遊戯王 徒然決闘集 (紅緋)
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VRAINS:リンクヴレインズのヒール

ストーリーは置いてきた。長編を書ける構成力がないので、短編をちょくちょく投稿する方向性でいきます。


「うわぁあああああぁぁっ!!」

 

 リンクヴレインズの片隅。発展・繁栄している中心部とは異なり、まるで廃墟のような街並みの中、男が叫び声をあげて地に倒れる。仮想空間とはいえ、実際に痛みを感じるこの空間での衝撃は相当なもの。ましてや、デュエルで建物の屋上から叩き落されたのだから、その痛みは尋常ではない。

男は呻き声を零しつつ、倒れた体を無理矢理起こそうとするが、体が思うように動かない。否応なしに片膝が着く形となってしまい、支給された純白のアバターに土埃に似た汚れが付く。仮面の下の顔には苦悶の表情が隠されており、それは敗北した悔しさ、アバターを汚した罪悪感――それらは自身の所属する『ハノイの騎士』に泥を塗る行為に等しいと、男は静かに右手を握り締める。

 

そんな男の様子を知ってか知らずか、先ほどのデュエルの相手をしていた男――ハノイの男とは正反対の漆黒に身を染め、薄紅色のバイザーで顔を隠した男が、ゆっくりとハノイの男に近づいていく。

 

「オイオイ、噂のハノイとやらはこの程度かよ? だらしなくて不甲斐ねぇ、その上デュエルの腕なんざお粗末なクソ雑魚レベル――こんなのが世間を騒がせるハッカー集団たぁ、あんまり過ぎて笑いが止まらねぇぜ」

 

 ククク、と嘲笑しながら男は眼下に居るハノイの男にそう言い放つ。当然、自分はおろか、『ハノイの騎士』自体を侮辱したこの男に、ハノイの男は怒りを覚える。しかし、デュエルで敗北した以上、敗者に反論する権利はない。ハノイの男は握り締めた右拳にさらに力が入り、震え出す。それに気づいた男は、バイザーで顔を隠しているにも関わらず、ニヤリと意地の悪そうな笑みを内心で浮かべた。

 

「おーおー、いっちょ前に悔しいのか? てめぇらみてぇな底辺なんざ、誰であろうと、何人だろうとこの俺様に敵うハズねぇだろうが! 同好会の集まり程度のお仲間とハッキングごっこでもしていた方が良いんじゃねぇの? ぷ、くくく…!」

「き、貴様ぁ…!」

 

 挑発としては幼稚園児、小学生レベルに等しい。しかし、敗北したハノイの男にとって、程度の低い挑発であっても、今の心情的には十分以上の効果があるのだ。

先の落下による痛みなどどこかに吹き飛び、ハノイの男は肩を震わせながら勢いよく立ち上がる。そして男の胸倉を掴もうと手を伸ばすが、男はおちょくるようにヒラリとかわす。

 

「暴力はいけねぇなぁ? デュエリストなら、デュエルで語れよ」

「くっ――ならば明日だ! 明日、貴様に再戦を申し込む! 私が勝てば、この区域の調査の邪魔はしないこと、そして我ら『ハノイの騎士』を侮辱したことを謝罪してもらう!」

「はぁ? またてめぇが来るのかよ? クソ雑魚に来られても時間の無駄でしかねぇし、俺様が勝ってもメリットがないじゃねぇかよ」

 

 ケッ、と吐き捨てるように男が言う。確かに、目の前の男にとって再戦は時間の無駄でしかない。1度、圧倒的な差で勝った以上、実力差は歴然としている。その差が1日で埋まるとも思えない上、仮にもう1度デュエルして男が勝利しても、男には何も得られるものがないのだ。そのことに関しハノイの男もつい表情を歪めてしまう。

 そもそも、ハノイの男は上司の命で秘密裏にAIの探索を行っていた。そこでたまたま、リンクヴレインズの末端の区域であるこの場所を調査しようとした矢先に、この男が『ここは俺様の縄張りだ。デュエルしろ』と問答無用で勝負を仕掛けてきたのだ。本来の目的を達成できないまま、おめおめと戻れるハズがない。本来の目的からかなり遠回りとなってしまうが、上司の命令には応えなければならない――いや、むしろ応えたいと、このハノイの男は願っていた。自分のような爪弾き者を拾ってくれた『ハノイの騎士』、そして上司に報いるために何としてでも、目的は達成しなければならない。その為にも、手段は選んでいられない、とハノイの男は断腸の思いでデッキから1枚のカードを取り出す。

 

「――貴様が勝てば、このカードをくれてやる。その条件ならば――」

「良いぜ、乗った。そのカードが手に入るんなら、喜んで再戦してやろうじゃねぇの」

 

 良いカードが手に入るぜ、と自身が勝利することを確定しているかの如く、男は下卑な笑みを浮かべる。

この男の使用デッキが『機械族』であり、対峙しているハノイの男が掲示してきたカードも機械族のモンスターカード。さらには男自身が所有していないカード、かつ男のデュエルスタイルにも非常にマッチしているのだ。

先ほど勝利し、慢心・過信こそはあるかもしれないが、デュエルの腕に男は絶対の自信を持っている。このような好条件を見逃す手はない、と先にも増して不敵な笑みを浮かべていた。

 

「明日の正午! 場所はここだ! 逃げることは許さんぞ!」

「……そりゃあどっちかって言えば俺様の台詞じゃねぇのか?」

「う、うるさい!」

 

 ハノイの男はそう吐き捨てると、逃げるようにログアウトした。

 

 廃墟のようなこの場所に再び静寂が訪れ、男はふーっとため息を吐くと、地べたに座り込む。そしてふと自分の手を見ると、震えていることを確認した。周囲を見渡し、自分以外誰も存在しないことを視認すると、今度は地面に大の字で寝転がり――

 

「…………もうやだぁああああぁ!! 何でハノイがこんなとこ来んの!? 俺はただ、スラムに居そうな悪の親玉的なロールプレイがしたいだけなのに、邪魔しないでよぉおおおぉ!! しかも明日も来るかとふざけんじゃねぇええええぇっ!!」

 

 ――大声で文句を垂れ始めた。

 この男――アバター名:ブラストは、リンクヴレインズで悪役ロールをしているただのデュエリストだ。ランキングも常にトップ10以内には入っている実力者でもある。

 王道的な悪役ロールをしているため、彼とのデュエルはどこか一昔前の特撮作品感のあるデュエルになったり、GO鬼塚やブルーエンジェルらとデュエルした際には、前者は完璧にヒールとベビーフェイスの体で戦い、後者はプリティーでキュアっとくる作品風な戦いになってしまう。無論、当人・本人も観客がそれを望むのであればやぶさかではないので、延々と、それこそ知名度が上がっていっても方向性を変えなかった。

 

 その結果――軌道変更が不可能になってしまったのだ。ブラストは元々デュエルさえ出来れば良いという、ただのデュエル馬鹿なのだが、使用カードのイメージに合わせて自分もこのリンクヴレインズでキャラクターを形成していった結果が悪役ロールになっただけの話。アバターの外装も、当初は≪メカ・ハンター≫か≪キャノン・ソルジャー≫辺りにしようかと画策していたが、完全な人型ではないのでデュエル進行に支障が出たため、結局は知人に頼んで≪A・ジェネクス・ドゥルダーク≫っぽい何かに落ち着いた。同業者・観客からも『ブラストと言えば凶悪な機械族使い』と周知される程度には有名になった――いや、なってしまった。

 

 こうなったらとことんまで突き詰めてやると、悪役と言えばスラムだろう、という単純な発想で自身の縄張り的なものを主張すると、同業者も観客も『やはりあそこが本拠地だったか』と何故か納得されてしまう。しかも、『悪役だから、あそこに何か貴重品でも隠しているのではないか?』、『公表できない違法な何かがあるに違いない』等の噂が好き勝手に流れ始め、時折怖いもの見たさで訪問する輩まで出て来る始末。とは言え、月に1~2件程度なので、その際には普段は真逆の態度で誠心誠意精一杯な対応を取り、丁重にお断りしていた。だが、それさえも逆効果なのか『普段と真逆の態度だった。怪しい』、『きっとアレは俺たちを油断させるための罠だ』など、全く信用されなかったのだ。

 

この事態に解せぬ、と1人頭を抱えながら、デッキ調整をしていたブラストだったが、そんな時に先のハノイの騎士が現れた。内心では「ふぇえ、、ハッカー怖いよぉ」と涙目になりつつ、普段の悪役ロールらしい傲慢で不遜で威張っている態度で頑張って対応したのだ。いつもなら、対戦した後に悪役ロールで罵声等を浴びせて申し訳ありませんでしたとメールを送るのだが、ハノイ相手にメールは送りたくないので、結局は悪役ロールのままで終わってしまった。明日もまた同じようになるのかと思うと、ため息が零れる。

 

 しかし、悪いことばかりではない。明日は勝てばハノイの騎士のカードが手に入るのだ。先ほどのデュエルで見た時は、その姿・ステータス・効果の全てがブラストにとってドストライクなものだったので、是が非でも欲しかった。それを相手側から提案してきたのだから、内心ではウハウハものだ。

 

「――よし、明日は絶対に勝とう。出来れば瞬殺だな、うん、そうしよう」

 

 明日への希望を胸に、物騒なことを言いつつブラストは起き上がりデッキ調整を始める。必要なものは相手に何もさせない、一方的な勝利。今回は観客が居ないデュエルであり、批判を言う輩は一切存在しないのだ。ならば、自身が思いつく、最高の速攻デッキを作ってやろうと、意気揚々と所持カードを空中投影ディスプレイに表示させる。

 

「さぁーて、先ずはこのカードを入れて、ドロソはこれで、あとはこうしてトドメにコイツでOK!ダメだったら、これで保険をかけて――」

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

「来たか」

「ふん」

 

 昨日と同じように、ただ空中投影ディスプレイでデッキ確認を行っていたブラストの目の前に、ハノイの騎士がログインした。しかし、1人だけではなく、後ろにもう1人の男が居ることを視認すると、ブラストは怪訝そうな眼差しを向ける。

 

「あぁん? 1人じゃ勝てねぇからって、雑魚いお仲間を連れてきやがったのか?」

「き、貴様ぁ! このお方に何と――」

「止せ」

 

 ブラストの言葉にハノイの男が激昂しかけるが、それを隣から別の男が制す。

ハノイの騎士共通の白っぽい衣装に、仮面ではなく薄黄色のバイザーで顔を隠している男。上司か何かだろうか、、それにしても人前で顔を隠すなんて礼儀的にどうなのかと、自分のことを棚に上げつつ不満そうな表情を見せる。

 

「私はリボルバー。この男の上司でただの観戦者だ。我らハノイの騎士に勝ったという男が、どの程度の実力を持っているのか気になって来ただけだ」

「ふーん、アンタがこいつの上司? まぁ、(強さ的な意味で)悪くなさそうだな…」

 

 一言で部下を制止させる統制力、どこか底の見えない雰囲気――そして、アバター越しでも感じられる強者としてのオーラを、ブラストは確かに感じた。このリボルバーという男は只者ではない。願わくば、この男ともデュエルしてみたいが、今回はハノイの男が相手だ。デュエルの約束をした以上、よっぽどの理由がない限りそれを反故してはならない。ましてやそれが、「お前の方が強そうだからこっちとデュエルするわ」などと言えば侮辱にも等しい――尤も、ブラストは悪役ロール中に限り平然と罵声を浴びせたりするのだが。

 

「今回は貴様に提案があってきたのだ」

「提案? つまらねぇもんだったら承知しねぇぞ?」

「つまらないかどうかは不明だが、今回は通常のマスターデュエルではなく、スピードデュエルでデュエルをしてもらいた――」

「乗った。やってやろうじゃねぇか」

「…う、うむ……」

 

 神速の掌返しに、リボルバーはやや面食らうも、同時に胸の内に安堵を覚える。現在、部下達にイグニス捜索を任せているが、仮にイグニスが誰かしらと接触した場合、データストームの発生、それに伴うスピードデュエルへの移行も推測していた。しかし、それにしては部下達ではスピードデュエルの経験が圧倒的に不足し、後手に回ってしまう可能性も十分にある。ならば予めスピードデュエルに慣れさせ、仮の事態に陥っても、充分に戦えるようにしなければならない。現状では満足にスピードデュエルを行える環境下ではないが、自身が同行すれば1戦程度のスピードデュエルならば可能だ。ならば、今回のこのブラストという男を当て馬にし、ハノイの騎士を訓練させれば良い。そう考え、この場に来たのだ。

 

「んで、そのスピードデュエルってのは、マスターデュエルとどう違うんだ?」

「ふむ、スピードデュエルでは初期手札が1枚少ない4枚からのスタート、そしてメインフェイズ2が存在せず、モンスターゾーン、魔法・罠ゾーンの上限が3枚になる。また、各プレイヤーは『スキル』と言う、デュエル中に1度だけ使用できる能力を持つ。ドローの強化、モンスターの蘇生など、多岐に渡る――が、今回は互いにスキルなしで良いだろう。何せいきなり初めてスキルを設定しろなど、唐突にも程があるだろう」

「なるほど……よし、じゃあ早速始めようじゃねぇの」

「理解が早くて助かる――では」

 

 ブラストの納得した表情、そして早くスピードデュエルを体感したいという逸る気持ちを見て、リボルバーは指をパチンと鳴らす。

 すると、周囲に紫色のデータが風と化し、周囲一帯を周回するように吹き荒ぶ。そしてどこからともなくサーフィンボードのようなものが現れ、ハノイの騎士がそれに飛び移る。

 

「さぁ、貴様もDボードに乗れ! これに乗れなきゃスピードデュエルは出来んぞ!」

「昨日負けた割には威勢が良いじゃねぇか――だが、こいつは面白そうだ!」

 

 続くようにブラストもDボードに飛び乗り、データストームに乗る。リンクヴレインズ――いや、ネットワークの世界でこれほどの疾走感を得ることは中々に新鮮だ。目まぐるしく変わる風景。風のような爽快感。自身の知らぬ初体験の世界に興奮し、ブラストはつい顔が綻ぶ。

 

「――は、ははは……良いなぁ! これでデュエルするってか! 最高に楽しそうじゃねぇの!」

「ふん! スピードデュエルは貴様が思っているほど単純ではないことを今から教えてやる!」

「はん! そういう台詞はデュエルで語りやがれ!」

 

 2人は共にボードで駆け、示し合わせたのでもないのに、丁度コーナーを曲がったところでデッキからカードを4枚引く。互いのLP4000が空中投影ディスプレイに表示され、デュエル――否、スピードデュエルの準備が完了する。

 

「「スピードデュエル!!」」

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

(フ――完璧な手札だ…!)

 

 ハノイの男は自分の手札を一見し、勝ち誇った表情を見せる。手札には最強モンスターである≪クラッキング・ドラゴン≫、2枚ドローした後に闇属性を1枚除外する≪闇の誘惑≫、手札1枚捨てることで除外されたモンスター1体を特殊召喚し装備する≪D・D・R≫、機械族モンスターの攻撃力を倍にする≪リミッター解除≫――この手札なら相手が無様に攻撃力2000以下のモンスターを攻撃表示で召喚すれば、自分の勝利は確定したようなものだ。また、デュエルディスクも自分に味方するように後攻開始の表示。完璧だ、とハノイの男は内心で勝利を確信しながらブラストへ目を向ける。

 

「俺様の先攻だ! 先ずは手札から魔法カード≪予想GUY≫を発動! 自分フィールドにモンスターが存在しない場合、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する! 来い≪魔貨物車両ボコイチ≫! さらに魔法カード≪機械複製術≫を発動! 自分フィールドの攻撃力500以下の機械族と同名モンスター2体をデッキから特殊召喚する! 追加で来な! 2体の≪ボコイチ≫!」

(ほう……)

 

 ブラストは2枚の手札を使い、弱小ステータスとはいえ、一気に3体のモンスターをフィールドに並べる。列車型のモンスターということもあり、Dボードと並走する様は中々に愉快なものだ。

 対してリボルバーは一瞬にしてモンスター3体を揃えたブラストに感心した。通常召喚権を使わず、かつカードの消費を最低限にしてこの展開力。この状況であればリンク1~3のモンスター、上級・最上級モンスターなど、様々なプレイングが可能だ。さて、彼はどう出るかと、リボルバーは半ば愉しむようにブラストに注目する。

 

「≪ボコイチ≫1体を墓地に送り、魔法カード≪馬の骨の対価≫発動! こいつは自分フィールドの通常モンスター1体を墓地に送ることで、デッキから2枚ドローする! もう1体の≪ボコイチ≫を墓地に送り、もう1枚≪馬の骨の対価≫を発動し――こいつにチェーンし、手札を全て捨てて速攻魔法≪連続魔法≫を発動! チェーンした≪馬の骨の対価≫の効果を2回適用する! これで俺様は手札を1枚捨て、4枚ドローだ!」

 

 連結していた貨物車両が1体、また1体と消え、その分以上にブラストが手札を補充していく。これでブラストは手札が4枚、場には1体――いや、いつの間にかもう1体モンスターが増えており、2体のモンスターが並んでいた。

 

「き、貴様いつの間にモンスターを…!」

「はん! 俺様が≪連続魔法≫で捨てたカードは≪幻獣機オライオン≫! こいつは墓地に送られた場合、自分フィールドに≪幻獣機トークン≫1体を生み出す! 尤も、このカード名のこの効果は1ターンに1度しか使えねぇがな。あぁ、あと最後の≪馬の骨の対価≫で最後の≪ボコイチ≫を墓地に送って、2枚ドローだ」

 

 ついでに、とでも言うように場に並んでいた連結車両が全て消え、ブラストの手札は5枚にまで増える。しかも場にはトークンとは言え、モンスターが1体。開始時よりも明らかにカード・アドバンテージを確保しており、デッキをまるで自分の手足の如く扱うブラストに、リボルバーは再び感心する。

 

「さぁーて……これでテメエをぶっ潰す準備は整った! 俺様は手札からチューナーモンスター≪幻獣機ブルーインパラス≫を召喚! こいつはシンクロ素材とする場合、他の素材は手札・場の『幻獣機』モンスターに限られる! 俺様は手札のレベル4≪幻獣機メガラプター≫にレベル3≪幻獣機ブルーインパラス≫をチューニング!」

 

 戦闘機を模した2体のモンスターの内、1体が3つの緑色のリングへ転じ、1体が4つの白い星へと転じた。リングの中央に星が並び、閃光が走る。

 瞬間、眩い光の中から、黄朱色の体躯を持った、戦闘機――否、人型の戦闘機が姿を現した。

 

「現れやがれ――レベル7、≪ダーク・ダイブ・ボンンバー≫!」

「――っ、シンクロ召喚だとぉ!?」

 

 リンク召喚ではなく、シンクロ召喚――主流とは異なる召喚方法を用いたことに、ハノイの男は驚愕する。無論、このデュエルを観戦していたリボルバーも同様なのだが、直接対峙しているハノイの男より動揺は小さい。

 

「まだまだいくぜぇ! 俺様は墓地の≪オライオン≫のもう1つの効果発動! 墓地の≪オライオン≫自身を除外し、もう1度だけ『幻獣機』モンスターを召喚できる! 俺様は手札から≪幻獣機テザーウルフ≫を召喚し、そのモンスター効果を発動! 召喚成功時、自分フィールドに≪幻獣機トークン≫1体を特殊召喚!」

 

 止まることを知らない、とでも言うようにブラストは墓地・場のモンスター効果を使い、さらにフィールドにモンスターを増やしていく。エクストラモンスターゾーンには≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫、メインモンスターゾーンには≪テザーウルフ≫、2体の≪幻獣機トークン≫とモンスターゾーンは全て埋め尽くされていた。

 

「さぁーて……テメェに1つ面白いことを教えてやる。≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫はメインフェイズ1に1度だけ、自分フィールドのモンスター1体をリリースすることで、そのモンスターのレベルの200倍のダメージを与えられる効果がある」

「れ、レベルの200倍だとぉ!? 今の貴様のフィールドだと――レベル7の≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫をリリースして1400ポイントのダメージを与えることが狙いか!?」

「だぁれがそんな温い手を使うかよ! 俺様の≪テザーウルフ≫は自分フィールドのトークンのレベル分だけレベルを上げる効果がある! ≪幻獣機トークン≫のレベルは3! それが2体でレベルは6上がって10! つまりてめぇには――2000ポイントのダメージを与えてやるよ!」

「ひ、ひいぃ!!」

 

 

 ≪テザーウルフ≫が光の粒子となり、≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫へと吸い込まれていく。次いで≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫から幾つものミサイルが発射され、それがハノイの男目がけて飛翔。ハノイの男は情けない叫び声をあげつつ避けようとするも、未だ先攻1ターン目。対策として罠カード伏せられず、モンスターの召喚すら許されていない。必死に逃げ惑うが、ミサイルは周囲に着弾し、次々と爆風を生む。その余りの衝撃に何度からDボードから落下しかけるが、上司であるリボルバーの手前、無様な姿を見せられない。途中、Dボードにしがみつつ、何とか落下は免れた。尤も、LPは早速半分の2000ポイントにまで減らされているが。

 

「はぁ、はぁ……ま、まだだ! まだ終わらん!」

「その執念は見事なもんだと言いてぇとこだが……まぁ良い、俺様はフィールド魔法≪転回操車≫を発動する」

 

 未だ勝利を諦めないハノイの男に少しばかり感心するが、ブラスト自身手心を加えるつもりはない。自身の勝利のために残りのカードをプレイしていく。

 

「さぁーて、仕上げの準備といくか――現れろ、俺様の暴走サーキットぉ!」

 

 ブラストが右手を正面に突き出し、そこから蒼電が中空に走った。その後、何もない空間から、八方に矢印が向いた黒い四角形が現出し、ブラストを先導するように滞空する。

 

「召喚条件はモンスター2体以上! 俺様は≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫と2体の≪幻獣機トークン≫をリンクマーカーにセットぉ!」

 

 次いで、効果を使用した≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫、その効果のためにレベル上昇効果の補助をした2体の≪幻獣機トークン≫が八方の矢印の内、左右と下方向へとその身を転じる。直後、黒い四角形が一瞬発光し、そこから光の粒子が人馬のような姿で形成されていく。

 

「現れろ――リンク3! ≪電影の騎士ガイアセイバー≫!」

 

 そして完全に形が成され、≪電影の騎士ガイアセイバー≫がブラストと並走。手札・場・タイミング――これら全てが自身の思い通り――否、理想的な動きをしていることにブラストは一種の感動すら覚える。

 逆に対峙しているハノイの男は、序盤の大量展開、大量ドロー、連続異種召喚を駆使するブラストに、これまで以上に恐怖と驚愕を覚えた。

 

「し、シンクロ召喚にリンク召喚――異なる召喚方法を自在に操るだとぉ!?」

「はん! 驚くのは、まだ、早ぇ! ≪電影の騎士ガイアセイバー≫がリンク召喚に成功した時、手札の≪重機貨列車デリックレーン≫のモンスター効果発動ぉ! 自分フィールドに機械族・地属性モンスターが召喚・特殊召喚された場合、こいつの攻守を半分にすることで特殊召喚できる! ここでフィールド魔法≪転回操車≫の効果発動! 自分フィールドにレベル10・機械族・地属性のモンスターが召喚・特殊召喚された場合、デッキからレベル4・機械族・地属性のモンスター1体を特殊召喚し、そのレベルを10にする! 俺様はデッキから≪無頼特急バトレイン≫を特殊召喚!」

 

 モンスター3体がリンク素材になったと思っていたら、即座にまたモンスターが3体に増えていた。ハノイの男は自分で何を見て、何を思っていたのかと、一瞬思考を放棄しかけてしまった。

 カードの効果処理、及びルール的には何の不備もない。しかし――これを先攻1ターン目、それもスピードデュエルという限られたカードゾーンで成し得たことに、本日何度目になるか分からない驚愕を覚える。ましてや相手はスピードデュエル初体験。対して自分は幾度かリボルバー指導の下で行ってきた。それを――それを目の前の男は、ブラストはまるでさも当然かのように行っている。ギリリ、ハノイの男は自分でも気づかぬ内に歯軋りし、ブラストを睨んでいた。

 

「さぁ! フィニッシュといこうじゃねぇの! 俺様はレベル10の≪デリックレーン≫と≪バトレイン≫でオーバーレイ! 現れろぉ! ランク10! ≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫!!」

 

 2体の列車が黄土色の光となり、黒い渦へと吸い込まれる。瞬間、黒い渦から閃光が走り、Dボードを駆る2人の真下に、いつの間にか巨大な列車が爆走していた。

 ハノイの男はある程度こそデュエルはできるが、正直なところシンクロ召喚やエクシーズ召喚は専門外だ。しかし、この真下に居る列車――≪グスタフ・マックス≫はレベル10ものモンスターを2体使用してまで召喚したモンスター。先の≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫よりも、何かしら凶悪な効果を持っているのでは、と危惧した矢先――

 

「≪グスタフ・マックス≫のモンスター効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手に2000ポイントのダメージを与える!」

「な――っ」

 

 ――予想以上、というよりも自分の敗北が確定したことにハノイの男は戦慄した。自身の手札は≪闇の誘惑≫、≪D・D・R≫、≪クラッキング・ドラゴン≫、≪リミッター解除≫という、相手モンスターが攻撃表示で、攻撃力2000以下ならば確実に1ターンキルができる、完璧な手札だったのだ。だがいくら完璧であろうと、ターンが回って来なければ意味がない。

 一体自分は何を間違えたのか。先攻を取れなかったことか? それとも手札誘発で効果ダメージ対策を取っていなかったことか? はたまたこの男――ブラストにデュエルを挑んだこと自体が間違いだったのか。

 

 列車の上部がゆっくりと変形し、その中から弩級の名に相応しい、長大な砲身がせり上がってくる中、ハノイの男はそう考えていた。また、同時にこの男は危険だと、自分の中の役に立たない警鐘が今更鳴っている。

 砲身が真っ直ぐに自身を捉えた瞬間、ハノイの男は全てを悟った――否、諦観したように力なくデュエルディスクを構えていた腕が下がる。そして、轟音と共に光の奔流が身を包み、LPのカウンターが2000から一気に0へ。同時にデュエル終了のブザーが鳴り響いたことを、薄れゆく意識の中で、かろうじて聞き取れた。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

 

 デュエル終了後、2000ポイントの大ダメージを2回も受けたハノイの男はうつ伏せで地に倒れていた。ブラストはそんな男にゆっくりと近づくが、明らかに気絶している状態であることを確認すると、チッと舌打ちする。

 

「良きデュエルだった」

「あぁん?」

 

 そんな不機嫌そうなブラストの背後から、ハノイの男の上司であるリボルバーが声をかける。ブラストはつい喧嘩口調で応え、リボルバーはデッキから1枚のカードを抜き取り、ブラストへと投げ渡す。

 受け取ったカードを見て、ブラストは僅かに微笑み、「ありがとよ」と対して感謝の念を感じない言葉をリボルバーへ。

 

「何、部下の不始末は上司がつけるものだ。それに貴様のデュエルは観ていて中々に滾らせるものがあった」

「そりゃどーも――んじゃ、今から俺とデュエルするか?」

「悪くない提案だが、今は遠慮しておこう。貴様とはいずれやるだろう、いずれな…」

 

 何か引っ掛かる物言いだなと、ブラストが感じた瞬間、リボルバーはそのまま倒れ伏しているハノイの騎士と共にこの場から姿を消した。ログアウトでもしたのだろうか、とブラストは周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。そして受け取ったカード――≪クラッキング・ドラゴン≫のカードを手に取り、アバターでは不敵な笑みを浮かべ、現実世界では恍惚とした表情になる。

 

「やったぁあああああぁぁ!! 何この優秀カード!? 機械族・闇属性・レベル8・攻撃力3000・守備力0! ≪闇の誘惑≫に≪トレード・イン≫に≪悪夢再び≫に対応しているし、≪可変機獣ガンナードラゴン≫や≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫から≪トランスターン≫で呼び出しても良いし、≪スクラップ・リサイクラー≫で墓地に落としてから蘇生しても良い! 攻撃力も高いし、守備にされても戦闘耐性あるし、効果でダメージも与えられるし――最高ぉおおおおぉぉ!!」

 

 まるでクリスマス、誕生日プレゼントをもらった子供のようにはしゃぐブラスト。カードを手に取り、嬉しさのあまり意味もなく地べたをごろごろと転がり始める。

 この時のブラストは浮かれていた。それはもう歓喜と言っても足りないくらいに。故に――

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫うっひょおおおおぉぉっ!!」

「………………」

 

 ――ログアウト後、どうせなら≪ジャック・ワイバーン≫等もオマケで渡そうと、すぐにログインし直したリボルバーに、この痴態を見られても気づかなかった。

 




DDBとグスタフのアニメLP4000絶対殺すマンコンビ好き。
あとボコイチの可能性は無限大。サポートできるカード多過ぎて、ボコイチからDDBはもちろん、グスタフまで育ちますよ!


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VRAINS:先攻???VS後攻??????(前半)

ソリティアの時間だオラァ!


 

「…………暇だ…」

 

 リンクヴレインズのスラム街でブラストは1人そう呟いた。

 先日、ハノイの騎士とデュエルし、両者納得の上でアンティカードを得たのは良い。その後にハノイのリーダーであるリボルバーからカードを追加でもらったのも良い。あれからデッキを組み直し、デッキが火力増し増しのビートバーンになったのも良い。しかし――

 

「何であれから誰も来ないんだよ……ハノイでも誰でも良いから来いよぉ…」

 

 ――対戦相手がいないため、ブラストは孤独(ぼっち)だった。デュエルジャンキーなブラストは1日最低でも10デュエルはしないと満足できない。以前は何だかんだで挑戦者なりハノイが来たので良いが、今はスラムの風景通りに人っ子1人居ない。ブラストを除いて。兎は寂しいと死ぬんだぞオラァ、と内心で思いつつも、親戚の家で半ば放置飼育されていた兎は5年くらい生きていたから存外タフな生物かもしれないとセルフツッコミで時間を無為に使う。

 

「ちくしょう、折角ワンターンスリィクラッキングゥ…できるコンボを考えたのに試せる相手が居ねぇ。他のデッキも使いたい。融合したい。シンクロしたい。エクシーズしたい。ペンデュラムしたい。リンクしたい――あぁあああぁっ!! もう、何で俺はこんなところ拠点にしちゃったかなぁ!? 全然人が来ないじゃんちくしょう!」

 

 周りに誰も居ないことを良いことに、ブラストは仰向けに寝転び、駄々っ子のように両手足をジタバタと動かす。一般人が見れば『何なのあのA・ジェネクス・ドゥルダーク…』とドン引きものだ。機械族のカッコ良さの欠片も感じない。

 

「――っ!? いっっ痛ぁ……!」

 

 うがぁあああっ、と振るっていた両手が竜を模したオブジェクトの角にぶつかる。右手小指の強打だ。仮想空間であるが、多少の感覚は共有されるリンクヴレインズでもこの痛みは辛い。タンスの角に足の小指でだけなかっただけマシだが、それでも痛いものは痛いのだ。

 

「――っ、このクソオブジェクトがぁっ!!」

 

 そして八つ当たりのようにブラストはそのオブジェクトに思いっきりラリアットを食らわせる。内心で『アルティメット・パウンド』と叫びながら繰り出すラリアットは虚しい。しかし、仮想空間と言えどデュエリスト。その身体能力は高く、虚しさ全開のラリアットでも問題なく竜のオブジェクトは綺麗に真っ二つに折れる。

 

「ハッハァー! この俺様に楯突いた報いだ! ざまぁみろ!」

 

 清々しいほど浅く器が小さい。たかがオブジェクトを破壊しただけで歓喜できるブラストは、悪の親玉というよりも戦闘員Aといった立ち位置の方が近いだろう。まるで某世紀末なモヒカンの如くハイテンションで浮かれている。

 

「フハハハハ! 所詮はデータの物体よ! この俺様に勝てる訳が――」

《隠しコードの起動を確認しました。ただ今よりアバター:ブラストの強制転移を開始致します》

「――うぇ?」

 

 瞬間、ブラストは物理的にも浮かされた。

 

「え、ちょ、待って! 隠しコードって何!? 俺ここに半年くらい居るけど、そんなの知らないんだけどぉ!? 半年経ってから明かされる衝撃の真実やめて! てか強制転移って何!? コントロール交換!? 相手誰だよ!? ――って、うわっ浮いてる! 浮いてるよ俺! ちょ――ヘルプ! ヘルプミー! 助けて! GO鬼塚でもブルーエンジェルでもハノイでも良いから誰か助けて!」

 

 慌てふためくブラストを余所に、その体は段々と宙に浮く。飛行能力のあるアバターでは多少なりとも抵抗できたかもしれないが、飛行能力など一切なく、宙に浮く経験もしたことがないブラストはただジタバタと泳ぐように手足を動かすだけ。あたふたと今度は本気で焦るが、強制執行されたプログラムにブラストが逃れる術はない。

 

「オイ、マジかよ…! 夢なら覚め――」

 

 三下、あるいはある種の大物のような台詞を最後にブラストの体が蒼光に包まれる。一瞬、強く発光したが、瞬く間にブラストはその場から忽然と姿を消していた。

 

 

 

 ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「アイター!」

 

 蒼光と共にブラストは姿を現すも、無様に顔面から地面へと熱烈な(マスク越しの)口づけを交わす。一瞬、パキンと金属製のナニカが割れるような音がしたが、そんなことよりも顔面の痛みの方が気になるブラストはそんな些細なことには構っていられない。

 

「イタタタ――ん? どこ、ここ?」

 

 表面が僅かに剥げたマスクをさすりながらブラストはゆっくりと立ち上がった。先ほどまで自分が居たスラムとは違い、さながら古代の神殿のような場所にグポォンと謎のSEを出しながら目をパチクリと点滅させる。床・壁・天井と順に見渡すとそこには至るところにドラゴン・竜・龍の壁画が一面に描かれていた。しかもそのドラゴンはデュエルモンスターズでよく見るメジャーなものから、こんなのも居たなぁと懐かしいもの、マイナー過ぎてこんなの居たっけ、というぐらいありとあらゆる種類の、狂気的(・・・)な数のドラゴンが所狭しと神殿を飾っている。

 

(えっ――何このドラゴン厨空間。超怖いんだけど)

 

 ゾッと背筋を強張らせるブラスト。その反応は例えるならヤンデレストーカーの部屋に意中の相手の写真が床・壁・天井に所狭しと埋め尽くされている様を見せられたに等しい。ここは自分が拠点にしていたスラムの何十倍も恐ろしいと直感する。身を震えさせながら、ゆっくりと立ち上がり、周囲を確認。こんな危険なところから一刻も早く去りたいと、やや小走りで奥へと進む。

 

「――出口。先ずは出口を探す」

「何故出口を探す必要がある?」

「バッカお前、こんな気味が悪いところから速攻で出たいからに決まってんだろ」

「気味が悪いとは随分と無礼な者だ。ここは多くの竜に囲まれた究極の空間だろうに」

「窮屈の間違いだろ」

 

 小走りで進む中、不思議とブラストは孤独を感じなかった。独り言のつもりで呟いた言葉に返答する声が聞こえるが、例え幻聴だとしても今のブラストにとっては精神的支柱の如き存在感だ。やはりこういう時のためにある程度の親交を持った仲間が必要だろうかと、自分のぼっち具合を本気で心配し始める。

 とにかく出口だ。イマジナリー会話相手は不幸にもヤンデレ系ドラゴン厨だが、それでも居ないよりはマシだと考える――

 

「――取り消せ、今の言葉…!」

「――あぁん?」

 

 ――が、突然イマジナリー会話相手に腕を掴まれる。おかしい、自分は1人でこの薄気味悪くてドラゴン至上主義な神殿の通路を歩いていたハズだ。イマジナリー会話相手と物理的に接触できるなんて、とうとう自分も気が触れてしまったかと、背後を振り返る。

 

「聞こえなかったか? ――今の言葉を取り消せ…!」

(…………ひぇっ…!)

 

 するとそこには美少女が居た。長い蒼髪をポニーテールでまとめ、ファンタジーなへそ出しルックで女魔術師感のある衣装を身に纏い、本来であれば愛らしいであろう顔が憤怒の色に染められている。

 その表情を見てブラストは思った。超怖ぇ、と。思わず悲鳴を上げかけたが何とか小声に留めた。伊達に何年も悪役ロールやってねぇんだぞこっちは、とでも言うように機械的なアイカメラを再びツィマッド社感溢れるグポォンと、謎SEで威嚇しながら少女を睨みつける。

 

「誰なんだアンタ一体。味方なのか? 俺様と一緒にこの神殿から脱出――イダ、イダダダダダダっ!?」

「3度目はないぞ。先ほどの言葉を取り消せ」

「分かった! すまなかった! 取り消す! 取り消すからそのアームロックを解除してくれ! このままじゃ俺の右腕が白い悪魔に切られた赤いゲ○ググみたいになっちまう!」

「よかろう」

 

 ミシミシピキピキと甲高い金属音が響き、関節部から火花が出始めて焦ったブラストは悪の親玉ロールのことなど半分忘れ、素直に少女に謝った。少女は傲慢な態度でそれを許し、ブラストの右腕を解放する。

 ブラストはすぐに右腕部に異常がないか軽く肩を回したり、グーパーを繰り返してマニュピレーターにも問題がないことを確認して安堵の息を零す。

 

「ふむ……余の無礼千万コードにどんな奴が引っ掛かったと思ったが、ただの俗物だったか」

「(何だその変なネーミングセンスのコードは)……あの強制転移はアンタの仕業か」

「如何にも。余がリンクヴレインズの至る所に竜の石造を配置し、それに危害を加えた者をこの場所へ強制エリア移動。その者にドラゴンの荘厳さと強靭さと可憐さと愛らしさとふつくしさとを強制的に叩き込ませるためだけに仕組んだのだ」

「何コイツヤバイ(強制移動のプログラムってスゲーなアンタ)」

「汝、言動と本音が逆だぞ。まぁ良いだろう。余は寛大故に、今の発言も余を褒め称える一句として受け取っておこう」

 

 何なのこの人、とドン引きするブラスト。世の中には色んな人間が居ることはわかるが、それでも目の前の少女は群を抜いておかしい。また、良く見て気づいたが少女の姿は完全に≪ドラゴン・ウィッチ‐ドラゴンの守護者‐≫の色違いアバターだ。それだけでこの少女がどれだけドラゴンに魅入られ、入れ込んで、溺愛しているかが分かる。これはハノイの騎士よりもヤバイ奴に絡まれてしまったと、ブラストはため息をついた。

 

「さて本題に入ろう。汝は余が設置した竜の石造を破壊した。これに相違はないな?」

「あー……うっかりやってしまったかもしれねぇ。決して故意じゃあねぇんだが……修理費用は持つから勘弁しちゃあくれねぇか?」

「その愚直なまでの素直さには感心する。まぁ余も逆鱗を触れられた竜ではないので、眠れる龍を起こすこともないだろう」

(何で例えが一々ドラゴンなんだ…)

「修理費用を出すなら余も無碍にはせん。そこまでするのであれば、余としても汝に修理費用に見合う分だけのことを申せ。何でも聞いてやろう」

「よし、じゃあデュエルだ」

「即断即決か。余好みの答えだ」

 

 何だ、この少女良い奴じゃん! とブラストは機械式の掌をクルリと540°回転させる。

 最初はおぞましいところに連れて来られたと内心ビクビクしていたが、デュエルができるのなら何の問題もない。それに新たに調整した闇機械デッキを試すことができる、と新デッキの準備をする。

 

(――って、ちょっと待て俺。ここでハノイが使っていたカードなんて使ったら俺がハノイ疑惑持たれるじゃねぇか! くっ、折角新デッキを試せると思ったのに…!)

 

 しかし、生憎と目の前の少女は(色々と特異的な言動と行動が過ぎるが)一般人だ。巷を騒がせているハノイのカードが入ったデッキを試せるハズがない。仕方ないか、と呟きながらブラストはもう1つのデッキを選択する。これは普段の自分のイメージとはかけ離れているので使用頻度はほとんどないが、この少女相手ならば問題ないと感じた。良くも悪くも、この少女は自分のことを知らない(・・・・)。ならば先入観のないまっさらな状態なのだ。ならば例え初見殺し気味なこのデッキでも良いだろうと、ブラストは(ない)口端を吊り上げる。

 

「――言っておくが、余は強いぞ?」

「その言葉、そのまま返すぜ。せめて1ターンは生き残ってくれよ? あー…」

「あぁ、そうう言えば名乗りを上げていなかったな。そうさな、余のことは''エンプレス''とでも呼ぶが良い」

「オーケー、俺様はブラストだ。よろしく頼むぜ、女帝(エンプレス)さん。精々足掻いてみせろや」

「その言葉、そのままお釣り付で返却してやろう、爆風(ブラスト)よ」

 

 共に一定の距離のままデュエルディスクを構える。中空に互いの手札・ライフポイント・アバター名がソリッドビジョンで表示され、先攻・後攻を決定するランプもデュエルディスクに点いた。

 相手がどんなデッキを使うかはブラストでも大まかに予想できる。相手に合わせて某種族を装備する機械族デッキも考えたが、それだと文字通り相手の逆鱗に触れそうなので今回は割愛。純粋に使う機会のなかったこのデッキを大活躍させてやろうと、三下らしく(ない口と舌で)舌なめずりしながら相手を見据える。

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

「余の先攻だ。先ずは魔法カード≪竜の霊廟≫を発動。デッキからドラゴン1体を墓地に送る。さらに墓地に送ったモンスターが通常モンスターだった場合、もう1体ドラゴンをデッキから墓地に送ることができる。余は≪ダークストーム・ドラゴン≫を墓地に。こやつは場・墓地に存在する時は通常モンスターとして扱うデュアルモンスター。よって≪竜の霊廟≫の効果でもう1体のドラゴン――≪エクリプス・ワイバーン≫を墓地に送る。 墓地に送られた≪エクリプス・ワイバーン≫のモンスター効果を発動。このカードが墓地に送られた場合、デッキからレベル7以上の光か闇のドラゴンをゲームから除外する。余はデッキから≪亡龍の戦慄-デストルドー≫をゲームから除外」

(やっぱりドラゴンだよなぁ…)

 

 この場所、この相手、この言動でドラゴン使いでなければとんだ詐欺だ、と思うブラスト。予想通りと言えば聞こえは良いのだが、どうも相手から――というよりも、相手のデッキから不穏な空気を感じる。初手で魔法カードを使い、墓地肥やしと間接的なサーチ除外を行った。ただそれだけ形容しがたい畏怖を感じるのだ。今まで対峙してきたどんな相手と違う、異質な雰囲気をブラストはマシンアバターの肌で感じ――微笑む。

 

(イイじゃねぇか…さながら自称で強いって言うだけのことはある。楽しいデュエルになりそうじゃねぇの…!)

「ふむ、中々狂喜的な顔をするのだな汝は――」

 

 そんな自分の表情を見透かされてか、対峙するエンプレスが感心したような顔になる。しまった、つい頬が緩んでしまったとブラストは反省した。まだ相手の手の内を見てもいないのに、期待が強く顔に出過ぎたことへ若干の気恥ずかしさを感じる。

 

「――まぁ、余の最終的な布陣を前にして、その表情を絶望一色に塗り潰すのも一興か」

 

 しかし、そんなブラストの気恥ずかしさなど歯牙にもかけぬ、といった表情でエンプレスは手札のカードを風を切るようにデュエルディスクへ挿し込む。

 

「余は墓地の闇属性≪ダークストーム・ドラゴン≫と光属性≪エクリプス・ワイバーン≫をゲームから除外し、手札から≪輝白竜ワイバースター≫と≪暗黒竜コラプサーペント≫をそれぞれ特殊召喚。除外された≪エクリプス・ワイバーン≫の効果発動。このカードがゲームから除外された時、自身の効果で除外したモンスター、≪デストルドー≫を手札に加える。そして手札に加えた≪デストルドー≫を捨て、≪調和の宝札≫を発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーを捨てることでデッキからカードを2枚ドローする。次いで手札から≪聖刻龍-ドラゴンヌート≫を召喚し、墓地の≪デストルドー≫の効果発動する。自分フィールドのレベル6以下のモンスター1体を対象にライフを半分払い、対象にしたモンスターのレベル分だけ自身のレベルを下げて特殊召喚する。さらにカード効果の対象になった≪ドラゴンヌート≫のモンスター効果発動。自身がカード効果の対象になった時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する。余はデッキから≪竜核の呪霊者≫を攻守0にして特殊召喚」

「……は?」

 

 つい呆けた声が出たブラスト。30秒と経たず、いつの間にか相手の場には5体ものモンスターが揃っている事実、並びにその自身の手札とライフを豪快に消費するプレイングは青天の霹靂のようなものだ。自分もモンスターの大量展開こそするが、ここまで早くモンスターを5体並べたことなどない。もしや自分はとんでもない相手にデュエルを仕掛けてしまったのかと、ブラストはここで初めて冷や汗を感じた。

 

「≪竜核の呪霊者≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫を発動。自分場のレベル8以上のモンスター1体をリリースし、デッキからカードを2枚ドローする――ふぅむ、ではそろそろ回していくとするか。現れよ、至高の龍道よ! 召喚条件はトークン以外のレベル4以下のドラゴン族2体! 余は≪ワイバースター≫と≪ドラゴンヌート≫をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現出せよ、リンク2! ≪ツイン・トライアングル・ドラゴン≫!」

 

 2体のドラゴンが光となり、天上のサーキットへ吸い込まれる。一瞬、紫黒色の強い光が溢れ、サーキットから1体のドラゴンが姿を現す。

 

「≪ツイン・トライアングル≫のモンスター効果。こやつがリンク召喚に成功した時、500ライフを支払うことで墓地よりレベル5以上のモンスター1体を効果無効・そのターンの攻撃宣言不可で蘇生させる。地より出でよ、≪竜核の呪霊者≫。さらにフィールドから墓地に送られた≪ワイバースター≫の効果発動。デッキから≪コラプサーペント≫を手札に加える。手札から魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後闇属性1体を手札から除外。余は2枚ドローしてから≪コラプサーペント≫を除外する」

(この(アマ)、サーチだけじゃなく、ハンドアドの確保と情報アドの処理まできっちりしてやがる…!)

 

 場のモンスターの数が減っては増え、手札にサーチしたカードがいつの間にかコストにされて増え、という(自分も相手の事を言えないのだが)プレイングに感心と焦燥を感じるブラスト。未だ相手の場には4体のモンスターと4枚の手札。通常召喚権こそ使っているが、ドラゴン族は豊富な特殊召喚方法が強みだ。ここからさらにリンク召喚を重ねられる可能性もあると、ブラストは気を引き締める。

 

「続けて行くぞ――再び現れよ、至高の龍道よ! 召喚条件は同属性・同種族の効果モンスター2体以上! 余は闇属性・リンク2の≪ツイン・トライアングル≫、≪コラプサーペント≫、≪デストルドー≫をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現出せよ、リンク4! ≪闇鋼龍ダークネスメタル≫!」

 

 続けて――というよりは到達点の1つ(・・)としてエンプレスの場に黒龍が姿を現す。古に伝えられし伝説の黒竜に酷似した彼の龍は、その名に違わず鈍く輝いた龍鱗を煌めかせ、妖しくも艶やかな存在感を放っていた。

 初動から全力全開でデッキを回していくエンプレスにブラストは乾いた笑いさえ出て来る。

 

「初っ端からリンク4かよ…!」

「この程度で驚かれても困るな。まだ序の口であるぞ? 自身の効果で特殊召喚した≪デストルドー≫はデッキの一番下に戻り、墓地に送られた≪コラプサーペント≫のモンスター効果発動する。こやつが場から墓地に送られた場合、デッキより≪ワイバースター≫を手札に加える。余はここで(・・・)リバースカードを2枚セット。そして≪竜核の呪霊者≫をリリースし、手札から2枚目の≪アドバンスドロー≫を発動――それにチェーンして手札を全て捨て、速攻魔法≪連続魔法≫を発動する。これにより余は≪アドバンスドロー≫の効果のみを2回適用する」

「おい馬鹿やめろ」

「やめる訳がなかろう阿呆め。余は手札の≪ワイバースター≫を捨て、≪アドバンスドロー≫2回分の計4枚をドローする。ふむ、こう来たか、結構結構――では≪闇鋼龍≫のモンスター効果発動する。墓地か除外されている自分モンスター1体を効果を無効にし、守備表示で特殊召喚する。帰還せよ、≪ダークストーム≫」

 

 ≪連続魔法≫はブラストも愛用しているから分かる。手札が3枚の時に2枚ドロー系の通常魔法と組み合わせれば墓地にモンスターを送りたい時や、現状では不要なカードを処理するには最適なカードだ。しかもサーチした≪ワイバースター≫をそのコストに充てることでまたも情報アドバンテージを帳消しにしている。相手のことを言える立場ではないが、エンプレスの厭らしいプレイングにブラストは顔を顰めた。

 

「≪闇鋼龍≫の効果で特殊召喚したモンスターは場を離れる時デッキの一番下に戻り、この効果の発動後、余はリンク召喚できない――尤も、するつもりもないがな。余はセットしていた魔法カード≪儀式の下準備≫と≪ダークストーム≫をリリースし、セットしていた3枚目の≪アドバンスドロー≫を発動する。≪儀式の下準備≫はデッキから儀式魔法カードとそのカードに記されたモンスターを手札に加え、≪アドバンスドロー≫でさらにデッキからカードを2枚ドローする。余は≪祝祷の聖歌≫と≪竜姫神サフィラ≫を手札に加えた後、デッキからカードを2枚ドローする」

「何だあの手札の暴力」

 

 顰めっ面から吐き捨てるような口調でブラストは愚痴る。4枚だったエンプレスの手札がセットしていた2枚の魔法カードを使っただけで倍の8枚になった。ただそれだけのことだが、場にはリンク先を3箇所も確保している≪闇鋼龍≫が存在しているし、あれだけ潤沢な手札ならば如何様にもモンスターを展開できるだろう。壁でも相手にしていろ、と内心で特大ブーメランを放りつつブラストは冷めた眼差しをフィールドに向ける。

 

「ではここからは全力全速前進全開と行くとしよう――余は儀式魔法≪祝祷の聖歌≫を発動! 手札のレベル5≪聖刻龍-アセトドラゴン≫と同じくレベル5≪聖刻龍-ネフテドラゴン≫をリリースし、レベル6の≪竜姫神サフィラ≫を降臨させる! 祝いの祷りに応え、聖ずる歌に導かれし竜姫の姿をその眼に焼き付けよ! 儀式召喚! 光臨せよ、レベル6! ≪竜姫神サフィラ≫!」

 

 天上より幾本もの蒼い光柱がエンプレスの場に降り注ぐ。どこからともなく聞こえる無駄に壮大なコーラスをBGMに、光柱が1本の巨大な光となる。一瞬だけ蒼光が強く輝き、光は竜とも人とも言える姿を形成していく。段々と光が弱まり、その全貌が明らかとなる。

 天使の如き至上の翼、蒼玉の如き煌めきの龍鱗、貴さと美麗さを合わせ持った、まさしく''姫''と言う他ない姿にエンプレスは恍惚とした表情を見せ、ブラストはそんな彼女を白い目で見ていた。

 

「ふぅむ、流石は余の究極至高絢爛華美にして神聖珠玉高貴可憐なドラゴンだ。いつ見ても最上最高最良な御姿よ…」

「……お、おう…」

「だが、しかし、まるで全然、姫を守るに、この場は些か不十分。案ずるな、すぐに手練れを配置する故、何も問題はない」

「こっちは問題大アリだこの野郎!」

「知らぬ、そんなことは余の管轄外だ」

「てめぇ!」

「余はリリースされた≪アセトドラゴン≫と≪ネフテドラゴン≫のモンスター効果発動! こやつらがリリースされた時、手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する! 現れよ、ドラゴン族・通常・ペンデュラムモンスターの≪竜剣士マスターP≫! 同じく≪竜魔王ベクターP≫!」

 

 若干――というよりも大分イッタトリップをかましているエンプレスにブラストは声を荒げるが、アウト・オブ・眼中とでも言うように展開が続く。

 続けて現れたのは竜の剣士と竜の魔王。一昔前であればどこぞの人型機械をファンタジー世界にしたアレかな、と感じざるを得ない。

 

「ここからもノンストップでゆくぞ! 余は≪マスターP≫と≪ベクターP≫をリリースすることで、エクストラデッキよりこの融合モンスターを特殊召喚する! 瀑流を剛進せよ! 融合召喚! 降臨せよ、レベル8! ≪剛竜剣士ダイナスターP≫! さらに手札よりスケール2の≪魔装戦士ドラゴディウス≫とスケール7の≪魔装戦士ドラゴノックス(ノックス!)≫でペンデュラムスケールをセッティング! 揺れよ龍魂の振り子! 星振に応じ、その眠りから目覚めよ! ペンデュラム召喚! 現れよ、竜姫の精竜達よ! エクストラデッキより≪マスターP≫と≪ベクターP≫! 手札より≪竜剣士ラスターP≫!」

「今度はモンスター6体かよ…」

 

 手札8枚からの儀式召喚、特異な融合召喚に、ペンデュラム召喚の流れで残りの手札は1枚になったものの、エンプレスの場には6体もの竜が並ぶ。内1体はリンクモンスター、内1体は儀式モンスター、内1体は融合モンスター、他3体はペンデュラムモンスターと、傍から見ればおぞましい光景だ。さしものブラストも半ば辟易した顔でフィールドを見る。流石にこれ以上はないだろうと、ため息を吐きつつフィールドを見て――その中にレベル4のモンスターが3体、その内1体にチューナーが存在していることに気付く。

 

(――おい。まさか――まさか、こいつ――っ!)

「余はレベル4の≪ベクターP≫にレベル4の≪ラスターP≫をチューニング! 劫火を猛爆(たけは)ぜさせよ! シンクロ召喚! 招来せよ、レベル8! ≪爆竜剣士イグニスターP≫! ≪イグニスターP≫のモンスター効果発動! デッキより『竜剣士』1体を守備表示で特殊召喚する! 余は2体目の≪マスターP≫を特殊召喚! さらにレベル4・ペンデュラムモンスターの≪マスターP≫2体でオーバーレイ! 暴風を昇撃させよ! エクシーズ召喚! 顕現せよ、ランク4! ≪昇竜剣士マジェスターP≫!」

 

 ブラストの想定した最悪の上を行く展開に、当人たるエンプレスは満足気な表情を浮かべる。場には計5体、しかも全てがエクストラデッキから特殊召喚されたドラゴンなのだ。例え病的なまでのドラゴン好きでなかろうと、この光景には言葉を失う。内心でブラストは『加減しろ莫迦!』と悪態をつくが、ここは素直にこの盤面を作り上げたエンプレスを称賛すべきなのだろうかと、複雑な感情を抱いた。

 

「ふぅむ、これは中々の場だな。余もそれなりに満足したぞ」

「じゃあさっさと俺様にターンをくれ。俺様は我慢弱くて落ち着きがなくて短気で粗暴な男なんだ」

「それは汝の行動と発言から容易に察せられる。まぁ待て。余はリバースカードを1枚セットし、ターン終了――」

「よし、俺様のターン」

「――待てと言っておろうが。ターン終了時に≪マジェスターP≫の効果でデッキからペンデュラムモンスター1体を手札に加える。余はデッキから≪アモルファージ・イリテュム≫を手札に加える。そしてここで我が愛する≪サフィラ≫の尊き効果を発動。デッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる。ここで捨てた≪コドモドラゴン≫のモンスター効果を発動する。こやつが墓地に送られた時、バトルを放棄して手札のドラゴン1体を特殊召喚する。余は先程手札に加えた≪アモルファージ・イリテュム≫を特殊召喚」

「……俺様のタ――」

「最後に速攻魔法≪超再生能力≫を発動する。このターン、余が手札から捨てたドラゴン、及びリリースしたドラゴンの数だけデッキからカードをドローする。これにより余は7枚ドローする。手札枚数制限で1枚だけ捨てる――うむ、これで余のターンは終了だっ!」

 

 傲岸不遜そうでありながら、愛らしい、やりきったと顔に描いたような表情でエンプレスはブラストへターンを譲渡する。

 一方、やっとターンが回ってきたブラストは――

 

「…………」

 

 ――若干、いや、かなり冷めた、それも白い目か。否、すっかりと生気を無くしかけた、虚ろな眼差しをエンプレスの方へ向ける。

 

   リンクモンスター、攻撃力2800の≪闇鋼龍ダークネスメタル≫

    儀式モンスター、攻撃力2500の≪竜姫神サフィラ≫

    融合モンスター、守備力2950の≪剛竜剣士ダイナスターP≫

  シンクロモンスター、攻撃力2950の≪爆竜剣士イグニスターP≫

 エクシーズモンスター、守備力2200の≪昇竜剣士マジェスターP≫

ペンデュラムモンスター、攻撃力2750の≪アモルファージ・イリテュム≫

 

 エンプレスは度重なるライフコストにより、今のライフポイントは半分以下の1500だが、それだけのライフを犠牲にした甲斐あって、盤面は美しくも凶悪だ。

 フィールドには6属性全てのドラゴンが勢揃いしている上、リバースカードも1枚。ペンデュラムゾーンにはバトル時に手札を捨てて攻撃モンスターの攻撃力を半減させる≪ドラゴディウス≫と、バトル強制終了効果を持つ≪ドラゴノックス(ノックス!)≫が居る。さらに場に居る≪イリテュム≫の所為で自分はエクストラデッキからモンスターを特殊召喚できない。その≪イリテュム≫も、≪ダイナスターP≫の戦闘・効果破壊耐性によって守られている。

 しかも手札は6枚あるので、返しのターンの反撃も充分。

 思わず『詰めデュエルかな?』とブラストは現況にただただ渇いた叫び――ではなく、笑いが出てくる。

 

「――まぁ、なるようになるだろ」

 

 しかし、何もできない訳ではない。今の手札であれば自分のターンで返せる可能性がある。ドローによっては返せるどころか、倒せる(・・・)可能性もあるのだ。悲観するにはまだ早い。むしろ倒し甲斐さえある。

 

「さて――そんじゃいっちょ、ドラゴン退治といこうじゃねぇの!」

 

 先攻こそ譲ったが、今回の自分のデッキはどちらかと言えば後攻の方が良い。相手の綺麗な盤面を吹っ飛ばし、そのドヤ顔を絶望顔に変えてやる、とでも言うように、ブラストは昂揚したままデッキからカードを引いた。

 




先攻???VS後攻??????
      ↓
先攻全召喚VS後攻??????



スカルデッドが来た辺りで出来ましたけど、6属性揃えるために闇鋼龍採用。なお、しょご――守護竜を絡ませると対象耐性+戦闘耐性+効果破壊耐性+魔法カード(ほぼ)無効化のドラゴン盤面出来ました。


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VRAINS:先攻???VS後攻??????(後半)

ソリティアの時間だオラァ!(2回目)


「俺様のターン、ドロー! スタンバイフェイズに''手札から''罠カード≪無限泡影≫発動! こいつは俺様の場にカードが存在しない時、手札から発動できる! こいつでテメェの≪アモルファージ・イリテュム≫の効果をこのターンの間無効にする!」

「何という卑劣なっ!」

「テメェが言うなっ!」

 

 後攻開始早々、ブラストは手札にあった罠カードをその特異な発動条件により手札から場に出す。その効果は『相手の場の効果モンスター1体の効果をターン終了時まで無効』というシンプルなもの。セットして使えば縦列のカード効果を無効、自分の場にカードがなければ先攻・後攻を問わず汎用性に富んだこのカードの有用性は言うまでもない。決して『カードイラスト機械族じゃん! 何だかよく分からんが入れたろ!』というブラストの安易な理由ではないのだ。

 ブラストは先ず第一関門を突破できたことに内心で胸を撫で下ろした。正直、手札の内容的にもしも≪無限泡影≫の発動を無効化されていたら詰んでいた。一先ずは安堵し――次は''最終関門''。途中、エンプレスから身勝手な批判を食らうも、あっちがドラゴンソリティアなら、こっちは機械族ソリティアだ、と謎の対抗心を燃やしつつ手札のカードを力強くデュエルディスクへ叩きつける。

 

「手札の≪ジェット・シンクロン≫を墓地に送り、魔法カード≪ワン・フォー・ワン≫を発動! 手札のモンスター1体をコストに、デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する! 来なっ、≪ダークシー・レスキュー≫! 次いで魔法カード≪アイアンコール≫を発動! 自分場に機械族が居る時、墓地からレベル4以下の機械族1体を効果を無効にして特殊召喚する! 蘇りやがれっ、≪ジェット・シンクロン≫! さらにっ! 攻撃力0の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動! 自分の攻撃力500以下の機械族と同名モンスターをデッキから2体まで特殊召喚する! 追加で来いっ、2体の≪ダークシー・レスキュー≫!」

「ふぅむ…一気にモンスター4体か……」

 

 得意とする魔法カードによるモンスターの展開でブラストの場には一気にモンスターが並ぶ。相対するエンプレスも感心したように呟く。ブラストの残りの手札は1枚だが、通常召喚権も未だ残っている。前のターンで自分がしたようにここでモンスターを5体並べるという手もあるが、ここからどう動くのかと興味深そうにブラストへ視線を移す。

 

(場にはレベル1のモンスターが4体――来るかっ…!?)

「俺様はレベル1≪ダークシー・レスキュー≫に、レベル1チューナーモンスター≪ジェット・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル2! シンクロチューナー、≪フォーミュラ・シンクロン≫!」

「そっちがあったか…」

 

 てっきりランク1のエクシーズモンスター、もしくはリンク1~4のモンスターをエクストラデッキから出して来るとエンプレスは予想していたが、場に居た≪ジェット・シンクロン≫がチューナーモンスターであったことをすっかり失念していた。どうにもドラゴン族以外のモンスター知識が疎いエンプレスは自分を内心で叱咤する。また、レベルが低くてもエクストラデッキから呼び出されるシンクロモンスター、レベル1を並べてまで出す価値があるのだと、警戒するように≪フォーミュラ・シンクロン≫を睨む。

 

「≪フォーミュラ・シンクロン≫はシンクロ召喚に成功した時デッキから1枚ドロー、≪ダークシー・レスキュー≫はシンクロ素材として墓地に送られた場合デッキから1枚ドローする効果を持つ。よって俺様は計2枚のドロー! ガンガン行くぞオラァっ! 俺様は2体目のレベル1≪ダークシー・レスキュー≫に、レベル2、シンクロチューナー≪フォーミュラ・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル3! シンクロチューナー、≪武力の軍奏≫!」

「――むっ…」

 

 ドローという分かり易いアドバンテージ確保効果に加え、2度目のシンクロ召喚。そして2度目のシンクロチューナーの登場にエンプレスは僅かに眉を顰める。1+1、1+2、とある意味順調に足し算的にシンクロ召喚を行い始めたブラストに対し、まさか、と言った具合に不安が過った。

 

「≪武力の軍奏≫はシンクロ召喚に成功した時、墓地からチューナー1体を効果無効にして特殊召喚する! 甦れっ、≪フォーミュラ・シンクロン≫! さらにシンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー! 続けてぇ――俺様は3体目のレベル1≪ダークシー・レスキュー≫にレベル3、シンクロチューナー≪武力の軍奏≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル4! ≪アームズ・エイド≫! さらにシンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」

 

 F1カー、ブリキの人形と続いて現れたのは物々しい機械腕。先ほどまでは機械族にしては愛嬌のあるモンスターだったが、やや毛色が異なるモンスターの登場にエンプレスは気を引き締める。場にはレベル2のシンクロチューナー、≪フォーミュラ・シンクロン≫とレベル4の≪アームズ・エイド≫のみ。普通に考えれば、その2体を素材にレベル6のシンクロモンスターを出して来ると思われるが、手札は度重なるドロー効果で1枚から5枚にまで増えている。ここから新たにモンスターを召喚し、より高レベルなシンクロ召喚、デッキの内容によっては自分のようにリンク召喚やエクシーズ召喚も絡めて来ることも考えられる。自分のこのサフィラハーレムフィールド(命名:エンプレス)がそう簡単に崩されるとは思えないが、それでも目の前のブラストという男からは、異質な何かを感じてしまう。

 

「もう少しって、とこか。手札から魔法カード≪ダーク・バースト≫を発動。墓地の攻撃力1500以下の闇属性モンスター1体を手札に加える。俺様は墓地の攻撃力0の≪ダークシー・レスキュー≫を手札に加えて、そのまま召喚する!」

「ふぅむ――狙いはレベル7のシンクロ召喚か?」

「生憎だが、今日はレベル7(≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫)の出番はねぇ! 説明し忘れたが、≪武力の軍奏≫をシンクロ素材に使ったシンクロモンスターはチューナーとしても扱う! よって今の≪アームズ・エイド≫はチューナーモンスター! 俺様はレベル1≪ダークシー・レスキュー≫にレベル4チューナー≪アームズ・エイド≫をチューニング! シンクロ召喚! 現れやがれ、レベル5! ≪アクセル・シンクロン≫!」

「まだシンクロするのか…」

 

 自分の先のソリティアのことなどすっかり忘れ、本日4度目のシンクロ召喚にエンプレスは顔をげんなりとさせる。現れたのは男の子のロマンとでも言うように、赤いバイクが人型に変形したようなトランスするフォーマーなロボット。男子ってこういうの好きだなぁと、若干的外れ気味な印象を抱くエンプレス。

 

「シンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー!」

 

 だがそんなエンプレスのことを今だけ意識しないでブラストは引いたカードを一瞥。緑色枠――つまりは魔法カード、それも目的のものを引けたことに思わずアイカメラがジオニック社よろしくグポォンと歓喜の効果音を鳴らす。

 

「ククク――フハハハハッ! やっとこいつが引けたぜぇ! 今からテメェのその綺麗なフィールドをぶっ潰してやる!」

「ほう、大した自信だな。余の盤面そう簡単には崩せるとは思えんが…」

「その余裕そうな面もこれまでだっ! 俺様は墓地の≪ジェット・シンクロン≫の効果発動! 手札1枚を墓地に送り、自身を墓地から特殊召喚する! 尤も、この効果で自己再生した≪ジェット・シンクロン≫は除外されるが……そして攻撃力500の≪ジェット・シンクロン≫を対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動! さっきも使ったから説明はいらねぇよなぁ!? その効果によりデッキから同名モンスターの≪ジェット・シンクロン≫を2体特殊召喚! さらにさらにぃ! 墓地の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に装備魔法≪継承の印≫を発動! 墓地に同名モンスターが3体居る場合、内1体をこいつを装備して蘇生する! 復活しろぉ! ≪ダークシー・レスキュー≫!」

「ワンターンファイブレスキュー…」

 

 流石に5度目の登場ともなると、オールを漕いでいる≪ダークシー・レスキュー≫の表情に疲労が見える。1ターンで何度も呼び出し過ぎだろうと、エンプレスは≪ダークシー・レスキュー≫に憐憫の眼差しを向けて――フィールドの状況を見て、大きく目を見開いた。

 ブラストの好きなようにやらせていたが、いつの間にかブラストのモンスターゾーンは6体全て埋まっているのだ。エクストラモンスターゾーンには≪アクセル・シンクロン≫。メインモンスターゾーンに≪フォーミュラ・シンクロン≫、≪ダークシー・レスキュー≫、3体の≪ジェット・シンクロン≫。現時点で合計レベルは11――だが、6体の内5体はチューナーだ。ここからまた段階的に足し算をしていくのかと、エンプレスは険しい表情を見せ、対照的にブラストは下種な笑みを浮かべていた。

 

「こいつで仕上げだ…! 俺様は≪アクセル・シンクロン≫のモンスター効果発動! デッキから『シンクロン』モンスター1体を墓地に送り、そのシンクロン分自身のレベルを上下させる! 俺様はレベル2≪シンクロン・エクスプローラー≫を墓地に送り、≪アクセル・シンクロン≫のレベルを3に下げる!」

「レベルを下げた…? 汝は一体何をするつもりだ?」

「こうすんだよ! 俺様は、レベル1≪ダークシー・レスキュー≫に――レベル3≪アクセル・シンクロン≫、レベル2≪フォーミュラ・シンクロン≫、レベル1≪ジェット・シンクロン≫3体を――5重調律(クィンタプルチューニング)! 次元の狭間より出でし黄邪龍よ、世界の全てを凍て砕けぇっ! シンクロ召喚! 現れろぉ! レベル9! ≪水晶機巧(クリストロン)-グリオンガンド≫!!」

 

 5体のチューナーが一瞬だけ半透明になり、すぐに緑色の歯車へと姿を転じる。その数は8――そしてその8つの歯車は水平に並び、中央に白星と化した≪ダークシー・レスキュー≫が追随。刹那、黄金の光が激しく輝き、フィールドに光が溢れる。

 爆光が失せ、ブラストの場に1体の機械族がその姿を現出していた。竜のようであり、人のようであり、機械のような体躯。全身を黄金に輝かせ、機械仕掛けの竜人姿は見る者を圧倒する。その威圧感にエンプレスは無意識の内に息を飲み、頬に汗が滴り落ちた。

 そんなエンプレスの反応にブラストは愉悦の感情を抱き、畜生の表情を張り付けたまま口を開く。

 

「≪グリオンガンド≫のモンスター効果発動ぉ! こいつがシンクロ召喚に成功した場合、シンクロ素材にしたモンスターの数までテメェの場・墓地のモンスターを対象に、対象にしたモンスター全てを除外するッ!!」

「なっ――モンスターの除外だとっ!?」

「テメェのドラゴンは次元の彼方に消えてもらう! 俺様の≪グリオンガンド≫は6体のモンスターを素材とした――よってぇ! 6体のテメェのモンスター――≪闇鋼龍≫、≪ダイナスターP≫、≪イグニスターP≫、≪マジェスターP≫、≪イリテュム≫、そして≪サフィラ≫の6体を除外する! 消え失せろォ!! グレッチャー・ファル!!」

 

 ≪グリオンガンド≫は垂らしていた右腕をゆっくりと胸の辺りまで上げる。次いで眼前の6属性6種類6体のドラゴンを標的と見定め――軽く、その右腕を振るった。何気ない、デュエリストがただデュエルディスクからカードをドローするような自然さ。ただそれだけで、エンプレスのフィールドに居たドラゴンは黒い球体に覆われ、瞬きする間もなくその姿を消失させる。

 その光景を目にし、エンプレスはいつの間にか自分が救うように右腕を伸ばしていたことに気付いた。破壊効果であれば墓地にある≪祝祷の聖歌≫の効果で≪サフィラ≫と、同時処理の都合で耐性が付与されたペンデュラムモンスターである≪イリテュム≫は生き残っただろう。また、戦闘を介するのであれば≪ドラゴディウス≫、≪ドラゴノックス≫のペンデュラム効果で対応もできた。だが、除外となれば今のエンプレスに防ぐ手立てはない。無論、デッキには防御策として対効果モンスター耐性として≪スキル・プリズナー≫や≪ブレイクスルー・スキル≫といったカードを積んでいるが、生憎と現時点ではセットしていないし、墓地にもないため、ただむざむざと至高のフィールドを荒らされた。何故このタイミングで引き込めていなかったのか、何故破壊耐性だけで満足してしまったのか、何故あれだけのドラゴン達はフィールドから消失してしまったのかと、エンプレスは自分の不甲斐なさに対する憤りとドラゴンへの喪失感、怒りと悲しみが入り混じった複雑な感情を卸せず、呆然と空になったフィールドを空虚な眼差しで見つめる。

 

「ククク、これでフィールドのモンスターゾーンは綺麗さっぱり片付いたな――が、まだテメェには≪ドラゴノックス≫とかいう厄介なバトル終了効果を持ったモンスターが居やがる。次はそいつを除去するカードを引き込ませてもらうぜ? 俺様は速攻魔法≪マグネット・リバース≫を発動。俺様の墓地・除外されている通常召喚できない機械族、または岩石族を1体特殊召喚する。俺様は墓地からシンクロモンスターの≪アームズ・エイド≫を特殊召喚。そして場に機械族モンスターが2体存在することで、魔法カード≪アイアンドロー≫を発動。自分場に機械族が2体存在する時、デッキからカードを2枚ドローする。この効果の発動後、俺様はあと1回しか特殊召喚できないが――」

 

 虚ろ目になったエンプレスを歯牙にもかけず、ブラストは淡々とプレイングを続ける。ドラゴン除去までは問題なくできた。しかし、このターンで終わらせるには戦闘ダメージを与えなければ勝利できない。ならばデッキにある魔法・罠除去カードを引き込めば良いと、魔法カードを駆使し展開とドローを並行して行い――

 

「――こいつを引ければ問題ねぇなぁ…! 俺様はドローした速攻魔法≪魔法効果の矢≫を発動! テメェの表側表示の魔法カードを全て破壊し、破壊した数×500ポイントのダメージを与える! さぁ、そいつらにも消えてもらおうじゃねぇの!!」

 

 ――すんなりと、除去カードを引き当てた。本来であれば≪サイクロン≫や≪ツインツイスター≫や汎用性の高いカードの方が有用性がある。しかし、ブラストは以前某青天使とのデュエルで凄絶なバーン合戦をやってのけた時、僅かな差で敗北した。あの時の起点となるカードを潰すため、そして嫌がらせのバーン効果付というだけでチョイスされたのがこの≪魔法効果の矢≫なのだ。幸いにして、ペンデュラムモンスターに対しても高いメタ効果がある。今の状況であれば一気にペンデュラムスケールの破壊と1000ポイントものダメージだ。死体に鞭打つとはこのような状況のことを言うのだろう――

 

「……罠カード≪ダメージ・ダイエット≫を発動。このターン、余が受けるダメージを全て半分にする」

「ハッ、それでも半分の500ダメージを受けてもらうし、ペンデュラムゾーンも破壊させてもらう!」

「構わん――が、余とてここで終わるデュエリストではないッ!! 余は手札から≪スピードローダー・ドラゴン≫のモンスター効果発動! 余が効果ダメージを受けた時、こやつを手札から守備表示で特殊召喚! さらに余が受けた500ダメージを汝に与え、その半分250だけ余のライフポイントを回復する!」

「なにィっ!?」

 

 ――しかし、事態は好転しなかった。エンプレスは虚ろ目になりつつも、デュエリストの闘争本能としてか、対策を講じる。ペンデュラムゾーンのカードを破壊して安全に戦闘できるようになったことは良い。だが、ブラストからしてみれば手札から新たに壁モンスターを出すことなど完全に予想外だ。しかも僅かとはいえバーン効果も実質4分の1にされ、半分のダメージを受けるという窮鼠猫を噛むを体言された。

 エンプレスは場に守備力600の≪スピードローダー・ドラゴン≫が居るのみ。手札は5枚になり、ライフポイントは先程の減加で1250。

 対してブラストは場に攻撃力3000を誇る≪グリオンガンド≫、準アタッカーとなる攻撃力1800の≪アームズエイド≫、手札は2枚あるが、どちらも万が一の時の防御札、ライフポイントは3500。

 この状況であれば、先ず≪アームズ・エイド≫で壁モンスターを戦闘破壊し、≪グリオンガンド≫で直接攻撃すれば≪ダメージ・ダイエット≫でダメージを半減されようとブラストの勝ちだ。しかし、どうもそれがブラストには引っ掛かる。相手が手札誘発効果を持ったモンスターがまだ手札に居り、このターンで決めきれず、返しのターンで一気に反撃される可能性も充分にあると、ブラストの脳内で危険信号を送っていた。1度手札誘発を目にすると、どうしても疑心暗鬼になってしまう。順当に戦闘破壊をして良いのか。それとももう相手の手札にはこれ以上出せるモンスターは居ないのではないかと逡巡する。

 

 時間にして5秒。それなりに時間を使い、考え抜いたブラストの答えは――

 

「……俺様は≪アームズ・エイド≫のモンスター効果を発動。自身を≪グリオンガンド≫に装備し、その攻撃力を1000ポイントアップ。よって攻撃力は4000だ。さらに、相手モンスターを戦闘破壊した時、その攻撃力分のダメージを相手に与える――やれぇ≪グリオンガンド≫!! ハイパーボリア・ゼロドライブ!!」

「ぐっ…!」

 

 ――モンスターを除去しつつ、ライフポイントを削る。エンプレスが≪ツイン・トライアングル・ドラゴン≫や≪デストルドー≫を活用してライフコストをふんだんに払うスタイルである以上、払わせるライフをなくしてしまえば良い。それにブラストの手には防御札が2枚あり、≪グリオンガンド≫の被破壊時の効果で戦線は崩壊しない。無理に攻め込む必要はないと、控え目の手を選んだ。

 ≪アームズ・エイド≫を装備した≪グリオンガンド≫の右腕が黄金色に輝き、物言わぬ機械として、ただ無言で手刀を振るう。守備力600の≪スピードローダー・ドラゴン≫は成す術なく爆散し、≪アームズ・エイド≫、≪ダメージ・ダイエット≫の効果でエンプレスは1200のダメージを受け、残りライフは僅か50。ライフコストはおろか、下手な超過ダメージさえ許されない状況となる。

 しかし、それでもブラストは安心しきれていない。まだ何かある――確信めいた何かを感じ、ここから何かしらのアクションは起こすだろうとブラストは予見していた。

 

「ドラゴン族がカード効果、または破壊され墓地に送られた時、手札から≪霊廟の守護者≫を守備表示で特殊召喚する!」

「チッ、やっぱ手札誘発を持っていやがったか…」

 

 出来れば外れて欲しかった予想。だが、ある意味では自分の危機察知能力でこのターンはダメージを与えられずに居た可能性もあった。それを考慮すればこの時点では最善の手ではあっただろうと、ブラストは自分に言い聞かせる。

 

「まっ、俺様の攻撃力4000を誇る≪グリオンガンド≫を倒せるとは思わねぇが、精々気張るこった。俺様はカードを1枚セットし、ターン終了」

 

 慢心、ではなく虚勢。ブラストの場には攻撃力4000の≪グリオンガンド≫、防御札のセットカード1枚。手札も万が一の時の手札誘発型の効果モンスター防御札。ライフポイントも3500と8分の7も残っている。しかし、これだけ盤面を整えていても不安は拭えない。相手のエンプレスは場に下級ドラゴン1体、手札は4枚、ライフポイントは僅か50。カード・アドバンテージこそエンプレスが勝っているが、次のターンで勝つのは自分だ、そのハズだと、ブラストは何度も言い聞かせる。それだけ、それだけ目の前の相手が底知れぬ何かを有しているがために、ブラストは不安を――いや、恐怖を拭えないでいるのだ。

 

「余のターン、ドロー。余は場の≪霊廟の守護者≫を対象にライフを半分の25支払い、手札の≪デストルドー≫の効果を発動。≪デストルドー≫をレベル3で特殊召喚。次いで――現れよ、至高の龍道よ! 召喚条件はドラゴン族2体! 余は≪霊廟の守護者≫と≪デストルドー≫をリンクマーカーにセット! 現出せよ、リンク2! ≪天球の聖刻印≫!」

(…やべぇ、判断ミスったか…?)

 

 そしてその恐怖は加速する。前のターンの内に手札に再び引き込んでいたであろう≪デストルドー≫で召喚権を使うことなくリンク2のモンスターを出すエンプレス。最早ライフポイントは飾りでしかなく、このターンで確実に倒すという明確な敵意がひしひしと伝わってくる。

 

「余は手札からスケール3の≪アモルファージ・オルガ≫とスケール5の≪アモルファージ・キャヴム≫でペンデュラムスケールをセッティング! 揺れよ龍魂の振り子! 星振に応じ、その眠りから目覚めよ! ペンデュラム召喚! 現れよ、余の精竜達よ! エクストラデッキより≪ラスターP≫! ≪ベクターP≫!」

 

 前のターンの再現、とまではいかずとも再び展開されたモンスターにブラストは気を引き締める。まだモンスター2体。この状況ならばリンク3~4のリンクモンスター、もしくはランク4のエクシーズ辺りが妥当だろう。しかし、それだけで自分の牙城は崩せない。まだ何か、まだ何かやってくるとブラストは身構え――

 

「――余は、『竜剣士』モンスターである≪ラスターP≫、『竜魔王』モンスターである≪ベクターP≫をリリースッ! 光と闇交わりし時、至上の竜が現世に解き放たれる! 現れ出でよッ! ≪真竜剣士マスターP≫!!」

「なん…だと…ッ!?」

 

 ――予想外の一手に驚愕する。あれだけ切り札級エクストラデッキのモンスターを展開しておきながら、メインデッキにさえフィニッシャーを用意しているデッキの混沌性にブラストの脳が理解を拒む。あれだけ超重量級なデッキをガンガン回すなど正気の沙汰ではない。改めて、眼前の少女がドラゴンに対してかなりの狂人であることを再確認させられる。

 

「これで終いだ…! 余は魔法カード≪フォース≫を発動! 汝の紛い物の竜、≪グリオンガンド≫の攻撃力を半分にし、その数値分≪真竜剣士≫の攻撃力をアップする! さらにッ! 墓地の≪スキル・サクセサー≫を除外することで、≪真竜剣士≫の攻撃力を800ポイントアップ!!」

「オイ――オイオイオイオイッ!?」

 

 自身のエースは弱体化され、相手のエースは大幅に強化されていく。4000という高い攻撃力を誇った≪グリオンガンド≫の攻撃力は2000となり、魔法・罠の効果で≪真竜剣士≫の攻撃力は5850まで上昇。その数値差は3750――まともに受ければ残りライフ3500のブラストは1撃で葬り去られる。

 

「バトルッ! 行け≪真竜剣士≫よ! その機械仕掛けの竜を一刀にて両断せよ!」

「させっかよォ! ≪グリオンガンド≫を対象に永続罠カード≪追走の翼≫発動! こいつは対象にしたシンクロモンスターが相手のレベル5以上のモンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時、その相手モンスターを破壊する! さらにッ! シンクロモンスターは戦闘、相手の効果では破壊されねぇ!!」

「≪真竜剣士≫の前で姑息な手は通じん! ≪真竜剣士≫のモンスター効果発動! 1ターンに1度、魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、その発動を無効にし――破壊するッ!!」

「なっ――っ!?」

 

 無情。反撃の嚆矢となる罠を竜の剣士は踏みつけるように叩き潰す。完全に無防備、そして弱体化した≪グリオンガンド≫にこれ以上守る手立てはない。

 一応、万が一破壊以外の方法で≪グリオンガンド≫が除去された場合、守りとしてブラストの手札には≪速攻のかかし≫があった。だが、今回は直接攻撃ではなく、モンスター同士の戦闘。手札の≪速攻のかかし≫は完全に死に札を化していた。≪速攻のかかし≫ではなく≪工作列車シグナル・レッド≫であれば。≪追走の翼≫を≪真竜剣士≫が出る前に発動していれば。シンクロデッキではなく、いつもの闇属性機械族デッキであれば――幾つもの後悔をブラストは胸に抱え。

 

「墜ちよ」

 

 ただ、自身のエースモンスターが、相手の竜に無残に叩き斬られる様を見ながら、ブラストのライフポイントが0を示した。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― 

 

 

 

「クッソがぁああああああぁっ!!」

「おっ、おぉう…」

 

 デュエル後、ブラストは膝を地につけ、両手も叩きつけながら雄叫びをあげる。その突然の奇行にエンプレスは思わず引く。

 

「チィ…! ≪速攻のかかし≫じゃなくて≪シグナルレッド≫を採用すべきだったか? いや、でもレベル1と≪複製術対応≫の点で抜けねぇ。なら魔法・罠か? 今回は結局のところで防御札が足りずに守り切れなかった……もう1枚セットカードがあれば対応できていた――いや、どっとにしろターボしても足りなかった。じゃあもっとアド回復で≪シンクロキャンセル≫辺りを絡ませてアド稼いでおけば…」

 

 敗北の悔しさ、その原因と今後の対応をその姿勢を維持したままブツブツと呟くブラスト。それに対しエンプレスはもっと引いた――ようなことはせず、意外、といったような表情でブラストを見る。デュエル前・デュエル中の態度的に傲慢で≪サフィラ≫を除外した最低屑野郎と評したが、腕前こそは実際に自分と遜色ないレベル。それに負けた上で原因を突き止めようとし、改善案まで即座に思案しているとことから、相当な向上心、もしくは負けず嫌いなデュエリストだと、その印象は変わった。自分もデュエル中はやや(・・)大人げなく、ドラゴンの姿をした機械族に憤ってしまったが、まぁ見た目ドラゴンを使っているのだから、センスは良いのだろうとかなり的外れな思いを抱く。

 

「ふぅむ、中々面白いデュエルだったぞブラストとやら。余は満足した」

「テメェが満足しても俺様が不満足なんだよ! ちょっと待ってろ、少しだけデッキ調整するからすぐに再戦だ。勝ち逃げなんて許さねぇからな!」

「……汝、相当な負けず嫌いだな。まぁ良い、余は寛大だからな! 気が済むまで相手になってやろう!」

 

 ふふん、とその仮想の巨乳を誇らしげに揺らし、エンプレスはドヤ顔で応える。何だかんだで自分も本気でデュエルが出来た上、展開ルートもまだまだあるのだ。それを全て披露しても良いだろうと、自身に満ち溢れた顔をする――

 

「よし、じゃあ朝までな」

「……ん?」

 

 ――が、ブラストの発言ですぐに崩れる。この男は今何と言った? 朝まで?

 

「ここ最近、デュエル出来なかったんだ。朝までとは言わず、最低(・・)でも100戦はやらねぇと腕が鈍る」

「えっ、ちょ、100!? いや、あの私、明日は仕事――」

「いやぁ、俺様は明日仕事休みで助かったぜ。気兼ねなく、好きなだけできるって最高だなオイ」

「あの、だから私、明日は仕事が――」

「関係ねぇよ。テメェが気が済むまで付き合うって言ったんだろ? 女に2言はねぇよなぁ?」

「それ男側の発言んんんんんん!!」

「よし、デッキ調整完了! オラァ! 2戦目やるぞオイ!!」

「いぃーやぁー!!」

 

 つい演じる(ロール)口調さえ忘れるエンプレス。人の話を全く聞かないブラストにポニテを掴まれ、ずるずると引き摺られて強制的に再戦させられる。助けを呼ぼうにも、ここはエンプレスが設定した余人が立ち入らない場所。良くも悪くも――まぁ悪い方に大分傾きが強いが、結局2人は朝まで仲良く(?)デュエルした。




先攻全召喚VS後攻??????
      ↓
先攻全召喚VS後攻6体シンクロ

当初はハリファ絡ませてやっていましたが、「連続シンクロだからモンスターゾーン確保する必要ないじゃん!」と前半投稿してから気付きました。


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VRAINS:龍機妖鬼①

オリキャラオンリー。
VRAINSの世界観での出来事と思って読んで頂ければと。
あとソリティア注意です。

2019/8/3追記
存外長くなりそうなので、前半ではなく①にサブタイ修正


 ブラストはいつものように根城としているスラムエリアで一般デュエリストに辻デュエルを仕掛けたり、ハノイの騎士相手に≪クラッキング・ドラゴン≫無限回収と称して両者合意の下アンティデュエルで≪クラッキング・ドラゴン≫を順調に増やしたり、それなりに充実した日々を送っていた。

 丁度≪クラッキング・ドラゴン≫が36枚ほど集まった頃だ。ブラストは≪クラッキング・ドラゴン≫を活用したデッキをどう仕上げようかと、闇属性や機械族関係を検索するため何気なくネットサーフィンをしていた時、とある広告に目が留まる。

 それは大会の広告だった。普段であれば適当に読み飛ばしていただろう。

 しかし、その広告に記載されていた優勝賞品に視線が釘付けになった。

 

 賞品:限定リンク4モンスター

 

 限定リンク4モンスター。

 通常のレギュラーパックや期間限定パックで購入できるカードとは違い、イベントでしか入手できないカードだ。それも2種類。さらにはその内の1種類が自身の愛用している機械族であり、この大会には何が何でも参加し、優勝しなければと、(特に意味のない)使命感さえ覚えた。

 こうしちゃいられねぇ、と注意事項や参加要項をロクに読まず、笹を食っていたパンダが笹を放り投げ、柵を飛び越え駆け出すような勢いで参加申込のWEBページへと進み――

 

 【①:     】

 【②:     】

 

 ――参加者名の入力画面で指が止まる。

 『何だこの①と②は』と、ブラストは頭上にクエスチョンマークを36個ほど浮かばせ、首を傾げた。

 一旦、ウィンドウを新たに開いてから改めて参加要項を確認する。

 

 ・大会は負け抜け戦

 ・タッグデュエル

 ・10連勝した’’チーム’’が優勝

 

「ははーん、なるほどタッグデュエルでの大会で10連勝すれば優勝できるのか――って、タッグデュエルだとぉ!?」

 

 優勝条件の10連勝というシンプルさに余裕の顔になるも、すぐに参加条件のタッグデュエルという文字でブラストはアイカメラを黄色く発光させ、困惑の表情を作る。

 

「くっ、10連勝すりゃ優勝っていう単純な大会なのにタッグデュエル…!? 孤独にして孤高(ぼっちで寂しがり)の俺様に対する当て擦りかコンチクショウっ!」

 

 いつの間にか膝を屈し、怒りで拳を地に叩きつけるブラスト。

 自称:孤高さんのブラストにとって今大会の参加条件はあまりにも残酷だった。

 

 別に仲の良い知人が居ない訳ではない。

 何だかんだでヒール役とベビーフェイス役で互いに役割を理解しているGO鬼塚やブルーエンジェル、リアルの友人でもあるリンクヴレインズの責任者、そしてその責任者の知人と、片手で数えられるくらいには知人が居る。

 ――片手で数えられないくらいしか居ないとも言えるが。

 

「クソッ! しかもタッグデュエルだと全員と相性悪いじゃねぇか…! 何だよ戦士と天使と悪魔と魔法使いって! どうせなら機械とシナジーあるデッキにしてくれよ…!」

 

 完全に八つ当たりである。

 一応、デッキの相性として属性だけならば悪魔族使いの某責任者と一致するが、いかんせん戦術的に相性がよろしくない。

 

 彼のデッキは酷い言い方をすれば圧迫面接デッキと言っても過言ではないだろう。

 最初は相手の出方――という名の自己PRを軽く受け流し、その後は意地悪な質問――という名のロック盤面で相手を委縮させ、最後にお祈りメール――という名の敗北を相手にプレゼントする、彼自身の見た目とあまりにもギャップがあるデッキなのだ。

 

 対して自分、ブラストは『とりあえず攻撃と効果で相手のLPを0にすれば良くね?』という脳筋機械族デッキ。

 守る暇があれば殴る。

 コンボを整える暇があれば焼く。

 潰せる時には一気に、徹底的に、圧倒的な力で、完膚なきまでに壊す。

 暴力と不条理を現したデッキなのだ。

 

 このタッグだと、言ってしまえば、会社の役員と暴力団が手を組むようなもの。

 現実的には相性が悪いとは言いきれないが、デュエルモンスターズ的には致命的なまでに相性が悪い。

 しかも互いにエクストラモンスターゾーンを取り合うような様まで簡単に予想できる。

 ここまで(デュエル限定で)相性の悪い人間が居ようか?

 いや、いない。

 

「あー……せめて、俺様のデッキも、組む奴のデッキも最大限の力を発揮できるような奴が居れば…」

 

 ぐでん、とブラストは半ば諦観した気持ちで仰向けに転がった。

 自分の所持カードを立体ウィンドウで可視化し、ぼーっとした眼差しで眺める。

 大体は機械族関連のカードだ。

 『ガジェット』、『クリストロン』、『列車』、『幻獣機』、『A・O・J』、『マシンナーズ』、『ギアギア』、『サイバー・ダーク』――と、流して見ていたブラストの目が止まる。

 

「――『サイバー・ダーク』…?」

 

 ここ数年近く使っていなかったため、その存在を忘れていたブラスト。

 『サイバー・ダーク』は機械族・闇属性のカテゴリ。

 特徴としては、レベル3以下のドラゴンを自身に装備し、相手を殴る。

 場が整っていれば融合召喚で大型ドラゴンを装備してステータスを上げ、一気に相手のLPを削り切る等、当初こそは脳筋至上主義のブラストにマッチしていた。

 だが時が経つにつれ、今は殴って焼いて野郎オブクラッシャァアアアアッ! ばかりしていたので、自ずと使用回数が減っていったのだ。

 

 同時につい先日デュエルしたあのドラゴン狂いを想起。

 デュエルの腕前は――申し分ない。それどころか敵に回ると厄介だ。

 性格も――ドラゴン狂いでデュエル狂いだから自分と相性は良いだろう。

 優勝賞品は――ご丁寧に機械族とドラゴン族、それぞれのリンク4モンスターだ。

 

「…………」

 

 情報を整理し終えたブラストは、無意識の内にアドレスから『ドラゴン狂い女帝』を選択。

 続けて通話の発信コールボタンを迷いなく押下。

 トゥルルル、トゥルルル、と一昔前のコール音が何度か鳴り――

 

『――何用だ?』

「来週のタッグデュエルの大会で優勝賞品がドラゴン族と機械族の限定リンク4モンスターだから俺様と組んでくれ」

『阿呆。申込初日に余と汝の名で申し込んでいるぞ』

「……えぇ…」

 

 ――ドラゴン狂いの行動力の高さにドン引きした。

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

「ふぅむ、大会など久方ぶりだな。昔はそれなりに出ていたのだが、いつの間にか運営から『殿堂入り』扱いされ、最近出ることが叶わなかったのだ。うむっ、実に久しい」

「それ殿堂入りじゃなくて出禁だ」

「ふふ、嫉妬か? まぁ汝程度じゃ分からんだろうな……余のレベルには」

「……いや、何かもういいわ…」

 

 大会当日。

 会場となるリンクヴレインズ内の大規模ホールに数十――いや、数百人ものデュエリスト達が集っていた。

 その中には当然、我らがデュエル狂い2人の存在も。

 

 大会の特有の緊張感と殺意に似た空気にエンプレスは懐かしさを覚え、ブラストはそんなエンプレスにマジ顔マジレスで返すも、本人は幸か不幸かその皮肉に一切気づかず。

 変にあれこれ言ってモチベーションが下がったり、タッグデュエル中に不仲になっては困るのでブラストはお口チャックで閉口。

 内心でため息を零しつつ、ワクテカと期待に満ちた眼差しではしゃぐ相方を見守る。

 

 その一方で何気なく大会参加者達に視線を移す。

 ブラストにとっては大半が顔も名前も知らぬ有象無象だが、たまに以前デュエルしたことがある者や、ランキングに名を連ねる者も何人か居たことに大会の水準に期待した。

 

 楽しいデュエルができそうだ、と三流下っ端のように舌なめずりをする。

 尤も、マシーン的アバターなので舌は存在しないが。

 

〈お待たせしました。大会参加者の方はホール中央にお集まり下さい〉

 

 開始時刻丁度5分前、各所に設置されたスピーカーからアナウンスが流れる。

 とうとう始まるのか、と参加者達は好戦的に目をギラつかせながら指示されたホール中央へと一斉に移動。

 

〈本日は振るってのご参加、誠にありがとうございます。本来であれば、この場で大会の規定・注意事項をご説明させて頂きますが、当初予定していた参加人数を大幅に超えたため、詳細につきましては事前にメールで送付した内容の通りとさせて頂き、この場では割愛させて頂きます〉

 

 そんなに参加者が増えたのか、とこの場に居た者達はほぼ全員が顔を見合わせる。

 確かに限定リンク4モンスターと聞けば腕に自信のある者はもちろん、コレクターとしても絶対に入手はしておきたい。

 しかも今回はタッグデュエル。通常規模の大会よりも参加人数が増えることも自ずと頷けるだろう。

 

〈それでは、早速ですが映えある第1戦目の方々――エンプレス様、ブラスト様の【チーム龍機】。葉子様、カメリア様の【チーム妖鬼】の4名は中央のデュエルフィールドにお越しください〉

 

 運営側も時間を巻いているのか、細かい挨拶等は一気に省き、早速とばかりにそのまま進行。

 これには参加者達も幾分か面食らったが、それ以上に先ほど名前が挙がった1人のデュエリストに顔を顰める。

 ブラスト。

 噂ではリンクヴレインズのスラムエリアを根城としている、悪役系中ボスデュエリスト。

 時折カリスマとのデュエルではニチアサ感溢れるやりとりで王道とも、テンプレートとも言える内容で観客を沸かせる――が、たまに過激なきらいがあり、ブラストと実際にデュエルをした一部のデュエリストからは非常に嫌われている。

 ロールプレイだとは分かってはいるが、警告やアカウント停止一歩手前の煽り発言・行為、最後の最後で屈辱的な敗北、最初のターンで何もできずに焼殺されるなど、数え上げればキリがない。

 何でアイツが出ているんだ、と一部の者は顔を青ざめているが、逆にまた一部の者はさっさと負けてしまえとさえ心の中で罵倒する。

 

 また、ブラストの相方たる人物の名前もリンクヴレインズでは見たことも聞いたことがない名前だったので、おそらく数合わせで無理矢理参加させられた可哀想な子なのだろうと、同情の念を送った。

 見た目は完全に≪ドラゴン・ウィッチ‐ドラゴンの守護者‐≫の髪色を蒼に染め、小柄な体をそわそわと振るわせている。

 その様子を見た多くの参加者は、こんな舞台に強引に付き合わされた可哀想な少女。

 ブラストのクソロリコン野郎。

 (結婚しよ…)

 アバターでは山のように盛っているが、リアルでは草原のように平坦なのだろう、等々好き勝手な思いをそれぞれ抱く。

 

 尤も、エンプレスが体を震わせているのは単に武者震いであり、新たな先攻展開を試せる機会が披露できることに歓喜しているからだ。

 

「ブラスト、先に余が動くぞ?」

「……一応、理由を聞いとく」

「今回は汝が余のために。そう、余のためにデッキを合わせてくれたことのだ。ならば汝が余計な下準備をせず、最初から墓地を整えておく必要がある。そのために余が’’全力’’で汝を万全の状態にしたいのだ」

「……んじゃ、任せた」

 

 デュエルフィールドに向かう途中、エンプレスはふぅん、とドヤ――誇ったような顔でブラストにそう説明する。

 戦術的にも、理由としても別段おかしいことはない。

 ……長いポニーテールを犬の尻尾のようにブンブンと揺らし、孤独(ぼっち)が初めて人に頼られて嬉しそうにしているような印象も拭えないが。

 ブラストとしてもある程度下準備をしてもらえるのならそれに越したことはない。

 若干の不安を覚えつつ、ブラストはエンプレスの案を了承。

 自分のターンは来るのだろうかと、訝しげに思いつつ、デュエルフィールドに着いた。

 

 相手方は既に到着しており、向かい合う形でその姿を視認。

 1人は巫女服を改造したような和服の銀髪狐耳和服少女。

 1人はゴスロリ服の金髪エルフ耳真紅眼八重歯吸血鬼然とした少女。

 

(――こいつら属性盛りすぎだろっ!)

 

 外見だけ見て、ブラストは素直にそう思った。

 さらにどことなく気品さがあり、和と洋のお嬢様といった感じの雰囲気がある。

 これがカリスマデュエリストであれば、ごく一部の奴が好きなんだろうなぁ、とブラストは目を細めながら目の前の少女2人に視線を合わせた。

 

 するとそんなブラストの視線に気づいたのか、狐耳の少女の方が年不相応に妖艶な笑みを浮かべてブラストに向けて小さく手を振る。

 

「今日はよろしゅう。ウチは葉子でこっちが相棒のカメリアや。ウチら、最近リンクヴレインズに来たばかりやさかい、お手柔らかにや」

「は? 大会なんだから手加減なんかする訳ねぇだろ。全力で叩き潰すつもりで行くから、アンタらもそのつもりで来いよ」

「ああん、イケずやわぁ。まぁでもウチはあんさんみたいな強引で真っ直ぐな人嫌いやあらへんよ? むしろ好みやわぁ」

「余の相棒を誘惑するでない女狐が…!」

「んん? もしかして男取られる思うとるん? かあいらしい子やねぇ」

「そんな訳なかろう阿呆。こやつは余の忠実な僕。僕を誑かそうとする悪女めいたムーヴをする汝に嫌気と吐き気と催し、憎悪と嫌悪を抱いているのだ」

「……なんや、意外と言うやないか――小娘風情が」

 

 何だこの女の戦いめいたギスギスした空気は、とブラストはアバターに存在しない胃が痛み始めたことを感じた。

 いつの間にか、何故か自身の立ち位置が何世代か前のライトノベルやシミュレーションゲームの主人公のそれに近い。

 というかブラスト自身はそんなものを望んでいない。ノーセンキューだ。

 デュエルが出来れば良いんだから、俺様を変にラノベ主人公やヒロインポジションにしないでくれ、ともう1人の方――カメリア、と紹介された全身真っ黒ゴスロリ吸血鬼の方へ助けを求めるようにアイカメラを向けるブラスト。

 自分に視線が送られたことに気付いたカメリアはどこかブルーブラッドみを感じさせる高貴な笑みをブラストに向け、優雅にスカートの端を軽く摘まんで一礼。

 

「よろしくお願い致します、ブラスト様」

「あぁ、よろしく頼むぜ」

 

 良かった、こっちは見た目通りにまともそうだとブラストは安堵の息を漏らし――

 

「ところでブラスト様とエンプレス様は恋仲なのでしょうか? あぁ、申し訳ありません、無粋な質問でしたね。エンプレス様の態度を見れば分かります。しかもかなり溺愛されているご様子――ブラスト様のことを僕、と仰っていますが、おそらく『僕』という言葉は、離れたくない、繋がっていたい、拘束したい、という想いの裏返しなのでしょう。えぇ、わかりますとも。私も殿方をそうしたいという気持ちはありますし、何より『相手から慕われている殿方』をそうしたいという気持ちがありますので。ところでこの大会の後、お時間はありますか? よろしければ私達の優勝祝賀会にリアルでお招きして、是非ともお話をしたいのですが――あぁ、移動に関しては何のご心配もいりません。私の方から車でも船でもヘリでも飛行機でも、いくらでもお出しできますので、例え地球の裏側に居ようとお迎えに上がります。おや、不思議そうなお顔ですね? そうですね、はしたない女と思われるかもしれませんが――私はブラスト様をお慕いしているのです。堂々と悪役然としたお人柄、善者を圧倒的な力で嬲る残虐性並びにその実力。我が家の家訓として『絶対強者』がありまして、ブラスト様はまさにその通りの殿方――率直に申し上げれば、一目惚れです。私自身、つい先日婚姻できる年齢になりましたし、両親からこうしてリンクヴレインズに入ることを許された身ですので、この機会――大会という舞台、それも映えある1戦目で巡り逢うなど、これは運命と言っても過言ではないのでしょうか? そう、これは運命なのです! あぁ、まさか初めてリンクヴレインズに来て、初めてデュエルするお方がブラスト様だなんて……そうだ、ブラスト様は何人子供が欲しいですか? 私としましては最低でも男の子と女の子を1人ずつ、いずれは子供だけでもこういったデュエルの大会を開けるほどの人数を望んでいるのですが…」

 

 ――かけたが、息が止まる。

 ポッと頬を赤らめながら、まるでガトリングのように紡がれるカメリアの言葉に、ブラストは9割9分9厘理解できなかった。

 何のことだ、まるで意味が分からんぞ! と声を大にして叫びたかったが、恍惚としながら熱い視線を送り、暴走機関車のような状態のカメリアにどう言葉をかければ良いのか――というか言葉を発したくない、とブラストは普段のヒールロールを忘れ、素で恐怖した。

 

(ふえぇ……超が付くほどヤベー奴だよぉ…)

 

 未だに自分に対して恋だの愛だの乙女座故にセンチメンタリズムな運命を感じているなど、妄言がこちらに飛んでくるが脳が理解を拒む。

 恐る恐る、といった形で助けを求めるように隣の相方へブラストは視線を移し――

 

「ほぅ……汝は異性に好かれる星の下にでも生まれたのか?」

(ひえっ…!)

 

 ――その様子に身を縮ませた。

 エンプレスはビキビキとこめかみに血管を浮き上がらせ、爬虫類――ではなく、竜のように瞳孔は縦に長く伸び、明らかに怒っている。

それもただの怒りではない。

 激怒、憤怒、赫怒、激怒――尋常ならざる怒りの表情を浮かべ、怒気が可視化されたオーラとして見えかねない上、言葉尻もどこか怒声を孕んでいる。

 

鉄壁のポーカーフェイスを装うが、ブラストも心中穏やかではない。

むしろこの状況で穏やかであってたまるか。

 

「……ふんっ! まぁよい。今この場で汝は余の番だ。例え駄狐や妄言蝙蝠に何を言われようが、この場においては余が汝を守る――絶対にだ」

 

 トゥンク――と、女性であれば心に響きかねない台詞に会場の当事者以外の会場の女性陣はエンプレスに発言に胸をときめかせた。

 ブラストは異様な空気に胸が苦しんだ。

 

「へぇ…言うやないか。羽根つき爬虫類風情が」

「そうですね。私の殿方を誑かせたトカゲには誅罰が必要かと」

 

 対して相手方の2人はそんなエンプレスの発言に苛立ちを隠そうともせず、デュエルディスクを構える。

 

 言葉は不要。

 

 こうなれば力づくでも奪い取る――否。

 妖らしく、力づくでも攫っていくまで。

 

「ゆくぞブラスト。あの色情箱入り娘どもに余と汝が力で以て屈服させる。火遊びが過ぎる幼子には大人の仕置きが必要だ」

「言い方ァ!!」

 

 明確な殺意3人。

 明確な恐怖1人。

 いつの間にか会場は当事者4人の殺伐とした空気に声援はおろか野次すら上げられず、緊張した面持ちで静観を決め込んだ。

 ――下手に発言してもヤバそうであるから閉口を決め込んだとも言えるが。

 

「「「デュエルっ!!」」」

「で、デュエっ…」

 

 

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 

 

「余の先攻だ。魔法カード≪竜の霊廟≫を発動。デッキからドラゴン1体を墓地に送り、それが通常モンスターであればさらに1体墓地に送る。余はデュアルモンスターの≪ダークストーム≫を墓地に。追加効果で≪エクリプス・ワイバーン≫を墓地に送る。≪エクリプス≫の効果。こやつが墓地に送られた場合、デッキからレベル7以上の光・闇のドラゴン1体を除外する。余は≪神龍の聖刻印≫を墓地に送る」

 

 いつものようにエンプレスはデッキを圧縮し墓地を肥やす。

 何度もデュエルしているブラストからすれば見慣れた光景であり、同時に今回はどんなルートで、どんな盤面になるのか楽しみにしている節もある。

 

「余は墓地の闇属性≪ダークストーム≫と、光属性≪エクリプス≫を除外し、手札から≪ワイバースター≫と≪コラプサーペント≫をそれぞれ特殊召喚。除外された≪エクリプス≫の効果を発動。自身の効果で除外したドラゴンを手札に加える。余は≪神龍の聖刻印≫を手札に加える。余はドラゴン族の≪コラプサーペント≫と≪ワイバースター≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、リンク2! ≪ドラグニティナイト-ロムルス≫!!」

 

 おや、とブラストは新顔の登場に新鮮な気持ちになる。

 つい先日までは≪ツイン・トライアングル≫や≪天球の聖刻印≫といった展開系のリンク2ドラゴンばかりだったので、この≪ロムルス≫は完全初見だ。

 それも普段とは違うカテゴリ系のカードなので、新たな戦術を披露してくれるのかと、やっと痛かった胸が期待に膨らむ。

 

「墓地に送られた≪コラプサーペント≫、≪ワイバースター≫の効果発動。≪ワイバースター≫、≪コラプサーペント≫を手札に加える。次いで≪ロムルス≫の効果発動。リンク召喚に成功した時、デッキから特定の魔法・罠カードを手札に加える。余は装備魔法≪ドラグニティの神槍≫を手札に」

 

 サーチ&サーチ&サーチで3枚だった手札が一気に6枚に。

 内4枚は既に公開されているので、相手からしたらそこまで恐怖ではないだろう。

 ――初めの内はブラストもそう思っていた。

 

「余は≪ロムルス≫に装備魔法≪神槍≫を装備。≪神槍≫の効果。1ターンに1度、装備モンスターにデッキから【ドラグニティ】チューナーを≪ロムルス≫に装備させる。余は≪ドラグニティ-ファランクス≫を装備。次いで魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキからカードを2枚ドローし、手札の≪コラプサーペント≫を除外。さらに手札からレベル8の≪神龍の聖刻印≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動する。手札のレベル8モンスターを捨てデッキから2枚ドロー」

 

 サーチ&ドロー&ドロー。エンプレスにはこれがあるから恐ろしいのだ。

 相手に公開したカードの4分の3を即座に使用・コストにすることで情報アドバンテージを消していく。5枚の手札で相手が分かっているカードは≪ワイバースター≫のみ。

 エンプレスならばさらにここから新たに――それも理不尽に展開していくだろうと、ブラストは相方の一挙一動に注目する。

 

「≪ファランクス≫の効果。【ドラグニティ】の装備状態のこのカードを魔法・罠ゾーンから特殊召喚。次いで手札から≪ホワイトローズ・ドラゴン≫を特殊召喚。このカードは自分場にドラゴン族・植物族チューナーが存在する場合、手札から特殊召喚できる――さぁ、ここからが余のドラゴンフェスティバルだっ! 余はレベル4以下のドラゴン族≪ファランクス≫と≪ホワイトローズ≫をそれぞれリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、2体のリンク1! ≪守護竜エルピィ≫! ≪守護竜ピスティ≫!」

 

 ≪ロムルス≫の左右下のリンク先に新たなドラゴンが姿を現す。

 片や右翼だけ存在する竜。

 片や左翼だけ存在する竜。

 その攻撃力は1000と心許ないが、デュエルモンスターズにおける低攻撃力は警戒対象。

 

 ブラストはもちろん、対峙している葉子・カメリアも表面上は余裕な笑みを浮かべているが、その眼差しは真剣そのもの。

 何か恐るべき能力は有しているだろうと、身構え――

 

「≪エルピィ≫の効果発動! 2体以上のリンクモンスターのリンク先に手札・デッキからドラゴン1体を特殊召喚する! 現れよ! ≪ドラグニティアームズ‐レヴァテイン≫!」

「――っ、ノーコストでリクルートかいな…!」

「これだから贔屓されているトカゲは…!」

 

 ――その凶悪な効果に2人は顔を顰める。

 実質召喚制限のないドラゴンを手札・デッキから呼び出せるのだ。

 弱い訳がなく、現にエンプレスも一気に最上級モンスターを呼び出した。

 

「≪レヴァテイン≫のモンスター効果発動! 召喚・特殊召喚に成功した時、墓地のドラゴン1体を装備する! ≪ファランクス≫を装備! そして≪ファランクス≫を自身の効果で魔法・罠ゾーンから特殊召喚! カードを1枚セットし――≪レヴァテイン≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫、これにチェーンして手札の≪ワイバースター≫を捨て、速攻魔法≪連続魔法≫を発動! ≪アドバンスドロー≫は場のレベル8モンスターをリリースすることで2枚ドローでき、≪連続魔法≫は手札全てを捨てることでチェーンした通常魔法の効果をコピーする! よって余はデッキから4枚ドローする!」

(あぁ、やっぱり全部の情報アド消しやがった…)

 

 ある意味いつも通り。

 手札自体は普通に発動した時と変わりないが、それでも現状では不要なカードをコストにし、ドロー枚数も増えたことでさらにデッキを圧縮。

 文字通り自分の手足のようにデッキを繰るエンプレスにブラストは安心感を覚える。

 

「手札の≪ドラグニティ‐クーゼ≫を捨て、魔法カード≪調和の宝札≫を発動。手札の攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨て、デッキからカードを2枚ドロー。次いで墓地の≪レヴァテイン≫の効果発動。≪神槍≫を装備した≪ロムルス≫を除外し、自身を墓地から復活させる。≪レヴァテイン≫の召喚・特殊召喚成功時の効果で墓地の≪クーゼ≫を装備。≪クーゼ≫も≪ファランクス≫と同じ効果を持つ――よって≪クーゼ≫を特殊召喚。再度≪レヴァテイン≫をリリースし、2枚目の≪アドバンスドロー≫を発動。デッキから2枚ドロー」

 

 ブラストは呑気に『デッキ回ってるなー』と半ば観客のようにエンプレスのプレイングを観ていた。

 ≪レヴァテイン≫はデッキ・墓地から呼び出され、その度に【ドラグニティ】を装備。その度に自身は手札補充用のコストとなり、装備されていた【ドラグニティ】が場に移動。

 エンプレスのことを言えた義理ではないが、≪レヴァテイン≫さん忙し過ぎて可哀想、と最上級モンスターなのにその扱いにブラストは欠片ほどの良心を痛める。

 

「次は≪ピスティ≫の効果発動! 2体以上のリンクモンスターのリンク先に墓地・除外されているドラゴン1体を特殊召喚! 余は除外されている≪ダークストーム≫を帰還! そして墓地に送り≪馬の骨の対価≫を発動! ≪ダークストーム≫はデュアルモンスター、よって効果無効か再度召喚されない限り通常モンスター扱い。つまり効果のないモンスターとなっているため、≪馬の骨の対価≫の効果で墓地に送り、2枚ドローできる!」

 

 あぁ、また最上級モンスターが犠牲に、とブラストは折角異次元から帰還した≪ダークストーム≫が3秒と経たずに墓地に行ったことに演技めいた涙を見せる。

 その間、エンプレスのグルグルソリティアを初めて目にした観客は目を丸くし、相対している和洋お嬢様2人に若干の焦りの表情が出てきた。

 それもそうだろう。

 いくら何でも5分近く経っても未だにターンが回って来ないのだ。一体いつになったらこの展開が終わるのか。いつになったら自分のターンが来るのかと、不安に感じることは何も間違いではない。

 何を隠そうブラストもそうだった。

 最近は慣れた。

 

「このまま一気にいくぞ? 余はドラゴン族の≪ファランクス≫と≪クーゼ≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、リンク2! ≪守護竜アガーペイン≫! して、≪アガーペイン≫の効果発動! 2体以上のリンクモンスターのリンク先にエクストラデッキからドラゴン1体を特殊召喚する! 顕現せよ、レベル7! 融合モンスター≪竜魔人キングドラグーン≫!!」

「何やそのインチキ効果!?」

「しかも対象耐性モンスターを出して来ましたか…」

 

 訂正。

ブラストは慣れたつもりだったが、容赦のないプレイングに流石に同情を禁じ得ない。

 リンクモンスターのマーカー先さえ合っていればノーコストでドラゴンを呼び出せるのはやはりおかしい。

 しかも魔法・罠・効果モンスターの効果の対象にならないという、耐性でも最高峰に近い。さらには攻撃力も2400と上級モンスター並なのでそう簡単には倒せないだろう。

 

(味方で良かった…)

 

 えげつないと内心で思いつつ、心強い盤面にブラストは心底ホッとした――

 

「余は同属性・同種族の効果モンスターである、リンク2の≪アガーペイン≫、≪エルピィ≫、≪ピスティ≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 顕現せよ、リンク4! ≪闇鋼竜ダークネスメタル≫!! そして伏せていた魔法カード≪儀式の下準備≫を発動! デッキから≪祝祷の聖歌≫と≪竜姫神サフィラ≫を手札に加える!」

 

 ――そう、心底ホッとした。

 

「≪祝祷の聖歌≫を発動! 手札のレベル5≪聖刻龍-アセトドラゴン≫と≪聖刻龍-ネフテドラゴン≫をリリース! 祝福の祷りに応え、神聖なる歌で我が身に栄光を! 儀式召喚! 顕現せよ、レベル6! 我が半身! ≪竜姫神サフィラ≫!!」

 

 まだ満足できないぜ、とばかりにまだ展開していても――

 

「リリースされた≪アセトドラゴン≫と≪ネフテドラゴン≫のモンスター効果発動! 手札・デッキ・墓地からドラゴン族・通常モンスター1体を攻守0にして特殊召喚する! 余は≪神龍の聖刻印≫と≪ガード・オブ・フレムベル≫を特殊召喚! そしてこの2体を墓地に送り、2枚目・3枚目の≪馬の骨の対価≫を発動! デッキから計4枚ドロー!!」

 

 ――また、場に出るだけ出て、すぐにコストでドラゴンが墓地に行っても――

 

「手札から≪ドラゴラド≫を召喚! こやつが召喚に成功した時、墓地より攻撃力1000以下の通常モンスター1体を復活させる! 甦れ、≪ガード・オブ・フレムベル≫! さらに≪闇鋼龍ダークネスメタル≫の効果発動! こやつのリンク先に墓地・除外されているモンスター1体を特殊召喚する! 帰還せよ、≪エクリプス≫! この効果発動後、リンク召喚はできない。まぁするつもりもないがな」

 

 ――やっと通常召喚したと思ったら、間髪入れずにモンスターゾーンが全て埋まっても――

 

「余はレベル4の≪ドラゴラド≫と≪エクリプス≫でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 顕現せよ、ランク4! ≪竜魔人クィーンドラグーン≫!! さらに≪クィーンドラグーン≫の効果発動! オーバーレイユニットを1つ使い、墓地からレベル5以上のモンスター1体を復活させる! 甦れ、≪神龍の聖刻印≫!」

 

 ――エクシーズ召喚でドラゴンが減ったかと思えば、即座に効果でまたモンスターゾーンが埋まっても――

 

「余はレベル8・通常モンスターの≪神龍の聖刻印≫にレベル1の≪ガード・オブ・フレムベル≫をチューニング! 顕現せよ、レベル9! ≪蒼眼の銀龍≫! ≪蒼眼≫の効果発動! こやつが特殊召喚に成功した時、余の場のドラゴンは汝らのターン終了時までカード効果では破壊されない!」

 

 ――今度は対象を取らない破壊耐性から守るドラゴンを出しても――

 

「そして手札からスケール2の≪魔装戦士ドラゴディウス≫とスケール7の≪魔装戦士ドラゴノックス≫をペンデュラムゾーンにセッティング! 揺れよ、大いなる竜魂よ! 龍天より現世に現出せよ! 顕現せよ、レベル6! ペンデュラムモンスター、≪アモルファージ・ノーテス≫!」

 

 ――仕上げとばかりにペンデュラムゾーン、ペンデュラムモンスターを出してモンスターゾーンに全種類のモンスターを出しても――

 

「余は残った2枚の手札をセット。そしてターン終了時に≪サフィラ≫の効果発動。デッキからカードを2枚ドローし、内1枚の≪魂食神龍ドレイン・ドラゴン≫を捨て、最後の手札である速攻魔法≪超再生能力≫を発動。このターン、リリース・手札から捨てたドラゴンの回数だけデッキからカードをドローする。余は7枚ドローし、枚数制限で1枚捨てる――うむ、これで余のターンは終了だっ!」

 

 ――モンスターゾーンを全て埋め、魔法・罠カードゾーンを4枚箇所埋め、未だ手札が6枚あるという状況。相方として頼もし過ぎてやることが――ちょっと待て。

 

「……おい、ちょっと待て」

「むっ、どうかしたか?」

「このままじゃ俺様がモンスター出せないんだが」

「うむ、全て使っているからなっ!」

「魔法・罠カードも1枚しか空いてないんだが」

「フィールドゾーンもあるから実質2枚だなっ!」

「俺様のデッキ、【サイバー・ダーク】なんだが」

「ふむ――別にそやつらを出さずに倒してしまっても構わんのだろう?」

「これタッグデュエルなんだけどっ!?」

 

 いくら何でも任せ過ぎた、とブラストは今更ながらにエンプレスの盤面に怒声を上げる。

 相方であるブラストのカードを出すスペースはほとんど存在せず、ほぼ全てがエンプレスのカードのみ。

 仮にこの状態のままターンが回ってきても、ブラストは魔法カードを使うか、フィールド魔法を発動するしかない。

 罠を伏せ、万が一に発動機会がなくなってしまえばあらゆる魔法・罠カードを使うことができないので実質不可能だ。

 何だこの盤面は、とブラストは頭を抱えてため息をつく。

 

「むっ、何をそんなに項垂れているのか分からんが、この盤面は限りなく美しく、それでいて至上の防御を誇るのだぞ? ≪キングドラグーン≫による対象耐性、≪クィーンドラグーン≫による戦闘耐性、≪蒼眼≫による効果破壊耐性、≪ノーテス≫によるエクストラデッキからの召喚封殺、≪ディウス≫による戦闘時相手モンスターの攻撃力半減、≪ノックス≫によるバトルフェイズの強制終了――言わば、効果の対象にできず、対象を取らない効果で破壊されず、戦闘でも破壊されず、エクストラデッキから展開できず、満足な戦闘もできず、というこの盤面に何の不満がある!?」

「あっ、ごめんなさい。ないです」

 

 鬼畜だ。

 説明を聞くだけでブラストは別の意味で頭を悩ませた。

 戦闘・効果で破壊できず、対象に取られず、エクストラデッキから展開もできない。

 仮にメインデッキのモンスターで戦闘を行おうにも、2体のペンデュラムモンスターのペンデュラム効果を回避せねば満足に戦闘を行えない。

 

 説明だけ聞いても、下手な詰めデュエルよりも厄介だ。

 同時に、本当に。本っっっ当に、味方で良かったと、ブラストは心の底から思った。

 そんなブラストの表情に満足したのか、エンプレスは花が咲いたような満面の笑みを浮かべ――

 

「ふふんっ、どうだ駄狐っ! これぞ余が誇る最高最硬盤面! キング、クィーン、プリンセスが守る鋼が如き鉄壁! 対象に取れず、効果破壊もできず、戦闘破壊もできず、エクストラデッキからの召喚もできず、満足な戦闘もできないこの牙城を崩すことなど――」

「ウチのターン、ドロー。手札から速攻魔法≪皆既日食の書≫を発動や。これであんさんのリンクモンスター以外は全部おねんねや」

「――まあ゛ぁ゛あぁあぁあああぁぁっ!!」

 

 ――一瞬にしてその笑顔が泣き顔になった。

 あれだけモンスターを出したのに。

 あれだけキーカードをドローしたのに。

 あれだけキレイにカードを揃えたのに。

 

 先攻1ターン目のエンプレスの努力を全て否定するかのように、葉子はたった1枚のカードで全てをひっくり返した。

 

≪皆既日食の書≫

 

 場の表側表示モンスターを全て裏側守備表示にし、ターン終了時に各自場の裏側守備表示モンスターを表側にし、その分だけ相手にドローさせる速攻魔法。

 普通に使えばデメリットでしかない。

 

 だが、今回のエンプレスの築いた盤面を崩すには呆れるほど有効な戦術だ。

 相手にドローをさせるかもしれないが、その前に全て処理すれば問題ない。

 そしてそれだけのことが葉子のデッキでは可能なのだ。

 

「さぁて、結構好き勝手やってくれはったけど、今度はウチが暴れさせてもらうえ? あんさんのモンスターは陽の当たる場所から、陰へと落ちた……この逢魔ヶ刻こそが、ウチのカードが一番力を発揮するさかい――覚悟しいや?」

 

 妖しく笑う葉子。

 項垂れているエンプレスは無視するとして、ブラストは目を細める。

 普段は誰も使わないようなカードをデッキに入れる慧眼。

 それもたった1枚と、エンプレスの心を折るには充分過ぎるほど。

 

 ゴクリ、とない喉から生唾を飲み込み、葉子を見据えるブラスト。

 

(この女――間違いなく強い…!)

 

 次の自分のターンまで回ってくるのか。

 (ブラストにとって)少々邪魔なこの盤面をどれだけ荒らされるのか。

 ブラストは葉子の一挙一動に警戒する――

 




今回の盤面の最適解

≪超融合≫でF・G・D

後半は来月


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VRAINS:龍機妖鬼②

遅れて申し訳ない上にデュエル終わらなくて重ねて申し訳ありません。
ちょっとドラゴンメイドが可愛すぎて死んでました。


 

「ほな続けるで? ウチは手札から≪麗の魔妖-妲己≫を墓地に送り、魔法カード≪ワン・フォー・ワン≫を発動や。手札からモンスター1体を墓地に送ることでデッキからレベル1モンスターを特殊召喚するで。ウチはデッキから≪翼の魔妖-波旬≫を特殊召喚。ほんで≪波旬≫の効果発動や。自身が召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから同名以外の【魔妖】1体を特殊召喚。デッキから≪轍の魔妖‐俥夫≫を特殊召喚や。さらに≪俥夫≫の効果を発動。自身が召喚・特殊召喚に成功した時、墓地から【魔妖】1体を効果無効にして守備表示で蘇生する。ウチは手札コストで墓地に送った≪妲己≫を蘇生」

(この銀毛狐耳尻尾巫女服腹黒京女、魔法カード1枚で召喚権なしにモンスター3体展開しやがった…!)

 

 ≪皆既日蝕の書≫でリンクモンスターである≪闇鋼龍ダークネスメタル≫以外のモンスターが裏側守備表示にされ、ソリッドビジョンで現されないドラゴン達に膝を屈しているエンプレスに代わり、ブラストは葉子の場を険しい眼差しで見つめる。

 

 妖の翼を持った僧が現れたかと思えば、手にした錫杖を鳴らすなり、どこからともなく屋根付きの人力車が出現。

 次いで人力車の人足が駕籠の戸を畏まったように開け、中から紫髪の少女――『妲己』の名の通り、傾国の美少女と表する他ない少女が優雅な足取りでフィールドに参ずる。

 

「どや、キレイやろ? 少し前に出た新しめのカードなんやけど、純和風でええおべべ着て、その上ウチに似て美人――これはもうウチの分身と言っても過言ではないで、なぁブラストはん?」

「……ノーコメントで…」

「あん、いけずやわぁ。そん時は『お前の方が綺麗だ』の一言もあれば女の子は喜ぶさかい、覚えておいてや」

 

 ばちこん、と悪戯っぽいウィンクをブラストに向ける葉子。

 だがブラストはぶっきらぼうに答えて不動。

 自身の隣――はショックで俯いているので分からないが、相手方――葉子の隣に居るカメリアは自身の相方であるのにまるで親の仇の如く視線を向けている。

 下手な発言をしてデュエルに支障をきたすのはよろしくない。

 決して怖いとかではない、とブラストは自分に言い聞かせる。

 

「さて、ほんなら順々に行くで――現出しぃ、ウチの妖回路。召喚条件は【魔妖】モンスター2体。ウチは≪妲己≫と≪俥夫≫をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン――現出しぃ、リンク2、≪氷の魔妖‐雪女≫」

(先ずはリンク召喚か…)

 

 順当、といった体で葉子の場に見目麗しい白雪のような少女が姿を現す。

 ソリッドビジョンのモンスターにしては珍しく愛嬌があり、召喚された直後にブラストに向かって微笑を浮かべながら小さく手を振る。

 その可憐さに思わず手を振り返しそうになるブラストだが、何故か寒気を感じたのでやめた。

 重ねて言うが、別に隣のエンプレスや正面のカメリアが怖いからという理由ではない。

 何故かあのモンスター――≪雪女≫に所有者である葉子と同じ雰囲気を感じたからだ。

 見かけ上はクールビューティそのものだが、きっと内面は昼ドラよろしくドロドロと愛憎渦巻いているに違いないと、完全な独断と偏見で≪雪女≫に視線を向けるブラスト。

 当の≪雪女≫は手が振り返されなかったことがショックなのか、しょんぼりと肩を下ろしており、ブラストに罪悪感が込み上げる。

 

(……俺様悪くないよなぁ…?)

「なんやちっとぐらい愛想良くしてもええんやで? まぁすぐに動くからそっちの方見てもろうた方がええかもしれへんけど。ウチは墓地の≪妲己≫の効果発動。墓地に≪妲己≫がおって、EXデッキから【魔妖】モンスターが特殊召喚された時、自身を墓地から守備表示で特殊召喚。蘇りぃ、≪妲己≫」

 

 炎が狐の形を取り、業火の中からふわっと軽い足取りで≪妲己≫が再び葉子の場に姿を現す。

 自己再生効果持ちのモンスターかぁ、とブラストはその秀でた効果を少し羨んだ。

 同時に、大抵の自己再生効果持ちモンスターはよくフィールドを離れた際に除外されるデメリットがあるので、≪妲己≫もその1体だろうと軽視する。

 

「さてほんじゃあ――ここからがウチの’’百鬼夜行’’や。ウチはレベル1の≪波旬≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。進め先陣、残せ軌轍。シンクロ召喚、現出しぃ、レベル3≪轍の魔妖-朧車≫!」

「へぇ…」

 

 続けて≪雪女≫のリンク先に般若面の山車、≪朧車≫が姿を現す。

 如何にも、という純和風妖怪の連続登場にブラストは少し関心を寄せた。

 デュエルモンスターズでアンデット族モンスターは多数居るし、その中には和を感じさせるモンスターが幾つか存在するが、テーマモンスターとしては珍しいと感じる。

 

「墓地の≪妲己≫の効果を再び発動や。EXデッキから【魔妖】モンスターが特殊召喚されたから、自身を墓地から蘇生するで」

「何っ!? 自己再生効果持ちはターン1制限や除外デメリットがあるんじゃねぇのか!?」

「ないで。ターン1制限もないし、除外デメリットもないんや。まぁ場に【魔妖】以外呼べへんデメリットもあるさかい」

「どこがデメリットだっ!」

 

 秀でたなんてレベルじゃない。

 頭のおかしいレベルで優秀だ、とブラストは(ない)眉間に皺を寄せる。

 

「どんどん行くでーっ、ウチはレベル3の≪朧車≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。張るは蜘蛛糸、刺すは猛毒。シンクロ召喚、現出しぃ、レベル5≪毒の魔妖‐土蜘蛛≫! ほんで墓地から≪妲己≫を自身の効果で蘇生やっ」

 

 次いで現れるは全身鉄色の大蜘蛛妖怪≪土蜘蛛≫。

 併せて蘇る≪妲己≫。

 なるほど、’’百鬼夜行’’が如く順々に出てくるのか、とブラストは感心しかける――

 

「お次はレベル5の≪土蜘蛛≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。吹かせ旋風、荒べ妖嵐。シンクロ召喚、現出しぃ、レベル7≪翼の魔妖‐天狗≫! で、墓地から≪妲己≫ちゃん復活やっ」

 

 ――が、やはりこの連続シンクロ召喚は理不尽だと感じる。

 自分も以前エンプレスとのデュエルでレベル2からレベル5、レベル9の連続シンクロを行ったが、それに見合う分だけカードは消費したというのに、目の前の相手は単に自己再生効果があるだけでそれを容易に行う。

 これが種族格差か、と恵まれた機械族サポートを完全に棚に上げ、【魔妖】モンスターを睨み付けるブラスト。

 

「今度はウチのお気に入りやでぇっ! レベル7の≪天狗≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング! 舞うは焔、踊るは狐! 猛る妖炎で現世を嗤え! シンクロ召喚! 現出しぃ! レベル9! ≪麗の魔妖-妖狐≫!」

 

 お気に入り、と称するだけあって葉子の口上にも力が入る。

 中空に9つの妖星が妖しく光り、青白い炎と化す。

 次いで青炎は中央に集い、不規則に揺れていた焔が狐の姿を模していく。

 刹那――妖焔が弾け飛び、瞬く間に葉子の眼前にそれが降り立つ。

 絢爛な和装を纏い、妖しい蒼光を放つ焔を携えた狐人――≪妖狐≫が姿を現す。

 

「どや? ウチに似て凛々しくて。ウチに似てえらい別嬪で。ウチに似て高貴さがあるやろ? これはもう1人のウチと言っても過言ではないで。あっ、あともちろん≪妲己≫も自身の効果で蘇生させるでっ」

 

 自慢のエース召喚に葉子はふふん、と鼻を鳴らして満足そうな表情を浮かべる。

 まるで≪サフィラ≫を場に出したエンプレスのようだ、と既視感を覚えつつブラストは隣の相方へと視線を移す。

 相方たるエンプレスは未だに強制セットされたドラゴン達のショックが抜けていないのか、膝を地に付け、頭を垂れたまま拳を強く握り締めている。

 

 無理もないか、とブラストは軽くため息をつく。

 (ブラストの所為で)カード効果の対象耐性と、他諸々の超耐性盤面を作り上げたが、結果は魔法カード1枚で半壊。

 自慢の耐性も表側表示でなければ効力を成さず、裏側表示になった所為で≪闇鋼龍≫以外は効果対象耐性、効果破壊耐性、戦闘破壊耐性も失っている。

 これで裏側表示のまま破壊され尽くされれば目も当てられない。

 

 はぁ、と再びため息をつきながらブラストはうろんげな眼差しを葉子へ向けた。

 

「連続シンクロは大したもんだが、それでもエンプレスのドラゴンは6体居る。1体のシンクロモンスターでどうしようってんだ?」

「そんなん、こっからのお楽しみ次第やでっ。ウチはレベル9の≪妖狐≫にレベル2の≪妲己≫をチューニング。軋め骸骨、鳴らせ白骨。怨念纏いし淵骨で呪詛を撒き散らせっ! シンクロ召喚! 現出しぃや! レベル11! ≪骸の魔妖-餓者髑髏≫ぉ!!」

「オイまだ上が居たのかよ」

 

 エースを出したがこれで終わりではない、とでも言うように葉子は調律を重ねる。

 ≪妖狐≫が再び狐火へと転身し、それに併せて≪妲己≫も妖焔へ。

 計11の凶星が地を這い、紫毒色の霧が立ち込め、葉子とカメリア達の姿が霧に包まれたた途端、彼女らの背後にカクカクと壊れた玩具のような音が軋り鳴る。

 ぬらり、とでも擬音で表するようにそれ――巨大な骸、≪餓者髑髏≫が紫霧を撒き散らしながら姿を現した。

 

 お気に入りを出した途端に素材にし、初手から切り札的モンスターを出す辺り、思い切りが良い性格なのかもしれないと感じるブラスト。

 尤も、葉子としては新たに組んだデッキの試運転と同じ動きをしているに過ぎないのだが。

 

「EXデッキから【魔妖】モンスターが特殊召喚されたことで、墓地から≪妲己≫を自身の効果で蘇生やっ! ほんで≪餓者髑髏≫をリリースして魔法カード≪アドバンスドロー≫、チェーンして残った最後の手札1枚の≪馬頭鬼≫を捨て速攻魔法≪連続魔法≫発動やっ! 合計4枚ドローするでっ」

「えっ、アンタも≪連続魔法≫? 流行ってんのか?」

「余った手札を処理しつつ、ドロー枚数増やせるなら入れるやろ」

「……確かに」

 

 みんな大好き≪連続魔法≫。

 ブラストは過去に≪幻獣機オライオン≫を捨ててトークン生成と召喚権の追加を。

 エンプレスはダブついた≪輝白竜ワイバースター≫を捨てて純粋なドローターボを。

 そして葉子はアンデット族最高峰の能力を有する≪馬鬼頭≫を捨て、次に繋げる準備と手札増強を。

 

(まぁ便利だよなぁ…)

 

 うんうんと≪連続魔法≫の有用性に頷くブラストを余所に、葉子は新たに引いたカード4枚を目に、にっこりと妖しく嗤う。

 理想的なドローカード、この手札であれば相手の場をほぼ壊滅状況にすることができる。

 嗜虐的な笑みからか、つい昂る衝動を抑え切れず、葉子の繰るカード捌きについ力が入ってしまう。

 

「――ええドローカードやわぁ……ウチは場の炎属性の≪妲己≫と、墓地の炎属性の≪妖狐≫を対象に魔法カード≪炎王炎環≫を発動っ! 場の≪妲己≫を破壊し、墓地の≪妖狐≫と入れ替えるっ! 蘇りぃや、≪妖狐≫っ!!」

 

 先ほどは共に調律素材に。今度は身を犠牲に妖怪が蘇る。

 絶えることなく次々と特殊召喚される妖怪達にブラストはやや眉を顰めるが、自分もやっていることなのであまり強くは言えない。

 チッ、と眼前の状況と未だに項垂れて動く気配のない相方に苛立ちを覚えながら、葉子のプレイングに目を細める。

 

「さぁさぁさぁっ! 墓場から蘇った時こそが【魔妖】の真骨頂やっ! 墓地から特殊召喚された≪妖狐≫のモンスター効果発動っ! 相手フィールドのモンスターを1体破壊するでっ! ウチはセット状態の≪銀龍≫を焼殺っ!」

「――っ、チィっ…!」

 

 ≪妖狐≫は墓地から蘇生されるなり、操る妖焔をセットされたモンスターに放つ。

 裏側表示のまま、断末魔すら上げられずにただただモンスターが炎に焼かれる。

 

 未だ屈しているエンプレスはその破壊音にピクリと僅かに反応するが、それでもまだ立ち上がれない。

 そんなエンプレスを見て、『こんの軟弱者がァっ!』と内心で怒るブラスト。

 彼からしてみれば、折角整えた盤面を無茶苦茶にされ、さらには耐性も活かせず破壊される様は業腹ものだと理解も共感もしていた。

 だが、だからと言って下を向いて良い理由にはならない。

 

 立て。

 立って戦え。

 そして勝利し、この大会で優勝するんだろうが、と激励のようで、実際はただの罵倒を心の内で叫ぶ。

 

「お次はこれや。ウチは手札から≪氷の魔妖‐雪娘≫の効果発動。ウチの場に【魔妖】カードがある時、手札・墓地からこの娘を特殊召喚できるんや。しかもこの効果で特殊召喚したらデッキからアンデット族1体を墓地に送る効果もあるんやで。――ってな訳でウチは手札から≪雪娘≫を特殊召喚し、デッキから2体目の≪馬頭鬼≫を墓地に送る」

「クソがっ…! やりたい放題かよ…!」

 

 だが、無情にも葉子のカードプレイは終わらない。

 今度は藍色の幼子がぴょんっと姿を現し、葉子のデッキからカードを1枚無理矢理抜き出して、ポイっと投げ捨てる。

 まるで悪戯が成功した子供のように満足気な表情を浮かべるが、生憎と長い前髪の所為でその顔は推し量れない。

 

「さぁて――次はもうわかるやろ? ウチは墓地の2体の≪馬頭鬼≫の効果発動っ! 自身を墓地から除外し、墓地のアンデット1体を蘇生するっ! ウチは墓地から≪天狗≫と≪餓者髑髏≫をそれぞれ復活っ!! ほんで各々の効果発動やっ! ≪天狗≫は墓地からの特殊召喚に成功したら相手の魔法・罠カード1枚を破壊し、≪餓者髑髏≫は全てのカード効果を受け付けへん!」

「魔法・罠除去と完全耐性だとォ!? 実質手札消費なしでふざけた展開しやがって…!」

「いや、それはブラストはんの相方に言ってぇや……とりあえずそこなペンデュラムゾーンの≪ドラゴノックス≫は破壊するで」

 

 ≪妖狐≫に続いて≪天狗≫、≪餓者髑髏≫と妖達が連なるように墓地より蘇る。

 ≪天狗≫の突風でバトルフェイズを終了させるペンデュラム効果を持つ≪ドラゴノックス≫はEXデッキに表側で飛ばされ、≪餓者髑髏≫は怨念と思しき毒々しい黒紫色の瘴気を纏い、一切合切を受け付けようとしない。

 これで葉子の場にはシンクロモンスター3体と、≪雪女≫と≪雪娘≫の計5体。

 モンスターの数では同数だが、片や高攻撃力が並び、片や低守備力を隠し晒している。

 このターンでエンプレスのドラゴンは2体――いや、1体しか残らないかと、ブラストは無意識の内に金属音の歯軋りを鳴らした。

 

「リバースカードが2枚あるんがちょい怖いけど、これで何とかならへんかな? ウチは永続魔法≪魔妖壊劫≫を発動や。ほんで3つある効果の内、2つ目を使うで。≪魔妖壊劫≫自身と、場の【魔妖】モンスター1体を墓地に送って、1枚ドローや――アカン、これじゃ対処でけへんわ」

「そう簡単に対処されてたまるか」

 

 いくら大量展開が得意なアンデットとは言え、大量除去まで加えられたら流石に持ち堪えられる自信はない。

 とりあえずこのターンで大ダメージを負うことはないので、次の自分ターンで激痛となる一撃を与えたら、あとはエンプレスがやってくれる。

 そのエンプレスのためにも、不安要素は可能な限り排除しなくてはならない。

 早く自分のターンになれ、とブラストは焦燥した思いを胸に抱きつつ、平静を装う。

 

「まぁ、仕方あらへんわなぁ。ウチは――

 攻撃力1900の≪雪女≫で守備力0の≪ノーテス≫に、

 攻撃力2600の≪天狗≫で守備力1100の≪キングドラグーン≫に、

 攻撃力2900の≪妖狐≫で守備力1200の≪クィーンドラグーン≫に、

 攻撃力3300の≪餓者髑髏≫で攻撃力2800の≪闇鋼龍≫を攻撃や」

 

 効果対象耐性・効果破壊耐性・戦闘破壊耐性と三重の耐性を持っていても、それはあくまでも表側表示の時の話。

 裏側表示になってしまえばこれらの耐性は悉くが失われるばかりか、低い守備力で一方的に蹂躙される。

 一応、ペンデュラムゾーンの≪ドラゴディウス≫の戦闘時に手札1枚をコストに戦闘相手のモンスターの攻撃力を半分にするペンデュラム効果は生きているものの、低過ぎる守備力の所為で相手モンスターの攻撃力を半分にしても戦闘破壊は免れないばかりか、≪餓者髑髏≫に至っては一切の効果を受け付けないので弱体化すらできない。

 

 エンプレスの代わり、という訳ではないが、歯痒い状況にブラストは苛立ちを募らせる。

 ただただ彼女のドラゴンが僅かなダメージと共に破壊されていく。

 融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクモンスターと、EXデッキ関係のドラゴン達は全滅。

 残ったのは裏側表示の≪竜姫神サフィラ≫と、ペンデュラムゾーンの≪ドラゴディウス≫に、2枚のセットカード。

 あれだけ苦労して構築した盤面が無残にも壊されると、同じガン回しソリティア勢のブラストとしては酷く共感を覚える。

 

(チッ、徹底的にやりやがって…! 次の俺様のターンで相手の場を全滅させるこたぁ難しいが、それでもやれるだけのことはやってやる。待ってろエンプレス、俺様が仇を取ってやる)

 

 同情か義憤か。

 戦意を喪失し、ほとんど使い物にならないエンプレスに代わり、(別に死んでないのだが)強い復讐心を抱くブラスト。

 幸いにも、相手はここまでの大量展開でそれなりにカードを使った。

 ならば返しのターンは難しいハズだ。

 そうブラストが思っていた時――

 

「……余は、≪クィーンドラグーン≫のエクシーズ素材と……≪エクリプス・ワイバーン≫……効果が強制発動……自身が墓地…光か闇……レベル7以上…ドラゴン1体……除外…余は…闇…レベル8……………………を除外する…」

 

 ――ふと、エンプレスが幽鬼のようにゆらりと立ち上がる。

 ボソボソと消え入りそうな声で呟きながら、強制発動されたドラゴンの効果でデッキから1枚のカードを選択し、除外。

 完全に戦力外と思っていた葉子はキョトンとした顔でエンプレスを見る。

 

「なんやまだ戦意があったん? てっきり自分が好きなドラゴンやられて凹んでる思うとったわ」

「だ、大丈夫か…? (後が怖いから)無理しなくて良いんだぞ」

「……確かに、凹んでいる。だが、凹んでいても負けた訳ではない。余とてデュエリストだ。例え劣勢になろうとも、自分が信ずる最善のプレイングをする――それがデュエリストではないのか?」

「ふぅーん……中々根性があるやないか。ウチ、あんさんのこと少し好きになってきたで。まっ、次のターンはブラストはんやから、あんさんからウチに反撃はでけへんけど。ウチはカードを2枚セットして、ターン終了や」

 

 優雅なのも好きだが、泥臭くて見苦しくても、前に進もうとする人間は好ましい。

 そんな思いを胸中に抱きつつ、葉子は残った2枚の手札を魔法・罠カードゾーンに伏せてターンを終了――

 

「ターン終了? 何を言っている――汝のエンドフェイズはまだ終わっていないぞ?」

「……なんやて?」

 

 ――を宣言しようとしたところで、葉子は改めて場のカードを見る。

 自分の場には3体の【魔妖】シンクロモンスターと、1体のリンクモンスター。

 リバースカードが2枚あるだけで、手札は0枚。

 これ以上することはないハズ――と思っていたところで、エンプレスの場を見て納得。

 

「あぁ、そういえばそいつが残ってはったな。ええぇ、1ドローくらいサービスや。速攻魔法≪皆既日蝕の書≫の効果で裏側になっていた相手モンスターは、エンドフェイズに表側表示になり、その枚数分あんさんはドローできる。残ったのは≪サフィラ≫1体やから1枚ドローやな」

「その通りだ。≪サフィラ≫は表側守備表示となり、余はデッキから1枚ドローする」

 

 1ドロー程度なら別に良いだろうと葉子は楽観視していた。

 非ターンプレイヤーであるので手札枚数制限で捨てることもなく、エンプレスの手札は7枚になってしまうが、エンプレスのターンが来る前に自分の相方であるカメリアがフィニッシャーとなってこのデュエルは終わる。

 いくら手札を増やそうが構わない。

 そう、思っていた――

 

「じゃ、これで改めてウチはターンエンド――」

「――何度も言わせるな。まだ汝のターンは終わっていない…!」

 

 ――その瞬間、エンプレスの2枚のリバースカードが露になる。

 

「余は2枚の永続罠≪復活の聖刻印≫と≪竜魂の城≫を発動! ≪復活の聖刻印≫は相手ターンに1度、デッキから【聖刻】モンスター1体を墓地に送ることができる! 余はデッキから光属性の≪龍王の聖刻印≫を墓地に送る! さらに≪竜魂の城≫の効果! 自分の墓地のドラゴン1体を除外し、自分フィールドのモンスター1体を対象に、そのモンスターの攻撃力を700アップする! 余は墓地の≪エクリプス≫を除外し、≪サフィラ≫の攻撃力を700アップさせ、その攻撃力は3200となる!」

 

 『何してんだこいつ?』

 相対している葉子やカメリアはもちろん、観客や自身の相方であるブラストさえも同じことを思った。

 何故単体強化カードがあるなら≪餓者髑髏≫から≪闇鋼龍≫を守れたのではないか。

 何故相手ターンの終わりに発動するのか。

 何故こんな意味のないことをするのか。

 

「余は除外された≪エクリプス≫の効果発動! こやつが墓地から除外された場合、自身の効果で除外したドラゴンを手札に加える! さらにっ! ≪サフィラ≫の効果発動! 手札・デッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンの終わりに効果を発動できる! 余はデッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる! 余が捨てたカードは≪コドモドラゴン≫! このカードが墓地に送られた場合、手札からドラゴン1体を特殊召喚できる! 余は≪エクリプス≫の効果で除外されたこのドラゴンを特殊召喚!」

 

 その疑問に半分答えるようにエンプレスはプレイングで示し、この場のほぼ全員が納得した。

 ≪サフィラ≫は表側表示でしか効果を使えないため、≪皆既日蝕の書≫で表側になり、そのタイミングで≪復活の聖刻印≫で光属性モンスターの【聖刻】モンスターを墓地へ。

 次いで≪竜魂の城≫で≪エクリプス≫を除外することで、≪エクリプス≫の効果で除外したモンスターを回収。

 そして≪サフィラ≫の効果でデッキから2枚ドローし、1枚捨てる効果により≪コドモドラゴン≫を捨て、墓地に送られた≪コドモドラゴン≫の効果で≪エクリプス≫の効果で回収したドラゴンを特殊召喚。

 相手のカード効果すら利用した一連の流れに、見事なコンボだと感心し――

 

「黒鋼の暴竜よ! 次元の狭間を破り、眼前の敵に滅びを与えよ! 顕現せよ――≪破滅竜ガンドラX≫!」

 

 ――一瞬にして呆気に取られた。

 ≪コドモドラゴン≫という愛らしいドラゴンが姿を現したかと思っていれば、実際に顕現したのは漆黒の破壊竜。

 全身が鉱石や宝石と見間違うような光沢に輝きつつも、その宝玉とも言うべき朱玉には恐ろしささえ感じる。

 さらには先程までの美しさや強さが感じ取れたドラゴン達とは違い、そのドラゴンに抱く印象は恐怖唯一つ。

 破壊、破滅、殲滅――そのドラゴンを目にしただけで、この場にいた全員がそんな印象に囚われた。

 

「手札からの特殊召喚に成功した≪ガンドラX≫の効果発動! 自身以外のフィールドのモンスターを全て破壊し、その中で最も攻撃力が高いモンスターの攻撃力分のダメージを汝に与える!」

「…………は?」

 

 思わず、葉子から呆けた声が出る。

 今何と言った?

 全て破壊して?

 攻撃力分のダメージを与える?

 誰に?

 相手に?

 相手は?

 自分だ――

 

「……はぁああああああぁぁっ!? そんなんあるんか!?」

「黙れ小娘っ!! 余のドラゴン達の赫怒を思い知れぇ!!」

 

 ――絶叫。

ターンの初めと終わりの立場が入れ替わったようだ、とブラストは憐憫の眼差しを葉子とそのフィールドに向けた。

 

 SF映画、もしくは怪獣映画のチャージよろしく≪ガンドラX≫の朱玉部分が光輝き、不穏な音を鳴らす。

 悍ましい光景にわたわたと慌てふためく葉子を尻目に、憤怒に駆られたエンプレスはただ一言、短く告げた。

 

「――やれ」

 

 瞬間、フィールドが赤光に包まれる。

 愛らしい≪雪女≫は髪の毛1本も残さずに光に飲まれ。

 精悍な≪天狗≫は両翼をもぎ取られ、顔面に風穴が。

 瀟洒な≪妖狐≫は腹部に一際大きな光砲を受け。

 巨大な≪餓者髑髏≫は瘴気に守られ。

 

 数瞬の後、フィールドに轟音が鳴り響き、爆炎と土煙に包まれる。

 あまりの熱量、暴風、衝撃に当事者達はもちろん、離れた位置に居た観客達でさえも身構えなければ体を持っていかれそうだった。

 

 ただ1人、エンプレスだけはその中で涼しい顔をしたままフィールドを見やり、唯一残ってしまった≪餓者髑髏≫に少しだけ眉を顰めるが、それでも相手ターン中に相手モンスターを3体葬ったのだから結果としては悪くないだろうと、内心で頷く。

 それに破壊できたモンスターの中で最も攻撃力が高い≪妖狐≫を爆殺し、その攻撃力分2900のダメージと、その攻撃力を≪ガンドラX≫は得たのだ。

まずまずの結果と言っても過言ではないだろうと、自身のプレイングに自画自賛。

 また、自身のエースモンスターである≪サフィラ≫もしっかりと墓地の≪祝祷の聖歌≫を身代わり除外することで健在だ。

 一転して自分達の方がモンスターの数の上では有利。

 相手の場には≪餓者髑髏≫1体と2枚のリバースカード。

 葉子の手札は尽き、LPは5100。

 対して自分達の場には≪サフィラ≫と≪ガンドラ≫。

 加えてペンデュラムゾーンに≪ドラゴディウス≫、魔法・罠ゾーンには≪復活の聖刻印≫と≪竜魂の城≫。

 エンプレスの手札は8枚もあり、仮に自分のターンまで回って来ても充分に対応可能。

 LPも7500とかなり余裕がある。

 これで後攻1ターン目の失態は帳消しになっただろうと、誇った笑顔を、信ずる相方たるブラストに見せる。

 

「やるだけのことはやった。後は任せたぞ、相方」

「……アッ、ハイ…」

 

 後日、ブラストはこの笑顔をこう評した。

 信用とか信頼とか、友情とか愛情とか、そんなものは微塵も感じなかった。

 ただ、『ここまでやったんだからきっちり殺れよ』、と脅迫めいた笑顔にしか見えなかったと語る。

 

 

 




ティルルちゃんきゃわわ(語彙力消失)


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VRAINS:龍機妖鬼③

前回遅れた分を早めに更新っ!
今回のソリティアは控え目……のハズ!


 

 「俺様のターン、ドロー」

 

 引いたカードを一瞥し、ブラストはフィールドに視線を移す。

 自分達のモンスターは守備表示の≪サフィラ≫と攻撃表示の≪ガンドラX≫。魔法・罠は2枚の永続罠である≪復活の聖刻印≫、≪竜魂の城≫に加え、ペンデュラムゾーンには≪ドラゴディウス≫。手札は今ドローしたばかりなので6枚、LPは少しダメージを受けて7500はある。

 相手側のモンスターは攻撃表示の≪餓者髑髏≫だけ。魔法・罠は2枚のセットカード。手札は0枚で、LPは≪ガンドラX≫の全滅&効果ダメージを受けて5100。

 LPとフィールドのカード・アドバンテージこそ自分達の方が勝っているが、モンスターのステータス、表側になっているカードの都合で情報アドバンテージは相手に利がある。

 

 良いとも悪いとも言えない場の状況にブラストは少しばかり眉を顰め――

 

(やっべ、少し手札事故った)

 

 ――改めて自分の手札を見て(機械族アバター故に存在しない)眉間に皺を寄せた。

 

 手札6枚の内5枚がモンスターカードという厳しい状況。一応、手札交換系の魔法カードが1枚あるだけマシであり、ドローカードが上手いこと噛み合えば一気にゲームエンドまで持っていける可能性もある。

 懸念材料として葉子のセットカード2枚があるが、自分のターンで使わせるだけ使わせてフィニッシュを手札8枚のエンプレスに丸投げしても文句はないだろうと思考放棄。

 とりあえずデッキ圧縮と手札交換から始めるか、と2枚の手札に指をかける。

 

「手札の≪サイバー・ダーク・カノン≫と≪サイバー・ダーク・クロー≫をそれぞれ捨て、効果発動。≪カノン≫は自身を手札から捨てることでデッキから機械族の【サイバー・ダーク】を手札に加える。≪クロー≫はデッキから【サイバーダーク】魔法・罠カードを手札に。俺様はデッキから≪サイバー・ダーク・キール≫と≪サイバーダーク・インフェルノ≫を手札に加える。そして≪サイバーダーク・インフェルノ≫はそのまま発動だ」

 

 慣れたような、半分懐かしい気持ちでカードを回すブラスト。長いこと使っていなかったが、そこは体に染みついたプレイング。例え半ば手札事故が起きていようが、回せるだけ回さねば始められるものも始められない。

 なお、ブラストの使用デッキが【サイバー・ダーク】と判明した瞬間、極一部の観客が『【サイバー・ダーク】……装備…≪リミッター解除≫……攻撃力12000…うっ…』とトラウマを再発しかけている者が居たが、ブラストは構わずに手札の魔法カードを使う。

 

「次に魔法カード≪手札抹殺≫を発動だ。お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数分ドローする」

「…タッグデュエルやとドローフェイズに入らへんとプレイヤーに影響する効果が適用されへん……ウチは手札0枚やから捨てるカードもドローできるカードもあらへんわ」

「アンデット使い相手にゃ、ちょっと怖ぇが手札0なら気兼ねなく使えて助かるぜ。俺様だけ手札を4枚捨てて4枚ドローだ」

「ホンマイケずやわぁ…」

 

 知るか、と舌打ちしながらブラストは手札のモンスターカード4枚を捨てて一気にカードを4枚ドロー。

 引いたカードは下級モンスターと最上級モンスターに、魔法カード2枚。

 それらのカードを一見し、場の状況、墓地にあるカード、カードの処理順を一瞬の内に脳内で構想するなり、ブラストは口角を吊り上げる。

 

(この手札――オイオイ、これじゃあこのターンで終わりじゃねぇかっ…!)

 

 先に動いていたエンプレスとその墓地のカードによる下準備、並びにある程度自分達の場を破壊してくれた葉子に下種い感謝の気持ちを抱きつつ、昂揚した手つきでカードをデュエルディスクに挿し込む。

 

 

「俺様は手札からチューナーモンスター≪ブラック・ボンバー≫を召喚! こいつが召喚に成功した時、墓地のレベル4・機械族・闇属性1体を守備表示で特殊召喚する! 来なっ≪サイバー・ダーク・キール≫! そしてフィールド魔法≪サイバーダーク・インフェルノ≫の効果発動! 場の【サイバー・ダーク】モンスターを手札に戻し、召喚することができる! 場の≪キール≫を手札に戻し、そのまま召喚! ≪キール≫の効果発動! 召喚成功時、墓地のレベル3以下のドラゴンをこいつに装備! 俺様は墓地の≪ファランクス≫を装備! さらに装備状態の≪ファランクス≫の効果発動! 自身を魔法・罠ゾーンから特殊召喚!」

 

 瞬く間に場にモンスターを3体呼び出し、モンスターゾーン揃えるブラスト。

 その展開力に葉子は僅かに眉間に皺を寄せ、改めて場に呼ばれたモンスターを確認。

 

 レベル4の≪サイバー・ダーク・キール≫

レベル3の≪ブラック・ボンバー≫

 レベル2の≪ドラグニティ‐ファランクス≫

 

 レベルが統一されていないのでエクシーズ召喚はないが、チューナーが2体居るのでシンクロ召喚の可能性はある。

 呼び出すのはレベル7かもしくはレベル6のシンクロモンスター、それともリンク2かリンク3のモンスターかと身構える葉子。

 

(……非チューナー1体に、チューナー2体。合計レベルは9――なるほど、あ奴だな?)

 

 その対面でエンプレスは無表情を装いつつ、場の状況から召喚可能なモンスターを察する。

 ブラストと初めてデュエルした時に出された素材にした数だけ除外するという、強力無比な効果を持つ、外見がドラゴンに酷似した素敵なシンクロモンスター。

 初めこそ激昂してしまったが、思えば見た目がドラゴンに似ているので今となっては割かし好印象。また、今の状況で呼び出すには最適と言っても過言ではない。

 折角、手札8枚という馬鹿げた数の暴力を次の自分ターンで披露できるかと思ったエンプレスだが、ブラストに華を持たせても良いだろうと、謎の上から目線で頷こうとし――

 

「さぁて――このターンで終わらせてやるっ! 俺様は、レベル4の≪キール≫にレベル3の≪ブラック・ボンバー≫、レベル2の≪ファランクス≫をダブルチューニング! 次元の狭間より出でし黄邪龍よ、世界の全てを凍て砕けぇっ! シンクロ召喚! 現れろぉ! レベr――」

 

〈Error!!  Error!!  Error!!〉

 

「――は?」

 

 ――下げかけた首を、ぐりんとブラストに向ける。

 その表情は疑問や不可思議といった素直で優しいもの――とは遠くかけ離れ、視線はとんでもない失態をやらかした部下を射殺すような上司の視線そのもの。

 

「オイ――これはどういうことだ? わかるように説明しろ…」

「ちょ、ちょっと待ってくれっ! い、今確認すっから…!」

 

 おぞましいほどの重圧を一身に受けつつ、慌ててブラストはエラーの原因を探る。

 この状況で最適解のモンスター――≪水晶機-グリオンガンド≫が何故召喚できないのか。

 シンクロ素材――チューナー2体以上 + 非チューナー1体、問題ない。

 素材のレベル―― 2 + 3 + 4 = 9だ、これも問題ない。

 モンスターゾーン――≪闇鋼龍≫が破壊され、EXモンスターゾーンが空いている、これだって問題ない。

 じゃあ何が、と考えてからブラストはEXデッキを確認する。

 

 融合モンスター――3体。【サイバー・ダーク】融合体2種に加え、その装備用にエンプレスから借りた≪F・G・D≫。

 エクシーズモンスター――3体。お馴染みの≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫とサーチャーの≪ギアギガントX≫、ダメ押し係の≪重装甲列車アイアン・ヴォルフ≫。

 リンクモンスター――6体。リンク先確保用や展開用、アタッカー用で揃えた。

 シンクロモンスター――3体。お馴染みの≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫と展開・アドバンテージ確保用。

 

 なるほど、そういうことか、とブラストは原因を理解し、ふぅと一息つく。

 そして世にも恐ろしい形相のエンプレスへと顔を向け、握り拳で親指を立てたポーズ――所謂サムズアップしながら口を開く。

 

「すまん、EX枠キツイから≪グリオンガンド≫抜いたんだった」

「何しとるんだこの馬鹿垂れぇ!!」

「いや、だって今回のデッキにレベル2チューナー入れてないから呼べるとは思わなかったし! それにタッグなら除去とかエンプレスに任せれば良いと思ってたし!」

「タッグだから相方のカードも考慮したデッキ構築にすべきだろう阿呆っ!! 余は汝が【サイバー・ダーク】使うって聞いたから【ドラグニティ】を混ぜたのだぞ!? ≪ファランクス≫が特殊召喚効果持ちのレベル2チューナーだと知っていただろうに!?」

「知らねぇよ!? さっきのターンで初めて知ったし、俺様が装備用で突っ込んでるドラゴンはサーチャーの≪カノン≫と≪クロー≫、攻撃力目的の≪ハウンド・ドラゴン≫と適当な最上級1体しか入れてねぇし、機械族使いの俺様が【ドラグニティ】のカードを把握してる訳ねぇだろうがっ!」

「はっ? 汝はサーチと攻撃力だけでドラゴンを選んでいるのか? ――このド阿呆っ!! 折角の装備効果があるのだから、ユニオン効果持ちや装備状態で効果を持ったドラゴンを何故調べない!? ≪ファランクス≫は勿論のこと、EXデッキ封じの≪破壊剣‐ドラゴンバスターブレード≫や2回攻撃可能とする≪比翼レンリン≫も居るのだぞっ!? この攻撃力馬鹿めがっ!!」

「誰が馬鹿だよこのドラゴン狂いっ!! 第一、テメェだって俺様のデッキを把握してないじゃねぇか! 【サイバー・ダーク】は装備が肝心なのにペンデュラムやら永続罠を何枚も積みやがってっ! これがタッグだって分かってんのか!?」

「ドラゴン狂いは褒め言葉だが、タッグだと分かっているからこそ余はデッキの一部を汝のために変えたのだぞ!? それを汝はここまで悪しく言うのか!? この機械オタク!!」

「機械オタクは褒め言葉だがな、俺様だってテメェ用に【サイバー・ダーク】にしたんだぞ!? 人の好意を≪スタンピング・クラッシュ≫みたいに踏みにじりやがって!」

「何をぅっ!?」

「やるってのか!?」

 

 ぐぬぬぬ、とドラゴン狂い(エンプレス)機械オタク(ブラスト)は互いに怒声と罵声を相方に浴びせる。

 まるで漫才のようなやり取りに観客は誰もが何でこいつらタッグデュエルの大会に出たのだろうと首を傾げた。

 2人のデッキを見る限り、相性は悪くないのだろう。デッキの相性は。

 ただ、タッグデュエリストとしての相性が悪いのか、あーだこーだと幼い子供のように言い争いを頭のおかしいプレイングをする2人は見ていて見苦しい。

 対戦相手の葉子でさえポカンと口を開けて静観するばかり。

 逆にカメリアはどこか愉悦そうな表情だ。あのまま仲違いになれば、タッグデュエルのパートナーとしては今回限りになりそうであり、そのままタッグが解消されれば、自分がブラストとのタッグデュエル――かなり話を飛躍させれば人生のパートナーとなることさえ叶うだろう、という泥棒猫的な思考にも思える。

 

「だぁあああぁっ! もういいっ! このターンで決めりゃ問題ねぇだろ!?」

「できるものならやってみるがいい! まぁ、汝にあの狐っ娘をこのターンで倒せるとは思わんがなっ!」

(な、なんやのこいつら――オモロくて腹痛いわ…!)

 

 結局、2人の口論は決着つかず。

 互いにふんっ、と鼻息を鳴らしてそっぽを向く。

 あまりにも子供じみた光景に傍観していた葉子はつい吹き出しそうになるも、目の前の相手2人は人格がどうあれ、実力こそ確か。

 気を引き締めて待ち構えねば、とターンプレイヤーであるブラストの方へ視線を移す。

 

「――現れろ、俺様の暴走サーキットっ! 召喚条件はチューナー含むモンスター2体っ! 俺様はチューナーモンスターの≪ブラック・ボンバー≫と≪キール≫をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 現れろっ! リンク2っ! ≪水晶機巧-ハリファイバー≫!」

 

 視線を移した途端、現れたのはややSDチックな人型機械族。

 ポンっ、と可愛らしい擬音と共にブラスト達のEXモンスターゾーンに召喚された姿はどことなく愛らしい――そう見える。

 だが、この可愛らしい外見とは裏腹に凶悪な効果を持っていることは、ブラストのデュエルを何度か観たことがある葉子やカメリアはもちろんのこと、大多数の観客も周知していた。

 

「≪ハリファイバー≫の効果発動ぉ! こいつがリンク召喚に成功した時、手札・デッキからレベル3以下のチューナーモンスター1体を特殊召喚するっ! 来いっ! レベル1、≪ジェット・シンクロン≫! この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン効果を発動できねぇ」

「……やっぱそのモンスターの効果おかしいわ。リンク召喚成功しただけで、チューナー引っ張ってくるとか、素材の足し引きなってへんもん。しかもリンク先2箇所も確保しておいて」

「言ってろ、こっちはテメェみてぇに(拘ったデッキ構築じゃない限り)連続シンクロできねぇんだ。ちょっとぐらいカードパワーがあっても良いだろうが」

「…まぁ、それは否定せぇへんわ。ウチも似たようなもんやし――あぁ、それから今のところはセットカード使わへんから好きに展開してえぇで」

 

 ピクリ、とブラストが僅かに肩を震わせた。

 『好きに展開していい』――この言葉を聞き、ニヤリと(存在しない)口角を吊り上げる。

 展開してもいいということは、妨害がないと公言しているようなもの。

 もし嘘なら嘘で仕方ないが、それでも今の手札であれば少しぐらいの妨害は問題ない。

 むしろ妨害札を全部踏み抜く勢いで動いていたのだから、葉子の発言で昂るというのも仕方ないこと――

 

「それじゃあ――遠慮なく行くぜぇっ!! 俺様はっレベル8の≪ガンドラX≫にレベル2の≪ファランクス≫をチューニングっ!! シンクロ召喚っ! 現れろぉ! レベル10! ≪ブンボーグ・ジェット≫ぉっ!!」

「がっ、≪ガンドラX≫ぅううううぅっ!?」

 

 ――そう、昂ってつい相方のモンスターを素材にするのも仕方ないこと。

 攻撃力が2900もあった≪ガンドラX≫は8つの白星へと転じ、同様にチューナーの≪ファランクス≫も2つの白星へ。

 星が重なり、一際大きい光が輝いたかと思えば、そこから新たなモンスターが顕現する。

 ――巨大な筆箱が。

 

 相方のエンプレスとしては現況を打破するにあたり、≪ガンドラX≫が各種素材になることは致し方ないとは思っていた。

 思っていた――が、まさか相手モンスターをほぼ全滅させた恐怖の破滅竜がよもや筆箱になるとは誰が想像しろと。

 エンプレスは堪らず声を荒げるが、先のやり取りが響いているのかブラストは彼女を一瞥することすらなく、続け様に手札のカードへ指をかける。

 

「機械族・地属性モンスターが召喚・特殊召喚に成功した時、手札の≪重機貨列車デリックレーン≫のモンスター効果発動ぉ! 自身を手札から特殊召喚! ま、攻守は半減するけどな」

「……あぁ、やっぱりブラストはんもそこな蜥蜴女と同類やわ。ウチみたいに正統な手順踏んで展開するんやなく――」

「俺様はレベル10の≪ブンボーグ・ジェット≫と≪デリックレーン≫でオーバーレイ・ネットワークを構築っ! 走れ鉄路っ! 放て巨砲っ! 有象無象を蹴散らし尽くせぇ! 現れろぉ! ランク10っ! ≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫っ!!」

「――何でそうなったか分からん手順でモンスター呼び出すんやもん」

 

 半ば諦観気味に。引き攣った笑みを浮かべる葉子。

 デッキは種族で統一している。

 だが、各種カテゴリのカードが雑多とも言うべき混ざり方だ。

 各々のカード間でのシナジーはあるだろう――だがそれが、何故こうも噛み合うのかが葉子を始め、多数の決闘者は不可思議でならない。

 それだけのデッキ構築力があるのか。

 それだけのプレイングが成せる技か。

 それだけのドロー力を持つ剛運故か。

 どちらにせよ、予想以上に暴力的な布陣になるであろうことだけはわかる。

 冷や汗をかきながら、葉子は眼前――というか、相手方の背後にそびえ立つ≪グスタフ・マックス≫を前にして改めて気を引き締めた――

 

「≪グスタフ≫の効果発動ぉ!! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、相手に2000ポイントのダメージを与えるっ! 放てっ! シュプレンゲン・ゲヴァルトぉっ!!」

「ちょ――のわぁあああああぁぁっ!?」

 

 ――が、それでもやはり怖いものは怖い。

 その辺りの高層ビルよりも巨大な砲塔がこちらに向けられ、さらにはLPの半分――タッグデュエルなので4分の1だが――をも削る効果ダメージは素直に痛い。

 巨砲から放たれる劫火は効果名通り暴力的であり、リンクヴレインズ内と言えどその熱波に身が焦がされる。

 ソリッドビジョンであると分かってはいてもつい身をのけ反らせて回避してしまう。

 尤も、そんなことをしても葉子達のLPも5100から一気に3100へと減少することに変わりはないのだが。

 

「俺様はテメェの≪餓者髑髏≫を対象に、エクシーズモンスターの効果を発動するためにオーバーレイ・ユニットで墓地に送られた≪デリックレーン≫のモンスター効果発動っ! 対象としたカード1枚を破壊するっ! 消えなっ白骨野郎っ!!」

「これもえげつないわなぁ…!」

 

 続け様に、とでも言うように≪グスタフ≫が追加砲撃を放つ。

 既にカード効果耐性を失っている≪餓者髑髏≫は胸部中央を穿たれ、あえなく四散。

 これで葉子達のモンスターゾーンはガラ空き。

 自軍モンスターの総攻撃力は残りLP3100の葉子達を削り切るには充分。

 このターンで終わりだ、とブラストが次なる手を打とうと手札に指をかけ――

 

「ほんまえげつないけど――ウチも負けてへんで? ウチらのレベル11のシンクロモンスターが戦闘・相手の効果で破壊された場合に墓地の≪妖狐≫の効果発動やっ! 墓地のアンデット族1体を除外し、≪妖狐≫を墓地から特殊召喚するでぇ!」

「なっ――蘇生効果も内蔵してやがんのかそいつら!?」

「強いやろー? ウチは墓地の≪雪娘≫を除外し、≪妖狐≫を守備表示で蘇生っ! さらに墓地からの特殊召喚に成功したことで相手モンスター1体を破壊するでっ! ≪グスタフ≫には退場してもらおか」

「ぐっ、≪グスタフ≫ぅうううううぅぅっ!?」

 

 呆気なく。召喚から退場まで30秒と経たずにブラスト自慢の≪グスタフ≫は狐火という名の業火に包まれ、先の≪餓者髑髏≫同様に爆発四散。

 奇しくも先ほどのエンプレスの≪ガンドラX≫に対するリアクションと同じ反応をするあたり、『この2人、似た者同士――というより同族嫌悪なんじゃ…』と未だ自分のターンが回って来ないカメリアは冷静に分析。

 片やドラゴンに尽力。

 片やマシーンに尽力。

 うん、これは単純に類友の類かつ同族嫌悪だ、と確信する。

 

 そんな相方の洞察を知ってか知らずか、葉子はふふん、とアバターで盛りに盛った豊満な胸を揺らして自慢気な表情を浮かべていた。

 

「ぐおぉ――≪グスタフ≫がこんなにあっさり除去されんのかよ…」

「ふふーん、しかもウチの場にはモンスターが復活や。ブラストはんの残り手札は2枚。それでウチにダメージを与えるのは無理やろー?」

 

 やや調子に乗って悪戯っぽく挑発気味に言葉を紡ぐ。

 普段はシンクロ・エクシーズ・リンクを多用するブラスト相手だからこそ分かるが、この状況まで持ち込めば如何にブラストとて手は止まらざるを得ないだろう。

 そんなことを思い、わざとらしく煽るように葉子は言って――

 

「はぁ? 無理じゃねぇし。俺様は場の攻撃力500の≪ジェット・シンクロン≫を対象に≪機械複製術≫を発動。デッキから同名2体を特殊召喚。≪ジェット・シンクロン≫と≪ハリファイバー≫をリンクマーカーにセット、≪クリフォート・ゲニウス≫をリンク召喚。残り2体の≪ジェット・シンクロン≫もリンクマーカーにセット。2体目の≪ゲニウス≫をリンク召喚」

「――あら?」

 

 ――後悔し始める。

 すっかり失念していたが、機械族には攻撃力500以下で召喚制限さえなければ同名モンスターを即座に揃えられる≪機械複製術≫というパワーカードが存在しているのだ。

 当然、昨今の高速リンク・シンクロ・エクシーズ環境でも呆れる程に有効な手であり、ブラストは一瞬で態勢を整え直し始めてきた。

 

「こっからは初お披露目だ――現れろぉ! 俺様の暴走サーキットっ! 召喚条件は効果モンスター2体以上! 俺様はリンク2の≪ゲニウス≫2体をリンクマーカーにセットぉ! サーキットコンバインっ!! 鉄輪を轟かせ、赤熱の轍を刻めぇ! リンク召喚っ! 現れろぉ! リンク4っ! ≪揚陸群艦アンブロエール≫っ!!」

 

 眼下に映るもの――相手モンスターだろうが魔法だろうが罠だろうが、それら全てを圧し潰す。

 1体目で駄目なら2体目を出せば良い、と単純無比な考えで新たに重量級モンスターを出すブラスト。

 鈍い鉄色の巨体は鯨を模し、その体躯の至るところから噴射炎が輝く。

 きゅらきゅらと耳触りな金属音は巨躯と合わさり確かな重圧を葉子達へと放っている。

 

「≪アンブロエール≫は互いの墓地のリンクモンスターの数×200ポイント攻撃力を上げるっ! 互いの墓地のリンクモンスターの数は9体! よってこいつの攻撃力は1800上がり、攻撃力4400だ!」

「……ホンマ脳筋デッキやわ、ブラストはん。でも、さっき≪妖狐≫の効果見たやろ? 同じ効果を持った【魔妖】シンクロがぎょーさん居るさかい、何度でも蘇るで?」

 

 力こそパワーを体言するスタイルに葉子は半ば辟易するも、自身の墓地にはまだ何体もの妖が控えているので表情と心情は崩れない。

 当のブラストは≪アンブロエール≫の召喚に心を昂らせ――そして、葉子の余裕の笑みを潰せることにヒール役らしい笑みを浮かべる。

 

「だったらその蘇る手立てを潰してやるよ! 俺様は最後の手札、魔法カード≪オーバーロード・フュージョン≫を発動っ! 自分場・墓地から機械族・闇属性融合モンスターに決められた融合素材を除外し、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚するっ! 俺様は墓地の――

 ≪サイバー・ダーク・ホーン≫、

 ≪サイバー・ダーク・エッジ≫、

 ≪サイバー・ダーク・キール≫、

 ≪サイバー・ダーク・カノン≫、

 ≪サイバー・ダーク・クロー≫

 ――計5体の【サイバー・ダーク】効果モンスターを融合素材として除外っ! 地獄より出でし闇機龍よ、漆黒の鎧を纏い、有象無象を薙ぎ払えっ! 融合召喚! 現れろぉ! レベル10っ! ≪鎧獄竜‐サイバー・ダークネス・ドラゴン≫っ!!」

 

 墓地に存在していた数多の闇龍が一瞬だけ中空に漂う。

 瞬間、5つの闇光となり、それらが渦巻いて1つへ。

 ブラスト達の背後――正確に言うならば、≪アンブロエール≫の直上にそれがのそり、と巨象のような緩慢さで姿を現す。

 非生物的な角・翼・尾の体躯を揺らし、同様に機械的な砲と爪を携えたそれ。

 凶悪な見た目に違わないその姿は、先の≪アンブロエール≫に勝るとも劣らない存在感を放っていた。

 

「≪鎧獄竜≫のモンスター効果発動ぅっ! こいつが特殊召喚に成功した時、墓地の機械族かドラゴン族を装備し、そのモンスターの元々の攻撃力分自身の攻撃力を上げるっ! 俺様は前のターンでエンプレスが捨てた――攻撃力4000の≪魂食神龍ドレイン・ドラゴン≫を装備する!!」

「ちょ――攻撃力4000を装備やと!?」

「そうだ、つまり≪鎧獄竜≫の攻撃力は4000アップした、攻撃力6000だっ!!」

 

 脳筋にも程がある、と葉子は苦虫を潰したような顔になる。

 攻撃力4400の≪アンブロエール≫。

 攻撃力6000の≪鎧獄竜≫。

 攻撃力2500の≪サフィラ≫。

 破壊しておいたとは言え、もしも≪グスタフ≫を除去できなければ、ここに攻撃力3000のモンスターまで居たのかと強引なまでの力技に感心を通り越して呆れすら出てくる。

 

「さて、守備表示の≪サフィラ≫を攻撃表示に変えて――お待ちかねのバトルだっ! 先ずは≪鎧獄竜≫で≪妖狐≫に攻撃っ! マキシマム・ダークネス・バーストぉ!!」

 

 アタッカーを増やし、待っていたと言わんばかりに攻撃命令。

 ≪鎧獄竜≫は背の巨砲の照準を≪妖狐≫に定め、躊躇いなく闇色の炎を照射。

 並大抵のモンスターに耐えられるハズもなく、前のターンで≪ガンドラX≫にと同じ所に風穴を空けられ、あえなく爆散。

 自身のエースモンスターが幾度も簡単に除去されたことに葉子は僅かに眉を顰めるが、破壊されても自分の使役する妖怪達が途切れることはない、と目を細める。

 

「――っ、レベル9シンクロモンスターが破壊されたことで墓地の≪天狗≫の効果発動やっ! 墓地のアンデット族1体を除外し、自身を墓地から特殊召喚するでっ! ウチは墓地の≪雪女≫を除外し――」

「おっとぉっ! そいつぁさせる訳にゃあいかねぇなぁっ!! 俺様は≪鎧獄竜≫に装備された≪ドレイン・ドラゴン≫を墓地に送り、効果発動ぉ!! 自分場の装備カードを墓地に送ることで相手が発動した魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にし破壊する!」

「なっ、なんやて!?」

 

 カウンター効果もあるのか、と葉子は歯軋りした。

 このターンで自分モンスターが自身の蘇生効果を踏まえ、次々と破壊されていくことは想定内だったが、まさかその出だしを止められることは想定外だ。

 ぐっ、とくぐもったように呟きつつ、保険として伏せていたカードに指を伸ばす。

 

「ホンマはカメリアに取っておきたかったんやけどしゃーないわっ! ウチは罠カード≪もののけの巣くう祠≫を発動! 自分場にモンスターが居らへん時、墓地からアンデット族1体を蘇生させるっ! ウチはこれで改めて≪天狗≫を蘇生やっ!」

「チッ、蘇生系罠を握ってやがったか…」

 

 ブラストの舌打ちを聞き流しつつ、葉子は頬に冷や汗をかきながらプレイングを続ける。

 何とか、という体ではあるが、これでLPを削り切られることはなくなったのだ。

 あとはここを耐え凌げば、相方のカメリアへと繋げられる。

 その為には多少の墓地リソースよりも、少しでも相手の場を荒らした方が良いだろうと、キッと正面に視線を向けた。

 

「≪天狗≫の効果発動! 墓地からの特殊召喚に成功した時、相手の魔法・罠カード1枚を破壊するっ! ウチはペンデュラムゾーンの≪ドラゴディウス≫を破壊やっ!」

「構わねぇぜ。どうせ俺様には使える手札コストがなかったし、ペンデュラムもしねぇしな」

 

 構わない、と言った瞬間にブラストの隣に居るエンプレスが睨んだが、幸か不幸かブラストは全く気付いていない。

 その様子を見て、葉子は『ホンマ、相性悪すぎやあらへん…?』と口元を手で覆いたくなった。

 

「それじゃあ次だ。≪サフィラ≫で守備表示の≪天狗≫に攻撃」

「ぐっ、墓地の≪土蜘蛛≫の効果! レベル7シンクロモンスターが破壊された時、墓地のアンデット族1体を除外して蘇生するっ! ウチは墓地の≪俥夫≫を除外して≪土蜘蛛≫を蘇生! さらに墓地から蘇生した≪土蜘蛛≫の効果発動やっ! 互いにデッキトップ3枚を墓地に送るっ!」

「おっ、墓地肥やしさせてくれんのか。サンキュー」

 

 葉子は本当なら相手に利することになる≪土蜘蛛≫の効果を使いたくはなかったが、それでも使っておきたい理由はある。

 一応、墓地のカードだけでこのターンは凌げるが、それでもカメリアにターンが移った時に少しでも攻め手となる手は増やしておきたい。

 まだデッキには3枚目の≪馬鬼頭≫を始めとした墓地起動型のカードが幾つもある。

 それらのカードのどれかさえ墓地に送ることが出来れば、という思いで≪土蜘蛛≫の効果を発動したのだ。

 

 そして互いにデッキトップ3枚が墓地へと送られていく。

 葉子はブラストのデッキが【サイバー・ダーク】であることは分かっているため、普段なら墓地に送られるカードに気をかけるが、既に前のターンでエンプレスが墓地のドラゴンを整えたお陰で大したカードはないだろうと無視。

 重要なのは自分の墓地に送られるカードだ。

 ソリッドビジョンで表示されたカード群に恐る恐る目をやっていく――

 

 1枚目:≪魔妖変生≫――違う。

 2枚目:≪骸の魔妖-夜叉≫――これも違う。

 3枚目:≪毒の魔妖-束脛≫――これだっ!

 

「んじゃ、続けて≪アンブロエール≫で≪土蜘蛛≫に攻撃だ」

「破壊されるで――ほんで、レベル5シンクロモンスターが破壊されたことで墓地の≪朧車≫、そして≪毒の魔妖-束脛≫の効果を発動やっ! ≪束脛≫は自分の【魔妖】モンスターが破壊された場合、自身を墓地から特殊召喚する! ≪朧車≫は墓地のアンデット1体――≪骸の魔妖‐夜叉≫を除外して特殊召喚やっ! ほんで≪朧車≫のモンスター効果! このターン、ウチのモンスターは戦闘では破壊されへん!」

「……まぁ、もう攻撃できるモンスター居ないけどな」

 

 今更何やってんだこいつ、というような眼差しをブラストは向けかけるが――途中で何か納得したのか閉口。

 一方の葉子は弱小ステータスとは言え、モンスター2体を場に残せたことに安堵する。

 ふぅ、と安心した息を溢し、カメリアへ視線を向けると、当の彼女はニッコリと満面の笑みで返す。

 そして自分と同じような妖しい――いや、それよりも幾分や艶を感じさせる、妖艶な笑みだ。

 良かった、これで正解だったのだ、と葉子は肩の荷が下りたような気分だ。

 

「他にやることもねぇし、このままターンを――あぁ、墓地肥やししてくれたお陰でこれが使えるか。さっきの≪土蜘蛛≫の効果でデッキから光属性の≪トルクチューン・ギア≫が墓地に送られたことで≪サフィラ≫の効果発動。ターンの終わりにデッキからカードを2枚ドローし、1枚捨てる効果を選択。2枚ドローして1枚捨てる。これでエンドだ」

「………………」

 

 自分の仕事は終わった、とブラストは渋々エンド宣言。

 隣でエンプレスが見下したような表情で『あれ? 汝このターンで決めるって言ってなかった?』と妙に煽ったような視線さえ感じる。

 

 その表情にブラストは苛立ち始め――られる訳がなかった。

 そんなことよりも、自分が有言実行できなかったことの方が腹立たしいのだ。

 あれだけ墓地をお膳立てしてもらい、自分も重量級モンスター3体を出しつつ、このターンでやったことと言えば2000の効果ダメージを与えて自軍モンスターを増やした程度。

 また、相手にセットカードを1枚だけ使わせたとは言え、モンスターの数は1体から2体に増やす不始末だ。

 これで文句を言う方が恥であるし、何よりブラストのプライドが許さない。

 ただ粛々と現実を受け入れ、申し訳ないがフィニッシュはエンプレスに任せるしかないと素直に感じる。

 

 ふぅ、と一息ついてからブラストは現状を再確認。

 

 自分達のモンスターは攻撃表示の≪サフィラ≫、≪アンブロエール≫、≪鎧獄竜≫の3体。

 魔法・罠カードはフィールド魔法の≪サイバーダーク・インフェルノ≫、永続罠の≪復活の聖刻印≫と≪竜魂の城≫。

 自分の手札は1枚だが、エンプレスの手札は8枚。LPはほぼ軽傷の7500。

 

 対して相手側はモンスターゾーンに≪朧車≫と≪束脛≫、魔法・罠カードはセットカードが1枚あるのみ。

 葉子は手札を使い切り、次が初ターンとなるカメリアはドローカードを含めれば6枚だ。

 LPは≪ガンドラX≫と≪グスタフ≫で削って残り3100。

 

 ボード・アドバンテージ、ライフ・アドバンテージで言えばこちらに分があるが、それでもカメリアの手次第では一気にひっくり返される可能性も充分ある。

 尤も、そうそう7500のLPが危険域になることはないだろう、とブラストは慢心していた。

 

 

 

 よもや、次のターンでフィールドもLPも心もズタボロにされるとは露にも思わず。

 




口論部分見苦しいとこありましたが、使わないカード・デュエルしたことない相手カテゴリとか本当に分からないですよね。
初めて魔轟神とやった時なんか、気づいたらフォーミュロンなしでクェーサー出ててポカーンでしたもん。

あと次回で決着です。
1人1ターンってキリ良いですね!


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【コラボ】ミラーマッチ【闇属性・機械族】(前半)

本作は「どうも、ハノイの騎士(バイト)です。」とのコラボ(前半)になります。
今回は作者のウボァーさんからのご厚意で、私がこっそり構想していたデュエルを書かせて頂いている次第です。
執筆中に何度かバイトハノイ読み直してはいますが、キャラクターの口調や性格など、違和感がありましたら即座にご対応させて頂きたいと思います。
また、私の癖で文字数がちょっとアレなことになって読み辛くなりそうだと思い、今回は10,000字程度で前半となっております。
後半については今週末(2020/12/26)までに投稿できるよう、尽力する所存です。


 

 薄暗いホールを照らす無数の立体ウィンドウ。

 それらの画面にはある男──というよりは男性型の機械のデュエル映像だけが映し出されていた。

 

『≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫の効果発動ォ! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、テメェに2000のダメージを与える!』

五重調律(クィンタプル・チューニング)!! 現れろォ!!≪水晶機-グリオンガンド≫ォッ!!』

『墓地の【サイバー・ダーク】5種類を除外──現れろ、≪鎧獄竜‐サイバー・ダークネス・ドラゴン≫』

 

 そのデュエルは鮮烈にして苛烈。

 いともたやすく大型の機械族モンスターを繰り出し、相手の戦線とライフポイントを蹂躙する様は悪鬼さながら。

 

 相手となっている白装束と仮面──ハノイの騎士らの悉くは彼に辱められ、ライフポイントはおろか敬愛するリボルバーから賜った≪クラッキング・ドラゴン≫すら奪われている。

 彼らのデュエルタクティクスは決して低くはない。

 むしろ一般的なカリスマと呼ばれるデュエリストらとも遜色ない実力だ。

 

 しかし、それでも──たかだかランキング10位のデュエリスト、ブラストを相手にした場合、必ず負けてしまう。

 

 同じ機械族主体のデッキなのに何故負けるのかと、彼に敗北したハノイの騎士数10名──改め、100余名。

 何故勝てない、何故負けてしまうのかと、その原因を解明するため多くの同志が募り、会議という名の反省会を行っていた。

 

 先ず自分達のデュエルログ──という名の敗北記録で現状の共有。

 次にブラストの公式戦映像──という名の蹂躙劇で人間性を疑い。

 締めに先日のタッグデュエル──では、ブラストよりもその相方と相手の女が色んな意味でやべー奴だという認識を持った。

 

「結局あいつは何デッキなんだよ! 【列車】なのか【幻獣機】なのか【闇機龍】なのか【サイバー・ダーク】なのか一体全体わからんぞ!」

「メインはそれらのテーマで展開力に長けた奴を取捨選択して、エクストラでバカスカやる感じじゃないか?」

「待て。オレこの間≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫出されたから、メインにもフィニッシャーは積んでる」

「≪クラッキング・ドラゴン≫返して」

「それな」×100余

 

 しかし、いくら反省会で議論を重ねても結論は出ず。

 あーだこーだと騒いで嘆いて悲しんで怒っても何も変わらない。

 どうしたものかと全員が首を傾げる中、その中の1人にニュータイプ的直感が走る。

 

「──っ! みんな聞いてくれっ!! オレ達はあることを忘れていないか!!」

「あること?」

「何だ、何か見落としがあったのか?」

 

 その一言で周囲は騒ぎ、互いに顔を見合わせる。

 発言したハノイの騎士はコホン、と軽く咳払いし(仮面で半分見えないが)キリッと表情をキメて口を開く。

 

「あいつとデッキが似ているヴァンガード様に聞こう」

 

 瞬間、全員に電流が走る──ッ!

 

 ヴァンガード。

 バイトハノイ。

 ハノイの騎士の死神。

 中間管理職。

 ヒャッハノイの保護者……等々、ハノイの騎士における数多の呼び名を持ち、リボルバーからの信頼が篤く、スペクターからのソレはアレな上司。

 

 そうだ、ヴァンガード様も多くの機械族を使っていたじゃないか!

 オレ達がここまで戦えるようになったのもヴァンガード様のお陰じゃないか! と一部漂白されそうなセリフを口にしながら沸き立つ敗北ハノイ達。

 

「ヴァンガード様に聞けばよかったんだ!」

「天才かよお前」

「ヒャッハー! こうしちゃいられねぇ! ヴァンガード様呼んでくるぜ!」

「もう居るけど」

「……ゑ?」

 

 変な盛り上がりになったと思ったところで突然の静寂。

 一般パリピ男子的なアホ騒ぎから一転、まるで夜間ゲーセンで教育指導の先生に見つかってしまった時のような、変な気まずさが流れる。

 

「う゛、ヴァンガード様…? い、いつからここに…」

「最初から。リボルバー様から『一般ハノイが弛んでるから喝を入れて欲しい』と頼まれて来たんだけど……」

「……だけど?」

「この映像観るとみんなすごい負けっぷりだね。一体何枚の≪クラッキング・ドラゴン≫が奪われたのやら…」

「ゴハァッ!!」×100余

 

 隠しようがない出来事。

 第三者からの容赦のない事実にハノイの騎士ら100余名は一斉に吐血。

 尊敬する上司からの指摘に全敗を喫しているハノイの騎士のメンタルライフは0。

 ワンターンワンハンドレッドキルゥ…され、意気消沈。

 

 そんな彼らの情けない姿を一瞥し、ヴァンガードは立体ウィンドウに視線を戻す。

 自分と酷似したデッキを使うデュエリスト。

 基本は機械族・闇属性を主体としつつも、機械族全般であれば自分の手足のように繰るプレイングも類似。

 またデッキも自分と同じように機械族主体であれば別テーマを複数持っている。

 流石に人格まではあそこまで傲岸不遜ではないが、自分とあまりにも似たデッキを使うブラストにヴァンガードはあることを率直に思った。

 

(……めっちゃデッキ被ってる…!)

 

 自分のアイデンティティの危機を。

 デッキとしては酷似しているものの、細かい点で言えば異なる。

 機械族・闇属性を主体にし、種族・属性サポートで戦うスタイルは同じだが、プレイングは全くの別物。

 

 ヴァンガードは最上級機械族を安定して場に出し、エクストラデッキから状況に合わせたモンスターを出す万能型。

 対してブラストは爆発的な展開力を以て場を蹂躙、エクストラデッキから制圧・除去に長けたカードを出す特化型。

 

 その違いはあるのだが、今回敗北しているハノイの騎士らはあくまで一般的ハノイの騎士のそれ。

 自分を慕うヒャッハノイの【霊使い】や【蠱惑魔】、【ネフィリム返しておじさん】らと比べると、どうしても実力が1枚か2枚は劣る。

 そんな彼らに『デッキ似てるから対策もわかるべ!』と安易な発想をされてもヴァンガードとしては困るのだ。

 というかそれだと自分のデッキの弱点も晒すことになるので、アドバイスは極力控えたい。むしろしたくない。

 

「はあ……行きますよ」

「い、行くってどこにですか?」

「決まっています──」

 

 それ故、ヴァンガードが取る選択肢は自ずと限られてしまう。

 ため息混じりで転移の準備をするヴァンガードに、一般敗北ハノイが恐る恐る聞き、ヴァンガードはあっけらかんと──

 

「──≪クラッキング・ドラゴン≫を取り返しにです」

「…………おぉおおおおおぉっ!!」

 

 ──さながら『ちょっとコンビニ行ってくる』、とでも言うような気軽さで言ってのける。

 一瞬、ヴァンガードが何を言っているのか理解が遅れたハノイの騎士100余名。

 だが途端にその意味がわかるや否や、仮面を付けていてもわかるほどに満面の笑みを浮かべ、声を荒げながらヴァンガードの後へと続く。

 

 

 

 

 

「さて、ここですか…」

 

 ヴァンガードらが転移した先はリンクヴレインズ内のスラム街。

 転移座標を教えてもらい、部下100余名をさながら修学旅行の引率の先生の如くヴァンガードは歩を進める。

 目的は傍若無人系小物中ボス悪役デュエリスト、ブラストただ1人。

 

 普段からこのスラム街を根城にしているのは本人曰く『ここに居た方がそれっぽいじゃん?』という実に浅はかな理由。

 人気もなく、常に彼が居るという廃墟と化した屋敷へと向かう。

 特に何の障害もなく目的地に着き、ヴァンガードは門陰からこっそりと屋敷を覗くと──

 

「バトル! 余は≪イビリチュア・リヴァイアニマ≫でダイレクトアタック! チェック・ザ・トリガー!」

「何が『ザ』だ! カッコつけやがって!」

「ドローカードは≪ヴィジョン・リチュア≫! ゲット! リチュアトリガー! よって相手の手札をランダムに1枚確認する!」

「チィ…! 手札は≪機械複製術≫だ…!」

「なんじゃ事故っとったのか。なればそのまま終わりじゃ」

「ぐぉおおおおおおぉぉっ!!」

(えぇー……)

 

 ──そこにはドラゴン系少女に敗北し、地面をコロコロしている男性型機械の姿があった。

 今まさに部下達の敵討ち兼≪クラッキング・ドラゴン≫の返還に意志を固めてきたヴァンガードにとっては困惑する状況だ。

 

「くっ、おま、それドラゴンじゃなくて【リチュア】じゃねぇか! 普段のドラゴンはどこいったんだよ!?」

「は? 阿呆か汝は? 見よこの≪イビリチュア・リヴァイアニマ≫の姿を──どこからどう見てもドラゴンじゃろうが」

「どっからどう見ても水族・水属性だよ!!」

「この見た目でドラゴンじゃない訳がなかろう──むっ、そこな物陰から見てる者が居るな。出てまいれ」

「ナズェミテルンディス!」

(あっ、見つかっちゃった)

 

 2人のやりとり──という名の漫才に警戒心が薄れてしまったヴァンガードはあっさりと発見されてしまう。

 やれやれ、とため息をはきつつ半身だけ出していた姿を現し、トコトコと2人の方へ歩を進め──

 

「「えっ、多くない?」」

 

 ──その後ろからザクザクと100余名のハノイの騎士らも後に続く。

 『カルガモの親子でもそんな数居ないだろ!』と2人が思う中、いつの間にかハノイの騎士らは2人とヴァンガードを囲うように配置。

 『閉じ込められた!』、『罠か…』とシャトルの中に逃げ込んだ訳でもないのに、2人はハノイの騎士ら、そして眼前のヴァンガードに警戒の眼差しを向ける。

 

「はじめまして。私はヴァンガード──彼らの上司にあたる者です」

「ほぉ……リボルバー以外の上役は初めて見たぜ。俺様はブラスト、よくそいつらの≪クラッキング・ドラゴン≫をアンティで奪っている」

「知っています」

「余はエンプレス。≪クラッキング・ドラゴン≫のことはドラゴンだと思っている」

「機械族ですよ」

 

 コホン、とヴァンガードを軽く咳払いしてからブラストの方へ視線を移す。

 このまま相手の漫才ペースに付き合っていては話が脱線しかねない、隣のエンプレスというドラゴン系少女には申し訳ないが、ささっと目的を済ませようと毅然に振る舞う。

 

「私がここに来た理由は単純です。あなたが奪った≪クラッキング・ドラゴン≫の返還要求です」

「断る。俺様はちゃあんとデュエル前に、お互いアンティデュエルでの≪クラッキング・ドラゴン≫を賭けることを承知でデュエルしてんだ。んなもん負ける方──いや、負ける雑魚の責任だろうが」

「き、貴様ぁ…!」

「落ち着いて下さい……確かに、あなたが言うことにも一理ありますが、それはそれとして我々ハノイの騎士にも面目というものがあります」

「わからねぇでもねぇが……なら、やることはわかってんだろうな?」

 

 ヴァンガードの言にブラストは(機械マスクで表情はわからないが)口角をニヤリと上げる。

 それに合わせて自身の左腕……デュエルディスクも構えて臨戦態勢に。

 

「構いません。むしろこれが目的で来たようなものですからね──では、この場に居る100余名の≪クラッキング・ドラゴン≫とあなたが持つ100余枚の≪クラッキング・ドラゴン≫をアンティとすることで異存はありませんね?」

「ヴぁ、ヴァンガード様!?」

「あぁ、問題ねぇ……ククク、一気に100枚近く増えるたぁ気前が良いじゃねぇか」

「テメェ!」

「落ち着いて下さい。私が負けると思っているのですか?」

「そ、そんなことは……」

「であれば大人しく観ていて下さい。そちらのエンプレスさんもよろしいですね?」

「構わぬ。こやつらから仕掛けてこなければ手出しはせんよ」

「感謝します。では…」

 

 ヴァンガードの言葉にハノイの騎士らは一瞬動揺するも、ヴァンガードの二の句を聞いては閉口するのみ。

 警戒対象として加算していたエンプレスの手出しもないとなれば純粋にデュエルに集中できる。

 

 互いに一定の距離を保ち、ほぼ同時にデュエルディスクを起動。

 ソリッドビジョンでプレイヤーネーム、ライフポイント、手札が表示され準備が完了する。

 

「「デュエルッ!!」」

 

 今、ここに中々見られない、同じデッキタイプ同士のデュエル──ミラーマッチが始まった。

 

 

 

「俺様の先攻だ。手札からレベル8の≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動。デッキから2枚ドローする。さらに墓地へ送られた≪デスペラード≫の効果。こいつが墓地に送られた場合、デッキからコイントス効果を持つレベル7以下のモンスター1体を手札に加える。デッキから≪リボルバー・ドラゴン≫を手札に加えるぜ」

(へぇ…)

 

 ヴァンガードは素直に感心した。

 荒っぽい言動とは裏腹に、ブラストの初手は堅実。

 手札交換のみに留まらず、最上級モンスター含みと言えど先攻1ターン目の初期手札を5枚から6枚に増やした。

 デュエリストの数だけ戦術は異なり、手札の数だけ可能性がある。

 その可能性を1つでも増やされるとなれば厄介だ。

 生憎とヴァンガードの初期手札では手札誘発等でブラストを妨害する術はないため、ここは大人しく彼のプレイングに注視する。

 

「魔法カード≪闇の誘惑≫を発動。デッキから2枚ドローし、その後手札から闇属性1体を除外する。さっき手札に加えた≪リボルバー・ドラゴン≫を除外だ」

(情報アドも消してきましたか…)

 

 しかし続く手も手堅いそれ。

 デュエルログを傍目で観ていた故に詳細こそわからないが、序盤は堅実に動くタイプなのだろうかとヴァンガードが思案していたところ──ブラストのアイカメラが下卑た赤色に発光する。

 

「さぁてお相手がハノイのお偉いさんって言うなら遠慮なく飛ばさせてもらおうか! 手札から≪ネジマキシキガミ≫を特殊召喚! こいつは通常召喚できず、自分の墓地のモンスターが機械族のみの場合手札から特殊召喚できる! そして≪ネジマキシキガミ≫を対象に魔法カード≪エクシーズ・レセプション≫を発動ォ! ≪ネジマキシキガミ≫と同じレベルのモンスター1体を攻守0、効果を無効にして特殊召喚する!」

「──っ、まさか…!」

「察しが良いなぁ上司さんよぉ! 俺様は手札から──≪クラッキング・ドラゴン≫を攻守0、効果を無効にして特殊召喚ッ!!」

 

 堅実から一転、稼いだ手札を潤沢に使ってブラストの場に2体の最上級機械族が姿を現す。

 片や白装束のカラクリ人形。

 そしてもう片方はハノイの騎士らが彼に奪われているカード──≪クラッキング・ドラゴン≫。

 巨大な漆黒の体躯、ライトグリーンに発光する各アイカメラや基部。

 全身が鋭利な刃物の如き棘に包まれ、他者を一切寄せ付けない、孤独にして孤高の機械竜。

 

 ハノイの騎士の象徴とするカードがよもや先攻1ターン目で、それもこんなにもあっさりと出たことにヴァンガードは驚愕──しない。

 彼女が警戒すべき点はただ1点──召喚制限のない機械族が、''攻撃力500以下''で場に居ることである。

 

「続けて行こうじゃねぇの! 攻撃力0の≪クラッキング・ドラゴン≫を対象に、魔法カード≪機械複製術≫を発動ォ!! 場の攻撃力500以下の機械族と同名モンスター2体をデッキから特殊召喚する! さぁ、出てこいよ。2体のぉー──≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」

「くっ…!」

 

 やはり、というか予想通り。

 機械族得意の≪機械複製術≫によりブラストの場には追加で2体の≪クラッキング・ドラゴン≫が現れる。

 1体でも厄介な≪クラッキング・ドラゴン≫が2体ともなれば、ステータスダウンはもちろんのこと、効果ダメージも生半可な数値ではない。

 仮にこちらが≪クラッキング・ドラゴン≫を出そうものなら瞬く間に攻撃力は0、そのダメージも3000と異常な火力を生み出す。

 

「お次は攻撃力0の≪クラッキング・ドラゴン≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫発動だ! 自分場のレベル8以上のモンスターをリリースし、2枚ドロー! さらにさらにぃっ! 手札から≪ジャック・ワイバーン≫を通常召喚だッ!」

「──っ、2体では満足しませんか…!」

「悉く察しが良いなアンタっ! んじゃあお望み通り、場の機械族≪ネジマキシキガミ≫と≪ジャック・ワイバーン≫を除外し、墓地の闇属性≪クラッキング・ドラゴン≫を対象に≪ジャック・ワイバーン≫の効果発動ォ! 墓地から対象にしたモンスター──≪クラッキング・ドラゴン≫を復活させるッ! さぁ、戻って来な≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」

 

 これで締め、とばかりにブラストの場に3体目の≪クラッキング・ドラゴン≫が現れる。

 最初の≪エクシーズ・レセプション≫で弱体化していない、ステータスも効果も元通りの完全復活した姿だ。

 3体の≪クラッキング・ドラゴン≫は両端と中央それぞれに配置され、ヴァンガードを威嚇するようにグルルと唸り声を上げる。

 

 レベル8・攻撃力3000のモンスターが3体。

 それも自身と部下が愛用する≪クラッキング・ドラゴン≫。

 3体が先攻1ターン目から並び、自分に向けて牙を剥く様は通常であれば恐怖だろう。

 周囲のハノイの騎士らも『あんなのどうやって対処するんだ…』と半ば絶望、諦観したような状況だ。

 

 だが、1人──いや、2人ほどそんな状況に全く諦めていない……というより、全く別の感想を抱く者達が居た。

 

((……やっべ、≪クラッキング・ドラゴン≫3体並ぶとカッコいい…))

 

 ハノイの騎士の死神ことヴァンガードと、雑な汝はドラゴン判定するエンプレスだ。

 片や≪クラッキング・ドラゴン≫を愛し、愛されるデュエリスト。

 片や見た目がドラゴンなら手当たり次第何でも愛すデュエリスト。

 性格も容姿もデッキも異なる2人だが、この時だけは本人達の知らぬ間に思いがシンクロしていた。

 

 普段は後ろ姿でしか≪クラッキング・ドラゴン≫を見ていないヴァンガードとしては、正面から3体並ぶ状況は壮観にして眼福。

 時折≪クラッキング・ドラゴン≫を目にするエンプレスとしては、3体並ぶと()の伝説の白龍を彷彿とさせる興奮。

 そんなことを思いつつも、この2人は同時にこの状況を覆す術も''瞬時に''理解していた。

 

「ハッ、呆けたところでもう遅ぇ。3体の≪クラッキング・ドラゴン≫が居ればレベル12のモンスターだろうが、その攻撃力を7200下げる。並大抵のモンスターじゃ太刀打ちできねぇぜ? 俺様はこれでターンエンドだ」

 

 そのことを知ってか知らず、ブラストはそのままターンを終える。

 場には3体の≪クラッキング・ドラゴン≫のみ。

 手札は2枚残し、ライフポイントはコストを払う行為もなかったため無傷の4000。

 

(リバースカードなし…? あっ、いや手札に≪速攻のかかし≫とか居るのかも)

 

 リバースカードすら出さない状況にヴァンガードは一瞬侮られているのかと思ったが、機械族には幾つか手札誘発のモンスターが居るため即座にその考えを払拭。

 また魔法・罠カードによる妨害がないのなら、こっちもこっちで好きに動ける上、今の手札なら''突破も容易''だ。

 

「私のターン、ドロー。リバースカードを2枚セット」

「オイオイ守備重視か? そんなんじゃ勝てねぇぞ?」

「守勢に回ったつもりはありません。手札のレベル8、≪クラッキング・ドラゴン≫を捨て、魔法カード≪トレード・イン≫を発動。これに合わせて残った1枚の手札を捨て、速攻魔法≪連続魔法≫を使います」

「……ハ?」

「≪連続魔法≫は直前に発動した通常魔法の効果のみをコピーします。よって私は≪トレード・イン≫の効果2回分、合計4枚ドロー」

「えっ、何この直近の≪連続魔法≫採用率。流行? トレンドなの?」

 

 自分、エンプレス、葉子と、3人も≪連続魔法≫を使用している者が現れて困惑するブラスト。

 正直使い勝手悪いのに何で入れているんだ、と『お前が言うな』と言われかねない。

 

 そんなブラストには目もくれず、ヴァンガードは新たに引いた4枚を一瞥。

 ≪クラッキング・ドラゴン≫3体の突破に新たに引いた4枚は一切の必要はないが、後の展開を考えると理想的なカードを引けていたことに仮面の下で笑みを浮かべる。

 

「先ずセットした1枚目の通常魔法≪冥王結界波≫を発動。このカードの発動後、あなたが受けるダメージはこのターン全て0になりますが、3体の≪クラッキング・ドラゴン≫の効果はこのターン無効になります」

「チッ、だがそれでも攻撃力3000が3体だ。生半可な方法じゃ突破はでき──」

「次にセットした2枚目の通常魔法≪死者蘇生≫を発動。あなたの墓地の≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を私の場に復活させます」

「──テメぇええええぇっ!!」

「瞬く間のフラグ建てと回収じゃのう…」

 

 あれよあれよと形勢が傾いていく。

 当初はモンスターを召喚すれば大幅なステータスダウンと効果ダメージで襲うハズだった3体の≪クラッキング・ドラゴン≫は全て効果が無効化。

 さらに3体の攻撃力3000に対しては、素直に自分のカードを使うのではなく、丁度ブラストの墓地に眠っていた≪デスペラード≫が解決してくれる。

 

「ま、まだだっ! 確かに≪デスペラード≫にはコイントスで表になった数まで表側モンスターを破壊する効果があるが、早々3回も表が出る訳が──いや、待てよ? まさか、テメェ…!」

「察しが良いですね。バトルに入り、≪デスペラード≫の効果を発動。さらに墓地の罠カード≪銃砲撃≫を除外し効果適用」

「テメ──≪連続魔法≫のコストで…!」

「その通り。墓地から除外した≪銃砲撃≫の効果により、2回以上コイントスを行う効果のコイントス結果を全て表として扱います──ガン・キャノン・ショット・デスペラード、発射(ファイア)!!」

 

 頭部・両肩が回転式拳銃を模している≪デスペラード≫のシリンダーが高速回転。

 モーター音と聞き違えられないほどの回転後、スロットマシンの如くピタリと静止。

 それぞれの弾倉に充填された弾丸がセット&ロックオン。

 3つの銃口から同時に閃光が放たれ、それら全てが3体の≪クラッキング・ドラゴン≫の胴体を貫く。

 

 ヂヂヂ、とショート音が鳴ったかと思えば、その直後に轟音。

 巨大な3つの爆発が起こり、両者はもちろん観戦者のエンプレスとハノイの騎士らを爆風が襲う。

 モクモクと立ち込めていた黒煙が晴れると、そこには当然≪デスペラード≫のみが雄々しく直立。

 

 ≪デスペラード≫が奪われた時点でこの最悪な状況は予測に入っていたブラストだったが、それでもいざ実際に目の当たりにすると悔しさと怒りが込み上げてくる。

 蘇生系の罠があったら≪デスペラード≫を奪われずに済んだかもしれず、効果破壊耐性を付与できれば、と''たら・れば''と考えるが、それらのカードを引き込めていない自分に落ち度があるだろう。

 むしろ少ないカード消費で3体の≪クラッキング・ドラゴン≫を突破したヴァンガードの手腕が見事だったと思わざるを得ない。

 

 だが、それと同時に何故ヴァンガードのデッキに≪銃砲撃≫というピンポイントなカードが入っていたのかと疑問に思うブラスト。

 強力なカードではあるが、コイントスを行う効果を持つカードはさほど多くはない。

 ただの偶然か、それとも──と考えていたところでヴァンガードの口が開く。

 

「先攻で3体の≪クラッキング・ドラゴン≫を揃えるプレイングは流石だと言いたいところでしたが、そのコンボを成立させる仕様上、こうなることも考えられるでしょう。あぁ、あと≪デスペラード≫の3回表になった時の追加効果で1枚ドローしますね」

「……≪死者蘇生≫で奪った割には随分と≪デスペラード≫の効果を理解しているなァテメェ」

「えぇ、私のデッキにも入っていますからね、≪デスペラード≫」

 

 なるほど、と思うと同時に歯軋りするブラスト。

 確かに自分も採用しているカードであれば≪銃砲撃≫が最初から入っていても何ら不思議ではない。

 それどころか自分はわざわざ相手に突破させやすいカードを用意させてしまっていたのかと、ブラストは再度自分に憤る。

 

「このまま≪デスペラード≫を維持しても制圧力は高そうですが……墓地に送られた場合あなたにまたカードをサーチされては困りますので、処理させてもらいましょう。手札から≪ジャック・ワイバーン≫を召喚」

「なっ──テメぇ!!」

「叫んだところで無駄です。≪デスペラード≫と≪ジャック・ワイバーン≫を除外し、≪ジャック・ワイバーン≫の効果発動。墓地から闇属性モンスター1体を特殊召喚します──さぁ、復活なさいっ──」

 

 ヴァンガードの場に新たに機械飛竜が現れたかと思えば、すぐに≪デスペラード≫と共に異次元へ。

 そして地面に濃紫色の円陣が現れ、その中央からゆっくりと浮上する影が1つ。

 

 先のブラストと同じく、巨大な漆黒の体躯、ライトグリーンに発光する各アイカメラや基部。

 全身が鋭利な刃物の如き棘に包まれ、他者を一切寄せ付けない、孤独にして孤高の機械竜──

 

「──≪クラッキング・ドラゴン≫ッ!!」

 

 ──≪クラッキング・ドラゴン≫。

 

 ≪ジャック・ワイバーン≫が現れた時点でこうなることはブラストも理解していた。

 だがそのコストにヴァンガードのカードではなく、自分のカード──それも墓地に送られた場合に効果が発動する≪デスペラード≫を使われて、となれば声を荒げるのも無理はない。

 

 そして同時に理解した。

 目の前の相手はハノイの騎士の上司を名乗るだけあり、既知の一般ハノイの騎士とはデュエルの次元が違う。

 さらに驚くべきは彼ら有象無象とは異なり、闇属性・機械族に特化させたデッキ構築になっていること──つまり、自分と似た(・・・・・)デッキであることが充分に考えられる。

 言わば、これはミラーマッチ──もう1人の自分とのデュエルと言っても過言ではない。

 

「最後にリバースカードを2枚セットし、ターンエンドです……どうかしましたか?」

 

 締めにセットカード2枚を出したところで、突然沈黙したブラストを訝しむヴァンガード。

 饒舌で粗暴な人物が黙ると薄気味悪いためつい声をかけたが、その声に呼応してブラストの首がゆっくりを上がる。

 

「いぃや、なぁに……まさか、こういうデュエルできるたぁ思わなくてな」

「こういう……? あぁ、なるほど。私も同じですよ。まさか──」

 

 互いに示し合わせたでもない。

 片やマシンマスク。

 片やハノイの仮面。

 共に相手の表情が見える訳がないこの状況で、2人はそれぞれが被る面の下で口角を吊り上げ、同時に言葉を発する。

 

 

 

 

 

「「ミラーマッチになるなんて(なァ!!)」」




※ミラーマッチと言っていますがシングル戦です


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【コラボ】ミラーマッチ【闇属性・機械族】(後半)

前回のあらすじ
ハノイの騎士「ヴァンえもーん、ブラスト君にクラッキング取られちゃったよぉ」
ヴァンガード「もう仕方ないなぁハノ太くんは……おい、デュエルしろよ」
ブラスト「おk。食らえ、先攻ワンターンスリィクラッキングゥ!」
ヴァンガード「冥王結界波とNTRしたデスペラードの効果で粉砕」
ブラスト「お、俺様の3体のクラッキングが全滅めつめつめつ…!」
ヴァンガード「再利用怖いからデスペラード除外してクラッキング出すね!」
ブラスト「これほどの屈辱を味わったのは初めてだ…!」血管ビキビキ



投稿が遅れた非力な私を許してくれ…(ドルベ院下弦の壱典明)


「俺様のターン、ドロー」

 

 先攻1ターン目に揃えた3体の≪クラッキング・ドラゴン≫を除去された上、愛用している≪デスペラード・リボルバー・ドラゴン≫を除外されたブラストだったが、ひとしきり喚くと冷静さを取り戻す。

 ふぅ、と小さく息を吐き、改めて現状を確認する。

 

 自分の場にカードは0枚。

 手札は3枚のみ。

 

 対して相手のヴァンガードの場には≪クラッキング・ドラゴン≫と2枚のリバースカード。

 手札も2枚温存しており、カード・アドバンテージ上ではブラストが劣勢であることは容易にわかる。

 

(リバース2枚か……ミラーマッチってんなら、あの伏せは機械族サポートか闇属性サポート辺りか…? いや、前のターンでダメージ与えられなかったんなら、≪リミッター解除≫で反撃って線もあるか)

 

 また、ヴァンガードのデッキが自分と非常に酷似している点からリバースカードを模索。

 同じデッキタイプであれば採用するカードも似通っていると思われ、その中でも現状での可能性を考慮。

 

(チッ、やり易そうでやり辛ぇな。完全なミラーマッチでないにしても、アイツのセットカードは俺様が既知のカードのハズ。機械族には捻くれた永続罠はねぇから、大抵は使い切りの通常罠だろうが──クソッ! うじゃうじゃ考えたって仕方ねぇ! 相手のリバースを全部使わせる勢いで動くっ!)

 

 純粋単純単調思考なブラストは小難しい考えを放棄。

 とにもかくにも動けるだけ動く、とドローカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「手札から≪深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト≫を召喚ッ! コイツはレベル10だがリリースなしで召喚でき、その場合は元々の攻撃力が0になるッ!」

「≪クラッキング・ドラゴン≫の効果の回避……いえ、そのカードが出てきたということは──」

「ホンット癪に障るぐれぇ察しの良い野郎だなテメェ! 手札から≪重機貨列車デリックレーン≫を特殊召喚ッ! こいつは俺様の場に機械族・地属性モンスターが召喚・特殊召喚された場合、元々の攻守を半分にして手札から特殊召喚できる!」

 

 ヴァンガードの読みからの先読みにブラストは苛立ちを隠そうともせず、続け様にカードをディスクへ。

 片や列車に騎乗した騎士≪深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト≫、片やクレーンを振り回す貨車≪重機貨列車デリックレーン≫。

 通常であれば召喚が困難なレベル10という大型モンスターを各々の効果で、ブラストは即座に場へ揃える。

 

「では≪クラッキング・ドラゴン≫の効果発動。相手がモンスター1体を召喚・特殊召喚した時、そのモンスターはターン終了まで攻撃力をレベル×200ポイントダウン。さらにダウンした数値分、相手にダメージを与えます。≪デリックレーン≫の元々の攻撃力2800から今は半分の1400ですが、それでもダメージは充分。やりなさい、≪クラッキング・ドラゴン≫! クラック・フォール!」

「チィッ! 1400ダメージぐらい受けてやらぁ!」

 

 しかし、いくらデメリットでステータスを下げてモンスターを場に出したところで≪クラッキング・ドラゴン≫の餌。

 ≪クラッキング・ドラゴン≫の全身から妖しい緑光が発せられ、その光がブラストを襲う。

 一気にライフポイントが4000から2600と半分近くを削られ、ブラストは(存在しない)眉間に皺を寄せつつ、続けてエクストラデッキへ指を伸ばす。

 

「このターンで決着(ケリ)をつけてやる! 俺様はレベル10の≪ナイト・エクスプレス・ナイト≫と≪デリックレーン≫でオーバーレイ! 轟け鉄輪! 唸らせ号砲!」

 

 2体の重列車が土色の光となり、いつの間にか地面に現れた黒い円陣へ。

 2つの光は螺旋を描くように渦巻き、やがてそれらが重なるように1つになった瞬間、閃光が迸る。

 巨大な光柱がブラストのフィールドに突き刺さり、その中から巨象の歩みの如く何かが露に。

 規格外の体躯。

 重く厚い装甲。

 超々長大砲身。

 

「エクシーズ召喚ッ! 現れろォ! ランック10ッ!! ≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫ゥ!!」

「ここで≪グスタフ≫ですか…!」

 

 現在判明している機械族のエクシーズモンスターで最上級最重量最高峰のステータスを誇る、最強クラスのモンスター──≪超弩級砲塔列車グスタフ・マックス≫。

 その姿が露になるや否や、≪グスタフ・マックス≫が放つ圧倒的な存在感と威圧感に気圧されたり、トラウマなのか一部ハノイの騎士らは『ひぃっ』と情けない声を上げて後ずさる。

 

「≪グスタフ・マックス≫はエクシーズモンスターだ! こいつはレベルじゃなくてランクを持つ! つまり、レベルを参照する≪クラッキング・ドラゴン≫の効果でステータスも下がらねぇし、効果ダメージも受けねぇ!」

「その通りですね。まさかそのデッキで出てくるとは思いませんでしたが…」

「言ってろッ! 俺様はオーバーレイ・ユニットを1つ使い、≪グスタフ・マックス≫の効果発動ォ! テメェに2000ポイントのダメージを与える!」

 

 ≪グスタフ・マックス≫の周囲を漂っていた光球がその長大な砲身に装填。

 ゴゴゴ、とゆっくりとした動きで照準を合わせる──狙いは当然、ヴァンガード。

 

「食らいやがれっ! オーベン・エクスプロジオンッ!!」

 

 ブラストの号令と共に≪グスタフ・マックス≫から砲弾が放たれる。

 着弾と共にゴォンっ! という轟音が響き、ヴァンガードを中心として土煙が舞う。

 モクモクと煙が立ち込める中、ブラストはしてやったりな満足顔。

 対してギャラリーと化しているハノイの騎士らは不安そうな眼差しを向けていた。

 

「……流石に半分持っていかれるのは少し痛いかな」

「チッ、半分を少し扱いかよ」

 

 しかし、黒煙が晴れてその姿を現してもヴァンガードは平然としている。

 その様子がちっとも面白くないブラストは(存在しない)口を尖らせ、悪態をつく。

 もっとも、その尖らせた口はすぐに下卑た形に変わるが。

 

「だが俺様の狙いはダメージだけじゃねぇ──わかるだろ? 俺様はオーバーレイ・ユニットとして墓地に送られた≪デリックレーン≫の効果発動ォ! こいつがエクシーズモンスターの効果を発動するためにオーバーレイ・ユニットとして墓地に送られた場合、テメェの場のカード1枚を破壊する! 消えろッ! ≪クラッキング・ドラゴン≫!!」

「リバースカードオープン。罠カード≪マグネット・フォース≫を発動。このターン、≪クラッキング・ドラゴン≫は相手のモンスター効果を受けません」

「クソがぁっ!!」

「汝、フラグ回収早過ぎじゃろ…」

 

 そしてその下卑な笑みがすぐに怒りのそれに変遷。

 効果ダメージ狙いと見せかけての除去だったが、対応力に関してはことハノイの騎士の中でもズバ抜けているヴァンガードの前では呆気なく見破られる。

 幼児のように地団駄を踏む姿に半ば相方と化しているエンプレスはハァとため息を零した。

 

「チィ…! あんまりしたくはねぇが、≪クラッキング・ドラゴン≫を残さねぇ! バトルだ! ≪グスタフ・マックス≫、≪クラッキング・ドラゴン≫を道連れにしろォ!」

「リバースカードオープン。罠カード≪メタバース≫。デッキからフィールド魔法を手札に加えるか、直接発動する。私はデッキから≪鋼鉄の襲撃者≫を直接発動」

「んなッ──っ!?」

 

 倒せなかった焦りか、もしくは後の展開を考えてか、ブラストは≪グスタフ・マックス≫に特攻命令を下す。

 ≪グスタフ・マックス≫がその巨躯を同じく巨体である≪クラッキング・ドラゴン≫へ突撃すると同時に、ヴァンガードの最後のリバースカードがオープン。

 リバース公開と同時にヴァンガードの場に紫電と黒煙が立ち込め、明らかに通常とは様相が異なる。

 

 その特異な空間は宣言されたカード──≪鋼鉄の襲撃者≫による視覚エフェクト。

 また、ブラストはその効果を理解しているが故に驚愕し、明確な憤りの眼差しをヴァンガードに向ける。

 

「テメ、このタイミングで…!」

「≪鋼鉄の襲撃者≫は自分の機械族・闇属性を1ターンに1度だけ戦闘から守り、戦闘ダメージを受けたらその数値分攻撃力をアップさせます。あなた相手になら説明は不要でしょうが、今回はギャラリーが居るので。それに──」

 

 ヴァンガードは人差し指を口の前まで上げ、仮面の下でもわかる程度の微笑を浮かべ口を開く。

 

「──こうした方が精神的に来る(・・)でしょう? 効果ダメージは蔑ろにされ、本命の除去は回避され、最後の相討ち特攻も徒労に終わる──悔しいでしょうねぇ」

「…て、テメェエエエェェッ!!」

 

 ブラストの叫びと同時に、突貫した側の≪グスタフ・マックス≫の巨体がひしゃげる。

 ≪鋼鉄の襲撃者≫の守りを得た≪クラッキング・ドラゴン≫に特攻は無意味、と言わんばかりの結果。

 唯一≪クラッキング・ドラゴン≫を戦闘破壊できるモンスターが玉砕し、ガラガラと崩れゆくモンスターの姿を前にブラストは拳を強く握り締める。

 

「これであなたの場のカードは全滅。残された手札も1枚ですが、どうされます?」

「……魔法カード≪一時休戦≫発動だ。互いに1枚ドローし、次のテメェのターンまで互いに受けるダメージは0になる…」

「なるほど、そのカードがありましたか。ではありがたく1ドローを」

「……リバースカードを1枚セットし、ターンエンドだ…」

 

 苦虫を噛み潰したような、現状ではどうすることもできないことにブラストは苛立ちつつターンを終えた。

 

 そんなブラストの様子を一瞥してから、ヴァンガードは改めて現状を確認する。

 ブラストの場にはリバースカードが1枚のみ。

 手札は0枚、ライフポイントは2600と≪クラッキング・ドラゴン≫の直接攻撃が通ればゲームエンドだ。

 しかし、魔法カード≪一時休戦≫の効果によりヴァンガードのターンまで互いに受けるダメージは全て0。

 ──であれば、このターンで攻め込む必要はないのだ。

 

 一方の自分場には≪クラッキング・ドラゴン≫とフィールド魔法≪鋼鉄の襲撃者≫。

 手札は現状3枚だが、ドローカードも含めれば4枚。

 ライフポイントは≪グスタフ・マックス≫の効果で半分の2000と、まだ致死圏(・・・)ではない。

 

 相手が自分と似通ったデッキであれば、召喚を許した時点で1400(・・・・)の効果ダメージが飛んでくることは必定。

 ならばその対策、もしくは出されても問題がない盤面を作れば良い、とヴァンガードはデッキトップに指を伸ばす。

 

「私のターン、ドロー。手札から≪ダークシー・レスキュー≫を墓地に送り、魔法カード≪ワン・フォー・ワン≫を発動。手札からモンスターを墓地に送り、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚。私はデッキから≪ジェット・シンクロン≫を特殊召喚します」

「……あん? ≪ジェット・シンクロン≫だと…?」

 

 ドローカードを一瞬見やり、ヴァンガードは内心で笑みを浮かべながら即座に発動。

 ヴァンガードの場に新たにジェットエンジンを模した可愛らしいモンスター、≪ジェット・シンクロン≫がポンッと現れ、その姿を見るなりブラストは目を細めた。

 対戦相手のことを言えた口ではないが、ブラストは≪ジェット・シンクロン≫は機械族ではあるものの、闇属性ではないことが少し引っ掛かる。

 

(まぁ自己蘇生効果持ったチューナーだしな。便利だから入れるって理由はわか──オイ待て。あいつの残り手札が2枚あるってことは…!)

 

 一瞬流そうしたが、ふとヴァンガードの残り手札2枚あることがわかるや否や、ゾクリと背筋が凍りつく。

 まさか、と思う間もなく、ヴァンガードは2枚の手札を流れるような手つきでデュエルディスクに差し込む。

 

「魔法カード≪アイアンコール≫で墓地の≪ダークシー・レスキュー≫を復活。このカードは場に機械族が居る時、墓地のレベル4以下の機械族を効果を無効にして蘇生。続けて攻撃力0の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に≪機械複製術≫を発動。デッキから同名モンスターの≪ダークシー・レスキュー≫2体を特殊召喚」

「むっ、この流れは……」

 

 傍から観ていたエンプレスはヴァンガードの盤面を想起した。

 ブラストと初めて会い、そして見せつけられたあのコンボと、ほぼ同じ状況に懐かしさを覚える。

 

「あなたのデュエルログで面白いコンボがありましたので、流用させて頂きます」

「て、テメ──」

「私はレベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル1チューナー、≪ジェット・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚、出でよ、レベル2! シンクロチューナー、≪フォーミュラ・シンクロン≫!」

 

 ブラストの言葉を遮るように場の≪ダークシー・レスキュー≫と≪ジェット・シンクロン≫が一体となり、F1カーを模した≪フォーミュラ・シンクロン≫が出現。

 フンス、背のタイヤをぎゅいーんと回転させながら、そのハリキリを示す。

 

「シンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果、シンクロ召喚に成功した≪フォーミュラ・シンクロン≫の効果をそれぞれ発動。合計で2枚ドローします」

「まだ終わらんのじゃろう?」

「無論です。私はレベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル2シンクロチューナー、≪フォーミュラ・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚、出でよ、レベル3! シンクロチューナー、≪武力の軍奏≫!」

 

 続けて現れるは真鍮色のブリキロボの≪武力の軍奏≫。

 ガションガションとトイらしい音を奏でつつ、全身の排管楽器からも愉快なメロディが流れる。

 

「シンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果、シンクロ召喚に成功した≪武力の軍奏≫の効果をそれぞれ発動。墓地の≪フォーミュラ・シンクロン≫を効果無効で蘇生し、1枚ドロー」

「流石ヴァンガード様だ! 手札を使うどころか、手札を増やしながら展開している!」

「見たか中ボス野郎! これがヴァンガード様の力だ!」

「俺様のコンボだよコンチクショウがっ!」

「まだ途中ですよ? 続けて私はレベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル3シンクロチューナー、≪武力の軍奏≫をチューニング! シンクロ召喚、出でよ、レベル4! シンクロチューナー、≪水晶機巧-クオンダム≫!」

 

 次に姿を変えて現れるは水晶を基調とした人型ロボの≪水晶機巧-クオンダム≫。

 ドヒャアドヒャアと左右に俊敏に動くその様は、まるでブラストを煽っているかの如く。

 イラァ、と(存在しない)血管をビキビキと動かしながら、ブラストはまだ(・・)リバースカードには触らない。

 

「シンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果発動。デッキから1枚ドローします……よかった、来てくれました。墓地の≪ダークシー・レスキュー≫を対象に装備魔法≪継承の印≫を発動。墓地に同名3体が居る場合、その内1体にこのカードを装備し、蘇生させます」

「ほほぉ、≪継承の印≫までとは益々汝そっくりだのぅ」

「言ってろ。オラ、やるならさっさと展開しやがれ」

「ではお言葉に甘えて。私はレベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル4シンクロチューナー、≪クオンダム≫をチューニング! シンクロ召喚、出でよ、レベル5! シンクロチューナー、≪アクセル・シンクロン≫!」

 

 さらに姿を変えては赤いバイクが人型にトランスフォームしたような≪アクセル・シンクロン≫。

 4回連続シンクロ召喚を決め、ギャラリーのハノイの騎士は沸き立つ。

 同じくギャラリーのエンプレスは自ずとヴァンガードの次手を察しおり、最後に登場するであろうモンスターに胸を高鳴らせる。

 一方のブラストはと言えば、内心で冷や汗をかきつつも今か今かとリバースカードの発動タイミングを伺う。

 

「シンクロ素材として墓地に送られた≪ダークシー・レスキュー≫の効果で1枚ドロー。魔法カード≪悪夢再び≫を発動。墓地の守備力0・闇属性2体を手札に加えます。私は墓地の≪ダークシー・レスキュー≫2体を手札に加え、その内1体をそのまま通常召喚。そして≪アクセル・シンクロン≫の効果発動。デッキの【シンクロン】モンスターを墓地に送り、そのモンスターのレベルだけ自身のレベルを上下します。私はレベル2の≪シンクロン・エクスプローラー≫を墓地に送り、≪アクセル・シンクロン≫のレベルを3に下げます」

(チィ…! 好き勝手やりやがって…!)

 

 ヴァンガードは淡々としたプレイングで続け、それを期待と興奮で見守るギャラリーのハノイの騎士らとエンプレス。

 対してブラストは発動タイミングを誤れば大惨事になるリバースカードを構えており、気が気でない。

 

「レベル1の≪ダークシー・レスキュー≫にレベル3となったシンクロチューナー、≪アクセル・シンクロン≫をチューニング! シンクロ召喚、出でよ、レベル4! ≪アームズ・エイド≫!」

 

 5回目となるシンクロ召喚で姿を現したのは機械腕の≪アームズ・エイド≫。

 レベルの上げ下げと度重なるシンクロ召喚でヴァンガードの墓地は肥えに肥えているが、これで終わりではない。

 むしろここからが仕上げだ、と言わんばかりにヴァンガードはコンボの締めとなる2枚のカードに指を伸ばす。

 

「墓地の≪ジェット・シンクロン≫の効果発動。手札1枚を墓地へ送り復活します。≪悪夢再び≫で手札に加えた≪ダークシー・レスキュー≫を墓地へ送り、蘇生。さらに≪ジェット・シンクロン≫を対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動。デッキから2体の≪ジェット・シンクロン≫を特殊召喚します」

「おぉ…! 流石ヴァンガード様だっ! EXを含め、6体ものモンスターを並べたっ!」

(ちょっとハシャギ過ぎじゃないかなぁ…)

 

 総仕上げとなる一連の流れで、ヴァンガードの場に6体のモンスターが並ぶ。

 EXモンスターゾーンには≪アームズ・エイド≫。

 シンクロチューナーの≪フォーミュラ・シンクロン≫。

 チューナーモンスターの≪ジェット・シンクロン≫3体。

 そして自身のエースたる≪クラッキング・ドラゴン≫──計6体。

 

 フィールド一杯に並んだ機械族の姿は壮観であり、ギャラリーはさながら祭りのようにワイワイと騒ぎ始める。

 芸能人を前にした中学生か、と部下の振る舞いに頭が痛くなるヴァンガード。

 

(でも──揃った…!)

 

 しかし、それでもドローカードのお陰で全てのピースは集まった。

 ここから出せるモンスターでより盤石な布陣を築き、ブラストには一分の隙も見せない、とEXデッキに指を伸ばそうとし──

 

「く、くく、ふふふ…!」

「……何か笑えることでも?」

「あぁ、笑えるぜぇ。始めは俺様のコンボの流用に苛立ったが、おかげでこいつが最大限の効果を発揮するんだからなァ!!」

「最大限…? 何を言って──」

 

 ブラストの下種な笑みでヴァンガードの手が止まる。

 ここまで多くの召喚・特殊召喚を行ったが、妨害される気配はなかったため、リバースカードに特に警戒しなかったヴァンガード。

 だがブラストの嘲笑を受け、改めて自分の場を──そしてブラストの場と1枚も存在しない手札(・・)を見て、ハッと気づいた。

 

「まさか…!」

「今更気づいても遅ぇ! リバースカードオープン! 罠カード──≪裁きの天秤≫! こいつぁ相手の場のカードの数より、俺様の場・手札の合計が相手より少ない場合に発動でき、その差の数だけデッキからドローする!」

 

 露になったリバース罠──≪裁きの天秤≫。

 使用者のカード・アドバンテージが不利であれば不利であるほど、真価を発揮するドローカード。

 通常であれば手札に切り返し用のカードや、場に最低限の防御カードを残すためあまり爆発的なドローは見込めない。

 だが、ブラストは前のターンで≪一時休戦≫から悪運強くこの≪裁きの天秤≫を引き当て、一切のダメージも受けないという理想的状況でセット。

 ヴァンガードのコンボに悪態をついたのも、全てはこの瞬間のため。

 全てが思い通りになったブラストは下種な笑みを浮かべ、ニヤニヤと(機械マスクで存在しない)舌なめずりまでしている。

 

「ククク……さぁーて、テメェの場には一体何枚のカードがあったけなァ?」

「……モンスター6体、フィールド魔法の合計7枚…」

「7枚もォ!? そりゃあ随分と並べてくれたなァオイ! それに対して俺様の場と手札はァ──あーっ、悲しいことに≪裁きの天秤≫1枚だけなんだなァこれが!」

「白々しい、ドローするならさっさと6枚ドローすればいいでしょう」

「それじゃあ心置きなく──6枚ドロォオオオオォォ!!」

 

 流石のヴァンガードと言えど、神経を逆撫でする物言いのブラストに若干眉間にシワを寄せ、苛立った様子を隠そうともしない。

 突然の大量ドローにギャラリーのハノイの騎士らも不安を覚え、ザワザワとどよめきが走るが、自分達の上司を信じるしかないと、固唾を飲んで見守る。

 

(……ブラストめ、アレ絶対に余のメタカードで入れたじゃろ…)

 

 そのハノイの騎士らのギャラリーに混ざるエンプレスだけは、下種で上機嫌に笑うブラストを白い目で見ていた。

 普段から融合・儀式・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンクと、なまじ全ての召喚方法を扱い、さらにはそれらを先攻でも後攻でもほぼ1ターンで大量展開、さらに永続魔法・罠も多く採用しているエンプレスを相手にした場合、≪裁きの天秤≫は呆れるほど有効なカード。

 まさか身内メタカードがたまさか刺さるとは、とエンプレスは少しだけヴァンガードに同情した。

 

「ヒヒヒ、こいつぁ良いカードだぜ。次のターンが楽しみだなァオイ」

「なら次のターンになってから動けばいいでしょう。まだ私のターンです」

「おっとこいつァ失礼。どうぞどうぞ……どうせこのターンは俺様にダメージを与えられねぇんだからなァ」

「──っ、私は、レベル4の≪アームズ・エイド≫にレベル2シンクロチューナーの≪フォーミュラ・シンクロン≫とレベル1の≪ジェット・シンクロン≫3体を4重調律(カルテット・チューニング)!! シンクロ召喚! 現れよ──レベル9! ≪水晶機巧-グリオンガンド≫!!」

「「「おぉ…!!」」」

 

 ブラストの嘲笑を意識しないよう、ヴァンガードはこのターンで可能な最善手を取る。

 4体ものチューナーを介し、計5体ものモンスターを要したシンクロ召喚──それに伴い、現れる機械族最強クラスのシンクロモンスター≪水晶機巧-グリオンガンド≫。

 美しくもたくましいその巨体にハノイの騎士ら(とエンプレス)は、その存在感に思わず感嘆の声を漏らす。

 常であればその驚異的な除去能力を振るうのだが、ブラストに6枚もドローされた直後で、かつ除去対象が墓地にしか居ないとなればその威圧感は半減。

 

「≪グリオンガンド≫の効果! このカードがシンクロ召喚に成功した時、そのシンクロ素材の数まで相手の場・墓地のモンスターを対象に発動! 対象にしたモンスターを全て除外します! シンクロ素材は5体! よって私はあなたの墓地の3体の≪クラッキング・ドラゴン≫、≪ナイト・エクスプレス・ナイト≫、≪デリックレーン≫の5体を除外!」

「──っ、チッ、そこを除外してくるかよ…!」

 

 だが、それでも≪グリオンガンド≫の効果が強力であることに変わりはない。

 何らかの手段で3体の≪クラッキング・ドラゴン≫の再召喚を許せば、既に≪冥王結界波≫を使用したヴァンガードにとって対策は厳しいため、再利用が困難な除外という方法を取った。

 また、2体目の≪グスタフ・マックス≫が出る可能性もあり、そのエクシーズ素材と成り得る2体のレベル10モンスターも除外対象。

 既に墓地に居る≪グスタフ・マックス≫はエクシーズに特化させたデッキでもない限り、オーバーレイ・ユニットを補充するようなカードはないため、本体は無視するヴァンガード。

 

「……私はリバースカードを3枚セットし、ターンエンド」

 

 しかし、これ以上動く意味と手立てがないヴァンガードは残った3枚の手札を全てセットしターンを終える。

 一応はこれで攻撃力3000の大型モンスター2体、さらに弱体化と効果ダメージ、リカバリー能力を備えているので悪くない布陣だとヴァンガードは自負。

 

 ヴァンガードの場には≪クラッキング・ドラゴン≫と≪グリオンガンド≫。

 フィールド魔法の≪鋼鉄の襲撃者≫にリバースカードが3枚。

 手札は0枚と尽き、ライフポイントは半分の2000。

 

 対してブラストの場にカードは存在せず、手札はドローカードを含めれば7枚。

 ライフポイントは≪クラッキング・ドラゴン≫の効果で多少削って2600。

 

 カード、ライフ・アドバンテージ共に同程度。

 だがブラストは既に≪クラッキング・ドラゴン≫と≪デスペラード≫という機械族・闇属性の双翼とも言えるフィニッシャーが次元の彼方に消えている。

 帰還させるカードがないとは言い切れないが、それでも≪クラッキング・ドラゴン≫の効果を回避しながらの除去は難しいだろう、と、それがヴァンガードの現状評だ。

 

「俺様のターン、ドロォー! 先ず手札から罠カード≪無限泡影≫を発動ォ! こいつは俺様の場にカードがない場合、手札から発動できる! こいつでテメェの≪クラッキング・ドラゴン≫の効果は無効だ!」

「──っ、そう来ますか…!」

 

 そう思っていた矢先に片翼たる≪クラッキング・ドラゴン≫がもぎ取られる。

 完全に除去された訳ではないが、それでもこれではただの攻撃力3000の壁であり、相手の展開を好きなだけ許してしまう。

 

「さぁてガンガン行こうじゃねぇの! 手札から魔法カード≪予想GUY≫を発動! 自分場にモンスターが居ねぇ時、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚! 来なっ≪魔貨物車両 ボコイチ≫! さらに攻撃力500のこいつを対象に魔法カード≪機械複製術≫を発動! 追加でデッキから2体の≪ボコイチ≫を特殊召喚ッ!!」

「一気に畳み掛けてきましたか…!」

 

 安全に展開できるとわかるや否や、ブラストは一瞬でモンスター3体を場に揃えた。

 低ステータスのモンスターと言えど、リンク召喚黎明期の現状では如何様にも使える状況に、ヴァンガードの頬に僅かに冷や汗が流れる。

 

「飛ばしていくぜぇ! 現れろォ! 俺様の暴走サーキット! 召喚条件は機械族2体ッ! 俺様は場の≪ボコイチ≫2体をリンクマーカーにセットォ! リンク召喚ッ! 現れろ! リンク2ッ! ≪クリフォート・ゲニウス≫ゥ!!」

「──っ、≪ゲニウス≫……まさか…!」

「おんやぁ? その顔は次に俺様が何するかわかるってぇ顔だなァ! なら超特急で進めてやんよォ! 先ず≪ボコイチ≫を墓地に送り、魔法カード≪馬の骨の対価≫発動ォ! 自分場の通常モンスター1体を墓地に送って2枚ドローしーの──魔法カード≪トライワイトゾーン≫! 墓地のレベル2以下の通常モンスター3体を復活させる! オラ戻ってこい≪ボコイチ≫3体!!」

 

 ヴァンガードの危惧と同時にブラストは流れるように次々とカードをプレイ。

 リンク召喚、ドロー、再展開と、手札の枚数は4枚で変わらないまま場のモンスターが4体に増加。

 さらにヴァンガード自身も所持している≪ゲニウス≫の左右斜め下2箇所、そのリンク先に同時にモンスターが特殊召喚されたことに警戒の色を強める。

 

「≪ゲニウス≫の効果発動ォ! こいつのリンク先にモンスター2体が同時に特殊召喚された時、デッキからレベル5以上の機械族1体を手札に加える! 俺様が手札に加えるのは──≪サモン・リアクター・AI≫ッ!!」

「──っ!? ここで、≪サモン・リアクター≫…!?」

 

 警戒していたカードの中でも予想外のカード名にヴァンガードは思わず呆けたような声が漏れる。

 ≪サモン・リアクター≫自体は知っている。

 だが、この状況ならば他にも適役のカードがあったのでは、と思っている中でブラストのプレイングが続く。

 

「魔法カード≪闇の誘惑≫でデッキから2枚ドローし、≪サモン・リアクター≫を除外! そして再度現れな俺様の暴走サーキットォ! 召喚条件はモンスター2体以上! 俺様はリンク2の≪ゲニウス≫と≪ボコイチ≫をリンクマーカーにセット! リンク召喚ッ! 来い、リンク3! ≪電影の騎士ガイアセイバー≫!」

 

 サーチしたカードを即除外、場のモンスターを強力に。

 まさに独壇場とも言うべきプレイングでヴァンガードはおろか、ギャラリーの反応する間もなく進めていく。

 

「≪ボコイチ≫を墓地に送って2枚目の≪馬の骨の対価≫発動ォ! 2枚ドローしーの──手札の≪トラップ・リアクター・RR≫を捨て、装備魔法≪D・D・R≫を除外されている≪サモン・リアクター≫に装備! 除外されている≪サモン・リアクター≫を帰還ッ!! さらに手札から≪ブラック・ボンバー≫を召喚! こいつが召喚に成功した時、墓地の機械族・闇属性・レベル4を効果無効で復活させる! さぁ出てこい≪トラップ・リアクター≫!」

(あっ、ヤバいこれ)

 

 息もつかせない怒涛のプレイングについ見入ってしまったヴァンガードだったが、ここでブラストの場に並んだモンスターに警戒──いや、それ以上に危機感を覚える。

 2体の【リアクター】モンスターとチューナーを揃えたとなれば、残りの【リアクター】も自ずと出てくるだろう。

 既に召喚権は使っており、メインモンスターゾーンも4体埋まっているが、どう出すのかと、危機感と同時に期待感を抱きながらブラストの盤面を注視する。

 

「俺様の場の機械族・闇属性・レベル2の≪ボコイチ≫を墓地に送り、魔法カード≪トランスターン≫発動ォ! 自分場のコストで墓地に送ったモンスターと同種族・同属性でレベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する! さぁ来い! ≪マジック・リアクター・AID≫ッ!!」

「これで【リアクター】が3体…!!」

 

 揃った。

 揃ってしまった。

 出てくるモンスターが凶悪なあのカードであることはヴァンガードにもわかってはいたが、それでも1ターンで揃えるという芸当は中々できることではない。

 この時ばかりは当初の≪クラッキング・ドラゴン≫返却のことは頭から抜け落ち、今まさに出てくるであろうモンスターに胸を高鳴らせる。

 

「ンまだだッ! 俺様はレベル5の≪サモン・リアクター≫にレベル3の≪ブラック・ボンバー≫をチューニング! 深淵より出でし怨念よ! 鋼鉄の翼を産み落とせ! シンクロ召喚! 出でよ、レベル8! ≪ダーク・フラット・トップ≫ッ!!」

「先に≪ダーク・フラット・トップ≫なら──」

「ご明察ゥ! 俺様は≪ダーク・フラット・トップ≫の効果発動ォ! 墓地から【リアクター】1体を復活させる! 戻って来な、≪サモン・リアクター≫!!」

 

 だが期待のモンスターの前にブラストは焦らす。

 先に現れたのは空母──それも長大で巨大な。

 ≪クラッキング・ドラゴン≫に勝るとも劣らない巨躯の≪ダーク・フラット・トップ≫は、奇しくも≪クラッキング・ドラゴン≫が≪グリオンガンド≫の攻撃力3000と同じ数値の守備力を持つ。

 生半可なモンスターでは突破できない巨大空母ではあるが、ブラストの狙いがその続きであることは既にわかっているヴァンガード。

 早く続きを、と仮面で隠れた目で訴え、その心情を知ってか知らずかブラストはニヤリと口角を上げる。

 

「さぁて──それじゃあ俺様のエースを紹介してやろうじゃねぇの! ≪サモン・リアクター≫の効果発動! 俺様の場の≪サモン・リアクター≫、≪トラップ・リアクター≫、≪マジック・リアクター≫の3体を墓地に送り、手札・デッキ・墓地からこいつを特殊召喚する!!」

 

 3体の【リアクター】モンスターがリンクマーカーに転身するモンスターの如く中空に飛翔。

 しかしその身は各々の属性色の光になる訳でなく、そのままの姿で一定の高度まで上昇する。

 ピタリ、と特定の位置まで到達したかと思えば、3体が一斉に変形・分離。

 ブッピガァンっ! とロボットものお馴染みのサウンドエフェクトが重厚に響き、爆撃機だった【リアクター】達が1体の姿へ変わる。

 重苦しいプロペラ音を鳴らし、ゆっくりと降り立つその姿は爆撃機ではない。

 その姿は人型のそれ──人型の爆撃機。

 

爆風(ブラスト)を巻き起こせッ! 現れろォ!! ≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫ォ!!」

 

 その巨躯が放つ威圧感は、これまでブラストが使用してきたモンスターのどれとも異なるそれ。

 純粋な力だけでなく、その特異な空気に仮想世界と言えどヒリヒリと肌が焼けるような錯覚さえ感じさせる。

 このカード、このモンスターこそが、ブラストがブラストたる由縁である切り札。

 

 ≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫。

 

 召喚難易度が高い部類に入るこのカードを、僅か1ターンで降臨させたことにヴァンガードは仮面の下の目を大きく見開き──

 

(1ターンでGBA(ジャイアント・ボマー・エアレイド)!? まさか正規召喚を見られる日が来るなんて……すご)

 

 ──最初に驚愕を。

 次いで感動を。

 最終的には賛辞を。

 

 滅多に見られないこの光景に色々と正の感情が混ざり合い、何とも言えない表情を仮面の下で作る。

 

(ひっさしぶりに出せたぜオイ! 流石俺様! そしてやっぱカッケーな≪エアレイド≫!!)

 

 一方のブラストも1ターンで出せたことに自画自賛。

 機械マスクのせいで表情は見えないが、半ば恍惚とした表情。

 

 圧倒的な存在感を放つ≪エアレイド≫を前に、ミラーマッチの当人らの感情は喜色。

 対してギャラリーのハノイの騎士らは恐怖、エンプレスは『ドラゴンじゃない』と興味は薄い。

 

「手札1枚を墓地に送り、≪エアレイド≫の効果発動! テメェの場のカード1枚を選択し破壊する! 対象は≪グリオンガンド≫だァ!! ボム・ブラストォ!!」

「──っ、破壊された≪グリオンガンド≫の効果発動! 除外されている自分・相手モンスター1体を特殊召喚する! あなたの≪デスペラード≫を特殊召喚する!」

 

 ≪エアレイド≫はブラストの命で≪グリオンガンド≫の直上へ飛翔、本体基部下部に格納された爆弾を次々と投下。

 落とされた爆弾は真っ直ぐに≪グリオンガンド≫へ直撃、度重なる爆撃、それに伴う爆風も発生。

 ただしヴァンガードもそう簡単にやられる訳ではない。

 破壊された≪グリオンガンド≫の効果により、自ら再利用を封じさせた≪デスペラード≫を帰還。

 

(これでバトルフェイズで期待値的に1~2体の処理は可能。残った手札も1枚だけ……早々≪クラッキング・ドラゴン≫が突破されることはないと思うけど…)

 

 一応の防御手段は得た、とヴァンガードは少々の安堵と多少の不安を覚える。

 だがそれでもブラストには手札が1枚残っており、あの1枚でどう動くが不明。

 先ほどまでつい≪エアレイド≫の正規召喚に浮かれてしまったが、再度気を引き締めるヴァンガード。

 

「ク、ククク……」

「……何が面白いの?」

「あぁ面白いぜぇ──思い通りに事が進んでんだからなァ! ≪ガイアセイバー≫をリリースし、≪デスペラード≫を対象に速攻魔法≪エネミーコントローラー≫発動ォ! 対象にした≪デスペラード≫のコントロールを得るッ!!」

「なっ──!?」

 

 突然のコントロール奪取。

 防御体勢を敷けたかと思えば、状況がより悪くなったことにヴァンガードは驚愕を禁じ得ない。

 奪取された≪デスペラード≫をコントロール奪取でさらに奪い返す──元々の持ち主の下に戻っただけだが。

 

「テメェが≪グリオンガンド≫を除去されたら呼ぶ奴なんざ≪デスペラード≫に決まってるよなァ!! ありがとよ──戦闘破壊できねぇ≪クラッキング・ドラゴン≫を倒せる奴を用意してくれてよォ!!」

「くっ…!」

「そうらバトルだ! ここで≪デスペラード≫の効果発動! コイントスを3回行い、その表の数まで相手表側モンスターを破壊する──それにチェーンして≪エアレイド≫の効果で手札から墓地に送った≪銃砲撃≫を除外して効果発動ゥ! こいつで≪デスペラード≫の3回のコイントス結果は全て表だッ! 食らいやがれェ! ガン・キャノン・ショット・デスペラードォオオオオオォォ!!」

 

 2ターン目の意趣返し、と言わんばかりにブラストの≪デスペラード≫の銃口から紅蓮が放たれ、≪クラッキング・ドラゴン≫の巨躯に3つの風穴を開ける。

 ジジジ、と電子回路が異常を発しショート音。

 すると次の瞬間には、轟音を響かせながらの大爆発。

 

「3回表になった≪デスペラード≫の効果で1枚ドローし──トドメだァ!! ≪エアレイド≫ォ! 奴にダイレクトアタックをぶちかませェッ!! シューティング・ブラストォオオオオォォッ!!」

「──っ!?」

 

 そして爆風に伴う土煙の向こう側からブラストの怒号の如き攻撃命令が下され、その場で≪エアレイド≫が真上に飛翔。

 両翼に搭載されている機関砲がカラカラと回転し始め、その照準を土煙の中のヴァンガードへ。

 刹那──機関砲から無数の閃光が走り、嵐の如き砲撃が土煙へ一斉掃射。

 ズガガガガッ! とけたたましい音を轟かせながら砲弾がヴァンガードを襲う。

 

「「「ヴぁ、ヴァンガード様ぁっ!!」」

 

 今まで固唾を飲んで見守っていたハノイの騎士らが声を荒げる。

 敬愛する上司が致命の一撃を受けたのだ。

 残りライフポイント2000しかないヴァンガードに、攻撃力3000の≪エアレイド≫の直接攻撃を耐えられるハズがない。

 

 モクモクと土煙が立ち込める中、ギャラリーは恐る恐るといった風にヴァンガードの方へ視線を向ける。

 まさか、まさか、と不安ばかりが募る中──ふと、1人のハノイの騎士があることに気付く。

 

 ヴァンガードは直接攻撃を受けた。

 これに間違いはない。

 だが、デュエルの終了のブザーが鳴っていないのだ。

 それに気づくと同時に立ち込めていた土煙が晴れ、立体ウィンドウにヴァンガードの残りライフポイントが表示。

 

 ヴァンガード:LP1000

 

「何でライフが残って──いや待て。それ以前に何で手札が0枚から4枚に増えていやがるッ!?」

「攻撃宣言時、私は3枚のリバースカードを全て発動させました──≪ゴブリンのやりくり上手≫2枚、そして≪非常食≫を。これで私はライフを2000回復し、3枚ドローしてから1枚デッキ下に戻す行為を2回行いました。そのため、まだ私のライフは残っていますし、手札も補充させました」

「チィ…! 無駄な足掻きを…ッ!」

 

 トドメの一撃が決まらず、ブラストは舌打ち。

 明らかに不服そうな表情のまま、≪デスペラード≫の効果で引いたカードをデュエルディスクに叩きつける。

 

「≪デスペラード≫をリリースし、魔法カード≪アドバンスドロー≫を発動だ。デッキから2枚ドローし──≪デスペラード≫の効果でコイントス効果を持つレベル7以下のモンスター、≪ブローバック・ドラゴン≫を手札に加える。魔法カード≪ダーク・バースト≫を発動。墓地の攻撃力1500以下の闇属性1体を手札に加える──俺様が手札に加えるのは≪ブラック・ボンバー≫だ」

「そこで≪ブラック・ボンバー≫ですか…」

「察しが良いテメェなら俺様が戻した≪ブラック・ボンバー≫の意味がわかんだろ? 次のターンがファイナルターンだッ! リバースカードを1枚セットしてターンエンドォ!」

 

 折角上がったテンションがフィニッシュ失敗でダダ下がりしたブラストだが、サーチ&サルベージ&セットでターンを終える。

 その表情は浮かれたものではないが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたそれ。

 

「私のターン、ドロー」

 

 ターンを渡されたヴァンガードはドローカードを一瞥し、それをそのまま手札に加えてから状況を確認する。

 

 今、ヴァンガード自身の場にはフィールド魔法≪鋼鉄の襲撃者≫のみ。

 手札は前のターンの''やりくりターボ''とドローカードで合計5枚。

 ライフポイントは1000と心許ない。

 

 対してブラストの場には≪エアレイド≫、≪ダーク・フラット・トップ≫の爆撃機と空母の鉄板布陣。

 リバースカードは1枚のみ。

 手札は2枚あり、内1枚が≪ブローバック・ドラゴン≫であることはわかっている。

 ライフポイントは半分以上残っている2600ポイント。

 

 仮に次のターンを渡した場合、確実に≪エアレイド≫の効果の除去。

 ≪ダーク・フラット・トップ≫の効果で【リアクター】を蘇生、リリース要員からの≪ブローバック・ドラゴン≫の効果で除去と、2枚破壊が半ば確定している。

 いや、それらすらする必要もなく、回収した≪ブラック・ボンバー≫の効果で≪トラップ・リアクター≫を蘇生。

 そこからレベル7のシンクロモンスター──≪ダーク・ダイブ・ボンバー≫のシンクロ召喚を許した時点で、残りライフポイント1000のヴァンガード自身の敗北が確定してしまう。

 ふぅ、と軽く息を吐いてからヴァンガードをブラストを見据える。

 

「……確かに、直にデュエルは終わりますね」

「当然だ。俺様の場には≪エアレイド≫と、≪エアレイド≫を復活させる≪ダーク・フラット・トップ≫。そして手札にゃ≪ブラック・ボンバー≫──どう足掻こうが、次のターンでテメェの負けだッ!」

「そうですね、ですがそれは──」

 

 ブラストの煽りに一部肯定するヴァンガード。

 だが、この状況で完成された完璧な手札の1枚に指を伸ばしながら、ヴァンガードは仮面の下で微笑を浮かべる。

 

「次のあなたのターンが来ればの話でしょう?」

「あ゛ァ゛ッ!? このターンで決められんかァ!?」

「無論です。私の墓地のモンスターが機械族のみのため、手札から≪ネジマキシキガミ≫を特殊召喚」

「しゃらくせぇ! ≪エアレイド≫の効果発動! 相手ターンに1度、相手がモンスターの召喚・特殊召喚に成功した時、そいつを破壊し800ダメージを与えるッ! デモリッション・ブラストォ!!」

「むっ、やはり通してくれませんか」

 

 先攻1ターン目にブラストも出した≪ネジマキシキガミ≫。

 ブラストは展開用パーツにしか用いなかったが、相手モンスター1体の攻撃力を0にする効果を有しており、それを通す訳にはいかないと即座に≪エアレイド≫の効果を起動。

 場に出た途端、≪エアレイド≫に格納されている投下爆弾がミサイルの如く飛翔、雨あられの如く≪ネジマキシキガミ≫に直撃し爆散。

 その余波とも言える爆風でヴァンガードのライフポイントはさらに削られ──残りは200。

 

「ですがこれで≪エアレイド≫の効果は使わせました。手札を1枚捨て、除外されている≪ジャック・ワイバーン≫を対象に装備魔法≪D・D・R≫を発動。≪ジャック・ワイバーン≫に装備し、特殊召喚」

「あァん? 今更≪ジャック・ワイバーン≫を呼び出して何になる?」

「何にでもなります──手札コストで捨てた≪幻獣機オライオン≫の効果発動! このカードが墓地に送られた場合、≪幻獣機トークン≫1体を特殊召喚します!」

「チィッ…!」

 

 残り4枚の手札の内2枚を使い、ヴァンガードは場に2体のモンスターを揃える。

 瞬く間に≪ジャック・ワイバーン≫とそのコストとなるモンスターを揃えたことにブラストは舌打ち。

 そんなブラストの苛立った様子を一瞥し、ヴァンガードは自分の墓地から1体のモンスターを選ぶ。

 

「≪ジャック・ワイバーン≫の効果発動! 自身と自身以外の機械族を除外し、墓地から闇属性モンスター1体を復活! 蘇れ──」

 

 残った自分の2枚の手札。

 相手のフィールドと残りライフポイント。

 それら全て推察される、現状で最適解のモンスター──

 

「≪クラッキング・ドラゴン≫!!」

 

 ──≪クラッキング・ドラゴン≫。

 ハノイの騎士の象徴にして、ヴァンガードが最も愛用する相棒。

 漆黒の闇機械竜の双眸が≪エアレイド≫を睨み付ける。

 

「ここで≪クラッキング・ドラゴン≫だとォ…? 血迷ったのかテメェ!? そいつじゃ≪エアレイド≫と相討ちはできてもこのターンで俺様を倒すことはできねェ!」

「いいえ倒します! 手札から速攻魔法≪リミッター解除≫を発動! ≪クラッキング・ドラゴン≫の攻撃力を3000の倍──6000にします!」

「──っ、力押しかよこの野郎…っ!」

 

 ブラストの言に即答えるようにヴァンガードは残った2枚の手札の内1枚を発動。

 ≪クラッキング・ドラゴン≫が≪リミッター解除≫の効果を受け、全身のライトグリーン色に発光していた基部がシグナルレッド色へ。

 咆哮が轟くと同時に攻撃力のカウンターがバグのように上昇、一瞬にしてその数値は6000を示す。

 

「おっ、おぉおおおおおぉぉっ!!」

「流石ヴァンガード様だっ!」

「これで逆転勝利だ!!」

 

 ブラストの残りライフポイントは2600。

 ≪エアレイド≫の攻撃力は3000。

 ≪クラッキング・ドラゴン≫の攻撃力は6000。

 超過ダメージは3000となり──残りライフポイント2600のブラストでは耐えることができない。

 その事実が判明した途端、沈んでいたハノイの騎士らが一斉に歓声を上げる。

 これで我らがヴァンガード様の勝利だ、と喜色に満ちた雰囲気に。

 

「バトル! 私は──」

「おっとォ! 攻撃宣言前に罠カード≪仁王立ち≫を発動だッ!! こいつの効果で≪ダーク・フラット・トップ≫の守備力を倍の6000にするッ!!」

「なっ──アイツまだ罠を…!」

「残念だったなァモブ共ォ!! ≪仁王立ち≫は守備モンスターの守備力を倍にし、さらに墓地から除外することで攻撃対象を強制させる罠だ! こいつで≪クラッキング・ドラゴン≫の攻撃対象は≪ダーク・フラット・トップ≫になり、俺様はダメージを受けねェ!! ≪クラッキング・ドラゴン≫に拘り過ぎたテメェらの上司の負けだッ!!」

「そ、そんな…」

 

 しかしその喜びムードが一転、絶望のそれへ。

 折角ヴァンガードがほぼ全ての手札を使い、逆転の一手を決めたというのに最後の最後でこれはあんまりだ。

 半ば通夜のような空気になり、誰も彼もが暗い表情をしている中──

 

「終わったな…」

 

 ──ポツリ、と呟くようにエンプレスが発する。

 彼女の周囲に居たハノイの騎士らはエンプレスの呟きは耳に入ってこず、ヴァンガードが負けてしまうことにひしがれていた。

 そんなハノイの騎士らに言うようにか、はたまた両者の行く末を察してか、エンプレスは続けて口を開く。

 

「……ブラストの負けじゃ」

 

 

 

 

 

「──私はライフポイントを200の半分、100ポイント支払い、手札からカウンター罠≪レッド・リブート≫を発動! 相手の罠の発動を無効にし、セットする!」

「んなァッ!?」

 

 ヴァンガードの最後の手札≪レッド・リブート≫が発動され、ブラストの目が大きく見開いた。

 

 ≪レッド・リブート≫。

 通常のカウンター罠としてはもちろん、ライフポイント半分という莫大なコストを要するが、手札からも発動できるカウンター罠。

 ≪トラップ・ジャマー≫や≪神の宣告≫といった、発動や効果を無効にするカウンター罠であればブラストの勝利であった。

 だが、≪レッド・リブート≫の再びセット(・・・・・)するという効果により、再発動はおろか墓地から除外して攻撃対象を強制させる効果も使えない。

 

 ブラストの残りの手札2枚も≪ブローバック・ドラゴン≫と≪ブラック・ボンバー≫の2体であり、攻撃から守る手札誘発のモンスターは皆無。

 墓地に≪超電磁タートル≫や≪SR三つ目のダイス≫といった攻撃を防ぐモンスターも存在しない。

 

 故に──ブラストの敗北。

 つまり、ヴァンガードの勝利が確定したのだ。

 

「行って≪クラッキング・ドラゴン≫!! ≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫に攻撃!! トラフィック・オーバー・ブラストぉっ!!」

「ぐッ──うぉおおおおおおぉぉっ!!」

 

 ≪クラッキング・ドラゴン≫はその大口を広げ、口内に赤い粒子をチャージ。

 その間に照準を人型戦闘機──≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫に定め、ターゲッティング完了。

 両の眼が一瞬だけ強い輝き、次の瞬間には赤い光線を照射。

 鮮やかな赤色のレーザービームは真っ直ぐに≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫に向かい、貫く。

 胸部から腹部にかけて照射され続けた光は≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫を完全に破壊。

 内部回路やジェネレーター、各種配線がショートと小さな爆発を幾度も繰り返す。

 

 そして──大爆発。

 ドォンッ!! という鼓膜が破れんばかりの爆発が起こり、その場に居た全員が身構える。

 だが、運悪く──≪ジャイアント・ボマー・エアレイド≫の持ち主であるブラストは、その爆発を近距離で受け、その爆風も全身で受けてしまう。

 仮想空間と言えどその衝撃は凄まじく、ブラストは声を荒げながら後方へ地面と水平に飛ばされる。

 途中、電柱やらポール、オブジェクトを巻き込みながらゴロゴロと転がり、爆風が収まった頃には全身ズタボロのボロ雑巾のような姿に。

 

 ブラストのそんな姿をこの場に居る全員が視認すると同時にデュエル終了を告げるブザー。

 立体ウィンドウにはヴァンガードの勝利を示す''WIN''の文字が大きく表示されていた──

 

 

 

 

 

「ほれ、もう奪われるでないぞ」

「あっ、はいどうも」

「上司が強いんじゃから、もっと鍛えてもらうがいい」

「わかりました」

「ん? 汝どこかで見たような…」

「キノセイデスヨ」

 

 デュエルが終わり全身ボドボドの半スクラップと化し、うつ伏せに倒れているブラスト。

 その横で仕方なくエンプレスはブラストのカード・ストレージから、今までアンティで奪った≪クラッキング・ドラゴン≫のデータを1枚1枚手渡しのように気絶しているブラストの代わりにハノイの騎士らに配布していた。

 さらにその横ではヴァンガードが若干疲れた表情でお渡し会を見守る。

 

「いやー、それにしても見応えのあるデュエルじゃったのう。ハノイの騎士の上司なだけあって強いのう汝」

「ありがとうございます……というか良いんですか? 本人が気絶しているのに、勝手にカード渡して…」

「構わん構わん。この阿呆は元からハノイの騎士の代表から既に3枚もらっておるしのう」

「リボルバー様から3枚もらっているのであればデュエルに支障はないから良いかもしれませんが…」

「それにこれが目的じゃから良いじゃろ。後で何か文句言ってきても余が潰すので問題ない」

「はぁ…」

 

 それで良いんだろうか……良いのかな……良いのかも、とヴァンガードが不安に思う中でエンプレスはあっけらかん。

 まぁ相方っぽい人が言うなら大丈夫だろうとヴァンガードは考えることをやめた。

 

「あと余も汝とデュエルしたいのじゃが」

「唐突ですね……今日はお断りします」

「この返却が終わったらで良いかの?」

「やだこの人、私の話を聞いてない…」

「まぁあと10分もすれば返却が終わるから、その後に──待て。無言でログアウトするでないっ! こらっ!! 待てぃ! 待たれよぉ!!」

 

 とある知識(・・・・・)があるヴァンガードにとって、ドラゴン使いは偏屈が多いというイメージがあった。

 それはリンクヴレインズにおけるこのドラゴン使いの少女も例外ではなかったようで、そそくさと逃げるように(無言の)ログアウト。

 どこからか『イメージに縛られるな!』というイケボが聞こえてきたような気がしないでもなかったが、流石に奇人・変人相手の2連戦は勘弁したい。

 時間外労働になるから帰ります、とヴァンガードは今日のバイトを終えるのであった。

 

 




ミラーマッチ(もどき)楽しかった!
使用していないカードを使わせてしまった気がしますが、機械族ですし純正≪クラッキング・ドラゴン≫の空き枠ガバガバだからこれぐらい盛っても許される……ハズ!!

あとバイトハノイは本作と違って話がしっかりしてて面白いからみんな読もう!
ヴァンガード様が良い感じに愉快で楽しく面白いし、ヒャッハノイも個性的だし、良いイメージを培えることができるし、昨今の遊戯王作品のイメージに縛られない作品だ!


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