イナズマイレブン 光のファンタジスタ (suryu-)
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やってきた転校生。
この度一人のファンから作った試作品の投稿をして欲しいと言われまして、このイナズマイレブンを選ばさせて頂きました。
拙いものですがゆっくりとご覧になってくださると嬉しいです。
昔。サッカーを愛していた。今も多分愛している。でもそれと同時にトラウマでもある。だから僕はフィールドにまともに立てない。
だってそうだろう。あの時あの子だけが怪我をして、自分だけがサッカーを楽しむのは嫌だから。
「お前達、今日は転校生が居るぞ。紹介するから注目しろよ!」
「マジか、先生!」
「……はぁ」
クラスの中から生徒の声が聞こえて、思わず僕は溜息をもらす。
僕は人生で初めての転校を経験している。前の中学校では上手くも不味くもやってなかったけれども、今度はどうなるだろうか。などと心配はつきない。
でも。ここならサッカーの話はあまり聞かないし、良いのかもしれないのかな? とも思っている。
新一年生のこの最初の時期に転校を許してくれた兄妹には感謝している。兄妹も事情を分かってくれていたから、かもしれない。
「おーい、入ってくれ」
とりあえず、先生から入って来るように言われたのだから、僕は教室に入る事にした。
教室に入ったはいいものの、好奇心の目が僕を見ている。大方転入生だから目立ってるのかな。というのは分かるのだけど、動物園の見世物状態は嫌だな。とは思った。
「八神龍斗です。千葉県習志野の中学校から来ました……その、あまり人付き合いが上手くないですが、宜しくお願いします」
我ながら、初っ端だけれどもあまり印象の良い感じの挨拶ではないよねと思う。相変わらず苦笑いしか出来ないような挨拶だ。
それでもそんなことを考える暇はあまりないようで、先生は「それじゃあ質問とかあったら色々問いかけてみろ」と皆に告げる。変な質問とか無ければいいのだけれども。
「質問です! 習志野ってサッカーが強いですけどサッカーをやってたんですか?」
女の子からの質問には、僕はやっぱりかと苦笑いした。どういう理由であれ、これだけは言わなきゃならない。
「サッカー。もうやめたんだ。その、あまり言いたくないけど」
その質問にもう触れてほしくないな。という意思を言葉に込めたから、恐らくもうこの話題には触れてこないだろう。
僕にとってはサッカーは大事なものだ。それとトラウマもある。それに、僕が信じていた子との絆だったからこそ、僕一人が楽しんではいけないと思ったから。
そこで、困った顔の女の子が視界に入る。少しの間考え込んでしまったらしい。駄目だな。とは思ったんだけど謝ることは出来なかった。
「それじゃあ家族は居るんですか?」
次の問い掛けは家族に関してでこれなら答えていいだろうと判断して頷く。
「兄さんと義理の妹が一人居るんだ。兄さんと僕はハーフで一応僕は日本国籍。義理の妹は拾われた。かな……まぁ、言うと複雑だけど」
家族に関しての説明を終えて、こんなものでいいかな。と考えていると次の質問が矢継ぎ早に飛んでくる。
「じゃあ趣味は?」
「ドラムかな。兄さんとコンビでちょこっとやったりしたから」
これだけ話せたらいいよね? なんて思った僕はその後にもまだ質問を続ける人達が居たから、内心げんなりしながら答え続けた。
■【音無春奈】■
「サッカーはもうやめた。かぁ……」
私。音無春奈は雷門中学校の一年生で、新聞部からサッカー部のマネージャーになった眼鏡女子です。
そんな私が気になるのは、新しい転校生の男の子。こんな早い時期に転校してくるなんて、なにがあったんだろうとは思うけど、挨拶の時は聞けなかった。
男の子の見た目は、金に黒が混ざった珍しい髪の毛を肩口に揃えていて、垂れ目のイケメンで優しい雰囲気を持っている。世間で言う優男みたいな子。
”でも、私が気になるのはそこじゃない。”
習志野のサッカー部と言えば強豪校の一つ。そんな学校に居続けて、サッカーをやらなかったなんて。
何かあったのだろうか。その部分が気になるあまりに少し集中し過ぎてしまった。
「豪炎寺さんに、聞いてみようかな……」
豪炎寺さんなら、私の疑問を解いてくれるかもしれない。あの人はサッカーについて詳しいし、帝国と戦った後から今は雷門のストライカーだから何か知ってるんじゃないかと期待を込めて。
「でも、なんだろう」
その答えは、とっても悲しいものなんじゃないか。私の胸の内にはそんな疑問が残った。その予感は今は当たるかわからない。
「八神龍斗、か。知っている」
豪炎寺さんに問いかけてみた所、案の定豪炎寺さんは知っていた。
豪炎寺さんが知っているということは、どんな有名な選手なんだろう。胸がワクワクで染まりつつも、聞いてみることにした。
「八神さんって、どんな選手だったんですか?」
思い出すように目を閉じて思案する豪炎寺さんは、私の疑問にちゃんと答えてくれると確信している。
そして思い出したのか、目を開いて口を動かし始めた。私もメモの準備をする。
「光のファンタジスタ。スペインの有名クラブのR・マドリッドが認めた選手の一人で、将来日本代表としても有望な存在だった。俺も何度かジュニア時代で戦ったが、凄かった。圧巻としか言い様がなかった」
「それじゃあ雷門サッカー部に凄く欲しい人材ですね!」
でも、私がその説明に答えた途端。豪炎寺さんは少し渋い顔をして窓の外を見る。
「……彼奴が、復活するかは分からないな」
まるで、自分自身に重ねているように見えてしまった私は、何も言えなくなってしまった。
でも、後ろの気配を感じた途端、もしかしたらそんなに心配要らないのかもしれないと思う。
「そんなスゲーヤツが来たなら、俺達のサッカー部に入ってもらおうぜ!」
「円堂?」
「あ。キャプテン……」
そうだ。キャプテンの円堂守さんは、豪炎寺さんをも動かした人。それならば、出来ないことはないんじゃないか。私は期待感が上昇して、誘いに行くというキャプテンに着いていく事にした。
”でも、この時私は気付かなかった”
豪炎寺さんは、苦い顔をして居ることに。何か裏があるという事に。
「だから言ったよね? サッカーはやめたんだ。先輩も悪いですが、お引き取り下さい」
やっぱり、豪炎寺さんの時のように一蹴りされてしまった。
まぁ、そうなるんじゃないかとは思っていたけど、キャプテンは諦めないみたい。さらに質問する事にしたようだ。
「なんでだよ。お前、凄くサッカーが上手いんだよな? 豪炎寺から聞いたから間違いは無いはずだ!」
「っ、豪炎寺さんが……あの人なら何も言わないでくれると思ったんだけど」
豪炎寺さんの名前を出した途端、龍斗さんの表情が一変する。
”なんでだ”
そんな感情が見え隠れしている事から、以前知り合いだったのかもしれない。
でも、豪炎寺さんはそんなことを話さなかった。じゃあ、一体何があったんだろうか。
悩んでも悩んでも答えは出ないけど、私が悩んでいるうちにキャプテンは踏み込むことにしたようだ。
「サッカー。好きなんだろ? どうしてやらないんだ?」
ある意味での核心。私はその答えがどんなものかは予測出来ない。でも、龍斗さんが辛そうなのは、目に見えた。
「……僕は。僕一人がサッカーを、楽しむ訳にはいかない。幼馴染みである、彼女を差し置いて」
幼馴染み。その単語は私の身にしみる。まさか。まさかだけど、豪炎寺さんの妹のように、幼馴染みさんは。
そこまで考えて少し驚愕と恐れが顔に出てたのかな。と龍斗さんの表情で察する。
「もう、いいですよね? 今回は、お引き取り下さい」
私とキャプテンは何も言えずにその場を去った。哀しそうな背中を見せた彼を見届けた後に。
■【豪炎寺修也】■
俺はあの後、円堂のスカウトの様子を影から見ていて、やはり彼奴は引き摺っているんだという事を知った。
それもそうだろう。彼奴は俺と似たような境遇だ。だから、久方ぶりに声をかける事に決めた。声も聞いてみたかったというのもあるが。
「久しぶりだな、八神」
「……豪炎寺さんじゃないですか。聞きましたよ、復帰したって」
どうやら少しはサッカーの事を耳に入れているらしいな。とは思うものの、此奴なら当然か。と納得した。やはり、心の底ではサッカーを求めているのかもな。とは思う。
そんな俺の考えを見透かしたのか、八神は苦笑いを浮かべる。こんな笑い方をするやつだったか。あまり目の前で見せているような顔は思い出せなかった。
「分かってるでしょ、豪炎寺さん。僕はもうやめたんです。貴方なら分かりますよね、僕の気持ち」
哀しそうなその苦笑いを見て俺は、なんとも言えない。少し前までは俺もこんな感じだったんだな。と再度理解した。
「……笑い方」
「えっ?」
「お前はそんな笑い方をするようなヤツじゃなかった。それに、そんな哀しそうに笑ってて、あの子は喜ぶのか?」
「……それは」
やっぱりな。とは思う。此奴は、一人で抱え込んでいるんだ。俺と同じで責任を感じているんだ。
昔からそういうヤツだと理解していたから、今の問いかけはヒットしたみたいだ。
「俺は円堂に何度も誘われて、それで夕香の事を話した後に彼奴に諭されてな。だから、こうしてもう一度サッカーをやっている」
「……」
「八神。いや、龍斗。お前も戻ってこい。幼馴染みのあの子なら、それを望むはずだぞ」
俺の言葉は八神に届いたかは分からない。けれど、少しは考え直してくれただろうか。
そんな想いが通じたのか、八神は曖昧だが、さっきよりかは明るく笑った。
「少し、考えてみます。幼馴染みの彼奴にも、聞いてみます」
だから、これはいい方向に向いてくれる。そう、信じた。
そんな俺を、円堂は影から見ていたようで、俺の下にあるいてきた。
「悪い、豪炎寺。たまたま此処を歩いていたんだ」
「気にするな。……どういう事か、分かっただろ」
俺の問いかけに円堂は頷く。けど、その瞳には希望が満ち溢れていた。それがコイツなんだ。と最近になって馴染んできた。いや、染まったが正しい。
「彼奴なら、きっとサッカーに戻ってくる。俺はそう見えたよ。豪炎寺」
「ふっ……そうだな」
何故なら、彼奴も俺たちと同じで熱いものを持っている。俺はそう確信しているからこそ笑って頷いた。
■【八神龍斗】■
僕は定期的に見舞いには行っていたものの、電話での連絡を久しくしていなかったのだが、携帯で通話をかける。数回のコールが鳴る中で、僕は緊張を身に感じていた。
「出てくれるかな」
その緊張が少しずつ高まっていくその時に、通話がかかる音がする。
『もしもし。珍しいですね、龍斗さん。どうなさりましたか?』
通話越しでも澄んで聞こえる綺麗な声は、自分には安心を与える。僕が安堵した息を漏らした事で、彼女はクスクスと笑う。
でも、何時までもこうしているつもりはない。少しばかり間を置いてから、本題を繰り出すことにした。
「……ねぇ、妖夢。もし僕がサッカーに復帰するって言ったら、君はどうする?」
かなり僕が緊張していた事は通話越しに通じたのだろう。相手からも緊張を感じ取った。
でも、すぐに彼女は柔らかい雰囲気へと戻ると、ふふ。と笑い声を出した。
『止めませんし、私は貴方を応援します。今、雷門中学校でしたよね? 伝説のイナズマイレブンが再来したと噂されているので、そこで戦う貴方が見てみたいです』
その答えは、僕にとって救いでもあった。でも。責任もやはり降りかかる。だけど、豪炎寺さんの言葉を思い出した。
「……ありがとう。もう少し、考えてみる。それじゃあまた会おう。妖夢」
『ええ、勿論ですよ。龍斗さん』
そんな僕の目には、河川敷に練習に行くぞと叫んでいる雷門のキャプテン。円堂守が写っていた。
「……まだ、戻れるかは分からない。けど、貴方のプレーを見せて欲しいな」
僕にとって希望となるのか。戻るかどうかは、あの円堂守という人を見てからという事になった。
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河川敷! 練習を見よう!
■【八神龍斗】■
河川敷。僕はあの後彼らの練習を見る為にもそこへと向かっていた。
勿論面と向かって見る訳では無い。まだまだ復帰するかを決めていないから、影から眺めるだけということは確定だった。
でも、久しぶりにサッカーを見る。あの時以来噂程度でしかサッカーに触れる事すら無かったのだから、当然なのだけれども。
「豪炎寺! いいシュートだったぞ!」
「円堂。お前もよく止めたな!」
河川敷近くに来て直ぐ、素直に驚いた。豪炎寺さんのシュートを止めるキーパーが雷門中にいたなんてという衝撃が自分に走る。
確か雷門の次の相手は御影専農だったかな。と自分の記憶と照らし合わせる。彼処は帝国に並ぶと言われるが、この雷門なら平気なのではないかと思うくらいには強く見えた。
「……って、やっぱりこれストーカーみたいだよね。影から見ているの」
ただ。こうして練習を影から見ていることに今更ながら罪悪感を感じるのだが、そこはなんとも弁明しようにも出来ない。
そんな中、雷門の選手のひとりが気になる技を使った事を僕は目撃した。
「……キラースライド? あれって帝国の技だよね」
詳しくは覚えていないが、噂程度に聞いたことがある帝国学園の技。その中の一つには、キラースライドという技が含まれていた。
とはいえ、今は僕は部員ではないと自分に言い聞かせると、静観を続ける。しかし、凄く楽しそうだ。
「最後に楽しんでサッカーをやったのって、何時だっけ」
素直に口から出てきた疑問は、自分の中に問いかけるように入ってくる。
”そうだ。僕は妖夢が居なくなってから、サッカーを楽しんでいない”
思い返せば心当たりも幾つかあるから、自分の事とはいえため息が漏れる。
だけれども、今はそのようなくらい感情は隅に追いやる。僕はこの場所でサッカーをやるのか。それを見極める事に集中を始めた。
「いくぞ、円堂!」
「流石だ。豪炎寺!」
「行くぜぇ、円堂!」
「染岡、いいシュートだったぞ!」
しかしまぁ、ここまで見て僕は思う。本当に楽しそうだなぁと。
楽しいという感情は、随分と無くしていた。でも、このチームはそれを思い出せそうなくらいには楽しそうに見える。
特にあのキャプテンの円堂守という人は、あの豪炎寺さんを復帰させるに至った人だ。人を惹きつける何かがあるんだろうな。と僕は少し羨ましく思った。
……そういう意味では、妖夢もそうだった。等と考えていると、また暗くなってしまうから、思考を無理矢理切り替える。
それにしても、偵察の数も増えている。まあ、野生中を倒したんだからそれもそうなるとは思うけれども。
それにしたって多いなと感じる僕は、思い違いではないと信じる。御影専農の人間もちらほらと見えているから。
……本当に影から見ているのがばれたらどうしようか。と悩んだのは内緒だ。
「あれ?」
そんな事を考えていると、御影専農の選手と思わしき人が円堂さんに決闘らしきものを申し込んでいる。
そんな事をしていいのかなとは思うのだけれども、御影専農の一人がボールを持っている。って、あの技は!?
「ファイアトルネード!」
「なっ!? ね、熱血パンチ!」
流石にあの不意打ちは円堂さんには大きいと僕は思う。でも、威力を見て感じたのは豪炎寺さんほどじゃないなということ。
……ああ、だからデータサッカーなのかと納得してしまった。
あれはデータをもとに模倣しただけであって、本物には遠く及ばないもの。豪炎寺さんならばもっと威力が出ていたと必然的に僕は察する。
ジュニア時代には妖夢と共に彼と何度も戦っているからその程度くらいは分かっていなければ、彼にも失礼だとも思う程にそのシュートは弱かった。
「とはいえ、それでも帝国に匹敵する……か。次の試合は勝てるか分からない。なのに」
”どうしてあの円堂守という人は楽しそうなのか”
不意に声に出してしまった自分の疑問に、まるで最初から分かっていたとでも言うかのように豪炎寺さんはこちらに歩いてきた。
勘で察したのかそれとも見えていたのか。恐らく、後者だと自分は思っている。
「アイツを見ていると、サッカー。やりたくならないか?」
開口一番の言葉はそれだ。確かに見ていて楽しさを感じるし、あの人は何か違うものが見える。まるで、嘗てのように 星 が見えた時の如く。
でも、今の僕にはその星が見える気がしない。だから雷門中サッカー部に入るかすら悩んでいた。
豪炎寺さんは、ため息をついたと同時に目を閉じる。何を考えているか僕には想像出来ない。
「お前、後でもう一度ここに来い。少し付き合え」
「……分かりました」
その言葉には迫力が込められていて、僕には頷くしか出来ない。ああ、本当に弱くなったな。そう自嘲するしかなかった。
■豪炎寺修也■
「……八神龍斗、か。魂魄妖夢と何時も一緒で全国では幾度となく戦った」
俺は脳裏で思い出す。そのプレーは圧巻と評したが、具体的な内容となると、それは鮮明に覚えている。
まるで、そこにあるもの全てを自分の絵の中に置いてあるような俯瞰的な視界の広さを持っていて、シュートまでの通り道が全部みえているかのようなプレイヤーだった。
その傍らに居るのが魂魄妖夢。彼女はトップ下の龍斗を支えるワントップのフォワードで、得点力も高く何より龍斗とのコンビネーションは他との追随を許さない程の速さを持つ。
ファンタジスタとしての龍斗と、相棒の妖夢。お互いにかけてはならない存在となっていた。
「けれども」
あの試合。何故か魂魄妖夢にはラフプレーを何度も向けられた。あのチームの代理の監督は妖夢を下げず酷使し続ける。
見ていて、胸糞の悪いでは済まない試合だった。観客からも当然抗議の声が上がれば、誰もが怒る。そんな試合でも彼女は戦い続けて、結果。
「魂魄妖夢は足を怪我して、戻れるかは分からなくなった。か」
あの時から何度も気になっていたあの試合。審判は何を考えていたのだろうかと今でも思う。
そして、その日から八神龍斗は表舞台から消え去った。魂魄妖夢が消えるのと同時に、彼奴はサッカーから見かけることが無くなる。もはや都市伝説と化していた。
そんな中、俺はこの雷門で再び八神龍斗と出会ったが、久しぶりに見た彼奴はかなり腑抜けていた。怯えていた。かつての強さはなりを潜めて、抜け殻になったのかとさえ思う。
「……だから、か」
「来ましたよ、豪炎寺さん」
彼奴は。龍斗は俺の前に現れた。やはり、あの時の覇気や存在感は今は見ることが出来ない。
だが、相対して確信した。こいつはまだ、捨てきってないのだと。
「龍斗。お前はもう一度サッカーをやらないのか?」
「豪炎寺さん。分かっているでしょう。僕はそんな簡単にピッチには戻れない」
「なら、なんで河川敷に来た。答えろ」
俺の問いかけに、龍斗は押し黙る。こいつもそう簡単に戻るつもりは無いのは分かる。だが、それならば河川敷に此奴が来た意味は見つからない。
俺の考えは分かっている。また、昔は見せなかった苦笑いをした後にこいつは頭を振るった。
「あの、円堂守って人。俺は見てみたくなったんです。何故か引き込まれる気がしたので。妖夢のように」
「……納得した。お前もか」
呟いた言葉にはひどく驚いたように見えたが、此奴も納得した。そんな顔を見せるとふっと笑う。だが、その笑みには力はない。
「妖夢からもプレー見てみたいって言われましたよ。でも、豪炎寺さん。でも、俺は……」
”此奴は。幼馴染みにすら戻ることを期待されても戻らないのか?”
昔見た時はこんな奴ではなかった。だから、俺は怒りを込める。お前はそんなに弱い男だったか。サッカーに対する情熱はなかったのか!
「お前……いい加減。目を覚ませ! ファイアトルネード!」
「っ……!?」
だから。俺は渾身の技をこの馬鹿に叩き込む。此奴はここで止まっていい男ではない。もっと上を目指せる男なのだ。
彼奴は足で受け止めると蹴り返すようにその足を振り抜く。そのボールは纏っているものが炎から光に変わり、返されたボールは重く感じたが受け止めることはできた。
「やれば出来るじゃないか」
「な、なんていう説得ですか……僕じゃなきゃ吹っ飛んでましたよ」
「ふん。お前ならばと思っただけだ」
相変わらずの球威に安心はしたものの、蹴り返したお前が言うかとつい口調を荒くしてしまう。情けないなとは思うが此奴が戻るのならそれでいいとすることにした。
龍斗は苦笑を隠さない。前みたいな明るい笑顔には戻っていないが、だがそれでも少しは希望が見えたようだ。少しは変わったと俺には見える。
「……分かりましたよ、豪炎寺さん。やりますよ」
「そうか。……なら、御影専農。お前も来い」
「え、は? 豪炎寺さん?」
俺からの宣言に此奴が戸惑ったとしても関係ない。試合には意地でも引きずり出す。そう決めたらやり通すだけだと俺は思ったからだ。
魂魄妖夢はおそらく試合を見る。ならば、あの場に持ってくるしかない。それが俺なりの、こいつに送れるエールなのだから。
「……待ってるぞ」
「ちょっ、待っ。豪炎寺さん!?」
”だから、お前は勘を取り戻しておいてくれよ。これでも期待しているんだからな”
■魂魄妖夢■
「……漸く、でしょうか。龍斗さん」
久しぶりに直接ではなく電話で話したこと。私は悪く思っていません。それだけではなく、嬉しいニュースがありました。
龍斗さんのサッカーがもう一度見ることが出来る。それは私にとって最大の幸せです。
「龍斗さん。私が怪我をしてから全然サッカーをやらなくなりましたよね」
おそらく自分を責めていたんだと私は思います。私でなく自分がそうなればと。
正直、帝国学園の誘いを断ったことは未だに後悔していないし、あの試合も結果勝ったのだから私に文句はない。
けれど、龍斗さんがサッカーをしなくなったのはずっと心残りでした。
「後もう少しやらなかったら、リュークさんとはやてちゃんと共に喝をいれていましたね」
そんな私の呟きを聞いている人は誰も居ない。でも、豪炎寺さんがきっと龍斗さんを動かしているだろうから、私は雷門中の次の試合相手。御影専農との戦いを見る事に決めた。
「……私もまた、ワクワク出来そうですね」
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御影専農。見え隠れする光!
■円堂守■
「豪炎寺。新メンバーって誰なんだ?」
「多分、もう少しで来るはずだ」
イナビカリ修練所で練習を重ねた俺達は今日の御影専農にみんな意気込んでいる。そんな中、俺に豪炎寺はすっげぇ選手が来るって教えてくれたんだ。
この時期に誰か来るなんて思ってもなかったけど、それでも新しいメンバーっていうのは何時でもワクワクする!
「でも、豪炎寺。ちょっと遅くないか?」
「大丈夫だ。直ぐにくるさ」
「それ、四回目だよな?」
「……」
けど、本当に来るんだろうか。豪炎寺に似てるんじゃないかと思うくらい遅いし、一体誰が来るんだろうと考えたその時だった。
「え、えっと。おはようございます。遅れてすいません」
「遅かったな、龍斗」
「……えっ?」
そいつは遂にやってきた。少し前に俺も勧誘したそいつは、申し訳なさそうに。そして何かに怯えているように俺達の目の前に現れたんだ。
その姿は雷門中のユニフォームで、背番号は十八。スパイクは少し高そうな気がする。俺がずっと来て欲しかったこいつは。
「八神、なのか?」
「え、えっとそうです。円堂先輩。豪炎寺さんにおどさ……や、やめてください豪炎寺さん睨まないで!? コホン。豪炎寺さんに誘われてここに来ました。宜しくお願いします」
「そっか、宜しくな!」
やった。こいつと一緒にプレー出来る! どんなプレーが出来るのか、今からすっごくワクワクしてきた!
でも、八神はあれだけ拒んでいたのに、豪炎寺はどうやって連れてきたんだろう? ちょっぴり気になったけど、聞くのはやめておこう。
「わぁっ! 本物の光のファンタジスタの復活です! 感激です!」
音無も今まで以上に喜んでる。その気持ち、すっごく分かるな。俺もずっと待ってたんだ。
でも、なんだろう。豪炎寺といい八神といい、遅れてくるのが流行ってるのかな?
まぁいいや。取り敢えず俺が言うのはこれだけだ!
「八神、サッカーやろうぜ!」
「えっと。……はい!」
■八神龍斗■
”正直まだ凄く怖い”
御影専農に来るように、豪炎寺さんのファイアトルネードで脅された僕は集まりに来てみたはいいものの見事に臆病風に吹かれていた。
正直、まだまだ復活する気はなかったのに、豪炎寺さんは僕を無理矢理ピッチに引きずり下ろしたからなんとも言えない。
勘を取り戻す為にボールを触ってみたら、少しの間動けなかったりもした。最終的には昔みたいに少し動かせるようになったけど、あの頃に比べたらまだまだだと自分で理解している。
けど、それでも今日の試合に出なかったら豪炎寺さんからまたファイアトルネードが。それも何度飛んでくるかもわからないから、こうして僕はこの御影専農中に来ている。
「……こうなるとはなぁ」
冬海監督という人は何か怪しい気はするものの、それを問いかけることも出来ないし兎にも角にも御影専農戦は始まってしまった。
僕はベンチからのスタートになるわけだけども。
「そんなっ。データと違う!?」
「馬鹿な、有り得ない!」
「イナズマ1号!」
なんと評せば良いか、レベルアップしている雷門中の面々に御影専農はついていけないようだ。まさかと思うけど全てデータのみなんじゃなかろうか。と推測していたら案の定だった。
正直僕の出番は要らない程で、前半だけで二対零。これはお鉢も回ってこない。僕が安堵しかけた時だった。
「俺達は忘れていた。サッカーに対する情熱を! 勝つぞ!」
「おう!」
……相手のキャプテンはここで持ち直したか。と内心舌打ちをする。これはノってくるかもしれない。
サッカー選手というものは、調子やリズムにノればノるほど上手くプレーが出来る。心象状態も良ければ良いほどそのプレーは味方の士気を底上げするのだ。
「一点取り返された。か……となると」
「宍戸君に変えて、八神君を出します」
こうなるよね。と呟けば、僕は戦いに出ることになった為に身体の震えを抑えるように務める。
交代するアフロヘアーの宍戸さんが僕にタッチをする。足が震える。ピッチに踏み出すのが怖い。視界がブラックアウトしそうだ。
様々な考えが頭の中をぐるぐる回る。それでも、豪炎寺さんがこっちを見ている。もしかしたら妖夢も。そう考えたら、僕はピッチの中へと入っていった。
すんなりと、ではないけれど。僕は俯瞰的にフィールドを見て思った。
「僕は、戻ってきたんだな」
二度と戻ることのないと思っていたこの場所に。来るはずがないと思っていたこの草の上に、僕はたっている。
その認識は僕の中の何かを塗り替える。恐怖で震えたままだが、それでも僕は一歩踏み出した。
「遅いっ!」
「っ!」
だが、現実は非情である。僕の事を下鶴という相手選手が軽々と抜き去った。
豪炎寺さんのあのボールで覚悟はした筈なのに、身体は全く僕についてこない。
”どうしてだ”
僕がそんなことを考えている内に二点目を取られていた。
ああ、やはり僕は役にすらたたないのか? もう、ダメなのだろうか。そう考えた時、光は降ってくる。
「諦めないでください。龍斗さん!」
聞こえるはずのない声。けれど、僕は確かに聞いた気がした。蘇る記憶。そうだ、僕は妖夢とどのようにサッカーをしていた?
「星は、見えたッ!」
「ふっ。いけ、龍斗!」
豪炎寺さんからのパスは綺麗に僕へと通る。さぁ、久方ぶりのショータイムだ!
「止めるっ!」
「俺達が勝つんだ!」
御影専農のディフェンダーは僕を狙う。けれど、今の僕には届かない。片足を引っ掛けてマルセイユルーレットからの踵で後ろからループを描きヒールリフト。ディフェンダーという壁はただの板となる。
「馬鹿な!?」
「こいつは!?」
星は消えない。今の僕には星が見える。そうだ。ピッチはスペース。つまり宇宙。それは僕と妖夢が独壇場だった場所。
今ならわかる。相手のキーパーのウィークポイント。星は今、その場所にある!
「……っぁぁあああ!」
「シュートポケッ……何!?」
光を纏ったボールは孤を描き相手のキーパー技に引っ掛からない場所を通り隅へと入る。
僕は、再びこのシュートを撃つことが出来た。まだまだあの時には程遠いけど、それでも。
「……遅いな、お前も」
豪炎寺さんのその一言とともにホイッスルはなる。ふっと、僕の中の光は抜けた。多分、居たんじゃないかな。そんな希望を持ちながら。
久しぶりに、こんな景色を見た気がする。妖夢とサッカーしていた時みたいに。
「……まあ、まだまだだね」
でも、今回自分のプレーには納得がいかなかった。だから妖夢ともう一度駆け抜ける事を夢見て飛ぼう。そう決めた。
……まずは長いブランクを埋めたり、トラウマを完全払拭しないとな。じゃなきゃ、飛べないから。
「随分と、昔みたいな顔をするようになったな」
「あ、豪炎寺さん……」
自分でもそう思う。妖夢の声が聞こえた気がするだけで、僕は昔に戻った気分にされたのだから。
それはでも悪い事じゃない。僕がきっと、サッカーに対する情熱を手に入れたから。
「まあ、お前はシュートを決めた。つまり、これからも頼むぞ」
「……ですよね」
でも、その前に僕は豪炎寺さんには絶対に逆らえないみたいです。泣きそう。
「期待しているぞ、龍斗」
■魂魄妖夢■
「ふふ、聞こえてくれたみたいですね」
「せやなぁ、妖夢お姉ちゃん。でも龍にぃが気付かないわけあらへんよ。妖夢お姉ちゃんの声やから」
「全く、世話のかかる弟ですねぇ。はやて」
「ほんまに世話のかかるお兄ちゃんやな。リュークにぃ」
今私は、御影専農と雷門の試合を観戦しにきていました。目的はただ一つの為に。
「龍斗さん。まだまだ昔程ではないですけど、魅せてくれましたね」
私としては龍斗さんがこの世界に戻ってくれたことが一番嬉しい。ずっと待ち望んでいたサッカーを見ることが出来ます。
前の習志野の中学校ではサッカー部に入らないのかとしつこさが酷すぎてこの雷門に来たという話は聞いていました。
ですが、龍斗さんの最大の誤算は豪炎寺さんが少し前に来ていたこと。そして円堂守さんの存在でしょうか。
龍斗さんは彼等に誘われなければ戻らなかったでしょうし、私が声をかけなければどうしようもなかった。
龍斗さんの兄妹のリュークさんとはやてちゃんとこのままサッカーに戻らない場合どうするかをずっと考えてました。
「それにしても、これで一件落着とはいかないのがまた……龍斗さんったら、やっぱり私が居ないと駄目ですね」
「当たり前やん。龍にぃは妖夢お姉ちゃんにぞっこんやろ」
「もう、はやてちゃんったら……」
はやてちゃんの言葉は茶化すようなものですけれど、私にとっては凄く嬉しい。
やっぱり、龍斗さんとは幼い頃から交流もあるしずっと一緒にサッカーをしていた。心から見える優しさに、好意を抱かないわけが無い。
「龍斗さん。まだ。まだ貴方の隣に行けません。けれども、絶対にいきますからね」
「ふふ、その意気ですよ。妖夢さん」
リュークさんも私の肩を叩いて応援してくれます。私もまだまだ終わる気がありません。だから、この胸に抱いたボールとともに、あなたの元へと向かいます。
だから、絶対。絶対に。
「また。またサッカーしましょうね。龍斗さん」
きっとこの声は聞こえていると信じて。私はリュークさんとはやてちゃんと共にスタジアムを去りました。かつて無い、決意と共に。
■???■
「光のファンタジスタ。八神龍斗か」
我々とは、決勝の試合で当たる雷門中にて彗星の如く現れたその人物。八神龍斗。
彼を見る度に思い出すのはあの時の事。だが、それを理由に潰さないことにならないというわけではない。
「だが……」
昔のあの時も彼の幼馴染みを潰してサッカーから離した筈なのに、また私の目の前へと現れた。
何故、貴様はここに来るのかが分からない。私にとってあのようなプレーはあの時だけにして欲しかったのだ。
「……八神龍斗。お前は、鬼道に勝てるかな」
勝てないだろう。私はそう思っている。なのに、何故だろうか。あの時の事を思い出す。
そう、自分の心が踊らされたあのプレーを。サッカーに光を見出したあの時を。今も、私は忘れられなかった。
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土門飛鳥の告発!
イナズマイレブン。私にとってはかなり懐かしい作品なので久しぶりにアニメなどを見直しながら書いているんですが、最近気付いたことが。
フットボールフロンティアって実は女性も参加出来るみたいですね。
というのも、2の白恋中は影山の手によりフットボールフロンティアに出てないだけで女選手が居ますし大海原中も宴会してたらフットボールフロンティアに出るのを忘れただけで女選手はやはりレギュラーにいます。
新作アレスの天秤もそれは変わらないようなので女選手もフットボールフロンティア系列に起用しようと思ってます。FFIも恐らくは。
まあこんな事言ってるなら続きを書いてろなんですがそれはともかくとして、4話目。お楽しみください。
■【八神龍斗】■
「それにしても、伝説のイナズマイレブンか」
御影専農の試合が終わった後に、僕は妖夢の言葉が気になりイナズマイレブンについて調べていた。
その記述は凄いもので、嘗て円堂大介という一人の男が作り上げたチームなのだが、負け無しと言われた最強のイレブンなのだ。
その伝説は輝かしく、円堂大介などが日本代表だった頃はまさに黄金期。後に雷門中の監督となった後も全国レベルの強さを持ったチームを作ったと言う話だ。
だが、四十年前の事件をきっかけに円堂大介は死亡となっている。それ以来ゴットハンドも日の目を見る事はなかったが……
「円堂先輩が、全てを変えた。か……まさにそうだな、確かに伝説の復活なのかもしれない」
話を聞けば帝国の練習試合にて完成させた技だと聞くからこそ驚きを隠せない。正に運命の技なのだろう。
ふと、そこで円堂という苗字が引っかかる。いや、引っかかるというよりは。
「もしかして。この円堂大介って円堂先輩の家族関連かな」
気にはなるのだが、それはそれとして置いておく事にした。他人の家族の不幸話など誰も喜びはしないだろうと自分の中で結論をつけて。
それよりも、サッカーボールを触らなきゃいけないな。と思考のオンオフを変えれば自分の部屋から出ると同時に、傍目から見て可愛らしい義理の妹に声をかけた。
「はやて。ちょっとボール蹴ってくるよ」
「お、龍にぃサッカーやるん? なら行ってきぃや。妖夢お姉ちゃんも喜ぶで」
「あはは。そうだね、そうだと思うよ」
妹のはやては自分がサッカーを久しぶりにやり始めてから、それは毎日楽しそうにしてくれる。
聞けば近場の海鳴市の友人にも話をしたらしいから、恥ずかしい部分もあるが、喜ばれるのは自分にとっても嬉しく思う。
「それじゃ、海鳴までドリブルかな」
玄関にあるバンダナを巻いた人と親しげな男の写真を見てから飛び出た僕は、ボールと共に駆け出す。家から海鳴市は程度よく近く、危ない道もない。こんな風にドリブルをしながら駆けるのは気持ちがいいのだ。
なんとなくだが走っていると、景色もいつもと違う面が見られる。
そんな中で見覚えのあるユニフォームを着た少年達がいるグラウンドを見つけた。
「確か、あれは海鳴kfcの……」
「おや、八神さんの所の弟さんじゃないか」
自分が見ていた事が分かったのか、若そうな男性が声をかけてきた。
自分は会釈をすると同時に、あれ。なんで名前をと聞き返しそうになるが、すぐに理解した。はやての友人の親御さんじゃないか。と気付いてから安堵しつつも一礼する。
「どうも高町さん。いつもはやてがお世話になってます」
「いやいや。家のなのはも面倒見てくれて助かるよ。それより君、サッカーを久しぶりにやってるみたいだね」
自分がサッカーをしていた話をしたっけか? 首を傾げたことで、ああ。と思い出したように高町さんは笑った。
「昔妖夢ちゃんと一緒にここでサッカーしてたよね? 自分は、その時からコーチだったのさ」
「成程。って、そうだったんですか!?」
そういえば昔も高町さんにそっくりな人は居たけれど。と困惑する。この人、見た目が年齢をとってないんじゃないか。そんな驚きを込めた言葉に高町さんは苦笑いした。
「まぁよく言われることだから仕方ないさ。君達が居た頃も、全国に行ってたから覚えてるよ」
「あぁ、それで。ありがとうございます」
どうやら、妖夢と自分の事を覚えているらしく少し照れくさい気もするが、それはともかくと話題を切り替えるようにサッカーボールを爪先で上げて手に取った。
「実は、サッカーに復帰するんです。だからカンを取り戻そうとしてて」
「なら、家の少年達に教えてくれないか? レアルマドリードに誘われる君なら、良いものを見せてくれるだろう」
「……はいっ」
だから、偶にはこんなのもいいかな。そんな風に考えながら僕は子供達に教師として教える事に専念した。
■【高町士郎】■
家にある道場にて、精神統一を終えた後にゆっくりと出来事を思い出す。
今日はあの八神龍斗君が久しぶりに海鳴kfcに顔を出してくれた。それは何とも感慨深いものだと自分は思っている。
そういえば、あの試合からもう一年以上は経っていたかとふと思い出した。
「あの試合は、酷かった」
口に出してその試合の事を思い出す。ハッキリとした事は言えないがあの時は何らかの圧力がかかって妖夢ちゃんにラフプレーを向けていたんだと思う。
あの試合の数日前に彼女は帝国学園というサッカーの名門校からスカウトを受けて居たのだが、龍斗君と共に行ける学校でサッカーをしたいと断った。
「その流れからして、だけど」
恐らく、そんな圧力を掛けたのがその帝国学園なんじゃないかという推測は自分の頭から離れない。
そして今また、龍斗君は帝国学園とフットボールフロンティア。略称FFの地区予選にて相対しようとしている。
先程見たニュースだが秋葉名戸は不正を働いたとして失格扱いとなっている。従って雷門中は決勝に進む事が確定している。もう一度想起するが相手は帝国学園に確定。そして、そのチームの監督名を見てから少し嫌な予感がした。
「影山零治。帝国学園の監督で政界にも通じている。か」
自分も昔の仕事で名前を聞いたことがあるがあまり良い噂はない。
表向きは優秀な指導者だが、確か雷門中の初代イナズマイレブンのメンバーでありながら一人事故に遭わなかった所かそのバスに工作したという噂がある。他にはフットボールフロンティアで帝国学園の敵になりそうな学校を潰しているというものもある。
さらには政界との癒着も囁かれている事から表裏が激しく違う人物なんだろうと推測出来る。
「多分だが、一波乱あるな」
こういう時の勘は大体が当たってしまう事からあまり言いたくはない。だが、もしそうなのだとしたら。
「久しぶりに御神としての仕事をしよう。今回ばかりは桃子も許してくれるはずだ」
将来のある若い子の為に。大人はそれを守るために戦うものだ。自分の持論だが、それを成すべきだと思う事から自分は木刀を握った。
すると、道場の扉が開き桃子が入ってきた。彼女がここに来るのはとても珍しい。
「士郎さん。私に話していない事があるでしょう」
開口一番の言葉がそれだ。恐らく自分のやろうとしている事に気付いたのだろう。やはりというか、長年連れ添った妻には隠し事は出来ないらしい。隠すつもりは無いとしても。
「桃子も知っているだろう。八神龍斗君の事を」
「はやてちゃんのお兄さんの一人の? ……何かあったの?」
その問いかけに頷いた自分に桃子は心配そうな顔をしている。それもそうだ。龍斗君は家のなのはの面倒を見てくれる家の子で仲も良い。
多分、桃子も勘づいたはずだが、念のため。
「龍斗君と龍斗君の幼馴染みで妖夢ちゃんという子。その二人がサッカーを辞める原因を作った奴が、また龍斗君を潰そうとしているかもしれない」
「……そういう事。つまり、また御神としての仕事をしたいのね。龍斗君達のために」
今度の問いかけにも頷いた。桃子は一つはぁ。と溜息を吐いた後に微笑んだ。恐らくは。そういうことだろう。
「それなら助けてあげましょう。龍斗君は私達にとっても馴染み深いし、それにそんな悪い人が龍斗君をまた失意の底に落とそうとするのなら止めないといけないわ」
「……ありがとう」
それだけ返答すれば、影山零治のことを調べている時に知り合った警察の鬼瓦さんに連絡をした。彼を助けるためにももう一度立ち上がる。肩を支えてくれる桃子がとてつもなく心強く感じた。
■【八神龍斗】■
御影専農との戦いから一週間程。秋葉名戸はデータ改竄などで失格扱いになって自分達は帝国学園と戦うことになったんだけれども、今日はその練習の為にバスに乗る事になった。
でも、なんだか今は乗らない方が良いのかもと何故か思い、校庭の周りを散歩していた。すると、だ。
「では、貴方は帝国学園のスパイだったのね?」
「あぁ。けど、俺は此処が好きになっちまった。だから……それに冬海があのバスに細工している。早く止めないと!」
二年生の先輩。土門飛鳥さんがこれまた先輩で理事長の娘の雷門夏未さんに衝撃的告白をしている所だった。
とは言ってみるのだが自分にとってはそこまで衝撃的でもない。何故ならキラースライドを見た時点で大体察しはついていたのだ。冬海監督に関しては言わずもがな。
そんな考察をしていた自分も影から二人の前に出た。
「な、八神。聞いてたのか!?」
「その事についてはすいません。ですが、これでハッキリしました。土門先輩。貴方は味方なんですね?」
自分の言葉に驚きを見せているがそれでも数秒と経たないうちに土門先輩は頷いた。それなら、やる事は一つ。
「今から行きましょう。皆を説得してみせますよ」
「や、八神。お前……」
「ほら、夏未先輩も! 急いで!」
「え、ええ!」
そして僕達は急いで駆け出した。その先に見えるのは雷門中のバス。皆が乗り込もうとしているところで乗り降り口の前に立ってそれを塞ぐ。
「や、八神?」
円堂先輩は少し混乱しているような表情だが僕はそこで止まらない。ゆっくりと深呼吸してから口を開いた。
「このバスは細工されているんです。冬海監督によって!」
「え、ぇえ!?」
「なんだって!?」
驚きを隠せない皆を前にして冬海は焦り始めた。そのまま夏未先輩が追従するように言葉を紡ぐ。
「全てを土門君が教えてくれたわ。彼は帝国学園のスパイではあったけど、私達と共にサッカーをしたいからと言うことで全てを告発してくれたわ」
「ど、土門君……」
木野秋先輩と呼ばれている雷門中サッカー部のマネージャーさんが狼狽える。確か土門先輩とアメリカで共に過ごしていたらしい。
そして、僕はその戸惑う姿を見ながらも皆さんを納得させるためにもう一度前を見た。
「土門先輩は確かに帝国学園のスパイだったのかもしれません。ですがその想いは本物の筈ですよ。僕にはそう見えます」
「八神……」
「豪炎寺さん。貴方なら分かるはずです。このボールで!」
自分はバッグからボールを取り出しては豪炎寺さんに想いを込めて蹴る。受け止めた豪炎寺さんはふっと笑った。
「お前らしいな。円堂。お前もこのボールを受けてみろ」
「え? お、おう!」
そして自分にボールが返されて今度は円堂先輩が僕のボールを受けることに。だから、僕は再び想いを込めて蹴り放った。
光を纏ったボールが円堂先輩の足に丁度当たる。驚いた様子の円堂先輩は、少ししてから笑った。
「……確かに、そうみたいだな!」
「キャプテン!?」
「し、信じるんでやんすか!?」
壁山さんや栗松さんはどうしてと言った表情だが円堂先輩は笑みを崩さない。本当に太陽みたいな人だ。と感じながらも僕も笑った。
「土門先輩が居なければこのバスの事も分からなかった。さて、後は冬海監督を警察に突き出すだけですよ」
「ええ、そうね。冬海先生。今日ばかりで貴方はクビよ。せいぜい監獄で反省しなさい」
夏未先輩からの言葉を受けた冬海監督は崩れ落ちる。それを見届けていると怯えながらも冬海監督は言った。
「あ、あの人には逆らえないっ。君達も知るだろう! あの人の恐ろしさを! 影山零治を!」
最後の最後で気になる言葉を残して。冬海監督は警察に連れていかれた。
その数分後に、新たな問題に直面する事になる。というのも。
「ところで、新しい監督どうしましょう」
「……あっ」
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新監督! 響木さんをスカウト!
展開が書いていて早いような気もしますが、あまりにも初代イナズマイレブンがうろ覚えなためにしっかりと、詰め込めるのが2と3という……それでもゆっくりと書き続けるつもりです。
それでは今回もごゆるりとなさってくださいな。
オリキャラ枠他に追加するかなやんでるのは、内緒ですっ!←
■【八神龍斗】■
新しい監督はどうするんだ。という問題に目がついてから一日経った。あれからというものの職員室等をあたったりしたが引き受けてくれる先生は居らず自分達は困っていた。
帝国学園と戦うのは明日。ということから自分も何とか探していたのだがめぼしい人物は居ないために仕方ないから腹が減ったと商店街のラーメン屋。来々軒に立ち寄る事にした。
「失礼しまーす」
「……らっしゃい」
「あれ? 八神じゃないか!」
すると。何故か自分の目の前にいたのは円堂先輩。ここの常連なのかなーと思考を回しながらも席に座る。
メニューを見てから久しぶりに食べるラーメンと言うことで少しばかり豪華にしようと頼むものを決める。
「すいません。チャーシューメンください」
「あいよ」
かく言う自分は前から食べ歩きなどを趣味としている事からこうして地域の店を訪問する事が好きだったりするために、今日はどんな食にありつけるか。成長期によって空かせた胃の辺りを撫でながら楽しみに待つと決めた。
そんな自分に何を思ったかは知らないが、円堂先輩は自分の隣に座る。先輩も何か注文するのかなーと思いきや、真剣な目をしていた。
「八神も響木さんに監督になってもらいに来たのか?」
「……はい?」
「え、知らなかったのか? 響さんはイナズマイレブンのGKだったんだ!」
「な、なるほど」
真剣な顔から告げられた事実はなんとも現実味を帯びていないのだが、そういえば確かにイナズマイレブンは四十年前程の伝説だから有り得なくはないかと響木という名前の店主を眺める。
黒い被り物に白髪。黒丸のサングラスに目元に傷。白髭はなんともふさふさしていて、体格はかなり大きい。そして、何となく。だけど風格も感じられた。
「チャーシューメン。あがったぞ」
「あ、ありがとうございます」
取り敢えず今はラーメンに集中しよう。円堂先輩は何か言いたげにしている気もするがどうあがこうが自分の視界にあるものはラーメンなのだ。
まずはスープを一口。うん。これは予想外に美味い。醤油味だが旨味がありつつもあっさりと食べることが出来る。
麺に関しては茹で加減は最適。メンマもしゃきりとして歯ごたえも良くさらには焼豚はとろりとしている。これぞラーメンと言える逸品なのだ。
とかなんとか考えているといつの間にか円堂先輩と店主の響さんが言い合っていた。いや、なんで?
「八神! お前も響木さんが監督になってくれるよう説得するのを手伝ってくれ?」
「……ゑ?」
食べ終わってから数分後である。店の近くの空き地へと誘導されるとそこにはなんとサッカーのゴールが置いてあった。
いや、なんでこんな空き地に普通においてあるんだろうとか、ツッコミすると間に合わないから今は気にすることをやめた。それにしてもどうやって説得するのだろうか。と思っていると響木さんは、どこからかボールを取り出して地面に置く。
「円堂。お前がまずは俺のシュートを三本止めてみろ!」
「望むところです。響木さん!」
どうやらこの流れだとPK対決をする事になるのだろうと理解をした上で言ってはなんだが中年男性である響木さんが例え元イナズマイレブンであろうとそこまでのシュートを放てるのだろうかという疑惑はあった。が、それはすぐに無くなった。
「いくぞ!」
「っ、熱血パンチ!」
「……嘘、だろ?」
ボールはドゴォ! という激しい音とともに円堂先輩の元へと飛ぶ。熱血パンチという炎を纏った拳で殴る技で辛うじて止められたそれは紛うこと無き強さを持ったシュートである事が見受けられた。
身体が震える。悪い意味ではなく、興奮を覚えたからだ。
「もう一度だ!」
「熱血……パンチ!」
二本目も円堂先輩はその手で止める。こんな勝負は久しぶりに見た。まさに胸熱そのものだと気分が燃え上がる。そして運命の三本目。ボールをセットしなおした響木さんを見たあとに、それが本気だと理解した。
「これで最後だ。受けてみろ!」
「はいっ!」
蹴り出されたボールはまっすぐ円堂先輩へと向かっていく。最後の一本はまさしく本気そのもの。必殺技でないにしろ高い威力を持つそのボールを円堂先輩しっかりと見据えていた。
そして、構えで察した。最後はあの技で決めるのだ。と。
「ゴットハンドッ!」
「なにぃ!?」
円堂先輩はゴットハンドという必殺技を持っている。嘗て伝説のイナズマイレブンが使っていたゴールキーパーの技。その力強い光の掌をボールにぶつけては見事三本目を止めることに成功した。
「やるな円堂。それを見せられては監督になる事を拒む訳にはいかない。ましてや、決勝の相手は影山零治だからな」
「それじゃあ!」
どうやら響木さんは監督を引き受けてくれるようだ。と素直に僕はこの時安堵していた。が、そこで視線を感じて気になった。響木さんは自分を見ていたのだ。
「お前のサッカーも見せてもらおうか」
__その言葉に僅かな驚きを感じつつも、進まなければと感じはじめていて__
「一本、シュートを撃ってみろ」
「……はい」
自分の中でスイッチが入る。御影専農の時のように、やれる事は残さずやろうと意思を固めながらボールに触れる。
まだトラウマは消えない。だがそれでも自分のサッカーは出来るはずだ。そう信じるとともに一歩下がる。
「来い」
響木さんのその一言だけを聞いた後に前を見た。久方ぶりのPK勝負。自分の魂を込めると決めたからには。
次の瞬間、自分はボールを蹴っていた。星は見えた!
「な、これは!」
響木さんは驚いたような表情をしている。動けないままゴールにボールは突き刺さる。どういう事か理解したのかふっと、笑みを見せた。
「なるほど、体の体重のかかり方を分析したのか。そして、その逆を突いたと」
「はい。そうすれば動けないので」
理にかなっているなという響木さんの言葉はとても嬉しい。だが、その後はサングラス越しに何か見定めるような目をしていた。
どうしたんだろう。自分が首を傾げると響木さんは手を挙げた。
「鬼瓦。お前がここに居るという事はそういう説明だろう」
「そうだな、響木」
自分の後ろから現れたのは無精髭の生えたこれまたコートを着込んだ中年男性である。
いったい何があるんだろう。円堂先輩はなにか悟ったような驚いているような。
だから、次に出てきた言葉は驚き以外に何も無かった。
「魂魄妖夢というお嬢さんの知り合いだな。あの試合の真実を知りたいか?」
「……え?」
「魂魄妖夢は、影山零治の圧力のせいで、怪我をさせられたのさ」
■【音無春奈】■
新しい監督が決まってサッカー部は今日決勝の帝国学園で戦う事が確定しました。その為に今はロッカールームに居る。それはとても嬉しい事です。響木さんは色々チェックを入れていましたけどね。それにしても、八神さんがいつに無く暗い表情をしていました。
私も私でお兄ちゃんの事がとても気になっています。影山零治という人は豪炎寺さんの妹さんや八神さんの幼馴染みさんを傷つけたという話を聞いてからなんでそんな人の元に居るのか。その理由を、私は知りませんし教えてくれませんでした。
そして今日はその決勝の試合なのに八神さんは未だに暗いまま。豪炎寺さんはそれを見つめたまま何か思案しているようです。
「八神さん。元気を出してください!」
「……あぁ、音無さん。僕は平気だから」
だから、私は今私に出来ることをしようと思って八神さんを元気づけようと頑張ってみていますが、八神さんは暗い顔から戻ってきません。むしろ、これは影山を恨んでいるような……
「……どうすれば良いんでしょう」
私が呟いた一言を聞いたのかは分かりません。ですが八神さんは私の事を優しく撫でました。って、ぇ?
「音無さんも、鬼道さんの事で悩んでるんだよね? なら、無理をしないで。僕は恨みに身を任せるくらい愚かになったつもりはないさ。それに音無さんは笑顔の方が可愛いよ」
「……はいっ」
逆に元気づけられてしまい苦笑いを浮かべてしまいましたが、でも。とても嬉しいです。可愛いなんて言われたこともありませんから。
もしかしたら私って結構安直な女なのかもしれません。ですがそれでも。
「八神さん」
「何かな……えっ?」
私は八神さんを抱きしめました。ぎゅっと優しく。誰かが見ていようと構いません。安心してくれればそれでいいんです。
「八神さん。八神さんも無理をしないでくださいね。私たちは仲間なんですから」
「……ありがとう」
少しばかり気恥しい気もしますけどゆっくりと八神さんを離すと何時ものように私らしく振る舞うことにしました。
だから、明るくなってくださいという意味も込めて、笑顔で!
「八神さん。頑張りましょうッ!」
「……ああ、そうだね」
漸く八神さんは笑顔を見せてくれました。そして帝国学園のロッカールームからピッチへと向かう八神さんの後ろ姿はとてもかっこよく目に映って、私の心に残りました。
■【鬼道有人】■
__俺の望んでいたサッカーは、こんな形だったのか?__
ふと、悩んでしまった。総帥は自分達を卑劣な手を使ってまで勝たせようとしている事が目に見えている。だから、ピッチに出てきた雷門中の面々を見てから上を向いた。無機質な鉄骨は落ちてくることはないだろうとここに居る誰もが思っている。
__俺と、影山総帥を除いて__
だからこそ、俺は決別を決めた。皆と共に、今後本当のサッカーを楽しむ為に。
「円堂守。試合開始前に、皆で後ろに下がってくれ」
「え? わ、分かった」
これで何とかなるだろう。そう思えば試合開始のホイッスルを待つ。自分達のキックオフから始まるのだが、主審がホイッスルを口の前に構えた所で自分は分かるような合図を出した。
雷門イレブンは即座に後ろに下がると、先程までいた場所に鉄骨が落ちたことにより場は騒然とする。やはりという事を理解した自分は、意思の篭った声ではじめて影山零治という男に反発した。
「これが貴方の求めるサッカーなのか! 影山総帥!」
「これが私のやった証拠だと誰が決めるのかね?」
自分の質問には総帥は答えない。だが、どこからか一人の中年男性が現れて、雷門イレブンは驚いた顔をした。
「こいつが証拠だ。影山! 作業員からも言質はとったぞ。現行犯だ!」
どうやら刑事だったらしい。これでちゃんとした試合が出来る。そう思えば急ぎで撤去される鉄骨を眺めた後に珍しく自分から笑った。
「これで対等な勝負が出来るな。勿論、俺達が勝つがな」
「望み通りだ。鬼道!」
__あぁ、俺は久しぶりにサッカーをやる時に笑ったのかもしれない。__
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帝国学園との決戦! そして……
イナズマイレブンを書き始めてからとてつもなくサッカー欲求が高まっているのですが、この執筆で発散している節は何気にあるんですよね。
そしていつの間にか6話目となっているのですが、皆様が見てくださってるとおもうとまだまだ書きたくなります。
今回も前回同様厚みがないかもしれませんが、ごゆるりと楽しんでくださいな。
(今更ながら響木監督の名前をミスってたのは許してください(汗))
■【鬼道有人】■
総帥。いや、影山は逮捕されて試合は始まった。自分達のサッカーを漸くする事が出来るようになったのはとても嬉しい。
そして、雷門中の面々は最初に戦った時とは違う強さを目に感じる。多分だが俺達に匹敵する力を携えてきたのだろう。
「面白い」
始まった試合の中で、雷門中の面々達は自分たちに食いついてくる。あの頃とは比べ物にならないレベルで強くなった奴等には尊敬すら覚えた。
だから、俺達は俺達のサッカーで勝負する。今こそ本当のサッカーで。
「お前達に勝つ! イリュージョンボール!」
ドリブル技のイリュージョンボール。ボールが分身したように見せかけたそれで抜いてはゴールに向かい走る。
ここからが本番だ。まず負けるという気は全くもってない。
佐久間や寺門がこちらを見た。ということはそういう事だろう。パスを出すと受け取った佐久間達は飛び上がる。
紫色の光を纏ったボールの周りで回転する三人はボールを同時に踏むように蹴った。
「デスゾーン!」
最初雷門中で戦ったあの時からパワーアップしたであろう必殺技のデスゾーンは今度こそ円堂守からゴールを奪う事になるだろうと皆は思う。
だが、次の瞬間にその考えは覆される。
「ゴットハンド!」
光っている巨大な手がボールを受け止めると見事にボールは円堂守の掌の上に収まった。
「やるな!」
佐久間は心から楽しそうに笑っている。この結果は間違っていなかったと確信していると横を風が通り過ぎた。
「この速さは……!」
「いけっ。八神!」
ジュニア時代。自分も何度か見たことある選手だ。基本トップ下と呼ばれる位置に存在するその男。
嘗てR・マドリッドというスペインに存在する有名なクラブに目をつけられていたサッカープレイヤーで、影山が一時期目を置いていたその男。
「八神龍斗か!」
この男を抑えなければという使命感と、勝負できるという幸福感は大きくなる。
天才ゲームメイカーとまで持て囃された自分だからこそ、その戦いにおける喜びは巨大だ。だからこそ今目の前にいる男よりも高い場所へと登るのだ。そう思い仲間に指揮を出すと理屈を並べた。
「五条! キラースライドだ!」
「はいっ! キラースライド!」
だが、五条への指示を聞いた途端に八神は飛んだ。キラースライドを見事に躱してみせたのだ。
影山が目を置いていた理由がはっきりと分かる。瞬時の対応力に置けるレスポンスは類を見ない。
これでも全盛期にまだ劣る為に練習中と言うから、とても不思議だった。
聞いた話では影山が潰した幼馴染みの魂魄妖夢がサッカーを出来なくなってからは全くもって試合等に出るどころかボールに触れていないという話は聞いていた。
__なら、この男の本来の調子は?__
末恐ろしい気持ちもあれば純粋に見てみたいと思う部分もある。この試合で見る事が出来ればと考えながらも自分は指示を出す。
「アースクエイクだ!」
「おうっ!」
次の必殺技により揺れた地面の上でもボールコントロール能力を失わない八神。
あぁ、此奴はそういう奴なんだ。という認識を得てはそのままゴールまで走っていった背中を眺める。
シュートを撃たれた。だが、源田もパワーアップしているのだ。
「パワーシールド!」
見事に防いでくれた源田からのボールを受け取れば、久方ぶりの高揚感に身を任せ、仲間とともに並んだ。
「反撃だ!」
自分の一声に付き合ってくれる仲間がとても頼りになる。そのまま雷門のディフェンスをすり抜けては円堂守の前にてあの技を使う。そう、あれならば!
「皇帝ペンギン!」
「二号!」
放たれたシュートはペンギンと共に円堂守へと飛んでいく。
「ゴットハンド!」
皇帝ペンギン二号。これなら奴のゴールを奪うことが出来る。そう信じた俺達の想いは形となり始めた。
ゴットハンドの五つの指に五匹のペンギンが食いこむ。そしてヒビが入ったゴットハンドは……
「なにっ!?」
「っ、やったぞ!」
「ゴォォォオオオル! 帝国学園。雷門中に、先制です! 皇帝ペンギンがゴットハンドを突き破ったぁ!」
「これが、帝国学園のサッカーだ!」
■【八神龍斗】■
「やられたな……」
正直な話、あのゴットハンドが破られるとは想像していなかったし、そのまま後半に行くとも思わなかった。やはりというかなんというか流石はあの帝国学園の鬼道有人。
ジュニア時代でも何度か鬼道さんとは戦った気もするけれども、まさかここまでの強い存在だなんてと楽しさを覚え始めていた。
「やっぱり、サッカーは好きなんだな。僕」
呟いた一言の後に今自分に出来ることをもう一度。試合前にはあれほど暗く感じていた影山への念は今は感じられない。
妖夢の事を思い出せば、そんな自分を見ていたくなんてないだろうと嫌な感情を放った後ににこやかに笑った。と思う。
「反撃しましょう。皆さん!」
「そうだな、龍斗。言ったからにはお前も決めろよ?」
「うげっ、薮蛇……」
でも、やっぱり豪炎寺さんには逆らえないです。いや本当に悲しいんだけどどうしてくれるんだろうこの気持ち。
まぁ、そんなことは置いておいて反撃を開始する。さっきの感じで分かったけど、恐らく僕なら必殺技を掻い潜って前線までに行ける。
そしてその自分にマークが着くことも分かっている。
「それでも、やるっきゃないよね」
やっぱりサッカーは楽しまなきゃ。当たり前の事を思い出しながらももう一度センターサークルからボールを蹴り出す。豪炎寺さんも上がっている。
ガチガチのマークをされているこの中で誰に出すのが最適解か。そう考えながらも周りを見てふと笑ってしまった。
「行ってください。円堂先輩!」
「ああ、八神!」
いつの間にか上がっていた円堂先輩は自分のボールを受け取るとこれまたいつの間にか前まで来ていた壁山先輩の腹を豪炎寺さんと一緒に蹴って高く飛び上がった。
これはまさか。そのまさかだな。と納得すればグッドサインを送った。
「たぁぁぁああ!」
「ぉぉぉおおお!」
二人は高い所から撃ち落とすようにツープラトンシュートを繰り出す。これは、おそらくビデオで見た地区予選一回戦の野生中と実際に見た御影専農での必殺技の複合技。
「イナズマ1号」
「落とし!」
「進化したのはお前らだけではない! フルパワーシールド!」
源田という名前の相手ゴールキーパーはフルパワーシールドの強化技で防ごうとする。だが、確信していた。あれは入ると。
フルパワーシールドに打ち付けられたボールは徐々に徐々にと押し込まれていく。そしてそのまま割りきったのだ。
「何!?」
「よしっ!」
「あと一点だ!」
ゴールに突き刺さったイナズマ1号落としはとても見事だった事で、自分もまたやる気が更に満ちてきた。
もう一度。もう一度あの高みへ登るにはどうするか。センターサークルから再開された試合の流れを見る中で、漸く見えてきた。
__龍斗さん。行ってください!__
また、妖夢の声が聞こえた気がする。都合が良いと言われても仕方ないかもしれないがそれでも自分には聞こえた気がするのだから仕方ない。
だから、今日も今日であの時のような状態に戻ってきた。
「星は見えた!」
帝国学園の選手のパスをインターセプトという選手同士のパスをカットする技でボールを奪えば一気に敵ゴールへと向かって走る。
今なら取られることもなく、自分のシュートが入るであろうと確信を持てる。
だって、自分は妖夢の声を聞いたとなればそのまま突っ走る事が出来るのを分かっているのだから。
「そんな訳だから、進ませてもらいますよ!」
中盤の選手。所謂ミッドフィルダーの敵二人に挟まれればエラシコと呼ばれるボールコントロールフェイントで躱した後に次はディフェンダーと呼ばれる最後列の敵をヒールリフトでごぼう抜きする。必殺技を使わせる暇や隙なんて与えない。
そして、相手ゴールキーパーの源田を見据えるとフルパワーシールドの構えを見て内心でほくそ笑む。
「ぉぉぉおおお!」
そして自分はシュートを撃つ。ボールは光を纏ったままゴールに向かう。相手の技は勿論。
「フルパワーシールド!」
だけど、その技は僕には通用しない。ボールは流れる光のようにシールドを越えてゴールネットに受け止められた。
ポーンポーンと軽い音と共に落ちたボールを見た帝国学園の面々は急いで陣形を整え直しボールをセンターサークルに置く。
自分も元のポジションに戻ったと思えば次の瞬間だった。
「行くぞ!」
笛がなると同時に帝国学園の鬼道さんがボールをもって上がる。まさか? まさか!
「皇帝ペンギン!」
「二号!」
再びあの技を使った所を見ては相当足に負担がかかるはずなのにそれを打ち出したあたり本気を伺えた。
だから自分もそれに応えるプレーをしなければ。そう思い足を伸ばして蹴り返そうとする。が、僅かに届かない。
だが、円堂先輩は諦めた表情なんてしていなかった。むしろ……
「止めるんだ!」
楽しんでいるようで……
「ゴット……」
そして、真正面から受け止めた。
「ハンド!」
皆が円堂先輩を見る。その期待に応えよう。円堂先輩はそのままボールをもう片方の手まで使い両手のゴットハンドで漸くなんとか止めた!
"ピッ。ピッ。ピー!"
笛の音が後半終了を告げる。つまり。つまりだ。
「やった……やったぞ! 帝国学園に勝ったんだ!」
「よっしゃあ!」
「やったでやんす! キャプテン!」
皆々様が円堂先輩に向かって走っては笑顔を見せる。ああ、これが円堂先輩という人か。と漸く腑に落ちた気がした。
ふと観客席を見るが、妖夢の姿はない。でも、それでも。きっと見てくれていたのだろうと信じた。
「八神! お前やっぱりすげーな!」
「そ、そうですか? 円堂先輩」
「よくやったな、八神」
「豪炎寺さんまで……」
そこまで自分のしたことは大きくないとは思う。だが、それでもサッカー部の皆はこうして評価してくれる。とても嬉しい。
「完敗だ。次戦うとしたら決勝トーナメントの最後だな」
「鬼道さん……」
そんな中、鬼道さんが僕達に話しかけてきた。円堂先輩も引き締まった顔へと戻る。そんな様子を見てなのかは分からないが鬼道さんはただ微笑んだ。
「また決勝で戦おう。お前達ならそこまで上がってくるだろうからな。円堂守」
「勿論だ。鬼道!」
その会話を見て良かったなと思っていると、鬼道さんが僕の方を向いた。なんだろうと首を傾げると申し訳なさそうな顔をしていた。
「それと、だ。八神龍斗。影山のせいで魂魄妖夢がすまない」
その言葉に面食らったけれども、僕は責める気にはならなかった。むしろ、だ。
「……気にしてないと言えば嘘になりますが、貴方からそれを聞けただけで大丈夫ですよ。あと、音無さんとちゃんと話をしてくださいね」
「……そうか。それと、春奈に関しては、分かっているさ」
こうして僕達の地区予選決勝は終わる。次に戦う決勝トーナメントに向けて、僕達は歓喜の雷門中へと帰った。
「決勝トーナメント。頑張るぞ!」
そう言うと同時に僕は音無さんを見る。どうしたのかと言うように首をかしげた音無さんに僕は笑った。
「頑張って。鬼道さんは今でも音無さんのことを大事に思っているはずだよ」
「……はいっ」
■【魂魄妖夢】■
「……先生。それでは?」
「ええ、治療とリハビリも終わりました。後遺症も絶対残る事は無いでしょう。なので」
「漸く。漸くサッカーが出来るんですね……」
私は今、病院で最後のチェックを終えたと共に漸くそのボールを手に取った。
後少し。あと少しですが、それまで待ってください。
「龍斗さん。もうすぐそばに行きますからね……!」
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囁かな家族の祝勝会と、元祖イナズマイレブン!
最近はとても忙しいのですが気付けばもう一月末。どうにもこうにも休みが欲しいものです。(汗)
さて、内容を詰め込むにはまだまだ思い出さないといけないのですが、初代イナズマイレブンを探しても見つからない……
そんな愚痴もありますが、今回もごゆるりとなさってくださいな。
■【八神龍斗】■
地区予選優勝が決まってその翌日。妖夢に久しぶりに電話をかけることにした。
ここ最近は練習もかなりしていた為に病院へお見舞いに行ける機会が少なくなっていたことから電話だけでも。そんな想いがあり、電話をかけている。
コール音が数回鳴る中で相も変わらず緊張感が前に出てきた。
『もしもし?』
「あ、僕だよ、龍斗だよ。妖夢」
今日は六回ほどかな。と緊張によりコール音を数えた事がばれないよう内心で呟くのだが、妖夢はクスリと笑った。どういう意味かは分からないが、早速今日の本題を話すことにした。
「実はさ、帝国学園と戦って地区予選を優勝したんだ」
『ええ、知っていますよ。配信を見ました。鉄骨の件を含め』
どうやら妖夢は知っていたらしい。そして言葉からは安堵したと言うような感情が読み取れた。
確かに、今回自分は鉄骨の下敷きになりかけたのだからそれもそうかと苦笑いしたあとに「怪我はなかったよ」と告げた。
『良かったです。怪我がなくて……でも、龍斗さん。本当に楽しそうにサッカーをしてましたね』
「まぁね。妖夢が居たらもっと楽しくなるだろうけど……」
『っ! ふふ、そうですか』
通話先からは妖夢のとても嬉しそうな返事が返ってくる。
妖夢は足を怪我してサッカーが出来ないはずだから何故かとは思うものの、妖夢が嬉しければそれで良かった。
「次からは全国大会。妖夢も見てくれると嬉しいな」
『はい。……傍に行って見ますからね』
こうして妖夢との電話は終わる。傍にという言葉の意味が少し分からなかったが恐らく観客席の最前列でと言うことだろうという理解にしておく。
次の相手は明日行われる開会式にて発表されることから楽しみだ。全国に行くというのは何時になっても嬉しいものである。
そういう訳だから今日は早く寝るか。そう思いながらもはやてが夕食が出来たと自分を呼ぶ為に食卓へと向かった。
実は、家事の面では自分と兄よりもはやての方が得意ということから料理を任せている。本当にご飯が美味い事から感謝もしている。
リビングに向かうと、そこにはリューク兄さんとはやてが向かい合って真ん中で奥の席を空けて座っていた。
テーブルにはご馳走と呼べるほど豪華な食事が並んでいる。
「こ、これ。どうしたの?」
少しばかり驚いたからか挙動がおかしくなっているのだが、はやてとリューク兄はにこやかなままだ。
「龍にぃ。地区予選優勝祝いや!」
「全く。貴方が勝ったのに自覚無しとはどうしようもないですよ」
「あ、そっか。そうだよね……!」
本当に家族との絆は偉大だな。と思いながら嬉し泣きしそうな自分を抑える。
幼い時の記憶はあまりないがこうして家族に祝ってもらえるのが幸せだな。と少ししてから微笑んだ。
「それじゃあ……」
「ん、ええで!」
「いただきます!」
■【鬼瓦源五郎】■
「高町さん。わざわざすいませんね」
「いいや、お世話になっている八神龍斗君の為です」
俺は今。嘗て不破の剣士として名高い男だった高町士郎という男と情報のやり取りをしている。
というのも、影山の事を逮捕する為に動いている時に偶然だがお互いの欲しい情報が被り、その縁で出会ったのだ。
勿論経歴は念のため調べさせてもらった。今はただの喫茶店のマスターだが、昔はそれはとても有名で政界にも強いボディーガードだったという事に。
正直に言えばあのボウズの知り合いにこんなヤツが居るとは信じられなかったがそれはそれとしてだ。
「しかし影山の事を貴方のおかげで詳しく聞けたもんだ。感謝している」
「刑事の貴方も居るからさらに詳しく話してくれましたよ。龍斗君の事も知る人は知っていましたし」
「あのボウズ、スペインのチームからスカウトされるくらいですからね」
不破の剣士。士郎さんもサッカー好きなのかkfcのコーチをしているらしく、話も妙にウマが合う。
そして、影山の悪行を許せないということから俺達が組むのは当然の結果だ。
正直な話。ボウズにあの話をした時は心が折れないか心配だったが、仲間と共に乗り越えて帝国学園に勝った。俺はそこを褒めたり祝ってやりたいと思っている。
だが、それはこの事件が終わってから。まだまだやることは山積みだ。
このままだと影山は釈放。証拠不十分となっている為に何ともこちらとしては不甲斐なく感じる。
そんな俺の心境を知ってか知らないでかは分からんが士郎さんは少し苦い顔をしている。
「影山に対する有用な証拠が無いのが不安ですね」
「士郎さん。アンタもそう思うか。確かにこのままだとあいつは釈放だな」
「やはり、そうなりますか」
「そうなるな。決定的にはならない」
俺達の意見は同じものでどうやって影山を逮捕するか。この先のボウズ達の危険をどうやって取り除くかを相談するも、なかなかに上手くいかない。
ただ、気になる事は士郎さんのツテで政治家から聞いた話では影山の背後には何らかの存在が居るという事だ。
こんなにもあっさりと知ってしまったことから罠なども疑いたくはなる。だが、それでも進むしかないのは確かだ。
「未来ある子供たちを、私達大人が助けなければいけませんよね」
「そうだな、士郎さん」
だが、彼の言う通りここで止まるわけには行かない。我々大人が成し遂げなくては守れるものも守れない。
「影山の奴は絶対に止めてやる。アイツらのためにもな」
「勿論です鬼瓦さん。更に犯罪の証拠を集めましょう」
「そうだな。よし、行くか!」
だから、我々は戦う。少しでも影山からアイツらを守る為に。それこそが我々に出来る最善の行動だと信じているから。
■【豪炎寺修也】■
「来たぞ、夕香」
今日は久しぶりに病院に見舞いに来ている。地区予選決勝を勝ち抜いたからというのもあるし、顔が見たかった。
声をかけても目覚めることはない。俺の妹の夕香は、木戸川清修に居た時。去年の帝国学園との決勝当日に事故にあってそれ以来だ。
だから、今日は花瓶の花を入れ替えるとそのまま地区予選での事を話す事にした。
「夕香。雷門中に行ってから色々な事があった。円堂と出会ったり、龍斗とも再開できた」
龍斗の事は夕香にも昔伝えた事がある。その後に全国大会で幾度となく夕香も会ったのだから当然仲も良かった。
夕香は龍斗と相方の妖夢の二人を気に入ってたし、俺もあの二人は好きだ。
だから、夕香の事故と同時期から見かけなくなった龍斗の事も心配していたのだが雷門中で出会えるとは思わなかった。
そんな話を夕香にしていると時間も経っている。今日は帰らなければ。
「また来るよ、夕香」
その言葉を伝えた後に、夕香は笑った気がした。だから自分も笑って病室を出て病院を後にしようと思ったその時、見てしまった。一人の少女が車に乗り込むのを。
「あのショートカットの銀髪に黒い髪留め。そして、緑の服……まさか!」
咄嗟に駆け出す。追いつけるかは分からないがそれでも確かめなければならない。
__俺の記憶が正しければアイツは!__
「魂魄妖夢……!」
だが追いつけなかった。流石に車相手には無理があったかと悔しくなりながらも、その車が走っていった方向を見つめる。
もし。もしも魂魄妖夢だったとしたら。まだ顔は見ていないし下手な期待をさせたくないから龍斗には何も言えない。だが。
「見間違えだとは思わない。だから待っているぞ」
俺の声は届くことはないだろうが、それでも。
「お前を待ってる奴がいるんだ。俺もその一人。戻って来いよ、魂魄妖夢」
それが俺たちを繋ぐと確信しているから、妖夢だと信じて、車が進んだ方向を見つめることをやめなかった。
■【八神龍斗】■
自分達が地区予選決勝で勝ってから数日程経って今日は久しぶりに河川敷で練習する事になっていた。
その理由としては円堂先輩曰く四十年前のイナズマイレブンがやって来るという事なのだ。
四十年前と言うことは今はもう錆び付いているんじゃないか。僕の懸念は晴れないが、いつの間にか稲妻町の老人達が集まっていた。
「久しぶりだな、響木」
「会田。来てくれたか」
「俺も来たぞ。響木!」
「備流田も、よく来たな」
その姿は町内会で見た人達ばかりだ。そして雷門サッカー部のマネージャーの執事も居るらしい。
なんとも世間は狭いものだなと思いながらもサッカーボールをリフティングしながらもその様子を眺めていた。
「それじゃあ、試合をやるぞ!」
「おう!」
その合図とともに元祖イナズマイレブンのメンバーは並び立つ。フォーメーションをとったのだ。
いつの間にかそこに居た刑事の鬼瓦さんがホイッスルを鳴らすと試合が始まる。が。
「っはは。久しくボールを触ってねえから感覚が分からなくなっちまった」
備流田さんはそう言うと共にスカして軽く転がったボールの脇で座っている。
ほかのイナズマイレブンメンバーもそうだ。どこか力が無い。
やはり錆び付いているんだな。僕がそう決めて伝説を見る事を諦めようとした時だ。
「お前ら。それでもイナズマイレブンのメンバーか! 今のこいつらに期待されているんだぞ!」
「響木……」
「見せつけてやろうじゃないか! 伝説のイナズマイレブンを!」
響木監督の一言から始まり、元祖イナズマイレブン達は目付きが変わる。流石としか言いようがないと笑ってしまった。
「こい! これが元祖ゴットハンドだ!」
豪炎寺さんのファイアトルネードを響木監督のゴットハンドが軽々と止める。
あれを? 嘘だろ? そんな言葉が聞こえるがそれでこそ伝説だと僕は震え上がる。武者震いは高まった。
「行くぞ! 炎の!」
「風見鶏!」
そして、燃え盛る炎の鳥は円堂先輩の元へ。円堂先輩もゴットハンドを繰り出すも破られる。これが。これが元祖イナズマイレブン!
「ワクワクしてきた……星は見えたっ!」
「かましてこい。龍斗!」
「了解です。豪炎寺さん!」
僕はまた走り出す。元祖イナズマイレブンのディフェンスはとても厚い。だけど今なら!
「なに!?」
「速いっ!」
「こちとらまだまだ現役ですからね! 行きますよ、監督!」
「おう!」
響木監督はゴットハンドの構えをとる。今日は真っ向勝負をしかける。
光をボールが纏う。妖夢と共に戦ったあの時のように。時の流れはゆっくりと。
「ぉぉおぉぉおお!」
「ゴットハンド!」
光と光はぶつかり合う。それでも、自分の蹴ったボールは回転を更に激しくするとゴットハンドを破った。
「よっしゃあ!」
「やるな、八神!」
そんな事がありながらも元祖イナズマイレブン達との試合が終わる。とても充実した時間を得て、なんとも有難い気分になりながらも、数日後。
「さぁ。ついに始まるぞ!」
「フットボールフロンティア決勝戦!」
『さぁ、各地方の代表達が集まってきます!』
実況の鳴り響く中で自分達はゆっくりとフットボールフロンティアスタジアムへ入場する。
実はこの数日間の中で理事長が事故にあったという事をマネージャーの雷門夏未さんから聞いた。
僕はそれについて影山の事を思い出すが今は気にしない事にする。
その中で一つ気になるチームが存在した。
『えー、世宇子中は調整中の為に開会式は欠場のようです』
なんだそりゃとなるのが普通なのだが、僕はそれとなく嫌な予感がしていた。こんな時ばかり当たる予感は、当たって欲しくない。そう願いながらも開会式が終われば練習しようと気を逸らした。
「アレが八神龍斗……神を超えられるかな?」
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新しいマネージャー! その名も……?
今回は割とオリジナル展開を構築する中でやりたかった事をやりました。どうしても原作では埋められなかった時間を埋めたらどうなるのかな。といった感じで書いてます。
それにしても、なかなかに感想が来ないのでアクセス数は見てるんですがそれでも読者様が居られるのか気になってしまいます。
もし宜しければ感想をお願いします。励みになります。
なんて事も言っておりますが、これからもよろしくお願いします。それでは八話をごゆるりと!
■【八神龍斗】■
開会式が終わってその翌日。雷門中のグラウンドが空いていた事からそこで一人トレーニングをしている。
他の人はイナビカリ修練場で練習しているのだが、自分は久しぶりに普通普遍のトレーニングをしていた。
というのも。自分は昔と違い 明確な必殺技 を使ってないのだ。
ボールが光を纏う事はあっても、その先の必殺技という状態にまでは至ってない。
響木監督のゴットハンドと対決した時が一番それに近い状態に戻っていたが、まだまだアレでは足りないのだ。
そんな練習を続けていると、こちらに一人の女の子が歩いてきた。
「どうなされましたか?」
「えっと、雷門サッカー部は何処にありますか?」
「あぁ、あっちですよ。案内しましょうか?」
「お願いします」
長いラベンダー色の髪をストレートにしていて、少しばかり大人しそうな美人さんだな。なんて感想は内側にしまいつつもサッカー部へと案内する。
ボロボロな小屋だが中は割と綺麗にされているのだ。これは円堂先輩とマネージャーの木野秋さんが創設時にやったらしい。
「此処です。ボロボロですいませんね」
「いえ、ありがとうございます」
それにしても、見たことのない女性を部室に一人放置させるのもどうかと思い、自分も部室に入り取り敢えずのんびりと過ごす。
会話もなく数十分程待っていると秋さんと音無さんが先に戻ってきた。
「八神君。部室に居てどうしたの? ……そっちの女の子は?」
「もしかして入部希望者ですか!?」
「はい。久遠冬花です」
「やった! お手柄よ八神君!」
「どうもです」
入部と分かればテンションの高い二人を眺めていて相当大変だったんだなぁと苦笑いする。
そういえばあの眼鏡先輩は最初は嫌がっていたのにいつの間にかイナビカリ修練場で練習してるよなぁとか関係ないことを考えていると円堂先輩達が戻ってきた。
「おかえりなさい。円堂先輩」
「おう、八神……え?」
と、そこで円堂先輩が冬花さんを見ると静止する。もしかして知り合いなのかなーと眺めていると「ふ、ふゆっぺ!?」と驚いている。やっぱりか。
「久しぶり。かな、守君」
「ど、どうして雷門中に!」
「それは……守君に会いに来たから、かな」
そんなやり取りを見ていると秋さんがどうしようと言った不安と焦りの目で見ている事から色々と僕は理解した。
「ふーん。ほーん? つまりアレですか? 正妻戦争ですか?」
「や、八神お前何言ってるんだ? キャラ違うぞ?」
「なるほど、正妻戦争……」
「お、音無さん!」
「あら、気になる単語ね」
「夏未さんまで!」
混沌としてきた部室だが、流石に弄りすぎたか秋さんの表情が暗い。というかこれ、逃げた方が……
「八神君。逃げないでね?」
と考えた所で秋さんに肩を掴まれる。あの、どうして振りほどけないんですかね。とか疑問は増えるばかりだ。
しかし、それを言っている場合じゃない。なんとかして逃げなければ生き延びられない。
「という訳だから誰か助けてください!」
「えっと。あ、あはは……」
「あら、私も質問がある側なのよ」
「音無さん。ダメだからね。夏未さんも今は待って」
「……八神。頑張れよ」
「そんなー!?」
だが、現実は無情。音無さんは封殺されて夏未さんは秋さん側。円堂先輩に至っては手を振られた。
冬花さんは首を傾げている事から多分気付いてない筈だけど、兎に角逃れようとしたが僕はドナドナされてしまった。
「それじゃあ少しお説教ね?」
「……はい」
■【久遠冬花】■
「雷門中サッカー部でキャプテンになった守君。かぁ」
私は漸く会うことが出来てとても嬉しかった。きっかけはフットボールフロンティアの地区予選をたまたま見ていたら、守君の事を思い出したから、かな。
どうしてこんなに大事な記憶を忘れていたかは分からないけど、私が引っ越す前にずっと仲良くしてくれた事も理解してからお父さんに雷門中に転校出来るように頼んで正解だった。
八神君の正妻戦争って言葉は少しわからなかったけど、それよりも。
「ふゆっぺ。これからまた宜しくな!」
「うん。守君」
こうして守君に再開出来たことが一番嬉しい。でも、ライバルが増えているのがちょっと複雑かな。
さっき名前を聞いた木野秋さん。雷門夏未さんの二人は多分守君が好き、なんだと思う。
そうだとすれば八神君の正妻戦争って言うのも間違いじゃないのかも。
「それにしても八神のやつ、大丈夫かな?」
「秋さん。怒ってたからね……」
「そうなんだよなぁ」
相変わらず守君はその辺りは鈍いみたい。でも、今はそれでいいと思う。
お父さんは私からのお願いに驚いていたけど、許してくれた事に感謝しながら。今は守君の腕に抱きついた。
「ふゆっぺ?」
「……久しぶりだなあって思ったら、つい」
「確かになー。小学校の小さい時以来だからな」
「うん。だからなんだか安心するかも」
「そうか?」
「うんっ」
こうして安心する事が出来るのはとっても久しぶりだし、くっ付いていると胸のドキドキが早くなる。
そんな私を見て音無さんはなんだかもじもじとしていた。
「どうしたんですか?」
「いや、そのー。なんだか少し羨ましいと言いますか。私はそういう相手が居ないので……」
「そっか……ふふ」
そういう事か。となんだかおかしくなって笑っちゃったけど、それはともかく。
本当に相手が居ないのかな? と少しだけ考えると一人だけ思い当たる人が。
「八神君は違うの?」
「は、はいぃ!?」
どんがらがっしゃーんと大きな音を立てて音無さんは転んじゃった。
いきなり聞いた私が悪いんだけど、守君や他のみんなもきょとんとしているからちょっとプレッシャーになるかも? と思いながらも安否確認。
「だ、大丈夫?」
「は、はいっ。大丈夫です!」
「無理しないで、ね?」
「はいっ」
多分大丈夫かなぁ。そう考えていると八神君は真っ白になりながらも帰ってきたみたい。……あれこそ、大丈夫なのかなぁ?
■【音無春奈】■
「私の相手。考えた事はありませんでした」
あのお祭り騒ぎの後に私は一人考えていたのだけれど、どうにも落ち着かない。恋人なんて考えた事が無かったからかもしれない。
でも、今はなんとなく気になる人が居る。とは思っている。
「……八神さん。だよなぁ」
帝国学園との戦いのあと、お兄ちゃんと話すように「頑張って。鬼道さんは今でも音無さんのことを大事に思っているはずだよ」と勇気をくれた人。その時お兄ちゃんと話した事を少し思い出した。
「春奈。大きくなったな」
「……そうだね。あれから何年かな」
久しぶりにお兄ちゃんと話す感覚はとても暖かい気持ちになった。お兄ちゃんも私と話をしたかったみたいだし。
そのお兄ちゃんと話をする勇気を八神さんから貰って話しているとお兄ちゃんがふと思い出したように問いかけてきた。
「そういえば、春奈。好きな人は出来たか?」
「え? そ、それは……」
「おそらく、八神だろうな」
私が戸惑っていると八神さんとお兄ちゃんは確信していた。なんでかは分からないけど。
「頑張れ。彼奴の傍には一人の女が居る。そこを奪わなければならないからな」
「う、うん」
これが久しぶりの兄妹の会話なのかなぁなんてあの時は思ったけど、忠告だったんだなって今なら分かる。
あの後八神さんの名前で検索したらジュニア時代の写真を見つけてしまった。
「……魂魄妖夢さん。かぁ」
八神さんがジュニア時代よりも前から、ずっと一緒にサッカーをしている人。インタビューにはそう書いてあった。
以前言っていた幼馴染みはこの人。とはっきり分かった。八神さんが一度サッカーをやめるきっかけになった試合の事も書いてあった。
「……八神さん。かぁ」
名前を呼ぶと少しだけとくんと心臓が跳ね上がる気がした。
帝国学園で私を気遣ってくれた時。そして私が八神さんを抱きしめた時の事を考えると、とても胸が暖かくなった。
多分、そういう事で良いんじゃないかな。と少しだけ考える。それが答えなのだとしたら。
「八神さんを好き。なのかなぁ。そこまでちょろいと思ってなかったけど……」
今はまだどうなのか分からない。でももし本当にそうなのだとしたら、奪う気持ちで行かなければいけないみたい。
「まぁ。やってみるしかないよねっ」
フットボールフロンティアの初戦。戦国伊賀島の前日にこんな事を考えていていいのかなぁと思うけれど、それでも気になったし私も乙女。突き進んだっていいでしょう!
「……八神さん。覚悟してくださいね!」
■【八神龍斗】■
昨日あんな事はあったけれど今日はフットボールフロンティア初戦。説教なんてなかったんだと言い聞かせている。
相手チームはどんな姿か。確認しているとなんだか本当に忍者みたいなユニフォームを。まさか、いやまさか?
そんな中で今日はなんだか違和感を感じる。というか、具体的には何故か自分の隣に必ず音無さんが居る。
「あ、あのー。音無さん?」
「はい。なんですか?」
首を小さく傾げて反応してくる。可愛いな。じゃなくて、なんでこうなってるんだろうと思いながら。
「今日はどうしてこんなに隣に居るの?」
「それは、秘密ですっ!」
ダメだ。理解できない。僕がそう考えるのを知ってか知らずか僕の腕に音無さんは抱きついた。
秋さんと夏未さん。昨日加わった冬花さんはなんだか微笑ましそうにこちらを見ている。いや、なんで?
「取り敢えず恥ずかしいんだけど……」
「私もです。でもこうします!」
「そ、そう」
試合開始までこうする気なのかなぁ。と僕がなんとも言えない恥ずかしさに襲われていると、相手選手の霧隠さんはなんでかこっちを見ている。
まぁどうでもいいや。と思考停止して僕は意識するのをやめた。
「なぁ秋。ふゆっぺ。夏未。音無どうしちゃったんだ?」
「それは多分。だけど」
「音無さんを変えるきっかけは」
「恋。かしらね? 円堂君」
「……そうなのか?」
後ろではなにか会話している気もするけど、僕は気にするのをやめた。というか、そうしないとこれ恥ずかしさで死にそうなのだ。
こんなので試合まで保てるかなぁ。とか考えても時間は進み、試合は目前になった所で漸く離された為に、色々疲れた感じで試合に望まなければならなかった。
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戦国伊賀島! 龍斗の潜在能力!
まずはこんなにも更新遅れて申し訳ありません。実はもっと早めに投稿するつもりがインフルエンザにかかりまして、治るまで寝るだけの習慣を過ごしていました。
一応治って色々やっているのですが一度リズムを崩すと小説を書くのが大変で。
それでもこうして戻ってきました。そんな今回の話もごゆるりとなさってくださいな。
■【八神龍斗】■
『さぁ、フットボールフロンティア一回戦。雷門対戦国伊賀島! どのような試合となるのでしょう!』
「我々伊賀島流忍術が負けるはずがない!」
「皆、勝つぞ!」
相手チームの霧隠さんと雷門のキャプテン。円堂守さんは味方を鼓舞する。勿論僕の士気も上がる。
妖夢もきっと何処かで見てくれているだろうからという現金な理由かもしれないが、それでも。
「行くぞ!」
ホイッスルが鳴り響くと共に試合は開始する。どんなプレーを出来るか。なんて考えながらもキックオフ。
まずはフォワードの染岡さんと豪炎寺さん。そして僕も含め前線へボールを運ぼうとする。染岡さんがドリブルをしているその時。
「伊賀島流忍法。蜘蛛の糸!」
「っ、なんだこりゃ!?」
その技名の通り蜘蛛の糸がフィールドに張り巡らされ、相手チームのミッドフィールダーがボールを奪い去る。
忍術ってこういう事か! と内心で舌打ちしながらも自分がボールを奪い返そうとしたら相手が透けた。
「伊賀島流忍法。残像!」
「……はぁ!?」
ちょっと待て。どうやったらそうなるんだ。とか言いたいことは沢山あるがこれはまずいとすぐに戻る。
するとディフェンダーの壁山さんがボールを奪う。体格のでかさは武器となるものだな。と味方であることに感謝しながらもボールを受け取る。
「それじゃあ、行きますか!」
だが、ともすれば一度見たのだから種は読めた。恐らく相手は自分の足元に必殺技の罠をしかけるのだろうから、飛び上がればオフサイドにならないように、尚且つすぐに前に出られるようにしていた豪炎寺さんに上空からのパス。
綺麗に通ったパスと共に豪炎寺さんは空へと舞い上がる。ということは。
「ファイアトルネード!」
「伊賀島流忍法! つむじ風!」
だが、相手ゴールキーパーは大きなつむじ風を起こしてボールを止める。
なるほど。そういう技なんだな。と理解をした上で相手ゴールキーパーの投げたロングスローパスを飛んでパスカットする。
「そこだ!」
ウイークポイントであろう飛び上がっている間にシュートをゴールに叩き込む。だが。
「つむじ風!」
再び竜巻のようなつむじ風がボールの進路を阻むとボールは再び相手ゴールキーパーの手の中に収まる。
飛んでいる間も使えるのか。と内心舌を巻きつつも着地すると、再びのロングスローで通過したボールを追いかける。
ボールを持ったのは戦国伊賀島のキャプテン。霧隠才蔵。そのボールを蹴るとボールが土を纏った。
「……は?」
「伊賀島流忍法。土だるま!」
いや、待て。それは忍法なのかとツッコミをしたい所ではあったが威力を増しながら転がる土だるまを前に円堂先輩は手を構えた。
「ゴットハンド!」
光の手は土だるまを受け止める。だが、土だるまの転がりの強さは増してゴットハンドにヒビをいれるとそのまま押し通った。
「っ、止められないのか!」
全国に来たからには分かっていたことだがゴットハンドではシュートを止められないということに、ここからは自分達が点を取るしかないなと腹を括る。
やるしかないと決めたら自分は自分の全力を出すしかないのだ。
「……試合はまだ始まったばかり、か」
■【音無春奈】■
「ゴットハンドが破られちゃいました……」
「そうね、厳しいわね」
「守君……」
現在私達マネージャーはベンチにて試合を見ているけど、戦況は雷門が一点を追う形になっている。
ゴットハンドが通じないということは、必殺シュートを撃たれたら危ないということ。
でも、雷門サッカー部の皆は諦めていない。これからが勝負だと息巻いている。
「八神さん……」
今までは完全に入っていた八神さんのシュートは止められてしまった。精神的なダメージを受けてないか心配になる。
「もしかして、八神君が心配?」
「え?」
「そんな顔してたからよ」
木野先輩が私に問いかけたのは私がちょうど考えていたこと。
八神さんの事はとても心配なために頷くと、ふふっと木野先輩は笑った。何かおかしかったのかな? と首を傾げると手をひらひらと振った。
「何かがおかしかった訳じゃないわ。でもね、ピッチに居る八神君の様子。見てみたら分かるわ」
「は、はい」
言われた通りに八神さんの様子を見ているとその答えはすぐに目に入る。なんとも楽しそうな笑顔だ。私も今まで見た事がなかったかもしれない。
もしかして、だけれども。
「魂魄妖夢さんがこの場所に? もしくは……」
__物凄く、ノっている?__
「魂魄妖夢が誰かは分からないけど、ノってるのは確かじゃないかしら」
「そう、ですね」
ボールコントロールもいつもよりキレがあるしスピードも何だか少し早くなっているような。
中学のスピードじゃなくてプロの試合ペースを見ているような感覚を覚えたその先には。
「いいね……"まだやれる"」
確かに聞こえたその呟きは確信をはらんでいるような。その言葉とともに八神さんは走り出した。
次の瞬間、フィールドに風が吹いた。その途端ボールを持った八神さんは相手ゴール前に立っている。……え?
「は、早い!?」
「なんだ、こいつ!?」
「星は、見えた!」
次の瞬間放たれたシュートは光を纏って相手ゴールキーパーの巨大なつむじ風を突き抜けて、ゴールに刺さる。
「……まだまだ、か」
「すごい……!」
八神さんは納得していないみたいだけど、一点をもぎ取ったのは事実だしボールはギュルルっと音を立て高回転でまだ回っている。
「もう一点。頑張って!」
「大丈夫……!」
秋さんや冬花さんの応援を受けつつも皆さんは走り続ける。そうして前半は終わるのだけれども。
「なかなかに次の得点が生まれないな」
「まぁ、とりあえず一点はもぎ取りましたよ」
「流石だとは思うな」
そんな感じで和気あいあいとしている皆さんの中にいる八神さんの隣に私は立つ。やっぱりかっこいい。
「今日は音無さんやけに隣に来ますね」
「嫌ですか?」
「いやまぁ、そうじゃなくて」
とりあえず八神さんはなんだか私のことを気にし始めてきた。これは第一歩かなぁなんて。
それにしても戦国伊賀島はなんとも不思議な技を使うチームだなぁと考えていると八神さんはこちらを見ている。首を傾げると彼は笑った。
「……楽しいかい?」
「はい、全国は凄いですし見ていて楽しいです!」
「それは良かった」
その問いかけの意味は分からないけれど、聞かれたことに対して答えると八神さんは微笑んだ。
それと同時にスイッチが入ったようにも見えるけれども、このあとの後半戦がどうなるか。ワクワクを覚えた私は八神さんの手を握った。
「音無さん?」
「勝ってくださいね、八神さん」
「……勿論」
私の問いかけに答えると、八神さんは後半のためにピッチに向かって走る。
まるで一陣の風のように走り去る姿は新たな世界を感じさせてくれる。そんな気がした。
「……かっこいいな」
ふと出た言葉は聞こえているかは分からないけれど、始まった後半をゆっくりと眺める事にした。
■【八神龍斗】■
「さて、後半か。勝てるかどうかはまだ分からないけど」
見通しを立てながらもかなり時間が経った後半をプレーしている中で、何かしてきそうな相手をすべて封じる覚悟で望む。
恐らくは、相手キャプテンの霧隠さんにボールが集まった時に発動するものだと思えば仕掛けは簡単なのだ。
「行くぞ! 偃月の……なにっ!?」
そのボールをカットすればいい。そんな簡単に言うなとも言われかねないが来る場所がわかっている以上は、誘って奪えばいい。
僕としては相手の星を読む感覚だからわりと楽にできるのだがここからどうやって得点に繋げるかがまだ決まっていない。
誰か特典の出来そうな人は居ないのか。そう思って周りを見渡すと決まった顔の豪炎寺さんと風丸先輩が居た。
あの二人ならば任せていいのかもしれない。そう思って大きくセンタリングをあげて 丁度二人の真ん中 に落とす。
「得点。お願いしますよ!」
「おう!」
「任された!」
二人は丁度真ん中に落ちたボールを見ては走り寄ると笑みを浮かべた。
同じタイミングでボールを蹴りあげると風見鶏は今再び舞い上がる。
「炎の!」
「風見鶏!」
「なにぃ!?」
炎の風見鶏は燃え盛りながらも相手ゴールへと飛んでいく。そして勿論そのボールは止めることは出来ないだろう。
「伊賀島流忍法。つむじ風! ……なにっ!?」
風見鶏はつむじ風などに阻害されずにゴールに入る。そして、勝ち越し点をとったところでホイッスルが三回鳴る。自分たちの勝ちだ。
「よし、全国一回戦突破だ!」
「流石だな、八神!」
「良くやった。龍斗!」
ワンゴールにワンアシスト。この結果は悪くは無いし周りの人達も自分を褒めてくれる。それは嬉しいんだけど、少し足りないものがあった。
必殺技になってない。と言うことから自分のシュートはまだまだ昔程じゃないという事だ。
まだ何が足りないのかは分からない。複雑な気持ちになりながらも今は仲間の皆に微笑む。
「いやー、今回はやらせてもらいました。まぁまだまだですけど」
「それでもだ。相変わらずお前はゴールへの道筋が見えているんだな」
豪炎寺さんからの言葉には「はい。まだ完璧ではありませんが」と返答する。実際まだ自分のシュートやドリブルはまだまだ改善の余地があるのだ。そこを突き詰めない理由には行かない。
そんな事を考えていると音無さんは自分の隣にまた立っている。
自分は何をしたかは覚えていないのだがそれはともかくとして彼女にも微笑んだ。
「勝ったよ、音無さん」
「はい。見ていました」
自分の言葉に律儀に頷く彼女を見てはなんだか可愛らしく見えるのだが、それはそれとしてゆっくりと空を見上げる。
この時間だから、星が見える事なんて早々ないのだがそれでも探すのをやめない。
自分にとって星は大切なもので、それがあるからこそサッカーも上手くいく。
「……やっぱり僕のピッチには妖夢が必要だな」
誰かに聞こえたかは分からないけれども、思ったことは事実である事から少しばかり苦笑いをしてしまう。
そんな自分を見て音無さんはゆっくりと手を握った。
慣れない暖かい感触に少しばかりドギマギしつつもそれでも握り返した。
「……ありがとう音無さん。僕はまだまだ高みを目指さなきゃ」
「はい。頑張ってくださいね!」
僕は頷くと、帰りのバスの方向へと向かう。手を引いていることは気にせずに、今は隣にいる音無さんを連れているにも関わらず妖夢の事を思い出していた。
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ファンタジスタとその相棒。彼女は……
どうも、suryu-です。
一度インフルエンザで小説を書かなかったりしたことから少しテンポが崩れ気味でなかなか書くのが難しい。
そんな中で書いた今回ですが、漸く。漸く彼女が本格参戦します。
彼女って誰? って人は、これから見たらわかると思いますが、多分予想は簡単だったと思います。それっぽい事書いてたし……
では、今回もごゆるりとなさってください!
■【三人称】■
「漸く、終わりました」
その一言を呟いた存在はとある場所へと向かっていた。やるべき事は一つと見定めているからだ。
存在。否。彼女と言うべきだろう。美しいショートカットの銀髪を靡かせながら、歩き続ける。
彼女は嘗てこの世界。サッカー界から去っていた。だが、不屈の精神から彼女は舞い戻る。完全に治療を終わらせたのだ。
その彼女は辿り着いた学校を見てふっと笑った。そう、漸く。漸くなのだ。
「すいません。取ってくれますか!」
そして、丁度よく飛んできたサッカーボールを手にすると彼女は足元に置く。
「分かりました。その代わりに、受け止めてみてください!」
そうして彼女の蹴りから放たれたボールは、円堂守が受け取ると同時にかなり後ろに下がらせる。
その威力は落ちていない。色褪せていない。誰もが呆然とする中、彼女は微笑んで一人の男の元へと向かい、抱きついた。
「久しぶりですね、龍斗さん」
「……よう、む?」
__遡ること少し程前の事__
■【八神龍斗】■
「そういえば、八神って幼馴染みが居るんだよな?」
突然円堂先輩がそんな質問をしてきた事に何かあるのかな。という表情をしつつ「はい。居ますよ」と答える。
そんな表情を見てなおどういう意図かは分からないが、円堂先輩は気になるような顔をしていた。
「いやさ、八神が良ければ聞いてみたいんだ。その子のプレーとか」
なるほど。と納得が行く。円堂先輩はバカが付くほどサッカーが好きなのだ。
そして、周りの人も気になり集まりだした。確かにこの人達にもそろそろ話していいかなと思い、足元のボールをリフティングの容量で手に取れば前を見る。
「あまり自称するものではありませんが、僕は異名でファンタジスタと呼ばれています。そのファンタジスタにとっては欠かせない存在でした。そもそも、ファンタジスタってどういう人種か理解していますか?」
「ファンタジックな、創造性のある芸術的プレーで周りを魅了する。相手の意表を突いたプレーとかも得意だ。イタリアでは伝統の賞賛だな」
土門先輩の回答に頷くと共に空中に指で線を描く。これなら理解は早いだろうと思いながら。
「ファンタジスタについてはその通りです。加えるなら突出したプレーなども有ります。そして、僕に欠かせない存在が妖夢です」
僕の言葉を聞いて、皆妖夢はどんな人なのか気になり、前屈みになって話を聞き始めた。豪炎寺さんはふっと笑った。
「妖夢は、ゴールまでどう攻めるか。その道筋を決めて、僕が意思を発すると、その意思を汲み取るんです。妖夢はプレイヤーとして最高峰。自分の相棒でした」
なるほど。と皆は頷くと同時に更にプレーが気になる様子なのでそこに加える事にした。
「例えば、僕自身も昔は得点力が高かったけど、妖夢は正確無比なパスも出来るし、僕よりも得点力のあるエースストライカー。加えて僕の意図を完全に理解する上に、ユーティリティプレイヤー。間違いなく一流のプレイヤーですね」
「そして俺とも全国では何度も会った。あの時は良い勝負が出来たな」
「はい、豪炎寺さん」
豪炎寺さんの言うことは自分もそう思っているから素直に頷く。豪炎寺さんと戦っていたあの頃は。
思えば鬼道さんも居たような気がするけど、それはそれとして妖夢の事を思い出したから、会いたくなってしまった。
「僕にとって妖夢は太陽でした。僕が月や星なら、彼女が太陽。そう思ってます」
ちょっと照れくさいけれども、これが僕の本音なのだ。それを知ってか知らずかは分からないが皆は色々妖夢がどんな人か考えだした。
この面子の人達なら、妖夢がもし居たら楽しくサッカーしてるだろうな。なんて柄にもないことを思った後に「練習、再開しましょうよ」と笑った。
「よし、そうだな。八神、撃ってこい!」
「言われなくとも!」
僕のシュートは光を纏う。が、やはりまだ必殺技にはなっていない。それでも円堂先輩は全力だ。
「熱血パンチ!」
まだこの人からゴールを割れないか。とちょっとした苦笑いと遠くに飛んでいったボールを見てから取りに行こうとする。
その時、ふと足が止まってしまった。なんで? なんで。
理解しようとする前に円堂先輩が「取ってくれますか!」と声をかけた。
「分かりました。その代わりに、受け止めてみてください!」
嘘だと言いそうになる。でも、嘘じゃなかった。自分のすぐ隣をボールは通り過ぎたと同時に円堂先輩を大きく仰け反らせる。
結果的に円堂先輩は後ろに大きく下がった後になんとか留めた。
皆が呆然としている中で、彼女は僕に向かって歩いてくると同時に抱き着いてきた。
「久しぶりですね、龍斗さん」
「……よう、む?」
■【魂魄妖夢】■
「す、すげぇや、今のシュート……」
「久しぶりに見たが、まさかここまでとはな」
「……あの人が」
周りを見渡すと龍斗さんに抱き着いたせいかはたまたシュートの威力のせいかは分からないけど、少しざわついています。
まぁ、女子の私が来たということもあるのかもしれませんがそれはともかく。
こうして龍斗さんに自分の足で会いに来て抱きつけた事で、久々に満たされましたから。
「や、八神さん。その人は?」
「え、あ、あぁ、音無さん」
と、ここで私達の間に入ろうとした女子が居ます。おそらくマネージャーじゃないでしょうか。
音無と呼ばれた彼女はもしや、龍斗さんを……? まぁ、負ける気は無いですけれども。
「さっき話していた魂魄妖夢。僕の幼馴染みだよ」
「どうも、魂魄妖夢です。龍斗さんとは幼馴染みでずっと一緒にサッカーをしていました」
私の自己紹介の後におおっと皆さんは湧き上がるように歓声をあげてくれました。
龍斗さんは良い仲間に恵まれていたんだな。と少し嬉しくなりつつもいまだにどこか抜けている龍斗さんの顔に手を当てます。
「夢じゃありませんよ。龍斗さん」
「それは、そうだと思いたいしでも驚いてるし……」
「ふふ。全く……でも、こうして戻ってきましたよ。龍斗さんとサッカーをする為に」
「……妖夢」
こうして向き合って言葉を投げかけると、龍斗さんはとても嬉しそうです。やっぱり私を待っていてくれたんですね。
「ちょっとごめんね。龍斗君を借りていくわー」
「へ?」
「あ、秋さん!?」
突如そこでマネージャーらしき女の子が龍斗さんを連れて行っちゃいました。
いったいどういう事なんだろうと思っていると豪炎寺さんが前に出てきました。
「多分。お前から見た龍斗の話を聞かせたいんだろう。俺も親交があったとはいえ、日常の事やどんなサッカーをしていたか等は、事細かに知っている訳じゃない」
「ああ、なるほど」
そこまで言われると少しばかり思い出すように黙ります。というか、思い出すのはすぐなんですけれど、どれを話すかに迷うんです。
少ししてからまずはサッカーの事から始めようと決めました。
「では、日常の前にまずはサッカーから。私からしたら龍斗さんのサッカーはチームにとって。そして私にとっての太陽みたいなものでした」
「……え?」
「想像性と創造性。同じ読みの違う単語を兼ね備えたファンタジックなプレーに、優しい気質でチームの和を産む。私ですら驚くイメージを皆に見せて、勝利に導きます。私が月ならば、龍斗さんはファンタジスタとしても、チームの一員としても太陽でした」
私の感想を聞いた皆様はなんとも不思議そうな顔をしています。なぜだか分からないので首を傾げると背の高い男の人と、音無と呼ばれた先程のマネージャーが出てきました。
「俺は土門飛鳥って言うんだけどさ。その話、八神が話した時はあんたが太陽って言っててさ。少し感動したぜ」
「八神さんは妖夢さんを凄く大切にしていた事が八神さんのおかげで分かりました。とても羨ましいくらいに」
「……そうですか」
それを聞いた私は少し照れくさくなりました。そして龍斗さんの日常についても話すことにします。私の知る限り、ですが。
「龍斗さんは日常でも優しい人ですね。基本的に滅多な事では怒りません。そして、私が怪我する前は共にサッカーに明け暮れていました」
「二人共、サッカーが好きなんだな!」
「はい。とても大好きですよ。私にとって、私たちにとって。サッカーは絆ですから」
そんな私の語りを聞いていて先程から音無さんは少し不安そうに見えます。
逆に試合で見たキャプテン円堂さんは、私を見てワクワクしているみたいです。サッカーが本当に好きなんですね。
音無さんに関しては、後で色々聞いても良いとは思いますが……それはともかく。
「私も雷門中に先程転入届けを出しました。これからサッカー部で、宜しく御願いしますね」
「おおっ!?」
「すげぇな! 八神がベタ褒めのストライカーか!」
「……久しぶりに。それも味方でのプレーか。楽しみだな」
その私の宣言に先程の土門さんや円堂さん。豪炎寺さんでさえも嬉しそうにしています。
私も漸く復帰できる。フットボールフロンティアでもう一度高みを目指せることに感謝しましょう。
そして、今度こそ。今度こそ龍斗さんと共に。
「凄く。物凄く楽しくなりそうですね」
久方ぶりに希望を手に入れた私は、もう一度ボールを手にします。待ち望んだこの時を噛み締めながら。
■【三人称】■
『な、なんとなんと! 帝国学園に十点目! 世宇子中が止まらない!』
「……なんだ、これは。どうして」
その日。全国が集まるフットボールフロンティアのトーナメントが行われているその場所では、誰もが信じられない光景を目にしていた。
キャプテンの鬼道は皇帝ペンギン二号などの技の使用により足を痛めていた事から、ベンチ外でスタートした。
だが、展開が展開で出ようとした頃には全てが終わっていた。
「源田。佐久間……皆……」
どれだけ悔やんでも悔やみきれない。どうしてこうなってしまったんだ。
そんな苦しみを味わいながらも彼は病院に送られる仲間達と共にスタジアムを去る。
「神に逆らうということがどういう事か、教えてあげよう」
その中で世宇子中の一人がそう呟く。次は雷門だ。そう言わんばかりに笑みを浮かべた。
その笑みはどこか神々しさの中に恐怖を与える事を良しとしている感情を埋め込まれたものだった。
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帝国学園敗北!? 鬼道の所へ!
どうも、suryu-です。
最近になって思っている事ですが、オリジナルキャラを募集したらキャラを送ってくれる人は居るのでしょうか。
一応活動報告に場を作ろうかと思いますが、出せるかは分かりません(オイ)
それでは今回もごゆるりと。宜しければ感想をお願いします。励みになります。
【円堂守】
「それにしても、帝国は今頃何処と戦ってるかな」
「そうですね、円堂先輩。まぁ帝国なら何処でも勝てるでしょうけど」
今。俺は八神と話しているんだけど、帝国と。鬼道と決勝でもう一度会えるかどうかという話題になっていた。
俺達が帝国と再び戦うにはまだまだ練習をしなきゃいけないし、ゴットハンドでシュートを止められなかったから、新しい必殺技を覚えなければならなかった。
だから、キーパーじゃないけどその手には強そうな八神に相談しながら帝国についての話題が出たんだ。
「でも、そうですね。そろそろ試合結果が公開されるでしょうから、そろそろ……」
「八神さん! キャプテン!」
「八神君。守くん……」
「ほらね」
八神はこのタイミングを予想していたのか少し得意げに笑ってる。でも、走ってきた二人。音無とふゆっぺはなんだか様子がおかしかった。
なんだか暗い。そんな気がするんだよな……でも。
「それで、帝国学園は勝ったんですよね?」
「確かに帝国が負けるはずはないからな!」
あれだけ強い帝国が負けるなんて思わない。俺達と決勝でまた会おう。そう約束した鬼道が負けるなんて。
「……帝国が」
「……帝国が十対零で」
「世宇子中に負けました」
「え?」
でも、本当に帝国が負けていた。信じられないけどこれが事実なんだって。
居てもたってもいられない。そう思えばやることは一つだ!
「八神。帝国学園に行こう!」
「……了解です。円堂先輩。今からですか?」
「勿論だ!」
荷物を纏めた俺達は走る。不安そうな音無の顔を見た後に、駅へと向かったんだ。
■【八神龍斗】■
円堂先輩と共に電車に乗って、向かった先。帝国学園は珍しく人が居なかった。
地区予選決勝で道順は覚えていたから、サッカーコートにたどり着いた先には鬼道さんがいた。
「鬼道!」
「……あぁ、円堂に八神か。無様な俺を笑いに来たか?」
ここに来るまでに鬼道さんが試合に出られなかったことは把握していた。だから、そのことも含めて自虐してるんだと察することが出来る。
以前見た覇気は感じられないのだが、それも負けた事による傷心のせいではと思った。
多分だけど、かなり落ち込んでいると思う。試合に出ることなく圧勝されたのだから。
「俺は出る幕が無かった。決勝でお前達と戦おうと約束した矢先の事だ。笑い話にもならない」
「鬼道さん……」
鬼道さんがここまで自虐しているのを見ると、なんだか今にも消え入りそうで。最近までの自分を思い出した。
もしかしたら、鬼道さんがサッカーをやめてしまうんじゃないか? そう思って僕が言葉を放とうとする前に、鬼道さんは手で制した。
「……ここではなんだ。俺の家に来い」
「わかった」
「……分かりました」
そうして、招かれるまま僕達は鬼道さんの家へと向かう。そして着いて行った先で見たものは豪華な邸宅だった。
でも、今の鬼道さんには、それも虚しく見えているんじゃないか。そんな気がしてならない。
「すげぇ……でかいし広い」
「そうですね。円堂先輩」
鬼道さんの自室へと案内されてわかる広さで、さらなる空虚を感じさせる、
__こんな所に鬼道さんは一人で住んでいたんだな__
そう思うと、余計に哀しさを感じた。その鬼道さんは一つのサッカー雑誌を取り出して僕達に見せる。
意図は分からないけど、その雑誌をなんとなく見つめる。
「……この雑誌の写真は、俺と春奈の本当の両親が撮ったものなんだ。最後の絆だ」
「……え?」
「記者だったんだ。両親は。でも、最後は飛行機事故でな」
「そうだったのか……」
「音無さんが新聞部を掛け持ちしてるのも、そういう事なのかな」
その雑誌の真実は軽いものじゃない。とてつもなく重い過去に僕は少しばかり鬼道さんという人が分かった気がした。
そんな鬼道さんは、僕を見て何かを思い出しているようだ。それが見て取れる。
「実はな、八神。覚えているかは分からないが、昔俺とお前はジュニアの全国大会で会ってるんだよ。あの時のお前を、俺は知ってるんだ」
「……そうなんですね」
確信は持っていなかった。ただ、そんな事もあったかな。と言った感じだったけど、鬼道さんは僕のことを知っていたらしい。鬼道さん程のプレイヤーに覚えてもらえるのは、とても光栄だ。
「あの時のお前は本当に光の。いや、現日本代表の星を見るファンタジスタのようなプレイヤーだった。越えたい壁だった」
「それは光栄ですね。……最も今はそのレベルになっていないですけど」
「いや、俺達との試合でお前は的確にウィークポイントを突いていた。それはあの時のままだ」
僕への賛辞を向ける鬼道さんは、なんとなく嬉しそうだ。でも、やっぱり何処か様子がおかしい。
それは、今の僕じゃ解決出来ない事なんじゃないか。そう思うとなんだかやるせなかった。そんな時だ。
「……俺はずっと影山の掌の上に居た。春奈との事もそうだ」
「鬼道さん。それは」
「仕方なかったなんて言うつもりは無い。……俺が、あの男に着いたから」
そうして形見である雑誌を握りしめた鬼道さんを、円堂先輩は形見だからと窘めた。
悔しいということはわかる。でも、今の僕達には何も出来ない。
僕がそう思っている傍らで、円堂先輩は少し考えてから笑った。
「鬼道。お前はサッカーが好きだろ? だからさ、今度またサッカーやろうぜ」
「円堂……」
これだけを円堂先輩が告げると、僕達は帰ることとなった。あの言葉は円堂先輩が持つ魔法の言葉。
というのも、僕が豪炎寺さんから呼び出されてファイアトルネードを受けたあの時。
「そういえば豪炎寺さんってどうして復帰したんですか?」
「簡単だ。円堂の持つ魔法の言葉を聞いた」
「……はぁ?」
流石の僕でも、意味が分からないなと苦笑いした。というか普通はそうなる。
でも、豪炎寺さんはとても真面目な顔をしていた。何故だろう。首をかしげた僕に答えるように言った。
「彼奴は、何度も俺にサッカーをやるように声をかけた。あの言葉が、色々な奴を惹き付けた。サッカーやろうぜ。その一言でな」
「……そう、なんですか。まあ引き込まれると言った僕でも、よく分かりませんね」
ぶっちゃけた話。僕は豪炎寺さんからファイアトルネードを受けて、復帰を決めたから最初は本当によく分からない言葉だった。
でも、御影専農との試合の際。その時に、初めてその言葉を言われた僕は、漸く分かった。
確かな魅力。それでいて、カリスマ性と違うものをこの目で見たからこそ、今なら理解出来る。
「鬼道さんも、雷門に来るかもね」
僕も少しばかり信じてみようかな、鬼道さんの事を。鬼道さんのサッカー精神を。
そう思えば、早速豪炎寺さんに連絡を入れる。あの人のファイアトルネードは精神治療にもなる。とは言い過ぎかもしれないけど、それでも。
そう思えばまた、早く帰ってボールを蹴って練習に励むことにした。
■【魂魄妖夢】■
今、私は豪炎寺さんから呼び出されて稲妻町の河川敷に来ています。
そこには、豪炎寺さんとマネージャーの音無さん。そして鬼道さんが居ました。
「こんな面子が揃うなんて思いませんでした。それで、豪炎寺さん。用事ってなんでしょうか?」
「簡単だ。鬼道の説得だ。龍斗から連絡を受けた」
「なるほど」
龍斗さんの事ですから、意味がある事だ。そう理解した上で今の鬼道さんを見る。
鬼道さんはまるで、少し前までの龍斗さんを見たと言っても過言でないくらいに落ち込んでいるのが目に映ります。
そういえば、龍斗さんが復帰する時、豪炎寺さんからファイアトルネードを受けて戻った。とか言ってたから、それで連絡をしたのでしょう。
「……魂魄妖夢か。足はもういいのか?」
「はい。治療とリハビリは既に全て終わりました」
「そうか。それは良かった」
恐らくは鬼道さんもあの試合の真実を知っているんでしょう。ともなれば言葉の意味にも納得出来ます。
それにしてもこれ程弱々しい鬼道さんを見ることになるとは思いませんでした。
円堂さんが発破をかけた。と豪炎寺さんの呼び出しにはありましたが、それも効果が完全に発揮されていない。
それならば、確かに私たちの出番ですね。やるべき事をやりましょう。
「……円堂がお前にサッカーをやろうと言ったみたいだな」
「ああ、そうだ。だが……ッ!?」
その言葉を聞いた瞬間私はボールを蹴る。鬼道さんは足で受け止めると一体なんだという顔をして蹴り返す。
今度は豪炎寺さんにパスをする。そして豪炎寺さんが鬼道さんにボールを蹴りはなった。それすらも鬼道さんは足で留め豪炎寺さんに返した。
「どういう事だ?」
「決まっている。そこで燻っていていいのか。お前は!」
「何?」
そしてそこから豪炎寺さんと鬼道さんの激しいパスの交換が始まる。
「お前はそれでいいのか! 世宇子中にやられたままで!」
「いい訳がないだろう! けど、もう帝国学園は負けたんだ!」
「お兄ちゃん……」
豪炎寺さんと鬼道さんのやり取りを見ている音無さんは固唾を呑んで見守る。
私としてはこの先の展開が読めている。だからこそ、安心するように肩を叩きました。
「もうそろそろ、分かりますよ」
「え?」
「鬼道! それなら雷門に来い!」
「なんだと!?」
鬼道さんの横を通り過ぎたファイアトルネードはボールを破裂させる。そして鬼道さんは動揺している。
まぁでも、ここまで言ったら鬼道さんも分かるかも知れませんね。
「円堂に背中を預けてみろ。お前の視界が変わるはずだ」
「……豪炎寺」
「千羽山との戦いで待っている」
こうして鬼道さんの勧誘は終わりました。音無さんはこの後も少し不安そうな顔をしていましたが、それでも兄を信じるでしょう。
それにしてもこうして仕事をしているんだから、龍斗さんに御褒美をもらいましょう。なにかしてくれるはずですし。
そんな私は何をしてもらうかということを考えながら帰路を歩きます。んーっ、やっぱり足が治って良かったです!
「……龍斗さん。今頃何してるかなぁ」
今度久しぶりに龍斗さんの家に突貫するのもいいかもと思いながら、私は家へと向かう。千羽山との戦いは、数日後だったかと思い出しながら。
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FF二回戦! 超えろ、千羽山の無限の壁!
どうも、suryu-です。
最近はこうして更新をしているのであれなんですが、以前からスランプに入りやすい体質でしてちょっとそこが怖くなっています。
そして、オリキャラ募集枠についてですが、出せるかわからないですけど誰か書いてくれるかなと思いながら、まだまだお待ちしております。
そんな募集枠からキャラを拝借して今回の話はお送りします。
それではごゆるりとなさってくださいな。
■【三人称】■
「千羽山。八神君の復帰を知って試合を見に来たらまさかまさかだねー」
「だね〜。まさかこうして会うなんてね〜」
「そうだねー。最後に会ったのはジュニア全国でそっちのチームと戦った時だっけ? あ、いや。八神君と妖夢のお見舞いに行った時に会ったか」
千羽山対雷門中。その試合は幾人もの人々が気にしているのだがそんな中で出会った二人がいた。
かたや背の低い、黒に近い紫髪の少女のような少年。こなた垂れ目の青い髪を肩まで伸ばしたなんとものんびりした雰囲気を持つ少女。
二人には共通点がある。というのもだ。
「それにしても、久しぶりにサッカーをプレーじゃなくて観戦という形をしに来たよ」
「私も〜。この試合が終わったら、久しぶりに妖夢と豪炎寺に会いに行くんだ〜。久々のお見舞い〜」
二人は嘗て、少年は龍斗と妖夢のチームメイト。少女は豪炎寺のチームメイトとして活躍していて、仲の良かった存在なのだ。
少年の名前は花月紫蓮。少女の名前は舞鶴くるり。どちらも全国レベルのサッカープレイヤーなのだ。
そして紫蓮はお見舞いにという単語を聞いて笑みを浮かべた。
「その話だけどさ、八神君から妖夢が退院したって聞いたんだよ」
「ぇえ〜!? それじゃあ〜もしかして?」
「そのもしかしてさ。雷門中に転入してサッカー部に入ったらしい」
「そっか〜……今もちゃんと龍斗君にアタックしてるんだね〜」
二人の会話は妖夢と龍斗の過去を知る故にと言うことから、この時を待ち望んでいたというように雷門中のベンチを眺める。
その二人を見て周りの観戦者がどよめき始めた。というのもだ。
「おい、あれって現中学サッカー界でも指折りのプレイヤー。”幻影師”花月紫蓮と”風霊”の舞鶴くるりじゃないか?」
「本物だ……度々母校の助っ人としてしか出場していない二人だけど、その実力は折り紙つきで誰もが入部を求めるって話だ」
「でも、二人はあの伝説の八神龍斗魂魄妖夢コンビや、豪炎寺修也とかとしか共闘したくないって言ったりしたとも聞いたぜ」
「おい、そう言えば雷門中に在籍している、あの同じ名前の八神龍斗って……」
「そう言えば……それに銀髪の少女も。まさか?」
「それにベンチにゴーグルを付けたやつが入ってきた……おい! 鬼道有人じゃないか!?」
そんな周りの反応を見ては紫蓮とくるりはやれやれと言った様子を見せつつも面白くなってきたと笑うのだった。
■【八神龍斗】■
「それで、響木監督。豪炎寺さん。もう一人って結局誰なんですか?」
「……来たみたいだな」
試合が始まる一分前。僕らはやってくるという、新たな仲間を待ち続けていた。
ここ数日練習していて気づいたのだが、全員のプレーが噛み合わなくなったのに、試合前の練習も出来ないことから不安になっていた。
因みに円堂先輩から聞いた豪炎寺さんのように遅刻してくるのかなぁなんて言ったら、豪炎寺さんにお前が言うなと言われてしまった。そりゃ御影専農はトラウマがあるままだったしなぁと言いたかったけどやめておいた。
それはともかくとして、来たということからスタジアムのフィールドに入れる出入口を見ると、予感はしていたけど、予想外の人物がそこにはいた。
「待たせたな、豪炎寺。魂魄妖夢。八神。円堂」
「鬼道!? 鬼道か!」
「待っていたぞ」
「遅いですよ、鬼道さん」
「……はは、マジか」
僕は歓喜するしか無かった。天才ゲームメイカー。鬼道有人その人が現れた。
ならば僕は今出来る限りのプレーで応えよう。そう思って試合に望むためフィールドに立つ。
フォーメーションを決める時に、ミッドフィールダーは僕が真ん中。右が半田先輩というちょっとしたイケメン。左が鬼道さんという布陣なのだが、僕と鬼道さんがアイコンタクトをするとプレーが始まってから、フォワードの染岡先輩というピンクの坊主頭の強面からバックパスを受ける。が、微妙な加減が出来ないのか少し走って受けることになった。
その様子を見た鬼道さんはすぐに頷き指示を出す。
「染岡! もうワンテンポ遅らせてパスを出せ! 半田は二歩前に出てパスを受けろ!」
「お、おう……上手くいった!?」
その指示を受けた半田さんは僕からのパスを受けて綺麗な形でパスを受けてくれた。そして合わせるように僕が走りワンツーで受ける。
幸いにも千羽山の面々は足は速くない。と言うことから綺麗に抜く事が出来た。
そしてゴール前にてシュートを放つと、そこでディフェンダーがゴール前に立つ。
「無限の壁!」
それを見てなるほど。と思った。たしかに硬いゴール。これが全国大会未だ無失点の力と納得するとその突破方法を考える。
そうして試合を進めていくのだが、前半戦にどれだけシュートを打ったとしても、入る試しが見えなかった。
■【魂魄妖夢】■
「前半も終わったけど、あの頃の威力ではないとはいえ、龍斗さんのシュートが入らない。か」
前半戦が終わった今。私は龍斗さんの試合を見て少しばかり考えていました。
鬼道さんのお陰で噛み合わないという事態は解決したものの、予想外に堅い守備によりいまだに得点には至らないということからこれはそろそろ私の出番かな。と響木監督を見ます。
ドリンクを飲みながらも悔しそうな龍斗さんを一瞥した後に響木監督は頷きました。
「後半は半田を下げて魂魄を出すぞ。魂魄のワントップだ」
「俺も同意する。トップ下は八神のまま。豪炎寺を右に。染岡を左に入れて4-5-1のフォーメーションにした方がいい」
その響木監督と鬼道さんの言葉を聞いて半田さんが驚いたような顔をしています。これは……
「染岡と豪炎寺がツートップなのが俺達のサッカーじゃないのかよ!」
予想通り反感を買っていましたが、私や鬼道さんが手で制します。
当たり前のことですが、一応言うことにしましょう。後のためです。
「私達は全国大会に出ているんです。ならば全国レベルの戦い方をしなければなりません」
「加えて言うならば魂魄はシュート力がある。あの壁を超えることも出来るかもしれない」
鬼道さんと私の説得を聞いては周りの皆さんは黙ります。龍斗さんは頷いていますし、円堂さんも目を閉じて受け止めています。
それにしても、先程から思っていたことが一つありますし言っておくことにしましょう。
「妖夢と呼んでください。魂魄じゃ言い難いでしょう、鬼道さん」
「そうか。……妖夢。お前は突破出来るか? あの壁を」
「やれるだけやってみますよ」
私と鬼道さんは恐らくですが、お互いを認めあっているでしょう。私はきちんと覚えてますからね、鬼道さんとの試合。
勿論龍斗さんも鬼道さんのことを認めているでしょうけど、それはともかく。
「後半戦。暴れさせてもらいますよ。ね、龍斗さん」
「ん、妖夢と僕のコンビなら出来るよね」
「よし、行くぞ!」
円堂さんの掛け声と共に、私達はピッチに立ちます。龍斗さんと私なら、出来ないことはありません。そう信じてます。
後半は相手のキックオフから始まります。と、同時に攻め込んできましたが、目元の隠れたディフェンダー。確か影野さんが止めました。
ですが、鬼道さんにパスせずマークを背負っている龍斗さんにパスを出します。まだ信頼していないのでしょう。それか、合わせにくいのか。
「……それなら!」
そこで私はパスを受けにいきます。龍斗さんは意図を把握したのか私にパスをくれました。同時に円堂さんが上がってくる気配を見せます。
そして、豪炎寺さんと隣で走り合う。私はボールを持ったまま、相手ディフェンダーの前まで来るとそこで反転。即座に鬼道さんにパスします。
完全な信頼を得るには、チームのキャプテン。円堂さんとその相棒。豪炎寺さんとの共存!
「行くぞ! 円堂。豪炎寺!」
「来い、鬼道!」
そして鬼道さんはボールを蹴りあげます。デスゾーンのようなオーラを纏ったボールは雷を纏う。
新たな必殺技が生まれる瞬間に居あわせるのは嬉しいものと思いながら、それを眺めます。
「イナズマブレイク!」
「無限の壁!」
鬼道さん。豪炎寺さん。円堂さんから放たれたシュートは無限の壁にヒビを入れます。このまま行ったら、或いは。いや、もしかしなくても。
「何!?」
無限の壁は見事に崩壊。貴重な一点をもぎ取りました。
「やったな、鬼道! これがダイヤモンドの攻めだ!」
「そうだな、円堂。ダイヤモンドの攻めはよく分からないがな」
鬼道さんと円堂さんが握手する光景を見て、チームメイトたちは漸く信じる事にしたようです。これで纏まるでしょう。
そして二度目の相手からのキックオフ。そしてそこからパス。と、同時に風が駆け抜けます。龍斗さんがボールをインターセプトしました。
それと同時に私を見る。あぁ、そういう事ですね。と理解すれば私も走る。
「星は見えた! 行くよ、妖夢!」
「ええ、龍斗さん!」
いくらブランクがあったとしても、龍斗さんはやはり速い。ただ速いんじゃなくてボールコントロールにキレがある事からこの速さについていけるのは、チームでは私かディフェンダーの風丸さんか豪炎寺さんだけです。
でも、これでもまだ昔ほどの速さではないということから龍斗さんは納得していません。
ですから、これから私は龍斗さんと共に練習を更に重ねようと思っています。
そんな事を考えながらも私と龍斗さんはワンツーとパスを繰り返しミッドフィールダーやディフェンダーをくぐり抜けます。そしてゴール前。龍斗さんから絶妙に抜け出したパスを受けると精神統一。
__決めます!__
「私に斬れない物は無い! 伝来宝刀!」
「これ以上はやらせないズラ! 無限の壁! ……!?」
無限の壁は私の光の刀をイメージしたシュートを受けると真っ二つに斬れました。二つに分かれた壁は崩れ落ち、ボールはゴールに突き刺さる。
「確かに貴方達はここまで無失点だったかもしれません。ですが、貴方達は私達を相手にした時点で崩れる運命でした。……切り捨て御免!」
”ピッ、ピッ、ピー!”
私の言葉が終わると同時に試合の終わりを告げるホイッスルが鳴り響きます。
「すげぇ、これが妖夢のシュートなんだな……カッコイイな!」
「流石だな。あの頃と変わらない」
円堂さんや豪炎寺さんが駆け寄ってくると私を褒めてくれます。龍斗さんもグッドサインを出してくれました。
久しぶりに感じた勝利はとても嬉しいもので、これだからやめられない。と笑みを浮かべました。
■【三人称】■
「いやー、凄かったね、くるり」
「そうだね〜紫蓮。妖夢楽しそうだったな〜」
試合を観戦していた二人は名前でお互いを呼びつつもその試合を評価する。が、二人にはまだ物足りない部分があった。
「八神君。以前みたいな必殺技が打てないのかな?」
「みたい〜。普通の個人技だけでなんとかなってるみたいだけど〜……」
そこまで言うとくるりと紫蓮は少しばかり考えてからよし。とお互いを見ながら頷きある事を決めた。
「久しぶりに、本気のサッカー。やりにいこうよ」
「賛成するよ〜。……楽しくなりそうだね」
そうして二人はスタジアムから去る。二人のやりたいことをやる準備をするために。
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龍斗の元チームメイト! 必殺技復活の為に!
どうも、suryu-です。
キャラ募集を始めてからなんだかんだ皆様投稿をしてくださって嬉しい限りなのですが、ここで一つ問題が出てきました。
と言うのも、R-18のような内容をさも平然と活動報告の募集場所に投げ込まれたことにより雰囲気が悪くなるかなーと思われました。
皆様各位楽しんでおられた所でそのような行為は許していいとは思えません。見かけたら荒らしとして運営に報告をお願いします。無論私も荒らしと見て対応します。
私としては皆様と楽しむ場なので、そのような行為はやめていただけると助かります。
そんな注意事項を述べましたが、今回もごゆるりとなさって下さい。
■【八神龍斗】■
「っ。まだ、足りない……!」
僕は一人、サッカーボールをみんなの練習から離れて蹴っている。理由はいくつかあった。
千羽山との試合。僕はなんどもシュートを打った。けど、無限の壁に阻まれた。
__ブランクがあったから?__
「……いや、違うよね」
頭の中で考えた言葉を即座に否定すると、僕は再びボールを蹴る。だが、光を纏う事はあっても必殺技の領域には入らなかった。
どうして。どうして打てないんだ。そんな悩みは僕の中で大きくなっていた。
そんな時だ。グラウンドから強い力を感じて見に行く。すると、そこでは大きなペガサスが舞っていた。
だが、それはまだ未完成ということが分かる。シュートの体制まではいっていないのだ。
そこに居たのは円堂先輩と土門先輩。そして、もう一人。見覚えのある人がそこに居た。
サッカーの情報誌で何度か見たこともあるし、一度だけ会ったことがある。茶髪のイケメンで、確かなボールコントロールを武器にしている。
「……一之瀬一哉。フィールドの魔術師」
噂では事故で怪我をして復帰は絶望と聞いていたがあれだけの実力を未だに残している。
妖夢も、怪我のブランクを感じさせないシュートを放っていた。
「なんでだ。なんで僕だけ何も出来ないんだ」
そんな呟きは誰が聴いているわけでもないし、虚空へと消えていった。
そんな時である。ピッチから一之瀬さんが駆け寄ってきた。僕のことを見つけたのだろう。
「龍斗! 龍斗じゃないか! 雷門中に居たんだな!」
「どうも、一之瀬さん。お久しぶりです」
「変わってないなぁ。最近は噂を聞かないから心配だったんだ!」
「訳あってしばらくサッカーから離れてたんで……」
昔会った時とか変わらないくらい気さくに話しかけてくる一之瀬さんは、今はとても眩しく見える。
僕にはないものを持っている。どうして。そんな嫉妬心が少しでも浮かぶ自分が嫌だった。
「久しぶりに見たいなぁ。龍斗の必殺シュート!」
でも、それを知ってか知らずか、一之瀬さんは僕に言う。そこで初めて僕が暗い顔を見せた為に、一之瀬さんは少し心配そうに僕の顔を見た。
「龍斗?」
「……すいません。今は打てないんです。必殺のシュート」
「……そうだったのか」
それだけ告げると察したのか、一之瀬さんは難しい顔をしている。
そして何を考えたか分からないけど、僕を一瞥した後に「また後で」と去っていった。
僕には分からない。どうやったら、あの頃のように戻れるんだ。
__そう自分自身に問いかけても、答えは出なかった__
結局。その翌日は練習を休もうとした矢先に、一之瀬さんが日本に残ると決めた事と、今日は来いと響木監督からの伝言を受けて、雷門中へと向かっていた。
「いったい何事だろうなぁ」
その内容は未だに把握出来ていないけれども、何があるか分からないため気構えしながら校門を過ぎれば、そこには懐かしい顔ぶれが居た。
「やぁ、久しぶり。八神君」
「待ってたよ〜」
「紫蓮!? くるり!? それに、海鳴kfc時代の皆も!?」
「久しぶりッスね! 覚えてるか?」
「ティーダ! 覚えてるよ!」
花月紫蓮。僕の元チームメイトにして有名なボランチ。舞鶴くるり。豪炎寺さんのジュニア時代のチームメイト。妖夢と仲が良いために度々僕もあっていた。ティーダは僕の元チームメイトで監督の息子。
まさかこうして再び出会えるなんて。と久しぶりの面子に会えて喜んでいるところで、響木監督に肩を叩かれた。
どうしたんだろう? そう思いながらも響木監督の方向を向いた。
「こいつらはな。お前の必殺技の復活を助ける為に集まったんだよ」
「そうなんですか……」
久しぶりに集まった仲間達はいつまでも仲間なんだな。とちょっとした感動を覚えていると、後ろから足音が聞こえて振り返った。
「そういう訳だ。ジェクトさんもこうして出てきたわけだ」
「監督!? お久しぶりです!」
ジェクト監督。昔は代表にもなるほどのプレーヤーだったこの人は、海鳴kfcに息子のティーダさんを入れると、現役時代の華々しい経歴を知っていた人から監督を頼まれていた時期があった。
そして、僕が海鳴kfcに入った時に僕の力を見つけたと言って、レギュラーにしたのもこの人だ。
だが、妖夢の怪我した試合のあの日。ジェクト監督が事故に巻き込まれ怪我をしかけて試合に来れなかった時。コーチの一人が代役をしたまでは良かった。けど、それが影山の策略という事を最近になって知った時は怒りがこみ上げたりもした。
それを知ってか知らずかジェクト監督は僕の頭を撫でる。
「妖夢の事は済まなかったな。八神のボウズ。ティーダから聞いた時は本当に腸が煮えくり返っちまった」
「……いえ、ジェクト監督が悪いわけじゃないですよ」
「そう言ってくれると助かるぜ。……それじゃあ練習試合といこうじゃねーか!」
その言葉を聞いて円堂先輩や豪炎寺さんなど雷門中の面々は驚いている。僕自身も驚いているけど、妖夢だけは分かっていたという顔をしていた。
「龍斗さん。やりましょう」
「妖夢……」
そう言われればやらない訳にはいかない。この試合で何か掴めたら。僕はそう思い着替えに向かった。
■【花月紫蓮】■
__八神君はいつも僕達の光だった__
思い出した記憶の中での出来事を、こうして言葉にすることで分かることがある。
八神君はあの日からきっとトラウマを消しされていないんだろう。
自分が光り輝くプレーをしたら、また妖夢が。そう思って。
それをくるりは知っているのか僕の肩をぽんぽんと叩いてきた。
「焦っちゃダメだからね〜。八神君が一番焦ってるんだからさ〜」
「分かってるよ。……まぁ、僕は八神君を信じてるからさ。今回で戻れなくとも、ね」
そうこうしているうちにキックオフで始まる。雷門中にはフィールドの魔術師。一之瀬さんや豪炎寺さんに円堂さん。鬼道さんに、八神君に妖夢など豪華な面子が揃っている。
これ位じゃなきゃ面白くないよな。なんて僕も久しぶりに楽しくなってきた。だから、最初から飛ばしていこう。
「幻現楼閣!」
「なんだ!?」
「ディフェンスが通用しない!?」
必殺技で桜吹雪舞う道の中を歩いてはゴール前へと歩いていく。この必殺技を所見で破るのはまず無理だろうし、止められても八神君や妖夢くらいだろう。
甘い考えみたいなものかもしれないけど、まぁ、事実ではあるかな?
そして前に出たティーダにパスすると、久しぶりにあれを見る事が出来ると分かった。
「ナイスパス! 行くッスよ!」
まずは左のゴールポストに一回当てて、その次は右のゴールポスト。そして高く跳ね上がったボールにくるくると回転してからオーバーヘッド。
その威力はとても大きいものとなってゴールへと向かっていく。
「ジェクトシュートっ!」
「っ、爆裂パンチ!」
雷門中のゴールキーパー。円堂さんはマシンガンのようなパンチでゴールを守る。
なるほど。なかなか破るのは難しそうだとティーダも楽しそうに笑う。
「すげぇや! 誰も再現できないと言われたジェクトシュートじゃないか!」
「それを止めるのもすげーッス! まだまだ行くッスよ!」
ティーダは八神君と妖夢が抜けた後に、みんなを纏めた自他ともに認めるエースのプレイヤー。
ジェクト監督しか出来なかったジェクトシュートも習得して、みんなを導いていた。
けど、ティーダも本当は八神君が戻ってきて欲しいと願っていた。
その八神君がボールを持つ。ゴールへ向かって走り出した。
「今度こそ、決める!」
そのプレーにはキレもあるしスピードもある。でも、何か以前と違う気がした。
やっぱり怯えているのかな。そう思いながらも成り行きを見届ける。
シュートを打った。光を纏ったボールがゴールの片隅に入る。
相変わらずのテクニックには安心したけど、やっぱり納得していない様子。
いや、僕達も分かっている。嘗てのような力強いシュートじゃない。チップキックという爪先のコントロールで放っただけだ。
ボールはゴールの中で回転している。嘗ての必殺技を取り戻そうとしていることが見て取れた。
「……くるり。これは僕の勘だけど」
「分かってるよ〜」
ならば僕達で必殺シュートを見せるしかない。幸いにもくるりと僕はそれが出来る。
その合図とともに走り出したらくるりとティーダとのパスワークでミッドフィールダーとディフェンダーの間を掻い潜る。ザ・ウォールという技は上を通り越した。
「そ、そんな!?」
「まずは、くるりからだよ」
「了解〜。スピニングブラスト!」
「ゴットハンド……なに!?」
くるりはとても高く飛び上がり、竜巻とともにボールを蹴り放つスピニングブラストは、ゴットハンドを突き抜ける。
「これで一点。同点だね〜」
すぐさま雷門中のボールでキックオフ。けど、バックパスにスピードのあるティーダが、インターセプトする。
「行ってこいよ、紫蓮! 龍斗に見せてやれ!」
「ま、やってみるよ。入るかわからないけどね」
八神君には劣るけど、嘗ての技を見せて思い出させたらいけるはず。そう思って。
「あれは!?」
「ブルームショット!」
八神君のかつての必殺技を、自分が扱えるものにデチューンした必殺技。
ブルームショットは桜吹雪を纏いながらゴールへと向かう。
「ゴットハンド! ……うぉ!?」
その威力はゴットハンドを貫き回転したままゴールに入る。
デチューンしてもこの威力を出す必殺技には相変わらず驚きを隠せないよね。
けど、これが八神君の復活の鍵となるならば。その八神君の様子は震えていた。もしかしたら……
「ありがとう……星は見えた!」
「行け、八神!」
豪炎寺さんがキックオフで八神君にパスをすると八神君が走り出す。
あぁ、あの時の姿のままだなぁ。なんて、久しぶりに見たからかもしれない。
本当にサッカーに帰ってきたんだな。その喜びは隠そうにも隠せない。
八神君はまたぎフェイントやエラシコなどを使い抜いていく。
相変わらず必殺技が無くとも速い個人技だ。速さだけじゃなくキレもある。
これでもまだ、全盛期の頃程じゃない。それを八神君自身も分かってるだろうし僕らも分かる。
けど、それでも感動することだと思う。だって。
「おぉおおおおお!!」
ゴール前で光を纏ったボールを蹴った八神君は、以前の姿を彷彿とさせる。
ボールはキーパーを下がらせるどころか弾き飛ばした。
未だにボールはゴールで回転している。これだけのスピンがかかってなお、八神君はまだ納得してないのだが、それでも。
「多分だけど、戻ってきたみたいだね。くるり」
「そうだね〜……久しぶりに見られたね〜」
漸く見られたこの姿に、遅かったじゃないかと言いたい気もするけど、今はただ喜ぼう。
「光のファンタジスタ。復活かな。多分ね」
そんな僕達の言葉と共に、練習試合は終わった。大きな収穫はあったはず。多分だけどね。
■【魂魄妖夢】■
「必殺技に着実に戻ってきましたね、龍斗さん」
私はこうして試合の中で進化する龍斗さんを、昔から見てきました。
恐らく紫蓮さんやくるりもそれを知っているからこうして昔のメンバーを集めたんでしょう。
そしてあのシュートの回転を見たら分かりましたが、あれは正しく龍斗さんの必殺技のもの。
つまり、あれが完成したときはかなりの威力があるシュートになる。次の相手の木戸川清修を貫く程の。
「妖夢〜。どうだった〜?」
「お久しぶりです。くるり。相変わらずのシュートでしたよ」
「ありがと〜。因みにアタックは今もしてるの〜?」
「勿論です」
くるりはいつもこうして私に恋愛の話を振ってきます。私も満更じゃないのかついつい答えてしまうのだけれども、その度にアドバイスをくれたりします。
「妖夢が居なかったから〜。そろそろライバルが出来てるんじゃな〜い〜?」
「はい。マネージャーの子が……」
「それじゃあ〜。もっと積極的にだね〜」
こんな風にガールズトークを楽しみながら私は龍斗さんを見ます。きっと、龍斗さんなら復活を遂げるでしょう。
そう信じて、数日後の木戸川清修に備えることにしました。
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妹の友人登場。その理由は?
suryu-です。
ええ、見事に体調を悪くしていました。春と冬の繰り返しによって完全に体力切れました。皆様も本当にお気をつけください。
また、オリジナルキャラの提案を皆様ありがとうございます。これからも当作品を宜しくお願いします!
■【三人称】■
「あーっ、負けたぁ」
「女子の集まりなのに、男子よりサッカー上手いんだよなぁ」
「一体どうしたらそうなるんだよ」
海鳴市にあるとある小学校。そこでは少女達が集まり男子に対抗するようにサッカーをしていた。
結果は女子側の三得点で、女子が圧倒的に勝っていたのだ。
そのメンバーはと言うと、なかなかの美少女の集まりで群を抜いて可愛いと思える。その中には、龍斗の妹。はやてがいた。
「よっしゃ。ウチらの勝ちやな! やったでなのはにフェイト!」
「うん。はやてちゃん。私たちの勝ちだね!」
「なのはの得点力は相変わらず高いよね」
なのはと呼ばれた少女は、茶髪のサイドテールを揺らしながらもえへへ。と、得意げに笑う。
フェイトと呼ばれた金髪をツインテールにした少女は、サッカーボールを手に持ちながらも楽しそうに。そして何かを想うように空を見つめる。
「なんやフェイト。もしかして龍にぃのこと考えてるんか?」
「ぅえ!? そ、そそ、それは!」
「妖夢さんがいても負ける気は無いわねーフェイト。ね、すずか」
「そうだねぇアリサちゃん。姉としてアリシアちゃんはどう思う?」
「略奪上等って所じゃないかな? 私としても良い男の人だから」
アリサと呼ばれた金髪を長いストレートにした少女は、すずかと呼ばれた漆のような黒と紫の混じったパーマのかかっているような少女と共に笑っている。
アリシアと呼ばれたフェイトによく似た少女はフェイトの姉らしく、金髪を靡かせながらもフェイトの肩を叩いた。
「まぁ、龍斗さんにアタックするならお姉ちゃんも手伝っちゃうよ!」
「私としては妖夢お姉ちゃんの事もあるから簡単に応援出来んけどなー」
そんな楽しげな会話をしているのだが、フェイトはもじもじとしたまま一枚の写真を取り出す。
その写真はジュニア時代の龍斗と共に撮った写真だ。まだ幼い雰囲気を残している龍斗とフェイトのツーショット。それはフェイトがずっと大切にしていた。
「なんやかんやでサッカー教えてくれたのは、龍にぃとリュークにぃやからなぁ」
「そうね。私たち女子サッカーのチームを作ろうって話をした時、手伝ってくれたのが二人なのよね」
「そうそう。で、妖夢さんも後に来てシュートとか教えてくれたし」
はやてとアリサ。すずかは思い出すように笑っているのだが、フェイトはずっと写真を見たままだ。
その様子を眺めていたなのはとアリシアは少し考えてからよし。と決めた。
「フェイトちゃん。龍斗さんに会いに行こうよ!」
「うんうん。それがいいかも!」
「え、えぇ!? 迷惑じゃないかなぁ」
「平気平気!」
なのはとアリシアはフェイトの手を取ると、勇気を出せるように後押しを重ねる。
二人は、龍斗とフェイトが結ばれればと思っている。その為には、フェイトを積極的にしなければならなかった。
と、そこではやてが少しばかり悩んだように手を頭に当てる。
「龍にぃなぁ。今は必殺技復活の特訓をしてるやろなぁ。最近復帰したはええけど、昔のように打てへんらしいんよ」
「それは厳しいわね……それなのによくやれてたわね」
「幸いにも、龍にぃは昔の下地があるからやな。普通のシュートでも相手のウイークポイントを攻めるのが得意やから」
「そういえばそうだったね。……ん?」
そこでアリサとすずかはフェイトを見る。思い出してみればフェイトにシュート技を教えたのは。
「そういえば、フェイトに必殺技を教えたのって龍斗さんよね」
「そうだね。そんなこともあったなぁ」
フェイトは思い出すと、にこやかに微笑んだ。とてもいい思い出なのだろうと理解できるのだが、自分が役に立てるのなら。と内心で考えていた。
そして、様子を見に行く事を漸く決めると、フェイトは行動に移すことにした。
「それじゃあ、今から行こっか。龍斗さんのところに」
「その気になったんだね。了解!」
「ふふ、久しぶりに会いに行くわね」
「皆で行こっか!」
「よーし、お姉ちゃんもついてっちゃうよ!」
「全く。龍にぃはもてもてやなぁ」
そんな女子達はなんやかんや言いながらも龍斗のもとへ向かう事を決めては早速行動する。
原動力のある乙女は強いとは言うが、それはさてはて龍斗の力となるのかは、神のみぞ知る所であった。
■【八神龍斗】■
「っ、まだか……」
くるりと紫蓮との試合を終えてから、ある程度のコツを掴んできたものの、僕は必殺技に出来ないことから焦りを感じていた。
ただ、くるりと紫蓮に会う前ほどの焦りじゃない。感覚も掴めたのだから、あとは形にするだけだった。
紫蓮のブルームショットは恐らく僕の必殺技を使いやすくしたものだと理解して、その動きを再現する。そこからあとはあの頃の感覚を思い出すだけなのだ。
「けど、足りない」
一体何が。どうして。そんな思いでボールを蹴るも答えは出ない。と、その時視線を感じて後ろを見ると、そこには妹達がいた。いや、なんで?
「龍斗さん!」
そんなことを考えていると、その中の一人が抱き着いてきた。名前は覚えている。フェイト・テスタロッサ。
僕がジュニア時代に、妹とその友達にサッカーを教えたけど、その中の一人。そして、唯一僕の必殺技を使えた女の子だ。
「お久しぶり。フェイト。どうしたの?」
そんな僕が、今では必殺技を打てない事を知っているかはわからないが、問いかけてみる。
どんな答えが返ってくるかは、今の僕にはわからない。けど、何か悪くない予感はしていた。
「龍斗さんが今は必殺技を打てないと聞いて、なにかお手伝い出来ないかなって」
「……え?」
「はやてちゃんから聞きました。龍斗さん。今とっても苦しんでるって。だから、私。龍斗さんのお役に立ちたいんです!」
はやてがその事を言うのも驚きだったが、そんな自分に幻滅せず、手伝いたいと言われて少し固まる。
だが、手伝いをしてくれるというのは嬉しかったし、言葉に甘えることにした。
「それじゃあ、フェイト。僕のシュートを見て、何か気になる所があったら教えてくれるかな」
「はいっ」
そうして僕はボールに向かって集中する。時の流れは遅くなり、ゆっくりと近づくように感じる中、右足を後ろに引く。
あくまでも初動は普通のモーション。そこからだ。ちょんと爪先で触ると軽く上げる。くるりとその場で回転すると足元に落ちてきたボール蹴る。
光を纏ったボールは回転しながらゴールに突き刺さるのだが、思ったように威力は出ない。回転力は上がってきているのだがどうにもなのだ。
「あっ、もしかして……」
「なにか気づいたの?」
フェイトはコクリと頷いた。そして、僕の代わりにボールに触る。そして、同じ動作をした。
最初は軽く爪先でボールを上げる。その高さに僕は違和感を感じた。その先くるりと回転しては右足で蹴ったその時だ。
”ゴッ!”
大きな音が響く。それと同時に光を纏ったボールは異常な程の回転と威力を見せる。これは、まさしく。
「僕の、シャイニングブラスト……」
フェイトの放った必殺技は、僕が嘗て開発した必殺技。シャイニングブラスト。
あまりの威力に当時は止められるキーパーが存在しないとまで言われたその必殺技は、僕が封印していたもの。
それをフェイトはこうして使っている。自分の教えた技を。
感動を覚えると同時に先程の違和感がなにかを探っていた。一体それは。悩んでいると、フェイトが手を取った。
「ボールを上げる高さですよ。龍斗さん」
「高さ?」
「龍斗さんは昔と同じ高さと回転で上げてるんです。でも、龍斗さんの体は成長してる。つまり……」
「……そうか。高さと回転。落下タイミングが噛み合ってないんだ」
そこまで気づけば、フェイトを撫でた後にもう一度ボールをセットする。フェイトは気持ちよさそうにした後に離れた。
今の僕の身長。そして力等を考えれば。今度は先程よりも高めに。さらに回転をかけてボールを上げる。
くるりと自分が一回転。先程よりも少し遅い回転だがこれでいい。
落ちてきたボールに集中すると、目を閉じた後にゆっくりと見開いた。
放つは必殺の一撃。何をも貫くその力。今秘めた力を、もう一度!
「シャイニングブラスト!」
溜めに溜めた光は今。一本の剣となって復活する。
”轟ッ!”
僕の放ったシュートは風を発生させ、更にはゴールネットを回転しながら突き抜けた。
あまりの光景にフェイトは口を開けたままぽかんとしている。遠目から見ているはやてとはやての友達もそうだろう。
「……あれ。もしかして、やり過ぎた?」
「り、龍斗……さん」
フェイトに名前を呼ばれて、本当に僕はやらかしたんじゃないかと思っていると、そういう訳では無さそうだった。
むしろ震えていると思ったら急に抱きついてきた。最近多いなぁ。
「凄い! 凄いですよ! 光のファンタジスタ。八神龍斗ここにありって感じで!」
「そ、そうかな? 僕は今はもうそこまでじゃ……」
「うぅん。龍斗さんしか出来ませんよ。昔も、今も。私はそう思います」
そんな事を言いながら僕のことを見るフェイトの瞳はとても綺麗だ。色とか、そういう意味じゃなくて、とても純粋に僕を慕ってくれている。
凄く有難いな。なんて思いながらも今はこちらからも抱きしめていた。
■【三人称】■
「フェイトちゃん。幸せそうだなぁ」
「あんな乙女の顔は久しぶりに見たわね」
「可愛らしいなあフェイトちゃん」
そんなフェイトたちを見つめているのはなのはにアリサにすずかにはやてにアリシア。という面々が見事に抱きしめられているフェイトの様子を口にしていた。
「あれやな。龍にぃは女たらし属性を持ってたんやな」
「いやー、お姉ちゃんもいいなって思うよっ」
そんな会話をしながらもフェイトと龍斗を彼女等は眺めていると、後ろから二人の人物がやってきた。
一体誰だろう? そう思って振り返った時には、にこやかな音無と妖夢がそこにいた。
そう、笑顔。笑顔なのだがなにか恐ろしいものを見ているような。
「あ、あの。妖夢さん?」
「えっと、マネージャーさんかしら……?」
「ふ、ふふ。ふふふ……」
「龍斗さん。……なぜ私でなくあの子を?」
妖夢と音無はそのまま龍斗とフェイトに近づいていく。そんな事にも気づけない龍斗とフェイトは抱き合っているのだが、妖夢と音無が龍斗の肩を掴んだ。
「……あ、あれ。妖夢? 音無さん?」
「龍斗さん。私たちと」
「少し、お話しませんか?」
「えっ、ちょ。まっ……」
その後、どうなったかは語るのはやめておこう。強いていえば、断末魔が響いた。とだけは言えるのだが。
■【豪炎寺修也】■
「おい。おい龍斗。木戸川清修との試合だぞ」
「ヨウムトオトナシサンコワイ」
木戸川清修との試合。というのに龍斗は何故かこのような状態が続いている。
何故かマネージャーの音無と妖夢のヤツのことを恐れているみたいだが、何かあったのかもしれない。
と、そこで妖夢と音無を見ると、なんともいい笑顔をしていた。
「豪炎寺さん。ツッコミはいけませんよ」
「そうそうっ。だから、ね?」
……今ばかりは、龍斗に同情していた。
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準決勝。木戸川清修!
どうも、suryu-です。
さてさて、木戸川清修ですが、今回も投稿キャラを参戦させております。
というか、ぶっちゃけた話そうしないと木戸川清修が余りにもかませすぎて辛かったです。いや本当に。
と言うことから頂いたキャラを使うとあら不思議。白熱した試合になって書く量二倍。二話分に試合を分けて書こうということに。
因みに前々回で出させて頂いたキャラ。花月紫蓮はバイスロイ様。舞鶴くるりは通りすがりの猫好き様から。今回のキャラは奇稲田姫様。愛称姫様からとなっております。
それでは今回もごゆるりとなさってください!
■【三人称】■
「……フィールドの魔術師。一之瀬一哉に、光のファンタジスタ。八神龍斗。八神龍斗の最高の相棒。魂魄妖夢。天才ゲームメイカー。鬼道有人。炎のストライカー。豪炎寺修也。……エミルはどう見る?」
「はっ、骨董品……と言えりゃあ良かったんだけどな、なかなかに手強くなってやがるな。兄貴」
木戸川清修。その学校に在籍する兄妹の、霧雨裕也と霧雨エミルは、転入生ながらもサッカー部のエースと言っても差し支えなかった。
イタリアでは黒い流星と呼ばれた兄裕也と、フィールド上の白い悪魔と呼ばれた妹エミルは、FF準決勝までにその実力を発揮してきた。
だが、その二人は雷門の五人を警戒している。その事に、キャプテンの武方勝は苛立ちを覚えていた。
「おいおい、逃げ出した豪炎寺クンに、必殺技も打てない過去の人。八神龍斗。その付き人の魂魄妖夢。同じく過去の人の一之瀬一哉。既に負けた帝国の鬼道有人なんかは、もう目じゃありませんから。みたいな?」
「おいおい、嘗めてかかるんじゃねえよ。アイツらの。特に、八神龍斗の強さは普通じゃねぇ。……この間の試合までの雰囲気と、全く違うんだよ」
「……同意。彼奴は、強い」
「はぁ? 裕也もエミルも、何を言ってるんだ? みたいな」
武方勝は、全国でもトップレベルの木戸川清修のキャプテン。勿論実力もハッキリしている。
そして霧雨裕也と霧雨エミル。この二人は勝も実力においては信頼するプレイヤーなのだが、その二人が嘗てこのチームに居た豪炎寺修也。更には、雷門の八神龍斗等も褒めている事に、言いようの無い憤りを感じていた。
「……木戸川清修のエースは俺達だっての。みたいな」
勝が呟く中で、エミルと裕也は龍斗を眺めていた。その瞳に映る龍斗は、何処か穏やかな姿勢の中に、強い感情と力を秘めているようにしか見えなかった。
だが、二人にとってはそれは燃え上がる要因にしかならない。
敵が強ければ強い程、自分達が強さを示す事が出来る。そう思えば、丹念にストレッチをして、軽く走り体を温めながらも闘士を滾らせていた。
■【八神龍斗】■
「落ち着いたか? 龍斗」
「大丈夫です。豪炎寺さん。もう行けますよ」
僕はあれから妖夢と音無さんに対して何か恐れていたような気がしつつも、フィールドに立った。
風は少し吹いている程度だから、シュートに影響はあまり無いだろう。
試合が始まるまでに相手フィールドを確認すると、予想もしない人物が居た。
「……あれは、イタリアのジュニアリーグの?」
あの黒髪でスカーレットの目を持った男と銀髪のマリンブルーの瞳を持った少女の二人はどうにも見覚えがある。
一之瀬さん同様嘗ての機会で出会った二人なのだが、世界で活躍するプレイヤーということから警戒する。
三つ子のFWも気にはなるが、警戒すべきはあの二人。特に妹のエミルだ。
「噂通りなら、確かな策略家。となると、鬼道さんと僕の、二人で対抗策を建てる必要がある」
「……お前もそう思っていたか」
「鬼道さんも、ですか」
僕と鬼道さんはお互いの意見が合致していると分かれば、頷き合う。
さらに。その後に考えている言葉も同じだろう。僕はファンタジスタとして直感的に。鬼道さんがゲームメイカーとして理論的に出した答えが合致する事は有り得なくないのだ。
「前半は様子見。ですね。恐らく向こうは勝利の為に飛ばしてくる」
「その通りだ。……恐らく俺とお前の二人ならば何とかなるはずだ」
「そこに妖夢や豪炎寺さんを足し算すれば……」
「後半が勝負。だな」
そして、僕達ボールでキックオフ。相手陣地に向かおうとすると、いきなり相手の警戒すべき兄妹の妹のエミルが突っ込んできた。
ここはかわすべきだろう。そう思って個人技を使おうとした時だった。
「おっと、こっから先は通行止めだ! マジシャンズボックス!」
「っ、いきなり必殺技か!」
僕とボールがボックスにつつまれたと思ったら、相手の警戒すべき兄妹の妹。エミルと位置が入れ替わる。
最初から必殺技を使うあたり、全力で倒しに来ているのだろう。全国トップレベルの木戸川清修が初出場と言っても過言ではない雷門に、全力というのも普通ならおかしい気がするが、今の雷門のタレントは揃っている。
つまり、様子見を感じた霧雨兄妹の妹エミルは、それを利用して前半のうちに得点差を広げに来た。という事だ!
「栗末さん! 壁山さん! 挟んで!」
「は、はいでやんす!」
「はいっす!」
「ジャッジスルーX! 邪魔だ邪魔邪魔ァ!」
守備の指示をすると、栗末さんの懐に潜り込んで帝国のジャッジスルーのように、まずは一回ボール越しに栗末さんを蹴って浮かせた後に、横から見るとXになるように蹴り落とす。強化技かと理解しながらもフォローに回ろうとする。けど!
「っ、まずい。霧雨裕也がフリーにっ……」
「兄貴! 受け取りな!」
「……おう!」
エミルから裕也に素早いパスが行われると、裕也は左足を上げる。まさか。いや、そのまさかだ! あの必殺技を使う気だ!
「決める……。貫きしは……勝利への……志!いくぞ! オーディンソード!」
「っ、ゴットハン……なに!?」
左足を振り降ろしたと同時に放たれたそのシュートは、剣となって物凄い速さで円堂先輩の横を通り過ぎる。
恐らく威力は無視で速さのみを追求して必殺技を出させないようにしたのだろう。それだけのプレーが出来るこの兄妹は、やはり驚異的だった。
「へへ、八神龍斗。鬼道有人。ウチの策略も悪くないだろ? ……様子見で来るって思ってたぜ」
「全くだ。……霧雨エミル。流石と評するしかないな」
「僕もここまでは予想出来なかった。けど……まだまだ始まったばかりだ。勝負は分からないよ」
「そうこなくっちゃな! 八神龍斗! 戦えて嬉しいぜ!」
「……エミルがここまではしゃぐのも珍しい。だがそれでいい」
「裕也さん。この一点の借りは返しますよ」
そしてすぐさまボールをセットしてプレーを再開する。ここまでやられたら様子見はなしだ。僕も全力でプレーをしなきゃ、無礼だから!
「八神! 切り崩せ! そして、お前の星の感覚が掴めたら!」
「分かってますよ!」
勿論僕はこのままでやられるつもりは無いし、それにこの先で何をしたらいいかは見えてきている。
やるしかない。じゃなくて、やるんだ。僕のプレーは楽しさから。想像から生まれるんだ!
「八神!」
「だからっ、分かってます!」
そして後ろから聞こえてきた、頼れるあの先輩の声。妖夢の時のように僕が惹き付けられたこの声は、ボールを求めている。
瞬時に反転すれば土門さん。一之瀬さん。円堂先輩の三人の真ん中に落とす。
この体制は見たことがある。一之瀬さんから聞いた事がある。この必殺技は!
「トライペガサス!」
三人がクロスすると共に空を駆ける天馬が生まれる。やっぱりこの必殺技だと理解したと同時に天馬は相手ゴールへと迫る。そして。
「タフネスブロック……うぁあ!?」
ゴールキーパーの鍵をこじ開けるとゴールに突き刺さる。フィールドの魔術師は未だ衰えず。あとは、僕と豪炎寺さんが決めなければ。そう思ってプレーするも、結局その後点差が動くことなく、前半を終えるのだった。
■【三人称】■
「ちっ……結局俺たちじゃなくてエミルと裕也かよ。みたいな」
「兄さん。仲間を恨んでも何もありませんよ」
「そうそう。結果一点は取ることが出来てるんだしさ」
「……そりゃそうだけれども」
木戸川清修ベンチ近くでは、他のチームメイトから離れて三兄弟が会話していた。エミルと裕也が周りから褒められている中で、武方三兄弟の勝は他の皆に何も言われることもないこの時を、とても嫌っていた。
無論。勝達三兄弟もシュートを決めているが、褒める対象になるのが霧雨裕也と霧雨エミルの二人。勝自身にはあまり無かったのだ。
実力は信じている。勿論それ相応のプレーを二人はしている。だが、勝自身が日の目を見る事がないのはどうにも不快だった。
「……納得いかねぇ。何であとから現れたあの二人が」
「兄さん……」
木戸川清修のチーム内は、今割れつつあることがこの時点で察せるだろう。それ程に確執が広がり始めていた。
一方のエミルと裕也は、仲間達に褒められながらも次の戦術を考えていた。前半リードで折り返す事を前提で動いていたのだが、頭の得点の取り合い以降はお互いに守備も固くなり、点を取れなかったのだ。
「皆。雷門は予想以上に強い。ウチらで崩せるかと思ったが、向こうには良い守備も居る」
「だよな……おまけに、鬼道と八神の二人に豪炎寺が出てるから、その辺りがシュートを打ってくると思ったんだけど」
「まさか、キーパーが自らシュートに来るとは思わなかったな」
「だよな。あれは、ウチも今までの試合を見ていたけど、此処でもリスクを取りに来るとは思わなかった」
エミルと木戸川清修のチームメイトたちはホワイトボード片手に後半をどうするか考えている。その中には武方三兄弟が居ない。その事を気にする人物もいた。
「……このまま崩壊しなければいいが」
それは、木戸川清修の二階堂監督だった。彼は元日本代表のプロサッカー選手で、紆余曲折ありながらも木戸川清修の監督となっていたのだが、武方三兄弟の事については迷いが生まれていた。
「豪炎寺が去った時。事情を知らない彼らは怒り、それから彼を越せるよう特訓をした。勿論実力も高くなった。だが……」
そこまで呟くと、エミルと裕也を見た。二人は和気あいあいと仲間達と共にどう攻め勝つかの相談をしている。
それは別に悪いことではない。悪いことではないのだが。
「チームメイト達は、勝達を見ていない。後から来たトッププレイヤー達しか見えていないんだ」
実際二人の経歴はとても優秀で、サッカー部に入ってからもその実力を見せつけていた。
個人プレーもチームプレーも。司令塔までもこなすこの兄妹はとても優秀で、チームを導き始める。
だが、それはチームの中心だった武方三兄弟の場所を奪ってしまった。そこから恐らく勝は反発心を覚えたのだろう。
「……この試合。間違いなく荒れるだろうな」
空は蒼く晴れやかなのに、二階堂監督の心は晴れない。まさに、曇天の模様を感じ取っていた。
■【魂魄妖夢】■
「それでは後半は私の出番という事ですか」
「そうだ。八神をサポートしてくれ。俺の見立て通りなら、もう完成しているのだろう?」
「……あー、流石鬼道さん。バレバレですね」
後半はどうやら龍斗さんを起点にゲームを作る。その一言で、チームの意識は決まりました。
このバレバレという事は、恐らく必殺技の事。龍斗さんにはあの必殺技がありますから、それを披露するタイミングという事なのでしょう。
「見せてもらおうか。お前の力を」
「勿論。やらせてもらいますよ。僕と妖夢のコンビで、一点もぎ取らさせてもらいますよ」
「ふっ、頼もしい限りだ」
「……龍斗さんに、期待されている。なら、応えないとですね」
私はスパイクを履き直すと共に、フィールドを見る。龍斗さんの本当の意味での復活試合。花のように彩ってみせねば。
私が思考を回していると、龍斗さんは私の肩をぽんぽんと叩いた。
「あんまり気負わないで。いつも通り行こうよ」
やっぱり龍斗さんには敵いませんね。でも、これでいいんです。私も楽しみになってきました。
「……ふふ、全力でいきますよ!」
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木戸川清修後半戦! 取られたら取り返せ!
どうも、suryu-です。
なんだかんだ言って十六話。UAがもうすぐ一万に到達しようとしているあたり、この小説にもファンがいるのかな。なんて勝手に思っていたり?
そんなこんなで木戸川清修の後半戦ですが、今回も奇稲田姫様。愛称姫様のキャラが活躍しています。
前回も言いましたが、木戸川清修がかませにならないためには仕方ないよね。是非もないよネって感じで書いてますが、結構楽しかったりします。
こんなふうに読者様から提案されたキャラを使うのは大変なんですが、大変なりの楽しみがあります。
これからも、もしかしたら投稿されたキャラを使うかもしれません。未だに投稿が来るのでとても嬉しいですよ。
そんなこんなで語りましたが、それでは、今回もごゆるりとなさってください!
■【三人称】■
「……後半。さらに点を取らなければ」
「そうだな、兄貴」
裕也とエミルの二人は、今現在ピッチに立ちながらも龍斗を見据えている。木戸川清修が同点になる事など、早々ない。それ故に、裕也とエミル二人を除いて、木戸川清修の選手達は多少の焦りを感じていた。
雷門中がここまで強いということは、誰も思いもよらなかったからだ。フィールドの魔術師と呼ばれる一之瀬や、妖夢に龍斗。豪炎寺に鬼道の存在を知ってはいても、ここまで噛み合うという事を、実際に相対するまで気づけなかったのだ。
「認めるぜ。あいつらは一流のプレイヤーだ。……ウチと兄貴ももっと本気を出さなきゃならねぇ」
「……同感だ。チームメイト達にも指示を出してくれ、エミル」
「分かってるさ、兄貴。……八神と鬼道を超えなきゃ、勝ち目はないからな」
「……勝つぞ」
「おう」
そんな二人を見ていて、イライラを隠せていないのが木戸川清修の武方勝。かつてはチームの中心だったはずの彼は、今はエミルと裕也に奪われたままなのだ。
「……俺達がやらなきゃ。みたいな」
だから、自分が注目されるようにならなければ。イライラと焦燥感が、今彼を動かす力になっていた。
そんな兄の勝を見ていて、弟の友と努は心配を隠せない。だから、どうにかしてエミルと裕也と和解しなければならない。そう思いつつも、後半戦になる前に、彼らは二人に話しかけた。
「ちょっといいですか?」
「相談があるんだ」
「ん?」
「……」
そこまで言うと同時に、彼らは頭を下げる。それが最善だと信じて。
「俺達に、シュートを決めさせてくれないか?」
「兄さんは、以前はチームの中心だったけど、貴方達が来てからそれを奪われたと感じてるんです。……貴方達が褒めれば、何か変わるかもしれないんです」
「……なるほどな」
そこまで聞くと、裕也とエミルは少しばかり悩んだように頭に手を当てる。
裕也とエミル自身の活躍が、勝のプライドにここまで響いているとは、とても考えられなかったのだ。
だが、そこから先の判断は早かった。やれることをやるだけだと、そう決めて。
「なら、いい案がある。ウチらとシュートを繋がないか?」
「……え?」
■【八神龍斗】■
「……さて、どうなることやら」
後半戦。今回はミッドフィールダーとして、妖夢も加えて開始する。僕はその開始時に何か起きる。そんな予感がしていた。
具体的には何が起きるか。という所だけど、裕也さんとエミルは、きっと攻勢に出てくる。それをどうにか止めなければ、勝利に至るまでが大変な道程になると、内心で分かっていた。
"ピッ!"
ホイッスルの鳴る音が、後半戦の開始を告げる。さて、どう来るか。相手の手を読もうとした時、僕は少し油断していたことを悔いた。
「行くぞ!」
前線の武方三兄弟が、キックオフで後ろに下げた後、一気に上がってくる。
そう言えばこの三つ子は、連携プレーが得意という事を事前に聞いていたから、一度パスが回れば危ない。
僕はそう思うと同時にパスコースをカットする動きに回った時だった。
「まて、八神! アイツらが来る!」
「っ、そうか!」
そこで、もう一つの相手のキーを見過ごしていたことに気づく。
エミルさんと裕也さんだ。あの二人がこの状況を、見逃すはずかない。
「兄貴。もう一点はもう一点だ!」
「……あぁ。俺達木戸川は……絶対に負けはしない!」
「ウチらの想い。止めれるもんなら……」
「……止めてみろ!」
二人がボールを斜め前に蹴りあげると、ボールが黒と白のオーラを纏う。そして二人はそのまま走り込んで蹴り放った。
螺旋を描くように、白と黒のオーラと共に、高い威力をもったそれは。
「マーブル!」
「スパーク!」
「っ。止めてみせる!」
「俺もやるっす! ここで……ザ・ウォール!」
僕は蹴り返そうと足を伸ばし、壁山さんは必殺技で軽減する。
だが、そこで予想していなかったことが、目の前で起きた。
「行けっ! 勝。友。努!」
「言われなくても、みたいな!」
シュートの軌道が少し逸れたかと思えば、木戸川清修の武方三兄弟の足に収まる。それを蹴りで繋げた技は……
「トライアングルZ!」
「っ、ゴットハンド!」
あのシュートにチェインして合わせられるのかという驚きと、三つ子の連携から生まれた、威力のあるシュート。それらが合わさって円堂先輩のゴットハンドに当たり、突き破る。
二点目。再びのリードを許してしまったことに対して、しまったという気持ちと、それなら必ず追いついてみせる。という意思を燃え上がらせた。
「エミルと裕也に、勝が合わせた……」
「……そうだよな、忘れた訳ではないけど、やっぱり俺達のキャプテンではあるんだよな」
木戸川清修が今のプレーにより士気が上がりきる前に、追い抜かないとならない。
ならば、どうするか? 答えは既に出ている。ボールをセンターサークルに置くと、僕はきっと猛禽類のように笑った。
「妖夢。取り返そうよ」
「勿論です。私と貴方ならば、それが出来る」
僕達のボールから再開される。豪炎寺さんが触り、僕が妖夢にボールを渡した後だ。
風の如く、二人で駆け上がる。まずはフォワード三兄弟を、パスワークで切り抜ける。
「なんだこいつら!?」
「早すぎるっしょ!?」
妖夢と僕の二人は、昔のように二人でピッチを舞う。こうしてサッカーをするのは、復帰してからまだ少ない。けど、こうして合わせられるのは妖夢だからだ。
ミッドフィルダーは股の下を通す股抜きで躱す。これくらいならまだまだ余裕だ。
「なんなんだよ、それ!」
「と、止めるぞ!」
ディフェンダーはボールを持った妖夢を止めに近寄ったその時だ。妖夢は風を纏ったかと思えば、一気に間目指して駆け抜ける。
強い風が妖夢の周りを一周すると、敵ディフェンダーを通り抜ければ、吹っ飛ばした。その必殺技の名前は。
「風車!」
「ナイスだ妖夢!」
「はい! あとは決めてください!」
そして追い抜くタイミングでボールを受け取ると、僕は爪先でボールを上げる。そう。この始動は僕が思い出した必殺技。
くるりと回って落ちてきたボールをダイレクトにシュートすると、光を纏ったボールは回転と威力と共に、貫く剣となる!
”豪!”
「シャイニングブラスト!」
『出たァ! ついにこの技が戻ってきた! 伝説の八神龍斗の復活だ!』
実況の声が聞こえ、観客のどよめきが聞こえる。そうだ。僕はこの感覚を思い出して、とても嬉しく思う。
嘗てのように試合の中で注目をされる中で、ファンタジックなプレーをする。
それが僕のピッチでの生き甲斐なのだ。それを再び感じながら、ゴールに突き刺さるボールを見た。
「ははっ。結構待たせたけど、お待たせってね」
『ゴォォオオオル! 光のファンタジスタ! ついに完全復活! 誰がこの威力を予想できたでしょうか! キーパーを吹っ飛ばすどころか、ゴールに入ってなお回転するボール。これが世界に認められたプレーヤー!』
実況が解説する中で、エミルさんに裕也さんは面白いものを見たという顔をしながらこちらを見る。借りは返させてもらった。
「へっ、あれが八神龍斗か。残り二十分。逆転させてもらおうじゃねえか。な、兄貴」
「……あぁ。奴を超えて、木戸川清修は勝ち進む!」
そして、僕達の試合は続く。未だどちらも得点を決められないまま、同点であと五分になった。そして今僕がボールを持っている。これが、ラストチャンス!
「行くぞ!」
試合を。ピッチを俯瞰的に見る。高い所から見下ろすイメージを出せば、上がってくる三人に気付いた。
円堂先輩。一之瀬さん。土門先輩。その三人が揃うのならば!
「頼みますよ! 円堂先輩達!」
「おう!」
「俺達に任せてくれよ!」
「これで決める!」
その三人の前に、木戸川清修の西垣さんというディフェンダーが立ちはだかる。三人を止めるつもりだ。
「やらせない! スピニングカット!」
蒼いバリアのような膜が形成されるが、三人は吹っ飛ばされないどころか、トライペガサスの色が変わり、これは……
「俺達は勝つんだ! ザ・フェニックス!」
不死鳥が舞い上がる。そのシュートを止めようと、武方三兄弟や裕也さんにエミルさんがゴール前にて立ち塞がった。
「冗談じゃないっしょ!」
「このままじゃ木戸川清修が負ける!」
「そんな訳にはいかない!」
「ウチらで止めるぞ!」
「ああ!」
そして、五人のブロックで威力は弱まる。だが、そこで終わらせない! なぜなら、僕と豪炎寺さんがいるから!
「豪炎寺さん!」
「あぁ。龍斗!」
僕はザ・フェニックスを豪炎寺さんとのツープラトンシュートで押し込む。そして、ゴールキーパーごとボールはゴールネットに刺さった。
「……やられちまったか」
「……無念だ」
ホイッスルが三回鳴る。試合終了だ。僕と豪炎寺さんは拳を合わせる。僕達なりの会話の一つだ。
そんな中吹っ飛ばされた武方三兄弟の所には、木戸川清修のチームメイトが起こしに行って褒めているのが目に映る。良いチームだと、敵ながら内心で褒めた。
「それにしても、龍斗。よく合わせたな」
「当たり前じゃないですか。豪炎寺さんの動きは、ジュニア時代から見てますから」
「ふっ、言ってくれるな」
そんな会話をする僕達の所にエミルさんと裕也さん。武方三兄弟がやって来た。
どうやら、晴れやかな表情をしているから、お互い清々しい気分で会話出来そうだ。
「豪炎寺クン。聞いたぜ、妹さんのこと」
「誤解をしてしまっていたようですね」
「お前ら……」
「ったく、相変わらず上手いプレーだぜ。ウチも楽しかった。八神龍斗」
「……俺もだ。久々にワクワクした」
「裕也さん。エミルさん。僕もですよ」
僕らはこうして試合を終えた後、談笑出来る時間が好きだ。お互いが全力を出した試合ほど、こうして話す事が楽しく思える。
「それにしても、ウチらを負かしたんだ。絶対に決勝で勝てよ!」
「……あぁ。俺達は負けはしたが、お前らを応援するくらいは出来る」
「ありがとう。裕也さんとエミルさんに言われたんならね。特に美人に言われたんだ。やらなきゃね」
「なっ!?」
そんならしくない事を言って微笑んだ後に、空を見る。やっぱりサッカーは楽しいなぁ。
■【影山零治】■
私は、どうしても彼の試合を見てしまう。サッカーをあれ程憎んでいたはずなのに。
どうしてだろうか。彼のプレーは、私の父も彷彿とさせる。
何故だろうか。彼は私に、サッカーの希望を教えようとしているようにも見える。
だから、私はその希望を拒むように、彼をサッカーから切り離すようにした。
だが、彼は戻ってきた。八神龍斗。彼はまた、相棒の魂魄妖夢と共に。憎き雷門と共に。こうして、私の前でまたもや希望を見せる。
「……私は、サッカーが好きなのか?」
自問自答するも、答えは見えない。プロジェクトZはあの人により推し進められたものだ。
サッカーを憎んでいると思っていたはずだから、私はこれを受けた筈だった。
だが、本当にそうなのだろうか。よく分からなくなりそうだ。
……私は、サッカーが好きなのかもしれない。だが、そのサッカーを悪事に使う。
「本当にこのままで良いのか?」
私は、自分の心を分かっていない。先のことが見えていない。
だが、彼と直接対決をすれば、気づけるかもしれない。サッカーに対しての思いが。
それ故に、プロジェクトZを用いて、雷門に挑戦させる。雷門に居る、八神龍斗に。
「……見せてくれ、八神龍斗。お前の放つ、希望を」
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八神家の兄は誰かと会合し、雷門中は合宿をする
どうも、suryu-です。
最近はこうして書いていて、すらすらと書ける時と、そうでない時があります。
音楽を聞きながらやると、進む時は進むんですよねー。
また、投稿されたキャラの情報も眺めたりしながら書いているので、いつの間に採用してるなんて事も。そして、消えてしまって書き直すことも。
そんなこんなで、楽しく書いているから、皆様も楽しく見てくださると嬉しいです。
今話は後のターニングポイントにもなるので、しっかり頑張って書きました。それではごゆるりとなさってくださいな。
■【八神リューク】■
「龍斗はついに、フットボールフロンティアの決勝に行きましたか。……我が弟ながら、嬉しい事です」
私は携帯のテレビで、我が弟の龍斗の試合を観戦しながら、人を待っている。
とても古い知り合いだから、久しぶりにお洒落をしているのだが、義理の妹のはやてにからかわれてしまった。
「全く。デート。なんて間柄ではないと思うんですがねぇ」
私はただの胡散臭い男ですよ。なんて言っても、それを家族は信じない。私が優しいと思っている。
おめでたいなんて事は言わない。家族だからこそ、信じてくれているのだから。
ですが、私は家族に私のやってる事すら隠したまま。胡散臭いが、とても似合うんですけどね?
そんな事を考えていると、彼女が来ました。珍しく引っ張り出したスーツの襟と、蝶ネクタイを付け直す。これでいい。
「久しぶりだな、リューク」
「玲名こそ、お久しぶりです。あれから成長したようですね」
「冗談はよせ。一ヶ月ぶり程度だろう」
「一ヶ月は一ヶ月。私達は成長期。貴女もその中で成長してもおかしくありませんよ」
「なるほど。それなら有り得なくはないが」
納得してくれた玲名に、私はくつくつと笑う。そんな私をいつものような、穏やかな目で見る彼女は、何か言いたげだった。
「……なぁ、リューク。そろそろ龍斗もお前のようにお日様園の皆の所に戻ってこないのか? 龍斗とリュークが揃えば、怖いものはない。お前達ふたりが揃うところを、クララや杏に愛も待っている」
「……なぜ女だけなのかは聞きませんが、そうできれば良かったんですがね。龍斗は雷門中を好んでしまった。それに、お日様園の事を、龍斗は覚えてません。私達が八神の苗字をもらった頃の記憶しか」
私は何度か、龍斗に”お日様園”の事を問いかけても、覚えてはいなかった。
「そう、か。まぁ、龍斗はリュークの一つ下で覚えているか、微妙な範囲だったからな。……もう、何年前だ?」
「もう、八年は前かと。龍斗が五つで、私が六つの時ですから」
「そんなになるのか。私はリュークとは定期的に会っていたが……」
私と玲名は昔のことを、懐かしむ。そう、私達が今は亡きはやての両親に引き取られた時、お日様園の皆は私達に残るように何度も説得してきた事を、今でも覚えている。
そういえば。夜桜……確か名前は怜奈だったか。怜奈と緑川の恋愛は成就したのだろうか。
「……リューク。昔の事を考えているのか?」
「そうですね。緑川と怜奈が恋愛していた事を、思い出しました」
「お前、自分の事はさて置いて。と後回しにする割には気にしてたのか」
「くくっ……何のことでしょうね」
自分の事に関しては、触れはしない。そんな意思を汲み取ったのか、玲名はやれやれと頭を振るった。
「緑川と怜奈は、怜奈が付き合おうとする前に、引き取られてしまってな。今は何処にいるか分からないはずだ」
「……なるほど」
恋愛の神様は時として残酷なようだ。そんな悲恋もあるのか。なんて程度に受け止め、仲間にそれしか考えられない自分に苦笑いした。
「……それで、リュークは戻ってくるんだろう? お父様も望んでいるしな」
「そうですね。年齢が中学生が出張だなんて、苦しい言い訳をしましたが」
「そうか。……すまないな。お父様の為とはいえ、幸せな家庭に居たのに」
「玲名が気にすることではありませんよ。私と貴女も家族ですから」
「……頼む」
玲名は優しい。私が気負う必要はないと伝えても、重く受け止める。本当に家族思いなんですね。と、心が暖かくなった気がした。
私はキャリーケースを引きながらも、前を歩く玲名について行く。と、そこで玲名が少しだけ振り返った。
「アヤの事は覚えているか?」
「ええ、勿論。彼がどうしましたか?」
「……お日様園の面々から離れた。どうやら、父様を止める為に動くのかもしれない」
「たかが一人に、私たちをどうこうする力はありませんよ」
「……変わらないな。その自信は」
「くく、貴女には劣りますよ」
アヤ……物怪妖。とても優秀な彼が敵に回ろうと、私達は止まらない。止まることを許されない。それが、父様の為ならば。
私達が進んだその先に、懐かしい面々も見えてきた。
「……さぁ、やってみせようじゃありませんか。闇のファンタジスタのお出ましですよ」
■【八神龍斗】■
「それで、マジン・ザ・ハンドですか」
「あぁ、そうなんだ。八神。世宇子中に勝つ為には、マジン・ザ・ハンドが必要な筈なんだ。ゴットハンドを超える必殺技が!」
今。僕は円堂先輩や豪炎寺さん。一之瀬さんに鬼道さんや、妖夢に冬花さんと一緒に、必殺技の会議をしていた。
どうにも、新たな必殺技がないといけないくらいに、世宇子中は強いということは鬼道さんから聞いた。
そこで、円堂先輩が取り出したのは、必殺技の特訓ノート。それを見ながら、今僕達は相談を続けていた。
「んー。僕はキーパーじゃないから、なんとも言えないよなぁ。ココが大事。かぁ」
「ここの部分が燃え盛っているようにも見えるが……」
「如何せん字が汚いからなぁ。余計に難しく見えるよな」
「全くだ。それでよく円堂と冬花は読めるものだと感心する」
「私でも分かりませんね……冬花さんと円堂さんしか読めない。何かの運命でしょうか」
「運命……そうだといいな。守君と私の。ね」
そんな会話をしながらも、僕らは円堂先輩の必殺技についての考察を進める。と、その時だ。
部室のドアが開かれて、中にイナズマイレブンのOBたちが入ってきた。
「おう、響木から聞いたぜ! マジン・ザ・ハンドの特訓をしてるんだってな!」
「実はな、その特訓専用の機械があるんだ! 動かしてみないか?」
「な、なんだって!? おじさん達。やっぱりすっげーや! お願いします!」
どうやら、OBの方々は円堂先輩の必殺技について、何か知っているらしい。ここは任せるべきかな。
そんな事を考えていると、ちょんちょんといつの間にか来ていた音無さんに肩を叩かれた。
「八神さん。もし良ければ今からちょっと出かけませんか? 買い出しなんですが手伝ってほしいですし」
「ん、いいよ。それじゃあ行こうか」
音無さんの提案は断る意味もないし、女の子一人で行かせてはいけないな。という思いから、ついていくことにした。
妖夢はなんだか少しばかり不満そうだが、後で一緒にやる必殺技を作るかという話をしたら、収まった。
「それじゃあ行きましょうか!」
「了解。それじゃあ行ってきますね」
こうして僕らは、買い物に行く。商店街に向かって到着すると、何故か別れて色々な食材まで買うことになっていた。
もしかして、これ。今日雷門中に泊まるんじゃなかろうか。そんな気もしてきたが、あながち間違いじゃないのかもしれない。
「ん?」
「離してください!」
「おいおい、そんな事を言わなくても良いだろ? なぁ、遊んでくれよ」
そんなことを考えていると、音無さんがチャラい青年達に、絡まれていた。
一体どこの人達かは分からないけど、とにかく助けようと思えば、僕は駆け寄った。
「すいません。離してくれませんかね? 僕の連れなんですよ」
「なんだぁ? お前。あっち行けよ!」
「八神さん!?」
そういうと共に僕の事を、チャラ男は突き飛ばしてきた。これで僕の正当防衛は確率されたということでいいだろう。
「そんな訳だからさ、僕がキレないうちに、どこかに行ってもらおうか」
「なんだと? ……うぉっ!?」
音無さんを掴んでいた腕を握って、空中で回転させて転ばさせる。こんなものでいいだろうか?
僕はつとめてにこやかに笑いながらも、出せる限り低い声で告げる。
「……さっさと去れ。僕の大事な存在でね。これ以上手を出されたら困るんだよ」
「ひ、ひぃ!?」
「さ、行きなよ」
そう告げると、平和的に解決してくれる意思を見せてくれた。
走り去ったチャラ男を見ながらも、ゆっくりと音無さんの頭を撫でる。どうやら震えていたが、収まったみたいだ。
「そ、その八神さん。僕の大事な存在って……」
「……さて、ね。残りの買い物を済ませて行こうよ」
「え、ちょっと!?」
そんな事を僕達は喋りながらも買い物を終わらせる。ゆっくりとした時間は早く過ぎ去り、あっという間に雷門中へと戻る事になった。
雷門中に戻ると、今度は妖夢に駆り出されて必殺技の特訓を始めた。
「龍斗さん。私とのツインシュートを特訓しましょう」
「それは分かったけど、いきなりどうして?」
「世宇子中に勝つためです」
「いや、それはわかるけど、なんでツインシュートを」
「世宇子中に、勝つためです!」
「は、はぁ」
妖夢が頑なにツインシュートと決めているのだが、まぁそれはそれでいいかと思うと、僕は妖夢と特訓を開始する。
ここまで強引な妖夢も久しぶりな気がするのだが、それならば。と僕は妖夢の意思に従う事にした。
「それじゃあ、どんな風にしようか。色々あるけど……」
「最後は手を繋いで二人で蹴るって感じが良いです」
「え? でも手を繋ぐと動きが制限されるような……」
「それがいいんです!」
「は、はぁ……」
そんなこんなで、妖夢と僕は必殺技の訓練をするのだけど、途中木野さんがやってきて、今日は皆さんが、雷門中に宿泊する事を聞いたから、僕もそれに付き合う事になった。
晩御飯はカレーらしいけど、いかにも合宿らしい感じだと、少しだけワクワクしてしまう。
「カレーかぁ。こういうのは久しぶりかもね」
「ですね。あ、音無さんがこっちに……」
「八神さん。一緒に食べませんか?」
「え、あぁ。いいけど……よ、妖夢?」
「あっ……! なら、私も!」
音無さんの提案に乗ろうとすると、僕の腕に妖夢が引っ付く。それを見て、音無さんが反対側に動いて僕に引っ付く。
いや、なんで? と思っていると、こっちに豪炎寺さんがやってきた。
「豪炎寺さん。ちょっと助けてくれません?」
「……すまない。俺には無理だ」
「……ぇえ?」
胸などが当たって、とてもドキドキするんだけど、豪炎寺さんは助けてくれそうにない。どうしようもないこの雰囲気に、どうするべきか悩むのだが、二人は競うように僕に抱きつく。
「……どうしろって言うんだこれ」
「私を選びますよね? 龍斗さん」
「八神さん。私も大事なんですよね?」
「……むむむ」
多分。これはどっちに転んでも大変な事になるだろう。どうにかして平和に済ませたかったその時だ。
「八神。こっちで会議をするぞ。妖夢も春奈も離れてやれ」
「あ、はいっ鬼道さん。それじゃあ行ってくるね」
「むぅ……」
「もう……」
こうして鬼道さんに連れられて、僕は歩き出す。と、鬼道さんはやれやれと言った顔で苦笑いした。
「八神。お前も大分難儀だな」
「そうかもしれませんね。……ありがとうございます」
「気にするな」
こうして、僕は鬼道さんと、その後色々なサッカー談義しながらも夜を過ごす事になった。
「八神さん……」
「龍斗さん……」
「負けませんよ」
「負けませんから」
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音無と妖夢は仲良くなって、豪炎寺は龍斗と特訓を
どうも、suryu-です。
いやはや、最近はとても忙しく、小説を書く時間も取れない上、休みの日は眠るしかできないという。
ストレスが原因かなーとか思いながらもこうして続きを書けてちょっと安堵してます。
そんな状態ですが、今回もごゆるりとなさってくださいな。
■【音無春奈】■
合宿初日の夜。私は少し上機嫌だった。そのお陰で、興奮して眠れていない。
八神さんは、絡まれた時に助けてくれて、私の事を大事と言ってくれた。私はそれがとても嬉しかったし、期待を持てる。
もしかしたら、妖夢さんだけでなく、私の事も見てくれるんじゃないかって。
「八神さんの、大事な人。かぁ」
正直言ってとっても嬉しい。八神さんは今まで基本、妖夢さんの名前が多く出ていたから。
勿論、妖夢さんが嫌いな訳じゃない。八神さんが妖夢さんと過ごしてきた時間を否定するわけでもない。
ただ、私のことは目に入らないのかな。なんて、思ってた。けど、そうでないことも分かった。
「八神さん。私の事を意識してくれてますよね」
きっと、おそらくだけど。そう信じたい。でも、一体何が八神さんの心に触れたんだろうか。そこはまだ分かってない。
でも、これなら妖夢さんに負けないかもしれない。そう思うと、俄然勇気が湧いてきた。まだまだやれる!
「お兄ちゃんにも、相談してみないと……八神さんの事。何か教えてくれるかもしれないし」
そう決めたら一直線。お兄ちゃんに早速メールを送って……って、返信が早いっ!?
「えーっと、"八神は豪炎寺と妖夢に弱い。あとは女心に対しては鈍感だから、押すしかない"……妖夢さんは分かるけど、豪炎寺さんに?」
そういえば、何かと豪炎寺さんは、八神さんに色々言う度、八神さんはそれをこなしていたような。
勿論パシリとかそういうのじゃないんだけど、豪炎寺さんのウォームアップ相手は基本八神さんだ。
豪炎寺さんの相手なら、お兄ちゃんでも出来る。でも、豪炎寺さんは何かと八神さんを指名していた。
なんとなく信頼関係があるんじゃないかな。なんて思っていたら、ちょっと納得できた。
「豪炎寺さんにお願いしたら、八神さんが聞いてくれるかも。これは大きいなぁ」
八神さんは基本、断ることは無いんだけど、もしもの時は。程度に考えておく。
自分からお願いするのが普通だから、余程の事がない限り、使わないと決めた。
「それにしても」
最近練習をしている時の、写真を撮ることにしている。その中で一番多いのが、八神さんの写真。
どれだけ自分が、八神さんに惹かれているか分かる事実だ。
因みに、自分でも意外なのは妖夢さんの写真も結構多い事。
サッカーをしている時の妖夢さんは、凛としていてカッコイイ。素直に憧れるから、いつの間にか沢山増えてしまった。
ライバルだけど、憧れる部分もある。それに、仲も悪い訳じゃないし、お互いがお互いを理解しようとしている。
「妖夢さんは、私も好きだなぁ」
そんな事を呟くと、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。
「そう言ってくださると、嬉しいですね」
「あ、妖夢さん」
どうやら、妖夢さんは私に話があるのか、合宿中での私の部屋に、いつの間にか来ていたようだ。
ノックの音さえ聞こえないくらいに、私は集中していたらしい。
「それにしても、音無さんも龍斗さんが好きなんですね」
「はい。いつの間にか惹かれちゃって」
「ふふ、分かりますよ。私もです。幼馴染みとしてすごしていたら、いつの間にか欠けてはならなくなりました」
妖夢さん。案外私と近い所があるのかも。なんて思いながらも、妖夢さんに体を向けた。
「妖夢さん。妖夢さんはやっぱりこの時を待ち望んでいましたか?」
「それは勿論ですよ。こうして龍斗さんとサッカーを再び出来ること。それは何よりも望んだことです」
「ですよね。サッカーは絆ですもんね」
妖夢さんは私の言葉に頷いた。サッカーは八神さんと妖夢さんの絆。それを知ったからこそ、重みが分かる。
そんな私を見て何を思ったのか。妖夢さんは私を見て微笑む。
「龍斗さんはきっと、音無さんのこともちゃんと見てますよ」
どうやら、私が先程まで考えていたことを、妖夢さんは理解していたみたい。
私の求めていた答えを、改めて再認識した所で、お礼を言う事にした。
「妖夢さんからそう言われると、そうなんだって分かるから嬉しいです。龍斗さんの幼馴染みだから、考えていることが分かるでしょうし」
「ふふ、そうですね」
妖夢さんは、穏やかな笑みを浮かべたままだ。それにしても、妖夢さんと話すのは楽しい。だから。一つ思いついたことがあるから、提案してみよう。
「妖夢さん。今晩は一緒にお話しませんか?」
「勿論良いですよ。久しぶりに夜ふかししたくなりました」
「そうこなくっちゃ!」
こうして私達は夜を過ごす。それが乙女の楽しみなもかも? なんて、ねっ。
■【豪炎寺修也】■
「やっぱり、龍斗のやつは頭一つ出ているな」
龍斗と久しぶりにサッカーをしてから思っていたことは、この一つだ。
俺や円堂達と違って、一人だけ基礎力がとてつもなく違うのは目に見えている。
その証拠が、個人技だけで必殺技をかわす能力があるという事だ。
「俺ももっと練習しなきゃならないな。……くるりや紫蓮の奴も、強くなっていたしな」
かつてのチームメイト。舞鶴くるりは、練習試合の時には円堂のゴットハンドを破る強さを見せた。
龍斗の元チームメイト。花月紫蓮も同様だ。俺がまだまだであることを、感じ取れた一戦でもあった。
まだまだやることは沢山ある。龍斗と勝負していた時よりも。今よりも。前へ。前へ。
「さて、久しぶりに基礎の基礎からやるか」
リフティング。ボールコントロール。次第にそれは個人技へとシフトしていく。
忘れていた感覚を、龍斗の顔とともに思い出す。ここ迄基礎練習に熱くなったのは久々かもしれない。
そんなことをしていると、いつの間にか龍斗が立っていた。驚いたものを見るような顔つきで。
「なんだ、見ていたのか」
「はい。基礎練習をここまで熱くやっている豪炎寺さんは久しぶりなので、どうしたのかなーって」
嘘偽りのない言葉だろう。それを向けられて俺は笑う。
「お前のお陰さ」
「……え? 僕の?」
それは本当だろうか。と問い詰めたそうな顔をしているのは確かだ。
勿論、俺も自分がここまで熱くなることが予想外だったが、楽しくなってしまった。
ボールを蹴る喜びを。少しずつ個人技のキレが上がることを。そういう物が、繋がり始めるからだ。
「龍斗。お前の個人技を教えてくれないか? 動画等では見た事があるとはいえ、お前ほどキレがあるのはA代表の選手しか居ないからな」
「ちょ、どうしたんですか豪炎寺さん!? それに僕はそんな凄くないですって!」
「光のファンタジスタが何を言ってるんだ。……それに、俺はお前を認めてるからな」
俺の言葉に「え?」と口を開けてぽかんと呆けたその顔を見て、こいつは本当に、自分の強さには無頓着だな。とつくづく思う。
だからこそ、だが。俺は此奴を越せるようなプレーヤーになる。そう決めた。
「それにしても、個人技って何を?」
「お前の代表的な、マルセイユルーレットや、エラシコ。逆エラシコ。それに、たまにシャペウやチップキックとかもやるだろう?」
「ああ、後半は爪先でコントロールするのを練習してますからね」
「なるほどな」
だから、こうして話しながら、此奴の技を見て。吸収して。いずれは超える。そういう意気込みで行った方がいいだろう。
「それじゃあ、こんな感じでボールを爪先でコントロールする事から始めます」
「あぁ」
こういう時間を続けて、俺は龍斗の事を理解していく。超えるだけじゃなく、龍斗個人を知る。その上で、きっと先に繋がるんだろう。
俺はただ超えるんじゃなくて、こいつのライバルになりたいのかもしれない。その時は、真正面から真剣に、熱くなるような対面すればいい。
そんな考えを持ちながらも、龍斗の基本的な技を使えるようにしていく。
「さぁ龍斗。サッカーやろうぜ!」
「はいっ」
■【久遠冬花】■
「……マジン・ザ・ハンド。まだ出来ない、か」
「何か違う所がまだあるのかな?」
私は今、守君と、マジン・ザ・ハンドの練習を進めるために、特訓ノートを見続けている。
龍斗君とかにも聞けば、まだまだ何か改善点が見つかるのかもしれない。でも、それはしなかった。
「簡単に答えにたどり着くのは、違うよな」
守君の言葉に、龍斗君は驚いた顔をしてから、そうですね。と笑ってくれた。
元々そこまでキーパーのことは分からないと言ってたけど、それでも一番いい意見をくれたから。
「ようは気なんじゃないですかね? 何とも言えないけど」
その言葉を信じて、守君は気を高める。するとどうだろう。どんどん守君は、マジン・ザ・ハンドのコツをつかみ始めた。
でも、ある程度から先に進まない。その為に、こうきてノートを読み返している。
「それにしても、助かるよ、ふゆっぺ。俺一人じゃどうにもならなかったかもしれないし」
「ううん。私は守君の役に立てるなら嬉しいよ」
「そっか。そう言ってくれると嬉しいな」
こうして、時間は過ぎていく。守君はまだまだ練習を続けるし、勿論私もそれに付き合う。
守君を支えたいから。それに、秋さんや夏未さんにも負けられない。
あの二人は、守君が好きなんだ。だからこそ、私も頑張らなきゃ。
そんな時だった。グラウンドに出て、一之瀬さんや鬼道さんなどのシュートを受けていると、一人の男の人? が空から降りてきた。
「八神龍斗はいるかな?」
「……そのユニフォーム。世宇子中の」
鬼道さんは忌々しそうに男の人を見ている。龍斗君に興味があるみたいだけど。
「無駄な抗いはやめるべきと言いに来たのと、八神龍斗の実力を見に来たんだが、居ないようだね」
「八神だけじゃない。雷門は負けない!」
守君が反論すると、「それじゃあボールを受けてみるといい」と言って、ボールを持った……!?
いつの間にか、ボールと男の人が消えて、ボールが守君に直撃していた。
一体どうしたら、こんな一瞬で。そう考えるも答えが出ない。
守君が大丈夫か。そう思って駆けよると、立ち上がった。
「っ……まだ、終わってねぇ!」
「無駄な事を。まぁいいさ、決勝で会おう」
そう言って、男の人はどこかに行ってしまう。悔しそうな守君を、私は見つめることしか出来なかった。
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開幕! 世宇子中との戦い!
どうも、suryu-です。
今回はスランプの中で悩みに悩んで書いた話ですから、本当に上手くいってない感じがすごいです。本当にこれでいいのかと、悩んだりしました。
そんな今話ですが、皆様がまた見てくれて、感想も貰えると幸いです。
それでは、ごゆるりとなさってくださいな。
■【三人称】■
「世宇子中との試合まで、後少し。それまでに、か」
「ですね、龍斗さん」
龍斗と妖夢は、二人でツインシュートの練習を続けていた。
世宇子中の選手の来訪が、彼等には火をつける事となる。
だが、なかなかに完成しない事から二人は少し焦り気味だった。翌日が世宇子中との戦いだからだ。
だが、焦りすぎても仕方ない。やる事はただ一つしかないのだ。
「龍斗さん。もう少し密着してみますか?」
「確かにふたりの間を狭めるのも手かもしれないけど……んー」
「まぁ、そんな簡単に変えたらダメですよね。……どうしましょうか」
このように試行錯誤を試しているのだが、完全な完成には至らない。どこか最後に味気ないものになってしまうのだ。
と言うのも、なかなか威力が奮わない。そしてそこから先に進まない事に、少しばかり頭を悩ませる。
でも、練習は続けるのみだ。と意気込んで、妖夢と龍斗は二人でシュートを打ち続ける。
その様子を見ているのは、豪炎寺だった。そして、二人が豪炎寺に気付かないことに、それほど力が入ってると言うことが見て取れた。
「……なるほどな。確かに力は入りすぎかもしれないな。熱くなりすぎだ」
「そのようだな。決勝だから、余計にだろう」
「八神って努力家だったんだな」
「鬼道。一之瀬。お前達も来たのか」
その豪炎寺の後ろから現れたのは、鬼道と一之瀬。二人も妖夢や龍斗の様子を見に来たのだが、苦笑いを浮かべた。
「円堂も八神も妖夢も、皆頑張り過ぎるっていうかさ」
「そうだな、一之瀬。あいつ等は似たもの同士なのだろう」
「ああ、鬼道。だからこそああして人が集まるのかもしれないな」
一之瀬。鬼道。豪炎寺の順で冷静に分析をしているのだが、それにしても、妖夢と龍斗はとても真剣に練習を重ねる。
その姿を見ていると、どうにもいても経ってもいられなくなったのか、三人は近づいた。
「あ、あれ? 豪炎寺さん。鬼道さん。一之瀬さん」
「私と龍斗さんになにか御用ですか?」
近づいてようやく気づいた為に、やれやれと言った様子で三人は苦笑いを浮かべたあとに、それぞれ飲み物などを差し出した。
「力の入り過ぎだ。それじゃあ完成も何も無い」
「豪炎寺の言う通りだ。俺達は仲間なのだから、相談くらいはしてもいいんじゃないか」
「そういうことっ。まぁ、円堂も似たような状況だけどさ」
豪炎寺。鬼道。一之瀬の三人からそんなことを言われるなんて。と龍斗と妖夢は顔を見合わせていると、豪炎寺はボールを手に取った。
すると、鬼道にパスすれば鬼道は一之瀬にパス。それぞれボールを蹴ったあとに、三人の真ん中にボールを落とし、鬼道と一之瀬が同時に蹴る。
回転を見せながらも、ゴールに迫っていったボールを見て、妖夢と龍斗はなにか見つけた。そんな気がした。
「あんまり力んでいると、見えるものも見えないぞ」
「サッカーは楽しむものでもあるからな」
「楽しくなくなっちゃ、そこまでだよ」
三人の言葉を聞いて、妖夢と龍斗はそれ程までに自分達が、力んでいたことを知った。
確かに、楽しんでサッカーをしていたかと考えると、楽しめていなかったことを認めざるを得ない。
「確かに、僕も妖夢も技を作ることを意識しすぎてました」
「ありがとうございます。豪炎寺さん。鬼道さん。一之瀬さん」
礼を言う二人に、豪炎寺も鬼道も一之瀬も、お礼を言われる程でもないと肩を竦めるが、二人はそれでも頭を下げた。
「全く、律儀だな。お前達は」
「あぁ。それが八神と妖夢らしいが」
「かたっくるしいけど、そこが八神と妖夢って理解出来るのがなんとも言えないよなぁ」
三人はそんな反応を見せながらも、悪い気はしなかった。真っ直ぐさを直に感じて、自分も良い気分になったからかもしれない。
翌日の世宇子中との戦い。どうなるかは龍斗と妖夢と、円堂の三人にかかっている。そう考えている鬼道は、これで二人が吹っ切れて、技の開発に成功してほしいと思っていた。
妖夢と龍斗はそのあと、また練習を再開する。先程見たボールの回転は、なにか参考になるはず。
「いくよ、妖夢!」
「はい、龍斗さん!」
龍斗がボールを蹴って二人の進路の真ん中にボールを落とす。そこから二人が走り、くるっと回転する。そして、手を繋ぐと、同時に蹴った。
そのシュートは、ボールが色々な回転をしながらゴールに向かう様を見て、はじめて前に進んだ気がした。
「……妖夢。いけるよ、これ!」
「そうですねっ。これなら!」
そうして、二人は特訓を続けた。翌日の世宇子中との戦いに、必ず勝利するために。
試合は目前。次の日になる前に、妖夢と龍斗は気合いを入れ直した。
■【八神龍斗】■
「ついに世宇子中との試合……どうなるか分からないけど、勝たなきゃ」
昨日まで僕達は練習を続けてきたけれど、漸くフットボールフロンティアの、決勝戦を戦うことになる。
響木監督から聞いた話では、どうやら影山も関わっているらしいけど、それでも関係なかった。
「僕は僕のやるべき事をやるだけ。だよね」
「今日はスッキリとした顔をしているな、龍斗」
ふと脇を見ると、豪炎寺さんが居た。なんだかんだ言って、僕をこうして引き戻したのは豪炎寺さんだ。
その事に感謝はしているし、豪炎寺さんに逆らえない理由の一つとなっていた。
まぁ、でも。嫌な訳では無い。認めてくれているって、ハッキリと分かるから。
「まぁ、お陰様でって所ですよ」
「そうか。……勝つぞ」
「はいっ」
そうして、会場である世宇子中のスタジアムがある所に着いた。と同時に、空を見上げると巨大なスタジアムが浮いている。
どう言った原理で浮いている。とかは分からないが、そんなことは関係ない。僕は、本気で打ち勝つだけだ。
「気を抜くなよ。何があるかは分からないからな」
響木監督の言葉に、皆は頷く。それと共に現れた階段を上り、決戦の地へと歩き出した。
一段一段上がる度に感じるのは、プレッシャーに、大きなワクワク。
「ついにここまで来たんだな」
そして、僕達は世宇子中のスタジアムへと足を踏み入れる。さぁ。勝負しようじゃないか!
「来たみたいだね、八神龍斗。歓迎しよう」
僕に、相手チームのキャプテンのアフロディこと亜風炉照美が挨拶をしてくる。
ならば、と僕もにこやかに。しかし、挑戦的な笑みを浮かべる。
「どうも、アフロディさん。……歓迎ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
その挨拶を気に入ったのかなんなのかは分からないけど、彼は笑った。とても面白そうに、僕の事を眺めながら。
「なるほど。光のファンタジスタは、勝ちに対する揺らぎがない。だが、神を相手して勝てるかな?」
「神。ですか」
神と自称する辺り、それほどの力があることは分かっている。けど、僕も負けるイメージなんてない。むしろ、勝つだけだ。
「なら、神にお見せしますよ。……創造と想像が溢れている、星を」
「……ふ、面白い。それじゃあ、戦おうじゃないか」
「えぇ。そうですね」
そんな僕たちのやり取りを見て、チームメイト達は頷く。必ず勝つと、そう信じて。
豪炎寺さんも、鬼道さんも、一之瀬さんも、円堂先輩も。土門先輩も。他にも壁山さんや、栗松さんなど。雷門中のメンバーは、勝つために今ここに立っていた。
「それじゃあ試合を始めよう。神の前にひれ伏すがいい!」
■【豪炎寺修也】■
『さぁ! フットボールフロンティア決勝戦! 実況は変わらず角馬王将でお送りします! 雷門中対世宇子中。どのような戦いとなるのでしょうか!』
実況の声が響く中。俺達はこうして、世宇子中の面々と対峙している。
怖くは無い。が、緊張は少しはある。でも、それが丁度いいはずだ。
”ピッ!”
ホイッスルが鳴って試合が始まる。八神が最初に触って俺が受け取れば、世宇子中に切り込む。
だが、世宇子中の選手はディフェンスを行わないことに、疑問を覚えた。
周りの仲間達も、それによって不穏な空気を感じ始めた。
「だが、それならばゴールを割らせてもらう!」
踵でボールを真上にあげて、自分は炎を纏って回転しながら飛び上がる。
ここまで上がらせたんだ。絶対に一点を取らせてもらう!
「ファイアトルネードッ! ……なに!?」
止めさせはしない。そう思って打ったシュートを、世宇子中のキーパーが、片手で止めた。
今までは少なくとも入っていたはずだが、こうして決まらないということは、少なからず衝撃を覚えた。
「次はこちらの番だね」
世宇子中のキャプテン。アフロディにボールが渡ると、アフロディは歩き出す。舐めているのか。そう思いつつも近寄った時だった。
「ヘブンズ・タイム!」
「速いっ!? っぐ!?」
まるで時が止まったかのような、異常な速さと共に、アフロディは過ぎ去っていた。そして、その後に突風が起こり吹き飛ばされる。
そして、円堂の前へと易々と進み、その後アフロディは笑った。そんな気がした。
「神の力。受け止められるかな?」
「っ、来い!」
そう言うと、背中に翼を幻視させたアフロディは飛び上がる。そして、光に包まれたボールを今、蹴りはなった。
「ゴットノウズ!」
「円堂っ!」
「マジン・ザ・ハンド……! ぐぁっ!?」
マジン・ザ・ハンドはまだ未完成なのか、円堂ごとボールはゴールに突き刺さる。
開始から間もないこと。誰もが驚きに包まれる中で、誰もが揺らいでいた。
「そ、そんな……」
「こんなの、どうやって勝てばいいでやんすか……」
「ど、どうすれば……」
だが、それでも戦わねばならない。勝つしかないのだ。勝って今度こそは、夕香と。皆と勝利を分かち合いたいから。
諦めるのは俺たちらしくない。だから、俺達は最後まで戦う。そう決めた。
「……まだだ!」
だから、もう一度センターサークルにボールを置く。試合はまだ始まったばかりなのだから、これから取り戻せばいい。
やってみればなんとでもなるはずだ。そう信じれば俺達は再び動き出す。
こうしている間にも世宇子中の面々は、呑気に水分補給などをしているが、余計に俺達に火を付けた。
「……いくぞ!」
「おう!」
__絶対に勝つ!__
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世宇子中の秘密? 探ります!
どうも、suryu-です。
スランプからなかなか抜け出せずに、ちょこちょこ書いて、投稿した今話ですが、いやはや、世宇子中の話を分割して書くのは決めてたけど、イナズマイレブン1が何時になれば終わるのか。と自分で書いていて、先が読めなくなって青ざめたのは大変な思い出。
ですが、少なくとも1は完結出来そうなので、このまま頑張って、執筆を続けたいと思っています。
因みに閑話となりますが、ロシアワールドカップ。フランスが優勝しましたねぇ。元からフランスは強い国ですが、まさか二回目の優勝を果たすとは思いませんでした。今年のフランスは、とても強かった。
そんな熱を、この小説に活かせるように、頑張りたいと思います。皆様。感想などなど、お待ちしておりますので良ければという形でお願いします。
では、長々と語ってしまって失礼しましたが、今話をどうぞ。ごゆるりとなさってくださいな。
■【音無春奈】■
「皆さん、攻めきれませんね……」
「それどころか、怪我人が増えてきてる」
「いい状況でないのは確かね」
「守君も、大丈夫かな……」
「龍斗さんは違和感を感じているみたいですが……」
私たちは今、八神さんや豪炎寺さん。キャプテン達の苦悩する姿を見ていました。
試合は世宇子中がリードしたまま。お兄ちゃんと八神さんが統率をとって、守備陣の意識を変えて、なんとか守りきっている。
でも、なんだろう。なんだか違和感が拭えない。さっきから、世宇子中は度々呑気に水分補給をする。わざとボールを外に出してまで。
「……もしかして、あの水になにか秘密があるのかな?」
「水?」
「そういえば、こまめに水分補給してるけど……少しおかしいわね」
「ボールをピッチの外に出してまで。……何かあるのかな?」
「確かに、少し気になりますね」
私。木野先輩。夏未さん。冬花さん。妖夢さんの五人娘は、やっぱりあの水が気になる。という意見で一致した。
と、なれば。やることはひとつしかない。皆で目線を合わせては頷いた。
「ハーフタイムの時、私たちで探りましょう!」
「私も、試合に出る事になるでしょう。皆さんのためなら、少し調べないと気がすみません」
私と妖夢さんの言葉を聞いて、夏未さんも木野先輩も冬花さんも頷いてくれた。そうと決まれば!
「あとすこしでハーフタイムです。頑張って見つけましょう!」
「はいっ」
「うんっ」
「仕方ないわね」
「うん、やろう!」
私達の意識がひとつになれば、五人で頷き合う。どうにかして、秘密を探らないと!
■【影山零治】■
「……やはり、か」
あれから、八神龍斗の試合途中の様子を見ているが、あの頃から変わらない、希望を孕ませる。そんなプレーのままだった。
どうしてだろう。なぜ私は父のことを、八神龍斗を見て思い出すのだろうか。
私は、嘗てサッカーに絶望し、サッカーを憎み、円堂大介をも手に掛けた。……そのはずなのに、八神龍斗の試合は。ピッチでの様子は。私の目を釘付けにさせる。
「……あれ程の選手。私の手で育てたい。そんな意識があるのかもしれないな」
そして、それだけじゃないことを把握もしている。ファンタジスタとして、圧倒的な閃きを見せるだけでなく、フィジカルも強く、視野も広い。
まさに、父のプレーと同じなのだ。……まるで、私をサッカーに対する絶望から、救い出そうとしてくれている。そんな気さえもする。
そして、私はそれを拒もうとしていない。……何時だったか。子供の頃。思い返せば、私は父のサッカーに一喜一憂していた。そして、父が代表から落ちて落ちぶれた時。私は、悲しかったのかもしれない。父のサッカーが二度と見られないのか。と。
だが、父と同じサッカーは、今もこうして私の目の前で行われている。奇跡のように、煌めいている。
彼はまだ本調子じゃないにしても、ここまでのポテンシャルを見せ付ける。……私が今軍事研究のプロジェクトZとして、世宇子中の選手に飲ませている、神のアクアさえも跳ね返す。そんな気迫を感じた。
「……私は、彼に救われるのかもな」
私は、神のアクアが無かろうと、世宇子中の面々が負けるとは思っていない。だが、心の隅で、八神龍斗が、私の想像を飛び越えてくれたら。そう思うと、胸の中が熱くなる。
八神龍斗は、私の希望で救いなのだとしたら。……そう考えると、私は世宇子の面々達よりも、八神龍斗を眺め続けていた。
あぁ、そうだ。私はこれを求めていたのかもしれない。見せてくれ、八神龍斗。私に、希望を。
「……今度ばかりは、真正面からの真剣勝負だ。潰す指示もない。……越えて見せろ、八神龍斗」
■【魂魄妖夢】■
前半。龍斗さん達は、あれから零対二のスコアで、なんとか踏み止まって終わった。やはりというか、世宇子中の人達は事あるごとに、水分補給をしていた。
なにか裏のありそうなその行動を探るため、今。マネージャーの皆様と私で、世宇子中のロッカールーム付近を、隠密行動していました。
「それにしても、妖夢さん。なぜ竹刀を?」
「これは私のもう一つの武器ですから」
「武器、かぁ」
「頼りになるわ」
「うん、とっても」
音無さんの問いかけに答えると、秋さんや夏未さん。冬花さんも私を信じて、頼りになると言ってくれたこと。結構嬉しいです。
さて、そんなことを話しながらも、ロッカールーム付近に居ますが……と、そこで二人の男性が話しているところを見て、私達は黙して聞き耳をたてました。
「神のアクアの効果は、余程すごいみたいですね」
「あぁ、雷門中を抑えるほどの力を見せているな」
「体力増強やその他もろもろ。色々な効果を、見せているみたいですからね」
そこで出てきた単語。神のアクアというものに、私達は首をかしげたあと、数秒後に理解しました。
神のアクア。つまり、それはドーピングする飲み物なんだと分かると、急いで雷門中のロッカールームに戻ろうとした時です。
「おっと、いけないなお嬢ちゃん達。雷門中の選手とマネージャーがこんな所で立ち聞きなんて」
「っ、見ていましたか」
一人、ガタイのいい男の人が。私達の前に立ち塞がる。けど、私には幸いにも竹刀がある。
一人相手なら、十分だ。間合いをとり、竹刀を構えると、男の人は笑った。
「おいおい、お嬢ちゃん。そんな玩具じゃ突破できると思うなよ? 剣道もろくに出来ないだろうしな」
「……そう思うのは勝手ですが、私は生憎負ける気はありません」
「妖夢さん……」
じりじりと、お互い間合いを変える。そして、数秒したあと、男の人が仕掛けてきた。
「悪いが、沈みな!」
だが、それは私の間合いだ。龍斗さんと磨いてきた刃は、サッカーだけじゃない。私の家に伝わる、剣術の流派。それこそ。
「魂魄流奥義! 人符 現世斬!」
一瞬の一撃。私が切り抜ければ、男の人はドサッと倒れる。私はこのような、低俗な男に負けることは無い。龍斗さんしか、私の刃は止められないのだ。
「斬れば分かる。……貴方はその斬る事にすら値しない人でした。斬り捨て御免」
「す、すごい……」
「これが、妖夢さん……」
「想像以上、ね」
「ちょっと。かっこいいね」
と、そこで、影からもう一人男性が現れました。が、それは知っている人でした。刑事の鬼瓦さんです。
「どうやら、俺が助けるまでも無かったか。やるな、お嬢ちゃん」
「龍斗さんと、鍛えた刃。錆び付いてなんかいませんよ」
「ふっ、そうか。高町さんとかが聞いたら、手合わせしたいと言いそうだな」
そう言いつつも、男の人に手錠をかける鬼瓦さん。なんだかんだ、鬼瓦さんとも付き合いが長くなりました。
私が怪我をした時に、裏事情に気づいた鬼瓦さんが、訪ねてきたことが始まりでしたから。
「鬼瓦さん。いつもありがとうございます」
「いいって事よ。さ、お前さんらは早く戻るといい。試合があるだろう」
「はいっ」
「響木監督にも伝えなきゃですねっ」
「ええ、そうね。行きましょう」
こうして、私達は自分たちのロッカールームに向かって走り出す。役目を果たすために。そして、私は龍斗さんと同じ舞台に立つ為に。
私は、龍斗さんと一瞬のピッチに立って、一緒にサッカーをして、世宇子中に勝つために!
■【八神龍斗】■
「そうか、そんな事が……お前達、よくやった」
響木監督は、妖夢とマネージャーの音無さん。木野先輩。夏未先輩。冬花さんの五人で、世宇子中の強さの秘訣となる情報を手に入れてきた。
神のアクア。所謂、ドーピングする薬品で、それを使って体力などの、底上げをしているらしい。
もっとも、世宇子中の技術は本物であることから、元からとても訓練をしているのだろう。というのは想像出来るために、鬼に金棒とはこの事か。と、軽く考えることにした。
むしろ、僕は久しぶりに燃え上がっていた。そんな相手を超えてこそ、サッカープレイヤーってもんでしょ。と考えれば、自然と笑みは出てくる。
「豪炎寺さん」
「どうした、龍斗」
豪炎寺さんはきっと分かっている。分かっていて、僕に聞き返したんだと思えば、僕はきっとにこやかに笑っているはず。
「僕。楽しくなってきましたよ。……ワクワクが止まらない。だから、勝ちましょうよ。円堂先輩も、ね?」
「龍斗。流石だな」
「八神……そうだな。後先考えるより、今は前に進むべき!」
僕達三人は拳を合わせると、三人同時に頷いた。僕達が言う言葉は、ひとつしかない。円堂先輩の口癖で、僕達が惹かれあった理由。
”さぁ。サッカーやろうぜ!”
その言葉に、鬼道さんも、一之瀬さんも。他にも、壁山さん。土門先輩。染岡さんや影野さん。少林さん。栗松さんに、宍戸さん。半田さん。マックスさんや、眼鏡さん。妖夢。そして、音無さんも頷いてくれた。
「……よし、勝つぞ!」
”おう!”
こうして、雷門イレブンは一致団結する。怪我で退場した人も。ピッチに残って戦う僕らも。全員一緒で、戦うんだ!
だから、僕達は絶対に負けない。絶対に打ち勝って、優勝するんだ!
「妖夢。僕らならあの世宇子中を崩せるよね?」
「もちろんですよ、龍斗さん。皆様の為に風穴を開けましょう」
僕と妖夢も、拳同士を合わせては、なんとでもなるさ。という精神で笑いつつも、ピッチに立つ。世宇子中の選手を見ても、負ける気が起こらない。僕達は勝つんだ。
「やけにスッキリした笑顔だね。神には適わない。というのに」
「やってみなければ分からない。それに、僕は……本気を出すだけだ」
世宇子中のアフロディさんの圧迫感なんて、今はもう感じない。後半戦。ここからは、僕達の独壇場だ。零対対二なんて、すぐにひっくり返してやる。
僕と妖夢は、視線を合わせて頷いた。それを見たアフロディさんは、何やら余裕そうな態度から、少しばかり変わった気もしたが、そんなのは関係ない。
「アフロディさん。ひとつ良いですか?」
「どうしたんだい? 八神龍斗」
「神なんて自称するものじゃあないし、それに、相手が神であろうとなんであろうと……僕の星は、勝てると信じてるから」
その言葉に、アフロディさんはふふふと笑った。きっと、僕もアフロディさんも、同じことを思っている。
「だが、それでも勝つさ」
「お生憎。年季の違いを教えますよ!」
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世宇子中決着! 優勝は!?
どうも、suryu-です。
ここまでくるのに結構長かったなーと思いつつも、書き上げた世宇子中でした。ここから、漸くこの先で色々掘り下げて書けるようになるのかなぁなんて。
実は、イナズマイレブンは2を一番やりこんでいたので、2の話を一番書きやすいと思うんです。そこから3も本当に楽しみだったり。
なんて、先のことばかり語ってますが、ここで思い出すことにも入りましょう。この小説を書き始めた時は、軽い気晴らし程度だったんですが、今では色々な人が見てくれている。という事から、もう少し頑張って書かないとと思っています。
特に上記でも言った通り2をやり込みプレイをしたので、原作とは幾つか違う結果にこの時点でなっているので、それを活かして尚且つ原作のような深みと面白さと、原作と違う展開を描けていったらなぁと思います。
そんなこんなで長く語ってしまいましたが、フットボールフロンティアの最終話と言ってもいい世宇子中戦後半。皆様、ごゆるりとなさってくださいな。
■追記■
今回も急ピッチで制作したので、納得いかなかったら今後の展開含めて書き直すかもしれません。
■【八神龍斗】■
「それじゃ、妖夢。前半は見てたよね? ……イメージを修正しつつやっていこう」
「勿論です。龍斗さん。私達には秘策もありますし、世宇子相手に、引けはとりません」
後半の始まる前に、妖夢と意思確認。妖夢と一緒なら、どんな相手でも戦える。そう信じている。そして、マネージャーには音無さんもいる。音無さんも、間違いなく僕の支えになっている。
もちろん、妖夢や音無さんだけじゃない。いつも、逆らえないだなんだ言ってるけど、本当は一緒にいてくれて、ずっと助けてくれる豪炎寺さん。戦略の事や、アシストもよくしてくれる鬼道さん。必殺技を復活させる時に、不死鳥のような復活に感動して、目標になった一之瀬さん。
”そして”
「ここまで皆から信頼されて、尚且つ人を惹きつける。このチームの要で、明るく、熱い人。円堂先輩」
多分、この人が居たらゴールはきっと守ってくれる。そんな気がした。だから、僕はもう一度高みに上ってみせる。
「……今なら、出来る気がする」
「行きましょう。龍斗さん」
「やってみせよう、龍斗」
妖夢も、豪炎寺さんも。二人だけじゃない。皆で同じ意識を共有した。やることはただ一つしかない。だって僕達は。
「勝ってみせる! 僕達のサッカーで!」
ロッカールームでの決意を表して、後半。豪炎寺さんと妖夢のキックオフで始まれば、僕はボールを受け取る。そこから、妖夢とアイコンタクトをとっては、まずはワンツー。アフロディさんを抜き去る。
「なに!? 前半よりも速い……!」
「言ったでしょ! 年季の違いを教えるって!」
僕がこうして走っていると、皆の想いが伝わってくる。勝つんだって強い意志を、どんどん受け取ることが出来る。だから。だから!
「豪炎寺さん、合わせてくださいよ!」
「おう!」
妖夢とのワンツーだけじゃない。豪炎寺さんにパスすれば、豪炎寺さんはシャペウという、つま先のコントロールでふわっと上げてディフェンスを越えれば、オフサイドにならないうちに僕にパスする。
そして、妖夢と僕は、頷き合う。今こそ、あの練習した技を披露する時だ。
「いくよ、妖夢!」
「はい!」
僕と妖夢がくるんと対比的に回転すると、手を取り合う。そして、僕は左足。妖夢は右足で、二人同時にボールを蹴る。その技の名前は!
「ツイン!」
「ドライヴ!」
『で、出たァァア! 魂魄妖夢と八神龍斗の新必殺技! まさかの土壇場で繰り出した!』
「何が来ても通りはしない。ギガントウォー……なに!?」
世宇子中のキーパー。ポセイドンは僕達のボールを受けて、多分驚いている。ツインドライヴは、僕と妖夢のキック力の強さがあるからこそ、出来る技なんだ。
二人で同時に蹴る時に、予測不可能になる回転をかけることで、キーパーは取ることすら困難になり、仮に手に当たっても……
「は、弾かれる。だと!?」
ボールはいくつもの回転が掛かっていて、ポセイドンの手を弾く。そして、そのままボールはゴールに入った。
『な、なんと! 雷門中! 2対0から一点返した! 八神龍斗。魂魄妖夢のコンビの強さ。やはり計り知れない!』
「よし、まぁこんなもんかな。あと二点。取りますよ!」
”おう!”
もはや、前半の時のように押し込まれることは無い。雷門中の皆が、ノっている。そして、円堂先輩も顔つきが変わった。
「……神が、負けるものか!」
だが、簡単に終わらないのは世宇子中。アフロディさんが駆け出せば、かなりのスピードでみんなを抜き去る。そして。
「ゴットノウズ!」
でも、僕は心配してない。円堂先輩だから。円堂先輩は、ロッカールームに居る時グローブを付けかえていた。多分そのグローブを見て、確信したんだと思う。
体をひねって、心臓に手を当てている。そこから開放された気を見て、僕は笑ってしまった。だって。
「魔神じゃないか、あれ。……成功したんだな」
「マジン・ザ・ハンド!」
「神を超える……魔神?」
そこから、円堂先輩は豪炎寺さんと鬼道さんにボールを投げた。見せてくれる技は!
「ファイアトルネードっ!」
「ツインブースト!」
ファイアトルネードからのツインブースト。そこからポセイドンのゴールを軽々とこじ開ける。世宇子中の面々は、とてもではないが戦える状態ではなかった。これで2対2。
さて、場内も湧き上がっている。最後はやっぱり、円堂先輩達が決めるよね!
「俺達雷門のサッカーは、最後まで諦めない!」
「ですよね、円堂先輩!」
「そうだな、円堂!」
「円堂!」
「キャプテン!」
皆が円堂先輩を見る。円堂先輩は、中心を走り続けて、土門先輩と一之瀬さんと共に、不死鳥を生み出す。そこから、豪炎寺さんが飛び上がって、ファイアトルネードで、シュートを放つ。不死鳥は燃え上がり、キーパーのポセイドンは逃げ出した。そう、これが三点目のゴール!
”ピッ。ピッ。ピー!”
ホイッスルが三回鳴り響いた。これで、試合は終わった。つまり、つまりだ。僕達は。
「勝った……?」
「あぁ、勝ったんだ。円堂」
「夢じゃないッスよね……」
「勝ったでヤンスか……?」
「俺達が、世宇子中を……」
「ま、みんなの勝利って奴だよな」
「……やったぁぁぁあああ!」
雷門中の皆が、顔を見合わせたあとに頷いた。そうだ。僕達は優勝したんだ。
円堂先輩が胴上げされている中で、僕はふっと笑いながらもその光景を見ていた。
すると、後ろからぽんぽんと肩を叩かれて振り返れば、目を丸くしたと思う。だってそこには、影山零治が居たんだから。
「見せてもらったぞ、君のサッカーを……とても。素晴らしかった」
「……あんなに悪事を働いてきた影山零治が、僕のサッカーを賞賛するなんて、意外ですね」
「そうかもしれないな、だが本音だ」
今までやられてきたことを、許せるか。と言われたら、それは分からない。ただ、なんとなく。なんとなくだけど、今の影山零治の言葉は、信じられる。そんな気がした。
サングラスの向こうに見える目は、なんとも穏やかだから、なのかもしれない。それ故に、今こうして、話を聞く事にした。
「……私はかつて、プロサッカー選手の父が居た。父は日本代表にもなるほどでな。広い視野と高いフィジカル。司令塔として活躍していたんだ。影山東吾。君ならば知っているだろう」
「え……? あの影山東吾が父親だったんですか? ……知ってますよ、映像で何度も参考にしました」
「そうか……」
正直、その告白は驚くべきものだった。影山東吾という選手は、僕自身憧れていた選手の一人でもあったから、その末路を噂で聞いていた為に、影山零治の闇を知った気がした。
「日本代表から落ちた父は、自暴自棄のような生活をしていた。円堂大介など新たな代表の活躍に、嫉妬を覚えながら。そして、父はそのまま消えた。……多分私は、今なら分かる。あの時、父のサッカーが二度と見られないからこそ、サッカーに対して復讐心を覚えたのかもしれない」
「……なるほど、偉大な父親だったんですね」
「あぁ、そうだな」
多分、今なら僕は影山零治を理解出来ると思う。これほどの人が、抱えた闇。それはそんなに軽いものじゃないけど、でも。理解しようと思える自分が居た。理解したいと思う、自分がいた。
「これから私は自首する。素晴らしいサッカーを見せてくれた、八神龍斗のおかげで、満足できた」
「僕の、サッカーで……」
「あぁ。だからこそ、君にはがんばってほしい。そして、できれば私の手で育てたかったものだ。……あとは、鬼道にも謝らなければならんな」
そう言うと、影山零治は歩いていく。本来の性根は、優しい人だったのかな。なんて、そう思いながらも眺める。
鬼道さんはとても驚いた顔をしながら、影山零治を何度も見る、そして。頷いた。
「私はお前を信じている、鬼道。私が育てた中で、お前が一番の弟子だった。……八神龍斗に負けるなよ」
「勿論ですよ、総帥。彼奴には借りがあるから、利子分つけて返します」
「ふ、そうか」
そんな会話が聞こえてきて、漸く丸く納まったのかな。と僕は思う。それにしても、弱小チームだった雷門中が、成長してフットボールフロンティアを優勝した。これって、結構歴史的な事なんじゃないかなと思いつつも、今は勝利の余韻に浸っていた。
ここまで来ると、なんとも安心感を覚える。出張に行った兄さんも、見てくれたかな。なんて思いながら、表彰台の時を待った。
■【???】■
「雷門中が優勝した、か。まぁ、予想通り、かな〜」
俺は今、全国津々浦々を旅しながら、そんな事を呟いた。エイリア学園の脅威は、迫ってきている。だから、それに対抗できるメンバーを探すために、旅をしていた。
それが、ようやく見つかった。雷門中だ。あのチームなら特訓を重ねて、何れは。
それなら、俺が特訓をつけてあげなきゃ。聞いた情報が確かなら、リュークがエイリア学園に戻った。その弟の龍斗が、雷門中に居る。彼奴に対抗するなら、それに賭けるしかない。
「さて、やってみなきゃね。物怪妖の、大立ち回りを」
■【円堂守】■
「優勝か。……俺達、本当に優勝したんだな」
「あぁ、円堂」
豪炎寺と俺は、喜ぶメンバーを眺めながらも、拳を合わせていた。それにしても、俺達が本当に優勝出来て、良かったと思う。皆で助け合って、掴み取った優勝だから。
「それにしても、八神には本当に助けられたなぁ。俺達に何度も色々手を差し伸べてくれてさ」
「まあ、彼奴も仲間思いだからな。円堂みたいにさ」
「……そうだな。こうして皆でサッカー出来て、嬉しいよ、俺」
「俺もだ」
俺と豪炎寺は、この短い間でとても繋がれたと思う。八神も、すっげー活躍をしながら、手を取ってくれた。鬼道も、一之瀬も。妖夢も。皆が居てくれたから出来たこと。
「なぁ、豪炎寺」
「なんだ? 円堂」
「これからも、サッカーやろうぜ」
「……ああ。それならこいつもだな。聞いてたんだろ、龍斗」
「うぇ、ばれてた!?」
豪炎寺が八神を引っ張ってくるけど、とっても苦笑いをしてる。でも、満更でもなさそうだから、八神と豪炎寺の絆も確かなのかもしれない。
「……まぁでも、僕も円堂先輩が居なければ、サッカーに戻ることすら考えなかったですし、本当に助かってます」
「え、そうだったのか!?」
だから、俺ももっと八神と仲良くできるように、サッカーしなきゃ。だって俺たちは!
「まぁ、おかげで戻れましたよ。円堂先輩と同じサッカーバカに」
「サッカーバカって……八神。お前なぁ!?」
「残念だが違いないな、円堂」
そう、だって俺達は、雷門中サッカー部なんだから! だから、一緒に、サッカーやろうぜ!
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閑話 フットボールフロンティア優勝後
しばらく見ない間に、イナズマイレブン小説界隈の入れ替わりが激しくて、今更戻ってきても平気なのか戦々恐々としております。
そんな私ですが、皆様が再びこの作品を閲覧してくれることを、切に願っております。どこかのタイミングで閲覧してくれた方は、再びごゆるりとなさってくださいな。
■【三人称】■
「では、フットボールフロンティア優勝校。雷門イレブンの皆様に、コメントを頂きましょう!」
雷門イレブンはフットボールフロンティアで優勝したことにより、それぞれ取材を受けることになっていた。女性レポーターは、まずは円堂にマイクを向けると、質問することを一瞬だけ考えてから、口にする。
「それではまずキャプテンの円堂守君。フットボールフロンティアを優勝して、どんな気持ちですか?」
「えっと、まずは嬉しい。かな。それと、皆よく頑張ってくれたなって」
円堂は、若干緊張しているもののの、それでも質問に答える姿勢を見せる。レポーターも、それならば。と、次の質問に移ることにした。
「伝説のイナズマイレブンの再来と言われていますが、無名だった雷門イレブンがここまで来れたのは、どう思いますか?」
「それは、特訓の成果でもあるし……俺以外に、豪炎寺や鬼道。一之瀬や八神も、引っ張ってくれたからだと思います。皆、あいつらのプレーをどうやって超えるか。とか考えてたから」
「なるほど。スタープレイヤーが居たことも、影響しているんですね」
「そうですね。でも、やっぱり最後は皆の頑張りだから、俺は皆を褒めて欲しいかなって」
「分かりました。円堂君、ありがとうございます」
そうして、円堂のインタビューが終わると、次々と皆にインタビューをしている。そして龍斗の番が回ってきて、龍斗はいつもの様に自然体で、インタビューを受けることにした。
「それでは、今大会のもう一人のヒーロー。八神龍斗君に、インタビューさせてもらいましょう!」
「ヒーローかぁ、そんな大層じゃないんだけどなぁ……」
「いやいや、ヒーローですよ。無名の雷門中に突如現れて、そこから伝説と呼ばれたプレーをもう一度披露したんです」
「や、本当に褒めすぎです。恥ずかしいです」
レポーターの女性は、なんとなく可愛いな。なんて感想を抱きつつも、本題に移る事にした。
「八神君は、長い間ブランクがあったはずですが、どのような特訓をして、今の段階まで戻したんですか?」
「まずは、基礎から徹底的にやりました。足先のコントロールを良くするために、リフティングやドリブルしながら走り続けたり。あとは、個人技……有名なものですが、エラシコやマルセイユルーレット。シャペウ。ヒールリフト……やれる限りの事を詰め込みました」
「なるほど、とにかく感覚を戻すことから始めたんですね」
「そうですね、必殺技云々以前に、基礎的なテクニックや、ちょっとした技を実践で使えるようにするのは、大事でしたから」
なるほど、と記者達もメモをする。レポーターはここまでしっかりした返答は、久しぶりだなと思いつつ、次の質問に移ることにした。
「では、さらにもう一つ。八神君は、参考にしているサッカープレーヤーはいるんですか?」
「参考にしている、プレーヤーですか」
今までのメディアは、その辺を聞いてなかったはず。彼女はだからこそ、そんな質問をしたのだが、どんな答えが帰ってくるか楽しみにしていた。というのも、彼女は若手ながら、沢山のサッカー選手を取材してきた。その時に参考にしていたプレーヤーを知ることで、さらに深く選手の事や、その選手の参考にするサッカー選手を理解する事が出来る。だから、答えに期待を膨らませるのだ。
「……影山東吾と、新しい日本代表のファンタジスタ。坂本徹平。それと……ETUの星と言われた、達海猛、ですね」
「なるほど、ありがとうございます!」
■【八神龍斗】■
「……あのフットボールフロンティアから早一日か。まったく、本当によく優勝できたよな、僕達」
体がなまらないように、いつものように僕はボールを転がしながら歩く。車に気をつけながら、ゆっくりと進んでいるのだが、雷門中に今日は用がある。なにせ、昨日のテレビ取材が放送されるから、みんなで見ることになったのだ。
すっかり馴染んだと感じるのは、僕が皆を信頼しているからかもしれない。まぁ、相変わらず豪炎寺さんとかには全く逆らえないし、そこら辺の力関係は変わってないんだけどね。で、今日も雷門中に向かってる途中に、一人の女の子に出会う。
「おはようございます。八神さん」
「おはよ、音無さん」
サッカー部のマネージャーの一人である彼女は、僕にとって大切な存在だ。だって、帝国の時とか、その他でも彼女からは勇気を貰っている。妖夢とも近い存在、なのかもね。
「それにしても八神さんも、朝が早いですよね」
「あはは、まぁね。僕は自主練もしてるしさ」
「あ、そうですよね。ランニングもしてるって言ってたし……」
そんな話をしていると、いつの間にか到着していた。サッカー部の方に向かうと、妖夢の姿が見えた。
「……遅いですよ、龍斗さん」
「……なんか不機嫌だけど、どうしたの?」
そんな彼女は、なんとなく不機嫌オーラを出していて、音無さんはなんとなく嬉しそう。よくわからないけど、とりあえず部室に向かう事にした。触らぬ妖夢に祟り無し。
「とでも考えてませんよね? 龍斗さん」
「……なんで分かるのさ」
「付き合いの長さを考えて下さい」
とりあえず、何時ものように妖夢は僕の腕に抱きつく。まぁ、こういう所が可愛いから、離す気にはならない。そうすると、大抵音無さんが反対の腕に抱きつく。なんだろう、この光景は慣れてきた気がする。そのまま部室に入ると、鬼道さんは苦笑いして、僕の事を迎え入れた。
「……相変わらず、苦労しているな。八神」
「もう慣れましたよ、僕は」
「……いや、そこは慣れていいのか?」
「うーん、多分ですけどね」
むしろ、二人の体の感触とか、意識するよりマシだと思うんだけどなぁ。だって、いちいち気にしてたら後が大変だし。とりあえず鬼道さんは、なんとなく苦労してるな的な目線を向けてきて、きっちり三つ並んだ椅子をあけてくれる。うん、なんだかんだ言って優しい。
「それにしても一人遅れてるみたいですね」
「いつもの事だ、一人遅れるとしたらあいつしか居ないだろう」
「……あいつ?」
鬼道さんの返事には、なんとなく覚えがある。そういえば、いつも大事な時に限って、あの人は遅れてくるんだよなぁ。いや、御影専農の時の、僕が言えたことじゃないんだけどね?
「待たせたな」
「遅いぞ、豪炎寺!」
部室内で、既に待機していた面々のうち一人。円堂先輩が、豪炎寺さんを手招きする。相変わらず、遅れる癖はまだあるんだなぁ。
そんなことを考えてたら、睨まれた気がする。うん、僕が悪いからさ、許して。ね? ね? とか考えてたら、テレビ放送が始まった。
「お、今までの試合のハイライトだ!」
「うわ、野生中相手の一回戦、円堂先輩あんなゴールを守ってたのか……」
僕は野生中の時だけ居ないから、それを知らなかったけども。帝国と張り合ったあそこを封じるのは、大変だっただろうなぁ。
「それにしても、やっぱりハイライト見てたら分かるけど、円堂と八神。豪炎寺の三人が、一番多いよな」
「あれだな。スーパープレーも多いし、八神と豪炎寺は顔もいいし、円堂はキャプテンだし人気だし」
そんなことないんですけど。なんて僕がツッコミしようにも、他の人まで否定することになるから、なんとも言えなくなった。と、そのあとは女子組のシーンになった。なになに、美人マネージャーと、美人選手?
「ああ、音無さんたちと妖夢か」
「みたいですねっ」
「いつ、撮影したんでしょうか……」
音無さんは嬉しそうにしていて、妖夢は色々気にしていて。まあ僕は撮影した人を知ってて、なんとも言えないんだけどさ……確か夏未さんの執事だもんね、あの人。とりあえず、放送を見ていて優勝したことを僕に実感させた。兄さん。どこかで見てるかなあ?
■【音無春奈】■
「ねえ、八神さん。少しいいですか?」
「ん、なんだい?」
テレビ放送も終わって、なんとなく皆が色々な話をしてる中、私は八神さんを連れ出した。今なら、誰にも見られることなく、話をできるかもしれないから。
「ねえ、八神さん。私達って同学年ですよね?」
「まあ、そうだね」
「それに、今はもう結構長い時間を、一緒に過ごしましたよね?」
「……そうだけど、どうしたの?」
少しでも、距離を縮めたい。あわよくば、なんて考えもある。少し恥ずかしいけど、それでも私は進まなきゃ。だって、そうでもしなきゃ勝てないもの。だって恋は戦争なんだから。
「私のことを、名前で呼んで欲しいなって……それと、私も敬語を外していい、かな?」
「ああ、なんだ。そんな事か。ふふ、僕は大丈夫だよ」
「それじゃあ。普通に話して普通に……ありがとう、龍斗君」
改めてみると、なんだか照れくさい。けど、それがなんとなく心地良い。八神さん……ううん、龍斗君も、多分そんな気持ちなんだろう。いつもと違い少し恥ずかしそうに、頬をかいた。
「ん。こちらこそ。春奈」
「ふふ、龍斗君……」
「……春奈?」
このまま、このまま龍斗君と距離を縮めて、ゆっくり、ゆっくり。距離をゼロにするために、手と手が触れる。あと少し、あと少しで__
”どんがらがっしゃーん!”
「うわ!?」
「きゃっ!?」
いけたのになぁ。いつの間にか、見ている人がいたみたい。そして、重なって倒れているところを見る限り、何人も、なんだろうなぁ。キャプテンが居ないのは意外だけど、その代わり豪炎寺さんは居るみたい。妖夢さんは、その後ろからでてきた。
「まったく、油断しました。危ない危ない」
「……もしかして、重なってる皆を倒したのって」
「はい、私です」
妖夢さんは悪びれることも無く、クスリと笑っている。悪戯は成功したから、それでいいと思っているのか、それとも。龍斗君は渡さない。という意思表示なのか。どちらにしろ、一本取られたかな? 本当に手強いライバルだなぁ。
「とりあえず龍斗さん。少しお話しませんか?」
「……あのー、妖夢?」
「大丈夫です。普通のお話ですから、ええ、大丈夫です」
「アッハイ」
まあ、今回はダメだったけど、いずれ龍斗君と。なんて考えたら、また頑張ろうって思える。とりあえず、龍斗君を妖夢さんから助けないと、ね!
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