フェアリーテイル 生命の唄 (ぽおくそてえ)
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プロローグ

どうもぽおくそてえです。今回はフェアリーテイル二次創作2作目になります。ファイアーエムブレムの二次はまだ先になる予定です。
それではプロローグで短いですが、どうぞです。


x769年、魔法にあふれたフィオーレ王国のとある村に人や家畜を死に追いやる摩訶不思議な疫病が蔓延した。当時、ろくに医療が普及していなかったこの村では治療法も分からず、一人の幼子を生命を司る神の贄に生かしたまま捧げることで鎮めようとした。しかし、贄を好まぬその神に生かされ、神の子として、そして巫女として第2の生を歩むことになった。神の名をチキ、その子であり巫女をシリル・L・ゼウスティアと言い、神殿の中で二人静かに暮らしていく。

 

====

 

それから14年、その当時の巫女も成長し、美しい少女になっていた。そして彼女は今、フィオーレ王国随一の魔法都市、マグノリアまで人の生き方を学びに来ていた。

 

「ここが…マグノリア。すごい」

 

今までほとんど神殿から出たことのない彼女にとって外の世界の殆どが新鮮なものに思えている。彼女の手にはつい先日まで共に過ごして来た義親(チキ)が綴った手紙と地図が握られている。そこには彼女の道しるべとなる言葉が記されていた。

 

『シリル、カルディア大聖堂にいるであろうマカロフという小さな老人に会いなさい。貴女のいるべき人間界での私の数少ない知り合いです。彼なら貴女の助けとなりましょう』

 

日の沈みかけたマグノリアの中央を元気よく駆け抜け、待ち人のいる町のシンボル、カルディア大聖堂までひた走る。するとそこには、一人の老人が静かに待っていた。

 

「お主がシリルでよろしいかの?チキ殿から聞いてるかも知れんが、マカロフじゃ」

「は、はい」

「初めて会うから無理もないが、そう警戒しなさんな。チキ殿からお主のことを任されておってのう」

「お母様が、ですか?」

 

ほとんどの時間を共に過ごした親といつの間にそのような話をしていたのかと不思議に思っていると、マカロフは懐からお守りと手紙を出して渡して来た。

 

「ひと月前くらいから夢枕に立つようになってのう。このお守りと字を見れば信じてくれようと渡しておいてくださったのじゃ」

「お母様…じゃあ私は…」

「我がギルド、フェアリーテイルに来なさい。人の生き方を学ぶには最適であろう」

 

そう告げられ、新たなる冒険の始まりへ向かいたいと笑顔で答え、100年近くの伝統があるギルド『フェアリーテイル』へと足を運んでいく。

 

「ところでシリルや、チキ殿と暮らす前はどうしておったのじゃ?親御さんは許してくれたのかの?」

「えっと、私のほんとのお母さんやお父さんはどうしてるかわからないんです。もっと小さい時にはもうお母様と暮らしてたので…」

「…すまんのう、変なことを聞いたようじゃ」

 

記憶にある限りは既にチキと暮らしていた時より後のものばかりで、実親のことはほとんど覚えていない。その事を知り、申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「いいんです。元気だと思いますよ?だから謝らないで欲しいです」

「優しいのだな、お主は。さてと、ここがワシらのギルド、そしてお主の新しい家じゃ」

 

そうこう話しているうちに、たどり着いたのはマグノリア一のギルド、そして新しい家族が待つフェアリーテイルである。

 

「うわぁ、大きい!」

「そうじゃろう?ここには数多くの魔導師おるでな、自然と大きくなったのじゃ」

「これが…フェアリーテイル…」

「『妖精に尻尾はあるのかないのか?それは永遠の謎、故に永遠の冒険』。それがギルドの由来で、魔導師たちの心のあり方じゃ」

 

そう誇らしげに話し、二人は中へと入っていく。そこは数多くの魔導師たちが仕事を終えて喧嘩をしたりお酒を飲んだりで大騒ぎになっていた。

 

「皆の者、帰ったぞい!」

「マスター、お疲れ様です。あら、新人さんってこの子ですか?」

「うむ。シリル、こやつはミラじゃ。ここの看板娘をしとるでな、色々世話になろう」

 

二人の来訪に気づいた看板娘で事務を担っているミラが声をかけ、そしてシリルと挨拶を交わしていく。

 

「紹介に預かったミラよ。私のことは好きに呼んでね」

「生命の祠から来ましたシリルです…えと、よろしくです、ミラお姉ちゃん」

「はい、よろしくね♪」

 

この日は一人の少女にとってかけがえのない冒険の始まりの日になった。




すんません、ファイアーエムブレムのほうがまだ投稿出来るほど書けてないので書き溜めたら始めようと思います。


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プロローグ その2 初の大仕事

どうも、ぽおくそてえです。お久しぶりでござんす、最近課題に追われてて…。それと誤字報告してくださった方、お気に入りしてくださった方、ありがとうございます!
今回は能力の説明を兼ねたものとなりますので戦闘はサクッと終わります、というか2技で終わりました。
それでもいいよという方はどうぞ。


シリルが『フェアリーテイル』に入ってから早くも一週間が経とうとしていた。仕事もまだ始めたばかりで、五日前と三日前に採取系の仕事を終えたくらいだ。そんな彼女はまた一仕事やろうとギルドまで足を運んだ。

 

「おはようなのです」

「お、シリルか。仕事か?」

「はい。あとグレイ兄さん、服きてください」

「うおっ!?すまん」

 

彼女を出迎えたのは服を脱いでしまう癖のあるグレイだ。彼はこのギルドを代表するような優秀な魔導師なのだが、この癖が玉に瑕である。

 

「初めてで怖いですけど、魔物討伐に行こうかなって」

「そういえばまだお前の魔法、まだ一回も見たことねえな?どんなのなんだ?」

「血を固めたり生命に流れる気功を使ったりです。グレイ兄さんの魔法ほど綺麗じゃないのです」

「いやいや、十分凄えだろ」

 

掲示板の前であれこれ話していると横からやって来たのは鎧に身を包んだフェアリーテイル女性魔導師最強と謳われる『妖精女王(ティターニア)』のエルザである。

 

「仕事に行かないならそこ代わってもらっても良いか?」

「エルザ!?」

「エルザさん?この人が?」

「ん、そういえば君とは初めて話すか?私はエルザ・スカーレットだ、よろしく頼むよ」

「シリル・L・ゼウスティアです。初めまして…エルザ姉さん」

 

初めて会うエルザに少し緊張しながらも急いで一つの紙をボードから取っていく。そこには『黒き魔獣討伐』とあった。

 

「魔物退治か?1人で大丈夫か?」

「多分…いけると思います」

「あまり自信がないなら私もついて行こうか?少しは力になれるだろう」

 

どうやら今回の仕事に興味を持っているようだ。彼女の言った言葉に隣にいるグレイは驚きの表情を見せ、周りにいた仲間たちも口をあんぐりと開けている者もいればあれこれ口にする者もいた。

 

「おい、あのエルザが誰かと仕事だって?」

「かなり珍しいよな?」

「いくら新人とはいえなんでそこまで…」

「何か文句でもあるのか?」

「「「いえ、全く」」」

 

エルザの小さな怒気を含んだ鶴の一声でその場は収まり、そそくさとそれぞれのやっていたことへと戻っていった。

 

「それでどうだ?シリルさえ良ければ私も同行しよう」

「お願いしてもいいんですか?私、正直不安なので」

「分かった。それでは後でマグノリア駅で落ち合おう」

 

そう言い残し、エルザは先に準備に向かっていった。残された2人は少し呆然としながらその姿を見送るしかできなかった。

 

「……頑張れよ、色々と」

「はい!もちろんです!」

 

 

 

そして1時間後、マグノリア駅で落ち合おうとシリルは少し緊張しながら一人、エルザの到着を待っていた。

 

「遅いなぁ…もうそろそろ来るはずなのに」

「済まない、遅くなった。待ったか?」

「大丈夫です…よ?ってなんですか、その荷物量?」

「これか?全部服だ。まあこの量を使ったことは一度もないがな」

 

エルザの引いてきた台車には十数個のスーツケースがあり、二、三日もあれば終わるだろう仕事に相応しいとは言いにくい量がそこにはあった。

 

「とりあえず急ぎましょうか?(あんまりこの荷物について聞かないほうがいいかな?)」

「そうだな」

 

====

 

それからというもの、目的地に着くまで数時間かかり、依頼者の元へと着いた頃には日が暮れかけていた。

 

「お待ちしてましたよ、お二方とも」

「遅くなって申し訳ない」

「今回の黒い魔獣ってなんですか?」

「ええ、実はそれ、普通の魔物じゃないんですよ。詳しく説明すると…」

 

彼が語るには、その魔獣は黒い蒸気を身にまとい、木々を枯らす何かを撒き散らすそうだ。評議会に調査を依頼したら、『ゼレフ書の悪魔』というものだと発覚し、その調査隊からの応援要請でもあるそうだ。

 

「ゼレフ書?昔の人だって聞きますよ、ゼレフって」

「まさかゼレフとは…これは捨て置けん状況になったな」

「地図のここに評議会の部隊がいます。合流することを勧めますよ。気をつけて」

 

思ったより厳しい仕事になりそうだと2人は腹をくくり、評議会の部隊が壊滅していないことを信じ、森の中にある彼らのテントへと急いだ。

 

====

 

「皆さん、無事ですか!?」

「おお、救援か!君たちが手伝ってくれるのか」

「例のゼレフ書はどうなっている?」

「ジリ貧だな。あっちも弱っているが、こっちも疲れがね」

 

後方支援も限られており、評議会からの追加の兵隊も時間がかかるからか、今回フェアリーテイルの魔導士に仕事が回ってきたようだ。

 

「時間もありませんね。分かりました、案内してください」

「こっちだ。仕事次第で法律違反に少し目を瞑るとのことだ、気を引き締めてくれよ」

 

1人の評議員に連れられてやって来たのは魔物によって木々がなぎ倒され、黒い蒸気によって草が枯れはてている広場だ。何人かが既にやられていて、残りの数人も距離を詰めかねている。

 

「グルルル、ごあぁぁあ!!!」

「でかい。これが…」

「怯んでる暇はない、換装『天輪の鎧』!」

「ガオァアアァ!」

「行け、剣たちよ!」

 

先に動いたのはエルザだ。こちらに気づいて突っ込んできた魔物に先手を打って剣で四方八方から斬っていく。

 

「あれだけ血が出れば…『血縛鎖牢』!」

「グォオオ!」

「よくやった、これでそう易々と動けまい!」

 

魔獣から出た血を使い、そこから鎖を作って雁字搦めにしていく。

 

「こっちも封印の準備ができたぞ!そいつの何処かにある玉みたいなのを捕縛できればそれで良い!」

「一度倒したほうがいいな。シリル、追い討ちをかけてくれ!」

「は、はい!あまり傷つけることは好きじゃないけど……『気功掌』!」

「換装『黒羽の鎧』…『黒羽・一閃』!」

 

シリルの巨大な気の攻撃とエルザの鋭い一太刀により、魔物の纏っていた邪気が吹き飛び、気を失ってその場に倒れ伏した。

 

「ウゴ、ガッ…ぐぁああぁあ…」

「ふう、疲れたです…」

「後は封印をすれば…なっ!?」

「うわぁ!?」

「きゃっ!」

 

数人の評議員が封印を施そうと近づいた瞬間、黒い光を強く発しながら一点に纏まり、そして数分に及ぶ発光の末に一つの小さな球となって空中に浮き始めた。

 

「びっくりしました。えっと、これが例の?」

「間違いない、これを封印すれば終わりだ」

「助かったよ。正直このままじゃジリ貧だったしな。報酬はこれだ、後さっきの件、上に報告しておくよ」

 

無事に封印も施し、解散を言い渡された2人は依頼人にこの一件の顛末を伝えようとゆっくりとした足取りで戻っていく。

 

====

 

「…という訳で、仕事は終わりました」

「そうか、ご苦労様です」

「それにしても評議会関係の仕事を貴方が間接的に私たちに回してくるとは、普通ではないことですが?」

 

エルザの疑問もごもっともで、普段評議会から各ギルドに仕事が行く場合はマスターや評議会に所縁のあるメンバー、あるいは聖十大魔道に直接依頼することがほとんどだ。

 

「でしょうな。しかし今回は私の独断です」

「独断?ということは…」

「ええ、評議会に連絡していては時間がかかると思いまして、各ギルドに直接依頼する形になりました」

「なんてリスクのある方法を…今回我々が受けなければどうなっていたか…」

「申し訳ない。ただ、こうするしかありませんでしたので」

「まあまあ、今回は仕方ないのです」

 

頭を下げる男をなだめ、お礼を言いつつエルザを連れて駅まで戻ってきたのだ。

 

「今回の仕事、一緒に来てくれて助かりました。ありがとうございます」

「気にしなくていい。ただ、今回みたいにいつどこで『ゼレフ書の悪魔』と戦うか分からん。気をつけてな」

「はい!ありがとうです!」

 

シリルにとっての初の大仕事は少しの波乱を含みながらも無事に終えてみせた。




今後他作品の技が出そうなのでクロスオーバータグ念のためにつけとこうと思います


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第1章 鉄の森 ドラマの幕開け 第1の唄 最強チーム結成

お久しぶりです、ぽおくそてえです。テストやらレポートやらで忙しくて書けてませんでした。申し訳ないです。

ではどうぞです。


あの『ゼレフ書の悪魔』との一戦から一年が経ち、様々な仕事をこなして行くうちにシリルも15歳となっていた。x784年の夏のこの日も彼女は一仕事終えてギルドに顔を出していた。

 

「こんにちはです、ミラ姉さん。マスターは今日いないんですか?」

「おはよう、シリル。そうなのよ、評議会に朝から呼ばれててね」

「残念です。エルザ姉さんも仕事みたいだし、ナツ兄さんもいないし、ちょっと寂しいなって」

「うふふ、私がいるじゃない」

「えへへ、そうでした」

 

一年も一緒のギルドにいると、自然ときょうだいの様に仲良くなっていく。

 

「そういえばお母さんとかに手紙とか出さなくてもいいの?心配してると思うけど…」

「たまに書いてますよ?ちゃんと返事も来てるのです」

「大事にしなさいね」

「はい!あ、それとこれお土産です。お母様からの手紙についてました」

 

ミラに差し出したのは祠のある村の様々な特産品だ。チキを祀っている村では、時折上納品として様々なものが祠に納められる。嗜む程度にしか食さない彼女には余りある量が納められるため、こうして送ってくれる様になったのだ。

 

「これ、結構上物じゃない。折角だし、みんなで食べましょ?」

「そうしてもらえると助かります」

「あら、丁度ナツ達も帰って来たみたいね」

 

その言葉通り、玄関の方から騒がしく帰って来たのはナツと相棒のハッピー、そして見知らぬ女性だった。

 

「女の人を連れて帰ってくるなんて珍しいですね。ナツ兄さんに限ってないと思いますけど、彼女とか?」

「流石にないと思うわよ。ナツ、ハッピー、お帰りなさい」

「おっす」

「ただー」

 

自分の親である『サラマンダー』のイグニールを探していたのだが、その表情は晴れやかではなかった。

 

「お疲れなのです。サラマンダー、見つかりました?」

「いや、偽物だったよ」

「なんかキザな奴だったねー」

「残念でしたね。ところでそっちの人は誰です?」

 

後ろであたりを不思議そうに見つめている人が気になり、そして一体何のために来たのかを知ろうとナツに質問してみた。

 

「こいつルーシィって言うんだが、ここに入りてえらしいんだ」

「それだったらミラ姉さんに頼んだ方が早そうですね。お願いできます?」

「もちろんよ。ほら、こっちおいで」

「あ、はい!うわぁ、本物のミラジェーンさんだ…」

 

時々雑誌でグラビアに乗るため、方々で人気があるミラにとってはこういうファンも少ない訳じゃない。ルーシィもその一人なんだという。

 

「ギルドに入るならスタンプを押してもらうんです。私は右の太もも、ナツ兄さんなら肩です」

「ヘェ〜…そういえば君誰?」

「シリル・L・ゼウスティア、巫女です」

「巫女さんなんだ…(まだ小さいのに…)えっと、ルーシィって呼んでね」

「よろしくです、ルーシィ姉さん」

 

軽く挨拶を済ませたところでミラに呼ばれたルーシィを見送り、残されたハッピーたちと話を続ける。

 

「何があったんです?イグニールさんを探してたのでは?」

「それがさっきも言ったけど偽物のただの人間でよ、そんで事件に巻き込まれそうになってたあいつを助けたらいつの間に…」

「あい、それに星霊魔法が使えるんだ。すごかったよ」

「ヘェ〜、見たかったです!」

 

初めて会うルーシィの事をあれこれ話しているうちに、手の甲にスタンプを押してもらったルーシィが嬉しそうにそれを見せてきた。

 

「へへーん、これで私もみんなの仲間入りだね!」

「おお、良かったじゃねえかルイージ」

「ルーシィよ!失礼ね」

「ナツ兄さん、流石に入ったばかりの人にそのギャグは無しですよ」

「良かった、普通の人がいて…」

「このギルド変わった人が多いですから」

 

新しいメンバーが入った事で、ギルドの雰囲気も少しずつ運命の歯車が噛み合ったように変わっていこうとしていた。

 

数日後、いつものように騒がしいギルドにやってきていたシリルとルーシィがいた。

 

「どうですか?このギルドには慣れました?」

「うん、お陰様でね。そういえばマスターは?」

「今日は地方ギルド連盟のお仕事行っててしばらく帰ってこないと思うわよ」

「ギルド連盟?」

 

聞き慣れない言葉に首をひねるルーシィにミラジェーンが光ペンを借りて図で説明していく。曰く、地方ギルド連盟に加盟するギルドは互いに連携して違法なギルド、所謂闇ギルドが起こす犯罪や地域で起こった重大な物事をマスターやその代理が集まって話し合う場所がギルド連盟であり、評議会の傘下にあるギルド同士の連携の賜物である。

 

「協力し合わないと『黒いギルド』、闇ギルドにやられちゃうからね」

「物騒ですね、ミラさん」

「変に首を突っ込まなければ普通は会いはしませんよ」

 

不安そうにするルーシィに優しく宥める2人。そんな彼女たちのところに仕事を終えて帰ってきたナツとハッピーがやってきた。

 

「ルーシィって結構ビビリだよな」

「ビビリルーシィ、略してビリーだね」

「そういうの良いから」

「でも、ギルド同士の協力は大事だし、闇ギルドも好き放題やってるのは確かなの」

「ナツとかスカウトされそうね」

 

殺人や犯罪に関わる仕事を重ね、解散命令やマスターの逮捕が行われたにもかかわらず、好き勝手やっている闇ギルドは依然として数多く存在している。そういった話をしているとギルド内が急に騒がしくなりはじめた。

 

「エルザだー!エルザが帰ってきたぞ!」

「やべぇ!俺仕事行ってくる!」

「諦めろ、道で会うだけだぞ」

 

明らかに動揺するギルド内に違和感を覚えたルーシィは隣にいるシリルに質問していく。そのシリルがあまりに冷静なことも質問したくなった理由だ。

 

「どうしたの?なんか急に騒がしくなったけど」

「うちのギルドのエースが帰ってきたみたいです。エルザ姉さんって真面目で良い人なんですけど、ギルドがギルドですから、苦手な人が多くて」

「叱ると少しうるさいのよね。ナツとかグレイとか前に怒られてからトラウマ気味なのよ」

「あらま…」

 

そうこうしているうちに、大きな音と少しの地響きを立てながら帰ってきたのはフェアリーテイルの女性魔導師最強と謳われるエルザだ。その手には仕事先で得たのだろうか、大きな魔物の角を抱えて帰ってきたのだ。

 

「遅くなったな。マスターは居られるか?」

「会議中よ。今はいないわ」

「そうか、残念だ。それよりも貴様ら、また問題ばかり起こしてきたようだな。マスターに迷惑かけるんじゃない」

 

帰ってくるなり問題行動を起こすギルドメンバーに1人ずつ説教していく。その姿にルーシィは少し引き気味だ。

 

「なんなのあの人?」

「あれがエルザなんだ」

「あれがエルザさんらしさですね」

「そ、そうなんだ」

 

一通り説教し終えたエルザはなぜか固まるナツとグレイの元へと向かった。普段は喧嘩ばかりする2人だが、エルザの前では大人しくしており、むしろ仲良く肩なんか組んでいる。

 

「よ、よおエルザ。俺たちは仲良くしてるぜ」

「あ、あい」

「それは良いことだ。さてと、早速だが2人には私と仕事をしてもらいたい」

「「ナニィ!?」」

 

エルザが他人と組む珍しさに加え、手伝うのではなく手伝わせるとなれば尚更珍しい。いつもとは違う騒がしさがギルドを包み込んでいく。

 

「そんなに珍しいの?」

「一年前に私を手伝ってくれた以外なら、誰かと行くなんてなかったと思います」

「たしかに珍しいわね。しかもあの3人が組むなんて、もしかしたらギルド最強チームになるんじゃないかしら…」

 

驚きを隠せない2人やルーシィが見守る中、エルザは用事を伝え終えると文句を垂れるナツや状況の飲み込めないグレイを放っておいて足早に去っていった。

 

「あの3人じゃちょっと不安ね。ルーシィ、シリル、付いていって」

「は、はい」

「ミラさんの頼みとあらば!」

 

====

 

次の日、マグノリアの駅に集ったのはナツ、グレイ、ハッピー、ルーシィ、シリルの5人で、エルザを待つだけの状況になっていた。

 

「ったく、なんで俺がこんなクソ炎と…胃がいてぇ」

「俺だってお前となんか組んでられるか。エルザの頼みじゃなかったら断ってたってのに」

「二人とも喧嘩しないでください。エルザ姉さん、もうすぐ来るんですよ」

「「そ、そうだった」」

 

いつもは別々に仕事をすることが多いこのメンバーだが、エルザの招集とあって珍しく集まっている。喧嘩をしそうになっていたナツとグレイを押さえるシリルを横目に見ていたルーシィはいち早くエルザの到着に気づいたが、彼女の持つ荷物量に驚きを隠せないでいた。

 

「すまない、遅くなったな」

「荷物多っ!?」

「いつもこんなですよ。エルザ姉さん、お久しぶりです」

「うむ、シリルもナツもグレイも仲良くやっているようだな。ところで君は?この前見かけたが」

 

先日同じギルドにいながら、ようやく初対面を果たした2人はお互い挨拶しながら事情を話していく。

 

「ミラさんに頼まれてやってきましたルーシィです。よろしくお願いします!」

「そうか、色々聞いている。危険な仕事になりそうだが、君なら大丈夫だろう」

「危険!?」

「ふん、そんなことよりよ、エルザ。帰ったら一つだけ約束してくれ」

「約束?」

 

グレイとシリルが止めようとするが、それでも構わずに言葉を続けた。

 

「帰ったら俺と勝負しろ!」

「何いってんだお前は!?」

「ふふ、お前も成長しているようだしな。分かった、受けるとしよう」

「姉さん!?」

「さて、話はここまでにしよう。詳しい話は車内でしよう」

 

新しいメンバー、ルーシィを加えた最強チームは新たな闇に立ち向かうべく列車に乗った。



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第2の唄 遭遇

お久しぶりです、ぽおくそてえです。色々あって執筆遅くなりました。申し訳ないです。ファイアーエムブレムの方の主人公の設定決まりました。弁慶です、はい。詳しくは後ほど。

では本編どうぞ!


全員列車へと乗り、早くも乗り物酔いを起こしたナツをダウンさせたエルザは早速今回のことの顛末を語り始めた。

 

「今回皆に来てもらったのはあるギルドがある物の封印を解こうとしてるからだ」

「ある物?何だよそれ、少しアバウトだな」

「具体的に言ってもらえます?」

「ああ。あれはつい先日のことだ、仕事帰りに酒場に寄った時にな…」

 

帰りの酒場でゆっくりしようと立ち寄ったら、騒がしくしている一行が近くにいたという。

 

「そういう輩は酒場には居るだろ?」

「これだけならな」

「ってことは…」

「ああ。問題はそいつらの話してたことの中身だ」

 

その連中が話していたことには『ララバイ』なるものの封印を解除しようとしていたこと、そしてその連中のリーダーが『エリゴール』なる男であるということだという。

 

「その時は気づかなかったが、後で気づいた時には遅かった。其奴らのリーダーがあの死神エリゴールだと」

「死神!?」

「数々の殺しの仕事をやっていたギルドなんですが、その中でも一二を争うほど人を殺してるんです。私の…『敵』です」

「私が気づいていれば奴らを血祭りにしたものを…」

 

そうこうしているうちに駅に降り立ち、宿を探そうと動き始めたが、ここでルーシィが違和感を覚えた。

 

「あれ?やばい!」

「どうしたルーシィ?敵か?」

「違うのよ!ナツがいないんだけど!」

「まさか列車に乗ってるのでしょうか?」

「いかん、奴は乗り物酔いが…!急ぐぞ!」

 

なぜ残したのかと考える暇もなく皆で急いで駅まで向かった。

 

 

 

「くっ、遅かったか。まさか乗り物酔いの激しいナツを残してしまうとは…」

「間に合わなかったね」

 

駅に着いた時にはすでに遅く、ナツを乗せた列車は結構先まで行ってしまっていた。そんな中でもエルザは駅員に無理言って電車の緊急警報を鳴らすように掛け合っていた。

 

「エルザさん!魔導四輪持って来ましたよ!」

「分かった。ハッピー、あれを降ろせ」

「あいさー!」

「あっ、待て!」

 

シリルとグレイが移動の足を持って来たと同時に駅員の制止を振り切って、ハッピーが警報器を降ろした。

 

「よし、これでしばらく止まるだろう。私たちも急ぐぞ!」

「全員掴まって!飛ばしますよ!」

 

その言葉と同時に流せる魔力を全てこめ、フルスロットルで飛ばしていく。その一方で電車に残っていたナツは1人乗り物酔いに悩まされながら電車に揺られていた。

 

「お兄さん、なかなかきつそうだね?」

「お、おお…」

「乗り物酔いかぁ〜。こりゃダメかな?」

 

車内で吐き気と戦っていたナツに話しかけてきたのは髪を結った不思議な男だ。ナツがまともに答えられないのを気にしないように目の前に座って話しかけて来た。

 

「ヘェ〜、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導師なんだ。良いよね、正規ギルドのメンバーは」

「おお…」

「羨ましいね、僕のような日陰者には」

 

返事を求めていないようにツラツラと言葉を続けていく。

 

「知ってるかい?フェアリーテイルは闇ギルド(僕ら)の間でなんて呼ばれてるか」

「な、なんだってんだ」

「ハエだよハエ」

「あ?」

 

====

 

「シリル、もっと早く行けんのか!?」

「これでも全力でやってます!事故ったら元も子もないでしょう!」

「無茶言うなよエルザ!これ以上魔力入れたらSEプラグがパンクしかねないだろ!」

 

ナツを乗せている列車を追う一行は焦りを感じながら、シリルの運転の元、全速力でひた走っている。

 

「3人とも喧嘩しないで!」

「ほら、見えてきたよ!あの列車だ!」

「追いついたみたいですね」

「止まっててよかったぜ」

 

非常停止レバーを下げていたことで止まっていたことが幸いし、どうにか追い上げることができたことに安堵した。しかしその安堵も長くは続かない。止めていた理由が判明したからか、再び動き出そうとしていた。

 

「くっ、もう動くのか!?」

「もう少しの時に…」

 

あと二、三両行けば乗っているはずの場所に着くというタイミングに焦り始めるが、その瞬間、窓ガラスを割って飛び出してきたのは、探していたナツだった。

 

「ナツ兄さん!?」

「どうなってんだよ!?」

「なんでお前らいんだよ!?」

 

スピードを出していたことと、飛び出した高さが相まってナツと屋根に乗っていたグレイが頭をぶつけ、2人揃って魔道四輪の後ろへと投げ出されて行った。

 

「とりあえず2人のところに行こう!」

「そ、そうですね。ルーシィ姉さん、少し肩を…」

「大丈夫?結構疲れてるみたいだけど…」

「後はエルザ姉さんに任せようかと…」

 

魔力を急激に使ったシリルはルーシィに助けられながら喧嘩している2人の元へと歩くと、ナツが置いていったことに怒っていた。

 

「お前ら酷えじゃねえか!俺を置いていくなよ!」

「すまなかった」

「ごめんね」

「す、すいません」

「オイラもごめん」

「なんで俺にだけ喧嘩腰なんだよ」

 

少しトラブルもあったが、全員無事に集まれたことに安堵して魔道四輪に戻ろうと話しながら歩き始めた。

 

「だが、無事でよかった」

「無事じゃねえって、途中で喧嘩ふっかけられたしよ。なんつってたかな、アイゼンヴァルドのカゲ?」

「何!?」

「まさか!?」

 

先程は酔いによって頭が回っていなかったことと、途中でエルザの一撃で強制的に眠らされていたナツは事情を知らずにいたのだ。ただ、偶然にせよ目的のギルド、アイゼンヴァルドと遭遇したことは奇跡的とも言える。

 

「でもこれってチャンスじゃないですか?」

「確かにな。あの列車を追ってりゃ目的の奴らに会えるしよ」

「そういえば笛を持ってたなぁ。三つ目の髑髏っつーかなり変わった笛だったけど…」

「三つ目の髑髏…笛…子守唄…もしかして…」

「どうしたルーシィ?」

 

ナツによってもたらされた情報と、今までに知り得た情報を繋ぎ合わせていくととても不吉な予感がしていくルーシィは、自然と体が震えていく。

 

「もしかしたら、そいつらの持ってる笛って私たちの追ってる『ララバイ』かも!」

「何!?」

「ララバイ、子守唄って意味でしょ?曲を奏でる笛で三つ目で闇ギルドの連中が持ってるってなるとほぼ確実にそうなんじゃないかなって」

「なるほど、急ぐぞ!シリル、今回は後ろで休んでろ、私が運転する!」

 

ルーシィの的確な推測とエルザの迅速な判断を噛み合わせ、先ほどの列車が向かう方へとひた走る。



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第3の唄 死神と妖精

どうも、ぽおくそてえです。今回は早めに出せました。次回はいつになることやら…。


「くそっ、間に合ってくれ!」

「エルザ、魔力が持たなくなるぞ!飛ばしすぎだ!」

「それでもだ!何千、何万という命が失われるくらいなら!」

 

エルザが運転する魔道四輪は猛スピードを出して市街地を走り抜ける。先程ルーシィの推測をさらに聞いてみたら、ララバイが広範囲にわたって死をもたらす可能性があると分かったのだ。正義感の強いエルザは落ち着いてなどいられない。その頃、後ろの座席部分では外の2人とは違った雰囲気に包まれていた。

 

「そういえばナツとハッピー以外のみんなどんな魔法使うんだっけ?」

「私は血と気を、グレイ兄さんは氷の造形魔法を、エルザ姉さんは…」

「とにかく血のたくさん出る魔法だよ!」

「あながち間違ってませんが、それは幾ら何でも…」

「ヘェ〜、ってナツ!ここで吐かないで!窓から!」

 

今回初めて組む人が多いルーシィにとってそれぞれの使う魔法を見たことがない。そのことを一緒に戦う以上聞いておこうと考えている。

 

「そういえばルーシィに何か言おうと思ってたんだけど…なんだったっけ?」

「私が知るわけないでしょ?」

「ナツ兄さん、魔法で少し楽にしますよ」

「お、おお、ありがてぇ」

「色々使えるのね、その気の魔法」

「魔力使いすぎて少しバランスを少し整えるくらいしか今はできませんけどね」

 

そうこう話しているうちに駅前へとたどり着き、人混みの中を掻き分けてホームへと突き進んでいく。

 

「済まない、通してくれ」

「迷うなよ」

「すごい人混みね…」

「ナツ兄さん、しっかりしてください」

「おうぷ…」

 

その人混みを通る間に聞こえて来たのは闇ギルドが駅で暴れていること、駅にいた人々は避難を余儀なくされたこと、商売道具を取れずに逃げざるを得なかったことなど様々だ。

 

「済まない。中の状況を教えてもらえないか?ギルドのものだ」

「えっ?あんたは一体…ぐふぉあ!」

「使えぬ奴だ。中の状況は?」

「ひっ!?」

 

中々要領が得られないなか、駅員を半ば脅しながら質問していくが、誰も答えられず、エルザの頭突きの犠牲となっていく。

 

「あれがエルザの恐ろしさなのね」

「なんとなくわかってきたろ?」

「あとで謝っておかなきゃ…」

 

もはや聞いていてもしょうがないとホームに向かう階段へと進むと、そこには鎮圧に来た軍の者たちが揃ってやられている風景が広がっていた。

 

「ギルド全員相手ではやはり無理があったか」

「ヒエェ…」

「あ、アイゼンの連中ならこの先にいる…頼む、奴らを…」

「分かった。皆進むぞ!急げ!」

 

エルザの号令のもと、潰れかけたナツをルーシィに任せて階段を駆け上がり、全員で鉄の森(アイゼンヴァルド)の待ち受けるホールへとたどり着いた。

 

「よう、待ってたぜ、妖精ども」

「貴様が死神エリゴールか!」

「そうとも。お前らが来るまで暇で暇で仕方なかったぜ」

「何が目的なんですか!答え次第では容赦しませんよ!」

 

小さな体から珍しく怒声をあげ、ギルドのメンバーも聞いたことないほどに声を荒げる。

 

「ふふふ、そう怒るなや。楽しみはこれからだ。この駅には何があると思う?」

「浮いた!?」

「風の魔法を使ってるんだ!」

「時間切れだ。答えは…こいつだ」

 

そう言って叩いたのは駅にある構内用の放送スピーカーだ。それを見て何をせんとしているのか察したエルザは驚きを隠せない。

 

「まさか貴様ら、ララバイをここで流すつもりか!何人死者が出ると思ってる!?」

「さあな。少なくともこの駅には数百、数千という野次馬どもがいる。音量次第ではもっと出るかもなぁ」

「無差別大量殺人をするつもりなの!?」

「それが俺たちが目指す粛清よ。闇を知らずにのうのうと生きる愚民どもや我らを蔑ろにして権利を奪った評議会への罰だ。その為に死神が動くんだよ」

 

理不尽極まりないその演説を聞かされ、激昂の声を最初にあげたのはルーシィだった。

 

「そんなことして権利が戻ると思うの!?そんな馬鹿みたいな真似してどうにかなるとは思えないんだけど!」

「俺たちが欲するは最早権利だけでは不十分。その更に先、権力だ。権力を手に入れればいくらでも権利は付いて回る!」

「あんたたちの自業自得でしょ!そんな事のために…!」

「闇を知らん者が吠えるな!カゲ、やれ!」

「残念だったな妖精ども、闇を知らないまま死ぬことになるとはな!」

 

エリゴールの怒声を聞き、攻撃を仕掛けてきたのはナツと列車の中で一悶着起こしたカゲヤマだった。彼の足元から伸びた影が拳となり、ルーシィに向けて一直線に伸びていく。

 

「しまった!」

「姉さん!」

 

エルザやシリルの助ける手が届くより早く、彼女に理不尽なる暴力が振るわれようとしていた。しかし、その影の拳も1人の男の目覚めによって止められることとなる。

 

「この声は…やっぱりお前かぁ!」

「ナツ!」

「こういう時は頼りになるぜ」

 

今まで酔いによって潰れていたナツだ。

 

「テメエ、さっきの!」

「貴様らの愚行は私たちが止めてみせる!」

「こっからは地上戦だ!やってやらぁ!」

 

意気の上がるナツたちをよそにそれを見ていたエリゴールは不気味な笑みを浮かべていた。そしてシリルは無用な殺しをしようとしている彼らを鋭く睨みつけていた。

 

「(そうだ、これでいい。こいつらがここに集まったことは逆に好都合。ならば俺は更に先に行くまでよ)」

「(あのララバイ、一年前の獣と同じ気を感じる。なら、お母様の代理として、ここで止めるまで!)」

 

妖精と死神の戦争がついに幕を開けた。




時々UAを見るのですが、最初に書いた作品が40000超えてて嬉しかったです。ありがとうございます


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第4の唄 妖精の戦は森を駆ける

お久しぶりです、ぽおくそてえです。長い間失礼しました。今後もこんなペースになるかと思われます。

では本編どうぞです!


「これから死の旋律を奏でる。テメエら、妖精どもの相手を頼むぞ」

「ナツ、グレイ、奴を追うんだ。このままでは何が起こるか分かったものじゃない」

 

窓をかち割り、飛ぶように去っていった男を逃してはならないと喧嘩する2人に追跡を頼んだ。

 

「俺とこのクソ炎が?」

「テメエ、エルザ!仕切ってんじゃねえぞ!」

「行ってください。私からも…お願いします(これ以上姉さんを怒らせないほうがいいですよ)」

「(そ、それもそうだな)」

「(シリルに頼まれたら仕方ねえか)」

 

強い眼差しで2人に訴えかけ、災厄の防止のために、そしてエルザの怒る前に動くように急かす。そして走り去っていった2人を見送り、それをさらに追うカゲヤマとレイユールという紐のような魔法を使う者が足止めせんと動き出した。

 

「シリル、魔力は持ちそうか?」

「この数なら大丈夫でしょう。それに姉さんたちもいますから、ね?」

「わ、私も頭数に入ってたのね」

「ええ。頼りにしてますよ、ルーシィ姉さん?」

 

有無を言わさず、戸惑うルーシィを引っ張り、3人で並び立つ。それに対して鉄の森(アイゼンヴァルド)の連中の中には喜ぶ者が多い。

 

「まさか女3人で俺たちに勝とうとはねぇ」

「3人ともいい女だ、このまま殺すにはもったいねえな」

「ひひひ、妖精の脱衣ショーとでも行こうか

ねぇ」

「下衆どもが、どうなっても知らんぞ」

「死んでも文句は言わないでください」

 

その言葉とともにエルザは剣を虚空から呼び出し、シリルは両腕から血を垂れ流していく。

 

「あれは魔法剣か!」

「それにあっちの血はなんだ!?」

「細けえことは気にすんな!数でおしつぶせ!」

「魔法剣士ならこっちにもいるんだ!怯むな!」

 

彼らの言う通り数の上では3対数十人という物量差があり、一度に攻めかかっていく。が、そんなものは関係ないと言わんばかりにエルザの剣が敵を切り裂き、シリルの血が弾丸となって次々になぎ倒していく。

 

「あれがあの2人の魔法…」

「まだだよ、エルザにはまだ先があるんだ。シリルも本気を出してないと思うよ」

「あれ以上が!?ってホントだ、剣以外にもハンマーとか槍とか出してる!」

 

エルザの出す剣や槍の交換の速さにルーシィだけでなく敵も目を見張るばかりである。そしてシリルの血が変幻自在に姿形を変え、時に弾丸、時に鞭のように敵を翻弄していく。

 

「なんなんだあいつは!?」

「とんでもねえ換装速度だ!」

「それにあっちの小娘もエグいぞ!」

 

思っていた以上に強かったからか、はたまた甘く見すぎていたからか、2人の強さについていけずに倒れる仲間を前に顔を真っ青にしていた。

 

「このままではラチがあかないな。シリル、下がっていろ」

「了解。ルーシィ姉さん、エルザ姉さんの本気が垣間見れますよ」

「本気?」

「一気に片付けてやる、換装!」

 

その瞬間、エルザの着ていた鎧が取れ、光に包まれていく。

 

「おお!」

「な、なんかエロい!」

「ここからですよ」

 

そして光が弱まる頃、そこに居たのは全く別の羽のついた鎧を着たエルザの姿であった。背には剣が数本、円を描くように浮いている。

 

「あれがエルザの換装の真髄、鎧と一体となった魔法。その名も、『ザ・ナイト』!」

「あの天輪の鎧は手数に優れた攻め向きの鎧ですね」

「か、カッコいい!」

「え、エルザだと?」

 

敵のカラッカはエルザの名前に聞き覚えがあるのか、その名前についてあれこれ思い出そうと頭を捻る。

 

「舞え、剣たちよ。天輪・循環の剣(サークルソード)!」

「ぐえええ!?」「ぬおお!?」「ぎゃあっ!!」

「わぁ、すごい!一掃しちゃった!」

 

背に浮かんでいた剣が周りにいた魔導師たちを次々撃破していき、飛び交う剣が狙いすましたように相手をのしていく。

 

「このアマが〜!俺がぶっ飛ばしてヤラァ!」

「ま、待て!そいつはやばい!こいつはフェアリーテイル最強の女魔導士…」

「目障りだ…ふん!」

「グホァ!」

 

フェアリーテイル最強の女魔導士、妖精女王(ティターニア)のエルザ。彼女の前では闇ギルドの一幹部程度倒すのも容易かった。

 

「ビアードが一撃かよ…や、やべぇ」

「やったぁ!勝ったあ!」

「ひ、ひいぃ!」

「逃げるか。ルーシィ、シリル、ハッピー、奴を追え。頼む」

「ええ〜…」

 

シリルが先に向かう中、なんで私がと言わんばかりに抗議の声を上げるルーシィ。しかし…

 

「頼む!」

「は、はいい!」

 

その抗議もエルザの威圧感を前に無に帰してしまった。ここに居ては何をされるかわからないと感じたルーシィは全速力でシリルの後を追っかけた。

 

「ふぅ…さてと、エリゴールを探すか」

 

====

 

「それにしてもどこ行ったんだろ?」

「見つかりませんね」

「このままじゃエルザに怒られるかも…」

「こ、怖いこと言わないで!」

 

残る最後の幹部、カラッカを追っている3人だったが、一向に見つけられていない。先に動いていたシリルだが、途中で見失ってしまったのだ。

 

「行き止まりに行ったはずなのに、気づいたらいなかったんです。壁でもすり抜けたんでしょうか?」

「もしかしたらそうかも。でも、エルザにどう説明しよう?」

「これ以上探していてもラチがあかないね。エルザに怒られるの承知の上でこのことを話そ?」

 

その時、突如として大きな爆発音が鳴り響き、駅構内にいる全員にそれがはっきりと聞こえた。

 

「なんでしょうか、今の?」

「ナツじゃないかしら?」

「それしかなさそうだね。行こう!」

 

何度も何度も繰り返し起こる大きな音を頼りに走っていると、たどり着いたのは既に皆が集まった小さな通路だ。そこには先程までナツと戦っていたと思われるカゲヤマが背中から血を流している。

 

「何事ですか!?」

「事情は後で話す、とにかく止血と治療を!」

「わかりました。グレイ兄さん、ルーシィ姉さん、手伝ってください!」

「おうよ!」

「了解!」

 

死神が笛を吹くまでのタイムリミットが刻一刻と迫る中、果たして妖精たちは彼を止めることができるのだろうか…。



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第5の唄 脱出口

どうも、お久しぶりでござんす。ぽおくそてえなるものです。
さて、今回は短めです。(主人公活躍してねぇ…汗)
多分エリゴール=サンはナツと更新の犠牲になるかもです。


「なるほど…死神が風の結界を作って私たちを閉じ込めた上にその結界を止められるカゲヤマさんも意識不明、ですか」

「ああ。その上目的がこの駅じゃなくて大渓谷を越えた先にある街にいるマスターたちらしい」

「どうすんの?これ一方通行なんだっけ?」

「通り抜けようとするとミンチになるぜ」

 

カゲヤマの治療もひと段落つき、全員で事情を飲み込もうとお互いに知ることを話していく。

 

「しかし、解せませんね。何故マスターたちを狙うんでしょうか?」

「おそらく手始めに、ってとこだろ?」

「評議会を狙う方が効果的な気がしますが…とりあえずここを出る手段を考えましょうか?」

「この建物全体を空気の渦が巻いているし、上も飛んでどうにかなるレベルじゃねえな」

「そうなるとカゲを無理やり起こしてこの風を解除させるか、下から行くしかないか」

「それだとかなり時間食うぞ?」

 

このままでは抜け出している間に最悪の結果が訪れかねない。どうしたものかと頭を抱えていると、突然ハッピーが大声をあげて荷物をあさりはじめた。

 

「どうした?」

「ルーシィに渡そうと思ってて持ってきてたものがあったんだ!」

「なんでこんな時に……ってその鍵は!?」

「バルゴの鍵か!?」

 

ハッピーの取り出した鍵を見てナツとルーシィは素っ頓狂な声を上げてしまう。それを見ていた他の3人はなんのことだかさっぱり分からない。

 

「これ、前の仕事の後にバルゴがうちに来てね、ルーシィに渡して欲しいって預けていったんだ」

「でもなんで今それを?ここから抜け出す方法考えてるのに…」

 

それを渡されてどうすると言わんばかりに頭を抱えるルーシィ。不満そうなハッピーは小さく呟いた。

 

「だって、バルゴなら簡単に地面掘れるんじゃないかなって…」

「っ!?本当ですか!ルーシィさん、お願いします!」

「それなら早く言ってよ。ええと…」

 

早速その鍵を手にし、召喚するための口上を述べていく。

 

「我、星霊界との道を繋ぐ者。汝、その呼びかけに応え(ゲート)をくぐれ!開け、処女宮の扉、バルゴ!」

「お呼びでしょうか、ご主人様?」

「「「おおっ!!」」」

 

現れたのはメイド姿の美女だった。ルーシィとナツ曰く前に戦った時はゴリラみたいな見た目だったという。なんだかんだあったものの時間を潰している暇はないとエルザが先に話を進める。

 

「早速で悪いが私たちはここから出たい。地面を掘って外側まで行ける穴を作ってくれないか?」

「かしこまりました。では、行きます!」

「おお、早えぞ!これならすぐ追いつけそうだぜ!」

「よくやった、ルーシィ!」

「痛い!」

 

思わぬ突破口を見出したことで先に行っているエリゴールに追いつくチャンスが生まれる。

 

「よし、全員出たな!魔道四輪を回収したらすぐに出るぞ!」

「すごい風ね!」

「す、スカートが…」

「姫、私が押さえておきます!」

「あんたの心配したら…?」

 

バルゴの力のおかげで思わぬ突破口を見出した一行は先に行っているはずのエリゴールを追うべく、傷ついたカゲヤマと共に魔道四輪に乗り込んだ。

 

「そういえばナツはどうした?あいつ居ねえぞ」

「そういえばハッピーも!」

「ここら辺には居ないみたいです。おそらく先に…」

「何!?無事で居てくれ…」

 

====

 

その頃、マスターたちのいるクローバーの町へ向かう唯一の線路の上ではエリゴールが小休止を終えて再び飛ぼうとしていた。

 

「あんなデケエ魔風壁は久しぶりだったが、そろそろ魔力も戻ってくるな。そんじゃ…飛ぶか…」

「待てエエェエェエ!」

「なっ…なんでハエがこんなところに!?カゲたちはどうしてんだ!?」

「これが…ハッピーのマックススピードだぁ!」

「ぐおぉ!!」

 

ハッピーの最高速度からのナツの蹴りをもろに食らったエリゴールは浮かび上がったところを叩き落とされてしまう。

 

「追いついたぜ!そよ風ヤロー!」

「このハエが…!」

 

死神対火竜の激突である。



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第6の唄死神の持つ笛

お久しぶりです、ぽおくそてえです。かなり久しぶりなのでエタったと思われそうですが、なんとか書けました。次回はかなり先になりそうな上に今回は短めです。


「このハエが…」

「へっ、テメェをぶっ飛ばせば終わるんだ!燃えてきたぜ!」

「ぶっ殺してやる…!」

 

====

 

ナツとエリゴールの生と死を賭けた戦いが始まった頃、エルザたちは魔道四輪に乗って急いでいた。

 

「これ、私たちの借りたやつと違うじゃん!」

「あいつら、ご丁寧にぶっ壊して行きやがったからな」

「弁償待った無しね…」

 

そんな会話がなされている中で目を覚ましたカゲが躊躇いながら問いただす。

 

「なんで僕まで連れてきた?僕は敵だぞ?何故助ける?」

「生きているものに闇を抱えたままにさせるなんて私の信条に反しますから。前を向いて生きましょう?ね?」

「お前は…一体…」

「生命の巫女、とだけ申しましょうか」

 

生命の巫女。その単語は闇ギルドにいる人間で知らない者は少ないと言える程によく知られている。

 

「僕たちの天敵がこんな少女だとはね。驚いたよ」

「ふふふ、私も有名になったものですね」

「そんな有名人だったんだ」

「むしろ知らねえのかよ?こいつは闇潰しのエースだ。仕事するたびに闇ギルドとかあれこれ潰して回ってるくらいだぞ」

「ええ!?」

「私が表立って言ってないのもありますから。それに…半分宿命じみたところがあるんです」

 

少し悲しそうな目をし、空を見上げるシリルにルーシィは肩を寄せる。

 

「大丈夫よ。そんな時は私やグレイ、エルザにナツが居てくれるから、みんなで協力できるでしょ?」

「…そうでしたね。ありがとうございます」

「まあ、私はそこまで強くないけど」

「私は期待してますよ?」

 

====

 

「ふん、たかがハエの一兵隊だと思ってたが、どうやら俺も本気で行かねばならんようだな」

「テメェ!フワフワ浮いてんじゃねえよ!」

 

先行しているナツ、エリゴールの激突は風と火という相性の悪さの中、ナツが健闘を演じており、エリゴールは自身の技の中でも火に強い風の鎧を体に纏う。

 

「終わらせてやろう…これでな」

「っ、風が…」

「知ってるか?風は火に強い。この風の鎧はテメェの逆風となる」

 

全身に纏った風はエリゴールからナツに向かって強く吹いている。事実ナツが拳に炎を纏って殴りかかるが、逆風なのとその強力さにかき消されたり、ナツ自身が吹き飛ばされたりと全く歯が立たない。

 

「どうなってんだこれ!?」

「テメェを地獄に送ってやろう。ふふふ、心配すんな、テメェの親たちもすぐにそっちに送ってやるからよ」

 

====

 

「けっ、あの炎ヤロー一人で勝とうなんざ無理があんだよ」

「何よ、ナツが負けるって言うの?」

「風の鎧を前にロクに攻撃できやしねぇ。それにあの人にはエメラ・バラムがあんだ。行った頃にはバラバラだろーよ」

 

誰よりもあのエリゴールの側に居続けた男の言う言葉だ。信憑性がないとは言い難い。ただ、エリゴールを信じる言葉に、この魔道四輪に乗る誰もが否定的だった。

 

「こう言うのもなんだが、あのクソ炎はそう簡単にはくたばらねえよ」

「ナツ兄さんが使うのはただの炎じゃありませんしね」

「ナツならやってくれるもん。それよりアンタの心配をしなさいよ」

 

これだから正規ギルドは、と舌打ちをしながらぼやくカゲを余所に魔道四輪が進んでいく。そして、この議論の答えはすぐに見えてきた。

 

「なっ、エリゴールさんがやられたってのかよ!?」

「お、お前ら遅かったじゃねえか」

「ナツが早すぎんの」

 

そう、ナツの持つ特殊な力『炎の滅竜魔法』の前では風の鎧も意味を成さなかった。

 

「こう言うことですよ。さて、貴方はそこでいてください」

「くっ…」

 

悔しがるカゲを置いて車外のナツに近寄っていく。激しい戦闘による傷があちこちに出来ている。

 

「薬塗りますから大人しくしてください」

「お、悪いな」

「流石だな。よく無事で居てくれた」

「俺にかかれば楽勝ってもんだぜ」

 

戦勝を飾り、残るは封印を施すべき呪歌(ララバイ)のみとなる。そう思われていた。

 

『ヒヒヒヒ…』

 

この場にいる者たちの大半はそう信じて疑わなかった。




次いつになるかな?


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第7の唄 呪いの歌、顕現

かなりお久しぶりになってしまいました。生きていました、ぽおくそてえなるものです。さて、今回も例の通り千文字ちょいと短めでござりまして、更にしばらく執筆から離れてた影響か文章を書くのがかなり下手になっております。どうかご容赦を…


「さてと、後はこの変な笛をどうにかすりゃあ終わりか?」

「評議会に渡すのが道理であろう。いささか面倒だが、封印するとなると彼らが適当だろう」

「そうだな」

 

鉄の森(アイゼンヴァルド)の元締めであるエリゴールもナツの炎を前に散り、後は残されたララバイの笛を処理すればこの一件は片付くこととなる。だが、皆が目を離した隙に、カゲヤマが魔道四輪を乗っ取り、その笛を奪い取って行った。

 

「ははは、油断したなハエども!ララバイは俺が頂いた!」

「ちょっ!?」

「くそ、あいつ無茶しやがって!」

「追うぞ!」

 

深傷を追いながらもなお、残った全ての魔力を振り絞ったカゲヤマの足掻きに驚きながらも追いかけようと走り出す。

 

「グレイ兄さん、氷の魔道四輪を作ってください!私の魔力で動かします!」

「おう!」

 

少し回復した魔力を頼りに先行く災厄を追わんと全速力で走っていく。

 

====

 

笛を奪って線路を走ること数時間、怪我の痛みと魔力の少なさのせいで倒れこみそうになりながらもカゲはどうにかマスターたちの定例会が終わる前に会場へと辿り着いていた。

 

「くそっ、思ったより魔力を使っちまったか。こんなに疲れるとは……(だが、後はこれさえ吹いちまえばっ!)」

「おーい、そこの若いの。こんな所で何しとる?」

「えっ?うおおっ!?」

 

先程まで誰もいなかったボンネットの上にはフェアリーテイル三代目マスター、そしてカゲヤマの標的、マカロフの姿があった。

 

「(くっ、今日はつくづく妖精(ハエ)どもに縁のある日だな)」

「ん?お主怪我をしとるようだのう。病院に早く戻るとええぞ?」

「え、ああすいません。僕は楽器が趣味なんですけど病院じゃあ滅多に吹かせてもらえないものでして…折角ですから一曲だけでもどうです?」

 

少し顔をしかめていたが、この怪我ではと納得したのか、了承して一曲だけ聞くために座り直した。

 

「こっちも人を探さんといかんでな、早めに頼むぞ」

「ええ…(よし、勝った!あとは…あとはこいつさえ吹いてしまえば…!)」

「……(あの笛、ただの笛じゃないな。こやつ、何か隠しておるのぅ)」

 

カゲヤマには微塵も見せていないが流石は一大ギルドの総長を数十年勤めてるだけあって人を見る目はある。隠し事、しかもそれがかなり大ごと、ということは察した。それ故、笛を口につけたまま躊躇いから固まっている若き青年に重い口を開くことができた。

 

「名も知らぬ若人よ、お前さんにその笛は吹けまい。なにせ、それを吹いたところで何も変わらぬからな」

「っ!?な、なんでそれを…」

「ワシには見えた。お前さんの目にある光と迷いをな。お前さんはワシと違ってまだ若い、やり直すなら今のうちじゃ」

「くっ……参り、ました…」

 

マカロフから語られた厳しくも暖かい言葉、カゲヤマの心中にあった違和感、そして今日出会った妖精たちの言葉が、戦うことや笛を吹く意義を奪い、ここにひれ伏せさせた。

 

「それで良い」

「くっ…」

「マスター!」

「じっちゃん!」

「ぬおっ!?なんでお主らがここに!?」

 

探し人、即ち自分のギルドの子供達がここにいることに驚きを隠せない。仕事で出かけているとはミラから聞いていたが、まさかこの笛と若人を追ってきていたとは知らなかったのだ。

 

「流石です!今の言葉、胸が熱くなりました!」

「痛っ!離さんか、エルザ!」

「ふぅ…心配は無用でしたね。ああ、疲れた…」

「お疲れ様、後は任せてゆっくり休んで」

 

今日1日で魔力を無理に引き出したせいでシリルは全身に疲れが出て動くことがままならず、ルーシィに背負ってもらうことになった。

 

「これで追いかけっこも終わりだな。ったく、手間取らせやがって」

「マスター、お手数ですが、この笛を評議会までお願いできますか?」

「ふむ、妥当な判断じゃな。任せい」

 

これにてようやく一件落着、そうなるはずだった。

 

『カカカッ、情けない奴らばかりよ』

「っ!?」

『こんな奴らに任せておくわけにはゆくまい。我が食ってやろうぞ…』

 

置かれた笛より邪悪な声がこだまする。そして…

 

『貴様らの魂をな』

 

ララバイ、真の姿を現した。




次も未定のままです。もしかしたらまた一月ほど開くことと思われます。申し訳ござらぬ。


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第8の唄 新たなる旅路

今回は早めに書けました、ぽおくそてえでござりまする。
さて、今回から少しの間オリジナルでいこうかと考えておりまして、その都合でガルナ島編はスルーです。
次回いつになることやら…


「こいつがララバイの本体か!?」

「でけぇ…」

「ワシらも手伝うべきかの?」

「そこまでは無理であろう」

 

顕現した悪魔に集まっていたマスターたちが加勢しようかどうか迷っていたが、高齢な者が多いことと命が惜しい故になかなか出れないでいる。

 

その頃、建物の外側ではその脅威たるララバイと相対する者たちは、まだ諦めや絶望感は持ち合わせていなかった。エルザの換装からの足元への突貫を皮切りに総攻撃が始まった。その後ろではルーシィに背負われたシリルが指示を飛ばす。

 

「各マスターは下がってください!ナツ兄さんは上方へ、グレイさんはその場で待機を!エルザ姉さんは時間を稼いでください!」

「よっしゃあ!」

『あの小娘め、邪魔臭い…まずはあいつから…』

「や、ら、せ、る、か!」

『ぬぉっ!?』

 

邪魔者を排除せんと動いたララバイだったが、ナツの炎の一撃がその巨体をふらつかせるほどに揺さぶった。周りのギルドマスター達は彼の珍しい魔法に驚嘆するばかりだ。

 

「あやつ炎を纏ったぞ!」

「暴力的じゃのう…」

『くっ、退かぬか小僧!』

「おっと、あぶねっ」

 

煩わしさを感じてか、ナツに向けて数発の魔法弾を放つが間一髪でかわしていく。その流れ弾が方向が悪く、ルーシィたちに当たりそうになる。

 

「ようやく出番か。アイスメイク…!」

「今度は造形師か!?」

「しかし、間に合わんぞ!もっと下がるぞ!」

 

危険を感じたマスターたちであったが、その心配は杞憂に終わることとなる。

 

「…(シールド)!」

 

グレイの造形術は神速と言っても過言ではないくらいに早く造れる。その甲斐あってか一発も背後に流れずに防がれる。

 

「すごい、なにあの魔法」

「造形魔法だよ。名前の通り形を『造る』ものなんだけど、グレイのはそれ以上だよ」

「アイスメイク『(ランス)』!」

 

グレイの両手から放たれた槍たちは巨悪を穿つまさしく牙となってララバイの腹を抉るほどの大穴を開ける。

 

「すごい!」

「流石ですね。ルーシィ姉さん、この紙に魔力をありったけ流し込んでください。私たちも最後の準備に入りますよ」

「う、うん!わかった!」

 

シリルがルーシィに手渡したのは見慣れない文字の書いてあるお札だ。言われた通りに魔力を流し込んでいるとそれに呼応するように赤く輝き始める。

 

「こ、これは…」

「私の術を組み込んだ特別製です。さぁ、私に渡してください」

「今がチャンスみたいよ」

「そうみたいですね、行きます!」

 

三人の大いなる一撃に崩れ去るのを見逃さず、魔力の篭った札を投げる。

 

「『六鎖封結《ろくさふうけつ》』!」

 

シリルの声に呼応して札から6つの血でできた鎖が伸び、侵食し、遂には元の笛へと戻して無力化に成功した。辺りは歓喜の声で包まれる。

 

「今度こそ、じゃな」

「ええ。間違いないでしょう」

「あら、あんたいい男ねぇ。ちゃんと治療してきなさいよ?」

「そうよ。捕まるのはその後でもいいんだから」

 

こうして(ミラ曰く)最強チームの仕事は平和裏に終焉を迎えた。

 

その後、様々なことが起こった。鉄の森(アイゼンヴァルド)がエリゴール以外が逮捕されて解散、ナツとの約束で戦っていたエルザの形式的な逮捕、それを救わんと評議会に突入してナツも拘束されたことなどだ。そして、次の日、ギルドは騒がしさとともに平穏が訪れた。

 

「いやっはぁー!やっぱり娑婆は良いもんだぜー!」

「うるせぇ!少し静かにしやがれ!」

「ちょっと、物壊さないでよね」

 

しかし、そんな中でも1つだけないものがあった。シリルだ。

 

「そう言えばシリルは今日来てないの?」

「なんか評議会の方に頼まれたって」

「何かまずいことでもしたのかしら?」

「あぁ、気にすんな。いつものことだよ」

「え?」

 

ルーシィはその言葉に驚きを隠せない。このギルドに来てから評議会に関わることなんて余程のことばかりだったからだ。先程のララバイの一件にしても然りだ。

 

「あいつ、言ってただろ?闇ギルドと黒魔道書に関わる運命だって。おそらくそれ関係だろうさ」

「そ、そうなの?」

 

====

 

その頃、シリルは青空のもとに立っていた。

 

「さてと、私の宿命の呪縛から解放されに行くとしましょう…一日も早く…」

 

彼女の顔は普段ギルドで見せるような優しいものではなかった。まるで修羅の如き、覇気を纏った仕事人のそれだった。



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第9の唄 生と死と

どうも、ぽおくそてえです。遅くなって申し訳ないです。次いつになるか分かりませんが、よろしくお願いします。

さて、今回はラハールさんにも出てきてもらいました。強行検束部隊大隊長なのか、原作じゃまだ先の登場なのでわからなかったですが、そういう体で書かせてもらってます。


マグノリア駅から数駅、とある駅前にはシリルを待っていた評議会の部隊がいた。彼らの緊張感がひしひしと伝わってくる。

 

「お待ちしておりましたシリルさん。今回の作戦を担当するラハールと申します」

「お疲れ様です、お待たせして申し訳ないです。今回はどんな御用で?」

「闇ギルド『豹の爪(パンサークロー)』の殲滅と、彼らの所持していると思われる黒魔道関係物の回収です。正直我々の技術程度では封印しきれるか不安がありましたので」

「なるほど、そういうことでしたか」

 

もちろん、評議会にも黒魔術関連の対策班があるはずだ。しかし、今回は彼らが別件で動いているのか、厄介払いのために、そしてギルドの問題に目を瞑る条件のために呼んで来たのだろうと彼女は独りごちた。

 

「協力しましょう。ただし、危険な場合は即撤退を」

「承知しました」

「問題は魔道士よりも魔法の方ですね。性能が分からない以上どう対応すべきか…」

「密偵の話では本ではなく猫とのことですし、黒い光を放っていたとか…」

「…思い当たる節がありますが、何故あの方が?」

「ここで議論するのは止しましょう。全員準備を!」

 

====

 

「マスター、評議員の連中どもがここに来るそうでござる」

「左様か。分かった、戦闘準備をせい!ワシも出よう。『黒猫』お主には逆らう権利はない、来い」

『全く面倒な…(ただ、今日は運が良さそうじゃな、この感じ)』

 

評議会とシリルの共同戦線が押し寄せる中、闇ギルド『豹の爪(パンサークロー)』ではマスター、ドジャー・ブライアスが部下に下知し、その傍らで囚われている黒猫こと冥府神の使い、クローバー・アヌヴィーにも同行を強要していた。

 

「今日は強者に出会えると良いがな」

『ワシの感知が狂っておらねば良き武者に会えると思うがのう?』

「ふふふ、面白そうだな?さぁ、開幕だ!」

 

====

 

「もうあと100メートル程で彼らの本拠です。各自展開!暴れるようなら容赦はいりません!」

「この感じ…黒い猫がいたら攻撃はしないように!その方は危険です!」

「「「はっ!」」」

 

身に覚えのある生体反応を捉えたシリルは注意喚起を行い、戦闘態勢に入った。その側で部隊長のラハールが耳打ちに近い形で確認の質問をする。

 

「先程の黒猫の件ですが、知っている方なのですか?」

「ええ。何故ここにいるかは不明ですが、冥府神の使いです。闇の系譜と、毒、病気など死の恐怖を体現した方ですので、先程のような注意を…」

「なるほど、手を出せば厄介ですね」

 

しかし、そんな二人の会話も、敵拠点から上がる爆炎によって中断を余儀なくされる。このままでは被害が拡がりかねないと判断し、早急に対応すべく突入を決断した。そして建物内では既に数人の捕縛者と未だに抵抗を続ける魔道士たち相手に苦戦を強いられている評議員たちが小競り合いを続けていた。

 

「生命神の…『一喝』!」

「うおおっ!?」

「な、なんだあのクソアマは!?」

 

シリルがナツの技を参考に繰り出したのは血と気が織り交ぜられた神の一声に相応しい強力な咆哮だった。それは悪魔じみた力と違い、決して殺す魔法ではなかった。

 

「今です!彼らを捕縛なさい!」

 

一気に数を減らした闇ギルドの連中はなす術もなく次々に捕らえられ、残った者たちもシリルの魔法と評議会の数に押されて最終的には全員が同じ状態となった。

 

「ギルドマスターはどこにいるのです?」

「は、話せるかよ。俺たちの計画はまだ…」

 

ここに姿のないギルドマスターの所在を誰に尋ねてもやはりというべきか、口が堅い。そこで持ち込まれたのは魔力検知器である。こういった案件の時に人を手早く追うために作られたものだ。

 

「隊長!この階段の奥へ何者かが進んだ跡が見られます!」

「異様な魔力も検知されました!この奥で間違い無いと思われます!」

「なるほど、ありがとうございます。確かこの先は祭壇があったと聞いてますが…」

「冥府の使いと祭壇…死の厄災でも起こす気でしょうか?」

 

冥府の神の一使いと言えど、その者の力のコントロールと使用ができれば死の恐怖が訪れるのは目に見えている。止めねばならない。その場にいる全員がそう考えを揃えた。

 

====

 

「いよう、評議会と神の使い!ワシを待たせるとはいい度胸だ!」

『やはりお主だったか、シリルお嬢ちゃん。手間掛けさせるのう』

「まだ健在ということは始まっていないみたいですね」

 

階段の先の祭壇ではマスターのドジャーが不敵な笑みを浮かべて全員を出迎えた。まるで勝利と目的を確約したような笑みで。

 

「ワシはお前たちを完膚なきまでに叩き潰さんといかんと考えててな、目的の為にも死んで行けや」

「私は生きる者のためにいる。貴方をここで潰します」

 

生と死の激突がここで始まろうとしていた。



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第10の唄 仕事の終わり、争乱の始まり

どうも、ぽおくそてえです。今回はかなり早く書けました(戦闘シーンを削りまくったともいう)。かなり短い戦闘ですが、不肖ぽおくそてえの腕ではこれが限界でした、申し訳ない。


「デケェ魔力だと思えばなるほど、俺を楽しませるには十分だな」

「命がけで行かせてもらいますよ。私の背負うものは重いのでね」

『(ふふ、あやつ、成長しておるようだな。私の弟子とは違い、気負わず、ただひたすらに前を向く。ギルドの力の一端かね)』

 

睨み合いにより緊迫した空気をうち壊して動いたのはドジャーだ。錬成した金の槌で押し潰さんと、真っ直ぐにシリルへ突貫していく。

 

「つぇあああ!」

「くっ、きゃあっ!」

『お嬢ちゃん!』

「援護しろ!今こそ我ら評議会の力を示す時!」

 

武器の重さと動きの速さ、無駄の少なさが相まって気を纏った腕の上からでも伝わる一撃に、ほぼ為すすべもなく吹き飛ばされる。勇敢な評議員が時間と体力を奪おうと果敢に挑むが、敵は闇ギルドの長、一発入れられれば御の字だ。

 

「テメェら雑魚には用はねえ。失せろ!」

 

地面から大量の金の槍を錬成し、一人も余すところなく貫こうとした。しかし、その槍は何かにぶち当たり、衝撃を伝えて吹き飛ばすことしかできなかった。

 

「彼らを殺させません……私は『生命の巫女』、勇敢に生きる者の何よりの支えにならねばならぬ者…」

 

そう、シリルが即席で作り上げた防御壁と戦いに向いていない評議員たちの魔力壁のお陰で誰一人重傷を負わずに済んだのだ。

 

「ただで転びやしねえか。だがそれで良い、それでこそワシは楽しめよう!ワシの(兵隊)もようやく役目を果たしたと言えような!」

「貴方のような考えを持つ人間をこれ以上野放しには出来ません。医療班は負傷者を連れて撤退を!防御班は援護を!攻撃班は囲みなさい!」

『やれやれ、私も参加させてもらうよ?』

「クローバーさん?」

『若人たちの意気に当てられてね。手を出すなよ、評議会の者共よ、ここは私とシリルで片付ける』

 

囚われの身であった彼はここまでの戦いを静観していたが、今が脱出のチャンスと捉え、苦戦するシリルらに手を貸すことにした。

 

『奴の魔法は見ての通り金の造形魔法を応用したものだし、効果範囲はでかい』

「守りは私、攻めを…」

『良かろう、お嬢ちゃん、背中を頼む』

 

そう告げるや、流れ星のような滑らかな攻撃を繰り出していき、流石にこれには速攻派のドジャーも鬱陶しそうな顔をする。しかも後ろからくるシリルの気弾も狙いを定めにくい要因になっている。

 

「くそっ、しゃらくせえ!」

「血縛鎖牢!」

「てめっ、邪魔クセェ!」

『冥府式・暗黒波!』

「ぐぁっ!?」

 

冥府神ペルスの一番弟子なだけあって、戦い方に慣れており、なぜ捕まったのかの疑問がシリルの中でさらに大きくなっていく。

 

「ぬぅ…喰らえぃ!」

「きゃっ!」

『くっ、危なっかしいのう』

「まだだ、もっと楽しませろ!アッハハハハハ!」

 

怒りに飲まれたドジャーの意地の力を前に避け、かすり傷や打撲痕をあちこちに作りながらも、2人は息の合った最後の力をぶつける。

 

「生命神流奥義!」

『冥府神最終奥義!』

「生命神の…」

『冥府神の…」

 

黄金の猛攻を切り抜けた両者は苛立ちに顔を歪めるドジャーの目の前に立ち、神の息吹を浴びせかけた。

 

「『一声!!!』」

「ブルゥアアアーーー!!!」

 

神々の加護を受けた一撃になすすべも無く力尽きたドジャーは不穏な言葉を口にして気絶した。

 

「ゼレフ卿…貴方の世界へと辿りつけなんだ…無念…」

「ゼレフ…!?」

『放っておけい。お嬢ちゃん、私の後について来てくだされ』

 

疑問やら恐怖やらを胸中にしまい込み、クローバーの後を追うように遺跡の地下に当たる隠し部屋にたどり着いた。そこにはまだ10にも満たない子供が囚われていた。

 

『弟子や弟子、無事だったかね?』

「し、師匠!!」

「そういうことでしたか、クローバーさん。貴方ほどの方が捕まるのが謎だったんですよ」

『まぁ、そういうことじゃ』

 

クローバーの一番弟子、ユリア。今回の件は彼女を捕らえることでクローバーの捕獲、利用をすんなり達成していたのだ。元はと言えば彼女がかのギルドに喧嘩をふっかけたのが原因らしい。

 

「ご、ごめんなさい」

『過ぎたることはもう良い。シリルのお嬢ちゃん、今回この子に会わせたのは他でもない。ギルドに預けたいが故じゃ』

「いまいち話が見えないのですが…」

『何、そちらの活躍があったのはギルドで人と交わって信念を持ったからだろう?この子にも何かをつかんでほしくてな。勝手な我儘なのは承知の上』

 

子の事が心配な親心とでも言うべきか、と愚痴っていた。シリルは別に構わなかったが、ギルドに入れるのはマスターやそれに代わる人間の許可が必要となる。

 

『ならば私も頼みに行こう。親として、師匠として最低限の礼儀と、厄介ごとを頼みに行くことへの説得はさせて貰わねばな』

「分かりました。そこまで言われては断れません」

 

====

 

評議会からの依頼は多くの怪我人を出しながらも、死者を出さなかった事が幸いし、なんとか終える事ができた。シリルは頼み事を抱えたクローバーと今回の頼み事の関係者たるユリアを連れてギルドに戻ってきていた。しかし、肝心のギルドが壊され、全員が地下で過ごす羽目になっているとは思いもよらなかった。途中から案内をしてくれたミラ曰く、仲の悪い『幽鬼の支配者(ファントムロード)』が喧嘩を仕掛けて来たらしい。

 

「マスター、こんな事態に申し訳ないですが、頼み事が…」

「なんじゃね?」

『ここからは私が。突然の来訪、失礼します。冥府の使い、クローバーと申す。今ギルドを見させてもらい、非常事態の中ですが、私の弟子を預かっていただきたい。ギルドの中で多くの人と触れ合ってもらいたいのです。ご迷惑なお願いなのは重々…』

「ふうむ……」

 

フィオーレの巨大ギルド同士の争いに発展しかねない中で、子供を預かることは危険なことは明白である。ギルドの長で、子供たちを預かる身としては責任が重い。

 

「今すぐに、というのは難しいという事はもうさせてもらいます。ただ、この一件が済み次第、ということでよろしいですかな?」

『有難い。それまでは微力ながらお力添え致しましょう』

 

ここに1つ、新たな風がギルドに吹き込まれる。だが、争乱の火種は燃え広がろうとしていたのだ。




ようやくファントム編突入でござる。次いつ投稿できることやら…


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第2章 ファントムロード 迷いを払って 第11の唄 巨人の逆鱗に触れる時

どうもです、ぽおくそてえです。今回もよろしくです。


『この一件、最悪抗争に発展しそうじゃな』

「こちらがどう動くか、と申すか。だが、家族に危害を加えぬ限りは派手に動くつもりはないのう」

『死人や怪我人だけは勘弁願いますぞ。こちらも無用な仕事は避けたいのでな』

「無論じゃ」

 

日も暮れかけ、ギルドに残っていた者たちが続々と家路につく中、酒場で2人の年長者が対面して盃を酌み交わしていた。今回の襲撃がやはり話題に上がる。

 

「戦争となれば被害はいくばくか…想像するだけで寒気が走るわい」

『さて、こちらは失礼するぞ。あの子のことを宜しく頼み申す』

「ではまた…」

 

====

 

その頃、ユリアを連れたシリルはナツたちに誘われ、家主が留守のルーシィの家に勝手に上がっていた。

 

「ねぇシリルお姉ちゃん、これいいの?」

「ツッコンだら負けよ」

「えぇ…。世の中知らない方だけどこれマズイよ」

 

まだギルドの空気にいい意味でも悪い意味でも慣れていないユリアは戸惑いを隠せない。いくら仲間の家とはいえ、勝手に上がっていいのかと玄関近くで立ち往生している。

 

「大丈夫、あとで説明すればルーシィは納得してくれるはずだ。なにせ、ファントムの連中に狙われてる可能性があるからな」

「そういうこった。1人でいるより安全だろ?」

「ま、まあ確かに」

「そういえばまだ名前聞いてなかったな」

 

ナツの疑問は当然で、半ば押しかけのようにやってきた少女を知る者はごく僅かだ。

 

「えっと、ユリア・アマリリスです。冥府神の巫女代理です」

「神の巫女か。ウチにはシリルに続いて2人目だな」

「2人並んでるとなんか姉妹みたいに見えるな」

 

仕える神も見た目も似ていないのに、どこかシンパシーを感じさせたのだろう、ナツの意見にエルザたちが賛同するように首を縦にふる。

 

「それよりルーシィはどうした?少し遅い気がするが…」

「大丈夫ですよ、今帰ってきてるところです」

「そうか。ではルーシィには悪いが、戻ってくるまでに夕飯を済ませよう」

 

====

 

「なんか不穏な空気になってきたね」

「奴らはこちらが仕掛けずともいずれやって来よう」

 

ルーシィの帰宅後は少し騒がしかったが、風呂に順番に入った後は落ち着きを取り戻し、今回の襲撃の件を話し合っていた。ファントムは表向き合法ギルドだが、闇ギルド並と批判する人もいる。その悪評に見合うだけの戦力とコネ、財力を持ち合わせているのは確かだ。

 

「あいつらなんか怖かねえよ!じっちゃんとかミラとかビビりすぎなんだよ!」

「落ち着かんか。今全面戦争をしたところで痛み分け以上の結果になるのは目に見えている」

「それに…あっちにもS級に当たる魔道士が4人もいるし、お前と同じ滅竜魔道士(ドラゴンスレイヤー)が居るらしいじゃねえか?」

「えっ!?あっちにもナツみたいなのが居るの!?」

 

滅竜魔法は『失われた魔法』という希少な魔法で、それを使える魔道士がそう遠くない場所に2人も使い手がいるとなればルーシィの驚きも無理ないというもの。

 

「ここまで派手に仕掛けてきたということは勝算があるか、糸を引いている人間がいるってことですね」

「もはや時間の問題ね」

「あいつらの目的はなんなんだ?」

「さあな。喧嘩は今に始まったことではないからな」

 

これ以上の推論による問答は無用と判断したのか、エルザを筆頭に全員で仲良く眠ることになった。そして日が上がった次の日、街角に出て見れば、広場で人々の喧騒があった。だが、いつもの明るい喧騒とは違い、まるで事件現場である。

 

「済まないギルドのものだ、通してくれ」

「一体何が…」

「これって…っ!?」

 

群衆の中を潜り抜けて前に出たら、そこには信じたくない現実が待ち受けていた。木に縛り付けられ、散々に痛めつけられたチームシャドウ・ギアの三人の姿がそこにあった。

 

「なんでこんな事に…すぐに降ろします!ユリア、手伝って!」

「うん!」

「いったい誰がこんな…」

「ファントムの阿呆共か…」

 

そこに悠然と現れたのは彼女たちの親であり、マスターのマカロフだった。普段の優しげな雰囲気はまるでなく、その表情は怒りと悲しみに溢れていた。

 

「ギルドのボロい建物は我慢できたんだがな…ワシの大切なガキたちがこうも傷つけられたらもう我慢ならん」

 

その言葉には苦悶の色が滲み出ていた。自分の大事な家族を傷つけられ、守れなかった事の現れでもある。

 

「問答無用じゃ。戦争じゃ!」

 

巨人の動く時だ。



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第12の唄 不穏

遅くなりました、ぽおくそてえです。
少しずつではありますが、お気に入りが増えて嬉しい限りです。今回は丁度キリのいいところまで進めました。

次回は本格的な戦闘になります。


大事な子供達の血が流れた事に怒りをおぼえ、その怒りに任せて全面戦争へと移った。もはや巨人マカロフのこの怒りに否定的な者はおらず、家族のために皆が立ち上がった。彼らがファントムへと向かう中、シリルとユリア、ルーシィはギルドでマスターの知り合い、ポーリュシカが嫌々ながら手伝ってくれている中でレビィ達の治療を終え、そのままギルドに残っていた。

 

「全く、これだから私は人間が嫌いなんだ。こんな戦争じみたことで呼び出されるのは御免だよ」

 

そうぶつくさ言いながらも無事に治療をしてポーリュシカは帰路につき、残った3人は心配そうにレビィ達のことを見ていた。

 

「なんでこんな酷いことができるんだろ…」

「お姉ちゃん、心配なのは分かるよ。でもね、ここで悔しがってるだけじゃ進まないよ。私たちも行こう」

「うん…ありがとう」

「1人では危ないからみんなで行きましょう?それに、少しは気がまぎれるでしょうから」

 

3人が外に出て皆を追っていると、なぜかにわか雨が降りだした。先程までの快晴が嘘のようだ。

 

「こんな時に雨なんて…ついてないわね」

「早めに動こ。なんか嫌な予感がする」

「待って、誰か来てる」

 

ルーシィの手を引こうとしたユリアを制したのはシリルだ。ギルドを出る時から違和感を覚えていたのだ。明らかな敵意のある波動が近寄っている感じがあったのだ。雨模様の中で歩いてくるのは傘をさした見るからに怪しい女性だった。

 

「しんしんと、振りゆく雨は涙色。晴れることなき心の雲かな……ルーシィ・ハートフィリアを捕らえろってことだったけど護衛がいるなんてね」

「誰よあんた。まさかファントムじゃないわよね?」

「ご名答。流石はハートフィリア財閥のご令嬢、頭の方は冴えておいでですな」

 

何処からか声が聞こえたかと思えば地面から生えるように紳士然としたモノクルをかけた男が現れた。

 

「申し遅れましたね、私はファントムロードのエレメント4が1人、大地のソルでございます」

「大雨のジュビアよ」

「自分から名乗るなんて随分と余裕があるようで…破ァ!」

 

敵の方から現れた上に挑発に近い自己紹介に痺れを切らしたのはシリルだ。大事な仲間を守らんと、先手を取って空気砲を撃つ。

 

「ノンノンノン。そういった攻撃は無効ですぞ?」

「ジュビアの体は水で出来てるから」

 

しかしながら、特殊な体をしているジュビアにはまるで効いておらず、ソルも地面に潜り込んで避けている。

 

「厄介な…」

「お姉ちゃん、後ろ!」

「なっ!?」

「『水流拘束(ウオーターロック)』!」

 

先程まで前にいたのは水で出来た分身で、まるで攻撃してくるのが分かっていたかのような手の込んだ策を練ってきた。後ろからの襲撃にいとも容易く捕われてしまう。

 

「さあ、彼女を離して欲しければ私たちに降りなさい、ルーシィ・ハートフィリア」

「誰が…誰があんた達に!」

「そう。なら終わらせる…」

「逃げるよ!『闇刹那』!」

 

とっさの暗闇に対処できなかったのか、簡単に逃げおおせることができた。水牢に捕らわれていたシリルも闇に乗じて姿をくらませることができた。

 

「逃げられてしまいましたか、Tellement mauvais(残念ですな)

「次狙えばいいわ。戻りましょ」

 

====

 

次の日、ギルドは騒然としていた。ルーシィへの襲撃、ギルドマスターのまさかの戦闘不能、屈辱の撤退などが主な理由だ。

 

「くそったれ!」

「痛ぇ…ちくしょう」

「俺たちが逃げるだなんてよぉ!」

 

そんな騒ぎの中、次第に事件の背景がぼんやりながら見えてきた。ルーシィの父親が彼女の身柄の確保と即時帰宅を目的にファントムに依頼してきたこと、拙速の用なのかかなり強引な方法を取っていることなどだ。

 

「なんで今更私を…家を出て何ヶ月も経つっていうのに」

「お姉ちゃんさ、お家やなの?」

「あんな人のとこには行きたくないし、正直あそこが我が家って感じじゃないの」

 

自分のせいで今回の件が起きたと思っている彼女の口調は普段の明るさが消え、暗い。そんなルーシィに声をかけたのはいつものメンバーたちだ。

 

「これはお前のせいじゃねえ。それに、どんな理由があれ、家族を守るのは当然だろう?」

「そうですよ。私たちはいつでもあなたの味方です」

「それにさっきグレイが言ってたけどよ、ここがお前の家だと思いたいなら、それでいいじゃねえか?お前の心はこのギルドにあるんだろ?」

 

その温かい言葉に自然と涙が溢れる。今まで感じてこなかったような感情が溢れ、それに驚いたグレイたちが慌てふためいていた。

 

「ユリア、これがギルドの結束よ」

「うん」

 

張り詰めた空気が和らぎ始めようとしたその時、アルザックの伝えた一報が再び緊張をもたらす。

 

「敵襲だ!あいつらギルドごと攻めて来やがった!」

「何!?」

 

全員で表に出てみると、そこには移動式ギルドが湖の真ん中を堂々と歩いていた。

 

『もはやここまでだ。貴様らをマカロフと同じような苦しみに陥れてやろう。魔導砲ジュピターを受けよ!』

「じゅ、ジュピターだと!?まずい、全員下がれ!!」

 

怒りと焦りの声が飛んだ場所は、戦場へと変わっていく。




もっと速筆になりたい…次回は未だいつになるか未定です。


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第13の唄 神の愛

どうもです、今回はかなり高速で書けました(次がかなり先になりそうですけどね)

文字数の割には進展がねぇ…


「全員伏せろ!私が食い止める!」

「無茶すんじゃねえ!命を落とすぞ!」

「構わん!皆を守れるなら私1人の命など…!」

 

そう言って最前線に出ようとしたエルザを止めたのはシリルだった。ここしばらく見なかった憤怒の感情を前面に出した彼女の手には無意識に力が入る。

 

「ここは私がやります。あとは頼みますよ」

「待て!何をするつもりだ!」

「私は生命神の使い。誰一人死なせるつもりはありませんよ」

 

皆を守ることが己が使命と心得ているシリルを止めようとするが、その間にもジュピターの装填は刻一刻と進んでいく。

 

「時間がありません!離れててください!」

「くっ、無茶だけはするな!」

「私を誰だと思ってるんです?……『澄みたる心は天照す光。邪を破りて我が願いを叶えたまえ!』」

 

一寸の猶予もない。そんな緊迫した空気の中、詠唱とともに現れたのは普通の魔法陣よりはるかに巨大な魔法陣だった。

 

「『我が愛は聖なる刃となり、遍く全てを救う糧とならん!』」

『発射しろ!』

「お母様、我らに御加護を……『ディオ・アモーレ』!」

 

2つの砲弾が放たれたのはほぼ同時。天を震わせ、大地を揺るがす大魔法がそれぞれの思惑を乗せて解き放たれた。丁度中間の位置でぶつかり合った両者の一撃は最初は均衡を保っていたが、威力の差が出始めたのか、次第にシリルが押され始める。

 

「くっ…(やっぱり、押されるのね…)」

『諦めろ、生命の巫女。お前の力と我々の武威の差は歴然だ。散れ!』

「私は…貴方のような人間が一番許せないのよ!!」

 

強い意志に神の力が呼応したのか、それとも無意識のうちにそうさせたのか、威力をあげるとともにジュピターの砲弾の下から軌道をそらしていく。

 

「はあぁぁぁ!!」

『くっ、なんて奴だ。弾道を曲げるとは…』

 

力の衝突が大きかった分だけ、曲がった軌道は戻らず、フェアリーテイルの面々に当たることはおろか、後ろで守っているギルドの天井をかすりもせずに通り抜けるだけの結果になってしまった。しかし、攻撃を間近で防いだ少女は反動と風圧に、細い体が軽々と吹き飛ばされる。

 

「ぐっ、ううっ…」

「シリル!大丈夫か!?しっかりしろ!」

「傷だらけじゃねえか!」

 

馬鹿力への代償なのか、彼女の体には莫大な負担がかかり、何箇所か血管が切れた上に皮膚も破れて見るも無残なほどに痛めつけられていた。

 

『これで貴様らのマスターも、生命の巫女もダウンということか。全員を楽にしてやれたというのに、なんと馬鹿らしい。今そこにいるルーシィ・ハートフィリアを差し出せば穏便に済ませてやろう』

 

拡声器から響く無情の交渉に戦う妖精たちは反論していく。仲間を差し出すことなどあってはならない。どんなに傷つこうと、彼らにとっては仲間は何があっても守るべき大切な家族だからだ。

 

「あたし…」

 

それでもやはり、ルーシィはそんな彼らに傷ついて欲しくないと涙を堪えて震えている。自分が捕まればみんな無事に帰れる、これ以上は傷つかずに済む。彼女の優しさからくる震えなのだろう。だが、それを打ち破るのはやはり仲間の怒号だった。

 

「私は…仲間と一緒に生きると決めている!誰がそんな言葉に従うか!」

「仲間を見捨てて生き延びるくらいなら死んだ方がマシだ!」

「俺たちは何が何でも仲間を守り切ってやらぁ!テメェら全員ぶっ飛ばしてやらぁ!」

「みんな……」

 

どんな絶望的な力量差があろうと、強い意志と団結力がルーシィの心を満たす。何も悩むことはない。このギルドはただの仲間ではなく、自分を信じてくれる大切な家族なのだと。

 

『そうか…それが貴様らの回答か。ならば今度こそそのクズ程しかない誇りごと打ち砕いてくれる!次の装填までの15分、恐怖に震えろ!』

 

通信を遮断するとともに第二砲を充填しはじめる。それと共にファントムのギルドから兵隊がワラワラと湧いて出た。

 

「あいつら、仲間ごと撃つつもりかよ」

「容赦ねえな」

「違うね。あれは幽兵(シェイド)、命のない影のような存在だよ」

「なんだと!?」

 

カナが言う通り、幽兵が傷ついてもあっちのギルドにとっては大した損害にならない。混戦になったところでまとめて撃ち貫くつもりだろう。

 

「あのジュピターが装填される前に崩さなきゃね」

「だったら俺に任せておけ。シリルのあの気合いを見て何もしねぇのなんてな」

「任せていいのかい、ナツ?」

「おう!壊すのは俺の得意分野だしな、いくぞハッピー!」

「あいさー!」

 

脅威の砲撃に終わりを告げるためにナツとハッピーは先に乗り込んで壊しにかかる。それを見たグレイとエルフマンは、彼の漢気に当てられたか、はたまたライバル心からか、それに続くように駆け出した。

 

「よし、あっちはあっちに任せよう。私たちは全力でギルドを守るよ!」

「「「オオーッ!!!」」」

「シリルは戦える状況じゃない。ギルドで休ませてあげな」

 

強がって叫んではいたが、やはり先程の消耗は大きい。そんな気を失ったシリルを見送ると、ユリアは毅然とした態度でカナとロキの間に立つ。年の差があれど、彼女には彼女なりの理由があってそこに立っている。

 

「あんた昨日の子だね?どうしてあんたが?」

「私も……お姉ちゃんみたいに仲間ってのを守れるくらいに強くなりたいんだ!(見ててね、師匠…)」

「これは将来有望だね。ロキ、あたしとあんたで指揮を取るよ」

「任せてくれ。レディを守るのが紳士の務めだ」

 

装填まで十数分。ギルドの意地と名誉を賭けて、勇敢なる妖精たちの戦いが始まる。

 

====

 

「シリル、こんなに頑固な子だなんて知らなかったわ」

 

ギルド内では過去のトラウマから、戦闘が出来なくなってしまったミラがせめてもの助力をしようと介抱を務めていた。

 

「大丈夫。貴女は私が治してあげる」

 

一緒にギルドに入った亡き妹とどこかかぶって見えていたように感じる。あんな思いはもう二度としたくない。ミラの腕に更に力が入る。

 

「みんなで笑顔で戻りましょう」

 

全員無事に帰ることを信じて。

 

 

戦争は激化する。血は流れ、多くの者が傷つく。様々な犠牲の上にある勝利の星はいずれの手に渡るのか…。




『ディオ・アモーレ』
イタリア語を使いました。かなり直訳みたいなことになりましたが、意味合いとしては神の愛です。


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第14の唄 戦局の動く時

お久しぶりでございます。大変お待たせして申し訳ないです、ぽおくそてえです。

投稿を開始してから半年経ちますが、前作の半分ほどしか進んでません。ヤバイ……。そしてFAIRY BEASTが意外にも読まれてることに驚きを隠せないです、有難きことかな。

さて、本編に参りましょう。


ギルド前のせめぎ合いが起こる中、ナツとハッピーは砲台に乗って壊そうと叩くが、ビクともしないそれに次第に苛立ちを覚え始めていた。

 

「チックショー、硬いなぁ」

「外側からじゃ無理だね。中から行こう!」

「それもそうだな。時間もねぇし、ちゃっちゃと済ますぞ!」

 

外からでダメなら内から。切り替えの早さが彼らの良いところである。魔法の砲撃である以上ラクリマを破壊すれば機能が止まったも同然になる。

 

「よっし、入れたな」

「外からじゃ分からなかったけど、かなりでかいね、ジュピターのラクリマ」

「でかさなんて関係ねぇな。ぶっ壊すだけだからよ」

「そんな事を我々がさせるとでも?ここは作戦の重要地点なんだ」

 

物騒なことを口にするナツに、上から牽制するように男は口を開く。主力の砲台なのに、守りはこの男一人だ。

 

「お前のことは聞いているぞサラマンダーのナツ。俺は大火の兎々丸、お前を倒す男の名前だ」

「どうでもいい。邪魔をするってんならぶっ飛ばすまでだ」

「その威勢、いつまで続くかな?」

 

猛火の燃え盛る砲台前の決戦が始まる。

 

====

 

「う…ここは…」

「気づいたのね!?大丈夫、ギルドの中よ。みんな頑張って闘ってるわ」

「ミラ姉さん…ありがとうございます」

「ルーシィなら隠れ家に行ってもらってるわ。リーダスも一緒にね」

 

敵の狙いは彼女にある。それならば護衛をつけて離れてもらうのも1つの手だ。それでも自分が寝ているような暇がないのは承知の上だ。身体がいまだに痺れるが、戦場に出ようと立ち上がる。

 

「私も出なきゃ」

「ダメ!貴女は怪我人よ?ここでみんなを信じて待ってなさい」

「ごめんなさい」

「うんうん、良い子ね」

 

ミラの忠告を聞かなければ皆の足を引っ張りかねないと感じ、心苦しく思いながらもこの場にとどまる決意を決めた。

 

「ユリア、みんな…どうかご無事で…」

 

窓の外で続く乱闘を気にかけながら、ただここで待つしかない。

 

====

 

「くっ、しつこい!」

「流石に多いね。ナツ達はどうしたんだ?まだ砲台は崩せてないみたいだけど…」

「弱音はまだ聞かないよ。ナツ達を信じなさい!」

 

ナツが飛び立ってから10分ほど、未だに健在な砲台に皆心のどこかで怯えながら戦っている。弱気になりかける者を鼓舞するようにカナが無理を押して大声を上げる。

 

「カナお姉ちゃん、無理したらダメだよ!」

「せっかくシリルが託してくれたんだ!私たちが頑張らなきゃね!」

『若者たちよ、よくやっておるな。こやつらの相手は私がしよう』

「師匠!?」

 

立て続けに湧いてくるシェイドに消耗戦を強いられている妖精達の前線を押し戻すために、いつの間にか来ていたクローバーが前に出る。人間同士の争いにはなるべく干渉しないようにしていたが、見逃せる状況ではなくなって来ているのも事実だ。

 

『このクローバーが遊んでやろう。神の啓示書、第八巻第六章アヌビスの項より参照……『地獄の雷』!』

 

冥府から呼び出した魔法陣は敵の戦力を大いに削り、残った兵たちに恐れを植え付けるにはうってつけの効果を発揮した。敵の動きが鈍ったこの好機を逃すまいと士気の上がった妖精たちは前へ前へと突き進んで行く。

 

『更なる馳走をくれてやる…神の啓示書第六巻第二章チェルノボグの項より参照…『怒りの獄炎』!』

「よし、道が出来たぞ!私たちも攻めに転じるぞ!」

「「「オオーーッ!!」」」

 

数の不利を覆した彼女たちはエルザを先頭にただひたすらにナツを信じて突き進む。そんな中でクローバーはユリアを呼び止めた。

 

『弟子や弟子、今少しだけ力を貸そう。こっちに来なさい』

「師匠、いいの?」

『今は躊躇している場合じゃないのじゃ。『神の啓示書』の基本の基、『第一巻第一章閻魔の項』を託す。よく学べよ』

 

託した力は冥府の神々が扱ってきた古の魔法(エンシェント・スペル)の類だ。基礎中の基礎とはいえ神の力の一端、威力は推して知るべしだ。

 

『さあ行け、これから護るべきもののために……私の大事な娘よ、頑張れ』

「し、師匠はどうするんです?」

『これから向かうべきところがある。しばしの別れだ…さらばだ』

「師匠…うん!私、やってみるよ!」

 

期待をかけられ、それに応えてみせようと護るべき人たちのために前を向く。

 

====

 

「いい加減に渋といんだよ!」

「俺に炎は効かないと言ったはずだ!その巨炎も支配下に…」

 

ジュピターが魔力の装填の最終段階に移る中、ナツと兎々丸の一騎打ちは続く。最後の抵抗と言わんばかりに腕に魔力を溜め込んでいく。

 

「んぐぐぐぐっ!!」

「くっ、コントロールが効かない!どういうことだ!?」

「この炎は俺のもんだ!勝手に操るんじゃねぇ!」

 

暴力と意思の権化と化した爆炎は兎々丸の制御力を大きく上回り、一気呵成に攻めたてるように放たれる。それをギリギリでかわして笑いをあげる兎々丸だったが、その真意を理解するにはもう遅かった。

 

「ハナからお前なんか狙ってねえよ!ぶっ壊れろぉ!」

「なっ!?しまった!」

 

その先にあったのはジュピターのラクリマ。炎竜王の炎を受けたラクリマは抵抗を許されず、破壊を受け入れる他なかった。

 

「さぁ、今度はテメェの番だ、ファントム!」

「(や、ヤバイよ!こんな奴だなんて聞いてねぇ!)」

 

ジュピター、完全停止!妖精達の歓喜の声が轟く中、戦局は大いに動こうとしていた。



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第15の唄 正面衝突

遅くなりました、ぽおくそてえです。もう半年も書いているのに、前作の半分くらいしか進んでない…由々しき問題ですな。

それでは本編どうぞ!


完膚なきにまで壊されたラクリマの前に立つ二人の男の心境は全くもって逆のものだった。かたや目的の1つを達成して意気揚々としているナツ、そして彼の前にいて冷や汗を浮かべる大火の兎々丸だ。

 

「もうお前らに勝ち目はねぇよ」

「くっ、役目を果たせないなど…っ!これは!」

「な、なんだ!?急に動き…うぷっ」

 

だが、そんな情勢もあることを切っ掛けに立場が入れ替わる。砲台の破壊を受けたことによるのか、急にナツ達のいるギルドが姿を変えていく。

 

「お、おおっ……」

「まさか『超魔導巨人ファントムMkⅡ』に切り替えてるのか!くそ、足元が不安定すぎる」

「くそ、酔いが…」

「ナツー!」

 

ギルドが座った状態から立ち上がった姿に変えようとしているのだ、乗り物酔いを持つナツは急激に弱っていく。

 

「まさかお前にそんな弱点があるとはな!今こそ俺の究極魔法を喰らえ!『七色の炎(レインボーファイア)』!」

「お、おおお!?」

「そんなことさせるかよ…『氷欠泉(アイスゲイザー)!』」

「吹っ飛べぇ!」

 

切り札を前に手も足も出ないナツを助けたのはグレイとエルフマンだ。隙をついて凍らせて投げ飛ばしたのだ。

 

「ったくよ、くたばるにはまだ早えぜ」

「漢なら根性を見せろ!」

「おお、かっこいいぜお前ら」

「情けねぇな」

 

ようやく揺れが収まったところで外の状況をハッピーに確認させるととんでもない事態が発覚する。ギルドがまるで魔人のような姿になっており、その魔人がとてつもない威力を誇る『アビスブレイク』なる魔法を発動しようとしている。しかも場合によっては街が半壊するかも、と。

 

「こりゃあのんびりしてらんねえな」

「あれ、元素魔法だって聞いたよ!」

「結論が出たな。残りのエレメントどもをぶっ倒すぞ、漢らしくな!」

「やってやんよ!急ぐぞ!」

 

それぞれ別々の人を倒すべくバラバラの道を進んでいく。

 

====

 

「やはりここで休んでいる暇はなさそうですね。アビスブレイク、あれが発動しそうって言うなら乗り込むしかない!」

「無茶言わないで!死んじゃうわよ!」

「……いいえ、行きます。『秘術・賢者の石(エリクサー)』!」

 

膨大な魔力を消費し、己の傷を治癒していく。己に秘められた決戦用の能力、完全再生能力(フル・リカバリー)だ。

 

「姉さん、魔力回復薬を…」

「どうしても行くのね。それじゃあ、お姉さんとの約束……生きて帰ってきて」

「ええ。みんなで笑って帰りましょう」

 

ミラの心配に笑って答え、勇ましく突き進んで行く。外では激戦が続いており、クローバーによって数は減らされたものの敵も踏ん張っている。

 

「戦況は?」

「巨人の動きが少しだけだが遅くなってる。中で頑張ってるんだろう」

「わかりました。私も中に行きます!」

 

ロキから情報を得たシリルは単騎、敵城へと突貫した。血で作った翼を頼りに腕の方から潜り込むと、既にそこには倒された大地のソルとトラウマを克服して全身テイクオーバーのコントロールに成功したエルフマンが立っていた。

 

「シリル!?お前大丈夫かよ!」

「ええ、お陰様で。エレメントたちは?」

「知ってる限りじゃもう既に2人は倒してる」

「それじゃあ後2人ですね」

「こっちはもう動けそうにねぇ。グレイとナツは上に向かったはずだ」

「はい!」

 

魔力と体力を使い果たしたエルフマンに代わり、シリルが敵を討つべくさらに奥へと進む。広い部屋にたどり着いたところ、待ち受けていたのは大空のアリアだった。マスターに手をかけた張本人で、エレメント4のリーダー的存在でもある。

 

「ほう、思ったより早い復活だな、シリルとやら。あのジュピターを止めた相手となれば小娘だろうと毛ほども油断はしない。大空のアリア、巫女の命を頂戴しに参った」

「マスターに手をかけたのは貴方ですね。ならば、油断も手抜きもいたしません!いざ南無三!」

 

自分の親といっても過言ではないマカロフを苦しませる元凶の男を倒すべく、全力を尽くして攻めかかる。

 

その頃、ポーリュシカのいる森には1人の珍客が訪れていた。顔を隠し、正体を知る者を極力減らしている魔道士でありS級の実力を持つ男、『ミストガン』だ。治療を終えて一休み入れていたポーリュシカは不審に思いながらも彼に声を掛けた。

 

「あんた、私のとこに何の用だい?」

「役目を果たした、といったところか。もうまもなく巨人が動く時が来よう」

「巨人が動く?ま、まさか…マカロフ!」

「ポーリュシカか。治療、済まなかったな」

 

ファントムを攻めた際、アリアの一撃で魔力欠乏症に陥っていたマカロフであったが、もう既に復活をしていた。

 

「あんた、なんで動けるんだい?」

「私がマスターの魔力をかき集めて来たからだ。それと、ファントム系列のギルドは潰してある」

「そうか。ガキどもが必死に戦ってくれてるのか。ならば、親の役目を果たさねば…」

「止めないよ。ただ、無茶だけはするんじゃないよ?」

「わかっておる。ミストガン、ご苦労じゃった」

「ああ」

 

地に伏せたはずの巨人マカロフは己が本命を果たすため、再度立ち上がる時が来た。

 

====

 

「この私を捉えるとはなかなかやるな」

「空気の魔道士は私の得意な相手なんですよ。気の力は貴方の実体を捉えられる」

 

実体と虚体を自由に行き来できるアリアを相手にシリルは血ではなく、気の力を軸に果敢に攻めかかる。しかし、お互いに決定打をうてず、魔力と体力を削るだけの戦いとなっている。

 

「私を倒してもマスターがおられる。無益なことよ、ルーシィ・ハートフィリアを差し出せば良いものを」

「断る。私は仲間と生きるとさっきも言ったはずです」

「ならば貴女を全力で倒さねばなるまい。私の目を開かせた者は死あるのみ」

「外道の言葉、聞き捨てなりませんね」

 

アリアとシリルはお互いのあるべき道を示すため、全ての魔力を引き出そうとする。

 

「『死の空域・零』。この領域に入ったものには等しく死を…」

「神の名において貴方を倒す。『生命神の剛拳』!」

 

死せる力と生ける力の正面衝突。だが、その結果は火を見るよりも明らかなものとなった。神の法を表すシリルの力が感情を乗せて、アリアの空域にヒビを入れた。

 

「なっ!?我が空域が!」

「砕けろぉ!」

「もしや、私が敗れるなど…!?」

「おおおぉおおぉおぉ!」

 

戦意喪失。心まで折られたアリアに防ぐ術などなく、あっけなくその一撃に服し、気を失った。

 

「これで…私達の借りは返させてもらいました。勝ちましたよ、みんな…」

 

シリル対アリア。軍配は妖精達に上がった。



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第16の唄 終焉の鐘を鳴らして

皆さん、おはようございます、あるいはこんにちは。ぽおくそてえでございます。さて、今回は原作時系列順に戦闘は進みません。あと、ちょっとだけナツ対ガジルを出してますが、次話で書く可能性は低いと思います。
どうかご容赦を。


アリアを撃破する金星を挙げたシリルのところに来たのは復活したエルフマン、大海のジュビアを倒したグレイだった。

 

「派手にやったな」

「無事ということは、エレメント4は全員倒せたみてぇだな。これでアビスブレイクは出せねぇだろ」

「これで一安心ですね。あと残っているのは…」

(くろがね)のガジルとマスター、か。ガジルの方はナツが倒してくれんだろ」

 

いつも喧嘩ばかりしているグレイといえど、やはりナツのことは信頼している。そうとなればやることは1つとなった。

 

「マスター・ジョゼの撃破か。漢としてなんとしても倒さないとな」

「しかし、私たちは全員怪我人。無理もできません」

「心配はいらねぇよ。俺たちの結束があれば負けやしないさ」

 

グレイとエルフマン、シリルは最終決戦へと心をひとつとし、残るジョゼのいるだろう音声室へと向かう。だが、あちらも主力のエレメント4を倒されたことでマスターが直々に出向いて来た。

 

「これはこれは…よくもやってくれましたね」

「こいつがファントムの…」

「さて、消えてもらおうか、このクズども!」

 

圧倒的な威圧感と実力を前に瞬きすらさせてもらえず、前に出たグレイとエルフマンがいとも容易く倒されていく。その隙をついて攻めかかるシリルの攻撃も簡単に受け流す。

 

「無駄な足掻きは為にならんぞ。今降伏すれば無傷で帰すことも(やぶさ)かではない」

「お互いにもう引けないところまで来てるんですから、貴方を倒すまでです」

「ふふふ、気高く美しく強い。壊し甲斐がありますね」

「生命の巫女、参る!」

 

正直心が折れそうだった。これほどに悪意のある敵は見たことがない。だが、ここで下がれない理由がある。震える体に喝を入れ、拳を前に構える。自分しか立ち向かう者がこの場にはいない。

 

「いつまで立っていられるかな?『デッドウェイブ』!」

「死霊の塊!?くっ…」

「流石ですね。ならばこれでどうです!」

 

開いた左手を振り払うと、その軌道上で地面が連続で爆破する。ギルドマスターの名に恥じぬ猛攻を前にシリルも先ほどまでの戦いによる傷も相まって、防戦になりがちだ。

 

「ちょこまかと煩い虫ですね。破ァ!」

「きゃあっ!」

「すぐにマカロフのところへと送ってやりましょう」

「流石に頭にきました。打ち抜け、神器『アウラの弓』!」

「ぐっ!?即座の反撃とは…伊達に神の巫女を名乗ってはいませんね」

 

しかし、ただやられるだけではギルドの意地が許さない。倒せるとは思えないが、一矢報いることはあり得る。そう信じて強敵に挑む。

 

「ルーシィ姉さんは渡しません。何があろうと」

「ルーシィ・ハートフィリアは我々の手中にあり。ここで彼女の大切なもの、叩き潰してやる」

「…(奪われてたか。でも、今ならまだ取り戻せる。信じてますよ、ナツ兄さん!)」

 

====

 

「ギヒヒ!暇つぶしにはもってこいだな!」

「テメェ、叩き潰してやる」

「この空に二頭のドラゴンは必要ねぇ。堕としてやる」

 

ルーシィの囚われている広間では助けに来たナツと、ファントムのエースで鉄竜の子供のガジルが今まさに衝突しようとしていた。双頭の竜が互いの意地をぶつけようとしていた。

 

「大丈夫かな?」

「心配ないよ、ルーシィ。だってあのナツなんだよ?負けるはずない」

 

彼女の心配を払うようにハッピーが力強く答える。ナツの怒りは全てを燃やし尽くす灼熱となって現れている。こうなったナツを止められた者はそういない。それほどの信用と信頼がある。

 

「せめて俺を楽しませてくれよ、火竜(サラマンダー)

「お前はギルドの名にかけて俺が倒す。ナメた真似をしたこと、後悔させてやるよ。鉄のガジル」

 

荒ぶる感情の炎を燃やして、先に殴りかかったのはナツだ。その一撃は素早く、そして重い。鉄と呼ばれて鉄壁の守りと攻めを誇るガジルも流石にこの一発に吹き飛ばされる。

 

「このクズが…なっ!?」

「ぶっ飛べ!火竜の劔角!」

「すごい!圧倒してる!」

「ガジルが吹っ飛ぶなんて初めて見たぞ!」

 

勇猛なる男の威を前に、ガジルも押されていく。だが、それでやられるほど鉄竜も甘くない。続け様に繰り出された拳が当たったが、今度は痛そうにもしていなかった。

 

「これを使わされるとは、テメェも中々やりやがるな。見せてやるよ、俺が鉄竜なんて呼ばれる理由をよ」

「こ、これって…!?」

「鉄の皮膚!!」

 

そう、ガジルの強みはその鉄に変化できる体質にある。頑丈な滅竜魔道士の中でもその防御力はかなり高い。

 

「ギヒッ、今度はこっちが攻める番だ」

「くそっ」

 

====

 

「貴方もかなりの強情っぱりなようだな、生命の巫女よ」

「はぁっ、はぁっ……それが、妖精の尻尾(うち)の強さ…ですよ」

「苦しむだけだ。そこらに転がってる奴らのように、すぐ楽にしてやるものを…」

 

双頭の竜が激戦を繰り広げようとしている中、シリルとジョゼの戦いもまた、佳境を迎えようとしていた。

 

「ジュピターの一撃で既に死にかけていた女がまだ抵抗するとはね。無駄なのだよ、全て!私の前で飛ぶハエは嫌いなのだよ!」

「っ!?きゃあ!」

「これはただの戦じゃない!我々はハートフィリア財閥の依頼であの小娘を捕らえているだけの事!貴様ら如きに邪魔されてたまるか!」

「きゃあああっ!」

 

シリルを捉えた魔法に激昂を乗せ、さらに締め上げていく。まるで囚われた邪念を振り払うかのように。

 

「る、ルーシィ姉さんは泣いていた。自分に全ての責任があるって……そんな彼女の何がわかる!彼女ほど苦しんでいる人はいない!貴方たちには彼女の心は分からないし、あの涙の真意を理解するなんてできない!」

「これから知っていくのさ。だが、すぐには渡さん!そして、貴様らとの繋がりなどというクソみたいなものを全て断ち切ってやる!」

 

激昂するジョゼの魔法はシリルに凄まじい激痛を与える。意思の強さと意地は彼にもあるのだろう。だが、その魔法がなぜかかき消された。

 

「なっ、私の魔法が!貴様のせいか、いや、誰だ!?」

「この戦場には多くの涙と、血が流れた。互いのガキが嘆き、悲しみ、苦しんだ。ワシのギルドも、お前さんのギルドも多大な犠牲を払った。この戦争、ワシらの手で終わらせようぞ」

 

刹那、殺伐とした戦場は暖かくも厳しい光に包まれたようだ。その光は戦場の誰もが感じるほどの大きな光。それを纏って現れたのは小さな巨人、そう、フェアリーテイルのマスターマカロフ。戦争は彼の出現を伴って終焉へと向かおうとしていた。

 

「天変地異を望むか、マカロフ・ドレアー」

「家族を守るためならば、ジョゼ・ポーラ」




もうそろそろファントム編が終わりそうです。
オリジナル編に入ると思います。


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第17の唄 本心

どうもです。今回は初じゃないかというくらい書きました(四千字超え)
中身は薄いかもしれませんが、どうぞよろしく。


「マスター、どうして…」

「退け。これから醜い争いになる。皆を連れて退いてくれ」

「で、でも!」

「心配しなさんな。ワシは大丈夫じゃ、ナツもな」

 

その言葉を証明するように、ギルド全体が揺れ、次第に崩壊していく。サラマンダーの全力の炎に瓦解しはじめたギルドのその様は、勝利がどちらにあるかを示しているようだ。

 

「ふふふ、私と貴方が戦えばどうなるか分かっていないとは言わせん。だが、貴様を殺すのが先のようだ」

「手だしはさせん。全てのガキどもに感謝する、ようやった。ギルドの魂、胸を張って誇れ!」

 

マスター同士、聖十大魔道同士の直接対決だけあって、魔力の衝突は激しいものである。地は揺れ、空は裂け、雷が轟く。まさしく天変地異と言った様だ。

 

「デッドウェイブ!」

「はぁっ!」

 

雲は渦巻き、空を闇が包む。頂上決戦を表すにはこれ以上の荒れ模様はない。

 

「何故ルーシィを狙った。その若さでその魔力、聖十大魔道としては十分な力があるというのに」

「あの家族の財産ですよ。ハートフィリア財閥の金さえあれば我々はもっと発展できますからね」

「短絡的な。彼女は彼女なりに悩み、苦しみ、笑い、戦って、そしてともに過ごしてきた。今はただの1人の少女であり、仲間であり、ワシの娘も同然」

 

ジョゼの心無い言葉は親心を持つマカロフの逆鱗に触れた。彼は怒り、そして巨人となったマカロフはその怒りをもって思い一言を放つ。

 

「お主はもう、捨て置けぬ。これより妖精の尻尾(フェアリーテイル)のしきたりに則り、貴様に3つ数えるまでの猶予を与える。跪け」

「は?何をいうかと思えば……跪けだ?ふざけるな!我々は貴様らなんかよりも上を行く!貴様らハエごときに屈服してなるものか!」

 

ここまで来て、まだ事態を飲み込めないジョゼはプライドに任せて虚勢を張り、咆哮する。

 

「3…2…」

「消えるのは貴様らだ!今ルーシィを差し出せば良いだけのこと!消えろ、フェアリーテイルゥゥウ!」

「1…そこまでだ。どうやら手遅れのようじゃな。消えよ…妖精の法律(フェアリーロウ)、発動!」

 

だが、その言葉はこの光の前では無力となった。マカロフの放った審判の光は、敵を葬り、仲間を守る妖精三大魔法の1つ、妖精の法律(フェアリーロウ)。その光はギルドどころか町中に轟き、フェアリーテイルのギルド前で戦っていたシェイドたちも悉く一掃していく。光が弱まり、空が晴れた頃に、そこに立っていたのはフェアリーテイルの者達だけだ。

 

「戦争は終結した。これだけの事をしでかしたんだ、これから評議会が騒がしくなろう。手前のことを心配していろ、お互いにな」

 

振り返り、勝利宣言をあげながら歩くマカロフの背中に現れたのはシリルに倒されたはずのアリアだった。戦争には負けたものの、せめて大将だけでも道連れにしようという魂胆だ。だが、それも失敗に終わる。マカロフの拳が見事なまでに直撃し、その小さな野望を打ち砕いた。

 

「去れ、さもなくば更なる闘争、終焉をもたらすぞ。ジョゼを連れて去れ。二度目はねぇと思えよ」

 

戦争は妖精達に軍配が上がって、終幕した。皆はお互いの無事を確認するや、大いに喜んで騒ぐ。自分たちの誇りと、仲間を守れたことへの何よりの嬉しさがあった。

 

====

 

全ての戦いが終結し、皆が集まったのはフェアリーテイルのギルド前。全壊はしていないもののかなり派手に壊されていた。

 

「おお、これはまた派手にやられたのう。修復するのにどれくらいかかるかのぅ」

「あ、あの…マスター」

「なんじゃルーシィ?」

「私のせいで…あの…」

「気にしなさんな。ワシらは皆、仲間を守るために戦ったんじゃ。そんな暗い顔は似合わんぞ?」

 

マスターの明るくも優しい言葉をかけられてもルーシィの顔は晴れない。自分の責任で、そんな言葉が心を反芻する。

 

「マスターの言う通りだよ、ルーちゃん」

「俺たちも、みんなも、誰もお前を責めやしねえさ」

「なんたって俺たちは仲間なんだ、家族なんだ。そうだろ?」

「うい。そう自分を責めなくていいんだ」

「レビィちゃん、ジェット、ドロイ、リーダス…」

 

皆の暖かい心はこのギルドにはあった。太陽より眩しい絆があった。だからこそ、皆が皆、家族であり仲間である者のために手を差し伸べる。そんな優しさがルーシィの心に染みて、涙を流させる。

 

「ありがとう、みんな…」

「それで良い。一人の喜びはみんなの喜び、一人の涙はみんなの涙、どんな苦楽も分け合えばいい。それがワシら、ギルドというものじゃろう?」

 

明けない夜はない。枯れない涙はない。皆で一緒に過ごせばどんな蟠りや悲しみでも、いつか晴れる。なんだって、それが人間というものなのだから。

 

 

それからというもの、フェアリーテイルはギルド間抗争禁止条約、器物破損などの罪状ですぐさま現れた評議会に取り調べを受けることとなった。

 

「だから、仕掛けたのはあっちでこちらはむしろ被害者なんです。そこのところ、どうにかなりませんか、ラハールさん」

「私としても貴女への恩があります。出来ることはしたいのですが、規則は規則、法律は法律です。上の判断を仰がねばどうにも…」

 

シリルの取り調べを行なっているのは以前の仕事で出会ったラハールだ。今回の事件で取り調べる人数が多いため、こうして部隊のものを従えて捜査に協力しに来ていた。

 

「そうですか……私から話せることはもうありません。そろそろ解放してもらえると助かるのですが」

「ご協力感謝します。ヤジマさんにはこちらからも口添えしましょう。今の私にはそれくらいしかできませんがね」

「そうして貰えれば十分。これ以上は望めませんから」

 

一週間以上にも及ぶ聞き取りを終え、取り調べ用のテントを出た頃にはもう既に日は高く昇っていた。

 

「お、シリルもようやく終わったか」

「顔の効く相手なだけマシでしたけど…ナツ兄さん、怪我は大丈夫です?」

「なんの心配もねえさ。ほら、この通りちゃんと動くしよ」

「良かったです。それにしてもルーシィ姉さん、見かけませんね」

「そういやそうだな。よし、エルザとか誘ってアイツん家行ってみるか!」

 

一度決めれば聞かないナツの行動力に半ば呆れ、半ば感心しながらもいつものメンバーを連れて早速ルーシィの家へと向かうことにした。そんなナツを見送り、シリルはユリアの元へと向かった。

 

「おーっす!ルーシィ、元気してるかー!」

「してるかー!」

「また不法侵入かよ。まぁ、いいか」

 

だが、周りを見渡しても彼女の居るはずの部屋はどこももぬけの殻。ルーシィの姿はどこにも見られない。

 

「あれ、居ないね?」

「どういうことだ?もしかして風呂か!?」

「いや、居ねえ」

「何先に確認してんだ!?」

 

2人のデリカシーのない言動にエルザは呆れるが、居ないとなっては目的の半分は達成されない。

 

「ふむ、心配になってきたな…ん?」

「どうしたんだ、何か見つけたのかよ、エルザ」

「実家に帰る、だそうだ」

「何!?マジかよ、アイツ何考えてるんだ!」

「分からん、急ぐぞ!」

 

====

 

ルーシィの部屋で慌てふためく3人が駅へと向かう頃、ルーシィは自分の実家であり、苦手な父親のいる仕事場へと久し振りに帰って来ていた。

 

「る、ルーシィお嬢様!?」

「久し振り、スペットさん。ごめんね、突然…」

「いえ、無事に戻ってこられただけで私は…」

「うん。ごめんね、それと…ありがとう」

 

久し振りに帰った実家では彼女を慕う使用人達が笑顔で出迎えてくれた。そんな中でも相変わらずだったのは彼女の父、ジュードだった。彼に伝言を託された使用人がすぐに会いに来るようにと伝えに来たのだ。

 

「相変わらずだな、あの人も。分かった、ちょっと待ってて」

「承知いたしました。折角ですから着替えていかれては?」

「そ、そうね」

 

別の使用人に連れられ、奥に進んでいく。ルーシィが館の中へと姿を消した頃、別の客人たちがこの館にやって来た。

 

「突然の来訪、失礼します。ここはハートフィリア家で間違いありませんか?」

「あの、どちら様ですか?」

「失礼。ルーシィ・ハートフィリアの友人です。それと…」

 

突然の来訪者は腕の甲にある『とある物』を2人揃って見せてみた。それには使用人も驚き、すぐに屋内へと案内した。

 

「ルーシィさんは今どちらに?」

「あちらの奥の部屋です」

「そうですか。申し訳ないですが、案内はここまでで十分です。後は私たちが」

「かしこまりました」

 

====

 

「遅くなりました。勝手に家を出たこと、申し訳ありません」

「よく戻ってきたな、ルーシィ。お前は自分の立場をわきまえたまえ」

 

ルーシィのいるそこは、厳粛なる主人の部屋、ジュード・ハートフィリアの執務室だ。2人は緊迫感のある部屋で対面していた。

 

「失礼しました。して、話とは?」

「うむ。お前もそろそろ結婚するべき年だ。そこで、我が社と協力してくれているある国の王子と結ばれてもらう。相手は分かるな?」

「はい…」

 

政略結婚というものだ。財閥の令嬢と国の御曹司が繋がれば、より一層財を成せるという考えから、ジュードは勝手ながらにも決めていた。

 

「もう話は終わりだ。下がれ」

「お父様…私は…」

「何をしている。下がれ!」

「話を聞いてみれば…勝手が過ぎませんか?ジュード・ハートフィリア」

「なっ!?誰だ貴様ら!」

 

ジュードの激昂が轟く中、その少女たちは悠然とルーシィたちの間に割り込んできた。

 

「この紋章を忘れさせたとは言わせませんよ。『冥府』と『生命』の紋章を…」

「し、シリル!?ユリアまで!」

「お姉ちゃん、びっくりしたよ。突然出ていっちゃうんだから」

「何故に神々の使いが私の娘を庇う?その子は私の娘だ、口出しは無用に願いたい」

「そうもいきません、我々は彼女を連れ戻しにきたのですから。友として」

 

家のことに干渉するな。その言葉に真っ向から反対する。それが何故かわからないとジュードはシリルの瞳を見る。

 

「彼女には彼女の本心があるんです。それを押さえつける権利は貴方にはない」

「本心だと?私は私なりにルーシィのことを思って…」

「ならば何故…傷つけるような真似を?そこが許せないのですよ」

「ルーシィ…お前は、お前の本心は…」

 

しばらくの沈黙が流れた。そうだ、自分の心はどこにあるのか。その答えを伝えにきたのだ。決意を秘めた瞳は毅然と見つめ返す。

 

「私は、私は今度は自分の言葉を伝え、この家を出させていただきます!貴方は私の大切なものを傷つけた。例えどんなに心配してくれようとも、どんな言葉をかけられようと、この決意は変わりません!」

「る、ルーシィ…」

「もしもママが生きていたなら、『自分の行きたい道を進みなさい』って言ってくれるだろうから。ありがとう、そしてさようなら」

 

それが別れの言葉となった。これまでの自分と決別し、自分の拠り所となる本当の家族と生きること。それが彼女の答えだった。

 

「そうか。私はどこか勘違いをしていたのかもな。神々の使いたちよ、貴女たちに感謝する」

「私たちは何もしてないよ。ただ、言わせてね。私たちを信じてほしい」

「そうか。本当に済まない」

 

山の向こうに落ちゆく夕日はどこか晴れやかな光を放っていた。これから進む妖精たちを導くように。墓参りを終えた3人はただ静かに歩いていた。

 

「2人とも、ありがとね」

「私は生命の巫女。人の意志が私にとって大事なんです。それを引き出したまで」

「みんな心配してたからね。だから、勝手だけど、ついてきちゃった」

「ううん。さ、帰ろ!みんなのいるギルドに!」

 

途中で合流したナツたちと共に満面の笑みを浮かべたルーシィは、本当の自分を見つける冒険へと向かうのだった。



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第18話 星の至る空

どうもです、ぽおくそてえです。
折角なのでユリアを話しに絡ませようとしたらこのザマだよ。とりあえずロキの話です。
それでは本編どうぞです!


ルーシィの実家騒動から数日、ギルドの改装工事が進む中、仕事の再開がこの日ついにアナウンスされた。

 

「みんな!ギルドが出来るまで仮設カウンターで仕事の受付をするわよー!」

「うおおお!!待ってましたー!」

「工事ばかりで気が滅入ってたんだ!」

「しゃあ、暴れるぜー!」

 

この日を待ちわびていたのか、一目散に自分の目当ての仕事を手に取っていく。これまで工事しかしていなかったからか鬱憤がたまっていたのだろう。

 

「何あれ、いつもダラダラしてるのに」

「アハハ、そうね!そういえば怪我とか大丈夫なの?」

「ちょっと痣が出来ちゃいましたけど、今は大丈夫です」

「良かった。さ、ルーシィも仕事に行ってきなさい。家賃厳しいんでしょ?」

「そういえば今月も厳しいんだった…。うぅ、助けてシリル〜!」

 

ここ数日まともに仕事ができておらず、それによって収入も減り、万年金欠のルーシィにとってはピンチな状況である。そんな彼女がヘルプを求めたのはシリルだったが、シリルは少し残念そうな顔をしていた。

 

「ごめんなさい。私、今日からユリアと仕事に行く予定でして…その、手伝いといったほうが良いでしょうか?」

「あぁ、そうだった……しょうがない、ナツたちと行ってこよう。ありがとね」

「いえいえ。それじゃあ私はこれにて…」

 

そう行って去ろうとしたが、突然怒号と机が近くから飛んできた。その声からしてエルザだ。不穏な空気がギルド(仮)を包むなか、エルザの近くから強気な男の声が聞こえてきた。

 

「二度も言わせんなって。テメェらが弱えからファントムなんていう雑魚に戦争をふっかけられんだ。あぁ、なんつったか、そこの3人がやられなきゃそもそも事が起こらなかったんだろ?どうなんだ、ええ?」

 

長椅子に座り、ツラツラと文句を言うのはギルドで数少ないS級魔道士、ラクサスだった。今回の戦争では仕事でおらず、今しがた帰ってきていたのだ。

 

「貴様、何もしていないのによくもぬけぬけと…」

「事実を言ったまでだろうが。やるか、エルザ?」

「文句も口出しも喧嘩も、今の貴方にはする権利すらありませんよ、ラクサス兄さん」

「ちっ、口うるせえ奴が来たか。いいか、今度こんなナメられた真似されたら、俺がジジィに代わってギルドの頂点に立ってやる。精々頑張って足掻きな」

「上等。その時はギルド全員が貴方の敵です」

「言うじゃねえか。ハーッハッハッハッ!」

 

高笑いをあげ、緊張感と不穏な空気を残して去っていった。渋い顔をするエルザやレビィ、ミラジェーンやルーシィであったが、シリルの言葉に少し顔を緩めた。

 

「あの人に好きにはさせません…ミラ姉さん、この仕事、キャンセルで。ユリア、ちょっと来て」

「どしたの?もしかして仕事のこと?」

「そうね。折角だから姉さん達と行かない?そっちの方が楽しいだろうし、どう?」

「良いよ。じゃあまた後でね」

 

ユリアがあっさりと了承し、久し振りに最強メンバーで新しい仕事に出ることとなった。

 

====

 

「そっち行ったぞ!」

「決めるのは任せたわ、ユリア!『血縛鎖牢』!」

「あいあいさー!『シャドー・ハンマー』!」

「ふぅ、これで終わりっと。おつかれタウロス」

 

いつものメンバーが集まったことで仕事も難なく終わり、予約していた宿もまだ二、三日残るほどのハイスピードだった。

 

「思っていたより簡単だったな」

「珍しく物が壊れないとはな」

「悪かったな、いつも壊してばっかでよ」

「まあいいじゃない。今日明日とゆっくりできるんだから」

 

その言葉通り、ルーシィたちは鳳仙花村にて思い思いに羽を伸ばしていた。街に繰り出す者、宿でゆっくりする者、修行に明け暮れる者と様々だった。そんな時間を過ごし、夜もふけようかという頃、全員で外を出歩いていた。

 

「たまには仕事の後にゆっくりするのもいいね」

「最近働き詰めだったからね〜。ようやく私も『神の啓示書』のコツが掴めたよ」

「ユリアとシリルは修行してたのか?次から私も手伝おうか?」

「その時は是非頼みます」

 

話し合って和気藹々とした雰囲気の中、1人、見知った顔と出会う。先の大戦で指揮を取っていた光魔法の使い手ロキだった。

 

「あれ、そんなとこで何してんだロキ?」

「よう。最近顔見せねぇから心配したぜ?」

「やぁ、元気そうだね。なに、仕事の一環だよ」

「あ、そうだ!仕事終わったら一緒にゆっくりしようよ!」

「え!?あ、いやぁ…悪いけど遠慮させてもらうよ。あ、あははは…」

 

いつもの歯切れの良さは鳴りを潜め、どこかぎこちなくて普段の軽さがどこかへ行ってしまったかのようだ。

 

「ロキ兄さん?どうしました?」

「なんか元気ないけど」

「心配かけてるみたいだけど、僕は大丈夫。じゃ、仕事に戻るよ」

 

そう言い残し、そそくさと何処かへと一目散に逃げていってしまった。

 

「ルーシィ、お前何かやっちゃったか?」

「何にもしてないわよ。なによあれ」

「星霊魔道士が苦手なのが起因しているのだろう。心配するな、いつものことだ」

 

普段の避け方と違うという、漠然とした不安が胸中を占める中、皆で休暇を終えてギルドに戻った。そして、その翌日。ルーシィの不安が的中してしまう。ロキが誰にも伝えず、ギルドを出奔してしまったのだ。

 

「そんな…」

「俺たちも今探してる。ルーシィも見つけたらすぐに知らせてくれ!」

「わかった!」

 

皆が必死の思いでロキを探す中、ルーシィは情報をかき集め、ある結論に至り、そしてその答えの導く場所に立っている。

 

「やっぱりここだったんだね?星霊魔道士カレン・リリカの墓」

「ルーシィかい?僕に何か言いに来たのかな?」

「救いに来たんだ。クル爺に話は聞いているよ?カレンを間接的にとはいえ、殺めてしまったこと。その罪を背負ってここにいること。そうでしょ、ロキ…いえ、黄道十二星座獅子宮の星霊、レオ」

「僕は…星霊界にはもう還れない。罪人はその死をもって償うものさ」

 

何もかもを諦め、友であり同じ契約者と共にあった白羊宮のアリエスを救う代わりに主人を見殺しにした罪を背負い、ここに命果てようとしていた。

 

「なんで…あなたは友達を救おうとしただけでしょ!?おかしいよ!」

「そうだよ。お兄ちゃんは友達と逢うまで死んじゃダメ」

「ユリア!?なんで君が…」

「私はね、弱ってたのを見て知ってた。だから来た、みんなを悲しませないためにもね。見てるんでしょ?星霊王さん?」

『盟友たる冥府神の巫女よ、そのものの罪は重い。いくら古き友や盟友の言葉とはいえ、聞き届けることは出来ない』

 

顕現した星霊王は、その威圧感、存在感は並々ならぬものであった。このような小さな案件に出るとは思ってはいなかったルーシィとロキは驚きを隠せない。

 

『古き友、ルーシィ・ハートフィリアよ。何故にその罪人を庇う?』

「例え罪を背負っていても、ロキはそれを清算しようと限界まで生き続けてる!それでもまだ贖罪は終わらないって言うの!?」

「もう十分戦ってきたんだよ?罪は消えないけど、これからは誰かの為に生きて贖うことは出来ないの?ねぇ、星霊王…」

「いいんだ、2人とも!僕は、僕はもう…」

 

死を覚悟し、あるがままに受け入れることを考えていたロキの言葉を否定するかのような2人の言葉に星霊王は耳を傾けた。

 

『誰かの為に生きて贖うか。たしかにそれも良し。そして、罪人を守り、それと共に歩もうとする友がいる。ならば…間違っているのは法かもしれん』

「じゃあ!?」

「星霊王…お願い。ロキお兄ちゃんとね、ルーシィお姉ちゃんを一緒にして欲しいの。巫女として、友人として、誰か死ぬとこなんて見たくない!」

『…古き友よ。それで構わぬか?』

「もちろん」

『ならばレオよ。これからは古き友を導き、星の輝きをもって守り通すと約束せよ。それを汝の贖罪とし、星霊界への帰還を許可する。星の導きと輝かしき友情に感謝せよ』

 

この日、堕ちた星は再び空へと還り、輝きを取り戻した。星の導く空は晴れわたっていた。



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第3章 楽園の塔 幻の道標 第19の唄 招かれざる来訪者

どうもです。今回の話は略して行き、一気に導入部分をカット気味に行きました。

FE覚醒の方は今一章が終わったあたりまで書き溜めてます。四章あたりまで書けたら出すかも


「迷惑をかけたね」

「良いの良いの!良かったね、天に還れて」

「ユリアとルーシィには感謝してもし足りない。せめてもの感謝の証だ。これをいつものメンバーで使うと良い。ナツたちには渡しておいたよ」

 

ユリアとロキ、ルーシィは帰り道に着き、ギルドで皆に事情を説明したら、呆れながらも暖かい言葉がかけられた。それから数日、感謝と敬意の表れとして高級ホテルの無料券を渡された。

 

「ありがとうユリア。じゃ、楽しんできてね」

「うん!あ、シリルお姉ちゃん!」

「良いことしたわね。楽しむ為にも準備しましょ」

「はーい!」

 

2人は仲良く、姉妹のように皆の待つ場所へと向かった。

 

====

 

やって来たのはリゾート地として有名なアカネビーチだ。夏の太陽と美しい海、夜まで遊べる娯楽により、さまざまな人たちでごった返す夏の名所だ。

 

「はじめての海だー!」

「遊ぶぞー!」

「やっぱり泳がねえとな!」

「これは楽しめそうだ」

 

折角の休暇で、友人から譲り受けた招待券。遊び倒さねば損、とばかりに皆で騒いで楽しんでいく。水泳、バレーボール、砂遊びに何故か喧嘩といつも以上に楽しい一日を過ごし、気がつけば日も沈み、夜の帳が下りた。

 

「いやぁ楽しかったな!」

「ロキのおかげだぜ!やっぱり持つべきは友だな」

「あいさー!」

「ここの地下にギャンブル場があるみたいですよ。私とユリアは行けそうにないんでロビーでゆっくりしてますけど」

「流石高級ホテルだな、至れり尽くせりだ」

「ルーシィたちも誘うか。じゃあまた後でな」

 

シリルとユリアは歳が歳なだけあって賭けをやることはおろか、ギャンブル場に入らせてもらえるか怪しい為、こうして別行動をとることとなった。

 

「暇だね〜」

「そうね〜」

「眠い…お姉ちゃん膝貸して…」

「もう、しょうがないわね。ほら」

「はひ…お姉ちゃんの膝、やわらかい…ふにゃ…」

「おやすみなさい」

 

静かな時間が2人を包む中、突然、下からやってきた人々が悲鳴をあげながら出口に大挙して押し寄せたり、自分の部屋へと逃げようとしているのが嫌でも聞こえたり見えたりする。何事かと見やれば、地下のギャンブル場で誰かが魔法を使い、一触即発の状況になっているという。

 

「ううん…お姉ちゃん、何?」

「ユリア、伏せてて。何か不穏なことが…」

「ね、ねえ。あれってエルザお姉ちゃんじゃ…」

「何!?」

 

地下から上がってきた大柄の男に担がれているのは意識を失い、眠っているドレス姿のエルザだった。襲撃者に攫われているように見え、助けに向かおうとしたがあのエルザがいとも容易く捕まっているのだ。返り討ちに合うのがオチだと自制し、ナツたちがいるであろうギャンブル場に意を決して向かった。

 

「一体何が…」

「カードに人が…閉じ込められてる…」

「この声、シリルとユリアなの!?た、助けて!」

「ルーシィ姉さん?何してるんです?」

「変な奴にやられたの!うう、背中が…」

「ちょっと待ってください。すぐにはずしますから…はい、取れましたよ」

 

ルーシィの拘束を解き、何があったのかの説明を受けた。突然エルザの友人と名乗る男たちがやってきて、魔法を使って彼女を攫い、そして周りにいた大勢の人をカードに閉じ込め、ルーシィを拘束してエルザを捕らえ、悠々と去って行ったという。

 

「ナツ兄さんたちは?」

「ごめん、分からない」

「ちょっと探してくる!」

「お願い。それにしても、さっきの連中は一体…」

 

長考に耽りそうになっていた。何故、エルザを拉致同然に攫ったのか。彼らは彼女とどんな繋がりがあるのか。どうして人目につくタイミングで決行したのか。色々と考えが巡り、底が尽きない。そこに戻ってきたユリアによって意識も戻ってきた。

 

「ナツお兄ちゃんたち見つけてきた。あと、元ファントムの人も居たから来てもらったよ」

「ったく、いきなり襲ってくるなんてよ」

「銃弾口に打ち込むかよ普通。あー、痛え」

「あんたそれ、尋常じゃないよ」

「さっき連中が外に出るのを見ました。今すぐ追えば、まだ間に合うでしょう」

 

全員が頷き、友を取り返す為にたちあがる。たとえ無謀な挑戦でも、借りは返さねばギルドとしての名折れ。皆の拳を突き合わせ、港にあった小船を漕いで、後を追う。

 

====

 

「ジェラール様、エルザを捕まえたとの報が入りました」

「そうか。これでまた計画が一歩進んだ。後もう一歩、前に進もうか。我々の大いなる夢の為に」

 

月夜に照らされた大きな塔の中。そこには不気味な笑みを浮かべるジェラールと呼ばれた男がいる。彼の目的は果たして…。



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第20の唄 回帰する因縁

どうもです。今回はかなり早く出来ました。夏休み効果ですかね?まあ、そのうち元に戻りそうな気がしますが…


「大丈夫ですか、ナツ兄さん?」

「お、おうぷ」

「船酔いしてる場合か!お前の鼻が頼りなんだ!」

「その必要もなさそうですよ、グレイ様。あの塔じゃないですか?」

 

ギャンブル場で出会ったジュビアが指差すのはこの海域では異様に目立つ巨大な塔だった。何故今まで隠しおおせてたのか不思議なくらいだった。その様子はまるで神に挑むバベルの塔のごとく、聳えていた。適当に船をつけ、岩場に隠れながら様子を見るが、厳重な警備網が敷かれ、容易には近づけない。

 

「警備の人がたくさんいるよ」

「ぶん殴って入るか?」

「やめなさい。ハッピーもエルザも危なくなるでしょ?」

「ハッピーも捕まってましたか。別の入り口を探しましょ」

「海の方から少し潜ったところに洞窟があります。そこからなら入れるかもしれません」

「でかした!」

 

探りを入れたところ、海底洞窟から行けば下より潜入できる。しかも地上に比べ、そちらの警備は薄いという。

 

「ここから数分間潜ることになります。この空気の入った水泡を使えばその間呼吸ができますので」

「へぇ〜、便利な力だな。ところでお前誰だ?」

「それは無事に全てを終えてから。行きますよ」

 

道案内のジュビアの先導の元、潜ること数分。海底洞窟を抜ければ、そこは誰もいない桟橋となっていた。陸に上がるとそこには扉は無く、上に小さな蓋があるのみだった。

 

「あの蓋、あっちで開けるパターンか?」

「でしょうね」

「他の出入り口は…」

「貴様ら、何者だ!?」

「やばっ、見つかった!?」

 

警備が薄いとはいえ、全く来ないとは限らないようで、あえなく敵襲を受けることとなった。しかし、只の一兵卒の集まりではナツたちを止められる訳も無く、全員返り討ちにあってしまった。

 

「…ガハッ!」

「へっ!覚えておけ、俺らはフェアリーテイルの魔道士だ!」

「こんな雑魚じゃ俺らは倒せねえよ」

「貴方達、道案内しなさい。さもなくば…分かりますね?」

「それ、いらないっぽいよ。なんか開いたし…」

 

ユリアが指差す方を眺めると、先程まで閉まりきっていた小さな蓋が開き、梯子が上から降りてきていた。まるで全てを見ていたかのようであり、挑発的でもある。

 

「早く上がってこい、ってか?舐めやがって」

「私達を誘って全員まとめて倒そうとしてるのかしら?」

「わからねぇけど、行かなきゃエルザ達が危ねえ」

「そうだね。よーし、一番乗り〜!」

 

====

 

「ジェラール様。何故彼らをこの塔に?」

「少しの余興が必要だからさ。それがあるから楽しめるというもの」

「そうですか。して、あの女はいつ生贄に?」

「もう少し待とう。計画の完成にはあの光が無ければな」

 

真意が測れないと言わんばかりの顔をしている側近のタカに、ジェラールは不敵な笑みを浮かべ、状況が動くのを楽しんでいる。全てが自分の掌で動くのが楽しくてたまらないように、笑みを崩さない。

 

「待っていろ、ゼレフ。お前は俺が復活させる」

 

====

 

「誰もいないよ〜」

「ユリア、少しは落ち着いて…」

「にしても、さっき襲撃してきたわりにはもう終わりかよ?」

「たしかに監視してるのに後詰を出してこないって不思議ね」

 

地下の兵が全滅しているにも関わらず、誰一人居ないとなると、相手の考えが全く読めない。

 

「上の連中が何か策を講じてる可能性があります。ここは慎重に進むべきかと」

「くそ、さっきの奴らから情報を聞き出しときゃ良かったぜ」

「皆、静かに!誰か来ます!」

「休ませてくれないわね」

 

再びやって来た衛兵に身構えるが、彼らの武器は魔法を放つことはなかった。ある者の剣戟が邪魔する全てを斬り伏せていたからだ。その者は、エルザだった。お互いに会うとは思っていなかったのか、驚きを隠せない。

 

「なんでここに居る!?」

「なんでだぁ?お前とハッピーを助けに決まってるだろ!」

「何!?ハッピーもか!?」

「ええ、そのようです。今どこにいるか見当は?」

「おそらくミリアーナ、猫好きの少女が保護しているだろうが、彼女が今どこにいるかまでは…」

「それで十分だ!俺は行くぞ!」

「待て、ナツ!」

 

己の相棒を連れ戻すため、エルザの制止も無視し、全速力で駆け抜けていった。その後を追おうとグレイ達も一歩踏み出すが、エルザによって止められる。なんでも彼女は無類の愛猫家。ハッピーを傷つけることはあり得ない。彼らを連れ戻すためにもエルザは一人で行くという。

 

「お前達はすぐに帰れ。そうすれば全て丸く収まる」

「エルザは!?エルザはどうするの?」

「私は…」

「巻き込むまいとして言っているなら全て無駄。あの兄さんの態度で分かりますよね?」

 

心に留めていた言葉を言い当てられ、口を噤む。これは全部自分が原因の事件。せめて自分1人で片付けようとしていた彼女なりの優しさだったが、シリルによってそれは無駄に終わる。

 

「良いですか?前にもマスターが言ってましたよね?1人で抱え込むことはない、と」

「か、帰れ。それ以上は聞かんぞ、シリル!」

「俺らを信じられねぇってのか?ふざけるなよ、テメェはそんなこと言う奴じゃねえだろ!」

「私たちは何が何でもエルザを助けたいの。だから、ね?強がらずに私たちに頼って」

「私は、妖精の皆さんの言う絆というのを見て思ったんです。これが貴女達の強さなんだと。私が言うのもおこがましいですが、信じてみるのも1つの道では?」

 

皆の厳しくも優しい言葉にエルザの肩は震える。ここで皆を傷つけたくない。これは己の問題、皆を巻き込みたくはない、と。それでも信じてくれる仲間たちと一緒に帰りたいとも。

 

「一緒に帰ろう。お姉ちゃん」

「ありがとう、みんな。これは…私のただの独り言だ。聴いてくれるか?」

「当たり前だろうが。何があったんだ?」

「話そう。私と、ここの因縁を」

 

それは、エルザの壮絶な過去。奴隷として働かされ、なんの目的でここに居るのか問う日々。そして、反乱によって失った大事な人と、元仲間の変異。1人、孤独に耐えながら過ごしたギルドでの日々。仲間達がどう過ごしているか不安に思う日々。そして、彼らとの邂逅と彼らの変わった姿だった。

 

「これが、私から話せる全てだ。私の仲間だったジェラールとの決別と、ミリアーナ達を救うための私ひとりの戦いだ」

「……」

「私が、私であるための最後の戦いとなろう」

「死ぬつもりなの?お姉ちゃん」

「分からぬ。全てを終えるまでは」

 

その瞳には涙と覚悟が浮かんでいた。己の過去の清算のために、今立ち上がる。



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第21の唄 THE GAME OF DEATH

どうも、ぽおくそてえでやんす。この話の後、しばらくFEに重点を置くので次はいつになるか不明です。


「私は、この塔とジェラールとの因縁を断つ」

「エルザ…」

 

自分の抱えていた誰にも語れなかった過去。それを話したということは、決別を本気でつけようと考えたからだ。

 

「姉さん、話に出てきたゼレフって…」

「ああ。『呪歌(ララバイ)』や『デリオラ』をつくった男で、あちこちの闇ギルドの信望を集める災厄とも言える男だ」

「くそっ。そんなやつを復活させようってのかよ!」

「だが、それもこの塔を壊せば済む話。この見せかけの『楽園』を壊せばな」

「それ…ホントかよ?」

 

震えた声が飛んできた方を見れば、エルザを姉のように慕うショウの姿があった。グレイやナツを襲った者の1人だ。彼はエルザの話が信じられないという。ジェラールの話では、魔法を覚えたエルザが自分たちを裏切ってしまい、ジェラールしか信じることが出来なかった。だから、楽園に行く為に全てをなげうって彼に協力したこと。信じる相手を今更変えられない。

 

「それともあれか、ジェラールの話が全て嘘だって言うのかよ!」

「それは…」

「ショウ、エルザの語った言葉が真実だ。この8年間ずっと、あいつの嘘に踊らされてたんだよ」

「シモン…お前」

「俺は信じてたよ。お前のことをずっとな」

 

信じている。その言葉がかつての仲間から聞けたことが、彼女にとってはなによりも嬉しい言葉だった。そして、エルザをずっと慕っていたショウは、自分の心の整理がつかず、後悔と混乱によって、涙が溢れる。

 

「俺は…俺は何を信じればいいんだ!この8年間、ずっと信じてたジェラールが嘘をついてたなんて…」

「私がお前を捨ててしまった事実は例えどんな理由があろうと変わらない。本当に済まない。だが、言わせてくれ。ずっとお前達を信じてきたんだ」

「今なら過去を変えて未来に繋げられる、だろ?」

 

エルザの意思を確認したシモンはこう続けた。

 

「俺はこの機を待っていたんだ。強い魔道士が一同に会するこの好機をな」

「強い魔道士の集まる好機?」

「そうだ。フェアリーテイルと元ファントムロードの魔道士、そして神々の力を継ぐ者たち。これほどの魔道士たちがいれば悪夢を払える。手を貸してくれ」

 

====

 

「これは…戦局がまた一つ進んだな。ならばこっちも手を打たねば。タカ、ウォーリーとミリアーナに戦闘準備をさせろ。それと、お前たちの出番も近い」

「ははっ、かしこまりました」

 

ジェラールの手元にはチェスを模したテーブルがあった。そこには2つの陣営があり、それぞれにコマが置いてある。片方はナツたち、片方はジェラール側を示している。その陣営の片方には銃と猫のコマ、つまりウォーリーとミリアーナを示したものが置いてあり、火竜(ナツ)のコマと向かい合わせになっている。

 

「ナツ・ドラグニルとウォーリー、ミリアーナの戦闘か。はてさて、どうなることやら…クククッ。そして…あの光のこと、頼んだぞ。ジークレイン」

 

ジェラールの呼んだ名前は今、評議会にあった。そう、ジークレインは評議会の代議士を務めていた。ジークレインは評議会とジェラールを繋ぐ要であり、今回の作戦を裏で引いているもう1人の男である。彼のいる評議会では今、まさしくジェラールのいる塔、『楽園の塔』とも『Rシステム』とも呼ばれる死者を蘇らせる装置を破壊するなり占拠するなり無力化する方策を練っていた。

 

「どうする?あそこには変な宗教団体があると聞くぞ?」

「軍を送ろうにも周辺国や地域に協力を仰がねばならん」

「そんな悠長な方法ではダメだ!」

「何を言うか、ジークレイン。ならば策でも?」

「あの不気味なものを破壊する方法など1つしかない。『エーテリオン』だ」

 

その言葉にジェラールと彼の仲間のウルティア以外は戦慄を覚える。なにせエーテリオンを発動すれば、あたりは焦土と化してもおかしくない威力であり、評議会の最終兵器とも言えるものだ。たしかに効果は挙げられるかもしれないが、周辺諸国からの反発は免れない。ただRシステムがあるだけでは使う理由にはならない。

 

「『エーテリオン』は破壊と終焉を齎す!それを使う覚悟はあるというのか!」

「これはあまり言いたくなかったが…ゼレフの復活が目的らしい。そんなことをされるよりもエーテリオンを使う方が後々のためになる!」

「私は…賛成ですわ」

「ウルティア、貴様!」

 

評議会の崩落の音が聞こえ始める。

 

====

 

「くそっ、ミリアーナとウォーリーのやつ、通信を切ってやがる!」

「通信?」

「念話魔法のことですよ」

「へぇ、便利なものですね」

 

シリルが魔法の広さに感心していると、壁や天井に口のようなものが出てきた。そこから聞こえてきたのはある男の声だった。

 

『ようこそ、楽園の塔へ』

「な、なんだこれ!?」

「ジェラールか」

「気持ち悪っ!」

 

塔全体に声が響くように、趣味の悪いとしか言いようのない方法でジェラールがアナウンスする。

 

『多少戦局は変わってしまったが、これからあるゲームをしようと思う』

「ゲームだと?ふざけてるのか?」

『たった今さっき、ウォーリーとミリアーナが火竜に倒された。そこでこちらは4人の戦士を出そうと思う』

「なんだそれは!聞いてないぞジェラール!」

 

楽園の塔組ですら知らない4人の戦士達。そしてここで更なる衝撃が彼らを襲う。

 

『このままでは冗長になりかねん。追加ルールをお知らせしよう。ここに評議会からの殲滅の光『エーテリオン』が落とされる可能性が高くなった。時間にしていくばくか…その光が落ちたらゲームオーバー、お互いに勝利を掴めない。それが落ちるより早く、勝利を収めるのはどちらかな?』

 

評議会最終兵器エーテリオン。それが襲うとなると最早死は免れえない。皆が心に思ったのはいち早く決着をつけること。しかし、ここで誤算が生じた。何を思ったのか、ショウがエルザをカードに閉じ込めた。

 

「何をする!?」

「姉さんは俺が守る!何があっても!」

「くそっ、なんてこった!俺はあいつを追う!みんなは各自敵を倒してくれ!」

 

波乱のゲームが展開された。果たしてクリアは出来るのだろうか。



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第22の唄 堕天使参上

お久しぶりでございます。ぽおくそてえです。

もう一つの小説の投稿は月2回ほどでして、こちらもそのペースに合わせる形になるかと思います。何卒ご了承をば。


「4人の戦士…何者なんでしょう?」

「この塔にいた奴らでさえ知らないみたいだしな。あまり得策じゃねえが別れた方がいいな」

 

グレイは提案をしてみたのはある意味最後の手段だ。味方同士で分裂してしまった以上、なるべく早く敵を倒すためにペアで行動する方法を考えた。

 

「私はシリルお姉ちゃんと行く!」

「それなら私はグレイ様と…」

「ちょっとぉ!一番弱っちいのを1人にしないでよ!」

「皆さん、先に行ってください。ユリア、私に力を貸して」

「おい、どういうことだよ!?」

「貴方が望む敵は私とユリアでしょう?堕天使ベリアル!」

 

シリルの指差す方には黒い羽を生やした男がいた。不気味なほどの色気と高慢さを持ち合わせる神々の敵である。

 

「我は天への反逆者が1人。我と戦え、神の御子たちよ」

「お母様から堕天を言い渡された使いよ。せめて私の手で浄化してあげましょう。皆さん、ここは危険です。先に!」

「任せたぞ!俺たちは追いながら倒して行く!」

「ユリア、生冥の巫女揃い踏みよ!」

「2人の力を合わせれば、向かう所敵なし!」

 

不気味な堕天使と高貴なる神の子達の人類をかけた戦いが始まる。

 

「貴方は何者なの!?」

「400年前よりゼレフに魅入られ、付き従い堕天を命じられたもの。我ら堕天は闇ギルド『流れる七星(フォーレン・スターズ)』を結成し、ゼレフの再来を目的とした」

「そのうちの1人が…貴方だとは!お母様や先代を裏切った罪は重いですよ!」

「我にとっては小さく些細なことよ。今の我らにはゼレフがついている!」

 

堕天使となったことで力の枷が外れ、大いなる力を発揮する。無詠唱、印を結ばずして大魔法を発動するその並外れた魔力と精神力は、もはや悪魔とさえ言える。

 

「『天喰らう餓狼』!」

「我らを守り給え、『八咫の鏡』!」

 

命を喰らう飢えた狼たちが2人を目掛けて殺しにかかってきている。それに対してシリルは己の扱える防御魔法の中で、最硬の盾を2人の前に召喚する。ぶつかる両魔法は人類の力をはるかに超えていた。同じ神に仕えていた両者、されど立場も心意気も真反対。遠慮はない、何があろうと相手を倒すまで。

 

「撃ち貫け、怒りの一閃!『神弓ダークネスライン』!」

「ゴッ!?やるではないか。だが、外しては意味が無い!『煉獄』!」

「かき消せ、『大血波』!」

 

闇魔法の次に放った炎の魔法を相殺する血による大波。だが、それでも余波で2人とも吹き飛ばされる。2人がかりで戦っても余裕のある表情を浮かべるベリアルの、底が見えない。

 

「貴様らには経験が足りん。我を超えるのは不可能よな」

「こいつ…」

「うう…強い…」

「消えろ。我の過去を清算するために」

「レディに手を挙げるとはダンディじゃねえな」

「貴様は確か…ジェラールの友の。雑魚は下がってろ、貴様に用はない」

 

敵であるはずのウォーリーがなぜか、リボルバーを仲間であるはずのベリアルに向けている。

 

「俺だけだと思ってるのか?」

「何?…っ!この紐は…」

「ニャー!」

「何故だ?我には貴様らが裏切るメリットが見出せないが」

「外には俺らにはない夢があると気付いてな。火竜(サラマンダー)を見て気付かされたんだ」

 

裏切り。それはつまり、彼らの心が未来を見つめようとしていることを意味する。不思議に思う堕天使にウォーリーは力強く返す。人間に宿る力強さを感じる。

 

「さあ、立とうぜ。俺たちは自分で勝ちにいかねえとな」

「ありがとうございます。でも、あなた達は…」

「信用するもしないもあんたらに任せる。でもさ、俺たちは前を向くんだ」

「覚悟は受け取りました。とりあえず一時休戦です。ユリア、攻勢を仕掛けましょ!」

「巫女の本気、見せてやるもん!」

 

再び立ち上がった2人は先程まで対立していたウォーリーらと手を組み、目の前の堕天使に立ち向かう。作戦の要になるのはミリアーナだ。彼女の魔法は縛り付けた相手の力を封じるというトリッキーながらも多人数ではかなり役立つ能力だ。

 

「魔拘束チューブ!」

「またこの紐か。『魔空波』」

「そこよ!『気功掌』!」

「『秒間32フレームアタック』!」

「『神の啓示書・第一巻第一章閻魔の項』参照、『河原石』!」

 

守りに入った隙を狙った3人の能力が見事にクリーンヒットした。4対1では自分に不利だとすぐに察したベリアルは、すぐにまた縛り付けに来た紐を無理やり引き破り最大級の魔法を発動するため、詠唱に入る。

 

「天を穿ち、地を裂く刄よ…今この時を持って我が命を伝えん」

「俺たちで妨害する!ミリアーナ、行くぞ!」

「任せて!元気最強!」

「シリルとか言ったな!お前達でとどめを刺してくれ!」

「やれるだけやってみます!(でもどうすれば…あいつの攻撃を消し去るほどの攻撃魔法は…)」

 

万事休すかと思われた時、ユリアからある提案がなされる。

 

「お姉ちゃん、一緒に魔法を撃とう!合体魔法(ユニゾンレイド)だよ!」

「あれはかなり難しいって聞くわ。いくら私たちでも…」

「私を信じて!私はお姉ちゃんを信じてるもん!」

「っ!?……そうね、私がしっかりしないでどうするっての。ユリア、私たちの力、見せつけちゃいましょう!」

 

しばらく動けなくなる2人を庇うようにミリアーナが立ち、チューブを飛ばしてベリアルの妨害をする。だが、その紐も次々に破裂し、時間稼ぎにも限度がある。

 

「混沌を吹き荒ぶ狂乱の風となりて光を引き裂かん!」

「まだ溜まらないの!?」

「あと少しです!ユリア、行ける!?」

「うみみみみ!もうちょい待って…よし!」

「行けるみたいだ!ミリアーナ、離れろ!」

 

妨害もあり、2人の力がたまりきるまで時間が稼げた。ミリアーナは素早くその場を離れ、それを確認したシリルたちは遠慮なく全力を放つ。合体魔法、気の合ったもの同士でなければ使えない魔道士の境地とも言える魔法だ。

 

「「合体奥義『天地護業法』!」」

「我が魔法で大地の塵にしてくれん!『真・魔空波』」

「勝て…競り勝ってくれ!」

「ウォーリー!私たちも援護するニャ!」

「でもあの威力の中でか?」

「頑張ってる子がいるんだよ!?やるしかない!」

 

自分たちの問題だからこそ、ミリアーナは自分がやらなければならない事案だと自負している。それに、外から来たほぼ無縁の少女たちが奮戦しているとあっては、やらなければ名折れと説得する。

 

「こうなっては仕方ない!漢をあげるぞ!」

「それでこそのウォーリーだよ!ネ拘束チューブ、喰らえ!」

「俺の銃弾を喰らいな!」

「くそ、邪魔臭い」

「攻撃が少し緩んだわね。ユリア!」

「チェストー!」

 

決して一人では打ち破れない壁があったとしても、皆でかかれば超えて行ける。敵味方で別れた者たちであっても、団結する術はある。縁を切り続け、孤独に陥っていたベリアルにとっては最後まで持ち合わせなかったものだ。

 

「こんな雑魚どもに我は…敗れるのか…ガァァッ!!」

「やった!勝ったよ!」

「我は堕天…常に孤独か…」

「何か、辞世の句はありますか?」

「ナーガよ…すまなかった……」

 

苦悶の表情を浮かべ、最期の言葉を発して事切れた。かつて仕えたチキの先代に陳謝し、予想外の反応の中、ついに戦いは幕を下ろした。

 

「なぜ最期に彼の方の名を?分からない…」

「お姉ちゃん…」

「落ち込んでるところすまねえが、逃げるぞ。さっき連絡が入ってよ、エーテリオンまで十数分しかねえそうだ」

「……そうですね」

 

敵の思わぬ言葉が心に反芻する中、上へと向かった皆を信じ、撤退を余儀なくされた。運命の光が構える中、果たして楽園の行方はどちらに向かうのか……



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第23の唄 祈りを捧げん

皆さま、どうもこんばんはです。
ジェラール戦については直接書く部分はかなり少ないと思ってくだされ。どうにもストーリー上必要最低限しか書かないことになりそうで…。


「おい、あれってお前さんたちのとこのお嬢ちゃん方じゃねえのか?」

「ルーシィ姉さん!それにファントムの…」

「なんか変な奴も倒れてたニャ。多分こいつ倒して魔力切れ起こしたんじゃない?」

 

逃げるためになるべく全員を安全なところに避難させようと、限りある時間の中で塔を巡っていると、倒れたルーシィとジュビア、そして四戦士の一人、ヴィダルタス・タカが見つかった。

 

「よし、俺たちはこの二人を担いで先行ってるぞ」

「二人も早く来てね」

「ええ……その、ありがとうございます」

 

一緒に戦った以上、もはや蟠りはない。リスクを顧みずに組してくれた彼らに礼を言い、他のみんなを探すべく塔内をかける。果たして無事であろうか、状況はどうなっている。様々な不安が脳内をよぎる。

 

「みんな、どうかご無事で…」

 

====

 

裁きの光(エーテリオン)が展開されようかという差し迫った状況の中、グレイはナツを倒して丸呑みにし、能力をコピーしたフクロウ人間、その名もズバリ梟と相対してた。

 

「クソ炎が!勝手にやられてんじゃねえよ!」

「お前はグレイ・フルバスターだな?名前と数々の悪行は我々も聞き及んでいるぞ、ホーホホウ!我が腹中にいる火竜(サラマンダー)を助けたくば倒していけい!」

「舐めた口きけんのも今のうちだぞ!アイスメイク・(ランス)!」

 

グレイの氷槍が眼前まで迫るが、ナツの能力をコピーしているだけあって、口から炎を吐いて全て溶かし切る。それには皆驚きを隠せず、余波をモロに受けてしまう。

 

「お前なら知っていよう、火竜(サラマンダー)の火の威力を!」

「クソヤローが……」

「まだ足りないようだな!さらに喰らえ!」

「うおっ!?」

 

氷対炎。一見かなり不利に見えるこの戦いにおいて、側から見てるシモンは勝ち目は薄いのではないかと半ば諦めがある。それに、グレイの魔力などの情報を得ている彼にとってはそれが最も現実的な判断だ。

 

「グレイとやら、もう下がれ!お前の残り魔力じゃ…!」

「こんな炎、熱くもねえよ!」

「なっ!?炎が凍った!?」

 

魔法は意志から発せられる。古来よりそう伝えられている言葉の通り、グレイの強気な姿勢が情報を上回り、発せられた炎を全て凍らせる。

 

「お前の吐く生ぬるい炎より、俺は熱い心を既に知ってるんだ。甘かったな、フクロウやろう!」

「ほ、ホホホッ!?」

「二度とナツの炎と一緒にすんな!『氷刃七連武』!」

「ほ、ホブァッ!?」

 

全ては仲間を守るため。その強き意志と覚悟、親愛がなせる技を目の前にして、シモンは驚きを感じると共に、エルザの行き着いた安寧を見たように感じた。

 

「エルザ…良いギルドに入ったな。流石はロブさんのいたギルド」

「くっ、俺もここまでか…」

「グレイ!」

 

魔力を意志により引き伸ばしたことによる反動と、炎による火傷。並大抵の人間では意識を保つのもやっとだろう。

 

「ここから先は私が…」

「お前たちは確か生命神と冥府神の…」

「うん!さっき猫ちゃんと四角さんに頼まれたんだ!」

「ウォーリーとミリアーナが?そうか、分かった。グレイとハッピーを連れて船着き場まで行っててくれ。必ずエルザを連れて帰る」

「ナツ兄さんは?」

「これから先の戦いに必要なんだ。どうか理解を示してほしい」

 

梟が倒されて吐き出されたナツをジェラール討伐のキーと捉えているシモンにとっては、どうしても引けないところだ。

 

「無茶を言っているのは分かっている。どうか、この通りだ!」

「頭をあげてください…貴方の真摯なる言の葉を信じましょう。そのかわり、貴方も、ナツ兄さんも、エルザ姉さんも…皆、帰ってくるのですよ?」

「ありがとう」

 

全ての騒乱はナツに託すという彼なりの覚悟と、己の非力さを感じる弱さ。それを否定して止めることも考えたが、最早この手に乗じるしかない。自分の力ではもう止められない次元にまで来ているのだ。

 

「エーテリオン発射までそう時間はありません。お互いの無事を祈ります」

「分かっている。聖なる者の加護、信じてみよう」

 

そう言って別れてから数分、エルザと共にいたショウと合流し、エルザが最上階のジェラールの元へと向かったことを知り、彼女の意思により、避難することを最優先にした。

 

「ねえお姉ちゃん、大丈夫かな?」

「今は信じるしかない。一人でも無事で帰るには彼らに託すしかないのよ……これほど、自分の力の無さを呪ったことはないわ」

「二人とも、やっと来たのね!こっちよ!」

 

先に避難していたルーシィたちに導かれ、行きに乗った小舟に再度乗って待つ。エルザやシモンたちの願いとはいえ、まるで見捨て同然の選択しかできない自分がいることが許せない者たちもいる。

 

「エーテリオンが落ちるまであと10分弱だそうだ」

「ここから少しでも離れてましょう。『水流拘束(ウォーターロック)』!」

「揺れますよ、何かに捕まってください。『気功砲』!」

 

今は安全を確保するために塔から離れるしかない。船に乗る皆は空を見上げ、落ちる光がナツたちを何処か遠いところへ連れて行かないことを祈るばかりだ。

 

「姐さん…」

「ナツ〜、無事で帰って来てよ〜…」

「信じれば大丈夫よ。なにせ、あのエルザにナツ、それとシモンだったっけ、がいるんだから」

 

だが、彼女たちの祈りも無残に裏切られる形になろうとは、ゆめゆめ思わないだろう。天からの裁きが下る頃、ある命が散ることになるとは、全く思いもせず…。



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第24の唄 因縁

遅くなりました、ぽおくそてえです。

来週は投稿できる可能性が低いので、予約投稿してるもの以外は期待しないでくだされ。


「き、急に揺れが激しくなってない?」

「おい、塔の上を見てみろよ!あんなデケエ魔法陣が…」

「あれが例の兵器」

 

空に聳えるのは話に出てきたエーテリオンそのものである。準備段階の魔法陣が出現しただけでこの震え方である、発射されればひとたまりもないのは目に見えてる。ジェラールがそれを塔に降らせようとしている真意は計りかねる。

 

「一体なにが起こるってんだ。俺たちの建てた塔でなにをするんだよ?」

「分からん。でもゼレフを復活させるってことは余程の犠牲が居るってんだろ」

「死者の復活を企むなんて…しかもあの厄災と言われる男を…」

 

時間がなくなりつつあるが、それでもまだ彼らはやってこない。無事だろうか、無茶はしてないだろうか。色々と思うところはあるが、信じて待つしかない。

 

未来は平穏であると信じて。

 

====

 

「待ってたぜ、エルザ。制限時間いっぱいだな」

「貴様をここで討ち取る。ショウやシモン、ウォーリーやミリアーナ、そしてこの塔を建てる時に亡くなったロブおじいちゃんの為にもな」

「させねえよ。ここをお前の墓場にし、鎮魂歌(レクイエム)を奏でてやるよ。ゼレフ復活のためにな!」

「世迷言はそこまでだ。因果を断ち切ってみせる、我が剣を持って!」

 

エルザとジェラールの長きに渡る因縁、そして確執をここで終わらせる。どちらが勝つにしろ、終わりを迎えるのはお互いに分かっている。

 

「楽園ゲーム、最終章の開幕だ!」

「行くぞ、ジェラール!」

 

剣閃が飛び、悪霊が舞う最上階。命懸けの攻防が繰り広げられる。四戦士の一人、剣豪斑鳩との一戦により、体力と魔力を消耗していたエルザにとっては不利な戦況ではあったが、静かな怒りに闘志を燃やす彼女には負けはない。一進一退のせめぎ合いは、最終的にはエルザに軍配が上がり、ジェラールをねじ伏せて馬乗りになって終幕した。

 

「ここまでだ。お前の負けだ、ジェラール」

「これで俺もようやく解き放たれる、か。いいぜ、その剣で俺を刺し殺してくれ」

「……この塔のことは調べ上げてある。ゼレフ復活にはこの大陸中の魔道士全員をかき集めてもやっと意味を成すかどうか、だろう?」

「さすがだな。無意味に8年間外にいたわけではないか」

「お前の計画は当初から破綻寸前のものだ、なのに、何故固執した!?」

 

エーテリオン発射まで残り数分もない。そんな切羽詰まった状況でも、ジェラールは笑みをこぼす。諦めによるものか、この状況を楽しんでいるのか。それは、彼の口から明かされた。

 

「ゼレフの亡霊だよ。あの時、俺は奴に取り憑かれ、今の今までずっと抵抗できずにここまで来てしまったんだ。だけどお前に負けて、最期を迎えようって時にようやく……」

「ジェラール…お前…」

「悪かったな」

「良いんだ。今更だ、それにエーテリオンからはもう逃げられん。共に逝くまでのこと」

 

最後のひと時くらいは二人で一緒にありたい。エルザはそう決め、天罰の光が下るまで、そっと寄り添うことにした。しかし、エーテリオンが発射される時に浮かべたジェラールの邪悪な笑みには気づかなかった。

 

====

 

「うっ……」

「あの塔はどうなった!?」

「煙で見えやしねえ…」

 

審判は下された。罪人たるジェラールと楽園の塔は果たしてどうなったのか、波で揺れる中見守るが、煙で一向に見えはしない。

 

「……晴れてきたか」

「影?」

「壊れてねえのかよ、あんな膨大な魔力くらってよ…」

 

少ししてようやく見えてきた景色に皆唖然としていた。外壁が完全に崩れ、内側から姿を現したのは巨大なラクリマだ。しかも魔力を吸収し、青白く光っているのがわかる。

 

「あの塔はどんな仕組みなんだ?」

「俺たちは知らねえんだ。何を作ってんのか詳しく知らされてなかったんだよ」

「人の復活にはそれ相応の魔力がいるから、エーテリオンを落とさせたのでは?」

「あり得ない、とは言い切れませんね。まさかこの展開も最初から織り込み済みだったのですかね?」

「でもそんな事して爆発でもしたらどうするのかな?」

 

威圧感を与える塔を前に様々な憶測が飛び交うが、正確な答えと情報を持つのはジェラールと楽園の塔の設計に関わった今は亡き、ゼレフの信仰団体の幹部たちのみ。

 

「ここで議論してもダメだ。急いであいつらを連れ戻さねえとヤバイな」

「私たちが行っても巻き込まれて終わりよ?」

「もうその段階を優に超えてます。どちらにせよ危険なのは間違いない、なら、すぐに行動に移さないと」

「拙速は巧遅に勝るってやつだな?誰が行く?」

「私が行きます。ハッピー、運んでくれる?」

 

真の目的に進む悪魔の所業を止めるべく、最後の決戦に足を踏み入れる覚悟を決めたシリル。混沌渦巻くこの展開を止められるだろうか。



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第25の唄 別れと成長

どうも、ぽおくそてえです。今回もいつもながら、戦闘やらなんやらを端折りながら書き上げました。次は来月以降になりそうです。

それでは本編をどうぞ!


「ハッピー、もう少し速くできそう!?」

「これが限度だよ!それにもう直ぐ着くみたい!」

「分かったわ。着いたらみんなのとこに戻って現状報告頼むね」

「あいさー!」

 

ハッピーのトップスピードに乗って風を切りながら進むと、頂点の間が見えてきた。あそこでエルザとジェラールが待っているのだろう、初手はどうすべきか考える。

 

「後10秒だよ」

「よし……離して!」

「頑張ってね!」

 

突入した今、ちょうどエルザをナツが抱えて助け、ジェラールが背を向けた好機だ。この手を逃すまいと、大きい一発を放つ。

 

「喰らいなさい!『生命神の一声』!」

「なっ!?いつの間に…『流星(ミーティア)!」

「よくやったな、シリル。エルザ、大丈夫か?」

「お陰で助かった。だけどなんでお前たちがここに…」

「言っただろ、俺たちはお前の味方だ。どんな時でもな」

 

どうにか最終段階を食い止めたが、乱入してきた二人を前にジェラールは強烈な殺意を覚え、顔に青筋を浮かべている。

 

「お前ら…ゼレフの復活を前によくも邪魔してくれたな!」

「させませんよ。私は何度も止めてきました、今回は今までと同じように止めるまでです」

「仲間にこれ以上手は出させねえよ。行くぞシリル!俺たちのツーマンセルで、やつを倒すぞ!」

「これ以上遅れては計画も台無しだ!ゼレフのために露と消えるがいい!」

 

冷静さを失っているジェラールは一刻も早く二人を消してエルザを生贄にすべく、天体魔法をもって二人を塵にしようと全力を尽くす。まず、高速移動を可能にする魔法、『流星(ミーティア)』で二人を翻弄して行く。

 

「速い!目が追いつかねえ!」

「先読みするしかないですね。当たれ!」

「目がダメなら、鼻で…集中しろ……そこっ!」

「当たらない!?まだ速さを上げてくるの?」

「貴様らに彗星は追えねえ。七つの星に裁かれよ!『七星剣(グランシャリオ)』!」

 

ここで発動されたのは天罰を下す七つの星。塔自体を崩すほどの膨大な魔力を放ち、二人に降り注ぐ。だが、それをタダで受けるほど二人は戦闘に不慣れではない。

 

「天を名乗るにはまだ早いわよ!神の加護を見よ、『鉄血御柱』!」

「威力を削っておかねえとな…『火竜の咆哮』!」

「どれだけ削ろうと無駄なだけだぞ!」

 

その言葉通り、削ってみたものの、結局は暴力的なまでの威力を少し抑える程度に留まるだけだった。しかし、それのおかげか、逸れるものまであり、直撃によるダメージは軽減できた。

 

「無駄かどうかはまだわからない。諦めは敵ですよ」

「ふん、無駄な足掻きを……消えるまでの時間が伸びたに過ぎん。これで消えよ!」

 

地に降り立ったジェラールが両手を天に向けると、そこに黒い魔球が現れ、少しずつ大きくなって行く。天体魔法『暗黒の楽園(アルテアリス)』、いわゆるブラックホールだ。影が魔球に向かうように伸びるほどの魔法で、全力で消しにかかっていることが分かるほどだ。

 

「今度こそ塵にしてやる」

「待てジェラール!この私を、生贄の私が殺せるか」

「エルザ、どういうつもりだ!」

「…自分の身を挺してか。だが、無駄だ。死んでも構わんのだからな」

 

自分の出来ることをしようとエルザが二人を庇うように前に出るが、敵にしてみればそれは些細なこと。止めるには至らない。無情に振り下ろされる魔法を前に最後まで仲間のために身体を張るが、いつまで経っても衝撃がやってこない。不審に思って閉じた目を見開くと、そこにはシモンが間に入って受け止めていたのだ。

 

「シモン、お前!」

「これで…これで良いんだ。お前らを守れれば…俺の命も…」

「馬鹿者!なんで…なんで…」

「俺は……お前が好きだったからだ。だから…」

「まて、シモン!…うわぁぁぁ!!」

 

護るべきものを失う悲しみは大きい。しかも、彼は自分の命を賭けて逝ったことはエルザに大きな影を落とす。

 

「くだらねえな!自分の命を無駄にしやがって!俺が楽園に導いてやった恩を忘れやがってよ!」

「ウルセェ!」

「なっ!」

 

心無い発言に怒りの拳を叩きつけたのはナツだ。全身から虹色の光があふれ、異様な魔力を帯びている。それはシリルも同様である。楽園の塔から溢れるエーテリオンの魔力粒子、『エーテルナノ』を食べた影響だ。

 

「ぐっ、があっ!」

「うっ、くうっ!」

「馬鹿めが、無茶な真似をするからだ!」

「うおおおお!」

 

片手に収まる量とは言え、密度は高く身体に収まりきる魔力ではない。が、神と竜の申し子は、反動をものともしなかった。

 

「おらぁ!」

「何!?コントロールしただと?」

 

ナツの体には竜の鱗が浮かび上がり、シリルは神の天輪が付く。ドラゴンフォースと神依(カムイ)の一時的な出現である。

 

「これならお前を倒せそうだ」

「命をなんとも思わない貴方を…止めます!」

「面白い。これで終わらせる!」

「二人ともなんてことを…」

 

無茶な賭けを打つナツとシリルに言葉にならない感情を抱くエルザ。出会って間もないシモンのために、何故そのようなことが出来るのか、ジェラールは分からないと言わんばかりに呆れを露わにする。

 

「アホの一つ覚えだな。喰らえ!」

「その程度じゃ止まれません、『真・気功掌』!兄さん、進んでください!」

「俺たちの怒りを受けやがれ!」

「ぬあっ!」

 

パワーアップした進撃にもはや恐れはない。それまで当たらなかった拳が次々に当たるようになる。ジェラールの抱く畏怖が行動を鈍らせ、思考を止める。

 

「くそ、正面からはまずい!『流星(ミーティア)』!」

「逃げても無駄です!『鉄血御柱』、飛べ!」

「うおっ!?」

 

硬さも太さも飛ぶ速さも段違いになった神の御柱は着実に彼を追い詰めて行く。焦りを覚えるジェラールはもう、冷静さを失い、禁じ手を打つまでに至る。

 

「これはやりたくなかったが、時間さえあれば不可能はない!『煉獄破砕(アビスブレイク)』!」

「あれは…まさか塔ごと壊す気か!?」

「また8年、いや、今度は三年で再び完成させてやる!」

「テメエに人の心はねえ!だから…幻影なんかに惑わされるんだ!目ぇ覚ましやがれ!」

 

最後の手段を使おうとする男に、遂に妖精の竜の翼が開かれる。空中を蹴り上がって飛ぶナツの紅蓮の炎は、ジェラールを遂に捉えた。

 

「これで終わりだぁ!」

「突っ込んでくるとは…」

「行ってください!ナツ兄さん!」

「夢と共に砕けちれ!『火竜の鉄拳』!」

 

全てを打ち砕く魔法が放たれるより早く、怒りの炎が放たれる。ナツの拳を受けたジェラールは塔に叩きつけられ、崩れゆく塔と共に深い海へと沈んで行く。

 

「これが…ナツたちの本気…(これで私の悪夢も終わる。お前のおかげだ、ナツ、シリル、そして…シモン)」

「終わりましたね。あとは…ここを抜ければ…」

「シリル!ナツ!」

 

全てを出しきり、仲間の悪夢を断ち切り、終わらせる。目的を果たした2人は笑みを浮かべながら意識を失った。エルザが望んだ結果と、悲しみを携えて。

 

その後、崩れゆく塔から脱した3人は暖かく外で待っていた仲間たちに涙と笑顔で出迎えられ、アカネビーチへと戻っていく。悲しい別れを知った彼らはまた一つ、成長しながら……。



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第26の唄 良き旅立ちの日

どうもです。次回投稿は不明です。なるべく九月初め頃には出したいと思います。


「そっか、シモンのやつ…最期の最期までおまえは……」

「悲しいけど、受け止めなきゃだね」

「私はあいつや皆に助けられた。ロブおじいちゃんを彷彿とさせる最期だったよ」

 

アカネビーチに帰ってきた翌日の夕方、治療を受けたエルザはかつての仲間たちと共に、シモンについて語り合っていた。久しぶりに巡る外の世界に、ショウたちは驚かされてばかりだ。

 

「俺たちも前向いて生きなきゃな、あいつのためにも」

「そういうことだ。私はシリルとナツを介抱しに戻るが、お前たちはどうする?」

「一旦戻るぜ。恩人たちと少しでも話してえからよ」

「それは良かった。あいつらも喜ぶだろう」

 

まだ目覚めぬ両者や一緒にいたルーシィたちの元へと戻る。そんな中、エルザには海から声が聞こえたような気がした。

 

『ありがとうエルザ。俺もようやく呪縛から解放されたよ』

「ジェラール!?……いや、まさかな」

 

====

 

「お姉ちゃん、起きた?」

「ええ。無事みたいね」

「うん。シモンさん以外全員生きて帰ってこれたよ」

「そう。祈りは届かなかったか」

 

エルザたちが話し合ってる頃、シリルはナツよりいち早く復活を遂げた。まだ体に痺れが残るものの、動くには支障はなさそうだ。

 

「看病してくれたみたいね。ありがとう、それとごめんなさい」

「良いの良いの!助けてもらったから、それに応えただけだよ」

「ありがと。さ、みんなに会いに行こう」

 

無事に復活したことを伝えれば皆も少しは表情が和らぐだろう、そう考えてユリアの肩を借りながら皆の待つ部屋へと戻る。

 

「みんな〜、お姉ちゃん復活だよ!」

「ご迷惑おかけしました。ただいま復帰しました」

「お、怪我はもういいのか?」

「ええ。まだちょっと痺れますけど」

「あとはナツだけね。全く、シリルの方が復活早いって、ナツもまだまだね」

 

和気藹々とした雰囲気を醸し出していたところに、楽園の塔組も戻ってきて、ナツ以外の皆でワイワイと話が盛り上がる。彼らも世界を見たいと夢を語り、正規ギルドに入ればそれも現実味を帯びてくると助言しながらその日は夜も忘れて語り合う。

 

「それじゃあ俺たちは部屋に戻るよ。また明日話そう」

「そうだな。これからは自由に暮らせる、話すことくらいいくらでも出来よう」

「良かったです、姉さんが楽しそうに話せて」

「お前たちのおかげで蟠りなくいろんな話に花が咲かせられる」

 

失ったものはあるが、こうして得られるものもある。エルザにとっては幸せなことなのかもしれない。

 

====

 

それから2日後、ようやくナツも復帰を果たした。あまりの遅さに皆からいじられてはいたものの、いつものギルドの雰囲気は取り戻せた。彼も交えて皆と話せば、前よりさらに盛り上がり、楽しいひと時を過ごした。

 

「あいつらもいい奴らだな!俺たちのギルドにピッタリだぜ!」

「確かにな。あいつらあの塔にいた奴らだがよ、根っこの部分は俺らと一緒なのかもな」

「あいさー!」

「ふふ、仲良くなるのに時間はいらないのかもしれませんね」

 

和やかで平和な時間がこれからも訪れると思っている皆に、ルーシィが慌ててある一報を伝えた。どうもショウたちが何も知らせずにどこかに行ったのだという。

 

「どこ行きやがったんだ?これ以上逃げる必要ねえのに」

「分からない。あと、エルザが花火の用意しとけって…」

「あれか」

「あれだな」

「え?なんの話?」

 

長年ギルドにいるグレイやナツ、ハッピーはすぐに何をするか見当がついたが、シリルら比較的新入りに近い者たちは何がなんだかわかっていない。

 

「まああいつらと話すのはエルザに任せるとして、俺たちもとりあえずあいつのいるとこに行くしかねえな」

妖精の尻尾(俺たち)流の別れの儀式ってやつだよ。行くぜ」

「はあ…行きましょっか?」

「別れの儀式…え!?あの人たちどっか行くの!?」

 

ようやくルーシィも察しがついたみたいで、皆でエルザの後を追ってホテルを出た。途中で祭りが開かれており、そこで話を聞く限りでは無人の砂浜に行ったということらしい。

 

「お、居た!」

「もう始まっているな」

 

====

 

「おまえたちは自分の道を歩こうと言うのだな?」

「ああ。俺たちの自由はこの旅から始めようと思ってね。姉さんにはこれ以上迷惑はかけられないし」

「そうか。なら、私としても壮行会をしなければな。たった数日だったが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間として、3つの約束をしてもらう」

「俺たちそういう立場だったか?」

「言っちゃダメだにゃ。エルちゃん、案外そういうとこ、頑固というか真面目だから」

 

正直何が起こっているのか飲み込めないウォーリーを嗜めるミリアーナたちを余所にエルザは換装し、口上を述べていく。

 

「1つ!ギルドにとって不利益となる情報を他言すべからず!」

「いや、不利益な情報って…俺たちなんも知らねえぜ?」

「2つ!過去の依頼者にみだりに接触し、個人的な利益を生むべからず!」

「依頼者って何?」

「これから別のギルドに行けば、自然と知るだろう。そして、最後の一条だけは…どんな時でも守ってほしい。3つ!たとえ進む道は違えども、力ある限り、強く行きねばならない!そして…自分の生命(いのち)を決して小さなものとして見ず……愛した友を決して、生涯ずっと忘れてはならない!!」

 

たとえ距離がどんなに離れていようと、ずっと心は繋がっている。涙を浮かべて話し、涙を拭って聞く。それぞれに抱えた思いはあれど、心は常に寄り添っているのだから。

 

「私はお前たちを決して忘れない…心に思い出を刻んで進もう。だから、お前たちも今日までの艱難辛苦を忘れずに、進め。妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会、開始!」

「お前ら、また会おうな!」

「私たちはいつまでも友達だよ!」

「どうか息災であってください!」

 

彼ら見送る妖精たちの花火の音色に背中を押されながら、これから自由を知る者たちは新たな旅路へと行く。心構えがあれば、強く生きていけるだろう。この旅立ちを思い出に。晴れ渡った夏の日、シリルはこの情景を歌に残していた。

 

『行く船の 去りて離れて 目に涙 されど心は 寄り添いしかな』

 

====

 

その頃、ジェラールを陰で操っていた元評議員で彼の側近だったウルティアはある男と連絡を取っていた。

 

「そういう訳で、評議会は壊滅。しばらくは機能しないため、私たちからは注目はそらせるかと…」

『よくやったウルティア、これで我らの念願に一歩近づいたろう。あの男も哀れよな。死んでもいない『ゼレフの亡霊』に踊らされるとは』

「ええ。彼は400年間、ずっと生きてましたから」

 

彼女たちは知っていながら、計画のためにあの楽園の塔を巧みに利用したのだ。

 

「それではまたギルドで会いましょう、マスターハデス」

『ではな。それと、あるギルドから3人、堕天使を寄越してもらった。我らのために、働いてもらうこととなった。詳しくは後でな』

「了解しました」

 

闇はまた一歩、光の知らぬところで進んでいる。




下手くそな和歌で申し訳ないです。

それと主タイトルの生命の唄とはおそらく、きっと無縁です…タイトルとか回収できるか不安になってきた…


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第4章 争う妖精 バトルオブフェアリーテイル編 第27の唄 輪廻廟

お久しぶりです、ぽおくそてえです。しばらくオリジナルでお送りします。

バトルオブフェアリーテイル編はもうしばらく後になりますので何卒ご了承をば。


「よぉーし!やっとマグノリアに戻ってきたぜ!」

「あれからしばらく経ったからなぁ。工事が進んでりゃ良いが…」

「その不安も、あまり意味なさそうだな。ほら、見てみろ、完成してる」

 

アカネビーチにて一週間近くに及ぶ休暇を満喫した一行が到着したギルドは、今までよりパワーアップしていた。外装が新しくなり、小綺麗になっていたし、一回り大きくなっているようにも見えた。

 

「すげえな!」

「おう、お前ら帰ってきたのか。なんだかんだで久しぶりだな」

「マックス、お前なに売り子みたいな真似してんだ」

「事実売り子だよ。新しくなっただろ、ギルド。その際に売店も作ったんだ。中の説明は他の奴らに聞いてくれ」

 

そう言われて中に進むと、カナがこちらに気づいて寄ってきた。改修されたことをいち早く伝えたいのか、表情まで明るい。

 

「あんたたち、なかなか顔を見せないから心配したよ!ま、とりあえず中を見な!」

「おおー!広い!」

「ウェイトレスの服も変わってるな!」

「それだけじゃないよ。プールに地下遊技場があるし、上の階のS級魔道士専用スペースが開放されてね。仕事もS級魔道士がいれば誰でも行けるようになったんだ!」

「俺たちが勝手に行かなくてもいずれこうなってたってわけか。無駄骨だったな…ってどうしたナツ?」

「違いすぎて慣れねえ」

 

ナツは前までのギルドが良かったのか、かなり不貞腐れてる。そこにマスターがある人物を連れてやって来ていた。先日の一件で協力し、先にギルド加盟に動いていたジュビアだ。

 

「よろしくお願いします」

「本当に入っちまうとはな」

「あの時は礼が言えなかったな、ありがとう」

「おろ、知り合いかの!?」

「ええ、つい先日お会いしまして。元ファントムの方ですが、多分信頼しても大丈夫です」

「そうか、なら一層仲良くしてやってくれ。ああ、それともう1人おる。ほれ、挨拶せんか?」

 

もう1人新入りがいる。ジュビアの仲間入りは予想できたが、もう1人については全く聞いておらず、予想ができない。だがそれも、数秒で理解することになる。

 

「ガジル!?」

「なんでこいつがここに…!」

「こいつはギルドを破壊したんですよ、マスター!どういうことですか!」

「まあそう騒ぎなさんな。ワシが彼を直に引き入れたんじゃよ、そこにいるジュビアのたってのお願いでな」

「さすがに放って置けなくて…別に好きとかそういうわけじゃないんですよ?」

「ふん、好き勝手言いやがって」

 

やはり相手が先の戦争の主犯格なだけあって大半のメンバーは警戒心を抱かずには居られない。同じギルドに居ながら、早速溝が出来てしまう。

 

「まあまあ…ここに入ったってことはマスターにも考えがあるんですよ、きっと」

「昨日の敵は今日の友。根は悪い奴じゃないし、先の件もジョゼの命令じゃ。奴も改心すると思うておる」

「マスターの意向なら我々も反対しませんが……」

 

戻ってきて早々に波乱の予感がしているが、この日は何も問題なく、1日を終えることとなった。そして次の日、シリルはユリアを連れてある場所まで来ていた。

 

「ここ何?」

「『輪廻廟』よ。聖域の1つでね、修行にはもってこいよ」

「初耳」

「殆どの人は知らないからね。ただの遺跡にしか見えないわ」

 

入り口を抜け、階段を降り、さらに奥深くまで進む。そこは地下なのに森が形成されており、その中央には蔦が絡まった祠がある。

 

「うわぁ…鬱蒼としてるね」

「ここが本体の入り口よ。ちょっと封印解くからさがってて」

「う、うん。でもこれ誰が作ったの?」

「私も知らないわ。修行をちょっとさせてもらっただけだし」

 

神代から伝わるかなり古いもので、存在や由来、開門法を知る者はごく一部だし、設計者となると古くから存在する神以外誰も居ない。指で空をなぞり、不思議な呪文を呟くと、それに呼応して門に紋様が浮かび、扉が厳かな音を立てて2人を受け入れるために開かれる。

 

「行くわ。覚悟はできてる?」

「うん!」

 

味わった悔しさをバネに2人はさらなる高みを目指し、修行に励む。この輪廻廟では時の流れが外とは大きく異なり、外の3倍の速さで時が流れる。つまりは外の1日が中の3日分に相当する。修行者が短期間で力をつけるには、もってこいの修行場だ。

 

「何をすればいいの?」

「そうねぇ……この6つの部屋のどれかを選んで、それに見合った修行をするの。天の間なら魔力、人の間なら丈夫さ、修羅の間なら体力、判断力、筋力ってね」

「じゃあ天の間行こっ」

「私もそこにするわ。魔力の底上げをしなきゃ大技出せないし」

 

大扉の先にあったのは、静かな空間のみ。数体の石像と御神体が見守るだけだ。

 

「さて、私たち神の巫女が力の底上げをする方法って知ってる?」

「瞑想するの?」

「そう。心にある器と向き合い、精神力と想像力を養い、中身の質と量を底上げするの。私たちは仙人の力に通じるものがあるから、どちらかっていうと昇華に近いかも」

「なんか難しそうだけど…」

「大丈夫。まずは座禅を組んで、深呼吸よ」

 

神に仕える者の魔道士とは違う力を身につけるには魔力の流れ、空気の流れを感じ、それに乗って流れるように自然に合わせる力を身につけることが必須だ。魔力の流れを掴み、自分の力に変えることが神の一歩手前の仙人に到達する方法だ。

 

「じゃあ、始めましょ」

「うん…ふぅっ」

 

静かな時間が流れ、呼吸をする音しか聞こえず、心音さえ漏れ聞こえるのではないかというほどに静まり返る。2人きりの修行である。

 

====

 

マグノリアに目を向ければ、夏の終わりとともにある祭りへの準備がちらほらと見て取れるようになる。この街有数の収穫祭、ファンタジアである。そこを歩くマカロフとミラもその楽しそうな雰囲気に包まれた街を楽しそうに眺めながら、買い出しを済ませて歩く。

 

「いやぁ、いよいよこの時期がやってきたのう」

「私も楽しみです。秋到来、って感じですね〜」

「今年のパレードはどうしようかの〜」

 

街有数のギルドとあって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の方でも夜にパレードを行って、祭りを盛り上げる。

 

「そういえば、ラクサスが戻ってきたって聞いてます?」

「あやつがか!?この大事な時期にあの問題児が…昔は素直で可愛いものだったのじゃがな〜」

「彼も参加してくれると良いですね」

「そう願うばかりじゃ」

 

遠い目で空を見上げるマスターを励まそうと、ミラは努めて明るく振る舞う。

 

「今年は新しい子たちがたくさん来ましたし。ほら、ユリアとかルーシィとかジュビアとか…」

「おお、そうじゃった!して、ユリアとシリルはどこに行ったんじゃ?一昨日から見ておらんが…」

「一週間ほど空けるそうです。マスターに伝えてあるって言ってましたが」

「……忘れとった」

「しっかりしてくださいね」

 

最近は何かと多忙なだけあり、忘れてしまうことの1つや2つは出来てしまう。面目無いと心の中で詫びを入れながら、少し肌寒い風が吹く通りを過ぎていく。荷物をギルドに置いた彼は、彼のための執務椅子に腰を下ろす。

 

「今年も無事に祭りが終わると良いが」

 

ラクサスの帰宅とあって一波乱ありそうだと、家族を信じてやれない不甲斐なさと不安が渦巻く。

 

====

 

「最初の2日間は天の間だったけど、今日からどうするの?」

「修羅の間よ。全身に魔力を薄く纏うようにしなさい、入ってすぐにレースが始まるわ」

「レース?」

「森の中を全速力で走るのよ。途中で大岩がいくつも置いてあるから魔力の拳で壊すこと。それ以外の方法はないわ」

 

先程とは違う類の集中力が求められるこの修羅の間。走りながら足や拳に魔力を纏って行く手を阻む障害を乗り越えていかなければならない。

 

「準備はいいかしら?」

「天の間を先にやってて良かったよ。効率よく行かなきゃね!」

「行くわよ!」

 

入ってみると、木々が生い茂りながらも一本道を成しているのが見えた。何処からともなく音声が流れる。

 

『修羅の間、試練開始まで5、4、3…』

「全速力よ。振り返ったら終わりの一本勝負!」

「集中しなきゃ…!」

『2…1…はじめ!』

 

一本道を駆け出す2人。そんな2人を妨害するのは木の根っこに枝、大小様々な石だ。あるものは伸び、あるものは動いて迫ってくる。

 

「臆さず驕らずに進んで!一瞬の隙や慢心が命取りよ!」

「分かってるよ!」

「最初の大岩が来るわ!拳に力を込めて!」

「うう〜……はあっ!」

 

一瞬でも気が抜けないし、少しでも速度を落とせば後ろから迫る悪霊にとって喰われる。彼らはこの間で命を落とした数千年に及ぶ修行者たちの怨念だ。

 

「(やっぱり噂通りね)ユリア、振り向かずに速度を上げて!今度は私が前に行くからしっかりついてきて!」

「分かった!」

「全魔力解放……『神依・脚』装着!」

 

あの楽園の塔による一件から平時でも一部の神依を装着できるようになり、それをつけた今、全速力の壁のさらに先まで行く。姿勢を低く保ち、ジグザグに根を避け、枝を避ける。ユリアも負けじと親譲りの神の力をもって更に加速する。

 

「また岩ね。破ぁ!」

「道が分かれてるよ!」

「私は左、そっちは右よ。絶対にあっちで合流しましょう!」

「うん!」

 

修羅というだけあって天の間とは段違いの鬼畜さだ。それぞれの間を司る大いなる存在が自分たちの鍛錬のために使ったとも言われ、並の人間では1つの間を突破するのがやっとだ。

 

「この輪廻、必ず突破する!」

 

神の申し子、この試練を乗り越えるため、次元を超える勢いでただひたすらに駆け抜ける。



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第28の唄 神の苦悩

お待たせしました、お久しぶりでございます。おそらく次かその次でバトルオブフェアリーテイル編に入れると思います。


「猛獣が放し飼いだなんて聞いてないわよ!」

「ガルルァ!」

「鬱陶しいわね……そこを、退きなさい!」

「グッ、ギャオンッ!」

 

修羅の間の試練は続く。魔法で作りあげられた魔獣が点在し、シリルのゴールインを阻む。かれこれ数時間は走り続けており、そろそろ疲労も限界に近い。

 

「…見えた。あそこがゴールね」

「お姉ちゃん早くー!後ろからやばいのが来てるよー!」

「マズイわね。全速力で行くからアレを少しでも遅らせて!」

「わかった、『デッドウェイブ』!」

 

二手に別れたうちのユリアのコースはこちらより短く安全だったようで既にゴールしていた。彼女が放つ魔法を避け、伸ばすもう片方の手を掴みにいく。

 

「う〜……よいしょ!」

「ふぅ〜、間に合った」

「流石に疲れたよ。早く出て休もっと…」

「明日明後日は休みね。魔力回復と体のケアをしなきゃダメだろうし」

 

2人はなんとか修羅の間を潜り抜け、疲労困憊である。まともに食事も取れずに数時間も走っていたため、空腹感にも見舞われている。

 

「この試練、一番きつい気がする」

「まだまだよ……あと4つも残ってるし、これからは二週間くらいしかないんだから」

「ええ〜……」

 

確かに厳しい試練だったが、これでも他の一部の間に比べれば優しい方だ。特に地獄の間や餓鬼の間は試練でも一二を争う修羅場だと聞かされている。

 

「とりあえず出ましょう」

「やっと休める…」

 

だが、今はそれより回復だ。これからの試練のことは後で考えればいい、ただ休むのみだ。

 

「やっと外で1日経過ってところね」

「もう何日もやってるのにまだそんなに経ってないのかー」

「そういう場所だしね。最後の試練は一週間かかるくらい凄まじいものらしいけど、冥府神(お母さん)から何か聞いてない?」

「全く。ここがあることすら聞いてなかったくらいだし」

 

大陸中に散らばる神とその奉仕者は大抵この場所について耳にすることは多い。そんな1人である彼女が知らないとなると冥府神もクローバーも彼女にはまだ早いと判断したのだろう。

 

「そ、なら『地獄の間』は今回は辞めておきましょ。残りの三つの間を順次やるしかなさそうね」

「はいはーい」

 

====

 

『ここに何の用ですが、盟友天竜(グランディーネ)

炎竜王(イグニール)と話してね。そしたら、貴女を思い出したのよ…女神チキ。私のところの子が貴女の愛娘と会うのはそう遠くないでしょうから』

『そうですか……『竜王祭』に私は娘を干渉させることは極力したくありません』

 

生命神の祠では天竜グランディーネと生命神チキが対話をしていた。いつか訪れるだろう大きな厄災、竜と人と魔の狂宴『竜王祭』についてだ。

 

『それもそうでしょうね。前の竜王祭で先代、慈恵神ナーガが亡くなったもの、こちらも無理強いするつもりはないわ。でも……』

『ええ。あの男とあの竜がいる限り、不干渉も限界がある…そう言いたいのですね?』

『理解が早く、冷静で助かるわ。おそらく彼らが動くのはそう遠くない未来。貴女の愛娘にも時期がくれば気をつけるよう伝えて頂戴』

 

不穏な闇は世界を包みつつあるのは神の座を継いでから常々思っていたことだ。それに400年以上経つ間に彼女自身は自身の消失可能性を感じ始めていた。シリルのことについては色々と未来のことを含めて考えることは多い。

 

『次代に託すこと…私もそれをそろそろ考えねばならないのでしょうね』

 

天竜去りし後に世界を支える一柱はこうひとりごちた。天地を動かす神の座は、世代交代を果たそうとしていた。だが、これはまだ彼女以外誰も知らない静かな決意だ。

 

====

 

「さてと、ここに来てからもうすぐで一週間ね。順番が前後したけど今日は『人の間』で試練の続きをするわ」

「残り三つだね!後10日もあれば余裕だー!」

「元気ね。でもその余裕がいつまで続くかわからないんだし、慎重にね」

 

修行を始めて外の世界で早2日、帰る時間とファンタジアの準備のことを考えても残り2日ほどしかない。焦ることはないが、のんびりとやっているほど暇でもない。

 

「『人の間』。お母様によると、ここは然程時間がかからない良い修行の間だって言ってたけど…」

「なんか変な木の人形がたくさんあるよ」

「あれは修練用の物なのかしら?」

 

木偶が全部で四体いる。何をどうすれば丈夫さに繋がるのかさっぱりという2人の前にはご丁寧にも説明用の看板が所々古くなっていながら立っていた。

 

『木偶が放つ攻撃を受け流すか受け止めよ。決して反撃してはならない。流し込む魔力量により、攻撃時間と強度が決まる』

「ひたすら耐えて守り抜けっていうことかしら?」

「天の間とか修羅の間はこのためにあったのかな?」

「さあ?順番なんてこっちが決めるようなものだしなんとも言えないわね」

 

入り口で突っ立って思考の海に耽っていても始まらない。1人ずつ交互に試練を始めると決め、先にシリルが四体の囲む中央に立つ。

 

「行くわ。少し離れてて」

「う、うん…」

 

====

 

『ナーガよ、今ほど貴女にいて欲しいことはない。私は娘に後継の座という重荷を背負わせて良いものなのでしょうか……人の生を捨て、大切な人との繋がりを断ち切るかもしれない、大きな重荷を背負わせても…』

 

その悩みは深い。種族の違いによる寿命の差は大きいのは生命神自身が一番よくわかっている。

 

『彼女には人間として過ごして欲しかった。私の生死によって人生を狂わせたくはない。それが、せめてもの願いだったのですが……これは彼女の答え次第ですね。まずはあの老ギルドマスターに挨拶して、事の次第を伝えることから始めねば…『ジェン』、紙と筆の用意を』

「ははっ、仰せのままに」

 

神に仕えるはシリルのみにあらず。彼女の師にあたるのは側近筆頭のジェンで、彼は既に年老いているものの、大仙人の称号を持つ実力者だ。しかし、彼は仕える身であることを自覚しており、歳も歳なので、後進の育成に力を注いでおり、自分から神の座を却下するという風変わりな男として神や奉仕者の間では噂になっている。

 

「シリルはまだ神の力を器に受け入れきれるほどではございませぬが、いずれは大成しましょう。それにまだ若いゆえ…ギルドに入れさせたのは、器の完成に最も必要である純粋な人との交流と思い出を紡ぐため、でしたかな?」

『左様、いかにも。さすがは私の右腕です、ご名答ですね。たった一、二年では完成は難しいでしょうが、今の彼女はその器に足る何かを手に入れています。戻って来れば大いなる可能性を秘めていてくれるでしょう』

 

神、それ即ち人の心が求める安寧なる存在。シリルが人の希望たり得るには人と希望を紡ぐことが肝要なり。果たしていつになるか分からないが、その時は少しまた少しと、近づいているのだ。



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第29の唄 雷鳴の唄

おはようございます、ぽおくそてえでござんす。
今回から半ば強引にバトルオブフェアリーテイル編開始です。まあ、途中参戦ですがね。


「よし、これで修練は終わりね」

「し、死にそ…なにあの最後の二つの難易度……『餓鬼の間』、どんどん魔力取られるから…はふっ」

「まあそれも無事に終わったんだし、生きてるんだから。来た時よりパワーアップは十分してるはず」

 

輪廻廟にて過密な修行は一度幕を下すこととなる。何日もギルドを空けていることもあり、最後の『地獄の間』をやる予定を切り上げて帰る。

 

「もうあと少しでファンタジアだね。今年はお姉ちゃん参加するの?」

「そうねぇ。せっかくユリアも来たんだし、頑張っちゃおうかな?」

「お祭り、お祭りっと!楽しみだよ」

 

力をつけて自信もついた。そう長くない修行時間で得たものは決して少なくはないだろう。しばらくは祭りを楽しもうと明るい表情を浮かべながら帰り道を歩いていると、遠い空に雷がちらっと見え隠れする。晴れているのに局所的に雷が落ちる。不穏な空気を感じると、2人の隣にある男が姿をあらわす。

 

「こうして会うのは初めてか、生命の巫女と冥府神の申し子」

「すみません、どなたでしょうか?」

「名乗っていなかったな、失礼した。私はミストガン、ギルドのS級魔道士だ」

「確かギルドに何人もいないっていうすごい魔道士なんだっけ?」

「その通りだ、そして私はあの雷鳴を、ラクサスを止めに来た」

 

これまたS級で、マスターの孫にあたるラクサスはギルド最強の一角を担うほどの強豪だ。そんな男がなぜか暴れ、猛威を振るっている。

 

「これはギルドや街にとっては危険な状況、即座に止めるべき。ついて来てくれ、今は2人の力が必要だ」

「祭りどころじゃありませんね、そんなんじゃ…」

「なにすればいいの?」

「まずはラクサス親衛隊の雷神衆の3人を止める。さすれば、後顧の憂いなくラクサスを止めに行ける」

 

====

 

「くっ、ラクサスめ!ミスフェアリーテイルの出場者を人質に取るとは…これでは…」

「あのヤロー、卑怯な真似しやがって!こんな面倒な術式さえなけりゃ!」

 

その頃、既にマグノリアはラクサスの起こした反乱により、阿鼻叫喚と化していた。ファンタジアの前日に行われる秋祭り1日目のミスフェアリーテイルの会場に突如として乱入し、マスターの座を譲るように脅迫。女子数名を雷神衆の1人、エバーグリーンの石化眼(ストーンアイズ)の能力で人質に取り、マスターとギルドメンバーに遊びと称した同士討ちを始めさせたのだ。更にはフリードの術式魔法により、ナツとマスター、食器を食べていたガジルは止めに入ることができなくなってしまったのだ。

 

『参戦メンバー、残りあと2人』

「何!?あとはここにいる2人だけじゃと!?」

「こりゃあヤベェぞ」

「ぐぬぬ、なんで出れねえんだっ!こうなったら誰か復活させるしか…」

「待てナツ!早まるな!」

 

マスターが止めた矢先に電光掲示板にある文章がおどり出る。それが吉報か凶報か、静かに見守るなか、更新された情報にはこう書かれていた。

 

『参戦メンバー更新。

 

ーミストガン参戦

ーシリル参戦

ーユリア参戦

 

残りあと5人』

 

修行によって出ていた2人と仕事で外にいたミストガンの思わぬ参戦により、逆転のチャンスが生まれる。嬉しい誤算が発生したことにより、マスターの顔にも安堵が広がる。

 

「これは攻めるチャンスかもしれん…頼むぞ、3人とも…」

 

====

 

「私はこのままラクサスの元へと進む。2人は雷神衆からだ」

 

そう言って姿を霞のように消し去る。残されたシリルとユリアの眼の前に、1人の女性が代わりに姿をあらわす。雷神衆の紅一点、エバことエバーグリーンだ。

 

「まさか途中参加者が出るなんてね。はじめまして、とだけ言っておくわ」

「ユリア、あなたは他へ…この人は私の獲物」

「うん。気をつけて…」

「私に勝つつもり?随分と舐められたものね」

 

暗に自分が一人でも勝てる、事実上の勝利宣言をしていることに、エバーグリーンは己の実力と自信が傷つけられたと考えてしまう。シリルは先ほどまでの修行により、心に自信がついたことがそうさせているのかもしれない。

 

「途中で倒れてたリーダス兄さんから聞きました。貴女の魔法の効果が切れれば人質は解放される……ここで貴女を、倒す!」

「かかってきなさいよ。負けるつもりはないわ」

 

浮遊していくエバーグリーンを追って建物の屋根を飛ぶように伝う。修羅の間での修行に比べれば他愛ない。

 

「こちらから行かせてもらうわ。『妖精爆弾グレムリン』!」

「(思ったより広い。でもいける!)『生命神の大一声』!」

 

魔力の総量が増えたことと質が上がったことにより、前よりも更に強力な一発が撃てるようになった。強くなった咆哮は爆発する鱗粉を吹き飛ばすにはもってこいの威力である。

 

「なんて馬鹿力なの……」

「これが私の功夫(クンフー)です!『練気掌』!」

「惜しいわね。ほら、こっちよ」

「逃がしませんよ、『神依』発動!」

 

挑発するように逃げるエバに追うシリル。建物の中を抜け、柱を越え、煙突をよけ、エバのしつこい弾幕魔法を避けながらどんどんと距離を詰めていく。

 

「思ったより早いわね…これでどうかしら!?」

「くっ!」

 

つけていた伊達眼鏡をずらし、魔眼を発動する。それをあらかじめ聞かされていたシリルは顔を伏せ、難を逃れるが、その隙をついて距離を開けられる。

 

「あの眼、厄介ですね……」

「とどめよ。『妖精機銃…』」

「それはさせぬ!はぁっ!」

 

間に割り込んできたのは石化から復活したエルザだ。彼女の復活は予想外なのか、さっき以上に苛立ちが目立つ。

 

「まさか妖精女王(ティターニア)が直々に顔を見せるなんてね。私、あなたが嫌いなのよ。何が妖精の女王よ、このギルドで一番妖精らしいのは私じゃない」

「そんな逆恨みを発しても私はお前にはなれないし、お前は私にはなれない」

「助かりました、エルザ姉さん。でもなんで…」

「理由は後で話そう。私に続け!」

 

エルザの剣閃は美しく、大胆であり、優雅だ。久しぶりに組むツーマンセルは先程までの拮抗状態を崩すには、開いた期間など無かったかのように滑らかなまでに進む。

 

「舞え、剣たちよ!」

「『弾血乱舞』!」

「小癪な、『妖精機銃レブラホーン』!」

 

必死に抵抗するが、S級魔道士の援護による差と2対1という状況下では追い詰められるのは必定というべきか、逃げ場をついには失ってしまう。

 

「いけ、シリル!トドメを!」

「はい!聖なる力は邪をも打ち破る、『御業血気砲(ごぎょうけっきほう)』!」

「これが…妖精女王の強さ…そして、神域の覚悟…私は……」

 

もはや撃墜は火を見るより明らか、エバは目を瞑り、大技が当たるのを静かに待つ。だが、待てど暮らせどいつまで経っても衝撃や痛みが襲ってこない。恐る恐る目を開けると、思っていた以上にまずい光景が広がっていた。エルザの幾多もの剣が浮いていたのだ。

 

「えっ?あの、これどういう…」

「お前を気絶させるのは彼女たちの石化を解いてからだ。断るたびに剣を一刀ずつ飛ばす、良いな?」

 

よくよく見れば、服の両袖は剣で止められており、逃げる隙を封じられ、その上には大穴が空き、万が一逃げればすぐに消し炭にされかねない。諦めるしか無かった。

 

====

 

「うぅ…あれ?」

「っ!石化が、治っておる!」

「もしかしてあの二人…やったのか!」

 

ギルドでは、石化されていた女性陣が悉く元どおりに戻っていた。右目の義眼の影響でいち早く復活を遂げたエルザ以外のミスフェアリーテイル出場者は元に戻り、理不尽なゲームの人質は解放された。もはや無用な争いに参加する理由はない、そうと言わんばかりに堂々とマスターは胸を張る。

 

「いやぁー、シリルもエルザもようやってくれたわい!これであとはラクサスを……」

「まさか私たちが石にされてる間にそんなことになってるなんて…」

「あいつを一発ぶん殴らなきゃねぇ」

「やめておけい。このふざけた悪戯に付き合うことはもうない」

 

このままラクサスをなんかしらの形で罰を加えれば終わり、そのように思えた瞬間、マスターの容体が急変する。突然胸を苦しそうに抑えたかと思えば、その場で動かなくなってしまう。

 

「う、ぐぅ…」

「大変!いつものお薬を…みんな、マスターを救護室に連れて行って!心臓の持病よ!」

「くそ!死ぬんじゃねえぞ、じっちゃん!」

 

慌てふためく状況の中、二階にある薬を取りに行っていたミラから新たなる情報がもたらされる。どうやらラクサスが次の手を打ってきたようだ。皆で外に出ると、空には見慣れない球体が町中に浮いている。

 

「なんだあれ?」

「あれは確か…『神鳴殿』、設置型の魔法だよ。あれが発動すれば、町中に雷が大量に落ちるね」

「じゃあ撃ち落とすしかないね」

「やめておきな。あの魔法に攻撃すると反撃して来る『オートカウンター』型の典型的な魔法さね」

 

そうとなれば落雷の発生するより早く、ラクサスに止めさせる以外の手はない。こちらの方針は決まった、ならば動かねばならない。皆で一致団結して動くこととなる。

 

====

 

「敵って誰だろ?このギルドの人、知らない人多いからな〜…うわぁ!」

「へぇ、今年は新入りが多いな」

「え、仮面に人形?何あれ?」

「雷神衆ビックスロー、テメェを倒す男だぜ、覚えておきな」

 

雷神衆は残り2人。果たして雷鳴轟く児戯はどちらに転ぶのだろうか。




次回はまだ先となります


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第30の唄 冥府の子の実力

どうもです、ぽおくそてえです。これから学校の影響で数ヶ月間、投稿が遅れる可能性が高いです
ご了承を


「俺と遊んでくれんのはお前か?そろそろ骨のあるやつとやり合いてえんだよな」

「うにゅ、『ポイズン・ショット』!」

「うおっと、いきなりかよ!だが、やる気なら来な!」

 

ユリアが相対するは雷神衆の中でもトリッキーな戦い方と火力を誇る陣形を得意とするビックスローだ。それを知ってか知らずか、二の句を喋らせず、先手必勝とばかりに物を溶かす毒を放つ。

 

「ラインフォーメーションだ、ベイビー!」

『オオー!』

『切レロー!』

「うわわ!」

「俺と戦う羽目になった自分の不運(ハードラック)(ダンス)っちまいな!」

 

変幻自在のフォーメーションと自由自在に操れる人形たちは実力者の名にふさわしい技術だ。でもユリアもただやられるだけではない。

 

「『神の啓示書、第二巻二章悪魔の項、第六天の一刀』!」

「なっ!?俺のベイビーたちが、くそっ……」

「いっくよー、『黒波の型(ブラック・サーフィン)』!」

「ぐげっ!ぐおおっ!」

 

人形たちを全てなぎ払い、そのまま一気にビックスローに乗っかり、黒い波に乗ってサーフィンの要領で別の建物に飛ばしていく。間髪を緩めず、『シャドー・ハンマー』を叩きつけるが、即座に新しい人形をオモチャ屋から引っ張り出し、盾にして防いで行く。

 

「俺の魔法と下のオモチャ屋があれば持久戦なんて容易いぜ」

「むぅー…だったら、えいっ!」

「おいおい、まさか……」

「『地獄の業火(ソウル・フレア)』!」

 

尋常ならざる四股踏みと共に建物の下から黒い噴煙が吹き上げる。建物の崩壊だけでは生温いとばかりに、周りに全く被害を出さずに中のオモチャごと冥府を漂う炎で焼き尽くす。これでビックスローの魔法は威力が半減するだろう。

 

「なんて無茶苦茶な奴だ!」

「てぇい!」

「ふガッ!?」

「やっ、とぉっ!」

「ぐっ…撃て、ベイビー!」

「うわっ!」

 

もはや無茶苦茶な乱闘だ。技もへったくれもない殴り合いとかしている。かたや殴ればもう一方は魔法を打ち込む。側から見れば、魔道士同士の喧嘩とは思えないような何かになってしまっている。

 

「うわ、ひどい光景ね」

「あ、ルーシィ姉ちゃん!」

「オイラもいるよ」

「へぇ、コスプレかよ。しかも『チアガール』か」

「い、今それはどうでもいいでしょ!」

 

現れたのはルーシィとハッピーで、ユリアの援護としては良いタイミングでの登場だ。人形を含めた数の差を少しでも埋めることや、ビックスローの視線を逸らすことで人形の行動を抑えられるからだ。

 

「そういえば一週間もどこ行ってたの?」

「シリル姉ちゃんと修行!私も強くなったんだよ!その成果を見せてあげる」

「確かにお前は強えけどよ、ラクサスには敵いやしねえ。ギルドは俺たちと共に変わる!」

「それはもうフェアリーテイルとは呼べない何かになってる!私はギルドを守る、まだ数ヶ月しかいないけど、そんなことは志に比べれば大きな違いはない!」

 

そう言い放って召喚したのは弓使いの『人馬宮』の星霊サジタリウスだ。宙に浮く人形たちは彼の弓を前に打ち砕かれ、ビックスローの魔法を封じていく。だが……

 

「くそ、残り少ねえベイビーたちが……なんてな」

「ぐぉっ!?」

「サジタリウス!」

 

道化のように表層では慌てていたビックスローだったが、不意に見せた笑顔と共に新しい人形が魔法弾を撃ち込む。

 

「えっ!?新しい人形!?」

「確かにおもちゃ屋の破壊はベイビーたちの補給って意味じゃ大きいダメージだったがよ、余分に持ってねえとは言ってないぜ。やっちまいな、ベイビーたち!」

「この程度の数なら…あっ、鍵!」

「星霊魔導士相手ならこれが常道ってな」

 

星霊魔道士はアイテムを使う『ホルダー』系魔道士の筆頭のような存在だ。鍵を奪えば無力化、あるいは抑制が効くタイプなのは魔道士の間では有名な話である。無力化されたルーシィとそれを庇うユリア。そのコンビとして経験の浅い2人を相手にすれば、百戦錬磨のビックスローには隙を突くのは簡単だ。

 

「今だ、やっちまえ!『バリオン・フォーメーション』!」

「や、やばっ…」

「お姉ちゃん!」

 

2人を分断し、ルーシィの倒れ込んだところを高威力の魔法で迎撃する。ユリアの届かない場所を狙ったほぼ完璧な一撃に思われたが、彼女を救う影が一つあった。

 

「なんでかな、僕は鍵の制約なしに行き来できるみたいだ。これが愛の力、紳士の嗜みってやつかな?」

「あ、あんた何言ってんのよ。でも助かったわ」

「今日は最高に決まってるよ……ロキお兄ちゃん!」

「さあ、紳士たるものの務め、主人のために果たすとしよう!」

 

ロキ改め黄道十二門、獅子座の星霊レオ、顕現である。彼の出現は鍵を介さないという異例の方法ではあるが、星霊王との約束、主人(ルーシィ)との絆が成した星霊魔法の根本とも言えるものだ。

 

「僕は自分の意思でここに来たから、長くはいられないよ。さ、2人とも。華麗に決めよう、シリルとエルザのようにね!」

「なるほどな、エバがやられたってのはそういうことか。それに、レオ!テメェが星霊だってのは俺に負けてからずっと黙ってやってたのに、のこのことやられに来たってか!?」

「あいつ、分かってたの?」

「ビックスローの眼の魔法は相手の心が少し読めるんだ」

 

雷神衆にはそれぞれ主に使う魔法とは別に『魔眼』を持ち合わせており、エバーグリーンなら『石化眼』がそれにあたる。

 

「あの頃の僕は星霊としての力を失いかけていた。だけど今は違う。守るもの、主人、仲間…ルーシィやユリアのおかげで沢山のものを僕は得、強くなったんだ」

「ああそうかい!なんならやってみな!」

「援護するよ!『毒牙の滝(ポイズン・フォール)』!」

 

大きな滝を出現させ、ビックスローを移動させ、視野を狭める。注意をユリア自身に引きつけ、ロキとルーシィの連撃を後押しする。それがビックスローにとってある魔法を発動する引き金を与える。

 

「しょうがねえな。あまり使いたくねえが…『フィギュア・アイズ』!」

「みんな、目を閉じて!あの眼を見たら魂を抜かれるよ!」

「あっぶなっ!」

 

魔眼『フィギュア・アイズ』。相手の魂魄を発動している間、自分の支配下に置くという奥の手だ。これを発動するということはそれだけ追い詰められている証拠でもある。だが、この魔眼と彼のもう一つの魔法のコンボは強力であり、目を閉じている状況では人形たちの動きが読みづらくなるからだ。

 

「ラストダンスだぜ、ベイビーたち!」

「うにゅ!?」

「うわっ!」

「きゃあ!」

 

人間の情報源の大半を占める視力を奪う戦法は強力で、押せ押せムードが断ち切られるくらいには逆転されてしまう。そんな中、ルーシィが攻略の糸口を無意識に口にする。

 

「目が使えないなら、あいつを…」

「目を…それだ。ユリア、僕の後に続いてくれ。これが唯一の突破口なんだ」

「任せて」

「行くぞ……『獅子光耀』!」

「なんだ!?目が、目がっ!」

 

目を使うならばそれを使えなくすればいい。その為には閉じさせるのが一番手っ取り早い方法だと考えたロキは、取り戻した力を発揮し、あたり一帯を強い光で包む。

 

「今だ!」

「やあっ!」

「ガハッ!くそっ、何でお前らは……」

「僕たちは愛や絆で出来ているんだ。それを全否定するなら、容赦はしない」

「私たちの『ゼンリョク』、受け取って!」

 

それは、ギルドの精神を示すような力強い一撃であり、さらなる力を発揮させてくれる。

 

「『獅子宮の輝き(レグルスインパクト)』!」

「『シャドー・ストレート』!」

「ぐあああっ!」

 

2人の拳がビックスローに突き刺さり、大きく吹き飛ばした。人形たちも動きが止まり、元の意思なき状態に戻った。これが勝利を示す証となり、3人は華麗にハイタッチを決めた。

 

残る雷神衆はリーダーたるフリードのみとなった。



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第31の唄 不気味なる静寂

お待たせしました、9月最後の投稿です。次はまだ先でございまして、もうしばらくお待ちいただく次第と相成ります。おそらく後数話でこの章も終わりになるかと思われます。しばらくお待ちくだされ。


日も沈みかけている頃、ハッピー、ユリア、シリルとエルザは偶然にも再開できた。

 

「ユリア!」

「あ、お姉ちゃん!」

「どうやら何か上手くいったみたいだな」

「ビックスローって人倒して来たんだ!ルーシィお姉ちゃんは魔力の使いすぎでへばってる」

「となると、残る雷神衆はフリードのみか。私はラクサスの元に向かうが、お前たちはどうする?」

 

止めることの出来る魔道士は残り少ない。ミストガンが先に向かっているとはいえ、こちらが勝てるとは限らない。

 

「少し気になるものがありまして。あの空の……あれをどうにかしたいので」

「神鳴殿か」

「神が鳴る……私たちへの挑戦なのかな?」

「分からん。別れるのなら、急ぐ他ない…ではな」

 

エバから得た情報を頼りに駆け出すエルザを見送り、残った3人は静けさを取り戻しかけている街の中でしばし思考に耽る。

 

「あの神鳴殿って魔法、どんなものかわからないね。一旦ギルドまで戻ろう」

「おいらはルーシィのとこに戻るよ。それと、あれオートカウンター付きだって」

「オートカウンター?そんなものまで……彼の狙いは私たちの動きを止めて、降伏させるってところかしら?」

 

吹く一陣の風は少し不気味さを帯びて街を巡る。

 

====

 

「今度はビックスローか。全く、何やってやがるんだ」

「彼女らの力を見誤ったな、ラクサス」

「へぇ…お前まで参戦してるとはな。意外だぜ、ミストガン」

「お前を止めに来た」

 

カルディア大聖堂にて待ち構えていたラクサスの元にやって来たのはフリードでもエルザでもなく、ミストガンであった。倒れた仲間から集めた情報を集め、たどり着いたのだ。

 

「俺はお前と戦えるのを心待ちにしてたんだ。知ってるか、このギルドである噂が上がってんのを…」

「噂?済まないが、寡聞にして知らん」

「俺とお前、どちらが最強にふさわしいか、だ」

 

ラクサスの今回の内輪揉めもとい内乱を起こした一つの理由がこの最強論議をはっきりさせたいという彼個人の意思がある。

 

「私はそういう類のものには興味がなくてね。あえて挙げるとすれば、エルザ、ナツ、ギルダーツあたりか」

「あの親父は帰ってこねぇから無しだな。エルザもナツもいい線いってるが、まだ弱え」

「あの二人が弱い?とんだ節穴だな、その眼は」

 

仕事の難易度上数年に一回帰ってくるかどうかのギルダーツが最強と言う者もあれば、女性魔道士の中で際立って強いエルザを推すもの、パワーと戦時下での頭のキレを推す者はナツに一票入れる。このように十人十色の意見がこの論議にある。

 

「さあ、決めようぜ。このギルドの頂点(てっぺん)にふさわしい魔道士を……」

「そのくだらん考えとこのゲームとやらに、終止符を打つ」

 

相対する両者の間にしばしの静寂が訪れる。S級の称号を持つ2人の間には今、戦う以外の選択肢は消え、ミストガンは抱える杖を地面に放射状に突き立てる。

 

「『摩天楼』……」

「っ、これは…!?」

 

突如として大聖堂が壊れ、ラクサスは宙へと打ち上げられる。姿勢を保つことがしにくい状況の中、ありとあらゆる方向から縛り上げられ、目の前の空間が裂け始める。そこから圧を感じさせるほどの魔獣があらわれる。

 

「なんつー魔力量だ。こりゃあやべえぞ!」

『グルルル、ゴァアアァッ!』

「くっ、うおおおおっ!」

 

雷鳴と咆哮が唸りを上げ、空間が軋み、点滅を繰り返したと思えば、ひび割れ、遂には壊れてしまった。

 

「はははははっ!!こんな幻影でどうにかできるとでも思ってんのか、ミストガン!」

「ほう、思ったより早いな、だが……十分だ!眠れ、『五重魔法陣・御神楽』!」

「おっと、足元には注意しな」

「っ!?」

 

雷撃がミストガンを打ち上げ、砲撃が天よりラクサスをめがけて撃ち下ろされる。S級同士の攻防は並大抵なものではない。

 

「へっ、やるじゃねえか」

「…………」

「「ラクサス!!」」

「ちっ、来やがったか」

 

ここでやって来たのはエルザと、いつの間にかギルドのトラップから抜け出したナツだ。どうやらレビィが術式を書き換え、ナツとガジルの解放に成功したようだ。

 

「おいラクサス!俺と戦え!」

「まて、あいつは誰だ?」

「……ミストガンか?」

「くっ…」

 

ギルドに滅多に顔を出さないとあって、一瞬誰かわからなかった二人に対し、彼は顔を隠し、目をそらす。だが、その隙が命取りとなる。

 

「貰った!」

「なっ、ぐはっ!」

 

そして露わになった顔にナツ、エルザは見覚えがあった。ついこの間戦ったジェラールと瓜二つの顔があったのだ。何か知っているのか、彼はすごく気まずそうな顔をしている。

 

「ジェラール、なのか?」

「なんでお前がここに!?」

「ほう、知り合いなのか?」

「くっ…出来れば見られたくなかった。エルザ、私はお前の知るジェラールを知っているがそいつとは違う。済まない、後は任せた」

「おい、おい待てよ!」

 

霧のように消えて立ち去り、後のことをナツたちに任せることとなった。呆けるエルザの前に立ち、ラクサスに対して喧嘩を売るのはナツだ。

 

「ラクサス、俺と戦えやー!」

「うっとおしいんだよ、このカスが!」

「よっと…くらえ、『火竜の鉄拳』!」

「ふん、オラァ!」

 

頂上対決はナツとラクサスの決戦に移った。かたやギルドの名誉のために、かたや己の意思を貫くために。それぞれの思いは紡がれて、拳に乗る。

 

====

 

「……つまり、ラクサス兄さんを止めるか、あの神鳴殿を壊すしかないのですね?」

「そういうこと。私の方でもできる限り調べたけど、そうするしかないって」

 

ギルドに戻ってきたシリルとユリアはレビィから状況説明をギルドで受けていた。ナツとガジルの参戦、ミス・フェアリーテイル参加者の解放、そしてマスターの容態についてだ。

 

「マスター、身体が悪いんだね」

「うん、心臓発作だって。ミラが言ってたよ」

「それは本当かい?」

「えっ?あ、ポーリュシカさん!」

「胸騒ぎが起きたんでね、気まぐれで来てみればなんてザマだい」

 

彼女の来訪は願っても無い好機。マスターの治療を任せるために案内すると、しばらくの沈黙の後に、涙を浮かべながらシリルたちに言葉を告げる。

 

「ラクサスを連れて来な。マスターは…マカロフはそう長くないよ」

「えっ?冗談、ですよね?」

「お願い、早くあのバカを連れて来て頂戴。マカロフは、危篤よ」

 

強気な彼女らしくない、しおらしい言葉と顔が、そこにはあった。

 

====

 

「ちっ、あの頑固ジジイ、まだ降参しねえのか!」

「よそ見してんじゃねえ!それに、俺たちはお前なんかには屈しねえ!」

「このクソ餓鬼が!」

 

ラクサスとナツの戦いはまだ続く。未だ、ある悲報を知らないまま……。妖精の内乱は果たしてどんな終わりを迎えるのだろうか。



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第32の唄 強者の強者たる所以

今回は早めに書けました。その代わりと言ってはなんですが、ラクサス戦をダイジェストに近い形でお送りすることとなります。ご了承を


「消えろナツ!お前はいつも目障りなんだよ!」

「うるせぇ!俺は諦めねえぞ、お前が倒れるまではな!」

「ナツ……(私は、私はっ……!)」

 

二人の攻防を見守っていたエルザは、この場をナツに任せ、ある計画を実行することを決めた。シリルに言われた、神鳴殿のことだ。あれを破壊すればラクサスのこの戦いは無意味と化す。それならば、と動き出す。

 

「ナツ、ここは任せるぞ!いいな?」

「あっ!?おまえ、まさか……分かった!だがよ、ぜってぇ命は大事にしろよ!」

「ああ、勿論だ。お前やシリル、シモンたちに生かされた命だ。捨てるつもりはない!」

「おい、まさか……待ちやがれ、あの神鳴殿は二百近くあるんだぞ、全て壊したらどうなるかわからないわけじゃねえだろ!?」

 

その身を翻し、大聖堂を後にするエルザはラクサスの焦りのこもった叫びに、胸を張って答えた。

 

「分かっている。が、そのつもりだ!」

「くそ、行かせるか!」

「お前の相手は俺だ、『火竜の咆哮』!」

「邪魔するな、ナツ!」

「あいつならやってくれるさ。そう焦んなよ、ラクサス」

 

====

 

「ねぇ、ラクサスはどこにいるの!?」

「エルザ姉さんは彼を止めに行くって言って大聖堂の方に向かいましたが……」

「確かにあそこはこの街のランドマーク、そこで支配を宣言するつもりなのかな?」

 

ラクサスにマスターのことを伝えようと、街を走るレビィたちは彼のいるだろう場所を探し回る。もう『遊び』とは言ってられない領域にまで来ているのを彼はまだ知らないのだろう。

 

「待っててラクサス兄さん、私たちが、あなたを止める!」

「シリル、ありがとう。私たちのために…」

「私はまだこの街に来て日が浅いですが、色々と優しくしてもらいました。人との絆は切れるものではない、繋がるからこそ輝く。それを教えてくれたことへの恩返しです」

 

絆の力を信じる者と力ある者の天下を望む者、王道と覇道のぶつかり合いとも言えるこの戦いに、シリルは王道の輝きを見出しているのだ。ユリアだってそうだ、ギルドの力はそれだと気づくことになる。

 

「私たちが勝つもんね!なんだって、人の力を信じてるんだから!」

「よし!行こう、私たちの祈りを大聖堂の鐘で鳴らしに!」

 

====

 

「どいつもこいつも、俺の邪魔をしやがって。このギルドは、誰にもバカにされない、力がいる!そうだ、最初から解放すりゃあ良かったんだよ」

「くそっ、身体が……」

「鳴り響くは招雷の轟き。天より落ちて灰燼と化せ!『レイジングボルト』!」

 

癇癪に似た暴走を起こしたラクサスはナツを圧倒、彼の膝を地につけさせ、消しにかかっている。天より召喚した雷鳴は轟音とともに地に落ちてくる。だが、完全にナツを消したと勘違いして高笑いをあげるラクサスの耳に、聞き慣れたある声が響く。ガジルだ。彼がナツをすんでのところで救いに現れたのだ。

 

「テメェの仲間消すのがそんな楽しいのか?とんだ男だな、お前は。生憎、こいつを消すのは俺なんだよ」

「ガジル……」

「くくく、また獲物が一人。消えろ、消え去っちまえ!」

「完全にタガが外れてやがんな」

 

感情の高ぶりと苛立ちによるリミッター解除が彼の心を蝕んでいるように見えた。それを止めに来た二人は、かつて敵同士という皮肉な状況下で、コンビを組むこととなった。

 

「この空に竜は二頭、いらねんじゃなかったか?」

「はっ、要らねえな!だがよ、こうも雷がうるせえと、悠々と飛ぶこともできやしねえ。テメェの相手はこの兄ちゃんを止めてからだ」

「「行くぞ!」」

 

====

 

「もうちょっとで、後もうちょい……」

「うん?あれ、エルザかな?」

「なんか急いで来た感じだね」

 

ユリアたちはマグノリアのシンボル、カルディア大聖堂へとひたすら走る中、近づいてくるエルザに遭遇した。あちらも気づいたようで、急いで彼女らの元へと走って来た。

 

「ラクサスの魔法を止めに行く。協力者がいてくれると助かる」

「私は、ラクサスに用があるの。大聖堂の方でいいんだね?」

「やはりあの神鳴殿を止めるんですね?」

「左様。して、用というのは?」

「マスターが危篤です。それを伝えに来ました」

 

前々から体調が優れないのは知っていたが、まさか倒れるとは思っていなかったのだろう、目を見開いて驚いている。が、すぐにやるべきことを思い出した。

 

「分かった。気をつけろ、今のあいつは冷静さを失っているみたいなのでな」

「……ユリア、レビィ姉さんの護衛をお願い。私は神鳴殿破壊に協力してくるわ」

「待って!そっちと交代するよ。あれを壊すのは私の仕事。ねっ?」

「覚悟はできてるみたいね。いつの間にか強き意志を得ていた、か。分かったわ、でも無理だけはしないでね」

 

彼女なりの覚悟は見えたのだ、無理に止める必要はない。自分のやるべきことをなすために二手に分かれ、雷鳴の轟くのを止めに行く。

 

「ラクサス兄さんのやろうとしてることは、家族を壊すのと同じ」

「止めなきゃね。私たちの手で、なんとしても」

「兄さんは、本当にこのギルドを支配するのが……目標なんでしょうか?何か裏がありそうな気がします」

「今は分からないよ。でも、あいつはギルドでは一人だった。多分、それもあったのかなって」

 

ギルドを動かすためのクーデターに似た行動の意図が未だに読みきれないのだ。彼の実力あらば、こんな回りくどいことはせずとも、簡単にギルドの天下は取れてもおかしくはないはずなのに。

 

「もうすぐ大聖堂だよ。考えても仕方ない、伝えることを伝えなきゃ!そうすれば止まってくれるはず!」

 

レビィの目にはかすかに涙が見て取れる。こうなってしまった仲間を何としても止めたいと願っての涙だ。

 

====

 

「クソが、手間取らせやがって」

「ぐっ、強え……」

「これがS級の強さかよ。こいつが居たら、あの時の戦争は……」

 

竜の力を継ぐ2人をもってしてもなお、雷鳴は止まるところがない。なぜここまで強いのか、倒れふす双竜を前に、遂にラクサスが牙を見せて正体を明かす。

 

「これはよ、まだジジイとクソ親父以外は知らねえ秘密だ。冥土の土産に教えてやるよ……」

「う、鱗に牙だと?」

「ま、まさかラクサス、お前も!」

「雷竜の咆哮ぉ!」

 

そう、ラクサスも滅竜魔道士であり、彼の強さの理由の一つでもある。その強さの前に為すすべもなく、ナツもガジルも叩き潰され、伸されてしまう。

 

「けっ、まだ生きてやがるか。消え去りやがれぇ!」

「ぐっ、あの光はまさか……『妖精の法律(フェアリーロウ)』か!」

「マスター・マカロフがジョゼを一発で倒したっつー、あの殲滅の光か!?くそっ、どうすりゃいいんだよ!」

 

幽鬼の支配者戦でマカロフが放った審判の光を今目の前でラクサスが放とうとしている。敵と認識した全てを滅することのできる光を前に打ち震えるのが精一杯の状況だ。そこにやってきたのは、シリルを連れたレビィだ。

 

「やめてラクサス!これ以上はやめて早くマスターのところに行ってあげて!」

「何しにきやがった!死にてえのか!」

「マスターが、貴方のおじいちゃんがいま、危篤なの!!だから、今すぐ行ってあげて!」

「なっ!?じっちゃんが……危篤……」

 

その言葉に、一瞬だが、ラクサスの瞳に正気が戻ってくる。しかし、それもすぐに狂気の笑みでかき消される。

 

「丁度いいじゃねえか。俺がギルドの頂点に立つには絶好の機会だ」

「そ、そんな……」

「貴方は、人の死をなんだとっ!」

「俺が天辺に立つには犠牲がいる、ただそれだけのことだ。消え去れ妖精の尻尾(フェアリーテイル)、これからは俺の天下だ!『妖精の法律(フェアリーロウ)』、発動!」

 

因果を断ち切るかのように殲滅の光がくだされる。ギルドの明日はどちらに……



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第33の唄 力とは

これで『バトルオブフェアリーテイル』編は一応終わりです。

次から新しい章の『六魔将軍』編になるかと思います。


「くくく、これにて終劇ってところか」

 

煙が立ちこめ、勝利を確信する。あの審判魔法を放って無事で居られるものなどいない。そう、完璧に使いこなしたはずだ。だというのに……。

 

「ぐっ、ガハッ……」

「なっ!?」

「あれ?私、無事?」

「どういうことだ。あの魔法は、完璧だったはずだぞ!」

「魔法に本心を見抜かれたな、ラクサス。妖精の法律(フェアリーロウ)はそういう魔法だと気付いているはずだ」

 

皆が無事で立っていた。しかも現れた傷だらけのフリード曰く、町の住人や観光客はおろか、魔道士は神鳴殿の反動で倒れてはいるものの全員無事だという。

 

「お前は心の奥底では皆のことを傷つけるつもりはなかった。そういうことになるな」

「んなわけねえ!俺は…俺はこのギルドを変えるために!」

「もう意地をはるな。マスターのところに行ってやれ」

「黙れ!俺は、俺が最強なんだぁー!!」

 

側近中の側近であり、ラクサスの友の1人の言葉さえ、今は心に届かず、響かない。そんな中で声を上げたのはナツだ。

 

「テメェの強さも、夢もよーく分かった。でもよ、俺たちはお前の夢と一緒には歩けねえ。それがお前の弱い部分だ」

「あっ?」

「お前は、俺たちの……妖精の尻尾(フェアリーテイル)の絆を馬鹿にした!それだけは許せねぇんだよ!」

「ふざけた事を…ほざくな、ナツゥ!」

 

火竜と雷竜の拳が交差し、ラクサスが荒れた心のままにナツを殴りぬく。だが、それでもナツは屈せず、己の信念に基づいて再び立ち上がる。ある者には恐怖を、ある者には驚嘆を与える。

 

「おらぁ!」

「いい加減に、しつけえんだよ!お前には俺の心は分からねえよ。なにがあっても!」

「だからこその、ギルド……仲間だろうが……」

「ナツ、もうやめて!死んじゃうよ!」

 

屈しないナツの頑丈さに、遂にラクサスがトドメをさすために、己の持つ超攻撃魔法を溜め込む。

 

「この、クソがぁ!」

「あれは……待て、ラクサス!それを使ったらナツが!」

「『雷竜方天戟』!」

「ナツーー!!」

 

雷竜の最強の矛の一つ、それをナツを殺しにかかるほどの憎悪を持って投擲する。言葉では強がっていたが、ナツの体にも限度が近づきつつあり、膝を屈してしまう。このままでは当たってしまうかに思われた。

 

「うおおぉおぉ!!」

「ガジルっ!」

「いけ、火竜(サラマンダー)…!」

「この、雑魚どもが!」

 

ガジルが身体を張って避雷針の役を請け負い、ナツを勝たせるために己を犠牲にする。その力強さに応えるようにシリルは魔力を使い果たしたラクサスに力を叩き込む。

 

「『崩撃』!」

「ガハッ!」

「『雲身』!」

「ぐっ!」

「行ってください、ナツ兄さん!『双虎掌』!」

 

未来に繋げるための2人の覚悟にナツも燃え盛る炎を纏う。

 

「火竜の…」

「この雑魚がぁ!」

「鉄拳、砕牙、翼撃、劔角!」

「ガハッ!」

 

それは怒涛の連撃の始まりだった。『滅竜魔法。それは竜の鱗を砕き、肝を潰し、魂を狩り取る刃。竜の血を継ぎ、心を継ぎ、魂を纏う盾』。とある神がそう語った言葉はまさしくその言葉に相応しいものだ。

 

「滅竜奥義、『紅蓮爆炎刃』!!」

「がっ、うああっ!」

 

雷竜の静かなる声はなりを潜め、火竜の天に轟く咆哮が町中に聞こえ渡った。これが勝利の狼煙となり、ギルドや町の住民に聞こえただろう。

 

====

 

その翌日、大きな喧嘩は終わり、街はファンタジアの準備に再び戻った。マカロフの発作はポーリュシカの治療の甲斐あって収まり、街やギルドに平穏が訪れる。

 

「いやぁ、一時はどうなるかと思ったよ」

「あのマスターがそう簡単にくたばると思うか?」

「それもそうですね。それにしても、ファンタジアのパレード、見るの楽しみです!」

「あんたは参加する方よ。新入りでも関係ない、あれを見ればそう思えるはずさね」

 

ジュビアの期待を壊すようにカナがある方向を指す。そこには、ボロボロになったナツとガジル、全身に軽傷を負ったシリルの姿があった。

 

「私は参加できると思うんですが……」

「ふぉんごほおひは!ほへにほはんははへほ!」

「うるせえな。このチビはまだしも、俺とお前はどう考えても無理なもんは無理だ!」

「わ、私はチビなんかじゃないです!」

「やるかコラ!」

「2人とも落ち着きなさい、傷が開くわよ。それとナツ、なに言ってるかさっぱりわからないわ」

 

他の2人に比べてまだマシなシリルと、2人の竜を見て、誰もがなんとなく言いたいことを察した。動けるメンバーはほぼ強制参加だ。

 

「ち、相変わらず騒がしいなここは」

「ラクサス!テメェ、どのツラ下げて来てんだ!」

「そうだ!帰りやがれ!」

「黙らぬか!!いけ、奥の医務室にいらっしゃる」

「そうかい。ああ、それとナツ。すまなかったな、息災でいろよ」

 

いままでとは打って変わった態度に面食らう仲間たちをけしかけ、ギルドはいつもの活気を出し始める。これがフェアリーテイルの暖かさだとラクサスに通じるように。

 

====

 

「全く、騒がしい連中だ」

「お主もお主で大きい騒動を起こした。どんな厳罰が降るか分かっておろうな」

「ああ」

 

表の喧騒から離れた医務室ではラクサスとマカロフが『祖父と孫』の会話、そして『ギルドマスターとギルドメンバー』としての会話をしていた。

 

「お主は昔は身体が弱かったな。だからワシとしては元気に育ってくれればそれで充分、力を持ちすぎることはなかったのじゃ」

「すまなかったな」

「過ぎたことは良い……これはマスターとしての命じゃ、よく聞け」

 

よろよろとベッドから降り、ラクサスの前に立つ。今までそうしてきたように、優しさと厳しさを併せ持つ声色で、ある言葉を告げる。

 

「ラクサス・ドレアー、お主を……無期限の『破門』に処する。お主のやったことを考えた判断じゃ」

「そりゃそうだろうな。そうやってギルドを初代から守り続けてきたんだからよ。これで今生の別れってとこか、世話になったな『じいじ』」

「……出ていけ。(済まぬ、許せよラクサス)」

 

幼き頃、まだ仲が良かった頃の呼び方にマカロフも涙が頬を伝う。例え厳しく当たろうとも、その心は常に寄り添おうとしてきたのだから。

 

時は夜になり、本格的にパレードが始まりを告げる。氷と水で芸術的な城を造り上げるもの、得意の変身能力で会場を沸かせるものなど様々だ。

 

「お、あれってミスフェアリーテイルの参加者たちか!」

「おお!」

「(あれは…ルーシィか。成長したな)」

 

レビィ、ビスカとともに踊るルーシィを見守る者がいたが、その男はルーシィの笑顔を見て、あの日のことを思い起こしていた。

 

「あ、あれってエルちゃんかにゃ!?」

「いやあ、やっぱり凄いなあ姐さんは」

「さすがダゼ」

 

エルザが剣舞を披露すれば、立ち寄った楽園の塔時代の仲間たちが歓声をあげ、楽しくひと時を過ごす。

 

「……そろそろ行くか」

 

マスターの台車が近づきつつある頃、破門を受け、雷神衆をギルドに残すこととなったラクサスは1人寂しく町の出口へと向かう。だが、そこで待っていたのはパレードに参加しているはずのシリルとユリアだ。

 

「おまえたち、良いのか?」

「私たちはただの分身、本体はあっちにいますので」

「抜かりねえな。さすがと言っておく」

「お兄ちゃん、また戻って来てね」

「破門されたから戻れねえと思うがな。じゃあな、元気でやれよ」

 

ギルドからの贈り物たるメッセージと、2人からの温かい言葉を背に受け、ラクサスは涙を浮かべながら街を去っていった。

 

それからというもの、ギルドはいつも通りに騒がしく楽しく過ごしている。雷神衆の3人も少しずつ馴染み始め、ギルドに来る楽しさを覚えるようになり始めた。

 

「良かったですね、こうして上手くまとまって」

「そうじゃな。(あのイワンがラクサスに手を出さねば良いが……二重スパイとしてガジルもやってくれておるし、しばらく様子を見ようかね)」

「そういえば、お母様から手紙が来たと言ってましたが、一体何が書いてあったんですか?」

「お主を呼び戻す旨の手紙じゃ。こちらを冬ごろに出るように、とな」

 

その帰還要請は何を意味するのか、シリルは明確に分かった。神の座の受け継ぎ、つまりは母の命日が近づきつつあるということ。無限に思えるその寿命も、神とて限度がある。

 

「そうなると長い間お別れとなりますね」

「むう……寂しくなるが、致し方あるまい」

「土産話を楽しみにしててください」

「ははは、それじゃあ長生きせんとな!」

 

彼女たちはまだ知らない。大いなる力が、冬将軍を伴ってやって来るのを。



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第5章 命と光と魂と 六魔将軍編 第34の唄 集う者

お待たせしました。
今回から六魔将軍編です。

誤字とかあれば教えていただければと思います


「バラム同盟?」

「ええ。最近ギルド連盟の方で動きが活発になってるって議題に挙がっているみたいよ」

 

ギルドの方に顔を出してみれば、そのような話題が出ていた。『バラム同盟』は闇ギルドを統括する立場にある四つの大きなギルドのことであり、それだけ強大な組織とも言える。

 

「急に活発になったんだとよ。何か裏があんじゃねえのか?」

「それ、まずいよね?それと、『鉄の森(アイゼンヴァルド)』って……」

「ああ。前に戦った闇ギルド、あのエリゴールのいたギルドだ」

「バラム同盟の『流れる七星(フォーレン・スターズ)』も確かシリルと因縁があったな」

 

何かの因縁か、こうして図式化してみると、厄介な相手を敵に回しそうな予感がして来る。そこに嫌な予感の答えを携え、会議から戻ったマスターがある宣言をする。闇ギルドを統括する者たちの一つ、『六魔将軍(オラシオンセイス)』討伐の決定、そしてそれを『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』以下数ギルドで受け持つという事だ。

 

「それは本当ですか?」

「無論、本当じゃ。じゃが、ここを集中的に報復されぬようにするためにも同盟を組むつもりじゃよ」

「それでじっちゃん、誰が行くんだ?」

「ナツ、ルーシィ、グレイ、エルザ、ハッピー。ここからはお主らが向かう。それとここにはおらぬが、シリルとユリアはギルド連盟の推薦で向かう」

 

さも当然だと言わんばかりに告げられる。周りも反対する者はおらず、なし崩しのように5人の出撃は後押しされ、決まっていく。

 

「うう、なんで私まで……」

「チームを組んでる以上、仕方ないよ」

「そ、そうね」

 

====

 

ファンタジア終了から早一週間。ギルドでは仕事に行く者、酒を友と飲む者、喧嘩に走る者といつも通りに過ごしていた。マスターが引退宣言をした事もあったが、フリード直々の嘆願により、事なきを得た。そんな日常を取り戻した頃、ルーシィはシリルにある質問をぶつけた。

 

「そういえば2人はどこに住んでるの?」

「少し歩いたところです。仕事終わったら来ます?」

 

そんな誘いもあり、金欠を解消し終えた彼女たちはチームメイトのナツたちを伴ってシリルの家のある丘に到着した。そこにあったのは静かな場所にある一軒家だった。

 

「ただいまー!」

「姉さんたちも一緒にどうぞ」

「悪いな、邪魔させてもらうぜ」

「結構広いね」

「あまり物を置いてないだけですよ」

 

客をもてなすために簡素なお茶とお菓子を準備している2人の背中に、ギルドであった話をエルザは静かに問いかける。

 

「そういえばシリル、ユリア、聞いたか?『バラム同盟』の話」

「何それ?」

「お茶入れてきましたよ。で、バラム同盟ですか?」

「ああ。実は2人がギルドに到着する前に出た話なのだが……」

 

エルザ曰く、闇ギルドを束ねる組織が4つあり、それをバラム同盟と呼ぶ。その中の一つにたった6人のギルド、『六魔将軍(オラシオンセイス)』がある。今度、そのギルドを共同戦線にて討滅するとのお達しがマスターからあったのだ。

 

「俺とルーシィ、ナツとエルザで向かうことになってな」

「あれ?私たちは?」

「無論、一緒に行くことになる。どうも悪魔のごとき者がいるそうだ。2人がその様な者を相手取ったと聞くが」

「堕天使。楽園の塔にいたアイツの仲間だろうね」

「ベリアルの……『流れる七星(フォーレン・スターズ)』が居るのね」

 

2人を苦しめた堕天使と同等かそれ以上の実力を持つだろう相手だ。そう楽には勝たせてくれない作戦になりそうだ。

 

「今回2人は地方ギルド連盟からの推薦で行くことになる。出立は明日だ。今日はゆっくり体を休めることとしよう」

「ならばせめて泊まっていってください」

「何から何まですまねえな」

 

少しでも英気を養っておこうと、この日は何事もなく眠りにつくことになった。

 

皆が眠りにつく中、シリルは外で星を眺め、まだ起きていたルーシィが隣に腰かけ、問う。

 

「シリル、まだ寝ないの?」

「なんだか眠れなくて……このお守りを見てると、色々考えちゃうんです」

「どういうこと?」

「産まれた村が原因不明の病に冒され、お父さんとお母さんのおかげで私だけ無事でした。そんな話を聞いて思ったんです、私はその原因と裏にある何かを探さなきゃいけないって」

 

過去に想いを馳せながら、自分のいた村のことを調べたり闇ギルドと戦ったりといった自分の運命とやらについて誰にも言えなかったことを語る。今のルーシィにならわかるかもしれない、親と子のすれ違い、そして彼ら親の想いとやらに。

 

「最初は捨てられたんだと思ってました。でも、今なら分かります。私を助け、未来を託したんだと」

「そう、なんだ」

「親の死は無駄にしたくありません。いつかその病の謎を解いてみせるんです」

「重い使命ね。私たちも出来ることがあれば手伝うよ、なんたって仲間なんだから」

「ありがとうございます、姉さん」

 

そう、ギルドは家族であり、仲間だ。思い悩むことがあれば皆で背負えばいい。やはりギルドは良いものだと改めて認識させられる言葉だった。

 

====

 

「さて、もうそろそろだろう」

「ま、まだ……つかねえのか」

「しっかりしろよナツ。これから大事な作戦なんだぞ、こんなトコでくたばってる場合か」

 

集合場所は青い天馬(ブルーペガサス)のマスターボブが持つ別荘だ。今回の作戦の提唱者の1人として、馬車と開始場所を用意してくれていた。

 

「ここが集合場所か」

「結構いい趣味してるわね」

「仮にもマスターだからね」

「うぷ、まだか…」

「もう着いたよナツ」

 

まだ他のギルドはついていないようで、いつもの5人だけだ。シリルも少し遅れてやって来るようで、今はまだ道中にある。

 

「お待たせしました、そしてようこそ。我ら『青い天馬(ブルーペガサス)』の別荘へ!我らは代表たる『トライデント』、どうかお見知り置きを」

「僕は『聖夜のイブ』」

「『空夜のレン』だ」

「そして頭脳たる僕は『白夜のヒビキ』」

 

華麗に登場したトライデントの壮麗な顔ぶれにルーシィは少しときめき、あれよあれよといつの間にか用意されていたキャバクラのような椅子に為すすべもなくエルザ同様座らされる。

 

「今回の任務、よろしく頼む……」

「うわぁ、やっぱりその笑顔は素敵だよ!」

「あ、ああ……」

「おい、お前にこれ、やるよ。べ、別にお前のためじゃねえから」

「つ、ツンデレ!?」

「何やってんだ、ったく。おい、俺らの姫様に手ェ出さねえでもらおうか!」

 

同じ仕事をするというのに早速一触即発となりそうな空気が流れ、現れたトライデントをまとめるエルザの彼氏を一方的に名乗る一夜を、彼女が殴り飛ばしたことで、さらに険悪な空気が流れる。しかもそこに現れたリオンら『ラミアスケイル』に間接的に喧嘩を売ることとなり、空気は最悪なまでに凍りつく。しかし、それを止めるものが現れた。ラミアスケイルのリーダーで、聖十大魔導が1人の『岩鉄のジュラ』、そして遅れてやって来たシリルとユリアだ。

 

「やれやれ、ようやく着いたと思えば。喧嘩はやめなさい、さもないと……全員死にますよ」

「シリル殿の言う通りだ。無駄な争いを仲間内でしてる場合ではないぞ。これから協力して強大なる闇に立ち向かうのだからな」

 

彼の言葉に皆冷静になり、残るひとギルドの到着を待つばかりとなった。

 

「さて、もうひとギルドがきたら、話を進めるとしよう。頼めるか、一夜殿」

「勿論ですよ。ああ、それと…最後の『化け猫の宿(ケットシェルター)』からは1人のみが来ると聞いてまぁーす」

「へぇ〜。なんかすごい人が来そうだね!」

「そういうことじゃないと思うわよ」

 

喧々諤々と議論がなされる中、その少女はやってきた。青色の綺麗な髪をなびかせているその少女はシリルより若く、皆を驚かせることとなる。

 

「ま、間に合った……えっと、遅れてごめんなさい。『化け猫の宿(ケットシェルター)』から来ましたウェンディ・マーベルです、よろしくお願いします」

 

これで4ギルド集結と相成った。果たしてこの出会いが未来を動かす力となり得るのだろうか。これは天のみぞ知る。



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第35の唄 襲来

お待たせしました。最近体調が悪く、書くのに時間がかかってしまいました。

とりあえずゆっくりながらも進めるつもりでいますので、よろしくお願いします


「子供!?」

「1人で来たのがこんな子供だとは……」

「そんなことなら私もユリアも大して離れてないような」

「ふむ、これで全員揃ったな」

「おい、話進めんのかよ」

 

ウェンディの幼さに驚きを隠せない一行だが、彼女についてきたハッピーに似た喋る猫のシャルルの出現により、尚更騒ぎが広がる。それをジュラが諌めて沈め、ようやく話が進むことになった。

 

「今回の目的地はワース樹海の中に眠る『ニルヴァーナ』の破壊とそれを狙う『六魔将軍(オラシオンセイス)』の討伐およびそれに協力する謎の闇ギルド『流れる七星(フォーレンスターズ)』を撃破すること」

「あの、私戦力にならないと思うんだけど」

「私もです。あの、サポート魔法しか使えなくて、ごめんなさい」

「花のパルファムのように安らかな心で聞きたまえ。討伐といえど、直接戦うのは本来の目的にあらず」

「と、言いますと?何か策が?」

 

弱気なルーシィとウエンディに対して、一夜は自信ありげに応え、シリルの疑問にヒビキが答える。

 

「その通り!僕たち天馬が大陸に誇る爆撃艇『クリスティーナ』があれば、集まった彼らを纏めて砲撃できるんだ!」

「なるほど、つまりはかの連中をその爆撃拠点まで導くか、それ以外の範囲であってもある程度の範囲にまとめる、そういうことかな?」

「さすが聖十、お察しが早くて助かります。僕たちの計画は簡単に言えばそういうことになります」

 

つまり、直接倒そうとしなくても、クリスティーナの砲撃が当たれば良いのだ。実力がなくとも作戦を成功に導ける。今回標的になるのは8人。『六魔将軍』のメンバーはコードネームであり、高速で動けるとされるレーサー、人の心を覗けるエンジェル、滅竜魔道士のコブラ、天眼を持つというホットアイ、情報がほとんどない不気味な男ミッドナイト、そして司令塔のブレインなる男から構成される。『流れる七星』からはカスピエルとイブリスという姉弟で、2人でコンビを組んでいるそうだ。

 

「へへ、簡単で良いじゃねえか!なんなら、俺が先にぶっ倒してきてやるぜ!」

「おいナツ、聞いていたのか!全く……追うぞ」

「あのバカヤローが」

「うえ〜、もう行くの?まだ心の準備が出来てないって」

 

作戦を聞いてもなお、自分の手で倒そうと張り切るナツをフェアリーテイルが追いかける形で先手を取る。それに遅れを取るまいとラミアに所属するグレイの兄弟子リオンとシェリーが追う。皆がそれにつられる形で出撃した。

 

ただ、敵が後ろにもいることを知らず。

 

====

 

「あう…なんかよくわからないで着いてきちゃったけど、私みんなの役に立てるかな?」

「大丈夫!自分なりに頑張るんだよ!」

「強いんだね。ユリアちゃんは」

「えっへん!」

 

年が似通っている2人は早速打ち解けていた。今回の作戦で戦うことに自信のないウェンディを励まし、手を引くユリア。引っ込み思案なウェンディとガンガン進むユリアは性格こそ違えど、仲良くやれそうである。

 

「2人とも、ムリは禁物よ。私たちが頑張るから」

「ウェンディお姉ちゃんは私が守るよ!」

「ふふ、その意気よ。ウェンディも出来る限りで良いから、ムリしないでね」

「あ、ありがとうございます」

 

すると、皆を覆うように影が現れ、先を走っていたナツが急に止まる。空を見上げる彼にグレイがぶつかり、文句を垂れる。

 

「んお?」

「おい、急に止まるなよ!なんだってんだ」

「上見ろよ。アレすげえぞ!」

「おお!あれが……魔道爆撃艇『クリスティーナ』か!」

 

空に現れたその爆撃艇に皆、驚嘆を禁じ得ない。大陸を探してもこれほどの物はそうそうお目にかかれない。青い天馬(ブルーペガサス)が大陸に誇る兵器、クリスティーナのお出ましである。

 

「すごいですね」

「驚いてくれて嬉しいよ。だけど、これからが本領発揮の時かな」

「よし、順調だね。このまま進んで……」

 

事は快調に進んでいるように見えたが、突然爆撃艇が攻撃を受ける。それを呆然と見送ることしかできず、気づけばそれは地に堕ちてしまっていた。

 

「クリスティーナが!」

「敵か?どこにいるんだ?」

「……来たか」

 

墜落したクリスティーナの影から8人が姿をあらわす。『六魔将軍』と『流れる七星』のうちの2人である。先に口を開いたのは弟のイブリスだ。愉快げに細い体躯ながら大きな斬馬刀を振り回す。

 

「どいつもこいつも弱そうだね」

「油断したらダメよイブリス。でもま、強くないのは確かでしょうけど」

「無駄口はそこまでだ、始めるぞ。レーサー、行け」

「オーライ!」

 

レーサーの高速魔法により、先手を譲る羽目になる。歴戦の魔道士をもってしても攻撃がかすりもせず、ジェラールの『流星(ミーティア)』を超える速度を見せる。

 

「くそ、アイスメイク……」

「させないゾ?ジェミニ!」

「ピーリ、ピーリ!」

「なっ!?」

「星霊魔道士!?」

「作戦はすでに把握済みだゾ。それに、ジェミニは心が読めるもの」

 

こちらの動きが分かっているかのように攻め、コブラにも、ホットアイにもかすりもしない。寝ているミッドナイトに至っては魔法が曲がるほどだ。堕天使の二人は頑丈さとコンビネーションがひかり、次から次へとなぎ倒していく。唯一立ち回りをキープできているのはエルザだけだったが、彼女も多数対一では攻め手に欠け、コブラの連れている大蛇『キュベリオス』の毒牙にかかり、倒れる。

 

「邪魔をするからだ……ほう、まさか天空の巫女と冥府の子がいるとはな。後ろの二人を捕らえろ!」

 

誰も動けない状況下、最悪の事態を招いてしまう。レーサーの高速魔法を止められず、ユリアが単独奮起するものの、連合をあっさりと倒した男らには敵わず、ウェンディ、そして巻き込まれるようにハッピーとともに攫われる。

 

「ユリア!!」

「ウェンディ!」

「ハッピー!」

「ふふ、これにて第一段階は終了だ。消え失せろ、『ダークロンド』!」

 

もはや用は済んだ。ブレインは慈悲もなく広範囲魔法を連合の上空から放つ。絶体絶命に思われたが、ここで救世主が現れる。遅れてやってきた岩鉄のジュラだ。

 

「岩鉄壁!」

「た、助かったよ」

「何気にありがとう。庇ってくれたのね」

 

負傷したジュラの迅速な判断と対応に助けられ、敵の追撃は免れたものの、3人を捕らわれた上に逃亡を許してしまう。その上、先ほどの戦闘でエルザがコブラの毒にやられ、身動きが取れない。心を読むエンジェルの奇襲により遅れた上に傷だらけの一夜の鎮痛効果があるパルファムをもってしても彼女の痛みは和らぐ兆しはない。

 

「まさかユリアとウェンディ、ハッピーまでも……私が不甲斐ないばかりに!」

「落ち着いて、冷静さを失ったらダメだよ」

「しかし!エルザ姉さんがやられてて、あちらもいつ何が起こるか!」

「だからこそよ。あの妖精女王を治すならウェンディの能力がうってつけなの」

 

シャルル曰く、ウェンディは天空の滅竜魔道士であり、彼女の言っていたサポートは多岐にわたっており、回復や能力の上昇、解毒や解熱、鎮痛まで可能なのだという。

 

「そうとなれば、今後どうするかは明らかね」

「そうだな。まずはウェンディとユリア、それとハッピーの奪還だ」

「それと、ニルヴァーナなる魔法の在り処の特定、六魔将軍(オラシオンセイス)の各個撃破だ」

 

仲間は取り戻す。皆の決意が一つとなり、真に同盟がなった。敵を倒しにいくもの、目的の物を探しにいくもの、救助に急ぐもの、この場に残るもの。それぞれ目的は違えど、やるべきことは心得ている。

 

「彼らの好きにはさせません」

「舐められた真似されて、引き下がっていられるか!」

「闇の思惑(おもい)、断ち切るのは今しかない。各々、秘めたる力を糧に……進め!」

「「「おおおおっ!」」」

 

重ねる拳は小さな魂を穢れなき高潔な光へと昇華させる。闘争の鐘は鳴れり、いざ出陣。

 

====

 

「おい小娘ども、お前らにはやってもらうことがある。良いな?」

「え?」

「何をさせるつもりなの?」

「レーサー、あのポイントから例のやつ、もってこい」

「了解だ。だが、こんな小娘どもに出来んのか?」

「無論だ。目の前で特別に見せてやろう」

 

ブレインの言う例の人物とは一体何者なのか。賽は投げられた、あとはその目の赴くままに進むのか。それともその目を変えるほどの革命が起こるのか。果たして連合の未来はどっちだ。



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第36の唄 混沌

お待たせしました。省略した部分も多々あり、分かりにくいかと思われます。作者の力量のなさゆえです。


「持ってきたぞ。ふぅ〜、重たくて敵わねえぜ、俺のスピードを持っても15分もかかるとはな」

「ご苦労」

「で、こいつらに何させんだ?」

「この中身の男の復活よな。開けるぞ」

 

コブラの質問に淡々と応じ、棺桶の中を見せる。そこには、エーテルナノに侵食されながらも生命の鼓動を微かに帯びた、ジェラールの姿があった。

 

「ジェラール!」

「こ、こいつがそうなの!?」

「エーテリオンにやられたかと思ってたよ」

「ほう、見知った顔か。なら話は早い、天竜の子『天空の巫女』よ、こいつを復活させよ」

 

彼女を攫った理由、それは能力によるジェラールの復活だ。ためらうウェンディにユリアは手を置く。天空の巫女の決断は……

 

====

 

「シリル、どこに向かってるんだ?」

「ユリアの生命力を探知してます。ナツ兄さん、鼻の方は?」

「嗅ぎ分けるにはまだ遠いみてえだ」

「竜の鼻といえど意外と嗅ぎ分けられないのね」

「多分匂いが多いからかもな」

 

ナツ、グレイ、シリルとシャルルは捜索の為に動いていた。鼻のきくナツとシリルの生命探知を頼りに編成された。

 

「むむむ……ユリアたちはまだ先の方ですね。その前に、接敵です。数が多いみたいで」

「暴れてやるか!」

「情報を吐かせてやる!」

 

どうやらあちらも配下のギルドを率いているようで、ギルド二つぶんの兵隊が待ち構えていた。

 

「ウホホッ!やっつけてやるぜぇ!」

「うるせえぞ、クソ猿。こいつらはあたいら『ナイトフォックス』のもんだ!」

「行きますよ」

「やられてぇ奴からかかって来い」

「なんなのよあの三人、こんな兵数相手に勝つつもり?」

 

数十人から100人規模の敵に対して戦力は3人。「常識」をもって語るなら勝算は低いと見るのが最もだろう。だが、そんな常識をも覆し得るのが「妖精の尻尾(フェアリーテイル)」の魔道士だ。傷が増えて息も上がるほどに疲れたが逆転、勝利した。

 

「で、ウェンディたちは何処にいやがる?」

「さっさと吐かねえとぶっ飛ばすぞ」

「す、数百メートル先にある滝壺の底にある横穴だ」

「そっちから3人の生体反応を確認しました。間違いなさそうです」

「よし。悪いけど、やっぱぶっ飛べ」

「え?ウギャ!」

 

傘下ギルドの尊い犠牲をもとに、探すべき仲間の居場所を突き止める。シリルの情報と照らし合わせ、森を抜けると、大きいとはいえないものの隠れるには格好の場所だろう滝壺にたどり着いた。

 

「ここか」

「おーい、ハッピー!ユリア!ウェンディ!居るかー!」

「ちょっと!バレるでしょう!」

「あっちからしちゃあ、想定済みだろうから今更だぜ。スロープ作るからそれで降りて先行ってな」

 

万が一に備えてグレイを上に残し、他3名で入り口に向かう。だが、そこには想定外の男と、想像以上に悪い方向へ行こうとしていることが分かった。

 

「お前、ジェラール!?」

「あの時倒したはずだし……てっきりエーテリオンに巻き込まれてたかと」

「ごめんなさい…私が……」

「あ、ウェンディお姉ちゃん!」

 

助けに行った先で会ったのは、エルザの因縁の相手であり、夏に楽園の塔で倒したはずのジェラール本人が居たのだ。ウェンディらをさらった目的が少しずつわかり始めた瞬間でもある。

 

「くそ、ならここでもう一度!」

「……ふん」

「がっ!」

 

連戦の無理がある。いくら復活したてとはいえ無傷な相手と戦うのは無理だ。すぐに吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。冷たい目で他の5人を眺め、ブレインとともに外へ向かい始める。

 

「さすがだなジェラール。次の地点に行こうか」

「……それは無理だよ」

「なっ、ジェラール貴様!」

 

だが、何を考えたのか、そのブレインを穴に落とした。復活を手伝った男への反乱にシリルらは絶句しながらもその背を追うようにハッピーやシャルルに手伝ってもらいながら外へと皆を抱えながら飛び立つ。

 

「あいつ、何考えてんだよ」

「分かりません。グレイ兄さん!退きますよ!」

「悪いけど先に行ってくれ!このレーサーっつうふざけたヤローを止めておく!」

 

上で待っていたグレイは既に戦闘を始めており、退ける状態ではなさそうだった。止むに止まれず、彼に敵を任せ、いち早くエルザのところに戻るべく空をかける。

 

『誰か、誰か応答できるかい!?』

「この声どこかで……」

「ヒビキさん、どうしました!?」

『良かった、ナツくんとシリルくんは無事なんだね!ウェンディくん達はそこに居るかい?』

「おうともよ!全員取り返したぜ!」

『なら目的地を教えよう。口頭で指示したいけど、どうやら耳のいいやつがいるらしい。これ以上情報が漏れるのは防ぎたい、地図を送るよ!』

 

何が何やらという感じだったが、しばらくして頭に現地点と目的地が正確に分かるように浮かぶ。ナツは喜んでいたが、そうもしていられないのは分かっているため、シリルの先導の元、天を飛ぶ。

 

====

 

「お二人とも無事でしたか」

「どうにかね。ところでウェンディくんは?」

「ここにいるぜ。おい、起きてくれ!緊急事態なんだ!」

「う、ううん?っ!」

 

魔力消耗による気絶から復活したウェンディであるが、自分のしてしまったことや驚きからゆすり起こすナツから遠ざかる。何やら謝っていたが、それでも構わないとナツは頭を下げる。

 

「お願いだ、頼む!」

「私からもお願い。エルザを助けてあげて!」

「どうか、この通り」

「わ、私にできることなら!やります!はい!」

 

正義感の強い彼女だ、ここまでされて否定することはできない。ふんす、と気合を入れて、されど慎重に解毒を進めていく。過去にジェラールと名乗る男としばらく旅をした彼女だ。彼が悪い男だとは思いたくない。

 

「……よし、完了しました!しばらくすれば動けると思います」

「おおお!」

「よっしゃあ!」

「ありがとうウェンディ!」

「さっすが私の友達だね!」

「いやあ、顔色が良くなったよ。流石と言うべきか」

 

これで危惧すべき課題は2つ消えた。残るは敵の狙いの古代魔法のみとなった。だが、絶望とはそう生易しいものではない。順調に物事が進む時に限って、曲がり角から不意に現れるものだ。地鳴りが轟くとともに、遠くの森から黒い塔のように光が立ち上がる。開けている場所だというのもあるが、それでもこうしてはっきりと見えるということは、並みの魔法ではありえない。しかも闇魔法を操るユリアがすぐそばにいるとなれば、自ずと答えは出る。

 

「まさかあれって!」

「間違いないよ。古文書(アーカイブ)に乗っていた……ニルヴァーナだ」

「もしかしてジェラールが……くそっ!」

「ちょっとナツ!ジェラールってどういうこと!?」

「あいつは、俺がぶっ飛ばしてやる!エルザには近づけさせねぇ!」

「ねえ、あいつ止めないと……ってエルザもいない!」

「もしかしてナツ兄さんを追ったのでは?」

 

飛び出したナツ、いつの間にか消えていたエルザ。混沌としはじめる事態に、光明は射し込むのだろうか。




10月中にもう一話出せたらなぁと思ってますが、次話の予定は未定です。


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第37の唄 3人の堕天使と相見ゆ

遅くなりました、ごめんなさい!

次は11月かなぁ、といった感じです。


「もー、なんで先に突っ走るかな〜?」

「しょうがないよ、それがナツだから」

「ヒビキさん、あの柱は何ですか?」

「あれこそが破壊予定に入っていたニルヴァーナだよ。でも柱が上がっているってことは発動したか、封印を解いたか。どっちかだろうし、結果を言えば最悪の状況ってところ」

 

情報収集に特化した魔法を持つヒビキによれば、ニルヴァーナとは心の善悪を入れ替えられる魔法なのだとか。最初の黒い光が立ち上がる段階では、心の善悪の狭間を様々な理由でさまよう魂を半強制的に向かっている方向に引っ張り、悪に堕とすことも光に包むことも可能になる。

 

「ウェンディくんは何か心に後悔を抱えた。だからこうして気絶させ、その負の連鎖を食い止めたんだよ」

「でもそれって強制的にみんなを、って訳じゃないよね?」

「いや、油断できないね。僕の魔法で調べた限り、あの魔法には何段階かあって、その段階が進むにつれて強制力を増すんだ」

「早く壊さなきゃね」

 

先に見つけられた可能性が高いとしても、まだ準備段階だろう。今からでも十分巻き返しが効くだろう。時は少し遡るが、ジェラールは森の何処かにある洞窟に来ていた。それを追って、ブレインの命令で追ってきたコブラは、ジェラールの心の声がまるっきり聞こえないことに不信感を抱いていた。彼の体質かわからないが、昔から心を聞き取ることに長けているが、何故か追う男の考えだけは読めない。

 

「ここか」

「(あいつ、何を考えてやがる?こんな森の中で何をするつもりだ?)」

 

こんな森の中で一人で来た上に、思考が読めないとなると、色々と勘ぐってしまう。すると、突然止まって指で空を切る。魔法陣が現れたと思えば、黒い瘴気が漏れはじめる。

 

「解封印!」

「(っ!?この狂気、もしや……)」

「ジェラール!お前、こんな所で何をしている!」

 

エルザはナツの言葉を耳にした時より、あちこちを走り回り、ここに入るジェラールに気づき、追いかけてきたのだ。

 

「君は、誰だい?」

「……憶えていないのか?」

「俺は、ここで目覚めるまでの記憶が殆ど無いんだ。ここにニルヴァーナがあること、それくらいの記憶しか……君は俺にとってのなんなのか、ここで目覚めた理由は?分からないことが多すぎる」

 

かつての友であり、敵でもある彼の悲痛な姿に、エルザは口を閉ざしかけたが、今彼を救えるのは一番近くにいた自分しかない。ならばやることは一つ、己の言葉で真実を伝えることのみ。

 

「……私はエルザ、エルザ・スカーレット。かつてお前と共に過ごしてきた囚われの身だった者だ」

「く、来るな!」

「そしてお前はジェラール・フェルナンデス、かつて囚われの身でありながら悪に染まり、仲間に手をかけた。それを、そんな大事なことを忘れただと!?そんな腑抜けたことを言うなら、私がこの手で思い出させよう!来い、ジェラール!」

「俺が、人に手をかけていたなんて……くそ、くそぉ……」

「ジェラール……」

「通りで心が読めねぇと思ってたらよ、そういうことか。釈然としねえが、納得したぜ」

 

コブラは全てとまではいかなくとも、多少なりとも納得がいった。記憶が無いのなら、心を読んでも得られる情報が少なく、聞き取れるほどの感情が流れない。だから姿を見せ、ここからは動くしかない。

 

「テメェ、ここで何をするつもりか知らねえがよ、手っ取り早くそこのブツを貰っていくぜ」

「そうか、そのつもりなんだね、君たちは。だけどこっちも無策じゃない」

「っ!?自律崩壊魔法陣か!くそ、ニルヴァーナにも自分にもかけてやがるとは!」

 

自分が悪にこれ以上染まらないために打った手は、自律崩壊魔法陣による自殺、もとい『死なば諸共』の特攻に近い方法だ。

 

「ほう、自律崩壊魔法陣とは考えたな」

「ブレインか!こいつ、ニルヴァーナと一緒に消え去るつもりだぞ!どうすんだ!」

「そう焦るな。そもそもそいつにその魔法を教えたのは私だ。解除方も心得てるとも、ブレインの名は伊達じゃない」

「なっ!?ここまでか……」

「ふふふ、ニルヴァーナの捜索と起動、感謝するぞ。おかげで手間が省けた」

 

自律崩壊魔法陣を壊し、すぐさまニルヴァーナを起動させる。全ては計画通りだ。

 

====

 

「これ以上先には行かせないゾ」

「私たち3人に勝てるかしら?」

「切り甲斐がありそうだね」

 

ナツを追う最中、エンジェルと堕天使姉弟と遭遇した。目的の為に連合軍の足止めをしようというのだ。

 

「星霊魔導士として、負けられない!」

「堕天使は私とユリアで倒しましょう」

「私らだって、コンビネーションは負けないよ!」

 

途中離脱したウェンディはここには居らず、3対5の光と闇をかけた争いは、ユリアの魔法から拮抗状態が動き始める。影で作った鴉の刃と毒の弓が飛ぶ。

 

「『シャドー・レイブン』、『ポイズン・アロー』!」

「弱い弱い!この程度なら僕の斬馬刀の敵じゃない!」

「貫け、『生命神の剛拳』!」

「隙ありよ、『水人形のワルツ』!」

「『身発勁』!」

 

身体に触れた魔法を弾くように消し去る。再び静寂が訪れ、一陣の風が間を駆け巡る。

 

「この二人の相手は我々が。姉さんはエンジェルを」

「了解したよ」

「貴女ごときの星霊じゃ私は倒せないゾ」

 

星霊魔導士同士、神の子達と堕天使。相見える両陣営は決戦を覚悟する。



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第38の唄 魔獣変化

遅くなりました。しばらくお待ち頂いたのに、内容は微妙な出来でして、大変申し訳ないです。

こんな調子で次いつかわかりませんが、よろしくどうぞ。


第38の唄

 

「人間の割に良くやるね」

「お二人は人の可能性を見出せなかった。だから堕天などするのですよ」

「私たちの愛の前に人間どものチンケな感情など些細なものよ。それを理解しなかったのは貴女たちでは?」

 

武による戦とともに舌戦による問答が繰り広げられるが、平行線を辿るだけで交わることはない。

 

「『土人形の舞』!」

「『シャドー・ハンマー』!」

「あの二人、やり始めたか。じゃあ、こっちの相手は君かな?」

「そのようですね。『波動バースト』!」

 

余裕の表情を崩さぬ堕天使に、神の子は攻める。未来を作るためにも。

 

====

 

ニルヴァーナが発動したことであたり一帯の森林にも影響が出始めている。捜索を行うイヴやレンがまず察知したところでは一部の木がニルヴァーナに似た黒い瘴気を放ち、木自体が黒く染まっている。

 

「これは、なんなんだろうね」

「ニルヴァーナってやつの影響か?通信できねえのもそれが原因かもしれないな」

「早く見つけないと……ウェンディちゃんたち、無事だといいけど」

 

ニルヴァーナの影響はここだけではない。グレイと共闘しに行ったリオンとシェリーと離れているジュラと戦うホットアイにもニルヴァーナの本来の力が働いている。

 

「ぐっ、ノォー!」

「何事だ!?ニルヴァーナが出てから様子が……」

「私は、私には金……など必要ないデス!」

「えっ……はぁっ!?」

 

先程までは金のために戦っているなどと述べていた目の前の人間が、急にそれを前言撤回し、厄が落ちたかのような慈悲深い顔をもって愛を語り出した。

 

「私は弟を探すためにこのギルドに入ったデス!ですが、今気づきました!このままでは私は弟に合わせる顔がナイと!世の中には愛、ラブが必要デス!」

「え、ええ?」

「さあ!私たちの手で他の皆さんにも愛を伝えるのデス!」

「(ど、どう対処すれば良いのだ?)」

 

このように様々な現象を引き起こす事態の元凶、ニルヴァーナを巡って今戦闘が繰り広げられる。

 

====

 

「真っ二つにしてやる!」

「やたらめったらに振り回して……くっ!」

 

真横に振り回された大剣をくぐり抜け、体制を低くして好機を伺う。

 

「でぇい!」

「そこ!『気烈胴廻脚(きれつ・どうかいきゃく)』!」

 

大剣を振り上げた所に攻め時が有る。その直感に従って低い姿勢から脚を回し、頭めがけて天を廻る脚を打ち降ろす。空手の技、『回転胴廻蹴(かいてんどうまわしげり)』の応用である。

 

「ぐぇっ!」

「『ブラッド・ランス』!」

「『波斬撃』!」

 

追撃をすれど、頑丈な堕天使はすぐに体制を立て直し、相殺を狙った波攻撃を繰り出す。衝突する両技が煙を上げ、それが晴れると、シリルの脚が顔面を捉えた。

 

「浄化されなさい、『神気烈脚(ボルティック・シュート)』!」

「ぐっ、がはぁっ!」

「終わりです」

「まだだ、まだ終わらせないよ。かぁぁああっ!」

 

隠し球を持ち合わせていたのだ。はだけさせた胸の中央には柘榴石のような水晶がはめられており、それが彼のパワーを引き出していたのだ。それの力を解放した時、人間の姿から悪魔の本来の姿へと変貌する。

 

『これが僕の力だ!』

「まだ隠し玉があったなんて……あの水晶を壊せば……」

『余所見なんて随分と余裕だね。ウヒャア!』

「(速い!)」

『ラリアットォ!』

「ガハッ!」

 

ガードのために纏った神依・腕と胴がまるで意味をなさないような猛スピードとパワーがシリルを襲い、後ろで戦っていたユリアやルーシィを追い抜くくらいの距離を吹き飛ばされる。

 

「(一撃が重すぎる。神依を纏っても痛みがこんな酷いなんて……骨が軋むし、血管が切れてしまったわ)」

 

猛獣のような驚異的な腕力により、十数メートルは飛ばされてしまい、骨は折れかけ、岩にぶつかって血が飛び、痛みで体の動きが鈍くなる。

 

『アヒャヒャ、やっぱり人間は脆いね。まだ序の口のつもりなんだけどな』

「あの、一撃が……ぐっ…」

 

膝をつくシリルにイブリスは飛び、噛み砕かんと大きな口を開く。まともに動くことも叶わないシリルは丸ごと飲み込まれた。

 

「お姉ちゃん!」

「シリル!」

『捕食完了。これで敵はいなくなったも同然だよ』

 

終われば呆気ないとばかりに他の獲物を見渡す。だがその時、急に顔が歪む。身震いが起こり、痙攣を起こし始めた。

 

『お、おごご……』

「神の力を喰らおうなぞ、無謀な真似をしますね。それにそれは我が分身体、途中ですり替えておいたのですよ」

『うが、うがが…ど、どうなってる。確かに食らったはず』

「相殺した時に分身と入れ替わったのです。私の魔力は貴方の体内に残っている、ならば貴方のその水晶、内側から壊してみせましょう」

 

シリルの本体は先ほどまでイブリスのいた場所に立っていた。右手を前に突き出し、詠唱を唱えて拳を握る。死に様を悟った堕天使は、大いに慌て、再び食ってかかろうとする。

 

『や、やめろ!ウガァ!』

「慢心は命を殺す。今度こそ浄化してあげましょう、『血気葬送』!」

『ぐ、ブベラッ!』

 

魔獣の牙が触れようかという時に、その体は水晶ごと木っ端微塵に砕け散った。生命の巫女と言えど、相手に手をかけることがあるのだ。多くの無垢なる命を守るためならば。

 

「輪廻を廻り、今度は綺麗な魂として戻って来なさい」

 

シリル対イブリス。勝者シリル!



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第39の唄 古代都市の上を目指して

どうもです。今回は少し文字数少なめですが、それでもよろしければどうぞ。


「すごい!私も負けられないね!」

「そんな……イブリス……私を置いて逝ってしまうなんて。絶対許さないわよ、生命の巫女!あの『フヨウ村の壊滅』同様、消し去ってやるわ!」

 

愛する弟を失い、平静を装うことすら出来ないほどに我を忘れる。

 

「まずは貴女からよ!『四元素の人形劇』よ、その女を切り刻め!」

「お姉ちゃんたちには手ェ出させないよ。略式詠唱『神の啓示書3の6・鬼門!ショックウェーブ』!」

 

修行の成果か、数字の低い啓示書なら詠唱を略して唱えることが出来るようになり、囲う人形どもを闇に飲み込み、破壊し尽くす。

 

『ギャオー!!』

「いいとこに来た!『波乗りの型』!」

「何よあれ、破天荒すぎるわ」

「一気にGO!『シャドーバイク』!」

 

水の魔獣に跨り、一気に詰め寄り、ガードの上からカスピエルを張り倒し、喉輪を蹴って水面を横滑りしながらダメージを与えていく。

 

「ひゃっほう!」

「げほっ、ごほっ!野蛮な女ね。『水上の太刀』!」

「よっ、はっ!」

「(舞った!?剣を踏んで飛ぶなんて……)」

「『淵黒握』、シュート!」

 

太陽を背にした少女の拳が顔面にあたり、上を見上げていたカスピエルはそのまま全身を川に叩きつけられ、後頭部が岩にあたり、還らぬ人になった。

 

「私の拳は痛いよ」

「流石ねユリア、私の知らないところで強くなってるんだもの」

「これでこっちは片付いたし、ルーシィ姉ちゃんもどうにかしたみたいだね。ねぇ、1つ聞いていい?」

「何かしら?」

「さっきの敵、『フヨウ村の壊滅』って言ってたんだけど、知ってる?」

 

何気ない質問をしたつもりだった。気になる事を言っていたのだ、それを知っていれば聞こうと思ってのことだ。

 

「……確かにその村の壊滅は知ってる。でも今はその事を話せないわ、どうしても、誰にもね」

「そっか、でもいつかは話してよね!」

「ありがとう。その心だけで私は救われるわ」

 

少し難しい顔をしていたシリルは束の間の笑顔を見せる。その時、一際大きな揺れが起きて森を揺さぶる。

 

「揺れが……」

「お姉ちゃん、あれ!」

「黒から白になってるわね。もしかしてこれって……」

「段階が進んだんだ、より一層精神への干渉力が上がったと思ってくれ」

 

腕を負傷したヒビキが説明をしてくれた数段階あるうちの二段階目があの白い光の柱だという。しかもあそこまで行けば本体のニルヴァーナ出現までそう遠くない。

 

「ルーシィくんはもう既に動いてくれてる。僕らも出よう」

「そうですね。(フヨウ村……私の産まれた村を壊滅させたのはあいつら、ね。今はそれしか分からない、だからこそいつか……)」

「(お姉ちゃん……難しい顔してる。よし、私が頑張らなきゃ!)」

 

ニルヴァーナをこれ以上復活させてはならない。それぞれのやるべきことのため、ただひたすらに突き進む。

 

====

 

「ふふふ、これで万端。出でよ、ニルヴァーナ!白を黒に変え、それを正義へと塗り替えよ!」

「やらせん!」

「邪魔させねえぜ。いけ、キュベリオス」

「くっ!」

 

毒蛇の脅威を身を以て知っている彼女が避けている隙にニルヴァーナが地中から姿を見せる。直近にいた彼女とジェラールは空に浮かばされながらも手を取り合い、脚柱にしがみつく。

 

「捕まれ、ジェラール!」

「エルザ!」

 

離れた森を突き進むシリルとユリアも顕現を視認し、空を舞う。

 

「あれがニルヴァーナ……ユリア、飛ぶわよ!」

「アイアイサー!」

 

味方になった天眼ホットアイとジュラも柱を登り、側面から上を目指す。

 

「ジュラさん、気をつけるデスネ!」

「うむ!」

 

ニルヴァーナが姿を現し、本性に赴くままに動く中、希望を携えた者たちはそれを破壊するために乗り込んでいく。未来を変えてみせるために。地上に残った連合のメンバーはそれぞれヒビキの指示により、ある計画を実行するために1箇所に集まる。

 

「みんな乗り込み始めたよ!僕の指示に従ってクリスティーナの墜落地点まで急行してくれ!」

「了解した」

 

====

 

「これがニルヴァーナか。まさかこんな古代都市があったなんてな」

「この魔法はかつてニルビット族が作り上げた善悪反転魔法だ。これさえあれば我らの目的も成就出来よう」

「で、どこに向かうんだ?」

「ニルビット族末裔のギルド、『化け猫の宿(ケットシェルター)』だ」

 

コブラとブレインは古代都市を操り、目的の障害を封印するため、歩みを進める。



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第40の唄 善悪の狭間で戦え

二週間近く空いて申し訳ないです。お久しぶりです。
次は一気にゼロ戦になるかと。


「ニルビット族?なんだそれは?」

「このニルヴァーナを創り上げた一族であり、封印する術を持つ忌まわしい奴らよ」

「成る程な、そいつらを片づけりゃあこの魔法も封印されなくて済むって訳か」

 

創造者なら操り方から封印法、破壊の仕方も熟知してておかしくないし、そのような者たちが居たら計画も瓦解しかねない。一番最初に狙うべきはそこになる。

 

「進もう。この都市は我らの根城となる!」

 

進路を『化け猫の宿』へ。本格的に起動した瞬間、空から奇襲が起こる。ナツだ。

 

「俺が止めてヤラァ!」

「こいつは……!コブラ!」

「おうよ!キュベリオス、飛べ!」

「なっ!?あの蛇、飛べんのかよ!」

「テメェはここで止めてやる」

 

羽の生えたキュベリオスに乗るコブラと相対するナツ。自分の体質上地面に降りれないことから、空中で拳を交えることとなる。

 

====

 

「着いた」

「ここが、ニルヴァーナ……まるで国のようね」

「でも誰も居ないよ?」

「封印される前のものがそのまま残ってたのかしら?」

 

シリルとユリアがたどり着いたのは旧都西部。長年の間使われていなかったのか、朽ちかけた建物が多い。この都市の中にあと数人は敵が残っているのだ。動かなければ何も始まらない。

 

「シリル、ユリア!無事か!」

「グレイ兄さん、ルーシィ姉さん!ジュラさんも!」

「あれ?四角い人敵じゃなかったっけ?」

「今は味方だ、ニルヴァーナの影響でな」

「愛、ラブこそ至高!」

「すごい変貌ぶりですね」

 

追いついてきたグレイたちと共に来たのはホットアイだが、かなりの変貌ぶりに少しばかり引いてしまう。

 

「……まぁ、敵対する気がないならこれでも良いでしょう。この後は?」

「この魔法を止める方法、あるいは破壊法を探らねばな」

「あの塔のてっぺん怪しくねえか?」

「目立ってるね」

 

グレイが指差した方にはたしかに怪しげな塔が聳えたち、威圧する。その塔の天辺には何か操縦する方法が見つかるかもしれない。もしかしたら敵がいるかもしれないが、その敵を倒せば何か聞き出せる可能性がある。目指して損はないだろう。だが、それを止めるようにやって来たのはミッドナイトだ。

 

「まさか本当に裏切るなんてね、ホットアイ」

「私は自分の心に従ったまでデスネ。貴方も心を入れ替えるべきデス。そうすれば見える世界も変わりマスデスネ!」

「軟弱になったね。ここで消し去る」

「皆さん、塔に向かうのデス!ミッドナイトは私が相手します!」

 

まさかの同士討ちが始まる。ジュラが心配そうに声をかけるが、自分の本名を告げると共に、無事に戻ることを告げて先を急かす。

 

「ジュラさん!ここはホットアイ、いえ、リチャードさんに任せましょう!」

「うむ。ここで彼の心遣いを無駄にしてはいかんな」

 

それぞれの思う未来のために、2つの祈りは戦いを決意する。

 

「君が挑んでくるなんてよっぽどだね」

「私も変わったのデス。行きますヨ!」

「落ちぶれたね、君も」

 

====

 

「どうやら傘下ギルドのようだ」

「囲まれちゃったかしら?不味いわね」

「こういう時にやることと言えば1つじゃないですか、ルーシィ姉さん」

「だな。ぶっ飛ばす!」

 

リチャードと別れ、塔に向かう一行を取り囲んだのは『流れる七星』の傘下ギルドだ。どうやら空を飛ぶ術を持ち合わせていたらしく、上空から現れた敵に囲まれる。

 

「よくもイブリス様とカスピエル様を!敵討ちじゃあ!」

「Shoot...」

「えっ?ブベラッ!」

「よ、よくも同士を……かかれぇ!」

「手伝うぜ。アイスメイク・ランス!」

 

どうやらあの2人の堕天使の直接の配下らしく、激昂しながらやってくる野郎どもをチーム力を持って撃墜していく。聖十のジュラもさすがと言うべきか、傷一つ負うことなく全員を蹴散らす。

 

「ふん!」

「グハァッ!」

「こいつらには聞きたい事が。先に塔へ」

「シリル、もしかして……」

「ええ、そういうことです。行ってください」

 

少し切り傷ができたものの、大方片付き、皆を先に行かせる。その後ろ姿が見えなくなったところで意識の残っていた男を問い詰める。

 

「十五年前の『フヨウ村の惨劇』を知ってます?」

「な、何のことかねぇ……」

「惚けても無駄よ。これ以上傷を増やしたくなかったら素直に答えなさい」

「くっ……俺たちは頼まれただけなんだ、イブリス様によ。とある魔法の詰まった箱を運べと」

 

観念したのか、滔々と語り始めた。曰く、あの日、堕天使どもに頼まれて箱を運び、開封するようにと。その中には病原菌に似た魔法が詰められており、あの日の悲劇の原因となるものが拡散されたこと。それを直前まで聞かされておらず、なぜあの村を狙ったのかは聞いていないこと。

 

「そうですか。分かりました、貴方はこのままにしておきましょう。本当なら色々と吐かせたい気持ちがありますが、私にもやることがあるのでね」

「まさかあの村に子供が居たなんて……今更だけど、本当にすまねぇ」

「ふん。その言葉、信じますよ……今からでも真っ当な生活を送りなさいな」

 

その場を立ち去り、皆に追いつくために駆け出した。その先にある絶望を知らずに。



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第41の唄 ゼロと作戦

シリルがあまり戦闘できてなかったので無理やりねじ込みました。
進行的に少し原作と流れが違いますが、ご容赦を。


「なんか大きな咆哮が……ナツ兄さんでしょうか」

 

ニルヴァーナ全体を揺るがす獣のような咆哮に何故か勝利を確信する。あのナツだ、負けるはずもないだろう。そう信じて塔に向かっていると、何故かエルザと倒れたジェラール、気絶したミッドナイトに出くわす。

 

「姉さん!」

「大丈夫か?こちらも今しがた敵を倒したんだ」

「良かったです……」

「塔の方で爆発があったが、何か知ってるか?」

「兄さんたちやジュラさんが向かいましたが……」

「まさかな」

「少し様子を見てきます!」

「おい!まったく……」

 

居ても立っても居られないとばかりにエルザとの話を切り上げ、全速力で塔まで向かう。すると、そこから出てくるのは六魔に居なかったはずの色白の大男だ。

 

「ほう、まだ生き残りが居たか。丁度いい」

「貴方は何者です?敵、で間違いなさそうですが」

「これから死ぬってのに……俺はゼロ、このギルドの真のマスターさ。あの坊主、俺のもう1人の人格によくやってくれやがって」

 

六魔のマスターと名乗る男、ゼロ。後ろをむけば、倒され、傷だらけの仲間たちが眼に映る。間違いない、目の前の男がやったのだ。

 

「よくもみんなを……」

「テメエもあいつらの仲間ってんなら、ぶっ壊してくれる!」

「『生命神の剛拳』!」

「緩いな。はあっ!」

「ぐっ!」

「まだまだこれからだろうが!『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)』!」

 

ジュラの岩鉄壁さえも貫く魔法がすぐさまに追い打ちをかけ、壁に打ち付けられた少女の肩にいとも容易く穴を開けていく。

 

「(か、肩が射抜かれるなんて。分身を出す前に撃たれるとは……)」

「ははは!まだぶっ壊れてねえだろうが!」

「言ってくれますね。『血縛鎖牢』!」

「何だ、この程度か?ふん!」

 

痛くも痒くも無いと言わんばかりに片腕をひねれば、神の鎖をも引きちぎってみせる。

 

「『生命神の一声』!」

「ぐっ……ふむ。俺に傷を付けるたぁ他の連中より骨がありやがるな」

「伊達に修羅場は潜り抜けてないんで」

「ふふふ、フハハハハ!抜かしやがる!『常闇奇想曲(ダークカプリチオ)』!」

「同じ手は食いませんよ」

「どうかな?」

 

ただ岩を貫いて削る怪光線ではなかった。真横を通り過ぎたはずの魔法は下から出てシリルの身体に傷をつけ続ける。しかも変幻自在に曲がりうねって、連打を浴びせてくる。

 

「ぐっ、うあっ!」

「テメエは確かに他の奴らとは違ぇみてえだがそれもここまでだ!沈め!」

「『ディオ・アモーレ』!」

「なっ!?がっはぁ!」

 

防戦一方になっていた彼女に油断していたのか、ジュピターと相打ちになった大魔法がかすった程度とは言え、ナツたちを一方的に打ちのめしたゼロを吹き飛ばした。

 

「一矢……報いましたか」

「何だよ、面白くねえな。ちっ」

 

だが、あまりにも傷が出来すぎた為に一発を放つのがやっと。魔力の急激な消費と出血により、前のめりに倒れたシリルに興が削がれたのか、目的のために多少の破壊をするのも躊躇われ、またしても王の間に向かうべく去っていってしまう。

 

「結局俺の破壊衝動に耐えられたやつなどいなかったな。あの『化け猫の宿』も今の俺の前に屈する」

 

王の間から見下ろす先にはウェンディとシャルルのギルドが肉眼で捉えられる位置にあった。かつてこのニルヴァーナを作り上げた一族の末裔の暮らすギルドだが、ゼロからすれば潰すだけのただの的だ。

 

「今こそ完全に破壊し尽くしてやる!ニルヴァーナの魔導砲、とくと見よ!発射だ!」

 

無慈悲なる号令が下され、前方から唸りが響き、ゼロの高笑いとともに撃ち放たれようとしている。

 

光は闇に屈すると思われた瞬間、砲撃は狙いを外して上に逸れてしまう。有り得ない光景にゼロがイラついた顔を振ってみると、空には撃墜されたはずのクリスティーナがそこにあった。地上に残ったメンバーが応急処置を施し、それぞれの魔法を持ってなんとか浮かせていたのだ。

 

『みんな、無事かい!?』

「ヒビキか!私とウェンディ、シャルルは無事だ」

『良かった、居るんだね!実はニルヴァーナの破壊方法が分かったんだ。今のはイヴの雪魔法を混ぜた一発なんだけど、これ以上は飛行も迫撃砲も無理なんだ』

「何かあるのか!?なんでも良い!『化け猫の宿』が狙われてる、急いでくれ!」

『それは、今伝える』

 

ヒビキの魔法、『古文書』を遡ってみたらニルヴァーナに関する情報に行き着いたのだ。そこに記されている限りでは、古代都市を動かして支えている脚の内部にラクリマがあり、そこを同時に破壊することで一気に崩壊を招くことが出来るそうだ。

 

『脚は全てで8つ!分散して1人一脚に当たって欲しい!』

「ご、ごめんなさい。私、破壊魔法なんて持ってなくて……」

「それなら…」

「ここには2人いる。もう1人私のそばに魔法を扱える奴がいる」

 

『それなら私にお任せください、メェーン』

 

念話を通して志願したのはいつの間にかこの都市に入り込んだ一夜だ。彼の持つ香り(パルファム)には筋力増強用のがあり、今回の任務にはうってつけだ。

 

「あとは5人だ!誰か、誰か返信してくれ!」

『それは無理って話だよ。ちょいとハッキングさせてもらって聞いてりゃあ物騒なことを言ってくれてよ』

 

念話を突然ジャックされ、皆にゼロの声が聞こえてくる。彼が何を言うのか、皆が警戒しながら聞いていると、思わぬ凶報がもたらされる。

 

『今しがた火竜、星霊使い、氷の造形士、生命と冥府の巫女を倒してきたところでな。更に俺はラクリマの真ん前にいる、人数が揃っても無駄なんだよ!はははははっ!』

「ナツたちを……念話が切れたか」

『不味いね。このままでは人数が居ないよ!』

 

そう、この作戦に参加している人数から倒された5人とクリスティーナに乗る人数、そして応答した人間から計算した結果、8本ある脚に向かえる人数に足りないことが判明する。だが、ここでやられっぱなしのままじゃないはず、必ず皆の声に応えてくれるはず。祈るように呼びかける。

 

「ナツ、答えてくれ。お前なら……」

「ユリアちゃん。立って、声を聞かせて」

『グレイ、お前は誇り高きウルの弟子だ。ここで屈するような教え方はされてないはずだ。立て、立つんだ。今こそウルの教えを実践する時だろ』

『私、ルーシィなんて嫌いですわ。でも、今ここで死なれたら嫌みも言えませんわ。だから、早く答えなさいな』

『みんなが期待している。聞こえているよね?』

 

 

「ああ、聞こえてる!」

「私は……守るもののため、このままでは死ねない!」

 

仲間の声が力を分け与えてくれる。ゼロに墜とされた妖精たちは再び立ち上がる。



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第42の唄 喪失の紅

今回は一気にジェラールの逮捕まで書き切りました。次回はニルビット族の最期を書いてせいぜい後2話くらいでこの章を終わらせます


「聞こえてる。大丈夫だ」

『良かった、一時はどうなるかと……』

「とりあえず、その脚の部分に行けば良いのね?」

「そしてラクリマをぶっ壊すんだな?」

 

もう残り少ない絞りかすほどの根気と根性を捻り出し、どうにか立ち上がる。魔法も尽きかけ、体の力も弱々しいのに、大事なものを守りたいという使命感が彼らを突き動かす。

 

『僕の魔法もあと少ししか持たなそうだ。マップを送る、今のうちに行くラクリマを決めてくれ』

「っ!マップが勝手に……すごい」

「俺は一番に行く!」

「私は七番に行きます」

「私8ね!」

 

次々と行くべきラクリマを定めていく。口を挟みそうになったジェラールの行く先をエルザが制する形で指示をし、それぞれの行くべきラクリマへと散っていく。

 

====

 

『シリル……貴女は今、力も志も仲間も手に入れた。では、それを失った者を見て貴女はどう動くのでしょうか?これは、ある意味試練の1つ』

 

聖なる祠に神霊体として聳える生命神は静かに語る。人は失う悲しみを知って強くなるか、はたまたそこで歩みを止めるか。その岐路に今から飛び込もうとしている愛娘を静かに見守るしか出来ないが、これも人のために生きる神として大事なことだ。

 

『さあ、貴女の魂の高潔さ、見せる時が来ます。怯まず弛まず、示し続けなさい。私の愛する子よ』

 

====

 

「ここが、七番ラクリマ……無茶するなんて、私らしくもない」

 

力も使って少なく、傷だらけになっている今、やってくるのだけでもかなり負担になっている。ついつい自虐的な言葉を紡いでしまうが、今はそんな余裕もない。8個のラクリマを同時に破壊せねばならない今、頭に残るタイマーが唯一の合わせる方法となる。

 

「私は、この力を今使わずしていつ使うっての。困ってる人がいるならやるしかない」

 

握りこぶしを作り、静かにその時が来るのを待っていると、ゾワリ、と背中に悪寒が走って嫌な汗が噴き出す。入り口に待ち構えていたのは怨霊にも化け物にも似た恐ろしい異形のモノだった。

 

『オゴ、アガガ……ブリュリャヒェア!』

「なんなのよ、こんな時に。しかも何よこれ」

『グゲガガ…ワレニ生キ血ヲ与エヨ。魂ヲ捧ゲヨ』

「何を言うのかしら?この化け物」

『ワレニ捧ゲラレシ命、コノニルヴァーナ二眠ル同胞ノタメ……グギャラバァ!!』

 

その異形のモノは自分がニルヴァーナに堆積された怨念の集合体であり、兵器だと語り、魂と生き血を欲する。全ては死んでいった者や善悪に翻弄された者たちの為に。

 

「もう、身勝手な奴ね。浄化するわ」

『グッギャオン!』

 

真っ直ぐに、かつ荒れ狂いながらやってくるニルヴァーナの亡霊をいなし、数少ない魔力を効率よく当てていく。大技が出しにくい今は繋いで倒すしかない。

 

「せぇい!やっ、はっ!『気功蓮華』!」

 

連撃に次ぐ連撃が少しずつ亡霊を引き剥がしていく。亡霊を吐き、剥がし、少しずつ動きが鈍る中でも闘争心まではひきはなすことはできず、シリルと後ろにある壁を吹き飛ばしていく。

 

「(足場ごと崩すなんて……でも!)『血縛鎖牢』!」

 

外へと弾き出された体を引き戻すためにフックショットの要領で、外と内を繋ぐ穴に鎖を引っ掛ける。追い討ちをかけてくる化け物を元いた位置に戻す強烈な蹴りを浴びせ、再びラクリマの前で相対する。

 

『ナゼワレヲ邪魔スル。人間ハ難シイ』

「貴方のしようとすることはただの破壊よ。私は生きる人間の味方をしたいから、貴方を止める」

『分カラヌ』

「でしょうね。(さて、あと2分強しかない今、このまま冗長な戦い方をしていては間に合わない。それじゃあ、なりふり構わず無理をしましょうか!)『生命神の剛拳』!」

 

後で動けなくなることなど、いま気にしてはいれられない。遮二無二突き進むのみ、そう心に決め、大技を繰り出していく。

 

「『気烈胴廻脚』!」

『グゲラッ!ジャカアシイワイ!』

「もう貴方のあるべき場所はこの娑婆にはない!消え去りなさい!」

 

派手に亡霊が消えていき、当初に比べてかなり小さくなっていく。この化け物はニルヴァーナと一心同体であるから、本体と共に浄化できる。

 

「『気功掌』!」

 

投げ飛ばした先にあるラクリマに大きな気の弾丸を打ち込み、ゼロ秒丁度に破壊した。皆も同じように破壊できたようで、大きな揺れと共に瓦解していく。瓦礫が落ちてくる中、少しずつ消えていく化け物を見送ろうと、膝をつきながら語りかける。

 

「これで終わりです」

『ワレハ、ワレハヨウヤク解放サレルカ。アリガトウ』

「それは重畳。(やっと終わった……でももう動けそうにない)」

『セメテモノ礼ダ、外ニ飛バソウ。サラバダ、生命ノ巫女ヨ、オマエノオ陰デ輪廻ヲ巡レル』

「な、何をっ!きゃあ!」

 

最期の力を振り絞ったのだろう、先ほど開けた穴からシリルを投げ飛ばし、笑みを浮かべて完全に消え去った。

 

『我々はとうに死んだ身、今ここで浮世の縛りを解いてもらえた。有難う、あとは頼みます』

 

====

 

「まさか無事に戻ってこれるなんて……」

「お姉ちゃん大丈夫?木に引っかかってたから」

「歩けそうにないわ」

「私が背負うよ。よいしょっと。ほら、みんなあそこに……」

 

ラクリマに向かった皆もほぼ無事で、出てきていないのはナツとジェラールだ。

 

「シリル達が無事ってことは後はナツだけだな」

「(ナツ、ジェラール……戻ってこい。何をしている)」

「それなら、心配には及びまセン。私が助けましたデス」

「うわぁ!あれ?この人……」

「リチャード殿!ご無事で何より!」

 

地面が軟化して、穴を開けて出てきたのはホットアイもといリチャードだ。どうやら気絶状態から復帰し、ジェラールとナツの救助をしてくれたらしい。これで全員無事、仕事もこなして何もかもが円満に終わる。そのように思えた。しかし……

 

「みなさん、そこを動かないように。ああ、脱出しようにも術式の魔法陣を敷いてありますので無用な策は弄さないように」

「評議員!?つーかもう評議会復活したのか!?」

「これはどういうつもりですか?ラハールさん」

「申し訳ありません、生命の巫女殿。今回我々新生評議会は悪の根絶を目指してまして……他の者は捕らえました、そこにいる天眼ホットアイをこちらに差し出していただきたいのです」

 

強行検束部隊長ラハールの任務はオラシオンセイス捕縛であり、他のメンバーは捕獲済みなのだ。これに関しては絶対に譲れないとばかりに眼鏡を光らせる。

 

「お待ちください!この方は確かに悪事を働きましたが……」

「その通りだ!どうにかならぬか隊長殿」

「情状酌量はこちらで決める事。いくら恩あるお2人の言葉とて今回ばかりは聞き入れられません」

「良いのデス、シリルさん、ジュラさん。確かに悪事を働き、禊ぐことのできない程に重ねましたデス。ならばせめて……」

「そうか。ならば我らで出来ることをしよう。言ってみよ」

「それならば、生き別れの弟を探して欲しいのデスネ。名はウォーリー、ウォーリー・ブキャナンデス」

 

その名に何人かは思い当たる節がある。そう、楽園の塔の一件以来友人となった四角いダンディな男の名前だ。彼が今、別の友人とともに大陸中を元気に旅していることを告げると、リチャードの目から大粒の涙が溢れる。

 

「ああ、これが光を信じる者に与えられた奇跡か。ありがとう、これで私は心置きなく罪を償いに行ける。ありがとう……ありがとう!」

 

====

 

「なんか寂しい背中ね」

「仕方ねえさ。罪を丸ごと消せるなんてことは出来やしねえさ」

「生命の力の1つ、それが反省して次に罪を重ねないための努力ですから。ラハール隊長、そろそろ術式を解いても良いのでは!?」

 

リチャードを見送り、ラハールに目線を送るが、静かに頭を横に振られた。まだ用は済んでいないようだ。

 

「確かにオラシオンセイス捕縛に協力なさってくださったこと感謝しますが、我々の本命は彼らにあらず」

「私たちの捕縛をすると?意味がなさそうですが」

「いえ、貴女方ではありません。そこにいる男、旧評議会の崩壊を招いた大罪人。お前のことだジェラール!我々の縄に大人しくつくことだ!」

 

それも彼らの理だ、死んだに思えた男が目の前にいる。それを捕らえる好機はこれ以降でないだろう。

 

「待ちなさいな、彼の記憶はほぼ無い。捕らえたところでどう捜査するのです?」

「彼の体内にあるエーテルナノ濃度はあのエーテリオンを喰らった影響が確認できましたので。前に見せましたね、この魔力判定機?」

「いくら貴方とはいえ、記憶喪失の人間を死刑、なんてことは言いませんよね?」

「いえ、間違いなくそうなるでしょう。良くても終身刑や無期懲役止まり。残りの一生を牢の中なのは間違いありません」

「もういい、シリル。俺はそれだけの罪を重ねたんだろう。せめて最後は潔くさせてくれ」

 

まるで死を受け入れるかのような言葉に、仲間のことを思ってか、生命の巫女として逆鱗に触れたのか、しばらく湧かなかった怒りが頭を埋め尽くす。

 

「……貴方はそんなので良いんですか!!せっかくエルザ姉さんと会えたというのに、こんな結末で!!死ねば終わるなんて甘えを言わないでください、この後彼女がどんな十字架を背負うことになるか!」

「それ以上は言うなシリル!私は構わない、それさえも背負って前に進もう。済まないが彼を……連れて行ってくれ……」

 

遮ったのはエルザ自身の涙に震える声だった。もう出会えないと思っていた最愛の男とこうして話して手を触れられただけでも自分にとっては嬉しかった。決してこの別れが最後だと思いたくない心もあったが、ここで弱さを見せたくない。

 

「ありがとうエルザ……そうだ、お前の髪の色だ」

「っ!?」

「最後に思い出せたよ、綺麗な『紅髪(スカーレット)』の由来を。さらばだ、もう出会うことは叶わないだろうけど……」

「あ、ああ……」

 

その日、日暮れに照らされた綺麗な紅髪を持つ女性は涙にくれた。最愛の人の出会いと喪失、もはや叶わないかもしれない愛を知り、孤独な雫が大地に降りたのだった。



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第43の唄 涙の別れ

仕事は終わった。心身に大きな傷を負った者もいたが、概ね問題もなくニルビット族の村まで戻ってこれたのだ。

 

「うわぁ、この着物かわいい!」

「これはニルビット族に伝わる織物です。気に入ってもらえてよかったです」

「そういえばシリルさんはどちらに?今朝から見かけませんわ」

「マスターが用があるってどこかに行ったわ」

 

ニルビット族特有の召しものに袖を通している女性陣がいる一方でシリルは1人、静かな丘で独白を続けていた。最後は仲間のエルザの心を救うことが出来なかった。それが自分の弱さなのだろうか、これが試練なのだろうかと。

 

「正直私も状況が整理しきれてない。犯人が分かってもこれからどう立ち直れば……お父さん、お母さん、生命神よ……私はまだ弱い。今の私には何ができると言うの?」

 

心にできた鎖が思考を暗く落とす中、草を踏み分ける音と共に『化け猫の宿(ケットシェルター)』マスターのローバウルが心配そうに声をかけてきてくれた。

 

「……ここにおいででしたか?お時間がよろしければ、なぶら少しばかりよろしいですかな?」

「マスター・ローバウルですか。何でしょう?」

「これから皆さんにお話しすることがあるのですが、貴女にだけ先になぶら伝えておきたく存じましてな」

 

それはギルドの秘密、彼自身の秘密、そしてニルヴァーナの誕生の経緯だった。とても重く、悲しい歴史の爪痕。

 

「……ということです。どうか、ウェンディとシャルルを頼みます。なぶらこの通り!」

「頭をあげてください……貴殿のおかげで私にも決心がつきました」

「そうですか。なぶらありがとう。ささ、どうぞ村まで来てくだされ。新しいお召し物を用意してますので」

「お邪魔します」

 

====

 

「さて、皆様に集まっていただいたのは他にもございません。あのニルヴァーナと我々ニルビット族の事です。今まで黙っていて申し訳ない」

「良いっての。俺らはどこの誰だろうと味方なら深く詮索しねえよ。なぁ?」

「あい!その通り!」

「しかし、この事は例えどんなことがあろうと言わねばなりません。先に巫女殿には伝えましたが、我々はニルビット族の末裔にあらず、四百年前に滅んだニルビット族そのもの、つまりは亡霊なのです」

 

その言葉は皆を驚愕させるのには十分で、ウェンディに至っては信じたくないと言わんばかりの表情だ。当たり前だ、家族同然に仲良く暮らしていた身近な人々が死んでいたなどとは到底信じられまい。

 

「ニルヴァーナは我ら一族の暮らしていた国。されど、過去の大戦で溜め込まれた厄は必ずしも良面にばかりは作用しない。ニルヴァーナの反転魔法は我々に降りかかり、ワシ以外の村人全員が亡くなってもうた。当然ワシも人間、永き時を生きられない。亡霊となり、この世にとどまってあの魔法を壊せる者を密かに待っていた」

「そんな、そんなこと信じたくは……」

「そして、心が荒ぶワシの元に姿を現したのは青髪の青年。そこにおるウェンディを置いてな。それがこのギルドの始まりでもあった」

「1人のためのギルド、なのね?」

 

生きる希望を与えられ、ギルドのメンバーを自身に残された残留魔法により、実体を持つ亡霊を作り上げたのだ。

 

「やめてマスター!そんな話聞きたくない!みんな消えないで!」

「ワシの役目もここまで、ようやく肩の荷が下りた」

 

静かに語る言葉の最中、次々に周りにいた男女たちが笑みを浮かべながら消えていく。

 

「なんて魔力だ、これだけの数の自己を作り上げるとは!」

「並大抵ではない……」

「やだ、消えないで!私を1人にしないでよ!」

 

悲痛な少女の悲鳴も虚しく、触れようとする手は虚空を切るばかり。マスター・ローバウルも少しずつ光に包まれ始める。

 

「お前はもう1人ではない。そうだろう?後ろを見なさい、そこには君の新しい道を示してくれる同胞、友がいるではないか。これからの未来は広く明るいものにしなさい。皆さん、この子らをなぶらよろしく頼みます」

「マスター、マスターー!!!うわぁああぁ!」

 

最後に最愛の父の代わりであり、何よりもかけがえのない存在が消えてしまう。ウェンディの涙に濡れた痛ましい姿に誰も声がかけられない。

 

「ウェンディ。悲しい別れは仲間が埋めてくれる、どんなに重く辛い過去でも皆となら分かち合える」

「親を、親愛なる家族をなくす悲しみ、私にも分かる。私たち皆、貴女の隣に立ち、貴女の手を引き背を押しながら共に歩む」

「だから、来い。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』へ」

 

それは暖かな手による導きは新天地への(いざな)いに他ならない。その手を取り、新たな竜はその翼に雲を得ようとしていた。

 

====

 

「ここで皆別れ、それぞれのギルドに戻るわけですな。マスターマカロフによろしく」

「またお会いしましょう、皆さんのパルファムはどんな時でも忘れません、メェーン」

「どんなに離れていようと私たちは同じ仕事で築いた絆がある。またいつか……」

 

それぞれのギルドに帰り、各々仕事をして過ごす平穏な日々が戻ってくる。港に戻る船の上で、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の面々は新しくウェンディとシャルルを迎え、ギルドに戻っていく。

 

「ねえお姉ちゃん、そろそろ話してくれる?」

「……ええ。フヨウ村は私の生まれた村の名前よ。堕天使たちはそこを狙って壊していったみたい。そこの人間は神の力を授かる神聖な場所だったから、それを狙って……だと思う」

「酷い。そんなことするなんて」

「だからこれ以上辛い思いをする人を増やしたくない。今はそう思うの。ユリア、貴女とウェンディたちが私に力をくれたのよ」

 

今は後ろを向いている場合ではない。ユリアやみんなが背中に寄り添ってくれるなら真っ直ぐ前を向いて戦えるのだから。その覚悟を少し芽生えさせ、ようやくギルドに戻ってこれた。皆新しいメンバーを素直に受け入れ、ドラゴンスレイヤーであろうと、どんな魔法を持っていようとも、ウェンディたちの素直さの前には些細なことのようだった。皆歌い、笑い、喜んだ。

 

「本当に来て良かった。ね、シャルル?」

「そうね、騒がしいけど、これで寂しい思いはせずに済みそうだわ」

 

====

 

「新しいギルドはどう?もう慣れた?」

「はい!楽しいです!そういえばルーシィさんやシリルさんたちは女子寮じゃないんですね」

「お金がないのよ、少なくとも私は。それに存在自体最近知ったしね」

「女子寮なら確かにギルドに近いんだけど、色々巫女の仕事をがね。家に戻らない時もあるし」

 

楽しい時が過ぎるのは早いもので、ウェンディたちがギルドに加入してから一週間が経とうとしていた。新たな仲間に新たな環境は二人にとって快適なものだったらしく、もう既に馴染み始めていた。そんな折に数年ぶりとなる鐘の鳴り方が街を包む。

 

「なんなのこの鐘、いつもの時報と違うわね」

「そういえば……私も初耳ですね」

「知らないのも無理ないわ、だってこの鐘の鳴らし方はギルダーツが帰って来た時だけだし。しかも前は三年近く前のことだもの」

「三年も!?何してたんですかその人!」

「仕事よ。S級の遥か先にある高み、『百年クエスト』よ。100年間誰も達成できていないから百年クエストね」

 

その任務に当たっていたギルド最強と謳われる男ギルダーツはその任務に時間を費やしており、帰ってくるのも年単位である。しかも街を歩く際には彼の魔法『クラッシュ』の被害を受けないために改良しており、ふらっと歩く癖のある彼専用の変形『ギルダーツシフト』として街の入り口からギルドまで一本の道を作るのだ。ただのアホではないかとシャルルが突っ込んでいたが。そして彼が姿を見せ始めるとギルドメンバー総出で出迎える辺り、かなり慕われているのは間違いない。

 

「ふぃ〜、ようやっと戻れたか?」

「お帰りなさい。お疲れ様でした」

「この人がギルダーツ……」

「あれ?ここフェアリーテイルで間違ってねえよなお嬢ちゃん。お前さん誰だ?」

「ミラよ。三年前とギルドも私も様変わりしてるから分からないのかしら?」

「あん?おお、ミラか!かなり変わったな!いやぁ新しいメンバーもいるし、分からなかったぜ!」

「どんだけよ?すぐ気づかないなんて」

 

これはシャルルの言う通りかもと少し抜けた感じのギルダーツへの第一印象がルーシィの中で固まりつつある。

 

「よく戻ってきてくれたな、ギルダーツ。して、首尾は?」

「いやぁ、はっはっはっ!すまねぇ失敗だ、俺にゃあ荷が重すぎた」

「「なにぃ!?」」

「あのギルダーツが失敗!?」

「どんな仕事なのかしら、百年クエストって」

 

ギルド最強をもってしても失敗するような超難関クエスト。その凄まじさが伝わる一言にギルド内も驚きを隠せない。

 

「そうか、お主をもってしてもダメじゃったか」

「悪いな。ギルドの面を汚してしまってよ」

「そんな些細な事はどうでも良い。むしろ生きて戻ってこれただけでも余りあるほどに儲けものじゃ。ようやってくれた、しばらく休暇を取ってくれい」

「すまねぇ、そうさせてもらうわ。ひぃ〜、疲れた疲れた。ナツ、お前にお土産がある。喧嘩ならそこでやろうや、じゃあ失礼」

「壁壊すなよ!出入り口から出てくれよ!」

 

最強の男が去ったギルドは任務失敗のことでてんやわんやしており、所々で喧喧諤諤の議論に熱中するものも居るにはいたが、普段通りの時間が流れていた。だが、突然の来訪者が暫くしてから秋の空に訪れることをまだ誰も知らない。



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第6章 welcome to lost world エドラス編 第44の唄 高く飛べ、高く唄え

「♪〜♪〜〜」

「綺麗な歌声ね」

「シリルに歌のセンスあったんだ。もう半年近い付き合いだけど知らなかったな」

「あまり歌わないから仕方ないよ。まぁ、雨の日にはもってこいだね」

 

秋雨前線の到来によりこの日は一日雨が予想され、その通り昼過ぎになっても止むどころかどんどん強まってきている。ギルドでのんべんだらりとする者が多く、仕事などに行く気はなさそうだ。暇を持て余した皆のためとシリルはステージの方で歌を披露するなど思い思いに過ごしている。

 

「あーあ、雨さえなきゃ仕事行ったのにな〜」

「そうねぇ」

「おーい姉ちゃん、そろそろ行くぞ〜」

「はいはい。じゃあ少し用事を済ませてくるわね」

 

シリルの歌が響く中、ミラはエルフマンを連れて雨の日に出かけていく。ユリアもルーシィもなんでこんな日になどと考えていると、愛しの彼氏(大好きな樽酒)を抱えたカナがやってきて大まかに説明してくれた。二年前に彼ら二人の末妹リサーナが仕事での事故で亡くなったこと、ミラがそれにショックを受けたこと、今日がリサーナの命日であること。生きていればルーシィやナツと同い年だっただろうこと、そしてナツとリサーナが幼馴染のように仲が良かったことなどだ。

 

「へぇー、お兄ちゃんにもそんな仲良しな人いたんだ!」

「そういえばルーシィはナツと仲がいいって意味じゃ似てるね。ユリアの底なしの明るさも」

「あのナツが女の子とねぇ〜、意外なことこの上ないわ」

 

静かな雨が大地に降り注ぐこの秋の日。脅威はすぐそこまで来ている。突如として開いた大穴はこの世界を吸い込む悪食のように食らっていく。いち早く気づいたシリルは皆に呼びかけようとしたが、時すでに遅く、空は世界を切り取って腹に収めていく。

 

「くっ……一体どうなってるの!?みんな!何処にいるの!」

「こ、この声……シリルさんですか!?」

「ウェンディ。何故あなただけいるの?」

「分かりません。気づいたら私しか……」

「あいたたた〜、何々?何事なの?」

「ユリアちゃん!」

「ナツお兄ちゃん、そこで寝てたから引っ張ってきたよ」

 

真っ白な世界に取り残されたのはナツ、シリル、ウェンディ、ユリアの四人のみなのが現状だ。ドラゴンスレイヤーと神の使いのみが取り残されたのか。謎は深まるばかりだが、そこに現れたのはハッピーを連れてきたシャルルで、彼女は何か情報を知っているような口ぶりだ。

 

「ここが急にこうなったのも空に開いた穴、超時空魔法『アニマ』によるものよ。何の偶然か、ウェンディたちだけ残ってしまったみたいだけど」

「ん?何か知ってるの、シャルル?教えてよ」

「アニマを発動させたのはこの世界の住人でも闇ギルドでもないわ。この世界の裏にあるもう1つの世界線、『エドラス』の仕業でしょうね(あの『別の世界線のジェラール(ミストガンとかいう魔導士)』の言うことが本当ならね)」

「街ごと吸い込むなんて何でこうも……」

「魔力がごくごく限られた有限のものだから、よ?」

 

なんでもエドラスでは魔法が徐々に欠乏していく現象に見舞われているらしい。それゆえの強硬策、吐き出す以上の魔力を吸収しようという事なのだろう。生まれは皆のいる『アースランド』ではあるものの、少しだけあちらの世界の情報が分かるとシャルルは言っていたが、ハッピーは全くだそうだ。

 

「……なるほど、乗り込むしかなくなったわけだな!みんなを救って来ねえと!」

「そうですね。この際、どうしてシャルルがこの情報を得られたかなんてどうでもいい話。乗り込む他ありませんね」

「私はウェンディを、ハッピーはナツね。他の二人は別ルートから入ってちょうだい。これも一網打尽なんてことにならないためよ」

「仕方ないなぁ。あっちで落ち合えるといいね」

「それと、あっちでは魔法は使えないものと思って頂戴。さっき言ったけど魔力がない以上例え使えても温存しとかないと最悪すっからかんになって死ぬかもしれないから」

 

ありがたい忠告を受け、二人は別れ、別のアニマを探して回っていると、小さなビンに入った丸薬を見つけ出した。

 

「何かしら、この瓶?」

「お薬?」

「それはエドラスで魔力が使えるようにするための薬だ。こっちの世界では初めましてかな?」

「えっ!?ジェラール!?」

「私はエドラスのジェラールだ。この姿を悟られたくなくてな、ミストガンと名乗っているが、君たちなら構わないだろう」

 

フードを取った姿で現れたのはエドラスのジェラール、顔を見せたがらないことで有名なミストガンだった。今回の一件をシャルル以上に知っている。

 

「このアニマを封じるために動いていたのだが、どうも間に合わなくてな。済まないがこの薬を飲んであちらに渡って欲しい」

「事情は大体聴いてます。それで、仲間のラクリマを探し出せばいいんですか?」

「その通りだ。計画を練っているだろう国王はそのラクリマを欲するはず。王都に向かうとみつかるかもしれん。私はまだやることがあるからな、済まないが頼むぞ」

 

あちらへの転送を準備し、薬を飲んだのを見届けると、二人を残ったアニマの残痕へと送り込んだ。

 

====

 

「うわっ……マグノリアと全然違う!」

「自然豊かね。仲間の命がかかって無ければゆっくり観光したいところだけど」

 

たどり着いたもう1つの世界線、アースランドの裏側の世界はあまりにも自然が豊かで、不思議な川の流れ方やトリの飛び方を見れば観光したくなるが、いかんせん今回は仲間の命の危機である。ゆっくりする暇は与えられていない。

 

「街まで行ってみようよ」

「何か探らなきゃね」

 

止まったらいつ何が起こるかわからない。二人は近場の街を目指して砂漠を行く。



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第45の唄 邂逅

二週間も開けて申し訳ないです。疲れ、病気気味、諸々の用事で書けていませんでした。


「ここが、街?」

「すごい寂しいわね。閉まってる店も多いじゃない」

「魔法道具店かぁ。魔法使えないってのと関係あるのかな?」

「ホルダー系しかいないのかしら?」

 

街に来たは良いものの、人がまばらで閉店している箇所も目につく。しかも閉店しているのが魔法関係の商売が多い。

 

「おや、こんな辺鄙な街に人が来るたぁ珍しいねぇ。旅行者、あんたら?」

「え?そうですけど……」

「悪いことは言わないわ、あんまこの危険な街をうろつかない事ね」

「貴女は何者ですか?」

「あたいはセリナ、傭兵さね」

「そうですか。私は『ライム』です、よろしく」

 

本名を話したらどうなるか分からない以上、心苦しいが安全策として偽名を名乗ることにした。シリルはミドルネームを変えてライム、ユリアはファミリーネームを変えてリリスと名乗る。

 

「うん、そうかい。よろしくな!」

「えっ?着いてくるんですか?」

「そこまで、なんで?」

「さっき言っただろ?危ねえって。それにあんたら何でか放っておけない感じでさ、知り合いによく似てんだわ、そっちの子。こっちが勝手に着いてくだけだから金とか報酬はいらねえって」

 

裏で何考えてるか分からないが、正直情勢が分からないことだらけだ。傭兵なら詳しい情報を地理含めて知っているだろうから着いてきてもらう次第になった。

 

「で、どうやって動くんだい?あたいは戦闘と情報収集、護衛くらいならお手の物だ」

「最近こちらでデカいラクリマが出たとか発表されませんでした?自分らはそれを探してまして」

「ラクリマねぇ。どんくらいのサイズのこと言ってんのか分かんねえけど最近魔力のアテが出来たっつー情報なら知り合いから入ってる。つい数時間前に出てきた、人の数倍のサイズは軽くあるっつってたな」

「なるほど。何処にあるかとかは?」

「そこまでは分かんねえな。でも、今まで通りなら王都に行くはずだよ。これまでも何回かこういうのがあったからね」

 

そうとなれば行く場所は定まった。そこまでは今いる町から二、三日で着くだろうと告げられる。

 

「あたいに着いてきな。地理は頭にねぇんだろう?」

「助かります。では、参りましょう」

「レッツゴー!」

 

 

それから歩くこと半日、月が見えはじめた頃、まだ次の街が見えず、砂漠地帯で休息を取ることになった。

 

「ほれ、今日取れたクマの肉だ!固えしマズイからこの調味料かけな」

「何から何まで世話になります」

「これ、塩胡椒にトウガラシ混ぜてるんだね。意外と美味しい」

「傭兵は何処で何食うか分からないからねぇ。調味料が味を豊かにすんのよ」

「結構慣れてるんですね」

「もうかれこれ5、6年はやってっから」

 

前までは安定した暮らしをしていたそうだが、職場での方針が合わず、辞めて傭兵になったのだとか。家は裕福でそこで暮らすことも可能ではあったが、未練を断ち切るために独り立ちした。

 

「あたいは安定した暮らしでぬくぬくして苦しんでる人を見て見ぬ振りなんて、性に合わなかったんだ」

「それで始めたのが傭兵と」

「そうさ。少しでも暮らしを変えてあげたいんだ。でもね、やっぱ国の連中をどうにか動かさねえと無理だって気付いちまったんだ。だからあいつが……悪い、なんでもない」

「どうしよっかお姉ちゃん、せっかく助けてくれてるんだから、私たちも何かしてあげない?」

 

国のことを想う苦しい心の内を明かされて動かないなんてことは出来るはずがない。しかも何も受け取らないで無償に近い状態で働いてくれているのだ。命を守るための行動を放っては置けない。

 

「王都に私たちの探すラクリマがあるなら、目的地は同じ。やってやりましょう!私が貴女の夢を支えます!」

「あんたら優しいねぇ、ありがとさん。それなら尚更仕事をちゃんとこなさなきゃ。ほれライム、リリス、そろそろ寝るぞ」

 

不用意な体力の消耗を避けて早々に寝ることになった。そして翌朝、日が出るか否かの頃合いに叩き起こされた。

 

「おい、二人とも動くぞ〜」

「早いですね。まだ日もほとんど出てませんが……」

「眠い……」

「あんたらやることあんだろ?それに砂漠越えするなら今の日が出てないうちが一番だよ」

 

太陽光の反射も考えると今のうちにこのだだっ広い砂漠を超えて街に入りたい。二人の体調が崩れたら元も子もないと思い、眠そうに目をこするユリアの手を引く。

 

「王都までどれくらいかかります?」

「歩きだとあと二、三日かなぁ。魔力の抽出まで数日間準備が必要だろうから、まだそっちは大丈夫だろうけど、国王軍と会ってしまったら面倒さね」

「そんなになの?」

「何度か逃げることがあってね、しつこいのなんの。前は三日三晩追いかけられて結構肝が冷えたよ。あー、それはそれとして、なんでラクリマに用があるの?聞きそびれてたよ、そういや」

 

今更といった感じだが、性格なのか、あまり気にしていない風に聞いてきた。それに対して、ラクリマにはジェラールの名前を伏せながらアースランド出身であることとその魔力の由来だけを当たり障りなく伝えた。

 

「ちょっとばかり、頼まれごとをされましてね。今回はそのラクリマが関係してる、って」

「頼まれごとねぇ。ま、無理には聞かないさ、あんたらと利害が一致した以上はね」

「ありがとう。お姉ちゃん優しいね」

「お姉ちゃん、か……おっと、街が見えてきたよ。あそこで少し休むとしよう」

 

日が高くなる頃にようやく街にたどり着いた。ここも前の街同様店が閉まっていることが多かった。それ故か、街も人が見受けられず、閑散としている。

 

「ここもここで寂しいね」

「魔力に限りがあってさ、無駄遣いしないために魔法制限令が出てんの。ま、王都に集中させることに使ってるから反発する人も出たけどね」

「ダメじゃないですかそれ」

「魔法ギルドとか体内に魔法持ってる人とかどうしてるの?」

「体内に魔法ってむしろ何なのさ?それと魔道ギルドなら『妖精の尻尾』だね。違法ギルドっつーか闇ギルドだけど」

 

シャルルの言う通り、この世界と自分たちの世界では魔法の概念が大きく違う。それにギルドも聞いてみれば1つしかなく、『妖精の尻尾』が闇ギルド認定されている。

 

「(私たちが特殊なのは確かみたい。紋章が見えにくい位置でよかったよ)」

「(魔法が道具しかないって感じなのね。魔力持ちはゼロ、かしら)」

「ん?どうしたの?」

「「いえいえ何でも!?」」

「まぁいいや。それと、王国軍がうろついてるみてぇだから、慎重に進むよ」

 

その言葉通り裏道から覗いていると、あちこちに軍隊らしき集団がドタバタと忙しなく走り回る。何かを見つけたのだろうか、しばらくするとなにも聞こえなくなってきた。

 

「急に静かになったね」

「そうみたいだね。でも近くにいんのは間違いなさそうだ」

『居たぞー!フェアリーテイルの魔導師だ!』

『この顔、ルーシィか!?』

「え!?ルーシィ姉ちゃん!?」

「知り合いかい?」

 

少し見やれば、見慣れた格好に見慣れた顔、ルーシィが先ほどの集団に囲まれて連行されそうになっていた。

 

「これはマズイわ……やるっきゃない!」

「おい待てよライム!」

「ちょっ……お姉ちゃん!」

 

国王軍を相手にするのはまずいと止めにかかるが、シリルは既に飛び出した後。左手には気功の力、右手には血の力を溜めている。

 

「姉さん、姿勢を低くして!」

「えっ!?何でシリルがここに!?」

「今はいいから!」

「えっ、うん!」

「一発入魂、『気紅双波(きこうそうは)』!」

「これは、何の力なんだ?」

「魔法の一種だよ!ほんとにあの薬効果あったんだ」

 

シリルから出された力を知らない者、魔力の体内からの創出を可能にするすべを知らない者からすれば、何があったのかさっぱりわからないことだろう。国王軍の1小隊を片付けたところで近場にいたエドルーシィとナツ、ウェンディらとともに近場の森まで避難する。

 

「おい、どうしてここにあんたがいんだよ、国王軍の元隊長さん?」

「傭兵としての採用だよ。国王軍を辞めてるし、あんたを捕らえる気はねえさ。文句あんならあの二人に言いな?」

 

そこではエドルーシィとセリナが険悪な雰囲気を醸し出していた。今は傭兵に身をやつしているセリナだが、元は国王軍の一部隊の隊長であり、本当の名をシリル・S・バレンシアと言うらしい。名前を知ったからにはシリルとユリアも本名を告げ、本当の渡航目的や出自も語ることとなる。

 

「ちっ……あの二人ももう一人のあたしやナツ達と知り合いみてぇだから、今回はこれで終わりだ」

「助かるねぇ。ま、正直あのライムがもう一人のあたいだとはね……それにリリスも、ユリアだとは……」

「奇妙なもんだよ、ほんとに」

「不思議なもんだ、同感さね」

 

仲間と会え、心強い味方も得た。まだ戦いはこれからだ。



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第46の唄 始動

クリスマスイブですが、何も特別なイベントはないです。以上


「さて、こっからどうするんだい?あたいはアースシリル達と一緒に行動するけど?」

「私はもう一人の私を連れて王都に行くつもりだぜ」

「行く場所は一緒か、やっぱり」

「本当にこの人たち私たちなのよね?」

「まぁ、間違いなさそうですね。特にルーシィ姉さんは見た目も一緒ですし」

 

王都に向かう中で一度確認を込めての作戦会議を開いた。もちろんナツ達の目的と一致しているため、王都に向かうことは確定事項だ。ここで別れるか、同行するかである。

 

「私は別れるべきだと思うわ。ナツ達にはここに来る前に伝えたけど、一網打尽だけは避けたいとこなのよ」

「同感だ、私もシャルルと同じ考えだ」

「あたいは戦力の分散は避けたいねぇ。国王軍に手ェ出した以上、戦争は不可避だぜ?」

「エドラスのお姉ちゃん、私たちはシャルルの言うことに納得して別れてたんだ。そこ分かってくれないかな?」

 

まっすぐで純粋なその眼差しはかつての妹分を思わせる目だ。これに弱いのを知ってか知らずか、エドシリルに向けていく。

 

「はぁー……分かったよ。お願い聞いちまったからな、最後まで従うよ。でも、自己責任だよ?」

「私が手を出さなきゃ良かったんです。ごめんなさい」

「いいよいいよ、どっちみち避けられねんだ。是非もねえさ」

「男よりさっぱりした人ね、エドシリルは」

 

話が固まったところで此処から離れ、実際に行動に移すことと相成った。シリルとユリアはエドシリルと、ナツ達はエドルーシィと動く。

 

「そんじゃあここを嗅ぎ付けられる前に動こうか。頼んだよ、妖精のリーダーさん?」

「そっちもしくじんなよ、傭兵さんよぉ?」

「任せろや。こちとら伊達に傭兵として働いてねぇかんな」

 

====

 

「あたいらはあいつらの援護だよ。先に王都に入って工作しとかなきゃね」

「工作?なにすんの?」

「まさか混乱のために騙し討ちとか?」

「混乱を呼ぶのは合ってるし、騙し討ちっちゃあ騙し討ちかね?怪我人を出す程度に爆破と、兵力分散さ。これはあたいが作った時限爆弾だよ」

 

なんでも用意しておくのが傭兵として生き残るコツだと不敵な笑みを浮かべて答える。本来なら中のラクリマが時間と威力を制御するが、今回は魔道士が二人もいるとなればその魔力を使って属性と威力を上げることになった。

 

「あたいには情報がある。抜け道も知ってるし、奴らの考えそうな捕縛ややり口もあらかた抑えてある」

「頼りにしてますよ、『私』には」

「どうすればいいの?」

「そうさねぇ、奴らの目を欺きながら倒しつつこの爆弾を仕掛けるって感じ?」

 

えらく愉快そうだ。それだけ不満が募っており、自分の夢を実現できるかもしれないと気分が高揚しているのが表情からも読み取れる。

 

「さて、行きましょうか」

「あっちも待ってくれなさそうだし」

「(見ててくれ、ジェラール。あんたの夢でもあるからな、幼馴染として、あんたとの未来作り上げてみせるよ)」

 

決意を固め、王都へ向かう道を歩いていく。

 

====

 

「陛下、今回の収穫、数ヶ月分の魔力に相当しましゅ。使い方次第では向こう半年は安泰でしゅな」

「おお、すげぇっつうかヤベェっつうか!」

「すごいです!」

「んん〜、素晴らしいね」

 

ここは城内会議室。数名の将隊長に参謀や補佐役、そして国王が今後の魔力の有効活用法を探る会議を開いていた。魔力の元は今回得られたマグノリアを指している。

 

「足りぬ。その程度では気休めでしかない」

「陛下、何かおっしゃいましたか?」

「我が望みは永遠に安泰なる魔力よ。即ち、この国の繁栄だ。足りぬ、もっとよこせ」

「……ははっ」

 

====

 

「こちらの世界線のユリアさんはどんなお方ですか?」

「国王軍の1隊長でよ、うちの後輩なんだわ。でもって、かなり冷静沈着だな。アースユリアとは真逆だよ」

「もしかして私馬鹿にされてるのかな?」

「んなわけねえって。それに昔の頃とそっくりだったからよ。あたいのことをお姉ちゃん、お姉ちゃんって追っかけてた頃が懐かしい。いつからか変わっちまったがな」

 

エドユリアは男装の麗人という言葉が似合う女性らしい。昔は仲良く遊んでいたが、軍部に入る頃には様変わりしていたという。

 

「昔は素直で手はかかったけど可愛い妹分だったのによ」

「そう、ですか」

「私たちは仲良くやってるから大丈夫だよ。それより、街が見えてきた」

「そんじゃ便利な足を呼ぼうかね。おい、魔導四輪を持ってきてくれ!レギアの町だ、今すぐに!」

 

懐から念話式電話(マジックテレフォン)を取り出し、電話口に誰かを呼び出す。どうもこのままではユリアの体力が心配だと判断したのか、魔導四輪を持ってくるように伝えている。

 

「……明朝には着くって?ああ、無茶言ってんのは承知してんのよ、ありがとさん。ほれ、明日には新しい足が来る」

「聞くのも失礼ですが、お相手は?」

「傭兵の知り合いでよ、名前はチキだ」

「え!?お母様ですか!?……いや、それはないか」

「はぁ!?あんたの母さんと同名なの!?」

 

まさかの名前に驚きを禁じ得ない。しかしながら同姓同名の人間がいてもおかしくないのがここエドラス。名前が一緒でも姿や特徴は大きく違うだろう。

 

「とりあえず今日は休もう。ほれユリア、もうちょいだぜ」

「やっと休める……疲れたよう」

「ここは、だいぶ賑わってますね」

「王都に近づくほど一般の人々からすれば治安がいいからね、商売は繁盛するさ。ま、闇市の数は減るけどな」

 

確かに人通りもよく、元気に往来で買い物をする姿が見て取れる。近場の宿で休み、明日の具体的な行動を練ることにした。

 

「王都全体の地図だ。ここに地下道があんだが、おそらくここを通る可能性はあっちも把握済みだろうさ。前にここから侵入しかけたやつがいたんでね」

「となればここはやめたほうが良さそうですね。こちらの側道は?」

「魔法部隊の巡回先だし王の間の近くだから、警備がきついだろ。そうだなぁ、魔法を有効活用するのが一手あるが」

潜入任務(スニーキング)みたいだね」

「ああ。時間としては夜間より昼間がいいだろ。警備の人員の警戒心が夜より劣りやすい。場所は裏手がいいだろ」

「何か当てでも?」

「まぁな。当てを外しても逃げ切れるだけの場所だしよ」

 

こうして携えた策を実行に移すために彼女たちは王都へ向かう準備を整えている。もう一人のユリアと相見えるのも時間の問題だ。決戦の狼煙は密かに昇っていく。



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第47の唄 作戦

お待たせしました。年内にこっちの小説での投稿は終わりです。次は年明けてからになります、多分


「ようチキ!遅かったじゃねえの!」

「うっさいわね!急に呼び出しくらったからこれでも急いで来たんだよ!?あら、そっちの子達は?」

「アースランドの私とユリアだ。あっちだとあたいはあんたの娘なんだと」

「あらまぁ、奇遇だね。ま、このアホに使われんのは癪だけどおもろいから許す」

「そりゃどうも……ってアホはねえだろ、ばかやろー」

 

お互いに憎まれ口を叩いてはいるものの、本気で嫌がっている訳ではなく、長らくいっしょにいる事によるある意味仲の良さの裏返しである。その証拠に3人とも遠慮する事なく乗せているし、全速力で車を出してくれている。

 

「で、王都だって?あそこ今パーティ状態だから変なことしなきゃ怪しまれないと思うけどね」

「あそこに運ばれたって言うラクリマに用があるんです。よろしかったんですか?私たちを乗せて」

「何言ってんの。あんたは強いもんを心のうちに秘めてる、それを見れば断るのは無粋ってもんさ。私はそこまで鬼じゃない」

「変わらないねぇ、あんたも」

「うっさい。あんたもどっこいどっこいでしょうが!」

 

この車に乗って気づいた事だが、SEプラグ(セルフエナジープラグ)が無い。魔力を体内に持たない人間が大半である以上、ラクリマを使っての運転になる。正直車に関してはこちらの方がかなり進んでいる。くだらない会話から大事な作戦会議まで色々話していると、早いものでもう王都裏の崖まで来ていた。

 

「ほれ、裏側に着いたぜ。巧くやんなさい、成功を祈るわ」

「ありがとう!また会えたらいいね!」

「偉いわねぇ、国王軍の奴とは大違いだ」

「よし、気を引き締めていきましょう。ありがとうございました、お母様(チキさん)

「なんかこそばゆいね。ま、うちの出番は此処までだ、後はそこのポンコツ傭兵を頼んな」

 

軽く手を振りながら帰路に着いたエドチキを見送り、眼下の王都を見やる。かなり広いこの王都を攻略するため、一度視察をすることになり、それに合わせて商人に扮装する。

 

「さて、やるか!」

「商人に扮して潜入ですか。こんな衣装で大丈夫なんですか?」

「似合ってるぜ、まぁバレはしないさ」

「これで裏口から入るの?」

「いや、これは城内偵察のためさ。潜入は別でやるぜ」

 

一旦城内や街をくまなく巡るために搬入を装って地理を把握し、抜け道を探る。作戦は翌日からということになった。

 

「始めるぜい。じゃ、二人とも運搬がてら偵察をよろしく」

 

====

 

「今日の会議はここまでだ。各自緊急事態に備えよ、我が軍の部隊が攻撃を受けたようなのでな」

「はっ!」

「以上だ。備えよ」

 

王宮の一角にある大会議室では、先日のシリルがした攻撃によって警戒態勢が引かれる。そんな中、大きい人型猫のパンサーリリーとユリアだけが会議室に残る。

 

「どうした、パンサーリリー、ユリア」

「陛下に……いえ、失礼しました」

「ならば下がれ」

「失礼しました」

「ユリアはどうした?」

「実は、こちらにシリル元隊長が来ているとか。いかが致しましょうか?」

「ふん、そんな奴に用はない。やれ」

「……承知いたしました」

 

====

 

「さて、見た感じあたいがいた頃と大して変わってねえな。あたいを知ってる人間がいる以上、これがすでに罠なのかもしれんけど」

「やるしかないでしょう。ここまで来たら引き下がれませんので」

「裏門、結構人いたね。これ、外から無理やり行くより内側から行った方がいいかも」

「うーん……そうなると捕縛偽装作戦でもありだな。ただ、誰が捕まるかって話だし、あたいが行ってもねぇ」

「城内を覚えてる限りで構いません、私たちが行ったところ以外の地図をできれば描いてください」

 

そこで懐から紙と筆を取り出し、極力詳細な道まで記入し、二人に示す。道がかなりうねっており、一見しただけではどう動くべきか迷うほどだ。

 

「こんな感じだ。他者他国の侵攻を抑えるためにあえて複雑にしてんのよ」

「これは……遊園地ですか」

「なんか楽しそう」

「これはあたいが抜ける前に出来た城内の兵向けの娯楽施設さ。ま、集めた魔力をここに当ててるって訳よ」

「ふぅ、やりたい放題ね。で、肝心の牢屋は城内の上側か」

「上から侵入かな?」

「いや、あえて二人捕まって城内を回って仕掛けるのが最上作かねぇ?ユリアは錯乱用の暴れ役としてあえて裏門から侵入だな」

「手錠に魔法封じの効果がなければ私とエドラスの私が行きますか?」

「私影に入れるから上手くやれば見つからないよ」

 

おおよそ策は決まった。後は動くのみ。もう1つのチームが動くのを待つばかりだ。

 

「…よし、これで行こう。アースシリル、あんたと私は捕まるにはもってこいの事情がある。あっちも放って置かんでしょ」

「念のため、分身体をこのお札に入れておきます」

「よーし、『じゃじゃ馬大作戦』の開始だね!」

「思いっきり暴れてやんな!」

「もっとマシな作戦名は無かったのかしら」

「気にしたら負けさね。さてと、そろそろ別行動のあっち(エドルーシィ達)もここに来るはずだ、それに合わせて始めようぜ」

 

仲間や町民が成り代わったラクリマを見つけるか、王国を叩く作戦。ついに始動だ。



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第48の唄 激流

お久しぶりです、新年一発目


「なあ二人とも、アースナツたちが捕まったみたいだよ」

「どうしますか?作戦変更は余儀なくされそうですが」

「とりあえず助けに行こう。爆弾は忘れずに、だけど」

「混乱を呼んでその隙に進みたいねぇ」

 

朝のホテルに入った情報では、昨夜に地下通路を通ったナツたちがエドエルザの襲撃を受け、一網打尽にされたそうだ。ナツ、ウェンディ、ルーシィは王都の牢の中に、ハッピーとシャルルは猫の国(エクスタリア)に護送された。王都ではどうやってか、薬なしで羽根を使えるようになって戻ってきたシャルルたちと脱走したルーシィのことで騒がしくなっている。彼らを救うには動くしかないが、作戦変更を余儀なくされる。

 

「王都の方にまず向かうよ」

「あれ?見つかったらまずいんじゃ……?」

「そっちに被害が出りゃあ軍を動かすんでね。中の兵を減らすんさ」

「その間に突入ですね。やりましょ、未来を変えてみせる!」

 

宿を抜け、大通りを通り、そこに爆弾を次々に仕掛けてゆく。途中の王都軍を蹴散らし、的確に四方八方に広がる位置に仕掛けていく。

 

「シリル元隊長だ!ユリア隊長より捕縛許可が出てる、行くぞ!」

「もう嗅ぎつけたか。でももう遅いぜ、アースの私、やっちまいな」

「理解しました。発破!」

 

作戦は形が変わったが遂に始動した。

 

====

 

「ねぇ、エクシードってこの世界じゃ天使と同じ扱いなんじゃないの!?」

「分からないわ、でも多分反乱じゃないかしら」

「でも今ならナツたちを助けられるよ!」

 

手錠をつけられたルーシィを連れ出せたハッピーとシャルルは、地下にいるだろうナツとウェンディを助け出すべく、ひたすらに移動を急ぐ。だが、ある扉の前には大剣を持つ女将、ユリアが待ち受ける。

 

「そこまでです」

「あれって……」

「妖精の尻尾の魔道士たちよ、我が名はユリア・フェンリス、貴女たちをここで倒す!」

 

振るわれた大剣を大剣で弾く音がする。シリルら別働隊だ。表での一仕事を終えて城下まで爆弾を使いながら突破してきたのだ。

 

「おっと、そこまでだぜ、ユリアちゃんよぉ」

「出ましたね隊長。いえ、シリル」

「堅苦しいのは変わってねえな。ある意味安心したよ、あたいは」

「ゆ、ユリア!?あれが!?」

「外は良いの?騒ぎが起こってるってのに」

「部隊の者がそちらに向かってますので、私はここの警護です」

 

エドユリアに立ち向かうのはアースユリアにエドラスとアースランドのシリルだ。もうすでに爆弾を街や城内に仕掛けて発動させており、敵の混乱を図っている。

 

「良いご身分だねぇ。おい、ルーシィとエクシードども、あんたらは先に行きな!」

「ここは我々が止めます」

「ありがとう。行ってるね!」

「行かせない…ここで死ね!」

「焦らないであたいらと遊ぼうじゃないの。昔より派手にね!」

 

====

 

「陛下、賊たちが攻めてきました。兵器の使用許可を」

「何をためらう、殺せ」

「はっ!」

「陛下!城内城下に爆弾が仕込まれた模様!あちこちで被害が上がっています!」

「無駄がないところを見る限り内部を知る者の犯行かと!」

「よもやまさかシリルではあるまいな……勝手に脱退しておきながら、裏切りに飽き足らず遂に牙を剥いたか!早く捕まえて連れて来るのだ!」

 

====

 

「シリル、貴女は陛下のお赦しを仇で返すつもりなのかしら?」

「ふん、あんな老いぼれなんぞの為に死ねねえっての。それにそんな赦し、された覚えはないよ」

「不義者め」

「あたいは別の道理、義理を見つけた。あんたはこのまま滅びゆく国と共に果てるつもりかい?」

「私は国のためなら、陛下の仰る通りに動く……」

「しがみつくなよ、その言葉に!あんた自身の決意で動きな!」

 

鍔迫り合いは火花を散らし、お互いの覚悟と心中をぶつけ合う。

 

「足元、隙だらけです!!」

「上から行くよ、『シャドーハンマー』!」

「良い連携だよ、しゃあ!」

 

冷静さに欠いて進むエドユリアに対して、クリティカルダメージを与えるように足を奪い、胴の防御を開けさせ、一気に攻め立てる。

 

「まさか鎧を壊されるとは……(ならば守りを捨てて瞬攻のトンファーで)」

「二人とも気をつけな。あのトンファー、仕込み銃付きだよ」

「ならばこちらは高速で攻めるのみ。神依『拳』、『脚』発動……神の子の名において貴女を倒し、仲間を取り戻す!」

 

睨み合いが起こる中、思わぬ形で終幕が訪れる。

 

「隊長、こちらは我々が…そろそろ竜撃砲の準備に移ってください。国王陛下も御出でになるとのことです」

「足止めしておいて。時間を稼げばいいの、危険になったら退いて頂戴(自分の言葉、決意…あの人には分からないわよ、私の気持ちなど)」

「ははっ……シリル隊長、恨むなとは申しません。部隊にいた頃の恩義で、貴女を殺したくありませんが、仕方ないのです」

「構わねえよ副隊長さん。あんたには妻子がいるし一軍人だからねぇ……でも、ただではやられないぜ、あんた自身の覚悟を問うよ」

 

人混みに溶け込むように去ろうとするエドユリアをこのままにしておくつもりはないが、目の前の部隊をどうにかするしかない。別れるしかない。

 

「逃げるのね……ユリア、ここに残るか、彼女を追って」

「行ってくる」

「分かったわ。私はこの人たちの相手をします、着いてきて」

「おう。副隊長さん、あんたの相手は二人のあたいだ」

「始めましょ。『弾血乱舞』!」

 

====

 

「陛下、これより竜鎖砲を稼働させる準備に入ります。ご同行を」

「うむ、心得た。エクシードの支配は終わる。我ら人間の真なる自由は目の前だ」



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第49の唄 竜鎖砲

遅くなりました!ごめんなさい!しばらくこんな調子になりそうです。


シリル組が城兵を片付けている間、ユリアはもう1人のユリアを逃すまいと魔法で足止めを敢行している最中だった。

 

「逃がさないよ〜!『ポイズン・ショット』!」

「(早いな……危なっ!)」

「むぅ……えいっ、えいっ!」

「くそっ、これが本当にもう一人の私なのか!?」

「神の啓示書第五巻三章暗黒神の項、『エレボス五奏撃』!」

 

追い討ちをかけるように大魔法を発する。五つの魔法陣から放たれる闇の槍が降り注ぎ、城壁を抉りながら迫っていく。相手の足場や動きを制し、一発命中させる。しかし、それだけで倒れる相手な訳なく、当然反撃にあう。

 

「『トリガー・ブラスター』!」

「ふぎゃっ!痛ぁ…傷になりそうだよ……」

「隙あり!なっ、影に入った!?」

 

『潜影術』。影に入り込み、隙を減らしたり傷の回復をしたりとなにかと便利な能力を使い、逆に不意打ちを食らわせる。

 

「『潜影刃』!」

「ガハッ!くっ……すばしっこい奴め。これで!」

「っ!閃光弾!?」

「(目が眩んだわ。今度こそ!)」

 

影が出来ないほどの光をたけば、先ほどの厄介な能力も使えないと踏み、怒涛の連撃を与えんと、トンファーを振る。二発三発と攻め立てていく。

 

「あ痛っ!」

「はあっ!」

「うわぁ!!」

 

だが、続けざまに振り下ろそうとしたトンファーだったが、実体を捉えきれず、霧散した影を切るだけになってしまった。光は消えかけていたが、それでも動けるとは思っていなかったからだ。

 

「よいしょっと」

「(霧散した?どこ行ったんだ?)」

「(背中、ガラ空きだよ!)『冥府神の一声』!」

「なっ!?」

 

迷いを生じさせたのが運の尽き。背中を捉えた特大の咆哮は無情な鉄槌となり、エドユリアを吹き飛ばしてダウンさせるには充分な一発となってしまった。

 

「こ、これがアースランドの……魔導、士の……力、か」

「油断大敵、だね!」

「ユリア、無事!?」

「おーおー、こりゃド派手にやってくれちゃったねぇ。ユリア、これで分かったでしょうが、時に自分の意思で進む力ってのを」

「まだ私たちは……負けた訳では……竜鎖砲がある限り……」

 

追ってきたシリルたちと合流した際に、そんな言葉を発し、ユリアは気絶した。『竜鎖砲』が何なのか分からない以上、不気味な言葉となり、波紋を広げようとしていた。

 

「さっき言ってた竜鎖砲とはなんです?」

「ドラゴンスレイヤーの魔力を動力にした砲弾だ。それでラクリマとエクスタリアを衝突させ、永遠の魔力を手に入れるための代物だよ。辞める前に計画自体は聞いてたからね」

「そんなことしたらみんなは!」

「ああ、二度と戻らねえだろうさ。もちろん止めに行くよな?」

「当たり前だよ!みんなを取り戻す!」

「よく言った、流石だ!」

 

====

 

「こちらです、陛下」

「うむ、準備は整いつつあるのだな?」

「ははっ」

 

その竜鎖砲の前には国王と数多くの兵士たちが待ち構えている。この一撃を放てば魔力を永遠に手に入れられるとあって、国王本人の希望で彼の目の前で発射が行われる。そこへやってきたのはボロボロになっているエドエルザだ。

 

「失礼します、陛下。賊の一部を捕まえて参りました」

「おお、ようやったエルザ。ユリアは見かけなかったかな?」

「いえ、まだ駆除中なのでしょう、見かけておりませんが」

「そうか。まぁ良い、竜鎖砲を稼働させる。準備せよ」

「はい。しかしながら鍵を破壊されているようです」

「どうするつもりだ」

 

その疑問に対し、グレイを突き出した。鍵が壊されているなら複製させればいい話だ。断れば仲間、ナツの首を切り落とすと脅迫めいた方法で従わせる。

 

「この魔道士の片割れ、自由自在に氷で物を造れるそうです。鍵の代用品を造らせれば問題ないかと……立て、人質がいることを忘れるな。逆らえばどうなるかわからん訳でもあるまい」

「くそっ……」

 

仲間の命がかかっている以上やるしかない。しかもデメリットばかりかメリットもうまく使えば出てくる。ガジルに復活させてもらった際、滅竜魔法にラクリマを元の状態に戻すという、願ったり叶ったりな性能があることがわかったからだ。だがここで問題が生じる。肝心の機械の操作方が分からないのだ。

 

「(くそっ、どうやって照準の向きを変えるんだよこれ!このままじゃ……滅竜魔道士の魔力をラクリマに当てさえすれば、皆が元に戻るってのに!)」

「……ここまで、か。ナツ、やれ!」

「へへっ、おうよ!火竜の翼撃!」

「なっ!?何が起こって……」

 

突然のエルザの裏切りと攻撃を受け、混乱に陥る兵士たち。そこの合間を縫って今度は国王を人質にとって見せる。

 

「照準をラクリマ本体に変更しろ!国王の首がとんでも良いのか!?」

「何をするエルザ!貴様、シリルに毒されたか……」

「毒された?何を言う?私は元々貴様らの敵だ!」

「なっ!?貴様はアースランドの!」

「作戦通りだな、流石はエルザだぜ。咄嗟に変身するとはな」

「これぞ作戦D(だまし討ち)だな!」

 

そう、見た目が一緒なことをいいことに、エルザ・ナイトウォーカーに変装し、皆を騙しとってみせる高等技を為している。しかしそれも一時。ナイトウォーカーの襲撃を受けた。

 

「まだ終わってないぞ、スカーレットォ!」

「ナイトウォーカー!?くそ、こんな時に!」

 

====

 

「わわっ!?すごい揺れが……」

「ちっ、発射したか。とりあえず空に行こう!状況を把握しねぇと……ここだ」

「翼を持った動物?」

「レギオンだ。飛行艇がわりに使うんだけどね、少しばかり獰猛だぜ。あたいの使ってた個体は居ねえな」

「やってみないことには分かりませんよ、一匹拝借しましょう」

『グァオオオッー!』

「ほら、落ち着いて。貴方を傷つけようってわけじゃないの。少しだけで良い、貴方の背中と翼を私に貸して。ね?」

『グルッ?ガルゥ……』

「すごい……落ち着きやがった。あたいやエルザでさえ乗るのに何週間もかかったってのに」

 

感嘆と驚きを込めた言葉に、空を飛べる魔獣の背中に乗って2人の手を引く。

 

「私たちと飛んでくれるのね、ありがとう。さ、2人も乗って」

「あ、ああ。ホントにあんたは何者なんだい?」

「動物達と分かり合える力を持つ巫女みたいです。ふふ、新しい特技発見です。じゃあ、私たちを鎖の先に連れてってくれるかしら」

『ガォオオオ!』

「最後の戦いになりそうだ。国を変えるためにも進むしかない!」



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