勘違いで生き残れ! (朝が嫌い)
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出会いと白色

川のせせらぎで目を覚ます。遠くで滝の音がする。

 

「ここは何処だ。いっ・・・」

 

立ち上がろうとすると体が痛んだ。慌てて体を見る。すると、服は所々破れていて、血がにじんでいるのが見える。記憶が・・・思い出せない。一先ず、水の音がするほうに行くことにした。歩くたびに体が痛む。水をすくってバシャバシャと顔を洗う、そして、水に映った顔を見る。黒髪に青い目をした少年が映っている。そして泣いていた。俺は、誰だろう。何か忘れてはいけないことがあったような気がする。そんなことを思っていると、突然水しぶきが上がる。

 

「何者だ人間!」

 

そこにはでかい蛇がいた。反射的に、こいつを何とかしろと本能が叫んだ。

気が付いた時には、すでに蛇が倒れていた。そこで意識がなくなった。

 

 

★★★★

 

 

「目が覚めたか?」

 

体を起こすと、白い髪をした幼女がいた。

 

「あなたは誰?」

 

「私か?私の名は白夜叉。倒れていたおんしをここまで運んでやったのじゃ。おんしの名は?」

 

「分からない・・・記憶があいまいで・・」

 

「そうか・・・それは不便じゃな。どれ、名をつけてやろう。白なんてどうじゃ?」

 

自分は白い要素なんてないのに白とは・・・

 

「皮肉?」

 

「うむ。いいセンスじゃろー」

 

黒い髪で黒い服だからか・・・

 

「ないな。」

 

どんなセンスだよ。でも・・・

 

「でも、ありがとう」

 

この人が、俺の緊張を解いているのは分かる。

 

★★★★

 

白夜叉side

凄まじい殺気を感じたので来てみたら・・・13歳位の少年と昔神格を与えた蛇が倒れていた。

「どんな状況じゃこれ」

少年のほうは、酷い怪我じゃな。連れて帰るかの。暇だし・・・

 

 

取り合いず、しばらく面倒を見ることにした。拾ってしまった手前、放り出すのは何だったのだ。記憶が戻るまでは見てやることにした。

 

 

「おぬしには今から、ギフト鑑定をしてやる。記憶が戻るかもだしの」

 

手を叩くすると、白の前に黒いカードが出てくる。

 

「ギフトカードじゃ。中を見てみー」

 

「おお、実は白夜叉ってすごい人?」

 

「その通りだ。何せ私は“サウザンドアイズ”の幹部の一人にして白き夜の魔王。太陽と白夜の星霊。神々としての神威と、魔王としての王威が生まれながらにして発生した星霊最強個体にして箱庭席次第10番。白夜の星霊であり、夜叉の神霊であるからな」

 

「紹介が長い・・・」

 

「ええい、うるさい中身を見てみろ」

 

ギフトネーム

 

気の支配権(外気)

回避の魔眼

 

 

ほう・・・魔眼か。

 

「何か思い出したか?」

 

「なんとなくギフトの使い方を思い出した。」

 

「どんなものだ?」

 

「・・・教える代わりに俺を鍛えてくれないかな」

 

「ほう。」

 

「俺は自分の記憶を取り戻したい。どんなことをしても、やらなければいけないことがあったはずなんだ。でも、子供にできることなんて限られる。この箱庭じゃあ子供は生きずらい。」

 

「なるほどの~」

 

断ろうかと思っていたのだが、やめた。暇なのもある。だが、興味がわいた。子供のここまでの目をさせるものが何なのか。

 

「良いだろう。鍛えてやろうではないか。だが、まず傷を癒してからだな。そうだ・・・これから私のことは師匠と呼べ。良いな?」

 

「え~なんかやだなー」

 

そんな声を聴きながら、これからのことを考えていた。

 

 

★★★★

 

 

数年後・・・

 

「白夜叉はいるか?」

 

「ああん、なんだてめえ・・・ひぃぃぃぃ・・・白帝!!!」

 

「誰だこいつ?」

 

「バカ!この人は白帝だ」

 

「へーこいつが噂の?」

 

俺のことを知らないということは、新入りなのだろう。

 

「聞こえなかったのか、白夜叉は何処だ?」

 

「オーナーなら今7桁が外門に・・・」

 

「そうか。」

 

そう言って、背を向ける。すると、ウォォォォォォっと叫びながら殴りかかってくる。

ダメダなやっぱり。多分新参者なのだろう。最小限でかわし、至近距離で、少し強めに殺気を当ててやる。すると、泡を吹いて倒れた。周りで見ていたやつは、悲鳴を上げて逃げていく。うーん、この数年間で、かなりギフトを使えるようになった。

俺の気の支配権は殺気、気配、存在感などをコントロールできる。まあ、簡単に言えば威圧のギフトだ。そして、この殺気は神仏にも絶大な効果を発揮することができるのだ。これだけ聞くと、チートだがそううまく入ってくれないのだ。このギフト、攻撃力がないのだ。だが、この箱庭では、強者になればなるほど、気配や殺気に敏感になっていく。ここまで言えば、分かるだろう。勘違いを相手にさせればいいのだ。なのでここ数年は、このギフトで、虚勢を張り、縄張りを作っていたのだ。本気の殺気をぶつけなくても、5桁までの奴なら、失神もしくは動きを封じられる。おかげで、比較的うまく手足を手に入れた。今では、泣く子も黙る白帝である。まーさっきのようなバカもいるが・・・大抵は対処できる。

 

 

さて、帰ってきました、我がサウザンドアイズに

 



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威圧と邂逅

「そこの定員、白夜叉を呼んでくれないか?」

 

「・・・ッッッ白帝・・・今オーナーは取り込み中でして・・・」

 

「そうか、なら・・・」

 

殺気を開放する。さっきの数倍の殺気をぶつける。周りの、人が倒れていく。

すると、「何事じゃ」

白夜叉が飛び出してきた。

 

「久しいな、白夜叉。」

 

「お前白か・・・」

 

驚いた顔をしている。後ろに、金髪の少年と黒髪のいかにもお嬢様な少女、猫を抱えた茶髪の少女がいた。

 

「ほう、見ない顔だな」

 

★★★★

 

十六夜side

白夜叉の試練が終わって帰るころにいきなり、とんでもない重圧が襲ってきた。・・・これは殺気なのか。余りの重圧に、お嬢様たちは、膝をついている。

 

「何だこれは?」

 

声が荒げた。まるで、殺されそうな錯覚を覚えるほどの重圧だ。

 

「これは、まさか・・・」

 

黒兎がうめいている。

 

白夜叉が血相を変えて、出ていく。その後ろを追う。途中で、重圧が消えた。

 

「心臓がバクバク言っているぜ・・・どこのどいつだこんなことできるのは」

 

今まで感じてきた中で断トツで濃くて高密度の殺気だった。

 

「恐らく、白帝様なのですよ」

 

「知ってんのか?黒ウサギ」

 

「箱庭ではほとんどのものが知っている人です。」

 

「何事じゃ!」

 

白夜叉の声が聞こえる。

 

「ようやく追いついたぜ。どういう状況だ?」

 

「白か・・・」

 

「白夜叉知り合いか?」

 

「・・・まあの。家出息子のようなものだ。」

 

家出息子?

 

「一番手っ取り早そうな方法を取らしてもらったぞ」

 

「・・・まあ良い。上がれ」

 

★★★★

 

「随分暴れているようじゃの?」

 

「そうだな、ところでそこに居る奴らは何だ?」

 

白は少し目を伏せ、答える。

 

「黒ウサギの新しい同志だ。」

 

「坂廻十六夜だよろしく、白帝さん?」

 

「久遠飛鳥よ」

 

「春日部耀 よろしく」

 

「ところで、俺らはあんたの自己紹介をしてほしいんだがな」

 

「ほう・・・不遜なガキだな。」

 

「あなた、私たちとあんまり、変わらないでしょ」

 

「くくくくく・・・・はははははは・・・・。目の前に白夜叉のような奴がいて、見た目で年齢を図るとは笑止!」

 

白は突然笑い出した。

 

「な・・・それは・・・」

 

「自己紹介だったか、俺のことは、白夜と呼ぶがいい。」

 

「白夜?白じゃないのか?」

 

十六夜がいぶかしげな顔をする。白夜叉は目を細める。

 

「ああ、その名で呼ぶな。」

 

「へー、訳ありってわけだ。まあ、いいけどな」

 

「顔合わせも、終わったところでおぬしたちは帰れ」

 

白夜叉が黒ウサギに言いつけた。

 

「は・はい、分かりました」

 

白夜叉の顔が怖かったのか、黒ウサギは、十六夜たちを引き連れて帰って行った。

 

 

 

 

 

「やっと二人になれたな白夜叉。」

 

やっと、気が抜ける。俺は、外では仮面をしている。絶対強者の仮面をな。常に一定以上の強者の空気を纏っている。だから、少しも気が抜けないのだ。この仮面がばれたら、色々な意味でまずいのだ。俺の、素を知っているのは、側近の2人と白夜叉位だ。

 

「そじゃの。それにしても白、おぬしなんじゃあのキャラ笑うのこらえるのが大変だったわ。「う、うるさいな」」

 

「ところでおぬしの噂は聞いておるぞ。だいぶ、力をつけたらしいの。」

 

急に話を変えやがったこの人・・・・。

 

「まあな。しばらく羽休めにここに来たんだ。後でもう一人部下が来るけどな・・・」

 

「ほう・・・うわさに聞く右腕だな」

 

「まあな。一応、俺の素の顔を知ってる。」

 

「そうか、ところでここにいるのか?」

 

ここは白夜叉の寝室。分かっているとも。ここに泊まる問題位・・・。

 

「ああ、ここにいるよ」

 

「そうか」

 

「問題ないよ。俺はロリコンじゃないから。」

 

「戯け!!!」

 

白夜叉の右ストレートが華麗に決まる。

 

「グハァ・・・」

 

「・・・というわけで泊めてくれない?」

 

「おぬし・・・昔より図々しくなったの」

 

 

 

「なあ、黒ウサギ白帝ってどんな奴なんだ?」

 

ホームの談話室の椅子で十六夜が問う。

 

「そうですね。彼には、色々な噂があります。一人でコミュニティーを潰したとか、魔王5人を倒したとか魔王にも恐れられているとか・・・」

 

「そいつはすげーな。それでどこまで噂でどこからが事実なんだ」

 

「・・・すべて本当なことです。」

 

「なッ・・・・・ハハハハハそいつはいいな。本当にそんな化け物みたいなやつがいるとはな。」

 

この時の十六夜の心情は、その偉大なる偉業への畏怖と、自分の本気をぶつけられるかもしれない歓喜だった。

 

「今日、放った殺気も本気ではなかったのでしょう。それに、恐ろしいのは、彼だけじゃないんです。彼の側近である部下や彼のコミミュニティーにも油断ならない猛者がいます。下層のコミュニティーは、一瞬で倒されてしまいます。それは、うちも同じなんです。なので十六夜さん、不用意にケンカを売るのは・・・」

 

「ああ、分かってるさ。・・・でも戦ってみたいな」

 

「ちょ・・・全然わかってないじゃないですか!このおバカ様!!!」

 

黒ウサギは、どこから出したか分からないハリセンで叩く。

ヤハハハハと笑い声がノーネームの本拠地に響いた。

 

 

 

 

 



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噂と目的

Fateのキャラが出ますよ~。


 

 

★★★★

 

「起きてください・・・・起きてください」

 

うるさい声が聞こえる・・・。

 

「後、5分×100。」

 

「どうやら、死にたいらしいですね・・・」

 

その瞬間、脳が危険を察知する。本能が、警鐘を鳴らす。はッ」

思いっきり右に避ける。今まで自分がいたであろう布団は彼女の鎌でズタズタになっていた。自分があれを食らったらと思うと、ぞっとする。見慣れた紫色の髪が見える。そして、俺は文句を言わなければならないはず!

 

「何すんだ。殺す気か!!!!」

 

「チィ・・・殺し損ねました」

 

「何でお前は朝からバイオレンスなの?」

 

「いえいえ、これは主とのスキンシップですよ」

 

「何処の世界にこんなバイオレンスなスキンシップがあるんだ?」

 

「ここにあるじゃないですか、何を寝ぼけているんですか?バカなんですか?」

 

「お前、俺と2人の時何でそんなに毒舌なの?」

 

「日頃、見掛け倒しのハッタリ主の面倒を見ているツケですかね」

 

「・・・お前な」

 

こいつは、優秀なのに恐らく一番俺に対して毒舌なのだ。外では俺と同じく仮面をしていて、内心を表に出さないタイプなので最初は驚いた。

 

「何じゃ。朝からうるさいぞ!!!」

 

「ああ悪いな。白夜叉・・・ってそもそも何でお前がここにいるんだ?」

 

「ああそれは、私が入れたからじゃ。」

 

「あんたのせいじゃないか!」

 

「うるさいですよ主」

 

「しかしお前も水臭いの~」

 

「何がだ?」

 

「こんなに可愛い部下なら先に言えというんじゃ。のう」

 

そう言ってアナに抱き着く。ああ・・・死んだな

 

「触らないでください」

 

そういうと、アナは白夜叉をぶん投げた。

 

「のわー」

 

そんな雄たけびを上げて、外に吹き飛んでいった。あいつ誰だろうと関係なしだな・・・

 

 

「それで、頭にたんこぶを作って戻ってきた白夜叉。こいつの名はアナ。ある儀式で俺が呼び出した使い魔だ。」

 

「アナです。先ほどは、どうもすいませんでした。つい反射で」

 

「反射で人を投げ飛ばすって何事じゃ!」

 

「まあ、こいつは警戒心が強いからな。勘弁してくれよ」

 

「まあ、よい。おぬしたち、羽休めでここに来たといったな。どこまでが本当なんじゃ?」

 

「・・・羽休めに来たのは本当だ。でも、確かに目的があってきた。」

 

「何じゃ?」

 

「この階層にも、白帝の恐怖を刻みに来たんだ。上の階層には、白帝のことを噂ではなく知っている奴がいる。でも、ここには噂でしか知らないやつが多い」

 

俺は、実際の戦闘力はないに等しい。余計な戦いは、ボロを出す可能性がある。だからこそ、無駄な戦いをしないために、俺の脅威を知らしめる必要がある。

 

「なるほどの」

 

それに、あの十六夜というのは危険だ。俺の殺気に怯んではいたが、その瞳には自信と反抗心があった。一度どこかで折らないとな・・・

 



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再会と怒り

少しして、ノーネームがフォレスガロに勝ったという話を聞いた。そして、ノーネームが妥当魔王を掲げているという話を聞いたのだ。打倒魔王それは言うまでもなく簡単なことではない。行ってみるか。

 

 

 

ノーネームにつくと、何やら、誰かが争っている音が聞こえた。近づいていくと懐かしい顔がいた。自分の威圧のスイッチを入れて近づく。

 

「ほう、懐かしい顔だな」

 

そこには、金髪の吸血鬼、レティシアがいた。やはり、情報通りか・・・・

「白なのか・・・どうしてお前がここに」

 

「吸血鬼の王族であり、わずか12歳で“龍の騎士(ドラクル)”にまで昇り詰めた最強の吸血姫が見る影もないとは、情けないなレティシア」

 

「・・・返す言葉もないな。白」

 

後ろから敵意を感じる。振り返ると、ゴーゴンの威光が放たれていった。

 

★★★★★

 

「あの光はゴーゴンの威光!?見つかったか!!」

 

 レティシアは3人を庇うように動こうとしたが、

 十六夜が先に前にでて、その光を踏み抜いた。

 

 ガシャン!!という音と共に、天地を覆う褐色の光はガラス細工のように砕けた。

 

「「なっ!!!」」

 

 あまりの光景に黒ウサギとレティシアは声をあげる。

 

「今俺は、興奮とイライラで感情がごちゃ混ぜなんだよ。そんな時にフザケた物持ち込んできやがって。何処のどいつだごらぁぁぁ!!」

 

 十六夜が吠えた。

 光が迫ってきた方向に、羽の生えた具足を着け、甲冑をと兜を着けた騎士のような者達が遠方から近づいてきた。そして、ゴーゴンの首を掲げた旗印。"ペルセウス"の者達とわかった。

 

「いたぞ!奴だ!」

 

「石化してないぞ!?」

 

「例の"ノーネーム"もいるな」

 

「構わん。邪魔する奴は切り捨てろ」

 

「オイオイ何なんだ一体?」

 

「とりあえず、屋敷に戻りましょう。」

 

 サウザントアイズの幹部である"ペルセウス"相手に揉め事を起こしてはいけないと思い、黒ウサギがそう言って十六夜を屋敷に戻そうとするが。

 

「貴様、この俺の話を横から邪魔するとはな・・・」

 

「誰だ貴様・・・我らが当主が決めたことだ。部外者は黙れ。」

 

 そう言って空で舞う彼等は各々の武器を構える。

 

 本来ならば本拠への不当な侵入はコミュニティの侮辱であり、世間体もよろしくない。

 それに、大手商業コミュニティ"サウザンドアイズ"は信頼を大事にする。その傘下である"ペルセウス"がこんな暴挙に出るのは、完全に"ノーネーム"を見下しているということだからだ。

 

「このっ!これだけ無礼な行いを働いておきながら、非礼を詫びる一言も無いのですか!?」

 

「ふん。こんな下層に本拠を構えてるコミュニティに礼を尽くしては我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ"名無し"」

 

 その言葉を聞き、黒ウサギの堪忍袋も切れた。いきなりの襲撃と暴挙。それに加えて数々の侮辱発言には流石の温厚な黒ウサギもキレる。

 

「あり得ない……あり得ないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた"月の兎"をコレほど怒らせるとはッ……!!」

 

★★★★

 

今、黒ウサギにインドラを使われるのはマズいな。

 

「・・・色々言いたいことはあるが、今はこの俺の話を妨げる馬鹿どもに」

 

サウザンドアイズに放った殺気とは、違う相手を沈める殺気を放つ。

 

「・・・死という恐怖をくれてやろう」

 

瞬間、空中にいたペルセウスの構成員が落ちてくる。落下していく者は悉く気絶していた。後ろから息をのむ音がする。ただ、レティシアだけは、悲しそうな顔をしていた。その顔が、何に対してなのか判断が今の俺には付かない・・・。

 

「こいつらは、誰だ?」

 

十六夜が聞いて来る。そして、レティシアが答えた。

 

「私を追ってきた、ペルセウスの者たちだろう」

 

そして、俺の背後で黙っていたアナが前に出ていく。ちなみに、アナは深い黒いフードをかぶっている。

 

「これは、れっきとした不法侵入ですね」

 

おお俺の意図を組むとは、流石アナだ。

 

「そうだな・・・黒ウサギ抗議に行くなら付き合ってやるぞ?俺も用事がある故な」

 

「本当でございますか?もちろん行きます」

 

「決まりだな」

 

「待ってくれよ、そこに居るちっこいのは誰だ」

 

「こいつは、俺の部下だ。」

 

「へー白帝様の配下かよ。」

 

十六夜の目が怪しく光る。気に入らないな。

 

「お前らも来るのか?」

 

「ああもちろんだぜ」

 

 

★★★★

 

 

 

六人が"サウザンドアイズ"に着くと、店先で迎えたのは例の無愛想な店員だった。

 

「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです。」

 

 そう言って黒ウサギ達を、中庭を通り抜けた先にある別館に案内した。

 中に入ると、迎えた酷く軽薄そうな男が黒ウサギを見て歓声を上げた。

 

「わぉ!これが噂の"月の兎"か!ミニスカにガーターベルトとか超エロいじゃん!!

 僕は"ペルセウス"のルイオスって言うんだけどさ。君、僕のコミュニティに来ないか?君が良ければ三食首輪付きで飼ってやるぜ?」

 

 開口一番その男ーーーールイオスは、好色そうな視線で黒ウサギを舐め回した。不躾な視線から守る様に、飛鳥が黒ウサギの前に立ちふさがる。

 

「これはまた随分と分かりやすい外道ね。断っておくけど、黒ウサギの美脚と巨乳は私達のものよ」

 

「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」

 

 突然の所有宣言にツッコミを入れる黒ウサギ。そんな二人を見ながら十六夜は呆れて溜息をつく。

「そうだぜお嬢様。黒ウサギの美脚と胸は既に俺のものだ」

 

「なら、私がいい値で買おう!!」

 

「売・り・ま・せ・ん! なんで皆様でふざけ合っているんですか!」

 

 そんな彼等のやり取りを見たルイオスは、ポカンとした顔の後に唐突に爆笑しだした。

 

「あっははははは! え、何? “ノーネーム”って芸人コミュニティなの? そうなら纏めて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎晩好きなだけ開かせてもらうし、その胸も好きなだけ堪能させてもらうけどさ。」

 

「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありません!」

 

 嫌悪感を吐き捨てる様に高々と宣言する黒ウサギ。

 

「お前がボケるなよ黒ウサギ。と言うかそんなエロい衣装着て誘ってないとかないだろ」

 

「これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この恰好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて………」

 

 そう黒ウサギがゴニョゴニョと反論すると、十六夜は白夜叉に目を向けて

 

「超グッジョブ」

 

「うむ」

 

 サムズアップし、それにサムズアップで応える白夜叉。

一連のやり取りを頭を抱えたい気分になりながら、外から白は見ていた。

 

 

 念のためレティシアを別室に待機させていた四人は座敷に招かれて、〝サウザンドアイズ〟の幹部二人と向かい合う形で座る。長机の反対側に座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギを見続けていた。

 黒ウサギは悪寒を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。

 

「―――〝ペルセウス〟が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。御理解頂けたでしょうか?」

 

「う、うむ。〝ペルセウス〟の所有物・ヴァンパイアが身勝手に〝ノーネーム〟の敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際に於ける数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」

 

「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。〝ペルセウス〟に受けた屈辱は両コミュニティの決闘を以て決着を付けるべきかと」

 

 レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは勿論捏造だし、彼女にも了承は得ている。本当はレティシアを悪く言うのは黒ウサギとして心苦しかったが、彼女を取り戻す為には形振り構っていられ無かったのだ。

 

「〝サウザンドアイズ〟にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むようであれば〝主催者権限ホストマスター〟の名の下に」

 

「嫌だ」

 

 唐突にルイオスはそう言った。

 

「………はい?」

 

「嫌だ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠が有るの?」

 

「それなら彼女の石化を解いてもらえれば」

 

「駄目だね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ?元御仲間さん?」

 

 嫌味ったらしく笑うルイオス。筋は通っているがしかし、現在レティシアがノーネーム側に居ることを彼は知らない。

 

「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?実は盗んだんじゃないの?」

 

「な、何を言い出すのですかッ!そんな証拠が一体何処に」

 

「事実、あの吸血鬼はあんたのところに居たじゃないか」

 

「……そうですかあくまで白を切るつもりですね」

 

「白を切るも何も僕は本当のことを言ったまでだよ?」

 

「ならば、こやつに証言させればよかろう?」

 

そこには、気絶したルイオスの部下を引きずっている白が立っていた。

 



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作戦と話し合い

話が進まない・・・ペルセウスとの決闘は原作道理なので省きます。


「なッッ、何でこんな下層に白帝がいるんだよ!」

 

「何、ただの野暮用だとも」

 

「……………確かにそいつは僕のメンバーだし、どういう訳か石化されなかった商品もいるようだ……。だがな」

 

 そう言って一拍入れてからルイオスは勝ち誇ったように喋り出す。白な登場に焦ったようだが、腐ってもペルセウスのリーダー調子を取り戻したようだ。

 

「そんなに決闘がしたければ、その吸血鬼から話を聞くんじゃなくて"サウザンドアイズ"にちゃんと調査させればいいよ。………尤も、ちゃんと調査されて一番困るのは全く別の人だろうけど?」

 

「そ、それは………!」

 

 黒ウサギは視線を白夜叉に移す。逃げてきたレティシアを匿っていた事実は、幹部である白夜叉にとってかなりの責任問題だった。

 

「さて、んじゃ僕は帰るよ。これでも僕はやることが一杯なんでね。さっさと商品を箱庭の外に送る準備もしないとだし。」

 

「貴方正気ですか!?"箱庭の騎士"は箱庭の外だと……」

 

「そうだね。でも仕方無いじゃん。取引相手は箱庭の外にいる奴だし?それに愛想無い女って嫌いなんだよね、僕。特にソイツは体も殆んどガキだしねえ―――だけどほら、それも見た目は可愛いから。その手の愛好家には堪らないだろ?気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せ啼かす、ってのが好きな奴も居るし?太陽の光っていう天然の牢獄の下、永遠に玩具にされる美女ってのもエロくない?」

 

 ルイオスは全く悪びれた様子も無く、更に挑発半分で商談相手の人物像を口にする。

 案の定、黒ウサギはウサ耳を逆立てて叫んだ。

 

「あ、貴方という人は………!」

 

「しっかし可哀想な奴だよねーソイツも。箱庭から売り払われるだけじゃなく、恥知らずな仲間の所為でギフトまでも魔王に譲り渡す事になっちゃったんだもの」

 

「え?それは………本当ですか、レティシア様?」

 

 黒ウサギは恐る恐るレティシアに訊くと、彼女は無言で目を逸らした。それを黒ウサギは是と取り動揺した。

 そしてルイオスは黒ウサギのその動揺を見逃さなかった。

 

「報われ無い奴だよ。〝恩恵ギフト〟はこの世界で生きて行くのに必要不可欠な生命線。魂の一部だ。それを馬鹿で無能な仲間の無茶を止める為に捨てて、漸く手に入れた自由も仮初めのもの。他人の所有物っていう極め付けの屈辱に堪えてまで駆け付けたってのに、その仲間はあっさり自分を見捨てやがる!その女は一体どんな気分になるだろうね?」

 

「………え、な」

 

 黒ウサギは絶句しレティシアを見る。やはり彼女は目を逸らして悔しそうな表情のまま何も言わない。

 蒼白になった黒ウサギにスッと右手を差し出し、ルイオスはにこやかに笑って、

 

「ねえ、黒ウサギさん。このまま其処の彼女を見捨てて帰ったら、コミュニティの同士として義が立たないんじゃないか?」

 

「………?どういうことです?」

 

「取引をしよう。その吸血鬼を〝ノーネーム〟に戻してやる。代わりに、僕は君が欲しい。君は生涯、僕に隷属するんだ」

 

「なっ、」

 

「一種の一目惚れって奴?それに〝箱庭の貴族〟という箔も惜しいし」

 

 再度絶句する黒ウサギ。飛鳥とレティシアもこれには堪らず怒鳴り声を上げた。

 

「外道とは思っていたけど、此処までとは思わなかったわ!もう行きましょう黒ウサギ!こんな奴の話を聞く義理は無いわ!」

 

「ああ。黒ウサギが私なんかの為に犠牲になるのは間違っている!私のことはいいから早急に帰ってくれ!」

 

「ま、待って下さい飛鳥さん!レティシア様!」

 

 黒ウサギの手を握って出ようとする飛鳥と、それを催促するように言うレティシア。だが黒ウサギは困惑していて動かない。

 それに気付いたルイオスは厭らしい笑みで捲し立てた。

 

「ほらほら、君は〝月の兎〟だろ?仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」

 

「………っ」

 

「ねえ、どうしたの?ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ?安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!?ホラどうなんだよ黒ウサギーーーー」

 

「この・・・『黙りな』黙れ」

 

瞬間世界が凍った。白の殺気に白夜叉を除くすべての動きが止まる。

 

「見るに堪えんな。」

 

「何だと?そもそも、何で口出しする。あんたには、関係ないだろ」

 

「何、今俺はなここに泊まっていてな、余りにうるさい声で下らんことを喚くからな。」

 

「何様なんだよ、お前は!!!」

 

そう言って、白に鎌を振りかざした。ハァーっと溜息を吐くと

「さっきの忠告に気づかないとはな。」

白に鎌が当たる直前、ルイオスの動きが止まった。

 

「ガアアァ・・・」

 

「この程度の殺気で、動けなくなるとはな。もはや、その首とるにも能わぬな」

そう言って、殺気を解く。

「否定したければ、そうだなそこのノーネームに勝ったら訂正してやる」

 

「なッ」

 

「出来るだろう、俺に楯突くくらいなのだからな」

 

「良いだろう、やってやるさ。ただし、こいつらが挑戦権を手に入れたらだがな」

 

「決まりだな」

 



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決着と決闘

急いで書いたんで変かもしれないです・・・



「さっきのあれはどういうつもりじゃ?」

 

白夜叉が問うてくる。別に、目的がなくかばったわけではない。いくつかの目的があったのだ。一つは、ルイオスの実力だ。だが、それはたかが知れた。確かに俺は戦闘面では弱い部類に入るが、伊達に、白夜叉のところで、訓練していたわけではない。あれならば、威圧を使わなくても本人であれば何とかできる。二つ目は、十六夜の実力確認だ。ルイオスとぶつけるということは、アルゴールと戦うということだ、当て馬にしては上出来だ。

だが、こんな目的を言うつもりはない。

 

「そこの、吸血鬼に借りを返しただけのことだ」

 

「へー借り、ね」

 

「ところで、さっきのはどうやったんだ?」

 

「あれは、恐らく殺気を圧縮してルイオスに当てたのだろう」

 

レティシアが答えた。流石だな、恐ろしい観察眼だ。

 

「・・・この俺に手を使わせるどころか、回避をさせたやつも最近はいないな」

 

これは、事実だ殺気を当てるだけで大抵の奴は倒せる。だが・・・3桁や4桁の中でも強い奴にはほとんだ意味をなさないだろう。もし、十六夜にそれだけの資質があるなら今のうちに手を打っておく。

 

「なぁ、この戦いが終わったら俺と戦ってくれないか白帝様ァ」

 

来たな、予想通りだ。

 

「な、ちょ、待ってくださ」

 

「良いだろう、そこまで言うのなら戦ってやろう。勝てたら・・・な」

 

「ハハハハハハハ・・・いいぜ、燃えてきたぜそう来なくっちゃな」

 

今の段階で、俺の殺気が通じないなんてことはないだろう。回避に関しても秘策がある

さて、一先ずペルセウスとノーネームのギフトゲームどうなるかな。

 

 

 

 

★★★★

 

いでよ!魔王アルゴール!!!」

 

高らかな声とともに光を纏って顕現する魔王。肌は不健康を通り越して腐敗したような色をしており、髪はボサボサ。拘束具を身にまとった穢れた大きい女性。

 

「Aaaaaaaaaーーーー!!!」

 

絶叫が響く。開放されたことによる喜びで声を震わせる。それと同時に振り下ろされる拘束具のベルト。十六夜は余裕を持ちながら後ろへ飛ぶことで回避する。ベルトは地面を砕き、宮殿を揺らす。

 

「なかなか歯応えありそうじゃねぇか」

 

追撃してくるベルトを蹴り飛ばし、アルゴールへ一気に駆ける。アルゴールはベルトを戻し、次は腕で叩き潰そうとするが十六夜が弾き返す。

 

「A・・・Aaaaaaaaa!!!」

 

思うように攻撃が当たらないことにイラついたのか、更なる絶叫を上げる。そして口内に溜まる邪悪な光。十六夜は拳を握り締めて構える。

アルゴールの口前から発射される石化の光の束。光の束は十六夜を狙っていなかった。狙っていたのは十六夜ではなく宮殿全体。幸運なことに十六夜達がいる奥の間は光が届かなかったが、光は宮殿全体を照らしてしまった。

 

宮殿が石化する。中にいた人間も含めて。水樹を操っていた飛鳥と〝ペルセウス〟の兵士が固まる。ゲームの終了を待っていた耀と倒れている兵士が固まる。

 

この瞬間、宮殿の殆どが時間の停まった石の空間が作り上げられた。

 

 

 

★★★★

 

今現在、白夜叉の部屋にいる。そこで、ギフトゲームを観戦しているのだ。あれがアルゴールの魔王か。・・・・・・隣のアナを見る。アナの表情は、見えないがなんとなく思うところがあるのだろう。

 

「あれとアナは違う。間違っても、自分と重ねるな。お前は、化物じゃない。」

 

「分かっています。・・・・・ありがとうございます(ボソ)」

 

「ん?よく聞こえなかった?もう一度言ってくんない」

 

「何でもないです」

 

★★★★

 

ペルセウスとのギフトゲームは、ノーネームの勝利で終わりを告げた・・・・それにしても、マジか・・・あいつ、ギフトを砕きやがった。これはダメだな、危険だ今潰しておく必要があるな。

 

 

★★★

 

 

約束通り、戦うことになってしまったわけなのだが、白帝として負けるわけにはいかない。しかし、あたかも、余裕であるかのようにしなければならないのだ。あの怪物相手に無理ゲ~だ。そんなことを、思っていると、アナが蹴り飛ばしてきた。

 

「何をそんなに、悩んでいるのですか?彼には、主の殺気が効くのですから堂々としてください」

 

「そうだな、よし」

 

★★★★

 

「来たぜ、白帝様ァ」

 

今いる場所は白夜叉の部屋だ。ここから、ゲーム盤に場所を移す。

審判として、黒ウサギも呼んでもらったのだ。

契約書類(ギアスロール)を十六夜に渡す。

『ギフトゲーム:白帝への挑戦

 ・プレイヤー一覧

  ・ノーネーム、坂廻十六夜

 

   Fest der Komlizen、白帝、白

 

 ・ホストマスター側 勝利条件

  プレイヤーの屈伏。

 

 ・プレイヤー側 勝利条件

  一、相手に一撃当てる。

二、相手を戦闘不能に追い込む。

 

 宣誓 上記を尊重し、ギフトゲームを開催します。』

 

「このルールでよいか?」

「いいぜ、こんなに舐めたことを後悔させてやるよ。」

 

俺のギフトは、2つある。その内の一つ、それは、回避の魔眼だ。これは、1分攻撃をどんな種類でも避けられるというものだ。一見、ただの、チートだ。だが、そもそも1分で敵を倒せなかったら、積んでしまうことに他ならない。普通、身体能力の追い付かない回避は出来ない。だが、このギフトが無理やり避けさせる。結果、そのフィードバックは1分後に帰ってくる。限界を超えた分だけ動けなくなるのだ。これは、戦闘中は致命的だ。俺は、白夜叉のところで、限界まで身体能力を高めたが、それでも、素の身体能力じゃ躱せない。何が言いたいのかというと、何としても1分以内で勝ちなおかつ動けないのをごまかさないといけないのだ。

 

 

 

「行くぜ」

十六夜は、目にもとまらぬ速さで、白の突っ込む。

「速い!!!」

黒ウサギが、驚く。

白に拳が迫る。当たった。そう思った・・・だが

「なッッッ」

最低限の動きで躱された。

 



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決闘と勝者

白に拳が迫る。当たった。そう思った・・・だが

「なッッッ」

最低限の動きで躱される。

「話にならんな」

「くッッッッ」

 

★★★★

 

 

怖すぎだろ・・・顔の横に、凄まじい勢いの風圧と拳が振りぬかれたのだ。

そして、その後もラッシュが来る。拳も足もどの攻撃も常人には躱せないであろう怒涛の攻撃を最低限の動きで避けていく。

 

「どうした、こんなものか」

 

あと、28秒・・・

 

「クソ・・・」

 

「オラアアァアァァァ」

 

十六夜の拳がさっきの速度の比にならないくらいの速度で迫ってきている。しかし、少し届かない。

残り20秒。

 

「本命は、これだ」

 

手に隠してあった、つぶてを投げる。つぶてといえどこの速度は危険極まりないだが当たらなければどうということ言うことはない。

残り18秒。

蹴りが眼前に迫っていたしかし、躱せる。そろそろか・・・

 

「これで理解できただろ。お前は、俺に攻撃を当てることは出来ない。」

 

「お前の拳には何もないのだ、理想も覚悟も、狂気もだから届かない。ただ、快楽と己の渇きを癒すためだけの獣の拳など何年経とうが届かぬ。・・・お前の拳は届かない」

 

「クッ・・・」

 

十六夜の拳が迫る。恐らく今までで一番強い威力だろう。だが、

残り7秒だ・・・・

 

「詰みだ・・・十六夜」

 

こいつはここで潰しておかないと厄介になる。

『死風』・・・あらゆる負の感情を思い出す・・・・4年前のあの男の顔を、炎を、地獄のような光景を、思い出せ、あの日誓った復讐心を、憎悪を、怒りを!!!

 

「散れ・・・」

 

空間が軋んだ。

対魔王用威圧、『死風』・・・死を体現した殺気が吹き荒れた。

空気が空間が歪んだ・・・・

 

 

★★★★

 

 

十六夜さんの候関が当たっていない。これほど違うのですか。

十六夜さんならもしかしたら、という考えがあった。だが、甘かった。相手は、白帝。

少人数のコミュニティーで、弱冠15歳で白帝と恐れられる者、十六夜さんは弱くない。

でも、圧倒的すぎる。

 

「出鱈目だわ、あんなの」

 

飛鳥さんのつぶやきも理解できる。

空気が変わった・・・・。死風・・・風に乗ってそんな声が聞こえた。

 

「なッッッ」

 

空間が悲鳴を上げている。歪んでいる。何だこれは?これが、こんなものが殺気なのか。こんなに悍ましいのか、こんなにも、邪悪なものなのか?黒ウサギの本能が全力で逃げるべきだと叫んでいる。こんなにも、距離が離れているのにもかかわらず立っていられない。

 

「く・・・・十六夜さん!!!」

 

あの、殺気の奔流の中にいる彼はどうなってしまうのだろうか。意識が、途切れようとする。もう・・・・

 

「やめい!!!!」

 

白夜叉様の声がした。殺気の嵐が止まっていく。

十六夜を見ると、そこには、倒れる十六夜とそれを眺める白が立っていた。

 

 

 

はッ・・・目を覚ます。ここは・・・ここはノーネームか。

 

「目が覚めたのですね!」

 

黒ウサギが嬉しそうに近付いて来る・・・・あの後、どうなったんだ。

 

「黒ウサギ、俺は負けたのか?」

 

「はい、十六夜さんは白帝様とのギフトゲームにおいて敗北してしまいました…でも、白帝様相手にあそこまで食い下がるのはすごいことなのですよ!」

 

自分を、励まそうとしているのは分かるが、今はやめてほしい。思い上がっていた。自分の退屈が埋まることが分かったのに喜べない。全く、戦いになっていなかった。思い上がっていた。俺より強いやつは、やはりいてそいつらと戦うには俺は不足なんだ。

 

「なあ、あの後どうなったんだ?」

 

「・・・はい、あの後は・・・

 

 

★★★★

 

「黒ウサギ、判定は?」

 

「は、はい。白帝様の勝利です」

 

「ふん・・・是非もなし」

 

十六夜は起きる気配がない、自分の周りも、地獄絵図だ。辛うじて、自分は立っているが、白夜叉様ですら顔色がよくない。アナさんは平気そうだ。圧倒的だ。ここまで・・・違うものなのか。

 

「十六夜に伝えておけ。俺は、暇ではない・・・。お前がそのまま戦うに値しない状態でいる限り、再戦をする気はない。」

 

 

「そう言っていました。」

 

戦いの中であいつに言われたことが頭から離れない・・・

『これで理解できただろ。お前は、俺に攻撃を当てることは出来ない。』

『お前の拳には何もないのだ、理想も覚悟も、狂気もだから届かない。ただ、快楽と己の渇きを癒すためだけの獣の拳など何年経とうが届かぬ。・・・お前の拳は届かない』

その通りだ。何も言い返せない。

 

「黒ウサギ、俺はあいつの言っていたものを見つけられるのか?俺は・・・」

 

「十六夜さん、ここは何処だと思いますか?」

 

「?」

 

「ここは、箱庭です。ここでなら、見つけられますよ!」

 

「・・・そうだな、そうだよな。それにあいつは、このままだったら再戦をしないといったんだ。あいつの、戦うのに相応しいやつになればいいんだ。」

 

快楽のためではない。自分のやりたいことを見つけた気がした。

 

 

★★★★

 

 

「あれでよかったんですか?」

 

アナが聞いてくる。ああ問題ない。力の差があると錯覚してくれただろう。そして、ああいっておけば、すぐに再戦を申し込まれることもない。今は、それでいい。俺の秘密についても気が付かなかった。少なくとも、今までのような、獲物を見るような眼はしないはずだ。

 

「潰すよりも、あいつに白帝は強いと言いまわってくれたほうがいい」

 

「そう・・・数日後に開催される火竜誕生祭に魔王が現れるらしいですよ。」

 

「それは、好都合だな。俺の脅威を示すチャンスだ」

 




次回から二巻。


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火龍誕生祭

今回はほとんど白はしゃべりません。


「黒ウサギのお姉ちゃ~ん! 大変なの!」

 

 リリは黒ウサギとレティシアのいる農園跡地に慌てて駆け込んだ。

 二人はただならぬリリの様子に驚く。

 

「ど、どうしたのですかリリ!?」

 

「こ、これ!」

 

 そう言って、リリは二人に手紙のようなものを渡す。。

 

『黒ウサギへ

 

 近日行われる箱庭の北と東の“階層支配者”による共同祭典火龍誕生祭に参加してきます。

 

 貴方もあとから必ず来ること。あとレティシアもね。

 

 私たちにこの祭りのことを秘密にしていた罰として、今日中に私たちを捕まえられなかった場合———三人ともコミュニティを脱退します。

 

 死ぬ気でで探してね♪

 

 なお、ジンくんは道案内に連れていきます。』

 

「な、なんなのですか、これは!? あ、あの問題児様方はあああああああああああ!!」

 

「タイミングが悪かったな」

 

 というのも、火龍誕生祭のことに関する白夜叉との会談が今日だったのだ。

 

「たしかに、一度依頼を受けて向こうに行かれてしまったら元も子もない。すぐに追いかけるぞ! リリ、留守を頼む!」

 

「わ、わかりました!」

 

 リリが返事をすると、黒ウサギは髪が桜色に代わり、レティシアも姿が変わる。

 

「行くぞ、黒ウサギ!」

 

「はい! レティシア様!」

 

 

★★★★

 

 

「で貴様らは何をしている?」

 

「よう、白帝様。白夜叉に北まで送ってもらおうと思ってな。」

 

「なるほどな。ちょうどいい、白夜叉俺も頼んだ」

 

「おぬしら・・・人使いが荒いのではないか?」

 

「それより、その目を見る限り己の傲慢さには気づいたらしい」

 

「ああ・・・そのうえで必ずもい一度戦って勝つ」

 

「ふん・・・俺が認めたらな」

 

「おぬし等、そろそろ行くからの」

 

そう言って手を叩くと、そこは北だった。

“サウザンドアイズ”支店から外を見た“ノーネーム”の一同は、その街の様子に息をのんだ。

 基本的に農耕地が中心ののどかな村のような風情のある東側と打って変わって、北側は街灯やランプによって彩られたきらびやかな街だった。

 

「すごいわ! 白夜叉、あっちのガラスの回廊に行ってきていい?」

 

 瞳を輝かせて言う飛鳥に、白夜叉は苦笑する。

 

「構わんよ。続きは夜にでもしよう」

 

 白夜叉の気遣いに、問題児たちが大手を振って街に繰り出そうとしたところで、白とアナはただならぬ気配を感じる。

 

「ようぉぉぉやく、見つけたのですよ。問題児様方」

 

「チッ! もう追いついてきやがったのか! 逃げるぞ、お前ら!」

 

「ちょっと、十六夜君!?」

 

 十六夜は飛鳥を抱えると、一目散に逃げ出し、耀も逃げようとしたところ黒ウサギに足を掴まれ、後方へと投げ飛ばされる。

 

白夜叉のほうに投げ飛ばされる。

 

「こら、黒ウサギ! 白もおんし、最近いささか礼儀を欠いておらんか!」

 

「白夜叉様! 黒ウサギは十六夜さんと飛鳥さんをレティシア様と捕まえてきますので、耀さんをよろしくお願い致します!」

 

「おお…、がんばっての」

 

 黒ウサギの勢いに気圧され、白夜叉は頷く。

 “サウザンドアイズ”支店のある展望台からジャンプする黒ウサギ。

 黒ウサギと問題児たちの追いかけっこは、後半戦に突入するのだった。

 

 

★★★★

 

 

「おおとも。おんしには是非参加してもらいたいものがある」

 

「私?」

 

 

 耀は首を傾ぐ。

 

 白夜叉は袖から一枚の羊皮紙を取り出す。

 それを耀は覗き込む。

 

 

「造物主の決闘?」

 

「生命の目録のような創作系のギフトでもって行われるギフトゲームだ。展示会でもよかったが、そちらはもう期限が過ぎておってな。まあ、たとえ力試しのゲームでもそのギフトなら充分勝ち抜けると思うのだが……」

 

 

 随分と長い間、食い入る様に羊皮紙を見つめる耀。

 

 やがて、顔をあげた少女の真っ直ぐな瞳が白夜叉へ向く。

 

 

「ねえ白夜叉」声には不安が見え隠れしていた「優勝したその恩恵で、黒ウサギと仲直り出来る……かな?」

 

 

 そう問われて、目を丸くしていた白夜叉はふっ、と微笑む。その笑顔は慈愛に満ちていた。

 

 

「出来るとも。おんしにそのつもりがあるのなら」

 

 

 本当は、黒ウサギならばそんなことしなくても許してくれると知っている。彼女がとても優しい兎だというのは、昔から見ていて充分にわかっていることだからだ。

 

 だがそれを白夜叉が伝えたところで、目の前の少女の幼い顔に浮かぶ不安と罪悪感が本当の意味で消えることはないだろう。だが・・・黒ウサギは間違いなく許す。わかりきった結末だが、耀が己の暗い部分に向き合い、そこから一歩前に踏み出そうとしているならば、白夜叉はそれを見守ろうと思った。

 きっとそれは彼女達の絆が一層深まることに繋がるという確信があるから。彼女達の優しさと強さを信じて。

 

 

「うん。なら出場する」

 

 

 願わくばこの少女により一層の幸福あれ、と思いながら白夜叉の意識は隣の少年へと向いた。

 

 

「おぬしは何をしに来たのじゃ?」

 

「何、面白そうだったのでな。気晴らしに来ただけだ」

 

白は、素っ気なく言うとクルリと背を向けて歩き出す。アナが後をついていく。

 

「夕刻には戻る」

 

「昔のように道に迷うなよ」

 

「分かっている」

 

そう言って街に繰り出していった。

 




次は、ペストが出てくるはずだ。


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斑ロリと取引とギフトゲーム

白夜叉と別れて、しばらくして・・・・

 

両手に、クレープを抱えて大層ご満悦なアナを横目に見ながら、どうやって情報を集めるか考える。・・・そうだな二手に分かれるか。

 

「アナ二手に分かれよう。」

 

「わかりふぁした」

 

・・・こいつこんなキャラだっけ?・・・ほんとに大丈夫だろうか?

 

★★★★

 

街へと出たはいいものの、まったく土地勘のない場所のため、どこに行けばいいのか迷っていた。さてさて、どこに行ったもんか…。この街の地理には全く詳しくない。かつ、他人に聞いてもそれが地元の奴でなければ意味がない。とすると、警備している“サラマンドラ”の奴に聞くのが妥当だ。

 

「なのに、周りにいないとは、どうなっているのやらな。警備ちゃんとやってるのか?」

 

「まったくね。ちゃんと警備する気があるのかしら」

 

 白はいつの間にか自分の横に立っていた、斑模様のスカートの幼女を見る。

 

そして、それが部下から報告のあった魔王の特徴と一致していることに気づいた。

 

「初めまして、白帝様。本当にこんなところで会えるとは驚きだわ」

 

「魔王が何の用だ?」

 

「ッッッ」

 

「気づかないとでも思ったか戯け。俺をなめすぎだ!!!」

 

瞬間、恐ろしいほどの殺気がペストを襲う。

 

「ぐッッッッ・・・・流石は、白帝。たった数人のコミュニテイーで成り上がってきただけのことはあるわね」

 

 

警戒して強めに殺気を出したがこんなものか。ま、新米魔王だからな。それでも動けはするようだ。『死』という概念に比較的近い存在なのかもな。

 

「それで貴様、俺に何の用だ?」

 

「・・・取引をしない?私と、取引をすれば、あなたの探し物の手掛かりとなるものを提供できる」

 

「ほう・・・だが、俺の何を知っているかは知らないがお前らを潰して聞き出すことをしないと何故言い切れる?」

 

「そうしたら私は嘘を吐くわ、でもそうしないのであれば本当のことを話すわ」

 

・ ・・ハッタリで言っているのは分かる。が、ここで戦うと、新米魔王とはいえ殺気だけではもしかしたら制圧できないかもしれない。下手に交戦してボロが出るより、ここは口車に乗っておくほうがいいか。

 

「面白い。その勇気を評価してやろう。何が望みだ」

 

「これから、始めるギフトゲームに手を出さないでほしいの」

 

「ハハハハ」

 

「元より俺は参加するつもりなどない」

 

これは、都合がいいな。俺の脅威を認識している魔王は使い勝手がいい。そして気になることは・・・

 

「そう。ならよかったわ」

 

「一つ聞かせろ。貴様は、先ほど「本当にここにいるとは驚きだ」と言っていたな。何故俺がここに来ると知っていた?」

 

「ある人物から聞いたのよ。『魔王』の一人からのタレコミよ」

 

「・・・そうか」

 

「じゃあ私はこの辺で失礼するわ」

 

俺の行動を把握できる奴なんて・・・ああなるほど。なんとなく、分かってきたぞ。

考えがまとまってきたところで、ドーーーンと大きな音がした。

振り返ると、時計塔が崩れているのが見えた。

・・・十六夜だな。

 

 

★★★★

 

 

宿に戻るとアナが先に帰っていた。

 

「どうだった?何かめぼしいものはあったか?」

そう問いつつ何にも調べないで帰ってきてしまったと今更気づいた。

「特に・・・・」

「そうか、しょうがないな」

 

「そちらは?」

 

「こっちも似たようなものだ」

 

そう言ってごまかす。

 

「それと、あとで魔王について話がある」

 

「分かりました」

 

★★★★

 

「長らくお待たせいたしました! 火龍誕生祭メインゲーム、造物主の決闘の決勝をはじめたいと思います! 進行及び審判は、サウザンド・アイズ専属審判でお馴染みの黒ウサギがお務めさせていただきますよ!」

 

 舞台上で黒ウサギが笑顔を振りまくと途端会場から割れんばかりの歓声が響く。

 

「うおおおおおお月の兎が本当にきたああああ!」とか「黒ウサギいいいいお前に会うためにここまできたあああああ!!」とか「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおお!!」

 

 などの歓声というには首を傾げる内容の。おかげで黒ウサギが怯んでいる。

有象無象の歓声でハッとした十六夜が

 

「そういえば白夜叉、黒ウサギのミニスカートを見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だ。チラリズムなんて古すぎるだろ。」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「バカですね」

 という飛鳥とアナの冷たい言葉は届かない。

 

「フン。おんしほどの男でもそれを理解しえないか」

 

「へぇ、言ってくれるじゃねえか。つまりお前には、スカートの中を見えなくすることに芸術的理由があるというのか?」

 

「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ? エロか? なるほど、それもある。だがときにそれを上回るのが想像力! 未知への期待! 渇望だ!! 小僧よ、貴様ほどの漢ならばさぞかし多くの芸術品を見てきたことだろう! その中にも未知という名の神秘があったはず! 想像せよ。 何者にも勝る芸術とは即ち――――己が宇宙の中にあるッ!!」

 

 ズドォォォォォンという効果音が聞こえてきそうな雰囲気で、十六夜は衝撃を受けて硬直した。

 

「なッ……己が宇宙の中に、だと……!?」

 

 打ちひしがれる十六夜に白夜叉はそっと近寄りその肩に手を置いた。

 

「若き勇者よ。さあ、この双眼鏡で共に今こそ世界の真実を」

 

 昔、同じことを言われた気がする。はたから見ると、ただの馬鹿だな・・・。嫌いではないが。

 

「あ、あのー」

 

「「見るなサンドラ「アナ」。馬鹿がうつる」」

 

 思はず、はもってしまった。嫌いではないが教育上よろしいことではない

 

あれ? なにやら悪寒が?・・・

 

 舞台上で、ブルリと黒ウサギはウサ耳を震わせるのだった。

 

 そうして造物主の決闘、決勝が開始される。

 

 

「くそったれ」

 

 ウィル・オ・ウィスプのプレイヤー、アーシャ=イグニファトゥスは悔しそうに吐き捨てる。

 

 白夜叉によって舞台は移動され木の根に囲まれた《アンダーウッドの迷路》が開始された。対戦相手の耀はまず序盤に舌戦でアーシャの冷静さを奪い、感情任せにぶっ放し続けた攻撃手段である火炎の正体も看破してみせた。天然ガスを導火線に放ってくるそれは風のギフトでガスを吹き飛ばされてしまえばどうやっても火は耀に届かない。木の根の迷路も嗅覚その他五感が鋭い彼女ならば容易くゴールに着けるはずだった。――――ただ、耀にとっての誤算はアーシャが連れていた者の存在だった。

 

「後はアンタに任せるよ。やっちゃってジャックさん」

 

 今までアーシャに付き従っていたはずのカボチャのお化け。てっきり彼女が操る人形かと思っていたそれは、

 

「嘘」

 

「嘘じゃありません。失礼、お嬢さん」

 

 先行していた耀の眼前に突如現れた。ジャックの真っ白な手が耀を薙ぎ払う。勢いを殺せず木の根に背中から激突し肺の中の酸素が全て吐き出される。

 

「……ッッ!」

 

「さ、早く行きなさいアーシャ」

 

「悪いねジャックさん。本当は自分の手で優勝したかったけど……」

 

 こちらを見るアーシャの顔にはありありと見える不満。言葉の通りこの展開を、彼女は本意と思っていないようだった。そんな彼女を先ほどまで騒ぐだけだったカボチャのお化けは紳士的な口調でたしなめる。

 

「それは貴女の怠慢と油断が原因。猛省し、このお嬢さんのゲームメイクを見習いなさい」

 

「うー……了解しました」

 

「待っ」

 

「待ちません。貴女はここでゲームオーバーです」

 

 走り出すアーシャを追おうとするとジャックが立ちはだかる。ランタンのかがり火が耀の周囲を囲む。先ほどまでの手品じみたものではない。――――本物の悪魔の炎。

 

「貴方は」

 

「はい。貴女のご想像はおそらく正しい。私はアーシャ=イグニファトゥス作のジャック・オー・ランタンではありません(・・・・・)。貴女も警戒していた――――生と死の境界に権限せし大悪魔、ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作! 世界最古のカボチャ悪魔、ジャック・オー・ランタンにございます」

 

 

 ヤホホー、と笑うジャック。

 

 耀は直感してしまう。彼には勝てない。ジャックのかがり火の瞳はすでに生命の目録を看破している。そも切れる切り札も無いが、あったとしても今の自分ではいくらあっても太刀打ち出来ない。

 首に下がるペンダントを一瞥し、耀は静かにゲーム終了を口にした。

 

 

「負けてしまったわね、春日部さん」

 

「ま、そういうこともあるさ。気になるなら後で励ましてやれよ」

 

 目に見えて気落ちする飛鳥と軽い調子で笑う十六夜。

 

「シンプルなゲーム盤なのにとても見応えのあるゲームでした。貴方達が恥じることは何も無い」

 

「うむ。シンプルなゲームはパワーゲームになりがちだが、中々堂に入ったゲームメイクだったぞ」

 

 

 

 

★★★★

 

空から黒い何かが落ちてきているのが見えた。

これは、黒い羊皮紙。なるほどもう来たのか。さてさてどうなるかな。

 

『ギフトゲーム名〝The PIED PIPER of HAMELIN〟

 

 ・プレイヤー一覧

  ・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

 ・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

  ・太陽の運行者・星霊 白夜叉。

 

 ・ホストマスター側 勝利条件

  ・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

 ・プレイヤー側 勝利条件

  一、ゲームマスターを打倒。

  二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 〝グリムグリモワール・ハーメルン〟印』

 



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暴動と鎮圧

 

 宮殿内に集められた参加者達。ノーネームの姿もあった。

 

「十六夜さん、大丈夫でしたか!?」

 

「ああ。他の連中は?」

 

「・・・あまり良い状況ではないです。耀さんは意識を失い、飛鳥さんは行方不明・・・」

 

「私も周囲一帯を探してみたんだけど、やっぱり飛鳥の姿は確認できかったよ・・・」

 

「そうか。お姫様でも見つからないか」

 

 考えられるのは捕まったか、殺されたか。前者はまだ助ければ良いのだが、後者の場合は最悪だ。一同は可能性に賭ける期待も込めて思考を切り替えた。

 ちょうどその時大広間の扉が開いた。入ってきたのはサンドラとマンドラ、それと白とアナ。

 サンドラは緊張した面持ちで参加者に告げる。

 

「今から魔王との審議決議に向かいます。同行者は4名。"箱庭の貴族"黒ウサギと、"サラマンドラ"からはマンドラ。この二人以外に"ハーメルンの笛吹き"に詳しい者がいるなら参加してほしい。誰か立候補する者はいませんか?」

 

 参加者の中でどよめきが広がる。

 名乗り出るものがいない中、十六夜はジンの首根っこを捕まえ高らかに名乗りを上げた。

同じく、アナも名乗りを上げる。

 周りの者からまたどよめきが起こるも、そのまま会話は進む。

 結果、ジンと十六夜が二人と一緒に出ることになった。

 

 五人が出ていった後の大広間。

 

「おいおい……ノーネームが行ってホントに大丈夫かよ……」

「そもそも、何で白帝が参加しないんだ」

「くそっ。こんなところで死にたくねーぞっ」

 

 周りがサンドラを遠巻きに見ていると、レティシアはの前に出てきた。

 

「やあサンドラ。さっきも見たが、昔に比べて成長したな」

 

「レティシア様!お久し振りです。今回、魔王討伐に参加していただきありがとうございます」

 

「そんな畏まらないでくれ。君は今、フロアマスターなんだ。そんな態度では下の者に示しがつかないだろう?」

 

「・・・分かりました」

 

★★★★

 

貴賓室の扉が開き、中から黒ウサギとサンドラが姿を現す。視線が一斉に二人に集まる。

 

「“グリムグリモワール・ハーメルン”との交渉の結果をお伝えします」

 

 黒ウサギの宣言に、ゴクリと誰かが唾を呑み込む音が大きく聞こえた。

 

「ゲームの再開は一週間後。それまでの間、相互不可侵となります」

 

 ゲームの再開。それはつまり、相手側に不正は無く、ゲームの中止は出来なかったという事。その事実に大広間はざわめきに満ちる。

 

「先のルールに加え、いくつかの禁止事項が追加されました」

 

 自決及び同士討ちによる討死にの禁止。

 休止期間中でのゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出。

 

 黒ウサギが手元の“契約書類(ギアススクロール)”を読み上げるごとにざわめきは大きくなる。これでは逃げる事も、最後の手段として自決する事も出来ないではないか。そんな不安が群衆の広がっていくのを肌で感じた。

 

「最後に………ゲーム再開から二十四時間後、ホストマスター側の無条件勝利となります」

「ふざけるなっ!!」

 

 突然、大広間の一角から大声が上がった。そこには蜥蜴の顔をした亜人が、肩を怒らせながら黒ウサギへと進み出ていた。

 

「先程から聞いていれば、魔王達に有利な条件ばかりではないか! 貴様、まさか魔王達と手を組んだのではあるまいな!?」

 

「い、いえ! そんなことはありません!」

 

「ほう! その割には随分と譲歩させたのだな!」

 

 蜥蜴の亜人は侮蔑を顔に浮かべた。

 

「“箱庭の貴族”が聞いて呆れるな! さすが、“名無し”のコミュニティに所属して―――」

 

 ドゴォッ!! ズン!!

 

 突如、大広間に激震が奔った。建物全体が揺れる様な振動と圧力に、その場にいた人間達はたたらを踏んだ。

 

「「ずいぶんと好き勝手に吠えてるみたい(よう)だが………」」

 

 振り向くと、そこに十六夜と白が立っていた。足元の大理石はハンマーを思い切り振り下ろした様に蜘蛛の巣状にひび割れている。

 

「ヒッッッ白帝・・・」

 

あちらこちらで、悲鳴が上がる。

 

「それならさっき、何で名乗り出なかったんだ?」

 

「な、何の話………」

 

「魔王との審議決議。“サラマンドラ”が交渉の協力を求めた時に、貴様らは何故立候補しなかった、と聞いてるんだ。」

 

 痛い所を突かれた、と言わんばかりに蜥蜴の亜人は黙り込む。誰も立候補しなかったからこそ、“ノーネーム”が交渉のテーブルについたのだ。

 

「し、しかしそれをどうにかするのが“箱庭の貴族”の役目で、」

 

「で、交渉がこじれたら安全圏から非難する、と。フン、“名有り”のコミュニティが聞いて呆れるな」

 

 酷薄な笑みを浮かべた十六夜と侮蔑の視線を向ける白に、蜥蜴の亜人はモゴモゴと弁明していたが誰から見ても明白だった。

 交渉の場に行かなかったのは彼の選択であり、その結果が不利益な物になったのは彼自身の責任。その事で黒ウサギ達を責めるのは、御門違いでしかない。

 

「しかし、そんなことを言うのなら今回参加の意思を見せない白帝はどうなんだ」

 

「戯け、この程度のギフトゲームこの俺が出る必要などない。俺は、今回はいい経験を積ませる意味でも俺の部下を参加させる。」

 

「待ってください。今は仲間割れをする時ではありません」

 

 サンドラが凛、とした声で二人を制した。

 

「誰が悪いと責任を問うならば、栄えある大祭に魔王の侵入を許した“サラマンドラ”の落ち度。必ず釈明と補償はしましょう。ですから、この場は怒りを収めていただけませんか?」

 

 まっすぐと眼を見つめるサンドラに気圧されたのか白の威圧が怖かったのか、蜥蜴の亜人はしぶしぶと十六夜達から離れていった。

 

「この度は皆様に魔王襲撃という危険な目に遭わせてしまった事を深くお詫びします。ですが、この場は魔王を撃退する為に皆様の力を貸して下さい」

 

 丁寧ながらも有無を言わせぬ口調でサンドラは話し始める。十歳の女の子が発するとは思えない威厳に、あれだけ騒がしかった大広間がしん、と静まり返る。

 

「まず、新たなルールを追加した事に説明します。最初、魔王達は一ヶ月の休止期間を要求してきました」

 

 一ヶ月? 休止期間にしては長過ぎる。敵に時間を与えれば、迎撃の準備を整えさせるだけではないのか?

 そんな疑問が頭に浮かんだが、その答えはサンドラが明かしてくれた。

 

「魔王の正体はペストです」

 

 ざわ、と大広間に動揺が走る。誰かが声を上げる前に、サンドラは畳み掛ける。

 

「既に我々、参加者の中にペストに感染した者がいます。ですから―――」

 

「ペストだと!」「もう魔王に先手を打たれているのか!」「だ、誰が感染している!?」「畜生、誰も俺に近寄るんじゃねえぞ!」

 

 途端、大広間は蜂の巣を突いた様な騒ぎになった。大声を上げる者、無駄を承知で大広間から走り去ろうとする者、血走った目で周囲を見渡す者。全員が一様に冷静さを失った。

 

「落ち着いて! 皆さん、落ち着いて下さい!」

 

「くそ、だから“ノーネーム”に任せたくなかったんだ!」「いや、そもそも侵入を許した“サラマンドラ”のせいだ!」「こんな事なら北側に来るんじゃなかった!!」「殺される………みんな魔王に殺されるんだ!」

 

 サンドラが大声を張り上げるが、もう誰も聞いていなかった。恐怖が混乱を呼び、混乱は群衆に伝染して暴動が起きる・・・

 その直前だった。

 

「いい加減、そのうるさい口を閉じよ・・・戯け」

 

白から放たれた警告用の殺気で騒いでいた群衆を何人か押し潰し、ようやく大広間は静かになった。

 

「このまま無駄に騒いで死ぬつもりか。なるほど、バカにふさわしいな」

 

「だ、だって、」

 

「だってではない! このまま混乱すれば敵の思うつぼだと分からぬほど愚かか?」

 

 尚も言い募ろうとする者を、ピシャリと一刀両断する白。そこにはサンドラの威厳とは比べ物にならないほどの、人の上に立つ者の覇気があった。

 

「まだ状況は最悪ではない。黒死病の発症には二日以上はかかる! それに七日後であれば免疫力の強い者ならば発症しない。 つまり、ゲーム再開時点での参加者全滅は免れるのだ。」

 

 それに、と白はサンドラ達に目を向ける。

 

「|階級支配者≪フロアマスター≫殿は条件を五分まで持ってこれたのだ。ならばゲームの攻略法を調べ上げるのも時間の問題であろう」

 

「―――ええ白帝様の言う通りです」

 

 サンドラは一度、深呼吸をすると再び大広間の群衆を見回す。

 

「私達は魔王に先手を取られましたが、同時に"The PIED PIPER of HAMELIN"の攻略方法に心当たりはあります」

 

 すっと、サンドラは後ろに目を向ける。

 

「ここにいる“ノーネーム”の協力により、魔王一味の正体に迫る事が出来ました。魔王一味はラッテン、ヴェーザー、シュトロム。そして黒死病の四人。この中からハーメルンの事件の真相を解明すればクリアできます」

 

 ハーメルンの伝承には数多の考察がある。人攫い、自然災害、疫病の蔓延などなど。今回のゲームは先ほどの四つのの内、130人の子供が失踪した原因を当てて見せろ、という事なのだろう。

 

「詳しい攻略法はこれから必ず調べ上げます。それまではどうか我々に協力して下さい」

 

 サンドラは一端、言葉を切ると群衆に向かって深々と頭を下げた。

 

「お願いします」

 

 シーン、と大広間が静まり返る。ここで戦わなければ魔王に隷属するしかない。そう分かっていても、魔王と戦う事に全員が尻込みしていた。その時だ。

 

「“ノーネーム”は協力するぞ!!」

 

 突然の大声と共にジンくんの手が上がった。いや、上げさせられた。そんな事をやる人間は一人しかいない。

 

「めっちゃ協力するぞ! とにかく協力するぞ! ここにいるジン=ラッセルは対魔王専門のエキスパートだ! 魔王? 俺の隣で寝てると言うくらい楽勝だぞ!!」

 

「ちょ、十六夜さん!」

 

 うろたえるジンくんを余所に、十六夜は意味ありげにウィンクする。

 

すると、群衆からどよどよとざわめきが起きた。

 

「なるほど、これだけ度胸のある、ノーネームさえいれば、名有りのコミュニティなど要らぬな!」

 

 あからさまな挑発。しかし、それはこの状況では十分過ぎる燃料となった。

 

「この、言わせておけば!」「ノーネーム風情に舐められてたまるか!」「貴様等が鎧袖一触なら我等は爪先で十分だ!」「魔王に怖気づく軟弱者は我がコミュニティにはいない!」

 

 喧々囂々、注がれた燃料は闘志となって燃え上がる。先程までこの世の終わりみたいに静まり返っていたのが、嘘の様だ。

 

「我が“コスキュート”は“サラマンドラ”に協力するぞ!」「我等のコミュニティもだ!」」

 

 次々と手を上げ、協力を表明するコミュニティ達。サンドラは一瞬、あっけに取られた様に見つめていたが、慌てて表情を引き締めた。

 

「では皆様の協力も得られた所で、今後の方針について話し合いたいと思います。コミュニティのリーダーは別室に集まって下さい。それと、少しでも体調を崩した者は医療スタッフにすぐに申し出て下さい。ペストに感染していると判断したら、すぐに隔離させて貰います」

 

 全員から同意を得た声が上がると同時に、大広間の人間達は動き出す。恐怖からの逃走でなく、生き残る為に各々が動き出していた。

 

 

 

★★★★

 

今回は、ギフトゲームに参戦できないからな。どうやって、白帝の力を知らしめるか考えていたが、無理だな。今回は暴動を抑えて白帝は逃げたわけではないことが印象付けられただけ良しとしよう。後は、アナに任せるか。

 

 

 



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開戦と見物

話が進まない・・・最近勘違い要素薄いな・・・あと3話ぐらいで終わります。
次の章は、白のハッタリが火を噴くはず・・・


「本当に良かったんですか? 一ヶ月、休止期間を設ければマスターの勝ちでしたのに」

 

 暗がりの中、白装束の女―――ラッテンは主人である少女―――ペストに問いかけた。

 

「“箱庭の貴族”は惜しいですけど、勝ちが決まったギフトゲームをフイにするのは勿体ないというか・・・」

 

「止めろよ、ラッテン。過ぎた事だ」

 

 理解しかねるといったラッテンを軍服の男―――ヴェーザーが制した。

 

「俺等のリーダーが決めた事だ。俺達は黙って従うだけだ」

 

「でも・・・」

 

「別に良いのよ、ラッテン」

 

 なおも言い募ろうとするラッテンを、ペストは面倒くさそうに答える。

 

「ギフトゲームが解けなければ、八日後は私達の総取りで勝ち。解かれても八日後に皆殺しにすればいいだけよ」

 

 悪魔の様な天使の微笑みだった。

 

「・・・いや、分かっていたけどな。マスター、本気で趣味悪いだろ?」

 

「あら? 勇気を振り絞って立ち向かう相手を鼻で嗤って、打ち倒すのが魔王でしょう?」

 

 違うの? とペストは呆れるヴェーザーに可愛らしく首を傾げた。

 

「まあ、そうではあるけどよ・・・。何か手に入れた後は飽きて放り出しそうだな」

 

 やれやれとヴェーザーは困った様に後ろ頭を掻く。

 

「白帝の部下っていうあの嬢ちゃんは大丈夫なのか?大分ヤバイ話を聞くんだが」

 

「ええ、問題ないわ。私なら勝てるもの。」

 

★★★★

 

「アナ・・今回のギフトゲーム、俺は参戦しないという約束だがあくまで『白帝』は参加してはいけないだけなのだ。だけど」

 

「私は参加していいと?」

 

「その通りだ」

 

アナは呆れた顔をしながら・・・

 

「ひどい、屁理屈ですね。」

 

と言った。

 

「屁理屈結構。生き残るためのコツだろ」

 

「相変わらずのねじれ具合ですね。安心しました」

 

「それに、部下であるアナが強いと知れればその評価は主である俺にもつながるからな。期待してるぜ、アナ」

 

「分かってますよ・・・|主≪マスター≫」

 

 

さて、行きますか。

 

 

★★★★

 

 

「なっ、何処だ此処は!?」

 

 参加者の誰かが、驚愕の声を上げた。

 見渡せば数多の尖塔群のアーチは劇的に変化し、木造の街並みに姿を変えている。

 黄昏時を彷彿させるペンダントランプの煌めきは無くなり、パステルカラーの建築物が一帯を造り変えている。 

 境界壁の麓は全く別の街へと変貌していた。

 ステンドグラスの捜索側に回っていたジンは、蒼白になりながら叫んだ。

 

「まさか、ハーメルンの魔道書の力・・・ならこの舞台は、ハーメルンの街!?」

 

「何ッ!?」

 

 マンドラがその声に振り返る。その間も混乱は広がりをみせ、士気高く飛び出した参加者達は余りの劇的な変化に出鼻を挫かれたように足を止めた。

 

「こ、ここは一体!?」

 

「それに今の地鳴りは!?」

 

「まさか魔王の仕掛けた罠か!?」

 

 ザワザワと動揺が感染していく。マンドラはチッ、と舌打ちしながらも一喝する。

 

「うろたえるな!各人、振り分けられたステンドグラスの確保に急げ!」

 

「し、しかしマンドラ様!地の利も無く、ステンドグラスの配置もどうなっているか分からないままでは、」

 

「安心しろ!案内役ならば此処にいる!」

 

 ガシッ!とマンドラがジンの肩を持つ。

 

「え?」

 

「知りうる限りで構わん。参加者に状況を説明しろ」

 

「け、けど、僕も詳しいわけでは、」

 

「だから知りうる限りで構わんと言っているだろうがッ。貴様が多少なりとも情報を持っている事は既に知れ渡っている。お前の言葉ならば信用する者もいるだろう。とにかく動きださねば、二十四時間などすぐに過ぎ去るぞ!」

 

 ぐっとジンも反論を呑み込む。十六夜なら………と捜すが彼は此処にはいない。時間も決められているから悠長にしている暇はない。

 ジンは意を決したように捜索隊の前に立つ。

 

「ま、まずは………教会を捜して下さい!ハーメルンの街を舞台にしたゲーム盤なら、縁のある場所にステンドグラスが隠されているはず。〝偽りの伝承〟か〝真実の伝承〟かは、発見した後に指示を仰いでください!」

 

 ジンの一声で捜索隊が一斉に動き始めるのだった。

 

 

「ほう、地精寄りの悪魔とは思っていたが、地殻変動そのものを引き起こすとは恐れ入る。新米魔王となめていたな」

 

 街中で一番大きな建物に登り、一帯を見回す。

 ハーメルンの伝承に基づいた場所だけは精巧に造り出されていた。

 

「街道は結構滅茶苦茶だが………あそこにあるのがマルクト教会に、ブンゲローゼン通りか。押さえるところは押さえているって訳だな」

辺りを見回していると、十六夜とヴェイザーが争っているのが見えた。

 

「―――その前に、決着と行こうぜ坊主ッ!!」

 

 一喝、十六夜の足場にしていた家が真下から吹き飛んだ。

 建築物の地盤ごと砕かれ、木造の建築は跡形も無く粉砕する。

 声に反応した十六夜は反射的に上空へ跳び退いたが、追い打ちをかける様に地面から飛び出したヴェーザーに顔を掴まれる。

 

「テメェ!」

 

「前回のお返しだ!先手は譲ってもらうぞッ!!」

 

 棍に似た巨大な笛で、十六夜の腹部を強打する。

 先日とは比べ物にならない巨大な力が宿った一撃は、超振動のように十六夜の身体に浸透し、十六夜はハーメルンの街に流れるヴェーザー河の水面を何度も弾いて、対岸に叩き付けられる。

 面白そうだな、見ていくか。

 

 

 

 

「・・・やるじゃねえか。今のは相当効いたぞ」

 

「当たり前だ。前回と同じと思って油断なんかすんじゃねえぞ坊主。こっちは召喚されて以来、初めての神格を得たんだ。簡単に終わったら興ざめするってもんだ」

 

「何?」

 

 十六夜が訝しげにヴェーザーを睨むと、ヴェーザーはクックッと牙を剥いて笑って棍を横一閃に薙ぐ。

 すると大地は地鳴りを始め、震動を起こし始めた。

 

「ああ、そうだ。これが〝神格〟を得た悪魔の力……!クク、とんでもねえぜ坊主!130人ぽっちの死の功績なんざ比較にならねえ!今の俺は、星の地殻そのものに匹敵する!」

 

 更に横一閃。星の地殻変動に比するという衝撃は大気を伝達し、ヴェーザー河を叩き割って氾濫させ、河の流れさえも逆流し、隣接する建造物を軒並み粉々に打ち砕いた。

 目に見えて立ち昇るヴェーザーの力に、十六夜は不敵な笑みを零す。

 

「ハッ、なんだよ。少し楽しめれば、あいつとの闘いまでの経験値になれば、それでいいと思っていたのに、随分と俺好みなバージョンアップをしてきたじゃねえか。嬉しいぜ、本物の"ハーメルンの笛吹き"」

 

「謎を解いたのはやはりお前か、坊主」

 

「ああ。だけど土壇場まで騙されてた。お前以外のメンバー全員は偽物。十四世紀以後の黒死病の大流行と共に後付けされた、一五〇〇年代以降のハーメルンの笛吹きの伝承だったのさ」

 



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アナの実力とペストの正体

一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日

 あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した。それがハーメルンの伝承の真実と白は言っていました。

 

 

「そして、あなたはハーメルンとは別の存在である黒死病の魔王、と言うのが私の推論ですが………当たっていますか?」

「………もうそこまで気がついたのね。流石は白帝の部下。いや、一部では白帝の右腕なんて呼ばれていたわね。」

 

「私だけでなく、ノーネームも気づいたようですけど」

 

 場所は変わって対峙するペストと、アナ、黒ウサギ、サンドラはハーメルンの街の屋根上にて縦横無尽に飛び回っていた。

 轟く雷鳴を響かせた黒ウサギの"疑似神格・金剛杵(ヴァジュラ・レプリカ)"が放つ轟雷がペストを左から襲い、右からはサンドラの"龍角"が放つ紅蓮の炎が襲う。

 黒い風の球体を纏っているペストは、二つの奔流を余裕で遮断する。

 

「貴女達も飽きないわね。徒労なのに無駄なことを………」

 

 ペストは四本の黒い竜巻を起こしサンドラに飛ばす。アナは彼女の前に出て、紫色の鎌で切り飛ばした。

 先程から何度も行われている光景が続いていた。

 

「………そうですね。やはり彼女は………」

 

 サンドラは変わらない状況に焦り始め、黒ウサギとアナは戦況を冷静に観察していた。

 

「………"黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)"。貴女の正体は神霊の類いですね?」

「えっ?」

「そうよ」

「やはりですか」

「えっ!?」

 

 三人のやり取りに付いていけないサンドラ。

 

「あなたは最初から神性を持っていた。だからハーメルンとは別の黒死病であることも検討は付いていました。」

「つまり貴女は14世紀から17世紀に吹き荒れた黒死病の死者ーーーーー8000万の死者の功績を持つ悪魔ですね」

「ええ、そうよ。よくたどり着いたわね。こちらからも一ついいかしら?」

「何ですか?」

「アナ、あなたも神霊の類よね?」

「・・・」

「沈黙は肯定と取るわ」

「そうですよ」

「あら、案外簡単に言うのね」

「やることは変わりませんから」

少しも動揺しないアナにペストは舌うちする。

「・・・良いことを教えてあげるわ」

「いいこと?」

黒ウサギは訝し気に聞き返す

「ええ、私が神霊になったのは完成したっ形骸を使ってなんかいないわ。私を召還したかの魔王は"8000万の死の功績を持つ悪魔"ではなく、"8000万の悪霊群"代表の私を死神に据えれば、神霊として開花すると思ったんでしょうね」

「………まさか」

「そう。私は黒死病の死者の代表にして、最初の感染者。それが"黒死斑の魔王"よ。私達の"主催者権限"………死の時代に生きた全ての人の怨嗟を叶える権利………黒死病を世界中に蔓延させて飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源、怠惰な太陽に復讐する権利が私達にある!誰にも邪魔はさせないわ!!」

 

 そう叫んだペストが己の霊格を解放し、黒い風が吹き荒れる。

 黒ウサギは風で煽られた髪を後ろにかき上げながら言った。

 

「太陽に復讐とは随分と大きく出ましたね。神霊一匹程度ではどうにもなりませんよ?」

「出来る出来ないは貴女が決めることではなくて、私が決めることよ?」

第二ラウンド開始だ。

 

★★★★

 

結果は十六夜の勝ちだった。ただ、彼の戦い方は少し変わっていて慢心はしていても油断はしていない。・・・やっぱり、生かしておくんじゃなかったかな・・・。

と後悔先に立たず・・・・

 

まあ、もうしょうがないことだ。そろそろ、決着付きそうだし行くか。

 

★★★★

 

「三人でなら、倒せると?なめるのもたいがいにしなさい。白帝も大したことはないわね。この程度の部下を連れているなんて、程度が知れるというものだわ」

 

死の風が、黒ウサギたちを襲う・・・勝ったそうぺストが思った瞬間

 

「あなたをやさしく殺すのはやめました」

 

下から鎌がペストの首めがけて飛んできた。

 

「ッッッッ」

 

間一髪でペストは避ける。そして、攻撃してきたアナをにらんだ。

 

「優しく殺すのをやめた?手加減をしていたとでも?」

 

「その通りですよ。覚悟してください、やや、怒りましたので」

 

大鎌で切りかかり、躱して距離を取ろうとするペストに

 

「逃がしません」

 

鎖をもって大鎌を投げつける。リーチが一気に伸びペストに襲い掛かる。これには、不意を突かれたのかペストは避け損ね足に一撃もらってしまう。怯んだところに追い打ちをかけるアナ。

今までとは、打って変わり攻撃的になったアナの猛攻がペストに襲い掛かる。

 

「くッッッ」

 

「どうしましたこんなものですか」

 

死の風も何のその。大鎌で切れ割いて追撃する。3分もしたころにはペストは傷だらけになっていた。

 

「すごい・・・」

 

黒ウサギは、息も飲む。自分たちがさんざんてこずっていた相手に圧倒的な戦いを繰り広げるアナに畏怖を抱いた。速さも攻撃の切れも段違いだ。サンドラは、自分たちのレベルに合わせて戦っていたことに気づき、自分の未熟を悔やんだ。

 

「ハァハァハァ・・・変ね、あなた技のキレが増してない?本当に手加減してたなんて思いたくないのだけれども」

 

「ええ、手加減していました。そして、それは今も同じです。ギアをあげますよ」

 

「くッッッ。厄介な・・・」

 

「そろそろ、終わらせます」

 

アナの纏っていた雰囲気がまた変わった・・・・

ヤバイ、そう理解し逃げるよりも早くアナの攻撃はペストをとらえる。「その指は鉄、その髪は檻、その囁きは甘き毒。」アナの透き通った声が戦場に駆け巡る。大鎌で滅多切りに

した後、その真名を開放する。

 

「これがわたし! 『女神の抱擁(カレス・オブ・ザ・メドゥーサ)』!!」

 

紫色の閃光が、ペストを呑み込んだ。

 

 



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約束の物と魔王の執念

 間に合った・・・アナの奴ガリガリ魔力削っていくんだからひやひやしたぜ。

 

 多分宝具を打ったんだろうな・・・さてさて、ペストは生きてるかな。

 

 煙が晴れてきた。

 

 

★★★★

 

 

 

 

「くッ・・・」

 

 

 ペストは、ここから逃げようと動こうとするがダメージが深刻で動けなかった。

 

 

「動けませんよ・・・」

 

 

 ペストの目の前にアナが立っている。

 

 

「なぜ、私は死んでないのかしら?」

 

 

「あの、攻撃は私が生き残れるほどぬるい攻撃ではなかったはずよね。」

 

 

 下からアナを見上げる形で話す。一人は、ほぼ無傷で立っており、もう一人は倒れて起き上がれないでいた。まるで、勝者と敗者を象徴するかのような立ち位置だった。

 

 

「あなたを殺すと、主の聞きたいことが聞けませんので」

 

 

「・・・そうだったわね」

 

 

「話してください。」

 

 

 大鎌を突き付けながら話す。

 

 

「いや、その必要はない」

 

 

(マスター)・・・」

 

 

 少し驚いた様子でアナが振り返る。白帝が現れたことで周りの空気が変わった。

 

 近づこうとしていたものは、距離を置き、駆けつけてきた十六夜たちもかたずをのんで見守っている。

 

「貴様の、復讐は失敗に終わってしまったのだ。今回は、お前の負けだ」

 

「くッッ・・・私はまだ・・・」

 

「諦めろとは言わんよ。しかし、このギフトゲームではお前の負けだ。恨みを忘れろとは言わん。だが、今回は諦めろ。お前は、お前たちは、この町と・・・ノーネームの挑戦者に負けたのだ。引き際が分からないほど愚かではあるまい?」

 

 白の言葉が、静かに響いていく。ペストは、伏せていた顔を上げて

 

「まだよ・・・私はまだあきらめない・・・情報は渡すわ」

 

 そう言って、ペストは羊皮紙を取り出した。

 

「これは?」

 

「ここに知りたいことは書いてあるわ」

 

「・・・そうか」

 

「だから、ここからはあなたもその部下も介入するな!!!」

 

 瞬間、死の風が吹き荒れた。間一髪で白とアナは躱した。

 

「アナ・・・手加減をしすぎたんじゃないか?」

 

「・・・いえ、あれは彼女の執念です」

 

「・・・ここから先は、ノーネームにサラマンドラに預ける。痛みを受けたやつが戦え」

 

「は、当たり前だぜ!!!」

 

 十六夜が吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

(どうせ負けるのなら、・・・あの2人に笑われないような幕引きにしないとね。)

 

 そう決意した、ペストは高らかに宣言する。

 

 

 

「聞きなさい!私こそ、死の風を操りあらゆるものに死を与える死神、"黒死斑の死神"(ペスト)! かかってきなさい、たった一人でも貴方達全員くらい相手してあげるわ!」

 

 

 

 街全体に死の風をまき散らすペスト、それを吸った参加者が次々と体調が悪くなり徐々に弱り始める。 即死でないものの、このまま長引けば死ぬのは目に見えていた。

 

 

 

「黒ウサギ一気に片を付ける」

 

 

 

「了解しました! 黒ウサギのとっておきの内の一つ。お見せします!」

 

 

 

 黒ウサギの持つ白黒のギフトカードが輝く。

 

 

 

 温度が急激に下がり、大気が凍りつくほど過酷な環境を体験したかと思えば、気がつけば一面灰色の荒野に白達はいた。

 

 

 

 上を見れば、逆さになった箱庭が浮かんでいた。

 

 

 

「な、 "月界神殿"!軍神ではなく、月神の神格を持つギフト!」

 

 

 

「YES!このギフトこそ、我々"月の兎"が招かれた神殿!帝釈天様と月神様から譲り受けた、"月界神殿"でございます!」

 

 

 

 顔面蒼白なペストの叫びに両手を広げて言う黒ウサギ。

 

 

 

「け、けど......!ルールではゲーム盤から出る事は禁じられてるはず、」

 

 

 

「ちゃんとゲーム盤の枠内に居りますよ?ただ、高度が物凄く高いだけでございます。」

 

 

 

「!?」

 

 

 

 黒ウサギの説明に息をのむペスト。

 

 

 

「サンドラ様、少しの間ペストの相手をお願いします。黒ウサギも直ぐに向かいますゆえ。」

 

 

 

 黒ウサギに言われ、サンドラは急な状況に戸惑うペストへと向かっていった。

 

 

 

 サンドラがペストの気を引いているのを確認した黒ウサギは、ギフトカードから三叉の槍が描かれた紙片を取り出しす。紙片は雷鳴とともに槍へ変わり、飛鳥に渡す。

 

 

 

「この槍を彼女に当ててください。」

 

 

 

「うん、分かったわ」

 

 

 

 飛鳥はデイーンにやりを持たせ、黒ウサギたちが隙を作り、ペストに当てて見せた。

 

 

 

 ああ、負けてしまったな、あの魔王・・・まあでも、

 

『聞きなさい!私こそ、死の風を操りあらゆるものに死を与える死神、"黒死斑の魔王"ペスト! かかってきなさい、たった一人でも貴方達全員くらい相手してあげるわ!』

 

 あの啖呵は素晴らしかった。新米魔王だと侮っていたのは、失礼だったな、

 

「安らかに眠れ・・・"黒死斑の魔王」

 

★★★★

 

「しかし、凄まじかったな」

「ああ、部下のアナがあのレベルということは白帝はどれだけの力を持っているんだろうな」

「恐ろしぜ」

あの後、魔王が倒されもろもろの収集が付いたころ色々な噂や憶測が飛び交っていた。どれも、白帝を恐れるものばかりだったが

「へ、部下が強いだけで本人を強いと考えるのは早計だろうよ」

などという声もあった。少数ではあるもののまだ下層には白帝の脅威は伝わり切っていない・・・

「・・・次は、俺が主体で動く必要があるな・・・」

白帝の暗躍が止まらない。

 

 

 




火龍誕生祭は終わりです。少し間が空きます。


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