はちまんエンペラー (Nokato)
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出発前

 

 

「だから、悪かったって言ってるだろ」

「貴方のそれは信用ならないの。本当にそう思って言っているのかしら、嘘つき谷君?」

「思ってるって…」

「ま、まーまーゆきのんっ、ヒッキーにこれ以上言うのは可哀想だし、ね?ヒッキーにも、何か考えがあるんだろうし…」

「…由比ヶ浜さん」

 

千葉、比企谷宅。四月が始まり、既に二日が過ぎた今日。リビングで机を挟み、二人の女子と一人の男子が話し合っていた。

紆余曲折、艱難辛苦を越えた彼らはこれ以上ない絆、そして言葉にしがたい、けれど確かに存在した『本物』。ソレを手に入れた彼らは、何故かまた争っていた。

 

「……今は由比ヶ浜さんに免じて許してあげる。でも、ちゃんと説明して頂戴。…何故、貴方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()する事になっているのかを」

 

黒艶のある長髪を撫で、目の前の少年を咎める視線で射抜いたのは、雪ノ下雪乃。総武中学、奉仕部元部長だ。そして彼女の隣に座り、同じく少し咎める視線で見、しかし心配と疑問が多く表情に浮かぶ明るい髪に、右側のお団子が特徴の少女は由比ヶ浜結衣。奉仕部の部員である。

 

「…」

 

対して、その視線を一身に受け、若干背筋に嫌な汗が流れ始めた三白眼で濁った瞳、ボサボサの髪に猫背という姿勢と目付きの悪さが目立つ少年、比企谷八幡は目の前の激甘コーヒーに手をつけた。

それが彼なりの言いたいことを纏める時の仕草だと知っている少女らは言葉を発さず、ただ彼の言葉を待つ。

 

ほんの数十秒間ではあるが間を改めた少年は、少女達の視線から逃げずに正面から見据え、漸く口を開いた。

 

「…まずは、本当にすまなかったと思ってる。三人で、また奉仕部を…って張り切ってた由比ヶ浜には特に」

「…ヒッキー」

「雪ノ下も、すまなかった。お前が一応ではあるが、三人でいる事が幸せであると口にしてくれた時は俺も嬉しかった。これからの期待を裏切って、すまない」

「…」

 

謝罪を聞き、少女らは少年の意図を探る。

何せレヴォルフ黒学院とは、強者が絶対である校風で、争いが耐えないのだ。実力さえあれば悪党でも入学出来るという、凄まじいまでの実力至上主義。

 

いくら星脈世代とはいえ、全員が全員争いが好きな訳では無い。というかお正月争いが好きな者は少数だろう。

争うかではなく競い合う、を求めるものが大多数だからだ。そしてその上で勝ち抜き、願いを叶えんとする為の手段が戦闘という訳で。血を流すのが趣味だというものはまずいない。

 

そして、彼ら三人は揃って強力な星脈世代であった。アスタリスクの高校体験に参加した彼らは、ほぼ全ての高校に歓迎される程であった。最も、そこでも少しトラブルはあったのだが…そして彼らはその実力を発揮し、且つ自由な学風、そして三人が問題なく入学出来る星導館学園に入学しようと決めていたのだ。

しかしそこで、思わぬ展開が起きた。なんと、入学の時期になり、荷物を纏めている最中に、少年がとんでもない事を言い始めたのだ。

 

『…悪い、俺はレヴォルフに行く』

 

少女らは、思えば…と振り返る。ずっと挙動不審な彼が更に自分達に対しても挙動不審であった事を。しかし彼女らは問わなかった。彼が多分、自分達のために何かをするであろうという淡い期待が、彼女らを押し止めたのだ。そして結果が、入学先が一人違う高校。失望はしないまでも、少女らは揃って捨てられるのでは…と小動物のような気持ちになっているのである。

 

「でも聞いてくれ。俺がレヴォルフに行こうと思ったのには無論理由がある。そして、それをお前らに言わなかった理由も」

「まず、俺達は優れた星辰力を持ち、俺はクインヴェールを除く、そしてお前らはそれすら含めた全ての学園、学院に入学出来ると言われたな」

「そしてその上で、星導館を選んだ。三人で居られるから…ずっと、この関係が続くから」

「でも、俺は疑問に思ったんだ。折角持ってる力を腐らせるのかって…いや別にお前らと居るから腐るって訳じゃなくてな、ええと」

「ああアレだ、つまり、その…お前らと一緒に居られるのはいいんだが、守れるようになりたくてな…だから、嫌でも実力が身につくレヴォルフを選んだ」

 

「…黙っていた、理由は?」

「…お前達が付いてくると言い出しそうだったからだ。あんな危ない所に、お前らを連れて行けるか」

 

実際彼女らは、レヴォルフの体験にも赴いていた。そして在校生によるナンパが行われ、一悶着あったのだ。

 

「…それで全部?」

「……最後に、俺はお前達が誇れる『本物』でありたいと思った。だから、それを実力で示せるようになるまで、お前達には甘えず闘おうと思ったんだ」

 

少年の言葉に、少女らは黙り込む。その様子を見て、一度喉を潤そうとして手を伸ばし掴んだコーヒーは既にカラ。顔を顰め、気まずそうにその手を後頭部においやった。

少しして、黒髪の少女が口を開いた。

 

「…馬鹿ね」

「…突然の罵倒にしてはキレがないな雪ノ下」

「仕方ないじゃない、今のは呆れから出た溜息と同様のモノよ」

「器用だな」

「私を誰だと思っているのかしら」

 

そう言って、諦めた様に、しかし清々しい笑顔に表情を変えた少女は、もう一度口を開く。

 

「…本当に、馬鹿ね」

「すまない」

「いいの、もう。…謝らないで頂戴、貴方が本気なのは理解したから。今貴方が謝ると、私達の為って言う言葉の価値が薄れてしまう気がするの」

 

溜息すら美しい。微笑み、次の言葉をお団子の少女に任せた少女は、珍しく姿勢を崩し、椅子の背もたれにもたれ掛かる。

言葉を受け継いだお団子少女は、泣きそうになりながらも必死に口を動かした。

 

「ヒッキーが…そんな事を考えてくれてたのは正直、嬉しいな。…でもね、やっぱり酷いよ。私、ずっと楽しみにしてたんだよ?星導館で奉仕部、創ろうって」

「ああ」

「…私達が心配でって言ったけど、それは私達も同じ。あんな怖い所にヒッキーが一人で行くなんて心臓が止まるかと思っちゃった」

「すまん」

「でも、強くなりたいって言うのかな。…ヒッキーには、それがあるんだと思う。どれだけ陽乃さんに理性の化け物なんて言われてても、やっぱり男の子なんだなーって。イイね、そういうの」

「だから、余計に強く言えないや。おかしいって思ってるの。言葉にしなくても分からない、でも今回は言えば分かったこと…でも、多分ヒッキーについてっちゃうんだろうな!あーもう私達ヒッキー居ないとダメだもん」

 

力なく笑う少女に、少年は心を痛めた。しかしもう後には引けない少年は、その顔から目を逸らす事は無い。

 

「守って欲しいことがあるの」

「聞こう」

「私達に、毎日電話してきて。寮が同じ部屋だから、どっちかに掛けたら二人とも出れると思うから」

「ま、毎日?」

 

思わぬ要求に、少年は言葉を繰り返した。しかしそんな少年に黒髪の少女はニッコリの微笑みかけ…

 

「何か問題が?」

「いいえ、ナンデモアリマセン」

 

有無を言わさず。お団子少女はそんな二人を見て笑い、次の言葉を紡ぐ。

 

「…後、偶にでいいから週末は三人で遊びに行こ?」

「……週末に出掛けんの?」

「貴方って人は……」

 

この少年の言葉には、分かっていても呆れた様子の二人。しかし少年の満更でもない表情を見る限り、これも約束として取り付けられるだろう。

 

「私からは最後。…絶対無茶しないで。怪我しそうになったら諦めて。ヒッキーがもし重傷とかになったら…私、分かんないよ?」

「そんな無茶な…」

 

しかしこれが少女らの願いである。想いを告げ、そして()()()()()()()()少年の無事を祈らない女が何処にいるだろうか。その言葉を受けた少年は、今度は自分が力なく笑うハメになり、その様子を見た少女らは少し勝ち誇った顔でお互い見合わせた。

 

「…まだあるわよ」

「まだあるのん…?」

 

今度は自分の番といい、黒髪の少女は続けた。

 

「と言っても、殆ど由比ヶ浜さんが言ってくれたのだけれど。…追加ね」

「そこまで言うのなら、必ず強くなって見せなさい。無茶はしないでほしい、出来ればずっと一緒に居たいけれど…それでも、待ってるから。貴方が貴方を認めて、戻って来てくれるのをずっと、待っているから」

「だから頑張って。誰にも負けない位になって、私達を迎えに来て頂戴」

 

少女らは、少年を見つめる。少年は参ったという風に両手をあげ、降参の意を示した。

 

「…ああ、全部約束だ、守ろう」

「…えへへ」

「ふふっ」

 

少女らは立ち上がり、少年の後ろに周り、左右から抱き締めた。受け入れた少年はされるがまま。ここに、甘い空気が出来上がりーーー

 

ピピピピピピピンポーン!

 

「せせせせせ、せんぱ〜い!?こまっ、小町ちゃんから聞きましたよぉ、レヴォルフ行くってぇ!?説明してくださ〜〜いっ!!」

 

ーーーけたたましいインターホンと、慌てふためいてるであろう後輩の少女の大声に、三人して笑った。

霧散した甘い空気。しかしそれは確かに、見えないけれど存在する本物として、彼らを繋ぎ合わせていた。

 

 

 




あ、まだこんな感じですけど八幡と雪乃と結衣付き合ってます
まぁ受け入れたって書いてますし察しはついてると思いますが

オリ設定がいくつか登場しますがクロスオーバーな時点でお察し。こんな感じで進みますどうぞよろしく
初投稿なのでルビとかこれから出した時おかしくなるかも知れませんが気をつけていきたいと思います


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到着

 

 

「ここが…」

「アスタリスク…」

「…おい二人とも。とりあえず荷物の確認を学校にしてから集まろうぜ」

 

アスタリスクに到着した。今は午前10時過ぎだ。呆然と目の前の景色に圧倒される二人の手を取り、俺は少し道の脇にズレる。通行人の邪魔になるからな。

 

「え、えぇ、ごめんなさい。少しばかり見とれていたわ」

「わ、私も…」

「まぁ気持ちは分からんでもない」

 

見渡す限り高いビル、凝ったデザインの店、行き交う人々…東京でもこんな活気はないのでは無いだろうか。おのれ東京…千葉を植民地と捉えた解釈のツイートを見た時は沈めてやろうかと思ったぞ…

 

なんてくだらない思考をしつつも、俺は二人と話していく。

 

「まぁとりあえずここは商業エリアだし、星導館はすぐそこだ。着いたら一階連絡してくれるか?」

 

そう、俺達は今商業エリアにいる。ので、雪ノ下達は近いんだが、俺は真反対の学校なので少しばかり遠い。まぁ普通に走って行くけどね。

 

「分かったわ。気を付けてね」

「ヒッキーまた後で!」

「おう、お前らもな」

 

手荷物は財布と端末位だが、さてこのまま真っ直ぐ学院に向かうのも口惜しい。雪ノ下達には悪いが、俺的死活問題であるMAXコーヒーが存在するかどうかだけ確かめながら向かうとしよう。

一応ダンボールで取り寄せてるけど、外で買えないとなぁ…

 

こうして俺は一人、レヴォルフへの道を変則的に走りながら向かうのであった。

あ、やべすいません。

 

…人多いからやっぱ歩いて行くか。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

「最高だぜ…」

 

MAXコーヒーで喉を潤しながら俺はレヴォルフへの道を行く。

いやぁまさか自販機にMAXコーヒーが置かれてるとはな!正直期待してなかったがほぼ全ての自販機にヤツが存在していた。俺は改めてアスタリスクの凄さを目の当たりに、感動で目が濁っている。いや元々でしたすいません調子乗りました。この流れで俺の目をアスタリスクのせいに出来るかなって思ったんです…

 

まぁそんな事はさておき。いや重要なんだけどね?

とりあえず今は裏路地を通ってレヴォルフに向かっているのだが…騒音と轟音、そして不穏な空気を漂わせる場所に迷い込んでしまった。

 

「…歓楽街か」

 

確かレヴォルフの生徒が多いんだっけ面倒だなぁ…と思いながら歩いていると、突如俺の真横の店が爆発した。

 

「ぶっは」

 

思わずMAXコーヒーを噴き出し、空気を求めて咳き込む。すると煙に巻き込まれてさらに咳き込むという悪循環に陥った。なんだなんだ何が起こった?

 

「っしゃお前らずらかるぞ!」

「おうっ」

「あいよこっちだ!」

 

と、煙の中から如何にもな声が聞こえてきた。よく目を凝らせば、煙の中に薄くコンビニの看板が見えた。…強盗か?

 

さて…どうするか。周囲の人達は逃げ、犯人らしい声は今そこで聞こえた。つまりそこにいるって事だ。はぁ…ま、見逃すって訳にも行かないか。

まずはここで腕試しだ。密かに鍛えていた俺の力、少し試させてもらおうか?

 

「…風よ」

 

俺は右手に星辰力を集中させ、風の塊生成し、それを打ち上げた。風で煙が巻き上がり、霧散していく。

 

「な、なんだ?」

 

そんな声が煙の中から聞こえた。すぐに消えたのでそちらを見ると…なんともまぁ、如何にもが居た。何それ風呂敷じゃないの?なんで巻いてるの?って言う柄のスカーフで口を隠しサングラス、片手にはそれぞれボストンバッグを持ち、もう片方には煌式武装の剣を持っていた。

 

三人か。そのうちの一人が俺に気付き剣を向ける。

 

「お前がやったのか!?」

「…そうだけど。煙たいし」

「畜生邪魔しやがって!」

「いいからさっさと逃げるぞ!」

「…逃がすかよ」

 

比較的冷静な一人が俺に背を向けた。同時に俺は光の玉を顕現させ、それを鞭へと姿を変える。

 

「コケて鼻っ柱折るなよ」

「ああん?何言って…っがあああ!?」

「おい康弘!?」

 

康弘と言うらしい男に向け、俺は鞭を操った。鞭は男の右足に絡みつき、何重にも縛り上げる。俺はそれを勢いよく引っ張ったので、奴は足を持っていかれ、顔面から地面に衝突した。そのまま持ち上げ、鞭で縛り上げていく。全身簀巻きにすれば完成だ。

 

「あと二人…」

「チッ…舐めんなよ!?」

 

そういうと残りの二人の内一人が周囲の瓦礫やらゴミやらを操作し、俺に向けて撃ち出てきた。…成程サイコキネシス。

 

「潰れて死ね!」

 

だがまぁ、この程度じゃあなぁ…

俺は鞭をその辺の柱に括り付け、顔面落ち君が逃げられないようにする。そのまま両手を開けた俺は更に星辰力を集中させ、左手から青い炎を顕現させた。

 

「行くぞサタン」

 

誰もその声には応じない。使()()()()()()()力なので短い時間で使わなければいけないのだが、今はまず落ち着いて目標を見定めた。

飛来するゴミやらを俺は全て青い炎を持って燃やし尽くす。この炎は現状、左手からしか出ないので慎重になりながら。

 

目標を全て燃やし尽くすと、向こうの呆気にとられた強盗(?)の顔が目に入った。

 

「…だ、魔術師(ダンテ)…」

「何個力持ってんだよ…!ふざけんじゃねぇ!」

 

諦めずにまだまだサイコキネシスで物を使い俺に攻撃を仕掛けるが、俺はまた青い炎を持ってして燃やし尽くした。…そろそろ止めておくか。

青い炎を消し、俺は両手をだらんとさせる。

青い炎は、結構な星辰力を消費する。まぁでも連続使用一時間で結構しんどい位なのだが、それ以降は体温がめちゃくちゃ下がるという後遺症付きだ。なおこれは24時間続くのでマジで控えたい。アレキツすぎるからねマジで。マジで(3度目)

 

しかしこれには自分でも驚く。…俺の魔術師としての才能にだ。大概はコイツのようにサイコキネシスなど、()()()()()する感じなのだ。エレ…シュキガル?やら歌姫やらも魔女(ストレガ)らしいが、その人達も俺のように()()()()()()()()()()()事は無いだろう。

要するに俺は特別スペシャルにして唯一無二でオンリーワン、論理的にロジカルシンキングしてみれば…頭痛がしてきた。

 

まあアレだ、何にせよ俺の能力は割と万能なのだ。すげぇだろ?…今俺の近くに強盗っぽいのしかいないけど。なんだこの自慢。寂しいよ。

 

段々イライラしてきた。小粒のゴミばっか集めて寄せやがって。何が悲しくて空き缶避け続けなきゃならんのだ。

パチッ、パチパチッと音が鳴り始める。同時に俺の右手から火花が迸り始めた。段々と音は大きくなり、火花は目に見えて変化した。…そう、電流に。

 

やがて全身から電流を溢れさせ、バチバチと轟音を響かせ始めた俺に、ついに強盗っぽい奴らは腰を抜かす。

 

「な、なんだよあれ…」

「ば、バケモノ…なんで何個も能力が…」

 

さぁな?

 

「それが能力なのかもな?」

 

それが強盗っぽい奴らに向けた最後の言葉だった。全力で星辰力を溢れさせた俺は電流を奴らに向け全身を焦がした。

…ま、加減はしたし奴らも星脈世代。軽い火傷程度だろうよ。

 

服全焼してるけど、ね。

 

 

△▽△

 

 

「って感じです」

「ありがとう。目撃証言もあるし、事実と見てよさそうだな…もう行ってくれていいぞ」

「うす、後はよろしくお願いします」

「ああ、お手柄だったな」

 

そんな褒め言葉を貰い、俺はその場を退散する。誰が通報したのか、アスタリスクにおける警察のような組織星猟警備隊(シャーナガルム)が駆けつけ、その場にいた俺に事情を聞いてきた。まぁ犯人はそこに焦げてるし縛られてるしで若干引いてた気がしないでもないけどそんな事はどうでもいいんだよ!

結局、話を聞いてみればこのコンビニは違法なもので商品販売の裏で違法薬物売買にも手を染めていて、今回捕まった三人は金が無くなり薬物を買えなくなったので奪うという強硬手段を行ったのだそう。馬鹿だなぁ…と思いつつ急ぎレヴォルフに向かう。

 

道中に雪ノ下達から連絡があり、既に商業エリアに向かい始めるのだそう。手短に遅れているあらましを伝えると賞賛半分心配半分と言ったところだった。

 

少し嬉しくなって爆速で走ってしまったのは若気の至りだ。青春の思い出だ。

…以前は嫌い避け、見下していた青春の、な。

 

 

 

 

△▽△

 

 

レヴォルフ黒学院。その学院は見るからに怖いオーラを放っていたがこんな所でビビってはいられないと足を踏み入れる。…おお、めっちゃ睨まれるな。でも何でだろうね。皆俺にビビってる?…いや目に引いてるだけかな。それならそれで好都合なんだけどさ。

とりあえず門近くの掲示板から学院内の地図を見て職員室に向かい、本人確認を行い寮の鍵を貰い移動する。先生まで怖いとか何事?やっていけるか心配になって来たお……気持ち悪。

 

さて寮だが、俺は一人部屋のようだ。なんでも今年度の新入生は奇数だったんだと。テキトーにくじ引いたら俺がぼっちになったらしい。

…フッ、運命までもが俺の敵になろうとも俺は負けんぞ(泣)

 

まぁでも良かったぜ。同室の奴が五月蝿かったら燃やしてたかもしれないしな。しないけど。

 

さて、荷物も確認したし商業エリアに向かいますかね…

 

 

 




八幡の能力一応書いときますね

青い炎《後にー煉獄の炎ーサタンブレイズと命名》。青色の炎で、対象を燃やし尽くすか使用者の意志で消さなければ燃え続ける消えない炎

光。光を操れる。剣のようにしたり鞭のように扱える。光子によって世界中すべてのコンピュータの上をいくほどの超高速演算も可能で、これにより攻撃・会話も可能な3Dホログラムの分身を10体まで生成可能。光通信に介入して情報収集も。

電力。電力を自在に操作して攻撃することができる。また人の脳に電気刺激を与え、人格を麻痺させて操ったり、死体には筋肉に直接電気信号を送ることにより動かすことができる。また部屋中に帯電網を張り、そこから一気に雷並みの電力を放つ「空中放電(フラッシュオーバー)」や、電力を最大まで高熱にし、攻撃する「高熱電流(アークテンション)」など多彩な技を持っている。また、電気自身の密度を上げることで電気が肉眼で認識できるほど具現化させることもできる。

空。空気を自在に操作することで、風や真空を発生させ、対象物を切り裂いたり押し潰したりすることが可能。

この四つですかね。七つの炎ですが、それはおいおい出すかもです。まぁそれらは全部使用制限付けますけど
基本的に空と光で戦いますが、感情的になると電力出ちゃいます。電撃姫ではないです


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新たな出会い

 

 

「悪い、遅れたな」

「ヒッキー!」

「あら、命に別状は…無さそうだけれど、目が穢れてしまったようね腐り目谷君」

「元々ですねそれは…」

 

まさかの罵倒に膝が挫けそうになるが、持ち前の鋼のメンタルで何とか持ち直す(血涙)

さて、少し遅れて到着したが二人は商業エリア、比較的レヴォルフ寄りの目立つ噴水近くで待っていてくれたのですぐ見つけられた。これからどこに行くのやら…

 

「んで?どこ行くんだよ、帰る?」

「さらっと帰宅の選択肢を出さないでくれるかしら帰省谷君。というかそれしか選択肢がないじゃないの…」

「当たり前だろ。俺は外に出ると灰になるんだ」

「吸血鬼だ!?」

「バッカ由比ヶ浜お前吸血鬼が外に出たら灰になると思ってんのか?陽の光とかその……ソレがあれになってアレがアレだから」

「どれがどうなのよ…」

 

呆れた様子の雪ノ下に、疑問符を頭の上に何個も幻視出来るのではという由比ヶ浜。対極の様子に僅かに笑が零れるが、すぐに引き締める。また俺の心を抉る罵倒が飛びかねないからな…セーフセーフ。

 

「…さて、この後の予定だけれど。今は11時20分だし…二人ともお腹は空いているかしら?」

「私はまだ平気かな〜」

「……ん、俺もまだ大丈夫だ」

「なら店を冷やかしましょうか。雑貨とか、色々見て回りましょう」

 

どうやら女性の長い買い物に付き合わされるようだ。が、しかし俺にそれは通用しない。何故ならららぽにどれだけデートに出掛けていると思っているんだ……いや小町だけどね。別に手を繋ぐ時に地味に避けられたりしてないけどね?思春期難しい…

まぁ雪ノ下達とも行ったけど、雪ノ下さんにからかわれるわめぐり先輩に騒がれるわで割と毎回誰か別の友人(?)が合流しデートではなくなる。自重して!ほんともう…二人がいいって言うからイイんだけど。

 

「ん〜部屋が真っ白でお洒落じゃなかったよね〜」

「まぁ、シンプルなデザインだったと言うべきかしらね」

「ほぉ…俺んとこもだ。校風だどうこうって訳じゃないのかね」

「レヴォルフは普通の寮なのね…良かったわ」

「まぁ俺の部屋が一番端で、それ以外の部屋の前とかは穴空いてるわ落書き塗れだわドン引きだったけどな」

「…心配よ」

 

なんて会話をしながら商業エリアを歩く。二人のすぐ後ろを歩いてるからこそ分かるが、凄く視線を集めている。ま、美人だしなぁ二人とも。…複雑だが嬉しい気持ちでもある。が、不躾な視線は俺が睨みで返しているのですぐ消える。はは、マジこの目便利。何時もは不便な目だが役に立つ時もあるってもんだ。

 

「比企谷君は…どんな部屋にするの?」

「ん…そうだな。私物が本と服位だから、それらを片せるモンがありゃ十分だ」

「であれば本棚とクローゼットでいいかしら」

「ああ。大体採寸は見りゃ分かるし必要なもんはそれくらい…あーっと、後はまぁ洗剤やら台所用品やらだが」

「私達と一緒ね。じゃあ、その店を探しましょうか」

「だねっ。いやーなんかこういう買い物ってワクワクするよね!」

 

否定はしない。何も買うものが無くても、買うお金がなくても家具や電化製品を見るのは楽しいからな。

 

そして俺達は家具や電化製品を見に行った。楽しかった(小並感)

 

 

 

 

△▽△

 

 

選んだ家具やらは俺の意思を尊重した上で二人が厳選した。少しお高いのでは…という値段も、まさかの雪ノ下家の援助で余裕で購入。お母さん、今度肩揉みます。

さて気が付けばもう14時だ。輸送先、時間を指定した時にレヴォルフと聞いた店員は少し顔を顰めたが俺が何とかすると言って安心してもらった。乙女のような顔をしていたがお前ムキムキマッチョマンじゃねぇか俺より強えだろ。多分…

 

「いい買い物だったわ」

「ねー!割と早く終わっちゃったし、ちょうどお昼過ぎて人少ないかな?」

「…だな。腹も減ってきた所だ、そこらで飯でも…」

 

と言ったその時。僅かだが遠くから星辰力の上昇を感じた。それは二人も同じようで、一斉にとある方向を見つめる。

 

「…今のは…」

「…喧嘩かなぁ?」

「決闘じゃねぇか?感じたのは多分普通に商業エリアだぞ」

 

そう言って二人を安心させようとしたのだが、星辰力は更に上昇する。幾人も気付いた様子だが、いつもの事だと言わんばかりに無視、或いはどこの学校の奴らが決闘しているのか、と話し合っている。

 

…これがアスタリスクなのか。まるで異世界の様だ。

 

「…ヒッキー、ゆきのん」

「心配?由比ヶ浜さん」

「うん…だって周りの人が…」

「所々に決闘用ステージがある。そこで行われてるならいいが」

「…二人とも、空腹はまだ我慢出来るかしら?」

 

…やれやれどうも、女性陣が我慢ならないようだ。仕方ない…

 

「…見るだけだぞ」

「ええ、分かっているわ。…行きましょう」

 

俺達は、決闘が行われているであろう場所に向かう。願わくば、到着する前に終わって欲しいが…

 

 

 

 

△▽△

 

 

甘かったらしい。決闘は行われていたが、ステージは周囲になく、花壇の花は腐り果て、コンクリートは焦げ、その場には二人の少女以外に人影はなかった。何してんだ星猟警備隊…

今は建物の陰に隠れて様子を伺っている俺達だが、少女の片方に見覚えがある。

 

その二人の少女の特徴。まず、薔薇色とでも言うべき明るい髪色を流し、膝を地面につき息絶えだえである片方。もう片方は純白の髪色で、レヴォルフの制服を着ている。…この春先暖かい季節に手袋?

 

「オーフェリア・ランドルーフェン…!」

 

ここに来るまでにスタミナをかなり消費したらしい雪ノ下は、息切れで苦しそうにしながら、そして恐怖に震えながら、自身の腕で体を抱き絞り出すように口にしたのは…何処かで聞いた人物名だ。

 

「う、そ…」

「…誰?」

 

由比ヶ浜は驚き、一歩下がる。…いやこれは驚愕だけじゃない、恐怖もあるのか。

俺の呟きが聞こえたのか、雪ノ下は掠れた小さな声でその人物の解説を始める。

 

「…オーフェリア・ランドルーフェン。レヴォルフの在名祭祀書(ネームド・カルツ)冒頭の十二人(ページ・ワン)…序列一位」

「またの名を、孤毒の魔女(エレンシュギーガル)

「…っ」

 

その名は、聞いたことがある。確か前王竜星武祭(リンドブルス)優勝者だ。…ああ、テレビ中継で見たことがあったのか。

 

「…逃げろ」

「で、でもあの子がっ」

「悪いが他人の命とお前らの命は天秤にかけるまでもない。逃げろ」

「…逃げろ、ですって?」

 

俺の言葉に疑問を持った雪ノ下が怪訝な表情で聞き返す。

ああ、そうだ逃げてくれ。でないと()()()()()()()

 

「アイツが心配なんだろ?…なんとかしてみる。でもお前らは離れとけ」

「ダメよ、許可出来ないわ。…危険よ、星猟警備隊を呼びましょう」

「悪いが聞けない。…エレンシュギーガルだったか?星辰力を少し高め始めた、もう片方が危ない」

「じゃ、じゃあ三人で…!」

「もし攻撃されてみろ、今のままじゃお前らを守り切れない…」

 

白髪の方が薔薇髪の方に向けて星辰力を高めだした。瘴気の様な不気味なナニカが白い方の周りに纏わり付く。…不味いかもしれん。

 

「兎に角、無茶はしないから大丈夫だ。俺も不味そうならすぐにアイツを連れて逃げる。…見ちまった以上見捨てるのは寝覚めが悪いだけだ」

「…すぐに戻るのよ」

「ゆきのん!?」

「…ああ」

「ヒッキー!?…ああもう、絶対怪我しないでよねっ」

「ああ」

 

そう言って俺は駆け出した。距離は30m程だったのですぐに詰める。俺は薔薇色の前に立ち、その存在を明かした。

 

「な、何者だ!?」

 

いや何者ってお前、そんな言葉普通に喋るヤツ初めてだよ…材木座?アレはキャラだろ(一刀両断)

とりあえず、先ずはこの薔薇髪を黙らせる。

 

「後で説明する。…何がどうなってこうなったのか知らんがやり過ぎだ」

「うっ…し、しかし私には引けぬ事情が…!」

 

…引けぬ事情?そんなもん知らん。というかそんな言い訳が通用する訳が無いだろう。若干振り返って睨むと、少女はしゅんと下を向いてしまった。よし、コレで後は…

 

「…誰?」

「…唯の通りすがりだ。とりあえず話がしたいんだが、その星辰力収めてはくれない?」

「…」

 

ん、意外と素直に収めてくれたな。ハッ…まさか俺に交渉術ならぬ女の子を黙らせる術が…!?無いわ自惚れんなカス。あ、ヤバい自分の心にダメージが…

 

「…もう一度聞くわ、誰?ユリスの知り合い?」

「わ、私はこんな奴知らないぞ!」

「ちょっとー?こんな奴呼ばわりは酷くない?」

 

ヤダもう八幡泣いちゃいそう…(吐血)

おっと気をしっかり持てよ俺。目の前にいるのは正真正銘のバケモノ…って、うん?

うんんー???

 

「…何?私の顔に何か……ぇ?」

 

俺はジーッとエレンシュギーガルを見つめる。レヴォルフ、手袋、白髪に、あの真っ赤な目。そして、常に人生辛いマジ無理もう悲しみ…とでも言いたげな憂いの表情、何処かで…テレビではない…

 

「「……あっ」」

 

そして俺とエレンシュギーガルは両方同時に驚きの声を漏らす。

あの時の…

 

「…レヴォルフでハンカチを探してた…」

「……まさか、また遭うなんて。運命も、偶には悪戯をするものなのね…」

 

そう言って表情を変えず、ただコチラを見る少女、オーフェリア・ランドルーフェン。

彼女は、俺がレヴォルフでトイレを探している時に出会った、どうでもいい、唯一度の出会いだと、これ以上の関わりは無いだろうと思っていた。そんな、ハンカチを探していた少女だった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「お、お前達は知り合いなのか?」

 

薔薇髪がそう聞いてくる。背後は振り返らず、一応肯定する。

 

「ああ…まぁ、話す程度でもないが」

「ええ、一度言葉を交わしたくらいね。…それで貴方は何をしにここに来たのかしら」

 

徐々に体内の星辰力をまたも高め始めた少女。俺はその星辰力の底知れなさに驚きながらも冷静に話を続ける。

 

「言ったろ、通りすがりだ。…買い物途中にたまたまここにな」

「嘘ね。…あの時と同じ、ヘタな嘘…」

「バッサリ言いますね…」

 

『…感謝するわ、大事な思い出のハンカチだから…』

『あー気にすんな。たまたまブラブラ歩いてたら見つけたハンカチがお前のだったってだけで』

『…』

『別にレヴォルフのトイレを探してたら偶然女子トイレの入口近くに落ちてただけで、元々探すつもりなんて無かったし…』

『…』

『ホントだよ?別にお前に声を掛けたのだって気まぐれだし別に何の意味もねぇし…』

『…』

『その目やめろめっちゃ怖いから。クッソ陽乃さん思い出した…』

 

「…半年ぶり位かしら」

「あーまぁ…そうなるな」

「…あの時はありがとう。助かったわ」

「じゃあそれに免じて、今は引いてくれねぇか?もうすぐ星猟警備隊が来る、ここはお互い引くって事で…」

「ちょ、ちょっと待て!勝手に話をーーー」

「構わないわ。…どうせもう終わりだったし」

「何を…ぐうっ!」

 

どうやら痛手を負っているのは薔薇髪だけの様だ。エレンシュギーガルは余裕綽々と言った様子で星辰力を再び収め、背を向け立ち去ろうとする。…その時、チラリと振り返り、こんな質問をしてきた。

 

「…学校」

「あん?」

「学校。結局何処にしたの?確か友人と来てた…わよね?」

「ああ…アイツらは星導館。俺はレヴォルフだ」

「そう。…じゃあ、また会うかもね」

「今度こそ普通の挨拶を交わしたいもんだ」

「嘘。絶対無視しそう」

「何故バレたし」

「…じゃあ、貴方はまたね。ユリス、貴女はもう私に関わらないで」

 

そう言って、今度こそエレンシュギーガルはこの場を立ち去った。後に残るのは、俺と座り込み、顔を俯かせるユリスと呼ばれた少女のみ。

 

「だ、大丈夫だった!?」

「はっはっ…何とかなったようね」

「…まぁな」

 

とりあえず話を聞くか。由比ヶ浜がユリスという少女に声をかける中、俺は先の走りからまだ体力が、息が落ち着いていない雪ノ下の背中を優しくさすりながら、そう考えた。

 

 

 




八幡達はユリス、綾斗達より一つ上です。なので綾斗の登場はかなり遅れます。


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アスタリスクの後輩

 

あの後、すらこらサッサといった感じでその場を足早に退散した俺達は、かなり遅めの昼食を摂ることにした。幸いというべきか助ける形になった少女の様態は瘴気を吸い込み若干気分が悪い程度のもののようだ。今は少し現場から離れた場所の野外カフェで共に席を取っている。

しかしアレだ…

 

「まさかこの店にMAXコーヒーが無いとは…」

「アレは店に置くものではないでしょう…」

「ヒッキー、飲み過ぎちゃダメだよ?」

「……アレを飲む猛者が居たとは…」

 

酷い言われようで御座る。拙者涙が出ますよ…材木座は死んだ、もういない。(大嘘)

さて、少しばかり話を聞いてみれば、ユリス…ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルト(本名はもっと長いらしい)は星導館転入生で、一つ年下なのだそう。つまり中三。今年から通い始めるらしい。

すまん俺もう少し下に見てた。

 

「…で、貴女はあのエレンシュギーガルと幼馴染で…」

「そのマグナム…オクトパス?って言うかアルルカント!酷い事するねー!私許せないっ」

「ええ、ええ。今は泣いていいのよリースフェルトさん。さぁこの紅茶を飲んで…美味しい?」

「ふぐっ、ヒック…ありがとうございます…」

 

だってめっちゃ泣いてるもん。もう小学生って言われても信じるレベル。女子の方が成長が早いから、高学年の小学生で通用する様な幼い雰囲気だ。初対面の時の堅苦しい口調は由比ヶ浜持ち前のコミュ力でぶち壊し、雪ノ下の面倒見の良さから段々口を紐解いた少女は遂に途中で何かが決壊した様に涙を流し始めた。

 

話を聞けば、リースフェルトはリーゼルタニアという、落星雨(インベルティア)以降に世界各地で復活した王政の国の一つの第一王女で、とある目標の為にこのアスタリスクに来たらしい。その目的は『金』。孤児院の維持費やらの為という何ともこの二人の情を誘う言葉だった。

そしてその他に、変わってしまった幼馴染オーフェリア・ランドルーフェンを取り戻す事も目的としているようだ。しかしそれは先の戦闘の全容を知らない俺でも無理だということは確定的に明らかであった。次元が違う。

 

「オーフェリアは良い奴で…アイツが作ってくれたハンカチは今でも私の宝物で…」

「ええ、ええ」

「なのにアイツは関わるなって…運命は覆らないとか難しい事言い出して…!」

「それで決闘挑んで敗けた、と」

「ううううぅぅ…」

「ヒッキー…今のはないよ…」

「最低ね屑谷君…」

 

あ、ヤッベ口に出しちゃった。心の中で事実確認をしようとしてただけなのに…サーセンした…

 

さ、さて割と美味いスパゲティを平らげた俺達は、もう暫くリースフェルトに付き合う事にした。

 

「今年の王竜星武祭…まだ私には無理だと思い知らされた…来年の鳳凰星武祭(フェニクス)に向けて邁進せねば…」

 

徐々に落ち着きを取り戻したリースフェルトは目を赤くしながらも自身の力の無さを補う方法を模索し始める。雪ノ下も由比ヶ浜も既に手伝う気満々なのか、三人で話し合い始める始末だ。

 

さて、手持ち無沙汰になった俺は端末を開く。…ちょうど通知を切っていたからか気付かなかったメッセージを開き、内容に顔を顰めた。

 

ーーーーー

比企谷、君はもうアスタリスクに着いたかい?僕はもう既に到着しているけど、何処かで会えないだろうか。

そうそう、改めて言うけど、僕は星導館に入学したよ。川崎さんも、姫奈も翔も、戸塚も居る。材木座はアルルカントだね。

優美子はクインヴェールだよ、少し意外だろ?

まぁ兎に角、君に会いたい。空いてる日と時間を教えてくれ

 

隼人

ーーーーー

 

キッモ!!寒気したぜフウーッ!思わず二の腕をさすり、体に生気を呼び戻す。クッソ気持ち悪いメッセージやめろ葉山マジで!君に会いたい…(葉山イケヴォ)…うおおおあああああ鳥肌があああああ!?

 

ーーーーー

 

会ってはやるがその気持ち悪い言い方やめろ死にかけた

 

ーーーーー

 

とりあえずこれだけ送り、他のメッセージも開く。…小町か。

 

ーーーーー

やほーお兄ちゃん!もうアスタリスクについてるかな、かな?

葉山さんと沙希さんからメッセージは届いてたのにお兄ちゃんったらもー!どうせなにかに首突っ込んで忘れてるんだろうけど!

これはもうごみぃちゃんとしか言いようがないね!お兄ちゃんに昇格したいならば早くメッセージを送り返すのだー!

ーーーーー

ーーーーー

愛してるぞ小町ーーーー!!!!!!!

アスタリスク着いた

ーーーーー

ーーーーー

OK

ーーーーー

 

うわぁい速攻返信来たと思ったらOKで済まされたよ…お兄ちゃん泣いちゃうよ?

さて、目の前の女子達はまだ真剣に話し合ってるし…メッセージは、後はもう来てないか。

 

「ほう、雪乃さんは雪を操る魔女なのですか…」

「正確には水態…水分の三態ね」

「ユリリンは炎なんだね!ヒッキーと同じだ!」

「比企谷さんも魔術師なのですね…」

 

随分仲良くなってますね…君達。流石というか何というか。

それにしてもリースフェルトは出会った当初の雪ノ下の雰囲気に少し似ているな。他人を寄せ付けなさそうな雰囲気とか特に。

 

「結衣さんは魔女なんですか?」

「一応ね〜。でも、攻撃とかは出来ないんだ〜」

「防御系…という事ですか?」

「ええ。由比ヶ浜さんは異能…私達の魔女の能力が効かないのよ。比企谷君だけは例外なのだけれど」

「凄い力じゃないですか!サイコキネシスの様に別の物体を操るタイプとは相性が悪いかも知れませんが、私の様に能力そのもので闘うのではアドバンテージが一気に失われますね」

「本当に厄介よね…」

「ちょ、ゆきの〜ん」

 

おぉ…百合百合してますね…眼福です。というか由比ヶ浜の渾名付けに巻き込まれた挙句『ユリリン』か。これはもう逃れられない百合の業がついて回るぞ…

 

「比企谷さんだけは例外、と言うと?」

「ああ、彼。とんでもなく強いわよ。多分だけれど、私達が束になっても勝てない」

「ヒッキー強すぎ!能力封印しようとした時だって普通にバリア貫通してくるしマジありえない!」

「えぇ…(ドン引き)」

「ちょっと?変な顔しないで女の子がそんな顔しちゃダメよ?というかお前ら何仲良くなってんだよ…」

「あら、嫉妬かしらヤキモチ谷君。所でメッセージのやり取りは終わったのかしら?」

 

っと、会話に途中参戦してしまったら手酷い名前で呼ばれてしまった。しかしすぐに雪ノ下は俺がしていた事を見抜き、用は済んだかと聞いてくる。

 

「ああ、葉山と小町だった」

「えと…」

「あら、ごめんなさいねユリスさん。前者が同級生で、後者が彼の妹さんよ」

「世界一可愛い妹と言え」

「あ、あはは…」

 

何で渇いた笑いなんだ。可愛いぞぉ写真見せてやろうか。なんて思ったがやっぱこの可愛さは安売りしまいとし、どうしてもと懇願するのであれば見せてやろうとする。多分これ見たら世の男は皆小町に惚れてしまうからな…リースフェルト女だけど。

 

「…さて、お前らもそろそろ話し終わったか?」

「あ、はい。皆さんありがとうございました、少しスッキリしました」

「いえ、気にする事ではないわ。私も、友人が増えて嬉しいもの」

「私もだよユリリン!連絡先も交換したし、何時でも連絡してね!」

「ありがとうございます」

 

と、随分話し込んでいたのか既に日は傾いていた。夕陽となる太陽をバックに、俺は雪ノ下達と別れる。彼女らはリースフェルトと談笑しながら、新たな住処となる寮へと帰っていった。

 

俺はというと、レヴォルフ前に荷物を運んで来てもらう予定時間が迫っているので急ぎ戻った。

 

配達員さんは、終始その巨躯に似合わぬ小心っぷりで荷物を運んでくれた。お兄さんサイコキネシス使いなんすね…今日で二人目だよ…

 

 

 

 

△▽△

 

 

『…やぁ比企谷。会いたいと思ったんだけど、まさか画面越しとは思ってもみなかったよ』

「うるせぇ。気色悪いメッセージ送りやがって…」

『はは、許してくれよ。どうしても話がしたかったんだ』

 

いつもの様に笑う葉山に、俺は毒づく。今は本棚の組み立てをしつつ、部屋着で葉山と通話している状態だ。時刻はそろそろ21時になるが、漸く最後の本棚の完成だ…五つも買ったがギリギリの容量だったな。

 

「んで、要件はなんだよ」

『つれないなぁ…もう少し君との会話を楽しませてくれよ』

「切るぞ」

『ああごめんごめん。…とりあえず、入学おめでとう、お互いにね』

 

葉山は少し溜めてそう言った。コイツ…

 

「…ああ」

『残念、君の口からおめでとうが聞きたかったんだけどな』

「んなこったろうと思ったぜ…」

 

葉山は、三年の時に少し変わった。雪ノ下さんの弄りを受け流し、逆に皮肉で返したりし。こうして俺を弄ぼうとしてくるのだ。何か、憑き物が取れたかのように。

多分原因は、三浦と付き合い始めたからだろう。その報告を聞いた直後から、或いはその時から既に葉山は変わった。…依然として答えを見つけない事が正解だとは抜かすが、最終的にはちゃんと動く様になったし、何より自分の意見を押し通そうとする時も出てきた。雪ノ下さん驚いてたなぁ…

 

『まぁいいさ。本当は面と向かって、飯でも食べながら他愛ない話がしたかったんだけどね』

「明後日もう入学式だろうが」

『時間が無いよね…』

 

そう、なんと言ってももうそろそろ入学式なのだ。空いてるのは明日のみ。…だが、明日は雪ノ下達はリースフェルトと、俺は単独で色々見て回る事にしたのだ。

 

「…あー、明日なら俺一人だぞ」

『…珍しいね?雪ノ下さん達は?』

「今日知り合った後輩とお出かけ&親睦会だ。男の俺がいるのも悪いだろ」

『成程…だったら明日君に偶然会うかもしれない訳だ』

「……界龍(ジェロン)には行かねぇぞ、場所はメインステージ近くの噴水だ」

『それじゃ俺が陽乃さんに色々言われちゃうよ…まぁいいか無視で。じゃあそこで明日の昼でいいかい?』

「ホント変わったよなお前…」

 

魔王を無視だなんて信じられん。今までなら死ぬほどビビって俺に頭でも下げてくるか雪ノ下達を使って無理矢理にでも会わせただろうに。

 

「ああ、それでいい」

『にしても…アスタリスク噴水多いよね…』

「まぁな、それは俺も思った」

『噴水間違わないでくれよ。…じゃ、また明日。おやすみ比企谷』

「誰が間違うか…じゃあな葉山」

 

丁度本棚最後の一つが完成した時、葉山との通話が終わった。

本棚を設置し、並べていく。因みにクローゼットはもう既に終わっているので後はシャワーを浴びて寝るのみだ。

 

さぁ、明日はとりあえず普通に起きないとな…

俺は既に届き、クローゼットに入れてあるレヴォルフの制服を見て、似合わなそうだと自己分析をしてから布団に入った。

 

あ、レヴォルフの布団柔らかい気持ちいい…

 

 

 




葉山、優美子と付き合い始めました。

由比ヶ浜は珍種に似た能力持ちですが、自分に触れた能力しか無効化出来ません。故にオーフェリアの星辰力を吸い取ることは無理です。


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男同士の休日

 

 

「やぁ比企谷、待ったかい?」

「超絶待った。飯奢れ」

「本当に遠慮がないね…まぁいいさ、どこ行く?」

「ラーメン」

「だと思った。レビューで良さげな所探しといたよ」

「お前は俺の彼女か何か?」

 

マジで何なのお前俺の事好きすぎない?薄ら寒いものを感じるが兎に角葉山の隣を歩き、案内されるがままに入店。割と近かったな…

 

「メンカタカタメヤサイダブルニンニ…」

「待てコラ葉山」

 

数席しか空いていなかったカウンターに座り、まず葉山が暴走した。なんでお前それ知ってるんだよ。

 

「ん、どうかしたかい?」

「何でお前がその呪文知ってるんだよ…」

「レビューに書いてあったのさ、こうして頼むんだって」

「…止めねぇからな」

 

止まるんじゃねぇぞ葉山…俺は普通に、今日は醤油の気分だったので醤油ラーメンを頼む。

先に俺のが届き、ほんの少し匂いを楽しんでいると葉山のブツが届いた。…うおっデッカ…

 

「へいお待ちィ!」

「ありがとうございま……へっ?」

 

ちゃんと調べていなかったからか、葉山はあの呪文全てを唱え、ブツを知った。…山盛りだぁ…

 

「葉山…死ぬなよ」

「…比企谷」

「何だ」

「…ブレスケア、持ってるか?」

 

俺はそっと胸ポケからブレスケアを見せ、葉山の心を落ち着かせる。

 

俺は普通に美味しく頂きまた今度ラーメン巡りをしようと決めた。中でもこの店は美味さ上位に来ると確信している。

葉山は何とか完食し、店の客、店員店主合わせて全員から惜しみない拍手を頂いていた。

 

お前は良くやったよ…!

 

 

 

 

△▽△

 

 

暫く店近くのベンチに座り葉山の回復を待った。俺はというと横に座って葉山の勇姿を収めた動画を一色と雪ノ下、海老名さんや雪ノ下さんに送り付けていた。全員が大爆笑の意を示してくれたので晒したワイも満足です。

復活した葉山にそれを告げると、真っ白に燃え尽きていた。哀れ葉山、お前がいつの間にか小町とメッセージのやり取りをしていて俺が日曜の朝からプリキュア見てる動画を手に入れそれを雪ノ下さんに送った罪は重い。

 

さてその真っ白に燃え尽きた葉山も既に復活し、共に店を回る。とは言っても今日は電化製品が届く日なのであまり遅くまでは外に居ないが、まぁ後四時間程度は暇だ。

 

「という訳で陽乃さんに顔出しに行こう」

「何がという訳なのバカなの死ぬの?勝手に死ねよ」

「流石に最後のは心が痛いよ?」

 

うるせぇ黙れ口を慎め貴様…何でこんな日に雪ノ下さんに会わなきゃならんのだ。というかお前昨日無視とか言ってたろ。

 

「まぁ冗談さ。いくら陽乃さんとは言え、俺と比企谷の時間を邪魔されるのは許せないからね」

「お前マジでこっちじゃないよね?」

 

俺は手の甲を顎のラインに添えて、男好きではないか?というサインを送るが否定される。

 

「優美子が一番さ。ただ二番が君ってだけで」

『キマシタワー!!!!』

「…なぁ、なんか聞こえなかったか?」

「いや、俺には何も…?」

 

そ、そうか。何処かで腐海の住人さんが叫んで鼻血噴出しながら介抱されてる気がしたんだけどな…

まぁいい。兎に角何処へ行くのか真面目に聞いたところ、ゲーセンにでも行こうという話になった。

 

「さて、何からしようか」

 

到着する前からウッキウキの葉山に少し引きながら、俺は店内を見回す。…お。

 

「パンチングマシン何かどうだ。日頃のストレス解消」

「君はなにかストレスがあるのかい?」

「主に学校生活への不安」

「レヴォルフだもんね…いいよ、やろう。負けた方は何する?」

 

俺と葉山に限らず、総武男子組で遊びに行く時は絶対に賭けをする。負けたらジュース奢り、はたまたダンスゲームをソロプレイ、酷い時は戸部が一週間ノーパン何てのもあった。戸部は学校で常に大人しくしていて爆笑したのを覚えている。

 

「そうだな…」

「ああ、彼処にダンスゲームがあるね?」

「上等」

「負けないよ」

 

比較的、俺と葉山はダンスが出来る。戸塚と戸部はまぁまぁと言ったところだが、意外や意外、一番上手いのは材木座だ。まぁアイツ経験者だしな。

 

「曲は……無難にシルヴィア・リューネハイムさんのでいいか」

「あーそれなら知ってるぞ」

「じゃあ早速やろうか」

 

100円を、まず葉山が投入した。今までの記録が素早く下にスクロールされ、上位から最下位までのランキングが目に入る。

一位は2013kgか…

 

ランキングが消えた所で、パンチを撃つ体勢に入る葉山。一際目立つ様にしているのか、入口に近い所でけたたましいBGMが流れ始め、そして葉山の容姿も相まってか、ギャラリーがかなり多い。

 

「いくよっ」

 

そう言った葉山は、画面がパンチ!!に変わった瞬間にミットを装着した右手でサンドバッグの様な吸収剤を巻き付けたモノを殴り、倒す。

 

記録は…『2118kg』か。

堂々の一位に、完成と拍手が上がる。葉山は振り返りギャラリーのそれに応えつつ、ミットを外し俺と交代する。

 

「どうだい?伊達に鍛錬を積んでいないよ」

「てめぇ…随分鍛えたみたいだな」

「当然!以前君に負けたのが悔しくてならなくてね」

 

今度は代わって俺だ。俺も100円を投入し、ミットを装着。一位の記録は、葉山に変わっている。

 

「なぁ葉山」

「ん?」

 

腕を組み、仁王立ちで俺を見る葉山に、真っ暗になった画面越しに笑顔を叩きつける。

 

「…俺も、鍛錬積んだんだぜ?」

 

パンチ!!の画面になり、一息付いたあと、俺は振りかぶった。

 

「オラァ!!」

 

鈍い音と共にモノは倒れ、画面の数字が動く。0からドンドン上昇する数字は、2000を超えても上がり続け…

 

『2914』

 

葉山を超える歓声と拍手を一身に受け、少々引いてしまうがギャラリーに手を挙げ応えた。戻り、悔しそうな顔をしている葉山に向かい、

 

「俺の勝ちだ」

「…君、ホントにその見た目からは想像出来ないくらいパワー派だよね……」

 

勝ち誇っておいた。

なお、電力を操り自分の筋肉を少しパワーアップさせていたのは、墓まで持っていくことにする。

 

 

 

 

△▽△

 

 

本気のシルヴィア・リューネハイムの歌をダンスした葉山の動画を更に雪ノ下さん達に送り付け、雪ノ下さんから「どうして私の所に来てくれないの?」と言われ、そう言えばさっきのメッセージの下にもそんな事書いてたな…と思いつつ「今日は男だけの予定で、また今度お茶しましょう」とだけ送った。にこやかな顔文字が返ってきたので機嫌はいいと思う…

 

因みにメッセージは、葉山と川崎以外は顔文字や絵文字多用だ。あの雪ノ下姉妹ですら、最近は顔文字も多い。

 

ーーーーー

比企谷君、今度の休日だけれど(′・ω・`)

由比ヶ浜さんと三人でららぽに行かないかしら?

予定が空いてたら嬉しいわ(´˘`*)

ーーーーー

ーーーーー

ヒッキー(」゚Д゚)」オ────イ!!

明日の授業って家庭科の調理実習あるよね(`・ω・´)?

クッキー作るの楽しみだね(`・∀・)ノイェ-イ!

ーーーーー

ーーーーー

比企谷君へ。

最近雪乃ちゃんが冷たいです(T^T)

家に泊まった時もお風呂に突撃したら怒られて…

姉妹の仲崩壊の危機(´;ω;`)ブワッ

あ、それはそうと私のバスタオル1枚の写真送っとくね

っ【送付ファイル】

ーーーーー

 

なお雪ノ下さんのギリギリショットは俺の秘蔵フォルダに保存してメールは証拠隠滅しましたが何か。

 

「比企谷?」

 

何て考えていると、葉山の声で現実に引き戻された。ああそうだ、今はゾンビシューティングしてたんだっけ。

 

「ああ、すまん聞いてなかった。何?」

「いや、無言でヘッドショットが怖すぎて声掛けただけだ。っと…ラストステージっぽいな」

「案外楽勝だな」

「分からないよ。このマスターモード、まだ誰もクリアしてない理由がここにあるのかも」

 

俺と葉山は、次は賭け無しにゾンビシューティングゲームをしていた。というのも、店内を見て回っていると…

 

ーーーー

挑戦者募集!!

ゾンビシューティング『マスターモード』をクリアした方には、先着10名様まで、賞金10万円を差し上げます。なお、実装から半年、未だクリアはゼロです

ーーーー

 

という張り紙を見つけたからだ。マスターモードプレイは一回500円。誰も近寄らずにいたゾンビシューティングゾーンに足を踏み入れ500円を投入した時から、ずっとギャラリーに動画を撮られている。実況のようなものも聞こえるため、何処ぞの学校の報道系クラブだろうと当たりをつけた。こんな感じで世に決闘動画とか出回るんだな…

 

「しかしまぁ、ここまでも難易度は高い方だったか」

「まさか弾薬は現場補充とはね。ボタンやアクション補充が出来ないんじゃ、無駄打ちは出来ない」

「確かに厳しいな」

「でもまぁ…慣れてるしな」

「だな」

 

俺達は千葉のゲーセンで、使用した弾数がいかに少なくより多くゾンビを倒せるかという勝負を何度も行なってきた。意外にもこれは戸部と戸塚が強い。前者は勘、後者は機械的に狙いを定め、狂いなくヘッドショットを決める恐ろしい精密性だ。あの二人に勝った事は無いが、それでもかなりやりこんでるんだ。

 

「さてラスボスか…うっわキモ」

「デカイな…サイクロプスのゾンビか?」

「世界観どこ?さっきまでビル群あったよな」

「ゲームだし」

 

葉山も俺達とつるみ始めてから変わったな…良い方、悪い方その両方へと。見識を深める意味ではこの交流は良かったのだろうが、葉山はハマりすぎだ。知ってんぞ、材木座にRPGからエロゲまで借りてプレイしてた事。…貴様だからあの呪文を知っていたのか!?

 

「比企谷、前来てるよ」

「わーってるよ」

 

なんて下らない思考を振り払い、サノバイイよね…と思考をチェンジしながらも俺はアクションを起こし、サイクロプスゾンビ……略してゾンビ(原型に帰還)の叩きつけてきた拳を避ける。すかさず部位破壊を狙い肘、指を撃つがHPが全く減らない。となると…

 

「「目か」」

 

二人同時に弱点に気付き、俺は武器を切り替え、前ステージで拾った一発切りのバズーカを持つ。

葉山は一発の威力が飛んでもない、対戦車ライフルを持っていた。

 

まぁあのゾンビ、腐ってる癖に目蓋とか超硬いもんな。そんくらいで行かないとダメ入んねぇよなぁ。

 

「俺がぶっ放す?」

「推測だけど、奴は銃の音を頼りに俺達を攻撃してたみたいだ。撃たなければ攻撃はしてこないし…」

「だからずっと目を瞑ってても攻撃出来るってか。こじ開けるしかねぇけど…」

「怒りで開眼とかないかな?」

「試すか」

 

狙いを定め、顔面にバズーカを放ち、着弾。HPは…うっわ一割しか減ってねぇの?もう無いよバズーカ。まぁ、今の攻撃で目蓋ボロボロになって無理矢理開眼させたんだけどね。

 

「Gyuruoooooo!!!」

「うるっせ」

「じゃあ次俺か」

 

淡白に呟いた葉山は、対戦車ライフルの標準を定め、ダメージに怒るゾンビが落ち着くのを待ち…放った。

 

「あ」

「えっ」

 

弾道は綺麗に決まり、弾は無事ゾンビの頭を吹っ飛ばした。HPは残り一割。しかし…

 

「ごめん死んだ」

「分かってるよ…」

 

対戦車ライフルを放った葉山キャラは衝撃で残っていたHPを全てふっとばして死んだ。

この後、めちゃくちゃ地味にアサルトライフルなんかを使って少し時間をかけて倒した。

 

締まらねぇなぁ…

 

 

 

 

△▽△

 

 

店長のクソ悔しそうな顔を拝み、無事10万円をgetした俺達はそれぞれ他のゲームでも賭け勝負を行った。

レーシングゲームでは俺が葉山のアタックをくらいクラッシュして敗北。アイスを奢った。格ゲーでは圧勝。葉山にアイスを奢らせた。

リズムゲームは案の定接戦で、ポイントはほぼ同数を稼ぐ。故に止めた。最終的にゲーセンの真横にあったボウリング場でワンゲーム勝負をし、スコア180-168で葉山の勝利。葉山がクレーンゲームで取ったどデカい熊のぬいぐるみを持ち帰る事に。絶許。

 

さて、そろそろ俺が帰る時間となったので、ゲーセン前でジュースの乾杯をし、別れる。

 

「楽しかったよ」

「…まぁ、そのアレだ。気晴らしにはなった」

「…くくく、そんなぬいぐるみを持っている君がそう言うなら、その不愉快さを越えるほど良かったらしい」

「今すぐお前ごと燃え散らすぞ」

「冗談さ。……また会おう」

「ん…ああ、またな」

 

レヴォルフ前で待機していた配達員は何の因果か昨日と同じお兄さんだった。そう言えばどデカい店で、同じ会社が運営してたっけ。

一度来ると慣れたのか、スムーズに運び入れをしてくれたが、俺の姿を見て吹き出したのは忘れない。

 

マジ葉山絶許ノートに名前書いとく。

小さな復讐心を解消し、レンジ等を設置した後は同じく遊んでいた由比ヶ浜達と連絡を取り寝床についた。

 

…あ、色々用品も運んだけど、冷蔵庫の中とか空だな…明日買いに行くか。

ほぼ整った部屋を脳内に思い浮かべ、新生活、しかも一人暮らしにほぼ近い状態に思わず興奮し、寝付くのは深夜2時を回っていた。

 

 

 




まぁ葉山との日常回ですわ
こんな葉山が好きなんですよね、八幡といがみ合うんじゃなく、仲良くしてる葉山が。

因みに魔術師は俺ガイル勢で
八幡、葉山
魔女は
雪ノ下姉妹、由比ヶ浜、川崎です。
次回、レヴォルフ入学式。オリ展開しかないけどもういいよね…


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入学式の日

 

 

 

起床。まず、名残惜しいが布団を自分から剥ぎ、断腸の思いで備え付けのベッドから身を起こす。寝惚け目を擦り、置時計で時間を確認…6時半か。

カーテンを開け、窓も開ける。涼しい風と穏やかな朝日が顔を見せ、如何にもという朝を演出。その光を浴びた俺は身体が錆びたのではという程までに硬直する。…あー学校ダルい。

 

寝室から出ればリビングだ。これまた備え付けのソファを一瞥し、キッチンへと向かう。冷蔵庫横のダンボールの山からMAXコーヒーを取り出し、開けて一口。目が冴えた。今なら俺は世界と戦える。

 

さて、こんなに早く起きた理由を思考する。

まぁ大方、ちょーーーっっっっっっとだけ入学が楽しみなのだろう、俺は。以前、というか三年前のこんなに日に、確か俺は事故に遭った。まぁ星脈世代ですし、余裕で助かったんですけどね?まぁ何分油断してまして?怪我したけどすぐ治りましたし別にいいじゃんそんな事忘れろよ。

 

けどまああの事故のおかげ…というのもおかしいがアレで今の生活がある訳だしあの時の俺も今考えればいい事をしたんだと褒めるべきだろうか。

 

「…くぁ」

 

欠伸をし、またその欠伸を飲み込むように口にMAXコーヒーを流し込む。ああ…美味…まじ今度リースフェルトにも飲ませよ。ドン引きしてた気がするけど飲ませよう。けど、リースフェルトの事が知れたら一色辺りアスタリスクに突撃してきそうで怖いな…嫌いじゃないし別にいいんだけど、騒がしいし、まぁ、うん。

 

何にせよまだ入学式まで時間がある。確か入場が9時だから…あー、ランニングでもするか。

俺はクローゼットからジャージを取り出し、寝巻きから着替え、端末とイヤホンを持って部屋を出た。

 

 

 

 

△▽△

 

 

朝の早いアスタリスクは、若干霧がかっている。視界不良とまではいかないが、中々に味のある光景だと思う。

とりあえず、軽くストレッチで体を動かしてから、ランキングを始めた。学園の敷地を出て、軽く商業エリアを目指す。ま、パンくらいは買って食っとこうかなと思った次第。イヤホンを装着し、テンションの上がるEDMをかける。これで調子が出るだろう。

 

暫く走り、探していたスーパーを発見。既に開店していた客は俺だけの様だ。寂しい空間でサンドウィッチを購入し、電子マネーで会計を済ませ帰路に着く。

 

スーパーの袋片手に走る男子高校生(腐り目)。朝からこんな光景を魅せる事の出来る俺はスペシャルな存在だと改めて感じ頬を濡らす。

 

と、そんな時、前方に人影が見えた。後ろ姿で女性だと分かり、キョロキョロしてんなぁ…と他人事の様にスルーする…予定だった。丁度彼女を追い越し背を見せたところで、

 

「…あっ、ちょ、すいません!」

 

声を掛けられたのだ。…あーイヤホン付け直すの忘れてら。恨むぜスーパーのおばちゃん…

周囲に俺以外居ないことは分かっていたので減速し、深く息を吐いてから振り返った。

 

「…な、なんでショッカー」

 

何でショッカー?最後だけ口が上手く動かなくて片言になっちゃったじゃないか働いて俺の口。

案の定女性はクスクスと、口元を隠しながら優雅に笑う。失礼だなお前…

 

「…あの、何か」

 

若干不機嫌になりながらも、逆に俺が問いかけた。すると女性ははっとした様子で俺に謝罪する。

 

「あぁすいません、笑っちゃって。ええと、聞きたい事があるんですけど」

 

そう言って髪を風に任せ靡かせる彼女は、初めて真正面から俺に顔を見せた。霧が薄れ、視界が晴れやかになり、より一層彼女の顔が伺える。

由比ヶ浜タイプの美人だな…

 

「…いやいやいやいや」

「…何か?」

「あ、すまん…すいません、こっちの事です」

「そうですか」

 

危ない危ない、胸はあるけど由比ヶ浜より無いなと思ったのバレかけた。んんっ。

 

「えーと…いいですか?」

「あぁ…はい、何でしょう」

「この辺に、金髪ロングの女の子が居ませんでしたか?」

「……いや、見てないな」

「あー、そうですか。ごめんなさい時間取っちゃって」

「いやいや」

 

いやいや、すまんな()()()()

だって、この女の子(多分年下と推定)の後ろに知り合いが見えたもんで…

 

金髪ロングの女の子、三浦優美子がね。

必死に建物の陰に隠れてこっちの様子を伺っていた様だが、俺とバッチリ目が合い、驚愕の表情と同時に喋んな!!と言う意味で唇n人差し指を立てていた。

何かしらの事情で逃げているのだろう、とりあえず知り合いなので庇ったが…

 

「その子、どうかしたのか?」

 

まず事情を聞いてみた。初対面の女子に話を振るのは、まだ緊張するが今度は普通に声を出せた。

すると少女は大きなため息をついて、その艶やかな唇から言葉を紡いだ。

 

「実はその子に、今日用事…というか、学校の入学式の余興で着せたい服があったんですけど、『あーしにこんなん似合う訳ないじゃん!』って逃げちゃって…あ、今のはその子の口調を真似たんです」

 

あっちゃーもうこれ三浦さん確定じゃないですかー…

 

「…えーと、失礼ですがその女の子の名前聞いてもいいですか?その子の口調に似た知り合いの連絡先知ってるんで、貴女の名前出して聞いても…」

「えっ、いいんですか?すいません…私は…えと、驚かないでくださいね?」

「?…ええ、はい」

「私がシルヴィア・リューネハイムで、その子が三浦優美子って言うんです」

「バッチリ知り合いです。連絡してみます」

 

えーとシルヴィア・リューネハイムさんね。んで、めちゃくちゃ面白そうな余興の為に三浦を使いたい、と…へへへへ、ここであの金髪の鬼を公開処け…もといアイドルにしてやるぜ!

 

「…えと、驚かないんですか?」

「あ?…あ、すいません今のナシ。えーと、まぁ特徴的な喋り方だし、知り合いが被ることもあるでしょう」

「…ああ、そうですね」

 

若干落ち込んだ様子の少女に、俺は首を傾げながら伝える。

 

「んじゃ今から連絡取ります。多分端末の電源までは切って…」

「ないと思います。コールは続くんですけど、私と私のマネージャーのには出なくて」

「ん。…因みにだが、俺のコールも出てくれないな」

「そうですか…」

 

少しシュンとする少女。しかし俺は続ける。

 

「でも、お探しの人物はもうすぐそこにいるぞ。…いますよ、顔は動かさないでください」

「あ、はい。…敬語苦手なら、タメ口でいいですよ。多分私の方が年下ですし」

「幾つ?」

「14です」

「マジか一個下だな」

「だから優美子さんと知り合いなんですね。…で、優美子さんはどこに?」

「お前の右斜め後ろのビルとマンションの間の路地。様子を伺ってる」

「ありがとうございますっ、このお礼は優美子さんからっ!!」

 

そう言うと少女は一気に身を反転させ、三浦の居る路地に駆けた。「ちょっ、ヒキオォォォォォ!?」とか聞こえるし「ぎゃあああああの服は着たくないいい」とか「観念してください優美子さんっ」「いやああああ助けて隼人ぉお!死んじゃう、あーしまだ生きたい!」「死にませんよ!死ぬ程恥ずかしいと思いますけど!」「にゃああああ!!」

 

…もう色々聞こえないけど、とりあえず。

 

「動画今度くれー!」

「はーいありがとうございます!」

「ヒキオォォォォォオオオ!!!!」

 

朝は静かにしましょうね、三浦たん。

 

 

 

 

△▽△

 

 

ーーーーー

三浦がクインヴェールの入学式余興でなんかするらしい。動画手に入れたらくれてやる

ーーーーー

ーーーーー

俺は素晴らしい友を持ったよ。言い値で買おう

ーーーーー

ーーーーー

気にすんな。値段は物の上がり次第だな

ーーーーー

ーーーーー

なんて奴だ君は…最高にクールだよ

ーーーーー

ーーーーー

よせやい照れるぜ

ーーーーー

 

いいのか自分の彼女がどうなると思ってるんだ。多分キャピキャピの服着せられて公開処刑だぞ、本人的に。

まぁ、今俺もそれ所じゃないけど。

 

シルヴィア・リューネハイムってあのすげぇ歌の人じゃんよ。俺ですら知ってる歌手で、クインヴェールの生徒会長でもあり、序列一位。二つ名は忘れたが相当強かったはずだ。その能力は『万能』。

 

大方そこまで急を要する事じゃないから能力を使わなかったのだろうが、もっとそれ使って楽に生きようとは思わんのかね。俺は雪ノ下達がいない状況でそんな力持ってたら万能に頼りまくりだぞ。歌は…そこそこだ、上手くはない。

 

まぁ気にしてもまた会う訳じゃないし。とりあえず帰宅した俺はサンドウィッチを摘み汗を流す。制服に着替えればあら不思議、8時半ではないか。

 

丁度いい時間だ。俺は葉山とのメッセージを終え、部屋を出た。とりあえず今日は入学式で終了…の筈だ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

三浦たんから『今度あったらただじゃおかない』という恐ろしいメッセージを貰い、それをキャピキャピな服で送信していると想像した俺は講堂で吹き出し周囲のヤベー奴らに睨まれた。サーセン。

三浦たん…ヤバい寒気したそろそろやめよう。三浦にはメッセージで『逃げちゃダメだ』って送ってやった。シンジくん…笑えばいいとか葉山みたいだな。

 

さてそろそろ入学式が始まる。が、マトモに席についてるのは俺含め少数派だ。大多数が席を立ち、中でも喧嘩をおっぱじめそうな者、友人らとギャーギャー騒ぐ者、後者が目立つが、前者も少なくはない。

 

そんな中、講堂の舞台に小さくてデカい…口汚く言えばチビでデブな奴が現れ、備えられていたマイクを擦りハウリングを起こし注目を集めた。そして…

 

「元気で結構だが、喧嘩は後にしろ。クソ面倒だが入学式を執り行う。…何、ここはレヴォルフだ、すぐに終わる。まずは俺、生徒会長であるディルク・エーベルヴァインの祝辞だが…んなもんねぇ。勝手に動き回るテメェらを一々祝ってられるかってんだ。ーーーこの学院は実力至上主義。闘るなら闘りゃいいが備品壊したら殺すからな。以上、入学式、並びに中等部からの進級式は終わりだ。各自解散、端末に送られた指示を元にこれからのクソッタレな学校生活を楽しめや」

 

そう言って生徒会長は退場した。…え、終わり?

 

「うおおおやるぜええええ!!」

「ぶっ殺す!」

「上等だ表出ろや!」

 

かと思えばあちこちで乱闘騒ぎだ。オイオイ、マジかよ。レヴォルフってこんなに適当なのかよ…

半ば呆れながら、そして逃げる様に講堂を去る。とりあえず、ベンチで休憩しよ…

 

 

 

 

△▽△

 

 

「おいてめぇ、何俺様の特等席に許可なく座ってんだ、あん?」

「…あ?」

 

校舎の影のあるベンチから空を見上げていると、そう遠くない場所から声が聞こえた。喉から勝手に出た言葉と同時に俺は首を正面に向けると、くっちゃくっちゃと音を立てながらガムを食う男がいた。その他に、四人ほど追加でいるが。

ガムの食い方汚ねぇな…

 

「あ?じゃねぇよ殺すぞ。…ってんだよ、新入生か、興醒めだな…オラさっさとそこどけや」

 

どうやら上級生の様だ。大方、俺の制服の新品度に目がいったのだろう、当たりです。

さて、どうしようか。俺の本来の目的はここで強くなる事だ。という事は何れ闘いの道を行かねばならない。ならば…

 

初日から、暴れて名を挙げた方がいいのか?

 

後々思えば、どうもテンションが上がって変な方向に思考が走っていたと思う。が、この時の俺はすぐさま行動に移した。

 

「…アンタ名前は?」

「あん?クソガキ、上級生には敬語だろォが」

「敬う理由が見つからねんだけど。何アンタ強いの?」

「……ほぉ、面白ぇ。新入生をビビらせてやろうと思ってわざわざ学校なんざに足を運べば、俺を知らねぇ奴がいたとはな…」

 

そう言って、上級生は改造制服らしい制服の内側から煌式武装を取り出した。細剣タイプか。

 

「俺はレヴォルフの在名祭祀書、冒頭の十二人。序列七位のリンダ・アッフェルデンだ。これで分かったか?」

「…いや知らねぇな」

「そうかい。…舐めやがってクソガキィ!!てめぇの名前は何だ!」

「…比企谷八幡」

 

そう言うと上級生は後ろの四人を下がらせ、胸元の校章に手を翳して高らかに宣言する。

 

「覇道の象徴たる双剣の名の元に、我リンダ・アッフェルデンは汝比企谷八幡への決闘を申請する!」

 

へぇ…レヴォルフなのに礼儀正しく決闘申請とは、これ珍しいんじゃねぇか?知らんけど。

 

「さっさと受けろ。てめぇの戦歴に入学早々黒星を付けてやるよ」

「ああそう言う…」

 

非公式の決闘では何とでも言えるから、という意味かね。まぁいい、どうせ受けるつもりだったし…

 

何より、序列持ち、中でも冒頭の十二人だ。初っ端からいい勝負が出来そうじゃないか。

 

「…我、比企谷八幡は汝リンダ・アッフェルデンの決闘申請を受諾する」

 

ベンチから立ち上がり、首を鳴らし、次いで拳も鳴らした。リンダは、既に構えている。…ギャラリーが増えてきたな。

 

「おいクソガキ、今なら土下座と有り金で許してやるぜ?」

 

…三下らしい台詞だ。

 

「お前なんなの?どうせそんな変わらんのに人の事年で見下してると…痛い目見るぞ」

「なら見せてみろよ!」

 

カウントダウンが始まる。俺は全身の星辰力を高め、戦闘準備に入る。

ーーーこっから先は、マジの闘いだ。昨日の違法薬物野郎とは、まるで違うだろう。冷静に、且つ目立つ様に。

 

数年前の俺が聞けば鼻で笑うやり方で。俺は新たな生活を始めよう。

 

カウントダウンが、終わる。

 

【スタート オブ ザ デュエル】

 

校章を通して機械音が決闘の開始を知らせた。

 

 

 




オリキャラタグつけとこ…

レヴォルフ序列七位リンダ・アッフェルデン
細剣型の煌式武装を主武装とし、遠距離用に小型銃の煌式武装も所持。魔術師では無いが、持ち前のスピードを活かし近接戦闘を得意としている


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序列七位

 

 

【スタート オブ ザ デュエル】

 

「オラ行くぞ!!」

 

そう言ってリンダは地面を蹴り、僅か数mの距離を一足で詰めた。しかし俺は焦らず『空』を発動し風の障壁を張る。

弾かれた細剣は、変わらずリンダの手の内だ。…流石冒頭の十二人。簡単に武器は手放さないか。

 

「…お前、ダンテか」

「ああ」

 

早くもバレたが、まぁこれは元々そのつもりだった。が、いかに『空』だけで乗り切るかが鬼門であると俺は考える。複数持ちだと今バレるのは余りに痛手だ。せめて次に使うのは『光』であってほしいが…出来る限り俺は『空』以外を使わずに勝ちたい。

 

「なら、接近戦は苦手だろう」

「煌式武装は持ち合わせてないが、一応槍と直剣には心得があるぞ」

「それに障壁もあるってか…チッ、中々面倒だなぁお前」

「そっちこそ。随分すばしっこいな」

「言ってろクソガキ!!」

 

余り星辰力は使いたくないので、俺は少し障壁の強度と範囲を落とす。その隙を逃さずリンダは縦横無尽に駆け、四方八方から細剣を振るうが…俺の両手に纏わせた風の篭手で全て弾く。これで近接戦闘も可能アピールを忘れない。後、校章だが、これがやられただけで決闘に敗けるので徹底して守護する。具体的には、先程の星辰力をの大体を使って校章だけを障壁で守護している状態だ。

 

「よく流すじゃねぇか…!」

「アンタもよく動くな?」

「体力と足にゃ自信あんだよ」

「オイオイ…俺様キャラはそこそこ弱くて後ろのが強いってのが定石だろうが。若しくはマジで強い奴か」

「訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇ!あとその二択なら、残念ながら俺様は後者だがなァ!」

 

否定は出来ない。コイツの動き…的確に俺の視界を突いてくる。左前方から剣が来れば、次は右後ろ、続いて下、更にはアクロバティックな動きで俺の頭上を取ることもある。無尽蔵なスタミナ、そして偶に入れてくる小型銃の煌式武装の遠距離攻撃。多少の休憩を入れつつ、ずっと攻撃の手を止めない。

対する俺はずっと防戦だ。コイツが魔術師ならどうしようとか思っていたが、どうやらそうではないらしい。であれば、強行で倒してしまおう。

 

「オラどうした!そろそろ星辰力がやばいんじゃねぇのかァ!?」

「…生憎星辰力には、自信があるんだよッ!!」

 

まだ剣戟を繰り出してくるリンダに、俺は空砲を放つ。空砲と言っても、拳を纏う風をパンチと共に放出してボールの様にぶつけるだけなのだが。

ギリギリで、多分直感だろうが俺の手前で攻撃を中止して後に飛び退いたリンダの左足に空砲が直撃し、その体を後方に吹っ飛ばした。これで意識が無くなれば簡単なんだがな…

 

ギャラリーに突っ込んだリンダは、すぐさま復帰してくる。が、左足を引き摺っている所を見ると、痛手は負わせた様だ。

 

「くっそ、守ってるだけかと思えば…最初っからそれ使えよ」

「魔術師かどうか見極めてたんだよ、手の内を知らない相手なんだ、慎重になるのが当然だろうが」

「その初見の楽しみを味わうのが突撃だって知らねぇのか?」

「相互理解は難しいみたいだな」

「違いねぇ」

 

そう言うとまたリンダは構えた。足が痛むだろうに…チッこりゃ戦意を削いで降伏してもらう事は難しいな。

であれば覚悟してもらおう。骨の一本や二本折れても文句言わないでくれよ?

 

「ふう…」

「…なんだぁ大技でも出すのか?」

「ま、そんな感じだ。死なないでくれよ」

 

…電力を少し使い、全身の筋肉を補強。更にそれをバラす事の無いように、俺は『空』の出力を上げた。

 

「…オイオイマジかよ」

「『空圧』。…結構重たいから、気ィつけな」

 

周囲の人々は俺達からかなり離れ始める。…何故なら、俺の周囲にまるで嵐を彷彿とさせるかのような風が吹き荒れ始めたからだ。それらを収束し、やがて俺の全身を風の鎧、風の武器とでも言えるモノが纏われた。今の俺に攻撃は早々通用しない。ましてやただの物理攻撃など、自殺行為だ。

 

「『神風』。そして『空圧』。…これ以上怪我したくないなら降参しろ」

 

俺はここまで本気を見せ、脅す。()()()()()()()()()()()()()()、と。しかしリンダは好戦的な笑みを浮かべたと思うと、細剣を空に向けて掲げた。

 

「抜かせ!俺は双剣の校章に誓を捧げた戦士だぞ!戦いを、死闘を恐れる戦士が何処にいる!?戦いで死ねるなら本望、舎弟に無様な姿を晒すくらいなら一矢報いて死んでやるさ!ヒャーハハハハッ!!」

 

そうして、自身の覚悟を示した。

これには同じ男として尊敬の念を抱かずにはいられない。俺は未だに人を傷つける覚悟と、自身が精神的にではなく肉体的に傷つくことに覚悟を決め切れていない事を再認識し。

戦士リンダに向けて、今の本気をぶつけたいと思った。

 

「なら行くぞ!死にたくないなら抜けて見せろ!」

「バカが、そんなやわっちい風くらい、俺様が断ち切ってやるぜ!こいやクソガキィ!!」

「そうかよ……ならせめて一撃で沈め!」

 

俺は『空』で地面から数十cm浮き上がり、そして風を利用して一瞬で数十mの距離を詰めた。眼前で吹き荒れる風にリンダはそれでも細剣を突き立てようとするが、動けない。立っていられるだけでもやっとだろう。

だから、俺は敬意を表して全力で放つ。『空』の全開を。

 

破壊(こわ)れな」

「チッ……バケモノめ」

「どっちが」

 

『神風』を『空圧』で収束し、放つ一撃はいとも簡単にリンダを地面に叩き付けた。上からの攻撃にしたのは、せめて周囲への被害を減らそうと考えた結果だ。別にリンダに情けをかけたつもりは無い。むしろ、ここまで出す予定のなかった『神風』まで出したんだ、あって数分だがこの男は敬意を払う対象として全力でいった。

 

地面がめくり上がり、リンダは衝撃で地面に沈む。半径数十m程を沈め、その中央には意識を失い、ついでに校章が壊れたリンダが眠っていた。

クレーターの中心で、そんなリンダを見下ろしながら、俺は。

 

【エンド オブ デュエル 勝者 比企谷八幡】

 

機械音が俺の勝利を告げるのを、ただ聞いていた。

 

 

 

 

△▽△

 

 

【レヴォルフ黒学院、入学式当日に大決闘!?冒頭の十二人の一人が新入生に敗れる!】

【序列七位のリンダ・アッフェルデン。『無尽剣(ノーフェイクソード)』が重傷。対する新入生は無傷!!】

【新入生の名は『比企谷八幡』!】

 

このニュースは一瞬でアスタリスク全校の元に届き、たちまち都市を沸かせた。レヴォルフ故の、好戦的なイメージそのものである。

下剋上。それも入学初日に。いくらレヴォルフが粗暴で悪党が多く、住民らや学生から遠巻きに見られる事が多いと言っても、流石はアスタリスクの住人。闘いの話題は大好物なのである。

 

そしてこの決闘の様子は既に報道系クラブの映像により、すぐさまネットで拡散。忽ち、比企谷八幡は有名人になった。

 

その立ち回り、そして大技、魔術師としての能力から、仮定的ではあるが【嵐神】と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「…で、何か申し開きはあるか?」

「はぁ…本日はお日柄も良く」

「殺すぞ」

「サーセン」

 

あの決闘の後、すぐに俺はリンダを医務室に運んだ。彼は一応無事な様だが、やはり骨がイカれてた様で、すぐに治療院行きとなった。そんな彼を見送ると、生徒会長の使いの、オドオドした女の子に呼ばれ、こうして生徒会長室に来た訳だが。

もう初手から怖いし何故かエレンシュキーガルはいるし暗いしで訳が分かりません。

 

「チッ…まさか初日から冒頭の十二人を降す野郎が現れるとはな」

「はぁ…」

「いいか。テメェは今日からレヴォルフの冒頭の十二人、序列七位になる。つまりまぁ月々に金は支払われるわ一人部屋としていい部屋に住めるわで色々権利が得られる」

「はぁ」

「部屋の移動は有無は言わさん。既にお前の寮部屋前に部下を置いてるが、家具やら移動させて構わんな?」

「まぁ、はい。忘れ物がないようにだけ…」

「…レヴォルフに入学したにしてはイヤに下手に出るなお前…」

「まぁ、その」

 

いやー結構な大きさのクレーター作っちゃって(笑)備品は壊してないけど敷地壊しちった(笑)メンゴwな状態だしね?下手に物言うと沈められるの俺だから、マジで。

 

「…まぁいい。とりあえず部屋のモンは全部移動、部屋も移動だ。安心しろ、寮内だが最上階の見晴らしのいい部屋で、ワンフロアすべてお前のものだ」

「おぉ!」

「更に冒頭の十二人だからな。さっきも言ったが金はかなり支給される!」

「おおお!!」

「その分狙われるし成績もしっかり残してもらうが、まぁそれは覚悟済みだろうな。初日から冒頭の十二人を墜す位だしよ」

「おぉ…」

「予想してなかったのかよ!?」

 

いや知ってたけどさ。今になってあのテンションが恥ずかしくなってきたんだよ。それに狙われるのは本懐…なのかもしれんが、暫く忙しそうだなぁ。

 

「まぁ、初日から暴れて反省してんのはいい事だ。一応言っとくがマジで校舎壊したりしたら冒頭の十二人でも懲罰房入れるからな」

「えぇ…なんでそんなもん学校にあるんすか…」

「レヴォルフだからだ」

「納得」

 

レヴォルフだからで大体納得出来るわ。レヴォルフマジ便利。

 

「…とまぁ茶番はここまでだ」

 

え、茶番だったの?

何やら既に怖い顔を更に怖く…具体的には眉に皺が出来まくった表情で、ゲンドウポーズを取りながら、俺にある話持ちかけてくる。

 

「俺の手駒になれ」

「え、嫌だけど」

 

いや何の話よ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「話は最後まで聞け」

「えぇ…」

 

何故かソファに座らされた俺は、対面に移動してきた生徒会長と、その後ろに控える女の子とエレンシュキーガルとも目が合い、前者には目を逸らされ後者は俺が目を逸らした。やめて、そんな冷たい目で見られると俺…ダメっ感じちゃう!(恐怖)

 

「ころな」

「は、はいっ」

 

会長がころな、と言うと後ろの女の子が動き出した。ああもしかして名前か?

少しして、その女の子…ころなさんは紅茶を淹れて来てくれた。一口頂くが…ふっ、雪ノ下には適わないな。などと何故か俺が勝ち誇る。

が、会長は無視して話を進める。

 

「まず、手駒の件だが。これは主に俺が大金をテメェに支払う事でテメェが何も聞かずに汚れ仕事でも何でも受ける。…これが大雑把な内容だ」

 

なんと。まさかの暗部部隊の様な話でござる。…え、これ聞いたからにはみたいに脅されないよね?聞いたら負けとかじゃないよね?

 

「勘違いしてる様だが、この話は受けなくてもなんらテメェの影響はねぇよ。夜襲もしねぇし、暗殺もねぇ」

「あぁなんだぁ…」

「ただし刺客を送りまくるがな」

「二択に見せかけた一択じゃん」

 

やっぱり聞いたら負けでした。

 

「冗談だ。汚れ仕事っても、殺しじゃあねぇ」

「じゃあなんすか…」

「暗殺だ」

「結局殺しじゃねぇか」

 

何言ってんだこのチビデブ…頭に蛆でも湧いてんのか?やめろよ俺そういう系苦手だかんな。

 

「…お前、揶揄いやすいな」

「会長は意地汚いっすね…」

「敬語はやめろ気持ち悪い。つーか、微妙に違うしな」

「りょーかい」

 

さて、どうやらココからが本当に真面目な話の様だ。会長はころなさんに紅茶を下げさせ、

 

「オーフェリアの力を知っているか?」

 

そう、聞いてきた。えっと確か…

 

「…瘴気を操るんだっけか」

「そうだ」

「…それがどうかしたのか?」

 

すると会長は、チラリとエレンシュキーガルを一瞥し、俺に視線を戻してーーー

 

「オーフェリアの力は常に溢れている。手袋や制服なんかに細工をして抑えているが、外に出りゃ土は死に、花は腐る。草は枯れ果て、小動物は一発であの世行きだ」

「俺は、オーフェリアの力を抑える方法を探している。協力してくれ」

 

ーーーと、まさかの『依頼』をされたのだった。

 

 

 




オリ展開最高や。
ワイ、ディルクがええやつ側って妄想めちゃくちゃ好きやからそういう方向で行くやで

まぁ、どれもこれもオリ展開やけどすまんな許してくれ。
ワイの妄想垂れ流し小説やしおおめに見て♡


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奉仕部再活動と皇帝の力の目醒め

オリ展開強くなりまくります


 

 

 

「そいつは…」

 

なんつー話だ。確かエレンシュキーガルはアルルカントのクソ女のせいで無理やり星脈世代になったらしい話はリースフェルトから聞いていた。だが、その力が抑えきれてないなんて…

 

いや待てよ…!確か、リースフェルトを庇ったあの場所は、花壇の花が全て…!

 

「…気付いたようね」

「お前っ…」

「…ええ。花を枯らせたのは私。……ダメね、まだ無理だと思っていても、花が好きで、どうしても近くで見たくなるの」

 

そう言った彼女の表情は、あの何処か諦めた表情で、そして泣きそうで。静かな声は凍てついているかのように冷たさを帯びていて、虚ろ気だった。紅玉の瞳は不吉な赤い月を連想させた。

 

そしてそれら全ては、俺が最高に嫌う。過去を思い出させる、昔の誰かさんの様な様子だった。

容姿は違えど、性別、環境全てが違えど。一瞬、彼女を『本物』が知りたいと告白した時の俺と重ね合わせてしまう。あの時は、雪ノ下に逃げられ、もうどうにでもなれーーとも思ったが、それは一瞬だった。だがその一瞬を、それ以上の時を、重いモノをずっと背負っているのであろう目の前の少女の境遇が許せなかった。

 

「…花が好きなのか」

「えぇ。…ユリスが居たでしょう?昔、リーゼルタニアの孤児院にいた私は、シスターやユリス達と温室で植物や花を沢山育てていたわ…」

「そう、か」

 

だったら、そう俺に願うなら、協力して欲しいと言うのなら。何故リースフェルトを突き放すのだろうか。それを問うと…

 

「…あの子は、私の事を気にしすぎるあまり、周りが見えていないわ。だから、もう私と関わってはいけないの。……それに、私はもう運命に逆らえない事を知ったわ。覆る事は無い、動き出した運命は誰にも止められない」

「オーフェリア!」

「…ディルク、貴方には感謝しているわ。こんな私を買ってくれて、花には近づけられないけれど、それでも生活出来るようにしてくれて。…王竜星武祭。アレも、いい体験だったわ」

 

人生で、星脈世代になった今を最大限楽しんだ結果らしい。ただ一度の我儘を漏らしたエレンシュキーガルと呼ばれる、触れれば折れてしまいそうな少女の為にこの男は必死こいているようだ。何でもレヴォルフの会長は序列一位の指名制で、色々と既に、星脈世代では無いながらも頭脳で勝ち上がってきた会長はオーフェリア・ランドルーフェンを買い、救う手立てを見つける為、生徒会長になったという。

 

「…ダメ元なんだよ、元々。その様子じゃ、お前にも宛はない、か」

 

会長が項垂れる。俺は必死に頭を回転させ…とりあえず、一人では無理だと思い、一旦話を切る。

 

「…悪いな」

「いや、いい。さっきも言ったがダメ元なんだよ」

「だが、その話聞いたからには協力させてもらおう」

 

俺がそう言うと、会長の細い目が見開かれる。宛はない。が、方法を探すくらい手伝ってやるさ。

飢えた人に魚を与えるのではなく、取り方を教えて自立を促す…この場合、流石に自立を促す事はしないでもいいと思うが。

 

まぁ要するに、手伝ってやるということだ。方法位、探す程度協力出来る。

ただまぁ、俺だけじゃあないけどな。

 

「依頼しろ。『奉仕部』に」

「奉仕部…なんだそりゃ」

「俺が中学ん時に所属してた部活だ。部長が言うには、救われぬ者に救いの手を、という訳だ」

「…それなら、テメェも協力してくれる、という事だな」

「俺以外の部員やら、関係者も含めて、だがな」

 

そう言うと、会長は姿勢を直し、

 

「幾らだ」

「…はい?」

「いくら支払えばいい。100万か、1000万か、それ以上か」

「ま、待て待て!金は受け取れんぞ、あくまで俺達は奉仕部…ボランティアなんだ」

 

もし金なんて受け取ってみろ、あの二人の軽蔑の目の被害に遭うのは俺なんだぞ!それで別れるとか言われたら…あ、死ぬわ。余裕で死ねる。

 

「だが…」

「あーじゃあアレだ。エレン…ランドルーフェンに聞きたいことがある」

「…何?」

「運命って信じてるか?」

「何を…ええ。そしてそれに抗えないこともね」

 

ほう、言うじゃねぇか。15の俺が言うべきじゃないかもしれんが、よく14でそんな事言えたもんだ。

まだまだだぜ人生は。今が最底辺だってんなら、いいじゃねぇか。これより先はずっとそれが続くか上がるかしかねぇんだから。

 

何諦めてんだよ。根性論は好きじゃないが、諦めない精神は大事だぞ。

 

運命には抗えない、覆らない?バカめ、運命何て最初っから決まってねぇよ。

ハッピーエンドに向かいたいなら自分で動け。勝手に諦めるくらいなら初めから巻き込まねぇだろ。…諦めきれてねえから、今お前はここにいる。だったら。

 

「そのお前のくだらない運命論、燃え散らしてやる。この依頼、確かに奉仕部として受けたぞ会長。…ランドルーフェン、お前は今日も前もそうだが、いつも下向いてるな」

 

立ち上がり、俺は彼女にそう言い放つ。

 

「会長、これ俺の連絡先。とりあえず新しい部屋教えてくれ」

「あ、ああ。……送ったぞ」

「助かる。…っと、ころなさん、紅茶あざした」

「ぴぃっ!?……あ、はいぃ…」

 

部屋のドアに手をかけ、呆然とする会長とランドルーフェンに向けて、俺は振り返らずに言葉を口にする。まさか、俺がこんなこという時が来るなんてなぁ。

 

「人は変わる生き物だ。でも別に、変わらない事が罪って訳じゃない、変わる事が悪い事だって、勿論その逆もありうるけど。ランドルーフェン、お前のそれは現状から逃げてるだけだ。……それじゃあ誰も助からないし、誰も救えないぞ」

 

何時だったか、初対面でこう言われた時はまだ今より幼く、早めの中二病と高二病を患っていた俺は無駄に達観していた故、二の句が継げずぐうの音も出なかったと思う。

 

でも、俺達は変わった、変われた。恐らく良い方向に。

ならお前でも変われるさ。ちょっと辛いかもしれんが。誰かと喧嘩して、いがみ合って、胸ぐら掴まれたり色々罵倒を受けたりするかもしれんが。

 

変わろうとしたなら、多分大丈夫だろ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

という訳で依頼を受けた俺ですが。一度新しい部屋に戻り改めて端末を開くとメッセージが山のように届いていた。な、なんだなんだ!?このフロアが全部俺のモノっていう驚きよりも驚いちゃったんだけど!?

 

ーーーーー

比企谷君、決闘の件ニュースになっていたけれど

貴方、初日から何をしているのかしら、メッセージを見たならすぐに折り返し連絡なさい、いいわね?

ーーーーー

ーーーーー

早く

ーーーーー

ーーーーー

由比ヶ浜さんも心配しているわ

ーーーーー

ーーーーー

早く

ーーーーー

 

その由比ヶ浜さんから『早く』っていう二文字だけのメッセージめちゃくちゃ届いてて若干チビりそうなんですが。えーと、後は葉山と川崎と戸塚か…

 

ーーーーー

君初日から何してるの?

ーーーーー

ーーーーー

アンタ、大丈夫だったの?ニュースで見たけど…

連絡ちょうだい

ーーーーー

ーーーーー

八幡っ無事なの!?僕、暫く八幡に会えてなくて寂しくて、なのにニュースで八幡が決闘したって聞いて!葉山君と一緒に居るから、どっちかに連絡返してくれればいいから。僕、待ってるからね?

ーーーーー

 

戸塚は天使でした。とりあえず全員に『無事だ。その件も含めて話した事があるからレヴォルフに来てくれ』とメッセージを送る。あ、ちなみに雪ノ下さんからは

 

ーーーーー

お腹よじ切れそうなくらい笑いが止まらない(´^ω^`)ブフォw

大丈夫っぽいけど、何かあればお姉さんに連絡するんだぞー

ーーーーー

 

と来ていたので『雪ノ下さんは来なくていいです』って追加で送った。一瞬で謝罪の旨とレヴォルフに高速で向かう旨が書かれているメッセージは誤字しまくりでした。

 

とりあえず、目の前の空間を見渡す。ヤベぇどうしよう、本棚とかだけじゃめちゃくちゃ寂しく感じるぞこの部屋…!

まぁこれまた備え付けのソファやらあるしまだいいか。兎に角俺は会長に頼んで名を挙げた人がレヴォルフを尋ねてきたら俺の部屋に通す様に伝えてもらった。

 

さて、まずは俺だけでも考えてみようかねぇ。

 

〝………〟

 

 

 

 

△▽△

 

 

「…そう、そういう事だったの」

「ヒッキーもうマジで心配したし!」

「まぁ無事で良かったじゃないか」

「まぁ、そうだけど…アンタがまさかねぇ」

「八幡、ホントに大丈夫?」

 

ころなさんを通して全員を部屋に呼んだ俺は、言葉の嵐を受け止め、まずは決闘に至った経緯を話した。この場に居ないのは、戸部と海老名さん位で、材木座は呼ぼうとしたら勝手に来てレヴォルフの生徒にシバかれかけていたらしい所を葉山と戸塚が止めてくれたらしい。そしてころなさんに連れて来てもらった、と。

 

「ま、そこは大丈夫だ。見ての通りピンピンしてるしな」

「うむ、我も見たぞ八幡よ!あの見事な戦士の生き様と、お主の力を!」

「あーはいはい。あの人はリンダな」

「レヴォルフ内でも有数の戦闘狂だったかしらねー。前回の王竜星武祭ベスト8、今私と同い歳」

「マジすか」

 

雪ノ下さんと同い歳って事は…リンダさんって大学部一年なのか。というか雪ノ下さんもベストじゃないですか。マジで。

 

「それで〜?他にも何かお話があるって顔してるね、比企谷君?」

 

そして、そんな他愛ない話からいきなり切り込んできた。もう心臓に悪いから勘弁して…

だが見れば、全員が俺を見ていた。何となく察してくれていたようなので、素直に吐いてしまう事にした。

 

 

 

 

△▽△

 

 

言えば言うほど、皆の表情が暗くなっていく。事情を大体知っていた雪ノ下達でさえ、ランドルーフェン自身の体がそこまでの状態であるとは思ってなかったんだろう。

 

言い終えて暫くは静寂が場を支配した。初めに口を開いたのは、年長者である雪ノ下さんだ。

 

「…厄介な依頼を引き受けたね」

「すいません」

「悪い事じゃないよ。…大方、運命論で自分に諦めをつけてている風の彼女を見かねたとかそんな感じでしょ?」

 

……なんで分かるんだよ。エスパーか何か?

 

「私も、前回の王竜星武祭で彼女に負けてるから。試合前に、界龍らしく挨拶した時に見た顔がね」

 

ずっと気に食わなかったらしい。勝負は本気で来て、負けたのにも悔しさはあっても悔いは無かったらしいが、それでも彼女はランドルーフェンの何処かを気にかけ、声を掛けたらしい。するとリースフェルトに言ったように、これが運命だとか言ってきたらしく、激昂する前に退散したのだそう。

 

「あの子がねぇ…」

 

そう言う雪ノ下さんの表情は、既に仮面は外され、身内モードに切り替わっているのか素の感情が現れている。

 

「常に瘴気を…星辰力を放出してしまっているのなら、何処かでガス欠するんじゃないのかい?」

「そんな事は聞いてないな…だが服や手袋に仕掛けがあって、ある程度は抑えられているらしい」

「…君の『空』で瘴気を押さえつけたりは」

「俺がガス欠すんぞ」

「だよね」

 

一か八かを葉山が提案するが、それじゃ俺が倒れちまう。あーもう畜生、都合よくランドルーフェンの星辰力だけを抑える力とか降って湧いてこないかなー…

 

〝……ヨウヤク、願ッタナ?〟

 

「へ?」

「どうかした八幡?」

「…い、いやすまんなんでも…」

 

〝オイ、早ク俺様ヲオコセ!〟

 

「!?」

 

やっぱりこれが幻聴じゃない。何処からか声が聞こえる。キョロキョロと辺りを探すが、誰もいない。居るのはコイツらだけだし…

 

〝ダー、モウ出ルゾ!我慢ナラネェ!!〟

 

「は!?ちょ……ぐァッ!」

「比企谷君!?」

「比企谷!」

 

そんな声と共に、俺の左腕が激痛を報せる。めちゃくちゃ痛い、まるで燃やされているかのような、熱を持った痛さだ。ダメだ、この感じは…炎が暴走ーーー!?

 

「っぷあーーー!バーカ、暴走なんざ俺様がいるんだからする訳ねぇだろうが」

 

ーーーするかと思ったら、炎じゃなくて火の玉が俺の左腕から現れた。同時に痛みは引き、意識は腕から、俺の混乱から一斉に宙に浮かぶ火の玉に移る。

 

手袋喋る火の玉って何だよ!

 

「お前…」

「おう宿主よ。七つの大罪を燃え散らす七つの炎の持ち主よ。ただいまエンペラー様のご登場ってな」

「「「はぁ!?」」」

 

その場に居た全員の声が重なった。態度が驚く程でかい火の玉は、そんな俺達の声に続いて「うおっ、なんだなんだぁ!!」と驚いていた。

 

いや原因全部お前なんだけど?

 

 

 




エンペラーはずっと火の玉の姿で行きます。左手は移植ではなく、八幡は能力その物と化したエンペラーに気に入られて『空』『光』『電力』の他に『青い炎』があるのだと思ってください

ちなみに12月32日はありませんでしたし、当然エデンもありません。エンペラーは七つの炎の意識みたいなものです。
能力事態に多少の改変を加えていくので苦手な方は申し訳ないです。

この話題を引っ張りつつ、日常や闘いを入れていきたいけど難しいな…


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9話

 

 

 

「なんだなんだぁ!!そんなに俺様に驚いたってのか!」

 

火の玉の癖にゲラゲラと笑う火の玉。もうこれ分かんねぇな…なんて少し投げやりになりつつ、怪奇現象の様な火の玉に話しかける。

 

「なぁ、お前…何なの?」

「あ?さっきから話し掛けてたじゃねぇか」

「…何て?」

「変な奴。漸く願ったな?」

 

あーーー!!お前があの声の正体かよ!マジ焦るわあの会長黙って俺に事故物件でも押し付けてきたのかと思っちゃう所っていうか半分そうだと思ってたーー!会長ごめん。

 

「お前か…」

「ったくよォ。折角俺が目覚めて話し掛けてやってるってのに無視しやがって」

「怪奇現象かと」

「お前…」

 

なんかすまん。…いやなんで俺が謝ってんだよ驚かせたお前が悪いだろお前が謝れよ謝るんだよ!(責任転嫁)

とまぁ脳内漫才は始める前に終わらせて、未だ固まっている皆を呼び戻す。手を鳴らし、はっと気付いた所で説明を求める。

 

「んで、結局お前は何なんだよ」

「あん?俺はお前の七つの炎の意識…みたいなもんだ」

「七つの炎?」

「……お前、あーもういいわ。気付いてないのも無理ねぇか」

 

何がだよ、という前に火の玉は言葉を紡ぐ。どうでもいいけどなんで火の玉が喋るわ目は付いてるわなの?不気味通り越してヤバイよ?(語彙力)

 

「なんせ()()()()()()()()()()なぁ。俺が起きれたのも僥倖だったぜぇ」

「…封印だと?」

「おう」

「何を」

「だからお前の七つの炎をだよ。…あぁ後それにまつわる記憶やらその辺諸々な」

 

何を言っているのか一切理解出来ない俺含めた一同は火の玉の言葉を待つばかりだ。

 

「生まれた時に自分の親に星辰力多すぎて危ないって抑えられて、挙句俺すら封印しちまって。与えたはずの七つの炎の力と記憶までほぼ全部諸々封印と来た」

「はっ…?」

 

手袋思えば、違和感があったかもしれない。星辰力が器に大して少ない様な、そんな感じはしていた。欠落した力で、満足ではない力だと思う事もあった。

冷静さを欠いた俺は端末ですぐに母に連絡をとる。三コール程度で繋がった。

 

『はい、どうかした八幡』

「母さん、聞きたいことがある」

『何?』

「…俺の星辰力、封印したのか?」

 

そう聞くと、少し母さんは口を閉ざした。そして…

 

『…ええ。私の魔女の力でね』

 

肯定したのだった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「なんでだ?」

『幼い貴方が、力を持つと周りに避けられると思ったから。生まれた時には既に私の星辰力を遥かに超える星辰力が溢れていたわ』

「だから…」

『…そうね。貴方自身に危害が及ぶと思ったからよ。でも、どうして今?封印が解けたの?』

「…そんな気がしただけだ」

『…そう。いつか解除しなければとは思っていたけど。…今の貴方ならいいのかしら』

「…かけ直していいか」

『ええ。今日は休みだから何時でもいいわ』

「切るぞ」

 

そう言って通話を終えた。少し考える時間が欲しかったが、今は時間が惜しい。俺は火の玉に話し掛けた。

 

「なんで今現れた」

「そりゃ…お前が願っただろうが。力が欲しいーって」

「確かに似た事は考えたがな…」

 

そんなんで封印って解けるものなのかよ。なら俺が家で決意表明した時にでも目覚めろよ。

 

「と言っても目覚めたと自覚したのはついさっきだ。んで俺様がさてどうしたもんかと思ってるとお前が願うもんだから、しゃーなし教えてやろうと思ったんだよ」

「何を…ああいやちょっと待て」

「あん?」

 

俺だけじゃない。この場にいる全員が混乱していた。珍しく雪ノ下姉妹が頭を抱え、由比ヶ浜と材木座は既に思考を放棄。いやお前が好きそうなネタなのになんでショートしてんだよ。葉山と川崎も雪ノ下姉妹には及ばずとも一応思考をまとめていると言ったところで、戸塚は何か問題が?って感じに俺を見つめている。可愛い。

 

「あー…つまりだ」

「おう」

「この現状を打破する力を持ってんのか、お前が」

「正確には俺様を所持してるお前がだがな」

 

ここで一度嘆息し、おもむろに立ち上がってブツを探した。

ダンボールに入っているソレを見つけ取り出し、開ける。喉を潤し、糖分を多めに摂取して完了だ。MAXコーヒー、最高だぜ。

 

「…飲む?」

 

頷いたのは、戸塚と由比ヶ浜と材木座以外の四人だった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

糖分を摂取した後、火の玉講座が開始された。何でも俺の力は既に封印解除可能ではあるが、それを解除した所で扱える力ではないらしい。

青い炎はサタンブレイズといい、俺の認識している能力に違いはないらしい。が、封印を解けばそれが全身から出せるようになるようだ。だが、他の六の炎はまだ扱えないとの事。

 

「器の成長がねぇとパンクしちまうからな。俺様がいいって認めた時に解放してやるよ」

 

とは火の玉先生の有難いお言葉である。

そして何よりの情報といえば、その炎の中に俺の求めている力があるらしい。

 

能力を消す、もしくは抑える、或いは呑み込む…そんな力があるとの事。しかしそれもまだ認めてないのでダメだと言われた。なんとかして欲しいと言ったがお前が呑まれて死ぬぞと言われ、俺以外の全員がまず火の玉先生にやめてくれと言ったのでその場は収まった。はええよ言うのが…つか俺もそんな無茶はしないっつの。

 

「兎に角、ソレがあればランドルーフェンを救えるのか」

「誰だか知らんが、聞いた限りじゃあ俺様にかかれば余裕だな。後はお前次第だ」

 

そう言われ、少しプレッシャーを感じる。

 

「…その力の名を教えてやろう。そして闘え。器の成長は死闘の中に生まれる。お前さんが、今日は器が割と成長してから本気出したんだろうから俺様が目覚めたんだろォよ。しっかし…能力の複数持ちたぁなぁ…ま、いい」

 

「ベルフェ・・ゴォォ・・ル」

 

その瞬間、俺の体を黒い炎が包み込み…俺の意識は闇に落ちた。

 

 

△▽△

 

 

「起きろ、八」

「…っ」

 

目が覚めれば、言葉を失う光景の上にいた。見渡す限りの骸骨、暗闇の中、俺は骸骨を踏み締めてその場に居た。

吐き気が襲うが、口を抑えた途端に目の前に青い炎が現れる。それはドンドン形を…人型をとった。

 

「チッ…まだこれが限界か」

 

()()の姿になった青い炎は、何処から出したのか趣味の悪い骸骨で飾られた豪奢な玉座に座り、俺を見据えた。その様子は、まるで皇帝の様で…

 

「おい八。ちゃんと目ぇ覚めてんだろうな」

「…ああ」

「ならいい」

 

その少年は、俺の名を八、と略した様で、どうからこれからコイツの話を聞けばいいらしい。

 

「まずは紹介しよう。お前の下にいる骸骨どもは、全て俺様が殺した人間だ」

「俺様は大昔、この力を使って(クズ)を裁いてきた。まぁ早い話、地獄に落ちた訳だが」

「何故かは知らんが、俺は炎の…七つの炎全ての意識として目が覚めた。それがお前の中だったって事だ」

「俺様はまず、またこれでクズどもを燃え散らす事が出来ると喜んだ。しかしだ、いきなり封印されて意識はまた闇の中だ。…まーその中でも、お前に起こった出来事やお前の記憶は読めたりするから、寝たままずっと目覚めを待ってたんだが……漸く今日念願の復活を遂げたァ」

 

……つまりこの少年は俺の能力の…炎の異能の前使用者という事だ。そして、この幾つあるか数え切れない程の屍を築き上げた張本人…!

 

「…まァ、途中からクズを燃え散らすのは諦めたがな」

「…なんでだよ」

「お前がそういう奴だからだよ。自己犠牲、或いは他人を慮るその精神…反吐が出る。偽善者ぶるだけじゃ飽き足らず、まさか悪に落ちず平和を騙る本物の『バカ』だとは思ってなかったぜ」

 

そんなにバカを強調しなくても…というか、俺が偽善者だと?

ハッ、なんだそれは。善を語った事が俺にあるか。そんなもん葉山に喰わせとけ。俺は自分のせいで女を泣かせた悪だ。何処ぞの誰かさんみたいに殺しはしてないが、人を傷付ける事くらいはしてきた。

 

「それだよ。お前は何で傷付けた事しか考えてねぇんだ?お前が傷付けられた事の方が倍…それ以上だろうが。無意識なんだろうが、その自分だけを卑下するのはやめろ。殺しをしてようがしてまいが、悪は存在する。ーーーだからこそ、俺はここに居る」

「…だからなんだよ?こんな所…つーかここどこだよ。こんな所に連れてきて、俺に殺しをしろとでも言いたいのか?」

「んな事言わねぇよ。ただ、お前の考えが聞きたい」

 

「お前は、もしも愛する人が危機に瀕すれば、人を殺す事を厭わないか?」

 

なんつー質問だ。イエスともノーとも言いたくはない。クソみたいな質問。

だが決まっている。こんなモン…多分正解はないし、絶対選んでも後悔する。というか後悔しないなんて人間無理だし。つまり俺はゾンビ谷君でもなければ比企谷菌でもなく、ましてやヒキガエルでもない人間である。証明終了。

 

「助けてみせる。アイツらは死なせない。…だから俺はレヴォルフに行ったんだ」

「…合格だ。その傲慢さ、気に入ったぜ」

 

そう言うと少年の上に七色の炎が現れる。その内の六つには鎖が巻き付いていて、解放されているのは青色の炎だけだ。

まさか、あれが…

 

「そう、これが七つの炎…大罪を燃え散らす、七色の炎だ」

「お前が欲しがってるのはこの闇色の炎。名を辺獄烈火(ベルフェゴール)。大罪を燃え散らす、異能を吸い取り、力を奪う。…或いは力の制限を課す鎖がでもある」

 

つまり…

 

「ランドルーフェン?だったかの力を抑えたいなら鎖を掛けるしかねぇ。それで無駄な力は抑えられるはずだ、枷の条件はテメェで決めろ」

「…その為には闘うしかないってか」

「あァそうだ。精々俺を楽しませて見せろ」

 

上等だ。

 

「なら早くここから戻してくれ。準備がいる」

「…あー言っとくが、ここはお前の、お前の中の俺の精神世界だ。時間も進んでなけりゃ誰もお前がここに来たことなんざ知らねぇし、ベルフェゴールでお前を包んだ時から時は動く。上手く合わせろよ?」

「へぁ?」

「じゃあ戻るぞ。…あぁそうそう。その青い炎の名前も教えといてやる。青い炎(サタン=ブレイズ)だ。覚えときな」

 

サタン=ブレイズ…

 

「またあっちで会おう。さっさと強くなれよ、八」

「…元々そのつもりだ」

「可愛くねぇ奴」

 

そしてまた、意識は闇に落とされた。

最後まであのクソガキふんぞり返って偉そうだったな…

 

 

 

 

△▽△

 

 

「…比企谷?」

「あ?なんだよ葉山」

「今、君を黒い炎が呑み込んだ気がしたんだけど…」

「気の所為だろ」

 

マジであの時からのようだ。俺は適当に話をはぐらかし、火の玉と少しだけ目を合わせ、全員に告げる。

 

「…どうやらランドルーフェンを救えはするらしい。だが、その力は今の俺には相応しくないらしくてな」

「じ、じゃあどうすれば…」

 

由比ヶ浜が焦った様に身を乗り出す。それを片手で静止させ、MAXコーヒーでまた喉を潤してから言葉を発した。

 

「闘う。俺自身の器を成長させるために、俺はこれから闘う」

「…ダメよ比企谷君。それで貴方が傷付く意味は」

「あるさ雪ノ下。元々闘いを求めてレヴォルフに行ったんだ。もうちょい落ち着いて強くなるつもりだったが…火急になっただけだ」

「納得しろと言うの?」

「理解して欲しい。納得は心の問題だ、お前の好きにすればいい」

「……本気なの?」

「ああ」

 

一応言っておくが、別にランドルーフェンの為に危険を冒そうって訳じゃない。これは、ひいては俺の為になる事であって、当初の目的と何ら変わりはない。

ただ少しはランドルーフェンの為になる事であって、確かに今は彼女の為に急いでいるがどうせ必要な事なのだ…と心の中で言い訳をする。

 

俺の言葉を聞き、男子陣は呆れた顔を、女性陣は苦い顔をしていた。そんな中、材木座が口を開く。

 

「…八幡よ。であれば我も協力しよう」

「材木座…」

「我はその渦中のランド何某の原因を作ったアルルカントに属しているが、だからこそお主に役立つ事も出来よう。煌式武装はどうだ」

「小型銃で頼む」

「心得た」

 

やはり材木座はコチラ側だった。多分コイツは『やべー!我の友達凄いカッコイイ事しようとしてるし我も乗っかろー!』とか大体7割ちょいはそう考えているのだろうが有難い。精々アルルカントの技術を活かしてほしい。

 

「…はぁ、八幡ってば、もう」

「悪いな戸塚」

「んーん、いいよ。男の子だもんね、分かるよ」

 

戸塚ってば男だったの…?君は天使でしょ?あれ、でも俺を惑わせる小悪魔でもあり、それはつまり堕天使足り得るのではないか?戸塚…恐ろしい子っ。

 

「僕も協力するよ」

「俺は出来ない。比企谷」

 

葉山が強く言い放つ。全員が驚いた顔をしているが、何となくコイツはそういうと思っていた。

 

「…そうか」

「ああ。俺には煌式武装の提供も、戸塚みたいに、そして彼女らの様に君を支えることは出来ない」

「だよな」

「君の体調ばかりを心配してキョドる俺が見たいならするけど」

「断じて死ね」

「手厳しいなぁ」

 

そう言ってカラカラとひとしきり笑った後、葉山は俺に近付いてきて、そのままいきなり拳を振り上げた。

打ち出された拳は俺の眼前で止まり、唖然とする皆を放って続ける。

 

「だから俺は君のライバルになろう。相手が欲しいんだろう?」

「…ああ」

「今年度。ちょうど王竜星武祭があったね?」

「……てめぇ」

 

「そこの決勝だ。俺は君を叩き潰そう」

「抜かせイケメン。勝つのは俺だ」

「冗談はよせよつまらないぞヒキタニ。いつかのマラソン大会でも言ったろ?…勝つのが葉山(オレ)だからね。それに…」

「「君に負けたくない」」

 

そう言うと二人同時に吹き出した。ああやっべぇ、俺今青春してるかもしれん。

とあるクソガキの言葉だ。ーーー青春とは悪であり嘘である。つまり今の俺は嘘つきの悪だ。おうおう火の玉と同じじゃね?やめてくれよあんな小僧にはなりたくねぇよ…

 

「首洗って待っててくれ。君を斃すのは俺だ」

「なんか少年漫画みたいだな」

「お、いいね。じゃあ今君は俺の親の仇になった」

「敵役かよ」

「ははっ、…雪ノ下さん、結衣」

 

そう言って葉山は二人を呼んだ。

 

「辛いかもしれないけど、これが君達の選んだ男だよ。しっかり支えてやってくれ」

 

葉山は、それ以降背を向けて、この部屋を出た。

大方星導館に戻って色々何かやらかすつもりなんだろうが…アイツの勝手だ、俺は知らん。

暫くして、今度は火の玉が口火を切った。

 

「おい女。八は強えよ。それに俺様がいるんだ、死にたくても死ねねぇよ」

「なにそれ怖い」

「…まったく、もう。ヒキョーだよヒッキーは」

「…ええ、完全に同意よ。バカね、男って」

 

どこか痛みを患った様な悲痛な笑顔で二人は漏らす。

 

「…ええ、上等よ。どこまでも支えましょう貴方を。覚悟なさい」

「応援は任せてね!声には自信あるから!」

「お前ら…すまん」

「そう思うなら、誰にも負けないで。絶対にその力を手に入れてランドルーフェンさんを救い、王竜星武祭で優勝して私達を誇らせて頂戴」

「…おう、任せろ」

 

どうやら許可が出たようだ。彼女らがこうなっては、もう雪ノ下さんも川崎も無理やり納得したようで。

川崎は鍛錬に付き合ってくれるそうだ。しかし雪ノ下さんは…

 

「私も王竜星武祭出るから。雪乃ちゃんに誇られるのは姉である私なの!」

 

と言って出て行った。

その後は雪ノ下達も星導館に戻り、部屋には俺と火の玉だけが残る。

 

「…おい」

 

そういえば。

 

「あ?んだよ」

「…お前の名前、何?」

 

お前の名前を聞いてなかった気がする。

 

「…豪傑の皇帝(エンペラー)。生と死を統べる者だ、よく覚えとけ」

「ご大層な名前だな」

「あぁん!?」

 

とりあえず、今後は精々頑張って見せよう。俺は端末を取り出し、母さんに封印解除を頼んだ。エンペラーに、封印解除で器が…と聞いたのだが。

封印されたのは多分お前の器が暴発しそうだったからだと言われ、封印解除は星辰力だけにしようとしたのだが。炎の封印はそもそもエンペラー自身が重ねてしているので母さんに解除してもらったところで意味は無いらしい。一応解除してもらったが確かに星辰力がとんでもなく増えた事しか分からなかった。

 

いやそもそも俺様を封印できる女何者だよ…とエンペラーが呟いていたが、マジで俺の母さん何者だろうか。

 

 

その日の夜、トップニュースには

【比企谷八幡に次ぐ二人目!】

【星導館学園の冒頭の十二人、序列九位上城晴彦『鉄血』、新入生に敗れる!】

【比企谷八幡、葉山隼人。今年の王竜星武祭出場か?】

【二校の新星、出身中学が同じ】

【『嵐神』比企谷八幡、『崩塵』葉山隼人。プライベートで目撃情報。激ムズゾンビシューティングゲームを協力クリア】

 

二人の話題がアスタリスクを占めた。

 

 

 




七つの炎は後々出します。

とりあえずシリアスもどきの話は終わりで、これからは八幡君に戦ってもらいます。
八幡の二つ名が皇帝になるのは王竜星武祭の時です。


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10話

感想にありました質問にお答えします。
ヒロインですが、八幡は既に雪乃、結衣と交際しています。これ以上増やしません。葉山は三浦、実は海老名と戸部も付き合っているという設定です。
他は以外かも知れませんが原作キャラ同士くっつけるか俺ガイル×アスタリスク勢になると思います。あんまり恋愛させませんけどね
非リアワイ、した事ないから分かんない!(血涙)


 

 

翌朝

 

「…げっ」

 

昨夜カーテンを開けっ放しにしていたせいか、朝日によって目が覚めてしまった。置時計を見れば時刻は昨日と同じ6時半。端末を開き、とりあえずニュースでも…と検索しながらベッドを出て、早速昨日から始まったサポートによる救援物資(買い忘れた食材やら諸々)に有難味を感じながらキッチンへ。

朝のMAXコーヒーによる覚醒状態に入った俺は、端末に写し出されたニュースに思わず咳き込む。危ねぇ…流し台に吐けたぜ…

 

つか、なんだよ!俺と葉山しかニュースになってねぇじゃねぇか!そういや昨日寝る前に葉山に『俺も君と同じになったよ』とか言われて何事かと思い無視したがまさか序列入り…しかも冒頭の十二人を撃破していたとはな。まさか俺のように偶然出会って決闘ではあるまい。……ないよね?

 

…うわー何『嵐神』って。カッコいい…とは思うけど。中二心が疼くけど痛すぎだろ。葉山は葉山で『崩塵』って。…あぁ、アイツ魔術師の力使ったのか。似合わない能力だよなぁアイツも。

 

しかしアレだな…またしても手持ち無沙汰だ。昨日みたいな事は無いだろうしちょろっと走ってきますかね。あのスーパーちょうどいい距離にあったし。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「…あ、いたいた!」

「…いやいや、なんでいるの」

 

歌姫が居たでござる。ホント、ちょうど昨日出会った所にまたポツンと。霧は今日は薄いけどそんな薄着で寒くないの?というかエンペラーどこ行ったんだろ…

 

「や、昨日行ったじゃないですか。動画動画」

「あぁ。…ほいこれ俺のアドレス」

「はいはい〜…送りましたよ」

「サンキュー……ん?」

「あれ、送れてなかったですか?」

「違う違う。……あの、お前って歌姫だよな?」

 

そう聞くと、彼女は「え?」と表情を固まらせる。そして何かに納得したように頷くと、おもむろにお洒落の一種だと思っていたヘッドフォンを外した。

するとどうだろう、俺自身あー多分イメチェンなんだろうなーとか思ってた薄ピンクの髪の色が、俺の知ってる歌姫の髪色に変化した。

 

「…マジック?」

「ノンノン、サイエンス」

 

存外、というか見た目通りのノリらしい。いやそこはどうでもいい。良くないけど、気になるけどまぁ置いといて。

 

「それより、簡単に俺にアドレス教えていいのか?こういうのって」

歌姫(アイドル)だって、普通に人の子なんだから。優美子さんのお友達にアドレス教えるくらい大丈夫ですって」

「そんなもんか」

「はい。…でも、今は貴方の方が有名人ですよね?嵐神さん?」

 

…やっぱ知ってるか。そういやコイツも生徒会長だったかな。

 

「…ま、今だけな」

「いやー優美子さんも驚いてましたよ」

「そういやなんで三浦と知り合いなんだよ」

「最近久しぶりに学校に帰ってきた時に、校庭の角曲がってぶつかっちゃって。優美子さんのクレープで私の服が汚れたのを見かねて色々世話焼かれちゃって、それで」

 

三浦マジおかん…

聞けばその後も話せば話すほどノリの良さ、不機嫌な時は怖いけどそれ以外は優しいお姉さんという感じなので会って数日で打ち解けたようだ。そして今は三浦アイドル育成計画を立てているんだそう。

 

混ぜてもらいました。

 

「そういえば嵐神さんの名前って、ひきがやはちまんで合ってますよね?」

「あ?あぁ」

「優美子さんに聞いても『は?ヒキオはヒキオだし…』とか言ってるし疲れたとか言ってすぐ通話切っちゃったんですよ〜」

 

お前何したの…ちょっと歌姫さん怖くなってきたよ…

 

「八幡さんって呼んでいいですか?」

「…べ、別に構わんが」

「じゃあ私の事はシルヴィで!親しい人はそう呼んでます」

 

何君もう俺と親しくなったつもりなの?ウケるんだけど(照)

というかコミュ力高い…高くない?由比ヶ浜と同レベルだよこれ。流石世界レベルは違いますわ…俺なんてミジンコよ。

へい!…おーっとこんな所に影の薄いミジンコがいるぜ!レベル。影の薄いミジンコってなんだよ肉眼で見れるようになってから話題に上がれよミジンコこの野郎。

 

「考えとくわ。リューネハイム」

「…うわー八幡さんって優美子さんに聞いてた通り捻くれてそうですね」

「つまり俺は大多数が素直(笑)な世界でも特異な存在。特別、英語でスペシャルだ。カッコいいな俺」

「面白いですね八幡さんって」

 

え?今の笑う要素あった?そんなクスクス上品に笑う所あった?っていうかリューネハイムってあれだな。雪ノ下と由比ヶ浜を足して2で割った感じだな。何処と無くあの二人に似ている気がしないでもない。

 

「…あ、私そろそろ行きますね。ちょっとまた生徒会の仕事があって」

「…ぉ、おう。頑張りな」

「ありがとうございます。八幡さんも、これから大変だと思いますけどどうか無事で!」

「不安煽るのやめてくれない?」

「あははっ、やっぱり八幡さん面白いです!では、また!」

 

そう言ってもう晴れそうな霧の中グングンとスピードを上げて走り去るリューネハイム。

…やっぱ話してみるとただの女の子なんだなぁと実感した所で、俺も寮に引き返す。結局スーパーには辿り着けなかったが、三浦の動画が手に入ったので良しとしよう。

 

なお、送付ファイルのタイトルは【ファッションショー】だった。

中身は、三浦が色んな服を着てリューネハイムのブランドのモデルになって壇上でポージングしたりするやつだった。

光の速度で葉山に送信し、後日あのラーメン屋で一番高いメニューを奢って貰うことになった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

制服に着替え、改めて部屋を出る。シャワーも浴びた、パンも食ったし教科書持った、ノートに筆記用具…鞄の中身を確認していた時にいきなりエンペラーが話しかけてきた時は寮ごと破壊するレベルで万応素(マナ)を暴走させかけた。星辰力を集中させたのは悪くないと思う。

 

「まじビビったわ…」

〝俺様もだわ…〟

 

一応理解しているのか、火の玉姿ではなく頭の中に直接話しかけてきていている。今のはただの独り言に反応してきただけだ。

 

さて、寮を出て学院の校舎まで歩く。敷地内とは言え、その距離は数分程度のものになる。疎らにダルそうに歩く生徒を見かける中、明らかに面倒事を抱えているであろう男が仁王立ちで校舎に背を向けていた。

 

あ、これ関わっちゃ行けない奴だ。そう思い、スルーを決め込もうと考えた矢先ーーー

 

「比企谷八幡ですね?」

 

声を掛けられたが無視をした。俺には何も聞こえていませんという風に、本当に何も聞こえていなさそうにその男の横を通り過ぎる。成功だぜ…

 

「え?あれ、ちょ、比企谷八幡!この私を無視するとは…あまり調子に乗るものではありませんよ……!」

 

通り過ぎた直後、万応素の高まりを感じ、振り返る。星辰力を集中させているのか、ワナワナと震える男から風が巻き起こった。…風だと?

 

「比企谷八幡!今度こそ聞きなさい!!…私と決闘しろ!」

「…名前くらい名乗れないの?」

「どこまでも私を侮辱して……ふんっ、いいでしょうこの名をその身に刻みなさいっ」

 

そうして星辰力を落ち着かせ、周囲の万応素が落ち着いた所で男は仰々しく自己紹介を行う。

 

「私の名はモーリッツ!序列十二位の螺旋の魔術師(セプテントリオ)という二つ名をこの身に授かったダンテです」

 

…また序列持ち、しかも冒頭の十二人か。

 

「なんで決闘?別に用ないんじゃ…」

 

冒頭の十二人なんだし…と言いたかったのだが、俺の言葉の途中でモーリッツが激昂した。

 

「気に入らないんですよ!私と同じ風を操り、私より序列の高い貴様が!…今日は私の舎弟も置いてきました。存分に闘いましょう……!」

 

うわっちゃー…空で闘ったばかりに面倒なのに絡まれたって事か…

仕方ない、魔術師だって分かってて、しかも能力を晒してくれた相手だ、やりやすそうだし。

…それに、舎弟事倒せば一気に器を成長させられそうだしな。

 

「…いいぜ、受けてやるよ。でもその前に、茂みやら校舎内から俺を狙ってる奴らもここに混ぜてからな」

「……何の話です?」

元ぼっち舐めんな。未だに視線と悪口に敏感なんだよ。

 

「とぼけんな。俺との決闘中に危うくなれば支援させる気満々の癖に」

 

第一、舎弟が居ないことを強調させた時点で後は雰囲気で胡散臭いと思ってたしな。

 

「……ビビってんのか」

 

俺に挑発に、遂に額に青筋を作ったモーリッツは叫ぶ。

 

「手出しは無用!…貴様が後悔して地に頭を付け謝罪しても許しません……!」

「誰が」

「覇道の象徴たる双剣の名の元に、我モーリッツは汝比企谷八幡に決闘を申請する!!」

「受諾する」

 

二日連続で朝っぱらから機械音のカウントダウンを聞く。モーリッツは既に万応素を集め星辰力を高め始めていた。俺も同じ様にする。

 

機械音が決闘開始を告げた時、俺は初手から『神風』を発動させた。

 

 

 

 

△▽△

 

 

【エンド オブ デュエル 勝者(ウィナー) 比企谷八幡】

 

数秒で決闘が終わった。モーリッツはモーリッツで突風を起こし、三角錐っぽいモノを両腕に纏わせていた。が、俺は押し切ろうとしてまず神風を発動。すると奴はいとも簡単に吹っ飛び、地面に落ちた衝撃で校章が破壊された。

…まぁ結構な勢いで高めに飛んで地面ゴロゴロ転がったら流石に割と頑丈な校章でも壊れるけどさぁ。一撃じゃん…リンダってめっちゃ強かったのかな。

 

「モーリッツさん!」

 

っと。茂みから出てきた数人の男が気絶したモーリッツを囲み、その中の更に数人でモーリッツをどこかに運んで行く。残った…三人は煌式武装を展開し、俺に向けた。…どこか危険を感じた俺は『空壁』を展開。すると背後から数発の銃撃を受け、間一髪防げた。

あっぶね。

 

「囲め!モーリッツさんの仇だ、ぶっ殺せ!」

「風に注意しろ、遠距離射撃は前衛撃つなよっ」

「ゲルトさん!」

「…任せろ」

 

…どうやら今ので終わりではないらしい。結局、俺はこの後乱入してきた奴ら含めて、非公式の闘いで28人を倒し、数人を治療院送りにした。

 

 

 

 

△▽△

 

 

一限目は遅刻したが、二限目からは普通に授業に出た。あらかじめ知っていたクラスに向かい、自動ドアが開くとそこは既に魔境。教師は一応授業を聴いてる奴に向けてだけ授業を行い、その他欠席数人、睡眠学習多数、後ろにたむろする極小数。…もうヤダマジ魔境…

 

「…ん?君は?」

「…あ、遅れました比企谷です」

「おお、君が。席はそこだ、次から気をつけたまえ」

「うす」

 

窓側三列目の前から二番目。そこが俺の席だ。席に向かう途中、今まで寝てた奴も顔を上げて俺を見る。何食わぬ顔で俺は席に座り、アスタリスクの歴史を紐解き地理や構造を学ぶ授業をしていることに着目。…うげぇ六花学かよ。

 

「テキストは5ページだ」

「あざす」

 

教えてくれた教師の指示に従いテキストを開き、ノートを取り出す。……ダルいなぁ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「おい、お前」

「…あん?」

「表出ろ」

「へーへー」

 

昼休憩。三限は現国で四限は古典という普通の授業を受け、学食に向かおうとした時に声をかけられた。明らかに喧嘩事だろう、数人に囲まれた俺は素直に廊下に出た。

 

「比企谷…だったな?」

「ああ」

 

囲まれて歩きながら俺は答える。さていつくるかな。

 

「分かってると思うが、俺達と決闘しろ。同じ新入生が序列入りだけならまだしも、冒頭の十二人入りなんざ受け入れ切れるか。…てめぇを倒し、俺が序列入りする」

「俺だっつってんだろ」

「バカが殺すぞ」

「あ?」

「は?」

 

別にいいけど。それより先にお前らの問題解決してからにしろよ…

 

「いっぺんにかかってこい。時間の無駄だ」

「…舐めてんのか?」

「好きな様に解釈しろ」

 

連れられてきたのは昨日の決闘場所の近くだ。俺から距離を取り、煌式武装を取り出したのは六人。

 

「早速か」

「怖気付いたか」

「まさか。準備体操はいいのか?」

「調子乗ってんじゃねぇぞオラァ!」

 

その内の一人が斧型煌式武装で俺に飛び掛ってくる。振り下ろされた一撃は地面を掘り起こし、筋力はまぁまぁある事を思い知らせてきた。が、半身で躱した俺は空圧で地面に叩き付け、意識を刈り取る。

 

他の奴らは少したじろいでいるようだ。俺は離れたまま動かない奴らに向け攻撃を放つ。

 

「『空裂』」

 

その一撃は地面を刻み、高速で一人の校章ごと体を斬った。血飛沫が舞うが、加減はしたので大した怪我ではないはずだ。既に俺の周囲の地面がやばい事になっているがお構い無しに、俺は破壊する。

 

「次は誰だ?」

 

ただの風を俺に纏わせ、カッコつけた所で、一斉に全員が掛かってきた。

まず一番早かったのが槍使い。空壁で受け流し、胸に手を置いて『空爆』。校章は壊れ、そのままそいつも吹っ飛んでいった。

次は直剣使いと短剣二刀流。どちらも風でバランスを崩して剣筋をズラし、身動きが取れないように拘束。

 

破壊(こわ)れな」

「ヒィッ…!」

 

空圧と拳で土手っ腹にダメージを与え、両者が塀や校舎にめり込み倒れる。もう一人は…

 

「うあああああ!?」

 

…向かう途中で逃げたみたいだ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「無茶しやがる…」

「あー悪い」

「……分かってはいたがな」

 

放課後。あの後結局バカどもに挑まれ続けた俺は昼食タイムを逃し、六限途中ではあるが漸く片付いた所で食堂で一人飯を食った。学食を作ってるコワモテの兄さん凄まれた時はまさかここでも、と思ったが普通に美味いメシをお疲れ様、という事で無料で頂いた。レヴォルフでは冒頭の十二人は学食無料なんだと。無駄な感謝だったかと思ったが、その兄さんが少し話すとMAXコーヒー愛飲者だと分かり意気投合。他のオバチャンやオジサン、兄さんや姉さんまでいたが俺とその兄さん…クリスさん以外には共感者はいなかった。二人して泣きそうになったが魂で乾杯し、涙を飲み込んだ。甘いはずなんだけどな…しょっぱかったな…

 

という具合で午後の授業を全部潰したので、そのまま寮に帰ろうとしていたら会長に呼び出された。そして今に至るという事だ。

 

「ったく。流石に冒頭の十二人を二日で二人撃破はお前くらいだろうよ」

「アスタリスクの初めて奪っちゃったか…」

「……ころなとオーフェリアが理解してないからいいが、その言い方やめろ」

 

すまない。まさかこの二人が穢れを知らなさ過ぎるなんて予想してなかったんや…だからそんなに俺達を純真無垢な目で見つめないで!やめて!恥ずか死しちゃう…

 

「所でなんだが」

「…何で呼び出されたか、ってか?」

「おう」

「アレほど備品壊すなって言ったろうが!!校舎の壁を一部、ゴミ倉庫の塀、広場、寮前の裏庭!どんだけ穴だらけにしやがる!?」

「いや待て!俺は悪くない俺に挑んできた奴が悪い!」

「加減しろ!」

 

しょーがねぇだろ!?いつもの調子で能力使ってたら倍以上の威力出るんだから!…封印解除後初だからまだ慣れてねぇんだよ。付け足して言えば、まだ全然疲労感がない。まるで今までと違うから俺も結構そこがしんどかったんだよ?

 

「……それで、早速だがオーフェリアの件で話がある」

「ん?」

「奉仕部?…への依頼の件だ。せめて誰にどこまで話したか聞かせろ」

「あー」

 

とりあえず所属校と人物名を教えた。ここまでずっと黙っていたランドルーフェンも目を見開く人物名が飛び出した時、会長も驚愕を隠しきれずにいる。いつも怒ってるっぽい顔だからめちゃ間抜けに見えるな。

 

「界龍の冒頭の十二人…序列八位。『絶空魔王』の雪ノ下陽乃…知り合いだったのか」

「…あの人ね」

 

確か会った事があるって言ってたな。

 

「それにしても、猫に調べさせてはいたがやはりお前と星導館の葉山は同級生だったか」

「猫?」

「うちの学校の暗部だ。情報収集が主な任務だがな」

 

何それかっけぇ。

 

「…で、結果はどうだった?」

「あー…」

「…そうか」

「いやいや待て待て。…方法はあるにはあるんだ」

「本当かっ!?」

 

ソファから身を乗り出し、俺達の間にある机を越えようとする会長を間一髪殴りそうになった所を耐え、落ち着いてもらう。座り直しはしたが、鼻息は荒い。ランドルーフェンところなさんも驚愕で表情を固めている。

 

「…どんな方法だ」

「出来るかどうか、100%の確信はないし、今は無理だ。それ前提で話すが…構わないか?」

「ああ」

 

頷く会長。目だけをランドルーフェンに向けると、彼女も静かに頷いたので、語ろうと思う。

 

「方法は、俺がランドルーフェンの力を制限する事だ。星辰力を抑え込み、無駄に放出されないようにして、枷を嵌める。条件を満たせば力は解放…これで緊急時に対応するつもりだ」

「制限ってのが難しくてな。まず、その力自体、俺に封印されたままなんだ…俺が器として成長しなければ、その力は使えない」

「だから、とりあえず片っ端から決闘と喧嘩を引き受けて闘ってる。それが一番の近道らしいからな」

 

そこまで言うと、会長は深く息を吐く。

 

「…………なるほどな」

「俺も出来るなら早く封印を解きたいが、どうも今のままじゃ駄目な気がする。だから王竜星武祭に出て、強敵と闘う事にした」

「うちの冒頭の十二人は…」

「まさか全員巻き込むつもりか?一応言っておくが、リンダは強敵だったがモーリッツは一撃で沈んだぞ」

「………」

 

顔がざまぁって言ってるぞ。

一応冒頭の十二人にはこの話をした、しようとしたらしいがマトモに聞いたのはまぁ俺くらいなのだそう。三位は三位で会長はランドルーフェンの様に事情があり買った奴らしいが、この件に関与する暇がないくらいその人も忙しいらしい。

 

「とりあえずそういう事だ。ランドルーフェン、悪いが少し待ってくれ」

「…じゃあ、私と闘えば」

「せめて星辰力をあまり使うな」

生徒会長室を出ると、エンペラーが話し掛けてくる。

 

〝八よ〟

「あ?」

〝一応器…能力を使いこなしてるから成長はしてるが、サタン=ブレイズを使いお前自身を痛め付けないと遅いぞ〟

「…」

〝ま、そこまでの相手が居ないからなぁ〟

「…しゃーねぇ、ちょっと無茶するか」

〝あん?何か策があんのかよ〟

 

自室に戻る。流石に今回は絡まれなかったが、明日も覚悟すべきだろう。

そして、火の玉として現れたエンペラーにこう告げる。

 

「冒頭の十二人狩りだ。巻き込んでランドルーフェンの事情に関与させるつもりはないが、イキった新入生に喧嘩売られりゃ向かってくんだろ」

「どういう…」

「つまりだ」

 

ーーー煽って決闘を受けさせる。誰も居ない場所でなら、青い炎も使えんだろって事だよ。

 

早速俺はレヴォルフのHPにアクセスし、冒頭の十二人を調べた。そして一位、三位以外の全員の所属学部やクラスをメモし、まずは一人。

 

序列五位、『爆炎の支配者(フレイムマスター)』タツヤ・カササギが纏めているらしいグループの集合場所に向かった。

 

 

 




光の能力マジ便利

器の解放はまだ先です。王竜星武祭は冬、今は春。…先は長い

とりあえず八幡やら葉山やらを暴れさせて所々キングクリムゾンしながら何かしらイベント入れようと思ってます。


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11話

 

 

 

【嵐神、螺旋の魔術師(セプテントリオ)爆炎の支配者(フレイムマスター)を撃破。序列十二位と五位を降し序列五位へ】

【比企谷八幡、レヴォルフ内で大暴れ?治療院には30を超えるレヴォルフの生徒が。中には重傷者も】

【レヴォルフ校舎、一部崩壊。嵐神と爆炎の激突で】

【比企谷八幡、レヴォルフの冒頭の十二人(ページ・ワン)狩りか。二日で三人を無傷で倒す!】

孤毒の魔女(エレンシュキーガル)、嵐神と知り合いか。会長室まで同行する二人を激写…悪辣の王(タイラント)は比企谷八幡をどう見ている?】

 

【比企谷八幡、宣戦布告!撮影された動画内で強敵求むの声】

 

「何か申し開きはあるかしら、宣戦布告谷君?」

「…サーセン」

 

夜、ディルク(そう呼べって言われた)にまた呼び出され、ランドルーフェン(女子名前呼びはキツいっす)に行き帰りの護送をされた後、端末を開けばまたしても凄い量のメッセージが。とりあえず雪ノ下に電話をすると、ワンコールで出た後にニュースを丸読みされた。

 

「あら、謝罪が欲しいのではないわ嵐神(らんじん)谷君。私は何か、申し開きはあるのかと聞いているのよ?」

「…あー、強くなるための近道として」

「言い訳は聞かないわ序列五位谷君」

「理不尽だし、その語呂悪すぎる渾名と二つ名やめろ!一番メンタルにくるわ…」

 

怒涛の言葉の嵐を喰らい、俺の精神はボロボロに。あ、ちなみに今由比ヶ浜はリースフェルトの相談に乗っているのだそうだ。友達が出来ない…なんて二日目で悩むことじゃないと思うんだがな。なんせ何年も友達が居なかった俺が言うんだからヘーキヘーキ(大嘘)

 

しかしどうもまた心配をかけてしまった。仕方ないとはいえ、申し訳ないとは思っている。

 

「まー、その、アレだ。心配かけたな」

「…………はーっ、本当よ。貴方に分かる?お昼に端末を開く前にクラスメイトが『また比企谷が暴れたらしいぞっ』…なんて言った時の私達の思いが」

「悪かったよ…」

「挙句何十人も治療院送りにして、極めつけにまた序列を上げて。二日でどこまで有名人になるつもりかしら。…そういえば、宣戦布告もしてたわね」

 

どうやらニュースだけでなく動画も見たようだ。

爆炎の支配者…タツヤ・カササギはいつも体育館裏にグループで集まっているらしく、俺はそこに単独で向かった。その時からの映像なので、報道系クラブにつけられてたのだろう。

 

まぁ、早い話がアイツは舎弟で俺を囲み高みの見物だったので、全員吹っ飛ばしたら噛み付いてきた。決闘申請をするとすぐに受諾して能力を使ってきたので空壁で防御。爆炎というだけあって燃え盛る炎を操っていたがただの火力バカだった。後は肉弾戦を挑んで来たので空壁で応戦。リンダまでとはいかないまでもそれなりに闘った後でまたクレーターを作ってる校章を破壊して俺の勝利。

 

その戦闘の途中、

 

「お前は何の為に俺のグループに喧嘩売った!?ただ闘う為じゃねぇだろ!」

「…俺は強さが欲しいだけだ。お前以外の冒頭の十二人も、すぐに倒すさ」

「何勝った気でいやがるっ!!」

「いいや俺の勝ちだ。今日はお前で終わりだな」

 

という会話が何故か鮮明に撮られてしまい、先の宣戦布告に繋がるのだ。

 

「…明日はどうするの?」

「無理に闘わない。来たら倒す程度だ…」

 

そういえば、レヴォルフでは冒頭の十二人は学食無料だけでなく、授業免除もついている。故に俺はまぁ出なくていいと思っている。テストも無いに等しいらしく、超簡単な問題が出るだけらしい。

なのでまぁ校舎に入って喧嘩を待つ程度だ。たまに顔出せばいだろうと思っている。

 

「……そう」

「悪いな。由比ヶ浜にも言っといてくれ」

「ええ、承ったわ。どうせ言っても聞かないなら、やるだけやった後にひたすら小言を言うまでよ」

「うへぇ」

「それじゃあ、そろそろ私もユリスさんの所へ行ってくるわ。充分に体を休めなさい」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

時刻は十一時を過ぎたところだ。割と長い時間ディルクん所にいたしな。校舎をまた壊した事を怒られ、反省文書いてました。流石に犯罪行為ではないので懲罰房に入れられなかったが、星猟警備隊のお世話になったら分からんぞと脅された。

 

とりあえずまたニュースを流し読みしつつ、メッセージを返していく。葉山からは動画の感想、戸塚や川崎、後小町からは心配の旨が。小町まで知ってるんだね…

雪ノ下さんは忠告を。なんでも、万有天羅という界龍第七学院の序列一位が俺に興味を持ったらしい。自由奔放な子どもの姿をしたバケモノと聞いたので、こっちも警戒しておく。

 

…ニュースでは、俺の動画付きで色々な記事があがっていた。

 

 

 

 

△▽△

 

 

今日は歓楽街(ロートリヒト)に来ている。学校には昼までいたのだが、序列持ちには会わなかった。正確には、ランドルーフェンと居た所を襲撃されたのだが、二教室分くらい校舎を破壊して全員潰した。ちょうどディルクの所にころなさんの紅茶を飲みに行こうとしてた所出会っただけなのに無粋な勘繰りをするから余計力入っちまった。

そのまま向かうとこれまたお怒りのディルクがいた。反省文は無しだったが瓦礫の撤去とか書類整理を手伝わされてすっかり夕方だ。

 

そして、先も言った通り俺は歓楽街に来ている。ここは所謂お遊び場で、賭け事や怪しい取引、エロい事何かを目的とした人々が集うところだ。怪しいネオンが目立ち、制服を着た生徒も多い。レヴォルフばっかだけど。

 

ここに来るまでも数回襲撃を受けたが全て返り討ちだ。放ってきて置いたがまぁ無事だろ。

 

さて、何が目的でこんな所に来たのかというと、単純に興味があったからだ。無論それだけでなく、ワンチャン強い奴いないかなーという希望を持ってはいるが、大半の行動理由は好奇心である。

 

「はぁ!?兄ちゃんこれで何連チャンだよ…!」

「JACKPOT。…あー7だな」

「うひょーメダル何枚あんだよ!なぁあんちゃんちょっと分けてくれよっ、なっ?」

「10枚」

「これで俺も当てるぜーーッ!!……ノオォォォォーーーー?!!」

 

スルの早すぎだろ。

まぁ見るだけでは満足出来ず、試しに入った店でメダルゲームをしてみた。順調に数を増やした所でビギナーズラックというのだろうか、JACKPOTが止まらない。

 

この店は退出する時にメダルを金に換えることが出来るらしいので、今多分俺の儲けは数万に上る。

 

「兄ちゃんまた来いよ!」

「クッソー今度こそ……ノオォォォォーーーー!!?」

「おう、じゃあなオッサン」

 

換金後、俺の電子マネーには21万円が追加された。パチンコの三店方式での取り引きだった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

その後歓楽街を転々としていると、とある店の前で何人かが取っ組み合いの喧嘩をしていた。

 

「…何があったんだ?」

 

遠巻きに見ていたレヴォルフの生徒に声をかける。

 

「あ?あーあんまり詳しくは知らねぇが、不正がどうこうって言い合いからああなったらしいぜ」

「へぇ…サンキュー」

「おう……って、おまっっはぁ!?比企谷八幡!?」

「えへぇ!?……お、おう…」

 

経緯を聞けば、どうやらくだらない事だったらしい。しかしその後だ、今聞いた奴が驚いて飛びずさるもんだから俺も驚いちまって変な声出た。

 

「な、なんでここに…」

「あー、遊びに来たんだよ。初めてだし割と長居しちまってな」

「あ、なんだ決闘目的じゃねぇのか。ビビったわ」

「流石にずっとは闘わないぞ?」

「よく言うぜ。お前また校舎壊したろ。トップニュースここんとこお前しかいねぇじゃねぇか」

 

話せば割と気さくな奴だった。

名前は東城直樹というらしい。二人して喧嘩の行く末を見ていると…

 

「ーーーでよ、…って、ヤベぇ逃げるぞっ」

「あん?なんでだよ」

「星猟警備隊だ!…なんで今日はあの女がいやがる…!?」

 

驚いてばかりだな東城。…俺は喧嘩をしている連中に近付く星猟警備隊を確かに目にし、ゾクリと背筋を凍らせる。

…確かに、逃げた方がいいかもしれないな。

 

「警備隊長、ヘルガ・リンドヴァル…」

「あのアマ、先週もここに来たんだ!乱闘が大きくなってビルが倒壊した所があってな…目を付けられたか!」

「なんだそりゃ…」

 

ヘルガ・リンドヴァル。この名前を知らない者はアスタリスクには居ないだろう。現に、というか以前千葉にいた頃から俺も知っている。その能力の特異さ、その容姿ゆえに。

 

ある時は学生のような十代の少女から妖艶な美女、年端のいかぬ幼女姿まで、その姿はコロコロと変わっている。俺がリンドヴァル警備隊長だと分かったのは、尋常じゃないオーラと、昔見た映像から面影を汲み取ったからだ。

 

「逃げるぞ比企谷!事情聴取なんて面倒だし、しょっぴかれるかも…」

「ワリ、ちょっと絡んでくる」

「比企谷ァ!?」

 

俺は『空』を使い、連中の動きを捉える。星猟警備隊は、近付いた途端連中が動きを止めた事に一瞬動揺した様にも見えたがすぐに捕獲に回る。

が、空に邪魔されて捕獲出来ずにいた。

俺の後ろで東城がガタガタ震えている中、連中から目を離し、ただ一人、俺を見つめる少女がいた。

 

「…もう離していいぞ、協力感謝する、少年」

 

口を開いた少女の言葉。美しい音色の様な耳心地の良いもので、しかし俺は不敵に…いや、若干ビビりながら嗤う。

 

「協力?…勘違いしないでくれ。アンタを倒すステージに邪魔な置物をどけようと思っただけだ」

「…ほう?」

 

ヘルガ・リンドヴァル。王竜星武祭を二度制し、半世紀以上生きてなおアスタリスク最強の魔女と名高い至高に、俺は喧嘩を売る。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「君は私に何か恨みでもあるのか?…生憎初対面の筈だが」

「あぁ初対面だ」

「何が目的だ?」

「…闘い。強敵との戦闘だ」

 

他の星猟警備隊が俺達を囲みだした。そんな中警備隊長は一歩も動かず、ただ俺と目を合わせる。…呑まれそうだ。体がピリついてくる。本能が逃げろって言ってる気がしないでもないしする気がしなくもない。警報が危険を報せる事もなく、俺は危険を感じ取っていた。もう東城は膝をついてひたすら天に謝罪してる。面白いなお前…

 

「……しかし、何処かで見た気がしないでもない。名は?」

「…比企谷八幡」

「そうか!…君があの」

「知ってくれてて何よりだ」

「知っているさ。攻撃を寄せ付けない鉄壁の守りに、暴力的な破壊。攻守を兼ね備えた、いい学生だと思ったからね。動画は拝見したよ」

「光栄だ」

 

じゃあ能力もバレてるか…

 

〝おい八!ヤバそうな空気を感じたんだが…〟

ああ、ヤバいな。俺生きて帰れるか分からん。

〝…あの女。確かにヤバいな。いくのか?〟

実力試しといこう。

〝出し惜しむと死ぬぞ〟

…精々足掻こう。

 

「…そんな君が、何故こんな事を?逮捕の邪魔をするなら、君も逮捕せねばならんようになる。聡明になれ、少年」

「じゃあ持ってけよ。…なぁに、ただ年長者に手ほどきを受けたいだけだ」

「……仕方あるまい。反省文くらいは覚悟したまえ」

「もう昨日書いたよ」

「準備がいいな」

「別件さ」

 

ここで初めて、目を合わせてから警備隊長が動いた。煌式武装は出さず、素手で少し構える。

俺は万応素を限界まで暴走ギリギリまで集め、星辰力を爆発的に高める。

 

「…凄いな。ただの学生とは思えない。是非卒業後はうちに来てほしいな」

「負けたら考えとく」

「言質をとったぞ。君には反省文ではなく、暫く私の秘書にでもなってもらおうかな」

「断じて拒否する」

「ならば私に勝ちたまえ」

 

そう言われ、『空』を使おうとし…一瞬、脳が揺さぶられた。何だ…?

 

「…ああ本気でいいぞ。今私の部下が()()()()()()()。私達がどれ程暴れようとあっちに影響はない」

「…部下さん凄いな」

「制限時間付きだがな。10分だけ、付き合おう」

「長いんだか短いんだかてw」

 

どうやら警備隊の誰かが能力を使ったようだ。…これで俺も本気を出せる。

 

「さぁ来るがいい。格の違いを教えてやろう」

「優しくしてね」

「…それは私の台詞だろう」

「うーわ似合わなっ」

「…本気で行くぞ」

 

チッ、来るかッ…!!俺は全力で空壁を張る。その瞬間、俺の体が遥か後方に吹き飛んでいった。衝撃が体を駆け巡り、肺から空気が吐き出される。

ギリギリ地面の近くでバランスを持ち直し、『空』でゆっくりと着地する。

 

「…マジかよ」

〝やべーな…〟

 

ほんの少し、掠れた程度だが見えていた。彼女が、ただ俺の空壁を蹴っただけだと。

遠くで、不敵に笑う警備隊長。おもむろに右腕を胸元まで上げたと思えば、伸ばし、指で2、3度クイクイッと挑発してきた。

 

……上等だよ!!

 

「ーーー来い」

「言われなくても…!」

 

俺はもう、警備隊長を殺す気で行くしかないと考える。というか、多分それでも適わないけど…少しは驚かせてやるぜ。

 

風を嵐のように吹き荒れさせ、俺は『神風』を超える技を発動させる。せめて、これで少しでもダメージが通ればいいな…と思いながら。

 

「『神嵐』」

 

 

暴虐の嵐は、巨大な旋風となって警備隊長へと向かっていった。

その時チラッ見えた警備隊長の表情は、若干、不気味な笑顔であった気がした。

 

 

 




換金は適当にちょい高め。レートやらは知らん。三店方式もちょっと調べたレベル。

1回ヘルガと戦わせます。あと少しでキングクリムゾン発動よ〜


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12話

神砂嵐は出ません(断じて)

ちょっと懐かしく感じちゃったよw


 

「『神嵐』」

 

偽りの空間を、地面を破壊する事無く暴虐の嵐は突き進む。警備隊長に向けた一撃は、今の俺の『空』の中でも最大級の技、そして全力で放ったモノだ。出来れば効いて欲しいが…!

 

「凄いな少年、これなら即戦力だぞ!」

「…星辰力(プラーナ)だけで防ぎながら言うことじゃねぇよ絶対」

 

聞こえないだろう呟きは、神嵐に呑まれる。さて、まさか星辰力を集中させただけで受け止めるとは思ってなかった。少しは後退させた様だが…チッ。これ以上は押し切れねぇ。なんつーパワーだよったく!

 

「『空裂』」

「ほほうっ」

 

今度は全方位の風を操り空裂を放った。未だに神嵐を受け止めている今なら、少しは喰らうだろう。

 

「…かァッッ!!!」

 

なんて思っていた時が僕にもありました。あろう事か警備隊長は俺の空裂を気合で吹き飛ばしたやがった。ついでに言うと神嵐が押し戻され始めてる。

 

「どうした!?この程度じゃ体は温まらんぞ!?」

「バケモンかよ畜生!」

 

神嵐を操り、警備隊長に纏わせその身を切り刻もうとする。が、今度は完璧に消し飛ばされた。どうやら星辰力を暴発させて勢いで対消滅させたみたいだな…

 

「さぁ来なさい。このままだと秘書にするだけじゃなく椅子にもなってもらうかもしれんぞ」

「そりゃ…嫌だな」

「ならば見せてみろ。…本気で全力であっても、()は温存かね?」

 

…平塚先生みたいな事言うな。まるで見透かされている。たった数分のやり取りで俺の実力を測りきったと言わんばかりだ。流石に、ド底辺人間を突き進んできた俺の、些細なプライドが吼え始める。

 

〝使え八。…俺様、今すげぇムカついてる〟

「…奇遇だな、俺もだ」

 

もうなりふり構わず行く。俺は更に星辰力を高めた限界まで引き上げた。

 

「ほう…まだいくか…!」

「こっからが本番だ!」

 

俺は指を鳴らす。同時に光を全力で放ち、目を潰す。

 

「むっ…!?」

 

明らかに動揺が見て取れた。光は既に収まっているが、目を瞑っていなかったからか、目を擦り、若干下がった。俺は大丈夫だ。暗闇でも光の中でも視界が良好。ただし、霧みたいな水態は無理だ。光が反射して見える。普通の人と同じようにしか見えない。

 

「今ッ…」

 

光鎖(こうさ)』を幾つも生成し、俺は警備隊長の体を縛り上げた。これで身動きは…

 

「はっ!!」

 

しかしすぐさま引きちぎった警備隊長。予想よりも早いな…しかしまだだ。今度は巻き付けじゃなく、力が入らないように関節を変な方向にして縛り上げる。

この隙に、俺は『電力』を使用する。…帯電網を張り、警備隊長が拘束を解いても動けないように。

 

「……っ、ふう。中々どうして、まさか私がしてやられるとはね」

「余裕なクセしやがって…だが、もう動けんだろ」

「本当に凄いな。…まさか複数なのか?」

「否定はしない。…が、出来れば明かしたくない情報だ」

「王竜星武祭かい?」

「ああ」

 

…随分余裕を保ってられるな。帯電網を張ってるんだ、身動きは取れないはず。何どうしてーーー

 

「懐かしいな。…もう随分前だ」

「王竜星武祭二連覇。偉業だな」

「褒めてくれているのかい?ありがとう、君にも難しい事ではないと思うよ」

「ランドルーフェン何かがいなけりゃな」

「歌姫も強敵だぞ?アレは厄介だ」

「治療以外は大体出来んだっけか…ズルいよな」

「そういう君は狡いようだが?」

「…気付いてたか」

 

今こうして会話している中でも、攻撃の手は止めない。既に、帯電網の上から光の槍を何十も生成し、その穂先を警備隊長に向けている。一度も上を見てないのに、本当バケモノだな。

 

「さて、どうしようか」

「どうにか出来るんだろ?」

「いやいや、本当に悩んでいるさ」

「嘘下手過ぎんだろ」

「ポーカーフェイスは得意なのだが…」

「声色にも注意しろ。俺みたいに人間観察が趣味な奴にはすぐ分かるぞ」

「寂しい趣味だな…」

 

やかましいわ。

 

「…まぁいいさ。さて、そろそろ君を組み伏せて参った、を言わせようかな。制限時間も迫っている」

「抵抗するぜ」

「やってみるがいい」

 

警備隊長は、そう言うと星辰力を集中させた。何事か…と思ってみれば、普通に俺に近付くために歩いてるだけだ。

そう、()()()

 

「ーーーーッ!!?」

「何も驚くことは無い。私のストレガとしての能力は、『自分の周囲の時間を操る』事だぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()()()()()()()()()()…ただそれだけさ」

 

つまり、帯電網を張ったのは精々3分前。…それを10分巻き戻せば、帯電網が無かった状態になるってことか…!いよいよ適う気がしないな。

 

「名を『時間異常(タイムトラベル)』。私に遠距離攻撃、または設置型の攻撃は効かない」

「そんでもって近接戦闘は出来るなんて…チートかよ」

「何だ、それは?……それよりも、もう終わりだ」

「まだだッ!」

 

帯電網はまだ生きてる部分の方が多い!

 

「『空中放電(フラッシュ・オーバー)』!!」

 

雷並の放電を行うが、まるで効いてない。…ま、遠距離攻撃だしな。

 

「『高熱電流(アーク・テンション)』!!」

「…ほう、だが効かん」

 

マジかよ…!鉄も溶けるんだぞこれ。それにしても…まだ余裕あるけど、これ以上は流石に星辰力が持たねぇぞ……

クソッタレが。まだ参ったは言わねぇからなぁ!

 

「ちっくしょうがァ!『青い炎(サタン=ブレイズ)』!!」

 

青い炎は、俺の左腕と共に警備隊長に伸びる。…が、ある一定距離から先は能力が消える。

 

「能力だけに絞ることも出来るのさ」

 

伸ばした左腕を捕まれ、そのエリア内に引きずり込まれる。凄まじい膂力で引っ張られた俺は体勢を崩し、そこを逃さず警備隊長は俺を地面に叩きつけた。背負い投げかよ!?

 

「がはァッ…!」

「もう動けまい?」

 

そう言って、仰向けに咳き込む俺の腹に座り込み、両腕の肘の部分を踵で踏みつける。

その顔は、ドヤ率8割、賞賛2割、と言ったところか。見た目通りの表情で笑う警備隊長に、俺は適わないと確信した。目を伏せ、息を吐く。

 

そして、いつか越えると誓った。この人を倒せた時、俺はーーー

 

 

「…参った、俺の負けだ」

「私の勝ち、だな」

 

ちょうど、部下さんの能力が切れたらしい。ゼーゼー言ってるのが横目で見えるが大丈夫だろうか。

 

何はともあれ、俺は敗北した。清々しいまでの実力差で、圧倒的に。

 

これは負け惜しみに聞こえるかもしれないが、歳食ってるとは思えないほど大人気なく喜びやがるなこの人…

あ、コラいい加減腹から降りろ!肘グリグリすんな、いってぇ!?

 

 

 

 

△▽△

 

 

あの後、すぐに俺は喧嘩連中を引き渡し、逆に拘束される側となった。手錠ではないものの、ずっと服の裾を警備隊長に掴まれているのだ。

 

「うむ、捕縛完了だな。連れて行け」

「はっ」

 

部下総勢五人のうち、一人だけを残して全員が連中を連れ移動する。少し離れた所に輸送車があるらしい。まぁ星猟警備隊の中にサイコキネシス使いいるみたいだし、何より連中腰抜かしてたから逃げようとも思わんだろうけど。

 

まぁこっちはこっちで腰抜かすどころか意識が別の世界に飛んでる奴もいるんだが。

 

「おい東城。…とうじょーう?」

「は………ほぁっ、比企谷!?おま、大丈夫だったのか!?」

「ウソお前気絶してたのん…?」

 

目を開けながら気絶とは器用な真似しますね…

 

「…あー、まぁ、負けた。惜しかったんだがな」

「いやいや、私の圧勝だろう」

「ちょっと危なかったろ?」

「わざとだよ」

 

嘘つけ結構本気で驚いてたろ。何て言いたかったが尻を抓られ、それは変な声として口から漏れる。…こんクソガキャ燃え散らすぞ…!あ、中身ワイの数倍歳上でsイデデデデデ!!!すいません許してくださいもう言いません思いません考えませんっ。

 

「ひ、比企谷…?」

「いってぇ…何でもねぇよ」

「そ、そうか…それよりお前すげぇな!あんなに闘えるなんて…決闘じゃ本気じゃなかったのか?」

「あー…それなんだが。俺の能力は『空』だけって事で。見なかった事にしてくれないか?」

「あん?…別にいいけど何で……あーそうか情報か」

 

お、話が早いな。

東城はそれで納得してくれた様で、絶対に口外しないと約束してくれた。さて本当かどうかは分からないが、東城の人柄を信じるばかりだ。

 

「じゃあ、俺もうそろそろレヴォルフ帰るけど……」

「残念ながら、君だけ一人で気を付けて帰ってくれるか?…彼にはたーっぷりとお話があるのでね」

「いえっ分かってますってHAHAHAHA!じゃあな比企谷死ぬなよっ、生きて会えたら今度飯奢ってやる!」

「え、何俺今からヤバい目に遭うの?待って東城超待って!やめて、おいてかないでぇ!?」

「ほら君はこっちだ」

「嫌だァァァァァ!?!!」

 

この後、『空』で星猟警備隊の本部まで警備隊長殿をお連れして、中に入れられました。

現在、隊長室に連行されてる途中です。

 

……死なないよね俺。

 

 

 

 

△▽△

 

 

ディルクの会長室より広く、壁には本棚がぎっしり、椅子と机…執務用であろう物と来客用だろうの椅子と机、大量の資料に、執務机の奥に別室へと繋がる扉。豪奢では無いが、割と整った部屋がヘルガ・リンドヴァル警備隊長の執務室だった。奥は自室らしい。

 

「さぁ掛けたまえ」

「嫌だ」

「何だじゃあ私の椅子になるか?なぁにさぞ気持ちいいだろうよ」

「喜んで座ります!」

 

小さな反抗を見せるも、余裕で返されて俺氏もう心の中で涙が止まらない。

椅子に掛けると、対面に警備隊長が座った。ちょうど部屋の扉がノックされ、警備隊長が入室を許可すると、一人の女性が飲み物を運んで来たようだ。警備隊長と俺の前に…また紅茶か。紅茶を置き、そのまま退室する。

警備隊長が一口つけてから、俺も頂くが…お、これは美味い。だがやはり雪ノ下には適わんなフハハハ。

 

「…さて、喉も潤った所で君の処罰を下そうか」

「……なるべく優しめで」

「ん?被害はないし、何よりアレは私と君だけのお遊びだろう?誰も巻き込んでいないし、何も壊していない。ちょうどあの時私が先頭にいたからか、皆逃げたしな。目撃者もいまい」

「いや、分かんねぇぞ。ニュース見りゃほら、記事になってるかも…………なってる………」

 

端末を取り出して何故かまた溜まってるメッセージを放置して確認すると、もう特大ニュースばりの記事になってる。被害なし、しかしその様子は動画では捉えられず、けれども目撃者は一応いたようだ。

 

「何?見せてくれ……ああ本当だな」

「どうすんだよ」

「さぁ?被害は無いしホログラムとでも言えばいいんじゃないかな…と思っているが」

「…んな無茶な」

「部隊員の能力で作り出した空間での戦闘を、現実(リアル)に用いた時の被害推定実験(割と本気)と言えばいいだろう」

 

この人、もしかして天然入ってんのか?それとも、わざと落ち着かせようとしてくれてるのか。…アホの子が入ってるのか。

ここに来る間もすげぇ挨拶されてたし、マジで仕事とかも出来るのかな…と思ってたけど。まさか。

 

「まぁ聞かれたらそう答えるレベルでいいのではないか?歓楽街(ロートリヒト)での事なら、周囲の人々に協力してもらって実験したとか」

「アンタ警備隊長だろうが。罪悪感とかねぇのか?」

「私は警察ではないよ。それに、これで問題は丸く解決では無いが解消は出来たろう」

「むちゃくちゃだ…」

「それが私だよ。……さて、いい加減君の処罰を言い渡そう」

 

そう言うと、一瞬真面目な顔をする。腕を組み、足を組みのふんぞりポーズだが、見た目少女でもやはりオーラがすごい。

…なんかテンション振り切っちゃって喧嘩売ったの今更ながら後悔してるわ。何言われんだろ…

 

「比企谷八幡。君には更生プログラムと称して私の秘書になってもらおう。学業に差し支えないレベルで構わん。既に悪辣の王(タイラント)には部下から連絡させている」

「……それマジだったの?」

「ああ。実験は、更生プログラム中にちょうど実験の話を聞いた君が挑んできた…という設定にしよう」

 

…この人、マジでアホの子かもしれない。俺は真剣な顔でそう言う警備隊長を見て、嘆息せずにはいられなかった。

 

 

 

 

△▽△

 

 

【比企谷八幡、三日連続乱闘騒ぎ!冒頭の十二人との戦闘はないものの、総数31人を新たに治療院へ】

【嵐神、あのヘルガ・リンドヴァル警備隊長と戦闘か。歓楽街(ロートリヒト)で目撃者多数も、被害はゼロ…?】

歓楽街(ロートリヒト)の戦闘は星猟警備隊の実験?実際の戦闘を被害が出ない空間で行い、ホログラムで被害推定を検証。比企谷八幡は協力者】

【実験協力は更生プログラムの一環。嵐神、警備隊長の元へくだる】

 

 

あの激闘が昨日となった今日。色々話をしてから寮に戻った時は日付が変わっていた。泊まっていけと言われたが断じて無理☆と断った俺は脱走。光速で帰ってきたけどこれ疲れるんだわ…

んで、メッセージで一斉送信。『疲れた無理寝る連絡は明日』。今現在の時刻午前10時。…授業はいいか、もう。また今度雪ノ下達に教えてもらおう…

 

いつも通りMAXコーヒーで覚醒し、昨日浴び忘れたシャワーで汚れを流しサッパリした所で朝飯を作る。といっても食パンを焼いてスクランブルエッグを作ってそれを上に乗せてソースをかけるだけだが。

朝食を終えた所で、一応制服に着替え、ソファに身を預けながらメッセージを見る。…あー、一斉送信したからか。一色とかからも来てるわ。

 

ーーーーー

お前な…どうせ授業出ないんだろうし、起きたら俺ん所来い。マスコミや報道系クラブにゃあのうるせぇ警備隊長殿の言う通りに証言しておいた、感謝しやがれ

ーーーーー

 

おぉディルクありがとう。だから既にあんな記事があったんだな。

とりあえず、雪ノ下達はもうマジギレレベルだったので普通に謝罪。今度はもう一発ぶん殴られてもおかしくない。珍しく雪ノ下さんですらマジの心配文だった。そんな中、新たに追加されたアドレスからメッセージが届いていた。

 

ーーーーー

タイラントは仕事が早いな。これで君も罪には問われんだろう。何、いつもああなのではない。こんなのは稀中の稀だ。というか君のような存在が稀なのだがね。

さて、更生プログラムその1だ。お昼までに私の所へ来るように遅れたら隊員と同じメニューで訓練してもらおう

ーーーーー

ーーーーー

俺授業あるんだけど

ーーーーー

ーーーーー

出てないことは知っている。早くタイラントとの話を済ませて来なさい。罰は特別になしにしてやるから

ーーーーー

 

何で知ってんだよ!?兎に角俺はディルクの元へ急いだ。いつまた気が変わるか分からない、年齢不詳の魔女の元に早く向かうために。

 

 

 

 

△▽△

 

 

もう散々に小言を言われ、あのランドルーフェンやころなさん(苗字知らない)にすら呆れられ、もう入室と同時に正座させられるレベルだったがようやく開放され、今現在は星猟警備隊の本部の隊長室…執務室だ。

 

「うまく誤魔化せていて良かった」

「あんな嘘を世間は信じるんですかね…」

「歓楽街にいた目撃者より私の言うことの方が正しいと思ってしまう心理。利用させてもらった」

「悪人が」

「策士と言いたまえ。元はと言えば君が悪いんだぞ」

「こんなのが警備隊長とか心配だぁ…」

「バカ者!先にも言ったがこんな事は今までで片手で数える程しかないぞ?」

 

今までにもあるんじゃねぇか。

…まぁ本当にそれ以外は普通…というか、あのアスタリスクで起こった最悪のテロ『翡翠の黄昏』を一人で解決しただけあって、評判は凄い。

 

ディルクは嫌っていたが。何でも昔から色々と厄介なんだと。まぁアイツ自身ちょっと人に言えないことしてそうだしな…

 

「それで、何の用だよ」

「ん?…今日の仕事は既に終わっていてな。出動まで世間話の相手が欲しくてな。それか勉強でも見てやろう」

「遠慮する」

「照れるな。ほらテキストがこんな所に」

「なんであんの!?」

「私の部屋だからな。さ、やるぞー」

「もうヤダ……」

 

結局、この日は日が暮れるまで勉強していた。珍しく闘わなかった事が逆に記事になるという事もあったが、寮に戻ってからは電話で雪ノ下達に小一時間は説教されるわ飯食いそびれたのを思い出してインスタントラーメン作ってたら米炊いてないわシャワーは温水じゃなくて冷水被っちまうわ散々だった。

 

光速でふて寝したのは、嫌な思い出になるだろう。

 

 

 




警備隊長めちゃくちゃやな…

次回少しだけキングクリムゾン


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13話

 

 

 

〝順調だな。俺様も目を見張るスピードだぜ?〟

今喋りかけんな…!

〝んだよ連れねぇなァ…〟

 

五月に入り、入学から怒涛の三日間と自分で読んでいるあの出来事やらからから一ヶ月が過ぎた今日この頃。春の陽射しはなりを潜め、桜が散り切った、特にイベント行事がない月に、俺は今日も今日とて星猟警備隊(シャーナガルム)本部に足を運んでいる。

 

「ほら、足元が疎かだぞ。目だけを見るのではない、全体を見つめ、その中で目から軌道を読み動作を予測するんだ」

「ちっくしょ…!」

「今度は上か。……これで詰みだ」

 

目的は、星猟警備隊の訓練に参加するためだ。現に、今もヘルガと組手をしていて、負けた。組み伏せられ、今は腕の関節を決められている。

 

「いてぇいてぇ!いてぇッて!」

「はっはっは。そぉーれ」

「ぎゃあああ!?人の腕関節はそっちに動かねえよってばんぎぎ…」

「よし、そろそろ飯にしよう。八幡は何を食べるんだ?」

「腕は離してくれないのね……カレーで」

「うむ、私はラーメンにしよう。一口交換しないか?」

「いつも無断で食うじゃん。いいよ別に」

「そうか」

 

ようやく解放された…起き上がり、腕を回して肩が外れてない事に安堵し、歩き始めたヘルガに付いていく。

 

「お前達!私は先に上がる、程々にして飯にしたまえよ」

「「「了解!」」」

 

こういう所を見ると、改めて彼女が上に立つ人間なんだと認識する。普段は俺に肩揉ませたりマッサージさせて涎垂らして寝る癖に…その度にバックレてアスタリスク中を鬼ごっこするハメになるんだけど。

もう逃げる俺と追う星猟警備隊見ても皆驚かないもんね。むしろ笑いながら動画撮りやがるもんね。初めは何事かと言われたがもう慣れたようだ。

 

隊員の訓練の一環にしやがって…毎度俺がなんかしたみたいになってんじゃねぇか…ったく。

 

さて食堂に着いた。この本部の食堂マジでヤバイ。何でも揃ってるし、レヴォルフに行ってない時は昼は用事なくてもここに来る。何かもう隊員さんや清掃員の人となんかも普通に話せるようになった。それくらい馴染んじまった。

 

「うん…美味いな」

「あぁ」

「じゃあ貰うぞ」

「ん」

 

スプーンと箸を交換して一口交換。…夜はラーメンだな。戸塚達誘うか。最近はもうヘルガに振り回されるのにも慣れ、そんな俺を見に雪ノ下達はここを訪れて、訓練の手伝いやその他雑用をしている。

雪ノ下がそもそも星猟警備隊(シャーナガルム)に憧れを持っていて、ヘルガと会った時なんて嬉しすぎてドン引きしてた。

入隊希望を話した所、試験の事を教えてくれたりもしたのは感謝してるが、俺は入隊希望してないぞ。

 

「…君と出会ってもう一月(ひとつき)が経つか」

 

突然言い出すので何事かと思ったが、何でもない、ただ口に出した独り言でもなさそうなので応答する。

 

「…だな」

「アレからも君は色々やってくれたものだ。当時は大笑いをしたな」

「あーもういいだろソレは」

「いーやよくないさ。まさか序列二位にまでなって、挙句野外ステージで星導館の生徒や界龍の生徒と決闘を行って。ステージ破壊まで毎度お馴染みじゃないか」

 

いやそれ俺じゃないからね?元はと言えばリースフェルトが『比企谷先輩、私と手合わせしてください!』何て出会い頭に言うもんだからちょうど近くにあったステージに上がっただけで、後はアイツの技で大半ぶっ壊してたから。俺は防いで彼女の星辰力切れ(プラーナ・アウト)ギリギリまで好きにやらせて、最後は降参って言わせただけだから。

在名祭祀書(ネームド・カルツ)入りして、自身で自覚した伸びた鼻を折ってもらおうとしたらしい。今では彼女も冒頭の十二人(ページ・ワン)序列九位にまで登り詰める大躍進だ。

 

界龍(ジェロン)の件に至っては、まさかの弟子入りの話が入り込んでくる。俺の星辰力の扱いを見た奴が公衆の面前で土下座してくるもんだから、とりあえず戦ってみたのだ。そいつは魔術師としての力と界龍特有の星仙術を巧みに使い、俺と健闘した。魔術師の能力としては、彼は自身の体の一部を巨大化させる能力だそうで、星仙術と合わせて放つパンチは中々の威力だった。思わず神風で相殺してしまうほど。まぁ勝ったけど。その後は自分が弟子入りを志願出来る立場にすらいないとの事でまた修行に戻る…と言ったきり姿を見せない。

 

まぁ他にも色々やらかしたが、今の所懲罰房は回避出来ている。器としての成長も順調で、何か大きなキッカケが欲しい…と言われた。だがそれはベルフェゴールでは無い炎の目覚めだそうだ。クソが。

 

「この後の予定は?」

「あー、クイーンヴェールに」

「ん?…君は女の園で一体何をするつもりだ?」

「バッカ俺にそんな度胸あると思う?知り合いに『依頼』されてた事があんだよ。雪ノ下達も一緒だ」

「む、なら安心だ」

 

まぁ三浦なんだけど。

三浦は本確定にリューネハイムのブランドのモデルになったらしいのだが、その件で雪ノ下に相談していたのだ。早い話、ヨガや運動に付き合うだけなのだが…何故かそのメニューの中にストレス発散、つまり気が済むまで俺の空壁をサンドバッグ代わりにするという狂気が組み込まれていた。

俺は痛くも痒くもないし、三浦は三浦でスッキリ出来てるらしいが何とも……ねぇ?ちなみにこの時は葉山もたまに来るのだが、すぐにフラッと消える。三浦との交際は順調なようで彼女から惚気話は聞かされるが、度々ボロボロで現れるらしい。

 

アイツもアイツで鍛錬してるってことか。

 

「んじゃそろそろ行くわ…」

「お疲れ様。明日はどうする?」

「レヴォルフに顔出してくる。…部屋に果たし状が何枚も来ててな」

「人気者は大変だな。気を付けるんだぞ『破壊神』君」

「それやめろ」

 

そう、アレから変化したのは何も生活だけではない。

…早くも、二つ名が『嵐神』から『破壊神』に変わったのだ。どちらでも呼ばれるが、ヘルガは破壊神が気に入ってるらしい。

雪ノ下は嵐神、由比ヶ浜は破壊神。小町はごみぃちゃん。

 

泣いた。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「あ、キタキタ」

「ヒッキー!」

「おう」

「こんにちは、比企谷君」

 

クイーンヴェールの入口で待ってくれてたようだ。まぁ一応部外者だし許可証いるしな。他の施設でやりゃいんだろうけど、なんせ生徒会長が許可してくれてしかもかなり整ったトレーニング場とかあるからいつもここでしてる。

 

「じゃあ早速行くよ」

「優美子、今日はどーするの?」

「ん。雪乃と結衣に体伸ばしてもらってから汗流して…ヒキオ」

「おーらい」

「じゃあそれで行きましょう。比企谷君はトレーニングウェアは…」

 

俺は制服のボタンを、上から二つ開けている。ネクタイもだるんとさせ、いかにもレヴォルフ感が出ている格好から、中にウェアを着ているのを見せた。さっきまで訓練してたからな、中に着たままなんだよ。出る時忘れてて慌てて戻ったわ恥ずかしい。

 

「そ、なら一緒にする?」

「ああ。マシン借りようと思ってる」

「ヒッキーだけいつも別次元トレーニングだけどね…」

 

ま、他の利用者がジョギングレベルなら俺は全力疾走レベルでずっとだからな。トレーニング場は薄着の女性ばかりで、初めて入場した時はそれはもう避けられまくるわ男性恐怖症の人もいるわ遂には理事長出動するわで大変だったが、今ではそこら辺の石ころの様に存在がスルーされている。…ふっ、未だにステルスヒッキーは健在か……(血涙)

 

「……行こ。何かヒキオキモいし」

「………そうね」

「ちょ、二人ともそんな事言ったら可哀想だよー」

 

もうやめて!八幡のライフはもうゼロよ!?

 

 

 

 

△▽△

 

 

いつもながら理事長に挨拶しに行き、許可証を首にぶら下げて校舎内を移動する。すれ違う生徒は皆女子だが、だからなのかなんなのか、見事に避けられている。しかし、たまにではあるがーーー

 

「あ、あのっ、レヴォルフの比企谷八幡さん…ですよね?」

「………」

 

危ねぇ声出してたら裏返ってた。頼むから離れてほしい。

ーーーそう、たまにではあるが、こうして声をかけられる時もある。そういう子は大体距離が近い。リア充故のこの距離感は未だに慣れないが…そして凍えるような視線の慣れたら死ぬと思っているが、一応見逃してはくれているので遅れて返事をする。

 

「…あぁ」

「わたし、あの、動画みてファンになりました!リンドブルス頑張ってくださいねっ」

「ん、サンキュー」

「あ、握手とか…出来ればサインも…」

「あーサインは、すまん。握手くらいなら…」

「ありがとうございます!」

 

そうして差し出した手にうっとりした顔で触れ、握る少女。…そろそろマジで凍えそう。

まぁ、俺も一応六花の有名人として名を挙げた。…主に悪い意味で。

 

「じゃ、俺ら行くから」

「はい、頑張ってください!」

 

トレーニング場に到着するまで、俺の体には二つの冷たい視線が突き刺さったままであった。

 

 

 




レヴォルフの冒頭の十二人、星導館の冒頭の十二人らですが、原作公開中のキャラは今後序列入りを果たすオリ展開です。

今後絡ませるかは分からず…ちょっと原作読み直してきますので今日の更新は終了です


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14話

 

 

 

「…あんさぁ雪乃」

「…何かしら三浦さん」

「ヒキオってさぁ……ヤバくない?」

「意味が分からないのだけれど…でも多分、ヤバいのでしょうね」

「あの重りって一個100キロだよね。ヒッキー両手両足に付けてるんだけど」

「ノンストップでもう30分…誰と闘ってんのアイツ」

 

トレーニング場、ルームと呼ばれるクイーンヴェールの施設の一つ。今日も体力作り、または体重管理或いは体型維持…それぞれ色んな理由を持ってこの場所を利用している。が、ココ最近、週に4回ほど今まででは考えられない光景が、今広がっていた。

 

「ふっ、はっ、はっ」

 

自身の動きをよく見れるようにと設置された鏡の前で、半袖をわざわざ丸めてタンクトップの様にし、半ズボンという運動しやすい服装でシャドウをする男。しかしながら、その人物には異常な点があった。

 

まず、この学園は女子しか入学を許されておらず教員すら女性のみという徹底っぷり。しかもこの学園の入学基準は、その容姿すら含まれる故選りすぐりの美少女、美女しかいないのだ。

それなのに、男がいる。まずそこが異常な点。

 

それともう一つは、その人物が両手両足()()()()()100キロの重りを付けている事。なんて事ないようにシャドウで架空の相手とイメージ戦闘を繰り広げている様だが、彼の体には実に400キロ分の重さが加わっている。なのに、苦しそうな表情は見えない。

 

大量の汗で床を濡らし、男の匂いで男慣れしていない女子を惹き付けるイケない男が、ココ最近クイーンヴェールで見られる異常だ。

 

「ふっ、しっ!…は!!」

 

上段蹴りで締めたのか、ゆっくりと体勢を直し、息を吐いた。疲労が見える。彼の目の前の鏡は、熱気ゆえか曇り始めていた。流れる汗を服を捲り拭う。チラリと見えるその腹はバキバキに割れていた。上腕二頭筋も細いながら力こぶがあるのが分かる。

 

「…隼人がいなかったら、あーしも分かんないわ」

「……葉山君がいてくれて良かったわ」

「ヒッキーカッコいい…」

 

まぁ早い話、今日も比企谷八幡は着実にファンを増やしているという事だ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

チッ…どんなイメージでもヘルガに勝てねぇ。途中で技をかけられるか、ぶっ飛ばされてる。イメージシャドウを終え、汗を拭いつつ俺は舌打ちをする。

 

〝カッカしてんなぁ八〟

エンペラーか…分かんのか?

〝まぁな。オレ様にかかりゃ宿主の状態くらい訳ねぇよ。…そんなにあの女に負け続けてんのが悔しいのか〟

 

当たり前だ。あの日、初対面アイツを拘束できたのは本当に運だったのだと思う。アレ以降は能力を使おうが使わまいが、一撃足りともアイツに決められていない。

隊員には勝てるんだが…畜生、どこまで高みにいやがるんだあの女は。

 

〝まぁでも、間違いなくお前は成長してる。ヘルガだけを見つめるな。たまにゃ休憩しろ。…お前、2週間ほぼ毎日ハードな鍛錬してるんだぞ〟

…MAXコーヒーとアイツらの声聞けりゃ大丈夫だ。

〝くっさ〟

 

今のは俺もそう思った。エンペラーは満足したようで、もう声をかけては来なかったが…ふと、視線が気になり、未だに鏡の方を向いていた体を反転させる。当然顔も反転…つまり、視線の主達と目を合わせる訳で。

 

「…あの、何か」

 

めっちゃ見てた女子達と目が合いまくった。それにしても皆不満はないのかね…生徒会長や理事長が認めてるとはいえ、一応俺も男なんだけど。

その短パンやタンクトップ着るの本当に自重して欲しい。いや、来てる身で悪いんだけどね?その…何分エッチな事になっている訳でして。俺も思春期男子、女子の汗と香水の匂い、露出の高い服装に囲まれるとヤバい。意味が分からないと思うけどヤバいんだよ。

 

女子ははっとした感じで全員目を逸らしたが、やっぱり何か文句があるんじゃ…と思いながら重りを外し、元の場所に戻す。そしてモップ自分の汗が落ちた床を掃除し、別鏡の前で本日のトレーニングを終えた雪ノ下達が体操していたので、そこに向かった。

 

「おう、終わったぞ」

「お疲れ様ヒッキー。どこか痛い所とかない?」

「余裕。お前らは?」

「大丈夫だし。雪乃と結衣が見てくれてるしね」

「私もよ。…それよりも比企谷君、三浦さんのアレ、今日はいいらしいわ」

 

え、マジで?じゃあ俺ただ単に女子校に運動しに来ただけじゃん。何故?という意味を込めた視線を三浦に送る。

 

「…や、今日の雪乃のメニューがキツくて。シャワー浴びてご飯でも行こうって…ごめん」

「い、いや別にいいけど。どうせここに来てなくてもヘルガの仕事手伝うかレヴォルフ戻ってただけだし」

「今度何か奢るわ」

「気にすんな。お前はお前でリューネハイムに色々やらされてんだろうし、休むのもトレーニングだ。今のうちに休んどかねぇと、来週アイツツアーから帰ってくんだろ?」

「……そーする」

 

リューネハイムは今確かロシアに居るはずだ。一昨日電話が来たからそん時にそんな感じで言ってた気がする。

疲れたように返事をする三浦を二人に任せ、荷物と着替えを持ち俺はルームを出た。

 

ルーム横のシャワー借りたいけど絶対誰かいるしな…クソだるいけど光速で帰るか。制御が難しいし疲れんだよな…まぁ汗臭いままよりイイか。

 

 

 

 

△▽△

 

 

帰宅後すぐにシャワーを浴び、MAXコーヒーで渇いた喉を潤す。あぁ^〜生き返るわ^〜

 

さて、ラーメンに戸塚達を誘うか…っと。メッセージ来てら。

……………なにィ!?葉山と戸塚が純星煌式武装(オーガルクス)の適合検査を受けるだと!?あーんじゃラーメンは一人で行くか。材木座にはちょうど小型銃の煌式武装(ルークス)の調整とそれとは別にナイフも調達してもらってるしな。

 

うーむ…まだ夕方か……

歓楽街(ロートリヒト)にでも行くかね。ちょっと落ち着いて考えると、俺もレヴォルフに少し染まってきているかもしれない。別に故意に物壊したり他校の生徒に喧嘩売ってる訳じゃないが、売られた喧嘩は買うし、夜中に出かけるなんて普通だ。

 

違法行為だけはしないと誓いながら、改めて出掛けた。

 

 

 

 

△▽△

 

 

夜中になるまで歓楽街で遊び、いつものように二人と話して今は日付を超えた大人の時間。って言うとエロいよね。

 

「う……うが…ぁ…」

「イデェ…イデェよぉ…」

「う、腕がぁっ」

 

ま、そんな時間に今日も今日とて襲撃を受けた訳ですが。ちょっと小腹が空いたもんで今日くらいはと思い夜ラーメンに出掛けた俺は、ヤベぇ2食続けてラーメンだぜとか一人テンション上げてた帰りに寮前でレヴォルフの生徒に襲われた。幸いあのヘルガとの戦いで俺の能力がバレたかと思いきや、あの光やら電力やらは他の隊員の能力ということになった。故にバレてないのだが…

 

ついカッとなって電力で肉体強化して体術で闘い、ボコボコにしちまった。今は何人か数えてねぇけど数十人が夜の草の上に寝転がっている。

 

「破壊神…ば、バケモノめ…」

「お前らの学習しねぇよなぁ」

 

伊達にレヴォルフ序列二位張ってねぇんだけど。

とりあえず、大体こんな日常を過ごしていた。

 

流石に部屋に襲撃してきた奴には地獄を見せた。今では彼は丸刈りで品行方正な生徒だ、はっはっはっはっは。

 

 

 

 

△▽△

 

 

『…八幡よ』

「あーー??」

 

材木座に頼んでいた新煌式武装の調整中、レヴォルフの施設を貸してもらって試験運用をしている時に、スタジアムの上の方に居る材木座の声がイヤホンを通して聞こえてくる。

 

『感触はどうだ?』

「切り替え動作に若干タイムラグを感じるな。それ以外は俺好みだが」

『やはりか。そこは我も見抜いておったのだが…うーむ解決策を新たに会議するとしよう』

 

材木座は、入学当初煌式武装の開発をする『獅子派(フェロヴィアス)』という派閥に属していたのだが、そこのリーダーさんと思想の違いが見え、新派閥『自由派(ロマン)』を立ち上げ、着々と大きな派閥と化しているロマンのリーダー、つまり筆頭だ。

一応、他校との協力なのでディルクにも協力してもらい、六花園会議でアルルカントとの共同制作、そして俺がそのモニターをする旨を話してもらった。聖ガラードワース、星導館の生徒会長は本気で驚いていたらしい。アルルカントの生徒会長には俺から話に行ったし、リューネハイムも俺の名が出た途端賛成してくれたそうだ。

界龍の生徒会長は面白そうという理由で賛成派に。しかし条件として『新型』煌式武装の試験運用風景を全学園生徒会長が見学出来るようにと言ってきた。まぁ許可したらしく……だからこそ今俺がこれ使えてんだけどね。

 

材木座は入口の東側で煌式武装の動きを見ている。…その後ろでは、材木座の部下と言える人達が仮想ディスプレイやモニタをズラリと並べ何かを計測、計算、及び調節を行っているらしい。いやマジで何その大出世。

驚く事に、材木座はこの手の話になれば俺達総武勢で右に出る者はいない。あの雪ノ下さんでさえ認めた知識と発想の持ち主だ。今俺は動作確認と、俺自身が動いて素振りなんかをしている中、アルルカントの生徒に指示を送ったりしてる。

 

何せ二つ名まで付いたからな。戦闘クラスじゃないのに。

大砲渇望(ロマ二スト)』。お似合いだぜちくしょう。

 

『八幡、そろそろ』

「あいよ」

 

モニター終了。俺はスタジアム内を移動し、材木座の元へ向かう。

 

「最終感想はどうだ?」

「さっきも言ったが『剣型(ソード=モード)』と『銃型(ガン=モード)』の切り替えくらいだな。あと個人的にショートソードよりバスター派だ」

「そこは許せ。アルルカントには試作バスターが在るのだが、今日はその動作について一度お主のモニターをしたくてな」

「人で変わるようなモンなのか?」

「当たり前だろう!現に、我らロマン最高記録より遥かに早く切り替えていたぞお主は。…まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだが」

 

つまりこの煌式武装には普通ない電力機構がほんの少しだけ存在するという事だ。他のモニターは一々スイッチを切り替えてソードorガンと切り替えているので切り替え時間に約一秒掛かるのだが、俺は0.29秒でいける。

切り替えに必要な電力を自分で演算して効率化させ、切り替え速度も早めてるからな。それでもタイムラグを感じるから、もう少しだけ違和感を直してくれたら文句なしだ。

 

「今後の課題ってヤツか」

「ああ。これもまたデカい壁よ…しかし我らロマンを追い求める者!すぐに問題解決を行い、新たなロマンを追うのよ!ハーハハハハ!!」

 

後ろでその言葉を聞いていたアルルカントの生徒が割れんばかりの拍手をする。ど、同志がいてよかったな材木座…俺にはまだ友達ほとんど居ねぇのに…負けた気分だぜ。

 

その後は荷物を纏め撤収していった。今は六月、モニターを務め始めてはや半月ではあるが、始めてから二日に一回の試験運用でよくあんなにすぐ解決してくるよなアイツら…

 

と、外まで見送った所で、材木座達とは真逆の西側にいた客人達も外に出てきた。

 

「やぁ、今日も見事なお手前だったね破壊神君」

「かーっかっか!動きに無駄が少なくなってきておる…お主は一体この短期間でどれ程強くなれば気が済むのじゃ?」

「ええ、全くドン引きです」

「…今日も爽やかっすね『聖騎士』さん。『万有天羅』も、機嫌が良さそうで何よりだ。問題は『千見の盟主(パルカ・モルタ)』」

「うふふ…あら、何でございましょう」

「この流れは俺を褒める所だろ。この二人を見習え」

「褒め…?」

「まだまだじゃがな」

「あっ、これ俺キレていいやつだ」

 

上げてから落とすのが一番タチ悪いんだからな。マジで。期待させて裏切るとかマジもう無理。許すまじ。まじまじうるっせぇな。

スタジアムからほんの少し遅れて出てきたのは、聖ガラードワースの生徒会長、アーネスト・フェアクロフ。界龍第七学院の生徒会長、范星露。星導館学園のクローディア・エンフィールドだ。ディルクと樫丸はランドルーフェンの件で出掛けているので今日はいない。

 

初対面から、人間の腹黒さ的に俺よりも圧倒的だったこの三人は俺の天敵だ。毎度毎度俺を弄び楽しんでいる。聖騎士あたりはそろそろ純星煌式武装に見限られて欲しい。

 

「まぁまぁ。今日もお疲れ様。あの新型面白いね」

「…ま、ゲームの武器のパクリっすけどね」

「何でも良いわ!面白ければのう!」

「あらあら」

 

口を開けば面白いだのなんだのしか言わねぇな。

そういえば、初対面の時。聖騎士はオーラが凄い好青年で、パルカ・モルタは薄気味悪い女だったがこの万有天羅だけはマジ頭おかしい。

 

『比企谷八幡ーー!儂と手合わせしようぞーー!!』

『え?ちょ、ほぁーーー!?』

 

スタジアムでいきなり飛び蹴りよ?何とか防いだけどその後も聖騎士が止めてくれなかったら普通に暴れてたと思う。昔の葉山みたいな仮面着けてていけ好かないけどあん時ばかりはナイスだったぜ。

 

「それじゃあ僕らはこの辺でお暇するよ」

「気をつけてください。…万有天羅は特になァ」

「ほほう、儂を襲うのかえ?怖いのう怖いのう!」

「いや、お前が次に足出したらガム踏むからだけど」

「ほぁ!?あ、危なかったのじゃ…!」

「今の動画撮って雪ノ下さんに送っといたから」

「バカモノーーー!?わ、儂の師匠としての尊厳がーー!?」

「嘘だよ(大嘘)」

「なんじゃい…」

 

ホッとする万有天羅。しかし両隣の会長達は顔を背けて肩を震わせて笑っている。隠し切れてねぇぞ。

 

「じゃ、またね」

「それでは、失礼します」

「またのう!」

 

そう言って三人は門前に止めてあった車に乗り込み、姿を消す。

 

夜、雪ノ下さんからマジギレしてクッションをボコボコ殴る万有天羅の動画が送られてきた。

師匠としての万有天羅は尊厳があっても、普段の万有天羅は雪ノ下さんの新しいオモチャと化していた。哀れ。

 

 

 




原作…?知らない子ですねw


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15話

風邪ひいてました
というかひいてます


 

 

梅雨。その名の通り雨が降る時期なのだが…まぁアスタリスクも雨が降るのよ。何ならもう二週間太陽見てないレベル。雨は嫌いじゃないが流石に鬱陶しいと思ったので『空』で雨雲を吹き飛ばそうとした所誤って竜巻を起こしあわやテロか何かと思われる誤解を招き、今日も今日とてトップニュースに輝きヘルガ土下座した。いやもう既に昨日だから今日も今日とてじゃないわ。…ま、俺の功績(?)によりアスタリスクには久しぶりの太陽が輝いていた。

 

「あん?…リューネハイム、今なんて?」

『だからー、八幡さんに私のブランドのモデルして欲しいんですよ〜』

「うっわぁ何その喋り方あざとい…」

『アレ、いろはちゃんが八幡さんはこの口調に弱いって言ってたんですけど』

「ちょっと待てお前何でアイツと知り合いなの?」

 

まぁ三浦関連で知り合ったんだと。確かに一色もたまーにアスタリスクに来るけど。というかクイーンヴェールに編入するらしいけどね。まさかそんな話する仲だったとは…

 

『それで、返事を聞かせてもらえますか?』

「却下だ却下。第一、俺じゃ映えねぇだろ」

『眼鏡掛けた八幡さんってイケメンですよね』

 

何それ待って知らない。ねぇその俺の知らない事なんで知ってるの脳内妄想か何かで合成したの?…と思ったがどうやら俺が葉山と悪ふざけで『超絶☆ファッション』というお互いを本気(リアルガチ)でコーディネートするという遊びをしていた時の写真を見たらしい。あー確かに眼鏡掛けたわ。何ならその場にいたファッション雑誌の人に声掛けられたしその日は逆ナンに遭いまくった。モテ期はあそこで終わった。

 

「…でもなぁ」

 

最近は喧嘩を売られる事も減り、何なら喧嘩してないまである。ヘルガ達との訓練はやってるが、どうも刺激に足りんと思っていた所だ。…暇潰しだな。

 

「…まぁいいぜ。どうせ暇だし、このまま断り続ければ三浦どころかアイツらまで出てきそうだ」

『おーよく分かりましたね。雪乃さん達とももう友達なので逃げ道はないと最終手段として脅しを控えてたんですけど』

「最初から詰みならそう言ってくれない?」

 

小悪魔じゃねぇ、こりゃただの悪魔だ。

ま、こんな日も悪くねぇか。ヘルガの呼び出しもねえし…

 

「どこ行きゃいい」

『あ、もう今日行ける感じですか?ならクイーンヴェールの理事長室まで』

「あいよ。許可証は…」

『もう面倒なので八幡さん様のカード作りました。これ入口にスタッフさんに持ってて貰うんで、次回からはそれで』

 

なんでもありね、生徒会長ってば…

 

 

「…お、似合ってるぞ八幡。うーむこうして見ると中々にイケメンだな、君は」

「うっせぇ」

 

【歌姫プロデュース!あの『破壊神』が遂にシルヴィア・リューネハイムの手に…】

【胸元が開いた服に銀のネックレス。黒を基調としたファッションと眼鏡が合う。落ち着いたセクシーさに女性はメロメロ。しかし隠しきれない野性味が更に印象的】

【シルヴィア氏のコメント:『ここまで変わるとか卑怯じゃないですか?』】

 

後日、ヘルガの執務室では、眼鏡を掛けて仕事をする八幡とその八幡を眺めながら雑誌を切り抜く警備隊長の姿が、部下によって目撃された。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「暇だな」

「おい警備隊長。書類がまだ残ってんぞ」

「……なぁ八幡よ」

「聞く耳はない」

「ラーメン奢るぞ?」

「聞こうじゃないか」

 

3秒で手のひらクルーを見せた俺に8万ポイント。ちなみにこのポイントは貯めても特に意味は無い。そして累計ポイントは35億と5000万くらい(適当)

 

さて、何の用なのやら。いつになくボーッとしている感じだが、熱でもあるのだろうか。それは心配だが…

 

「………何故だろうな、思う様に体も頭も動かん」

「やっぱ熱じゃねぇか…どれ」

 

額に手をつけると、めちゃくちゃ熱かった。というか汗も凄いし顔は真っ赤。あー陽の光、逆光で見えてなかったけど相当酷かったんだな。

 

「おい、医務室行くぞ。こりゃ酷い」

「うぁ……歩きたくない……」

「…チッ、おら」

 

椅子の前にしゃがみ、背中に乗れという合図を送る。ヘルガは乗ったというより俺の背中に落ちるように倒れ込んできた。…少女の姿でよかった。背中の柔らかい感触がいくらかマシだ。まぁいい匂いはするんだけど。

 

「仕事…」

「いーよもう俺がやっから。今は大人しく寝てろ、んで今度ラーメン奢れよ」

「…うむ」

 

俺の首に腕を回し、落ちないようにしがみつきながら彼女は寝息を立て始めた。ま、寝れるんならいいや。寝れない辛さが一番しんどいもんな。

さて、医務室行きますかね…

 

 

「んじゃ、後はよろしくです」

「はいよー。ありがとね隊長の事連れてきてくれて」

「や、まぁ。近くに居たからですし」

「ふーん…ま、仕事の引き継ぎは私から連絡するし今日は帰っていいと思うよ」

「うす、んじゃ」

 

ヘルガをベッドに寝かせ、近くの椅子に座り常駐の医者に見てもらった。軽い熱だそうで、まぁ安静にしてりゃ明日にでも元気になるそうだ。…どうせ前みたいに腹出して寝てたんだろうな。

 

立ち上がる際、ベッドに片手を置いて力を込めた。だからか、ヘルガが軋みで少し目を開けてしまう。

 

「あ、悪い…」

「……八幡?」

「おう、今から帰るわ」

 

そう言ってカーテンの方へ向かい、開けて医務室を出ようとする。最後に顔を見て手でも振ってやろうとしたのだが…失敗した。いや、これで良かったのだろうが、この時の俺は失敗したと思ったんだ。

 

泣きそうな顔で、必死に俺に手を伸ばしてるヘルガがいたから。

しゃーなし、その手を掴むためにカーテンは閉め直し、椅子にも座り直す。

 

ホッとした表情になり、再びヘルガは眠りについた。

 

「あら、帰らないの……って、あーらあら」

「…ま、どうせ暇なんで」

「ベッド。隣のとくっつけようか?」

「余計なお世話です」

 

ずっと手を繋いだままだったヘルガはこの後夜中まで目を覚まさなかった。医者の人はずっと俺と一緒にいてくれたが、何枚も写真を撮られてしまう。

目を覚ましたヘルガは、始めて俺に困惑した顔を見せた。ま、役得だと思っておくかね。

 

 

しかし何故俺は頬にモミジを作っているのだろうか。大方、汗を拭くヘルガと医者さんの事を考えずカーテンをオープンしたからだろうが、まぁこれも役得って事ですいませんでした許してください。

 

しかしちゃんと体調を直したヘルガは翌日、謝罪と感謝とともにラーメンを奢ってくれた。

替え玉を3回したら今度は俺が医務室の世話になるハメに。お腹痛いよぅ……

 

 

 

 

△▽△

 

 

第一回ヘルガの寝顔撮影事件の容疑者、医者さんが本人直々にボコボコにされ、本当の意味で医務室の住人になりかけた翌々日。相も変わらず俺は歓楽街に足を運んでいた。

 

「おーアレか…」

 

理由はディルクの依頼である。

 

『あ?歓楽街に星脈世代を狙った薬物取り引きが行われる廃ビルがあるだぁ?』

『ああ。ジェネステラ同士で暴れさせようって話らしい。猫に掴ませた情報によれば、販売元までは分からないまでも販売人の素性は割れた』

『物騒な…で?俺を通してヘルガに出動させるつもりか?』

『馬鹿言え。これ以上歓楽街に警備隊はいれたくねぇよ』

『またなんかやってんのかお前…いいぜ、何処で誰がやってやがる』

『ロートリヒトの外れ、再開発エリアに近い元カジノが運営されてたビルでな。そこだけ赤い鉄骨が剥き出しだから場所は分かり易いぜ。…で、販売人だが、元レヴォルフ、界龍の在名祭祀書にいた奴が数十人だ』

『規模がでけぇな…』

『翡翠の黄昏以来のテロかもしれん。…穏便に処理してほしいが、ダメなら派手にやっちまえばいい』

『いいのか?警備隊が…』

『お前が本気出さなきゃいけねぇ相手を放っておけるか、今ですら危ねぇと思ってんのによ』

『りょーかい』

『頼んだぞ』

 

という訳だ。真夜中だが、まぁあのビルの目立つ事目立つ事。大声で笑い、光は爛々と輝き、隠す気ある?ってくらいとち狂った騒ぎだ。あそこだけ床あるけど強度心配だなぁ。

まぁ突入すりゃいいか。俺は空で飛びながらゆっくりと降り、騒ぎのある階の一つ上の鉄骨に乗る。まずは会話でも聞いとくか。

 

「あー最っ高にいいぜ…頭が冴えやがる…」

「新しいのねぇのか?」

「どんどんキメろ!明日はいよいよアスタリスクを滅ぼす戦争の日だ!」

「ヒャッハー!!」

「酒もねぇぞー!?」

 

いや普通に黒じゃん。これには俺も驚く。…ディルクにメッセ送るか。

それにしても…アレだな。全員で何人なんだ?元ネームド・カルツが数十人で、いやそれ以上…ざっと見ても50はいるな。制服着てるバカが数人いるが…おいおいガラードワースまでいやがるぜ。一応学校派閥的なのがあるのか、似たような雰囲気の奴は固まってんな。

 

薬は…注射と吸い込むタイプの2種か。趣味悪いな。ついでに胸糞も悪い。

 

『悪いディルク。最初から本気で行く』

 

「『神風』」

 

とりあえず、ゴミと薬は一緒にお掃除だ。集まってる連中のど真ん中に神風を起こし、全員を吹き飛ばした。

さ、大人しく捕まってくれると有難いんだけどねぇ。

 

 

 

 

△▽△

 

 

「な、なんだぁ!?」

「うがぁあああ!?」

「や、(ヤク)が!!」

 

多分五階位から落ちただろう奴らは、そのほとんどが普通に地面に立ってた。何人か転がってるが、呻いてるし死んではねぇだろ。…あ、猫さんが回収してくれてら、サンクス。

 

「ちくしょうどこのどいつだ!!」

「出てこい!?警備隊かっ」

 

残念、学生です。

ここで姿を見せる愚行は犯さず、闇夜に紛れながら空を飛び、その際にも神風を起こして攻撃する。空裂も混ぜてるからか、すぐに何人も切り刻めた。

 

「…」

 

そんな中、始めは動揺っぽい事をしてた割に今は落ち着き、空裂も神風も避けた奴が7人もいる。…ただもんじゃねぇな。威力相当強いはずだが…アレが例の。

気付けば、そいつら以外は地面に寝ていた。血塗れの奴もいるが、欠損や致命傷は避けたから大丈夫だろ。

 

猫さんに回収を任せ、俺はそいつらにまたしても神風を送る。全員顔をマスクで覆った彼らは、大きく横っ飛びする事で回避。直撃した赤い鉄骨ビルは轟音を立てて倒壊し始める。

 

「あ、やべっ」

 

すぐさま空壁で身を守り、風で土埃を晴らす。すると後に気配がしたので、懐に手を突っ込んで手に取ったナイフを投げた。

キィンと音を立てて何処かに弾かれたナイフを他所に、両サイドに増えた気配に向けて空裂。が、手応えも悲鳴もない。オイオイ相当手練なんじゃねぇのか…?

 

「シッ」

「ハッ」

 

短い息と同時に吐き出された声と共に、今度は気配を四つ感じた。跳躍し、空裂。だがこれも地面を破壊するだけ。そしてまたその姿を表した7人の手には、俺が先程みた注射ではない別の注射が握られていて、それは既に中身が撃ち切られようとしていた。…嘘だろ?

 

中身がなくなった注射器を、奴らは投げ捨てる。すると全員が発狂し始め、見えていた部分の皮膚が赤く染まり始める。苦しむ彼らを見て、俺は気を失わせようとやむなく電力を使った。

 

しかしそれは他でもない彼らの腕によって打ち払われた。……なんだ、あの皮膚。電力が防がれた?

 

「「「がるぅゥウアアァあぁAAAーーーーーッ!!!」」」

 

そして彼らは、最早人ではない声を出して俺に襲い掛かってきた。

 

 

 




しんどいので今日はこれだけ


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