9人の少女と生き別れた姉弟 (黒 雨)
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~Prologue~
不思議な夢


はじめまして。黒雨です。
今回初投稿です!
誤字などありましたらコメントでお願いします。


僕はいつも同じ夢を見ていた。

それは沈む船の中、瓦礫の中に埋もれて身動きが取れない少年と少年の行方を捜す少女の夢だ。

 

少女は泣きながら必死に少年の名前を叫んでいるようだが周りの音に掻き消され、少年の耳には届かない。 やがて大人達がやって来て少女を安全な場所へ連れてった。少女は少年の事を大人達に伝えたが、大人達は少年の捜索を諦め、船から離れた。そして船が完全に沈んだ時、僕は長い夢から目が覚めて、いつの間にか自分のペンダントを握りしめていた。

冬休み終わりの朝、僕は目覚ましに設定した時間よりも早く起きた。一体あの夢は何なのか、考えてもキリがないので、

 

 

「・・・朝ご飯でも食べるか」

 

 

と思いフラつきながらベッドから降りて部屋を出ようとすると、突然部屋のドアが開き、

 

 

「起きろ~祐!朝だぞ~!」

 

 

と僕の姉、松浦果南が叫んだ。姉さんは僕の1つ上の高校1年生だ。

 

 

「おはよう姉さん。僕はもう起きてるよ」

 

 

「おはよう祐。じゃあ早速・・・ハグしよ」

 

 

と言って僕に抱き着いてきた。姉さん曰く、これが朝のスキンシップらしい。急なハグだから受け止めることが出来ずバランスを崩して倒れ込んでしまった。

 

 

「アッごめん。大丈夫?」

 

 

「まぁ何とかね。いきなりはこっちもビックリするよ」

 

 

「アハハ、ゴメンゴメン。それよりも早く朝ご飯食べてジョギングに行くよ!外で待ってるからね!」

 

 

「は~い」

 

 

姉さんに催促されて僕は急いで朝ご飯を済ませてペンダントを首に下げ、外で待ってる姉さんとジョギングに向かった。ゴールは淡島の山頂。そこまではかなりの距離があるが、姉さんと僕は日課で毎日走っている。走ってる時の姉さんはいつも楽しそうにしている。

 

 

「祐。今日もいい天気だね」

 

 

「そう?僕にはいつもと同じ天気に見えるけど」

 

 

「違いが分からないなら祐もまだまだだね」

 

 

と軽い会話をしている間に淡島の頂上に着いた。頂上に着いたら僕は神社でお参りをし、姉さんは境内で踊りの練習をしている。姉さんは前まで部活で踊っていたが、ある事情により部活を終わりにし、それ以降ずっとここで毎朝踊っている。踊っている時もジョギング同様楽しそうだ。

 

お参りを終えた僕と踊り終えた姉さんは頂上から少し降りた所にあるテラスで休憩してから家に帰るようにしている。休憩してる時に姉さんが、

 

 

「そういや祐は中学を卒業したら何処の高校に行くかもう決めたの?」と聞いてきた。

 

 

それを聞いて、僕は思わず目をそらした。決まってないからだ。すると姉さんは僕の頬を引っ張った。

 

 

「こ~ら!お姉ちゃんに隠し事はしない約束でしょ。どうせまだ決まってないんでしょう」

 

 

「痛い痛い痛い!決まってない決まってないよ!」

 

 

僕が答えると、姉さんは頬を引っ張るのを止めた。

 

 

「もうどうするの?このままだと決まらないままだよ。」

 

 

「それはそうだけど・・・・・・」

 

 

「早く決めときなよ。さぁ早く帰ろう。急がないと学校に遅れるよ」

 

 

僕と姉さんは家に戻ってそれぞれ学校へ向かった。

 




ありがとうございました。
不定期投稿ですがよろしくお願いします!
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共学化テスト生

こんばんは、黒雨です。
早めに2話を投稿する事が出来ました。
お気に入り登録して下さった方がいたので嬉しかったです!それでは2話をどうぞ!


学校へ向かっている間、僕はペンダントを見ながら夢の事を考えていた。何故僕はこの夢を見るのか、あの子達は誰なのか、そして夢から覚めたら何故ペンダントを握りしめているのか。そう考えているとうしろから、

 

 

「お~い!祐~君!」

 

 

という大声が聞こえてきた。うしろを振り向くと、二人の幼馴染が走ってきた。一人の名前は高海千歌。内浦で旅館を経営してる三姉妹の末っ子だ。もう一人の名前は渡辺曜。船乗りの父親をとても尊敬している。

 

 

「おはよう。千歌ちゃん、曜ちゃん」

 

 

「おはよう祐君!」

 

 

「祐君。おはヨーソロー!」

 

 

挨拶を交わした僕達は一緒に学校へ向かった。しかし、学校へ行ったとしても僕は特にやることは無い。周りの皆は次の道を決めていて、そのために頑張っている。僕だけが次の道を決めていない。まるで、僕だけ場違いのような気がして学校に居づらい。そうして僕はただただ時間が過ぎるのを待っていた。

 

ようやく学校が終わり校門を出ようとすると、うしろから千歌ちゃんと曜ちゃんが追いかけてきた。

 

 

「祐君。一緒に帰ろう!」

 

 

「うん。いいよ」

 

 

曜ちゃんとは帰り道が別なため、校門で別れて僕は千歌ちゃんと二人で帰って行った。やがて千歌ちゃんの家の旅館に着いて千歌ちゃんと別れて僕は家に帰った。

 

家に帰ると姉さんが待っていた。

 

 

「ただいま~」

 

 

「お帰り祐。ご飯出来てるから早く食べよう」

 

 

「うん」

 

 

そして夕食を食べ終わり、僕と姉さんは一息ついていた。

 

 

「そういや祐はまだ決まって無いんだよね?」

 

 

「・・・・・・うん。そうだよ」

 

 

「じゃあさ、浦の星なんてどう?」

 

 

「・・・・・・はい?」

 

 

「だから浦の星女学院なんてどうって聞いてるの」

 

 

「姉さん冗談キツいな~。浦の星は女子校でしょ?無理に決まってるじゃん」

 

 

「大丈夫だよ。ほら」

 

 

そう言って姉さんは僕にあるプリントを見せて来た。それは、「浦の星女学院共学化テスト生募集」と書かれたプリントだった。

 

 

 

「浦女も年々生徒が減っているから、共学化を考えているんだって。祐、どうする?一応父さんと母さんはいいと言っているよ」

 

 

「・・・・・・浦の星に行ったら見つかる?僕のやりたい事」

 

 

「きっと見つかるよ。お姉ちゃんの言うことは正しいんだから」

 

 

「分かったよ。姉さんがそこまで言うのなら僕、この募集受けてみるよ」

 

 

「ありがとう信頼してくれて。じゃあ明日、学校が終わったら浦女へ行ってね。ダイヤが待ってると思うから」

 

 

「うん、分かった」

 

 

こうして僕は明日、浦の星女学院へ向かう事となった。




ありがとうございました。
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あの時の決断

こんばんは、黒雨です。
このお話のUAが1000を超えてたので嬉しかったです!
これからも不定期ですがなるべく早く更新していこうと思いますのでよろしくお願いします!
それではどうぞ!


次の日、学校終わりの僕は二人に用事があると言って先に帰ってもらって浦の星女学院へ向かった。学院前の坂道を登りきると校舎が見え、その校門前に一人の生徒が立っていた。その人は僕もよく知っている人だった。

 

 

「お久しぶりです。祐さん」

 

 

「ダイヤさんも元気そうで」

 

 

黒澤ダイヤ。姉さんの親友で、小学生の頃はよく四人で遊んだり、家に行ったりもした。

 

 

「生徒会室へ案内しますからついてきてください」

 

 

と言われ、僕はダイヤさんについて行った。

 

生徒会室に着き、中に入ると机があり、その上にはテストの問題用紙と解答用紙があった。

 

 

「・・・これは?」

 

 

「今年から入る一年生の入学テストですわ。たとえ共学化テスト生でも入学なのですから受けてもらいます」

 

 

「いきなりテストと言われても僕勉強してきてませんよ?」

 

 

「ご心配なく。祐さんなら解けると思っています。それに祐さんがよく勉強している事は果南さんからよく聞いていますから」

 

 

「出来れば姉さんも勉強してほしいんですけどね」

 

 

「フフッ。そうですわね」

 

 

やがて、テストが終わり解答用紙をダイヤさんに渡した。その後に十分間程度の面接を受け、入試試験は終わった。

 

 

「これで入試試験は以上です。合否結果は果南さんに伝えておきますわ。お疲れ様でした、祐さん」

 

 

「ダイヤさんこそこんな時間まで監督役してくれてありがとうございます。では僕はこれで」

 

 

と言って帰ろうとすると、

 

 

「お待ちを」

 

 

とダイヤさんが呼び止めた。

 

 

「祐さんに最後の質問をしてよろしいですか?」

 

 

「いいですけど何ですか?」

 

 

「あの時、私と果南さんの出した決断は祐さんからみて正しかった決断だと思いますか?」

 

 

あの時の決断というのは、姉さんとダイヤさんが大切な親友の未来の為に部活を終わりにした事だ。僕はその時、その場にいなかったからどういう状況か分からなかったけど、姉さんから全て聞いた。

 

 

「僕にはわかりません。正しかったと言えば嘘になるし、間違っていたと言っても嘘になります。でも僕はいつかまた三人が手を取り合える日が来ると思っています」

 

 

「相変わらず祐さんは選ぶ事が出来ないのですね。まぁそれが祐さんらしいですけど」

 

 

「それ褒めてますか?」

 

 

「褒めてるのですよ。でも祐さんの思いが聞けてよかったですわ。ありがとうございます」

 

 

「じゃあ僕はそろそろ帰りますね。早くかえらないと姉さんが待ちくたびれてると思うので」

 

 

「はい。今日はお疲れ様でした。さようなら、祐さん」

 

 

「さようなら、ダイヤさん」

 

 

そう言って僕は生徒会室を出て浦女を後にした。

 

後日、姉さんから浦女の入学試験合格を聞いて、春から浦の星女学院共学化テスト生として学校に通うこととなった。




ありがとうございました。
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図書室の後輩

こんばんは、黒雨です。
少し遅目の投稿となりました。
それではどうぞ!


僕は休み時間によく図書室で過ごしている。理由は単純に本を読む事が好きというのもあるが、それとは別に自分がよく見る夢と似たような内容の本が無いかを探すためというのもある。

 

図書室に入ると、静かな空間の中1人の少女が本を読んでいた。その少女は僕に気づくと本を読むのを止めた。

 

 

「お久しぶりずら、祐さん」

 

 

「久しぶりだね、花丸ちゃん」

 

 

少女の名前は国木田花丸。内浦にあるお寺の娘さんで僕の一つ下の後輩中学二年生。花丸ちゃんとは友達の紹介で知り合い、お互い本を読むのが好きで息が統合し、図書室でもお勧めの本を教えて貰ったりしている。

 

 

「祐さんが受験を頑張っている間にお勧めの本がたくさん見つかったから今度読んでほしいずら」

 

 

と言って花丸ちゃんが持ってきたのはたくさん積み上げられた本の山だった。

 

 

「アハハ。今度読んでみるよ(これだけの量全部読み切れるかな・・・・・・)」

 

 

と少し頭を悩ませてると、図書室の奥から、

 

 

「ピギィィィ!!」

 

 

という叫び声と本棚から本が落ちて来る音がした。

 

 

「ひょっとして今のは・・・」

 

 

「きっとルビィちゃんずら。多分上の方にある本を取ろうとしてたら落ちてしまったんだと思うずら。という訳で祐さん、ルビィちゃんの事を任せたずら」

 

 

「そこまで分かってるんだったら花丸ちゃんが助けに行けばいいんじゃ」

 

 

「オラは女の子だからルビィちゃんが怪我してた場合保険室まで運んで行けないし、それに祐さんのような男の人がいるのにこんなか弱いマルに運ばせたら祐さんはひどいずら」

 

 

「反論しようが無いね。じゃあ行ってきますよ」

 

 

花丸に論破されて僕は図書室の奥へ向かった。その時ふと思った。

 

 

「あれ?花丸ちゃん確かあの本の山を一人で持ってたし、あの本の山の重さよりルビィちゃんの方が絶対軽いような気がするんだけど。もしかして僕騙された?」

 

 

そう考えていると、奥に上から崩れ落ちて来た本の山があり、その前に一人の少女が立っていた。

 

僕はうしろから声をかけた。

 

 

「ルビィちゃん大丈夫?」

 

 

「ピギャッ!?祐さん!?」

 

 

少女の名前は黒澤ルビィ。ダイヤさんの妹で中学二年生。極度の男性恐怖症だが、ルビィちゃんの父親と昔遊んでた僕には心を開いている。

 

 

「そこまで驚かなくても・・・・・・」

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

「大丈夫だよ。それより何してたの?」

 

 

「実は、上の本を取ろうとして何とか取れたんですけど、その時に横に並んでた本が落ちちゃって・・・・・・」

 

 

「・・・・・・なるほど、それはついてなかったね。まぁでも怪我が無くて良かったよ。花丸ちゃんも心配してたから。ここの本は僕が戻しておくから先に花丸ちゃんの所に戻っていいよ。」

 

 

「でも、祐さんがやったわけじゃないのに」

 

 

「いいのいいの。それにルビィちゃんに戻さして僕だけが戻ったら花丸ちゃんに何て言われるか分からないからね。だからここは僕に任せてよ」

 

 

「・・・・・・はい!ありがとうございます!」

 

 

そう言ってルビィちゃんは花丸ちゃんの所へ戻って行った。そして僕も落ちた本を元の位置に戻して二人の所へ戻った。そして三人で休み時間を過ごした。




ありがとうございました。
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堕天使降臨

こんばんは、黒雨です。
これからは週に一回の投稿を目標に頑張って行きます!
それではどうぞ!


ついに中学を卒業し、来年から高校生になる僕は卒業旅行も兼ねて沼津に来ていた。といっても、内浦に自分の欲しい本とかが売ってなかったら沼津に行ってるため旅行というよりは買い物気分だ。

 

 

「さてと、早速本屋へ向かうとするか。今日発売の新刊があればいいんだけど」

 

 

という思いで頭がいっぱいだったのか、前の歩いている人に気付かずそのままぶつかってお互いに尻もちをついてしまった。

 

 

「イテテ。あっ、すいません!前を見ていなくて。大丈夫ですか?」

 

 

僕はぶつかった人に尋ねた。どうやらぶつかったのは女の子だった。頭とか打って無かったらいいけどと思った瞬間、

 

 

「クックック、この堕天使ヨハネの声が聞こえ、姿を感知するとはあなたはタダの人間では無いわね?」

 

 

女の子は急に立ち上がり何かを喋り出した。あまりの急だったので僕は考えが追い付かず、ただ立ち尽くしていた。そんな僕を置いて女の子は話を続ける。

 

 

「まさか下界に私の存在を気づく人間がいるとは・・・・。フフフ、これも何かの運命。あなた、このヨハネと契約し、リトルデーモンとなって一緒に堕天してみない?」

 

 

ヤバい!こっちに振ってきた!どう返せば良いのか考えていると、

 

 

「迷っているようね。でもヨハネはもう行かなければならないわ。だから答えは待って上げる。また深淵の夜に会いましょう」

 

 

と言って堕天使ヨハネ?は僕にメモらしきものを渡して走り去っていった。

 

 

「何だったんだあの子?」

 

 

と思いながら渡されたメモを見ると、そこには動画の題名とメールアドレスらしきものが書かれてあった。僕は少し考え、まぁ悪い子じゃなかったし、頭を打ってた場合、謝罪もしなきゃいけないと思ったのでアドレスを登録すると、名前の一覧に「津島善子」が出てきた。それを見て、僕はあの子が頭を打った訳ではなく中二病だという事が分かった。すると早速、登録した津島善子からメールが届いた。メールを開くと、そこには堕天使ヨハネではなく津島善子の内容で書かれてあった。

 

 

「ごめんなさい!あの時は私も前を見えていなくて」

 

 

ヨハネなら絶対に言わないなと思いつつ僕は返信をした。

 

 

「いえいえ、僕は気にしていませんよ。むしろ僕の方こそ前を見てなかったし」

 

 

「ありがとうございます。ではヨハネはリトルデーモンを増やす儀式の準備に戻るわ。儀式に参加したければヨハネの元へいらっしゃい。いつかあなたをヨハネのリトルデーモンにしてみせるわ」

 

 

これでメールのやりとりが終わった。(最後の内容はあまり理解が出来なかったけど・・・・・・)

 

これ以降、僕と善子ちゃんはメールでやりとりするような仲だったけど、この関係から一年経ち、高校一年生の終わりぐらいになると僕が善子ちゃんの悩み相談を受けるような親しい仲になった。どうやら善子ちゃんの悩みは高校生から堕天使要素を無くしリア充になりたいらしいのだが、普通にやりとりしてる時に堕天使が入る地点でリア充になるのはまだまだ先のようだと僕は思った。




ありがとうございました。
次回からアニメ本編に入る予定にしています。
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一学期 ~First Season~
始まりの朝と入学式


こんばんは、黒雨です。
今回からアニメ本編に入ります。
それではどうぞ!


ビルが立ち並ぶ大都会。その中にある小さな公園で一人の少年と一人の少女が仲良く遊んでいた。少年はいつも前を走っていて、少女は後ろから追いかけていた。

 

 

「ほら!( )姉ちゃん早く!」

 

 

「待ちなさい( )!怪我してしまいますよ!」

 

 

やがて、少女は少年に追いつき少年の手を掴んで止めようとしたが、少年の手に触れた瞬間、少年は少女の前から消えてしまった。すると、公園が無くなり、いつの間にか少女は真っ暗な空間に一人で立っていた。

 

 

「・・・・・・やっぱり弟はあの船から戻ってないのですね」

 

 

と言って少女は目に涙を浮かべてその場にしゃがみこんでしまった。

 

 

「・・・・・・( )、どうして私をおいて先にいってしまうのですか?私を一人にしないで下さい・・・・・・」

 

 

少女が泣きながらそう呟いた時、夢が終わり僕は目を覚ました。そして手元を見ると、やはりペンダントを握りしめていた。

 

四月の始まりの朝、昨日まで降ってた大雨が嘘のように止んで、晴れ間が指していた。僕は朝ご飯を食べようと起き上がろうとしたが、何故か身体が動かない。唯一寝返りだけは打てるので後ろを振り向くと、まだぐっすり眠っている姉さんの寝顔が目の前にあった。更に下を向くと、僕の背中に姉さんの手がまわっていた。つまり、僕が動けないのは、姉さんが僕を抱き枕代わりにしているからだった。僕は起きないと学校へ行く準備が出来ないため、姉さんを起こす事にした。

 

 

「姉さん起きて。もう朝だよ」

 

 

「う、う~ん。おはよう、祐」

 

 

「おはよう姉さん。早速だけどこの手を解いてくれない?じゃないと僕が起きれないよ」

 

 

「あっごめんごめん」

 

 

そう言って姉さんは手を解いてくれた。

 

 

「ありがとう。にしてもどうして僕を抱き枕代わりにして寝てたの?」

 

 

僕は姉さんに尋ねた。

 

 

「・・・・・・だって、怖かったから//」

 

 

と姉さんは少し顔を赤くして恥ずかしながら答えた。そういえば確か姉さんは雷やお化けが苦手なんだった。だから昨日の夜、僕が寝ようとしてたら姉さんが部屋に入って来て一緒に寝る事になったんだった。

 

 

「それより祐。今日は浦女の入学式でしょ?確か生徒会も仕事があるんじゃなかったの?」

 

 

「そうだった!じゃあ僕はもう準備して行ってくるよ」

 

 

「行ってらっしゃい。私はまだ休学中だから学校で何かあったら教えてよ」

 

 

「うん、分かった。行ってきます」

 

 

そう言って僕は行く準備をして学校に向かった。

 

連絡船に乗ってる間、僕は浦の星女学院に入学した時の事を思い返していた。初めは、生徒全員が女子の学校に男の僕が入ったらどうなるのかと心配していたが、知り合いもいたせいか、思ったよりも早く学校に馴染めた。今では、生徒会に入って学校の為に頑張っている。

 

やがて船着き場に着き、そこからバスで浦女前の停留所で降りて目の前の坂を登り学校に着いた。まずは、今日の入学式での仕事を確認する為、生徒会室へ向かうと、ダイヤさんが既に待っていた。

 

 

「おはようございます。ダイヤさん」

 

 

「おはようございます。祐さん。早速ですが入学式の準備に取り掛かりますわよ。私は体育館内で先生方の手伝いをしますから、祐さんは体育館前の受付で一年生の出欠確認をお願いします」

 

 

「分かりました。じゃあ早速行ってきます」

 

 

そう言って僕は生徒会を出て、体育館前の受付の椅子に座って一年生の出欠確認を行なっていた。やがて全員の出欠が取れ、受付で休憩していると、

 

 

「あっ!祐さんだ!」

 

 

「本当にいたずら」

 

 

と聞いたことのある声が聞こえた。顔を上げると、ルビィちゃんと花丸ちゃんがこっちに走ってきた。

 

 

「二人とも浦女だったんだ。入学おめでとう」

 

 

「えへへ。ありがとうございます」

 

 

「ありがとうずら。いえ、ありがとうございます」

 

 

「・・・・・・ルビィちゃん。もしかして花丸ちゃん、方言を治そうとしてる?」

 

 

「はい。そうなんです。ルビィは気にしなくていいよって言ってるんですけど・・・・・・」

 

 

「僕も全然気にしていないけど、本人が頑張ってるなら応援するよ。頑張れ花丸ちゃん」

 

 

「祐さんありがとうずら。いえ、ありがとうございます」

 

 

「花丸ちゃんそろそろ体育館に行こう」

 

 

「分かったずら」

 

 

と言って二人は体育館に走っていった。僕は二人が行ったのを確認し、周りに人がいない事を確認してから口を開けた。

 

 

「もう周りには誰もいないよ。それにいつまでもそこにいたら入学式に参加出来なくなるよ。善子ちゃん」

 

 

「ヨハネ!」

 

 

と言って木の陰から善子ちゃんが出てきた。

 

 

「何で祐がここにいるのよ!?ここは女子高よ!」

 

 

「そうだけど。もしかして善子ちゃん学校の入学案内に目を通してないの?この学校は去年から共学化テスト生として男子が1人在籍してるんだよ。それが僕だよ」

 

 

「そうなの?てっきりヨハネの魔力に導かれて来たのかと」

 

 

「絶対に違うね。後堕天使が出てるよ」

 

 

「はっ!しまった!今日から堕天使ヨハネじゃなく津島善子として生活する筈だったのに!」

 

 

「何か先が思いやられるけど、まぁ頑張れ」

 

 

「あ//ありがとう」

 

 

善子ちゃんは少し顔を赤くして体育館へ走っていった。

 

そして、入学式が始まった。まだ理事長が着任してないので、僕が進行役をし、ダイヤさんが代わりに挨拶をして入学式は何の問題も無く終了した。




ありがとうございました。
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スクールアイドル

こんばんは、黒雨です。
次話位で梨子ちゃんと鞠莉さんが出てAqoursメンバーが全員出た事になると思います。
それではどうぞ!


入学式の後片付けが終わり、僕は生徒会室に戻って一息ついていたら、外でやってる部活動勧誘の見回りをしていたダイヤさんが戻って来た。

 

 

「おかえりなさい。お茶でも飲んで一息つきます?」

 

 

「そうしたいですが、今から生徒会室に来る生徒を注意しなければなりません」

 

 

「注意?何かあったんですか?」

 

 

「えぇ。実は先ほど部活動勧誘の見回りをしていたら、申請をしていない部活動が勧誘のチラシを配っている生徒がいたのでその生徒を生徒会室に呼び出しました。これがそのチラシです」

 

 

と言ってダイヤさんはそのチラシを僕に渡した。それを見ると(スクールアイドル部)と書かれてあった。

 

スクールアイドル、それは数年前から有名になっている言葉だ。学校でアイドルを結成し歌ったり踊ったりして(ラブライブ)というスクールアイドルの頂点を決める大会を目標にしているグループだ。

二年前、ここ浦女にもスクールアイドルは存在していた。しかしある事をきっかけに解散した。今でもその事を思い出すと胸が痛くなる。そう感じていると、生徒会室のドアをノックする音が聞こえた。

 

 

「入りなさい」

 

 

そうダイヤさんが言うと生徒会室のドアが開き、

 

 

「失礼しま~す」

 

 

と言って1人の生徒が入って来た。その生徒の顔を見ると明らかに知っている幼馴染だった。

 

 

「え〜っと・・・・・・千歌ちゃん?」

 

 

「あっ祐君!ここに居たんだ!何処にもいなかったんだから探してたんだよ?」

 

 

「僕に何か用でもあったの?」

 

 

「うん!私ね、スクールアイドル始めるの!だからね、部員募集の為に一緒にチラシを配って欲しかったの」

 

 

「このチラシは千歌ちゃんのだったんだね。でも部の申請の許可は降りたの?」

 

 

「まだ降りてないけど?」

 

 

「え・・・・・・」

 

 

千歌ちゃんの思わぬ返答に戸惑ってると、

 

 

「つまり、申請の許可無しに勧誘をしていたという事ですの?」

 

 

とダイヤさんが話を本題に移した。

 

 

「・・・・・・はい。みんなやってるから良いかな~と思って」

 

 

「部員は何人ですの?」

 

 

「今のところ~1人です」

 

 

「部の申請には最低でも5人以上は必要と書いてありますよね?」

 

 

「だから~こうして集めてたんじゃないですか~」

 

 

状況が分かってない千歌ちゃんにダイヤさんの怒りも頂点に達し、机を強く叩いて立ち上がった。これはちょっとまずいと思って仲介に入ろうとしたが、机を思ったより強く叩いてしまったのか、「痛った~」と言いながら手を抑えていた。

 

 

「大丈夫ですか?」と僕が声をかけると、

 

 

「いえ、大丈夫です。ご心配なく」とダイヤさんは答えた。

 

それを見ていた千歌ちゃんはクスクスと笑っていた。

 

 

「笑える立場ですの!?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「とにかく!こんな不備だらけの申請書。受け取れませんわ」

 

 

「え~!」と驚く千歌ちゃんに、

 

 

「千歌ちゃん。今日は引き返そう」

 

 

と生徒会室の外で待っていた曜ちゃんから撤退の指示が出た。

 

 

「う~、なら5人集めてまた持ってきます」

 

 

「別に構いませんが、それでも申請は致しかねますがね」

 

 

「どうしてです?」

 

 

「私が生徒会長でいる限り、スクールアイドル部は認めないからです!」

 

 

「そんな~!」

 

 

と言われた千歌ちゃんは少し落ち込んで生徒会室から出て行った。

 

 

「何となく千歌ちゃんの事だからまた来ると思いますけど、その時もダイヤさんは断りますか?」

 

 

「えぇ、あの様な事があった以上、かつての私達と同じような思いをさせる訳にはいきませんわ。っともう少しで朝礼の時間です。それぞれ教室に向かいましょう。ではまた」

 

 

そして学校が終わり、校門を出て船着き場で帰りの船を待ってると、

 

 

「祐君!」と言って後ろから千歌ちゃんと曜ちゃんが追いかけて来た。

 

 

「二人ともどうしたの?帰りはバスじゃなかった?」

 

 

「実はお母さんから回覧板を預かってるから、祐君の家に届けに行くの」

 

 

「私はその付き添い。休学してる果南ちゃんに会いに行くの。今から会いに行って大丈夫?」

 

 

「この時間だと閉店の時間だから、多分姉さんは片付けしてる最中だから大丈夫だよ」

 

 

と話してる間に帰りの船が来たのでそれに乗って家へ向かった。家に帰ると、姉さんはまだ片付けの最中だった。

 

 

「おかえり祐」

 

 

「ただいま姉さん。千歌ちゃんと曜ちゃんが遊びに来てるよ」

 

 

「お~い!果南ちゃん遊びに来たよ」

 

 

「二人とも遅かったね。今日は入学式だけでしょ?」

 

 

「それが色々あって・・・・・・」

 

 

「はい。お母さんから回覧板とおすそ分け」

 

 

「どうせまたみかんでしょ?」

 

 

「文句はお母さんに言ってよ~」

 

 

「ふふふ。ありがとう。じゃあ祐。これ家の台所に置いといてくれない?後、おすそ分けもそこにあるから取ってきて」

 

 

「は~い」

 

 

僕は台所でおすそ分けの干物を持ってテラスに戻ると、千歌ちゃんと曜ちゃんはテーブルで座っていて、姉さんは片付けをしながら2人の話を聞いていた。

 

 

「それで、果南ちゃんは学校に来れそう?」

 

 

「う~ん、まだ仕事も結構残っててね。父さんの骨折もまだ治らないし、まだかかりそうだよ」

 

 

「やっぱり僕も何か手伝おうか?」

 

 

「いや、いいよ。祐は生徒会の仕事があるでしょ?だからここは私に任せてよ」

 

 

「うん、分かったよ」

 

 

「そっか~。果南ちゃんも誘いたかったな~」

 

 

「うん?誘う?」

 

 

「うん!私、スクールアイドル始めるんだ」

 

 

それを聞いた時、片付けをしていた姉さんの手が一瞬止まった。

 

 

「ふ~ん。でも私は千歌達と違って3年生だからね~」

 

 

と言っておすそ分けの干物を持ってスクールアイドルについて語ろうとする千歌ちゃんの顔に押し付けた。

 

 

「また干物~」

 

 

「文句は母さんに言ってよ。そういう訳で、私はまだ休学続くから、千歌達も学校で何かあったら教えてよ」

 

 

「う、うん」

 

 

話が終わった時、家の上空をヘリが飛んで行くのが見えた。

 

 

「あれ何?」と疑問を浮かべる千歌ちゃん達に対して、

 

 

「・・・小原家でしょ」

 

 

と姉さんはヘリを見ながら険しい顔で答えた。

 




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それぞれの思惑

こんばんは、黒雨です。
週一の投稿を目標として頑張っています。
それではどうぞ!


やがて千歌ちゃん達の帰って行く姿が見えなくなった時、姉さんが僕に尋ねてきた。

 

 

「・・・・・・祐は知ってたの?千歌がスクールアイドルを始めようとしてた事」

 

 

「いや。僕も生徒会室に千歌ちゃんが来るまでは知らなかったよ。もちろん部の申請に必要な人数が足りないからまだ部は設立してないけど」

 

 

「もし人数を揃えたらダイヤは部の申請を許可するつもりなの?」

 

 

「千歌ちゃんの前では人数を揃えても認めないって言ってたよ。・・・・・・あの件の事もあるし」

 

 

「やっぱりダイヤもあの時と同じ考えなんだね」

 

 

「姉さんは千歌ちゃんを止めないの?」

 

 

「私に止める権利なんて無いよ。どうせ私が言ったって千歌は止めないからね。私は千歌が危険な道に進まないように見守るしかないんだよ」

 

 

と言って姉さんは家の中に戻って行った。僕もそれに続くように家に入った。

 

その日の夜、明日も早いからもう寝ようとしていたら、携帯の着信音が鳴った。こんな時間に電話かメールを送って来るのは誰なのかと思ったけど、考えてみたら1人しか思い浮かばなかった。携帯を開くと案の定、善子ちゃんからだった。話を聞くと、どうやら自己紹介の時に堕天使ヨハネが出てしまったらしく、明日から学校に行かないらしい。

 

 

「入学2日目で不登校なんて聞いたことないよ」

 

 

「だって、あんな自己紹介してしまったらもう学校行けないじゃない!とにかく!私は当分学校へは行かないわよ」

 

 

「リア充になる目標はどうするの?」

 

 

「それは・・・・・・まだ考えてる」

 

 

「勉強とかはどうするの?」

 

 

「この堕天使ヨハネにかかれば人間の知力を得ることなど造作もないわ」

 

 

「本音は?」

 

 

「それもその時に考えるわ」

 

 

こうなってしまったら善子ちゃんは意地でも学校へ行かないだろうなと思った僕は説得するのを諦めた。

 

 

「・・・・・・分かったよ。学校来る気になったら来るんだよ。僕は待ってるから」

 

 

「・・・・・・ありがとう。祐だけよ。私が堕天使の時でも普通に話してくれるのは。・・・・・・お休み」

 

 

と言って善子ちゃんは電話を切って会話が終了した。

 

次の日、学校に行くために船着き場で降りて学校行きのバスを待っていたら、

 

 

「次のバスを待ってるよりこっちの方が早いわよ」

 

 

と後ろから声が聞こえた。誰かと思い確認をしようと後ろを振り向いた瞬間、後ろにいた人が急に僕の手を掴んで走り出した。走り出した先には車が止まっていて、僕は何故かそれの車内に押し込まれる形で乗ることになった。

 

 

「出発して」

 

 

その人が運転手に指示すると車が走り出した。僕はどんな人なのか顔を覗こうとすると、その人は急に僕に抱き着いてきた。

 

 

「ニネンブゥリデスネー!元気だったユウ?」

 

 

「鞠莉さん!?」

 

 

「YES♪正真正銘のマリーよ」

 

 

小原鞠莉。オハラグループの御令嬢であり、姉さんとダイヤさんの幼馴染だ。だが鞠莉さんはあの件以降、海外へ留学していたはずだが何故ここに。

 

 

「鞠莉さん留学していたはずじゃ?」

 

 

「留学なら飛び級してもう卒業したわ」

 

 

「え?飛び級?」

 

 

「YES♪」

 

 

これ以上留学について聞くと、驚き過ぎてキリがないので話を変えた。

 

 

「じゃあどうしてまた内浦に戻ってきたんですか?」

 

 

「それは、マリーが浦の星女学院の理事長になったからデース!」

 

 

「・・・はい!?鞠莉さんが理事長!?」

 

 

「YES!」

 

 

と驚いている間に車は浦女前に着いた。

 

 

「わざわざ送ってくれてありがとう鞠莉さん」

 

 

「どういたしまして。後、車の中の話は誰にも言っちゃダメよ。もちろん果南とダイヤにもね」

 

 

と言って鞠莉さんを乗せた車は走り去って行った。

 

鞠莉さんと別れた僕は教室に入ると、音楽の教科書を読んでる千歌ちゃんとそれを横で苦笑いしながら見てる曜ちゃんの姿があった。

 

 

「曜ちゃん。千歌ちゃんは何をしてるの?」

 

 

「作曲する人が見つからなかった時には、自分で作曲するって」

 

 

「流石にそれは無理でしょ」

 

 

「私も衣装作りや踊りを見る事は出来るけど、作詞や作曲は出来ないからね」

 

 

「そういえば曜ちゃんは水泳部とスクールアイドル部を兼任するの?」

 

 

「うん!私もやってみたいと思ったし、それに・・・・・・」

 

 

「それに?」

 

 

「千歌ちゃんと一緒に何かをやってみたかったんだ」

 

 

「そうなんだ」

 

 

「うん?何?曜ちゃんや祐君私の事呼んだ?」

 

 

「何でもな~い」

 

 

疑問を浮かべる千歌ちゃんに、僕と曜ちゃんは小さく笑った。

 

その時、先生が教室に入って来て朝礼が始まった。

 

 

「今日からこのクラスに転校生が来るからみんな仲良くしてあげてね。それじゃ入って来て~」

 

 

先生がそう言うと、1人の生徒が教室に入って来た。

 

 

「初めまして。東京から引っ越してきた桜内梨子です。よろしくお願いします」

 

 

桜内さんが自己紹介を終えると周りから拍手の音が聞こえる中、

 

 

「奇跡だよー!!」

 

 

と言いながら千歌ちゃんが立ち上がった。

 

 

「あっ貴方は!?」

 

 

桜内さんは凄く動揺していた。

 

そして、千歌ちゃんは桜内さんの前へ行き、

 

 

「一緒にスクールアイドル始めませんか?」

 

 

と桜内さんに勧誘を始めた。

 

 

桜内さんが笑みを浮かべたので、勧誘成功かと思いきや、

 

 

「ごめんなさい」

 

 

と頭を下げたので千歌ちゃんの勧誘は失敗に終わった。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます。
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クイズμ's

こんばんは、黒雨です。
スクフェスの善子ちゃんの新称号が欲しいのですが、善子ちゃんのスペシャルBOXすら来ないです・・・。
それではどうぞ!


桜内さんの自己紹介も終え朝礼が終わると、クラスの皆は桜内さんに質問をしようと席に集まってきた。桜内さんの席は僕の隣で、千歌ちゃんの前なので、ここの周辺はとても混雑している状態だ。

 

生徒達の質問に桜内さんは笑顔で答えているが、どこか困っているようにも見えたので、

 

 

「桜内さん。良かったら今から学校を案内しようか?」

 

 

と僕は桜内さんに助け舟を出した。

 

 

「はい。じゃあお願いします」

 

 

と桜内さんが了承したので僕は人混みの中から桜内さんを連れて教室を出た。

 

 

「何かごめんね。転校した初日なのにクラスの皆からの質問に困ってるように見えたからこんなふうに連れ出して」

 

 

「ううん。確かにあの時は皆からの質問にちょっと戸惑ってたの。私って結構引っ込み思案なとこがあるから。

だから助けてくれてありがとう。松浦君」

 

 

「祐でいいよ。同い年なんだし、クラスの皆もそう呼んでるよ。僕も皆の事は下の名前で読んでるからさ、だから桜内さんの事も下の名前で呼ぶけどいいかな?」

 

 

「うん。良いよ」

 

 

「じゃあこれから宜しくね。梨子ちゃん」

 

 

「こちらこそよろしく。祐君」

 

 

そして学校の案内が終わり教室に戻ると、

 

 

「桜内さん!スクールアイドル一緒にやりませんか!?」

 

 

と千歌ちゃんが桜内さんに今日2回目の勧誘を始めた。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

と桜内さんは断ったのでまたしても千歌ちゃんの勧誘は失敗に終わった。

 

午後になり、生徒会の仕事があったので生徒会室に行くと、

 

 

「お断りですわ!」

 

 

とダイヤさんが千歌ちゃんと曜ちゃんに怒鳴っていた。

 

千歌ちゃんが僕の存在に気づくと、

 

 

「ね~祐君からも何か言ってよ~」

 

 

と僕に泣き付いてきた。

 

 

「それは流石に無理だよ。最低限の条件は守らなきゃ」

 

 

「え~」

 

 

「祐さんの言う通り、部の申請には5人必要と言いましたわよね?それに作曲のほうはどうなったんですの?」

 

 

「それは~多分~いずれ~きっと~可能性は無限大!」

 

 

早く帰って欲しいのか、ダイヤさんは少しイライラしながら指先で机を叩いて聞いていた。

 

 

「それに、最初は3人しかいなくて大変だったんですよね。ユーズも」

 

 

千歌ちゃんがユーズと言った直後、ダイヤさんの指が止まった。嫌な予感を察した僕に対し、千歌ちゃんはそれに気づかず話を続ける。

 

 

「知りませんか?第2回ラブライブ優勝、音ノ木坂学院スクールアイドルユーズ!」

 

 

それを発した時、生徒会室に数秒間の沈黙が起きた。沈黙の後、

 

 

「それはもしかして、μ'sの事を言ってるのではありませんわよね?」

 

 

「え・・・・・・」

 

 

まだ気づかない千歌ちゃんに、僕と同じく嫌な予感を察した曜ちゃんが教えて、ようやくが気づいた。

 

 

「もしかして~あれってμ'sって読むの・・・・・・」

 

 

千歌ちゃんがそれに気づいた時は既に遅く、

 

 

「お黙らっしゃ~い!!」

 

 

とダイヤさんの大声が響いた。

 

 

「言うに事欠いて名前を間違えるですって!?あ~!?μ'sはスクールアイドル達にとっての伝説、聖域、聖典、宇宙に等しき生命の源ですわよ!?その名前を間違えるとは片腹痛いですわよ」

 

 

ダイヤさんは昔からμ'sを応援している。だからその事について間違えるともう周りの目も気にせず説教を始める。ヒートアップして顔を近づけるダイヤさんに対し、

 

 

「・・・・・・ちょっと、近くないですか?」

 

 

と千歌ちゃんが尋ねるも、ダイヤさんは気にせず話を続ける。

 

 

「その浅い知識だと、たまたま見つけたから軽い気持ちで真似をしようと思ったのですね?」

 

 

「・・・・・・そんな事」

 

 

と千歌ちゃんが反論しようとすると、

 

 

「ならば、μ'sが最初に9人で歌った曲、答えられますわね?」

 

 

といきなりダイヤさんのクイズが始まった。

 

 

「え~っと」

 

 

と考えてる千歌ちゃんだが、ダイヤさんは考える時間もくれず、

 

 

「ブーッですわ!」

 

 

と不正解になった。

 

 

「じゃあ祐さん!貴方なら答えられますわよね?」

 

 

「え!?こっちにも振って来るんですか!?」

 

 

「当たり前ですわ!さぁ早く答えるのです!」

 

 

何故か予想外の形で僕もクイズに参加する事となった。

 

 

「え〜っと、確か(僕らのLIVE 君とのLIFE)じゃありませんでした?」

 

 

答えられた理由は、僕や姉さん達がダイヤさんの家に遊びに行くと、必ずスクールアイドルの知識を無理矢理にでも教わるので、人並みかそれより少し上ぐらいの知識は持っていた。

 

 

「その通り。僕らのLIVE 君とのLIFE、通称ぼららら。次、第2回ラブライブ予選でμ'sがA-RISEと一緒にステージで選んだ場所は?」

 

 

「・・・・・・ステージ?」

 

 

「ブッブーですわ!」

 

 

「秋葉原UTX屋上」

 

 

「そう、あの伝説と言われるA-RISEとの予選ですわ。次、ラブライブ第2回決勝、μ'sがアンコールに歌った曲は、」

 

 

とダイヤさんが言ってる途中に、

 

 

「知ってる!僕らは今のなかで!」

 

 

と千歌ちゃんが正解の答えを出した。はずだったが、

 

 

「ですが、曲の冒頭スキップをしている4名は誰?」

 

 

と続きの問題が出た。

 

 

「え~!?」

 

 

と声を上げる千歌ちゃん。でもこの問題は流石に僕も分からない。これはダイヤさんクラスにならないと答えれない。

 

すると窓の近くにいたダイヤさんが急に千歌ちゃんに近づいてきた。千歌ちゃんも後ろに引こうとしたが、間違えて何かの機材に手を触れた。まさかと思ったが千歌ちゃんが触れたのは放送のマイクのスイッチだ。それにダイヤさんは気づかず、

 

 

「ブッブッブーですわ!絢瀬絵里、東條希、星空凛、西木野真姫!こんなの基本中の基本ですわよ!」

 

 

「す、凄い・・・・・・」

 

 

「もしかして生徒会長ってμ'sのファン?」

 

 

「当たり前ですわ。私を誰だと・・・・・・ッフン、一般教養ですわ!一般教養!」

 

 

「へ~」

 

 

「とにかく、スクールアイドル部は認めません!!」

 

 

と最後にダイヤさんがそう言ってクイズは終わった。その後、マイクのスイッチが入ってたと伝えると、ダイヤさんは顔を赤くして塞ぎ込んでしまった。

 




ありがとうございました。
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戻れない過去

皆さんこんばんは、黒雨です。
この作品のUAが5000を超えていた事に驚きました。
これからも頑張っていくのでよろしくお願いします!
それではどうぞ!


少年がいなくなった後の少女の家族は静まり返っていた。少女は心を閉ざしてしまい、学校にも行かず家に引きこもってしまい、親や周りの人達となるべく関わらないように過ごしていた。

 

そんな少女を誰よりも心配していたのは幼稚園の頃からとても仲の良かった2人の幼馴染だった。1人は好奇心旺盛の元気な子で、もう1人は天然でおっとりとした子だ。2人は少女を励まそうと少女の家へ出向いて会おうとするが、少女は心を閉ざしたまま部屋から出て来なかった。そこで夢が途切れて僕は目を覚ました。

 

部屋のカレンダーを見て今日は何か予定があったかを思い出していると、昨日あった千歌ちゃんからの電話を思い出した。

 

 

〜昨日〜

 

 

「もしもし祐君?」

 

 

「どうしたの千歌ちゃん?」

 

 

「明日は果南ちゃんも祐君も忙しいの?」

 

 

「僕は用事があるから忙しいけど姉さんはダイビングのお客さんがいないと空いてると思うよ。」

 

 

「じゃあ今の地点でのダイビングの予約は無いの?」

 

 

「ちょっと待ってね、今確認するから。・・・・・・うん、この日はまだ予約は入ってないよ。」

 

 

「ホント!じゃあ明日、曜ちゃんと桜内さんを連れて遊びに行っていい?」

 

 

「いいけど何でダイビングの予約を気にしていたの?」

 

 

「実は、桜内さんに海の音を聴いてもらおうと思って、ダイビングなら海の音が聴こえるかもって思ったの。」

 

 

「なるほど。そしてダイビングをするには姉さんがいないとダメだからだね。分かった、じゃあ姉さんには僕から伝えておくよ。」

 

 

「ありがとう!じゃあ明日行くからね、お休み!」

 

 

〜現在〜

 

 

今日は千歌ちゃん達が家に来るけど別の用事があるため、千歌ちゃん達の事は姉さんに任せて僕はペンダントを持って家を出た。

 

家を出た僕が向かったのは内浦にある港。そこにはある慰霊碑が立っている。その慰霊碑には(嵐のクリスマスイブ)と刻まれていた。

 

嵐のクリスマスイブ、それは数年前に駿河湾近くの太平洋で、ある大型客船が真夜中に突然の天候不良で沈んだ事故の事である。救出された乗客、乗務員はいるが、中には未だに行方不明な人も多数いる。それ以降、内浦では二度とこんな事が起こらないようにとこの慰霊碑を建て、今では海に出る人の安全を祈る石碑となっている。

 

僕は毎月、クリスマスイブと同じ日になるとこの慰霊碑にサネカズラの花を供えている。サネカズラの花言葉は(再会)。夢に出てくる少年と少女がまた会えるようにという思いを込めて花を供え、持って来たペンダントを首から下げて手を合わせた。

 

手を合わせ終えて家に戻ろうとすると、

 

 

「偉いのう。毎月毎月花を供えに来て。」

 

 

と近くを歩いていたご老人に声をかけられた。

 

 

「そんな毎月花を添えるなんてお前さんともう1人位じゃよ。」

 

 

「僕と同じような人がいるのですか?」

 

 

「そうじゃ。お前さんと同じように毎月、供えとる女の人がいるんじゃよ。多分大学生位の子かな。その人は花を供えた後に、決まって悲しい顔になってるんじゃよ。」

 

 

「へ~そうなんですか。一度は会って話してみたいですね。」

 

 

と言って僕はご老人と別れて家に帰った。

 

家に帰ると、姉さんがダイビングの後片付けをしていた。

 

 

「ただいま、姉さん。」

 

 

「おかえり、祐。」

 

 

「千歌ちゃん達はもう帰っちゃったの?」

 

 

「うん。梨子ちゃんが海の音を聴けたから千歌や曜は凄く喜んでたよ。私も力になれたみたいだし嬉しかったよ。」

 

 

姉さんはそう言っているが、何処か上の空のようだった。

 

 

「姉さんどうかしたの?」

 

 

「・・・うん。ちょっと昔の事を思いだしちゃってね。3人が喜んでるのを見てると、ダイヤと鞠莉と過ごした日の事を。」

 

 

「・・・そうなんだ。やっぱり戻りたい?あの頃に。」

 

 

「戻れるなら戻りたいよ。でもそれはもう出来ない事だよ。あんな事があった以上、私達はもうあの頃には戻れない。」

 

 

そう言って姉さんは家の中に入っていった。

 

次の日、学校で千歌ちゃんは梨子ちゃんが作曲してくれると聞いてとても喜んでいた。そしてまた次の日には千歌ちゃんのスクールアイドルに梨子ちゃんも入った。

 

 




ありがとうございました。
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評価して下さったはにゃ猫さんありがとうございます!
お気に入り登録して下さったラブダイバーさんありがとうございます!


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新理事長

皆さんこんばんは、黒雨です。
凄くどうでもいい話ですが、十数年ぶりにロックマンエグゼをやったら昔やってた頃より面白く感じ、最近はよく遊んでいます。
それではどうぞ!


休み時間、生徒会室に向かっていると、理事長室の前で何かを考え込んでいるダイヤさんがいた。

 

 

「ダイヤさんどうかしたんですか?」

 

 

「ピギャ!?祐さんでしたか。驚かさないでください」

 

 

「別に驚かしたつもりは無いんですけど。それより理事長室の前で何してるんですか?」

 

 

「実は、先程から理事長室から声が聞こえるのです。まだ理事長が在任していないのに」

 

 

そうだった。確か鞠莉さんが理事長だということはまだ僕以外誰も知らないんだった。

 

すると、理事長室から、

 

 

「え?新理事長?」

 

 

という声が聞こえてきた。

 

中を確認しようとダイヤさんは理事長室のドアを少し開けて覗いた。僕も一緒に覗いてみると、中には千歌ちゃん達と鞠莉さんが会話していた。

 

 

「何故鞠莉さんがここに!?それに新理事長ってどういう事ですの!?」

 

 

とダイヤさんが小声で僕に尋ねてきた。もう隠す事は無いと思った僕は全てを話した。

 

 

「どうやら留学を早く終えて帰ってきたみたいですよ。新理事長の理由は分かりませんが」

 

 

「そんな・・・・・・。それじゃあの時の果南さんの行動はどうなるのですか!?」

 

 

「それは・・・・・・」

 

 

と僕達が外で話してるうちに、中では話が進んでいた。

 

 

「YES!でもあまり気にせず気軽にマリーって読んでほしいの」

 

 

「でも、」

 

 

「紅茶、飲みたい?」

 

 

「あの~新理事長」

 

 

「マリーだよ~」

 

 

「マ、マーリー・・・その制服は?」

 

 

「どこか変かな?三年生のリボンもちゃんと用意したつもりだけど~」

 

 

「理事長ですよね!?」

 

 

「しかーし!この学校の三年生。生徒兼理事長。カレー牛丼みたいなものね!」

 

 

「例えがよく分からない・・・・・・」

 

 

「分からないの!?」

 

 

外から聞いていたダイヤさんは、

 

 

「・・・もう我慢の限界ですわ!」

 

 

と言って少し開けた理事長室のドアを完全に開けて理事長室に入って鞠莉さんに近づき、

 

 

「分からないに決まってます!」

 

 

と鞠莉さんに顔を近づけて指摘した。

 

 

「あちゃ~これじゃ隠れて聞く必要ももう無いな。」

 

 

と思い、僕も理事長室に入った。

 

 

「生徒会長。それに祐君も」

 

 

曜ちゃんは僕とダイヤさんが入って来た時にいち早く気づいた。

 

 

「OH~♪ダイヤ久しぶり~随分大きくなって~。」

 

 

「触らないでいただけます?」

 

 

再会を喜ぶ鞠莉さんに対して、素っ気ない態度をとるダイヤさん。

 

 

「胸は相変わらずね~。ユウもそう思わない?」

 

 

と鞠莉さんはダイヤさんの胸を触りながら僕に尋ねてきた。

 

 

「聞こえな~い。聞こえな~い」

 

 

僕は耳を塞ぎながら後ろに振り向いて答えた。

 

 

「やかましい!・・・ですわ」

 

 

と顔を赤らめて怒るダイヤさんに対して、

 

 

「It's joke」

 

 

と鞠莉さんに反省の色は無い。

 

僕は久しぶりに二人のやり取りが見れて少し嬉しかった。

 

 

「全く、一年の時にいなくなったと思ったらこんな時に戻って来るなんて一体どういうつもりですの?」

 

 

「シャイニー!あっ、ユウは紅茶飲む?」

 

 

「じゃあ貰おうかな」

 

 

鞠莉さんはダイヤさんの話を全く聞かずにカーテンを開けた後は、僕に紅茶を入れてくれた。

 

 

「人の話を聞かない癖は相変わらずのようですわね?」

 

 

「It's joke」

 

 

やっぱり鞠莉さんには反省の色が全く無かった。

 

 

「まあまあダイヤさん落ち着いて」

 

 

「これが落ち着いていられますかって何で祐さんはひと息着いているんですの!?」

 

 

「鞠莉さんが紅茶を入れてくれたからお言葉に甘えて。ありがとう鞠莉さん。美味しかったよ」

 

 

「フフ♪どういたしまして♪」

 

 

「とにかく、高校三年生が理事長なんて冗談にも程がありますわ!」

 

 

「そっちはjokeじゃないけどね」

 

 

と言って鞠莉さんは僕達に一枚の紙を見せて来た。

 

 

「これは・・・・・・」

 

 

「私のホーム、小原家のこの学校への寄付は相当な額なの」

 

 

「嘘・・・・・・」

 

 

「そんな・・・何で?!」

 

 

それをみた僕達は驚きを隠せずにいた。

 

 

「実はね、この浦の星にスクールアイドルが誕生したという噂を聞いてね」

 

 

「まさかそれで?」

 

 

「つまり鞠莉さんの目的は・・・・・・」

 

 

「そう、ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので応援しに来たのです」

 

 

「本当ですか!?」

 

 

と千歌ちゃんが反応した。

 

 

「YES!このマリーが来たからには心配ありません。デビューライブはアキバドゥームを用意してみたわ」

 

 

と言ってアキバドームの画像を千歌ちゃん達に見せた。

 

 

「そんな!いきなり・・・」

 

 

梨子ちゃんは戸惑っているが、

 

 

「奇跡だよ~!」

 

 

と千歌ちゃんは歓喜に満ち溢れていた。

 

 

僕は鞠莉さんに、

 

 

「もちろんjokeですよね?」

 

 

と尋ねた。

 

 

「YES.It's joke」

 

 

「Jokeのためだけにわざわざそんな物用意しないで下さい」

 

 

とさっきまで歓喜に満ち溢れていた千歌ちゃんのテンションが急激に下がっていった。

 

 

「アキバドゥームは用意してないけど、ステージは用意してあるわよ。今から行きましょ」

 

 

と言って鞠莉さんは千歌ちゃん達を連れて理事長室を後にした。

 

 

「・・・・・・この事を姉さんには僕から伝えるよ」

 

 

「えぇ。すみませんがよろしくお願いしますわ」

 

 

と決めて僕達も理事長室を後にして生徒会室へ向かった。

 




ありがとうございました。
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花丸ちゃんとの負けられない戦い

皆さんこんばんは、黒雨です。
スクフェスのスペシャルBOXを頑張ってるのですが、なかなか激推し称号が来ないです(泣)。
それではどうぞ!


「え・・・鞠莉が戻って来た?」

 

 

家に帰ってきた僕は今日あった事を姉さんに伝えた。姉さんは大きく動揺していた。

 

 

「うん。浦女の理事長として千歌ちゃん達のスクールアイドル活動をダイヤさんに邪魔されないようにするためとか言ってたかな」

 

 

「鞠莉は千歌達のスクールアイドル部を承認したの?」

 

 

「まだ承認されたわけでは無いけど、体育館を満員にしたら人数問わず承認するらしいよ」

 

 

「ふ~ん、そうなんだ」

 

 

姉さんはそれを聞いて窓から見える淡島の海を見つめていた。

 

実は、姉さんには言ってないけど僕は鞠莉さんに浦女に戻って来た本当の目的を聞いていた。

 

 

~~~

 

 

「鞠莉さん。1つ聞いていいかな?」

 

 

「何かしら?」

 

 

「鞠莉さんが浦女に戻って来た本当の理由ってなに?千歌ちゃん達のスクールアイドル部のサポートするためだけじゃないよね?」

 

 

「・・・・・・相変わらずユウには隠し事は通じないわね」

 

 

「隠しているなら無理して言わなくてもいいよ」

 

 

「ユウになら話してもいいわ。私が戻って来た本当の理由は果南とダイヤとの時間を取り戻すためよ」

 

 

「・・・そうだったんだ。でも今の状態だととても難しいと思うけど。」

 

 

「えぇ。でも、たとえ難しくてもあの時の時間を取り戻せるなら私は何だってするわ。もちろん、この事は2人には内緒よ」

 

 

~~~

 

 

「何だってする・・・・・・か」

 

 

僕の中にはその言葉が強く残った。

 

 

次の日、そろそろ新しい本が欲しいと思った僕は沼津の本屋に来ていた。面白そうな本が無いか探していると、今読んでいる作家の新作が発売していた。それを手に取ろうとすると、僕の手と僕じゃない違う人の手が同時に本に触れた。

 

 

「やっぱり祐さんもこの本を手に取るズラね」

 

 

と横から声が聞こえたので顔を横に向けると、花丸ちゃんだった。

 

 

「だって僕の中では最近ハマっている作家の新作だからね。これは買わざるを得ないよ」

 

 

「それはマルも同じズラ。でもこの本は1冊しか無いみたいだから、ここはマルに譲って欲しいずら」

 

 

「いやいや。流石に花丸ちゃんのお願いでも譲る訳にはいかないよ」

 

 

僕達が1歩も引けない状況の時、

 

 

「花丸ちゃ~ん。もう本は決めたの?ルビィは決めたよ!」

 

 

とルビィちゃんが買う本を持ってやって来た。でもルビィちゃんは、今の僕達の状況が分からず困惑していた。

 

 

「え?花丸ちゃん。それに祐さんも。これは一体どういう状況なの?」

 

 

「僕達は今、絶対に負けられない戦いを始めようとしているんだ」

 

 

「そうズラ。だからルビィちゃんはここから少し離れた場所で待ってるずら」

 

 

僕達にそう言われ、ルビィちゃんはこの場から少し離れた。

 

 

「じゃあそろそろ始めようか、花丸ちゃん。僕はいつでもいいよ」

 

 

「こっちも準備OKずら。絶対この本はマルが買って帰るずら」

 

 

「・・・じゃあいくよ。ジャーン!」

 

 

「ケーン!」

 

 

「ポン!」

 

 

僕達はこの本が欲しいという思いを手に込めてジャンケンをした。結果は・・・・・・花丸ちゃんが勝利した。

 

 

「マルの勝ちずら♪」

 

 

「・・・そうだね。悔しいけど、この本は花丸ちゃんに譲るよ」

 

 

「ありがとズラ。この本が読み終わったら祐さんも貸してあげるずら」

 

 

「ありがとう」

 

 

こうして本をかけたジャンケンは花丸ちゃんの勝利で終わった。

 

 

本屋を出て帰ろうとすると、

 

 

「花丸ちゃ~ん!祐君~!」

 

 

と千歌ちゃんが大きな声で呼びながらやって来た。

 

花丸ちゃんの隣を歩いていたルビィちゃんは後ろに隠れてしまった。

 

 

「どうしたの?千歌ちゃん」

 

 

「ライブのお客さんを呼び込む為に、チラシ配りをしてるの。はい、3人にも」

 

 

と言って千歌ちゃんは、持ってるライブのチラシを僕達にくれた。

 

 

「ライブ?」

 

 

「うん。花丸ちゃん達も来てね」

 

 

「ライブやるんですか!?」

 

 

隠れてしゃがんいたルビィちゃんが急に立ち上がった。でも、人見知りだからすぐにまたしゃがんでしまった。

 

すると千歌ちゃんは、

 

 

「絶対に満員にしたいんだ。だから来てね。ルビィちゃん」

 

 

とルビィちゃんの正面に回ってチラシを渡した。

 

 

「じゃあ私、まだ配らなきゃ行けないから!」

 

 

と言って戻ろうとすると、

 

 

「あぁぁ、あの!グループ名は何て言うんですか?」

 

 

とルビィちゃんが勇気を振り絞ったかのように質問した。

 

確かに、渡されたチラシを見ると日時と場所が書いてあるだけで、肝心のグループ名がどこにも書いていなかった。

 

 

「グループ・・・名?」

 

 

「まさかグループ名を決めてないの?」

 

 

僕が尋ねると、千歌ちゃんは自分が持ってたチラシを見て、

 

 

「アハハ・・・忘れてた。当日までには決めるから!」

 

 

と言って曜ちゃんと梨子ちゃんの元へ戻っていった。

 

 

「2人はどうするの?日曜日、ライブ見に行くの?」

 

 

僕は花丸ちゃん達に尋ねた。

 

 

「ルビィは行くよ!」

 

 

「ルビィちゃんが行くならマルも行くずら。祐さんはどうするの?」

 

 

「僕も行くよ。この日で千歌ちゃん達スクールアイドル部の承認の結果が決まる日だからね。おっとそろそろ帰る時間だから。またね、花丸ちゃん。ルビィちゃん」

 

 

と言って僕は花丸ちゃん達と別れた。




ありがとうございました。
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体育館ライブ

こんばんは、黒雨です。
ライブパートを初めて書きました。
上手く出来てるか分かりませんがよろしくお願いします。
それではどうぞ!


ライブ当日、外を見れば空全体を曇が覆っていていかにも雨が降りそうな天候だ。でも体育館だから出来ないという事はないが、問題はこの天候のなか、お客さんが来てくれるかどうかだ。そんな問題を心配していたら、バスは浦の星前の停留所に着いた。

バスを降りると一緒に降りてきた人から、

 

 

「何で私が外に出た時はいつもこういう天気なのよ」

 

 

という独り言が聞こえてきた。

 

顔を少しそっちに向けると、マスクとサングラスをして変装しているかのように見えたが、頭の団子が隠れてなかったので誰だかすぐに分かった。

 

 

「善子ちゃん?」

 

 

「ギクッ!?て何だ祐じゃない」

 

 

「僕を何と勘違いしてたのかは知らないけど、それより何で自分が通ってる学校へ行くのにそんなに変装してるの?」

 

 

「それはもちろん。このヨハネの姿を人間達の前で晒さない為・・・・・・同じクラスの子に顔を見られないようにするためよ」

 

 

「まだ普通の日に学校には来ないの?」

 

 

「行けないわよ!だってまだ皆覚えてるかも知れないじゃない!」

 

 

「それは考えすぎだと思うけど。まぁその話は置いといて、今日はライブを見に来たんでしょ?」

 

 

「まぁね。たまたま通りかかっただけだけど」

 

 

「その割にはちゃんとチラシを持って来てるじゃん」

 

 

「これもたまたまよ//!たまたまポケットに入ってただけだから//!とにかく行くわよ!」

 

 

と言って僕と善子ちゃんは坂道を登って浦女の体育館に着いた。中はまだ開演前なのでお客さんも生徒数人程度しかいない。その中にはルビィちゃんと花丸ちゃんが、更に後ろの方には鞠莉さんもいた。

 

 

「これだけの人だと見つかってしまうかも知れないからヨハネは少しこの場を離脱するわ」

 

 

と言って善子ちゃんは体育館の真ん中から少し離れて端っこの方に行った。

 

 

すると、体育館の電気が消え、スポットライトがステージに集中した。まだ始まるまで30分以上あるはずだが、ステージの幕が上がり、奥から千歌ちゃん達が出てきた。

 

 

「あ・・・あっ!私達は、スクールアイドルーー、せーの!」

 

 

「Aqoursです!」

 

 

「私達はその輝きと」

 

 

「諦めない気持ちと」

 

 

「信じる力に憧れ、スクールアイドルを始めました!」

 

 

「目標は・・・スクールアイドルーーμ'sです!聞いてください!」

 

 

そう言うと、音楽が流れ始めてライブがスタートした。

千歌ちゃん達は、歌って踊り、体育館全体を大きく盛り上げていった。

 

 

「Aqoursか・・・・・・」

 

 

僕はそう呟いた。同じ名前とあって、2年前の事を思い出していた。あの時は体育館をお客さんで満員にする事は出来たが、今の人数のままだとライブが終わるまでにお客さんは来るのだろうかと心配になる。そう思ってると、外の雷雨のせいか、スポットライトが消え、体育館全体が停電になり音楽も途中で止まった。

 

 

「まずい・・・このままだとライブが再会出来ない!一体どうすれば・・・・・・」

 

 

そう考えていると、後ろから僕の肩を叩いてくる人がいた。振り向くとダイヤさんだった。

 

 

「祐さん。急いでついてきてください」

 

 

と小声で僕に言って、体育館の外へ出ていった。僕は後ろからついて行くと、倉庫にたどり着いた。

 

するとダイヤさんが中に入り、発電機を取り出してきた。

 

 

「これは・・・・・・」

 

 

「早く発電機で電気を復旧させないと、ライブが続行出来なくなりますわよ!」

 

 

「・・・!分かりました」

 

 

僕とダイヤさんは急いで発電機を稼働させると、体育館の入り口から、

 

 

「バカ千歌!アンタ開始時間まちがえたでしょ!?」

 

 

と千歌ちゃんの姉、美渡さんの大声が聞こえた。

 

すると、体育館に大勢のお客さんが入り込んできた。さっきまで全く人がいなかった体育館が一気に満員になった。そして、停電していた電気が復旧し、ライブを再開する事が出来た。そして曲が終わり、千歌ちゃん達は無事に踊り切る事が出来た。

 

曲の終了後、千歌ちゃんの挨拶が始まった。

 

 

「彼女たちは言いました!」

 

 

「スクールアイドルは、これからも広がっていく!どこまでだって行ける!どんなユメも叶えられる!」

 

 

という力強い挨拶だった。

 

すると、お客さん同士の間を突っ切るようにダイヤさんが千歌ちゃん達の前に出て、

 

 

「これは今までの、スクールアイドルの努力と、街の人達の善意があっての成功ですわ!勘違いしないように!」

 

 

と言って千歌ちゃん達を睨みつけた。でも千歌ちゃんはそれに屈せず、

 

 

「分かってます!」

 

 

「でも・・・ただ見てるだけじゃ、始まらないって!上手く言えないけど、今しかない、瞬間だから!」

 

 

「だから!」

 

 

「輝きたい!」

 

 

と答え、お客さんから拍手が起こり、体育館ライブは大成功に終わった。

 

ライブ終了後、体育館前で姉さんを見つけた。

 

 

「姉さんは中には入らなかったの?」

 

 

と僕が尋ねると、

 

 

「 うん。人も沢山いて混んでたし、それに・・・・・・鞠莉もいたしね」

 

 

と姉さんは静かに答えた。

 

 

2人で話していると、ダイヤさんがやって来た。

 

 

「お久しぶりですわ。果南さん」

 

 

「ダイヤも久しぶりだね」

 

 

「今回のライブは成功しましたが、いつ私達のような事が起きるか分かりませんわね」

 

 

「うん。もしその時になったら、私は鞠莉と千歌達を止める」

 

 

「果南さん・・・・・・」

 

 

「じゃあ私達はそろそろ帰るよ。行こう、祐」

 

 

「じゃあダイヤさん。また明日」

 

 

「えぇ。また明日」

 

 

と言って僕と姉さんはダイヤさんと別れた。

 

後日、スクールアイドル部が承認され、体育館に部室が出来た。




ありがとうございました。
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少女の思い

こんばんは、黒雨です。
春休みが終わり、また学校が始まると思うと憂鬱な気分になりそうです。
それではどうぞ!


来る日も来る日も2人は少女の家を訪ねた。だが、少女は2人の前には姿を現さず、

 

 

「帰って下さい」

 

 

と冷たく言われて追い返される日が続いた。

 

おっとりとした子は、

 

 

「もう辞めよう。私達が何回行ったって( )ちゃんはもう家から出て来ないよ」

 

 

と諦めるように言うが、天真爛漫な子は、

 

 

「ダメだよ。私達で絶対に( )ちゃんを家から出すよ」

 

 

と前向きに答えた。

 

そんなある日、2人は少女の部屋の前で名前を呼びかけると、初めて部屋のドアが開き、少女が姿を現した。

 

少女は部屋に引きこもってからまともに食事も取っていなかったのか、その体は最後に会った時よりひどくやつれていた。

 

そんな姿に、2人は驚きを隠せずにいた。

 

 

「帰って下さい。私は1人になりたいのです」

 

 

と少女は、ドアを閉めてる時と同じように答えた。

 

 

「そういう訳にはいかないよ。( )ちゃんのそんな姿を見て放っておけるわけないよ」

 

 

「そうだよ( )ちゃん。早く何か摂らないと」

 

 

「私の事はご心配無く。自分の体の事は自分が一番分かっています」

 

 

と少女は答えるが、2人には少女が強がっているようにしか見えなかった。

 

すると、少女の体が急にふらつき、膝をついて座り込んでしまった。天真爛漫な子は急いで少女の元に駆け寄った。

 

 

「大丈夫( )ちゃん!?」

 

 

と心配するが、

 

 

「ご心配無くと言った筈です。だからもう私の事は放っておいて下さい!」

 

 

と少女は突き放すように答える。

 

 

「大丈夫な訳ないじゃん!そんな状態じゃ( )君が悲しむに決まってるよ!」

 

 

と亡くなった少年の名前を挙げると、

 

 

「貴方に・・・・・・貴方に弟の何が分かるというのですか!分かってるかのような口ぶりで言わないで下さい!」

 

 

と少女は今まで溜めていた感情を爆発させたかのように声を荒らげた。そんな少女にドアの近くにいたおっとりとした子は驚いて涙を隠さずにはいられなかった。

 

 

「弟は・・・・・・( )は私を助ける為に自らを犠牲にしたのです。もし私があの時速く避難していれば弟はこうならずに済んだのかもしれない。私のせいで弟は・・・・・と思うと自分自身が許せなくなるのです・・・」

 

 

自分自身を責める少女の目には涙が浮かべてあり、少女はその場で泣き崩れた。

 

2人は少女の元に寄り添い、そっと静かに抱きしめた。

 

 

「ごめんね。( )ちゃんがそんなに大きな事を抱えてるなんて知らなくて。でも大丈夫。もう1人で抱え込まなくていいんだよ。だって私達は友達なんだから。悩み事や考え事があるなら相談にのるよ。だからさ、もっと私達を頼ってよ」

 

 

「私達だけじゃ力不足かも知れないけど、その時は周りを頼ればいいよ。だからもう1人で考え込まないで」

 

 

「二人共・・・ありがとうございます・・・」

 

 

と少女が言った途端、少女はその場に倒れてしまった。

 

長い間食事を摂っていなかったため、栄養失調となり病院へ運ばれた。

 

後日、病院から退院した少女は、引きこもりを辞めて元通りに学校へ登校していた。学校へ向かう少女の顔には笑顔が戻っていた。

 

すると辺りが真っ白になり、何も見えなくなったところで僕は目を覚ました。

 

 

「・・・・・・何だか随分長い夢を見ていた気がする」

 

 

僕はそう感じた。握ってる手を見ると、やはりその手にはペンダントがあった。

 

 

「いつもそのペンダント持ってるよね」

 

 

と急に横から声がした。顔を横に向けると、姉さんの姿があった。

 

 

「うん。でも僕には分からないんだ。どうしてこれを持っているのかを」

 

 

「ふ~ん。まぁとにかく、早く朝ご飯にするよ。祐も早く学校行く準備して降りてきてね」

 

 

と言って姉さんは下へ降りていった。

 

 

「は~い」と答えた僕は準備した後、さっきまで見てた夢をノートに書き留めて、下へ降りて朝食を済ませ、学校へ向かった。

 

 

放課後、僕は図書室にいた。理由は対決に勝利した花丸ちゃんが買った本が読み終わったらしいので僕はその本を借りに来ていた。

 

 

「はい、約束通りずら」

 

 

「ありがとう花丸ちゃん。早速帰ったら読むとするよ」

 

 

と言って帰ろうとすると、

 

 

「やっぱり部室出来てた!スクールアイドル部承認されたんだよ!」

 

 

ルビィちゃんが走って図書室に入ってきて嬉しそうに花丸ちゃんに伝えた。

 

 

「良かったね~」

 

 

「うん!あ~またライブ見られるんだ~」

 

 

「ルビィちゃんはスクールアイドル部に入らないの?」

 

 

僕はルビィちゃんに聞いてみた。

 

 

「でもルビィは・・・」

 

 

と言おうとすると図書室のドアが開き、ルビィちゃんが反応して隠れてしまった。

 

 

「こんにちは~」

 

 

と言って千歌ちゃん達が大量の本を持ってやってきた。

 

 

「あ、祐君に花丸ちゃんと、ルビィちゃん」

 

 

ルビィちゃんは扇風機の後ろに隠れていたが、すぐに千歌ちゃんに見つかってしまった。

 

 

「よく気づいたね~」

 

 

と曜ちゃんは感心していた。

 

 

「これ部室にあったんだけど、図書室の本じゃないかな」

 

 

と言って梨子ちゃんは本の山を花丸ちゃんに見せた。

 

 

「多分そうです。ありがとうございます」

 

 

と言おうとした瞬間、千歌ちゃんが急に花丸ちゃんとルビィちゃんの手を掴んで、

 

 

「スクールアイドル部へようこそ!」

 

 

と勧誘を始めた。

 

 

「千歌ちゃん・・・・・・」

 

 

「また始まったよ」

 

 

後ろで僕達は呆れたように言った。

 

 

「結成したし、部にもなったし、決して悪いようにはしませんよ~」

 

 

「その発言から悪いような気がする・・・・・・」

 

 

「え~!ちょっと祐君、それどういう意味~!」

 

 

「そのまんまの意味だよ」

 

 

「私的にはちゃんとした勧誘なんだけど、あっ、そんな事より花丸ちゃん。ルビィちゃん。2人が歌ったら絶対キラキラする。間違いない!」

 

 

と千歌ちゃんの勧誘に2人は戸惑っていた。

 

 

「千歌ちゃん。強引に迫ったら可哀想だよ」

 

 

「そうよ。まだ入学したばかりの1年生なんだし」

 

 

と曜ちゃんと梨子ちゃんが止めた事で何とか千歌ちゃんが引き下がった。その後、千歌ちゃん達は練習があるので、図書室を後にした。

 

 

「スクールアイドルか・・・・・・」

 

 

ルビィちゃんがそう呟くと、

 

 

「やりたいんじゃないの?」

 

 

花丸ちゃんがルビィちゃんに尋ねた。

 

 

「でも・・・・・・」

 

 

「ダイヤさんでしょ?」

 

 

僕はルビィちゃんにそう聞いてみた。

 

 

「・・・・・・はい。そうなんです」

 

 

「ダイヤさん?」

 

 

花丸ちゃんが僕達に尋ねた。

 

僕は花丸ちゃんに話した。ルビィちゃんの複雑な心境の理由を。




ありがとうございました
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体験入部

こんばんは、黒雨です。
お金は無いけど欲しいものが増え続ける一方ですw
それではどうぞ!


「ダイヤさんはね、昔はスクールアイドルが大好きだったんだよ」

 

 

僕は花丸ちゃんにそう伝えた。(ダイヤさんは今でもスクールアイドル大好きだけど)

 

 

「でも、この前の放送を聞いてたらそんなふうには見えなかったずら」

 

 

「祐さんの言ってる事は本当だよ花丸ちゃん。お姉ちゃんはルビィよりも大好きだったんだけど、高校に入ってから暫く経つと急にスクールアイドルを嫌うようになってそれ以来、家ではほとんどスクールアイドルの話をしなくなったの」

 

 

ルビィちゃんは暗い表情で話を続ける。

 

 

「本当はね、ルビィも嫌いにならなきゃいけないんだけど・・・」

 

 

「どうして?」

 

 

「お姉ちゃんが嫌いって言うものを好きでいられないよ!それに・・・」

 

 

「それに?」

 

 

「花丸ちゃんはスクールアイドルに興味は無いの?」

 

 

ルビィちゃんは花丸ちゃんに尋ねた。

 

 

「マルが?ない!ない!運動苦手だし、オラとか言ってしまう時もあるし」

 

 

「じゃあルビィも平気!」

 

 

花丸ちゃんの答えを聞いてルビィちゃんは笑顔になった。でも、僕と花丸ちゃんはルビィちゃんが笑顔を作っているようにも見えた。

 

ルビィちゃんが図書室を出ると、花丸ちゃんが、

 

 

「祐さん。マルはルビィちゃんをスクールアイドル部に入れたいずら」

 

 

と何かを決心したかのように言った。

 

 

「それはまたどうして?」

 

 

「ルビィちゃんは自分に嘘をついて無理にダイヤさんやマルに合わせようとしてるずら。だから、ルビィちゃんには自分の意思で前へ進んで欲しいの。それがマルの夢だから」

 

 

「なるほど。それなら、体験入部してみたらいいんじゃない?」

 

 

「体験入部?なるほど。その手があったずら。早速明日からルビィちゃんを誘ってみるずら」

 

 

「頑張れ花丸ちゃん。じゃあ僕は帰るよ」

 

 

と言って僕は図書室を後にした。

 

次の日、僕は姉さんといつものランニングをして神社から降りて帰っていると、階段の途中で座り込んでる千歌ちゃん達の姿があった。

 

 

「千歌?」

 

 

と姉さんが声をかけると、3人はそれに気づいた。

 

 

「果南ちゃんと祐君!もしかして上まで行ってたの?」

 

 

「一応ね、日課だから」

 

 

「日課!?」

 

 

姉さんがそう言うと、3人は驚いていた。

 

 

「千歌達こそ、どうしたの?急に走り出して」

 

 

「鍛えなくちゃって、ほら!スクールアイドル部も出来たし」

 

 

千歌ちゃんがそう答えると姉さんは少し考える素振りをして、

 

 

「ふ~ん。そっか、まぁ頑張りなよ。私は店を開けなきゃならないから。ほら、祐も学校に遅れるよ」

 

 

「それはマズいね。じゃあ3人とも。また学校で」

 

 

と言って僕達は走って家に戻り、僕は学校の準備をして家を出ると、テラスには姉さんと鞠莉さんがいた。辺りには久しぶりに会った親友とは思えない嫌悪感が漂っていた。

 

 

「どうしたのいきなり!」

 

 

「うふふ、果南とユウをスカウトに来たの!」

 

 

「スカウト?それに祐も?」

 

 

「何で僕まで・・・」

 

 

「休学が終わったらスクールアイドルを始めるのよ!浦の星で!」

 

 

「鞠莉・・・それ、本気?」

 

 

「でなければ、戻って来ないよ」

 

 

「・・・私はもうスクールアイドルはやらない。たとえ休学が終わったとしても」

 

 

姉さんは鞠莉さんのスカウトに冷たく返して、家に戻っていった。

 

 

「・・・相変わらず頑固親父だね。ユウはどうするの?」

 

 

「・・・僕はまだ考えさせて下さい。それでは」

 

 

と言って僕は答えを出せず、鞠莉さんのスカウトの答えから逃げるように学校へ向かった。

 

教室に入ると、

 

 

「おはよう祐君!」

 

 

と千歌ちゃんがいつも以上に元気な挨拶をしてきた。

 

 

「おはよう。千歌ちゃん。何かいい事でもあったの?」

 

 

「うん!なんと、花丸ちゃんとルビィちゃんが体験入部しに来てくれたんだよ!」

 

 

「それは良かったね」

 

 

「うん!これでラブライブ優勝だよ!」

 

 

「それはまだ早いような気が・・・」

 

 

千歌ちゃんが盛り上がってると、

 

 

「千歌ちゃん。あまり大声で言うとダイヤさんに聞こえちゃうよ」

 

 

と曜ちゃんに指摘され、ようやく冷静になった。

 

 

「ダイヤさんには内緒なの?」

 

 

僕は曜ちゃんに尋ねた。

 

 

「うん、ルビィちゃんが体験入部してる事は知らないみたいだし、花丸ちゃんが内密にって言ってたから」

 

 

「なるほど、花丸ちゃんも入ったのか・・・」

 

 

「?祐君、さっき何か言った?」

 

 

「いや、特に何も」

 

 

危うく独り言が曜ちゃんに聞かれるところだった。

 

休み時間、図書室で僕は花丸ちゃんに今の状況を聞いてみた。

 

 

「ルビィちゃんは楽しそうに部活をやってるずら。これならマルがいなくてももう大丈夫」

 

 

「そうなんだ。花丸ちゃんは体験入部してみてどうなの?」

 

 

「マルは体力無いからついて行くのが大変ずら。だからマルには無理ずら」

 

 

「それは大変だね、でも花丸ちゃん頑張れ」

 

 

「祐さんはスクールアイドル部に入らないずら?」

 

 

花丸ちゃんの意外な質問に僕は少し考えて、

 

 

「う~ん、僕は別にいいかな。生徒会も忙しいし。じゃあ、休み時間が終わるから」

 

 

と答えて僕は図書室を出た。

 

 

いつも僕はそうだ。千歌ちゃん達にも生徒会が忙しいからという理由で断ったんだっけ。正直、生徒会はそこまで忙しくはないし、兼任をする事は出来る。でもスクールアイドル部、それにAqoursだと千歌ちゃん達とは別に3人の姿が浮かび上がる。その3人の事を思うと、スクールアイドル部に入るのを拒むもう1人の自分がいた。

そんな心境で僕は教室に戻った。

 

 

 




ありがとうございます。
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文学少女の願い

こんにちは、黒雨です。
本当は今日の朝に投稿する予定だったのですが、遅くなってしまいすみません。
それではどうぞ!


昼休み、昼食を食べ終えた僕は屋上へ向かった。晴れの日の屋上は、風が通っていてとても心地よく感じるので、僕はいつもそこで次の授業が始まるまで昼寝をしている。

 

 

屋上へ上がると、いつもは誰もいない筈なのだが、今日は珍しく人が複数人来ていた。よく顔を見ると、千歌ちゃん達スクールアイドル部がダンスの練習をしていた。

 

千歌ちゃん達の邪魔をしちゃ悪いので、屋上から立ち去ろうとすると、

 

 

「あっ!祐君!」

 

 

と千歌ちゃんに見つかってしまった。千歌ちゃんの声に続いて、他の4人も僕の存在に気づいた。

 

 

「祐君も屋上に来ていたんだ。ところで何をしに来てたの?」

 

 

曜ちゃんが尋ねてきた。

 

 

「僕はいつも昼休みにここへ来て昼寝をしているんだよ。でもそれも今日で最後かな」

 

 

「もしかして祐さん。最後というのはルビィ達が来たからですか?」

 

 

ルビィちゃんが申し訳なさそうに尋ねてきた。

 

 

「いいや、そういう訳じゃないよ。昼寝なんて屋上じゃなくても出来るし、元々誰かが使い出したら僕は離れる予定だったしね。それよりも、今はダンスの練習をしていたの?」

 

 

暗そうな雰囲気になりそうだったので、僕は話題を変えてみた。

 

 

「うん!ルビィちゃんも花丸ちゃんもまだ仮入部だけど、正式に入部して欲しいから早速練習してるの。よかったら祐君も見ていってよ」

 

 

「うん、いいよ。特に何もする事はないからね」

 

 

こうして僕は、スクールアイドル部の練習を見学する事にした。

 

 

練習風景を見てみると、曜ちゃんがリズムをとって皆がそれに合わせて踊っていた。それにしても、練習をしている時の皆はとても笑顔で楽しくやっていた。仮入部の2人を見てみると、ルビィちゃんは憧れのスクールアイドルの練習が出来る嬉しさがこっちにも伝わって来るような感じして、花丸ちゃんはルビィちゃんをスクールアイドル部に入部させるために自分も着いてきたと言ってたけど、運動が苦手と言いながらも踊っている時は苦手には見えないような笑顔だった。

 

やがて練習が終わり、皆が教室に戻る中、僕も戻ろうとすると花丸ちゃんに止められた。

 

 

「祐さん。ちょっとお願いがあるずら」

 

 

「うん?お願い?」

 

 

「実は、今日の学校が終わった後、皆で淡島の頂上まで走って登る時間があるのだけど。そこで祐さんはダイヤさんを淡島の頂上の途中にあるテラスに呼んでほしいズラ。マルはルビィちゃんが1人でも大丈夫と思ったら降りてダイヤさんに話す事があるから」

 

 

「ダイヤさんを呼ぶのはいいけど、花丸ちゃんはそれでいいのかい?」

 

 

「マルはそれでいいずら。ルビィちゃんの背中を押す事がマルの夢だったから」

 

 

「・・・そう、分かったよ」

 

 

花丸ちゃんのお願いを僕は了承した。

 

授業後、花丸ちゃんに頼まれた通り、ダイヤさんに伝えた。

 

 

「花丸さんが放課後に淡島で私に話したい事ですか。まあ私も予定はありませんので別に構いませんわ」

 

 

とダイヤさんからOKが出た。するとダイヤさんが、

 

 

「祐さんは今のスクールアイドル部をどう思っているんですの?」

 

 

と質問をしてきた。

 

 

「僕は、千歌ちゃん達が頑張っているのはとても嬉しく思うけど、あの時のような事が起きないようにと思っていますね」

 

 

「そうですか・・・。ありがとうございます」

 

 

「じゃあ僕は帰りますね」

 

 

「えぇ、さようなら」

 

 

僕は生徒会室を後にした。

 

 

次の日、花丸ちゃんからルビィちゃんがスクールアイドル部に正式に入部した事を聞いた。

 

 

「それは良かったね」

 

 

「これでマルの夢は叶ったズラ。もうルビィちゃんは1人でも大丈夫。だからマルは本の世界に戻るズラ」

 

 

「じゃあ次は花丸ちゃんの番だね」

 

 

「ずら?」

 

 

僕の言った事の意味を花丸ちゃんは分かってないようだ。

 

 

「言葉通りの意味だよ。次は花丸ちゃんがスクールアイドル部に入部するんだよ」

 

 

「祐さん、前にも言った通りオラには無理ずら。」

 

 

「どうしてやる前からそう決めるんだい?」

 

 

僕が普段言わない言葉に花丸ちゃんは少し困惑していた。それでも僕は話を続ける。

 

 

「屋上で練習している時に見てたけど、花丸ちゃんは楽しそうに踊ってたじゃないか。ルビィちゃんの為に入ったとは思えないほどね。後、ルビィちゃんは今回の事を既に見抜いていたよ」

 

 

 

~昨日~

 

 

 

「祐さん。聞きたいことがあるんですけど、今日の練習してる時の花丸ちゃん見てどうでした?」

 

 

「どう?う~ん、なんて言うか、楽しそうにやってたね。でもそれがどうかしたの?」

 

 

「実は、ルビィ思うんです。花丸ちゃん本当はルビィの為に無理してスクールアイドル部に仮入部したんじゃないかって」

 

 

既にお見通しか・・・

 

 

「ルビィちゃんはどうしたいの?」

 

 

「ルビィ、本当は花丸ちゃんと一緒にスクールアイドルをやりたいです」

 

 

「じゃあその気持ちを花丸ちゃんに伝えればいいよ。それが出来るのは、友達のルビィちゃんだけだから」

 

 

「ルビィの・・・気持ち・・・」

 

 

 

~~~

 

 

 

「ルビィちゃんが・・・」

 

 

「そう。無理矢理してたら、笑顔なんかは出来ないよ。だから花丸ちゃんもやってみたらいいんじゃない?自分自身の本当にやりたい事を。僕が出来るのはここまでだから、後は2人で決めたらいいよ」

 

 

と言って僕は図書室を後にした。

 

廊下を歩いてる途中で走るルビィちゃんとすれ違った。これで2人は1歩前に進めたと僕は思った。

 

後日、花丸ちゃんもスクールアイドル部に入部した。




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堕天使の苦悩

こんにちは、黒雨です。
プチぐるがリリースされましたね。自分はスノハレの希ちゃんを愛用しています。スキルの爽快感がたまらないですね。
それではどうぞ!


昼間辺りにある生放送が配信された。それは、ある堕天使による占いだった。

 

 

「感じます、精霊結界の損壊により、魔力構造が変化していくのが・・・世界の情勢は天界議決により決していくのが・・・かの約束の地に降臨した堕天使ヨハネの魔眼が、その全てを見通すのです!全てのリトルデーモンに授ける、堕天の力を!」

 

 

最後に堕天使ヨハネがそう言って放送は終了した。

 

放送終了後、僕の携帯に電話が入った。その相手は、さっきまで生放送をしていたヨハネからだった。

 

 

「やってしまった~!」

 

 

「その割には楽しそうにやってたじゃん。言ってた事が本当にあるかも知れないよ」

 

 

「ある訳ないでしょ!?もう私も高校生なんだからいい加減卒業するの!リア充になるの!」

 

 

「じゃあまずは学校に来ないと」

 

 

「あんな事言ったからもう学校に行けないじゃない!」

 

 

「そんなに覚えてる人はいないと思うけど・・・」

 

 

「いいや、絶対に覚えてる!」

 

 

「じゃあ誰かに確認してみたらいいんじゃない?誰か同級生で連絡先を知ってる友達はいるの?」

 

 

「フッ、堕天使とは常に孤独なもの、リトルデーモンではない下等な人間に友達など」

 

 

「本当にいないの?」

 

 

「・・・ズラ丸なら」

 

 

「じゃあ花丸ちゃんに聞いてみるしかないね。それか学校に来るかだよ」

 

 

「う~ん、究極の選択・・・!」

 

 

と善子ちゃんが唸り声を出していた。その唸り声から善子ちゃんが凄く悩んでるのが電話越しでもよく分かった。

 

 

「そこまで悩むものかな・・・」

 

 

「うるさい!私にとっては凄く悩むものなのよ!とにかく明日までには決めておくから」

 

 

と言って電話は終了した。

 

その夜、

 

 

「ついにこの堕天使ヨハネが再びあの場所に再臨する時が来たわ」

 

 

「という事は学校に来るんだね。良かったよ」

 

 

「その代わり、祐に頼みがあるの」

 

 

「頼み?」

 

 

「えぇ、ヨハネはまだ多くの人間に姿を見せることは出来ないわ。だから人間の視界に映らない場所から降り立ちたいの」

 

 

「つまり、まだ同級生に見られたくないから、あまり人気の無い所から登校したいと」

 

 

「訳すな!とにかくそういう事よ」

 

 

「でも朝は学校の生徒で道はいっぱいだからね、それは難しいかも」

 

 

「・・・そう、ありがとう。おやすみ」

 

 

と言って電話は終了した。

 

次の日、学校へ行けば千歌ちゃん達がパソコンを見て悩んでいた。

 

 

「どうしたの?パソコンにずっと顔を向けて」

 

 

「実は、スクールアイドルのランキングに登録したのはいいけど、なかなか順位が伸び悩んでいて・・・」

 

 

「歌もダンスも評判はいいんだけど・・・。それに、新しく入った花丸ちゃん達もかわいいって!」

 

 

まぁ、ランキングの伸び悩みはこれにエントリーしたら、どのグループもこの問題に当たる。そういえば、あの3人もこの問題に当たってたな・・・。

 

 

「祐君どうしたの?急に考え込んじゃって」

 

 

「いや、何でもないよ」

 

 

と曜ちゃんは僕が考え込んでいる事に気づいた。幸い、考えてる内容は気づかれなかった。

 

 

「ランキングを上げるのなら、何か行動をするしかないと僕は思うけど」

 

 

「行動すると言っても何をすれば・・・」

 

 

梨子ちゃんが悩んでいると、曜ちゃんから案が出た。

 

 

「じゃあ、Aqoursの名前をもっと奇抜なものに付け直してみる?」

 

 

「そういや、Aqours以外にどんな名前があったの?」

 

 

僕が千歌ちゃん達に尋ねると、

 

 

「色んな名前を考えたけど、中でも奇抜な名前だったら、スリーマーメイドかな」

 

 

「スリーマーメイド・・・?」

 

 

「ちょっと千歌ちゃん!何でその話を蒸し返すの!?」

 

 

と梨子ちゃんが即座に反応した。なるほど、梨子ちゃんが考えた名前か・・・。

 

 

「じゃあ、Aqoursって名前は誰が考えたの?」

 

 

「私達が考えたんじゃないよ。たまたま砂浜にその名前が書かれていて、それに出会ったの」

 

 

千歌ちゃんはそう答えた。

 

それを聞いて僕は疑問に思った。一体、誰がその名前を書いたのかを。まぁそれは後回しでいいか。

 

 

「あっ!そろそろ練習の時間だから私達は行くね」

 

 

と言って千歌ちゃん達は屋上へ行った。

 

 

僕も散歩がてら、廊下を歩いていると、1年生の教室の廊下にあるロッカーから小さな声が聞こえた。そのロッカーをノックしてみると、戸が少し開いて、中から善子ちゃんが顔を出した。

 

 

「何でまたロッカーに・・・」

 

 

「それは・・・、天界からの使者が私の事を探しに来たからこの場でやり過ごそうと」

 

 

「学校は神が降り立つような場所じゃないと思うけどね・・・。教室には顔を出したの?」

 

 

「・・・まだよ。やっぱり、皆覚えてる!あの時の自己紹介を!」

 

 

「そんな事ないよ。覚えてたらこっちのクラスまで噂が回ってくるから」

 

 

「祐さん、ロッカーの前で何を話してるずら?」

 

 

後ろからの声に善子ちゃんはすぐに戸を閉じて、僕は振り向くと、花丸ちゃんがそこにいた。

 

 

「ちょっとした独り言だよ」

 

 

「本当ずら?さっきロッカーの戸が一瞬開いたように見えたけど」

 

 

「気のせいじゃないかな。それとも、花丸ちゃんが疲れてるかだよ」

 

 

花丸ちゃんは少し考えた後、

 

 

「あ!あれは何ずら!?」

 

 

と言って窓に指を差した。僕は誤ってそっちを向いてしまった。すると、花丸ちゃんはその隙にロッカーの戸を開け、中に隠れてた善子ちゃんも見つかってしまった。

 

 

「やっと学校に来たずらか」

 

 

その後、善子ちゃんの事情を花丸ちゃんに話した。




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ヨハネのお願い

こんばんは、黒雨です。
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そしてこれからもよろしくお願いします!
それではどうぞ!


次の日、学校へ行く坂を登りながら僕は、昨日善子ちゃんが僕と花丸ちゃんへお願いをした事を思い出していた。

 

 

~昨日~

 

 

「ずら丸と祐にヨハネたってのお願いがあるの!」

 

 

「お願い?何ずら?」

 

 

「学校にいる間、ヨハネの事を監視して欲しいの」

 

 

「監視?」

 

 

「そうなの!私は気が緩むと、どうしても堕天使が顔を出してしまうの。だからお願い!」

 

 

「僕はいいけど、花丸ちゃんは?」

 

 

「危なくなったら止めればいいんだね。それならマルも問題無いずら」

 

 

「頼むわよ。じゃあヨハネはこれで!」

 

 

「あ、ちょっと善子ちゃん!?」

 

 

~~~

 

 

「結局あの後、善子ちゃんは早退して帰ったみたいだけど今日は学校に来るのかな・・・」

 

 

と心配していると後ろから、

 

 

「祐、おはよう」

 

 

という声が聞こえた。振り向くと善子ちゃんが歩いてきたが、雰囲気が少し違っていた。

 

 

「おはよう。え~っと善子ちゃん?それともヨハネ?」

 

 

「善子よ。私は津島善子」

 

 

「でも口調はヨハネ寄りだけど」

 

 

「それは、気のせいじゃないかしら。それじゃ私は教室に皆と入学式以来に顔を合わせるからもう行くわね」

 

 

と言って、先に学校へ入っていった。

 

 

「もしかして、これからの学校生活をあの口調でいくつもりなのかな。無理そうな気がする・・・」

 

 

と思いつつ僕は教室へ向かった。するとその予想はすぐに当たることとなった。

 

 

昼休み、花丸ちゃんに呼び出された僕は屋上に来ていた。そこには花丸ちゃんと横で落ち込んでる善子ちゃんの姿があった。

 

 

「どうしたの?いきなり呼び出して」

 

 

「実は善子ちゃんの堕天使が出てしまったずら」

 

 

「でも確か花丸ちゃんが監視してたんだよね。それなら不用意に堕天使が出ずに大丈夫だと思うんだけど」

 

 

「その筈だったけど、善子ちゃんがこんな物を持ってきてるとは思わなかったずら」

 

 

そう言って花丸ちゃんは、善子ちゃんの鞄をあさった。すると、中から善子ちゃんが生放送で使っている道具がでてきた。

 

 

「何でまたこれらを持ってきたの?」

 

 

「それは・・・まぁ・・・ヨハネのアイデンティティみたいな物だからアレが無かったら、私は私でいられないの!」

 

 

「ヨハネになってるよ」

 

 

「はっ!しまった!」

 

 

「さて、これからどうしようか・・・」

 

 

僕が考えていると、昼休み終わりのチャイムが鳴った。

 

 

すると花丸ちゃんがある提案をした。

 

 

「祐さん。ひとまず善子ちゃんの事は丸に全部任せて欲しいずら。学校が終わってもまだ生徒はたくさん残ってるから生徒が少なくなるまでの間、善子ちゃんには部室で待っててもらうずら。その間に次どうするかを考えてみるずら」

 

 

「本当に全部任せていいの?」

 

 

「大丈夫ずら」

 

 

「じゃあ善子ちゃんの事よろしくね」

 

 

「任されたずら」

 

 

そう決めて僕達はそれぞれの教室へ戻った。

 

その日の夜、善子ちゃんから電話が来た。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「あのさ、私スクールアイドルをやる事になったんだけど」

 

 

「それは意外だね。急にどうしたの?」

 

 

「それが、橙色の髪の毛をした先輩が堕天使アイドルとしてステージで堕天使の魅力を思い切り振り撒かないかって話になって」

 

 

千歌ちゃんだな・・・何を考えているのか。

 

 

「それで、明日動画を撮るから祐にも見て欲しいなと思って」

 

 

「・・・そっか。頑張れ、でも堕天使の件はどうするの?」

 

 

「・・・」

 

 

「悩んでるみたいだね。決まったら教えてよ。それじゃおやすみ」

 

 

と言って電話を切った。

 

次の日、生徒会室でAqoursが撮った動画で見る事にし、再生を押そうとすると、

 

 

「チャオ~♪」

 

 

と鞠莉さんが入ってきた。

 

 

「どうしたんですか?」

 

 

「ダイヤを探しに来たんだけど、あら?ユウは何を見ているのかしら?」

 

 

「Aqoursが今日撮った動画を見ようとしてたんですよ。鞠莉さんも見ます?」

 

 

「YES!もちろんよ!じゃあ理事長室で見ましょ」

 

 

と決まったので理事長室に行くと、中でダイヤさんが待っていた。

 

 

「遅すぎますわ!どれだけ待ったと思っているんですの!?」

 

 

「あら?ダイヤ。ここにいたんだ~」

 

 

「貴方がここに呼び出したんじゃないですか!」

 

 

「そうだっけ~忘れちゃった。それよりもAqoursが動画を撮ったらしいからダイヤも見る?」

 

 

「それは見ますが、まだ私の話は終わっていませんわ!」

 

 

「まぁまぁ、ダイヤさん落ち着いて。このままだといつま経っても動画見れませんよ」

 

 

「祐さんがそう言うなら・・・」

 

 

ダイヤさんも落ち着いたところで僕は動画の再生ボタンを押した。

 

 

「はぁい、伊豆のビーチから登場した待望のニューカーマン、ヨハネよ!皆で一緒に堕天しない?」

 

 

「しない?」

 

 

動画で流れたのは、堕天使ヨハネと堕天したAqours?だった。

 

 

「・・・これは何ですの?」

 

 

ダイヤさんは少し怒り気味で尋ねてきた。

 

 

「・・・僕にも何が何だか(これは・・・やってしまったな)」

 

 

「見てダイヤ、妹のルビィが映ってるわ!」

 

 

鞠莉さんがそう言うと、ダイヤさんは再び動画に目を向けた。

 

 

「ヨハネ様のリトルデーモン4号、く、黒澤ルビィです・・・1番小さい悪魔、可愛がってね!」

 

 

それを聞いてダイヤさんは無言で立ち上がり、理事長室を出た。それから数分経った後、

 

 

「スクールアイドル部!今すぐ生徒会室に集まりなさい!」

 

 

と怒ったダイヤさんの放送が学校じゅうに響きわたった。




ありがとうございました。
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好きなもの

こんにちは、黒雨です。
ゴールデンウィーク明けは五月病になる事が多いですよね。自分は毎年です(笑)
それではどうぞ!


理事長室では、ご立腹な状態のダイヤさんと先程呼び出されたAqoursの皆がいた。僕と鞠莉さんは、ダイヤさんの後ろで今回の原因となった動画を見ていた。

 

 

「呼び出された理由は分かっていますわよね?どうしてこのような事になったのですか!?」

 

 

ダイヤさんは怒鳴り声で千歌ちゃん達を問い詰めた。

 

 

「ランキングを上げるためには、インパクトが必要と思ったので・・・」

 

 

「確かにインパクトはあるよ。特にルビィちゃんの人気は動画のコメントを見ていても凄いよね」

 

 

「Oh~!Pretty blow on head!」

 

 

僕と鞠莉さんはルビィちゃんの自己紹介を見て会話していた。すると、僕達が言ったことは更にダイヤさんの逆鱗に触れてしまった。

 

 

「Pretty!?どこがですの!?こういうものは破廉恥と言うのですわ!」

 

 

「いや~そういう衣装というか・・・」

 

 

「キャラというか・・・」

 

 

「だから私はいいの?って言ったのに!」

 

 

どうやら、梨子ちゃんは余り乗り気じゃ無かったみたいだ。

 

 

「そもそも、私がルビィにスクールアイドル活動を許可したのは、節度を持って自分の意思でやりたいと言ったからです!こんな格好をさせて注目を浴びようなど」

 

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん・・・」

 

 

ルビィちゃんが謝ったことでダイヤさんの怒りが少し収まった。

 

 

「・・・とにかく、キャラが立ってないとか、個性が無いと人気が出ないとか、そういう狙いでこんな事をするのは頂けませんわ!」

 

 

「でも、一応順位は上がったし・・・」

 

 

「それは違うよ、曜ちゃん」

 

 

僕は曜ちゃんの言葉をすぐに返した。

 

 

「確かに順位は上がっていたよ。さっきまでね。でも、順位の上がりなんて一瞬の間だけ。今の順位を見てみる?」

 

 

と言って僕は今の順位を曜ちゃんに見せた。

 

 

「え!?」

 

 

曜ちゃんは驚きを隠せずにいた。そりゃそうだよね。さっきまでの順位が急激に落ちてたら誰だってそうなるよ。

 

 

「本気で目指すのならどうすればいいか、もう一度考える事ですね!」

 

 

「はい・・・」

 

 

と言ってダイヤさんの話を終えたAqoursの皆は生徒会室を出ていった。

 

 

その日の夜、善子ちゃんから電話が掛かった。

 

 

「あのさ祐。明日の朝早くに私の家に来れない?」

 

 

「いきなりどうしたの?」

 

 

「私、やっと堕天使を辞める決心がついたの。今回の事で何かスッキリした・・・ずら丸や先輩達に自分の堕天使で迷惑かけた事、それにこれからも迷惑かけそうだからスクールアイドルは辞めたわ。明日から今度こそ普通の高校生になれそうなのよ。それで、堕天使の最後は祐にも見届けて欲しいの」

 

 

「・・・分かったよ」

 

 

「ありがとう。住所は後で送るから、おやすみ。今まで私の堕天使に付き合ってくれてありがとう」

 

 

と言って電話が切れた。

 

 

「善子ちゃん、本当にそれで良かったのかな・・・」

 

 

僕はそう思って寝床に着いた。

 

 

~~~

 

 

「アイドルは無しです!」

 

 

少女は天真爛漫な子にそう言い放った。事の発端は高校二年生の春、通っている学校が廃校なると分かって、3人はそれを阻止するためにどうすればいいかを考えていた。すると次の日、その子はスクールアイドルを始めようと考えたのだった。しかし、素人には無理だと少女は言った。

 

放課後、少女は弓道部で部活動をするが、スクールアイドルの事で雑念が生まれ、部活に身が入らなかった。

するとそこへ、もう1人の友達のおっとりとした子がやって来て、ある場所へ案内された。そこには、あの子が1人で練習している姿があった。それをみたおっとりとした子は、

 

 

「私、やってみようかな・・・( )ちゃんはどうする?」

 

 

と少女に訪ねてきた。その言葉に少女はどうしようかと悩んだ。すると、少女の頭に弟から言われたある言葉が浮かんだ。

 

 

「やる前から決めつけてたら結果は変わらないけれど、やり始めたら結果は変わるかもしれないよ」

 

 

その言葉を思い出した少女は、天真爛漫の子に手を差し伸べた。こうして、3人はスクールアイドル活動を始めた。

 

 

~~~

 

 

次の日の朝、夢から目が覚めた僕は準備をして住所の通りに善子ちゃんのマンションへ向かい、インターホンを鳴らした。すると、ドアが開き、中には善子ちゃんがいた。

 

 

 

「ありがとう。来てくれて。これで最後だから着いてきて」

 

 

と善子ちゃんについて行ってゴミ置き場に着いた。

 

 

「・・・これでよし」

 

 

と言って善子ちゃんは最後の堕天使グッズを入れたダンボールをゴミ置き場に置いた。

 

 

「・・・本当にこれで良かったの?」

 

 

「うん。これでもう私は堕天使ヨハネじゃ無くなったから、これからはちゃんと津島善子だから」

 

 

「・・・僕はまだ善子ちゃんには未練があると思うんだよ」

 

 

「どういう事?」

 

 

「だって、あれだけ好きだった堕天使をあの1回だけで辞めれる訳が無いよね?」

 

 

「・・・」

 

 

僕の言葉に善子ちゃんは無言だった。

 

 

「自分が好きなら、無理に辞めようとしなくてもいいんじゃない?」

 

 

「それはダメよ。また皆に迷惑を掛けてしまうから」

 

 

「今の善子ちゃんは自分の大好きなものを捨てようとしているんだよ。周りがどう思おうとそれは周りの勝手。僕が見ている限り善子ちゃんはヨハネの時、とても生き生きとしていた。それは堕天使が好きだからだよね。だから僕はそんな善子ちゃんを応援しているよ・・・何たってヨハネのリトルデーモンだから」

 

 

「え・・・?今なんて」

 

 

「堕天使ヨハネちゃん!」

 

 

善子ちゃんが僕の言ったことを聞き直そうとすると、奥からリトルデーモンの衣装を着たAqoursの皆がやって来た。

 

 

「スクールアイドルに入りませんか?ううん、入ってください!Aqoursに!堕天使ヨハネとして!」

 

 

「・・・駄目よ!」

 

 

と言って善子ちゃんは何処かへ走って行き、千歌ちゃん達はその後を追いかけて行った。

 

それを見届けた所で帰ろうとすると、携帯が鳴っていたので出ると、相手はダイヤさんからだった。

 

 

「祐さんに伝えなければいけない事があります・・・」

 

 




ありがとうございます。
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二の舞への不安

こんにちは、黒雨です。
今週末はAqoursの3rdLive大阪公演の抽選発表ですね。
結果が気になって仕方ないです。
それではどうぞ!


学校に着いた僕はすぐさま生徒会室へ入室した。

 

 

「ダイヤさん。伝えなければいけない事って?」

 

 

「はい。実は、この学校が沼津の学校と統合して廃校になる話が進められているのです」

 

 

「・・・廃校、まさか本当に現実になるとは・・・」

 

 

僕は驚きを隠せずにいた。

 

 

「えぇ。今は鞠莉さんが待って欲しいと強く言ってるみたいなのですが、それもいつまで持つか」

 

 

「共学化テスト生を募集してた時には、既に廃校の話はあったということになりますね」

 

 

「はい。確かに以前から受験者数が年々減っていましたから・・・」

 

 

ダイヤさんはそう言って悩んでいると、生徒会室のドアをノックする音が聞こえ、ルビィちゃんが入ってきた。

 

 

「お姉ちゃん・・・実は、今日もちょっと遅くなるかもって」

 

 

「今日も?」

 

 

「うん、千歌ちゃんが入学希望者を増やすために、PVを作るんだって言ってて」

 

 

「・・・分かりましたわ。お父様とお母様に言っておきますわ」

 

 

「いいの?本当に?」

 

 

「ただし、日が暮れる前には戻って来なさい」

 

 

「うん!じゃあ行ってくる!」

 

 

ルビィちゃんが行こうとした時、

 

 

「どう?スクールアイドルは?」

 

 

と言ってダイヤさんが呼び止めた。

 

 

「大変だけど、楽しいよ」

 

 

「そう・・・」

 

 

「お姉ちゃ」

 

 

「早く行きなさい!遅くなりますわよ」

 

 

ルビィちゃんが何かを言いたそうだったが、すぐに部室へ走っていった。ルビィちゃんの足音が聞こえなくなった時、僕はダイヤさんに尋ねた。

 

 

「・・・ルビィちゃんが心配なんですね」

 

 

「えぇ。今は大丈夫なようですが、いずれ分かるはずです。スクールアイドルの厳しさが」

 

 

ダイヤさんはそう言って生徒会室を出た。

 

 

後日、Aqoursが投稿したPVがかなりの評判をよんで、ランキングも100位圏内に入っていた。周りの皆はとても喜んでいるが、僕は少し複雑な気分だった。このままの勢いだと、あの時の二の舞になるような気がしていたから。すると、そんな悪い予感が的中する事となった。

 

 

「やったよ~祐君!」

 

 

教室に入った千歌ちゃんが大喜びながら僕の所へやって来た。

 

 

「どうしたの?今日はやけにテンションが高いね」

 

 

「そうなの!なんと、私達Aqoursが東京のスクールアイドルのイベントに呼ばれたんだよ!」

 

 

「え・・・」

 

 

千歌ちゃん達にとっては嬉しい事かもしれないが、僕にとっては最悪な情報だった。

 

 

「でね、今から理事長に許可を貰いに行くんだ!」

 

 

と言って千歌ちゃんはさっき来たばっかしなのにまたすぐ教室を出ていった。

 

 

帰る間際、僕は鞠莉さんがどんな返事をしたのか気になって理事長室へ向かった。

 

 

「What?どうしたのかしら、ユウ」

 

 

「千歌ちゃん達から聞いたんですよね。東京のスクールアイドルのイベントの事」

 

 

「えぇ。もちろん許可は出したわ」

 

 

「・・・何で許可を出したんですか。これだとあの時と変わらないじゃないですか」

 

 

僕の問に鞠莉さんは冷静に答える。

 

 

「あの子達なら私達が乗り越えられなかった壁を乗り越えるかも知れないし。それに私が止める理由もないしね」

 

 

「確かにそれはそうだけど・・・」

 

 

「きっと大丈夫よ。だからそれを信じましょ?ね?」

 

 

「・・・・・・」

 

 

鞠莉さんの言葉に僕は何も答えず、理事長室を出た。

 

 

「・・・頼むから、二の舞にはならないで下さい」

 

 

僕は帰りながらそう祈るしかなかった。

 

 

「どうしたの?祐、何か考え事?」

 

 

家に帰っても表情が変わらなかったのか、姉さんにすぐ気づかれた。

 

 

「うん、考え事というよりは心配事かな」

 

 

「よかったらお姉ちゃんが相談に乗ってあげるよ。こんな時は、周りを頼ればいいんだよ」

 

 

「ありがとう。後で姉さんに言うつもりだったんだけど今から言うね」

 

 

「私に言うこと?」

 

 

「実はね・・・」

 

 

こうして、僕はAqoursが東京のイベントへ行く事を伝えた。

 

 

「いったい鞠莉はどういうつもりなの・・・」

 

 

「僕にも分からないよ。でも今の状況はまるで姉さん達と同じように見えてくるんだ」

 

 

「祐の言いたいことは分かるよ。とにかく落ち着こう」

 

 

姉さんに言われてひとまず深呼吸をして落ち着く事にした。

 

 

「千歌達が行くと決めて、鞠莉が許可を出してる以上、もう止めることは出来ない。だから見守るしかないよ」

 

 

「・・・そうだね」

 

 

次の日、僕は家の手伝いで接客をしていたが、東京に行ったAqoursの事が心配になる時があり、あまり仕事に力が入らず、時間の合間があればずっとテラスから見える海の景色を見ていた。

 

 

「やっぱり心配なの?海をずっと見てるから」

 

 

お客さんが来ていない時に姉さんからそう聞かれた。

 

 

「そういう姉さんは心配じゃないの?」

 

 

「私だって心配しているよ。千歌にスクールアイドルやってた事を言わなかったなのは興味を持たれないようにってのもあったしね、あっ、お客さんが来たよ。さぁ仕事に戻ろう」

 

 

姉さんに言われて僕も仕事に戻った。




ありがとうございます。
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隠し事

こんばんは、黒雨です。
スクフェス感謝祭の情報を見てると、現地に行きたくなってしまいます。
それではどうぞ!


千歌ちゃん達Aqoursが東京へ行ってから次の日、僕と姉さんはいつもと変わらず、家の手伝いを終えてテラスで休憩をしていた。今日は千歌ちゃん達がイベントを終えて東京から戻ってくる日。どんな顔で戻ってくるのかとても心配だ。するとそこへ、1つの人影が近づいてきた。僕達はそっちへ振り向くと、ダイヤさんだった。

 

 

「こんにちわ。果南さん」

 

 

「ダイヤじゃん。今日はどうしたの?」

 

 

「少し顔を見に来ただけですわ」

 

 

「あはは、まぁゆっくりしていきなよ」

 

 

「ならそうさせていただきます」

 

 

ダイヤさんはそう言って席に座った。

 

しばらく経った後、ダイヤさんが口を開いた。

 

 

「・・・今日はあの子達が戻って来る日ですね」

 

 

「・・・そうだね」

 

 

「結果はどうなると思いますか?」

 

 

「どうだろうね。成功したらいいけど、失敗したらもう後戻りが出来なくなるかもね」

 

 

「・・・そうですね。あの子達には私達と同じようになって欲しくはないのですが。ではそろそろ皆が帰ってくる時間なので私は迎えに行ってきます」

 

 

「ねぇダイヤ。お願いがあるんだけど、もし千歌達が戻ってきたら私達のことを話してほしいの」

 

 

「分かりましたわ。ではさようなら」

 

 

ダイヤさんはそう言って、帰っていった。

 

帰っていくのを見た姉さんも立ち上がって何処かへ行く準備をしていた。

 

 

「祐。私、夜になったら用事があるからちょっと外に出るね」

 

 

「いいけど、何処か行くの?夜から雨が降る予定なのに」

 

 

「・・・鞠莉の所へ行ってくる」

 

 

「・・・分かったよ。雨が強くなる前に戻ってきてね」

 

 

「ありがとう。じゃあ行ってくる」

 

 

と言って姉さんは走っていった。

 

陽も沈んでいき暗くなる頃、僕に電話が入った。相手は善子ちゃんからだった。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「・・・何で今まで隠してたのよ。祐が生徒会長達のスクールアイドルを手伝っていた事」

 

 

声からして、少し怒ってるように感じた。

 

 

「・・・ごめんね隠してて。僕がその事を話したら、きっと千歌ちゃんは僕を勧誘しにくると思ったから言わなかったんだ。僕にはもう手伝える資格なんて無いから」

 

 

「じゃあ私達が東京へ行くと聞いていて何で止めなかったのよ」

 

 

「本当は止めたかったよ。でも、心のどこかで成功するんじゃないかと思う自分がいたんだ」

 

 

「・・・そう。ごめん、いきなり問いただして」

 

 

「善子ちゃんが謝ることないよ。悪いのは僕さ。こうなる事を考えてたなら、早く止めるべきだったよ。じゃあもう切るね」

 

 

僕は善子ちゃんとの電話を切って家に飾ってある写真に目を向けた。姉さんとダイヤさん、そして鞠莉さんが笑顔で一緒に写ってる写真だ。それを眺めて姉さん達のスクールアイドルを振り返っていた。

 

確か始まりは・・・

 

 

~~~~~

 

 

「ねぇ祐。実はね私達スクールアイドルを始めようと思うんだ」

 

 

「スクールアイドル?」

 

 

「うん。それでね、スクールアイドルになって学校の廃校を阻止したいんだ」

 

 

「へ~そうなんだ。頑張って姉さん。僕は姉さんの事を応援してるから」

 

 

「ありがとう。あと祐にお願いがあるんだ」

 

 

「お願い?」

 

 

「私達のスクールアイドル活動の手伝いをして欲しいの」

 

 

「手伝いなんて僕やった事ないよ」

 

 

「大丈夫だよ。きっと何とかなるから」

 

 

「何とかなるって言われても・・・できる限りなら手伝うよ。でも、スクールアイドルって何?」

 

 

「まさか祐さんはスクールアイドルを知らないんですの!?では今から祐さんと鞠莉さんにその素晴らしさを教えて差し上げますわ!今すぐ私の家に変更です!」

 

 

「え~私このままbackhomeしたかったのに~」

 

 

「何を言っているんですか!スクールアイドルをするには知識も重要です!」

 

~~~~~

 

 

そしてあの後、ダイヤさんの家でひたすらμ'sのライブDVDを見てたんだっけかな。今思えばあの頃はスクールアイドルの厳しさなんて何も知らなかった。それはまるで右も左も分からず海を渡っているようだった。そして辿り着いた場所はとても波が荒れていて、3人はそれを渡りきる事が出来ずに沈んでいった。僕はそれを見ているだけで何も出来なかった。いくらでも手を伸ばす事が出来たのに。

 

 

「結局、僕は逃げているだけか・・・」

 

 

そう思いながら僕はテラスに出た。外は、雨も降っていて風も強い。そのせいで海も少し波が高くなっている。

 

その時、それを見ていた僕にある事が頭に浮かんだ。

 

 

「荒れる海・・・・・・沈んでいく船・・・・・・瓦礫で身動きが取れない少年・・・・・・少年を助けようとする少女・・・・・・」

 

 

何でその夢が急に頭に浮かんだのか分からないが、次の瞬間、

 

 

「うっ!?」

 

 

急に頭痛が起きて、その場にしゃがみ込んでしまった。

 

その状態の時に何故かは分からないが、ポケットに入れていたペンダントを握り締めていた。

 

やがて頭痛が治まり、僕には額からの汗と疲労感が強く残った。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・何でいきなりあの夢が・・・」

 

 

しゃがみ込んだまま考えていると、

 

 

「祐!」

 

 

僕の名前を呼ぶ大きな声が聞こえた。顔を上げると、姉さんが走って帰ってくるのが見えた。姉さんは家に着くと、すぐに僕の元へかけ寄ってきた。

 

 

「姉・・・さん・・・」

 

 

「祐!どうしたの!?」

 

 

「ちょっと・・・疲れてめまいがしただけだよ」

 

 

「嘘言わないで!」

 

 

姉さんがそれを言った時、僕は一瞬驚いた。

 

 

「私は今とても怒ってるの!祐が今まで隠していた事に!私達が今までどれだけ一緒に過ごしてきたか分かるでしょ!祐が1人で悩んでいる事を私が分からないとでも思った!?」

 

 

姉さんは怒っているが、その目には涙があった。

 

 

「私はもっと祐に頼られたかったの・・・。知らないと思うけど、祐はいつも夢にうなされてるんだよ。そんな祐を私は心配で仕方なかった・・・」

 

 

知らなかった。姉さんがそんな事を思っていたなんて、

 

 

「もう1人で抱えないで周りを頼ってよ・・・」

 

 

姉さんは最後に消えそうな声でそう言った。こんなにも姉さんを心配させていたなんて・・・それに気づかない僕は大馬鹿者だな。

 

 

「今まで自分の問題だと思って姉さんには言わなかった。それが逆に姉さんを不安にさせていたなんて思わなかった。本当にごめん」

 

 

それを聞いていた姉さんは僕を抱きしめ、

 

 

「それを聞けて、私は嬉しいよ」

 

 

静かにそう呟いた。その顔には笑顔が戻っていた。




ありがとうございます。
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すれ違う2人

こんばんは、黒雨です。
話を考えるために9話を見て、いつも感動しています。
それではどうぞ!


雨上がりの朝、僕と姉さんは日課のジョギングをしていた。でも今回はいつもと何かが違う。何やら後ろが少し騒がしい。

 

 

「(はぁ・・・まだ眠いずら)」

 

 

「(毎日こんな朝早く起きるんですね)」

 

 

「(それより、こんな大人数で尾行したらバレるわよ!)」

 

 

「(だってみんな来たいって言うし・・・)」

 

 

後ろから聞こえてくる声で誰かは何となく分かった。おそらく目的は姉さんだろう。しかし、それに気づかない姉さんはいつも通りに走っているので、僕は気づいてないふりをして姉さんと走っていった。そして、

 

 

「(一体・・・どこまで走るつもり?)」

 

 

「(もうかなり走ってるよね?)」

 

 

「(マル・・・もうだめずら・・・)」

 

 

走っているうちに体力が尽きたのか、後ろから千歌ちゃん達の声が聞こえなくなっていった。その事にも気づかずに僕達は弁天島の階段を登り終えた。

 

 

「ねぇ祐。私が踊っている所を見ていてくれない?」

 

 

「うん、いいよ。でもどうしたの急に?」

 

 

「そういえば、いつもここに来て私が踊っている時に祐は参拝してるから今日は最後まで見ていてほしいなと思って。それじゃ始めるよ」

 

 

と言って姉さんは踊り始めた。踊っている時の姉さんはとてもいきいきとしていて思わず見とれてしまうほど綺麗だった。

 

 

「綺麗・・・」

 

 

後から追いついてきた千歌ちゃんも茂みに隠れながら呟いていた。

 

でも、僕にはその笑顔には楽しんでいるように見える反面、未練があるようにも感じた。

 

 

「やっぱりここに来たわね」

 

 

急に横から声が聞こえたので顔を向けると、鞠莉さんがいた。

 

 

「・・・どうしてここに来たんですか?」

 

 

「果南と話がしたいからよ。他には踊っているのを見たかったからかな」

 

 

鞠莉さんが来ている事を姉さんは気づいたのか、ダンスを途中で切り上げた。

 

 

「復学届、提出したのね?」

 

 

鞠莉さんは拍手をしながら姉さんに尋ねた。

 

 

「・・・まぁね」

 

 

「やっと逃げるのを諦めた?」

 

 

さらに挑発するように鞠莉さんは続ける。

 

 

「勘違いしないで。学校を休んでいたのは父さんの怪我がもとで・・・それに、復学してもスクールアイドルはやらない!」

 

 

姉さんは冷たく返すが、鞠莉さんは恐れずに話を続ける。

 

 

「私の知っている果南は、どんなに失敗をしても、笑顔で次に向かって走り出していた。成功するまで諦めなかった」

 

 

「卒業まであと1年も無いんだよ・・・」

 

 

「それだけあれば十分!それに、今は後輩もいる」

 

 

「え!?」

 

 

急に出てきた言葉に隠れていた千歌ちゃん達が驚いていた。

 

 

「だったら、千歌達に任せればいい」

 

 

「果南・・・」

 

 

「どうして戻って来たの?私は、戻って来てほしくなかった」

 

 

「果南・・・!ふっ・・・相変わらず果南は頑固」

 

 

「もうやめて!あなたの顔・・・見たくないの・・・」

 

 

姉さんはの発言に鞠莉さんは落ち込みを隠さずにはいられなかった。

 

 

「祐・・・悪いけど、私は先に帰ってるね」

 

 

姉さんは僕にそう言って階段を降りていった。

 

僕も参拝を済ませて帰ろうとすると、

 

 

「待って祐君!」

 

 

と千歌ちゃんが茂みから出てきて呼び止めた。

 

 

「どうして果南ちゃんは鞠莉さんから離れようとしているの?祐君は何か知っているんでしょ?」

 

 

「・・・ごめん、千歌ちゃん。僕の口からは言えない。これは姉さん、ダイヤさん、そして鞠莉さんの3人の問題なんだ」

 

 

僕はそう答えて弁天島を後にした。

 

家に戻ると、姉さんは久しぶりに学校へ行く準備をしていた。でも、顔はどこか浮かない顔をしていた。それは外に出て船に乗っていても1ミリたりとも変わらなかった。

 

 

「姉さん。あれは嘘だよね」

 

 

「え?」

 

 

「鞠莉さんの顔を見たくないなんて」

 

 

「・・・だってこうでも言わないと鞠莉は諦めてくれないから。私の気持ちも知らないで・・・」

 

 

姉さんがそう呟いているうちに、浦女に着いた。

 

 

「じゃあ僕は教室こっちだから」

 

 

「うん。またね」

 

 

校舎に入って姉さんと別れた。

 

教室に入ると、

 

 

「ねぇ祐君!果南ちゃんが学校に来たのホント!?」

 

 

弁天島で暗くなった雰囲気を忘れてるかのように元気で千歌ちゃんがベランダから走ってきた。

 

 

「うん、さっきまで一緒にいたからね」

 

 

「でも大丈夫なの?鞠莉さんの事」

 

 

梨子ちゃんが少し心配そうだ

 

 

「・・・どうだろう。大事にならなければいいけど・・・」

 

 

すると、上から何かが落ちてきた。

 

 

「くんくん!制服~!」

 

 

曜ちゃんが急にベランダから乗り出した。

 

 

「だめ~!」

 

 

千歌ちゃんと梨子ちゃんが何とか支えていたので落ちなくて済んだ。

 

 

「ねぇ祐君。これって・・・スクールアイドルのだよね」

 

 

曜ちゃんが落ちてきた物を見せてきた。それは、確かにスクールアイドルの衣装だった。

 

 

「この衣装は・・・まさか!」

 

 

僕は急いで教室を出て走った。千歌ちゃん達が僕の名前を呼んでるみたいだけど、振り向きもせずに廊下を走っていった。あれは夏祭りの時に使うはずだった姉さんの衣装。それが落ちてきたという事は上で何かがあったに違いない。僕は階段を駆け上がった先にはダイヤさんがいた。

 

 

「ダイヤさん。上から姉さんの制服が落ちてきたけど何かあったんですか!?」

 

 

「祐さん。果南さんと鞠莉さんが・・・!」

 

 




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衝突

こんばんは、黒雨です。
ついに始まりますね3rdLIVE。
現地参加は出来ませんでしたが、ライブビューイングで参加する事が出来ました!
それではどうぞ!


「離して!離せと言ってるの!」

 

 

「いいって言うまで離さない!強情も大概にしておきなさい!」

 

 

3年生の教室の周りには人だかりが出来ていて、教室内では、姉さんと鞠莉さんがもみ合いの大喧嘩な状態となっていた。

 

 

 

「ダイヤさん。どうしてこうなったのですか?」

 

 

「実は、鞠莉さんが果南さんの衣装を持って来て勧誘をしていたのですが、果南さんがその衣装を外へ投げ捨てた事から始まりました」

 

 

「・・・なるほど、鞠莉さんも強引過ぎますよ・・・でも、このままだとどんどん下級生が見に来てここの周辺が混乱しますよ」

 

 

「そうですわね。早く2人を止めないと・・・」

 

 

「とにかく、まずは2人を引き離しましょう。ダイヤさんは鞠莉さん、僕は姉さんを」

 

 

「分かりましたわ」

 

 

話がまとまった僕とダイヤさんは教室に入った。

 

教室内ではまだ姉さんと鞠莉さんの喧嘩は収まっていなかった。

 

 

「たった1度失敗したくらいで、いつまでもnegativeに!」

 

 

「うるさい!いつまでもはどっち?もう2年前の話だよ!大体今更スクールアイドルなんて!私達、もう3年生なんだよ!」

 

 

2人は喧嘩で周りが見えていなかったため、僕とダイヤさんは作戦通りに、後ろに回って2人を引き離す事が出来た。

 

 

「姉さん。少し落ち着いて」

 

 

「祐!離して!」

 

 

「姉さんが落ち着くまで離すつもりは無いよ」

 

 

「鞠莉さんもおやめなさい!みんな見ていますわよ!」

 

 

「ダイヤだってそう思うでしょ!?」

 

 

「やめなさい!いくら粘っても果南さんは再びスクールアイドルを始めることはありませんわ!」

 

 

「どうして!?あの時の失敗はそんなに引きずることなの?千歌っち達だって、再スタートを切ろうとしてるのに!なんで!」

 

 

「千歌とは違うの!」

 

 

「姉さんも静かに!」

 

 

いくら引き離しても、2人は口喧嘩をして一向に収まる気配が見えない。すると、そこへ3年生の人混みを抜けてきた千歌ちゃんが目の前に出てきた。

 

 

「千歌?」

 

 

姉さん達が気づいた時には既に遅し。千歌ちゃんは大きく深呼吸をして、

 

 

「いいかげんに・・・しろーーー!」

 

 

と大声で叫んだ。その大声は周りのざわついていた声を一瞬で静かにさせた。

 

 

 

「もう!何かよく分からない話を!いつまでもずっとずぅっとずぅーっと隠してないで、ちゃんと話しなさい!」

 

 

「千歌には関係な・・・」

 

 

「あるよ!」

 

 

「いや・・・ですが・・・」

 

 

「ダイヤさんも!鞠莉さんも!祐君も!4人揃って、放課後部室に来てください」

 

 

「いや、でも・・・」

 

 

「いいですね!?」

 

 

「・・・はい」

 

 

千歌ちゃんがまとめた事で、この場は収まった。

 

放課後、部室に行く途中で姉さんと出会った。

 

 

「・・・一緒に部室へ行こ?」

 

 

「・・・うん」

 

 

僕の誘いに姉さんは静かに頷いた。部室に向かう途中で、

 

 

「祐、朝の事はごめん・・・」

 

 

姉さんは静かに謝った。

 

 

「別に気にしていないよ。あの状況だと周りが見えてないのが普通だからね」

 

 

そう話しているうちに部室へ着いた。姉さん達は2年ぶりに入ることになる。既に僕と姉さん以外の皆は集まっていた。

 

 

「だから、東京のイベントで歌えなくて・・・」

 

 

「その話はダイヤさんから聞いた。けど、それで諦めるような果南ちゃんじゃないでしょ?」

 

 

「そうそう!千歌っちの言う通りよ!だから何度も言ってるのに」

 

 

「何か事情があるんだよね!ね?」

 

 

「・・・そんなものないよ。さっき言った通り、私が歌えなかっただけ」

 

 

千歌ちゃんの問いにも姉さんは1つも答えない。

 

 

「う~イライラする!」

 

 

「その気持ちよ~~く分かるよ!ほんっと腹立つよねコイツ!」

 

 

「勝手に鞠莉がイライラしてるだけでしょ?」

 

 

「でも、この前弁天島で踊ってたような・・・」

 

 

ルビィちゃんが花丸ちゃんと朝の事を思い出してると、姉さんは急に顔を赤らめてルビィちゃんと花丸ちゃんを睨んだ。

 

 

「え?もしかして姉さん、全然気づいてなかったの?」

 

 

「そりゃ後ろから追いかけられてるなんて気づかないよ!それに踊ってるところを見られてたなんて・・・」

 

 

「おお!赤くなってる!」

 

 

「うるさい!」

 

 

鞠莉さんの茶化しに姉さんは顔を隠しているところを、ダイヤさんは微笑ましく見ていた。

 

 

「やっぱり未練あるんでしょ?」

 

 

鞠莉さんがそう言った瞬間に姉さんが立ち上がり、

 

 

「うるさい!未練なんてない!とにかく・・・もう嫌になったの!スクールアイドルは・・・絶対にやらない!」

 

 

そう鞠莉さんに言い放って部室から出て行った。それを言われてとてもショックだったのか、鞠莉さんはずっと顔を下に向けていた。

 

 

「ダイヤさん。何か知ってますよね?」

 

 

静かに最後まで聞いていた梨子ちゃんがそう尋ねた。

 

 

「え!?私は何も・・・」

 

 

ダイヤさんはそう言いながらも梨子ちゃんから顔を逸らしているので、隠しているのがバレバレだった。

 

 

「じゃあどうしてさっき、果南さんの肩を持ったんですか?」

 

 

梨子ちゃんの追求に他の皆もダイヤさんに目を向けだした。

 

 

「ダイヤさん。どうやらこれ以上は隠す事は出来ないみたいですね」

 

 

「いえ、それでも私は・・・」

 

 

そう言った瞬間、ダイヤさんは立ち上がり逃げ出そうとしたが、

 

 

「善子ちゃん!」

 

 

千歌ちゃんがそう言うと、部室のすぐ近くで善子ちゃんによって捕まっていた。

 

 

「お姉ちゃん・・・」

 

 

「さすが姉妹ずら・・・」

 

 

花丸ちゃんの言葉からして、ルビィちゃんも捕まったんだなと僕は思った。

 

 

「わかりました!言いますから、早く離してください!」

 

 

とうとうダイヤさんは隠す事を諦めた。

 

 

善子ちゃんに離してもらった後、

 

 

「祐さん。私は皆に私達の事を話すため、皆を家に連れて行きます。・・・果南さんの事を・・・頼みましたわよ」

 

 

ダイヤさんは僕にそう言って皆を連れて部室をあとにした。

 

 

「姉さん・・・3人の問題を今日で終わらせるよ」

 

 

1人になった部室で僕はそう呟いて、部室を出た。

 




ありがとうございます。
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真実と仲直り

こんばんは、黒雨です。
投稿が少し遅れてすいません。寝床についたらつい寝落ちしてしまって作業ペースが遅れていました。
それではどうぞ!


~2年前~

 

 

その日は姉さん達が、イベントを終えて東京から帰ってくる日だった。だがその日に限って、外は生憎の大雨だった。僕は姉さんに駅で待つようにと携帯でメールして家を出た。

 

船着き場に向かっていると、前からこの大雨のなかなのに傘を持たずに歩いて来る人がいた。しかしよく見ると背まで伸びてる青い髪のポニーテール、間違いない。

 

 

「姉さん!」

 

 

僕がそう叫ぶと、前の人は足を止めたのですぐに駆け寄った。この大雨の中歩いてきたのか、全身が濡れていて髪の毛で目元が見えない状態だったが間違いなく姉さんだった。

 

 

「姉さん、どうしてこんな無茶を・・・」

 

 

僕がそう言おうとすると、姉さんはいきなり僕の背中に手を回して抱きついた。

 

 

「ごめん祐、私・・・私・・・」

 

 

姉さんはすすり泣きながら呟いていた。これは何かあったと思い、姉さんを僕の傘の中へ入れて家へ戻り、話を聞いた。

 

 

 

「姉さん。一体何があったの?言いたくないなら無理して答えなくてもいいよ」

 

 

「・・・大丈夫。帰ったら祐に言うつもりだったから。実はね、私・・・東京のライブでわざと歌わなかったの」

 

 

「・・・それはつまり棄権したという事なの?」

 

 

「・・・うん」

 

 

「どうして?あれだけ頑張ってきたのに・・・」

 

 

「・・・実はライブの始まる前の練習で、鞠莉が足を捻って怪我したの」

 

 

「そんな・・・」

 

 

「でも鞠莉は大丈夫、平気としか言わなかった。そんな状態の鞠莉を私は見てられなくて・・・。それに、鞠莉には私達の事より自分の将来に進んでほしかったから」

 

 

「将来の道に?それは一体どういうこと?」

 

 

姉さんの最後の言葉に疑問を浮かべた。

 

 

「鞠莉にはね、海外の学校から留学の話が来ていたの。そこへ行けば有名大学の推薦が貰えるから先生も、鞠莉の両親も留学に賛成だったの。でも、鞠莉はそれを拒否したの」

 

 

「理由ってもしかして・・・」

 

 

「学校を救うためにスクールアイドルを始めたから。このままだと、私達や学校廃校のせいで鞠莉は自分の将来への可能性を捨ててしまう事になる。だからそんな事はしてほしくなかった」

 

 

「だから歌わなかったと」

 

 

「・・・うん」

 

 

「・・・これから姉さんはどうするつもりなの?」

 

 

「私は・・・スクールアイドルを辞めようと思うの。鞠莉の未来のために」

 

 

「姉さんはそれでいいの?それは鞠莉さんの思いを・・・」

 

 

「分かってる。悪いのは私だから、鞠莉に嫌われても構わない」

 

 

「姉さん・・・」

 

 

~~~~~

 

 

「あの時もこんな大雨だったかな・・・」

 

 

学校からの帰り、大雨の中、僕は帰路につきながらそう呟いた。ダイヤさんは今頃、千歌ちゃん達に真実を話している頃だろう。鞠莉さんはどう受け止めるのかな・・・。そう考えているうちに家に着いた。

 

家には先に帰っていた姉さんがダイヤさんと鞠莉さんと一緒に写っている写真を見つめていた。

 

 

「姉さんはやっぱり好きなんだね。鞠莉さんの事が。」

 

 

「・・・うん。嫌いになんてなれない」

 

 

姉さんは静かにそう答えた。

 

 

「鞠莉に強く当たる時、胸が苦しくて仕方なかった。でもこうしないと鞠莉は諦めてくれない。それに本当は鞠莉の言う通り、私はスクールアイドルを鞠莉やダイヤとまたやりたい。でも、それだとまた鞠莉が前に進めなくなる。それだけは・・・」

 

 

「どんな未来かは誰もまだ知らない。でも楽しくなるはずだよ」

 

 

僕が歌った詩に姉さんは少し動揺した。

 

 

「祐、それって・・・」

 

 

「覚えてる?姉さんが夏祭りに披露する予定だった新曲の一部だよ。先の困難を想像するよりも今を楽しむ事で姉さんが想像する未来とはまた別の未来が見えると思うんだ。だからまだ始まったばかりなんだよ。姉さん達の未来は」

 

 

そう話していると、姉さんの携帯が鳴った。

 

 

「もしもし?・・・うん、分かった」

 

 

二言で姉さんは携帯を切った。

 

 

「・・・鞠莉からだった。今から部室に来てって」

 

 

「行ってくるといいよ。そして伝えてくるといいさ。姉さんの今の気持ちを」

 

 

「・・・うん」

 

 

姉さんは頷いて家を出た。

 

 

~果南~

 

 

祐に後押しされて私は学校に来ていた。鞠莉の話ってなんだろう・・・もう話すことなんて何も無いのに。

 

そう思いながら部室に行くと、全身を雨に打たれたような状態の鞠莉が背中を向けて立っていた。

 

 

「・・・何?」

 

 

「いい加減話をつけようと思って」

 

 

鞠莉はそう返してきた。部室に入ろうとすると、鞠莉の足元から濡れている事が分かった。まさか、あの雨の中を・・・どうしてそこまでして・・・

 

 

「どうして何も言ってくれなかったの?思ってることをちゃんと話して、果南が私のことを思うように、私も果南のこと考えているんだから!将来なんかは今はどうでもいいの!だって、果南が歌えなかったんだよ。放っておけるはずない!」

 

 

鞠莉はそう言ってこっちに振り向いた。その目元には涙で溢れていた。すると、私の頬に痛みがはしった。鞠莉が私の頬を叩いたんだ。

 

 

「私が・・・果南の思う気持ちを、甘く見ないで!」

 

 

私だって鞠莉のことを思ってしたのに、私の気持ちを知らないで・・・

 

 

「だったら・・・だったら素直にそう言ってよ!リベンジだとか、負けられないとかじゃなく、ちゃんと言ってよ!」

 

 

「だよね・・・だから・・・」

 

 

鞠莉は自分の頬を私に向けた。私が鞠莉の頬を叩けばお互い様になるかも知れないが、それでは何も変わらない。痛みではなく優しさで解決、それは・・・

 

 

「ハグ・・・しよ・・・?」

 

 

私は両手を大きく広げた。鞠莉は泣きながら飛び込んで来た。私はそれを受け止めた。鞠莉が泣いてるように、私も目に涙を浮かべていた。

 

ごめんね鞠莉・・・そしてありがとう。私達の事を思ってくれてて。

2人で学校を出ると、ダイヤの妹のルビィちゃんが衣装をダイヤに渡していた。

 

 

「やるからにはとことんやりますわよ!」

 

 

まるであの頃のダイヤに戻っているようだった。

 

 

「よぉ~し!これでAqoursは9人だ!」

 

 

千歌は私達が増えた事を大きく喜んでいた。

 

でも、私達にはやっぱりアイツがいてくれなきゃ・・・。そこで、私は千歌に尋ねた。

 

 

「ねぇ千歌。私ね、1人スクールアイドルに誘いたい人がいるんだけどいい?」

 

 

「うん、もちろん!それで、果南ちゃんが誘いたい人ってどんな人?」

 

 

「それはね、皆が知っているアイツだよ」

 

 

私がアイツと呼ぶだけで、皆は納得をしていた。どうやら皆が想像している人はどうやら同じみたいだ。

 




ありがとうございました。
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新たなるスタート

こんばんは、黒雨です。
3rdLIVEはLV参戦でしたが、いつかは現地参加をしたいと思いました。
それではどうぞ!


今日は沼津に多くの人が来て賑わっていた。何故なら今日は年に一度の花火大会。毎年行われる沼津の大きなイベントの1つだ。そして今日はその最終日、何とゲストとしてAqoursがステージでライブをする事に決まった。やはり急上昇中のスクールアイドルだからか、今年は例年以上に人が集まっている。

 

僕は本来、一般の席から見る予定だったのだけれど、鞠莉さんの粋な計らい?のおかげか、関係者の席で見ることになった。

 

ライブが始まるまでまだ時間があるから、僕は席に着いて、ステージから見える海を眺めていた。するとそこへ、姉さんがやって来た。

 

 

「海を見ていたの?」

 

 

「うん。始まるまで時間があるからね。姉さんこそどうしたの?皆はもうライブの準備をしているよ」

 

 

「私はもう後衣装を着るだけだから、隣いい?」

 

 

姉さんはそう言って僕の隣に座った。そして2人で同じ景色を見ていた。

 

 

「ありがとね祐。背中を押してくれて。本当に私は祐に助けられてばっかりだね」

 

 

姉さんは僕の肩に寄り添ってそう言った。

 

 

「感謝をするのは僕の方だよ。もう見れないかと思ってた姉さん達の歌って踊る姿をまた見れるのだから」

 

 

姉さんの顔が少し赤くなっていた。

 

 

「・・・もう//祐ったら//お世辞でも私は嬉しいよ」

 

 

「お世辞じゃないよ。僕はスクールアイドルで歌って踊っている姉さんが大好きだよ」

 

 

すると、姉さんの顔がさっきよりもどんどん赤くなっていって頭が茹で上がっているようだった。

 

 

「じゃ、じゃあ//そろそろ時間だから私はもう行くね!」

 

 

と言って姉さんは逃げるように控え室へ戻っていった。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

本番前、お客さんがステージに集まりだした。それをAqoursの皆はステージの端から顔を出して見ていた。

 

 

「うわ~、凄い数のお客さんだよ」

 

 

「ホントだ。私、大丈夫かな・・・」

 

 

「ル、ルビィ・・・緊張してきた・・・」

 

 

「ルビィ。深呼吸しなさい。そうすれば緊張もほぐれていきますわ」

 

 

「す~・・・は~。ありがとうお姉ちゃん」

 

 

「さぁ!気を強く持っていきますわよ!」

 

 

「そうだよルビィちゃん。ダイヤさんの言う通りずら」

 

 

「お姉ちゃん・・・花丸ちゃん・・・うん!」

 

 

「ククク・・・ヨハネの魅力に惹き付けられてリトルデーモン達が集まって来たようね」

 

 

「お客さんはリトルデーモンじゃないずら」

 

 

「ちょっと!そこはノリに乗りなさいよ!」

 

 

「嫌ずら」

 

 

「は~いそこまで。善子も花丸もcooldownよ♪」

 

 

「・・・ふふっ」

 

 

「どうかしたの、果南?」

 

 

「いや・・・賑やかだな~って」

 

 

「・・・そうね。あっ、そういえば果南。さっき外から戻ってきた時、凄く顔がburningだったけど何かあったの?」

 

 

「・・・特に何も」

 

 

「ホント~?まさかユウにburningな言葉でも貰ったの?」

 

 

「ち、違うから//!」

 

 

「別に隠さなくてもいいじゃない。ユウってば意外と鈍感なところがあるのだから」

 

 

「みんな~。そろそろ私達の出番だから円陣組もう!」

 

 

千歌ちゃんの言葉に他の8人が集まって円を組んだ。

 

 

「それじゃ行くよ!私達9人での初めてのステージ!Aqoursーー」

 

 

「サーンシャイーン!!」

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

ついにAqoursのステージから始まった。曲は2年前に姉さん達が作った曲だった。お互いを思いやって1度は離れ離れになってしまったけど、こうして再び戻ってきて同じ夢を新しい仲間と一緒に追いかけている姿を見ていると、僕の眼からは涙が落ちていた。

 

 

「・・・良かったね、姉さん」

 

 

僕は静かにそう呟いた。そして、Aqoursのステージが終わると、新しいAqoursを祝福するかのように特大の花火が打ち上がった。

 

花火大会が終わり、道は帰る人でいっぱいのなか、僕はステージ裏へ向かっていた。ステージ裏に着くと、

 

 

「祐~!」

 

 

と言いながら姉さんがハグをしてきた。いきなりの事だから支える事が出来ず尻餅をついてしまった。

 

 

「お疲れ様、姉さん。凄く良かったよ。ステージ上での姉さん、楽しそうだった」

 

 

「ありがと」

 

 

「姉さんはどうだったの?今日のライブ」

 

 

「私はとても嬉しかった。もう一度、こうして鞠莉やダイヤとスクールアイドルをやれた事が。もう出来ないかと思ってたから」

 

 

姉さんは涙ぐんで答えた。

 

 

「それに、祐のお願いも叶える事が出来たから。聞いたよダイヤから」

 

 

「ダイヤさん・・・。姉さんに言ってたのか・・・」

 

 

「ねぇ祐。私は祐のお願いを叶えた訳だから、祐も私のお願いを叶えてくれるよね?」

 

 

「余り無茶なお願いは無理だよ」

 

 

「分かってるよ。じゃあ言うね」

 

 

姉さんはそう言って僕から少し離れた。

 

 

「私の願いは、祐にもう一度私達のスクールアイドル活動を手伝ってもらうこと」

 

 

姉さんのお願いに、僕は一瞬考えてしまった。2年前に、あの事が起きるかもしれないことは分かってたかもしれないのに、それでも僕は何もする事が出来なかった。そんな人がもう一度すると同じ過ちを繰り返してしまうかも知れない。

 

 

「・・・どうして?」

 

 

「祐が私の歌や踊りを見て嬉しかったように、私も祐に歌や踊りを見てもらえて嬉しかったの。それに聞いたよ。1年生の3人がスクールアイドルに入ったのは、祐が後押ししてくれたからって。だから、Aqoursにとって祐は必要不可欠な存在なの」

 

 

「・・・姉さんは僕の事を買い被りすぎだよ。あの時だって危険だと分かっておきながらも僕は止める事が出来なかった。その結果、姉さん達を離れ離れにしてしまった。そんな僕にもう一度Aqoursのスクールアイドル活動を手伝う資格なんて無いよ」

 

 

「過去の事を引きずるつもり?」

 

 

「え・・・」

 

 

「祐は私に今を楽しめと言ったのに、自分は過去に囚われるの?」

 

 

「それは・・・」

 

 

「今度は私が祐を前へ後押しする番。だから、この先の未来を楽しもうよ。私達と一緒に」

 

 

そう言って姉さんは手を差し伸べた。

 

よく考えたら、1番前に進めてなかったのは、姉さん達ではなくどうやら僕だったみたいだ。いつまでも過去の過ちに囚われ逃げていた。でも、姉さんの差し伸べられた手を見て僕は決心した。もう過去には囚われずに前に進もうと。

 

 

「・・・また迷惑をかけるかもしれないけど、そのお願い承りました」

 

 

そう言って僕は姉さんの手を握った。

 

 

「これからもよろしくね、祐」

 

 

僕の答えに姉さんは笑顔で返した。

 

こうして僕は、Aqoursのマネージャーとなった。




ありがとうございました。
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夏休みのスケジュール

こんにちは、黒雨です。
もう1年の半分が終わったと思うと、時間が過ぎるのが早いと思いました。
それではどうぞ!


「・・・あれからもう6年も経つのですね」

 

 

とある部屋の一室、少女は1枚の写真に語り掛けていた。その写真には、幼い頃の少年と少女が映っていた。

 

 

「貴方がいなくなってから、私はまだその事実を受け入れる事が出来ませんでした。そのせいで部屋から出なくなり、お母様にはとても迷惑をかけてしまいました。部屋から出るのを嫌がった私は心配して様子を見に来た2人にまで冷たい言葉を言って追い返したりしました。そんな私を2人は決して見捨てたりしませんでした。その時、私はとても嬉しかったのです。2人は私にとってかけがえのない親友です」

 

 

少女は語る。少年がいなくなった後の自分に起きた出来事を。

 

 

「でも、高校生になって2人が誘ってきた事には驚きました。当時の私がこれから過ごしていく高校生活を聞いたらきっと驚くと思います。貴方もそれを聞いたら驚くと思いますよ。私がスクールアイドルになってステージで歌って踊っていた事を。初めは恥ずかしかったのですが、何度もやっていく度に楽しいと思うようになりました。出来たら貴方にも見て欲しかった事が少し心残りですね。貴方は今、何処でなにをしているのですか?私はもう高校を卒業して大学生となりましたが元気に過ごしています。たとえ離れ離れになっても私達は姉弟なのです。またどこかでもう一度貴方と会えることを信じています」

 

 

少女がそう言った瞬間辺りが暗くなり、目を覚ましたら自分の部屋と違う天井だった。

 

 

「何だか凄く長い夢を見ていたようだ・・・」

 

 

僕は体を起き上げてそう呟いた。

 

 

「おはよう祐。ようやく起きた?」

 

 

何処からか姉さんの声が聞こえた。

 

ここは何処かと思い、起きたばかりの目で辺りを見回すと飲食店のようだ。姉さんはキッチンにいた。

 

 

「おはよう姉さん。それよりここは何処?」

 

 

「え~もしかして忘れたの?今日からAqoursは海の家の手伝いをするんだよ」

 

 

「海の家の手伝い・・・あっ、そうだった」

 

 

姉さんに言われてようやく何処にいるのか分かった。此処は海の家。今日から始まる海の家の手伝いを今年はAqoursの皆でする事になったんだった。

 

確かこうなる事になったのは・・・

 

 

~昨日~

 

 

「あつい~~!」

 

 

「ずら・・・」

 

 

「天の業火に闇の翼が・・・」

 

 

「その服やめた方がいいんじゃ・・・」

 

 

「どうしたんですか?皆を集めて」

 

 

僕達は3年生の3人に言われて屋上に呼び出されていた。

 

 

「ふふふ・・・さて!いよいよ今日から夏休み!」

 

 

「summer vacationと言えば~?」

 

 

「はい!貴方!」

 

 

いつにも増してテンションが高いダイヤさんが千歌ちゃんに振った。

 

 

「あ!え・・・やっぱり・・・海かな」

 

 

「夏休みはパパが帰ってくるんだ」

 

 

「マルはおばあちゃんちに・・・」

 

 

「夏コミ!」

 

 

千歌ちゃんに続いて他の皆もそれぞれ答えたが、どれもダイヤさんの答えとは違ったらしく、

 

 

「ぶっぶー!!ですわ!貴方達それでもスクールアイドルなのですか!?片腹痛い片腹痛いですわ!」

 

 

と怒られた。

 

 

「皆さん本当に何も頭に浮かばないのですか!?」

 

 

「う~ん・・・」

 

 

「分からないのであれば教えてあげますわ!今から部室に行きますわよ!」

 

 

「は・・・はい」

 

 

ダイヤさんに誘導され、1年生と2年生は強引に連れていかれた。

 

屋上に残ったのは僕と姉さんと鞠莉さんだけだった。

 

 

「ダイヤさん。凄いやる気だね」

 

 

「まぁ、久しぶりのスクールアイドルだからね」

 

 

「今まで隠していた事が、急にシャイニーしたのよ。ほら、私達も行きましょ。じゃないとダイヤに怒られるわ」

 

 

僕達も部室へ向かった。

 

部室に行くと、既にダイヤさんの説明が始まっていた。

 

 

「いいですか?皆さん、夏といえば?はい、ルビィ」

 

 

「・・・多分、ラブライブ!」

 

 

「さすが我が妹、かわいいでちゅね~よく出来ました!」

 

 

「頑張ルビィ!」

 

 

黒澤姉妹のやり取りに、皆は少し呆れていた。

 

 

「何この姉妹コント?」

 

 

「コント言うな!夏といえばラブライブ!その大会から開かれる季節なのです!ラブライブ予選突破を目指して、Aqoursはこの特訓を行います!」

 

 

そう言ってダイヤさんは後ろのボードに貼られた紙を指した

 

そこには練習のスケジュールらしき物が書かれていたが、スパルタ過ぎてアスリート級のような内容だった。

 

 

「これは、私が独自のルートで手に入れたμ'sの合宿のスケジュールですわ!」

 

 

「凄いお姉ちゃん!」

 

 

「遠泳・・・10km?」

 

 

「ランニング15km?」

 

 

「こんなの無理だよ・・・」

 

 

「まぁ何とかなりそうだよね、祐」

 

 

皆が諦めるなか、姉さんだけがいけると思っていた。

 

 

「姉さんだけだよ。これらが出来るのは。ダイヤさんも、Aqoursはトライアスロンをするわけじゃないんだから」

 

 

「祐さん、心配無用!熱いハートがあれば何でも出来ますわ!」

 

 

「ふんばルビィ!」

 

 

ダメだこりゃ・・・止めれる気がしない。

 

 

「何でこんなにやる気なの?」

 

 

「ずっと我慢してきただけに、今までの思いがシャイニーしたのかも」

 

 

「あ~・・・」

 

 

「何をごちゃごちゃと!さぁ!外にて始めますわよ!」

 

 

ダイヤさんが始めようとした時、

 

 

「そう言えば千歌ちゃん、海の家の手伝いがあるって言ってなかった?」

 

 

「あ~!そうだ!そうだよ!自治会で出してる海の家を手伝うように言われてるのです!」

 

 

「姉さん。僕達もだよ」

 

 

「あ、そうだった」

 

 

「そんな!?特訓はどうするんですの!?」

 

 

「残念ながら、そのスケジュールでは・・・」

 

 

「もちろん、サボりたいわけではなく・・・」

 

 

千歌ちゃん達はそう言っているが、この場でその話を出したという事は、この特訓から逃げる気だと僕は思った。ダイヤさんもそれに気づいたのか、2人に対して不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「じゃあ、昼は全員で海の家手伝って、涼しいmorning and eveningに練習ってことにすればいいんじゃない?」

 

 

「それに賛成ずら!」

 

 

「確かに、それなら海の家と両立が出来るね」

 

 

突然の鞠莉さんの出した案に僕と花丸ちゃんがのった。

 

 

「・・・仕方ありませんね。それでは明日の朝4時、海の家に集合という事で!」

 

 

ダイヤさんも折れてくれたので、練習のスケジュールが決まった。

 

そして今日の朝、約束の4時に海の家へ向かった。姉さんは起こしても中々起きてこなかったので遅れるという事にした。

 

だが海の家に着くと、

 

 

「祐さん、おはようずら」

 

 

花丸ちゃんだけしか来ていなかった。

 

 

「おはよう花丸ちゃん。他の皆は?そろそろ集合時間だけど」

 

 

「まだマル以外誰も来ていないずら」

 

 

「朝の4時は無理があったかな。時間を決めたダイヤさんまで来ていないという事は」

 

 

「祐さんはこれからどうするずら?」

 

 

「僕は少しこの海の家を掃除してるから、花丸ちゃんは中で休んでいていいよ」

 

 

「じゃあそうさせてもらうずら」

 

 

こうして僕は海の家を掃除し終えて寝てしまっていた。




ありがとうございました。
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夏の出会い

こんばんは、黒雨です。
話を続けていると、新しいタグを加えるべきか悩んでいる時があります。
それではどうぞ!


「やっほー!!」

 

 

「眩しい!!」

 

 

目を覚まして外に出ると、暑く照らす太陽の下、Aqoursの皆がそれぞれ海を満喫していた。

 

 

「結局、遊んでばかりですわね」

 

 

ダイヤさんは少し不満そうだった。

 

 

「まぁいいじゃないですか。せっかくの夏休み始まったばかりなんですし。それにダイヤさんも朝4時に来れなかったじゃないですか」

 

 

「そうずら。朝4時はマルと祐さん以外誰もいなかったずら」

 

 

「それは・・・申し訳ありません」

 

 

「あったりまえよ。無理に決まってるじゃない?」

 

 

そう言いながら、善子ちゃんは砂浜で日光浴していた。

 

 

「ま、まぁ・・・練習は後からきちんとするとして、それより、手伝いは午後からって言ってましたわよね?確か」

 

 

「そうですね。だからこうやって皆、午前中に遊んでるわけですし」

 

 

「では私は海の家へ行きたいのですが、どちらにありますか?」

 

 

「ダイヤさん・・・何を言っているんですか?海の家なら後ろに建ってるじゃないですか」

 

 

僕がそう言うと、ダイヤさんはボロボロの海の家を1度 目視した。

 

 

「あ!はて!その店は何処ですの?」

 

 

「現実を見るずら」

 

 

「う・・・」

 

 

花丸ちゃんに言われてようやくダイヤさんは現実を受け入れた。

 

 

「ボロボロ・・・」

 

 

「それに比べて・・・隣は・・・人がいっぱい・・・」

 

 

「都会ずら~」

 

 

「ダメですわ・・・」

 

 

「都会の軍門に下るのデースカ?」

 

 

隣の店に圧倒されてた時、鞠莉さんが皆に尋ねた

 

 

「私達はラブライブの決勝を目指しているんでしょ?あんなチャラチャラした店に負けるわけにはいかないわ!」

 

 

「鞠莉さん・・・貴方の言う通りですわ!」

 

 

鞠莉さんの言葉がダイヤさんの闘志に火をつけた。そして、ダイヤさんの役割分担で千歌ちゃんと梨子ちゃんは宣伝の看板らしき物を被った。

 

 

「これ・・・何?」

 

 

「それでこの海の家にお客を呼ぶのですわ!聞けば去年は売り上げで隣に負けたそうではありませんか!今年は私達が救世主となるのです!」

 

 

「救世主!?」

 

 

2人はダイヤさんの言ったことに少し困惑していた。

 

 

「ていうかダイヤさんが上にいるけど、いつの間に屋根の上に登ったの?」

 

 

「さぁ・・・?」

 

 

「果南さん!祐さん!あなた方2人はこのチラシを!」

 

 

そう言ってダイヤさんは僕達にチラシを渡してきた。

 

 

「商売もスクールアイドルも大切なのは宣伝!」

 

 

「はぁ・・・」

 

 

「あなたのそのグッラ~マラスな水着姿でお客を引き寄せるのですわ!他のジャリ共では女の魅力に欠けますので!祐さんも!数が多いに越したことはありません!」

 

 

「僕はオマケか何かですか・・・」

 

 

「まぁそう言わずに、こんなにチラシがあるわけだし、配る人が多くいれば早く終わる事が出来るよ」

 

 

「それはそうだけど・・・」

 

 

「それでは2人共頼みますわよ!」

 

 

ダイヤさんはそう言って海の家へ入っていった。

 

そして鞠莉さん、曜ちゃん、善子ちゃんは料理担当となった。曜ちゃんが料理が出来るのは知ってるけど、鞠莉さんと善子ちゃんは料理が出来るのか分からない。何だか嫌な予感がしてきた・・・。そんな不安を抱えつつ、僕は海の家のチラシを、手当り次第浜辺の海水浴客に配っていた。残り最後の1枚になって、持ってないひとを探していたら、目の前に藍色の長髪をして麦わら帽子を被った女性が歩いていたので、その人に渡すことにした。

 

 

「すいません。今そこで海の家が開店してるんですけど、もしよかったらチラシいりますか?」

 

 

その人はチラシを見て、数秒間止まっていた。

 

 

「もしかして、聞こえてないのかな・・・?」

 

 

すると突然、目の前の女性が目眩を起こして倒れてしまった。

 

 

「ちょっと!大丈夫ですか!?」

 

 

「祐君どうしたの?」

 

 

ちょうど、梨子ちゃんが気づいて声をかけてきた。

 

 

「梨子ちゃん。今すぐ海の家から冷えたタオルを持ってきて。この人、暑さで目眩を起こして倒れてしまったから」

 

 

「あれ?この人・・・」

 

 

「梨子ちゃん?」

 

 

「う、うん!分かった!すぐに取ってくる!」

 

 

梨子ちゃんは海の家へ走っていった。その間に僕は女性を照らす日光を覆うようにピーチパラソルを立てた。やがて梨子ちゃんがタオルの持って戻って来てそれを受け取り、被っていた麦わら帽子を脱がして女性の額の上に乗せた。それで意識が戻るのを待つことにした。途中で梨子ちゃんはまた宣伝に戻っていったので僕1人で待っていた。するとその数分後、女性は意識を取り戻した。

 

 

「あれ?・・・私は一体・・・」

 

 

「やっと意識を取り戻しましたね。さっきまで熱中症で倒れていたんですよ」

 

 

「そうなのですか・・・ありがとうございます」

 

 

女性はそう言って頭を下げた。脱がした麦わら帽子を被りなおしていたため、顔はよく見えなかった。

 

 

「海は初めてなのですか?」

 

 

「いえ。何度かありますが、ここ数年は来ていなかったので。貴方は此処の出身ですか?」

 

 

「そうですね。小さい頃の事は覚えてないですけど、1度も県外に出た事は無いと思います」

 

 

「そうですか・・・海は好きですか?」

 

 

「海ですか?好きですよ。泳げませんけど。見ているだけで落ち着くんですよ。貴方はどうですか?」

 

 

「私は・・・はっきり言って嫌いです。海は綺麗かも知れません。ですが、それは浅い場所だけであって、深い場所へ行くほど綺麗とは遠くなって辺りは暗くなり、やがて光が届かなくなります。私はそこで大切な人と離れてしまいました。今もその人とは会えていません。それ以来、海に行くのが怖くなったのです。すみません。重い話になってしまって」

 

 

「いえ、聞き返したのは僕なので。ではそろそろ仕事に戻ります。あ、僕の名前は松浦祐です」

 

 

「祐・・・ですか。良い名前ですね。私の名前は・・・」

 

 

「こらー!サボるな祐ー!そしてナンパするなー!」

 

 

女性は名前を言っているが、姉さんの大声で聞こえなかった。そして女性に会釈をしてその場を離れた。そして海の家に戻ると、Aqoursの皆にナンパの誤解を解くのに練習が始めるまで時間がかかった。




ありがとうございました。
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スパルタ合宿

こんばんは、黒雨です。
明日は善子ちゃんの誕生日ですね。
自分もお祝いしたいと思っています。
それではどうぞ!


「はぁ・・・はぁ・・・よし、終わり!」

 

 

「姉さんお疲れ様、はい飲料水」

 

 

陽が落ちだした頃、Aqoursの皆は特訓で砂浜を走っていた

 

 

「ありがとう祐。流石にお店の後だとちょっときついね。後は皆のゴールを待って・・・」

 

 

「それだけど、多分もう皆ゴール出来ないと思うよ。だってほら、後ろを見て」

 

 

「あ・・・」

 

 

僕が言って姉さんが後ろを向くと、ゴールに到達出来ずに倒れている他の皆の姿があった。

 

 

「う・・・こ、こんな特訓、μ'sはやっていたのですか?」

 

 

「す、すごすぎる・・・」

 

 

それはそうでしょ。朝は海の家の手伝いをしていたのに夕方から特訓の初日でいきなりランニング15kmは日頃から走ってないと無理がある。という事で僕は残りの皆に飲料水を配っていった。最初はゴールから近かったダイヤさん、曜ちゃん、ルビィちゃん

 

 

「ダイヤさんもお疲れ様。はい飲料水」

 

 

「ありがとうございます。やはりまだ私達ではμ'sのような練習にはついていけませんわ・・・」

 

 

「次からはもっと易しい練習内容にしましょうよ」

 

 

「ですが・・・諦めるわけにはいきません!次からも同じ練習で行きますわ!」

 

 

「ダイヤさん!?」「お姉ちゃん!?」

 

 

それを聞いて、曜ちゃんとルビィちゃんはとても驚いていた。

 

次に、1番後ろで寝そべっていた千歌ちゃん、善子ちゃん、花丸ちゃんの元へ行った。

 

 

「3人ともお疲れ様」

 

 

「ありがとう・・・祐君」「祐さんありがとずら」

 

 

「感謝するわ・・・リトルデーモン0号」

 

 

「0号?」

 

 

「そうよ。アンタはヨハネが最初に地上で出会ったリトルデーモンだから」

 

 

「へぇ~祐さんと善子ちゃんって前から知り合いだったんだ~」

 

 

「もしかして、祐君はその頃からナンパを・・・」

 

 

「千歌ちゃん、もうその疑惑は無くなった筈だよね」

 

 

「そうね。ヨハネと祐の出会いは必然だったのかしら。先に祐から声をかけてきて・・・」

 

 

「善子ちゃんも、話の内容からして僕がナンパしてるいるように聞こえるけど。3人共、最後まで走る?」

 

 

「それだけは~!」

 

 

落ち着いたところで、最後の2人の元へ行った。

 

 

「梨子ちゃんお疲れ様」

 

 

「ありがとう祐君」

 

 

「梨子ちゃんは走ってる所が見えたから分かるよ。でも・・・」

 

 

僕はそう言いながら、梨子ちゃんの隣にある折り畳みベッドで寝ている理事長に目を向けた。

 

 

「・・・鞠莉さん。これは一体どういう状態ですか?」

 

 

「私も走って疲れたから、寝転がってcool downしてたところよ」

 

 

「・・・かなり前からそこにいたような気がするんだけど・・・」

 

 

「What?何の事かしら~?」

 

 

「・・・飲料水渡しませんよ?」

 

 

「Sorry!私が悪かったから!」

 

 

そう言って鞠莉さんが泣きついて来たので、飲料水を渡したところで、休憩が終わった。

 

 

その後も体幹トレーニングなど、スパルタな特訓が夜まで続いた。そして今日の特訓が終わり、夕食の時間なのだが・・・

 

 

「え!?」

 

 

「美渡姉が余った食材は自分たちで処分しなさいって・・・」

 

 

皆で囲んでいる机の真ん中には売れ残った食材があるのだが、得体の知れない物が複数混ざっていた。

 

 

「こんなにも余ったの!?」

 

 

「ヨキソバはほぼ売り切れたんだけど・・・シャイ煮と堕天使の涙、まったく売れてなくて・・・」

 

 

「申し訳ない!」「申し訳ないデース!」

 

 

「確かにこの見た目は・・・」

 

 

「それってどんな味がするんですか?」

 

 

ルビィちゃんがそう言うと他の皆も味に興味を持ち出した。

 

 

「ちょっと興味あるね」

 

 

「そうですね」

 

 

「マルも食べてみたいずら!」

 

 

「何か嫌な予感が・・・」

 

 

そして、シャイ煮と堕天使の涙を皆で食べた。シャイ煮は味が好評だったのだが、使ってる食材が高すぎたため誰も手をつけられなかった事が分かったけど、

 

 

「次は堕天使の涙を・・・」

 

 

ルビィちゃんが食べると、噛む口が止まった。

 

 

「うん?ルビィ?」

 

 

ダイヤさんが尋ねるとルビィちゃんの顔が急激に赤くなっていき、

 

 

「ピギャーーーーー!辛い辛い辛い!」

 

 

と海の家前の砂浜を走り回っていた。

 

 

「ちょっと!一体何を入れたんですの!?」

 

 

「タコの代わりに大量のタバスコで味付けした、これぞ!堕天使の涙!」

 

 

「これは確かに辛すぎるよ」

 

 

「そうかしら?Oh!strongly hot!」

 

 

「平気ですの!?」

 

 

こうして夕食も終わり、それぞれ休憩についた。僕は海の家から外を見てると梨子ちゃんがやって来た。

 

 

「お疲れ様祐君。今日は色々と大変だったね」

 

 

「本当にね。でも梨子ちゃんがフォローしてくれたから何とか収まったけど、無かったらいつまで質問攻めに合ってたか・・・ありがとう梨子ちゃん」

 

 

「お礼を言われるほどのような事じゃないよ」

 

 

「そう言えば梨子ちゃんはあの人の事を知ってるの?」

 

 

「え?どうして?」

 

 

「だってあの時、梨子ちゃんがその人の顔を見て何か知っていそうな口ぶりをしていたから」

 

 

「確かに私はその人の顔を見たけど、名前とかは分からないわ。でも誰かと似ていたような気がするの」

 

 

梨子ちゃんが話していると、さっき家に調味料を取りに行ってた千歌ちゃんが戻ってきた。

 

 

「ねぇ祐君。ちょっと梨子ちゃん借りていっていい?」

 

 

「?まぁいいけど」

 

 

「千歌ちゃん?どうしたの?」

 

 

梨子ちゃんは理由も分からないまま千歌ちゃんと一緒に外へ出た。そして数分後に戻って来て旅館へ帰っていった

 

こうして、合宿1日目が終わった。

 

その夜、Aqoursの皆は千歌ちゃんの部屋で寝ていたが、僕は昨日のナンパ疑惑が浮かんだ罰として廊下で寝る事となった。

 

2日目の朝、皆よりも早く起きた僕は携帯を見て日付けを確認した。

 

 

「・・・今日か・・・」

 

 

僕は静かに呟いた。そして姉さんにメールを残して旅館をあとにした。




ありがとうございました。
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幼馴染のアルバム

こんにちは、黒雨です。
初めて評価のバーに色がつきました。
評価して下さった方々ありがとうございます!
それではどうぞ!


「ふぁ~~、よく寝た」

 

 

寝袋から起き上がったが天井が近かったため、頭をぶつけた。不幸だわ・・・。本当なら皆と同じように床で寝れる筈だったんだけどな・・・。昨日、千歌の部屋に9人も寝れるスペースが無かったから皆でジャンケンした結果、私が負けた。これも不幸なのかしら・・・。

 

何処で寝ようか考えてたら、廊下で祐が寝る事になっていたから私もそこでいいと言ったら果南が祐の罰にならないからと言って却下された。そして皆で考えた結果、家から持って来ていた寝袋をロープで繋いで空中に浮く形で寝る事となった。

 

朝、寝袋から下を見下ろすと誰もいなかった。

 

 

「あれ?皆は・・・?」

 

 

辺りを見回すと、時計が目に入る。時間を見ると起床時間をとうに過ぎていた。

 

私は慌てて階段を降りると、Aqoursの皆は朝食を食べていた。

 

 

「あ、ようやく善子ちゃん起きてきた」

 

 

「善子さん寝坊ですわよ!」

 

 

「ヨハネよ!どうして起こしてくれなかったのよ!」

 

 

「マルは起こそうとしたよ。でも善子ちゃんが起きる気配が無かったずら」

 

 

「うっ・・・」

 

 

意表を突かれた私は朝食を食べることにしたが、食べながらあることに気づいた。

 

 

「あれ?・・・祐は?」

 

 

Aqoursの皆は揃っているが、祐の姿だけが見当たらなかった。

 

 

「そういえば、私が1番最初に廊下に出たけどその時から既に祐君はいなかったような・・・」

 

 

1番最初に起きたらしい千歌も見てないなんて・・・

 

 

「祐なら急に父さんの手伝いが入ったから今日だけ家に戻ったよ。いくら退院したといってもまだ病み上がりだからね」

 

 

と果南が答えてくれた。

 

 

「では、祐さんが戻って来るまでに新曲の準備に取り掛かりましょう」

 

 

ダイヤが今日の方針を決めた。午前中は昨日と同じく海の家を手伝って、午後からは新曲を作っていく事になった。

 

昨日よりはお客さんが入るようになったけど、未だに私が作った堕天使の涙と鞠莉のシャイ煮が売れ残っていた。どうして売れないのかしら・・・

 

 

「は~~~」

 

 

あまりの売れなさに私と鞠莉はため息をつかずにはいられなかった。今日の夜も同じ物になりそう・・・。

 

午後からの練習が始まるまでの間、皆は千歌の部屋で休憩していた。私は千歌の机の上に置いてあるお茶を手に取ると、1冊の本が目に入った。何の本か千歌に聞いてみた。

 

 

「これって何の本なの?」

 

 

「それはね、私と曜ちゃんと果南ちゃんと祐君のアルバムだよ。小さい頃はよく遊んでいたから写真がたくさんあるんだ」

 

 

祐の幼少期・・・見てみたいかも。

 

 

「へぇ・・・ちょっと見ていい?」

 

 

「うん!いいよ!」

 

 

「マルも見たいずら~」

 

 

「ルビィも!」

 

 

ずら丸やルビィに続いて次第に皆が集まってきた。

 

 

「うわぁ~懐かしいね」

 

 

「千歌ちゃん達はこの頃から全く変わってないわね」

 

 

「wow!very cute!」

 

 

皆がそれぞれの意見を言うなか、私は写真を見ていてある事に気づいた。

 

 

「・・・ねぇ千歌。このアルバムには祐の子供の頃の写真は無いの?」

 

 

私は千歌に尋ねた。確かに祐の写真はあったが、どれも小学生以降の写真ばかりで、それ以前の写真は3人が写ってる物だけで祐の写ってる物は1枚も無かった。

 

 

「え・・・?」

 

 

千歌は気づいてないようだったから、見せるとようやく気づいていた。

 

 

「そういえば千歌ちゃん。私達っていつから祐君と遊ぶようになったんだっけ?」

 

 

「えっと確か・・・」

 

 

曜が千歌に聞いていた事から何だかおかしくなり始めた。何で二人とも祐の幼馴染なのに知らないのよ・・・

 

 

「・・・果南さん。聞きたい事があるのですが」

 

 

ダイヤは皆が盛り上がってた時に1度も言葉を発さなかった果南に尋ねた。

 

 

「今日は何日か分かっていますか?」

 

 

「え・・・24日だけど」

 

 

「私は常に疑問に思っている事がありました。祐さんは平日の24日は朝の生徒会には必ず来ていません。理由は家の手伝いと言っていました。ですが、休日もそうだとしたら何故祐さんだけなのですか?何時もなら果南さんも一緒に手伝っているではありませんか」

 

 

ダイヤの問いに果南は無言のままだった。

 

 

「あともう一つは善子さんが指摘したので気づきました。祐さんの幼い頃の写真は私や鞠莉さんも見た事がありません。以前、果南さんの家に行った時に飾ってあった写真を思い出しましたが家族の集合写真にも祐さんは写っていませんでした。これらの事から私が言いたい事は・・・」

 

 

「ダイヤ。それ以上は言っては駄目よ」

 

 

ダイヤの言葉を鞠莉が止めた。

 

すると果南、携帯を少し触った後、口を開いた。

 

 

「いいよ鞠莉。ダイヤの想像している通りだから」

 

 

「果南ちゃん・・・」

 

 

幼馴染の千歌と曜も果南に心配の声をかける。

 

果南は少しためらう仕草をしたが話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「祐は私の弟じゃない。私と祐は血の繋がった姉弟じゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に皆は沈黙を通した。

 

 

「どういう事よ・・・弟じゃないって・・・意味がわからないわよ・・・じゃあ祐は誰なのよ!」

 

 

私は思わず果南に声を荒らげた。

 

 

「・・・ダイヤ、今日の練習は無しでいい?皆に今から話す事があるから」

 

 

「・・・えぇ。構いませんわ」

 

 

ダイヤの了承を得た果南は話し始めた。

 

 

「7年前、あの日は荒れた海がようやく落ち着いた朝だったよ・・・」

 

 




ありがとうございます。
次回からは過去の話になります。
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回想 ~新しい家族~

こんにちは、黒雨です。
猛暑が続いていて1日中汗だくな状態です・・・。
それではどうぞ!


~~7年前~~

 

 

前日に大雨が降ってあまり眠れなかった私は起きてすぐに外のテラスへ出た。そこから見た景色は昨日の事もあったか少し濁っていた。これはダイビングをしても魚達はいないんだろうな・・・。

 

次に岸の方を見ると流れ着いた漂着物やゴミがあるのを見て、今日はこの場所の掃除をするだろうなと悟った。

 

そして再び海に目を向けると、また漂着物が流れてきた。だが、その中に驚くものがあった。なんと、流れてる漂着物に人がしがみついていた。

 

助けようと私は迷わず海に飛び込んでその人を岸に運んだ。どうやら見た目からして男の子のようだ。

 

 

「ねぇ!大丈夫!?この声が聞こえる!?」

 

 

呼びかけても返事がない。胸に耳を当てるとまだ動いていたので、私は急いで父さんを呼んで病院に彼を運んでもらった。

 

医師に見てもらった結果、幸い彼の命に別状は無いと言われたので私はほっとして安堵の息をもらした。そして彼に会いたくなった私は病室へ向かった。でも、まだ彼は目を覚ましてはいなかった。私は彼が目を覚ますまでその日は近くで寄り添う事にした。

 

それにしても、この人は誰なのだろう・・・。

見たところ、私とあまり年は変わらないのかな。それに髪の色も私と同じような藍色をしている。あと、手に握ってあったペンダントだけど鍵が無いから中が見れない。それと、ポケットに入ってあったカードに(10才の誕生日おめでとう)と書かれていた。ほかの文字は水に濡れていて読めなかった。結局分かったのは、私の1つ年下だという事だけだった。

 

それから私は時間が空けば病院に顔を出すようになった。彼の事が心配で仕方なかったからだ。でも学校以外で顔を出さなかったせいか、千歌や曜、更にはダイヤや鞠莉にまで心配されるようになった。

 

数日経ったある日、いつものように病室を訪れると、そこにはベッドから起き上がってる彼の姿があった。私は嬉しかった。たとえ他人だとしても自分のように嬉しかった。

 

 

「ねぇ・・・ここは何処?君は誰?」

 

 

私に気づいた彼が私を見て聞いてきた。

 

 

「ここは病院だよ。数日前、君は海で漂流していたから私が岸へ運んで病院に連れていったんだよ。私の名前は松浦果南、君の名前は?」

 

 

「名前・・・・・・名前・・・・・・」

 

 

彼は下を向いて考え込んでしまった。そして再び顔を上げて、

 

 

「・・・分からない。僕は誰?君は僕が誰なのかを知っているの?」

 

 

「え・・・」

 

 

それを聞いて私は言葉が出なかった。これがテレビで見た記憶喪失というものなのか。

 

 

「・・・私は君の事を何も知らないんだ。ごめんね・・・力になれなくて」

 

 

私は少し俯いて答えた。

 

 

「そう・・・。果南ちゃんだっけ?ありがとう。こんな名も知らない僕を助けてくれて」

 

 

彼はお礼の言葉を述べた。私は嬉しかった反面悔しかった。せっかく目を覚ましたのに自分の事を忘れてしまって、更にはそんな彼の力になれない自分が。

 

 

「・・・果南ちゃん?どうしたの?」

 

 

彼はそう言って私に顔を近付けてきた。急すぎて私は思わず後ろに後ずさりしてしまった。男の子であんなに顔の距離を近付けられたのは初めてだったから。彼は自分が何したのかを分かってないように首をかしげる。もしかして、意外と鈍感・・・。

 

 

「わ//私//そろそろ時間だから帰るね!」

 

 

私はその場を逃げるように病室を出た。そしてトイレに駆け込んで鏡を見ると、自分の顔が少し赤くなっていた。

 

それから数日後、彼の退院が決まった事を聞いた私は入口付近で待っていると、彼が病院から出てきた。

 

 

「退院おめでとう!」

 

 

「ありがとう果南ちゃん」

 

 

「君はこれからどうするの?」

 

 

「医師からは僕の引き取り手が見つかったと聞いたからその人の待合場所へ行くところだよ」

 

 

「実はね・・・その引き取り手は私の家族だよ」

 

 

「え・・・?」

 

 

彼は私の急な発言に驚いていた。私も家を出る寸前に聞かされたから内心はとても驚いている。どうやら私が彼に会いに病院に行っているのを見て、父さんと母さんは彼を養子として引き取るために医師と話し合ってたらしい。

 

 

「さぁ早く行こ!」

 

 

そう言って私は彼の手を引っ張って走った。

 

 

「ちょ、ちょっと!いきなり過ぎてまだ話が掴めてないんだけど!」

 

 

「だ~か~ら~、君は今日から私達の家族になるんだよ!」

 

 

「家族!?」

 

 

驚いている彼を私は気にせずに家まで走って行った。そして家に着くと、父さんと母さんは歓迎会的なムードで家を飾り付けていた。

 

 

「ようこそ我が家へ!」

 

 

彼は終始困惑していた。私は彼を部屋に案内した。

 

 

「何かここまでしてもらうと申し訳ないよ」

 

 

「も~!今日から君は私達の家族であって私の弟なんだから!」

 

 

「弟?」

 

 

「そう!だって君は私の1つ年下だよね?」

 

 

「そうなの?」

 

 

「カードに10の誕生日おめでとうって書いていたし」

 

 

「・・・じゃあそうなのかな。・・・僕の名前はどうなるの?」

 

 

「名前かぁ・・・。ちょっと待ってね。う~ん・・・」

 

 

私は考えに考えた結果、

 

 

「・・・じゃあ(祐)ってのはどう?」

 

 

紙に名前の漢字を書いて見せた。

 

 

「祐?」

 

 

「そう、前に父さんから聞いたんだけど、この字は神様が人を助けるっていう意味なんだって。本当なら海を漂流してたら助かる確立は低いから君はきっと神様に助けてもらったんだよ。だからこの名前がいいと思うんだけどどうかな?」

 

 

「祐か・・・良い名前だね。いいよ」

 

 

「ホント!じゃあ今日から君は松浦祐だよ!よろしくね!」

 

 

「うん、よろしく。果南姉ちゃん」

 

 

こうして私の義理の弟、松浦祐が家族になった。




ありがとうございました。
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祐の居場所

こんにちは、黒雨です。
今週末はスクフェス感謝祭ですね。
自分も現地に参加出来るので楽しみです!
それではどうぞ!


祐が家族になって早くも数日が経った。祐はすぐに生活に慣れて、家の手伝いもするようになった。

 

そんなある日、少し驚かそうと私は祐が寝静まった頃にベッドに入って次の日に同じベッドにいたら祐はどんなリアクションをするのかというドッキリを考えた。

 

そして実行する夜、私は祐の部屋のドアを少し開けて、祐が起きてしまうかもしれないという緊張感を持ちながら祐の顔にライトを少しあてた。幸い、祐は目を開ける事もなくぐっすり眠っていた。

 

祐が熟睡していることを確認した私は、横を向いて寝ている祐の視線の反対側からベッドに入った。

 

 

「ふふふ、さて祐は明日どういうリアクションするかな?」

 

 

私はそう思って、再び祐の顔を覗いた。改めて祐を見ると綺麗な顔をしている。助けた時は傷とかついていて心配したけど・・・。

 

すると・・・、

 

 

「・・・・・・けて」

 

 

「え・・・?」

 

 

何処からか声が聞こえた。私は辺りを見回したが誰もいない。

 

 

「もしかして・・・幽霊?」

 

 

「・・・たす・・・けて・・・」

 

 

「ひぃぃ!?」

 

 

私は思わず布団に顔を隠した。でも、よく聞いたらどこかで聞いた事のある声だ。しかも近くから。まさかと思い祐の顔を見ると口が開いていた。

 

 

「なぁんだ、祐の寝言か。もぅ驚かさないでよ」

 

 

私は心の中でほっと安心した。本当に幽霊だったらどうしようかと思った。祐はいったいどんな夢を見ているのだろう。寝言からして、まるで悪夢にうなされているようだ。

 

 

「誰か・・・助けて・・・」

 

 

うなされてる祐に私はドッキリの事を忘れて手を差し伸べた。

 

 

「祐、大丈夫?私ならここにいるよ」

 

 

私が声をかけても祐は夢から覚めない。

 

 

「助けて・・・父さん・・・母さん・・・姉ちゃん・・・」

 

 

悪夢を見過ぎているのか、祐の額から汗が流れていた。私はそんな苦しんでる祐を見過ごすことが出来なく、後ろから抱きしめた。そして頭を撫でて落ち着かせようとした。

 

 

「ごめんね、こんな事しか出来なくて。でも祐のことはお姉ちゃんが必ず守るから。だから安心して。私がついてるからもう怖くないよ」

 

 

私の声が届いたのか、祐の寝言がおさまり、落ち着き出して静かな眠りについた。ドッキリの事を忘れていた私は祐を抱きしめたまま眠ってしまった。この時からだろうか。祐と一緒にいると心が落ち着くような感じがしたのは。もしかして、私は祐の事・・・好きなのかな。

 

次の日、私は祐に昨日見てた夢を聞こうとしたが、あんなに祐がうなされてたのを思い出したら怖くなって聞くことが出来なかった。

 

 

~~~~~

 

 

「これが、私と祐が隠していた秘密だよ」

 

 

私が話を終えると皆は驚いていた。

 

 

「まさか果南さんと祐さんにそんな過去があったなんて・・・」

 

 

「知らなかったずら~」

 

 

「ねぇ果南ちゃん。1つ確認したい事があるんだけど」

 

 

曜が私に尋ねてきた。

 

 

「もしかしてだけど、果南ちゃんが祐君を助けた日って12月25日?」

 

 

「うん、そうだけど」

 

 

「曜ちゃん?」

 

 

曜は何かに気づいたけど千歌はまだ分かってないようだ。

 

 

「私ね、小さい頃にパパから色々な航海の話を聞いたことがあるんだけど、その中に天候不良で沈んだ船の話があったの。その船の沈んだ日が12月24日なんだ」

 

 

「曜さん。それってもしかして・・・!」

 

 

「嵐のクリスマスイブ」

 

 

皆は口を揃えて答えた。

 

 

「嵐のクリスマスイブ?」

 

 

梨子ちゃんは何の事か分かっていなかった。

 

 

「そっか、梨子ちゃんは知らなかったね。7年前に駿河湾近くで突然の天候不良で大型船が沈んだんだよ。大勢の人は救出されたんだけど、その中にはまだ行方不明の人もいるんだよ」

 

 

「そうだったんだ・・・」

 

 

「ってことは祐君はその当時、船に乗っていたことになるのかな?」

 

 

「千歌の予想通りなら、おそらく祐は行方不明者として扱われていると思うよ」

 

 

私がそう言うと再び沈黙の時間がおとずれた。

 

するとダイヤが口を開いた。

 

 

「もし祐さんの本当の親御さんが現れたら貴方はどうするんですの?」

 

 

「それは・・・」

 

 

私は答えられずにいた。今まで祐といるのがあたりまえの日常だと感じていたが、その日常が無くなったらどうなるかなんて考えてもみなかった。その時、私はいったいどうなるのだろう・・・。そんな現実を受け入れる事が出来るのか。それに祐はどう思っているのか。祐は夢で見たからいつもの場所に行っているが、自分がその船に乗ってたなんて覚えているのだろうか。ましてや本当の家族を思い出しているのか。

 

 

「じゃあ祐君は今どこにいるの?」

 

 

「祐は多分、内浦の慰霊碑がある場所に行ってるよ。毎月この日になると、花を添えているらしいから。それが終わったらきっと帰って来るよ」

 

 

「そっか、良かった~。私はてっきりもう帰ってこないのかと思っちゃったよ~」

 

 

「そんな事ないよ。祐だってAqoursの事を大切に思ってるんだから」

 

 

それを聞いて安心したのか、皆は肩の荷を下ろした。

 

すると、私の携帯に1本の電話が入った。

 

 

「もしもし、はい。・・・・・・え!?そんな!」

 

 

私は急に顔が青ざめた。

 

 

「果南ちゃん?」

 

 

皆が私の事を心配していた。そして私は、恐る恐る電話の内容を話した。

 

 

「さっき病院から電話が入って、

 

 

 

 

 

祐が気を失い倒れて病院に運ばれた」




ありがとうございました。
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ペンダントが繋いでたもの

こんばんは、黒雨です。
この作品のお気に入りが100を超えました。今までお気に入りにして下さった皆様ありがとうございます!
これからもこの作品をよろしくお願いします!
それではどうぞ!


~遡ること数時間前~

 

 

旅館をあとにした僕は花屋でいつものを買ってあの場所へ向かった。そこへ行く途中に姉さんからメールが来ていた。

 

 

「皆に話すね。私達の秘密を」

 

 

と書いてあった。まぁいつかは話さなければならない事であったし、姉さん達がそれぞれの心中を明かしているのに、自分だけが何も明かさないのは道理に合わないと思ったから秘密を話すことに否定はしなかった。

 

確かに僕は姉さんと血は繋がっていない。それでも僕は姉と慕った。あの時姉さんが僕を助けてくれなかったら、今頃僕はもうこの世を去っていたかもしれない。そんなどこの誰だかも分からないような僕にも姉さんは優しくしてくれた。だから姉さんの弟になると言われた時、僕は姉さんにこれまでの恩返しをしようと決心したんだ。

 

だけど、少し不安もあった。もしその事を話したら皆はどう思うのか。これまでどおりの関係でいられるのだろうか、僕と姉さんを今までと一緒のように接してくれるのだろうかと悩んだ。

 

そう考えているうちに、慰霊碑の近くまで来ていた。

慰霊碑に着くと、先客が前で手を合わせていた。ただ、よく見ると何処かで見た事がある人だった。その人は僕に気づいたのか、声をかけてくれた。

 

 

「貴方は昨日の・・・松浦祐さんでしたね」

 

 

「はい、そうです」

 

 

「改めて、昨日はありがとうございました」

 

 

女性はそう言って頭を下げた。

 

 

「お礼は昨日聞きましたから構わないですよ。それよりもどうしてこちらに?」

 

 

女性は少し考えてから口を開けた。

 

 

「・・・貴方がその花を添えてから少しお時間よろしいですか?話せば長くなりますので」

 

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

 

僕はそう言って慰霊碑の前に花を添えて手を合わせた。気のせいかも知れないが、この日だけはいつものペンダントが少しだけ輝きを放ってるように感じた。

 

供え終わると、女性は近くのベンチに座っていたので僕はその隣に座った。そして女性は話し始めた。

 

 

「貴方はあの慰霊碑の事を知っていますか?」

 

 

「はい、嵐のクリスマスイブの亡くなった方や行方不明者の弔いと航海の安全を祈る為に出来た物ですね」

 

 

「はい、実は私、当時その船に乗っていまして無事に救出された乗客の1人なのです」

 

 

「・・・そうだったんですか。という事は昨日話していた事は」

 

 

「はい、私はその事故で大切な人・・・弟と離れてしまったのです」

 

 

そして女性は話し始めた。自分に起きた過去の話を。

 

 

「その日は弟の誕生日でした。あの子は海を見たいと言っていたので、父と母は船を使った旅行を考えて選んだのが例の船です。そして事故が起き、弟は行方不明者として処理される事となりました。それ以来、私はこの海と、弟を守れなかった自分自身に対して憎悪を抱くようになり、やがて自暴自棄になっていきました。それで両親や友達にとても迷惑をかけてしまった事もあります。でも、そんな私になっても皆は救いの手を伸ばしてくれたお陰で今の私があります。これが私の過去の話です。」

 

 

話し終えた時、女性は少し悲しげな表情をしていた。

 

 

「貴方はどうしてこちらへ来られたのですか?当時、この船に乗られていたのですか?」

 

 

すると僕に質問が返ってきた。僕は自分の事を話すべきか悩んだが、どういう事なのかこの人には全てを話せる。そんな雰囲気がした。だから僕はこの人に全てを打ち明ける事にした。

 

 

「実は僕、記憶喪失なんです。未だに昔の事を思い出せていません」

 

 

「記憶喪失・・・ですか」

 

 

「はい。7年前に近くの淡島で今の姉さんに助けてもらって、この名前も姉さんから名付けてもらったんです。ここに来るようになったのは、ある夢を見るようになってからですね」

 

 

「夢?」

 

 

「そこでいつも沈んでいく船の中に離れていく少年と少女が出てきますのでここでいつも2人の再開を願っているんですよ」

 

 

「少年と・・・少女・・・離れていく」

 

 

女性は下を向いて考え出した。

 

 

「どうかしたのですか?」

 

 

「いえ・・・お気になさらず話を続けて下さい」

 

 

そうは言っているがさっきと比べてずいぶん動揺してるように感じた。

 

 

「そして夢から覚めたらいつも不思議なことに、これを持っていたんです」

 

 

そう言って僕は首から下げてたペンダントを見せた。するとそれを見せた途端、

 

 

「貴方・・・それをいったい何処で手に入れたのですか!?」

 

 

女性は急に声を大きくして僕に問いただしてきた。

 

 

「・・・すいません、急に声を大きくしてしまって。それは私が誕生日プレゼントととして弟に買ったペンダントと同じ物なのです。まさか貴方は・・・」

 

 

女性はそう言って深く被っていた帽子を脱いで、僕に顔を近づけた。その時僕は初めてその人の顔を見た。藍色の髪、黄金色の目、共通点が僕と合致している。

 

やがて顔を遠ざけた女性は鞄からある物を取り出して僕に見せた。それは僕の持ってた物と色違いのペンダントだった。

 

 

「そのペンダントの中身を見た事はありますか?」

 

 

「いえ、無いですけど」

 

 

それを聞いた女性は持ってた鍵で自分のと僕のを開けて見せてきた。初めてペンダントの中身を見た僕に衝撃がはしった。

 

 

「これは・・・!」

 

 

中には写真が入っていてそれには中学生時代の女性と1人の少年が写っていたが、その少年は家で姉さんと撮った写真に写ってる人と似ている。それはまさしく僕だった。何故この人が僕と写真に写っているのか。まさかこの人が・・・。そして女性は写真と僕を見比べて、

 

 

「やはり貴方は・・・青夜なのですか・・・?」

 

 

僕に聞いた事のない名前を聞いてきた。僕はこの人がいったい何を言っているのか全く分からないから答えることが出来ない。

 

 

「貴方が青夜であるのなら思い出して下さい!貴方の過去の記憶を!貴方の本当の名前、園田青夜を!そして姉の私、園田海未を!」

 

 

女性・・・海未さんは今まで隠していた心の叫びを僕にぶつけてきた。その目には涙を浮かべていた。

 

するとその時、

 

 

「うっ!?」

 

 

僕の頭に頭痛がはしる。それもあの時の夜よりも強い痛みが。僕は頭を抱えてしゃがんでしまった。

 

それと同時に僕の頭に何かが入ってくるような感覚に見舞われた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

僕はその2つの事に耐えきる事が出来ず、やがて足にかかってる重力も感じれず、目の前が真っ暗になり意識が遠のいていった。最後に聞こえたのは、海未さんが必死に青夜と呼び続ける声だけだった。それはまるで、夢に出てきた少女のように。




ありがとうございました。
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私の告白

こんばんは、黒雨です。
遂にこの作品もUAが2万件を超えていました。
読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
僭越ながら、これからもこの作品をよろしくお願いします!
それではどうぞ!


~そして現在~

 

 

祐の現状を知った果南は旅館を飛び出して病院へ走っていった。私達も果南の後を追いかけるようにして病院へ向かった。

 

病院に着くと、医師に案内されて祐の病室にたどり着いた。部屋に入ると、1つのベットに寝転がっている祐の姿があった。

 

 

「祐!」

 

 

果南はすぐさまに祐の元へ駆け寄って体を揺すったが、祐の目は1度も開かなかった。そこへ医師が部屋に入ってきて現状を教えてくれた。

 

 

「彼は現在、昏睡状態にあります。急に倒れたのは、今まで失ってたはずの記憶が急な勢いで彼の脳に入っていったため、彼の脳がそれに対応しきれずに意識を失ってしまったのでしょう。その間も彼の脳に記憶が入っていくため、彼が意識を取り戻すのは全ての記憶を思い出してからだと思われます。ただし、それは何時になるのかは分かりません。何せ、産まれてからと考えると10年分の記憶が1日で彼の脳に入っていったため」

 

 

「そんな・・・祐・・・」

 

 

医師がそう告げた後、果南はその場にしゃがみこんでしまった。その時、私はある事に引っかかった。

 

 

「あの・・・どうして祐は急に記憶を取り戻すようになったのですか?」

 

 

私がそれを聞くと、医師は答えた。

 

 

「実は彼の姉と名乗る方が病院に通報して下さって彼を病院に運ぶ事が出来ました。ただ、彼自身はそれを覚えてないため確認する事が出来ないため血液検査をした結果、見事に一致しました」

 

 

それを聞いた果南は顔が真っ青になっていった。まさか本当に祐の姉がいたというの・・・。しかしそれ以上に、祐の事を考えると急に苦しくなるこの胸の感覚は一体何なのよ・・・。

 

そう考えていたら、病室のドアが開き、1人の女の人が入って来た。背中まで伸びてる藍色の髪に黄金色の目、遠目から見たら祐と瓜二つのような顔をしている。まさかこの人が祐の本当の姉・・・。

 

 

「お、お姉ちゃん。あの人って・・・」

 

 

「お、落ち着きなさいルビィ。私達の目が狂ってなければあの人は・・・」

 

 

ダイヤとルビィがこんなにも慌てているってことはやっぱりこの人はあの・・・

 

 

「・・・初めまして。園田海未と申します」

 

 

海未さんはそう言って頭を下げた。それを聞いた私達は呆然としていた。まさかあのμ'sのメンバーとこんな形で会うなんて誰が予想していたのか。

 

 

「・・・本当に祐のお姉さんなんですか?」

 

 

果南は立ち上がって睨みつけるようにして海未さんを見つめた。

 

 

「はい、松浦祐。いえ、彼の本当の名前は園田青夜で私の弟にあたります」

 

 

「園田・・・青夜・・・!」

 

 

梨子が急に顔を青ざめた。

 

 

「梨子ちゃん?」

 

 

千歌が心配そうに声をかける。

 

 

「うん、大丈夫だから。実はね、私は園田青夜君の事を知っているの」

 

 

「え?」

 

 

皆が一斉に梨子に顔を向けた。

 

 

「私と青夜君は同じ小学校の同じクラスだったの。でもある日、学校で彼の訃報が告げられた。だから彼はもうこの世にはいないはずじゃ・・・」

 

 

「えぇ、私も初めはそう思っていました」

 

 

海未さんが話に割って入った。

 

 

「でも、青夜はこうしてここにいます。弟と私が持ってたペンダントがそれを証明してくれました」

 

 

海未さんはそう言ってペンダントを私達に見せた。確かに2人が一緒に写っていた。しかも、千歌達のアルバムには無かった祐の幼い頃の写真だ。

 

 

「・・・確かにこれは受け入れざるをえませんわ」

 

 

ダイヤが諦めるように呟いた。

 

 

「では、私はこれで失礼します」

 

 

海未さんが帰ろうとした時、

 

 

「待ってください!祐をどうするつもりですか!?」

 

 

果南はそう海未さんに問いただした。

 

 

「私は青夜が園田家に戻って来て欲しいのが本望ですが、彼の意思に全てを任せるつもりでいます」

 

 

海未さんはそう答えて病室を去った。

 

 

いなくなった後の病室に無言の時間が訪れた。

 

 

「・・・悪いけど、皆は先に帰ってくれない?今は二人きりにさせて欲しいの」

 

 

果南が静かに口を開けた。皆は心情を理解したのか、次々と病室から出ていった。でも、私だけは病室を出ようとしなかった。今外へ出たら、祐が離れていくような気がしてさっきよりも苦しくなっていった。

 

 

「善子ちゃん?まだ帰らないの?」

 

 

「ヨハネよ」

 

 

私はそう返答して眠っている祐へ近づいてその手を握った。ずっと眠っていたのか、少し冷たかった。

 

 

「リトルデーモンの心配をするのはヨハネとして・・・当然の・・・事でしょ・・・」

 

 

いつの間にか私の話してる言葉が途切れ途切れなっていて、握っている私の手を見たら水滴が目元から流れ落ちている事に気づいた。そっか・・・私は今泣いているんだ。祐への愛しさが涙となって落ちてきたのかしら。そしてこの感情。そうか、私は祐の事が・・・。

 

 

「ねぇ、もしかして善子ちゃんは祐の事・・・」

 

 

果南が何かを察したかのように私に尋ねてきた。この状況ではもう隠す事は出来ない。今の私のこの気持ちを。

 

 

「・・・えぇそうよ!私は祐の事が好きなの!初めて会ってから私がどれだけ堕天使になって周りが離れていっても祐だけは離れずに受け入れてくれた。私はそれが嬉しかった。だから私にとって祐は友達以上に大切な人なのよ!」

 

 

私は涙を流しながらも自分の思いを果南に言い放った。

 

 

「でも祐がこのままだと何処かへ離れてしまうような気がしてとても怖いの・・・。だから離れたくないのよ・・・」

 

 

すると、果南は静かに私を抱き寄せた。

 

 

「ありがとう。祐への思いを私に言ってくれて。大丈夫。私がいるからもう怖くないよ。きっと祐は戻ってくる。祐が私達を置いていくはずない。だって祐は私達Aqoursの大切な仲間なんだから。だから私達はそれを信じよう。ね?」

 

 

果南の言葉に私は果南の胸に顔をうずめて泣いていた。それから果南は私が泣き止むまで頭を撫でながら抱きしめてくれていた。その後の事はあまり覚えてなく、どうやらそのまま眠ってしまって果南と一緒に祐の病室で眠ってしまったらしい。

 




ありがとうございました。
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僕という存在

こんばんは、黒雨です。
「Thank you Friends」を聞いていると、もう卒業式のような気分になっています。
それではどうぞ!


「う~ん・・・、ここは・・・」

 

 

目が覚めた僕の視界に広がっていた景色は先の見えない暗闇だった。起き上がって歩き出しても、まるで進んでいるような気が全くしない。どうしてこうなったのか、僕は立ち止まって少し前の事を思い出す。

 

 

「確か、慰霊碑の前にいた海未さんにペンダントを見せたら・・・見せたら・・・あれ?何故だろう、この先の事があやふやだ・・・最後に海未さんが僕に向かって誰かの名前を呼んでたような気が・・・」

 

 

すると、暗闇が消えていき、その中から景色が広がってきた。

 

 

「ここは・・・病室?」

 

 

僕はいつの間にかとある病室の中に立っていた。そこには赤子の出産を立ち寄っている家族の姿があった。その母親の両手には、産まれたばかりの赤子が抱えられていた。どうやら無事に産まれたらしい。父親は泣いて喜び、一緒にいた女の子は興味深そうに赤子を見ていた。

 

 

「今日から貴方はお姉さんで、この子は貴方の弟になるのですよ。海未さん」

 

 

「本当ですか!?では私は早く家に戻って一緒に遊びたいです。それでお母様。この子はなんて言う名前にするのですか?」

 

 

すると母親は、少し考えるため景色を見ていた。僕も外を見たら、真夜中の筈なのに青い空が広がっていて、雪が降っていた。

 

 

「・・・そういえば今日はクリスマスイブでしたね」

 

 

窓の景色を見て母親は呟いた。

 

 

「きっとこの子はサンタさんから私達家族へのプレゼントなのかも知れません。そしてこの青い空・・・決めました。この子の名前」

 

 

そう言うと、海未さんと父親は母親の方を向いた。

 

 

「この子の名前は・・・せいや。聖なる夜ではなく、青い夜と書いて青夜にしましょう」

 

 

そう決めた母親は赤子に呼びかける。

 

 

「今日から貴方の名前は園田青夜。私達が貴方の家族ですよ」

 

 

名前を呼ばれた赤子は小さく笑っていた。

 

その名前が聞こえた時、僕は自分の中のあやふやがようやく解決した。

 

 

「そうだ・・・!思い出した!確かあの時、僕が海未さんに自分の記憶喪失の事を話してペンダントを見せた途端に海未さんが動揺して、その中に映ってあった幼い頃の僕と海未さんの写真を見て海未さんが僕を園田青夜と呼んだんだ・・・!」

 

 

問題が解決したところで、辺りが変わり、さっきと違う景色に変わっていた。そこは寝泊まりするような個室、窓から見える景色は海が広がっていた。

 

 

「もしかして・・・ここは船の船内?」

 

 

船と考えて僕は例の事故が頭をよぎった。そうなる事をまだ知らないこの部屋では誕生日を祝う声が聞こえた。

 

 

「青夜、10歳の誕生日おめでとう!」

 

 

父親と母親と海未さんが祝ってくれていた。

 

 

「青夜に私からのプレゼントです」

 

 

そう言って海未さんは水色のペンダントを渡した。

 

 

「そのペンダントはですね、私が持ってる物と色違いの物なのですよ。中身は私と青夜が初めて2人で撮った写真が入っています。これで私達がたとえ離れてもこのペンダントで繋がっていられますね」

 

 

「ありがとう、海未姉ちゃん!」

 

 

青夜は喜んですぐにペンダントを首から下げていた。そして誕生日会が終わり、父親と母親が部屋を出ていき、海未さんもお手洗いに出ていって数分が経過した瞬間に悲劇が起きる。

 

突然に船体が傾き、青夜の方へ荷物が押し寄せて身動きが取れなくなっていた。

 

 

「これは・・・僕が見ていた夢・・・!」

 

 

どうやら海未さんは本当にあの事故の生還者だったんだと確認する事が出来た。それはともかく、僕が見た夢の通りならこの後・・・、

 

 

「青夜!無事ですか!?今、船が沈もうとしていますので急いで避難しますよ!」

 

 

お手洗いから戻って来た海未さんが必死に呼びかける。だが、青夜は押し寄せてきた荷物に頭を打ち、気絶していた。

 

 

「待っててください!今助けますから!」

 

 

海未さんは必死に荷物をどかそうとするが、荷物が重なっていて、動かせなかった。

 

 

「海未姉ちゃん・・・助けを呼んだ方がいい・・・僕は足を怪我してしまったみたいで動けないんだ・・・たとえここから出れても、海未姉ちゃんの足でまといになるだけだから」

 

 

青夜は逃げるように言うが、

 

 

「貴方を置いて逃げるわけにはいきません!」

 

 

海未さんはそれを拒否して荷物をどかそうとする。

 

 

「お願い・・・海未姉ちゃんの力じゃこれらはビクともしない・・・だから助けを呼んで・・・このままだと海未姉ちゃんも道ずれになってしまう・・・僕はまだ大丈夫だから・・・」

 

 

「青夜・・・分かりました。必ず助けを連れて戻って来ますから、どうか無事でいて下さいね」

 

 

青夜のお願いに海未さんが折れて、助けを呼びに部屋を出た。しかしその数十分後、船が沈んでしまった。海未さんは助けを求めたが、救助する人が聞く耳を持たずに海未さんを担いで救助船に乗せられた。そして、救助船内では、

 

 

「青夜・・・ごめんなさい・・・私のせいで・・・」

 

 

海未さんはその場にしゃがみこんで泣き崩れてしまった。

 

だが、海未さんの知らないところで青夜は助かっていた。浸水する事で荷物が浮き上がり、何とか身動きが取れるようになり、海上へ顔を出す事が出来た。そして近くの瓦礫に掴まり、海を漂っていった。

 

それを見た僕には1つの結論が出た。もしかして青夜が海を漂い、流れ着いたのが淡島だったら・・・

 

「僕は姉さんに助けられる前までの記憶が無い。そしてさっきまで見た場所・・・その場所で決まった名前・・・何故僕がそれを見ることが出来たのか・・・それは当時そこにいたからだ。その場にいたのは父さん・・・母さん・・・海未さん、違う、海未姉・・・そして僕・・・ようやく思い出したよ」

 

 

そして暗闇の中、僕は自分の名前を呼ぶ。

 

 

「僕の名前は・・・園田青夜だ」




ありがとうございました。
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貴方の意思

こんばんは、黒雨です。
最近疲れが溜まるのが早いのか、布団に入ったらすぐに寝落ちしてしまって充電が出来ていないという事がよくあって朝から後悔してます。
それではどうぞ!


ラブライブ予選の本番当日、私は会場に向かう前にある場所へ立ち寄った。それは祐が眠っている病室だ。私は祐に今日の意気込みを伝えてから行こうと考えていた。

 

病室に入ると、祐は未だに目を開けてはいなかった。

 

 

「ねぇ、祐。遂に今日はラブライブの予選の日なんだよ。本当は9人で踊りたかったけど、梨子ちゃんがピアノコンクールに参加するため、東京に行っちゃったから、今回は8人で踊る事になったんだ」

 

 

私は眠っている祐へ話しかけ続けた。

 

 

「でも必ず予選突破するよ。梨子ちゃんの想いを乗せて。地区予選の決勝は必ず9人で歌うんだから。」

 

 

そう言って私は昨日、梨子ちゃんが私達に送ってくれたシュシュを身に着けた。皆それぞれ色が違っていて、私の色は緑色だった。

 

 

「これで私達は離れていても繋がっている。気持ちはひとつだから。もちろん、祐も一緒だよ」

 

 

私はポケットからもう1つ、祐の色で藍色のシュシュを取り出して、緑色のシュシュと同じ手に身に着けた。そして私は、祐の手を両手で握り、額を近づけた。

 

 

「必ず予選突破して戻って来るから応援してね。そして戻って来たら聞かせてね。祐が選んだ道を。どんな道でも私は否定したりしないから」

 

 

私はそう言い残して、目元の涙を拭って病室を出た。

 

その時私は気づいていなかった。握った後の祐の手が微かに動いていた事に。

 

私が会場に着く頃には既に皆が集まっていた。

 

 

「あっ!やっと来た!遅いよ果南ちゃん!」

 

 

私に気づいた千歌が私の名前を大声で呼ぶ。

 

 

「ごめんごめん、祐の所に行ってたから」

 

 

「その・・・祐君はまだ目を覚ましてないの?」

 

 

千歌が聞くと、皆は心配そうな目を下に向けた。

 

 

「大丈夫だよ。きっと祐は私達の事を見ててくれるから。それに、梨子ちゃんや祐の分まで頑張るって決めたでしょ」

 

 

そう言って私は2つのシュシュを着けた手を皆に見せた。

 

 

「果南ちゃん・・・うん!そうだね!私達は地区予選を突破して、決勝は9人で歌うって決めたんだ!行くよ!」

 

 

千歌の声で私達は予選会場に足を踏み入れていった。

 

そして、他のグループが歌を披露していくなか、遂に私達Aqoursの出番がやって来た。

 

 

「さぁ!行こう!ラブライブに向けて!私達の第一歩に向けて!」

 

 

千歌が右手を出して、それに続いて私達も右手を出して8人で輪を作った。

 

 

「今、全力で輝こう!Aqoursーー」

 

 

「サーンシャイーン!!」

 

 

~~~~~

 

 

名前を思い出した途端、気がついたら僕は病室のベッドで横になっていた。辺りを見回しても、身体や病室は特に変わった事は無かったが、1つだけ確実に変化している事があった。それは、思い出せなかった幼少期の記憶が思い出せるようになっていた事だ。正しく、夢が正夢になったような感覚だ。そして僕は机に置いてある携帯に手を伸ばし、ある番号へ電話をかけた。

 

 

「番号を変えていなければ、多分これのはずだけど・・・」

 

 

そう思っていると、電話が相手と繋がった。

 

 

「もしもし・・・園田ですが」

 

 

それは今まで思い出せなかった実の姉の声だった。

 

 

「7年振りだね。海未姉」

 

 

記憶を思い出す前に僕の声を聞いていたはずなのに、海未姉は驚いているのか無音が続いた。

 

 

「本当に・・・青夜なのですか?でもどうして私の携帯番号を」

 

 

「海未姉が中学の頃から番号を変えていなければこの番号だと思ったんだよ」

 

 

「・・・て事は貴方、記憶が戻ったのですか!?」

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

「良かった・・・本当に良かった・・・」

 

 

電話越しでも海未姉が泣いてる事に気づいた。

 

 

「ごめんね。今まで心配かけて」

 

 

「いえ、謝るのは私のほうです。あの時、私が助けていれば貴方は記憶を失わずに済んだかも知れなかったのに・・・。そんな貴方を私は見捨ててしまったのです」

 

 

「その事はもう気にしてないよ。むしろ海未姉が無事でいてくれた事が僕は嬉しかったんだから」

 

 

「貴方が気にしていなくても、私は気にしているのです。貴方は昔と変わらずお人好し過ぎます」

 

 

「それには返す言葉が無いよ」

 

 

「1つ聞いてもよろしいですか?」

 

 

海未姉が急に態度を改めたような声で話して来た。

 

 

「・・・何?」

 

 

「貴方はこれからどう過ごしていくのですか?」

 

 

「それはつまり?」

 

 

「松浦祐として生きていくのか、それとも園田青夜として生きていくのかと聞いているのです」

 

 

「・・・海未姉はどうしてほしいの?」

 

 

「私は園田家に戻って来て欲しいと思っています。ですが、貴方は松浦祐として7年間生きて来たのですから、その名の方が良いと思っているのかも知れません。だから、貴方の意思を聞かせて欲しいのです」

 

 

海未姉の問いに僕は答えられずにいた。

 

 

「すぐに決めなくても構いません。ですが、必ず答えは聞かせていただきます。それでは」

 

 

海未姉との電話はここで終了した。

 

電話が切れた後の僕は、ずっと窓から海を眺めていた。いったいどっちを選ぶのが正しいのか。僕にはそれが全く分からない。いつも僕はそうだ。2つの選択肢があれば、いつも周りに流されていた。でも、これは僕の問題だから、流れるものもない。

 

 

「僕には、自分の意思が無いのか・・・」

 

 

そう思った時、ある言葉を思い出した。

 

 

「Aqoursにとって祐は必要不可欠な存在なの」

 

 

「今度は私が祐を前へ後押しする番。だから、この先の未来を楽しもうよ。私達と一緒に」

 

 

それは、僕がAqoursのサポーターに入る時に姉さんから言われた言葉。その言葉があるから、僕はこうしてまたAqoursのサポートが出来てるんだ。

 

 

「・・・決めたよ海未姉」

 

 

僕は窓の方をそう呟いた。




ありがとうございました。
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いざ、東京へ

こんばんは、黒雨です。
新学期が始まると、なかなか小説を書く時間が確保出来ないので大変です・・・。
それではどうぞ!


予選が終わった次の日、私達は松月の前で予選結果の発表を待っていた。皆が携帯を睨んでいるなか、私はこういった待つ事が苦手だから、ずっと走り出したくて仕方がなかった。そして我慢の限界が来て、

 

 

「ちょっと走ってくる!」

 

 

と言い残して私が走り出そうとすると、

 

 

「結果を早く知らなくてもいいの~?」

 

 

千歌が私を呼び止めた。確かに早く結果が知りたい。でも、まだ待たなければならない。どっちを取るか、私は渋々と待つ事にした。

 

すると、携帯を見ていた曜から、

 

 

「結果が来たよ!」

 

 

と声がかかったので、私達は曜の元に集まった。

 

結果は・・・なんと、予選を突破したチームにAqoursの名前が入っていた。

 

 

「あぁ~!やったよ皆!予選突破だよ!」

 

 

店の前だということを忘れてるかのように千歌が大声をあげた。周りも喜んでいるなか、私は急いで走り出した。

 

 

 

「果南ちゃんどこへ行くの!?」

 

 

曜が聞いてきた問いに私は答える。

 

 

「病院!祐にもこの事を教えてあげたいから!」

 

 

私は全速力で病院に走っていった。皆も遅れながらも私を追いかけてきた。

 

 

そして病院に着いた私は受付で祐に面会をしに来た事を伝えると、

 

 

「松浦祐さん?つい先程退院して病院を出ていかれましたよ」

 

 

「え・・・?」

 

 

この人は何を言っているんだと私が思っていると、祐の担当医が私に気づいて近づいてきた。

 

 

「祐がもう退院したってどういう事ですか?」

 

 

私がそう聞くと医師は、

 

 

「実は、私達も貴方に彼の退院を伝えようとしたのですが、彼がそれを断ってきたのです。そして彼は出ていく際に置き手紙みを置いて行きました。もし、姉さんが来た時はそれを渡して欲しいって」

 

 

と答えて、ポケットから手紙を取り出して私に渡してきた。

 

私は恐る恐るその手紙を開けた。

 

 

「姉さんへ。数日の間、園田家へ向かうために家を空けます。自分の生き方を証明するために。PS、ラブライブ予選突破おめでとう!」

 

 

手紙を読んだ私は少しの間、その場で硬直していた。私達が予選突破していた事を祐が祝福してくれたから本来なら嬉しい筈なのにその本人がいないだけでこんなにも嬉しい気持ちが沈んでいくなんて。私は止まってた足を出口へ進めて行った。

 

出口には後から追いかけてきた皆が待っていた。私は事の事情を皆に話した。すると突然千歌が、

 

 

「だったら今すぐ追いかけよう!」

 

 

と急に決断したかのように答えた。それに皆も賛同するかのように納得していた。

 

 

「千歌、何言ってるの?祐は東京に行っているんだよ。それに、園田家が何処にあるのか分かるの?」

 

 

「大丈夫!梨子ちゃんなら知ってるかも知れないし。それに私も東京で知りたい事があるから」

 

 

さっきまで大声で話していた千歌が急に声を小さくした。どうやら、ようやく病室前だという事が気づいたみたい。

 

 

「私達の学校、浦の星は今廃校の危機でしょ。でもμ'sは音ノ木坂をこの時期にはもう廃校を阻止したらしいんだよ。だから私達と何が違うんだろうと思って。それが知りたいから東京へ行きたいの。そこなら何か分かるんじゃないかな~と思って」

 

 

「千歌・・・」

 

 

あの子供のような千歌がこの時だけは大人のように見えた。千歌が前を向いているのに私が落ち込んでいては駄目だ。そう感じた私は皆と一緒に東京へ行く事に決めた。

 

 

~~~~~

 

 

電車に揺られて数時間、僕は自分の生まれた場所、東京に来ていた。ここには何年も来ていないせいか、辺りの建物が変わり果てていて、僕が居た頃とは大きく変わっていた。危うく道まで変わっていたら本当に迷ってしまいそうだ。

 

僕は思い出した記憶を辿って東京を歩いていき、そして見つけた。記憶を失う前までずっと住んでいた自分の家に。中に入ろうとしたが、7年間も顔を見せた事が無かったので、自分の家なのにインターホンを鳴らした。すると入り口の戸が開き、中から海未姉と似た女性が出てきた。

 

 

「どちら様ですか・・・?」

 

 

女性は僕の顔を見て首を傾げていた。

 

 

「久しぶりだね。母さん」

 

 

僕がそう言ったら、

 

 

「・・・まさか青夜さんですか!?」

 

 

「そうだよ。海未姉から何も聞いていないの?」

 

 

「はい。あの娘ったら青夜を見つけたと言っていただけで、それ以外は何も・・・」

 

 

「昔から海未姉は自分の事は自分だけで解決しようとしていたからね。それで海未姉は何処に?」

 

 

「海未さんなら今の時間は道場にいらっしゃいますよ。見に行かれますか?」

 

 

「うん、そうするよ」

 

 

そう言って僕は荷物を置いて隣の道場へ歩いていった。

 

道場に到着して、中に入ると、海未姉が真剣な眼差しで遠くの的を見つめていた。そういえば、海未姉は昔から弓道を習っていて、全国大会にも出場する程の腕前だったな。あれから何年も経ったのにまだ続けていたんだ。そして海未姉は弓を構え、瞬きもせずに的を見つめてその矢を放った。放たれた矢は遠くの的の中心を確実に射抜いていた。僕はそれを見て、海未姉に拍手を送った。

 

 

「青夜!?帰って来ていたのですか!?」

 

 

「うん、さっきね。それにしても、まだ弓道を続けていたんだね。凄かったよ、さっきの一矢」

 

 

「ありがとうございます。弓を構えている時は心が落ち着きますからね。貴方がここに戻って来たという事は・・・」

 

 

「その答えは明日伝えるよ。早く戻って来たのは、決める前に家族の顔を見ようと思ってね」

 

 

「・・・そうですか」

 

 

「後は父さんだけなんだけど何処にいるか知らない?」

 

 

「・・・お父様なら裏庭にいらっしゃいますよ。案内します」

 

 

そう言われて、僕は海未姉の後をついて行った。しかし気の所為だろうか。海未姉の顔がさっきと違って何処と無く沈んでいたような感じがした。




ありがとうございます。
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現在と過去

こんばんは、黒雨です。
急ぎ気味で小説を書いてると、間違いが多くて大変なので急いで書くものではないなと思いました。


海未姉に連れられて僕は裏庭に向かっていた。母さんは戻って来た僕の姿を見て驚いていたけど、果たして父さんはどんな反応を示すのか。そんな事を考えているともうすぐ裏庭に着くといった所で海未姉の足が止まりこっちに振り返った。

 

 

「青夜。今からお父様に会いますが、これだけは言っておきます。決して貴方が悪いわけではありませんからね」

 

 

「え?海未姉、それは一体どういう・・・」

 

 

「では、いきますよ」

 

 

海未姉はそう言って再び足を進めた。僕はどういう意味で海未姉がそんな事を言ったのかを考えながら後をついて行った。

 

そして裏庭に着いた。そこには昔と変わらず小さな庭園が広がっていた。たった1つを除いて。

 

 

「海未姉・・・これは一体・・・?」

 

 

僕は恐る恐る海未姉に聞いてみた。僕の目の前にあったのは父の名前が書かれてあるお墓のような石が建っている事を。そして海未姉は告げた。

 

 

「お父様は貴方が行方不明になってから2年後に病を患ってお亡くなりになりました」

 

 

「え・・・そんな・・・」

 

 

海未姉が告げた事で、僕の頭の中は一瞬で真っ白になっていった。そして気づいた。自分の知らない所で周りはとても長い時間が過ぎていた事に。

 

 

「お父様は亡くなる直前にこう仰っていました。青夜に会いたいって」

 

 

その言葉を聞いた事で、真っ白な自分の頭の中に黒い罪悪感が湧いてきた。もっと自分が早く記憶を思い出していれば。もっと早く家に戻って来ていれば。そうすれば父の願いも叶える事が出来たのに。

 

 

「・・・僕のせいだ。あんな事故に遭わなければ・・・」

 

 

海未姉が言っていた事を忘れ、僕は自分を責めていた。全て僕が悪いんだ。すると、僕の心境を感づいたのか、海未姉が静かに後ろから僕を抱きしめていた。

 

 

「そんなに自分を責めないでください!言ったはずです。貴方のせいではないと。本当ならば貴方はもう戻って来れないと私達は思っていました。でもこうしてまた会えた。そして戻って来てくれた。それだけで私もお母様も、そしてお父様も嬉しいのです」

 

 

海未姉の言葉に僕は何も答えることが出来ず、無言のまま自分の部屋へ戻っていった。こうして1日目は周りの動いていた時間の事実を受け入れられずに寝床についた。

 

次の日、目が覚めた僕には未だに昨日の出来事があったせいか、自分の顔を鏡で見てもどこか俯かない表情をしていた。そんな状態で僕は居間に向かった。居間では海未姉が朝食を準備していた。

 

 

「おはようございます、青夜。朝食の準備が出来ましたよ」

 

 

「・・・うん」

 

 

僕は受け答えをして腰を下ろした。そして双方は終始無言のまま朝食を終えた。それから暫く経つと、海未姉が口を開いた。

 

 

「青夜、昨日はその・・・ごめんなさい。帰って来てすぐの貴方にあのような辛い思いをさせてしまって」

 

 

「海未姉が謝る事はないよ。いつかは知らなければならない事実だった訳だし。でも、まだ少し受け入れ難いけど」

 

 

「無理はしないで下さいね。すぐが無理なら時間をかけてでも」

 

 

「うん、悪いけどそうさせてもらうよ」

 

 

そう言って僕は居間を出て外の空気を吸おうと、家から少し散歩をする事にした。

 

駅付近はあんなに変わっていたのに、家の周りは昔と何も変わっていない。僕はそんな変わらない道を歩いていたら、自然と神社にたどり着いていた。ここにいた頃は毎年の初詣に来ていた。

 

そんな事を思い出しながら本殿前を歩いていると、隣にあったたくさんの絵馬に目を向けた。

 

 

「何だか、昔よりもたくさん増えてるな・・・」

 

 

そう思いながら見ていると、(ラブライブ優勝!)と書かれた絵馬が多く見られた。確か、μ'sはこの場所で御参りとかしていたからいつの間にかスクールアイドルのパワースポットにでもなったのかな。

 

 

「すいません。絵馬を掛けたいのですが・・・」

 

 

突然、後ろから声をかけられた。どうやら後ろの人の邪魔になっていたようだ

 

 

「あぁ、邪魔をしていたようですね。すいません」

 

 

僕は謝って横にずれた。声を掛けてきた人はずれた僕に会釈をして絵馬を掛けていた。するとその人が掛けていた絵馬が見えて、同じく(ラブライブ優勝)と書かれていた。僕はその人にふとある質問をした。

 

 

「もしかして貴方もスクールアイドルなのですか?」

 

 

「はい、そうです。私は妹とSaintSnowとしてスクールアイドルをやっています。貴方はスクールアイドルに興味があるのですか?」

 

 

「まぁ今はあるスクールアイドルのサポートをやっていますので多少の知識は」

 

 

「そうなのですか。ところでつかぬ事を聞きますが、貴方はμ'sの園田海未さんに似てると言われた事はありますか?」

 

 

その人は僕に質問を返してきた。それを聞いて、改めて過去を思い出した。確かに昔から髪型が違うだけで顔は海未姉と瓜二つだって家族や周りにも言われた事があったな。それが今になっても似ているなんて言われるとは思ってなかった。

 

 

「園田海未は僕の姉でして、僕の名前は園田青夜です」

 

 

「丁寧に自己紹介ありがとうございます。貴方がスクールアイドルをサポートをしているなら、もしかしたら私達はまたどこかで会えるかも知れませんね。私の名前は鹿角聖良といいます。それでは」

 

 

聖良さんはそう言って神社の階段を降りて行った。

 

 

「・・・パワースポットなら僕も書いておこうかな」

 

 

大量の絵馬を見てつられてか、僕も近くの椅子に座って絵馬を書くことにした。

 

この時もまだ気づいていなかった。ここに来た時からずっと誰かに見られていたことを。

 

 

 

 

 

「久しぶりに此処へ来たらまさか海未ちゃんがいるとはなぁ~。やはりウチの占いはよく当たるもんやね」




ありがとうございます。
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悩みと占い

こんにちは、黒雨です。
知らない間に、4thLIVEの一般抽選が終わっていたので後悔してます・・・。
それではどうぞ!


絵馬を買った僕は椅子に座って願い事を書いていた。

 

 

「(Aqoursがラブライブで優勝出来ますように)っと。こんな感じでいいかな」

 

 

書き終えた僕は、本堂で御参りをしてから絵馬をかけた。自分で絵馬に書いたAqoursの文字を見て、

 

 

「皆は元気にしてるかな・・・。何の了承も得ずに自分の意思だけでこうやって来ているから」

 

 

といった心配が頭に浮かべながら絵馬の前で佇んでいた。

 

 

すると、

 

 

「お困りのようやねぇお嬢さん。よかったらその悩みをウチに聞かせてくれないやろか?」

 

 

後ろから声が聞こえた。お嬢さんと言っていたから自分の事じゃないと思って無視していた。

 

 

「えぇ!?ちょっと無視やん!そこで絵馬を見てるお嬢さん!君や君!」

 

 

「まさか・・・お嬢さんって僕!?」

 

 

僕は思わず後ろを振り向いて心の声が漏れてしまった。後ろでは、紫色の長髪をした女性が立っていた。

 

 

「やっぱ海未ちゃんや~ん。もう酷いわ~ウチの事を無視するなんて~」

 

 

僕はこの人を知っている。でもこの人は僕を海未姉と間違えている。

 

 

「あの~希さん?僕は海未姉じゃないんですけど・・・」

 

 

「え、嘘やん?でも顔は海未ちゃんやし・・・あれ?でも海未ちゃんは自分の事を僕なんて今まで一度も言わへんかったし・・・じゃあ君は誰?」

 

 

ようやく希さんは僕が海未姉じゃない事に気づいてくれた。

 

 

「僕の名前は園田青夜です」

 

 

「園田青夜・・・あ~!もしかして君が海未ちゃんの弟?穂乃果ちゃんとことりちゃんから君の事を聞いていたけどホンマに海未ちゃんと瓜二つなんやね~。でも、君は確か行方不明な筈やけど」

 

 

希さんはそう言って僕の周りをまわりながら僕をマジマジと見ていた。これは、色々話さないと理解されそうもないなと思ってこれまでの経緯を話した。

 

 

「ふむふむ、なるほど~。つまり君は最近まで記憶を失っていてそれをようやく思い出したという訳やね」

 

 

「まぁそういうところですね」

 

 

話し終えると希さんが急に疑問を僕に問いかけた。

 

 

「最初に君に言ったことを覚えてる?」

 

 

「僕を海未姉と間違えた事ですか?」

 

 

「違う違う。その後の言葉や」

 

 

「えっと・・・確か(よかったらその悩みをウチに聞かせてくれないやろか?)でしたっけ?」

 

 

「そうそう。ウチは君を海未ちゃんと間違えたけど、君が悩んでいる事は当たってると思うんやけど」

 

 

「どうしてそう思ったんですか?」

 

 

「ウチにも分からんよ。カードが教えてくれたから。ウチに隠し事なんて通じんよ」

 

 

そう言って希さんは持ってたカバンからタロットカードを取り出した。希さんには何も隠せないと確信した僕は全てを打ち明けた。

 

 

「・・・ここに戻って来る前は既に自分の意思は決まっていたんですよ。でもいざ戻って来ると、昔とは大きく変わっていた。結局、止まっていたのは自分の時間だけなんだと思いました。そんな僕に7年分の時間を埋めれる自信が無くて・・・」

 

 

「今の周りの現状が受け入れられないと」

 

 

「そう言うことですね・・・」

 

 

「本当に君ら姉弟は見ためだけでなく中身も同じやね」

 

 

希さんが急に変わった事を言い出した。

 

 

「僕が海未姉と同じ?」

 

 

「そうやで。これは穂乃果ちゃんとことりちゃんから聞いたことやけど、海未ちゃんは君が行方不明となってから今の君と同じように周りの全てを受け入れる事が出来ずに家から1歩も出て来なかったらしいんよ」

 

 

「あの海未姉が・・・」

 

 

「でも2人が手を差し伸べたから海未ちゃんは今もこうして君のいなかった時間を過ごせたと思うよ。海未ちゃんにとって2人は大切な親友やね」

 

 

希さんはそう言って穂乃果ちゃんとことりちゃんを褒めていた。僕にはふと疑問が浮かんだ。

 

 

「希さんはあの2人からどれだけ僕や当時の海未姉の事を聞いたんですか?」

 

 

「それはな~実はここだけの話やけど。ウチが昔の海未ちゃんや君の事を気になったのはある曲を作ってた時なんや」

 

 

「ある曲?」

 

 

「そう。それもウチら9人だけが知っていて、当時の音ノ木の生徒やファンも知らない曲、ウチら1人ずつの個性で出来たソロ曲があるんや。その中にある海未ちゃんの曲がなんというか、自分ともう1人の誰かに向けたような歌やったんや。海未ちゃんに聞いてみたけど何一つ教えてくれんかったから幼馴染の2人に聞いて海未ちゃんの過去と君のことを知ることが出来たんや。はい、これが海未ちゃんの曲が入ったCD」

 

 

そう言って希さんは鞄からCDを取り出して僕に渡してきた。何か凄い情報を聞いたような感じがした。まさかのダイヤさんも知らない情報を得るとは思わなかった。

 

 

「どうしてこれを僕に?皆の秘密なんですよね?」

 

 

「この曲は君にも聴いて欲しいな。それを聴けば君の悩みも解決するかも知れへんし、当時の海未ちゃんの思いも分かるかもやから。ウチに出来ることはここまで。後は自分の手でやるだけや」

 

 

希さんはそのまま帰路へと向かっていって帰る間際に、

 

 

「あと、ウチは応援してるよ。君がサポートしているスクールアイドル」

 

 

と言い残していった。

 

 

「・・・僕がAqoursのサポートしてるなんて、さっきの会話で一言も言わなかったのに・・・。占いの力凄い・・・」

 

 

僕は希さんの占いの凄さをしみじみと感じた。




ありがとうございます。
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幼馴染との再会

こんばんは、黒雨です。
別の作品も始めようかと考えていて本作品と両立が出来るかと不安になっています・・・。


神社を後にした僕は希さんが言っていた事の意味を考えながら帰路に向かって歩いていた。その間も言われた言葉が頭をよぎっていた。

 

 

「それを聴けば君の悩みも解決するかも知れへんし。当時の海未ちゃんの思いも分かるかもやから」

 

 

あの言葉は一体どういう意味なのだろう・・・。僕は希さんがくれたCDに目を向けた。

 

 

「海未姉のソロ曲・・・か。これを聴けば分かるのかな。でも僕の悩みだけでなく海未姉の思いも?」

 

 

僕は歩いていた足を早めて家に帰ろうとしたが、ふと思いついた疑問で足が止まった。

 

 

「待てよ。もし家で聴いてたら、海未姉にバレて最後まで曲が聴けないような気がする・・・。歌詞を書いたのは海未姉。すなわち、これは海未姉の詩という事だから、絶対に止められるな・・・。昔から海未姉は恥ずかしがり屋だから」

 

 

そう思った僕は、帰る足を別の方向に向けて歩き出す。まだ海未姉の過去をもっと知る必要があると判断し、ある場所へ向かった。海未姉の事を誰よりも知る人の元へ。

 

着いたのは、和菓子屋(穂むら)。ここならば海未姉が作ったソロ曲も聴けるし、希さんが言ってた事の意味も分かりそうだ。僕は入り口の戸を開けて中に入った。中に入ると店員さんはいなく、僕一人の状態だった。

 

 

「ごめんくださ~い」

 

 

と声をかけると奥から声が聞こえた。

 

 

「すいませ~ん!今行きま~す!」

 

 

やがて声が大きくなり店員さんが慌てて出てきた。

 

 

「いらっしゃいませ!和菓子屋(穂むら)へ・・・あれ?」

 

 

店員さんは僕の姿を見て固まっていた。橙色の長髪、さっきまでの慌てよう、この人は昔とまるで変わっていなかった。

 

 

「青君・・・?やっぱり青君だよね!?私の事覚えてる!?」

 

 

そして、一目見ただけで僕と海未姉を見分ける事が出来る海未姉の幼馴染。

 

 

「もちろんだよ。穂乃果ちゃん」

 

 

僕が名前を言うと、穂乃果ちゃんは急に飛びついてきた。

 

 

「よかったよ~!海未ちゃんから記憶喪失って聞いてたからもしかして穂乃果やことりちゃんの事を忘れてるんじゃないかって心配したんだから~!」

 

 

「色々心配かけてごめんね。それにしても、見た目は昔と変わってるのによく僕を海未姉と間違えなかったね」

 

 

「もちろん!2人を見分けられるのは穂乃果とことりちゃんだけなんだから!」

 

 

穂乃果ちゃんは胸を張って答えた。

 

 

「折角だから家に上がっていってよ!ちょうどことりちゃんも家に来てるから!」

 

 

と言って僕の腕を引っ張り、店から出て裏にある穂乃果ちゃんの家に連れ込まれる形でお邪魔する事になった。

 

 

「ことりちゃん!青君が遊びに来たよ!」

 

 

襖を開けた先にはもう1人の幼馴染が座っていた。

 

 

「もしかして青君?久しぶり~!」

 

 

やはりことりちゃんも僕の事を間違えなかった。

 

 

「2人は一体どうやって僕と海未姉を見分けているの?」

 

 

僕はふと思った疑問を投げかけてみた。2人の答えは、

 

 

(海未ちゃんはロングヘアで青君がショートヘア)

 

 

と口を揃えて答えた。もっと2人だけが知ってる違いとか秘密を言うのかと期待していたのだが、意外と普通だった。今度会った時はカツラでも被って会いに行こうかと思った。

 

 

「ところで青君は今日、どんな用事で来たの?海未ちゃんのお土産?」

 

 

「実は海未姉の事でね・・・」

 

 

そして事情を話した。

 

 

「うん、だいたい事情はわかったよ。海未ちゃんのソロ曲の内容の意味が知りたいんだね」

 

 

「うん、そうなんだ」

 

 

「それにしても、やっぱり希ちゃんは凄いね~。初めて会った青君の事まで知ってたなんて。それも最近の事まで」

 

 

「占いの凄さを実感したよ・・・」

 

 

「まずは海未ちゃんの曲を聴いてみようか。それで青君の感想を聞かせてよ」

 

 

そう言って穂乃果ちゃんは部屋からPCを下ろしてきて、僕が貰ってきたCDを入れた。PCの画面には曲の題名に(私たちは未来の花)と出ていた。

 

曲調は和風のような音に、海未姉にしては意外なロックが混ざっていた。そして歌詞、確かに希さんの言っていた通り、題名に(私たち)と入っていたからか、至るところに(私たち)という言葉が流れていた。この曲から想像するのは、お互いが別々の道を歩んで離れていっても、未来では互いが成長して新しい自分に会えるというような景色が浮かんだ。

 

 

「にしても、海未姉の言ってる君って一体誰のことだろう?」

 

 

「え~!もしかして青君気づいてないの!?それはね・・・」

 

 

穂乃果ちゃんが続きを言おうとしたが、ことりちゃんに口を塞がれて聞こえなかった。

 

 

「ごめんね青君。ここからは青君だけで解いてほしいな。ここまできたら海未ちゃんはきっと答えを教えてくれるから」

 

 

「そっか・・・後は自分で何とかしてみるよ。今日はありがとう」

 

 

そう言って僕は居間を出て帰ろうとしたら、

 

 

「待って青君!」

 

 

穂乃果ちゃんに呼び止められた。

 

 

「これだけは知っておいて欲しくて。海未ちゃんは昔、青君がいなくなってからずっと不思議な夢を見るようになったらしいの。きっと海未ちゃんはその夢からこの曲を作ったと穂乃果は思うよ」

 

 

不思議な夢・・・僕が見ていたように海未姉も見ていたのか。

 

 

「教えてくれてありがとう、穂乃果ちゃん」

 

 

最後に言い残して僕は家へ向かった。僕が見ていた夢はあの事故で離れ離れになった姉弟とその後の姉。じゃあ海未姉は一体・・・。

 

 

 

 

 

 

 

一方、そんな考え事をしてる彼の近くでは・・・

 

 

「ねぇ、あれ祐君じゃない!?」

 

 

「まさか本当に見つかるなんて・・・」

 

 

「でも、これからどうするんですの?」

 

 

「もちろん、祐が選んだ答えを知るために海未さんの家に行く」




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私たちは未来の花

こんばんは、黒雨です。
ライブ映像などを見てると自分もブレードが欲しいなと思ったりしています。
それではどうぞ!


海未姉の歌詞の意味を理解出来ずのまま、僕は家に着いた。もう一度曲を聴きたいが海未姉がいるから途中で止められるかも知れない。それだと知ることが出来ない。どうすれば・・・

 

 

「おかえりなさい、青夜。家の前で立ち尽くしてどうかしたのですか?」

 

 

ふと顔を見あげたら海未姉が目の前にいた。

 

 

「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」

 

 

「・・・そうですか。考え事もいいですが、それは家の中でも出来るじゃないですか。とにかく夕飯も出来ているので早く上がって下さい」

 

 

そう言って海未姉は奥へと進んで行った。

 

 

「バレてはない・・・かな」

 

 

僕はそう思い聞かせて家に入った。

 

夕飯を終えた僕は部屋に戻ってこれからどうするの考えていた。そして考えた結果、

 

 

「こうなったら、本人に直接聞くしかないか・・・」

 

 

と決まって、海未姉に会いに居間へ向かった。だが、居間には海未姉の姿は何処にもなかった。

 

 

「あれ・・・?いつもならこの部屋にいたけどな・・・」

 

 

僕はそう思いつつ辺りを見回す。すると、居間の近くにある廊下の縁側で夜空を眺める海未姉の姿があった。すると海未姉がこっちに気づいた。

 

 

「青夜。もしよければこちらで話をしませんか?」

 

 

「・・・うん」

 

 

その言葉に僕は少し頷いて海未姉の隣に座った。

 

午前中の蒸し暑さとは違って涼しい風が吹く夜。僕と海未姉はそんな夜風にあたりながら縁側から雲ひとつない夜空に浮かぶ月を眺めていた。そんな僕らを月が照らしていた。

 

 

「こうして貴方と一緒に夜空を見るのはいつぶりなのでしょうか・・・」

 

 

「まぁ・・・随分と長い時間が経ったからね」

 

 

「今思い出すと、青夜が生まれた日もこんな綺麗な夜空だったんですよ。生まれたばかりの貴方を見た私は自分がもう1人いると思いましたよ。そして成長していく度に私と似てきているから周りからは双子と勘違いされたり、私を青夜と間違えられたりしたのですから」

 

 

「僕だって海未姉と間違えられたよ。それにしても双子と言われた時はびっくりしたよ。僕達は7才も年が離れてるのに」

 

 

昔を思い出しながら僕は海未姉と談笑をしていた。談笑しながらも僕はいつ聞こうかとタイミングを伺っていた。すると、

 

 

「青夜。何か言いたげな顔をしていますが何か聞きたいことでもあるのですか?」

 

 

タイミングを探っていたはずなのに海未姉に見破られた。何故いつも直ぐにバレるのだろうか・・・

 

 

「実はね・・・今日、神社に行ってたら希さんに出会ったんだ」

 

 

「希に・・・ですか」

 

 

「うん、そこで僕と海未姉は見た目だけでなく中身まで似ていると言われてね、希さんから色々な話をを聞いたんだ」

 

 

「そう・・・ですか」

 

 

「それでこれを貰ったの」

 

 

僕は持っていたCDを見せた。

 

 

「これは・・・私の曲、まさかもう内容は・・・」

 

 

「うん、曲は聴いたよ」

 

 

そう言うと、海未姉は顔を隠してしまった。こうなる事は何となく予想していた。

 

 

「海未姉、僕が聞きたいのはここからなんだ。この曲の歌詞ってどういう意味を込めて作ったの?」

 

 

僕は率直な疑問を海未姉に聞いた。海未姉は少し考える仕草をした後、静かに話し出した。

 

 

「・・・希から聞いた通り、私は貴方がいなくなってから全てを失ったように過ごしてきました。私にとって貴方はたった1人の大切な弟です。そんな貴方を失った私には生きる理由がない。そうして自暴自棄となっていった私は自分の部屋からも出なくなり、両親や穂乃果達にも顔を合わせなくなりました。そんな日々を過ごしていたら、いつの間にか不思議な夢を見るようになりまして」

 

 

「夢・・・?」

 

 

「はい、それはまるであの日の続きを見るような夢でした。船が沈み、離れ離れになった2人の少年少女。少女がどうなったのかは分かりませんが、少年は船の沈んだ後に浮かんだ漂着物で海を漂流し続け、無事に島に流れ着き、そこで助けられた人と過ごしていくといった内容でした」

 

 

それを聞いて、僕は自分が見た夢を頭の中で振り返った。

 

 

「待って、それって僕が今まで体験してきた事じゃ・・・」

 

 

「はい。そして貴方が見ていた夢は私が今まで現実に起きた出来事です。記憶が戻る前にあなたが言っていた話を聞いた時は内心とても驚いていました。穂乃果やことりにこの事を話すと、2人共自分の弟ように泣きながらも私を後押ししてくれました」

 

 

「つまり僕達は・・・」

 

 

「私達はお互いの未来を夢で見ていたのです。たとえ離れ離れになろうと夢で繋がっていたのですよ。そして私はこの事を詩に書き留めておいていたのですが、μ'sでソロ曲を作ろうと決まった時に、私は貴方が生きていることを信じてこの詩を歌にしました」

 

 

海未姉がこんなにも僕の事を思っているなんて想像しなかった。

 

 

「・・・ありがとう、海未姉。歌詞通りに咲いたと思うよ。未来の花」

 

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

「じゃあ僕はそろそろ寝るね。おやすみ、海未姉」

 

 

「えぇ、おやすみなさい」

 

 

そう言って僕達はそれぞれの部屋へと戻った。部屋で僕はカレンダーを見た。明日は内浦へ戻る日。僕には決断を迫られる時間がすぐそこまで近づいてきていた。




ありがとうございました。
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僕が選んだ道

こんばんは、黒雨です。
スクスタの情報が次々と公開されてリリース日が待ち遠しいです!
それではどうぞ!


「遂に今日か・・・」

 

 

僕は部屋で静かに呟いた。今日の夕方には電車に乗って内浦に戻る予定だ。だから帰る前に海未姉に伝えなくてはならない。自分の選んだ答えを。

 

居間に行くと海未姉は正座をして目を閉じていた。どうやら精神統一をしているようだ。

 

 

「青夜、いるのですね」

 

 

海未姉は目を閉じていたにも関わらず僕の存在に気づいていた。いつもなら僕が口を挟んでいたけど、今回は場を和ませようとする雰囲気の会話ではないため、僕は無言のまま腰を下ろした。僕と海未姉の間には居間の机が挟まれている状態であった。

 

 

「海未姉、聞いて欲しい事があるんだ。僕のこれからについて」

 

 

すると海未姉は閉じていた目を開けて真っ直ぐな視線を僕に向けた。

 

 

「・・・という事は決めたのですね」

 

 

「うん」

 

 

「それでは聞かせて下さい。貴方がこれから進んでいく道を」

 

 

僕は少し目を閉じて集中した。思えばここに戻って来るまで色々な事があった。海を漂流していたのを姉さんに助けられ、淡島で過ごした日々。幼馴染が結成したスクールアイドルにすれ違っていた3人が加入して学校を救おうとしている事。海未姉との再会で思い出した記憶。父さんの死。これらが全て夏の間に起きていた。

 

過去の振り返りを終えて僕は目を開けて海未姉と目を合わせ、答えを告げる。

 

 

「僕は記憶が戻って本当に良かったと思ってる。自分の中にある空白の時間も全てが元通りになっていた。海未姉が僕の事を忘れずにいてくれたから、生きていると信じてくれたからこうして僕は家族の元に戻って来ることが出来た。だからこれからも家族の時間をあの頃のように作っていきたいな」

 

 

「それでは・・・」

 

 

「でもね、それは今じゃないんだ。僕にはまだやるべき事がある」

 

 

「やるべき事?」

 

 

「うん、それはもう1人の姉の願い。Aqoursの皆の手助けをしていくこと。今まで助けてくれたその恩返し。それが終わるまで、僕はまだここで暮らしていくことは出来ない。これが僕の選んだ答えだよ」

 

 

それを聞いた海未姉は、

 

 

「・・・それが貴方の選んだ道なのですね。ならば私はその道を止める事は出来ません。貴方達もその答えで納得ということで良いですね?」

 

 

「・・・え?貴方達?」

 

 

僕には海未姉が何を言っているのかが分からなかった。すると海未姉が後ろの襖を開けた。奥には先ほど僕が手助けしていくことを決意した9人のスクールアイドルの姿があった。

 

 

「嘘・・・どうして此処に?」

 

 

皆の登場に僕は困惑していた。

 

 

「ごめんね。私たちが来たことを祐には黙ってて欲しいって私が海未さんに頼んだの」

 

 

姉さんがことの事情を話し始めた。

 

 

~昨日~

 

 

私達は千歌が事前に待ち合わせをしていたSaintSnowの2人との会合が終わった後に皆で音ノ木坂学院に来ていた。そこに行けばμ'sの何が凄かったのかが分かるかも知れない。でも私には分からなかった。千歌は分かったらしいから聞いてみたけど、上手くはぐらかされて教えてくれなかった。その後、梨子ちゃんが教えてくれて海未さんの家に着いた。

 

 

「・・・行くよ」

 

 

私を先頭にして皆が後ろから着いてきていた。そして私はインターホンを鳴らした。すると入り口の戸が開き、

 

 

「貴方達は確か・・・」

 

 

海未さんが中から出てきた。

 

 

「松浦果南です。祐は、青夜君は家にいますか?」

 

 

「祐で構いませんよ。青夜ですか?今は家にいませんが、どうして此処が分かったのですか?」

 

 

海未さんは私達を見て、1人に目を向けた。

 

 

「なるほど・・・貴方は知っていましたね。青夜の葬式には同級生が花を添えに来ていましたから。桜内さん」

 

 

「・・・はい。勝手に押し寄せてしまってすいません」

 

 

「いえ、怒っているわけではありません。あの子に向こうでも友達が出来ていて良かったと感じているのです」

 

 

海未さんは再び私に目を向ける。私は此処に来た目的を伝える。

 

 

「祐はもう答えを出したのですか?」

 

 

「いいえ、明日に出すとは言っていました」

 

 

明日と聞いて私達は頭を抱えた。急遽だが、海未さんの家の前で私達は緊急会議を始めた。

 

 

「どうするんですの!?私達は何も用意してきていませんわ!」

 

 

「とりあえず今日はもう沼津に戻る?」

 

 

「え~!私、もうお金無いよ!」

 

 

「じゃあどうする?」

 

 

会議が難航していると、

 

 

「あの~、もしよろしければ家に泊まっていきませんか?」

 

 

海未さんが案を出してくれた。

 

 

「え・・・いいんですか?」

 

 

「はい、隣の道場でよければ」

 

 

海未さんの提案に私達は断ることも無く、

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

頭を下げた。だけど私には少し疑問が残った。

 

 

「どうしてそこまでしてくれるんですか?海未さんから見れば、私達は海未さんと弟さんをまた離れさせようとしているのに」

 

 

私は海未さんに疑問を述べた。

 

 

「貴方達はあの子の選ぶ答えを聞きに来たのでしょう?なら私には追い返す理由がありません。ですが、あの子の選んだ答えには何も反論をしないではくれませんか?あの子は他者が言うともう一度考え直してしまいますから。それではあの子が出した答えにはなりません。そこの所、お願いします」

 

 

海未さんはそう言って私達に頭を下げた。

 

 

「海未さんって本当に祐君の事が好きなんですね!」

 

 

横から千歌が割って入った。

 

 

「当然です。あの子は私にとってたった1人の大切な弟なのですから」

 

 

「な、何よ!ヨハネだって誰よりも祐の事を思ってるんだから!」

 

 

更に善子ちゃんが入ってきて話がこんがらがっていった。

 

 

~~~~~

 

 

「という事があって、私達は隣の道場に夜を過ごしていて、今日は祐よりも早くに此処に来ていたの」

 

 

姉さんは昨日の出来事を教えてくれた。

 

 

「そうだったんだ・・・ありがとう、来てくれて」

 

 

僕は皆に礼をした。すると姉さんが僕の元にやってきて僕の手を握った。

 

 

「感謝するのは私達だよ。祐がそこまで私の願いを大切にしてくれてるなんて思わなかった。だからとても嬉しくて・・・」

 

 

姉さんの涙につられて他の8人も涙ぐんでいた。

 

 

「良い友達を持ちましたね、青夜」

 

 

「うん、大切な友達だよ。僕はAqoursの支えになっていきたいんだ」

 

 

僕の答えに海未姉は納得をしてくれた。こうして僕は自分に答えを出す事が出来た。

 

 




ありがとうございました。
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0から1へ

こんばんは、黒雨です。
4thLiveも後1ヶ月になりました。
自分はLVで参加して盛り上がりたいです!
それではどうぞ!


部屋に戻った僕は身支度をしていた。夕暮れには沼津に着くようにする為の準備だ。

 

 

「青夜、準備は出来ましたか?」

 

 

部屋の襖の外から海未姉の声が聞こえた。

 

 

「うん、もう出来てるよ。今から玄関に向かうから」

 

 

僕はそう返答して部屋を出た。

 

玄関では既に海未姉が見送りをする為に待っていた。

 

 

「もう、行ってしまうのですね・・・」

 

 

「そうだね・・・僕が決めた事だから」

 

 

「分かっています。それでも辛いものなのです」

 

 

海未姉は目元からつたう涙を隠すように顔を下に向けた。

 

 

「貴方が戻って来てくれたから、また会えたから私の中の時間が動いたのです。ですが、会えたのにまた離れると考えてしまうと・・・」

 

 

言葉が途切れながらも海未姉は話し続けた。その時、僕はふとある考えを思いついて即座に実行に移した。

 

 

「顔を上げて海未姉」

 

 

僕の言葉を聞いて海未姉が泣いてる顔を上げた。そこに僕が自撮りを撮るようにして海未姉とのツーショット写真を撮った。

 

 

「ちょっと//!いきなり何をするんですか//!」

 

 

海未姉は先ほどまでの泣き顔から急に顔を赤くして困惑気味で僕に聞いてきた。

 

 

「これで僕達がもう一度出会った事が残るよね。僕がいなくても時間は止まりはしない。だから大丈夫だよ海未姉。あの時は言えなかったけど、今なら言える。必ず戻って来るから」

 

 

「信じても・・・良いのですか?」

 

 

「嘘なら言わないよ」

 

 

僕はそう言って海未姉の横を通り過ぎて行こうとすると、

 

 

「貴方の言葉を信じます。その代わりですが、私のお願いを聞いてくれませんか?」

 

 

「いいよ、何?」

 

 

僕が聞こうとすると、急に海未姉が後ろから抱きしめていた。

 

 

「海未姉?」

 

 

「少し・・・このままでいさせて下さい」

 

 

後ろから海未姉の静かな声が聞こえた。

 

 

「大きくなりましたね・・・青夜。貴方の成長を近くで見ることは出来ないのは残念ですが、頑張って下さい。遠くから見守っていますから」

 

 

「ありがとう海未姉。・・・そろそろ行くね」

 

 

「えぇ、いってらっしゃい」

 

 

「うん、いってきます」

 

 

僕はそう言って入り口の戸を開けた。外に出たらAqoursの皆が待っていた。

 

 

「もういいの?」

 

 

「うん、行こうか」

 

 

こうして家をあとにした。

 

電車内で僕は皆から色々と話を聞いた。

 

 

「それで、何か答えは掴めたの?」

 

 

「結局分かりませんでしたわ」

 

 

「そうだね、μ'sの何が凄いのか、私たちとどこが違うのか、はっきりと分からなかったかな?」

 

 

「海未姉には聞かなかったの?」

 

 

「それも考えたけど、μ's本人に聞くのは何か違うかなと思って。私たちで見つけなきゃ答えにならないから。でも千歌は分かったみたいだけどどうなんだろ?」

 

 

すると突然千歌ちゃんが立ち上がり、

 

 

「ねぇ!海見て行かない?皆で!」

 

 

そう言って電車を降りて走っていった。僕達もその後に続いて追いかけた。

 

走り着いた先には沈みゆく夕日が映った海が広がっていた。それは淡島の海にも引けを取らず綺麗だった。

 

 

「私ね、分かった気がする。μ'sの何が凄かったのか」

 

 

千歌ちゃんが突然話し出した。

 

 

「多分、比べたら駄目なんだよ・・・追いかけちゃ駄目なんだよ・・・μ'sも、ラブライブも、輝きも・・・」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「さっぱり分かりませんわ」

 

 

「そう?私は・・・何となく分かる」

 

 

「なるほど、そういう事か」

 

 

皆はまだピンと来てないが、僕と姉さんには千歌ちゃんの言いたい事が分かった。

 

 

「一番になりたいとか、誰かに勝ちたいとか、μ'sって、そうじゃなかったんじゃないかな?」

 

 

梨子ちゃんが意図を理解して代弁してくれた。

 

 

「うん、μ'sの凄い所って、きっと何もない所を、何もない場所を、思いっきり走った事だと思う。皆の夢を叶えるために。自由に、真っ直ぐに!だから飛べたんだ!μ'sみたいに輝くってことは、μ'sの背中を追いかける事じゃない、自由に走るって事なんじゃないかな?全身全霊!何にも囚われずに!自分達の気持ちに従って!」

 

 

「自由に」

 

 

「run and run」

 

 

「自分達で決めて、自分達の足で」

 

 

「何かわくわくするずら!」

 

 

「ルビィも!」

 

 

「全速前進、だね!」

 

 

「自由に走ったら、ばらばらになっちゃわない?」

 

 

「大丈夫だよ。ばらばらの道に走っても向かう場所は同じだから」

 

 

「何処に向かって走るの?」

 

 

「私は・・・0を1にしたい!あの時のままで終わりたくない!それが、私の向かいたい所!」

 

 

千歌ちゃんの決意を聞いて、僕はAqoursのリーダーが千歌ちゃんであって良かったと思った。千歌ちゃんの言葉には皆を動かす力があった。

 

 

「姉さん、ここからがAqoursのスタートラインみたいだよ」

 

 

「ふふっ、何かこれで本当にひとつにまとまれそうな気がするね!」

 

 

「遅すぎですわ」

 

 

「皆shyですから」

 

 

「ふふふ、じゃあ行くよ!」

 

 

「待って!」

 

 

曜ちゃんが急に止めた。

 

 

「指、こうしない?人差し指と親指で皆で1つの輪にして、0から、1へ!」

 

 

曜ちゃんは新しい円陣を皆に教えた。まるでAqoursの始まりを示すような形だ。

 

 

「じゃあもう一度!」

 

 

千歌ちゃんの声で皆は指で1つの円を作る。

 

 

「0から1へ、今、全力で輝こう!Aqoursー!」

 

 

「サーンシャイーン!!」

 

 

その言葉と同時に皆は空高く飛び上がった。空からは夕日が9人の少女を照らしていた。照らされた顔には曇りひとつなく皆、満面の笑みだった。

 

これが僕とAqoursの皆が向かう場所へ走り出した瞬間だった。




ありがとうございました
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僕のこれから

こんばんは、黒雨です。
1週間ギリギリの投稿となりました。
もしかしたら週1投稿が難しくなるかも知れないです。
それではどうぞ!


東京から走らせた電車は沼津に到着した。皆がそれぞれの家へ帰っていくなか、僕も帰ろうと姉さんの後をついて行こうとすると、

 

 

「待たれよ、リトルデーモン0号」

 

 

ヨハネ口調の善子ちゃんに呼び止められた。

 

 

「お前に少し話がある」

 

 

「僕に?」

 

 

聞き返すと善子ちゃんは辺りを見回し、誰もいないことを確認していた。

 

 

「いったいどうしたの?」

 

 

「ちょっと祐に聞きたい事があるの」

 

 

「聞きたい事?」

 

 

「そうよ。祐ってさ・・・その・・・す、好きな人とかいないの//?」

 

 

善子ちゃんは落ち着きがないまま僕に聞いてきた。

 

 

「好きな人?」

 

 

僕が聞き返すと善子ちゃんは小さく頷いた。

 

 

「好きな人か~。姉さんや海未姉、皆の事は好きだよ」

 

 

そう答えると善子ちゃんは頭を抱えていた。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「えぇ、大丈夫よ。じゃあ私の事は?」

 

 

「善子ちゃんの事?もちろん好きだよ」

 

 

すると善子ちゃんの顔が急に沸騰したかのように赤くなっていた。

 

 

「善子ちゃん本当に大丈夫!?」

 

 

「大丈夫だから!本当に大丈夫だから!」

 

 

善子ちゃんはそう言っているがどう見ても大丈夫に見えない。

 

 

「善子ちゃん、ちょっとの間じっとしてて」

 

 

「え?」

 

 

困惑してる善子ちゃんの額に僕は手を当てた。

 

 

「う~ん、熱は無いみたいだけど・・・」

 

 

それでも善子ちゃんの顔は赤くなっていき、遂には善子ちゃんが僕を前へ押した。

 

 

「この鈍感野郎~~~!!」

 

 

と最後に大声で叫びながら走り去って行った。

 

 

「え・・・?」

 

 

突然の事に僕はその場に数分間止まっていた。

 

 

「何が気に障ったんだろう・・・?」

 

 

理由も分からないまま僕は淡島への帰路に戻った。帰る頃には夕日も完全に沈み、夜となっていた。

 

船を降りて桟橋に着くと、先に家に帰っていた姉さんが待っていた。

 

 

「おかえり、祐。随分と遅かったね」

 

 

「ただいま、姉さん。ちょっと色々あってね・・・。姉さんこそ、こんな時間に外でなにをしてるの?」

 

 

「私はちょうど星を見てたところ。今日はよく晴れてからね、綺麗に見えるよ。だから一緒に見よう」

 

 

そう言って姉さんも僕の手を引っ張った。僕は今日で2回も人に引っ張られる事になった。

 

星空の下、僕と姉さんはテラスに仰向けの状態で上を見上げていた。姉さんの言っていた通り、真っ暗な地上とは違って上空は幾つもの星々で輝いていた。もしかしたら流れ星も見えるんじゃないかと思った。

 

 

「・・・なんだか色々あった夏休みだったね」

 

 

姉さんがふと呟いた。

 

 

「どうしたの?まだ夏休みの中盤だというのに」

 

 

「だって、私がもう一度スクールアイドルを始めるなんて思いもしなかったし、それに祐が記憶を思い出したら海未さんの弟だったり・・・」

 

 

「次はラブライブの地区予選決勝もあるよ」

 

 

「これじゃ夏休み後半も色々ありそうだね」

 

 

僕達は他愛もない話をして微笑んでいた。

 

 

「ねぇ・・・祐は本当に良かったの?海未さんの所に戻らなくて」

 

 

姉さんが急に話題を変えた。

 

 

「・・・うん、姉さんも聞いていたでしょ?これが僕の選んだ答えだって。僕はAqoursの皆を最後まで手助けをしていくつもりだよ。姉さん達の輝きを見てみたいんだ」

 

 

「そっか・・・ありがとう。でも待って。最後までって事は・・・!」

 

 

姉さんが何かに気づき、急に起き上がる。どうやら姉さんは気づいたようだ。

 

 

「・・・姉さんの思ってる通りだよ。姉さん達3年生が卒業する時に、僕も海未姉の所に戻るから」

 

 

僕の言葉を聞いて、姉さんは大きく驚くかと思ったが、まるで分かっていたかのように落ち着いていた。

 

 

「そう・・・だよね。記憶が戻ったんだから元の家に帰るのがあたりまえか・・・」

 

「・・・うん、姉さん達が失った時間を取り戻したように、僕も海未姉と離れた7年の時間を少しでも取り戻したいんだ」

 

 

「そっか・・・」

 

 

「ごめんね・・・せっかく星を見ていたのに僕の話で重くして」

 

 

「ううん、祐のせいじゃないよ。元は私が聞いたのが最初なんだから。それにまだ星空は見れるよ。ほら!流れ星!」

 

 

姉さんが指を指した方向に僕も目を向けると、一瞬だけだが流れ星が流れていた。

 

 

「あ〜あ・・・願い事を言おうとしてたのに」

 

 

「どんなお願いをするつもりだったの?」

 

 

「もちろん、ラブライブ優勝だよ。祐は何?」

 

 

「僕も同じだよ。東京の神社でもお願いしたけどね」

 

 

「じゃあ優勝は確実だね」

 

 

「まだ分からないよ」

 

 

「あはは、そうだね。じゃあもうそろそろ寝ようか」

 

 

「うん、おやすみ姉さん」

 

 

「おやすみ祐。私は天体望遠鏡とか片付けなきゃいけないからまた明日」

 

 

僕は姉さんと別れて自分の部屋に戻っていった。そして僕は部屋にある写真を飾った。それは記憶が戻って初めて撮った海未姉とのツーショット写真。僕達姉弟の時間が再び動き始めた印だ。きっと海未姉もこの写真を飾ってくれてるだろう。僕はそう思いつつ寝床についた。

 

 

~~~~~

 

一方、

 

 

「果南から聞いていたけど、祐があんなに鈍感だったなんて・・・。あれじゃ祐に告白しても本人が気づかないじゃない。どうしよう・・・」

 

 

恋する堕天使は鈍感な彼にどうすれば思いが届くのか悩んでいた。

 




ありがとうございました。
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練習風景

こんばんは、黒雨です。
久しぶりの投稿となります。
今後も投稿期間が空くかも知れませんが、よろしくお願いします。
それではどうぞ!


「ワン、ツー、スリー、フォー。ワン、ツー、スリー、フォー」

 

 

夏休み真っ只中、浦の星女学院の屋上では9人の少女達の掛け声が学校中に聞こえていた。

 

 

「ルビィちゃんは足を上げて」

 

 

「はい!」

 

 

「善子ちゃんは・・・」

 

 

「ヨハネ!」

 

 

「ふふっ、もっと気持ちを前に」

 

 

「承知。空間移動使います」

 

 

どうやら声からして皆頑張っているようだ。そんな彼女達にサポーターとしての役目を真っ当しよう。僕は皆が練習をしている間に飲料水を用意していた。

 

 

「それじゃ少し休憩にしよう」

 

 

姉さんがそう指示すると皆は力を抜いてその場に座り込んだ。

 

 

「はあ~、クタクタずら~」

 

 

「ルビィも」

 

 

僕はまず初めに目が止まったルビィちゃんと花丸ちゃんに渡していくことにした。

 

 

「2人共お疲れ様。はい。これで水分補給してね」

 

 

「ありがとう、祐さん」

 

 

「ありがとずら~」

 

 

「これから日が強くなるから、適度にしてね」

 

 

僕はそう言って次にまわった。次は2年生。千歌ちゃんと曜ちゃんは休憩時間でも2人で自主練をしていて、それを梨子ちゃんが近くで見ていた。練習してる2人の邪魔をするのは悪いから梨子ちゃんに2人の分も渡してもらう事にした。

 

 

「お疲れ様。悪いけど後で2人にも渡してくれない?」

 

 

「うん、ありがとう・・・」

 

 

梨子ちゃんは少し考える仕草を見せた。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「あっ!ごめんね。貴方の事をこれからどう呼んだらいいんだろうって考えてて。祐君なのか青夜君なのか」

 

 

それを聞いて梨子ちゃんが考え込む理由が何となく分かった。確かに梨子ちゃんだけが青夜としての僕を前から知っている。だから呼び方に困るのは当然のことだろう。

 

 

「祐の方がいいかな。Aqoursの皆といる時はこの名前だから。僕もそう呼ばれる方がいいしね」

 

 

「分かった。じゃあこれからもよろしくね。祐君」

 

 

「うん、よろしく。後、遅くなったけどコンクール入賞おめでとう」

 

 

「ありがとう。やっと私、弾けたんだ。祐君は覚えてる?私達が小学生だった時のこと」

 

 

「うん、覚えてるよ。あの頃から梨子ちゃんはピアノを弾いていて皆から褒められてたよね」

 

 

「でも、それがいつしか私のプレッシャーになっていた。そして音ノ木坂に入って私は挫折してしまった。いつの間にか私の弾いてる曲すら分からなくなってしまったの」

 

 

「そうだったんだ・・・」

 

 

僕は知らなかった。あの頃の周りの皆の歓声が梨子ちゃんにとってはプレッシャーになっていたことに。

 

 

「それで私は周りの環境を変えるために浦の星へ転校する事にしたの。そして出会った。千歌ちゃんや皆に。もちろん祐君にもね。あの時はまさかスクールアイドルになるなんて思ってもみなかったなぁ」

 

 

「確かにそうだね。昔の梨子ちゃんが今の梨子ちゃんを見るときっと驚くと思うよ」

 

 

「ふふっ、そうかも知れないね」

 

 

僕と梨子ちゃんが談笑していると、

 

 

「梨子ちゃ〜ん!飲み物ちょーだい!」

 

 

「私もー!」

 

 

自主練を終えた2人が梨子ちゃんに駆け寄って来た。

 

 

「じゃあ僕は次の分を持っていくから、頑張ってね」

 

 

僕はそう言って次に向かおうとすると、向かう先から大声が聞こえてくる。

 

 

「あれほどその格好は止めた方がいいと言っているではないですか!」

 

 

「嫌よ!これを着てないとヨハネでいられなくなっちゃうじゃない!」

 

 

そこには、口論しているダイヤさんと善子ちゃんの姿とそれを見ている姉さんと鞠莉さんの姿があった。

 

 

「姉さん、これは一体どういう状況なの?」

 

 

「う~ん、ダイヤが今まで善子に黒い格好を止めるように言ってきたんだけど善子が止めなくてこうなったみたい」

 

 

「確かに、この暑さだと熱中症になってしまうかも知れないからね」

 

 

するとダイヤさんが僕に気づき、説得するよう頼んできた。

 

 

「祐さんも何とか言ってください!このままだと善子さんが熱中症になってしまうかもしれません!」

 

 

「なっても止めないわよ!堕天使のアイデンティティなんだから!」

 

 

両者一歩も譲らない。どうすればいいかと考えていると、

 

 

「ユウ、良い方法が見つかったわ。でもそれにはユウの力が必要よ」

 

 

鞠莉さんが解決案を出したようだ。でも何故か僕にだけにしか聞こえないような声量で話しかけてきた。

 

 

「それは一体どんな方法?」

 

 

「それはね・・・」

 

 

そう言って僕に耳打ちをした。鞠莉さんが出した案は驚くような内容だった。

 

 

「・・・本当にそれをするんですか?」

 

 

「Yes♪それを言えば解決だから。これはダイヤには絶対に出来ない事だから」

 

 

「嫌な予感がするけど、このままだとキリがないからするしかないか」

 

 

する事を決めた僕は仰向けで寝てる善子ちゃんに近づいた。

 

 

「善子ちゃん。やっぱり黒い格好は止めた方がいいよ。これから暑い日が続くからさ」

 

 

「言ったでしょ。黒は堕天使のアイデンティティ。これが無ければヨハネはヨハネでいられなくなる。だからお断りよ」

 

 

やはり普通に説得するだけでは善子ちゃんは動かないか。じゃあ鞠莉さんが言ってたことを言うか。

 

 

「でも、今被ってるのを脱いだ方が僕は可愛いと思うんだけどなー」

 

 

「え・・・//」

 

 

先程まで倒れていた善子ちゃんが急に起き上がった。そして僕に問いただしてきた。

 

 

「ねぇ祐、それホント・・・?」

 

 

どう返せば良いのか悩んでいると、僕の視界に鞠莉さんが移った。鞠莉さんは僕に向けて何かしらのサインを出していた。そのサインを読んで僕は対応する。

 

 

「・・・うん」

 

 

「天界堕天条例に誓って?」

 

 

「・・・誓うよ。ヨハネ様」

 

 

それを聞いた善子ちゃんは立ち上がり、

 

 

「リ、リトルデーモン0号がそこまで言うのなら仕方がない!見せてあげるわ!ヨハネの真の姿を!」

 

 

と言って、例の黒いマントを脱ぎ捨て練習着になった。その時の善子ちゃん、少し顔が赤くなっていた。

 

 

「これで一件落着かな・・・?」

 

 

そう思ったら姉さんが手を叩き、休憩時間が終わって練習が再開した。

 

 

~~~~~

 

 

「ねぇ鞠莉。このまま祐と善子は上手くいくと思う?」

 

 

「どうかしら。でも、あのユウの鈍感さからしたらきっと善子の気持ちに気づくまで時間がかかるかもね」

 

 




ありがとうございました。
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堕天使と行く道中

こんばんは、黒雨です。
投稿期間が大きく空きましたが、5thLiveまでに投稿する事が出来ました。
それではどうぞ!


正午を回り、太陽が1番高くのぼる時間に僕は外を歩いていた。

 

 

「暑い・・・」

 

 

「これが・・・神の業火なのね・・・」

 

 

横には堕天使が暑さで疲れながらも歩いている。

 

 

「はぁ、はぁ、・・・コンビニってこんなにも遠かったかしら・・・」

 

 

「気のせいだと・・・思うよ。早く買うもの買って戻ろう」

 

 

僕と善子ちゃんは今コンビニへ向かって歩いている最中だ。

 

事の発端は数十分前・・・、午前の練習が終わり休憩している時に千歌ちゃんが言い出したことが始まりだった。

 

 

「ねぇ!今から皆でじゃんけんして負けた人が近くのコンビニまでアイス買いに行くゲームしない?」

 

 

「いいね!やろうよ!」

 

 

千歌ちゃんの提案に曜ちゃんや姉さんが賛同していき、皆でする事となった。

 

そして勝負の結果・・・

 

 

「何で負けるのよ・・・」

 

 

善子ちゃんが負けて行く事になった。

 

そして善子ちゃんが行って暫く経った後に部室の机を見るとじゃんけんの前に皆から集めたお金が置いてあり、僕は急いでそれを届けに行ったことでついて行くこととなった。

 

そして現在・・・、僕達は目的地に向かっている途中だった。

 

 

「こんな暑さだから海に入ったら気持ちいいんだろうなぁ」

 

 

善子ちゃんは海を見て呟いた。

 

 

「意外と善子ちゃんも姉さんみたいな事を言うんだね」

 

 

「そう?家で冷房よりは涼しいわよ。あっ、そういえば祐は海の家に行った時に1回も海に入ってなかったじゃない」

 

 

「あー・・・、そういえば言ってなかったっけ。実は泳げないんだよね、僕」

 

 

「そっちこそ意外じゃない。果南とダイビングショップ手伝ってたからてっきり泳げるのかと。もしかして海が怖いとか?・・・そんな訳ないよね」

 

 

善子ちゃんは冗談交じりに聞いてきた。その時、僕は歩く足を止めて答えた。

 

 

「・・・いや、あながち間違ってないよ」

 

 

「え・・・」

 

 

僕の返答に善子ちゃんは少し驚いていた。

 

 

「・・・善子ちゃん達は姉さんからどこまで僕の事を聞いたの?」

 

 

「果南が祐を助けて名前をつけたところから祐が悪夢にうなされてるところまでだけど」

 

 

「そう・・・。昔は普通に泳いでいたんだけど、あの事が起きてから海に足を触れることですら怖くなったんだ。それに気づいたのは記憶を失ってから半年くらいかな」

 

 

僕はそう答えて静かに揺れる海を横目に再び歩き出す。

 

 

「あの日は丁度海開きの日だったよ。姉さんは誰よりも早くに海に向かって走ってい行って、僕はその時店の手伝いがあったから、それが終わってから海に行ったんだ。着いたときには既に姉さんは海で遊んでたよ。その時に一緒に遊んでたのが千歌ちゃんと曜ちゃんだったんだ。僕も追いかけるように海に入ろうとした。そしたら急に足が動かなくなった。まるで海に入るのを拒むかのように頭に痛みがはしってきた。今ならわかるけどあの時に海を見ていたから例の事故が一時的に思いだしたんだと僕は思ってるよ。そして身体が崩れるように倒れてしまった。気づいたらもう家のベッドの中だったよ。それ以降はもう1度も海に入れず、姉さん達が遊んでるのを遠くから見てるだけになったんだ。これが怖い理由だよ」

 

 

全てを話し終えた僕は善子ちゃんの方へ顔を向けた。善子ちゃんは申し訳なさそうに顔を下に向けていた。

 

 

「・・・ごめんなさい。私、祐が海を怖かったのを知らずに」

 

 

「善子ちゃんが謝る事じゃないよ。僕もそれが分かったのはつい最近の事なんだから」

 

 

「分かったなら、どうして海が怖いのに此処に残る事を選んだのよ。祐にとっては、また恐怖を見続ける事になるじゃない」

 

 

「・・・確かにそうだね。でも、いつまでも逃げる訳にはいかないからね。それに、Aqoursのサポートを途中でやめる気は無いよ。皆の輝きを手助け出来るなら僕は最後までついて行くよ」

 

 

そう答えると、善子ちゃんは安堵したかのように笑みを浮かべた。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「大した事じゃないわよ、ただ祐がAqoursのために戻って来てくれた事が嬉しかった。だって・・・」

 

 

「だって?」

 

 

「!?//リ、リトルデーモンがヨハネの許可無しに遠くへ行くなんて絶対に許さないからよ//。だから、これからは気をつけなさいよね!(祐が好きだから離れたくないなんて本人の前で言えるわけないじゃない!)」

 

 

「え?う、うん」

 

 

「あと、そろそろ戻らないとダイヤに怒られるわ!急いで行くわよリトルデーモン!」

 

 

善子ちゃんがそう言ってコンビニへ全速力で走っていった。まるでこの場からすぐ逃げるように。

 

 

「ちょっと待って!てか速っ!」

 

 

僕も急いでその後を追いかけて行った。そしてアイスを買って帰る時も善子ちゃんの速さは変わらず全速力で走っていたのだが、

 

 

「痛った!もう、どうしてこんな時に不幸が・・・」

 

 

学校の坂道前で体勢を崩して転んでしまった。

 

 

「善子ちゃん大丈夫!?」

 

 

「へ、平気よ・・・このくらいかすり傷よ」

 

 

善子ちゃんはそう言ってるけど、傷口から血も出ていた。

 

 

「・・・善子ちゃん。ちょっと大人しくしてもらうよ」

 

 

僕はそう言い残して、善子ちゃんをおんぶする事にした。

 

 

「ちょっ!//降ろしなさいよ!1人で歩けるから!」

 

 

「駄目だよ。傷口が開いたらどうするんだい?」

 

 

「それは・・・」

 

 

「だから、僕の背中に身を任せといて。戻ったら保健室に連れていくから」

 

 

「うん・・・、ありがとう(祐の背中・・・すごく暖かい・・・)」

 

 

善子ちゃんも大人しくなったところで、僕は坂道を登った。

 

 

部室に着くとダイヤさんが怒ろうとしていたそうだが、2人の状態を見たら怒らなかったのですぐに保健室へ行くことが出来た。ただ、行く途中で鞠莉さんが妙にニヤニヤしているのが少し気になった。




ありがとうございました。
評価、コメント、誤字などがありましたら教えて下さい。
お願いします!


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輝き

こんばんは、黒雨です。
ラブライブ9周年おめでとうございます!
自分がラブライブを知ったのは2年半前なので、もっと早く知りたかったと思っています・・・。
それではどうぞ!


ついにこの日が来た。今日はラブライブ地区予選当日。Aqoursのみんなと僕は会場の入口前にいた。

 

みんなの顔を見てみると会場に来る前の前向きな気持ちと違って不安そうな心境が伝わってきた。それは仕方ないことか。

 

数分前、会場の近くで僕たちはある待ち合わせをしていた。それは昨日の練習終わりにAqoursの練習を見ていた同じクラスのむっちゃん達が自分たちに何かできることはないかとたずねてきた。それで千歌ちゃんが当日に皆で一緒にステージ上で歌おうと提案したが、調べてみたらステージ上に上がれるのは事前に登録した人数だけで、他の人達はステージ上に近づくことすら禁止されていた。無論、僕もステージ上に近づくことはできない。それを聞いた千歌ちゃん達は不安そうな顔になっていた。むっちゃん達も励ますように客席から応援するからと言って千歌ちゃん達を見送った。千歌ちゃんも見送りに笑顔で応えて後にしたが、振り向いたときには先程の不安そうな表情に戻ってた。

 

 

そして入口前、皆が会場へ足を進めようとした時に僕は声を掛けた。

 

 

「みんな、頑張ってね。僕もステージ上には行けないけど、ちゃんと応援してるから。それに、きっとみんななら0から1にできると信じてる。だからライブ、楽しんできてね」

 

 

今、声を掛けたら逆にみんなの更なるプレッシャーになるかもしれない。それを恐れたが、

 

 

「ありがとう祐君!行ってくるよ!」

 

 

「ちゃんと私達のステージ見ててね!」

 

 

「ステージが終わったら感想を聞かせてね」

 

 

「祐さん、行ってくるずら!」

 

 

「ありがとうございます!行ってきます!」

 

 

「フッ、ステージのヨハネを目に焼き付けなさい!」

 

 

「勿論ですわ!浦女魂を見せつけてあげますわよ!」

 

 

「ありがとね、祐」

 

 

「YES!シャイニーなライブにして見せるわ!」

 

 

Aqoursのみんなは僕に一言ずつ残して会場へ走っていった。みんなが会場へ入った数分後に僕も会場へ入った。会場の客席からステージを見ると、360度の客席に囲まれた中心にステージがあった。

 

 

「さすが地区予選決勝の場所…今までのライブとは比にならないほどの規模だね。みんな大丈夫かな…」

 

 

何故かステージに上がらない僕が緊張してしまうほどの会場だ。決勝戦のアキバドームはいったいどんな景色なんだろう。そんな心配事をしていると、ライブの準備をしているはずの姉さんが近づいてきた。

 

 

「準備が終わったの?」

 

 

「うん、だから本番の会場を見に来たんだよ」

 

 

姉さんは僕の隣に立って二人で同じ会場を見ていた。

 

 

「姉さんは緊張してる?」

 

 

「そうだね、でもそれ以上に楽しもうと思ってるよ。鞠莉やダイヤとまたスクールアイドルが出来て、千歌たちが新しいAqoursを作ってくれて、そして祐が私たちを助けてくれたから私も頑張ってこれたんだと思うよ。だから祐、ありがとう。見ててね、私たちのステージ。あとこれを祐に持っててほしいの」

 

 

そう言って手に持っていたものを僕に渡してきた。

 

 

「これは…シュシュ?」

 

 

「うん、それは梨子ちゃんが東京に行ってた時に地区予選に出る私たちにそれぞれの色で送ってくれて、私のは緑色で、今持っているその藍色は祐のだよ。祐が眠っている間に地区予選で私のと一緒に着けて出たんだ」

 

 

「そうだったんだ、ありがとう姉さん」

 

 

「ふふっ」

 

 

すると姉さんがふと笑みを見せた。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「ちょっとね、祐はもう記憶が戻ってるのにまだ私のことを「姉さん」と呼んでくれるのが嬉しくて。私と祐は血が繋がってなくて、それに祐には本当の姉がいるって祐もわかってるのにね」

 

 

「そう?僕は姉さんと海未姉、二人とも大切な姉だよ。たとえ姉さんと血が繋がっていなくても僕の姉だったことには変わらないよ。だから姉さん、これからも松浦祐をよろしく。姉さんたちAqoursが決めた道を僕はついていくから」

 

 

僕が話し終えて姉さんを見ると、姉さんの目元から涙がつたっていた。

 

 

「あははは…おかしいね、涙が止まらないよ…ライブ前なのに泣かせないでよ…」

 

 

「ごめんね、でも姉さん。前より何だか涙腺が緩くなってない?」

 

 

「もう…祐のバカ」

 

 

姉さんはそう言いつつも、僕の隣から離れずに涙を拭っていた。僕も拭い終わるまで待っていた。やがて、姉さんが泣き止み、

 

 

「じゃあ、私ももう行くね。あの時おいてきたものをもう一度取り戻しに行ってくるよ」

 

 

「いってらっしゃい、姉さん」

 

 

「うん、行ってきます」

 

 

姉さんはそう言って控え室に戻っていった。

 

数分後、Aqoursのステージが始まった。

 

 

「今日は、皆さんに伝えたいことがあります!それは、私たちの学校のこと!町のことです!」

 

 

それからAqoursの皆がこれまでに歩んできた道のりとこれからの自分たちだけの道を歩んでいくことを浦女の全校生徒とお客さんに演技で伝えた。

 

そして最後に披露した曲では、皆の持っていたペンライトが集まってまるで光の海ように、海が恐怖に感じる僕も思わず、

 

 

「綺麗…」

 

 

とつぶやいてしまうほどの景色だった。

 

すると、

 

 

「みんな!一緒に輝こう!」

 

 

千歌ちゃんの叫びが会場中に響き渡ると、その言葉に心を動かされた浦女の生徒たちがステージ近くでAqoursの皆を応援して、Aqoursのパフォーマンスは終了した。

 

 

「自分たちだけの道へ進んでいくために必要なもの…まさしく(MIRAI TICKET)だね」

 

 

僕はそう考えると席を立って会場前に戻ろうとすると、

 

 

「あの、もしかしてAqoursのマネージャーをされている方ですか?」

 

 

と後ろから声が聞こえた。

 

振り向くとそこには、眼鏡をかけて帽子を深くかぶっていた人がいた。

 

 

「はい…そうですけど」

 

 

と単調に答えると、

 

 

「Aqoursのステージ感動しました!地区予選の動画を見てからファンになりました!もしよろしければ、取材させていただけませんか!?」

 

 

といきなりの取材を申し込まれそうになったが、ぼくが答えをだす前に、会場を離れようとする人ごみによってインタビュアーの人が流されてしまった。

 

 

「あっ、ちょっと、待って、ダレカタスケテーーーーー!」

 

 

 

流される人ごみの中からインタビュアーさんの声が聞こえていたがどこかに行ってしまった。

 

 

「…何だったんだ?」

 

 

色々ありすぎて追いつかなくなった僕はその人を諦めて、結果発表される場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます。
次回からは2期に入っていく予定です!
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二学期 〜Second Season〜
次のラブライブへ


こんにちは。黒雨です。
最後の投稿から半年以上空けてしまいましたが、Second Season編の一話が出来上がりました!執筆期間は長いですけど完結する事を目標で頑張っていきます。それではどうぞ!


長かった夏休みが終わり、二学期が始まった。学校生活が始まっても放課後には決まって屋上から彼女たちの練習する声が聞こえていた。

 

 

「イチ、ニー、サン、シー。善子ちゃんは相変わらず体が硬いね。ちゃんとストレッチしてる?」

 

 

今は二人一組になって柔軟運動をしているのだが、何故か姉さんと善子ちゃんのペアから柔軟では聞こえてはいけないような音が聞こえてくる。

 

 

「痛い痛い痛い!待ちなさいよ!この体はあくまで仮初め。私の実態は…」

 

 

善子ちゃんは止めるように懇願していたが、姉さんは笑顔で更に押す力を上げて善子ちゃんの体からグキッとなる音が聞こえたのでさすがに僕も止めることにした。

 

 

「姉さんストップ。それ以上強くしたら善子ちゃんが危ないよ」

 

 

「大丈夫だよ。頑張ればまだいけるって」

 

 

「痛い痛い!ストップ!ストップ!」

 

 

「ほら。善子ちゃんもそういってるから」

 

 

「仕方ないな~」

 

 

姉さんはそう言って善子ちゃんの体勢を元に戻した。

 

 

「善子ちゃん大丈夫?」

 

 

「助かった…。感謝するわリトルデーモン」

 

 

善子ちゃんは苦行から解放されたかのように地面に寝転がった。

 

 

「そういえば祐君、次のラブライブはいつなの?」

 

 

柔軟中の梨子ちゃんと曜ちゃんが僕に聞いてきた。

 

 

「例年通りなら、来年の春だと思うよ」

 

 

「そっかぁ。次こそは地区予選突破したいね」

 

 

そう、Aqoursはもう少しで全国大会だったところを惜しくも予選敗退してしまった。でも、次のラブライブが発表されたため、皆は次に向かって走り出していた。

 

 

「ブッブーですわ!その前に一つやるべき事がありますわよ。入学希望者を増やすのでしょ」

 

 

突如ダイヤさんから指摘が入った。

 

 

「学校説明会ですね」

 

 

「Yes!既に告知済みだよ」

 

 

最初は0人だった浦の星女学院の入学希望者が1人増えて、現在は10人にまでなった。そして、学校説明会を開いて浦の星のことを知ってもらおうと企画した。

 

 

「せっかくの機会です。そこに集まる見学者にライブを披露してこの学校の魅力を伝えるのですわ!」

 

 

「でも、少し大変じゃないですか?予選がいつ始まるのかわからないし」

 

 

「確かにそうですが、興味を持って下さる方は増えると思うのです」

 

 

ダイヤさんの案に僕は少し不安な面もあった。来年の春がラブライブの決勝だから近々各地の予選が始まってもおかしくないのじゃないかと僕は考えていたからだ。

 

 

「それいい!すごくいいと思う!やろう!学校説明会でのライブ!」。

 

 

お手洗いから帰ってきた千歌ちゃんが賛成の声を上げた。

 

 

「トイレ長いわよ!もうとっくに練習始まってるんだからね!」

 

 

「善子ちゃんはさっきまで休憩してたじゃないか」

 

 

「もうそろそろ大丈夫そうだね。それじゃ続きを始めようか、善子ちゃん♪」

 

 

「ひぃぃっ!助けて祐!」

 

 

「休憩してたんだから今からは頑張ってね。あと、姉さんも程々にね」

 

 

「分かった分かった」

 

 

姉さんはそう言っているが、あの笑顔からして加減はしないなと察した。善子ちゃんドンマイ。3人のやり取りに周りから談笑が起きていた。たった1人を除いて。

 

 

練習が終わり、家に帰って一息ついていたら姉さんが疑問を投げかけてきた。

 

 

「ねぇ祐。練習後の鞠莉、少しおかしくなかった?」

 

 

「おかしい?というと?」

 

 

「なんというか、すごく悩んでるような気がしたんだ」

 

 

「まぁ、たしかに僕もそんな気はしてたよ。練習後のバス停でこれからの練習場所の相談してた時も鞠莉さんだけがどこか上の空だったから何かあったのかな?」

 

 

何時もなら話し合いになると必ず自らの案を出す鞠莉さんなのだが、さっきの相談の時は1度も話し合いに参加せずに皆の提案に任せてるような感じだったのは少し違和感があった。

 

 

「…ちょっと行ってきていい?」

 

 

「…いいよ。帰ったら教えてね」

 

 

それを聞いた姉さんは頷いて淡島ホテルへ走っていった。

 

 

「…なんか不安になってきたな。大事じゃなかったらいいけど」

 

 

窓から見える夜の海を見ながら僕はそう呟いた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「何かあったの?」

 

 

いつもの場所に鞠莉を呼び出した私は問いただした。

 

それに対して鞠莉はバレバレの演技でしらばっくれた。

 

 

「何の話デース?」

 

 

「何かあったでしょ!?」

 

 

「・・・しょうがない。実は」

 

 

「実は?」

 

 

「最近、weightが上がってblueに」

 

 

まだしらを切るつもりか。こうなったら、

 

 

「嘘だね。変わりない」

 

 

鞠莉を持ち上げてすぐに嘘を暴いた。

 

 

「何で分かるのよ」

 

 

「分かるよ。だいたい鞠莉はそのくらいでブルーになんてならないでしょ?」

 

 

「・・・」

 

 

「鞠莉!」

 

 

「・・・ねぇ果南。私はどうすればいいの?」

 

 

「え…?」

 

 

さっきまで冗談を言っていた鞠莉の声が一変、急にトーンを下げた。

 

 

「実は、学校説明会が中止になって統廃合が正式に決まってしまったの」

 

 

「そんな…どうすることもできないの?」

 

 

「果南おねがい。帰ってもまだユウには言わないで。皆には私から言う。それにまだ何とかできるかもしれないから」

 

 

鞠莉はそう言っているものの彼女の声にはいつもの元気がなく、もうあとがないように私は聞こえた。

 

そんな鞠莉に私はどう声を掛けたらいいのかわからなくなった分からなくなった。

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。
評価、コメント、誤字などがありましたらお願いします!
更新ペースは遅いかもしれませんが、気長に待っていただけたらありがたいです。
これからもよろしくお願いします!


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姉の思い悩み

こんにちは、黒雨です。
思いのほか、個人的に意外と早く次を投稿出来てやや満足していました。
それではどうぞ!


次の日、僕は鞠莉さんに呼ばれて理事長室に来ていた。

 

 

「sorryユウ。急に呼び出したりして」

 

 

「大丈夫ですよ。僕も昨日姉さんが何を聞いたのか気になっていたので」

 

 

あの後、鞠莉さんの家から帰ってきた姉さんに内容を聞こうとしたら、

 

 

「ごめん聞かないで。私からは言えないから」

 

 

と返されてすぐに部屋へ戻っていた。その時の姉さんの顔は落ち込んでいるように見えた。今日の朝も姉さんは普段と同じように笑顔で僕と接していたが、その笑顔は作っているか引きつっているかのように見えた。

 

 

「果南には私から言ったの。これは私の口から言わないといけないから」

 

 

鞠莉さんは少しためらう仕草をしたが話を続ける。

 

 

「実は学校説明会が中止になったの」

 

 

その言葉に僕は驚きを隠さずにはいられなかった。なぜなら、

 

 

「中止…ということは浦の星は」

 

 

「えぇ。入学募集を取りやめて統廃合することになったの」

 

 

「打つ手はもうないのですか?」

 

 

「いいえ、私は諦めない。まだ覆せるかも知れないから」

 

 

「…この事を知っているのは僕と姉さんだけなのですか?」

 

 

「そうね。皆には今日から行く新しい練習場所で言うつもりにしている。ユウは生徒会で行けなかったはずだから先に伝えることにしてたの」

 

 

そうだった。今日は新しい練習場所に行く日と生徒会の仕事が重なってる日だったからダイヤさんの代わりに僕が引き受けてたんだった。

 

 

「それにこれは私の口から言わなきゃいけない事。だから果南に言わないでと伝えたの。だからユウもまだ皆には言わないで」

 

 

「わかりました。じゃあ僕はこれで」

 

 

「待って。最後に」

 

 

理事長室を出ようとしたら鞠莉さんが呼び止めた。

 

 

「帰ったら果南のそばにいてあげて。最近すごく思い悩んでいたから」

 

 

「最近?今回の事よりも前にですか?」

 

 

「いつからかは分からないけど、最近の果南はいつもよりずっと元気がないわ。ユウは何か心当たりとかないの?」

 

 

「僕は何も知らないけど。姉さん、一体どうしたんだろう…」

 

 

何か思い当たる節がないかを考えながら僕は理事長室を出て帰路についた。

 

夕日が沈む時刻、家についたときには既に姉さんは帰っていてテラスの椅子に座っていた。

 

 

「お帰り祐」

 

 

「うん、ただいま姉さん」

 

 

やはり姉さんの表情は朝と変わらない。

 

 

「新しい練習場所はどうだった?」

 

 

「いい場所だったよ。室内は広いし雨が降っても練習ができる。それに鏡もあったからダンス練習の時に自分の姿見ながら出来るのがよかったかな」

 

 

「…鞠莉さんから聞いたよ。統廃合のこと」

 

 

すぐさま本題に入ると姉さんの作っていた笑顔がなくなった。それは二年前のスクールアイドルを終わりにした時に自分を責めていた頃の表情だった。

 

 

「姉さん、今は統廃合のほかに何を悩んでいるの?」

 

 

姉さんはそれを聞くと椅子から離れて海を見て呟いた。

 

 

「…ごめんね祐。私のせいで」

 

 

「どういうこと?私のせいって」

 

 

「私が祐を巻き込んでしまったから。浦女の廃校問題に」

 

 

「まさか、それで自分を責めていたの?」

 

 

「だって!私が祐を浦女のテスト生に勧めなかったら祐は悩まなくても良かった!普通の高校生活だって出来た!全部私のせいなんだ…!あの時の鞠莉みたいに私が祐の将来の可能性を潰してしまってるから…」

 

 

その言葉を聞いて僕は思った。きっと姉さんは二年前の事と今回の事を照らし合わせたんだろう。また自分のせいで誰かの未来を変えてしまうのが怖かった。だからあの時と同じように自分を責めていたんだ。

 

 

「自分のせいだなんて言わないで。僕は浦の星に行ったらやりたい事が見つかると言ってくれた姉さんの言葉を信じてテスト生になったんだ。そしたら僕はやりたい事を見つけることができた。可能性を潰したんじゃない。寧ろ見つけてくれた。感謝だってしている。だからさ、姉さんはもっと前向きになっていいと思うよ。」

 

 

僕は姉さんの隣で伝えた。

 

 

「鞠莉にも言われた。前よりもネガティブになってるって。でも正直、自分に自信が持てないよ」

 

 

「大丈夫だよ。姉さんならきっと」

 

 

「本当に?」

 

 

「嘘なんてつかないよ」

 

 

「…わかった。祐が私を信じたように、私も祐を信じて努力してみるよ」

 

 

それを言っていた時、かすかだが姉さんに純粋な笑顔が戻ってきたように感じた。

 

 

「これで少しは肩の荷が楽になった?」

 

 

「うん、ちょっとだけね。ありがとう。やっぱり祐と一緒にいることが今の私の幸せかな。こうやって悩み事を打ち明けられて、それを真摯に向き合って聞いてくれる。私はそんな祐が」

 

 

「僕が?」

 

 

「弟でよかったってこと!」

 

 

「それは嬉しいな。さぁ、肌寒くなってきたし姉さんもそろそろ部屋に入ろ」

 

 

「うん」

 

 

こうして僕たちは部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

今日も言えなかった

 

 

だけど、どうしても伝えたい

 

 

七年前に貴方と病院で向き合った時からずっと思ってた

 

 

弟になった貴方と初めて家に帰ってきた時はこれからずっと一緒にいれると思っていた

 

 

でも、記憶が戻った貴方には帰る場所がある

 

 

だから貴方が帰るまでに伝えなきゃ

 

 

私の気持ちを

 

 

でも、きっと貴方は違う意味で受け取ってしまうでしょう

 

 

それでも構わない

 

 

だって私の他に貴方の事を好きな人が鈍感な貴方に気づいてもらおうと努力している

 

 

私はあの子の恋心に貴方が気づいて、二人で両想いになってほしいから

 

 

だから私は言えるだけでいい

 

 

家族としてでも、ましてや姉としてでもなく

 

 

私が伝えるのは一人の女の子としての貴方への恋心

 

 

「ずっと前から私は貴方の事が好きでした」と

 

 

これは千歌達にも、鞠莉やダイヤにも、そして善子ちゃんにも言えない

 

 

私だけの報われぬ恋




読んでいただきありがとうございました。
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仲良くなるには

こんにちは、黒雨です。
最後の投稿から約二年以上経過しましたが、少しずつ再開していきます。
それではどうぞ。


僕達は今、黒澤家へ走って向かっている途中だった。事の発端は、ラブライブにエントリーする曲と、学校説明会で披露する曲を作るために2年生チームと、3年生と1年生の合同チームの二手に分かれて行動していたが、2年生チームが千歌ちゃんの家で曲を作っていると、ルビィちゃんから「今すぐこっちに来て」とメールが届き、そして現在に至る状況だ。

 

 

「それではラブライブは突破できません!」

 

 

「その曲だったら突破できるっていうの!?」

 

 

「花丸の作詞よりはマシデース!」

 

 

「でも、あの曲はAqoursには合わないような…」

 

 

「新たなchallengeこそ新たなfutureを切り開くのデース!」

 

 

「さらにそこにお琴を!」

 

 

「そして無の境地ずら!」

 

 

「入るところないでしょ!」

 

 

ルビィちゃんに呼ばれて部屋に着いた2年生たちの目に映ったのは1年生と3年生が言い争っている場面であった。僕たちが来たことに気づいたダイヤさんとルビィちゃんはひとまず千歌ちゃんたちに事情を話すべく一度外へ出ていった。僕は部屋に残って、4人から話を聞くことにした。

 

 

「さてと、どうしてそんなに言い合ってたのかな?」

 

 

「…曲のお題が決まらなかったから」

 

 

「僕たちが着いた時は、どうやら1年生と3年生で意見が分かれてるみたいだったけど。一体どんなお題の案が出てきたの?」

 

 

「それは話すよりも聴いた方が早いデース!」

 

 

そう言って鞠莉さんは持ってた携帯をスピーカーに繋げた。

 

 

「鞠莉ちゃん待つずら!」

 

 

花丸ちゃんが何故か止めようとしたがすでに遅く、スピーカーの再生ボタンを押した後は、鞠莉さんの作曲したロックな音楽が大音量で部屋中に鳴り響いていた。あまりのアップテンポな曲調のせいなのか、花丸ちゃんと善子ちゃんはその場で倒れこんでいた。そんな2人のことを気にせず、姉さんと鞠莉さんはノリノリな状態だった。

 

 

「…つまり、これが3年生の選んだ曲のお題?」

 

 

「YES!音楽に合わせて、身体を動かせば、HAPPYになれますネ!」

 

 

「そうだね。ラブライブだもん!勢い付けていかなきゃ!」

 

 

「…盛り上がってるところ申し訳ないけど、1年生の2人はそうはいかないみたいだよ」

 

 

すると部屋中に流れていた音楽が止まった。どうやら花丸ちゃん達が停止ボタンを押したみたい。

 

 

「やっぱり騒音ずら…」

 

 

「また耳がキーンしてる…」

 

 

「2人共大丈夫?」

 

 

「まぁ、なんとかね」

 

 

「やっぱりマルの案の方がいいずら」

 

 

「すごい自信だね。花丸ちゃんは一体どんな案を出したの?」

 

 

そう言うと花丸ちゃんは持っていた紙を広げた。それには大きく「無」と書かれていた。

 

 

「マルが出した案はズバリ 無 ずら!」

 

 

「……無?」

 

 

「そうずら。すなわち無というのは、すべてが無いのではなく、無という状態があるということずら。それこそまさに無!」

 

 

「…ごめん。ちょっとよくわからない」

 

 

「え~!祐さんがわからないのはちょっとショックずら…」

 

 

「何でそんなに落ち込むの…」

 

 

「ほら。祐がわからないなら私にもわからないもん」

 

 

「姉さん。それは威張って言うことじゃないよ…。それで、ここからどうする?さすがにこのまま意見が割れてるままだと進展が厳しいんじゃないかな?」

 

 

僕の問いに4人が悩んでいると、

 

 

「そうですわね。ですから私たちは初歩的な事から解決しなければなりません」

 

 

下で千歌ちゃん達と話していたダイヤさんとルビィちゃんが戻ってきた。

 

 

「初歩的な事?」

 

 

「それは、私たち3年生と1年生がお互い仲良くなることです!」

 

 

「仲良くなる!?」

 

 

「そうですわ。まずはそこからです」

 

 

「曲作りは信頼関係が大事だし」

 

 

ダイヤさんたちの考えた案は、今まで余り接点が無かった3年生と1年生がお互いを知ることで信頼関係を築くというものだった。確かにこれなら曲のお題についても話がまとめられそうで問題が解決しそうだ。

 

 

「じゃあ、僕はそろそろ千歌ちゃん達のところに戻るね」

 

 

階段を降りようとすると、後ろから姉さんと鞠莉さんに腕を掴まれた。

 

 

「祐はもちろん、今から私達の方で行動するよね?」

 

 

「いやいや、戻るよ。下で千歌ちゃん達が待ってると思うし」

 

 

「No Problem!千歌っち達の許可はすでに承認済みよ!」

 

 

そう言って鞠莉さんは携帯の画面を見せてきた。

 

画面のメッセージ欄には、「ユウはマリー達が貰っていきマース!」と送信されていた。それに対して千歌ちゃんは「え~!?」と、驚いたリアクションで返信していた。

 

 

「どう見ても承認しているようには見えない返信なんですけど」

 

 

「大丈夫大丈夫。千歌なら納得してくれるよ。それにもう私、仲良くなる方法を思いついてるから」

 

 

「なにかあるの?」

 

 

「うん。それじゃあまずは皆で学校に行こうか」

 

 

こうして姉さん達に腕を引っ張られるがまま、僕は姉さん達の曲作りチームに変更(強制)することとなった。

 

バスに揺られて数十分、学校に着いた皆は姉さんに言われて体操服に着替えてグラウンドに集まっていた。そして、

 

 

「小さい頃から知らない子と仲良くなるには…一緒に遊ぶこと!」

 

 

その言葉と同時に姉さんは持っていたボールを投げてドッジボールを始めた。余りにもボールが速かったのか、善子ちゃんと花丸ちゃんは身動き取らず、ボールはすでに外野の鞠莉さんにわたっていた。

 

 

「Nice Boal!」

 

 

「なにコレ…?」

 

 

「ずら…?」

 

 

「まぁ昔からこうやって遊んでいたからね。あっ、2人共。姉さんと鞠莉さんはドッジボール得意な方だから、飛んでくるボールには気を付けた方がいいよ」

 

 

「えっ!?」

 

 

僕の忠告に2人は驚いているが、それを気にせず鞠莉さんは既にボールを投げる構えになっていた。

 

 

「さぁ!いくよー!マリーシャイニングトルネード!」

 

 

技の名前?と共に鞠莉さんから投げられた剛速球は1年生に向かって一直線だ。

 

 

「任せて!」

 

 

ボールの直線上に善子ちゃんが立ちふさがる。そして、

 

 

「力を吸収するのが闇。光を消し、無力化して、深淵の後方に引きずり込む、それこそ!告示!空淵…!」

 

 

何か呪文を唱えていたようだが間に合わず、ボールは善子ちゃんの顔面に直撃してしまった。善子ちゃんに直撃したボールは上に飛んだ後、次は花丸ちゃんの頭上に落ち、最後には外野にいたルビィちゃんの頭上に落ちたことでドッジボールは終わりを迎えた。

 

 

「2人共張り切りすぎだよ…」

 

 

「てへっ☆」

 

 

「ルビィ!大丈夫ですか!?しっかりしなさい!」

 

 

ダイヤさんは即座にルビィちゃんの元へ向かい、僕はとりあえず一番被害が大きそうな善子ちゃんの元へ向かった。

 

 

「善子ちゃん大丈夫?思いっきり顔に当たっていたけど…」

 

 

善子ちゃんの顔を見るとボールの跡がきれいくっきりと顔についていた。

 

 

「フフッ、この程度の攻撃…体は器なんだからヨハネは無傷に決まってるでしょ」

 

 

「無傷?なのかは分からないけどとりあえず大丈夫そうで良かったよ」

 

 

「…?」

 

 

僕の答え方に善子ちゃんは首をかしげるが、ほかの5人は顔を隠して笑っていた。何故5人が笑っているのか、善子ちゃんが気付くのはもう少し時間が経った後だった。




読んでいただきありがとうございました。
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お互いを知る方法

姉さんの案でドッジボールをしてみたが成果はあまりなかったので、少し図書室に集まって休憩することにした。そして花丸ちゃんが仲良くなる方法として読書を提案した。

 

 

「は~。やっぱりここが一番落ち着くずら」

 

 

「うん。そうだね!」

 

 

「フフッ。光で汚された心が闇に浄化されていきます!」

 

 

ドッジボールから少し時間は経過したが、善子ちゃんの顔に残ったボールの跡はまだ消えていないので、1年生の2人はまだ笑いをこらえずにいた。

 

       

「何よ!聖痕よ!スティグマよ!てか、アンタたちはいつまで笑ってるのよ!」

 

 

「だって善子ちゃん。まだ跡が残っているから」

 

 

そう言って僕は保健室にあった手鏡を善子ちゃんに見せた。それを見て善子ちゃんは大きくため息をついた。しかし、そのため息は善子ちゃんだけでなく、後ろの机にいた3年生の方からも聞こえた。

 

 

「あ~…退屈…」

 

 

「そうだよ~海行こう海~」

 

 

「海なら直ぐにでも行けるでしょ?姉さんはあんまり図書室に行かないんだし、これを機に本を読んでみてもいいんじゃない?家には僕の読んでる本もあるわけだし」

 

 

「え~。でも祐の読んでる本難しいじゃん」

 

 

「これではどちらが年上かわからなくなりますわね…」

 

 

普段あまり本を読まない姉さんと鞠莉さんにはこの時間がすごく退屈なようだ。2人の読書に対する退屈さを解消するため、花丸ちゃんは読書の良さを伝えることにした。

 

 

「読書というのは、一人でももちろん楽しいずら。でも、皆で読めば本の感想が聞けて、互いのことが知り合えるから、もっと楽しいずら。それから…」

 

 

「ごめん花丸ちゃん。せっかく読書の良い点を伝えているところ悪いけど、もう姉さん達には届いてないかな」

 

 

花丸ちゃんが話している途中なのだが、2人は既に机と一体化してすでに夢の中だった。

 

 

「…寝てるの?」

 

 

「2人は長い話が苦手ですので…」

 

 

こうして、花丸ちゃんの案も成果があまりなく終わってしまった。これからどうすべきか、僕とダイヤさんとルビィちゃんで小さな会議を開いた。

 

 

「いうわけで、これらのことから分かったのは、アウトドアな3年生とインドアな1年生に大きく分かれてしまっているということですわね」

 

 

「これは、思ったより難航しそうですね。何とか曲作りを始められるようにしないと千歌ちゃん達を待たせることになってしまいますから」

 

 

「どうしようお姉ちゃん…」

 

 

「…こうなったら仕方ありませんわね」

 

 

「なにかいい案見つかりました?」

 

 

「お姉ちゃん?」

 

 

「ここはひとつ、お互いをさらけ出すべきですわ!」

 

 

ダイヤさんの大声。それは、会議に参加していない4人も視線をダイヤさんに向けた。

 

 

「さらけ出す?」

 

 

「そうですわ。そのために皆さんは私についてきなさい」

 

 

と言って、ダイヤさんは図書室を出ていった。それに続いて僕たちも図書室を後にした。

 

ダイヤさんの案、それは銭湯での裸の付き合いというものだった。皆は温泉に入っていったが、男の僕は当然無理なため、休憩室で皆の帰りを待つことにした。果たして3年生と1年生は仲良くなることができるのだろうか…

 

 

 

 

 

~温泉内~

 

 

「ダイヤ~。退屈だからもう上がろうよ~。それに裸の付き合いと言っても、温泉入ってるだけで他に何するの?」

 

 

「貴方は少し我慢なさい!それなら話題を挙げてお互いに会話したりするのはいかがですか?」

 

 

「ガールズトークというわけね。……それなら善子の恋愛事情とかはどうかしら?」

 

 

「どうしてそうなるのよ!」

 

 

「いいじゃな~い。もうマリー達は知ってる訳だし」

 

 

「はぁ!?何でそれを…。さては果南!アンタが言いふらしたのね!」

 

 

「言っとくけど私は何も言ってないよ。鞠莉は私が善子ちゃんに教えてもらったときより早く気づいてたみたいだし」

 

 

「マルは善子ちゃんと話してて何となく気づいたよ。だって善子ちゃん。祐さんの話題でマル達と話してると普段の会話と反応が違うから分かりやすかったずら」

 

 

「ルビィも…」

 

 

「アンタ達まで…」

 

 

「それで?どうなの善子?ユウにはいつ告白するの?」

 

 

「…一度告白しようとはしたわよ。でも…//」

 

 

「ユウの鈍感さと無自覚な行動で出来なかったというわけね」

 

 

「!?…そうよ」

 

 

「…祐さんも罪な人ずら」

 

 

「これはもう善子さんに同情しますわ」

 

 

「きっと果南に普段からのスキンシップを受けてるから、ユウもすっかりこういったことには慣れてるのかしら?」

 

 

「え?私のせい?違うからね。祐はどちらかと言えば初めて会った時から今のままだったし」

 

 

「じゃあどうすればいいのよ…」

 

 

「だったら善子も果南みたいに思い切ってユウにアタックしてみたらいいんじゃない?」

 

 

「果南みたいに?」

 

 

「何で私?」

 

 

「ほら、ユウは果南と一緒に過ごしているんだから。普段の2人を見て善子が果南みたいな行動をとれば、あの鈍感も少しは気付くかもしれないわよ?」

 

 

「…それよ!それならいける!感謝するわマリー!」

 

 

「Yes!Happyな結果を待ってるわ!善子!」

 

 

「ってことはこれから私はずっと善子に見られてるってこと?それはちょっと恥ずかしいな…」

 

 

「…3人で盛り上がるのは構いませんが、肝心の曲作りがまだ始まっていませんわよ?」

 

 

「あっ…」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

数十分後、皆が温泉から戻ってきたが反応を察するにどうやらまだ困難が続きそうだ。さて、これからどうすべきか。今は雨が降っていて外で曲作りはできそうにない。何処か場所を確保することができないかと考えていると、花丸ちゃんが近くに知り合いのお寺があり、そこを貸してくれるとのこと。僕たちはそのお言葉に甘えて雨宿りも兼ねて向かうことにした。




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あの娘の意外な一面

「入っていいずら」

 

 

花丸ちゃんに案内されて着いたお寺は、辺りの雰囲気か今の天候のせいなのか、少し寒気を感じた。

 

 

「えっ…ここですの…?」

 

 

「連絡したら、自由に使っていいって」

 

 

「イイの~?」

 

 

「室内を使わせてもらえるのはありがたいね。でも大丈夫なのかな…?」

 

 

僕はそう言って後ろを向き、ここに来てからずっと僕の背中に隠れて右腕を抱き締めるように持っている姉の姿を見る。姉さんは僕の肩に顔を乗せたり背中に顔を隠したりしながら目の前のお寺を見ていた。そして、僕と姉さんがなにかやり取りをしてる時に何故か周りからの視線を感じていた。

 

 

「お寺の方はどちらにいらっしゃるんですの?」

 

 

「ここに住んでる訳じゃないから…」

 

 

すると花丸ちゃんは持っていた懐中電灯の光を下から顔に当て、

 

 

「いないずら~」

 

 

「ひぃぃ!?」

 

 

よくある驚かす手法を使ったが、今の姉さんには十分すぎる効果だった。

 

 

「こんなに怖がっている果南ちゃん初めて見たずら」

 

 

「そうかしら?私たちはこういう場所で果南がユウにハグする姿はずっと見てたから」

 

 

「もはや見慣れた光景ですわね。それでは雨が止む間、ここで雨宿りしていくことにしましょう」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「そうですね。折角お寺を貸してもらえたわけだし」

 

 

「祐も!?」

 

 

「フフフッ。暗黒の力を!リトルデーモンの力を!感じ…!」

 

 

「仏教ずら」

 

 

「…知ってるわよ!」

 

 

「OK!それじゃあLet's Go!」

 

 

鞠莉さんの号令に合わせて皆がお寺に入っていくなか、僕もついていこうとしたが、姉さんに腕を引っ張られた。

 

 

「ねぇ…。やっぱり帰ろう。それか他の場所にしようよ」

 

 

「それは無理だよ姉さん。他の場所に移動してたらそれこそ曲作りができる時間がなくなってしまうし」

 

 

「そうだけど……あっ!そ、そうだ!実は私、この後父さんからお店の仕事を頼まれてるんだった。だから帰らなくちゃ…!」

 

 

「今日は父さんから仕事は頼まれてないでしょ。それに、こんな雨だと淡島の船は出てないからすぐには帰れないよ」

 

 

「えっ!それじゃあ…!」

 

 

「姉さん…早くいくよ」

 

 

「往生際が悪いですわよ!さぁ早くいらっしゃい!」

 

 

「イーヤーだー!」

 

 

僕は姉さんの右手を、ダイヤさんは左手を持って嫌がる姉さんを引っ張る形でお寺に入っていった。引っ張ってる途中は姉さんの駄々をこねる声が雨音と同時に響いていた。

 

お寺の中は外の雨雲で暗く、唯一の光は仏壇を照らすろうそくの光だけだった。

 

 

「電気は?」

 

 

「無いずら」

 

 

「Really!?」

 

 

「どどどっどうする!?私はへ、平気だけど…」

 

 

こうは言っているが強がっているのがバレバレなので、姉さんの話しているときの声と態度が動揺を隠せてない状態だ。そして外から雷の音が聞こえると、姉さんはすぐさま近くの木柱にしがみついていた。

 

 

「…他にすることも無いし、曲作り?」

 

 

「そうですわね」

 

 

「でも、また喧嘩になっちゃったりしない?」

 

 

「きょ、曲が必要なのは確かなんだし、とにかくやれるだけやってみようよ!」

 

 

「それより姉さんは大丈夫?この後も雷は鳴ると思うし、流石にずっとそこ木柱にいるのは…」

 

 

「わ、私は大丈夫!雷が鳴っても平気だから!」

 

 

するとまた外で雷が鳴り響いた。その音が聞こえた姉さんは今いる木柱から速足で僕の方に向かってきた。

 

 

「ハグ~!」

 

 

そして姉さんが再び僕の右腕を抱きしめ、お寺の入り口にいた時と同じ態勢になっていた。それを見て最初は姉さんの意外な姿に少し驚きを見せていた1年生たちだったが、ここ短時間の間に同じ場面が何度もあったので今ではすっかり見慣れた光景となっていた。

 

 

「ねぇ。果南って昔から外で雷が鳴ってるとああいう状態になるの?」

 

 

「はい。最初の頃は私や鞠莉さんでしたが」

 

 

「そうね。でもユウと出会ってからはずっとベッタリね」

 

 

「ふ~ん…」

 

 

善子ちゃんは少し考える仕草をした後、何かを決断したかのような表情をして僕に近づき、

 

 

「…//」

 

 

何故か顔が赤面のまま僕の左腕を抱きしめた。それによって僕は右に姉さん、左は善子ちゃんの左右に腕を掴まれ挟まれている状態になった。

 

 

「善子ちゃん?急にどうしたの?」

 

 

「…実は、ヨハネも少し怖かったから(全然怖くないけど)…//」

 

 

「善子ちゃんも雷が?さっきまでは平気そうだったけどちょっと意外だね。でも何でまた僕の腕に?」

 

 

「えっ、それは…」

 

 

「それは?」

 

 

僕がふと思った疑問を善子ちゃんに聞くために顔を向けると、善子ちゃんは僕から目をそらしてまた考えるしぐさを始めた。気のせいか、善子ちゃんの赤面が更に赤くなっているように感じているとまた外で雷が鳴り響いた。すると、善子ちゃんが急に抱きしめていた僕の腕を振り払って、

 

 

「ヨ、ヨハネが空の落雷からリトルデーモンを守護するためよ!//」

 

 

「えっ…?」

 

 

と言って木柱の近くに移動していった。善子ちゃんのこれらの行動は一体何だったのか、僕の中では疑問でいっぱいになっていったのだった。その疑問から切り替えるべく、僕は持っていたカバンの中身を取り出した。

 

 

「まぁ、とりあえず鞠莉さんが言ってたように曲作り始める?一応ノートや筆記用具は持ってきたから」

 

 

「Oh!Thank youユウ!それじゃあ皆始めましょうか!」

 

 

鞠莉さんの一声で皆は止まっていた曲作りを再開することにした。

 

 

「(さては善子ちゃん。かなりのヘタレずらか…?)」

 

 

「(これはかなりHardになったわね…。鈍感なユウだけでも時間がかかるのに、善子がヘタレとなるとゴールが更に遠くなるわ…)」

 

 

 




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やがて一つに

曲作りを始めるにあたって1年生は歌詞を、3年生は音楽を決めて作ることにした。

 

 

「…とりあえず曲作りを始めるとして、歌詞は進んでいますか?」

 

 

「善子ちゃんがちょっと書いてるの、この前見たずら」

 

 

「何勝手に見てんのよ!」

 

 

「へ~やるじゃん!」

 

 

「Great!」

 

 

「フフフッ。良かろう、ではリトルデーモン0号よ。そなたが持ってるヨハネ様の聖書を他のリトルデーモン達に見せてやりなさい!」

 

 

「あーはいはい。えーっと確かこれだったかな」

 

 

ヨハネ様の命令?が下りたので、僕はカバンから善子ちゃんの歌詞ノートを取り出して開いた。それに皆が集まって見ていたが、何故か皆がノートを見て首をかしげていた。実は僕も歌詞ノートの中身を見てはいないので、皆が首をかしげてる理由がわからない。

 

 

「皆どうしたの?」

 

 

「なんて書いてあるのかわからないずら」

 

 

花丸ちゃんがそう指摘したので僕も中身を見ると、確かに文字は書いてあるのだが、善子ちゃんの好きそうな単語が並べてあり呼び方が分からない単語が多くあった。

 

 

「う、裏離聖騎士団(うらはなれせいきしだん)?」

 

 

「裏離聖騎士団(りゅうせいきしだん)!」

 

 

「この黒く塗りつぶされている所は何ですの?」

 

 

「ブラックブランク!」

 

 

「読めませんわ」

 

 

「ふん!お前にはそう見えているんだろうな!お前には!」

 

 

「誰にでも読めなきゃ意味ないずら」

 

 

「まぁそうなるよね…」

 

 

善子ちゃんの書いた歌詞を解読するのに苦労する中、ダイヤさんが妙な言葉を発した。

 

 

「そういえば、このブラックブランク。動きますわよ?」

 

 

「えっ?動く?」

 

 

すると、目の前の床を走ってるブラックブランク?が僕の視界に入った。

 

 

「あー…。ダイヤさん、それブラックブランクじゃなくて」

 

 

「お姉ちゃん。それ…!」

 

 

ルビィちゃんがブラックブランク?の正体を答えたとき、ダイヤさんの悲鳴が寺中に響き渡った。その瞬間、仏間を照らしていたろうそくの火が消えて辺りは何も見えない暗闇状態となってしまい、今度は皆の悲鳴が響き渡ることとなった。

 

暗闇から数分後、花丸ちゃんが再度ろうそくに火をつけたので灯りが戻りはしたが、皆は今日一日を振り返っているのか少し雰囲気が重い空間になっていた。

 

 

「一体私たち、どうなっちゃうの?」

 

 

「全然嚙み合わないずら…」

 

 

「このままだと、曲なんか出来っこないね…」

 

 

「So bad…」

 

 

「そんなに違うのかな…?ルビィ達」

 

 

「…違うと言われたら皆違うかな」

 

 

ルビィちゃんの一言に僕が答えた。すると皆が一斉に僕の方に向いた。

 

 

「別に大きく違うことが悪いと僕は思わないよ。だって皆はそれぞれ個性や良さを持っている。確かに色々と違うかもしれないけれど、やがて皆が集まって一つの個性になる。それがAqoursのいいところなんじゃないかなと僕は思ってるよ」

 

 

僕が話し終えると、どこからか水滴の落ちる音がした。

 

 

「雨漏りずら!」

 

 

「どうするの?」

 

 

「こっちにお皿あった」

 

 

姉さんが見つけたお皿を水滴の落ちる位置に置いてしのいだが外の雨はまだ止まないため、寺中の至る所に雨漏りが発生し始めた。

 

 

「今度はコッチ!」

 

 

「鞠莉さん。こっちにお茶碗がありましたわ」

 

 

「こっちにも頂戴!」

 

 

「善子ちゃん。これ使って」

 

 

「こっちも落ちてきたずら!」

 

 

「花丸ちゃん。お皿持ってきたよ!」

 

 

皆で対応に奮闘した結果、全ての雨漏り箇所に食器類を置くことで自分たちが濡れることの阻止はできた。すると天井から水滴が下の食器に向かって落ちてきて、その音が寺中に響き渡った。音は一つだけでなく食器を置いている至る所から色々な音が発生していた。落ちてくるタイミング、置いてる食器もバラバラだからか、それぞれ違った音が集まってまるで一つのメロディーを奏でるように僕たちには聴こえていた。

 

 

「テンポも音色も大きさも」

 

 

「一つ一つ。全部違ってバラバラだけど」

 

 

「一つ一つが調和して」

 

 

「一つ一つが重なって」

 

 

「一つの曲になっていく」

 

 

「マル達もずら」

 

 

そして皆は円陣を組んでお互いに笑顔を見せたあとに再スタートを切るかの如く、曲作りを始めていった。

 

 

「…これで二組のわだかまりも無くなったかな。今なら絶対ラブライブ予選を突破する曲が出来上がると僕は思っているんだけど、どう思う?」

 

 

そう言って僕はお寺に入ってから現在にかけて一連に起きていたことをずっと端から見ていた黒猫を抱きかかえて頭を撫でながら問いかけた。当然ながらそのことは猫に通じておらず、「にゃ〜」との鳴き声でしか返って来なかった。

 

こうして曲作りは次の日の朝日が昇り始める時間に完成して、僕たちはすぐさま千歌ちゃん達の待つ旅館へ走って向かい完成したことを伝えた。そして学校説明会とラブライブ予選、二つの曲が揃い練習を再開しようとしたその時、鞠莉さんの携帯に一本の電話が届いた。それは今のAqoursが乗り越えようとしてる問題に大きな影響を与えるものだった。

 

 




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次なる困難

「実は、学校説明会が一週間延期になるだって」

 

 

鞠莉さんに届いた電話、それは昨日の雨の影響で学校に向かう道の復旧に時間がかかるので説明会を一週間延期するとの内容だった。仕方のないことかもしれないが、よりにもよって一週間後という言葉に僕たちは頭を悩ませられた。たった一人を除いて、

 

 

「どうしたのみんな?その分いいパフォーマンスになるよう頑張ればいいじゃん!」

 

 

「千歌ちゃん?学校説明会が一週間延びたということはだよ。これがどういう意味を表してるか分かってる?」

 

 

「練習時間が増えるということでしょ?」

 

 

千歌ちゃんはまだこの状況を理解していないようだ。

 

 

「どうやら状況がわかってないようですわね」

 

 

「まぁ千歌ちゃんらしいというか…」

 

 

「問題です。ラブライブの予選が行われるのは?」

 

 

「学校説明会の次の日曜でしょ?」

 

 

「ですがそんな時、説明会が一週延びるとの知らせが届きました。ラブライブ予備予選の日程は変わりません」

 

 

「二つが開催される日はさていつでしょう!?」

 

 

「そんなの簡単だよ…うん!?」

 

 

ここで千歌ちゃんがようやくことの重大さに気づいた。

 

 

「やっと分かった?二つの開催日は?」

 

 

「同じ日曜だ~!」

 

 

斯くしてAqoursはラブライブ予備予選と学校説明会、この両方が同日で開催されることとなった。ひとまず僕たちは学校の体育館に集まって今後の作戦を練ることにした。

 

 

「さてと、とりあえずは場所の確認をしようか。今回のラブライブ予備予選が行われる場所はここ」

 

 

「うわっ、山の中じゃない」

 

 

「そう、そこで特設ステージを作って開催することになった訳だけどこの辺りは電車は通ってないしバスは数時間に一本だけ」

 

 

「到底間に合いまセーン…」

 

 

「空でも飛ばなきゃ無理ずらね…」

 

 

「フッフッフッ。ならば、この堕天使の翼で!」

 

 

「アー…。ソノテガアッタカ」

 

 

「ダテンシヨハネノツバサデオオゾラカラカイジョウイリズラー」

 

 

「噓よ噓!常識で考えなさい!」

 

 

すると1年生の案が起点になったのか、千歌ちゃんが閃いたような顔になった。

 

 

「そうだよ!空だよ!ヘリで会場まで飛んでいけば間に合うかも!」

 

 

「ヘリで移動…!」

 

 

「未来ずら…!」

 

 

「カッコいい…!」

 

 

「スーパースターですわ…!」

 

 

「…現実的に無理だよ。あと4人も夢から覚めてください」

 

 

「大丈夫だよ!というわけで鞠莉ちゃん!」

 

 

何故大丈夫なのか分からないが、千歌ちゃんは早速鞠莉さんに手配を頼もうとしたが当然、

 

 

「Oh、流石千歌っち!その手がありました!直ぐにヘリを手配して…といえると思う?」

 

 

「駄目なの…?」

 

 

「Ofcourse!パパは自力で入学希望者100人集めろと言ってたのよ!いまさら力貸してなんて言えまセーン!All or nothingだとお考え下さい!」

 

 

鞠莉さんの否定によってようやく千歌ちゃんも諦めた。だがこれでまた振り出しに戻ってしまい何か案はないか模索を再開していると、ダイヤさんが案を上げた。

 

 

「現実的に考えて説明会とラブライブ予備予選、二つのステージを間に合わせる方法が一つだけありますわ」

 

 

「一つ?」

 

 

「あるの?」

 

 

「えぇ。予備予選出場番号の1番で歌った後、すぐであればバスがありますわ。それに乗ることが出来ればギリギリですが、説明会に間に合います」

 

 

「ホント!?」

 

 

「ただし、そのバスに乗れないと次は3時間後。つまり、予備予選で歌うのは1番でなければなりません」

 

 

「それってどうやって決めるの?」

 

 

「それは、明日行われる抽選会でルーレットを回してそこで出た数字が歌う順番になります」

 

 

「神頼みになりますね…」

 

 

「ですが、これ以外に方法はもうありません」

 

 

「よし。とりあえずは両方の曲を練習して、明日の結果でまた考え直す。それでいってみようか」

 

 

姉さんがひとまずの行動をまとめて今回の作戦会議は終了した。皆が練習のため屋上に向かうなか、僕は一人生徒会室に向かっていた。そして机に着いて目の前の白紙の紙を見つめていた。事の発端は数日前、学校説明会の内容を企画している時に提案されたダイヤさんからの一言が始まりだった。

 

 

 

~~~

 

 

 

「祐さんはスピーチとかはお得意ですか?」

 

 

「スピーチですか?そういえば一度もやった事ないですね」

 

 

「では一度やってみませんか?祐さんは共学化テスト生ですから、貴方の視点から学校の事を伝えてほしいのです」

 

 

「僕から見た学校の良さですか…」

 

 

ダイヤさんの提案に僕は少しだけ悩んだ。初めてのスピーチで、もしうまくいかなかったら、せっかく説明会に来てくれた生徒たちが学校に対して興味を失ってしまうかもしれない。そんな不安が頭をよぎった。でも、Aqoursの皆だって学校を廃校から救うために頑張っている。だったら近くで見ている僕も学校のために頑張らなければそれこそ後悔してしまうかもしれない。そう考えた時にはもう答えは出ていた。

 

 

「もちろん強制は致しません。どうしますか?」

 

 

「…やります。僕の言葉で説明会に来てくれた方が興味を持ってくれるよう頑張ってみます」

 

 

「ありがとうございます。では、当日よろしくお願いします」

 

 

 

~~~

 

 

 

「とは言ったものの…。どうすれば来てくれた人たちに言葉で学校の良さが伝わるかな…」

 

 

スピーチの内容が浮かばず、生徒会室で無言の時間が続く一方だった。在学している皆から意見を聞いて作るのもいいかもしれないが、ダイヤさんは「共学化テスト生の視点から見た学校の良さ」と言っていたので、それはすなわち僕個人から見たこの学校の良さということなのだろう。どうしたらそれが伝わるか、まだ僕にはその答えが見つからずいつの間にか下校の時間になってしまい、練習が終わった皆と合流して帰路についた。




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抽選結果

次の日、Aqoursの皆は抽選会場で抽選してる間、僕は淡島の頂上に登ってお参りをしていた。

 

 

「…Aqoursが予選で1番で歌えますように。そして、予選を通過できますように」

 

 

そう神頼みをして、頂上を後にした。そして姉さんから抽選が終わったとの連絡を受けて僕は集合場所である沼津駅のショッピングモールに向かった。そこのカフェでAqoursの皆を見つけたが、遠くから見てもわかるような重たい雰囲気が伝わっていた。どうやら神様は願いを聞いてはくれなかったようだ。

 

 

「えーっと…何番だったの?」

 

 

「…24番」

 

 

「1番から大きく離れているね…」

 

 

「どうするの!?24番なんて中盤じゃん!ど真ん中じゃん!」

 

 

「こればっかりは仕方ないね。抽選で決まったわけだからどうすることもできないし」

 

 

「でも、こうなった以上本気で考えないといけないね」

 

 

皆が抽選結果に悔やむなか、姉さんとダイヤさんが話を先に進むべく、皆が触れようとしなかった議題の核心に触れた。

 

 

「説明会かラブライブなのか」

 

 

「…どっちかを選べってこと?」

 

 

「そうするしかありません」

 

 

「そうなったら説明会ね」

 

 

「そうですね。Aqoursに興味を持って説明会に来てくれる人たちもいますから、その人達に披露した方が良いかと」

 

 

「学校を見捨てるわけにはいかないもんね」

 

 

僕と姉さんと鞠莉さんは説明会を、

 

 

「それはそうだけど…」

 

 

「今必要なのは入学希望者を集めること。効果的にはラブライブではありませんか?」

 

 

「たくさんの人に見てもらえるし」

 

 

「注目されるし」

 

 

「それもそうずら」

 

 

ダイヤさんとルビィちゃんと花丸ちゃんはラブライブ予選を選んで意見が二手に分かれた。

 

 

「じゃあどうするのよ?」

 

 

「学校説明会に出るべきだという人は?」

 

 

姉さんは多数決で決めようとするが、両方とも大切なことだから誰もが決められずにいた。

 

 

「…はぁ、どっちかだよ」

 

 

「姉さん…。催促したら余計に皆が答えられなくなるよ」

 

 

「でも早く決めないと時間もあまりないんだから」

 

 

「分かってるけど…」

 

 

「決められないずら」

 

 

「そうだよ。だってどっちも大切なんだもん。どっちも…とても…」

 

 

こうしてAqoursは説明会と予選、どちらかを選んでどちらかを切り捨てなければならない状況に陥ってしまった。しかし、どちらも皆にとっては大切な事だからどちらか1つだなんてすぐには決められない。そして答えが出ないまま今日は解散となった。

 

 

家に帰ると僕はリビングのテーブルに着いて説明会の原稿の続きを、その向かいの席で姉さんはダンスのフォーメーションや練習計画をノートにつづっていた。

 

 

「進捗はどう?確か説明会でスピーチするんだったね」

 

 

「う~ん…、まだいいものが出来たという感じではないかな。やっぱり僕自身から見た浦女の良さがうまく伝わってない感じがする…」

 

 

「祐から見た学校の良さか~…。それは私にもわからないかな」

 

 

姉さんもお手上げの言葉を言ったとき、僕がふと思った疑問を聞いてみた。

 

 

「姉さんはさ、どうして僕を共学化テスト生に誘うことを決めたの?」

 

 

「祐を誘った理由?……廃校から救うためかな。最初は学校が募集をかけていたんだけどなかなか集まらなくて。それに急だったからどんな人が来るかもわからないから不安っていう在校生からの意見もあったから先生たちは募集をやめようとしていたらしいんだよ。でもこのままだと廃校になるかも知れない。だから私は学校を救いたくて祐に勧めたんだよ。ほら、あの時の祐って自分のやりたいことが見つかっていなかったじゃん。それを浦女で見つけて欲しいと思って」

 

 

「なるほど…そうだったんだね。でも、不安の声をあげていた生徒たちはどうやって納得したの?体育館で自己紹介した時は反対してるような生徒がいなかったように見えたけど」

 

 

すると姉さんは言いづらそうに答えた。

 

 

「あー…。それはね、祐が男装している女の子に見えたんだって」

 

 

「えっ…。つまり自己紹介していた時は男の子じゃなく女の子だと思われていたってこと?」

 

 

「そうみたいだね。確かに初めて見た人は祐を女の子と間違えてもおかしくはないかも。だって祐と海未さん、二人共よく似てるもん」

 

 

「海未姉といた時はよく間違えられてたけど、まさか浦女でも同じことがあったとは…」

 

 

「入学前にもあったじゃん。小学生の時に。今でも思い出すと…フフフッ」

 

 

当時を思い出したのか、姉さんは笑いを隠さずにはいられなかった。それは小学生の頃にあった出来事で、姉さんたちが外で遊んでる中、僕と女の子の二人で遊んでいたのだが、どうやらその子は僕を姉さんの妹と勘違いしていたらしく、

 

 

「祐ちゃん、妹同士仲良くしよう」

 

 

と僕に言ったことが姉さんたちの耳に聞こえて、それを聞いていた姉さん達が大笑いし、真実を伝えたことで僕と女の子が赤面するという公にしたくない思い出だ。

 

 

「姉さんたちにとっては笑い話だけど、僕たちにとっては黒歴史みたいなものだから忘れて欲しいんだけど…」

 

 

「それは無理。少なくとも私とダイヤと鞠莉は絶対に忘れないからね」

 

 

姉さんに絶対忘れないと念を押されたことで、この話が永遠に語り継がれるのかという悩みが増えつつ僕はまた原稿を再開させていった。

 




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浦女の長所

「二つに分ける?」

 

 

「うん。5人と4人、二手に分かれてラブライブ予選と説明会、両方で歌う。それしかないんじゃないかな」

 

 

次の日になって千歌ちゃんから出た案は二手に分かれて歌うという内容だった。しかし、今までやったことがない挑戦と9人でないと説明会でAqoursの良さが伝わらないかつ予選が突破できないかもしれない不安から昨日と同じく全員の同意が得られずにいた。

 

 

「別れて歌ったらそれはAqoursといえるの?」

 

 

「それに5人で予選を突破出来るか分からないデース」

 

 

「嫌なのは分かるけど、じゃあほかに方法はある?」

 

 

梨子ちゃんの言葉に皆は返す言葉がなく、こうしてAqoursはラブライブ予選に千歌ちゃん、曜ちゃん、梨子ちゃん、ダイヤさん、ルビィちゃんの5人、説明会に姉さん、鞠莉さん、善子ちゃん、花丸ちゃんの4人に分かれて歌うことに決めた。その一方で僕は生徒会室でスピーチの内容を考えていた。

 

 

「二手に分かれると決めてたものの、何だか全員の納得が得られていないような感じだったな。大丈夫かな当日…」

 

 

という不安を考えつつ作業をしていると、生徒会室の扉をノックする音が聞こえた。

 

 

「はい。どうぞ」

 

 

返答するとドアが開き、やってきたのは同じ2年生のよしみちゃん、いつきちゃん、むっちゃんの3人だった。

 

 

「3人共どうしたの?生徒会室に来るなんて珍しいね」

 

 

「実はさ、生徒会にお願いがあって来たんだけど」

 

 

「お願い?今はダイヤさんいないからすぐに通るか分からないけど、どんな内容?」

 

 

聞いてみたところ3人が生徒会室に来た理由は、説明会の準備を手伝わせてほしいとのことだった。

 

 

「僕は嬉しいけど3人はいいの?説明会は日曜日で生徒たちは休みだけど」

 

 

「いいのいいの。千歌たちが学校のために頑張っているのに、ただじっとなんてしていられないよ」

 

 

「そうそう。それに私たちだけじゃないから」

 

 

そう言っていつきちゃんが一枚の紙を僕に渡した。中を見てみると、一部生徒たちの名前が書かれてあった。

 

 

「これは?見たところ、全校生徒の半分ぐらいいるけど」

 

 

「私たちと同じように手伝いの参加を希望している子たちの名前。前の地区大会の時と同じように呼びかけて皆が集まったんだよ」

 

 

「凄い…!。こんなにもたくさん…!」

 

 

その数に思わず驚きが言葉に出ていた。初めは生徒会とAqoursの皆だけで説明会をするつもりだったが、これだけの人数が学校のために力になりたいと言ってきていることから、まだ全員が学校の存続を諦めてないんだと思い嬉しくなった。本来なら終わってから伝えようと考えていたが、すぐさま了承を得るべく、僕は練習中のダイヤさんに電話をかけた。そして用件を伝えたところ、

 

 

「もちろん構いませんわ!。是非ともよろしくお願いいたします!」

 

 

とのことで了承を得ることができ、それを3人に伝えると凄く喜んで生徒会室をあとにしていった。3人が出ていった後、すぐさま原稿用紙を取り出してスピーチの内容を書き進めていった。2学期が始まってすぐに伝えられた統廃合の知らせ、それに抗っているのはAqoursだけではなかった。ほかの生徒たちも学校を存続させるために力を貸してくれていることで、学校の皆で廃校から救おうとしている。そうして生徒たちが一つになって協力しあっていることに僕はこの学校のいいところだと感じた。それを説明会で来てくれる人たちに伝えるべく用紙に書き留めて、終わる頃には既に下校のチャイムが学校中に鳴り響いていた。すると生徒会室の扉が次はノックの音もなく開いた。

 

 

「祐いる?もう下校の時間だから帰るよ」

 

 

「せめてノックはしようよ姉さん」

 

 

「いいじゃん。どうせここにいるのは祐かダイヤだし。それに私も生徒会を手伝ったりしてるんだから」

 

 

「まぁそうだけど…。とりあえず迎えに来てくれてありがとう。準備するからちょっと待ってて」

 

 

そう言って帰る準備をして生徒会室を出て帰路についた。その帰り道でAqoursの両チームの状況を聞いてみた。

 

 

「姉さん達は今の所どうなの?説明会までには間に合いそう?」

 

 

「う~ん…。歌や振り付けは大丈夫そうだけど、やっぱり4人での不安が大きいかな。千歌達もそれは同じみたい。祐は?説明会で色々とやることが多いみたいだけど」

 

 

「僕の方はもう準備万端。学校の皆が手伝ってくれるおかげで当日は問題なく進行ができそうだよ。もちろん姉さん達のステージも最後にセッティングしてるから」

 

 

「ますますプレッシャーだね…。でも頑張らなくちゃ」

 

 

「流石の姉さんも緊張してる?」

 

 

「そりゃあね。二手に分かれるってことは、そこにいない子たちの分まで私たちが頑張らないといけないから。本当は9人で歌えれば良かったんだけど」

 

 

姉さんは少し不安そうな顔をしていた。やはり近くなるにつれ、この不安は大きくなっている。当日は皆大丈夫かなと僕自身も不安になっていくが、学校の皆も助けてくれるから失敗はできないと自分を奮い立たせる。各々が不安を乗り越えようとする中、当日である日曜日が少しづつ近づいていた。

 




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学校説明会

日曜日。本来であれば学校は休日だが、この日に中学生の子たちが浦女に続々と訪れていた。今日は待ちに待った学校説明会。雨の影響で通れなかった学校に向かう道も復旧を終えて一週間遅れての形で当日を迎えることとなった。そして来てくれた子たちに学校の案内や良さを伝える在校生たちは朝礼のため体育館に集まっていた。全体の進行をとる僕は今回の手伝いで集まってくれた生徒たちに感謝の言葉を伝えた。

 

 

「在校生の皆さん、おはようございます。遂に学校説明会の当日を迎えました。休日であるにも関わらず、学校のために力を貸してくれて僕は嬉しく思っております。本当にありがとうございます。皆で力を合わせ、来てくれた方々にこの学校の素晴らしさを伝え、あわよくば来年の新入生になってもらえるように今日は頑張っていきましょう!」

 

 

言葉の終わりに礼を終えて生徒たちから拍手が上がったところで朝礼が終わり、皆が体育館を出ていくと入れ替わるかのように続々と中学生の子たちが体育館に集まった。そしてその子たちの前で始まりの挨拶をして学校説明会が開催した。挨拶を終えて体育館を出ると、僕のスマホに通知が入った。相手は千歌ちゃんからで、ライブ会場に到着したとの報告だった。本来は一度学校に集まってから会場に行く予定だったのだが、会場が学校から遠く離れているため、千歌ちゃん達の予選組は会場での現地集合という形で、全員集まったら連絡を入れるようにお願いしていた。それを確認した僕は、屋上で本番直前のリハーサルをしている姉さん達の元へ向かった。

 

 

「千歌ちゃんから会場に着いたって連絡があっ…」

 

 

屋上に着いて声をかけようとしたが、姉さん達はリハーサルの途中で聞こえてはいないようだった。しかし気のせいか、4人のリハーサルから大きな緊張と不安を感じた。前に姉さんが言っていた通り、歌や踊りは大丈夫なのだが、表情のぎこちなさから今の4人が抱えているプレッシャーが僕にも伝わってくる。もしかしたら千歌ちゃん達の方も同じ様な状態なのだろうか。そうだとしたら披露している時に会場や学校に来ている人たちがそれを感じ取ってしまい、結果は悪い方向に向かってしまうかもしれない。やはりAqoursは9人でなければ。そう思った僕はすぐさま時間を確認し、とある決断をした。その時、リハーサルを終えた4人が僕の存在に気付いた。

 

 

「どう?リハーサル」

 

 

「うん。いつでもいける」

 

 

「YES!マリーもいつでもOKよ!」

 

 

「フッ。このヨハネに任せておきなさい!」

 

 

「マルも準備万端ずら!」

 

 

4人は元気よく応えるも、先程と同様に表情が引きつっている。不安を感じ取られないようにしているつもりかもしれないが、リハーサルの一部始終を見ていたから現にその不安を感じ取ってしまっている。だから僕は4人に決断したことを伝えることにした。

 

 

「…ラブライブ予選に向かって欲しい。今ならまだ千歌ちゃん達の番までに会場へ間に合うから」

 

 

僕の決断。それは4人が千歌ちゃん達と合流して9人で予選を突破してほしいという内容だ。しかしそれは学校説明会を諦めて欲しいと同じ意味になる。当然、すぐには納得してもらえない。

 

 

「…つまり、私たちだけでは駄目とユウは言っているのね?」

 

 

「それは違っ!…いや、そうですね。リハーサルを見ているときに4人からの緊張感や不安を感じていました。それが来てくれた人たちにも伝染するかもしれない。それに、前に姉さんから千歌ちゃん達も同じ緊張感や不安があると聞いているからきっと今、予選会場でも千歌ちゃん達が姉さん達と同じ様になってるはず。だから、姉さん達が合流して予選を9人で挑んで学校に戻ってきて欲しいと考えました。だって、Aqoursは4人でも5人でもない。9人だから」

 

 

僭越ながら、僕が気になったことを伝えると、姉さんが諦めたかのように応えた。

 

 

「…アハハ。やっぱり祐には気づかれちゃったか。当日までには切り替えられると思ってたんだけどね。でも、私たちが行ったとしてその後の説明会はどうするの?会場からだと間に合わないんだよ?」

 

 

「そうだね…」

 

 

姉さんから指摘されたことは僕が悩んでいることだった。本来は最後にAqoursのステージをスケジュールに入れていたが、それがなくなるということだから空いた時間をどうするべきか。その時、屋上前の階段から声が聞こえた。

 

 

「大丈夫!きっとAqoursならやってくれるよ!」

 

 

階段の方へ振り向くと、むっちゃんがいた。それに続いてよしみちゃんといつきちゃんもやって来た。

 

 

「そうそう!だから学校は私たちに任せて!」

 

 

「必ず説明会までには戻ってこれるから!」

 

 

そう言って姉さん達に部室においてあったラブライブ予選で着る予定だった衣装を渡す。

 

 

「…もう。そんなこと言われたら断れないじゃない」

 

 

「…そうずらね。ほら、善子ちゃんも速く行くずらよ」

 

 

「ヨハネ!さぁ待ってなさい!彼の地のリトルデーモン達よ!」

 

 

衣装を受け取った3人は屋上から降りて行った。最後に姉さんも衣装を受け取って降りようとしていたが、

 

 

「姉さん!」

 

 

不意に僕が声を出して呼び止めた。呼ばれた姉さんも足を止めて振り向く。

 

 

「…必ず予選を突破してね。僕はここで応援しながら帰りを待ってるから」

 

 

「…うん!任せて!」

 

 

姉さんは少し赤面ながらも笑顔で返して屋上を後にしていった。去り際の笑顔はさっきまであった不安が無くなり、まるで噓のように満面の表情だった。

 

姉さん達が行った後の屋上で僕たちは説明会に戻ろうとしたが、ふと気になることが思い浮かんだ。それを確かめるべく、降りようとするむっちゃん達を呼び止めた

 

 

「3人とも。ちょっと待って」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「よしみちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

 

 

「私?」

 

 

「うん。さっき、必ず説明会にまでには戻ってこられると言ってたけど、会場から学校まで距離があるから説明会までには間に合わないよ」

 

 

「えっ?でも千歌は間に合うって言ってたよ」

 

 

よしみちゃんの返答に思わず首を傾げた。確か千歌ちゃんは間に合わないと分かってたはずだが、ますます疑問が増えた。

 

 

「もしかして祐君。千歌から何も聞いてないんじゃ…。それとも千歌が誰にも言ってないのか…」

 

 

「千歌ちゃんから?僕も何も聞いてないし誰にも言ってないと思う」

 

 

「実は私達。千歌から頼まれごとを頼まれてて。そのために後で私の家のみかん畑に向かう予定なの」

 

 

それを知って内容を聞いた僕はむっちゃん達と別れた後、生徒会室で地図を開いた。千歌ちゃんの作戦は予選でのライブを終えた後にすぐさまよしみちゃんの家のみかん畑に向かって、そこで使ってる農業用のモノレールで山を下りて説明会に間に合わせるといった内容だった。かなりの無茶な作戦に見えるが、それでも千歌ちゃんが諦めずにまだ足搔いているのなら、まだ諦めるにはいかない。先生たちによる校内の案内が行われている中、僕は他の生徒たちとグラウンドでAqoursが使うステージを設営していた。作戦を聞くまでは中止を考えて撤去も視野に入れていたが、今は必ず間に合うと信じて作業の手を進める。そしてステージの設営が完了した同時刻に予選でAqoursの順番が来たと聞いたので、すぐさま配信の画面を開いた。そこには9人でパフォーマンスをするAqoursの姿があった。

 

 

「良かった…。ちゃんと間に合ってて」

 

 

僕はひとまず安堵した。それからAqoursのパフォーマンスを見る。学校にいた時の姉さん達の不安は、画面越しから見るに全く感じなかった。きっとそれは9人でいるからだと思う。二手に分かれた時は、お互いがいない子の分まで頑張らなくてはいけないプレッシャーがあったために不安が大きくなっていった。でも今は9人、その不安も安心に変わっていった。だからAqoursは9人でなければならない。9人だから大きな輝きが放てるのだと感じたところでパフォーマンスは終了した。

 

一通り見終えた僕は体育館へ歩き出す。学校案内の時間が終わり、僕の準備ができた時には皆が体育館に集まっていた。そこで僕は最後の挨拶、そしてスピーチを行う。この学校説明会までを通して感じたこと、共学化テスト生から見た学校の素晴らしさを皆に知ってもらうために。

 

 

「受験生の皆様。保護者の皆様。こんにちは。私は現在、ここ浦の星女学院の共学化テスト生として本校に在籍をしています2年生の松浦祐です。この場でお時間をいただいて、私が本校を受験した経緯について少しお話をさせていただきたいと思います。当時中学生の私は具体的な進路や目標を考えてなく、自分のやりたい事を探しつつ志望校を探していました。そんなある日、姉から浦の星女学院共学化テスト生の誘いを受けました。まだ決まっていなかった私は姉に、「浦の星に行けば見つかる」と言われ、その言葉を信じて受験を決意しました。入学して初めて生徒たちと顔を合わせた時は、学校で唯一の男子生徒ということもあり不安もありましたが、在校生達はそんな私を分け隔てなく新入生の1人として受け入れてくれました。それから約2年半が経ち、私は今、本校の生徒副会長として生徒たちがより良い学校生活を送るために活動をしています。あの時、私を受け入れてくれた学校や生徒達に少しでも恩返しや貢献が出来るよう、今も努力を続けています。浦の星女学院は生徒達の助け合いが盛んです。今日もこことは別の場所で、本校の生徒たちがそれぞれの目標に向かって頑張っています。その子達を助けようと、同じ学校の生徒達で協力しあう姿は本校の一番の強みだと私は思っています。受験生の皆様。もしよければ、私達と充実した高校生活を送ってみませんか?浦の星女学院には、皆様の目標を応援し、手助けをしてくださる先生方や先輩達が待っています。大きな期待を胸に進学してください。以上で私のお話を終了させていただきます。ご清聴ありがとうございました」

 

 

その言葉を最後に深く礼をして体育館を後にした。来てくれた人達にどう伝わったのかは僕には分からないが、体育館には拍手の音が全体に響いていた。

 

体育館を出てグラウンドに戻ろうと足を進めると、目の前に人が立っていた。その人は僕に気づいて労いの言葉をかける。

 

 

「祐さん。学校説明会、お疲れ様でした」

 

 

「ダイヤさんも。間に合ったんですね」

 

 

「えぇ。千歌さんの作戦には驚かされましたが、そのおかげもあってこうして間に合うことができました。ですが、貴方も大概ですわよ。まさか果南さん達を学校から会場に向かわせるなんて」

 

 

「あの場で決断したことですから。姉さん達も合流して9人のライブ。凄く良かったですよ」

 

 

「ありがとうございます。祐さんこそ、スピーチはうまくできたみたいですね」

 

 

「そうですか?僕には分からないですよ。良い印象で伝わってたらいいんですけど…」

 

 

「きっと伝わっていますわよ。外に響くまで拍手があがっていたわけですから」

 

 

お互いの結果を話し終えながら歩いていると、グラウンド内のステージ付近には既に人だかりができていた。きっとAqoursのライブを待っている人達だろう。

 

 

「では、私は先に行きますね」

 

 

「はい。僕は観客側から見ていますから」

 

 

ダイヤさんはふと笑みを見せてステージ裏に戻っていった。その後に始まったAqoursのライブは、来てくれた人達の笑顔と声援を受けて、学校説明会と共に大成功で幕を閉じた。




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浮かない生徒会長

説明会とラブライブ予備予選が終わって早くも1週間が経とうとしていた。Aqoursの皆は部室に集まって目の前のパソコンを睨んでいる。開かれている画面には「結果発表までお待ちください」と書かれていた。今日はラブライブ予備予選の予選通過のグループが発表される日。正午に結果が分かることらしく、現在は11時57分なので後3分後だからなのか、皆がそわそわしているのが横から感じ取れた。

 

 

「前の予選の時もこんな感じだったの?」

 

 

「まあね。この時間がやっぱり落ち着かないんだよ皆」

 

 

「…でも1人だけ余裕みたいな感じだけど」

 

 

僕はそう言いながら部室の入り口に目を向ける。目線の先には練習着で窓の掃除をする元気なリーダーの姿があった。予選を突破してるのを確信しているのか、それとも単純に忘れているのか。千歌ちゃんを見て皆が思ってる疑念を晴らそうと曜ちゃんが尋ねてみると、

 

 

「千歌ちゃーん、今日が何の日か覚えてる?」

 

 

「ラブライブの予備予選の結果が出る日でしょ?」

 

 

と、千歌ちゃんがすぐに応えたのでどうやら忘れてはいなかったようだ。

 

 

「緊張しないの?」

 

 

「全然!だって、あんなにう上手くいって、あんなに素敵な歌が歌えたんだもん。絶対突破してる!。昨日、聖良さんにも言われたんだよ、「トップ通過してる」って」

 

 

「聖良さん?確かSaintSnowのグループ名だったっけ…千歌ちゃんの知り合いだったんだ」

 

 

「うん、あれ?祐君はSaintSnowさんと会っていないはずだけど…」

 

 

「実は東京に行った時に神社で偶然会ったんだよ。その時は妹さんいなかったけどね」

 

 

そう会話しているうちに時刻は12時になり、パソコンの画面には予選を突破したグループが表示された。確認をすると、予選1位通過にAqoursの名前があった。

 

 

「もしかしてこれ、トップってこと!?」

 

 

「そうみたいだね。予選突破おめでとう!」

 

 

「やったずら!」

 

 

「うむ。良きに計らえ!」

 

 

その結果に皆からは喜びの声があがった。しかし喜んだのも束の間、Aqoursにはとある危機が迫っていた。それは、

 

 

「実は、説明会とラブライブが同時にあったから部のお金が無くなりました…」

 

 

「この前千円ずつ入れたのに…」

 

 

「もう無くなっちゃったの?」

 

 

金銭問題。説明会とラブライブに使ったステージや衣装によってスクールアイドル部の部費は既に底をつきかけていた。幸い、次の地区予選まではまだ余裕があるから対策する時間はあるが、

 

 

「このままだと予算がなくなって、仮に決勝に行くことになっても東京までアヒルボートで行くことになるずら…」

 

 

「流石に交通費は運営側が出してくれるよ…」

 

 

「いくら残ってるの?」

 

 

そう言って梨子ちゃんが貯金箱を揺らすと中から落ちてきたのは5円玉のたった1枚だけだった。

 

 

「Oh!綺麗な5円デース!」

 

 

「5円!?」

 

 

「ご縁がありますように」

 

 

「So Happy!」

 

 

「言ってる場合か!」

 

 

皆が冗談を言い合う中、1人どこか浮かない顔をする人がいた

 

 

「ダイヤさん?どうかされました?」

 

 

「いえ。果南さんも鞠莉さんも随分打ち解けたと思いまして」

 

 

ダイヤさんの言うように曲作りの合宿以降、姉さん達3年生と花丸ちゃん達1年生の距離が近くなって、今は花丸ちゃんに勧められて姉さんが本に興味を持つようになったり、善子ちゃんと鞠莉さんで一緒に会話したりとお互いに仲良くなっている場面が多くなった。

 

 

「そうですね。こう見てると曲作りで仲良くなれて良かったです」

 

 

「…えぇ」

 

 

納得してるように返答するも、浮かない顔なのは変わらないままだった。そんなダイヤさんをよそに、皆は淡島で5円をザルに入れて神頼みをしてからそれぞれ帰路について今日の活動は終わった。

 

淡島から出る連絡船を見送った後、鞠莉さんと別れた僕と姉さんは家に帰って一息ついていた。すると姉さんが僕にある疑問を投げかけてきた。

 

 

「ねぇ祐。今日のダイヤ、どこか変じゃなかった?」

 

 

「そう?僕はあまり気にならなかったけど…」

 

 

「何か私達に隠してるみたいなんだよ。鞠莉はしばらく様子見って言ってたけどね」

 

 

「じゃあ当分の間はそのままにしておくってこと?」

 

 

「うん。「ダイヤは自分のことになるとヘッポコピーになる」みたいだから」

 

 

「へっぽこぴー…?」

 

 

鞠莉さんの例えはよく分からないが、これから地区予選に向けての練習があるから、その時にダイヤさんを観察するという形になった。翌日、練習の休憩時間にダイヤさんがスタジオの屋上で2年生達と会話していた所を僕と姉さんと鞠莉さんが遠くから見てたが、やはり普段のダイヤさんと変わらず、何かを隠しているようには見えなかった。結局その日は何も掴めずに観察は終わった。

 

 

「今のところは特に変わったところはないけど」

 

 

「今日は何も分からなかったね…」

 

 

「大丈夫よ。ダイヤの事だから絶対に尻尾を出すから」

 

 

すると後日、金銭問題を解決するために参加したフリーマーケットでダイヤさんが遂に尻尾を出した。店番中に自分の世界に入って急に笑い出したり、勢いのあまりお客さんに指をさしたりなど、明らかに何かあったと確信するような場面が多く見られた。その変化は流石に観察していた僕達以外にも気付く人はいた。

 

 

「ねぇ。ダイヤさん何かあったの?」

 

 

千歌ちゃんが僕と姉さんに訊ねてきた。千歌ちゃんはこういった事に敏感で、毎日接している人の変化にはすぐに気付いて一緒に悩んだり助けたりしていた。

 

 

「心配しないで千歌。ダイヤの事は私達がやっておくから」

 

 

姉さんはそう言って千歌ちゃん達を先に帰らせた。6人が帰るのを見送った後、僕達は鞠莉さんに呼び止められていたダイヤさんと合流した。これから僕と姉さん、そして鞠莉さんの3人でダイヤさんが隠していることについて追究を始める。




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〇〇ちゃんと呼ばれたい

時刻は夕暮れを過ぎ、バスに乗って淡島に帰る頃には既に太陽が沈んで夜になっていた。家に着いて一息つく僕に対し、姉さんは終始笑いをこらえてる表情が続いていた。

 

 

「姉さん。いつまで笑ってるのさ」

 

 

「だって、ダイヤの隠してたことが…」

 

 

それはダイヤさんが隠してることを追究した時のことだった。

 

 

 

~~~数時間前~~~

 

 

 

「…話って何です?。明日では駄目なのですか」

 

 

「やっぱりダイヤ。何か隠してるでしょ?」

 

 

「私は別に隠してることなんてありませんわ」

 

 

ダイヤさんはそう言って顔のほくろをかいていた。しかし、その行動は僕達にとっては答えを教えてもらうようなものだった。

 

 

「…どう?」

 

 

「bluffデース!」

 

 

姉さんと鞠莉さんの反応にダイヤさんは驚いていた。何故なら僕達はダイヤさんのとある仕草を知っているからだ。やはりこういう仕草や癖は周りが気付くものであって、それをやっている本人は気がつかないみたいだ。

 

 

「無自覚でやってるのかもしれないですけど、実はダイヤさん。何かを誤魔化している時は必ずほくろの部分をかいているんですよ」

 

 

それを教えると、ダイヤさんは思わず苦笑いがこぼれてしまっていた。更にそこへ追い打ちをかけるように姉さんと鞠莉さんは白状するよう進めていった結果、流石に堪忍したのか、隠すのを諦めたように重たい口を開く。

 

 

「…別に隠そうとするつもりはありませんでした。今から話しますが…笑いませんか?」

 

 

「笑う?」

 

 

「大丈夫ですよ。別に笑いませんから」

 

 

「そんなことする訳ありまセーン!」

 

 

僕達が笑わないと応えたことを確認してダイヤさんは話し始めた。

 

 

「以前の曲作り以降、果南さんや鞠莉さんは1年生や2年生達との距離が縮まり、お二人とも果南ちゃん、鞠莉ちゃんと呼ばれているのに対し、私だけダイヤさんと呼ばれるのはまだ皆さんとの距離があると思いまして」

 

 

ダイヤさんが話しているのを僕達は聞いていたが、真剣な話をしているはずなのに姉さんと鞠莉さんは既に笑いをこらえるのに必死だった。それを気にせずに僕は話を聞いて思ったことを質問した。

 

 

「…ってことはダイヤさんは1年生や2年生達と距離を縮めてダイヤちゃんと呼ばれたいということですか?」

 

 

「私が呼ばれたいわけではありませんが、メンバー間に距離があるのは今後の為にもよくないので…」

 

 

僕の質問にダイヤさんが答えてる途中で、笑いをこらえている2人に限界が来た。

 

 

「アハハハハ!ダイヤが…ダイヤちゃん…!」

 

 

「そんなことをあれだけ隠していたのね…!」

 

 

「お二人とも笑わないといったではありませんか!」

 

 

こうして2人がダイヤさんに怒られつつも笑っているとバス停に帰りの最終バスが来たので、続きは明日にしようと決めて一度話を切り上げてバスに乗って帰路につくが、バスの中でも2人の笑いが治まることはなく、ダイヤさんはバス内でずっと頭を抱えていた。

 

 

 

~~~そして現在~~~

 

 

 

「結局ダイヤさんが悩んでいる内容は分かったけど、どうやって解決するの?」

 

 

「それはダイヤが自分で解決するべきだと思うよ。ちょうど明日、良い機会があるし」

 

 

姉さんが言っている良い機会というのは恐らくアルバイトのことだろう。実は曜ちゃんから連絡があって明日、アルバイト先の水族館でイベントがあるから一日だけAqoursの皆で手伝って欲しいとの話があったので、これを機にダイヤさんが距離を縮めることができたら解決することになるだろう。だから今回の僕達はダイヤさんの当日の行動を見守る形になる。

 

 

「それにしてもダイヤちゃんか~」

 

 

「姉さんは気にしたりするの?後輩からの呼ばれ方とか」

 

 

「私は特に気にはしないけど、さんとか先輩とかで呼ばれたらちょっとむず痒いかな。ダイヤと祐から言われることにはもう慣れたけど」

 

 

姉さんはそう言ってリビングの椅子に着いて練習ノートを開いた。そして今後の練習内容を書いてると突然、何かを閃いたかのような顔をして僕の方を向いた。

 

 

「?どうしたの姉さん」

 

 

「さっきの呼ばれ方の話だけど、私の事を名前で呼んでみてくれない?初めて会ったときみたいに」

 

 

唐突に姉さんは僕にお願いをしてきた。確かに出会って最初の頃は家族になるとは思いもしなかったから病院にいた時はずっと果南ちゃんと呼んでいたけど、現在は姉さんの呼び名で定着してるから今になってそう呼ぶのは羞恥心が大きくなるからあまり言いたくはない。

 

 

「…急にどうして?」

 

 

「うーん…なんとなく。また聞きたいなーって思ったから」

 

 

「なんとなくならごめんだけど無理だよ」

 

 

「え~!いいじゃん別に!前は普通に呼んでいたんだから!」

 

 

僕が断ると姉さんは頬を膨らませる。どうして僕に言わせたいのか分からない。仮に果南ちゃんと呼んだら姉さんは満足かもしれないが、僕はただ辱しめを受けるだけになる。

 

 

「前と言われても数年前の話じゃないか。それを今になって呼ぶのは正直恥ずかしいよ」

 

 

「1回だけでいいからお願い!」

 

 

「こっちもお願いだから勘弁してください」

 

 

お互いが一歩も引かずに話が平行線のまま時間だけが過ぎていった。すると姉さんが奥の手を出してきた。それは、

 

 

「じゃあ言ってくれないなら、祐の黒歴史を千歌達にばらしちゃうよ」

 

 

「うわ!?姉さんずるいよ!」

 

 

なんと姉さんが脅しを使ってきた。しかも内容が黒歴史ときたので、それを使われたらもう反論や抵抗をすることができない。僕が思わず諦めたような表情をすると、姉さんは楽しみを待つかのような表情で待っていた。こうなったらもう腹をくくるしかない。何故ならばらされるくらいなら、自身の羞恥心を我慢した方がずっと簡単だから。

 

 

「…はぁ。じゃあ言うよ」

 

 

「うん♪」

 

 

「…果南ちゃん//」

 

 

溢れ出る恥ずかしさを我慢しながら僕は姉さんを名前で呼んだ。その時の僕は体温が上昇したかのように体が熱くなっていた。姉さんに満足したかを聞くために顔を向けると、姉さんの顔は満足というよりは赤面している状態だった。

 

 

「…何で姉さんは顔を真っ赤にしてるのさ//?」

 

 

「祐だって顔が真っ赤だよ//」

 

 

そう言って姉さんは手鏡を僕に向ける。鏡を映った僕は姉さんと同じく顔が真っ赤になっていた。それもよく見れば、今まで見てきた姉さんや善子ちゃんの赤面と同じくらい赤くなっている。ということは、あの時に向けられたのは恥ずかしさだったのかと僕の中で感じた。でも、何に対して恥ずかしさを感じたのだろうか。恥ずかしさを紛らわせつつ考えていると、姉さんが急に立ち上がって、

 

 

「…じゃ、じゃあ!もう夜遅いから私はもう部屋に戻ってるね//!お休み!」

 

 

と言って、部屋に駆け込むように入っていった。まるで今いる空間から逃げるように。姉さんが自室に戻った後、僕は急に力が抜けて机にうつ伏せになるような形になり、やがて目を閉じて意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「はぁ~…。何やってんだろ、私…」

 

 

電気もつけず暗い部屋の中、駆け足で自室に入った私はドアに背中を預ける形で座り込んだ。ただ名前で呼ばれたかっただけなのに。それを拒み続ける祐に脅してでも言わせたかったということは、まだ私の中に未練があるのかな。

 

 

「もう諦めているつもりなのに…」

 

 

夜空に浮かぶ月の光が窓越しで私の部屋に当たる。その時、机に置いてある写真立てに光が照らされる。中に入っているのは私に弟が出来た時に両親が撮ってくれたツーショット写真。そこに映るのは私が片思いをしている人。誰にも聞こえない声でその名前を呟いた。

 

 

 

 

 

「青夜君…」

 

 

 

 

 




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好きの違い

「ジリリリ…」

 

 

早朝の時刻に朝日が昇ろうとするなか、目覚まし時計のアラームが部屋中に鳴り響く。その音に気付いた僕は少し寝ぼけながらもアラーム音を止めた。それから辺りを見回すと自分の部屋ではなくリビングにいることに気が付いた。

 

 

「そっか…。あの後、すぐに寝てしまったんだ…。あれ?でも、これって僕の部屋に置いてあるものだけど…」

 

 

目の前にある目覚まし時計に疑問を浮かべていると、リビングのドアが開いて姉さんが入ってきた。

 

 

「おはよう祐。よく眠れた?」

 

 

「おはよう。この目覚まし時計って姉さんが置いたの?」

 

 

「うん。本当は起きるまでそのままにしようと思ってたけど、遅刻をするわけにはいかないからね」

 

 

姉さんはそう言って、外出の準備を始めていた。今日は曜ちゃんのアルバイトを手伝うために水族館に行かなければならないため、僕も急いで支度を済ませて何とか姉さんを待たせることなく同時に家を出ることができた。

 

船で淡島から本島に着いた後、バスに乗って水族館に着くまでの間に昨日のことを思い出していたが、僕の中では新たな黒歴史となっていた。姉さんに弱みを握られていたとはいえ、言った後の恥ずかしさときたら小学生の頃よりもはるかに上だ。この話は当然のことながら僕の口からは誰にも話したくない。だが、当事者である姉さんは昨日のことをどう思っているのか。面白かった出来事として皆に話すとしたらそれだけは避けたいため、口外を禁止させる方法を考えていると、姉さんが声をかけてきた。

 

 

「祐。昨日の事ってよく覚えてる?」

 

 

「うん。はっきりと」

 

 

「その事なんだけどさ…私達だけの秘密にしない?」

 

 

姉さんの提案に僕は少し驚いた。予想では皆に話すか、弱みを握るのかと思っていたので、それを阻止しようとしていたところを向こうから口外禁止の相談をしてきたことが意外だった。

 

 

「もちろんだよ。僕も姉さんにお願いして秘密にしてもらおうと考えてたから」

 

 

「よし、決まりだね!私は誰にも言わないから、祐も言っちゃ駄目だからね!…特に鞠莉には」

 

 

「…わかりました」

 

 

姉さんは最後の部分を強調するように僕へ念を押した。鞠莉さんには絶対知られたくないという意志の強さに圧迫さで押しつぶされそうになる感覚で僕は了承の返事をした。

 

それからバスは目的地である水族館に到着した。館内では、以前からここでバイトをしていた曜ちゃんが皆に指示を出した後、それぞれの位置に分担して作業をすることになり、僕の担当はステージで使われる観客席の清掃となった。清掃中は一人の時間が多いため、作業しながら昨日の出来事を思い出し後悔する。弱みを握られていたとはいえ、新たな黒歴史となるなら言わない方がよかったのかなと。

 

 

「はぁ…、何であんなことしちゃったんだろう…」

 

 

「そうね~、一体ユウは何をしちゃったのかしら?」

 

 

後ろから声が聞こえて振り向くと、鞠莉さんが満面の笑みで僕のすぐ後ろの観客席に座っていた。

 

 

「チャオ~♪」

 

 

「…いつからそこにいました?」

 

 

「まあまあ、細かい事は気にしないの。それより、さっきの独り言は何の話?」

 

 

鞠莉さんは興味を持つようにして僕に追究を始める。姉さんとの約束通り、絶対鞠莉さんに昨日のことは話してはいけない。知られたら最後、からかわれるのが目に見えているからだ。しかし、質問をされてる以上は何かしらの答えを出さなければと思い、以前に姉さんと話していた内容を使うことにした。

 

 

「小学校の時に僕が女の子と勘違いされた時の話ですよ」

 

 

「そんなこともあったわね~。ユウちゃんと呼ばれてたのをマリーは鮮明に覚えているわよ」

 

 

「早急に忘れて欲しいですけど…。それで、僕に何か用でもありました?」

 

 

話を切り替えるべく、僕は鞠莉さんに後ろにいた理由を聞いてみた。

 

 

「フフッ。ちょっとユウと話がしたくてね。とりあえず席に座りましょ」

 

 

鞠莉さんはそう言って自分の隣の席を空けて僕を座らせた後に話しを始めた。

 

 

「話っていうのは、ユウの好きな人についてよ」

 

 

「僕の…好きな人ですか?どうして急に…」

 

 

「ガールズトークではよくある話だけど、男の子に聞けるのは浦女で貴方だけじゃない?ユウは好きな人や気になる人とかいないの?」

 

 

好きな人。それは以前に善子ちゃんから聞かれたことだが、今はそういった話が浦女で流行っているのだろうか。とりあえず前回と同じ内容で応えた。

 

 

「僕は姉さんや海未姉、Aqoursの皆の事が好きですよ」

 

 

「それはlikeでしょ。私が聞きたいのはloveの方よ」

 

 

僕の答えに鞠莉さんは訂正を入れる。likeは友達としての好き、loveは恋愛としての好き。聞かれていたのはどうやら後者の方だったようだ。でも僕は恋愛というのをしたことがない。今までの好きはきっとlikeで止まっていたのだろう。だからloveとしての好きになると正直分からないというのが答えだ。

 

 

「…今はいないと思います。僕自身もloveの好きがよく分かっていませんから」

 

 

「だったら私達からloveになる子は今後いたりするのかしら?likeからloveになることもあるというし。試しにちょっと目を瞑って」

 

 

「え~っと。こうですか?」

 

 

「えぇ。そのままの状態で私達をイメージしてみて」

 

 

鞠莉さんの言う通りに僕は目を閉じてイメージに集中した。すると頭の中で9人の姿が浮かんだ。

 

 

「出来たかしら?では、中から1人だけを今度はイメージしてみて」

 

 

次は9人から1人だけを選ぶのだが、その途端に浮かんでいた9人のイメージが消えてしまい、頭の中には誰も浮かんでは来なかった。やはり、loveの意識がないから選べなかったということだろう。僕は諦めて閉じていた目を開けた。

 

 

「…失敗しました。どうやら僕はlike止まりのようです」

 

 

「それはまだ恋を見つけていないだけ。とりあえずはユウがloveで好きな人がいないことはわかったわ。それだけでも大収穫よ」

 

 

鞠莉さんはこの時間で得たものに納得したのか、少し笑みを浮かべて立ち上がった。

 

 

「でも、これだけは覚えておいて。今はまだユウが気付いていないだけで、もし貴方を好きになった人がアピールをしているのなら、それに気づいてあげなさい。それじゃあ私は元の場所に戻るわね」

 

 

そう言い残して持ち場に戻っていった。最初は鞠莉さんの好奇心で聞いてきたのかと思ったが、話す時の一人称がマリーから私になっていたことから後半は真剣さが含まれているように感じた。そして最後の言葉、自分の恋愛すら分かっていないのに相手のアピールに気づけるものなのか。そもそも僕に対してアピールしている人がいるのか。そんなことが気になりつつも、僕は清掃の作業を再開していった。

 

 

 

 

 

「(これで鈍感なユウも少しは周りに気が付けるようになるかしらね…。後は頑張るのよ、善子。)」




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自分から行かなきゃ始まらない

時刻は正午を回り、午後からのバイト再開に向けての休憩時間となったので、皆はそれぞれの場所で休憩をとっていた。ステージの観客席を清掃していた僕は、席に腰を下ろして一息ついているところに先程まで一緒にいた鞠莉さんが今度は姉さんを連れてやって来た。さっきの話の続きをするのかと思ったが、今回はダイヤさんについてだった。

 

 

「ダイヤは上手くやれてるのかしら…」

 

 

「いつもと同じだったら、まだ距離は縮まってないと思うよ。祐はどうだった?確かダイヤはステージの清掃だったから、近くで見えていたよね」

 

 

「そうだね…。どっちかというと上級生の風格が更に上がった感じだったかな。さっきもステージでアシカに追いかけられそうになった梨子ちゃんとルビィちゃんを助けたりしてたから」

 

 

そう話していると、作業を終えたダイヤさんがこちらにやって来た。浮かない表情をしていることから、今の所の進展は無いように見える。

 

 

「どう?1年生や2年生達と上手くいってる?」

 

 

「…いえ。上手くいかないですわ」

 

 

「まぁそうなるとは思っていたけどね。ダイヤは自分から近づこうとしないから」

 

 

「言われてみれば、ダイヤさんがルビィちゃん以外で自分から関わる事って少なかったですね」

 

 

恐らく姉さんは最初からこうなる事が分かっていたのだろう。ダイヤさんは小学生の頃から真面目で頼りがいのあるお嬢様だったので、きっと他の子たちは彼女が雲の上の存在に見えていたと思う。その思いに応えるためにダイヤさんもそう振る舞って自ら周りと距離を取っていった。本当は寂しがりやな自分を隠して。

 

 

「自分から行かなきゃ始まらないよ」

 

 

「そう言われましても…どうすれば…」

 

 

悩むダイヤさんに鞠莉さんが提案をする。

 

 

「簡単でしょ?まずはダイヤからあの子達に話しかける。それだけよ」

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

休憩時間が終わり、姉さん達もそれぞれの場所に戻ったところで午後の清掃を再開すると、観客席の前を通る子供たちの列がやって来た。おそらくは水族館のイベントを見に来た子たちだろう。だが少し気になる点があった。それは、列で歩いてる子たち全員が黒い羽根を持っていたこと。そして子供たちの列の先頭で歩いてるのが先生でも保護者でもなく、僕と同じようにアルバイトをしている堕天使だったことだ。

 

 

「さぁ小さきリトルデーモン達よ!このヨハネについてきなさい!」

 

 

「はーい!」

 

 

ヨハネの声に導かれるかのように子供たちは後をついて歩いた。一体どうしてこうなったのか。僕は先頭を歩くヨハネ様に聞いてみた。

 

 

「善子ちゃん。これはどういう状況?」

 

 

「フッ。この者たちはヨハネと契約した新たなリトルデーモン達。あと善子ではなくヨハネと呼びなさい」

 

 

「子供たちに水族館の案内をするとは聞いていたけど、いつの間にかリトルデーモンの行進になってるよ…。それにあの黒い羽根って確かフリマで売ろうとしてた…」

 

 

「それは言うなー!あれこそがヨハネと契約したリトルデーモンの証なんだから!」

 

 

善子ちゃんの反応からして、子供たちが持っている羽根はおそらく昨日のフリーマーケットで出品した物だろう。だが当日は一つも売れず、更には撤収中に風が吹いたことで羽根が舞ってしまい集めるのに苦労したことを覚えている。そんな事を思い出しつつ善子ちゃんと話していると、

 

 

「ねーねー。おにいさんもりとるでーもん?」

 

 

小さいリトルデーモン?から質問が来た。それに答えようとすると、善子ちゃんが急に僕の腕を抱きしめて、横から入るように質問に答えた。

 

 

「えぇそうよ。この者はヨハネが最初に契約したリトルデーモン0号だから格上…簡単に言うとお兄さんよ。普段はヨハネの身の回りの世話をしているわ。貴方達も0号みたいな立派なリトルデーモンを目指すのよ」

 

 

「はーい!」

 

 

「身の回りの世話なんてしたことないけど…」

 

 

善子ちゃんの見栄を張って話す内容に困惑していると、観客席の上から声が聞こえた。そこには子供たちと一緒に来た先生と水族館のマスコットの着ぐるみ(曜ちゃん)がいた。

 

 

「子供たちー!先生が上で待っているよー!」

 

 

曜ちゃんの声が聞こえた子供たちは階段を駆け上がって先生のもとへ戻っていった。そして子供たちと入れ違うように曜ちゃんが着ぐるみのままでやって来た。

 

 

「お待たせ善子ちゃん!子供たちと仲良く出来た?」

 

 

「当然よ。ヨハネの手にかかれば造作もないこと」

 

 

「仲良くというより洗脳に近いような気がしたけど。2人はまた水族館を案内するんだったね」

 

 

「そうだよ。でも善子ちゃん。確か集合場所ってステージ前だったけど、どうして観客席にいたの?」

 

 

「えっ?それは…//」

 

 

善子ちゃんは一瞬固まった。言われてみれば、ステージは観客席の向かい側にある。だからわざわざここまで来る必要はないはずだ。曜ちゃんはそこにもう1つの疑問を投げる。

 

 

「あと…いつまで祐君の腕掴んでるの?」

 

 

言われてようやく気付いた善子ちゃんは恥ずかしかったのか、掴んでいた腕をすぐさま振り払って僕から距離をとった。急に離れるものだから虫でも止まっているのかと思い、払われた腕を見ても虫らしきものはいなかった。でも善子ちゃんの顔は赤面だったので何か恥ずかしいことでもあったのか、それとも思い出したのか分からないので僕は首をかしげた。それを見ていた曜ちゃんは着ぐるみ姿だからどんな表情をしているかは分からないが、やれやれと言いたそうに手で表現していた。するとそこへダイヤさんがやってきて、曜ちゃんに声をかけた。普段は「○○さん」と呼んでいるところを「○○ちゃん」と呼ぶことで距離を近づけようとしているのかな。

 

 

「よっ…曜…ちゃん」

 

 

「ダイヤさん。何か言いました?」

 

 

「いえ!…その…」

 

 

鞠莉さんからの助言通りに自分から声をかけるダイヤさんだが、その先のことを考えていなかったのか、次の言葉が浮かばず戸惑っていた。

 

 

「もし良かったら、ダイヤさんも一緒に子供たちと水族館内を歩きませんか?」

 

 

「えっ?」

 

 

「息抜きにどうです?。ステージの清掃は僕がやりますよ。観客席の方はもうすぐ終わるので」

 

 

曜ちゃんの急な提案や、良かれと思って出した助け舟にダイヤさんの戸惑いが加速していった結果、

 

 

「お気遣いありがとうございます。ですが、私は大丈夫ですので。それでは曜ちゃんも祐さんも善子ちゃんも、おアルバイト頑張りましょう~」

 

 

ダイヤさんはその場から逃げるかのように去っていった。あのリアクションだと2人はダイヤさんがどう見えていたのだろうか。

 

 

「2人はどうだった?さっきのダイヤさん」

 

 

「何…?今の背筋に冷たいものが走る違和感…!」

 

 

「分かる…!」

 

 

「別に恐怖を与えるつもりではなかったと思うけど…」

 

 

どうやら距離を縮めるどころか、更に遠くなっているようだった。しかもそれは2人だけでなく、別の場所では千歌ちゃん、梨子ちゃん、花丸ちゃんがルビィちゃんに相談をしていた。内容はダイヤさんが怒っている、悩んでいるなど全てが今日起きたことについてだった。しかし相談するも、今回はルビィちゃんも事情を知らないので、ダイヤさんが変と言われてる理由に全く見当がついていなかった。それを見ていた姉さんと鞠莉さんはこれ以上続けると皆が混乱すると判断し、1年生と2年生にダイヤさんの悩みと今回の目的を伝えた。

 

 

「ダイヤ…ちゃん?」

 

 

「皆ともう少し距離を近づけたいって事なんだと思うけど…」

 

 

「本当はダイヤさん自身で解決するつもりだったけど、思ったより誤解が生まれたからね…」

 

 

「じゃあ、あの笑顔は怒っているわけじゃなかったずら?」

 

 

「でも、可愛いところあるんですねダイヤさん」

 

 

「でしょ?ダイヤはああ見えて本当は寂しがり屋だから」

 

 

2人から聞いた話によって誤解をしていた5人はその後、ステージへ行ってダイヤさんの手伝いなどをして同じ時間を共有することを考えた。最初は急に来た5人に驚いていたダイヤさんだったが、一緒に作業をする事で少しづつ距離が縮まっていくのを実感したのか、アルバイトが始まった時に比べて笑顔の表情が増えていった。最終的には「ダイヤちゃん」と呼ばれるようになり、本人は呼び名を気にしないと言い続けているが、ほくろの部分をかく癖が出ていることから満更でもない様子が見えて、姉さんと鞠莉さんはクスッと笑った。




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雨の帰り道

時刻は夕暮れ時。今日の空は雲で覆われ、雨が降りしきる。沼津での練習を終えたAqoursと僕はそれぞれの帰路に就こうとしていた。内浦組は千歌ちゃんや鞠莉さんの家から車を出してもらえたので、帰りのバスが来るまで雨の中を待つ必要はなくなった。

 

 

「果南ちゃんと祐君と梨子ちゃんは家の車ね。曜ちゃんも乗ってかない?」

 

 

「いいの?」

 

 

「うん!善子ちゃんはどうする?」

 

 

「拠点は至近距離にあります。いざとなれば瞬間で移動できますので」

 

 

「…どういうこと?」

 

 

千歌ちゃんの誘いに善子ちゃんは応えるが、応え方だけに内容が千歌ちゃんには理解できていなかった。

 

 

「翻訳すると、「家は近くだから、歩いて帰る」ってことだよ」

 

 

「訳すな!」

 

 

「お~なるほど!それじゃあまたね善子ちゃん!」

 

 

こうして皆は解散して帰路に就いた。内浦に向かう前に曜ちゃんを家まで送った後、車内から外を見てみると、練習が終わった時よりも雨や風が強くなっている。この天候の中で歩いて帰ってる善子ちゃんは大丈夫だろうか。そんな心配をしていると梨子ちゃんが尋ねてきた。

 

 

「そう言えば祐君。さっきの善子ちゃんの話してた内容。どうして分かったの?」

 

 

「今までずっと聞いてきたからね。普段から使ってる言葉もあったし。日常会話を善子ちゃんの言葉に置き換えたら分かるようになるよ」

 

 

「いや出来ないわよ…」

 

 

「後は夜にやっている善子ちゃんの配信を見るとか」

 

 

それを言うと、話を流すように聞いていた姉さんと千歌ちゃんが僕の方に視線を向けた。

 

 

「えっ?祐君、善子ちゃんの占い見てたんだ。いつから?」

 

 

「浦女の入学前だからもう二年経つね」

 

 

「二年!?だから祐君と善子ちゃんが初めから仲良かったんだ」

 

 

意外にも年月を聞いて千歌ちゃん達は驚いていた。てっきり姉さんは知っているものと思っていたが、よくよく思い出してみると善子ちゃんの配信をやっているのが夜遅いし、その時間は僕も姉さんも自室に入っているから知らなかったのにも納得がいった。すると千歌ちゃんに続いて姉さんも質問してきた。

 

 

「じゃあ祐は善子ちゃんのどんなところが好きなの?」

 

 

「好きなところ…」

 

 

一瞬だけ僕は答えるのを躊躇した。以前に鞠莉さんと好きについて話していた時にlikeとloveで違う事を思い出し、どちらで答えるのが良いのか迷った結果、今回は姉さんだからきっとlikeの意味で聞いてきたのだろうと思って質問に応える。

 

 

「自分の好きを貫いているところ…かな。配信の時の善子ちゃん、生き生きとしてるから。好きなことに嘘をつかない真っ直ぐな姿勢が僕は好きだよ」

 

 

「…そっか」

 

 

姉さんが納得したところで車は淡島近くの船着き場に止まり、僕と姉さんはそこで降りて千歌ちゃん達を見送った後、船に乗って家に帰った。

 

 

 

 

 

~~~その夜、とある通話にて~~~

 

 

 

 

 

「2人に聞きたいんだけど、祐君と善子ちゃんってその…もう付き合ってるの?」

 

 

「ないわよ」「ないずら」

 

 

「えっ…まだだったの…」

 

 

「そんなに早く善子の気持ちに気づくわけないでしょ。ユウの鈍感さは果南のスキンシップでも全然動じないんだから」

 

 

「祐さんの鈍感もあるけど、善子ちゃんのヘタレ具合も相当だからまだまだ時間はかかるずら」

 

 

「曜ちゃんから聞いたんだけど、水族館の時に善子ちゃんが祐君の腕を組んでたみたいだからてっきりもうそんな関係になってたのかと」

 

 

「その時のユウはどんな感じだったか、曜からは聞いてるの?」

 

 

「何も分かってなさそうだったって」

 

 

「What!?こんなに分かりやすいアピールしてるのになんで気づかないのよアイツは!」

 

 

「鞠莉ちゃん落ち着くずら。それだけで祐さんが気づかないのはいつものことだし、善子ちゃんは何か言ってた?」

 

 

「…何も言わずに顔を赤くしてただけって」

 

 

「なんでそこで何も言わないずらか!あのヘタレ堕天使は!」

 

 

「花丸も落ち着きなさい。これだけ進展がないとか、両方とも筋金入りね」

 

 

「善子ちゃんのアピールが失敗してるだけだけど…」

 

 

「あ~もう!早く善子のアピールにユウは気づきなさいよ!」

 

 

「あ~もう!早く善子ちゃんは祐さんに告白するずら!」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「へっくしゅん!」

 

 

就寝前に電話をしていた僕だったが、室内が寒いわけでもないのに何故かくしゃみが出てしまい、その音が電話相手にも聞こえていた。

 

 

「どうしたの祐?風邪でもひいた?」

 

 

「風邪はひいてないよ。どちらかというと、誰かが僕の噂をしているような気がする…。それも何故か怒られてるような感覚がするんだよ」

 

 

「奇遇ね。私も同じような感覚で今いるわよ。何者かがこのヨハネの噂をしているような気配がするわ」

 

 

「一体誰が噂をしているのやら…。それよりも善子ちゃんは僕達と別れた後に何かアクシデントとかは無かったの?車の後ろから見ると傘が飛ばされてたみたいだけど」

 

 

「フッ、あれは飛ばされてなんかいないわ。導かれていたのよ。デスティニーによってね」

 

 

すると善子ちゃんから写真が送られてきたので見てみると、ケージの中にいる犬の写真だった。

 

 

「……犬?善子ちゃん犬を飼い始めたの?」

 

 

「飼ってないわ。出会ったの」

 

 

「出会った?ってことは捨て犬で、これから飼う予定なんだね」

 

 

「…家のマンション。動物を飼うのが禁止なの。それで祐にお願いがあるんだけど…少しの間だけでいいからこの子の面倒を見て欲しいの」

 

 

善子ちゃんは僕に少しの間、犬を世話して欲しいと頼んできたのだが、僕の家はダイビング機材などが置いてあるので、お店の営業中に支障がきたす可能性もあるから犬などの動物は飼えない。

 

 

「ごめんね。僕の家はお店でもあるから飼うことは出来ないんだよ」

 

 

「…そうよね。急なお願いして悪かったわ。今日はもう寝るわね。おやすみ祐」

 

 

「善子ちゃんもおやすみなさい」

 

 

そう言って電話は終了した。それにしても善子ちゃん、家が動物禁止なのにこれからどうやって犬の世話をしていくのだろうか。そんなことが気になりつつも、僕はベッドに入って眠りについた。




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見えない力

「ワン、ツー、スリー、フォー。ワン、ツー、スリー、フォー」

 

 

夕暮れ時の屋上では9人の少女達が練習する声が聞こえていた。

 

 

「ルビィちゃんはもう少し内側。前よりもよくなったよ」

 

 

「本当!?」

 

 

「ではもう一度、と言いたいところですが…今日はもう時間がありませんわね」

 

 

そう言ってダイヤさんは海に沈んでいく夕日を見る。2学期は1学期に比べて日が短くなっているから下校時刻が早くなっていた。僕は練習を切り上げる時間だと思い、持っていた飲料水を配る準備をしていた。

 

 

「そろそろ下校時刻だからもう終わりだよ。はい、姉さん」

 

 

「ありがとう。祐」

 

 

姉さんが受け取ったところで次の子に渡そうとしていると、

 

 

「私!今日は先に帰るね」

 

 

と言って梨子ちゃんが飲料水も受け取らずに大急ぎで屋上の階段を下りていった。

 

 

「えっ、また?」

 

 

「何かあったずら?」

 

 

「そういえばここのところ、練習が終わるとすぐ帰っちゃうよね」

 

 

「それどころか練習のない日でも授業が終わったらすぐ帰ってたような」

 

 

「梨子ちゃん。どうしたのかな…」

 

 

急な変化に皆が心配しているなか、善子ちゃんだけは梨子ちゃんが下りて行った階段を見つめていた。

 

次の日、午後からの練習だったはずが、朝から善子ちゃんに呼び出されて午前中に学校へ来ていた。

 

 

「ライラプス~!」

 

 

休日の体育館に鳴き声が響き渡る。僕は今、部室で机に突っ伏して泣いている善子ちゃんの向かい合わせで座り事情を聞いていた。

 

 

「…つまり。前に写真で見せたライラプスを梨子ちゃんに託したと」

 

 

「…うん」

 

 

「すると預かってから梨子ちゃんが前の自分と同じような行動をとるようになっていき、不安になった善子ちゃんが梨子ちゃんの家に行ったら、ライラプスが梨子ちゃんに懐いてるように見えて取られてしまうと思ったんだね」

 

 

「そうよ!大体、梨子は犬が苦手だったはずよ!」

 

 

「帰るのが早かったのはこれが理由だったんだね…。それで取り返そうとしたら、沼津で飼い主が探していることが分かって返したと」

 

 

「あぁ…。ライラプス~…」

 

 

本来であれば飼い主が見つかって良かった思うのだが、善子ちゃんの今の心境からして余程の思い入れがあったのだろう。先日の電話でも「デスティニーに導かれた」と言っていたのだから。

 

 

「…何だか複雑な気持ちみたいだね」

 

 

「えぇ…。ずっとモヤモヤしてるわ…」

 

 

善子ちゃんはうつ伏せのまま顔を横に向けて外の景色を見ていた。そしてそのまま一言呟く。

 

 

「あのさ、祐は運命の出会いとか信じる?」

 

 

急な質問に僕はすぐに答えが出ず無言になっていた。それを気にせず善子ちゃんは話を進める。

 

 

「私の運が悪いことは知っているでしょ?小さい頃から外に出ればいつも雨に降られるし、転ぶし、何しても自分だけ上手くいかないし。その時は私が特別だから見えない力が働いてるんだって思っていたの。天使や堕天使もその頃から存在してると信じてた。でも高校生になってからは堕天使なんているはずないってもうなんとなく感じてる。けど、本当にそういうの全くないのかなって。運命とか、見えない力とか。そんな時ライラプスに出会ったの」

 

 

「それが運命の出会いだったの?善子ちゃんにとっては」

 

 

「うん。見えない力で引き寄せられるようだった。これは絶対に偶然じゃなくてなにかに導かれてるんだって、そう思った。不思議な力が働いたんだって感じた。祐はないの?こういった出来事とか」

 

 

善子ちゃんに聞かれて今までのことを思い出してみた。それを振り返ってみると問いに対する僕の答えが出てきた。

 

 

「僕にとっての運命の出会いはもう一人の自分、松浦祐かな」

 

 

「え?」

 

 

僕の答えに、うつ伏せ状態だった善子ちゃんが体を起こして僕の方を向く。

 

 

「だって本来なら松浦祐が生まれる事はなく、僕の名前は園田青夜だけだった。でもあの事故が起きて、姉さんに助けてもらって、記憶喪失だった僕に新しい名前がついた。それからはもう全てが運命の連続だった。園田青夜では生まれなかった時間が今も続いているからね。だから僕は信じてるよ。運命や見えない力を」

 

 

「ってことは、今こうしてヨハネと話していることも祐にとっては運命だというの?」

 

 

「そうだね。松浦祐として過ごす時間は全部だよ。ここに流れ着いた時から」

 

 

「…事故が起きて良かったとか思ってないわよね?」

 

 

「それを言われると僕も善子ちゃんと同じく複雑な気持ちになるよ…」

 

 

善子ちゃんの指摘に僕は思わず苦笑いしてしまう。そんな話をしているうちに時計は午後の練習時刻に近づいていた。

 

 

「そろそろ練習時間になるけど、善子ちゃんは大丈夫?」

 

 

「大丈夫よ。思いっきり体を動かして、このモヤモヤとした気持ちを全部吹っ飛ばす!」

 

 

そう自分に言い聞かせるように善子ちゃんは立ち上がって練習場所である屋上に向かって走っていった。だが練習が始まるとダンスやフォーメーションでのミスが多く、余り身が入ってない様子が見えた。しかしそれは善子ちゃんだけでなく、今回の件に関わってた梨子ちゃんも同じようで、練習が終わると2人はすぐさま学校を出て帰りのバスに乗って帰っていった。その時の僕の携帯には善子ちゃんから「梨子とライラプスに会って来る」というメッセージが届いていた。これで2人のモヤモヤがもう一度会うことで晴れたらいいなと思いつつ僕は帰りの準備をして帰路についた。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

「やっぱり偶然だったようね。この堕天使ヨハネに気づかないなんて」

 

 

帰りのバスの中で1人呟く。あの後私は飼い主の家の近くでライラプスが出て来るのを待っていた。待ってる途中で雨も降ってきたけど、それでも諦めることは考えてなかった。あの時のを見えない力を信じてたから。そして遂にその時が来た。雨が上がったころにライラプスが飼い主の家から出てきた。私は気づいてもらうために近づいたけど、ライラプスは一瞬だけこっちを向いたけど私のことなんかもう忘れてた。その薄情さに私も思わず苦笑いがこぼれたわよ。これでもうそんな力はないと思ってた私に梨子がこう言う。

 

 

「信じている限り善子ちゃんの言う見えない力は働いていると思うよ」

 

 

最初は励ましの言葉として受け取ったけど、梨子と別れた後に私は1人で考えていた。もし私がまだ諦めずに信じていたら、中学時代の祐との出会いは偶然じゃなくて運命になるのかなって。だとしたらそれだけは偶然で終わらせたくない。今はまだ片想いで告白までは踏み出せてないけど、絶対に運命の出会いにして見せる。そう息巻いてバスを降りた私だが、

 

 

「まずは祐にどうやってアピールするか。水族館でのヨハネ渾身のアピールも効いてなかったし…。後からずら丸にはヘタレと言われるし…。はぁ~、どうしたらいいのよ…」

 

 

そんな悩みを抱えながら自宅に入った。

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

時刻は夜。自分の部屋に戻る前にリビングで僕と姉さんはくつろいでいた。

 

 

「ねぇ。祐は今まで恋愛の相談とかされたことある?」

 

 

姉さんが唐突に僕に聞いてくる。しかも恋愛。前回の鞠莉さんといい、やはり最近の浦女ではこういった恋愛の話が流行っているようだ。しかも姉さんがそういった話をするのが意外に感じた。

 

 

「いきなりどうしたのさ」

 

 

「実は私…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…好きな人がいるの」




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貴方に伝えるために

「実は私、好きな人がいるの」

 

 

姉さんが話した内容に僕は一瞬だけ頭が真っ白になった。今まで一度もそういった会話をしたことがなかったからというのもあるが、いちばんは姉さんに好きな人がいるという急な告白に思わず動揺していたからだろう。

 

 

「…それは、鞠莉さんやダイヤさんの友達という意味じゃなくて?」

 

 

「うん。男の子で」

 

 

「なんか意外だね。てっきり姉さんは恋愛とかまだ気にしていないと僕は思ってたから」

 

 

「私だって女の子だから気になる人はいるよ。でも少し悩んでいてね。だから祐に相談に乗ってもらおうと思ったの。同じ男の子の意見として」

 

 

そう言って姉さんは僕の向かいにある椅子に座る。恋愛に関する相談とは言ったものの、当然ながら僕は相談を受けた事もした事もないから力になれるかどうか不安だが、とりあえずは詳細を聞いてみる。

 

 

「ちなみに相談というのは?」

 

 

「それはね、どうしたら想いが伝わるか。学校を卒業するまでにその人に告白したいんだけど、どうすればいいか分からなくてね」

 

 

「姉さんの好きな人の名前は教えてもらうことは出来るの?」

 

 

「それは秘密//」

 

 

「じゃあ相談にならないじゃないか。なにかその人のことを教えてくれなきゃ。例えばこういうところが好きとか…」

 

 

そう言いつつ手元の携帯で恋愛話の話題などを調べて話を進めていきながら、姉さんには僕の質問を応えてもらうことにした。これで少しでも姉さんの悩みが解決すると良いのだが。

 

 

「好きなところは…安心できるところかな。一緒にいる時間がずっと続けばいいのにって思っちゃうよ」

 

 

「姉さんがそう思える人がいるなんて知らなかったな…。出会ってからもう長かったりするの?」

 

 

「最初に会ったのが小学生の頃だから結構長いのかな。初めはちょっと抜けている子なのかなと思っていたけど、本当は誰よりも周りを見ていて、困ってる人がいたら相談に乗ったり、不安な人の背中を後押ししてくれる優しい人。私がスクールアイドルを辞めて辛かった時期もその人がいつも近くにいてくれたから、私は私自身を責めずにいられたのかなって今は思ってる」

 

 

「…恩人なんだね。姉さんにとっては。だったら今話してたことをそのまま伝えたら姉さんの気持ちは相手に伝わると思うけど…」

 

 

僕が思いついた案を伝えるが、姉さんは難しい顔をしながら項垂れていた。

 

 

「う~ん、どうかな…。ちょっと鈍感なところがあるから、私が好きって言っても告白としては受け取ってもらえなさそうな気がするんだよね」

 

 

「鈍感?」

 

 

「そう。周りの事には敏感なのに自分のことになると全然気づかないんだよ。だからさ、祐も一緒に告白の言葉を考えて欲しいなって」

 

 

「考えて欲しいと言われても…。僕だって告白なんてした事もされた事も無いから分からないよ」

 

 

「例えばでいいからさ。もし祐が告白されるならどんな言葉がいいか教えてよ」

 

 

姉さんからの相談に僕は告白の言葉を考える。恋愛としての好きを知らない僕にはどんな言葉を貰ったら嬉しくなるのか、伝えてくれた相手を恋としての好きになるのか全く想像がつかない。それでも姉さんの告白に少しでも力になれるようにと思って言葉を伝えた。

 

 

「「好きです」の一言で僕は十分嬉しいよ」

 

 

「本当に一言だね。寧ろその方がいいのかな…」

 

 

「ちなみに姉さんはどんな風に告白しようと今は考えているの?」

 

 

「う~ん、ちょっと待ってね…」

 

 

それを聞いた姉さんは腕を組みながら考え込んでいた。ここまで真剣に悩んでいる姉さんを見たのは初めてかもしれない。それほどその人のことが好きなのだろう。姉さんの気持ちが届くことを願いつつ答えが返って来るのを待つ。

 

 

「「ずっと前からあなたのことが好きでした。私と付き合って下さい」っていうのはどう?」

 

 

「なんか固いような、姉さんっぽくないというか、むしろダイヤさんに近いような気が…」

 

 

「え~!良いと思ったんだけどな~…」

 

 

僕の指摘に姉さんは更に頭を悩ます。

 

 

「僕はその人のことが分からないから、それでも伝わるんじゃないかな?」

 

 

「祐が納得してないようじゃ絶対伝わらない。はぁ~、やっぱり告白の言葉を考えるって難しいよ…」

 

 

「姉さんはどちらかというと考えるより先に動くタイプだからね……あっ、それだったら告白する時に言葉だけじゃなく身振りで伝えたら?それだったら姉さん大丈夫じゃないかな」

 

 

ふと浮かんだ案を僕は姉さんに提案した。言葉が駄目なら好きという想いを身振りで伝える方が相手も告白だと気づくと思うし、その方が姉さんは得意だから出来るかもしれない。

 

 

「身振りって言われても何すればいいの?」

 

 

「それはまぁ、姉さん自身で…」

 

 

案を出したのは良かったが、具体的なことは考えていなかった。でもこれは姉さんの告白だから本人が考えるべきだと思い、僕はそれ以上何も言わなかった。

 

 

「分かった。とりあえずは参考にしてみるよ。ありがとうね祐。それじゃあもう遅いから、私は部屋に戻るよ」

 

 

「告白、成功すると良いね。僕も応援してるから」

 

 

「…うん♪。じゃあお休み」

 

 

姉さんはそう言って自室に戻っていった。リビングで1人残ってる僕はさっきまで話していたことを振り返っていた。

 

 

「姉さんの好きな人って誰なんだろう…。Aqoursの皆は知ってたりするのかな?小学生の頃から一緒だったことは僕も会ってるような気がするけど…」

 

 

そう呟きながら姉さんの好きな人を考えてみたが、思い当たる人が全然見つからない。そうしているうちに時間はもうすぐ次の日を回ろうとしていた。

 

 

「駄目だ、全然思いつかない。もう寝よう」

 

 

考えるのを切り上げた僕は、部屋に戻ってすぐベッドに入って目を閉じた。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

祐より先に自室に戻った私は机にあるノート開いた。そこには私がずっと考えていた告白の言葉が書き並べられている。前に歌詞を書いていた時と同じように、いい言葉が浮かんだらノートに書き写す。それを続けていたらいつの間にかノートの1ページが告白の言葉で埋められてた。これでどうしたら貴方に想いが届くかを考えていたけど、今日の相談で貴方は私の好きな人が自分だと気づいていなかった。あの時はずっと貴方の話をしていたのに。でもこれで私の恋も終わる。そう思っていたのに何故か心のモヤモヤが晴れない。

 

 

どうして…?

 

 

貴方がまだ私の想いに気づいていないから?

 

 

言葉で伝えられていないから?

 

 

それとも私がまだ諦めきれていないから?

 

 

でも…、

 

 

「やっぱり私じゃ駄目なんだよ…」

 

 

そう言いながら開いたノートを閉じた。

 

 




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友達

雲の無い青空が澄み渡る休日、僕たちを乗せたバスがとある場所に向けて走っていた。だが、僕は行き先を聞かされていないため何処へ向かっているのかがわからない。隣に座っている企画者に聞くも、

 

 

「落ち着きなさいリトルデーモン0号。そんなに焦らずとも、目的の地まではあと僅かよ」

 

 

「…もうすぐ着くという訳ね」

 

 

とはぐらかされていた。事の発端は昨日の夜、いつもと同じく電話していた時の善子ちゃんの提案から始まった。

 

 

~~~昨日~~~

 

 

「ねぇ。祐は明日の予定とかもうあったりするの?」

 

 

「特にはないけど、どうかした?」

 

 

「それじゃあ・・・その・・・2人で遊びに行かない?//」

 

 

「遊びに?うん、いいよ」

 

 

「いいの!?」

 

 

「そんなに驚かなくても・・・。それで、何処に行くの?」

 

 

「それは…その…明日になったら教えてあげる!//じゃあお休み!//」

 

 

その言葉を最後に善子ちゃんとの電話は終了した。

 

 

~~~~~~

 

 

そして現在。バスに乗って数時間が経過した頃、目的地に着いたのか善子ちゃんが降りるボタンを押した。バスを降りてから更に歩くこと数分、ようやく目的地に到着したようだ。

 

 

「さぁ、着いたわよ。リトルデーモン」

 

 

「ここって…ロープウェイ?」

 

 

どうやら善子ちゃんが決めてた場所は、沼津より南に位置するとある滞在施設だったようだ。ここでは目の前にある山の山頂と僕たちが今いる山麓をロープウェイで繋いでおり、山頂に行くと富士山が綺麗に見えることから、遠くから観光客が来るほど人気の場所だ。それにしても、善子ちゃんが此処を選ぶのは意外だった。てっきりゲームセンターか黒魔術に関わるお店巡りをするのかと思っていたから。

 

 

「珍しいね。善子ちゃんがこの場所を選ぶなんて」

 

 

「フッ、このヨハネにも大空が恋しくなる時だってあるのよ。それじゃあ行くわよ!」

 

 

こうして善子ちゃんに腕を引っ張られながら僕は施設内へと入っていった。そんな2人を少し離れた位置から見守る影が2つ…。後をつける2人の声は僕たちの耳には届いていなかった。

 

 

 

 

 

「さてと、遂に始まったわよ。ユウと善子のデートが♪」

 

 

「これで少しは進展があるといいずらね…」

 

 

 

 

 

施設内に入った僕と善子ちゃんは山頂に向かうためのロープウェイに揺られていた。流石に山の頂上に繋がってるだけあって、乗ってまだ数分しか経っていないのに既に地上からは大きく離れている。こういった経験が少ない僕には新鮮な楽しさの半分、少しの緊張感を肌で感じていた。そんな僕を見て善子ちゃんはクスッと笑っていた。

 

 

「祐は初めてなの?ロープウェイ。最初に座った場所から動こうとしないけど」

 

 

「うん、こんなに高いところまで登ったことは一度もないから。窓から下を見たときはちょっと怖かったよ。そりゃ姉さんが行きたがらないわけだ」

 

 

「えっ?果南って暗い場所だけじゃなくロープウェイも苦手なの?」

 

 

「あっ…」

 

 

善子ちゃんとの会話の中で思わず口を滑らせてしまった。周りの人に自分の弱いところを見せたくない姉さんだから秘密にすべきことなのだろうなと思ってたけど言ってしまった。ごめんなさい、姉さん。

 

 

「ロープウェイというより、高いところから見下ろすのが苦手なんだよ姉さんは。山とか屋上なら大丈夫だけど、足元から下の景色が見える建物とか乗り物は無理だから、多分これに乗ったら僕と同じ体制になってると思うよ」

 

 

「なんか、私の中で果南の印象がどんどん変わっていくんだけど…」

 

 

「逆に善子ちゃんは姉さんにどんな印象を持ってたの?」

 

 

「ヨハネ。最初に会ったときはちょっと怖い先輩で、Aqoursで一緒になってからは面倒見の良くて体力が凄い先輩だったけど、さっきの話で可愛い年下みたいな先輩になったわよ」

 

 

「第一印象からがらりと変わったね。でも今ので合ってるよ。姉さんは子供っぽくて可愛いから」

 

 

すると善子ちゃんは一瞬だけ考える仕草をしたが、決心がついたかのように口を開く。

 

 

「…じゃあ、私は?」

 

 

「はい?」

 

 

「だから!祐は私にどんな印象を持ってたのか聞いてるの!//」

 

 

「善子ちゃんの印象か…」

 

 

そう問われて僕は初めて会った時のことを振り返る。

 

 

「第一印象というよりあの時は不安しかなかったよ。ぶつかっちゃった後、急にヨハネになるんだから最初は頭でも撃ったのかと思ってたし」

 

 

「なっ!?ヨハネを痛い子だと思ってたわけ!?」

 

 

「そういう訳じゃないよ。でもそれから電話とかで話していくうちに堕天使が好きなのはよくわかったし、動画配信でヨハネとして生き生きとしてる善子ちゃんを見て、「あぁ、この子は自分の好きなことに噓をつかないんだな」と思った。だから、今の印象は正直で真っ直ぐな子かな」

 

 

僕が思っている今の印象を伝えると、善子ちゃんは嬉しかったのかヨハネとして気高く振る舞う。

 

 

「流石リトルデーモン0号。このヨハネのことをよく分かってるわね♪」

 

 

「…そういうところが善子ちゃんの可愛いところだけどね」

 

 

すると、さっきまでの元気なヨハネとは一変、急に顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「善子ちゃん大丈夫?」

 

 

「大丈夫よ。ちょっとね・・・//」

 

 

「もしかして乗り物酔い?」

 

 

「違うわよ!」

 

 

「じゃあどうしたのさ?」

 

 

「あ〜もう!少しは察しなさいよ//!この鈍感野郎〜!」

 

 

そう言いながら善子ちゃんは隣に座って僕の左肩を強く叩き続ける。

 

 

「痛い痛い!ごめんって善子ちゃん!悪かったから!」

 

 

僕の謝罪の言葉も虚しく、善子ちゃんの攻撃はロープウェイが頂上に登りきるまで続いた。

 

 

 

 

 

一方、僕達の乗ってる台とは違う次の台では後ろを付いて来ている2人が乗っており、前にいる僕達を観察していた。

 

 

「見て、花丸。善子がユウの隣に座ってアピールしているわよ。善子もやれば出来るじゃない♪」

 

 

「あれはアピールしているのかな?マルにはいつもの祐さんの無自覚な言葉に動揺している善子ちゃんにしか見えないずら。それに、祐さんも気づいてなさそうだし」

 

 

「そうなの?はぁ〜、全く…少しは感づきなさいよね〜もう!」

 

 

鞠莉さんはそうふてくされつつも手に持ってる双眼鏡を再び目に当てて観察を再開した。

 

 

 

 

 

「着いたわよ。リトルデーモン」

 

 

「まさか頂上に到着するまで善子ちゃんに肩を叩かれ続けるとは思わなかったよ・・・」

 

 

「ヨハネよ。確かに私も少しやり過ぎてしまったわ。ごめんなさい」

 

 

「別に大丈夫だよ。それよりも凄い景色だね」

 

 

僕はそう言いながら辺りを見回していた。ロープウェイから降りると目富士山や駿河湾を始めとした静岡の景色が広がっており、下を見下ろしてみると僕の家がある淡島や沼津の港が小さく見えていた。

 

 

「そうね。ヨハネも初めてここに来たけど、今日が晴れていて本当に良かったわ」

 

 

「善子ちゃんも初めてだったの?」

 

 

「えぇ。どこに行こうか迷ってた時に鞠莉が教えてくれたのよ」

 

 

「そうだったんだ。じゃあ鞠莉さんに感謝だね」

 

 

そんな会話をしていると施設内の従業員がこっちにやって来た。

 

 

「そちらのカップルのお二方。もし宜しければ記念に写真などいかがですか?」

 

 

「カ、カップル!?」

 

 

「記念写真か~。善子ちゃんはどうする?」

 

 

「私と…祐が…カップル…//!。つまりリア充…ってことは今はデート中…クックック…」

 

 

従業員からの記念写真のすすめに何故か動揺している善子ちゃんにどうするか尋ねるが、いつのまにか一人の世界に入っていたのでこちらの声は全く聞こえてはいないようだった。

 

 

「彼女さん…大丈夫ですか?」

 

 

「多分…大丈夫だと思います。ほら善子ちゃん、そろそろこっち側に戻ってきて」

 

 

そう言いながら僕は善子ちゃんの両肩を揺らした。すると暫くしてようやく善子ちゃんは自我を取り戻した。

 

 

「…はっ!?ヨハネはいったい何を!?」

 

 

「自分の世界に入り込んでた。それでどうするの写真は?」

 

 

「写真?あぁ、確か記念写真だったわね。じゃあ撮りましょ」

 

 

こうして富士山をバックに記念写真を撮ってもらい、従業員とはここで別れた。出来上がった写真は下山時に渡すとのことなので、それまで園内を見て回ることにした。

 

 

まず最初に向かったのは頂上に着いてすぐ近くにある茶店。そこでソフトクリームを買った僕たちは近くのテーブル席に座って目の前の富士山を眺めていた。

 

 

「のどかねぇ。こんな絶景を前にしてソフトクリームを食べる、至福のひと時だわ…。ところで祐は何味のソフトクリーム食べてるの?」

 

 

「僕のは抹茶味。食べてみて美味しかったから今度ダイヤさんに勧めてみようかな」

 

 

「そんなに美味しいの…?ヨハネも一口欲しいな~…」

 

 

「一口欲しいの?じゃああげるよ」

 

 

「ありがとっ、リトルデーモン♪」

 

 

欲しがるように僕のソフトクリームを見ていたので、一口上げることを提案したら善子ちゃんは笑顔で感謝の言葉を伝えてきた。よっぽど嬉しかったのかな。とりあえずはソフトクリームをあげるべく、持ってるスプーンで一口分すくって善子ちゃんに近づける。すると善子ちゃんは驚くように動揺した。

 

 

「ちょっと何してるのよ//!?」

 

 

「だって善子ちゃんが一口欲しいっていうから…」

 

 

「それは言ったけど、なんで祐がスプーンを持って近づくのよ!ヨハネに渡せばいいだけじゃない//!」

 

 

「そういうものなの?普段は食べないものを食べるときはいつも姉さんがさっきの善子ちゃんみたいに欲しがる仕草をしてたからてっきり」

 

 

「あ~もう//!果南のバカ~~~!!」

 

 

どうしてそんなに怒っているのか分からないが、善子ちゃんの叫び声は富士山の方向へ飛んで行った。そしてようやく落ち着いたので、ソフトクリームが溶けるまでに確認をする。

 

 

「…結局いるの?ソフトクリーム」

 

 

「………いる//」

 

 

顔を赤くしながらも善子ちゃんは一言頷いたので、もう一度ソフトクリームをあげる準備をする。どうやら姉さんとのやり取りだと怒るみたいだから、次はすくったスプーンをそのまま渡すことにした。

 

 

「はい、落とさないでね」

 

 

「………さっきみたいに」

 

 

「えっ?」

 

 

「…さっきと同じように…頂戴//」

 

 

善子ちゃんから意外な答えが返ってきた。さっきそれで怒っていたのに急にどうしたのかな。ますますわからなくなってきたが、そうして欲しいというので同じようにスプーンを近づける。

 

 

「はい」

 

 

「あ~ん…//」

 

 

「…どう?」

 

 

「…美味しい(正直、味がわからない。だってさっきのはリア充がするやつ…//。それを私と祐が…//!)」

 

 

「気に入ってくれたようで良かったよ」

 

 

それから僕達は茶店でもう少しくつろいだ後、「この園内で行きたいところがある」と顔の赤さがなくなった善子ちゃんが言うので茶店を出てその場所に向かうことにした。

 

 

 

 

一方、後ろから観察をしている2人は先程のやり取りを見ていてあきれていた。

 

 

「善子へ一口あげるのを恋愛の自覚なしで出来るのは男の子の中でもアイツだけじゃないかしら…」

 

 

「ここまでくると、ある意味祐さんは凄いずらね。あっ、このお店のおはぎ美味しいずら~」

 

 

「ホントどうやって普段過ごしてたらあんな事を平然とやれるのよ」

 

 

「さっきの会話を聞いてみたら、果南ちゃんとよくやってるみたいずら」

 

 

「一体何をしてるのよ果南は。私やダイヤの知らないところで」

 

 

「そういえば鞠莉ちゃん。どうして善子ちゃんにこの場所を勧めたずら?祐さんと一緒に遊ぶだけなら他にもあったはずだよね?」

 

 

「それは後でわかるわよ。ほら、あの2人が動いたわ。追いかけるわよ、花丸」

 

 

「待つずら!まだマルのおはぎが残ってるずら~!」

 

 

再び尾行を再開する鞠莉さんに花丸ちゃんは急いでおはぎを食べ終えて追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

茶店を出た僕達は善子ちゃんの行きたい場所がある園内の奥地へと向かうために木々が生い茂る遊歩道の中を歩いていた。さっきまで見ていた富士山が見える開放的な景色とは一変、中は紅葉の木で真っ赤に染まっていて、まるで別世界に辿り着いた感覚になっていた。

 

 

「紅葉が綺麗だね。他の季節の時に来たら見え方も変わったりするのかな」

 

 

「季節が変われば葉の色も変わるんだから。でも、この景色はずっと見ていたいわね…」

 

 

「そうだね。…そういえば、今思い出したんだけど」

 

 

「どうしたのよ?」

 

 

真っ赤な空間内を進み続けていた時に、ここに来てから気になってたことを思い出す。

 

 

「…今の僕達って周りからカップルだと思われている?」

 

 

それを聞くと善子ちゃんは足を止めて怒っているのか、それとも照れ隠しをするかのような表情をしていた。

 

 

「今更何を言っているのよ!頂上に着いた時からずっと思われてたわ//!」

 

 

「そうだったんだ。なんかごめんね。勘違いさせちゃったみたいで」

 

 

「なんで謝るのよ。別に気にしていないし」

 

 

「だって今日の善子ちゃん。ちょっとぎこちなかったような気がしたから大丈夫かなと思って」

 

 

「…私は平気よ」

 

 

そう言って遊歩道を抜けると小径が続いており、善子ちゃん曰く行きたい場所はこの先らしいので、また歩くのを再開する。木漏れ日が照らす小径には僕達しかいないので、まるで陽射しが歓迎するかの如くこの先の道を照らしていた。

 

 

「それにしてもカップルというのは今日の僕達みたいな感じのことを言うんだね。初めて知ったよ」

 

 

「何よそれ。羨ましくなった?」

 

 

「そういう訳じゃないよ。ただ、僕にはきっと出来ないだろうなと思っただけ」

 

 

「…どういうこと?何が出来ないのよ?」

 

 

「恋愛として人を好きになることがだよ。今日の僕達を周りからはカップルに見えてたみたいだけど、僕自身は普段と変わらず友達と遊びに来たような感覚だったから違いが全くわからないんだ」

 

 

僕は歩きながら今感じている不安を口に出す。偶然なのかもしれないが、ここ最近は恋愛の話題をよく聞いているような気がしていた。最初は水族館での鞠莉さんとの会話。次は姉さんからの相談。それによって僕自身も恋愛について考える機会が増えていった。いつかは姉さんみたいに好きな人で悩んだりすることもあるのかなって。でも、どれだけ考えても恋愛の好きと友達の好きの違いが分からなかった。友達以上の関係が恋愛というみたいだが、そうなる転機が今のままだとずっと気づけないから、そのことを考えていると僕は皆とはずれていておかしいのかなと思う時があった。

 

 

「僕の中ではカップルと友達が同じ意味だと思っているから。それっておかしいことなのかな?」

 

 

「別におかしくないわよ」

 

 

僕が話した不安を善子ちゃんは一瞬で否定した。

 

 

「それってただ祐が恋愛で好きな人がまだいないだけでしょ。気にすることないじゃない」

 

 

「そういうもんなの?」

 

 

「そういうもんよ。…っていうか絶対に分からせてやるわ」

 

 

「…分からせる?」

 

 

「なんでもない。ほら、着いたわよ」

 

 

そう言って善子ちゃんが歩く足を止めた。僕も立ち止まって前を見ると、そこには最初に見た富士山を背景に鐘が建っていた。よく読んでみると、「幸せの鐘」と下に書いてあった。

 

 

「幸せの鐘?」

 

 

「そう。この鐘を鳴らすと幸せが訪れると言われているの」

 

 

「ここが善子ちゃんの行きたかった場所なんだ。どうして行きたかったの?」

 

 

「…必勝祈願よ。ヨハネの祈りが地区大会に勝利をもたらす!」

 

 

「必勝祈願は神社だけどね」

 

 

「うるさい!とにかく鳴らすわよ!」

 

 

そう言いながら善子ちゃんは鐘の前に立つ。せっかく来たので僕も後で鳴らそうと順番を待っていると、善子ちゃんが僕に向けて謎の手招きをしていた。鐘は1人でも鳴らせるはずなのだが、

 

 

「何してるの?。こっちよ」

 

 

「こっち?」

 

 

「いいから早く」

 

 

「善子ちゃんが1人で鳴らすんじゃないの?」

 

 

「これ以上言わせないでよ//!2人で鳴らそうって言ってるの//!」

 

 

「そういう意味だったの?言ってくれればよかったのに」

 

 

「言えるか!」

 

 

善子ちゃんは本音を伝えると、少しずつ顔が赤くなっていった。最初は何をしているのかわからなかったが、ようやく僕も意図が理解できたので善子ちゃんの隣に並び、鐘に着いてある紐を2人で手に取った。後は鳴らすタイミングを待っていると善子ちゃんが今日の感想を聞いてきた。

 

 

 

「ねぇ祐。今日は楽しかった?」

 

 

「楽しかったよ。ロープウェイはちょっと怖かったけど、山頂を散策するのは新鮮で気持ちよかった。誘ってくれてありがとう」

 

 

「別にお礼なんていいのよ。私だって楽しかったし」

 

 

善子ちゃんが楽しかったと言って僕は一瞬驚いた。最初のロープウェイや昼のソフトクリームでの僕の素行に対して怒っているような感じがしていたけど、その言葉が返ってきたのは意外だった。

 

 

「そうなの?カップルと勘違いされたときは凄く動揺していたからてっきり嫌なのかと」

 

 

「嫌な訳ないでしょ!むしろ…嬉しかった。2人で来ることができて//。祐こそどうなのよ。私と付き合ってると勘違いされて嫌じゃなかった?」

 

 

「僕も嫌じゃなかったよ。一緒にいて楽しかったけど、不思議な感じがしてね。この時間がもう少し続けばいいのになと思ってたらなんだかいつもの友達とは違う感覚がしたんだ。どう言葉にしたらいいのかわからないけど」

 

 

「なによそれ。言葉に出来ないんじゃヨハネにもわからないわよ」

 

 

「そうだね。でも悪い意味じゃないから。だからさ、もし善子ちゃんが嫌じゃなかったらまた誘ってほしいな」

 

 

「…!?//、もちろんよ!。次のヨハネの旅に必ずついてきなさい!リトルデーモン0号!」

 

 

そう言って善子ちゃんは照れ隠しをするかのように持っていた紐を急に後ろへ引っ張る。一緒に持っていた僕の手は振り回されるような形になってしまったが、結果的に2人で鳴らした鐘の音は山頂から富士山へ飛んでいった。そして時刻は閉園時間を迎えて僕達は降りのロープウェイに乗って山頂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「…結局、今日のデートは大成功だったずら?」

 

 

「どうかしら。それは2人にしか分からないわね」

 

 

「そういえばさっき調べたけど、ここって「恋人の聖地」と呼ばれているずら。だから鞠莉ちゃんはこの場所を善子ちゃんに教えたんだね」

 

 

「Correct!!前に善子から相談されてね。「ユウと遊びに行きたいけど何処かいい所ないか」ってね」

 

 

「善子ちゃんも随分積極的になってきたずらね」

 

 

「そうね、善子は十分頑張っているわ。後はユウが気付くだけよ。善子の気持ちに。そして、自分の本心に」

 

 

 

 

 

麓に向かって降りるロープウェイ内では、海に沈んでゆく夕日を眺めている僕とその隣ですっかり眠っている善子ちゃんの姿があった。最初は眠らないように必死にこらえていた善子ちゃんだったが、睡魔には勝てずにやがて眼を閉じてしまい、本人は気づいてないだろうが僕の肩に寄りかかる形で眠ってしまった。

 

 

「よっぽど楽しかったのかな…。とりあえず今日はお疲れ様」

 

 

僕は眠っている善子ちゃんを起こさないよう静かな声でそう呟いた。それから暫くすると眠りが深くなったのか、善子ちゃんから寝言が聞こえてきた。

 

 

「祐………好き………」

 

 

その言葉を聞いて僕は今日に起きた不思議な感覚をまた感じていた。善子ちゃんとは中学時代からの友達。今まではそれが変わらず続いていくのだろうと思っていたけど、今日だけは違っていた。いつもと同じように接して遊んでいただけなのに、僕が今日見ていた善子ちゃんはいつもの友達とは違う、異性としてみていたのかも知れない。でも、どうしてそう見えてしまったのかわからない。もし理由があるとするならば、それは善子ちゃんのことが…、

 

 

「まさかね…」

 

 

僕はその先を考えるのを止めた。きっとなにかの勘違いだろうと割り切って窓の外から見る景色に目を背けた。そんな僕の隣で善子ちゃんはまだ目を覚まさずに眠り続けていた。寄りかかっている方の僕の手を握りしめたまま。それに僕は気づかないままロープウェイは麓まで降りて行った。下山後に貰った写真には僕と善子ちゃんの笑顔がツーショットで写っていた。それはまるで今日のデートを楽しみにしていたカップルのように。




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過去の記憶

 

 

「来年度の浦女の入学希望者ですが、数は先月の50人から7人増えて現在は57人です」

 

 

「57人…」

 

 

パソコンの画面に表示されている数を見ながら僕は生徒会室にいる3年生達に伝えた。

 

 

「そんな…。この一か月で10人も増えていないというのですか!?」

 

 

「鞠莉のお父さんに言われた期限まで後一か月もないんだよね」

 

 

入学者数を聞いて姉さんとダイヤさんは動揺していたが、鞠莉さんは一切動じずに窓の外を見ていた。

 

 

「そう。だから私たちで学校をアピールするのはもうラブライブ地区予選のみ。そこで出来なければ、後はNothingデース…」

 

 

「ってことは地区予選が浦女存続の…」

 

 

「Yes。Last Chance…」

 

 

鞠莉さんがそう言うと地区予選への緊張や不安のせいか、生徒会室は暗い雰囲気に覆われていく。僕は他に出来ることはないかと考えていたが、残り一ヶ月で50人以上の入学希望者を集める方法はそう簡単には思い浮かばず、ただ刻々と時間だけが過ぎていった。

 

その夜、夕食を終えた僕と姉さんはお互いが自室に戻る時間になるまでテラスの椅子に座って一息ついていた。僕は読書で姉さんは練習ノートを開いて見ていると、唐突に姉さんが僕に尋ねてきた。

 

 

「ねぇ祐。今のAqoursは地区予選を突破出来ると思う?」

 

 

「また急にどうしたのさ…。僕は地区予選だけじゃなくラブライブも優勝できると思っているけど。姉さんは不安なの?」

 

 

「私は…ちょっと不安だな。今日の練習で皆が話していた決勝進出の決め方を聞いてね。ほら、浦の星は他校と比べて生徒数では圧倒的に不利だし。でも、その状況を乗り越えるためには今まで以上の私たちを披露しないといけないのかなって。歌とかパフォーマンスで」

 

 

「なるほど…。だからそのノートっていうこと?」

 

 

僕はそう言って姉さんが持っている練習ノートに目を向けた。それにはAqoursが3人だった頃の練習内容が書かれてあり、ダンスのフォーメーションや振り付け、他には練習のスケジュールなどが主な内容だった。当時は練習する時に姉さんはずっと持ち歩いていたが、例の件があってからは一度も外には持ち出さずにずっと部屋に置きっぱなしのままだった。何故ならそのノートに書かれてある振り付けは、

 

 

「…姉さんはもう一度挑戦するの?あの時できなかったパフォーマンスを」

 

 

僕は恐る恐る姉さんに尋ねる。あの時というのは、姉さんが東京で棄権した時に披露するつもりだったダンスのことだ。だがその内容はとても難しく、鞠莉さんが練習中に足を怪我してしまうほどのハードな内容だった。僕としてはあまりに危険なので、出来れば避けてほしいと思っていると、

 

 

「大丈夫だよ。そんなに心配しなくても私はするつもりないから。これを持っているのも鞠莉とダイヤでスクールアイドルしてた時の練習スケジュールを参考にして次の練習メニューを作るだけだから」

 

 

と言って姉さんは僕を安心させるかのように笑顔で応える。でもそれを見ても安心するには至らなかった。だって僕に向けてきた姉さんの笑顔が、まるで自身の迷いを隠すように見えていたから。そう思っていると、家の前の街灯に照らされた夜道の奥から鞠莉さんとダイヤさんがやってきた。

 

 

「懐かしいわね。まだ持ってたんだ…それ」

 

 

鞠莉さんは姉さんの持っているノートを見つめる。その視線に気づいた姉さんは鞠莉さんが次に話す言葉を察したのか、素っ気ない声で尋ねる。しかし鞠莉さんはそれを見越していたかのように言葉を返す。

 

 

「まさか、やるなんて言うんじゃないよね」

 

 

「まさか、やらないとか言うんじゃないよね」

 

 

返ってきた問いを答えなかった姉さんに鞠莉さんとダイヤさんは説得を試みる。

 

 

「状況は分かっているんでしょう?それに掛けるしかない」

 

 

「今回は、私も鞠莉さんの意見に賛成ですわ。学校存続のためにやれることはやる。それが生徒会長としての義務だと思っておりますので。それにこれがラストチャンスですわ」

 

 

「…掛けることなんて私には無理だよ。これは出来ないことだから」

 

 

「そんなことない。あの時ももう少しだった。もう少しで…!」

 

 

「でも出来なかった。それをやって鞠莉は足を痛めて、私は…祐に迷惑をかけた」

 

 

姉さんはそう言いながら僕に目を向ける。

 

 

「もうこれ以上、私のせいで誰かが傷ついて欲しくないし、祐にも心配かけたくないんだよ」

 

 

「あの怪我は私がいけなかったの。果南に追いつきたいって頑張りすぎたせいで」

 

 

「僕も迷惑をかけられたなんて思ってないよ。ちょっと心配はしていたけど」

 

 

「祐さんはどうお考えですの?」

 

 

「…正直に言って反対ですよ。僕も姉さんと同じで誰も傷ついて欲しくないですし。それにあの頃の姉さんの辛い顔はもう二度と見たくありませんから」

 

 

ダイヤさんに尋ねられた僕は2人の意見とは違って姉さんの意見を尊重した。確かにパフォーマンスが成功すれば地区予選を突破する確率が更に上がるかもしれない。でもそれはとても難しく、過去に失敗した記憶もあることから素直に賛成することは出来ない。そして僕が一番恐れているのは失敗した後のことであり、以前に3年生で挑戦したときはすれ違いが続いて3人が離れ離れになってしまい、もう一度集まるまで約2年の月日が経ってしまった。離れ離れになっていた時の姉さんが自分自身を責めている姿は今でも僕の脳裏には離れずに残っている。そんな姉さんの姿を見ないようにするためにも、僕は姉さんが反対をしている限りは同じ意見でありつづけようと決めていた。

 

 

「果南もユウも大丈夫よ。以前は3人だったけど、今回は千歌っち達もいる」

 

 

「そうですわ。今は9人で私達だけではないのですよ」

 

 

「…駄目、駄目だよ。届かないものに手を伸ばそうとして、そのせいで誰かを傷つけて、それを千歌達に押し付けるぐらいなら、こんなの…!」

 

 

そう言って姉さんは持っているノートを目の前の柵の向こうに広がる海へ向けて投げ捨てた。するとそれを追いかけるようにして鞠莉さんは柵を越えて海に向かって飛び込んでいった。

 

 

「鞠莉!」

 

 

予想外の行動に驚いた姉さんとダイヤさんは柵に手を付けて海を見回していると、近くの桟橋から水しぶきが上がり、そこには先ほど海に落ちた鞠莉さんが顔を出していたため僕は急いで桟橋に向かった。

 

 

桟橋に着くと、鞠莉さんが海上で手をあげながら救助されるのを待っており、その手には先ほど姉さんが捨てたノートが握られていた。

 

 

「はぁ…全く、ヒヤヒヤしましたよ。急に海に飛び込むなんて」

 

 

「Sorry。でも私にとっては大切なものだから。それより上がれないから手を貸してくれない?」

 

 

鞠莉さんはそう言いながらもう片方の手を僕に向けて伸ばした。僕はやれやれと思いつつ海水で濡れた鞠莉さんの手を掴む。するとその瞬間、突如として恐怖心を思わすような寒気が僕に襲いかかる。まるで過去のトラウマを思い出すかのように僕の脳裏には記憶喪失になる前の事故で船と共に溺れていく自分自身が浮かび上がっていた。何度振り払おうとするも、払った分だけまた同じ場面が浮かび、やがてそこに映る自分と同じように意識が溺れようとすると、

 

 

「…ユウ?」

 

 

海から引き揚げられるのを待ってる鞠莉さんが僕の名前を呼ぶ。すると意識が自分自身から鞠莉さんに逸れてようやく我に返ることができた。

 

 

「はっ!?、…ごめんなさい。少しボーっとしていました。じゃあ引き揚げますよ」

 

 

僕は掴んでいた手を上にあげて鞠莉さんを地上に引き揚げる。その後テラスへ戻るとダイヤさんは安堵のため息をついていたが、姉さんはさっきの行動に申し訳なさを感じているのか、鞠莉さんと目を合わせようとせずにうつむいたままだった。それを見て鞠莉さんは姉さんの目の前に立つ。

 

 

「鞠莉…」

 

 

「否定しないで、あの頃のことを。私にとっては大切な思い出。だからこそやり遂げたい。あの時夢見た私達のAqoursを完成させたいの」

 

 

そう言って鞠莉さんは持ってるノートを姉さんに渡してダイヤさんと一緒に帰っていった。2人の背中を見届けた僕は先程の桟橋の出来事もあってか少し身体が重く感じていたので、先に部屋に戻ることにした。

 

 

「僕はそろそろ部屋に戻るけど、姉さんはどうする?」

 

 

「…私はまだここにいるよ。もう少しだけ星を見ていたいから」

 

 

姉さんの返答を聞いた僕は最後に「お休み」とだけ伝えて逃げるように家に入る。何故なら過去のトラウマを思い出したせいか、鞠莉さんの手を握ってから時間は経っているのに未だ手の震えが止まっていなかったから。更にそれを見られて今の姉さんに心配をかけたくなかったから。部屋に戻った僕はすぐさまベッドに入って今日の出来事を忘れるために早めに眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

祐が部屋に戻ってから私は一人、天体観測のつもりで夜空の星を眺めていた。でも、どれだけ星を見ても、さっきの一連の出来事が頭から離れない。今日の練習で皆が地区予選の決勝について話していた時に鞠莉は絶対このノートに目を付けるとはわかっていたけど、まさかダイヤまで鞠莉に賛成しているとは思わなかったな。2人は届かなかったものにもう一度手を伸ばそうとしている。その姿を隣で見ている私にはとてもまぶしかった。

 

 

「鞠莉とダイヤは凄いな。あの時の失敗を恐れずにもう一度挑戦しようしているんだから。それに比べて今の私にはとてもできないよ。自分の本心すら伝えることのできない私には」

 

 

口から思わず漏れた自虐的な呟きは誰にも聞かれずに夜の暗闇へと消えていく。

 




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臆病者

昨晩の話し合いから夜が明けた次の日の夕刻。もうすぐ海に夕日が沈もうとする中、僕は帰り道にある桟橋から浜辺で自主練習をする千歌ちゃんの姿を眺めていた。そして千歌ちゃんが今やっているのは昨晩の話し合いの要因でもある姉さん達が過去に出来なかったダンスの練習だった。どうして千歌ちゃんがこのダンスをやっているのか、事の発端は数時間前に遡る。

 

 

~~~~~~

 

 

「Aqoursらしさって何だろう…?」

 

 

「Aqoursらしさ?」

 

 

休憩を終えて午後の練習を始めるときに千歌ちゃんが呟いた。

 

 

「うん。私達だけの道を歩くってどういうことだろう?私達だけの輝きってなんだろう?それを見つけることが大切なんだってラブライブで分かったんだよ。でもそれが何なのか言葉にできない。まだ形になってない。だから形にしたい。形に!」

 

 

その言葉を聞いた僕はふと昨日の姉さんとの会話が浮かんだ。あの時姉さんが予選に不安を覚えていたのはきっと千歌ちゃんの言うAqoursらしさが形になっていなかったからだろう。そう考えていると、ダイヤさんが好機とばかりに姉さんと僕に話を振った。

 

 

「このタイミングでこんな話が千歌さんから出るなんて運命ですわ。果南さん、祐さん。あれ、話しますわね」

 

 

「えっ!?でも、あれは…」

 

 

「ちょっとダイヤさん待ってくだ…」

 

 

「なに?それ、何の話?」

 

 

動揺する僕たちをよそに千歌ちゃんはダイヤさんに尋ねる。

 

 

「2年前、私達3人がラブライブ決勝に進むために作ったフォーメーションがありますの」

 

 

「フォーメーション?」

 

 

「そんなのがあったんだ!すごい!教えて!」

 

 

千歌ちゃんの声は内容を聞く前からやる気に満ち溢れていて今にもそのフォーメーションの練習を始めようとする勢いだった。だが、もしそれで鞠莉さんみたいに怪我をしてしまったらと思うと、僕はまだ賛成することができないし、姉さんもノートをすぐには渡せない。

 

 

「でも、それをやろうとして鞠莉は足を痛めた。それに皆の負担も大きいの。今そこまでしてやる意味があるの?」

 

 

「なんで?今そこでしなくていつするの?最初に約束したよね。精一杯あがこうよ!ラブライブはすぐそこなんだよ!今こそやって、やれることは全部やりたいんだよ!」

 

 

「千歌ちゃんの気持ちもわかるけど、怪我をしたら元も子もないんだよ?予選に出られなくなってもいいの?」

 

 

「…それに、これはセンターをやる人の負担が大きいの。あの時は私だったけど、千歌にそれが出来るの?」

 

 

「大丈夫!やるよ、私。絶対にやって見せるから!」

 

 

「千歌…」「千歌ちゃん…」

 

 

千歌ちゃんの決意に押されて僕と姉さんは名前を呟くことしかできなかった。きっと今の僕たちでは千歌ちゃんを止めることができない。

 

 

「決まりですわね。あのノートを渡しましょう。果南さん」

 

 

「今のAqoursをBreakthroughには必ず超えなきゃいけないWallがありマース!」

 

 

「今がその時かもしれませんわね」

 

 

「…言っとくけど。もし危ないと判断したら、私はラブライブを棄権してでも千歌を止めるからね」

 

 

「待って姉さん!、…本当にそれを渡すの?」

 

 

観念してノートを渡そうとしている姉さんに僕は思わず口を挟む。

 

 

「…ごめんね、祐。また心配かけるけど」

 

 

そう言って姉さんは千歌ちゃんにノートを渡した。

 

 

 

~~~~~~

 

 

そして現在、千歌ちゃんは全員での練習が終わってからも一人でダンスの練習をしていた。しかし完成には程遠く、挑戦をするたびに千歌ちゃんの身体に絆創膏が増えていくような状態だった。このままだと千歌ちゃんの身体が壊れてしまうかもしれない。そう思うと今からでも止めたくなるが、姉さん達もフォーメーションに合わせた練習をしているし、何より千歌ちゃんの決意を思い出すと出来なかった。一体姉さんはどんな気持ちで千歌ちゃんに渡したのだろうか?。そう考えていると鞠莉さんがやってきた。

 

 

「千歌っちが心配?」

 

 

「それはそうですよ。もし怪我なんかしたら…」

 

 

「大丈夫よ。千歌っちなら必ずやり遂げてくれる。だからそれを信じましょ」

 

 

信じる…か。違うフォーメーションの練習だとそう思えたかもしれないが、今挑戦しているのは過去に失敗したという事例がある。だから千歌ちゃんには悪いけど、今の僕には成功する姿が想像できなかった。

 

 

「…無理ですよ、信じるなんて。鞠莉さんも挑戦して怪我をしたじゃないですか。だからあのフォーメーションは昨日の姉さんが言った通り。出来ないことなんですよ」

 

 

「私が出来なかったことは千歌っちには関係ないでしょ?初めから失敗することを考えたら何も成功しないよ」

 

 

「前に失敗した例がある以上、そう考えてしまいますよ」

 

 

「どうしてそんなにネガティブに考えるの?ラブライブ優勝を目指すなら高い壁を乗り越えることが今のAqoursには必要だと思わない?」

 

 

その意見に僕は少しだけ納得をした。でもそれなら危険を冒してまでアレを選ぶ理由はない筈だ。どうしてそこまでするのか僕には分からない。

 

 

「高い壁を乗り越えることは良いことかも知れません。でもその壁をあのフォーメーションにしなくてもよくないですか?リスクが高すぎますよ…」

 

 

「…そんな弱音が出るなんて驚きね。以前の貴方は不安になっている私たちを後押ししてくれていたのに。昨日だって私はてっきり貴方も一緒に果南を説得してくれると思っていたのよ」

 

 

「東京で歌わずに帰ってきた姉さんを見た僕がもう一度説得すると思いますか?あの時の姉さんの自分自身を責める姿をもう見たくないから僕は反対しているんですよ」

 

 

「でも果南は千歌っちにノートを渡した。それはつまり、果南は千歌っちが成功すると信じているということになるわね」

 

 

僕の反論する口は止まった。それは今の僕が一番知りたいことであって、今の姉さんの心境が分かっていないから言葉を返せなかった。そんな僕の横を通り過ぎていく鞠莉さんはすれ違いざまに呟く。

 

 

「私達は精一杯足掻きながら前に進んでいるの。貴方だけよ。過去にとらわれて前に進んでいないのは」

 

 

去り際の鞠莉さんの言葉は今の僕の状態を的確に表していた。そんなはずはないと否定したかったが、昨日の僕を思い返すとそう言われてもおかしくはなかった。初めはAqoursが9人になって姉さんからのお願いを受け入れた時は僕も前に進めたと思っていた。しかしそれは錯覚であり、本当はまだ立ち止まったままで動いてなどいなかった。姉さん達ばかりに前へ進ませようと後押ししていたくせに、僕自身は一度も前に進もうとしない臆病者だ。でも今はそれでもいいと思っている。危険な道を歩いて全てが駄目になるくらいならその不安がなくなるまで立ち止まった方が誰も傷つかずに済む。もしそれが駄目だというのなら…、

 

 

「だったら教えてくださいよ。この不安から抜け出せる方法を…」

 

 

僕は去りゆく鞠莉さんの背中を見ながら一言呟いた。

 

 

 




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嫌な思い出

~~~~~~

 

 

「はぁ…、はぁ…」

 

 

気づけば見知らぬ砂浜を走っていた。目指すは遠くに見える高台。だが後ろから大きな津波が砂浜を呑み込もうと追いかけてくる。僕は津波から逃げるべくがむしゃらに走る。しかし、どれだけ走っても高台にたどり着かない。やがて津波は砂浜ごと僕を飲み込んだ。

 

 

「苦しい…!息が…できない…!」

 

 

全身が水の中へと沈んだ僕は消えていく意識の中で必死に手を伸ばす。誰かがこの手に気づいてくれることを願って。だが僕の祈りが届くことはなく僕の体は底へと沈んでいった。

 

 

~~~~~~

 

 

「はっ!?…夢か」

 

 

放課後の生徒会室で僕は目を覚ます。ラブライブ予選決勝の練習を始めて一週間が経過し、予選まであと二週間を切ろうとしていた。Aqoursの皆が体育館で練習をしている中、僕は1人生徒会室で仕事をしていたのだが、いつの間にか机に突っ伏して眠ってしまっていたようだ。いつもならダイヤさんと一緒に作業をしているが、今回は予選も近いので練習に集中してもらうべく…というのは建前で本音はここ最近悩むことが増えて1人になる時間が欲しかったからダイヤさんには僕の建前を理解して皆との練習に参加してもらっていた。

 

 

「とりあえず終バスまでに書類だけは整理しないと」

 

 

寝ぼけつつも体を起こそうとすると机に触れていた手から寒気を感じた。恐る恐る手元をよく見てみると手から水滴が落ちていた。更に水滴が落ちた机に視線を移すと机全体が水浸しになっていた。すると脳裏には数日前に鞠莉さんの手を掴んだ時にも見たトラウマが再度浮かび上がり、またあの時と同じように水に溺れていく自分自身で埋め尽くされていく。やがて意識が溺れようとしていくなか僕はこの記憶から抜け出すべく、朦朧としながらも目の前にある水浸しの机を前へ蹴り倒して生徒会室の壁際まで離れる。机が倒れる音が響いて誰か来るかもという不安はあったが、幸い放課後であったため誰も様子を見に来ることはなかった。

 

 

「はぁ…、はぁ…なんで机が水浸しに…?」

 

 

荒くなった呼吸を整えながらあたりを見回す。すると机があった場所に空のペットボトルが転がっていた。たしか生徒会室に入る前に買った水だが眠ってしまう前にはまだ中身があったはずだが、それが空ということは…、

 

 

「なんだ。水が零れていただけか…」

 

 

原因が分かるとさっきまで気を張っていた緊張が急に解けて安堵の息を漏らしながらその場に座り込む。脱力した状態で両手を見てみると、数日前と同じく手が震えていた。最初は海水に触れたことによるフラッシュバックで手が震えているのかなと思っていたのだが、次の日から僕の手は海水だけでなく蛇口の水道水や飲料水、更には水溜りの水に触れるだけで手が震えるようになっていた。まるで海ではなく水に恐怖するかのように。そしてそれが起きると僕の頭の中にあの日の海に飲まれる自分自身が何度も流れてくる。溺れて意識が途絶えればまた沈む船内に時間が巻き戻ってを繰り返されて僕自身も次第に疲弊していくのを体感で感じていた。

 

 

「本当にどうしちゃったんだろうな、僕」

 

 

力が抜けた状態で生徒会室の天井を見上げながら僕は気づかないうちに自分の思っていたことが声になってため息交じりに呟いていた。そうしているといつの間にか終バスが来る時刻に近づいていたので、僕は重たい腰をあげながら急いで生徒会の仕事を終えて急いで学校を出てバス停に向かうことになるのだった。

 

帰り道に揺られながら数十分、やがてバスはトンネルを抜けて千歌ちゃんが練習している浜辺に近づいてきていたので僕は降りるボタンを押してバスから降車した。そこから少し歩くと砂浜が見えてきて、そこには練習を続けている千歌ちゃんとそれを石段から見守っている曜ちゃんと梨子ちゃん、そして姉さんの姿があった。3人は千歌ちゃんの練習をずっと見ていたので気づかず、僕が砂浜に着いて声を掛けるとようやく気付いた。

 

 

「あっ、祐君。生徒会のお仕事お疲れ様」

 

 

「大変じゃなかった?1人で放課後まで残っていたということは」

 

 

「大丈夫だよ。今はダイヤさんにライブの方を集中して欲しいし。それにみんなも予選を突破するために頑張ってるから僕だけ楽をするわけにはいかないよ」

 

 

僕はそう応えながら前で練習をしている千歌ちゃんに目を向けた。練習ノートを受け取ってから千歌ちゃんは学校とこの砂浜で毎日練習をしているけど未だに成功する兆しは見えない。でも最初の頃と比べたら少しづつ体が覚えて上達しているのが伝わってくる。だがそれと比例して擦り傷や絆創膏の数が増えているのを見ると大怪我してライブに出られなくなる姿を想像して辛かった。

 

 

「千歌ちゃん、頑張ってるね」

 

 

「うん。でも祐は見てて思うところがあるんでしょ?今の顔、スクールアイドルを辞めてた時の私を見る顔と同じだもん」

 

 

その言葉に僕は当時を思い返す。鞠莉さんが留学してからの姉さんは本心を隠して過ごすことが多くなった。最初こそは自分達の選択は正しかったのかと僕に問いながら号泣して本音をさらけ出していたが、日が経つにつれて自分の本心に蓋をするようになり、やがてもう気にしていないような表情を装って嘘の気持ちを見せるようになった。しかし素振りだけは隠すことが出来ず、日課のランニングでは休憩の合間にダンスの練習をしてたり、自分の部屋に一人でいる時はスクールアイドルをやっていた頃の写真をずっと眺めたりと未練が残っているような行動が多かったのを今でも覚えている。そんな日に日に壊れていく姉さんを見るのは僕にとって苦痛でしかなかった。

 

 

「…まぁね。あの頃の姉さんみたいになるかもしれないと考えたらつい。姉さんはもう千歌ちゃんを止めようとしないの?」

 

 

「しても無駄だよ。千歌は一度やると決めたら出来るまで続けるし。それにノートを渡した時点で私たちは千歌を説得することは出来なかった。だから後は怪我しない程度に見守るだけだよ」

 

 

「そっか。でも予選まであと二週間、練習を始めてからずっとあの調子だけど大丈夫なのかな」

 

 

「私たちもそこが心配。でも千歌ちゃん、今まで学校の皆や町の人たちに助けてもらってばかりだから恩返しがしたいって言ってたの。気持ちはわかるんだけど…」

 

 

「やっぱり不安になるよね…」

 

 

「じゃあ2人で止めたら?私たちが言うより2人が言ったら千歌、聞くと思うよ」

 

 

その提案に曜ちゃんと梨子ちゃんは言葉を返せず口をつぐむ。

 

 

「嫌なの?」

 

 

「姉さん言い方…」

 

 

僕が姉さんに指摘をしていると梨子ちゃんが口を開いた。

 

 

「…千歌ちゃん、普通怪獣だったんです」

 

 

「怪獣?」

 

 

「前は普通星人だったはずだけど、いつの間にか怪獣になってたんだね」

 

 

普通星人というのは千歌ちゃんが自分のことを例えるのによく使う言葉で、なにを始めても普通で終わってしまうことからそういう風に名付けたらしい。僕は普通星人のことを千歌ちゃんが自分自身のことをネガティブに言う時に使っていたので知ってはいたが、怪獣になっていたことは知らなかった。

 

 

「普通怪獣ちかちー。なんでも普通で、いつもキラキラ輝いている光を遠くから眺めてる。本当はすごい力があるのに…」

 

 

梨子ちゃんに続いて曜ちゃんも千歌ちゃんについて話す。

 

 

「だけど自分は普通だって言っていつも一歩引いて見てる。でも今は自分の力で何とかしたいって思っているんだよ。ただ見てるだけじゃなくて自分の手で」

 

 

すると2人の話を聞いていた姉さんが石段から立ち上がって千歌ちゃんの方へ歩き出した。そして近づいてくる姿に気付いた千歌ちゃんに対して姉さんはとある条件を追加する。

 

 

「千歌、約束して。明日の朝までに出来なかったら諦めるって。よくやったよ、千歌は。もう限界でしょ?」

 

 

「何を言っているの果南ちゃん!?私は大丈…」

 

 

姉さんの言葉に千歌ちゃんは反論しようとするも、今までの疲れが溜まっていたのか足がふらついてその場に転けてしまった。そんな千歌ちゃんを心配して梨子ちゃんと曜ちゃんはすぐに駆け寄ったが、姉さんはそれを気しようとせずに砂浜を離れようとしていた。そんな姉さんに僕はすれ違いざま理由を問う。

 

 

「どうして急に期限なんて追加したの?ついさっきまで止めるのは無駄だって言っていたのに」

 

 

「このまま続けてたら千歌の身体が危ないからだよ。ノートを渡す時に言ったでしょ?危なくなったら止めるって」

 

 

「そうだけど、だからって明日の朝までにしなくても…」

 

 

「だったらもうそんな顔しないで。今の千歌や祐を見ていると思い出すんだよ。鞠莉を怪我させて離れ離れにして、祐に心配をかけた私を。もし千歌になにかあったら私はもう自分を許せないよ…」

 

 

そう言って姉さんは石段を登って砂浜から去っていった。こうして千歌ちゃんに与えられた期限は1週間どころか明日の朝までになってしまい、時刻を示す太陽は沈んでもうすぐ夜を迎えようとしていた。




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進み続ける者、立ち竦む者

月明かりが照らす夜の海。肌寒い風が吹いている砂浜では駆け抜ける足音と尻餅をつく音が何度も聞こえていた。今この場所にいるのは僕と千歌ちゃんだけ。夕方に姉さんと別れた後、曜ちゃんと梨子ちゃんも地区予選の練習で姉さんに続く形で砂浜を離れていったので、この時間からは3人に代わって僕が千歌ちゃんの練習を見守ることになった。現在の状況としては少しずつ形になってきているのだが、やはり急遽決められた時間制限があるせいか焦っているようにも見えて完成にはまだ遠いといった感じだろうか。僕の今の心境としては正直このままだと間に合わないから諦めようと千歌ちゃんには言いたいが、当の本人は全く諦める素振りを見せようとせずにただひたすらと完成するまで何度も挑戦しているので、その姿を見ていると大事に至らない限りこのまま成功するまで見届けるべきじゃないかと葛藤していた。どちらの判断が正しいのか考えていると、手に持っていた携帯からアラーム音が鳴り始める。それを聞いた僕は練習をしている千歌ちゃんに声をかける。

 

 

「千歌ちゃーん。始めてから1時間経ったから10分休憩だよー」

 

 

「分かったー!」

 

 

僕の声を聞いた千歌ちゃんは練習をしていた場所で大の字に寝転がっていた。このアラーム音はスケジュールの切り替えを表す合図みたいなもの。実は夜からの練習再開に当たって僕は千歌ちゃんに約束の時間までの練習スケジュールを相談していた。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

「1時間の練習ごとに10分の休憩?」

 

 

「うん。さっきみたいにふらつくと危ないから合間に休憩を挟もうと思って。長時間の運動は心配だからね」

 

 

「大丈夫だよ全然!それに休んでいたら時間がもったいないよ!果南ちゃんの約束の時間まであと少ししかないのに」

 

 

「焦って怪我でもしたら元も子もないよ。だから短時間でも休まなきゃ」

 

 

「でも…」

 

 

「休まないで練習するならもう止めるよ。夕方の勢いのまま続けると危険だから」

 

 

「…もう、分かったよぅ」

 

 

~~~~~~~

 

 

 

こうして千歌ちゃんはスケジュールを基に休憩をはさみながら練習を続けている。最初の頃は休憩の時間になってもまだ続けると言って止めるのに苦労はしたが、何度も繰り返していくうちに千歌ちゃんも自分の体調管理に気を使うようになったのか、それぞれの時間に対してメリハリをつけるような行動が出来るようになった。これなら余程な無茶をしない限り体力面は大丈夫だろうと思いつつ、僕は千歌ちゃんに休憩用のドリンクを渡す。中身は千歌ちゃんの好きなみかんジュースで、それを見ると寝転がっていた身体を急に起こしてすぐさま受け取った。そして好物を美味しそうに飲んでる千歌ちゃんに今の状況をどう感じているのか聞くべく僕は近くで腰を下ろした。

 

 

「はい。すぐそこのコンビニで買ってきたものだけど」

 

 

「おぉ、ありがとう!」

 

 

「それで調子はどう?姉さんの言ってた期限までに間に合う?」

 

 

「間に合う間に合わないじゃないよ!絶対に成功させるんだよ!」

 

 

「…そっか。僕も少しながら応援してるよ」

 

 

千歌ちゃんの熱意に圧倒されつつも僕は些細なエールだけ送った。そうしているうちに休憩時間が終わったので千歌ちゃんはまた練習を再開して、静かだった砂浜に先程と同じ音がまた聞こえ出した。何度も走っては転び、それでも立ち上がってはまた走り出す。どれだけ失敗をしてもまた挑戦して乗り越えようとする千歌ちゃんの諦めない姿はとても輝いて見えた。それに比べて僕ときたら、過去に体験した恐怖を未だに克服ができていなくてそれを乗り越えようとしなかった結果、さらに悪化してずっと立ち竦んだまま打ちひしがれている。

 

 

「(本当にこのままでいいのかな…)」

 

 

以前までなら無理に乗り越えなくてもいい。危険な道ならその不安がなくなるまで待つべきだと思っていた考えが今になって揺らぐ。それはきっと目の前で自分とは違う形で危険な道を乗り越えようとしている人がいるからであり、その人の行動の方が正しい、または自分が今足りてないものをその人は持っているから乗り越えられるんじゃないかという微かな期待があるからこそ自分自身に疑念が生じているだのろう。

 

するとまたアラーム音が鳴りだしたので休憩することを伝えるべく練習をしている千歌ちゃんの元へ歩きながら声をかける。

 

 

「休憩の時間だよ。身体の方は大丈夫?休みながらとはいえ夕方からかなり時間は経っているけど」

 

 

「全然平気だよ。ほら、こんな風に」

 

 

そう言って千歌ちゃんは転んだ状態で起き上がろうとしていると、立ち上がった途端に膝から崩れ落ちてしまった。それを見た僕は急いで千歌ちゃんの元へ駆け寄る。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…。あれ…?おかしいな…」

 

 

「平気じゃないじゃん!大丈夫!?」

 

 

「あはは…、大丈夫だよ。ちょっと休憩すれば元通りになるから」

 

 

「元通りになんてならないよ!今回は身体に問題はなさそうだけど、次また練習を再開してもし怪我でもしたらどうするの!?ラブライブに出られないかも知れないんだよ!?」

 

 

気づかない間に感情的になっていた僕は千歌ちゃんを叱責する。それを聞いていた千歌ちゃんは少し驚きながらも怒られていることに気づいて謝ってきた。

 

 

「…ごめん」

 

 

「いや、こっちこそ急に声をあげて悪かったよ。とりあえずもうこれ以上は続けない方が…」

 

 

「それは駄目!」

 

 

すると今度は千歌ちゃんが声をあげながら両手を伸ばして僕の両腕を掴んできた。

 

 

「お願い!最後まで続けさせて!このままじゃ終われないよ!」

 

 

「だけどもう限界じゃないか。今の千歌ちゃんにこのダンスの負担は大きすぎるんだよ。だから怪我をする前にもう諦め…」

 

 

「嫌だよ!まだ何も出来ていないのに!応援してくれてる皆に何も返せていないのに!だから私は…まだ諦めたくないよ…」

 

 

僕の腕を掴んでいる手に更に力が加わる。そして最後の言葉を言い終わった後にはすすり泣く声が聞こえてきた。僕はそんな千歌ちゃんの姿を見て「諦めよう」という言葉を再度口に出すことが出来なかった。すぐにでも言わなきゃいけない筈が何故か寸前で遮ってしまう。それどころか口に出してしまいそうなのは「頑張れ」、「もう一度やってみよう」、「まだ時間はある」の励ましの言葉ばかりだ。もうこれ以上は危険だと分かっているのに。どうしてなのか戸惑いつつも僕はその場から動かずに千歌ちゃんが泣き止むまで待っていた。それから時間が経って少しずつ落ち着いてきた千歌ちゃんを見て僕は口を開く。

 

 

「…千歌ちゃんは凄いよね。どんなに失敗しても諦めないで何度も挑戦し続けているから」

 

 

「別に凄くなんかないよ。絶対に完成させたいから私は頑張ってるだけで」

 

 

「でも今挑戦しているのは姉さん達が完成出来なかったものだよ。鞠莉さんが怪我したことを聞いていざ自分が始めようとしたとき怖くなかったの?」

 

 

「私は…正直ちょっと怖かった。果南ちゃん達が出来なかった事を今の私に出来るのかなって。そう思ってた最初の頃は失敗した時のことを想像して手が震えてた。でも後悔はしてないよ。もしあの時やるって言わなかったらきっと私達だけの輝きは見つけられなかったし、そっちのほうが後で後悔してた筈だから。それに学校の皆や町の人たちのことを考えたらやらないなんて選択肢は初めから無かった。今まで助けてもらった分、今度は私が恩返しする番。果南ちゃんの言ってた通り難しくて大変だけど、それでも私は絶対に諦めないよ。時間のギリギリまで精一杯足掻いて絶対に出来るようになるから!」

 

 

千歌ちゃんの言葉を聞いて僕は何故励ましの言葉を贈ろうとしていたのか分かった気がする。それはきっと千歌ちゃんの成功を信じられるようになったから。どんなに失敗を重ねても諦めずに挑戦する姿を見て僕の想像する未来が変わったからだと思う。以前まで想像していたラブライブに出られなくなる姿はもう見えない。見えるのは成功させてAqoursがラブライブ地区予選を突破する姿だ。

 

そんな心境の変化に気付いた僕は自分の手を見つめる。それは過去の恐怖で震え続ける手。夕方までの僕だったら克服しようとせずに初めから諦めていたが、千歌ちゃんの練習を見ていたことで僕の中では少しずつ挑戦心が芽生え始めていた。だけどまだ恐怖心が大きいために始める一歩を踏み出す勇気が出ない。どうしたら前に進められるのか。そう考えていると後ろから千歌ちゃんを呼ぶ声が聞こえた。その方向へ振り向くと別の場所で練習していた7人の姿があった。

 

 

「恩返しがしたいのは千歌ちゃんだけじゃないよ」

 

 

「私たちも同じ気持ちで頑張っているんだからさ」

 

 

「頑張れ!千歌ちゃん!」

 

 

「千歌ちゃんなら絶対に出来るずら!」

 

 

「頑張るのよ!リトルデーモン!ヨハネの加護がある限り、必ず成功するわ!」

 

 

「私は信じています!千歌さんがやり遂げることを!」

 

 

「Fightよ!千歌っち!私たちで目の前の壁を乗り越えましょ!」

 

 

そして最後にもう1人、

 

 

「千歌。そろそろ時間だよ!準備はいい?」

 

 

千歌ちゃんの視線の先には姉さんが待っていた。よく見ると姉さんたちも体の所々に怪我跡や絆創膏が張られている箇所が見える。きっと皆も千歌ちゃんと同様に諦めず挑戦し続けていたのだろう。千歌ちゃんが出来ることを信じて自分たちの輝きを形にするために。だからなのか、僕には9人の姿がとても眩しく、同じ場所にいるはずなのにとても遠い存在のように感じた。その理由は簡単。ずっと動かなかった僕とは違ってAqoursの皆は常に前に進み続けていたのだから。そんな僕を更に追いていくかのようにAqoursのリーダー千歌ちゃんは姉さんに見せつける。自らが足掻いて練習してきた成果を。7人の声援を送られて宙を舞う姿はまさしく皆で探していたAqoursらしさそのものだった。

 

 

「ありがとう、千歌」

 

 

 




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誕生日記念〜Happy birth day〜
【7.13津島善子誕生日記念】ヨハネの幸運な一日


こんばんは、黒雨です。
今回は善子ちゃんの誕生日のお話です。
時系列は24話「真実と仲直り」と25話「新たなるスタート」の間になります。
改めて善子ちゃん誕生日おめでとう! 
それではどうぞ!


とある部屋の一室

現在の時刻:7月12日23時59分

 

その同時刻では動画配信でカウントダウンが行われていた。そして時計の針が12の位置に重なる時に配信内のカウントも0になり日付が変わった時、配信者である部屋の主が声を上げる。

 

 

「フフッ、遂に来たわね。この日が!今日は堕天使ヨハネがこの地に舞い降りし日。さぁ、祈りなさいリトルデーモン達よ。このヨハネが大いなる祝福を進ぜよう!」

 

 

この言葉を最後に堕天使ヨハネは持ってたロウソクの火を消し、今回の配信は終了した。火を消したことにより、部屋は電気をつけておらず真っ暗な空間だ。その中で唯一、部屋の光を照らしていたのは通知のたびに開く携帯画面だった。

 

 

「凄い…!。リトルデーモン達からこんなにもお祝いしてもらえるなんて…」

 

 

携帯画面に映る「善子ちゃんお誕生日おめでとう!」の言葉に、堕天使ヨハネこと津島善子は嬉しさを隠せずにいた。Aqoursの皆や学校の生徒たち。そして、

 

 

「あっ、今年も祐からきてるわね」

 

 

メッセージ欄にある名前「松浦祐」。彼は善子が裏の星に入学する前からの知人で善子曰く「最初のリトルデーモン」である。中学時代はヨハネのこともあって友達が出来なかった善子には彼が当時堕天使ヨハネでも自分を受け入れてくれた唯一の存在であるので恩義を感じているほか、彼に対して不思議な気持ちを持ち始めていた。

 

 

「今年もありがとう。ほんと祐には感謝してるわ」

 

 

ベッドで横になってメッセージを見ながらつぶやいたところで眠気が来たのか、善子は目を閉じて夢の中に入っていった。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

カーテンの隙間から光が差し込む。その光はベッドで眠っている私に起床を催促するかのように照らす。

 

 

「う、う~ん・・・はっ!。まさか遅刻!?」

 

 

私はすぐさま起きて近くの目覚まし時計を見る。ところが時計は6時30分を指していて、遅刻どころか目覚ましのアラームよりも早く起きてしまった。

 

 

「ホッ、良かった~。誕生日の日は絶対に何かあるから用心しないと。・・・にしても、私がアラームよりも早く起きるなんて珍しいわね」

 

 

と言いながら私は学校の用意をする。用心というのは私に起きる不幸に対してだ。私の誕生日の日は毎年不幸な事が起きる。当日の大雨は毎年で学校に行く途中で傘が壊れてびしょ濡れで通学したり、酷い年は風邪をひいて誰からも祝われず家族に看病される形で誕生日を迎えた事もあったりと。そんな事を思いながら準備は出来た。

 

 

「これでよし。まずは外の確認ね。まぁ雨だと思うけど」

 

 

そう呟きながらカーテンを開けると、なんとまさかの雲ひとつない晴天日和だった。私は驚きを隠さずにはいられなかった。

 

 

「嘘!?晴れてる!今まで一度も無かったのに!いったい今年はどうなってるの?もしかして嵐の予兆?」

 

 

例年と違う展開が続いてる事に何故か不安になってくる。そして驚けるほど元気な事から体調不良もない。このまま何事もなく1日が過ぎたら不幸な私から脱却出来るのかしら。そんな事を思いながら家を出て学校行きのバスに乗った。

 

学校に着いて教室に入ると、

 

 

「善子ちゃんお誕生日おめでとう!」

 

 

とクラスの子達からお祝いされて誕生日プレゼントのお菓子をたくさん貰った。その結果、私の机はお菓子に占領されている。

 

 

「こんなに大量のお菓子。嬉しいけど食べきれるかしら…」

 

 

「フフッ。善子ちゃんもすっかりクラスの人気者ずら」

 

 

「良かったね善子ちゃん」

 

 

「ヨハネよ。2人もプレゼントありがとう。部室でいただくわ」

 

 

ずら丸、ルビィからもプレゼントをもらった後に先生が教室に入って来て授業が始まった。

 

 

「(誕生日当日になってから現在まで、私に起きた不幸な出来事は今の所なし。このまま何事もなく今日が終わったら不運から解放されて堕天使ヨハネは大天使ヨハネに…。クックック…)」

 

 

普段の誕生日とは違う出来事が続くせいか、私は今までの不運もすっかり忘れて浮かれていた。そんな状態のまま時間は刻々と過ぎてゆき、いつの間にか放課後になっていた。私は直ぐにカバンを持って教室を後にする。その道中でも浮かれたままなのは変わらず、廊下でスキップをしながら部室に向かっていた。すれ違う子たちが私の姿を見てくるけど、そんなことは気にしない。何故なら今日の私は幸運の大天使ヨハネ。皆の視線はきっと天使となった私を祝福してくれてるのよ。そう思っていたらいつの間にか部室に着いていた。扉を開けるとAqoursの皆がクラッカーを鳴らしてお祝いしてくれた。

 

 

「善子ちゃんお誕生日おめでとう!」

 

 

「あっ、…ありがとう//」

 

 

家族以外でこんなにもお祝いされたのが初めてだったからか、呼び名を訂正するのを忘れて素直に言葉を受け取った。それからは練習を始める時間を少し遅くして私の誕生日パーティーをAqoursの皆が開いてくれた。目の前にあるケーキのろうそくの火を吹き消すと皆が拍手をする音が聞こえてくる。それを聞いて私は感謝の気持ちと同時に初めての感覚を感じていた。

 

 

「(大勢からお祝いされるってこんなにも嬉しいんだ…。今日は本当にありがとう。クラスの同級生達、Aqoursの皆、そして…)」

 

 

そう思いながら私は拍手をしている皆の顔を見回すと少し違和感を覚えた。いつもなら目の前に私以外のAqours8人ともう1人がいるのだが、今はAqours8人しかいない。もう1人は?。

 

 

「ねぇ、祐はまだ来ていないの?」

 

 

私が質問をすると、祐の姉である果南が申し訳なさそうに応えた。

 

 

「あ~…、祐は今日の朝から熱があって学校を休んでるよ」

 

 

果南の言葉を聞いてさっきまで高揚していた私の気持ちが一瞬で地に落ちてしまった。まるで、天上に登っていく天使が羽をもがれて落ちていくように。

 

 

「そう…なのね。…全く、このヨハネが地上に降り立った日だというのに現れないなんてホントしょうがないわね!」

 

 

私は今の気持ちを皆に悟られないよう、何とかいつもみたいに振る舞う。せっかく皆が私のために準備をしてくれたのだから、その雰囲気を壊すわけにはいかない。そんな私を見て皆は気を遣うかのように苦笑いをしていたが、その笑顔は更に私の気持ちを沈めるには十分過ぎるものだった。

 

 

「(何が幸運の大天使よ。やっぱり私は不幸の堕天使なのね…。どれだけ今日が私に何も起きなかったとしても、今ここにアンタがいないのは私にとって最大の不幸なのよ!)」

 

 

私は心の中で叫んでいた。

 

空気が鎮まる部室。もうすぐ練習時間が近づこうとしている中、この重たい雰囲気を壊すかのように1人が口を開いた。

 

 

「それじゃあ、善子は今からユウのお見舞いに行く?」

 

 

「え…?」

 

 

「ちょっと鞠莉さん!この後は練習がありますのよ!」

 

 

「分かってるわよ。だから行くのは善子だけで、マリー達は今から練習するの」

 

 

「ヨハネだけ!?どうしてよ!?」

 

 

鞠莉の唐突な提案に私は思わず聞き返す。

 

 

「あら?せっかくの誕生日なのに善子はユウからのお祝いの言葉は欲しくないのかしら?」

 

 

「それは…」

 

 

私は言葉を返答の言葉を返せず不思議と動揺していた。今から練習の時間だから着替えなきゃいけない。だけど祐にも会いたい……あれ?、どうして私はこんなにも祐に会いたがっているの…?。友達だから?でもそれなら別に明日以降でも会えるのに何故か今日じゃなきゃいけないと決断を拒んでいる。どうしたらいいのか悩んでいると、鞠莉は私に近づいてきて耳元で囁いた。

 

 

「それに、今行かないと後できっと後悔するわよ」

 

 

そう言うと私にだけ見えるようにウインクをして離れていく。その言葉を聞いて私の中で答えが決まった。

 

 

「…祐のお見舞いに行きたい」

 

 

「善子さんまで!?私達がライブを披露する花火大会は今月末なのですよ!」

 

 

「分かってる!だけどお願い!今日じゃなきゃダメなの!」

 

 

私は強くお願いをする。それでもダイヤは首を縦に振ってはくれない。長時間の戦いを覚悟の下で粘っていると、横から突然の助け舟がやってきた。

 

 

「…仕方ないなぁ、今回だけだよ」

 

 

「果南さん!?」

 

 

「だって善子ちゃん真剣だし。それに、祐も家で1人は寂しいと思うから」

 

 

「えっ!?いいの!?」

 

 

「その代わり、明日の練習は善子ちゃんだけうんと厳しくするからね」

 

 

「うっ…、分かったわよ!ありがとう果南!」

 

 

私はお礼を伝えるとき直ぐさま鞄を持って部室をあとにした。後ろからダイヤの呼び止めようとする声が聞こえるが、それに耳を貸さずに中庭を走り抜ける。向かう先は淡島のダイビングショップへと。

 

 

 

~~~~~~

 

 

「ねぇ鞠莉」

 

 

「なぁに果南」

 

 

「どうして善子ちゃんの背中を後押ししたの?それを聞く私も止めはしなかったんだけど」

 

 

「う~ん、善子がユウに会いたそうにしてたから?」

 

 

「それだけ?」

 

 

「それだけよ。にしても善子は分かりやすいわね」

 

 

「なにが?」

 

 

「それはマリーだけの秘密♪(多分…いや、確実に善子はユウのことが好きみたいね♪)」

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

「ゴホッゴホッ、退屈だ…」

 

 

静かな自室で一言呟く。いつもだったらこの時間は授業が終わって部室に向かっているところだが、朝起きると体調がすぐれず熱も出ていたので今日は休んでいた。姉さんが学校に行くのを見送ってから僕は安静にすべく、部屋のベッドで横になっていた。

 

 

「…そういえば今日は善子ちゃんの誕生日だっけ。確か前日にサプライズパーティーの準備をしてたから今ごろは盛り上がっている最中なのかな…。寝る前におめでとうのメッセージは送ったけど、やっぱりパーティーに参加できなかったのは悪いことしたな…」

 

 

僕はベッドの中で少し悔やんでいた。1年に一度しかない誕生日。それを迎える友達を目の前で祝ってあげることができない事に罪悪感を感じている。それも善子ちゃんならなおさらだ。何故なら去年、仲良くなってから初めての誕生日の日に善子ちゃんは熱が出て一緒に祝うことが出来なかったからだ。今年こそは万全な状態でお祝い出来たらいいのになと思っていたら今回は僕が体調不良を起こしてしまった。今年の善子ちゃんは大丈夫なのかと考えていると、外から扉をノックする音が静かな家中に響いた。

 

 

「一体誰だろう…?」

 

 

その音を聞いて取り敢えず応答だけはしておこうとベッドから起き上がって玄関に向かった。その途中で僕は誰が来たのかと考えていた。姉さんは学校だから違うし、父さんも怪我が治ったとはいえまだ病院にいるから。ってことはダイビングのお客さんしかいない。もしそうだったら姉さんがいないので気の毒だが帰ってもらうしかなさそうだ。そう決めて玄関の戸を開けると、目の前にいたのはダイビング体験のお客さんではなく今日の主役である堕天使だった。

 

 

「善子ちゃん…?どうしてここに?」

 

 

「…お見舞いにきたのよ」

 

 

「お見舞い?でも今日は部室で誕生日パーティーや、その後には練習があったはずだけど…」

 

 

「誕生日は皆に祝ってもらえたわ。練習が始まる前に果南に頼んで今日だけお休みを貰ったの」

 

 

「そうだったんだ。わざわざ来てくれてありが…」

 

 

ありがとうと言おうとした瞬間、まだ熱があったせいか急に目眩が起きて思わず後ろにのけぞってしまった。

 

 

「ちょっと大丈夫なの!?」

 

 

「ゴホッゴホッ、大丈夫…とは言えないかな」

 

 

そう言いながら僕は壁にもたれかかるような形で立ち上がる。こんな状態だと最悪の場合、善子ちゃんに風邪がうつってしまうかもしれないので、そうなる前に善子ちゃんには帰ってもらおうと声をあげようとすると、

 

 

「え~っと、リビングはどっちかしら?」

 

 

いつの間にか善子ちゃんは靴を脱いで家に上がっていて僕を支えている体勢になっていた。

 

 

「なに…しているの?」

 

 

「なにって、病人は寝てなきゃいけないからとりあえずリビングなら横になれる場所があるかなと思って」

 

 

「それはありがたいけど、そこまでしてもらうのは流石に…」

 

 

「いいから大人しくしてなさいよ!」

 

 

こうして僕は善子ちゃんに支えられたまま、リビングへと運ばれていった。ソファで横になっている僕を横目で見ながら善子ちゃんは冷蔵庫から飲み物を取り出して渡してきた。

 

 

「冷蔵庫、勝手に開けさせてもらったわよ」

 

 

「いいよ。それにしても何から何までしてもらってるけど善子ちゃんは大丈夫なの?熱とか移ってたら大変じゃないかな」

 

 

「平気よ。何故なら今日のヨハネはリトルデーモン達からの祝福を受けているからどうってことないわ!」

 

 

善子ちゃんは自信ありげに答える。リトルデーモンの祝福というのはおそらくAqoursの皆やクラスの子たちからお祝いの言葉を貰ったということだろう。去年までと比べて、今年はたくさんの人達からお祝いして貰ったということは善子ちゃんにとって最高の誕生日になったのかなと僕は思う。

 

 

「それはよかったね。身体も今年は元気そうだし」

 

 

「でしょ~?今年のヨハネ生誕祭は万全の状態で迎えられているの!寝坊もしてないし、天気も晴れてるし!」

 

 

確かに言われてみれば、今までの善子ちゃんの誕生日は体調不良の他にも台風や雷雨の日でもあったっけ。でもそれもないということは、今日で善子ちゃんが前に言っていた堕天使ヨハネから大天使ヨハネになったということなのかな。

 

 

「ってことは、今日から善子ちゃんは堕天使ヨハネから大天使ヨハネになったということなの?」

 

 

それを聞くと、善子ちゃんは先程の元気さから少しずつ表情が曇っていった。

 

 

「それは違うわよ。私は今でも堕天使ヨハネのまま」

 

 

「でも今日の善子ちゃんに不幸なことは全くなかったんでしょ?」

 

 

「確かに私にはなかった。でも…」

 

 

すると善子ちゃんは座っていた椅子から立ち上がって僕のいるソファに歩いてきた。そして目の前に座りこんで一言呟いた。

 

 

「今日だけ祐に会えないのが一番の私の不幸だったわ」

 

 

「どうして?」

 

 

「だって、私が堕天使になってから唯一誕生日を祝ってくれる人に今年は目の前で会えると思っていたのよ。それが出来なかったのは不幸以外の何物でもないわ」

 

 

「…ごめんね。せっかく楽しみにしていたのに」

 

 

「別にいいわよ。病人だけど今日会えたから無茶したかいがあったということ。それじゃあ私はもう帰るわね。早く元気になりなさいよ」

 

 

善子ちゃんはそう言うと学生鞄を持ってリビングを出ようとしていた。その後ろ姿を見て僕は善子ちゃんが帰るまでに渡さなければいけない物があったので呼び止めた。

 

 

「待って、善子ちゃん」

 

 

「なに?」

 

 

「渡すものがあるから、ちょっと部屋まで取って来るよ」

 

 

そう言って僕はソファから起き上がって少しふらふらしながらも自室の机に置いてある箱を持って戻ってきた。そしてそれを善子ちゃんに手渡す。

 

 

「善子ちゃん。誕生日おめでとう」

 

 

「えっ…!//もしかして、誕生日プレゼント!?開けていい?//」

 

 

「うん。いいよ」

 

 

善子ちゃんは丁寧に扱うように箱を開ける。そして中に入ってある物を手に取った。

 

 

「これって…キーホルダー?」

 

 

「うん。善子ちゃんの好きな堕天使をモチーフにした黒い羽根のキーホルダー。身につける物がいいかなと思って選んだけど…どうかな?」

 

 

「…嬉しいに決まってるでしょ//!ありがとう祐!ずっと大切にするから!」

 

 

「それは良かった」

 

 

子供みたいに喜ぶ善子ちゃんを見て、僕は今年の誕生日をなんとか成功で終わることが出来たかなと感じていた。それと同時に来年こそは、お互いが万全の状態で祝うことが出来るようにとも思っていた。

 

その後、善子ちゃんは帰りの船の時間が近づいてきていたので急ぎながらも僕に笑顔で手を振りながら帰っていった。それを見届けた僕は、明日は学校に行けるようにしないとと思い、部屋に戻って安静にすることにした。

 

 

 

 

 

~~~~~~

 

 

 

 

 

もうすぐ7月13日が終わろうとする夜中、今日の主役の堕天使は家に帰って来てから部屋でずっとプレゼントのキーホルダーを眺めていた。

 

 

「祐からの誕生日プレゼント…。こんなに嬉しいのは生まれて初めてかも」

 

 

そう呟きながら彼女は学生鞄にキーホルダーを取り付ける。

 

 

「お揃いにするのもいいかもしれないわね。明日祐に何処で買ったか教えてもらおうかな。それで祐の誕生日に…フフッ、楽しみね」

 

 

するとその瞬間、彼女にふと異変が起きた。

 

 

「あれ…?。何だか胸が苦しい…」

 

 

少しだけ違和感を感じていたが、時間が経つと胸の苦しさは次第になくなっていった。ほんの一瞬だったのでなにが原因なのか、今はまだ何も気づいていなかった。

 

 

「一体何だったのよ…。それに体も少し熱いし…」

 

 

そうぼやいて、部屋のベッドで横になる。

 

 

「祐に会いたいな…。早く明日にならないかしら…?」

 

 

その呟きを最後に彼女は眠りにつく。こうして今年の津島善子の誕生日は終わりを迎えた。

 

しかしその翌日、彼女は昨日の祐の風邪が移ってしまい、学校を休むことになるのだった。




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