視されていない組手も他の神機使いと比べれば経験が多い。俺もアラガミ退治より人間と戦う方が得意だったので中々白熱した戦いを繰り広げる。

 ブレ公も良い鍛錬になるらしく、それ以来ブレ公から時間があるなら組手に付き合って貰えないかとよく誘われるし、俺からも誘う事がある。

 

「それなら私の特訓にも付き合ってください!」

 

「カノンよ。前にブレンダンと2人で特訓に付き合って俺達を仲良く吹き飛ばしたのを忘れたか?」

 

 マジでコイツの誤射は何とかならないのか?

 ブレ公なんて特訓の後に『誤射されないための戦術理論を構築しなければいかんな』って呟いてびっくりしたよ。そもそもなんだよ味方に誤射されないための戦術って。

 そんな戦術聞いたことないわ!

 

「うう……ごめんなさい……」

 

 カノンが落ち込みながら謝ってくる。

 だが誤射もそうだが一番厄介なのは……戦場に出たら性格が凄まじいほどに豹変する事だ。もう二重人格じゃないのかと思う程変わる。

 

 アラガミを撃破したら『断末魔素敵だったよ!』とか女の子が口にするには過激なセリフを吐き捨てる。小型に至っては断末魔どころか悲鳴あげる前に消し飛ばされている。

 

 そしてこれだけに飽き足らず満身創痍のアラガミに『このままだと穴だらけだよ』だとかサディスティックである。

 

 タツミとブレ公の気苦労が知れない。だが、第2部隊じゃなくて良かったと安堵する自分もまた存在している。

 

 

 

 食事も終わり、タツミ達とも別れた。

 

「明日に備えて寝たいが、目が冴えるな……。眠くなるまでラウンジで時間潰すか」

 

 ラウンジで適当に寛ぎながら時間を潰せば眠気も来るだろう。

 

 「ッ……‼」

 

 適当に飲みながら時間を潰していると、胸が急に痛みを訴え始めた。此処には他の利用者も居る為、目立つことはしたくない。いきなり苦しみながら床をのた打ち回ったら皆驚くだろう。

 

 手で強く胸を押し、痛みを押し殺す。

 

 

 「ふー……」

 

 徐々に痛みは引いていき、深呼吸をして体と心を落ち着ける。

 

 よし、何とか痛みは無くなったか。しかし、相当体にガタが来ているようだ。これなら前線に出ても足を引っ張るだけだな。博士の言葉通りか。

 死期ってのはこんなに分かりやすいんだな……。できるなら寝てる間にポックリ逝きたいものだが……。

 

 俺はそのままラウンジに残り1人でグラスに飲み物を注いで夜が更に耽るまで静かに神機使いとして過ごせる最後の日をのんびりと過ごした。

 

 




前書きの続き

ワイ「犬に噛まれました」

上司「お前病院行けよ。あ、仕事中に噛まれたって言うなよ」


ワイ「超憤怒」


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ああ成程、適材適所ってか。

クリスマスが今年も妬ましい。


「……ん……?」

 

 目を覚ませば、見慣れたラウンジでうっすらとだが日の光が窓から照らしていた。

 

 やべ、寝落ちしてたか。時間は……まだ夜明けか……。端末には雨宮教官から腕輪封印処理に関して通達はまだ届いてない。

 

 

「…………妙に騒がしいな」

 

 

 

 まだ日が顔を出して間もないが、エントランスから喧騒を感じる。

 気怠さを振り払い、いざ向かってみればそこには衝撃的な光景があった。

 

 ボロボロのソーマが担架に乗せられ運ばれていった。

 

 今の、ソーマ……だよな……?

 

 近くにタツミとブレンダンが居り、2人に事の経緯を聞いた。

 ただ2人共泥だらけでが、特に外傷は無いようだ。

 

 

「タツミ、何があったんだ?」

 

 

「救難信号が出されて、近くに居るソーマが駆けつけたんだが、ビーコン反応が突然消失。そして俺達が反応のあった最終地点へ到着するとソーマと救難信号を出した神機使いが倒れていた。見てわかる通り、酷い有様だった。正直、カノンの応急処置がなかったら2人とも助からなかっただろうな」

 

 タツミがポツポツと語り始め、ブレンダンも頷いて肯定する。

 

「2人を担いで危険域を離脱しようと寄ってきたアラガミと交戦して今やっと帰投したところだ」

 

 手酷くやられたソーマとその神機使いは集中治療室へ運び込まれてすぐに手術をするとの事。

 とにかく今は待つしかないらしい。

 

「タツミさん!」

 

 俺達の元へヒバリちゃんが駆けてきた。

 

「ああ、どうしたんだヒバリちゃん」

 

「榊支部長から伝達です。防衛班の皆さんは、アナグラ周辺の哨戒をお願いしたいとの事」

 

「…………ああ、分かったよ。ヒバリちゃん、第3部隊に連絡を。カノンは一応アナグラに残していく。戦況によっては出撃もあり得るから伝えておいてくれ。ブレンダン、準備が出来次第出発だ」

 

「了解」

 

「わ、分かりました!」

 

 2人はタツミの指示に頷いてすぐに行動を開始した。

 タツミは俺の肩に手を置いて、『任せろ』と言い残して出撃ゲートへ歩いて行った。

 

 

「………………寝てる暇、無さそうだな」

 

 医療棟へ向かい、手術室の前で壁に背を預けて治療が終わるのを待った。

 

 

 暫く待っているが、一向に『手術中』と書かれているランプは点灯したままだ。

 

 

 しかし、あのソーマがあそこまで手酷くやられるとは……大方、特異個体か。あまりよろしい状況じゃないな。今はまだ夜明け……そこまで公にはなっていないだろうが、極東最大戦力『第1部隊』の一角がやられたとなれば、甚大な規模の士気低下を招くのは明白。

 

 流石に情報を伏せるように博士や雨宮教官も考えるはずだが、問題はそのアラガミをどうやって撃破するかだ。ユウナも動けない今、特異個体と戦えるのはリンドウさん、サクヤさんにアリサとコウタの第1部隊、タツミぐらいか……。しかし、タツミは防衛に努めなければいけない。恐らくリンドウさんとサクヤさん、コウタとアリサで討伐チームを編成するか。

 

 エレベーターが止まる音がして、扉が開くと雨宮教官が出てきた。

 

「…………ただ事ではない事態だ。腕輪の封印は後日になるだろう」

 

「分かっています。ただ、一体何が……」

 

「分からん。兎に角、どちらかが意識を取り戻してくれれば聞くことができるだろう」

 

 

 雨宮教官と共に手術室の前で待っていると、部屋のランプが消灯した。

 

 扉が開くと、そこからソーマが運び出され、担当医師は何とかなったと疲れた顔で言った。

 この後すぐにまだ手術が終わっていない神機使いの治療に手を貸さなければいけないと言ってそのまま去っていった。

 

 俺は雨宮教官と共に運ばれているソーマに同行する。

 

 

 

 

「やはり、ソーマが最初に回復したか」

 

「逆に言えば、ソーマ程の治癒力を持ってしてもって考え方もできますがね……」

 

「今はマイナス思考を控えろ」

 

 雨宮教官に窘められて、俺はそのままソーマが目を覚ますのを待つが果たして目を覚ますだろうか。

 あれ程手酷くやられては暫く目を覚まさない可能性の方が高い。

 

 考えている内に、すぐに榊博士が医務室へやってきた。

 

「ソーマの容体はどうだい?」

 

「絶対安静と言いたいところですが……」

 

「病み上がりで申し訳ないけど、彼でさえ敵わなかったアラガミについて聞かなければいけない事が多くある」

 

 榊博士も険しい顔をしており、今回の事態が如何にとんでもないイレギュラーであるのかを嫌でも認知させられる。

 

「ツバキ君。リンドウ君たちに連絡は」

 

「先程伝えました。2人にはすぐに戻ってきてもらっています」

 

 そうか、リンドウさんとサクヤさんは2人で出張へ出ていたのか。折角2人きりで出かけた矢先にこれとは……。

 

 博士が手持っている端末が音を鳴らし、博士が端末に目を向ける。

 

「手術の経過だね。やはり難航しているようだね」

 

 博士が端末を操作していると、再び表情を険しくした。

 そして、『これは……』と深刻な顔をしていた。

 その言葉に不安を覚えるが、先ほどマイナス思考を自重するよう言われた直後だ。

 俺は平静を装ってソーマが目を覚ますのを待った。

 

 

 医務室に誰かが向かってくる。気配から誰なのか察して戸を開ける。

 

「ソーマは……?」

 

 そこにはユウナが松葉杖を付いて息を切らしていた。

 

「ここまで来るなんて無茶したな」

 

 ユウナに肩を貸し、医務室の中に入り、椅子にユウナを座らせる。

 

「一命は取り留めた。病み上がりで悪いが聞きたいことがあるんだ」

 

 

 *

 

 

 

「ッ……」

 

 ソーマが目を開けて、起き上がろうとするが体に力が入らないのか、上手く体を起こせないでいる。無理をして何としてでも起き上がろうとしているソーマに慌てて駆け寄る。

 

「よせ。今は寝ておけ」

 

「くそ……! 寝ている場合じゃ……ッ!?」

 

 苦痛に顔を歪めながらも、ソーマは俺の肩に手を置いて支えにして無理に起き上がろうとする。ソーマの手を振り払う事も出来ず、俺はソーマの背中を支えてその上半身を起こした。

 

「ハア……ハア……。クソッ……」

 

 起き上がるのにすら人の手を借りないといけない状態が歯痒いのか、舌打ちをする。

 

「ソーマ、焦る気持ちは分かる。だが、今は安静にするべきだ。だが、何があったかは話してもらいたい。それが今のお前にできる唯一の仕事だ」

 

 教官もソーマを窘める。

 

「………………」

 

 落ち着きを取り戻したのか、ソーマが静かに語った。

 

 

「救援に駆けつけてたそこにはヴァジュラの死体だけだった。そして救難信号を出した奴も倒れ、担いでその場から離れようとしたとき、不意を突かれた」

 

「新種か?」

 

 不意を突いたとはいえ、ソーマと渡り合うなんて並以上の能力は勿論、知恵も必要になって来る。

 

「ローブで身を隠していたが……奴は、人の形をした……ディアウス・ピターだ」

 

 

「ディアウス・ピター? 人の形ってどういう意味――」 

 

 俺の言葉を遮るようにソーマは語り続ける。

 

「そのままだ。体格はほぼ俺達と同等、動きに至るまですべて。自らの身体から武器を作り出し、人間のように剣を振る。そして片言だが、言葉も発する」

 

 人間の形をしたアラガミ……?

 コンゴウやシユウの様な二足歩行できるアラガミかと思い、ソーマに尋ねるが首を横に振り、言葉通り人間と同じ姿形らしい。何より言葉を話せるのが驚きだ。

 

 うーむ、顔がピターで姿形体格は俺達と同じ霊長類……想像したらすごいアンバランスじゃね?

 

「情けない話だ……! 一太刀浴びせる事も出来ずに……ッ!」

 

 

「ユウナ君の証言と同じだね。ローブを纏った怪しい人間」

 

 ソーマのおかげで救難信号出した奴は一応命拾いしたか。ディアウスピター、普通の神機使いならとっくに喰われている。

 

「ソーマ、ピターに攻撃された時、何か違和感は無かったかい?」

「分かるのか……?」

「やはり、何かしらの異常があったみたいだね」

 

 榊博士がソーマの反応から確信を得たようだが、相変わらず深刻な表情をしている。

 

「攻撃を受けた傷から徐々に痛みと熱が広がってきた。あの感じ、ヴェノムやリークとは違う」

 

「ふむ……。やはり、予測通りだね……。当たって欲しくはなかったが……」

 

 榊博士が予想していたことが当たったようだ。

 

「榊支部長、やはりとは……」

 

 雨宮教官が博士に尋ね、目を細めて深刻な表情のまま言葉を紡ぐ。

 

「そのピターの攻撃を受けたら、傷口からオラクルに侵食される。そして適合率が低くければ低いほど……侵食が速く重症に至る。もし、適切な治療をしなければ死に至るだろう」

「それはつまり……」

「ああ、即効性・致死性の猛毒だと思えば分かりやすいか。手術の経過を見せてもらって解析したが、ソーマの適合率は知っての通りだ。だから手術は早く終わった。しかし彼は……最悪の結果になるかもしれない。ユウナ君はもその傷で済んだのはソーマと同じ理由だろ」

 

 

 ユウナが患者服の上から傷があるであろう場所を摩る。

 

 

 成程、そういう事か。確かに厄介だな。1回でも直撃貰えば時間との勝負という事か。

 カノンの応急処置がなければ助からなかったではなく、ソーマは適合率の高さも相まって何とか間に合った。もう1人はこれからが山場か……。

 

 

 しかし、謎がある。

 

「ピターは何故2人を見逃した?普通なら止めを刺すなり喰らうなりする筈じゃ……」

 

「奴は言葉を話す。去り際に『一時、時間を与えよう』と、ほざいて消えた……」

 

 

 博士の端末に連絡が入ったようで博士は熱心に端末を見つめ、焦燥の表情を浮かべた。

 

 

「この症状のオラクルの侵食は……偏食因子にまで……⁉」

 

「博士、それでは――」

 

 ツバキ教官の察したような口ぶり、教官の顔も今まで見たことがないほど焦燥に駆られていた。

 

「アラガミ化だろうね。死かアラガミ化か……最悪の2択だ……!」

 

 焦燥している顔で冷静に言葉を紡ぐ博士。

 

「おい、それじゃあいつは――ぐッ⁉」

 

 ソーマが腕を押さえ、苦しみだした。ソーマの腕を見れば一部が赤黒く染まっており、徐々に広がっている。

 

「うぅあ……くぅ……!」

 

 ユウナも苦しみだして椅子から倒れ、それを雨宮教官が抱き支える。ユウナもソーマと同じく首元や腕まで赤黒く染まった皮膚が姿を現し、苦しそうな呼吸と先ほどとは非にならない程の汗を掻いていた。

 

 

「これは……! ツバキ君、すぐに医療班の手配を!」

 

「分かりました!」

 

 ツバキ教官が端末を操作して医療班へ連絡を取る。

 

 

「早急に対策を立てなければいけないようだね。『一時』とはどの程度の期間かは分からないが、時間が無いのは確かなようだ。ツバキ君、至急各部隊の隊長・副隊長クラスの神機使いを集めて緊急ブリーフィングだ」

 

「至急取り掛かります」

 

 ユウナをベッドに寝かせて教官は医務室を出ていき榊博士もそのあとに続いて医務室を後にすると、すぐに医療班の連中が様々な器具を携えて入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

   ドクンッ!

 

 

「…………!」

 

 心臓が一度だけ大きく脈打った。まるで、戦えと言わんばかりに。

 

 

  『お前は呼ばれたのだ』

 

 

                『何故過去の存在であるお前が時を超えたのか』

 

 

  『この世で起こる事全てには、必ず何かしらの理由がある』

 

 

                『戦に長けた者を呼ぶなら、その理由は明白』

 

 

 

 

 戦友の言葉が脳裏を過り、やっとわかった。

 

 

 ああ成程、適材適所ってか。

 

 

 人の形、それもこちらと同じ様な体格なのだとしたら、これはまたとないチャンスだ。

 何より自分の身体から武器を作り出すのなら、また好都合だ。

 大体の対策はすでに思いついた。

 

 恐らくピターは敗北から学び、人に姿を似せてきたのだろう。

 

 オラクル細胞が初めて喰う事以外で学習した決定的な瞬間である。

 

 確かに長い歴史の中で一時は人間を多く殺したのはクマなどの猛獣ではなく、他でもない人間だ。そこに目を付けた辺り、賢いのだろう。

 実際普通の神機使い連中は人殺しなんてしないからな。どちらかと言えば猛獣退治が専門と言った方が的を得ているかもしれん。

 奴と戦うに限っては、俺が適任らしい。

 

 

 俺も医務室を後にする前に一声かける。

 

「今は休め。いいな?」

 

 俺も行こうとすると、肩を掴まれて振り向くとソーマは険しい顔をしながら俺を見ていた。

 

「おい……! 何する――つもりだ……?」

 

 流石はソーマ、俺のやる事がばれたらしい。だが、事態が事態だ。悠長に考える暇はない。保険てのは先に打っておくからこそだ。

 

「なーに、自分の仕事に戻るだけだ。お前はさっさとその傷治せよ?」

 

 ソーマの手を軽く振り払い、出ていこうとすると今度は後ろから抱き着かれて今度は何だと見れば苦しさを押し殺したユウナが必死に俺の制服を掴んでいた。

 

「ユウ、行ったら駄目! お願い!」

 

 

「関係者以外は立ち入りを遠慮してください!」

 

 

 医療班がユウナから俺を引き離し、そのまま離されて俺は医務室の外へ締め出された。

 

「ユウ!」

 

 ユウナの声が医務室から響き、俺は医務室に背を向けて歩く。

 

「………………急がないとな」

 

 

 さて、向かうとするか。心臓がさっきから煩くて敵わねえ。

 

 

 

 実質俺は外出禁止みたいな状況だ。それはオペレーター各員にも伝達されている筈。入口を見張るように受付が配置されているので、外に出ようとすると呼び止められるに違いない。

 

 階段を駆け上がって、トイレに入って人の気配が来ないか確認して窓を開ける。

 

 あ、ついでに用を足してくか。

 

 手を洗って、そのまま窓から外に出る。

 壁を駆け下り、近くの建物の屋上に着地する。

 

「…………」

 

 心臓の鼓動はまだ止まない。ある方向を向いた瞬間更に大きく脈動して自然と頭が理解する。

 

 この方向に奴が……ピターが居ると。

 

 屋上から屋上へ飛び移り、すぐ近くのパイプラインの上に昇り、そのまま疾走して心臓の鼓動が指し示す方向へ向かった。

 




皆さん、子供の頃はサンタさんは信じていましたか?
私は6歳の頃に真実に気づきました。

ワイ6歳「お、電話きたやんけ。もしもーし」ガチャ
親父「私はサンタクロース。今日の夜プレゼント置くからなー」
ワイ6歳「あ、はい」(これパッパの声やんけ。)


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奥歯ガタガタ言わせてやらぁ

今回はかなり長くなってしまいました。


 アラガミ装甲壁を越えて市街地エリアを過ぎて更に先へと向かう。

 

 もしかしたらピターは既に動き出しているのかもしれない。意識を集中して気配を感じつつ走り続けた。

 

 

 

「…………ッ!」

 

 一際大きな気配。どうやら向こうから出向いてくれたか。それとも丁度アナグラを攻めに来たか。

 まあ、明らかに後者だろう。

 

 

 向こう側から歩いて来るローブを纏った黒い人影。

 間違いねえ、奴が人間の形をしたディアウス・ピターか……。

 

 見覚えがある姿だ。大分前だがハンニバルを一撃で沈めた奴と同じだ……。

 道理で人間の気配がするわけだ。まさか、リンドウさんかと勘違いしたばかりか最初に奴の姿を拝んでいたのは俺だったとは。

 

 ピターは歩みを止めて、こちらを見て不敵に笑う。

 

 

『シニニきたカ、おろかモノめ』

 

 片言ではあるが言葉を話すと聞いたが……中々日本語がうまいじゃないか。

 

「ちげえよ、調子こいてるテメエをぶっ潰しに態々出向いてやったんだよ、テメエの<自主規制>に指突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやらぁ」

 

 中指を立ててピターへ向ける。

 

 

『ワレはヒトをトウタする。ヒトハワレにアらがえん。キサマラは害獣でシカなイ』

 

「害獣とは随分な言い様だ。いいか? 害を成すから害獣だ。俺からすれば、俺に対して害を成しているテメェが害獣だ」

 

『キサマ……ホザイタナ。決してクツガエセヌちかラの差をミルがイイ。キサマはワレに勝てん。希望ナドソンザイせん』

 

「そうか? 1度敗北してこちらに姿を似せたあたり、学習しているようだが……お前、本当に人間を理解した上でその姿を選んだのか?」

 

『なにがイイタイ』

 

「いやなに、すぐに分かるさ。さあ、さっさとおっぱじめようぜ。こっちは帰ったら始末書等が雁首揃えて待っているんでな。嫌な仕事は早く片付けるに限る。だから――」

 

 足を肩幅に開き、腰を引いて拳を軽く握った。

 

「能書き垂れてねえでさっさとかかって来い。此処がお前の――ッ!」

 

 

 宣戦布告をしようとした瞬間、ピターは体から自身の刃翼を模した剣を生み出し、それを手に凄まじい速さで襲い掛かかってきた。

 

 瞬く間に間合いを詰められて刃が目の前まで迫る。

 

 

 さっさとかかって来いとは言ったが、まだ喋ってる途中だろうが――

 

 

「よッ!」

 

 攻撃を受け流しつつ、ピターの手首を掴んで捻り、流れるように武器を奪い取ってピターへ斬撃を入れる。

 

『ヌウ!』

 

 思わぬ反撃でピターが後退りして隙を見せた瞬間、即座に蹴り飛ばしてこちらも距離を取る。

 地面を転がったピターが立ち上がると共に構えた。

 

『グウ、ニンゲンガァ!』

 

 ピターは姿を消した。

 

 消えた――いや、ただ速いだけか。

 

「ッ!」

 

 背後で地面が蹴られる音と共に気配を感じ、即座に振り向きつつ身構える。

 

 姿を現したピターが飛び掛かかってきた。

 再び攻撃を受け流し背後へ回り込んで踏込と同時にピターを斬りつける。

 

『オノレェ!』

 

 ピターは後方へ跳び、同じく刃を精製してこちらに向かってくる。

 

 迫る刃をこちらも刃で受け止めて鍔迫り合い。

 

 不意の素早い蹴りを何とか回避し、距離を取るが直後に距離を詰められて攻撃を許してしまったが、こちらも意地で迎え撃つ。

 

 互いの刃はぶつかり合い、金属音に近い音が響いて火花を散らす。

 

 

 少しばかり手が痺れる。流石はアラガミか……。

 

 左手でフックを繰り出し、続けて肘で打撃を放つが防がれる。

 

 当てたところで、拳と蹴りじゃダメージにはならない。何とか隙をつくり、急所――首か胸を突き刺して仕留めるしかない。

 

 幸い、ヒトを真似たおかげで体術は隙を作るうえで有効打になる筈だ。

 

 此処でこいつを倒す。倒せなくてもせめて致命傷、欲を言えば片足か片腕、片目を潰してアナグラの連中に後を託す。

 

 

 

 

 何度も刃はぶつかり合い、火花を散る。手の痺れが気になるが、気合で堪えて攻撃の速度を維持し続けた。

 

 僅かな隙を見つけ、踏込と同時に肘で殴りつけるが防がれる。それを見越して右足を軸に左足で回し蹴りを繰り出してピターの脇腹にめり込ませる。

 

 しかし相手はアラガミ、気にも留めずに爪を突き出してきたのに対し、上体を仰け反らせてやり過ごし、即座にバックステップで後ろへ下がる。

 

「ちっ、流石に崩れないか……。しかし、さっきまでの余裕はどうした?」

 

 挑発と共に刃を振るが、容易く弾かれる。

 

『スコシハ、ヤルか。ニンゲン、タイシタものダ』

 

「テメエに褒められても嬉しくねえよ。さっさとくたばっちまえ」

 

『ヘラズグチを』

 

 

 剣戟と体術の応酬を繰り広げ、互いに再び距離を取る。

 

 

 

 

 

 奴の接近と共に刃が迫り、後ろへ下がると目の前を通り過ぎる。

 

 反応が遅れていたら顔に消えない傷が……いや、鼻から上が斬り落とされたかもしれんな。

 実に冷や汗ものだ。

 

 追撃を低姿勢で躱し、再びバックステップで距離を取るが、予想されていたのかすぐに距離を詰められて刃が突きだされる。

 

 迫る刃の腹に剣を叩きつけて無理やり弾き反撃を仕掛けるが容易く防がれ、今度はピターからの反撃。

 

 こちらも最小限の動きで隙を作らないように回避して、すぐに攻撃へ転じるも反撃は弾かれる。

 

 僅かな隙を突いた攻撃が向かってくるが、いなしつつ背後へ素早く回り込み、即座に刃を突きだすもピターは跳躍しつつ背後へ回ってくる。

 急いで振り向きつつ刃を振るがバックステップで距離を取られやり過ごされる。

 

『ココマでダ』

 

 ピターは体から新たに片刃の剣を取り出した。今の剣と比べれば明らかに上等なものだ。

 この剣で受ければ諸共斬られるな……。

 

 仕方ねえ、仕切り直しだ。

 

 ピターが剣を構え、距離を詰めてくるのに対し、牽制目的で刃を投げて後退。

 

 牽制攻撃は回避されて刃が迫り、斬撃を躱して隙を伺う。

 

 横切りは姿勢を低くして躱し、縦切りは体を横に反らし、袈裟切りは横に回り込むように躱す。

 

「ッ!」

 

 斬撃の猛攻から突きに転じたようだ。素早い突きをひたすら躱す。

 

くそっ、どんなに見切れても反撃出来なければ意味がない。俺もまだまだか……。

 

 

 急に連撃が止まり、ピターは掌を向けた。

 

 掌に赤い電撃が一瞬だけ走った。

 

 

「ッ! ふ――」

 

 察して横へ跳ぶと共に、ピターの掌から赤い雷球が発射された。

 

「へえ、手品か? 他に特技は?」

 

 ピターは剣を咥え、両掌を向ける。次々と赤い雷球が発射され、ダッシュからの横跳びやバク転、バック宙、サイドステップは勿論、体を捻じりつつ跳んでひたすら回避する。

 

「さて……」

 

 

 雷球を回避しつつスタングレネードを取り出して思考する。

 

 

 かつて第1部隊が交戦した際、背中に隠した翼のような刃でスタングレネードから視界を守ったと聞いている。

 翼が無い以上、腕で目を覆って攻撃が止まる事を見越して距離を詰めるか。

 

 回避行動をとりつつ、スタングレネードの安全ピンを引き抜く。

 レバーを握っていつでも使用できるよう準備をする。

 

 

 よし……行くぞ。

 

 次の雷球を躱すと同時に方向転換をしてピターへ駆けだす。

 

 前方へ駆けつつ次々と迫る雷球を躱し、ピターとの距離を詰めて行く。

 そしてスタングレネードをピターの足元に投げつけると同時にステップで一気に距離を詰める。

 

 ピターはスタングレネードが効果を発揮するよりも早く空中へ跳び、雷球を連射した。

 

 しかし、どの雷球も俺を狙ってはいない。

 

 雷球が地面へ衝突して弾けると砂埃が舞い、周囲の状況を把握できないがとにかく集中して警戒する。

 

 しかし、砂埃に乗じて攻撃が飛んでくる訳でもない。砂埃が晴れると俺を囲むように雷球が配置されていた。地上、空中共に包囲されている。

 

 この状況で一斉に撃たれれば逃げ場は無いに等しい。

 

「アララ……こりゃ参った。まあ、手が無いわけでもないが……な!」

 

 意識を集中し、雷球の配置を確認して通り抜ける可能性がある箇所を目測して即座に前方へ駆け――

 

『キエロ!』

 

 ピターの言葉と共に雷球は一斉に動き出す。跳びながら体を捻り、雷球と雷球の間を潜り抜けて離脱する。

 

「少しヒヤッとしたな。やっぱ知恵があるだけ厄介だな」

 

 左肘をピターに向け、構えと共に呼吸を整えて一気に距離を詰めて肘打ちを叩き込み、続けて右足で踏み込んで掌底を叩きつけて態勢を崩す。

 

『ヌゥ!?』

 

 突然の奇襲に怯んだ隙に、剣を持っている方の腕を宙返りと共に蹴り上げた。

 剣は宙を舞い、気を取られたピターにそのまま突き蹴りを放って吹き飛ばす。

 

 ピターから目を離すことなく、降ってきた剣をキャッチしてすぐに追撃へ向かう。

 

 まず一太刀繰り出し、ピターの胴体に傷を入れた。もう一撃入れようと剣を振るが、ピターが剣を取り出し防がれた。

 

 

 少し後退すると見せかけて斬りかかるが、ピターも同じように剣を振る。

 

 二撃、三撃と剣を合わせ火花が散り、側面へ回り込んで同時に斬りつけるが受け流しで凌がれ、牽制しつつ距離を取って互いに向かい合う。

 

 ピターが横薙ぎを繰り出し、姿勢を低くしつつ後ろへ下がって避ける。

 続けて迫り来る縦切りは地面を転がりつつ背後へ回り込んで斬りつけ、次の攻撃を先読みし、すぐに後ろへ身を翻す。

 

 同時に読み通り、ピターが剣を振りつつ一回転して周囲を薙ぎ払った。

 

 後隙を狙い、踏込と共に剣を振るが奴は無茶な姿勢での反撃に対し、攻撃を中止して防御。

 

 攻撃を受け止めた衝撃を利用して大きく距離を取る。そして互いに構え、同じタイミングで剣を振りつつ互いの背後へ切り抜ける。

 

 振り向き合い、すぐさま繰り出された突き攻撃を最小限の動きで回避してピターの肩を斬りつけて、背後へ回る。

 

 振り向きながらの反撃を一度バックステップで下がったと見せかけて跳び蹴りをかますと、追撃のために接近したピターの顔面に足の靴裏をめり込ませて吹き飛ばす。

 

『オノレェ……!』

 

 ピターは受け身を取ると共に高く跳び、上空から雷球を発射してきた。

 

 降りかかる雷球をすべて躱し、跳んで空中のピターを追い駆ける。ピターは迎撃の雷球を発射してきたが雷球を剣で斬り、掻き消しながら接近する。

ピターも神機使いと同じように空中ステップで向かってきた。

 

 間合いに入った直後、剣を振ると奴もほぼ同じタイミングで攻撃を仕掛けてきて剣同士が衝突して耳障りな音が響く。

 

 そのまま空中での剣戟に移行し、互いに空気を蹴って移動しつつ斬撃を繰り出す。

 

『シネ』

 

 渾身の斬撃を仕掛けてきたが、身体を僅かに反らして反撃を回避して剣を振る。

 

 攻撃・防御・回避・反撃の応酬を繰り返す最中、一瞬の後隙をついて右膝を振り上げて胸部にめり込ませ、更に態勢を変えて両足でキックを放つもピターは腕を振る。

 

 腕に弾かれて吹き飛ばされるが、態勢を整えて空中ステップでピターを追い駆けて勢いのまま剣で刺突を仕掛ける。

 

『ヌウン!』

 

 ピターが片手で赤い電撃を放ち、こちらは咄嗟に防御して赤い電撃を受け止めて刀身に纏う。

 

「かかったな馬鹿が! 雷返し!」

 

 突きを繰り出して赤い雷槍を放つ。

 

『ナラバ……!』

 

 ピターも同じように刀身で受け止めて一回転ともに剣を振ると雷の刃が返ってきた上に、既にピターが追撃を仕掛けようと接近していた。

 

 

「……ッ、要らねえよ!」

 

 咄嗟に剣を振って電撃を纏い、そのまま勢いに任せても更に回転切りを放つと赤い電撃の刃が突撃を仕掛けてきたピターを飲み込む。

 

 

『グオオオォぉぉッ⁉』

 

 

 ピターの悲鳴が聞こえ、更に追撃を繰り出すが容易く防がれた上に弾かれる。

 

 奴が唐突に踵落としを掛けてきた。

 

 咄嗟に片方の腕で防御するが一撃は重く、地面へ叩き落とされる。

 

 着地時に両足で踏ん張るが耐え切れず膝が地面につく。受け止めた腕に多少の痛みと熱が残って痺れる。上空からピターが剣を構えて襲い掛かるも最低限の動きで上空からの攻撃を回避し、斬り込んで地上での白兵戦に持ち込む。

 

 斬撃を弾かれてそのまま反撃を返されるが受け流しつつ相手の手首を掴み、足を絡ませて刈り取ると同時に地面へ叩きつけるが、受け身を取られた果てに逆に掴まれた。

 

 放り投げられるがうまく着地をしてバックステップで距離を取るが、相手も加速して追い駆けてくる。

 

「ちっ! 攻めないと悪戯に消耗するだけか……!」

 

 攻撃に転じる為には最小限の動きで対応をしなければいけない。こちらはまともな一撃を食らえば致命傷、ミスは許されない。

 

 剣を両手に持ち、ピターの斬撃を冷静に弾く。

 

 突然奴は跳び上がって、剣を振り下ろしてきたが横へ軽いステップで躱すと奴は次に肘打ちを繰り出してきた。

 

 剣の腹でガードするが思いの他、衝撃が強く後方へ押され、奴は距離を詰めて突きを放ってくる。

 

「ふッ!」

 

 突きを受け流しつつ、突き出された剣を片足で踏みつけて地面へ押さえつけるが、ピターはこちらへ空いた方の掌を向けた。

 雷球が発射される前に横へ転がり、態勢を整えて斬りかかるが、躱されこちらに下段攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「甘い!」

 

 身を翻しつつ跳躍し、着地と共に蹴りを浴びせて一回転しつつ2連続で蹴りを入れ、更にもう一回転して勢いに任せ剣を振り、返し刃で更に切り裂き最後に突き蹴りを繰り出すも最後の蹴りが防がれ、反撃を許す。

 

「ちっ!」

 

 何とか回避して僅かな隙を見つけて首を狙って斬りかかるが黒い刃に防がれ、咄嗟に後ろへ飛んで反撃を回避する。

 

 踏み込んで胴体に剣を振るが向こうも同じ考えか、こちらの攻撃とほぼ同じ軌道を描いてぶつかり合う。

 

 似たような応酬が、数秒の間に幾度か繰り返される。

 

 剣戟の最中、重い一撃が振られて咄嗟に防御すると後ろへ押されてつい膝を突く。

 

「……ッ」

 

 人間の真似事にしちゃ良く出来ている。

 見切りの極意にここまで対応してくるとはな……!

 咄嗟とは言え……雷返しに対する返し、今の重い一撃……。

 

 奴め、戦いながら学習している。このまま戦いが長引けば奴も更に強くなり手が付けられない状態になる。

 

 速さ、力、体力はすべてあちらに軍配が上がる。故にこちらは培ってきた経験と技量で仕掛けるしかねえ。

 

 

 

 

 

 

 踏込と同時に距離を詰めて斬りかかるが、奴は後ろへ下がってやり過ごしてからの反撃。

 

 反撃が飛んでくる前に剣を振って牽制する。

 

 後ろへ後退し相手の攻撃を誘う。

 

 誘いに乗ったピターは踏込と共に斬撃を放ってきた。体を反らして攻撃を回避し、攻撃するが相手も剣を振って弾く。

 

 互いに攻防を繰り返し、何度も斬撃がぶつかり合う。

 

 剣を水平に薙ぐフェイントを入れ、剣の柄頭でピターを殴り飛ばす。そして追撃――

 

「ッ!」

 

 態勢を崩しつつも俺の肩を狙った的確な蹴りでの反撃に対し、追撃を中止して向かってきた足に剣を突き刺す。そのまま足を切り裂き、蹴りを入れる。間髪入れずに跳躍と共に切りつける。

 

 まだだ、折角攻勢に出たんだ。ここで一気に決着をつける!

 

 切り口を押さえて悶える奴に飛び込み突きを放つが、剣の切っ先は奴が持つ剣の柄頭で受け止められた。

 

 こいつっ……! さっきの技を……ここまで器用とは予想外だな……!

 

 ピターがパンチを放つと共に、横へ受け流してバックステップで後ろ軽く跳ぶ。

 

『貰った!』

 

 ピターが予測していたと言わんばかりに飛び込んでくる。

 

 着地と共に一か八か、回転しながら周囲を斬りつける。

 回転の勢いをつけた鋭い斬撃がピターの肩から腹を切り裂き、強力な反撃を叩き込まれた奴は即座に距離を取る。

 

『ラチガアカン。チョコマカト……』

 

「俺が悪いんじゃない。当てられないテメエに問題があるんだよ」

 

『ナラバ、コウスルマデダ』

 

 言葉と共に突撃。

 

「知恵があるのに結局ゴリ押しか、所詮人間の真似事か」

 

 

 攻撃を弾いても今度は下段の薙ぎ払いが繰り出され、跳んでそのままピターを踏み台にして跳びあがり、頭上から剣を振り下ろした。

 

 

「ッ!」

 

 剣を受け止められると共にそのまま弾き返されて地面へ叩きつけられるが受け身を取って態勢を整え、次の攻撃が飛んでくる前に一気に間合いを詰めて斬りかかるが刀身で防御される。

 

 ピターが後ろへ少し下がると、すかさず踏み込んで距離を離すまいと踏み込んで蹴りを仕掛ける。

 

 しかし奴は不意に体当たりを仕掛け、足一本で体当たりに勝てる筈もなく態勢を崩す。

 その隙をつくかのような追撃が迫る。

 

「ッ……!」

 

 咄嗟に刀身で防ぐが衝撃までは防ぎきれず後ろへ押されながらも、地面を踏みしめて踏ん張り、そのまま剣を掲げて構える。

 

 ピターの追撃に合わせて剣を振り下ろす。

 

「カァーッ!」

 

 気迫と共に振り下ろした斬撃は防がれるも、衝撃までは防げなかったようでピターは地面へ叩きつけられる。

 

 即座にピターが足元に雷球を撃ち、砂埃を起こして大きく跳躍して距離を取られる。

 

 

 

 ドクッ!

 

 

「グゥ……⁉ くそ、こんな時に……!」

 

 心臓の鼓動が聞こえたかと思えば息苦しくなり、胸部が激痛に襲われて脚から力が抜け始める。何とか気合で堪えて立つ。

 

 砂埃の向こうでピターの影が見え、こちらへ迫ってくる。

 焦って剣を振ると、手ごたえは無く砂埃には赤い電撃が走った。

 背後から何かが迫って来るのを感じ取り、振り向きと共に剣を振るが切り裂いたのはピターの形をした赤い電撃だった。

 

「は、お人形遊びか?」

 

 嘲笑った直後、真っ二つに斬られた赤い電撃は弾け――

 

「ぐッ!?」

 

 

 ヤベッ、体が……!

 完全痺れた訳ではない。それよりも奴を……!

 

 

 焦りながらピターの姿を視界に捉えようとした瞬間、目の間に邪悪な顔が現れ、腹に掌を当てられると同時に凄まじい熱を感じ、激痛と共に吹き飛ばされた。

 

 

「――ッ!」

 

 

 あまりの痛みで悲鳴を上げる事も出来ず、地面へ転がり腹部の激痛に悶える。腹はジュウと焼けるような音をたてながら痛みを訴える。

 

「グ……ウゥ……」

 

 歯を食いしばり、痛みを堪えて立ち上がろうとするが足に力が入らず、剣を杖代わりにしてやっと立ち上がる。だが立っているだけでやっとだ。

 

 ああ、くそ……あんなお人形遊びで致命傷を受けるとは……。馬鹿馬鹿しい……ッ!

 

 

 

 

 

 致命傷を貰ったと認識すると心臓が速く、大きく鼓動して体に力が漲る。

 はっ、致命傷がなんだ。戦いは終わっちゃいねえぞ……戦闘――続行だ……!

 

 

『愚か。実に愚カ、くだらん、ゼツボウしろ』

 

 ピターが一瞬で距離を詰め、突きを放つ。

 

「ッ!」

 

 何とか躱そうとするも剣の切っ先が右手の腕輪に直撃して腕輪が大きく欠け、その瞬間に手から腕にかけて凄まじい痛みが走る。

 

 

「…………ッ!? っ……!!」  

 

 

 更に追撃が迫り、激痛を押し殺して剣を振って斬撃を弾くが連撃は止まらない。次の斬撃も何とか弾き、さらに続く斬撃にも何とかくらいつくが次第に捌けなくなってくる。

 

「くっ……!」

 

 

 ガキンッ!

 

 

 剣が弾かれ金属音が響く。態勢を崩し、大きな隙を見せてしまった。

 

『死ねェ!』

 

 

 

 ピターの剣が腹部に突き刺さった。

 

 

 




ちなみに次回で完結です。かなり長くなる予定故、長すぎたら結構大掛かりな添削になると思いますが年内に投稿する予定です。(願望)


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愛してるぜ。

これにて完結です。
大掛かりな添削になりましたが年内に投稿出来て一安心です。


 

 

 

「ガアッ!? ――ちぃ!」

 

 

 火傷するような痛みを堪え、ピターの手首を掴んでこちらも剣を構えて奴を睨みつける。

 予想外の抵抗だったのか、奴は一瞬目を見開いた。

 

「んなもん――効くかァ!」

 

 雄たけびと共に右手に持つ剣をピターの腹部へ突き刺す。

 

『ヌゥ!?』

 

 そして力任せに蹴り飛ばす。奴が剣を握ったまま吹き飛んだせいで腹部に再び激痛が走り、血が噴き出した。

 しかしそれは向こうも同じ。腹部の傷を押さえて悶えている。

 

 

 

 深い刺し傷から血が溢れ、無駄だと分かっていても空いた手で傷口を押さえる。

 

「がァ……グァ……ゴフっ! グ……ゥ」

 

 激痛で体にうまく力が入らず、片膝を突いて口から血を吐き散らかし、剣を杖代わりに立つ。

 

 右手は赤黒い異形の手に形が変わり始め、刺された箇所を見ると傷口からオラクルの侵食が広がっていた。

 

 負傷箇所からオラクルに侵食、おまけに腕輪がやられたか……!

 

 アラガミ化、即効性の猛毒、榊博士の言葉が頭を過る。

 

「やってくれるな……! だが、この程度……」

 

 

 強がりを自身に言い聞かせて立ち上がる。焼け焦げ、ボロボロになり衣服としての機能を失った上着を破き捨てる。

 

「まだ、死ぬわけには行かねえんだよ……!」

 

 

 猛スピードでピターが迫りくるのを確認すると共に拳を強く握り、全神経を集中する。

 

 ピターが腕を振り上げるのを確認すると共に、こちらからも距離を詰めて懐に潜り込む。

 剣が振り降ろされるよりも早く、腰を落としつつ腹部に異形の右拳を打ちこんで吹き飛ばす。

 

 しかし、ピターはすぐさま反撃に移り剣の切っ先が迫る。

 咄嗟に身を捻って避け、そのまま回転蹴りを脇腹へめり込ませて吹き飛ばす。

 

 

『キサママダ……ナゼ、ナぜダ? ナゼゼツボウシナイ……! これほどノ差ガアルにも関わラズ!』

 

「舐めるなよ……! 俺はまだ……戦える……! 人様の真似しか出来ないテメエには一生分からないだろうがな。血肉と魂が吠えてるのさ。テメエをぶっ潰せってなァ!」

 

 この傷……助かる見込みはもう無い。正真正銘、これが最後の戦い。

 なら、未練なんぞ残さないよう全力でやってやる。

 

 予定変更だ、コイツだけは絶対に此処でぶっ潰す。

 

 許せ、皆。残していく連中の事を思うってのはこういう事なんだろうな……。

 

 

 エレナ、約束……破っちまった……ごめんな。

 

 

 誰かが言っていたな。人間生まれた時は自分が泣き、周りは笑う。自分が死ぬときは周りが泣いて、自分は笑っている。

 それが人にとって一番幸せな人生だと。

 果たして本当にそれが幸せであるのかは分からんが、まあそれはそれで悪い気はしない。

 

 泣くのは構わない。涙を一滴も流せない悲しい人間よりはマシさ。

 だが、必ず仲間の死は踏み越えないといけない。

 それが散っていった者達への弔いだ。

 

「さあ……地獄まで付き合ってもらうぜ、害獣野郎。誰に喧嘩売ったのか教えてやる……!」

 

『オノレ……イレギュラァメ。ゼツボウシロぉ! キサマをケシタラスグにキサマのナカマモあとをおせテやる! 我こそ神にして絶対なりぃ!』

 

 ピターが空へ吠えると赤い電撃を体中へ走らせる。

 

 赤い電撃を纏った奴が瞬間移動で間合いを詰めて剣を振る。

 

 剣を盾にして防ぐが、あまりの衝撃に飛ばされて膝をつく。これ以上力が入らない。だが、諦めるつもりは毛頭ない。

 既に立つ場は死の淵、だが――最後の一線は超えるにはまだ早い……!

 

 

 決意して体に力を込めると胸と首に違和感を感じ、剣を持つ手が暖かい何かに包まれた。見てみれば……小さな手が、俺の手を優しく覆っていた。

 

 小さく暖かい手の主。

 視界には……此処には居ないはずの可愛らしい少女の幻が見えた。

 あの出会いから一度として忘れたことは無い。

 とても優しく、笑顔が良く似合う少女が――笑顔で俺に言った。

 

 

『ユウ、大好き!』

 

 

 

「はは……俺もさ。ありがとな」

 

 

 笑って彼女の幻に答えた。胸と首が熱くなり、熱は全身へ。激痛は消え失せ力が漲り、剣を構える。

 

 構えた瞬間――腹の傷口からオラクルが噴き出し、ピターから奪い取った翼を模した黒い刃を包む。

 

 黒い刃は、灰がすべてを喰らうあの世界で……彼女から借り受け、幾たびも振るった灰色の刃に形を変えた。

 

 それは当然のように手に馴染む。

 

 

 こちらも剣を両手に持ってあえて攻撃に対して攻撃を繰り出し、斬撃同士をぶつける。

 俺が弾き返そうとするとピターも同じように弾き返そうと力を込め、互い後ろへ弾き飛ばされる。

 

 すぐに態勢を立て直し、再び距離を詰めて斬り合いに持ち込む。

 

 剣戟の最中、ほんの一瞬の隙を逃さずに踏込んでピターの胸部を狙って切っ先を突き立てるも奴は肩を盾代わりにした。すかさず蹴りを腹に入れて引き離す。

 

 受け身を取って着地をしたピターは雷球を撃ちながら接近してきた。

 

 雷球を避けつつこちらも接近する。剣が届く距離に入ると同時に一閃、奴も剣を振ってきた。刃同士がぶつかり合い、灰色の刃と黒い刃がぶつかる度に火花が散る。

 

 攻撃、防御、回避、受け流しを駆使した応酬を続ける。

 

「さっきは油断した。見切るってのは焦らず冷静であることが前提条件なんでな」

 

 剣を振りつつ言葉を紡ぎ、迫る斬撃を防いで弾く。

 

『そのカラダデハワレのイチゲキ二タエレまい。楽にシテやろウ』

 

「確かに、後1回でも直撃貰えば死ぬだろうな。故に、油断はしないしお前の攻撃にはもう当たらない」

 

『ナラバ……』

 

 ピターの剣にオラクルが集結して赤黒く光を放ちながら、強大な刀身となる。剣を重そうに持ち上げて振りかぶる。

 大技をかます気か。

 

 こちらが構えると同時に右袈裟斬りを繰り出してきた。

 

 意識を集中し、躱す事に専念して最低限の動き且つ紙一重で避ける。続けて左から水平斬りも同じように捌く。

 

『死ねェ!』

 

 そして最後の一撃と言わんばかりに、刀身は輝きを増す。そしてピターは辺り一帯を薙ぎ払おうと剣を振りかぶる。

 

 輝きを増して迫る刀身を軽い跳躍で回避し、そのまま回し蹴りを放つ。

 

 

 蹴り飛ばされたピターは再び瞬間移動でその場から消え、背後に気配を感じ振り返ると再び瞬間移動で姿を消す。

 

「ちぃ……!」

 

 横や正面、背後と距離を保ちつつ周囲を瞬時に移動し続けるピターに少しイラつくが、すぐに冷静になって意識を集中する。

 

 背後より迫る気配を察知すると当時に振り向いて剣を振り、ピターの奇襲を弾き返す。

 

 地面を転がり、すぐに姿を晦ましたピターの気配を追おうと意識を集中した瞬間を背後から光の輝きを感じて振り返ると、ピターは両手で巨大雷球を作り出し、こちらに向ける。

 

『キエロォッ!』

 

 雷球からこちらを容易く呑み込める規模のレーザーが照射された。

 凄まじい熱気を放ちながら迫ってくる。

 

「ちっ、でかい雷球にお次はレーザー? 出鱈目な奴め」

 

 レーザーを躱しつつ後隙を晒した奴へ近づき、斬りかかると見せかけて地面へ剣を突き刺して思い切り振り上げて砂をピターの顔へ掛ける。

 手で顔を覆い、その直後に渾身の力で殴りつける。

 

『ヌぅ……!』

 

 受け身を取ってピターが両手を構え、雷球で弾幕を展開される。

 

 雷球の嵐へ突撃を掛け、被弾しそうな雷球を剣で掻き消しつつ距離を詰め、一気に斬りかかって剣戟へ持ち込む。

 金属音が何度も響き、火花が何回も散る。

 

 斬撃を回避しつつ真横へ回り込んで突き攻撃を繰り出すとピターは飛び退くが切っ先は頬の肉を幾分か削ぎ落して鮮血が舞う。

 

 

『オノレッ!』

 

 ピターめ、相当頭にキテるようだな。

 誘い込んだ。後はこちらがヘマをしなければすぐに終わる。

 

 腰を低くして、足に力を込める。

 

「言ったろ。お前だけは生かしちゃおけねえってな。だから、此処で全部終わらせてやる」

 

 全身全霊の力で地面を蹴り、距離を詰めるが奴は剣を上段に構えた。

 

 あの構えは……やはり使ったか。

 

 無骨に、正面から叩き斬る。ただ、それだけを一意に専心した技。

 

 

『ハアッ!』

 

 刃が振ろ下ろされた。

 気迫なら奴の方が上であるが……自分の技を見切れない間抜けが居ると思うか? 

 最初に忠告した筈だ。本当に人間を理解したうえで真似たのかと。

 

 

 おかげでこいつにぶち込めるぜ。致命の一撃をな……!

 気迫と共に振り下ろされる剣よりも早くピターの側面へ滑るように回り込み、霞の構えを取る。

 

 瞬時に精神を統一して明鏡止水へ至り、剣を一振り。

 

 その一振りでそれぞれ軌道の異なる二つの斬撃を同時に繰り出す。

 

 一太刀は肩を、2つ目の斬撃は左腕を斬り落とした。

 

『GAAAAAAA!?』

 

 燕なら躱せたぜ、今の攻撃。だからお前は燕以下だよ、害獣野郎。

 

 悲鳴を上げるピターへ更に連撃を繰り出し、滅多切りにする。

 右袈裟斬り、左から水平斬り、右から返し刃、 左下から斬り上げ、垂直に近い上段斬り下ろし。

 

 次々に繰り出し、反撃は愚か逃げる隙も与えることなく攻め続け剣を振るう度に奴の返り血を浴びる。

 

 更に強力な一撃を仕掛けようと軽く跳躍して踏込むと同時に片足を浮かせ、もう片方の足で立つ。

 剣を両手で持って振りかぶり、勢いのままに剣を振る。

 

「デアァアアァッ!」

 

 ピターを思い切り斬り飛ばした。

 

 吹き飛んだピターは地面へ落ちて転がるが、すぐに立ち上がってこちらを睨みつけてきた。

 

『クソ、今のは……なンだ⁉ 最後まで不愉快な下等生物め!』

 

 まともに言葉まで発せるようになったか。段々人間に近くなってきたな……。

 だが、人に近くなれば近くなるほど俺を倒す見込みは無くなるぞ。

 

 

 

「くそったれな三流技だ。諦めろ、テメェじゃ一生真似できねえよ」

 

『戯言ヲ……死に損ないが!』

 

「ああ、その通りだ。だが、俺は所詮無銘の兵士。戦場じゃ真っ先に散る命だ。お前はその無銘の兵士すら容易く殺せない事もまた事実だ」

 

『負ケ惜しミヲ。負け犬ノ遠吠エか』

 

「戦いに勝ちも負けもねえさ。戦って生き残るか、死んで消えるかだ」

 

 

 不意打ちとはいえ、ソーマに一撃入れたのは褒めてやりたいところだが……あいつらは何度でも限界をぶち破って強く、そして経験を得て賢くなるだろう。アラガミの進化と競うように。

 

 

 そう、人間は強い。もし俺達の時代にアラガミなんて出てきたら打つ手は無かっただろう。だがこの時代の人間は見事に対抗して見せた。

 

 

 

「おい、希望など無いとほざいたな?」

 

 中指を立ててピターへ向ける。

 

「希望がねえのはテメェだよ、害獣野郎」

 

『オノレェ……! 下等生物ガァ……ワレを愚弄するカァ!』

 

 ピターは剣を片手に猛スピードで接近し、剣を振りかぶる。

 

 こちらも剣を片手に、呼吸を整える。

 

 

 

 まったく文句ばっかりほざきやがって……怒りてえのはこっちだ。そもそもこいつが現れなければ……。

 

 エレナとの約束に、ユウナとの約束も……。

 

「テメエのおかげで、大事な約束を2つも破っちまっただろうが……!」

 

 

 

 

 剣を構え、意識を集中させる。

 

 

「カタぁ着けてやる。これで最後だ」

 

 

 

 踏込みと同時に、ピターの振る剣を全力で叩き斬って圧し折る。

 

『ヌアッ⁉』

 

 攻撃を弾かれ、隙をさらした奴へ肘鉄を繰り出し、更に怯ませてから喉元に剣を突き刺す。

 ピターは抵抗して折れた剣を振りかぶるが素早く後退して、反撃を回避する。

 

 無理に反撃を振ったおかげか、遂にピターはよろけて膝を突いた。

 

『AAaaaa…………』

 

 

 勝機!

 

 

 一気に距離を詰めて首へ一閃するも、剣で防がれる。すぐさま剣を上空へ弾き飛ばす。

 

 即座にピターは一瞬で姿を消し背後から新たな剣を取り出して斬りかかってくる。

 迫る剣を紙一重で回避して反撃へ転じ、剣を振るがピターも体を傾けて紙一重でやりすごし、踏み込みつつ返し刃、ピターは軽快に跳んで再び背後へ回り込まれた。

 

「っ!」

 

 振り向きながら剣を振ると、ピターも同じように刃を振っていた。

 

 

 刃同士が激突した直後、ピターの顎目掛けて空いた手で拳を握り渾身の力で跳躍と共にアッパーを叩き込む。

 

 

 そして剣を逆手に持ち替え、ピター肩を乱雑に掴んだ。

 

『ナッ⁉』

 

「迷ったな!首をだせェ!」

 

 目を見開いて驚くピター、一回転と共にその首を切り裂いた。

 

『バカな……ナゼ……コノヨウナ…………オノレェ……!』

 

 首だけとなって地面へ落ちる最中……最後の悪あがきか、赤い電撃を纏って赤く輝く。

 

「まだだぁ! 最後に1発くれてやらぁ!」 

 

 とどめの一撃を入れるため、首の無い胴体を足場代わりにして跳ぶ。

 剣を両手で握り、空中からピターの眉間目掛けて落下して狙いを定めた箇所へ思い切り剣を突き刺した。

 

 首だけになっても油断することなく相手の眉間に必殺の一撃。これぞ隙の生じぬ二撃必殺。

 

 

『オ……オノレェ……オノ……レェ……』

 

 

「時に人は神や鬼にも肉薄する。取るに足らぬと侮ったな」

 

 

 剣に貫かれたピターの体は霧散して消え、そこに残ったのは剣で貫かれたコアだけだったが、すぐにコアも霧散し空へ昇っていく。

 

 その直後に体から力が抜け、その場で膝をつく

 

 

 

 

「グゥ……! ハア……ハア……ッ! グッ……ガハッ!」

 

 

 痛みに身を強張らせると胸が苦しくなり咳き込んで幾らか吐血する。

 身体から力が抜け、力むと激痛が走る。緊張が解けたこの状態じゃ……もう立ち上がる事もできないかもしれない。

 

 

 流石にあの攻撃が致命的だったようだ。

 

 刺された傷から血が溢れ出し、傷口のすぐ近くの皮膚はオラクルに侵食されて赤黒く変色している。右腕は赤黒く染まり、袖を捲ればシャツに隠れていた部分も完全に赤黒く塗りつぶされており、胴体まで完全に侵食されているのが容易く想像できる。

 このままじゃ失血死でくたばるか、最悪アラガミ化もあり得るな。

 

「ああ……。痛ぇ……」

 

 

 ああ、覚悟を決めたつもりだったが……死ぬのってやっぱ怖いな……。

 やべえ、意識が朦朧としてきた……。

 滅茶苦茶痛えし、苦しすぎて吐きそうだ……。

 

 

 

「…………?」

 

 視界がぼやける中、白い制服を着た神機使い達が背を向けて歩くのが見える。

 

「…………………あぁ……そうか……」

 

 ユウナたちがフェンリルのマークに良く似たエムブレムが刺繍された白い制服を着て、去っていく姿が見えた。その後姿はとても逞しく、立派なものだった。

 

 痛みを無視して咄嗟に手を伸ばす。だが、伸ばした手をすぐに下ろした。

 

「……そうだ、前へ進め……」

 

 

 『この世の全てには必ず理由がある』と、戦友は言った。俺の死もきっと……。

 無様に敗北し、挙句に何も守れずに死ぬような、納得のいかない無念だけは残さなくて済みそうだ。

 戦って守る命、これ程尊いものは無い。

 

 

 しかし、感慨深いな。ここが未来だなんてな。いやまあ、絶望的な未来だよな……これ。

 でも、あいつらはこんな絶望しかない世の中でも希望を捨てずに戦っている。

 過去の存在である俺たちからすれば、未来を生きるあいつらは何よりの宝だ。俺たちはあいつらと、あいつらと共に在る未来のために戦ったのだから。

 そしてあいつらは見事立派に生きて戦っている。

 嬉しく、誇らしい事だ。

 

 あの世への良い土産話がたくさんできた。土産話を戦友たちに聞かせ――いや、その前に地獄の底で鬼達と一戦か……。

 

 

 さぁて……ホントに覚悟を決めるか。

 

 このまま死ねば、俺はピターに殺されたことになる。倒したはずの奴に殺されたことにされるとか癪に障る。人として死を迎えるより早くアラガミ化し、未練がましくこの世を彷徨うなんてのも御免だ。

 

 自分の始末は、自分でつけるしかない。

 

 

 気力を振り絞り、地面に膝を突いて上体を起こし、震える手でしっかりと灰色の刃を握って切っ先を腹へ向ける。

 

 

 悪いな皆、先に逝く。

 でもお前たちは、あと数十年はこっちに来るなよ。せめて爺婆になってから来てくれ。

 あ、でも俺って地獄行きか? 

 

 前言撤回、地獄に落ちるような悪い事はするなよ。

 

 

 

 エレナ、元気でな……。幸せに、なってくれ。

 

 

 

 皆、あともう一言だけ言わせてくれ。

 

 

「ありがとよ、世話になったな」

 

 

 言葉と共に、刃を思い切り腹へ突き刺し、奥深くまで刺し込む。

 

 痛みと共に意識は徐々に遠のき、瞼は勝手に……ゆっくりとだが閉じていく。

 流石に刺しただけじゃ死ねねえか。まあそれならピターに刺された時点でとっくにお陀仏か。

 

 歯を食いしばり、痛みと恐怖で震える体を押さえつけて剣の柄を力強く握る。

 

 

 

 

 

 

            「愛してるぜ、可愛い子どもたち」

 

 

 

 

 

 もう一言を紡ぎ、刃を振り抜いた。

 

 




トラブル等で丸1年投稿できなかったりペースが定まらなかったりと色々ありましたが完結出来てホッとしています。
程度の低い文ですが、それでも応援のお言葉を頂けて大変励みになりました。
また、誤字脱字のを指摘してくださった方々にも重ねてお礼を申し上げます。 
誤字脱字の修正に関しては時間を見つけ次第行っていきたいと思います。

最期に読者の皆様にお礼を申し上げます。
誠にありがとうございました。

 

一応、後日談の随筆も投稿日は不定ですが考えておりますので、投稿した際にはご覧になって頂ければ幸いです。


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