天使の隣に・・・ (海乃枕)
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プロローグ
プロローグ


初投稿です。
初投稿ってことにしといてください

ちなみに本作のエンジェルの性格とか過去話とかはすべて作者の妄想に端を発した捏造です。

2018/1/13 あとがき追記


 唐突だが、俺天野(あまの) (かける)には幼馴染の女の子が三人いる。

 

 

 一人は直情的。よく言えば自分の気持ちに素直。かと思えばひねくれたところもあるめんどくさい奴

 

 一人は冷静でクール。誰よりもほかの二人を大切に思っている分、自分の意見を強く言い出せないときもあるめんどくさい奴

 

 一人は小悪魔的。ほかの二人よりも自分のアピールポイントを理解していて男を勘違いさせていくめんどくさい奴。

 

めんどくさい三人だが、俺にとってかけがえのない大切な存在だ。

 

 

 そんな三人の幼馴染は、アイドルユニットを組んでいる。

 

その名前は

 

 

  『魔王エンジェル』

 

 

これはそんな三人に振り回されながらも、楽しく過ごす日常風景だ。

 

 

 

 

 

 

 

「しょーくーん!何してるのー!早くしないと置いてっちゃうぞー!いひひっ」

 

 窓の外から幼馴染の一人朝比奈(あさひな)りんが俺のことを呼ぶ声がした。

こんなことを書いている場合ではない。今日は三人と初詣に行くのだ。

 

「はぁっ!?すぐ行くから待ってくれよ!」

 

「早くしないとホントに置いてくわよ!」

 

「じゃあ麗華(れいか)は一人で行くんだね。先行ってていいよ。私とりんは翔を待つから」

 

「なんでそうなるのよ!ともみぃ!私をしれっとハブらないでくれる!?りんだって置いてくって言ったじゃないのよ!?」

 

「やだなぁ、アタシがしょーくん置いてくわけないじゃん」

 

「りん!?裏切ったのね!?」

 

「アタシはいつだってしょーくんの味方だもーん」

 

「私は今回はりんの味方かな」

 

「あんた達はぁ!いつになったらっ!私のっ!味方になるのよっ!」

 

「アタシたちが麗華の味方じゃないときがあったっけ?」

 

「味方じゃなかったら一緒にアイドルなんてやってない」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

 相変わらず仲がよろしいことで・・・

いつもの如くじゃれあってる間に支度を済ませて玄関で待ってる三人のとこに急ぐことにしよう。

 

「すまん待たせた。じゃあ行こうか」

 

「その前にアンタは言うことがあるんじゃないの?」

 

「ん?あぁ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます」

 

「おめでとー!こちらこそよろしくねっ!しょーくん!」

 

「ご丁寧にどうも。今年もよろしく、翔」

 

「こちらこそ・・・ってそうじゃないでしょ!仮にも女子を寒い外に待たせたんだから「三人とも晴れ着とは気合入ってるな。よく似合ってるぞ」話を遮るなぁ!」

 

 麗華が赤、ともみが青、りんがピンクのそれぞれのイメージカラーに合った振袖を着て来ていた。

うん、新年早々いいものを見せてもらった。

 

「わぁい!新年早々しょーくんに褒められちゃった・・・いひひっ」

 

「ありがとう翔。早起きして着付けをした甲斐があったね、りん」

 

「あ、ありがとう・・・って違う!待ち合わせに遅れたら言うべきことがあるでしょ!」

 

「遅れたらって今が待ち合わせ時刻ちょうどだと思うんだけど・・・」

 

「~~~っ!」

 

「痛い痛い!無言で殴ってくるな!みぞおちはやめろ!アイドルがしていいものじゃない!遅れて悪かったって!あったかい飲み物あとで奢るから許して!」

 

「ストレートの紅茶で手を打ってあげるわ」

 

「アタシミルクティー!」

 

「じゃあ私はコーヒー。微糖で」

 

「これから神社行くのにお前ら甘酒とかじゃないのか・・・まぁいいけどさぁ」

 

「何よ文句ある?」

 

「いいえ、滅相もございません麗華様」

 

「アンタまでそういうのはやめろっていつも言ってるでしょ・・・」

 

「あっすまん」

 

 麗華は大財閥東豪寺(とうごうじ)財閥のご令嬢なのだが、俺たちと対等でありたいと思っているらしく俺たちにお嬢様扱いされるのをひどく嫌う節があるのを失念していた。

 

「罰として手を繋ぎなさいよ」

 

「はい?」

 

「はぐれたら大変でしょ!いいからポケットから手を出しなさいよ!」

 

「いやはぐれたらってまだ神社についてないし、人いないけど・・・」

 

「あっ麗華ずるい!アタシもぉ!」

 

 そう言ってりんが右腕に抱き付いてきた。いつものことながら腕に当たる柔らかい感触を思春期男子ゆえにどうしても意識してしまう

 

いつから俺の右隣がりんの定位置になっただろうか。と過去に思いを馳せていると

 

「早く左手出しなさいよ!」

 

 麗華がご立腹だ。まぁ両手の自由の代償に麗華の機嫌が直るなら安いものだと思うことにしよう

 

「ほれ、ご所望の左手だ。行こうぜ」

 

最初からすんなり出しなさいよ・・・バカ

 

「悪かったよ、早く行こうぜ。この後麗華の家で新年会やるんだろ?遅くなっちまうぞ?」

 

「アンタ・・・!聞こえてっ!~~~っ!ほら早くしなさいよ置いてくわよ!」

 

「麗華、早く歩いたら転ぶかもしれないし翔の腕がちぎれるかも」

 

「あの・・・ともみさん?何を心配なさっているんですか・・・?」

 

「そうだよ麗華!のんびり行ったって神社は逃げないんだからぁ」

 

「あんた達はぁ!・・・はぁ、怒っても仕方ないか、行くわよ初詣!」

 

 そう言った麗華たちの笑顔はいつものように人を魅了してきた昔から変わらない俺の大好きな笑顔だった。

何度、この彼女たちのまぶしい笑顔に救われただろうか。

 

願わくばこの毎日がずっと続きますように・・・なんて柄じゃないだろうか

 

「何突っ立ってんのよ翔!早く行くわよ!」

 

「アタシは別にこのままでもいいけどね。いひひっ」

 

「寒いから風邪ひいちゃうよ。ほら早く」

 

「すまん、ちょっと考え事してた。行こうか!」

 

 

 そう、これが俺たちのいつもの風景。幼馴染三人娘に振り回されながらも退屈しない、楽しい俺たちの日常だ

 

 




「てか、仮にもアイドルが男と一緒に歩いてていいのかよ。変装もしてないけど」

「まだ駆け出しも駆け出しの私たちに誰も気づかないわよ。人ごみの中だし」

「ん・・・?まぁ、お前らがそれでいいならいいのか・・・?」

「そういうことにしときなさい」

「アッハイ」





続くかは未定。続きを書いてほしいって声があれば書くかも。



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第1話~いかにして彼は彼女たちに救われたか~

こんな小説をお気に入り登録してくれた方がいたので続きます

感想を投稿してくれてもいいのよ・・・?(小声)


 麗華の家で行われた新年会からの帰り道を一人で歩いていると、ふとアイツらとの出会った頃を思い出していた

 

 ちなみにともみとりんの二人は夜も遅いために麗華の家に泊まるらしい。俺もどうかと言われたが、さすがに女三人と男一人はまずいだろと言って家を出た。決して麗華のお父上の眼力に屈したわけではない。決して

 

話が逸れてしまった。彼女たちとの出会った頃の話に戻すとしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 実を言うと俺に両親と呼べる存在はもうこの世に存在していない。今は母方の伯父夫婦の家にお世話になっている。

 

 というのも俺の母親は体が弱く、俺の小学校の入学式の日に病気でこの世を去った。

早すぎた母親の死というものは俺の心に深い影を落とした。

 

 それまで家事をしてくれていた母親の代わりに俺はできうる限りの家事をしていた。学校が終わったらすぐに家に帰って家事をしていた。

 そんなだから友人なんてものはほとんどなく、近所に住んでいた天ケ瀬(あまがせ)冬馬(とうま)くらいなもんだった。

天ケ瀬の家には随分とお世話になった。料理から洗濯、掃除のやり方まで俺の家事スキルの基礎はすべて天ケ瀬のお母さんから教わったものと言っても過言じゃない。

 

 母親がいない生活もさみしいものではあったが、周りに優しい人は多かったし何より父親と助け合って生活していくことが、必要とされているんだという実感もありなんだかんだ楽しいものだった。

 しかしそんな生活も終わりを告げる日が来る

 

 

父親が交通事故であっさり逝ってしまった。小学五年の年だった。

 

 

 幸いにも両親が亡くなった後も親戚の仲は良好で、子宝に恵まれなかった伯父夫婦が俺を養子としてもらってくれたため、今の天野姓を名乗っている。

 

 何も弊害がなかったかといえばそんなこともなく、さすがに両親と住んでいた家にそのままというわけにはいかず、引っ越しと転校を余儀なくされた。

 

 それ以降冬馬には会えていないが、元気にしているだろうか。まぁぶっきらぼうでも根はやさしいアイツの事だから心配はいらないと思うが。

 

 生活に困ることはなかった。しかし自分で言うのもどうかと思うが、両親の死による心の傷は非常に深かった。

 元々少なかった友人はいなくなり、新しい小学校なんてものにも行く気はさらさらなかったが、天涯孤独の身になった俺を迎えてくれた伯父夫婦に必要以上に迷惑をかけたくなかったこともあり重い体を引きずりながら行った教室で出会ったんだ。俺の人生をいとも簡単に、ガラッと変えやがったあの三人に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転校初日、新しい教室で指定された窓際の席に座って外を眺めながら休み時間を過ごしていた時だった

 

「そんな怖い顔してて楽しいの?」

 

りんが急にそんな言葉を掛けてきた。それに対し当時の俺は

 

「余計なお世話だ」

 

とか言って突っぱねた。そんな風に冷たくあしらったというのにしつこく話しかけて

 

「笑った方が楽しいよ?ほら笑う顔には福来るっていうじゃん?」

 

「それ初めて聞いたことわざだな」

 

テキトーに返していたらともみまで会話に入ってきた。

 

「顔じゃなくて門だよりん」

 

「え~?顔の方がわかりやすいじゃん!」

 

「わかりやすいとかそういうことじゃないよ。テストとかの問題で出たとき間違えちゃうよ?」

 

「ま、まぁ笑った方が楽しいし幸せになれるんだよ!ほら笑って笑って!」

 

「笑ってる方が良いっていうのは間違ってないし私も同意見かな」

 

「というか誰だよお前ら。なんで初対面の相手にそんなに馴れ馴れしいんだよ」

 

「名前教えたら笑ってくれる?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

「あっでも人に名前を訊くときは、自分からってよく言うよね!」

 

「めんどくせぇ・・・じゃあ誰でもいいからとっとと自分の席に戻ってくれよ」

 

「じゃ、戻ろっかともみ」

 

「そうだね」

 

そう言ってりんは自分の席に戻り、ともみはそれについていった。

 

「・・・なんで俺の前の席にいるんだよ」

 

「アタシの席ここだもん。気づいてなかったんだぁ?いひひっ」

 

 俺は不思議で仕方なかった。どうして冷たく当たったというのにこいつらは俺に怒りや不満ではなく笑顔を向けてくるのか

 

 その答えが知りたくて、ついつい訊いてしまった。

 

「なぁ、なんで俺なんかにそんな笑顔で話ができるんだよ。普通話しかけられたのに冷たくされたら怒るとかするだろ」

 

「なになにぃ?そんなに気になるのぉ?」

 

「質問に答えろよ」

 

「さっきも言ったけどさ、笑ってる方が絶対楽しいもん!アタシはみんなに笑ってほしい!それが理由じゃダメ?」

 

 好奇心猫を殺すという。なるほど確かに両親の死から生まれた笑うことのない俺は、こいつの、りんのまぶしすぎる笑顔に殺されてしまったらしい

 

「はぁぁぁ、お前ら、すごいわ。天野翔。飛翔のしょうでかけるだ。好きに呼んでくれ。お前は?」

 

「ん~じゃあしょーくんって呼ぶね!」

 

「結局お前の名前はなんて言うんだよ・・・」

 

「あっ、アタシは朝比奈りんだよ!ひらがなでりん!りんでいいよ!こっちは「三条ともみ。私もひらがなでともみ。ともみでいいよ。よろしく」話遮らないでよぉ~ともみぃ!」

 

「りんに紹介されたら何言われるかわからないからね。仕方がないよ」

 

「むぅぅぅぅぅ!」

 

「くくっ、あははっ、お前らといると退屈しなさそうだわ、こちらこそ、これからよろしくな」

 

「あっやっと笑ってくれたぁ!」

 

「なんだよ、人が笑うのがそんなにおかしいのかよ?」

 

「ぜぇ~ぜん!笑ってる方がやっぱいいよ!うん!ねっ、ともみ!」

 

「うん、笑ってる方がずっといい」

 

「アンタら私を抜きに何盛り上がってるのよぉ」

 

「あっ、麗華!今日転校してきたしょーくんがね、やっと笑ったんだよ!あっ紹介するね、隣のクラスの「東豪寺麗華よ。まぁよろしく」なんで遮るのさぁ!」

 

「アンタに紹介させたら何言われるかわかったもんじゃないもの。仕方ないわね」

 

「天野翔だ。よろしく東豪寺。・・・ん?東豪寺ってあの大財閥の東豪寺か?」

 

「・・・えぇ、そうよ」

 

「ほぉ、じゃあお前は大財閥のお嬢様ってわけだ。こいつは失礼いたしましたお嬢様?」

 

「なんで同じ学校のやつにそんな扱いされなきゃなんないのよ。やめてもらえる?」

 

「ん?こいつはすまん。じゃあ俺はなんて呼べばいい?」

 

「東豪寺でも麗華でも好きに呼べばいいわよ」

 

「ん。そうかよろしく、麗華」

 

「えぇ、こちらこそよろしく、翔」

 

 

  

 気が付けば一人だった俺の周りには麗華、ともみ、りんの三人を架け橋にいろんな奴が集まってきていた。

 

こうしてアイツらは絶望のどん底にいた俺をいともたやすく救いあげてみせた訳だ。

 

 だから俺はそんなアイツらの笑顔が何よりも好きだし、アイツらの笑顔を曇らせる存在が許せないし、笑顔でいてくれるならなんだってやってみせる。

 

 絶対アイツらには恥ずかしくて口が裂けても言えないようなことを思いながら、玄関をくぐった。




話をどう閉めていいかがいまいちしっくりこないんだよなぁ・・・

感想を投稿してくれると作者が喜びます。喜ぶと続きを書くスピードが早くなります。


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中学生編
第2話~彼の周りはどのように変わったか~


感想もらったしお気に入り登録してくれた方増えてたから続きです。

今回から中学生編です。

あっ、言い忘れてたけどプロローグの時は高1の冬です。


麗華、ともみ、りんの三人と出会って、二度目の春が訪れ中学の入学式の日が来ていた。

 

桜が舞う中、俺が学校に向かって歩いていると見覚えのある顔が俺に話しかけてきた。

 

 

「よっ翔。中学でもよろしくな!」

 

「おはよう天野。まぁまさか初日から遅刻なんてことはないな。お前の事は心配していなかったが、叶瀬もよく起きれたものだ」

 

「おい、浅見ぃ、お前俺を何だと思ってんだぁ?」

 

「不良予備軍」

 

「んだとぉ!?俺のどこがだよ!」

 

「そのすぐ怒りっぽいところや普段の言動だ。少しは顧みたらどうだ」

 

「ほとんど言いがかりじゃねぇか!翔ぅ!お前は俺の事わかってくれてるよなぁ?」

 

「まぁまぁ真一、そう怒るなって。人はいつでも更生できるから・・・」

 

「翔までそんなかよぉ!?」

 

「冗談だって、そんなにムキになるなよ彰。俺はお前の事いいやつだって知ってるから。まぁ真一はどう思ってるかわからんけど」

 

 

彼女たちに心をほぐしてもらった俺は彼女たちの他にも、かつての冬馬と同じくらい仲がいい男友達ができていた。

 

名を浅見(あざみ) 真一(しんいち)叶瀬(かなせ) (あきら)という。

 

真一は典型的な委員長タイプで転校してきて右も左もわからなかった俺に親切にしてくれたことがきっかけで仲良くなった。

 

一方彰はというと、わかりやすく言うとチャラい感じの男だが根はいいやつだ。

 

コイツとはなかなかに数奇な巡り合わせをしている。

 

実は彰も転校してきた口で俺より早く転校してきたのだが、なんと俺が転校する前同じ学校に通っていたのだ。

 

そんな彼とは当時の冬馬ほどではないが仲良くしていたこともあり、すぐに打ち解けることができた。

 

ちなみに真一は彰のチャラチャラした言動が気に食わないのかことあるごとに突っかかっていく。

 

そして俺がそれをなだめるのが日常になっていた。

 

そんなバカ話をしていると中学校が目の前に見えてきていた。

 

「なぁ、先にクラス分け見るのかそれとも体育館とか行くのかどっちだ?」

 

「なんだ叶瀬。そんなことも確認していなかったのか?」

 

「おい、浅見。今の俺じゃねぇぞ。翔だぞ」

 

「何っ、天野、まさかお前まで叶瀬のような不良予備軍に・・・嘆かわしい、やはり友人は選ぶべきだな。今からでも遅くはない。今すぐに「説教ならあとで聞いてやるから俺の質問に答えてくれよ」む?そうか、先にクラス分けを確認し教室で待機だと事前資料には書いてあったぞ。これからはちゃんと配られた資料には目を通すべきだ。今回は俺が隣にいたからいいもののだな・・・」

 

「彰ぁ、俺たちのクラス確認してくれたかぁ?」

 

「おう、全員同じクラス、3組だったぜ。教室は2階にあるらしい」

 

どうやら俺たち男三人衆は同じクラスになれたらしい。仲のいい奴がいるなら一安心だ

 

「しょーくん!おっはよぉ~!何組だったぁ?」

 

「おはようりん、彰の言ってることを信じるなら俺たち三人は3組だ」

 

「ありゃりゃ、アタシたちはクラス別れちゃったんだよねぇ」

 

「あらま。誰がどのクラスになったのさ?」

 

「アタシは1組、2組がともみ、3組は麗華だね」

 

「おい、天野聞いているのか!」

 

「ん?あぁ聞いてる聞いてる、麗華が一緒のクラスでにぎやかになりそうだなって話だろ?」

 

「む?東豪寺が同じクラスか、頭が痛いな・・・」

 

「あら?私が同じクラスじゃご不満かしら?」

 

「当たり前だ。貴様はわが道を突き進みすぎなのだ。少しは周りと合わせることをだな・・・」

 

まぁ確かにそうかもしれない

 

「翔?アンタどう思ってんのよ?浅見と同じように思ってるわけ?」

 

「ん?いや、まぁ、もうちょい素直になるべきというか、もう少し普段から発言をオブラートに包んだ方が良い気はするんだけども・・・」

 

「へぇ?アンタそんな風に思ってたわけだ?」

 

「当然だろ。いつもフォローしてる俺とかともみの身にもなってみろよ」

 

「はぁ!?別にフォローしてくれなんて誰も頼んでないわよ!別にそれで私が困ったってアンタが困るわけじゃないでしょ!?」

 

「んだとぉ!?せっかく人が好意で助けてやってるってのによ!」

 

「あわわわ、しょーくんも麗華も落ち着いてぇ、入学式の日からケンカなんかしたって何もいいことないよぉ・・・」

 

「おいおい、お前ら急にかっかし過ぎだって。急にどうしたんだよ・・・」

 

「今まで我慢してきたがもうダメだ!これからは一切フォローしてやんねぇからな!」

 

「いいわよ別に!これからは私のフォローしなくて済むわよ良かったわね!」

 

「あぁこっちも清々するよ!二度と助けてやんねぇからな!」

 

 

俺と麗華はそれ以来口を利かなくなってから1ヶ月が立ち、気が付けばゴールデンウィーク間近になっていた

 

りんとともみ、彰は仲直りするように言ってきたがお互いに後に引けなくなっていたのもあり、ギクシャクしたまま連休に入るのかと思っていたのだがそんな時、家に黒塗りの高級車が訪ねてきた

 

かと思えば中からメイド服着たお姉さんが降りてきて

 

「あなたが天野翔さんですね?」

 

「そうですけど、あなたは?」

 

「あぁ、自己紹介が遅れました。わたくし東豪寺家でメイドをやらせていただいております星華(せいか)と申します」

 

「はぁ。で、東豪寺家のメイドさんが俺に何の用です?」

 

「ゴールデンウィークの間、東豪寺家でお手伝いをしていただきたいのです。平たく言えば執事のアルバイトをいたしませんか?」

 

 

・・・は?




初の2話構成になりました

2話構成になるはず・・・

感想くれたら次回の投稿は今回より早くなるはずです()


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第3話~彼は彼女の痛みに気付けるか~

前回から随分間が空いちゃったなぁ・・・

あっそうだ(唐突)中学生がアルバイトできるのかとか何の変哲もないそんじょそこらの中学生を執事にするのかとかいう疑問は捨てるんだ

あくまで創作の世界だからね。オーケー?


「んーと、星華さんでしたっけ。話が見えてこないんですけど・・・」

 

「何も難しいことはありません。麗華お嬢様の身の回りのお手伝いをしていただきたいのです」

 

「なんでまた急に。普段からそういうことしてる人はいるんでしょう?」

 

「えぇ、普段お嬢様の身の回りのお世話はわたくしともう一人、(あずま)がいたしております」

 

「だったら俺がする必要は「ところがその東が急病を患い連休中は休むとのことでして」はぁ・・・?」

 

 

俺は唐突な話に戸惑いを隠せなかった。当然のことながら俺に執事なんてした経験なんぞないし、むしろ俺とアイツは今ケンカ中だ。気まずいだけだろうに

 

 

「詳しいお話は翔さんの保護者の方も交えてと存じますがよろしいでしょうか」

 

「はぁ、ちょっと待ってもらっていいですかね、なんせ急な話なんで」

 

「えぇ、構いません。むしろこちらが急に押しかけたのです。いくらでもお待ちしますよ」

 

 

俺は鞄を部屋に置くと、おばさんに事のあらましを説明して星華さんを居間にあげた。

 

おばさんは手早くお茶を入れると

 

 

「すいませんね、大したおもてなしもできなくて」

 

「いえ、こちらこそ急に押しかけてしまい申し訳ありません。さっそく本題の方に入ってよろしいでしょうか?」

 

「えぇ、詳しく聞かせてくださいな。どうしてうちの子を雇おうと思ったのかとかね」

 

 

詳しく話を聞いていくと、

 

まず、どうしても男手が必要な場面が出てくるということ。

 

次に、仮にも身の回りの世話をするのだから少しでも交友関係のある人間が好ましいということ。

 

調査の結果、麗華と現状一番仲のいい男子は俺、天野翔であるということ。

 

さらに言えば俺は一通りの家事が一流とまで言わなくともこなすことができるということ。

 

これらが俺に白羽の矢が立った理由らしい。

 

確かにもっともな理由ではあるが彼らは大事なことをひとつ見落としている

 

 

「あのぉ、ひとついいですか?」

 

「ん?あぁ、申し訳ありません。わたくしとしたことが賃金についてのお話を忘れていました」

 

 

そういうとどこからともなく電卓を取り出し叩くと俺たちに見せてきた

 

 

「連休をすべて仕事に費やしていただくことになりますが、突然ということもありますのでこれだけお支払して良いと旦那様、つまりは麗華お嬢様のお父上に当たる方から仰せつかっております」

 

「うわ、さすが東豪寺・・・」

 

「あらぁ、こんなにいただけるの?いいじゃないのよ。私は止めないわよ、いい経験になるんじゃないかしら」

 

「えぇ、普通では経験できないようなことも経験できると思います。ただ泊まり込みの仕事になるということも念頭に入れていただけると。あぁ、もちろん食住はこちらで保証します」

 

「いや、あの、そうじゃなくてですね、俺は麗華、さんと今ケンカしてっきりまともに口きいてないんすよね」

 

「えぇ、存じております」

 

「それでもいいんですか?」

 

「実を言いますとこちらでも数名ほど候補を絞りまして最終的にはお嬢様に選んでいただきました。その点に関しては問題ないかと」

 

「っ、そう、ですか・・・」

 

 

そう言うと俺はしばらく考え始めた

 

正直悪くない条件だ。普段からやってるようなことの延長線だし聞いた分にはさほど苦ではなさそうだ

 

ケンカしたとはいえ、それなりに気心知れた相手だ。顔も名前も知らない相手よりは遙かにいい

 

特に連休中に予定があったわけでもない。引き受けてみてもいいかもしれない

 

そして何より麗華が自分の事を選んでくれたのがちょっぴり嬉しくて、どこか誇らしいような気がした

 

 

「わかりました。こちらこそお願いします」

 

「引き受けてくださいますか?ありがとうございます。それではお屋敷に来ていただき、連休の間は泊まり込みになりますがよろしいでしょうか?」

 

「はい、わかりました。持っていかなきゃならないものってのは「連休中の替えの下着、可能であれば無地の白、黒の靴下。なければこちらで貸出しますのでおっしゃってください。あと寝る時の服ですね」あぁ、はい分かりました」

 

「昼間といいますか職務中はこちらで執事服を貸し出すのでそちらを着ていただくことになりますので、そのくらいの荷物で構いません。ほかにご質問は?」

 

「んー、あぁ、当日は何時ごろ行けばいいんですかね?」

 

「朝の8時ごろに来ていただければ問題ないかと」

 

「朝8時に家の前に行けばいいんですね?」

 

「はいそれでかまいません。到着次第インターホンを押していただければ。ほかにご質問等なければこれで失礼させていただきますが」

 

 

こちら側が納得したとみたのか星華さんは荷物をまとめて家を出ていった

 

そしてあっという間に初仕事の日がやってきた

 

 

「やっぱアイツの家でけぇよなぁ・・・今日からここで働くとか実感わかねぇよこんなの・・・」

 

 

そう呟いてから深呼吸を1回、インターホンに指を伸ばした時、門の陰からメガネのおじさんが出てきた。

 

まさにダンディとはこのことを言うのかという風貌のおじさんだった

 

 

「おはよう。きっちり5分前、感心だね」

 

「あっ、おはようございます。天野翔です。今日から数日間よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく頼むよ。私はこの屋敷の執事長を務めている新田だ。早速だがこれから執事服に着替えてもらって、麗華お嬢様の方へご挨拶に伺う。こっちだ、ついてきてもらおうか」

 

 

新田さんはそういうと俺を屋敷の使用人の控室に案内してくれた

 

 

「あら、翔さん。おはようございます。今日からよろしくお願いしますね」

 

「あぁ、星華さん。おはようございます。今日からよろしくお願いします」

 

「では星華くん、彼の事を頼んでもいいかな?着替えた後に彼と一緒にお嬢様のもとに朝のご挨拶に伺ってくれ」

 

「はい、お任せください。では翔さん、こちらの執事服をお使いになってください」

 

 

言われるままに執事服に着替えた俺は星華さんと麗華の部屋に向かってる間に必要最低限の事を叩き込まれていた

 

 

「忘れてはいけないのは私たちは使用人であるということです。普段は同級生であってもこの家でその執事服を着てる限りは使用人ですからお嬢様にも敬語を使うようにしてください。また、私たち使用人にとって主の命は絶対です。時には諭すのも使用人の務めではありますが基本的には従ってもらいます。ふむ、とりあえずはこんなところでしょうか、ちょうどお嬢様のお部屋の前に到着しましたしね。翔さんはここで少しの間待っててください」

 

 

そう言いながら星華さんはノックしてドアを開けると部屋に入った

 

 

「お嬢様、おはようございます」

 

「んぅ~?せいかぁ?きょうくらいはもうすこしねかせて・・・せっかくのやすみなんだからぁ」

 

「もう9時になりますよ。休みの日とはいえあまり生活リズムを崩されてはいけません。それに今朝は連休中に東の代わりを務めてもらう方のご挨拶もございますから手早くご支度をお願いいたします」

 

「はいはい、わかったわよ。洗面器とタオルは?」

 

「はいこちらに」

 

「ありがと。着替えは自分でするから下がっていいわよ。終わったら呼ぶから代理と一緒に入ってきなさい」

 

「かしこまりました。失礼させていただきます」

 

 

それから数分後麗華の支度が終わったのか星華さんを呼ぶ声がしたので一緒に部屋に入り、

 

 

「おはようございますお嬢様この連休の間東様の代わりを務めさせていただきます天野です。よろしくお願いします」

 

「なんで、なんで、アンタがここに、しかもそんな恰好でいるのよ・・・っ!」

 

 

えっ?

 




ずいぶんと時間がかかってしまった・・・

シーンというか情景というかは頭にあるのに言語化するのってわかってたけど難しいなぁ・・・

ちなみに感想とかこうしたらいいんじゃないかみたいな意見等もらえると作者のモチベーションが上がる可能性が高いと思われます

返信はできてないけどちゃんと頂いた感想は目を通してます
ありがとうございます

次回もご覧いただけると幸いです


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第4話~彼女はいかにして彼の事を想うようになったか~

気が付けば早2か月近くが経っていた・・・

まだ読者が残ってるかわからんけど、読んでくだされば幸いです


私、東豪寺麗華は自分で言うのもあれだけどお嬢様だ。

 

日本屈指の大財閥、東豪寺財閥の令嬢で一人娘だから周りから蝶よ花よと育てられた。

 

お母様は当然のことながら、お父様も跡取りとして息子が欲しかったそうだけど、それでも私に対して多くの愛を注いでくれた。

 

それと同時に東豪寺財閥の令嬢として相応しい女になるために厳しい教育も受けてきた。

 

一般に学校で学ぶ事だけでなく、人の上に立つ者としての立ち振る舞いも学んできた。

 

昔からお前は人の上に立つ人間だと言われて育ってきた。また、人に対して簡単に頭を下げるものじゃないとも言われてきた。

 

簡単に頭を下げると見下される、足許を見られると。それは許されないと思った。

 

だって私は、東豪寺麗華は、東豪寺財閥の令嬢なのだから。私が見下されるのは東豪寺財閥が見下されるのと同じことだと思ったから。

 

学校はお父様がいろんな人と接することで人を見る目が育つとの事で、普通の子と同じように近所の公立校に通うことになった。

 

周りの子たちの家は私の家と比べて家が小さい子しかいなかった。当然といえば当然。東豪寺財閥は日本屈指の大財閥なのだから。

 

私の家と同じくらいの家なんて、時折お父様に連れられて行くか、自宅で行われるパーティーで会う水瀬家くらいのものだった。

 

それでも年に数度会うか会わないかだし、普段接するのは学校の自分より言い方が悪いけど格下の家の子だった。

 

さっきも言ったけど簡単に頭を下げるなと言われてきた私は、周りに対して素直に謝ることができなかった。

 

謝れば、頭を下げてしまえば、それは東豪寺家を貶めることになると思ってたから。

 

そんなことを続けてれば私が学校で一人ぼっちになるのも当然の事だと思う。

 

でも私はプライドを捨てきれなかった。今思えばそんなものプライドとすら呼べない小さな自尊心なのかもしれないけど。

 

数年前の私はその自尊心が何よりも大事だった。私は東豪寺家の娘だと思ってたから。東豪寺家の娘でしかなかったから。それがなくなってしまえば当時の私には何もないと幼いながらにわかってたから。

 

みんな私の事を『東豪寺』としてしか見てないことをわかっていたから。

 

そんな私を初めて『東豪寺』としてじゃなくて『麗華』として見てくれる人ができた。

 

それがりんだった。りんの持ち前の人懐っこさと天然なのか計算なのかわからない言動で私は『(東豪寺)』じゃなくて『(麗華)』でいることができるようになった。

 

りんと過ごすうちにりんの友達だったともみとも仲良くなれた。

 

三人で過ごすようになってからしばらくすると一人の男子が転校してきた。

 

アイツの名前は天野翔。

 

りんは私の時と同じように、あっという間にアイツと仲良くなってしまった。ともみもなんだかんだですぐにアイツと打ち解けた。

 

私はというと、なかなか打ち解けることが、心を許すことができなかった。

 

私自身で普通に接してくれて構わない。むしろそうしてくれと言ったけども、やっぱりどこか壁を感じていた。

 

違う。自分から壁を作ってた。りんやともみとは違う。コイツも結局のところ東豪寺としてしか見てないんだろうと思い込んでた。

 

そう思ってたのに。アイツは、翔は違った。私に他の人と何も違わない言葉を投げてきた。

 

翔の言葉はまっすぐだった。私はそれが気に食わなかった。私は東豪寺なんだぞって。自分でそう見られるのが嫌だったはずなのに、アイツには、翔にはなぜか負けたくなかった。

 

りんとともみを盗られた様な気がしてたのかもしれない。

 

アイツとはいつも口ゲンカばっかりするようになった。もしかしたら嫌われるかもしれない。でも負けたくない。そのうちに段々と私の事を『(麗華)』として見るようになった人が増えてきた。

 

確かに東豪寺の娘だとしか見てなかった人たちも、翔がまっすぐにぶつかってきたから、じゃあ自分もというように私に壁を作らずに接してくれる人が増えた。

 

私はその時に臆病になってただけなんだって気づいた。相手に嫌われたらどうしよう、相手を傷つけたらどうしよう、同じ立場で話したいのに壁を作られたら、気安い態度をとって東豪寺が下に見られたらどうしようって。

 

りんが相手との懸け橋になってくれた。ともみがフォローしてくれた。間違えた時には翔が一緒に謝ってくれた。

 

私は、りん、ともみ、翔の3人のおかげで変わることができたんだ。

 

だから私は、3人には感謝してもしきれない。でもそれとは別に翔に対してどこかもやもやする気持ちを抱え始めてた。

 

そばから見てて翔と一番仲がいいのはりんだ。一番最初に話しかけたのがりんだし、そうなるのも当然だと思う。

 

私の大事な友達同士が仲がいいのは嬉しい。嬉しい事のはずなのにどうしてか、あの2人が仲良くしてると胸の奥でもやもやして気持ち悪くなる。

 

そんな自分が嫌になってきてた頃、中学の入学式があった。翔とは同じクラスになれたけど、りんとともみは違うクラスになってしまった。

 

クラスが違ったって同じ学校の同じ学年なんだからいつでも会えるし、それにクラス決めの結果にとやかく言っても仕方がないのも分かってた。

 

でも自分の中のどこかに翔とりんのクラスが違うことにホッとしてる自分と、翔と同じクラスなのは私だけだというよくわからない優越感を感じてた。

 

少し自己嫌悪が入ってた時だったからだろうか。翔と本気のケンカをしたのは。

 

翔は私にもう少し素直になれって、もう少し発言をオブラートに包めって言ってきた。私だってそうした方が良いなんてことはわかってる。

 

でも素直になって嫌われるのはやっぱり怖い。でも思ったことは、感じたことは包み隠さず相手に伝えた方が相手のためにもなるって思ってた。

 

そのせいでいつも翔とかともみに負担をかけてたのも分かってた。でもどうしてだろうか、あんなに近くに感じてた翔が一瞬遠くに感じてしまった。

 

そのせいなのか私もつい、かっとなってそんなことしなくていいって言ってしまった。

 

違うのに。本当はありがとうって、迷惑かけてごめんって伝えたかったのに。

 

家に帰って、やっちゃったって思った。どうして私はいつもうまく自分の気持ちを伝えられないんだろうって、そんな自分がいつも嫌になる。でもいつもの口ゲンカの延長線みたいなもんだと思ってた。

 

次の日、翔は私と口を利いてくれなかった。きっと明日になれば機嫌を直してくれるだろうって。

 

そんな事を思いながら1週間が過ぎた頃には、謝らなきゃって思い始めた。でも謝れなかった。翔と話すのが怖かった。またかっとなって言いたくないことを言っちゃうんじゃないかって。

 

翔と話さなくなって2週間が過ぎたあたりで私は翔の事が好きなんだって気づいた。でもその気持ちを自覚してしまったら、どんな顔して、どんな話をすればいいかますますわからなくなった。

 

このままじゃ翔がどんどん遠くなっていくのは頭ではわかってた。でも、心と体が動いてくれなかった。ついてきてくれなかった。

 

その夜私は自分の情けなさで枕を濡らした。

 

そんな時ゴールデンウィーク中に東が急病で、代わりの執事が来ることを聞いた。

 

誰が来ても変わらない、誰でも一緒だって思ってた。

 

だけど違った。代わりの執事はアイツだった。翔だった。

 

アイツの顔を見ただけで嬉しくて心が跳ねるようだった。アイツの顔を見ただけで苦しくて逃げ出したくなった。

 

アイツがかしこまった挨拶を私にした瞬間、私はとても言い表せない寂しさを覚えた。

 

嫌だ、やめろ、そんな風な喋り方をするな。なんで、なんで、なんでアンタがそんな風に壁を作った話し方をするんだ。

 

辛くて、苦しくて、何も言えなくなりそうで、やっとの思いで、絞り出した、久しぶりに彼に放った言葉は、

 

 

「なんで、なんで、アンタがここに、しかもそんな恰好でいるのよ・・・っ!」

 

 

彼に対する謝罪の言葉でも、感謝の言葉でもなく、私の力になろうとした彼を突き放す言葉だった




読み返してて、描写が足りなかったように感じたので麗華の心理描写回を挟んでみる試み。

心理描写は書いててなんだか筆が乗って、過去最高文字数に。

これからもちょくちょく挟んでいこうと思いましたまる。

次回投稿日はいつものごとく未定です。気長に待ってもらえると幸いです。


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第5話〜彼と彼女の今までとこれから〜

まぁた1ヶ月くらい経ってるじゃんかよぉ

こんなんでも見捨てずにいてくれたら嬉しい限りです


 翔は困惑していた。東豪寺のメイドを名乗る星華から聞いていた話とどう考えても、今の状況が一致しない。翔は確かに聞いたはずだ。麗華自身がいくつかの候補の中から自分のことを選んだと。

何度思い返してもあれは夢でも、自分の聞き間違えではないはずだ、そう自分に言い聞かせながら彼女に問いかけた

 

「恐れながら当方は麗華お嬢様が私を選んでくださったと聞き及んでおりますが」

 

 我ながら声が震えすぎだと思った。ついでに足も震えていた。それを自覚したら震えは止まらなくなった。

 それを見て麗華は笑い出した。麗華は結局翔はどこにでもいる普通の人なんだと再認識した。そう思ったら今まで怒っていた自分がバカらしく思えてきたからだ。

 

 翔はそれを嘲笑だと思った。自分の事をただの恥ずかしい勘違い野郎だと自嘲した。せめて震えを止めようと思った。

 

「星華は下がりなさい。コイツと二人で話したいの」

 

「ですが、流石に男女で二人きりというのは「アンタ達は自分で信用できないような男を私の付き人に選んだ訳?」いえ、決してそのようなことは」

 

「じゃあ下がりなさい。悪いけどコイツにしか聞かれたくない事なのよ」

 

星華は少し顔を歪めて、

 

「かしこまりました。何かあれば私の端末にご連絡を」

 

「えぇ、わかってるわ」

 

「それでは失礼いたします」

 

 渋々ながら下がっていった。すれ違いざまに翔に

 

「お嬢様に傷一つつけてごらんなさい。地の果てまで追いかけて生まれてきた事を後悔させてさしあげます」

 

 などとお約束のようなセリフを言い残して部屋を出ていった。

 

「さて、翔?かたっ苦しい言葉遣いはいらないわ。いつも通りの話し方で構わない。腹を割って話しましょう?」

 

「じゃあまずはこっちから聞くぞ?」

 

「えぇ、何かしら?」

 

「お前が俺を選んだって話は「嘘に決まってるじゃない。たとえ私がこの家の一人娘とはいえ流石に家の使用人の人事権なんて持ってないわ」えぇ...」

 

「大方そうでも言わないとアンタがこの仕事引き受けると思わなかったんでしょうね。今回は恐らくこの家にいる大半の人間がグルでしょうね」

 

「じゃあ東さんとやらが急病だっていうのも・・・」

 

「嘘に決まってるじゃない。第一急病だってのに仕事に来る訳ないし、もし仮に急病が本当ならアンタが来るまで誰がその仕事をするのよ」

 

  言われてみればその通りである。

 

「じゃあ次は私の番ね。」

 

 そう言うと麗華は黙って顔を赤くしたり、青くしたり、笑ったと思えば怒ったり悲しそうな顔をしだして一向に話そうとしなかった。

翔はそれを黙って見ていた。何を言われるか怖いとか考えながら、百面相ってのはこういうのを言うのかなどと一人で勝手に納得したりしていた。そしておもむろに隣に座ると彼女の頭を撫で始めた。

 

「なっ、なっ、何を「いやな、引っ越す前に近所の妹みたいなやつにいつもこうしてたなぁって。嫌なら止めるけど」

 

 また黙り込んでしまったので嫌じゃないのかとか思いながら撫でていると、彼女は翔に抱きついてきた

 

「おっ、おい、流石にこれはまずくねぇか?」

 

「なんでアンタはそんなに優しいのよ・・・私いっつもアンタ達に助けられてたのに、あんなに酷いこと言ったのに、なんで、なんでよ!いっそあのまま見捨ててくれれば!きっとこんな辛い思いをする事もなかったのに!私なんて、私なんて!」

 

 気づくと麗華の目から涙が溢れていた。麗華が家族や使用人以外の誰かの前で泣くのは初めてのことだった

 

「なに、バカみたいな顔してんのよ・・・」

 

「まさかお前が泣き出すなんて思わなくてな」

 

「私は強くなんかないわよ、こうしてないと私が私でいられなくなっちゃうような気がするからいつも見栄張ってただけで、そんなんだからきっと愛想つかされたんじゃないかって」

 

「お前さ、俺が目の前で困ってたり、泣いてる友達見捨てるような奴だと思ってたのかよ」

 

「違う、違う!でも私はその優しさに何も返せてない!それどころか酷いこと言ってアンタを傷つけた!ずっと謝りたかった!でも、でも!今更どの面下げて謝れって言うのよ!許してもらえなかったらどうしようとか、アンタとこれまで通りいられなかったらとか考えだしたら怖くて、勇気が出なくて!」

 

「俺が誰かと関わりを持つのが怖かった時に助けてくれたのはお前達だったわけで、だから少しでもお前達に何か返せたらって、思ってたんだ。あの時ホントは余計なお世話だったのかなとか考え出したらどう接していいかわかんなくなっちまったんだ。そんな時にちょうどこの仕事の話をもらってさ、お前と話せるちょうどいい機会だと思ったんだ。第一ホントにお前のこと嫌いになっちまったらこの仕事引き受けねぇよ。でもあの時は俺も言いすぎた。ごめん、まさかお前がそんなに思い詰めてるなんて思わなかったんだ」

 

「違う、違う、謝るのは私の方で、翔は何も悪くなくて、全部私が悪くて、ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい、うああああああああああっ!」

 

 麗華は泣き続けた。ずっと胸の内に溜めてたものをすべて吐き出すように。翔は何も言わずに頭を撫で続けた。彼女の弱さに気づけなかったことを謝るように。彼女を意図せず孤独にしてしまったことを悔いるように。

 お互いに世界に自分たちしかいないように感じていた。

 

 麗華はこの時がずっと続けばいいのにとか思い始めた。あれ?このまま泣いてる限りはコイツ私の頭ずっと撫でてくれるのではとか考え始めた。

 

 翔はいつまでこうしてればいいんだと感じ始めた。そろそろ頭撫でるの止めてもいいかなとか思ったけどまだ泣いてるし止めたら怒るかさらに傷つくかなとか麗華の髪がサラサラで触りごごちいいなとか実はすごいことをしているのではとかでももうちょっとこの髪触ってたいなとか考えだして止めに止めれなくなっていた。

 そうこうしていると麗華が痺れを切らしたのか、涙をぬぐいながら

 

「ねぇ、アンタは私がこんなに弱いって知ってもそばにいてくれる?」

 

 と、言ってきた。翔の答えはもう決まっていた。

 

「今まで通りお前と一緒にいるし、それ以前にお前誰かに弱音っつーか本音っつーか吐き出す相手いないとぶっ壊れちまうだろ」

 

「アンタの前では弱いとこみせても弱音を吐いたっていいわけ?」

 

「別に俺じゃなくたっていいだろ。りんとかともみとかだっていいし、星華さんでもいいだろ」

 

「バカね。アンタにはとっくに見せてるし吐いちゃってんのよ。これからもこんな私でいいかって訊いてんのよ」

 

「俺でいいなら別に構わんけどなんか特別なこととか期待すんなよ?」

 

「バァカ、私をこんなに泣かせたんだから、そのぉ、今までよりも・・・」

 

「腹割って話すんだろ?とりあえず言ってみろよ」

 

「〜〜〜っ!なんでもない!アンタは今まで通り私たちと一緒にいればいいの!わかった!?」

 

「なんでもなくはないだろうよ、言ってみろって、痛い痛い!悪かった!なんでもないです!だからこれ以上殴るのやめてっ!」

 

「わかればいいのよわかれば。まったく、いらないとこで気が効くんだから・・・」

 

 麗華はその実恋愛に関してはヘタレだった。麗華自身も今目の前の彼に対する感情が恋なのかどうかもしっかりと理解していなかったりもするわけなのだが。それでも今は今だけは彼と今まで通りに一緒に過ごせる、そう確信を持って言えるだけで随分と心が軽く、また今まで感じたことのない温かさを覚えたのは事実だった。

 

「いい?私たちの前から勝手にいなくなったり距離置いたらただじゃおかないんだから!アンタは東豪寺麗華の数少ない友人なんだからね!」

 

 そんな彼女の輝きに満ちた笑顔を見ながら不思議な今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じながら、俺今まで通り接することできるのかこれ・・・と、人知れず翔の心の中は修羅場だった




ひとまず麗華編終了。今回試験的に三人称に挑戦。反響次第では戻すかもしれないしこのままいくかもしれない。君の一票がこの小説の行く末を左右する・・・!

次?りん編かなぁ・・・もしかしたら日常パートかもしれない。

降ってきたシーン次第ですね。

感想等待ってます。


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第6話〜彼は彼女を変えていく〜

気づけば3ヶ月空いてた……
お兄さん許して次はきっと今より早く更新するから、きっと!



 翔と麗華が仲直してから数日が経った。仕事にも慣れて流石にずっとこの家で働いてる人たちほどとはいかなくとも、翔の執事ぶりはそれなりに様になった、と本人は思っている。

 

「翔~、のどが渇いたから紅茶淹れて」

 

「はい、ただいま」

 

「ついでに箱ティッシュが空になったから新しいの持ってきなさい」

 

「はい、ただいま!・・・執事というより便利屋じゃねこれ・・・?まぁ、俺を頼ってくれてんだ、お嬢様の為に頑張りますかねぇ」

 

「何か言ったかしら?」

 

「いえ!何も!」

 

「なんでもいいけどなるべく早くね」

 

「承知しております!」

 

そう言うと翔は星華を探しに庭に走りながら、以前より麗華の笑顔が増えたことに喜びを感じていた

 

◇ ◇ ◇

 

 翔が紅茶とスコーン―厨房で先ほど焼きあがったばかりだ―を持って麗華の部屋に戻ると、一足先に星華が戻っていた

 

「お待たせいたしましたお嬢様。紅茶と厨房から出来立てのスコーン、新しいティッシュです」

 

「そう、ありがとう。後はこっちでやるわ。下がっていいわよ」

 

「では。何か御用がございましたらお呼びください」

 

「・・・行ったわね、時間ならちょうど空いたからあなたの訊きたい事言いたい事聞いてあげるけど」

 

星華は翔の持ってきた紅茶を淹れながら麗華に尋ねた

 

「お嬢様、少々翔さんを使いすぎでは?普段であればティッシュなどご自分で取りにいかれるではありませんか」

 

「わかってるわよ、そんなことくらい」

 

「翔さんがお嬢様の執事なのはこの連休中だけです。いくら仲直りをされたとはいえ、これではまたケンカになってしまうことだって」

 

「わかってるわよそれくらい!」

 

「っ!でしたら」

 

「でも!アイツが私のわがまま全部聞いてくれるって思ったら!なんだか歯止めがきかないのよ!私だってこのままじゃ今度こそ嫌われるってわかってる!でもアイツが今だけは私のためだけに動いてくれるっておもったら・・・こんなの初めてなのよ、この気持ちをどうしたらいいかわかんないのよ・・・」

 

星華は何も言わずに麗華を抱きしめて頭を撫で始めた

 

「ひとつ大人になられましたねお嬢様」

 

「こんなわがままが大人な訳ないじゃない」

 

「いいえ、すこしずつ大人に近づいていらっしゃいますよ」

 

「星華はこの気持ちがなんなのか知ってる?」

 

「えぇ、よく存じております。形は違えど誰しもが通る道ですよ」

 

「じゃあ、教えて?」

 

「ダメです。その答えはお嬢様が自分自身で見つけなければいけないものです」

 

「なんだか今日の星華は優しいのにいじわるね」

 

「ふふっ、そうでしょうか?お嬢様の翔さんに対する接し方がうつってしまったかもしれません」

 

「星華のそんな笑顔初めて見た」

 

「お嬢様がよく笑うようになったからですよ」

 

麗華の部屋からしばらくの間楽し気な二人の会話が途絶えることはなかった

 

◇ ◇ ◇

 

 その日の夜、翔の携帯にりんから電話があった。

 

「やっほーしょーくん!あれから麗華とは仲直りできた?」

 

「電話かけてくるなりそれかお前は。まぁ、なんとかなったよ。むしろ前より距離が近くなったというか近すぎるような気もしないこともないけど」

 

「そっかそっか~、仲直りできたならよかったよ。連休中に家行ったら泊まり込みの仕事してるって聞いて不安だったんだけど問題なかった感じだね。でも仕事してるのに麗華と話す時間あったの?」

 

「あー、そのことなんだけどな「ちょっと翔、誰と話してんのよ。呼んだらすぐ来なさいよぉ」はぁ!?今日の業務時間終わってんだろうがよ!?あぁ、悪い、落ち着いたら掛け直す!ごめんな!」

 

「えっ、ちょっと待ってよって、切れちゃった・・・」

 

 翔はりんに悪いと思いつつもお嬢様の元へ急いだ。りんとも話したくとも仕方ないのである。今の翔の仕事は麗華の執事なのだ。

 

「遅いわよ、わかってる?今のアンタは私の執事、つまり私の手足なわけよ。呼んだらすぐ来てよ、バカ・・・」

 

「まさか業務時間外に呼ばれるとは思ってませんでしたけどね。えぇ。お待たせいたしましたお嬢様。ご用件は何でございましょう?」

 

「アンタ自分で業務時間外って言ったじゃないのよ。だから今は敬語なんていらない。ただ寝付けそうにないから話し相手が欲しかっただけよ。」

 

「じゃあ、お茶入れてくるから待っててくれ。俺の二流三流ので悪いけど」

 

麗華はできる限り感謝の気持ちを込めた笑顔を浮かべると

 

「別に構わないわよ。昼間の紅茶美味しかったから。ただなるべく早くね」

 

初めて見る麗華の表情に戸惑いながら給湯室へ向かう翔は、言いようのない感情にとらわれていた。

 

「なんか最近調子狂うんだよなぁ、アイツは大して変わったわけじゃないと思うんだけど、うーん、どっか違うんだよなぁ・・・なんでアイツの言うこと全部受け入れられるんだろ・・・」

 

首をかしげながら紅茶を淹れている時に思い浮かべた麗華の笑顔は今まで見てきたものと違っていて、今までよりずっと魅力的で、その原因はわからなくて、でもわかっていて、でもそれを受け入れてしまえば今の関係性が崩れてしまう気がして、翔はその答えを自分の中で否定し続けた

 

「そんなはずはない、俺がアイツに、麗華に恋してるとか・・・絶対にないだろ・・・うわ、この後どんな顔して麗華にこの紅茶持ってけばいいんだよ・・・ちくしょう」




あれ・・・おかしいな・・・麗華がメインヒロインみたいだぁ・・・
いや、魔王のみんなメインヒロインなんですけどね

麗華編が一向に終わらない・・・そして難産。
もう少し書けそうだったけどこれ以上書くと締め方がわからなくなりそうだからとりあえずここまで

次回も更新は未定です


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