この槍使いに祝福を! (シンセイカツ)
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影島奈々の記録(1)

このすばの日記形式ってあんまりないなーと思いつつ友人に相談しながら作った小説です


一日目

 

 表紙にも書いたと思うけど私の名前は影島奈々、歩きスマホをしていたところ、居眠り運転をしていたトラックに轢かれてこの世界に転生した日本人だ。これからこの世界に慣れていくにつれ日本での常識や日常が薄れていってしまうと思ったので、せめて毎日の日記だけは欠かさずやろうと思い、簡単そうな依頼を請けてその報酬でこの日誌を購入した。もし私が死んだときなどにこの本を読む日本人がいるならモンスター討伐の参考になれば嬉しい。

 

 私が神様から貰った特典はアイルランドの説話に登場するクー・フーリンの槍、『ゲイ・ボルグ』。投げれば30の矢になって降り注ぎ、突けば30の棘になるという謎すぎる槍である。特典をこれにした理由は、某運命ゲームのスカサハとクーフーリンが大好きだから。自分でも選んだ理由が適当すぎるとは思ったが、今日請けたジャイアントトードの討伐では大いに役立ってくれた。ただ、突くたび毎回先端が破裂するのは心臓に悪すぎた。瞬時に元に戻るとはいえ、破片がこっちに来るんじゃないかと不安になる。そういった意味では少し選択肢を間違えたかもしれない。

 

 冒険者登録時に私のステータスがどれも平均よりも上だったようで、上級職というランクが上の方の職業に就けることが分かった。クーフーリンを参考にし、ランサーという職に就こうと思ったが、せっかく上級職になれることだし、とルーンナイトを選択した。スキルの名前を見た感じだと、攻撃力の上昇、防御力の上昇、敏捷性の上昇の他、剣や槍、盾などのスキルとルーンを用いた魔術の習得があるようだ。剣や盾はともかくとして、槍やルーン関連のスキルがあるのはおっぱいタイツ師匠と槍ニキに近づける気がして素直にうれしい。とりあえず槍の威力上昇とアンサスという火のルーンを習得した。

 ルーンの威力は術者の魔力に依存するようだ。流石に最初から強い訳がないので落ち込みはしなかった。

 

 今回依頼を受けたジャイアントトードは大体2mくらいの大ガエルだった。基本行動は舌での引き寄せ、捕食と巨体を生かした押しつぶしだった。舌を使う時は鳴き声を上げるときよりも大きく口を開くため回避は簡単だった。舌は若干スナップがかかっているのでジャイアントトードの正面の横幅までが危険範囲と思っておけばいいはずだ。舌以外の動きは遅いので横から攻撃するのが効果的だ。

 

 昼はスキルや武器の性能の検証で終わってしまったが、面白かったので問題はない。夜になってギルドにご飯を食べに行くと隅っこの方で自分の得意なポーカーを使った賭け事が開催されていたので、少し参加させてもらった。今日はツイていたのか、かなりの数勝つことができた。参加したときの所持金が11万エリスくらいだったのに対し、席を離れた時の所持金は15万エリス。4万エリスの儲けで懐があったまった。1時間くらいでこれだけ儲けたのは幸運としか言いようがない。

 

 ゲーム中にイカサマをしているんじゃないかという言葉が対戦相手から発せられたが、周りに何人もの人が見ている状況でイカサマするのはリスクが高いだろうと否定した。その勝負に勝った後、相手から謝罪された。なんでも「終始ポーカーフェイスなので言いがかりをつけたり感情を揺さぶれば表情が崩れるかと思った」とのこと。見た目は某世紀末のヒャッハーっぽいのに結構律儀なんだと少し驚いた。そのことを伝えてみると「嘘つけ崩れてないぞ」と苦笑いされた。私はポーカーフェイスをしているつもりは無いんだけど……。

 

 PS.冒険者になりたての人は馬小屋で寝るのが普通らしい。結構寒い。

 

 

二日目

 

 朝は他の冒険者と話をしてこの辺りに住むモンスターのことを教えてもらった。近くにいるのは比較的温厚で危険性の少ない生物が多いそうで、昨日討伐したジャイアントトードは繁殖期以外は人里に近寄ることの方が少なく、そこまで警戒する相手でもないことが発覚した。

 この辺りで警戒しないといけないのは初心者殺しという猫のようなモンスターだそうだ。なんでも、ゴブリンを討伐しに来た冒険者を奇襲し捕食するかなり知能の高いモンスターのようだ。文字通り初心者殺しの速度と攻撃力を持っているそうなので警戒を強めようと思う。

 

 昨日の討伐依頼で懐はそこそこ温まったので、昼は日用品の調達を兼ねて街の観光をすることにした。冒険初心者の街というだけあって、傷のついていない綺麗な防具を付けている若い人が多かった。偶にすごく強そうな装備を身に着けた中堅冒険者と思わしき人がいたが、次の街に行ったりはしないのだろうか。

 

 大通りに並んでいる屋台で昼食を摂った後、これからお世話になりそうな道具屋と武器屋にあいさつに行ってきた。武器屋さんには軽くて動きやすそうな革鎧を見繕ってもらうついでに槍の手入れの仕方を教えてもらった。ゲイ・ボルグとかについた血はその場で振り落とせばいいけど、帰った後も拭いたりした方がいいとのこと。昨日ジャイアントトードを倒した後にそのままにしていたので不安になって劣化していないか見てもらったが、特に問題ないことと、今まで見たことが無い素材で作られているとかを見抜かれ、素材に関して質問攻めにされた。とりあえず自分は異国の出身で、この槍は亡くなった祖父に冒険者になる記念として貰ったものであり、素材についてはよく分からないと答え、逃げるように退散した。

 街では着替えを何着かと毛布を1枚購入した。今のところ難しい依頼に行く気もないので、ポーションなどの回復道具は買っていない。

 

 夜まで観光を続け、ギルドに戻ったところで昨日のヒャッハーに声を掛けられた。どうやら昨日大負けしたのが悔しかったようで「今日こそは吠え面かかせてやる!」と意気込んでいたので1万エリスほど稼がせてもらった。

 

 明日は簡単そうな依頼を請けようと思う。

 

 

三日目

 

 今日は朝から依頼を請けた。内容はエギルの木の伐採。

 

 エギルの木はドラゴンクエストに登場する『じんめんじゅ』のようなモンスターで、根を足代わりに急速に伸ばして少しずつ移動する植物系のモンスターだった。このエギルの木の花粉を長く浴びた他の木は段々と衰弱してしまい、森の規模の減少などに繋がるらしい。討伐の難易度は低めだが、探し出して討伐するのが面倒くさいモンスターのため、あまりやりたがる人がいないらしい。

 

 攻撃方法は花粉をまき散らしたり、枝を槍のように突き刺そうとしてくることだった。事前に花粉対策として口を覆うように言われていたので特に問題なく倒せた。風属性の魔法なんかがあっても楽かもしれない。枝に関してはしっかりと退路を確保しながら当たりそうなものを砕けばいいのでこちらも簡単に対処できた。

 

 報酬はでき高制とのことだったので、日が昇るまでは森を散策し、エギルの木を見つけたら伐採して一か所に集めて依頼主に引き取ってもらった。依頼主曰く、エギルの木はよくしなる上に頑丈なため、弓などに加工するらしい。

 

 エギルの木の伐採数は5本だったが、余計な傷が少なかったとのことで、本来の相場より色を付けて貰った。刺したら破裂してしまう性質を持つゲイ・ボルグでは余計な傷が付くと思って薙ぎ払いと切り払いで戦うようにしてよかった。ゲイ・ボルグの先端がノコギリ状になっているのも関係しているかもしれない。

 

 エギルの木は余り経験値の稼げるモンスターではないらしく、レベルアップには至らなかった。ジャイアントトードの討伐でレベル4になっていたのを思い出し、帰り道で槍に関連するスキルを習得しておいた。こういった神器による力任せのレベルアップでは流石に技術が上がらないだろうということで、槍を使っている人に教わることにした。「遠出する予定があるから1週間しか教える期間が無い」と言われたが、「期間が短い方が本気になって取り組める」と明日から1週間指導してもらうことになった。

 

 ちなみに槍を教えてくれるのはあのヒャッハーだった。最初聞いた時は腰が抜けるかと思った。




影島奈々の、と書かれていますが、他の人の記録が出てくることはありません(当たり前)


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影島奈々の記録(2)

四日目から九日目までは訓練の内容と疲れた筋肉痛辛いしか書かれていないので飛ばしています

作者「難産でした」
友人「プロットすら組まずに全部その場で考えるとかお前の正気を疑う」


十日目

 

 今日でヒャッハー師匠による厳しめの指導は終わった。筋肉痛が1週間ずっと止まないのは正直可笑しいと思う。ペンを持つ手が今も震えているのはきっと気のせいじゃない。

 

 今日の訓練は一撃熊の討伐。装備はモップの柄、防具は無し。目隠しでジャイアントトード討伐や安物の槍と防具ありで初心者殺しの討伐の難易度が恋しくなりはしたが、何とかこなすことができた。

 

 一撃熊は一言で言うなら巨大な熊。前腕部が異様に発達しており、名前の通り一撃で獲物を仕留めることに特化していた。主な攻撃方法は腕を振り回すことと噛みつき攻撃。正直ヒャッハー師匠との組手の方が危険度高いからそんなに脅威ではなかった。

 

 主な対処法としてはまず身体能力が高いことが大前提となるが、腕の動き自体は単調な振り下ろし、薙ぎ払いくらいしかレパートリーが無いようなので、腕の届かない中・遠距離から急所に向けた攻撃が効果的だと思われる。近接攻撃しかできないパーティーで挑む場合は、1人がシールドバッシュなどのスキルを使って一撃熊を転倒させるか攻撃を跳ね上げるかして体制を崩し、崩れたタイミングで背後から攻撃力の高い冒険者が、正面はそのまま盾持ちが攻撃すれば楽に倒すことができるだろう。

 

 私の場合はモップの柄。強度なんて高が知れているし、一撃熊の腕を受け止めるなど自殺行為なので仕方がないので腕の下に柄を入れて腕を跳ね上げるようにして逸らすことに専念しつつ、大きな隙ができた時点で頭部と腹部に執拗に攻撃することにした。何度目かの攻撃で一撃熊が怒ってしまい、攻撃に対してうまく対処できずにモップが折れてしまったが、ちょうど先が尖るように折れたので鋭利な部分を眼球に突き刺してそのまま脳を破壊することで討伐した。

 

 一撃熊の皮はかなりごついが、加工すればそこそこ使い道があるそうなので剥いだ。肉は獣臭く硬いので好きだという人は少ないらしい。血の匂いを嗅ぎつけて別のモンスターが集まらないようにしなければならない、ということで、火のルーンを使って一撃熊の死体は焼いておいた。肉が焼ける臭いで思わず涎を垂らしかけた私は悪くないと思う。

 

 街に戻ってから気が付いたことだが、1週間の修行でステータスがかなり上昇した。魔力と幸運を除く全項目が一回り上の数値になっていたので目の錯覚かと不安になった。筋力が一番成長しているのは女性としてどうなのだろうか。これで私が惚れやすい体質だったりしたらただのアマゾネスではないか。そういった認識をされることだけは避けないといけない。それはそれとして、修行中にレベルが大幅に上昇した。まぁ、初心者殺しと一撃熊討伐の時点でかなり経験値を貰えているだろうし、当然と言えば当然だろう。もうすぐ10レベルになれるだろうし、10レベルになったらスキルポイントを振り分けることにしよう。

 

 1週間ずっと修行漬けだったこともあり、疲労がとんでもないことになっている。気を抜いたら瞼が降りてきてしまうのがいい証拠になるだろう。そういえば1週間ずっと馬小屋の壁にゲイ・ボルグを立て掛けていたわけだが、久しぶりに手に取ってみたらなんだがゲイ・ボルグに抗議されているような気がした。本格的に疲れているみたいなので今日はこの辺にして早めに寝ようと思う。

 

 

十一日目

 

 結局全然寝れなかった。今日は昼頃まで惰眠を貪りたかったのに、毎日健康的な生活をしているせいか朝早くに起きてしまった。しかも最近寝起きがいいせいで二度寝もできなかった。初めて自分の体を憎んだ。日本にいた時は休日は二度寝、平日は講義の最中に仮眠を取っていたのだが、どうもこの世界に来てからはそういったことが無くなった。結構忙しい日々を送っているんだなぁと自覚できた朝だった。

 

 昼にギルドで休息をとっているとちょっとした事件が起きた。新しい冒険者がギルドに加わることはそう珍しくは無いのだけど、今日加わった新人は私をこの世界に転生させた女神だった。もう1人日本人がいたけれど、転生特典のようなものは無かったので、もしかしたら女神様を特典として連れてきたのかもしれない。その発想は無かった。そしてなぜかお金を持っていなかったので登録料と合わせて生活費を譲ってあげた。その後の登録の時に女神様のステータスがだいぶ優秀なことが分かった。これからの活躍に期待しよう。

 

 ずっとギルドで怠けていてもいけないのですぐに終わりそうなジャイアントトードの討伐をこなしておいた。1週間の修行の成果なのか、かなりあっけなく依頼が終わってしまった。

 

 明日はもう少し骨のありそうな依頼をこなそうと思う。

 

 

十二日目

 

 今日は屋外で日記を書くことになった。理由は今回受けた依頼がダンジョンの探索だったから。ダンジョンの探索はかなり時間と手間がかかるため、ダンジョンの入口で1日寝泊まりしてから朝一で突入するのが基本らしい。

 

 明日はダンジョン突入ということで、初めてパーティーを組んでみ(文字が乱れていて読めない)

 

 危なかった。日記を書いている途中でクリスに後ろから驚かされたせいで変な声が出そうになった。私は日記を読まれることに特に抵抗はないけど、日記を書いている最中は一日の出来事を思い出すために集中して周りのことがあまり分からなくなるので声をかけられても返事ができないことが多い。今回もクリスは声をかけても一心不乱に日記を書いている私を驚かせてやろうと思ったそうだ。

 

 先ほど私の背中に飛びつくという悪戯をしてきたクリスは、今回私がパーティーを組んだ2人組の内の1人で、好奇心が旺盛だと印象を持たせる少女で、職業は盗賊だった。もう1人はダクネスという女性で、自己紹介の時に自分を遠慮なく盾代わりにしろと口走ったクルセイダーである。その後クリスに肘でどつかれているのが印象的だった。

 

 この2人とパーティーを組んだ理由はギルドの掲示板で募集をかけていたからで、私としてもダンジョンという狭そうなところで槍を使う練習をしたかった。一応槍が全然使えなかった時のために武器屋で長剣を買ってきたが、おかげで懐が少し寒くなった。明日のダンジョンで失ったお金は取り戻そうと思う。

 

 ちなみにこの2人、私よりも背が高い。いや、147cmの私が小さすぎるのかもしれない。19歳で成長期を期待しても許されるのだろうか。許してください。

 

 

十三日目

 

 今日は朝一番から探索三昧だった。クリスの持つ宝探知というスキルのおかげでかなり儲けることができた。他にも敵探知や罠探知、隠密のスキルはかなり役に立った。

 

 ダンジョン内で遭遇したモンスターはダンジョンモドキとコボルトが多かった。ダンジョンモドキは少し高度なミミックのようなモンスターで、ダンジョンの通路などに擬態し、これまた擬態によって宝箱や怪我をした人を作り出し、欲や親切心に駆られた対象を捕食するという性格の悪いモンスターだ。コボルトはファンタジー系の小説ではかなりメジャーな部類に入るのであまり説明はいらないだろう。

 

 ダンジョンモドキの対処法としては、もう盗賊を連れて行くのが一番手っ取り早い。本職のクリスによると、壁全体から敵意を感じたりするからすぐに分かるらしい。盗賊を連れずにダンジョンに入ることはまず無いそうなので、ダンジョンモドキに引っかかることは無いだろう。あえて対処法を考えるなら、少しでも違和感を感じたところに向けて石を投げ入れるとすぐに分かるだろう。

 

 コボルト。英語ではゴブリンなどと訳されたりもする小人で、犬のような体を持つ生物。コボルトは石でできた粗雑な剣や槍を使って攻撃してくるので対人戦闘なんかにはもってこいの練習台だろう。視界が良ければただの雑魚、視界が悪ければただの雑魚である。剣や槍を砕けば拳の攻撃以外何もできなくなるので、初心者の弾き飛ばし攻撃の練習にはいい相手だろう。ただ油断しすぎると足元をすくわれるので注意が必要だと思われる。

 

 と、ここまで客観的な視点で書き綴っているが、私たちはどうなのかというと、楽勝でしかなかった。クリスの敵探知スキルで位置を補足して接敵した瞬間に討伐である。槍の扱いに関しては突きや小さく切り払うのは可能だったので長剣の出番は無かった。でも今度機会があれば練習してみようと思う。ダクネスは長剣を所持はしているが、不器用すぎて止まっている相手にも当てられていなかった。ちょっと引いた。

 

 今回のダンジョン探索ではたくさんの貴重品や装飾品、宝石を獲得したので自分達が使えそうなものを各自で回収し、残りはギルドで換金した。3等分にするため1人あたりの貰える金額は少なくなるが、それでも宿で安定して寝泊まりできるくらいの金額は手に入ったので、そろそろ馬小屋の生活を脱出したいと思う。まだ余裕はあるとはいえ、あと2,3週間もすれば段々と寒季がくるだろう。今から対策をして聞きたいと思う。

 

 PS.レベルが10になったので探索のルーン(ベルカナ)と速度上昇のスキルを習得した。



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影島奈々の記録(3)

十四日目

 

 今日も朝から依頼漬けだった。今日請けた依頼はゴブリン退治。とある山の8合目辺りにゴブリンが巣を作っているので、適当に討伐して散らしてほしいという依頼。実力的には問題ないが、念のためパーティーを組んで欲しいというギルドの忠告を受けてテイラーという男がリーダーをやっているパーティーに臨時で入れてもらった。

 

 もともと四人で活動しているパーティーのようで、連携のよく取れていたと思う。

 

 リーダーのテイラー。パーティー中で一番背が高く、茶髪に独特の模様が入った服。青い肩当、包帯が腕に巻かれていた。職業はクルセイダー。大きめの片手剣と盾を持ち前線でタンクに近い役割をしていた。性格は気さくな兄のような感じで、気を抜くときは気を抜いて、引き締めるときは引き締めるといった切り替えがうまい人物だ。

 

 アーチャーのキース。基本カラーは青のチンピラ口調の男性。弓の腕は大したもので、テイラーの指示した通りに敵を狙撃していた。アーチャーのスキルには運が絡む要素が多いと聞くので、彼の幸運値は意外と高めなのかもしれない。

 

 戦士のダスト。くすんだ金髪に赤い服。瞳は赤色で、左目に泣き黒子がある。職業は長剣を扱う戦士と言っていたが、その言葉に何となく違和感を感じた。なぜそう思ったのかはよく分からないけど、少し気になる男だった。年は18と私よりも1つ下だった。テイラーと共に前線で戦い、テイラーの作った隙を逃さずに攻撃する。前に出るタイミングと交代するタイミングはプロのものだと感じた。まぁプロなんだろうけど。

 

 ウィザードのリーン。ポニーテールに黄緑色のパーカーのような服。その上から青いマント。という結構おしゃれな格好をしている女の子で、タヌキアライグマのような尻尾が出ている。私も一応魔法は使えるが、本職の魔法使いとパーティーを組むのはこの日が初めてだったので少し興奮したのを覚えている。中級魔法まで使えるとは本人が言っていたことだが、魔法に詳しくない私には全く分からなかった。パーティーの中では後方支援をしており、仲間に風を纏わせるウィンドカーテンという魔法はクーフーリンのように矢避けの加護を授かった気がしてとてもテンションが上がった。

 

 私はこのパーティーでは切り込み隊長のような役割をさせてもらった。ゴブリンの群れの中に飛び込んで後ろのほうにいるゴブリンから殲滅していくのは意外と面白かった。小鬼と呼ばれるゴブリンと私の身長差が20cmくらいだったのはかなり傷ついた。

 

 それはそうと、ゴブリンの対処法としてはコボルトと一緒。武器を破壊すれば攻撃力が激減するので、もういっそ手首辺りを切り落とせば簡単に倒せる。囲まれないようにすれば脅威なんてものは一切ない。

 

 ゴブリン討伐のあとの帰り道でリーンに魔法について質問していると、背後から殺気を感じたのでゲイ・ボルグを反射的に投擲してしまった。偶然にも初心者殺しだったからいいものを、これが盗賊だったなら私の精神に大打撃だった。人は殺したくないからね。神器の効果である分裂からの全弾命中に対して4人かた質問攻めにされそうになったが、自分の持つスキルと説明した。不満気だったが、なんとか納得してもらった。

 

 ゴブリン討伐事態に特に収穫は無かったが、初心者殺し討伐分の経験値と牙や爪の素材売却分のお金は手に入ったのでいいことにした。

 

 ギルドに帰っていつもの如くポーカーをしたのだが、女神様と一緒にいた少年、カズマ君にぼろ負けした。どうやら幸運値がとんでもなく高いらしく、3回連続でストレートフラッシュ出された時点で勝つのは諦めた。カズマ君に運が絡むゲームで勝負するのは愚策である。

 

 

十五日目

 

 今日も今日とて討伐依頼を請けてきた。最近、討伐依頼ばかり請けているような気がする。一番お金が手っ取り早く稼げるのでしょうがないとは思うけど。

 

 今日の獲物は縄張り争いをしていたマンティコアとグリフォン。日本でもそれなりの知名度を誇る幻獣だけど、霊体じゃないので攻撃が当たる、つまり倒せる。

 

 マンティコアは簡単に言うならキメラのようにいろんな動物の特徴を持った化け物である。サソリのような尻尾、ライオンのような巨躯、人間のような顔と、かなり気持ち悪い。人間のような顔をもっているくせに人肉が好物。この生物を作った人は少し趣味が悪いと思う。

 

 マンティコアの対処法としては注意するべきなのは毒針のみなので、早々に尻尾を斬り落とすと後々楽になる。マンティコアの攻撃速度は初心者殺しと同じか少し速い程度なので、初心者殺し殺しができる人なら簡単に倒せるはず。

 

 グリフォンの方も日本に限らずだいぶ知名度がある幻獣であり、名前を聞いただけでも特徴が分かったりする人がたまにいるくらいだ。特徴は鷲の翼と上半身、ライオンの下半身を持っている。某運命ゲームのスマートフォン版にはこのグリフォンと雌馬の間に生まれたヒポグリフという生物が宝具として出演していた。飼い主はシャルルマーニュの最弱騎士の男の娘だったか。

 

 グリフォンは鋭い爪と嘴以外に脅威と感じるのは飛べることくらいしかないので、風魔法などを使って叩き落として翼を捥ぐのが効果的だと考えられる。もちろん私は魔法を習得していないので、以前ゲイ・ボルグが使えなかった時のために購入した長剣を投げて墜落させた。2頭同時に相手をしなければいけないという大変な依頼ではあったが、ゲイ・ボルグの能力を使わなくても討伐はできたので安心。

 

 この依頼の推奨レベルは20くらいだったはずだけど、ステータス面でレベル差をカバーできるという不思議なことが起きている。ヒャッハー師匠どれだけ修行詰め込んだんですか。

 

 それはそうと、依頼達成時点で16レベルになった。未だにルーンの活躍の機会がないが、まぁ探索のルーンとかは使うだろう。アンサスは死体を焼いて臭いでモンスターを呼ばないようにはできる。キャスターの方のクーフーリンのように実戦で使えるようになるのは何時になるのだろうか。

 

 夜にギルドに行くとカズマ君がポーカーで大儲けしていた。誰がカズマ君を倒せるかという賭けまで始まっていた。彼は商人とかになったら将来も安定だろうに。

 

 

十六日目

 

 この世界に存在するスキルには熟練度という、言うなれば隠れステータスのようなものがあるらしい。熟練度が高ければ高いほどスキルを使った時の威力が上がり、熟練度が高い人が初級魔法を使って攻撃すると、中級魔法のような威力になることもある。というのはリーンに教わったことなのだが、私には魔法の知識は全くないので初級魔法と中級魔法の違いがイマイチよく分からない。まぁ魔法を使えば使う程攻撃力が上がる、剣を使えば使う程キレが良くなるといった認識で間違いはないだろう。私の持っているスキルの中で、今育てていきたいと思っているのは昨日のレベルアップで習得した剣に関連するスキルとスタミナアップに関係するスキルだ。

 

 ということで、その両方を育てるべく以前エギルの木を伐採した森に突入してきた。依頼を請けたわけではないのでいくら狩っても報酬金は貰えないが、昨日のマンティコアとグリフォンの討伐依頼で50万エリスほど貰っているので特に支障はない。ひたすら走って、モンスターを見つけたら切り捨てて、あらかじめルーンを刻んでおいた石を死体の近くに置いて魔法を起動、起動を確認したらすぐにまた走り出すというレベル上げを行ったところ、レベルは1の上昇、ギルドカードの筋力、魔力、器用、敏捷の数値が一回り上昇した。朝から夕暮れまで走り続けてこれはよいのか悪いのか分からないが、走る速度と継続時間は1回の休憩をはさむごとに成長していたと思う。

 

 ただ不満なのは、また筋力の値が上昇したこと。ステータスに影響されているのか、単に冒険者としての生活がそうさせるのかは分からないが、最近腕や脚に筋肉が付き始めたように思う。流石に腹筋は割れていないが、これから割れていくのかもしれない。筋トレもしてないのに…。腹筋の割れた女性が男性にどう思われるかと思うとかなり悲しくなる。

 

 これ以上筋力の値が上がりませんように…。




作者「ネタが無くなりそう」
友人「知ってた」


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影島奈々の記録(4)

十七日目

 

 筋力は上げたくないが、仕事をしないと生活が不安定になるわけで…幸いまだ目立って筋肉が出てるわけでもないし、太るよりはましと考えることにした。

 

 今日請けた依頼は一撃熊の討伐。修行の最中に戦っているので戦い方は分かってはいるが、今回は長剣での討伐に挑戦した。危なそうだったら一旦逃げて奇襲気味に頭上から襲いかかって討伐、という案もあったが、さほど苦戦する事もなく倒せたのでボツ。ただ、戦闘中に熊の爪に引っかかって革鎧の肩の部分が飛ばされたのは自分でも油断しすぎだと思った。

 

 私の剣の腕がまだ未熟なせいで討伐に時間こそかかったが、予備動作などの観察は槍での戦闘の時にやっておいたので比較的簡単に倒せた。やはり脅威を感じる爪や腕に関しては筋を早急に斬ってから討伐するのが一番手っ取り早いだろう。うん、しっかりと考えて狩りができてる。ただ破壊するだけじゃもう脳筋だからね、しっかり頭も使わないと。

 

 そう考えると一撃必殺の日本人のチート武器ってどうなんだろう。武器の力に振り回されたらそのうち自分が最強だとか思い始めてしまうんじゃないだろうか。特に私の持ってるゲイ・ボルグなんて既に当たったという結果を残してから投擲する因果逆転の槍だし。なんというか、投げた、勝った。だとダメだと思うんだよね。うまく表せないけど。

 

 それはともかく、新しくデコイというスキルを習得した。文字通りの囮になるスキル。必要ポイントが少ない割に役立ちそうだったからこれから役立ててみようと思う。

 

 確かダクネスも同じスキルを習得していたらしいから、ナイト系の職業の人はみんな習得できるんだろう。ダクネスは自分を囮にして隙を作るというより自分が叩きのめされたいから習得したって感じだと思う。ドMだし。

 

 私がデコイを習得してから想定した使い方としては、いざパーティーを組んで冒険することになったときに相手を引き付ける役が必要になったら使うとか。私は重い鎧を付けるのは嫌だから俗に言う回避盾って言うのを目指そうかな。モンスターの注意を引き付けられるのは一対多の戦闘の練習になるかもというのが最初に思ったことだけど。

 

 ダクネスが私がデコイのスキルを取ったことを知ったときに同士を見る目を向けてきていたが、大変遺憾なのでやめてほしい。私はどちらかというと攻(乱雑に塗りつぶされて読めない)

 

 

十八日目

 

 今日は昨日の依頼中に破損した革鎧を武器屋さんに修理してもらうことにした。今は別の依頼が入っているので明後日になるらしいが、特に問題はない。当たらないようにすればいいだけだ。よく考えたら武器屋さんなのに装備の修復が出来るのはどういうことなんだろう。今度から武具屋さんとでも呼んだ方がいいのだろうか。…どうでもいいか。

 

 今日はいつかやったように観光をして時間をつぶした。前に見ることのできなかった店を探すのには苦労したので、面白そうな店は1軒しか見つけれなかった。

 

 ウィズ魔法具店という店で、若干顔色の悪いウィズという名前の女性が経営している魔法具専門の店だった。品揃は本当に商品を売る気があるのかと不安になるものだったが。冒険初心者の街で10万単位のポーションなど誰が買うのだろうか。爆発系統は扱いを間違えなければ便利そうではあるが。それにしても便利そうな効果に比例するようにデメリットがあるのはどうなんだろう。多分ウィズさんが回復ポーションとかの作り方を覚えて自分で作った方がいいと思う。

 

 ちなみにこの店が目についた理由は、一見産廃揃いの品の中に当たりがあることがあるからだ。さっきの爆発系のポーションなんてその最たる例だと思う。しっかり保存して、しかるべき時に使えば何とかなるんじゃないだろうか。

 

 ウィズさんと話をしていて分かったことだが、ウィズさんは以前魔法使いとして冒険者活動をしていたらしく、魔法の扱いは一流らしい。ただあくまでもアークウィザードとしての活動だったらしく、私の使うルーン魔術についてはよく分からないとのことだった。残念。

 

 なぜかルーン魔術の評価について気になってしまい、同じく魔法使いのリーンに意見を求めに行ってしまった。いきなり聞きに行ったので多分迷惑だったと思う。ごめんなさい。評価についてはよく分からないとのこと。若干分かってたことではあるけれど、ルーン魔術は浸透してないんだなって。効果とか結構万能な感じだし、詠唱がいらないから相手にどんな攻撃をするかも知られないんだけど、そもそも対人戦の方が少ないか。

 

 夜にギルドでジャイアントトードの唐揚げを食べながら思ったことだけど、カズマ君が冒険者というより土木工事のおじさんたちの生活に染まってる気がする。女神様もなにやってるんですか。まぁ異世界の暮らし方は自由だから口出しはしないけど…あとカズマ君ほんとゲーム強すぎ。勝てない。

 

 

十九日目

 

 今日からカズマ君達が討伐依頼に挑戦するらしい。なんでも今まで何の疑問も抱かずに労働していたらしい。とりあえず困ったことがあったら力になると言っておいた。苦笑いされたけど。やはり背か!背で年下と見られているのか!いいじゃない、身長147cmの19歳がいても!家が貧乏だったんです!

 

 じゃなかった。カズマ君はジャージにギルド支給の短剣装備、女神様は来た時の格好でジャイアントトードに挑んだらしい。結果は……。初心者殺しを討伐してきた帰りに通りかかった平原で、ジャイアントトードの粘液でヌルヌルの女神様と肩で息をするカズマ君を見つけた時の心境は文字に書き起こせないとだけ。

 

 近くに他のモンスターがいなかったのでそのまま一緒に帰る事にしたが、近くにジャイアントトードがいた上で私たちに気が付いていたらゲイ・ボルグの使用も考えていたと思う。なんというか、それほどまでにいたたまれなかった。

 

 ちなみに初心者殺しの長剣での討伐はすぐに終わった。どこかの亡霊の如き暗殺者、ぶっちゃけキングハサンのように首を断たせてもらった。長剣の扱いの練習もしたかったのだけど、最近なぜか初心者殺しの動きが遅く感じるようになってしまったのでそこまで回避、受け流しの練習ができなかった。今度からは速度アップ系のスキルの熟練度上げに付き合ってもらうとしよう。流石にまだ並走できるほどの速さは無いので、鬼ごっこ形式で競争しようと思う。私が追いかける方になるか追いかけられることになるかはまだ分からないが。

 

 話が脱線してしまった。カズマ君にお手伝いを頼まれたので、明日パーティーメンバーの募集の張り紙を出して貰うことにした。その時に正式にパーティーとして頑張ろうと思う。ただ私は面白そうな依頼があったらそれに行くと思うので、ずっと手伝うことはできないと言っておいた。というか救援要請がかなり速かった気がする。私の予想では1週間から2週間後くらいになると思っていたのだけど、まさか言ったその日になるとは…。

 

 カズマ君はどちらかというと司令官ポジションだと思うけど、女神様が予想以上にポンコツなので前線で働かないといけないらしい。まぁ、女神様がヌルヌルな時点で察したが、案の定ジャイアントトードに突撃をかましたらしい。素手で。流石に私も笑ってしまった。ジャイアントトードの肉はとんでもなく柔らかく、打撃攻撃は大体が受け流されてしまうのは周知の事実だと思っていたが、日本から来た上今までバイト漬けだったカズマ君が知らないのはともかくとして、女神様は知らなかったのかな?

 

 明日はカズマ君とパーティーを組んでの討伐になる。他にも人が来るかもしれないのであまり順序立てては行動できないけど、できる限りはカズマ君の技術を育てる感じでやろうと思う。ソースはヒャッハー師匠。




作者「何とか三千字越え」
友人「野菜収穫とかネタ提供してやったのに使わないとか…」


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影島奈々の記録(5)

ルーキー日間ランキング20位に入っていたのを確認して衝動的に書きました。
…えっと、夢ですか?


二十日目

 

 今日は一段と濃い日だった。ジャイアントトードの討伐という危険度の低い依頼を請けたはずなのに心身の疲労が強い。しかも今日一日分だけでなく明日も似たような思いをする自信がある。ともかく一度自分の中で整理を付ける意味で、朝から思い出して書いてみようと思う。

 

 昨日のカズマ君との約束通り私はカズマ君のパーティーに入ることになった。パーティー募集の張り紙にはめちゃくちゃ怪しい宗教への勧誘紛いの内容と上級職に限るという項目があったけど、カズマ君が言うにはアクアが書いたものらしい。これでは誰も来ないだろうと言いたかったが、面倒なことになりそうだったのでぐっと飲みこんだ。

 

 ちなみに、昨日までの日記のようにアクアを女神様と呼ばないのはいろんな要因があるけど、一番強いのはカズマ君に目立ちたくないから名前呼びにして欲しいという要請があったからで、どうせなら日記での読み方も一緒にしようと思ったからである。この日記をアクアが読んだらどう思うだろうか。何の気なしにこの世界の言語で書いているので、この世界の人にも読めてしまうのが難点だと思う。今更変える気も起きないけれど。

 

 私が加わった時点でジャイアントトード討伐に向かうのではなく、もう1人、できれば魔法職が来てから挑戦したいとのことだったので、大人しくカズマ君と会話して待つことにした。会話の途中でカズマ君の年が私よりも3つ下なことが判明した。カズマ君には私が年上という事実にすごく驚かれたが。とりあえず軽く叩いておいた。頭には手が届かないので胸への水平チョップみたいになったけど。人の魅力は見た目じゃないんだよー。

 

 昼まで待った時点でカズマ君から募集要項の変更の提案が持ちかけられたが、ちょうどその時に念願の魔法職が現れた。名前はめぐみん。めぐみん。…めぐみん。最初聞いた時はあだ名を名乗って空気をほんわかさせる感じのジョークだと思った。だってマント翻して中二病じみた自己紹介始めるとか、日本にいた時にも1回しか体験したことなかったし。しかもその時はその人が合コンで自己紹介するときに場を和ませる練習してた時のだし。

 

 私の愉快な友人の話はともかくとして、めぐみんの職業はアークウィザード。魔法職の中でも高い知力と魔力が要求される職業で、強力な魔法を操るらしい。確かウィズさんも元アークウィザードだったと思う。

 

 見た目的な特徴は紅い瞳に黒い髪。黒いマントに黒いローブ、黒いブーツに黒いトンガリ帽子という黒一色で、名前を聞いたら多分「紅魔族随一の魔法の使い手のめぐみん」といった感じで返してくれると思う。彼女の名前は独特なので聴いたらすぐに覚えれるはずだ。私もすぐに覚えれた。

 

 ただ、紅い瞳に黒い髪、独特な名前というのは紅魔族全体に言えることらしく、それはめぐみんの父がひょいざぶろー、母がゆいゆいという名前だと言えば納得してもらえると思う。私達日本人も異世界の人から見たら独特な名前だとは思うけれど、正直紅魔族よりも酷い名前というのはなかなか見ることができないだろう。できるとしたらゲームの中だけだ。ちなみに私がゲームで見た一番酷い名前はもょもとである。発音不可能である。

 

 さて、3日も何も食べていないらしいめぐみんのご飯を私たちの昼食も兼ねて一緒に食べていざ討伐!と意気込んでいたものの、ジャイアントトードを視認した時点でアクアが速攻でジャイアントトードに突撃していき、口の中に吸い込まれた。止める暇も無かった。魔法使用までの時間稼ぎをお願いされた瞬間に走り出して、ジャイアントトードに打撃攻撃を加えて食べられる人なんて初めて見た。

 

 アクアに気を取られている間に爆裂魔法というめぐみんが持てる最強魔法の準備が完了。地面に20mほどのクレーターを作ってジャイアントトードは爆発四散。初めて見る強力な魔法に感動していたらジャイアントトードがめぐみんの魔法の爆音で目を覚まし、魔力切れで倒れためぐみんを捕食。ここまで5分もかかってなかったと思う。

 

 その時私は完全に事態が呑みこめていなかった。だってそうでしょ?自分からジャイアントトードに食べられに行ったも同然な女神、地面に巨大なクレーターを作る強力な魔法、そんなかっこいい魔法を使った本人は魔力切れで倒れる、湧き出る新手、食われる魔法使い。カズマ君がツッコミしてくれてなかったら多分ショートしてた。

 

 やっぱりパーティーを組んだら行動も変わるね。テイラーたちと一緒の時は前衛と後衛、サポートの役割分担がしっかりされてたし、クリス達のパーティーでは探索役、戦闘役、囮役とそれぞれが得意なことを分担してた。私はジャイアントトードは切断系の武器で挑んで、横方向から致命傷を与えるのが最善だと思ってた。まさか素手で突っ込むとは……。

 

 という感じで思考の海に現実逃避していた私はカズマ君にゆすられてからこの事態を何とかしないといけないとと動きまして、カズマ君にめぐみんの方のジャイアントトードをお願いして私はアクアを食べてるジャイアントトードの腹を裂いて救出。カズマ君は火事場の馬鹿力が発動しているんじゃないかといいたくなるような跳躍でジャイアントトードの頭部を破壊しているのが見えた。

 

 カズマ君の方を確認していたらアクアが泣きついてきて、怖かった臭かったと喚き散らすばかり。なぜ突っ込んだ。そして泣きつかれたせいで私の服まで粘液でヌルヌルに。思わずうへぇと声を出した私は悪くないと思う。

 

 ジャイアントトードの討伐終了後、ギルドに向かう道すがら反省会が行われた。アクアは言わずもがな。私はもうちょっと早めに復活できていたらめぐみんは食べられなかっただろうと反省。ただそのめぐみんが問題だった。

 

 めぐみんに次から他の魔法で戦ってくれと軽く言うカズマ君への返答が「できません」。めぐみんの言うことを私なりに解釈したところ、爆裂魔法以外を使う気が無いので他の魔法は使えないとのこと。頭痛がした。

 

 めぐみんの話を聞くうちに顔色が悪くなっていったカズマ君は、まくしたてるようにめぐみんの加入を遠回しに反対し、解散に持ち込もうとするが断念。何かの粘液でヌルヌルの少女を捨てようとする様子を近隣の住民に目撃され、変な風評被害が広まりそうになったためだ。あの女性3人はいささか想像力がエッチな方面に豊かすぎると思う。

 

 こうしてカズマ君のパーティーに1日1回しか魔法が使えない魔法使いが加入した。強力な魔法を使えるが日に一回しか使えず、使った後は全く動けない。ウィズさんの店にそんな産廃商品があってもおかしくはなさそうだ。

 

 こっそり隠れながらと宿に退散しようとしていた私もカズマ君の何かを訴える視線には抗えず、このままパーティーにいることになった。

 

 これで終わりかと思えばまだ少し悩ましい出来事が。

 

 私たちがお風呂に入っている時、カズマ君は報酬を受け取っていたのだが、その後テーブルで私たちを待っている時に更なる加入希望者が来たそうだ。

 

 特徴は金髪で長身。金属の鎧を着た女性だったそうだが、なんだか危ない感じがしたので適当にあしらったとのこと。

 

 どうしよう、凄く心当たりがある。

 

 間違っていることを願ってカズマ君に「もしかして美人だった?」と聞くと答えは応。金髪で長身の美人で、金属の鎧を着た危ない感じの女性。確定した。どうしよう、これダクネスだ。クリスがいないということはストッパーもいないということ。これはあのドMがこのパーティーに加わる可能性も出てきたんじゃないかな?

 

 ダクネスはなんとなくしつこい感じがあるから、多分明日も来るんだろうなぁと思いつつ吐いたため息は、今日1日分の疲れを全て表しているように思えた。



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影島奈々の記録(6)

課題に追われて遅くなりました


二十一日目

 

 もうこの世界の常識についてツッコミを入れるのは止めようと思う。頭がおかしくなりそうな気しかしないから。というか単純にツッコミが追い付かない。

 

 今日はカズマ君たちと予定を合わせるため、朝の討伐には出ずにギルドで昼食を摂った。今までが依頼漬けの生活だったせいで何もしていない時間がとてつもなく暇だった。この年でワーカーホリックにはなりたくないかな。というか単純に筋力の値が上がらないから願ったり叶ったり。最近、筋力の値が全体で二番目に高い知力の値に追いつきそうになっているのが本気でこわい。

 

 食事の合間にカズマ君にスキルの習得の仕方を教えていると、ダクネスとクリスが声をかけてきた。クリスはダクネスの付き添いついでにスキルを教えに来たらしく、盗賊のスキルをオススメしていた。ダクネスは昨日の予想通り、パーティー加入希望だった。

 

 冒険者という職業は相手にスキルを教えてもらう時に実演してもらう必要があるらしく、カズマ君とクリスは冒険者ギルドの裏に連れ立っていった。ダクネスはなぜかついて行ってた。帰ってくる間は暇だったが、アクアの披露する花鳥風月というスキルを鑑賞して楽しんだ。おひねりを断らなかったらかなり稼げると思う。もしやアクアは宴会芸の神様、もしくは大道芸の神様なんじゃないかな。

 

 カズマ君は十分くらいで帰ってきた。無事?にスキルの習得ができたらしく、敵感知、潜伏、窃盗スキルを習得できたみたい。ただ、窃盗のスキルを使用した結果は幸運の値に左右されるらしく、カズマ君はなぜかクリスのパンツ下着を剥ぎ取ったらしい。なんでやねん。

 

 めぐみんの「無事にスキルは覚えられたのですか?」という質問に答えるようにめぐみんにスキルを発動した結果、黒い下着を剥ぎ取う結果となった。めぐみんって、基本、服は赤と黒なんだね、下着も含めて。というか、見た目に似合わず大人っぽい下着でこっちが恥ずかしくなった。

 

 下着を剥ぎ取ったカズマ君に対して憤慨する女性、を装うダクネスにアクアとめぐみんの興味の目が向き、ギルド内のテーブルで会議的なものが開かれた。ダクネスの職業がクルセイダーであることを確認したアクアとめぐみんはダクネスの加入に賛成意見を出したが、まぁ、ダクネスだし。ダクネスに唯一危機感を感じていたカズマ君によって今後の予定、魔王軍の討伐に挑戦するという演説が行われた。めぐみんとダクネスにプレッシャーを与えてみたところ、両方の琴線に触れる話題だったらしく、両方余計に張り切った。とりあえず、なぜ魔王にエロい目に遭わされるのが女騎士という相場が何故定まっているんだろうか。

 

 この会議中、街中に緊急クエストの発令が宣言された。この緊急クエストが今日の疲労の9割を占めている。最悪。

 

 クエストの内容はキャベツの収穫。この世界のキャベツは、収穫の時期になると食べられてたまるかと飛行するようになるらしい。というかキャベツに関わらず、この世界のすべての野菜は飛ぶ。さらに、キャベツを捕獲しようとする冒険者が近づくと、全力で抵抗する。というか、この生物(?)も一応敵対してるから何とか攻略方法を見つけようとしてしまった。これ職業病?

 

 不本意ではあるけど、キャベツの対処法も書いておこうと思う。

 

 キャベツの攻撃方法は体当たりしかないので、1個1個の動きをよく見て、なぜかあるゴマのような目の直線状に立たなければ普通に対処できる。ただ、キャベツの収穫になると、冒険者もキャベツも相当な数いるので、混戦になる。もうキャベツの群れに正面から飛び込んでいって適当に剣を振り回すのが一番数を稼げると思う。正直、キャベツの攻撃法、攻略法を考えるとか馬鹿馬鹿しすぎて頭痛くなる。

 

 今年のキャベツは栄養価が高いらしく、1個1万エリスという値が付くらしい。普段はいくらなのかは知らないけど、周りの冒険者の様子を見る限りだと、かなりいい感じらしい。とりあえず、ゲイ・ボルグの投擲をしたら破裂→被害拡大という展開が目に見えたので、メイン武器になりかけている長剣を使ってキャベツの群れと踊ってきた。回収が面倒だったけど、戦っている最中は意識だけを意図的に飛ばして無意識状態で戦っていたので肉体的な疲労だけで済んだ。回収の時にキャベツの断面だらけでビックリしたのは内緒。

 

 この収穫時にダクネスが奮闘していたらしく、流れでダクネスが仲間になることになった。カズマ君が物凄い顔をしていたけど、一応フォローいれておいた。

 

 ダクネスの長所は強固さ。短所は極端なマゾヒズム、不器用。初めて会った時に遠慮なく盾役にしてくれて構わないと言っていたし、全力で盾になってもらおうと思う。本人が喜んでるし、いいよね。そういえばダクネスみたいな人のことをメイン盾っていうのかな?よく知らないけど。

 

 

二十二日

 

 今日も一段と濃い日だった。カズマ君のパーティーに入ってから1日の疲労が辛いレベルになってきた。その分楽しいし、夜がぐっすり寝れるから別にいいんだけどね。

 

 今日、というか昨日の出来事はそれなりに平和だった。日本から来たばっかりの頃だとそうは思わなかっただろうけど。もう慣れた。この世界の常識は私たちの非常識。

 

 今日はカズマ君がイメチェンした。私は朝の鬼ごっこ~初心者殺し編~を昼時までやっていたので詳しい話の流れはよく分からないんだけど、どうやらカズマ君のレベルがキャベツを使った食事で上がったので、スキル習得と一緒に装備も買ったらしい。確かに、いつまでもジャージ姿だとファンタジー感ぶち壊しもいいところだろうしね。カズマ君は比較的軽装備にしたようだ。習得したスキルは片手剣と初級魔法。魔法を使う人の中で今までまともに役に立ってくれたのはリーンくらいの者だから、カズマ君には初級魔法である程度の活躍を期待したいと思いたい。初級魔法なら日常生活に役に立つ簡単な魔法が使えるんだったかな?

 

 これでカスマ君が遊撃、アクアが回復、私とダクネスが前衛で壁。めぐみんが…とどめ?という結構いい感じのパーティーになった。私は遊撃も後衛もできるから臨機応変に対応できると思う。多分その辺は打合せしなくても大体が分かってくれると思う。アクア以外。カズマ君には是非ともアクアの保護者的な役割を期待しよう。

 

 今日請けた依頼はアンデッドモンスターの討伐。なぜか共同墓地に出没するアンデッドモンスターを討伐して欲しいとのことだったが、結果的に失敗した。私の依頼達成率が100%にならなかったのは残念だけど、正直これはしょうがないと思う。

 

 アンデッドモンスターの種類はゾンビ。戦っていないので対処法は分からないが、動きが遅いのでさっさと四肢を無力化して頭を破壊して浄化すればいいと思う。適当に書いているけど、とんでもなく眠いからだ。もう朝近いし。

 

 墓地にいたモンスターはゾンビとリッチー、というかウィズさん。リッチーという種族は魔法が存在する世界ではかなり有名なモンスターだと思うので戦いたくは無かったけど、幸いウィズさんはかなりの人格者で、戦闘を好まないタイプだったので交渉の結果でなんとかなった。

 

 詳細は眠いので省くけど、未練が残っている死者の魂を昇天させるために墓地に定期的に来ていたのだけど、ウィズさんの豊富な、豊富すぎる魔力に反応して形に残っている死体が這い出てくるそうな。なんで死体に未練が残ったまま、というか悪霊みたいな状態で埋葬するのかというと、この街のプリースト系の人たちは拝金主義。金を貰って仕事をする神官としてはどうなんだという感じの人が多いらしく、金が足りないから頼めない。みたいな人が仕方なくこの共同墓地に埋葬されているそうだ。悪霊滅ぼすべしみたいな人たちの集団、アクシズ教の元締めであるアクアをガン見した私は悪くないと思う。

 

 というかもう朝日が昇り始めた。反比例して瞼が降り始(字が乱れていて読めない)



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影島奈々の記録(7)

二十三日目

 

 今日は朝の鬼ごっこ、ギルドで雑談、熊の討伐で1日が終わった。アンデットモンスターの討伐依頼のせいで少し遅くまで寝てしまったので、今日の鬼ごっこの時間はかなり短くなった。

 

 初心者殺しとの鬼ごっこも何回かこなすうちに追いかける側になりかけている今日この頃。レベルは3くらい上がってスキルポイントもうまうま。ステータス面では上から順に敏捷、知力、筋力、生命力、器用、魔力。最初は筋力の値が下から3番目くらいだったのに、今では上から3番目なのことがかなり遺憾。今回はスキルの習得は攻撃力上昇だけにして残りはキープ。特に何かスキルを狙っているわけではないけど今後のスキル習得に役に立てばいいかなと。

 

 初心者殺しとの鬼ごっこで汗を流してから食事を取ろうと食堂に入ると、昼間からネロイドというシャワシャワする謎のドリンクを飲みながら他の冒険者と話しているカズマ君とその様子を遠巻きに見つめる3人に遭遇した。カズマ君の話を邪魔しても悪いと思い、3人の方の席に座って料理を注文することにしたが、その時にめぐみんにカズマ君が他のパーティーに入るかもしれないという心配はしてないのかという感じの質問をされたので、もしそうなったとしてもカズマ君の意思を尊重すると言っておいた。なぜか空気が若干重くなったけど。

 

 席に戻ってきたカズマ君と軽く挨拶を交わして野菜スティックを摘まむ。この野菜スティックがまた曲者で、一度机を叩くなどして驚かせないと素直に食べさせてもらえない。指から逃げる野菜とか、もう突っ込まないからな。カズマ君は何度か挑戦していたけど、ことごとく避けられて怒っていた。まぁ私は一々叩くのがめんどくさかったから逃げるスティックを敏捷と器用度の数値に物を言わせて無理矢理絡めとってたんだけど。

 

 野菜スティックの入ったコップを叩き割ろうとするカズマ君をなんとか宥めて話をすることにした。今日はカズマ君が新しく覚える予定のスキルについての相談だった。スキルを聞くのと同時にスキルの構成を聞きたかったらしい。

 

 ダクネスは物理、魔法、状態異常に対する耐性が強固で、肉盾と言うに相応しい防御特化だった。剣とかの扱いが上手くなるスキルを取らない理由は、必死になって剣を振っても当たらず、全力で戦っても力及ばず倒されるというシチュエーションが最も好ましいからだそうだ。聞いていて頭が痛くなる。

 

 めぐみんは爆裂魔法、魔法威力の上昇、詠唱時間の短縮などのスキルを持っていた。というかそれしか持っていなかった。ナチス・ドイツの80cm列車砲か何かだろうか。あれと違って1日1回しか使えないけど。他の魔法スキルを習得しないのは依然聞いた通り、爆裂魔法をこよなく愛しているからこそ他の魔法は使いたくないとかいうこれまた何を言っているのか分からない状態。ロマン砲にもほどがあると思う。

 

 アクアはカズマ君によってパスされた。多分アクアの長所である強力な回復魔法は存在価値を奪うなと言って教えて貰えないだろうし、カズマ君が欲しいスキルはパーティーの穴を埋める役らしいので、浄化魔法なども対象外。宴会芸はもってのほか。ということでパスされるのはある意味当然だと思う。

 

 私は槍、両手剣、攻撃力上昇、敏捷上昇、ルーン魔術と、遠距離以外は何でもできるしゲイ・ボルグを使えば遠距離でも対応できるオールラウンダー的な存在になっている。攻撃力に関しては一撃熊の毛皮を両断、腱を断絶するぐらい、敏捷は初心者殺しと鬼ごっこするぐらいだから結構高めだと思う。

 

 この結果から、カズマ君に取ってもらいたいスキルは狙撃とかの遠距離攻撃のスキルかな。この世界の弓を使うスキルって幸運値が関係するらしいし。カズマ君、確か幸運のステータス3桁無かったかな?

 

 このあと、カズマ君と一緒に一撃熊の討伐に行ってきた。カズマ君は途中まで嫌がっていたけど、私がデコイのスキル持ちだから気を引くと伝えたら少しマシになったような気がした。一撃熊は楽に倒せるようにはなったけど、まだ攻撃を食らったらどうなるか分からないので、今回はカズマ君を守りながらの戦闘ということになった。護衛というかなり新鮮な戦い方ができたのでいい経験になったと思う。いつも通り腱を斬って動きを止めるだけだったけど、カズマ君の戦闘練習ということもあって少し苦戦した気もする。クリエイト・アースとウィンドブレスの組み合わせはいろんな敵に通用することが分かった。

 

 そういえば、私が日本人だということはやっぱりカズマ君も分かっていたらしい。カズマ君より10日ほど早く来たのに一撃熊の討伐が簡単になっているのはやっぱりヒャッハー師匠の影響なのだろうか。嫌がらせも兼ねて、ギルドの酒場でカード勝負をして金を稼がせてもらった。ささやかな復讐ということで見逃してほしい。

 

 ヒャッハー師匠って見た感じかなり強いのに、なんでこの街に住んでいるんだろう。この前遠出するって聞いてはいたけど、王都とかの方が稼ぎはいいんじゃないかな?もしかしてこの街に相当な思い出があるとか?

 

 

二十四日目

 

 今日はこの世界に来て一番稼げた日だと思う。例の忌々しきキャベツ収穫の報酬が支払われ、懐がかなり潤った。やっぱり1個で1万エリスはかなり高かったらしく、私の報酬は90万エリスほどだった。パーティー内でのトップはカズマ君だったけど、キャベツに含まれた経験値が豊富で報酬が上乗せさせられたらしい。これが幸運値の差というやつなのかな?ただカズマ君の報酬に張り合うくらいにキャベツを討伐した私はどういうことなんだろう。剣の腕?

 

 資金が溜まったので、武具屋さんに行って切れ味のいい長剣と1ランク上の革鎧を購入した。金属鎧は重そうだから買いたくない。今回の革鎧は前まで使っていた物よりは重いらしいけど、全く違いが無いような気がした。これが筋力値の上昇の恩恵かな…。

 

 ダクネスは鎧の強化、めぐみんは魔法に使う杖の新調、アクアは借金の返済に使ったそうだ。

 

 アクアは、自分の幸運値の低さのせいなのか、捕まえた野菜がすべてレタスだったせいで報酬が激減。キャベツが大量に取れると踏んでいたためにギルドにかなりの借金を負っていた。その返済でカズマ君にお金を借りるという駄女神行為。これ、日本とかでは速攻で破産する感じの人なんじゃないかな?

 

 この後、新しく手に入れた装備、スキルを試すために依頼を請けようと掲示板に向かったが、近頃魔王軍の幹部らしき者がこの近くに来たらしく、その影響で弱いモンスターが隠れてしまったようで、高難度の依頼しか残っていなかった。

 

 カズマ君たちに難易度の高い依頼でスキルの試し撃ちをさせるわけにもいかないので、ダクネスと一緒にブラックファングというモンスターの討伐に行ってきた。文なしのアクアは悲鳴を上げていたが、命には代えられないらしくアルバイトの雑誌を涙目でめくっていた。一応一緒に来るかと誘ってみたけど、冗談じゃないと断られてしまった。

 

 ブラックファングはその名の通り黒い毛皮を持つ巨大熊で、かなり強化された一撃熊のような印象を持たせるモンスターだった。一撃熊は攻撃を避けた時の風圧の感じでは当たったら一撃で重症を負うくらいの威力だと想定できたが、ブラックファングは一撃でミンチになるくらいの威力だと想定できた。メイン盾のダクネスがスキルで気を引いてくれていなかったらかなり危なかったと思う。ダクネスの異常な硬さにブラックファングが引いていたような気がするが、多分気のせいだと思う。

 

 ブラックファングの攻撃方法、攻略方法は骨格の関係なのか、一撃熊とほとんど同じなので割愛。ぶっちゃけ、防御力と攻撃力、あと速度が倍近くになった一撃熊ってだけなので、基本ステータスを上げて武器の性能を上げて物理で討伐すればいいね。今回ばかりは私も本気で挑むためにゲイ・ボルグを持ち出して討伐しましたよ。一回攻撃を受け止めたけど、腕の骨が折れるかと思った。ゲイ・ボルグも折れるかと思った。そこは流石怪物の骨ということで、鉄パイプみたいな音を立てて受けとめた。拍子抜けした気がしないでもない。

 

 ブラックファングは爪、牙、毛皮、骨、肉と、鯨のように使えない部位は無いという自然に優しい?モンスターなので、討伐後にブラックファングの死体を馬車に積み込んで街にそのまま運んだ。運んでいる途中でダクネスに槍も使えたのか、みたいなことを言われた。私は槍がメイン武器ですぅ。

 

 何度か苦戦はしたけど、ゲイ・ボルグの能力と注意を引いてくれたダクネスのおかげで勝てた感じが強いので、いつかはブラックファングも長剣でのソロ討伐に挑んでみたいと思う。絶対何年か後になるけど。



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影島奈々の記録(8)

遅くなって本当に申し訳ない。(待ってる人がいるのかは分からないけど)
Fate、アイマス、ペルソナといろんな小説を読み漁ってたら手を伸ばしそうになっていたので何とか自制して投稿です

今回はリハビリも兼ねているので結構短いです


三十日目

 

 ブラックファング討伐から早6日。私がアラクネとかオーガとかコカトリスとかの討伐をしている間に時間はとんでもなく早く過ぎてしまった。自分で書いてて何をしているのかと不安になる。いや、あとから来るかもしれない転生者の手助けになればいいなっていうのも日記を書く目的の一つだけど、それにしたって凶暴なモンスターに挑みすぎだね。こんなんだから街の冒険者にアマゾネス関連のあだ名を付けられるんだよ…。

 

 というか本当にアマゾネス・脳筋系の噂が増えすぎ!まだ知力の値を越してないから!まぁ急上昇する筋力の数値に危機感を覚えて魔術の勉強とかしてるからなんだけど。

 

 魔王軍の幹部の襲来というイベントはもはや私にとっては強いモンスターを狩りに行く口実にしかならなかった。コカトリスとかのモンスターの討伐にパーティーを巻き込んで危険に晒したくないしね。多分誘っても断られてたと思うけど。

 

 度重なる討伐系の依頼の達成でレベルがとんでもないことになりかけている。ブラックファングの時から冒険者カードをみていなかったから伸び幅とかは詳しくは分からないけど、レベルが20から28くらいになった。ブラックファングを入れても1匹につき2レベル上がってるのはどう考えてもおかしいと思う。最後の方とか上がりにくいはずなんだけどなぁ。とにかく格上の相手と連続戦闘するのは避けた方がいいことが分かったね。

 

 討伐依頼のほかに、いつだったかやった森の中を全力疾走。あれに似たことをしてゲイ・ボルグの性能とかを確かめたりもした。結局分かったのは投げたら手元に戻ってくることと、アニメやゲームと違って確実に対象の心臓に向けて飛んでくれることかな。この世界に熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)とかの防御系の宝具、もしくは原点集めてる人の能力の所有者でもない限りは確実に討ち取れるね。アクア曰く、死んでも身体が残ってたら生き返らせれるらしいけど、身体の傷とかを塞ぐのは時間がかかるらしい。これで魔王軍との全面戦争が起きて、かつ相手側に超優秀な回復役がいてもゴリ押せることが判明したね。もう魔王軍と戦うとかいう気が起きないくらいには平和に慣れたんだけど。

 

 レベルが上がったことでスキルを習得できるんだけど、硬化のルーンだけ習得してのこったポイントは温存することにした。そろそろ、クラスチェンジの時期についても考え始めないといけないかな?盾関連のスキルは習得するつもりは無いし、槍とか両手剣スキルは技を使ったら若干隙ができるらしいからいらないし、ルーンもある程度回収したしね。あとは役に立ちそうなスキルをいくらか見繕って別の職業になってしまうのもいいかもしれない。まぁ、なるとしてもランサーなんだけど。

 

 

三十一日目

 

 今日は非常に忙しい一日だった。朝一番から、街の近くに来ていたという魔王軍幹部のデュラハンが自ら乗り込んできたのだ。

 

 心底お怒りの様子だったので話を聞くと、1週間ほど前から毎日自分たちが拠点にしていた古城に爆裂魔法を1発だけ撃ち込んでいく不届き者がいるそうだ。度重なるいやがらせ行為についに堪忍袋の緒が炸裂したようで、こうして街まで異議を申し立てに来たらしい。

 

 爆裂魔法を撃ちこむなんでなんて奴だ、信じられないとめぐみんを見ると、冷や汗と共に目線を逸らされた。目線の先にいた魔法使いの女の子が不憫でならない。

 

 取り合えずパーティー内でも最年長(アクアは除く)な私にも監督不行届だったという罪はあるのでめぐみんと共に前に出て誠心誠意謝罪させてもらった。いや、人類の敵に何してるんだって言われるかもしれないけど、相手は魔王軍の幹部、駆け出し冒険者が多く住む街なんて一ひねりにされるのが目に見えるし、アンデッドってことを抜きにしても相手側に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

 話を聞くところによると、上司の命令でこの地の周辺の調査を任されただけで特に侵攻するつもりはなかったそうだし、モンスターが怯えて隠れる程度の被害しか出していないんだから身に覚えのない爆撃とかされたら怒るわ。もし古城に住んでた人を殺してたら別だけどね。

 

 という訳で地面に頭を叩きつけるくらいの勢いで謝罪した。土下座の文化が広まってるか分からなかったから腰を90度に曲げて。

 

 私の全身全霊の謝罪を聞いてデュラハンは分かればいいんだよみたいな感じで爆裂魔法を撃ちこむなという忠告だけ残して帰ろうとしたが、ここでめぐみんの空気の読めない発言。多分紅魔族は1日に1回爆裂魔法を撃たなくても死なないと思うな!!

 

 というわけでデュラハンが怒ってしまいました。私の謝罪とは一体…。

 

 めぐみんに指をさして『死の宣告』というスキルを使用したところでダクネスが割り込んでめぐみんをかばってくれた。私も庇おうとしたけど、なんかすごい勢いで押しのけられた。

 

 予定とは違ったけど、この呪いをかけられた人間は1週間後に死ぬ。素直に言うことを聞かないからこうなったのだと高らかに笑うデュラハンにダクネスのド変態ぶりが発揮される。

 

 呪いを解いてほしくば俺の言うことを聞け、なんて欠片も言ってないのに呪いをかけられたってだけでそこまで考え突くダクネスの頭はほんとに沸いてると思う。自分が1週間後に死ぬかもしれないのにどこまでもシリアスな雰囲気にならないのはこのパーティーのいいところなのか悪いところなのか…。

 

 ダクネスにドン引きしたデュラハンはどもりながら古城に逃げ帰った。

 

 デュラハンの最後に言った言葉、呪いを解いてほしかったら自分の城に攻め入り、自分の前まで辿り着いて見せろという言葉に従おうとするカズマ君とめぐみんに着いて行こうと長剣を回収したところでアクアの浄化魔法が発動。ダクネスにかけられていた呪いを全浄化するという凄技を披露してくれた。キャーメガミサマー。私のやる気を返して。

 

 その後はもう日課の鬼ごっこで時間をつぶしただけ。めぐみんは今日のことで反省してくれたら嬉しいです。いやほんと。




作者「ここから1週間分の話を考えないと…なんか思いつかない?」
友人「自分で考えろ」


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影島奈々の記録(9)

MHW、皆さん買いましたか?私は当然の如く購入してイベント依頼からキリン装備を速攻で揃えました。もちろん女性キャラで


三十八日目

 

 今日はこの世界に来て一番疲れた。精神的な疲れではキャベツの方がまだ上だけど、肉体的な疲れでここまでのものは初めて。

 

 今日もいつも通り鬼ごっこをしてきたが、今日で終わりにしようと思う。最近は初心者殺しの動きについていけるどころの話ではなく、初心者殺しの動きを先読みして首元に剣を滑り込ませるくらいにはなってしまったから。先読みだけならともかく、動きについていけるんだったら敏捷の数値も十分なくらいに成長してるって証拠だし、あんまり殺しすぎたら生態系に影響が出るかもしれないしね。どこかの世界の狩人も自然界との調和を重要視してたし、正しい選択だと思いたい。というか初心者殺しに追いつける人類ってこの世界に何人いるんだろうね。高レベルの冒険者とかにそこそこ多いことを祈るばかり。

 

 いつものように浴場で汗を流して食事を摂っていたところで丁度同じ時間に食事をしていたアクアがクエストに行こうと言い始めた。ダクネスと私はどちらかというと賛成、くらいの考えだったので、アクアが望むなら高難度の依頼に連れていく手も考えていた。ゲームとかで言う寄生に当たる行為だけど、オンラインゲームみたいにアクアに経験値が渡ることは無いので私はいいんじゃないかと思っている。どうせダクネスがついてくるだろうからアクアの安全は守れるしね。

 

 反対派のカズマ君とめぐみんはアクアの泣き落としに屈したので全員で依頼に行くことになった時点でこの考えは消し飛んだけど。

 

 好きな依頼を取って来いとカズマ君に言われたアクアは上機嫌で掲示板に向かった。カズマ君が念のため後ろから着いて行ったところ、アクアが請けようとしていたのはギルドに貼ってある依頼書の中で最も危険と思われるグレンデルという巨人の討伐。全員で反対させてもらった。ゲイ・ボルグの能力を使えば全く問題はないんだろうけど、私は緊急時以外はゲイ・ボルグの能力を使いたくはない。神器の能力を自分の力だと思いたくないから。

 

 結局、アクアの水の神としての権能、『触れている液体を水にする』というのを利用した依頼、『湖の浄化』に落ち着いた。湖は街の近くにあるもので、水質が悪くなり、モンスターが住みついてしまったというもの。ブルータルアリゲーターという鰐のようなモンスター、というか鰐が多数存在していた。ブルータルアリゲーターは地球の鰐に比べて顎の力がとても強い。しかも浄化中に襲い掛かってくる可能性が高かったため、ギルドに猛獣捕獲用の巨大な檻を借りた。アクアを中に閉じ込める形で湖に置いていく感じ。

 

 ブルータルアリゲーターの対処法としては地球の鰐と同じ、といっても分かる人なんていないと思う。地球の鰐は閉じる力は強いが、開く力はそれほどでもない。後ろから近づいて、背中の上に跨いで口にロープを掛ければ捕獲・無力化ができる。この世界の鰐も似たようなもので、閉じる力は計り知れないが、口を無力化してしまえば脅威はほとんどなくなる。あえて挙げるなら爪くらいかな。

 

 私の場合は今回、長剣とゲイ・ボルグの両方を持って行っていたので幸いした。長剣を口の辺りに突き刺して(気分は忍者マンガ・綱手の「閉じてろ!」)ゲイ・ボルグでとどめ。陸に引きずり出せばこういうことができるから楽で助かる。

 

 本来、ブルータルアリゲーターの相手をするつもりは無かったんだけど、檻のなかで群れに囲まれて泣き叫んでいたアクアを見ていたたまれない気持ちになって、つい。別にチンパンジーの声真似上手いですね、と思ってしまった罪滅ぼしではない、断じてない。

 

 浄化を始めて大体7時間。湖全体の浄化が終わったのか、ブルータルアリゲーターの群れはどこかに行ってしまった。私の討伐数は15匹とやや少なめだったが、多分休憩しながらちまちまと狩っていたからだと思う。ブルータルアリゲーターの素材で使える所は分からないので、とりあえず使えそうな爪と、美味しいと聞いたことがあるテール肉を剥ぎ取った。保存して明日にでもギルドの調理師に渡してみようと思って今も置いてある。最近寒くなってきたので腐りにくくなっている(かもしれない)。寒いのは苦手だけど、こういった点では助かるね。

 

 7時間もの間鰐に檻を攻撃され続けていたアクアは心に大変な被害を受けてしまったようで、しばらくの間檻から出ようとしなかった。アクアが食いついてくるであろう報酬の話を出してみたけど、反応は微々たるもの。報酬全額でも立ち直らないって言うのはとんでもない心労だったんだろう。結果的にアクアは檻から出てくることになるけど、この時アクアが復帰する要因となったミツルギ君には感謝こそすれど、彼の誘ってくれたパーティーにはあまり行こうとは思わなかった。そこそこ楽しそうなんだけどね。

 

 さっきアクアが復帰する要因になったと書いたミツルギという人は、檻の中から出たくないと駄々をこねるアクアを檻に入れたまま運搬している途中で出会った少年だ。彼も転生者で、魔剣・グラムという神器を特典としてもらっていた。グラムは多分北欧神話の石や鉄を軽々と切り裂くほど鋭利だとか。彼の背中に装備されていたうえ、かなり長かったことから鍛えなおされた後かな?某運命ゲームのすまないさんの扱う武器、バルムンクのモデルになっていた気がする。

 

 ミツルギ君はいわゆるラノベの主人公、を成長させるために作者が仕向けた踏み台。のような感じだと思う。言動がもう少し人のことを考えてたら主人公の友達くらいのキャラにはなったんじゃないかな。

 

 ミツルギ君はアクアに深い感謝の念を抱いているようだ。まぁ、日本よりは生きてて楽しいよね。そんな世界に転生させてもらえたし、立派な武器も貰えたし。私もその点ではアクアに大声で感謝の念を伝えることができる。パーティーになってからは……駄目な点が多すぎてその辺の感謝が消えそうだけど。

 

 アクアが女神扱いされたことによって精神的に復帰をしてから、ミツルギ君はカズマ君を軽く罵りつつ私達をパーティーに誘ってきた。

 

 大分簡潔に書いているけど、普通に人ならこうなると思う。自分が尊敬している、もしくは感謝を抱いている人物が檻の中に閉じ込められていたらキレるわ。

 

 そんなこんなでカズマ君に詰め寄るミツルギ君を私とダクネスで止めたところ、ミツルギ君は私達に視点を移し始めた。綺麗な人と言われたのは嬉しかったけど、彼のスタイルはなんというか、全く惹かれなかった。カズマ君の方が一緒にいて面白そうだ。ミツルギ君と一緒にいて面白そうなのは強いモンスターに挑めるであろうことだろうけど、若干ナルシストが入った性格は苦手だ。正義感の強いナルシストとある程度クズの入った仲間思いならクズの方がマシだ。カズマ君がクズということではないんだけどね。

 

 その後、なぜか決闘によってアクアの今後が決められることになった。低レベルの冒険者に高レベルのソードマスターが瞬殺される様は滑稽だったとだけ書いておこうと思う。

 

 カズマ君は決闘の商品としてミツルギ君のグラムを回収。ミツルギ君のパーティーの女の子たちに抗議を受けたが、カズマ君の下着を剥ぎ取るぞ発言に怯えて逃げていってしまった。前言撤回。カズマ君クズかもしれない。ちなみに、グラムはカズマ君が即座に武器屋さんに売り払った。重いから運ぶのがめんどくさいという理由で。もはや何も言うまい。

 

 ギルドに到着したところでまたもアクアの絶叫が木霊することになる。キャベツの報酬依頼の悲痛な叫びだった。ブルータルアリゲーターの攻撃のせいでボロボロに、ミツルギ君のせいで一部は変形している檻の弁償代がとんでもない額になっているのだとか。確か20万エリスくらいかな。私が弁償してもよかったんだけど、代わりに払ってくれた人がいる。ミツルギ君だ。街の人に話を聞きながらカズマ君を探していたらしい。懲りずにまたアクアをパーティーに勧誘していたが、他ならぬアクア本人に思いっきり殴られてた。

 

 カズマ君を探していた理由はアクアの勧誘の他に、グラムを返して貰いに来たらしい。他にはなんでも譲るからと言っていたが、カズマ君はもうグラムを売却していたので取引すら成立しなかった。しかもアクアに私の価値はお店で一番高い剣と同等なのかと激怒され好感度も駄々下がり。哀れなり。

 

 神器に頼りすぎると万が一の時にこうなるんだなっていういい勉強になった。これからも剣と槍の練習を怠らないようにしたい。

 

 カズマ君がグラムを売却したことを知ったミツルギ君は泣きながらギルドを去った。多分これからいろんな武具屋を回って、その売値に絶望して頑張ってモンスターを討伐しに行くことだろう。…多分ね。

 

 ミツルギ君があまりにもアクアのことを女神様と呼んでいたのでめぐみんとダクネスがその点を疑問に思っていたが、自分は女神だと事実を述べたアクアが適当にあしらわれていたのは申し訳ないが笑える光景だった。

 

 平和なのはここまで。この直後の緊急アナウンスから私たちは面倒なことに巻き込まれることになる。

 

(次のページに続いている)



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影島奈々の記録(10)

今回は長めです。
と言ってもどのくらいの長さがいいのか分からないので、文章が短いとか長いとかのアドバイスを頂けると嬉しいです。

戦闘描写のような何かが入っていますが、こういった描写は苦手なので変な表現があっても見逃してください…


 1週間ぶりに街に鳴り響いた緊急アナウンスに名指しで呼び出された私たちはアクセルの正門前であのデュラハンと再会することになった。前回とは違い、背後にかなりグロテスクなアンデットの集団(軍勢?)を引き連れ、身体から怒りのオーラを立ち昇らせて静かに佇んでいた。

 

 正門に到着した私たち、特にめぐみんを見つけると、絶叫した。なぜ城に来ないのだ、と。一瞬呆気にとられたが、当然と言えば当然の言葉だった。ダクネスは1週間前、死の宣告という呪詛を浴びた。デュラハンは仲間の呪いを解いて欲しかったら城に攻め込み、自分のところに辿り着けと言い残して去ったのだから、当然自分のところに攻めに来ると思っていたはず、まさか女神によって呪いが完全に浄化されたとは思ってもみなかっただろう。どうしよう、よくよく考えなくてもデュラハンが善人というか、良い人過ぎて今更ながら罪悪感に襲われた。

 

 しかも、忠告したにも関わらずめぐみんが毎日爆裂魔法を撃ち込みに行っていたそうだ。反省の色が見えないなこの爆裂少女は。しかもめぐみんは爆裂魔法を1発撃ったら倒れるため街まで運ぶ役が必要、つまりはアクアの共犯も発覚した。生まれて初めて女神という種族に軽蔑の念を抱いたことをここに記載しておく。

 

 あと、私も怒られた。自分たちに非があると分かって誠心誠意謝罪したお前はまともだと思ってたのに、と。返す言葉が無かったので黙るしかなかった。言えないよ。あなたが呪いかけた人、あなたが帰って数分もしないうちに呪い解かれましたよなんて。もしかして報告に行けばよかったかな?その辺は考えもしなかった。

 

 怒りで興奮してきたデュラハンは死の呪いに対して1歩も引かずに仲間を庇ったダクネスがいかに騎士として優秀かを語ろうとしたところで、重い鎧のせいで遅れてきたダクネスが正門に到着した。デュラハンの素っ頓狂な声は面白かったとだけ。

 

 デュラハンの反応を見たアクアはここぞとばかりにデュラハンを馬鹿にし始める。しかも私がデュラハンの名誉を傷つけないようにと思って言わなかった呪いのことを言ってしまった。私の気遣いとか少しは考えてほしかった。アクアがデュラハンを煽っている時の顔は、わずか数時間前までは死んだ魚のような目で檻の中に閉じこもっていた傷心女神を欠片も感じさせない心底楽しいといった顔だった。

 

 アクアのまさに神がかった煽りを受けたデュラハンは激怒したようで、自分がその気になれば街の住民を皆殺しにできるのだぞと脅しをかけるが、これもアクアによって妨害。アンデッドのくせに生意気という理不尽極まりない理由で浄化魔法を発動。余裕の表情で受けて立ったデュラハンはその身体から黒い煙と叫び声を上げることになる。女神の浄化魔法を受けて立てるところは流石は魔王軍幹部と言ったところだろうか。

 

 しかし、アクアにとことん私の見せ場と出番を奪われていると思う。こちとらデュラハンが皆殺し発言をした瞬間から臨戦態勢だったのに。アクアが関わるとどう考えてもギャグにしかならない。平和な日常の終わりとは一体何だったのか。

 

 デュラハンは自分にダメージを与える浄化魔法の使い手のアクアに困惑していた様子だったが、言葉を続けることも叶わず上位の浄化魔法によって地面を転がりまわることになる。確か魔王軍の占い師がこの街に光が落ちてきたから調査しに来たけど、面倒だから全員殺すか。とか言っていたからナイスとは言っておく。

 

 台詞を最後まで言えなかったことに不満を持ったデュラハンは後ろに控えていたアンデッドを突撃させた。……この書き方だとデュラハンが子供っぽくなるけど、まぁ似たようなもんだろうし別に問題はないだろう。

 

 アンデッドの名前は全部統一でアンデットナイト。聞くところによるとゾンビの上位互換らしい。駆け出し冒険者にとっては十分な脅威となる厄介な敵は、私とアクアのコンビネーション(?)によって半分以上討伐されることになる。

 

 アンデットナイトたちは街の人を攻撃するという指令を受けたにもかかわらずアクアにしか興味を示さず、アクアはアンデッドと全力で鬼ごっこをする羽目になった。流石に放っておいたら面倒なことになると思ったので、アクアと鬼ごっこをするアンデッドを最後尾から順番に断頭した。あの時正門にいた冒険者が1~2人で手を組んで1匹を相手にできるくらいまで減らしてやめたけど。「ゾンビの弱点は頭部」これゾンビゲーの常識。

 

 人型のモンスターを手にかけることになにも思わなかったわけではないが、所詮は死人だし、人を襲うようなのはもはや犯罪者のそれだと自分の中で片を付けておくことにした。そう考えた方が心の被害は少ない。というかモンスターに対しては人型じゃないとはいえ結構酷いことしている。被害者筆頭は初心者殺し。

 

 自分が連れてきたアンデッドが半分以上1人(2人)の手によって討伐されたデュラハンは目を見開いて驚いていた。というか、喜んでいたように思う。ゲイ・ボルグを持ってデュラハンに相対したときに、剣の腕を軽く褒められたのは少し意外だった。その後に剣では戦わないのかと言われたので、槍の方が私の得意武器だとだけ答えた。

 

 いざ一騎打ちという雰囲気が出始めたところで空気の読めない冒険者、多分戦士とかの職業の人たちが乱入してきた。私1人に任せて傍観するのは男じゃないとか言っていたけど、結果的に邪魔にしかならなかったのでさっさと傍観者に戻ってほしかった。あと、ダクネスも乱入してきた。と言っても自分から挑むのではなく、ブラックファング討伐のときのように文字通り盾役になりに来たらしい。ダクネスは常時キャラがぶれないからうらやましい。

 

 そんなことを思っていると血気盛んな冒険者がデュラハンを取り囲んで一斉に攻撃を仕掛けようとしていた。対してデュラハンは片手に頭を、片手に剣を持ち、余裕の表情で立っていた。冒険者たちは自分たちは時間稼ぎ、本命が到着するまでの捨て石でいいと言っていた。もうこの時点で死亡フラグが立っているので私はいつでも飛び出せるように足に力を込めて構えていた。

 

 デュラハンの背後にいた大剣を持った冒険者がわずかに動くのを皮切りに、多数の冒険者がデュラハンに攻撃を仕掛けた。対するデュラハンは自分の首を天高くに放り投げた。この時、背中を冷たいものに撫でられたように感じた私は速度上昇のスキルをフルに活用して駆けていた。デュラハンは背後からの冒険者の攻撃を流れるように躱し、両手で握りなおした剣を振り下ろした。

 

 デュラハンは魔王軍幹部という肩書に腕前で、その筋力、剣速は目を見張るほどのものだった。普通の冒険者でも一撃喰らえば間違いなく大怪我を負うであろうその剣は、私のゲイ・ボルグによって妨害されることになる。

 

 私は集団戦闘なんてものを一切学んでいないので詳しいことは分からないし、私が動いたところで邪魔にならないだろうが、こういった戦いで人が死ぬのは戦力減少以外の要因でも間違っていると思う。

 

 私の妨害は冒険者側にも被害が出てしまった。デュラハンの剣だけを他の人がカウンターを受けないように妨害するなんて芸当は不可能なので、冒険者とデュラハンの攻撃を全て邪魔することになってしまった。

 

 冒険者を庇うような行動にデュラハンが愉快そうに笑ったのが腹立たしくはあったが、この選択は何も間違っていなかったと今でも思う。

 

 デュラハンの剣を止めながら、他の冒険者を邪魔だと言って下がらせた。何人かが異議を唱えたが、一緒にいられた方が邪魔になること、足止めが目的なら被害が少ないことに越したことは無いことを睨みつけながら告げたら渋々引き下がってくれた。ダクネス以外。

 

 まぁ、ダクネスには何を言っても引かないことは普段の生活から分かっているので、デュラハンを引き離しながらいつものような軽口を叩きあった。他の冒険者に感じ悪いと思われたかなぁという言葉を否定してくれたのは正直とてもうれしかったけど、デュラハンからの称賛は別にいらなかった。

 

 どれだけの時間打ち合ったのかは覚えていない。ただ、疲労を知らないアンデッドの彼と生身の私がお互い本気で打ち合い続けて先にペースが崩れるのはどちらかなど分かり切っている。私は自分で作った地面の凸凹に足を取られて体勢を崩し、デュラハンに蹴り飛ばされてしまった。

 

 私と同じく満身創痍だったダクネスにとどめを刺そうとして、戦いを見守っていたカズマ君のクリエイト・ウォーターに妨害されて大きく飛び退いた。即座にフリーズを唱えて足元を凍らせ、デュラハンの動きを妨害したカズマ君が立て続けにスティールで武器を奪い取ろうとした。

 

 結果は失敗。単純なレベルという力量差のせいでスティールは不発に終わった。策はよかったとカズマ君に呪いをかけようと指を向けたデュラハンを見た時に、ダクネスと同じようなことを叫びながら私たちがそれを妨害する。私は蹴り飛ばされた時のダメージの回復で遅くなってしまったことを謝罪しながらそのままダクネスと一緒にデュラハンとの戦闘を再開した。

 

 凍った地面で動きにくかったけど、戦闘をする分には問題ないのでそのまま打ち合っていると、水をかけられた。

 

 文字通り、カズマ君のクリエイト・ウォーターによって水をかけられた。デュラハンは水を回避したので、私とダクネスがびしょびしょになるだけに終わった。私たちは真面目に戦っているのだが…というダクネスの講義には賛同せざるを得ない。恨めし気な目を向ける私たちを無視したカズマ君は、後方に控えていた魔法使いに大声で水を求めた。

 

 カズマ君曰く、アンデッドモンスターには基本的に光、火、水という属性が弱点としてメジャーなのだとジト目で抗議する私に説明してくれた。せっかくの難敵だったのにと落胆しながら、私たちが戦っていた戦場を見て、大きく溜息を吐いた。

 

 ついさっきまで私たちが激戦を繰り広げていたデュラハンは、魔法使い職による水かけ合戦に大苦戦していた。ここにゲイ・ボルグを投げてやろうかとも思ったが、よく考えたらもう死んでいる相手の心臓を打ち抜いたところで特に効果はないだろうという結論に至った。結果的に穴が開くだけじゃん。

 

 攻撃的な魔法が使えないという若いプリーストに蹴られてたところと、戦闘中にできたそこそこ大きな切り傷を治療してもらっていると、アクアがこれは一体何の遊びかと聞いてきた。そろそろ引っぱたいていいと思う、この駄女神。怒ったカズマ君の一応辛うじて水の女神という発言に腹を立てたアクアに呼び出した水によって、かなりの被害が出た。

 

 女神の力というのは強大なもので、アクアの呼び出した水は津波となって、デュラハンを巻き込み、冒険者を巻き込み、街を巻き込んだ。

 

 速攻で復活したカズマ君のスティールによってデュラハンの首は窃盗され、その場でサッカーモドキが開催。アクアによってデュラハンは完全浄化された。

 

 ちなみに、一切出番がなかっためぐみんだけど、アンデッドナイトに爆裂魔法を撃ちこんでいた。私たちがデュラハンと戦っている時に。集中しすぎ衝撃とかも気にしてなかった。

 

 今日はとにかく疲れた。書きたいことも多かったのでもう指が痛い。早く寝ようと思う。

 

PS,デュラハンの攻撃で鎧がかなり損傷してしまった。早めに買い替えるか直すかしないと。



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影島奈々の記録(11)

ダンまちとかも書いてみたくなる発作に悩まされています。

今回内容薄いかも?


三十九日目

 

 どうやら昨日討伐したデュラハンには懸賞金がかかっていたようで、朝、ギルドに顔を出すと他の冒険者たちから熱烈な歓迎を受けた。冒険者になったばかりの年若い少年少女、デュラハン討伐の際に水属性魔法で攻撃していた女性魔法使い、デュラハンに特攻を仕掛けて返り討ちにされかけた筋骨隆々とした男性冒険者。最後以外は話しかけられたり抱き着かれても問題ないけど、最後はダメ。絵面的にも私の精神的にも最悪だ。というか、私を抱きかかえる女性冒険者は何なんだろう。私はぬいぐるみじゃないんだけど。ちいさーい、かわいーいじゃないよ。気にしてるんだよ低身長。

 

 周りの冒険者に背中を押され、流されるようにしてカウンターに辿り着いた私はデュラハン(ベルディアというらしい)討伐の報酬金を笑顔の受付嬢に手渡された。今思えば若干張り付けたような笑顔だったが、あの時の私は気づかず、場の雰囲気に流されて喜んでいたものだ。

 

 その後、ダクネス、めぐみん、アクアの順でギルドに入ってきた。彼女らも私と同じように冒険者に歓迎され、アクアなんかは特に場の空気に流されて大酒を飲んでいた。ダクネスはほどほど、めぐみんはダクネスによって飲酒を妨げられていた。私は日本の法律では未成年だったため、酒の呑み方は分からなかった。幸い、私の家族が一年中酒を飲む歌を体現したような人で、彼らの世話を何年かしていたのでその辺の知識を使わせてもらった。酒の合間に水を飲むぐらいしか知らなかったけど。とりあえずお屠蘇を除いた人生初の飲酒が19歳だとは思わなかった。

 

 三十分ほど飲み騒ぎしている冒険者たちをよく飽きないなと思いつつカウンターから眺めていると、昼頃になってカズマ君がギルドにやってきた。カズマ君も私たちと同様にギルドの熱気に驚いていたようだけど、酔っ払いが苦手なのかアクアと軽く会話してカウンターに歩いてきた。私は軽く返事をするだけで終わったけど、ダクネスとめぐみんは酒の奪い合いをしていた。文だけ見たらアル中の危ない争いにしかならない。

 

 ダクネスに報酬を受け取ってこいと言われカウンターに向かったカズマ君は、私が報酬を受け取ったのと同じ受付嬢に報酬を貰いに行った。ダクネスとめぐみんに私が貰ったのと同じ大きさの袋を渡し、私たちのパーティーに特別報酬が出ていることを告げた。カズマ君は不思議そうにしていたけど、後ろにいる冒険者たちが私達がいなければデュラハンを倒せなかった、という声ではっとしたような顔になっていた。半分以上アクアの浄化系の魔法のおかげですね。分かります。

 

 デュラハンにかけられた報酬金は三億エリス。討伐でMVPになった私たちのパーティーにはその全額が支払われることになった。等分しても六千万エリス。しばらくは遊んで暮らせる額の進呈があると聞いて、周りの冒険者たちのテンションも急上昇。パーティーのリーダーであるカズマ君に対する奢れコール。それを無視したカズマ君は自分がいつも以上にのんびり安全に暮らすと宣言した。ドMのダクネスと爆裂狂のめぐみんは当然の如くこれに猛反対。私?もしそうなったらそうなったで、今の暮らしを少しグレードアップするだけで、いつも通りパーティーに加入しているだけで強大なモンスターの討伐には一人で行くだけだ。カズマ君はチートを持っていないし、こうした戦闘狂のような発想はないだろうから、たくさんのお金が入ったら安全に暮らしたいと思うのはしょうがないことだと思う。

 

 まぁ、そんなことはできないんだけど。なぜかというと、この後に渡された請求書が関わっている。

 

 アクアがデュラハンの討伐に使った魔法は小規模とはいえ水の女神の権能を使った災害レベルのものであり、それを街のすぐ近くで使ったのだから当然街にもその被害は出るわけで、アクセルの街を護っていた防壁と、その先にある民家に被害が出ており、その弁償を一部だけでもして欲しいという請求書だ。その金額は三億四千万エリス。見事に足りない。私の貯金を全額切り崩しても足りない。こうなったらモンスター討伐依頼を請けまくるしかないだろう。

 

 というわけで早速ウィル・オー・ウィスプを討伐してきた。

 

 炎を飛ばしてくる厄介な精霊だったけど、正直物理攻撃が通る時点で私の勝ち確定である。突然発生する炎は槍を振ったときの風圧で吹き飛ばした。あとは首ちょんぱ。攻撃パターンを確かめる必要もないのでさっさと殲滅した。

 

 そういえば、私の壊れた革鎧の代わりになる物を早く手に入れないと。今は報酬が借金返済という名目で天引きされていってるから、貯金を使って代わりを買っておかないと。

 

 

四十日目

 

 あの武具屋の店主はふざけているのだろうか。もし大真面目にあの服を選んでいるなら頭に蛆虫か何かが繁殖しているのではないだろうか。

 

 失礼。少し頭に来る出来事があったのでつい思ったことをそのまま書いてしまった。インクを使って書いているとこういう消し方しかできないのが難点だ。

 

 今日は昨日の日記で最後に書いていたように、壊れてしまった革鎧の代わりになる新しい防具を買い武具屋に行った。以前から防具や長剣を買っている行きつけの店だ。店に入るなりデュラハン討伐のことを褒められて暫く会話したけど、特に興味もない話題に移りそうになったのでそのまま防具がその戦闘で壊れたことを伝え、新しい防具が欲しいと告げた。

 

 店主はしばらく私を観察して店の奥から全身タイツ、その中に着るという胸と股間部のみを隠したような服。というか下着。某運命ゲームの登場人物であるスカサハ、所謂おっぱいタイツ師匠の衣装だ。とりあえず殴った。店主との友好度はそこそこであるとは自分でも思うが、それが私の中で激減した瞬間である。

 

 一応念押ししておくが、私の今の身長は147cm、誤差は±1~2cm。おっぱいタイツ師匠は168cm。お分かりいただけるだろうか。身長差は約20cm、スタイルは言わずもがな。私の身長とスタイルを某運命ゲームのキャラクターで表すなら大江山の総大将、というか鬼2人と全く同じだ。しかも彼女たちよりも若干筋肉質。書いてて悲しくなるが、そんな女があの師匠と同じ格好?良くて軽蔑の目+失笑、悪くて痴女扱いだろう。なにをあんなに考えていたのか分からない。もしやそういった趣味があったのだろうか。殴った後に罪悪感に駆られて治療とかしたけど、もしやしないほうがよかっただろうか。

 

 もうこのことは忘れよう。店主の顔を見るたびに店長がそういった趣味をもっていると思うよりはマシだろう。それはそうとして、防具はちゃんと新しいものを購入した。物音を聞いて大慌てで店の奥から飛び出してきた店主の奥さんに事情を話して、動きやすそうなものをチョイスしてもらった。料金は迷惑料も入れて渡しておいたが、多分バレてはいないだろう。少し主人とおはなししないといけないから、と店に臨時休業を知らせる看板を置いた奥さんの目が笑っていなかったのが印象的だった。

 

 奥さんに選んでもらった防具は鉄の部分を外せば見た目は完全に服なのだが、使っている繊維が特殊なようで防具としても使える代物らしい。デザインはクーフーリン[プロトタイプ]、通称プニキの着ている服だ。ちゃんと両肩、左腕、腰に鉄の防具がついている。さっきも書いたが着脱可能、普段着としても使用できる優れものだ。せっかくだし今度から膝から下に包帯(さらし?)を巻き、ゲイ・ボルグでモンスターにとどめを刺す時に穿て!抉れ!ブチ抜け!と言ってみようかな。…やめておこう。足に包帯を巻くのはともかく、決め台詞なんて言ってるのを傍から見たら多分痛い人だと思われる。私が見ても片腹大激痛だわ、とそんなことをしていた相手を全力で煽るだろう。実際私の友人がそうだったし。相手が半泣きになっても煽ることを止めずに楽しくて仕方がないといった表情で人の周囲を反復横跳びする彼は畜生と呼ぶにふさわしい男だろう。彼に比べたらカズマ君なんてまだかわいい方だ。きっと。

 

 結局今日は防具を買うだけで終わってしまった。大体店主のせいだ。そうに違いない。




作者「ネタg(ry」
友人「予想はついてた」
作者「なんか案ない?」
友人「別のキャラの視点とかで書いてみるとか」
作者「なるほど、検討しとくわ」
友人「俺の提案採用された試しがないんだけど?」


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影島奈々の記録(12)

何とか2月中に投稿できました!
でも内容がめちゃ薄いです
上手いこと書けるようになりたい…


四十七日目

 

 今日も今日とて借金返済。本格的に冬の寒さが増してきて、それに比例するようにしてモンスター討伐の難易度も上がってきた。報酬金が高くなるのは一向に構わないけど、強いモンスターが多くなるのは困る。今日も一撃熊の討伐中に狼系のモンスターに襲われた。モンスターハンターじゃないんだから、乱入モンスターとか止めて欲しい。ネコのかかってこいスキルとか持ってないから。ギルドからは追加報酬が出たからいいけど、近くにどんなモンスターがいるかは教えてほしかった。

 

 そういえば、新しく買った防具がかなり役に立ってくれている。一撃熊の攻撃は簡単に避けれるようになっているが、今回乱入してきた白狼というモンスターは初心者殺しより動きが速く、群れで行動する習性があるため、囲まれたらいろいろめんどくさい。左手が鎧で保護されているので、わざと左腕を噛ませて長剣で斬るという肉を切らせて骨を断つ戦法が有効なことがうれしかった。初心者殺し1匹であれば鬼ごっこ感覚で攻撃回避ができるけど、白狼の群れは初心者殺しよりも数も速さも違うので戦い方を変える必要があるのは面倒だった。

 

 

四十八日目

 

 雪精討伐のため雪山に赴いたカズマ君が冬将軍という高額賞金首に遭遇して首を刎ねられたそうだ。自分で書いていて冷静にしすぎだとは思うけど、本人の口から伝えられたことで旨いこと頭がこんがらがってくれている。

 

 まず、雪精というのは冬に発生する精霊の一種で、私が以前討伐したウィル・オー・ウィスプのように好戦的でなく、全くと言っていいほど戦闘能力のないモンスターだ。この世界では雪精を1匹討伐すれば春が半日早く訪れるとして有名だ。カズマ君が請けた依頼は雪精の討伐で、1匹10万エリスという値が付くらしい。戦闘力のないモンスターに結構な値段がついているのは、雪精を討伐していると現れる冬将軍の影響が強い。

 

 冬将軍の詳しい情報は無かったが、偶然姿を見かけた絵師が描いたとされる絵を見る限りでは大体2mくらいの大きさの人型のモンスターで、白い鎧を身に纏っている。一瞬で首ちょんぱされた、見事な切り口だったというアクアのいらない情報提供から適当に推察すると、『日本版"山の翁"』というフレーズがしっくり来た。多分私の思い浮かべている"山の翁"は土下座しようが何しようが首を要求されると思うが。

 

 アクアの蘇生魔法によって生き返ったカズマ君によると、死んだあとは私達転生者がまず見た景色、アクアと初めて会った真っ白な空間に似たところに意識を飛ばされるらしい。今回はアクアがゴリ押ししてくれたが、そこで対応してくれた女神エリスの言葉によると、私達日本人はすでに1度死んでからこちらに転生しているので天界規定というもので本来は生き返れないらしい。カズマ君に注意されるように念を押された。そこまで無茶なことはしてないと思うけどなぁ。

 

 その後カズマ君に斬られたという首を見せてもらったが、血の跡が残っているだけで綺麗だった。身長の関係上、椅子に座っているカズマ君の膝に上って確認することになってしまい、終わってから気恥ずかしい気持ちに包まれた。

 

 カズマ君たちは小一時間で120万エリス。つまり12匹の雪精を討伐してきたそうだ。雪精は大量にいたそうなので、そこにゲイ・ボルグを投げ込んだりしたらさぞ気持ちいいことだろう。やらないけど。

 

 

四十九日目

 

 カズマ君は数日程休養を取るそうだ。まぁ、至極当然なことだと思う。この世界に来たときはチート転生という言葉に喜んでいて意識していなかったが、自分が死んだという現実から目を背けていたのだと思う。トラックが突っ込んできたときの恐怖と衝撃を忘れようとしていたのかもしれない。

 

 とりあえず、昨日カズマ君に忠告されてしまったし、冬の間だけでも討伐は控えてみようと思う。最近あまり攻撃が当たらないからと言って油断していた面が私にもあるし。

 

 というわけで今回の討伐対象は最近一撃熊の討伐中に乱入してきた白狼の残党。退治して欲しいという依頼がまだ張られていたので受けてみた。討伐を控えるとは書いたけど、止めるとは書いてないから問題なし。

 

 白狼は以前も簡単に対処法なんかを書いてみたけど、今回はもう少し詳しく書けるといいなと思う。

 

 白狼は名前の通り白い毛皮の狼で、基本的に10匹くらいの群れで行動するようだ。前の白狼は多分逸れたか小さい群れだと思う。見た目は完全に狼なんだけど、日本で狼を見る機会なんて全く無いから大きいのか小さのかなんて分からない。大体私の胸、成人男性の腰かそれより少し上あたりの大きさじゃないかな。狼の癖に大きいとか今になってむかつく…。

 

 じゃなくて、白狼の攻撃は基本的に噛みつきと爪による裂傷系。意外と牙とか鋭いから鎧とかはしっかりした強度の物を着ていくのがおススメ。防御の仕方なんだけど、イヌ科ってこともあって、白狼の攻撃は最大の弱点でもある。腕を保護するように布を巻いて舌を掴めばもう何もできないらしい。やったことはないから断言はできないけど、昔マンガでそんなこと言ってきた気がする。と言っても、そのマンガでは水辺で、1匹の犬相手だったから狩ってたんだけど、白狼が生息するのは基本的に山奥、しかも冬に水に入るとか絶対にやりたくないだろうからさっきの豆知識は忘れて貰っても構わない。

 

 多分白狼に限らず、犬ってみんなそうなんだろうけど、かなり賢い。私が剣を振ろうとしたら飛び退くんだもの。しかも後ろから攻撃してくる奴もいたりで若干苦戦した。ちょっとゴリ押し気味になったのが悔しい。飛び退いて避けられるのは振ってる途中に踏み込んで何とか届かせたけど、後ろから来るのはカウンター気味に殴り飛ばすくらいしか対処法が思いつかない。パーティーで狩るんだったら前衛何人かで円陣組んで背後を取られないようにカバーしあうのがいいんじゃないかな?魔法職はその中心で守って貰って隙をついて攻撃。腕に自信があってもソロで挑むのは控えた方がいいかも。

 

 

五十日目

 

 ギルドでバイトを始めてみた。配膳が主な仕事だけど、私としては経理関連の仕事もやってみたいとは思っている。日本で学生をしていた時は一応経済関連の大学にいたし。まぁ、アルバイトが何を言おうと変わらないと思うので甘んじて仕事を受けようと思う。途中でセクハラしてきた冒険者は蹴り飛ばしておいた、何を欲情しているんだこんなお子様ボディーに。

 

 最近は討伐ばかりしていたからこういう仕事は久しぶりだ。思えば学生の時にアルバイトって全くしてなかった気がする。中高とバイト禁止だったし、大学入ってからそんなに経たずにこの世界に来たし。こうして考えると人生初バイトか。速攻でセクハラされるのはどうなんだろうね。

 

 1日の業務が終わると、同じ時間に終わった先輩にマッサージをしてもらえた。最近少し凝っていたので有難かったが、予想以上に上手くて少し変な声が出たのは聞き流して貰えなかった。しばらくこのネタでいじられるかもしれないと思うと仕事したくないと言いたくなる。短い期間だけバイトする予定だし、最終日までは頑張りたいと思う。



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影島奈々の記録(13)

五十三日目

 

 今日でバイトが終わった。4日間という中途半端に短い期間ではあったが、結構濃い経験を積むことができたと思う。毎日セクハラしてくる人とかね。前も書いたけどこんな低身長で出るとこ出てない筋肉質な女にセクハラして何が楽しいんだろうか。書いてて空しくなってくるけども。やっぱり特殊な性癖をもっているんだろうか。常に命の危険に晒されている冒険者ともなるとそういった私には理解できない方向に思考が飛んだりするのだろう。この条件だと私も引っかかるな。この説は無かったということで。

 

 明日からはまた冒険者として働くことになる。強敵を一撃粉砕!とかは臨場感も無いし転生者として貰った力をフルに活用するのは気が引けるのでいつも通りメイン武器は剣にしよう。最近ゲイ・ボルグを使う機会が減っているが、腕は落とさないように定期的に使っていこうと思う。かれこれ1週間くらいは使ってない気がするしね。メイン武器が長剣になりかけているのは転生特典に武器を貰った身としてはどうなんだろう。やっぱり他の転生者は武器とかをフル活用してるのかな?

 

 

五十四日目

 

 バイト終了直後にカズマ君たちは見事にやってくれた。また揉め事ですよ。

 

 今回はダストが一方的に絡んできただけなので私たちは被害者なのだが、カズマ君が煽られた時にキレた。琴線に触れたのはダストの台詞の内のほとんどだと思う。最弱職と馬鹿にされ、上級職におんぶにだっこ、しかも美人が多いとなるとダストが絡んできた理由もなんとなく察することができるが、最後の俺と代われ発言でカズマ君が全面的な肯定をしたため場が混乱した。

 

 カズマ君から見れば上級職と呼ばれる私達4人のリーダーをするというのはかなり心労の溜まる仕事だ。なにせ駄女神、爆裂狂、被虐騎士、戦闘狂と言う構成だしね。アクア達はかなりの美人だけど各自の性能が見た目を掻き消すくらいのインパクトがあるせいで全く活かせてない。

 

 カズマ君はダストの「いい女」発言に対して「お前の目についてるのは目玉じゃなくてビー玉かなんかなのか?」と言っており、アクア達はこの発言に多少のショックを受けていたようだった。私は始終笑ってたけど。

 

 結局カズマ君はキレたままの勢いで無理矢理ダストと自分の交換を成立させ、今日1日は別行動することになった。カズマ君が羨ましく感じた。ダストはこの街で散々クズだのなんだのと言われているが、カズマ君というツッコミのいないパーティーではもはや癒し成分と言ってもよかった。全員がぶっ飛んだ発言を素でするから質が悪い。

 

 カズマ君とダストの入れ替えということで、ダストにはカズマ君の役割であるリーダーを押し付けた。ダストはカズマ君がリーダーだったということに驚いていたが、些細なことなので気にしてはいけない。

 

 請けるクエストのことでいつものパーティーメンバーの意見の食い違いが起きていたが、ダストはこれを何とかまとめ、無難な討伐依頼を請けて草原に出た。その時点でもう日は高くなっていたが。

 

 ダストはまず私たちが使えるスキルについて質問してきたが、私は以前同じパーティーで依頼に行ったことがあるということで新たに追加されたスキル以外は伝えなかった。多分ダストも分かってたと思う。追加で、今回私は相当ヤバい状況にならないと介入しないことを告げておいた。ダストの頬が引きつったように見えたたけど、気のせいだね。

 

 私がこんな感じで言った理由は、まぁ普段のカズマ君の大変さを理解してもらうというのが目的の一つ。あとはそもそも私がカズマ君たちと行動ずることが少ないからなのだが、これで実質めぐみんとダスト以外有効な攻撃手段を持っていないことになる。頑張って欲しい。

 

 持っているスキルの紹介のときにもちろん事件は起きる。まずはめぐみんが初手で爆裂魔法の無駄撃ち。流石は爆裂狂と感心していると、爆音を聞きつけた初心者殺しが出てきた。ただの初心者殺しなのでこの時点では手出しをしない。

 

 初心者殺しを視認したダクネスは反射に近い反応速度で鎧も着ずに特攻。めぐみんは魔力切れで倒れているし、アクアは「初心者殺しを倒してカズマに私たちの実力を知らしめる」とか言ってこれまた特攻。ダストは一度にいろんなことが起きすぎて混乱していたが、何とか正気に戻り撤退の指示を出した。逃げれる人とかいないんだけどね。

 

 ダクネスとアクアがそれぞれ拳と杖で初心者殺しに突貫し、ダクネスが気絶、アクアが頭から齧りつかれており、めぐみんは行動不能、ダストは戦意喪失という阿鼻叫喚。

 

 流石にダクネス以外は初心者殺しに敵わないと思ったので、速攻で断頭。ダクネスは攻撃した初心者殺しが痛そうにしてたから死なないだろうけど、ダクネス以外の防御力は人並みなので全滅もありえたね。

 

 草原に出て2時間も経過していないのにパーティーが壊滅状態になったのでギルドへの帰還を決意。行動不能になっためぐみんをダストが抱え、気絶したダクネスは噛み跡が残ってるアクアに背負ってもらった。私は討伐対象だったイノシシを探して討伐しておいた。

 

 イノシシは日本でも猟師さんとか罠師さんが捕まえてるくらいなので説明はいらないと思う。突撃して来たところをステップで避けて腹側から斬りつけることで無力化と討伐は楽にできた。もしパーティーでイノシシ討伐まで辿り着けていたらダクネスが引きつけてダストとが攻撃、めぐみんは乱入してきたモンスターに魔法。アクアはバフと回復役だったろうに。

 

 この世界のイノシシの肉は獣臭がすごく、毛皮もあんまり人気が無いらしいので解体は断念してそのまま燃やした。イノシシ肉は日本にいた時に1度だけ食べたことがあるけど、歯ごたえとか結構好きだった。獣臭は結構あった。

 

 私がイノシシを討伐、焼却して街に戻ることにはかなり暗くなってしまっていた。移動時間がかなり長かったのが原因かな。ギルドではダストがカズマ君に縋りついていた。話の内容としてはダストが朝のことを全面的に謝罪し、元のパーティーに戻してほしいと懇願しているところだった。

 

 今回はカズマ君の重要度がよく分かる日でした。

 

 

五十五日目

 

 カズマ君が首ちょんぱされたという日から1週間。カズマ君が激しい運動ができるくらいには回復したそうなので明日はダンジョンに行くそうだ。ダンジョン内で爆裂魔法を使おうものなら崩壊するということで実質戦力外通告されためぐみんは猛反対したが、仲間になるときにその辺の事は伝えてあるので異議は受け付けられなかった。

 

 今回はカズマ君1人でダンジョンに潜るらしい。その間待機組の私たちが入り口で危険なモンスターの処理を行うと。暇になる未来しか見えない。本でも持っていこうかな。

 

 カズマ君がこんなことを言い始めたのはやっぱり私たちの負っている借金が原因だった。これまで何度も依頼を請け、その何割かをギルドが天引きする形で支払ってきているが、冬になると私以外は討伐依頼を受けにくくなるのでモンスターの生態があまり変わらないダンジョンで一攫千金を狙うらしい。

 

 こちらとしては待っている間暇と言うこと以外に反対意見もないので了承。今は日記を書く合間にゲイ・ボルグの手入れをしている所だ。なんか久しぶりに持ったらゲイ・ボルグが喜んでるような気がしたんだけど、やっぱり疲れてるのかな。今日は討伐依頼とかは受けずにゆっくりしてたんだけど、おかしいな。

 

 もしゲイ・ボルグに感情があるとして考えられるのは元々意思があるか後天的に、つまり付喪神的な感じでなんかが宿ったかなんだけど、神器、もしくは宝具に付喪神がついてたとしたら大変ですよ。これ以上のチート武器が強化されてたら使う機会とか本気でなくなりそう。

 

 明日は待機組としてダンジョンの前にいるように言われたので、適当な本を持っていくことにした。この世界のモンスターの生態とかがまとめられてる本なんだけど、ぱっとにではモンスターハンターシリーズのハンターノートのモンスターの絵見たいな感じかな?ドットではないけど、なんかドットぽいっていうか?日本でモンスターハンターシリーズをしてた人には結構懐かしい代物だと思うから見る機会があったら見てみることを推奨。ギルドで貸し出ししてるから買う必要もないしね。

 

 カズマ君に内緒でこっそりダンジョンに潜るっていうのも面白そうな気がする。



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影島奈々の記録(14)

五十六日目

 

 

 結局カズマ君に黙ってダンジョン侵入はしなかった。キールのダンジョンと言うおとぎ話にも登場する有名な初心者用ダンジョンだったからね。冒険者になってまだ2ヵ月も経過していない私は長年冒険者をやってい人から見ると十分新米の域だと思うけど、それでも私が入るには難易度が低すぎるので止めた。

 

 ダンジョン入り口の前でずっと待つことになるのかと出発直後は思っていたけど、なんと近くに立派な造りのログハウスが建ててあった。これはダンジョンに朝一で入る人たちが寝泊まりする用の避難所と言う名目で造られてるみたいだね。流石初心者用ダンジョン。待遇が結構いいね。わたしの初ダンジョンではクリスとダクネスと一緒に野宿だったのを思い出して少し懐かしい気持ちになった。せっかくなので、と待機はこのログハウスでさせてもらうことにした。

 

 ただ待機するのも暇だったので最近やっていなかったギルドカードの更新をすることにした。確か最後に確認したのはレベル28だった時だったけど、今のレベルは32になっていた。いろんなモンスターを狩ってきたから多少レベルが上がりにくくなってる?確か同じ転生者のミツルギ君が初対面の時にこれに近いレベルだった気がする。もう少し上だったかな?その後のデュラハンの印象が強すぎてよく覚えてないなぁ。

 

 スキルレベルがかなり余っていたので、加護のルーン、硬化のルーン(アルギス)遠見のルーン(ケーナズ)退去のルーン(エイワズ)を習得した。まぁ基本的に見た通りの効果だから説明とか不要だよね。退去ってのは分かりにくいけど、確か術ニキが正義の味方の矢を無力化してたからそんな感じで使えるんだろうね。多分。その辺から考えていくと相手にかかってるバフ効果とかを無効化するんじゃないかな?試してみないと分からないけど。

 

 これで私が使用できるルーンは探索のルーン(ベルカナ)火のルーン(アンサス)、加護のルーン、硬化のルーン(アルギス)遠見のルーン(ケーナズ)退去のルーン(エイワズ)の6種類だね。槍ニキを目指す以上ルーンとして使われてたのは全部習得したいけど、効果がよく分からないから手を出しにくいんだよね。

 

 とりあえず今回習得したルーンはすぐに試すことにした。硬化のルーンは鎧の金属部分の内側に、加護のルーンは服のちょうど隠れるぐらいの所にそれぞれ刻んでおいた。加護って基本神様に貰えるものだと勝手に思ってるんだけど、この世界だとどの神様に加護を貰えるんだろうね?邪神以外だったら誰でもいいんだけど。

 

 遠見のルーンは使ってみたところ目算で3~5キロくらい先がはっきり見えるくらいには拡大されたし、効果の強弱もできるみたいだから大助かり。これで偵察とかも近づかないでできるようになったからかなり便利。

 

 退去のルーンは特に使用する対象もいないから試せてない。予想が正しいならこの前攻めてきたデュラハンの鎧にかかってたとかいう加護も無効化できてたかもしれないと。多分レベル差のせいで抵抗されるだろうけど、試してみたかったなぁ。

 

 と、ここまでスキルの習得、試行、考察とやってみたけど、ログハウスでやったのは習得だけだったのでとんでもなく暇になった。カズマとアンデッド対策で一緒に入っていったアクアがダンジョンに入って1時間も経ってなかったと思う。しかも、持っていった本はすでに何度か読んで内容を大体覚えている物だった。寝て過ごそうにも生活リズムを崩したくないから寝れない。残った仲間と話そうとしたけど爆裂狂とドMしかいない上に2人とも忙しそうにしていたからこれも無理だった。流石にトリッパーに声をかける勇気は私にはない。ダクネスの被虐性癖にも爆裂魔法をいかにかっこいい姿勢で撃つかという爆裂道にも興味はなかったからしょうがない。

 

 というわけで狩りに出ることにした。ルーンの熟練度上げとレベル上げも兼ねて。何時間走り続けたかは定かではないけど、初めてみるモンスターはそんなにいなかった。少し新鮮だったのは白狼の群れに追いかけられたせいで鬼ごっこが始まってしまったことかな。最近初心者殺しとの鬼ごっこでは能力値の上昇がみられなくなったため初心者殺しよりも早く、数も多いモンスターとの鬼ごっこは燃えた。今度から定期的に白狼との鬼ごっこで速度強化スキルの熟練度上げでもしようかな?

 

 太陽が真上に上がってきたような気がしたので最初と比べて倍増した白狼の群れの殲滅に目的を切り替え、ケーナズでログハウスの位置を確認しながら帰ると、ちょうどカズマ君とアクアがログハウスに入っていくところだった。カズマ君の何をしていたのかという質問には新しいスキルを習得したので練習をしてきたと答えた。嘘ではない。

 

 カズマ君の後ろには泣いているアクアがいたので、何とか話を聞いて行くと、ダンジョンの中にはキールというこのダンジョンの創設者であるリッチーとその婚約者がおり、婚約者の方は未練の欠片もなく成仏していたらしい。それと、アクアの生命力が高すぎてアンデッドモンスターが生の気配に釣られて寄ってくることが分かったらしい。そういえばデュラハンの時もものすごい勢いで追いかけられてたものね。

 

 魔術師との逃避行はお嬢様の婚約者にとって幸せだったのかという私の何気ない呟きに反応したダクネスの言葉がやけに引っかかった気がした。魔術士キールの物語でも好きだったのか、そういう展開に憧れでもあるのか…。後者ならダクネスの以外に乙女な一面が分かって面白い気もする。前者はどうでもいい。

 

 

五十七日目

 

 

 いろいろ、複雑な過程を踏んではいるが、ついに、家を持つことができた。と言っても何かしら問題がある上、ほとんどがカズマ君の活躍で、私は金銭面の援助をしただけである。

 

 カズマ君がウィズさんの店に行って新しいスキルを教えてもらうと言っていたので、アクアの暴走を止める役として同行させてもらった。というか自制もできないって女神として結構やばいラインにいるよね?

 

 それはともかく、もはや行きつけの店になりかけているウィズさんの魔法具店に行くことになった。ちなみに私がいつも購入しているのはもちろん爆発ポーショーンシリーズの空気に触れたら爆発する系だ。結構いい値段だけど、モンスターの口に叩き込んだら効果抜群だからぜひ皆さんにも推奨したい。一番いいのは胃の中に入れることだけどね。

 

 ウィズさんを視認した途端に襲い掛かろうとするアクアを引っ掴んで制止すると、今度はお茶の催促をしたりとふてぶてしい女神をどうにかするのはそれなりに大変だった。

 

 カズマ君がウィズさんに教えてもらったスキルはドレインタッチ。触れた相手の魔力を吸い取る、吸い取った魔力を人に渡すなどの結構有用なスキルだった。アクアの膨大な魔力を吸い取ってめぐみんに渡せば爆裂魔法の2発や3発用意に撃てるようになる個もしれないというのだから凄いものだ。めぐみんからしたら連続で爆裂させるよりは大量の魔力を1度で消費して破壊力を上げる方がいいんだと思う。

 

あと、会話の自然な流れでウィズさんが魔王軍幹部であることが判明。かなり重要な情報なのにばらしてしまうウィズさんであったが、実は名前だけのなんちゃって幹部であるらしく、魔王から結界の維持に魔力を回してもらえれば商業でもなんでもしてもいいと言われたそうだ。魔王軍がホワイトっぽいね。この前街に苦情を言いに来たデュラハンとの面識は一応あるらしく、スカートの真下に首を転がしてくる程度の仲だったそうだ。騎士としても人間としてもアンデッドとしても最低である。多分男としても下の方にいるだろう。

 

 ちなみにウィズさんにぶっちゃけあのデュラハンなら本気出せば勝てるでしょ?という趣旨の質問をしたら無言で顔を逸らされた。勝てるんだろうなぁ…。

 

 話が逸れていってる。ドレインタッチの実演の対象として私が魔力を吸われることになったが、自分の中の活力的な物がじんわりと吸われていってる感じがした。採血で血を抜かれている感じと言ったら分かるだろうか。多分魔力所持量の少ない私のために気遣ってくれたのだろう。天使かな?アンデッドか。

 

 ドレインタッチをカズマ君が習得したところで、街の不動産屋さんがウィズさんに相談に来た。その相談というのが、屋敷に棲む悪霊の浄化である。聞けば少し前から空き家となっていた屋敷にどこから来たのか、大量の悪霊が住みつくようになり、浄化依頼を出してもキリがないそうだ。ここに浄化・除霊のスペシャリストであるアクアがいる私たちが浄化の依頼を代わりに受注。不動産屋さんがかなり良い人らしく、浄化が終わったら報酬として家無しの私たちに格安で屋敷を売るようにしてくれるそうだ。

 

 私たちは実質何もしないでいいようなものなので、あとはアクアに任せ■■■■■■(字が乱れていて解読不可)

 



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影島奈々の記録(15)

五十八日目

 

 

 昨日と今日に渡って悪霊騒ぎが起きた。霊視のできるアクア曰く、騒ぎを起こしたのはこの屋敷に棲みついている悪霊であり、もともとこの屋敷にいたというお嬢様の霊とは無関係だそうだ。そもそもお嬢様の霊がいるということ自体アクアの即興の作り話だと思っていたので重要視していなかった。カズマ君と一緒にそのお嬢様、アンナ=フィランテ=エステロイドちゃんのお墓を見つけた時の衝撃は文では表せない。

 

 今回、アクアの活躍により屋敷に住みついていたアンナちゃん以外の霊は浄化された。アンナちゃん以外は悪霊だったらしいからね。ちなみにアンナちゃんはいたずらの好きな、背伸びをしたい系の女の子と言うことらしい。今度お墓に度数のめちゃくちゃ低いお酒を備えておこう。

 

 悪霊が最近になって急激にあの屋敷に棲みつくようになった理由は、アクアが定期的に浄化するという約束をしていた共同墓地から来たものが多いらしい。アクアに話を聞くと、面倒になったから神聖な結界のようなものを張っていたらしい。ギルドからの臨時報酬とかが支払われたが、アクアのせいで棲みつき始めた悪霊による被害をアクアが解決するという自作自演に近しい行いであるので、全会一致で報酬を受け取らないことにした。そのことを濁して伝えた時の受付さんの不思議そうな顔が印象的だった。

 

 その後は不動産屋さんにこのことを説明し、謝罪した。なんとこの不動産屋さんの懐の深いこと。冒険者に貢献するのは市民の義務であると言って許してくれた。悪霊騒ぎのせいで評判が落ちてしまったとも言っていたのに、怒りもしないのは器が広すぎる。

 

 その後は屋敷の掃除がメインになった。アンナちゃんのお墓もこの時に見つけた。基本は草取りだったけど、日本で家にいた時はよくやらされたのを思いだせてよかった。集めた雑草はまとめて街の近くの河原まで持っていき、アンサスで燃やした。この世界には日本とは違いゴミ収集の頻度が少ないらしく、皆何かしらの方法でゴミを処分しているそうだ。

 

 今日の分の掃除のノルマが終わったのは昼頃だった。かなり早くに終わってしまったので暇になってしまう。ただ、拠点が変わって、自分の部屋も分けて貰えたので多少は模様替えをしてみたいと思った。とはいっても私の趣味は読書なのでこの世界のおとぎ話や武器の指南書なんかが大半だ。ルーン魔術の資料が全くないのが不満でならないが、まぁそこまで重要視するものでもない。今だけでもどうにかなるしね。

 

 明日も明日で仕事。まだ借金の返済が終わっていないので討伐依頼をいくらか請けて資金を返済に充てないといけない。数日に1回は休みを取ってリラックスすることも必要だろう。

 

 

おしごとがんばってね

 

 

 

五十九日目

 

 

 日に二度も身体が跳ね上がるほど驚くことになるとは思わなかった。まさか書き込んでくる人がいるとは。ってんなわけあるかい。部屋に鍵はかけていなかったとはいえ、日記にコメントを書いてくる人がいるわけない。この現象が出たのは見ての通り昨日。屋敷に来て生活が安定したときなので、何とか解釈すればこれはアンナちゃんが書いた物なのかな?仲間の誰とも筆跡が一致しない、丸っこくて可愛い字だし。そこまで丁寧に書くことを意識してない私の字とは大違いである。

 

 そういえば、アンナちゃんは冒険者の冒険話が好きだとアクアから聞いたが、私の日記では淡々とした語りしかできないのでとても残念である。アンナちゃんの姿を見れないのも残念だけどね。できれば一種の自伝のようなものとして見て貰うのがいいのだろうか。

 

 まぁいいや。今日の討伐対象はすでにお馴染みとなりかけている一撃熊。の番。難易度の割には報酬が良かったので他の人に請けられる前に受注。速攻で討伐してきた。番と言うことで、意外と連携とかを組まれてしまったが2匹なら何とかなると思ったのでそのまま討伐。今回はゲイ・ボルグを持って行ったが、特に威力が上昇しているなどの異変は無かった。嬉しいような悲しいような。

 

 今日は前日から雪が降っていたらしく、街も、街の周りも大量に積もっていた。討伐が終わってから屋敷の庭に簡単な雪像を作ってみた。2時間ほど年甲斐にも無くはしゃいでしまったが、雪で作った二頭身のサーヴァントはそこそこ良い出来だったので満足。騎士王と英雄王は鎧の部分を作るのに手間取ってしまった。でもまぁ、結果的にうまく作れたので問題ない。よかれと思って2人は隣同士にしておいた。

 

 あと、昨日の日記に書いた通り度数の弱い果実酒を買ってきた。日記の書き込みが見られたことからお墓と日記帳のどちらに置けばいいか分からなかったので、とりあえず机の上に日記と一緒に置いておくことにした。

 

 ここまでは今日の昼までで起きた話。

 

 夜になると、ダクネスの実家から送られてきた霜降り赤ガニという高級食材でのカニパーティーになった。アクアのテンションの上がり具合から考えても高級食材で間違いないあのカニは、私が今まで食べてきた魚介系のどんな食材より美味しかった。ただ、最近お酒を飲むようになったというカズマ君が途中で席を外したりするのには違和感があったが、まぁキース達と昼間に飲んでしまっていると言っていたのだし、そうなのだろう。

 

 私はこの世界の法的にはお酒を飲んでも問題ないのだが、そう進んで飲もうとも思えないのでアクアに勧められた酒は辞退した。二日酔いになると頭痛が酷いと聞くし。そんなこんなでアクア達とガールズトークを堪能して、カニと酒が無くなりそうになったので気分を変えるため、お風呂に入ることになった。めぐみんとアクアはこのまま楽しむと言っていたが、ダクネスは乗り気だったので一緒に入ることになった。

 

 ここが日記の前に跳ねるほど驚いた出来事で、ダクネスと2人でお風呂場に入ると、カズマ君がいた。反射的に手元にゲイ・ボルグを呼び出しそうになったが、何とか自制。私が出ていこうかと考えていると、こういう時結構慌てそうな雰囲気だったカズマ君が平然と背中を流してくれと言い放ったのが印象的だった。その時は私もダクネスも混乱していたため、なぜか強気のカズマ君の言いなりになっていた。ただ混乱していた時にカズマ君がアンケートや世間知らずのお姉さんや包容力のあるロリっ子だのと言っていたのを聞いたような気がする。カズマ君も意外と混乱してたのかな?

 

 結局ダクネスと2人でカズマ君の背中を流したが、今度は前を…と言ってくるカズマ君に流石に違和感を覚えて警戒していると、曲者を見つけたというアクアの声が響いた。腰にタオルを巻いたままそちらに向かったカズマ君を追うため、急いで着替えなおして私たちも現場に向かうと、そこにはかなり露出度の高い少女が魔方陣の中で座っていた。

 

 私たちが到着するのと大体同じくらいのタイミングで浄化してしまおうとアクアが提案し、私たちがそれを受諾しようとしていた時に、いきなりカズマ君が攻撃を仕掛けてきた。もちろん速攻で鎮圧した。

 

 後で聞かされた話によると、あの時魔方陣の中にいた少女はサキュバスという種族であり、男性を魅了し操るモンスターだそうだ。カズマ君は操られていたから言動が意味不明になったり、性格が変わっていたのだろう。女性冒険者からは目の敵にされているモンスターらしい。私的にはかわいかったらいいと思う。今回みたいなことが起きるのはまぁ困るし、直接危害を与えてくるなら対処するけどね。基本的に生きるために男性を誘惑したりするんだし、一概に悪とは言えないんじゃないかな。

 

 もう恥ずかしいことを思い出すのも辛いし、今日のことは早めに忘れることにする。

 

 明日も何かしらの依頼を請けて、明後日は1日休もうと思う。新しく本を買ってこようかな。

 

 

お酒ありがとう

おいしかったよ




なんとなく思いついたのでアンナちゃん出してみました


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