息抜きで書いたイノベイター転生 (伊つき)
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プロット

現在の最新話(辿り着いた領域)からセカンドシーズン最終話までのプロットです。最後まで書きあげるつもりですが、更新速度はこれまで通りゆっくり更新していくのでささっと結末だけ知りたい人用です。過激な感想はお控えください。
※殴り書きな部分もあるので少し読みづらいかもしれません。申し訳ありません。


 

もちろん先の展開を含みます。ご注意ください。

現段階のプロットなので変わる可能性がありますが、現状考えているストーリーが以下です。

※細かいメモは新しいのが沢山ありますが、全体を記しているプロット的なものが古いのしかなかったので後半はアテになりません。大きく間違ってるところは書き直しましたので問題ないとは思いますが。最後に抜けてる重要なところを記してます。

 

 

 

 

 

 

 

 

・宇宙に散る

トランザムでぶつかり合うネルシェンとレナ。猛攻の中、粒子残量の危機を感じたレナは最後の一撃にかける。既に武装はバスターライフル一丁とビームサーサーベルのみ。

特攻を仕掛けるレナだが、能力発動のトリガーに集中力を使うため、レナの能力は持久性が欠如している。そのため、既に疲労困憊のレナの視界は疲れで歪み初め、その影響でネルシェンの動きを見分けられず、ラストワンセコンドトランザムを全て回避に注いだネルシェンの予備動作に気づかなかった。

ワンセコンドで回避したネルシェンにレナは驚き、回避後、そのまま稼働を続けるギルスに疑問を持つが、ダブルドライヴに気付き、それを最後に、振り払われた刃がサハクエルのコクピットを抉る。

サハクエルが大破し、外宇宙へと流れていく。

レナの最後を確認しにきたレンがサハクエルのコクピットに脚をかけ、レナを見下ろす。レンの姿、(悲しそうな寂しそうな)言葉を聞いたレナはレンの正体に気付いてレンに触れようとしながら謝罪を口にする。思わず声を漏らしたレンだが、既にレナの意識がおち、もやもらした気持ちを抱えることになる。

 

・決断

悩み続けるレイはメメントモリの存在をレナのメールで知る。だが、いつもと違い、レイは脳量子派を遮断していなかった。いつもと違うタイミングと、以前意見が食い違ってからは連絡をくれなかったのに突然連絡が届いたことにレイは訝しんだが、レナからの情報=メメントモリについてレイは驚き、リボンズの正気を疑う。

 

しかし、残虐さの違いはあっても本質は自分と変わらないと気付いた。

 

一方トレミーチームもメメントモリの情報を掴む。衛星兵器を見たティエリアはイノベイターについて告白し、原作通りのやり取りを終えると話を聞いていたマリーがおずおずと申し出る。

それは、イノベイターを1人知っているとの内容だった。

 

レイ視点に戻り、レイは己の間違いに気付き、メメントモリを破壊しようと考えるが、CBとアロウズの戦闘を知り、先にそちらに介入する。

 

 

・深雪

戦闘中、ジニンが亡くなり、ダブルオーライザーへと挑むレイはダブルオーライザーのトランザムバースト(?)の粒子を浴びる。彼の脳裏に浮かぶのは少女についての記憶、深雪について断片的に思い出すが、レナ=深雪にはたどり着けない。

 

 

・想いを継ぐ者

ダブルオーライザーの粒子を浴びて戦闘続行不可となったレイは戦線を離脱する。

しばらく休んだ後、メメントモリへと到達したレイはメメントモリ破壊行動に移る。メールでレナの示したプロセス通りに作戦を開始する。その作戦はGNメガランチャーでの同地点狙撃を5回繰り返せば電磁場光共振部を破壊し、メメントモリを潰せるというものだ。

レイはレナの立てた作戦通りに動く。

まず、リングの上からメメントモリを狙うことで、敵(味方)のビーム兵器を無効すること。彼らはリングを狙えない。メメントモリが建造的観点から不安定になるから。

メメントモリの防衛についていたヒリングと対峙するレイ。ヒリングはレイの離反を残念に思いつつ馬鹿だと指摘する。そんなヒリングも説得しようとするレイ。しかし、ヒリングの説得に失敗し、作戦時間の猶予がなくなったレイはヒリングを無力化。そのまま5回目の狙撃をしようとするが、アヘッドが包囲網をしく。

レイはビーム兵器が使えない中、その行動をいぶかしんだが、狙いを察する。ボムを使用してのレイの捕獲。その狙いに気付いたレイは機体の微妙な姿勢調整だけで全て回避、包囲網をくぐり抜けて5回目の狙撃を行った。その際に母艦からの攻撃を受けてGNメガランチャーは大破する。

焦るリントに勝利を確信したレイ。だが、電磁場光共振部は破壊されていなかった。レイの5回目の狙撃の照準が微妙にズレていたからだ。

今度はリントが勝利を確信したが、目を見開く。なぜなら、ならば、とレイがビームサーベルを抜いてメメントモリに直接向かっていたからだ。リントからビーム兵器の許可がおり、部隊がレイを狙うが被弾しながらもレイがメメントモリを破壊。その後ボムでレイは確保された。

 

ダンチ言えなかったじゃない!

 

・パーフェクトガルムブラック

宇宙の収監施設へと連行されていたレイだが、人革連時代の兵士・整備員達やツヴァイからガンダムに命を救われたアイリス社の社員たちが偶然にもレイとガルムブラックを輸送する輸送艦に搭乗しており(フォンのヴェーダによる妨害のおかげ)、レイに協力し、送還中に脱出の手配をしてくれることになる。彼らはオービタルリング上のメメントモリの2号機をレイが破壊しようとしてることを聞いて協力する。さらに、皮肉で与えられたレイの機体がガンダムだったことが幸いし、アイリス社出身の整備士たちが4年前のことでガンダムに恩返ししたいといいだし、送還中にレイのガルムブラックを密かに修理。

彼らはレイの解放を企てるが、トレミーの方でマリーの願いが通ったソレスタルビーイングが動き、メメントモリについてレイに協力を仰ぐ(形は利用)ため、フェレシュテのアストレア(エコ)が送還中に接近し、防衛のために艦に唯一乗っていたガルムブラックが出撃することになる。ガルムブラックはそこでパーフェクトスタイルを披露し、出撃するがエコは退散。(この時原作だとCBとフェレシュテの連携が切れてたような気もするけどその辺は何とか改変いれる)←マジ?忘れてたわ

一応迎撃という形で出撃したレイだが、そのまま逃げて欲しいという同志達の言葉でメメントモリ2号機の破壊に向かい、メメントモリ2号機周辺で戦闘が始まる。

次はアーサー・グッドマンが相手。さらにネルシェンがレイに初めてギルスを晒して参入し、一気に苦戦する。もしくはリヴァイヴかブリング。ギルスはアフリカタワーで遭遇させたい。そこにトレミーが参戦。

 

メメントモリ2号機を破壊する。

しかし、反逆者の扱いを受けていて機体が満身創痍だったレイは宇宙側をアロウズに包囲され、地球に逃げるしかなく、トレミーもイノベイターの待ち伏せで原作のメメントモリ1号機倒したあとみたいに地球に逃げる。刹那もネーナの言葉で地上へ、そのままサーシェス&リボンズのやり取りからのカタロン基地でマリナ。(刹那側は書かなくていい)

 

レイは地上に降りたあと、正規軍と合流。そこにはスミルノフ大佐がいて、介抱してもらう。

アフリカタワーテロについて聞く。

 

話の途中、脳量子波を感じてブリング&リヴァイヴVSCBの戦闘に気付き、介入。

レイが両者の戦闘行為を止めさせ、ブリング死亡回避。

 

 

・ブレイクピラー

アフリカタワーテロについて耳にしたレイは現場へと急行する。だが、その道中、ネルシェンの妨害を受ける。反逆者を始末しに来たネルシェンは「最強」の証としてレイの前に立ち塞がり、「最速」の称号を求めてレイを狙う。ネルシェンのトランザムにレイは驚愕するが、呆気に取られるのもつかの間、反射神経でトランザムに対応する。

レイの中の"何か"に変革の予兆が見られるようになる。←忘れてるので実際は入れない可能性。こんなのあったっけ。

武装を駆使し、レイはネルシェンと衝突する。だが、トランザムを相手にさすがに苦戦し始めたレイをレオとニールが助ける。

この際ニールは少しイラつき気味?←逆でもOK。どっちでもニールのキャラに合う。難しい。

ネルシェンの猛攻が止まり、レイはレオとニールの言葉に甘えて先行する。

デュナメス&プルトーネブラックVSギルス。

現場にたどり着いたレイだが、アロウズの部隊配置には異変が……。三つ目のメメントモリが登場。

 

 

・死の襲来

メメントモリ3号機に戦慄するレイ。

そんな時、脱出するカタロン部隊を裏切る地上部隊にレイは目を見開く。悲惨な戦場に耐えられなくなったレイは戦いを止めようと戦闘に参加する。そこへソレスタルビーイングも駆け付ける。レーダーの中で上昇していくトレミー。そこから出撃するダブルオーライザーを目撃する。

GNメガランチャーの照準で邪魔をするエンプラスを捉える。ダブルオーライザーがメメントモリを破壊すると予測したレイはエンプラスの妨害を始め、デヴァインと対立。デヴァイン死亡回避。デヴァインの邪魔をするレイをブリングが妨害する。ブリングに対してイノベイドの犠牲について説得するレイ。ブリングに響き始める。(最初は必要な犠牲だと割り切る)

照射されるメメントモリ。レイはピラーの破片を地上に落とさせないように戦場にいる全機に通信を繋いで呼びかける。スメルギのような予測能力をレイは持っていないので、メメントモリによるピラーの破壊に気づいたのはレイの前世の記憶を元にとった正史の記録をレナがメールを通して伝えていたから。←(変更可能性)本来は2号機しかないメメントモリだが、3号機があってもおかしくは無いとレナの予測。(もうちょい前に挟む)

全陣営の協力の元、なんとか事を終えるが……ハーキュリー大佐がアンドレイに討たれる。

そのままスミルノフ大佐を殺そうとするアンドレイに激昴するレイとソーマ。そこへガンダムアズラエルが現れる。

アズラエルは以前のようなプロトタイプではなく、完成系となり、黒一色だったカラーリングも赤と黒のツートンになり、武装も増えている。アンドレイや大佐、レイたちのやり取りをくだらないと笑う声。レイは4年前に最後に聞いた声だと気付き、警戒する。

アズラエルのパイロット、レンの物言いが気に入らなかったアンドレイはアズラエルへと挑むが、レンの近接戦闘能力により、秒殺。無力化されて地上へと落ちていく。アンドレイがやられてスミルノフ大佐がアンドレイの名を叫ぶ。続いてレンは邪魔な機体が多いという理由でドラグーンを放つ。ドラグーンの名を聞いてレイが断片的な記憶を思い出し、誘導兵器がくると警告する。身構えるスミルノフ、ソーマ、ルイス。ドラグーンによってルイスが無力化。スミルノフ大佐も損傷する。他の機体をあらかた落としたレンはドラグーンに対応しているレイに目をつけ、攻撃を仕掛ける。レンの狙いはレイ。混成種のイノベイターになるためにレイを殺す必要があると言い、レイは初めて聞いたワードに戸惑いながら戦う。脳量子波に違和感を覚える。他のイノベイターと違う。ナオヤと近いが、それとも違う。レナに近い。

レンの能力には効果が表れる範囲があると見抜いたスミルノフ大佐はレイに距離を詰められないようにすることを忠告する。能力について一部看破されたレンはスミルノフ大佐に目をつけ、先にそっちを潰そうとする。ソーマが妨害しようと大佐と共に遠距離攻撃を仕掛けるが、アズラエルの近接範囲に入った瞬間に対応される。遠距離攻撃もレンの領域(テリトリー)の前では無力。レイ、ソーマ、大佐の3人がかりでレンに挑むが、その途中、レンに距離を詰められてスミルノフ大佐が撃破される。大佐がやられてレイとソーマが怒る。しかし、ソーマを蹴散らしたレンがレイを本格的に追い詰め、レイも撃破される。

レイの視界が真っ暗になる。

 

 

 

・覚醒

目を覚ましたそこはイノベイターの本拠。レイの前でレナの屍が放られる。レナへと縋りよろうとするレイを凶弾が貫き、彼の意識も遠のいていく。レイがレナの手に伸ばす。

あと少し、ほんの少し、指が触れ合う瞬間。深雪を失った記憶から連鎖的に失われた記憶が紡がれていく。覚醒する深也。混じり合う2人。深夜とレイ。

レイ・デスペアは混成種のイノベイターとなる。

リボンズはレイを混成種に覚醒し、その力を研究して自分に還元しようと狙っていたが、レイがヴェーダの全権利を奪い、想定を遥かに超えて増幅していくレイの脳量子派にリボンズは思わず引き金を引き、その命を奪う。

しかし、次の瞬間、リボンズの腕を、サーシェスの足と手を貫く銃弾が。

レナが、目を覚ます。その身を起こす彼女の肉体はレイの意思で動く。

正確な射撃に不利を悟ったサーシェスは物陰に身を隠して様子を見て、リボンズはレナを撃つ。

レナの死を確認し、リボンズとサーシェスが去ったあと、誰もがいなくなった空間で倒れるレナの身体。その身体に宿るレイの意思。

遠のく意識の中、レナの本当の死を感じ、レイは涙ながらにその最期を迎える。最後に映ったのはリジェネだった。(レナの身体を乗っ取ったのはレナの最後の意志)

 

 

 

・混成種のイノベイター

ヴェーダで目を覚ましたレイはリジェネに迎えられ、『混成種のイノベイター』と呼ばれる。ヴェーダの全権利を託されたレイは状況を理解し、真実を全て知ることになった。

記憶も完全に取り戻したレイはレナと深雪の死を実感するが、そこで涙が出ないことに気付く。

二つの感情の増幅を用いてなり得る混成種の代償―――進化したレイはその過程で二つの感情を捧げたが為に副作用として哀しみと怒りの感情が薄まってしまった。

レイはレンが前世の実の弟の橘深介だと気付く。レナの死に悲しむが、2人で目指した理想をもう一度考え直し、本当に叶えるべき理想を胸に枯れた瞳に光を宿し始め、立ち上がる。すぐにレナのコロニーに向かい、ニール達と合流。当然揉めあいとなり、みんなレイを受け付けないが、唯一最年長の男の子・シンだけが受け付ける。メメントモリ3号機の破壊ミッションを決行する。

モビルスーツのないレイの前に用意されたのは―――純白のガンダム。

 

 

 

・Crying Angel

ガンダムイスラフィム。

レナが遺した最後のガンダム。

レイはその機体への搭乗をデルたちと交渉し、条件付きでイスラフィムの搭乗権を得る。イスラフィムには専用の太陽炉がないため、汎用の擬似太陽炉で動かす。ネルシェンが襲撃に来るが、返り討ちにする。

アズラエル、混成種に半覚醒のレン(レイを殺した確証がないため。後にレイに指摘される)に苦戦し、メメントモリの破壊に手間取っていたトレミーチームとアロウズとの戦いに割って入る。戦場に現れると共に武装を全て放棄、全部隊に通信を繋いで訴えかける。その言葉を一切聞こうとしないアズラエルを格闘だけで撃退。(ソードビット?だけは動く。多分ソードビット)

敵の撤退後、レイは各ガンダムに包囲される。そこで残量粒子が尽き、レイが戦意はないことを伝えると、レイの声にソーマが反応してGNアーチャーでレイの元へと駆けつける。レイは戦場に出ているソーマに一瞬驚くが、察し、謝罪を口にする。

ソーマは首を振って泣いて喜ぶだけ。

レイは、イスラフィムと共に一度トレミーへと匿われる。

 

プトレマイオスに招き入れられたレイはトレミーチームと対談。次々と真実を暴露する。

長い話し合いが続く。(ここで構想の八割を吐く)

 

 

 

○レン・デスペア

 

大体のことを終えたレイが、レンについて切り出す。

4年前のこと。そして、レンの正体。最後にレイはこれから為すことについて口にする。それは、戦いを話し合い、分かり合うことで終わらせること。レナとの理想を叶えること。レンを救うこと。よりよい未来を作ること。

レイの想いを聞き、レイはトレミーチームにこれからの関係を問う。

最初に乗ったのは刹那。そこから皆が乗り、レイは新たな仲間として認められた。スメラギの気遣いにより、祝宴会を開くことになる?

敵の接近はレイによって未然に防がれることになる。

祝宴会ではレイがみなと触れ、ソーマとも言葉を交わす。そして、アレルヤとも―――。

 

 

 

 

・更なる敵

レイは疑問を抱いていた。

王家はレナを贔屓していて正史のように自己の利益でイノベイターに近付いたりしていない。では、王家の支援なしにイノベイターはどうしてメメントモリを建造できたのか、と。

それも本筋にはなかった3号機の存在。レイはそこから、ハレヴィ家の他に強大な財力支援をアロウズに行っている者がいることを推測し、アロウズが関係するパーティのリストを王家から提供してもらう。

トレミーチームにそのことを説明したレイは発案者として潜入に参加すると言い、ソーマもそれに便乗するがアレルヤが制止する。だが、ソーマはアレルヤに止める権利などないと言い放ち、憤るが、レイに制止され、気まづくなる。

レイの提案により、レイとアレルヤとソーマの3人で潜入することにする。

前の身体を失ったレイは元の中性の肉体に戻ったため、その容姿を利用して女装する。そして、ある者と再会する。アレハンドロ・コーナー、それが支援者の正体だった。死んだはずのアレハンドロ。トリニティのことを考えらるとレイは納得できなくなる。アレハンドロを討とするレイ。

そんな彼の前に6人のイノベイドが姿を見せる。

 

 

 

・アズラエル強襲

ナオヤに続く、新たな実験体。塩基配列パターン0000と他のイノベイドの細胞、混成種となったレイの細胞を組み合わせて完成させた肉体に転生者を宿した存在、アレハンドロが『ハイブリッター』と呼ぶ存在が放つ特殊な脳量子波がレイを苦しめる。純粋な塩基配列パターン0000にのみ、害的影響を及ぼし、混成種であるレイはさらに干渉力が高く、苦しむ。

ハイブリッター達に襲われていたレイをソーマとアレルヤがすんでのところで車で回収し、場を去る。

その後、ガンダムで撤退する彼らの前を阻んだのはレンとネルシェンだった。

ガンダムアズラエルとガンダムイスラフィムが衝突する。

 

レンに呼びかけても伝わらず、分かり合うことが出来なかったレイ。以前はレンが突然現れたイスラフィムに足元を救われていたが、きちんと対応すればレンの能力はレイの能力に対して相性問題で優位に立てるため、混成種のアドバンテージがあっても戦いは均衡する。ネルシェンに押されるアレルヤとソーマ。このままでは誰かがやられると察したレイはハレルヤを呼び起こす。目覚めたハレルヤは前より調子が良く、ネルシェンの攻撃に対応し始める。ハレルヤの協力もあり、戦線の離脱に成功する。

帰還したレイ、アレルヤ、ソーマは報告を済ませる。

 

 

・交錯する想い

アレルヤ、ソーマ、レイの関係。

 

アロウズの襲撃を受けたトレミーは対応する。ここは本編とほぼ一緒。

だが、イノベイターを捕らえる必要は無いので、レイがヒリング、ブリング、デヴァイン、リヴァイヴに語り掛ける。

イノベイター達と分かり合おうとするレイだが、レンの邪魔を受け、さらにはネルシェンの横槍も受ける。

そこをソーマやアレルヤがサポートに入る。(ソーマはアンドレイを諦めて)

激戦の中、イスラフィムは弱点である粒子切れを晒し、窮地に陥るが、そこへトリニティ艦の援護が入り、ニールとレオが戦闘に参加する。

窮地は逃れた。

ニールの登場にトレミーチームに衝撃が走る。

 

 

ネルシェンはこの戦いのあと、宇宙を漂流していたナオヤの死骸と機体を見つける。機体の映像にはハイブリッターの姿。彼らの機影が6機。

 

 

・友よ、永遠に

前回でニールはみんなに説明し、ニールの想い、彼の変わってないところにみんなが気付き始める。

特にフェルトが。

 

 

一方、イノベイターサイドではブレイクピラーでレイにかけられた言葉が気がかりなブリングは自分の気持ちを確かめるためにデヴァインやリヴァイヴたちの反対を押し切って単独発進する。その様を見てデヴァインの心が揺れ始める。

 

 

激戦を終えたトレミーとトリニティ艦。敵がヴェーダを奪還してくることを予測して作戦を立てる。

 

 

だが、そこへ敵機の接近を確認し、どよめく一同。

しかし、来たのは1機のみ。

さらには通信を繋いできて、イノベイターのブリング・スタビティであることを名乗る。レイに出てくることを望む彼の要望に一同は警戒するが(特にティエリア)、レイは要望に応える。(その際、ソーマが心配するが大丈夫だと告げる)

出撃したレイはイスラフィムで出るが、ブリングがガルムブラックを投げ渡す。欠点があるイスラフィムではなく、長期活動が可能な機体で本気の戦いを、決闘を望むと告げるブリング。レイは困惑し、ブリングに真意を問う。ブリングは己の使命の為に邪魔ものであるレイを倒すことを宣言。だが、本当は自分の心を見つめ直したい気持ちと自分を説得してくれてイノベイドであるレイを友と認識したブリングが彼の隣に歩くことはできない寧ろ敵対関係にある自分を超えさせる為に決闘を申し込む。

レイの意志を尊重するが、自身の信念も曲げないブリング。

彼の申し出に苦しむレイだが、決死の覚悟で受け入れる。

 

ガラッゾとガルムブラックが衝突する。

 

戦いの結果、トランザムの時間差でブリングが負け、自害する。

 

 

○ヒリング・ケア

ブリングを倒し、複雑な心境でありながらもやるべきことを思い返すレイ。ソーマはそんなレイを心配。ソーマ、アレルヤ、レイの関係の進展。

ヴェーダへと向かう途中、アロウズがトレミーを捕捉し、襲撃を受ける。ハイブリッターたちの強襲用モビルスーツが強襲する。

トレミーの捕捉に疑問を覚える一同。レイは真実を知っているため、伝えようとするがとりあえずは対応することに。

各ガンダム。レイはイスラフィムで出撃し、ハイブリッターと戦う。ハイブリッターはイスラフィムを狙うよう指示されており、レイは脳量子波のこともあり、苦戦する。レイを狙っていたレンがハイブリッターに憤り、レンも参戦する。さらに、交戦の中、混成種を倒そうとするリボンズの策略に乗ったリヴァイヴ、デヴァイン(ブリングの仇!)が攻めかかる。レンは獲物を奪われて怒るが、リヴァイヴ達に待てないと言われる。リヴァイヴとデヴァインがレイを攻める中、ヒリングも参戦。

ソーマが助けようと向かおうとするが、アロウズに阻まれる。脳量子波に苦しみながら10VS1の状況で戦うレイ。ティエリアが介入する。

ティエリアの協力により余裕が出来たレイはイノベイドに声をかける。

ここでレイの言葉に懐柔されるヒリングだが、直後、リボンズの支配を受ける。だが、レイの脳量子派によりヒリングを解放。ヒリングを匿おうとするが、手を伸ばしたヒリングの身体を粒子ビームが貫く。

爆炎に呑まれるヒリングに叫ぶレイは発射元を睨むとスナイパーライフルをもった機体。ハイブリッターの機体。

 

 

 

○アニュー・リターン

戦闘中、衝撃を受けながらも戦闘を続けるレイはリヴァイヴ、デヴァイン、アズラエルの猛攻に押され、ついに粒子残量が尽きる。ハイブリッターの1人、ユウキ・サープラスの実験。感情を失った混成種を刺激して感情を復活させるとどうなるのか。そのためにユウキは妹のユウナ・サープラスを刺激してヒリングを殺させた。

危機が迫ったレイを刹那、アレルヤ、ソーマが救い、なんとか持ち堪えて撤退する。ヒリングの死を悲しむレイ。ブリングの時と同じようにレイは切り替えていく。トレミーとトリニティ艦は一旦は逃げるが、アニューの脳量子派により、リヴァイヴに見つかる。

そして、アロウズ側ではヒリングの死の責任により、イノベイターだけが出撃することに。

一方、トレミーではレイがアニューがイノベイドであることを告げ、アニューに対してリボンズが干渉できないようにする。

 

 

 

そして、イノベイターの襲撃を受け、そこにはガッデスが。

イノベイターとの対決を始めるトレミーとトリニティ艦。

ニールはネルシェンと、レイはデヴァインとリヴァイヴと、ルイスと各ガンダム、ライルとアニュー、刹那はオーライザーの負傷により出撃に時間がかかり、戦闘が始まる。

レイはリヴァイヴとデヴァインを退け、ソーマ達を助ける。

そして、ケルディムの元へと向かい、アニューをリボンズから解放する。

二人を見届けるレイだが、レンの奇襲を受ける。

2人は衝突するが、イスラフィムが機能停止。

その危機は刹那によって防がれた。

 

この回で絹江がサハクエルで駆けつけ、ダブルオーサフィラのトランザムバースト、アニュー救いは有り。

ただその場合はサハクエルでのハイブリッター駆逐を早める必要がある。

 

ちなみにネルシェンの機体の中にはナオヤの死体がある。

狂ってるが、この戦いの後、ナオヤの死を受け止め始め、虚無になる。

 

・ダブルオーサフィラ

なんとか山場は乗り越えたが、やはりイスラフィムの稼働時間が問題点として上がった。

それについて、レイはヴェーダに検索すると黒HAROの中に答えがあるという。

そうしてメンバー全員で開いたデータの中にはレナが動画で起こしたデータがあった。

それがダブルオーサフィラ。

そして、それにはイスラフィムとサハクエルに合わせた純正オリジナル太陽炉が必要だということ。

レイはその太陽炉について検索し、すると火星に三つの太陽炉が隠されていることがわかった。(さすがに最終決戦に間に合わないのでイスラフィム譲渡のタイミングで動き始めるのもあり)

デルは急いで調達することを決行し、スメラギの見立てからアロウズは戦力を立て直すだろうということになり、その間、レイはネーナの捜索へと出る。

すると、ヴェーダでラグランジュ5にネーナを見つけ、そこへ急行することに。

ネーナはレナが死んでからイノベイターの手下として働き、ネルシェンを殺すためにアルケードライを求めるが、ついにその完成品を手に入れたところでリボンズに機体を乗っ取られ、離脱。スローネ ドライで逃げようとしたところをルイスに見つかり、襲撃を受ける。

死を受け入れようとするネーナだが、レイが救済。

ルイスとも言葉を交わし、彼女の意識に変革を残す。あとは沙慈次第。

 

 

・過去と未来

サハクエル用の太陽炉(ネオ・ドライヴ)が届いた。

しかし、何故かマッチングしない。

サハクエルなら生前のレナがネオドライヴを想定して調整している上に残りのメンバーで調整する際もほかの機体より勝手が分かっているはずなのに。

そんな時、ハイブリッターたちが襲いかかる。

ハッチにいたレイはサハクエルに語り掛け、起動。

そのままハイブリッターの半数を始末する。

→混成種の能力で相手の未来が見える。覚醒前は過去が見えていた。未来視でハイブリッターの苦しむ姿を見てナノマシン投与を辞めさせようとしたが失敗。仕方なく半数を殺す(殺さないと1人で防衛は厳しい。突破されてトレミーが被害に遭う未来が見えていた)(もしくはサハクエルやHAROがなんらかのバグを起こす)

 

 

・絹江の覚悟

絹江回。

サハクエルに絹江が乗ることになる。

本人の要望。

イスラフィムの太陽炉も到着し、ダブルオーサフィラの完成。

 

ここは練り直し。

 

 

 

○ユウキ・サープラス

 

ハイブリッターの1人、ユウキ・サープラスがフォン・スパークのヴェーダを奪還。さらにCB、デスペア、イノベイター、アロウズ、カタロンを滅ぼそうと超大型MA/MS『ガッディアス』を駆り月周辺にて両軍を圧倒。両軍が手を組み、ダブルオーライザー/サフィラのトランザムライザー/ライザーソードによって自慢の大型MAが破壊され、中から出てきた『ガッディオス』が逃亡を図るもライル、ルイス、ソーマによって撃墜。

その後、自身のヴェーダから遠隔操作していたため生存していた描写を挟むがそのヴェーダにアリー・アル・サーシェスが襲撃。アルケーガンダムとユウキ登場時から寝返るまで使用していた機体『ガデッサ サープラス仕様』で交戦する。2人は意気投合しつつも交戦し続けるが、そこにリヴァースガンダムが登場。新たな進化を遂げたリボンズ・アルマークにユウキは諦めて殺害される。

 

 

・未来へ

遂に最終決戦。

リボンズがヴェーダを奪還しにくる。

行こう、月の裏側でヴェーダ防衛戦。

 

ヴェーダの位置までいく。

アロウズの艦隊。

出撃シーン。

イスラフィム、ネオドライヴ同調。

 

・最終決戦

戦略を把握するレイにより、アロウズの作戦は尽くやぶられる。

カタロンや反乱軍(正規軍?)も参加する中、刹那のダブルオーライザーがアーサーを殺そうとするが、ネルシェンが妨害する。

レン―――アズラエルがダブルオーサフィラを強襲する。

レイはレンに叫び続けるがレンはわかってくれない。

レンに押されそうになったレイを救ったのはソーマだった。

GNアーチャーがアズラエルと対峙する。

 

ダブルオーサフィラは戦線に復帰するが、兵器の気配を感じ、刹那と共に叫ぶが戦場に光が横切る。

兵器を潰そうと先行する各ガンダム。

順調に壊していくが、突如、ステルスフィールドがトリニティ艦側を妨害する。

 

ヤクートアルケーVSデュナメス、ケルディム

 

セラヴィーの相手はリヴァイヴとデヴァイン。

 

ダブルオーライザーの相手はルイス。

 

ガガの特攻。

一瞬苦戦→レイのトランザムバーストを使用した訴えにガガ部隊の動きが止まる。

トレミーを守るため、リジェネがガデッサで出撃する。

 

レイはセラヴィーの元に行き、リヴァイヴとデヴァインに語り掛ける。

 

・愛情

ソーマVSレン

サーシェスVSロックオン兄弟

 

レン、ソーマにより改心。生き残りのハイブリッター2人を相手に協力して撃墜する。

 

・改変

最終決戦。

レンを自由にしてレイを刺激し、混成種化させたのもハイブリッターなどの実験を繰り返していたのも塩基配列パターン0000や混成種の力をリボンズ自身に還元する方法を模索ためであったことが判明する。

リボンズ1人にレイと刹那が苦戦する。

2人が負けたあと、レンとネルシェンがリボンズに挑み、時間を稼ぐ。その間にチャージしたトランザムライザーを放つ。リボンズ損傷。

 

・イノベイター転生の終わり

Oガンダムに搭乗したリボンズ、エクシアリペアIIに搭乗した刹那、プルトーネブラック(もしくはティエレン、ティエレン チーツー)に搭乗し衝突。レイの説得によりリボンズが改心、しかしその後自ら命を絶つ。

戦いが終わり、リボンズの死に意気消沈するレイ。レナとの約束を果たせなかったレイはデルたちとの約束通り死を選ぼうとするが、ヴェーダから入った情報に思いとどまる。

少し前、リボンズによって大破したアズラエルのコクピット内でレンはレナ復活に必要な最後の情報をヴェーダに発信する。

レナが生き返った、その情報を知りヴェーダに辿り着いたレイはレナと再会する。レナ生存によりデルたちとの約束消失。レイ死亡回避。イノベイター転生が終わる。

 

 

プロットが古すぎるので後半はアテにしないでください。

 

以下追記(メモ)

 

ソーマのイノベイター化。

レナの再生。

トリニティの復活。

ネルシェンの味方化・自虐→ネーナ相手にしない、成長

 

 

まとめ:全体の流れ

 

①メメントモリ(レイvsアロウズ)

②ブレイクピラー(メメントモリ3号機、レイ・マリー・セルゲイ接触)

③混成種の登場、ヴェーダの全権利レイに移行

④リボンズがヴェーダを奪いに行く展開、月を目指すのはイノベイターとアロウズ

⑤ヴェーダ防衛のため月へ向かうCBとデスペア、それに対するイノベイター勢力にアレハンドロとハイブリッターが加わる

⑥ハイブリッターの1人、ユウキ・サープラスがフォンのヴェーダを奪還その後両陣営により敗北

⑦アロウズ戦闘不能、その後イノベイターとCB&デスペアが衝突し、リボンズ・アルマークが改心する



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1st season
イノベイター


アマプラで1st2nd全話見直ししてたらまさかのニコ動で一挙放送。
そのせいか最近タブルオー作品も増えたような気がしたので流行りに乗って視聴中に練ってた構想で書いてみました。
単なる息抜きで書いたものですのでお気軽に読んでみてください。


転生もののライトノベルは何度か読んだことがある。

だからここは敢えてテンプレでいこう。

 

俺はどうやら『機動戦士ガンダム00』の世界に転生してしまったらしい。

 

それもイノベイターとなったらしい。

いや、刹那・F・セイエイのような純粋種(オリジナル)じゃないからイノベイドというべきだろう。

そして、転生には神様か何かが干渉したのかイノベイドであることが『特典』となってるらしい。

 

まったくもって要らない親切心だ。

この際だから告白しておこう。俺は転生ものを読むのは好きでも憧れは全くないといっていい。大体何故自分から命の危機がある世界にいって喜ぶのか俺には理解できない。

 

平和な日本の自室という幸せな空間でアニメを見るのが至福だろうに。

だが、転生してしまったものは仕方ない。どうにかして物語には干渉せず圏外で世界観を楽しもう。

そう考えた時俺は自分がイノベイドであることが発覚した。

 

最悪だ。

物語に関わること間違いなし。寧ろイノベイドは2nd seasonの主要キャラだ。やばい、死ぬ。

確実に生き残れる自信が無い。日本でほのぼのと特に運動もせず過ごしてきた一般人にイノベイドは荷が重過ぎる。

もし紛争に巻き込まれるなら間違いなく最初に殺されるイノベイドだ。

良かったなブリング・スタビティ、多分ティエリアに殺されるのは俺だ。

 

と、ここまで話せばもういいだろう。とにかく俺は現実を受け入れるしかない。

イノベイドとして生きるために覚悟を決め、『ヴェーダ』によって作り出された俺はポッドから下界へと踏み出した。

 

俺はイノベイド。そんな俺の新たな名はレイ・デスペアらしい。

前世の名前はこの際どうでもいいので割愛する。

どうせもう使わないだろう。

ちなみに名前は『ヴェーダ』から教わった。

 

レイとして生きる俺にはまず最初に会わなければならない人物がいる。

その名もリボンズ・アルマーク。

イノベイド…リボンズがイノベイターだと主張し始めるとめんどくさいのでイノベイターで統一しよう。

イノベイターのリーダー格であるリボンズに会わねば俺はイノベイター界でやっていけないだろう。

 

目標は物語にできるだけ干渉しないように生存ルートを辿ること。

世界観を第三者目線で楽しめるのならなら良し。

確かイノベイターにはマイスタータイプと情報タイプがいた筈。

アニューのようにならなければ情報タイプとして世界の隅っこで生きれるはずだ。

問題は俺が情報タイプなのか、だが――。

 

「おや。君が今日生まれたイノベイターかい?」

 

アニメでよく見たイノベイター達の本拠。

実はここに来るまで色々と道のりを辿ってきたが割愛。

塩基配列パターン0026、リボンズ・アルマークと俺は初対面した。

今は他にイノベイターがいない。

恐らくリボンズが予め俺に気を使って人払いしてくれたのだろう。

できる男というやつだ。いや、確かリボンズはマイスタータイプだから性別はないか。

 

生まれて初めて出会った自分以外の生命体。

尚、今世で、がつくが。

俺はリボンズとの挨拶を済ませることにした。

 

「初めまして。レイ・デスペアと申します」

「はははっ。そんなに畏まらなくていいんだよ。僕達は同じイノベイターなのだから」

「は、はは。そうですか…」

 

なんか適当な返しになってしまった。

リボンズの紳士的な態度とは裏腹に俺は上手く呂律が回らない。

別に人見知りやコミュニケーション能力に問題があった覚えは前世でもないが、ただ単にリボンズと言葉を交わしたことに緊張しているのだろう。

 

まあラスボスだって知ってるし自然とね。

あ、やばい。これ思考読まれたりしてないよな?

読まれたらここでデットエンドだ。

そう考えるともうどうにでもなれと思えてきた。

 

「これからよろしく頼むよ。レイ・デスペア」

「あ、あぁ…よろしく。リボンズ・アルマーク」

 

握手を交わす俺とリボンズ。

これで互いに紹介を済ませ、志を共にする仲間となれた。

ひとまず安心だ。

多分思考も読まれてないんだろう。

 

ということは今のリボンズは『ヴェーダ』を掌握してない?

まだ1stなのか、それとも本編は始まってないのかもしれないな。

そこは後で世界情勢を調べると共に検索しよう。

俺はまだ現状を把握していないからな。

 

だが、その前に俺はまだ知らなきゃいけないことがある。

リボンズなら俺の知りたいことを知っている。

さっそくリボンズに尋ねてみた。

 

「リボンズ。俺は…その…マイスタータイプなのか?それとも情報タイプなのか?」

「ふむ…そうだね…」

 

リボンズが顎に手を当て、俺を見つめる。

リボンズって美形だから少しドキッとするな。

アニメでよく見たイノベイター特有の虹色の瞳が俺を捉えている。

 

何をしてるのかよく分からんが多分なにかしらしてるんだろう……って自分で言ってて適当だな。

黒幕なんだからもう少し緊張感を持たなきゃいけないのに。

 

「そうだね。君は――」

「……っ」

 

ゴクリ…。

運命の瞬間だ。

レイ・デスペアとしての人生が左右されると言っても過言ではない。

俺は情報タイプであることを祈ってリボンズの言葉の続きを待った。

頼む、情報タイプであってくれ。

 

「うん。マイスタータイプだね」

 

はい!ありがとうございました!コンチクショウ!!

 

リボンズの笑顔が逆に辛い。

これで紛争に巻き込まれること間違いなし。

俺は戦いを回避できなくなった。

うぅぐあああああああああああーーー!!

ただのオタクが戦争に参加とか笑えない!

 

急に悶絶しだした俺にリボンズは笑顔で首を傾げている。

硬直するのはわかる。

俺も目の前で急に奇行に走る人物がいたら普通に引く。

まあということで俺はマイスタータイプでした。

ガデッサでも乗るのかな。

今は考えたくもない…。

 

「あ、ありがとう。よく分かったよ…うん…」

「そうかい?お役に立てて嬉しいよ」

 

リボンズが優しいんじゃないかと錯覚してきた。

まあイノベイターに対しては表面上は人柄良かったはずだ。

マイスタータイプであることは分かった。

リボンズから聞き出せたいことを聞けた俺はリボンズに別れを告げ、自室に篭った。

 

なんかマイスタータイプはイオリア計画に必要だから本拠が住処となるらしい。

自室も割り振られた。

他のイノベイターにはまだ会ってない。

恐らく明日会えるだろう。

 

俺はベッドに寝転がる。

無骨な天井が虚しさを放っていた。

これからどうなるのだろう、想像もつかない。

枕に頭を預ける俺は眠気が迫ってきた。

まだ生まれたばかりで動き回ったせいか疲労が蓄積している。

今日は寝るとしよう。

 

明日には世界の情勢を調べて、時系列を整理する。

リボンズが紹介してくれるイノベイターと会う予定だ。

まあアニメを見た俺は大体誰と会うのか知っている。

とりあえず現実を受け入れるためにももう寝よう。

もう癒しがアニューしかいない気がする中、俺は意識を手放した。

 

「あ、でもアニューはロックオンの女か…。いいなぁ」

 

癒しに男ができる。

もはや絶望しかないと俺は思った。

 



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変革の始まり

口調間違ってたら遠慮せず報告してください。


『私達はソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶するために創設された武装組織です』

 

巨大なモニターに映し出されているイオリア・シュヘンベルグ。

世界に変革をもたらすイオリアの宣言が人々を困惑させる。

人々は勿論、ユニオンやAEU、人革連もソレスタルビーイングの宣戦布告を聞いて空いた口が塞がらなくなっている頃だろう。

グラハムなんかは矛盾してるとかいって笑ってた気がする。

 

元々イオリアの計画を知っていたイノベイター側の俺からすると――というか転生者で話を全部分かってる俺は生でイオリアを見て感激しただけだった。

イオリアほんとにいたもん!ってどこぞのメイちゃんみたいに元の世界のオタク共に知らせてやりたい。

ちなみにパトリック・コーラサワーの見世物は見てて凄い楽しかった。

 

「遂に始まったね」

「そのようだ」

「ねえ私っていつになったら戦えるの?」

「……」

 

前世では画面の中で見たイノベイター達の本拠にある長椅子。

そこに腰掛ける俺と他のイノベイター達。

本来なら2ndで出てくるリヴァイヴやヒリングだ。

皆してAEUのイナクトがガンダムに蹂躙される映像やイオリアの宣言を視聴していた。

 

「まだ僕らには関係ないさ。人類の上位種として、来るべき時まで僕らは観測するのみ」

「やっぱりそうなのね。ほんとつまんない」

 

ティエリアと同タイプのリジェネ・レジェッタ。

リジェネの言葉を聞いて落胆したのがリボンズと同タイプのヒリング・ケアだ。

ヒリングが好戦的なのは相変わらずらしい。

アニューの時とか見てるとちょっと残酷な性格持ちだよな。

まあそんな日頃の行いのせいかアレルヤとハレルヤの餌食になる最期を迎えるのだが、口が裂けても本人には言えないな。

 

「さて、ソレスタルビーイングはこれからどう動くのか見させてもらおう。イオリアの計画に彼らは相応しいのか…ね」

 

アニューと同タイプのリヴァイヴが楽しみとでも言うように笑っている。

まあ俺達はまだ高みの見物だからな。

ソレスタルビーイングがどのようにイオリアの計画を遂行していくのか、まだそれを見定める段階だ。

最終決定はリボンズだけどな。

 

と、まあアニメでみたイノベイター達。

まさか生で見れるとは思ってなかった。

オタクとしては最高の体験だと思う。俺がイノベイターじゃなければ。

 

今更だがリジェネといいヒリングといいリヴァイヴといい女っぽいやつが多い。

まあどいつもこいつもマイスタータイプだから性別はないんだけどさ。

そんな中一人男っぽいイノベイターがいる。

 

その名もブリング・スタビティ。

赤髪のイケメンだ。

俺もマイスタータイプで性別はないけど前世が男だけに話し掛けやすいのがブリングだ。

ただ――。

 

「なあブリング。ソレスタルビーイングの武力介入で世界は変わると思うか?」

「……」

 

はい、無視。

ブリングは基本返答をくれない。

知ってたけどこれが中々辛い。

そんな俺の問いにはリヴァイヴが答えてくれた。

 

「変わるだろうね。彼らが望む形かどうかはまだ分からないけどね」

「ガンダムを投入した武力介入…やっぱ変革は免れないってことか」

 

とりあえず適当に返した。

まあブリングに投げた問いの答えも分かってたからな。

世界は変わる。

ソレスタルビーイングの武力介入は歪んだ形で紛争を根絶しようとする世界を作ることになる。

そして、紛争根絶だのなんだのを建前に虐殺行為などに訴えるアロウズを背後から操るのが俺達となる。

その時には部外者でいたいな。

 

「ところで僕とは初めてましてだったね。レイ・デスペア。ソレスタルビーイングが動き出して挨拶をするタイミングを見失っていたよ」

「え?あ、あぁ…そういえば、そうだな」

 

モニターから目線を外していきなり話を変えてきたリヴァイヴ。

言われて気付いた。

リヴァイヴとはまだ挨拶を済ませてなかったんだった。

原作知識で既に知ってたからもはや済ませたものだと思ってた。

 

「リヴァイヴ・リバイバル。よろしく」

「レイ・デスペアだ。よろしくな」

 

リヴァイヴと握手を交わす。

これで大体のイノベイターとは会ったことになるな。

情報タイプは世間に紛れ込んでたり、アニューもまだイノベイターを自覚してないから少なくとも2ndの時期になるまでは顔を合わせることはないだろう。

リヴァイヴとの挨拶を済ませるとヒリングが顔を覗かせてきた。

いきなり距離が近い。女の子みたいに美形だから少し驚いた。

 

「レイはさっきAEUのイナクトを真剣に見てたけどさぁ、もしかしてあんなしょっぼいMS(モビルスーツ)に興味あるの?」

「しょぼいってお前な…」

 

ヒリングといえばさっき俺がパトリック・コーラサワーの模擬戦を楽しく見ていた時にパトリックを盛大に指を指して馬鹿にしていた。

まったく気分が台無しだったな。

ヒリング達はMS(モビルスーツ)を見慣れてるんだろうが俺からしたら初めて見たMS(モビルスーツ)だ。

あんなでかいロボットが機敏に動くのは生で見るのとアニメーションで見るのとはまったく違う。

密かに喜んで視聴してたんだけどヒリングに見つかったらしい。

ヒリングは暇そうにしてたからな。適当に目を泳がせていたら楽しんでる俺を捉えたんだろう。

 

「まあいいじゃないか。趣味は人それぞれだ」

「あはは!何言ってるのリヴァイヴ?イナクトってどう見てもフラッグのパクリじゃない。それにあのパトリックって操縦者がいちいちウザイのよね」

「ヒリング。思ったことを口にしていいわけじゃない。レイはまだ生まれて時間が経っていない。MS(モビルスーツ)を見るのは初めてなんだろう。フラッグなんて知るはずもない」

「あーそれでイナクトなんかに感動してるの?それならしょうがないか。いいねぇ、これから見るのも全て新しい!最高ね」

「まあ、な」

 

当然のように繰り広げられる会話に圧倒されてしまった。

初々しい感じはリヴァイヴが誤魔化してくれたな。

ま、画面の中でならフラッグを見たことがあるが黙っておこう。

リヴァイヴの言ってる事は半分正しい。

実物のフラッグなんて見たことないからな。

 

とにかく重要なのはまだ俺達の出番はないということだ。

1stの時期が過ぎるまではリジェネが言ったように観測者として外見できる。

わざわざ物語の中心になんて行かなくともこの世界を現実に堪能出来るわけだ。

そうそう、これなら嬉しいんだよな。

ファンとして最高のプレゼントだ。

できればずっと部外者がいい。

 

だが、それはそうとして1stの期間の間何をしようか。

勿論ソレスタルビーイングの動きやその戦い、物語の世界情勢などには目を見張るつもりだけど大体いつ何が起こるかは知ってしまっている。

それ以外の時間となるとかなり暇だ。

 

「出番が来るまで案外やることないのか…」

「なになに、やっぱりレイも早く戦いたいの?いえ、戦いたいのよね?そうよね。ね?ね?」

 

まるで人が戦闘好きみたいな言い方やめてくれませんかね。

そもそもMS(モビルスーツ)を操縦したこともありません。

あ、そこら辺はマイスタータイプのイノベイターの能力が働くのか?

実際乗ってみないと分からないな。

あとヒリングはいちいち顔が近い。

ときめくからやめろ。

 

「ヒリング…少しは落ち着きを持ったらどうだい?」

「リヴァイヴには分からないのよ。私はとにかく早く戦いたいの!」

 

リヴァイヴの言葉には聞く耳持たず。

ヒリングの戦いたい病は暫く続きそうだ。

やっぱりこの二人はセット感があるな。

最終戦もリボンズの加勢に来た二人だし気が合うのかもしれない。

 

さて、これからどうするかだがまあアニメでは見れなかった舞台の裏側を見ていればいいだろう。

他には文明は前世と変わらないんだしアニメを見たりゲームしたりもできる筈。

金は……働くかリボンズに貰うかだな。

 

画面に描かれる部分だけでない、転生したからこそもっと深く見れるものがある筈だ。

そう考えると良い案に思えてきた。

と、そこで端末の振動音が鳴る。

 

「ん?誰かのが鳴ってるわよ」

「私のじゃないな」

「僕のでもないよ」

「……俺も違う」

 

ヒリングを筆頭に誰もが首を振る。

じゃあ一体誰なんだ?

あ、俺か。

 

リボンズに会った日に受け取った端末。

俺は懐から取り出すと一通のメールが来ていた。

宛先はリボンズだ。

 

「なんかリボンズから連絡があるみたいだ」

「へぇ。リボンズからの連絡…何かあるのかしら?」

「興味深いね」

「大したことじゃないといいけどなー」

 

なんて言いながらメールを開く。

近未来的な小さなモニターが映る。

リボンズからのメールをクリックし、その文面をヒリングやリヴァイヴが覗いた。

えーと、なになに?

 

『レイ・デスペア。人類革新連盟軍への配属を命ず』

 

この一通が俺を戦場へと導いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

監視者アレハンドロ・コーナーは監視者としての役目を放棄した。

自身の計画のため、ソレスタルビーイングを利用する。

彼らがイオリアの計画を遂行していると思っているものは全て彼の計画の一部。

故に世界に変革をもたらすための最初の武力介入もアレハンドロの掌の上だ。

そんな彼の側近であるリボンズはとあるイノベイターに連絡を取った後、アレハンドロの元へと戻ってくる。

 

「君が推奨してきた彼のことはどうなったかな?」

「断れないよう手配しておきました。指示通り、人革連への入隊手続きも済ませておきましたよ」

「さすがリボンズ。君はまさしく私の天使だ」

「勿体なきお言葉です…。元々は私の我儘でしたから」

 

忠実なリボンズが頭を下げる。

ワインを口に含むアレハンドロは上機嫌で宇宙(そら)を見上げる。

 

「塩基配列パターン0000。これが何を意味するのか、私も見せてもらおう」

「えぇ。一緒にご覧になりましょう。きっと彼はご期待に応えられるかと思います」

「はははは。君が言うなら間違いないだろう、リボンズ」

 

端末の画面に映るのは黒髪のイノベイター。

表示のバグか、それとも何かを意味するのか。

彼の塩基配列パターンをリボンズも目に焼き付ける。

『ヴェーダ』が生み出した一人のイノベイターを見極めるためにリボンズは自らの掌の上でほくそ笑むアレハンドロに彼を委ねてみることにした。

 

「レイ・デスペア。君がなにであれ、イノベイドである限り僕から逃れられないよ」

 

ワインを揺らし、静かに微笑むリボンズ。

その瞳は色彩に輝いていた。



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超兵と荒熊

なんてこった。

夢なら覚めてくれ。

生後数十日でMS(モビルスーツ)操縦しろとかリボンズ中々鬼畜だ。

本来ならまだ離乳食すら食べてないだろ。

歩くより先に操縦とか笑えない。

 

とまあ現実逃避はここまでにして。

さっそく人革連のお偉いさんとの挨拶は済ませてある。

軍の入隊についてはリボンズかアレハンドロかは知らないが手回しがしてあるそうだ。

どっちも人革連とは直接的関係はないから間接的だろう、そこら辺は聞かされてないし興味も示したくない。

 

色々と経緯があって今はとある部隊の配属が決まっていた。

隊長の挨拶のためキム司令に呼び出されて、今は司令の部屋の裏口前にいる。

ここまでくれば大体誰の部隊に配属されるかは分かったようなものだが、決定打となる要素が一つ。

俺の隣には可憐な乙女がいると言っておこう。

尚、戦闘用改造人間。

 

彼女と指示があるまで待機している間、キム司令の部屋から話し声が聞こえる。

渋くてかっこいい声だ。

もう声だけでかっこいいって分かるのほんとずるい。

とりあえず呼ばれるまで暇だからキム司令のことでも考えておこうか。

 

キム司令といえば無能の印象が強いな。

2ndで中佐抹殺任務の意図を見抜けなかったし、特に活躍した場面の印象もない。

ただ1stで中佐を評価し続けたところを見るに人を見る目はある。

劇場版では現実を認められないまま退場したし、おっと上司に対して不安が出てきたぞ。

まあ配属される部隊の上司が最高だから文句は言わないでおこう。

人革連とかいうブラック企業であの人の部隊に入れるのはでかいよな。

 

あ、話変わるけどMS(モビルスーツ)の経験は未だに無い。

シミュレーション訓練なら1時間程受けたけどな。

たった1時間、されど1時間。

何がされどだよ。

1時間如きで身につくわけないだろ。

ちなみに射撃訓練の結果が一番酷かった。

まさか全弾当たらないなんてな。

エリートとしてスカウト配属された設定の俺が醜態晒すもんだから見に来てたお偉いさんは開いた口が塞がってなかった。

ざまぁみろ、なんの恨みもないけどてか恥ずかしい。

 

「専任の部隊を新設する。人選は君に任せるが、二人だけ面倒を見てもらいたい兵がいる」

「ん…?」

「入りたまえ」

 

考え事をしてたら向こう側から聞こえていた会話が大分進んでいた。

ていうか出番じゃないか。

俺の隣で一緒に待機していた女の子が開いた扉を潜っていく。

……俺は少し出遅れた。

 

「失礼します。超人機関技術研究所より派遣されました超兵1号、ソーマ・ピーリス少尉です」

 

先に前に出た女の子がセルゲイ・スミルノフ中佐に挨拶を済ませる。

そう、戦闘用改造人間もとい可憐な乙女はソーマ・ピーリス少尉。

マリー――は禁句だからアレルヤの彼女――もダメだ、なんて紹介したらいいのだろう。

改造人間、戦争のために作られた対ガンダムの超兵だ。

 

まさかのスミルノフ中佐とマリー……じゃなくてソーマ・ピーリスとの初対面にお邪魔できるとは思わなかった。

ファンなら興奮必須、俺からしたらできれば扉を開ける係をやりたかった。

なんでソーマ・ピーリスと並んでるんだろう。

 

「超人機関…?司令、まさかあの計画が…」

「水面下で続けられていたそうだ。上層部は対ガンダムの切り札と考えている」

「本日付で中佐の専任部隊に着任することになりました。宜しくお願いします」

 

淡々と挨拶するソーマ・ピーリス。

 

「それにしては若過ぎる…」

 

超兵だからといって戦いに介入するには若過ぎるのは頷ける。

これだから超人機関はダメなんだよ。

しかも女の子。もはや犯罪じゃ――。

まあそういうツッコミは控えておこう。

 

ソーマ・ピーリスに渋る反応をみせるスミルノフ中佐。

その顔が俺へと向く。

出遅れた俺はまだ挨拶をしてなかった。

 

「それで、貴官は?」

「レイ・デスペア少尉。ピーリス少尉と同様に本日付で中佐の部隊への配属が決まりました。経歴については大したものではないのでお暇な時に資料に目を通していただければ結構です」

「彼の資料は追って送る。素晴らしい経歴の持ち主だ」

「ふむ…」

 

俺に関しては特にないのか。

まあ普通に入隊してきた兵にしか見えないもんな。

スカウトであることはキム司令が話した。

後で偽造だらけの資料を見てくれることだろう。

大したことないと謙遜して、間を開けずに経歴を褒めてくるキム司令はなんなのか。

 

とにかく俺の配属はセルゲイ・スミルノフ中佐が専任する部隊となった。

まさか超兵と肩を並べることになるとは思わなかったな。

当然イノベイターってことは伏せなければならない。

だからヒリングとかが遊びで俺に脳量子波送ってきたらソーマ・ピーリスにバレるので危険だ。

頼むからやめろよ、やりそうで怖いんだよあいつ。

 

スミルノフ中佐の部隊としてこれから動くことになり、さっそく俺とソーマ・ピーリスは中佐と共に行動することになった。

本部を移動中、折角だし数少ない善人の中佐と話しておこう。

偽りの経歴とは違って俺は戦闘初心者だ。

何か学べるかもしれない。

……半分はファンとして話したいだけだが。

 

「スミルノフ中佐。中佐はガンダムと交戦したとお聞きしました。ガンダムと対峙した際の感想をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ふむ。貴官もやはりガンダムに興味があるのか」

「興味を持たない者はいないかと」

「ふっ、確かにな」

「……」

 

なんと俺の目の前で経歴の記されている資料に目を通してくれているスミルノフ中佐。

部下の事を把握しておこうとする姿勢がもはや良い上司であることを感じさせる。

でもそれ全部偽造です。ほんとごめんなさい。

そんな中佐は既にガンダムエクシア、刹那と交戦している。

尋ねてみると嫌がる様子なく答えてくれた。

 

「司令にも話したがあのガンダムというMS(モビルスーツ)に対抗できる機体は世界にはないだろう」

「それは、何故……」

「一番は機動力だ。ガンダムの機動力は凄まじい。私の考察ではないがガンダムが放つ光――粒子があの機動力を生み出していると考えられている。ガンダムの使う武器も然りだ」

「粒子ですか」

「あぁ」

 

間違いなくGNドライヴ、太陽炉だ。

確かにガンダムの機動力はGNドライヴの賜物。

初期の段階で見破っている人革連と中佐は大したものだ。

転生者とはいえ作品を見てなければ俺は今頃そこにはたどり着けなかったかもしれない。

いや、イノベイター側の情報で知れるか。

どうでもいいことを考察している間に今度はソーマ・ピーリスが前に出て口を開く。

会話に参加してくるとは思わなかったから少し驚いたな。

 

「中佐。ガンダムのパイロットについては何か感じることはありましたか?例えば年齢とか」

「未だ全貌のハッキリしないガンダムのパイロットとは通信を取れないのでは?」

「いや、実際に刃を交え、戦えば言葉を交わさずとも分かることはある。私は彼らの覚悟と信念を試したつもりだったが、返ってきたのは『若さ』だった」

「若さ?」

 

スミルノフ中佐の言葉にソーマ・ピーリスが首を傾げる。

可愛い。

 

MS(モビルスーツ)の動きに感情が乗っていた。あれはまだMS(モビルスーツ)での戦闘に慣れていない若者だ」

「ガンダムを操縦しているのは若者……。機体がどれだけ優れようと、そこに着け入る隙があるかもしれませんね」

「私の私見が正しければな」

「着け入る隙とは……一体どういう……」

「折角のガンダムを若さ故の乱暴さで能力を下げてしまうということさ。ガンダムが万能だとしてもパイロットは違うって言った方がわかりやすいかな」

「なるほど……。ありがとうございます、デスペア少尉」

「あぁ」

 

仲間になるとソーマ・ピーリスは案外素直だな。

俺の言葉に納得して自身の考察を練っているのかしきりに頷いている。

ソーマ・ピーリスも若い。

自分に当てはまるかもしれないとでも考えてるのかもな。

ところでソーマ・ピーリスってフルネーム言いづらいな。

後で呼び方考えておくか。

 

そんなこんなでスミルノフ中佐と話すことに成功した。

上司と部下のコミュニケーションは大切だ。

ちゃんと部下の質問には的確に返してくれるし、意図も汲み取ってくれる。

ブラック企業(人革連)で働く支えになりそうだ。

 

移動を終えるとスミルノフ中佐にはまだ仕事が残っているようで別れることになる。

新しい新設部隊の編成などやることは多いそうだ。

ちなみに別れの際には俺の資料を全て読んでいたようで思わず恐縮してしまうようなお言葉を頂いた。

 

「素晴らしい経歴だ。それでいて話している限り目の付け所も悪くない。これからの活躍を期待している、少尉」

「あ、ありがとうございます」

 

色んなお偉いさんにもあって賞賛の言葉は浴びてきたけど一番腰を折ったのはスミルノフ中佐となった。

偽りがあるかもしれない、寧ろ真実は偽りだけの文字を見て経歴だけで賞賛の言葉を浴びせて来る奴らは大体下心がある。

でもスミルノフ中佐は実際に俺と言葉を交わしてからレイ・デスペアという人材を評価した。

正直凄く嬉しい。いい上司に出会えてよかった。

偽造の経歴なのが本気で申し訳ない。

経歴が偽造でも嘘にはならないよう全力で期待に応えようと思う。

 

マイスタータイプの能力が発揮されるなら全力で使ってやる。

リボンズの制止があってもそこは譲れない部分となった。

俺と硬い握手を交わしたスミルノフ中佐はソーマ・ピーリスにも言葉を置いていく。

俺一人を贔屓目で見ることはないのだろう。流石だ。

 

「ピーリス少尉も期待している。まだ若さ故に物事を見抜く力はないようだがこれからの経験が恵んでくれるだろう。急がなくていい、自分のペースで成長してくれ」

「はっ!」

 

ソーマ・ピーリスが敬礼すると共にスミルノフ中佐は去る。

少し微妙そうな顔をしていたのは的確な言葉をあげられなかったと思っているのだろう。

仕方ない、スミルノフ中佐は超兵計画には思うところがある。

ソーマ・ピーリスに期待するなんて言いたくなかったのだろう。

だからこそ咎められない程度に彼の言葉にはソーマ・ピーリスを焦らせないよう諭す言葉が混じっている。

なんて良い義父なんだ…。

あぁ、まだソーマ・ピーリスは養子じゃなかった。

それどころか結局なることはなかったな。

 

「では私もこれにて失礼します!」

「あ、あぁ…」

 

ソーマ・ピーリスが敬礼して去っていこうとする。

アレルヤのヒロインだけあって美形だがこの時はまだ誰にも優しくされないただの兵器だ。

淡々としている。

そんなソーマ・ピーリスの背中に声を掛けた。

 

「ピーリス少尉。少しいいですか?」

「はっ。なんでしょう」

「いや…その…」

 

うーん、中佐がかっこよくて嫉妬したのか先に声を掛けてしまった。

でもまあ同期みたいもんだし、これから同じ部隊でやっていく仲間。

これから身近にいる原作キャラで歳が最も近いのはソーマ・ピーリスだ。

少しは仲良くなっておくべきだろう。

 

問題は何を話すかだ。

やばい、話題もないのに話し掛けてしまった。

何も話題を切り出さない俺にソーマ・ピーリスは怪訝そうな顔になってしまう。

 

「あの…何もないのでしたらこれで」

「あ、えっと…そうだ!名前!」

「は…?」

 

咄嗟に出てきた言葉を言ったら首を傾げるソーマ・ピーリス。

なんか俺コミュニケーション能力に問題あるみたいになってる。

やめろ、俺はそんな奴じゃない。

 

ってそんなのはどうでもよくて。

そう、名前だ。

ソーマ・ピーリス、フルネームは面倒臭い。

何か呼び名を決めておこう。本人も承諾した方が呼びやすい。

あと同期みたいなものなのに敬語で話し合ってるのは違和感ある。

よし、口調についても話し合おう。

 

「折角同時期でスミルノフ中佐の部隊に配属されたんだ。いつまでも階級付けで呼ぶのもなんだかな…と思ってさ」

「そうでしょうか。自分は特に問題はないと思いますが」

「あぁ、あとそれ」

「……?」

「敬語だよ、敬語。歳が近い…わけではないけど多分ピーリス少尉から見たら俺が一番年齢が近い。スミルノフ中佐の部隊は中佐ご自身が選別するパイロット達が集まる。そうなると自然に年齢層は高いはずだからさ、ピーリス少尉が早く馴染めるのも考慮して俺とはタメで話さないか?俺もその方が気が楽だしさ」

「は、はぁ…。構いませ――構わないが名前というのは?」

「あぁ。ソーマ・ピーリス、ピーリス少尉。いちいち長いからさ。畏まったりするのはなしでソーマとかで呼ぼうかなと思って。どうだ?俺のこともレイとかデスペアでいい」

「分かった。確かに超兵である私に掛かる重荷(プレッシャー)は重い、その上配属される部隊は精鋭ばかりというのも頷ける。少しでも馴染める相手がいるのは好ましい…」

「だろ?じゃあタメ口で、呼び方も階級なし。これで決まりだ」

 

半ば強引な気もするがソーマも納得したしこれで良いだろう。

そういえば原作でソーマ・ピーリスに関してはアレルヤですらピーリス呼びだったな。

ちょっと出来心でソーマ呼びしてみたけど大丈夫だよな。

誰も呼ばないから『ソーマ』に何かとんでもない意味が込められてたりしたら怖い。

何処かの言葉で兵士とか超兵とかだったらどうしよう。

ソーマ自体もピーリスって名は捨てたくないとか言ってたな。

……一応後で調べるか。

 

「これからよろしくな、ソーマ」

「あ、あぁ…」

 

一緒に戦う仲間として。

手を差し出す。

差し出された手にソーマは少し戸惑いながら、ゆっくりと自身の手を伸ばした。

触れ合う肌、掴み合う手。

柔らかい感触から伝わってくるのは人間の少女の温もりだ。

困惑していたソーマも俺の手を取り、少しだけ微笑んだ。

 

「よろしく頼む。デスペア少尉」

 

呼び方固定なのかよ。

ま、まあまだ慣れてないだけかもしれない。




ソーマが何の意味なのか。
同タイプでないイノベイドは脳量子波を送り合えなかった気もする。
など不安点はありますがあくまで息抜き程度に書いておりますのでスナック感覚で読んでくださるとありがたいです。

>追記

ソーマの名前は多分お酒の神様のソーマからきてるのかな。


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黒いフラッグ

セイロン島でのソレスタルビーイングの武力介入を経て、人革連は軍備を増強した。

武力介入に対抗するための特別軍事措置法を制定したらしく、海だろうが地上だろうが宇宙(そら)だろうが踏み込んできた場合は武力を行使するらしい。

どこの過激派だよ。

蜂でも縄張りに侵入者が入ってきた時一度目は警告で済ませるんだぞ。

 

人革連(ブラック企業)は頭も堅い。

堅いのはMS(モビルスーツ)だけにしとけ。

まああれは堅そうなだけだが。

だが、これはちょっと前の話……というのも人革連の宣言の後にスミルノフ中佐の部隊が新設された。

 

部隊はスミルノフ中佐専任で、人選も中佐によって決められた。

勿論集められたのは精鋭ばかりで人革連は超兵1号、ソーマ・ピーリスをも導入してきた。

あ、俺は精鋭じゃないからな。

未だに射撃は外す。

狙い撃つぜは言えなさそうだな。

 

そんで次はタリビア共和国だ。

人革連の宣言に続いて大きな動きといえる。

タリビア共和国はユニオンを脱退して独自のエネルギー使用権を主張し始めた。

確かタリビアは反米意識が高かったとかスメラギが言ってた気がする。

どうやらユニオンに太陽光発電システムを独占されるのは我慢ならないらしい。

これまた他国からの圧力には軍事的反発を、とのこと。

 

それにしてもユニオンに反抗するとはな。

グラハムスペシャルでも受けとけ。

俺は嫌だ。

見た瞬間に戦場投げて逃げてやる。

 

「少尉、タリビアが何故このような強硬策に出たか分かるか?」

 

一緒に声明を映像で見ていたスミルノフ中佐がソーマに尋ねている。

社会勉強だな。

 

「ユニオンが軍事行動を起こせば、ソレスタルビーイングが介入してくると考えての行動だと思います」

「その通りだ」

 

あーそういえばそうだっけ。

なるほど。

結局目当てはソレスタルビーイングな訳ね。

ソレスタルビーイングとユニオンをぶつかり合わせるつもりか。

タリビアは軌道エレベーターが近くにあるからな。

強硬姿勢に打って出ることができる。

 

賢いっちゃ賢いが結果は大体見える。

今回はソレスタルビーイングとユニオン、タリビアの問題だ。

人革連の俺はお留守番だな。

丁度いい。

見物こそが求めてたものだ。

折角だしちょっとだけ戦場近くまで行こう。

見たいものがあるんだ。

 

「デスペア少尉。何処に行く?」

「少し準備を。戦場を見に行こうと思いまして」

「なに?戦場を見に行くだと?」

「ダメですか?遠目でもいいので少しだけ見ておきたいものがあって」

「ガンダムか…」

 

スミルノフ中佐が呆れたように俺を見る。

しかし、違うんだよな。

ガンダムを見に行くんじゃタリビアに侵入することになる。

もしくはタリビア海域。

だけど俺の目的地はどちらでもない。

タリビアもユニオンもどうでもいいし、ガンダムに近付けば戦場に入ってると同じだ。

いや、一応ガンダムも見ることになるのかな?

 

「違いますよ。見に行くのはフラッグです」

「フラッグ…?」

 

それだけ言い残して俺はモニターのある部屋を後にした。

外出許可を貰って向かうのは戦場になるであろうタリビアから少しだけ離れた場所。

転生者が物語に介入して本筋が変わるなんて話はよくある。

だが、俺はまだ直接的に戦争には介入していない。

ならばタリビアの声明の結末は本筋と同じ筈。

目当てのものを見れる場所も変わらないと睨んでいる。

 

と、俺が車を出そうとしたら運転席の隣に飛び乗ってきた者がいた。

作り物のような美しい白髪は揺らいだ後、彼女の肩へと落ち着く。

飛び乗ってきたのはソーマ・ピーリスだ。

 

「どうしたんだソーマ。俺がこれから行くのはタリビア近海だぞ」

「私も同行する。既に中佐の許可と、外出許可は取ってある」

「中佐が許可を?」

 

俺は半ば強引に出てきたがちゃんと中佐から了承を得たのか。

 

「中佐は戦場を見てこいと仰った。私自身もこの眼で見ておきたい」

「あぁ、なるほどね。だが戦場の映像は常に見ておいた方がいいぞ。これから見に行くのは多分期待と外れる」

「……?」

 

おそらく御目付け役のソーマ。

彼女が首を傾げるが、もう言うより見た方が早いだろう。

車にエンジンを掛けてタリビア近隣へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波風に揺らされる船の上。

ソーマが見つめていた画面越しにタリビアとユニオンの一触即発な場面を見ていた。

ユニオンは艦隊やらでタリビアを包囲。

タリビアは完全に戦闘態勢だ。

第三者から見ればユニオンが一方的に軍事力を展開しているということになる。

タリビアはあくまで防衛だ。

これでタリビアが折れれば話は解決だが、タリビアの覚悟からして声明を引っ込める気はないだろう。

 

「デスペア少尉、ガンダムが…!」

「もう来たか」

 

予想より早かった。

声明を受けて出発したけどそれでもギリギリか。

アニメで見るとそういう細かい時間感覚は省略されるから現実だとタイミングを計りづらいな。

 

「あの…デスペア少尉。何故私達はここに…」

「ん?今にわかる」

 

ソーマがまだ怪訝そうにしている。

まあ確かにタリビアの海域にユニオンの艦隊がいて、タリビアは海域に面している地域に三ヶ所MS(モビルスーツ)部隊を置いているが、俺達はそのどちらが見えるところにもいない。

寧ろ戦場なんて見えない場所に向かっていた。

ソーマは不安そうにしているが直に分かる。

というか俺が見たいだけだから付いて来なくて良かったのにな。

 

「あ、到着したら着替えておけよ」

「は?」

「……人革連ってバレたら不味いだろ」

「あぁ、なる…ほど?」

 

ソレスタルビーイング、ユニオン、タリビアの戦場に人革連の人間がいるのが見つかるのは駄目だということは分かるのだろうが、さらに怪訝さを増している様子を見るにやはり向かってる場所が問題なんだろうな。

何もないとこに行って何故そこまでしないと行けないのかとか思ってそうだが、戦場から凄く離れてるわけでもないからと無理矢理納得してるみたいだ。

 

「……っ!ガンダムがタリビアに攻撃を!?何故!?」

 

ソーマの実況は熱いな。

画面を見てない俺にも伝わってくる。

ソレスタルビーイングは軍備を展開しているユニオンではなく、防衛のためMS(モビルスーツ)部隊を展開しているタリビアへと攻撃を開始した。

タリビアはまだ何もしてない。

ただユニオンが攻めてきた時の為に構えているだけだ。

だから、タリビアが攻撃されたことにソーマは驚いているのだろう。

 

仕方ない。

説明役の中佐がいないからな。

事前に知ってただけだが説明してあげるとしよう。

 

「ソレスタルビーイングの最初の声明で言ってただろ。戦争を幇助する国も武力介入の対象に入るってな」

「ソレスタルビーイングはタリビアを紛争を引き起こす存在として見た…ということか…」

「そういうことだ。今頃ユニオンが脱退を撤回すれば防衛してやるとか言ってるんじゃないか?」

「なるほど…。撤回すれば反米意識は薄まり、タリビアの現政権も安泰することになる」

「それだけじゃない。他国もタリビアの二の舞は避けて反米政策を取ることはなくなる筈だ」

「そこまで考えて…。それが、ソレスタルビーイング…」

「……」

 

まったく、解説役は大変だ。

それも自分の意見じゃないと引け目を感じて面倒臭い。

とにかくソーマはソレスタルビーイングの動きに関心を持ってきたみたいだな。

少なくとも今回の動きには納得できたんだろう。

じゃあそのついでに面白いものを見ておこうぜ。

 

「到着だ」

「ここは…」

 

タリビア近海の海域にたどり着いたところで船を留める。

船が留まるとソーマが辺りを見渡すが何もないただの水平線しか視界には映らない。

まあそう焦るなって。

 

「ここにフラッグが?」

「ん?まあな」

 

なんでフラッグが来ること知ってるんだ、と思ったら中佐との去り際に言い残したもんな。

忘れてた。

到着したんでソーマの端末映像を俺も覗く。

丁度ユニオンが動き出した時だった。

 

ユニオンの部隊がタリビア領土に侵入。

一見踏み込んだにも見えるが明らかに防衛だろう。

この時点でタリビアはユニオン脱退を撤回したということになる。

確かそれがソレスタルビーイングの目的だったな。

 

ガンダム達も撤退を始めた。

もうすぐだな。

釣りでもして待っておくとしよう。

暇な時間があるかなと思って釣竿を持ってきておいて良かった。

さっきから一匹も釣れないけど。

魚類には好かれないらしい。

 

そんなどうでもいいことを考えつつ双眼鏡でタリビア方面を眺めると、やっと来た。

双眼鏡が粒子を散布するMS(モビルスーツ)を捉える。

青い機体、ガンダムエクシアだ。

 

「ソーマ。ガンダムが来たぞ」

「ガンダムが…っ!?」

 

いちいちオーバーリアクションだな。

あ、エクシアが来るとは言ってなかったっけ。

当然の反応か。

すまんな、反省する気はないが。

だって勝手に付いてきたし。

 

「……っ!本当に…!」

 

ソーマが俺の双眼鏡でエクシアを発見する。

フラッグの時には返せよ。

ちなみにエクシアの進行方向はタリビアの反対方面で、俺達は進行ルート上にはいないしかなり離れている。

なので気付かれないだろう、多分。

まあ気付かれたとしても私服に着替えてるしたまたま目撃した一般人で済む筈だ。

これで撃たれたらもう笑ってやる。

 

その件についてはガンダムよりフラッグの方が心配だな。

この頃の刹那はまだ幼いというか自制心があまりないが目撃者を殺すのは目的に沿わない。

刹那よりフラッグファイターの二人が撃ってきそうでちょっと怖い。

まあその時はその時だ。

いざとなったら脳量子波でリボンズに悪口言って死のう。

 

多分大丈夫だと思うけどな。

民間人を撃つとは思えないし…人革連ってバレたら終わりかもしれないけど。

まあそんなことはどうでもいいんだよ。

ガンダムエクシアに急接近する機影が一つ。

通常の二倍以上のスペックのフラッグが現れた。

 

「来た!ソーマ、貸せ!」

「あ、あぁ…」

 

半ばソーマからぶん取った双眼鏡でフラッグを追う。

速い!速すぎる!追いつけねえ。

 

黒いフラッグがエクシアに射撃する。

エクシアは回避行動に徹するしかない程の精密な射撃だ。

あの射撃の腕、めっちゃ羨ましい。

教えて貰えないかな。

 

エクシアに避けられて行き過ぎた黒いフラッグは旋回、空中変形した。

確かフラッグの空中変形は重力だかなんだか忘れたが負荷が凄まじかった筈だ。

空中変形を出来るものはそれだけで凄腕だとか。

そして、フラッグの空中変形を初めて成し遂げた人物があの黒いフラッグには乗っている。

その名も――。

 

「グラハムスペシャル…。グラハム・エーカー!」

「……っ」

 

ソーマの息を呑む音が鳴る。

超兵は目もいいのな。

双眼鏡がなくとも黒いフラッグの動きを見れてるらしい。

超兵のソーマが言葉を失うほどあの黒いフラッグには無駄がない。

スミルノフ中佐が言っていた。

この世界にガンダムに対抗できる機体はないと。

だが、グラハムはカスタムフラッグで性能差があれども技術で縋りついてみせた。

俺はその瞬間をしっかりと目に焼き付けた。

もう感動を言葉で表すこともできない。

予想外の苦戦にエクシア――刹那は海中に逃亡。

黒いフラッグ――カスタムフラッグのグラハムはガンダムを取り逃した。

 

「これが…デスペア少尉の見たかったもの…」

 

ソーマが唖然としている。

悪いが応える余裕がない。

そうだ、こういうのを見たかったんだ。

生で見た凄まじい戦闘。

たった数秒でもとてもいい思い出ができたと素直にそう思えた。



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一般人

フラッグについて知識に穴があったので感想欄で見かけた望夢様の知識を勝手ながら拝借させていただきました。


タリビアの一件が終わると人革連側で重大な出来事(イベント)が起こる。

未来形なのはまあ言わなくてもわかると思うけど本筋を知ってるから。

スミルノフ中佐とソーマ、俺は機体の性能実験のために宇宙へ行くことになった。

人革連の軌道エレベーターを使って三人で宇宙へと上がる。

出来事(イベント)というのは本編でアレルヤが人命を救ったあれだ。

スミルノフ中佐とアレルヤの初対面…じゃないな、声だけだが初めての出会いとなる。

 

つまりソーマのMS(モビルスーツ)、『MSJ-06II-SPティエレンタオツー』が完成したのだ。

機体ごと軌道エレベーターで宇宙(そら)に行って指定ルートを巡回するという性能実験をする。

なんで俺が同行するかというと実は特に理由はないらしい。

なんかたまたま予定空いてたから誘われてしまった。

ちなみに俺の機体は『ティエレン宇宙型』、言ったら中佐と同じだな。

よく見る青いティエレンだ。

アレハンドロ経由でリボンズが手回しして特別な機体を用意してるとのことだが間に合ってないらしい。

 

しかし、俺としては都合が良い。

いきなり高性能のMS(モビルスーツ)を渡されるよりは通常機体の方が初心者には好ましいからな。

まずはティエレン宇宙型で操縦に慣れておきたい。

ちなみに一応スカウトではあるが超兵でもない俺に特別な機体が用意されていることに少なからず反感を持つ者がいるらしいが知ったこっちゃない。

あまりにもうるさいやつは撃ち落としてやろう。

当たらないから安心しろ。

 

「手続きは済ませた。行くぞ、二人共」

「了解しました」

「了解」

 

スミルノフ中佐の指示に頷き、彼の後をソーマと追っていく。

中佐は大人なので面倒な手続きなどは全てやってくれたらしい。

ソーマは子供だからな、中佐は保護者気分なのかもしれない。

俺も実質1歳以下だけど絶対に口にしてはいけない。

 

「ほら、早く早く~」

「ま、待ってよルイス!」

 

はは。バカップルの声が聞こえるな。

今の内に幸せを噛み締めておけよ、マジで。

だが、ちょっと羨ましい。

俺にも癒しを分けてくれ。

隣にいるのは未だ超兵、哀しいなぁ。

でもうちのソーマも充分可愛い。

寧ろルイスには負けてない。アレルヤのヒロインだけど。

って何を張り合ってるんだ俺は。

 

「デスペア少尉、私の顔に何か?」

 

ソーマが尋ねてくる。

おっと、無意識にソーマを見つめていたらしい。

駄目だな。ヒロイン不足だ。

俺にヒロインをくれ。

大体転生ものにはハーレムが付き物だろうに。

今のところ俺のヒロインはティエレン宇宙型だ。

 

「いや、ソーマは美形だから見惚れてたんだよ」

「はぁ…?」

 

めっちゃ微妙そうな顔された。

なんか口説きが失敗したみたいで恥ずかしくなってきた。

今のソーマはまだ感情が薄いからな。

返ってきた反応も頷ける。

 

ソーマとの変なやり取りも経て、軌道エレベーターに搭乗するまでは問題なく済んだ。

さすが軍人だけあって個室を用意されている。

中佐がいるからな。

当然の待遇といえばその通りだ。

 

座席はスミルノフ中佐とソーマが向かい合わせになり、俺はソーマの隣。

軌道エレベーターは俺のティエレン(ヒロイン)とタオツー、中佐のティエレンを乗せて発進した。

ガンダムキュリオスも乗っていることは誰も知らない。

 

「何か?中佐」

「ん、いいや…」

 

出発してから暫く落ち着ける時間になってから中佐が何かを考え込んでソーマを時々見遣る。

超兵計画に思うところがある中佐はこの時も『超兵1号』の説明をされた時のことを思い出している。

『超兵1号』は体内に埋め込んだナノマシンで身体機能を保全、宇宙環境でも活動しやすくなってるだのなんたら。

俺ならそこまで聞いて殴ってる。

頭がおかしい連中だからな。

 

移動中暇なので好きに寛がさせてもらった。

ソーマは人形みたいに動かない、中佐はずっと考え事をしている。

そんな中、珈琲をブラックで頼む。

昔から何故か珈琲はブラックでしか飲めない。

代わりというか甘いものは苦手だ。

キャビンアテンダントのお姉さんに珈琲を頼むとソーマが同じものを注文。

スミルノフ中佐が不安そうな目線をソーマに送る。

 

「ピーリス少尉、本当にブラックで良かったのか…?」

「……?何か問題でも?デスペア少尉が頼んでいたので私も頂こうと思いました」

「ふむ…しかし…」

「まあいいじゃないですか。コーヒーフレッシュを後で持ってこさせましょう」

「……分かった」

 

多分純粋に食事や休息を楽しんだことがないのだろう。

俺の見様見真似でソーマは便乗してきたみたいだ。

ま、物は試しだ。

一度飲ませてもいいし、体験は大切だということも中佐に分かってもらえた。

やがて珈琲がブラックで運ばれてくる。

俺は美味しく頂き、ソーマは俺の飲む姿や珈琲を暫く様子見した後、小さく口を触れさせた。

 

「うっ…に、苦っ…!」

「やはりか…」

 

スミルノフ中佐が呆れたように呟く。

やっぱり駄目だったか。

 

「デスペア少尉はこんなものを私に…」

 

俺のせいなのかよ。

 

「そう睨むな。俺のスティックもやるから」

「うぅ…有難く頂戴する…」

 

盛大に甘くしてやっと飲めるようになったソーマはほんのり残る苦味を感じるのか顔を顰めてる。

可愛いなお前。

 

だが、ちょっといじめすぎた。

こっそりショートケーキを頼んでおいたからそれで満足してもらうとしよう。

 

到着するまでの間先日見たフラッグを思い出したので軌道エレベーターのネットワークで調べた。

人革連のネットワークだから詳細までは知れないけどフラッグの空中変形については人革連側の仮説だが少しだけ調べることが可能だった。

フラッグの空中変形は重力がどうとかこの前は言ったが違った。

 

空気抵抗で機体が墜落する危険があるとのことらしい。

やはりそれを幾度となく成し遂げるフラッグファイターは凄い。

グラハムだけじゃなくフラッグファイターを見たら逃げることにしよう。

テスト飛行で空中変形をしてみせたグラハムはマジでやべーやつだ。

ハロとかゲットしたらグラハム発見時に伝えてもらおう。

絶対に逃げてやる。

 

あ、フラッグについて誤ってたことには全国のフラッグファンにも謝罪するからグラハムスペシャルは止めてね。

そんなことを考えてるうちに宇宙(そら)に到着。

本来ならここからが事件の始まりとなる。

 

「少尉。機体の元へ行くぞ。30分後には性能実験を開始する」

「了解しました」

 

スミルノフ中佐と共にティエレンへと向かう。

沙慈やルイスとは研修でお別れだ。

性能実験を行いにきた俺達はティエレンへと乗り込み、宇宙空間へと飛び立つ。

ソーマのティエレンタオツー、俺と中佐のティエレン宇宙型。

三つの機影が宇宙環境に浮かぶ。

 

『少尉、機体の運動性能を見る。指定されたコースを最大加速で回ってみろ』

『了解しました、中佐』

 

ソーマが中佐の指示に従ってティエレンタオツーで飛び回る。

本筋ならこの後コース中に第7重力区画に近付く場所でアレルヤとの脳量子波が共鳴し合い、ソーマが暴走してしまう。

その結果重力ブロックが漂流。

人命を救うために中佐が奮闘するも絶望的な状況は覆らず、ガンダムキュリオス――アレルヤ・ハプティズムの助力を得ることとなる。

 

だが、同じ轍は二度踏まない。

俺は事前にソーマのスーツに脳量子波を遮断するよう超人機関の技術者に進言しておいた。

転生において一番怖いものは原作改変だ。

しかし、本筋に沿うためとはいえ俺にはソーマを見捨てることはできない。

故意にソーマが苦しむ姿を見る程悪趣味でもなければ非情でもない。

ソーマ・ピーリスは俺……いや、レイ・デスペアにとってキャラクター以前に仲間だ。

例え原作を改変してしまうといえどそこは譲れない。

 

ソーマとアレルヤの共鳴をなくせばスメラギの言っていた『プランの大幅な修正』は無くなるだろう。

だが、それでも俺はソーマの苦しみを一つでも減らしたかった。

ただの偽善だ。

何かが改善されるわけでもない。

分かっていても知っていて無視はできない。

 

『最大加速に到達』

『最大加速時でルート誤差が0.25しかないとは、これが超兵の力…。しかし、彼女はまだ乙女だ…』

『……』

 

ソーマは順調にティエレンタオツーを制御している。

機体の性能も充分に活かせているだろう。

さすが超兵だ。

 

余談だが超人機関の技術者にスーツの改良を進言した時快く承諾された。

寧ろそういう意見はもっと欲しいとのこと。

超兵…いや、ソーマのことを兵器としてしか見てないようだ。

本当に殴りたくなったがどうせその内中佐によって退場するやつだ。

放っておいてもいい。

とにかく本筋を知ってる俺だからこそソーマを守れる機会はある筈だ。

仲間として、ソーマ・ピーリスという一人の少女をできる限り守ろうと決めていた。

 

さて、俺は俺のするべきことをしようと思う。

確かアレルヤはティエレンタオツーの性能実験の偵察が任務(ミッション)だった筈だ。

悪いが偵察を許すわけにはいかない。

せめて少しくらいは原作改変を避けるように取り組まなければならない。

アレルヤがソーマと交戦する時、重力ブロックの事件のせいで事前にティエレンタオツーの性能を知ることは叶わなかった。

その状況を覆してはいけない。

ということで俺はアレルヤを探すことにしよう。

 

『中佐。他軍の偵察などを警戒して見張りに行ってもいいでしょうか?』

『む?構わんがあまり離れるなよ』

『了解!』

 

中佐の許可も貰ってキュリオス探索に乗り出せた。

ソーマは順調にメニューをこなしてるようだ。

同期が優秀なのは頼もしい。

年齢にやや問題はあるが。

 

さて、キュリオスは何処にいるかな。

ティエレン宇宙型で衛星をかき分けていく。

しかし一向に見つからない。

おかしいな、大体居そうな衛星の影とかは探したんだけどな。

もう帰還したのか?

 

俺の予測ではまだ居ると思ってたんだが思い過ごしみたいだ。

タオツーの性能を見れば黙ってはいないと思ってたんだけどな。

ソーマや脳量子波どうこう抜きでさ。

まあタオツーの性能をプトレマイオスに報告しに行ったのかもしれない。

とにかく見つからないものは仕方ない。

そろそろソーマの試験も終わる筈だ、帰るとするか。

 

『……待てよ』

 

機体を旋回させて、ある事に気付いた。

タオツーの性能に黙っていないならなんらかの行動を起こすまでは考えた。

だが、それなら報告や帰還以外の方法もある。

寧ろそちらの方が可能性は大きい。

確かスメラギからのミッションプランはタオツーの性能実験の監視、場合によっては破壊だった。

なんでこの考えに至らなかったんだ。

このままではソーマが危ない…!

 

『くそ…!何がイノベイターだ、この無能がっ!』

 

自身を罵りながらソーマの元へ加速する。

俺のティエレンは既に性能実験の宙域から少しだけ離れている。

キュリオスを見つけられなくて可能性のある限り遠くまで探し続けたからだ。

最悪だ、キュリオスはもっと近くにいたんだ。

ソーマを――タオツーを破壊するために!

 

『灯台もと暗しってか?ふざけんな!』

 

全速力で戻るとキュリオスを発見した。

ソーマのタオツーと中佐のティエレンからそう遠くない。

これから襲撃すると見えるが様子がおかしい。

キュリオスは脱力したまま動かなくなっていた。

しかし、俺のティエレンが近付くと――。

 

『うわああああああああああーーーっっ!!』

『……っ!?』

 

突如通信で悲痛な叫びが響いた。

間違いなくアレルヤ・ハプティズムの声だ。

そうか、ソーマは既にスーツに脳量子波遮断を施しているがアレルヤには影響が出るのか。

これは好機だ。

 

苦しんでいるアレルヤには悪いがこの機会を逃すわけにはいかない。

中距離から牽制射撃で逃げてもらおう。

あの状態で戦闘には発展しようとしないはずだ。

 

『うっ…ぐっ…クソがっ。誰だ俺の中に入ってきやがるのは…』

 

アレルヤの口調が荒々しくなった…?

あぁ、人格がハレルヤに変わったのか。

アレルヤは痛みに耐えるので精一杯だからな。

その隙を使って表に出てきたか。

しかし、アレルヤだろうがハレルヤだろうが知ったことではない。

 

ティエレンの腕部に装着している200mm×25口径長滑腔砲の銃口をガンダムキュリオスへと向ける。

ティエレンの主兵装だ。

照準をキュリオスへと定める。

 

『奴か…ぶっ殺すっ!!』

 

まずい、ハレルヤがソーマに気付いた。

やはりハレルヤの方が脳量子波においては鋭いのか。

厄介だな。

そういえばマリーの正体にハレルヤはアレルヤより早く気付いてたんだったな。

 

今はそんなことどうでもいいか。

キュリオスが遂に動き出す。

GNビームサブマシンガンはタオツーを捉えている。

 

『させるかっ!!』

 

不意打ちで撃たれたらいくらタオツーでも損害は受ける。

だが、そんなことはさせない。

200mm×25口径長滑腔砲が火を噴いた。

 

『ぐっ…!なんだ!?』

 

初めて射撃が当たった…。

3発だけだが充分だ。

キュリオスを気を引いたところで俺は急接近する。

 

『人革連のモビルスーツ?うぅ…!』

『ソーマは傷つけさせはしない!』

『なっ…!?』

 

苦痛に苦しむ声が聞こえる。

アレルヤか。

200mm×25口径長滑腔砲の放熱板を利用し、ブレイドでキュリオスに斬り掛かる。

キュリオスはGNビームサーベルを抜刀し、ブレイドを防ぐ。

さすが対応が早い。

 

しかし、感心している暇はなかった。

ブレイドとGNビームサーベルが火花を散らす中、キュリオスは空いた片手でGNビームサブマシンガンを構える。

この態勢で撃てるのか!?

 

『まずい…!』

 

あまりに近距離過ぎる。

機体(ティエレン)に無理を言ってキュリオスから離れた。

逆噴射で緊急回避したおかげでGNビームサブマシンガンの弾道はティエレン宇宙型を通らなかった。

だが、キュリオスのGNビームサブマシンガンの脅威はその連射性。

ここからが勝負だ。

 

『……ッ!』

『避けきる…!』

 

ひたすら上昇してビームを避けるが、キュリオスの機動力のせいで次第にビームが俺のティエレンに追いつく。

遂にキュリオスのビームがティエレンの片足を吹き飛ばした。

 

『ぐうっ…!!』

 

衝撃が俺の身体に伝わってくる。

片足を失ったティエレンをキュリオスのGNビームサブマシンガンの銃口は捉えていた。

容赦がないな!

 

『撃墜する――っぁ!?』

 

ティエレンを追い詰めるキュリオス、アレルヤ。

しかし、狙った照準がズレる。

先程から『何か』が頭を刺激するせいだ。

引き金を引くも弾丸は照準を大幅に外し、衛星を破壊する。

 

『外した?』

 

当然アレルヤの痛みを瞬時に理解することはできず、後から理解する。

そうか、脳量子波がアレルヤを蝕み始めたのか。

ということはその原因が近付いているということだ。

 

『ガンダム…!』

『デスペア少尉無事か…!』

『ソーマ…中佐…』

 

交戦を嗅ぎつけたのかソーマのタオツーとスミルノフ中佐のティエレンが駆け付けてくれた。

2機による援護射撃にキュリオスは後退していく。

 

『逃がすか、ガンダム…!』

『少尉!深追いはしなくていい!』

『し、しかし…』

『上からの命令だ』

『……了解しました』

 

ソーマとスミルノフ中佐の援軍でキュリオスは引き上げていった。

おそらくソーマが近くにいるせいでアレルヤが頭痛に耐えられなくなったんだろう。

なんという因果だ。

ずっと求めていた人物が目の前にいるのにな。

 

……と気休めはこれで充分か?レイ・デスペア。

俺はもう限界だ。

 

『はぁ…はぁ…』

 

操縦席で荒い呼吸と共に項垂れる。

初めての戦闘。

ほんの数分、だがこれ程までに死と隣合わせの時間はあるだろうか。

肉体は疲れてはいない。

腐ってもイノベイターだということだ。

 

けど中身はただの一般人だ。

運悪く転生してしまっただけの人間。

いや、イノベイターである分特典は付いてる。

運は良いのかもしれない。俺はそうは思いたくないけど。

とにかく――。

 

『疲れた…』

 

意識は保てた。

きっと身体がマイスタータイプのイノベイターだからだ。

スミルノフ中佐の指示でタオツーの性能実験も終えたことだし帰還することになった。

だが、俺は終始脱力してソーマや中佐が話し掛けてきても声はよく聞こえなかった。




日間ランキング2位に乗りました。ありがとうございます!

ティエレン全領域対応型は時系列的に登場していないのでティエレン宇宙型に修正しました。
全領域対応型→宇宙型(2018/01/17 18:37:47)


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死の恐怖

人革連の訓練施設。

汗を撒き散らし、スミルノフ中佐と拳を交える。

 

「甘い…!」

「ぐあっ…!?」

 

スミルノフ中佐の拳を懐への侵入を赦してしまい、俺の顎へとめり込む。

鍛え上げられた鉄拳による衝撃に耐えられなかった俺は吹き飛んだ。

壁に背中を強打し、倒れる。

 

「うぐっ…。まだ、だ…」

「いや、終わりだデスペア少尉」

「――っ!」

 

顔を上げると目が合ったのは中佐の瞳ではなく銃口。

人を殺せる銃器を前に俺は硬直する。

またあの時のような『恐怖』が胸の奥から足先まで痺れ渡っていく。

 

「……っぁ」

「ここまでだな…」

 

スミルノフ中佐が引き金を引くが、弾は出ない。

予め知っていても中佐の気迫に思わず殺意が本物に思えてしまった…。

さすがロシアの荒熊、異名の由来は指揮能力だが彼の気迫は凶暴な熊と対峙した時と同じくらいだ。

いや、熊と対峙なんかしたことないけどな。

例えだ。例え。

 

「まさか貴官がここまでハードな訓練を申し出てくるとは思わなかったぞ…」

「は、はは…そうでしょうか…」

 

まだ震えが収まらない。

先程まで戦っていたからか、中佐の気が立っている。

怖い、いつ殺されるか信頼している人なのに恐れてしまう。

だが、だからこそ中佐に訓練を頼んだんだ。

 

「ガンダムとの交戦で何かあったのか…?」

「いえ…。えぇ、まあ…」

 

曖昧な返しをしてしまった。

相変わらず中佐は鋭い、軍人人生の賜物なんだろう。

中佐が訝しむのも仕方ない。

俺は中佐に訓練を付けてもらえるよう頼んだ。

だが、ただの訓練ではない。

殺す気で掛かって来てほしいと、お願いした。

もちろん殺しはしない。

出来るだけ『死の恐怖』を味あわせて欲しかったんだ。

 

別にそういう趣味じゃないからな。

俺は変態じゃない。

ちゃんとこの訓練には意味がある。

俺はガンダムキュリオス――アレルヤ・ハプティズムとの交戦の際、死を身近に感じた。

心のどこかでイノベイターであることで自信があったのかもしれない。

でもあの時そんなものは一瞬で崩れた。

 

イノベイターとか人間とかそんなのは関係ない。

ヒリングがアレルヤに殺される際に怯えていたようにイノベイターにも恐怖の心はある。

俺はそんな当然のことも考えずに無謀にもキュリオスに挑み、そして、死の恐怖に囚われた。

あの時ソーマと中佐が助けにこなければ俺はあそこで死んでいた。

確信して言える、冗談じゃない。

本当に死んでいた。

 

転生者だから、転生ものの主人公にでもなったつもりだったのか。

イノベイターであるから大丈夫と安心していたのか。

そんなものは全てキュリオスが粉砕した。

俺も戦えば死の可能性はある。

これから生き抜くためには『死の恐怖』を乗り越えるしかない。

リボンズに入隊を指示された時点でもう戦いからは逃げられないんだ。

イノベイドである限り俺は戦わなくてはならない。

死ぬのは嫌だ、怖い。

だから、強くならなければ――その為にも中佐の訓練は必要だった。

 

「中佐。俺は死ぬのが怖いんです。だから、死なないために強くならなければ…。お願いします。これからも俺を鍛えてください」

「少尉…」

 

心の底から頭を下げて頼み込む。

中佐は暫く考えた後、頷いた。

 

「……いいだろう。私の出来うる限りを尽くそう」

「ありがとうございます、中佐!」

「うむ…」

 

部下とはいえこんな無茶振りを承諾してくれる上司は早々いないだろう。

ただでさえ中佐の時間を割くのだ。

決して訓練を無駄にはさせない。

 

「少尉、貴官は何故戦う?」

「……?」

 

訓練を終えたので施設を去ろうとした俺の背に中佐が質問を投げかけてくる。

しかし、質問の意図を掴めない。

質問の内容そのものは理解できるけど何故このタイミングでその質問なのか。

まあよく分からないが中佐の質問だ、答えない訳にはいかない。

中佐の求める答えかは分からないが答えるために口を開く。

 

「もちろん、生きる為です」

「生きる…為…」

「ではこれにて失礼します」

 

中佐に敬礼して訓練施設を後にする。

残された中佐はさらに表情を曇らせていた。

 

「デスペア少尉…彼は軍人には向いていない。何故軍隊に…」

 

そんな中佐の言葉だけが訓練施設に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に射撃訓練を残し、一度モニターのある休憩室へと向かった。

モニターを見に行く時点でお察しだが毎度お馴染み原作の大きな出来事(イベント)がある。

今朝、モラリアとAEUが共同軍人演習をするとの情報が人革連にも入ってきた。

人革連というよりも俺に、だな。

巡りに巡ってやっと届いた感じだ。

まあ要するにAEUがモラリアに軍隊を派遣したのだ。

 

モラリア共和国。

ヨーロッパ南部に位置する国で、民間軍事会社PMCをバックに抱えている。

PMCは傭兵の派遣や兵士の育成、兵器輸送及び兵器開発、軍隊維持それらをビジネスとして行っている。

PMC、傭兵と聞けば誰しも最悪の人物を連想させるだろう。

そう、アリー・アル・サーシェスが所属している…というよりは雇われてるのか?

細かいところは分からん。

とにかくサーシェスがいる。

そんなPMCを優遇し続けて成長してきたモラリア共和国。

 

モラリアはソレスタルビーイングの影響で経済が破綻しかけている。

AEUはモラリアを救おうと重い腰を上げた。

まあ勿論裏がある。

AEUが宇宙開発に乗り出すにはモラリアのPMCが必要だ。

その為にもモラリアをここで失うわけにはいかないのだろう。

人革連やユニオンに宇宙開発で遅れを取っているAEUだ。

それだけ必死なのかもな。

人革連に所属してる俺からしたら足掻いているAEUを上から見下ろす気分だ。

まさに高みの見物だな。精々頑張れってか。

と、まだ動きのないモニターを眺めていると休憩室の扉が開いた。

入室してきたのは対ガンダム特設部隊の超兵、ソーマ・ピーリスだ。

 

「ソーマ、お前もモラリアの件を見に来たのか?」

「……いや、私は――」

「ガンダムだ!」

「おっ、さっそくお出ましか」

「……」

 

モニタールームに集まっている人革連の兵士の言う通り、ガンダムが登場した。

モラリアへと空を飛ぶ機影が4機、見てわかるほどに新装備が増えていた。

そういえばセブンソードとかあったな。

デュナメスも新装備のおかげで防御が厚くなった。

あれといつか戦うことになると考えると最悪だな。

 

しかし、100機近くのMS(モビルスーツ)相手に4機で蹂躙することになるんだからガンダムは恐ろしいな。

なんで俺は敵側にいるんだろうか。

普通転生するなら逆だろ。

まったく、配慮が足りないな。

 

「そういやAEUのエース、パトリック・コーラサワーやPMCの傭兵とかも演習に参加してるらしいな」

「そうか」

「……?興味ないのか?」

「今はあまりない」

「あぁ、そう」

 

なんかソーマが不機嫌だ。

年頃の女の子はよく分からないな。

さて、パトリックはいつも通り運良く墜落芸を見せてくれるだろう。

やっぱ注目すべきはPMC、サーシェスかな。

あいつはグラハムにならぶ凄腕だ。

それにサーシェスとの再会で刹那は見せてはいけないガンダムマイスターの顔を晒してしまうことになる。

流れを知っていてもちょっと楽しみだ。

できればマイスター達の喧嘩も見たいけどさすがに危険過ぎる。

 

ソレスタルビーイングが動き出したことにより、モラリアの130を超えるMS(モビルスーツ)との交戦が始まる。

エクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェが散開し、それぞれモラリアとAEUのMS部隊を蹂躙。

パトリックが面白おかしく墜落していくのも見ることが出来た。

確か今回はスメラギ達から直に指示を受けている筈。

そのおかげかガンダムの動きはとてもしなやかで順調だ。

これはモラリアの負けも時間の問題だな。

 

「一方的、ガンダムの優勢は揺るぎないみたいだ」

「……」

「どうした?さっきから黙ってばっかで」

「別に」

 

随分と冷たい。

こりゃちょっと様子がおかしいな。

ソーマはなんでこんな怒ってるんだ?

そもそも怒ってるのかどうか。

一応尋ねてみるか。

 

「なんでそんな不機嫌なんだ。何か気に触ったか?」

「なんでもない」

「頑なだな…」

 

中々機嫌を損ねているようだ。

この時期のソーマはまだ超兵としての考え方で戦争に興味を示さないことはないと思うんだが、モニターを見てるようで見てない。

これは相当ご立腹だ。

なんとかしないとな。

戦争を見るより信頼関係を優先するとしよう。

 

「ほらよ」

「……?」

「ホットココアだ」

 

休憩室で用意できる飲み物をソーマに手渡す。

色が少し黒めだからか、この前のブラックコーヒーを思い出してソーマが顔を顰めた。

まだ気にしてるのか。

愛いやつめ。

 

「この前飲んだやつとは違うから安心しろ」

「あ、あぁ…。温かくて…甘い…」

「そうか」

 

一口飲むと美味しかったのか微笑むソーマ。

まだまだお子様だな、可愛いお年頃だ。

俺が1歳以下なのは気にしない方向で行く。

触れるな。

とにかく少しは話せる状態になっただろう。

ソーマが機嫌を損ねた理由も心当たりがある。

 

「さっき俺に何か言おうとしてただろ。そのことか」

「……私は少尉に用があった」

「あぁ、そう。何の用だったか教えてくれないか?」

「礼を…言いたくて…」

「礼?」

 

はて、感謝されるようなことをしただろうか。

あまり覚えがないな。

この際だ。

もう少し深く聞いてみよう。

 

「何についてだ」

「私のスーツに改良を申請したのはデスペア少尉だと聞いた。脳量子波の問題点に気付いたのは少尉だけだ」

「あぁ。なるほど」

 

どうやら超人機関の技術者に色々と聞かされたらしい。

俺がやつに論説した内容に技術者は随分と感嘆していた。

苛つく程にな。

ソーマもスーツの改良は聞かされた筈だ、というか聞かされた。

その時に話されたのだろう。

 

脳量子波で外部から影響を受ける場合について、ソーマと同類がいてもおかしくはない。

あくまで可能性、だが通常では有り得ないからこそ指摘されて気付く。

そして、そんな突飛なことを言ってきたのは俺だと技術者は喜んで話したそうだ。

まったく。要らないことをベラベラと話してくれる。

興奮しているとはいえ口が軽すぎるだろう。

 

「デスペア少尉は知らないうちに私を痛みから守ってくれていた…。それを知った途端何故かデスペア少尉に礼を言いたくなった」

「そうか。それでわざわざ言いに来てくれたのか」

「あぁ」

 

自分でもよくわからない気持ちのまま俺のところまで来たのだろう。

まだまだ心が未熟な分率直なんだ。

でも肝心の俺が話を聞いてくれなくて拗ねたと。

いつもなら可愛い話だなで終わるかもしれないが。

ソーマの目線になると悪いことをしたと思う。

だから、素直に謝ることにしよう。

 

「悪かった。気付いてあげられなくて」

「大丈夫だ…私が少しおかしかった。なんでこんな事で機嫌を悪くしてしまったのか…私自身分からない」

「いいんだ、それで。機嫌を損ねていいんだソーマは」

「そうなのか…?」

「あぁ」

 

ソーマの頭を撫でてやる。

自然と肩を寄せ合い、頭を預けてくる。

暫くするとソーマが俺に微笑んだ。

 

「ありがとう、デスペア少尉」

「どういたしまして」

 

ソーマと仲直りしている間に戦争は終わり掛けていた。

モラリアとAEUのMSの半数を撃破したガンダムがモラリア側の司令部前に突如現れ、防衛に徹したMSも全滅。

たった5時間でモラリアは無条件降伏をした。

ちなみにスミルノフ中佐は別の休憩室で見ていたらしい。

 

それにしてもソーマは少しだけ感情が豊かになってきた気がするな。

時期的に早い気がするが原作改変か?

そういえばモラリアの戦争の結果は変わっていない。

前回のタオツーの性能実験で重力ブロックの事件がなくなり、改変がソーマに表れたか。

もしくはスーツの改良の先決が影響したのかもな。

どちらにせよソーマが苦しまなくて良かった。

 

モラリアの無条件降伏を見届けて訓練へと戻った。

偽造の履歴と違って俺は優秀じゃない。

既に一つ見つけているように問題点も多い。

中佐の期待に応えるためにも、部隊の足を引っ張らないためにも訓練は欠かさずするべきだ。

ソーマと別れてティエレンに乗り込むとシミュレーションを始める。

折角だ、AEUのイナクトとかを相手にしよう。

訓練内容は射撃。

苦手分野だ。

 

「さてと…」

 

端末を操作しつつ訓練を始める前にある人物に通信を試みる。

キュリオスとの交戦を経て俺も反省した。

今まで通りの訓練じゃダメだってな。

一向に当たらない射撃訓練をするより指導して貰った方がいい。

さすがにまた中佐に頼むのは気が引けるのでもっと気軽に頼める相手にした。

 

『やあ、どうも。まさか君から連絡が来るとはね…』

「悪いな。ちょっと頼みたいことがあったんだ」

『構わない。君の悩みを解決できるのは同じ存在である僕らだけ、頼るのは当然の結果さ』

 

相変わらず人間を見下してるなぁ。

俺が元人間だと知ったらどんな顔するだろうな。

と、通信が繋がった相手はリヴァイヴ・リバイバル。

俺の同類、イノベイターだ。

同類であるからか頼みやすいと思ってリヴァイヴを指名した。

 

リヴァイヴは宇宙へ急行するプトレマイオス2の上昇角度を狙撃でずらした凄腕の狙撃手だ。

まあガデッサの性能とマイスタータイプのイノベイターの能力のおかげといえばそれまでだが、少なくとも能力や才能だけじゃない筈だ。

経験と技術があってこそあの狙撃は完成する。

イノベイターの能力にだけ頼ってキュリオスと戦った俺だから分かることだ。

そう考えるとリヴァイヴの言う通り、お互いを理解し合えるのは同類(イノベイター)だけなのかもな。

なんて極端か。

 

『それにしても何故僕が狙撃を得意としていることを知っているんだい?君には話した覚えがない』

「直感だ。俺達はなんだ?」

『……ふっ。マイスタータイプのイノベイター、そういうことか』

「そういうことだ」

 

やはりリヴァイヴには上位種であるという認識を上手く使うのが効果的だな。

めんどくさい時はこの方法で納得させよう。

それにしてもチョロい。

 

「指導、頼めるか」

『任せて欲しいね。僕の実力を君も見ておくといい』

「はは。実際やるのは俺だぞ」

 

自信満々だな。

これは期待できる。

さっそくシミュレーション機能を起動させてリヴァイヴに射撃を見せた。

一度見ておいた方がいいと思ってリヴァイヴも承諾したのでやってみたが…これまた綺麗に全弾外してしまった。

頼んでおいてなんだがちょっと恥ずかしくなってきた。

 

「ど、どうだ…?」

『……』

 

恐る恐る尋ねてみるが返答なし。

というかリヴァイヴの顔が死んでる。

そんなにか、そんなになのか。

 

「なんとか言ってくれないか?」

『外し方が最悪。絶望的だ、すまないが僕には面倒見きれない。さようなら』

「は?お、おい…!」

 

音速で通信を切られた。

酷い言われようだったな…。

別れ際の言葉が恋人かよ。

はぁ…参った、結構頼りにしてた線が途絶えた。

どうしたもんか。

 

「はぁ…」

『たった今入ったニュースです。世界中で同時多発テロが――』

「……」

 

端末でニュースが流れる。

聞きたくなかったから訓練に戻ったというのに…。

リヴァイヴが通信を切ったせいで間違ってチャンネルを押してしまった。

あぁ、頭が痛む…。

きっとこれはテロから目を逸らそうとする俺への罰なんだろう。

また悪夢が始まった。



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テロの悪意

テロは嫌いだ。

人々の悪意に満ちている。

テロで大切な人を失った。

たった1人の家族だった妹を。

守ると約束したのに守れなかった。

あの時も死ぬのが怖くて妹を見殺しにしてしまったんだ。

 

「はぁ…はぁ…うぐっ!」

 

フラッシュバックする記憶。

頭の中がかき混ぜられるように痛む。

脳量子波が乱れていた。

 

『お兄ちゃん…』

「あぁ…!」

 

死んだ筈の妹が目の前に浮かぶ。

手を伸ばしても届かない。

こんなにも近くであの子が泣いているのに俺の手は虚しいほどに空を掴む。

やがて、涙を頬に伝わせながら妹は笑った。

 

『ごめんね、お兄ちゃん』

「ダメだ…!ダメだ!行かないでっ…、行かないでくれ…!」

 

激しい頭痛も無視して叫ぶ。

だけど、いくら声を出しても記憶と同じ顔を妹はする。

そんな妹に銃口が当てられた。

 

『さようなら』

深雪(みゆき)…!」

 

妹の名を口にし、もう少しで妹に手が届くという時。

――銃声が響いた。

多量の鮮血が舞う。

もう何度目だ。

俺の目の前で一番大切だった人の命が散った。

こんな筈じゃ、なかったのに…。

 

「うわああああああああああああ!!」

 

ティエレンの操縦席で発狂する。

妹は死んだ。

俺が守れなかったせいで、死んだ。

テロなんてものが関係のないただ平穏に暮らしていただけだった妹の命を奪った。

たった2人だけの幸せな日々が一瞬にして崩壊した。

なんで…何故だ。

 

「……なんで深雪が死ななきゃいけなかったんだ」

 

原因ならもう分かってる。

無差別なテロと俺の非力さ。

そう、あの時も俺の足は震えて動かなかった。

 

「俺が…」

 

死の恐怖に怯えたから。

大事な人さえ守ることができなかった。

立ち上がる勇気がなかった。

そんな俺はお兄ちゃん失格だ。

だから、妹が俺を呼ぶ度に心が抉られる。

 

「……」

「デスペア少尉!」

 

ティエレンから降りるとソーマが駆け付けてきた。

だが、俺を見るなり目を見開く。

どうしたのだろうか。

 

「何かあったのか…?」

「……大丈夫だ。俺に何か用か」

「あ、あぁ…」

 

慌てて駆けつけてきたんだ、緊急事態があったのかもしれない。

尋ねるとソーマは何故か俺から目を逸らして口を開いた。

 

「先程同時多発テロが起きた。我が方にも被害があったと報告を受けた」

「そうか…」

「もう既に中佐が動き出していて、私は中佐が関わるようなことではないと思ったのだがソレスタルビーイングが関与していると中佐が」

「原因はソレスタルビーイングか…。犯行声明でもあったのか」

「あぁ。武力介入の即時中止、武装解除が行われない限りテロは起こり続けると――」

「……」

 

ソレスタルビーイングが降伏しなければテロは続く。

本筋通りなら王留美(ワン・リューミン)が従えるエージェント達が動き出し、爆発テロの現場で刹那とマリナが現場から逃げる怪しい人物を捕まえ、テロ組織の各活動拠点を捜索するも失敗した筈。

しかし、AEUがネットワークに流した情報で活動拠点を割り出すことに成功。

各ガンダムが拠点を潰してテロは終了する。

ロックオンはこの時荒れてたな。

 

AEUが協力したのは利害の一致だろう。

他国のテロには介入できないのが基本だ。

だが、ソレスタルビーイングは違う。

彼らにテロ組織を潰させようという魂胆だ。

 

重要なのはそんなことじゃない。

少なくともあと1回、爆発テロが起こる。

改変が起きていればもっとあるかもしれない。

……また気分が悪くなってきた。

 

「デスペア少尉?聞いていないのか」

「え?あ、あぁ…すまない。テロが起きたんだろ?知ってるよ。悪いが俺はあまり関わりたくない」

「だが…デスペア少尉に上からの指示が出ている」

「命令が?内容はなんだ」

「テロ襲撃予測地点での調査。及び警戒と聞いたが詳しいことは私には伝えられていない」

「直接上に話を聞きに行けということか」

「あぁ」

 

最悪だ。

関わりたくないってのに向こうから関わってきた。

それに上層部の命令じゃ逆らえない。

それにしてもなんで俺なんだ。

他にも人材は居ただろうに。

それこそスミルノフ中佐が動いてるんだ。

俺が必要だとは思えない。

 

いや、中佐ほどの人が直接調査には行かない。

だから下々である俺の所に来たのか。

まったくもって迷惑だ。

なんのための超兵だ、ソーマを導入したならソーマに任せればいいのに。

 

「あぁ、くそ最悪だな俺」

「少尉…?」

 

慌てて嫌な思考を振い落す。

ソーマをただの戦力として見るのは止めていた筈だ。

よりによって俺がそういうことを思うのは良くない。

首を傾げているソーマの頭に触れつつ、心の中で謝罪する。

命令は命令、避けることはできない。

嫌なものに向き合うのは気分が悪いが仕方がない。

とりあえず上に話を聞きに行くとしよう。

 

「ありがとう、ソーマ。ちょっと行ってくる」

「あぁ。武運を祈っている」

「了解」

 

ソーマに別れを告げてキム司令の元へと向かう。

司令室に辿り着き、ノックをすると入れと許可を貰えたので扉を開けて入室する。

 

「失礼します。レイ・デスペア少尉、只今到着しました」

「うむ。ピーリス少尉から伝達は受けているか?」

「はい。詳細を伺いに来ました」

 

挨拶を済ませるとさっそく話は任務についてのことになる。

詳細は概ねソーマから聞いた通りというか予想通りで、テロが関連するだけにあまり好ましい内容ではなかった。

大体の指示を伝えられるとキム司令は話を切り上げた。

 

「――以上だ。何か質問は?」

「一つだけ、失礼します」

「申してみろ」

「はい。恐縮ですが何故今回私が選ばれたのかそれだけが気になります」

「そうか…」

 

これで経歴だったらリボンズを恨む。

だが、キム司令の返答は違った。

 

「貴官を任命したのは他でもない。貴官が先日のガンダムとの遭遇時、機体の片足の損傷だけでガンダムを撃退したと報告を受けている。その実力を見越して今回は貴官を選んだ。納得してもらえたか?」

「……はい。ありがとうございます。これにて失礼します」

「あぁ」

 

頭を下げて司令室を後にする。

なるほど、原因は俺の出生のせいか。

まさかイノベイターであることがここで災いするとはな。

いや、寧ろ災いでしかないけど。

つまりなまじ俺が結果を出したもんだから上層部にも期待されてしまった訳だ。

まったく嬉しくないな。

とにかく任務はこなす、やらなくてはならない。

だが、そんな俺の前に会いたくないやつが現れた。

 

「おや、デスペア少尉こんなところに!是非ともまたお話をと思っておりました」

「あぁ?」

 

これから出掛けるというのに行く手を阻む超人機関の技術者。

特に故意はないんだろうが邪魔だ。

というかあまり誰かと話したい気分じゃない。

技術者はそんな俺の心情を知るわけもなく興奮気味に近付いてきた。

 

「少尉の意見は大変参考になります!お時間がよろしければまた――」

「黙れ」

 

暴力を振るうわけにもいかないので壁を殴って言葉を遮った。

結構全力で殴ったからか壁が抉れ、技術者は驚愕している。

まさか俺の機嫌を損ねたとは思ってないらしい。

次第に驚きから困惑になっていた。

 

「あ、あの少尉…何か気に障ってしまったでしょうか?」

「黙れと言ってる。今は気が立ってるんだ。話したい気分じゃない」

「そうですか。申し訳ありません。お気持ちお察しします」

「……」

 

適当なこと吐かしやがって。

何も知らないのに察せるわけがないだろう。

あぁ、この際だから言っておくか。

 

「ソーマは俺の仲間だ。今度俺の前で兵器扱いしたらぶん殴るぞ」

「は…?」

 

技術者のやつ本気で何を言ってるのか分からないって顔してやがる。

俺の対応を予想してなかったのか、呆然と立ち尽くしてる。

ふん、知ったことじゃないな。

とにかく任務通り、バイクに乗ってテロ襲撃予測地点へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

与えられた仕事はこなした。

テロ襲撃予測地点で暫く様子見をしていたら怪しい男達を発見。

取り抑えて軍の人間に受け渡した。

一応人革連側でテロリストの一角を捕まえたことになるが、多分時系列的にAEUの方が早い。

やはり本筋通り、AEUの情報でソレスタルビーイングが動くのだろう。

関わりたくない事の上に無駄な労働とは最悪のコンビネーションだな。

 

任務を終えたことだし本部へと戻ろうと高速道路をバイクで疾走する。

すると、俺と並走する二輪が現れる。

それだけなら気にしないが明らかに様子がおかしい。

なにやら俺にジェスチャーを送り、ヘルメットのバイザーを上げて目を見せてきた。

 

「何の用だ」

「ははは、さっそく無愛想だな!」

「質問に答えろ」

「淡白だなぁ。もっと話し合おうとは思わないのか?結論から行くのは面白くないだろ」

「知るか!」

 

まったくなんだこいつは。

ヘルメットからはみ出る金髪のロン毛、顔はヘルメットのせいで全貌は見えないがかなり整っている。

イケメンということだ。

俺には接点の無さそうなやつだが一体なんなんだ、単にからかってるのか?

何を考えているのか読めない。

無視してもいいが何故か会話を断ち切れない何かがある。

まるで俺と共鳴しているような気がする。

何が、とは明白には言えない。

 

「これだから男ってのはやだね!」

「はぁ?」

「お前釣れないやつだな!」

「何の話だよ…」

 

普段から女を侍らせれてる口調だ。

やっぱりモテ男か。

オタクの俺には程遠い存在だろ、近寄るな。

手っ取り早く要件を聞き出してやろう。

 

「要件を言え。からかってるだけなら先に行くぞ」

「あーはいはい。分かったよ、せっかちだな」

 

金髪ロン毛が呆れたとでも言うような仕草を取ってくる。

なんかうざい。

奴は一度前を向いて再び俺と目を合わせた。

色彩に輝く目を。

 

「なっ…」

「俺がどういう存在か分かっただろ?人革連のイノベイター」

「何故それを…っ!」

「ははは!直に分かるさ!今は強くなることだけを考えろ。そうじゃないとあんた――死ぬぜ?」

「……っ!」

 

金髪ロン毛の瞳が俺の瞳を捉える。

色彩の瞳が対峙し、金髪の男は不敵に笑った。

 

「いずれあんたとは戦うことになる。その時までに少しはマシな程度に強くなってくれよ!じゃあな!」

「お、おい…!」

 

金髪ロン毛を風に靡かせ、金髪の男は先行して高速道路を降りる。

急いで後を追ったが対応が遅かった。

既に金髪の男の背は小さく見てなくなっている。

 

「何なんだったんだあいつは」

 

あんな金髪の男は見たことない。

少なくとも俺は知らない。

あの瞳…間違いなく同種だ。

何故俺に接触してきたかは分からない、主要人物なのかも同様に。

俺という存在の立ち位置的に接触されても金髪の男の格を断定できない。

まさかこんなところで不安要素が出るとは…。

テロに関する任務といい、無駄骨といい嫌なことばかりだ。

 

そんな俺の端末が振動する。

人革連からの連絡だ。

任務報告が上に伝わるには早過ぎる気がするが、事態が事態だけに有り得なくもない。

だが、内容は全く違った。

 

「これは…」

 

遂に来たか。

待ちに待ったわけじゃないが楽しみにはしていた。

随分と待ったからな。

金髪の男については頭の片隅でも置いておくとして、戻るとしよう。

そうと決まればすぐに進行方向を変えた。

 

本部へ戻ると開発部へ直行する。

MS(モビルスーツ)の技術者に案内されるまま付いていくとライトに照らされた機体が1機、視界に現れた。

黒いティエレンだ。

 

「デスペア少尉の専用MS(モビルスーツ)ティエレンチーツーです。全身に姿勢制御スラスターを装備し、一般機を凌駕する高機動性を誇ります。また、通信・索敵機能も強化しました」

「ティエレンタオツーと性能は同じということか」

「はい。デスペア少尉にはピーリス少尉同様に期待を寄せられています」

「そうか。少し荷が重いが、ありがとう」

「はっ!」

 

技術者は敬礼して去っていった。

ほんとこんな機体を用意してくれるのは有難い。

俺に使いこなせるか不安はあるが、その為にも努力しているんだ。

絶対に使いこなしてみせる。

 

『貴官は何故戦う?』

「……」

 

何故かスミルノフ中佐の問いが頭に浮かんでくる。

改めて考えると何故戦うのか俺にも分からない。

でも戦場からは逃げられない、イノベイドである限り。

 

「生きてみせるさ…。あの子の分まで」

 

黒いティエレン、ティエレンチーツーはそんな俺を見下ろしていた。



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初陣

タグに『オリキャラ』を追加しました。
前回は前書きに注意書きで書こうとして忘れてしまい、申し訳ありません。
1stにおいて登場するオリキャラはあと1人、合計2人出す予定です。
オリジナルのMS、ガンダムも少しだけ考えています。
苦手な方はブラウザバックをお勧めします。


ソレスタルビーイングの武力介入から早4ヶ月。

その間に介入行動した回数は60回。

ソレスタルビーイングの行動を支持する者もいれば反対する者もいる世の中、どちらにせよ戦争を望まないことには一致していた。

ユニオンやAEUは同盟国領内の紛争事変のみソレスタルビーイングに対して防衛行動を行うと公表。

しかし、モラリア紛争以来大規模な紛争は一度も起きていない。

そんな中、唯一ソレスタルビーイングに対して対決姿勢でいる人革連ではある匿秘作戦が決行されようとしていた。

 

確かリボンズのナレーションでそんなことを言っていた気がする。

人革連(ブラック企業)の頭はいつまでも堅いようだ。

作戦の主軸を担うスミルノフ中佐の専任特設部隊『頂武』である俺やソーマ、他の精鋭達。

招集された全員が隊列を組んで前に立つスミルノフ中佐の宣言を聞く。

 

「特務部隊『頂武』隊員諸君。諸君らは母国の代表であり、人類革新連盟軍の精鋭である。諸君らの任務は世界中で武力介入を続ける武装組織の壊滅、及びモビルスーツの鹵獲にある。この任務を全うすることで我ら人類革新連盟は世界をリードし、人類の発展に大きく貢献することになるだろう。諸君らの奮起に期待する!」

 

スミルノフ中佐の言葉に敬礼する『頂武』の精鋭達。

三国家群の中で唯一対決姿勢である人革連は私設武装組織ソレスタルビーイングに対して本格的な作戦に出た。

指揮官はロシアの荒熊、または俺の上司のセルゲイ・スミルノフ中佐。

最終目標はガンダムの鹵獲だ。

 

作戦は通信子機を人革連の静止軌道衛星領域にばら撒き、プトレマイオスまたはガンダムのGN粒子によって通信子機の接続が途絶えたところを探り出す。

通信の遮断はすなわちプトレマイオスかガンダムが居るということ。

つまりは物量作戦だがかなりいい的を射ている。

さすがはロシアの荒熊、スミルノフ中佐。

本筋でもこの作戦でトレミー等は苦しめられた。

 

この物量作戦の要を中佐専任の部隊『頂武』が担っており、もちろん俺も重要な役割を持っている。

まだ作戦は始まってはいない。

準備段階中、俺はアレハンドロとリボンズの手回しで手に入れたティエレンチーツーを見上げていた。

ライトに照らされる専用の機体。

暗転している赤い瞳が俺を捉えている。

 

「……」

「デスペア少尉」

「ソーマか。どうした?」

 

出撃前に緊張を抑えているとソーマがやって来た。

確かソーマは俺と同じ部隊なので一緒に居ても問題はない。

 

「これがデスペア少尉のMS(モビルスーツ)…」

「あぁ。射撃が苦手だってのに加速砲なんてもんを積んでるらしい。弾数は5、当てられる気がしないな」

「それは…上には進言しなかったのか?」

「折角用意して貰ったんだ。無下にはできないだろ」

「……少尉は優しいのだな」

「そんなことないさ」

 

優しいなんて事はない。

なんなら内心でめっちゃ文句言ってる。

リヴァイヴは俺の何を見てたんだって。

後からヒリングに聞いた話じゃ何かに絶望し過ぎて最近あまり気分が宜しくないらしい。

よく、酷いものを見た…、と呟いているらしい。

そんなにか。

流石に泣きそう。

 

まあそんなわけでリヴァイヴからリボンズには何も伝わってないらしい。

酷い話だ。

原因は俺だが。

ソーマと暫く雑談しているととある男が訪れた。

『頂武』に所属しているなら誰でも知っている者だ。

 

「ピーリス少尉、デスペア少尉。出撃前に緊張でもしているのですか?」

「ミン中尉。今作戦はよろしくお願いします!」

「中佐が信頼する手腕、私も足を引っ張らないよう尽力致します!」

「そんなに畏まらなくても良いですよ」

「はっ!」

 

現れたのはミン中尉、スミルノフ中佐の副官で優秀な上司だ。

真面目な男だが実はかなりいい上司。

原作ではハレルヤに殺されていい所なし、人物像も掴みにくいが中佐が頼りにする程の手腕を持ち、操縦能力も『頂武』の中では上位だろう。

俺やソーマ、スミルノフ中佐を抜けば次に実力のある頼れる上司だ。

 

なんで人革連はこうも優れていて良い上司が集まるのか不思議だ。

ブラック企業は人材を雇うのが上手い。

良くあるよな、ブラック企業程優秀な上司が酷くこき使われている光景。

どうでもいいか。

 

「大規模作戦になりますが、どうか肩の力を抜いて。発揮できるものもできなくなってしまうから。二人には期待していますよ」

「ミン中尉…恐縮です」

「ありがとうございます」

 

ミン中尉の言葉に敬礼する俺とソーマ。

ソーマはどうか知らないが俺は重要な戦力として見られていることに緊張していた。

出撃前にこうやって声を掛けてくれる上司がいるのは有難い。

この後死んでしまうことになるなんて考えたくない。

本当にいい上司だ。

 

「では、これにて。共に頑張りましょう」

「了解…!」

 

微笑みを残してミン中尉は戻って行った。

中尉は中佐の副官だけあって忙しい。

だというのに俺達に声を掛けにくれた。

思い返すとなんて素晴らしい人だ。

もう何度目でも言おう、いい上司だ。

 

「ミン中尉の期待に応えるためにも頑張らなきゃな…」

「あぁ」

 

ソーマが頷く。

超兵としてではなく、部下として接してくれるミン中尉。

もちろん能力を評価しているけどそれでもそういう存在は割と少ない。

ソーマの目からしてもミン中尉は頼もしい上司なんだろう。

 

ソーマのスーツに関しては弄ってしまったが、今回は本筋通り進めなくてはいけない。

俺が下手に介入すると改変が起きてしまう。

その為には例え信頼している上司でも犠牲にしなくては。

勿論辛い、だが非情になることで最悪の結末を回避できるかもしれない。

 

改変で必ずしも本筋より良い方向にいくとは限らない。

寧ろその逆の方が実例は多い。

人革連、『頂武』のメンバーである限り物量作戦の参加は免れない。

本来ならこれだけでも介入し過ぎなんだ。

変な感情論を持ち込んでバットエンドなんて笑えないからな。

 

「デスペア少尉?」

「ん…なんだ」

「いや、考え事をしているように見えた」

「あぁ…ちょっとな。大したことじゃない」

「そうか」

 

ソーマに見抜かれてしまった。

ダメだな、どうも表情に出てる。

まだまだ甘い。

転生者なんだ、少しくらいは弁えないとどう影響が出るか分からない。

軍人や超兵はやはり鋭い。

本来は一般人の俺から見抜くのは簡単なことなんだ。

葛藤するのも極力減らさないといけない。

非情になり切れないのは駄目という残酷な世界だ。

誰だ、転生なんてさせたやつ。

……今更か。

 

「初陣だ。お互い緊張してると思うがサポートし合おう」

「私に緊張はないが、任せるがいい」

「そうか」

 

淡白ではあるが決して冷たいわけではない。

そんな感じのソーマの対応。

確か物足りない初陣となったという中佐の台詞にそのような気持ちはない、作戦を完遂することが全てとか言ってたな。

兵器として扱われてきたわけだし、『超兵』であるという自己意識が高い時期だから仕方ないっちゃ仕方ないな。

多少の改変はあれども本質は変わっちゃいない。

俺は隣にいるソーマに声をかける。

 

「ソーマ。1番大切なのは生きて帰ってくることだ。忘れるなよ」

「だ、だが作戦を完遂させることが私の……」

「いいから、約束だ」

「やく、そく……」

 

反復するように呟き、俯くソーマ。

俺はソーマの顔を覗き小指を立てる。

 

「な…?」

「……うん」

 

戸惑いながらもソーマはゆっくりと小指を絡めた。

 

「いい子だ」

「……」

 

本当に愛いやつだ。

ソーマを再度撫で、微笑む。

上手く笑えたか不安だが確認出来ないからどうしようもないな。

ソーマの表情はよく見えないがこれで少しは生きることを優先してくれるかな。

そもそも俺がいる時点で改変が起こる危険性はある。

そんなことでソーマには死んで欲しくない。

必ずアレルヤに会わせてみせる。

 

それはそうともうすぐ作戦が始まるのでソーマを後ろに従えて行動を開始する。

それにしてもどうもソーマに構ってしまう癖がある。

……妹と歳が近いからかもしれない。

ダメだな。

別人と別人を重ねるのはよくない。

反省するとしよう。

 

『緊急出撃準備。0655より一番艦から順次出撃する。全搭乗員は加速に備えよ。140秒後に緊急加速を開始する!』

 

オペレーターからの通達が入る。

俺は既にティエレンチーツーに乗り込んでおり、機体の状態を確認。

すると、ミン中尉から通信があった。

 

『デスペア少尉。全周囲モニターのシステムに不備はありませんか?他にも確認してください』

「オールグリーンです。出撃準備完了しました」

『了解。武運を祈ります』

「はっ!中尉こそご武運を」

『ありがとう』

 

ミン中尉との通信を終え、出撃に備える。

ちなみにティエレンチーツーは元々複座式だが、俺の専用機として改造が施され、単座式になっている。

本来は前部座席だけに全周囲モニターがあったが、改造後も変わらず採用。

広い視野を持っている。

射撃が下手な俺からしたら回避行動は命、とても有難い。

 

ティエレンタオツー、ティエレン全領域対応型のプロトタイプにあたるこの機体。

タオツーが完成したことにより他にも改良は施されている。

 

『全艦、加速可能領域に到達。加速開始します』

 

そんなチーツーやソーマのタオツーなどの機体を載せた艦を含めて加速した。

プトレマイオスとの距離を縮め、作戦を開始。

 

その後、通信遮断ポイントが2箇所増え、トレミーはガンダム2機を出撃。

生憎人革連側なので本筋通りキュリオスとヴァーチェなのかはわからないが、状況から見てそこの改変ないだろう。

スメラギが指示を変える要素がない。

 

ガンダム2機による陽動に中佐は陽動で応え、一番から三番艦はモビルスーツ全機発進。

二番、三番の操舵士を自動操舵に切り替えブリッジ分離の後、基地へ帰投させ、三番艦に第三通信遮断ポイントをトレースするのを忘れるなと的確な指示。

心底中佐が味方で良かったと思う采配だ。

 

一番艦後方でMS(モビルスーツ)部隊が縦列隊形となり、二番、三番艦はブリッジを分離後に各々第二、第三通信遮断ポイントへと向かう。

本筋を知っていれば分かる通り、無人艦を2隻、ガンダムキュリオスとヴァーチェにぶつけたのだ。

2機が無人艦を相手に時間を取らせる作戦はそのままだ。

ちなみにこちらの艦船は多目的輸送艦EDI402ラオホゥが4隻だ。

これも変わっていない。

 

電磁波干渉領域に自らトレミーが移動しているため、キュリオスとヴァーチェへの通信は不可能。

中佐はそこまで計算しているのだろう、陽動は後から出た指示だからな。

おそらくこの調子ならプトレマイオスがオービタルリングの影に隠れるのも変わらないだろう。

司令塔にいない俺には当然連絡は入ってこないが、これで中佐がプトレマイオスを初めて映像に捉えることになる。

 

ソレスタルビーイングの組織力にさぞ驚くだろう。

イオリアの時代から計画されていたことだ。

仕方ないとしか言えない。

イノベイターもその一部だから元を辿れば俺はイオリアによって作られたことになるのか。

ふざけんな。

 

と、まあ俺の出番はキュリオスを鹵獲する時まで無い。

目的地に向かいながら食ってるゼリーが美味しい。

二番、三番艦によりガンダム2機が足止めを喰らい、残ったラオホゥ1隻とMS(モビルスーツ)部隊がプトレマイオスへと向かっている。

スミルノフ中佐の采配によりスメラギの戦術プランは失敗、挟み撃ちは出来なかっただろう。

 

無人艦が特攻、デュナメスによって破壊。

しかし、無人艦の後ろに隠れていた36機のMS(モビルスーツ)部隊が出現。

等など戦況が入ってくる入ってくる。

ここまで本筋通り、改変は起きてない。

 

「こりゃ今回は大丈夫そうだな…」

 

なんとか安心だ。

操縦中のティエレンチーツー操縦席で安堵する。

無人艦の特攻が失敗したことからデュナメスはやはりプトレマイオスの防衛に徹している。

万全かどうかは現場にいないのでわからないが、どちらにせよ防衛には回るだろう。

まあ戦況から見て万全ではないと思うが。

 

エクシアとヴァーチェに関してはどちらがどちらか分からない。

判断材料としては本筋ではヴァーチェが潰す予定の無人艦だが戦闘時間を見ても微妙、元素人の俺にはよく分からん。

そして、ティエレンチーツーのモニターに映るのは機雷群に気付くも持ち前の飛行能力によって回避できずに突っ込んでしまう機体が1機。

 

羽付のガンダム、ガンダムキュリオス。

まさか再戦する羽目になるとはな。

まあ本筋通りなら戦う必要はないが。

中佐の指示で向かった場所に罠に掛かるキュリオスを捕捉。

確実にガンダムを鹵獲するために組まれた部隊が隊列を組んで向かう。

 

『ガンダムを確認した。行くぞ、ソーマ』

『了解』

 

ティエレンチーツー、タオツーその他ティエレン。

俺がいるが経過を見るに改変はないと信じたい。

ならばこれから改変が起こる可能性は俺が何かしらの行動を起こした時だ。

キュリオスが鹵獲された後、四番艦に収容することになる。

本筋ではアレルヤがハレルヤになり暴走、四番艦が内側からが破壊され、作業兵など多くの命が――仲間が死んでしまう。

ミン中尉も、折角出会った良き上司ではあるがハレルヤに殺されなければ改変の危険性がある。

 

そうだ、非情に。

非情にならなくてはならない。

知っているからといって行動を起こしてはいけない。

俺がやるべきことは、やらなきゃいけないことは決まってるんだ。

この世界に転生して最初に考えた事は世界の鑑賞だ。

それ以上でも以下でもない。

戦うのはリボンズの差金であってそれ以上の意味はない。

生きる為というのも戦いが当然の上での回答だ。

 

まったく、とんだ皮肉だ。

ソーマに生きろと言った癖に俺は命を見捨てる。

今思うと笑えてくる。

自分で巻いた種で苦しむとは酷い有様だ。

だが、どうしようもない、してはいけない。

だから俺はティエレンチーツーでキュリオスへと近付く。

 

『くっ……うぁ…っ!』

『……非情にでもなんでも、なってやる』

 

俺はアレルヤの苦しむ声を耳に入れながら覚悟を決めた。



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仇討ち

ティエレンチーツーについては多少目を瞑ってもらえると有難いです。


痛みに耐えているのか、やがてキュリオスは動かなくなった。

スミルノフ中佐やミン中尉、俺やソーマのいる『頂武』MS(モビルスーツ)部隊が近付くが反応はない。

 

『中佐、羽付の動きが妙です。特殊粒子も出ていません』

『機体の変調か?それとも罠か?』

 

キュリオスの様子を訝しむ『頂武』のパイロット達。

中佐も首を傾げる中、前に出るティエレンがいた。

 

『中佐、私が先行します』

『カーボンネットを使ってからだ、ミン中尉!』

『了解』

 

ティエレンタオツー、ソーマが先行しようとするも一度制止され、キュリオスにカーボンネットが全包囲から撃たれる。

あっという間にキュリオスは拘束されてしまった。

アレルヤは苦しんでるんだろうが音声は拾えない。

 

『相対速度同調。接近します』

 

ソーマが操縦するタオツーがキュリオスへと接近。

タオツーがキュリオスへと触れた時。

 

『うあああああああああ…!ぐああああああ!?』

『なに…?』

 

これも本筋通り、アレルヤの悲痛の叫びが通信で響いてきた。

ソーマだけでなく皆も困惑する。

と、中佐は異変に気付き始める。

 

『ガンダムのパイロットが苦しんでいる…?ピーリス少尉を拒んでいるように見える…。まさか、これがデスペア少尉の言っていたピーリス少尉と同類か?』

『……恐らく』

 

超人機関の技術者曰く、貴重な意見である俺の推測もとい原作知識であるソーマと同類の存在の可能性。

重力ブロックの件が無くともそこからアレルヤの正体を結びつける中佐は流石だ。

誤魔化して答えたが、勿論俺は確信している。

というか知ってると言った方が正しいか。

 

『中佐、パイロットの意識が途絶えました』

 

中佐が推測している内にアレルヤがダウン。

お疲れ。

脳量子波を有するイノベイターの俺には少しだけ辛さが分かる、あくまで辛かろうなって程度だけどな。

よく頑張った。

 

『了解した。各機羽付を4番艦に収容後、安全領域まで離脱。ユアン軍曹は本隊に合流し、撤退信号を送れ』

 

中佐の指示でキュリオスを拘束しながら四番艦、ラオホゥへと戻っていく『頂武』MS(モビルスーツ)部隊。

中佐の的確な指示でキュリオスをラオホゥへと収納する。

 

『羽付の収納完了』

『作業兵はパイロットを機体から離し拘束せよ』

『作業班了解!』

 

そんなやり取りを中佐と作業兵で交わす。

 

『……』

 

キュリオスの収納される様子をいつの間にか眺めていた。

作業兵がキュリオスの断層撮影などに失敗している。

誰もが危険な戦場でガンダム鹵獲のために尽力している。

だが、そんな彼らもすぐに殺されてしまう。

あぁ…ったく。

覚悟は決めた筈なのにまだ後ろめたさが残ってる。

事前に知っているのに見捨てる行為はいつまでも慣れないし、胸を締め付ける。

 

どうにかして自分を抑えないと。

たまたま転生してしまっただけなんだ。

間違っても物語に介入して死ぬ筈だった人達を救うような存在ではない。

勘違いしては駄目だ。

救ってしまったらそれはただの偽善だ。

救った気になって何もかも失ってしまうかもしれない。

 

『ピーリス少尉にしては物足りぬ初陣となったな』

『私にそのような感情はありません。作戦を完遂させることが……、させることと生きて帰ることが私の全てです』

『ピーリス少尉…?』

 

ティエレンチーツーと共にラオホゥを眺めていると、ソーマと中佐の会話が改変してるなこれ。

まあこの程度ならいいだろう。

ソーマに関しては俺との約束があったからな、影響されてもおかしくない。

中佐はそんなソーマの変化に気付いたようだ。

 

と、今はそれどころではない。

熱源反応だ。

 

『……?中佐、熱源が来ます…っ!』

『なに!?』

 

いち早くソーマが気付き、警告する。

その警告に秒間を空けずに極太のビーム砲撃が誰の視界にも映った。

中佐やミン中尉、ソーマは砲撃の軌道から逃れ、ティエレン宇宙型が2機餌食になってしまう。

断末魔さえ聞けず、2機のティエレンが爆散した。

 

『……っ!』

 

知っていた。

予めここで二人死ぬのは知っていた。

だが、実際に目の前で殺されると――なんだ?この気持ちは。

待て、俺は何を考えてる?

 

『全機散開!4番艦は現宙域より緊急離脱せよ!この攻撃はデカブツか?』

『ガンダム…!』

 

中佐の迅速な指示、ソーマが熱源の正体を忌々しげに呟く。

でもどちらも頭に入ってこない。

何故か俺の目は未だに跡形もなく消えたティエレン2機だ。

 

『ぐあああああ!?』

『……っ』

 

また1機、砲撃の餌食になる。

今度はしっかりと俺の仲間の声が耳に届いた。

ティエレンチーツーのモニターに映るのはこちらに向かってくるガンダムヴァーチェ、ティエリア・アーデだ。

 

ティエリア…俺と、同種のイノベイド…。

そうか、本筋通りか。

エクシアとヴァーチェの位置も、出現時間も場面も。

 

なら俺のやるべきことは決まっている。

出来るだけ本筋通りになるように動くだけだ。

 

……待て。なんだ、このモヤモヤとした胸がつっかえる感じは。

酷く苦しい。

出撃前に先ほど死んでしまった仲間と顔を合わせたからか?

言葉を交わしあったからか?

確かにアニメではモブ扱いで顔すら出ていない。

でも俺は彼らの顔を知っている。

 

だからどうした。

やるべきことは決まっている。

何度も言わせるな。

分かっているのに――。

なら――なら、何故――。

 

『何故…俺は…こんなにも悲しんでるんだ!!』

 

もう自分が分からない。

ティエレンチーツーがブースターユニットによって加速する。

最高速度、ティエレン宇宙型の数倍には及ぶ速度だ。

誰の意思で動いているのか。

勿論俺だ。

 

『中佐、敵が射撃態勢に――』

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』

『――っ!?』

 

ソーマの通信をも遮って俺は怒号する。

俺の感情に応えるようにティエレンチーツーはガンダムヴァーチェへと向かっていた。

 

『……っ。接近する機体、あれは他のティエレンとは違う!何者だ!』

 

GNフィールドを展開して中佐やミン中尉などの総射撃に擦り傷すら与えられていないヴァーチェの目線がティエレンチーツーを捉える。

気付かれたか、だが些細な問題ですらない。

 

『粉砕する!』

『うおおおおおおおおお!』

 

ヴァーチェが四番艦からティエレンチーツーへと照準を変える。

本来ならティエレンタオツー、ソーマがヴァーチェを妨害するシーンだったか。

今はどうでもいい、考えるのは止めた。

いや、考えることができない。

 

ヴァーチェは胸部のGNコンデンサーとGNバズーカを直結させ、砲口を完全に俺のティエレンチーツーに固定する。

どう考えても砲撃までに辿り着くことは叶わない。

だから、俺は、ティエレンチーツーは加速を中止し、500mm多段加速砲を構えた。

 

『ヴァーチェに対抗するつもりか、愚かなっ!』

『俺もイノベイターだあぁぁぁぁぁあああっ!』

 

500mm多段加速砲が火を噴く。

くっ…!反動が大きい。

大分狙いが外れた。

砲弾を多段的に加速させることにより、威力と弾速が飛躍的に高まるこの加速砲。

その性能に一切恥じぬ弾速はヴァーチェがGNバズーカのチャージを完了させるより早かった。

 

『なに!?』

 

相変わらず下手な俺の射撃に加えて反動が大きく、衝撃を考慮しないと照準がズレるため、ヴァーチェには掠りもしてない。

だが、加速砲の砲弾がヴァーチェ周辺の衛星を粉砕し、ヴァーチェの動きが一瞬止まった。

ティエリアでさえ予想してなかった速度だったのか。

外したが、注意を引くには充分だ。

元々俺の射撃には期待してないしな…!

 

『ティエリアァァァァァアアア!!』

『うぐっ…、ぐああああ…っ!?』

 

ティエレンチーツーでヴァーチェに突進する。

持ち前の堅さ、頑丈さを活かさせて貰った。

機体が触れることでティエリアの苦痛も聞こえる。

勿論突進できたのはヴァーチェがGNフィールドを解いていたから。

俺が既に砲撃の軌道から外れていたからGNフィールドを解いて、攻撃法をGNキャノンに切り替えたが遅い。

砲撃なんて放たせるまでもなくそこらの衛星まで叩きつけてやった。

 

『な、なんだ…!このパワーは!このティエレンは、いや、パイロットは何者だ…!』

『それくらい、自分で感じろ…!!』

『うぐっ…!調子に、乗るな…っ!』

 

GNキャノンが下に、ティエレンチーツーを狙う。

だが、もう俺の捕捉範囲だ。

500mm多段加速砲の砲口をヴァーチェの装甲に突きつける。

 

『まさか!?この近距離で撃つつもりか…!』

『この距離なら外さないからなぁ!!』

 

加速砲の引き金を引く。

 

『うぐ、ぐああああっ!うああああああ…っ!』

『ぐうっ…うわあああああああ!?』

 

零距離射撃での大爆破。

俺のティエレンチーツーもティエリアのヴァーチェも吹き飛び、それぞれ別の衛星へと背をぶつける。

無茶な零距離射撃で500mm多段加速砲は砲口が完全に消え失せた。

もはや使い物にならないから腰部から加速砲を接続してるアームを断ち切る。

500mm多段加速砲は捨て、ティエレンチーツーに残った武装は30mm機銃だけだ。

ふん、どうせ当たらないんだ。

あってもなくてもいい。

 

さて、ヴァーチェだが…腹部の装甲とGNキャノンを片方破壊できたみたいだ。

内部に眠る機体がちょっと暗いが晒されている。

我ながら初のナイス射撃だ。

GNキャノンを破壊できたということはGNフィールドは展開できない。

ヴァーチェは防御を半分失ったも同じだ。

 

『はぁ…はぁ…。よくも、ガンダムを…!』

『ティエリア…!』

『万死に値する!』

『お前は俺の仲間を殺した!』

 

ヴァーチェがGNバズーカを構える。

俺も500mm多段加速砲を構えようとしたが、そうかないのか。

誰だ、要らないとか言ったやつ。

俺か。

 

くそ、やらかした。

GNバズーカのチャージが完了する前に接近することは不可能だ。

だからといって回避も成功するかギリギリのライン。

30mm機銃は死亡確実なので論外。

ここで冷静になってみればなんで俺はヴァーチェと戦ってる?

……はぁ。最悪だ。

あれほど感情的にはならないと決めたのに。

 

今更だ。

そんなことに思考を取られていたら殺される。

ヴァーチェを、ティエリアをなんとか倒さなくては。

今は戦うしかない。

 

『デスペア少尉!』

『くっ…新手かっ!』

 

ヴァーチェのチャージを邪魔するように的確に狙われた弾丸がヴァーチェの装甲に着弾する。

GNフィールドを展開できないのと装甲が減っていることでヴァーチェはダメージを受けているようだ。

そして、勿論駆けつけたのはティエレンタオツーとティエレン宇宙型が1機。

 

『デスペア少尉、無事か!』

『ガンダム…!』

『中佐…ソーマ…』

 

ティエレンチーツーの前に援護しにきたスミルノフ中佐とソーマ。

そういえば戦いに夢中でみんなに気を配ってなかった。

モニターを見ると他のMS(モビルスーツ)部隊は四番艦と共に移動している。

中佐の指示か。

 

確か本筋ではソーマがタオツーでヴァーチェと対抗し、ヴァーチェは自分に任せて四番艦を頼むと中佐らにお願いしていた。

俺の場合は声すら掛けずに無茶な特攻をヴァーチェに行ったな。

馬鹿か、俺。

 

『デスペア少尉。勝手な行動はするな』

『すみません…』

 

案の定怒られた。

普段から良くしてもらってる上司に怒られると本気で反省する。

 

『3対1…巨体のティエレンと機動性に長けたティエレン、おそらく隊長格が1人…。くっ、こんなことをしているうちにも輸送艦が…っ!』

 

もう姿の見えなくなってしまった輸送艦に顔を顰めるティエリア。

モニターに映る『巨体のティエレン』を見遣る。

 

『新型らしき機体の他に…あの機体から特別なものを感じる…。妙に馴染むような…。不快だ!』

 

『中佐、来ます!』

『ピーリス少尉はデカブツの気を引け!私とデスペア少尉で畳み掛ける!』

『了解!』

 

機動力に長けたタオツーで敵を誘導し、実力ある中佐と火力に長けた俺でトドメを刺す。

たった3機でも最適なフォーメーションだ。

 

『中佐、四番艦が…っ!』

『そうか…是が非でもデカブツを鹵獲する!』

『……』

 

四番艦が……そうか。

ハレルヤが暴走したか。

あちらは本筋通り…本筋、通り…。

 

『くそ…。くそ…!救えなかった…!』

 

自分でも矛盾していると分かっていても言わずにはいられない。

とにかく今は目の前のヴァーチェに集中しなくては。

 

『堕ちろ、ガンダム!』

『舐められたものだ!』

 

ソーマのタオツーが機動性を活かして距離を起きながらヴァーチェを射撃している。

ヴァーチェはそれに対してGNバズーカで対応、ソーマは気を引きつつ砲撃を避けるので精一杯だ。

 

『ピーリス少尉、その調子だ!』

『こちらからも…!だが、関係はない!』

 

中佐のティエレン宇宙型がタオツーとは逆方面から接近するもGNキャノンは全包囲砲撃可能、片方しかないとはいえ中佐のティエレン宇宙型の動きを妨害する。

だが、今ヴァーチェに残された武装はGNビームサーベルのみ。

二人に対応してる武装を俺には回すと誰かにその隙を入り込まれるのはティエリアも理解している。

それほどまでにソーマと中佐は侮れない。

 

スラスターで加速するチーツー。

ヴァーチェとの距離を詰める。

 

『これしきのことで…!』

『なっ…!?』

 

ヴァーチェがビームサーベルを投げてきた。

間一髪避けたが、お前はエクシアか。

予想してなかったから危なかった。

 

『くっ…それでも!』

 

今度はGNバズーカの砲口をチーツーに向ける。

馬鹿め、タオツーに少しでも自由を与えるか。

 

『させない!』

『しまっ――、だとしても!』

 

タオツーの急速接近からの蹴りでGNバズーカをタオツーが奪っていく。

主武装を失ったヴァーチェだが、今の介入でタオツーが戻ってくるまでは時間がある。

GNキャノンをチーツーに向けてきた。

 

『デスペア少尉はやらせん!』

『なに!?』

 

中佐のティエレン宇宙型がGNキャノンとヴァーチェの接続部分を切断する。

よく見えないがあのまま放置だと後で使われそうだ。

出来れば破壊したいができそうか?

 

『デスペア少尉!ここまでくれば多少傷つけても構わん、デカブツを戦闘不能にしろ!』

『了解!』

 

『舐めるな!』

 

チーツーで詰めるが、ヴァーチェはGN粒子を散布し始めた。

ティエリアのやつ…逃げるつもりか。

 

『逃がすか!』

『ぐあっ…!?』

 

背後から突進して衛星に押し付け、固定する。

ここまでくれば必ず逃がしはしない。

中佐じゃないが是が非でも仇を取る。

 

『ヴァーチェに対抗する気か…!だが、こちらにもパワーはある…!ぐおおおおおお!』

『なっ…この野郎…!』

 

思わず野郎と言ったがこいつは性別不詳か。

今は心底どうでもいい――というか本気で押し返されそうだ!

 

『ぐっ…!』

『邪魔をするなーー!』

 

ヴァーチェのパワーで押し返され、反転された。

ヴァーチェは衛星を背後に、俺はブースターユニットを推進力に力比べの正面からの押し合いを始める。

くそ、ガンダムの方がそりゃ有利だよな。

徐々に押し負けてきた。

 

『ある程度押し返して撤退する!』

 

『援護する!』

『少尉!』

『くっ…』

 

ソーマのタオツーと中佐の宇宙型が向かってくるが間に合わない。

よし、奥の手を使うか。

 

『なっ――』

 

まさか俺が放すと思ってなかったのだろう、プロペラントタンクを残して降下したチーツーにティエリアは驚愕した。

行き場のないパワーでヴァーチェは態勢を崩し、空を掴んだ。

 

『パージした!?』

 

先手必勝。

プロペラントタンクをパージし、ヴァーチェの下に潜り込んだ。

スラスターは3基搭載されている。

プロペラントタンクがなくとも行動可能だ、多少機動性は落ちるがな。

 

『終わりだ!』

 

背後に回り、チーツーで拘束を狙う。

タオツーは主武装200mm×25口径長滑腔砲の銃口をヴァーチェに。

ティエレン宇宙型はチーツーで動きを止められタオツーの射撃で怯んだヴァーチェを捉えようと全速力で接近。

 

だが、ヴァーチェの装甲が突如外れ、背後に回ったチーツーは衛星に叩きつけられる羽目に合い、タオツーと宇宙型も態勢を崩して回避行動を取るしかなかった。

 

『なんだ!?』

『パージした…!』

 

中佐とソーマの驚愕した声が聞こえる。

ガンダムヴァーチェは持ち前の分厚い装甲を分離(パージ)し、真の姿を現す。

ってどこだ?

 

見当たらん。

いや、こういうのは相場が決まってる。

 

『上か!』

 

『ガンダムナドレ、目標を消滅させる!』

 

俺の狙い通り、ティエリアはナドレとして俺達の前に降臨した。



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使命の解答

精霊の如き姿のガンダムが1機、宇宙(そら)に降臨する。

ガンダムナドレ。

対ガンダム用ガンダムだ。

『ヴェーダ』の加護を受けているMS(モビルスーツ)に対して制御下における、『トライアルシステム』が存在する機体。

まあ人革連の機体に『ヴェーダ』とリンクしている機体はないが、機動性がヴァーチェと比べた点では上になる。

 

『デカブツが…』

『…パージした』

 

呆気に取られる中佐とソーマ。

その隙を得てナドレはGNキャノンを構える。

ナドレの戦闘態勢にはさすがに中佐やソーマも、当然俺も身構えた。

 

『一掃する!』

『当たるかよ!』

 

照準は俺のティエレンチーツー、また俺を狙ってきやがった。

GNキャノンから放たれるビーム砲撃がチーツーに迫り、スラスターを噴射して回避行動を取る。

 

『ぐあああ…っ!』

 

さすがに無理だったか。

ヴァーチェと違って撃つまでの予備動作も短くなっている。

チーツーの右足が粒子ビームで粉砕されてしまった。

 

キュリオスもそうだがほんと右足ばかり狙ってくるな。

そういう趣味か?

悪いが受け付けられないな。

それより衝撃で振動が辛い。

 

『よくも…!』

 

30mm機銃を発砲する。

だが、他3機のガンダムに劣らぬ機動力で避けられた。

くそ…機銃が軽いからか狙いは上手く言ったのに…。

糠喜(ぬかよろこ)びしたぜ。

まあ当たってもダメージはないと思うが妨害にすらならなかった。

 

『ガンダム…!』

『その機動性、奪わせてもらうっ!』

『なっ…!?』

 

タオツーが200mm×25口径長滑腔砲を構えつつナドレに接近したが、上から回り込まれソーマは驚愕する。

ナドレの手には既にGNキャノンがない。

ティエリアのやつ、GNキャノンを手放して軽量化したか。

 

『墜ちるがいい…!』

『ぐあっ…!』

『ソーマ!』

 

タオツーの片足がGNビームサーベルで切断され、肩部を貫かれてタオツーは爆発する。

煙を上げて損傷した。

チーツーに武装が無い今、ソーマのタオツーが頼りだってのに…!

 

『少尉!くっ…撤退だ!』

『中佐…!ですが…っ!』

『命令だ!』

『…了解』

 

ヴァーチェで戦力が低下したチーツーに、損傷してしまったタオツー。

客観的に見て勝ち目はない。

中佐が撤退を命じるのも仕方ない。

 

「撤退した…」

 

ティエリアは中佐のティエレン宇宙型が俺のチーツーやソーマのタオツーが逃げていくのをただ眺めていた。

慈悲ではないな。

ナドレで深追いしたくないのか。

中佐のティエレンは俺達を運んでるだけあって通常より遅いが、それでも追撃はしないようだ。

 

まあもうそんなことはいい。

中佐のティエレンに導かれる中、俺の視線は小さくなるまでナドレを捉えていた。

感情的になってしまったがこの際反省はしない。

どうせソーマに関わったり、金髪のイノベイターに出会ったり改変要素はある。今更だ。

 

それに仲間が殺されて黙っていられるわけない。

だから、中佐の撤退命令もほんとは聞きたくなかった。

ただ俺の機体状況とソーマや中佐を巻き込むわけにはいかないから撤退はやむを得ない。

 

『四番艦と護衛部隊の消息を確認する。羽付がまだいるかもしれん。警戒しろ』

『了解しました』

『……』

『デスペア少尉、聞こえていないのか』

『え?あ、あぁ…了解、しました…』

 

こう、映像で見ると重要でない限り誰かが死んでも淡々と描写が進んでいくが実際に現場に居合わせて知ってる人が死ぬのはきつい。

中佐の話でさえ耳に入ってこなかった。

 

今回ばかりは肉体的に疲れたが、それ以上に精神的に負担が大きい。

軍人になったからには慣れなければいけないのは分かってるんだが入隊したというよりさせられた身としては無茶な話だ。

とにかく今は帰還に集中しよう。

相手は防衛戦だったとはいえ、油断はできない。

 

『中佐、接近する機体が…!』

『羽付きか!』

 

そう、まだキュリオスがいる。

俺の目にもこちらに向かってくるガンダムの姿が見えた。

 

『見つけたぜ!ティエレンの高機動超兵仕様。あぁー間違いねぇ!散々ぱら俺の脳量子波に干渉してきやがって!てめえは同類なんだろ!そうさ、俺と同じ!体をあちこち強化されて、脳をいじくりまわされて出来た化物なんだよー!』

 

『…行きます』

『ピーリス少尉、その機体状況では…!』

『ソーマ…!』

 

ソーマが先行してしまった。

同じ存在だから導かれるのか?

いや、今はそれよりソーマを援護しなくては。

もう第三者として見てるわけじゃない、当事者なんだ。

ここにミン中尉はいない。

ならばその代わりを、それ以上の成果を出す。

 

『ソーマ、1人で行くな!』

 

スラスターを噴射して俺もソーマの後を追う。

だが、タオツーよりも機体状況が悪い上にタオツー程の速度は出ない…やはり追いつかないか。

俺が辿り着く前に向かい来るタオツーにキュリオスがGNビームサブマシンガンを構える。

本筋通り、遊ばれるか。

 

『あぁ…随分と苛つかせてくれたからなぁ。ぶっ殺してやるよ!』

『くっ…!』

『なっ!?』

 

違う!ハレルヤのやつ、完全に戦闘モードだ…!

何故だ。

考えてる暇はない。

ソーマのサポートをしなくては。

 

『どけ、ソーマ!』

『……っ』

 

この際、身体の負担は考えず加速し、タオツーを突き飛ばす様にソーマと代わる。

さすが人革連のMS(モビルスーツ)、ただでさえパイロットのことが考えられていないのに限界を超えるとそれだけで身体が粉砕しそうだ。

ソーマに代わって俺がハレルヤと対峙すると、キュリオスはGNビームサブマシンガンではなく、GNシールドを展開してクローを得物にチーツーに突撃してくる。

 

『ぐぅ…っ!』

『邪魔すんなよ一般兵!命あっての物種だろうがーっ!』

『ソーマはやらせん!これは、お前のためでもあるんだぞ!』

『はぁ!?何言ってんだ、寝言は寝て言うもんだぜぇ!!』

『ぐあっ…!?』

 

マリーの存在をそれとなく勘づかせようとしたが無理か。

逆にハレルヤを興奮させてしまった。

そういえばハレルヤはソーマがマリーであることを知っていて、尚、ソーマと本気で戦ったんだった。

寧ろ逆効果だったわけか、くそ…。

 

ちなみに味方との通信は切ってあった。

下手にソーマや中佐に聞かせるわけにはいかないからな。

それより中々危険な状況になってきた。

チーツーのコクピットはクローの刃に挟まれ、俺に命の危機が迫っている。

これだから拷問器具とか呼ばれるんだよ。

 

『ガンダム…!デスペア少尉から離れろ!』

『いい度胸だな、女!だがなぁ、まずはこいつからってもう決めてんだよ!』

『ぐっ…、あああっ…!』

『ソ、ソーマ…っ…!』

『はははは!女、てめぇは後のお楽しみだ!』

 

俺を助けに来たソーマのタオツーがキュリオスによって撃ち阻まれた。

ていうか優先順位が変わってやがる。

ソーマはメインディッシュ、俺は前菜ってか?舐めやがって…。

 

『まずは無駄にでかいティエレン、てめぇを殺すぜ!』

『デスペア少尉…!』

『邪魔はさせるわけねえだろうがー!』

『くっ…』

 

中佐のティエレンも俺を助けようと接近仕掛けたが、GNビームサブマシンガンの射撃で牽制され迂闊には近付けない。

くそ、俺もなんとか足掻いてみたが機体がびくともしない。

損傷している上にハレルヤに押さえつけられてるのか。

 

『動けねえ…!』

『諦めろよ!てめぇは今から死ぬんだよ!!』

『ぐあっ…!?』

 

クローがコクピットを抉る。

はは…目の前で溶けてやがる…めっちゃ怖い。

いや、怖いどころじゃない。

底知れない絶望感に浸される。

 

『どうよ。一方的な暴力に為す術も無く命を擦り減らしていく気分は?』

『……っ、あぁ…ああぁ…!よせ!やめろ…!』

『こいつは命乞いってやつだなぁ、最後はなんだ?ママか?恋人か?今頃走馬灯で子供の頃からやり直している最中か!?』

『やめろぉぉお!!』

 

遂に刃が、GNシールドニードルがモニターを溶かし貫いて現れた。

最悪の役目だ、ミン中尉はこんな思いをしていたのか…!

もし俺が転生ものの主人公ならこんな仕打ちはあんまりだ。

主人公には似合わない醜態を晒している。

 

でも、無理だ。

こんなの、こんなの…!

恐怖に駆られて絶望するに決まってるだろ!

嫌だ、死にたくない…。

俺は、死にたくない。

 

『誰かっ!助けてくれえぇぇぇえーーー!!』

『ははははは!いい声で鳴くじゃねえかっ!でもなぁ、助けなくてこな――ぐおっ!?』

『なっ…』

 

なんだ…?

俺が死を確信した瞬間、キュリオスが吹き飛んだ。

当然チーツーのコクピットを抉っていたGNシールドニードルやクローも消える。

俺の目に映るのは半壊したモニターと――その穴から見える損傷したキュリオス。

 

『誰が撃ってきやがった!ぐあっ…!?またかよ!』

『粒子、ビーム…?』

 

キュリオスのGNシールドは既に粉々にされていて、今の赤い粒子ビームがキュリオスの右腕を持っていった。

人革連の新兵器の話は聞いてない、隠していたとしても今更出すとは思えない。

それに粒子ビームを放つ兵器なんてこの時期に持っている筈がない。

じゃあ、なんだ?

分からないとしか言えないな。

だが、一つ言えることは……。

 

『来る…!そう何度も当たるわけ――ぐうっ…!?なんだ、この精密な狙撃は!?どっから撃ってやがる…!』

 

そう、狙撃。

遥か離れた場所から赤い粒子ビームはキュリオスの左腕を的確に奪った。

ハレルヤが回避行動を取ったにも関わらず、だ。

 

「ちっ……!粒子ビームはガンダムの専売特許だろ、そうだよなぁ!!ソレスタルビーイングさんよぉ!!」

『ハレルヤ……』

「あぁん?なんだよ」

『もうやめよう……撤退だ』

「……腰抜けが。だが、今回ばかりは賛成だ。この粒子ビーム、避けても当たりやがる……」

『……』

「粒子ビームを撃つとは……一体何者だ?味方じゃねえよなぁ。クソがっ」

 

結果的とはいえアレルヤの指示に従うことになったこと、避けても当たる粒子ビームにハレルヤは舌打ちを残し、キュリオスを飛行形態に変形させる。

そのまま逃げるようにトレミーへと向かった。

 

……逃げた、のか?

あっという間のことでよく分からなかったが謎の粒子ビームがキュリオスを圧倒した。

あのビームがどこから飛んできたのか、誰が撃ったのか、目的も分からない。

ただキュリオスが撤退した後、警戒しても飛んでこない。

俺達を助けたのか…?

一体誰が……考えても、分かるわけないか……。

 

『羽付が逃げた……』

『先程の粒子ビームが我々を助けたのか……、なににせよ帰還するぞ。ピーリス少尉、デスペア少尉。長居は危険だ、あの粒子ビームが我々を狙ってくる可能性がある。この宙域を抜けるまで常に警戒しろ』

『了解しました』

『……了解』

 

中佐の指示で撤退する。

結局戦果はほぼなかった。

ヴァーチェを追い詰めることはできたが、ナドレに圧倒され、ガンダムを1機すら鹵獲できなかった。

残存したのはプトレマイオスと防衛に徹していたMS(モビルスーツ)部隊の生き残りと俺やソーマ、中佐。

 

そして、ミン中尉。

キュリオスに追い詰められる役目を俺が引き受けたからか、ミン中尉は生きていた。

ただミン中尉と共にいた四番艦護衛MS(モビルスーツ)部隊は中尉を除いて全滅。

ハレルヤ、キュリオスに一方的にやられたらしい。

 

俺が知っているより被害が大きい。

ソーマに関わりすぎたからか、ヴァーチェと戦ったからか、金髪の同種と出会ったからか。

原因がどれで、どこで改変が起きたのかは分からない。

だが、突き詰めれば全て発端は俺だ。

 

正直俺自身何をしたいのか理解できなくなってきた。

最初は世界を傍観することが願いだった。

だが、リボンズによって介入せざるを得なくなり、なし崩し的に戦うことになった。

その過程でソーマを見捨てることができず、何度か助けたり人として接してきた。

それだけでなく、本筋通りに事が進むよう取り組んでいたにも関わらず、目の前で仲間が死んで感情的に暴走してしまった。

 

思い返せば思い返す程俺の愚行は多い。

そもそも人革連に入隊させられた時点で本筋通りに事を進めるなんて無理だったのか?

もう分からない。

何をすればただ傍観できる存在になれるのか。

もし戦う運命上では本筋通りに行かないのなら教えて欲しい。

最初から情報が無さすぎる。

俺は一体何故転生したんだ。

何故こんな運命を辿っているんだ。

俺に世界を変えろと言っているのか、戦えと言っているのか?

その答えを誰も教えてくれない。

 

「俺は一体どうすればいいんだ……」

 

不安定な存在で孤独な俺の問いは誰にも届かない。

数滴の涙が俺のコクピット内で浮遊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人革連の静止軌道衛星領域外。

双翼を広げる1機のMS(モビルスーツ)がいた。

 

「『あの声』の人、助けられたかな……?」

『マニアッタ、マニアッタ』

「そうなの?まあ……ハロちゃんが言うなら信じるけど……」

 

MS(モビルスーツ)のコクピットに座る黒髪の少女は遠い宙域(そら)を眺める。

その瞳には『あの声』の主、彼の感情が共有されていた。

浮かぶのは悲しみと不安。

 

「なんでこんなにもあの人の気持ちが伝わってくるんだろう…」

『キョウメイ、キョウメイ』

「共、鳴……?ごめん。何言ってるのかよくわかんないや」

 

少女の前でパタパタと動く黒いハロ。

少女はそんなハロに苦笑いを浮かべ、首を傾げる。

そして、再び『彼』のいた方へと視線を向けた。

 

「助けてって声、私以外には届いてなかったのかな……」

 

その言葉を最後に少女の機体は大気圏へと突入する。

宇宙(そら)に残ったのは少女の疑問と赤い粒子だけだった。



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染まり過ぎた味

「レイ・デスペア少尉、貴官を中尉の階級に昇格する」

「はっ!」

 

ガンダムヴァーチェを追い詰めたことにより俺の階級が上がった。

ガンダム鹵獲のための物量作戦自体は失敗したが、キム司令はスミルノフ中佐を責めることもなく、寧ろ俺がヴァーチェを追い詰めたことも含めて評価した。

やはり人を見る目はあるというか、中佐の実力を見越してクビにはしない。

 

まあ個人的には中佐にはこんなブラック企業よりもっといい所に行ってもらいたいけど。

頼むから家族を優先して欲しいな。

勿論アンドレイのことだ。

 

それはそうと俺はキム司令から昇格を言い渡されて、寮に戻る。

ちなみに人革連本部には軍人寮があり、リボンズに住居を与えられなかった俺はそこに住んでいる。

無一文の生後数日胎児を軍隊に放り投げて帰れなくするとかリボンズはかなり汚い、というか酷い。

超人機関出身のソーマも自宅は持ってないから寮だ。

 

「...ただいま」

 

自室に戻って呼びかけたけど誰もいないので返事は返ってこない。

元からいない訳では無い。

今は撤去されてしまったがついこの前までは俺の他にベットが三つあり、同居人(ルームメイト)がいた。

 

同室で暮らすだけあって少しばかり仲良くなったが、先日のガンダム鹵獲作戦でヴァーチェ――ティエリアに殺された。

静けさの漂う室内が出迎えてくれる。

 

「はぁ…中尉、か」

 

堅苦しい正装を脱ぎ、適当に座り込む。

作戦自体は失敗でも俺は昇格した。

まあガンダムを初めて単騎で追い詰めたから当然といえば当然だ。

そこら辺は腐ってもイノベイターか。

勿論俺強いとか馬鹿な転生者にありきの考えはない。

寧ろイノベイターとしての能力以外に取得が無さすぎる。

イノベイターか疑うレベルだ。

 

「ほんとにイノベイターになったんだよな…?」

 

正直疑えてきた。

イノベイターにしてはスペックが低すぎるからなぁ。

機体性能に差があれどもナドレに乗ったティエリアとキュリオスに乗ったアレルヤには圧倒されたし、射撃が下手なマイスタータイプのイノベイターってのは今更だが不思議だ。

……仲間を守ることもできなかった。

 

ティエリアに仲間を殺された時、直前まで知っていながら見過ごそうとはした。

だが、実際は身体が勝手に動いていた。

感情も後から乗って確かに全力で助けようとした。

でも間に合わなかった。

普通のイノベイターなら救えた筈の距離が動きに無駄がありすぎて辿り着けなかった。

 

おかしい。

どうもマイスタータイプのイノベイターにしては俺は弱過ぎる。

一体何故だ?

と、考え込んでいたらノック音が響いた。

誰か訪問してきたようだが、まさかもう新しい同居人(ルームメイト)でも来たのか。

それともその先行報告か。

いや、それならベットを撤去するとは思えないな。

じゃあ誰だろう。

 

「失礼する」

「はい…ってソーマ?」

 

扉を開けると目に映ったのは美しく靡く白髪。

珍しい訪問客にちょっと驚いた。

 

「どうした?」

「すまない…その…」

「……?」

 

訪ねてきたと思えば言葉を詰まらせている。

俯いているし何か思い詰めてるのか。

仕方ない、ここは招き入れてやるとしよう。

まあ本来は駄目だけどな。

 

「とりあえず入れよ」

「あ、あぁ…」

 

辺りを見渡し誰もいないことを確認して、ソーマを入室させる。

そういえば大分ラフな格好のままだがまあソーマだしいいだろう。

最初はアレルヤのヒロインだとかでドキドキしてたが最近じゃ大して気にならなくなった。

暫く一緒にいる仲間だし自然と慣れてしまったのかもしれない。

 

「それで?何かあったのか」

「……いや、私は何も…」

「……?そうか」

 

何かあるから俺のところに来たと思ったが違ったのか。

いや、この考えはちょっと自意識過剰か?

俺より中佐の方が頼れるかもしれないし何かあればそっち…ってことはないか。

そろそろ自覚しよう。

ソーマは俺に懐いてる。

それに接しやすくしたのは俺だ。

 

あ、やっとココアパウダーを発掘した。

元同居人のものだ。

基本俺はコーヒーしか飲まないから自然と奥深くに眠ってしまう。

 

「ほら」

「……ありがとう」

 

マグカップを渡してやるとソーマは熱いのか啜るように飲み始める。

俺はその隣に座った。

 

「地上へ戻る前に今作戦で死んでしまった人達の、同士達の仇討ちを頼まれた…」

「そうだったのか」

 

ソーマに超兵として期待している者は多い。

必然的にそういう願いはソーマに届けられるのか。

可憐な乙女に頼る光景は異常だな。

さすが人革連(ブラック企業)、闇が深い。

勿論許容する気はないが。

 

「それで、その…」

「ん?なんだ」

 

ソーマが裾を掴んでくる。

何か言おうとして躊躇ってるな。

 

「彼らの仇も…取ろうと思う。デスペア少尉の、為に」

「……それはあいつらのことか」

 

つい先日までベットのあった空間を見遣る。

ソーマは静かに頷いた。

どうもおずおずとしてると思ったら俺に気を使っていたのか。

それにしても俺のためとは…変わったな。

ソーマは超兵であるという認識が強かった筈、作戦を完遂させることが全てだ。

そこを俺が変えたらしい。

これについては後悔していない。

改変が起こる要因の一つであるのにこれだけはやってよかったとスッキリしている。

自分でもよく分からんな。

 

「俺のことは気にするな」

「え…?」

 

ソーマを撫でてやると不思議そうに俺を見上げてくる。

 

「ソーマの仇討ちは要らない。俺も軍人だ、仇くらい自分で取るさ」

「デスペア少尉…」

「それと俺は()()だ」

「あ…。し、失礼しました」

「ふっ、昇格したからって畏まらなくてもいいさ」

「そ、そうか…。わかった」

 

まあ軍人にさせられたっていう方が正しい。

ソーマにとって誰かの仇を討つのも使命になっていたのかもしれない。

だから俺のも代わりに取ろうとしたんだろうが不要だ。

そんなことでソーマには死んで欲しくないからな。

 

「暫くここにいるか?」

「…うん」

 

ソーマは頷き、俺に寄り添った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上へ戻ってくる前、ガンダム鹵獲作戦を終えた『頂武』や作戦参加兵は人革連の低軌道ステーションに暫く滞在していた。

その間にアレルヤ・ハプティズム、ガンダムキュリオスが超人機関研究施設を破壊した。

人革連のスペースコロニー全球にスミルノフ中佐も知らされていない研究施設があり、キュリオスの破壊行動によりその存在が世界単位で明らかになった。

 

超人機関研究施設の壊滅はソーマの耳には届かず、中佐によって軍に派遣されていた技術者も取り調べを受けることになった。

まあソーマにもいつか知らされるだろう。

2ndでは既に把握していたみたいだし、そこら辺はスミルノフ中佐にタイミングを任せるとしよう。

後々だが義父みたいな存在だしな。

 

もちろん俺も低軌道ステーションに滞在していて、廊下を歩いていたら数人の兵士に連れていかれる超人機関の技術者と鉢合わせした。

技術者は俺を見るなり拘束を無理矢理振りきって擦り寄ってくる。

 

「デスペア少尉!私は何も知らないんです!どうか、どうか助けてください!」

「知るか、地獄に落ちろ」

「そんな…!」

 

必死に縋りついてきた技術者を蹴り払うとまた拘束された。

まったく、俺を同志か何かと勘違いしてる節があるな。

 

技術者が絶望しきった顔で連れていかれ、背中が小さくなるのを見ていると、ソーマが現れた。

ソーマが来た頃には技術者は見えなくなるくらいだ。

 

「どうした?確か待機命令だっただろ」

「今、持ち場に戻ろうと思っていたが貴方を見掛けたから…」

「そうか」

 

知り合いがいたら声を掛けるのは何もおかしくはないな。

俺もソーマを見かけたら声を掛ける。

 

「何かあったのか?何やら騒がしい」

 

ソーマが連行されていった技術者の方を眺めて尋ねてくる。

中佐が伏せているなら俺もそうするとしよう。

 

「いや、特に何もないさ。気にするほどの事じゃない」

「わかった。私は持ち場に戻る」

「はいよ、いってらっしゃい」

 

短い会話を済ませるとソーマは持ち場へと向かった。

隠し事をしていると後ろめたい気持ちになるが仕方ないな。

大人から見た視点とソーマ(乙女)から見る視点では違う。

ソーマからすれば同類を、仲間を失ったと同じことだろう。

伝えると精神が不安定になる可能性がある。

 

ならば今は伝えなくていいだろう。

なに、時が来れば必ず知ることになる。

焦る必要はない。

 

ソーマと別れて低軌道ステーションでの休憩室に入る。

勿論休憩時間が割り振られたから休んでいるんだ。

というか暫く仕事がない。

なのでワインを開けさせて貰った。

特別好きなわけじゃないが祝いには必要だと思ってな。

 

「そろそろか…」

 

グリニッジ標準時間を確認しながら呟く。

祝う相手はアレルヤ・ハプティズム。

キュリオスのガンダムマイスターだ。

 

今は敵だが、前世では彼も俺にとってはただのキャラクターだった。

なので今はただのファンとして祝福しようと思ってワインを用意した。

よく生誕祭とかやる、あれと似たようなものだ。

グラスに色濃いワインを注ぎ、揺らす。

 

「……おめでとう、アレルヤ・ハプティズム」

 

少し皮肉を込めた祝いの言葉。

状況が状況だけに、だ。

気持ちを切り替えるためにも…と思っていたが、どうも怒りや憎しみといった感情も少し混じる。

当然仲間を殺されたからだ。

どうやら俺はちょっとこの世界に染まり過ぎてるらしい。

それを象徴するようにワインは少し不味かった。



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双翼の残痕と誘い

ミン中尉の口調は適当です。


「超人機関の被験体が一部行方不明?」

「うむ。調査をした結果、5年程前に。デスペア中尉はどう見る?」

「そうですね…」

 

スミルノフ中佐に尋ねられるが、ぶっちゃけわからない。

俺の知ってる話じゃそんな出来事はなかった。

アレルヤ…ではないだろう、彼らの脱走はもっと前の筈。

じゃあなんだ?

可能性としてはまた改変か…。

 

とにかく中佐にはどうとも答えられないな。

ここは正直に話そう。

 

「すみません…俺には…」

「そうか…。私は5年前にも超人機関の研究施設に襲撃があったと考えている」

「襲撃…?」

「これを見たまえ」

 

中佐が憶測と共に端末に映し出した映像を俺に見せてくる。

なんだろうか…画像はぶれてて鮮明には読み取れない。

ただ、よくよく目を凝らして見るとぶれている物体はMS(モビルスーツ)だ。

機体だと分かっても全貌は把握しづらないな…。

 

「あの、中佐…この白いのはなんだと思いますか?」

「ふむ…翼のように見えるがMS(モビルスーツ)に白翼など不可解極まりない」

 

翼か…。

まあ見えなくもない。

言われてみれば天使の翼に見えてきた。

とにかく確認できるのは機体の背中から露出している白い何かと――ん?この赤い点は…粒子…?

 

「中尉も気付いたか」

「え?」

「この機体は例の特殊粒子を放っているようにも見える」

「……っ!」

 

馬鹿な、ならガンダムだとでも言うのか?

原作開始5年前に超人機関研究施設にガンダムの襲撃。

もしそれが本当なら確実に改変だ。

こんな出来事を俺は知らないからな。

 

「中佐、ガンダムであれなんであれ襲撃があったのなら報告が上がってるのでは?」

「あぁ。それがこれだ。だが、被害は極小でこの襲撃時に被験者の一部が消えている」

「つまり…ずっとこれは秘匿されていたと?」

「そうなるな」

 

ほんとどこまで闇が深いんだ、人革連(ブラック企業)は。

早速辞めたくなってきた。

まあ冗談はこのくらいにして真剣に考えよう。

ガンダムの襲撃で被験者が消えた。

いや、拉致されたと考えるのが自然だろう。

なんの為だ?目的が見えない。

 

そもそも襲撃してきたガンダムは1機だけなのか。

今確認できる報告書では1機しか把握できないが、他にもいるかもしれない。

ガンダムじゃなくても他に乗り込んだ機体がいるかもな。

1番濃い線はソレスタルビーイングだが…翼持ちのガンダムなんていたか?

羽付きのキュリオスならいるが、翼持ちは聞いたことがない。

 

赤い粒子ってことは擬似太陽炉を積んでるってことだろ?

なら少なくともソレスタルビーイングではない。

トリニティ兄妹…だとしたら翼持ちは説明がつかない。

彼らの乗るスローネにそんな機体はない。

 

「赤い粒子…ソレスタルビーイングのガンダムの特殊粒子の色とは違う。奴らのガンダムは青い粒子を放っていたが…」

「中佐。確かガンダム鹵獲作戦の時、羽付きを退けた粒子ビームも赤色でしたよね?」

「むっ…確かに。まさかあれは…!」

「可能性はあるかと」

 

そう、キュリオスを退けた粒子ビームでの精密狙撃。

後で調査しても人革連の静止軌道衛星領域内では特にガンダムらしき痕跡はなかった。

粒子の残痕もなし。

探査機の通信が遮断されている地点もソレスタルビーイングのものしか見当たらない。

 

じゃあ粒子ビームはどこから放たれたのか。

粒子の色からソレスタルビーイングの兵器ではない。

改変が起こっていれば可能性がないわけではないが、かなり低いだろう。

まさかとは思うが人革連の静止軌道衛星領域の外からキュリオスを狙ったとかなら説明はつく。

はは、我ながら有り得ないな。

そこまでくれば腕前どころの話ではない。

てことでスローネ アイン、ヨハン・トリニティである可能性は無きに等しいな。

 

中佐とうんうん唸るがそれ以上は出てこない。

資料に真剣に目を通す中佐だが、やがて全て机上に置いた。

 

「これ以上考えても埒が明かん。一旦切り上げてキム司令へ報告するとしよう」

「お役に立てず申し訳ありません、中佐」

「いや、貴官の意見はとても助かった。ピーリス少尉のスーツのことといい貴官は発想力がある。これからも頼りにしているぞ」

「はっ!」

「うむ」

 

勿体ないお言葉を貰うと中佐は資料やらをまとめて退室した。

力になれたのは粒子ビームとの関連性くらいだけど無いよりマシか、中佐は細かく報告するらしい。

 

さて、また時間が空いたわけだがどうしようか。

……久しぶりに世界の情勢に目を向けるのもいい。

最近はそんな気分じゃなかったが、周囲に目を当てることも必要だ。

確か超人機関崩壊の次はアザディスタンの話だよな。

 

アザディスタン王国、中東に存在するカスピ海とペルシャ湾に挟まれた国だ。

元々石油輸出産業で経済を立てていたが、太陽発電システム建設により石油が存在意義をなくしつつあり、今はそのせいで衰退している。

国連会議で一部を除いて石油輸出の規制がかけられ、中東が反発。

それによって中東国家が武力行使を行ったことにより、太陽光発電紛争が起こり、疲弊した中東国家は世界に見放され、今も貧困に苦しんでいる。

 

そういえば刹那・F・セイエイの故郷であるクルジス共和国はアザディスタン王国に統合された筈。

そのことにより、国民が二教徒に分かれ、いつでも一触即発の状況になっているとか。

 

中東は恐ろしい状況だな。

近付くのも危険だ。

だが、マリナ・イスマイールは奮闘している。

結果は芳しくないが彼女は刹那と出会い、世界の変革が彼女の運命を揺るがす。

結局アザディスタンは滅んでしまうがな。

 

まあ御復習いはこの辺りにして次に起こる出来事(イベント)について考えよう。

アリー・アル・サーシェスや超保守派によって宗教的指導者マスード・ラフマディーが拉致され、ちょっとした内戦…というかテロが始まる。

 

まったく…またテロか。

そうだな、そういえばテロだった。

ソレスタルビーイングが対処するとはいえ、やはり関わるのはやめるか?

関わるといっても介入するわけじゃないが、というかしたくない。

あぁ、くそ…今になって思い出したから不意打ちで頭が痛てぇ…。

 

「くっ…!」

 

休憩室で思わず屈む。

すると、丁度ソーマが入ってきた。

 

「デスペア中尉…?」

「ソー、マ…っ」

「……っ!一体、何が…!?」

 

頭を抑える俺にソーマが駆け寄ってくる。

どうも脳量子派が乱れる。

頭の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜるようだ。

 

「だ、大丈夫だ…」

「しかし…」

「ありがとう。本当に、大丈夫」

「そうか…良かった…」

 

ソーマがホッと胸を撫で下ろし、安堵する。

心配を掛けてしまったか。

悪い事をした。

なんか癖になっている気がするが撫でてやろう。

 

「んっ…」

 

そっと髪に触れ、撫でるとソーマは気持ちよさそうに声を漏らす。

うんうん、可愛いなぁソーマは。

さすがはアレルヤのヒロインだ。

こう、なんかアレルヤに渡す時になると妹に彼氏ができたような感覚になりそうだな。

 

それはそうと今回は頭痛が短かった。

深雪(みゆき)の幻覚も見えなかったし、症状が緩和しているのか?

分からん。

まあ苦痛が和らいだのは良い事だ、きっと。

 

「そうだ、ソーマ。予定空いてるか?」

「……?特に用事はないが…」

「そうか。じゃあ――」

 

と、気分転換にソーマを連れ回そうかと思った時、俺の端末が振動した。

こんな時になんだろうか。

リボンズからの連絡の可能性はあるが、内容が予想できない。

嫌なことじゃないといいけどなぁ。

 

「……暗号通信?」

「なに?」

 

端末を起動するとソーマも顔を覗かせる。

おっと、ちょっといい匂いがする。

これはあれだな、超人機関関係者が消えたことにより少し自由になったソーマで女性兵達が遊んだんだな。

もといこれまで異常な生活だった分、普通の生活待遇をしてあげたのか。

シャンプーの香りが俺の鼻を刺激する。

 

と、そんなことより暗号通信だ。

危ない危ない、ソーマに思考を全て奪われるところだった。

暗号通信の内容は容易に解読できた。

というか完全に俺が解けるようになってるな。

宛先は不明だ、身を明かさないとは無礼だな。

 

「なになに?」

「これは…っ!」

 

俺より先にソーマが驚愕する。

文面を読むうちに俺も目を見開いた。

なんだこれ…。

 

『座標の位置に来い。その際、必ず女を1人連れてくること。それ以外の人員は認めない。もし、複数で来た場合はお前の大事なものを奪う』

 

なんとも定番というかわかりやすいというか、そんな感じのメッセージ。

名を名乗らずに呼び出しとは…いい度胸だ。

それにしても女を連れてこいってどういうことだ。

なんか嫌な予感がする。

 

当然仲間を連れていけば、って脅しか。

女はいいのかよ。

よく分からん。

それにしても俺の大事なものってなんだ?

 

「あぁ、ソーマか」

「私が何か…?」

「いや、こっちの話だ」

 

ソーマには適当にぼやかす。

正直転生してから大事なものってソーマや中佐、ミン中尉はもちろん仲間のことぐらいしか浮かんでこない。

どこぞのアルマークのせいでほとんど人革連にいたからな。

『頂武』にいる期間が1番長い。

必然的に大事なものは決まってくる。

 

「これ、場合によっては話のスケールが大き過ぎるだろ…」

「中佐に報告しに行こう」

「いや、どこかで知れてしまえば相手を刺激することになる。ここは指示通りに動こう」

「だが、独断で動くのは最適ではない」

「分かってるさ。でも変に刺激するのも最適とは言えない」

「それは…」

 

ソーマが言葉に詰まる。

つまりはどっちも駄目ということだ。

ならば出来るだけ情報の漏洩を防ぎつつ尚且つその可能性のない人物に頼ればいい。

 

「1人、声を掛けよう。口止めすれば相手に漏れることもない」

「……中佐程の御方ではなく、頼れる人物」

「そういうことだ。ちなみに俺は1人しか思い当たらない。ソーマは?」

「奇遇だな。私も同じだ」

「そうか、なら決まりだ」

 

互いに頷き合い、俺とソーマはすぐにミン中尉の元へ向かった。

ミン中尉が1人の時を狙って話があると個室へ入ってもらう。

 

「……ここなら誰にも聞かれません。何がありました?」

「私から事を話させて頂きます。実は――」

 

ソーマが挙手し、ミン中尉に説明する。

話を聞いたミン中尉はなるほどと頷いて暫く考え込んだ。

 

「レイを狙った脅迫メッセージですか…」

「はい。相手を刺激するわけにもいかず、2人で行くわけにもいかないのでミン中尉にご相談を…。面倒事に巻き込んで申し訳ありません」

「いえ、頼ってくれたことは嬉しいです。是非力になりましょう」

「ありがとうございます!」

 

寛大な人だ。

思わず敬礼してしまった。

 

「レイ。階級は同じなのですから畏まらなくてもいいのですよ」

「いえ…さすがにそれは…。年齢差もありますし」

 

階級が上がったからといって態度を改める気はないなー。

心使いは嬉しいがやはりミン中尉は俺の上司だ。

そこに階級なんて関係ない。

 

それにしてもミン中尉に話したのは正解だった。

予想通り、かなり話がわかる人。

相手の要望に応えつつ警戒するには用心棒は少ないほうがいい。

失礼だが中尉の階級なら他者に漏れることもないだろう。

繋がりは上と比べて少ないからな。

 

それはそうと俺を呼び出すなんて誰の仕業だろうか。

心当たりが無さすぎる。

今にして思えば俺は人の繋がり少ないよな。

悲しい。

まあそんなことはどうでもいいんだよ。

ほんとに誰が何の為にこんなことするんだか。

 

「時間も迫ってますし早速行動しましょうか」

「はっ」

「連れていく女性は…」

「私が役割を務めます」

「ではピーリス少尉、お願いします」

「了解しました」

 

なんか勝手に進行していく。

ていうかソーマのやつ、今自分から立候補しなかったか?

まあ戦力的にもソーマは優秀だし採用するけどさ。

もしもの時、ソーマなら敵を倒せる。

 

「私は周囲を警戒しつつ隠密します。2人は相手の要望通り、目的地に向かいなさい。時間差でスミルノフ中佐にも報告しましょう」

「了解…!」

 

ミン中尉の的確な指示に俺とソーマは敬礼した。



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もう一人からの挑戦

予定していたオリキャラ2人の他に3人出ますが特に重要ではないです。


やって来たのはAEUの領土と人革連の領土の間、どちらにも属さない更地だ。

モスクワの外れの方が分かりやすいな。

で、俺とソーマは何もない地へと訪れたわけだが最初に目に映ったのはAEUのMS(モビルスーツ)イナクトだった。

 

それも2機。

どちらもパイロットが乗ってないのか動かない。

なんでこんなところにAEUの機体があるのか、それはこれから聞けそうだな。

 

「俺達を呼び出したのはお前だな」

「おっ、やっと来たか」

 

俺の声に振り向く金髪の男。

こいつは…いつかのイケメン…。

国際テロネットワークによる全世界同時多発テロの時、人革連のテロ襲撃予測地点へ向かった帰りに高速道路で並走してきた男だ。

確か奴の瞳は色彩に輝き――奴はイノベイターだった。

 

「久しぶりだな。人革連の…っとそう睨むなよ。仲間の前では禁句なのか?」

「答える義理はない」

「……デスペア中尉、知り合いなのか」

「ちょっとな」

 

正確には一方的に話し掛けられただけだが面倒なので適当に返す。

それにイノベイター関連だから口には出せないしな。

金髪のイノベイター…そうか、AEU所属の軍人だったのか。

俺が人革連のイノベイターならAEUのイノベイターってとこか。

さて、誰に送り込まれた。

まずは探りを入れるか。

 

「要件の前に少し話がしたい」

「ふーん……ん?あぁ、いいぜ。話な」

「どこ見て話してるんだ?」

 

さっきから金髪の視線が俺を捉えてない。

俺の後ろ…ソーマ?

ソーマを見てるのか。

凄く嫌な予感がする上に人の目を見て話さないとは不快だな。

 

「軍にはどうやって入隊した?リボ…俺達の統率者的な存在を知ってるか?」

 

まずはどういう経緯でAEUの軍隊に所属しているのか。

リボンズはこいつのことを知ってるのか、あいつが入隊させ、俺に送り込んできたのか。

リボンズの名前を出すわけにはいかないので少し誤魔化して話した。

統率者って時点で不可解だが、まあ仕方ない。

ソーマは理解できないって感じで首を傾げて俺を見ている。

 

「統率者?あー…大体誰のことかはわかった。会ったことあるぜ。寧ろあいつの差金で俺はここにいる」

「そうか」

 

やはりか。

リボンズのやつ、何を考えてるんだ。

勿論俺は知らされていない。

俺に金髪の存在を隠していた?

なんの為だ。

くそ、情報がまだ足りない。

 

「本題に移る。何が目的で俺を呼び出した?なぜ俺に近付く?」

「はぁ…んなこったぁどうでもいいだろ。そんなことより早く後ろの女の子紹介してくれよ」

「は?」

 

金髪が急に俺の話を断ち切ってソーマに目をやる。

というかあいつの目線は最初からソーマに釘付けだ。

おい、まだ核心に触れてすらいないぞ。

元から話す気はないのか?ふざけんな。

急に話題が自身に移ってソーマも困惑している。

 

「ソ、ソーマ・ピーリスだ」

「ソーマちゃん!へぇ…いい名前」

「おい!まだ話の途中――」

「ん?ソーマ…ピーリス…どっかで聞いたことが…あっ!!」

 

こいつ、もはや視界から俺を消していやがる。

金髪はソーマの顔をまじまじと見た後、平手に拳を打って何か思い出したような仕草をした。

 

「あ、あ…っ!そ、その子はアルレヤ・ハップティスムのヒロインじゃないか!」

「はぁ…?」

 

いや、誰だよ。

多分アレルヤ・ハプティズムだな。

ソーマも首を傾げてるぞ。

まあ間違えてて良かった。

アレルヤの名前を聞いてソーマが何かしら思い出してしまうかもしれなかった。

思い出すこと自体はいいけどタイミングが早過ぎる。

 

そんなことよりわかったことが一つあるな。

金髪は転生者だ。

俺と同じ存在、転生者のイノベイター。

世界的に知られてないガンダムマイスターの名前を知っているのはイノベイターなら有り得るが、ヒロインといった時点でアウト。

口調的に俺と同じ第三者目線でこの世界を見てきたものだ。

なるほど、道理で俺の知らない存在の筈だ。

最悪だな。

 

「うわぁ…!間近で見るとめっちゃ可愛いな!お前のヒロイン、ピーリスちゃんかよ!羨ましい!」

「うるせぇな…」

 

金髪がソーマを指差しながら地団駄を踏む。

子供か、お前は。

それとソーマは俺のヒロインじゃなくてアレルヤのヒロインだぞ。

俺達はあくまで仲間だ。

まあ信頼関係であることは認める。

 

それにしても金髪の興奮具合に嫌な予感がする。

これはあれだ。

普段から女を誑かし、侍らせ、とにかく可愛い女の子に手当り次第手を出していく感じの男だ。

イケメンの特権、モテ男であることを利用して女を囲む。

なんとも苦手な人種だな。

 

「一応、聞く。お前ここに来た経緯は?」

「ん?……あぁ、そういう。そうだな…」

 

敢えてボヤして尋ねたが理解したか。

この理解力、質問内容からしてどう考えても転生者だ。

もはや確定事項。

まさか俺以外にも居たとはな。

リボンズは後で尋問だ。

 

「やっぱり話を変える。なんで俺達を呼び出した?女を連れてこいってのは……まあ大体予想がついた」

「それなら話が早い」

 

金髪は指を弾き鳴らすと俺にパイロットのスーツを投げてきた。

反射神経でキャッチしたが前世ならヘルメットで顔面強打だ。

イノベイターで良かった。

 

「なんの真似だ?」

「俺の送ったメッセージは見たよな」

「あぁ。あの無礼なやつならな」

「あれは挑戦状だ。俺と決闘しろ」

「はぁ!?」

 

いきなり決闘とか何を言ってるんだ?

頭が湧いてるとしか思えない。

金髪の存在についてはある程度知れた。

受ける義理はないな。

 

「断る」

「俺が勝ったらピーリスちゃんを俺にくれ!」

「話聞けよ!」

 

こいつ馬鹿なのか?ソーマは超兵だぞ。

国際問題でも起こすつもりか?

俺はソーマを庇うように立つ。

 

「ピーリスちゃんはあれだろ?あの…超人なんたらの…とにかく!人革連に利用されて兵器扱いされてる可哀想な子だ!これ以上その子に非人道的なことはさせないからな!」

「な、何の話を…。貴様、デスペア中尉に決闘を仕掛けるとは何事だ!」

「安心して、ピーリスちゃん。俺が助けるよ!」

「おい!」

 

駄目だ、会話が成立してない。

ソーマ本人ですら無理みたいだな。

ソーマが超人機関出身で人革連に利用されてることは当然知ってるか。

で、それを解放して俺のヒロインにする……ってか?

 

バカバカしい。金髪の脳内はどこまでお花畑なんだ。

差詰め自分をソーマ(ヒロイン)を救う主人公だとでも思ってるんだろう。

なるほど、女を連れてこいというのは俺から俺のヒロイン候補であろう身近にいる女を連れてこさせ奪うつもりだったのか。

元から話し合うつもりはなし。

決闘に持ち込んでヒロインゲット、段取りが滅茶苦茶だがな。

 

とにかく俺自身は目的ではなく、呼び出したのはソーマを奪うため。

金髪は予め俺が転生者であることを知っていて、自分のようにヒロインをそろそろゲットする頃合だと思っていたのか。

違う意味で頭痛がするな。

まさか金髪がこんなクソ野郎だとは思わなかった。

一応話をある程度合わせるか、会話を少しでも噛み合わさなければ。

 

「もし仮に俺が決闘を受けるとして俺が勝った場合は?」

「は?俺が勝つに決まってんだろ?何言ってんだ?」

「……え?はっ?」

 

嘘だろ。なんだこいつ。

ダメだ、本当に会話にならない。こいつから意思疎通の可能性が微塵も見いだせない。

クソ、こんな奴に付き合ってられるか!

 

「バカバカしい。俺達は帰らせてもらうぞ」

「待てよ。逃げるつもりか?」

「なに…?」

「デスペア中尉…!」

「なっ…ソーマ!?」

 

振り返るとソーマが屈強な男2人組に捕えられていた。

さすがのソーマでもおそらく軍人であろう男2人は振り払えない。

というか想定していたのか、かなり力持ちのやつを連れてきたようだ。

一体なんの真似だ?

金髪を睨むと先程まではいなかった女共を3人従えて金髪は不敵に笑った。

 

「ふん。逃げようたってそうは行かないぜ!人革連に染まったクズ野郎!ピーリスちゃんを解放するために決闘は受けてもらう!」

「そこまで言うなら肝心のソーマを傷つけてんじゃねえ!」

「くっ…!」

 

ソーマが抗おうとするも屈強な男達に抑えられる。

力任せに抑えられるソーマは苦痛に顔を歪ませていた。

 

「ごめんね、ピーリスちゃん!これは君のためなんだ!少しの間我慢しててくれ、俺がこいつを倒す」

「この…!人の話を聞けっての。無理矢理に話を自分好みに進行させるな!」

「黙れ!非道野郎!ピーリスちゃんを解放するために洗脳を受けているピーリスちゃんにはああするしかないんだ…。だが、お前を倒した暁にはあの子を幸せにしてみせる」

「お前は女が欲しいだけだろ!」

 

何が幸せにしてみせるだ。

欲望に忠実な奴め、下半身でしか物事を考えられないのか。

しかし、金髪は自分を信じきってるみたいだな。

俺は転生者でありながら人革連に染まって、ソーマを利用する存在に見えているらしい。

くそ、これだから人革連(ブラック企業)は…!

俺と人革連の闇の部分を混濁されてしまった。

金髪は俺を倒してソーマを人革連から解放しようとしている。

言葉だけ見ればいい事だが、本音はただのエゴ。

自己満足。自身の欲望のため。

 

「デスペア中尉…!」

「ピーリスちゃん…!こんな奴、倒して君を解放してあげよう!君は明日から、いや、今日から自由の身だ」

 

金髪がソーマにアピールして周りの女共は嫉妬からかソーマを睨んでる。

そんなことしてるから刺されるんだよ。

 

「さぁ!決闘を受けてもらうぜ!」

「ちっ…!」

 

相手が計画的過ぎる。

手順にハマってしまったせいで思惑通りになってしまった。

ミン中尉はまだ隠れているのか…。

ミン中尉の方がベテランだ。

何か考えがあるのだろう。

今は出てくるタイミングじゃないか。

ならば俺が決闘するのはありなのか?

そんな疑問を浮かべると、懐にある端末が震える。

直感と状況で分かる、肯定の合図。

俺に決闘を受けろと言っているのか。

 

「……わかった。決闘を受けよう」

「ふん。やっと決心したか」

「デスペア中尉…!私など放って中佐にこの事を…!」

「ソーマ…。悪いがそれはできない」

「何故…!?」

 

ソーマが信じられないといった目で俺を見る。

ここは自分を置いて撤退し、中佐に伝えるのが最適だと考えたんだろう。

だが、俺はそんなソーマの目を真っ直ぐに捉えて告げた。

 

「俺はソーマを見捨てない。どんな状況でも救い出してみせる」

「……っ」

 

俺の言葉にソーマは衝撃に打たれたように泣きそうな目になる。

やはり感情が本筋より豊かだ。

それは俺が変えたこと。

ならば最後まで責任を持たなくてはならない。

それに、アレルヤと会わせるまでソーマを誰かに渡す気はない。

 

「ルールは簡単だ。公平な勝負をするために同じ機体を用意した。あれで一騎打ち、真の実力勝負といこうぜ…!」

「……いいだろう」

 

AEUのイナクトを見上げて承諾する。

この為に用意したのか。

独断で持ってきたのか、もしそうならかなりの権力持ちだな。

男を2人、部下も従えてるようだし。

女共が3人、チヤホヤされるぐらいには階級はあるか。

 

「俺はMS(モビルスーツ)の腕前で大尉にまで登り詰めたんだ!はっ、お前は中尉だっけか?まあまあやるようにはなったようだが足りないな」

「ナオヤ様には敵わないわ!」

「そうよそうよ!」

「戦力差は歴然だな!」

 

外野の女共がうるさい。まあどうでもいいが。

金髪の名前はナオヤか。

イノベイターにしては日本人っぽい名前だな…。

 

いちいちかっこつけて女共に手を振ってはキャーキャー言わせてMS(モビルスーツ)に乗り込むナオヤ。

普通に乗れっての。

あと大尉の階級ならイナクトは無断で持ってきた可能性が高いな。

絶対ぶっ倒してやろう。

その後、それなりの処罰を受けると思うと爽快だ。

 

俺もワイヤーを掴んで上昇していく。

その途中でソーマと目が合った。

 

「デスペア中尉…。くっ!私の、せいで…」

「……ソーマ」

 

どうも自分の責任だと思ってるようだな。

ソーマの悪い癖、役に立つことが超兵(じぶん)の全てだと思い込んでる節がある。

足を引っ張るのは許せないんだろう。

そんな考えは後で砕いてやろう。

俺は上昇していく中でナオヤを睨む。

 

「はっ。お前の魔の手からピーリスちゃんを必ず解放してみせるぜ」

 

「ソーマは絶対に渡さない」

 

互いに睨み合いの末、イナクトに乗り込んだ。

はぁ。

何が公平な勝負だ、イナクトなんて操縦したことなしティエレンとは勝手が違うんだから公平なわけがない。

それであっちは慣れた手付きで準備を済ませる。

最低だな。

だが、どれほどハンデを付けられようとも勝ってみせる。

ソーマが賭けられてる以上、負けは許されない。

 

『負けないさ…、必ず勝つ』

『白髪の美少女とか最高だぜ』

 

そして、向かい合う双方のイナクトは起動した。




ナオヤについてそのうち活動報告に上げます。


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公平な決闘

ナオヤが搭乗するイナクトと対峙する。

相手は指揮官型のようだが、確か一般機と大差なかった筈だ。

指揮官型は通信機能を強化してるんだったかそれくらいしか利点がなかった筈。

一応そういう意味では公平な戦いを望んでいるのは本当らしい。

 

まあ実際は俺は使い慣れてない機体を操縦するわけだから公平さなんて欠片もない。

とりあえず予め了承を得て少し試運転を……と思ったがおかしいな、レバーを引いても反応しない。

故障か?

このイナクト動かないぞ。

 

『おい、この機体なんか壊れて――』

『先制攻撃貰ったぁ!!』

『がはっ…!?』

 

突如なんの合図もなくナオヤのイナクトから放たれた鉄拳。

俺のイナクトは直撃し、倒れ伏せた。

あの野郎、いきなり始めやがった!

何が先制攻撃だ。

思い切りズルじゃねえか。

 

『お前…!』

『はんっ。そんなもんかよ』

『不意打ちしておいて何を!』

 

立ち上がろとするが操作が効かない。

おい、まさか終始動かないのかこの機体。

完全に不良品を寄越してきやがった。

初めからまともに勝負する気はなかったのか…!

 

『まだまだ行くぜ!』

『ぐあっ…!?』

 

俺のイナクトが起き上がらないことを良い事に至近距離からリニアライフルで撃ち抜かれる。

左腕の関節部分を貫かれ、使い物にならなくなった。

元々動かないから使えるもクソもないけどな。

 

『なんだよ、こんなもんかよ。つまんねぇ、なっ!!』

『がっっ…!?』

 

思い切り腹部を蹴り込まれた。

俺のイナクトは巨大な岩石に背をぶつけるまで吹き飛ぶ。

衝撃が蹴りを入れられた前方と勢いよく機体をぶつけた後方とで二重に俺の身体に振動が伝わる。

身体がはち切れそうな痛みが全身に流れて痛い。

こんな状況でやってられるか。

これの何処が公平だ、一度決闘を中断して文句を言ってやろう。

 

『さぁて、どうやら終わりのようだな』

『ま、待て…』

『ん?なんだよ、もう降参か?』

『違う!いい加減にしろ!こっちの機体は壊れてて動かないんだよ…!』

『はぁ?何言ってんだ』

 

リニアライフルを下ろすイナクトから本気で首を傾げているようなナオヤの声がする。

様子がおかしいな。

俺の機体が動かないのはナオヤの仕業じゃないのか。

なら誰が――。

 

と、モニターから下方へと視線を走らせた時、あるものを捉えてしまった。

確かナオヤの取り巻きのビッチ。

1番主張の激しかったピンク髪が俺の方を見て小馬鹿にするように笑いを堪えていた。

 

『あいつの仕業か…!』

『はっ、負け犬の遠吠えか?諦めろ!』

『ちげえよ!?』

 

くそ、聞く耳持たずか。

あの女と結託してるのか?

いや、ナオヤのやつは気づいてないのか。

おそらく言及したところで嘘だと跳ねられるのが落ちか。

大抵こういう奴は仲間を信じきってるからな。

 

ちっ!嵌められた。

初めからワンサイドゲームだってか。

ふざけやがって。

決闘に賛同した時点で計画通りだったというわけだ。

 

『ピーリスちゃんを苦しめた罰だ』

『くっ…!』

『今度こそ終わりにしてやるぜ!』

 

ナオヤのイナクトが飛び上がり、リニアライフルを構える。

銃口は俺のイナクトの関節に照準が合わされていた。

事前に打ち合わせた敗北条件はMS(モビルスーツ)の行動不能。

関節を外せば機体は立てなくなる。

当然の狙いだが、そもそも最初から動けないんじゃこの条件も意味を成してない。

 

『くそ…、動け…っ!』

『トドメだぁぁぁぁああっ!!』

『動け!!』

 

リニアライフルが発砲される。

ソーマが賭けられてるんだ、諦めるわけにはいかない。

俺は幾度もレバーを引いた。

反応がなくても何度でも。

 

「デスペア中尉……!」

 

ソーマが俺の名を叫ぶ。

リニアライフルの弾が迫っている時だった。

絶望的に勝ち目のない状況、時間が静止したような感覚の中、俺のイナクトのシステムが稼働した。

 

『動いた…!』

『なっ、避けただと…!?』

 

やっとのことで動けるようになったのも束の間。

自身の負担は考えず、緊急回避を行った。

正直無理矢理転がるように避けたから振動が酷い。

痛てぇ……!これじゃあティエレンと大して乗り心地が変わらないな。

 

とにかく操縦が可能になった。

相手が驚愕している隙を利用しない手はない。

なに、随分と汚い手を使われ続けたんだ。

それくらいしても罰は当たらないさ。

俺は小さく旋回を掛けながらナオヤのイナクトへと接近する。

 

『くっ…!』

『卑怯な手を使われた分、やり返させてもらう!』

『さっきと動きが違う!?』

 

ナオヤのイナクトがリニアライフルで限界まで連射し、接近してくる俺のイナクトを止めようとするが弾は掠りもしない。

容易に懐に入れた俺はナオヤのイナクトに突進し、岩石にぶつけてやった。

 

『がはっ…!』

『なあ、確実に射撃が当たる方法って知ってるか?』

『いきなり何の話だ…!』

『こうするんだよ』

 

俺はリニアライフルの銃口をナオヤのイナクトの装甲に突きつける。

顔は見えないがナオヤは真っ青になったように焦り始めた。

 

『お、おい。まさか…正気か!?』

『勿論』

 

リニアライフルの引き金を引く。

特徴である実弾がナオヤのイナクトの装甲を抉り、チーツーの500mm多段階加速砲とは違って威力が低いから何度でも撃ち込めた。

俺がスイッチを押す度、イナクトが引き金を引く度、ナオヤのイナクト 指揮官型の胴体は跳ねる。

 

『ぐあっ!ぐおっ!?ぐがっ!て、てめぇ、うぐっ…!?』

『どうした?さっきまでの威勢は…!』

『ふざけんな!ぐっ…汚ねえ!』

 

お前が言うな!

ちなみに俺のイナクトが全身と総重量を利用してナオヤのイナクト 指揮官型の動きを抑えてる為、奴は動けない。

文字通り胃に穴が空くまで撃ってやる。

まあ俺にも衝撃は来るがな。

 

『お前もタダではっ、済まないぞっ!』

『ティエレン乗り舐めんな!』

 

普段からパイロットのことなど微塵も考えられてない人革連のMS(モビルスーツ)乗ってんだ。

この程度でへばるか。

だが、先に残弾が尽きた。

ふん、俺の零距離連射撃に付いてこられない銃とかもはや不要だな。

 

『弾が尽きたか!チャンス!さっきはよくも――』

『オラァ!!』

『かはっ…』

 

何も射撃だけに使うのが銃ではない。

どうせ借り物なんだ、リニアライフルが折れようが知ったこっちゃない。

ということで俺はリニアライフルでナオヤのイナクト 指揮官型の腹部を殴った。

既に穴が空き気味だった為、もう一撃ぶっ刺すと装甲を貫いた。

 

『ば、馬鹿な…、何やってるんだ!?』

『知るか!』

 

ぶっちゃけ俺もよく分からん。

絶対使い方間違ってる自信しかないけどうちの機体じゃないしどうでもいい。

ソニックブレイドを取り出し、刃の周囲にプラズマを纏わせたプラズマソードにする。

プラズマソードで抑えつけていたイナクト 指揮官型の右腕を切断した。

当然その手に握っていたリニアライフルも落とす。

 

『なっ…てめぇ!』

『くっ…』

 

腕の切断の間、抑えがなくなり自由になった短い刹那の時間を逃さずナオヤのイナクト 指揮官型は俺のイナクトの拘束から抜け出す。

腐ってもイノベイター。

一瞬の隙は見逃さないか。

 

『ちゃんと戦いやがれ!』

『鏡見てもう1度言ってみろ!』

 

盛大なブーメランだ。

俺のイナクトとナオヤのイナクト 指揮官型が殴り合う。

ナオヤが先に俺のイナクトの顔面へと拳を入れ、俺がナオヤのイナクト 指揮官型の顎にアッパーを打ち込んだ。

両機体が蹌踉めき、踏み込んだのは俺のイナクト。

全力で腹部に蹴りを入れた。

 

『ぐはっ…!?』

 

なんとか耐えるもナオヤのイナクト 指揮官型は態勢を崩す。

腹にリニアライフルがぶっ刺さってるからな。

上手く機体の平行を保てないみたいだ。

誰だよ、銃器で刺したやつ。

とんだ奇行だな。

 

『俺の勝ちだ』

『……っ!』

 

プラズマソードの刃先をナオヤのコクピットに突きつける。

少しでも動けば刺し殺せる距離だ、実質行動不能みたいなものだろう。

まあ抵抗してきてももう1度叩くだけだ。

 

『くっ…認める…っ…。俺の負けだ…』

『はぁ』

 

ナオヤが負けを認めた。

これにて決闘終了、結果は俺の勝利だ。

疲れた……。コクピットの中で溜息をつく。

本人の意思ではないとしても相手の機体を弄って、出来レースをした結果がこれとは高が知れているな。

 

「……」

「デスペア中尉!」

「勝ちましたか…。お疲れ様です」

「ソーマ、ミン中尉…」

 

実は形勢が逆転した時点でミン中尉が飛び出し、ソーマを解放していたらしい。

なるほど、俺に決闘を受けさせたのは相手側の気を引くためか。

大男達やビッチ達もまんまと隙を突かれたとミン中尉は言っていた。

ちょっと見たかったな、やはりミン中尉はできる男だ。 かっこいい、素直に尊敬する。

 

イナクトから降りた俺をソーマは真っ先に迎えに来た。

その瞳は何処か負い目を感じているような暗い表情をしている。

 

「す、すまない…私のせいでデスペア中尉に――」

「そういうのはなしだ。ソーマは悪くない。それにもう終わったことだ、そうだろ?」

「……あぁ」

 

俺の言葉にソーマは気を取り直したのか頷く。

まだ俯いているので微笑みかけると恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「くそ…!」

「な、なんで…」

 

少し離れたところでナオヤが悔しがって壁を殴り、俺のイナクトに妨害を施したであろうビッチな女の方はイナクトが復活したことに唖然としているようだ。

そういえばなんで動いたんだろうな。

 

「約束通り、俺達はこれまで通りにさせてもらうぞ」

「貴様…!」

 

ナオヤが怒りの形相で睨んでくる。

ていうか超人機関はもう無いんだからソーマに救いは要らねえっての。

大体ただハーレムを形成したいだけの奴なんかよりスミルノフ中佐に任せた方がいいに決まってる。

もちろん、俺も責任を持ってソーマに人間らしさを持たせるつもりだ。

 

俺に掴み掛かろうとしてきたナオヤだが、ソーマが俺を無言で庇うと顔を顰めて下がった。

すると、交代するようにビッチな女が前に出てくる。

 

「反則よ!きっと何かズルをしたんだわ!」

「してねえよ…」

「有り得ないわ、ナオヤ様が負けるなんて…!」

 

諦めの悪い女だ。

しかも細工をしたのはあっちの方だ。

俺は正々堂々と戦った方だろう。

いい加減にして欲しいな。

 

「最初、レイの機体が不自然に動こなかったを見るに何か隠し事があるのはそちらの方ではないか」

「はぁ?何の話だ」

「……っ」

「マイン?」

 

あぁ、マインって名前なのか。

どうでもいいな。

これほど興味が湧かない相手は初めてだ。怒りも感じるがそれ以上にもうこいつと関わりたくないって気持ちの方が遥かに上にある。

 

「とにかく俺の勝ちだ。帰らせてもらうぞ」

「……ピーリスちゃんは必ず解放するからな」

「ほざけ」

 

まったく、まだ言ってるのか。

ささっとソーマを連れて帰るとしよう。

ナオヤに聞きたいことがないわけではないが、リボンズに聞いた方が早そうだ。

というかナオヤは話が通じない。

会話が成立しない脳みそ下半身と話すほど俺も暇じゃないからな。

 

「ピーリスちゃん!」

「……」

 

ナオヤがソーマの名を叫ぶが、ソーマは振り返るどころか反応すらしなかった。

こうしてモスクワ近隣の更地を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モスクワ近海。

もう1人の転生者、レイ・デスペアに決闘を申し込んだ金髪のイノベイター、ナオヤ・ヒンダレスは彼の仲間を連れて海の上をイナクトで飛行していた。

 

『はぁ…まさか負けるなんてなぁ。ピーリスちゃんを救えなかった…なんて力不足なんだ、俺は…』

『ナオヤ様は尽力されました!気に病むことはございません。私が――私達が付いてます!』

『……っ。ありがとう!マイン!』

『いえ…それ程でも…』

『……』

 

求めてもいない救済に失敗し、悔しがるナオヤに通信で励ますように見せて自分以外の女に興味を抱く彼に自身を主張するマイン。

ナオヤと共に搭乗している女やマインの隣で彼女を強く睨んでいる女は内心隙があれば媚を売るマインに不快な顔をする。

と、一行がいつものやり取りをしている中、センサーに機影の反応があった。

 

『ん…?センサーに何か…』

『ナオヤ様!あれを…!』

『え?』

 

マインに呼ばれ、視線を上げるナオヤ。

その目に映ったのは空を飛来する物体。

全身をローブで覆い隠した機体がローブの奥から目を光らせることでMS(モビルスーツ)であることを象徴していた。

 

『なんだ…?あれ』

MS(モビルスーツ)です!』

『なに!?』

 

マインに言われて初めてナオヤもその双眼を捉える。

思わず戦慄した。

 

『敵意はあるのか!?』

『わ、分かりません』

『ナオヤ様、機体がライフルをこちらに…!』

『なっ…』

 

イナクト2機に向けられた二門の砲口。

刹那、赤い粒子ビームを放った。

 

『ぐおっ!?』

『きゃあっ!!』

 

なんとか回避したマインのイナクトとは違い、負傷しているナオヤのイナクトは足を奪われる。

突然の攻撃にナオヤは顔を顰めた。

 

『くそ!どこの機体だ!?人革か?ユニオンか?』

『粒子ビームを撃ってきている時点でどちらでもない』

『くっ…なににせよ、飛ぶのがやっとのこの機体じゃ分が悪い!』

 

マインと共に搭乗している長髪の女性の言葉にナオヤはさらに表情を歪ませる。

代わるようにマインのイナクトが前に出た。

 

『貴様、誰に攻撃したか分かってるのか!?』

『マイン!』

 

ナオヤの制止も聞かないマイン。

頭では分かっているはずなのに激情していて自身でも抑えられなくなっている。

そう、相手はガンダムだと理解しているというのにだ。

 

「おい、粒子ビームを使ってきたということは相手はガンダムだ」

「分かってるわよ!」

「危険だ。貴様はどうでもいいが、ナオヤと私の安全を考慮してもらおう」

「うっさい!命令してんじゃないわよ!」

 

長髪の女性、ビッチ3の言葉も振り切りマインはイナクトでローブのガンダムへと接近する。

リニアライフルを構える。

 

『落ちろ!』

『……』

 

リニアライフルの引き金が引かれ、発砲される六連の実弾。

その全てをローブのガンダムは回避した。

 

『なっ…』

「来るぞ!」

 

回避行動から連続して射撃態勢に移るローブのガンダムに、呆気に取られていたマインを押しのけ、長髪の女性が操縦権を奪う。

 

『――――!』

 

『ぐあっ…!?』

『マイン!ネルシェン!』

 

放たれた赤色の粒子ビームがイナクトの左腕を消し飛ばす。

さらに三本のビーム追撃により、四肢を失った。

それだけ負傷させるとローブのガンダムは旋回し、飛び去る。

 

『ま、待て…!』

『ガンダムゥ…!』

『……っ。あのガンダム…わざと外した?』

 

追うにも機体状況で追えないナオヤ。

怒りの形相で唇を噛みちぎるマイン。

一人、ローブのガンダムの無駄のない動きに驚愕し、疑問を抱える長髪の女性。

それぞれの反応すら置いてローブのガンダムは姿を消した。



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尋問

イノベイター達の本拠に随分と久しぶりに帰ってきた。

馴染み深い長椅子とそこに腰を下ろしている整った顔立ちの同種と対峙している状況だ。

その名もリボンズ・アルマーク。

 

「突然帰ってきたと思ったら、僕に何かようかい?レイ・デスペア」

「とぼけるな。ナオヤを送り込んできたのはお前だろ」

「ナオヤ?あぁ…彼か」

 

白々しい、まるで今の今まで忘れていたような反応だ。

この様子だと俺のことも忘れてると思ったがそんなことはなかったな。

まあいい。

どうせあの女たらしに聞いても答えないんだ。

リボンズに直接問いただしてやる。

 

「何が目的だ。俺はお前の指示通りやってただろ。もう用済みか?」

「あはは、それはないよ。そうだね…彼について説明しよう」

「やっとその気になったか」

 

かれこれ数時間。

有給を犠牲にしてやって来たってのに割に合わない待ち時間だった。

というか有給取りすぎて無くなった。

これだからブラック企業は嫌なんだよ。

と、まあそんな話は置いておいてリボンズの口が開くのを待つ。

 

「ナオヤ・ヒンダレス。彼は君とほぼ同時に生まれたイノベイターさ」

「ほう。誰と同タイプなんだ?」

「君と同じ、誰の同タイプでもないよ」

 

まあ金髪のイノベイターなんていないしな。

金髪枠はルイス・ハレヴィか?

ルイスはナノマシン入りの薬を服用し、身体の仕組みをイノベイドへと一部変換されていっていた。

これは擬似GN粒子の持つ毒性に身体を蝕まれていたルイスにリボンズが人類をイノベイドへと変質させる実験のためにやっていたこと。

 

元々ナノマシン入りの薬には細胞異常を抑制することができ、ルイスの体の障害も一時的には緩和されていただろう。

だが、麻薬と同じで快楽や安らぎは一時的なものにしか過ぎない。

ルイスが飲んでいた薬も結局は代償に身体の構造を変質させるものだった。

そして、そのような危険な真似をリボンズというイノベイターはやる。

だから今回も裏があると睨んでいる。

 

「それで?あいつにはなんて言ってAEU軍に配属させた。いや、潜り込ませること自体には疑問はない。奴と俺をぶつかり合わせるよう仕向けたな?何故そんなことをした」

「ふふっ、随分とせっかちだね。もう本題かい?」

「世間話をするために来たわけじゃないからな。それに、もう随分と待たせてもらった」

「そうか…なら話さないといけないね」

 

さっきからそればっかだな。

露骨に先延ばししてやがる。

一体何を隠してんだ?『ヴェーダ』を掌握した時のリボンズと違って思考は読めない。

脳量子波を送れば即刻バレてしまう。

 

いや、アリだな。

今は真っ向から対立してるんだ。

あっちが本音をさらけ出さない以上思考を読もうとするのは当然の行為だ。

なに、バレても脅しに使える。

 

「……」

「っ、脳量子波…僕の思考に訴えかけてきたね…」

『お前が素直にならないなら強硬策に出るだけだ。不快なら全て話せばいい』

「……分かったよ。彼を…ナオヤを送り込み、君に敵意を向けるように指示した理由を語ろう」

『先延ばしにするようなら――』

「ちゃんと話すさ」

「……」

 

いつになくリボンズが真剣な表情になる。

ふむ、これ以上詮索して敵認識されても困る。

信じてリボンズの口から語られる内容から情報を得よう。

 

「さっきも言った通り、ナオヤは君とほぼ同時に生まれたイノベイター。まだまだ未熟な部分の多い、マイスタータイプさ」

「……」

「君に人革連への配属を命じたように、彼にはAEUへと潜り込ませたのは勿論僕が指示したこと」

「……前から気になってたんだが、俺も軍に配属されたのは何故だ。リヴァイヴ達はまだ待機中なんだろ?」

「鋭いね。そこに着目するとは」

「いいから話せっての」

 

まったく、すぐに話を逸らそうとする。

今は賞賛とか要らねえよ。

 

「君とナオヤはまだ生まれて間もない。リヴァイヴやヒリングとは違い、まだ完全にはマイスタータイプの力を引き出せてないのさ」

「マイスタータイプの力を引き出せてない…?」

「覚えはないかい?」

「……」

 

ない訳では無い。

寧ろ少し前に悩んでいた程だ。

マイスタータイプのイノベイターにしては俺は弱過ぎる、と。

リボンズの言うことを真に受けるなら俺はまだ未熟で本来の能力を発揮し切れていない、ということか?

 

辻褄は合う。

俺はイノベイターの性質や生態そのものを熟知しているわけではないからリボンズの言うことが正しいのかは分からない。

ただ本当のことだと納得ができる程には信憑性がある。

さて、信じるか信じないか。

もう少し探るか。

 

「仮にお前の言う通りだとして俺とナオヤが未熟なのは分かった。それと入隊したのはなんの関係がある。……真のマイスタータイプへとなる為か?」

「正解だ」

 

リボンズの奴、驚いたように笑顔で頷きやがった。

まるで子供が予想外の解答を言い当てたように。

それはそうと予測があたった。

そうか、そういう事だったのか。

 

「レイ・デスペアとナオヤ・ヒンダレスの成長、その為の軍への配属…。君達には()()()()()()()までに本来の力を付けてもらいたいんだよ」

「来たるべき時代…」

 

一瞬何の話かと思ったけど転生者である俺なら理解できる。

来たるべき時代――即ちイノベイター勢が本格的に活動し始める時。

つまりは【2nd season】だ。

 

アロウズが成立し、偽りの恒久和平の為の虐殺が行われる中でイノベイター達はリヴァイヴを筆頭に戦いへと参入する。

アロウズへ入隊し、アロウズが恒久和平を成し遂げた時、人類の上位種として降臨する為に。

自らの、イノベイターの存在を、その力強さを主張する時代(とき)

 

それまでに俺とナオヤはリヴァイヴやヒリングのように完成されたマイスタータイプのイノベイターとならねばならない。

例えばリボンズが『イノベイド』を『イノベイター』と称するように。

成長して進化しなければならない、それが俺に与えられた使命。

 

勿論逃げ出すことも今の役割を放棄することも使命を捨てることもできない。

処分される可能性は高いし、俺は死にたくない。

はぁ…結局俺は戦うしかない。

強くなるしかないということか。

 

「未熟な俺達がリヴァイヴ達と肩を並べるまでどれくらいかかる?」

「それは君次第さ。ただそのリヴァイヴから聞いた話じゃ君の射撃性能は著しく低いと聞いたから随分先の話になるかもしれないね」

「うっ…」

 

痛いとこを突かれた。

やっぱ問題視されてるんだな。

リヴァイヴのやつ、肝心な時に言い渡ってない癖に後から伝達したのか。

余計なことを。

 

とにかくリボンズの目的は分かった。

単純明快、ただ俺が一人前になればいいだけの話。

ただまだ一つ気になることがある。

 

「もう一つ質問していた筈だ、答えてもらうぞ。ナオヤに俺と対立するよう唆したのはなんでだ?」

「それも君達の成長の為かな。競い合った方が成長が早まるのは僕達イノベイターも同じさ。これは生命の原理、僕らのような上位種でも逃れられない運命なのさ」

「そうか…分かった」

 

大体聞きたいことは聞き出せた。

正直一分一秒でもリボンズと対峙していたくない。

だって黒幕だし、何を企んでるか分からない。

主に俺やナオヤといった異物のせいでな。

 

だから、足早に去るとしよう。

かなり時間を食ったが地獄のような対面時間がやっと終わった。

 

「誰かさんが軍に入隊させてくれたおかげで俺は忙しい。聞きたいことも聞けたしそろそろ帰らせてもらう」

「そうだね。君の成長を願っているよ」

「抜かせ」

 

最後に皮肉を吐いてから広間を後にした。

リボンズもそのうちアレハンドロの元へと戻るだろう。そういえばずっと付きっきりかと思ってたが、俺のために戻ってきてくれたのかもな。

リボンズも忙しい身だ、そこは感謝するとしよう。

 

と、まあリボンズと別れて廊下を歩いていると同種と出会った。

そりゃ本拠で待機してるんだから当然か。

リボンズとの会話に何度も名前を出していたのに遭遇する可能性を忘れていた。

 

「あら?レイじゃない、久しぶりねー」

「おう。確かにイオリアの宣言以来だな」

「……」

 

ばったり出会したのはヒリング・ケアとリヴァイヴ・リバイバル。

リボンズと同タイプの緑髪はパーマがかかっていて個性を主張している。

ヒリングの場合、髪型だけでなくずいずいと俺に近付いてきて陽気に話し掛けてきた。

態度まで主張が激しいのはヒリングの性格だ。

てか顔が近い、相変わらずだな。

 

それと相対するようにリヴァイヴ。

露骨に俺から目を逸らしている。

 

「おい、リヴァイヴ」

「や、やあ…げ、元気そうでなによりだね…」

「目を見て話せよ」

 

俺が1歩踏む込むとリヴァイヴも1歩下がる。

こいつ…。

 

「ははは…僕は用があるからここらでお暇させて頂くよ」

「いーや、逃がさん」

 

全くさり気なくない立ち去り方をしようとするリヴァイヴの肩を掴む。

絶対に許さん、俺を見捨てた罪は重い。

 

「なっ!?離せ!」

「あー!二人共なになに?ちょっと楽しそうじゃない!私も混ぜなさいよ!」

「ちょ、ヒリ――」

「うおっ!?馬鹿、飛び込むなゴハッ!?」

 

俺とリヴァイヴが取っ組み合いをしている中、ヒリングが突っ込んできて衝突し合う。

もう滅茶苦茶、それからはじゃれあってヒリングの拳が俺の顔面にクリーンヒットしてリヴァイヴとヒリングが喧嘩を始める。

発端はヒリングがリヴァイヴの腹に蹴りを入れてしまったから。

やられたからやり返し、やられたらやり返すの繰り返し。

痛いし、二人は止められないし、散々だったが久しぶりに何も考えずに暴れ回った俺は密かに楽しさを感じていた。

 

「……ふっ」

「はは…」

「あはは!いったーい!」

 

最後は俺もリヴァイヴ、ヒリングも三人で笑い合い、幕を閉じる。

まったく馬鹿なやり取りだ。

後から考えるとあいつらが俺の目指すべきマイスタータイプの完成系だとか呆れる。

そして、俺は再び戦場へと戻った。

 



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戦いは守る為に

遂に来た。

部隊総数52、参加モビルスーツ837機。

ユニオン、AEU…そして、人革連の合同軍事演習。

空にはAEUのイナクト部隊が飛び交っている。

さらにはオーバーフラッグが15機、当然そのパイロットのフラッグファイターが15名。

ユニオンの対ガンダム部隊【オーバーフラッグス隊】。

 

異常だ。

絹江・クロスロードがそう称したように俺も同意する。

絶対に手を結ぶことのなかった三国家群がたった4機のMS(モビルスーツ )と1つの組織のために総力を結集させた。

戦争根絶を掲げた相手に対して寧ろ世界が一丸となって戦力を上げることに。

とんだ、皮肉だな。

斯く言う俺も今は大規模合同演習に参加していた。

勿論命令で、人革連の『頂武』としてだ。

 

『レイ、機体状況はどうですか』

「オールグリーンです。いつでも出撃できます」

『了解しました。これほどの大規模演習…緊張するかもしれませんが、肩の力を抜いて。貴方の最善を尽くしてくださいね』

「はっ!」

 

音声越しにミン中尉に敬礼し、ティエレンを降りる。

既に機体状況は万全でいつでも出撃可能な状態。

俺の機体、元々複座式だったこの機体も俺だけのために改造された。

 

「ティエレン、チーツー…」

「デスペア中尉」

「ソーマか」

 

チーツーの単眼と俺の双眼、見下ろす側と見上げる側で見つめ合っていたところにソーマが訪れた。

まったく、熱烈な視線を交わしているところに来るとは空気が読めないな…なんてな。

ソーマもチーツーを見遣る。

 

「タオツーはどうだ」

「問題ない。あの機体であれば必ずや任務を完遂することが可能だ」

「ソーマは?」

「え?」

 

俺の問いにソーマは呆気に取られたように振り向く。

質問の意図への理解に困惑し、暫く俯いた後、決心したように顔を上げる。

 

「生きて戻る。それも私の任務。そして…貴方との約束だ」

「あぁ。覚えててくれて嬉しいよ」

 

俺やナオヤのせいで何が起こるか分からないからな。

ソーマが生き残るという確証もない。

だからこその保険という建前の切なる願望、もしもの時ソーマには生きて帰還することを優先してもらいたい。

例えそれが任務の失敗を意味するとしてもだ。

中佐は勿論ミン中尉だっている。

ソーマが役割をこなせなくても守ってくれる、庇ってくれる人は沢山いるんだ。

勿論俺もこの命ある限りソーマは守り切ってみせる。

 

俺は覚悟を決めた。

どうせリボンズによって戦場に立つ以外選択肢がないのなら。

成長するための義務ではなく、俺の意思で戦場に立ちたい。

俺は軍に所属している間に出会った仲間達を守るために戦う。

それが素直な願いで我儘な行動理念。

何がしたいのか、戦うのか戦わないのかそんな自問自答は終えた。

心残りがないわけではない。

だが、この守りたいという願いは悩んでいては叶わないんだ。

 

「デスペア中尉も…」

「ん?」

「私は貴方と共に帰りたい」

「……そうだな。俺もソーマと生きたい」

 

ソーマは人間らしさを持ちつつある。

その証に俺や仲間達と生きたいという願いを聞き届けた。

ならばやる事は1つ。

子供の望みを叶えるのは大人の仕事だ。

それぞれの戦う意思が交差する。

戦場へと臨む俺とソーマの手は絡み合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令部から巡り巡って指示が飛んできた。

ガンダムを鹵獲せよ、と。

定例通り、ガンダムが飛来していると断定できる通信遮断ポイントを発見。

ルート上には濃縮ウラン埋設地域がある。

大規模合同演習ではなく、何の部隊もない場所へと向かったガンダムに確かマネキンが訝しんでいた。

 

だが、まあ例のごとく俺は知ってる。

施設に襲撃しようとしているテロリスト。

モビルスーツ3機、人員輸送車3台を上層部はわざと見逃した。

国家首席の判断でもあり、ガンダムを上手くおびき寄せる。

つまりは網に掛かったガンダムを集中砲火するという若干引くほどの物量作戦。

予め事情を把握していなかった人革連側も戸惑いながら指示に従った。

 

勿論『頂武』も出撃することになり、俺もティエレンが並ぶ中、迷わずチーツーに向かった。

 

「デスペア中尉」

「……?」

 

ワイヤーに捕まろうとしたところで声を掛けられ、振り返る。

そこにはスミルノフ中佐を初めとした『頂武』の仲間達が並んでいる。

 

「皆…?」

「デスペア中尉。この作戦、我々は必ず完遂させなくてはならない」

「は、はい。存じております…。これほどの大規模な戦力は今後ないでしょう」

「分かってるのならば生きて帰ることも視野に入れろ」

「……っ!」

 

息を呑む。

別に図星を突かれたわけじゃない。

死ぬ気はないし、そもそも死ぬのは怖いし嫌だ。

ただ俺の我儘を叶えるためには多少の無茶は必要だ。

例えばガンダム1機を破壊とか。

 

破壊とまではいかなくても暫くは1機だけ行動を取れなくしてもいい。

それくらいの保険が必要だと俺は転生者のせいで多少変わってしまった今の世界に感じている。

だが、ガンダムを倒すにはイノベイターとチーツーの能力だけでは劣る。

だからといって仲間を巻き込むのは本末転倒だ。

ならばやる事は簡単、死を覚悟で俺が特攻するしかない。

 

自分を省みず最悪四肢を奪われてでも実行する。

そうだな、いつかのヴァーチェみたいに加速砲の弾丸で装甲を貫けばいい結果が出るかもしれない。

勿論ヴァーチェ相手じゃ火力が足りないからダメだ。

だが、他のガンダムならそれで暫く使い物にならなくできる。

パイロットとGNドライヴさえ安全なら他は後からどうにでもなるから大丈夫だ。

唯一大丈夫で済まないのは俺の身体。

だから、覚悟を引き締めていたんだが恐らくそれを中佐に看破されてしまったようだ。

 

「中尉…」

「ソーマ…」

 

ソーマが前に出て俺を見つめる。

どうやら裏切られたとでも感じてるようだ。

確かに俺が死ぬ気なら先程交わした約束を破ることになる。

それは裏切りだ。

しかし、俺にその気はない。

 

「俺は死にません、中佐。生きて帰ると約束したんです」

 

笑みを作って宣言する。

約束を口にする。

これで俺に逃げ道はない。死ぬことは許されない。

 

「……っ」

「ふむ」

 

俺の言葉にソーマの表情から曇りが消え、スミルノフ中佐が満足そうに頷く。

ミン中尉や他のみんなも俺に会釈を送った。

そう、彼らを守るために戦う。

仲間が大事だからそんな思いを抱く。

そんな彼らを悲しませるようなことをする意味が無い。

不安要素が無くなった『頂武』はティエレンへと向かう。

 

「総員、出撃っ!命を無駄にするなよ!」

『了解…!!』

 

中佐の命令に全員が応答し、ティエレンが全て稼働した。

戦場に特殊部隊『頂武』のティエレン達が出現した。

 

濃縮ウラン埋設施設を襲撃したテロリスト、MS(モビルスーツ)3機と輸送車3台は飛行形態のガンダムキュリオスがデュナメスを背に乗せて出現、テロリストを瞬殺した。

高速移動、離脱とデュナメスの狙撃能力。

三つを掛け合わせて一撃離脱戦できるようになっているという凄まじい連携だ。

やはりサブ・フライト・システム的な役割をこなせるのはでかい。

 

だが、今回はそれが裏目にで出て、テロリストに気を取られていたアレルヤは突如飛んできたミサイルに対応できず。

アレルヤに回避を任せきっていたロックオン、デュナメスもが餌食となった。

その後に連鎖的に急襲する大量のMS(モビルスーツ)

 

キュリオスがミサイルを放つも撃ち逃した結果、銃撃を浴びてキュリオス、リアルドの自爆攻撃によりデュナメスが地上に落下。

墜ちたガンダム2機にティエレン 長距離射撃型の集中砲火が行われ、キュリオスとデュナメスはTF4122ポイントに釘付けにされた。

ちなみにユニオンと人革連の連携、三国家群が協力していると実感する場面で密かに感慨深いと感じていた。

 

まあそんなどうでもいいことは置いといて、スメラギの言うプランB2とやら、エクシアとヴァーチェが手薄なTF2123ポイントに出現。

その報告を聞いたマネキンがMS部隊を派遣、ヴァーチェがGNバズーカでキュリオスやデュナメス付近のMSを一掃するとキュリオスとデュナメスが離脱。

だが、すぐにエクシアとヴァーチェの元に大量のミサイル攻撃が開始され、到着したMS部隊の集中砲火により今度はエクシアとヴァーチェが釘付けになった。

 

計画的で圧倒的な物量での大規模作戦。

全てが順調に、こちらの思う通りに進んでいる。

やはりマネキンは優秀な指揮官だ。

鉄の女もといマネキンとロシアの荒熊もといスミルノフ中佐、二人が肩を並べて指揮を取るとここまで恐ろしい。

 

さて、ここまで戦況が進めば『頂武』の出番も近い。

俺もティエレン チーツーで重い1歩を踏み込みながら指示された現場へと向かっている。

1歩ってのは例えだ、のそのそと歩いて向かってるわけじゃないからな。

スラスターあるし普通に加速している。

と、そんな冗談を言ってる間に辿り着いた。

 

『先行します』

 

ソーマの通信、タオツーが前に出る。

そして、そのまま飛び降り、キュリオスへ一直線に突撃した。

 

『あぁ…、……っ!』

『……』

 

脚部のスラスターを噴射し、キュリオスに有無を言わせず連れていくタオツー。

ソーマの無言の突撃でキュリオスは連れていかれてしまった。

これについてはソーマに任せる。

俺の仕事は別だ。

 

『ミン中尉を筆頭にピーリス少尉の援護に回れ。部隊を半数に分け、私と共に来る者でデスペア中尉の援護に回る。いいな!』

『了解…!』

 

中佐の命令に応答し、俺はチーツーでソーマとは別の場所に跳ぶ。

眼下に見えるのは随分と身持ちの硬いデュナメスだ。

連れていかれたキュリオスの元へ向かおうとしている所に上から衝突し、チーツーが立ち塞がる。

 

『ぐあっ…!?』

『お前の相手は俺だ、ガンダム!』

『思う壷かよ…!』

 

GNビームピストルを取り出し、銃口を向けてくるが発砲された粒子弾を回避。

近接に持ち込まれた時のロックオンの動きは分かりやすい。

そして、近接は俺の範疇だ。

 

『避けた!?』

『蹂躙する…!』

『ぐあああああああっ!?』

 

中佐達のティエレン 高機動B型による援護射撃とミサイルによってデュナメスはGNフルシールドを前方へと展開、それでも衝撃とダメージは受ける。

守りに入ったところで俺のチーツーが再び接近した。

 

『はあっ!』

『ぐっ…!』

 

まあまずは突進、ティエレンは頑丈だからこそそれも取得だ。

デュナメスを壁に押し付けて、500mm多段階加速砲を突きつける。

もちろん装甲に零距離で。

 

『お、おいまさか…』

『砕けろ…っ!!』

 

500mm多段階加速砲の引き金を引く――直前、レーダーに反応があった。

 

『くっ…、これは…っ!?』

『粒子ビーム!?』

 

突如チーツーとデュナメスの()()()に入ってきた赤い粒子ビーム。

間違いない、いつかキュリオスを狙撃したものと同じだ。

あの時は俺達を助けてくれたが…。

 

『今度は邪魔するのか…っ!』

 

咄嗟に後退する。

クソ、加速砲が破損して使い物にならなくなった…。

ていうか加速砲を狙ったのか?まさかな。

だが、あまりにピンポイント過ぎるというか…まるで加速砲だけは破壊し、チーツー自身は回避できるように考慮されたような狙撃に感じられる。

なんでか根拠はハッキリとは説明できない。

明確に言葉にするならそう感じる、という曖昧なものか。

 

と、そんなことを考えているうちにデュナメスが態勢を少し立て直し、俺にGNビームピストルを向けている。

まずい、これ回避できないぞ!

 

『撃つぜ――ぐああああっ!?』

『一旦離れろ、中尉!』

『中佐…!』

 

デュナメスを再び襲ったティエレン 高機動B型で形成された部隊の総射撃によりデュナメスはGNフルシールドに身を隠す。

後から来たティエレン 長距離射撃型の後方支援もあり、デュナメスは完全に防御態勢に入った。

仕方ない、一度離れるか。

チーツーのスラスターを噴射し、上へと上昇する。

 

『デスペア中尉、我々も羽付きの元へ向かうぞ』

『……っ、しかし…!』

『これは命令だ。貴官に与えた時間は終わりだ、ここからは指示通りに動いてもらうと事前に打ち合わせた筈だが?』

『そ、それは…』

 

戻ってきた俺に命令する中佐。

確かに中佐は俺の我儘を聞いてくれた。

予定になかったデュナメスの相手、ほんの少しでもいいから時間を俺にくれた。

貴重な作戦時間の一部を使っても俺はデュナメスを破壊できなかった。

これは俺のミスだ、反論するのは筋違いとなる。

 

『中尉、行くぞ』

『……了解』

 

ただでさえ我儘を聞いてくれたのにこれ以上時間を無駄にはできない。

仕方なく、頷いた。

技量が及ばなかったことくらい認めるさ。

なに、キュリオスに標的を変えればいいだけのこと。

それに他にもやらなければならないことがある。

 

「敵さんが退いた…?ぐあっ!」

 

首を傾げるロックオンだが、すぐに長距離射撃によりまたしても固定される。

 

俺はチーツーで中佐達と共にタオツーの部隊の後を追った。

といっても辿り着いた時にはキュリオスは弾圧の海の中。

タオツーも一旦退いたのか、高機動B型に乗った皆と共にキュリオスに射撃を繰り返していた。

 

暫くキュリオスを釘付けにした後、作戦通り部隊ごと後退。

後はティエレン 長距離射撃型の部隊の総狙撃や数十機近い機体の弾圧を浴びることになるだろう。

元々作戦はガンダムを固定し、そこを集中砲火することでパイロットを疲弊させることだ。

流石にガンダムの装甲を舐めてはいないので砲火だけで潰せるとは思っていないらしい。

圧倒的な物量があってこそだが、よく出来た作戦だ。

 

『デスペア中尉。無事だったか』

『ソーマこそな』

 

合流し、再会を果たした俺とソーマはチーツーとタオツーで手を取り合う。

その後も降り注ぐ弾圧の雨。

作戦通り、規定時間が来るまでチーツーに乗りながら待機した。

だがまあチーツーの中はそんな快適じゃないからな、一応非常食を持ってきたけど戦場が揺れる度機体も揺れる揺れる。

ゼリー落とした時は大事なとこには落としてないか軽く慌てた。

ゼリーはほぼ水分だから人革連の発達してない機械(システム)に干渉すると危ない。

幸い、何ともなかったが。

 

そんなどうでもいいことで焦るくらいには待ち時間は長い。

予定では夜になるまで続くらしい。

最初の交戦から15時間程か。

これほど(こっち)側で良かったと思ったことは無いな。

例えガンダムの装甲があるとしても15時間も耐え続けるのはきついしな。

ティエリアも苦しんでるし、俺もしんどいだろう。

 

『ところでソーマ、大丈夫か?』

『……問題ない』

 

さり気なく待ち時間でソーマに尋ねる。

深く聞かなくとも伝わったようで、ソーマは空けた後応答した。

超人機関壊滅後、少し経ってからソーマも報告を受けた。

仲間(同類)の死に衝撃受けつつキュリオスの操縦者アレルヤへの疑問。

アレルヤも超人機関の出身者である可能性もソーマは聞いていた。

 

何故同胞を撃つのか、疑問に渦巻かれていた筈だ。

そんな悩むソーマに俺はできるだけ寄り添った。

超兵という非常識な存在であれどもソーマはまだ子供、死を受け止めるには辛い年頃だ。

助けになるかは分からないが慰める役割は俺が引き受けた。

『頂武』のそれなりに若者の層も支持してくれたし正しいと信じてる。

ソーマの返答に俺は少しだけ微笑んだ。

 

『彼らの分まで生きよう、ソーマ』

『あぁ…。今度こそ作戦を完遂させ、生きて帰る…デスペア中尉と』

『そうだな』

 

言葉を交わし合い、頷く。

ソーマとの約束を果たす為にも次に来る脅威に立ち向かわなければいけない。

俺は勝ってみせる、スローネに。

決意した俺の戦う意味、仲間を守る為にも。




修正 833機→837機(2018/02/08 07:26)


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絶望デスペア

一部オリキャラが出ますがもう今回限りのキャラです。
ちなみに決闘シーンは某ネット小説のオマージュのつもりです。


『中佐、ガンダムを鹵獲します』

『注意しろ、少尉。以前のようにいきなり動き出すやもしれん』

『了解』

 

中佐とやり取りを交わし、飛び降りるタオツーことソーマ。

パイロットのアレルヤが疲弊しているせいで上空に跳んだ機影に反応が遅れたキュリオスにタオツーは上から突っ込み、取り押さえた。

既にアレルヤは限界に近いのかすぐにダウンし、キュリオスも倒れた。

 

キュリオスを引き摺り、帰還ルートを辿る。

そういえば帰還ルートを変えれば…などと考えたがどうせ来るだろし意味は無い。

それにしても加速砲をやられたのは痛いな…。

くそ、あの粒子ビームめ。

一体何が目的で誰が撃ってるんだ。

 

この戦いに参戦してきたということはやはりスローネかと睨んだが、レーダーに味方と4機のガンダム以外の反応なし。

司令塔の方にも機体の情報は入ってない。

またしても範囲外からの狙撃。

絡繰があるとしても厄介過ぎる。

 

『中佐』

『む…?』

『あの粒子ビームの足取りは…』

『掴めてはいない。確かに警戒は必要だが、今は羽付きに専念せよ。いつ動き出すか分からん』

『…了解』

 

中佐には一蹴されたが、やはり気になる。

なんというか惹かれるんだよな。

なんとなく。

それはそうと素直に中佐の指示に従おう。

何が起こるか分からない今、キュリオスを警戒すべきなのは頷ける。

それに今は他のことを考えている暇はない。

 

専念しなくては。

周囲に目を配り、機影を探す。

本編のように突如襲ってきて誰かを失うなんてさせない。

キュリオスを逃しててでも皆を死なせはしない。

すると、見つけた。

 

『総員油断するな!羽付がいつまた暴れ出すやも知れん!』

『了解!』

『全員、避けろぉぉぉぉおおおーー!!』

『……!?』

 

喉が張り裂けるほど声を張って叫ぶ。

『頂武』の皆が驚愕する中、敏感な者は声に反応して咄嗟にレバー引いたり、ただ驚くだけで動かない者もいる。

呆気に取られていたやつはチーツーに装備していた200mm×25口径長滑腔砲で撃ち飛ばす。

なんとか全員現位置から離脱し、飛来するミサイル――否、GNファングを回避する。

 

『なっ…』

『このプレッシャーは…!?』

『敵襲か…!?何だ、この武器は…!』

『他の部隊がしくじったのか…!?』

『デスペア中尉、感謝します!』

『馬鹿が!礼を言ってる暇があったら回避に専念しろ!来るぞ…!』

 

初撃を避けたとはいえ、再び向かってくるのがGNファング。

脳天気なやつらも見上げてそれを理解したようで青ざめる。

俺はチーツーで200mm×25口径長滑腔砲を構えてスラスターを噴射した。

プロペラントタンクを使い切る勢いで最大加速を掛ける!

 

『ミン中尉、左と右上から来ます!』

『了解…!』

『シイナ准尉、損傷してもいいから前方からのを避けろ!タイムラグで後方から来るのをリンユー准尉は撃って妨害しろ!撃ち落とせとは言わん』

『り、了解…!』

『はっ!』

『デスペア中尉の的確な指示が…』

 

中佐が驚愕し、後から訝しむかもしれないが構っている暇はない。

例えどれほど後で尋問されようと仲間は守ってみせる。

飛び交うGNファングに怒号の如き指示を飛ばす。

俺も避けつつってのは難しい上にティエレンの動きが鈍く損傷し続けているが、イノベイターだからか視野が広い。

この土壇場で初めて気付いた。

緊急時になるとここまでか。

 

『ミサイルじゃない!?』

『驚いてる暇はないぞソーマ!出来るだけ撃ち落とせ!』

『分かった…!』

 

タオツーの性能ならある程度回避しながら撃てる。

ソーマには多少無理をしてもらおう。

じゃなきゃ誰かがやられる。

それは俺かもしれない。

 

『集まれ…!固まって対応するんだ…!』

『……っ。総員、デスペア中尉の言う通りにしろ!』

 

キュリオスを置いたまま各自散開していたのを集める。

中佐の指示もあり、順調に動いた。

GNファングが一度収容されていくタイムラグのうちに互いに背を合わせ、守り合う。

スミルノフ中佐がGN-Xの部隊でやっていた指揮だが、流石と言うべきか有効だ。

 

『あぁ?なんか動きがいいな。読まれたか?くそ、面倒な奴らめ』

 

『中尉、まさか知っていたのか。ガンダムが他にもあることを』

『知りません。事前に把握してもいません。ですが、どうか俺の直感を信じてください。そして、もし善戦したとしても撤退を優先しましょう。あのガンダムは…未知だ』

『……了解した。貴官を信じよう』

『ありがとうございます』

 

心の底から中佐に感謝し、意識を目の前の機体に集中する。

少しでも気を逸らしちゃ駄目だ。

常に相手の動きを見ろ。

ここで予測外のことが起きれば終わり、それに対応する気も余裕もない。

今はただ目の前の相手だけを見て、そいつのためだけに行動する。

『頂武』は…俺が守る。

 

『あの機体は…!?』

 

ソーマが驚くのも無理はない。

未知の機体、誰も知らないガンダム。

誰も予測してなかった新戦力。

画面越しの情報はあれどもこれほど緊迫した対面はない。

生身の情報がないのは俺も同じ。

ここでは前世の知識をフル活用させてもらう。

 

『まあいい。ガンダムスローネ2号機、スローネ・ツヴァイ!ミハエル・トリニティ、エクスタミネート!!』

 

『本来のようにはさせない…!』

 

『いけよ!ファング!!』

 

目の前に映る緋色のフレーム、白銀の収容ユニット。

再び放たれるGNファング。

その全てを目で追う――いや、多い!

一度に発進できるのは6基だってのは知ってる。

だが、動きが自在な上にGN系の能力を持っているため機動が速い。

 

『陣形は崩すな、撃てっ!!』

『うおおおおおおおおおおおっ!!』

 

全ティエレンが背中合わせで発砲する。

くっ…ティエレンの機動力と200mm×25口径長滑腔砲の弾速ではGNファングを捉えられない。

マグレでも当たれば多少は妨害に…。

 

『ぐああっ!?』

『リンユー…!』

 

仲間のティエレン 高機動B型が脚部と腕部をやられた。

あれではもう戦えない。

 

『准尉を陣形の中に押し込め!我々はあの兵器に対応する!』

『り、了解…!』

 

中佐の素早い対応で動きに鈍りはない。

助かった…少しでも隙ができれば、できなくても終わりかもしれない。

さすがは中佐、才があるのは勿論のこと俺よりも指示が通る分助かる。

 

『あぁ?くそ、鬱陶しいな…なんなんだあいつらは。もっと舞え!ファング!』

 

『くっ…』

 

部隊の半数が損傷した。

さすがにティエレンじゃGN-Xのようにはいかないか。

一度退けてGNファングを収納するスローネ ツヴァイ。

次が来たらおしまいだ。

何が善戦だ、少し前の自分を殴ってやりたい。

これじゃ一方的だ。

 

『……』

『どうすれば…!?』

 

ソーマの戸惑う声が耳に届く。

……やるしかない。

死ぬ気はなかった。

だが、覚悟はあった。

これは死ではない。

仲間達が生きるための…彼らの明日を繋ぐ捨て身の奮闘だ。

 

『ああああああああああっ!!』

『デスペア中尉!?』

『何故前に出る!』

 

チーツーのスラスターを最大噴射してスローネ ツヴァイへと飛び向かう。

陣形から飛び出した俺にソーマや中佐が驚きの声を上げるが振り払うように加速する。

 

『ぜりゃああああっ!!』

『ぬおっ!?』

 

プロペラントタンクを捨て、軽量化してさらに加速。

身体の負担など全力無視、ただの特攻。

空中に浮かぶスローネ ツヴァイにティエレン チーツーは突っ込んだ。

そして、通信をオンにして全身全霊で叫ぶ。

 

『逃げろぉ!!』

『なっ…』

 

ティエレンの性能ではいくら『頂武』でも敵わない。

だからこれはただの我儘だ。

仲間を逃がすための犠牲。

その役目は俺が引き受ける。

 

『デスペア中尉…!』

『総員、撤退する!』

『そんな…っ。中佐、デスペア中尉が…っ!』

『……諦めろ。情報のないガンダムにあの兵器…我々だけでは』

『嫌…嫌です…』

『誰かピーリス少尉を連行しろ』

『…了解』

 

俺の意図を瞬時に理解してくれた中佐は有難いことにソーマのタオツーを連れて撤退行動に移ってくれた。

他の負傷した仲間も肩を貸し合い連れていかれる。

全員行ったか…。

 

ふっ、ガンダム相手の上にこの場面で全員生還したことは奇跡に近いな。

あぁ…俺は除外して、か。

まあタダではいかん、本当は死にたくないし抵抗はさせてもらう。

運を呼び込む、なんて言葉もある。

奇跡をもう一度起こしてやるさ。

 

『てめぇ…邪魔すんな!』

『はっ、やだね』

 

しがみつくチーツーを突き落とそうとするスローネ ツヴァイ。

この態勢でGNバスターソードは使えない。

だからか、GNハンドガンで密着するチーツーの左腕を撃ち飛ばした。

 

『ぐあっ…!』

『雑魚が頑張ってんじゃねえよ!死んじまいなぁ!』

『そういう荒っぽいのは1人で充分なんだよ!』

 

200mm×25口径長滑腔砲の砲口をスローネ ツヴァイの装甲に零距離で突きつける。

迷わず引き金を引いた。

 

『な、なに…っ』

『ああああああああああっ!!』

『ぐああっ!野郎…っ!』

 

スローネ ツヴァイの装甲に傷はない。

はは、当たり前だよな。

この程度の装備、弾丸で効くわけがない。

まあだが引き金を引く手を止めるつもりもない。

 

『ぐっ、がっ、てめぇ…ぐあっ!』

『お前の相手は俺だ!』

『調子に乗ってんじゃねえ!ぶっ潰せ、ファング…!』

『させるか!』

 

よし、挑発に乗った。

相手がミハエルだからこそ使える戦法。

トリニティ兄妹は機体の性能に頼る癖がある。

特にツヴァイはそうだ、GNファングなんてもんを積んでるからな。

こんな万能兵器、頼らない方がおかしい。

そして、ミハエルの性格。

煽りに弱く、沸点が低い。

だからこそ俺に釘付けにできる。

 

『ふんっ!』

『こいつ、発射ユニットを…!けどもう一つあるんだよぉ!馬鹿がっ!』

『くっ…知ってるっての…!』

 

ブレードでGNファングの発射ユニットを片方ぶっ潰したが、もう片方あるためそちらから4基のGNファングが放たれる。

ちなみにチーツーのブレードは全力で叩き込んだせいで原型を留めてない。

こりゃもう200mm×25口径長滑腔砲としては使えないな。

 

『はあっ!』

『ぐおっ…』

『全て捌くっ!』

 

スローネ ツヴァイを蹴り飛ばし、スラスターで浮遊しながらもはや鈍器となっているブレードを構える。

飛び交うGNファングの数は4基。

……いけるか?

 

『ふっ!』

 

向かい来るGNファングの1基にブレードを振るう。

しかし、機動性の高い遠隔操作兵器だけあって避けられる。

射撃でもないのに兵器に躱されたか…敵わないな。

 

続いて上方から来るGNファング1基も捌こうとするが、先端からビームサーベルを発生させるとかいうえげつないスタイルでチーツーのブレードへと突っ込んできた。

目的はブレードの破壊か。

チーツーの腕部先端で爆発が起こるも砕け散ったのはブレードだけでGNファングは健在、その後も飛び交う。

 

『くっ…』

『はっ。敵う訳ねえっての』

 

ミハエルのやつ、GNファングに任せて高みの見物か…。

しかし、得物を無くしたのは辛い。

30mm機銃で対応するが弾が当たるはずもなければ当たっても効果はない。

無駄な抵抗と分かりつつ狙い、GNファング2基により残った腕と片足を持っていかれた。

 

『ぐあっ…!』

『ははは!そろそろ墜ちろ!』

『……っ。まずい!』

 

GNファング4基がチーツーの周囲を回る。

そして、スラスターを全て破壊した。

当然チーツーは墜落する。

 

『ぐああああッ!?がっっ…!?』

 

墜落した衝撃。

思わず血反吐を吐いた。

くそ…これだからうちの機体は…。

コクピットが薄すぎるんだよ。

衝撃をやわらげる気が全く無い。

 

『無駄に手こずらせやがって…』

 

GNファングが収容されていく。

……終わりか。

チーツーも動けなくなったし、武装もない。

ここまでという訳だ。

 

『これで終わりにしてやるよ!』

 

スローネ ツヴァイがGNハンドガンを構える。

俺は操縦から手を離し、涙を流した。

回避しようもない死。

とても怖いがとても冷静だ。

もう終わりなのだと心の何処かで静かに告げられている。

 

『死ねよ!』

 

GNハンドガンから赤い粒子ビームが放たれた。

俺の手は無意識に撤退していった仲間の方へと伸ばされる。

心なしかモニターに小さな点が映っているのはソーマの乗るタオツーに見えるが、きっとそれはないだろう。

中佐に託したんだ、きっと撤退してくれている筈…。

 

『デスペア中尉…!』

『ソーマ…』

 

おかしいな、ソーマの声が聞こえる。

あぁ、走馬灯か。

それか幻聴だな。

どうも目を逸らしがちだったけどこの瀬戸際でソーマの声が聞こえるってことは…やっぱり俺…。

 

『ソーマ…』

『……っ!?』

『好きだよ』

 

その言葉を最後にティエレン チーツーは粒子ビームに貫かれた。

耳に入るのはソーマの叫声と嗚咽。

他の仲間の声も入ってくる。

だが、その全てを爆炎と爆音が消し去り。

やがて、俺は意識を手放した。

 

『嫌…嫌ぁぁぁああああああっ!?』

 

あぁ、とても熱い。

全身を焦がす炎の中で最後に聞いたのはソーマの泣き声だった。




諸事情により次の投稿までの期間を空けます。


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アナザー・デスペア

たまたま時間が空いた時に書いた一話分だけ更新します。


温かい…気持ちのいい感触を肌身に感じる…。

何だろうか、懐かしいようなこの温もりは。

もう随分と前のものだった気がする。

それでいてずっと求めていたような――。

 

そんな温もりに包まれる中、意識が覚醒し、徐々に現実へと戻されていく。

目に映るのは無骨な天井。

寝惚け眼だが、被されているのは布団か。

これもまた懐かしい匂いがする、どこで匂ったっけな。

 

「ん…ここ、何処だ…?」

 

視界の半分も開いてないせいで辺りを把握しづらい。

まだちょっと眠いな…。

目を擦って見渡すが知らない部屋だ。

大きなガラス窓がある、広くはない個室。

外は窓が暗視化されてて見えない。

一体何処だ?そもそもなんでこんな所で寝てるんだ。

まるで記憶が無い…。

 

「あっ」

「ん…?」

 

不意に扉が横にスライドし、見知らぬ黒髪の少女が出てきた。

髪は肩に掛かるか掛からないかというくらいのショートヘアで、温厚さを感じる大人しそうな雰囲気と顔立ち。

背丈は俺の肩くらいだろうか、小柄だというのに身体の凹凸は激しい。

特に胸辺りは豊富な双丘が――っとコホン、初対面でこれは失礼だな。

で、誰だ?

 

「目が覚めたんだ。良かった…」

「あ、あぁ。君が俺を助けてくれたのか?」

「うん。そうだよ」

 

黒髪の少女が肯定する。

実際はあまり思い出せないが状況から見て多分助けてもらったと見ていいだろう。

いや、少し思い出したぞ。

確か俺はティエレン チーツーでガンダムスローネ ツヴァイと交戦し、負けたんだ。

GNハンドガンで貫かれたからきっと死んだと思ってたが助けてくれたんだろう。

 

……どうやって?

戦場だぞ、タクラマカン砂漠で1000機近いMS(モビルスーツ)の戦いがあったんだ。

その中で俺を救出?この少女が?

怪しさが増した少女を見つめる。

病み上がりだが探ってみるか。

 

「助けてくれたことには感謝する…。ありがとう」

「ううん、当然のことだよ」

「そうか…。それで、俺のことどうやって助けたのか聞いていいかな?あの戦場の中で俺を助けるなんてハッキリ言って常人じゃない」

「あー…それは…」

 

言葉に詰まってるな。

この様子を見るに戦争の跡地から発見したとかでは無さそうだな。

そもそも相手はガンダムだったんだから俺が生きてたら生体反応を嗅ぎつけてトドメを刺す筈だ。

ミハエルなら必ず殺す。

 

ヨハンに止められた可能性もあるが…どうだろうな。

任務の時間を割くことになるならまだしもヨハンは人命に構う性格ではない。

俺が兵士であるなら尚更だ。

それに奴らは別々で行動していた。

現地の判断はミハエル個人にある。

俺一人を殺すくらいならすぐに済ませてヨハンに従うだろう。

ならやはり…戦場で俺を助けたことになるのか、この子は。

 

「……」

「答えられないのか?」

 

少女の沈黙が長い。

助けてもらって尋問って今思えば酷いがこちらも緊急事態だ。

ここが何処かわからない上に状況が分からない。

悪いが誰かに配慮する余裕はない。

 

「その…私は…」

「……」

 

少女の目が泳いでる。

うーん、ちょっと問い詰め過ぎたか?

と思ったが決心したのか俺と目を合わせる。

覚悟を決めた顔は結構凛々しい。

 

「正直に、話すね」

「あぁ」

 

真剣な表情からして嘘はつかないだろう。

少女は隅にある台所から珈琲を入れて俺に差し出し、床に座る。

どうでもいいが黒色濃いな、この珈琲。

実に俺好みだ。

口に含むとかなり美味しい。

 

「多分お兄さんも同じなんだと思うけど私はイノベイドなの」

「ぶはっ!?」

 

思わず珈琲を吹いた。

お邪魔している側だというのに卓の下に敷かれた丸い絨毯に染み込ませてしまった。

いやいやいや、そんなことよりも重要視すべきことがある。

イノベイドって言わなかったか!?

 

「イ、イノベイドって…」

「うん。多分思い浮かべてるやつだよ。『ヴェーダ』によって作り出された人口生命体…簡単に説明するとそんな感じかな」

「なっ…」

 

間違いない、俺の知ってるイノベイド。

聞き間違いでもなくすれ違いでもなく正真正銘俺の同胞。

黒髪のイノベイド…ってまさか。

 

「もしかして…同タイプ、だったりするのか…?」

「え?んー…」

 

恐る恐る聞くとイノベイドの少女は何やら考え込む。

そういえばさっきからこの少女に何かシンパシーを感じていた気がする。

今は確信になった。

そんな彼女の感情は俺にも少なからず共有される。

これは本気で悩んでる。

一体何を考えてるんだ?

 

「多分、そうかなー…」

 

暫く考え出してそれかよ。

人差し指を唇に当てる仕草は思わず目に捉えてしまう。

こ、これはソーマとはまた違った所謂女の子だ。

ってそんなことはどうでもいい。

同タイプであり、暫く悩んだにしては曖昧な答えだ。

何かおかしいな。

同胞にしては随分鈍いというかあまりイノベイドって感じがしない。

 

「お兄さん。何か失礼なこと考えてない?」

「間違いなく同タイプじゃねえか!」

 

思わず叫んじまったよ。

微弱な脳量子波でそこまで察することができたら同タイプだろ。

今のがブリングとかだとなんとなく何か考えてるなくらいしか分からないと思う。

勿論怒りや悲しみといった分かりやすい感情なら面と向かっているだけで感じ取ることができるだろうが。

 

「はぁ…とりあえず同タイプのイノベイドなのは分かった。もう既に色々聞いちゃったがいくつか聞いていいか?」

「うん。お兄さんが混乱してるのは分かってるし、答えられることは答えるよ」

 

ふむ、返答から察するに敵意はない。

寧ろ助けてくれた時点でそれは当たり前か。

さらに敵意は感じ取れない。

だからといって白とは断定できない。

 

イノベイドってことはリボンズの差し金かもしれない。

戦いに負けた俺を廃棄するために回収したのか?いや、それなら放置して、ミハイルが俺を殺すのを見逃すか。

どうやって回収したのかも気になるがリボンズが関わっているかどうかが気になる。

聞いてみるか。

 

「リボンズ・アルマークって名前知ってるか?」

「ううん」

 

知らないのか?

なんと、予想が外れた。

ていうかリボンズと接触してないのか。

まさかリボンズが把握してないイノベイド?

情報タイプでリボンズが裏から誘導した可能性は高いが…うーん、どれも断言出来ないのが痛い。

情報タイプならエージェントかもしれないな。

戦場で俺を回収できるとなると他は有り得ない。

 

「えっと…君は情報タイプなのか?それともマイスタータイプ?」

「うえぇ…タイプ?えーと…ごめん、分かんない」

「いや…今思い出した、自分がイノベイドだっていう認識はあるんだよな」

「う、うん…」

「ならマイスタータイプ…あぁ、いや、イノベイドだと自覚させられた場合があるかぁ」

 

くそ、どうも纏まらない。

情報タイプで今回の救出をする際、イノベイドだと自覚してから回収した線が濃いかもしれない。

……それならリボンズの存在を知ってる必要があるか?

 

いや、『救出する』という一点にかけて指示を飛ばせば本能で俺を回収することに専念するか。

なんだかイノベイドの自覚に対してあやふやなのも少し不調なのかもしれない。

 

と、悩むのも馬鹿らしくなってきた。

もう核心に触れてしまおう。

これを聞けば大分正解に近付ける筈だ。

 

「そういえばさ、どうやって俺を助けたか聞いていいかな?」

「あ、それなら答えられるよ。ガンダムで助けたんだ」

「そっかー。ガンダムかぁ――」

 

……は?

今聞き間違いじゃなければガンダムって言わなかったか。

ガンダム?ガンダムってあのガンダムか?

機動戦士ガンダム、この世界ではGNドライヴを詰んだMS(モビルスーツ)のあの。

もしかしなくてもとんでもないことが発覚してしまった。

 

「ちょ、ちょっといいか?ガンダムに乗って俺を助けた?」

「うん」

「ガ、ガンダムってソレスタルビーイングのMS(モビルスーツ)だよな」

「私のは個人で作った機体だから知ってる人は少ないよ。ソレスタルビーイング、だっけ?直接的にはあんまり関係してないかなぁ」

「はぁ!?」

 

待て待て、遂に混乱してきたぞ。

ガンダムを作った?

ソレスタルビーイングは関係してない?

新たなトリニティか?

いや、今いる場所は彼らの潜伏場所とは酷似してない。

じゃあ誰だ。

こいつ、何者だ…!?

 

「お前――っ!」

「あー…ちょっと一気に話し過ぎちゃった?混乱しちゃってるね…。どうしようかなぁ」

 

随分とおっとりした軽い口調で俺の思考を読んできやがる。

 

「まずは自己紹介するね。私はレナ・デスペア。お兄さんを殺そうとしてたガンダムと戦って、お兄さんを助けたガンダムのパイロットだよ」



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塩基配列パターン0000の秘密

やっと1話分書けた…。


デスペア。

……俺と同じセカンドネームだ。

 

「デスペア……!?」

「もし良ければお兄さんのお名前も教えて欲しいな」

「えっ?あっ、お、俺は……」

 

同タイプのイノベイド、俺はマイスタータイプで彼女は俺と同じセカンドネーム。マイスタータイプの線が濃くなった。

ガンダムを操り、スローネと渡り合い、俺を助けるくらいの腕前があるなら情報タイプの可能性はかなり低い。

情報タイプだってアニューの例があるようにヴェーダを使って戦闘データを取り込んで操縦できるだろうけど、俺を助ける為だけにガンダムに乗るなんて現実的じゃない。

 

そもそも独自で作ったってのはどういうことだ。

ソレスタルビーイングを影で支える組織フェレシュテでは第二世代ガンダムの改良型とGNドライヴを1基扱っているが、第二世代ガンダムを作ったにしては若過ぎるし、『個人』で作ったと言い張るのだから組織には属してなかったんだろう。

 

ならもはや確定事項だ。

マイスタータイプでリボンズと知り合っていないイノベイド。なら生まれた時からマイスタータイプであると自覚しているなら予め埋め込まれた知識としてリボンズのことは知っている筈だ。

だが、そこは知っていなくても改変が関わったらどうとでもなる。多少辻褄が合わなくても強制力のようなものが働くことも有り得なくはない。現に俺はこの子を知らない。ならどんなイレギュラーでもおかしくはないだろう。

これはリボンズも知らないイノベイドである可能性も高くなってきたな……。

 

「お兄さん?」

「えっ……」

「自己紹介……してくれないの?」

 

あ、忘れてた。すっかり考え込んで無視していた。

えっと、レナだっけか。

俺の名前と一文字違い……どう考えても反応に困るよな。名乗りづらいなぁ。

 

「レ、レイ・デスペアだ」

「レイ……デスペア……」

 

俺の名前を反復するレナ。やはり驚いているのか目を見開いている。

暫く俺の名前を繰り返し呟き、顔を上げた。見つめ合う虹色の瞳。

 

「同じセカンドネーム……。実はね。ずっと貴方から何か繋がりのようなものを感じてたの。だから、あの時私は助けたんだ」

「あの時……?」

 

一瞬何のことかと思ったが。思い当たることが一つ。

仲間を除いて俺が救われたのはガンダム鹵獲作戦時のキュリオスを撃退したあの粒子ビームだけだ。

そうか、あれは――。

 

「キュリオスに殺されかけた時、あの時……俺を助けてくれたのは君か」

「うん……ハロちゃんが『共鳴』してるって言ってた……」

「ハロ?」

 

ハロまで居るのか!?

噂をすればなんとやら、黒いハロが入室してきた。

 

『レナトドウタイプ。レナトドウタイプ』

「この子がハロちゃんだよ」

「見た事のないハロだ……」

 

はたまた覚えのない存在。どう考えても改変だな。

粒子ビームは赤色だった。つまりレナが所持するのは擬似太陽炉を詰んだガンダム。

スローネと同じだが、スローネはコーナー家が作った機体で、個人で作ったレナはコーナー家との繋がりはないと思われる。

 

「同じ名前で同タイプ……運命を感じないではないがどうしても尋ねたいことがある」

「……うん。大体何が聞きたいか分かったよ」

「すまない。レナ、お前は一体何者なんだ?」

 

尋ねずにはいられない。

自身の立場を明確に証明できない相手を信頼することは難しい。

 

「ごめんね、それには答えられない」

「……」

 

レナが悲しそうに俯く。

 

「別に隠したいわけじゃないんだけど……。ただ説明が難しいっていうか……」

「そうか」

 

気持ちは分かる。同タイプだからというのもあるが、俺も何者かと尋ねられると答えづらい。

そう、レナのはそんな息詰まりだ。

 

「なぁ。ちょっと変なこと聞いてもいいか?」

「……?いいよ」

「もしかして……別の世界から来た、経験とかないか……?」

「……っ。お兄さん、どうしてそれを……」

 

やっぱり。説明しづらい自己証明。それだけなら可能性は多々あるが、脳量子波の共鳴、感情から導き出せば自ずと辿り着いた。

恐らく俺と同じ存在(転生者)でこの世界の人々には伝わりづらい者。同じ目線だからこそ分かった。

 

「……やっぱりお兄さんもそうなんだ」

「どういうことだ?」

 

もっと動揺するかと思ったらレナは納得するように俯き始めた。

レナは俺の疑問を感じ取ったのか、飛び跳ねていた黒いハロを捕まえて卓の上に置く。何やらハロにコードを繋ぎ始めた。

ということは俺になにか見せたい情報があるのか。ハロは情報端末だからな。

 

「これ、見て」

「ん?なんだこれ……『塩基配列パターン0000について』……?」

「うん。ここに私達のことが乗ってるの」

 

ほう。ハロと接続した端末の画面に映る文字の羅列。そこには塩基配列パターン0000とやらの説明が記されていた。

塩基配列パターン0000……確か俺の塩基配列パターンだよな。生まれた時にチラッと見た記憶がある。俺の、ということはレナのものでもある。

ご丁寧に説明があるとは……随分と特別な扱いじゃないか。読んでみるとしよう。

 

「えーと、なになに?『塩基配列パターン0000は、異界から来たる者の為に用意されたイノベイボディ。彼らの自我を収納する器であり、これを用いて現界を可能にする』、か……」

「どういう意味か分かる?」

「あぁ……塩基配列パターン0000のイノベイドは全て、転生者……ってことだよな」

「その様子じゃ信じられないかな」

「………」

 

当たり前だ。聴いたことがない。イノベイターに詳しい訳じゃないがこんなものはなかったと断定できる。まるで、いや、明らかに転生者のためだけにある存在。

本当にイオリアが作ったのか…?何の為に。分からない。イオリアの考えが全く理解できない。

 

疑問といえばもう一つ。このデータ、どっから持ってきたのだろうか。

イノベイドの情報……どう考えても『ヴェーダ』に記載されてるよな、通常は。ならレナは盗んだのか。

 

「むっ、失礼な……。私は盗んでないよ」

 

思考読むなっての。まあ盗んだって表現もおかしいな。ある程度の権限を与えられているイノベイドならヴェーダの情報を扱うことは自由だ。

自覚のない情報タイプなんかは計画に沿って、ヴェーダから情報を受信する一方だが、まあなににせよ盗んだってのは言い方が悪かったな。

そもそも盗んでないって話ではあるけど。

 

「悪い悪い。じゃあ、どうやって手に入れたんだ?」

「ハロちゃんに入ってたの。私がこの世界に来た……十年前かな。目が覚めた時からハロちゃんとはずっと一緒なんだ」

『イママデイッショ!イママデイッショ!』

「へぇ……」

 

そうなのか。それにしても十年前とは。随分前からこの世界にいるんだな。

ナオヤは俺と同時期に生まれたとリボンズは言っていた。つまりまだ一年も経っていない。

そういえばナオヤは転生者だから塩基配列パターン0000のイノベイドってことになるのか?説明によると転生者の器としてこのイノベイボディが用意された。つまりはこの肉体にしか転生者の行先はないということだ。

 

「お兄さん、何を悩んでるの?うーん……ナオヤ、って人……誰……?」

 

だから思考読むなって。

まあいいや。

 

「俺が最初に出会った転生者のイノベイドだ」

「じゃあ私達と同じ……。他にも居たんだね」

「まあな……。ただ、あいつの髪色は金髪なんだ。同タイプなら基本同じ髪色の筈なんだが……」

 

そういえばリボンズのやつ、俺とナオヤは別タイプとか言ってたな。

……もしかして嘘か?今の情報量じゃどっちを信じていいのか分からんな。

 

「うーん……私はその人に会ったことないから判断できないかなぁ……。良ければ話を聞かせて欲しいな」

「いいぞ。だがあんまりいい奴じゃないというか…てゆーかそれでもいいか?」

「聞かないことには結論に辿り着けないよ」

「それもそうだな」

 

承諾してナオヤについてレナに話すことにした。とりあえずリボンズの話と食い違うところとかは放置しよう。

まだ出会ったばかりだけどレナの持つ情報量は多そうだ。話を聞き出してから考えても遅くはない。

それにしても何処から話すか…。何処から話しても酷い話しかないのはどうなんだあいつ。

 

「うーん……」

「聞きたいのはその人の人柄とかじゃなくて特徴かな。何か私達と同じ点か違う点はない?」

「おっ、それなら……」

 

レナが答えやすく条件を提示してくれた。気が利くな。

そうだな、あいつが何者なのか。それについてはナオヤの性格や言動に触れる必要はあまりない。

まあ転生先の世界で浮かれてるっていうのと諸々があれば充分だろう。

 

「まずはあれだな。あいつがどういう境遇なのかは知らんが危機感がない気がする。まあ俺の知る転生者ってああいうのが多いけどな」

「うーん……それに関しては人間性だね。もっと能力的な私達との違いはない?」

「そうだな……。あいつはマイスタータイプだが俺と同じくMS(モビルスーツ)の操縦技術が特に高いってことはなかったな……」

「度合いは?」

「ん?まあ正直言って俺よりかは格段に弱いな。軍の階級で大尉まで登りつめたとか言っていたが本当なのやら分からんくらいだ。決闘の時もズルしてただけだしな……」

「あー、あれは確かに酷かったね……。あれって相手はナオヤさんだったんだね」

「え……?決闘のこと知ってるのか?」

 

こいつは驚いた。まさか見てたのか?

確か俺との共鳴に反応して俺の近くに何度か来ているのは聞いたな。ガンダム鹵獲作戦時とか合同軍事演習の時も今考えれば粒子ビームの正体はレナだろう。

だが、決闘の時に粒子ビームの介入はなかった。どこにいたんだ。

 

「見てたのか?」

「うん。ちょっとね」

「そうだったのか……」

 

介入せず観察してたのかもな。俺の脳量子波に反応して近くにまで来てたならナオヤの脳量子波にだって気づけただろうに、と思うわなくもないが……あの時のことについてはあまり思い出したくもないのでいっか。

動かなかったイナクトが突然動いたのも疑問だったが、まあ結果的に勝てたしそれももう考えなくていいだろう。

 

「話を戻すけどお兄さんより能力値は低いんだよね?」

「あぁ、リボンズ――知り合いのイノベイドは俺達はまだまだ完熟じゃないって言ってたけどな」

「それはどうかな」

 

ん?レナがリボンズの言葉を否定した。

なにか知ってるのか?

 

「このデータの続きを見たら分かるけど、私達は通常のイノベイドとは違うの。マイスタータイプなら能力は通常より落ちる……みたいに」

「そうなのか!?」

 

マジかよ……!じゃあ俺がこれまで自分の弱さに苦悩していたのは俺の遺伝子のせいかよ!

おのれ、塩基配列パターン0000。許さん。

 

「……とにかく詳しく聞かせてくれ」

「うん。データによると私達転生者はイノベイドの肉体を利用できる代わりに能力値は半分しか利用できないんだよ。だから私はマイスタータイプでも近接戦闘は苦手なんだ」

「詳しい原理はこれを読めば分かるか?」

「そうだね」

 

レナも頷き、俺に端末画面を向けた。俺はレナから端末ごと借りて読みたい事項を見つける。

どうやらこの塩基配列パターン0000にも欠点があるらしく、異界から人格をイノベイドの肉体に寄越せる代わりに本当にイノベイドの能力そのものは半分死んでしまうらしい。つまりはマイスタータイプならMS操縦技術やらを得られるがそれは完全ではなく穴があるとのこと。

半分を得られ、残り半分は転生前の肉体から引き継がれると記されている。つまり前世に左右されるということか。

 

そうか、そういうことだったのか。俺の射撃性能。あれはイノベイドの能力が反映されていなかったんだ!だから、前世の、一般人の俺としての腕だけが反映され、素人が引き金を引いている状態だったと。

なんだ……そういうことだったのか……。くそ、あのリヴァイヴの冷たい目線やこれまで落胆されてきたことについてこれで弁解したい!

とにかく俺は悪くなかった。普通だった。俺はノーマル、やったぜ。

全く……イオリアはこんなものを作るならもっと完全に作って欲しいな。

 

「……っぁ」

「お兄さん、なんで泣いてるの?」

「はは……長年の悩みが解決したんだ……」

「そ、そっか……良かったね……」

 

レナが引いてるが知るか。

俺の射撃は決して俺が劣ってるわけではなかった。とても報われた気分だ。

まあそれはそれとして、話は終わってない。

 

「で、何の話だっけか。俺がポンコツではない、って話だっけか」

「なにそれ何の話?違うよ、ナオヤさんって人の話。まあ全面的には塩基配列パターン0000の話かな」

「あぁ……そういえばそんな奴いたな。で?他に何が聞きたい」

「その人って総合的にお兄さんより劣ってたの?」

「まあ射撃以外は……」

「射撃は得意だった?」

「いや?そんなこともなかったと思うぞ」

「え……?」

 

俺の話を聞いてレナが首を傾げる。なにかおかしなこと言ったかな。

予測するに塩基配列パターン0000の詳細と食い違ってるのか。確かに半分は能力が反映される筈だが改めて俺が思い返してもナオヤには半分すら身についてないような気もする。

なんだあいつ、バグったのか?ざまぁみろ。

 

「おかしいな……。そんな筈は……」

「髪色も違うし、特にイノベイドとして目立った部分もなし。よく分からんなあいつは」

「う、うん……。それに名前も日本人っぽいのが気になるね……」

「ん?そういえばそうだな」

 

確かに日本人っぽい名前だとは思ってたけど気にしてなかったな。『ヴェーダ』からコピーか分離かしたかと思われるデータの中から対象の名前について調べる。名付け親は『ヴェーダ』か。

他のイノベイドと差異があまり生まれないような名称を……って書いてあるが金色の地毛に金色の肉眼、どう考えてもハーフでも日本人でもないアイツの容姿にナオヤじゃどう考えても目立つだろ。

 

「お兄さん、ナオヤさんのフルネームは分かる?」

「ん?えっと……確かヒンダレスだったかな……」

「ヒンダレス……」

 

リボンズが口にしてた筈だ。正直あまり覚えてないから合ってるか不安だが多分大丈夫。

それにしてもなんであいつのことをこんなに話し合なきゃいけないんだ。あまり好きじゃないからな。終始不快だ。

 

「ヒンダレス……『邪魔』……?」

「ははは、邪魔って会ったこともないのにそれは酷いだろ。まあ邪魔だが」

「いや……そうじゃなくて……」

 

まあ基本邪魔だよな、あいつ。いつか何かやらかしそうな気がする。

今のところ世界的には無害だが俺的には有害だ。決闘の時のことや合同軍事演習の時も始まる前に突っかかってきて邪魔だった。

考えてるとイライラしてくるな。よし、あいつの話はもう止めよう。

 

「そうだ。まだレナの話を聞けてなかったな」

「え?」

「ほら、助けて貰ってから難しい話ばっかでさ。自己紹介はしたけどそれから色々分かったし」

 

とにかく話を変えたくて振ったが、そうだ。あんな奴の話よりしなくてはいけない話があるだろ。同じセカンドネームなんだ。そこを気にしないでどうする。

目が覚めた時の懐かしい気持ちといい上手くて覚えのある珈琲の味といい何か深い繋がりを感じるんだよなぁ。お互い転生者なのは分かったんだ。もしかしたら前世で知り合いだったのかもしれない。

だから同じセカンドネームになったのかもな。

 

「もし嫌じゃなければ前世の話とか聞かせてくれよ。まあファンタジー世界とかに転生した訳じゃないから前の世界が恋しいって訳じゃなけどさ。同じ境遇に会ったんだ。話くらい聞きたいだろ?」

「う、うん……。そう、かも……?」

 

おっと。ちょっと興奮しちゃったか。こういうとこオタク特有だよな。

結局根っこは転生者のオタクだったってわけだ。

レナをこれ以上引かせるわけにもいかないので一度咳払いして落ち着く。

 

「まずは俺から話そうか?」

「ううん……同じ境遇でホッとしてるのは私も同じだし、こうやって出会えて嬉しいよ。私もちゃんと話すね」

「おう」

 

若干楽しみだ。

もしかしたら知り合いかもしれないからな。

 

「私の前世の名前は(たちばな) 深雪(みゆき)。普通の高校生だったんだけど実は事情があって死んじゃって――」

「………………………………え?」

 

一瞬、世界が止まった。

衝撃が走り、思考が停止する。

 

「……お兄さん?」

「え、あ、え……嘘、だろ……?」

「どうしたの?お兄さん?」

 

動揺する俺を前にレナはただ困惑する。

視界の全てが彼女で埋まり、瞳はただ彼女だけを捉える。

 

「み、深雪……?」

「え?」

 

レナも瞳を色彩に輝け、強くなった共鳴を感じている。

そして、俺の思考を的確に読み取った。

 

「もしかして……深也(しんや)お兄、ちゃん……?」

「深雪……」

 

レナが驚愕した表情で俺を見る。出会ってから一番感情を露わにしている。

俺は目を見開く彼女の顔が前世で俺より先に死んでしまった実の妹と重なる。レナ、いや深雪は硬直し、信じられないものを見るような目で俺を捉えていた。

 

そして、この夢にも思わなかった再会が俺をまた戦場へと導いていく。



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再会、そして問い掛け

見返すと1stの20話辺り、GN-X投入から展開が熱くてとても良い。


目の前に映る実の妹。

死んだ筈の深雪がレナとなって色彩の瞳で見つめ合っていた。

 

「深雪……」

「お兄ちゃん……?」

 

深雪の方はまだ信じられないと言った表情だ。

斯く言う俺もまだ現実を呑み込めない。

俺達の間に永遠とも思える長い静寂の時間が過ぎっていった。

だが、一瞬でそれをぶち壊し、レナが俺の頬へ触れる。

 

「本当に、お兄ちゃんなの…?」

「あぁ…俺だ。分かるだろ?」

「うん…」

 

互いに脳量子波で思考は伝わり合っている。

今起きた出来事が嘘ではないことは心を覗いて理解しているんだ。

しかし、それでも信じられない再会だ。

 

「深雪…。俺、お前が死んだのかと」

「死んだよ。さっきも言ったでしょ…、あのテロで私は…」

「でも今目の前に…!」

「私はレナだよ」

「……っ」

 

確かにもう橘 深雪ではない。

レナ・デスペア、新たな名と塩基配列パターン0000イノベイドの身体を『ヴェーダ』から授かっている。

十年間も過ごしたこの世界ではもう別人なのかもしれない。

でも、無理だ。

俺には深雪の面影が重ねって見える。

真実がわかった今、もはや深雪にしか映らない。

もう深雪は別人になってしまったのか…?

 

「お兄ちゃん」

「深雪…」

 

再び深雪が俺の顔を覗き、視線が厚く交じり合う。

深雪からの脳量子波から温かい感情が流れてきた。

 

「そんなこと、悩まなくていいよ」

「え?」

 

深雪はそっと微笑み、俺を抱き締める。

あぁ…包まれた時のこの匂い、感触を何十年も前から知っている。

 

「今の私はレナだけど、お兄ちゃんもレイでしょ?」

「あ、あぁ…」

 

レナに抱擁されてちょっと落ち着いたのか自分でも分からないがレナの問いに頷く。

 

「じゃあ、私達はまた兄妹だよ。同じセカンドネーム、デスペア…。レイとレナ。ただちょっと生まれ変わっただけ」

「……」

「でももう深也(しんや)深雪(みゆき)じゃない。生まれ変わったってことは覚えておいて?」

「なん、で…」

 

正直深ゆ――レナが何故そんなことを言うのか分からない。

思わず問い返してしまうほどに。

 

「もう二度と離れ離れにならないように、もう1度出会えたこの運命をちゃんと分かっていて欲しいの」

「……っ!」

 

俺達は前世でも兄妹だった。

だが、深夜と深雪の関係はもう終わった。

俺が深雪を失ってしまったから。

でも奇跡が起き、レイとレナとしてもう1度出会うことができた。

だから今度こそはお互い離れないように、前世のようにならないように深雪は区切りを付けたいのだろう。

 

問題は俺にそんなことが出来るのか…。

勿論昔の思い出を捨てろという訳じゃないのだろうけど深雪とレナを混同してしまう。

深雪――レナはこんな状況でも冷静だ。

臨機応変なのは昔から変わらない。

でも俺は…。

 

「ふふっ」

「え…な、なに笑ってるんだ?」

「だって。お兄ちゃんってば難しく考えすぎだよ。さっきのは建前だけで捉え、ちゃんと意識できていればそれでいいの!ね?」

「あ、あぁ…」

「あはは!そういうとこやっぱりお兄ちゃんだなぁ」

 

深雪、レナは笑いながら何処か懐かしくて泣きそうな顔になる。

俺はそんなレナを抱きしめた。

 

「お兄ちゃん?」

「ありがとう」

 

思えば深雪は臨機応変でも俺より幼い。

こんなにも巡り巡って再会できて感動してるのは俺だけなわけがない。

深雪も今にも泣きそうなくらい嬉しいんだ。

勿論、俺も。

 

「深雪…」

「もう…、レナだってば」

「また出会ってくれてありがとう…本当に、ありがとう…」

「うん…うん…。会いたかった、会いたかったよ。お兄ちゃん…!」

 

今度は強く抱擁し合う。

もう二度と離さないようにずっと一緒に居れるように。

強く、強く…。

涙が頬を伝うのも気にせず俺はただありがとう、よかった…とだけ呟き。

深雪は会いたかったとだけ囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く再会を噛み締めた俺と深雪(レナ)は少し落ち着いて何故この世界にいるのか、という話になった。

まあよくある死者転生である深雪は前世でテロに巻き込まれて殺されてしまい、ガンダム00の世界へと塩基配列パターン0000イノベイドの肉体を用いて現界した。

深雪の転生に関しては慣れている俺はすぐに納得し、なんなら逆に説明したくらいだ。

転生に関してもイオリアが作ったかは知らんが、塩基配列パターン0000のイノベイドが存在する以上不思議ではない。

 

ただここで問題が浮上した。

当然深雪のことを聞けば、交代で彼女から俺に尋ねてくる。

何故この世界に転生してきたのか、と。

しかし、それに関して俺は――。

 

「え?分からない?」

「あぁ…」

 

どうも転生直前の記憶が無いんだよなぁ。

何か事件に巻き込まれたわけでもないし、死んでもいないと思う。

どういうわけか経緯なく転生していた。

 

「そっか…。まあ知らないものは仕方ないね」

「考えても判明するものでもないしな…」

 

というわけでお預けとなった。

深雪としては俺が死んでしまったのかとか自分がいなくなった後のことが心配だったのだろう。

だが、知らないものはどうしようもない。

思考するだけ無駄だ。

 

それにしても深雪の入れる珈琲はやっぱり美味しいな。

そりゃバリスタが入れたのが一番上手いではあるんだけど懐かしいというか安心する味だ。

俺に合った苦味の調整がされている。

そんな珈琲を口に含みながら俺達は互いに知らない空間の時間を尋ね合う。

 

「深雪はもう十年間もこの世界にいるんだよな?」

「もう…だからレナだってば」

「あー、すまんすまん。率直に聞くけど十年間何してたんだ?」

「反省する気ないなぁ…。私の話は聞いててもそんなに楽しい話じゃないよ」

「ぶっちゃけ俺もそうさ」

 

まあガンダムなんてもんを作ってるやつが真っ当な人生を歩んでいることはないだろう。

俺もリボンズのおかげで生後1日足らずで軍人デビューだった。

紛争の中を駆け巡っていた俺も異常な方だ。

さて、深雪が話すようなので耳を傾ける。

 

「私は…死んだと思ってたら生きてて何が起こってるか分からないまま地球に落っこちちゃったんだ」

「は?落っこちる?宇宙(そら)に居たのか!?」

「うん。最初はね」

 

こいつは驚いた。

気が付くとそこは宇宙だった…ってか。

ん?待てよ?それってもしかして『ヴェーダ』じゃないか。

『ヴェーダ』は月にあるんだ、レナが目を覚ましたのが月でもおかしくはない。

ていうか俺もそうだったかもな。

 

俺の場合、生まれる前から既に色々な手順が済まされていてよく分からないままなされるがままにリボンズの所に向かっていた。

実は道中の記憶はあまりなく、朦朧としていた。

ってそんなことより地球に落っこちたってのはやばくないか。

今深雪…じゃなくてレナは生きているから助かったんだろうが、その先が気になる。

 

「で、どうなったんだ!?」

「うーん…まあ無事ではなかったけどなんとか命は助かったんだ。ある人が助けてくれてね」

「ある人…?」

 

誰だろう。

まあ主要人物かどうかも分からないし、今は保留でいいか。

心の中で感謝しておこう。

いや、本当に妹を助けてくれてありがとう。

顔を拝むことになったら恩返ししたいな。

 

「その後はその助けてくれた人の家で暫くお世話になって…恩返ししようって思って私なりにずっと頑張ったんだ」

「へぇ…」

 

出だしは驚いたけど大したことは起きてないな。

お世話になった人に恩返しするのは変ではないし、介抱してもらえたというのも転生してすぐで衣食住がないんだ。

助けてくれた人がよっぽど人でなしでもなければおかしくはないだろう。

なんかさっきから警戒しまくって聞いてるな。

妹が深刻な話をするって言い出したんだから当然か。

酷い目に合わされた話をしたらそいつを叩きのめしてやる。

 

「それで恩返しにガンダムを作ろうってなって」

「いや、なんでだよ」

 

何言ってんのこの娘。

我が妹ながら最高に意味がわからない。

恩返しのスケールがデカすぎるだろう。

どうやらその為に数年掛けてMS工学などに励んだらしい。

前世から深雪は賢かったが、開発に関する資格を何十個も持ってると賞状を見せられた時は珈琲を吹きかけた。

 

異世界で何やってんだよこいつ…。

まあガンダムを作る側に憧れるやつはいそうだけどな。

人によってはかなり羨まめる。

ただ深雪って記憶が正しければ非オタなんだよなぁ。

素で恩返しの為だけに全てを身につけた線が一番濃い。

くそ、何故こうも遺伝子が偏った。

前世の親父は天才的な物理学者だったらしいが俺と深雪の学歴の差が天と地の差であるところを見るに均等にはならなかったらしい。

 

それはそれとして、恩返しにガンダムを作る気になる人物に助けてもらったっことだよな。

レナの『家』っていう表現からするに相手側は相当金持ちなのかも。

ならコーナー家とかありそうだな。

実際アレハンドロはリボンズを拾った…まあ利用されてるだけだがそういう経緯もある。

深雪を拾う可能性もないだろう。

 

あとは(ワン)家か。

深雪…あぁ、くそなんとかレナって直そうとしてもどうしても深雪の名が出る。

そのせいでさっきから統一できない。

深雪の望みはレナとして呼んでほしいようだからレナで統一できればいいんだけどな…っと脱線した。

王留美(ワン・リューミン)も人柄的にレナを助けてもおかしくはない。

ただ十年前となると彼女は9歳…地球に落下した宇宙船(スペースシップ)かは知らんがその中からレナを救える年齢ではない。

ならば(ワン)家の人間ということもあるな。

 

ただそうなるとソレスタルビーイングとは無関係では入れなそうではある。

なんならガンダムを作るよりガンダムマイスターとしてグラーべに勧める方が自然だ。

だが、レナの作ったガンダムは擬似太陽炉搭載型。

ならやはりコーナー家に拾われ、トリニティの別チームか?

 

「トリニティ?何の話?」

 

レナが首を傾げる。

思考読むなよ。

 

「ガンダムマイスターだよ。ソレスタルビーイング以外の。アレハンドロ・コーナーって知ってるか?」

「うーん…」

「……やっぱいい」

 

一体何を知ってて何を知らないんだ。

深雪の場合、前世で作品を見てなかったから知識がない。

転生してから知ったことを当然ながら俺は知らない。

これはもっと情報を交換する必要があるな。

俺の知識、というか本筋の全てを。

 

「とにかくレナはこの十年間恩返しに費やしたってことだよな?」

「まあ、そうかな」

「……一応聞くが合同軍事演習で俺を狙ったのはその恩返しの一部か?」

「もう…怒ってるの?」

 

さぁ、どうだろうな。

俺が覚悟を決めた時にデュナメスを潰そうとして邪魔されたのを忘れてはいないぞ?

 

「言っとくけどその前にお兄ちゃんを助けてるんだよ」

「うっ…」

 

痛いところを突かれた。

くそ、確かに反論できない。

なんでこうも深雪には勝てないかなぁ。

兄妹喧嘩も勝ったことないんだよな。

 

さて、俺の番か。

レナの話は聞けた。

基本は救ってもらった人への恩返し。

作品を見てなかったんだから特に行動を起こさなかったことにも納得はいく。

リボンズと干渉してないなら俺みたいに戦場に送り込まれることもなかったんだろうな。

 

「はぁ…。俺の話をする前にまず話さなきゃいけないことがある」

「なに?」

「まずリボンズ・アルマーク、そいつの差金で俺は戦場へと送り込まれ、軍人となった」

「リボンズ・アルマーク…」

 

レナがリボンズの名を復唱する。

この名前はこの世界でイノベイドとして生きる上では絶対に無視出来ない。

レナも知っておくべきか。

まあ詳しくは脳量子波で読み取るだろう。

 

「リボンズさん…イノベイドの統率者…。そう…確かに、世界の歪み…そのもの」

「……」

 

色彩に輝く瞳から情報を引き出すレナ。

アレハンドロを利用していることやあいつの企みの全てを教えた。

 

「お兄ちゃんの話を聞くには、まずイノベイドを知らなきゃ。そして、それは世界を知らなければならない」

「そうでもないが、気になるか?」

「今では私の生きる世界でもあるから」

「そうか」

 

じゃあ掻い摘んで作品としてのガンダム00を説明してやるか。

出来るだけイノベイドやリボンズの詳細や全貌を優先する。

そうだな、俺のこれまでの経験と絡めるか。

一石二鳥だ。

 

「まずソレスタルビーイング…ガンダムを有する私設武装組織が戦争根絶のために武力介入したのは知っているよな」

「うん。声明も聞いてたよ。無視できない立場ではあったしね」

 

ほう。

やはり(ワン)家かその辺と絡んでいたのか。

それともただ聞いただけか。

まあ今はどっちでもいいか。

どうでもいいがさっき珈琲の共として出てきたシナモンと黒糖のドーナッツが美味しい。

俺が甘いのが苦手なことを知っている深雪が甘さ控えめで珈琲に合うものを用意してくれた。

さすが妹だな、自分で焼いたみたいだし自慢の妹だ。

何処ぞの馬の骨にはそう簡単にはやらん。

 

「ガンダムの武力介入により、世界は混乱しその中で大きな打撃を受けていくことになった」

「紛争が終わったり、その影響はちゃんと出てたね」

「あぁ。イノベイドは基本リボンズ以外はあまり行動に出ていない。だが、俺とナオヤはまだ未熟だという理由で戦場へ投入された。俺は人革連で、ナオヤはAEUの軍隊に。リボンズによってな」

「……」

 

イノベイド二人を自由に動かす権力を持つ存在であるリボンズ。

その大きさにレナも黙る。

そして、同時に悟る。

世界の変革は奴の手のひらで行われている。

 

「タリビア共和国のユニオン脱退の茶番…それが終わると俺も遂に紛争へ介入することになった。ティエレンタオツーの性能実験でガンダム キュリオスと戦うことになり…ガンダム鹵獲作戦ではガンダム ヴァーチェ」

「そして、合同軍事演習だね」

「あぁ。デュナメスを損傷させようとしたが…」

「はぁ…はいはい、悪かったですよぉー」

「まだ何も言ってないだろ…」

 

レナが唇を尖らせて拗ねる。

我が妹ながら可愛い。

そういえばエクシア以外のガンダムと戦ったんだな俺。

全く嬉しくない上にできればコンプリートしたくないな。

それもティエレンで戦うとか何の縛りだ?

思い返すと待遇が少なすぎて泣けてくるな。

 

「途中ナオヤとの決闘とか色々あったが、合同軍事演習でスローネ ツヴァイにやられたところをレナが助けてくれた…んだよな?」

「うん。ガンダムでね」

「それってスローネや誰かに見られたんじゃないか?」

「うーん…スローネってあのオレンジのガンダムだよね?まあ見られたとは思うけど…道中は迷彩システム使ってたし、ガンダム機と知られないように工夫はしてあるから多分大丈夫だよ」

 

工夫ねえ。

ガンダム機と悟られないために…原作ではマスク付けてたりしてたな。

ただGN粒子でバレる気もする。

一体何をしたのやら。

 

「……」

「お兄ちゃん?」

 

レナが顔を覗いてくる。

一応話は終わりだ。

合同軍事演習で気を失ってから意識を取り戻した時にはレナの部屋にいた。

ここまで状況を整理したり情報を得るためにレナと話してきたが…。

 

俺が意識を失っている間にも世界の情勢進んでいる。

レナとの、深雪との再会ですっかり忘れていた。

ティエレン チーツーが大破して、合同軍事演習で俺は戦死の扱いを受けているのか。

何にせよ、スローネの介入であの演習は失敗だ。

その後GN-Xが配置されるまでスローネの武力介入で世界はさらに打撃を受けることになる。

 

色々あったが冷静になって気になってきたな…。

あの後どうなったんだ?

本筋を知っていても改変が起きているかもしれないこの世界の先は分からない。

特にスミルノフ中佐やミン中尉。

人革連の仲間達、『頂武』のみんなは…。

ソーマが心配だ。

 

「レナ。今世界はどうなってる?」

「さっきお兄ちゃんのいったスローネってガンダムかな、あの機体が軍備施設ばかりを攻撃して今は騒がしいよ」

「そうか…」

 

やはりか。

そこは変わってない。

元々ガンダムに対抗できる機体がない。

合同軍事演習で一時は協力したとはいえユニオンも人革連もAEUも元々は個々の存在だ。

武力の元となる基地を一掃されては手も足も出ない。

 

俺が介入したこの世界でも軍側の力量は変わっていない。

ならば必然的に同じことが起こるのは当然だろう。

問題は今スローネがどれだけ動いたかだな。

あいつらの武力介入の内容自体は変わってるかもしれない。

ソーマ…。

 

「レナ。詳細を教えてくれ」

「……ハロちゃん」

『データヒョウジ。データヒョウジ』

 

レナが黒ハロに指示をし、端末画面に世界中の情勢が、情報が流れてくる。

スローネが軍の基地を攻める映像も見た。

敵が壊滅するまで徹底的に潰す、それがトリニティのやり方だ。

実際にこの目に焼き付ける。

 

「……」

「……」

 

はっきり言って気持ちのいい内容ではない映像が静寂の中、映される。

俺は全て逸らすことなく目を通し、再度レナに問う。

 

「スローネの武力介入はこれで全てか」

「うん。全部で七、八回かな」

「……」

 

人革連も影響を受けている。

まあソーマを紛争に活用するブラックだ、同情はしてやらん。

回数的に次に狙われる場所は検討がつく。

確かユニオンのアイリス社軍需工場がスローネの狙い。

あそこに働くのは民間人だ。

 

「レナ。スーツと動かせる機体が欲しい。ガンダムなんて贅沢は言わない、ヘリオンでもティエレンでも俺にMS(モビルスーツ)をくれ」

「……戦うの?」

「どうしても守らなきゃならない人達がいるんだ」

 

刹那やロックオン、マイスター達ソレスタルビーイングもアイリス社軍需工場への武力介入は眉を顰めていた。

何度も言っているが、目の前で起こることを無視できる程俺は薄情でも非情でもない。

 

「頼む」

「……」

 

俺の思いを色彩の瞳を通して伝える。

どうしても譲れないものがある。

頭を下げる俺にレナは溜息をついた。

 

「はぁ…お兄ちゃんが今何を言ってるのか理解してるのかは分からないけど…機体はあるよ」

「……っ、レナ!」

「でも今回だけ。それ以降は私の問いにお兄ちゃんがどう答えるかで決めるね」

「問い…?」

 

レナも立ち上がる。

彼女の表情は本気だ。

真面目で重要な話をする時の深雪の顔。

 

「お兄ちゃん。お兄ちゃんは今…リボンズさんから逃れることが出来てるの」

「え…?」

 

リボンズから逃れている?

 

「イノベイドの殆どはリボンズさんに支配され、世界はリボンズさんの手のひらで踊っている。でもお兄ちゃんは今死人として扱われてる。軍でも、世界でも」

 

レナがハッキリと言うってことは俺を助けたことをミハエル、少なくともトリニティ以外には知られていない自信があるのか。

もしそうなら俺が死人の扱いを受けるのは当然の流れ。

 

「ここはね。外からの脳量子波を遮断する施設なの。だから、お兄ちゃんが万が一にもリボンズさんに見つかることは無い。使命から逃れることが出来る」

「なっ…」

 

そうだったのか…。

だから、レナはリボンズに存在を知られてないのか?

いや、真実は分からないから確実にそうだとは言えないがレナの言うことが本当ならばここは隠れ蓑になる。

でも――。

 

「深雪!俺は…」

「分かってる。巻き込まれる民間人を助けたいんだよね?その想いは脳量子波でちゃんと伝わってるよ。だから今回だけお兄ちゃんにMS(モビルスーツ)を貸してあげる」

「深雪…」

 

深雪が――レナが真剣な瞳で俺を見つめる。

 

「でも帰ったらこの問いの答えを教えて?お兄ちゃんはこれからどうしたいの…?」

「これからどうしたい…?」

「お兄ちゃんはもう戦う必要はないんだよ?強制されてるわけでも縛られてるわけでも使命があるわけでもないから。リボンズさんだっていない。世界の隅っこで傍観することだってできる。見てるのが辛いなら誰もいないところ、一生平和に暮らせるところに逃げても良いの」

「……」

「出来るなら私はもう一度お兄ちゃんと…ううん、私のことは考えないで。お兄ちゃんは答えを見つけて?」

「深雪…」

 

深雪の問いの意味は分かる。

確かに戦いに介入する必要は無い。

なんなら転生直後に望んでいた傍観の道を選べるかもしれない。

だが、俺はこの世界に関わりすぎた。

傍観するだけなんて無理だろう。

ならば深雪の提案は凄く魅力的だ。

でもこのまま終わってもいいのか?

 

――俺はどうしたい。

 

「とにかく人助けしよっか?」

「あ、あぁ…」

 

レナが俺の顔を覗いて微笑む。

悩んでる暇はない、か。

グリニッジ標準時間を確認する。

武力介入の時間は近い。

だから、深雪は答えを帰還した後にお預けしたのか。

本当に…出来た妹だ。

兄を気遣ってくれている。

 

「お兄ちゃん、スーツだよ」

「す、すまん。ありがとう」

 

深雪からスーツを受け取る。

これ…脳量子波遮断型か。

凄いな、こんなものまであるとは…。

 

深雪――レナに案内されるがままに付いていく。

重力はある。

地上ならすぐにアイリス社へと駆け付けられる。

そして、部屋と隣接していたMSの格納庫へと訪れた。

そこに居たのは――。

 

「これは…」

「ガンダムだよ」

 

振り返るレナの背後に佇む黒い機体。

ティエレンとは違い、見下ろすのは双眼。

背に擬似太陽炉と思われるGNドライヴを詰んだその機体の名は…。

 

「ガンダムプルトーネ…」

 

俺も知っている第二世代ガンダムだった。




深雪とレナの統一は先の出来事で統一されるので今は我慢してください。
長文回で一度大批判をくらってトラウマですがここら辺は重要事項や判明していく事実が多いので書くのが大変で書き直すのは絶対無理と断言できるのでご勘弁を…。
できれば批判は控えてもらえると有難いです。

次回は2機のガンダムが空を舞う。

あとプルトーネ ブラック レイ専用改良型、ガンダム サハクエル、レナ・デスペアについての解説を活動報告に上げておきました。


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ガンダム対決

第二世代ガンダム、GNY-004プルトーネ。

本来ならばソレスタルビーイング、その後にフェレシュテへと受け継がれる筈のガンダム機。

ただ元型機とは違い、黒の塗装が施されている。

まるでイノベイドが【GNZシリーズ】の参考とするために『ヴェーダ』のデータから再生させたプルトーネのように。

いや、どちらも塗装を変えただけだ。

なら一緒だろう。

だから、目の前で見下ろしているのはプルトーネ ブラックだ。

 

「プルトーネ ブラック…何故ここに?」

「『ヴェーダ』のデータから再現したの。2年も掛けて作ったんだよ」

「みゆ…レナがプルトーネも作ったのか?」

「そうだよ」

 

す、凄いな…。

こんなにもまじまじとガンダム機を見るのは初めてだ。

俺の目で見た範囲では外見は完璧に再現できている。

本当にレナが作ったのか?

 

「もちろん私だけで作ったわけじゃないよ。資金は援助してもらったし、たった1人じゃ作るのも大変だし」

「そうなのか…」

 

そういえば機体の整備をしている者達がいる。

なんか小柄というか平均年齢が低い気がするのはなんでだ…?

 

「あの子達、気になるの?」

「あぁ…」

 

俺の視線に勘づいてレナが尋ねてくる。

まあ脳量子波で大体筒抜けよな。

 

「あの子達はえーと…超兵機関だっけ。ある施設から連れ出した子達だよ」

「超兵機関!?まさか…5年前に超兵機関を襲ったのはレナか!」

「確かにそれくらい前の話だったかなぁ」

 

超兵機関がアレルヤによって壊滅した際、中佐と見ていた資料。

その中で5年前に超兵機関を襲撃したと思われる機影があった。

白い翼…赤い粒子…間違いなくガンダム機であるMS(モビルスーツ)だ。

 

「お世話になった人に紹介してもらってね。人員としてどうか、って」

「人員って…」

 

ちょっと酷くないか。

超兵機関の子供達は被験体でまともに生きれるような存在ではない。

ハレルヤが言っていたように改造された彼らが日常に混じるなんて無理だろう。

だが、だからといってMS(モビルスーツ)の開発に必要な人員として連れ出すのが得策とも思えない。

 

「レナ、お前…」

「分かってるよ。あの子達はまともには生きられない。でも真っ当に生きようとするのは罪じゃないでしょ?」

「え…?」

「少しずつでも紛争から遠ざけられたらいいなって思って、出来る限り犠牲は出さずに介護したの。でもいきなり普通の生活をしろって言っても無理でしょ?だから、少しずつ遠さげる形で今は機体の整備を手伝ってもらってるんだ」

「そ、そうなのか…」

 

レナ曰く、知識を与え、機体の整備や開発を子供たちに教えたらしい。

それはMS(モビルスーツ)に関することだけでなく、通常の教育や生きる術など普通に生活するための知識も同時に平行して行ってるという。

脳量子波も自身がイノベイドであることを利用してコントロールできるように助力していて。

改造されてしまった子供たちに寄り添っている。

 

まさに手順を踏んで徐々に戦いから遠ざけようとする考えのようだ。

レナにとってちゃんと考えて救い出そうとしている。

そして、そんな話をしているうちに1人知っているやつが近付いてきていた。

 

「お前は…!」

「先生、彼は…?」

「あぁ…紹介するね。お兄ちゃんのレイ・デスペアだよ」

「お兄さん?」

「レ、レナ!なんでここにレオ・ジークがいるんだ!?」

 

金色(こんじき)のロングヘアー、本名レナード・ファインズ。

元人革連の超兵で後にフェレシュテのガンダムマイスターになる男だ。

そんなレオが今、俺の目の前にいる。

 

「な、なんで僕の名前(コードネーム)を…」

「お兄ちゃん、レオのこと知ってるの?」

「なっ…」

 

ファーストネーム呼び!?

なんか心なしか距離が近いぞ!俺には分かる、分かるぞ。

よく分からんがレオの方はレナを先生と呼んでいるが知ったこっちゃない。

いつの間に近くに男を…いや、レナとは会ったばかりだけどさ。

とにかく認めないぞ!

 

「深雪、レオは優しいやつだが認めないぞ!俺のいない間に深雪に擦り寄る奴は解せん!」

「な、何の話を…?」

「お兄ちゃん…発想が突飛し過ぎだよ…。レオとは何も無いから」

「そ、そうなのか?おい、どうなんだ!」

「えぇ…!?」

 

指をさし問い詰めるがレオは困惑するだけで答えない。

なよなよしやがって、それでも男か!

さらに迫ろうとしたがレナが阻んできた。

 

「もう…今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!」

「うっ…そ、そうだがなんでここにレオがいるんだ!?」

「レオは私に協力してくれてるの…!お世話になってる人からの紹介でね」

「おい…それは本当か」

「え?まあ…はい」

 

ほう…まあ嘘はついてなさそうだ。

お世話になってる人、協力者か。

やはり深雪を救ったのはソレスタルビーイング関係だな。

となると(ワン)家か?

フェレシュテのマイスターになった時が19歳だから今のレオは11歳か。

ん?それにしては…背が高くて大人びてないか?

まあ俺の知ってるレオより若干幼さのある顔ではあるが。

 

「おい、今何歳だ」

「ぼ、僕ですか?15歳ですが…」

「なに…?」

 

レオが困った表情で答える。

原作より4つ歳を取ってるのか。

改変か、まあそうだろうな。

何のための改変だよ。

それにしても高身長だな、俺より背が高い。

成長期か?解せねえ。

 

「お兄ちゃん、もういいでしょ」

「あ、あぁ…悪かったって。そう怒るなよ」

「怒ってないですよーだ」

「レ、レナぁ…」

 

スーツに身を包んだレナが俺に目を合わせず移動していく。

機嫌を損ねさせてしまったか。

ちくしょう、レオめ。

 

「お前、帰ったら覚えておけよ」

「えぇっと…何を…」

「お兄ちゃん!」

「うへっ!?」

 

やばい、本気で怒らせてしまう。

これ以上レナの機嫌を悪くさせてしまわないようレオを後にしてプルトーネ ブラックへ向かう。

ワイヤーを掴んで上がっていくとより近くで見ることでガンダムの貫禄を感じた。

 

「これが、ガンダム…」

 

見下ろすとレオが見上げている。

こっち見んな。

そんなレオに近寄る女性がいる。

あれ、デル・エルダじゃないか。

本名はデルフィーヌ・べデリア、人革連の元パイロットでレナードと共にティエレン チーツーを操縦していた。

あいつもいるのか…。

2人とももうソレスタルビーイングに所属していて、レナの協力者が寄越したのか?

 

ふとレナを見遣ると俺同様にワイヤーで上昇していく彼女を捉える。

白い翼を持つガンダム機、機体の塗装は翼とは真逆の漆黒。

5年前、超兵機関を襲撃した機体か。

だが、どっからどう見てもあのガンダムなんだよなぁ。

GNドライヴと夢の共演ってか。

深雪は何を考えてアレを作ったんだろう。

 

『なぁ、みゆ――レナ、その機体って…』

『私のガンダムだよ。ガンダムサハクエル』

『サハクエル…』

 

距離も離れているので通信越しに話す。

レナが新たに開発した擬似太陽炉搭載型ガンダム機。

ガンダムサハクエル。

空を支配する天使か…。

武装はやはりバスターライフルが分離されて装備されている。

それ以外にも豊富な装備だ。

帰ったら何を積んでいるのか聞かせてもらおう。

 

『すまない、レナ。巻き込んで』

『今更だよ。それとレオには帰ったら謝ってね』

『ぜ、善処する…』

『ダメ!ちゃんと謝る!』

『はい…』

 

どうも前世から妹には敵わない。

なんでだ。

とりあえずプルトーネ ブラックに乗り込んだ。

恐らく設備も細かいところは変わってるだろうが本家と大差はない。

うーん…ガンダムを操作したことがないからよく分からんシステムがあるな。

マニュアルくれ、マニュアル。

 

『レナ。ぶっちゃけシステムが分からん』

『私がサポートするから安心して。口頭で伝えられるところは全部教えてあげるから』

『おぉ、それは助かる』

 

優秀だな。

まるでミン中尉がついてるみたいだ。

深雪の助力も得て最低限の戦闘はできるくらいに操縦が可能になった。

後は出撃するだけだ。

グリニッジ標準時間を確認する。

よし、まだ間に合う。

 

『ハッチオープン。GNドライヴ稼働!システム、オールグリーン!各部問題なし!』

 

レナが的確な指示とシステム全てに目を通す。

凄いな…思わず感嘆した。

レナの能力が高い。

俺の知ってる妹とは見違えるようだ。

 

『出撃準備完了!行くよ、お兄ちゃん!』

『あぁ…!』

 

レナの掛け声に俺も応じる。

プルトーネ ブラックも稼働させ、GN粒子を散布し始めた。

いける、このガンダム動くぞ…!

 

『ガンダムサハクエル、レナ・デスペア。飛ぶよ!!』

『ガンダムプルトーネ ブラック、レイ・デスペア。出撃する…!』

 

黒ハロはサハクエルに搭乗している。

俺とレナは各々叫び、ガンダムを飛ばした。

レナの隠れ蓑こと基地施設から出現した2機の機影、2対のガンダム。

サハクエルは白き双翼を広げ、降臨する。

赤い粒子を散布させる機体は互いに顔を合わせ、目標方向へと向き直る。

 

『準備はいい?お兄ちゃん』

『もちろんだ!』

『行くよ…!』

『あぁ…!』

 

レナの合図で基地上空から出力全開で飛行を開始する。

サハクエルとプルトーネ ブラック。

2機のガンダムがユニオンのアイリス社軍需工場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユニオン領土へと侵入。

目的地であるアイリス社軍需工場まであと2000km地点をガンダムプルトーネ ブラックとサハクエルは通過する。

擬似太陽炉があればスローネの急襲にギリギリ間に合うだろう。

だが、ガンダムサハクエル――レナは突如推進を止めた。

 

『レナ…?アイリス社の軍需工場までまだ距離があるぞ。何故止まる』

『お兄ちゃんはこのまま向かって。作戦プランを転送するから道中に目を通してね』

『はぁ…?』

 

おいおい、単独で行けってか。

なんでついてきたんだよ。

文句を言おうとしたらサハクエルは眼下にある山岳へと降下してしまった。

心中で悪態をついていたが、レナからデータが転送される。

プルトーネの端末に渋々そのデータを表示する。

 

作戦プランとやらか。

いつの間に練ったんだ?もしかしてここまでの移動中だったりするのか。

出撃は急な話だったからその期間しかないよな…。

そういえば道中スローネの武装を聞いてきたがそういうことだったのか。

そんな即興で作ったもので大丈夫なのかよ。

とりあえず目を通す。

これは…。

 

『嘘だろ…?』

 

目的地へと着々と近付いていく中、コクピット内で思わず驚愕の声を漏らす。

いやいや、この作戦ほんとに上手くいくのかよ。

深雪のやつ、自分の力を過信し過ぎじゃないのか。

真顔でこんな作戦プランを出してくる程自信過剰な性格じゃなかったと思うんだが。

まあ作戦プランに目を通している間にレナとは離れたし、最悪俺が1人でなんとかする方向でこのまま向かうとしよう。

 

プルトーネ ブラックが目的地周辺空域に到達した。

一応作戦プランは実行する。

後で深雪…じゃなくてレナに怒られたくないからな。

 

『アイオワ上空域に入った。GNメガランチャーによる偽装の準備完了』

『了解。粒子圧縮率98%、GN粒子蓄積量目標に到達』

『モニター内に先行する機体を捕捉した。機影3機、一定範囲の通信遮断の確認によりスローネと推測。メインモニターにも映っている』

『前方モニターの映像をハロちゃんに転送して』

『分かった』

 

遂にスローネを見つけた。

アイン、ツヴァイ、ドライの3機を視界に捉えている。

間違いなくトリニティだ。

 

レナに指示された通りにスローネの映像を転送した。

今頃黒ハロが俺の視界を映し出した映像をサハクエルのモニターにリンクし、レナがスローネの座標を確認しているだろう。

正直上手くいくとは思えないが、自慢の腕を見せてもらうとするか。

 

『スローネ確認。サハクエルの座標固定、照準確定、照準までの道筋の一定重力演算完了。狙撃態勢に入るよ』

『はいよ』

 

後半になるにつれて何を言ってるのか理解出来んがもはや聞き流している。

昔から言って聞くタイプじゃないからな。

好きにやらせるさ。

作戦プラン通り、プルトーネ ブラックはGNメガランチャーを構える。

照準はガンダムスローネ アイン、ヨハン・トリニティ。

 

実際はGNメガランチャーなんてのは見た目だけでただの贋物(ガラクタ)だがな。

カモフラージュのために用意したものらしい。

サハクエルは未だに晒したことのない機体、レナにとっても隠し通したいとのこと。

形状こそGNメガランチャーと瓜二つだが真実は鉄屑、武装ですらなくGN系の砲撃どころか実弾すら出ない。

まったく…茶番で終わらないといいけどな。

 

『アイリス社軍需工場が見えた。スローネ アイン襲撃態勢。俺は行くぞ…!』

『了解、作戦開始!GN粒子解放!超長距離射撃、発射(ファイア)…っ!!』

 

作戦の成功を信じていないので表面上従いつつ、スローネへと迫る。

だが、切迫しようとする俺のプルトーネ ブラックの背後から巨大な粒子反応があった。

 

『なっ…!?』

 

一応知っていた俺でさえ驚く。

信じてはいなかったからな。

しかし、プルトーネ ブラックの横を過ぎていった粒子ビームは一直線にスローネ アインを捉えていた。

馬鹿な…あの距離から本当に!?

 

『粒子反応…っ!これは!』

『なに!』

『粒子ビーム…!?』

 

男女3組の音声を拾う。

当然トリニティ兄妹だ。

ヨハン、ミハエル、ネーナの順に驚愕し、完全に不意を突かれている。

サハクエルの粒子ビームは不意を突き、咄嗟の緊急回避を行ったスローネ アインを捕捉していた。

だが、さすがはヨハン。

優れた反射神経での回避で直撃コースを免れている。

まあ最初からスローネ アインの機体()()は狙っていないが。

 

『ぐあっ…!?しまった、長距離砲が…っ!』

 

機体の衝撃に苦痛を訴えるヨハン。

レナの狙いは最初からGNランチャー、そしてGNランチャーは粒子ビームによって大破した。

もはや粉砕と言っていい程跡形も残ってはいない。

ヨハンは回避したが、こちらの狙い通りにGNランチャーを奪うことが出来た。

これはまさか、回避後の座標すら読んでるのか。

いや、わざと回避コースを誘導している。

 

『ミハエル!来るぞっ!』

『え…?』

 

ヨハンのダメージに気を取られていたミハエルは第2射の粒子ビームに気付かなかった。

なんとか回避行動を取るもレナはそれを読んだ上での狙撃コースを選択している。

次の狙いはGNファングの収容ユニット。

二つあるうちの片方に粒子ビームが直撃し、破壊する。

 

『ぐああ…ッ!』

『くっ…我々の武装ばかりを…!』

『ヨハン兄!接近する機体が…!』

『あれは、ガンダム?――っ!粒子ビーム、ミハエル避けろ…!』

『無茶言うなっての!!』

 

トリニティの混乱の隙を狙った第3射。

俺のプルトーネ ブラックは偽装GNメガランチャーを構えているだけだ。

ネーナがプルトーネ ブラックに気付いた時には第3射の粒子ビームが俺を通過した後。

タイミングは完璧、カモフラージュは依然成功だ。

 

『ぐあっ…!またファングかよ!』

『収容ユニットを完全破壊だと…?なんていう正確な()()…!』

『ヨハン兄。敵機、急速接近!』

『くっ…迎え撃てネーナ!』

『了解!』

 

GNランチャーによる長距離砲撃とGNファングによる遊撃を封じた。

ここまで作戦通り。

正直驚きのあまり唖然としている。

レナによる超遠距離からの狙撃で的確にスローネの主武装を破壊し、攻撃力を奪う策略。

俺は作戦プランに目を通したその時から、まずレナの狙撃は不可能だと思った。

 

確かにレナの狙撃は凄まじいのは身をもって2度も体験した。

だが、いくらなんでも超長距離からありったけのデータを元に狙撃するなんて。

それもおよそ戦場付近(エリア内)とは思わせない距離。

撃ってきた方向を把握したところで追いつけない。

必ず逃げ切れるレナのガンダム サハクエルの姿を戦場で見るものは誰もいない、できない。

 

狙撃中は機体の座標と姿勢固定のために動けなくなるため、迷彩システムを稼働している。

つまり、粒子ビームを目撃する者がいてもサハクエルの機体を目に焼き付ける者も出ない。

全てはレナの技量で成り立つ作戦プランだ。

 

『凄い…』

『この…!』

『……っ!』

 

スローネ ドライ、ネーナ・トリニティがGNビームサーベルを抜刀して迫ってくる。

ちっ、意識を割いている余裕はないか。

俺もプルトーネ ブラックのGNビームサーベルで迎え撃った。

 

『はあっ!』

『……!』

 

競り合い、火花を散らすGNビームサーベル。

ちなみにメガランチャー(鉄屑)は背中に収容した。

ガラクタだが捨てると拾われた際にカモフラージュがバレるからな。

これもレナが考えた。

 

『ちょっと待って!?この機体、もしかしてプルトーネ…!』

『なに!?』

『嘘だろ、フォン・スパークのやつ生きてやがったのか!』

『そんなことは…!』

 

競り合うネーナが俺の機体に気付いた。

確かトリニティは過激な武力介入の前にフェレシュテのGNドライヴを回収しようとプルトーネに乗ったフォン・スパークと戦っていたな。

 

現在ガンダムプルトーネを所有するのはフェレシュテのみ。

ならフォン・スパークと疑うのは当然か。

嬉しい勘違いだな。

 

『塗装を変えて我々の邪魔を…?いや、あの状態からの修復は不可能、フォン・スパークも例え生きていたとしても動ける状態ではない筈…』

『どうするんだよ兄貴!』

『プルトーネのパイロットの正体を探りつつ応戦する』

『了解!GNファングの分取り返してやるぜ!』

 

スローネ ドライの相手をしている間、ヨハンが結論をまとめたのかアインとツヴァイも動き出した。

遅かったな。

やはりヨハンは緊急事態に弱い。

 

『きゃあ!?』

『……』

 

スローネ ドライを蹴り飛ばし、アインとツヴァイに備える。

2機のガンダムが相手か…。

以前なら余裕で死んでたな。

 

『プルトーネ ブラック、目標を蹂躙する!』

 

『野郎…っ!よくもネーナを!』

『ミハエル、同時攻撃を仕掛ける』

『分かったぜ兄貴っ!』

 

スローネ アインがGNビームサーベル、スローネ ツヴァイがGNバスターソードで左右に展開する。

挟み撃ちか。

プルトーネ ブラックの近接武器はGNビームサーベルが4本のみ。

レナが予備として置いておいただけあって武装が乏しいな。

まあ我儘は言えない、ガンダムを用意してもらっただけ有難いしな。

 

『墜ちろよっ!』

『プルトーネのパイロットよ、素性を晒せ。応答願う』

『……』

 

ミハエルは殺る気満々だが、ヨハンは正体を探ってくる。

俺が乗ってるのがガンダム機だからな。

連合軍も発足されておらず、擬似太陽炉の流通によるGN-X大量生産もまだ起きてはいない。

ガンダムを有するのは未だソレスタルビーイングやフェレシュテなどのイオリアの計画を知る組織だけだ。

ならばヨハンの問いも納得はできる。

当然、答える気はないがな。

 

『クソ!避けんなよ!』

『再度応答願う、プルトーネのパイロット』

『……』

『そうか…。ミハエル、プルトーネを紛争幇助対象と断定。破壊する』

『へっ。やっとかよ!そうこなくっちゃなぁ!つまんねえぜ!!』

 

左右双方向からのGNハンドガン、GNビームサーベルの射撃を避け続けていたが、スローネ アインとツヴァイは一気に距離を縮めて接近してくる。

手にはGNバスターソードとGNビームサーベル。

 

『切り刻んでやるよ!』

『その機体は元々我々のものだ。返してもらおう』

『……っ!』

 

GNビームサーベルを2本抜刀して防ぐが、各々押してくるのでかなり辛い。

くっ…耐えてくれ。

 

『オラオラァ!』

『諦めろ』

『ぐっ…!』

 

さすがにきつい…。

2基のGNドライブによる推進力に挟まれるのがここまでとは。

ティエレンだったら耐える間もなく両断さるている。

これがガンダム戦か…!

 

『ネーナ、今だ!』

『了解!』

 

しまった。

ヨハンの指示で動きの取れないプルトーネ ブラックの元にスローネ ドライが接近してくる。

GNハンドガンの銃口は確実に俺を捉えている。

スローネ アインとツヴァイを相手にしている今、ドライまでは手に負えない。

 

『貰ったぁ!!』

 

スローネ ドライのGNハンドガンから粒子ビームが放たれる。

3機のガンダムを相手に絶体絶命の危機が迫っていた。



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二人の理想

ガンダムスローネ アインとツヴァイに動きを封じられ、迫りくるスローネ ドライ。

GNハンドガンから放たれた粒子ビームが目前まで切迫していた。

 

『貰ったぁ!』

『くっ…!』

 

かなり苦しい状況だ。

だが、レナに援護を求めてしまうとカモフラージュが無駄になる。

せめて被弾に抑えて――っ!急速接近する機影!

同時にスローネ ドライの粒子ビームを的確に墜した射撃。

 

『なに!?』

『誰だ邪魔しやがったのは!』

『接近する機体…このスピードは…』

 

俺もセンサーの後視界に捉える。

黒の飛行機体、それが空中変形した。

リニアライフル――トライデントストライカーの銃口はスローネを狙っている。

 

『見つけたぞガンダム!やはり新型か…っ!』

 

空中変形してみせ、微塵の無駄すらショートカットする凄腕。

ガンダム4機の交戦場に場違いなカスタムフラッグが乱入してきた。

トライデントストライカーの2口から連射される銃弾をスローネ達が回避する。

しめた、プルトーネの拘束が解けたぞ。

 

『フラッグが1機…。他には連れていないか』

『兄貴!切り刻んでいいよなぁ!?』

『いいだろう。最優先すべきはアイリス社軍需工場の壊滅、現場の判断で謎のプルトーネだ。ネーナ、ラグナからの指示はあるか?』

『特にないわ』

『了解。各個撃破、敵の増援が来る前にミッションを完遂させる!』

『面白くなってきたぁ!俺はこっちの方が断然好みだぜ!!』

 

スローネ ツヴァイ、ミハエルはカスタムフラッグへと接近し、GNバスターソードを振るう。

 

『ぶっ殺してやるよ!』

『ぐうっ…!』

 

GNバスターソードの重い一撃をプラズマソード2対で防ぐカスタムフラッグ。

あの性能差で耐えるか。

やはりあの機体はグラハム・エーカー。

 

『お兄ちゃん』

『ミハエルがグラハムの相手をしてくれる。都合が良い、相手の数が減ったんだ。このまま戦闘を続行する』

『了解。私は待機するね』

『あぁ』

 

通信でレナと連絡を取り合う。

サハクエルは待機か。

仕方ないことだが、ガンダム2機を単騎で相手にするのは骨が折れるな。

 

『ネーナ、プルトーネは複合装甲を採用している。連携を駆使して打点を稼ぐぞ』

『了解!』

 

スローネ アインとドライが二手に分かれる。

また挟み撃ちか。

何度も同じ手は通じねえよ。

GNビームライフル、ハンドガンによる連射撃が左右から襲い来る。

最初はガンダムの機動性に慣れなかったが、2度目になればこれくらいは余裕で回避できる!

 

『なっ…』

『当たらない!?』

 

『能力の半分が死んでてもイノベイドなんだよ…!』

 

ヨハンとネーナが驚愕するがマイスタータイプのイノベイドを舐めてもらっては困る。

寧ろ能力がないと俺には何も残らないんだからな。

塩基配列パターン0000の能力が低かろうと初見でなければ。

 

『クソ!ちょこまかと…!』

『どれ程の性能差があろうとも…!』

 

スローネ ツヴァイとカスタムフラッグも交戦中だ。

GNハンドガンの弾道をグラハムはカスタムフラッグとは思えぬ動きで完全回避している。

ていうか反撃してないか?

蒼い弾丸はカスタムフラッグのトライデントストライカーから発砲されたものだよな。

あいつやっぱおかしいよ。

 

『こいつ…!』

『今日の私は阿修羅さえ凌駕する存在だっ!!』

 

隙に潜り込んでスローネ ツヴァイに接近できたカスタムフラッグがプラズマソードを振り翳す。

ミハエルは呆気に取られて反応が遅れた。

GNバスターソードを防御に回すことさえ敵わない。

 

『んなっ!?』

『うぐっ…もう一撃っ!!』

『てめぇ…!』

 

GNバスターソードごとスローネ ツヴァイの片腕を斬り落としたカスタムフラッグことグラハム。

さらにもう1本抜刀して2対を振り上げる。

GNバスターソードを拾わないのは質量の問題か。

本筋ではGNビームサーベルを拾い、スローネ アインに反撃したが、GNバスターソードを拾えば重さや遠心力の関係でタイムロスになる。

性能差のある機体での接近戦でより速く距離を詰めるなら拾わないのが得策か。

 

『野郎っ、調子に乗んじゃねえ!』

『一矢報いたぞ、ガンダムゥ!!』

 

スローネ ツヴァイがGNビームサーベルを抜刀したが遅い。

カスタムフラッグのプラズマソードは2対共にスローネ ツヴァイの左腕に入刀した。

弧を描いてツヴァイの両腕が消失される。

 

『馬鹿な…!』

『ガンダム…!!』

 

空中に放り出されたスローネ ツヴァイの左腕からGNビームサーベルを奪取したカスタムフラッグ。

蓄積されたGN粒子分は刀身が維持されている。

グラハムはGNビームサーベルを振るった。

結局奪うのな。

 

『ちっ…!当たるかよ!』

『くっ…』

 

ミハエルのやつ、躱したか。

劣勢だったがようやく態勢を立て直したようだな。

それだけじゃないか。

グラハムに限界がきた。

 

『ううっ!ぐっ…この程度のGに身体が耐えられんとは…っ!』

 

カスタムフラッグの動きが止まる。

ガンダム戦から墜ちたか、グラハム。

だが、ツヴァイを相手に凄まじい戦果だ。

絶対に相見えたくないな。

 

『レナ。GNバスターソードを内密に処理しておけ』

『そんなことよりお兄ちゃん。よそ見し過ぎだよ、スローネ2機来るよ!』

『……っ!』

 

レナに指摘されてしまった。

確かにグラハムの戦闘に目を奪われ過ぎたな。

スローネ アインとドライがGNビームサーベルを手に切迫してきた。

通用しないのはさっき証明したというのに、同じ手で来るのかよ。

 

『ふん!』

『やあっ!』

『……っ』

 

俺から見て左からアイン、右からドライがGNビームサーベルを振るうが後退して回避。

アイン、ドライ共にGNビームライフルとGNハンドガンで追撃してきやがった。

回避はできない、GNビームサーベルで薙ぎ払った。

 

『くっ…押し切れん!』

『ヨハン兄、ミハ兄が…!』

『分かっている。撤退だ』

 

ほう。深追いはしないのか。

スローネ アインとドライが後退し、ツヴァイと合流した。

まあ攻めきれてなかったしな。

しかし、2機相手だ。

あのまま戦闘を続行していたら危なかったかもしれない。

 

『ミハエル、撤退するぞ』

『兄貴!俺はまだやれる…!』

『武装なしでどう戦うつもりだ』

『フラッグ1機や2機くらい…っ!』

『そのフラッグにやられた始末だろう。パイロットの技量が上手のようだ。油断はするな』

『……分かったよ、兄貴に従う』

 

スローネ ツヴァイ、ミハエルはまだ戦意があったようだが前姿勢が解除されたのを見るにヨハンに丸め込まれたか。

スローネ アインに連れられてツヴァイ、ドライも戦場を去っていく。

 

『くそ…俺達ガンダムだってのに!』

『気に入らなーい!』

『ガンダム同士の対決だ、仕方ない。それにしてもあのプルトーネは一体…』

 

アイリス社軍需工場から姿を消すガンダムスローネ3機。

残ったのは俺のプルトーネ ブラックとグラハムのカスタムフラッグだけだ。

おっ、GNバスターソードは処理済みか。

さすがレナ。仕事が早い。

手のひら返し?知らんな。さすが俺の妹だ。

 

『……』

 

さて、どうしたものか。

アイリス社軍需工場で働くのは民間人、彼らを救うために飛び出したのはいいが…。

眼下にはスローネの撃退や自身の無事に歓喜する者達もいる中、ガンダムが助けてくれたことに首を傾げる者モいる。

仕方ない、意思表示ぐらいしておくか。

……まだ答えは見つけてない。

だが、どちらにせよ必要だ。

 

『ぐおっ!?』

『ふん』

 

カスタムフラッグを蹴り飛ばした。

グラハムは血反吐を吐き、疲弊しているのでたったこれだけでも相当な負担だろう。

ていうかじゃなきゃ蹴らない。

ミハエルの油断とかもあるんだろうが、なんか原作より強かったしできる限り戦いたくない。

機体の性能差も今回までだと考えるとここで殺した方がいいんじゃないかと思うくらいだ、まあ殺さないけど。

 

『ガンダム…!うっ!』

 

『レナ、俺達も帰還するぞ』

『分かったよ。お兄ちゃん』

 

ガンダムサハクエルが移動を開始する。

俺より帰還ルートが短いからって置いていくなよ。

なんて。

ガンダムが味方にはならないことも示せたし、ここにもう用はない。

グラハムも限界なのか、反撃をしてこない。

 

『プルトーネ ブラック、レイ・デスペア。帰還する』

 

一応レナに連絡し、俺もアイリス社軍需工場を後にした。

それにしても成り行きとはいえグラハムと共闘のような形になるとは思わなかったな。

利用しただけな気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムプルトーネ ブラック。

ガンダムサハクエル。

共にドッグへの収容が完了し、コクピットからワイヤーを垂らす。

スーツをはだけ、ヘルメットを脱ぐと反射的に溜息が出た。

ガンダム戦は初めてだったからな。

 

「お疲れ、深雪」

「……レナだよ。何回間違えるの?」

「あぁ…悪い悪い。慣れてないんだよ。許せ」

「もう……仕方ないなぁ」

 

帰還するなり名前を間違えられて一瞬不機嫌になったが、昔のように頭に優しく触れてあげると呆れたように溜息をつき、ちょっとだけ微笑んだ。

最近はソーマにしてたことだけど元々はレナ…というよりは深雪によくしていたことだ。

懐かしくもあり、思い出す。

 

「ただいま」

「ん?あぁ…。特に損傷はないみたいだな」

「まあな。だがプルトーネは少しだけ接近戦になった。整備頼むよ」

「分かっている」

 

通りすがったデルに挨拶すると少し会話を交えられた。

原作キャラと話せるってのは心中かなり興奮してる。

まあ根っこはオタクだからな、俺。

関係ない話だが作業着だとデルは薄着になって…その、目のやり場に困る。

普段肌は見せないタイプだけに脱がれると女性を感じる。

まあレオがいるし、目で追わないようにはした。

整備に取り掛かろうとする子供達に指示を飛ばしているところを見るに優秀なようだ。

 

通り掛かるといえば子供達も失敗したとはいえ超兵機関出身者なんだよな、その割には脳量子波を感じない。

未熟で微弱でもコントロールが不十分だったり、障害があったりするものだと思っていたがレナの教育は行き届いてるようだ。

俺が知らないだけでレナはかなり努力したんだろうな。

そのレナが着替えて俺の元に戻ってくる。

 

「レナは整備しなくていいのか?」

「粒子の再蓄積と細かな整備だけならデル達でも充分だよ。みんな優秀だから」

「そうか。レナ、その…今回はありがとう」

「どういたしまして」

 

目を瞑り、それだけを返すレナ。

また格納庫と隣接している部屋へと戻っていくので俺もついて行く。

ガンダム戦で疲れたからな。

休養が必要だ。

 

「珈琲どうぞ」

「サンキュ」

 

差し出されるカップに注がれた黒の液体を口に含む。

程よい苦味、カフェインが俺の疲労を吹き飛ばす。

あぁ…戦いの後は特別美味いな。

レナは自分の分を卓上に置き、俺の前に座る。

 

「今回は。協力したけど、今のままじゃ次はないよ」

「あぁ…」

 

理解しているつもりだ。

レナが話を切り出すので俺も真剣な表情になる。

出撃前にこれから俺はどうするのか、その問いに答えろと約束した。

疲労していても当然の流れだ。

休んでいる間にも世界は動く、明日にしようは不可能だ。

 

「そもそも私は恩返しのためにガンダムを作っただけだし、正体を隠せる上でお世話になってる人の頼み事を聞くことはあるけどそれでソレスタルビーイングを助けることはあっても紛争に関わる気はないの」

「……」

 

ソレスタルビーイングを助ける、か。

協力者の存在はやはり監視者であることの可能性がさらに濃くなってきた。

レナの言いたいことはつまりガンダムを有しているからといって自分から武力介入に参加する気はないということ。

あくまでガンダムは恩返しの道具に過ぎない。

 

「これからも恩返しは続けるつもりだったけど…こうしてお兄ちゃんと出会えた」

「あぁ…」

「私はお兄ちゃんと一緒に居たい。だから、お兄ちゃんの選ぶ道に私はついて行こうと思ってるの」

「……」

 

どういう顔をしたらいいのだろうか、分からない。

でも妹が兄の後を追うのは前世から変わらない。

それにあるとは思ってなかった再会だ。

一緒に居たいと思うのは必然的で、俺が引きこもって小さな世界で周囲だけの平和を望むからレナは、深雪は一生寄り添ってくれるだろう。

 

「良い言い方じゃないかもしれないけどお兄ちゃんには決断してほしい。私のこれからのためにもね」

「ほんとに…酷いな。まるで自分のこれからを俺に擦り付けているようだ」

「そうだね。でも言葉の綾だよ。私はもう決断した、お兄ちゃんにずっとついていくって」

「深雪…」

 

深雪はこんなにも強い子だっただろうか。

暫く見ない間にとても成長している。

俺はどうだった?

これまで何をしてきて、これからは何をしたい。

自分を見つめ直す時がきた。

目を逸らしてはいけない、深雪の人生も左右してしまうのだから。

 

「俺は…深雪と…」

「『深雪と』はなしだよ。お兄ちゃんが本当にしたいことを考えて?私のことは考慮しなくていいから」

「深雪…」

 

どれだけを俺を尊重してくれるんだ。

見つめ合う色彩の瞳から暖かくて優しいものが流れ込んでくる。

視界がボヤけるのはきっと勘違いではない。

でも同時に迫られている選択はとても重い。

 

「俺は…」

 

再び悩む。

珈琲が熱気を失っていくのも見逃しながら様々な想いを巡らせる。

この世界に来て、リボンズのせいで強制的に軍人になった。

スミルノフ中佐やソーマ、ミン中尉や『超武』の仲間達。

様々な出会いを経て、戦場と関わりを持ち世界を見てきた。

もう画面の向こう側の世界ではない。

俺が今を生きる世界だ。

前世の知識も思い浮かべる。

さっき戦ったトリニティ、超兵のソーマ。

この世界は未だ歪んでいる。

全ては愚かな人類とリボンズ・アルマークのせい。

 

俺はこの歪んだ世界で生き続けるのだろうか。

深雪と一緒に何も知らない振りをして笑い合えるだろうか。

ソーマ…。

愛した彼女が救われると知っているかといって放っておくのか。

いや、改変が起こる今救われるかも分からない。

考えろ。

俺はこれからどのように生きたいのか。

何を為すのかを。

 

「……」

「……」

 

静寂の時間はいつまでも続く。

何時間掛かろうと深雪は黙って俺の答えを待ってくれた。

後は俺が答えを導き出すだけ。

目の前にいる最愛の妹と小さな幸せの中生活し続けるか、他になにか為すのか。

今は軍人だとか使命だとかの縛りはない。

己の意思で決断する時だ。

 

「レナ」

「……決まったの?」

「あぁ」

 

どれだけ時間が経ったか、レナを待たせた時間は分からない。

ふと暗視化が解かれた窓を見るとサハクエルの粒子蓄積作業とプルトーネ ブラックの整備はほぼ終わっていた。

その間、レナはずっと真剣な表情で対面くれている。

俺はそんなレナと目を合わせる。

 

「レナ、俺は戦う」

「……そう。なんで?」

 

導き出した結論にレナは尋ね返す。

 

「もちろんレナとずっと一緒に暮らせるなら…二人で昔みたいに楽しく幸せになれるならそうしたい。でも、この世界じゃ無理だ」

「どうして?」

「この世界は、歪んでいる。そしてこれからも歪み続ける。ソレスタルビーイングは一度壊滅し、歪みはさらに増す。そんな世界で深雪と…いや、レナと昔のように暮らしたくない」

「お兄ちゃん…」

 

レナは言っていた。

俺達は生まれ変わり、もう深也と深雪ではないのだと。

新しくレイとレナとしてこの世界に生を受け、再会を果たして二人で生きる。

でも折角二人でやり直せるというのに二人で暮らす世界がこんなにも歪んでいるなんて俺は耐えられない。

 

本筋通りならこの世界は良い結末を迎える。

だが、それでも無理だ。

それまでの間待つことはできない。

それに様々な犠牲の上に恒久和平は実現される。

その犠牲を知っていて見過ごすことはできない。

どうしても無視出来ない。

感情的だが、俺はもう介入することを止められない。

 

「俺は戦場で人が死ぬ姿を目の前で何度も見てきた。あの血の上に実現される平和な世界なんて要らない。そんな世界でレナと暮らすのも御免だ」

「……お兄ちゃんは世界の結末とその過程を知っているんだね」

「あぁ。そして、俺はそれを否定したい。知っているからこそもっといい世界を作りたい」

「それがどれだけ大変か分かってる?」

「勿論だ。これは、ソレスタルビーイングが為そうとしていることと同じだ。世界を変える…変革を求める。いや、俺の場合は――」

「改変…」

 

俺達は転生者だ。

世界の行く末を知っているのだからこれは変革ではない。

本筋を改変し、未来を変える。

 

「届くかもしれない手を伸ばさないなんて嫌だ。だから、俺は戦う。もう目を逸らしたりはしない」

「……そっか。助けたい人達がいるんだね」

「あぁ。例え画面に入らなかった人々でも目の前にいるならこの手を伸ばす。そして、理想の世界を作る」

 

夢物語かもしれない。

でも理想なんてそんなものだ。

それを実現するために行動を起こすのが人間だ。

イノベイターだって変わらない。

彼らは変革者なのだから。

変革は自身が動かなければ始まらない。

俺の話を聞いたレナは一度間を空けた後、微笑を浮かべた。

 

「うん。やっぱりお兄ちゃんならそう言うと思ってた」

「え?」

「昔からお兄ちゃんって黙って傍観してる性じゃないもんね。うん、私も協力するよ。お兄ちゃんの理想は私の理想…改変し、過程と結末を変える。犠牲のない平和な未来を作る。これはもう私達の理想だよ」

「レナ…」

 

俺の我儘が理想となり、俺の理想が俺とレナの理想になった。

もう取り消しは効かない。

口にしたその時から責任が生まれる。

俺は逃げてはならない、逃げない。

傍観を望み、戦場に送られても曖昧な気持ちだったがやっと覚悟を決めた。

使命でもなく、条件下で決めた理由でもない。

自ら戦いを望み、死ぬ筈だった者達を救い、戦いを終わらせる。

 

「じゃあこれからの方針は決まったね」

「あぁ」

 

既に珈琲は冷めていた。

味は落ちてしまったがそれでも美味しい。

微笑んでいるたった1人の妹はそれじゃあ、さっそく…と立ち上がる。

 

「お兄ちゃんは未来を知ってるんだよね?」

「あ、あぁ…まあ俺やレナ、ナオヤのせいで変わってしまうかもしれないが…」

「それでもいいから教えて。それと会わせたい人がいるの」

「会わせたい人?」

 

誰だろうか。

レナの知り合いがどれだけいるか知らないが、会ってないのは協力者とやらか。

一応聞いてみよう。

 

「誰に会うんだ?」

「ふふっ、うーん…そうだなぁ」

 

なにやら楽しそうに笑っている。

なんだ?さっきな真面目な空気とは一転、なんだか嬉しそうだ。

まだ色々隠してそうだし、何を考えてるのか分からないな…。

尋ねた結果、暫く楽しそうに悩んだ後、レナは自身の人差し指を柔らかそうな唇に当てた。

 

「やっぱり内緒かな。会うまでのお楽しみだよ、お兄ちゃん」

「結局教えてくれないのかよ…」

「えへへ、ごめんね」

 

先程とは違い、レナの頬は紅く染まっている。

嫌な予感がするのは何故だろうか。




カスタムフラッグにXLR-04とトライデントストライカーの二つのリニアライフルがあるのは分かるけどどっちがどっちか画像見ても分からない…orz
青いのがトライデントストライカーだと個人的に推測してます。
能力の違いはわかるんですけどね。単射と連射がトライデントですよね。

それはそうと途切れ途切れ時間を空けて書いたせいか最後の決断のシーンが雑になったするけど是非もないよネ!
とにかくこれから弱腰だった主人公が本筋に介入するってことさえ分かってもらえればオールOK。
次回は妹の協力者出すつもりチョリス。


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協力者の存在

時間がない。

今頃三国家群が擬似GNドライヴを手に入れた頃だろう。

まだGNドライヴが南極にある間に深雪…じゃなくてレナのいう『会わせたい人物』とやらに会うなどやるべき事は済ませておく。

だが、急がなければならない。

 

擬似GNドライヴ搭載機、ジンクスが登場する前に一つ悲劇が起こるのを俺は知っている。

その際死んでしまう人物…俺はその人を救いたい。

レナにも既にそれを伝えた。

もちろん彼女は承諾し、スケジュールを立ててくれた。

悲劇には間に合う。

 

「お兄ちゃん。もうすぐ着くよ」

「わかった」

 

飛行艇の運転席から教えてくれるレナ。

眼下を見下ろすと豪邸が構えていた。

誰の豪邸なのかは事前に聞いて知っている。

レナが到着を通信で伝えると降下許可も出た。

降下し、飛行艇から降りると案内人が来るので彼の指示に従う。

 

「こちらへ」

 

導かれるがままに豪邸へと踏み込むと目が凝らす程の豪勢な作りと高い天井、凄まじく広い玄関が俺達を迎えた。

そして、沢山の従者を従えた男女が1組。

扉から登場し、こっちにやってくる。

チャイナ服に身を包んだ兄妹だ。

 

「始めしまして。私は当主の王紅龍(ワン・ホンロン)と申します。こちらは妹の――」

王留美(ワン・リューミン)です。お見知り置きを」

 

現れたのは(ワン)家の兄弟。

ただ…兄の紅龍(ホンロン)が当主とか言った気がする。

聞き間違いではない。

どういうことだ?確か紅龍(ホンロン)は当主としての器に欠けていることから留美(リューミン)が当主になったはず。

まあ今は尋ねづらいし後で聞くとしよう。

 

「貴方がレイ・デスペア様ですね」

「あ、あぁ…」

「我々は妹君のレナ・デスペア様を支援を行うと共に何かと依頼を任せております。日頃から彼女には助けてもらっています。そのことに関して兄君の貴方に無断で彼女に戦わせていたことを謝罪すると同時に感謝をしています。本当に申し訳ありません」

「い、いや…こちらこそ深雪…じゃなくてレナが死にそうなのを救ってくれたみたいで、感謝してもしきれない。ありがとう」

「いえ…私が当主になったのもレナ・デスペア様のおかげですから…」

「え?」

 

そうなのか。

つまり紅龍(ホンロン)が当主になった改変はレナの影響?

ふと本人の方を振り返ると会釈はされたが何があったのかは理解出来てなさそうだ。

笑顔は最高にキュートだが自分のしたことの重大さに気付いていないのかよ…なんか抜けててそこも可愛いけどさ。

 

「えっと…レナのおかげで当主になれたってのはなんで?」

 

一応聞いておく。

 

「恥ずかしながら元々私は行動力がなく、当主には向いていないと周囲から言われていました…。しかし、事故の中の彼女に出会い、初めて自分で行動し、他人を救い…それから関わるようになった彼女に感化されて当主としての器を身につけました」

「そうだったのか…」

「私のせいで妹の留美(リューミン)に不本意な形で当主を任せることもなくなり、本当に感謝しています…」

「だってさ」

「そんな…私は何も…」

 

頭を下げる紅龍(ホンロン)

留美(リューミン)も微笑み、俺もレナに会釈するとレナは恥ずかしそうに紅潮しながらも嬉しそうに笑っていた。

そうか…こんな幸せな改変もあるんだな。

レナに先を越されたみたいだが、俺もこういうのを求めてるのかもしれない。

 

挨拶を済ませたので面会室へと行き、紅龍(ホンロン)が淹れたお茶を留美(リューミン)が用意してくれ、兄妹同士向かい合うように座った。

長居する気はないが話し合わなければならないことはある。

要点は2つ。

一つはこれからも繋がりを持つため、俺達がやろうとしていることを伝えなればいけない。

だが、その前に――。

 

「事前に聞いた。レナが違う世界から来た…ということは知ってるんだよな?」

「はい。まだ混乱していた彼女の言葉を整理し、我々も理解しました。同時に秘匿し、当時の彼女をサポートしました」

「そうか。改めて感謝する。だが、どうして秘匿してくれた?俺達はかなり異質な存在であることも理解しているだろ」

「それに関しては我々で保護すると私や留美(リューミン)の説得により、先代も判断してくれました」

 

ほう。

まあ無欲で行動力のない紅龍(ホンロン)が必死に頼んできたら驚くだろうな。

留美(リューミン)をチラ見すると当時の思い出に耽るように頷いていた。

きっと留美(リューミン)にとっても良い思い出で嬉しかった瞬間なのだろう。

 

「ちなみにどこまで知ってる?」

「彼女が当時抱えていた情報端末HAROからも情報を入手していますので…」

「じゃあほぼ全て知ってるわけか…。それで今の関係なら好都合だ」

「何かありまして?」

「あぁ。俺達のこれからについてだ。だが、それを話すにはまずは俺達がどういう存在か、知ってもらおうとしたが……その必要はないみたいだな」

「はい。私達には気兼ねなくなんなりと申し付けください」

「正直助かる」

 

紅龍(ホンロン)と握手を交わす。

想定以上に頼りになる存在だった。

これには驚いたな。

レナを見遣るとほら、会っておいて良かったでしょ?と得意げに微笑んでいる。

可愛いなお前。分かったよ、俺の負けだ。

しかし、わざわざここまで来た甲斐はあった。

(ワン)家兄妹の支援関係、それも紅龍(ホンロン)が当主で安全だという点を加えて素晴らしい。

金銭面も全く問題がなくなった。

 

「それでこれからのことなんだが――」

 

俺は紅龍(ホンロン)留美(リューミン)に全て話した。

前の世界ではこの世界の出来事が物語となって鑑賞できること。

これはレナが作品を見ていなかったので彼らは知らない事実だった。

他人に鑑賞されるなんて気持ちの悪いと2人は感じたらしくあまりいい顔をしなかったが当然だろう。

俺も他人を楽しませるために苛酷な試練を乗り越えたくないし、自分の人生や生きる世界を見世物にはされたくない。

 

話は逸れたがこれから起きることを本筋の話ではあるが全て把握していることも2人に話した。

7年先までと伝えた時には驚愕を隠せないようで、特に留美(リューミン)は息を呑んでいた。

だが、邪魔にはならないよう必死に押し殺していて、そのおかげで話はスムーズに進んだ。

急いでいるし助かる。

紅龍(ホンロン)も驚きはするものの黙って最後まで聞いていた。

 

「なるほど…。正直衝撃を受ける内容でしたが、貴方々の理念にひとまず私個人は賛同します」

(わたくし)も賛同しますわ。世界がよりよく変わるならそれに越した事はありませんもの」

「良かったね…!お兄ちゃん」

「あぁ」

 

王留美(ワン・リューミン)の台詞を聞き逃しはしなかった。

あれほどまでに狂気的に世界の変革を求めていた彼女だが、歪めていた原因がなくなったことによりしっかり変わっている。

とにかく世界を変えたいという思考は持ってないようだ。

レナを褒めてやらないとな。

 

「よく頑張ったな、レナ」

「え?なんのこと…?」

 

撫でてやるがレナは不思議そうに首を傾げる。

あぁ…このまま無限に撫で続けたい。

ぐっと耐えて、話を進めよう。

何度も言うが時間がない。

それを伝えて飛行艇のある屋上まで戻ってきた。

今度は(ワン)兄妹も一緒に、だ。

 

「共感してくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」

「えぇ、何かお力になれることがあれば申し付けください」

「そういえばソレスタルビーイングには…」

「妹君のことも、貴方のことも、貴方々のこれからの行動のことも秘匿します。我々が直接賛同し、支援するのは貴方々だけです」

「そうか。……ありがとう」

 

再度握手を交わす。

確かに(ワン)家はイオリアには賛同してもソレスタルビーイングと共にあるわけではない。

だが、俺達と彼らは直接繋がっている。

とても頼もしい後ろ盾だ。

 

「もう行ってしまうのね…。もう少しゆっくりしていらっしても良かったですのに…」

「ごめんね、留美(リューミン)。まだやることがあるから」

 

俺達の後ろでは妹同士感傷に浸っていた。

レナと留美(リューミン)は仲が良く、その関係は友達に近い。

せっかく来たのに早々に去ってしまうのが寂しいようだ。

 

「またすぐ会えるのでして?」

「うん。また会いに行くよ。だから、今日は…」

「分かりましたわ。その代わりお気を付けて。無理はよくなくてよ?レナ」

「うん!ありがとう、留美(リューミン)。またね」

「えぇ、また」

 

手を取り合い、別れを済ませた二人。

今度は手を振り合い、会釈して離れた。

留美(リューミン)との別れの挨拶を済ませたレナは俺の元に戻ってくる。

 

「お待たせ、お兄ちゃん」

「あぁ。もういいのか?」

「うん。急がないと…でしょ?早く行こっ」

「わかってる。紅龍(ホンロン)、それじゃあまたな」

「えぇ。お待ちしております」

 

繋がりは完璧だ。

また連絡したり、あっちはエージェントでもある。

必要によっては会いに来たりしてくれるだろう。

ただソレスタルビーイングの支援もあって頻繁には無理だというだけ。

とにかく要件を済ませたので俺とレナは飛行艇に乗って(ワン)家を後にした。

 

「レナ。このまま次の目的地に向かおう」

「了解。目的地をリニアトレイン公社別荘に設定するね」

 

目的地を変更するとそこまでのルートが演算され表示される。

次に向かうのはリニアトレイン公社の会長別荘。

リニアトレイン公社とはラグナ・ハーヴェイが経営する会社だ。

社長は勿論ラグナ・ハーヴェイ、奴は擬似GNドライヴやGN粒子に関係する武装などを開発した者。

だが、目的は彼ではない。

彼を取材しようと訪れたが空振りし、その結果とんでもない危険な人物と出会ってしまうジャーナリストの女性だ。

 

危険な人物とは傭兵のアリー・アル・サーシェス。

誰もが知ってるクソ・オブ・クソ野郎だ。

あいつに近付くのは危険だが、特に関わりなく公衆の場なら大丈夫のはず。

だが、今回はリニアトレイン公社会長別荘から出てくるあいつを見る前に彼女に声を掛けて誘い出さなければならない。

俺達がどれだけ興味を唆る誘い文句を吐いても別荘から奴の車が出てくれば彼女の視線と興味はそちらに向いてしまう。

だからこそ一刻も早く出会う必要があるのだ。

絹江・クロスロードに。




主人公ちょっとシスコンかも…?


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絹江救出計画

リニアトレイン公社の会長別荘。

日差しの強い熱帯地域に建つ建造物はとてつもなく大きく、敷地は私有地とは思えないほど広い。

もちろん主はラグナ・ハーヴェイ総裁。

まったく、これが別荘だっていうんだから相当金持ちだ。

 

ラグナ・ハーヴェイは、何度も言ってる通りリニアトレイン事業の総裁で、国際経営団のトップだ。

絹江・クロスロードの務めるJNNの大株主でもあり、軌道エレベーターを自由に扱うことが出来る上にMS(モビルスーツ)を建造できる程の財力を有している。

故に奴はアレハンドロに利用され、擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)を影で建造してきた。

細かいところまで突っ込めばビサイド・ペインとかも関係してくるが今はいいだろう。

 

ガンダムスローネやGN-Xを作った張本人だが、国連軍が誕生すれば用済みになって勝手に消える。

救いたい気持ちがないわけでもないが…流石に現状手を出しにくい人物だ。

まあ更生させようもない悪人なだけに何が何でも助けようとはしない。

ある程度は自業自得だ。

そんなことより今は他に気にすべき相手がいるわけで。

正体がソレスタルビーイングの監視者であるラグナに危険にも近付く人物がいる。

それが絹江・クロスロード、沙慈・クロスロードの姉であり、JNN報道局に務めるジャーナリストだ。

 

「絹江は父親の影響から危険に首を突っ込みがちだ。常に真実を求め、繋ぎ合わせた先を目指している」

「今回はそれが裏目に出て、関わり過ぎたがために殺されてしまう……お兄ちゃんは絹江さんが死ぬのを止めたいんだね」

「あぁ」

 

飛行艇の中、レナの言葉に頷く。

絹江と沙慈の父親もジャーナリストだったが、取材相手に濡れ衣を着せられ、投獄された。

そんな父親が言い残した――『事実を求め、繋ぎ合わせれば、そこに真実がある』――という言葉を絹江は脳裏に焼き付けて活動してきた。

だが、今回に限ってそれは仇となる。

相手が悪過ぎた。

首を突っ込んだ問題がデカすぎたんだ。

 

『ヴェーダ』の情報統制の影響を受けるだけならまだしも絹江はラグナに辿り着いてしまった。

奴らは裏切り者、既にイオリアの計画を背く者だ。

追ったところでイオリアの真意にはたどり着けない。

いや、辿り着けないこともないかもしれないが明らかに遠回りだ。

だから、敢えて正しい情報の方へ導いてやろうと思う。

絹江・クロスロードの命を救うために。

 

「もうすぐ着陸するけど、どうするの?具体的には」

「敢えて飛びっきりの情報を渡す。この世界のルールや『ヴェーダ』を気にしなくても俺は全て知っている。俺の知識で絹江を捕まえてやる」

「なるほど…。旨い餌を与えてラグナさん達から遠ざけるんだね!」

「言い方が酷いな…。まああながち間違ってないが」

 

深雪はこっちに来てから毒を吐くことを覚えたらしい。

兄としてはとても辛い成長だ。

純粋に生きて欲しいというのは全国兄共通思考だろう。

ちなみに別荘には着いたが少し離れたところに着陸する。

基本的にラグナの敷地内には着陸できないし、こちらも最低限隠密に行動したい。

時すでに遅しな気もするがもう知らん。

 

まあ運送業者だとかなんだとか偽装はしてあるし、その辺も面倒なことは全てレナに一任している。

優秀な妹を持つと兄は思考力を奪われそうだ。

無能とか言うな。

 

「ラグナさんの別荘はこの先500mにあるよ。車でも借りる?」

「いや、歩いていこう。金が勿体ない」

 

そもそも免許を持っていない。

レナは知らないけどな。

ということで2人で別荘まで歩くことにした。

前世では運動とかしてこなかったけど、仕方ない。

車を借りるほどの距離かと言われればそうでないし、借りている時間すら勿体なかった。

ちなみに観光地域だからか、降下地点のすぐそこで借りられるようで提案に出てきた原因はそれだ。

 

今となっては関係ない話。

レナと俺は暫く歩くとラグナ・ハーヴェイの別荘に辿り着いた。

辺りを見渡すが絹江の姿がない。

おいおい、まさか――。

 

「もうサーシェスに連れて行かれちゃったか?」

「うーん、まだ分からないんじゃないかな。とりあえず別荘訪ねてみようよ」

「は?なんで?」

 

ラグナに用はないんだが――と俺が口に出す前にレナは行動に出た。

問答無用で別荘へと向かっていくので俺も嘆息し、諦めてついて行く。

それにしても暑い。

もっと暑さ対策をしてくるべきだった…。

とか下らない事を考えている間に会長別荘玄関口に到着、受付を通して連絡を試みた。

 

「すみません。ラグナ・ハーヴェイ総裁はいらっしゃいますか?」

「会長に何か御用ですか?」

「はい。我々、運送会社の――」

 

まずは受付を通してレナが対応する。

まあ偽装たっぷりの証明書やらで運送業者を偽って接触中だ。

ただの運送ではラグナ自身に会えないし、会う必要も無いので受付の女性が荷物だけを回収する。

一応レナがデータをハッキングしてラグナが違う配達業者に頼んでいたものを持ってきた。

後で同じものが届いて混乱するかもしれないが手違いなどで済むだろう。

まあ正直ラグナはどうでもいい。

 

重要なのは絹江・クロスロード。

俺達が探し求めてるのも彼女だ。

レナがついでにさり気なくJNNの記者がいないか聞いている。

それはもう上手く会話に混ぜて。

 

「そういえばJNNの記者さんとか訪ねて来ませんでした?さっきふと目にしたのでもしかしてラグナ・ハーヴェイ総裁に用があったのかと思いましてー」

「そうなんですよ。訪ねて来られたのですが会長が面会中で、お通しはできなかったのですが…」

「そうですかー。取材か何かなら空振りですね~。あ、印鑑ここにお願いします」

「はい。確かにお預けしました」

「ありがとうございます」

 

いつの間にやら受付の女性と談笑し、愛想笑いを混じらせて情報を得るレナ。

全て理解している身からするとすんげぇ怖い。

知らない間に恐ろしい娘に育ったなぁ…。

頬をひくつかせていると恐ろしい方向に育ってしまった妹が戻ってきた。

 

「絹江さん、もう来たっぽいよ」

「みたいだな」

 

こそっり俺に囁くレナと共に会長別荘を後にする。

外に出て周囲を見渡すが、絹江が居た周囲の風景は分かっても正確な位置までは分からない。

レナの得た情報でラグナに訪ねたのはつい数分前らしい。

絹江が汗水垂らして待っていた様子を見るに数分でサーシェスと出会ったわけではないだろう。

 

ならまだ何処かに――と視線を泳がせると露店から姿を現した絹江を見つけた。

その手には飲み物が握られている。

なるほど、喉の乾きを潤いに屋台にでも行ってたのか。

そりゃ見つからないわけだ。

 

「レナ。絹江を見つけた」

「え?どこ?」

「ほら、あの屋台が並んでるとこ」

「あ、ほんとだー」

 

暑さのせいかレナが気の抜けた声で絹江に気付く。

表情に出ないだけで暑かったのか。

言えば、絹江みたいに飲み物か何か買ってやったというもの…。

てか俺が欲しい。

と、そんなどうでもいいことよりやっと絹江を見つけた。

これはアタックするしかない。

サーシェスも現れない今がチャンスだ。

 

「行くぞ、レナ」

「うん。お兄ちゃんに任せていいんだよね?」

「あぁ」

 

レナは原作知識がないからな。

口が得意ってわけじゃないが俺がやるしかないだろう。

レナに応じると俺は彼女を連れてゆっくりと絹江に近付く。

絹江が近寄る俺に気付いたところで声を掛けた。

 

「申し訳ありません。少し、いいですか?」

「え?あ、はい…えっと、でも今取り込み中で…」

「あまりお時間は取りませんので」

「でも…」

 

暑さのせいか、汗を拭いながらながら表情を曇らせる絹江・クロスロード。

時間は取らないと言ったが多分沢山時間を使うだろう。

だが、絹江にとって喜ばしい展開になるんだ。

それくらいは許される…と思う。

暫く考えた絹江は何か思いついたのかハッと顔を上げる。

 

「あの、もしかしてリニアトレイン公社の方ですか?だったら総裁に…ラグナ・ハーヴェイ氏に直接お会いしたいのですが…」

「あぁ。いえ、違います。ですが貴女の知りたいことを知っています」

「そうですか…え?」

 

あ、やべ。焦って話切り出すの早くなった。

レナをチラ見すると笑顔でこっちを見てる。

ただ目が笑っていない。

怖い、顔がこう言っている。

お前は下手くそか、と。

ちなみに脳量子波を使うとリボンズにバレるので使わないようにしている。

本筋ではまだ『ヴェーダ』は掌握されていないので行動すること自体には問題ない。

まあそこに改変が起きていたらレナですらどうしようもないと言っていたので諦める。

 

デジャヴを感じるな。

そうだ、もし状況が最悪の方向に言ったら俺の知るイノベイド全員に脳量子波で悪口言って死んでやろう。

まあそれはそうと絹江は一瞬落胆するが、驚愕に目を見開く。

当然だよな、怪しいしそれ以上に見透かされている。

真意は分からぬとも筒抜けだと感じるのは恐怖だ。

 

「貴女が追い求めているのはイオリア・シュヘンベルグ…いや、ソレスタルビーイング」

「……っ!」

「ガンダムを所有する私設武装組織を追って…貴女はラグナ・ハーヴェイにまでたどり着いた。ユニオン、AEU、人革連の合同軍事演習の時に現れた新型のガンダム…ガンダムスローネのパイロットの会話を偶然にも聞いたリアルドのパイロットからの情報によって」

「ど、どうしてそれを…!?」

 

絹江がリニアトレイン公社のラグナにまで辿り着いた形跡を全て言い当て、彼女は分かりやすい程に動揺する。

俺が1歩近付くと絹江は1歩後退った。

 

「全て知っています。ソレスタルビーイングのことも、イオリア・シュヘンベルグのことも、ラグナのことも、そして……この世界にこれから起きること。この世界の結末を」

「この世界の、結末…?」

「貴女が追い求めているもの以上のことを俺は知っている。どうです?知りたいでしょう。教えて差し上げますよ。……貴女がそれで満足するのなら」

「……っ。貴方は、一体…」

 

未だ半信半疑だが、全て見透かされて動揺しているため俺に怯えている。

だが、仕方ない。

それでも根っからのジャーナリストである絹江の性質を利用して惹き付けられると俺は信じている。

だから、惜しみなく情報を漏らす。

辺りの監視カメラはレナがジャック済みだ。

さて、絹江の問いに答えてやるとするか。

 

「俺はレイ・デスペア。イノベイド、人類の進化種であるイノベイターの模造的存在…。異世界から貴女を救いに来ました」

 

絹江は訳が分からなくて困惑している。

当然、俺が何を言っているのか理解できないのだろう。

だが、絹江の事情を暴き、情報を持つと自分から申し出てくる者をジャーナリストは逃がさない。

だから、絹江は差し出された俺の手を戸惑いながらも取った。



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事実を求め、繋ぎ合わせれば、そこに真実がある

中々OOP下に手が付けられないorz
OOI読んでスルー大好きになりました。なんかなんでもあげたくなる可愛さがある。
おじいちゃんがティエレン(全領域対応型)でもアヘッドでもなんでも買ってあげよう。


本拠に帰ってきた。

ただ行きとは違って新たな人物を連れて。

絹江・クロスロード、彼女を俺達の本拠へと半ば無理矢理招待した。

飛行艇を収容し、脳量子波を遮断する地下施設となっている本拠の廊下を絹江は不安げに見渡しながら歩いている。

やがて、とある場所へと繋がる扉の前で止まる。

 

「あ、あの…ここは…?」

「俺達の……まあ、基地のようなものです」

「基地?この先に何があるんですか?」

「その前に、通信機器は全て切っていますよね?」

「え?えぇ…まあ、言われた通りに」

「結構。ではご案内します」

 

万が一のために通信機器は道中シャットアウトしてもらった。

沙慈やJNN報道局にはその時連絡を入れてもらうことにし、沙慈には出張で暫く帰れないと。

報道局にも手掛かりを掴んで追跡取材など大体同様のことを伝えて連絡手段を絶った。

こっちはそれを確認済みでレナが他に隠してないかも調べたが白という結果に落ち着き、ここまで案内してきたに至る。

 

「絹江・クロスロードさん」

「は、はい…」

「これから貴女にこれを見せる理由はまず信用を得るためだということをご理解の上、目にしてください」

「わ、分かりました……?」

 

あんま理解してないな。

と、気付きつつ扉を開く。

その先にあるのはMSの格納庫だ。

絹江の目にも黒を基調とした2機のMSが目に焼き付けられる。

機体のスタイリッシュさと世界に知らしめられた姿から嫌でも理解させられる―――ガンダムだ。

 

「これは……ガンダムっ!?」

「えぇ」

 

思わず乗り出し、可能な限りガンダムに迫る絹江。

あれ?そういえば深雪のやつどこいった?

あ、いつの間にか整備の方に行ってやがる。

仕事押し付けやがったな。

まあ元々今回のことは俺から進言した事だが。

 

そんなことはどうでもいい。

絹江は我に返って俺に振り返った。

この後言いそうなことは分かる。

 

「まさかソレスタルビーイング…っ!」

「違います」

 

即答してしまった。

絹江が困惑気味にえ…?と顔を顰める。

つい反射的に言葉が出た。

仕方ない、この前まで敵だったし。

あいつら事情知らないからって全力でぶっ殺しに来たのは忘れてない。

なので断固否定する。

 

「ソレスタルビーイングではありません。また、イオリアの提唱に従う者でもなく……新型のガンダムとも関わりはありません」

「ど、どういうこと…?まさか新勢力?」

「まあ。そんなところですね」

 

あながち間違ってない。

とりあえず絹江を落ち着かせ、話をできる状態にしなければならない。

レナのやつ、楽しそうにサハクエル弄りやがって。

口下手だからここからの役割は任せようと思ってたのに。

まあ無いものねだりしても仕方ない。

まずは俺達が何者なのかを説明するとしよう。

 

「俺――コホン。私達はガンダムを有していますが、これといった組織ではありません。寧ろ独立していて、ソレスタルビーイングと関係がある訳でもありません」

「で、ですがガンダムを…。彼等から技術を奪えたのですか?」

「いえ、そういう訳では。そうですね…まず私とあそこにいる妹が我々の行動の根幹を成しているのですが敢えて我々を説明するとすればそれは―――イノベイド、と」

「イノベイド?」

 

一瞬首を傾げる絹江だが、聞いたことのある言葉にハッとする。

そう、リニアトレイン公社の会長別荘で俺が口にした言葉だ。

 

「私と妹はイオリア・シュヘンベルグの作り出した量子コンピューター『ヴェーダ』によって作られた人工生命体です。そして、その名称がイノベイド……その前に『ヴェーダ』から説明しましょう」

「量子コンピューター『ヴェーダ』?人工生命体、イノベイド……っ?それってまさかイオリアの…!知っているのですか!?教えて頂けるのですか!」

 

おぉ…勢いが凄いな。

まぁ無理もないが。

それにしても絹江の美貌が切迫してくるのは少し心臓に悪い―――などと考えていたら凄く鋭い視線を感じたので今のは無かったことにする。

 

「えぇ。先程言った通り、私はイオリアの計画を完全に把握しています。ですがお教えするには条件があります」

「条件…?」

「はい。絶対に情報を漏らさないこと。メモやボイスレコーダーは使用しないでください。そして、俺の話を最後まで聞いて―――その後に決断でいいです。暫くはうちで隠れていてください」

「……っ、そんな……」

 

絹江は頭の回転が早い。

俺の言葉の意味も理解し、だが、ジャーナリストとしての欲求と葛藤しているのだろう。

知り過ぎれば処理される。

そんな前世なら非日常的なところで起きそうなことがイオリアやソレスタルビーイングのことを知れば起こってしまう。

 

──絹江はちゃんとそれを理解して、レイの優しい想いにも少しは気付いていた。ただ、彼女はジャーナリスト。それもラグナまで追いかける程に質の悪いジャーナリストだ。根っこからの性格が葛藤を生む。───

 

「少しだけ、考えさせてください……」

「分かりました」

 

一人の方がいいだろうと思って立ち去ろうとしたが、絹江は一言だけ尋ねてきた。

 

「あの……このままあの機体を、ガンダムを見学していてもいいですか?」

「……構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

さぁ、ここからが勝負だ。

絹江は真剣な瞳でガンダムを見つめる。

俺はそんな彼女を背に席を外した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして覚悟を決めた絹江がレオに連れられてミーティングルームにやって来る。

俺はレナやデルと今後のことについて話し合っていた。

デルがいるのは新武装などの相談をしていたから。

絹江を案内してきたのがレオなのはあいつが一番暇してたからだが、レオにはこの後任していることがあるので退室。

レナとデルは2人で話し合い、俺は絹江に尋ねた。

 

「答え。出ましたか?」

「はい」

 

俯いていた絹江が真剣な瞳で顔を上げる。

 

「父がよく言っていました。事実を求め、繋ぎ合わせれば、そこに真実がある……と。私は報道屋としてではなく、私個人としてイオリアの全貌を知りたいです。お願いします!私に全て教えてください!」

「……分かりました」

「本当ですか!?」

「えぇ、もちろん」

 

ただ真実だけを求めることにした絹江。

俺は承諾し、絹江・クロスロードに全てを話した。

二百年近く前。

恒久和平と人類の進化を夢見た男がいた。

 

「それがイオリア・シュヘンベルグ……」

「その通り」

 

イオリアは優秀な科学者であり、自身の夢が『実現可能』であることを理解していた。

そして、それには途方もない時間が掛かることも。

不安要素は愚かな人類夢を実現する前に滅んでしまう可能性だけ。

イオリアは、同じ志を持った仲間を集め、夢の実現を確実なものとするために一つのプロジェクトを立ち上げた。

その根幹を成すイオリア達の意思を受け継ぐ存在―――それが量子コンピューター『ヴェーダ』。

 

『知識』を意味する名を持つ量子型演算処理システム『ヴェーダ』は、巨大なコンピューターでもあり、世界をくまなく覆い尽くすネットワークで構成されている。

生物でない『ヴェーダ』は永遠に稼働し、永遠にイオリア達の夢を実現するために働く。

ただ与えられた目的を実現に移すためだけにひたすら黙々と稼働し続ける。

 

だが、『ヴェーダ』は『知性体』そのものでも人間ではない。

人間を理解することは殆どできない所詮は機械だ。

だからこそ作られたのが人工生命体イノベイド。

人間の遺伝子をベースに作り上げられた人造人間で、彼らは人間社会の中で、人間として暮らし、量子通信を使って、『ヴェーダ』に『人間とは何か?』という情報をアップし続ける存在。

さらに彼らは来るべき革新的に進化した人類『イノベイター』を模した力を持ち、イノベイターの模造品を意味する『イノベイド』と名付けられた。

ちなみに提供された遺伝子はイオリアの仲間の科学者達。

 

イノベイドは二種類に分かれ、人間社会に溶け込む情報タイプと生まれた時から自身がイノベイドだと自覚していてMSの操縦能力や戦闘能力に長けたマイスタータイプがいる。

情報タイプの一部には『ヴェーダ』から新たな使命を貰い、自身が人間でないことを自覚する者もいる。

 

これらイノベイドと『ヴェーダ』、その『ヴェーダ』自身も計画の重要な要素と見ている機動兵器ガンダム、そして、ガンダムを使って紛争根絶のため武力介入をする施設武装組織ソレスタルビーイングによってイオリアの計画は進められている。

世界を一つに纏めるまでが計画の第一段階、紛争を根絶し、世界が平和になるまででまだ半分。

人類そのものが進化し、宇宙への進出を進め、『来るべき対話』を解決してやっと計画は完遂される。

ここまで話した絹江は主に驚愕で様々なリアクションをした後、顔を顰めた。

 

「『来るべき対話』……とは?」

「戦いを捨て、宇宙に進出した人類が異性体とも真の相互理解を求めてゆくことです」

「なっ…!?イオリアは人類が宇宙に進出した後のことも考えて!?」

 

絹江が明らかに動揺する。

恐らくイオリアの思考の深さに畏怖すら感じているのだろう。

ん?なんか視線を感じるな。

絹江の目を盗んで振り返るとデルと目が合った。

おいおい、まさかバレたか?

確かに言葉は借りたが7年後の話だぞ。

と思ってたら目を逸らした。

偶然って怖いな。

とりあえずイオリアの計画については話し終えた。

あと話さなければならない事は一つ、話しても話さなくてもいいことが一つだ。

 

「ガンダムの動力機関…そして、もう一つまだ話してないことはありますがイオリア・シュヘンベルグの計画の全貌はこれで全てです。クロスロードさん……いや、絹江・クロスロード」

「……」

 

絹江が息を呑むのが分かる。

レナとデルは話し合う振りをしてこちらの様子を伺っている。

レナが随時チェックしてるから大丈夫だろうがボイスレコーダーや通信機器を隠していたら裏切り行為として処理しなければならない。

俺は警戒せず絹江が口を開くのを待つ。

まだ思考の海に身を投げ出しているところだろう。

時間はあまりないが暫くは待つさ。

 

「……これが、真実」

 

暫くして絹江が呟く。

メモを取ることはできない。

頭の中で整理しては混乱してを繰り返した後の呟きだ。

 

「あの、ラグナ・ハーヴェイは?」

「ソレスタルビーイングの活動を監視する者達……監視者というのがいて、その中の一人だったがまた違う監視者アレハンドロ・コーナーと共に組織を裏切った者だ」

「裏切り者!?」

「さらに合同軍事演習の時の新型のガンダム……あれを作り出したのはアレハンドロとラグナ。そして、奴らは同タイプの機体を大量に生産することが出来る」

「ガンダムが……大量生産……っ」

 

自分が何処に首を突っ込もうとしたのか理解したのだろう。

絹江の表情が暗くなる。

そして、ふと俺の方を見た。

 

「何故私にそこまで教えて頂けるのですか…?それに、貴方はソレスタルビーイングの組織の一員ではないと言ったはず…なのに何故そこまで知って―――」

「それについては説明する。イノベイドの事教えましたよね?」

「え?あ、はい…」

 

言葉を遮られ、さらには即興で叩き込まれた情報の中からなんとか頷く絹江。

目線でレナを見遣るとデータを移した端末を持って近寄ってきた。

俺と絹江の間にある円卓にレナが端末を置く。

 

「貴女は…」

「レナ・デスペア。妹です。まずは一気にややこしい説明しちゃってごめんなさい」

「い、いえ…」

 

律儀に頭下げるのな。

絹江も戸惑いながら頭を軽く下げる。

顔を上げるとレナは会釈して端末を立ち上げた。

そこには塩基配列パターン0000についての情報が一部だけ記されている。

 

「私達はマイスタータイプのイノベイド。でも他のイノベイドとは違って特別な存在なんです」

「特別な存在…?」

「はい。塩基配列パターン0000、異世界からこの世界にイノベイボディを用いてやって来た存在です」

「え?はい?異世界……?」

 

ははっ、混乱してーら。

と、内心少し笑いつつ様子を見る。

いきなり異世界だのファンタジーみたいなことを言われても困惑するのは当たり前だろう。

だが、イノベイドについて既に知っている絹江は端末の情報に目を通して理解した。

そして、目を見開く。

 

「そんな……これって……っ」

 

衝撃を受けるのも無理はない。

(ワン)兄妹と一緒だ。

自分も生きる世界や悲劇が別世界では物語として人々の娯楽になってるなんて知りたくもなかっただろう。

必死に生きている彼らがこちらからすれば物語の登場人物にしか過ぎない。

そのことについても端末に記しておいた。

もちろん全ての転生者がこの世界が物語になってるとは限らない。

だが、俺達は――俺は物語としてのガンダム00を見てきたから未来を知っている。

あくまで本筋だが、これで説明できる。

 

「俺達についてはそこに書いてある通り。そして、俺達が……俺が貴女にイオリアの計画も俺達のことも全て話したのは本来なら貴女がラグナの取材で死んでいたからです」

「なっ…!?」

「ラグナを訪ね、取材が空振りかと思われた時……貴女はラグナとの面会を済ませた男と出会い、知ってはいけない事を知って始末される」

 

まあここで教えたことなんですけどね、と付け足す。

絹江はそこまで聞くと目を泳がせた。

 

「な、なんて言ったらいいのか……」

「礼は要らない。ただ、生きてくれ」

「……っ」

 

絹江の蒼く澄んだ目が揺れる。

俺の願いは彼女にきちんと伝わった。

まだ混乱は多いだろうが仕方ない。

 

「事が済むまではここで安全に居てください」

「で、でも!こんなことなら…沙慈にはもっと連絡を取っておけば…」

「後から対策します」

「事が済むまでって…何をする気なの?」

「悲劇を、一つでも多く減らす」

「……っ!」

 

全て知っている。

起こる悲劇すら、全て。

この世界の今を生きているから、目の前で起こっているから。

以前のように原作通りで満足はできない。

いや、前はそれで満足しようと努力したがそんな努力はクソ喰らえだ。

決意を胸にする俺の元にレナが再び寄ってきた。

 

「お兄ちゃん。レオから連絡が…」

「わかった」

 

レオの名に通りかかったデルも反応する。

イオリアの計画について語っていたらすっかり時間が経ってしまった。

そろそろトリニティのミッション開始時間だ。

ちなみに本来王留美(ワン・リューミン)が私欲のためにトリニティに接触したところを、俺の進言で紅龍(ホンロン)が接触している。

 

「レオからの映像……流す?」

 

すぐ近くに絹江がいることを気にしつつレナが俺に尋ねてくる。

俺は承諾の意味で頷き、レナは確認するとミーティングルームの大型モニターにレオからの映像を流し始めた。

同室にいるデルも腕を組みながら注目した。

映し出されるのはガンダムスローネ3機を圧倒する10機の編隊――擬似太陽炉を積んだMS(モビルスーツ)

 

GN-X、通称ジンクス。

アレハンドロとラグナ、ソレスタルビーイングの裏切り者が国連軍に横流しした機体。

そして、まだ世間には公表されていないジンクスはスローネを人革連 広州方面軍駐屯基地から退けた。

人革連のジンクス…数からしても間違いなく『頂武』ジンクス部隊だ。

 

「お兄ちゃん…」

「……」

「なんなの、これ…」

「擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)…」

 

かつては俺の所属だけにレナが俺を見つめる。

始めて見る機体が新型のガンダムを圧倒する姿を見て、絹江は衝撃を受けていた。

既に擬似太陽炉の存在を知っている上に俺達と共にいるデルは忌々しそうに呟いた。

 

「あれは…新型のガンダム?あれほど世界を脅かしたあのMS(モビルスーツ)を…!」

「絹江・クロスロード。これが、この機体があんたが首を突っ込もうとした奴らが作ったものだ」

「……っ。じゃあ、あれはラグナ・ハーヴェイが…でもなんで人革連が…」

「国連軍。世界がガンダムを有して一つになった」

 

これからはガンダム同士の戦いになる。

そう付け足す。

俺とレナはいずれ戦うことになるジンクスを睨む。

絹江を保護した今、次にすべきことは既に決まっている。

俺はスミルノフ中佐と思われるジンクスの制止さえ押し退けて執拗にガンダムスローネを追うジンクスを見つめながら、計画を次に進めた。




絹江の話は随分とグタグタしてしまった気がしますが、これから戦う予定です。
ほんとジンクス出てからの終盤が熱いですよね。
ちなみに一部流用を使いましたが文を少し改変してます。


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失われた約束

途中からソーマ視点です。


そもそもの話。

俺は『ヴェーダ』の居場所を知っている。

ならばアレハンドロとリボンズが掌握するのを妨害すればいいのではないか。

もちろん俺もその考えには至った。

 

だが、問題点が2つある。

一つは『ヴェーダ』が月にあるということ。

月に行くには当然宇宙(そら)へ上がる必要がある。

遠出するならまだしも宇宙へ行くのは訳が違う。

つまりは時間が掛かるということだ。

簡単には向かえない。

 

もう一つはそもそも俺達には人手が足りない。

絹江の救出を無視すればリボンズ妨害までの時間は充分あっただろう。

しかし、絹江を見殺しにするなど以ての外。

誰かを犠牲にして止められるならずっと前からやってる。

元超兵機関に居た子供達は居れども彼らはまだ幼い。

人を殺すなんて出来る訳がない。

レナが人殺しを教えるなんて有り得ない。

 

ならレオにやらせるのは?ジンクスの偵察に行ってもらったので無理だ。

ジンクスを振り切るのはデルでは不可能、レオの出撃は必須事項だった。

ではデルは?彼女は人を殺せない。

よって、リボンズを止める術はない。

 

やはりまずはこの人手不足をどうにかしなくてはならない。

その為に次に助けようと思ってる奴らの()()とスカウトは重要だ。

だが、それより前にレナがとある構築済みシステムを紅龍(ホンロン)へと渡した。

(ワン)家はソレスタルビーイングの支援を行っている。

 

経由してソレスタルビーイングに渡してくれるだろう。

『ヴェーダ』掌握を免れない今、俺達が出来ることはそれくらいしかない。

もちろんシステムとは『ヴェーダ』を用いないバックアップシステムだ。

これでわざわざ構築せずとも対策ができる。

ちなみにレナのバックアップシステムは普段俺達が使っているシステムだな。

 

紅龍(ホンロン)、ついでに俺達のこともチラつかせる程度でトレミーチームに教えておいてくれ」

『それは……何故?』

「アイリス社軍需工場防衛の時、既に俺のプルトーネは世界に晒されている。俺の知る限り、全貌は分からずとも三国家群の合同軍事演習でサハクエルの存在も……ソレスタルビーイングは知っている筈だ」

『……確かに』

「だから、(ワン)家の隠し玉って形で紹介しておいてくれ。……まあスメラギ・李・ノリエガにはバレバレの嘘だろうがな」

『お任せを。伝えておきます』

「あぁ。それと――」

 

追加で紅龍(ホンロン)に連絡を取っている。

伝えたかった要件は俺達の存在と、もう一つ。

 

「刹那・F・セイエイにトリニティへの助けは要らないと伝えておけ」

『分かりました。ではこれにて』

 

伝達を終えて、通信が切れる。

さてと……一仕事終えたレオを一応『ヴェーダ』に向かわせたし、俺とレナも行動に移るとしよう。

珈琲を飲み干し、スローネを撃退し、人革連 広州方面軍駐屯基地を守り切ったジンクス部隊の映像を見遣る。

俺の視線は自然と後退するガンダムに追撃を是が非でも行おうとしている機体を捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国連軍。

一つに纏まった三国家群に擬似太陽炉搭載型MSが配備され、元人革連にもGN-X――ジンクスが10機配備された。

ジンクスのパイロットはもちろん人革連のエリート部隊『頂武』のメンバーから選ばれ、優れた10人のパイロットが選出された。

その中の1人、他のメンバーがセルゲイ・スミルノフに選出されたにも関わらず彼女だけは必然的にジンクスのパイロットへと組み込まれた。

超兵、ソーマ・ピーリスは与えられた自身のジンクスに乗り込み、思考の海へと身を投げ出していた。

 

「あぁ……」

 

ジンクスを与えられてからソーマはその性能に驚愕し、歓喜した。

超兵の、自らの能力についてくる機体。

初めての感覚に喜びを感じるのも無理はない。

超兵の反応速度はそれ程までに優れていた。

 

だが、その喜びさえも一瞬の出来事。

あの憎きガンダムを、あの醜い機体を追い詰めたが奴らはあろう事か背を見せて逃げ始めた。

瞬間、戦いの中で喜びを感じていたソーマが抱いたのは激しい怒り。

 

――あんなにも簡単に私の大事な人を殺しておいて、死ぬ覚悟はないのか。

 

そんな感情がソーマの中で荒れ狂っていた。

若いソーマは感情のままにガンダムを追う。

だが、セルゲイが動かすジンクスが制止してきた。

超兵という兵器として生まれ、育てられたソーマは上司の命令に背くことはない。

しかし、あの時のソーマは本来ならば有り得ない行動に出た。

彼女のジンクスの肩部を掴むジンクスの腕を、セルゲイを跳ね除けたのだ。

 

『邪魔をッ!するなッ!!』

『なに…?』

 

初めて反抗的な態度を取ったソーマに驚愕するセルゲイ。

ソーマは自身のやってしまった失態を理解することすらできず、それどころか命令違反を犯した。

 

『ガンダムッ!!待て!逃がしはしない!そんな事は許されない…!絶対に…!』

 

セルゲイの制止すら振り切り、戦闘区域から離脱しようとする3機の新型ガンダムを追う。

GNロングバレルビームライフルを構え、照準を合わせて発砲した。

超兵の能力を最大限活用し、正確な射撃。

追う形での射撃は新型のガンダムに多少なりともダメージを与え、しつこく深追いするソーマは射撃が狙撃になるのも構わず追い続けた。

 

『殺す!!殺してやるっ!!』

 

激しく荒れる感情に従い、吼えるソーマ。

彼女の瞳が捉えるのはガンダムのみ。

視界は目の前の敵しか映っておらず、特にあの――緋色の機体を必ず撃ち落とそうと照準は殆どが緋色に釘付けだった。

いつか中佐が言っていた――あの緋色の機体のパイロットは若く、激情しやすいと。

戦いの上で分かるものがある、いつか『あの人』とそんな話を聞いたことがあった。

 

中佐はそんな彼と緋色の戦いを見て分析したのだろう。

あの時ソーマを止めたのも最終的にはセルゲイだったのだから。

歳の近いシイナやリンユーの制止を振り切ったが結局はセルゲイに止められた。

あの時は、『あの人』を失ったショックでまともに操縦すらできなかった。

だから、無抵抗のままセルゲイに連れて行かれたのだった。

 

そんなセルゲイの言ったことが本当ならば。

しつこく追えば、優先的に狙われれば緋色がこちらに乗って交戦して来るかもしれない。

もしそうなれば四肢を斬り裂いて、お得意の武装という武装を破壊し、蹂躙して絶望させてやろう。

ガンダムというアドバンテージを失った今、同じ舞台に立った今、負けはパイロットの技量の差を意味する。

だから、緋色のパイロットのプライドをズタボロにし、奴の大事な仲間を虐殺し、自身と同じ絶望を味合わせる。

そう決め込み、さらに深追いしようとするソーマだったが……。

 

『いい加減にしろ!!少尉…!』

『中佐!?離してください…!ガンダムが!緋色が…っ!デスペア中尉の仇が目の前に!!』

『落ち着け、少尉!眼下の基地を見ろ。勝利の美酒というものを――』

『知らない!私はただ…デスペア中尉の仇を!』

『ピーリス少尉。いい加減にしなさい』

『……ミン中尉』

 

立ち塞がるセルゲイのジンクス。

肩を掴み、優しい声で首を横に振るミン。

ジンクスで駆け付ける仲間であり友の2人。

ソーマはそこでやっと我を取り戻した。

そして、自身が命令違反を犯したという酷い現実を顔を青ざめて受け止めた。

 

『わた、しは……っ』

『少尉…』

 

超兵としてあるまじき醜態。

軍人としてやってはいけない失敗。

だが、それでもソーマの瞳は乱れる表情とは別に、新型のガンダムの逃げた方向を見つめていた。

 

「私は……なんてことを……」

 

命令違反を犯した。

その事に関して自身を責める気持ちが収まらない。

しかし、ソーマが苦悩しているのは命令違反のことではなかった。

命令違反よりも、新型のガンダムを取り逃したことに、追撃を妨害した中佐や仲間へ憤りを感じる自分がいた。

 

そんなことは許されない。

あってはならないのに。

でも、あと少し。

ガンダムを追い詰めていた。

あと少し、止められさえしなければ新型のガンダムを墜すことができた。

ジンクスと超兵の能力があればあの程度の敵ならば蹂躙し、絶望を与え、最高の状態で殺すことが可能だった。

だというのに―――。

 

「くっ…!私は、またそんな事を…!!」

 

ジンクスのコクピットの中にいるソーマは自身への怒りに任せてコクピットにか細い腕を振るう。

小さな拳が虚しく音を立てた。

身体強化が施されていようとその程度ではメインコンピューターへの影響はない。

その事がソーマに自身の無力さを伝えているようだった。

 

「私がこんな感情を抱いていいはずがない…。私は超兵。任務をこなすことが、全て…………」

 

『ソーマ。1番大切なのは生きて帰ってくることだ。忘れるなよ』

『いいから、約束だ』

『いい子だ』

 

言葉の途中でガンダム鹵獲作戦出撃前の出来事がフラッシュバックする。

あの時にレイと約束したことがあった。

任務をこなすだけじゃない。

生きて帰ること。

それが1番なのだと。

小指を交えて彼と約束したのだ。

ソーマにとってあれはソーマ・ピーリスとして生きてきた中で1番嬉しかった思い出だった。

 

「生きて……帰る……こ、と」

 

任務をこなすことと生きて帰ること。

生きて、帰ってきて、それでなんだというのだ。

帰ったところで『あの人』はいないのだ。

自身の小さな手で自らの頭に触れる。

もうこの白髪が乱されることはない。

撫でてくれる人はいない。

無意識のうちにコクピットの液晶に雫が落ちた。

頬を何か冷たいものが伝うのを感じた。

 

「ああ……ああああっ!うああっ、ああああああああああーーーーーーっ!!」

 

これから出撃だというのに。

ずっと前からコクピットに引きこもり、彼女は泣いた。

拭っても拭っても止まらぬ涙にソーマ自身も驚き、どうしようもできず、ただコクピットを濡らした。

潤む視界には様々な思い出がフラッシュバックする。

 

1度彼と船に乗ったことがある。

隣で彼はユニオンの変わったフラッグを見て興奮していた。

真っ黒な彼の珈琲を口に含み、とても苦い経験をした。

隣には呆れるように笑う彼が居た。

パイロットスーツを改良し、自然と痛みから守ってくれたのは彼だった。

そして、いつの時も優しく頭に触れるあの温かくて大きな手。

あの温もりを記憶の中で感じているとそれを断ち切るようにセルゲイからの通信が入った。

 

『各機に伝える。これより頂武ジンクス部隊、ソレスタルビーイングの施設襲撃作戦を実行する。――ジンクス、起動っ!』

 

「……了解」

 

現実へと戻されたソーマは指示に従い、ジンクスを起こす。

赤い四つ目が輝いた。

隣を見遣るとなんとなく視線を感じたのか、シイナが通信を繋いでくる。

 

『なになに?どうしたの、ソーマ』

「いや……なんでもない」

 

聞こえてきたのは彼の声ではなかった。

もう隣に彼はいない。

既に知っていることだというのに再認識するだけで事実がソーマの胸に空いた穴を再び抉った。

 

「う、ぐっ……!」

 

心臓のある方の胸を抑える。

酷く息苦しい。

パイロットスーツは快適な作りにされている筈なのに。

 

『頂武ジンクス部隊、出撃…!』

『了解!』

「りょ、了解…!」

 

少し出遅れてソーマのジンクスも出撃する。

これから行われるのはソレスタルビーイングの施設への襲撃作戦。

新型のガンダムの潜伏場所がソレスタルビーイングを裏切ったという内通者からの情報が判明したのだ。

だが、そんなことはソーマにとってどうでもいい。

重要なのはまたしてもガンダムと戦う機会を得たということだ。

 

そして、今度は敵の基地への攻撃。

つまりは壊滅が目的となる。

今度こそ、ガンダムをこの手で倒すことができるのだ。

新型のガンダム――緋色の機体を。

 

「今度こそ。今度こそ、逃がさない」

 

ジンクスを最大加速させ、陣形を保ちながらソーマは呟く。

レバーを持つ手には力が込められていた。

 

「ガンダムは……私が蹂躙する」

 

戦意を剥き出しにするソーマ。

数十分後、トリニティは国連軍の襲撃を受けた。




人革連軍に所属していたレイ・デスペアは男性隊員として軍務をこなしていたので三人称は彼にしました。
もちろん本当は中性。


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決戦への布石

オリキャラメインの話です。
ナオヤの周りのキャラでは唯一2ndでも活躍する予定のオリキャラです。
てかナオヤより出番ある予定。
ちょっと番外短編みたいになってますが、一応本編です。
ちなみにまた三人称。


「カタギリ。 アイリス社軍需工場に現れた新型のガンダムについてどう思う?」

「唐突だね。出撃する機会がなくて暇になったのかい?」

「ふっ、否定はできんな」

 

ユニオンのトップガン、グラハム・エーカー。

その隣でMSWADの技術顧問ビリー・カタギリは苦笑いする。

ソレスタルビーイングの裏切り者から三国家群へと擬似太陽炉搭載型30機が贈られ、ユニオンに配備されたのは10機。

しかし、GN-Xの内1機はグラハムの要望によってフラッグに太陽炉を付ける為に、折角提供された機体から太陽炉を外すことになった。

なんでもグラハムの戦死してしまった部下――ハワード・メイスンの墓前にフラッグでガンダムを倒すと誓ったとのことだ。

 

ビリーはまたしても無茶振りを要求してくる友に呆れつつ、彼の決意を素直に尊敬してそれに応えた。

今はグラハムのGN-Xを解体し、太陽炉をフラッグへと移しているところだった。

勿論突貫作業でだ。

だが、グラハムという男は我慢弱い。

長年の付き合いでビリーはそれを知っているからこそ、苦笑いしながら彼の問いに答える。

 

「君の言いたいことは分かるよ。アイリス社の軍需工場での新型ガンダム襲来…エイフマン教授を襲ったあの機体を退けたのは最新型だった」

「最新型、か。機体の性能自体は違って見えた」

「というと?」

「あの機体は旧型を使いまわしているのさ。映像に映っていた直前の粒子ビーム…新型を退けた機体が放ったものではないと私は考えている」

「映像?軍需工場から撮影されたものかい?」

「あぁ」

 

グラハムが頷き、ビリーにデータを渡す。

ビリーは預かると端末にデータを移し、流れる映像を見た。

液晶に映るのは軍需工場を守った最新型と合同軍事演習の時の新型との対決。

3機と1機のガンダムが衝突する前、最新型が新型の死角から粒子ビームを放って新型の厄介な武装を破壊し――ているように見える。

だが、グラハムに指摘されてよく目を凝らして集中して見ると、映像の端過ぎて見づらいが確かに粒子ビームは最新型の隣を通過し、さらに後方から現れていた。

 

「グラハム…これは…」

「続きを見ろ」

 

真剣に液晶を睨むグラハムの短い言葉にビリーは息を呑んで再び視線を画面へと戻す。

新型の三色の3機への奇襲に成功した黒の最新型はそのまま3機の乱戦へ移行。

しかし、あれ程正確な射撃能力を持っておきながら距離を取る気配はなく、寧ろ接近戦に持ち込もうとしているとグラハムは分析した。

さらに彼は続ける。

 

「カタギリ、最新型…という言葉を否定したのはこの接近戦に理由がある。最新型と言うにはこの機体の装備は貧相だ、目立った新兵器を披露していない。もちろん全貌を掴めていないと言われればそれまでだが、その後の苦しい展開を覆す兵器を用いてないことから、合同軍事演習の時の新型よりは性能が下だと私は見ている」

「凄いね…。どれも頷ける。パイロットの腕が極端に良くない限り、この機体が出し惜しみをする必要はない。僕からすれば合同軍事演習の新型のほうが新装備を積んでるような気がするよ」

「あぁ。つまり、あの黒の機体は旧式の可能性が高い。となるとソレスタルビーイングには武力介入で姿を現している機体だけでなく、他にも機体を有している可能性もある…と見るがカタギリはどうだ?」

「有り得るね。ガンダムといえどMS(モビルスーツ)を制作するのにプロト機で試しみることは珍しくないし、制作段階で何機か作ってるかもしれないね」

「一体何機ガンダムがいるのか分からんな」

「そうだね。こうなった以上何機出てきてもおかしくないよ。まったく、恐ろしい話だね」

「ふっ、出来るのなら存在する限りの全機口説かしてもらいたいなっ!」

「はは…、それが実現しないことを祈るよ」

 

さすがのビリーも物怖じけないグラハムに恐れを抱く。

まさに怖いもの知らずだ。

まだ見ぬガンダムの可能性。

2人はそれだけでなく、プルトーネとスローネの激突から内部分裂がソレスタルビーイングに起きていることも推測した。

国連軍に機体を提供してきた裏切り者といい、ソレスタルビーイングは内部的に崩壊しつつあるのかもしれない、と。

ソレスタルビーイングを攻めるには今が好機と見ていた。

 

 

 

 

 

 

擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)、ジンクスを所有する国連軍は地上にいるガンダムと宇宙のスペースシップにいるガンダム。

チームトリニティとトレミーチーム両方同時攻撃を行おうとしていた。

人革連、頂武ジンクス部隊は地上のチームトリニティ。

そして、AEUとユニオンのジンクス部隊は宇宙のトレミーチームを担当することになった。

 

作戦に搭載されるMS(モビルスーツ)の数は解体されたグラハムの機体以外の19機。

その筈だったが、宇宙(そら)に上がる前、AEU軍内である可決が行われていた。

それによっては作戦に参加する機体の数も減るのだ。

そんなことをつゆ知らずナオヤは彼を取り囲む2人の女性に問う。

五月蝿いピンク色の髪と同じく育ちのいい金髪ロールの女性だ。

 

「そういえばネルシェンはどこに行ったんだ?」

 

いつもは傍に居る黒髪ロングのクールな女性、見渡すがその姿は見えない。

ナオヤのそんな疑問に彼と楽しく、しかし競い合うように談笑していた2人の女性はここには居ない女に意識を向けることにジェラシーを感じながらも、それを隠しつつピンク色の髪の女性――マインが返答した。

 

「あの女――じゃなくてあの方はお偉い様の会議に呼ばれたとかで席を外しましたわ」

「会議?なんでネルシェンがそんなのに呼ばれるんだ?」

「さぁ…、そんなことよりナオヤ様!今はティータイムを満喫しましょう!」

「あ、あぁ…。でもちょっと気になる――」

「さぁどうぞ、ナオヤ様!私しともっと話しましょう!」

「ずるいですわ、私しも!」

「ははは、まあ順番にな」

 

抵抗虚しく、無類の女性好きであるナオヤは身体の至る所をマイン達に押し付けられると思考など放り捨てた。

頬を緩ませ、デレデレと為されるがままである。

 

一方、彼が一瞬は気にしたネルシェンは薄暗い会議室の中で上層部の重鎮達の鋭い視線を一心に浴びている。

当の本人は苛つき気味で、良く手入れのされた艶のある美しく長い黒髪は怒りを象徴するように小さく揺れ続けている。

 

「要件があるなら早くしろ。私も暇ではない」

「貴様、誰に向かってその態度を…っ!」

「静粛に」

「くっ…!」

 

社会の上下関係すら無視して暴言を吐くネルシェンに年老いた男が怒るが、この場での最高責任者の一言で悔しそうに再び腰を下ろす。

制止した男性も静かに怒りを感じているが、話を進める為に大型モニターの前で待機するMS(モビルスーツ)技術顧問へと視線を向け、合図を送る。

頷き、応じる技術顧問の男性は端末を操作してモニターに1機のMS(モビルスーツ)が映る。

擬似太陽炉搭載型の最新型だ。

誰も見た事のないその機体に一同がおぉ…と感嘆する中、ネルシェンは黙って鋭い視線をモニターのMS(モビルスーツ)に向ける。

 

「なんだこれは」

「擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)GN-Xの最新機です。正式名称はアドヴァンスドジンクス。これはそのプロト機になります」

 

ネルシェンの問いに答えるように技術顧問が説明する。

しかし、ネルシェンは疑問点を抱いた。

元々GN-XはAEU…否、それどころか三国家群が開発したものではなく、ソレスタルビーイングの裏切り者を名乗る者が提供してきた機体。

提供されたのはつい最近の話で、AEU軍がこうも早期にカスタム機を開発できるとは思っていなかった。

寧ろ不可能だ。

擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)は短期で作れるものではない、それくらいネルシェンの直感ですら察せれることだ。

 

「頭部に大型アンテナを取り付け、通信機能が強化されています。さらに脚部にGNバーニアを増設するなどして機動性を向上。特に特徴としてはパイロットの特性を極限にまで引き出すシステムも搭載され――」

「説明はいい。単刀直入に聞く、何処でこの機体を手に入れた?」

「そ、それは…」

 

技術顧問が目を泳がす。

やはり、AEUが開発したものではないのだろう。

理由は分からないがソレスタルビーイングの裏切り者とやらがまたしても寄越してきた機体だとネルシェンは睨んだ。

納得できる持論が成立したので、円卓に座る老人達が騒ぎ出す前にもういい、と自ら話を切る。

それでも彼女の態度に憤りを感じた者が席を立ち、激昴しようとするが代表の老男性がそれより早く口を開いた。

 

「ネルシェン・グッドマン准尉。君にこの機体を授けたい」

「断る」

『なっ…!?』

 

即答するネルシェンに場の一同が動揺する。

こればかりは四方八方から罵声を浴びた。

 

「貴様…!わざわざ貴官の為に特注した機体だぞ!?」

「ふざけるのもいい加減にしたまえ!!」

「これまでは目を瞑ってきたが今回は許されんぞ!」

「もう我慢ならん!准尉はクビにすべきだ!」

「……まったく」

 

予想通りの有様に代表の老男性も嘆息する。

口々に罵声を言われ続けたネルシェンは各国家代表などの輩を睨み、凍らされるような鋭い視線で黙らせた後、冷たく言い放つ。

 

「退職させたければ好きにしろ。……私が抜けてもいいのならな」

「ぐっ…っ!」

 

ネルシェンの一言に誰もが苦虫を噛み潰したような表情をする。

ネルシェン・グッドマン准尉。

その実体はAEU軍本来のエースパイロットだった。

どんな機体を操縦しても常に最高値を導き出し、潜在能力(ポテンシャル)、操縦能力共に長け、さらには頭が切れる逸材だ。

常人には成しえないまさに天才の領域、入隊して数ヶ月でユニオンのトップガンをも思わす才能を見せつけた。

 

彼女の実力に比例するように戦果を上げた分階級は准尉にまで上昇した。

しかし、准尉になってからネルシェン・グッドマンは人が変わった。

丁度その時入隊してきたナオヤ・ヒンダレスと共に行動するようになり、彼女は自身の上げた戦果は全て彼の物に偽装し、軍から与えられた報酬も階級も実力と恩で周囲や軍の上層部を黙らせ、全て合法的にナオヤ・ヒンダレスへと捧げていた。

おかげでナオヤ・ヒンダレス二等兵は大尉までに登り詰め、ネルシェンは准尉であり続け、自身は目立たぬまま戦果を拡大してきた。

実際にAEUの勝利にネルシェン・グッドマンは大きく影響し、影のエースパイロットである彼女に退職されると相当な痛手となる。

故に代表の老男性が慌てて撤回した。

 

「退職は受け付けん、准尉。どうか考え直して欲しい」

「返答は変わらん。その機体を受け取るわけにはいかない。失礼する」

 

形だけ敬礼し、勝手に話を切り上げて退室するネルシェン。

背に激しい怒声の荒らしが降り掛かるが興味なく、ネルシェンはナオヤへの元へと足早へ向かった。

そんな彼女と交代するように会議室に入室する女性が一人。

カティ・マネキン大佐、彼女は事の一端を部屋の外から聞くように指示されていた。

 

「話は聞いたな。マネキン大佐。貴官にグッドマン准尉を説得してもらいたい」

「はっ。お任せを」

 

新たな命令に敬礼するマネキン。

だが、不安げな声も上がる。

 

「大丈夫なのか…?アレは頑固だぞ」

「…私に秘策があります」

 

苛つき気味に文句を垂らす男性にマネキンは自信ありげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

マインらとは出遅れ気味に軍寮のナオヤの一室へと戻ってきたネルシェン。

扉が開くと目を合わせたナオヤがネルシェンの顔を見るや表情を明るくした。

双方の腕に絡みついている害虫は忌々しそうに歪めたが。

 

「ネルシェン!帰ってきたのか!」

「あぁ。待たせたな」

「ちっ…!」

 

笑顔と微笑を交わすナオヤとネルシェン。

彼の隣でマインが舌打ちするがネルシェンは視界にも止めずに入室しようとする。

しかし、折角の待望の再会を邪魔するように声を掛けてきた者がいた。

そちらは視界の端くらいには映っている。

 

「ネルシェン・グッドマン准尉、少しいいか」

「……カティ・マネキン大佐。何か用でしょうか」

「ふっ、そう嫌な顔をするな。ヒンダレス大尉、彼女を少し借りても良いか?」

「え?あ、あぁ…」

「すまない。すぐに返す」

 

半ば強引にネルシェンを連れ出すマネキン。

ネルシェンは隠すことなく苛つきと不機嫌を表に出しながら愛しの男の扉が閉まっていくのを虚しく眺める。

 

「場所を移そう。聞かれてはまずい話だ。…特に彼にはな」

「……いいだろう」

 

薄い扉の向こうには聞こえないよう配慮して小声で伝えてきたマネキンにネルシェンは頷き、彼女について行く。

暫く移動した誰もいないミーティングルームにて落ち着いた。

 

「……新型のMS(モビルスーツ)について、私を説得に来たか」

「さすが准尉。しかし、口が悪いな。上司への礼儀を教えてやろうか?」

「御託は良い。要件を済ませろ」

「ほう…、まあいい。率直に聞く。貴官が新型の提供を断ったのはヒンダレス大尉への遠慮だな?」

「……」

「その沈黙は肯定と取ろう」

 

押し黙るネルシェンに結論をつけたマネキンの言う通り、的中していた。

ナオヤは大尉までに登りつめたのを自身の実力だと自負している。

そんな彼を差し置いて彼よりも高性能な機体に乗ることはネルシェンにはできない。

機体の性能差をつけてしまったらこれまでのカモフラージュが全て無駄になる。

目を伏せるネルシェンにマネキンは口角を吊り上げた。

 

「しかし、准尉。これは貴官にとってまたとないチャンスだぞ」

「なに…?」

 

何を言い出すのだと思わずマネキンを見る。

見事に餌に掛かったネルシェンにマネキンは交渉成立を確信した。

 

「貴官があの機体に乗れば、これまで以上に戦果を上げることができるだろう。あのカスタム機は操作もかなり難しい機体となっているが、貴官の実力ならば問題ない筈だ。あとは今まで通り……いや、今まで以上にカモフラージュを完璧にすればいい。そうすればヒンダレス大尉はさらに成り上がるぞ?」

「……っ!?だ、だが…ナオヤと機体で差をつけてしまうのは露骨すぎる…。さすがに誤魔化しが効かない、ナオヤを落胆させてしてしまうことも…」

「なに。試験機として先にチューンされたとでも嘘をついて誤魔化せばいい。すぐに大尉にも試験パイロットをしてもらうと付け足せ」

 

マネキンの頭のキレの良さ、頭が回るだけでなくずる賢さにネルシェンも驚愕を隠せず目を見開く。

さらにマネキンは続けた。

 

「どうせならば貴官の功績は全て大尉のものとなるように私が上に掛け合っても良い。それを条件に貴官が機体に乗ると言えば向こうも口出しは出来んだろう。……最も、大尉本人を誤魔化すのは貴官次第だがな」

「な、なんという…馬鹿な…っ」

 

マネキンの話は両方に美味い。

ネルシェンはナオヤを喜ばせたいだけが為に自身の階級すら彼に捧げている。

勿論、アドヴァンスドジンクスを使えばネルシェンが上げる戦果は格段に増えるだろう。

マネキンの話通りに事が進めばナオヤはさらに昇格することは間違いない。

ネルシェンにとって今まで以上に効率的になり、後は彼の心を奪うだけだ。

そこに関してはあの2人に負ける気はしない。

 

同時に、ネルシェンがアドヴァンスドジンクスに乗って戦果を上げれば上げるほどAEUの上層部も国連軍としても万々歳だ。

彼らが欲しいのは彼女の戦果のみ。

ならば後はどうでもいいだろう。

それを理解しつつもネルシェンにとっては後者には興味が無い。

別に利用にされる分には構わないので、前者がある時点で彼女は大満足だ。

上手く口に乗せられたが、マネキンも協力することに関して素直に感謝し、尊敬する気持ちを込めてネルシェンは丁寧に敬礼した。

 

「ありがとうございます。カスタム機、提供の件…大佐の交渉次第で前向きに受けさせて頂く」

「良かろう。時間を取ってすまなかった」

「いや…いえ、構いません」

「そうか。では私はこれにて失礼する」

「はっ!」

 

説得に成功し、背を向けるマネキン。

その頬は僅かに吊り上げっていた。

 

「ふっ、勝ったな」

 

暫くしてマネキンの交渉に折れたAEU側は条件を飲むと共にアドヴァンスドジンクスをネルシェンへと授けた。

正式導入されたアドヴァンスドジンクス。

偶然にも迷い込んで格納庫にあるそれを見つけたパトリック・コーラサワーが機体を見上げて笑う。

 

「こいつはラッキー!ここにあるってことは俺様の専用機ってことだろ!なんたって俺様はAEUのエースパイロット、パトリック・コーラサ――」

「いや、私の機体だ」

「うへっ…?」

 

コーラサワーの言葉を遮り、パイロットスーツに身を包んだネルシェンがヘルメットを抱えて現れる。

思わず振り返ったコーラサワーだが、目に映ったのはなびく長い黒髪だけ。

顔を見ることなくただ困惑するが、ネルシェンはコーラサワーに意識を止めることすらなく、アドヴァンスドジンクスを見上げた。

 

「例え口車に乗せられようとも、ナオヤの為に貢献できるのならば…」

「お、おいおい…あんたの機体ってどういうことだ?大体あんた誰よ」

「……ネルシェン・グッドマン准尉だ」

「准尉って、俺より階級下じゃ…ん?あんた案外綺麗な顔してるな!」

「……」

「無視かよ!」

 

初めて顔を見たコーラサワーが褒めるがネルシェンには心に決めた相手がいるだけに全く揺れないし、なんなら要らない記憶として一瞬で消した。

そして、再び見上げる。

後から何やら声を掛けてくるが、無視して試運転の為にコクピットに乗り込んだ。




アーサー・グッドマンの姪です。


ここで少し報告を。
最近投稿していなかったのは最終話まで書き溜めしようとしていたのですが、思っていた尺のほぼ倍くらいになって長引くと思ったのでとりあえず5話分溜めたところで更新再開しました。
なので5日間ほど連続更新になります。


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射撃訓練その1

機動戦士ガンダム00続編との情報がありました。
未だに信じられいくらい嬉しい。


偵察に向かわせたデルやトレミーチームと繋がっている紅龍(ホンロン)から情報を受け取った。

遂に国連軍がソレスタルビーイングへ襲撃を仕掛けたようだな。

頂武ジンクス部隊は地上のトリニティ本拠を襲い、迎え撃ったスローネと交戦を開始。

宇宙(そら)ではユニオンとAEUから選抜されたジンクス部隊がトレミーチームを襲い、スメラギの対応により状況を五分に持ち込んで交戦中。

 

だが、俺が知ってるよりトレミーに向かったジンクスの機体数が少ない気がする。

確か本来は19機だったと思うが…。

 

紅龍(ホンロン)。本当に18機だけなのか?」

『間違いありません』

「……そうか。わかった」

 

紅龍(ホンロン)が嘘を言う意味は無い。

真実を受け止めて、通信を切る。

18機か…。

減っている機体数は1、4機減っていたらナオヤ達だと思うんだが違うみたいだな。

ナオヤの階級的にジンクス部隊に選ばれるのは間違いないだろう。

あの囲いの女共はどうか知らないが、ひっつき虫具合からしてた多分一緒。

もしくはジンクスのパイロットにナオヤだけが選ばれ、宇宙(そら)に上がろうとしたところを我儘言って引き留めた…有り得るな。

頭が痛い。

 

今更だが、なんであいつらのことなんか考えてるんだ。

話を戻そう。なんだっけか。

機体の数か。

まあ何にせよ1機だけってのは嫌な予感がするな。

一見無視していいような些細な改変な気がするが、あまりにことが小さすぎて気になる。

寧ろこんなにも事が小さいのは珍しいだろ。

AEUとユニオンのジンクスは今回が初戦闘の筈だから既に撃墜されてる線はない。

……分からないこと考えても仕方ないな。

 

「そうそう。今はそれより必要な準備を済ませなきゃね」

「だから、思考読むなっての。まったく…」

 

新装備の開発だとかで忙しそうに格納庫を駆けずり回っていた深雪が一旦切り上げて俺の隣にやってくる。

必要な準備というのは俺たちの次の行動の為に自身を鍛えることだ。

実は結構重要なことで、場合によっては肉弾戦になるかもしれない。

相手は凄腕の傭兵だし、深雪もスナイパーライフルを用意して狙撃練習をしていた。

恐ろしいことに俺の妹はMS(モビルスーツ)に乗らなくても銃を扱えるらしい。

俺の知らない十年間ですっかり知らない子に育ってしまった、お兄ちゃん悲しい。

 

「お兄ちゃんも少しくらいは射撃の腕、上げないとね」

「あ、あぁ。そのうちな」

「むっ…それはいつまで経ってもしないやつ!決めた、今日から私がお兄ちゃんに特訓付ける!」

「今日から!?」

 

次の行動についての話し合いの時に話を聞いた深雪が俺の射撃精度を見てくれたが、これまた見事に絶句。

その日にちょっとだけ教えてもらったがこれがまた人が変わったようなスパルタに……。

出来ればもう経験したくない。

 

「せ、せめて明日からにしてくれないか?」

「ダメ!そうやってすぐ先延ばしにするとこほんとに変わってない!今日から、これは譲らないから!」

「そう言わずに頼むよ深雪ー」

「だから、レナだってば。まったく…」

 

みゆ――じゃなくてレナが呆れたように溜息をつく。

その隙に逃げようとしたが、腕をがっしりとホールドされてしまった。

今世紀最大のピンチだ。

 

「逃がさないよ?」

「ひっ…」

 

見たことないくらい素敵な笑顔で顔を覗き込んできたレナに、もがきながらも施設内の射撃場まで強制連行された。

無骨な何の塗装もされていない黒い壁に床、どう考えても切れかけてる蛍光灯、光の差し込まない完全密閉な薄暗い空間に射撃の的だけが佇んでいる。

もはやトラウマとなってる射撃台に立ち、並べれられてる銃をセレクトする。

 

「早く」

「わ、分かってる」

 

後に立つレナが急かしてくる、怖い。

適当に自動式(オートマチック)のピストルを手に構える。

銃口は的を捉えている。

とりあえず一発銃弾を放った。

 

「ぐっ!」

「……」

 

いつも通りの反動という名の衝撃。

確かに的を狙った筈が全く関係ないところに飛んでいく。

一連を見て、レナが口を開いた。

 

「反動くらい抑え込んで!じゃないといつまで経っても当たらないよ」

「わ、分かってるよ…」

 

もう一発放つ。

今度は隣の的に当たった。

 

「い、一応的には当たった!」

「身体の軸は固定して」

「はい…」

 

冷静な指摘を浴びて俺の興奮も鎮火する。

さらにもう一発、次は大きく上に逸れた。

 

「……もう反動抑えられないならそれを考慮して最初から的の下を狙ったら?」

「すみません…」

 

明らかに呆れてるレナに俺は兄の威厳などボロ雑巾のように捨てられて謝罪した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国連軍のうちAEUとユニオンのGN-X部隊は宇宙(そら)へ上がった。

しかし、ナオヤとその取り巻きの女性達は地上に残った。

彼らに――否、ネルシェン・グッドマン准尉に与えられた任務ゆえに。

 

「なぁ、なんで俺達はジンクス降りなきゃなんねえんだよ。ネルシェン」

「……我々には必要ない」

「はぁ?ちょっと!私達の機体を勝手に他人にあげて、その態度は何よ!?」

「どうどう……落ち着けよ、マイン。なっ?」

「……っ、しかし……っ」

 

マインの言う通り、ネルシェンはナオヤ達の是非を問わずに彼らのジンクスを宇宙の部隊に渡してしまった。

ナオヤも思うところはあるが当のネルシェンが受け答えをしてはくれない。

こうなると彼女には何を言っても無駄だと理解してるが上に苦笑いしていた。

 

だが、マインは納得出来ないのか苛付きを露わにして舌打ちを打つ。

同時に格納庫に存在感を放つモビルアーマーを爪を噛みながら睨みつけるように見下ろす。

 

「で?私し達の機体の代わりが太陽炉も積んでないあのモビルアーマーだとでも言うの!?」

「あぁ。我々に必要なのはアグリッサが()()だ」

「じゃあ、あんたがあのモビルアーマーに乗りなさいよ!自分だけ専用機になんて乗って……っ!」

「あ、それは俺も気になった。なんでネルシェンは専用機渡されたんだ?しかもあれ…新型じゃないか」

「…………」

 

ナオヤに問われ、ようやくネルシェンが反応して振り返る。

その表情は申し訳なさからか少し曇らせたが、内心葛藤しつつ真摯に答える。

 

「ナオヤの言う通り、確かにあれは擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)新型……そのプロト機だ」

「……こう言うのもなんだが、本来俺が渡される機体じゃないのか?なんたって俺はAEU唯一のイノベイター、エースパイロットなんだからさ!」

「ナオヤの言っていることは最もだ。だが、まだあの機体は不安定かつ初機動なこともあって私に割り振られた。私が動かして問題がなければナオヤのものとなるだろう」

「そうなのか?」

「あぁ」

 

頷くネルシェンに、性格のせいか彼女は疑えないナオヤも渋々と引き下がる。

ただ納得は出来ないようで顔を顰めていた。

マインも同じなのか、いつものように噛み付く。

 

「納得できないわ!だったら尚更そんな高性能な機体、貴女如きがカスタム機に乗るなんて危険ですわ!」

「そ、そうだよな!確かに…」

 

マインの言い分にナオヤも同意して何度も相槌を打ち、その様子を見てネルシェンはマインを睨む。

彼女はネルシェンの本当の腕を知っているからだ。

視線に気付いたマインは一瞬口角を上げ、舌をベーっと出してきた。

 

―――この女っ。

 

ネルシェンに対する不信感を増させてナオヤとの距離を引き剥がそうとしている。

何処までも汚らしい女だ。

マインの狙いに気づいたネルシェンは怒りを内に秘め、こちらも口角を上げて返す。

 

「まだ分からないのか…?」

「はぁ?」

 

ネルシェンが小馬鹿にするように尋ねるが、マインはその態度が気に入らず、怒りを剥き出しにして乗り出す。

 

「ナオヤ程の人材を死なせるわけにはいかないだろう」

「それはつまり……っ!?」

 

ネルシェンなら何らかの不慮で死んでしまっても良い。

必要なのは機体のデータのみ。

その意図が読み取れる。

無論、有り得ない。

そもそもネルシェンの専用機となったアドヴァンスドジンクスはGN-Xのカスタム機、操縦はかなり難しい機体となっている。

それ相応の腕の持ち主じゃないと試運転だとしても任されない筈だ。

 

カスタム機とは知らず、言葉を無くすほどナオヤともう1人の金髪の女性、名をシャーロットという彼女は絶句する。

ただ1人、最初こそ絶句したもののマインだけはハッと真相に辿り着いた。

 

「ネルシェンお前……」

「だから、ナオヤ。お前が私を守ってくれ。いいだろう?」

「あ、あぁ…。もちろん……だけど…っ」

 

困惑するナオヤだが、ネルシェンに優しく微笑みかけられ胸に手を触れられると頬を紅潮させ逆らえなくなった。

ネルシェンは徐々に身を寄せて、肌の密着は増えていく。

彼女の小さな胸もナオヤの身体に押し付けられてしまう程に。

ナオヤも腰の上辺りに当たる柔らかい感触に思考を奪われた。

 

「ちっ…!」

「あ、あの…でも本当に、たった4人で新型のガンダムを()()鹵獲するつもりですの…?」

 

ネルシェンに敗北して舌打ちを鳴らすマインの隣で不安げな声を上げるシャーロット。

ジンクス部隊を降り、ジンクスすらネルシェン以外は宇宙の部隊に渡してしまった今の状況で与えられた任務は酷だった。

頂武ジンクス部隊とは別に行動し、彼らが追い詰めた合同軍事演習時の新型ガンダムを全機鹵獲する。

そんな過酷な任務に4人で挑もうとしている現状にシャーロットの金髪ロールが怯えるように震える。

それに対し、ネルシェンはナオヤから離れて一切震えぬ声で答える。

 

「安心しろ、作戦上は問題ない。アグリッサがあれば必ず鹵獲できる」

「……どこにそんな保証があるのよ」

「カティ・マネキン大佐の練った策だ。信用しろ」

 

反抗的なマインを諭すように目を瞑り、返すネルシェン。

だが、マインはさらに視線を鋭くした。

 

「本当なんでしょうね」

「さぁな」

 

なっ――と表情を歪めるマインに、ネルシェンは不敵に笑う。

2人の間で喧騒が繰り広げられるのには一秒も満たず。

ナオヤはその2人の間にどちらの味方にもなりきれず落ち着かせようとするだけだった。

 

レイの知らない流れが始まろうとしている。



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警戒する敵の影

宇宙(そら)でのトレミーチームと国連軍の戦い。

地上でのチームトリニティと頂武ジンクス部隊との戦い。

どちらも本来の結果と変わらず、落ち着いた。

トリニティの方は何も関与していないから当然だろうが、トレミーチームにはレナのバックアップシステムを渡した筈だった。

確かにスメラギ・李・ノリエガの手に届いたらしいが、どうやら――出撃前からシステムを変更しておけ――という俺の伝達を無視したらしい。

まったく頭が痛い。何のために事前に渡したと思ってるんだか。

 

しかし、まあ気持ちは分からなくもない。

紅龍(ホンロン)の話だとシステムの話を持ち込んだスメラギに対してティエリアが反発したらしい。

……『ヴェーダ』を信じたかったのだろう。

それを聞くと仕方ない。

ティエリアの反論にスメラギはすんなりと折れてしまったとのことだが、それも。

ティエリアだけではなく、トレミーチームも今まで『ヴェーダ』に助けられてきた。

ギリギリの局面まで万が一がないことを祈ったか。

とにかく俺達の手回しは無駄に終わった。

 

「……はぁ」

 

無意識に嘆息する。

望んでやってることだが忙しい。

随分と疲れも溜まっているようだ。

主にレナの訓練とか、レナの訓練とか、レナの訓練とか。

もう射撃場は見たくない。

 

……なんか思い出したら余計に疲労が押し寄せてきたな。

と、俺が自分の肩を揉み始めた時、レナ同様格納庫を駆けずり回っていたデルが切り上げて俺の隣にやって来た。

意図的にというわけではないようだ。

真っ直ぐきたらたまたま隣だったんだろう、俺も今は休憩してレナ達の開発作業を眺めてるからな。

 

「随分とお疲れなようだな…」

「そっちこそ」

「私はこれが仕事だ」

 

デルも自身の肩を交互に揉み始め、2人して脱力する。

疲れ具合はお互い様だな。

 

「そういえば。お前は人革連に所属していたらしいな」

「なんだよ急に…あ、そうか。レオとデルも…」

「私達の配属は次世代開発技術研究所だがな」

 

次世代開発技術研究所。

人革連のティエレンに代わる、次期主力モビルスーツを開発するための組織。

組織は超兵機関から逃げ出した被検体E-57、アレルヤ・ハプティズムを追っていた。

その過程でガンダムラジエルを見つけ、追っていたのがティエレンチーツーのパイロット――レナード・ファインズとデルフィーヌ・べデリアだ。

 

藪から棒に話を切り出してきたデル。

それも不思議ではない。

俺達は細かい配属は違えど同じ軍出身者なのだから。

逆にこれまで話してこなかったのが不思議なくらいだ。

 

「あの時はコードネームではなく、本名で……デルフィーヌ・べデリアとして戦っていた。超兵とはいえ、幼いレナードを連れてね」

「まあコードネームはソレスタルビーイングと接触してから付けるものだからな。当然だろう。それよりもいいのか?本名俺に教えて」

「あっ…」

 

指摘されて初めて思い出したのか、デルは思わず口を抑える。

だが、俺が転生してきたこともこの世界を物語として見てきたことデルは知ってる。

そっちも思い出したんだろう、顔を紅潮させて睨みつけてきた。

 

「からかったな!」

「はは、すまんすまん」

「……まあいい」

 

おっ、笑って済ませたらほんとに許してもらえた。

まあ冗談に本気で怒るようなことはデルならないな。

充分大人になって――身体も――作業している皆の中から一つだけ鋭い視線を感じた。

今のはなしだ。

 

それにしてもこうした小休憩の中でレオやデルと話せるのはいいな。

ファンにとってはご褒美だ。

思い出話だろうとなんだろうと聞いていて高揚する。

そんな理由でデルから話を切らない限り、俺は長く会話を交わすようにしている。

すると、話は昔話から愛機の話になった。

もちろんデルフィーヌの愛機と言ったら――。

 

「ティエレンチーツー、だな」

「何故それを…っとそうか。生前の知識とやらだな」

「いや、それもあるが俺も乗ってたんだよ。チーツーに」

「なんだと…?」

 

デルが思わず身を起こして振り向く。

そう、俺とデルフィーヌ、レナードの共通点は同じ機体を操縦していたこともある。

国際テロネットワークによる全世界同時多発テロが収まった後、リボンズとアレハンドロの手回しで手に入れたティエレンチーツー。

俺専用に単座に改造され、塗装も黒一色になっていた。

折角だ。その話をデルにしてやろう。

いつもはこちらが楽しませてもらってばかりだからな。

お返しに…なるかはわからないがなることを祈るとしよう。

 

「そうそう、俺専用に改造されて単座になってさ」

「単座!?」

「それで黒一色に…」

「黒一色!?」

 

俺が話す度にデルが驚愕する。

うんうん、いい反応だ。

話し甲斐があるってものだ。

眉間に皺がよって顔を顰めてる気もするけど、勘違いだろう。

間違いなく好反応だ。

そして、予想通りデルは食い付いてきた。

 

「それで今そのティエレンチーツーはどこに…?」

「今?あ、そういやスローネ ツヴァイに破壊されたな」

「破かっ!?貴様…っ!!」

「うおっ!?何だ急に!」

「理由は自分の胸に手を当てて考えろ!!」

 

デルが俺を張ったおそうと襲い掛かってくる。

おかしいな、楽しく談笑のつもりだったんだが……。

それ以降はデルに追いかけ回される俺を見て作業中だった子が止めに介入すると、今度はその子が何故かデルの餌食になるという珍妙な絵が出来上がり、他のみんなは笑っていた。

俺は死ぬかと思ったので笑い事ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デルから逃げるようにミーティングルームに駆け込み、後からレナが合流する。

わざわざ作業を切り上げて来た理由は察しがついた。

 

「レオか」

「うん。苦戦してるみたい」

「苦戦だと…?」

 

月にある『ヴェーダ』へと向かわせたレオ。

元々レナの予備機だった機体の一つ、ガンダムアブルホールTYPE-Fブラックに乗って万が一のために戦闘できるようにしたが、第二世代とはいえ、ガンダムが苦戦するとなれば只事ではない。

ちなみにレナは第二世代ガンダムを全て再生済みとのことらしい。

それも御丁寧なことにTYPE-F仕様、つまりフェレシュテとも繋がっているということだ。

まだ連絡は取ってないが、その気になればフェレシュテとは連絡が取れるらしい。

それはそうと今はレオに何があったか、だ。

サハクエルの擬似太陽炉を積んだアブルホールがそう簡単に苦戦するとは思えない。

 

「映像はあるか?」

「ううん。あるにはあるけど戦闘に必死で何も映ってない」

「戦闘…?まさか『ヴェーダ』付近にMS(モビルスーツ)を配備してたのか。数は?」

「4機。全機、擬似太陽炉搭載型だって」

「くっ…!」

 

やはりそうか。

アブルホールTYPE-Fブラックも擬似太陽炉を積んだガンダム、それにたった4機で対抗するなんて擬似太陽炉搭載型しかない。

アレハンドロかリボンズ、またはそのどちらかは知らないが何かを警戒して擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)を配備しやがったか。

もしくは俺達を警戒してのことかもしれない。

プルトーネブラックはユニオンに晒したし、サハクエルもレナ曰くローブ姿で人革連にバレている可能性があるらしい。

ならば充分に後者も有り得る。

 

「レオは地上に戻ってきたのか?」

「ううん。まだ宇宙(そら)にいるみたい、粒子残量がまだあるからあと1回の戦闘はできるかもーだって」

「そうか…」

 

どうするか。

さっそくフェレシュテに助けを求めるか?

フォンが目覚めるのは本来トランザムが解放された時。

まだフォンが目覚めてないかもしれないが、もしもの可能性に欠けるか。

フォンでなくてもエコ・カローレでもレオと連携すればなんとかなるかもしれない。

とにかく情報が少ないから結論に辿り着けない。

まともに何も映ってないとの話なだけで、映像自体は撮れていると言っていた。

無駄かもしれないが俺も目を通すとしよう。

 

「レナ。映像を見せてくれ」

「え?でも…」

「機体の切れ端でもそれを手掛かりに機体を特定できるかもしれない。……俺ならば」

「そっか。分かった、流すね」

 

納得して了承したレナが大型モニターに映像を流す。

映るのは目まぐるしく回る視界、それを埋めるのはただの宇宙(ほしぞら)だった。

しかし、アブルホールが赤い粒子ビーム――間違いなく敵は擬似太陽炉搭載型である証拠――を避けた時、俺の目に捉えたものがある。

 

「レナ!ストップだ」

「了解」

 

兄妹に対する反応速度、さらに脳量子波の強い繋がりでコンマの差もなく丁度狙い通りに映像が止まる。

映像の中にはなにかの物体が浮かんでいたところで止まっていた。

 

「これは…何かの破片?」

MS(モビルスーツ)のな。ほら、見てみろ。破片に目を凝らせば……敵機の姿が反射して写って見える」

「……っ!ほんとだ!」

 

俺の言う通りに目を凝らすとレナも見つける。

ただ凄く薄い。

レナが拡大鮮明化しても全貌は掴めない。

だが、特徴は掴めた。

 

「これは……ジンクス?」

「いや、これは…」

 

確かに外見はジンクスに似ている。

だが、違う。

ところどころスローネの技術が活用されたあの機体は――。

 

「スローネ ヴァラヌス…」

 

その呟きに答えるようにスローネ ヴァラヌスの複眼は赤く揺らめいていた。



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スローネ救済

『今回、我々国連軍はガンダムに対抗出来うる新型モビルスーツを開発。この新型機で特別部隊を編成し、ガンダム掃討作戦を開始します。作戦名は―――【フォーリンエンジェルス】』

「…………」

 

国防長官が会見にて作戦を宣言する。

擬似太陽炉搭載型の存在も公表した。

ソレスタルビーイングが崩壊する原因となるこの作戦(フォーリンエンジェルス)

これが始まる前には『ヴェーダ』の方をなんとかしたかったが、無理だったか。

レオは尚、月付近のラグランジュ1に留まっている。

一応レナの伝手を辿ってフェレシュテの宇宙船(スペースシップ)をレオのブラックアブルホールへと向かわせ、補給を頼んでいる。

 

これで粒子残量の枯渇も対策が打てるだろう。

あとはフォンさえ起きてくれれば……。

と、思考する俺の元にレナがマグカップを手にやって来る。

マグカップには真っ黒な珈琲が注がれていた。

二つあるうちの片方のマグカップを俺に渡してくるので受け取る。

 

「サンキュ」

「どういたしまして。やっぱり護衛の機体(ヴァラヌス)がいるうちはレオ1人では苦しいね」

「あぁ。というか無理だろ。フォンの容態は?」

「シェリリン曰く、いい傾向ではあるみたいだけど…」

「いつ起きるかは分からない、か」

 

原作通りだが、安心はできない。

そのまま眠り続けるなんて充分有り得る。

フォンが起きてくれるなら『ヴェーダ』奪還は容易いだろう。

起きないようなら……最悪、俺が宇宙(そら)に上がる。

まあその前にやるべきことが一つだけあるが。

 

「とりあえず俺達は俺達で動こう。宇宙(そら)の方はフェレシュテと連携するしかない」

「そうだね。一応デルを向かわせる?」

「いや、太陽炉が足りない。それに()()()に不備があった時あいつがいないのは痛い」

「そっか」

 

格納庫の中に佇む機体を見上げながら、レナが頷くと共に携帯端末を閉じる。

中東のドウルでトリニティが国連軍の追撃を受けていた。

予定通り、それを合図に動き出す。

生身の武装もMS(モビルスーツ)に乗せたところだ。

すると丁度デルが通り掛かった。

作業の途中だからか、整った容姿は、特に顔は黒い汚れが付いていた。

 

「呼んだか?」

「噂をすれば…。こいつ、動かせるよな」

「勿論だ。GNコンデンサーに圧縮粒子をチャージしてある」

「でも戦闘時間は出来るだけ10分に抑えてね。それまでに――」

「分かってる。一方的に蹂躙してみせる」

 

レナの言葉を遮って、表情を強ばらせる。

最先端どころか未来の技術すら使った機体、活動時間はダッシュユニットのない状態より延長されているがそれでも時間制限はある。

10分――『奴』を相手にできるのはそれくらいの時間しか猶予はないだろう。

レナの計算ではそれ以降戦うことは出来ても圧倒することはできないとのこと。

粒子残量と俺の技量が原因だ。

だが、今はそれで充分。無いものねだりをするつもりはない。

やれることを、やるしかない。

そんな覚悟を持って粒子の光で輝くガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュを見上げる。

どうでもいいけど名前長い、ブラックが追加されたせいかもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中東のドウルにての国連軍との交戦。

頂武ジンクス部隊に完全に圧されたトリニティは撤退し、身を隠していた。

粒子残量の少ない損傷も多いガンダムスローネと同じくトリニティも疲弊した。

特に損傷の酷いスローネ ドライの前でネーナは膝をつき、叫ぶ。

 

「うわああーーん!私のドライがぁっ!」

 

愛機を傷つけられたのがよほどショックだったのか、瞳は少し潤み、今にも泣きそうだった。

その隣で可愛い妹の悲しむ姿を見ながらミハエルがヨハンに苛つきげに問う。

 

「どうすんだよ?兄貴!」

「……」

 

本来の流れとは違い、彼らトリニティに王留美(ワン・リューミン)は近付かなかった。

故にヨハンには頼る宛はない。

ラグナとは連絡が取れず、完全に参っていた。

ドライだけでなく、他の機体も損傷しているのにはそういった理由もある。

 

「ん?」

「何だ?」

 

ふとMS(モビルスーツ)特有の接近音が聞こえ、ヨハンとミハエルが見上げる。

すると、スローネから見て正面からAEUのイナクトと思わしき赤い機体がトリニティを見下げていた。

反射的にヨハンとミハエルが警戒するが、イナクトに搭載されたライトが点滅し、彼らにメッセージを送り付けてくる。

 

「光通信…?」

「攻撃の意思はないだと?ネーナ、スローネで待機だ」

「ラージャ!」

 

ヨハンの指示に従い、ドライへと乗り込むネーナ。

ヨハンは銃を、ミハエルはナイフを懐から取り出し、イナクトのコクピットが開くのを息を呑んで待つ。

中から出てきたパイロットに警戒した。

 

「よう!世界を敵に回して難儀してるってのはあんたらか?」

「何者だ!」

 

赤いパイロットスーツに身を包み、尋ねてきた相手にヨハンも問いで返す。

イナクトのパイロットはそれに応じるようにメットを脱いだ。

 

「アリー・アル・サーシェス。ご覧の通り傭兵だ。スポンサーからあんたらをどうにかしてくれって頼まれてなぁ」

「援軍って1機だけじゃねぇか」

「誰に頼まれた?ラグナか?」

 

サーシェスと名乗る傭兵の男。

濃い髭に荒れた髪、まさに戦場を駆け巡ってきたことを象徴する強面が特徴的だった。

サーシェスの言葉にミハエルを始めとしてヨハンも援軍と思い込んだ。

『スポンサー』とやらが誰かはわからない故に問うが、トリニティの位置を把握することは太陽炉を追跡できる『ヴェーダ』のみ。

 

故になぜ国連軍がトリニティの居場所を正確に知っていたのか、始めは不思議だったが、ラグナが裏切ったのであればあり得るとヨハンは考えている。

だが、トリニティの救出を傭兵に頼み込むなどトレミーチームでは考えにくく、やはり自ら行動出来ないラグナなのではないかという結論に落ち着いた。

――しかし、サーシェスから出た言葉は呆気なく、それでいて衝撃的なものだった。

 

「ラグナ?ああ、ラグナ・ハーヴェイの事か。(やっこ)さんは死んだよ」

「何?」

「………っ!?」

 

響く銃声。

1秒にも満たないその時間で時は止まった。

ミハエルは目を見開き、ヨハンは思考が加速し始めた。

そして、サーシェスの手には銃が、放たれた弾丸はしっかりとミハエルの心臓を貫いていた。

その現状をヨハンが理解した時、サーシェスから冷酷な呟きが放たれる。

 

「俺が殺した」

「ミハエル!」

『ミハ兄!』

「ご臨終だ」

 

ラグナを殺したという男。

それだけに留まらず、ミハエルすら殺したサーシェス。

状況を理解したヨハンは急速に頭に血が昇り、珍しくも激昴しながら銃口をサーシェスへと向ける。

 

「貴様っ!う!ぐっ!……くっ…ぐあっ!」

『ヨハン兄!』

 

しかし、構えるのが遅く、ヨハンの放った銃弾の軌道はサーシェスに簡単に読まれ、既に懐に飛び込んでいたサーシェスはそれを避けた。

そこからは流れるようにヨハンが倒され、銃を持ち替えようとした手は踏みつけられて苦痛の声を上げる。

ミハエルが殺され、ヨハンが淘汰される地獄にネーナが叫んだ。

 

「に、逃げろ、ネーナ!」

『でも!』

「行けぇー!!」

『はいっ!』

 

いつもは穏やかなヨハンが必死に叫ぶ姿を見て、ネーナはドライと共に飛翔する。

一連を眺めながらサーシェスはヨハンを解放する。

口角を歪めながら。

 

「美しい兄弟愛だ。早く機体に乗ったらどうだ?これじゃ戦い甲斐がない」

「くっ…」

「いい子だ」

 

情けか本当に愉しみか。

逃がされたヨハンは腕を抑えながらスローネ アインに乗り込む。

飛翔し、ドライと肩を並べた。

 

『ヨハン兄!ミハ兄が……ミハ兄がっ!」

『仇は討つ!』

 

たった3人の家族のうち、愛する弟を失ったヨハンは怒りを込めて出てくるであろうイナクトを睨む。

だが、森から飛び出たのはよく知る緋色の機体――ガンダムスローネ ツヴァイだった。

 

『何っ!?』

『ハッハァ~!』

 

驚愕するヨハンを嘲笑うかのようにサーシェスはツヴァイで接近してくる。

 

『馬鹿な!ツヴァイはミハエルのバイオメトリクスがなければ…っ。……書き換えたというのか!?ヴェーダを使って!!』

『馴れねぇとちと扱い辛ぇが、武装さえわかりゃ後は何とかなるってなぁ!!』

 

真相に辿り着き、驚愕に支配されるヨハン。

純粋にガンダムを操る興奮に駆られるサーシェス。

スローネ ツヴァイがGNバスターソードで斬り掛かってきた。

スローネ アインは振り下ろされるバスターソードをGNビームサーベルで防ぎ、競り合う二刀の間には火花が散る。

 

『何故だ!?何故私達を!』

 

困惑するヨハンは敵であるサーシェスに思わず問い掛けてしまう。

GNハンドガンとGNビームライフルによる粒子ビームの撃ち合いの中、サーシェスは口端を上げて答えた。

 

『生け贄なんだとよ!』

『そんな事が!!』

『同情するぜ!可哀想になぁ!!』

 

激しい粒子ビームと斬り合いの接近戦。

未だに信じることが出来ないヨハンをサーシェスは容赦なく攻め続ける。

 

『私達は、ガンダムマイスターだ!!』

 

突き飛ばしてツヴァイとの距離を取ったヨハンはGNランチャーによる狙撃で落とそうと信念と共に粒子ビームを放つが、サーシェスのツヴァイはそれを全て避け、寧ろ機動がパイロットの素質により通常より速く、GNランチャーの粒子ビームはただツヴァイを追うだけとなった。

 

『この世界を変える為にーーっ!!』

『ご託はぁ!!沢山なんだよォー!!』

 

粒子ビームが命中することはなく、ツヴァイの接近を許してしまい、バスターソードに備えてビームサーベルを構える。

だが、ツヴァイのバスターソードはビームライフルの突きを防ぎ、そのまま刀身の打ち消し縮められたビームサーベルの上を滑るようにバスターソードの刃は綺麗に一閃を描いた。

ツヴァイがアインの背後に流れた時にアインの片腕が墜ちる。

そして、アインに背を向けていたツヴァイが反転してGNハンドガンの銃口をアインに向けてしまった。

 

『ヨハン兄!』

『逝っちまいなぁ!!』

 

放たれる粒子ビーム。

連射されるビームは的確にアインの装甲を貫いていく。

限界を迎えそうになったアインは機体から紫電が走り、最後にツヴァイから放たれた粒子ビーム2発はアインの太陽炉へと目掛けていた。

死の数秒前に自身の運命、トリニティの存在意味、真実に辿り着いたヨハンは涙を流す。

 

『馬鹿な……、私達はマイスターになる為に生み出され……その為に…生きて……っ』

 

涙が頬を伝ったと同時、スローネ アインは太陽炉を粒子ビームによって貫かれる――――ことはなかった。

ツヴァイの放った粒子ビームをアインを守るように割って入った機影が断ち切った。

 

『なんだとっ!?』

『……っ?』

 

全身漆黒に染まる巨体のMS(モビルスーツ)の乱入にサーシェスは目を見開く。

ヨハンは潤む視界と霞む意識で力なく堕ちていくスローネ アインのコクピットでその機体を見上げた。

吹き荒れるGN粒子、粒子ビームをも真っ二つにした純白の刀身。

 

―――それは、まさしく『ガンダム』。

 

ヨハンも知っているガンダムが戦場の視線と空を支配していた。

機体名はガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ。

アヴァランチ・ダッシュ両ユニットを身にまとったブラックアストレアの姿が確かに存在していた。

 

『あれは…』

『ガンダム、アスト…レア…』

『ヨハン兄!』

 

呆気に取られたネーナだが、意識を完全に失い、重力に任されて堕ちていくアインを咄嗟に駆け付け拾う。

そのままドライを操り、アインと共に静かに着陸した。

 

そして、上空。

ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュを操縦するレイ・デスペアはコクピットの中で目の前のツヴァイを睨む。

 

『てめぇ…一体何者(なにもん)だ!?』

『……貴様を倒す、ガンダムマイスターだっ!!』

 

予想外の乱入に困惑するサーシェスに、レイは誇りを借りて名乗る。

瞬間、ブラックアストレアの太陽炉はさらに粒子を噴射した。

 

「ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ、レイ・デスペア!目標を蹂躙するっ!!」

『上等だ、来やがれガンダム……っ!』

 

双方の交えない叫びを合図に、2機のガンダムは衝突した。

GNバスターソードとGNソードはそれを象徴するかのように火花を散らす。




最後のレイ名乗りは通信切ってます。

・ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ

レナが再生したアストレアブラックをフェレシュテの協力でTYPE-F仕様とし、データを参考にレナがコピーしたアヴァランチ・ダッシュユニットをフォン・スパーク方式で無理矢理ブラックアストレアが纏った姿。
パイロットはレイ・デスペアで、レナが構成したバックアップシステムを借りて操縦する。


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冷えた空気が風に乗って頬を掠める。

ゆっくりと五感を取り戻し、瞼を開けた。

 

「ん…っ。なんだ?一体どうなって……」

 

確か記憶が正しければ国連軍に追い詰められ、逃げに逃げてきた筈。

そして、傭兵を名乗る男がイナクトに乗ってやってきた。

 

「あれ…そういやあの傭兵は…。兄貴とネーナもいねえな」

 

起きて早々誰もが居なくなってる事に気付くミハエル。

だが、辺りを見渡して気付いたことがあった。

スローネは消え、イナクトだけがミハエルを見下ろしている。

 

「あ?俺のツヴァイは何処に行った!?」

 

ふと上空を見上げると、空では二つの光影が衝突する。

片方はミハエルの愛機であるスローネ ツヴァイだった。

 

「あれは…!俺のツヴァイじゃねえか!なんでだ。ま、まさかあの傭兵野郎が…っ!」

 

さすがはスローネのマイスターだけあって、ミハエルは状況を偶然にも理解した。

ミハエルのバイオメトリクスが書き換えられた発想には至っていないが。

 

そんなミハエルに近付く影が現れる。

マイスターとして鍛え上げられた動体視力があるミハエルはそれにすぐ気付き、振り返ると少女が居た。

肩に届くかという程の綺麗な黒髪と強調される胸、美しく澄んだ黒目が特徴の女の子だ。

ミハエルは彼女に目を惹かれると共に音もなく現れたことに少し焦りを抱いた。

 

「あ、あんたは…?」

「ミハエル君…だよね。私はレナ・デスペア。スローネ ツヴァイのこと、心配なんだよね」

「……っ!ツヴァイのことを!……もしかしてこの状況分かるか?」

「うん。傭兵の人に貴方は撃たれて…ツヴァイを鹵獲された。でも貴方に撃ち込まれた弾丸は私の撃った麻酔弾だから命に別状はないよ。ツヴァイも、今戦ってるあの機体が取り返してくれる」

「……?え、えっと…よくわかんねえ…。ははは」

「ふふっ、そっか。じゃあ私と待っとこ?」

 

レナが傍に寄って来て微笑んでくる。

パイロットスーツで締め付けられてるにも関わらず、大きく膨らむ彼女の胸を上から見下ろす構図にミハエルはだらしなくも頬を緩め、ニヤつく。

―――どうやら、レナが重要なことを言ったというのに気付いていないらしい。

 

まず、ミハエルを貫いた麻酔弾。

確かにサーシェスは発砲し、その軌道にミハエルの心臓はあった。

だが、レナがタイミングを合わせ、距離を取って狙撃した麻酔弾が意図的にサーシェスの弾に当たり、尚且つ弾のぶつかり合いの反動で麻酔弾の軌道はミハエルへと変わった。

それがミハエル死亡のカモフラージュだった。

サーシェスすらも騙すほどの。

 

そして、笑みを浮かべるレナにデレデレしていたミハエルもさすがに上空の対決にはレナに問いかけた。

特に黒い正義の女神(アストレア)には。

 

「そ、そういや、あのアストレアには誰が乗ってるんだ?まさかフォン・スパークか」

「ううん、あれは―――」

 

意識を逸らすように質問してきたミハエル。

しかし、その目線は全く逸れることなくレナの身体を舐めるように捉えていたが、レナは気にすることなく上空のアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュを一瞥し、再びミハエルに微笑みを向ける。

 

「あれは、私のお兄ちゃんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝突する刃、散る火花。

空を描くように粒子を放出し、ぶつかり合う両機体は共にガンダムであり、パイロットは全くの思想を持つ者だ。

サーシェスはスローネ ツヴァイを駆り、凄まじい機動力で俺のアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュと競う。

相変わらず操縦が化け物みたいに上手い。

スローネ ツヴァイの残量粒子は30%もない筈だが、本当か疑いたくなるな。

 

だが、こちらも格上(それ)は想定している。

だからこそのアヴァランチユニットとダッシュユニットだ。

高機動モードでサーシェスを翻弄する。

奴が優れていても粒子残量は必ず足枷になる。

恐らく出し惜しみはしないだろうが、すぐに劣勢を悟って逃げる筈だ。

そうでないと困るし、逃がすつもりもないけどな。

 

『当たらねえ…っ!?』

『遅い!』

 

スローネ ツヴァイのGNハンドガンから放たれる粒子ビームを回避するのは片手でもできる程容易だ。

粒子ビームを回避しているといつの間にか誘導され、ツヴァイがGNバスターソードで斬り掛かってきた時は焦ったが、GNソードで防ぎ、脚部に仕込まれたビームサーベルで蹴り上げるように一閃し、片腕を切断した。

サーシェスも驚いたのか一度後退し、GNハンドガンを連射したが高機動モードのアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュには通じない。

 

『てめぇ!』

『他人の機体を使った咎だ!』

『くっ…!』

 

捉えることすらできないアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュでツヴァイの懐に入り、蹴り飛ばす。

するとツヴァイは勢いを利用して反転し、俺に背を向けた。

 

『クソが!この俺がぁぁぁあっ!』

『逃がすか!』

 

悔しいのか叫び、後退するサーシェス。

うるせえな。

スピーカーくらい切れよ。

と、そんなことはどうでもいい。

逃がすわけにはいかない。

ツヴァイごと逃げられてはかなわない。

貴重な太陽炉である上にサーシェスにガンダムなんてやったらどんなに悲惨なことになるか考えたくもない。

そういうわけで没収だ。

あいつには早すぎた玩具だ。

 

『墜ちろ!』

『ぐおっ…!?』

 

今度は蹴り落とし、地に仰向けに墜ちたところを踏みつける。

動けないように固定したので逃がすことはない。

さらにGNビームライフルの銃口をコクピットに向ける。

 

『トドメだ!』

「ちくしょう!くそ、せめて死ぬのは回避してやる…っ!!」

『……っ!?』

 

突然白い光が視界を埋め、思わず目を瞑る。

閃光弾か!

 

『クソが…っ!!』

 

ツヴァイのコクピットを開き、中から出てきたサーシェスが閃光弾を放ち、俺の視界を妨害した隙にイナクトに乗り換えやがった。

サーシェス専用の赤いイナクトからサーシェスの苛付きを象徴する叫びが響く。

そして、振り返ることなく一目散に撤退していった。

 

……どうやら脅しが上手くいったようだ。

サーシェスは俺達の事情を知る由もない。

鹵獲されたのなら太陽炉の一つ必要ないと考え、太陽炉ごと殺しにくる――そう捉えるのも仕方ない。

一方的に蹂躙し、スピーディーに攻め上げた上でのコクピットを狙う銃口。

スピード感に圧された状況に思考力を奪い、サーシェスはツヴァイを捨てて逃げるしかなかった。

これで太陽炉とガンダムを一つ確保し、サーシェスにガンダムを与えず、退けることが出来た。

完璧な作戦だ。

 

「さて、と……」

 

地上から手を振る深雪を見遣り、降下する。

地上に降り立ったアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュから俺は降りてミハエルと初対面した。

 

「よぉ、ミハエル・トリニティ。俺はレイ・デスペア。お前と同じガンダムマイスターだ」

「お、俺達も知らないマイスターなんて居たのかよ…」

「驚くのは無理もない。俺とレナはソレスタルビーイングのマイスターじゃないからな」

「なんだって?」

 

ミハエルが訝しむように俺と深雪を交互に見る。

ふむ、少し警戒したか。

馴染みの電磁ナイフをいつでも取り出せるように柄に触れている。

まあとりあえず一人一人説明するのはめんどくさい。

まずはミハエルに状況を理解させよう。

 

「詳しくは後で説明する。今は俺達に付いてきてくれ」

「……援軍ってことでいいのか?俺が寝てたのは気になるけど」

「それでいい。あと寝てたのは命の危機を救ってやったからだ。レナに感謝しろよ」

「命の危機ぃ?」

 

何のことか分からないミハエルはただ首を捻る。

だから一人一人説明するのは面倒臭いんだって。

後で説明するから今は黙っていてほしい。

無理だとは思うが。

俺でも無理だ。

 

「とりあえずお兄さんや妹さんに会いに行こ?ミハエル君」

「え?あ、あぁ…」

 

深雪に覗かれて頬を紅潮させながらも頷くミハエル。

目線が少しけしからん。

多少は多目に見るが手を出したら太陽炉に括りつけて爆薬と一緒に海に捨ててやる。

ちなみに今俺は脳量子波遮断スーツを着ているので深雪に思考を読まれる心配はない。

 

「ヨハン兄…っ!ヨハン兄!!」

「ネーナ?」

「ミハ兄!?なんで……っ!」

 

まさかミハエルが生きていたとは思わなかったんだろう。

スローネ アインのコクピットを号泣しながら叩きまくっているネーナが驚愕して振り向く。

俺達にも気付いて、ブラックアストレアと結びつけたようだ。

複雑な表情をした後、とにかく安心してミハエルに飛びついた。

 

「うわあぁぁぁぁん!良かった、ミハ兄が生きてるー!良かったぁぁあ!!」

「うおっ…。な、なんだよ…どうしたんだネーナ!?一体何が…」

 

深雪に助けを求めるようにミハエルが目線を泳がし、目が合った深雪は会釈して歩み寄る。

とりあえず撫でてあげて、とアドバイスするとミハエルは戸惑ってるからか素直に「あ、あぁ…」と頷いてネーナを撫で始めた。

深雪も結構世話焼きだよな。

 

ネーナは撫でられると安心したように荒れていた呼吸を落ち着かせながら頬を紅く染めながらミハエルを見上げていた。

さすが容姿がいいだけあって潤んだ瞳で上目遣いをされると俺までドキッとする。

向き合っているミハエルなら尚更だろう。

興味ないので見ないが。

 

「さて…ヨハンはこの中か」

「……っ!」

 

スローネ アインのコクピットを小突く俺にネーナがミハエルから離れて振り返る。

警戒と期待か。

ブラックアストレアに乗って助けたのが俺なのは状況を見て理解しているだろうが、何が目的か探るのは仕方ない。

俺も助けられたとしても正体の分からない相手は疑う。

それでも自分ではどうすることもできない兄をなんとかしてくれるかもしれないという先程絶望し掛たが故に期待してるんだろう。

俺達なら救ってくれるかもしれない、と。

 

「レナ。コクピットを開ける方法はあるか?」

 

『ヴェーダ』によって登録されたバイオメトリクスがなければコクピットが他人に開けられることはない。

ていうか不可能だ。

幸いこの場所で留まってるを知っているのはサーシェスのみ。

奴が帰って国連軍に報告するにしても時間は充分にある。

深雪がなんとかできるなら試した方がいいだろう。

 

「ハックできるかもしれないけど、『ヴェーダ』の強固な守りを潜りつけるのに時間が掛かるかも…」

「構わない。やってくれ」

「了解。ハロちゃん」

 

『サポート、サポート』

 

深雪に応じて黒ハロが現れる。

ミハエルとネーナが驚いて言葉も出ず、ミハエルなんかは口を開閉させて指を指している。

深雪…というかレナはコードを取り出し、黒ハロに接続してハックを開始した。

最悪スローネ アインごと持ち帰ってもいいが、ミハエルとネーナを順応させるにはヨハンを説得するのが早い上に返事をしないヨハンがどういった状態なのか気になる。

ただの気絶ならいいが、下手に動かして状態を悪化させる可能性があるからな。

 

「開いたよ」

「ヨハン兄…っ!」

「兄貴!?」

 

暫くしてレナのハックが成功し、アインのコクピットを開くとそこには疲弊しきって顔色悪く気を失っていたヨハンがいた。

ヨハンの普段見ぬ異常な状態に思わず駆け寄るネーナにヨハンがやられたことを知らなかったミハエルが驚愕して切迫する。

2人の気持ちは分かるがまずは容態確認だ。

 

「ごめん、ちょっとだけお兄さんに触れてもいい?」

「う、うん…」

 

レナが出来るだけ優しく問い掛け、ネーナが戸惑いながらも了承する。

ヘルメットを外し、パイロットスーツもはだけさせ、色々と確かめたレナが振り返って俺に伝えてくれる。

 

「脈は問題ないけど、ちょっと呼吸が荒いかな。それに……表情が辛そうでうなされてるみたい。今起こすのは無理かも」

「分かった。アインはアストレアで抱えて行こう。レナはヨハンについてやれ。ネーナとミハエルは各スローネで俺に付いてきて欲しいが…」

 

的確に指示を出したが根本的な問題は解決していない。

ミハエルとネーナは流れに困惑しながらも俺達を完全には信用していない。

小言でネーナがミハエルに俺達がサーシェスから助けてくれたなど説明しているが、完全に信用するには値しない。

ミハエルは話を聞くと微妙そうな表情でどうすればいいのか戸惑い、ネーナも恩から何も言えずにいた。

意外にも切り出したのはミハエル。

ヨハンが起きない今、ネーナにとって唯一の兄であるから率先して前に出たか。

 

「アストレアを持ってるけど、あんたらフェレシュテじゃないんだよな?ソレスタルビーイングじゃねえし……ならなんなんだよ?一体何者だ」

「俺達にこれといって組織名はない。完全に独立している。ガンダムを有しているのは……ヨハンも含めて後で説明する。俺達がお前らのことを知っているのもな」

「そ、その…私達を助けてくれたのはお礼を言うけど…なんで助けてくれたの?」

「助けたのは完全に慈善行為だよ。今は信じてほしい…としか言えないけど、とにかく私達に付いてきて欲しいの」

「まずは匿ってやる。話はそれからだ」

 

レナも入って説得するとミハエルとネーナは不安そうに互いに視線を交わしながら考え込む。

いつもヨハンに頼り、ヨハンの指示に従って動いてきたこいつらに自ら考え、選択させる。

ヨハンさえいれば解決するし、話も理解するだろうからこの手は使いたくなかったんだが仕方ない。

後はこいつらが頷いてくれるのを期待するしかない。

まあ本拠を頂武ジンクス部隊に叩かれたこいつらに帰る場所はないから答えは決まったようなもんだけどな。

 

「……ほんとに匿ってくれるんだよな?俺達を利用しようってなら切り刻むぜ?」

「匿われる身で随分偉そうだな」

「ぐっ…!仕方ねえだろうが!」

「あぁ。仕方ない。まあいいだろう。大丈夫だ、信頼しろ」

 

ミハエルが最終確認として尋ねてきたので肯定する。

すると、ミハエルとネーナは頷き合う。

 

「ガンダムアストレアを持ってるなら国連軍じゃないかも…」

「わ、分かった…。とにかく乗る。匿ってくれ」

「了解。レナ、ヨハンは任せたぞ」

「うん。私達を信じてくれてありがとう!ミハエル君、ネーナちゃん!」

「う、うん…」

 

レナに手を取って礼を言われ、ネーナは照れて俯く。

ミハエルだって不安だったが勇気を出し、俺達に応じ、ネーナはさらに不安だったがミハエルよりも頭を回転させ、俺達に付いていく方向へ結びつけた。

ヨハンのいない状況で少しだけ成長したかもな。

少しだけだが。

 

サーシェスが国連軍に報告するのにもそこまで時間に猶予があるわけではない。

長居をするわけにはいかないので俺のアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュでヨハンとヨハンを介抱するレナの乗ったアインを抱え、飛翔する。

ネーナはドライ、ミハエルはレナの協力でサーシェスのバイオメトリクスを書き換えてからツヴァイを操縦し、落ちた片腕を拾ってから俺のブラックアストレアの後に付くように飛び立った。

 

サーシェスのバイオメトリクスを書き換えるのに、『ヴェーダ』が関係するので時間が掛かったが問題なく終わった。

そういえばレナは何故そこまでハックできるのか。

『ヴェーダ』にアクセスできるのか不思議だったので尋ねてみた。

すると、返ってきた答えは凄く軽い口調だった。

 

「うーん…大体《Rena Despair》、えいっ!って打ち込んだらセキリュティは突破しちゃうね。あとついでに言うとリボンズさんに見つかることもないみたい」

「………………マジで?」

 

もしかしなくてもとんでもないことを聞いてしまった。




塩基配列パターン0000。
それはイオリア・シュヘンベルグが残した最後の希望。


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抗う権利

書き溜め詰まったんで気分を変えて更新します。
ネルシェンの紹介を活動報告に投稿しました。
2ndに移ればわかる内容でもあるので気が向いたら目を通してください。


地下施設こと本拠に帰ってきてまずはガンダム各機を格納庫に収容。

スローネ3機が追加されたことで格納庫も随分とゆとりがなくなり、同時に整備する機体が増えたことでデルの表情から死相が窺えた。

哀れなり、知識がないので手伝えん。

悪いな。

 

連れてきたトリニティは、メディカルルームに直行させたヨハンを除き、ミハエルとネーナは格納庫で大量のガンダムを見て壮観といった感想を叫び合っている。

具体的にはやべぇ!とかなんで黒ばっかなの?地味でださぁーい!など。

後者は深雪が鬼の形相になったのでヨハンを看てやれとメディカルルームに放り込んでおいた。

危ない、折角増えたマイスターが射殺されるところだった。

まあ流石にないだろうけど。

 

どうでもいいけど深雪は黒に謎の拘りがあるよな。

うちにある機体は全部黒の塗装が施されてるし。

以前理由を聞いたところかっこいいからとしか答えなかったが、前世で特に黒が好きと聞いた覚えもない気がする。

寧ろ俺の知ってる深雪ならEカーボンの原色でいいとかいいそうなんだよなぁ。

あいつ前世じゃガンダム、というかロボ系にあまり興味無さそうだったしな。

 

と、まあミハエルとネーナに俺という監視付きの自由行動をさせつつ、待っていたら目的の男が目を覚ました。

当然ヨハン・トリニティだ。

メディカルルームにミハエルとネーナを連れて訪れると何故かヨハンにおかゆを食べさせてる深雪と鉢合わせた。

何してんの?

 

「どういう状況なんだ、これ」

「いや、その…ヨハンさんお腹空いてたみたいだから、つい…」

「ヨハンもヨハンで素直に食ってんなよ…」

「……貴方が、我々を助けてくれた…」

 

まだ病み上がりなのか顔色は宜しくないヨハン。

多分深雪が事前に紹介したんだろう。

ただ随分と虚ろな目で見られてる。

……大体何が原因かはわかるが。

それよりも深雪がヨハンに飯を与えてる構図が餌付けにしか見えないのは何故か。

 

「餌付けじゃないし。レナって呼んでよ、お兄ちゃん」

「悪かったな。あと思考読むな」

 

いつものやり取りを交わすが脳量子波云々を知らないトリニティ兄妹共は首を傾げてる。

知る必要は無い。

とりあえず本題に入ろう。

 

「ヨハン。俺はレイ・デスペアだ、よろしく」

「……はい。話は、彼女から聞いています」

「そうか。なら話が早い。結論から言うぞ、お前ら俺達の仲間になれ」

 

ほんとに尻から話した。

突然の誘いにヨハンは目を丸くする。

最初は驚いただけのようだったが、暫くすると表情が曇った。

 

「貴方方の事情は、把握してまいます…。しかし、私達は、私は…」

「ガンダムマイスターじゃない。それどころか人間ですらない、と?」

「……っ!!」

「なっ!?」

「えっ?」

 

俺の言葉にヨハンは図星を突かれたように目を見開き、ミハエルとネーナは虚をつかれた。

デザインベイビーどうこうじゃない。

ヨハン達は『生』としては見られなかった、というだけの話だ。

それを理解したのはヨハンのみ。

 

「ちょっと待てよ!ふざけんじゃねえっ!!なんで突然そこまで言われなきゃいけねえんだよ!」

「そうよ!確かに生まれはちょっとあれだけど…。私達だって人間なんだから!それも特別な――」

「うるさい、黙れ。そんなことはどうでもいい!」

 

今の最優先はヨハンだ。

外野は黙らせる。

俺は目線でヨハンを促した。

 

「……私達は、マイスターになる為のみに生み出され……その為に…生きて…。ただの、捨て駒…計画をより高い段階へと進ませるための、道具でしか…なかった…」

「そうだ。しかも光栄なことにイオリアに反発する裏切り者の計画だ。最高だな、そこまで徹底的に絶望的だと拍手喝采だぜ」

「お兄ちゃん」

「分かってる。苛めるのはここまでだ。本題に戻る」

 

ヨハンが現実に追い詰められ、暗い顔を上げる。

ま、今までの人生全てが他人のためで、その上要らないなら捨てられるほどどうでもいい存在なんて知ったらショックだよな。

まさに生きる価値がない。

そして、そこで絶望に明け暮れ、朽ち果てるのは楽だ。

だが、それじゃあ俺達が困る。

俺達の理想のために利用させてもらいたいのだ。

勿論俺達も利用される、何処ぞのなんたらコーナーとは違う。

あくまでウィン・ウィンの関係が欲しい。

その為にもまずは――。

 

「ヨハン・トリニティ。お前は、お前達は用が済めば捨てられる、その場限りで生み出されたのかもしれない」

「……」

「だが、生まれてしまえばお前にもある権利が与えられる」

「なにを…」

 

一拍置いて口を開く。

 

「戦う権利だ」

 

僅かにヨハンの目に光が宿った。

 

「どれだけ支配されてようとも、人為的に生み出されようとも。戦うことはできる。抗う権利は生きる人間全てに与えられている。人の歴史は時代の統率者に対し、変革を起こして変わってきたのが何より証拠だ」

 

時代は移りゆくもの。

時代が変わる度に前の統率者が退き、新たな統率者が現れる。

織田信長を討った明智光秀だって、それを討った豊臣秀吉だって、江戸時代を作り出したのは徳川家康。

誰にでも抗い、時代を作る権利がある。

全てを破壊して新たに作るのだ。

 

だからこそ刹那は破壊し、再生し、新たな時代を望んだ。

全てを支配する世界を壊すことが出来ると知っているから。

壊すことで再生するのだと知っているから。

それで新たな世界が誕生するのだと先人達は証明しているのだから。

そして、それはヨハン達も変わらない。

 

確かに支配されていたかもしれない。

捨て駒かもしれない。

でも抗っていい。

戦うことはできる。

自由を勝ち取ると願うことは罪ではない。

 

「ヨハン、武器を取れ。戦うんだ」

「私に…運命に、抗えと…言うのか」

「そうだ。立ち上がれ。自由が欲しいと吠えろ。自分達は人間なのだと訴えろ。……そして、兄だというなら弟妹(きょうだい)達にも自由を掴ませてやれ」

「……っ!」

 

ヨハンがミハエルとネーナを見遣る。

ミハエルは我慢出来なさそうにしていたが、2人とも俺とヨハンの話に横槍は入れなかった。

それどころか、他人事じゃない寧ろ自分たちのことに反応を見せていた。

ヨハンと目が合うとミハエルは気まずそうに、ネーナは暗い表情で目を伏せた。

心做しかネーナは王留美(ワン・リューミン)の元に訪れた時のようだ。

 

――生け贄なんだとよ!

 

サーシェスの言葉。

目的のためだけに生み出され、用が済めば見せしめのために死ぬ。

そんな運命をヨハンだけでなく、こいつらも理解しているはずだ。

特にネーナは俺達が来なければどうなっていたか簡単に想像がつくだろう。

ミハエルは救われず、ヨハンはサーシェスに殺され、ただ本当に簡単に捨てれる。

ラグナですら駒に過ぎなかった。

ならそれより下のネーナ達は――。

 

と、そんなところだろう。

本当に道具でしかなかった。

しかし、俺の言葉にヨハンの瞳に光が戻る。

戦う意志が、灯火が再び揺らめく。

自由を掴み取るために。

そして、大切な弟妹(きょうだい)達のために最初に立ち上がった。

 

「私は新たな使命を得た。ガンダムマイスターとしてではなく、私個人として戦おう」

「やっとその気になったか。なら俺達と組め」

 

断らせなどしない。

 

「俺達は理想を叶えるために戦っている。イオリアためではなく、自分達のためにイオリアのガンダムを使う」

「イオリアのガンダム、を…っ」

「今更躊躇うな。ガンダムは戦争を根絶するためにある。俺達の願いは、必ずそこを通る」

 

俺とレナの理想は出来る限り多くの命を奪わずにこの世界を変えることだ。

当然、戦争なんてもんは論外。

必ず戦争は根絶する。

 

ヨハンは自由を得たい。ミハエルとネーナにも自由を与えたい。

捨て駒としての運命を捨て去りたい。

その為にはアレハンドロやリボンズの手が迫るこの世界を変えなくてはいけない。

その代表例である国連軍なんてもんは早急に排除すべきだ。

つまりは戦争を根絶することになる。

 

結局イオリアの計画と利害が一致する。

ならばガンダムを使っても問題は無い。

それにイオリアはトランザムシステム解放時に言っていた。

 

――『君達が真の平和を勝ち取る為、戦争根絶の為に戦い続ける事を祈る。ソレスタルビーイングの為ではなく、君達の意思で、ガンダムと共に……』

 

個人の意志でも、戦争根絶を目指すのならばガンダムを用いてもいいはずだ。

もうイオリアに縛られる必要は無い。

トレミーチームもラグランジュ1の戦いを経て、自らの意思で変革を起こそうとするのだから。

 

「俺達の理想は、多くの命を奪わずにこの世界を変えること。お前は自由を得ることとミハエルとネーナにも与えてやること。それらすべてを達成するには戦争は根絶すべきだ。だから――」

 

利害は一致する。

例え粒子残量が充分にあってもトリニティは国連軍には叶わない。

それは俺とレナも同じこと。

どれほどレナが優れていて、俺が未来知識を持っていても限界がある。

故に俺はヨハンに手を差し出す。

 

「共に戦おう。俺達と、ガンダムで理想を叶えるんだ」




トリニティは一人、また一人と戦う決意を持ち始める。

だが、彼らの太陽炉は『ヴェーダ』によって追撃されている。
本拠が見つかるのも時間の問題…。

「簡単な話だ。こっちから攻めてしまえばいい」

5機の天使(ガンダム)が国連軍の裏に潜む野望を打ち砕く。


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攻撃は最大の防御

ヨハンが再起し、戦うことを決意した。

全ては(おの)が自由と捨て駒という運命から抜け出すため。

そして、弟妹(きょうだい)の解放のために。

実に兄らしい望みだ。

ヨハンが1人の人間として生きていくことに必要でもある。

 

だが、トリニティの更生は終わりじゃない。

先頭のヨハンをこちらに引き込んだのはあくまで前提の話。

問題はミハエルとネーナだ。

まあこの二人はおいおい人間性を変えていけばいい。

今のままではとてもじゃないが同じ志を持って戦えないが、あいつらの問題点は人間性で、それは戦闘中に特に際立つ。

比較的ではあるが戦闘後の方が更生しやすいというのが持論だ。

深雪は2人のことを知らないので知ってもらうという狙いもある。

 

さて、まずはヨハンを利害関係により味方につけたわけだが、次にやることは決まってない。

もちろん俺の中では既に確定してるけど深雪達にも伝えなければならない。

特に深雪は俺と志を共にし、あくまで俺の考案通りに動いてもらっているからな。

トリニティを一晩休息させた後、卓を囲んでさっそくミーティングを開始した。

 

「今ある擬似太陽炉は5つ…だが、ヨハン、お前はミハエルとネーナをどうする?戦わせるのか」

「は?そんなの決まってんだろ。戦うっての!なんたって俺達はガンダム――」

「ミハエル」

 

お前には聞いてない。と、いう前にヨハンが遮ってくれた。

ヨハンの指示には口答えできないのかミハエルは顔を顰めながら悪態をつく。

まあミハエルは今どうでもいい。

ミハエルとネーナを解放するという目標も持つヨハンが果たして本人達も巻き込むのか、こちら側からすればミハエル達も貴重な戦力だから欲しいがここでヨハンと決別してもしょうがない。

ヨハンの意思は尊重すべきだ。

最悪スローネさえあればいいからな。

 

「こっちとしてはどっちでもいいが…こいつらが納得することも考えてやれよ」

「……えぇ、分かっています。理解した上で私は2人も戦わせたい」

「ほう。何故だ?」

 

少し意外だった。

もっと私情を挟んでくるかと思ったが、やはり頭は冴えるか。

スローネに慣れているミハエルとネーナが各愛機に乗った方が手っ取り早い。

戦力のこともあってスローネ3機にはこれからも使わねければならない。

相手は擬似太陽炉搭載型MSを有する国連軍。

状況からしてヨハンは冷静に判断したのだろう。

ミハエルとネーナは戦闘に導入すべきだと。

 

「理由は察しがつくからいい。本当にいいのか?」

「言ってもスローネを降りないでしょう。…それに、兄としての在り方をもう一度考え直したい」

「……?」

 

どういう心変わりだ?

戦う意志が芽生えたのは分かるし、ミハエルとネーナを戦いに導入する理由も理解できる。

ただ何か兄として成長しようとしているように見えた。

ヨハンはまだ完全に回復してないのか、疲労の残る顔を上げる。

視線の先にはレナがいた。

そういえば昨日は暫くレナに面倒を見て貰っていたらしいがそこで何かしら心境の変化に繋がることが起きたのだろうか。

ま、いい方向に向かおうとしてるならなんでもいいか。

 

「ミハエル。ヨハンの一存で勝手に決めてしまったが、俺達と一緒に戦ってくれるか?」

「当たり前だろ!寧ろなんでガンダム降りなきゃいけねーんだよ」

「ミハエル…!」

「うぇ…?な、なんだよ。兄貴…」

 

早速ヨハンが注意する。

しかし、ミハエルはサーシェスの襲撃をほとんど覚えてなかったし、平常運転なのは仕方ないだろ。

恐らく言葉遣いを注意したいんだろうが、肝心のヨハンが言葉足らずな気がする。

まあこっちとしても無理に敬意払ってもらう程距離を置いた関係になるつもりはないので口を挟むか。

というかミハエルが敬意を払ってきたらちょっと気持ち悪い。

 

「ヨハン。別にいい、気にするな」

「し、しかし…」

「大丈夫だ」

「……」

 

それだけ言うとヨハンは黙る。

次にネーナに問い掛けた。

 

「ネーナ、お前もいいか?」

「ヨ、ヨハン兄…」

「お前の意思で決めるんだ。ネーナ」

「え…。う、うん。私は…」

 

ネーナが言葉に詰まる。

ここに着いた時は殆ど知らないミハエルのテンションに釣られて騒いでいたが、ネーナはすべてを奪われる直前だった。

感じることはあったはずだ。

少なくとも失うことの恐怖、これまで自尊心が高かったと気付いただろう。

そんなネーナの答えは。

 

「……ヨハン兄とミハ兄が戦うならあたしも戦いたい。2人を見送ってもう帰ってこないなんて嫌だもん…」

「そうか…」

「それに。あたしも…」

 

言い掛けて止まる。

辛くなったのか、表情を暗くし、俯く。

ヨハンやネーナが考えていたほど事態は簡単ではなかった。

ラグナは裏切ったのではなく、処分された。

あのラグナでさえ捨て駒に過ぎなかった。

それ以下のネーナ達は意図的に組み込まれたマイスターとして予め定めた段階まで使命をこなすだけ。

以降は不要となって捨てられる。

 

ヨハン達は知らない。

こいつらにとっての親玉は、トリニティなど道具としてか見てなかった。

そのことを送り込まれたサーシェスによって嫌でも理解させられる。

『マイスター』というだけの存在を。

完全に支配された捨て駒という運命を。

ネーナもヨハンが打ちのめされ、絶望する姿を見て察しぐらいはついたはず。

だから、ネーナも運命を変えたいと思ったのだろう。

故に戦うと言った。

 

あとは単純にヨハンに頼り切りになるのは申し訳なかったのか、じっとしてられないのか、変わったとはいえヨハンに不安を感じたのか、真意までは流石に分からん。

とにかく各々の意思は聞いた。

理想に挑む態度の改善はそのうちすることになるだろうが。

 

「さて、意思は聞いたしさっそく次に取る具体的な行動について話す――」

 

言葉を遮るようにぐぅ~と誰かの腹から音が鳴る。

全員の視線がミハエルに釘付けになった。

 

「は、腹減ったぁ…」

 

注目されて恥ずかしくなったのか、誤魔化すように腹を擦るミハエル。

苦笑いするネーナもそれに続くように項垂れた。

 

「あたしもスイーツとか食べたーぃ!」

「肉食いてぇー」

 

そういやここ最近こいつら殆ど食ってないんだっけか。

…まったく。

仕方ないな。

 

「レナ、頼む」

「任せて!」

 

頼まれたレナは笑みを浮かべて承諾した。

腕によりをかけると言い残して厨房へと入ったので期待しておこう。

深雪の飯は昔から美味いからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飯ができるまでの間、少し仮眠していた。

1時間程経つと何処か懐かしくそれでいて食欲をそそる匂いが鼻孔をつく。

だが、俺は目を開けない。

この後に起きる一連の流れを想定して敢えて閉じていた。

 

「お兄ちゃん、起きて」

 

深雪が起こしに来る。

俺の身体をゆさゆさと優しく揺らし、柔らかい声音が耳をくすぐる。

そこでやっと俺は目を覚ました。

 

「……おはよう、深雪」

「もう。ほんとは起きてたんでしょ」

「さぁな」

 

仮眠室の簡易ベッドから身を起こす。

こっちの世界に来てから深雪に起こされるのが心地よくなった。

深雪がいるのが当たり前だと思ってた以前はちょっと鬱陶しく思ったりもあったが、今はそのありがたみを実感している。

やっぱ妹に起こされるのは最高だぜ。

 

「馬鹿なこと思ってないでご飯食べるよ。みんなもう待ってるんだから」

「おう」

 

思考読まれた。

どうせなら弁解しておこう。

決して妹フェチではない。

俺は深雪が妹であることが好きなのだと…!

 

「はいはい。恥ずかしいことは表に出さないでよ」

「出してねえよ。お前が勝手に入り込んでくるんだろうが」

「あ、そっか」

 

などと気の抜けた会話を交わしながら食堂にたどり着いた。

既にヨハンを初めとしてミハエルとネーナが食卓に並べられた食事を食べている。

ミハエルなんかは骨付き肉にがっつき、グラタンや鶏肉に手を伸ばしている。

ネーナはパンケーキやフルーツケーキを頬張っていた。

 

「うんめぇ!めっちゃ美味ぇ!!」

「んーーっ!幸せ~っ!」

 

口々に料理を絶賛する。

白菜と鶏肉のスープグラタンを口に含んだ時のミハエルはまたしても美味ぇ美味ぇ繰り返しながら次々と胃に流し込んでいく。

ネーナもフルーツケーキを頬張ったと思ったら頬を抑えて悶えていた。

そういえばあのフルーツケーキは昨日深雪が作ったやつか。

恐らく残り物だろう。

とにかく深雪は料理に関してもスペックが高くて、比べると俺の長所が見当たらなくなった。

やめよう、悲しい。

 

「さ、私達も食べよ。お兄ちゃん」

「あぁ」

 

深雪に促されて俺も席につく。

食卓にいるのは俺と深雪、トリニティのみ。

まだちょっと夕食には早いからな、子供たちは後で食べるようだ。

デルも然り。

レオは未だにラグランジュ1にて、『ヴェーダ』の奪還を試みている。

フェレシュテでの補給を済まし、目覚めたフォンと挑むようだ。

フォンが協力してくれるか若干不安だったが、『ヴェーダ』の場所を話すと面白いと言って協力してくれた。

まあ『ヴェーダ』の位置って普通知らないからな。

興味が向いたら俺の方まで探りを入れてくるかもしれん。

別に構わんが。

 

「さて、食いながら聞いてくれ」

「んあ?」

「んーー?」

 

ミハエルとネーナが口にものを含みながら視線を向けてくる。

どうでもいいけどミハエルの口からエビフライだったと思わしきエビの尾が4本咥えられている。

一気食いすんなよ。

 

「お前達の目的は自由を得ること。その過程で戦争を根絶する。イオリアの計画ではなく、自らの意思で」

「そふぇがどうひかしふぁのかよ」

「食いながら喋るな」

 

行儀が悪いな。

ヨハンにも注意されてミハエルがバツの悪そうな顔をして素直に謝っている。

基本ヨハンには従順だよな。

まあ今はどうでもいい。

 

「これからの行動を具体的に決めていこうと思う。さっそくだが、世界は現在進行形で動いているし、国連軍のこともあって悠長にはしてられない」

「そうだね。スローネが無事だから擬似太陽炉搭載型MSは地上にも残ってるけど、あっちがどう行動するか分からないもんね」

「あぁ。それにスローネの太陽炉は『ヴェーダ』に追跡される。ここが割れるのも時間の問題だ」

 

『ヴェーダ』の追跡についてトリニティが渋い顔をする。

サーシェスがツヴァイを奪取したことでヨハンとネーナは納得するところもあるみたいだが、やはり『ヴェーダ』の奪還は未だに信じられないんだろう。

色々と状況を飲み込むのにも時間が要りそうだ。

ラグナですら捨て駒だったからな。

 

「ほんとにヴェーダは掌握されちまったのかよ」

「リボンズによってな。リボンズに利用されてる身だが、首謀者はソレスタルビーイングを裏切った監視者、アレハンドロ・コーナー。お前達の生みの親だ」

「なっ…!?」

 

つまりトリニティを生かすも捨てるも道具のように支配しているのはアレハンドロ、ヨハン達が倒すべき対象だとミハエルも理解した。

捨て駒としての運命を変えるにはアレハンドロがいなくならなければならない、と。

 

トリニティの最終的な敵はアレハンドロになるだろう。

だが、黒幕はリボンズなわけで…。

そのリボンズについてはあまり知らないようだ。

 

「リボンズ・アルマーク。人類の進化系、イノベイターを模して『ヴェーダ』によって作られた人造人間イノベイドの1人だ。一応、俺達もそうだが」

「イノベイド…」

「なんじゃそりゃ…」

「イノベイターってなに?」

 

ミハエルはともかくネーナの質問には答えよう。

 

「さっきも言った通り、人間の進化した姿だ。具体的には脳量子波を扱え、意思疎通が図れるようになる」

「なるほど。確かにイオリアの計画に必要な存在…。まさか私達も知らないそれほど重要なことがあったとは」

「組織の中でも知ってるものは限られてるし、第二世代ガンダム開発時でもマイスターやメンバーの勧誘を担当していたグラーべやサダルスードのガンダムマイスター874しか知らなかったしな。無理もない」

 

ガンダムマイスターとしての価値しかなかった3人に教える義理もなかったのだろう。

アレハンドロは知っていたのか…多分知っていたんだろうな。

リボンズをベースにしてトリニティを作り出したわけだし。

ただリボンズってイノベイドとして見られるのは嫌う筈なんだが…人造人間として見られ、参考にされたと思うのは間違いなのだろうか。

もしかすると進化した人類、イノベイターとして見れ、悪い気はしなかったのかもしれない。

まあどうでもいいか。

 

「ダメだ、分かんねえ…」

「あははは。ミハ兄、難しいこと考える柄じゃないもんね」

「うっせー」

 

既視感のあるやり取りだな。

国連軍が攻めてきそうだ。

来たら対応できるか微妙だからやめて欲しいけど。

最悪俺の分の太陽炉をサハクエルに回してレナに出てもらおう。

 

「でもさー、『ヴェーダ』が掌握されたってことは太陽炉が追跡されるんじゃねーの?」

 

それさっきも言ったな。

そう、問題はそこだ。

レナに調べさせたところ、俺達の太陽炉は追跡されないようだがスローネの太陽炉はきっちり追跡されている。

国連軍が来るのも時間の問題だろう。

それにしても俺達の太陽炉も擬似太陽炉なのだが、何故追跡されてないのか謎だ。

 

レナに聞いたが、わかんなーい、しか言わないし。

太陽炉自体レナ自身が作ったらしいから製作途中で何かしら細工をしたと俺は睨んでいる。

本人は心当たりがないと言っているので恐らく原因は設計図。

イオリアが制作過程で何かしら細工を仕込むよう設計図にそれとなく記して、レナが知らずのうちに組み込んでいた…というのが無難だろう。

詳細は知らんけどな。

 

と、話が逸れた。

元超兵機関の子供達の一部とデルが宇宙(そら)に上がる手配と準備に集中してることも含め、既に考えている次の行動について話そう。

レナ曰く、驚いたことに宇宙にも拠点があるらしい。

だから、地上の本拠は最小人数に留めて宇宙へと大人数を事前に逃がした。

残ったのは子供達の中でも腕のいい子とマイスターだけだ。

デルは宇宙(そら)に上がった子供達のお守りをしてもらっている。

 

本当ならデルも残って欲しかったが仕方ない。

故に戦闘もなるべく損傷は避けたいな。

まあそこは対策を既に練ってるので後でいい。

今は必要なのは太陽炉の追跡状況下をどうするかだ。

ミハエルの発言にヨハンが表情を曇らせている。

迷惑をかけたとでも思っているのか、それとも匿ったのは間違いだとでも言いたいのか。

恐らく後者で助けもらった手前口に出しにくいのだろう。

だが、そんな不安は必要ない。

 

「簡単な話だ」

「なにを…」

「あん?」

「んー?」

 

一言放つとトリニティが各々の反応をする。

気負うヨハンは顔を上げ、ミハエルは単純に発言者へと視線を移動させ、ネーナは可愛らしく小首を傾げる。

そんな3人に俺は不敵な笑みを向けた。

 

「やられる前にやる。こっちから攻めてしまえばいい」

 

単純明快。

先行を取ろうってことだ。




現在6話分の書き溜めがあります。


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ゼロ

善は急げ、という訳ではないが国連軍の勢いが強まっている今悠長にはしてられない。

飯を食い終わって休憩が終わるとすぐ、プルトーネ ブラック、スローネ各機で出撃した。

 

『でもよぉ、一体どこに向かうってんだよ』

『ミハ兄、話聞いてなかったの?アフリカ地域に建設中だった軍事用ファクトリーだって』

 

ミハエルの呟きにネーナが呆れたように返す。

まあ出撃前に告げたしな。

ミハエルは新装備の開発を行っているレナを見てるだけで、俺の話を聞いてなかったが。

妹をああいう目で見られるのは不快だが、あいつ中性なんだよなぁ。

知った時にショックを受けなきゃいいが。

 

と、話が逸れた。

俺達が向かっているのは四、五年程前にAEUによるアフリカ地域に建設中の軍事用ファクトリーと思われる施設だった場所だ。

攻められる前に攻めるとは言ったが相手の懐の居場所が分からない。

だが、俺は二つだけ知っていた。

本来は化石採掘場だった場所だが、既に化石は掘り尽くされている。

そして、今となっては立派なGN粒子に関する開発を行う場所になっている。

正確には軍事用ファクトリーとほぼ同地点にある洞窟だけどな。

とにかく各地にある点々としたコーナー家の開発施設の一つということになる。

ジンクスが生まれた原因の一つがこの施設だろう。

 

今となっては各国で開発が進んでいるだろうが、まだ準備段階の施設を攻撃しても仕方ない。

それよりも早急に潰すべき場所を潰し、相手の反応を見る。

現在の敵はまだ世界全体よりアレハンドロとリボンズである。

まだアロウズは存在してないしな。

故に知られているはずのない懐の居場所を把握されてるとなると多少なりとも衝撃を受ける筈だ。

今回やるべきことは洞窟を含めた施設の破壊と他の施設の居場所を捜索すること。

当然GN粒子に関連する開発物は処分する。

 

だが、人を殺す必要は無い。

よく人員を減らさなければ終わらないなどとあるが、今回に限ってはその逆だ。

GN関連の開発物は限られてるし、開発できる場所も限られている。

人数だけあっても意味が無いのだ。

その内世界全体にまで規模が広がるが、そんなのは後回しでいい。

気の遠くなるほど後の話だしな。

未来のことより今のことを優先する。

とりあえず相手の腹の中をかき乱し、一泡吹かせてやる。

本来国連軍も纏まって行動したからソレスタルビーイングは崩壊したんだ。

こうなったらとことん打ち崩して慌てふためかせる。

しかし、俺の手に余る人物が2人もいた。

 

『いけよ、ファングっ!!』

 

スローネ ツヴァイから放たれるGNファング。

それは残酷にも施設だけでなく、逃げ惑う人々をも粉砕していった。

 

『やめろ!ミハエル!殺さなくていいんだ!!』

『あははは!死んじゃえ死んじゃえ!』

『ネーナまで…っ!』

 

スローネ ドライのGNハンドガンは粒子ビームを噴き、施設護衛のMS(モビルスーツ)を破壊していく。

貫くのはコクピット。

確実に殺している。

ネーナはサーシェスの影響で多少マシになったと思ってたんだが…。

 

『死んじゃえ!!あたしは死なない!兄々ズもっ!死ぬのはあんたちなんだからっ!』

 

なるほど。

死の恐怖、失うことへの恐怖がネーナを狂わせているのか。

思っていより重症だ。

これは俺のケアサポートが足りなかった。

クソ…!

少なくとも殺しを楽しんだりはしてないが、狂気的な笑いを上げている。

より深刻な方に変わってしまったかもしれない。

 

『よせ!我々の目的は蹂躙ではない!!』

『ヨ、ヨハン兄…』

 

スローネ アインで道を塞ぎ、ヨハンが2人を制止する。

ネーナはそれで少しだけ冷静を取り戻してくれた。

機体の動きも止まる。

しかし、ミハエルは違った。

 

『えー、兄貴それはねぇよ。一方的な蹂躙!楽しなきゃ損ってもんだぜ!!』

『ミハエル…!!』

 

嗤うミハエルにヨハンが怒りを露にする。

さすがにミハエルも舌打ちし、身を引いた。

 

『わーったよ。なんか兄貴口煩くなったなー』

『口を慎め』

『へいへい』

 

全く反省しないままGNファングを収容するミハエル。

これはヨハンの言うことを聞くのかも怪しくなってきたぞ…。

マズい、ほんとにマズい。

こっちにとっての切り札だったが効果が薄まっている。

 

『……予定通り、施設に侵入する。トリニティは護衛のMS(モビルスーツ)の交戦を続行してくれ。さっきみたいに先行するなよ』

『りょ、了解…』

『へいへい』

 

ネーナはともかくミハエルは本当に分かってるのか?

不安だ…。

しかし、こっちにも予め決めた作戦時間がある。

今は目的を優先しよう。

プルトーネブラックで降下し、施設に侵入。

AEUの施設だが、何かしら分かることはないか調べる。

そもそもAEUの施設なのか怪しかったが、護衛のMS(モビルスーツ)はヘリオンやリアルドだった。

それを根拠にAEUだと思ったがまだ確定はできない。

偽装のためにわざわざ用意したのかもしれんしな。

全部アレハンドロの隠れ開発施設でも頷ける。

 

「よし」

 

必要なデータは取って、再びプルトーネ ブラックに戻る。

次は洞窟だが――モニターを復活させて絶句した。

 

『なんだ…これ…』

 

視界を埋め尽くすのは地に墜ちたヘリオン、ヘリオン、ヘリオン、ヘリオン、ヘリオン、リアルド、リアルド、リアルド――。

もはや原型すらないものもある。

MS(モビルスーツ)どころかワークローダーやジャーチョーの全てが散り散りとなって散らばっていた。

辺りは静かで人独りすら見当たらない。

生体反応も反応しないとか嘘だろ…。

 

『おい』

『……申し訳ない』

 

声を掛けると同時に謝ってたのは当然ヨハンだ。

だが、ヨハンに謝って欲しいわけじゃない。

 

『ミハエル。お前か』

『あぁ?知んねえよ、()()()()()()()()()()()()()

『……なんだと?』

 

こいつ、信じられないこと抜かしやがった。

何が勝手に、だ。

もっとマシな言い訳を考えろよ。

頭が痛いな。

もう1人別の意味で手のかかるやつもいるし。

 

『はぁ…はぁ…失うのはあたし達じゃない…、あんたたちなのよ…!』

 

未だに興奮状態だ。

肩で息をしているのか、荒い息遣いが通信越しに伝わってくる。

ダメだな。

これ以上こいつらを参加させるわけにはいかない。

洞窟には俺単独でいくとしよう。

 

『ヨハン、2人を連れて帰還してくれ』

『……申し訳ない』

 

ヨハンはまたも同じ謝罪を繰り返した。

まあ気持ちは分かる。

兄として情けないとかそんなところだろう。

この程度で負い目を感じなければいいが。

 

『えー、もう帰んのかよ。まだやりたんねえよ』

『我儘を言うな。ミハエル。もう口答えは許さん』

『ちっ。へいへーい』

『生きて、帰れる…兄々ズも一緒に…』

 

ミハエルがヨハンに反抗するようになってきた。

最終的には言うことを聞いているがどうなることやら…。

ネーナは3人で帰還できることを心底から安堵している。

…これ大丈夫なのか?

 

『ま、まあ…お疲れ。後は任せろ』

『申し訳ない』

『もういいって』

 

別れを済ませるとヨハンのスローネ アインがミハエルとネーナを連れて帰還ルートへと進路を変更した。

そのまま軍事用ファクトリーを後にしたのを見届けて俺もプルトーネ ブラックを駆る。

目指すはビサイド・ペインが仕切っていたGN武装の開発施設だ。

洞窟などで見つけにくいが、プルトーネ ブラックに搭乗していれば問題ない。

 

『はぁ…こりゃ先が思いやられるな』

 

トリニティの問題に疲労を感じながら移動する。

人が悪いとは自覚しているが、彼らを助ける時、ヨハンとネーナを更生しやすいタイミングで助太刀に入った。

ヨハンとネーナには真実を知ってもらおうと。

しかし、思った以上にネーナの傷が深い。

ミハエルはヨハンに反抗的な感情を抱くようになったこと以外は想定内だが、ネーナはこのままいくと危険な思考まっしぐらだ。

どうにか対策を打たねばなるまい。

 

『と、ここか』

 

洞窟を発見した。

ここからが大仕事だ。

接近すると、イナクトが6機出現した。

交戦は避けられまいし、必要でもある。

故に粒子を散布しつつ、通信を遮断させ、プルトーネ ブラックのGNビームライフルを右に構え、左にはGNビームサーベルを抜刀した。

 

『プルトーネ ブラック、目標を無力化する――っ!』

 

一気に加速。

イナクトがプルトーネ ブラックに的を絞ってリニアキャノンを発砲する。

一斉に放たれた弾丸は殆どがプルトーネ ブラックへと命中するが、Eカーボンの装甲はその程度では傷つかない。

気にせず、イナクトの1機との間合いを詰め、GNビームライフルから粒子ビームを放った。

 

粒子ビームはイナクトの羽を貫き、蹌踉めく隙に背後に回って主エンジンを撃ち抜いた。

飛ぶための主導力を失ったイナクトは当然重力に逆らえず、地へと吸収されていく。

そして、そのまま墜落した。

下は砂漠なのでクッション替わりになって衝撃吸収のおかげか爆発はしない。

殺さず、無力化。

少々骨が折れるがこの性能差ならいけるだろう。

 

『げっ』

 

と、安心しきっていた時、不意を突くように奴は現れた。

まさかのお約束。

水をぶっかけられた気分だ。

 

――姿を見せたのはGN-X、通称ジンクス。

 

2機のジンクスが施設からゆっくりと浮上してきた。

イナクトを全機無力化した直後の出来事だ。

まったく…イナクトでさえ無力化に苦労したってのに。

果たしてジンクス相手に本気を出さずにいられるのだろうか。

 

『――――っ!』

 

『くっ…!』

 

ジンクスの内1機がGNビームライフルの銃口をこちらに向け、もう1機がGNビームサーベルを抜刀して接近してくる。

なんとか粒子ビームを躱しつつ、斬りかかってきたジンクスには最初から抜刀していたGNビームサーベルで対応した。

ビームサーベル同士でぶつかり合い、火花を散らす。

その一瞬の競り合いを利用して初撃の牽制を放ってきたジンクスが隣に滑り込み、銃口でプルトーネ ブラックを捉えていた。

 

『思い通りにさせるかよ…!』

 

だが、黙って撃たれる程ではない。

衝突していたジンクスを腹部に足を掛けて蹴り飛ばし、GNドライヴの推進力でジンクスの粒子ビームを避ける。

機体に掠ったようだ。

危なかった…。

 

『クソ…!』

 

大体なんなんだこのジンクスは。

なんでこんなところにジンクスがいる。

国連軍に流出したジンクスが30機。

それで全てではなかったか、考えれば案外単純明快な話だ。

確かにジンクスがより多く作られている可能性はある。

擬似太陽炉だって30個で全部ではないし、国連軍に渡すためのジンクスなんてもっと前から出来ていただろう。

国連軍にジンクスを贈る直前までも開発作業は各地で行われている。

贈った後も、だ。

各地の開発パーツが軌道エレベーター内の極秘ファクトリーに運ばれ、ジンクスが完成する。

もし贈った後にも新しいジンクスが完成していたら?

充分に有り得る。

 

通常、発注する分だけ作って終わったりしない。

その後にも事業は続くし、これからも売り続ける。

なら製品の在庫が増えていても何らおかしくない。

それと同一視するのもあれだが、要は国連軍に渡した30機で全てではないということだ。

30機はあくまで国連軍のために用意された数。

そして、決して多くないジンクスや擬似太陽炉搭載型が存在するのだろう。

ソレスタルビーイングが壊滅してやっと開発を加速させることが出来る、ということか。

 

それにしてもそのジンクスをこんなところに配備するとは。

ヒクサー・フェルミが紛れ込んだことで警戒心を抱いているのか?

迷惑な話だ。

だが、まあやることは決まった。

施設を手当り次第破壊し、開発を遅らせる。

これは当初の予定通り。そしてもう一つ。

開発が拡大する前に一掃する。

要するにやることは変わらない。

一掃して足元を掬ってやる…!

 

『その為にもお前らを倒さないとな』

 

戦意を瞳に宿らせる。

対峙するジンクス2機を必ず無力化し、施設を潰す。

 

『――――っ!』

『――――っ!』

 

『来い…!』

 

正直キツい。

トレミーチームと違ってトランザムは使えない。

擬似太陽炉のトランザムの原理をレナに話して組み込んでもらいたいが、いかんせん時間が無い。

ここは己の力で乗り切るしかない!

 

片方に照準を合わせ、粒子ビームを放つ。

だが、同時に接近しつつ撃ったせいか上手く合わせられず、手元が狂った。

粒子ビームが大きく外れる。

 

『ああ、クソ…!』

 

どうしてこうも射撃だけは下手なんだ。

深雪との特訓も効果は出ているはずなのにMS(モビルスーツ)での射撃は以前と大して変わっていない。

狙っていたジンクスが掠りもしなかった粒子ビームに視線を向ける。

悪かったな、下手くそで…!

 

『貰っ――ふっ!!』

 

余所見をしたジンクスにビームサーベルで斬り掛かろうとしたが、もう1機から捉えられているのを感じ、接近を中断した。

急停止したお陰で横入りした粒子ビームは回避する。

ちなみに折角接近したので傍らにいるジンクスにはGNビームライフルをぶん投げた。

戦闘中の余所見をした間抜けは態勢を崩している。

天に唾など吐いていない。

 

『邪魔だ!』

『――――っ!』

 

GNビームサーベルを二刀抜刀し、GNバーニアを噴射し加速する。

ジンクスのGNビームライフルからプルトーネ ブラックを墜とそうと粒子ビームを放ってくるが、機体の態勢を操って全て避ける。

攻撃を受けずに間合いに詰められた。

 

『今度こそ!』

『――っ!』

 

銃口をこちらに向けるが、ビームライフルの銃口を切り落としてやった。

すると、ジンクスはすぐにビームライフルを捨て、二刀流に。

プルトーネ ブラックと衝突する。

 

『くっ…!』

『――っ!』

 

誰が操縦しているのか知る由もないがさすが擬似太陽炉搭載型だけあって手強い。

そう簡単には攻めさせて貰えないか…!

 

『しかし…!』

 

一旦離れ、GNシールドを投げる。

ブーメランのように回転するGNシールドが真っ直ぐとジンクスの上体を狙うが、ジンクスは二刀のGNビームサーベルでGNシールドを三等分する。

だが、あの斬り方だと――中央の破片がジンクスの顔面を抉る!

 

『貰った!』

 

顔面の取れたジンクスはモニターが作動してないのか、見るからに慌て始める。

その隙に両腕を落とそうと二刀共に振りかざすが、俺の視界の端に粒子ビームを捉える。

同時に粒子反応もプルトーネ ブラックが拾った。

 

『当たるかよ!』

『――――っ!?』

 

10mには迫っていたから完全に避けることは出来ない。

だから、自らプルトーネ ブラックの装甲を削って散らし、盾代わりにする。

粒子ビームは防ぎきり、接近してくるジンクスのその勢いを利用させてもらう。

 

『こいつを受け取れ』

 

後退し、顔面を失ったジンクスの腕を掴み、もう1機に投げた。

プルトーネ ブラックを追っていたジンクスは当然そいつを受ける。

 

『――――っ!?』

『――――っ!?』

 

衝突し合うジンクス。

顔面の無い方は困惑する。

2機共に態勢を崩した。

 

『はああああああああああっ!!』

 

俺の双眼が色彩に染まり、急速に接近する。

動きの制限されている今に畳み掛ける。

まずは上から下へ同時に一閃。

二刀のビームサーベルで両方のジンクスの両腕を斬り落とす。

次に脚部を、そして、顔ありの顔面をも。

四肢のないジンクス2機の完成だ。

 

『墜ちろ…っ!!』

 

無防備になったジンクス2機を蹴り落とす。

衝撃と重力に従ってジンクスは地上に墜落した。

例の如く爆破はしていない。

どうせ戦闘不能だ。

パイロットもそのうち出てくるか、出てこなくてもどっちでもいい。

 

『ふぅ…余計な手間をとったな』

 

墜ちたジンクスを見下げて息を吐く。

さすがに疲弊したな。

とはいえ、当初の目的は戦闘じゃない。

これからが本番で、その為にもGNビームライフルを拾う。

GN粒子関連の軍事用ファクトリーとなっている洞窟にモニターを合わせると、中から逃亡する者達の姿が見える。

戦闘中にも逃げた者もいるだろうが、こっちとしてはありがたい。

殺人は最小限にしたいからな。

 

「……さて」

 

プルトーネ ブラックが降下する。

砂漠に足がついたところでGNビームライフルの銃口を洞窟の入口へと向けた。

そして、差し込む。

 

何をやるのか、大体想像つくだろうが洞窟内を撃ち抜き、一掃するつもりだ。

適当に粒子ビームを打ち込めば、中が軍事用ファクトリーとなっている洞窟内は自然と誘爆し、壊滅する。

何せ中にはGN粒子(爆薬)が腐るほどある。

上手くGNコンデンサーでも撃ち抜けば、大爆発が起きるだろう。

 

……場所が洞窟である以上施設だけの破壊は難しい。

出来るだけ逃亡者は見逃し、逃げる時間も与えた。

それでも残る者はいくら待っても逃げはしないだろう。

こちらとて時間は限られている。

多少の犠牲は仕方ない。

 

『すまない』

 

そして、俺は引き金を引いた。



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緋色と双翼の絆

軍事用ファクトリーを破壊し、他のファクトリーの居場所の座標を手入れた。

ついでに倒したジンクスの上体を切り取り、擬似太陽炉を2つ頂戴してきた。

これでレナも出撃することが可能になる。

問題は…。

 

「ミハエルとネーナ、か」

「……」

 

レナが俺の隣で帰ってきて早々見せた映像とにらめっこしている。

スローネ ツヴァイが敵を蹂躙する映像と、スローネ ドライが暴走する映像だ。

何度か再生を繰り返すと端末を閉じる。

 

「……ごめん、お兄ちゃん。もっと楽観視してたよ」

「いや、大丈夫だ。会ったことも見たこともなかったんだから仕方ない」

「うん…とりあえず2人とも私に任せて?」

「なに?」

 

突然何を言い出すんだ?

ただでさえ問題児だというのに2人とも任せろとは…。

 

「何か考えでもあるのか?」

「うーん、特にないけど。多分なんとかなると思う」

 

なんという曖昧な…。

まあしかし、本人が任せろというのなら任せるしかないだろう。

そもそもレナは一度言ったら基本曲げてくれない。

俺の意見を取り入れてくれないわけではないんだけどな。

 

「……まあ、分かった。任せる」

「うん」

 

とりあえず一任するとレナは満足そうに頷く。

ま、ただでさえ手一杯なんだから代わりにやってくれるなら助かる。

でも四六時中機体の整備やら開発やらを担当してるんだからちょっとオーバーワークじゃないのか?

まあ言っても聞かないだろうから黙っておくけどな。

 

さて、ちんたらはしてられない。

軍事用ファクトリーを攻め落としたことでアレハンドロは混乱しているだろうが、すぐに対策をしてくるはずだ。

そうなる前に別の場所を襲撃する。

世界地図規模で展開されている軍事用ファクトリーだが、その中でも重要なのは南極と軌道エレベーターにある極秘ファクトリーだ。

出来れば対策される前にどちらかを落としておきたいが…。

 

「じゃあ私はサハクエルの太陽炉をつけてくるね」

「ん?あぁ」

 

考え込んでいると隣にいたレナは格納庫の整備へと戻っていった。

忙しいこった。

その上ミハエルとネーナのことを頼むなんてちょっと負荷かけ過ぎかもしれないな。

……今更か。

何かあったら駆け寄ろう。

 

ちなみにサハクエルにつける太陽炉はプルトーネ ブラックにつけていた擬似太陽炉を用いるらしい。

わざわざ取り替える意味が分からんのだが…聞いても答えてくれないんだよなぁ。

確かプルトーネ ブラックの擬似太陽炉はレナが作った太陽炉だったか。

それが関係しているのか…本人が話してくれないから真相は闇の中だ。

 

分からないことを考えても仕方ない。

今は考えるべきことを考えるとしよう。

レナを見守りながら再び思考に耽る。

といっても大したこと考えてないけどな。

これからのことだが、やはりミハエルの更生とネーナをなんとかしなくてはいざと言う時に纏まった戦闘ができない。

戦力増強のためにトリニティを勧誘したのにこれでは2人が足を引っ張ってそれにヨハンとレナが付き添う――結果的に人数が減ってしまった。

 

これでは駄目だ。

せめてあの2人をなんとかした後に南極か軌道エレベーターを攻めるべきだ。

しかし、そうなると相手に猶予を与えてしまう…。

最低でもあと3回の襲撃の後にはどちらかを攻めたいな。

それに持ち帰った擬似太陽炉、トリニティの擬似太陽炉は『ヴェーダ』に追跡される。

ここが割れる前に計5回の襲撃をするつもりだ。

 

本拠に来るのは恐らく国連軍の頂武ジンクス部隊。

もしくはユニオンとAEUのジンクス部隊も来るかもしれないが、そうなったらトレミーチームと合流する時間もあり、好都合だ。

劣勢になる可能性があるとしたら擬似太陽炉搭載型以外のMS(モビルスーツ)も組み込んだ物量作戦だな。

やはり数は武器だ。

今のうちに何かしら対策を立てておくか…。

 

「っと、対策といえば…」

 

擬似太陽炉の取り替えとガンダムの整備、新装備の開発などに取り組むレナを見遣り、端末に視線を落とす。

端末画面にはとあるフォーメーションが記されていた。

もしもの時のために用意したものだ。

しかし、計算上完成度は40%となっている。

どうも足りない要素が多過ぎるんだよな。

このまま使ったとしても成功率は著しく低そうだ。

必要な3つの要素、そのうち2つが足りない。

それを揃えない限りこいつの完成はないだろう…。

 

「やっぱ過度な期待はできねえなぁ」

 

もしも、にしては保険になってなさ過ぎる。

どうにかしたいものだがこればっかりはな。

奥で休憩しているトリニティの様子を見に行き、食事と睡眠を済ませると取り敢えず太陽炉の取り替えは完了していた。

いざ出撃だ。

ちなみにトリニティは休憩中だった子供たちと遊んでいたらしい。

どちらかというと遊ばれていた、の方が正しいが。

道理でやつれてるわけだ。特にミハエル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的のファクトリーが視界に入ったところで敵のMS(モビルスーツ)が出現した。

ユニオンリアルド15機に、AEUヘリオン15機、ファントン15機と随分とバラバラの部隊だ。

他にもワークローダーやジャーチョーなどもパラパラと見える。

これを無力化するのは骨が折れそうだ。

まあその苦労をスッキリ最悪の方法で解消してくれる奴がいるのだが…。

 

『いけよ、ファング…!』

 

飛び交うGNファングがリアルドとヘリオン、ファントンを蹂躙していく。

コクピットが次々と貫かれていった。

 

『やめろ…!』

『寧ろ追加してやるぜぇぇええ!!』

 

なっ…さらに2基射出しやがった!?

ミハエルの奴、完全に虐殺するつもりだ。

流石にヨハンも止めに入る。

 

『よせ!ミハエル…っ!』

『どけよ、兄貴!俺はもうあんたの指示は聞きたかねーんだよ!』

『なに…!?』

 

なんだと!?

ミハエルがヨハンに背くなんて…!

反抗期か?ちくしょう!

タイミングを考えろ、タイミングを。

そういえば使命に生きるヨハンが変わってからミハエルは首を傾げていた。

態度も変化したヨハンが気に食わなかったのか。

なににせよ、あのミハエルがヨハンの制止を振り切った…!

 

『ミハエル!』

『俺は俺のやりたいようにやるぜぇぇええ!』

 

『う、うわあああああああああ!?』

『ぎゃあああああああああああ!?』

『ひっ!?』

 

ファントンのパイロットと思わしき悲鳴がスピーカーを通して響く。

手前にいた2機をミハエルがGNハンドガンで撃ち抜いたのだ。

たった一閃にて、目の前の味方が散っていくことに他のパイロットが腰を抜かしている。

そのパイロットのものと思わしきファントンにミハエルのスローネ ツヴァイが切迫する。

マズい、あのままではまた死人が…!

 

『そこまでだよ』

『なっ…!?』

 

だが、俺のプルトーネ ブラックが間に入る前にサハクエルがスローネ ツヴァイの進行を塞いだ。

避けて通ろうとしても展開される双翼に行く手を阻まれる。

 

『邪魔すんなよ!』

『邪魔なのは貴方だよ』

『あ?……っ!何!?』

 

当然GNビームサーベルを抜刀し、ツヴァイのバスターソードを両断したサハクエルにミハエルが驚愕する。

レナ…!?

 

『言ったよね?私達は被害を最小限に抑えるために戦ってるって』

『てめぇ……!やりやがったなぁ……!』

『………』

 

攻撃されたことによりミハエルはレナを敵として認識する。対するレナは頰が揺れることすらないほどに珍しく険しい顔をしていた。

……ガチで怒ってらっしゃる。

 

『私欲のために人を殺すのやめて欲しいって言ってるの。聞こえないの?』

『はぁ?知るかよ。つまんねえことは兄貴に任せるぜ!俺は殺して、殺して楽しむんだよ…!』

 

『――――そう、じゃあ貴方は私達の敵だね』

 

刹那、冷たいものが場を横切る。

翼を羽ばたかせたサハクエルの姿が消えた。

 

『なっ……』

 

ミハエルもサハクエルを見失って唖然としている。

そして、俺はサハクエルを見つけた。

スローネ ツヴァイの背後に。

 

『サハクエル……目標を淘汰するよ』

『なっ!?いつの間に俺の背後に…!?』

『ミハエル!』

 

ヨハンが叫ぶが遅い。

サハクエルは既にGNツインバスターライフルの銃口でツヴァイを捉えていた。

銃口が火を噴くと赤黒い粒子ビームがツヴァイの両腕を抉る。

 

『うわっ!?何しやがるてめぇ…!』

『淘汰するって言ったでしょ』

 

両腕を吹き飛ばされ、振り返るツヴァイだがそこにサハクエルの姿はない。

俺の角度からは見えた。

またしてもツヴァイの背後だ。

降り立つ天使のようにゆっくりと現れている。

 

『貴方は私達の敵、だから墜ちて』

『ぐっ…!いけよ。ファング!』

 

ツインバスターライフルによって片足を失ったツヴァイが後退して、GNファングを放つ。

レナのやつ、手加減してるな。

スローネを上回る機動力そのものはウィングバインダーの恩恵だが、レナならばGNファングの収容ユニットを破壊できたはずだ。

それを片足吹き飛ばすだけに止めた。

つまり、本気で倒す気はないということか。

 

『ミハ兄…!』

『レ、レナ・デスペア、どうかやめて頂きたい!』

『いや、大丈夫だ。ヨハン達は予定通りに進めてくれ』

『レイ・デスペア!?なにを…!?』

『俺を信じろ』

『……っ』

 

押し黙るヨハンは暫く考え込む。

まあ俺が残るから了承はしてくれると思うが。

 

『…了解した。こちらは任せます。不出来な兄ですまない』

『気にするな。ガキのケツを拭くのは慣れてる』

 

それだけ言葉を交わすとヨハンのスローネ アインは申し訳なそうに降下する。

それに続くようにドライも降下するが、ミハエルが気になっているのが傍から見てもわかる。

レナが何をしようとしているのか大体分かったが、限度は弁えないとネーナが暴走しそうだな。

 

『ヨ、ヨハン兄…ミハ兄が!ミハ兄が…っ!』

『ネーナ。彼らとて本気でミハエルを墜とすわけではない。今は作戦の続行に集中しろ』

『でも…!』

『命令だ』

 

ヨハンが一言放つとネーナは諦めたように押し黙る。

ただ凄い形相で俺達を睨んでいた。

モニター越しでわかる。

 

『さて…』

 

ファクトリーの破壊はヨハンとネーナに任せよう。

可能な限りの人命救助はヨハンがいれば徹してくれる筈だ。

敵の無力化も然り。

サハクエルとツヴァイの交戦を見ると明らかにツヴァイが劣勢だ。

ツヴァイのGNファングもサハクエルには通用していない。

 

『狙い撃ちっ!』

 

まず初撃で既に2基は破壊されていた。

続いてウィングバインダーを用いたサハクエルの機動力を活かした回避術で大きく旋回し、直線コースのGNファングは避けている。

通り過ぎたGNファングの中の2基を後から今しがた撃ち落としたところだ。

 

『貰ったぜ!』

 

ツヴァイがサハクエルの背後に出現、武装のないツヴァイはGNファングを回避していたために背中を向けていたサハクエルに蹴りを打ち込もうとしている。

しかし、実はサハクエルの脚部の方がリーチが長い。

 

『遅い…!』

『ごはっ!?てめぇ…!』

 

サハクエルが背後に放った蹴りがツヴァイのコクピットを的確に突く。

予めGNファングに集中するために先に腕を奪ったようだな。

腕を失えばツヴァイはバスターソードとハンドガンという武器を失う。

そうなればファング以外の攻撃方法は蹴りのみだ。

脚部のリーチまで考えてツヴァイの接近を気にせずに済むようになっている。

 

『そこだ、ファング!』

『狙い撃ち!』

 

前方から迫る1基のGNファング。

ツヴァイを蹴り飛ばし、後方に足を伸ばしたサハクエルには回避は不可能だ。

まあ迎撃はできるが。

頭部だけをファングに向け、サブマシンガンで撃ち落とした。

あの小さい標的に一切のズレなく照準を合わせられるのはレナだからこそできる手腕だな。

俺なら即死だ、任せてよかった。

 

『くそっ、まだだ!』

 

『……次のファングの機動は』

『演算完了。演算完了』

『ありがとう、ハロちゃん。でもちょっと違うかな』

 

またしても接近するツヴァイ。

今度はサハクエルがツヴァイを飛び越えるように旋回して回避し、そこにファングが2基向かってくる。

地に顔を向けているサハクエルからすれば左右から迫り来る感じだ。

あぁ、あの態勢なら。

 

『これで7基…』

『んだとっ!?』

 

突然左右にGNツインバスターライフルを広げ、双方狙いを定めて火を噴く。

銃口から放たれた粒子ビームはファングを2基とも撃ち抜いた。

これで残るファングは1基か。

 

『う、嘘だろ…』

 

ただミハエルが戦意を喪失し、残ったファングは収容された。

勝負あったか?

 

『クソ!一体なんなんだよ!』

『……目標を淘汰するよ』

『え?』

 

ミハエルが苛つくと同時にレナが呟く。

ミハエルとしては訳も分からずお叱りを受けた程度に考えていたんだろうが、違う。

今のミハエルはレナに『敵』として見なされている。

つまり…。

 

『がっっ!?』

 

スローネ ツヴァイが蹴り落とされた。

墜落したツヴァイをサハクエルは追う。

ミハエル視点では空から迫り来る殺戮の天使にでも見えているだろう。

それはさぞかし怖いだろうな。

 

『うっ、うああああ!』

『淘汰するって言ったでしょ。まだ終わってないんだから』

 

サハクエルがツヴァイの脚部関節部を踏みつけ、固定する。

これでツヴァイは身動きが一切取れない。

レナはサハクエルを操り、そこらに落ちているリニアライフルを取って振り上げた。

 

『な、なにを…』

『これは罰だよ』

『うわあっ!?』

 

そして、ツヴァイのコクピットに叩きつける。

コクピットは強い衝撃を与えられるだろうがリニアライフルで殴った程度では損害しない。

……なんか既視感があるな、気のせいか。

レナはリニアライフルを鈍器代わりにしてコクピットを何度も一定のリズムを刻んで叩きつける。

 

『ねえ』

『ぐあっ!?』

 

一打。

 

『私欲に身を任せるのは楽しい?』

『うっ!』

 

さらに一打。

 

『楽しいよね。楽だよね。でもね、それじゃダメなんだよ』

『うああっ!や、やめろっての!』

 

さらにもう一打。

 

『止めるわけないじゃん。寧ろなんで止めてもらえると思ってるの?私達はもう味方じゃ、ないんだよ』

『うぐっ!』

 

……俺は残ったリアルドとファントンの無力化でもしておこう。

よし、それがいい。

GNビームライフルで照準を合わせて敵MS(モビルスーツ)の四肢を狙った。

当たらねえ…。

 

『お兄ちゃん、帰ったら射撃訓練』

『え…』

 

思わぬ所で水が向いた。

蘇るトラウマ、恐怖で身が震えてきた。

射撃じゃなくて接近すれば良かった。

今日のレナは特段に機嫌が悪い、射撃訓練も普段より地獄風景になるだろう。

冗談ではなく死んでしまう。

 

『ねえ、私達が死人を出来るだけ出さないようにしてるの、知ってよね?』

『う、あぁ…』

『貴方がしてることは私達の理想を、叶えようとする行動を邪魔する行為なんだよ?』

『わ、分かったからやめろっの!』

『やだ』

 

何度も鈍い音が響く。

コクピットから逃れた敵でさえ真っ青な顔してる。

リニアライフルなんかもう折れかけてるな。

と思ったら持っていたリニアライフルを捨てて、ミハエルが少しだけ救われたような顔をした。

しかし、すぐに新しいのを用意してミハエルの顔から色が無くなる。

 

『……どうして、素直になれないの』

『え?』

 

一瞬ミハエルが目を見開いたが、すぐに衝撃を加えられて身体を打ち付けられる。

気が緩んだせいで舌噛んでるな。

それでも容赦なくサハクエルはリニアライフルを叩き落とす。

 

『前向きに、自分の意思で生きるようになったお兄さんに…劣等感を抱いている』

『……っ』

 

ミハエルが驚愕すると同時に再度コクピットに衝撃が伝わる。

 

『でも、そんなお兄さんが眩しくて自分には真似出来なくて…反抗して…本当にそれでいいの?』

『そ、それは…』

 

珍しくミハエルが動揺している。

俺も珍しくファントンの足を綺麗に撃ち抜いた。

しかし、レナは微塵も触れてくれないしましてや褒めてくれない。

無念。

 

『貴方は自由になりたくないの?誰かの計画のための捨て駒のままで本当にいいの?』

『良いわけねえだろ!でも、俺は兄貴みたいにはできねえ…』

『我慢出来ないだけでしょ。自制心の一つや二つ、ミハエルにも持てるよ!』

『……っ』

 

レナの叫びがリニアライフルの打撃に乗って衝撃が伝わる。

いい加減大人になれ、と。

そして、共に戦いたいと。

 

『自分の理想のためにぐらい一生懸命挑んでよ!やる前から諦めて、逃げないでよ!』

『お前、泣いて…』

 

レナの言葉が微かに震えている。

モニターは切ったので真相はわからんが、雫が頬を伝ったのだろう。

 

『私は…ミハエルと一緒に理想を目指したい。誰の犠牲もない平和な世界で3人にも生きて欲しい…。もう、人が死んでるところは見たくないよぉ…!』

『う、あっ…』

 

俺の知らない10年間。

何があったかは聞いていない。

ただ1つ言えるのはレナは人の死に敏感になっている。

都合上死人を0にすることはできないが、ファクトリーの話をした時も作戦会議の後にレナの嗚咽が部屋から漏れていた。

軍人だった俺だからわかる。

きっと人の死を目の前で見たことがあるのだろう。

それも恐らく自分の手で……。

 

『……』

 

そんなレナの目の前で何人もの人間を虐殺したミハエル。

本人も目の前で泣き崩れるレナの姿を見て悪気を感じたようだ。

言葉が詰まっている。

 

『私欲に身を任せないで!戦ってよ…!戦え!!』

 

想いを叫ぶとレナは息が切れて言葉が続かなくなる。

いつの間にかサハクエルがツヴァイの胸倉を掴んでいた。

サハクエルのコクピットからはもう嗚咽か聞こえない。

 

『レナ…』

 

ミハエルが深雪の今の名を呟く。

俺はモニターをミハエルにだけ繋いだ。

 

『そろそろ運命と向き合え。嫌なら抗え。決して難しいことじゃない。俺の妹の前でもう逃げることは許さないぞ、ミハエル』

『……うるせえな』

 

口では文句を言いながらも特に悪意は感じなかった。

丁度、ヨハンとネーナが施設の破壊に成功したようだ。

そういえば今回はレナの提案を取り入れ、子供達の中でも最年長の男の子が施設に潜入していた。

混乱時なら誰が避難誘導しても、その誰かまで確認することは早々ない。

故にその子には外での戦闘が激しくなったと同時に避難誘導してもらった。

もちろんリスクもあるが、本人の強い希望により実行した。

俺を地上の戦力に回すこともできて、本人の無事は確認できたので最善の結果だろう。

 

今回は前回と比べ、格段に被害が減った。

避難したと思わしき生体反応は数倍に増えていたので確かだ。

あとは潜入した男の子が無事に抜け出せれば、完璧だったがヨハンが無事に拾ったので問題ない。

もう用もないのでファクトリーを立ち去ることにした。

その際、仰向けになったツヴァイを置いてサハクエルが浮上する。

 

『……っ。理想のために戦う気があるなら付いてきて。ミハエルが運命に立ち向かうなら……もう私達は敵じゃないから』

『お、おい…!』

 

一言だけ残して飛び去るサハクエル。

ガンダムプルトーネ ブラック、サハクエル、スローネ アイン、少し遅れてスローネ ドライは帰還ルートを辿って飛翔した。

 

『俺は…』

 

残ったミハエルは辺りを見渡す。

戦闘区域は悲惨なものになったが、沢山の生体反応をスローネ ツヴァイもキャッチしていた。

ミハエルはそれを目に焼き付けて沈黙する…。

 

 

 

 

 

 

暫くして俺達に並行するように緋色の機体――ガンダムスローネ ツヴァイが並んだ。

それを見てレナが俺にモニターを解放してくる。

 

『お兄ちゃん』

『あぁ』

 

俺は軽く頷き、レナは満足そうにモニターを切った。

その時のレナは涙ながらに精一杯、破顔していた。



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ネーナの意思

三度目の襲撃。

ファクトリーを守るようにイナクトとフラッグが銃撃し、交戦していた。

連日で速攻をかけたつもりだがやはり対応が早い。

防衛のMS(モビルスーツ)も格上げされていた。

 

『あー、クソ。つまんねえ…』

『ほらほら、ミハエル。もう少しの辛抱だよ?』

『わーってるよ』

 

ミハエルはすっかり大人しくなってレナに従順になった。

ほんと丸くなったな。

以前は虐殺していたにも関わらず今となっては無力化に留めている。

フラッグのリニアライフルから放たれる弾丸をGNバスターソードで防いではGNハンドガンの粒子ビームで的確に四肢や武装を撃ち抜く。

今のところレナの前では暴走しないし、大丈夫そうだな。

しかし、まだ問題は残っている。

 

『当たれ当たれ!みんな死んじゃえぇぇえ!!』

 

ネーナ・トリニティ。

スローネ ドライを駆るネーナが粒子ビームで敵MS(モビルスーツ)のコクピットを抉っていく。

ミハエルのように殺戮を楽しんでいる訳では無い。

自らやヨハン、ミハエルに向く銃口に怯え、銃器を構える機体から順に墜としていっている。

あくまで恐怖から来る防衛だ。

だが、そんな事しなくても機体性能の差は歴然。

俺達が墜されることはないというのに…!

 

『よせ、ネーナ!』

『お、おい。どうしちまったんだよ…。ネーナ?』

『兄々ズは下がって!全部!全部殺すんだから!!』

『いや、俺じゃねえんだから殺すなって!!』

 

珍しい構図なことに、ミハエルがネーナを制止する。

ツヴァイがドライの肩を掴むが、ドライはGNハンドガンからの発砲をやめない。

 

『いい加減にしろ!』

『邪魔しないでよ!殺さないと…殺さないと、私が奪われる!私は奪う側なんだから!!』

『くっ…!』

 

俺も前に立ち塞がり、止めたが押し退けられた。

ドライはさらに敵MS(モビルスーツ)を撃ち抜き、プルトーネ ブラックは体勢を崩してすぐには止めに入れない。

その隙に2機のイナクトが墜とされた。

くそ、ネーナを止められない!

歯痒い思いを感じたと同時、今度はサハクエルがドライの行く手を阻む。

 

『それ以上はさせない。もうやめて、ネ――』

『う、うあああああああああああああああああああああああっ!!』

 

なんだ!?

突如、ネーナが発狂しながら粒子ビームを乱射した。

照準はサハクエルだ。

 

『レナ…!』

『……っ!』

 

俺が叫ぶまでもなく、サハクエルはウィングバインダーを羽ばたかせ、回避する。

……ひやひやした。

 

『どうした!?ネーナ!』

『いや…嫌っ!嫌ぁぁああ!!』

『お、おい!ネーナ!?』

 

ヨハンとミハエルが暴走するネーナに困惑する。

ネーナは未だにサハクエルを墜とそうと空を駆けるサハクエルに粒子ビームを放ち続けている。

レナを狙ってる…?

どういうことだ。

 

『やめろ!レナを殺す気か!』

『嘘!殺されるのは私!淘汰される…!』

『はぁ?』

 

一体何を……いや、まさか。

思い当たらない節がないわけではない。

淘汰、ネーナは確かにこの言葉を口にした。

 

――『サハクエル、目標を淘汰するよ』

 

レナが敵を倒す時のセリフだ。

以前ミハエルは俺とレナの邪魔をしたことにより、レナに『敵』として認定された。

その時、レナはミハエルを淘汰すると宣言し、蹂躙した。

傍から見れば本気で殺す気があるように。

それを考えると、ネーナはレナを怒らせたと思い至ったのかもしれない。

 

立ち塞がるサハクエルはミハエルを蹂躙した時と同じ構図だ。

連想するのは仕方ない。

ネーナは極端に奪われることを恐れている。

故にレナに淘汰され、奪われるのを怖がり、錯乱したのか。

今のネーナは情緒不安定だ。

発狂するのも無理はない。

……とにかく、レナに任せるのは無理そうだ。

 

『深雪、ネーナは俺に任せろ』

『だからレナだって……え?ど、どうして?』

 

サハクエルの隣にまで接近したプルトーネ ブラックから通信を繋ぐ。

モニターの向こうでレナが思わず振り向いた。

ちなみにネーナはヨハンとミハエルが抑えている。

 

『ネーナはお前を怖がっている。お前が接触するのは無理だ』

『う、うん…。一理、あるけど…』

『悪いな。大丈夫、後で仲直りしよう』

 

正確には仲直りではないような気もするけど。

 

『うん…!』

 

レナが満足そうに頷いたのでいいとしよう。

さて、まずはファクトリーの方を片付けなけらばならない。

 

『レナとミハエルで敵MS(モビルスーツ)の無力化を頼む。俺とヨハンとネーナはファクトリーの破壊を実行する』

『了解』

『えー、マジかよー。…了解』

『了解!』

『………』

 

即座に応えたのはレナで、文句を言いながらも了承したのはミハエル。

一拍置いて力強く応えたのがヨハンで無言なのがネーナだ。

俺とヨハンとネーナが降下する。

 

『ヨハン。ワークローダーとオートマトンの処理は任せる。人命は逃がせよ』

『了解した』

 

指示に従ってスローネ アインが地道な作業に移る。

プルトーネ ブラックの拡大モニターで確認するとファクトリーから脱出する人々を何人か確認した。

ファクトリー内の生体反応は……あともうちょいかな。

外に出ようとしている者がちらほらと残っている。

 

『ネーナ、まだ撃つなよ』

『……分かってる』

 

どうだか。

暫く待機した。

襲い掛かかるフラッグはサハクエルが無力化していく。

相変わらず機動性に長けた機体だな。

ウィングバインダーの空気抵抗で急停止が可能だし、旋回も楽だ。

その分負担は大きいだろうけどな。

だからこそレナは接近戦はしないし、狙撃を得意としてることもあって後方担当だ。

最近は前線に引っ張り出されてるけど文句一つ言わないな。

 

『何よ、ミハ兄…あの女と仲良くしちゃって…』

 

ネーナがぶつくさ言ってる。

前衛担当のスローネ ツヴァイと後衛担当のサハクエル。

確かにいいコンビだな。

さっきからちらほら協力し合っている。

サハクエルは後衛担当というよりレナが後衛担当なんだがそこは割愛する。

あとレナは中性だけどそれも。

 

『ネーナ、施設の避難が完了した。ミッション終了時間までにGN粒子の関連するものを徹底的に破壊する』

『……』

 

返事がないな。

聞こえてないのか?

 

『ネーナ、応答しろ』

『――かない』

『あ?』

 

どうもネーナの声を拾えない。

通信機器が壊れたか?

しかし、次に張り上げたネーナの言葉はしっかりと耳に入った。

 

『操縦が効かない…っ!!』

『なに!?』

 

やっと気付いた。

スローネ ドライの銃口が俺のプルトーネ ブラックを捉えている。

まさか…!

 

『くっ…!』

 

ドライのGNハンドガンから粒子ビームが放たれる。

赤い閃光はプルトーネ ブラックのコクピットへの軌道に乗り、空を裂く。

咄嗟のことで回避できない。

仕方ない、初撃は防ぐ!

 

『ぐあっ…!?』

 

GNシールドで初撃は防いだが衝撃で機体が揺れる。

その隙に第3射や第4射が迫ってくる。

俺のプルトーネ ブラックはイノベイド共が作ったものじゃない。

『ヴェーダ』の最新技術を使ってないこの機体はGNフィールドを張ることはできない。

防ぐ手立てはGNシールドだがいつまでもそれに頼るわけには…!

 

『狙い撃ちっ!』

『レナ…!』

 

丁度のタイミングでサハクエルが援護してくれた。

レナの後方射撃によって俺に迫っていた粒子ビームは全て相殺される。

よし、今のうちに。

 

『ネーナ、何故だ!』

『あ、あたしのせいじゃない!ドライが勝手に…!』

『そうじゃない!なんで勝手に動く。原因を探れ!』

『え…?』

 

ドライの銃撃を躱しながら叫び、ネーナとコンタクトを取る。

俺の指示を受けたネーナはコクピットの至る所を探り始めた。

だが、特に何の不備も見つけられないようだ。

全て隈無く探ったというのに。

ある一点をの除いては。

 

『何もないよ!』

『ネーナ!HAROもちゃんと調べたか!?』

『え、は、HARO…?』

 

回避行動のため空を駆け回りながらってのはきつい。

出来れば早く済ませてもらいたいが…やっとネーナがHAROに触れた。

すると、HAROは耳をパカパカと開閉させ、吊り上がった瞳を点滅させる。

 

『触ンナ。触ンナ』

「は、HARO…?」

 

明らかな拒絶反応。

ビンゴだ。

ネーナが困惑する中、俺はもう一方に声を掛ける。

もちろん粒子ビームを避けながら。

我ながらハード過ぎると思う。

 

『黒ハロ!』

『兄弟、汚染サレテラ!兄弟、汚染サレテラ!』

 

やっぱりか。

黒ハロに尋ねて正解だ。

どうやら黒ハロはHAROにリンクできるらしい。

いや、黒ハロではない。

黒HAROだ。

 

『兄弟機…』

『みたいだな』

 

ヨハンの呟きに同意する。

まあ今はどうでもいい。

黒HAROとレナでせめてドライの制御を奪い返せないか試そう。

誰の制御かは言わずもがな。

 

『アレハンドロ・コーナー!』

 

解答ありがとう、ヨハン。

だが、ほんとにどうでもいい。

どうせ後で叩く。

後回しだ。

優先すべきはドライの暴走を止めること。

ネーナ以前にドライにまで暴走されては叶わん。

 

『レナ!ドライの状況分かるか』

『え、えっと…HAROを通じて遠隔で操作されてるってことくらいなら…。多少は私の憶測も入ってるけど』

『充分だ』

 

問題はどうやって解放するかだ。

HAROをハッキングすれば制御を戻せると考えてるけど如何せん専門外だからな。

下手なことはできない。

とにかく手書きで思いついたことをレナに見せている。

レナは暫く思考した後、行動に出た。

その間敵機はミハエルが一任していたのでご苦労なことだ。

後で何か与えてやろうか。

いや、前回のこと考えたらプラマイゼロだな。

 

『うへぇ…手が疲れる…』

 

泣き言を言ってるが知らん。

何度も言うがドライを優先する。

 

「ハロちゃん!」

『任セロヤイ。任セロヤイ』

 

あいつ、口調安定しねえな。

とにかく俺はドライの気を引かなければ。

暫くサハクエルは動けなくなる。

現在空中停止中だ。

ま、レナが何とかするまでアレハンドロとリボンズの気ぐらい引いてやるさ。

要はサハクエルから意識を逸らせばいい。

さぁ、芸当といこうか。

 

『少しだけ遊んでやる。掛かってこい、ドライ…!』

『――――っ!』

 

宣戦布告に応じるかのようにドライの双眼が発光する。

瞬間、GNハンドガンから凄まじい勢いで粒子ビームが乱射された。

速いな。

まさか挑発に乗るとは思わなかった。

 

『くっ…!』

 

恐ろしい程に視野は広い。

迫り来る粒子ビームの弾丸の数、おおよその弾道、各々の距離感、全て手に取るように分かる。

まるでリズムゲームだな。

後は全て落して、捌いて、躱しきるのみ!

 

『はああああああああああああああっ!!』

 

GNビームライフルを捨て、GNビームサーベルを抜刀。

まず15m圏内にまで迫った第3射までをGNシールドで振り払うように防ぐ。

 

『ふっ!』

 

続いて第4射、第5射をGNビームサーベルで斬り落とし、ドライとの距離を少し縮める。

向かって右の粒子ビームを避け、正面となった第7射をGNシールドで受け止める。

 

『ぐっ…!』

 

多少衝撃が伝わるが、問題ない。

ここからの姿勢変更は得策ではない。

さらに正面から来る第8射もそのまま受ける。

GNシールドが吹っ飛んだが仕方ない。

第9射、第10射も連続で叩き込まれたからな。

それよりも新たなに放たれた粒子ビーム以外で正面15m圏内に迫るものはない。

一気に加速して今のうちに距離を詰める…!

 

『はあっ!』

 

ドライに切迫し、弾丸は全てGNビームサーベルで横薙ぎに捌いた。

同時にドライがGNハンドガンの銃口を動かさぬまま逆腕でGNビームサーベルを抜刀する。

俺の方は刀身を消し、胸前まで持ってくる時間を短縮する。

ドライがGNビームサーベルを振りかぶる頃には間に合わった。

刀身を発生させ、振り落とされたドライのGNビームサーベルを防ぎ、ぶつかり合うことで火花を散らす。

 

『レナ!まだか!』

『もう少し…!』

 

くそ、競り合い続けるだけで稼げる時間はそう長くはない。

せいぜい踏ん張っても30秒か。

ギリギリまで粘ってもいいが、形勢を逆転されるのは困る。

ネーナを傷つけない方向でドライを、その先にいる奴らを翻弄する!

 

「だから、力を貸せ!ブラックプルトーネ!」

 

俺の叫びに呼応して、瞳が色彩に輝く。

今ならプルトーネ ブラックは俺の手足のように動く。

そんな気がした。

だから、遠慮せずレバーを右に倒した。

迷うことなく限界まで。

 

『うおおおおおおおおおおおおおっ!!』

 

天地がひっくり返った。

空は墜ち、地が舞う。

否、プルトーネ ブラックが急回転して上下逆さになったのだ。

勢いよく180度回転したプルトーネ ブラックの足がドライの腕に直撃し、GNビームサーベルを蹴り落とす。

GNビームサーベルを失くしたが、ドライは獲物を失ったわけではない。

無防備なプルトーネ ブラックにGNハンドガンの銃口を向けた。

 

――なら、それよりも速く!

 

『喰らうかよっ!』

 

GNバーニアを噴射してまた回転する。

遠心力を活かしてプルトーネ ブラックの腕でGNハンドガンを振り払った。

GNハンドガンの銃口は空へ向き、放たれた粒子ビームは空に溶ける。

零距離射撃は免れたが、今度はドライが脚部を振り上げていた。

 

『それも当たらねえ…!』

 

再度GNドライヴを噴射して右に避ける。

ドライの蹴りは空振った。

空気を裂く音が乾いたように響く。

だが、ドライの追撃は止まらない。

今度は逆足で膝蹴りを繰り出してきた。

 

『……っ』

 

身体を逸らして回避。

コクピットに掛かる重圧など完全に無視だ。

さっきからGN粒子が視界の邪魔だ。

まあ折角腰にGNコンデンサーが付いているんだ。

存分に使い尽くしてやろう。

と、次はドライが右腕で突いてきた。

プルトーネ ブラックはそれを片腕の受け身部分だけに展開したGNフィールドで防ぐ。

威力の低く広範囲に広げられないものだが、これだけ限定すればそれなりの硬度があるだろう。

現に衝撃は微塵も伝わってこない!

 

『返せ…!』

『えっ?』

 

遠心力もクソ喰らえな機動でGNハンドガンから放たれた粒子ビームを躱し、ドライの背後に回る。

後から四肢を絡めて動きを縛る。

俺の言葉にネーナが反応するが、俺が話し掛けているのはもっと遠くのやつだ。

 

『返せ!ネーナ達の自由を!戦う権利を…!お前らに、奪っていい理由などない!!』

『……っ』

 

届いてはいない。

それでも叫ぶ。

 

『確かにこいつらは奪ってきた!それは決して許されることじゃない!でもそうさせたのはお前達だろう…!だから、こいつらは咎を受ける必要はあるが、戦う権利はある!自由を得ることはできる!それを――』

 

邪魔するな。

道具として利用するな。

抗おうとしているトリニティをせめて敵として見ろ。

また道具としていい様に操って捨てようとするんじゃない。

いい加減、こいつらにも己の意思で戦わせてやれよ。

 

『こいつらはもう奪わない!それでもお前らが奪うというのなら、俺がこいつらを守る!!』

『レイ…』

 

プルトーネ ブラックのモニターに完了のメッセージが送られる。

合図を送り、レナは頷いた。

ネーナを支配から解放する…!

 

『もう奪われたくない…。支配されたくない!あたし達、あたしはっ!自由になるんだあぁぁぁぁああああーーーっ!!』

 

ネーナが弾けたように想いを叫ぶ。

黒HAROからHAROへのハッキングが成功。

アレハンドロの支配を拒絶し、繋がりを断ち切る。

リボンズのやつが逆探知でレナの存在を暴こうとするが、レナがパスワードを打ち込んでシステムブロックする。

イオリアに守られたレナの特権、リボンズ程度ではそれを破ることはできない。

 

『成功したよ!』

『あれは…』

『ステルスフィールドじゃねえか。ネーナ!』

 

己の意思を象徴するように広く、美しく、翼のようにGNステルスフィールドが広範囲に展開された。

俺達を守るように散布される擬似GN粒子は敵機やファクトリーの者に増援を呼ばせず、またアレハンドロが国連軍を差し向けようとも撹乱できる。

これで脱出ルートも確保出来たことになるな。

 

『スローネ ドライ、ネーナ・トリニティ!ファクトリーを破壊します!』

 

そして、ネーナによってファクトリーは壊滅した。

残す襲撃はあと3回。

前回と同じく避難誘導に徹していた男の子をネーナが拾い、作戦を完遂した。

だが、俺達はアレハンドロを本気にさせた。

次の襲撃で死闘が俺達を待っている。




アプリ版スパロボのクロスアンジュイベでのネーナの更生というか心境の変化が上手く書かれていて、寧ろうますぎてこの話が上手くいってるのか不安になりました。
それにしても公式が二次創作ネタというか転生とかそういうの使うとは思いませんでした…。
まあスパロボ自体が二次創作感ありますけどね。だからこそ面白くて最高なのだと個人的に思ってます。
ちなみにこの話書き終わってからクロスアンジュイベやりました。
アプリをインストールしたのがイベ終了三日前で3日で全力で回ったのですがテオドーラは3凸終了でした…。
無念!


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翼持ち

『ヴェーダ』本体。

掌握作業を終えたリボンズは以降も世界の情勢を眺め、アレハンドロに伝えていた。

アルヴァトーレの準備は出来ている。

しかし、あの機体を宇宙(そら)に上げるには地上に不安要素が多過ぎた。

その最もの原因であるのがリボンズが『ヴェーダ』を通して追跡している5つの擬似太陽炉だ。

 

「リボンズ。トリニティの様子は?」

「現在コーナー家のファクトリーを三箇所破壊し、尚も続ける様子です」

「ふむ。あのトリニティがここまで粘るとは…」

「誰かが入れ知恵していると見ていいでしょう」

「そうだな」

 

眼下の端末。

その画面には2機の擬似太陽炉搭載機が映っている。

内、1機はアレハンドロも知っていた。

第二世代ガンダムのガンダムプルトーネ、塗装こそ変わっているものの間違いない。

問題は現在プルトーネはソレスタルビーイングを支援する組織フェレシュテが管轄している筈だ。

しかし、このプルトーネはフェレシュテのものではない。

彼らならば擬似太陽炉ではなくオリジナルの太陽炉を使うからだ。

 

「しかし…」

 

もう1機。

画面に映る、双翼を有する機体。

まるで黒い天使のようなその容姿を持ったガンダムをアレハンドロは知らない。

リボンズに尋ねても知らず、『ヴェーダ』にデータもなかった。

完全に謎に包まれた機体。

ソレスタルビーイングが作ったのならば必ず機体データが『ヴェーダ』に保存される。

故に『翼持ち』は、ソレスタルビーイングの機体ではないと考えるのが普通だ。

しかし、コーナー家以外に極秘に太陽炉搭載機を作ることなどほぼ不可能といえるだろう。

 

必要なものが多すぎる。

まずは資金、開発するのに膨大な資金が必ず必要になる。

そして、技術。

腕のいいメカニックに、人員が必須だ。

さらに『ヴェーダ』に計画を歪める要因ではない、寧ろ助けになると思わせなければならない。

そうでないと『ヴェーダ』に敵として認識され、すぐにソレスタルビーイングが潰しにかかることになる。

実はこれが一番重要である。

 

「三度の襲撃でトリニティの暴走性が沈静化している…。アレハンドロ様、これは一体…」

「……分からん」

 

トリニティと共に行動している最低でも2人。

彼らがどのようにしてトリニティと協力関係にあるのか不明だ。

リボンズはHAROへのハッキングを妨害され、逆探知したがシステムブロックされた。

『ヴェーダ』を掌握し、高いアクセス権を持つリボンズが。

故にリボンズは正体をつき務めることの方が尽力しているように見える。

結果は芳しくないが。

 

翼持ちが有する追跡できない擬似太陽炉。

『ヴェーダ』、否、イオリアのシステムによって守られた者。

全貌どころか掴みどころがない。

完全なる正体不明だ。

幸い、5基の擬似太陽炉を彼らは有しており、それらは追跡可能だ。

既に基地ともいえる隠れ蓑も特定していた。

ただし座標だけだが。

 

「アレハンドロ様。何故こちらから襲撃をなさらないのですか?」

「敵の本拠の情報も掴めない。座標だけしかわからない今、突入して返り討ちを受けるのは避けたいのだよ。国連軍に、擬似太陽炉搭載機、そして私の姫騎士(プリンセス)。全ての駒を揃え、万全の姿勢を整えてから攻め込みたい」

「……ではアルヴァトーレは」

宇宙(そら)の国連軍が危うい状態に至らない限りは地上に残しておく。だが、宇宙(そら)へ上げる準備はしておいてくれ」

「了解しました」

 

アレハンドロの指示にリボンズは頷く。

今はこちらが懐を荒らされている状況、まずは相手の勢いを止めるのが先決だとアレハンドロは判断した。

それから全ての駒を揃え、確実に潰す。

相手はガンダムが5機以上。

全貌が掴めない故にそれくらいの対策は必要だ。

 

「リボンズ。次の襲撃予測ポイントは?」

「最初に襲撃されたアフリカ地域の軍事用ファクトリー。そこから得られる情報を辿ったのだとすると…候補は5つ程」

「ではその全てにヴァラヌスを配備しよう。対応中、敵が出没したファクトリーに国連軍を派遣。これで…」

「挟み撃ち」

 

返答の代わりにふっ、と微笑むアレハンドロ。

リボンズは内心悪い御方だ…などと苦笑いしていた。

 

「それにしても何者か…」

 

未だに払拭しきれず残る疑問。

送り込んだサーシェスも返り討ちに合い、ここまで攻め込まれた。

トリニティを更生し、丸め込み、彼らと共に行動することが可能な存在。

追跡不可能な擬似太陽炉を作り出すことが出来、最初に襲撃したファクトリーの居場所は予め知っていたと見て間違いない。

そして、『ヴェーダ』にデータのない、作られた形跡のない太陽炉搭載機の作成。

それら全てを可能とするのは一体、誰か。

 

「リボンズ。君はどう思う?私は他の監視者と睨んでいるが」

「その可能性は否定できません。僕も憶測程度でしか…」

「言ってみたまえ」

 

自信がなさそうに困った笑いを浮かべるリボンズ。

そんなリボンズも天使のように尊いと見惚れるアレハンドロだが、状況のこともあり、思考を振り払う。

今はリボンズの意見を参考にしたかった。

 

「僕の勝手な妄想ですが、もし仮にイオリア計画を守護する存在。『ヴェーダ』にも認められ、イオリア計画の狂いを修正する役割を持った守護者的な者がいるのなら有り得るかと…」

「守護者、か」

 

それは高度な『ヴェーダ』アクセス権を持ち、イオリア計画の修正を担当し、他からは干渉不可な『ヴェーダ』に守られた存在。

そんなものが本当にいるのならば、今の世界の状況。

太陽炉搭載機を有する国連軍が現れたことにより歪んだ計画を修正するために行動するのはおかしくない。

しかし、仮定に過ぎないが。

 

「すみません。さすがに有り得ませんね」

「いや」

 

アレハンドロは否定する。

過去に1つだけ似たようなケースがあった。

ソレスタルビーイングに裏切り者が出現し、第三世代ガンダムテスト時にソレスタルビーイングが大きな打撃を受けた時のこと。

第二世代ガンダムのガンダムマイスター874が裏切り者の対応に向かい、圧倒的不利な状況に陥った後から記録が殆どない。

アレハンドロのアクセス権ならばガンダムラジエルによって抹殺されたと記されていたが、リボンズのアクセス権で検索すると、結果は同じものの過程がほぼ白紙だった。

まるで何かを秘匿するように。

わかり易い嘘もなく。

そこにはガンダムラジエルの文字はなかった。

 

「もしかすると、第三世代ガンダム開発時からいたかもしれん。裏切り者の抹殺…計画の修正か。リボンズ、君の意見。中々バカにはできんよ」

「そうですか?なら良かったです」

 

安堵したようにリボンズは微笑する。

アレハンドロはその笑顔に見惚れながらも思考する。

追跡不可能な擬似太陽炉を載せた『翼持ち』の機体。

そして、『ヴェーダ』本体に侵入しようとするもう1機の追跡不可能な擬似太陽炉搭載機。

イオリア計画の修正し、守護する存在。

アレハンドロは『翼持ち』を睨む。

 

「リボンズ。襲撃予測ポイントの中に軌道エレベーターの極秘ファクトリーと南極のファクトリーも入れておいてくれたまえ」

「構いませんが、何故?」

「なに。念の為だよ。まだ潰されては敵わんからな。それとアルヴァトーレの準備を。奴らの本拠を叩き次第、宇宙(そら)へ上げる」

「そのように手配しておきます」

「あぁ、頼んだよ」

 

さて…と世界を見下ろす。

まさかここまで手こずらせてくる者がいるとは思っていなかったが、これはこれで面白い。

まだ焦るほどの異常(イレギュラー)ではない。

あちらの出方を見て、こちらもそれ相当の対応をさせてもらおう。

再度微笑すると、今度は月面の映像へと目を向けた。

 

「そろそろお灸を据えてやらねばな」

 

未だ攻め込もうと悪戦苦闘する第二世代ガンダムが2機。

擬似太陽炉の光を放つアブルホールとオリジナル太陽炉の光を放つアストレア。

侵入を拒むMS(モビルスーツ)部隊との交戦をアレハンドロは余裕のある笑みで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予定を変更した。

襲撃の回数を減らし、一旦休養を取る。

トリニティも働き詰めで文句を言ってたこともあったしな。

もちろんそれが理由じゃないが、正直無理して連続出撃するほどファクトリーを1つでも多く破壊するのが得策なわけではない。

寧ろ限られた時間の中で襲撃できる回数も限られる中、敵に大打撃を与えれればいいのだ。

そうなると狙うは軌道エレベーターの極秘ファクトリーか南極だ。

話し合いの結果、次の対象は軌道エレベーターの極秘ファクトリーとなった。

 

「ま、南極までの距離を考えたら当然か」

「しかし、軌道エレベーターの周辺も容易にガンダムでは近付けない。黒幕だけでなく、国連軍や各国家の妨害が入るのでは?」

「そうだね。その点どうするの?お兄ちゃん」

 

深雪の用意した飯を口にしつつヨハンの意見に同意した深雪が尋ねてくる。

言ってることは最もだ。

そこが問題だと言ってもいい。

ただでさえ守りが厳重な軌道エレベーターだ。

騒ぎを起こせば駆け付けるのは国連軍だけではないだろう。

元々軌道エレベーターの護衛を担当しているMS(モビルスーツ)部隊、国連軍の頂武ジンクス部隊、領土内で交戦があった場合に駆け付けてくるであろう国家群のMS(モビルスーツ)部隊。

考えられるだけでそれだけは集結する。

ガンダムといえどたった5機では数の利に敵わない。

合同軍事演習がいい例だが、今回はその上にジンクスもいる。

 

「どうにかして数を減らせるよう工面するか…」

「それか速攻かな。30分で片をつける、とか」

「厳しいな…」

 

さすがにちょっときつい。

ファクトリー内と軌道エレベーター内の避難が終わるまで極力ファクトリーを襲いたくはない。

いつもならファクトリーの避難さえ待てばいいが、軌道エレベーターでの混乱を考えるとやはりあちらも待たねばならない。

その間に国連軍が駆けつけるのは確実だろう。

 

「うーん…あたしのドライのステルスフィールドで増援無くせないの?」

「電波障害のジャミングか…。確かにレーダーは作動しなくなり、俺達の位置は割れにくいが…」

 

如何せん時間稼ぎにしかならないんだよな、これが。

どうせ国連軍には出撃前に軌道エレベーターが目的なのはバレてるし、頂武ジンクス部隊には事前に伝わるだろう。

軌道エレベーターにさえ辿り着けば後は目視でなんとかなる。

他の増援部隊も然り。

ま、稼げる分は稼いでおくか。

無いより全然良い。

 

「一応張ってくれ。欲しいのは時間だ。最悪撤退時に国連軍と鉢合わせしていい。切り抜けるだけだからな」

「中々ハードね…。ネーナ、憂鬱だわ」

「仕方ないもんは仕方ない。レナ、脱出ルートを算出しておいてくれ」

「了解。任せて、お兄ちゃん」

 

レナから二つ返事の了承を貰い、表情を曇らせてチーズケーキを頬張るネーナに視線を向ける。

すると明るく朗らかに微笑んでウインクして見せた。

口では文句を言ってもやる気はあるみたいだ。

自分達のために戦っているんだからな。

前回のこともあり、覚悟は決まっているようだ。

 

「機体はどうする?」

「うーん」

 

ヨハン達はもちろんスローネだが、俺とレナに関しては状況に合わせて機体を変える。

レナもサダルスードで出撃する場合もあるからな。

まあ今回はサハクエル一択だが。

逆に俺は選択肢が多い。

なんとなく最初に使ったプルトーネが馴染んでいるが、今回重視すべきなのは何か、考慮して選択しなければ。

遠距離砲はスローネ アインとサハクエルで足りている。

ネーナはステルスフィールド使用のため、スローネ ドライ。

ドライは遊撃型で、ツヴァイは接近型。

バランスを考えるのなら接近も対応できる遊撃型が理想か。

 

「まあそれは脱出ルートの算出だったり、作戦内容を具体的にしてから決めようかな。その方が必要な要素も見えてくるし」

「それもそうだな」

 

異論はない。

どれでも出撃できる状態に保っておこう。

ちなみに1度目の襲撃からサハクエルを隠すことなく出しているが、理由は2つほどある。

まずはトリニティの駆るスローネを圧倒するにはサハクエルでないと不可能だということ。

実はこれは後から聞いた話だけどな。

事前に聞いてたら元から淘汰する気だったのかと顔がひくつきそうだ。

 

もうひとつは国連軍対策だ。

もし仮に予測より早く国連軍と衝突することになったらサハクエルはかなり戦力の足しになる。

相手も擬似太陽炉搭載機、レナの技量が優れていても防御の薄いサダルスードでジンクスと接戦するのは難しい。

サハクエルとサダルスード以外はレナが慣れてないこともあって論外だ。

作った本人だからといって全部に乗ったわけではないらしい。

まあ俺と再会するまでは予備の機体だったって聞いたしな。

 

「とりあえず次に攻めるのは軌道エレベーターの極秘ファクトリーだ。激戦も視野に入れ、いつもより長時間の作戦になる。肝に銘じておけよ、あとミハエル話聞いてるか?」

「聞いふぇるふぇっ!」

 

ミハエルが口の中いっぱいに鶏肉のチキンを詰め、どデカいハンバーガーにかぶりつきながら大きく頷く。

全然信用できん。

ま、後で詳細を決めてもう一度話すし、ヨハンからも説明するだろうからいいか。

飯を食いながら大まかな作戦会議は終えた。

 

数時間後、出撃する機体はスローネとアヴァランチブラックアストレアダッシュ、サハクエルとなり。

各機体整備と調整に追われる中、襲撃は明日となった。



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悪戦苦闘

軌道エレベーターまでの道のりはさすがにガンダムで行くわけにもいかないのでレナの操る飛行艇にガンダム各機を乗せて人革連領に侵入した。

ちなみに飛行艇に無理矢理乗せたガンダムはギリギリ5機収容できただけあって詰め放題みたいな状況になっている。

出撃する時はコクピットに座ってすぐ落ちるように出ることになるだろう。

ハッチなんてもんはないからな。

……そういえば、特にサハクエルは場所を食ってる気がする。

 

「何か言った…?」

「いえ。ナンデモナイデス」

 

こっわ。

操縦席に座っているレナが目を除いて笑顔で尋ねてきた。

脳量子波遮断スーツ着ているのになんで考えがバレたんだ…。

まあ長年一緒にいる妹だからこそ成せる技なのだろう。

恐ろしいことだ、遮断スーツを着ていても用心しておこう。

特に表情とか。

 

「……」

「ねえ、まーだー?」

「ふわぁ…腹減ったぜー…」

「もうすぐ着くから待ってね、ネーナ。ミハエルは帰ったら何か作ってあげる」

「りょーかーい」

「マジかよ、やったぜ!」

 

なんてやり取りも後部座席に座っているトリニティから聞こえる。

深雪は操縦しながら対応してて大変そうだ。

ちなみにヨハンは集中力を練っている。

目を瞑って心を静めているようだ。

振り返ったら身体がピクリと動いたので寝てる訳では無いのが証拠だな。

 

さて、人革連領に入ったがもちろん無断で飛べるわけではない。

金持ちの自家用ジェットのサイズでもないしな。

一応偽装はしてある。

『ヴェーダ』に見抜かれるかは賭けだが―――と、その時飛行艇が激しく揺れた。

ヨハンも目を開く。

賭けに負けたか…。

 

「敵襲!バレてるよ…!」

「みたいだな。情報操作で仕掛けてきたか」

 

眼下を映すモニターを見ると人革連のMS(モビルスーツ)が編隊を組んで地上から砲撃していた。

丁度人口密集区を抜けたところだ。

さすがに人の多いところでは軍も手を出しづらいと思って人口密集区を出来るだけ広範囲通過するようなルートにしたが、穴場を狙ってきたか。

当然だが、軍需工場や軍事用ファクトリーは迂回している。

まあ攻撃された今となっては関係ないが。

 

「人革連のMS(モビルスーツ)…!」

「狙いは時間稼ぎか」

 

ヨハンもモニターを覗いて顔を顰めている。

相手の狙いはわかった。

場所的に大型の部隊を置けない故の少数部隊。

決してガンダムに対抗できないMS(モビルスーツ)での攻撃。

飛行艇を落とそうとしているのだろうが、こっちの移動手段を完全に特定したというよりは現場の判断に近い。

よって少しでも軌道エレベーターの極秘ファクトリーの襲撃時間を遅らせようとしていると見ていい。

ここまでしてくるとなると、極秘ファクトリーにはかなりの防衛ラインが用意されるだろう。

その為のゆとり、与えるわけにはいかないがな…!

 

「行くぞ、レナ!」

「うん!」

「ミハエル、ネーナ。出撃だ」

「おうよ!」

「ラージャっ!」

 

俺の呼び掛けにレナが飛行艇の操縦をオートモードにして、艦内データを全削除。

(のち)、自動で周辺に着陸するであろう飛行艇の操縦席から離れる。

ミハエルとネーナもヨハンの指示に笑みで応え、各々垂直のコクピットに多少苦労しつつも乗り込んだ。

 

『オープン!』

 

レナの掛け声と操作に反応して機体が晒される。

出撃順は下から積み上げられた機体から。

一番下は俺のアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュだ。

 

『ブラックアストレア、レイ・デスペア!出撃する…!』

 

刹那、太陽炉とダッシュユニットからGN粒子が噴射され、飛行艇から出る。

姿を見せた俺のブラックアストレアに銃弾が集中するが、愚策だな。

どうせ効かないガンダムより飛行艇を落とせば出撃できずに飛行艇の爆発に巻き込まれた者もいるだろうに、その判断ができないようだ。

こちらとしては有難い。

 

『サハクエル、レナ・デスペア!行くよ…!』

 

次にマントをローブのように纏ったサハクエルが落ちるように出現し、双翼を展開して空に降臨する。

機体が安定したと同時にGNツインバスターライフルを構えた。

 

『狙い撃ち…っ!』

 

上空からの狙撃に地上のMS(モビルスーツ)が四肢を失い、武装も破壊され、無力化される。

飛行艇からは続いてスローネ各機が出撃した。

 

『スローネ アイン、ヨハン・トリニティ。目標のファクトリー襲撃作戦を開始する』

『スローネ ツヴァイ、ミハエル・トリニティ…っ!エクスタミネート!!』

『スローネ ドライ、ネーナ・トリニティ!出撃するわ』

 

兄弟各々違った出撃の仕方をする。

ツヴァイは早々にGNファングを射出し、サハクエルが撃ち漏らした残機を無力化する。

もう確認するまでもないが、コクピットは無事だ。

それくらいにはもう信頼してるよ。

最後に出撃したネーナはキラッと星のエフェクトが出そうなポージングを取るが、無視でいいか。

全員に繋がっているモニターに指を2本立てて主張してくるが、悲しいことにあのヨハンでさえ反応しない。

ミハエルは空笑いしていた。せめて愛想笑いにしてやれ。

 

『敵MS(モビルスーツ)部隊を殲滅、軌道エレベーターへ向かうぞ!』

『『『『――了解っ!!』』』』

 

指示に応じ、俺のアヴァランチブラックアストレアダッシュを筆頭に軌道エレベーター『天柱(てんちゅう)』へ飛翔する。

ダッシュユニットを高速移動モードで使ってるだけあって俺のアヴァランチブラックアストレアダッシュが最も速く、その後を追うように飛行形態に可変したサハクエル、それに掴まるツヴァイが続く。

残されたヨハンとネーナはというと飛行形態に変形したスローネ アイン トゥルブレンツにドライが掴まり、サハクエルと並行するようにトップスピードで加速している。

 

トゥルブレンツとはガンダムスローネ アインの飛行用装備で、それを三度目のファクトリー襲撃の時に発見した。

一目見て俺はトゥルブレンツだと気付いたので持ち帰ることを提案し、全員合致で回収した。

後からアイン本体とは別に装備に搭載されている筈の太陽炉がなかったので、以前俺が持ち帰った余りの擬似太陽炉で代用した。

予備で拾って帰ったやつだがまさかこんな形で役に立つとは思わなかったな…。

トゥルブレンツを装備すると高い機動力と飛行形態への簡易変形機能が付加されて特に時間に縛られた今回の襲撃にもってこいだ。

ただ欠点としてGNランチャーが使えなくなるが…まあ代わりのGNブラスターがあるから火力に心配は要らない、と思う。多分な。

 

とりあえず3組で加速した俺達は人革領の軌道エレベーター『天柱』へと最短で辿り着くことが出来た。

作戦開始から30分に近いくらいか…。

やっぱ最初で少し足止めを食らったのは痛いな。

その証拠に軌道エレベーターに着いた頃には敵機がわんさか出てきた。

どれも旧型の機体や軌道エレベーター防衛用の機体だけどな。

後者は元々配置されているが、前者は急ぎで駆け付けた部隊だろう。

総数は500機は超えているな…多くないか?

 

『どうなってる?俺達の接近に気付いたにせよ――っと!準備が良すぎる!』

『う、うん…』

 

敵機が俺達を補足した同時に銃撃を開始し、レナが俺の言葉に同意しながらサハクエルのウィングバインダーをローブの中に隠す。

ちなみにマントを纏っているのはアレハンドロ達には見せたが、まだ世界に見せるには早いと思ったからだ。

特に国連軍にはな。

せめてアレハンドロを倒し、国連軍の戦力を削り尽くすまでは世界単位に晒したくはない。

そこまでそう時間は長くない筈だ。

 

それはそうと軌道エレベーター防衛のMS(モビルスーツ)の対応が良すぎる上に、旧型も合わせて数が多過ぎる。

軌道エレベーター周辺の見張りの一番少ない時間帯を特定したというのに水の泡だ。

実際レナが珍しく顔を顰めている。

とにかくこちらも反撃しなくてはならない。

それにまだ嫌な予感がする。

ここまで対応がいいと手回しされてると見ていいだろう。

相手の読みが一枚上手だった。

ならば、まさか太陽炉も積んでない機体を50機如き用意しただけではあるまい。

 

『ちょ、どうなってるのよ!?』

『くそ!いけよ、ファングっ!』

『無力化を開始する…!』

 

スローネが各々武装を構えて攻撃態勢に入る。

対象は眼下のMS(モビルスーツ)部隊だ。

しかし、考えろ。

相手は何を用意して、どのタイミングで仕掛けてくる?

俺なら…。

 

『そうか!ヨハン、ミハエル、ネーナ避けろ…!』

『なに…?』

『あぁん?』

『えー?』

 

俺の叫びにトリニティが反応する。

目の前の敵から意識を逸らしたあいつらの視界にも入った。

反射神経もそれを捉える。

攻撃直前で動きの固定されたスローネの集団を撃ち落とそうとせんばかりの赤い粒子ビームの雨を。

 

『スローネ、散開せよ!!』

『な、なんだ…!?』

『うそ…っ!』

 

ヨハンの指示よりも速く、トリニティ全員が回避行動を取る。

咄嗟にも関わらず粒子ビームは掠りさえしなかった。

凄い反射神経だ。

マイスター用人造人間としての能力が皮肉だが幸いした。

 

『上から来たか…!』

『敵機、新たに8機捕捉!お、お兄ちゃん。あれって…』

『あぁ』

 

はは、嫌なほど見覚えがある。

なんて悪趣味な展開だ。

俺達よりさらに高度から攻めてきたのは擬似太陽炉搭載機。

その姿を目にしなくても赤い粒子ビームを飛んできた時点で察しがつく。

だが、やって来た機体は決してトリニティの前に現れてはならないMS(モビルスーツ)だった。

 

『スローネ ヴァラヌス…っ!!』

 

『――――っ』

 

現れたのはスローネ ヴァラヌスが8機。

月面でレオ・ジークとフォン・スパークによる『ヴェーダ』への侵入を妨害している機体と同一のMSだ。

そして、こいつらは主にスローネのデータをベースに生み出された機体でもある…。

 

『スローネ、だと…!?』

『お、おい。なんか俺達と同じパーツ使ってねえか?あの機体…』

『なによ…あれ…』

 

スローネ3機の動きが鈍い。

その隙を逃す敵ではない。

粒子ビームの集中砲火がスローネを捉えていた。

くそ、仕方ない…!

 

『レナ!』

『了解、狙い撃ち…っ!』

『狙い撃つ…!』

 

サハクエルが引き金を引き、ローブから覗くGNツインバスターライフルの銃口から粒子ビームが連射される。

前段的確に敵の粒子ビームを相殺し、ブラックアストレアもGNソードをライフルモードにして構え、粒子ビームをできるだけ多く落とす。

多少外したが今はレナのお叱りを受ける余裕もない!

 

『パージ…!』

 

長期戦のため粒子消費量のことを考えてアヴァランチ・ダッシュユニットを捨てる。

上空にはスローネ ヴァラヌスの編隊、地上には軌道エレベーター防衛用のMS(モビルスーツ)部隊。

 

『挟み撃ちか…。だが!レナ、ユニットを破壊しろ!』

『そっか!目眩し…っ!』

 

レナが俺の指示の意図を瞬時に見抜いて重力に従って落下するアヴァランチ・ダッシュユニットに照準を合わせる。

あれを撃ち抜けば大規模の爆発と大量の粒子を散布できる。

出来る限り地上に展開された部隊全てにかかる高度まで待ち、尚且つ爆発の被害で死者が出ないよう考慮する。

 

『絶対に狙い撃つんだから…っ!』

 

サハクエルがGNツインバスターライフルをドッキングさせ、レナが意識を集中する。

凄まじい集中力、緻密な演算に脳のエネルギーを急速に消費していく。

その瞳は色彩に輝いていた。

 

『今…!狙い撃ちっ!』

 

軌道エレベーター最下層、地上の施設と同じ程の高度を越えようとした時を狙ってレナが引き金を引く。

サハクエルの放った粒子砲撃はアヴァランチ・ダッシュユニット双方を1発で貫いた。

タイミング完璧、寸分のズレのない高度。

撃ち抜かれたアヴランチ・ダッシュユニットは空中の爆散し、大量の粒子が地上のMS部隊に降り掛かる。

これで通信機器は全滅だろう。

暫くしないうちに地上の部隊に混乱が見れる。

よし、さすが自慢の妹(深雪)だ。

 

『やった…!』

『よくやった、レナ』

『うん!』

 

褒めるとレナは満面の笑みで頷く。

撫でたい。

まあ後にするとして地上を抑えているうちに空中戦といこうか。

GNソードをソードモードで構え、加速する。

 

『俺が相手だ!掛かって来やがれ…!』

『援護するよ…!』

 

8機の編隊に一直線に飛び込む。

後方ではサハクエルがGNツインバスターライフルを2本に分けて構えていた。

深雪の支援か…。

この世、いや、どの世でも一番信頼できる!

 

『――――っ』

「……っ!」

 

GNロングバレルライフルから放たれる弾圧を掻い潜り、1機のヴァラヌスと衝突する。

敵機はGNビームサーベルを抜刀し、ブラックアストレアのGNソードの刃と競り合い、火花を散らした。

 

『ミハエル、ファングで他の奴らを牽制しろ…!』

『え?あっ…お、おうよ!』

 

声を掛けられて初めて我に返ったか。

いや、ミハエルは衝撃を受けつつも呆けていただけだった。

ヨハンとネーナは考えが巡りに巡って混乱し、我ここにあらずだ。

そう考えるとミハエルの症状はマシか。

モニターで2人の様子を一瞥すると目の焦点が合っていない。

これはダメだ。

呼び戻してやりたいが、如何せん俺にも余裕がない…!

 

『いけよ、ファングっ!もう2基あるんだよ…!』

 

珍しく全GNファングを放出したか!

ミハエルにしてはよくやった。

状況判断でしたかはわからんがこの際なんでもいい!

敵の数が多い、ファングも多数放ってもらった方が助かる。

 

『――――っ!?』

 

『やれ、レナ…!』

 

俺と接戦していたスローネ ヴァラヌスが多数のGNファングと散ってしまった味方に驚く。

その隙を絶対に逃さない。

恐らく対峙する機体のパイロットは陣形を気にしたのだろうが戦場で目の前の敵から目を逸らすなど言語道断!

やはり頂部やオーバーフラッグス、パトリック達程の手練ではない。

甘くは見れないが、奴らを相手にするより何倍も勝機がある…!

 

『狙い撃ちっ!お腕とお顔は貰ってくね』

 

軽く申し訳なさそうに苦い笑みを浮かべるレナの言葉通り、ブラックアストレアと交戦していたスローネ ヴァラヌスの両腕と顔面が撃ち抜かれて爆散する。

これでモニターが死に、攻撃手段を殆ど失った。

 

「墜ちろ…!」

『――――っ!?』

 

GNソードの刀身がスローネ ヴァラヌスの身体を一閃する。

時間差でスローネ ヴァラヌスは両断され、上半身と下半身は各々重力に従って落下していく。

そのうちの上半身、太陽炉のある方をGNソードをライフルモードにして撃ち抜いた。

スローネ ヴァラヌスやジンクスはGNドライヴが本来のコクピット部を占めているため、コクピットが腰前にある。

コクピットは下半身に付属してるから上半身とGNドライヴは破壊しても斬り分けてさえいれば問題ない。

粒子ビームで貫かれたGNドライヴは爆発し、スローネ ヴァラヌスの上半身も蒸発して消えた。

 

『よし、まずは1機――ぐうっ!?』

 

突如コクピットが激しく振動した。

痛てぇ…。

 

『――――っ!』

『――――っ!』

 

『クソ…っ!』

 

ファングから逃げ延びた上に、1機墜とした頃にはGNファングの粒子再チャージか。

俺が態勢を立て直す時には再び射出している。

 

『もう一度アタックだ…!』

『ミハエル、同時に攻めるぞ。ファングとレナの後方支援で敵を散らしつつ各個撃破する』

『分かったぜ、やってやろうじゃんかよ!』

 

ミハエルはやる気を取り戻したか。

逆に燃えるタイプなのかもな。

それか違和感を抱きつつも気付いてないか。

多分後者だ。

なににせよ、人手が多い方が助かる。

ミハエルは近接だし尚更だな。

後は後方支援が欲しいところだ。

 

『ヨハン、ネーナ。聞こえるか』

『我々は、本当に…。なんの、ために…』

『なんでよ…。なんであたし達ばっかりこんな目に!』

 

ヨハンはあの時のように真実を知り、動揺したような様子でネーナは怒りで声が届かなくなっている。

こればっかりは性格か…。

ヨハンのやつはもうわかってることだってのに…。

ショックを受けやすいみたいだな。

緊急事態に弱いのもそこから来るのかもしれない。

 

『はぁ…はぁ…。あと、7機か…。はは…っ!きついな』

 

切迫しながら空で衝突し、辺りを飛び交うスローネ ヴァラヌスを数えて失笑する。

地上の部隊もモニターや通信機器の障害から徐々に態勢を立て直しつつある。

双方から蜂の巣にされたらかなり厳しくなるな。

襲撃に使える残り時間も限られている…。

こうして間にも刻一刻と時は進むと考えると、なんだか心が落ち着かなくなる。

速く、もっと速くと自身を急かす。

苦戦の中、額から顎下へと伝う雫を感じた。




これを書いてる途中でサハクエルを秘匿しなくてはいけなかったと気付いて苦し紛れのマント被せた感が拭えなかった…。
ちなみにマント被りの元ネタはサンドロック改です。

ヴァラヌスというか擬似太陽炉搭載機が普通に公衆の面前に出てますが、詳しい描写や背景は後に書きます。覚えていれば。


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デスペア・フォーメーション

少し前、深雪と二人で理想を掲げた時のこと。

あの時レナにリボンズのことをさらに詳しく話した。

するとあいつが俺に渡したものがあった。

 

『はい。これ』

『ん?…なんだこれ』

 

手のひらに収まるサイズの何か。

深雪から渡されたそれに俺は首を傾げた。

形状から察するにコードの両端を耳と首元に掛ける感じの使用法だとは思うが…。

 

『それは変声機。リボンズさんに正体がバレないよう出撃中はずっとつけてた方がいいと思うの』

『あ、あぁ…』

 

言われて納得した。

確かにそれっぽい。

よく見ればマイク的なのがある。

それにしてもなるほど…声かぁ。

全然気にしてなかったな。

MS(モビルスーツ)操縦中に相手に声を聞かれることなど殆どないと思うが、ないとは言えない。

時と場合によっては必要だろう。

それこそうっかり声を漏らした時の対策だ。

常に予防しておいて損はない。

 

『サンキュー、深雪』

『もうレナだってば…。お兄ちゃん、ほんとは慣れる気ないでしょ?』

『悪い悪い、そのうちな』

『もぉ…』

 

いつものやり取りでレナがむくれる。

怒らせてる身だが愛らしい。

料理はできるし頭はいいし演算が得意だから家計だってきちんと管理するだろう。

我が妹ながら最良物件だと思う。

深雪の時もレナの時も容姿は悪くないから尚更だ。

ちょっとレナの方が美形かもしれんが。

人工的に作られたから綺麗に作られてるだろうし仕方ないか。

 

『むっ…お兄ちゃんが失礼なことを考えてる気がする…』

『気のせいだ。敏感になり過ぎなんだよ、きっと』

『そうかなぁ…』

 

俺の言葉を真に受けてレナがんーっと悩む。

変なところで真面目だよな。

まあそれはさておき折角貰ったのだし変声機は使わせてもらおう。

考えてこなかったけど声バレは状況が悪化するしな。

レイ・デスペアを特定できる要素なんだし。

 

というわけで出撃の際には付けることにした。

試しに引っ掛けてみると案外位置取りが難しい。

とにかくこういった小さそうで重大なことも対策していこうと改めて考えた。

一度レナと話し合ってみるのもいいな…。

そんな思考を巡らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空に残る機体はスローネ ヴァラヌスが7機、地上には500を超えるMS(モビルスーツ)部隊がいるが、アヴランチ・ダッシュユニットの爆発で散布された大量のGN粒子でモニターや通信機器が妨害されているので時間を稼ぐことは出来る。

態勢を立て直しつつあるみたいだが、そう簡単に解決できる問題ではない。

まだ余裕はある。

そのうちにスローネ ヴァラヌスの編隊を崩そう。

上下挟み撃ちで攻められたら敵わないからな。

 

『ブラックアストレア、目標を蹂躙する…!』

 

GNドライヴから粒子を噴射して加速、ヴァラヌスの陣形へとファングと共に突っ込む。

 

『もっと荒らせよ、ファングっ!』

『狙い撃ちっ!』

 

GNハンドガンで牽制しつつファングで敵陣を乱すスローネ ツヴァイ、ミハエル。

後方からマシンキャノンでバラついた散弾を撒き、ヴァラヌスの編隊を少しでも崩す。

さらにGNツインバスターライフルから放たれる連射撃が正確にヴァラヌスの装備を捉えたり、腕や足を持っていったりするお陰で敵も焦りと困惑が生まれつつある。

まあ避けたと確信したところに必中するし、気持ちは分からんでもない。

今の所レナは1発も外していないことも影響しているだろうな。

 

『行くぞ、ミハエル…っ!』

『おうよ!』

 

掛け声に応え、ツヴァイがGNバスターソードを抜刀する。

俺もブラックアストレアのGNソードをソードモードで構え、陣形から露出したスローネ ヴァラヌスへと接近した。

 

『瞬足で墜とす!』

『いくぜぇ!』

 

『――――っ!』

 

俺達の接近にヴァラヌスが気付いてGNロングバレルライフルの銃口を向けるが遅い。

ミハエルが引き金を引き、ツヴァイがGNハンドガンで牽制、ヴァラヌスは回避しつつこちらを狙って射撃するため放つ弾道は予定していたより少なくなる。

10にも満たさない弾道を俺とミハエルは避け、ヴァラヌスの間合いに入る。

ここまで来ればGNロングバレルライフルのリーチの長さ故に射撃を捨てざる負えない上に遠距離を狙える利点は皆無になる。

接近戦に持ち込んだ俺とミハエルは互いに剣を横薙ぎに叩き込んだ。

 

『――――っ!!』

 

『こいつ…!』

『耐えるか!』

 

ヴァラヌスは必死の抵抗ともみえる守りに移り、右膝にマウントされているGNビームサーベルを抜刀し、ツヴァイのGNバスターソードを受け止め。

右肩のGNシールドでブラックアストレアの斬撃をふせいだ。

圧されている上に2体1、両側からパワーで押し潰さん限りに攻めているからヴァラヌスのこの防御も時間を消費するだけでしかない。

だが、時間の惜しい俺達にとってこの乱戦の中での時間稼ぎはかなり辛い。

このまま押し切りたいが力任せよりも追撃を叩き込んだ方がいいか、個人の判断が尊重される……!

微塵もミスできない緊張感に支配されそうだ!

 

『狙い撃ちっ!』

 

『――――――っ!』

 

真っ先に判断したのは意外にもレナだった。

左右から俺達がヴァラヌスを抑えているのを利用し、動きの取れないヴァラヌスの両腕接続部を撃ち抜いた。

当然、GNソードを握る右手とGNシールドを装備している左腕は重力に従って落ちる!

 

『ナイス、深雪!はあああっ!』

『ぶった斬ってやるぜー!』

 

『――――っ!?』

 

俺とミハエルの叫びに応えるようにGNソードとGNバスターソードがヴァラヌスの腰を一閃する。

双方の刀身はヴァラヌスの身体を滑り、上半身と下半身を切り離す。

手順を覚えた俺たちは流れるように担当を分け、俺がブラックアストレアのGNソードをライフルモードでGNドライヴのついた上半身を捉え、ミハエルはコクピットのある下半身を戦場から即座に追い出すために追う。

ブラックアストレアのGNソードの銃口が粒子ビームを噴き、ツヴァイの脚がヴァラヌスのコクピットを蹴り落とした。

 

『残り6機…っ!』

『このペースならいけるんじゃねえの?』

『バカ、目的は戦闘じゃないんだよ!』

『やっべぇ。忘れてたぜ』

 

……ミハエルが不安を駆るが無視しよう。

目的はファクトリーの破壊とGNドライヴを可能な限り減らすことだ。

後者は今の状況に準じてる気もしないではないが、最優先は前者。

今回の最大目的といっていい。

だから、ここで時間を取られるのは中々辛いのだ。

 

『二人共避けて!下から来るよ…!』

『遂に来たか!』

『了解!』

 

レナの言葉に従い、眼下にも意識を向ける。

するとMS(モビルスーツ)部隊による弾圧が俺達に集中して飛んできた。

凄まじい数の弾道を俺とミハエル、レナは躱していく。

 

『くっ…ヨハン、ネーナ!』

『……っ!これは…!』

『ちょ、今度は何よ…!』

 

動きの鈍っていた2人にも声を掛けて、アインとドライが回避行動を取る。

その隙にヴァラヌスの編隊はアインとドライに進路を変更していた。

動きのに打っている2人を狙うつもりだろうが、俺達に目もくれず素通りとは舐められたものだ。

黙って通すわけがないだろ!

 

『行かせるか…!』

『兄貴!ネーナ!てめぇらの相手は俺だ!』

『ハロちゃん、弾道予測…!』

 

『了解、了解』

 

レナが黒HAROに下からの弾道を読ませ、回避から意識を割いて、急速飛行する。

既にGNツインバスターライフルの砲口はヴァラヌス編隊の進行ルートに向いている。

行く手を阻むのか、粒子ビームで。

 

『ミハエル!同時牽制だ』

『了解!』

 

急速接近はしているが間に合いそうにはない。

ブラックアストレアのGNソードを刀身を折り畳み、ライフルモードに。

さらにツインバスターライフル、GNハンドガン。

計4つの砲門から粒子ビームが射出された。

 

『――――っ!?』

『――――っ!?』

『――――っ!』

 

目の前を粒子ビームが通り、進行を止めるヴァラヌスが4機。

だが、残り2機は先行していたため粒子ビームを背にする形になってしまった。

当然奴らはそのまま進行し、アインとドライそれぞれに衝突する。

 

『――――っ!』

『くっ…!』

『――――っ!』

『きゃあああっ!』

『ネーナ…!』

 

迎え撃とうとしたがアインとドライは衝突を受け、高度が下がる。

ネーナの悲鳴にミハエルが叫ぶが、2人を助けに行こうとすると俺達が進行を止めたヴァラヌス達が今度は行く手を阻む。

 

『てめぇら…退()きやがれぇぇぇええ!!』

『――――っ!』

『ミハエル…!』

 

頭に血が昇ったミハエルには俺の声が聞こえてない。

ツヴァイで力任せに突破しようとヴァラヌス2機と交戦している。

ヴァラヌスは連携し、1機がGNビームサーベルでツヴァイ競り合い、もう1機がツヴァイの背後に回り込んでGNロングバレルビームライフルを構えている。

あのままいけばミハエルは…!

 

『ミハエル!後ろ…っ!!』

『――――っ!!』

『えっ…?ぐあああああっ!!な、なんだ!?』

 

背後から粒子ビームを受けたツヴァイは損傷し、背部から煙を上げる。

一気に高度も下がり、それを追うように近接に徹していたヴァラヌスが上から下へ叩きつけるようにGNビームサーベルを振るって追撃する。

 

『うぐっ…!てめぇ…っ!』

『――――――っ!』

 

なんとかバスターソードで防いだが圧されている。

もう1機のヴァラヌスも後方支援に徹してミハエルを追い込んでいた。

 

『ミハエル!』

『――――っ』

『……っ!邪魔っ!』

 

レナがミハエルを助けようとサハクエルを加速させるが、残った2機のヴァラヌスが塞がる。

2機ともGNビームサーベルを右膝からマウントされているのを抜刀して、刃を形成。

サハクエルに詰め寄った。

 

『レナ…!』

 

サハクエルは遊撃型だが、レナは遠距離を得意とし、近接を嫌う。

そのレナに対して複数相手は厳しい!

 

『――――っ!』

『――――っ!』

『ハ、ハロちゃん!近接のサポートを――』

 

『敵機セッキン!敵機セッキン!』

 

『そんな…!』

 

レナが黒HAROに助けを求めるが間に合わない。

咄嗟にGNビームサーベルを抜刀し、ヴァラヌスの振り下ろされた斬撃を防ぐが受け方が雑だ。

勢いに押された上に腰ががら空きになっている。

正直動きが甘い。

 

『――――っ!』

『――――っ!』

『うぅ…!』

 

双方から同時に攻められるレナ。

苦しそうに声を漏らす。

瞬間、湧き上がる感情があった。

 

『深雪に、触れるなぁぁぁああーーっ!!』

 

『――――っ!?』

 

感情(怒り)に任せて1機を蹴り飛ばす。

かなり飛んだが後を目で追ってないので知らん。

不意打ちに成功するとすぐに視線を上へ向けて、深雪を苦しめる奴を睨む。

瞳は色彩に輝き、ロスタイムすら惜しいがために急速で下がった高度を下への加速を殺さず、上へと上げた。

大量のGN粒子を噴射し、動力という動力をフル活用する。

重力と加速度、下方へ掛かる力全てに抵抗し、上昇する。

コクピット内の重圧と振動が過激なアトラクションみたいになってるが、血反吐を吐いて俺が苦しむ程度ならいくらでも代償を払ってやる。

この命に代えても深雪は守る!

 

『二度と失ってたまるか!!』

『――――っ!?』

 

最短で戻ってきた俺にヴァラヌスのパイロットは反応できていない。

予想外の速度に対応出来ないところをブラックアストレアのGNソードをソードモードにして、その刀身でGNビームサーベルを持つヴァラヌスの腕ごと斬り上げた。

肘から下にケーブルのようなものが露出している。

だが、これで終わりではない。

GNソードをライフルモードに、銃口を目の前のヴァラヌスの顔面に向ける。

 

『いけよ…!』

『――――っ!?』

 

粒子ビームに貫かれて顔面部が大破。

ヴァラヌスのパイロットはモニターを失い、周囲が見えなくなっている筈だ。

その隙にGNソードの刀身を展開してソードモードで身体を横薙ぎに両断する。

 

『深雪は俺が守る…!』

『――――っ』

 

上半身と下半身に分かれたヴァラヌスは例の如く重力に従って落ちる。

太陽炉のある上半身は撃ち抜き、すぐさま俺はレナに、ブラックアストレアがサハクエルに寄り添った。

 

『大丈夫か!?深雪!』

『う、うん…。ありがとう、お兄ちゃん…』

 

モニターに映る深雪の表情に少し疲れが見える。

妙に疲弊してるな…。

心配だ。

 

『深雪…』

『お兄ちゃん、私は…いいからっ。皆を…』

『だ、だが…』

『お願い』

 

深雪から祈るように見つめられて何も言えなくなる。

ここで頷かないと兄として廃る気がする。

 

『分かった。任せろ』

『うん…!』

 

精一杯笑う深雪。

応えために振り返る。

地上からの弾圧はまだ続いていて、ミハエルは追い込まれている。

 

『クソ…っ!』

『――――っ』

『ぐああっ!?』

 

2機の連携により、近距離で優位に立った途端隙をついた射撃がきてまたもツヴァイが損傷する。

ミハエルの苦しむ声も聞こえた。

一方、ヨハンはトゥルブレンツの機動性を活かして相手を翻弄している。

トリニティの中では最も優勢だ。

だが、右腕に装着されたGNブラスターの粒子ビーム砲撃をスローネ ヴァラヌスがGNディフェンスロッドを回転させて防ぐと驚きのあまり動きが止まる。

 

『なっ!?あれはスローネ アインの…っ。貴様!』

『――――っ!』

 

ヴァラヌスと一進一退の攻防に移るヨハン。

 

『その存在をっ!許してなるものかぁぁあ!』

 

そして、GNブラスターの粒子ビーム砲撃でスローネ ヴァラヌスを撃ち抜いた。

運良くコクピットは無事で、落ちていったがヨハンらしからぬ強引さだ。

スローネ ヴァラヌスも防御していたような気がするが全部意に返さずぶち抜いたのか?

いつも冷静なヨハンとは思えないな。

 

『当たれ当たれ当たれぇーー!!』

『――――っ!』

『きゃあっ!?』

 

ネーナはGNハンドガンを乱射しているが、ヴァラヌスに回避されている。

それどころか反撃されていた。

 

『……っ』

 

どうする?

ヨハンの手が空いた。

俺とヨハンで分かれてネーナとミハエルの援護に行くか?

だが、ヨハンは冷静さをかいてパイロットの安全性を無視している節がある。

一声掛ければ我に返るかもしれないが確実ではない。

そして、そうこう悩んでいるうちにも時間は経過する。

今俺にはこの一瞬で最良の選択肢を要求されている――。

この場面で、最も最善手なのはなんだ!?

 

『……レナ』

『あ、あれを使えば…でも、使ったら…』

 

意を決して声を掛けたがレナは上の空だ。

後方支援も忘れてる。

ていうか『あれ』ってなんだ?

まあいい。

時間がない!

 

『レナ!!』

『えっ…!あ、はっ、はい!なに!?』

 

叫ぶとやっとレナが気付いた。

俺と同じで考えを巡らせすぎて混乱していたのかもしれない。

だが、もう決めた。

 

『あのフォーメーションを使う。すまないが、力を貸してくれ』

『えっ…。あの、フォーメーションって…』

『俺達の必殺フォーメーションだ』

 

俺の言葉にレナが驚愕し、目を見開く。

疲弊しているのを確認した手前、頼まれまでしてレナに頼りたくはなかったが…。

確実に全て完璧に解決するにはあのフォーメーションしかない。

俺達の『もしも』のとっておき。

 

『了解。デスペア・フォーメーション、行くよ』

 

レナが決心したように力を込めて頷く。

実践初めてだが、シミュレーションと訓練を詰んできた。

何度も解いた完成度の高い計算結果もある。

データ上成功する筈だ。

心配事としてはレナが心配だが…。

 

『すまない。酷使するみたいで…』

『ふふっ、今更だよ。じゃ、やろっか』

『あぁ』

 

飛び交う弾道に粒子ビーム。

激戦が繰り広げられる戦場の中で俺達は消えた。



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再会と離別と

『なに…?』

 

スローネ ヴァラヌスのパイロットであるイノベイドは思わず目を見開いた。

突如、交戦していた筈のガンダムの内2機が姿を消した故だ。

事前に入手した情報で機体名がガンダムアストレアという名のガンダムと情報のない翼持ちのガンダム。

アストレアに蹴り飛ばされたスローネ ヴァラヌスの視点からは見当たらなかった。

 

『一体何処に―――っ!?』

 

困惑の一瞬、死角から衝撃で殴打される。

パイロットのイノベイドは直感と共に相手の位置を悟ったが、遅い。

苦痛による表情の歪みを崩すことすら出来ぬまま振り返ろうとした。

 

「後ろか!」

『────────ッ!』

「なっ!?回り込まれた!?」

 

振り返ったそこには姿はなく、先程まで後方にいたであろうアストレアの影が背後に回り込むのが見えた。

パイロットのイノベイドは自らの反射を持ってしてもその速度に追いつけない。

だが、与えられた使命のためだけに戦うパイロットのイノベイドは最後まで諦めることはなく、損傷してでもアストレアを仕留めようと意を決する。

 

「貴様…っ!ぐっ…!なにっ!?」

 

GNビームサーベルを抜刀し、背後に横薙ぎに払おうとすると自身のヴァラヌスよりさらに高度から降り注いだ粒子ビームが両腕を撃ち落とした。

当然、握られていたビームサーベルも落ち、武装を失う。

 

「馬鹿な…!」

『────────ッ』

 

2機の連携により無防備になったスローネ ヴァラヌスは意図も簡単にソードモードのGNソードの刃により身体を横一閃に両断。

コクピットが重力に支配され、太陽炉を詰んだ上半身は粒子ビームによって溶けていった。

 

『なんという、動き…』

 

落ち行くコクピットの中で一目することすら許されなかった2機のガンダムにヴァラヌスのパイロットであるイノベイドは驚愕する。

機能しなくなったモニターは砂嵐の中、微かに緑の双眼が見下ろしていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軌道エレベーター『天柱』周辺にて、交戦していたスローネ ヴァラヌス。

その数も残り3機になった。

ヨハン、ミハエル、ネーナ達トリニティと共に極秘ファクトリーの襲撃を目的とした作戦を決行したが、50を超えるMS部隊とヴァラヌスの部隊の挟み撃ちに合い、俺達は苦戦していた。

ヨハンは暴走し、ミハエルは追い詰められ、ネーナは劣勢。

 

そこで俺とレナは『必殺』のフォーメーションを実行した。

完成度は計算上40%にも満たず、成功率は比例して低い。

だが、状況を逆転させるために縋り付くには充分なものだ。

 

それがデスペア・フォーメーション。

 

対象を生かすも殺すも意のままに。

対単体特化型必殺フォーメーション。

もし完成すれば相手の命を左右できる夢の代物だが、命を支配できるものだけに怖さもある。

だが、可能な限り犠牲を出したくない俺達にとっては喉から手が出るほど完成が待ち遠しいもの。

それを今使うことになるとは思わなかった。

完全ではないが故に俺とレナは使うのを避けてきた。

 

しかし、ヨハン達を助け出し、形勢を逆転して目的を達成するにはデスペア・フォーメーションの特筆すべきそのスピードが必要だ。

対象が単体特化なだけあって単体を最短かつ確実に仕留めるように計算されている。

そして、今回の対象は4機。

たった四回の使用によりレナも今回は承諾した。

それだけ賭ける価値があるから。

なにより、俺もレナもヨハン達を救いたいからだ!

 

『1機撃墜!指示をよこせ、レナ…!』

『う、うん。南東38度のヴァラヌス2機をバスターライフルで私が分断、お兄ちゃんは急速接近して右の方を無力化して!私は南西45度のヴァラヌスを牽制してからもう1機を迎撃するからお兄ちゃんは初期目標を最短で済ませてトドメを!』

『了解…!』

 

まずはミハエルの救出か。

2機のヴァラヌスを担当しているのはスローネ ツヴァイだ。

そちらを分断し、相手の動揺を突いて1機を最短で仕留め、レナはその間にネーナと対峙するヴァラヌスの勢いを弱める。

ネーナの態勢を整えつつ俺が担当していないヴァラヌスをレナが削ぎ、俺が落とす。

作戦上はこうだ。

普段なら過酷過ぎて嘆いていたが、今はそんな余裕すらない!

 

『だから気張れよ、ブラックアストレア!』

 

GNバーニアを噴射して一気に加速する。

サハクエルには目をくれない、寧ろ視界に映す必要はない。

背後からブラックアストレアを粒子ビームが4閃通過するが、意識も割かない。

ただひたすらに南東38度のヴァラヌスに接近した。

 

『────────っ!?』

『────────っ!?』

『なんだ!?レナか!』

 

突如降り注ぐ粒子ビームに連携を取っていたヴァラヌス2機が乱れる。

なんとか回避したみたいだが、俺達の目的である分断に成功した。

俺は右にだけ集中して最短で詰める。

 

『………っ!!』

『うおっ!?こ、今度はレイかよ!』

 

ミハエルを無視して横切ったらミハエルが驚いたように声を上げた。

ダメだな、そんなのが入ってきてるようだからフォーメーションの完成度が低い。

集中しろ。

ただ対象の単体にだけ意識を向けるんだ。

 

『はあああああああああっ!!』

『────────っ!?』

 

ヴァラヌスがGNビームサーベルを抜刀するが遅い。

加速を緩めず、衝突するようにヴァラヌスの身体を両断した。

コクピットと太陽炉が分離する。

そして、太陽炉を仕留めるのは最短でなくてはならない。

態勢を立て直す暇はない。

加速を殺さず戻っても遅い。

次の標的のためにそれは必要な故に実行するが、同時並行で背後の初期目標を無力化したい。

そのために取るべき行動は……。

 

『こうだ!』

 

加速度と重力、下へと掛かる力の全てに逆らいつつGNソードをライフルモードにして銃口を後方に向ける。

上下共に力の掛かったブラックアストレアが空中で急停止した今が好機だ。

ここで外せば次はない。

照準機能は背後であるがために使えない。

ならば、限られた時間の中で当たるまで撃つ!

 

『当たれ!!』

 

ライフルモードのGNソードの銃口から爆射される粒子ビーム。

全く狙いを定めていないため、多々外したが、目標を撃ち抜き、太陽炉は爆破した。

汚い擬似GN粒子の花火が空に咲く。

 

『次は…ぐっ…!』

 

かなりキツい。

身体への負担が過ぎるな、これ…っ!

だが、やらなくては。

止めるわけにいかない!

最初から次の標的であるヴァラヌスに進行方向を定めていた。

だから、上と下に引き裂かれそうになりながらも生み出した加速はブラックアストレアを一直線に先程分断されたヴァラヌスへと向かってくれる。

 

『はあああああああーーーっ!!』

『────────っ!』

 

目を向けた時には損傷していたヴァラヌスに急速接近する。

GNソードをソードモードにして、前に突き出した。

レナのおかげで相手は無防備、この馬鹿正直な突きが最短かつ最強だ。

 

『────────っ!?』

『よし…!』

 

ヴァラヌスを両断した。

加速を止められない俺は前へと掛かる加速度に逆らいながら背後に気を配る。

予想通り、サハクエルがヴァラヌスの上半身を撃ち抜き、擬似太陽炉が爆破した。

もう言うまでもない。

だが、敢えて言う!さすが俺の妹だ、深雪!

 

『うぐっ…!次、は…深雪…っ!』

『え、えっとそのまま方向転換で加速、一直線上に最後の目標――ヴァラヌスが来るから無力化して!』

『了解!ま、任せろ…!』

 

また逆噴射か。

まあ残ったのは1機で予想してたから既に実行済みだが。

さっきから()()()()吐きそうだ。

 

それにしても一直線に来る、か…。

つまり俺の進行方向、軌道上にヴァラヌスを誘導するということ。

ここでレナの手腕が問われる。

 

『こっちだよ!』

『────────っ!』

 

ヴァラヌスを追いやるようにGNツインバスターライフル、マシンキャノンでわざと遅らせて弾丸と粒子ビームを散らばらせる。

追い立てられ、逃げるヴァラヌスはもうすぐ軌道上に乗る。

 

『お兄ちゃん!』

『任せろ!』

 

俺はただひたすらに加速する。

目指すは目の前一直線。

ヴァラヌスはレナによって軌道上に躍り出てた。

GNソードをソードモードにして一直線上にあるものを滑り込むように一閃する。

 

『────────っ!?』

 

ヴァラヌスは両断され、コクピットと太陽炉が分かれる。

俺とレナは同時に叫んだ。

 

『『狙い撃ちっ!!』』

 

ライフルモードのGNソード、GNツインバスターライフルから放たれた粒子ビームが太陽炉を貫き、爆散する。

これで全機、スローネ ヴァラヌスを無力化した。

 

『はぁ…はぁ…っっ!や、やったぞ!』

『う、うん…!』

 

モニターを通して笑いかけるとレナも疲れたように笑みを浮かべる。

お互いオーバーワークだったからな。

仕方ない。

 

『………っ!ヨ、ヨハ…っ、ヨハン!ミハエル、ネーナ。無事か!』

 

よ、予想以上に息が落ち着かない。

こりゃしんどい。

しんど過ぎるな!

とにかくトリニティの3人の安否を確認しなくては。

途中からレナの声以外は認識的にシャットアウトしていた。

意識も対象にしか注いでいないのであいつらがどうなったのか知らない。

ふと戦場に目線を走らせるとスローネは全機健在だった。

 

『あ、あぁ…無事、ではある…』

『すげぇ…』

『ぜ、全然目で追えなかった…』

 

トリニティが口々に呟く。

俺はレナにモニター越しで微笑みかけた。

 

『だ、そうだ』

『はは…頑張った甲斐があるね、お兄ちゃん』

『そうだな』

 

ようやく肩も落ち着いてきた。

精一杯笑顔を浮かべるレナに俺も会釈を返す。

 

『さて、まだ終わってないぞ』

『そうだね。敵は下にも…』

『やべぇんじゃねえの?かなり時間食ったんじゃ…』

『いや、まだ足りる。そのためのデスペア・フォーメーションだ』

『ほんとだ!あんなに激戦だったのにあんまり時間経ってない!凄い凄い…!』

 

ネーナが作戦開始時間から俺達が苦戦した時間を引いた戦闘時間に興奮してはしゃぐ。

ちなみにフォーメーションを実行してからの所要時間は5分もない筈だ。

……ギリギリだけど。

 

『ヨハン、地上の部隊を任せていいか?』

『……すまない。先程は取り乱してしまった。問題ない、我々に任せて戴きたい』

『わかった。レナ、施設(ファクトリー)に向かうぞ』

『了解、付いていくよ』

 

俺の指示にレナは頷いてサハクエルがブラックアストレアに付いてくる。

――スローネ ヴァラヌス。

あの機体の姿、機能を見てヨハンとネーナは取り乱した。

あれがスローネだと一目でわかったからだ。

計画(誰か)に利用されていたのは自分達だけでなく、スローネもだった。

その事実に戸惑い、怒り狂ったのだろう。

今のヨハンは冷静だ。

だから、任せていい。

 

何も全て相手にする必要はない。

スローネとの性能差で敵部隊を無力化するのは俺とレナがファクトリーを見つけ出すまでの間だけだ。

目星は付く。

そんなに時間は掛からない。

 

『敵機セッキン!敵機セッキン!』

『新シイノガ来タゼ。新シイノガ来タゼ』

 

だが、そんな俺達に追い討ちをかけるように2匹のHAROが警報した。

 

『増援だと!?』

『対応が早い…!目標、レーダーに確認。これは…10機の編隊!!』

『なっ!?ま、まさか…!』

 

ヨハンからの情報は聞き覚えがある。

そして、あの時と状況は同じだ。

―――来る。彼らが!

 

『目視で確認!お、お兄ちゃん…あれは…!』

『ジンクス…!頂武だ』

 

ブラックアストレア、サハクエル、スローネの全機が同じ方角に注目する。

その先にはこちらへと向かってくる10機の編隊、頂武ジンクス部隊の姿があった。

全機、GNロングバレルビームライフルを構えたV字の陣形。

トリニティにとっては悪夢の再来だ。

 

『目標確認。なんと……本当にガンダムが5機も…』

『……っ!あの、機体は…っ!!』

 

『くっ…!ファクトリーは諦める!全機、頂武ジンクス部隊の中央を突破し、帰還するぞ』

『り、了解!』

『了解した!』

『またこのパターンかよ!了解…!』

『ラージャっ!』

 

全員の返答が返ってくる。

……恐らく、中央の隊長機と思わしきジンクスはあの人が乗る機体だ。

どうにかして中佐を切り抜けなければ。

後は――。

 

『ソーマ…』

 

パッと見では見分けは付かない。

どれがソーマなのかは。

だが、あの部隊を突破するにはソーマは鬼門だ。

交戦は出来るなら避け、無理でも少なくしたい。

……多分、戦いたくない気持ちが一番勝ってるのだろうけど。

 

『行くぞ!』

『あっ!あの機体、俺のこと目の敵にしてる奴じゃねえか!結構強えーから気を付けてくれよ』

『……っ!そ、それは』

 

間違いない。

それが、その機体が…!

だ、だがどれだ?

一瞬過ぎてミハエルがどの機体を指摘したのか分からなかった。

 

『どの機体だ!』

『え?えーっと…』

『ミハエル!それは後にして!来るよ…!』

 

レナの警告通り、ジンクスの部隊から粒子ビームが放たれる。

クソ!結局聞き出せなかった。

それにしても多い!

10機の編隊は伊達じゃない!

 

『ブラックアストレア、目標を蹂躙する…!』

『サハクエル、目標を淘汰するよ!』

 

まずは敵の動きを乱し、陣形を崩す。

その為に俺とレナで先陣を切る!

デスペア・フォーメーションを使うには疲弊し過ぎている。

だから、俺とレナ、個々の能力で圧倒する。

 

『当たれ!』

『狙い撃ちっ!』

 

『────────っ!』

 

ライフルモードのGNソード、GNツインバスターライフルの二砲で頂武ジンクス部隊の中央を狙い撃つ。

だが、ジンクスは全機それを回避。

狙い通り、二つに分断された。

 

『左だ!』

『了解…!』

 

中佐は右の団体に分かれた。

だから、右はレナが牽制し、中央の道を死守する。

俺が左の団体に突っ込み、集団を散らす。

 

『ヨハン!!』

『すまない。先に失礼する…!ミハエル、ネーナ掴まれ!』

『了解!』

『りょーかい…!』

 

飛行形態へと変形したスローネ アイン トゥルブレンツにツヴァイとドライが掴まり、一気に加速する。

分断され、頂武の間に出来た中央の道で逃亡を図った。

 

『行かせるな!』

 

『死守する!』

 

中央の道に入るまで先導していたブラックアストレアとサハクエルはアイン トゥルブレンツと並行し、入ったところで左右に展開する。

 

『お前らの相手は俺だ!』

 

『……っ!』

 

ライフルモードのGNソードから粒子ビームを散弾させ、スローネ アインへの妨害を防ぐ。

サハクエルも同様に武装を全開放して中佐達を妨害していた。

そのおかげでスローネは戦線離脱に成功する。

トゥルブレンツの速度ならジンクスを撒ける筈だ。

GNロングバレルビームライフルでの後方射撃は俺達が時間を稼ぐだけで防げる。

 

『いつものあの場所で、君達を待っている。健闘を祈る…!』

『ぜってぇ帰ってこいよ!じゃないと許さねえぜ!』

『死んじゃったらお仕置きだってできないんだからっ!分かってる!?』

 

モニターを繋いでヨハン、ミハエル、ネーナがメッセージを残していく。

俺はそれに微笑を浮かべた。

 

『分かってるよ。必ず生きて帰る…!』

『うん!』

 

俺の言葉にレナも元気よく頷いて即座に覚悟を決める。

後はソードモードのGNソードで敵を薙ぎ払つつ、飛行形態のサハクエルに掴まって逃げるだけ。

やり遂げてみせる…!

 

『はあっ!』

 

『───────っ!?』

 

大袈裟にGNソードを振るって接近してきたジンクスを下がらせる。

後は振り返ればそこにサハクエルがいて―――

 

 

俺の視界に鋭い一閃が走った。

 

 

『ぐっ…!』

『……っ!』

 

GNソードじゃ間に合わない。

即座に捨てて、GNビームサーベルを抜刀し、防いだ。

相手のジンクスもビームサーベルで俺に衝突し、競り合う状態となる。

こいつ、押しが強い…!

ふと首元で何かが落ちた気がした。

 

『くそ…!押し切る!』

『────えっ?』

 

え?

GNビームサーベルをもう一本抜刀し、弾き返した時、声が聞こえた。

深雪と再会した時はまた違った馴染みのある声。

透き通るように澄んだ美声。

たった一瞬なのに、誰なのかすぐに思い浮かんでしまう。

よく風でなびく綺麗な白髪のロング、よく頬を紅く染め、俺に付いてきてくれたこの世界での最愛の人。

それは――。

 

『デスペア、中尉…?』

『ソーマ…?』

 

対峙するジンクスから聞こえる彼女の声。

音声だけの通信で彼女と繋がっている。

……どれ程、どれ程焦がれただろう。

深雪と再会して、その喜びで誤魔化していたつもりだった。

でも深雪との再会と彼女(ソーマ)との再会は全く違う。

どちらと出会ってもどちらと別れている限り、再会した喜びと共に寂しさがあった。

ずっと寂しかった。

ずっと声が聞きたかった。

ずっと会いたかった。

 

―――だから、自然とモニターを解放しようと指が動く。

 

『お兄ちゃん!早く…!!』

『え?あっ…』

 

深雪の声で我に返る。

い、今俺は何をしようと…。

微かに迷う指先をゆっくりと戻す。

 

『お兄ちゃん!』

『あ、あぁ…!』

 

二度目の呼び掛けでやっと振り切れた。

操縦舵に指を掛ける。

 

『行くぞ、レナ。……中央を突破する』

『了解!』

 

俺が待たせてしまったせいで切迫するジンクスがいる。

そのジンクスにビームサーベルを投げ、ブラックアストレアは飛行形態のサハクエルに掴まった。

そして、飛び交う粒子ビームや地上からの弾圧を躱し、戦場を後にする。

 

 

 

 

 

幻聴?いいえ、私が『あの人』の声を聞き間違える筈が…。

確かにあの声は『あの人』のものだった。

でも発声したのはあの黒いガンダム…。

私の直感もそこだけは間違いがないと告げている。

 

「中尉が、ガンダムに…?いや、そんな…まさか…」

 

自分で考えておきながら首を横に振るう。

私はなんて愚かなのだろう。

もう居ない筈の人なのに。

どうしても信じてしまう。

ガンダムから聞こえてきた声にまだ困惑している。

でも、何故か少しだけ動揺と共に歓喜の感情が私の脳内を掻き回す。

 

デスペア中尉が生きてるかもしれないという淡い期待に。

 

しかし、あの黒い機体はあの『緋色』のガンダムと行動を共にしていた。

デスペア中尉の命を奪った『緋色』のガンダム。

もし仮に黒のガンダムがデスペア中尉だとしたら…。

 

『少尉?少尉…!』

『は、はっ…!』

 

いつの間にか考え込んでいた?

中佐の呼び掛けに今更気付いてしまった。

ガンダムは…もういない。

逃げられたか。

 

『追いますか?』

『追わんでいい。高速飛行に長けたユニットを装着している機体もいた。ジンクスでは追いつけん』

『……そう、ですか』

『残念そうだな。少尉』

『え?』

 

思わず聞き返す。

まさかデスペア中尉について悩んでいることを中佐は見抜いている…?

 

『……緋色の機体を追えなかったからか』

『えっ…あっ。いえ、そういうわけでは…』

『む?違うのか』

 

中佐も少し驚いて私を見る。

確かに緋色は仕留めたいが、今はあの声の方が私を惑わす。

だから…。

 

『まあいい。全機、帰還する。被害状況を確認せよ。まさか軌道エレベーターを狙うとは…』

『あ、あの中佐…。先に防衛していた擬似太陽炉搭載機がいたと聞きましたが…』

『……私も聞いている。だが、詳細は分からん。追って通達が来るそうだ』

『そうですか…』

『全く。連中はどれだけの隠し玉を持っているというのだ…』

 

私も中佐に同意する。

国連軍、ソレスタルビーイングの裏切り者。

一体どれ程の技術を所有しているのか。

今回先に対応していたという仲間のガンダムタイプという隠し玉、他に何を隠している…。

 

『中佐。報告します。先に到着していた擬似太陽炉搭載機は全滅したようですが、死者は今のところ…その、0だと…』

『なに!?』

『……っ!』

 

死者が0人…?

これほどの激戦の跡があって?

そんな…まさか…、……っ。

まさか…っ!

 

『中佐!!』

『む?どうした、少尉』

『あの…敵に、ガンダムに…その…』

『なんだ?言ってみろ、少尉』

『いえ…何も、ありません…』

 

――デスペア中尉の声が聞こえた気がしたんです。

 

そう言いたかったが声が出なかった。

確証がない情報を中佐に渡すわけにはいかない。

いや、違う。

本当は…本当、は…。

 

「もし本当にあの人だったら…頂武は、私は…。あの人を殺さなければならなくなってしまう…」

 

頬が冷たい。

何かが伝っている。

あの緋色の機体と、デスペア中尉を殺したガンダムと一緒にいるのがデスペア中尉本人だなんて信じたくない。

なんで…どうして奴と一緒に居られるのか、本人なら問いただしてやりたい。

 

でも、それ以上に。

それ以上に私は―――。

 

「貴方が、好き…。殺したくないの…」

 

私は『あの人(デスペア中尉)』に対して引き金を引くことは出来ない。

あの人が大好きだから。

私は一体どうしたらいいの…?



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ケジメ

先の戦闘。

その映像を、相変わらず整備や新装備開発に追われていたレナは眺めていた。

 

「ブラックアストレアの機動性がやっぱり限界を超えてる…」

 

特に重点的に観察しているのはレイのブラックアストレア。

デスペア・フォーメーションにて、あの機体はレナの予想を超える機動力を見せた。

機体のみの動きであれば性能として有り得なくはない。

しかし、それはパイロットがいない状態のこと。

パイロットがいなければ当然ブラックアストレアは動くことはできない。

過去にレナの出会ったガンダムマイスター874はコクピットに乗り込まずに操縦を可能とするが、電子状態ではあそこまでの機動は生み出せないだろう。

故にレイの駆るブラックアストレアがどれ程に異常かが理解できる。

 

「アストレアの限界を無理矢理引き出してる…こんなこと、人間じゃ無理…。そもそもコクピットに掛かる負担が……あっ」

 

考察の最中、レナはひとつの結論にたどり着いた。

ブラックアストレアのパイロットは自身の兄であるレイ・デスペア。

彼は塩基配列パターン0000イノベイドであること。

そこに盲点があった。

 

兄と再会した頃を思い出す。

すると、レナはレイの話を聞いて疑問を抱いていたことがあった。

 

『その人って総合的にお兄さんより劣ってたの?』

『まあ射撃以外は…』

『射撃は得意だった?』

『いや?そんなこともなかったと思うぞ』

『え…?』

『おかしいな…。そんな筈は…』

 

レイから聞いた同配列のイノベイド、ナオヤ・ヒンダレス。

レイは彼に目立った能力はないと言った。

同時にレイ自身にも。

だが、これは本来()()()()()ことだ。

 

「私達には必ず何か突出した能力が生まれるはず…。あっ、もしかしてお兄ちゃんの能力は…!」

 

レナがブラックアストレアの限界を超えた機動力の真相に辿り着こうかという時。

端末に通信コールが表示される。

モニターに表示された名前は『フォン・スパーク』。

 

「えっ!?フォンさん!?」

 

突然の連絡に戸惑うレナ。

彼は何かと鋭く、油断ならない相手だ。

故に不意打ちで連絡が来ると非常に困った。

それに通話となれば見透かされることも多くなるだろう。

だが、無視するわけにはいかない。

レナは仕方なく溜息をついて通信を繋いだ。

 

『あげゃ。よぉ、久しぶりだな。レナ』

「う、うん。どうしたの?フォンさん」

『いや、ちょっとな』

 

通信を繋ぐ前に音声のみに切り替え、対応するレナ。

ブラックアストレアの映像は閉じ、フォンに意識を向ける。

 

「……ヴェーダの方が上手くいってないの?」

『はっ、痛いとこ突いてくるな』

「やっぱりソレスタルビーイングに情報渡した方がいいんだよ、きっと」

『そいつにはまだ早い。まずは俺の目でお前の兄とかいうやつの情報の真偽を見極めたい』

「……そっか。でもあまり悠長にされると困るな」

『あげゃ!その時はお前を相手にするだけだ』

「はは…変わらないね」

 

用件があるとすればフォンと彼の所属する組織フェレシュテとレオに任せたヴェーダ奪還の件だと推測し、レナから話を切り出す。

これはフォンに流れを持っていかれないためだ。

彼の返答にも苦笑いだけを返す。

 

『―――で、お前トランザムって知ってるか?いや、知ってるよな』

「え?」

 

突如フォンが切り込んできた。

あまりにも突然、対応不可な程に隙をついてきた。

レナは思わず虚をつかれたような反応を取ってしまう。

これでは答えを教えているようなものだ。

 

「そ、それは…」

『いや、いい。その反応が見れただけで充分だ』

「……フォンさん、それはずるいよ」

『あげゃげゃ!久しぶりに1本取れたな!』

「もう…」

 

呆れ、疲れるようにレナは嘆息をつく。

フォンの洞察力と判断力を相手にしているとこの世の対人の中で最も気力を消費するのだ。

 

『やはりシステムを知ってるか。つまり、お前はイオリアから事前に情報を得ている。自身の太陽炉にその機能も詰んだな?』

「そうだね。でもイオリアさんに直接聞いたわけじゃないよ」

『やっぱりか。ハロか何か情報を独占できる端末を持ってるな?』

「……正解」

 

あっさりと言い当てられてしまった。

レナの返答にフォンは満足そうに口角を上げる。

 

「この調子だとすぐに辿り着きそうだね」

『あげゃ!まだまだお前の正体は掴めないさ』

 

楽しそうに笑うフォン。

このように彼は昔からレナの正体を探ろうとしてくる。

いつか自分から話そうとしたレナだったが、フォンに拒否されてしまった。

自分で辿り着いた方が面白い、という理由で。

それからというものレナの正体に自力で辿り着こうとするフォンの掛け合いにレナは付き合わされることになっている。

これが心底疲れるのだ。

 

「で、結局なんの用だったの?」

『そう急かすなよ。もう用は殆ど済んだ』

「結局それなんだね…」

『あげゃげゃげゃげや!』

 

呆れるレナにフォンはただ爆笑を返す。

ただでさえ忙しいというのにトランザムシステムについても見抜かれ、掛け合いに付き合われレナは一気に疲労が溜まった。

心なしか視界も揺れている。

 

「じゃあ、もう切るね」

『いや、待て』

 

整備な新装備の開発、やらなければならないことを片付けたいレナは通信を切ろうとする。

だが、フォンはまたも拒否した。

そして、また見抜く。

 

『お前の声帯から疲れを感じる。何日寝てない?』

「……そういえば暫く数えてないかな」

 

声だけで気付かれてしまった。

レナは一瞬ここまでで一番動揺し、間を開けて冷静に返した。

だが、効果は皆無だったが。

 

『そうか。要件は終わりだ』

「じゃあ切るね」

『あぁ』

 

見抜いてきたフォンは労うわけでも注意する訳でもなく、ただ通信を遮断してしまう。

レナは焦点の合わない視線を泳がせたのち、また大きく嘆息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局軌道エレベーターの極秘ファクトリー破壊は失敗。

俺はソーマと再会し、また離別した。

 

「……」

 

大型の窓越しにブラックアストレアを見つめる。

アストレア(あいつ)もソーマと対峙した。

ソーマの駆るジンクスとほんの一瞬だけど戦うことになってしまった…。

 

「まさか声でバレるとはな…」

 

結局肝心な時に役に立たなかったな、変声機。

別に責めるつもりはないし、激戦だから仕方なかった。

レナには感謝してるからソーマのことは話していない。

たぶん話したら謝ってきそうだし。

 

「はぁ…」

「なにため息ついてるの?」

「うおっ、ビックリした」

 

いつの間にか部屋にネーナが入ってきていた。

ネーナは俺の隣に腰掛け、絨毯の上で俺の視線の先――ブラックアストレアを見遣る。

 

「アストレアがどうかした?」

「いや、別に…」

「ふーん」

 

気付かない振りしたがネーナが俺を一瞥した後、視線を落とした。

何か事情があるのは見透かされてるようだし、単に話してもらえなかったのがショックだったのかもしれない。

信頼してないわけじゃないんだけどな。

俺達の間に壁なんてもうないも同然だ。

 

「ネーナだから話さない訳じゃない。俺にも内に秘めておきたいことがあるんだ」

「あら、そう…。それってどんな事かだけでも聞かせて貰えないの?」

「そうだな…」

 

撒いたつもりだが気になってしょうがないみたいだな。

探り探り俺の機嫌を損ねないようにネーナは俺を不安そうに見つめている。

仕方ない、核心には触れずに話すか。

 

「まず俺は元人革連軍に所属していたんだ」

「えっ…あたし初耳なんだけど…」

「そりゃ初めて言ったからな。それで昨日ジンクスの編隊と戦っただろ?」

「う、うん」

「あれは頂武ジンクス部隊…かつての仲間達なんだ」

「……っ!」

 

衝撃を受けたのかネーナは言葉を詰まらせる。

ソーマについては触れなかったが、かつての仲間達と対峙することになった心境は紛れもなく真実だ。

実際悩んではいたし、話してもいいのだが…。

 

「そんな…わ、私…どうしよ…っ!」

「落ち着け」

 

明らかに焦燥し、顔面蒼白するネーナだがどうやら少しだけ勘違いしている。

 

「俺の目の前で頂武の誰かがお前達に殺されたのを目撃してはいない」

「そうなんだ…。あっ、でも…」

「あぁ。頂武に所属していない仲間達、人革連軍にいた顔見知り達は数多くお前達に殺されている」

「……」

 

ネーナは遂に話すことさえできず俯く。

俺とは決して目を合わせない。

合わせる顔がないのだろう。

そんなネーナの紅髪にそっと触れた。

 

「レイ…?」

「俺達は戦争をしている。人が死ぬのは当然だ。別に責めたり、追い立てたりしようとはしない。でもお前達はやはり奪い過ぎた、だからこそ咎を受ける必要がある」

「うん、わかってる…」

「でもお前達も自由を迫害されている。まずはお前達の戦いを終わらせることが先決だ。その後に俺とヨハン達と一緒に贖罪を果たそう。きっと永遠に拭えない罪だろうが、それでもだ」

「…うん」

 

涙を拭うとネーナは少しだけ微笑を浮かべ、頷いた。

俺はネーナの頭をなるべく優しく撫でてやる。

こうしてるとソーマを思い出す。

ソーマにもよく撫でてやっていた。

もうあの繊細な白髪に触れることはないだろう。

少し頬を紅潮させていたネーナだったが、ふと何かを思い出したようにまた蒼白した。

 

「そういえばあたし意味もなく気まぐれで人を殺したことあったの…」

「……それは」

 

ハレヴィ家の悲劇か。

連続出撃に疲れたネーナが暴走し、鬱憤晴らしにルイスの親戚の結婚式会場に破壊活動を行ってしまった。

もちろん忘れてはいない。

どういう心境の変化か、推測でしか分からないがあの時の行動をネーナは反省するようになったか。

あそこまで狂気を持っていたのに成長…と言っていいのかは分からないがかなり変わったな。

 

俺はネーナをドライの暴走から解放する時も、その他の時もいつも罪を意識するよう叫んでいるつもりだ。

俺自身も罪を背負っている。

だから、贖罪を、咎を決して忘れたように前提として想いを吠えてきた。

それが応えたと考えていいのか…。

正直分からないが、重要なのは原因よりもネーナ自身の変化と成長だ。

深くは考えなくていいだろう。

その代わり、少し教えてみようか。

 

「スペインの病院にあの時の被害者が入院している。唯一の生き残りだそうだ」

「えっ?」

 

予想通り、ネーナは驚愕して即座に反応する。

これはちょっとした褒美のようなものだ。

どちらかというと祝杯に近いのかもしれない。

ネーナの踏み出した一歩を無駄にしないための。

 

「ルイス・ハレヴィ。それがあの事故で…ドライの攻撃で左腕を失った女の子の名だ。まだ学生だった」

「……あたし、謝っても許されないよね」

「あぁ」

 

ここで否定して慰めるのはネーナのためにもならない。

敢えて肯定して頷く。

 

「……」

「……」

 

暫く沈黙が続く。

ネーナが答えを出すまでいつまででも待つつもりだ。

やがて、ネーナはゆっくりと口を開いた。

 

「あたし、今まで自分の幸せだけを考えて生きてきた。今だってあたし自身の為だけに…あたしの自由の為にだけ戦ってる。そこは絶対に譲るつもりはない。でも、あたし、ケジメをつけたい」

「あぁ。決して許されはしないだろう…だがら、一緒に謝りに行こう」

「うん…。その為にもあたしは、戦う。戦って、生きて、自由を掴んで清算する…!」

「ネーナ…」

 

凄まじい前進だ。

ネーナはネーナなりに前を向いて突き進んでいる。

もう兄に引っ張られるだけじゃない。

己の意思で強く生き始めた。

そんなネーナの、ネーナ達の人生を物のように握る奴らはやはり断罪すべきだ。

抗い、否定し、裁く。

 

その為に俺はネーナと共に戦う。




決意を固めたネーナ。
トリニティは各々想いを抱いて戦いに身を宿していく。
己の意思でガンダムを駆るトリニティとデスペア、彼らの前に遂に黄金の悪魔が現れる。
生きるために、戦え。
それが例え創造主でも。



つまり金ジム来るぜ。


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反逆の狼煙

金GMは次回です。


「集まってもらったのは他でもない。次はお前達の宿敵が相手だ、トリニティ」

『……っ!』

 

ミーティングルームでの宣言にヨハン、ミハエル、ネーナが息を呑む。

トリニティは自由を目的に戦っている。

そして、その第一歩、これを踏まえなければその道は確実に途絶え、必ず通らなければならない敵。

それがこいつらの支配者でもあり創造主ある、アレハンドロ・コーナーだ。

 

「コーナー家を攻める。そして、奴を炙り出し、慌てて出てきたところを蹂躙する。これが大まかな作戦内容だ」

「遂に…我々の生みの親と…」

「俺達を支配してる偉そうな奴か!ぜってぇ倒す!」

「あたし達を作り出して、戦わせて…あたし達のこと人とも思ってないクズ…!そいつだけは許さない」

「ネーナ…」

 

レナがネーナを見遣って呟く。

気付いたネーナは少しだけ顔を顰めた。

 

「……これくらいは許して。あたしは抗いたい。兄々ズとただ楽しく自由に生きたい。あたしのやってきたことはもう今更取り返せないし、その気もないけど…全て終わったら出来る限り清算はしてやるつもり」

「それはどう意味で言ってるの?」

「これは、ケジメよ」

「……そっか。うん、じゃあ協力してあげる」

「レナ…」

 

ネーナも人の事を言えないからな。

人間性からして非協力的だったレナも同意した。

これからネーナは目を逸らさずに自身の犯してきた罪と向き合い、前向かって進み続ける。

だが、今は束縛する支配に縛られて一歩進むことすら許されない。

もう道具じゃない。

人間であるために…そして、この世界の歪みを断ち切るためにアレハンドロ・コーナーを倒す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦決行から数時間。

導入した機体はガンダムプルトーネブラック、サハクエル、スローネだ。

5機のガンダムでコーナー家の領地を蹂躙する。

命は奪わない。

施設だけを破壊し、奴に資産的なダメージを与えることにした。

当主のいないコーナー家が崩れるのは簡単だった。

ガンダムに狙われる一族――それはソレスタルビーイングの裏切り者で、国連軍に支援を行う者であることを絹江によって世界に発信させたことにより、俺達がやってるのは一見ただの破壊工作だったが意味のあるものとなる。

 

『本当にいいの?わざわざ私と外部を切断させたのに…』

『必要なことだ。それに、もう絹江のことは信頼してるよ』

『デスペアさん…。分かったわ、各所と連絡取ってみる。証拠もあるんでしょ?』

『あぁ。情報操作も回避する、こっちには取っておきがあるからな。頼んだ』

 

出撃前に宇宙(そら)にいる絹江に渡すべきデータを渡した。

これでアレハンドロ・コーナーに逃げ道はない。

嫌でもトリニティと向き合うよう仕向ける。

道具であるあいつらと同じ目線まで引き下ろしてやる。

 

『あらかた回り終えたな』

『うん。次は…』

 

レナと通信を交わして段取りを確認する。

次に行けべき場所に決まっている。

アレハンドロは必ずそこを通り、そこにいる。

遂に対面し、もし奴がアルヴァトーレを用意していれば戦うことになる。

 

『軌道エレベーターに向かう。……恐らく奴はそこにいる』

『了解した』

『…了解だぜ』

『ラジャ。遂に…』

 

俺の指示にトリニティ達は力強く頷く。

サハクエルを除く4機のガンダムはレナの操る飛行艇に収容され、そのまま軌道エレベーター『天柱』に進路を変えた。

既にフェレシュテとレオから奴らしき宇宙艇が月を去ったと報告が入っている。

今の時代、地上と宇宙(そら)を行き来するには人革連領にある軌道エレベーター『天柱』しかない。

だから、アレハンドロは必ずそこを通る。

俺達はそこを叩くんだ。

だが、軌道エレベーターへと向かう道中のこと。

当然()()は飛んできた。

 

「粒子反応…!え、えっ!?なにこれ…とてつもなくデカイのが来るよ!」

「なっ!?しまった。大型GNキャノンだ!」

 

操縦席のレナが驚愕すると共に俺はその正体に気付いた。

だが、まだ軌道エレベーターは見えてすらいないぞ!?

深い森を経由していた時のことだ。

まさかルートを先読みされていたのか。

リボンズめ…!

 

「避けろ!レナ」

「む、無理!完全には…きゃあああっ!?」

「ぐっ…!」

「うおおっ!?」

「きゃっ…!?」

 

飛行艇に極太の粒子ビームが掠り、機体が激しく振動する。

痛てぇ…。

頭ぶつけたぜ。

トリニティも踏ん張ったが、各々悲鳴を驚いたり悲鳴を上げたりしている。

クソ、今どういう状況だ!?

 

「左翼被弾!高度がどんどん下がってる…!」

「敵はどこだ!?」

「前方約30km先…!」

「はぁ!?」

 

遠過ぎるだろう。

知ってはいたが、その距離から狙えるなんて反則過ぎる。

なんて機体だ。

さすが太陽炉を7基も詰んだMA(モビルアーマー)だけはある。

最高に意味がわからないくらい厄介だ!

 

「まだ補足されてる…!」

「くそ…!」

「レイ・デスペア!一体どこに!?」

 

俺は席を外し、飛行艇の後方へと走った。

パイロットスーツはこれまでの出撃から一度も脱いでいない。

ま、外に出たら基本脱がないけどな。

リボンズに脳量子波で正体を看破されてしまう。

 

「レナ…!」

「……っ!発進まで25秒待って!粒子ビームが来る!」

「了解!」

 

確かさっき補足されてるって言ってたからな。

仕方ない、それにレナの対応が良い。

文句を言うつもりはない。

回避行動で機体の傾きが起きる。

その後、レナならすぐに立て直すだろう。

それまでに俺ができること…それは出撃準備を完璧にすることのみだ。

だから、飛行艇の格納庫に収まっているプルトーネブラックのコクピットハッチを開ける。

そういえばハッチが下を向いてるため、乗りにくいんだった。

タイムロスは有難いくらいだな。

機体が傾くのは面倒だけど。

 

「回避するよ!きゃあっ…!?」

「くっ…!このままではもたない!」

「おい、どうすんだよ。レイ!」

「まさか出撃するつもり!?」

 

操縦舵を握るレナは精一杯飛行艇を駆る。

ヨハンは顔を顰め、ミハエルは困惑している。

その中でネーナだけが俺を見て目を見開いて叫んだ。

 

「当たり前だ!このままじゃ全員死ぬぞ!この飛行艇も不時着する!」

「む、無理よ!出撃する暇なんて与えてもらえない!あんなの勝てっこない…!!」

「なに…?」

 

ネーナが既に諦めかけている。

アルヴァトーレに、アルヴァアロン。

アレハンドロの機体について事前に説明している。

だが、目にするのは初めてで当然対峙するのも初めて。

そして、不意打ちされた今の状況は最悪だ。

ネーナにとってはもはや絶望の最中なのかもしれない。

あいつには覆せない盤面に見えているのか…。

 

そんなの、俺も同じだ。

大体前世じゃただの一般人だ。

MSの操縦だってマシになってきたのがつい最近。

そんなのがあんな悪趣味な金ピカデカブツと対峙してどうにかなると考えるか?

答えは否だ。

正直、粒子ビームが放たれる度に死を覚悟してる。

今はレナの機転で助かってるがこれが何度続くかなんて想像出来ない。

それでも、俺には諦めずに戦う理由がある。

 

「ネーナ。お前が諦めるのは勝手だ。俺達はそれぞれ自分のために戦っている」

「え…?」

「でも、俺は諦めない。約束したんだ。理想を叶えると。その為なら俺は戦える、己の意思で」

「レ、レイ…」

「……お兄ちゃん」

 

レナの操縦舵を握る力が強くなる。

俺の視点から彼女の表情は窺えないが、それでも俺には分かる。

きっと深雪は笑みを浮かべている筈だ。

俺はそれに応える義務がある。

兄として。

2人で交わした誓いはどんなに絶望の最中でも朽ちない。

 

「くっ…!」

「お兄ちゃん!」

「分かってる!」

 

機体の振動で少し態勢を崩した。

だが、俺の手は既にプルトーネブラックのコクピットハッチに掛かっている。

片手に力を入れて身をハッチへと寄せ、力に任せてコクピットに乗り込むことに成功した。

そして、コクピットハッチを閉めてシステムを再起動する。

 

「スタンバイ完了、いつでも行ける!」

『了解。機体の平行バランス安定、ハッチオープン!』

 

左翼とメインエンジンをひとつやられた状態の中、レナが技術に任せて機体の態勢を立て直す。

この態勢を維持するのは極めて困難なのは俺でもわかる。

だからこそ、いつでも出れるよう集中する。

 

『プルトーネブラック、先行する!』

 

格納庫のハッチが開いたのでプルトーネブラックを空に晒す。

落下するように出撃し、粒子を散布し、GNドライヴを完全起動する。

GNバーニアで機体の維持に成功すると、すぐに飛行艇から離れ、30km先の敵へと加速した。

 

「アルヴァトーレの正確な座標は!」

『高度はプルトーネブラックと一致してるよ。そのまま前進を続けて。でも粒子ビームには気をつけて!』

「了解!」

 

右手にGNビームライフル、左腕にGNシールドを構えるプルトーネブラック。

レナの指示通り、トップスピードでアルヴァトーレへと向かう。

しかし、そんなプルトーネブラックを無視するかのように極太の粒子ビームが横切った。

あの粒子ビームの狙いはまさか――!

 

『レナ!!』

 

思わず振り返ると背後で爆発が起きる。

距離があって飛行艇が墜ちたかは確認出来ない。

だが、やられた…!

 

『てめぇえええええええーーーっ!!』

 

まだ見えぬ先にいる敵に吠える。

よくもやりやがったな。

絶対に倒す!

 

『もっと速く!気合い出せ、プルトーネブラック!』

 

プルトーネブラックに無理を言ってるのは分かってるが、土壇場だとどうしてもガンダムに声を掛けてしまう。

乗馬中に馬に掛け声をするのに近いがこっちは自我がない。

でも刹那の気持ちはこういう時にはわかるかもしれない。

 

と、そんなことはどうでもいい。

早急に奴を見つけ、砲撃を止める!

そんな俺の元にも大型GNキャノンの粒子ビームが飛んできた。

 

『当たるかよ!』

 

俺の双眼が輝く。

GNバーニアを噴射し、後方へと退りながら粒子ビーム着弾までの距離と時間を稼ぎ、下方に急速落下することで避ける。

一発粒子ビームを放った今がチャンス。

次の発射までのタイムロスのうちに距離を詰める。

その為にも機体の態勢を整える暇はない。

無理をいってプルトーネブラックを下から上、左から右へと胴体を反転させ、目的の地へとさらに加速した。

 

約8km程詰めた時、奴の姿が視界に映る。

圧倒させられる巨体、大量散布されられている黄金のGN粒子。

恐ろしさを感じる程に威圧感のある太陽炉の数に、悪魔のような凶器さを身に纏っている。

擬似太陽炉搭載型MAアルヴァトーレ。

通常のMSの5倍はある巨体が空を支配していた。

 

『あれが、アルヴァトーレ…っ』

 

現物で見るとこれ程の圧があるのか…。

正直勝てる気がしない。

地上での飛行運用には適していないとはいえ、空に浮いているその様はまるで空飛ぶ要塞だ。

本当に勝てるのか…?

 

「いや、勝つしかない!何の為にここまで戦ってきた!気張れ、レイ・デスペア…!!」

 

アルヴァトーレを前に怖気付く自分を奮い立たせる。

やるしかない。

俺は己の意志で戦うと決めたんだ。

掴みたい理想がある。

俺達自身の為に諦めてたまるか!

 

『目標を蹂躙する…!!』

 

前進しつつGNビームライフルから粒子ビームを放つ。

アルヴァトーレ自体は方角も高度も固定したまま動いていない。

やはり浮上しているのがやっとか。

ならば動かない的を狙うまで。

射撃が苦手な俺でも当てられる。

 

当然、狙い通り二閃の粒子ビームはアルヴァトーレ本体に吸い込まれていった。

しかし、着弾する直前赤黒い光の壁に阻まれる。

 

『GNフィールド…!』

『フッフフフフ……その程度でアルヴァトーレに対抗しようなど、片腹痛いわ!!』

『この声は…、アレハンドロ・コーナーか!』

 

音声が繋がり、高々な笑い声が聞こえてくる。

この声、物言い、確実にアレハンドロだ。

アレハンドロは変声期で声を隠した俺の言葉に小さく笑みを浮かべるのが耳に入った。

 

『フッ。やはり私を知っているか…。貴様は何者だ、プルトーネのパイロットよ』

『答える義理は、ない!!』

 

GNビームライフルでさらに粒子ビームを放つ。

しかし、全てGNフィールドで防がれてしまった。

 

『フハハハッ!効かぬ効かぬ!何処の誰だか知らないが、もはやどうでも良い。この私、アレハンドロ・コーナーが、貴様を新世界への手向けにしてやろう!』

『ふざけるな!!』

 

くっ…やはり硬い!

元から粒子ビーム類は効かないのは知っていた。

対策としてGNブレイドを装備してきたが、武器が不足している今一本しかないのが現状だ。

せめて接近しないことには話にならない。

 

『蹂躙されるのは……貴様だッ!!』

『……っ!』

 

大型GNキャノンの砲口がプルトーネブラックへと向けられる。

マズい、この距離、あの威力に射程範囲じゃ避けきれない!

 

『塵芥と成り果てろ!プルトーネ…!』

『しまった…!』

 

機首部の大型GNキャノンの砲口が内に光を秘めて輝く。

確実に当たる。

だが、諦めはしない。

せめて生き残ってみせる!

 

『うおおおおおおおおおーーーっ!!』

 

俺の双眼が色彩に輝く。

その時、プルトーネブラックの機体に衝撃が走った。

コクピット内にも横殴りされたかのような振動が伝わる。

 

『うわっ!?』

『なに!?』

 

いつの間にかプルトーネブラックは元いた場所からは大きくズレ、大型GNキャノンの極太粒子ビームを躱していた。

そして、プルトーネブラックに突っ込んできた赤い機体が桃色の瞳で抱き抱えるプルトーネブラックから俺を見下ろす。

それは紛れもなくガンダムスローネ ドライ、ネーナだった。

 

『ネーナ!?』

『遅れてごめんね!でもレイを助けられたし、結果オーライね』

 

モニター越しにネーナが俺にウインクを送る。

その表情には曇りのない笑顔が浮かんでいた。

 

『トリニティか…!ぐうっ…!?』

 

音声越しにネーナを睨むアレハンドロだったが、すぐに衝撃に襲われる。

俺にも見えた。

アルヴァトーレの機首部にある大型GNキャノンに粒子ビームが直撃したのを。

破壊は出来ていないみたいだが。

 

『この正確さ…レナか!』

『お待たせ、お兄ちゃん!』

 

粒子ビームの飛んできた方角を見遣ると丁度サハクエルがこちらへ向かってきていた。

マントは剥がれていて、双翼は自由を主張するように展開されている。

両手には勿論GNツインバスターライフルが握られていた。

 

『スローネ アイン、目標に到着。これより戦闘を開始する』

『よっしゃあ!カマすぜぇ…!!』

『ヨハン!ミハエル!』

 

サハクエルと共にスローネ アインとツヴァイも姿を現す。

良かった、みんな無事だったのか…。

これで5機揃った。

チーム・トリニティ&デスペア、揃い踏みだ。

 

『くっ…!死に損ないの役たたず共が…っ。道具の分際で私に歯向かおうと言うのか!』

 

アレハンドロが現れたトリニティに対して苦虫を噛み潰したような反応を示す。

遂に本性現したか。

そうさ、あいつらはこいつに作られて戦わされて自由を迫害されてきた。

トリニティの罪は重い。

だが、こいつの罪はもっと重い…!

 

『貴様が、アレハンドロ・コーナー…。やはり我々を道具としてしか見ていないというのか!』

『当然だ。貴様らは我が計画遂行の為の布石でしかない。万に一つも主に噛み付くような駄犬であってはならないのだよ…!!』

『てめぇ…!!』

『あたしらはあんたの犬なんかじゃない!』

 

モニター越しにアレハンドロとトリニティが言い合う。

アレハンドロは相変わらずトリニティへの意識を断固として変えるつもりはなく、見下している。

そんな態度に当然トリニティは怒る。

 

『否、犬以下の道具同然だ。使い捨てのな』

『貴様…っ!』

『切り刻まれてぇのか、てめぇ!!』

『絶対にぶちのめしてやる…!』

『フハハハッ!そこまで吠えるならやってみろ。創造主に逆らえなどしないことをその身に叩き込んでやろう…!!』

 

アレハンドロの凶悪な笑みと叫びにより戦闘の火蓋が切られる。

戦場に大量のGN粒子が舞い、それぞれの機体がパイロットの想いによって動き出す。

 

『これは我々の存亡を掛けたミッション…!必ず完遂させる!』

『行けよ、ファング!!』

 

アインがGNランチャーから粒子ビームを放ち、ツヴァイがGNファングを6基射出する。

サハクエルも上空へと飛翔し、GNツインバスターライフルを構えた。

 

『あの人は世界の歪み!サハクエル、行くよ…!』

『翼持ちのガンダム…未知の機体である貴様だけは鹵獲する。掛かってくるが良い…!』

『貴方が向き合わなければならないのは私じゃない!この戦いでその目を覚まさせてあげる』

 

レナの想いに応じてサハクエルからも粒子ビームが放たれる。

プルトーネブラックを駆る俺はアレハンドロがレナに意識を割いてることを利用してアルヴァトーレの背後を回り込んで、GNソードを抜刀する。

多勢に無勢を利用する!

 

『銃弾に重いも軽いもない…。それはあんたを撃つのも同じ。あたしはあたしの意思でこの引き金を引き、あんたの支配から抜け出す。まずはあたし達と同じところまであんたを引き摺り下ろす!!』

『道具が吠えるか…!!』

 

二方向から迫る粒子ビームをアルヴァトーレはGNフィールドで防ぎ、GNファングには大型GNファングで対応する。

そして、大型GNキャノンの砲口をドライへ向けた。

それに対してネーナは叫ぶ。

 

『ガンダムスローネ ドライ、ネーナ・トリニティ!目標を駆逐する…ってね!』

 

一瞬ウインクと笑みを浮かべ、ネーナなりの気合を入れて立ち向かう。

トリニティの反逆が始まった。




罪も何もまずは支配を抜けなければ贖罪も反省もできない。
咎は受ける、必ず。
その為にもトリニティは自由を吠え、創造主を撃つ。
理想を抱く兄妹と共に。


アルヴァトーレに関して疑問うんぬんはあると思いますが、なんか書いてたらいつの間にか浮いてたのでお許しを。
ただ自由に行動はできないです。
座標は固定されたままで、爆積みGNドライヴの出力でなんとか浮上している感じですね。
ま、浮いてる方が叩き落とせるので個人的な趣味でもありますが。

大型GNキャノンVSツインバスターライフル
大型GNファングVSGNファング
とか次回は書いてみたいなと思ってます。
必ずしも書くとは言ってない。

あと誤字は修正しましたが、まだ隠れGN大型キャノンがいるかもしれないので見つけた際は報告してくださると助かります。


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撃ち砕く野望

めっちゃ長くなっちゃったので、時間のある時に読んでください。


飛び交うGNファングと大型GNファングの粒子ビームがぶつかり合う。

黄金の壁により、ガンダムの放つビームは全て弾かれてしまった。

それでも無駄ではない。

現にヨハンとレナの射撃でアレハンドロは俺から意識を割いている。

 

『貰った…っ!』

『なに!?』

 

サハクエルとアインが前方から攻撃している隙にプルトーネブラックはアルヴァトーレの背後に回っていた。

GNブレイドを手に奇襲を掛ける!

 

『背後からの不意打ちだと!?フッ、しかし…ファング!!』

『なっ…!?』

 

ツヴァイのGNファングに対応していた大型GNファングから2基、俺に迫ってきた。

大型GNファングはビーム射撃の機能しか用いていないため、2基から粒子ビームが放たれる。

だが、それだけでプルトーネブラックは阻まれる。

GNシールドで我が身を守りつつ後退するのが精一杯だ。

 

『クソ…!』

『塵にしてくれるわ、プルトーネ!!』

『冗談!』

 

大型GNファングから放たれる粒子ビームを避け続ける。

なんだ?

やけに下方から攻めてくる。

大型GNファングは上空から迫ってきたくせにわざわざプルトーネブラックより高度を下げてきた。

何が狙いだ…待て、まさか!?

 

『しまった!』

『フハハハッ、そこは射程範囲だ!!』

 

アルヴァトーレの両側面に11門ずつ、計22門を内蔵されたGNビーム砲の射程範囲に意図的に誘導されていたのか。

プルトーネブラックはその為に迫り上げられたと。

やられた!

 

『くっ…!』

『粉砕してくれる…!!』

『お兄ちゃん!!』

 

22門の砲口から放たれる粒子ビームの雨がプルトーネブラックに迫る。

クソ、虚をつかれた今防御手段に出るしかない。

 

『ぐああああああああっ!?』

『ハハハハハハッ!果たしてその貧弱な盾で守り切れるか!否、貴様はここで死ぬのだ、プルトーネ』

『ふざ…ける、なっ!』

 

とは言ったもの守りで精一杯だ。

GNシールドを構えて今のところは防いでいるが、どんどん削られている。

このままじゃGNシールドももたない。

 

『翼持ちも落ちるがいい!』

『レナ…!!』

『……っ』

 

プルトーネブラックに向けられたものとは別に半数の砲門がサハクエルを狙う。

あいつ、レナを…!

 

『そんなの当たらない!』

 

だが、サハクエルは双翼を羽ばたかせて旋回し、粒子ビームの散弾を避ける。

上手い。

 

『ほう。機動力も優れているというのか…。いや、パイロットの技術と機体の機動力、武器は二つか。素晴らしい、パイロットごと頂くとしよう!!』

『なんだと!?』

 

アレハンドロが身を乗り出して興奮を露にする。

こいつ、自身の計画にレナを利用する気か。

――ふざけるな。

俺の妹を、深雪を。

てめぇの手で汚すんじゃねえ!!

 

『ああああああああああああああーーーっ!!』

『なに!?機体の損傷を気にせず突っ込んできただと!?』

 

前進するとプルトーネブラックの身を守っていたGNシールドは粒子ビームの集中攻撃を受けて大破した。

奴の言う通り、塵となり捨てる。

だが、それでも加速を止めない。

なに。ただ馬鹿正直突っ込むわけじゃない。

感情に駆られようと今の俺は奴に何らかの方法で痛手を受けさせないと気が済まないんだよ!

 

『貴様にレナはやらねえっ!!』

『馬鹿な…!』

 

俺の双眼が色彩に輝く。

プルトーネブラックは左足を損傷し、失ったがそれでも接近を止めない。

視界に映り、前方から迫る雨の如く粒子ビーム。

それら全ての機動を肉眼で読み取り、プルトーネブラックを操る。

左から来れば右に、右から来れば左に機体を傾けて躱すが、その度に他方面から来た粒子ビームに機体を抉られる。

それでも進撃を止めるわけにいかない。

俺はこの命に代えても深雪を守る。

 

『そこだ!』

『GNフィールド!』

 

ボロボロのプルトーネブラックでアルヴァトーレに突っ込む。

しかし、その進撃も黄金のGNフィールドによって阻まれた。

だが、それがどうした。

今の俺ならアイアスだって貫ける!

 

『貫けっ!!』

『馬鹿な…!フィールドを!?』

 

GNフィールドに突き刺さるGNブレイドの剣先がフィールド内へと侵入していく。

そして、俺の叫びと共に貫通した。

 

『はあっ!』

 

GNブレイドを砲口に差し込み、GNビーム砲を二門破壊する。

アルヴァトーレの後部から損傷により爆発も起きた。

その衝撃に俺の機体は吹き飛ばされるようにアルヴァトーレから離れる。

 

『ぐぅ…っ!』

『お兄ちゃん…!』

 

前方に飛んでいったプルトーネブラックをサハクエルが受け止めてくれた。

片足がなく、機体バランスの取りにくくなったプルトーネブラックをサハクエルは支える。

 

『ありがとう、レナ。でも大丈夫だ。俺に気にせず戦ってくれ』

『ダメだよ。私、お兄ちゃんを放っておくなんてできない』

『そうか…。じゃあ、俺も戦うから退いてくれ』

『……そういうことなら仕方ないかな』

 

レナは渋々といった様子でサハクエルからプルトーネブラックを解放してくれる。

悪いな、深雪。

帰ったら何かしてやる。

 

『ちょっと!その機体で戦う気!?』

『あぁ。まだ負けてないだろ。それにお前達と一緒に戦うと約束した。最後まで協力させろ』

『レ、レイ…』

 

ネーナも俺を心配してドライで駆け寄ってくれたが、どいつもこいつも戦闘中に俺に構うなっての。

どうも過保護が多い。

ま、心配してくれるのは素直に嬉しいけどな。

 

戦況は、俺が二門破壊したもののアルヴァトーレのGNビーム砲はまだ20門残っているため、広範囲の散弾が繰り広げられている。

それをヨハンはアインのGNシールドで、ミハエルはツヴァイのGNバスターソードを盾代わりに防いでいる。

大型GNファングが見当たらないな。

一度粒子供給を目的にアルヴァトーレに収容されたか。

ならばGNビーム砲で迂闊に接近できない今、最も警戒すべきなのは…。

 

『熱源反応…!あの砲門に蓄積されてる!』

『大型キャノンか!誰が狙い――クソ、俺かよ!!』

『そんな…!』

 

そりゃそうか。

損傷してるもんな。

一番ダメージがでかく、行動が制限されてるのはプルトーネブラックだ。

この機体状況じゃ大型GNキャノンの粒子ビームを避けるのは困難だろう。

だが――。

 

『舐めるな!!』

『なに!?』

 

俺の双眼が色彩に輝き、アレハンドロは驚愕する。

予想通りの反応だ。

なぜなら大型GNキャノンの砲口に向けて自ら突っ込んでるんだからな。

 

『死ぬ気か、プルトーネ!』

『殺せるもんなら殺してみやがれ!!』

 

大型GNキャノンの砲口が(きら)めく。

発射直前の状態なのは見て分かり、プルトーネブラックは当然射程内だ。

距離も30mとない。

だが、ここまで接近すれば…!

 

『はあっ!』

『馬鹿の一つ覚えとは……なにぃ!?』

『あれは…!』

 

レナは俺の狙いに即座に気付いた。

アレハンドロすら予測していなかった俺の行動は、GNビームサーベルを至近距離で大型GNキャノンの砲口に投げ刺すこと。

かなりの賭けだったが、GNブレイドを手放し、装備されていた二本のビームサーベルを投げ刺すと大型GNキャノンの砲口に見事刺さり、蓄積されていた粒子エネルギーが爆発した。

 

『ぐおおおおおおおおっ!?』

 

大型GNキャノンが大破、そこを中心に起こる大爆発でアルヴァトーレのコクピットも激震する。

アレハンドロの苦しむ声はハッキリと聞こえた。

どうやら効果的だったようだな。

 

『たかがプルトーネ1機如きに…っ!ぐうっ!?』

 

アレハンドロが俺を睨むが、アルヴァトーレのダメージがでかく、コクピットに衝撃が伝わる。

かなりの粒子を溜め込んでいた大型GNキャノンをぶっ潰したんだ。

この程度じゃないはず…。

と、アルヴァトーレの機体前方から粒子ビームが溢れ出し、機体の亀裂という亀裂から粒子ビームが散開した。

 

『ま、まさか…!』

『墜ちろ』

 

俺の一言共にアルヴァトーレの機体前方が大爆発。

疑似GNドライヴ7基でやっと浮上していたその巨体は煙を上げて地上に落下した。

 

『ガンダム1機にこの私のアルヴァトーレがあああぁぁぁぁぁぁあーーーっ!!』

 

そんな叫びも地上の激震に吸い込まれていく。

GNビームサーベル二本をお釈迦にした甲斐があったな。

 

『流石だ。レイ・デスペア…!』

『すげぇ!あんなでけぇMAをあっさりとやりやがったぜ!』

『やーん、レイかっこいい!!』

『……まだ終わってないぞ』

 

お褒めに預かり光栄だが、あの程度で終わるアレハンドロではない。

アルヴァトーレも高度の維持ができなくなっただけだ。

大型GNファングと何門かのGNビーム砲も生きてるかもしれない。

地上に墜ちてもあれは要塞だ。

GNフィールドもある。

大型GNキャノンが確実に消えたのはかなり好展開だけどな。

 

どちらにせよ、油断はできない。

未だ接近の難しい地上の要塞か、あるいは――。

 

『レナ。どっちで来ると思う?』

『……今のところは分からないかな。ただどっちで来てもおかしくないよ』

『あぁ。要はアルヴァトーレの機体状況次第だな』

 

眼下の焼ける景色を見下ろす。

墜落と爆発が影響で煙が蔓延し、アルヴァトーレの姿は見えない。

奴がどういう出方をするか。

未知だ。

 

『こっちから攻めちまえばいいんじゃねえのか?』

『ミハエル、それは愚策だ。返り討ちに合うだろう』

『でも、反応なくない?』

 

確かにネーナの言う通り、まだ相手に動きはない。

アルヴァトーレの損傷が激しいのか?

手間取っているならミハエルの言葉もあながち捨てたものではない。

如何せん、煙で全貌が見えねえ…。

 

『一度、GNランチャーとツインバスターライフルで牽制か。GNファングや各々の射撃で煙を晴らすか――――がはっ!?』

『お兄ちゃん!?』

 

思考の最中、突然()()からの衝撃に襲われた。

間違いなく後から何かに撃たれたような感覚、プルトーネブラックが損傷し、高度が降下しているのを感じる。

やられた…!

 

『レイ・デスペア!』

『まさか…!』

『お前ぇぇぇええーーっ!!』

『プルトーネブラックが…!』

 

ヨハンが降下する俺に驚愕し、レナはサハクエルでプルトーネブラックを追いかけ、手を掴もうとするが僅かに掠るだけで空振る。

俺は重力に支配されたまま落ちていくのを続けるしかない。

操作も効かないようだ。

クソ……ッ。

 

そして、ミハエルとツヴァイの視線の先には黄金のMSがGNビームライフルを二挺構えて空に浮いているのが見える。

なるほど…あれに後から撃たれたのか…。

めっちゃ痛てぇ。

それにしても正確な射撃だ。

プルトーネブラックの背部装甲の殆どを抉られた。

ネーナが怒りに任せてドライで加速しているが、奴は間違いなく手強い。

だから、単独でぶつかるのは危険だ。

 

『レ、レナ…相手は疑似太陽炉搭載型のMS1機、だ…。連携を乱す…な…っ。俺はいいから…、ネーナを……』

『……っ!』

 

必死にプルトーネブラックを追い掛けるサハクエルに手を伸ばしながら訴えた。

上手く話せたかは分からないが、レナなら汲み取ってくれる筈だ。

実際にサハクエルが旋回して戻っていくのが視界に映っている。

よし…、後は衝撃に備えて…。

 

『うぐっ…!!』

 

再度機体の爆発が起きて転がるように墜落した。

通信で何やら騒いでるが、壊れてよく聞こえん。

ま、俺が死んだとかどうとか俺の名を叫んだりしてるのだろう。

本当にしんどいが、まだ意識を失うわけにはいかない。

 

『はぁ…はぁ…、あれは…っ』

 

なんとかプルトーネブラックのメインモニターを走らせると俺の捨てたGNブレイドが地面に突き刺さって落ちていた。

プルトーネブラックの機体状況は…左足の損傷と腰部のGNコンデンサーが片方使い物にならなくなっている。

背部の複合装甲もだな。

そうか、こいつのおかげで俺は生きてるのか…。

武装はなし。

だが、目の前にGNブレイドがある。

 

『俺は、まだ戦える…』

 

ヨハンにミハエル、ネーナもレナも信じている。

決して託してないわけじゃない。

でもここでじっとしてる程俺は我慢強くないんでな。

なにせ、無謀にもヴァーチェに突っ込むような男だ。

あの時は仲間の死に耐えられなくなって、みんなを守りたいと思って行動した。

 

それと同じだ。

俺は生きいる限り、理想と約束の為に戦い続ける。

だから、動いてくれプルトーネブラック……!

 

『頼む。俺と一緒に戦い続けてくれ、ガンダム!』

 

瞬間、プルトーネブラックの双眼に光が戻る。

モニターを動かすのが精一杯だったプルトーネブラックが強い意志を持つかのように片手をつき、片足でなんとか這い上がる。

GNドライヴも再び粒子を散布させ、残ったバーニアを噴射した。

まずは機体を浮上させ、態勢を安定させる。

 

『プルトーネブラック、レイ・デスペア。目標を蹂躙する…!』

 

一気に加速、道すがらGNブレイドを抜き取って、空高く飛翔した。

 

『……っ』

 

夕陽が眩しく機体を照らす。

そして、遥か上空には黄金のMS――アルヴァアロンが君臨していた。

対する4機の機体は各々苦戦している。

ドライはアルヴァアロンと接戦したかと思えば突き飛ばされ、交代するようにツヴァイが接近しようとすると下方からGN大型ファングが迫り、阻まれている。

アルヴァトーレが単一で動いているのか。

 

地上を見遣るとどうやらアルヴァトーレを遠隔操作か何かで支援機のように扱ってるらしい。

まさかタテガミが実現するとは…。

ちょっと驚いたが、中々脅威だ。

大型GNファングとGNビーム砲が15門生きてるらしい。

ネーナとミハエルの後方支援に徹していたヨハンとレナはアルヴァトーレによって狙撃タイミングを何度も失っている。

 

レナはサハクエルの機動を活かしてアルヴァトーレの攻撃を躱し、アルヴァアロンに射撃で攻めているが、その度にアルヴァアロンがGNフィールドを展開し、防いでいる。

頼みの綱であるバスターソードを持つツヴァイが接近できてないのは痛いな。

さて、俺も加勢するか。

 

『きゃあっ!?』

『フッ、所詮は道具か。我が剣の錆となれ、ネーナ・トリニティ!』

 

アルヴァアロンの蹴りがドライの懐に命中し、ネーナが機体のバランスを崩したところをアレハンドロはGNビームライフルを1挺捨て、GNビームサーベルを抜刀して斬り掛る。

だが、その間にプルトーネブラックを滑り込ませ、GNソードでアルヴァアロンの斬撃を防いでみせた。

 

『アレハンドロ・コーナー!』

『プルトーネだと!?まだ生きていたというのか!』

『レイ…っ!』

 

ネーナが見て分かるほど歓喜してくれる。

それ程までに俺達の間に絆が生まれたのだろう。

出会った頃では考えられない、共に戦った仲間だからこそ生まれたものだ。

そして、未来へ歩み始めたこいつらの命をこんな奴に奪わせはしない!

 

『はああっ!』

『ぐっ…、オリジナルの太陽炉もなしで…!パイロットが優れているとでも言うのか!!』

『俺には信念と意地がある!!』

『なに!?』

 

GNビームサーベルとの競り合いの末、残った右脚でアルヴァアロンの懐を蹴り飛ばし、想いを叫んだ。

勢いに圧されたアルヴァアロンに余裕を与えず、さらにGNブレイドで斬り掛り、アルヴァアロンはGNビームサーベルでそれを防ぐ。

攻守逆転だ。

 

『必ず理想に辿り着くと!あいつらに自由を与えてやると、誓った!その為に俺は戦う!』

『そんなものは私にもある…!それにしてもトリニティに自由を与えてやるだと?ハッ!奴らは我が計画の一部に過ぎない。もはや不要となった道具だ!道具に自由などと…片腹痛いわ!!』

『ぐっ…!』

 

徐々に圧されていく。

やはり機体ダメージが…!

 

『どうした?苦しくなってきたようだが…限界か!!』

『ぐあっ…!?』

 

プルトーネブラックごと蹴り飛ばされる。

クソ、身体にもガタが来てるせいで衝撃がかなり響く!

だが、俺はひとりではない。

己の為に戦っている俺達だが、敵は共通している。

 

『俺達はてめぇの道具なんかじゃねえ!!』

『ミハエルか!まさか貴様の分際で自由を吠えるとはな…!』

『うるせえぞ、このナルシスト野郎!』

 

プルトーネブラックと交代するようにツヴァイがバスターソードでアルヴァアロンと衝突する。

対するアルヴァアロンもGNビームサーベルで対応しつつGNビームライフルの銃口を零距離でツヴァイに向けた。

 

『しまった!』

『まずは貴様から葬ってくれる!創造主に逆らったことを後悔するがいい!!』

『クソ!まだまだっつーの!』

『なんだと!?』

 

ミハエルはわざと形勢を緩め、GNバスターソードの角度を変えた。

GNビームサーベルを受け止めつつも腰部をバスターソードの刀身で隠し、引き金が引かれたアルヴァアロンのGN粒子ビームを受け止めた。

至近距離での射撃故に機体の距離も一旦置く事ができる。

上手い。

 

『俺も兄貴みたいに…!』

『なんの…っ!ファング!!』

『ファングなんだよぉ!』

 

アルヴァトーレから放たれた大型GNファングがツヴァイに向けて粒子ビームを発射する。

だが、全てツヴァイのGNファングが放った粒子ビームで相殺され、大型GNファングも3基程サハクエルの射撃で破壊された。

 

『俺だってたまには信念とやらを持って戦ってやんよ!』

『道具の成長など…!』

『GNフィールドかよ!』

 

ツヴァイがGNハンドガンで放った粒子ビームはアルヴァアロンのGNフィールドで防がれる。

それでもミハエルは諦めずにGNバスターソードを手に攻め続ける。

 

『まだまだ行くぜぇ!』

『貴様、ファングを…!』

 

ミハエルの叫びと共に残りの大型GNファングはツヴァイの刃を形成したGNファングにより、貫かれて破壊された。

これでアルヴァトーレにはGNビーム砲しか残されてはいない。

 

『おらぁ!』

『新世界の主役であるこの私が道具如きに苦戦することなどあって溜まるものか!!』

『うおっ…!』

 

振り下ろされたGNバスターソードをアルヴァアロンは躱し、回転蹴りをツヴァイに叩き込む。

ミハエルが受け身を取ったおかげでツヴァイにダメージはあまりない。

そして、アレハンドロが舌打ちをした時。

 

『はああっ!』

 

アインがGNビームサーベルを手に斬り掛る。

 

『次は長男か!私を倒そうとするなど…、新世界に最も重要な私の価値を理解できぬか!フッ、所詮は道具!』

『私達は今を生きる人間だっ!!』

 

アルヴァアロンのGNビームライフルから放たれる粒子ビームを避け、一度距離を取るスローネ アイン。

GNランチャーの砲口がアルヴァアロンを捉え、至近距離から粒子ビームを的確に撃ち込んだ。

しかし、黄金の壁によってそれは阻まれ、アルヴァアロンには届かない。

 

『やはり手強い…!』

『当然だ。私は貴様を作り出した創造主、敵う訳がないのだよ』

『そうだとしても、私は抗う!!』

『身を弁えないとはなんと醜い!』

 

アインの粒子ビームがヨハンの想いに応えるかの如くアルヴァアロンに吸い込まれていくが、全てGNフィールドで防がれる。

一方のアルヴァアロンのGNビームライフルは的確にアインを捉え、噴射した粒子ビームはアインに命中する。

 

『ぐあ…っ、パイロットの腕が…優れている…!しかし!』

『まだ来るか!諦めの悪い…!』

『我が願いのために、諦めなどしない!ミハエルとネーナの為に!!』

『良かろう。ならば貴様から先に新世界の手向けとしてくれる…!』

 

損傷しようとも縋り付くように斬り掛るスローネ アインに、GNビームサーベルで競り合うアルヴァアロン。

衝突する2機の中で叫びがぶつかる。

 

『我々を生み、戦わせ、そこまでして何が望みだ!?』

『破壊と再生。ソレスタルビーイングの武力介入により世界は滅び、統一という再生が始まった。そして私はその世界を、私色に染め上げる!』

『まさか、支配しようというのか!?この世界を!』

『正しく導くと言った!だが、その新しい世界に貴様らの居場所はない!』

『ふざけないで!!』

『ぐうっ…!翼持ちか!』

 

スローネ アインと衝突していたアルヴァアロンを上から蹴り飛ばした機影、サハクエルがGNツインバスターライフルでアルヴァアロンを捉える。

 

『私欲に染まった貴方が導く世界なんて絶対に認めない!!』

『フッ、他人の許可など要らんよ!』

 

サハクエルの射撃もGNフィールドで防がれる。

やはり、実体剣でなければ効かないか。

 

『世界は貴方の所有物じゃない!ヨハンさんも、ミハエルも、ネーナも!みんな今を生きてるの…!』

『やがて私のモノとなる。世界はな!』

『貴方という人は…!GNガンバレル!!』

 

レナの叫びと共にサハクエルから展開された新装備、4基のGNガンバレル。

それぞれ二門の機関砲を持つGNガンバレルはレナの手動で自在に動く。

 

『くっ…!こんなもの!――当たらないだと!?』

『いっけぇ!』

 

砲門とは別に、GNガンバレルに内蔵されGNマイクロミサイルが発射される。

4基から4門ずつ放たれたGNマイクロミサイルは計16弾がアルヴァアロンへと集中砲火する。

レナの配置したGNガンバレルは四方八方にあり、レナ自身もサハクエルのマシンキャノンを連射した。

実弾兵器の嵐がアルヴァアロンを襲う。

 

『ぐおおおおっ!?GNフィールドを…!』

『今だよ、ミハエル!お兄ちゃん!』

『おうよ!』

『あぁ!』

 

GNフィールドを貫通したGNマイクロミサイルにより、アルヴァアロンがダメージを受ける。

レナの掛け声に俺とミハエルは前に出て、プルトーネブラックはGNソードを、スローネ ツヴァイはGNバスターソードを手にアルヴァアロンに接近する。

アレハンドロは急いでGNフィールドを再展開しようとするが実体剣の前には無意味だ。

 

『くっ…!アルヴァトーレ!』

 

アレハンドロが支援機と化したアルヴァトーレに指示を出す。

しかし、期待していた反応はどうやら返ってこないようだ。

 

『なっ!?馬鹿な、まさかアルヴァトーレが…っ!待て、スローネ ドライはどこに…』

『いっただきぃ!』

『背後に…!?』

 

アレハンドロが俺達に意識を割いている間にアルヴァトーレを破壊し、背後から迫ったネーナが現れる。

そして、GNフィールドにドライの手を無理矢理突っ込んで内部に侵入、そのまま背部のウイングを鷲掴みする。

さらにそこを掴まれるとアルヴァアロンは背後を振り向けない。

 

『ま、待て!よせ、ネーナ…!』

『あたし達を散々道具扱いして、止めるわけないでしょっ!!』

『よせぇぇぇええええーーっ!!』

 

アレハンドロの叫びは虚しく、ドライは背部のウイングを二枚共に剥がした。

同時にアルヴァアロンのGNフィールドが消える。

 

『終わりだ、アレハンドロ・コーナー!!』

『ちくしょおおおおおおおおおおーーっ!!』

 

一閃するプルトーネブラックとスローネ ツヴァイの斬撃。

四分等に切り刻まれたアルヴァアロンはアレハンドロの野望の終わりを告げるように爆散した。




長過ぎましたね。もっと読みやすくします。
というかもっと一話一話短く楽に書いて繋いでいきたい。
ちなみに今回は次回予告っぽいポエムねえーです。
1stは次の回だけは骨組みしかできてないので。


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悲劇襲来

アレハンドロ・コーナーを倒し、国連軍を生み出し、擬似太陽炉を世界にばら撒いた元凶が消えた。

だが、世界の加速は止まらない。

アレハンドロの言う通り、統一国家は始まりつつある。

ソレスタルビーイングやガンダムという共通の敵により武力で纏まった世界。

そんな世界は未だ争いを止める気配はない。

やはりまだ擬似太陽炉が蔓延するのは早かった。

 

「俺達のやるべきことは命を奪わないこと、救うことだけじゃない。ソレスタルビーイングが本来やるであろう戦争根絶も行う。その結果が俺とレナの理想を叶える」

『そうだね。本来の流れで行われることが必ずしも起きるわけじゃない。私達はもう手を抜けないから、最後までやらなきゃね』

「あぁ。その為に国連軍を淘汰し、俺達の手で紛争を根絶する。アロウズなど生まれてしまってはならない」

『うん、そうだね』

 

通信越しで今後についてレナと話していた。

俺の言葉にレナは何度も相槌を打ちつつ先の戦闘で傷付いた機体の改修作業を行っている。

俺はというといつもの本拠からは離れ、現在(ワン)家へと向かっているところだった。

飛行艇を使って、脳量子波遮断スーツを着用している。

 

「と、なるとやっぱり次に相手するのは国連軍ってことになるそうだな」

『まずは地上の頂武をなんとかしないといけないよ。……戦わないと』

「分かってるさ。ただ戦わなくてもいい方法はある筈だ。まずはそれを探ってからにしよう」

『了解。頂武を退けたら擬似太陽炉を製造する施設を壊して回る?』

「あぁ。だが、その前にトレミーチームと合流しよう」

『じゃあ連絡入れておくね。あっ、あっちの都合も考慮してからの方がいいかな』

「トレミーチームが国連軍相手に苦戦しているならな。出来るだけ早くは頼む」

『分かった』

 

そんな感じで次の行動が決まっていく。

そして、話し合いたいことは大概終えたのでミーティングを切り上げようとした時。

俺達の通信にネーナを始めとしたトリニティが介入してきた。

 

『やっほー、聞こえる?レイ』

「あぁ。聞こえてるよ」

『土産、忘れんなよ!』

『そそ、帰ったら祝勝会するんだからっ!』

「はいはい。分かってるって」

 

アレハンドロを倒し、支配から開放されたトリニティはガンダムを所有する限り戦いから逃れられないとしても自由を得ることが出来た。

少なくとももう戦わされることはない。

今後も戦うことがあればそれは真に己の意思で行うことだ。

ちなみに解放されたことを祝って帰ったら騒ぎ倒す約束をしている。

まだ戦いは終わってないが、俺もレナも了承してる。

それくらいはいいだろうってな。

 

ただその前にガンダムの改修に足りないパーツをこうして俺が(ワン)家まで取りに行っている。

経費は(ワン)家だからな、有難いが送料無料まで付けられると申し訳ない気持ちになった。

だから、俺自らが向かっている。

改修中はやることもないしな。

俺整備とか手伝えないし。

 

『ミハエル、ネーナ。あまり彼を困らせるな』

『はーい』

『はいよ』

 

通信にヨハンも割って入ってきてミハエルとネーナが散る。

こうして見ると兄弟間の関係は完全に修復したな。

良かった。

 

「俺が留守の間、頼むぞヨハン」

『把握している』

 

応じるようにヨハンが頷く。

アレハンドロは排除したが、リボンズには俺達の本拠の場所を知られている筈だ。

ならば次期に襲撃を受けるのは避けられない。

俺が留守にしている間、防衛に関してはヨハンに期待している。

トリニティの指揮に、整備で手が離せないレナのサポートをしてもらいたい。

 

『まさか貴方に託されるとは…正直、とても嬉しく感じる』

「そうか?お前のことはもう信用してる。意志は見せてもらったし、なによりここまで一緒に戦ってきた」

『レイ・デスペア…』

 

ヨハンの決意はしかと見てきた。

もはや他人から与えられた使命で戦うヨハンではない。

己の意志で、己が未来と弟妹(きょうだい)達のために戦い、これまでの罪を認めた。

銃弾に重いも軽いもない。

ネーナの言葉には憎しみや私欲で放つ銃弾と他人や正義のために放つ弾丸の同一性について意味が込められていると少なくとも俺は考えている。

目的がどうであれ放つ弾丸の重みは変わらない。

弾丸は放てば等しく命を奪っていく。

 

戦争根絶のためとはいえ、トリニティがやってきたことも同じだ。

目的がどうであれ命を奪うこと自体は罪として捉えられる。

サーシェスを撃ったライルもそうだった。

その上で考えるとやはりトリニティは必要以上に殺し過ぎた。

ヨハンはその罪を認めてくれた。

とても重要なことで、未来への一歩になってくれると信じている。

そんなヨハンを、ミハエルとネーナも仲間として信頼してもいいだろう。

それに値するだけの改心をあいつらはして見せたのだから。

 

「ま、とにかくそっちは任せたぜ」

『あぁ。何が起きても可能な限り対処しよう』

「了解」

 

その言葉を最後に俺達は通信を切った。

それにしてもヨハンはやる気に満ち溢れてるな。

頼りになる。

まあアレハンドロは倒したし、地上では脅威となるのも後は頂武ジンクス部隊くらいだ。

ささっと物資を受け取って帰って、騒ぎ倒したら任務を決行するとしよう。

頂武をなんとかすれば地上での活動も楽になる筈だからな。

 

と、まあそれはまずは帰ってからの話なわけで。

やっと飛行艇が(ワン)家の領地に入った。

着地地点はまだあと5km程先だ。

相変わらず敷地が広い。

見渡す限りこれ(ワン)家の領地っぽいな。

とにかく視界に入る分は。

 

「こちらレイ・デスペア。着地体勢に入る」

『了解しました』

 

通信を送ると従者と思わしき男の声の返答が返ってくる。

指示された通りに飛行艇を操縦し、着地は無事に終わった。

物資を受け取るためにハッチを開け、本来ならそれだけで済むし降りる必要はないが、挨拶もなしというわけにはいかないだろう。

飛行艇を降りて家主に会いに行った。

 

「ごきげんよう。お待ちしておりました」

「悪いな、わざわざ出迎えてくれて」

「いえ。こちらから申し出たことですから…お気になさらずに」

 

従者の方々に連れられて館内に入るとすぐに出迎えてくれた少女、王留美(ワン・リューミン)

チャイナドレスに身を包み、丁寧に頭を下げてくる。

何処となく高貴な振舞いを見せるのでこっちはこっちで緊張してくる…。

 

「そういえば紅龍(ホンロン)は…?」

「お兄様は今手が離せない状況ですので、代わりに私が対応させて頂きます。物資を積む間、あちらに腰掛けお休みください。私しが極上のお茶を用意致しますわ」

「い、いや別にそこまでしてもらわなくても…」

「ご遠慮なさらずに」

 

王留美(ワン・リューミン)が有無を言わせず微笑を浮かべてくる。

凄く、断りづらいです…。

仕方ない、受け入れよう。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

「はい!是非」

 

俺が応じると王留美(ワン・リューミン)は嬉しそうに笑顔で応えた。

突然俺の手を取ってソファーまで連れて行き、卓に置かれた高価なお茶を囲んで向かい合って座る。

王留美(ワン・リューミン)はご機嫌でお茶を注いでくれた。

 

「ありがとう」

「いえ、どうぞお口に合えば…」

「大丈夫、美味しいよ」

「それは良かったです」

 

華のように微笑を浮かべる王留美(ワン・リューミン)はとても満足そうだ。

奥で従者が胸を撫で下ろしてるし、もしかしたら俺が気に入らなかったらお叱りを受けていたのかもしれない。

まあ不味いなんて言うことは常識的にない。

あとこんな高価なものを否定したら間違いなくレナに領収書でビンタされる。

ちょっと想像したらめっちゃ怒ってた。ごめん。

 

「ところで、その後進展はありましたか?」

「あぁ。ソレスタルビーイングの裏切り者…監視者アレハンドロ・コーナーを倒した。トリニティはあいつに作られた存在だったから解放するって意味もあるが」

「まあ。あのお方が裏切り者だったなんて…」

 

一服して報告してなかった事項を話すと王留美(ワン・リューミン)は実に令嬢らしく口元を片手で覆った。

当主が紅龍(ホンロン)に代わってもアレハンドロとは会ったみたいだな。

恐らく紅龍(ホンロン)のお付きだったんだろうが、それならそうと事前に伝えておくべきだった。

紅龍(ホンロン)も大切な妹を危険なやつの前に連れ出したくはなかっただろうし。

ま、もう無事に終わった話だからいいけどな。

 

「どうか致しましたか?」

「いや。貴女が無事でよかったと思ってね」

「……ご、ご心配していただけるのですね。少し驚きました…」

「ん?まあそりゃな。えっ、ダメだった?」

「い、いえ!とても嬉しく思っております」

 

よく分からないが王留美(ワン・リューミン)は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯いてしまった。

何か失言したっけ?

心当たりがないからどうしようもないな。

本人に聞くのも憚られる。

 

まあ深く考えなくていいか。

とにかく俺と話す王留美(ワン・リューミン)は本当に貴族のお嬢様って感じで俺の知ってる歪んだ感情の持ち主には見えない。

やはり紅龍(ホンロン)が当主になったことが幸いしたんだな。

レナには感謝しなくてはならない。

彼女の未来を救ったこともそうだが、あの歪んだ感情を持って欲しくはなかった。

それに、変革するこの世界に絶望して欲しくない。

俺達の理想が叶ったその時、改めて世界を見て欲しいと思っている。

それまで……いや、それ以降もどうか生きて欲しい。

生き続けて欲しいんだ。

 

「あの、私しの顔になにか?」

「いや…やっぱ俺の知ってる王留美(ワン・リューミン)とは違うなっと思って…」

「あぁ。なるほど」

 

どうやら凝視してしまったらしく問われ、正直に返すと王留美(ワン・リューミン)は怒るわけでもなく納得したように頷いた。

そして、茶を一口だけ口に含み、困ったように苦笑いを浮かべる。

 

「私し自身、別の世界線の私しが歪んだ感情を持ってるなんて信じられません。お兄様が当主に選ばれず、私しが(ワン)家の当主となった、世界…。当てつけに世界の変革を望むなんて考えられません」

「そうか…。まあ結局は(ワン)家の先代と当主が教育を間違えた結果だ。紅龍(ホンロン)も先代は厳しかったとだけは言っていた」

「お兄様がそんなことを…。いえ、でも…」

 

ま、大分包んだ表現ではあるよな。

その辺察しがついてるのだろう。

先代が厳しかったのを自覚しつつそれでも紅龍(ホンロン)は先代を尊敬していた。

そんな紅龍(ホンロン)王留美(ワン・リューミン)はきっと。

 

「私しはお兄様を尊敬しております。少なくとも恨むことなどありません」

「なら良かった」

 

心の底から安堵できる言葉を貰えた。

カップをお淑やかに置き、そっと微笑む王留美(ワン・リューミン)は何処かとても柔らかい雰囲気を醸し出している。

これなら歪むことはそうそうないだろう。

俺も美味な茶を飲み干して立ち上がる。

 

「ありがとう、美味しかったよ」

「もう行かれるのですか?」

「あぁ。あまり余裕がなくてな。それに、妹が待ってるんだ」

「そうですか…。残念ですが、お見送りします」

「よろしく頼むよ」

 

短い時間だったけど楽しい一時を過ごさせてもらい、戦いばかりの疲労から少しだけ癒された。

もう物資は積み終えてるだろうし、飛行艇に向かう。

すると、外に出ようとする俺に背中から飛び込んできた華奢な女の子がいた。

王留美(ワン・リューミン)だ。

 

「私しは…レイさんを好いております。どうか、このお気持ちを受け取って頂けませんか?」

「……ありがとう。でも、ごめん」

 

王留美(ワン・リューミン)の、少女の勇気ある告白を俺はキッパリと断った。

妹と出会い、理想のためにソーマと敵対してしまった俺に応える資格はない。

それにやっぱり…。

 

「本当にすまない」

「いえ。ご迷惑をお掛けしました。ご武運を」

 

王留美(ワン・リューミン)は意外にもあっさりと身を引いた。

そんな彼女は、振り返ればやはり年相応の辛そうな表情で俯いている。

さすがにご令嬢を撫でるわけにはいかない。

とうすべきか…。

 

「そうだ、何か欲しいものはあるか?」

「え?」

 

思いついたので問いかけてみると王留美(ワン・リューミン)は唐突のことで首を傾げる。

そして、暫く考えると名案を浮かんだように満面の笑みを浮かべて要求してきた。

 

「ではレイさんを」

「却下」

 

思わず即答してしまった。

何を言ってるんだ、この娘は…。

まさかこんなところでお嬢様な一面と俺の知る彼女を垣間見るとは思わなかった。

なんたる不意打ち。

 

「冗談です。最近、洋服が乏しくて困っていますね」

「そうか。ならお茶のお返しに今度奢るよ」

「ふふっ、高いですよ?」

「ぜ、善処する」

 

代わりとでも言うように小悪魔のような笑みで上目遣いで見つめてくる王留美(ワン・リューミン)

俺は少しドキッとしつつ苦笑いした。

これは軍人時代の資金が吹っ飛ぶ予感がするな。

まあ必要経費だ、良しとしよう。

 

それにしても王留美(ワン・リューミン)は何処で俺に惚れたのか。

思い当たる節といえば…よく前世の癖が抜けなくて紅龍(ホンロン)ではなく、王留美(ワン・リューミン)に頼み事をしてしまう時がある。

その時によく接するが…まさか、な。

一介の令嬢となるとここまで初心になるのか。

悪い男に騙されないか心配になるな。

天に唾吐いていない、俺は悪いやつじゃない…はず。

 

「じゃあな、また会おう。王留美(ワン・リューミン)

 

用事を済ましたので飛行艇に乗り込み、風でなびく髪を抑える王留美(ワン・リューミン)に手を振る。

すると、何故か彼女は俺に近付いてきて少しだけ操縦席に乗り出してきた。

 

「レイさん。私しのことは留美と呼んでください」

「え?あぁ…別にいいけど。なんで?」

「……お兄様だけズルいからですっ」

 

従者の制止も構わず近付いてきたかと思えば、王留美(ワン・リューミン)――留美はそう言って頬を紅潮させ、膨らませた。

その姿は年相応…いや、それ以上に子供っぽい程に拗ねた様子に見える。

男を惑わす美貌なことだけあって俺の目から見てもとても可愛らしく見えた。

て、てかやばいな…凄いドキドキする。

 

「わ、分かった。じゃあ、今後とも支援頼む。留美」

「えぇ!」

 

別れ際にこれからの縁も結び、留美は華のような笑みで頷いてくれた。

俺が戦う身でなければこんな素敵な女性と付き合ってたのかもしれない…自惚れかもしれないけどそう感じた。

だが、レナに出会い、共に戦っていなければ俺は留美と出会うことはなかった。

ほんの少しだけ矛盾を感じないでもない。

 

物資を積み終えたので、留美とも別れを済ませ、俺は飛行艇で(ワン)家を後にした。

時間も限られてるので本拠には寄り道せずに正規ルートを通る。

そういえばお土産としてあの高級な茶葉を頂いた。

レナとネーナはきっと喜ぶだろう。

ミハエルは喜ばないだろうが。

その辺は後でツヴァイの武装を増やしてやるとかするか。

 

と、帰還のための飛行中。

俺は飛行艇のレーダーに何が引っ掛かったのに気付いた。

これは……MS(モビルスーツ)

全4機の反応だ。

でもこの辺りって結構本拠に近いような…。

 

「モニターに表示っと…。うーん、拡大してもあまり分からな―――待て、これは…」

 

確かに見えた。

レーダーじゃない、映像で。

鮮明度は高くないが目に映ったのは赤い粒子だった。

間違いない。

あれは、擬似太陽炉のGN粒子に激しく酷似する。

 

「ま、待て…そんな…そんな、ことは…!」

 

すぐに嫌な予感と直結する。

だって、奴らの進行方向を逆算すればその方角は……俺達の本拠と一致するんだ。

最悪の場合を考えないのがおかしい。

待て、落ち着け。

粒子を発してるのは4機中、肉眼で捉えたものだが1機だけのはず。

たった1機だ。

断定するには早まり過ぎだろう。

 

「頼む…頼むから無事でいてくれ…」

 

分かっていても焦燥する。

既に最高速度である飛行艇を何度も急かす。

頼む、急いでくれ。

もっと速く動けるだろ!

 

「よし、もうすぐ――――っ!?」

 

思わず息を呑んだ。

ようやく山を超え、俺達の本拠が見える地点。

乗り越えてそこから見えたのは――焼け野原だった。

戦闘の跡を意味する黒煙に、レナがいつか教えてくれた防衛システムである砲台の大破も確認した。

そんな、馬鹿な…。

 

「嘘だ…そんな…っ。み、みんなは!?クソ…!」

 

急いで着地の準備をする。

一刻も早く生存者の確認がしたいから、飛行艇の着地地点など考えずに決めた。

そのせいで不時着に近いような形になり、振動が伝わるがそれどころじゃない。

飛行艇を止めるとすぐさま廃地となった地上に降りて走り出す。

 

「レナ!ヨハン…!ミハエル、ネーナ!!みんな何処にいる!?生きてるなら答えろ!!」

 

叫びが響き渡るが誰からの返答もない。

クソ、まずは施設の中に入る。

非常口を見つけたので侵入しようとしたが扉が歪んでいた。

 

「クソ!急いでんだよ!!」

 

開かない扉にイライラして銃弾でこじ開けた。

扉は役割を放棄して俺はそれを蹴り飛ばす。

中の様子も酷い。

壁は一面殆ど焦げていて、先に続く廊下もところどころ瓦礫で閉鎖されていた。

なんとか隙間を見つけては奥へと進んでいく。

 

「おい!誰か返事してくれ…!!」

「――――え?」

「……っ」

 

やっと反響した俺の声以外が聞こえた。

近くで拾ったので見渡すと背後に瓦礫からこちらを覗く男の子がいた。

軍事ファクトリーを襲撃した時に別働隊として避難誘導してくれていた男の子だ。

 

「よ、よく無事でいた!レナは見なかったか!?」

「なっ……ふざけんな!!」

「え?」

 

勢いに任せて両肩に掴み掛かって尋ねたら返答には逆に激昴が返ってきた。

俺の襟元を男の子は凄い形相で掴みあげる。

まるで憎き相手のように。

 

「お前が!お前が早く戻ってきていれば、こんなことにはならなかったのに…!!」

「……っ、なにが、あったんだ…?」

「みんな…みんな死んだ。俺達を守ってあの3人が…っ!!」

「あの3人…。まさか…!?」

 

3人の纏まりでくくられる奴らなんて俺達の中ではあいつらしかいない。

そんな…嘘だ…。

やっと、やっと前を向いて未来へ向かって歩み始めたのに…。

罪を認めて悔やんでくれたのに。

一緒に戦おうと手を取り合ったあいつらが、死んだ…?

 

「うそ、だろ…。だってあいつらはまだ、何も…何もできてないじゃないか。これからだろう!!やっとこれから咎を受け、生きていける筈だったのに――」

「黙れ!お前のせいだ!お前が助けに来なかったから……お前が、殺したんだ!!」

「……っ、俺が…っ?」

「――――や、やめて…!!」

 

思わず男の子に切迫していた俺、俺に怒りをぶちまける男の子。

その口論の中に制止の呼び掛けを叫ぶものがいた。

俺はその声を誰よりも知っている。

何度も聞いてきた、大切な人の声だ。

聞き間違える筈など絶対にない。

 

「レ、レナ…!!」

「お兄、ちゃん…」

 

瓦礫の奥から小さい女の子に支えられたレナが顔を覗かせていた。

俺はすぐにレナに駆け寄り、その身体を支える。

触れてわかった。

何故かレナの身体が凄く熱い。

 

「凄い熱だ…」

 

まさかと思ってレナの額に触れてみたら高熱を発していた。

道理でレナの顔色が悪い訳だ。

表情も何処か覇気がない。

 

「わ、私のことはいいから…」

「いい訳あるかよ。ほら、一旦座れ」

「うん…」

 

なんとかレナを椅子代わりにした瓦礫に座らせる。

腰を落ち着かせるとレナはすぐにぐったりと脱力した。

 

「レナ。ほら、水だ」

「ありがとう…」

 

たまたま持ってた水分をレナに与える。

すると、レナは飲み干すと同時に俺に弱々しく掴み掛かってきた。

 

「お、おい。まだ安静に…」

「それどころじゃ、ないの…。敵が、攻めてきて…。ヨハンさんと、ミハエルと、ネーナが――――うっ!」

「レナ!」

 

必死に俺に伝えようとしてきたレナが突然嘔吐した。

高熱を発してるだけじゃない、危険な状態で何かをした後だ。

 

「まさかお前、その身体でMSに…」

「ごめ…っ。ごめん、なさい…あの3人を助けられ、なかった…っ。ごめんなさい…ごめんなさい…!」

「レナ…」

 

涙を流し、嗚咽を響かせるレナの背中をさすってやる。

ここまで話を聞いてきたが、感情的になったり満身創痍だったりで全貌は分からない。

断片を繋ぎ合わせて唯一分かるのは『敵が攻めてきて、トリニティが殺された』ということ。

俺のいない間に一体何が…。

 

「お、お兄ちゃん…」

「なんだ?まだ安静にしてろ」

「ダメ…伝えないと…。お兄ちゃんも知らないこと、だから…」

「どういうことだ?」

 

辛そうに肩で息をしながら貧弱な力で俺にしがみつくレナ。

やはり話が見えない。

しかし、俺の知らないこと…というのはもしかしたら俺の知識にないこと、つまり本筋ではなかったものの話ということなのかもしれない。

とにかくレナを落ち着かせつつ話を聞こう。

こうなると深雪は頑固だ。

 

「ヨハンさんとミハエル、ネーナを…殺した人…。ここを襲撃してきた人のこと…。その人は――」

「おい、レナ…?」

 

急にレナが言葉を切った。

脱力したかのように手を離し、地に落ちる。

死んではいない。

見るからに体調を悪くし、意識を失ってしまったようだ。

眠りにつき、呼吸はマシにはなったがやはりまだ荒い。

 

「はぁ…はぁ…お兄、ちゃん…」

「レナ…」

 

かなりしんどそうだ。

身体を横にしてやり、女の子に介抱させる。

俺は聞かなければならない話がありそうだ。

 

「頼む」

「う、うん」

「さて…」

 

女の子の承諾を得て、俺はさっきまで口論し合っていた男の子に視線を向けた。

レナを心配しそうに見つめていた少年は俺と目が合うと途端に顔を顰める。

悪いな、今はいがみ合ってる暇もない。

 

「まず最初に俺のせいだというのはどういうことだ」

「通信に応じなかった。助けを求めたのに…」

「なに?」

 

慌てて端末を開くと確かに連絡が来てる。

クソ、気付かなかった。

確かにこれは俺の落ち度だ。

 

「そうか…。悪かった、で済むと問題ではないな。分かった。罪を認めよう。それで何があった?」

「認める気あんのかよ」

「緊急事態だ。頼む」

「……」

 

レナを見遣って頼むと少年も黙った。

暫く思考に浸り、決断してくれる。

 

「分かった。教える。でも、先生を安全な場所に運んでからだ」

「あぁ」

 

俺も同意見なので賛同する。

幸い、メディカルルームは崩壊していたが、レナの自室が残っていた。

というかみんなそこに避難してたみたいで子供達は皆そこにいた。

ベッドにレナを寝かせて、落ち着かせ、話を聞く。

 

「よし。……聞かせてくれ」

「――襲撃があったのはお前が出てちょっとあとだった」

 

間を空け、辛そうに俯き、話してくれた。

地獄のような蹂躙の話を。




攻勢だった盤面が逆転する。
襲来する最強の敵にトリニティは勇敢にも立ち向かう、恩義のために。
だが、崩壊は一瞬の出来事だった。
これは、罰なのか。
翼持ちが否定する。



また長くなってしまった…。
短過ぎて困ってた時間はどこへ。
>追記
王留美の口調が間違ってたので修正しました。


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否定する者(上)

トリニティもうちょい出番あります。


俺が本拠を後にした数時間後。

レナはまだガンダムの整備に追われていた。

 

「ふぅ…やっとスローネ終わった…」

「やったね、先生」

「うん。次はプルトーネやろっか」

 

一緒に整備を手伝ってくれていた女の子――後にレナを介抱してくれる子――と共に3機のガンダムスローネの整備を終え、苦労を労い合い、続けてレナは最も損傷の酷いプルトーネブラックへと向かおうとする。

既に他の子供達もプルトーネブラックだけでなく、サハクエルの整備に取り掛かっている中、レナと次の現場へ足を踏み出したが、直後よろめいてしまった。

 

「あ、れ…」

「先生!」

 

なんとか柵を掴んで耐えたレナだが、子供たちはそんなレナを心配したという。

 

「せ、先生…休んだ方がいいんじゃ…」

「えー?大丈夫だよ。大袈裟だなぁ」

 

あはは、なんてわざとらしい笑いを漏らすレナに誰も口を出すことは出来なかった。

無理をしているのは誰から見ても分かる。

だが、本人の意向に削ぐことを子供たちはできないでいた。

そんな中、格納庫に珍しい客がやって来る。

 

「おっ、やってるやってる。よぉ!レナ」

「あ、ミハエル。どうしたの?」

「いや、ちょっと気になってな。ツヴァイどうよ」

 

整備しているレナに誰かが会いに来る機会はあまりない。

レナは作業中だったにも関わらず、一旦切り上げてミハエルの隣に歩み寄ってくれた。

 

「ツヴァイならもう終わったよ」

「マジかよ!やっぱすげぇな、レナは」

「えへへ。そう…?」

 

褒められて満更でもないレナは素直に喜び、頬を緩ませる。

お淑やかな女の子らしくそっと微笑むレナにミハエルは少しだけ見惚れた。

 

「お、お前結構可愛いじゃねえか。よく見れば」

「あはは。なんかちょっと失礼だね」

「そうだ、俺の女にしてやろうか?」

「うーん…でも私中性だよ?」

「え、マジで?」

 

口とは別に楽しそうに笑うレナ。

ミハエルはレナの一言に驚愕し、思わず、休憩がてら整備用の肌の面積が多い軽装で水分補給をするレナの身体を撫で回すように下から上へ見た。

どう見ても女性の身体にしか見えないので頬を引き攣らせる。

 

「え、それほんとにマジ…?」

「うん。そういう風に作られたイノベイドだからねー」

「……なんか勿体ねぇな。折角美人なのによぉ」

「あれ?褒めてくれてる?ありがとー」

 

何処か上から目線なのは変わらないが、レナは素直に礼を口にする。

疲れているからか、気の抜けた口調になっているが。

 

「ていうか最初に言ったのに忘れたの?」

「俺難しいこと考えんの苦手なんだよ」

「あー、ミハエルってそんな感じだよね。単細胞っていうか」

「な…っ。んだとっ!?」

「あはは。冗談だよ、冗談」

 

食いかかってくるミハエルにレナは本当に楽しそうに笑う。

ミハエルも弄ばれたが、怒るわけではなくただ単に悔しそうに口を尖らせた。

子供のように拗ねるミハエルにレナは微笑を浮かべたかと思えばミハエルの鼻をつねってきた。

 

「言っとくけど、さっきのお返しだからね。ミハエルってば上から目線な口調のせいで場合によっては悪い言葉に聞こえちゃうんだから」

「うっ…悪かったよ…」

 

身長差のせいで上目遣いで頬を膨らませるレナにミハエルは反省しなければならないような気がして素直に謝る。

見る人が見れば珍しい言動かもしれない。

そして、素直になったミハエルにレナは鼻をつんっとつついて微笑を浮かべる。

 

「ん、いいよ。許してあげる」

「……お、おう」

 

正直、下から見上げつつ華のように笑顔が咲くレナはミハエルの心に響いた。

心臓がいつもより早く鼓動し、いつもは調子のいいことを言っている口はまともに動かない。

軽口を叩いたり軽率に口説こうとするのは得意な筈なのにこの時のレナの前では出来なかった。

それは本当にレナに心を惹かれたから。

 

「な、なぁ」

「うん?なに…?」

「あ、あのさ…レナのために戦う、って言ったら怒るか…?」

「え?」

 

予測してない意外なことを言われ、レナは目をぱちくりさせる。

返答を考えてなかったので暫く目を沈ませたり泳がせたりして困った表情を浮かべつつ悩んだ末、答えを見つけた。

 

「うーん…それがミハエル自身のためになるなら、いいんじゃない?」

「俺自身のため…?」

 

尋ねられた側が何故か他人事で返す珍妙なことになったが、頭がお世辞にも良くないミハエルとでは会話が続いてしまう。

しかし、ミハエルなりにレナの返答に悩み、思考した。

やがて答えは出ない。

 

「……わかんねえ。俺、兄貴みたいに戦いたいって思ったけど…それも出来てるのか、目指せているのかさえわかんねえ…。だから、何が俺のためなのか…なんて難しくてやっぱよくわかんねえぜ」

「そんなに難しいことじゃないよ」

「え…?」

 

精一杯考えても混乱してしまったミハエルにレナは手を差し伸べる。

 

「ミハエルはミハエルなりに頑張ればいいんだよ。いきなり他人のようになんて誰にだってできない。だってミハエルはミハエルなんだから」

「俺は、俺…?」

「うん。私がミハエルになれないように、ミハエルだってヨハンさんにはなれない。でも、目標として目指すだけなら出来るんじゃないかな」

 

レナは極めて優しく、ゆっくりと語る。

 

「別になれなくてもいい。目標にするってことは同じところを目指すってことだから。その方向性があってるなら後はきっとミハエルなりの道を見つけ出せるよ。ミハエルはどうなりたいの?」

「兄貴とネーナと自由に色んなことがしてぇ。一概には言えねえけどさ。レイとも遊びてぇしよ。…あとレナとも楽しいことしてぇな」

「そっか。じゃあ一緒に頑張ろう。悪いことにさえ走らなければ私達はミハエルの味方、目指すべき場所が同じならきっと協力し合える。仲間で入れる。私達と共に歩いて、その中でミハエルなりの答えを見つけよう?焦ることはないの。ゆっくり…ね?」

「お、おう。……そうだな」

 

レナの言葉にミハエルは照れながらも頷く。

何かが吹っ切れたような笑みを浮かべて。

別に焦る必要はない。

考えるのが苦手ならたっぷりと時間を掛けて悩めばいい。

なぜならもう支配をぶち壊したのだから。

そんな想いでレナはミハエルの問いへの答えを返した。

だが、それを邪魔するかのように施設内の緊急用ブザーが鳴り響く。

 

「なんだぁ?」

「これは……っ。まさか…!」

「お、おい。レナ!」

 

突如走り出すレナにミハエルも付いていく。

レナは真っ先に格納庫にある端末にしがみつき、施設内のシステムに検索をかける。

すると、外を映す監視映像にいくつか機影が施設に向かっているのが見えた。

 

「敵襲!?」

「まじかよ!」

 

レナの叫びに格納庫で作業してた子供達も徐々に騒々しくなる。

ミハエルも驚愕する隣でレナはすぐに敵の情報を仕入れた。

だが、その数に疑問を抱く。

 

「え?たったの4機だけ…?それに、太陽炉搭載型は1機…他はモビルアーマー?」

「んだよ。国連軍じゃねえのか。だったら楽勝じゃねえか!俺一人でも充分なくらいだぜ!」

「待って、ミハエル!」

「うえっ…?」

 

気の早いミハエルがツヴァイで飛び出そうとするのをレナが瞬時に呼び止める。

敵の機体数が少ないことはレナにとっては逆に不安を与えていた。

これまで俺達が相手に与えてきたダメージはデカい。

だというのにそれに対する返しがあまりに緩すぎる。

きっとこの4機――その中にいるたった1機の擬似太陽炉搭載型MSになにかがある。

そうレナは考えていた。

 

「この機体…普通のジンクスとは違う。発展機?ううん、それには早過ぎる。恐らく改良を加えられたカスタム機…。それでも早い。もしかして試作型?」

 

レナが推理の幅を広げていく。

だが、真実の分からないものだけにどれだけ思考を巡らせても推測の域を出ない。

だから、他の方面にも考えを練った。

 

「もし。仮にこの機体が実験としてここに送り込まれただけなら、数の利でなんとかなるかも…。でも、その後に物量作戦に持ち込まれたら…こっちが負ける」

「そんじゃあどんすんだよ…?」

「ミハエル…。え、えっと…」

 

戻ってきたミハエルに質問を投げ掛けられるが上手く結論が出ない。

相手の出方が意表を突いてきただけではない。

情報が圧倒的に足りなかった。

俺が、ジンクスの発展機について話してはいなかったがために。

 

「まずは防衛システムを作動させる、かな。それであの機体の動きを見た上で出撃しよう」

「りょーかい!腕が鳴るぜ」

 

レナの決断により、施設防衛用の対空狙撃砲や大砲を起動させ、4機の編隊への集中攻撃が始まった。

レナとミハエルは共にその映像を見遣りつつ、レナは子供達に機体の出撃準備を済ませるように声を張る。

作業を進めながら敵の動きを見ていたレナだが、ヨハンとネーナが駆け付けた時にはその表情が驚愕に染まっていた。

 

「敵襲とは本当か!ミハエル」

「遂に来たのね…!」

「兄貴!ネーナ!」

「なに…これ…」

「え?」

 

隣で声を漏らすレナにミハエルが思わず振り向く。

ヨハンとネーナも顔を合わせたのち、画面を覗いた。

すると、そこには恐ろしい光景が広がっていた。

 

「なっ…!?」

「うそ、砲台が全滅してる!」

「それだけじゃない…。なに、あの機体の動きは…。たった…っ、()()()()()で…全部…っ」

 

震えるレナは後退りするように端末から離れる。

カスタム機と推測されたジンクスが防衛システムを一瞬にして壊滅させたからだ。

信じられない機動性で、全く無駄のない動きをジンクスは表現していた。

 

「おい、まだシステムを作動させて30秒も経ってねえだろ…」

「なんだと!?」

「えっ…」

 

ミハエルの呟きにヨハンも思わず振り向く。

ネーナも唖然とした。

だが、そんな間にも凄まじい戦闘力を持つジンクスが施設へと近付いて来ている。

 

「足止めにもならなかった…。あのジンクスの能力だけじゃない、操縦するパイロットの腕が極端に優れ過ぎてる…!」

「……っ」

 

レナでさえ頭を抱える迫り来る才能。

もはや襲来する悪魔と化したジンクスにレナは怯え始めた。

しかし、そんな暇はないとレナの脳内が恐怖を必死に否定する。

 

「こんなことをしてる暇は…!みんな、サハクエルのハッチを開け――――えっ?」

 

パイロットスーツを掴み、コクピットへ向けて駆け出そうとしたレナ。

だが、突如バランスを崩して足元から崩れ落ちるように倒れ込む。

 

「レナ!?」

「レナ・デスペア…!!」

「お、おい…!」

 

卒倒したレナにトリニティは急いで駆け寄る。

特にミハエルは一番早くレナの身を起こし、支えるように抱き寄せた。

 

「あ…れ…?おかしい、な……っ。身体が、言うことを…効かな、い…」

「おい、しっかりしろよ。レナ!」

「ミハ…エル…。なんだか、歪んで…」

 

なんとかミハエルの呼び掛けに応えようとするレナだが、身体が痙攣していて思うようには動かなかった。

視界が激しく歪み、立ち上がろうにも感覚が麻痺している。

さらに誰の目から見てもレナの瞳の焦点が合っていない。

 

「何があった?」

「ヨハン、さん…」

「どうしちゃったのよ!レナ…」

「ネ……っナ…」

 

上手く言葉も発することが出来ない。

症状から何が起きているのか断定できなかったヨハンだが、何度も重そうに開閉するレナの瞼からある事に気付いた。

 

「レナ・デスペア。貴女は何日寝ていない?」

「えっ…。それ、は…」

「いいから答えて欲しい」

「……その…」

「分かった。こちらが提示するもので当てはまるものに頷いてくれ」

「……はい」

 

言葉を発するのも難しいレナに気を使ってヨハンが提案したことにレナも同意して、頷いてくれる。

まず初めにヨハンは指を三本立てた。

 

「貴女が睡眠を最後に取ったのは3日前か?」

「3日!?」

「おいおい、徹夜も過ぎるぜ…」

「……」

 

初っ端から提示された数字にネーナは驚き、ミハエルも呆れる。

だが、レナは静かに首を振った。

 

「違うか…」

「はぁ?あんたどんだけ寝てないわけ?」

「俺だったら夜は眠くて一瞬で寝ちまうぜ。で、4日か。そりゃきついな」

「いや…」

 

3日ではない。なら4日。

そう断定したミハエルだったが、ヨハンは目を細める。

4日間にしてはレナの症状が重過ぎる。

故にヨハンは最初に提示した数も違うと分かっていた。

次に単位を切り替える。

 

「では、1週間」

「……が…いま、す…」

「嘘でしょ…?」

「レ、レナ…」

 

途切れ途切れに否定し、精一杯首を振るレナ。

時間が経つごとに顔色は悪くなっていき、いつもは紅い唇も不健康な青へと変化している。

そんなレナをネーナは信じられない目で見つめながらもミハエルと共に心配そうに覗き込んでいた。

そして、ヨハンが指を二本立てるとレナの目が少しだけ見開く。

 

「……2週間」

「は…、い…っ」

「なんということだ…」

 

2週間の間、一睡もしていないというレナにミハエルはこめかみを抑えて目を瞑り、俯く。

ネーナも何かを言おうとしたが、自分達のために頑張ってくれたレナを責めることはできず、辛そうに目を逸らした。

しかし、ミハエルはわなわなと震えている。

 

「…んでだよ」

「ミハ…っル。ごめ…っ、んね…」

「謝んじゃねえよ…」

 

力を振り絞ってミハエルの頬に触れるレナ。

自分達のためなんかになんでそんな無茶を、ミハエルがそう怒ろうとしたのを察し、レナが先回りしてしまった。

ミハエルは堪らず涙を流し、気力が足りず落ちゆくレナの手を落とさまいと手に取る。

掴んだ手は力がこもっておらず、ミハエルの手を握り返すも弱々しいものだった。

 

「三人、を……応援したく、て…助け…たくてっ。ちょ…っと、無理…しちゃ………った」

「すまない、私達のために。レナ・デスペア…」

「ヨハン…さん……謝ら、ないで…。私が……ってにした、こと…っ。だか……ら…」

 

目を瞑り、必死に謝罪するヨハンに精一杯レナは笑みを向ける。

レナ自身歯止めを無視して頑張ったことを自身の責任だと感じているのだろう。

それだけでなく、運命に抗い、未来を掴もうとするヨハンには下らないことで自分を責めて欲しくはない。

弟と妹を引っ張る兄なのだから、尚更。

そんなところかもしれない。

 

「レナ…!レナ!」

「ネー、ナ…。泣かない、で…」

「ごめん!ごめんなさい!こんなになるまで私達なんかのために――」

「なんか、なんて…言っちゃ…。ダメ、だよ…。ね…?」

「レナ!」

 

ネーナの頭をゆっくりと優しく触れるように撫でるレナ。

微笑みかけられ、ネーナは溢れるように涙を流しながらレナに顔を埋める。

最後にミハエルは、何も言わず立ち上がった。

 

「ミハ…エル…?」

「ミハ兄…」

「……戦ってやる」

「え…?」

 

自身のパイロットスーツを掴み、身をそれに包むミハエル。

ヘルメットも装着し、苦しむレナを見遣った。

 

「俺はレナのために戦ってやんよ。もう無茶はさせねえ。その為に戦いを終わらせてやる。俺のガンダムでな…!」

「ミハエル…」

 

ミハエルの瞳には決意と闘志が宿っていた。

何のために戦うのか。

行動の原動力となる核の部分をミハエルは遂に見つけた。

それがミハエルの守りたい者だった。

 

「兄貴みたいに信念を持って未来へ…みたいなのが俺にできるのかはわかんねえ。けど、もうレナの苦しんでる姿は見たくねえって…そう思った」

「ミハエル、お前…」

「ミハ兄…」

 

他人を蹂躙し、虐げ、破壊することに悦びを感じていたミハエル。

だが、戦いを否定するその様はミハエルとネーナにもそんな以前とはまるで違って映った。

それでもミハエルは自身の罪を忘れてはいない。

レナが嫌った奪い合いを。

 

「俺の罪は今更消えねえけどよ…。それでも戦いてぇんだ。ダメか?」

 

レナに問うミハエル。

レナはほんの少し涙を頬に伝わせ、嬉しそうにしながら首を横に振る。

精一杯返答してくれたレナにミハエルは不敵に笑った。

そんなミハエルの頭を立ち上がったヨハンが掴む。

 

「うおっ、兄貴なにすんだよ」

「大きくなったな。ミハエル」

「えっ?」

 

一瞥の中で微笑を浮かべたヨハンにミハエルは虚を突かれる。

だが、褒められたことに後から気付いて歓喜に震えた。

 

「戦おう。我々が許されるのかは分からない。だが、信じて、戦う」

 

ヨハンはパイロットスーツに身を纏い、外の映像に映るジンクスを睨み宣言した。

その決意にミハエルとネーナは頷く。

 

「「了解!」」

 

ヨハンの力強い言葉に応じたミハエルとネーナ。

ヘルメットを被り、機転を効かせた子供達によって即座にスローネのコクピットと発進用ハッチが開く。

トリニティは駆け出し、コクピットハッチへと飛び込んだ。

ヨハンは子供達に感謝しながら乗り込む。

 

「レナ…」

『ミハ、エル…。がんばって…』

「了解。ぶちかましてやるから見てろよ、レナ」

『うん…』

 

レナを慕う子供達がレナを支え、ツヴァイの拡大したモニターに映るレナは微笑んで頷いた。

ミハエルはそれをしっかりと見つめて操縦舵を握る手に力を込める。

 

『全ハッチオープン!出撃可能です…!』

『了解』

『おうよ!』

『了解ねっ!ありがと…!』

 

トリニティに対して必死に伝達する子供に三人はそれぞれの反応を示した。

ヨハンは会釈で頷き、ミハエルは元気よく呼応し、ネーナは親指と人差し指でオーケーマークを作って応じる。

そして、瞳に強い意思を込めた。

 

『スローネ アイン、ヨハン・トリニティ。この基地を防衛する…!』

『スローネ ドライ、ネーナ・トリニティ。目標を駆逐する…ってね!』

『スローネ ツヴァイ、ミハエル・トリニティ!斬り刻むぜ!!』

 

各々の叫びと共に基地施設からガンダムスローネが飛び出す。

レナはそんな様子を見つめていた。

 

「みんな…」

 

空に浮かぶ3機の機影。

散布される赤い粒子は背後にあるものを守るように展開されていた。

レナも通信を繋ぎ、ただ見守り、祈る。

三人の無事を。

彼らの未来を。

生きて帰ってきて欲しい、ただそれだけを。

だが、敵はそれを裏切るような最悪なものだった。

 

『3機の機影を確認した。これは…合同軍事演習の時の新型か。他には、まだ出てきてはいない。そうか、ならば――』

 

GN-Xのカスタム機、アドヴァンスドジンクス。

そのコクピットに座する黒髪ロングの女。

ネルシェン・グッドマンは静かに笑みを浮かべた。

 

『楽勝過ぎるな』

 

そう、呟いて。

ただ任務の遂行に動く機体の赤い粒子が加速する。




尺が足りねえ!!


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否定する者(中)

1万文字超えて読みにくいかなと思ったので分けました。
前話のサブタイトルも変更しています。


本拠の防衛のために出撃したガンダムスローネ。

対するアドヴァンスドジンクス率いる編隊は本拠まであと数キロのところまで迫っていた。

アインを駆るヨハンはミハエルとネーナに指示を出す。

 

『中央の敵機はスローネと同じ擬似太陽炉搭載型だ。油断するな』

『『了解!』』

『ネーナ、ドッキングだ。先制を仕掛ける!』

『ラージャっ!』

 

笑顔とピースサインで応えるネーナは指示通り、ドライをアインの背後に回す。

そして、そのままGNハンドガンの銃口をコードでアインと連動した。

 

『GN粒子、転送完了!』

『了解。目標、ジンクスのカスタム機にGNメガランチャー、撃つ』

 

その一言と合図に引き金が引かれ、アインのGNランチャーから遥か遠くにいるアドヴァンスドジンクスに向けて凄まじい威力の粒子ビームが放たれる。

利点である射程の広さはアドヴァンスドジンクスを含んでおり、ヨハンの優れた狙撃の腕は間違いなく敵機を捉えていた。

 

『よし…!』

 

確実に敵機に命中する。

そう確信したヨハンは少なくとも敵機は被弾するとみた。

しかし、粒子ビームをアドヴァンスドジンクスは完璧に避けてみせる。

 

『馬鹿な…!?あの射程範囲を!』

『兄貴!ハイメガに切り替えようぜ!』

『敵機、急速接近…!兄々ズ…!来るよ』

『くっ…時間がない』

 

ツヴァイと接続する時間に粒子を供給する時間。

その両方を満たす余裕はなかった。

ヨハンはすぐに切り替えてGNメガランチャーのまま照準でアドヴァンスドジンクスを追う。

 

『今度は当てる!GNメガランチャー、行け…!』

 

再度粒子ビームを放つスローネ アイン。

GNメガランチャーの狙撃に対し、アドヴァンスドジンクスは加速を止めず、流れるように回転して起動をずらす。

たったそれだけで直撃コースを免れ、粒子ビームはただ横を過ぎただけだった。

 

『くっ…!加速と着弾までの距離を逆に利用したか!やるな!』

『敵機、狙撃範囲を突破…!ミハ兄!』

『言われなくてもわかってるっての!!』

 

ネーナに言われるまでもなくミハエルはツヴァイで躍り出る。

飛び出ると共に気の早い気性からツヴァイはGNファングを6基放った。

いつものミハエルの戦法。

ファングで敵を乱し、自身に有利な条件下での接近戦に持ち込もうとする。

だが、放ったファングは射出したその直後に3基が粒子ビームに貫かれ、破壊された。

 

『なっ!?こいつ…!』

『射出タイミングを読まれただと…!?』

『うそっ!どうやって?』

 

混乱するトリニティ。

先手を打つはずが逆に相手に取り乱されていた。

 

『クソ!てめぇよくもファングを…!』

『────────っ!』

 

残った3基のファングとGNバスターソードで敵機に突っ込むミハエル。

ツヴァイに対し、アドヴァンスドジンクスは装備していた槍――プロトGNランス――を投擲してくる。

これは思わぬ一手で、ミハエルは予測していなかった。

 

『んだと!?くっ…!』

『────────っ!』

 

なんとかプロトGNランスをバスターソードで防いだミハエルだが、ツヴァイに大きな隙が生まれる。

そんなツヴァイに急速接近するアドヴァンスドジンクス。

GNファングがツヴァイの勢いを補うように迫るが、頭部だけをGNファングに向け、GNバルカンから放った弾圧でGNファングを被弾。

被弾したGNファングは細かな軌道修正をされてしまい、機能そのものは墜ちてはいないもののアドヴァンスドジンクスを綺麗に避けて通過してしまう。

当然、頭部以外の動きを取っていないアドヴァンスドジンクスの速度は落ちなかった。

 

『ふんっ』

『がっっ…!?』

 

盾代わりにバスターソードを構えていたことが幸いし、アドヴァンスドジンクスに蹴り込まれるがツヴァイは威力を封じる。

それでも後退してしまい、アドヴァンスドジンクスはそのまま優勢のままツヴァイとの近接戦闘に入ろうとしていた。

 

『させるか!』

『後方支援か』

 

だが、邪魔するように後方から放たれたアインのGNランチャーによる射撃によりアドヴァンスドジンクスはツヴァイとの距離を詰めることを阻まれる。

その隙にツヴァイの懐からGNビームサーベルを持ったドライが飛び出た。

 

『いっただきぃ!』

『伏兵…、思っていたよりはやるな』

『通信…!』

 

斬りかかったドライにアドヴァンスドGNビームライフルに内蔵されたGNビームサーベルで対抗したアドヴァンスドジンクス。

競り合い、火花を散らす中、パイロット同士の通信が繋がった。

 

『私が整理したデータ。そして、授かった情報よりも連携が取れている。この短い間に何があったかは知らないが、成長するキッカケでもあったか?』

『はぁ?そんなの……あんたなんかに教えるわけないでしょっ!!』

 

もう片方の肩部からGNビームサーベルを抜刀し、ドライはネーナの叫びに呼応するように二刀流で相手を四分等に斬り刻む――に、見えたが刃は空を斬ってしまい。

アドヴァンスドジンクスは後退することで見事に回避していた。

 

『そうか。ならば聞くまでもなく殺す』

『簡単に言ってくれちゃって…!』

『舐めんじゃねえ!』

『近接型か…っ!』

 

アインの粒子ビームを支援に、体勢を立て直したツヴァイがバスターソードで斬り掛かる。

それをGNビームサーベルで受け止めたアドヴァンスドジンクスはツヴァイの対応に追われる。

そこにミハエルは横から叩き込もうとGNファングを操った。

 

『ファングなんだよぉ!』

『フッ、狙い通り…!』

『なに!?』

 

敵のパイロットが不敵に微笑んだ瞬間、競り合う方とは別の拳がツヴァイの顔面部へと飛び込んでくる。

右側から突如拳が飛び、ミハエルの驚愕の隙をつき、アドヴァンスドジンクスのGNクローはツヴァイの頭部に見事めり込み突き刺さる。

そして、そのまま力尽くで連れ込まれた。

 

『こいつ何を…!?』

『ミハ兄…!!』

 

ツヴァイを強引に操る敵のパイロット。

目的の見えないその行為だったが、アドヴァンスドジンクスを捉えていたGNファングのうち、2基がツヴァイを背後から襲った。

 

『ぐあああ…っ!?』

『ふんっ!』

『がっっ!?』

 

ツヴァイを盾として扱い、用が済むと蹴り捨てる。

そして、背後から迫るもう1基はアドヴァンスドGNビームライフルを背後に向けて正確に撃ち落とした。

これだけで凄まじい潜在能力(ポテンシャル)を持つパイロットであることが理解させられる。

 

『ミハ兄…!』

『俺に構うんじゃねえ、ネーナ!』

『でも!』

『やれ!!』

『はい…!』

 

ミハエルの叫びに必死に頷くネーナ。

被弾したツヴァイ、苦しむミハエルの仇である敵機を睨む。

 

『よくもミハ兄を!』

『ほう、兄妹か。これは初めて知るな』

『だったら何よ!!』

 

ドライとアドヴァンスドジンクスが衝突する。

敵のパイロットはただ興味対象を観察するように呟き、ネーナはそれに叫び返す。

前者はただ冷酷に、後者のネーナは苛つきをぶつけた。

両者は全く違う。

想いがあるのはネーナだけだ。

 

『あんたなんかに…!』

『否、貴様は負ける』

『きゃあっ!?』

 

双方の力比べ。

競り合う機体はアドヴァンスドジンクスが勝り、ドライが突き飛ばされる。

そして、追い打ちをかけるようにアドヴァンスドGNビームライフルの銃口から放たれた粒子ビームはドライを正確に削った。

 

『ネーナ!』

『ようやく顔を拝めるな。まあ壁を脆いものだったが』

『貴様…!』

 

小破したツヴァイに、中破したドライ。

2機を打ち崩したアドヴァンスドジンクスは後方支援に徹していたアインへと迫る。

アインはGNランチャーで接近を妨害するものの敵は全て軌道から外れ、粒子ビームは虚しくも空に流れ去った。

 

『初撃が遅い。追っていては当たるものも当たらんぞ?』

『そんなことは…!』

 

GNビームライフルも構えるスローネ アイン。

しかし、一歩早く手を打たれていた。

アドヴァンスドGNビームライフルの射撃がGNビームライフルの銃口を上げるよりも早く放たれる。

その粒子ビームがアインのGNビームライフルを引き金を引くことも許さず撃ち抜き、爆散。

手元の爆発の衝撃をスローネ アインは諸に受ける。

 

『ぐあ…っ!?』

『さぁ、休んでいる暇はない』

『くっ…!』

 

間髪空けずに銃剣を振りかざす相手にヨハンは表情を苦くしながらもGNビームサーベルを抜刀して対応する。

再び刃が衝突し合い、両機の間に火花が散った。

 

『私達は…負けるわけにはいかない!この場所を、彼らを守るために!!』

『なるほど。壊し甲斐があるな』

『なに!?』

『貴様らの他にまだいるのだろう…?ならば、こちらとしては都合が良い』

『……っ』

 

脳裏にレナの顔がチラつくミハエル。

敵のパイロットの言動…どうも気になる。

まるで相手はトリニティだけではないと言い張るようだ。

もしかしたらレナの存在に気付いている、可能性はある。

そのことに思い至ったのかは知らないがミハエルは背中に汗が流れるのを感じた。

 

――レナが狙われている。

 

普段難しいことを考えるのが苦手なミハエルでもその発想には至った。

快楽であった蹂躙も捨て、そこまで自身が変わってでも守りたいと思った者。

たった彼女のためだけに好んできた奪い合いを拒絶したというのに。

今、目の前の敵がそれを奪おうとしている。

 

『んなこと…』

 

ツヴァイのコクピット内で、操縦舵を握る手に力を込めるミハエルがいる。

そして、スローネ ツヴァイは自身も感情に奮い立たされるように加速した。

 

『んなことさせっかよ!!』

『敵機の急速接近…近接型か!』

『ミハエル!』

『うおおおおおおおおっ!!』

 

アインと競り合いを続けていたアドヴァンスドジンクスにツヴァイはGNバスターソードを振り下ろす。

アインの対応に追われていたアドヴァンスドジンクスもこれには後退以外の手段はなく、下がることでバスターソードは空を斬る。

 

『兄貴…!』

『了解。同時に攻める』

『いけよ、ファング!』

 

残った2基のファングを射出。

左右同時に迫るファングにアドヴァンスドジンクスはアドヴァンスドGNビームライフルで1基を撃ち落とすものの右から来るものは避けざる負えない。

 

『チッ!』

『斬り刻んでやるぜぇ!!』

『行くぞ、ミハエル!』

『おうよ!』

 

ツヴァイがバスターソード、アインがビームサーベルを手にアドヴァンスドジンクス相手に斬り掛かる。

さらにGNランチャーの銃口はアドヴァンスドジンクスへと向いており、間合いを詰めるまで粒子ビームを放ち続けた。

 

『これで…!』

『甘いな』

『なに!?』

 

全力の攻めに対し、アドヴァンスドジンクスは回避でもなく守りでもなくあちらも攻めで出てきた。

まず僅かな機体体勢のズラしで粒子ビームの殆どを意図的に当たることもなく、加速し、他は右肩のGNディフェンスロッドで防ぎつつ迫り来る。

次にアドヴァンスドGNビームライフルに内蔵されたGNビームサーベルを横に薙ぎ払い、アインのサーベルを牽制し、弾き飛ばした。

 

『くっ…!』

『兄貴!ハッ、対応に負えてねぇじゃねえか!』

『問題ない』

『なっ…こいつ、片手で…』

 

処置しきれなかったツヴァイのGNバスターソード。

その刀身をアドヴァンスドジンクスは左手で受け止めた。

受けた瞬間、左手は損傷したが最低限に抑えられ、掴めるだけの指も健在。

それ故でも驚きを隠せない。

 

『この…!』

『遅い』

『クソ…っ!』

 

ツヴァイの左腕に装備されたGNビームライフルを使おうとすると一手早くビームサーベルで腕ごと切断される。

銃口を向けてから放つビームライフルより予め刃を形成しているビームサーベルの方が零距離では優位だった。

 

『この距離ならば剣は銃より強し、だな』

『うるせぇんだよ!!この澄まし女…!』

『短気だな、ガンダムのパイロット』

 

睨む合う両者だが、アドヴァンスドジンクスはツヴァイのバスターソードを離さない。

恐らくツヴァイの最大の武器であるのを把握しているのだろう。

その点でいえばファングを先に出してくれたのは相手にとって好都合だったのかもしれない。

そして、バスターソードとファング、ハンドガンの使えないツヴァイの行動は限られていた。

 

『ハッ、ツヴァイの武装はまだあんだよ』

『ほう。では見せてもらおうか』

 

バスターソードを手放し、後退するツヴァイ。

だが、すぐに加速して肩部からGNビームサーベルを抜刀して肉迫する。

さらにスローネのビームサーベルはエクシアなどが使っているものより高出力の刃を有していた。

 

『ぶった斬ってやるぜ!』

『出来るのならな』

『なにっ…!』

 

振り下ろされたツヴァイのビームサーベル、それを受け止めたのはアドヴァンスドジンクスがツヴァイから奪取したバスターソード。

刀身を掴んでいた手は鞘へと持ち替えられ、斬撃を防いだ。

 

『てめぇ!人の武器を勝手に使ってんじゃねえ…!』

『使い勝手が悪いな。刀身がデカ過ぎる。盾にも化けるのは良いが、私には合わんな』

『んだとっ!?』

『どれ。斬り味も試してみるとするか』

『ぐあっ…!』

 

そう呟くと敵のパイロットはツヴァイを蹴り飛ばし、接近してくるドライに目を向けた。

 

『あんたなんか…!』

『フッ、丁度相手もいる』

『ネーナ!!』

 

下方から接近するドライにGNバスターソードを構えるアドヴァンスドジンクス。

ネーナはGNハンドガンで先制するが、それらはバスターソードを盾にして防がれてしまう。




中途半端ですが、続きます。


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否定する者(下)

『あたしは自由になって、咎を受けて…兄々ズと生きていく。そして、私達を救ってくれたあの人達に恩返しをする…。その為にも、あんたは邪魔なのっ!!』

『吠えるな、小娘。頭に響く』

『馬鹿にしてくれちゃって…!』

 

GNビームサーベルを二刀構え、ドライがアドヴァンスドジンクスに突っ込む。

だが、突如ネーナの視界で天地がひっくり返った。

現実は、アドヴァンスドジンクスが急速に回転したのだ。

 

『えっ?』

『その両腕、頂くとしよう』

 

刹那、一閃が走る。

GNバスターソードの刀身が下から孤を描くようにネーナの目に映り、ついさっきまで繋がっていた筈のドライの腕は綺麗に斬り落ちた。

 

『う、そ…っ』

 

いつか見たプルトーネ ブラックの無茶な機動。

それをアドヴァンスドジンクスは完璧に体現して見せ、ネーナには大きな衝撃でもあった。

明らかに動揺するネーナに隙が生まれたのを敵は見逃さない。

 

『フッ、貰った――ぐっ!?』

 

だが、重心の概念を捨てた無茶な機動の対価はすぐにやって来る。

苦しみに顔を顰めた敵のパイロットはドライを追撃することを諦め、逆に自身の隙を埋めるためにドライを蹴り飛ばす。

 

『きゃあああっ!?』

『チッ、やはりこの大きさは邪魔か。ん?』

 

GNバスターソードの欠点である小回りの効かなさに舌打ちする中、レーダーはしっかりと接近する機影を捉える。

 

『例え技量差があろうとも…っ!』

『愚かな。しつこい男だ』

 

GNランチャーの砲口を構えつつ迫り来るアインに、目を細める。

GNビームライフルを失い、もはや五体満足な唯一の機体。

それを倒す算段を既に頭の中で構築されていた。

だが、アドヴァンスドジンクスのパイロットは見過ごしていた。

蹴り飛ばしたドライの行動を。

 

『ステルスフィールド…!!』

『なに!?』

『いっけぇぇぇぇぇええええーーー!!』

 

突如横殴りされるが如く展開される粒子の波。

至近距離からの粒子の大量散布は凄まじい輝きを放ち、明らかに巻き込まれたものの視界を傷付ける。

それが敵の妨害となった。

 

『ぐっ…!小娘が…っ!』

『よくやった、ネーナ!』

 

ネーナの作った隙を無駄にさせまいとヨハンはアドヴァンスドジンクスを狙う。

目にダメージを受け、苦しむ敵にその仲間も心配そうに通信で声を掛けてくる。

 

『お、おい。ほんとに大丈夫なのか?なんなら俺が…』

『……っ。大丈夫だ、安心しろ。――もう終わる』

 

次の瞬間、アドヴァンスドジンクスはGNバスターソードをスローネ アインに向けて投擲した。

 

『なっ…、そんなもの…!』

 

だが、ヨハンも距離さえあれば意表を突かれても回避できる。

ただしその意表が相手の目的だった。

 

『ははっ!貰った!!』

『なに……っ、GNランチャーが…』

 

思わず目を見開くヨハン。

アドヴァンスドジンクスを墜とそうと粒子をチャージし、構えていたGNランチャーが突如爆発した。

否、撃ち抜かれた。

アドヴァンスドGNビームライフルの放った粒子ビームによって。

 

『フッ…機体の重心軸から右側、私から見れば左側か。そちらを優先した投擲、やはり逆に避けるのが人間の心理…。誘導、させてもらったぞ…!』

『馬鹿な…。そんなことが…!』

 

GNランチャーを破壊され、相手の心理誘導にヨハンが驚愕する。

しかし、基地防衛に燃えるヨハンがこの程度で諦めることはなかった。

すぐに表情を強ばらせて端末を操作する。

 

『トゥルブレンツ!』

『粒子ビーム…!?一体何処から…、新たな機影だと!』

『GNミサイル…!!』

 

施設から飛び出た支援機、トゥルブレンツユニット。

トゥルブレンツはヨハンの指示でGNミサイルコンテナからミサイルを発射し、アドヴァンスドジンクスに向かってGNブラスターで粒子ビームを放ちながら攻め入った。

トゥルブレンツも施設の襲撃を企む敵を討ち倒そうと言わんばかりに。

 

『面倒な…しかし、私の敵ではない』

『────────────!』

 

粒子ビームにGNミサイル、その両方を後退することで躱すアドヴァンスドジンクスがミサイル同士のぶつかり合いで起きた爆発。

それにより視界が黒煙で埋まってしまう。

 

『なるほど…私の視界を奪ったか。考えたな』

『今だ!』

『ケリを付けるぜ!』

『はああああっ!』

 

黒煙から各々方角から飛び出すスローネ。

アインはGNビームサーベルを二刀構え、ツヴァイは一本を手に、ドライは両腕を失ったため鋭い蹴りの体勢でアドヴァンスドジンクスを捉える。

そして、黒煙の向こうでは敵から見えないトゥルブレンツの狙撃。

もはや敵には逃げ場もなく、トリニティは勝利を確信していた。

だが―――。

 

『茶番は終わりだ』

『えっ?』

 

アドヴァンスドGNビームライフルから放たれた一筋の赤黒い光。

粒子ビームが一閃し、一点のみ黒煙を晴らす。

その先には貫かれるトゥルブレンツの姿、やがてトゥルブレンツは爆発し、塵となった。

 

『なに!?』

『んだとっ!?』

『悪いが、私はAEU軍で最も優れた狙撃手(スナイパー)だ。後は黒煙が展開される前の座標と一目見た機動性での行動範囲さえ分かればどうとでもなる』

 

――そして、お前らのポジションから最も効果的に支援できる位置を算出した。ただそれだけだ。

 

そう、淡々とまるで当たり前の事かのように敵のパイロットは口にした。

その一言でトリニティは旋律し、絶望を悟る。

 

『さて、フィナーレといくか』

『ぐあっ…!』

『がはっ!?』

『きゃあああっ!?』

 

横薙ぎに払われた粒子ビームの散弾にスローネは3機とも地上に墜ちる。

唯一の武器であったGNビームサーベルも衝撃で手放してしまった。

 

『こんなものか』

『ま、まだだ』

『ふん』

『……!』

 

ツヴァイにはもう一本GNビームサーベルがマウントされていたものが残っていた。

しかし、抜き出すと同時に撃ち落とされ、刃を生成することさえ許されない。

 

『アグリッサ部隊、ガンダムを鹵獲しろ。パイロットを殺せ』

『了解!やっと俺の出番だな…!』

『全くなんで私がこんなことを…』

『が、頑張りますわ!』

 

戦闘区域から外れて待機していた3機のMA(モビルアーマー)、アグリッサがアドヴァンスドジンクスのパイロットの指示により、移動を開始する。

倒れ込むガンダムスローネへと6基のクローを展開し、覆い被さるように地上へと降り立った。

 

『くっ…まさか…』

『お、おい…よせ…』

『いや…嫌…っ!』

 

なんとかアグリッサの下から抜け出そうとするスローネだが、アインもツヴァイもドライも損傷が酷く動きが取れない。

そして、アグリッサのプラズマフィールドが起動した。

 

『ぐああああああああああああーーーっ!!』

『うああああああああああああーーーっ!!』

『きゃあああああああああああーーーっ!!』

 

木霊する3人の悲痛の叫び。

稲妻さえ走るプラズマの光がガンダムスローネを包み、中のパイロットを苦しめる。

地上からも見える悪夢の光――それはレナもしっかりと目にしていた。

 

「あっ…ああ…っ!ト、トリニ……ティ、が…。ミハエルが…!」

「先生!まだ動いちゃ…」

「離して!助けなくちゃ!このままじゃ3人とも死んじゃう…!!」

「……っ」

 

施設内で子供達に必死に止められながらもその制止を解こうとするレナ。

だが、子供の非力な拘束でさえレナは振りほどかなかった。

何度もサハクエルに手を伸ばすが届かない。

そんなレナを見て辛くなった男の子――後に俺を責めた子供――が端末を起動させて通信を要請する。

相手は俺だが、暫くしても出なかった。

 

「ミハエル…!」

『レナ…!』

 

子供達の制止の中、サハクエルへ向けて必死に手を伸ばすレナと。

プラズマの走るスローネ ツヴァイのコクピット内で施設へ向けて必死に手を伸ばすミハエル。

ツヴァイも苦しみの中、格納庫に向けて手を伸ばした。

それに見向きもせずアドヴァンスドジンクスは施設へと近付いていく。

アドヴァンスドGNビームライフルを手に持って。

 

『よ、よせ…やめやがれ…。せめて、俺を倒してから…』

『ミハ、エル…』

『ミハ兄…っ』

 

必死に制止を呼び掛けるがアドヴァンスドジンクスが足を止める様子はない。

そして、遂に施設への攻撃を始めた。

 

『やめろぉぉぉぉおおおおおーーーっ!!』

 

プラズマによる激痛も意に介さず叫ぶミハエルだが、それを裏切るように粒子ビームが施設を破壊していく。

やがて、爆炎が本拠を包んだ時。

ミハエルの意識はプラズマと共に遠ざかっていった。

 

『クソ……やっぱ、ダメなのかよ…。夢見ちゃ…奪ってきたもんと釣り合いが、取れてねえのか…っ。クソ…、クソっ!あぁ、ちくしょう……当然だよな…これは、罰だ…。ごめんな、レナ……。俺、レナのこと――――』

 

それを最後にツヴァイの伸ばした腕は地に落ちた。

通信も途端に切れてしまう。

 

『ミハエルーーーーーーーー!!』

『ミハ兄ィィィィィーーーー!!』

 

何度申請しても繋がならない通信に、ヨハンとネーナが苦しみすら無視して叫ぶ。

格納庫で、破壊工作をされて損傷を受けた施設の中、レナもそれを目の当たりにして涙を流す。

 

「そんな…嘘だよ…。ねえ、ミハエル…嘘って、言ってよ…」

「先生…」

「あぁ…」

 

子供達も思わず目を伏せる。

一人脱落したのを相手側も見て通信内で会話を始めたという。

 

『うわっ…えぐいな。あー、そうだ。こん中に赤いガンダムいない?あ、マインの下にいるその機体。それに乗ってるの結構可愛い女の子なんだよね。それでさ、その子悪いお兄さん達に感化されてるだけだから殺さないでくれよ、マイン』

『はい!了解しました、ナオヤ様!……チッ、また新しい女か。節操ないわね』

「……っ!」

 

目の前で人が死に、殺しておいて能天気な話をする男の声。

レナは自分に似た何かとそれに混じる不快なものを感じた。

そして、襲撃の衝撃で落ちた端末の画面を見遣る。

そこに映るアドヴァンスドジンクスを睨んだ。

 

「この人は…まさか…」

 

レナがわなわなと震える中、命は次々と消えていく。

次に悲劇が訪れたのはヨハンだった。

 

『ミハ…エル…。ネーナ…わた、しは…』

『ヨハン兄?』

『……』

 

ネーナが話し掛けるが反応はない。

真面目なヨハンの声は二度と返ってこなかった。

そして、ネーナも…。

 

『あたし…まだ、何も……してない…のに…』

 

スローネ ドライの中で意識を落とす。

トリニティ全員との通信が切れたレナは、戦慄する。

 

「ヨハンさん…ネーナ…そん、な…」

 

外の様子を見つめながら絶句するレナ。

絶望のどん底へと突き落とされたような気分になり、スローネを回収するアグリッサ達を目にした時、身を乗り出した。

 

「待って…!」

「あ、先生!」

 

連れて行かれようとしているスローネに居ても立ってもいられなくなったレナは遂に子供達の拘束を抜け出し、サハクエルへと駆けた。

しかし、力が込めれずすぐに倒れ伏せてしまう。

 

「先生!」

「大丈夫!?」

「……っ、こんな…ところで…」

 

思わず駆け寄る子供達。

だが、レナは進行を止めようとせず、這いつくばるようにしてでもコクピットを目指す。

柵を掴み、なんとか身体を起こしながらレナはミハエルの最後の言葉を思い出す。

 

――これは、罰だ。

 

「違う!罰なんかじゃない!こんなただ奪われただけのことが罰なわけがない!!」

 

レナは必死に否定する。

その想いの強さで少しずつ前へ、前へと歩き始めた。

 

「神様が天罰だと言っても私は否定する!奪い合いの連鎖なんて間違ってる…!」

 

レナの言葉と気迫に子供達も止めることはできなくなり、サハクエルへと向かうレナに女の子がせめてものフォローをした。

 

「先生!まだサハクエルは修理が終わってない。だから、使うならあっち…!」

「……っ」

 

指さされたのはサハクエルと橋を挟んで隣に構えるブラックサダルスード。

女の子の誘導にレナは力強く頷いた。

 

「ありがとう!」

 

パイロットスーツを着込み、子供達にサポートされながらもレナはブラックサダルスードに乗り込んだ。

大切な仲間を取り戻すために。

 

「はぁ…はぁ…っ。ハロちゃん…ごめん、私こんなだから…。代わりに計算して?……私は何分戦えるのか」

『レナ。レナ』

「お願い…」

 

顔色を悪くしながらもレナが精一杯笑顔を作ると、黒HAROは応じ、耳をパカパカと開閉させる。

暫くすると演算結果を導き出した。

 

『10分ダケ。10分ダケ』

「10分、か…」

 

呟きながら操縦舵を握る。

しかし、その手は震えて上手く力が込められない。

さらにどうも落ち着いて座っていられない。

身体が熱く、疼いていた。

思考も鈍り、焦点も定かではない。

それでも――。

 

『ブラックサダルスード、行くよ…』

 

GNスナイパーライフルを装備したガンダムサダルスードTYPE-Fブラック。

その機影は本拠から飛び出し、去っていったアドヴァンスドジンクスとアグリッサの編隊を追った。

 

 

 

 

 

ソレスタルビーイングのものと思わしき施設への襲撃。

その任務を終えた少数部隊はガンダムスローネの鹵獲に成功し、基地へと帰投を目指していた。

その道中、彼らは他愛もない話を繰り広げる。

 

『ナオヤ様!(わたくし)でもやれましたわ…!』

『あぁ。凄いぞ、シャルロット!』

『……』

 

犬のように賞賛を求める良いとこ出の女性パイロットを求められた通りの回答を返すナオヤ。

そんな茶番を無言で見守るネルシェンはマインの呟きを拾う。

 

『はっ、犬みたいに尻尾振っちゃって…惨めな女ね』

『貴様も大概だがな』

『はぁ!?』

 

冷たく一言言い放つネルシェンにマインは噛み付き、いつも通りのやり取りを広げる。

ただネルシェンも戦闘の後で疲労を感じていたため普段より一層面倒そうにしていた。

そんな中、一筋の光が彼らの編隊を襲う。

 

『きゃっ!?』

『シャルロット!』

『なに!?』

 

ネルシェンでさえ驚愕するアグリッサを貫いた一撃。

――この私が、全く察知できなかっただと!?

 

『粒子ビーム…まさか!』

 

思わず振り返るネルシェンはもはや遠く、小さくなった施設からこちらへ接近する機影を見つける。

かなり距離が空いていて、目測で15kmはあった。

 

『あの距離から…!?』

『あ、ネナちゃんが…!』

『1機落としたか!』

『ひぃ…!死ぬかと思いましたぁ!』

 

アグリッサから逃れたイナクトは間一髪パイロットの命は助かり、ネルシェンはそれを一瞥しつつ敵を睨む。

戦闘中に聞いた名前とナオヤの呼んだ名前が違っていたが、それすら無視した。

そして、接近する機影の姿が明らかになっていく。

黒い狙撃銃を持った星の如く存在感を放つ機体、その名は――。

 

『ガンダム…っ』

 

脳裏で各所で集めた情報が思い浮かぶ。

人革連の鹵獲作戦で介入したという出処不明の粒子ビーム、同日にAEU領にて大気圏を突破した特定不能の物体、合同軍事演習にて現れた全身ローブに身を包んだMS(モビルスーツ)、ユニオン領のアイリス社軍需工場にてガンダム同士の戦闘――そこに映る不可解な粒子ビーム。

その全ての辻褄を合わせる為のガンダムがどうしても1機足りなかった。

その1機が、世界には見られていないガンダムがネルシェンの目の前には居た。

 

『そうか…貴様が…。やはり居たか』

『はぁ…はぁ…貴女―――を――』

『通信?』

 

途切れ途切れで聞こえる少女の声。

反射的に通信を繋ぐ。

すると、怒りのこもったガンダムのパイロットの声が聞こえてきた。

 

『私は…貴女を、許さない…!』

『ほう。だったらなんだ?』

『くっ…、ネルシェン!』

 

ナオヤが粒子ビームを回避しながらネルシェンに呼び掛けるが、ネルシェンは一瞥して問題ないと対応すると、すぐ様意識を迫り来るガンダムに向けた。

 

『貴女を、倒す…!』

『ははっ。やってみろ!!』

 

刹那、戦闘態勢に入ったアドヴァンスドジンクスと狙撃するブラックサダルスードとの衝突が始まる。

距離は十全に空いている。

それは、レナの間合いだ。

 

『ブラックサダルスード、目標を淘汰するよ…!』

『アドヴァンスドジンクス、任務を続行する』

 

そして、10分間に渡る激戦が始まり、レナは負けた。




崩壊したブラックサダルスード。
大きな打撃を受けたデスぺアは満身創痍の中、絶望に沈む。
だが、たった一人歪みを知ったレイが正義の刃を振り下ろす。



トリニティが生き残るor生き返るとか実は生きてたとか考察してはみたのですが、どうしてもこの3話くらい後に想定してるシーンが茶番になるので断念しました。すみません。
本編その後のトリニティを気に入ってくださりありがとうございます。


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正義の刃

10分間。

その短い時間でレナは健闘した。

ブラックサダルスードは多大な損害を受けたものの敵を退けることができた。

その代償としてレナは高熱を発してしまったが。

 

「レナ…」

「……」

 

今は呼吸も落ち着いて眠りについているレナ。

子供達が瓦礫の中から応急品を探り出し、処置したおかげで熱も下がってきてはいる。

後は安静にしていれば…。

 

「なぁ、ここ。いつまで安泰なんだ?次の襲撃はあるのか?」

「それは…」

 

恐らく大体察しがついてるであろう質問が投げ掛けられる。

他の子供達も不安そうに俺に視線を集める中、どう答えていいのか悩む。

それが現時点で最も問題点となっているからだ。

ここが安全なのかどうかと聞かれると既に一度襲撃を受けたこと、特定されていることから胸を張って安全とは言えない。

ただここまで徹底的に叩かれると放置される可能性もなくはない。

 

「それに賭ける程の余裕も…ない、か」

 

レナを見遣り、溜息をつく。

攻めてきたという少数部隊がどういう集団だったのかは分からない。

敵について知ってるのはレナだけだと子供達も口を揃えて言った。

情報が枯渇している今、打てる手は絶望的な程少ない。

 

「敵が国連軍でないにしろ傭兵でもない限り、ここは一度ガサ入れされる筈だ。そう長くはいれない」

「そんな…」

 

レナの事を最も真剣に診てくれていた女の子が落胆を漏らす。

当然俺が来た時より前に子供達はここで暮らしていた。

『先生』であるレナと日々を過ごし、思い入れのある場所なんだろう。

そこを離れるのはやはり辛いようだ。

 

「……デルに迎えを寄越す。宇宙(そら)へ行こう」

「でも、ガンダムは…」

「サハクエルとプルトーネ。これ以外は置いていく」

 

流石に全機持っていくのは不可能だ。

時間が足りない。

病人も居るんだ、仕方ない。

 

「ところで、本当に誰も敵の情報は持ってないのか?」

『……』

 

何度目か知らないが何度でも質問する。

少しでも手掛かりが欲しいからな。

だが、揃いも揃ってみんな首を横に振るう。

思い出すこともないか…。

仇討ちをしたい訳じゃない。

それこそレナの嫌う奪い合いの連鎖だ。

ただ、実質一人でトリニティを全滅させる程の存在を放ってはおけない。

そいつは間違いなく俺達にとって脅威だ。

 

「なんでもいい。相手の機体について気付いたことでも、少しでも拾った会話でも、レナが言ってたことでも…なんでもだ。もしかしたら手掛かりになるかもしれない」

「あっ…」

 

整備士や様々な観点で尋ねてみるとレナを介抱する女の子が声を漏らす。

 

「なんだ?何か思い出したか」

「う、うん。大したことじゃないかもしれないけど…」

「それでもいいさ」

「わかった…。先生が、呟いたの」

 

――私と似た何かとそれに混じる不快なものを感じる、と。

 

恐らく脳量子波で感じたものだろう。

施設の何処からか漏れたのかもしれない。

襲撃で半壊状態だったからな。

脳量子波遮断施設も役割を放棄するのは当たり前だ。

私と似た何か、か。

 

真っ先に思いつくのはやはりまず同種(イノベイド)

イノベイドが襲撃してきたのか?何のために?

リボンズの差し金か…それでも数が少ない。

ブリングとかか?いや、例えマイスタータイプのイノベイドでもトリニティ3人をたった一人で圧倒できるとは思えない。

一体誰が…。

 

「私と似た何か。不快なもの…か。ん?待てよ…」

 

何か既視感があるな。

俺も以前似たような感想を抱いたことがあった。

あれは…いつだったか…。

そうだ。

国際テロネットワークの多発同時テロの時、まだ人革連軍に所属していた俺はテロ襲撃予測地点での調査を軍の指示で行った。

その帰り、俺はバイクでとある奴と出会い――その時同じ感想を抱いた。

 

「あ…っ。ま、まさか……まさか…っ!」

 

繋がった。

4機の編隊も辻褄が合う。

そうか、アイツが…。

 

「アイツがやったのか…!クソ!!」

「あ、おい…!どこ行くんだよ!」

「お前達は先に軌道エレベーターに向かってろ。俺も後で追う!」

「はぁ?」

 

少年に指示を残し、俺は一人格納庫に向かう。

確か1機まだ健在な機体があった筈だ。

修復の完了していないサハクエルとプルトーネ。

損傷したサダルスード。

最後に残された正義の女神が。

 

「そうか、アイツが…!アイツが!」

『レイ。レイ』

「黒HARO。レナに付いてやれ!」

『了解。了解』

 

格納庫に残っていた黒HAROは俺が廊下を指差すと即座にレナの自室へと跳ねていった。

俺はそれに目もくれずパイロットスーツに身を包む。

ヘルメットを手に崩れかけている橋をなんとか渡ってガンダムの元までやって来た。

見上げるとボロボロの機体が並ぶ中、1機だけまだ瞳の光が消えていない機体がある。

その機体のコクピットに乗り込んだ。

 

「武装は…少ないな。だが、これだけあれば充分だ」

 

GNソードとGNライフルはいつか俺が投げたせいで枯渇している。

GNランチャー?そんな贅沢なものがある筈もない。

それでも奴をぶん殴るにはこれで充分だ。

 

『見つけた…。俺も、見つけたぞ刹那。そうさ。奴が……』

 

ハッチは壊れて開かないのでこじ開ける。

すると、広がる空にある四筋の雲の切れ目が俺に敵の居場所を教えていた。

編隊の中にいたアグリッサ。

AEUのMA(モビルアーマー)、さすれば向かう場所は必然と絞り込める。

 

『ブラックアストレア、出撃する!!』

 

半壊した格納庫から1機の機影が飛び出した。

向かうはAEU軍の施設。

必ず歪みを断ち切る、ガンダムと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AEUの軍事施設。

合同軍事演習時の新型ガンダム3機の鹵獲作戦に成功した部隊が帰還し、持ち帰られた機体は即座に修復された。

格納庫に揃うガンダムを眺めてネルシェン・グッドマンはただ静かに目を細める。

 

「予備パーツまで揃えてあるとは……準備のいいことだ」

 

結局、手のひらで踊らされているだけ。

何者かは分からないが、世界を掌握しようとする何者かがネルシェンを利用している。

彼女の実力を見越して最も効果的な方法でガンダムと戦わせ、邪魔な者を排除しているようだ。

その黒幕もネルシェンにはナオヤの話を断片的に繋げて察しが付いている。

 

「いやー、また俺の階級上がっちゃうなー!まいったぜ、あはは!」

「流石ですわ、ナオヤ様!わ、(わたくし)も上がるでしょうか!?」

「そりゃそうさ。なんたってガンダムを鹵獲したんだからな!」

 

楽しそうに会話を弾ませる想い人。

彼がよく口ずさむ、イノベイター。

ナオヤ自身もイノベイターであり、そのイノベイターが何なのかにまでは至っていない。

だが、明らかに凡人類とは違う何か特別な存在。

そのイノベイターに統率者がいるのならば、あるいは――。

 

「ちょっと。あんたら、あたしを無視して話進めないでくれる?あの機体はあたしと兄々ズの機体なんだからっ!あんた達のじゃない!!」

「ほう…。活きのいい捕虜がいるな」

「……っ」

 

部屋の隅に縄で縛られていた紅髪の少女、ネーナ・トリニティ。

兄達を殺されたネーナはネルシェンをしきりに睨んでいた。

内心では今にも泣きそうなくらい悲しみに暮れているが、決して敵前では見せない。

そんな様子をネルシェンは嘲笑った。

 

「はっ、我慢も辛いだろう?泣き喚きたいのならば遠慮する必要はないぞ。無論、黙らせるがな」

「お前ぇぇええーー!」

「ドードー。落ち着いてくれよ、ネナちゃん…。ネルシェンもあんま刺激すんなって」

「ふん…」

 

ナオヤの仲介を経てネルシェンは鼻を鳴らして黙るが、ネーナはナオヤを睨む。

 

「あはは…嫌われちゃってるな。まあ仕方ないか。でもな、ネナちゃん。君のお兄さん達は悪い人達――って痛ぁっ!?」

「近寄んじゃないわよ、変態!」

「貴様!」

 

ネーナに寄り添おうと屈んだナオヤを近付いてきたのを好機と思ったネーナが噛み付き、ナオヤを傷付けられネルシェンは怒りで乗り出す。

初めて感情を乱すところを見せたネルシェンにネーナはしてやったと笑みを浮かべた。

 

「あら?大事な人だった?ごめーん、あたしにとってはミハ兄の仇だったからつい殺したくなっちゃった…!!」

「捕虜の分際で…!」

「まあまあ。俺は大丈夫だから、なっ?ネルシェン…痛てて…」

「チッ…」

 

一触即発の雰囲気を制止したナオヤによりネルシェンは掴みかかろうとしていたのを止め、奥で静かに怒りを燃やす。

シャルロットは険悪の雰囲気を不安そうにオロオロし、マインは……何故かずっと黙っている。

そんな時。

 

「よぉ!あんたらか?ガンダムを鹵獲したっていうAEUの軍人様は」

「何者だ!」

 

突如、格納庫に現れた濃髭が特徴の男。

赤いパイロットスーツに身を包む強面にネルシェンは思わず銃を抜き、構える。

ナオヤ達も驚き、気配を察知できなかったネルシェンは男を警戒していた。

 

男の名は――アリー・アル・サーシェス。

 

「俺は見ての通り、傭兵さ。ガンダムを鹵獲したって聞いて是非ともご挨拶に伺いたくてね」

「今は取り込み中だ。出て行け」

「お、おい。ネルシェン…。別にいいじゃねえか、見せるぐらい。……ん?こいつ、どこかで」

 

妙に緊迫感を放つネルシェンを宥めようとするナオヤだが、サーシェスの顔を見て怪訝そうに表情を顰める。

だが、気付くのが遅かった。

 

「あっ!お前確か悪役の――」

「まあそう言うなって、お嬢さん。()()()()だけだ」

 

刹那、銃声が響く。

場の空気が止まり、ナオヤとネルシェン、ネーナも思わず銃弾の先に視線を集めた。

そこには胸から一筋の鮮血を噴き出す金髪ロールの少女がいる。

 

「え…?」

「シャルロット!!」

「なっ…、貴様!」

 

突如たった一発の弾丸に命を奪われた金髪ロールの少女。

生の宿らない瞳で倒れる彼女を必死に抱き抱えるナオヤと、敵意が確定したサーシェスにネルシェンが銃口を向ける。

しかし、放たれた弾丸をサーシェスは予測していたのか、下に滑り込むように躱してネルシェンの懐へと侵入した。

 

「おらよっと!!」

「くっ…!」

 

下段から蹴りが迫るネルシェンだが、それを両腕を胸の前にクロスして防ぐ。

 

「おっ、やるじゃねえか嬢ちゃん。ならこいつはどうだい!!」

「ナオヤ…!」

「え?」

 

至近距離にまで詰めたサーシェスが向けた銃口の先はネルシェンではなく、無防備なナオヤ。

咄嗟の判断でネルシェンはナオヤとサーシェスの間に飛び込む。

 

「がはっ…!?」

「ネルシェン!」

「……っ!ナオ、ヤ……少し強引に、行くぞ…」

「うおっ!?」

 

背中を撃たれたネルシェン、彼女は苦痛に表情を歪めるも即座に次の行動を判断し、ナオヤを力尽くで抱える。

そして、銃弾で窓ガラスを撃ち破った。

 

「ハッ!逃がすかよ!」

「うぐっ…!?」

 

もう一発、腰に銃弾を受けるが足は止めない。

幾度も放たれた銃弾を疾走で避け、室内の窓から格納庫へと落ちるように飛び降りる。

当然着地の衝撃で足が痺れるが、上から追ってくる弾道があるため、ネルシェンはナオヤを抱えたまま鹵獲した機体のある格納庫を駆け続ける。

 

『チッ!逃げ足の早いこって…!』

『私達も追うわよ!』

『そこに縛られてる嬢ちゃんはいいのか?』

『そんなもの放っておきなさい!最優先はあの黒髪の女よ!』

『へへ、了解』

 

「ぐっ…!」

 

上からサーシェスと聞き覚えのある女の会話が聞こえ、ネルシェンは顔を顰める。

銃弾の弾道を避ける物陰に入ってようやくナオヤを降ろした。

 

「お、おい…ネルシェン、大丈夫か?」

「私は……っ、問題ない。それよりもここから逃げるのが先決だ…。行くぞ」

「い、行くってどこへ?」

「どれでもいい。MS(モビルスーツ)に乗り込む!」

「――ところがぎっちょん!!」

「ぐあ…っ!」

 

叫びと共に飛来した銃弾。

ネルシェンは足を貫かれ、体勢を崩す。

背後に目をやると格納庫に侵入し、銃を手に追ってくるサーシェスが映った。

 

「くっ…、ナオヤ!手前のジンクスに乗れ!」

「でも…」

「早く!!」

「わ、分かった…!」

 

尋常じゃないネルシェンの気迫にナオヤは言われるがままに頷き、目の前のアドヴァンスドジンクスから伸びるワイヤー掴む。

そして、コクピットへと乗り込んでいき、ネルシェンは足を引き摺りながらその奥へと向かう。

まだサーシェスは格納庫の入口付近。

試行錯誤すれば間に合うと踏んだ。

 

「居た!あそこよ、サーシェス…!」

「おうよ。逃がしはしねえぜ、嬢ちゃん!!」

「舐めるな…!」

「うおっ!?」

 

アドヴァンスドジンクスの背後の通路へ回ろうとした時、中央の十字にまで迫ったサーシェスがネルシェンを捉えた。

だが、物陰に飛び込み、銃を構えたネルシェンによりサーシェスの銃が的確に落とされる。

このくらいできなければ最優の狙撃手(スナイパー)を誇れはしない。

 

「なにやってんのよ!」

「悪ぃな。あの嬢ちゃん、中々やるぜ」

「知ってるわよ。そんなこと!だから、早く殺しなさい!!」

「……っ!」

 

そんな怒号が響く中、なんとかMS(モビルスーツ)の所まで辿り着いたネルシェン。

すぐさまワイヤーを降ろし、それを掴んで這い上がるように上昇していく。

 

「なっ…あいつ、MS(モビルスーツ)に…!」

「こりゃ一杯食わされたぜ」

「感心してる場合!?クソ!!」

『ふん…』

 

コクピットへ乗り込んだネルシェンは下で騒ぐ連中を目にやっと腰を落ち着かせる。

だが、休んでいる暇はない。

ほぼ確実にあの二人もMS(モビルスーツ)に搭乗するだろう。

 

『ネルシェン、大丈夫か!?』

『無論だ…。ハッチを破壊する。逃げるぞ、ナオヤ』

『で、でもマインとネナちゃんが…』

『我々の安全が最優先だ。出撃後、敵MS(モビルスーツ)と交戦し、奪還する』

『そういうことなら、了解!!』

『……』

 

誤魔化しが効き、了承したナオヤに内心安堵しつつ呆れる。

どうやらマインが裏切ったことに彼は気付いていない。

あのピンク髪の女は元からイノベイターとしてのナオヤを利用していただけであることをネルシェンは知っていた。

近い未来、イノベイターが世界の統率者となり、人類を導く時が来る。

それに勘づいたのか、マインはただ功績に惹かれてナオヤに付いていた時とは豹変し、今や自身の未来のために邪魔なネルシェンを排除しようと傭兵と組んで殺しにやって来た。

恐らく背後にはイノベイターの勢力が関わっている。

少なくともネルシェンはそう睨んでいた。

 

「ナオヤがイノベイターについて口外した事が原因か…」

『ん?何か言ったか?』

「いや、出撃だ。準備しろ」

 

ネルシェンは自身の乗った機体の端末に触れる。

機体名はガンダムスローネ アイン。

事前に渡されていた構築データを端末に入れ、システムを書き換えた。

通常、登録されたマイスターのバイオメトリクスがなければ起動しないMS(モビルスーツ)だが、誰かの差し金でクリアする。

 

『スローネ アイン。施設を脱出する』

『えー、アドヴァンスドジンクス?俺も出るぜ!』

 

装備を一通り確認。

コマ割りの効くGNハンドガンでハッチを破壊し、施設からスローネ アインとアドヴァンスドジンクスが飛び出した。

再供給されたGN粒子で空に浮遊し、全てのシステムを掌握する。

 

『これがガンダム…』

『おおお!やっぱガンダムはかっけぇな…!俺もそっちにしておけば良かったぜ!』

『機体性能はそちらの方が上だ。我慢しろ。それに…あまり余裕はなかった』

『了解。うんじゃ、マインとネナちゃんを助けようぜ』

『あぁ…』

 

意気込むナオヤに真実を伝えて傷付けることを躊躇ったネルシェンは視線を逸らす。

眼下を警戒するが、まだマインとサーシェスは出てこない。

恐らくシステムの改竄に手間取っているのだろう。

だが、その余裕も長くは続かない。

所要時間として1分もないだろう。

 

『それにしても…あの女に私の抹殺を差し向けたのならば何故私にもハッキングデータを渡した?』

 

ふと疑問が横切る。

黒幕の思考が読めない。

殺すつもりなのだとしたらガンダムを鹵獲した時点で捨てておけば良かった。

あの傭兵を寄越したように。

サーシェスの実力は生身ではネルシェンと大差がなかった。

 

AEU軍で肉弾戦の成績もトップレベルのネルシェンだが、やはり男女の差はデカい。

そのハンデを加えればサーシェスとは互角だった。

あの男には充分にネルシェンを殺せるだけの技量がある。

しかし、予めネルシェンにもガンダムを強奪できるよう仕向けられている。

では目的はなんなのか?

 

『まさか、あの傭兵と私の両方の手にガンダムを渡らせるため?その為にこんな茶番を用意したというのか…』

『ネルシェン!敵だ』

『来たか…!』

 

ナオヤの言う通り、アインのレーダーにも眼下の施設から稼働したMS(モビルスーツ)の反応が読み取れる。

動く前に施設ごと撃ち殺す方法も考えはしたが、ナオヤの要望を裏切ることになる。

ここは戦闘するしかない。

そう覚悟した時。

ネルシェンはアインのレーダーにもう1機の存在を捉えた。

 

『接近する機影だと?この速度は…』

『ん?なんだ、あれ』

 

ナオヤも気付き、振り返ると遠くの光が徐々にその姿を露わにする。

ネルシェンも見遣り、ハッキリと機体の全容が目に映ると驚愕した。

 

『あれは、ガンダムか!!』

『ハハッ!ガンダム頂いたぜ…!』

『くっ…!』

 

ガンダムの接近に気を取られる間もなく、サーシェスの駆るスローネ ツヴァイの粒子ビームを避ける。

ネルシェンはサーシェスの対応に追われ、現れたガンダムの狙いがナオヤであることに気付くが、阻まれた。

 

『ナオヤ…!』

『オーケー、あっちは俺に任せな!』

『違っ…』

『よそ見は命取りだぜ、嬢ちゃん!!』

『チッ!邪魔だ!』

 

GNバスターソードで突進してくるツヴァイをGNビームサーベルで受け止めるアイン。

サーシェスとネルシェンが衝突する中、ナオヤは接近する機影との対決にネルシェンの制止も聞こえず、挑もうとする。

一方、アドヴァンスドジンクスを標的に接近するブラックアストレアはGNビームサーベルの刃を生成し、振りかざす。

 

『――見つけたぞ』

『ん?』

 

アドヴァンスドジンクスとブラックアストレア。

双方の通信が繋がり、聞き取れた呟きにナオヤは首を傾げる。

そこに、叩き込むように相手の叫びが振り下ろされた。

 

『お前が歪みだ…!ナオヤ!!』

『なんだかよくわかんねえけど、来いよガンダム!』

 

衝突し、火花を散らすビームサーベル。

ナオヤと対峙するレイはGNバーニアで勢いに加速を掛けた。

 

『目標を蹂躙する…!』

 

強い気迫のこもった声が響く同時。

アドヴァンスドGNビームライフルが切断される。



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魂の行き場

※スパクロネタありです。


遂に見つけた。

この世界の歪み。

奪い合いの連鎖を生み出す存在。

そうさ、それはずっと前からいた。

楽観視して見ないようにしていたんだ。

その歪みは――。

 

『お前だ!ナオヤ…!!』

『うおっ!?』

 

チッ、避けた。

ブラックアストレアの蹴りが空を斬る。

話に聞いていたジンクスのカスタム機、アドヴァンスドジンクスにはナオヤが搭乗している。

アドヴァンスドジンクスがトリニティの命を奪った。

連鎖の始まり。

奪い合いの連鎖を生み出す歪みだ。

俺はその歪みを破壊する。

 

『だから、一緒に戦ってくれ。ミハエル…!』

 

ブラックアストレアの手に持つGNビームサーベル。

半壊した本拠で拾ってきたそれはスローネ ツヴァイのものだ。

スローネのビームサーベルは高出力の刃を形成することができる。

装備の乏しい今、燃費を気にせず戦えるためこのビームサーベルは有難い。

今はこのビームサーベルがブラックアストレアの最大の武器だ。

その刃を高出力で出現させ、アドヴァンスドジンクスに斬りかかる。

 

『はああっ!』

『へっ、俺だって…!』

 

アドヴァンスドジンクスもプロトGNランスを構えて迎え撃った。

4門の粒子ビーム砲から放たれた弾道を回避し、接近を試しみるが俺の機動を弾圧が追ってくる。

気にせず接近すれば弾道に自ら入ることになり、被弾する。

GNシールドもない今のブラックアストレアじゃ被弾確定だ。

仕方なく、接近を諦めるとナオヤの高潮した気分を耳にする。

 

『ははは!オラオラァ!避けてばっかかよ、ガンダム…!』

『舐めるな…っ!』

 

この程度の弾圧で調子に乗りやがって。

やりようなら、いくらでもあるんだよ!

その一つ、余っているブラックアストレアのGNビームサーベルを抜刀し、アドヴァンスドジンクスに投擲する。

 

『なっ…!?』

『この程度、避けて見せろよ!!』

『ぐっ…!てめぇ!』

 

ビームサーベルは見事にアドヴァンスドジンクスのプロトGNランスの砲門に突き刺さり、プロトGNランスと共に爆散する。

その衝撃でアドヴァンスドジンクスは態勢を崩した。

爆発によって無防備で空に放られる。

 

『貰った…!』

『ごはっ!?』

 

あまりにも隙だらけだった腹部に蹴りを入れるとあっさり決まった。

それなりにいいのが入ったが、まさかそのまま墜落するのか…?

 

『ク、クソ…!』

 

と、までは行かないようだ。

なんとか降下中に耐え、態勢を立て直す。

……どうも気になる。

手応えがなさ過ぎる、その上全く相手にならない。

こんな奴がトリニティを殺ったのか…?

なんというか、拍子抜けだ。

正直眼下のナオヤにはその実力の欠片も感じない。

 

『ぶ、武装が…!てめぇ、やりやがったな!』

『……』

 

主武装を失って俺を睨むナオヤだが、あの程度回避できるだろ。

寧ろ俺自身がプロトGNランスを破壊できたことに驚きだったくらいだ。

交戦してすぐでここまで手応えがないとは…なんなんだ?こいつ。

ちょっと試してみるか。

 

『ほらよ』

『うおっ、と…!なんだこれ…?』

『見りゃ分かるだろ。武器だよ』

『なっ…!』

 

ブラックアストレアのGNビームサーベルを故意的に投げ渡してやった。

ナオヤは辛うじて掴み取り、理解不能といった様子で暫く眺めていて情けをかけられたと思ったのか顔が強ばる。

もはや俺の武器がツヴァイのものとGNバルカンのみとなったがまあいいだろう。

なんか戻ってきそうな気もするし。

 

『てめぇ、舐めんじゃねえ!!』

 

ナオヤは怒りで叫び、GNビームサーベルの刃を生成すふと斬りかかってきた。

ってなんだこの真っ直ぐな剣筋は。

棒切れを振るう常人とまでは言わないが、読みやす過ぎる。

 

『はああっ!』

『……』

 

特に困ることもなく普通に避けた。

GNビームサーベルは虚しく空を斬る。

 

『まだだ!』

 

ナオヤは諦めずに何度も振るうが当たらない。

剣筋が簡単に読めるし、動きも無駄があり過ぎて遅い。

ちなみに粒子を節約するためにこっちのサーベルは刃を消した。

暫く付き合ってやるつもりだ。

 

『はあっ!せやっ!ク、クソ…!あ、当たらねえ!』

『……もういい』

 

単調な剣筋に、いちいち大幅な予備動作のせいで次の手が考えなくても読める。

最初のうちはそんなこともなかったけど焦り出してからすぐに形が崩れた。

その隙を突いて、蹴り上げてGNビームサーベルを奪い取り、同時に二刀で片腕を切断する。

 

『ぐあ…っ!』

『終わりだ、ナオヤ』

 

試してみてほぼ確定した。

恐らくトリニティを一人で圧倒したのはナオヤじゃない。

それでも結局はこいつがいて、その取り巻きがいたから起こった悲劇だ。

充分に蹂躙する理由がある。

だが、俺の振り下ろした刃を受け止める者がいた。

 

『なに…っ!』

『ナオヤは殺らせん』

 

ブラックアストレアの刃を阻む乱入してきたもう一筋の刃。

ナオヤのアドヴァンスドジンクスを守るように割り込んできたその機体に俺は思わず目を見開いた。

邪魔をしてきたのは肩に特徴的な長距離砲を持つ擬似太陽炉搭載型MS、ガンダムスローネ アインだった。

 

『スローネ アイン…!?』

『貴様、あの狙撃手(スナイパー)の仲間か。まさかまだパイロットがいたとはな』

『……っ』

 

通信で冷酷に淡々と言葉を放つスローネ アインのパイロット。

やはりその声はヨハンのものではない。

俺でも聞いたことのない、聞き覚えのない女の声。

一体誰だ…?

 

『何者だ!』

『答える義理はない』

『くっ…!』

 

問い掛けと共に打ち込んだ斬撃が全て捌かれた。

こいつ、手強い。

さらに斬り合いは相手の優勢で終わり、そのまま攻め込んで来るのをなんとか防いで競り合いへと持ち込まれた。

だが、勢いで圧されてるのは俺だ。

まるでナオヤから遠ざけるように後退させられていく。

なんて(パワー)だ…!

 

いや、力じゃない。

技術だ。

この接近戦の競り合いにおいて、相手は俺の力を器用に受け流し、最も効率的に押し込める工夫をすることで成り立ってるんだ。

力量差ではなく、技量差。

悔しいが俺の方が劣っている。

 

『それでも負けるわけにはいかない!』

『この機体のパイロットもそのような事を言っていた。結果は惨敗だったがな』

『なに…!?』

『フッ、甘い!』

『ぐあ…っ!』

 

しまった、動揺の隙を突かれたか。

少しでも隙を見せたが最後、左腕を奪われた。

さらに背後で反転し、照準で捉えられている。

 

『クソ…!』

『沈め』

 

予想通り、GNランチャーから至近距離で放たれた粒子ビーム。

背後から迫るそれを俺は双眼を色彩に輝かせて避けた。

 

『言っただろう…!負けるわけにはいかないってな!!』

『今の機動は…っ』

『貰った!』

 

GNバーニアを噴射し、スローネ アインに向けて加速する。

ツヴァイの高出力なGNサーベルを手に斬りかかった。

対してアインは先程とは対称的にGNビームサーベルで受け止め、守りに入る。

 

『予備動作のない、極限まで無駄のない動き…。貴様、中々やる』

『お前に褒められても嬉しくねえんだよ!』

『私は嬉しいぞ。ここに来て多少は手応えがありそうでな…!』

『がはっ…!?』

 

懐を蹴り込まれた!?

GNフラッグを駆る何処ぞのトップガンみたいな真似しやがって。

と、思ってた矢先にはGNビームライフルの銃口が至近距離で当てられていた。

こいつは避けなきゃマズい…!

 

『墜ちるがいい!』

『タダでは受けねえ…!ぐああっ!?』

『なに?足を切り離して盾の代わりにしただと!?』

 

至近距離からの射撃。

流石に咄嗟の対応じゃ完璧には防ぎきれなかったが、自ら右足を捧げると相手も驚愕した。

致命傷は避けれたし、最適な選択だっただろう。

 

『強い…』

『中々面白い。貴様、名はなんだ?』

『答える義理はない』

『ハッ、それもそうか』

 

高出力のGNビームサーベルを構え、相手の問いも一蹴してただ戦闘に集中する。

相手は俺が過去に戦った中で技量の点では間違いなくトップに入る強者だ。

以前より修羅場超えて多少形にはなりつつあるにしろ、戦闘のセンスのない俺が油断して勝てる相手ではない。

 

『チッ、あの男は逃げたか…』

 

何の話だ?

アインの目線を追ったがその先には何もいない。

ちなみに格納庫と思わしき施設は半壊していて上から丸見えだった。

スローネ ドライはまだ格納庫に居る。

もしかすると回収して帰れるか…。

 

『余裕があれば、だけどな…』

『何か言ったか?』

『いや』

 

視線を目の前の敵に戻す。

この女を退けないことにはドライの奪還も叶わない。

それに俺は奪い合いの連鎖を生み出す歪みを壊しに来た。

その根源が、この女とナオヤだ。

今回は元凶と言った方が近いか。

とにかくここに来た目的はナオヤと仲間の女を倒すこと。

ドライの奪還は二の次となる…が、この調子だと厳しいな…。

 

『そう緊迫するな。どうせ貴様はもうじき死ぬ』

『勝手に殺してんじゃねえ…!』

 

まったく、どこまで勝利を確信してんだ。

技量差があろうとも俺はまだ諦めていない。

例え手足がもげようとも倒す!

 

『はああああっ!』

『剣筋が甘い…!』

 

真正面から切り込むとアインは当然の如く避ける。

そして、横切るブラックアストレアを墜とそうとGNビームライフルを構えた。

狙い通り。

俺はビームサーベルを上に投げ捨て、GNバーニアを噴射して拳を振るった。

 

『なに!?』

『あいつらの痛みを味わえっ!!』

『ぐっ…!』

 

アインのGNビームライフルから放たれた粒子ビームはブラックアストレアに命中したが、コクピットからは外れた。

粒子ビームに貫かれつつブラックアストレアの拳はアインの顔面に減り込み、両腕に1門ずつ内蔵されているGNバルカンを連射する。

マシンガンの如く発砲される粒子ビーム砲撃にアインの顔面は吹き飛んだ。

 

『……っ!貴様…!』

『ぐああっ!?』

 

コクピットのすぐ近くで爆発が起きて当然コクピットも損傷する。

狙い通りとはいえ、身体の右側が焼けるように熱い。

ヘルメットのバイザーもヒビが入って少し顔も傷付いた。

額からは鮮血が流れるのを感じる。

瞳もダメージを受けたのか、右眼が開かなくなった。

それでも攻めに出なければ俺はコクピットを粒子ビームで貫かれて死んでいただろう…。

命が健在なだけマシか。

嘆いている暇はない。

相手のモニターが機能していない今が好機だ。

 

『今度こそ貰った…っ!』

『くっ…、舐めるな!!』

 

アインがGNビームライフルとGNランチャーからデタラメに粒子ビームを放つ。

いや、デタラメじゃない。

これは避けなければ当たる。

被弾なんて甘いもんじゃない。

狙いは的確だ、命中すれば良くて致命傷悪くて死ぬ…!

 

『モニターなしで…!どんな腕してんだよ!』

『レーダーのみでも多少は狙えるものだ。だから、言っただろう。舐めるなと…!』

『化け物かよ…!』

 

思わず本音が出た。

正直レーダーだけで正確な射撃を繰り出すなんて尋常じゃない。

レーダーで分かるのはあくまで相手の方角のみだ。

モニターがないと肉眼で正確な位置は捉えられない、筈なんだが…。

 

『クソ!近付けない…!』

『墜ちろ!』

『冗談…!』

 

このままでは埒が明かない。

それにジリ便を続ければ負けるのは俺だ。

最小限の被弾に抑えて突っ込むしかない。

 

『行くぞ、ブラックアストレア…!』

 

降ってきたツヴァイのGNビームサーベルを手にして加速する。

隻眼となってしまったが、俺の瞳はまだ輝いていた。

この色彩が絶えない限り、射撃は当たらない。

接近しつつ高機動で粒子ビームを回避する。

 

『この機動…っ!マグレではないか…!』

『破壊する!奪い合いの連鎖を生み出す歪みを破壊する!!』

 

GNビームサーベルの刃を高出力で生成する。

あともうひと推進で近接の間合い。

GNランチャーの射程からは外れ、GNビームライフルは先に斬り落とした。

ここまで来れば、俺の距離だ…!

 

『はああああっ!』

『――掛かった』

『なに…?』

 

詰め寄り、後はビームサーベルを振り落とせばアインは真っ二つとなり、俺の勝ちとなる。

そんな刹那、敵の呟きを聞き取った。

なんだ?何に掛かった?

いつの間に罠を……この状況で、こいつは何を出来るって言うんだ。

待て。

違う、こいつはこれから動作を起こすんじゃない。

もう()()()()()()()()…!

 

『まさか!』

『もう遅い…!』

『しまっ――』

 

上を見上げたと同時、高出力な刃を生成した二本のGNビームサーベルが降ってきた。

察知した時にはビーム刀身がブラックアストレアの右腕の接続部と頭を貫く。

やられた…!

 

『ぐああああああああーーっ!!』

 

突き刺さったGNビームサーベルにより、ブラックアストレアが爆破する。

頭と腕、その他も損傷し、爆炎に包まれた。

 

『うぐっ……』

 

どうにかコクピットのある胴体部と右脚だけが黒煙の中から抜け出たが、GNバーニアも破損してしまったがために高度はどんどん降下していく。

爆発でコクピットにも衝撃が伝わり、右側の傷はさらに抉られて激しい痛みが走っている。

だが、敵はこれで終わりにはしてくれなかった。

深い傷の具合と出血の激しい右腕を抑えてながら、色彩の輝きが消えた瞳でレーダーに目をやると敵の照準がブラックアストレアを捉えているのが分かる。

もう避けることも守ることも抵抗することもできない…。

クソ、太陽炉は諦めるしか…。

 

『コクピットが…開かねえ…っ』

 

高度は高いが、飛び降りて死ぬ程ではない。

幸い、下は砂漠だからな。

だが、コクピットが開かない。

どうやらシステムが完全に落ちたようだ。

 

『クソ…っ、まだ…死ねるか……っ!!』

 

片手で銃を構えて乱射する。

コクピットハッチを強引にこじ開けた。

すると、眼下には黄色の地上が待っている。

マズい…!粒子ビームが来るか!

 

『ぐっ…!ぐあああっ!?』

 

直前で落ちるように飛び降りたが、ギリギリだった。

恐らくGNランチャーによる粒子ビームに貫かれてすぐ傍でブラックアストレアは爆散した。

その爆発の衝撃に巻き込まれて俺は地上に叩きつけられる。

なんとか命だけは助かった……。

 

「………っ」

 

空に巻き起こる爆炎と弾ける粒子の光が眩しい。

視界の全てが奪われそうだ!

残った左眼も失いそうだったが、腕で覆ったおかげでそれを防ぐ。

光が止むとMS(モビルスーツ)の機動音が俺を機影で覆う。

 

『私の勝ちだ。無様だな、ガンダムのパイロット』

「くっ…!」

 

俺を見下ろすアインの瞳がまるで蔑むように捉えられる。

だが、女の言う通り俺は完敗だった…。

凄まじい潜在能力(ポテンシャル)MS(モビルスーツ)操縦の技術、土壇場での機転。

通常能力も突出していて全て俺を上回っている。

そんな奴を前に生身なら必死に足を引き摺ってでも逃げるしかない。

 

『逃げるか。その身体で…、愚かな』

「……っ」

 

なんと言われようと足を緩めない。

例え撃たれて終わりでも止まることはない。

そんな俺にスローネ アインはGNランチャーの銃口を向けた。

 

『フッ、生への縋りは大したものだ。実に殺しがある…!』

「くそ…!こんなところで…っ」

 

万が一にもあの女は外さない。

俺の命もここまでか…クソ!

 

『まあ待てよ、ネルシェン。殺すのはなしだ』

『ナオヤ…?』

「なっ……」

 

ナオヤの名に思わず振り返ると、ナオヤの駆るアドヴァンスドジンクスがネルシェンと呼ばれた女の駆るスローネ アインを制止していた。

あいつ何のつもりだ…?

俺に情けでもかけるというのか。

 

『おい!人革連の。お前には貸しがある…そいつを返すまでは生かしておいてやってもいいぜ?』

「お前…!」

 

何を偉そうに。

俺相手に手も足も出なかったやつが言うセリフか!

まるで自分が勝ったみたいな言動しやがって…!

漏れた微量な脳量子波から俺を特定したか。

さすがは同タイプ。

態度は気に食わんがな!

 

『じゃあな!』

『……ふん』

「ま、待て…!」

 

言いたいことだけ言ってナオヤはスローネ アインを連れて施設を後にした。

恐らく国連軍と合流するのだろう。

ここは戦闘区域になったし、何処かで整備を済ませて宇宙(そら)に上がる…といったところか。

そうなると頂武も宇宙(そら)に上がると見ていい。

元々彼らが地上に留まったのはトリニティと俺達が原因だ。

それをここまで叩かれたらもはや脅威ではないだろう。

最もトリニティが壊滅した時点で彼らは決定していただろうが。

 

「クソ……」

 

何度目か分からない悪態をつく。

気候は温帯のせいか、それ程日差しもきつくはない。

しかし、傷を負ってしまった上にネルシェンとの戦闘で疲労も身体を蝕み始めた。

とりあえずAEU軍の施設に侵入して何処かで休みを取ろう…。

 

「はぁ…はぁ…くっ…!」

 

なんとか格納庫までたどり着いたが、倒れ込む。

出血が時間を経る事に酷くなっていく…。

それに目がとにかく痛くて仕方ない。

よく見る隻眼のキャラをかっこいいとか思っていたが、実際はこの激痛の上に成り立っていたようだ…。

やっぱ憧れはないな。

 

「……って、そんなことはどうでもいいんだよ…。あぁ、くそ…痛てぇ…」

「レ、レイ…?」

「えっ?」

 

壁に背を預けて脱力していたら聞き覚えのある声が聞こえた。

その声が耳に届いた瞬間、実は幻聴だと思ってしまった。

だってもう彼女は死んだものだと思い込んでいたから…。

少し幼さの残るあどけないよく透る声。

格納庫の入口付近に目を向けるとそこには――ネーナがいた。

 

「ネーナ…?」

「レイ…。レイ!レイだぁぁあーー!うわーーーんっ!レイに会えたぁぁぁぁーーーっ!!」

「うわっ!?ちょ、待て!まずはどういう状況か……痛ってぇぇぇぇぇぇえええええーーーー!!」

「あっ、ごめん…!えっと、何があったの?その傷……」

「さ、さっきやられて……それよりネーナはなんでここに!てっきり死んだかと……」

 

そうだ、子供達からはトリニティは全員死んだと聞いていた。

だけど目の前にはちゃんと生きたネーナがいる…。

どういうことなんだ?

尋ねるとネーナは暗い表情で俯いた。

 

「ヨハン兄と…ミハ兄は、殺された…。あたしだけはキモ男に生かされて捕虜にされてたの……」

「そうだったのか…」

 

本筋通り、ヨハンとミハエルは死んでしまったか…。

2人の最期を辛い心情のネーナから聞き出そうとは思わない。

あとキモ男が誰か分かるからそこには触れない。

ネーナも思い出しくないだろうしな。

今は、彼女に寄り添ってあげることが大事だ。

事情を聞くよりも何よりもまずはネーナが生きてたことを心の底から喜びたい。

 

「……ネーナ」

「ちょっ!?レ、レイ…!?あ、あたし心の準備が……」

「ありがとう。生きていてくれて」

「え?」

 

辛うじて動く左腕でネーナを抱き寄せると、顔を紅潮させていたネーナは俺の囁きに目を見開く。

俺はそっと身体を離してネーナの瞳を見つめる。

 

「良かった。ネーナが無事で…。ごめん、守れなくて…」

「レイ…」

 

ネーナの頬に触れ、謝罪する。

守ると言ったのに。

共に戦うと理想を叶えると約束したのに、俺は目を離してしまった。

その隙にヨハンとミハエルは殺されてしまった。

それでも、ネーナは生きていてくれた。

今はそのことだけが心から嬉しいと感じている…。

 

「もう、離さない…。ネーナは俺が守る。守らせてくれ、ネーナ。一緒に生きて…未来を掴もう。あの2人の分まで生きるんだ」

「レイ…っ。レイ!!」

 

ネーナが俺の胸に飛び込んでくる。

不思議と痛みは気にならない。

ただ出来るだけ優しくネーナを抱き返してやり、綺麗な紅髪を撫でた。

 

「うあああああああーーーんっ!ああああ……ああああーーっ!!ヨハン兄……ひぐっ!ミハ兄…!うあああ…っ、あああ…っ!レイ!レイーーーっ!」

「ありがとう、生きていてくれて…。ありがとう、生まれてくれて…。これからも、生きてくれ…ネーナ」

「うんっ!うん…っ!生きる…!あたし、レイと生きるっ!生きるから……っ!」

「あぁ。今は……泣いていいんだ。俺はずっと傍にいるから」

 

ネーナの涙は止まらなかった。

俺の胸に顔を埋め、嗚咽を沈めるネーナ。

本来ならば刹那に助けられたあと、孤独に涙を流し、心にポッカリと穴が空いたまま唯一宛のあった(ワン)家に拾われる。

だが、今俺の目の前にいるネーナは孤独じゃない。

辛いことも悲しいことも共有できる相手が、目の前に俺がいる。

身体の痛みよりも、ネルシェンという女に負けたことよりも俺は寄り添わなければならない。

大事な人を失った気持ちを受け止めるのは誰だって辛いのだから。

 

「うっ…ううっ…、ヨハン兄…ミハ兄…。あたし…あたし……っ。2人の分まで、生きるから……っ。自由になって、ちゃんと清算するから…。だから……」

「あぁ。きっと見守ってくれるさ、2人とも。ネーナの成長を」

「レイ…」

 

ネーナを撫でながら、こちらの顔を涙を浮かべながら覗いてくるので微笑み返す。

人は一人では生きられない。

だから、ネーナがこれから前を向いて歩くためにも傍に寄り添ってくれる人が必要だ。

ヨハンとミハエルに誓おう。

決してネーナを1人にしないと。

 

「なぁ、ネーナ。『バイストン・ウェル』って知ってるか?」

「えっ…」

「地上での生を終えた魂が行き着くところ、つまり死後の世界。魂の安息の場……それが『バイストン・ウェル』だ。俺もある人から聞いたことなんだけどな、そこできっとヨハンとミハエルの魂は幸せにしているさ…。きっとネーナを見守ってくれている」

「兄々ズの魂が…バイストン・ウェルで…」

「あぁ」

「……」

 

頷くとネーナは涙を拭って空を見上げた。

崩壊した天井から覗く、青く澄んだ宇宙(そら)を……。



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儚き願い

人革連領の軌道エレベーター『天柱』。

それを利用して俺達は宇宙(そら)へ向かっていた。

ナオヤとネルシェンという女パイロットとの戦いの後、ネーナと再会したがスローネ ドライは格納庫から忽然と消えてしまっていた。

その為スローネ ドライは回収できず、俺とネーナはリアルドを拝借して子供達を連れたデルとの合流地点地点へと向かった。

なんとかデル達と合流でき、まだ体調が辛そうなレナをフォローしながらも『天柱』へと到着。

そして、軌道エレベーターで宇宙(そら)にある基地施設に一時身を隠そうと上がっている。

そんな中、レナの為に金を叩いて予約したエレベーターの個室で俺はデルと話し合う。

 

「国連軍のジンクス部隊も全機宇宙(そら)に上がるか…」

「地上にガンダムの脅威がなくなった今、当然の対応だ」

「まあな…。ただ集まったGN-Xの数が本来より格段に多い。トレミーチームに対応しきれるかどうか…」

「本来ならばアルヴァトーレという疑似太陽炉搭載型MAがいたのだろう。だが、地上で叩いた。ならば少なくともトレミーそのものが初手で詰むことはないと思うが…?」

「それは、そうなんだが……」

 

デルの言葉に歯切れの悪い返答を返す。

トレミーと国連軍、一度目の衝突の時はデュナメスの損傷とロックオンが効き目を失うという代償を経て国連軍を退けた。

それでも苦戦し、圧されていたのは間違いない。

そこに頂武ジンクス部隊、ナオヤの一派が混じれば……アルヴァトーレがいなくとも充分な被害が予想できる。

あくまで想定の域は出ないが楽観視はできない。

それに、俺達も打撃を受けた。

レナは戦えないし、俺も再生治療する時間がなかったから右腕と右脚、右眼を応急処置で済ませたのみで負傷している。

今やロックオンより容態が酷いかもしれない。

 

「フェレシュテから連絡があった。『ヴェーダ』へ侵入したが、もぬけの殻…。その後、フォン・スパークは『ヴェーダ』に閉じ込められたらしい」

「『ヴェーダ』を端末ごと別の場所に移動した…!?」

「あぁ」

 

少し時期は早いが、リボンズは『ヴェーダ』を奪還しようとするフォンとレオに対策を討ったらしい。

本来より早く『ヴェーダ』の本体データを別の場所に移動し、元々『ヴェーダ』のあった場所は巨大な端末だけを残したもぬけの殻となってしまった。

まあフォンに関しては閉じ込められてもまた自分用の端末(マイ・ヴェーダ)に変換してやっていくだろう。

 

帰ってきたレオがフォンを救えなかったと嘆いているらしいが、後でフォローしておく。

あいつは閉じ込められた程度じゃ死なないしな。

恐らくマイスター874もいるだろうし、心配することはない。

それよりもフォン・スパークと共に戦えなくなってしまった今の状況の方が痛手だ。

実質補給以外の支援をフェレシュテには期待できなくなった。

それでも充分助かりはするけどな。

 

「態勢を立て直したいが、それ程余裕があるわけでもない。トレミーチームの支援は最悪不可能だと考えた方が…」

「諦めてるのかい?」

「なに?」

 

影のある表情のまま顔を上げるとデルが険しい目で俺を見つめていた。

確かにさっきから俺は不安要素ばかりを口にしている。

指摘されてそうかもしれない、と思ってしまった。

 

「少しは、その通りなのかもしれない…。正直俺達の現状も厳しい。それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない」

 

口にするともうダメになってしまうような気がする。

俺の思考を微かに過ぎるのは俺達の理想の断念に繋がること。

改変には対になる因果律というものがある。

俺はレナと共に犠牲のない恒久和平のために本来の流れを改変しようとしていた。

だが、トリニティを救い出し、未来へ向けて歩み始めてくれたと思った矢先、ヨハンとミハエルが死んだ。

あの二人だけが、ネーナを残して逝ってしまった。

俺にはそれが本来の流れへと強制的に引き戻そうとする因果律に思えて仕方ない。

もちろん俺が目を離し、楽観して本拠から離れてしまったことが原因で起こった悲劇でもある。

でも、それでもふと頭の中で過ぎるんだ。

 

「とにかく着いたらすぐ、私達はプルトーネ ブラックとサハクエルの整備に取り掛かるつもりだよ。あんたはどうする?カプセルに入るかい?修理が完了するまで時間はあるよ」

「どれだけ掛かる?」

「少なくとも3日は欲しいね」

「そうか…」

 

サハクエルは細かい整備で済むが、プルトーネ ブラックの損傷具合は酷いからな。

アルヴァトーレとの戦闘の後からレナはまだ手をつけていないらしいし、子供達が多少手を加えたようだがそれでも足りていない。

単純に時間が足りなかったのとレナが倒れてしまったこと。

襲撃を受けたことなど理由は多々ある。

デル曰く、コクピットが無傷なのが唯一幸いしてるとのこと。

各パーツの入れ替えと外装さえ整えば後はコアファイターを埋め込むだけで整備は完了する。

ただそれでも3日。

その間、動ける機体はない。

レオのブラックアブルホールも出撃不可な程の打撃を受けている。

 

「俺達に出来ることは暫くないな…。トレミーチームには自力で切り抜けてもらうしかない」

「……」

 

少し申し訳なくなって俯き、そのまま嘆息と共に目を閉じる。

デルからの返答はなかった。

俺は眠りにつくその時まで彼女の顔を窺っていないからこの時デルがどんな表情をしていたのかは知らない。

ただ意識を深いところに落ち着かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…」

 

酷く重い瞼を開く。

まず初めに映ったのは身を起こす私に気付いたネーナだった。

 

「あっ。レナ!目、覚めた?」

「ネ、ネーナ?なんで……」

「……あたしだけ生き残ったの。事情は後で話すわ」

「そう、なんだ…。ここは…」

 

私の顔を見るや表情を明るくするネーナ。

でもネーナが生きてたことに驚いた私に、すぐに表情を暗くして俯いてしまう。

やっぱりヨハンさんとミハエルは……。

頭がズキリと痛む。

あの時の光景のフラッシュバック、私の伸ばす手は誰にも届かなかった。

私が自己管理を怠ったばっかりに…。

 

ふと辺りを見渡す。

4人座席しかない個室、窓から映るのは真っ暗闇と滑走路。

少なくともいつもの部屋じゃない。

滑走路というより、ロープ?

あ、見覚えあると思ったらこの個室、確か軌道エレベーターの…。

あれ?でもいつの間に……。

前後の記憶がない。

それになんで個室を私とネーナで贅沢に使ってるんだろ?

また紅龍(ホンロン)さんに借りたのかな…。

 

「ネーナ。なんで私、軌道エレベーターに…」

「ふーん、やっぱ何も覚えてないのね」

「……?」

「レナ、ずっと目を覚まさないものだからずっとレイがおぶって来たのよ?」

「え…?」

 

お兄ちゃんが私を?

途端、ネーナが首を傾げる私を見て良いことを考えたとでも言いそうな表情をする。

い、嫌な予感しかしない…。

 

「やーん、何も覚えてないなんて残念っ。レナってばずっと『お兄ちゃん…お兄ちゃん…』って言って部屋割りの時もレイから片時も離れようとしなかったのに」

「えぇ!?」

 

ネーナがとんでもないことを言う。

ちょ、この歳でお兄ちゃんっ子なんて…は、恥ずかしいよぉ……。

ううっ…。

高校生になった時にお兄ちゃん離れした筈なのに…。

 

「あははっ!レナってば顔真っ赤ね!」

「ネ、ネーナが余計なこと言うからでしょ…!」

「だってあの時のレナすっごく可愛かったんだもの。『おにいちゃん。大好きだよ――」

「も、もういいからっ!!」

「えーーっ」

 

ネーナがまた私のモノマネするから遮った。

だ、大体私そんなこと言ってないし…多分…。

それに寝言なんて言ったうちに入らないよっ。

たぶん…。

 

なににせよ、凄く顔が熱い。

どうしよう。

自分じゃ見えないけど紅潮してるんだと思う。

だってネーナが急に黙って私の顔を覗いて楽しそうに笑ってるんだから間違いない。

とにかく一刻も早くこの恥ずかしさから解放されたい。

じゃないといつか顔が本当に燃えちゃうよ…。

何か都合のいい言い訳ないかなぁ。

そういえば寝起きだからか、まだ頭がクラクラする。

頭痛も酷いから今は横になるより少し歩きたい気分かな…。

 

「わ、私ちょっと船内探検してくるね?」

「あら。だったらあたしも行くよ」

「ううん。ちょっとしたらすぐ帰るから大丈夫だよ」

「ふーん…そうやって逃げる気なんだ…」

「い、いってきます!」

 

ネーナがまた意地悪な笑みを浮かべるから早急に個室を出た。

あそこでネーナといたら一生恥ずかしいこと掘り返されそう…。

もうっ、覚えてないんだから確証もないのに……。

ネーナの言ってることが否定できないから取り乱してしまう。

言ってる傍からお兄ちゃんにちょっと会いたくなってきたかも…。

でもわざわざ部屋を分けてる理由は検討がつく。

今会いに行くのは迷惑だから、進言通り少しだけ散歩しようかな。

 

「久しぶりだな…。エレベーターに乗るのも」

 

まだ足取りがおぼつかないからゆっくりと廊下を歩いていく。

最後にエレベーターに乗ったのは1年以上前の話になる。

宇宙(そら)でキュリオスからお兄ちゃんを助けて、地上に降りた時はサハクエルで大気圏を突破した。

それからスローネ ツヴァイからお兄ちゃんの命を救い、私達は再会した。

その後はずっと地上だから……やっぱり最後に軌道エレベーターに乗ったのはグラーべさんと乗った時かも。

あれ?一緒に乗ったのは887(ハヤナ)ちゃんだっけ。

ヒクサーさんだった気もする。

うーん…まだ頭が働いてなくて記憶が混濁してるなぁ。

どの道、あの頃の思い出はもう返ってこないけど…。

 

「そういえばフォンさんや874(ハナヨ)さん、レオはどうなったんだろ…。後で、ネーナに……聞かないと…」

 

独り言を呟きながらふらついた。

や、やっぱりまだ身体が怠い。

あの時は痙攣して動かなかったことを考えればマシだけど凄くしんどい。

まだ目眩もするし…。

一旦自由席を見つけて休もう。

そうしないとまた倒れ、ちゃ――。

 

「あっ……」

「危ない…っ!」

 

足を踏み出すして前のめりに倒れ込みそうになった時、歪む私の視界に長く、なびく白髪が映った。

倒れる直前にその人に支えてもらう。

知らない人に助けてもらっちゃった…。

 

「す、すみません…」

「問題ありません。お怪我、ありませんか?」

「はい。大丈夫で――あっ」

「……?私の顔に何か」

 

目線を上げ、相手のしっかりとした輪郭を捉えた私は思わず声を漏らした。

左右に分けた前髪、腰に届くか届かないかまでに伸びきった白髪。

細く鋭く綺麗に弧を描いた眉毛に純粋な瞳。

めったにいないであろう整った顔立ちにお兄ちゃんから聞いた話の人を思い出した。

恐らく最も原因は軍服から。

あとは直感で何故か確信している。

私を助けてくれたソーマ・ピーリスさんは怪訝そうに私の顔を覗いていた。

 

「あぁ、いえ…。ごめんなさい。同じ歳くらいの女の子だと思ったら軍人さんだったので」

「はぁ…なるほど…。あの、どうぞあちらへ。一度腰を休めてください」

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

ソーマさんが後方に指さす自由席に身を支えてもらいながら腰を下ろす。

華奢な腕なのにちょっと力持ちだったなぁ。

軍人さんだからかな。

以前の私と歳も変わらないのに……お互いなんでこんなに戦いのために身体を費やすんだろう。

 

「戦いですか?」

「え?」

「最近、世の中騒がしいので…」

「……はい」

 

私が尋ねるとソーマさんは重く頷いた。

この様子を見てると、戦争を好んでるわけではないみたい。

軍人として正式採用された超兵だから、義務に執着してる…とかいうのもないかな。

少しだけ、安心した。

助けてもらった手前こんな探るようなことはしたくないけど、お兄ちゃんの好きな人はちょっと気になる。

ソーマさんは超兵だけど、軍が思い描いていたような超兵じゃない。

レオや子供達のように自分の意志を持ってる。

でも、少しだけ表情に影がある。

 

「軍人さんは戦争を起こしに行くんですか?」

「えっ…」

 

わざと踏み込んでみた。

ソーマさんはわかりやすいほどに顔を顰める。

 

「それは……っ」

「……」

「私達は…戦争を起こしに行くわけでは、ありません…。戦争を終わらせる為に戦います」

「そうですか」

 

返答はテンプレートなもの。

まるで教科書でも見たような解答。

でもその中にソーマさんの想いも少しだけ混じっていた。

きっと、戦争が悲しみを生むものだから。

それを知ってるから…かな。

そういうのは大抵失った人にしか分からない。

もちろん例外もあるけど。

 

「じゃあ、私と約束してください」

「約束…っ?」

「はい。戦いを終わらせるって。そして、生きてください。またお話がしたいです」

「……」

 

小指を立てると、ソーマさんは無言でそれを見つめた。

何かを思い出したのか辛そうに俯いて。

そんなソーマさんに微笑むと、ソーマさんはおずおずと、でもしっかりと小指を絡めてくれた。

 

「約束ですよ?」

「はい…」

 

楽しげ半分虚しさ半分といったソーマさんと約束を交わす。

私はこの人の胸の隙間を埋めてあげたい。

未来に生きる意思を持って欲しい。

お兄ちゃんの好きな人だからじゃない。

レオのように己の意志で未来を掴んで欲しいと、ソーマさんと接してそう思ったから。

 

「ごめんなさい。なんだか厚かましくて……。一般人が、おかしいですよね」

「いえ…。市民の安全と願いのために期待を背負って戦うのが、軍人なので…」

「そうですか…。介抱ありがとうございます。自分の部屋に戻ります」

「はっ。お気を付けて」

 

まだふらつく中、立ちがる私を支えた後敬礼するソーマ・ピーリスさん。

私も思わず返しそうになったけど会釈で済ませる。

さて、思わぬ出会いだったけどそろそろ戻らないとネーナに……。

と、来た道を歩きだそうとした時。

 

「あ、あの!」

「……はい。なんでしょう?」

 

ソーマさんに呼び止められて振り返る。

そして、言いにくそうにしてたけど振り絞って尋ねてきた。

 

「お名前を。お聞かせ頂けませんか?」

「それは……」

 

どうしようかな。

偽名を使うのも申し訳ないし、かといって本名は気付かれちゃうし。

橘 深雪の名前を使おうにももう実在しないし……うーん。

よし、決めた。

 

「デスペア」

「えっ…」

「レナ・デスペアです。ソーマ・ピーリスさん」

「デ、デスペ……そんな…」

 

本当の名前を教えるとソーマさんは自然と胸に手を当てた。

苦しそうに、力を込めて。

……ソーマさんには死んで欲しくない。

他の軍人も、戦いで落とす命は嫌だ。

だから、未来への希望を持ってもらうためにもう一声掛けよう。

 

「兄は死んでません。まだ葬式も上げていません」

「……っ」

「きっと生きてます。だから、ソーマさんも生きてください。戦いで消えてしまう多くの命をこれ以上増やして欲しくないです…。お願いします」

「私は……」

 

頭を下げる私にソーマさんは戸惑う。

そんなソーマさんの返答を私は待たずに再度頭を下げて後にした。

結果的には話せてよかったかな。

ソーマさんは失ったものが大きくて心に傷を負っていた。

あれ以上もう失って欲しくはない。

 

ソーマさんと出会って。

私は改めて戦うことを決意した。

例えサハクエルを晒してでも戦いを止める。

その為に戦う。

奪い合いの連鎖を撃ち抜くために。

部屋に戻ると私の意識はすぐ落ちた。




あと2、3話くらいでファーストは終わり(の予定)です。
今回からプレビューという最強味方を見つけたので誤字はないと信じたい…!
あったら是非ご報告ください。
ちなみにデルの口調がちょっと合ってるのか心配なのですが、あの人OOPと2317の口調が違うから掴みにくい…。
もし、この場面ならこんな口調じゃね?っていうのがあったら報告して頂ければ検討します(必ず通るとは限りません)。
次回は久しぶりにガッツリ絹江さん出そうかな、とか。主人公とネーナの絡みも書けたらなぁと思っています。


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レイの真実

ラグランジュ3。

ソレスタルビーイングのスペースコロニーと同じ地点。

そこはまだ宇宙での開発が展開しきれていないが故にラグランジュ3は絶好の隠れ場所となっている。

だからこそ、ソレスタルビーイングもガンダムやプトレマイオスの開発場所にこのラグランジュを選んだ。

そして、レナの所有する極秘コロニーも存在している。

ソレスタルビーイングのものと同じ規模で、最低限の開発に住み込みまで可能な施設となっている。

最低限でも、申し分ないだろう。

というか凄過ぎる。

 

(ワン)家の補助があるとはいえよく作れたな……」

「私も同じ意見だ。さぁ、レナを運ぶぞ」

「あ、あぁ」

 

施設内で感嘆しているとデルは医療ベットに乗せたレナを連れて奥へと進んでいく。

デルは慣れてるかもしれないが、俺は初見だ。

少しは見学したいが……今はレナが最優先だから仕方ない。

ネーナ曰く一度目を覚ましたらしいが無理をしてすぐに寝込んでしまったらしいからな。

何をやってるのやら。

と、レナを運んでいるとパイロットスーツに身を包んだレオがやってきた。

 

「デル…!」

「レオか。丁度いい、手伝ってくれやしないかい?」

「もちろん。先生…」

 

デルの要請にすぐさま無重力で浮きながらベットへと手を掛けるレオ。

その視線は心配そうにレナを覗き込んでいた。

 

「俺を責めないのか?」

「え…?」

 

レオが目を丸くして俺を見る。

予想だにしてなかったようだ。

そんなにレナが心配なら兄である俺が守れなかったことを責めると思ったが……思い過ごしか。

そもそもレオは心優しい性格の持ち主だ。

責める筈もない。

俺の自意識過剰か…。

 

「いや、なんでもない」

「…?」

「……」

 

こうしてレオも加わり、レナはメディカルルームまで無事に運ばれた。

デルは子供達を総動員させて整備に取り掛かり、レオもその手伝い。

それからというもの俺にはやることがなくただコロニーを練り歩いていた。

傷を癒すため、カプセルに入ろうとはしたがまだ準備が出来ていないらしく待たされた結果だ。

まあコロニー内を見たかったし、これはこれで嬉しい。

心はモヤモヤとしているが。

 

「俺は、諦めてるのか……?」

 

廊下を歩きながら呟く。

ずっと問い掛けていた。

眠りにつく前に聞いたデルの言葉を。

ヨハンとミハエルが殺され、俺は『因果律』について考えるようになった。

もし俺が改変を行おうとして、その結果あいつらの命が奪われたのなら。

俺は……あいつらに夢だけを見させて本来より残酷な死なせ方をさせてしまったのかもしれない。

ネルシェンという女に負けてからどうしてもその事が頭から離れない。

 

それに、これからも改変を起こす度に因果律が元の流れへと強制的に戻そうとするなら、そうなればもう完全なイタチごっこだ。

もしかすると俺が動いたせいで本来より辛い結果を巻き起こすかもしれない。

今回のヨハンとミハエルのように。

果たして改変を起こすことが本当に犠牲のない恒久和平に繋がるのだろうか?

そのことを問われたとして、今の俺には恐らく答えられない。

もし、全て『因果律』によってまた同じようなこと、それ以上に最悪な結果が待ち受けるのならば。

俺は……俺達の理想を諦めなければならない可能性も――。

 

「ん?ここは……」

 

考え事をしていたら迷った。

いつの間にか少し開けたところにいる。

見渡す限り床と繋がった固定机と椅子、奥にはスペースが見える。

食堂か…?

 

「飯を食いたい気分ではないな……」

 

カプセルの準備が出来れば暫く出られなくなる。

その前に何か口にしておくべきではあるが、今はそういう気分ではない。

と、立ち去ろうとしたら室内の隅に何やら端末と睨めっこしている絹江を見つけた。

珈琲を片手に真剣な目付きをしている。

これは話しかけない方が良さそうだ、と思ってたら絹江と目が合った。

……ここで立ち去るのも印象悪いか。

 

「実際に会うのは久しぶりですね」

「レイさん。その目は……」

「あぁ。ちょっと負傷してしまって、大した怪我ではありません」

 

絹江・クロスロードが右眼の眼帯を気にするので触れて大丈夫だと伝える。

すると安堵するように胸をなで下ろし、話を続けた。

 

「すみません、来ていたの知っていたのですが手が離せなくて……」

「いえ、お気になさらず」

 

申し訳なさそうに謝る絹江・クロスロードに会釈で対応する。

でも少し気になる。

外との繋がりは断っていたから絹江・クロスロードには暇をさせてこっちこそ申し訳ないと思っていた。

なんて言ったって報道屋だからな。

閉鎖した空間にいたら息も詰まるだろう。

一応世界の情勢は端末に経て見れるようにはしてあるが。

そんな絹江がこんなにも熱心に打ち込んでる作業。

一体なんだろうか。

 

「拝見してもいいですか?」

「えぇ。いや、やっぱり……」

「ダメですか」

「そういうわけではないんですけど…その……」

 

よく分からないが絹江・クロスロードは恥ずかしそうに端末画面を俺の視線から避ける。

見るなという意図か?

と思ったらおずおずと俺へ向ける。

一体何が正解なんだ……。

 

「えっと…見ても?」

「は、はい」

「では失礼して……」

 

了承を得て目を通す。

その内容に俺は驚いた。

 

「これって…」

「えぇ。貴方達の活動をレポートに纏めてたんです。誰かに見せるわけじゃないんですけど……レイさんと妹さんの活動を、貴方々の想いを知るうちについ……」

「そうですか」

 

話を聞くに、絹江は地上での俺とレナの行動を端末を経て見ていたらしい。

後は黒HAROを通してとか。

すると、当然俺やレナの戦いも目に入るわけで。

過去のデータではユニオンのアイリス社軍需工場防衛。

絹江を保護した後はトリニティの救済や彼らの事情、その為に身を張る俺達や俺達の想い。

その全てを絹江は目にして感銘を受けたらしい。

 

「まずは勝手に貴方達の活動を観察してすみません。ですが、異世界から来た貴方達が関係のないこの世界の為にあんなにも尽力しているのに感動して…」

「……」

 

俺が目を伏せ、俯くのも知らず絹江は興奮気味に続ける。

 

「アイリス社の軍需工場では民間人をガンダムから救い、そのガンダムのパイロット達の運命も貴方達は救おうとした。さらに私も助けて頂けて……貴方々の素晴らしい活動を見て居ても立っても居られなくなり、レポートを作成しています。いつか、貴方々の想いが、素晴らしい行為が世界中の人々に伝わって欲しいと思って――――」

「そんなのじゃない」

「え…?」

 

遮られ、俺の呟きに絹江は顔を顰める。

そうだ。

結局のところ理想は理想に過ぎなかった。

俺達の行った介入が奪い合いを拡大させた。

俺は見てしまったんだ。

AEU軍の施設で人が一人死んでいるのを。

 

確かナオヤ一派の金髪ロールの女性だ。

後で調べたところ、父親が資産家でセレブだったらしい。

ある日、軍との繋がりの深い父が開いたパーティでナオヤと出会い、ナオヤを追いかける形で軍人になったとか。

つまり彼女は本来死ぬはずのなかった者だ。

それを、俺が改変して死なせてしまった。

 

「俺は沢山の悲劇を生んでしまった…。トリニティ、ある資産家の娘……いつか俺の起こした行動で死ぬ筈のなかった沢山の仲間を死なせてしまったように、理想とは真逆の結果になった」

「で、ですがそれは結果論であって……」

「それでも奪ったのは俺だ。これからもきっと本来の流れが俺の改変を歪ませる。救った命も消え、悲劇となり、また俺の罪が増えていく」

 

そんなことに俺は耐えられるだろうか?

導き出される結果は果たして俺の望むものか。

世界は本当に犠牲のない平和を迎えられるのか。

俺は不安でしょうがない。

 

「俺達の掲げた理想は……不可能なのかもしれない。最近そんなことが頭にチラつく。どんなに救ってもまた失われる……」

 

抗えと言って奮い立たせたヨハンを思い出す。

最後には何も掴むことができずに死んでいった。

俺はそれを見ることもなく――。

運命と向き合えと言って必死に戦ったミハエルを思い出す。

守りたい人を見つけ、未来へと生きようとしたその矢先阻まれるように伸ばした手は落ちた。

俺はまた、見ることもなく――。

 

「だから、そんな素晴らしいものじゃない。俺のやってることはただの自己満足でしかない、悲劇を生むだけのものだったんだ……」

「……なによ、それ」

 

腰を下ろして視線を落とす。

そして、俯いたその時、乾いた音が響いた。

―――俺の頬を絹江が叩いたんだ。

 

「いい加減にしなさい!貴方がそんな簡単に諦めてどうするの!?少なくとも私が見てきた貴方はそんな人じゃない…!」

「……」

「トリニティが何のために戦ったか分かってないの!?戦う機会を与えてくれた貴方に感謝して、貴方の為に戦ったはずよ。そして、散った。戦争根絶の為に戦い続けて、貴方達の理想へと繋ごうとした。私にはそう見えたわ」

「……それは」

 

確かにあいつらはアレハンドロを倒し、少しだけ自由を得ていた。

リボンズもガンダムさえ持たなければトリニティには興味がなかっただろう。

あいつらは、ガンダムを手放せば完全ではないとはいえ、自由になれた。

それでも戦い続けたのは俺達の為。

実際その通りだと思う。

でも、心中で肥大化していく不安が俺の足を止めている。

歩き出せない。

もう立ち止まってしまった……。

 

「分かっている。あいつらは俺達へ恩を返そうとしてくれた、その為に戦い続けてくれた。トリニティの努力を俺も無駄にはしたくない。……だが、悲劇を生むだけなら不可能に取り組むのは得策じゃない」

「呆れた。貴方、レナちゃんに合わせる顔もうないわよ」

「……っ」

 

脳裏にレナの顔が浮かぶ。

確かに、レナは俺の掲げた理想を共有のものにしてくれて頑張ってくれた。

一睡もせず倒れてしまうほどに。

ここで諦めてしまえば、そんなレナを裏切ることになる。

でも、仕方ないだろう。

悪化すると知っていてなぜ前進し続けなければならない。

思い悩んで、立ち止まるのが普通じゃないか。

 

「もう、放っておいてくれ」

「逃げる気…?」

「……」

 

絹江が俺を睨む。

ハッキリものをいうタイプで、感情を表に出しやすい性格ではあったけどここまで露わにするとは相当だ。

それでも俺は目線を上げない。

 

「……そう」

 

やがて、絹江は諦めたように呟いた。

その後2人の間に沈黙が重く続き、先に口を開いたのは絹江だった。

静かに、しかし強く言葉を紡ぐ。

 

「ここには、貴方に救われた命がある」

「……っ!」

 

思わず目線をあげた。

俺の目と絹江の信念のこもった目が合う。

そんな絹江は自身の胸に、心臓の上に触れていた。

 

「……私は事実を追いすぎて、深追いし、真実を知らないまま死ぬところだった。でも貴方が助けてくれた。そうでしょう?レイさん」

「あぁ…」

 

微かに肯定する。

確かにサーシェスに殺される未来を変えてみせた。

だが、それも一時的なものに過ぎないかもしれない……。

因果律によって絹江の命が奪われる可能性もある。

次はどんな悲劇か。

沙慈とルイスを目の前で失ってしまうのか。

報道仲間や報道局かもしれない。

絹江にとって大切なものが奪われ、絶望の最中また消えていく。

そんなのはもう耐えられない。

 

「私は、生きるわよ」

「え…?」

 

再び顔を上げると微かに震える絹江がいた。

そうだ。

俺だけじゃない。

救われると思われたトリニティの命が消え、怯えたのは絹江もだったんだ。

それでも、絹江は強く前へ踏み出している。

 

「私は生きる。沙慈を1人にはできないし、ルイスにも寄り添ってあげないと……それに、私はまだ知らない真実がある」

「知らない真実…?」

「貴方のことよ、レイさん」

 

オレ、の…?

 

「貴方は自分に嘘をついてる。本当の貴方を、貴方の真実を私に見せてちょうだい」

「俺の真実……」

 

その言葉が俺の心にストンと落ちる。

俺は自身に嘘をついていたのだろうか?

あぁ、そうだ。

俺は因果律による歪みが怖かったわけじゃない。

それを理由に辛いことから目を逸らしたかっただけだ。

俺の理想は、俺の想いはそんな簡単に折れるものじゃない。

だから、掲げることができたんだ。

 

例え因果律があろうとなかろうとやることは変わらない。

逃げることは出来ない。

最初にレナと誓った時に、世界の隅っこで生きることを断ったんだ。

そして、充分に介入してきた。

それをなかったことにする程、無責任ではない。

俺の理想を叶えるために。

因果律だろうとなんだろうと邪魔するものはぶち壊す!

 

「……ありがとう、絹江。ようやく目が覚めた」

「レイさん!」

 

くよくよ悩むのは止め、立ち上がる。

絹江の表情は明るくなり、きっと俺の瞳にも光が戻っただろう。

そんな絹江に礼を済ませ、俺の脳裏には謝らなければならない人の顔が浮かぶ。

 

「すまない。少し行ってくる」

「えぇ」

 

絹江も分かっているのだろう。

問い掛けることもなく、呆れたような笑みで頷いた。

彼女の承諾を経て俺は走り出す。

食堂をあとにして、一刻も早くあいつに頭を下げたいと駆ける。

が、道中人とぶつかってしまった。

 

「きゃっ!レ、レイ…?」

「痛てぇ……。ネーナか、すまん。ちょっと急いでて」

「うん、それはいいけど……目、痛むの?」

「まあ少しな」

 

ぶつかったのはネーナ。

尻餅をついてしまったので手を差し伸べ、取ってもらう。

俺の補助で立ち上がったネーナは恐る恐るそっと俺の眼帯に触れる。

そんなに心配しなくてもいいのにな。

 

「大丈夫だ。問題ない」

「ある、よ…。あたし達があの女に負けなければレイが傷付くことはなかった……でしょ?」

「ネーナ…」

 

ナオヤ達による襲撃の時のことを言っているのか…。

確かにトリニティがネルシェンの撃退に成功していれば俺の右眼が負傷することはなかっただろう。

だが、それでネーナが自身を責めるのは筋が違う。

 

「別にネーナ達が悪いわけじゃない。相手が俺より上手だっただけだ」

「レイ…」

「それに、お前達には充分貰うものは貰ったよ」

「え?」

 

俯いていたネーナが首を傾げた。

俺はそんな彼女に微笑を向ける。

そうさ、トリニティは俺達のためにも戦ってくれた。

俺達の願いを、前を向いて歩くことを実現してくれた。

結果がどうなるかは分からない。

けれど、人は変わる。

少なくとも俺はしっかりと目にさせてもらった。

素晴らしい仲間を。

 

そうだ、ネーナにも謝らなければならない。

守ると約束したのに俺は逃げてしまった。

目の前にいるこの紅髪の少女を……今度こそ守ると誓おう。

俺が戦う理由のひとつだ。

 

「ネーナ、ごめんな」

「何が…?」

「ネーナの方がもっと辛いのに、俺は現実から逃げていた。でももう逃げない。俺はもう一度戦うよ。ネーナの為にも」

「レ、レイ……」

 

ネーナが恥ずかしそうに頬を紅く染める。

彼女の髪と同じくらいに。

もしかして照れくさいことでも言っただろうか…。

少し心配だが、俺にはもう一人どうしても謝らなければならない人がいる。

ネーナには悪いが、あいつの元に行こう。

 

「レイ、あたし――」

「すまん。また後で!行かないといけないところがあるんだ」

「えっ!ちょ、ちょっと…!」

 

ネーナが何かを言い掛けていたが、遮ってメディカルルームへと向かう。

後でネーナには改めて謝罪しよう。

そうまでしてでも早くあいつに会わなければならない。

いや、会いたい。

その一心で走り続けた。

 

 

 

 

 

レイに秘めた想いを持つネーナ。

勇気を出して伝えようとしたが、肝心の彼は足早に去ってしまった。

レイはネーナに謝罪した。

ネーナは気付けなかったが、ずっと逃げていたと。

そんな彼が次に向かい、謝る相手は容易に察しがつく。

だからこそ、ネーナは少し妬いた。

 

「もう…なんなのよ、レイのばかっ…」

 

まだ顔は熱い。

きっと鏡で確認したら真っ赤に染まっているのだろう。

そんなことを考えてネーナは首をぶんぶんと横に振る。

 

「あーもぉー!考えるのやめた!レナってば強すぎぃーー」

 

レイの心が誰かに振り向くとしたらそれは恐らく彼の妹であるレナだろう。

ネーナはそう結論付けて嘆息をついた。

実の妹だとはいうが、彼を魅了しているのは間違いなくレナだ。

それ程までにレイはレナを愛している。

例えそれが兄妹愛だとしても、だ。

 

「こうなったらちゃんと謝らないとあたし許さないからねっ、レイ!」

 

もう見えなくなった彼の背中に指を差す。

そして、赤い舌を小馬鹿にしたように出すとレイが向かった方とは逆方向に向けて歩き出し、呟いた。

 

「ありがと…」

 

そっと。

囁くように漏らす。

その後は人知れず悲しみがこみ上げて涙を流した。

拭ってくれる兄々ズはもういないっと知って……。

 

 

 

 

 

 

コロニー内を走り回ってようやくメディカルルームに辿り着いた。

扉をひとつ隔てた向こうではまだあいつがいる筈だ。

起きてるのか、寝ているのかは分からないがどちらであっても引き返す選択肢はない。

荒い息を整えて、覚悟を決めて扉を開けた。

 

「お兄ちゃん…」

「レナ…」

 

開いた扉へと意識を持っていったレナと目が合った。

どうやら起きていたらしい。

まずは安心して胸を撫で下ろした。

見た感じ大丈夫そうだ。

目の下にまだクマは残っているが、目線をこっちに持ってきたところ動けないという訳ではない。

空の皿がベッドの隣にあるから、食欲も回復しているのだろう。

本当に良かった……。

 

「レナ、ごめん!!」

「え?」

 

開幕早々、俺は勢いよく頭を下げた。

意図が分かっていないレナは戸惑っている。

当然だ。

まずはすぐにでも謝りたかった。

説明は今からゆっくりとするつもりだ。

 

「俺は……ヨハンとミハエルの死が辛くて、俺のやったことが間違いだったのじゃないかと不安になって…その結果、理由を付けて逃げた」

「……」

 

俺の話を聞いて、レナは黙る。

目線を床に釘付けにしている俺からはレナの表情は伺えない。

だが、気にせず続ける。

 

「俺達の起こした改変に対し、本来の流れに戻そうとする強制的な力が働いてるかも……って。次第に理想を諦めるべきか、なんてのも考えた」

 

やはりレナは無言だ。

俺の話をただ聞いていてくれてるのか。

怒って黙っているのかは分からない。

でも、まだ伝えなければならないことがある。

それを伝えるまではレナが口出ししてきても遮る想いだ。

 

「でも、違う。俺はそんなことで諦めたくない。そんな生半可な気持ちで理想を掲げたわけじゃない。どんな絶望が待ち受けているのだとしても、俺はどうしても犠牲のない平和を築きたい」

 

人革連軍に所属していた頃。

ガンダム鹵獲作戦で、人が死ぬところを初めて目の当たりにした。

その前の日までバカを言い合って笑いあっていた者や酒を飲み交わした仲、沢山の仲間が未来を奪われた。

ただテレビの前で胡座をかいていたあの時とは違う。

俺はこの世界に生きる、当事者なんだ。

俺の生きるこの世界でもう悲劇は見たくない。

誰かの都合で奪われる命なんてあって欲しくない。

だから俺は――だから――。

 

「レナと共に生きるこの世界で理想を叶えたい。だから……!」

 

レナの顔を見るのは怖いが、勇気を振り絞って顔を上げる。

――レナは、ただ俺を真剣に見つめていた。

この瞳を見たら俺はもう、逃げられない。

逃げない!

 

「レナ……見ていてくれ。俺の決意を、想いを、戦いを…!」

 

レナに宣言する。

もう一度立ち上がり、戦うと。

これで伝えたいことは伝えた。

後はレナの返答を待つだけだ。

貰えないかもしれない。最悪、縁を切られてもおかしくはない。

覚悟は……できている。

そして、レナは小さく溜息を吐いた。

 

「お兄ちゃんってば、ほんとバカ……」

「うっ…」

 

これは…っ!

いきなりクリティカヒット!

可能性は考えていた罵倒だが、しっかりと俺の胸を抉ってきた。

だ、だが覚悟は決めたんだ。

何が来ようと耐えてみせる。

 

「一人で抱え込んで、悩むなんて……。でも、それはお互い様か。私もお兄ちゃんに黙って無理してたし」

「レナ…」

 

機体の整備につけこんでレナは二週間後の間、一睡もしなかった。

それについてレナは素直に「ごめんね」と謝ってくる。

当然、首を横に振ったがレナは少し寂しそうな表情で俯いた。

 

「お兄ちゃんは、凄いね。自分で悩みを払って、前を向いて歩き始めた」

「……お手本がいたからな」

「そっか」

 

もちろんキッカケは絹江だが、今考えればあいつらに感化されたのかもしれない。

そう思って返すとレナは瞳を少し揺れ動かして呟いた。

 

「……」

「……」

 

暫く沈黙が続く。

先に破ったのはレナだった。

 

「私も。覚悟を決めたことがあるの」

「え?」

「やっぱり、奪い合いの連鎖は嫌…。だから、その連鎖を撃ち抜く。私はその為に戦いたい」

「レナ…」

 

俺は自然とレナに傍観を頼んでいた。

見ていてくれ、と。

だが、レナは戦おうとしている。

俺と一緒になってではなく、己の意思で。

己が理想を叶えるために。

 

「知らない間に、大きくなったんだな。深雪」

「お兄ちゃん…。ごめんね、私は見てるだけじゃダメなの」

「分かってるさ」

 

レナの気持ちは理解した。

俺は兄として尊重しよう。

踏み出そうししている妹を止めるわけがない。

それが例え戦いでも。

本人がこれだけの想いを持っているのなら俺が言うことは何もない。

 

「じゃあ、行こう。レナ」

 

ベッドに半身を預けるレナに手を差し伸べる。

 

「国連軍は総力を結集してトレミーを墜とそうとしている。きっと、沢山の犠牲者が出る筈だ」

「そんなこと……させない。誰の命も奪わせたくない。私は戦いを止めたい」

「あぁ。国連軍もトレミーも、彼らの戦いそのものを止めよう」

「うん…!」

 

レナは力強く頷き、俺の手を取り、まだふらつきながらも立ち上がった。

病み上がりのレナを支えながら部屋を出る。

足取りが怪しいな…。

やはりまだ横になっておくべきか。

 

「だ、大丈夫なのか…?」

「問題ないよ。ここで止めても、私は行く」

「……そうか。分かった」

 

レナに力のこもった瞳で拒否されてしまった。

こうなったら頑固になる。

言っても聞かないだろう。

……少し甘いか?

 

「お兄ちゃん…」

「ん?なんだ」

「踏み出してくれて、ありがとう。諦めないでいないでくれて、ありがとう…。それから……」

 

格納庫へと向かいながらレナは身を寄せている俺を見上げた。

そして、レナの表情に満面の笑みが咲く。

一点の曇りもない純真な笑顔だ。

 

「大好きだよ、お兄ちゃん」

 

今度は寝言じゃない。

レナの本心からの告白を受けた。




※デスペア兄妹間に恋愛感情はありません。


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開戦

レナと真っ先に向かったのは格納庫。

まずはデル達に整備の催促をしなくてはならない。

プルトーネブラックが復活するまであと3日と聞いたが、そんなに待ってられるほど今の俺達は悠長じゃないからな。

 

「レナ、大丈夫か?デル達に無理を言っても恐らく時間が掛かる。その間は休んでくれても……」

「もう。大丈夫だって……えっ?そ、それよりあれ!あれ見てお兄ちゃん!」

「ん?一体どうした…ん、だ」

 

もうじき格納庫に着こうかという時。

丁度最後の扉が開くと、レナは何やら驚いて指を差し、俺も言われるがままに見上げる。

すると、そこには大破した筈のプルトーネブラックが完全に元の姿を取り戻して俺達を見下ろしていた。

 

「プルトーネ ブラック!?どうして…!」

「武装が、ない?ううん……指が太い。あの指、もしかして…」

 

レナが何ら考察しているが、全然耳に入ってこない。

復元するまで3日掛かると言われていたプルトーネ ブラックが今こうして俺の目の前に存在している。

そのことに驚愕して意識を全てそっちに持っていかれていた。

そんな俺の元にデルが無重力に乗って現れる。

絶妙なタイミングだ、問わずにはいわれない。

 

「デル!一体どうなってるんだ!?」

「おや、思ったより来るのが遅かったね」

 

デルも俺に気付いて端末を操る手を止める。

遅かったって、どういうことだ?

 

「プルトーネの修復には3日掛かるんじゃなかったのか?」

「もちろん無理をしたのさ。国連軍が宇宙(そら)に上がるって話を聞いた時から決めてたことだけどね」

「俺を信じていたのか……」

「その点に関しては私よりあの子の方があんたを信じていたよ」

「えっ…?」

 

デルが指を差す方には襲撃を受けた時に俺を責めた男の子がいた。

確かシンとかいう子供だ。

プルトーネ ブラックの整備に一生懸命取り組んでいた彼をデルは手招きする。

……俺を見ると露骨に顔を顰めたが。

 

「なに」

「話したいことがあるそうだ」

「はぁ?」

 

それだけ言い残すとデルはシンにバトンタッチして整備に戻っていく。

残されたシンは首を傾げつつ俺を睨んだ。

 

「なんだよ」

「いや、プルトーネブラックを修復してくれたってお前なのか…?」

「……主に担当してたのは俺だけど、なんか文句でもあんの?」

 

また鋭い目を向けてくる。

基本俺には敵意を向けているのか…。

でも、顔や身体にはちらほらと炭で汚れているのが見受けられる。

プルトーネブラックのために相当頑張ってくれたようだ。

俺は再度プルトーネ ブラックを見上げる。

 

「ありがとう。これで俺も戦える」

「別にお前のためじゃない。先生のためだ」

「シン…」

 

俺の腕に掴まるレナが今にも泣きそうな顔で微笑む。

よっぽど嬉しいのだろう。

少年はそんなレナに気恥しいのか、顔を赤くして逸らしながら機体状況について説明を始める。

 

「あのプルトーネはもう最低限のものしか積んでない。手に持つ武装は全部とっぱらって寄せ集めたありったけのビームサーベルを指部に詰め込んだ。これに関しては悪いとは思ってる……武装が足りないんだ」

「ビームクローか…。いや、申し分ない」

 

口調から察するに整備中に考えて実行したことなんだろうな。

つまりビームクローのことは知らなかった筈だ。

武装に余りがない今、そういう機転は助かる。

さらにビームクローにすれば指部を被弾しない限り武装を手放すことはない、と補足してくれた。

そこまで考えていたのか……。

 

「……ちなみに使ってるビームサーベルは主にスローネから持ってきた」

「そうか…」

 

俺の顔を見ずにプルトーネブラックを見てスローネについて触れる少年。

それだけでプルトーネ ブラックをどんな思いで整備したのかが分かる。

その想いに、応えよう。

 

「ここまでやったんだ。勝てよ」

「分かってるさ」

 

また強く睨まれ、俺は笑みで返す。

丁度その時、端末に紅龍(ホンロン)からの通信が届いた。

 

『一件報告を。プトレマイオスが国連軍の艦隊を捕捉しました』

「了解」

『戦うのですね…』

「あぁ」

 

紅龍(ホンロン)の問いに間髪開けずに頷く。

もう決心したことを意思表示した感じでもある。

それに対し紅龍(ホンロン)は一端静かに目を瞑って、俺の目を見た。

 

『ご武運を、と。留美も申しております。私も同意見です』

「…了解」

 

画面の隅っこに少しだけ揺れる黒髪のテールが映る。

俺達の安全を第一に考え、心配してくれる兄妹(二人)に俺は力強くもう一度頷いた。

そして、通信を切り、今度はレナと目を合わせる。

 

「出撃だ、レナ」

「うん。あっ。ちょっと待って」

「ん?」

 

なんだ?

何やらレナが辺りを伺っている。

人には聞かれたくない話なのか…。

いいだろう、耳を傾けて最低限の音量で話すとしよう。

 

「どうかしたか」

「うん…あのね、厳しいことを言うけど…今のままじゃ多分あのネルシェンさんには勝てない。お兄ちゃんも私も」

「……」

 

なるほど。その事に関しては確かにぐうの音も出ない。

ナオヤ一派にいる凄腕のパイロット。

ネルシェンに俺は完膚なきまでに負けた。

レナはなんとか退けたが、それでも届かなかったという。

あの女は必ず戦場に出てくるだろう。

それは間違いない。

そして、俺達は必ずあの女を倒さなくてはならない。

仇討ちではなく、奴を止めない限りトレミーチームの誰かが死んでしまう。

もしくは全滅……なんてことも想定していおいた方がいい。

 

そんな敵について小声でどうするか語りかけて来たレナだが、そもそも今から対策を打てるものなのか。

と思わないでもない。

だが、どうやらレナに考えがあるらしい。

 

「考えって言うほど作戦でもないんだけど、要はお兄ちゃんにちょっと強くなってもらいたいの」

「い、今から…?」

 

それはさすがに無理じゃないのか?

もう猶予は殆どないだろうに……。

 

「うーん、お兄ちゃんが考えてる事は半分正解。半分間違いってところかな…。ひとつは確かにMS(モビルスーツ)での射撃のコツを教えようとは思ってたんだけど……。もうひとつはただお兄ちゃんはそろそろ自覚してもらおうと思ってたの」

「自覚…?何の話だ」

「やっぱり気付いてないんだね」

 

脳量子波でレナの思考を読み取る。

もう口頭で伝えてるのも煩わしいと脳内で先に言われた。

言う通りに読み取ってるが……とんでもない事実が発覚した。

 

――塩基配列パターン0000イノベイド、つまり俺達には隠された能力がある。

 

主にMSの操縦で真価を発揮する能力。

俺達、塩基配列パターン0000にはマイスタータイプの能力を半分失っている代わりにそれを補うように特殊能力タイプのような特殊能力がマイスタータイプ用にカスタマイズされて組み込まれている。

レナにとっては『超長距離射撃』を可能にする狙撃能力。

遥か彼方への弾道を完璧にするものだ。

 

「私達はそれぞれ能力を持ってる筈なの。お兄ちゃんにもそれはある。私は見つけた…」

「桁外れの機動力を可能にする肉体強化。それでいて、反射の向上に圧倒的なスピード、か」

「うん…、つまりお兄ちゃんは遊撃系と見て間違いないと思う」

「……なるほど」

 

確かに心当たりがある。

瞳が色彩に輝いた時、よく無茶な機動をそれとなくこなしてみせた。

これまで危機的な場面は凄まじい『高機動』で覆してきた。

俺の能力は、体内のナノマシンを消費して肉体の負担の肩代わりとし、無茶な『高機動』をほぼノーリスクで行うというもの。

レナは、脳細胞の代わりに体内のナノマシンを消費して、限界を超えた思考域へと到達し、それが正確な射撃と狙撃を生む。

こんなところか。

 

「そう、理解力が早くて助かるよ。でも、私達がこの能力を使うにはある条件を満たさなきゃいけないのは覚えておいて?」

「条件だと…?」

 

ある意味、能力を使うための引き金(トリガー)的な要素か。

イオリアが親切心でこんな能力を組み込んでくれたのかは分からないが、引き金(トリガー)があるなら任意で能力が使えるということになる。

本人にとっては素晴らしいが、他人から見れば恐ろしい奥の手だ。

イオリアはどういう意図で俺達にこの力を授けたんだ…?

 

「私もそこには至ったけど、今は置いておいて。なりふり構ってられないから使えるものは使おう。そのつもりでお兄ちゃんには教える」

「分かった。だが、俺の引き金(トリガー)ってなんなんだ?」

「それは、『想い』だよ」

「『想い』……」

 

レナ曰く、強烈な想い。

それが俺の能力を発動する条件、引き金(トリガー)となる。

ふと思い返してみる。

心当たりのある描写を……。

自覚したのは、ネーナとスローネ ドライをアレハンドロ達のコントロールから解放する時、俺はネーナからこれ以上奪うなと叫んだ。

さらにデスペア・フォーメーションの時、俺は戦場の命を全て救いたいと思い、その気持ちをフォーメーションにぶつけた。

アレハンドロのアルヴァトーレを墜とした時にはレナを渡したくない一心で貫いた。

最後は、ネルシェンと交戦した時。

あの女を、奪い合いの連鎖を壊すために負けるわけにはいかないと敵の攻撃を避け、剣を振るった。

――確かに全て俺の強烈な『想い』が発端となっている。

 

「私が極限の『集中』で、限界を乗り越える権利を得るように、お兄ちゃんの想いにその身体は応えてくれる」

「俺の、身体……」

 

塩基配列パターン0000イノベイドの肉体。

(たちばな) 深也(しんや)の想いをレイ・デスペアが体現する……ということか。

 

「そうか…。あれが俺の力…」

「うん。その力で私達の望むことをしよう」

 

そう言ってレナはパイロットスーツを差し出す。

俺は決心し、それを受け取った。

レナが念を押してきたのは例え能力があってもそれを悪用するなという意図だ。

俺はそんなことをしない。

レナも知っているだろう。

だが、それでも注意を促す程の力だ。

それについてはきちんと自覚している。

そして、ヘルメットは脇に抱えて各々のコクピットへと向かおうとした時、今度は呼び止める声がした。

 

「レイ…!レナ!」

「ネーナ…」

 

息を切らしながら駆け寄ってくるネーナにレナが名を呟く。

同じくパイロットスーツ姿だったネーナは俺達の元に辿り着くと急いで息を整えて、顔を上げる。

 

「あ、あたしも行く…!」

「でも機体が……」

「それでも行く!戦えるならなんでもいいからあたしも連れて行って…!」

 

必死の形相でレナの肩に掴みかかるネーナ。

だが、レナは首を横に振ってその手を取った。

 

「レナ…?」

「……ネーナはここに居て」

「で、でも」

「お願い。ネーナを守りたいの。私も、ネーナが1番辛いの分かってるから」

「それは……」

 

ネーナが俯く。

すると、レナはそんなネーナの両手を自身のもので包み込んだ。

優しく、温かく。

 

「ネーナ。大丈夫、私達は帰ってくる。ネーナを1人になんてさせない!」

「レナ…」

 

ネーナの顔を覗き込んで微笑むレナ。

その笑顔にネーナの表情も自然と明るくなり、さらに上からレナの手を取った。

 

「うん!約束よ?生きて帰ってこなかったら許さないんだからっ!」

「了解。任せて、ネーナ」

 

交わす笑みから一転、レナは真摯な表情に変わる。

そして、ネーナの手をそっと放して俺と向き合った。

 

「行こう、お兄ちゃん。戦いを止めに」

「あぁ!」

 

レナの言葉に力強く頷き返すと俺は眼帯を外し、傷付いた瞳を露わにした。

俺の記憶が正しければ幾度か機体内の端末が俺の瞳から何かを読み取っていた。

恐らく俺の能力が発動すると同時にそれを読み取り、機体に反映させているのだろう。

ならば、双眼は必要だ。

開閉させるだけでも激痛が走るが我慢するしかない。

 

その上からヘルメットを被ると俺達を待っているかのようにコクピットを開け放つプルトーネブラックとサハクエルにそれぞれ乗り込んだ。

既に国連軍のMS(モビルスーツ)部隊とトレミーチームはエンカウントしている。

そんな中、ラグランジュ3の極秘コロニーから宇宙船(スペースシップ)が飛び出し、数十分後。

ラグランジュ2終点にて2機のガンダムが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主に月と地球間の宇宙空間を示すラグランジュ1では国連軍とソレスタルビーイングが戦闘の火蓋が切られている。

国連軍はジンクスを26機、スローネ ヴァラヌスを13機、そしてスローネ ツヴァイという編隊の情報を得た。

対するプトレマイオスはガンダムエクシア、ガンダムキュリオス、ガンダムヴァーチェ。

エクシアはGNアームズでの戦闘で対艦攻撃を主に担当し、キュリオスはテールブースターを用いた高速戦闘、ヴァーチェは2艇のGNバズーカでの高火力砲撃、デュナメスことロックオン・ストラトスはトレミーで待機といったところだろう。

この様子だとやはりロックオン・ストラトスは利き目を負傷していると見ていい。

だが――。

 

『スローネ ツヴァイ……』

『ミハエル…』

 

紅龍(ホンロン)から送られてきた映像を目にしてレナが哀しそうに呟く。

スローネ ツヴァイ、またしても鹵獲され、パイロットもアリー・アル・サーシェスだ。

果たしてロックオンは留守番に徹せるのか……。

正直敵の戦力も本来より格段に多い。

エクシアがいるとはいえ、戦線をどこまで維持できるかが重要だ。

戦況によってはロックオンが出撃してしまう。

 

『国連軍の戦力の注ぎ具合を見るにこの戦いに全力を投入してくる筈だ。本来とは違う流れ……アルヴァトーレもいない今、二戦目があるのか分からない』

『ここで死んでしまう人が、ロックオン・ストラトスさんだけじゃない可能性も……』

『充分にある。だが、逆にロックオンが生きる未来もある筈だ。いや、犠牲もなく戦いを止める方法が……』

『分かってる。私はその為に戦うから…。両方淘汰して、無力化する。それが今回の作戦プラン』

『犠牲を無くすための戦いか、スローネとの初戦闘を思い出すな』

 

そうさ、要はあの時と同じ。

レナと俺で無力化して命を守る。

戦う相手の命だって奪わない。

偽善だと言われようともそれが、俺達のやり方だ。

個人的にはソレスタルビーイングとやってることはさほど変わらないとは思うがな。

結局、圧倒的な力で鎮圧するのみだからだ…!

 

『先行する!』

『了解。サハクエルの座標固定、目標範囲捕捉、戦場までの道筋の障害物全てを確認。無重力状況下、狙撃態勢に入るよ』

 

ラグランジュ1へと侵入したと同時、サハクエルがGNツインバスターライフルをドッキングして静止する。

以前とは違い、俺は反応を示さず、ただ真っ直ぐに戦場を目指す。

それを合図に俺とレナの戦場掌握ミッションが開始した。




・プルトーネブラック 短期決戦型(最終決戦仕様)

パイロット:レイ・デスペア
開発者:レナ・デスペア→シン(リペア)
武装:GNビームクロー×2、GNバルカン×1
装甲:Eカーボン

アレハンドロ・コーナーのアルヴァトーレ、アルヴァアロンとの交戦で、大きな打撃を受けたプルトーネブラックをレナの生徒である元超兵の男の子、シンが改修した機体。
これまでの戦闘データによりレイの高い回避能力を期待して、破損した複合装甲は撤廃し、代わりに重さを軽減した。
さらに腰部のGNコンデンサーは移動用のみとし、戦闘区域に入るとパージできる仕様に変更され、これも軽量化へと繋がっている。
武装は在庫が乏しいこともあり、ありったけのビームサーベルを両指分揃えてプルトーネブラックの両指部に内蔵し、GNビームクローに変更した。
これは両腕を破損しない限り、武装を失わないという利点もある。
カレルでは手に負える状況ではなく、コロニーのファクトリーまで持ち帰って修復したが、実際は3日掛かると予見されていたにも関わらずシンを中心としてデルも協力し、軽量化や武装の変更を試しみることで最短で終わらせた。
だが、これはレイが必ず再び立ち上がると信じたシンが最短かつレイに最も合うスタイルを模索した結果でもある。


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トランザム

超長距離射撃で殺し合いを防ぐ。

それが私が自分で定めた使命、そして与えられた役割。

トレミーチームと国連軍の衝突。

その中でどうしても命を落としそうになる人が現れる。

その危機を救うのが私のサハクエル。

思考が擦り減るが如く集中して、『殺し』というその行為に至る寸分前に妨害している。

でも、それだけじゃ戦いは終わらない。

それにいつか火種がこっちにも飛んでくる。

だから、私も撃たなくてはならない。

 

『狙い撃ち!』

 

ジンクスを1機、無力化した。

国連軍のMS部隊は遥か彼方から飛んでくる粒子ビームに戸惑い、編隊を崩しつつある。

でも優秀な指揮官がいるみたい。

すぐに立て直される。

まずはその人を狙い撃たないと…!

 

『敵機セッキン!敵機セッキン!』

「え…?」

 

ハロちゃんが両耳をパカパカと開閉させて警告する。

て、敵…?

この宙域に?

サハクエルの位置する座標はラグランジュ1とラグランジュ2の境目、両終点のはず。

戦場はかなり離れてるのに、なんでここに…。

 

「ハロちゃん、敵の情報は?」

『スローネ。スローネ』

「……そんなっ!」

 

思わず照準から目を離す。

そして、付近を見渡すけど……遅かった。

赤黒い粒子ビームが既に私の視界に映っている。

 

『狙い撃ちっ!』

 

即座に反応してGNツインバスターライフルで相殺する。

粒子ビームのきた方角は、北東45度。

直線コースをずっと進んだところには国連軍の艦隊が……まさか一直線でここに向かってきた!?

 

『最初から私を狙って…!』

『あははははははは!!見つけた、見つけたわよガンダム!私がぶっ殺してあげるわ!!』

『この声は…!』

 

サハクエルのレーダーが敵MSを捉える。

この識別番号、記録がある。

スローネ ドライ……。

そして、この甲高い声は、襲撃時(あの時)に聞いたナオヤさんの一派!

 

『視界に入った!狙い撃ちっ!』

『きゃっ!?』

 

GNツインバスターライフルで先制を仕掛ける。

すると、粒子ビームはドライのGNハンドガンを貫いた。

これで射撃はしてこなくなる。

なら間違いなく近接に徹してくる筈…!

 

『貴様あぁぁぁぁああああーーー!!』

『え…?きゃああっ!?』

 

な、なに!?

突然私の知らない速度でスローネ ドライが切迫してきた。

サハクエルは蹴りを腹部に受けてそのまま衛星に叩きつけられる。

 

『がはっ…!?』

『あははははは!糞虫にはお似合いの格好ね!』

『なん、で……っ!』

 

まさか。

ハロちゃんかが自動拡大してくれたモニターを見遣る。

そこにはドライの脚部に装備したブースターユニットが映っていた。

これで加速を…!

 

『くっ…!ガンバレル!』

『なに!?』

 

身動きの取れないサハクエルの代わりにGNガンバレルを4基放つ。

それぞれの砲門がドライを背後から狙った。

照準、ロックオン……。

狙うはブースターユニット!

 

『チッ!!』

『逃げても無駄!』

 

ドライが照準から逃れようとサハクエルから離れるけど、もう遅い。そんな人間の通常心理、もうとっくに読み切ってる!

ブースターユニットはドライの脚部に付いている。

つまり最も加速が掛かるのは前進、または上方への移動。

なら、下方に2基のGNガンバレルを設置すれば自ずと上方へと逃げる!

 

『ふん、そんなものあたるわけ――ぐうっ!?なっ、馬鹿な…!!』

 

GNガンバレルの砲門から放たれた粒子ビームでブースターユニットを破壊。

回避ルート、さっきの加速度から敵の次の予測座標を導き出した結果が的中した。

……まあこんな読みは楽だけど。

 

『この…!』

「ハロちゃん!」

『任セロヤイ。任セロヤイ』

 

ドライがGNビームサーベルを抜刀したと同時にサハクエルも刃を生成する。

近接のサポートはハロちゃんに任せて、私はガンバレル(ビット)の操作に専念させてもらった。

 

『クソ!死ね…!』

『私は死なない。貴女も殺さない…!』

『戦場で甘ったれた事言ってんじゃないわよ!』

『くっ…!』

 

ドライが叩きつけるようにビームサーベルをサハクエルに振るう。

なんとかハロちゃんが弾いてくれてるけど、なによ、このデタラメな攻撃。

こんなの…!

 

『ガンバレル!マシンキャノン!』

『ぐあっ…!?よくも…!』

 

ドライの背後からGNガンバレル、サーベルを捌きながら正面からマシンキャノンで圧倒する。

ドライの顔面部が吹き飛んだ。

ごめんね、このくらいなら後で治せるから…!

 

『ドライを返して!!』

『はぁ?返すわけないでしょ。ふざけないでよ、もう私のガンダムなのよ』

『ふざけてるのは貴女だよ!その機体は、貴女のものじゃない…!』

 

GNビームサーベルの刃が衝突し、競り合う。

メインモニターが落ちても食らいついてくるなんて…!

私のモニターに映った赤髪の女。

ドライに乗る確かマインと呼ばれていた人からもはや狂気すら感じる。

 

『そこまでして何が望みなの…!』

『ハッ、何も知らないというのはお気楽でいいわね!』

『何の話を…っ!』

『この世界はいずれ支配される。イノベイターとかいう上位種気取りの奴らにね!!』

『……っ!』

 

今の一言で分かった。

この人は、ナオヤさんの傍にいて気付いたんだ。

イノベイドの、リボンズ・アルマークさんの存在の大きさを。

だから、必死にガンダムを倒そうと、自分の有用性をナオヤさんを通して伝えようとしてる。

……汚い女。

 

『どうせ支配されるなら私は今から行動を起こす。そして、私は選ばれた。サーシェスとかいう傭兵に協力するのはリスキーだったけど、イノベイター共は私を頼った!これで私の未来は保証される…!』

『ナオヤさんを利用して…!』

『私が幸せになればそれでいいのよ。大体あんなキモい男興味ないわ。貴女もそうでしょう?』

 

同意を求められてる?

冗談じゃないよ…!

 

『私はそんな自分のことばかり優先するような貴女とは違う!!』

『あ、そ。じゃあ、死になさい!!』

『そうはいかない!』

 

GNビームサーベルをもう一刀振るうドライに対して、サハクエルの双翼――ウイングバインダーで機体ごと叩き飛ばす。

 

『くっ…!こいつ!』

『貴女はここで淘汰する…!』

『なっ……』

 

GNツインバスターライフルをドッキングさせて構える。

連なる二門の砲口はドライを捉え、マインさんも気付いた。

でも遅い!

ドライとの間合い約百M、この距離は絶対に外さない!

 

『狙い撃ちっ!』

『い、嫌!待っ――』

 

ドライとの間にGNガンバレルを1基挟んで狙撃した。

粒子ビームはガンバレルと衝突し、ドライの目前で爆炎を巻き起こす。

これで相手のパイロットの命を奪わずに戦闘不能にすることができた。

 

「ハロちゃん、ドライは?」

『ソンショウジンダイ。ソンショウジンダイ』

「そう…」

 

成功したとは確信してたけど一応ハロちゃんに確認して黒煙から露出したドライに接近する。

ドライは胴体部以外が破損していた。

この状態での戦闘は絶対に不可能だね。

 

『まだやる?』

『ひっ…!』

 

GNツインバスターライフルの銃口をドライのコクピットへ向けると、マインさんの怯えた声が耳に入る。

これで理解したと思う。

あの程度の実力で、ガンダムに……マイスターには敵わないってことを。

 

『イノベイド達に媚を売るのは勝手だけど、その為に他人を踏みにじるの……やめてくれないかな?』

『や、やめます!やめますから命だけは…!』

『……ならドライから降りて。それは貴女の機体じゃない』

『は、はいぃ!』

 

脅すと簡単に降りてくれた。

数年後の自分の在り方に不満を持ったのは旧人類として用済みにされるのが怖かったからかもしれない。

この臆病さを見てると…ね。

 

『あ、あの…私はどうすれば…』

『さぁ?この宙域に迎えが来るのかは知らないけど、誰かが拾ってくれるんじゃない?』

『そんな…!た、助けて!』

『……戦場でそれは甘いと思うよ』

 

私は奪わない。

殺さないけど情けをかける程、甘くはない。

私はサハクエルでドライを抱えたままマインさんに背を向けた。

一応、国連軍の艦隊に救援要請を依頼して。

 

『さようなら』

『お願いします!待って――』

 

否定されるのも嫌、支配されるのも嫌。

我儘だけで人から奪ってきた人に与える情けはない。

そして、GNバーニアで加速したサハクエルはデルに伝えた宙域に半壊したドライを置いて、また元の座標へと戻る。

ちなみにスローネ ドライの擬似太陽炉は道中で捨てた。

あれがあると追跡されてしまうから。

 

『急がないと…。持ち場から離れちゃった』

 

襲撃を受けたせいでまた最初から作業をやり直さなきゃいけなくなった。

さすがに迷惑だ。

戦場はどうなったんだろう……。

早く、戻らないと。

お兄ちゃんが戦闘に入ってくれてればいいけんだけど…。

 

『敵機セッキン!敵機セッキン!』

「また!?」

 

目標座標まであと1kmもない地点での警告。

まさかこの場所は割れてるとでもいう気!?

とにかく敵の情報を仕入れないと…!

 

「きゃあっ!?」

『被弾シタゼ。被弾シタゼ。敵機、イッキ!敵機、イッキ!』

「くっ…先制を取られた!」

 

すれ違いの際に粒子ビームが飛んできた。

恐らくビームライフルの類……。

サハクエルに後方を振り返らせ、奥で旋回する機体をモニターに捉える。

1機だけで攻めてくるなんて次は一体何が――。

 

瞬間、息が詰まった。

私の瞳に映る黒い機体、放つ擬似GN粒子。

そう…あれは…。

あれは……!

 

『スローネ アイン、ネルシェン・グッドマン…!』

『その声、あの時の狙撃手(スナイパー)か!』

 

サハクエルとスローネ アイン。

双方が対峙したと同時に通信が繋がる。

私も驚愕し、ネルシェンさんも僅かに口角を上げている。

このタイミングでエンカウントするなんて…!

 

『狙い撃ちっ!』

『当たるものか!』

 

中距離の間合いで回避された!?

その後も数発放つも私の粒子ビームが当たらない…!

スローネ アインであの機動、最大値を引き出してる!

 

『貰ったぞ!』

『ハロちゃん…!』

 

一気に詰められた間合いに、ハロちゃんへ近接サポートを要請する。

そのおかげで即座にサハクエルはGNビームサーベルを抜刀し、同じく斬りかかってきたアインに対応できた。

でも、刹那の間で刃が斬り上げられる。

 

『え…?』

『そんな機械じみた剣筋が私に通用するものか!』

『なっ…!?』

 

そんな…!

切り上げたと同時にもう一本を抜いて私のビームサーベルが壊された。

それ以外損傷はないけど危なかった。

後退が間に合って良かった…。

 

『サハクエル!』

『距離を取るつもりか……そんな猶予は与えん!』

 

サハクエルで大きく旋回してGNランチャーの狙撃を回避する。

鳥の如く自由に飛び回るサハクエル。

なんとか避けてるけどこれはいつか当たる。

行動パターンが読まれるだろうし、私の脳内で構築したそれも底を尽きかけてる。

ここは一旦衛星の影に隠れて狙撃態勢に入ろう。

距離さえ取れば私の間合いになる!

 

『衛星の影に隠れるか…。無駄なことを』

 

サハクエルが衛星の後に回り、アインがGNランチャーから高出力の粒子ビームを放つ。

当然、衛星は粒子ビームが直撃して溶けるけど……そこにサハクエルの姿はない。

 

『なに?』

『狙い撃ちっ!』

『左か!』

 

隣の衛星から飛び出たサハクエルにネルシェンさんは瞬時に捕捉した。

まったく、どんな反射神経してるのって愚痴りたいくらいに早い!

 

『くっ…!』

『避けられた。でも…!』

 

ドッキングしたGNツインバスターライフルから放った砲撃もアインは躱す。

そこにもう一撃、粒子ビームを撃ち込んだ。

無茶な回避行動の後は避けられない…!

さらにいつもの避けても当たる狙撃だから尚更。

 

『これで…!』

『チッ、仕方ない。あの男の真似をするのは癪だが……』

『……っ!』

 

ネルシェンさんは呟くと腰部のパーツを切り取って、GNランチャーでそれを撃ち抜いた。

爆発の衝撃で粒子ビームの回避に成功。

あれはお兄ちゃんの……でも、驚くのはそこじゃない。

避けても当たる(必中)狙撃が避けられた!

 

『嘘、どうして!?』

『視覚情報に騙されるとでも思ったか?』

『カラクリを…!』

 

私が驚愕している隙に接近しようと加速するアイン。

そうはいかないと後退しながら射撃するサハクエルに、アインのGNランチャーで応戦する。

間違いない、ネルシェンさんは必中狙撃のカラクリを理解している。

あれの真相は相手のコクピットから見た視覚情報の誤差を利用したもの。

相手には右に向かう弾道に見えても実際は左に向かう弾道、それが回避しても被弾することになる。

それをネルシェンさんは見破った。

でもどうして?

ネルシェンさんに必中狙撃を見せたのは1回だけなのに……。

 

『1回で見抜いたとでも言うの…!?』

『貴様の技は全て見切っている。回避誘導による挟撃もな』

『あぁ……っ!』

 

たった今アインを追うように放つ粒子ビームで、ある座標へアインを導こうとしていた。

そこに到達した時、追いついていない射撃に見せかけたフェイクをやめ、先回りして狙い撃つ。

そんな挟撃を実際に行ってネルシェンさんはまた避けた。

私が私の間合いで遊ばれてる……!

 

『そんなこと!』

『甘い…!』

『……っ』

 

間合いを詰めようとするアインに放った粒子ビームもGNランチャーで相殺される。

完璧に入られた、近接は免れない。

GNビームサーベルの刃を生成して迎え撃たないと…!

 

『ハロちゃん!』

『私にその剣は通じん!』

『くっ…!』

 

刃が衝突して火花を散らす。

でも完全に圧されている。

技も見破られてる今、近距離も遠距離もネルシェンさんに劣ってる!

でも、それでも…!

 

負けるわけにはいかない。

もう奪い合いのない世界を作るために。

連鎖を再開させたネルシェンさんを倒す。

脳が焼き切れる程(極限)の集中を――!

 

 

────《Zero Mode Burst System》────

 

 

私の瞳が色彩に輝き、サハクエルのコクピット端末に文字が表示される。

ここからは全力でいく!

私のありったけの力を振り絞ってネルシェンさんの剣と真正面からぶつかった。

 

『なんで貴女は他人から奪うの!?ミハエルから奪ったのはなんで!!』

『なに?何故奪うかだと?軍人に戦いの意味を問うなどナンセンスだな、人である限り奪い奪われるのは当然の摂理だろう』

『そんなことない!奪おうとするから奪い合いが絶えない!ヨハンさんとミハエルはもう奪わないと誓ってくれた…なのに、貴女がっ!あの二人から奪ったの!』

 

ウイングバインダーでアインを突き、そこに蹴り込む。

空いた間合いで右腕に装備したGNツインバスターライフルでの射撃、それをアインは躱しつつGNランチャーで牽制してくる。

回避に意識を割いたサハクエルにアインは再び斬りかかってきた。

左のサーベルで刃を防ぐ。

 

『甘えた事を!奪い合いは始まれば終わりなどない!唯一終わるとすればそれは全てが滅んだ時のみだ』

『その考えが連鎖を生む…っ!』

『くっ…!』

 

マシンキャノンを発砲しながらサハクエルがアインへ頭突きする。

アインの目は片方壊れ、僅かな隙の間に機体を蹴り飛ばした。

さっきのドライみたいに顔面部を破壊する手はモニターなしで充分戦えるネルシェンさんには効果が薄い。

ならモニターに障害を与えつつ蹴り込むのが正解だった。

それにこれなら距離が取れる。

私は負けられない。

連鎖を撃ち抜くと決めたから。

ミハエルの為にも、例え通じなくても常に最善手を打つ。

 

『もうこれ以上、奪わせない!貴女をここで狙い撃つ…!』

『やれるものならやってみろ…!』

 

GNツインバスターライフルの粒子ビームを連発しても、ネルシェンさんは避ける。

それでも狙いを変えない。

極限の『集中』を保ち続ける!

 

『絶対に許さない!ヨハンさんとミハエルの想いを踏みにじった貴女を…!私の大切な人から奪った貴女を!!貴女は戦いを生み出す権化(こんげ)だ…!』

『喚いていろ。貴様らも同じ穴の狢だろう』

 

何度も衝突し合い、火花を散らし叫び合う。

私の振り下ろしたサーベルを競り合いで防ぎ、GNランチャーの弾道をサハクエルの顔を傾けて避ける。

またウイングバインダーで距離を取り、後退しつつ粒子ビームを放った。

 

『違う!私は、止める…!その為に戦う!』

『矛盾しているな。戦いが生むのは奪い、奪われるだけだ…っ!』

『うっ……!』

 

遊撃戦に移り、何度もぶつかり合っていたサハクエルとアイン。

その末にネルシェンさんが私の懐に侵入し、ビームサーベルを下段から振るう。

GNツインバスターライフルを一丁両断されてしまった。

でも、諦めない。

左腕用のライフルを右に持ち替えて、右腕用のサーベルを左に持ち替える。

ドッキングなしでもやりようはあるはず、そう信じて…!

 

『私は奪わない!』

『くっ……!』

 

腰にマウントしてあるビームサーベルの刃を形成して蹴り飛ばし、アインを妨害したところに射撃する。

粒子ビームがアインに命中し、GNシールドで防がれたけど追撃の斬撃でそれを両断する。

苦手な近接でシールドを奪えた!

だからといってここで気を抜いたらその隙をつかれる。

そこで意識を割くほど集中力は落ちてない。

寧ろ私の能力はまだ健在している。

 

『貴女からも奪わない。絶対に…!』

『無駄だ。いずれは奪う側になる。今は被害者面をしていられるかもしれんが、それもいつか終わりが来る…!』

『うぐっ……!?』

 

切迫していたサハクエルにアインが腹部に蹴りを打ち込む。

手は抜いていない、全力の接戦でネルシェンさんの機動にやられた。

マズい、態勢が…!

 

『狙い撃ちっ!』

『貰った…!』

 

蹴られた衝撃で後ろに引っ張られるような感覚を背負いながらGNツインバスターライフルの銃口から粒子ビームを放つ。

ネルシェンさんとの戦いはコンマで決まる。

体勢を立て直す暇はないけど、それでも間に合わなかった。

ネルシェンさんは私の弾道を避け、GNランチャーでのネルシェンさんの弾道がサハクエルの右脚を通る。

そして、赤黒い粒子ビームで抉り取られた。

 

『きゃあ…!?』

『生温い貴様に教えてやろう。貴様の並べる御託など所詮は理想論だということをな…っ!!』

『……っ!』

 

二本のサーベルを手にアインが迫ってくる。

この速度、避けられない。

ネルシェンさんの技量なら必ず私を貫く。

近接は彼女の間合いで私では足元にも及ばないから。

 

でも、それでも諦めない。

ネルシェンさんの否定を私は否定する。

もう悲劇は見たくない。

だから、どんなことをしてでも戦いを止める。

奪い合いを終わらせる。

その為に必要な『力』、この状況を打開する『力』は――!

 

ふと、脳裏に浮かぶ。

私が自分で作り出した擬似太陽炉。

初めてオリジナルの太陽炉を見た時、私はすぐに違いに気付いた。

その違いを埋めるには何十年と年月を掛けないといけないことも。

そして、オリジナルの太陽炉の可能性。

計算上可能だと想定されるブラックボックスの存在も見抜いた。

それが、やりようによっては擬似太陽炉でも使えるということも……。

 

今、迫り来るこの刃を避けるため。

私の信念を壊させないために、あの『力』を使う。

例え一度()()()力でも!

私は理想を叶える…!!

 

『墜ちろ…!』

『それが――』

『なに!?消えた…?』

 

忽然と。

ネルシェンの振るった刃はサハクエルの左腕だけを斬り落とし、サハクエルは消失した。

ネルシェンでも予想だにしていなかったために驚愕する。

だが、すぐさまモニターではなくレーダーを確認したのは流石だった。

でなければ、高速で動く機影を知ることはなかったのだから。

 

『これは…!このスピードはまさか…っ!』

 

視界の中で捉えられない双翼の機体にネルシェンは表情を苦しくする。

通達は来ていた。

ソレスタルビーイングのガンダムは謎の赤い光に包まれると機動性が格段に上がるという話が。

そして、それが――。

 

『トランザム!!』

 

TRANS-AM SYSTEM。

レナ・デスペアが自ら発見したイオリアの産物。

赤く輝くサハクエルは縦横無尽に飛翔し、宇宙(そら)を支配した。



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世界を止めて

プルトーネブラック 最終決戦仕様の説明欄が間違っていたので訂正ました。
ネルシェン・グットマンのガンダムスローネアインによる大きな打撃→アレハンドロ・コーナーのアルヴァトーレ、アルヴァアロンによる大きな打撃
です。


トランザム、TRANS-AM SYSTEM。

イオリアさんがGNドライヴに託した極秘のシステム。

オリジナルの太陽炉のみに与えられたブラックボックス。

私はハロちゃんの中に内蔵されていたデータからGNドライヴを作り出した。

でも、オリジナルの太陽炉を初めて見た時に私の作った太陽炉は完全じゃないことを知った。

最初はびっくりしたけど、炉心部にTDブランケットの有無という違い。

擬似太陽炉の欠点である限界時間。

 

そこから太陽炉についてオリジナルも知れた私はある可能性に気付いた。

それが初めはオリジナルにのみ与えられたブラックボックスだったとは知らなかったけど、擬似太陽炉を故意に臨界状態にして半ば暴走させれば、機体の各部に高濃度で圧縮・蓄積されているGN粒子を全面開放する事で、機体の出力を通常の約三倍に引き上げて、性能を一時的に向上させることができるかもしれないという思考に至った。

一度使うと中断もできないし、擬似太陽炉は焼き切れて使い物にならなくなる。

後から知ったオリジナルのTRANS-AM SYSTEMよりもリスキーだけど、それが諸刃の刃だとしても切り札であることには代わりはない。

 

だから、私は奥の手としてトランザムを採用した。

その結果、人を殺してしまうとは知らずに。

トランザムを実行した時、私は初めて人殺しをした。

他人から奪ってしまった。

 

――命を、未来を。

 

だから、私は封印した。

もう二度と使わないと誓った。

でも、使った。

ネルシェンさんの駆るスローネ アインに対して、切り札を切った。

トランザム、それは奪うことの出来る力。

 

――私は奪わない。

 

奪える力で奪い合いの連鎖を撃ち抜くために使用した。

ごめんなさい、イオリアさん。

私は使い方を間違えたかもしれない。

ううん、間違えてしまった。

それでも、もう一度チャンスを。

機会をください。

戦いを止めるために――――!

 

 

『トランザム!!』

『あの光は…っ!話に聞いてたものか!』

 

赤く輝くサハクエルに、ネルシェンさんも反応する。

トレミーのマイスターさん達が使ってるから伝達は来てるのか、知ってる装いだ。

でも、本質は知らない。

まだネルシェンさんは体験していない。

ネルシェンさんの知らない力、もう対抗するにはこれしかない。

無駄にはできない。

これは、私に与えられた最後の機会(チャンス)……!!

 

『サハクエル、駆けろ……っ!』

 

左腕と右脚を失ったサハクエルに声を掛ける。

サハクエルはそれに応えるように加速し、アインのGNランチャーとGNビームライフルから放たれた粒子ビームを掠りもせず旋回した。

ネルシェンさんの射撃が当たらない。

今ならあの人でも知覚できない…!

 

『機動性が飛躍しただと!?』

『はああああああああああっ!!狙い撃ちっ!』

『くっ…、ライフルを……!』

 

衛星の影を利用して高速で行動するサハクエルからアインの手に収まっていたGNビームライフルを狙撃、撃ち落とす。

初撃は手放させ、アインが拾おうとしたところを破壊した。

次はGNランチャーを狙う!

 

『舐めるな!!』

 

予想通り、GNランチャーでサハクエルを追ってきた。

でも粒子ビームはトランザム状態のサハクエルには弾道すら通らない。

機動性に長けた機体であるサハクエルには敵わない。

いくら軍内トップの狙撃手(スナイパー)だとしても射撃(それ)だけで生きてきた私には劣る……!

 

『狙い撃ちっ!』

『当たるものか!』

『狙いは貴女じゃない…!』

『なっ……』

 

多方向から狙い撃った弾道をネルシェンさんは避けた。

だけど、目標はアインの傍にあった6つの衛星。

それを粒子ビームで粉砕する!

 

『ぐあっ…!』

『今だ!』

 

粒子ビームじゃ溶かしてしまうけれど、ある程度の大きさを持つ衛星ならば中央を撃ち抜くことで残骸が辺りに散らばる。

その一部はアインを背後から襲い、ネルシェンさんには隙ができる。

ここで一気に詰めるしかない。

時間のない中、トランザム状態のサハクエルは高速で距離を縮める。

 

『私の間合いに来るか…!』

『今は私のだよ!』

 

なんたって空の支配者(サハクエル)なんだから。

今の私にとっては全てが私の間合い。

全力のサハクエルと私は伊達じゃない…!

 

『狙い撃ちっ!』

『そうはいかん…!』

『外した…っ』

 

後からの衝突で反るように体勢を崩していたアインに弾道を走らせたけど、避けられた。

かなり無理な戻り方をしてたけど、そうまでしてGNランチャーを奪われたくないみたい。

当たり前か。

もはや唯一の遠距離用武装。

逆に捉えればGNランチャーさえ奪えば私に勝機がある!

 

『貴様の狙いは分かっている!』

『分かってても避けられない!』

『ははっ、いつまでも対応出来ないとでも思ったか…!』

『当たらない…!』

 

一旦接近を止め、飛び回りながら射撃するけどアインは被弾しつつも避ける。

……本当に対応が追いついてきた。

このままじゃいつか弾道が完全に読まれる。

高機動で動けても打撃を与えられなければ意味がない。

何か、打開策を…!

 

『そんなの狙い撃つのみ――!』

 

────《Zero Mode Burst System》────

 

私の瞳が色彩に輝き、サハクエルのメイン端末に文字が浮かぶ。

何度でも限界を超える。

例え脳が焼き切れるとしても!

 

『今度こそ、狙い撃つよ…!』

『狙イ撃ツゼ!狙イ撃ツゼ!』

 

ハロちゃんも呼応する。

両耳をパカパカと開閉して照準のサポートをしてくれた。

 

『いっけぇぇぇええええーーー!!』

『なに!?』

 

GNガンバレルを残り全て四方八方に展開する。

サハクエル、ガンバレルのそれぞれの方角から銃口で捉えられるアイン。

もう私達の網の中!

この中では圧倒させてもらうよ……!

 

『――狙い撃ちっ!!』

 

引き金を引く。

GNガンバレルとGNツインバスターライフルから放たれた粒子ビーム。

さらにトランザムにより、圧縮粒子解放の原理でそれぞれが縦横無尽に動き回る。

さしづめ粒子ビームの檻がアインを襲った。

 

『全方位から…っ!ぐっ!』

 

アインの左腕、右足から右脚、左脚へと繋がる関節部――そして、GNランチャーも奪った。

これで中距離と長距離間に対応できる武装はない!

 

『貰ったよ…!』

『……ッ!舐めるなと言っているだろう…!』

『捨て身!?』

 

アインが檻を強引に突破しようと加速した。

でも、違う。

これは捨て身じゃない!

サハクエルとガンバレルに囲まれた時から片腕と両脚、GNランチャーを意図的に被弾させたんだ。

自身の的を小さくするために。

接近を予め考慮して、後に繋いだ…!

 

『柵を回避して…!』

『この機体ならば当たらん!』

『そうだとしても…!』

 

距離を詰めてくるアインに対してGNガンバレルが追いかけ、撃ち落とそうとする。

でも、ネルシェンさんは反射能力と対応力で弾道を通らない。

 

『その機体状況でどうして!』

『全てはナオヤの為に…っ!』

『個人の為に他人から奪うなんて…!貴女は歪んでいる!』

『私は至って純心だ。ナオヤへの愛がその証…!』

『くっ……!』

 

バスターライフルの粒子ビームも避け、遂に近接の間合いに侵入してきたアイン。

GNビームサーベルを振り下ろしてきたのをサハクエルはトランザムで回避する。

本来なら避けた後にGNランチャーで追われるけど今はその心配もない。

だから、慎重に尚且つ制限時間内に倒さないと…!

 

『焦っているな』

『えっ?』

 

距離を取った筈なのに近くからネルシェンさんの声がした。

慌てて振り向くと、サハクエルに肉迫するアインの姿が、GNビームサーベルを手に私を捉えている。

 

『詰められた!?』

『動きに無駄が出ているぞ…!』

『……っ』

 

斬撃を躱す。

ネルシェンさんの一言で分かった。

回避行動の後、追撃されないのをいい事に少し油断してた。

だから、無駄な旋回時に詰められたんだ。

でも、それさえ分かれば同じ徹は踏まない!

 

『今度こそ貴女を倒す!』

『私が負けることなど、ないっ!!』

 

バスターライフルの射撃を止め、さっき切り落とされた腕部と共にあるGNビームサーベルを拾って刃を形成。

トランザムの加速を利用して斬りかかってたけど、ネルシェンさんはそれに対応してビームサーベルの刀身をぶつけてきた。

 

『これにも対応できるというの!?』

『タイミングは読んでいる!』

『なら…!』

 

トランザムによる高速移動でアインの周囲を飛翔し、全方位から刃を振るう。

その度にネルシェンさんは胴体部の角度を変え、刀身で防ぎ、あるいは背に刃を回して弾いた。

 

『残量粒子が…っ』

『攻め手に欠けているな。その状態もいつまでも持たんのだろう?』

『トランザムの限界時間を…!』

『無限に持つのなら初めから使っている筈だ!』

 

今度はネルシェンさんから斬り掛かってきた。

トランザム状態の動きが読まれてる。

違う、トランザムを使った私の動きを…!

 

『なら読み切られる前に決めるっ!』

『ぐうっ…!?』

 

アインの剣を避け、サハクエルの足で蹴り込む。

体勢を崩したアインはそれでも私に食らいついてきた。

 

『私は負けん!負けることなど許されない!!』

『ぐっ…!どうしてそこまで!』

 

GNビームサーベルを用いての競り合い。

サハクエルのモニターにネルシェンさんの顔が映される。

 

『貴様を倒せば功績として認められる。そうなれば、ナオヤの有用性がまた向上する…!』

『貴女の功績を与えるというの!?そんなのナオヤさんの成長には繋がらないよ!』

『そんなものはどうでもいい!貴様に何がわかる!?ナオヤは、いつかイノベイター共に捨てられる…。奴らはナオヤのことを同胞としては見ていない。だからこそ、証明する必要がある!!』

『ぐっ…!何を!?』

 

一瞬圧され、刃を叩きつけられた。

顔を顰めつつ尋ねるとネルシェンさんは身を乗り出すが如く叫んだ。

 

『言っただろう…!ナオヤの有用性だ!!』

『……っ!』

『イノベイター共にナオヤが必要だと知らしめる!』

『その為に戦うというの!?』

『そうだ!』

『そんなの身勝手過ぎるよ!なんでヨハンさんとミハエルが奪われなければならないの!?』

『ならばナオヤは奪われていいというのか!』

『あっ……』

 

ネルシェンさんの指摘で矛盾に気付いた。

私は奪う側なの…?

 

『それは……』

『ナオヤの未来は私が保証する。私が築く。その為の犠牲に貴様もなるがいいっ!!』

『……っ』

 

私の躊躇の隙を利用して、アインがサハクエルのビームサーベルを切り上げる。

さらに勢いを殺さずに回転して、左側から横薙ぎに振り払おうとする。

私の視界、右端から迫るサーベルを捉えるも戸惑う私は反射的に反応しつつ対応していいのか躊躇している。

 

ネルシェンさんを倒すことが本当に奪い合いの連鎖を無くすことに繋がるの…?

彼女を超えた先にはナオヤさんの未来を奪った私がいるのに――。

ここでネルシェンさんを淘汰することが正しいのか……分からない。

奪うことをやめたヨハンさんとミハエル。

その二人から全て奪い、連鎖を再開させたネルシェンさん。

そんなネルシェンさんを私が倒せば、今度は私が奪うことに――連鎖を生むものになる。

私は……。

 

 

――――『俺はレナのために戦ってやんよ。もう無茶はさせねえ。その為に戦いを終わらせてやる。俺のガンダムでな…!』

 

 

………ッ!

違う。

ナオヤさんは既に奪われている。

自分で歩くはずの未来を。

ミハエルのように自分の意志で突き進む明日を。

ネルシェンさんに…!

他人によって決められる運命。

そんなもの、誰も求めていない。

だから――だから……っ!!

 

『私の、ガンダムは……』

『終わりだッ!!』

 

高出力の刃が迫る。

トランザムの限界時間は残量粒子から推測するに、あと3秒もない。

決めるなら、今。

 

『私のガンダムは…!戦いを終わらせるための……っ!!』

『なんだと……っ!?』

 

スローネ アインの右腕を切断し、流れるように横薙ぎされた刃をくぐり抜ける。

再びGNビームサーベルを構えたサハクエル。

剣先はただ一直線に敵を捉える!

 

『私が破壊する、奪い合いの絶えないこの世界を!私のガンダムで……っ!!』

『しまった…!』

 

擬似太陽炉を、壊す…!

 

『はああああああああああああーーーっ!!』

 

剣先をスローネ アインに向けて加速させる。

狙うは顔面部から背中のGNドライヴ。

トランザムはまだあと2秒もつ。

1秒で破壊して、残った1秒でコクピットを掴む。

ハッチはマシンキャノンで強制的に開ける。

これで――っ!

 

『よせ、やめろ……っ!』

『………っ!』

 

スローネ アインにサーベルが触れようかという時、ネルシェンさんの制止の声が耳に入る。

同時に脳裏に記憶がフラッシュバックした。

全く同じ構図、状況下のあの時が。

 

 

――――『よ、よせ!待ってくれ!話を――』

――――『え?』

――――『ひぃっ!?うああああああああああああーーーーっ!?』

 

 

制止に戸惑い、突き刺してしまったあの時。

私が初めて人を殺した時。

悲痛に叫び、無慈悲にも身体が切り裂かれる『あのイノベイド』の声が谺響する。

瞬間、私の集中が切れた。

 

『あ……っ』

『がはっ…!?』

 

振り下ろしたGNビームサーベルはスローネ アインのコクピットを的確に穿つ。

それと同時にトランザムの限界時間が訪れた。

サハクエルから赤い輝きが消える。

 

『あああああぁぁぁぁああああ……っ!貴様ぁ…!ぐっ…、あっ……!』

『あ、あぁ……っ』

 

有視界線通信越しに鮮血を散乱させながら苦しむネルシェンさんが映る。

スーツに血液が滲み、バイザーはひび割れ、ネルシェンさんは確実に損傷した。

……私が狙いを外したせいで。

 

『貴様…、よくも…っ!ごふっ!?』

『ネルシェンさん!』

 

恨めしく私に手を伸ばしたネルシェンさんが鮮血を吐く。

ヘルメットのバイザーが血に濡れてネルシェンさんの表情が伺えなくなった。

それでも分かる。

私を、憎み、強く睨んでいる。

彼女の眼光が私を捉えている。

 

『これが……貴様の言う…奪わない、という……ことか…っ。笑わせるな……!!』

『……っ』

 

息が詰まるのを感じる。

焦りと動揺から背が蒸れる。

私は、また……。

 

『違う……そんな、つもりじゃ…』

『やはり、貴様も…同類だ…。はは、はははははっ。ははははははははははは!!うっ!』

『ネルシェンさん…!』

 

吐血の漏らしを耳にしてレバーを引く。

けれど、サハクエルは動いてくれない。

システムも落ちかけてる。

 

「そんな…!」

『太陽炉ブッコワレタ。太陽炉ブッコワレタ』

「擬似GNドライヴのオーバーヒート…!」

 

トランザムの影響で擬似太陽炉が焼き切れてしまった。

残量粒子も粒子貯蔵量も底を尽きた。

サハクエルは、もう飛べない。

 

『ネルシェンさん!』

『……待て、なぜ私が…負けている……。あれ…?なんで?はは…っ、悪い夢だ…!そうだ、そうに違いない!』

『……錯乱してる』

 

私のせいで…。

 

『クソ…何故だ…。私は強い、筈だ……。強者だからこそ、この強さを…ナオヤに……与え…っ』

 

半壊し、むき出しになったコクピットからネルシェンさんの様子が窺える。

錯乱したと思ったら正気を取り戻して今度はヘルメット越しに頭を掻き毟るように抱え始めた。

凄絶な混乱に襲われている。

 

『翼持ち……貴様の方が、強いと…いうのか……』

『……』

 

サハクエルに手を伸ばすネルシェンさん。

その呟きに対する答えを私は持っていない。

 

『あぁ…ナオヤ……っ、私の…存在価値は―――』

『ネルシェンさん…?』

 

有視界通信が、切れた。

胴体部だけとなったスローネ アインは黒煙を上げながら宇宙(そら)に流されていく。

このままじゃ外宇宙に…っ!

 

「サハクエル、動いて!ネルシェンさんを助けないと――」

 

『―――ところがぎっちょんっ!!』

 

「え?」

 

刹那、狂気を含んだGNファングが視界に映る。

8基の反応。

その全てがサハクエルへと迫る。

これは――ツヴァイの―――。

 

「…………ッ!!」

『レナ。レナ』

 

敵機を知らせるハロちゃんの警告。

掴めなかったネルシェンさんの手。

GNガンバレルの砲撃とGNマイクロミサイルによる弾幕を潜り抜けたファングのうち2基が襲ってきた。

右肩部と胴体部のみ残ったサハクエルが宇宙(そら)に流れる。

その中で――。

 

『ぁぁ……っ。そん、な…』

 

爆煙から抜き出したサハクエルのコクピットの中で宇宙(そら)を見上げる。

遥か先のラグランジュ1では赤と緑の光が交差してる……まだ戦いは終わってない…。

こんな、ところで……っ。

 

『ミハ…エル……』

 

ミハエルの為にも。

奪い合いの連鎖を断ち切り、戦いを止めるって決断したのに……。

また、私は……。

 

『お兄ちゃん…戦いを、止めて……』

 

まだ兄が残ってる。

最後の希望を、あの人に……。

そして、スローネ ツヴァイのGNハンドガンから粒子ビームの凶弾が放たれた。




ボツ案

マイン「見つけたわよ、ガンダム…!」

ネルシェン「あの時の狙撃手か…!」

サーシェス「ところがぎっちょん!!」

ダリル「そこにいたかー!ガンダム!!」

???「会いたかった……会いたかったぞ、ガンダム!!!」


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ラスト・デスペア

ラグランジュ1へと侵入してから1時間。

トレミーと国連軍の戦闘宙域まであと少しだ。

もう粒子ビームの光が飛び交う乱戦が目に見えている。

後はプトレマイオス、各ガンダム、国連軍のMS、戦艦の位置を把握すれば導入もスムーズに、尚且つ『高機動』で奇襲できるはず。

レナは既に超長距離射撃を開始している。

だから、俺が着いた時にまだ犠牲者が居なければいいが……。

こればっかりは祈るばかりだ。

 

「さて、そろそろ――敵機接近…!この識別番号は……っ」

 

レーダーに視線を落とし、再度迫り来る方角に目を向ける。

すると、丁度弾道が飛んできた。

 

『くっ……!』

 

不意打ちだったが、なんとか避けた。

プルトーネ ブラックの軽さに救われたな、これは。

後で礼を言っておこう。

そして、そんな奇襲を仕掛けてきたのは――。

 

『ナオヤか…!』

『待たせたな、人革連の!!』

『チッ!邪魔を…!』

 

現れたアドヴァンスドジンクス。

トレミーと国連軍の戦闘宙域、国連軍側からこちらへと向かってきたようだ。

クソ、ここで対峙するのは望まない。

一刻でも早く宙域に向かいたいってのに……!

 

『お前の相手をしている暇はないんだよ!』

『さぁ、決着と行こうぜ!』

『……っ!』

 

有視界通信越しに挑戦的な笑みを浮かべるナオヤ。

プロトGNランスから放つ弾丸でプルトーネ ブラックを落とそうとしてくる。

こいつ、全く話を聞かない。

自分のことしか考えてねえのかよ。

それにしても決着、ね……。

奴ら一派に殺されたヨハンとミハエルの顔が浮かぶ。

 

『……確かに因縁はある』

『お前はイベントボスだろ?その為にオレに与えられたライバル。要するにお前を倒せば次に進めるってわけだ』

 

俺の睨みを無視して弾丸を全て避けた俺に対して仕切り直すようにプロトGNランスを構えたまま静止するアドヴァンスドジンクス、ナオヤはまるで意気揚々といった様子で語ってくる。

なるほど……随分とゲーム思考が強い。

アレルヤの名前を間違えたり、転生者だというのに知識が穴にある場面は今までチラホラ垣間見てきた。

 

恐らくこいつは基本的にはファンタジー系とかMMOとかを好むゲーマーで、たまたまアニメを見てたんだろう。

ま、ガンダムって世代的に流れで目にすることは少なくない。

偶然自分の知ってるガンダムの世界に飛び込んだ、といったところか。

なににせよ、転生だ。

典型的なやつならどんな世界でも大概は喜ぶよな。

俺は肩を落としたけど。

 

『相変わらずのゲーム脳だな』

『んあ?お前は違うのかよ』

『一緒にするな』

 

心外だ。

なんでこんな奴と一緒にされなきゃならない。

大体ゲームと現実を混同させてどうすん――待てよ。

その考えとあいつの口振りから察するにナオヤはこの世界をゲームか何か勘違いてる節がないか?

いや、実際にゲーム視してる。

ならもしかすると……。

息が詰まるのを感じる。

俺の脳内に許し難い思考が浮かんだからだ。

 

『なぁ。……1つ、聞いていいか?』

『あ?なんだよ』

『お前、人を殺すことに躊躇いはないのか…?』

『はぁ…?』

 

恐る恐る聞いてみる。

有視界通信上のナオヤは訳が分からないといった表情をしている。

だが、重要なことだ。

ナオヤはヨハンとミハエルを殺した。

他にも誰か殺してるかもしれない。

しかし、ただのゲーマーが抵抗もなく人を殺れるものか?

答えは否。

よっぽどでない限り常人が手をかけるなんて無理だろう。

ならば自ずと答えは見えてくる。

ナオヤは人を殺してる気など更々ない。

そう、この世界の住人を人だとは思っていない。

 

『あっ。もしかしてあの時の兄弟のこと知ってんのか?気にすんなよ!たかがN()P()C()()()…?』

『なっ……!?』

 

予想はしてたが、軽々と何も疑ってない瞳で告げられて息を詰まらせる。

ゲーム脳ここに極まれり。

こいつは……っ!

 

『違う!ここはゲームの世界なんかじゃない、現実だ!あいつらも生きてた。みんな生きてる!!』

『あははは。なーに言ってんだよ。まあリアル過ぎてそう言いたい気分は分かるけどさ。そろそろ気付かないとやばいぜ?きっとこの世界はガンダムのVRゲームの中なんだよ』

『はぁ!?』

『おっと……マジで転生だと思ってたのか。いいねぇ、夢見るねぇ』

『……もういい。黙れ、喋るな。ぶっ潰す!』

『おいおい、そんな怒んなよ……。夢潰して悪かったって』

 

あぁ、ある意味潰されたよ。

ヨハンとミハエルの未来が、命が奪われて。

その結果、俺とレナの理想がな……っ!

 

『貴様…!』

『多分開発途中で実験体とかにされてんのかなぁ。ま、でも楽しいし逆に有難いよな!俺も主人公になった気分だぜ。いや、実際そうか。はははは!!』

『……』

 

こんな、こんな奴のためにあいつらの未来は奪われた。

現実も直視できてないこのクソ野郎のせいで……!

何が開発途中だ、何がVRゲームだ。

ふざけるな!

あいつらは必死に生きてた。

前を向いて歩き始めていた。

この世界に住む人々も、画面に映ることさえなかった人々も。

この世界で生きている。

それを、ゲーム感覚で奪うことなど……認めるか。

 

『……気が変わった』

『あ?なんだって?』

『お前なんて眼中にもなかったし、実際弱い。俺は仇討ちしたいわけじゃなかったからお前()今だけ見逃すつもりだった。だが――』

 

正直相手にしてる暇はなかった。

俺の目的はもっと先だった。

そもそもヨハンとミハエルが仇を取って喜ぶなんて思っちゃいない。

だから、ナオヤは後回しにしようとしていた。

でも、今変わった。

俺が倒すべき相手は。

蹂躙すべき敵は目の前にいる。

 

『ナオヤ、お前はこの世界に巣食う歪みだ。その歪み……この俺が断ち切る!!』

『なっ……!?』

 

GNバーニアを噴射して一気に加速する。

プルトーネ ブラックの右手の指先全てから粒子ビームの刃を生成し、高出力状態で一つに纏める。

そうすることで通常のGNビームサーベルより極太のビームソードが出来る。

これでナオヤ(歪み)を斬る!!

 

『うおっ!?いきなり始めんなよ!ズルいぞ…!』

『戦場で……!』

 

一振り目を偶然にも躱したアドヴァンスドジンクス。

腐ってもイノベイドか。

だが、遅い。

 

『甘ったれたこと言ってんじゃねえっ!!』

『ぐあっ…!?』

 

────《Zero Mode Boost System》────

 

俺の双眼が色彩に輝き、プルトーネ ブラックの端末がそれを読み込む。

すると、画面上に文字が浮かび、それと同時に身体が軽くなった。

プルトーネ ブラックの刃はアドヴァンスドジンクスの手にあったプロトGNランスを切り落としている。

 

『てめぇ…!』

『特別大サービスだ。お前如きに本気を出してやる』

『はぁ!?舐めんな!』

 

ビームソードを向けて挑発するとナオヤは簡単に乗る。

アドヴァンスドジンクスはそんなナオヤに従って、GNビームサーベルを抜刀した。

武装が変わったな。

アドヴァンスドGNビームライフルをやめてわざわざ分けたようだな。

腰にGNビームライフルが見えることを考慮すると間違いない。

やはり下手くそにはあの武器は使いづらかったか。

利点に気付いてるのかすら怪しいな。

もちろん得意不得意、合う合わないはあるが、恐らくゴミだの使えないだの言って捨てたんだろう。

偏見かもしれないが、そんな印象を抱いても仕方ない。

 

『何が本気だ!せこい事しやがって…!』

『お前が……言うセリフかぁぁぁああーーっ!!』

『ぐおっ!?』

 

アドヴァンスドジンクスのGNビームサーベル、プルトーネ ブラックのビームソードが衝突し合い、競り合っていたところに下段から左手に形成したビームソードでアドヴァンスドジンクスの右腕を斬り上げる。

これで利き手は奪った。

次の手も簡単に読める。

 

『クソ…!』

『取らせるか!』

 

GNバーニアを逆噴射して距離を取り、腰部にマウントされたGNビームライフルへと手を伸ばそうとするアドヴァンスドジンクス。

だが、それよりも速く距離を詰め、顔面部GNビームライフルを貫いた。

 

『ぐあああーーっ!?』

『これで……』

 

頭と腰の爆発で機体体勢を崩したアドヴァンスドジンクス、なけなしのGNビームサーベルを抜刀するがメインモニターが壊れ、狙いは定まっていない。

ただ持ってるだけだ。

そこにビームソードを容赦なく振るう。

 

『終わりだ』

『……っ!』

 

ナオヤも気付いたのだろう。

レバーを引いてももう操縦できる機体はないのだと。

アドヴァンスドジンクスは腰と胴体で二等に分かれ、擬似太陽炉のある胴体の方を俺は貫き、破壊した。

必然的に残るのはコクピットのある下半身だが、もはや脚部以外はない。

 

『クソ!クソ…!な、なんで…!?』

『……』

 

悔しそうに反応のないレバーを引くナオヤ。

モニターはないが、音で分かる。

俺は粒子の節約のためにサーベルを消し、指を通常時に戻した。

確かさっきあいつは自分のことを『主人公』だとかどうとか言ってたな。

 

『なんで…!こんなところで!?オレは…オレは主人公の筈だ。こんなあっさり負けるわけ――』

『これが、この世界を生きる俺と現実を直視できていないお前の差だ』

『は、はぁ!?』

 

ナオヤがキレる。

俺の言ってることを理解出来ていなのだろう。

当然だな。

もはやこいつに用はない。

プルトーネ ブラックでアドヴァンスドジンクスから背を向ける。

 

『お、おい。待てよ!オレはまだ負けてない!き、きっとコンティニュー機能が――』

『悪いが付き合ってられん』

『待ってくれよ!このままじゃオレ、どうやって帰れば……』

『そこまで面倒は見ない。お前は俺の敵だ』

『あっ…あぁ……』

 

外宇宙へ流れようが、何処かで拾われようが知ったこっちゃない。

どっちでもいいさ。

それよりも早く戦場に向かわなくてはならない。

俺は、ナオヤを放ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

ナオヤで多少時間を食われたが、それでも諦めずに目的の宙域へと向かう。

そういえばラグランジュ2終点からの粒子ビームが見えなくなった。

超長距離狙撃が途絶えた。

心配ではあるが……。

 

『レナ…』

 

デルに連絡すると問題ない、と返ってきた。

それを信じて進行する。

目標宙域まであと数キロ。

もうすぐ戦場に……。

必ず戦いを止めて見せる。

奪い合いの連鎖を。

と、その時レーダーが接近する物体を捉えた。

 

『なに…?この速度は…!』

 

物体は二つ。

MS(モビルスーツ)の速度じゃない!

これはミサイル、もしくは――。

 

『GNファングか!!』

 

振り返ると2基のGNファングが飛来してきた。

まだ詰めきれてない間合いで粒子ビームを放ってくる。

俺はそれをプルトーネ ブラックで後方に退って避け、左右から向かい来るGNファングを両指のビームソードを展開して双翼のように振るって斬り落とす。

破壊したGNファングは――異常に爆発した!?

爆炎と衝撃がデカい!

罠か…!

 

『ぐあっ…!?』

 

プルトーネ ブラックが衝撃で吹き飛ぶ。

コクピットも激しく揺れた。

クソ…めっちゃ傷に響く。

目が痛てぇ。

 

『ど、どこから……』

 

ファングが飛来してきた方向を見る。

爆煙がまだ晴れないせいで前方が確認できない。

GNファングってことはスローネ ツヴァイ……サーシェスか?

 

『くっ……!』

 

焦れったいからビームソードで煙を裂いた。

すると、レーダーが敵機を捉える。

この反応……上か!

 

『何者だ!』

 

ビームソードを構えて見上げるように睨む。

目線の先は衛星に乗ったMS(モビルスーツ)の影がいた。

だが、全貌を確認できない。

シルエットだけで捉えるなら……。

 

『エクシア…?』

 

いや、違う。

晴れ始めた煙幕から真っ先に現れたのは巨大な剣、GNバスターソードか。

剣先から腕、そして胴体が徐々に明らかになっていく。

漆黒に赤のラインが入った外装。

さらに鋭い深紅の眼光。

一瞬エクシアに見えたのは基本装甲が同じだからかもしれない。

 

それでも違う。

エクシアとは異なり、凶悪な禍々しいフォルムに、肩から露出する粒子の色も赤だ。

それを目に捉えてハッキリした。

あれは……擬似太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)…!

 

『ガンダム……っ!』

 

国連か!?

だが、周囲に他の機体反応はない。

俺の目の前にいる機体だけだ。

 

『一体誰なんだ…!』

 

見たことのないガンダム、そのパイロットの正体も掴めない。

単独行動しているならグラハムと結びつけられるがあの男が駆るのはGNフラッグ。

ガンダムではない。

……探るしかないか。

 

『何者だ!貴様は…!』

『……』

 

音声のみの通信をオンにして呼び掛けるが、返答はない。

いや、代わりに光通信が送られてきた。

たった一言。

 

――【GUNDAM AZRAEL】と。

 

『アズラエル……』

 

赤黒のガンダムの名を呟く。

GNバスターソードを持つ擬似太陽炉搭載型のガンダム。

ガンダムアズラエル。

俺の知らないガンダムタイプの機体……。

 

だから、どうした。

結局やることは変わらない!

アズラエルは俺を攻撃してきた、つまり敵対心があるということ。

そして、俺は戦争を止めるために戦闘宙域へと向かっていたところを妨害された。

これだけで戦う理由は充分にある。

邪魔する者は敵だ…!

 

『プルトーネ ブラック、レイ・デスペア。目標を蹂躙する!!』

『……』

 

ビームソードを形成してGNバーニアを噴射。

プルトーネ ブラックは加速する。

目標はガンダムアズラエル、GNバスターソードは無視して関節部を狙う。

誰だか知らないが殺しはしない。

全力で無力化する…!

 

『はあっ!』

 

左のビームソードを振り下ろす。

すると、アズラエルGNバスターソードを盾に防いだ。

だが、狙い通りの動きだ。

俺はビームソードをバスターソードの刀身の上で滑らせ、機体も滑り込むように懐に侵入する。

そして、右手のビームソードを構えた。

狙いは相手の右腕関節部。

まずは片腕と武装を奪う!

 

『貰った…!』

 

機体の軽さ故か俺の速さにアズラエルは反応しきれていない。

この一瞬が好機。

寧ろ逃せばもうないと思ってもいい。

絶対に決める…!

だが、放った突きは一筋走る深紅の刃に阻まれた。

これは――!

 

『ビームサーベル!?』

 

アズラエルの左手に構えられGNビームサーベル。

粒子の色から赤黒いサーベルは俺のビームソードを防ぎ、身を守るように生成された。

柄が黒い。

機体の色と同じにすることでマウントを悟られないようにしたのか。

宇宙空間ではさらに目立たない。

上手い…!

 

『だが!』

 

指部を展開してビームソードをビームクローにする。

一度後退して広範囲に振るった。

 

『……』

『くっ…!』

 

GNバスターソードで完全に衝撃を吸収された。

やはり防がれるか。

弾き飛ばそうとしたがバスターソードが邪魔だ。

先に武装を奪うのが先決だな。

得物は完全にパワーが違う。

勝負に出るなら速度(スピード)だ…!

 

『行くぞ…!』

『……』

 

GNビームクローを得物とし、斬り掛かる。

まずは正面から。

これはGNバスターソードで防がれた。

次にアズラエルはバスターソードの影で隠れた懐からGNビームサーベルを出現させ、プルトーネ ブラックを貫こうとするが持ち前の軽さでそれを回避。

滑り込むように左に潜り込んで振り払われたバスターソードを右のビームクローをビームソードにして受け止める。

 

勢いは止めない。

そのまま左のGNビームクローでアズラエルの右腕関節部を切断しつつ、振るわれたGNビームサーベルの斬撃を瞬時に後退して避けた。

これで相手はバスターソードを失った…!

いける、勝機は充分にあるぞ。

アズラエルのパイロットの腕は大したことない!

 

『――へぇ、中々やるじゃん』

『通信…!』

 

俺が優勢に立ったと同時。

アズラエルのパイロットと思わしき者との有視界線通信が繋がる。

パイロットは……バイザーが暗視化してて顔は伺えないが、声は少し若かった。

黒いパイロットスーツに身を包み、モニター越しに対峙する俺を見ている。

アズラエルのパイロットは続けて口を開いた。

 

『思ってたよりは強いね。ま、及第点か』

『ほう…随分と上からだな』

 

俺を見下してるのがすぐに分かる。

まったく、この世界には同じ分類の人間が多過ぎるだろう。

 

『言っとくけど、僕は何処ぞの金色(きんしょく)とかとは違うから。別に世界とか支配したくないし』

『……っ!』

 

思考を読まれたかと思ったが、脳量子波遮断スーツを着ている。

偶然か。

だが、アレハンドロのような黒幕でないなら何故俺の邪魔をする?

まさかリボンズの差し金か。

 

『お前は一体何者だ!』

『……あんたが1番知ってる筈だろ』

『なに?』

 

何を言ってるんだ、こいつは。

俺が生まれたのはソレスタルビーイングが武力介入を始めた直前から。

そこから人革連軍に入り、失踪し、レナと出会って理想の為に戦った。

その間でアズラエルなんて機体は見たことないし、この声にも聞き覚えはない。

初対面のはずだ。

 

『俺はお前なんて知らない』

『はぁ?そんなわけ――いや、あんた脳量子波を絶ってるのか。クソつまんない玩具なんて着やがって……っ!』

『……ッ。脳量子波を知ってる、お前イノベイドか!』

『ハッ。今更気付いたのかよ』

 

肯定した。

超兵の可能性もあるが、自然と口から出たのはイノベイドだった。

やはりリボンズの差し金か。

俺達の行動はバレているはず、おかしくはない。

正体まではバレてない……と思いたいが、アズラエルのパイロットの口調だと俺を知っていそうだな。

もう少し探りを入れるか。

戦闘は一時中止して構えは解かないまま問い掛ける。

 

『俺が1番知ってるとはどういうことだ?少なくともお前には会ったことはないと思うが……』

『……会ったことがあるかは僕も知らないけど、知ってる筈だ。あんたなら』

『はぁ?』

 

なんだそれ。

自分でも知らないのかよ。

そんなの俺が分かるわけないだろ…。

だが、何処か期待の混じったようなことを言われた。

ここまで確信的に告げられると気になるな。

1つ、思い至ることはある。

今世で会ったことがないなら前世だ。

 

『お前も転生者か……』

『正解。やっとそこに辿り着いたのかよ。頭の回転遅いな、クソがっ』

 

アズラエルのパイロットが悪態をつく。

このガキ、言ってるくれるな。

転生者ってのは礼儀がなってない奴しかいないのかよ……。

 

『それで?何故俺の邪魔をする』

『……別に邪魔をしに来たわけじゃないさ』

『なんだと…?』

 

ならリボンズの差し金じゃないのか?

これはリボンズとは関係のない転生者イノベイドって可能性も出てきた。

待て待て、今は相手の正体よりも何故俺に攻撃を仕掛けてくるかだ。

もしかしたらただの食い違いで、俺を誰かと勘違いしてる線もなくはない。

相互理解は重要だ。

まずは相手の目的を探ろう。

 

『ならなぜ俺を攻撃する?』

『――ははっ』

 

笑った?

一瞬間の空いた、馬鹿にした嘲笑。

僅かに聞こえたそれと同時にアズラエルがGNビームサーベルを捨てる。

 

『そんなの……あんたをぶっ殺すために決まってんだろ!!』

『来るか…っ!』

 

GNバスターソードを拾ってアズラエルのスラスターが噴射した。

さっきより速い!

 

『くっ…!』

『貰った!!来た!!僕の……っ!間合いだぁぁあ!!』

『なっ!?』

 

右下下段からGNバスターソードが放たれ、左のGNビームクローが切り上げられたと思ったら刀身の向きを変えずに右のビームクローも弾かれた。

さらにバスターソードは剣先をそのままプルトーネ ブラックの胸に向ける。

 

『ま、まず――ごはっ!?』

 

予想通り突かれた!

咄嗟に後退したおかげで貫かれるのは阻止したが、バスターソードの衝突で後方の衛星まで突き飛ばされる。

複合装甲を無くした分、ダメージと衝撃が来るなこれ…っ!

前と後ろの両方からの衝撃で正直吐きそうだ。

それでもアズラエルの追撃は止まない。

余裕を与えてくれるなんてこともなく、肉迫してきた。

というか接近時の動きに無駄がない!

間合いに詰めるまでの流れを完全に最適なものに、自分のものにしている……!

 

『速い…っ』

『言っただろ、僕の間合いだって!この距離なら僕は無敵だ!!』

『ぐっ……!』

 

叩きつけられるように振り下ろされたGNバスターソードをGNビームクローを双方重ね合わせて防ぐ。

よし…!

このままビームソードにしてバスターソードを両断する――。

 

『下が薄い!』

『うぐっ……!』

 

空いた懐を蹴り込まれた。

マズい、機体の体勢が……っ!

 

『くっ……!』

『そんな申し訳ない程度の斬撃が、当たるもんか!』

 

本当にその通りな、なけなしに振るったGNビームクロー。

射程が届かず、空を斬った。

対するバスターソードの刀身は顔面に飛んでくる。

プルトーネ ブラックの頭を取られた。

 

『メインモニターが……っ!』

『見えなければ自慢の高機動もお釈迦だな!』

『何故それを……!?』

 

こいつ、俺の塩基配列パターン0000としての能力を知っているのか!?

馬鹿な、その情報はヴェーダにも載ってなかったはず……。

同じ転生者でも知らない筈だ。

 

『知ってるさ。あんたらのことは全て……あんたらよりもなっ!!』

『……っ!』

 

またバスターソードを叩きつけられGNビームクローを重ねて防御する。

しかし、瞬きの間にバスターソードは目の前から消え、下段から振り上げられていた。

 

『なに……っ!?』

『遅いんだよ…!!』

 

プルトーネ ブラックの右腕接続部に一閃が走りGNビームクローと共に片腕を失う。

モニターの故障と近接での立ち回りが速すぎて見えない。

さらにアズラエルは振り切ったバスターソードの刀身の向きを変えず、逆刃のまま腹の部分でプルトーネ ブラックを殴打してくる。

 

『ぐっ……!』

 

左肩に強い打撃を受けて衝撃が俺の身体に走った。

だが、アズラエルは追撃を止めない。

そのまま一閃。

返しでプルトーネ ブラックの左腕も奪った。

 

『しまった!武装が……っ』

『そんなもんかよ!』

『……っ』

 

追い討ちといわんばかりのバスターソードが降ってくる。

武装はない。

だが、まだやりようはある…!

 

『舐めるな!』

 

数ミリにまで迫ったバスターソードを予備動作なしで避け、アズラエルの腹部を狙った膝蹴りを放つ。

 

『ハッ、そう簡単に行くかよ』

『なに…!?』

 

脚部のスラスターを噴射したアズラエルの足先から突如GNビームサーベルが出現した。

それを蹴り上げて俺の脚が奪われる。

ここまで隠し武器を温存してたのか……!

 

『クソ…!』

『終わりだ、あんたは死ぬ!』

『そうはいくか…!』

『いくさ。お前らに僕は殺されたんだ!!その復讐を…!』

『なんだと…?』

 

何の話だ?

前世の話だとしても橘の一家の中で誰からも殺人経験があるなんて聞いたことがない。

交通事故だって覚えがないくらいだ。

本当に、こいつが何を言ってるのか理解できない。

 

『だから、今度は僕があんたを殺す!世界なんてどうでもいい、あんたらを殺せさえすれば…!』

『ぐ…っ!』

 

GNバスターソードがプルトーネ ブラックに残された最後の脚を切断し、四肢を奪われたプルトーネ ブラックが宇宙(そら)に流れる。

最後に右眼に激痛が走って片目を瞑った俺に、残された左の瞳が振り上げられたアズラエルの脚部を捉えた。

そして――。

 

『僕が唯一の()()()()だ……っ!!』

『ぐあああああっ!?』

 

爪先から伸びるGNビームサーベルがプルトーネ ブラックを両断した。

機体は爆散し、プルトーネ ブラックは宇宙の塵となって消える。

しかし、爆炎からは被弾したコア・ファイターがアズラエルに背を向けて飛び出した。

かろうじて脱出できたが……。

 

『かはっ……!』

 

コア・ファイターで逃げながら血反吐を吐く。

ヘルメットのバイザーが鮮血で汚れ、元々負傷していた右腕が激しく痛む。

血の涙腺すら伝う右眼を瞑り、右腕を抑えつつコア・ファイターで必死に操縦した。

黒煙でコア・ファイターの姿はアズラエルから見えない。

逃げるなら今しかない……!

 

『うぐっ!?』

 

突然衝撃がコクピットを襲った。

どうやら衛星に衝突したらしい。

コア・ファイターがめり込んで動かなくなった。

だが、レーダーに映るアズラエルの座標も静止している。

それにこの距離なら見つからない可能性も……。

 

『意、識…が……』

 

視界が朦朧とする。

限界か…。

 

『せめて……太陽炉を…』

 

そうだ、プルトーネ ブラックの擬似太陽炉はレナの作ったGNドライヴ。

擬似太陽炉でありながらヴェーダに追跡されない貴重なものだ。

例え俺の命がここで尽きるとしてもレナやレオに託すことができる……。

まだ、諦めるわけには――いかない。

 

『これで、ようやく……』

 

擬似太陽炉を射出して脱力する。

やっと楽になれる…。

でも、この結果はレナの期待を裏切ったことになる。

戦いを止めると決意したのに……。

結局、戦場には辿り着かず、作戦プランを何一つ達成できなかった……。

 

『ごめん、レナ……』

 

届かないと分かっていても謝る。

折角、理想を共に目指してくれたというのに。

俺はこんなところで……。

 

『ほ―とに――た。リボ――の言う――ね、―ヴァ―ヴ』

『あぁ――、さっそ――れて―――。彼は――立派な――――ターだ』

 

落ちゆく意識の中で妙に透き通る声が耳に入る。

徐々に歪みの強くなる視界。

その中で黒い影を二つ捉えていた。

俺は――その2人に手を伸ばし、力尽きるように意識を落とした。




MS紹介
・ガンダムプロトアズラエル

パイロット:レン・デスペア
開発組織︰イノベイド?
主動力︰GNドライヴ[Τ]
装備︰GNバスターソード×1、GNビームサーベル×3、GNファング×2
詳細:レイの前に突如現れた擬似太陽炉搭載型のガンダム。武装は少なく、未だ開発途中の機体。本来は第4世代ガンダムと同時期の完成を予定している。レイのガンダムプルトーネ ブラックとの戦いで右腕を失ったが、それ以降は苦戦する様子を見せずに勝利する。

人物紹介
ㅇレン・デスペア

塩基配列パターン0000の転生者イノベイド。髪は黒髪で、レイやレナと同タイプだと目視と脳量子波で判断できる。相手を見下した口調で話し、戦闘時は突然感情が昂ぶるなど情緒不安定な面も持ち合わせている。レイの前世を知るようだが、当の本人は最後まで心当たりを見つけられず、レンの手によって倒される。セカンドネームが『デスペア』なこともあり、関係性があると思われるが真相は闇の中――。


⚪︎後書き
正直訳わかんない最終決戦だと感じた読者様もいると思います。
ただ、このレン・デスペアは重要で、サブタイの通り『ラスト・デスペア』です。
レンが一体何者なのか、それは塩基配列パターン0000の真相と共に2ndで語られていきます。
突然過激になる行動と言動の意味、それは2ndで明かされるレンのことを知ればこの回の戦闘シーンの感じ方も変わるかと。
今後の展開をお楽しみください。
ちなみに最終決戦、1stのラスボスはこの回でもVSネルシェンでもVSアレハンドロでも捉え方はそれぞれで変えて頂いて構いません。
これからもよろしくお願いします。


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世界を導く者

登録番号04361-AZ734、人間名レイ・デスペア。

新たなミッションへ移行。

必要データのダウンロード……九十%完了。

接続中……。

リボンズからの進呈をヴェーダが肯定。

ヴェーダによる命令が下された。

 

俺――レイ・デスペアは――。

 

 

「……」

 

意識が戻り、瞳を開く。

すると視界には白さの目立つ一室が映った。

赤い長椅子の上に俺は座っている。

 

「やあ、目が覚めたかい?」

「リボンズ・アルマーク……」

 

目の前で優雅に腰掛ける美少年の容貌が俺と目を合わせた。

リボンズ・アルマーク。

イノベイドでありながら、その存在を超越し、イノベイターとなった存在。

 

「そう。そして、君は僕らの為に働いてもらうよ」

「……脳量子波か」

 

思考を読まれた。

当然だな。

もう遮断スーツは身にまとっていない。

リボンズの双眼が金色に輝き、恐らく俺も同じ。

なんら不思議はない。

 

「どうやって俺を回収した?それにこの身体は……」

 

自身の肉体を見下ろす。

右腕の負傷も右眼の傷もまるで元からなかったかのように修復されている。

それも気になるが、何故俺はここに居るのか。

最も尋ねたいことだ。

『あの戦い』の後、俺は宇宙(そら)に流れた。

 

「ボディに関してはそれしか持ち合わせがなくてね、不満かい?」

「いや……」

 

先にどうでもいい方を答えてくれる。

大方『ヴェーダ』にサブボディを要求したのだろう。

前の身体は傷が酷かったからな。

ま、その結果リボンズも予想してなかった肉体を寄越されたらしいが。

下半身に違和感があるのはそのせいか。

何をもって『ヴェーダ』が判断したのか全く理解できんな。

まあそれはいい。

肝心なのはもうひとつの疑問だ。

それに関してもリボンズはきちんと教えてくれた。

 

「君を激戦の中、回収してくれたのはヒリングとリヴァイヴさ」

「は~い。久しぶりね、レイ」

「まさか生きていたとはね」

 

リボンズが二人の名前を出すと背後から本人達が現れた。

相変わらずの態度だ。

そういや最後に会ってから半年にはなるか…。

 

「あぁ、久しぶりだな」

「んっ」

「君も相変わらずだね」

 

ヒリングは俺の肩を軽く叩いてリボンズの隣へ、リヴァイヴはやれやれとでも言いたげな様子で俺の隣に腰を下ろした。

だが、二人ともすぐに俺に鋭い視線を向ける。

 

「……なんだ、不満か?」

 

何が、とは言わない。

俺を回収したということは少なくとも俺がどこにいたのかは知っている筈だ。

それにトリニティの行動もずっと監視していたと見ていいだろう。

彼らに協力する謎のパイロットもな。

そのことに関して尋ねるとヒリングが真っ先に剣呑を解いて微笑んできた。

 

「あたしは結構面白かったわよ?……あのアレハンドロとかいうやつ、リボンズにベタベタ触ってて気に入らなかったし」

「やめろ」

「あんっ」

 

俺に近寄り、鼻を人差し指で突いてきたので払う。

ちなみにセリフの後半は俺にこっそりと告げてきた。

多分本人に聞こえてると思うけどな。

アレハンドロはあいつの『お気に入りの人間』だったし、後がどうなっても俺は知らないぞ。

 

「君と行動していたあの『翼持ち』のパイロットは何者だい?」

「それに関しては答えられない」

「なに…?」

 

リヴァイヴの質問を断ると当然疑った目を向けられる。

そう、何故か思い出せない。

『翼持ち』のパイロットが誰なのかは知ってる。

だが、何か重要なことが抜け落ちている()()()

()んだ。

同タイプのイノベイドの少女、そして名前。

素性はわかってる筈なのに何故か足りないような感覚に襲われる。

俺はもっと彼女のことを知っているような……。

あぁ、そもそも中性であるマイスタータイプを『少女』と表現しているのが自分自身でも謎だ。

なんとなく俺の記憶の中から何かが抜け落ちている。

とにかくリヴァイヴに言えることは限られているな。

 

「思い出せないんだ。悪いな」

「……なるほど」

 

淡々と伝えるとリヴァイヴは信じていないようだが、身を引いた。

だが、真実なのだから仕方ない。

ハッキリ知ってる筈なのに情報が足りない気がするんだ。

こんな不確定な情報を与えて混乱させるわけにもいくまい。

二人を退けたのち、俺は再度リボンズに目を向ける。

さて、本当に説得しなきゃいけないのはこいつだ。

 

「俺はトリニティの在り方に納得出来なかっただけだ。だから、行動を起こした。しかし、『ヴェーダ』からの指示には従おう」

「それはつまり、君も僕らの一員として戦ってくれるという意味合いでいいかい?」

 

イノベイドに囲まれてる状況でノーとは言えないだろ。

切り替えが早いと言っていいのか分からないが、懐に放り込まれたからにはそれなりの対応はする。

今はリボンズに従うのが吉だ。

仕方ない。

 

「あぁ。だが、1つ疑問がある」

「疑問……?」

 

リボンズの反復に俺は頷く。

俺は以前リボンズに言われた。

まだ未熟なマイスタータイプなのだと。

その能力を真に発揮するために戦争へと投入され、経験を積んだ。

しかし、俺は途中で退場した身。

条件を満たしているとは思えない。

一体どういう心境の変化で俺を他のマイスタータイプと同列に並べ始めたんだ?

 

「俺はまだ未熟じゃなかったのか?」

「あぁ、なんだ。そんなこと……」

 

リボンズが微笑を漏らす。

この様子だと返答は予想できるな。

 

「君はもう充分成長したさ。MSの操縦技術も、心もね。なんなら試してみるかい?」

「……いや、止めとくよ」

 

ヒリングの目が一瞬輝いたのを見逃さなかった。

なんで起きて早々ヒリングにボコられなきゃならない。

却下だ、却下。

まあそれはともかく、大体状況は理解した。

少なくとも過去のことは水に流してリボンズは俺のことを仲間と認めてくれるようだ。

そして、いつか話していた『来るべき時代』に恐らく投入される。

それも『ヴェーダ』からの指示によるとかなり早い時期から、連邦軍に送り込まれるようだ。

 

「いいのか?俺を信頼して……」

「何を今更。君はもうそれに値するだけの存在となったんだよ」

「それは、光栄だな」

 

賛辞を適当に流し、リヴァイヴとヒリングを見遣る。

どちらも笑みを浮かべながら俺を見つめている――こいつらと、本物のマイスタータイプと俺は肩を並べることができた。

1年前なら考えられないことだな。

ちょっと嬉しいのは本音だ。

 

そういえば国連軍とソレスタルビーイングの戦いはどうなったんだ?

急に気になってきたな……。

何しろ、あれを止めようとしたわけだしな。

トリニティのように誰にも死んで欲しくなくて…。

だが、俺は戦闘宙域に辿り着くまでもなく倒されてしまった。

その後のことがどうしても気掛かりだ。

 

「ソレスタルビーイングは壊滅したよ」

「……っ!」

 

思考を読んだのか突如リボンズが告げた。

それと同時に隠れていたイノベイドが、ブリング、デヴァインの二人も姿を現す。

 

「いずれ各国家群が地球連邦として1つに纏まることになる。そして、その頂点に立つ者こそが僕達。いや、導くと言った方がいいかな?」

「ソレスタルビーイングによって破壊された世界は再生を始める」

「人類の変革ってやつね」

「その為の重要な使命を私達は担っている」

 

リヴァイヴを始めに口々に計画を口にする。

イオリアのプランに沿った忠実なイノベイドによる計画。

そして、俺もその為に戦わなければならない。

だからこそ新たなボディが与えられたんだ。

この肉体は計画のために存在している。

 

「始まるよ、人類の未来が」

 

瞳に輝きを宿らせるリボンズ。

イノベイターを背に宣言する。

ソレスタルビーイングが壊滅した今、後はイオリアの計画を俺達の手で遂行するだけだ。

そうだ、俺たちはその為に生み出された。

そして、その未来を導く者。

それは――。

 

「俺が、いや……」

 

 

 

 

「俺達がイノベイターだ」

 

 

俺の瞳も金色に輝き、世界を見下ろす。

そして、再生が始まった。




エピローグ:イオリアが求めたもの、それは――

リジェネ・レジェッタは俗にいうリボンズ・アルマーク率いるイノベイド勢力には属さないとあるイノベイドへと会いに来ていた。
そのイノベイドは《デスペア》の名を持つ者。

「新たな情報、お気に召しました?」
「独立治安維持部隊アロウズ……ね。ハッ、リボンズが考えそうなことじゃん」
「まあ…言いたいことは分かりますよ」

レンズを押し上げ、表情を隠すリジェネにデスペアは目を細めながら振り向く。
胡散臭いとでも思われてるのだろう、とリジェネは内心苦笑い混じりに感じた。

「とにかく興味ないね。大体あんたらが何をしようと僕には関係ないし」
「ですが、あなたの兄も――」
「あんなのは兄じゃない!!」

リジェネの言葉を遮り、怒鳴り声が響く。
勢いよく立ち上がった()に。
感情的になるのを珍しく目にしたリジェネは驚愕した。

「……何かありました?」
「ふん…。あいつにとって僕は記憶にも留まらないどうでもいい存在なんだ。だったら僕も、あんなやつ……」
「失礼、地雷だとは知らなかった」
「……」

謝るリジェネ。
心のこもってない謝罪にデスペアは舌打ちしてそっぽを向く。
その目線の先には広い宇宙(そら)が星を輝かせていた。

「僕は、生きる。イオリア・シュヘンベルグの与えたこの命で。その為にあいつらを殺る必要がある。もはやそれ以外の期待なんて抱いてない」
「なるほど…。まあ今後は触れないように気をつけるよ。ところで、君は僕達に協力する気はないのかい?」
「またそれか。ハッ、あんただってリボンズの寝首をいつ搔こうか機を窺ってる癖によく言うよ」
「……」
「失礼。地雷とは知らなかったよ」

してやったりといった表情で嘲笑され、リジェネの感情も揺れる。
表情に出さないよう必死にレンズに光を反射させて顔を伏せているがデスペアは全てを見抜いている。
何をしても無駄だろう。
そして、気に触ったのかデスペアは色彩に輝く瞳でリジェネを見下すように見下ろした。

「たかがイノベイド如きに僕の力を貸す?笑わせんな。あんたらとは違う、僕らはイオリアに最も求められた存在なんだ」
「上位種だとでもいう言う気かい…?」
「そう言ったのさ。いくら僕に近付こうが無駄だよ。あんたらただのイノベイドは僕らのようにはなれない」

視線を落としているリジェネがピクリと反応する。
それを目にしてデスペアはさらに嘲笑を浮かべた。
さらに続ける。

「塩基配列パターン0000だけがイオリアの求めたものに唯一なれる。例え僕らと同じ遺伝子を用いようとあんたらが使えばナオヤ・ヒンダレスのような失敗作しかできないことがそれを証明している筈だ」

リジェネが悔しそうに苦虫を噛み潰したような表情をする中、デスペアは続ける。
より優越感を身にまとって。

「最後に残ったデスペアだけが選ばれる。そうさ、僕がなるんだ……!」

色彩の輝きにより強みが増す。
まるで、命を宿すが如く。
レン・デスペアはその存在を口にした。

混成種(ハイブリッド)のイノベイターに!」


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登場人物&MS紹介【オリジナル編】

2ndに移る前にこれまでに登場したオリキャラやオリジナルのMS、武装についての解説を修正版で総集します。
あと用語解説もあります。


⚪︎用語解説

 

・塩基配列パターン0000

イオリア・シュヘンベルグが量子演算システム『ヴェーダ』を用いて作成した人造人間イノベイドを利用した転生者システム。平行世界の住人を、用意した塩基配列パターン0000専用のイノベイボディに移すことで転生を可能とする。ただし、基本的に計画、研究された段階では完全な塩基配列パターン0000以外の塩基配列パターンで作り出した肉体では転生者用のボディとしての条件は満たせない。

主にレイ・デスペア、レナ・デスペア、レン・デスペアの成功例が存在していて、彼らはマイスタータイプとしての能力が半分失われている代わりに、特殊能力タイプのような能力をマイスタータイプ用にカスタマイズされたものを肉体に有している。

これは完全な肉体を作り出せなかったイオリア・シュヘンベルグが補うために取り入れたものだと思われる。

また、塩基配列パターン0000イノベイドは髪色が黒くなるのが特徴で、ナオヤ・ヒンダレス以外は黒髪である。

 

・転生者イノベイド

リ◼◼◼によって◼◼され◼平行◼◼の◼◼。◼◼の◼◼◼◼◼の◼◼◼列◼◼◼ンに◼◼リ◼の遺伝子◼合成し◼できる◼◼全な◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼イノベイ◼。◼◼が変◼してし◼う◼が特徴。

 

・Zero Mode System

レイとレナが能力を最大発揮した際に、色彩に輝く瞳をMS内の端末が読み取ることで文字が表示され、発動する。

塩基配列パターン0000の能力を機体に最大限反映させるもので、レナが構築したシステム。

故にレナがシステムを組み込んだ機体でしか発動しないが、本人の意思で本人の肉体を覚醒させる分には必要としない。

その代わり、操るMSは対応していない機体なので能力の半分程しか発揮できない。

余談だが、ウイングガンダムゼロカスタムに搭載されたゼロシステムのオマージュでもある。

 

・ゼロモード

塩基配列パターン0000の特殊能力。

体内のナノマシンを本来使われる細胞や負担と肩代わりすることで使用者の潜在能力を特化的に強化する。

レイは、体内のナノマシンを消費することで肉体を強化し、コクピット内での負担をゼロにし、MSを用いての驚異的な機動力を発揮する。いわゆる『高機動』で、基本的に予備動作は全てカットできる。

ただし、能力を発動するには強烈な『想い』が引き金(トリガー)となる。

レナは、体内のナノマシンを消費することで脳細胞の消費を肩代わりし、限界を超えた思考域へと至ることが可能になる。自前の高速演算能力に計算の幅を数倍化し、『超長距離射撃』という形で発揮する。

2000km以上離れていようと目標を撃ち抜くことが可能で、さらには絶対に回避不可な必中狙撃も可能とする。

ただし、能力を発動するには極限の『集中』が引き金(トリガー)となる。

 

混成種(ハイブリッド)のイノベイター

レン・デスペアが口にした謎の単語。

 

 

⚪︎登場人物紹介

 

名前:レイ・デスペア/(たちばな) 深也(しんや)

性別:中性→男

種族:イノベイド(塩基配列パターン0000転生者)

年齢:1歳→2歳(22歳→23歳)

身長:175cm

体重:56kg

所属:イノベイド勢力→人革連→チーム・デスペア→チーム・デスペア&トリニティ→チーム・デスペア→イノベイド勢力

役職・称号など:少尉→中尉、ガンダムマイスター

主な搭乗機:ティエレン宇宙型→ティエレンチーツー(レイ・デスペア改良型)→ガンダムプルトーネ ブラック→ガンダムアヴァランチアストレアTYPE-Fブラックダッシュ→ガンダムプルトーネ ブラック→ガンダムアストレアTYPE-Fブラック→ガンダムプルトーネ ブラック 短期決戦型(最終決戦仕様)

詳細:主人公。アニメ『機動戦士ガンダム00』が放送された異世界から塩基配列パターン0000のイノベイボディを用いてやってきた転生者。いわゆる転生モノと言われる作風は好きだが、転生そのものへの憧れはなく、実際に転生された当初は常に頭を抱えていた。世界の隅っこで世界を鑑賞することを願ったが、虚しくイノベイドとして転生して意気消沈。彼には監視者が適任だったと考える人も少なくないかもしれない。リボンズ・アルマークによって人革連軍に送られ、軍人となったレイは本来の原作の流れに介入することを嫌い、極力物語には干渉しなかったが、見て見ぬふりをできない他人を見捨てることのできない性格から同僚であるソーマ・ピーリスに度々情を注いだり、人革連のガンダム鹵獲作戦を機にテレビには映らないであろう仲間の死を嘆くようになる。そこから仲間を守るために戦うことを決意したが、三国家群による合同軍事演習にてガンダムスローネ ツヴァイの攻撃を受けて(書類上)戦死。死の間際にソーマへの好意に気付き、幻覚と勘違いしたまま本人に想いを告げてティエレンチーツーと共に爆炎に呑まれた。

しかし、もう一人の塩基配列パターン0000イノベイドであるレナ・デスペアに救われ、レナ=(たちばな) 深雪(みゆき)だと判明した後再会に涙を流した。

結果的に人革連の軍人としては戦線離脱したレイだが、ユニオンのアイリス社軍需工場での人命救助を機に犠牲のない恒久和平を目的とした改変活動を決意する。

それからは機動兵器ガンダムを駆り、一度は敵対したチーム・トリニティや絹江・クロスロードを救い、トリニティと共にアレハンドロ・コーナーやリボンズ・アルマークを敵に戦った。

トリニティは運命に抗い、自由を得ることを。

デスペアは犠牲のない恒久和平を望んでいたが、アレハンドロ・コーナーを倒した後にトリニティがネルシェン・グットマンの手によって殺される。

怒りすらねじ伏せられ、悲しみにくれ、弱気になったレイだったが絹江・クロスロードによる叱責を受けて立ち直り、レナと共に奪い合いのない世界を目指して再び立ち上がった。

奪い合いの連鎖を断ち切るために奮闘したレイは遂に目的の戦闘宙域に辿り着くことなく、ガンダムプロトアズラエルに倒され、再度イノベイド勢力に戻る。

 

人類を導く『イノベイター』としてまた戦いに身を落とすレイだが、彼の前世の記憶は――。

 

 

名前:レナ・デスペア/橘 深雪

性別:中性

種族:イノベイド(塩基配列パターン0000転生者)

年齢:11歳(??歳)

身長:160cm

体重:49kg

スリーサイズ︰B88/W57/H89

所属:チーム・デスペア→チーム・デスペア&トリニティ→チーム・デスペア

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムサハクエル→ガンダムサダルスードTYPE-Fブラック→ガンダムサハクエル

詳細:1st season後半のメインヒロイン。奪い合いを止めるために戦い、人を決して故意的に殺めない優しい性格の持ち主。兄のことを心の底から尊敬して、愛している。好物は珈琲と兄で、特技は料理と射撃。レイにとって前世の実妹で、本来の名前は橘 深雪。高校生の時、テロに巻き込まれて死亡し、『機動戦士ガンダム00』の世界へと塩基配列パターン0000のイノベイボディを用いて転生した。生まれてすぐに月から地球へと宇宙船(スペースシップ)に乗って落下し、命の危機を(ワン)紅龍(ホンロン)によって救われたことから擬似太陽炉と機動兵器ガンダムの作成を目指すようになる。MS工学など必要な知識は独学で学び、擬似太陽炉が完成。その後、ソレスタルビーイングと関わり、ガンダムサハクエルを完成させた。同時にレナはオリジナル太陽炉と自身の作った擬似太陽炉との違いを一瞬で見抜き、TRANS-AM Systemの可能性に気付く。しかし、ガンダムサハクエルでの初トランザム発動で人(というかイノベイド)を殺めてしまい、精神的ショックを受けてトランザムを封印。

辛い心境のまま月日が流れ、実兄である橘 深也ことレイと再会する。

それまでもレイを何度か助け、『決闘』の際はナオヤ達の卑怯さに嵌められたレイ(この時は共鳴する何か)を想って、動かないイナクトのシステムを遠隔操作でハッキングして起こしたり、ナオヤ一派のイナクトを淘汰した。

レイと再会したあとは、レイと真剣に話し合い、これから何を為すのか、何を望むのかをレイに問い掛けた。その結果、犠牲のない恒久和平の為に戦うことになり、兄の理想を叶える為に尽力する。

しかし、自身を想ってくれたミハエル・トリニティが殺されたのを見て奪い合いの連鎖を否定するようになり、その後ソーマ・ピーリスと出会って奪い合いのない世界を望むようになった。

連鎖を無くすために生み出すネルシェンを倒そうとしたが、ネルシェンを倒すことはナオヤから未来を奪うのではないかと戦闘中に悩み、戸惑ったが既にネルシェンがナオヤから奪っているのだと気付き、決意のトランザムを発動させる。

トランザムで緋色に輝くサハクエルでネルシェンを倒すことには成功したが、直後、擬似太陽炉が焼き切れてオーバーヒートしたところにガンダムスローネ ツヴァイを駆るアリー・アル・サーシェスに襲撃され、消息は不明。

過去にソレスタルビーイングでガンダムマイスターのスカウト担当をしていた第三世代GN-XXXガンダムラジエルのマイスターであるグラーべ・ヴィオレントや第二世代ガンダムサダルスード、第三世代ガンダムアルテミーのマイスターであるガンダムマイスター874(ハナヨ)、同タイプのイノベイドである887(ハヤナ)にGNセファーのパイロットであったヒクサー・フェルミなどと関わりがあるような言動もある。

 

 

名前:ナオヤ・ヒンダレス

性別:男

種族:イノベイド(塩基配列パターン0000?転生者)

年齢:1歳→2歳(??歳)

身長:184cm

体重:58kg

所属:イノベイド勢力→AEU→国連軍

役職・称号など:大尉

主な搭乗機:イナクト 指揮官型→アグリッサ→アドヴァンスドジンクス

詳細:主人公レイ・デスペアと同じ転生者で、イノベイドとして転生した者。金髪のモテ男で、レイと同タイプだとリボンズは口にしていたが、髪色が金色と違う。AEU軍所属でイナクト 指揮官型やアグリッサ、国連軍ではアドヴァンスドジンクスを操縦するMSパイロット。実力で大尉まで登り詰めたと自称するが真相はネルシェン・グットマンが自身の功績を上層部を脅してナオヤへと与えてきた為に偽装の上で成り立った階級。女好きでいつも周りに女性を囲んでいる。

転生者ということは塩基配列パターン0000イノベイドだと思われていたが、レイに手も足も出ず負けたり、能力らしい能力を発動しなかったり、潜在能力が低過ぎることからレナにさえ首を傾げられていたが本人はそのことを当然知らない。

ネルシェンの言うがままに従った結果、ミハエル・トリニティを殺してレイとレナの逆鱗に触れる。

最終決戦ではレイに対して「この世界の人間は皆NPCだ」とゲーム脳全開のセリフをぶちかまし、レイに初めて本気を出させて蹂躙され、宇宙へと流れた。

上記の通り、ゲーム思考が強く、本来はRPGやファンタジーを好むゲーマーだったと予想され、『機動戦士ガンダム00』に関してはリアルタイムでアニメを見ていただけなのか知識が薄い。10年も前の作品なので仕方ないには仕方ない。

 

 

 

名前:ネルシェン・グットマン

性別:女

種族:人間

年齢:21歳

身長:172cm

体重:54kg

スリーサイズ:B78/W59/H82

血液型:A型

星座:獅子座

所属:AEU→国連軍

役職・称号など:准尉

主な搭乗機:イナクト→アドヴァンスドジンクス→ガンダムスローネ アイン

詳細:AEU本来のエースパイロット。模擬戦の勝利数はパトリックに劣るもののこれまで掲げてきた戦果の数は比較にならない。ユニオンのトップガンと同じく、機体の性能が全てではないという思考の持ち主で、アドヴァンスドジンクスを断った際も特に未練はなかった。寧ろイナクトだろうとヘリオンだろうと搭乗できる機体があるならそれでいいと思っている。あるいはそれで充分。

入隊した頃はヘリオン、ソレスタルビーイングの武力介入後はイナクト、国連軍結成後はアドヴァンスドジンクスと常に最新型を与えられている模様。

後に独立治安維持部隊アロウズのNo.2となるアーサー・グッドマンの姪で、幼い頃に両親を亡くしたネルシェンは彼に引き取られた。故にアーサーに多少は恩があると感じているようだが、ソレスタルビーイングの武力介入から国連軍時代は連絡を取っていない。

その原因にもなっているのがナオヤ・ヒンダレス大尉で、塩基配列パターン0000(?)イノベイド転生者である彼に出会うと同時にネルシェンの人生は変わった。

一匹狼だったネルシェンにしつこく声を掛けてきたナオヤに、最初こそ鬱陶しかったものの自分に構ってくれる優しい男と感じ、惚れてしまう。

結果、ネルシェンの階級は准尉、本来なら功績を上げ、大尉になるはずだったが偽装、合法的なあらゆる手段を用いて自らの功績と階級をナオヤに与えるという狂信的な態度を取るようになった。

現に彼によって人生が狂わされたと言っても過言ではなく、本来の流れならばネルシェンは准尉に昇格した時点で軍人を辞めていたのだった。

そうしたナオヤへの依存がアーサーとの音信不通にも繋がっている。

操縦スタイルはグラハムのようなG無視変態機動に、サーシェスのような潜在能力、そしてフォンに及ぶか否かという程度に戦闘時には頭が切れるため脅威的な操縦技術を持つ。

ネルシェンの操るMSを見て、ある軍人が「まるで人そのもののようだ」「悪夢だ」と言った。

 

 

 

名前:マイン

性別:女

種族:人間

年齢:23歳

身長:165cm

体重:53kg

血液型:A型

所属:AEU→イノベイド勢力

役職・称号など:准尉

主な搭乗機:イナクト→アグリッサ→ガンダムスローネ ドライ

詳細:ナオヤ一派の1人で、レイとナオヤの決闘の際にレイのイナクトだけ操作不可能な仕様にするなど基本的に狡猾な女。最初はナオヤの顔に擦り寄るが、時期に性格と手癖の悪さ、見た目より経験の少ないお子ちゃまなことに気付き、切り捨てようとするがイノベイターの存在に勘づいてしまう。いずれイノベイターが支配する世界が訪れ、旧人類は用済みとされることに怯え、ナオヤを利用してイノベイターにコンタクトを取るようになる。

結果、利用されたことに気付かかず、イノベイターが自身に頼ったと思い、ガンダムスローネ ドライを駆るが、レナのガンダムサハクエルに完膚なきまでに淘汰される。

それからは泣き寝入りというかなんというか戦いが怖くなって実家のおばあちゃん家に帰った。

 

 

 

名前:シャルロット

性別:女

種族:人間

年齢:24歳

身長:162cm

体重:49kg

所属:AEU

役職・称号など:一等兵

主な搭乗機:アグリッサ

詳細:とある資産家の娘で、彼女の父親による軍人を招待したパーティでナオヤを見掛けて一目惚れ。父親に懇願して軍隊に入れてもらうものの訓練はきつく、苦しんで泣いていたところでナオヤと再会する。それからは父親の力で上司の指示を無くし、ナオヤと共に行動するようになるが、マインの裏切りによって、『パイロットが多過ぎる』という理由でアリー・アル・サーシェスによって射殺される。

後にレイによって弔われることになるが、当然彼女は知らない。

 

 

 

名前:レン・デスペア

性別:中性

種族:イノベイド(塩基配列パターン0000転生者)

年齢:??歳

身長:170cm

体重:50kg

所属:???

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムプロトアズラエル

詳細:塩基配列パターン0000の転生者イノベイド。髪は黒髪で、レイやレナと同タイプだと目視と脳量子波で判断できる。相手を見下した口調で話し、戦闘時は突然感情が昂ぶるなど情緒不安定な面も持ち合わせている。レイの前世を知るようだが、当の本人は最後まで心当たりを見つけられず、レンの手によって倒される。セカンドネームが『デスペア』なこともあり、関係性があると思われるが真相は闇の中――。

 

 

名前:由紀(ユキ)・シイナ

性別:女

種族:人間

年齢:18歳

身長:158cm

体重:42kg

所属:人革連

役職・称号など:二等兵(外伝)→准尉

主な搭乗機:ファントン(外伝)→ティエレン高機動B型→ジンクス

詳細:外伝『人革連GIRLS』の主人公。人類革新連盟軍のMSパイロットで、ガンダム鹵獲作戦にて激減した人員を補充するためとはいえ、対ガンダム特設部隊である『頂武』に選ばれるほどには優秀な成績を有している。天然バカな性格で、よくリンユーを困らせる。しかし、レイの死にショックを受けて暴走するソーマを心配したり、制止したりと仲間を想う場面が本編でもある。実はソーマの友達第1号。

 

 

 

名前:()・リンユー

性別:女

種族:人間

年齢:20歳

身長:180cm

体重:52kg

血液型:A型

所属:人革連

役職・称号など:二等兵(外伝)→准尉

主な搭乗機:ファントン(外伝)→ティエレン高機動B型→ジンクス

詳細:外伝『人革連GIRLS』の主人公。人類革新連盟軍のパイロットで、シイナと同じく補充要員とはいえ、『頂武』に選ばれるほどの実力を有している。シイナに振り回される日々を送っており、ソーマの友達第2号。

太陽光発電紛争で両親と姉を亡くし、軍人へと志願した。高身長であることがコンプレックスで、特技は対人戦。基本的に馴れ合うのは苦手であまり他人との関係を持とうとしない一匹狼な性格の持ち主。

リンユーの姉はMSJ-4ファントンを駆るMS小隊の部隊長であったが、廃墟に身を潜めるAEUの部隊を追い詰め、降参を呼び掛けたところに背後から仲間の銃弾を浴びて死亡した。しかし、裏切った仲間もその場で自殺してしまったがために仇討ちは取れないという歯痒い思いをリンユーは抱いている。

実はその姉があの場で殺されさえしなければガンダムエクシアのパイロットとしてスカウト担当のグラーベ・ヴィオレントによって勧誘されていたことをリンユー本人は知らない。

 

 

 

 

⚪︎オリジナルMS、武装紹介

 

・ティエレンチーツー レイ・デスペア改良型

分類:汎用モビルスーツ

装甲材質:Eカーボン

頭頂高:18.9m

本体重量:129.6t

主動力:不明

出力:不明

開発組織:人類革新連盟

主なパイロット:レイ・デスペア

特殊機能:分離……両肩のプロペラントタンクを任意にパージできる。

武装:500mm多段階加速砲……本機の主兵装で、右の脇下に装備された試作武器。腰部から伸びるアームで保持されている。砲身の後部には液体推進剤の入った小型タンクがあり、そこから推進剤を補助薬室に注入して発射する。その際、砲弾を多段階に加速させる事で威力と弾速が飛躍的に高まる。しかし、装弾数は5発しかない為、多用は出来ない。

ELSとの戦闘にも有効に機能し、その威力と弾速で相手を細かく砕いて機能を停止させている。

30mm機銃……左胸に内蔵されている。対空、対人用として使用される。

詳細:人類革新連盟が開発したモビルスーツ。正式名称は「ティエレン全領域対応試作型」。

ティエレンタオツーやティエレン全領域対応型のプロトタイプに当たる機体で、装備の換装無しで宇宙・地上の両方での運用が可能。ただし、全領域対応型のように単独飛行する事は出来ない。

大型化した両肩にはスラスターが3基設置され、プロペラントタンクも搭載されている。

元々はデルフィーヌ・べデリアとレナード・ファインズの乗っていた機体のため、コクピットは複座式になっていたがレイ専用に単座に変更された。後部座席は従来型を採用、前部座席は全周囲モニターが採用していたが、単座に変更したため、全周囲モニターだけが採用された。

ティエレンチーツー自体はデータがタオツーへとフィードバックされている。

 

 

・ガンダムサハクエル

分類:可変モビルスーツ(第3.5世代ガンダムにあたる)

全高:16.7m

本体重量:8.0t

ジェネレーター出力:3,732kW

スラスター総推力:88,150kg

主動力:GNドライヴ[Τ]

出力:不明

開発組織:(ワン)

パイロット:レナ・デスペア

特殊機能:Zero Mode System

変形……飛行形態へ変形可能。

武装:マシンキャノン……頭部に内蔵された4銃身式のバルカン砲。

GNバスターライフル……ツインバスターライフルを分割して片方のライフルのみで攻撃。

GNツインバスターライフル……バスターライフルを2門直結させたサハクエル最強の武器。

GNビームサーベル……両肩に2本マウントされている。

ウイングバインダー……シールドとして機能する主翼。平常時はこのウイングバインダーの裏側にツインバスターライフルが分割された状態で収納されている。また、空気抵抗を利用した高機動や座標の固定の補助にもなる。これにより、一定重力下で『超長距離射撃』が可能。

GNガンバレル……本体に4基設置された特殊兵装。切り離して遠隔操作する事で、それぞれが全く別の動きを行う。これにより、本機のみでの包囲攻撃、または多数の敵機と渡り合う事を可能としている。内蔵された2門の機関砲の威力は高くないが、それらを熟練パイロットがフルに活用して集中砲火すれば、MSを充分に撃破する事が可能。元ネタはメビウス・ゼロの有線誘導式ガンバレルだが、本家と違い、粒子ビームを砲口から放つことが可能。また、GNマイクロミサイルが16基搭載されている。

ちなみにGNガンバレルは物語の後半で新装備として追加されたが、原案はレイの『機動戦士ガンダムSEED』の知識から来ている。他にもレナは聞き出しているようで、今後の開発に考案されている。

詳細:第二世代ガンダム・サダルスードとアブルホールのデータを元にレナが開発したガンダム機。

転生してから十年間、MS工学など開発に必要な知識を必死に蓄えたレナが初めて開発したMSでもある。

能力値は高く、レナの考察を採用し、背部フレームを介して接続された2枚2対のウイングユニット・ウィングバインダーを利用して空気抵抗を調整し、座標を固定して重力一定値を演算で導き出した道筋を機体の細かな動きを再現することによって超長距離間の狙撃を可能にする。ただしこれを理解したのはレナの知り合いではシェリリン・ハイドだけだったという。レイも全く理解できない様子だった。

可変型の機体でアブルホールのデータはその部分に用いられたと思われる。

また、ウィングバインダーは、1対は自在に開閉・移動ができる可動式の主翼2枚で、もう1対は翼自体の面積が可変する副翼2枚で構成されており、推進器としても特化しているため本機は機動性と運動性に長けている。

宇宙空間でもGNドライヴがあるのはもちろん機能的にも問題なく活動でき、大気圏に近付かなければ何処からでも超長距離射撃を可能とする。しかし、地上でのそれは機体の座標調整など難易度が高いため特別その技術に特化または優れたパイロットでしか行えない。

ウィングバインダーを失った場合でもスラスターかGNドライヴが無事ならば飛行能力に劣りはないが、超長距離射撃はほぼ不可能となる。

機体の機能上、ガンダムデュナメスのように高高度射撃ができなくもないが必要な予備パーツとレナの技術が微量に足りてないためロックオンのようにはいかない。

また、ウィングバインダーは耐熱素材や耐熱コーティングが施されているため大気圏で燃え尽きはしない。

 

ちなみに外見はガンダム00の世界の者には伝わらないが、ウイングガンダム ゼロ カスタムに酷似しており、実際外見に関してはゼロカスにGNドライヴが搭載されただけのように見える。

これに関してはレナが前世でゼロカスの模型を手に熱弁していた兄に対し、「へぇ~、翼が生えてるのもあるんだねー」と適当に返した際チラ見したことにより彼女にとっての『ガンダム』の概念がウイング ゼロ カスタムとなったのが原因。

この時がキッカケでガンダムサハクエルを開発する際、レナは共同開発者達にも突飛な発想を持ち出すことがしばしばあり、その度にレナは「え?ガンダムってこういうものじゃないの?」と周囲の概念をぶち壊しにきている。

 

 

プルトーネブラック 短期決戦型(最終決戦仕様)

 

パイロット:レイ・デスペア

開発者:レナ・デスペア→シン(リペア)

分類:擬似太陽炉搭載型モビルスーツ

装甲材質:Eカーボン

主動力:GNドライヴ[Τ]

出力:不明

開発組織:(ワン)

所属:チーム・デスペア

武装:GNビームクロー×2、GNバルカン×1

 

アレハンドロ・コーナーのアルヴァトーレ、アルヴァアロンとの交戦で、大きな打撃を受けたプルトーネブラックをレナの生徒である元超兵の男の子、シンが改修した機体。

これまでの戦闘データによりレイの高い回避能力を期待して、破損した複合装甲は撤廃し、代わりに重さを軽減した。

さらに腰部のGNコンデンサーは移動用のみとし、戦闘区域に入るとパージできる仕様に変更され、これも軽量化へと繋がっている。

武装は在庫が乏しいこともあり、ありったけのビームサーベルを両指分揃えてプルトーネブラックの両指部に内蔵し、GNビームクローに変更した。

これは両腕を破損しない限り、武装を失わないという利点もある。

カレルでは手に負える状況ではなく、コロニーのファクトリーまで持ち帰って修復したが、実際は3日掛かると予見されていたにも関わらずシンを中心としてデルも協力し、軽量化や武装の変更を試しみることで最短で終わらせた。

だが、これはレイが必ず再び立ち上がると信じたシンが最短かつレイに最も合うスタイルを模索した結果でもある。




次は主に公式外伝のMS紹介やキャラ紹介を兼ねつつ改変を受けた原作キャラ紹介です。


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登場人物&MS紹介【原作編】

これ打つの凄い大変…うへぇ…
でもめげずに頑張ります。
後書きに2ndについて触れるので良ければ目を通してください。


⚪︎用語解説

 

・人類革新連盟

中国、ロシア、インドを中心としたユーラシア大陸の国々で構成された、国家主席を元首としている連合国家群。軌道エレベーター『天柱』を有していて、宇宙開発は進んでいるがMS開発は三国家群で最も遅れている。

 

・超兵

ナノマシン埋め込まれた宇宙環境にも対応できるヤベぇー改造人間。ソーマ・ピーリスはデザインベイビー、アレルヤ・ハプティズムは分からないが二重人格が発覚して超人機関に廃棄される予定だった。しかし、逃亡し、ガンダムキュリオスにとってマジパネェ逆襲に来る。

 

・イノベイド

『ヴェーダ』の作った人造人間。

人類の進化系であるイノベイターを模した存在で、イノベイターの出現を促すためだったり、『ヴェーダ』に情報を与えるためだったり様々な役割を持っている。イノベイターを模しているため、脳量子派が使えたりハイスペック。それにしては序盤の主人公スペック低いなと思った方は塩基配列パターン0000の紹介文を読むのだ。じゃないと君の顔面にグラハムスペシャル。

 

・イノベイター

人類の進化系。脳量子派が使える。マジマジマジパネェ。

 

・三国家群

ユニオン、人革連、AEU。

人革連というのは人類革新連盟の略称。

ユニオンは多分アメリカ辺りの欧米地域、AEUはヨーロッパやモスクワなどを領土としている。ユニオンが1番わからん。気になる人は検索すれば出ると思います、頑張って。

 

・ガンダムマイスター

機動兵器ガンダムのパイロット。

 

・フェレシュテ

ソレスタルビーイングのサポート組織。本来計画には含まれてはいないが、第二世代ガンダムのガンダムマイスターからエージェントとなったシャル・アクスティカが人員を集めて創設した。メンバーはマイスターにフォン・スパーク、ハロの中にデータとして入ってるよ超強力サポーターとしてマイスター874(ハナヨ)、メカニックとしてイアンの弟子であるシェリリン・ハイド、掃除係のエコ・カローレとなっている。太陽炉はOガンダムに使用されていたオリジナルを第二世代ガンダムをTYPE-F仕様に改修して使い回しており、ソレスタルビーイングの作戦プランを陰ながらサポートするが、基本的にフォン・スパークが好き勝手する。

……あげゃ。

 

・プルトーネの惨劇

またはプルトーネの悲劇。シャル・アクスティカがAEUの建設中軌道エレベーターへのテロ行為を阻止しようと「プルトーネで敵MSにぶつかり、パイロットと太陽炉はコア・ファイターで離脱する」という作戦を『ヴェーダ』に申請したところ、OKを貰ったので実行したらシャルが脱出できない問題が起こり、焦っていたところを第二世代ガンダムマイスターである仲間のルイードとマレーネ(フェルトの両親)が自身を犠牲にしてシャルを守り、テロも防いだ事件。それ以降、シャルはプルトーネに目を向けられず、唯一TYPE-F仕様にされなかった。

 

・次世代開発なんたら

調べるのめんどくさい。多分本文に乗ってるから正式名称が知りたければデルとレイの会話を読もう!

デル・エルダことデルフィーヌ・べデリアとレオ・ジークことレオナード・ファインズが所属していた組織。

要するに人革連の一部で、ティエレンチーツーはここから来た。

ガンダムラジエルの存在に気付いたり何かと凄い。

フォンとタメ張れる。

重要なのは人革連の次世代MSを作っている部署ということ。

ティエレンタオツーは多分この部署の賜物。

 

・国連軍

ユニオン、人革連、AEUが国連の元に一致団結してできた。アレハンドロとラグナの裏切りにより擬似太陽炉やジンクスを有しているため、ソレスタルビーイングやチーム・デスペア&トリニティを追い詰めた。

ただし、作戦名がイタイ。

 

・監視者

アニメ見ろ。正確には16話辺り。

 

・6人の仲間

00I関連。主人公レイヴが6人のイノベイドの仲間を集める。特殊能力タイプのイノベイドとはここからきた。6人はそれぞれ特殊能力を持った特殊能力タイプで、例えばレイヴは特殊能力タイプのイノベイドを一目見ただけでイノベイドだと看破する、など。そして、ビサイド・ペインとかいうイノベイド主義者が再びイノベイドによる武力介入を計画したが、フォン・スパークに横殴りされて計画は台無しになった。

リジェネが凄い面白いからオススメの漫画。

 

・特殊能力タイプ

上記の通り。特定のイノベイドが特殊能力を使え、そいつらのこと。太陽炉を自在に操れたりなど色々ある。詳しくは忘れたから読み直します。

 

・これ以上は…ないな?KPSAとかAEU関連は飛ばします。よし、次だ。

 

 

⚪︎登場人物紹介

 

名前:ソーマ・ピーリス

種族・性別:超兵・女

本名:マリー・パーファシー

年齢:18歳

所属:人類革新連盟→国連軍

階級:少尉

役職・称号など:MSパイロット

主な搭乗機:ティエレンタオツー、ジンクス

詳細:お待たせみんな大好き最強のヒロイン、ソーマ・ピーリス!

1st season前半のメインヒロイン。本来はスミルノフ中佐に感化されて感情が徐々に豊かになるが、レイ・デスペアと出会い、彼と接するうちに様々なことを学び、人として接してくれるレイに密かに惚れる。自分でも分からないうちに揺れる感情には必ず答えを教えてくれ、その度に優しく撫でてくれることが何よりも嬉しい。描写はないが、超人機関が壊滅した後、シイナとリンユーに弄ばれ、その際にリンユーにデスペア中尉に触れてもらえる髪にしたいと頭髪ケアのコツの教えを乞う。そこでリンユーと友情が芽生え、髪には一層気を使っていた。さらに、レイとの約束の指切りはソーマにとっての最も大切な思い出となっていて、故にレイが戦死した時は絶望で目の前が真っ暗になった。

レイが戦死した後は度々暴走し、その度にセルゲイやミン中尉、シイナやリンユーに制止される。

憎き相手は『緋色のガンダム』ことスローネ ツヴァイだったが、アリー・アル・サーシェスが鹵獲したとの情報を知った時は複雑な気持ちになった反面、仇を討ってレイが喜ぶのだろうかと密かに悩んでいたことから内心安心もしていた。

真実はレイ・デスペアは生きている。

ソーマは彼と出会うことが出来るのか、それは2nd seasonで――。

 

 

名前:セルゲイ・スミルノフ

性別:男

年齢:43歳

身長:189cm

体重:82kg

所属:人類革新連盟→国連軍

階級:中佐

役職・称号など:ロシアの荒熊、「頂武」ジンクス部隊隊長

主な搭乗機:ティエレン高機動型、ティエレン宇宙指揮官型、ジンクス

詳細:人類革新連盟の指揮官。階級は中佐。過去の戦乱で左目付近の大きな傷跡が物語る歴戦のつわもの。モビルスーツの操縦技術も優れており、また指揮能力も高くその戦術手腕から「ロシアの荒熊」と仇名される人物。「自分の目で見たものしか信じない」という考えを持ち、それでいて非常に柔軟な思考ができるため、上司はもちろん部下達からの信頼も篤い。ソレスタルビーイングのガンダムへの対策として創設された特務部隊「頂武」の隊長となり、一時はソレスタルビーイングを追い詰めた。常識外れの物量作戦と、第四次太陽光紛争で用いた作戦と見せかけて裏をかき、スメラギ・李・ノリエガを手玉に取った。完全に作戦負けしたスメラギはヤケ酒をするほど。さらに国連軍のソレスタルビーイング討伐隊に編入された際にはカティ・マネキンの副官となって波長を合わせるなどしており、地球連邦政府樹立後は戦友となった。

軍人は市民を守ることが最優先と考えており、その持論がのちに妻のホリー・スミルノフを死亡させてしまう。

配属後からソーマのことを気にしていたが、レイのサポートに内心安堵していた。しかし、レイの死で狂い出したソーマをなんとか宥めようとするものの彼女の暴走が止まらず、思い悩む。

描写はないが、レナと会った後のソーマは少しだけ表情に曇りが消えていて、セルゲイはソーマの出撃を上官権利で無理矢理止めようとしていたが、『生きて帰る』意思を持つソーマを見て断念した。

 

 

名前:ミン

性別:男

階級:中尉

詳細:人類革新連盟軍の中尉で、セルゲイの副官。

宇宙で人革連が行なったガンダム鹵獲作戦において、セルゲイとピーリスを撤退させるため、身を挺してキュリオスを足止めしたが、表出していたハレルヤから人革連の非道さを糾弾され、時間を掛けてコックピットにシールドニードルを突き立てられるという、悲惨な最期を遂げる――筈だったが、レイの命令無視によって改変を受けて生還。それ以降はレイやソーマに助言やサポートをする頼れる上官を全うした。実は暴走したソーマを止めるのは大体この人。

結構凄い。

 

 

名前:アレルヤ・ハプティズム

性別:男

所属:ソレスタルビーイング

階級:なし

年齢:19歳→20歳

身長:186cm

体重:65kg

詳細:ソレスタルビーイング、ガンダムキュリオスのガンダムマイスター。超人機関出身者であり、レイと初めて衝突したマイスター。

二重人格ハレルヤが存在していて、好戦的な性格を持つハレルヤにレイは仲間を沢山奪われた。

ソーマ=マリー、そしてマリーとアレルヤは惹かれ合うという結末を知っているレイは結果的にはアレルヤにソーマを無事に再会させようと尽力するが、死ぬ間際にソーマに好意を抱いた自分に気付いたので修羅場不可避な可能性が生まれた。

果たしてどうなるのか。

ノープランである……というのはさすがに嘘だ。

 

 

名前:ティエリア・アーデ

種族・性別:イノベイド・中性

年齢:不明(外見は16歳)

実年齢:実稼動年齢は1stシーズン時点で推定2才以上~5才以下とされる

身長:177cm

体重:61kg

所属:ソレスタルビーイング

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムヴァーチェ、ガンダムナドレ

詳細:ソレスタルビーイング、ガンダムヴァーチェのガンダムマイスター。脳量子派で感じるレイに対して「不快だ!」と叫んだ。

ティエレンチーツーを駆るレイとの戦いになり、キュリオスより激戦となった。詳しくはトラウマなので触れない。

 

 

名前:ロックオン・ストラトス/ニール・ディランディ

種族・性別:人間・男

年齢:24歳

身長:185cm

体重:67kg

血液型:O型

所属:ソレスタルビーイング

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムデュナメス

詳細:ソレスタルビーイング、ガンダムディナメスのガンダムマイスター。ナオヤとの出会いを経て改変による危機を感じたレイが真っ先に戦闘不能へと持ち込もうとした相手。だが、レナのガンダムサハクエルによる超長距離射撃で妨害され、そこまでには至らなかった。

 

 

名前:刹那・F・セイエイ/ソラン・イブラヒム

性別:男

種族:人間

年齢:16歳

身長:162cm

体重:49kg

血液型:A型

所属:KPSA→ソレスタルビーイング

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムエクシア→GNアーマーTYPE-E

詳細:ソレスタルビーイング、ガンダムエクシアのガンダムマイスター。特にレイとの関わりはないが、原作主人公なので触れた。

 

 

名前:グラハム・エーカー

種族・性別:人間・男

年齢:27歳

身長:180cm

体重:62kg

血液型:A型

所属:MSWAD→対ガンダム調査隊 / オーバーフラッグス→地球連邦軍

階級:中尉→上級大尉

役職・称号など:MSパイロット、対ガンダム調査隊隊長→オーバーフラッグス隊長

主な搭乗機:ユニオンフラッグ→グラハム専用ユニオンフラッグカスタム→ユニオンフラッグカスタムII→GNフラッグ

詳細:ユニオンのトップガン。第1回レイとソーマのデートスポット。フラッグの操縦技術はずば抜けており、独自のマニューバ「グラハム・スペシャル」の持ち主である。

彼に関しては通常の3倍くらい詳しい方がいるので割愛。

ビリー曰く、ガンダムに対して「彼メロメロなんですよ」さん。

 

 

名前:ヨハン・トリニティ

種族・性別:人間・男

年齢:26歳

身長:188cm

体重:75kg

髪色:黒

所属:チームトリニティ

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムスローネアイン

詳細:ガンダムスローネアインのガンダムマイスターで、トリニティ兄妹の長兄。温和な印象を与え、暴走しがちな弟妹らを纏めるチームトリニティの中核。自らの愉しみを優先しがちな弟妹と異なり、ガンダムマイスターとして生み出された者としての誇りを持っている。自分達が過度な武力介入を行っていることを承知の上で、あえて刹那たちのやり方を生ぬるいと批判。あくまでも世界の変革による戦争根絶のため任務を遂行していた。また、ヴェーダを解してプトレマイオスのガンダムマイスターらクルーの情報を掴み、揺さぶりを仕掛けたりと頭脳派な一面もある。

任務では命令内容の完遂のみを最優先とし人的被害や世論、心情といった一切を考慮せず実行していた。故に作戦に支障が無い限り弟妹の行き過ぎた行動を制止することもしない。ネーナのルイス一家虐殺の際も、行為自体に興味は示さず作戦中の勝手な行動に対して諌めるにとどまっている。自分の意思が無いという点で見れば、自らの意思で戦うプトレマイオスのマイスター達の最も対極に位置するキャラクターと言えるかもしれない。

 

しかし、自らの創造主であるアレハンドロ・コーナーに裏切られ、ラグナ・ハーヴェイですら捨て駒に過ぎない事実に絶望する。送り込まれたアリー・アル・サーシェスに殺されそうになったところをレイに救われ、彼の言葉で運命に抗うこと、弟と妹を自由に解放することを目指して立ち上がる。

遂に仇敵アレハンドロ・コーナーを倒し、レイとレナに自信が変われたことも含めて心から感謝するようになり、ネルシェン・グットマンが攻め込んできた際は必ず本拠を守ると強い意志で挑む。

だが、奮闘虚しく散ってしまい、機体はネルシェンが受け継ぐことになってしまった。

 

 

名前:ミハエル・トリニティ

種族・性別:男

年齢:19歳

身長:173cm

髪色:青

所属:チームトリニティ

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムスローネツヴァイ

詳細:ガンダムスローネツヴァイのガンダムマイスターで、トリニティ兄妹の次兄。攻撃的で直情型の性格。自前の電磁ナイフを見せ付けて相手を威嚇したり、会話でも相手を小馬鹿にする態度で挑発したりと、その性格には色々と問題がある。しかし実兄のヨハンを信頼しており、あまり言いつけは守らないようだが、直接指示された場合には素直に従っている。 また、実妹のネーナを溺愛しており、刹那への好意を口にした時はやきもちを焼くような態度を見せている。

好きな食べ物は肉類の模様。

兄が纏める任務には基本的に忠実だが戦闘を楽しんでいるような節があり、必要以上の戦闘行為で相手にガンダムの性能を見せ付ける場面もある。

 

だが、私欲に身を任せた戦い方でレナの反感を買って『敵』として認識されてしまう。立ち塞がるガンダムサハクエルに抵抗したものの手も足も出ずに、寧ろ手加減されて淘汰される。

その際に「前向きに、自分の意思で生きるようになったお兄さんに…劣等感を抱いている」「でも、そんなお兄さんが眩しくて自分には真似出来なくて…反抗して…本当にそれでいいの?」とレナ自身が兄であるレイを憧憬の対象と見ているため、ミハエルの気持ちを的確に言葉にしてくれた。次に自制心の1つや2つミハエルに持てる、理想から逃げずに戦えとの言葉を浴び、レナが真に人殺しを嫌うことを知って思い悩む。その後は改心し、自身の自由のために戦うことを決意。

人殺しを楽しむことはなくなり、敵に対しては極力無力化に努めている。

しかし、ネルシェン・グットマンの襲撃により、レナに惹かれ、レナを守ることを心に決めたミハエルだったが完璧にねじ伏せられてしまい、ナオヤの手によって殺された。

ミハエルはネルシェンがレナを(正確には本拠に残る人々全員)狙っていると気付き、守ろうと手を伸ばすが、その手は届かず夢半ばで散ってしまった。

この死を機にレナ・デスペアが『奪い合いの連鎖のない世界を作る』という目標を掲げるようになる。

 

 

名前:ネーナ・トリニティ

種族:人間(試験管ベビー)

性別:女

年齢:17歳

身長:151cm

体重:42kg

血液型:B型

髪色:赤

髪型:ツーサイドアップ

所属:ソレスタルビーイング(チームトリニティ)→チーム・デスペア&トリニティ

役職・称号など:ガンダムマイスター

主な搭乗機:ガンダムスローネドライ

詳細:チームトリニティのガンダムマイスターの一人。ガンダムスローネドライのパイロット。ヨハンとミハエルを「ヨハ兄、ミハ兄」と呼んでいる。刹那にキスをしたり、ヴェーダに勝手にアクセスを行ったりと、好奇心旺盛な性格。多忙によるストレスの発散のため、ルイスとその親族の集まる結婚式場にスローネドライのGNハンドガンを発射、ルイスの左腕と家族の命を奪った。

 

しかし、刺客として送り込まれたアリー・アル・サーシェスによって奪われる寸前の状況へと陥り、極度の情緒不安定となる。奪われることを怖がり、向けられる銃口全てに恐怖するネーナはレイ達と行動する中で敵を無力化ではなく、殺害していった。

そんなネーナの暴走性はHAROを通したリボンズのハッキングから救い出してくれたトリニティに対するレイの強い想いを聞いて正気を取り戻し、同時にこれまでの行為を反省するようになる。

支配から抜け出し、自由になるために戦うことを決め、レイとは全て終わった後に咎を受けると約束した。

だが、ネルシェン・グットマンの襲撃によりヨハンとミハエルを殺され、奪う身だったネーナは奪われる身となる。

辛い中も背負いきれないほどの罪を持つ自分に対して「ネーナを守る」を誓ってくれたレイに惚れる。

そんなレイや自分達のために尽力してくれたレナの力になりたくて、最終決戦にて出撃を願うがネーナの心境を察したレイとレナにより、留守番となる。その後、レナがネーナのためを思ってスローネ ドライを奪還してくれ、帰還したレナを号泣しながら出迎えた。

 

 

名前:アレハンドロ・コーナー

性別:男

年齢:不明

身長:188cm

階級:なし

役職・称号など:国連大使、ソレスタルビーイング監視者、MSパイロット

主な搭載機:アルヴァトーレ、アルヴァアロン

詳細:ソレスタルビーイングの創設に関わってきたコーナー家一族の現当主。表向きは国連大使の顔を持ち、裏ではソレスタルビーイングの支援者であり、監視者。かつてユニオン軍に所属していた時期もあった。

しかし、監視者としての任務を逸脱し、自らが力を握るべく活動を始める。チームトリニティの創設、ユニオン・人類革新連盟・AEUにソレスタルビーイングが保有する技術やモビルスーツを提供して国連軍の結成に導き、リボンズの手引きでヴェーダをも手中に収めた。そして、その力でソレスタルビーイングと国連を手中に収めるべく画策。

だが、計画の一部にしか過ぎなかったトリニティがデスペアと出会い、予定より抵抗し続けたために計画通りにいかず、自身も地上に降りてチーム・デスペア&トリニティを狙う。

結果、激戦を経てトリニティとデスペアの信念に敗れ、最後はミハエルのバスターソードとレイのGNソードによって両断された。

 

 

名前:リボンズ・アルマーク

種族:イノベイター(イノベイド)

性別:中性

身長:175cm

体重:49kg

所属:イノベイド勢力

役職・称号など:イノベイター(イノベイド)指導者、ガンダムマイスター

主な搭乗機:0ガンダム

詳細:イノベイターの一人であり、その纏め役。

本来はイオリア・シュヘンベルグが、「人類の変革」を遂行するべく生み出した人造生命体・イノベイドの一人。初期から計画に関わっていたためヴェーダへの高度なアクセス権を持ち、またガンダムマイスターとしての能力を与えられていたことから0ガンダムのマイスターでもあった。

しかし、イオリア計画では自分たちは使い捨てだと知ったことや、人間を見下していることもあり、自分こそ世界を支配するイノベイターになろうとし、アレハンドロに接触して、彼を利用した後ヴェーダを掌握した。他のイノベイターを創造し、地球連邦と協力して世界を裏で操る。その目的はイオリアの計画プラン「人類の変革」に則った行動だが、彼の介入による計画の変更によって本義を外れ、資本主義における人の利益追求と同じになった。結局裕福な人々には恩恵があり、貧困層には負担となった。

己の能力には絶対の自信があり、その能力ゆえ自分以外の他人(他のイノベイドも含め)を見下す態度をとる。また脳量子波により他のイノベイターを操ることができ、そして人類全てをイノベイター化して自身がその頂点に立つことを望んでいる。

レイ・デスペアを含む塩基配列パターン0000について知っている節があり、レンとも関係していると思われる。アレハンドロを通してレイを戦場へ送り込むなどレイを使って何かを探っている。リボンズにより、レイはまた新たな戦場へと向かうことになった――。

 

 

⚪︎MS(モビルスーツ)紹介

 

・ユニオンフラッグ

うんなもん感想欄見ろ。その他フラッグ云々も敵わないので割愛。

 

 

・AEUイナクト

分類:量産型可変モビルスーツ

装甲材質:Eカーボン

頭頂高:17.6m

本体重量:66.8t

主動力:不明

出力:不明

開発組織:AEU

主なパイロット:AEU一般兵、他

AEUが開発した量産型モビルスーツ。

ユニオン軍のユニオンフラッグを参考にして開発されており、ほぼ同様の武装や可変機構を有している。また、軌道エレベーターの太陽光発電システムからアンテナによってエネルギーを無線供給するシステムを採用しており、エネルギーを供給可能なAEU領内であれば理論上無制限に稼動させられるようになっている。

ユニオンフラッグと比べて完全な量産体制が整っており、多数が生産されて様々なバリエーション機を産み、汎用性も高い事等から総合的にはこちらの方が優秀との見方もある。

ちなみにユニオンフラッグの直線的なデザインに比べてこちらは曲線的。これはステルス性を犠牲にする代わりに被弾率を下げる為のデザインである。

 

 

・AEUイナクト指揮官型

AEUが開発した量産型モビルスーツ。

AEUイナクトの指揮官機であり、頭部にアンテナを追加して通信機能を向上させている。それ以外は一般機と特に変わりない。

 

 

・ティエレンタオツー

分類:汎用試作型モビルスーツ

装甲材質:Eカーボン

全高:18.7m

重量:112.1t

主動力:不明

出力:不明

武装:200mm×25口径長滑腔砲、12.7mm機銃、30mm機銃、シールド

開発組織:人類革新連盟

主なパイロット:ソーマ・ピーリス

詳細:人類革新連盟が開発した汎用試作型モビルスーツ。別名「ティエレン超兵型」。

汎用機として開発中だった次世代型ティエレンの試作機を超兵仕様に改装している。

全身に姿勢制御スラスターを装備し、一般機を凌駕する高機動性を誇る。また、通信・索敵機能も強化された。

性能は高いが、超兵以外のパイロットが乗りこなすのは不可能。コクピットは当初は一般機と同様のヘッドディスプレイ仕様であったが、後に全周囲型モニターの仕様に変更されている。

他のティエレンシリーズとは異彩を放つピンクのカラーリングが特徴。

ちなみにタオツーは漢字で「桃子」と書き、まさに名が体を表している。

 

 

・ティエレン宇宙型

分類:宇宙用量産型モビルスーツ

装甲材質:Eカーボン

全高:18.2m

重量:127.5t

主動力:不明

出力:不明

特殊機能:カーボンネット、カーボンワイヤー、ジェル

武装:200mm×25口径長滑腔砲……本機の主兵装。腕部に装着して使用する。徹甲弾をはじめ、様々な弾頭が用意されている。宇宙型の物は砲身に放熱板が取り付けられており、ブレイドとしても使用可能である。

12.7mm機銃……長滑腔砲に装備されている機銃。

30mm機銃……開発組織:人類革新連盟

主なパイロット:レイ・デスペア、ミン他

詳細:人類革新連盟が開発した宇宙用の量産型モビルスーツ。

ティエレン地上型をベースにしており、各部に推進や姿勢制御用のバーニアを装備している。また、脚部には推進剤である水を搭載したタンクが装着されており、シールドの代わりとしても使用される。その他は地上型との違いはあまり見られない。

ちなみに、本機のコクピットは常に真空となっており、ヘルメットディスプレイに繋がれた空気注入チューブから空気を送り込み、パイロットスーツを与圧するシステムとなっている。

レイ・デスペアが本機にてガンダムキュリオスと交戦した。

 

 

・ティエレン宇宙指揮官型

分類:宇宙用量産型モビルスーツ

装甲材質:Eカーボン

全高:18.3m

重量:131.6t

主動力:不明

出力:不明

開発組織:人類革新連盟

主なパイロット:セルゲイ・スミルノフ

詳細:人類革新連盟が開発した宇宙用の量産型モビルスーツ。

ティエレン宇宙型の指揮官用で、主に通信機能が強化されている。両肩にはスラスターとセンサーが内蔵されたシールドを装着している。

 

 

・ガンダムエクシア

分類:モビルスーツ(第3世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

全高:18.3m

本体重量:57.2t

主動力:GNドライヴ

出力:不明(推定:通常のフラッグの6倍以上)

武装:GNバルカン、GNビームサーベル、GNビームダガー、GNソード、GNシールド、GNブレイド、セブンソード

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:刹那・F・セイエイ/ソラン・イブラヒム

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。

第3世代ガンダムに分類され、第2世代機であるガンダムアストレアがベースとなっている。

近接戦闘を主眼に置いた設計となっており、運動性が第3世代機の中で最も高い。武装も各部に全部で7本の剣を装備している事から、開発中は「ガンダムセブンソード」のコードネームで呼ばれていた。また、本機が装備している剣の内の3本は実体剣であるが、これは本機が「対ガンダム戦」も想定して開発されていた為であり、これによってGNフィールドにも対抗可能となっている。

さらに、後に「トランザムシステム」が使用可能となった。

名前の由来は、自然界の秩序を守る役目を背負う、能天使『エクスシア』から。

ちなみに、接近戦を得意とする事から派手なパフォーマンスを行えるとして、ソレスタルビーイングのプロパガンダ機としても使われる事が多い。

 

 

・ガンダムデュナメス

分類:モビルスーツ(第3世代ガンダム)

頭頂高:18.2m

本体重量:59.1t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

武装:GNビームサーベル、GNビームピストル、GNミサイル、GNスナイパーライフル、GNシールド、GNフルシールド、高々度狙撃銃

開発組織:ソレスタルビーイング

パイロット:ロックオン・ストラトス/ニール・ディランディ

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。

第3世代ガンダムに分類され、第2世代機であるガンダムサダルスードがベースとなっている。

近接戦闘に特化したガンダムエクシアとは対称的に遠距離射撃を主眼に置いた設計となっており、頭部には精密射撃用の高精度ガンカメラが内蔵されている。コクピットにもライフル型コントローラーが設置され、射撃精度を更に高められる。また、ハロを同乗させる為の台座も設置されており、機体の制御を任せる事も出来るようになっている。さらに、狙撃用の機体でありながら運動性や機動性も高い。

ティエレンチーツーを駆るレイが改変の可能性を恐れて破壊しようとした機体でもある。

 

 

・ガンダムキュリオス

分類:可変モビルスーツ(第3世代ガンダム)

頭頂高:18.9m

本体重量:54.8t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

武装:GNビームサブマシンガン、GNビームサーベル、GNシールド、GNシールドニードル、GNハンドミサイル、テールユニット、テールブースター

開発組織:ソレスタルビーイング

パイロット:アレルヤ・ハプティズム

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。

第3世代ガンダムに分類され、第2世代機であるガンダムアブルホールがベースとなっている。

飛行形態への変形が可能な可変機で、機動性に優れている。また、飛行形態時には後部に追加装備であるテールユニットを装着可能。

更に、後に「トランザムシステム」が使用可能となっている。

人革連からは「羽付き」と呼ばれている。

元々大気圏内などでの高速戦闘や敵部隊かく乱をコンセプトとした機体であった。

機動力を生かしてガンダムデュナメスを飛行形態の背に乗せる事でサブ・フライト・システムとして運用された事もある。

名前の由来は、時に神の威光を世に知らしめ、時に慈愛を伝達したりする、主天使『キュリオテテス』から。

ティエレン宇宙型を駆るレイが初めて戦ったガンダム。

 

 

・ガンダムヴァーチェ

分類:モビルスーツ(第3世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

全高:18.4m

本体重量:66.7t

主動力:GNドライヴ

出力:不明(推定:ティエレン宇宙型の6倍以上)

武装:GNバズーカ、GNビームサーベル、GNキャノン

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:ティエリア・アーデ

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。

第3世代ガンダムに分類される機体で、ガンダムナドレに追加装甲を取り付けた状態である。

火力と防御力を重視しており、機動性は他の3機のガンダムやナドレの時と比べてやや劣るが、GN粒子の質量軽減効果によりユニオン軍のフラッグよりも重量が軽い。また、強力なGNフィールドを展開させる事が可能。

更に、1stシーズン終盤より「トランザムシステム」が使用可能となった。

なお、本機は粒子ビーム兵器を主体とした「パーティクル」と呼ばれるタイプであり、実弾兵器を主体とした「フィジカル」と呼ばれるタイプも考案されている。

ちなみに装備コンセプトは対艦隊・対要塞用なのだが、作中で艦隊や要塞を相手にする機会はほとんどなかった。なので、その砲口は主にMSへと向き、毎回オーバーキルな砲撃をお見舞いしている。また遠距離支援というポジション上、デュナメスと戦闘ポジションが被っていた。

また、三国家群からは他のガンダムよりも一回り以上の大型であった事から「デカブツ」と呼ばれていた。

名前の由来は、潜在的に神の模倣を行っている、力天使『ヴァーチュース』。

レイが駆るティエレンチーツーの初戦闘の相手となった。

 

 

・ガンダムナドレ

分類:モビルスーツ(第3世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

全高:18.1m

本体重量:54.0t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

武装:GNビームサーベル、GNキャノン、GNビームライフル、GNシールド

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:ティエリア・アーデ

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツで、ガンダムヴァーチェが全身の追加装甲を外した姿である。

第3世代ガンダムに分類され、第2世代機であるガンダムプルトーネがベースとなっている。

装甲をパージした事でかなりの細身であり、ヴァーチェよりも機動性が高い。しかし、逆に防御力は大きく低下しており、粒子貯蔵量もヴァーチェや他のガンダムより少なく、総合性能では他のガンダムに劣る。というより、元々この形態での戦闘はあまり考慮されておらず、換装システムの素体としての位置づけが強い。頭部には女性の髪の毛を思わせる無数のコードがあるが、これは追加装甲を接続するためのコードである。

また、「対ガンダム戦」を想定して「トライアルシステム」が搭載されている。もちろん「トランザムシステム」も使用可能である。

機体名は北米インディアン「ナバホ」に伝承される民族神話に登場した『ナドレ』という両性具有の精霊が語源と解説されている。ナドレは性の中間者であり、部族内の争いを仲裁し豊穣と繁栄をもたらした。

 

 

・ガンダムアストレア

分類:モビルスーツ(第2世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

全高:18.3m

本体重量:57.2t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:ルイード・レゾナンス

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。第2世代ガンダムに分類される。

0ガンダムをベースにしており、汎用性が重視されている。フレームには運動性の高い物が採用され、人間とほぼ同等の可動範囲を持つ。また、各部の粒子供給コードも外部に露出させているため、機体の制御が容易である。

名称は「正義」のタロットカードに描かれている「正義の女神(アストレア)」が由来。

第3世代機であるガンダムエクシアのプロトタイプであるが、本機は格闘に特化した機体ではない。

 

 

・ガンダムサダルスード

分類:モビルスーツ(第2世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

頭頂高:18.2m

本体重量:49.9t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:ガンダムマイスター874

詳細:ソレスタルビーイングの太陽炉搭載型モビルスーツ。

第2世代ガンダムに分類される機体であり、各部に高精度のEセンサーを装備しているため、高い索敵能力を誇る。反面、装甲は最低限の厚さを確保しているのみであり、戦闘能力もかなり低い。

名称は「星」のタロットカードにかかれた水を汲む女神が由来であり、「サダルスード」とはみずがめ座β星の名称である。

また、第3世代機であるガンダムデュナメスのプロトタイプでもある。

 

 

・ガンダムアブルホール

分類:可変モビルスーツ(第2世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

頭頂高:16.0m

本体重量:39.3t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:マレーネ・ブラディ

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。

第2世代ガンダムに分類される機体で、可変機構を備える。GNバーニアと水素プラズマジェットの2種類の機関を搭載しており、任意に切り替えて飛行出来る。GNドライヴ以外のエンジンが搭載されているのは、ガンダムである事を隠す為である。

機体上部に頭部、下部に脚部を持ち、MS形態時はまるで戦闘機に頭と脚が生えたかのような奇妙な格好となっているが、これは可変機構が未成熟である為。また、この頭部はダミーであり、本来の頭部は機首部に格納されている。腰部には作業用アームも存在するが、格闘戦が出来る程の性能は無い。

名称は「戦車」のタロットカードに描かれたスフィンクスのアラビア語エジプト方言が由来。

第3世代機であるガンダムキュリオスのプロトタイプでもある。

 

 

・ガンダムプルトーネ

分類:モビルスーツ(第2世代ガンダム)

装甲材質:Eカーボン

頭頂高:18.4m(起動時:19.0m)

本体重量:60.9t

主動力:GNドライヴ

出力:不明

開発組織:ソレスタルビーイング

主なパイロット:シャル・アクスティカ、フォン・スパーク

詳細:ソレスタルビーイングが開発した太陽炉搭載型モビルスーツ。

第2世代ガンダムに分類され、GNフィールドとGN複合装甲を採用している。また、胸部にはコアファイターが搭載され、万が一の場合でもGNドライヴとパイロットを回収する事が可能となっている。腰部にはGNコンデンサーを装備しており、GN粒子の大量消費にも対応できる。

名称の由来は西洋占星術で「審判」のタロットカードに結び付けられる冥王星。

また、本機の運用データは第3世代機であるガンダムナドレやガンダムヴァーチェの開発にフィードバックされた。

プルトーネブラックはこの機体を黒く塗装したもの。

 

 

・ガンダムアストレアTYPE-F

フェレシュテに所属する太陽炉搭載型モビルスーツ。

ガンダムアストレアを第3世代機の技術で改装しており、カラーリングも白を基調としたものから赤を基調としたものへと変更された。また、本機が「ガンダム」であると悟られないよう、頭部にはセンサーマスクが装着されている。このセンサーマスクはその名の通り、センサーが内蔵されている為に索敵性能も向上している。

ブラックアストレアはこの機体を黒く塗装したもの。

 

 

・ガンダムサダルスードTYPE-F

フェレシュテの所有する太陽炉搭載型モビルスーツ。

ガンダムサダルスードを第3世代機の技術で改良した機体で、カラーリングが濃いブルーを基調としたものに変更されている。また、元々高精度センサー試験機で装甲や武装等は最低限レベルだった為、携行武装の強化で攻撃力を底上げし、センサーシールドを右肩にも追加している。

ブラックサダルスードはこの機体を黒く塗装したもの。

 

 

・ガンダムアブルホールTYPE-F

フェレシュテに所属する太陽炉搭載型モビルスーツ。

ガンダムアブルホールのTYPE-F仕様で、カラーリングが黒基調のものに変更されている。元からガンダムは勿論、モビルスーツからもかけ離れた外見をしている為か、それ以外の外見上の変更点は特に無い。

ブラックアブルホールはこの機体を黒く塗装したもの。

 

 

 

他に解説が欲しい人物、MS、用語があればコメントしてください。

追加します。




『息抜きで書いたイノベイター転生』1st seasonをご愛読頂きありがとうございました。
引き続き2nd seasonへと移りますが、2ndの投稿は来月(7月)中旬~下旬とさせて頂きます。
あらすじなど必要か現在懸念中ですが、必要であれば予告か何かを挟みます。
これからも引き続きよろしくお願いします。


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2nd season
天使再臨


先行投稿です。2ndの試し読みだと思ってください。


西暦2312年。

国連軍とソレスタルビーイングによる大規模な戦闘『フォーリンエンジェルス』の終結から、4年の歳月が経過した。

各国家群は地球連邦として統一を果たし、世界は1つになりつつある。

 

地球には、国連を母体とした地球連邦政府が設立され、連邦政府が主体となった新たな支配体制が築かれていった。連邦軍はその中で、さらなる国家の統合と人類の意思統一を謳い、連邦軍とは別の独立治安維持部隊『アロウズ』を設立する。

アロウズは反政府勢力の撲滅を活動とし、恒久和平を目指している。

我々が相手とするのは反政府勢力『カタロン』、そして――。

 

 

『プラウドまで距離2300』

『GN粒子の散布、通常濃度を維持』

 

オペレーターの声が耳に入る。

俺は出撃準備のためハッチへと上げられたMS(モビルスーツ)のコクピットにて待機していた。

もうすぐ反政府勢力に対する作戦行動が開始される。

暫くするとアーサー・グッドマン准将による指示が入った。

 

『反政府勢力の掃討作戦を開始する!』

「了解。アヘッドの機体状況を確認します」

 

システムのオールグリーンを端末の操作で全て目に通す。

武装も完璧だ。

擬似GNドライヴも正常な数値を示している。

4年前は圧縮粒子に人体への有害という問題があったが、今はそれも解決した。

そんな擬似GNドライヴを搭載するアロウズの最新鋭機。

それがGNX-704T アヘッド。

俺の駆るこの機体で恒久和平の実現を為すのだ。

 

「作戦内容は……オートマトンを用いたプラント襲撃か。やり方は相変わらずだな」

 

思わず嘆息ついてしまった。

そこまで掃討作戦がしたいか。

しかも、GNコンデンサーを積んだオートマトンだとか。

殺意が高すぎやしないか?

まあ俺が何を言っても通りはしない。

黙って従うけどな。

 

『大尉。出撃準備は整ったかね?』

「ハッ!勿論であります、アーサー・グッドマン准将」

 

まさか直々に通信を繋いでくるとは…。

急に繋ぐのやめろ。

いつでも対応可能なわけじゃないんだよ。

直接言える立場でもないから内に秘めておくけど、愚痴りたい気持ちは抑えられない。

即座に答えた俺に、准将は快く頷いた。

そして、試すように俺に挑戦的な笑みを浮かべる。

 

『レイ・デスペア大尉。イノベイターの実力、見せてもらいますぞ』

「了解。ご期待に応えましょう」

 

敬礼すると通信が切れた。

満足のいく答えが貰えたようだ。

やれやれ…。

気に食わないからってちょっかい出すのやめて頂けませんかね。

 

『ハッチオープン。繰り返します、ハッチオープン』

「アヘッド、オートマトン搭載コンテナ、接続完了。各機能異常なし。オールグリーン」

 

アナウンスが響く中、ハッチが開き、アヘッドの頭部が露わになる。

主に宇宙で運用されるアロウズの戦艦バイカル級航宙巡洋艦は出撃用ハッチに頭部を向ける形で格納されているからな。

発艦の際はハッチが前方へスライドし、そのままカタパルトとなる。

俺も最終確認を済ませ、射出準備が完了した。

そして、タイミングを俺のアヘッドに譲渡される。

 

『アヘッド デスペア機。出撃』

「了解。アヘッド、レイ・デスペア。出る…!」

 

指示の通りにタイミングを合わせてカタパルトから飛び立つ。

現れるのは図太い機影。

擬似GN粒子を放つ、俺のアヘッドはそのまま進路方向へと凶悪な四つ目を輝かせて宇宙(そら)を飛翔した。

 

向かうは建設途中のプラウド。

バイカル級航宙巡洋艦が位置する宙域から距離2300の座標にあり、主にカタロンの内通者などの違法者を高重力で強制労働させている。

いわば環境の悪い収容所だ。

そんなプラウドにカタロンの艦隊が構成員の救出作戦を行うとの作戦がこちらの耳には既に入っている。

まあこっちにはバックにリボンズがいて、『ヴェーダ』を掌握してるんだ。

事情を知ってる身である俺からすれば当然の結果だな。

 

『……まったく、骨が折れる』

 

上手く立ち回ってるこっちの身にもなって欲しいものだ。

なんて思いながら目標地点へと到着した。

レーダーにカタロンのものと思われるMS(モビルスーツ)部隊を補足する。

他には、戦艦が1隻か。

……俺の目が正しければプラウドに突っ込んでいる。

モニターを拡大して見ると、どうやらあの地点から救出を行ってるらしい。

なんとも必死な作戦だな…。

 

と、状況整理のために観察していたら接近する機影を確認した。

ちょっと悠長過ぎたか。

カタロンのMS(モビルスーツ)部隊が戦艦を守るように展開されている。

放たれる弾幕は避けるまでもないが、一応躱す。

アヘッドだと余裕だな。

相手の機体はリアルドを中心とした旧型。

もはや敵ではない。

 

『作戦行動を開始する』

 

たった一言、それだけを口にして加速する。

弾道を避けつつ引き金を引くとGNビームライフルの銃口が粒子ビームを噴き、手前にいたリアルドの武装と脚部を奪った。

そのまま加速は緩めず敵部隊の中央を突破する。

 

『なっ!?速い…!』

『ひ、怯むな。撃て!』

 

通り過ぎた俺にリニアライフルでの実弾で後ろから襲うが、アヘッドには当たりはしない。

擬似太陽炉を詰んだ最新鋭機の機動性に旧型の射撃武器など何発放っても結果は同じだ。

 

『諦めろ』

『ぐあっ!?』

『そんな……っ!』

 

残った2機のリアルドも四肢を撃ち落とした。

先に潰したリアルドはさっきスラスターを破壊しておいたから既に戦闘不能だ。

通りすがりの時に背後から撃たせてもらった。

 

『い、一瞬で…』

『トドメを刺さないのか…?』

 

敵パイロットから唖然とした声を拾う。

悪いが伊達にイノベイターは名乗ってないんでな。

さて、MS部隊は片付けた。

次は対艦を……じゃなくてオートマトンか。

戦闘に大して時間は食ってない。

作戦時間通りに降下させれそうだ。

これなら――。

 

『プラウドに到着。コンテナ分離。新型オートマトンの稼動を開始する』

 

何の迷いもなくオートマトンを下ろす。

オートマトンは即座に展開し、プラウドへ侵入。

すると、すぐに中からの断末魔が響いた。

 

『む、無人のオートマトン!?』

『うわああああああ!!』

 

『……』

 

正直、こればかりは()()()救えん。

まだ生体反応は減っていない。

頼むから間に合ってくれよ…。

 

『ん?』

 

ふと視界の隅に妙な緑光が写った。

見間違えでなければGN粒子のような気がしたが…。

粒子の色は連邦の赤ではない。

だとすれば彼らだが――と、思考を巡らせるとEセンサーが何やら反応を拾った。

なんだ?

これは――上からの機影!!敵機か!?

 

『────────!』

『……っ!』

 

突如上空から振り下ろされた一閃を避ける。

一瞬、目前にチラついた粒子。

あの色は連邦のものじゃない…!

まさか――。

 

『ガン、ダム……』

『────────』

 

俺の見上げる視線の先に青と白の塗装に身を包んだガンダムが浮遊していた。

左肩から腕部は無く、それを隠すようにマントで覆われている。

眼も右はティエレンから流用したものか。

何処かで見覚えがあると思えば……元ティエレン乗りだからこそ気付いた。

GNソードを構える隻眼隻腕のガンダム――俺はこの機体の名を知っている。

 

『エクシア、ガンダムエクシア……』

 

GN-001 ガンダムエクシア、マイスターは刹那・F・セイエイ。

戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングが武力介入に用いたオリジナル太陽炉搭載型MS。

だが、それは5年前の話だ。

 

『……執念の中、さ迷っていたか。来る…!』

『────────っ!』

 

GNソードを展開し、エクシアが突っ込んでくる。

よく見ればソードの刀身も折れている。

そんな機体状況で…!

 

『アヘッドに敵うと思うか!』

『破壊する!』

 

アヘッドのGNビームサーベルとエクシアのGNソードが衝突し、火花を散らす。

その中でエクシアのパイロット――刹那・F・セイエイの声が聞こえた。

 

『なに…?』

『ただ破壊する…!こんな行いをする貴様達を!!』

『……っ』

 

どうやらオートマトンでの掃討作戦を目にしてご立腹らしい。

気持ちは分からんでもない。

俺も乗り気ではない上に手回しはしてあるからな。

だが、当然俺の考えなど知る由もなくエクシアは競り合いながらブーストする。

 

『くっ…!』

『この俺が駆逐する!!』

 

圧されて思わず後退した。

アヘッドに対して力技とは、腐ってもガンダムというわけか。

エクシアはさらにGNソードをライフルモードに即座に変更して、粒子ビームでの追撃射撃を放ってきた。

実弾とは違い、破壊力の高い粒子ビームに防いだGNシールドが抉られる。

さすがに使い物にならないのでGNシールドは捨てた。

 

『レナの教えがあれば…!』

『……っ!』

 

エクシアの粒子ビームをGNビームライフルで狙い、撃ち落とす。

レナのように全弾命中するほど精度は高くないが半数は相殺した。

あとは避けつつ、距離を詰めるのみ。

右肩にマウントされたGNビームサーベルを抜刀して加速する。

 

『距離を…!』

『間合いに入った!』

 

証拠にエクシアがGNソードの刀身を戻す。

振り下ろした刃は再び衝突した。

今度は俺が叩き落としたおかげで、俺が優勢だが。

 

『はあっ…!』

『ぐっ…!』

 

火花が散る中、力比べが始まる。

だが、まだ俺の方が余裕がある。

ならこの際思ったことを言ってやろう。

 

『お前達の武力介入の結果がこの惨状だ!』

『……っ』

『ソレスタルビーイングの掲げた戦争根絶のために俺の仲間は死んだ!武力で解決するなんて矛盾を起こすから……っ!』

『ぐあっ!?』

 

競り勝ち蹴り飛ばす。

そこに粒子ビームを叩き込んだ。

 

『うぐっ…!!』

『俺達は奪わない。だが、お前達は違う。仲間の無念は張らさせてもらうぞ…!』

『……っ』

 

そうさ、協力はしたが思うところはあった。

俺は忘れない。

奪われた命を、起きた悲劇を。

その分の咎は受けてもらう…!

 

『墜ちろ、ガンダム!!』

『ぐああーーっ!しまった…!』

 

投擲したGNビームライフルでエクシアは体勢を崩す。

そこにGNビームサーベルを左肩からも抜刀して距離を詰めた。

そのまま一閃、エクシアの両腕を斬り落とす。

そして、隙だらけの機体に二刀で斬り刻もうとしたその時――別方向から粒子ビームが飛来した。

 

『なに!?』

『……っ!?』

 

咄嗟に後退したが、ビームサーベルが破壊された。

クソ、武器が…!

一体どこのどいつだ!

いや、本当は()()()()()

しかし、聞いてたよりも早い。

 

『まさか…!』

 

丁度さっき粒子がチラついた方角に目を向けると、こちらへ接近する機影をEセンサーが同時に察知した。

俺の肉眼も捉える。

白黒の塗装に重装甲――だが、5年前の『デカブツ』程ではない。

両肩と腰部に二門の砲門。

そして、この機体も緑のGN粒子を散布している。

このMSはリボンズからも聞いていない…!

 

『新たなガンダム!』

『──────────』

 

両肩の砲門に捕捉されている。

面倒な…!

 

『……っ!』

 

予測通りの弾道に放たれた粒子ビームを回避し、大型のガンダムとの距離を取る。

恐らく、レナに聞かされていた『新型』…。

口頭で伝えられた情報と姿も武装も酷似している。

 

「セラヴィーガンダム。確かパイロットはティエリア・アーデか。奴も俺達と同じ……」

 

『セラヴィー、目標を確認。戦闘を開始する』

 

「……っ!攻撃態勢!」

 

セラヴィーが得物を構え、俺のアヘッドを捉える。

主武装は確かGNバズーカIIだったか。

デカブツとは違い、上下分離可能の砲撃武装。

言わば速射性のある二門の砲口…!

 

『攻撃を開始』

 

『避けるしかないか…!』

 

セラヴィーのGNバズーカIIから放たれる粒子ビーム。

砲撃に近い射撃をアヘッドの機動で後退しつつ回避する。

遠距離型のMSにしては攻め寄り、推進してきたが、どうやらエクシアから俺を遠ざけるためらしい。

実際距離を取られた。

それにしても武装がない中、あの重装甲と重武装に対抗するのは不可能だ。

ここは撤退するしか――。

 

『セラヴィー、バーストモード』

 

「……逃がしてもくれないか」

 

俺の視界にGNバズーカIIを連結させ、ダブルバズーカを構えるセラヴィーガンダムが映った。

背を向けようとしたが止める。

全力で推進しても恐らく逃走ルートを逆算されて塵にされる。

だが、だからといって目の前の砲撃に対する対策もない。

ここまでか…!

 

『目標アヘッド、狙い撃つ――ぐあっ!?』

 

『増援!?』

 

砲撃体勢だったセラヴィーが粒子ビームの横槍を受ける。

GNフィールドも張っていなかったからか、被弾して砲撃を中断した。

俺のレーダーも友軍機を捉えた。

セラヴィーを狙撃したアヘッドが1機、戦闘区域に侵入する。

友軍機が介入してくるには早過ぎる。

指揮官が余程有能ではない限り、発進させない。

ガンダムが現れるなんて予想されてないからな。

ならば、自ずと選択肢は限られる。

この土壇場に独自の判断で無断出撃できるライセンス持ち、恐らく――。

 

『ネルシェン・グッドマン……』

『大尉だ。気安く呼ぶな』

 

俺の隣にまで飛来するアヘッドのネルシェン機。

隣接すると、モニターが解放されていつもの仏頂面が表示される。

そして、すぐさま鋭い視線を敵機に向けた。

 

『ガンダム……ッ、ソレスタルビーイングだと?』

『そのようだ。5年前の機体に新型もいる。未だ活動していると見て間違いだろう』

『それでこの失態か。イノベイターも程度が知れるな』

『ぐっ……』

 

プラウドに射出したオートマトンは既に全機ロストしている。

さらにガンダムとの交戦で武装を失い、カタロンに収容者救出の時間を与えてしまった。

現にカタロンの戦艦は戦線を離脱しようとしている。

今回無理を押し通して単独出撃を申し出た結果がこれだ。

嘲笑われても仕方ない……。

 

『フォーメーションα(アルファ)-12、これより作戦行動に介入する。異論はないな?』

『……あぁ』

 

GNビームサーベルを二刀受け取って、頷く。

アヘッドのネルシェン機はGNビームライフルを構えた。

フォーメーションα-12。

俺とネルシェンに与えられた144通りの連携の一つ。

互いに武装を交換し、ネルシェンが二丁銃、俺が二刀流のスタイルで近接と共に後方支援で敵を圧倒するというもの。

だが、俺のGNビームライフルは投げてしまったから、今回は俺が先行してネルシェンが拾いに行くまでの時間を稼いで体勢を立て直してから攻めなければならない。

まあこれも俺の失態といえばその通りだろう。

 

『行くぞ』

『了解!』

 

『新手か…』

 

俺のアヘッドが加速し、ネルシェン機がGNビームライフルから粒子ビームを放ちながら俺のライフルを拾いに行く。

セラヴィーもGNバズーカIIを分裂させて迎え撃つが、俺はその弾道を避ける。

そして接近し、刃を振り下ろしたが、粒子の壁に阻まれた。

 

「その程度…!」

『GNフィールドか!』

『チッ』

 

ネルシェンも射撃が通らず舌打ちする。

くっ…、肩部のGNキャノンIIの砲門が俺を捉えている。

この体勢じゃ避けきれない!

 

「墜ちるがいい!」

『クソ…!』

 

逆噴射で離れようとするが、距離を取れぬまま粒子ビームが放たれる。

だが、直撃するかと思ったその時にGNシールドが俺のアヘッドとセラヴィーの間に投げ入れられ、粒子ビームを弾いた。

 

「なに!?」

『ふん』

 

ネルシェンか……。

どうやら後方から投擲して助けてくれたらしい。

GNビームライフルと共にシールドも浮遊していたようだ。

ネルシェン機を見遣るとGNビームライフルを二丁手に持っている。

さすがの機転だ、エースパイロットなだけはある。

 

『今だ!』

『ぐっ……甘い!』

 

攻撃の際、GNフィールドが剥がれた。

そこにGNビームサーベルを叩き下ろすが再度展開されて防がれる。

だが、予測済みだ。

即時、展開が、可能なのは把握している。

振り下ろした刃は言わばフェイク、本当の狙いは――。

 

『……っ!』

『なに!?回避しただと…!』

 

GNビームサーベルを手放して高度を下げ、GNキャノンIIによる近接射撃を避ける。

そして、隙だらけのセラヴィーの胸に蹴り込んだ。

 

『ぐあっ!?』

『グッドマン大尉…!』

『私に命令するな!!』

 

衝撃を受け、無防備なセラヴィーに二丁のGNビームライフルからの粒子ビームが撃ち込まれる。

正確無慈悲な連射撃はセラヴィーを抉った。

 

『ぐああああああああーーっ!?』

 

肩部のGNキャノンIIと胴体部の装甲を被弾して白煙を上げるセラヴィー。

そのまま圧されて流れるかと思ったが、ダブルバズーカの砲口が一直線上の俺とネルシェンを捉えていた。

 

『タ、タダではやられない!』

 

『しまった…!』

『ぬかりがない!』

 

俺もネルシェンも直線上から抜け出そうと回避行動を取る。

だが、それより速くセラヴィーが球状に圧縮された粒子ビームが発射した。

 

『ぐっ…!』

『チッ!』

 

なんとか射程から逃れたが、俺のアヘッドは左腕と左脚を被弾して失った。

ネルシェン機は右手と右脚を同じく失っている。

 

『エクシアを連れて離脱する!』

 

『ネルシェン、逃げられるぞ!』

『気安く呼ぶなと何度言えば……っ!言われなくても分かっている!』

 

セラヴィーが半壊したエクシアを回収して逃亡する。

その背中をネルシェン機が撃ち落とそうと狙うが、放たられる粒子ビームは一筋だ。

GNビームライフルを一丁破壊されたか。

二丁での速射性を失ったせいか、セラヴィーは逃げられた。

まだ視界には捉えているが、あれでは粒子ビームは届かない。

これだけ離れていれば追っても撒かれるだろうな……。

 

『チッ、仕留め損ねたか。貴様の失態だぞ』

『……分かってるさ』

 

モニター越しに睨んでくるグッドマン大尉を一蹴して思考する。

リボンズからはソレスタルビーイングが滅んだと聞いていた。

しかし、俺の目の前にこうして再び現れた。

ソレスタルビーイングは、まだ生きている。

リボンズは彼らをやり損ねていたようだ。

 

「再起したか。ソレスタルビーイング……」

 

セラヴィーの去った宙域を見つめて呟く。

背部に見えた巨大なフェイスが復活を宣言しているように感じた。

数分後、俺とネルシェンは帰投命令を貰い、ソレスタルビーイングの再起は一瞬で伝達した。

アロウズはもちろん、世界にも。

 

 

 

 

 

『独立治安維持部隊は新たなガンダムと接触しました。そのガンダムがソレスタルビーイングであるかは未確認ですが、連邦政府はこの事態を……』

 

ガンダムの再来により、ソレスタルビーイングの再起が報道によって囁かれた。

その結果、止まっていた時間が動き出す。

 

「あのガンダムは……エクシア、刹那か。それに新型も……」

「世界が、動き出す」

「……レナ」

「ソレスタルビーイングによって。また、戦いが始まる……また、お兄ちゃんは……」

「大丈夫。大丈夫さ」

「うん…」

 

オートマトンの残骸の中、二人の狙撃手(スナイパー)が抱擁する。

黒髪の元少女と右眼に傷跡のある男。

それぞれの想いを抱いて、互いに宇宙(そら)を見上げる。

 

「そうか。現れてくれたか。自分が乙女座であった事を、これ程嬉しく思った事はない」

 

ある男は歓喜に震えながらも仮面を手にする。

 

「あ…あ、ああ……っ!ガン、ダム…」

「ふん…。何故こんな奴がアロウズにいる」

 

ある者はその存在に動揺し、狂気を抱える。

そんな彼女に革新者(イノベイター)は微笑んだ。

 

「ルイス・ハレヴィ……良かったね。これで君にも戦う理由が出来た」

「リボンズ、面会だよ」

 

そして――

 

 

「連邦軍独立治安維持部隊よりソーマ・ピーリス中尉をお迎えに上がりました。第5モビルスーツ中隊所属、アンドレイ・スミルノフ少尉です」

「アンドレイ……いつアロウズに……」

「あなたにお答えする義務はありません。父さん。いや、セルゲイ・スミルノフ大佐」

「父…さん……?」

 

過去の戦士の元にも争いの手が届く。

幸せを知り始めた少女もまた、戦場へと戻される。

それが皮肉にも再会を呼ぶとは知らずに。

戦いに身を宿す彼の元へと――。

 

 




破壊を望む者、拒む者。
様々な想いを受け、今、ダブルオーが覚醒の時を迎える。
次回『ツインドライヴ』。
それはガンダムを駆逐するガンダム。


抜けている部分を追加しました。お待たせして申し訳ありません(2018/07/06 15:14:16)
次回は中旬頃の投稿を予定しています。


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ツインドライヴ

中旬予定でしたが、試したいこともあったのでもう1話分投稿しました。もはや不定期更新だと思ってください。
主人公機はティエレンとキュリオスを主軸として開発されたアヘッドです。
今回は地文を一人称と三人称の合成で書くことで、プトレマイオス側の描写も追加しました。
それが影響してか文章が長くなったので時間がある時に読むことをオススメします。


アロウズの戦艦バイカル級航宙巡洋艦の艦内にて。

上官であるアーサー・グッドマン准将は顰めっ面で見下ろしてきた。

 

「先の掃討作戦。カタロンの艦を取り逃し、ガンダムが出現したとはいえ、オートマトンでの襲撃も何者かの介入により全機ロスト。MS部隊含め死者が0とは……失態だなぁ、デスペア大尉」

「面目しようもありません」

「ふん!もういい!」

「ハッ!」

 

呆れ果てたのか、手で撒かれた俺は敬礼して一歩下がる。

問題はソレスタルビーイングが現れたこと。

これからの行動についてMS部隊長である俺やネルシェン、ジニンに司令官と副官であるアーサー・グッドマン准将とジェジャン中佐を混じえて話し合わなければならない。

一本下がった俺の隣にネルシェン、その隣にジニンがいる。

艦内のメインモニターには新型のガンダム――セラヴィーが映っていた。

 

「アヘッドのメインカメラから拾った映像だ。新型のガンダム……いずれまた我々の作戦に介入してくるであろう」

「ソレスタルビーイングのスペースシップの居場所が掴めればこちらから打って出れます」

「ほう、まるで可能だと言いたげな口振りだな」

「……恐らくだがな」

「イノベイターか…」

 

ネルシェンの鋭い視線を避け、グッドマン准将の忌む視線を受ける。

まったく、風当たりの強い職場だ。

 

「それが可能ならば話は早いが、そうでない場合。やはりガンダムへの対策は必要だろう」

「勿論だ、ジニン。それは俺とグッドマン大尉で受け持つ」

「構わんが。足を引っ張るなよ、デスペア」

「……分かってるさ」

 

皮肉を漏らしてくるネルシェンに渋りながらも頷く。

今更あたりの強いことに目くじらは立てない。

さて、俺とグッドマンがセラヴィーの相手をするとしてそれでも問題が残る。

それは――。

 

「ガンダムが1機だけならいいんだがな……」

「5年前のように4機も出てこられちゃ、今の戦力じゃ太刀打ちできん。そうなったら地上の部隊と合流するしかないな」

「全ては想定の話だ。そんなものは後でいい」

「ま、それもそうだが……」

 

俺の不安とジニンの呟きをネルシェンがバッサリと切り捨てる。

ほんと、竹を割ったような性格してるな。

 

「ふむ。とにかく現段階でガンダムは1機存在している。その対応はデスペア大尉とネルシェンに任せるとしよう、いいな?」

「ハッ!」

「……心得ている」

 

ネルシェンが切ったことにより話に区切りがつき、グッドマン准将がまとめる。

俺は敬礼し、ネルシェンは血縁なこともあってか素っ気ない態度で応える。

血縁でも軍人としての上下関係はあると思っていたが、アーサー・グッドマン准将もネルシェンのことを階級で呼ばないところを見るに二人の間柄は謎だ。

まあ別に知りたいわけじゃないけど。

とりあえずこうしてミーティングは終えた。

ちなみにジェジャン中佐は空気だった。

 

 

 

 

 

ミーティングを終え、先の戦闘での休養を取った後、普段通りの訓練をこなす。

地上では体力向上を軸としたメニューを渡されるが俺達は宇宙(そら)で動く別働隊だ。

となると必然的にMS(モビルスーツ)での訓練が増える。

工夫にもよるが通常の訓練は無重力では楽になってしまうからな。

今日もグッドマン大尉とのフォーメーションのシミュレーション訓練をこなし、脱衣場にてネルシェンと休憩していた。

 

「ほう」

「ん?妙に嬉しそうだな。何かあったか?」

「なに…?」

「顔に出てるぞ」

「……」

 

端末を見つめながら少し頬を緩めたのを見逃さなかった。

ネルシェンは指摘されて表情を険しくする。

おぉ、怖い怖い。

 

「貴様には関係のない話だ」

「あっそ」

 

一蹴されては仕方ない。

珍しく笑うもんだから少しは気になったのは本音なんだがな。

エースパイロットであるネルシェン・グッドマン大尉とイノベイターであるレイ・デスペア。

実力を踏まえてタッグを組まされてから数ヶ月は経ち、144通りもあるフォーメーションも馴染みつつある。

 

だが、俺達の間には明らかに溝があり、それを埋めようとは互いに思っていない。

俺からすれば以前は『敵』だった相手。

ネルシェンからすればナオヤ以外はさほど興味がないのだろう。

故に互いに関与せず、今も一蹴されたら話を切って目を逸らした。

 

「そういえば今日のフォーメーションγ(ガンマ)-26、ラストでミスしてたぞ。あれはお前が囮になるやつだろ。俺に流してどうする」

「……ふん。どうせ実践では使わんやつだろう」

「そういう問題じゃあないだろ」

 

ま、実際言う通りではあるけど。

使うなら俺が囮になるβ(ベータ)-32だ。

あれは俺の高機動能力を活かして相手を惑わし、俺に意識を集めてその隙にネルシェンが敵機を墜とすというもの。

多少マシになったとはいえ、射撃が苦手な俺が後ろ手に回るなんて悪手だ。

 

「貴様にどうこう言われる筋合いはない。実践で失敗ばかりする貴様にはな」

「……そりゃ悪かったな。こっちも努力はしてるさ」

「実らねば意味は無い」

「手厳しいことで」

 

鋭い指摘に肩を竦めて立ち上がる。

水分補給も終わった。

また訓練に戻らなくてはならない。

経験談だが人革連軍では訓練量も多く、内容もかなりハードだった。

しかし、アロウズはそれを遥かに凌ぐキツさだ。

実際こうして休憩も少ししか与えてもらえない。

……俺ってブラック企業の就職率高くないか?

 

「んっ、なんか落ちたぞ」

 

ロッカーを閉め、退室しようとしていたネルシェンの懐から落ちた端末を拾う。

さっき見てたやつか。

ふと画面が目に映ったが、どうやら一通のメールのようだ。

宛先はわからんがアロウズに着任したとの内容が見えた。

 

「勝手に見るな」

 

ネルシェンが即座に俺から端末を奪い取る。

ついでに強く睨んできた。

 

「見えたんだよ、悪かったな。で、誰か知り合いでも来たのか?」

「……カティ・マネキン大佐だ」

「あぁ、『鉄の女』か」

「私の恩人だ。その名で呼ぶな」

 

元AEU軍の作戦指揮官。

『鉄の女』にしてカティ・マネキン、か。

優秀な指揮官だと聞いたことがある。

まああまり気持ちのいい異名じゃないからネルシェンが睨むのも分かるがな。

恩人みたいだし。

そういえばネルシェンは元AEU軍か。

接点があってもおかしくはない。

 

「よかったな」

「余計なお世話だ」

 

ネルシェンが端末を閉じて懐に戻す。

相変わらず冷たいのは変わらない。

すぐに背を向けてしまった。

 

「……そういえば人革連からも着任した者がいるらしい」

「え?えっと、スミルノフ大佐か?」

 

立ち止まったかと思えば突然告げられたので困惑する。

思わず口に出したがスミルノフ大佐は確か正規軍所属だったはず。

階級も上がってらっしゃる。

となるとミン少佐……も正規軍だな。

 

「ロシアの荒熊か。だが、違う」

「じゃあ――」

 

『モビルスーツ部隊出動。これより我が艦はガンダムを搭載したスペースシップへの奇襲作戦を開始します。繰り返します、奇襲作戦を開始します。アヘッド特別小隊出撃準備。ならびに、アヘッド第1、第2小隊出撃準備―――』

 

俺の言葉を遮るように艦内で大音量の招集ブザーが鳴り響く。

ガンダムのスペースシップへの奇襲作戦、か。

リボンズのやつ、早速見つけたみたいだな。

だが、オリジナルの太陽炉は『ヴェーダ』で追えなかった筈だ。

どこからか情報を得たのか?

 

「貴様の苦手な実践だ」

「……の、ようだな」

 

隣にいるネルシェンの皮肉に苦笑いで返す。

はだけていたパイロットスーツを身に纏い直し、ヘルメットを抱えてネルシェンと共に廊下を駆けた。

特別小隊とは俺とネルシェンのタッグのことだ。

出撃命令が下された。

5分後にはアヘッドに乗り込んでなくてはならない。

 

即座に格納庫に向かい、辿り着くと慌ただしい周囲を無視して自身のアヘッドを目指す。

コクピットへ乗り込んでシステムを確認した。

同時にグッドマン大尉も一通り目を通して準備する。

 

「システム、オールグリーン。アヘッド起動!」

『同じく。起動する』

 

アヘッド デスペア機とネルシェン機の凶悪な四つ目に赤い光が宿る。

GNドライヴも擬似GN粒子を噴き始めた。

粒子が関係する武装の全ても操作可能になる。

 

「大尉!私にも出撃の許可を!」

「それを決めるのは私ではない!待機していろ、ハレヴィ准尉」

「脚周りのセッティング、OKです」

「ご苦労」

 

俺のアヘッドの前でジニンが部下に手を焼かれている。

大変だな、上官ってのも。

俺には直属の部下がいなくて助かってる。

ただでさえ面倒臭いのを相手にしてるんだ、これ以上増えてもらっては困る。

 

『何か言ったか?』

「いや、何も」

 

地獄耳かよ。

脳量子派でも使えるのか?

まあ万が一使えても俺のスーツは遮断するけど。

 

「……と、来たか」

 

俺の端末が微かに振動する。

仲間内との通信を遮断して、受け付け不可能にした。

周囲はこれをデスペア大尉の精神統一と称するが実際は違う。

端末に来たメッセージに視線を落とした。

 

「『ダブルオーガンダム』……粒子発生率の二乗化を可能とするツインドライヴ搭載型の新型か。また新型かよ、まったく……」

 

悪態をつくが着目すべきはそこではないことくらい分かってる。

ツインドライヴ。

粒子の二乗化だと?

そんなことが本当に可能なのか?

だが、『本来の流れ』()()()では刹那・F・セイエイがトランザムを用いて成功させるとのこと。

レナから来るこの未来予知のメッセージはそれなりの頻度で当たる……のだが、最近は的中率がおかしい。

疑ってた新型のガンダム――セラヴィーは本当に現れた。

ならばこれも……。

 

「考えても、仕方ないな」

 

分からないことは一旦保留に限る。

ツインドライヴとやらが本当なのかは定かではないが、そんなものを搭載したダブルオーとかいう化け物。

もしそれが出てきても仲間は誰も殺らせない。

――俺が必ず仲間を守る。

 

「……俺は、イノベイターだ」

『アヘッド起動!各機、発進準備急げ!ソレスタルビーイングめ……、アヘッド、出撃する!』

「了解!デスペア機、出る…!」

 

ハッチが開き、アヘッドで飛び出した。

第1、第2小隊の前にネルシェン機と共に出る。

前回のセラヴィー戦でのデータを参照にネルシェン機はGNバスターソードIIを背負っていた。

デスペア機は変わらずGNビームライフルとGNシールドを構える。

 

『特別小隊、先行する!俺達に続け!』

『了解した!』

 

GNバーニアを噴射して加速する俺とネルシェンにジニンともう一人の小隊長が連れた小隊がつく。

暫くして先行した俺達のモニターにソレスタルビーイングの戦艦が入った。

ガンダムを搭載したスペースシップ――プトレマイオス2が。

 

 

 

 

 

『第2デッキ、ハッチオープンです。セラヴィー、カタパルトデッキへ。リニアカタパルトボルテージ、230から520へ上昇。機体をフィールドに固定。射出タイミングをセラヴィーに譲渡するです』

『了解。セラヴィー。ティエリア・アーデ、行きます』

 

一方、プトレマイオス2では王 紅龍(ワン・ホンロン)からの連絡によりアロウズの艦隊の接近を察知した。

フェルトはイアン共にダブルオーガンダムのマッチング作業を続け、刹那はスメラギ・李・ノリエガとロックオン・ストラトス(ライル・ディランディ)を乗せた飛行艇でプトレマイオス2へと近付いていた。

アロウズを迎え撃つために発進したセラヴィーガンダムはたったの1機でアロウズ艦隊へと向かう。

その先には2機のアヘッドが待ち構えていた――。

 

 

 

 

 

敵機を確認した。

以前現れた新型、セラヴィーガンダムだ。

しかし、たったの1機。

どうやらレナの情報通り、1機しかロールアウトしていないようだな。

 

「新型を確認した。グッドマン、行くぞ!」

『分かっている』

 

ネルシェンのアヘッドが俺にGNビームライフルを投げ渡し、GNバスターソードを抜刀する。

俺はGNビームライフルを二丁構えた。

 

『俺とグッドマン大尉で新型の相手をする!第1、第2小隊は対艦攻撃を……!』

『オーライ!第1、第2小隊は私に続け!』

 

ジニンが通信で叫び、命令を飛ばす。

アヘッド ジニン機を筆頭に第1、第2小隊はセラヴィーを迂回した。

 

『……っ!トレミーが狙いか!行かせるわけには…!』

 

『貴様の相手は私だ』

 

『アロウズの新型…!』

 

ネルシェン機の接近にセラヴィーが身構える。

GNバズーカIIの砲口をアヘッド ネルシェン機へと向けた。

そのまま粒子ビームを二連速射する。

 

『無駄だ』

「バスターソードを盾に…!」

 

ネルシェンがGNバスターソードを盾代わりに近接での粒子ビームを防ぐ。

そして、ネルシェン機の背後から俺のアヘッドが飛び出て二丁のGNビームライフルで上から連射撃を放った。

ネルシェン機を影に攻撃タイミングの反応が遅れたティエリアはGNフィールドが間に合わず、セラヴィーで後退する。

 

『フォーメーションα-21!』

『くっ…この前の2機か!』

 

ご名答。

一定間の間合いで粒子ビームを交わす。

互いに二門から放つため、回避行動しながらの射撃を強いられていた。

まあセラヴィーはGNフィールドも用いているが。

 

『クソ!ズルいな、あれ。俺も欲しい』

『無駄口を叩くな』

『分かってる!』

 

例え防がれようと攻撃の手は緩めない。

俺の役割は弾圧だ。

防がれても相手の動きをある程度制限できていればそれでいい。

あとはネルシェンがGNバスターソードで勝手に斬り込んでくれる。

 

『ふっ!』

『こちらからも……っ!』

 

バスターソードの斬撃をセラヴィーは後退して避ける。

だが、即座に突きがGNフィールドを貫いた。

 

『うぐっ…!』

 

装甲が厚いからか、貫けはしなかったが胸部を突かれた衝撃でセラヴィーが吹き飛ぶ。

ネルシェンはさらに振り落としをお見舞いした。

 

『はああっ!』

『ぐっ!?』

 

咄嗟に振り下ろされたGNバスターソードをセラヴィーはGNバズーカIIを盾代わりに防ぐ。

しかし、それを機にGNバズーカIIは大破してしまった。

小規模な爆破がセラヴィーの目前で起きる。

 

『ぐああああーーっ!?』

 

爆炎の影響でさらに吹き飛ぶセラヴィー。

GNバズーカIIはお釈迦になった。

これであの時の砲撃は使えない!

 

『一気に畳み掛けるぞ!』

『待て』

『……っ!』

 

ネルシェンの冷静な制止に俺も急停止する。

目前を粒子ビームが四線通り過ぎた。

見下ろすと咄嗟にGNキャノンII四門から粒子ビームを放ったセラヴィーが映る。

今のを加速していればあれに当たるところだった。

 

『すまん。助かった』

『イノベイターだというのならばこのくらい反応して見せろ』

 

『くっ…、なんという反射神経!この2機、手練れか…!』

 

『フォーメーションα-12』

『了解!』

 

淡々とした指示に応じ、ネルシェン機からGNバスターソードを受け取る。

同時にGNビームライフルを二丁とも投げ渡し、俺が前に出た。

一気に加速してセラヴィーに斬り掛る。

 

『はあっ!』

『……っ!』

『ビームサーベル…!』

『まだ諦めん!』

 

両腕に収納されていたと思わしきGNビームサーベルでバスターソードの斬撃を防がれた。

だが、勢いはこちらが圧している。

 

『押し切る!』

『ぐあっ…!』

 

ブーストとパワーで弾き飛ばした。

その上にさらにGNバスターソードを叩き込む。

 

『はああっ!』

『まだだ!』

『隠し腕だと!?』

 

腰部のGNキャノンIIから腕が出現し、GNビームサーベルの刃を生成した。

追撃の叩き込みもそれで防がれる。

なんて身持ちが硬いんだ……!

 

『しつこいぞ!!』

『うぐっ!?』

 

腹部に蹴り込み、蹴り飛ばす。

隙だらけのセラヴィーに後方からネルシェンが二丁での速射を撃ち込んだ。

 

『貰った…!』

『まだ!まだ耐えてみせる…!』

『なに!?』

『GNフィールドか!』

 

GNフィールドを発生させたセラヴィーがギリギリで粒子ビームを遮断する。

満身創痍のくせに!

 

『ダブルオーが、刹那が来るまでは……っ!!』

 

『クソ…!』

『チッ』

 

距離を取られ、GNキャノンIIから四閃の粒子ビームが放たれる。

このままでは詰めきれない…!

時間を稼いでいるのか、ツインドライヴのマッチングを完成させるまでの時間を――。

 

 

 

 

 

一方、プトレマイオス2にて。

 

「あっ。アイオンさん、ノリエガさんから緊急暗号通信が来たです」

「ノリエガ!?スメラギさんから!?」

「戦術プランです。開始予定まで0032」

「そいつは無茶だぜ……刹那の奴、本当に連れて来やがった」

 

スメラギ・李・ノリエガからの作戦プラン。

それに目を通してラッセは苦笑いする。

同時に、戦術予報士の復活に震え、引き金を引く。

 

『敵艦を捕捉。我が小隊と第2小隊で輸送艦を叩く!」

『大尉、輸送艦から!』

『……っ!?』

 

プトレマイオス2へと接近していたジニン小隊と第2小隊のアヘッド率いるジンクスのMS(モビルスーツ)部隊。

ガンダムの輸送艦であるプトレマイオス2が迎え撃つようにミサイルを放った。

突如放たれたミサイルに味方機がところどころで命中する。

 

『ぐわっ!き、機雷か…!これくらいの事――うわあっ!』

『センサーに障害だと!?時間稼ぎのつもりか…。軌道修正!迂回する!』

 

ジンクスを駆るパイロット達の被害が出る中、行く手を阻むように展開されたスモークにより、MS部隊は迂回を強いられる。

ジニンの機転で1機以外の被害を抑え。

時間を稼いだ隙にスメラギ・李・ノリエガとライル・ディランディを乗せた輸送艦は敵部隊とは逆サイドへと進路を変えた。

 

「ST27のルートを通って!」

「了解」

「なるほど。そういう事か」

 

最短ルートを通る飛行艇にスメラギの意図に勘づいたライルが感心する。

そして、刹那はイアンへと通信を繋いだ。

 

「イアン!ダブルオーを出す!」

『ちょ、ちょっと待て、刹那!こっちはまだ…!』

「時間がない。操縦を頼む」

「な、何だって!?」

 

無茶振りを連発する刹那にイアンは虚しくも通信を切断され、ライルは飛行艇の操縦は丸投げする。

無茶過ぎるぜそれは…!とボヤくライルの言葉を刹那は知らない。

聞かずに飛び出て単独でプトレマイオス2のハッチまで泳ぎ始めた。

 

『小型艇着艦準備、及び、ダブルオー発進シークエンスに入るです。第1デッキ、ハッチオープンです』

 

ミレイナのアナウンスと共に開くプトレマイオス2のハッチ。

そこに刹那は飛び込む。

 

『ダブルオー、カタパルトデッキに搬送です』

『ったく、何なんだ!』

 

ミレイナのアナウンス、イアンのボヤキ。

そして、ハッチに現れる青と白の機体。

肩に二つの太陽炉を付けた未知のガンダム――ダブルオーガンダム。

ツインドライヴを両肩に搭載した新型がハッチに入った刹那を迎えた。

 

――(ダブルオー……0ガンダムと、エクシアの太陽炉を乗せた機体)

 

 

――(俺のガンダム!)

 

ダブルオーを前に近付く刹那。

遂にそのコクピットへと乗り込む。

そして、即座にシステムを確認した。

 

「ツインドライブシステム、いけるか?」

『刹那!ダブルオーはまだ……!』

「トランザムを使う」

『無茶だ!刹那よせ!』

「トランザム、始動!!」

『やりやがった……』

 

イアンの制止も聞かず、刹那はトランザムを起動する。

トランザム状態となったダブルオーガンダムはその姿を赤い輝きに染めた。

しかし――

 

『ダメです!粒子融合率、73%で停滞!』

『トランザムでもダメか……!』

『敵モビルスーツ2機、急速接近中です!』

 

フェルトの言葉にイアンが頭を抱え、その間にミレイナの絶望にも等しい警告が入る。

さらにダブルオーの起動まで時間を稼いでいたティエリアもそろそろ限界が来ていた。

 

『貰った!』

『ぐあっ!?』

 

アヘッド デスペア機によるGNバスターソードの突きがセラヴィーの胸を捉え、遂には装甲も削れる。

 

『グッドマン大尉、今だ!』

『私に命令するなと何度言えば分かる!』

『ぐっ……、来る!』

 

態勢を崩したセラヴィーにデスペア機を超えたネルシェン機が通り、その際にGNバスターソードを受け取ってセラヴィーへと接近する。

獲物がバスターソードに変わったことでGNフィールドも通用しない。

まさに絶体絶命の危機がティエリアにも迫っていた。

 

『ダブルオーは……っ!?』

 

そんなティエリアの悲痛の願い。

刹那もまた、この窮地で応えてくれないダブルオーへと語り掛けていた。

 

――(目覚めてくれ、ダブルオー!)

 

しかし、ダブルオーは応えない。

それでも刹那は強烈な想いを込め、レバーを強く握った。

 

――(ここには、0ガンダムと!エクシアと!)

 

両肩の太陽炉。

Oガンダムとエクシアから受け継がれたもの。

そして――

 

「俺がいる!!」

 

瞬間、ダブルオーの双眼に光が宿り、ツインドライヴのマッチング率が80%を超えた安定領域へと辿り着いた。

ダブルオーが起動する。

刹那の想いが、ダブルオーを呼び起こしたのだ。

 

『き、起動した!二乗化のタイムラグか!?」

『ツインドライブ、安定領域に達しています!』

 

プトレマイオスクルーでさえ、驚愕に包まれる中、プトレマイオス2にはもうジンクスIIIが迫っていた。

ハッチ内が晒されているため、露わになったダブルオーに2機のジンクスIIIがGNランスを構えて接近する。

 

『刹那…っ!』

 

思わずフェルトが涙を浮かべて名を叫ぶ中、ハッチ内で弾圧によりダブルオーが襲われる。

だが――

 

『や、やったのか!?』

 

ジンクスIIIのパイロットの一人が爆発による白煙でまだ動かぬ新型を始末したかと叫んだが、突如、大量の粒子が―――緑光がハッチから溢れ出る。

 

『何だあの光は!?』

 

もう一人のパイロットも驚愕するGN粒子の波。

その中から1機の機影が飛び出した。

 

『ダブルオーガンダム!刹那・F・セイエイ、出る!』

 

『新型!?』

『我々で叩くぞ!』

 

突如出現したダブルオーガンダムに迎え撃とうとするジンクスIIIのパイロット。

だが、彼らを横切る機影が彼らを制止した。

 

 

『どけ!俺がやる…!』

『デスペア大尉!?』

『どうしてここに……、まさかあの距離から!?』

『黙って言うことを聞け!』

『り、了解…!』

 

第2小隊のジンクスIIIを駆る部下達に怒号じみた指示を飛ばし、割って入る。

少し言い方がきつかったかもしれないが、土壇場だ。

許せ。

 

それよりも新たに現れた新型のガンダム……。

両肩に太陽炉を一つずつ、計二つ搭載しているのが確認できる。

つまり、こいつが――

 

『ツインドライヴか!』

『ダブルオー、目標を駆逐する!』

 

腰部から近接武装である剣を抜き出すダブルオーガンダム。

確かGNソードIIだ。

エクシアのものから改良された似ても似つかないGNブレイドのような形状。

レナの情報が正しければソードモード、ライフルモード、ビームサーベルモードと時と場合によって対応できる万能武装。

そして、GNビームサーベルを抜刀した俺に、刹那はビームサーベルモードでGNソードIIを振るった。

 

『なっ……!?』

 

すれ違い様に一閃。

間合いに入った瞬間の加速でダブルオーはいつの間にか俺の背後に回っていた。

遅れて俺のアヘッドの右腕が切断される。

馬鹿な……ッ、この俺がスピードで負けた!?

 

『これが、俺達の!ガンダムだ!!』

『ぐああっ!?』

 

機体の損傷で起きた爆発でコクピットに衝撃を受ける。

なんて性能だ!!

塩基配列パターン0000の力を持ってしても見えなかった……っ!

 

『くっ…!ジニン、撤退命令を出せ!』

『なに?』

『頼む!!』

 

モニター越しでジニンに懇願する。

ダブルオーは初見では対策が取れない。

それに、あの性能で来られたら対策なしじゃ間違いなく全滅だ!

 

『了解。第1、第2小隊、撤退する…!』

『……っ』

 

切羽詰まった俺を見たからか。

ジニンは早急に対応してくれた。

本艦からの撤退信号もあって、第1、第2小隊は撤退していく。

だが、未だセラヴィーと刃を交えるアヘッドがいた。

 

『ネルシェン!一旦、引くぞ!』

『くっ…、私に命令するな!』

『そんなことを言っている場合か…!』

 

まったく、なんて頑固なんだ。

この際仕方ない。

俺のアヘッドでネルシェン機を無理やり掴んだ。

 

『……っ!貴様、勝手に――』

『撤退信号が見えないのか?』

『ぐっ……』

 

確かにセラヴィーを追い詰めていた。

あともう一歩だったが、ダブルオーガンダムが迫っていたんだ。

ここは撤退するのが最善手。

ネルシェンだってそれくらいは理解しているだろう。

ただ――。

 

『私は…また、ガンダムに……っ!!』

『……』

 

彼女の底に眠る復讐心が理性を失わせる。

周りが見えなくなるほどにあの壁を超えられないことがネルシェン・グッドマンにとって障害となっていた。

 

『レナ…』

 

彼女にとっての好敵手。

そして、俺にとっての――大切な人。

大切な理由は分からない。

同タイプだからか?仲間だからか?

 

ただ大切だということはハッキリしている。

刹那、俺の頭に激しい痛みが走った。

 

「……っ!ダブル、オー……以前、どこかで……」

 

ブレる視界にフラッシュバックする光景。

それがなんなのかも分からない。

操作もおぼつかないので帰還ルート設定し、自動操縦にした後。

俺は知らない名前の少女の笑顔を脳裏に浮かべていた。




失われた、散らつく記憶。
ツインドライヴの存在にイノベイターがレイを問いただす。そんな時、一人のガンダムマイスターが囚われの身となっていた。
ソーマ。それはかつて仲間だった者の名前。
次回『守りたかった人』。
会いたい、ただそれだけを――。


※次回予告は現段階プロットの内容ですのでご注意ください。


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守りたかった人

サブタイ変えました。


頻繁に、一筋の閃光が走るが如く、突くような頭痛がする。

その痛みが走る時はいつも、俺の知らない映像が脳内でフラッシュバックした。

だが、それは常に千切れていて詳細はよく分からない。

たまにハッキリと映るのは見知らぬ少女の笑顔か見たこともない新型のMS(モビルスーツ)―――ガンダムの姿。

 

今日もまた、夢を見た。

橙黄色に染まった二対のウィングを有するガンダム。

その姿はどことなく5年前の『羽付き』を彷彿とさせる外見をしていた。

初めて見るモビルスーツの筈が、どこかで見たような妙な感覚が襲われる。

俺は一体――何処でこの機体を―――。

 

 

「……っ」

 

唐突に脳に刺激が入って意識が戻った。

重い瞼を開けると無重力の中、壁に背を預けていた。

どうやら眠っていたらしい。

視界には軌道ステーションのいつもの光景、宇宙で働く者や旅行者などのエレベーター利用客でごった返していた。

そして、俺の目の前には何故かヒリングが俺の顔を楽しそうに覗いている。

 

「……すまん。眠ってたか」

「えぇ。それはもうぐっすりと。起こさない方が良かったかしら?レイ」

「いや、もう充分だ。感謝する」

「どういたしまして」

 

周囲の視線を集めるほどの美形でちょっと悪趣味に微笑む。

容姿が整っているからか、辺りの男性はひと目見て惹かれていた。

ヒリング・ケア。

リボンズ・アルマークと塩基配列が重なる同タイプのイノベイターで、俺の同類。

プトレマイオス2への奇襲作戦の後、リボンズに招集を掛けられた俺を迎えに来てくれた。

しかもわざわざ寝てるところを脳量子派で起こしてくれたらしい。

正直夢を見るほど眠りが深かったようだから助かった。

 

「それにしても。レイって案外可愛い顔で寝るのね」

「そ、そうか…?」

 

意識まだ朦朧としているせいか、ヒリングの接近に少し驚いた。

こいつすぐ顔寄せてくるんだよなぁ……。

寝顔がどうとか言われても自分では見れないから言葉に困る。

 

「とりあえず行くか」

「えーー!もう行くのぉ?折角だし遊んでいけばいいじゃない」

 

ヒリングが軌道ステーションの施設を見渡して愚痴る。

しかし、休んでいる暇などない。

 

「俺は忙しいんだ。またブラックに入っちまったからな」

「へー、アロウズって相当なのね。戦いばかりの日常……あたしはちょっと欲しいかも」

「しんどいぞ」

 

好戦的なのは相変わらずらしい。

だが、憧れられてもこちらとしても推せる職場ではない。

ほんと、もっとマシな職場を紹介してくれ。

過労と同僚のストレスで胃がキリキリしそうだ…。

 

「でも、やっぱり最近レイと会うことも少ないし、また戦い(遊び)たいわね」

「また今度な」

 

ヒリングのいう遊びとは遊戯と書いて模擬戦だ。

シミュレーション、MS実戦、対人戦……よりどりみどり。

さぁどれであたしに倒される?って感じでボコられる。

別にいつも負けている訳じゃないが、ヒリングだってマイスタータイプなだけはあって実力は相当なものだ。

簡単に勝てる相手ではないし、真面目に戦えばめっちゃ疲れる。

ぶっちゃけめんどくさい。

 

「レイ。思考聞こえてるから」

「マジかよ」

 

絶句して振り返ると笑顔のヒリングがいた。

まさしく死を感じた瞬間だった、ここ最近で一番かもしれない。

結局俺は無事に地上に降りて俺達イノベイターの本拠へと向かうことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イノベイターの本拠。

見慣れた赤い長椅子に存在感を放つ人物が膝を組んで腰掛けていた。

リボンズ・アルマーク。

俺達イノベイターの統率者(リーダー)だ。

心を見透かすような瞳で俺を捉えている。

 

「久しぶりだね。レイ・デスペア。わざわざ宇宙(そら)からご苦労だよ」

「そう思うなら気軽に呼び出さないで欲しいんだがな」

 

リボンズと対峙するように壁に背を預けて溜息をつく。

宇宙と地上を行き来するのは本当に大変だ。

 

「そうも言ってられないさ。僕らは君にどうしても聞かなければならないことがあるんだからね」

「なに…?」

 

奥にいるリヴァイヴ、ブリング、デヴァインの視線が鋭くなる。

唯一ヒリングだけは会釈して俺に手を振っていた。

呑気か。

 

「揃いも揃って……。俺が何か隠しているとでも?」

「『ツインドライヴ』。僕らが知りたいのはただそれだけだ」

「……っ!」

 

さすがに息を詰まらせた。

虚を突かれて顔を顰める。

先の戦闘で俺の発言を拾ったか。

だが、何故リボンズにまで伝達して……。

イノベイターと直接連絡が取れるやつなんて限られてる。

 

「表情を崩したね」

「……ネルシェンか」

「答えてもらうよ。レイ、『ツインドライヴ』とはなんだい?『ヴェーダ』を掌握しているこの僕が知らない単語だ。けれど君は知っている」

「……」

 

その疑問は共通なのかリヴァイヴやブリングからも詰問を迫る圧をかけてくる。

確かに、ツインドライヴは『ヴェーダ』の内部データには存在しない。

トランザムと共にオリジナルの太陽炉を持つもののみに与えられたシステム――それがツインドライヴ・システムだからだ。

だが、それを俺は知っている。

 

その理由(わけ)は情報源があるから……というのはリボンズ達も既に看破している筈だ。

ただその情報源が誰なのか。

それが重要であり、話せば『彼女』に危険が及ぶ。

それは絶対ダメだ。

俺の本能がそう訴えてきている、アラートが脳内で鳴り響くまでに。

ならどうするか……まあこんなこともあろうかと対策は考えてある。

 

「そういうお前達こそ、俺に隠してることがあるんじゃないのか?」

「何?」

 

質問には答えず、こちらからも核心を突いた。

俺の言葉にリボンズが虚を突かれたかのように眉を顰める。

その背後ではリヴァイヴ達も苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

勘が鋭いな。

後ろの陣営は察しが付いているらしい。

 

「プトレマイオスの位置をあれほど正確に特定したのはお前達だろ?だが、オリジナルの太陽炉を追う手段はない。つまりは誰かから情報を得ている筈だ。それは誰だ?」

「質問に質問で……っ!」

「今聞いているのはこっちだ。答えろ!」

「ぐっ…」

 

少し声を張って圧を掛ける。

話を戻そうなんてそうはさせない。

リボンズ達は何故か俺に情報源があることを隠していた。

俺を警戒してか……いつからだ?

まあ今はいい。

とにかく隠しているという『事実』がある以上、俺だけが責められるのは筋違いだ。

投げかけられた問いに対する答えは持っていないが、主導権を変えることはできる。

流れの変わった状況にリボンズは暫くして――諦めるように笑った。

 

「フッ。この僕が一杯食わされるなんて……。まあいいさ。これ以上は問い詰めない」

「……なら俺もこれ以上は干渉しない」

 

まさかこの程度で引くとは思わなかったが、あちらが引くならこちらもこれ以上問い詰める必要はない。

リボンズがそこまでして情報源を隠す意味は分からないが、問い詰められて状況を悪くするのは明確だ。

無駄にこちらに被害の出る詮索などしない。

 

「もういいか?訓練に間に合わなくなる」

「あぁ、勿論さ。――だが、君のことは暫く監視させてもらうよ」

「俺もお前達のことを疑わせて貰う」

 

金色に輝く瞳で睨み合う俺とリボンズ。

他のイノベイターの視線も受け流し、俺は退室させてもらった。

しかし、すぐにまた別の同種と会うことになる。

廊下を歩いていると腕を組んでリジェネが待っていた。

 

「やあ。もう帰るのかい?」

「……リジェネ・レジェッタ」

 

白々しく片目を開けて俺を見遣り、問い掛けるリジェネ。

今日は次から次へと……。

一山超えたと思ったらもう一山、先が思いやられるな。

この際無視して行こう。

 

「君の知りたいこと、教えてあげるよ」

「なに…?」

 

通り過ぎようとしたが、リジェネの言葉に思わず立ち止まってしまった。

振り返るとリジェネが悪趣味な笑みを浮かべている。

やられた……。

 

「リボンズの情報源か?」

「あぁ。もちろん」

「……俺は話さないぞ」

「必要ないさ。君が誰から情報を得ていようと僕は興味がない」

「なんだと?」

 

他の奴らがあんなに躍起になってるってのに。

リジェネは知りたくないというのか?

予測はついているだろう。

俺の知る情報――いや、知ることになる情報は未来のこと。

盤面を操るイノベイターにとってこれ程喉から手が出るほど欲しいものはない筈だ。

 

「どういうつもりだ」

「別にどういうつもりでもないさ。それで、知りたくないのかい?」

「……無条件なら」

「喜んで」

 

リジェネが紳士的に腰を曲げる。

眼鏡の奥には笑みが見え隠れしていた。

怪し過ぎる……。

 

「リボンズの情報源はまさしくこの僕だ」

「は?」

 

顔を上げたと思ったら満面の笑みで自身の胸に手をかざし出す。

突然の告白に動揺したのもそうだが。

こいつの言葉の根拠が分からない。

 

「ど、どうやってお前がトレミーの情報を……。まさかスパイ?」

「はははっ。もっと単純さ!それこそリボンズが恥ずかしくて君に交換条件として出せないほどにね」

「リボンズが?」

 

どういう――あっ、もしかして。

気付いてしまった……。

これは確かに赤面必死だ。

 

「まさかティエリアの脳量子派を使って……ってことか?その為にお前は駆り出されて…」

「正解」

「しょぼっ」

 

ティエリアにバレないように?

同タイプであるリジェネが脳量子派でトレミーの居場所を探知する。

繊細でありながらも地道な作業をリジェネにさせ、あたかも情報源があるようかのようにカモフラージュ。

というよりは本当のことを言えなかった、と。

なるほど――。

 

「……この件には触れないでおく」

「それが懸命だね。リボンズが知ったら睨むよ」

「だろうな」

 

確かに交換条件にすらならない。

リボンズがそれとなく引くのも頷けるな。

だが、まあ監視を付けるというのはあからさまな警告だろう。

それだけ目をつけられたということだ。

ま、警戒くらいはしておくか。

 

「サンキュ。じゃあ、俺はこれで……」

「まだ、情報がある」

「あ?」

 

今度こそ背を向けようとすると、リジェネは光が反射した眼鏡を押し上げて呟いた。

まだあるってのか。

 

「アロウズに元人革連の『超兵』が召集された」

「――――っ!」

 

自分でも無意識のうちに目を見開いた。

激しく反応して思わずリジェネを見遣る。

リジェネはそんな俺に笑みを浮かべて話を続けた。

 

「彼女は地上の部隊にいる。ライセンスを使うなら今だよ。それじゃあ」

「なっ…!?おい、待て!なんでそんなこと俺に……っ」

 

リジェネの目的が読めない!

問い詰めようとしたが、リジェネは足早に去ってしまった。

なんだってんだ。

 

「超、兵か…」

 

リジェネの去った後で呟く。

脳裏に浮かぶのは『守りたかった人』。

 

「……」

 

彼女の顔を思い浮かべ、視線を落とす。

いつも俺を見上げていた乙女な少女。

交わした約束は――果たされることはなかった。

合わせる顔はない。

会う資格もない。

それでも切実に会いたいと思ってしまう。

気が付けば俺は端末を立ち上げてグッドマン大尉に連絡を入れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

レイが去ってすぐ。

踵を返すリジェネの元に黒髪赤眼の容姿が現れた。

腕を組み、壁に背を預けた『彼』はレイ・デスペアと同じ塩基配列を持つマイスタータイプのイノベイター。

レン・デスペアだ。

 

「おや。君の方から接触してくるなんて珍しいこともある」

「白々しいんだよ、アンタ」

「何のことやら」

 

レンの眼光をも流し、リジェネはただ肩をすくめる。

本当は分かっているくせに。

リジェネの態度にレンは一層機嫌を悪くし、さらに眼光を鋭くした。

 

「どういうつもりでアイツに情報与えたわけ?そもそもなんで泳がしてるんだ。僕と交渉してまでアイツを生かしてさ」

 

4年前の『フォーリンエンジェルス』での大戦の中。

レンはガンダムプロトアズラエルでもう少しというところまでレイの駆るガンダムプルトーネ ブラックを追い詰めていた。

脚部の爪先に隠し持ったGNビームサーベルでプルトーネ ブラックを斬り裂き、コア・ファイターで一命を取り留めたレイにトドメを刺そうと推進する直前、戦闘中にも関わらず通信が介入した。

 

『やあ、レン。レイ・デスペアの件だけどまだ殺さないでいて欲しいな』

「……っ!リボンズ・アルマーク!?どうやって僕の回線に……いや、アイツを見逃せだって…っ!」

『あぁ。まだ彼は必要なのさ。僕らの未来の為にね』

「はぁ?」

 

突如回線に侵入してきたリボンズの言葉にレンは意味が分からず、顔を顰める。

だが、数秒経って即座に理解した。

 

「……まさかアンタ、アイツを覚醒させるつもりか?」

『フッ。その役目は君が担うと自分で言ったじゃないか。レイはただ、僕らに必要なだけさ』

「何を企んでんのか知んないけど、邪魔しないでくれる?僕はアイツを―――」

『なら、交換条件としよう』

 

モニターに映るリボンズが余裕のある表情で笑みを浮かべる。

リボンズの提案にレンはさらに訝しんだ。

 

「交換条件って……僕と交渉するつもりかよ」

『その通りさ。君はここでレイを見逃し、僕らが彼を回収する。その代わりに彼らを最高の形で仕留められるよう工面するよ』

「……今は庇うくせに結局殺すのかよ」

『そうでないと君は進化しないだろう?』

「それが分かってるならなんで邪魔すんだよ!」

 

リボンズの行動の意味が掴めない。

一体何を考えているのか、レンはただ激昴する振りをして探る。

対するリボンズはレンの激昴など意に介さず続けた。

 

『本当は、君も分かっている筈さ』

「はぁ?なにを――」

『今レイ・デスペアを殺しても意味はないということをね』

「……っ!」

 

それはレンにとって的をついた言葉だった。

瞬間、脳裏にリボンズが知ってるはずのないことが()ぎる。

 

――まさかこいつは僕の『条件』を知っている?

 

「……お前、どこまで知ってるんだ」

『フッ。何のことやら』

「とぼけるな!!」

 

レンの感情を乱してしまうと、リボンズも笑みを決して表情を戻す。

そして、瞳を金色に輝かせた。

 

『僕ら……いや、僕が知っているのはハイブリッドになる条件、そして塩基配列パターン0000にのみに与えられた特殊能力のことだけさ。どちらも僕らには無関係で、絶対になし得ない……正直、羨ましい限りだよ』

「……っ!!あ、あぁ…そうさ。どうせ知ってたってあんた達には関係ない。ナオヤ・ヒンダレスがそのことを証明している…はず」

『その通り。でも、レイ・デスペアは僕らの仲間だ。彼はその資格を得た。だからどうか逃してくれないかい?その代わり、君の進化を僕らが手伝う――どうかな?』

「……」

 

リボンズはレンの予測の範疇を超えた情報を所有している。

レンは少なからずその事に動揺した。

ナオヤという安心材料を自ら漏らしてしまうほどに。

だが、リボンズの真意が読めない。

なぜ知っていることを漏らしたのか、なぜレイを求めるのか。

 

――一体、何を企んでる?

 

「……分かった。今回は乗ってやるよ。ただし、約束は守れよ」

『当然さ』

「ちぇっ…!」

 

通信が切れ、リボンズとの繋がりも絶える。

レンはプロトアズラエルのコクピットでレーダーに視線を落とした。

徐々に遠ざかるコア・ファイターの座標。

今ならば虫を殺すより容易く殺せる。

しかし――。

 

「あぁ、クソ!分かったよ!どうせもう()()()()()()()!」

 

レンはヘルメットを鬱陶しそうに取り、髪を掻き乱すと燃える炎を奥に秘めたような、深く赤い瞳でプルトーネ ブラックが流れた方を強く睨んだ。

 

「はっ!命拾いしたな…っ、クソ兄貴がっ!」

 

それを最後にプロトアズラエルは戦線を離脱し、レイの乗るコア・ファイターは擬似太陽炉を外した状態で衛星に突っ込んでいたところをヒリング・ケアとリヴァイヴ・リバイバルにとって回収された。

それからというもの、リボンズはレイを取り込んで仲間とし、何故かアロウズに着任させた。

もう訳が分からない。

レンはリボンズを今でも警戒している。

 

「リボンズの考えは僕にも分からないよ」

「はっ!端からアンタには期待してないさ。アンタはリボンズに造られた存在。アイツの腹の中を探れるような立ち位置じゃないでしょ」

「それは……っ」

 

レンの指摘に顔を顰めるリジェネ。

そんなリジェネにレンは特に気にすることもなく、話を戻す。

 

「んで?なんでアイツに情報渡すわけ?」

「……君には関係ないことだよ」

「ま、大体予想はつくけどさ」

「……」

 

絶対に口外しない態度を貫いたリジェネだが、レンに既に看破されていた。

動揺を隠すように眼鏡を押し上げる。

 

「アイツを煽ててリボンズと対立させたいんだろ?超兵のことを話したのはアイツに大切なものを作らせるため……というよりは感情的になって欲しいってところか。まあ僕らにとって『感情』は重要だからな」

「……そこまで見通して、なぜ僕を自由にさせるんだい?」

「はぁ?」

 

内心焦りつつ、リジェネは絞り出すように尋ねる。

レイを進化させるために行動しているのは既にバレている。

だというのにレンはリジェネの行動を妨害するどころか、気付いていながら野放しにしていた。

これにはリジェネも疑問を隠せない。

リジェネの問いに対し、レンは一瞬顔を顰めたかと思うと――目を丸くしたあと、吹き出すように笑った。

 

「ぷっ、あははははははは!!そんなの決まってるだろ!?何をしようと無駄っ!!アイツが進化する前に僕がアイツを殺して進化する…!」

「……そこまで自信があるというのか?君には…!」

「――はっ」

 

心の底からおかしいとでも言うように腹を抱えて笑ったレンに対し、リジェネが身を乗り出すように尋ねる。

すると、レンは既に確信した笑みを浮かべた。

 

「あぁ。そうだよ。確かにイオリアに最も期待されてるのはレイかもしれない。でもな、僕は最強なんだ。最強のデスペアなんだよ…!」

 

キッと視線を鋭くして宣言するレン。

それには根拠があった。

他のデスペアには負けないと断言できる程の理由がある。

 

「一方は感情だけ、もう一方は力だけ。そんなのじゃ届かない。両方持ち合わせた僕こそが……っ!―――混成種(ハイブリッド)になれる」

「くっ……!」

 

確信に満ちた瞳でリジェネの胸倉を掴む。

そして、投げ払い、嘲笑って吐き捨てた。

 

「だから、あんたらがどんなに足掻こうが、暗躍しようが関係ない。好きにしていいよ。……別に」

「……っ!このっ!」

 

下手に見られ、侮辱されたリジェネが即座に拳銃を取り出し構える。

だが、銃口を向けたと同時にその銃口は切り落とされていた。

一筋の閃光がリジェネの視界を下から上へと走り、獲物は綺麗に両断される。

その動きは全く目で捉えることができなかった。

 

「僕の間合いで僕に勝とうなんて……2万年早いんだよ」

「くっ……!」

「ははっ!一生苦虫を噛み潰したような顔してろよ。じゃあな」

 

ナイフをしまい、立ち去るレン。

リジェネはその背中を睨み、その名を忌々しく呟いた。

 

「レン・デスペア……っ!!」

 

 

 




絶賛絶不調です。
リボンズが情けな過ぎたと思う……リボンズってもっと、こう…余裕のある態度というか……とにかく何か違う。
何度も書き直したんですけどね、思うように行かなくてすみません。
じゃあこの回ごと飛ばせばいいって?次回予告もしたし、それはさすがに……ね?

とりあえず次回予告移ります。



囚われたガンダムマイスター、その収容所にレイは向かう。
そこにはかつて守りたかった仲間がいた。
次回『死者の帰還』
貴方に、会いたかった……。



外伝『人革連GIRLS』も第2話を更新しました。良ければ、ご覧下さい。


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死者の帰還(前)

人革領の反政府勢力収監施設。

そこに、一人のガンダムマイスターは収監されていた。

男の名はアレルヤ・ハプティズム。

4年前の『フォーリンエンジェルス』にて、彼は国連軍に敗北し、連邦に捕えられた。

そして、現在――ソレスタルビーイングの再来により独立治安維持部隊アロウズはそのガンダムのパイロットを餌にソレスタルビーイングをおびき寄せようとしていた。

 

アレルヤ・ハプティズムの牢獄。

その中で、先端までよく手入れされた美しく、持ち主の肩に落ち着く長い白髪が彼の目に映る。

拘束具で口まで締め付けられたアレルヤはそれを捉えるとゆっくりと目線を上げた。

――そこにはずっと会いたかった、ずっと想っていた人がいる。

 

「起きろ。被験体E-57」

「う…うぅ……んっ」

 

耳に透き通って入る声。

目を覚ましたアレルヤは辺りを見渡した後、すぐに白髪の女性へと視線を戻した。

彼女の横で見知らぬ男が口を開けるが、朦朧とする意識は彼女にしか向けることができない。

それ程までに気力が尽きかけていた。

 

「この男ですか?4年間この収監所に拘束されているガンダムのパイロットというのは」

「うっ……う…!んんーっ!んっ……!」

「……っ!」

 

口を閉ざされたガンダムのパイロットが白髪の女性に向けて何かを訴えるように必死にもがき、叫ぶ。

虚しくもその声は篭った声でしか届かないが、彼女――ソーマ・ピーリスはしっかりと反応した。

 

―――(私の脳量子波の干渉を受けていない……。報告には頭部に受けた傷が原因とあったが……)

 

ソーマは拘束されたガンダムのパイロットの様子から自身との脳量子派の共鳴を受けていないことを見抜いた。

理由としては二つ。

ガンダムのパイロットにそれらしい反応が見れないのと、ソーマ自身特に何も感じないからだ。

超兵機関出身者であるとの情報である被験体E-57は5年前、自身との戦いで苦しみを訴えていた。

しかし、今の彼はただ一心不乱にソーマに対して何かを伝えようとしているだけ。

一体なぜ?というソーマの疑問はE-57のマスクが取れたことにより、思考を一度断念した。

 

「マリー……。ようやく、出会えた…っ。やっぱり生きていたんだね。マリー……」

「マリー?」

 

聞き覚えのない名前をE-57は呟く。

ソーマはそれが自分のことを指しているのだとE-57の熱烈な視線から察した。

だが、彼女にはそんな名前は馴染みがない。

それでもE-57は訴え続けてきた。

 

「僕だよ!ホームでずっと君と話していた……アレルヤだ!」

「私はマリーなどという名前ではない!」

「……っ!」

 

あまりにもしつこく、身に覚えのない名で呼ばれたソーマは不快感から叫び返す。

ハッキリと否定された被験体E-57――アレルヤは一瞬、衝撃を受けたが、表情を沈めて呟いた。

 

「……いや、君はマリーなんだ……」

 

辛そうに、哀しそうに。

彼の想いは本来の『彼女』には届かない。

 

 

 

 

 

 

被験体E-57との面会を済ませたソーマ。

収監施設内の休養室にて、珈琲を前にとある人物と連絡を取っていた。

端末の画面に映っているのはこの4年間もの間、自分の面倒を見てくれた男性、セルゲイ・スミルノフ大佐だ。

 

『中尉、アロウズへの転属後何か変わった事はあったかね?』

 

モニター内のセルゲイが尋ねてくる。

セルゲイは親のいないソーマの親身になってか、アロウズに転属してからもこうして定期的に連絡を入れてくれた。

心配してくれているということぐらい、ソーマも理解している。

故にその親心に心の底から感謝し、温かいものを胸に感じていた。

 

「特には何も。通常よりも訓練の量が多い程度で……」

『そうか…』

 

聞かれた近況に特に差し障りのない話をする。

人革連軍に所属していた時代よりも遥かに訓練は練度を増した。

転属してからそれ程時間の経っていないソーマにとって変わったことといえばその程度だった。

だが、ふと今朝の面会のことがソーマの脳裏に()ぎる。

囚われのガンダムパイロット、被験体E-57に呼ばれた聞き覚えのない名についてだ。

 

「大佐、超人機関関係の資料の中にマリーという名前はありませんでしたか?」

『マリー?いいや、知らんな。押収した資料の全てに目は通したはずだが……』

 

別に捕虜の言うことを真摯に受け止めたわけではないが、気付けば気になって尋ねていた。

しかし、セルゲイも首を横に振る。

今は無き超人機関の情報を全て押収したセルゲイですらその名に聞き覚えはない。

少なからずヒントは得られるかもしれないと考えていたソーマは少しばかり落胆を隠せず、眉を曲げ、肩を落とした。

 

「そうですか…」

『あぁ』

 

折角連絡を取ってくれたセルゲイに落胆するのも申し訳ないと感じたが、どうも胸に突っかかりを覚えてしまった。

セルゲイのように豊富な人生を歩んでいないソーマにはそれを隠せない若さがある。

セルゲイもそれを知っている故に、気付いていても表情には出さない。

代わりにソーマが気分を変えられるように、と話題を変えた。

 

『そういえば、もう()が逝ってから5年になるが……大丈夫かね?』

「え?あっ……」

 

言われてソーマも思い出す。

彼――人革連の軍時代、5年前に最もソーマが慕っていた一人の兵士がいた。

だが、三国家群の合同軍事演習の際、彼は戦死してしまっていた。

 

「……はい。ご心配、ありがとうございます。大佐の支えもあり、今はもう……」

「そうか…。彼は、私にとっても良い部下だった。今でも鮮明に覚えている」

「はい。私も……ずっと心に留めています」

 

寂しく微笑むソーマ。

その視線は自然と自身の小指へと落ちた。

いつの日か、彼と交えた約束。

ソーマは今日この日までそれを守り貫いてきた。

 

そんな心に秘めた思い出を思い返していると、扉をノックする音が室内に響く。

恐らく休んでいられる時間は過ぎてしまったのだろう。

ソーマは名残惜しくもセルゲイに別れを告げた。

 

「すみません。任務がありますので失礼します」

『あぁ。気を付けたまえ』

「はい」

 

セルゲイの言葉に会釈で返し、端末を閉じる。

そして、扉の方に意識を向けた。

 

「入れ」

「中尉、本隊が到着しました」

 

入室を許可すると入ってきたのはアンドレイ・スミルノフ少尉。

先程まで話していたセルゲイの息子だ。

彼の伝達にソーマは頷き、立ち上がる。

 

「よし。連絡が入り次第、全員配置に付かせろ」

「はっ!」

 

今や上官となったソーマは指示を下し、アンドレイは敬礼を返す。

一方、人革領の反政府勢力収監施設に到着したアロウズ艦隊の艦内では『鉄の女』の異名を持つ元AEU軍の指揮官、カティ・マネキンが指揮を取っていた。

指揮官席に腰を下ろすカティは艦内に指令を飛ばす。

 

「ミッションプランに従って警備体制を敷く。先攻隊であるピーリス中尉へ連絡を」

「はっ!」

 

部下の応答を受け取り、カティは戦場の陣形を作っていく。

そんな彼女の脳裏にはある疑念が過ぎっていた。

 

――(羽付きのパイロット……あそこに収監されていたのか。上層部に引き渡した後、何の情報も下りてこなかったが……アロウズはこれを知っていた)

 

人革領の反政府勢力収監施設を見下ろし、目を細める。

以前から秘密の多いアロウズに疑念を抱き、セルゲイと共に警戒していたカティはさらにその疑念を大きくしていた。

彼女はまだアロウズを、世界を裏から操る超越者達の存在を知らない。

 

一方、宇宙に配備されたアロウズ艦隊。

ラグランジュ1を浮遊するバイカル級航宙巡洋艦は既にガンダムとの交戦を二度も経験しており、それでいながらガンダムの捜索を既に中断していた。

そのことに不満を持つ兵士――ルイス・ハレヴィは艦内で上司の姿が目に映るとすぐに呼び止める。

 

「あっ……中佐!」

「ん?」

 

呼び止められたジェジャン中佐は進行方向とは逆から来るハレヴィ准尉に振り返る。

すると、ルイスは問い詰めるが如く尋ねてきた。

 

「何故ガンダムの捜索を中止したのですか!?」

「その必要がなくなったからだ」

「なくなった……?」

 

ルイスの問いにジェジャンは至って冷静に返す。

彼の言葉の意味が分からず、ルイスはただ首を傾げ、それを見兼ねたジェジャンが事情を説明する。

 

「指令部がソレスタルビーイングに餌を撒いたらしい。地上部隊には悪いが相手の戦力を調べる良い機会だという事だ」

「あっ……」

 

伝え終えると事実だけを言い残してジェジャンは以降一切聞く耳を持たずといった様子で背を向けて行ってしまう。

ルイスは聞いた事実に思考を巡らせた。

 

「ソレスタルビーイングに、餌……?」

 

そんなルイスを、通り掛かり様子を見ていたジニン。

彼は、ルイスのガンダムに対する執着心を改めて目の当たりにしている。

 

「……戦闘中に発作を起こす奴があそこまで執着する意味、俺には分からんな」

「俺もですよ。ジニン大尉」

「アラッガ中尉……」

 

偶然通り掛かったアラッガ中尉もジニンに同意する。

ジニンは自身の部下であるルイス・ハレヴィ准尉を再度見遣ると、溜息をつき、何度も無理を申してくる部下の行動を思い返す。

 

「まったく……。面倒なやつを寄越してきたな、上も」

「はい…。あっ、そういえばグットマン大尉を知りませんか、大尉。実は探してるのですが先程から見当たらなくて……」

「ん?ネルシェンのやつか?俺は知らんが…」

「――私を呼んだか」

 

ジニンとアラッガが話していると噂をすれば…とでも言うように本人であるネルシェンがハンドルを握って推進してくる。

その姿を見て、アラッガ中尉は待ってましたとばかりに敬礼する。

 

「お疲れ様です、グットマン大尉。あの……申し訳ないのですが、実は頼み事が――」

「断る」

「えっ?」

 

最後まで聞くこともなく、一瞥しただけで拒否をするネルシェン。

予想外の対応にアラッガ中尉も唖然とし、見兼ねたジニンは割って入る。

 

「お、おい。何もそこまでバッサリ……」

「私は忙しい。用があるなら後にしろ」

「んっ?そういえばお前なんでパイロットスーツ着てるんだ?俺達は待機を指示された筈だが」

「……知りたければデスペアに聞け」

「レイに?なんでまた……っておい!」

 

ジニンの制止も意に介さずネルシェンはそのまま行ってしまう。

向かう先は方向からして格納庫だ。

待機中の筈が、格納庫を目指すネルシェンにジニンは訝しみながら肩を竦めた。

そして、アラッガ中尉の肩に手を置く。

 

「振られたな」

「なっ!?やめてくださいよ……告白じゃあるまいし」

「はははっ、悪い悪い。それにしても今からシミュレーション訓練でもする気か?あいつは。ちったぁ休めばいいものの……」

 

見えなくなったネルシェンの背中、去った方を見遣り、ジニンは大袈裟に呆れたように嘆息する。

数十分後、彼女の駆るアヘッドが大気圏を突破したと聞いてジニンは耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

人革領の反政府勢力収監施設にて、アロウズの艦隊を配置し終えた頃。

部隊を仕切るカティの耳に伝令が入った。

 

「大佐、ピラーの観測所より入電。大気圏に突入する物体を捕捉。輸送艦クラスの規模だそうです…!」

 

部下の報告にカティも目を見開き、空を見上げる。

 

「ありえん!スペースシップごと地上に降りて来るなど……!砲撃用意!モビルスーツ隊の発進準備、急げ!」

 

太陽炉を詰んだ機体が大気圏を突破する前例はある。

しかし、輸送艦クラスのスペースシップが突破してくるなど前代未聞だ。

本当に可能なのか?という真っ当な疑問は即座に捨て、対応してみせたカティの指示により、アロウズは突如大気圏を突破したトレミーに対抗する。

その最中、カティは信頼度の高いソーマに最も重要なことを頼む。

 

「ピーリス中尉、敵襲だ。E-57の確保を」

『了解』

「くっ……!ソレスタルビーイングめ…っ!」

 

短い返答、熟練された兵士のそれである対応でソーマも即座に動く。

一通り指示を出し終えたカティは改めて信じられないという目で空を見上げた。

 

伝令を受けたソーマは部下を連れて収監されているガンダムパイロット、被験体E-57の元へ向かう。

しかし途中、粒子ビームが施設に降り注ぐ。

それが彼らが来た合図となった。

 

「もう来た!」

「MSハンガーが!?」

「急げ!」

 

部下が嘆く中、ソーマは彼らの背中を押す。

 

「ソ、ソレスタルビーイングのスペースシップが…… !」

「全砲発射!減速しないだと!?ま、まさか……っ!」

 

一方、大気圏を突破し、空に現れたソレスタルビーイングのスペースシップはその速度を緩めことなく、寧ろ加速した。

カティの予測とほぼ同時にプトレマイオス2が潜水モードへと移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リジェネ・レジェッタから情報を貰った。

それは、ガンダムマイスターの一人が人革領の反政府勢力収監施設に囚われているということ。

だが、さすがにそれは俺も知っている。

リジェネから聞いたのはそこに『彼女』の配属された地上部隊が配備しているとのことだ。

 

『……』

 

俺の愛機と化した専用のアヘッドで海上を飛翔する。

目標は反政府勢力収監施設、彼女がいるところだ。

……正直、行くのは憚られる。

まだ尻込みしている自分がいる。

だが、それでも意志とは別に本能が駆り立てていた。

 

『……それに、そろそろここでも戦闘が起きる』

 

レナから貰った確定情報だ。

リボンズはアレルヤとアザディスタンの王妃を餌にソレスタルビーイングをおびき寄せるつもりらしい。

アロウズも収監所に艦隊を軍備を展開し始めている。

もうじき、先頭の火蓋が切られようとしていた。

 

『さて、ソレスタルビーイングはどう出るか……んっ?』

 

ふとモニターの端、上空に閃光がチラついた。

気の所為だと思ったんだが、拡大するとアヘッド――正確にはシステム――が物体であると主張し始める。

アレが物体…?

だとすると大気圏を突破してるんだが……いや、まさか。

 

『おいおい…。何でもアリだな、今のプトレマイオスは……』

 

拡大モニターに映る点が緑光の輝きを放ち始めた。

GNフィールドか。

まったく…常識を覆してくるな、ほんとに。

 

それにしてもスペースシップごと突入してくるなんて、よくもまあ実行したものだ。

これじゃあプトレマイオス2を敵前に露わにして余計に危険を及ばすだけじゃないのか?

……と思ったが、様子がおかしい。

もう地上との距離もそうないってのに減速する気配がない。

寧ろ加速し、あのままだと海に突っ込む形になる。

 

『……っ!そうか!』

 

トレミーの狙いがわかった。

恐らく、急速での水中潜行により衝撃で津波を起こし、湿度の向上で粒子ビームの出力を半減させる……といったところか。

それに誰も予想していないことだ。

部隊の混乱も容易に想像できる。

 

『……仲間が危ない。急げっ!アヘッド!』

 

予想が正しければ甚大な被害が出る。

間違いなく死者も出るだろう。

仲間が死ぬ。

そんな経験、二度としたくない。

俺が、俺が止めてみせる!

 

『到着……っ!戦況は――なっ!?』

 

一気に加速して収監施設には辿り着いた。

だが、眼下に広がる戦場は俺の想像していたものより酷い。

津波に巻き込まれたモビルスーツに潰された人々。

モビルスーツ同士で衝突し、爆発を起こしたのかコクピットが焼け焦げたものもある。

生体反応を探ったが、反応しなかった。

 

『そんな……っ』

 

『う、うわあああああーーっ!?』

 

『……っ!!』

 

俺の視界を横切った粒子ビームがジンクスIIIを貫いた。

コクピットに穴が開き、アヘッドで手を伸ばすも目の前で爆散してしまった。

クソ、クソ……っ!!

 

『ガンダムっ!!』

 

粒子ビームの発端、発射口を見つけた。

崖の方に身を隠していたスナイパーライフル持ちのオリジナル太陽炉搭載型MS(モビルスーツ)

ジンクスIIIを1機撃ち落とすと、その姿を露わにする。

スナイパーライフルがデュナメスのGNスナイパーライフルを彷彿とさせる、カラーリングが同じ濃緑色の機体。

額にはデュナメス同様にガンカメラが確認できた。

対面するのは初めて、初見の新型……!

――機体名は確か、【ケルディムガンダム】!!

 

『レナの言ってたやつか…!……?向こうにも知らない機体反応が……』

 

ケルディムを睨むと同時、アヘッドが他のガンダムを捉える。

振り返ると既に登録しているダブルオーとセラヴィーの他にもう1機。

5年前の『羽付き』を彷彿とさせる相対するウイングを持った橙黄色の塗装に身を包んだガンダム。

あれが――。

 

『【アリオスガンダム】……』

 

夢に出てきた新型。

レナに聞いた名を呟く。

何故奴が俺の夢に出てきたのかは分からない。

分からないが、数秒間忌々しげに見つめているとアリオスのすぐ近くに生体反応を二つ確認した。

俺の目が正しければ収監施設に衝突したまま静止しているアリオス、それとほぼ同地点の中央廊下だ。

 

アリオスがあそこにいる意味は大体予想がつく。

恐らくアレルヤ・ハプティズムとの合流地点にアリオスを送り込んだのだろう。

だとするとアリオスの最も近くにいる生体反応はアレルヤ・ハプティズムだ。

だが、何故か静止したまま動かない。

相対しているのは俺の仲間なんだろうが、1人くらいなら切り抜けられる技量がある筈だ。

なのにアレルヤは一向に動かない。

何故だ……。

 

『最も近くにいるのは――なっ!?ソーマ!?』

 

生体反応をアロウズのデータ資料を元に『ヴェーダ』に検索させた結果、特定されたのはソーマだった。

ソーマ……ソーマ・ピーリス。

俺のかつての仲間にして、最後まで守れなかった人。

『約束』を果たせなかった俺の好きだった人だ。

 

『ソーマ……』

 

ソーマは超人機関出身者だ。

そして、被験体E-57ことアレルヤも。

だが、アレルヤは超人機関をガンダムキュリオスで壊滅させた。

超人機関が例えいいところでないにしてもソーマにとっては『仲間』がいた場所。

そこを奪われたソーマは辛い思いをしていた。

そういえば、俺は以前二人の脳量子派による共鳴でソーマが傷付くことを恐れた。

――もしかしたら今も!

 

『……っ。すまない、もう少し堪えてくれ!』

 

嫌な予感がして、アヘッドで急速に降下する。

劣勢の中、倒されていく仲間に謝罪しながらセラヴィーの砲撃を躱す。

そして、一気に加速し、粒子ビームを掻い潜って建物に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

被験体E-57ならびに収監者達の確保のため、廊下を駆ける。

部下を連れたソーマは急ぎ、牢獄へと向かっていた。

 

「はぁ…はぁ…っ。急げっ!」

「は、はい!」

 

途中でアンドレイ少尉も合流し、息を切らしながらも彼らは目的地を目指す。

角を曲がればあとは直線のみで被験体E-57の牢獄だ。

しかし、突然施設内が衝撃に揺れる。

 

「……っ!なんだ!?」

「中尉、あれを…!」

「なっ!?」

 

アンドレイの指摘する方を見遣り、驚愕するソーマ。

そこには施設に侵入した男達の集団が現れていた。

全員が銃器を持って乱射しつつ牢獄を解放している。

凶弾により、ソーマの部下は一人倒れてしまった。

だが、弾圧が迫る故に仕方なくソーマはアンドレイと共に身を隠す。

 

「くっ…!カタロンか!」

「ここは自分が。中尉はE-57の確保を」

「すまない。頼む」

「はっ!」

 

アンドレイの申し出にソーマはこの場を任せて、別ルートを辿る。

来た道を戻り、他の分かれ道から遠回りをして衝撃や弾圧に気を配りつつ施設内の中央廊下へと出る。

――そこに、目的の男はいた。

 

「止まれ!!」

「……っ!」

 

銃口を向け、制止すると目の前の男は素直に足を止める。

ソーマの声に思わず反応してしまったのだが、当の本人はそうとは思っていない。

そして、振り返ってソーマの顔を見た被験体E-57ことアレルヤは目を見開く。

 

「そこまでだ。被験体E-57!」

「マリー……」

「動くな!」

「……っ」

 

妙にむかつく表情で詰め寄ってこようとした敵に、ソーマが銃口を強調して脅す。

アレルヤは一瞬顔を顰めて止まったが、すぐに眉を緩くした。

そんな敵の背後には見知らぬガンダムが施設に突っ込んだ状態で沈黙している。

ソーマは視線を気付かれないようにズラして確認した。

 

「新型のガンダム……」

「マリー!」

「……っ。私はそんな名前ではない!!」

 

またしても覚えのない名で呼ばれ、ソーマは激昴じみた否定と共にさらに銃口を突きつける。

アレルヤはなんとかソーマに寄ろうとしたが、銃口にまた足を止める。

彼女はマリーだ、その筈だ。

なのに口調も、性格も、名前も違う。

恐らく違う人格を上書きされ、四肢の自由を得たのだろう。

 

既にそこまで推測しているアレルヤだが、やはりどう目を拭っても目の前の少女は彼にとって『マリー』だった。

だからこそ、何度でも呼び掛ける。

生きる理由、何よりも大切な人だから。

そんな想いを胸に。

呼び起こそうとする。

 

「マリー!」

「違う!」

「……いや、これが本当の君の名前なんだ。マリー……マリー・パーファシー」

「……っ!?マリー……パーファシー……」

 

 

―――『マリー?マリー?』

 

 

「うっ……!」

 

突如、ソーマの脳裏に謎の記憶が浮かび上がる。

知らない声、でも何処かで聞き覚えのある幼い声が自分を呼ぶ。

 

「あっ…くっ……!な、何だ……!?今のビジョンは……」

 

フラッシュバックする映像にソーマは思わず頭を抱えて膝をつく。

銃を落としてしまうほどに。

 

「マリー!」

 

苦しむソーマにアレルヤは咄嗟に近寄うとする。

 

 

――だが、迫り来る影が突如として窓ガラスと壁を吹き飛ばし、二人の間を阻んだ。

 

 

「うあっ……!?」

「……っ!?」

 

建物に衝突して来た機体はアロウズの最新鋭機アヘッド。

ちょうどコクピットにあたる胸部がアレルヤとソーマのいる廊下に露わになっていた。

そして、そのハッチがゆっくりと開く。

 

 

「―――ソーマっ!!」

 

「……っ、えっ?」

 

 

聞こえる筈のない声。

この世に存在する筈のない声。

懐かしさと愛おしさが詰まった声が、ソーマの耳に届く。

ソーマは苦痛の中ということも構わずに即座に反応してコクピットの方を見遣る。

――そこには、死んだ筈の好きな人がいた。

 

「ソーマっ!」

「デスペア……中尉…っ!?な、なぜ……」

 

ヘルメットを投げ捨てたレイが、レイ・デスペアがソーマの肩を掴み、支える。

彼の手と触れ合う肩は確かに感触があった。

これは生きる者の手だ。

 

「中尉っ、が生きて……っ!うっ…!」

「ソーマ!どうした!?何があった!?」

 

まだ残るビジョンと目の前に起きた驚愕の出来事。

ソーマの脳内は混乱し、頭痛は激しさを増した。

そんなソーマをレイは心配そうに背中をさすってくれる。

最初こそ辛かったもののソーマは次第にそれが心地よく感じた。

 

「デスペア、中尉……」

「ソーマ……大丈夫だ。俺はここにいる」

「……っ!」

 

落ち着いた声がすとんっとソーマの胸の中に落ちる。

冷静で、まるでソーマの不安を感じ取ったかのように欲しかった言葉をくれる。

先程まで半信半疑だったことが真実に変わった。

 

ソーマの脳量子派が目の前の彼が本物だと激しい程に主張している。

5年前に聞いた優しい声音がソーマの心を落ち着かせる。

彼に全て任せてしまいたい程の頼もしさが今も目の前にあった。

ずっと哀しかった。

ずっと辛かった。

ずっと求めていた。

―――ずっと。

 

「ずっと、会いたかった……デスペア、中尉…」

「あぁ…。俺も、会いたかったよ。会いたかった、ソーマ」

 

荒い呼吸も治まってきたソーマの瞳がハッキリとレイを捉える。

愛する人の生還にソーマは5年越しに涙した。

 

「デスペア中尉……!!」

 

そして、彼女は想い人の胸に身を委ねる。



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死者の帰還(後)

「デスペア、中尉……っ」

「大丈夫だ。俺はここにいる」

 

頻りに頭を抑え、肩で息をするソーマの背中をさすってやる。

ソーマは俺を見ると一瞬信じられないようなものを見るように目を見開いたが、今はどちらかというと安堵したかのように表情の緩みが垣間見える。

……さて、ソーマは落ち着きを取り戻しつつあるがまだ目下の課題が残っている。

 

「投降しろ、被験体E-57」

「……っ!」

 

俺とソーマの様子を眺めていたアレルヤに目を向ける。

眼光は鋭くしたつもりだが、銃を突きつけなかったからかアレルヤは口を開いた。

 

「貴方は……」

「……レイ・デスペア。アロウズだ。もう一度言う、投降しろ。今なら手荒な真似はしない。最低限の睡眠が取れるくらいは取り合ってやる」

 

目の下のクマを見つけたので一応それもダシに使う。

世界を敵に回したソレスタルビーイングのメンバーが人権を考慮してもらえるとは思わないが、上層部だってまだ聞き出してない情報が山ほどある筈だ。

なら死なない程度の睡眠くらいは問題なく通るだろう。

だが、アレルヤは俺の言動に疑問を抱いたのか訝しむ。

 

「ど、どうして僕のことまで考慮を……」

「別に深い意味は無い。ただ、お前がそこにいると彼女が苦しむ」

「……っ!」

 

アレルヤの視線がソーマへと映る。

未だにソーマは激しい頭痛でも感じるのか、立ち上がれずにいた。

さっきまでソーマの近くにいたのはアレルヤだけだった。

ならば自ずと原因はハッキリとする。

元超人機関出身者ならば尚更だ。

 

「だから、連行させろ。そして速やかにソーマと距離を置いてもらう。銃口を突きつけられる方が好みならそれでもいいが……」

 

懐から拳銃を取り出して引き金を引く。

だが、銃弾は狙いが外れてアレルヤには当たらなかった。

 

「下手なんだ。射撃は」

「……なるほど」

 

俺が銃を構えて咄嗟に身を庇ったアレルヤが納得したように銃弾の消えた後方を見遣る。

そして、またソーマから俺へと視線を交互に行き来させ、何故か安堵したように表情を少しだけ緩ませた。

 

「……貴方は優しい人だ」

「人によるな」

 

どういう訳か俺の評価を高くしてきたから適当に返す。

銃弾外して褒められても微妙な気持ちだ。

恐らくだが、収監中に会った軍人達と比べてるんだろうが知ったこっちゃない。

アレルヤは苦しみながらも必死に俺の服の裾を掴むソーマを見て懲りずに尋ねてきた。

いい加減投降しろっての。

 

「彼女……マリーと貴方は一体…」

「マリー?」

 

誰だそれは……。

急に知らない奴の名前が出てきた。

恐らくソーマのことを指してるんだろうが……なんでマリーなのかはよくわからん。

この二人、俺が知らないだけで関係性でもあるのか?

まあとにかく敵に深く答える気もないが、差し障りのないことは言っておくか。

 

「彼女とは昔、仲間だった」

「……っ」

 

ソーマの裾を掴む手に力がこもる。

……分かったよ。

 

「今も仲間だ」

「中尉…」

 

付け加えるとソーマが精一杯俺を見上げる。

少し嬉しそうだ。というよりは安心に近いか。

とにかく頭痛は収まりつつあるみたいだな。

まだ時折チラつかせるように顔を顰めるところを見ると完璧ではないが。

 

「マリー……」

 

アレルヤが俺に縋り付くソーマを見てまた違う名を呟く。

だから、一体誰なんだよマリーってのは。

 

「おい、いい加減投降しろ。じゃないと――」

「投降しろ!被験体E-57!!」

「……っ!」

 

言ってる傍から増援が駆けつけた。

やって来るなり発砲した男性隊員が俺達の元につく。

アレルヤは銃弾から必死に逃げ惑い、壁影に身を隠した。

 

「中尉、大丈夫ですか!?」

「アンドレ…イ、少尉……」

 

決してアレルヤへの警戒を解かずにソーマへと寄り添う男性隊員。

ソーマは微かにその名を口にする。

アンドレイ、って言ったな。

どこかで聞いたことが……あぁ、思い出した。

『ヴェーダ』のデータバンクで偶然見つけ、名前が気になって調べたことがある。

アンドレイ・スミルノフ。

セルゲイ・スミルノフ大佐の実の息子だ。

 

「貴官はアンドレイ・スミルノフ少尉か」

「あぁ、はい…。貴方は?」

「レイ・デスペア大尉だ」

「大尉、失礼しました」

「別にいいさ」

 

礼儀はしっかりしているようだ。

階級を知るや否や即座に敬礼してくれた。

だが、何かを思い出したのか怪訝そうな表情に変わる。

 

「しかし、大尉の名は今回の作戦に乗っていなかったような……」

「あぁ。今さっき合流したんだ、悪いな」

「いえ。そうでしたか。それで何故ピーリス中尉はこうも苦しんで……」

「それは俺にもわからん。脳量子波が関連しているとは思ったが、真実はなんとも。それより、今は被験体E-57の確保を優先する」

「了解です!」

 

ソーマを庇いつつ俺も仕方なく銃を抜く。

不自然だからな。

しかし、アレルヤ・ハプティズムは姿を隠したまま出てこない。

俺の推測が正しければ時間制限はある筈だが……。

見たところ電撃作戦っぽいしな。

相手は武装がない。

ここは強行でも一向に構わないが―――という思考が過ぎったと同時に近くで爆炎が落ちた。

 

「……っ!?なんだ!!」

「味方機が……っ!」

 

窓から見える残骸の中にジンクスIIIと思わしき金属片が見当たる。

セラヴィーにやられたのか……!

クソッ、ソーマが気になって強行突破してきたが、そういえば戦場を放ってきたんだった。

ソーマの様子を見てそっちに気がいってしまった。

見渡す限り戦況は良くない。

 

出現したモビルスーツ部隊は全てジンクスIIIで構成されていて、アヘッドに乗るほどの手練れがいない。

施設に近付こうにもセラヴィーに墜とされ、距離を取るとケルディムに撃ち抜かれる。

よく出来た陣形、不利な状況だからか現在進行形で次第に味方の数が減っていった。

 

「このままじゃ全滅も視野に入る…!」

「デスペア大尉、あのアヘッドは大尉のものですか?」

「あ、あぁ」

「では戦闘に加勢を。ここは私にお任せ下さい」

「……分かった」

 

気の利くアンドレイの一言に頷く。

正直、ここに居ても被験体E-57の捕獲の役に立てそうにはない。

それに、居合わせただけとはいえ、今いるアヘッドのパイロットは俺だけだ。

戦況的に俺が戦闘に加わるのが賢明な判断だ。

ただ、立ち上がろうとするとソーマが裾を強く引っ張るせいで動けない。

 

「ソーマ?」

「……いで」

「えっ?」

 

いつもの凛とした表情ではなく、不安に押し潰されそうな表情でソーマが何かを呟く。

必死に裾に力を込めるのは分かったが言葉をよく聞き取れなかった。

 

「行か、ないで……」

「ソーマ……」

 

弱々しく俺のことを見つめるソーマ。

三国家群の合同軍事演習前に見た不安そうなソーマと同じ、失うことを恐れる気持ち。

脳量子派で流れてくる。

……外も気掛かりだが、そんなソーマを払って行くことはできない。

いつかの『約束』を破ってしまった後ろめたさ。

それだけじゃない。

できるだけそっと、服の裾を掴むソーマの手に触れた。

 

「大丈夫。俺はもうどこにも行かない、ソーマを1人にはさせない」

「デスペア…中尉……っ」

 

再度屈み、ソーマの華奢な手を俺の手で覆う。

そして、不安に揺れるソーマの瞳を真摯に見つめた。

 

「だから頼む。仲間を助けたいんだ。行かせてくれ、ソーマ」

「し、しかし……っ」

 

頭痛に顔を顰めながらもソーマが何かを言い掛ける。

それと同時にまたしても背後で爆発音が響いた。

窓からは、セラヴィーの粒子ビームが目に映る。

あまり悠長にしている時間はない。

忍びないが、ソーマにとって核心をついた言葉を選ぶことにした。

 

「……今度こそ。俺に『約束』を守らせてくれ」

「……っ、やく…そく…」

 

ソーマが嬉しような複雑なような感情の変化を見せる。

前者は覚えていたことに対する喜び、後者は『1度目』を思い出したんだろう。

そんなソーマを見ると心が痛い。

約束をダシに使うなんて……我ながらズルい大人になった。

いや、年齢的には大人ではないが。

なににせよソーマがやっと裾から手を離した。

 

「帰ってこなかったら、私も……」

「それは困るな」

 

とんでもないことを言い出すソーマに苦笑いで返す。

するとソーマは頬を少しだけ赤く染めて俺を睨んだ。

 

「さっき……1人にしないと言ったはずだ」

 

うっ。

痛いとこを突くな…。

でも、言ってしまったものは仕方ない。

自分の言葉の責任は取らなくちゃな。

特にソーマに対しては。

 

「……分かったよ」

「ならば、行っても構わない……」

「ありがとう、ソーマ」

「……っ」

 

微笑んで礼を伝えるとソーマは顰めた表情に戻してそっぽを向いた。

ちょっと不器用な笑みだっただろうか。

 

「アンドレイ少尉、ここは任せる」

「り、了解です」

 

気まづそうにしていたアンドレイ少尉にソーマのことと被験体E-57の確保を一任する。

承諾したのを確認して、立ち上がる。

アヘッドのコクピットに向かう前に向こうの壁際を確認した。

 

「……マリー」

 

アレルヤ・ハプティズムがソーマから俺へと視線を移す。

何か言いたげだったが、俺は一瞥するだけで無視した。

悪いが構ってられるほど暇じゃない。

すぐにコクピットに乗り込む。

 

「デスペア中尉……」

「俺達はまた会える」

「……ええっ」

 

腰を下ろし、微笑みかけるとソーマも精一杯の微笑を返してきた。

そんなソーマの笑顔を遮るようにコクピットハッチが閉まり、今度はメインカメラの捉えるモニターにソーマが映る。

もう破ることできない『約束』を交わした。

――仲間を救い、絶対に彼女の元に戻る。

 

『必ず戻ってくる。必ず…!』

 

ヘルメットを被り、バイザーを下ろして目付きに力を込める。

アヘッドの四つ目が輝き、施設から離脱するアヘッドから、離れていくソーマを見つめた。

それを振り切るように戦場に視線を戻す。

 

『アヘッド。レイ・デスペア、出る…!!』

 

機体が浮き上がり、めり込んでいた施設から離脱。

GNバーニアの推力で空高く飛び上がった。

戦場を一望できる高度まで飛翔する。

 

『……っ!!』

 

左下から高濃度の粒子反応……!!

眼下の施設方面に目を向けると極太の粒子ビームが飛んできた。

アヘッドの肩部のスラスターを単一で噴射して左回転で避ける。

 

『ツインバスターキャノンが躱された!?』

 

『セラヴィーか!!』

 

施設前に構えるセラヴィーが両肩のGNキャノンIIにシングルバズーカモードのGNバズーカII2挺を連結させて、俺のアヘッドを見上げている。

ティエリアのやつ、不意打ちで決めにきやがった…!

危なかったぜ。

今のは自分でも思うがよく回避できた。

だが、束の間もなく別方向から粒子ビームが迫る。

 

『20km以上離れている!これは、狙撃……っ!』

 

粒子反応の方角から相手の位置を特定しつつ、反射で回避する。

 

『嘘だろ、おい…!?』

 

陸地面で施設を囲む崖から姿を現した濃緑色の機体を発見、ケルディムか。

狙撃に使用したと思われるスナイパーライフルを手に持っている。

レナから貰った情報から察するに恐らくGNスナイパーライフルII。

デュナメスのもの違って、折り畳んでバルカンにも使えるとか。

近距離、中距離、遠距離全てに対応できるとは厄介極まりないな。

 

『次はこっちから行かせて貰う…!』

 

セラヴィーの粒子ビームを回避し、GNビームライフルでケルディムを狙う。

ケルディムは俺の射撃を避けることに専念し始めた。

どうやら同時並行で反撃する技術はないらしい。

パイロットはニール・ディランディではないな。

 

『突撃する!』

『なっ…!』

 

セラヴィーの射程から抜け出し、ケルディムに接近する。

恐らくパイロットはニール・ディランディの弟であるライル・ディランディ。

『ヴェーダ』のデータバンクに、ニールの次の候補として挙げられている。

その実力は、MS(モビルスーツ)操縦経験のないまったくの素人!

 

『はあっ!』

『ぐあっ!?』

 

間合いを詰め、GNビームライフルによる射撃でケルディムの装甲を削っていく。

粒子ビームを食らったケルディムはどうやら装甲パーツのおかげで致命傷にはならなかったようだが、小破して煙を上げ、高度が降下していく。

さらにGNビームサーベルを抜刀してケルディムへ推進した。

 

『はあああああああーーっ!!』

『しまった…っ!』

 

GNビームサーベルを振りかぶりながら、無防備なケルディムへと迫る。

このままGNスナイパーライフルIIを奪う!

 

『させない!!』

『くっ……!』

 

いいところで邪魔が入った。

ケルディムとアヘッドの間合いに粒子ビームが連射される。

発射元はセラヴィー、ティエリア・アーデ。

そして、セラヴィーはGNバズーカIIを二門構えながらこちらへ向かってきた。

 

『僕が仕留める!セラヴィー、バーストモード!』

『クソッ!』

 

セラヴィーの背部にある巨大な顔が十字型の赤い光を放つ。

GNバズーカIIを2挺ドッキングさせたダブルバズーカにし、バーストモードを解放してきた。

そして、セラヴィーが球状の粒子ビームを俺のアヘッドへと撃つ。

 

『そんなもの当たるか…!』

 

肩部のスラスターを再度噴かせ、今度は降下して避ける。

バーストモードによる球状の粒子ビームは空の彼方へと消えていった。

――が、俺が視点をセラヴィーへ戻すと奴は機体の前方に粒子圧縮用の小型GNフィールドを展開し、四門あるGNキャノンIIにエネルギーを集束させていた。

連続砲撃かよ……っ!?

 

『クァッドキャノン!』

『しまった、避けられない!?』

 

集束したエネルギーが溢れんばかりに充填される。

瞬間、セラヴィーがGNキャノンII四門を用いた広範囲の粒子ビームを放ってきた。

威力はさっきの方が上だが、クァッドキャノンの方が射程が広い!

バーストモードの砲撃を避けた後じゃ、回避が間に合わない…っ!

 

『クソ、こんなところで―――っ!!』

 

諦め半分で悪態を付きつつ思い出す。

そうだ、今日の戦いはいつもとは違う。

負けられない。

死ぬなんて以ての外!

生きて、帰る…!また会うんだっ!!

 

『死ねるかぁぁぁーーーー!!』

 

俺の瞳が金色に輝き、重心という概念を捨てる。

横転(ロール)機首上げ(ピッチアップ)を同時に行い、アヘッドは樽の(バレル)をなぞるように螺旋を描いた。

進行方向と高度は変わらず位置だけが左右にずれることでクァッドキャノンの射程から外れる。

 

『なに!?』

『今だ!二個付きを狙えっ!!』

『まさか…!』

 

ティエリアも勘づいたらしい俺の狙いは元からセラヴィーを施設から離脱させることだった。

ソレスタルビーイングが攻めてきてから290秒。

奴らの電撃作戦の上限がいつまでかは知らないが、セラヴィーという護衛がいない今、パイロットのいないダブルオーを破壊する機会(チャンス)だ。

 

『き、貴官は……』

『レイ・デスペア大尉だ。これよりMS(モビルスーツ)部隊の指揮を取る!!』

『……っ!了解!』

 

突然ガンダムとの交戦を繰り広げたアヘッドに驚いていたのか、呆けていたジンクス部隊に指示を飛ばす。

空に残る小隊二つのジンクスIIIがGNランスを手に動かないダブルオーへと向かった。

 

『くっ……!行かすわけには……っ』

『お前の相手は俺だ!』

『ぐあっ!?』

『うおっ!気付きやがった……!?』

 

小隊を阻もうとするセラヴィーに最短コースで蹴りを入れる。

ついでにケルディムが射撃体勢に入っていたので、GNビームライフルで牽制しておいた。

 

『このスピード……っ!宇宙(そら)にいたエースパイロットの片割れか!』

『今更気付いてももう遅い…!』

『そんなことは―――なにっ!?』

 

ダブルバズーカによる至近距離からの砲撃を躱す。

右に重心を置く振りをして、推進すると見せ掛けて急変更したフェイントを掛けた。

左からセラヴィーの背後に回り込む。

 

『はあっ!』

『あぐ…っ!?』

 

粒子ビームもGNビームサーベルもGNフィールドを張られちゃ効きやしない。

だから、鉄拳を無理やり振り返らせたセラヴィーの腹部にねじ込んだ。

 

『もう一発!!』

『うぐっ!?』

 

間髪開けずに衝撃を貫通させ、あとは蹴る…っ!!

 

『がぁぁーーーっ!?』

『貰った……!』

 

蹴り飛ばし、さらに追撃としてGNビームライフルを構える。

照準をセラヴィーに合わせて粒子ビームを叩き込んだ。

しかし、GNフィールドに阻まれる。

 

『くっ…、なんとか間に合った!』

『チッ!この程度じゃ対応できるか…!』

 

少し痛めつけが足りなかったようだ。

コクピットに負担を掛けてティエリアの余裕を無くしたつもりだったが、満身創痍でもGNフィールドを展開しやがった。

前にも思ったが、案外往生際が悪い!

敵だとそれなりに厄介だ。

 

『うわあああああああああーーーっ!?』

『……っ!?』

 

突然、断末魔が通信で響く。

眼下を見下ろすとジンクスIIIが2機爆散した。

―――そして、爆炎の中から飛び出したのはツインドライヴを有する【ダブルオーガンダム】と二対のウイングを有する【アリオスガンダム】。

機動性の高い2機の奇襲に圧倒されてジンクス部隊は散開していた。

そのせいで奴らは一直線に俺の元へ向かってくる。

 

『よ、4対1……っ!』

『ロックオン!』

『まったく……人使いの荒いこって!オーライ、分かってるさぁ!』

『……っ!』

 

小破したケルディムとセラヴィーが互いにGNスナイパーライフルIIとGNバズーカIIの銃口と砲門で俺のアヘッドを捉える。

GNキャノンIIも含めた七門から放たれた粒子ビームの挟撃はかろうじて当たらず、後退して射程から離れた。

 

『くっ…!』

『ダブルオー、目標を駆逐する!』

 

だが、スラスターを噴かせて前進した先にはGNソードIIを構えたダブルオーガンダムが迎え撃つ。

その背後にはアリオスが続いている。

駄目だ、この2機を切り抜けるビジョンが見えない……っ!!

 

『クソッ!』

『なっ!?いつの間に……!』

 

予備動作なしで粒子ビームを放ってきたダブルオーの進撃を避ける。

刹那・F・セイエイからすれば反応できなかったようで、驚愕した声が漏れて聞こえる。

だが、ダブルオーを回避した俺の前にGNビームサーベルを抜刀したアリオスが斬りかかってきた。

 

『くっ……!』

 

こっちもGNビームサーベルで迎え撃ち、ビーム刃が衝突する。

コクピットにいるアレルヤ・ハプティズムがどんな気持ちで俺に斬りかかってきたのかは知らないが、何処か押しが弱い。

これなら押し返せるかもしれない――と考えたと共に背後から照準がロックオンされたのをEセンサーが教えてくれた。

 

『……っ!』

 

危機を感じてアリオスから離れようとしたが、さっきまでやる気がなかったくせに突然腕を掴まれて捕えられた。

あいつ、急にやる気に――!

 

『狙い撃つぜぇ!!』

『しまっ――っ!』

 

GNスナイパーライフルIIの銃口からアヘッドのコクピットを的確に狙った粒子ビームが放たれる。

アリオスに押されられてるせいで動けない!

弾道は完璧だ。

素人じゃなかったのかよ……っ!

 

『くっ、すまない!ソーマ……っ!』

『……っ』

 

死を覚悟して約束を果たせないソーマに謝ると、アリオスの手が離れる。

さらにEセンサーが遥か上空から急速に接近する機影をキャッチし、機体はアヘッドに迫る粒子ビームをGNシールドで防いだ。

アリオスにも驚いたが、割り込んできた機体にはさらに驚いた。

俺の前に現れたアヘッド。

 

このアヘッドは―――。

 

『ネルシェン・グッドマン……!』

『気安く名を呼ぶな』

 

モニターにいつもの仏頂面が表示された。

ネルシェン機のアヘッドはケルディムの狙撃を防ぐと同時にGNビームライフルで俺の背後にいるアリオスを除く3機のガンダムを散らす。

なんか既視感ある光景だな……。

 

『手こずっているようだな』

『あ、あぁ』

 

3機のガンダムに対して俺のアヘッドを守るように敵と睨み合うネルシェンのアヘッド。

どういう訳かネルシェンが割り込むと一定の距離を取って敵機が沈黙している隙に俺達はGNビームライフルからバレルとGNコンデンサーを取り外す。

こうすることでアヘッドのGNビームライフルはGNビームサブマシンガンになり、威力は下がるが速射性が上がるのだ。

 

『さぁ、どう来る…?』

『フォーメーションγ-33でまずは敵機を分断する』

『……了解』

 

有無を言わせない命令に頷く。

何というか、いつの間にか受け身な体勢に入っていた俺と違って、ネルシェンはこっちから相手のペースを崩しに行こうとする。

一瞬の判断で真逆の性格が分かるんだな…。

 

『なに?』

 

背にあるバスターソードに手を掛けてネルシェンが顔を顰める。

上空にいたガンダム3機が突如背を向けて撤退行動をし始めたからだ。

アリオスも俺達を大きく旋回して後に続こうとする。

俺には、奴らの行動の意味が分かった。

 

『今回奴らが仕掛けてきたのは電撃作戦だ!時間通りに逃げられるぞ!』

『……っ。そうか。あくまで仲間の……パイロットの補充が目的か。ならばここで数を減らすことに意味がある。奴らを妨害する』

『分かった…!』

 

ネルシェンがバスターソードを俺に投げ渡し、GNビームサーベルを抜刀する。

俺はバスターソードを受け取る時には既にアリオスとの間合いを詰めていた。

 

『ここで墜とす…!!』

『……っ!』

 

推進方向の真正面から横薙ぎにバスターソードを振るう。

刀身は確実に胸部を捉えた。

……アリオスが飛行形態に変形し、バスターソードの起動をすり抜けなければ。

 

『可変機だと!?』

『【羽付き】の後継機か…!』

 

俺が驚愕に目を見開く間にネルシェンがアリオスの正体を看破する。

そうか!

『羽付き』のパイロットだったアレルヤ・ハプティズムの機体という時点で気付くべきだった……っ!

 

『ネルシェン!』

『私に命令するな!!』

『くっ……!』

 

飛行形態に変形したアリオスに対してネルシェンがGNビームサブマシンガンで後を追うように追撃する。

だが、アリオスは空を自由に飛び回り全弾回避する。

 

『やはり機動力に長けた機体か…!』

 

『狙い撃つぜぇ!!』

『圧縮粒子、解放……っ!!』

 

『ネルシェン……!』

『ぐっ…!?』

 

アリオスに照準を合わせて射撃体勢だったネルシェンのアヘッドに、ケルディムとセラヴィーからの粒子ビーム砲撃をバスターソードを投げ当てて機体を弾き飛ばすことで起動から逃れる。

俺の行動にさすがのネルシェンも驚いたようだが、GNシールドを咄嗟に構えたおかげで勢いだけを利用することができた。

 

『なんだそりゃ!?』

『馬鹿な……っ!くっ…、なににせよ!アレルヤ、今のうちに撤退する…!』

『……了解!』

 

驚愕に包まれるライル・ディランディとは逆に、驚きながらも冷静さを維持したティエリア・アーデによってアリオス共にガンダムが戦線から離脱していく。

 

『行かせるな!』

『分かっている…!私に命令するな!!』

 

GNビームサブマシンガンの弾圧で彼らを追うが、高機動やらGNフィールドやらで弾丸は通らず、俺とネルシェンのメインカメラが映すモニターからはガンダムの姿も次第に小さくなっていった。

そして、完全にセンサーから消える。

 

『クソッ!すまない、また俺のミスだ……』

『いや、今回は私だ』

『え?』

 

いつもの如く責められると思って謝罪したが、珍しく否定された。

それどころかガンダムの去った方を見遣りながら自分の責任だという。

どういう風の吹き回しだ?

 

『ガンダム4機に対する対策を怠ったのは私だ。新型が2機、一方は被験体E-57か。この段階で5年前と同じ頭数が揃うことを予想できなかった私に落ち度がある。これについては弁解の余地はない』

『そ、そうか。まあ数の利はあっちにある。初戦は仕方ないさ、次で挽回しよう』

『当然だ』

 

珍しく認めるもんだから何故かフォローしてしまった。

返しにはバッサリと切られるっていう……なんだこれ。

ま、こういう日もあるか。

 

『それより被害を確認する。貴様、分かるか?』

『……分かるけど』

 

なんとも切り替えの早いこって。

反省とか一瞬だったな。

多分口出ししてもまた険悪な雰囲気になるだけだろう。

ここは我慢してスルーが正解だ。

問われたことに整理した情報を返す。

 

『正直言ってあまり褒められた戦果ではないな。MS(モビルスーツ)部隊は半減。収監施設に関しては損害率80%を超える被害が出た』

『なに?どういうことだ…?』

 

ネルシェンが耳を疑う様子で顰める。

まあ当然の反応だな。

 

『カタロンの襲撃も受けたんだ。そのせいで収監されていた捕虜の多くを取り逃した。さらにはガンダムのパイロットも奪取され、中東国の王妃なんてもんまで連れて行かれた』

『くっ……!確かこの作戦の指揮官はマネキン大佐だった筈だ。これでは申し訳が立たん……っ!』

『意表を突かれたんだ。仕方ない』

『それでも評価を下げられるのは周知の事実だ!』

『……だろうな』

 

恩人を無下にされるのは辛い、今のネルシェンからそんな想いを読み取るのは難しくない。

この作戦でのマネキン大佐の処遇はもはや火を見るより明らかだ。

まあ作戦失敗したんだから仕方ないのは仕方ないんだが、ネルシェンの気持ちも分からなくはない。

……なら少し助け舟を出すか。まあ、これが助け舟になるかはわからないが、自分の醜態でも今は晒してもいい。隠してた訳じゃないけど。

一応意味がある行為だったとはいえ、伝えておこう。

 

『グッドマン大尉』

『なんだ!』

『俺が作戦に参加したのは合流してすぐじゃない。事情があって戦闘に介入するのが遅れたんだ』

『なんだと…?』

 

ネルシェンが俺を睨む。

まあ耐えるさ。

 

『それをダシに使っていい。……あまり効果はないとは思うが』

『……感謝はせん』

『分かってる』

 

寧ろ非はある故にネルシェンも俺を軽蔑した目で見る。

だが、俺は今回の作戦に組み込まれていない。

一応責められる謂れもなければマネキン大佐を庇うには足りない。

それでもないよりはマシだろ。

 

『はぁ。まったく……』

 

眼下の戦場を見下ろす。

ガラクタと化したジンクスや半壊した施設。

拡大するとハッキリする死体の数々。

生体反応のしないコクピット。

そして、そこらじゅうにあるビーム痕。

戦禍の跡が色濃く残っていた。

 

『こういうのを見てると、嫌になる……』

 

思わず目を瞑って目の前の光景から背けてしまう。

こうして囮作戦は失敗に終わった。




マネキンに対する暴言にネルシェンが食い掛かる。血縁の因縁が燃える中、レイの隣には彼を想う少女が彼の想いを聞く。
次回『戦う理由』
戦いは、恒久和平のために。


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戦う理由

アラビア海 海上。

ベーリング級海上空母にて、アロウズは3小隊規模の戦力を搭載しつつ海底へと逃げたソレスタルビーイングの足取りを追っている。

そんな館内の一室ではアーサー・グッドマン准将とカティ・マネキン大佐が対面していた。

ちなみにアーサー・グッドマン准将並びに宇宙(そら)の部隊は一部小隊を引き連れて地上に降りてきている。

 

「捕虜のガンダムパイロットを奪われ、その上カタロンにまで遅れを取るとは……。失態だなぁ、大佐」

「ソレスタルビーイングの戦力を見誤っておりました」

「言い訳は聞かん。無能な者はアロウズには不要だ」

「なに…?」

 

対談の席に同席していたネルシェンがアーサー・グッドマン准将の言葉に反応する。

眉が揺れ、眉間にシワがよった。

見てわかるほどに不機嫌だ。

 

「今のは聞き捨てならんぞ。マネキン大佐が無能だと?貴様、大佐の実績を知らないとでも言う気か」

「大尉……っ!」

「なんだぉ……!」

 

マネキン大佐が制止するが、遅かった。

ネルシェンの言葉に今度は准将の方が机を叩いて立ち上がる。

頬がヒクヒクと揺れ、怒りは最高潮だ。

 

「貴様っ!上官に対してなんだその口の聞き方は!?」

「黙れ。貴様に見る目がないから言っている」

「貴様ではないわ、貴様!私は准将……!アーサー・グッドマン准将だ!階級で呼びなさい!!」

「はっ、心眼も持ち得てない。ただの肥満体質の無能に対する敬意など持ち合わせてはいない」

「なにをぉ……っ!?」

 

両者激しく睨み合い、二人の間に紫電が走る。

ネルシェンは見下すが如く准将を軽蔑し、准将は歳に似合わぬ怒りの形相を浮かべている。

両者は一歩も譲る気がない。

さっそく居心地が悪くなってきた…。

 

「た、大尉。落ち着け」

「申し訳ありません、大佐。大佐の為にも私は譲るわけにはいかない」

「ネルシェン!私に歯向かう気か!准将であり、総指揮官であるこの私に……っ!一介の兵士であるお前が!」

「今までは義理を通してやったが、私の恩人を無下にした時点で貴様はもう上官ではない!」

 

ネルシェンがバッサリ切り捨てる。

対する准将はぐぬぬ…と厄介そうに表情を歪ませ、八つ当たりをするかのようにマネキン大佐を睨む。

教育がなっていない、とマネキン大佐に訴え、彼女も形だけは申し訳なさそうに顔を伏せたがそのやり取りをネルシェンは見逃さなかった。

 

「貴様……っ!今は私が相手だ!何か言いたいのならば私の目を見て言うがいい。それともその程度の覚悟もないのか?貴様の器も程度が知れる…!」

「なっ…!?言わせておけばぁ!!口が過ぎるぞ、グッドマン大尉!!」

 

怒りを燃やしたネルシェンの再燃料投下により、再び二人はいがみ合い睨み合う。

だが、まあ第三者から見てこれでもグッドマン准将は一応配慮している。

マネキンに対する評価はどうか知らんがネルシェンに具体的な罰則を口にしない。

 

本来なら謹慎ものだというのに、中々言い出さないところを見るにネルシェンに対しては甘さが垣間見える。

二人のことは詳しく知らないが、セカンドネームが同じである血縁関係であることは周囲の目から見ても明らか。

そこに何らかの事情があるんだろうな。

 

「貴様、私に対する恩を忘れたか!?」

「恩だと?はっ。人を見る目もない、貴様のような無能に恩など一度たりとも―――」

「そこまでだ」

 

准将も我慢がならなくなってきた頃、俺が声を掛けると本人も口を滑らしたと言わんばかりに額に汗を浮かべる。

逆に完全に冷静を失っていたネルシェンは失言をしそうになったことにハッとした。

 

「思ってもないことを言うのはやめろ」

「……っ。き、貴様には関係ない…!」

 

肩に手を置くと珍しく取り乱したネルシェンが払う。

一瞬、思い詰めた顔を垣間見せ俯いたと思ったら何かを思い出したのか、今度は鋭く俺を睨んだ。

まあ大体予想はつくが、まだ火薬投了する気なのかお前は……。

 

「ならば聞く、()()()()殿()。デスペアは地上部隊に合流したにも関わらず、私情で戦線参加に遅れたという。大佐よりこの男を責めるべきではないのか?」

「はぁ……デスペア大尉はそもそも作戦に参加する予定ではなかった。故に駆け付け、被害を防いだだけでも功績ものだ」

「くっ……!」

 

顔を顰めるネルシェン。

ま、結果は見えていたし、彼女も元から理解していた。

それでも出し惜しみなく交渉し、大佐を庇いたいんだろう。

疲れたように手でネルシェンを払う仕草をする准将も相手をするのも面倒になって、話を切り替えるように背後に立たせていた白髪の男に目を向ける。

 

「アーバ・リント少佐。見苦しいところをすまない」

「い、いえ……」

「次の作戦指揮は貴官に任せる。いいな?」

「はっ!」

 

気まづそうにしていたリント少佐が准将の指示に敬礼する。

同時にマネキン大佐を挑発しようと嘲笑を向けたが、ネルシェンの鋭い視線にヒッと怯えて借りてきた猫みたいに引っ込んだ。

気が立ってるネルシェンの前で、タイミングが悪かったな。

ていうかそれくらい予測できただろうに。

 

「以上だ。リント少佐以外はもう下がれ」

「「はっ!」」

「……了解した」

 

俺と共に敬礼を返し、承諾したマネキン大佐を見てネルシェンも不満げながら目を瞑る。

終始腕を組んで背中を壁に預けるなど態度は変わらなかったが、大佐には逆らえないんだろう。

そして、恐らくこれからの作戦を立てるであろうアーサー・グッドマン准将とアーバ・リント少佐を残して俺達は退室した。

三人で歩く廊下でマネキン大佐が口を開く。

 

「掃討作戦を得意としたアーバ・リント少佐。まさかあの男を連れてくるとはな……」

 

愚痴、というよりは驚愕に近いといった反応か。

さっきのリント少佐の登場と作戦指揮権限の移行に対する感想。

俺もあの人に指揮を任せるのは一抹の不安がある。

 

「掃討作戦ですか…。俺もあまり乗り気にはなれませんよ」

「当たり前だ。圧倒的な物量で敵に有無を言わせず、尽く先手を打つ。迅速かつ確実な大佐の作戦こそが至高です。効率もいい」

「フッ。褒めても何も出んぞ、グッドマン大尉」

「素直な気持ちです。マネキン大佐」

 

俺をダシにネルシェンがマネキン大佐を持ち上げる。

目の前で賞賛するなんて、一見媚を売ってるようにも見えるがネルシェンの場合、心の底から言ってるのが見てわかる。

マネキン大佐のことを本当に尊敬しているんだな。

 

「まあなんだ。私は下ろされた身だ。リント少佐の指示をしっかりこなせ、いいな?グッドマン大尉」

「お断りします」

「なに…?」

 

まさか拒否されるとは思ってなかったのか、断言するネルシェンにマネキン大佐は目を見開く。

そんな大佐にマネキンは真に敬意を込めて敬礼する。

 

「私が参加するのはマネキン大佐の作戦のみです。故に次の作戦はライセンスを使わせていただきます」

「……まったく。貴官という者は…」

 

呆れたながらに微笑むマネキン大佐。

ネルシェンの信仰もここに極まれりだな。

まあ次は俺もライセンスを使うつもりではあるけども。

 

「では後は任せたぞ」

「「はっ!」」

 

マネキン大佐に託され、応答する。

次第に彼女の背は小さくなっていった。

完全に見えなくなっていった頃にネルシェンがふと口を開く。

 

「……さっきは助かった。すまない」

「えっ?」

 

それだけを言い残し、ネルシェンは去る。

恐らく向かうのは格納庫……シミュレーションで本格的に頭を冷やそうとしているようだ。

なにを反省しているのか一応検討はつくが、あまり触れないでは置くか……。

 

「さて、と……」

 

腕を組んで上に伸ばす。

重苦しい空気もなくなってやっと肩の力が抜けた。

今日はさっきのミーティングもあって、訓練は半日だが残り時間で何をするのかあまり決まってはいない。

ちょうど腹も減ったし、飯でも食うかな。

 

「はぁ。食堂にでも行くか……」

「デ、デスペア中尉!」

「ん?」

 

大した目的もなく歩いていると、声を掛けられた。

十字廊下の分かれ道を見遣ると白髪を揺らす少女がアロウズの軍服に身を包んでなにやら熱っぽい視線で俺を見ている。

ソーマだ。

 

「あぁ、そういえばもう1回会うって言ってたな。悪い。作戦の後色々あってこんな形になっちまった」

「い、いや。大丈夫だ。それより、その……本当にっ。中尉……なのか?」

「……」

 

ソーマが不安げに問い掛けてくる。

瞳は一心不乱に俺を捉えて揺れていた。

今にも泣きそうなまである。

まあ死んだはずの大切な人が現れたら誰だってそうなるよな。

 

「あぁ。俺は、元人革連軍所属レイ・デスペアだ」

「……っ!」

 

思わず口を抑えるソーマ。

肯定した俺にソーマの瞳からポロポロと雫が落ち、頬を伝っていく。

 

「そんな……っ。ほんとうに、生きて……っ」

「あぁ。俺は生きてる。あの時は帰られなかったけど、またこうしてソーマと会えてるよ。だから、泣かないでくれ」

「う、うぅ……ああ…っ」

 

ソーマの涙を指で拭う。

膝から崩れ落ちたソーマを俺はそっと抱き締めた。

涙が収まるその時までずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーマが落ち着いてから周囲のこともあって甲板へと移動した。

そこで俺たちの間にできてしまった空白の時間について触れる。

 

「5年、か……」

「あぁ……」

 

俺は遠いものを見るように海を見つめ、ソーマは海に背を向けるように僅かに頷く。

俺達は小指が触れ合うか合わないかという距離で話していた。

 

「ごめんな。あの時、すぐに戻らなくて……」

「……いや、戻れなかったことくらいは…その、なんとなく……分かる」

「そっか」

 

ソーマが複雑そうに目を逸らし、俯く。

俺はそんなソーマにできるだけ優しく微笑んだ。

 

「でも、何年隔てたとしてもまたこうして出会えた」

「……っ」

 

顔を上げてソーマが声にならない喜びで震える。

俺もソーマと再会出来たことは素直に嬉しい。

アロウズにいて会えるなんて思ってなかったからな。

ソーマが俺にずっと会いたかったように、俺も同じだ。

 

「そういえばソーマはどうしてアロウズに?」

「上層部に招集されて転属した。大佐は反対していたが……」

「スミルノフ大佐が?一緒にいたのか?」

「あぁ。大戦のあと、4年間お世話になった。まるで娘のように大切に私のことを……」

「そうか。それは良かった」

 

実は心配だった期間も大佐が面倒を見てくれていたのか。

確かにあの人ならソーマのことを大切にしてくれるだろう。

娘のように、か。

本当に娘だと思って共に過ごしてきたんだろうな。

ソーマの話を聞いて思い出したが、ソーマが招集されたことはリジェネに聞いてたのを今思い出した。

あいつの話半分は聞き流してるから時々忘れるんだよな……。

ま、なににせよ4年間の間ソーマが1人じゃなくて安心した。

 

「でも、いつも私の胸にポッカリと空いた穴は塞がらなかった。とても苦しくて……心臓が締め付けられるような……そんな感覚を、貴方を思い出した時にいつも感じる」

「ソーマ……」

 

今にも涙が溢れそうなのを堪える瞳で俺を見上げる。

ソーマの手は胸の上で力を込めて握られていた。

今もまた、締め付けられるような感覚が襲っているのだろう。

そんなソーマを見つめて……俺はどうすればいいのか分からない。

ソーマと向き合える資格があまりにも無さすぎる。

俺は帰れなかったんじゃない、帰らなかったんだ。

その結果、ソーマに苦しい想いをさせてしまった。

以前なら絶対にそんなことはしなかったのに。

 

「すまない。本当に……」

「いえ、もういいの。またこうして逢えたから…」

 

嬉しさ溢れる微笑を浮かべるソーマ。

そんな彼女の笑顔が眩しい。

俺は直視できない程に。

だから、目を逸らして謝ることしかできない。

 

「それでも…ごめん……」

「デスペア中尉……」

 

今ソーマがどんな顔で俺を見つめているのかは分からない。

だが、そっと俺の手に触れる温かい感触があった。

 

「大丈夫。本当に、本当に私は今嬉しい。中尉とこうしてまた逢えたことが。だから、中尉にも喜んで欲しい……ダメか?」

「ちょ……っ」

 

俺の手を取り、熱を帯びた温かい手で包み込む。

そのままソーマは自身の胸へとそれを押し付けた。

すると、心臓が大きく脈打つように鼓動する音が伝わってくる。

それに伴うようにソーマの頬も火照り始め、上目遣いで俺の目を熱っぽく見つめていた。

流石に俺も顔が熱くなるのを感じる。

 

「……っ!そ、その…俺も嬉しい!最初から!そう思ってるから……だから、その……勘弁してくれ…」

「ふふっ。中尉もそう思ってくれたか。なら良かった」

 

そう言ってソーマは俺の手を下ろすが、決して離しはしない。

名残惜しそうに優しくそれでいてしっかりと握っている。

顔を真っ赤にして頭を抱える俺にソーマは悪戯っぽく笑った。

一瞬、目を疑ってしまった。

こんなにも表情豊かに笑みを作るなんて……。

変わったんだな、ソーマ。

大佐には感謝しないといけない。

 

「中尉が帰ってこなかったことについては不問にする。一度は中尉の声が戦闘中に幻聴として聞こえることもあったが……うん。気の所為だろう」

「……」

 

気のせいじゃない。

あの時、俺はソーマと出会っていた。

言いたい気持ちはあるが、折角許してくれたところに火薬を投了するのは申し訳ない。

という建前で黙るしかないとは……。

本当に俺って情けないな。

 

「そういえばデスペア中尉はなぜアロウズに…?」

 

さっき俺がした質問を今度はソーマが俺に問い掛ける。

まあ、それについては全然答えられる。

イノベイターに関してだが、もはやソーマにこれ以上隠し事をしていたら罰が当たりそうだ。

それに既に知れ渡ってことだしいいだろう。

だが、その前に訂正しなければならないことがひとつある。

 

「ソーマ。一応言っとくが、俺は大尉だ」

「あっ……も、申し訳な……ありません」

「いや、無理に敬語じゃなくてもいいけども……」

 

ソーマが慌てて敬礼するので止めさせる。

俺達の間に今更不要だろ、そんな礼儀。

一応館内では階級間違えはあまり宜しくないので訂正しておいたが、俺としては正直どうでもいい。

ま、そのうち慣れるか。

 

「さて、俺がアロウズに配属された理由か……。まあ経緯はソーマと大して変わりはしない。俺も上層部に呼ばれて配属された。『イノベイター』としてな」

「イノベイター?」

 

聞き覚えのない単語にソーマが首を傾げる。

それに俺は瞳を金色に輝かせて彼女を瞳を捉えた。

ソーマの瞳の中に俺の瞳が映る。

 

「……っ!」

「イノベイター。それは人類の進化した姿。俺は、進化したんだ。脳量子波が使えるイノベイターに」

「デスペア中……大尉が、脳量子波を!?」

 

驚きのあまりソーマが目を見開く。

当然の反応だ。

脳量子波はナノマシンを体内に埋め込まれた超兵が為すもの。

ただ人間には使えない。

だが、超兵よりも完全な脳量子波を使う存在が今ソーマの目の前に現れた。

 

「分かるか?ソーマ。俺の気持ちが……」

「あっ……」

 

ソーマの髪に触れ、そのまま耳にまで手を伸ばす。

そして、ソーマと脳量子波で繋がる。

お互いの思考が、想いが筒抜けになり、通じ合う。

ソーマは唐突だったからか、俺のことを何の抵抗もなくソーマの意識の中に招き入れてくれた。

落ちた雫が広がるように俺の脳量子波がソーマの脳量子波に浸透し、互いに想いを交わらせる。

ソーマはほんのり頬を桜色に紅潮させていた。

 

「流れてくる……デスペア、大尉の…想い…。気持ち…温かい……」

「あぁ」

 

心地よさそうに伸ばした俺の手を両手で包むように触れるソーマが目を瞑る。

しかし、直後に何か核心に触れてしまったかのような驚愕に包まれ、目を見開いた。

 

「……っ。これは……」

 

ソーマが俺の強い想いに触れる。

それは、俺が戦う理由となっているもの。

誰かを失い、張り裂けるような胸の痛み。

目の前で命が散っていく。

無残にも罪のない命が消えていく。

それに対する深い哀しみ。

奪い、奪われる――そんな世界を変えたいという想い。

そして、凶弾に頭を撃ち抜かれて吹き飛ぶ少女の笑顔――。

 

「そこまでだ」

「あっ……」

 

瞳の輝きを消し、脳量子波を断ち切る。

ソーマに触れていた手も引っ込めた。

それを名残惜しそうに、さらに哀しそうにソーマが目で追う。

クソっ、ソーマを入れ過ぎた。

俺の知らない記憶にまで及びそうだった。

いや、でもあのままいけば思い出したかも……あぁ、クソっ、そんなソーマを利用するみたいなことをまたしても…!

とにかく物凄い汗が俺の背に伝う。

 

「……っ!」

「デスペア大尉……っ!す、すまない…」

「いや……今のは俺が……っ」

 

頭痛がする。

最後に見た笑顔がきっとその原因だ。

だが、今はそれよりもソーマに教える必要もない感情まで漏らしてしまった。

こんなの見せられても困惑するだけだ。

急いで頭を下げなければ……。

 

「俺の方こそすまない。今のは別に、見せるつもりじゃ――」

「……っ!」

 

瞬間、何かが俺の胸に飛び込んだ。

俺より小さな身体が、華奢な腕が俺の腰を巻く。

 

「ソーマ?」

「デスペア大尉の想いを知った。苦しい…気持ち…」

「……」

 

ソーマが俺から離れて涙を拭う。

そして、複雑な表情で俺を見上げた。

ただでさえ綺麗な顔立ちは夕日を背景にさらに美しい。

 

「デスペア大尉が戦うのは……」

「……あぁ。奪い合いのない、恒久和平を実現するためだ。その為にも俺達は犠牲を出してはならない。矛盾してるんだよ、今のアロウズは……っ!」

「デスペア大尉……」

 

ソーマがなんとも言えない表情で俯く。

俺の思考を読んだから、彼女も俺の考えは理解しているんだ。

ソーマが黙って聞いてることをいいことにどんどん話す必要もない想いが漏れていく。

 

「犠牲は無くす。犠牲のない恒久和平を築く。その為に、カタロンであろうとも命は奪わない。彼らは世界が統一しようという今の現状の中で孤立する反逆者達だ。だからこそ、彼らの資源は限られている。その有限の資源であるMSを破壊さえすれば命を奪う必要はない。なのにアロウズは……」

「掃討作戦により、虐殺する……」

「そうだ」

「それで……だから、大佐は反対を……。それに大尉にそんな想いがあったなんて。いつの間にか、私の知らない『デスペア大尉』になっていたのか……」

「……っ」

 

ソーマが悲しげに呟く。

この4年の空白を再び実感したのだろう。

 

「ソーマ……」

 

俺はそんな彼女を見つめることしかできない。




エースパイロット達がガンダムを追い詰める。
しかし、カタロンの介入による激戦化する戦場の中で、レイに危機が迫った。
次回『過ち』
彼を守る刃が命を奪う。


サブタイ変わる可能性大です。


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過ち

難産でした。


翌朝、アーバ・リント少佐が構築した作戦プランが艦内に行き渡った。

作戦はソレスタルビーイングの心理面から推測される座標に網を張り、新型のGNドライブ搭載型のMA(モビルアーマー)【トリロバイト】のGN魚雷を用いての奇襲攻撃。

 

小型のもので先制し、敵が体勢を崩したところにGNフィールドの突破が可能とされる大型で敵艦の損傷を狙う。

そして、敵艦が混乱したところに2分間の爆撃の後、トリロバイトで近接戦闘を行い、敵艦を圧壊させる――というものだ。

 

ほう。初期行動までは中々上手い。さらに索敵も優れている。

だが、わざわざ索敵不能のトリロバイトを接近させるのはちょっとリスクが高いな。もちろんトリロバイトの近接戦闘が最も敵艦に直接ダメージを与えることができるが……。

 

まあ戦闘中はプトレマイオス2もMS(モビルスーツ)を出撃できる深度ではないだろうし、大丈夫か。

うーん、やっぱりこの辺はネルシェンと話した方がハッキリするか。

俺だけで考えても結論に至りそうではない。

 

「……とりあえず朝食取るか」

 

作戦プランを表示していた端末の画面を閉じて自室のベッドから腰を上げる。そろそろ艦内の食堂が開く頃だ。

食事のために自室のオート式の扉を開く。すると、朝の陽光に相応しい白髪が目に映る。

 

「うおっ!?なんだ。ソーマか……」

「あぁ。おはよう、デスペア大尉」

「お、おう。おはよう」

 

唐突に現れるもんだからちょっと驚いた。

というかいつから部屋の前に居たんだ?

 

「朝からどうした?」

「いや……一緒に朝食を、と思って……」

 

ソーマが言っていいのか戸惑うように、しかし俺の様子をチラチラと伺いつつ小さく呟いた。

なるほど。一緒に飯が食いたかったのか。

その為にいつからか知らんがずっと待っていたと。ここまでされちゃ誘いに乗るしかないよな。

 

「わかった。行こうか」

「い、良いの?」

「もちろん。えっ?何かおかしいか?」

「いえ……とても、嬉しい……」

 

ソーマが頬を紅潮させて微笑む。

まあ別に断る理由なんてないだろ。

 

「デスペア大尉と一緒に……」

 

ソーマはなにやらずっと呟いてる。

そんなに嬉しいもんかね。

 

「ん?」

「………」

 

ソーマと歩いていると珍しい人物が前から歩いてくるのを見掛けた。顔の殆どを仮面で覆った変人、もとい同僚。ああいう仮面って兜って言うんだっけか。

確か元ユニオン領土の国の文化だな。それはともかく、現れたのは改造が施されたアロウズの軍服に身を包むライセンス持ち、ミスター・ブシドーだ。

そんなブシドーと目が合う。

 

「よぉ、珍しいな。あんたと会うなんて」

「………」

 

一応声を掛ける。

ブシドーも歩みは止めないが、無視する気もないらしく瞳の動きだけで応じる。

 

「次の作戦参加するのか?だったらよろしく頼むよ」

「失礼する」

「あっ……」

 

気さくに話し掛けたつもりだがブシドーはそのまま通り過ぎて行ってしまった。

ま、元々話すような仲でもないし当然といえば当然だが。

まったく……。

 

「釣れないな」

「デスペア大尉。彼は……?」

「ん?あぁ、ミスター・ブシドーだ」

「ミスター・ブシドー?」

 

ソーマが名前を聞いた途端怪訝そうな表情をする。

まあブシドーも格好が格好だったし、さっきもソーマは敬礼するか悩んでたな。

結局してなかったけど。

 

「本名はグラハム・エーカー、元ユニオンのトップガンだ。だが、まあ今はどういう訳かあんな感じになってる」

「ユニオンのトップガン……あれが?」

「あぁ。階級は知らんが少なくとも俺よりは上だぞ、ソーマ」

「そ、そうなの?本当に?」

 

ソーマが困惑といった表情でブシドーの去った方と俺を交互に見遣る。

まあブシドーは規律守ってない代表みたいなのだから気持ちは分からなくもないが、グラハム・エーカーはユニオン軍で上級大尉だったらしいから少なくとも俺よりは上で間違いない。

『ヴェーダ』のデータバンクで拝見した。

ヴェーダ最高、ヴェーダ万歳。プライバシーとかゴミ箱に捨てた。

 

「そういえばソーマ、リント少佐の作戦プランは目を通したか?」

「あぁ。海中での奇襲に新型のMA(モビルアーマー)を使用すると……」

「そうだ。で、そのモビルアーマーってのが丁度あれだな」

「あっ、外に……!」

 

窓から見える海面を指差すとソーマもその影を確認する。シルエットはさながら三葉虫の如く、水中を何の苦労もなく推進していく。

擬似太陽炉搭載型のMA(モビルアーマー)・トリロバイト。見ての通り水中専用機で、確か元ユニオンの技術者が開発に関わっていたはず。センサー類はフラッグから流用したんだとか。

なんで俺がそんなとこまで目を通したのかは自分でも分からんが。

 

「GNドライブ搭載型のモビルアーマーまで開発しているとは……」

「多額の寄付をした資産家の娘がいる。今じゃ彼女もアロウズだがな」

「知り合いなの?」

「あぁ。宇宙(そら)で一緒だった」

 

部隊が違うから殆ど喋ってないけど。なんなら最初の挨拶以来話してない気がするまである。

リボンズが目に掛けてるのは知ってたけど、関わる必要も対してないしなぁ。強いて言うならリボンズが何故あの娘と接触しているのかは気になりはする。

 

「………大尉はそういう女性が……その、好みだったり?」

「は?」

 

突然ソーマが意味のわからないことを尋ねてきた。目は俺から逸らして表情は伺えない。

ただ不安そうに俺の服の裾を摘んでいた。対する俺はほんとに唐突すぎて思わず硬直してしまう。思考も一瞬回らなかった。

えー……えっとこれってどういう意図で聞かれてるんだ?

 

「いや、別にそんなことないけど……」

「……っ!そ、それは!……良かった」

 

好みでないと返すとソーマは凄まじい反応速度で振り返り、嬉しそうに笑みを浮かべた後。俺と顔を合わせて恥ずかしくなったのか、また視線を逸らして呟いた。

……良かった、ね。鈍感じゃないつもりなのでソーマの想いに気付いてないわけじゃないが、どう対応していいのかも困る。

 

なにせ5年だ。あまりにも状況が変わり過ぎている。

ソーマも以前の俺ではないことに気付いている。

だから、やたらと接触して距離を縮めようとしてるんだろう。

 

俺はイノベイターで、『来るべき対話』のために計画を完遂しなければならない。計画の第一段階はソレスタルビーイングの武力介入を発端とする世界の統合、第二段階はアロウズによる人類意志の統一、第三段階は人類を外宇宙へ進出させ、来るべき対話に備える――それがリボンズ・アルマーク(イオリア・シュヘンベルグ)の計画。

 

宇宙環境に最適な俺達が計画を実現させる。

そして、今は第二段階であるアロウズによる統一世界の実現。俺はその為に戦い、実現するまで戦い続ける。

もしソーマの想いを受け取ったとして、俺は計画と彼女を両立し、逃れなられない戦乱から守れるのか?

 

とてもじゃないが自信が無い。

それに【レイ・デスペア】は一人の人間ではなく、計画に必要な『存在(イノベイター)』だ。ソーマの好意を受け取ってそれが計画の支障となるならば、リボンズは真っ先にソーマを切り捨てる。

……つまり、俺の独断では決められない。

 

例えそれが俺自身のことだとしても。俺の想いを優先して一時的に二人で幸せになれたとしてもそれはやはり一時のものでしかない可能性がある。

だから、俺はソーマの想いをそう簡単には受け入れることができない……。何よりもソーマの幸せの為だ。

 

「デスペア大尉?何か考え事でも?」

「いや。なんでもない。飯だったな、行くか」

「……っ。えぇ」

 

俺が先に歩み始めるとソーマも後から追いかけるように駆け、俺の隣へと追いつく。歩行中、何度か俺の手に微かに触れた感触は恐らく気の所為ではない。

とにかく。安堵したような表情を浮かべるのは胸に来るのでやめて欲しい。

ちなみに朝食は俺が頼んだのと同じのをソーマは頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦開始12分前。

既にパイロットスーツに身を包み、あと2分後には格納庫に向かうつもりだ。予定では3分前に出撃するのだが、ライセンス持ちなので知ったこっちゃない。俺は俺のやりたいようにやる。

掃討作戦を得意とするってことは圧倒的な物量差または力量差がなければ得意の範疇から外れてしまうということだ。

故に今回は念の為に先に出撃させてもらう。

 

「よし」

 

パイロットスーツの万全を確認し、ヘルメットを抱えて端末を懐にしまう。

そして、更衣室を出ようとするとちょうどネルシェンが入室してきた。

退室しようとした俺と必然的に目が合う。

 

「ほう。貴様もか」

「まあな」

 

短いやり取りを交わし、すれ違う。

そのままネルシェンは着替えのためにロッカーを開ける。

一応声は掛けておくか。

 

「それじゃあお先に失礼」

「待て」

「ん?」

 

自動扉が俺の退室を促すが、振り返る。

すると、軍服を脱ぎ、フィットネスウエア姿を晒したネルシェンが俺を睨んでいた。タッグを組んで暫く経つ俺だから知ってることだが、ネルシェンのは睨んでるわけじゃなくて単に目付きが悪いだけなんだよな。

まあたまに本気の眼光だけど。

 

「今回は作戦には介入しない。よって貴様とのフォーメーションは取らん。好きにやらせてもらうぞ」

「あぁ。俺もそのつもりだ」

「そうか。ならば即座に失せろ」

「めちゃくちゃだな……」

 

横暴なネルシェンに呆れ笑いを残して廊下に出る。

自動扉がやっとかとでも言うように俺とネルシェンの間を断ち切った。

あとは格納庫に向かうのみだが……本日何度目だろうか。

今度はソーマと出くわした。

 

「デスペア大尉。もう準備を?」

「あぁ。俺はライセンスがあるからな。今回は作戦を無視させてもらう」

「そ、そう……。それもイノベイターの権限……?」

「まあそんなとこだな」

 

ソーマが考え込むように言い当てる。

表情は少し曇っていた。

イノベイターがどれ程特別に扱われているのか実感したのだろう。

同時に、俺との隔たりが大きくなった。

 

「私にも。超兵にもライセンスがあれば……」

「はは。一応上と掛け合っておくよ、顔見知りがいるし」

「あっ……」

 

おっと、自然と頭を撫でてしまった。……昔の癖だな。でも、あの頃はなんで撫でてたんだ?

それはともかくソーマがここ最近で一番嬉しそうに頬を紅潮させ、髪を弄り出す。それにしても綺麗に艶の出る髪になったな。白さも際立って美しい。

ソーマもそういうのを気にする年頃になったのかもしれないと思うと少し寂しくもある。俺の知ってるソーマじゃないんだな、ってな。

 

「んじゃ、行ってくる」

「了解。……死なないで、デスペア大尉」

「了解。お互いにな」

 

このまま送り出すのは不安なのか、哀しそうに告げてきたソーマにサムズアップと笑みで返す。

そして、すぐに背を向けて格納庫へ向かった。

ソーマの姿は歩みを進める事に小さくなる。

 

数分後。

少し時間をロスしてしまったが、問題なく先に出撃することができた。

作戦開始まで残り5分。俺のアヘッドがベーリング級海上空母のカタパルトから射出されると海上を飛翔。

一番乗りかと思いきや……既に空に浮遊していた先客がいた。

 

『あのアヘッドは……』

 

通常とは違い、胸部に取り付けられた増加装甲、縦向きに設置しなおされた肩のスラスター。顔面部のムシャのような強面。

アヘッド 近接戦闘型、またの名を【アヘッド・サキガケ】だ。

パイロットはブシドー。故にミスター・ブシドー専用アヘッドとも呼ばれている。

近接武器しか積んでないとか聞いたことはあるが……まあ、さすがにそんなことはないだろう。

 

『ブシドー』

『むっ?』

 

残り3分。

一応ブシドーに忠告しておきたいことがあるので通信を繋いで声を掛ける。

 

『ガンダムは4機いる。さすがに1人じゃ無理な数だ。作戦が始まったら分担して戦うぞ。まあ敵母艦は海底にいるから全機海上に上がることもそうないことだとは思うが―――』

『否。ガンダムは全て私が相見える。干渉、手助け、一切無用!』

 

……際ですか。

ブシドーは言い放つともはや一切の文句を受け付けないとでも言うように通信を一方的に切った。

もうこうなったらどうしようもない。

 

『アヘッド、出るぞ』

『んっ?』

 

偶然にも拾った声の方、ベーリング級海上空母のカタパルトからアヘッドが1機放たれた。

ネルシェン専用機だ。

どうやらライセンス持ちは出揃ったらしい。

 

「さてと、後はプトレマイオスが網に掛かるのを待つだけか……」

 

眼下を見下ろすと海中底深くで深淵の黒に時たま混じる爆雷の赤が見える。丁度トリロバイトがGN魚雷による奇襲をプトレマイオスに行っているところだ。

まずは小型での先制攻撃と作戦プランには書いてあったので恐らく今の爆発は小型のGN魚雷の仕業。

 

そして、間髪開けずに先程よりさらに大きい色合いが海底を色褪せる。

大型のGN魚雷で打撃を与えつつケミカルジェリーボムを艦を取り巻くように張る。

これで砲門も封じ、敵母艦の打つ手をなくすことが出来る。ガンダムを出撃できる深度ではないからな。

 

そうなるとプトレマイオスはやはり深度を上げようとする以外手立ては無くなる。

ガンダムを出撃できる深度までケツに火がついた状態で急ぐが、我らがベーリング級海上空母がさせまいと海上からの爆雷を仕掛ける。プトレマイオスの深度が上昇したおかげでまだ漠然ではあるが、アヘッドの端末があれば敵母艦の動きを探ることができた。

現在、プトレマイオスは攻撃の手段を失い、上下挟み撃ちの状態にある。海上からの爆雷も十二分に効いている。

 

『ここまでは完璧、なんだがな』

 

正直感心したくらいにはいい作戦だとは思う。

この調子でいけば、確実に敵母艦は海中にて圧壊する。

そうなれば俺としても都合はいいんだが……。

 

「さぁ、どう出る?スメラギ・李・ノリエガ」

 

少し笑みを作って海底を見つめる。

俺の方にもトリロバイトが敵母艦へ接近するとの報告を受けた。

随分と経由したみたいだから既に交戦を始めたとは思うがな。

 

『ネルシェン、ブシドー。用心しろ。ここからが勝負だ』

『ふん。貴様に言われなくとも理解している』

『皆まで言うな。心眼は鍛えている』

 

へいへい。どいつもこいつも素直になれんのか。了解の二文字も言えないとは疲れる……。

と、まあ二人に忠告したのはリント少佐の作戦プランに関して俺の不安な箇所に作戦が進行したからだ。わざわざ索敵不能のトリロバイトでの近接攻撃。相手に位置を知られてしまうが、それを逆手に取られなけれか……。

一応ガンダムは出撃できる深度ではないというのが俺の保険だ。

しかし――。

 

『………』

『さぁ、現れるがいいガンダムッ!私は我慢弱いぞ……っ!』

 

ネルシェンは冷静にGNバスターソードを抜刀し、ブシドーはアヘッド・サキガケのGNビームサーベルを構えて今か今かと待ちかねている。この観察眼優れる二人が既に戦闘態勢に入っている。

ということはやはりこの場面に作戦の穴があると睨んでいるのか……!

 

『ならば信じよう。人間のお前達を』

 

俺もGNビームライフルとGNビームサーベルを構えて待機する。

トリロバイトの近接戦闘から2分が過ぎようとしている―――瞬間、海面から飛び出す音速の機影が視界を過ぎった。

 

『来た!速い!トランザムか……!』

『ほう』

『会いたかった。会いたかったぞ、ガンダムッ!』

 

海面から飛び出した機影は1機かと思ったが、どうやらそれはトランザムを使用した【アリオスガンダム】らしい。勢い余って上空で旋回しているのを目に捉えた。

だが、問題はそのアリオスを利用して共に飛び出したもう1つの機影。

なんとか視覚で確認したその正体は両肩にツインドライヴを積んだ機体、【ダブルオーガンダム】だ。

そのダブルオーが無防備なベーリング級海上空母に直進した。MS(モビルスーツ)部隊の発進も間に合わない、このままでは母艦がやられる……!

 

『ソーマが……っ!くっ、トリロバイトの隊員は……っ。いや、今はそれよりも!ネルシェン、二個付きを止めろ!!』

『私よりも奴の方が早い』

『なに……?』

 

ネルシェンの発言に疑問を持ち、母艦に目を向ける。すると、ベーリング級海上空母を切り裂こうと接近するダブルオーに横から衝突する機体があった。

母艦からダブルオーを放すと刹那の間に斬り結び、対峙する。

―――アヘッド・サキガケだ。

 

『ブシドー!無茶するな、その機体は他とは――』

 

『その剣捌き……。間違いない、あの時の少年だ!なんという僥倖ッ!!生き恥を晒した甲斐が――あったというもの!!』

 

『全然話聞いてねえ!!』

 

何故かブシドーは興奮状態でダブルオーに斬り掛かった。いや、だが都合がいい。ダブルオーの相手はブシドーにやってもらおう。

咄嗟の連携に対応出来る技量は持ち合わせてるだろうが、あいつの性格じゃそういうのは嫌うだろう。

なら好き勝手やらせた方がこっちの為になる。

 

『ならば俺は―――ッ!!』

 

突如海面から飛び出した粒子ビーム砲撃を避ける。

何度も受けたことのある攻撃。

これは―――!

 

『バスターキャノンを……っ!またしてもあの時のエースパイロットの片割れ!!』

 

『やはりか!ティエリア・アーデ……っ!』

 

俺のアヘッドの真下から現れた【セラヴィーガンダム】が左手に握ったGNビームサーベルを振るってくる。

事前に察知したおかげか、俺もビームサーベルで衝突を防ぐことができた。セラヴィーとアヘッドの間に火花が散る。

 

『その機体で近接を……っ!』

『ぐあっ!?』

 

隙だらけの腹部から蹴り落とした。

セラヴィーは海へと一直線のルートを辿っていくが、肩のGNキャノンII1門にシングルバズーカモードのGNバズーカII1挺を連結させた状態で砲門を俺のアヘッドに向ける。

まさか……!

 

『バスターキャノン!』

『当たるかよ!』

 

通常より威力の高い粒子ビーム砲撃が迫ったが難なく避けた。

だが、追撃の接近を拒まれた上に常にバスターキャノンの体勢を維持しつつGNビームサーベルも常に展開している。いつもとは違う近距離と遠距離に対応出来るスタイルだ。

面倒な!

 

『だが、だからこそ倒し甲斐がある。いい加減白黒付けるぞ、イノベイター同士なぁ!』

 

『君との戦いを今度こそ終わりにする!』

 

バスターキャノンによる砲撃を躱し、接近するとGNビームサーベルで弾かれて近距離からのバスターキャノンを受けそうになり、何とか避け切る。そんな攻防を続ける俺のアヘッドとセラヴィーに母艦から射出されたアヘッド 脳量子波対応型―――【アヘッド・スマルトロン】。

俺のセンサーも味方機として捉えた。

 

『デスペア大尉!』

『ソーマ……!』

 

『ティエリア!』

『アレルヤ……!』

 

だが、同時にセラヴィーには援護に入ろうとしたアリオスが駆け付ける。

飛行形態からMS形態になったアリオスとアヘッド・スマルトロンが自然と互いを認識し合うようになった。

 

『あの機体、被検体E-57!デスペア大尉の邪魔はさせん……っ!』

『……っ!新型!?』

 

セラヴィーとの間を阻むようにアヘッド・スマルトロンがアリオスにGNビームサーベルで斬り掛かった。

アリオスも抜刀して対応するがソーマの方が動きにキレがある。

 

『弱い!』

『ぐああああーーっ!?』

 

あっという間にソーマの優勢になり、蹴り飛ばした衝撃でアリオスは吹き飛んだ。

その後をアヘッド・スマルトロンの推力で追っていく。

 

『デスペア大尉。羽付きは私が…!』

『分かった。デカブツは任せろ!』

 

短いコンタクト。

一瞬の間のやり取りで互いに頷き合い、敵を分担する。

そこにさらに海上から飛び出した【ケルディムガンダム】が現れた。

 

『なっ……!?』

 

『こいつはラッキーだな。この距離、遠慮なく狙い撃つぜぇ!』

『よし…!』

 

丁度俺の背後にGNスナイパーライフルIIを構えるケルディム。

バスターキャノン回避後の俺には回避できない。

不味い…!

 

『私に任せろ』

『なんだって!?』

 

ケルディムが放った粒子ビームをアヘッド ネルシェン機が蹴り上げる。

俺のアヘッドとケルディムの間にネルシェンが割り込み、ケルディムをGNバスターソードで斬り飛ばした。

 

『うおっ!?』

『貴様、狙撃手(スナイパー)か。面白い……っ!今の私が奴にどれだけ通用するか貴様で試させてもらおう!!』

『ふざけんな、おい!?』

 

激しい攻防でケルディムを連れ去るネルシェン。

声を掛ける暇がないほどに迅速な対応だった。

これで俺はセラヴィーに集中できる。

 

『くっ……!』

『この好機、逃さねえ!!』

『まだだ!』

『……っ』

 

GNビームライフルを捨て、GNビームサーベル二刀による急接近を試みるとセラヴィーもGNビームサーベルを捨てた。

そして、今度は両肩のGNキャノンIIにシングルバズーカモードのGNバズーカII2挺を連結させる。

回避コースを狭めるのが狙いか!

 

『ツインバスターキャノン!!』

『俺を舐めるなぁぁぁぁあ!!』

 

広範囲高威力の粒子ビームが放たれる。

同時に俺の瞳が金色に輝き、バレルロールで回避と共にセラヴィーの横に潜り込む。

セラヴィーからすれば突如アヘッドが隣に出現したように錯覚する程に。

 

『なに!?馬鹿な、またしても……っ!!』

『隙だらけだ!』

 

GNビームサーベル二刀を手に容赦なく接近する。

間合いはもはや近接の域、この距離じゃ射撃体勢のセラヴィーには避けられない。

これで……!

 

『今度こそ!』

 

『斬り捨て御免ェェェーーーーン!!』

 

『墜ちろ、ガンダムー!!』

 

『貰ったぞ……っ!』

 

各々の通信に決めを確信した言葉が漏れる。通信で聞こえるが、誰も彼もが目前を墜とすことだけに集中していた。

アヘッド・サキガケは体勢を崩したダブルオーに剣を振り下ろし、アヘッド・スマルトロンは斬撃で負傷させたアリオスにビームサーベルを手に推進する。ネルシェンはGNバスターソードを叩き込んで武装を剥がされた無防備なケルディムに、バスターソードを捨ててGNビームライフルでケルディムのコクピットを的確に捉えていた。

 

―――しかし、戦闘に突如割り込んできた銃弾に各々の動きは止まる。

 

『なんだ!?』

『実弾だと?』

『……っ!』

 

ネルシェンの言葉で気付いた。

俺達を阻んだのは粒子ビームではなく、実弾だった。

ということはまさか――!?

 

『あ、あれは……っ。まさかカタロン!?』

『そのようだな』

 

飛来してきた飛行形態のMS(モビルスーツ)の正体をソーマが看破する。

ネルシェンが同意したと同時に盛大に舌打ちした。

斯く言う俺もこれは少し頭に来た。

 

『いい所で邪魔を……!』

 

『ガンダムを援護しろーー!』

 

カタロンのモノと思わしき濃青のフラッグが俺に接近してくる。

仕方なくGNビームサーベルを振るい、羽を奪って海に落としてやった。

 

『うわあああーー!?』

 

『邪魔をするな!!』

 

無事に海に落ちたのを確認して周囲を睨む。

俺達を取り囲むようにカタロンのモビルスーツは飛び回っていた。

まるでハエのように鬱陶しい……!

 

『反政府組織が……っ!私の道を阻むな!!』

『貴様らでは物足りん!失せるがいい』

 

ブシドーとネルシェンは視界の邪魔をする虫を払うかのようにカタロンのモビルスーツを薙ぎ倒していく。

あいつら、躊躇なくコクピットを……!

 

『軍人だから当然ではあるが……!』

 

『隙ありぃぃいーー!!』

 

『……っ!?』

 

いつの間にか背後にリアルドが1機迫っていた。

リニアライフルの銃口が俺のアヘッドの背を捉えている。

 

『しまっ――』

『デスペア大尉!!』

 

俺を守るようにアヘッド・スマルトロンが割って入る。

そして、接近していたリアルドを――両断した。

 

『うあああああああーーーっ!?』

 

『あっ……』

『……っ!!』

 

空中で爆散するリアルドを見てソーマが声を漏らしそうになったのを咄嗟に抑えたのが伝わってきた。

そうか、初めて人を……っ!

 

『クソ!ガンダムは!?』

『……どうやら、手合わせを拒まれたようだ』

『なんだと!?』

 

ブシドーの言葉を拾って、リアルドやらヘリオンを払いつつ味方側の母艦とは逆方面を見遣ると撤退していくガンダムの背がモニターに映っているのを確認した。

クソ、逃げられた!

 

『カタロン……っ!!』

 

空を徘徊する旧世代のMS(モビルスーツ)部隊を忌む気持ちで睨む。

人が出来るだけ犠牲のないように手を回して、ソレスタルビーイングに邪魔されようと諦めずにやってきたってのになんだこの仕打ちは!?

 

『ソーマ!』

『あっ……。デ、デスペア大尉……』

 

飛び交う弾丸は躱しつつもアヘッド・スマルトロンは攻撃をしない。

敵モビルスーツを照準で捉えても引き金が引けないでいた。

このままソーマを放っておけはしない!

 

『ソーマ、撤退するぞ!』

『し、しかし……』

『俺じゃない。マネキン大佐の指示だ。頼む、ソーマ。……生きてくれ』

『……っ。デスペア大尉っ』

 

アヘッド・スマルトロンを連れてベーリング級海上空母へと戻る。

ブシドーとネルシェンがカタロンを散らし、母艦と共に俺達は撤退した。だが、ソーマは心に大きな傷を受けてしまった。

生きて帰ることが大切だということを知っているソーマだからこそ、さらに辛い。コクピットから出てきたソーマの顔色は酷く悪かった。そんなソーマの手を俺は決して離さず、寄り添った。




【解説】
結構これまでも伏線だとか工夫した描写とかあるのですが、それを伝えられる程の文才は果たしてあっただろうか、あるのだろうかという思考に至ったので解説コーナーをこれから設けることにしました。
特に解説することのない回はしません。

まずは、多分アニメ第4話って1日の出来事だと思うのですが、夕焼け背景のソーマが書きたくて2日間の出来事にしました。
まあカタロンと合流するCBとか書かないし大丈夫だよね(てきとー)。
ブシドーVS刹那、レイVSティエリア、ソーマVSアレルヤと因縁やら関係性のある面同士でぶつからせましたが、一応ネルシェンもライル(スナイパー)に因縁の相手を被せて勝負を仕掛けるという展開にしました。まあライルは早撃ちの方が得意なんですけど。
とりあえず決して余ったから戦わせたわけではなく、一応意味ありますよって話です。
そして、最後の場面ですがなんといってもソーマの初殺し。実はこれ、筆が踊った結果で全く計画してませんでした。どうしよう。
ガチでノープラン案件ですが、なんとか頑張ってみます。(一応プランは立ててるのでご安心ください)

ちなみにネルシェンの「貴様、狙撃手か。面白い……っ!今の私が奴にどれだけ通用するか貴様で試させてもらおう!!(ルビ省略)」というセリフでの『奴』とは。

『奴』=翼持ち=サハクエル=レナって感じです。

こんなところかな。


【次回予告】

自らの過ちに苦しむソーマ。血に濡れた手が彼女を追い詰める。
そんな中、ある作戦が決行されてしまった。
次回『カタロン掃討作戦』
非道で無慈悲な虐殺にレイの怒号が響く。


>追記
前話の次回予告の内容を変更しました。


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カタロン掃討作戦(前)

活動報告にちょっとした質問(アンケート?)用意しました。
任意でお答えください。
もしかするといつか役に立つかもしれない内容です。


主に作戦を立てる時などに使う指揮官室で、異例の昇格式が行われていた。

イノベイターやライセンスなどの権利のない者なら本来入れない艦内のワンルームで俺やネルシェン、マネキン大佐が見守る中、通信の繋がったモニターに映るホーマー・カタギリ最高司令官の前にはソーマが直立不動で緊張しながらたまに不安なのか俺をチラチラと目線だけを動かして見遣る。

部屋の隅で腕を組んで目を瞑っているブシドーもホーマー・カタギリとの通信が繋がると片目を開けた。

ちなみにアーバ・リント少佐もいるが触れないでいいと思ったから割愛する。

 

『ピーリス中尉。イノベイターであられるデスペア大尉の危機をよくぞ救ってくれた。私からも礼を言おう』

「は、はっ…!」

 

ソーマが緊張しながらも応える。

なんと言っても今日の主役だ、震えるのも仕方ない。

……が、それにしてもイノベイターであられる、ね。

最高司令官殿にも敬われる俺ってなんて特別なんだろう。なんてな。

 

『此度の功績を讃え、ピーリス中尉を大尉の階級へと昇格とす。精進したまえ』

「えっ?」

 

内情を詳しく知らされてなかったソーマは昇格を言い渡されて戸惑う。

数秒の間で脳内整理して取り繕うことはできたが、今度は納得がいかないようだ。

 

「で、ですが司令官……私が仕留めたのは1機だけで、大したことは……」

『なに。イノベイター殿を守りきったことに意味があるのだよ。誇りに思いなさい、ピーリス()()

「そんな……っ。デ、デスペア大尉」

 

迷ったソーマが視線を泳がせて最終的に俺に落ち着く。

助けを求められても、な。

わざわざ俺から取り止めてくださいって言うのも筋違いだろ。

それよりもホーマー・カタギリが遂に俺の名前すら呼ばなくなった方が気になるんだが。

そんな神格化する必要もないだろうに……。

 

「ピーリス大尉。ここは素直に受け取りなさい。貴女の功績ですよ」

「リ、リント少佐。しかし……」

 

俺が肩を竦めている間にリント少佐が見兼ねてソーマに声を掛けた。

だが、賞賛されて、逆に複雑な気持ちになったのか。

言葉が詰まり、その様子を見てリント少佐も顔を顰める。

 

「それともなんですか?階級に気に食わない点でも?」

「……っ!い、いえ!そういうわけでは……っ!」

「やめろ。リント少佐!」

 

思わぬ誤解を生みそうになって必死に否定するソーマにマネキン大佐が助太刀してくれる。

まったく、あの男は油断も隙もないな。

マネキン大佐の介入で一歩退いたが、未だに悪趣味な笑みを含んでいた。

 

「やれやれ……」

 

先が思いやられる。

実は今回招集を受けたのは何もソーマの昇格だけではない。

それだけの話なら俺はともかくネルシェンとブシドーは必要ないからな。

 

「それで私は一体なぜ呼び出された?」

「グッドマン大尉。カタギリ司令に対して口の利き方を改めろ」

「……失礼しました、大佐」

 

タイミングをよくネルシェンが画面の向こうにいるカタギリ司令に尋ねる。

最高司令官という肩書きの前でも物怖じげなく普段通りの対応なのはさすがに内心冷や冷やしたが……マネキン大佐がフォローしてくれた。

というか大佐には畏まるのって普通逆じゃないか?

 

『マネキン大佐、問題ない。グッドマン大尉については大目に見ている』

「はっ」

「……あの男か、余計な真似を」

 

カタギリ司令の寛大さに救われたネルシェンが密かに悪態をつく。

恐らく准将による日頃の賜物だろうな。

身内だけあってネルシェンのことをよく分かっている。

その上何かと世話を焼いたり、尻拭いをしてくれるのならばそれ程悪い関係ではない筈だ。

少なくとも5年前以降は。

 

「なんだ。デスペア」

「別に何も言ってないだろ」

 

察しがいいようでネルシェンが俺を睨む。

無意識に視線を送りすぎたかもしれない。

まったく、本当に脳量子波の使えないただの人間なのか疑いたくなるほど鋭いな。

 

『貴官らに集まって貰ったのは他でもない。貴官らに話があるからだ』

「デスペア大尉、グッドマン大尉、ピーリス大尉にミスター・ブシドーも含めてでしょうか?」

『その通り』

 

マネキン大佐の疑問をカタギリ司令が肯定する。

ブシドーも名前を呼ばれて少し眉が反応した。

俺達4人……共通するのはソーマが昇格したので階級が同じってことだけどそれならジニンなど他にもいる。

だが、ライセンスという共通点を持つのは俺とネルシェンとブシドーのみだ。

ソーマはライセンスを所持していない。

この4人に一体どんな話があるのやら……。

カタギリ司令は手元の資料に一瞬目を通して口を開く。

 

『ライセンス持ちの三名。そして、ピーリス大尉には特別小隊としてこれからの作戦に参加してもらう。隊長はピーリス大尉だ』

「わ、私が……?」

「なに?」

「なんとっ!?」

 

カタギリ司令の口からブシドーですら取り出した飛んでもない命令が飛び出した。

俺達4人で編隊……?

しかもソーマが隊長って、まさかその為に昇格させたのか。

いやいや、何を考えてるんだ。

 

「司令。お言葉ながら突然の事で何を言ってるのか……」

『ふむ。言った通りだ』

 

挙手したが一蹴された。

続けて困惑気味なソーマが発言する。

 

「失礼ながら、私からも…!」

『発言を許可しよう。言ってみたまえ、ピーリス大尉』

「お、お言葉ですが私には荷が重過ぎるかと……。昇格したとはいえ、キャリアは彼らに劣ります」

『その辺りは問題ない。ピーリス大尉も充分な実績を積んでいる。指揮を取るには適任だ』

「し、しかし―――!」

「私からも言わせてもらおう」

 

俺達の指揮など無理だと異議を唱えるソーマだがこれも受け流される。

それでも納得がいかずに顔を顰めるが、お構い無しに割り込むブシドーに遮られた。

顎まで仮面で覆い、この場で最も分け隔つ羽織に身を包んだブシドー。

ここまで黙って下がっていたが、ソーマよりも前に出る。

 

「司令。私は断固辞退させていただく」

「なっ!?ミスター・ブシドー!?」

 

マネキン大佐が思わず驚愕する。

普段の高圧的な態度とは違い、ブシドーの場合は司令に最小限の敬意を払って断っている。

しかし、カタギリ司令は首を横に振った。

 

『悪いが、認められん。決定事項だ』

「なんと!?しかし、私には独自行動の免許を司令自ら与えてもらっている筈。つまりはワンマンアーミー……たった1人の軍隊。故に言わせてもらおう、私に部隊など不要であると!」

『分かっている。これまで通り、ライセンスの使用は許可する。だが、特別小隊への転属が条件だ』

「ぐっ……それではいざと言う時にガンダムに……っ!」

『これ以上は聞かん。グッドマン大尉も同じだ』

「何だと?」

 

ブシドーの抵抗もあえなく撃沈し、今度はネルシェンに矛先が及ぶ。

それはそれは見るも恐ろしい物凄い形相だ。

 

「なぜ私まで巻き込まれねばならん……」

『聞く耳持たぬと言ったはずだ。以上を持って解散とする』

『はっ!』

「……」

 

あまりにも一方的な命令を残すとカタギリ司令は通信を切り、ミーティングルームは嵐の去ったあとのような状態で取り残された。

形の上では返礼を返したが、相変わらずネルシェンだけは仏頂面を貫き通し、ソーマは未だに困惑している。

これはこれからも苦労しそうだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

招集の後、特に任務もないので甲鈑に降りる。

ガンダムも完全にロストしてしまったからな。

暇になるのも仕方ない。

 

「今頃正規軍が躍起になって探している頃か……。んっ?」

 

柵にもたれかかるとちょうど下の階の外廊下が視界の端に映った。

それだけならいつもの事だが、今日は見知った人物が端末を手に誰かと話していた。

通話しているのはソーマだ。

 

「―――!」

 

「あっ……」

 

ソーマが通話相手に何か言われたのか、俺の方に振り向く。

おいおい。

いくらなんでも目が良すぎるだろ大佐……。

 

 

結局俺もソーマの元まで降りて、通話に参加することになった。

相手はセルゲイ・スミルノフ大佐だ。

正規軍の軍服に身を包んで指揮官席に腰を下ろしている。

 

『デスペア中尉。まさか貴官が生きているとは……』

「ははは……。ご無沙汰してます……」

 

もはや苦笑いしかできない。

どう考えても俺に非がある100%過ぎる。

頭を抱える大佐は俺の知る中佐の目で少し力を込める。

 

『中尉。生きていたのなら報告ぐらいはしろ。君が死んだと聞いて悲しんだ者は何も私達だけではない』

「も、申し訳ありません……。あまり余裕がなかったもので」

『ふぅ。まあ事情は察するが、ピーリス大尉とはしっかりと話し合ったか?』

「勿論です、大佐。ご心配お掛けして申し訳ありませんでした」

「ソーマ……」

 

俺と大佐の通信にソーマも顔を覗かせる。

ソーマは、俺がいなくなってそしてまた突然現れて辛かったり困惑したりしたのだろう。

その度に大佐はソーマの心の支えになってくれたようだ。

鈍感を装ってる俺でもさすがに分かるほどには。

それにしてもソーマの昇格は既に聞いているようだな。

恐らくつい先程報告したのだろうが。

 

「それと大佐。デスペア大尉の階級は中尉でなく、大尉です」

『おおっと。これは失礼した。そうか、ようやく肩を並べたか……』

「……っ!はい!」

 

ソーマが嬉しそうに肯定する。

続いて大佐は優しい表情に戻って俺に目を向けた。

 

『貴官もうかうかしてられんな』

「えぇ、まぁ……」

 

ソーマの昇格は異例だったが、まあ確かに今まであった差が埋められたのは事実だ。

思えば俺とソーマの階級は元々少尉で同じだった。

俺が5年前の『デカブツ』こと【ガンダムヴァーチェ】を損傷させたことで昇格を果たした時から一つ階級が開くようになっていた。

要するに振り出しに戻ったってことだ。

 

『ところで、あれは元気かね?』

「……アンドレイ少尉の事ですか?任務を忠実に果たしていますが」

 

スミルノフ大佐が意味ありげな視線を俯かせ、問うてきたことにソーマが答える。

……よくあれ、だけで人物特定できたな。

俺は無理だった。

 

『私への当て付けだな……。あれは私を恨んでいる』

「えっ?」

 

突然の告白にソーマが困惑する。

まあ、実の息子を名前で呼ばず、この距離感を感じていた時から複雑な家庭だろうとは予想がついていた。

実際その通りで、ソーマも薄々察してはいたが、詳細な関係までには至らなかったようだ。

 

『私は軍人であっても、人の親ではなかったという事だ』

「大佐……」

 

スミルノフ大佐が過去を懺悔するように目を瞑る。

こういう時、心情を慮るべきなんだろうがソーマには難しいかもな。

仕方ない。

俺がフォローに回ろう。

 

「スミルノフ大佐――」

「大佐。あの件、お受けしようかと思います」

『あの件?』

「ソーマ?」

 

俺が言い切るより早くソーマは口を開いていた。

そして、何のことかは分からないがソーマなりの優しさを持った瞳でスミルノフ大佐を捉える。

何かしらの提案を飲み込んだと思われるソーマは大佐を想う故に大佐の心情を慮った。

まさかソーマがそんな行動に出るとは思わなかった……。

少なくとも5年前ではなかったことだ。

変わったな。

 

「大佐の、養子にさせて頂く件です」

「養子…?」

 

そんな話をしてたのか。

どうやらスミルノフ大佐と共に過ごした4年間。

俺が思っていたよりもソーマに良い意味で影響を与え、濃厚なものとなっているらしい。

 

『デスペア大尉は初耳か…。実はピーリス大尉を養子に迎えようかという話を以前から誘っていてね』

「そうでしたか」

『それにしてもピーリス大尉、本当かね?』

「はい…」

 

思わず真偽を疑う程に身を乗り出したスミルノフ大佐にソーマはしっかりと頷く。

 

「詳しい話はお会いした時に。では」

『あぁ』

 

スミルノフ大佐も承諾し、満足そうに通信を切る。

モニターが消えるとソーマは思うところがあるのか俯いた。

 

「どうした。本当は嫌だったのか?」

「いや……寧ろ私は幸せ者だ」

「だったらもっと喜べばいいだろうに」

「……」

 

少し、遠慮がちな笑みを浮かべてソーマは海に視線を落とす。

どうやらそう単純ではないらしい。

養子の件は正直驚いたが、もちろん悪い話じゃない。

寧ろソーマ自身が口にしたようにソーマも嬉しい話だ。

だが、今のソーマには思い詰めている面影が見える。

 

「……まあ人を殺してしまうことはあるさ。俺達は軍人で、今は戦争をしてるんだからな」

「デスペア大尉……っ」

「言い当てられてびっくりしたか?」

「……あぁ」

 

ソーマが思わず振り向き、目を見開いたので簡単に心が読めた。

俺が微笑み掛けるとソーマは静かに顎を引く。

やがて、何かに思い至ったのか俺を見る。

 

「デスペア大尉は……人を殺したことがあるのか?」

「もちろん。あるさ」

「そんな……っ」

 

言いかけて詰まらせる。

ついさっき言った俺の言葉がソーマの中で響いているようだ。

そう。

アロウズとカタロン、そしてソレスタルビーイング。

争いの中で人は死ぬ。

戦争をしてるんだから当たり前だ。

だが、俺はそれを当たり前にしたくない。

だから戦うんだ。

 

「でも、大尉も昔は……」

「あぁ。人革連軍時代は確かに誰も殺してない。だがそれは結果論だ。どこの国もがソレスタルビーイングを相手に戦争していたからこそ起きた偶然の産物に過ぎない」

 

ただの偶然というのは本当だ。

リボンズが5年前に俺を戦場に送り出した理由は俺をマイスタータイプとして成長させるためだ。

もし俺がもう少し早く生み出されていれば、恐らく送り込まれた戦場は太陽光発電紛争だっただろう。

まあリボンズもガンダムと戦わせるべく意図的に武力介入時を選んだのだろうが、その『もしも』は無くならない。

 

「俺が初めて殺したのはアロウズに転属してすぐだ。それこそ嫌という程断末魔を聞いてきた」

 

またしてもリボンズによってアロウズに送り込まれた時、俺には個人としての行動理念は殆どなかった。

そのせいか、自然と引き金を引き、命を奪っていく。

最初は毎晩夢の中でうなされたものだ。

 

「彼らにも帰りを待っている人がいるんじゃないかとか。彼らは俺が殺さなければどんな未来を辿っていたのだろうかとか。殺す度に考えた。そして、いつしか犠牲のない恒久和平の実現に執着するようになった。命を奪わずに恒久和平にする方法はあるんじゃないか……ってな」

「デスペア大尉……」

 

ソーマが俺に寄り添おうか迷った末に身を引いた。

その気遣いだけでやっぱりソーマは優しい娘に変わったんだなと実感させられる。

微笑ましい限りだ。

 

「命を奪わないで済む方法。そんなものは案外すぐ見つかった。当然だ、彼らと俺達とでは戦力差があり過ぎる。旧式のMS(モビルスーツ)しか持たない彼らではアロウズの擬似太陽炉搭載型最新鋭機には逆立ちしても敵わない」

「だから、カタロンのMSを無力化し、限りある資源を尽きさせる。それを続けているうちにカタロンは戦う力を失う……」

「そうだ。いつか彼らもモビルスーツの修理に手が負えなくなる。修理に必要な資源を半永久的に手に入れ続けることは中東に構えるカタロンには不可能だ」

 

だが、ソレスタルビーイングが現れた。

リボンズでさえ壊滅したと確信し、再来すると計画に支障が出ると危惧していた奴らが。

そして、案の定俺達の――俺の邪魔をする。

故に最優先すべきはソレスタルビーイングを再び壊滅させること。

それが終わればカタロンを追い込み、自然解体させればいい。

その道のりが、ガンダムの存在のせいで酷く遠い。

 

「まったく……。少し前までは気長にやらばいいと思ってたんだがな」

「ソレスタルビーイング……」

 

俺の漏らした徒労の一言からソーマが特定する。

ソレスタルビーイングと戦いながらカタロンとは命を散らさない戦いをする。

中々に厳しい話だ。

その証拠にソーマに殺させてしまった。

 

「まあ今はそう気に病むなよ。忘れろとは言わないが、俺達が立ち止まればさらに犠牲が増える」

「あぁ。私も、デスペア大尉を支えよう」

「ソーマ……」

 

5年前とは違い、変わった俺にも相変わらず付いてきてくれる。

それも心の底から慕って……。

本当に感謝しなきゃな。

 

「なあ、ソーマ。今度俺と―――」

 

MS(モビルスーツ)第1、第2小隊出撃。これより、カタロン掃討作戦を開始します』

 

「えっ……?」

「カタロン、掃討作戦……だと!?」

 

突如艦内アナウスで流れた情報に俺もソーマも勢いよく振り向く。

どういうことだ?

なんの指令も来てないぞ!

 

「まさか……っ!」

 

急いで端末を開く。

ちょうど今、伝達された。

上層部からカタロンの軍事基地を発見し、実行部隊である俺達に襲撃せよとの司令が降りたらしい。

そして、掃討作戦が決行された。

 

なんてことだ。

恐らく俺にはわざと遅れた情報を送ってきたんだろう。

今までの俺の行動を省みれば簡単に予想がつく。

クソ!

手の込んだことしやがって……!

 

「虐殺なんてさせてたまるか!!」

「デスペア大尉……!」

 

ソーマを置いて即座に格納庫へ向かう。

一秒でも早く辿り着くために息が上がろうと足を止めず、廊下を駆けた。

途中、何やら資料を運んでいた作業員が前に塞がる。

 

「退け!」

「う、うわああ!?」

「デスペア…大尉……っ!待って……!」

 

作業員を押し退け、さらに駆ける。

そして、最後のオート式扉を開け、MSが並ぶ格納庫に到達した。

いつの間にかソーマの荒い息遣いも聞こえなくなっているが気にしている暇はない。

俺のアヘッドに乗り込み、システムを起動した。

 

『カタパルトを開けろ!早く!!』

 

『は、はい……っ!』

 

突然通信で響いた怒号に格納庫の作業員が肩を跳ね上がらせながらカタパルトを動かす。

だが、それすらも焦れったい。

 

『もういい!総員離れろ!こじ開ける……!』

 

『りょ、了解!作業兵、離れろーーーー!!』

 

笛を吹く音が響き、作業兵がわらわらとカタパルト周辺から退散していく。

周辺に人がいなくなったのを確認して、俺はアヘッドのGNビームサブマシンガンを天井を向ける。

 

『ま、まさか……』

 

そのまさかだ。

迷わず引き金を引く。

すると、連射されと粒子ビームがMSを持ち上げる天井だけでなくエレベーターをも破壊し、格納庫に風を呼び込んだ。

 

『うわあああああああーーー!?』

 

瓦礫の飛び散る中、そのままアヘッドをカタパルトにまで浮上させる。

まあもちろんこんな乱暴なことをすればお叱りはくる。

 

『デスペア大尉!?何を―――』

『大尉待って―――!』

 

「特別小隊アヘッド。レイ・デスペア、出る!」

 

マネキン大佐の通信も一方的に切り、後からアヘッド・スマルトロンに乗り込んだソーマの声も無視する。

全てを振り払って、ベーリング級海上空母から飛び立った。

……アヘッド・サキガケとネルシェン機の反応は格納庫にはない。

 

『あいつら、先に……っ!』

 

ブシドーは掃討作戦に興味はないだろうが、ネルシェンは間違いなく任務を忠実にこなす。

それに今回の作戦内容はキルモードのオートマトンを用いた掃討。

そんなの許容できるわけがない!

 

『急げ!急げよ…!』

 

最大加速のアヘッドで先行部隊を追いかける。

一刻も争うこの時に、懐で俺の端末が振動した。

 

「なんだ!?こんな時に……!」

 

コクピット内で荒々しく端末を開く。

宛先はレナからだ。

内容は……掃討作戦が起きること、そしてこれから起こる悲劇について記されている。

 

「今更……っ!」

 

遅いんだよ。

もう既に作戦は始まり、先行部隊は遥か先を行ってる。

なんの為に危険なやり取りを交わしてると思ってるんだあいつは……!

未然に防ぎきれてないんじゃ意味が無い。

怒りに身を任せて端末は後ろに放り投げた。

そういやパイロットスーツを忘れたが、着込む時間すら惜しかった。

後は全力で作戦を止めるだけだ。

 

『頼む……!間に合ってくれ!!』

 

少し後方を飛翔するアヘッド・スマルトロンの反応を確認しつつ中東へと侵入した。




【解説】

レイ「人革時代に戦死扱いになったんだったら俺の階級少佐じゃね?」

リボンズ「いや、生きてるやんけワレ。てことでリヴァイヴ達に合わせるわ」

レイ「は?」

リント「我々は、政府直轄の独立治安維持部隊。連邦軍(や人革)の階級と同じにしてもらっては困りま――レイ「うるせえ(殴) 」えっ、酷くない?」

レイ「黙れ(殴」

リント「ぶったね!?2度もぶったね!親父にも打たれたことないのに……!!」

リボ「(⌒-⌒)」

すみませんでした。

【次回予告】
次回予告無くします。
理由としては内容が縛られてしまうからというのと予告の内容に合わしきれないからです。
じゃあ初めからするなよ!と思った方。

その通り。


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カタロン掃討作戦(後)

お騒がせして申し訳ありませんでした。
没案にはない場面もあるのでお気をつけください。


機体そのもので、鬱陶しい雲を裂く。

すると、広範囲に散布された擬似GN粒子が視界に膜を張り、その下に覆われた見渡す限りの荒野が目に映った。

その中央――前方に追い求めたものがある。

 

『追いついた……!』

 

Eセンサーでも先行するモビルスーツ部隊を捕捉している。

アヘッドを隊長機とした、2機のジンクスIIIで編成された部隊が合計6機と異彩を放つアヘッドが2機で8機の編隊。

地上に配備されていた第1小隊と第2小隊。

そして、ネルシェン機とブシドー機だ。

俺が到着した頃には既にカタロンのモビルスーツとの交戦は開始されており、ちょうど第1小隊の隊長機と思われるアヘッドがカタロンの軍事基地へと降下し始めている時だった。

その腰部にはコンテナが装着されていて、あの中にはオートマトンが内蔵されている。

あれを落とさせるわけには―――!

 

『やめろぉぉぉーーーーーっ!!』

 

『なんだ!?』

 

通信越しに響く俺の叫びが届いたのか、第1小隊のアヘッドがこちらへ振り向く。

同時にGNサブマシンガンで牽制し、モビルスーツ部隊をカタロンの軍事基地周辺から散らした。

 

『デスペア機!何を!?』

『カタロンは俺がやる!お前達は手を出すな!!』

『そんな勝手が……!』

 

文句を垂らすが知ったこっちゃない。

そうこうしているうちにもカタロンの軍事基地からモビルスーツ部隊がわらわらと出てきた。

 

『……っ!敵モビルスーツ部隊です!』

 

ジンクスIIIのうち1機から警告が届く。

この声はアンドレイ・スミルノフ少尉か。

警告と同時にGNランスの散弾を薙ぎ払おうとする姿勢を取るのでGNビームサブマシンガンで牽制し、邪魔をする。

 

『デスペア大尉!?』

『俺がやるって言ってるだろ!邪魔をするな!!』

 

『―――邪魔なのは貴様だ』

 

『……っ!』

 

鋭い一閃、振り落とされた刀身を咄嗟に抜刀したGNビームサーベルで防ぐ。

刀身の正体はGNバスターソード。

対峙するのはネルシェン機のアヘッドだ。

 

『ネルシェン……っ!!』

『気安く呼ぶなと何度言えば分かる』

『ぐっ……!』

 

一瞬の競り合いの末、蹴り飛ばされる。

吹き飛んだ俺のアヘッドを駆けつけたソーマのアヘッド・スマルトロンがキャッチしてくれた。

 

『デスペア大尉……っ!グッドマン大尉、何を!?』

『先に銃口を向けてきたのはこいつだ。作戦の邪魔をする者は私が排除する』

『ネルシェン……っ!!』

 

モニター越しにネルシェンを強く睨む。

だが、そんな眼光など簡単に受け流し、GNバスターソードの剣先を俺に向けて行く手を阻んだ。

 

『作戦をこなせ。デスペアの相手は私がする』

『わかった!』

『なっ……!?』

 

ネルシェンの申し出を肯定して第1、第2小隊が降下する。

させるかよ……!

 

『待て!―――っ!!』

 

二個小隊を追いかけようと肩部のスラスターを噴射し、推進したが横薙ぎに叩き込まれたGNバスターソードに阻まれる。

GNビームサーベルで防いたが、勢いを殺し切れずに機体は後方に飛んだ。

 

『貴様の相手は私だと言っている。貴様はここで指を咥えて掃討作戦を見ているがいい』

『ぐっ…!お前……っ!』

『デスペア大尉!』

 

俺のアヘッドを支えるスマルトロンからソーマの心配する声が漏れる。

クソ、オートマトンの射出を止めるにはネルシェンを倒すしかないのか!?

 

『……グッドマン大尉。命令だ、剣を収めろ』

『なに?』

『ソーマ…?』

 

突如背後のソーマから鋭い声音が放たれた。

……っ!

そうか!今のソーマは特別小隊の隊長だ。

ネルシェンに命じる権利は確かにある。

しかし―――。

 

『断る』

『グッドマン大尉……っ!』

『なぜ貴様のような小娘の命令に従わねばならん。私に命令するな』

『そんな……っ』

 

やはり聞く耳を持たないか。

ネルシェンは人に従うような性じゃない。

例外はあれども通常の対応なら一蹴されるのが目に見えていた。

 

『クソ!そうこうしてるうちにも……』

 

ネルシェンの後方を見遣る。

第1小隊が既にオートマトン射出体勢に入っていた。

このままじゃ……っ!

 

『退け、ソーマ。ネルシェンは俺が引き受ける。ソーマは先行部隊を止めるんだ!』

『了解!』

『させるかっ!!』

『……っ!』

 

迂回しようとしたソーマの機動をネルシェンが塞がる。

その隙に、俺は空いたルートを潜り抜けて障害を突破した。

 

『なに!?』

『ソーマ……!』

『あぁ、分かっている!』

 

モニター越しのアイコンタクトでソーマと意図を交わす。

ソーマの協力でネルシェンを欺くことに成功した。

俺のアヘッドは一直線に先行部隊へと接近する。

当然、それをネルシェンが逃すことはない。

 

『デスペア!』

『ここは通させん!』

『なっ……!?小娘が…っ!』

 

今度はネルシェンの行く手をソーマが阻む。

左右どちらに傾いても超兵の反射能力がそれを捉え、その度にネルシェンが表情を苦くする悪態が耳に入った。

エース級のセンスにソーマが食らいついている。

 

『ほう、私の反応速度に付いてくるとはな!』

『私は超兵だ!デスペア大尉、今のうちに……!』

『あぁ!』

 

ネルシェンのアヘッドとソーマのアヘッド・スマルトロンが衝突する中、俺は先行部隊まで加速する。

だが、遅かった。

 

『敵基地の掃討作戦に移行する。オートマトン、射出!』

『了解。オートマトン、射出!』

 

『なっ!?よ、止せ……!』

 

間に合わなかった…!

第1小隊、第2小隊の隊長機(アヘッド)のコンテナが開き、その中から直方体の物体がミサイルの如く眼下の軍事基地に叩き込まれる。

先行部隊に合流した頃には既にオートマトンが全機投下されて後だった。

 

『そんな……っ!?』

『フッ。無駄な足掻きだったな』

『くっ…!』

 

ソーマの悔しそうな嘆きをネルシェンが嘲笑する。

そして、地獄が始まった。

 

『――――――!』

 

「軍用オートマトン!?」

「う、うわあああああああああああーーーっ!?」

「ぎゃあああああああああああああーーーっ!?」

「ひ、ひぃ!?」

 

悲痛の叫びが。

死に際の断末魔が。

戦場に響き渡り、満ちていく。

 

『し、しまった……』

『デスペア大尉!!』

 

ソーマが俺に寄り添うのを確認しつつ、眼下に広がる殺戮の血飛沫がモニターに映るのを目に焼き付ける。

逃げ惑うカタロンの構成員の胸が凶弾に貫かれ、頭を吹き飛ばされ、四肢が撃ち抜かれる。

身体中に穴を開けられた挙句、肉体ごと弾圧に塵にされる者もいた。

 

『あっ……こ、これは……っ』

 

ソーマも眼下の悲劇を見下ろして思わず口を抑える。

衝撃的な映像だったらしく絶句していた。

そういえば、ソーマもパイロットスーツを着てないようだ。

今はどうでもいい。

 

『この惨状を、止める……っ!!』

『デスペア大尉!?』

 

GNビームサブマシンガンを捨ててカタロンの軍事基地へと降下する。

奥に逃げる者達に当てぬよう照準は入口に屯うオートマトン共だ。

まだ被害は最小で間に合う!

 

『これ以上殺らせるか……っ!!』

『Eセンサーに反応!これは、ガンダム!』

『なに!?』

 

レーダーが捉えた3機の機影、その速度からソーマが特定した通りソレスタルビーイングのガンダムが戦場に介入してくる。

オートマトンを破壊しようとした矢先に粒子ビームの横槍が入った。

俺のアヘッドも回避誘導を優先させられる。

 

『クソ!こんな時に……!』

 

『各機、ガンダムを迎撃する!』

 

ガンダムに対し、第1小隊と第2小隊が迎え撃つ。

だが、1機だけ先行して掻い潜り特別小隊の元へ突っ込んできた機体がいた。

先の粒子ビームの発射元、【ケルディムガンダム】だ。

 

『ソーマ、指示を!』

『……っ!あぁ!』

 

上手く行けばネルシェンを動かせるかもしれない。

その意図を脳量子波で汲み取ったソーマが力強く頷く。

相手はケルディム、つまりネルシェンにとっては狙撃手(因縁の相手)だ。

さらにガンダムが相手となればブシドーも乗るかもしれない。

さっそくソーマが特別小隊総員に通信を繋ぐ。

 

『我が隊は先行するガンダムを迎撃する!私に続け!』

『私は抜けさせてもらおう』

『ミスター・ブシドー、なぜ!?』

『興が乗らん!』

 

なっ!?

ブシドーのやつ、勝手に帰投しやがった。

だが、呼び止めてる暇はない。

ケルディムが目前に迫っている。

 

『ネルシェン!俺と同時にあのガンダムをフォーメーションで叩く!いいな!?』

『………』

 

ネルシェンからの返事はない。

同時にソーマに脳量子波で意図を伝えた。

ケルディムを迎撃する為に俺はネルシェンを連れて先行、その隙にソーマはカタロンの軍事基地に降りてオートマトンを破壊する。

ケルディムに対応しているネルシェンはその間、妨害できない。

意図を理解したソーマは無言で頷く。

 

『邪魔すんなよ、アロウズ……っ!!』

 

『来るぞ、ネルシェン!』

『私も抜けさせてもらうぞ』

『な、なに!?』

 

突如ネルシェンも武装を解き、退っていく。

スラスターで方向転換し、戦線を離脱していった。

 

『お、おい!』

 

呼び止めるがネルシェンのアヘッドは制止を聞かずに飛び去る。

それにしてもあいつ、帰還ルートから大きく逸れてないか?

 

『退きやがれ、アロウズ!』

『ぐっ……!しまった!?』

 

ネルシェンに気を取られてケルディムを通してしまった。

射撃を避けた後の俺じゃ間に合わない!

 

『ソーマ!』

『りょ、了解』

 

ソーマに声をかけてケルディムの迎撃に向かわせる。

アヘッド・スマルトロンの銃撃にケルディムは回避行動を取りつつ下に潜り込み、上空に銃口を向ける。

GNスナイパーライフルIIを片手で構え、スマルトロンを牽制した。

 

『こ、この動き……!』

『邪魔すんじゃねえっ!!』

 

ソーマも回避を優先させられ、その間にケルディムはカタロンの軍事基地に到達。

勢いよくGNスナイパーライフルIIを投げ捨てると、即座にGNビームピストルIIを抜いてオートマトンを撃ち抜き始める。

そして、ライル・ディランディの怒りが連射された。

 

『これが……こいつが、人間のやる事かっ!!』

 

ケルディムがオートマトンを破壊していく。

凄まじい撃墜速度だ。

……都合のいい話だが、俺が介入すると余計に時間を取る。

ここはライル・ディランディに任せて俺は仲間を優先させてもらおう。

今回の作戦を許容したあいつらに思うところはあるが、それとこれとは別だ。

 

『ソーマ。他のガンダムを迎撃する』

『あ……あぁ……っ』

『ソーマ……?』

 

様子がおかしい。

セラヴィーとアリオスとの交戦に入った第1小隊と第2小隊が心配だが、ソーマを放ってはおけない。

ソーマのアヘッド・スマルトロンに近寄った。

 

『大丈夫か?ソーマ』

『あっ……デス…ペア大尉』

『……分かった。もう帰ろう』

『えっ?』

 

アヘッド・スマルトロンの腕を引く。

どうせブシドーもネルシェンも戦線を離脱したんだ。

特別小隊が消えても文句は言われないだろう。

それに、味方機もジンクスIIIを2機失って後退しつつある。

 

『除去目標は達成した。第1小隊、第2小隊撤退する!』

 

ほらな。

 

『ソーマ。行くぞ』

『あ、あぁ……』

 

アヘッド・スマルトロンの手を取って第1小隊と第2小隊のあとを追う。

だが、後方より照準を捉えられた反応があった。

 

『ケルディムか!』

『待てよ!』

『……っ』

 

ソーマを連れて粒子ビームを回避する。

帰還ルートからズレてしまったが、後で旋回すればいいだろう。

ソーマは時々視線をカタロンの軍事基地へと移らせ、ケルディムが撃ち抜くオートマトンの傍で血溜まりとなって倒れ込む人々を目にしては戦慄している。

そして、ケルディムのGNビームピストルIIの銃口が戦場に残った俺達へと向けられていた。

俺達『アロウズ』は撤退行動を取り始める。

そんな俺達をケルディムはしつこく追撃し、戦慄の中、俺とソーマはその銃弾を避け続ける。

 

『許さねぇ……許さねぇぞアロウズ!!逃げんなよ……っ!逃げんなよ!!アロウズーーーッ!!』

 

憎しみの生まれた戦場で怒号の叫びがこだまする。

その叱責から逃げる俺達はどうしようもなく『悪』だった。

 

『私は超兵、戦う為の存在……そんな私が、人並みの幸せを得ようとした……。これはその罰なのですか?大佐……っ』

『ソーマ……』

 

違う。

こんなのが罰なわけがない。

そう伝えたいが、涙を飲むソーマを見るとどんな言葉も喉に突っかかってしまう。

こうして俺達は自らの手を汚さず奪った戦場を置いて、後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雇い主から与えられた任をこなすべく、気流によって吹き荒れる赤い粒子を散らしながら空を裂く。

とうにカスピ海は超え、ペルシャ湾との狭間にある大陸へと侵入している。

【アルケーガンダム】を駆るアリー・アル・サーシェスは中東に位置するアザディスタン王国を捉えたもののとある疑念を抱いていた。

 

『おいおい、先行部隊は何やってんだよ。連絡取れねえじゃねえか。クソがっ』

 

悪態をつきながら昔の好で任務に参加させた傭兵達との連絡が数十分前を境に一切取れなくなってしまった。

旧式のモビルスーツを用いる彼らといえど普段から中東に屯う彼らがサーシェスより到着が遅いことはまず有り得ない。

だというのに常に情報を求めている『ヴェーダ』からはアザディスタンでのテロの報告が一向に来ない。

連絡が途切れてから、まさかやられたのか?と思考が過ぎったことはあったがアザディスタンという国は王女の地位に座する女が甘いせいか大した軍事力は持ち合わせていないことからそれも有り得ないと結論付けた。

しかし、現実は連絡も取れず、テロも起きていない。

一体何が起こっているのか、サーシェスは半ば苛立ちながら急いでいた。

 

『この下がアザディスタンか……。チッ、中東ってのはこれだから―――ん?なんだ!?』

 

アザディスタンの国土に入り、雲を裂いたその時。

サーシェスの目にはまるで降り頻る雪の如く舞う純白の羽根が空一面に映っていた。

眼下に広がるアザディスタン王国はテロの雰囲気など微塵もなく、それどころかもうすぐ日常が一日を終えようとしている。

サーシェスの視界を覆う白い世界、天使の羽根を思わせるその景色にサーシェスは驚愕という意味で唖然とした。

 

『一体何がどうなってやがんだ……』

 

白く染まった空に混じった異色のアルケー。

燃え盛る煉獄の焔、溢れ満ちる鮮血を求めてきた赤色はあまりに場違いだった。

サーシェスにはこの不可思議な何なのか全く推測できない。

洞察力の優れる彼には過去に数回しかない経験だった。

 

『……っ!この反応は…!』

 

暫く飛び回り続けたアルケーのEセンサーに引っかかった機影。

恐らく先行部隊を退けた機体と睨むサーシェスは瞬時に振り返る。

だが、そんなサーシェスが見つけたのはさらに常識の範疇をぶち破ったものだった。

 

『なんだ……ありゃあ……っ!?』

 

 

『────────────────っ』

 

雲を裂き、サーシェスの目前に舞い降りたのは1機のモビルスーツ。

しかし、その背からは生物的な白翼が広げられている。

白翼から微かに漏れて映るのは赤いGN粒子。

その事がこの不可解な機体の正体を表している。

 

『ガンダムだと!?』

 

正体を看破し、アルケーで一定の距離を確保して警戒するサーシェス。

アルケーと対峙する『翼持ち』のガンダムは特有のフェイスにある緑の双眼でアルケーを捉える。

その瞳に機体のフォルム、翼を見てサーシェスは以前にも巡り会ったことを思い出す。

4年前の【フォーリンエンジェルス】にて宇宙(そら)で半壊してさ迷っていたのを発見したガンダムタイプの機体。

確かあの時は自慢の白翼も燃え尽きていた。

 

『そうか……っ!てめぇ、あの時の【翼持ち】のガンダムか!』

『そうだよ』

『通信……っ!』

 

アルケーのコクピットに響いた透き通る少女の声。

少女はモニターにその姿を晒す。

 

『アリー・アル・サーシェスさんだよね?』

『俺の名を……!てめぇ、一体何者(なにもん)だ!!』

 

GNバスターソードを構えるアルケー。

それに対し、【ガンダムサハクエル】は()()()()()()()()()()()()

 

『んだとっ!?』

『サーシェスさんにも、出てきて欲しいな』

 

明らかに敵意のない柔らかい声音を発する少女。

コクピットハッチからその姿を現し、ハッチの上でヘルメットを脱ぐ。

すると、白翼の雪景色とは対称的な芯まで黒い髪が彼女の肩へと落ち着いた。

自ら正体を晒す少女にサーシェスは目を見開くと同時に脳内で何かが切り替わり、凶悪な笑みを浮かべる。

それは、サーシェスが誘いに乗る時の表情だ。

 

「コクピットから出てこいってのは、気でも狂ってやがんのか?嬢ちゃん!」

「さぁ、どうかな」

「……こいつ」

 

少女と同じように開いたコクピットハッチに立ち、アルケーを自動浮遊に設定する。

顔を晒した少女に対するお返しとばかりヘルメットを取ったサーシェスの挑発にも少女は意に介さず受け流す。

その態度が気に食わなかったサーシェスはさらに挑発を加える。

 

「それで?対面してどうする?素手でやりあう気か?えぇ?ガンダムのパイロットさんよぉ!!」

「違うよ。今日は、話し合いに来たの」

「……………………は?」

 

予想外の返答にサーシェスも虚を突かれて唖然とする。

そんな彼を待たずに少女は口を開いた。

 

「私の名前はレナ・デスペア。さぁ、話そうよ」

 

困惑するサーシェスにレナは色彩に輝く瞳で微笑んだ。




あぁ……アレルヤのセリフとかプルツーのセリフのオマージュとか……全部儚く散ってしまった…。
まあ久々にレナも書けたし、ひとつの教訓として覚えて頑張ろうと思えました。
やっぱり妹は最高だぜ。


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故国の女神

アザディスタン王国上空。

遥か高度に浮かぶ二つの機影。

強く風がなびく中、レナが自身の髪を抑える。

レナと対峙するサーシェスは彼女の発言の意図を掴めずにいた。

 

「話し合いだとぉ?冗談も程々にしときな、嬢ちゃん」

「冗談じゃないよ」

「はっ、だったらなんだってガンダムなんて兵器に乗ってきやがった……っ!えぇ!?」

 

腰のホルダーから銃を抜き、即座に引き金を引くサーシェス。

しかし、サーシェスの銃は銃口をレナに見せることすら許されず、刹那の間に走った閃光に弾かれた。

 

「んだとっ!?馬鹿な……っ!撃ち落としやがった!?」

「実は早撃ち()得意なんだ、私」

「……っ!」

 

凄まじいセンスを暴露したレナに舐めてかかっていたサーシェスも気を引き締めて睨む。

正直、サーシェスにはレナが引き抜いた銃を目に捉えることはできなかった。

 

「てめぇ……っ!」

「話し合うのに銃は要らないよね」

 

そう言ってレナも銃を捨てる。

遥か高度で投げ落とされた銃はサーシェスのものを追うように地上に吸い込まれていく。

 

「さっきも言ったでしょ?私は、話し合いに来たの」

「そうかい。生憎俺ぁ、この国を焼け野原にしに来たんだよ。茶を飲みてぇなら相手を選びな!」

「お茶?お茶飲みたいの?うーん……、でも中東で美味しいところあるのかなぁ」

「……話通じてねえのか?」

 

話し合いを所望した側の会話が成立していない。

サーシェスもいつもの調子が狂い、頭を悩まされる事態になってしまった。

そんなサーシェスを見てレナは小さく微笑む。

 

「あははっ。さすがに冗談だよ。でも、お茶飲みに行きたいなら付き合うよ?」

「いつまでもそんな下らねぇ話する気ならいい加減ぶち殺すぞ、嬢ちゃん」

 

瞬間、サーシェスが殺意を込めた鋭い視線をレナに突き刺す。

殺気を感じ取ったレナも笑みを止める。

そして、真剣な表情で向き合った。

 

「じゃあ、ここからは本題だよ。……ねえ、貴方はなんの為に戦うの?」

「何?」

 

レナの問いに虚を突かれたサーシェスが目を見開く。

以前にも聞かれたことはある。

あの時はクルジスのガキに問われた。

なぜ戦うのか。あんたの信じる神はどこにいるのか、と。

だが、レナの問いは違う。

ただ単純にサーシェスの戦う理由を、動機を聞いている。

普段なら一蹴していたその答えを。

サーシェスは意外な行動からか、レナのペースに飲まれて口を開く。

 

「はっ、嬢ちゃん。そりゃ野暮な質問ってやつだぜ。俺は傭兵だぜ?それにな……俺は戦争が好きで好きでたまらない、人間のプリミティブな衝動に準じて生きる最低最悪の人間なんだよ」

「ほんとに?」

「あ?嘘をつく必要なんてどこにあんだよ。ははっ、人が良すぎるぜ、嬢ちゃん。俺の言ったことは全て真実だ。今も嬢ちゃんのガンダムと戦争がしたくてしたくてうずうずしてんだよ……!」

「……そっか」

 

サーシェスの狂気じみた戦争への執着心。

それを目にしてもレナは動じない。

ただ、哀しそうに視線を落とすのみ。

 

「じゃあ、戦争が無くなったらどうする?」

「さっきからなんなんだその質問は……っ!いい加減イライラしてきたぜ、嬢ちゃん!いっその事、戦わせろや!!その為のガンダムだろうが……っ!えぇ!?」

 

元々機嫌が悪かった上に質問続きで一行に戦えないことに苛立ち始める。

目の前にガンダムがいるのに。

戦争が起きないなんて有り得ない、それがサーシェスの思考だった。

戦いに飢えるサーシェスに対し、レナは静かに目を瞑り、餌を吊るすことにする。

 

「いいから、答えて。返答次第では私と戦えるよ」

「……チッ。乗せるのが上手いこって。戦争が無くなったら?んなもん、決まってんだろ。俺が戦争を起こしてやんよ!俺は戦争が生き甲斐なんでね」

「でも、サーシェスさんが死ぬかもしれないよ?」

「戦争で死ねるなら本望っもんだ。それが戦争屋の生き様なんだよ……!おら、満足な答えか!?なら戦えよ、ガンダムッ!」

「―――分かった」

 

我慢ならず叫ぶサーシェスにレナは頷く。

充分な答えではなかったが、彼の思考は理解した。

心の底から戦争を望み、その中に悦びを見出す。

そして、戦争で利益を得て、戦争の中でしか生きられない存在。

彼と『解り合う』のは不可能だ。

 

『やっとその気になりやがったか』

『………』

 

互いにヘルメットを被り、コクピットに戻る。

同時にハッチが閉まり、緑の双眼と赤の凶悪な四つ目が煌めいた。

空で2機のガンダムが起動する。

 

『さぁ、始めようじゃねぇか!ガンダム同士による、とんでもねぇ戦争ってやつをよぉ!!』

『サハクエル、目標を淘汰するよ』

 

アルケーがGNバスターソードを抜刀して構え、対するサハクエルはGNツインバスターライフルを抜く。

双翼が広げられ、羽ばたいたサハクエルにアルケーは惜しみなく腰部の収容ユニットを展開した。

 

『いけよぉ、ファングーーっ!!』

 

10基のGNファング、無線式の誘導兵器がサハクエルを捉える。

それぞれの搭載されたビーム砲から放たれる粒子ビームがサハクエルへと迫っていた。

それでもサハクエルは動かない。

GNツインバスターライフルの銃口をただ向けるだけ。

 

『ははっ!んだよ、嬢ちゃん!もう諦めてやがんか!?そんなんじゃ張合いが―――なに!?』

 

アルケーのコクピットでサーシェスが目を見開く。

真正面から襲い来るGNファングと粒子ビームに為す術もないように見えたサハクエルが突如として姿を変えた。

両肩と両腰に見たこともないようなビーム砲が現れる。

上部のはウイングバインダーから、下部のは腰からその姿を見せ、砲門が一気に四つも増える。

さらにウイングバインダーからGNガンバレルが放たれ、計10もある砲門が展開された。

そして―――。

 

『フルバースト!』

 

ガンダムサハクエル リペアIIの武装。

ウイングバインダーに格納されたGNバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲。

両肩部のGNクスィフィアス・ビームレール砲。

無線式に改良されたGNガンバレルII。

サハクエルの主武装であるGNツインバスターライフル。

その全ての砲門をレナは自らの操作で、GNファング10基をロックオンし、粒子ビームを放つ。

サハクエルの『フルバーストモード』により、GNファングは一つも漏らさず消し飛ばされた。

 

『馬鹿な……っ!?ファングを!』

『行くよ』

『……っ!』

 

レナの宣言にサーシェスが引き締める。

GNバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲とGNクスィフィアス・ビームレール砲を収容して飛翔するサハクエルに、サーシェスの本能が告げていた。

こいつは危険だ、と。

油断をすれば―――次は命を消される。

 

『虫も殺せねえ嬢ちゃんかと思いきや、とんでもねえバケモンじゃねえか!!えぇ?そうだろっ!?』

『どうかな』

 

サーシェスの言葉にも表情一つ変えずに対応する。

さっきまで対峙していた優しさの垣間見える少女とは全く違う姿に、サーシェスは舌打ちを漏らす。

 

『オラオラオラァ!逝っちまいな!』

『そんな射撃じゃ当たらないよ』

『クソ……っ!』

 

GNバスターソードを右腕に装着し、ライフルモードにしたアルケーがサハクエルを粒子ビームで狙う。

だが、サハクエルは容易く躱し、掠る様子もなく旋回してバスターライフルをアルケーへと向けた。

 

『来るか!』

『遅い!』

 

攻撃の姿勢から回避に移ろうとしたアルケーだが、サハクエルがバスターライフルの引き金を引く方が早かった。

速射が、アルケーの動きを止め、バスターソードを盾にすることで防ぐ。

そこにサハクエルは接近し、至近距離で銃口を向けてきた。

 

『見たところ武装は少ないね、やっぱり。誘導兵器を失って、バスターソードを盾にしてたら攻めの手を失うよ?』

『てめぇ……っ!』

 

余裕を見せつけるかのように指摘するレナに舐められてたまるかとサーシェスが睨む。

しかし、直後に凶悪な笑みに変え、アルケーの脚部爪先からGNビームサーベルが発生した。

 

『はっ!!隠し武器ならこっちにもあんだぜ?嬢ちゃん!!』

『そうだね。こうして接近してもらえないと使えないけど』

『なっ……!?』

 

レナの言葉に目を見開く。

瞬時に理解した。

サハクエルは()()()間合いに入ってきたのだと。

蹴り上げたGNビームサーベルは空を斬る。

完全に見切られて回避されていた。

 

『この動き、最初から予測して……ぐっ!?』

 

モーション後の僅かな隙をGNガンバレルIIをサハクエルとは別に操ることで、埋める。

蹴り上げた直後にGNガンバレルIIがサハクエルとは個別の意思を持つかの如く飛来し、アルケーの脚を墜とした。

さらに辺りを飛び交う残りの3基がGNマイクロミサイルでアルケーを追撃する。

さすがのサーシェスも回避に専念する以外の選択は消された。

 

『クソ、なんだってんだ!?』

 

決してサーシェスが弱いわけではない。

寧ろ彼の持つハイセンスは殆どのパイロットが理解出来ぬまま墜とされるであろう現状をハッキリと理解していた。

アルケーの隠し武器による斬撃を回避したサハクエルもまた、アルケーと同じようにモーションを終えた後、必然的に僅かなコンマの間は動きが取れなくなる。

だが、GNガンバレルIIはそんなサハクエルとは統一性のない、まるで意思を持ち、共闘する援軍機のような役割を担っている。

それがあの対応力。

GNガンバレルIIが自動(オート)操作ではなく、手動操作である証拠だ。

 

『なんなんだこのセンスは!?本気でバケモンかよ!!』

 

マイクロミサイルをライフルモードのバスターソードで一つ残らず爆炎に変えつつ悪態をつくサーシェス。

だが、さらに絶望的な技量差(センス)が彼に襲いかかる。

 

『ぬおっ!?ビームサーベルだと!?』

 

突如、空を駆けた一筋の閃光。

サハクエルがアルケーを狙って蹴り飛ばしたGNビームサーベルを、サーシェスはバスターソードで斬り捨てる。

が、バスターソードを振るい、刀身が視界を過ぎった後の視界にはバスターライフルをドッキングし、GNツインバスターライフルでアルケーを完全に捉えたサハクエルが映っていた。

 

『なっ――』

『狙い撃ち!』

 

放たれる大型の粒子ビーム砲撃。

回避行動の間に合わないアルケーは咄嗟にGNバスターソードを盾に構える。

ツインバスターライフルの粒子ビームはバスターソードに直撃し、強大な破壊力でバスターソードを粉々に打ち砕いた。

 

『武装が……っ!?』

『どうしたの?戦争、好きなんでしょ』

『てめぇ!』

 

ツインバスターライフルから連射される粒子砲撃をアルケーで躱し、サーシェスはコクピットの中で表情を苦くする。

簡単に言うが、何気ないこの砲撃を回避するのにもサーシェスは脳が焼ききれるほどに集中して、感覚を鋭くしなければならない。

そうでなければいつの間にか誘導されて粒子ビームによる挟撃なんてものが起きてもおかしくはない。

反射と予測、そのどちらをも駆使しても被弾しないようにするのが精一杯だった。

 

『クソ!!さすがに分が悪い……っ!!』

 

不利を悟ったサーシェスは目の前のサハクエルと対峙することを諦め、背を向けて逃亡する。

その間にも残った片足を撃ち抜かれ、完全に武装を失った。

だが、それはサーシェスの反射能力が優れたから起きたこと。

サハクエルはアルケーのコクピットを狙っていた。

 

『待ってよ。逃がすわけにはいかないんだから』

『冗談じゃねえ……っ!!』

 

一目散に逃げに力を入れるアルケーにトップスピードのサハクエルが追いつく。

アルケーの真上に構えたサハクエルはまたしても全武装展開の『フルバーストモード』へと移行し、六つの砲門でアルケーを捉える。

 

『さようなら。ごめんなさい』

『クソ、この俺があああああああーーーっ!?』

 

刹那、粒子ビームがアルケーの胴体を貫く。

アザディスタンの空に爆炎が浮かび、ダメージに耐えきれなかったアルケーは爆散した。

その中から1機の飛行物が飛び出す。

アルケーの緊急脱出用コア・ファイターだ。

 

『機体だけじゃねえ。あの動き、なんなんだあいつは……っ!?ぐっ…!』

 

負傷した肉体。

血反吐を吐き、バイザーを鮮血で染めながらも手を休めずファイターを操縦する。

だが、報われないことにサハクエルの射程から逃れることは不可能だった。

 

『不味い!?捕捉されてやがる……!!』

 

『これで――』

 

自身から逃げるコア・ファイターのブースター部にGNツインバスターライフルで照準をロックする。

後は引き金を押すだけで一つの命を塵すら残さず消し飛ばすことが出来る。

しかし、そんなレナの元にタイミング悪く通信が入った。

 

『レナ!そっちに連邦の機体が向かってる!すまねえ、撃ち逃した!』

「……ニール。撃ち逃した?」

『あぁ。あの機体のパイロット、とんでもねえ操縦技術を持っていやがる』

「エースパイロット級の擬似GNドライヴ搭載型…。分かった、合流ポイントに向かうよ」

 

モニターに映るニール・ディランディに応えるレナ。

彼の言葉から狙いを外したのではなく、射程から外れたのでもなく、接近中の機体はニールの狙撃を掻い潜ってやって来たことを把握した。

すぐさま戦場を離脱すべく、その場を離れる。

 

『了解。野郎はどうなった?』

「……ごめん、逃がしちゃった」

 

少し語気を強めたニールに申し訳ないと思って俯く。

アリー・アル・サーシェス。

10年以上前のアイルランド自爆テロに関わったテロ組織の主犯格でもあるサーシェスによって、ニールは家族を失った。

その憎しみをこの4年で断ち切ったとは言い難い。

本人もレナに充てられて変わりつつあるが、それでも憎しみはあった。

だからこそ、レナは一層申し訳なくなる。

 

『……そうか。ま、気にすんなって。俺のことはいい。それより、あいつと話せたか?』

「うん。でも、やっぱりニールの言った通りだった……。あの人はもう戦争に囚われてる。戦争に生きている。抜け出すのは、きっと難しいよ」

 

哀しみを含むレナの表情と呟き。

ニールもそんな彼女を見て、少し肩を落とした。

 

『まあそんな気はしてたがな……。そうか、レナでもダメか。オーライ、俺も合流ポイントへ向かう。野郎を仕留められなかったのは今後に影響しそうだが、こうなっちまったもんは仕方ない』

「うん。ごめんね」

『だから気にすんなって。俺が連邦の機体を狙い撃てなかったのも悪い。それより、帰ったら上手い飯でも作ってくれよ』

「あはは……。冷蔵庫に何か残ってたらね」

 

悔やみや自責の報告から他愛のない話へとニールが気を使ってくれた。

ニールに心の底から温かい想いを抱き、レナは柔らかく微笑みを返す。

こうして、サハクエルは戦闘空域を離脱した。




【解説】

・ガンダムサハクエル リペア2(RII)
分類:可変モビルスーツ(第3.5世代ガンダムにあたる)
全高:16.7m
主動力:GNドライヴ[Τ]
出力:不明
開発組織:(ワン)家→独自開発
パイロット:レナ・デスペア
特殊機能:Zero Mode System
武装:マシンキャノン、GNツインバスターライフル、GNビームサーベル×4、GNガンバレルII、GNバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲、GNクスィフィアス・ビームレール砲、GN(マイクロ)ウイングビット×20
詳細:【フォーリンエンジェルス】から4年。その間に大破したサハクエルを一度改修し、本機はさらに改修を重ねた機体。追加武装の殆どは4年前のレイが残した前世の知識を元にフリーダムガンダムから流用したものが多い。尚、レール砲だけはビームと実弾切り替え可に変更されている。


追記でサハクエル リペア2の情報載せました。(2018/08/10 20:54:14)


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交じり合う想い

アレ×マリのファンはご注意ください。
砂糖しかありません。


海に浮かぶベーリング級海上空母の艦内。

司令官に使われる一室で、俺とソーマはモニターに映るホーマー・カタギリ司令に処罰を言い渡された。

 

「自宅謹慎って……艦を降りろということですか!?」

 

処理の内容に思わず叫び返す。

対するカタギリ司令は険しい表情で視線を鋭くした。

 

『ライセンスがあるとはいえ、貴官は作戦を妨害した。これ以上作戦行動に参加させる訳にはいくまい』

「ですが……!」

『これでも処分を甘くしている。イノベイターである君を本当の意味で罰せれるのは私ではない。しかし、艦の格納庫を破壊し、カタパルトを片方使えなくしたことにより、MS部隊の発進で遅れが生じて作戦開始時間に支障が出るようになってしまった。これを何もお咎めなしとはいかないのだ』

「くっ……!」

 

確かに司令の言っていることは正しい。

味方に銃を向けた俺はどんな反論をしようとも非があるのは間違いない。

それに今後の作戦にも影響を出してしまった。

さらに、ガンダムを倒すための特別小隊が仕事をしていれば先の作戦も撤退する必要はなかった可能性もある。

それを含めると俺の失態は大きい。

だが、今ここで艦を降りるのだけはできない。

 

「司令!どうかもう一度だけチャンスをください!なんなら機体はジンクスでも、もっと旧世代のものでもいい。どうか……!」

『ならん。実の所、今回の君の行動をイノベイター側からも恒久和平実現を妨害する行為に当たると判断しているとの報告を受けている。処分も、如何ともし難いと』

「なっ!?」

 

リボンズ達が!?

いや、いつかこの日は来ると思っていた。

俺のやり方ではやはり時間が掛かりすぎる。

だが、あまりにも早すぎる。

こんな早期とは予測もしていなかった。

とにかくリボンズ達が俺の行動を否定しているとなると処罰を飲み込むしかなくなった。

クソ!こうなったら仕方ない。

隣で俺を心配そうに見つめるソーマを一瞥して再度前に出る。

 

「しかし、司令。ソーマは……我が隊の隊長は格納庫を壊してもなければ、ましてやカタパルトを使用不可に陥らせてもいません!なぜ私と同じ処罰に下されなければならないのです!?」

「デスペア大尉……」

 

ソーマが目を見開いて一層俺を見つめる。

しかし悪いが別に庇ったわけじゃない。

これだけはしたくなかったが、俺が艦を降りることを避けられないのならば後をソーマに託そうと思った故の行動だ。

頼めばソーマをより危険に及ぼすことになる。

だが、二人とも艦を降りるわけには行かない。

せめて事情を理解しているソーマに暫くの間、俺の代わりを担ってもらいたい。

 

もちろん貸しを作ってでもジニンにサポートを頼む。

確か今日は宇宙(そら)から帰ってきたあいつの部隊が現場と合流する予定だった筈だ。

もし無理ならダメ元でもいい、ネルシェンかブシドーに頭を下げる。

なんなら土下座をしてもいい。

土下座という謝罪法は己を犠牲にすることで頼み事においても頂点に君臨するのだと『ヴェーダ』に記載されていた。

 

『駄目だ』

「なぜ!?」

 

しかし、カタギリ司令は首を縦に振らない。

 

『ピーリス大尉は貴官の作戦妨害行動を支援していたとの報告を受けている。よって、彼女も命令違反の罪で処罰とする。尤も貴官も理解している通り、母艦の損傷には関与していない故、デスペア大尉と同じ処罰に留めている』

「そんな横暴な……っ!」

『横暴ではない。証言があると言った』

「信じるのですか!」

「大尉!いい加減にしろ!」

 

マネキン大佐に叱責を受けるが気に止めない。

さらに身を乗り出した。

だが、カタギリ司令も既に俺の言葉に答えようとはしなくなった。

ただ冷静に淡々と手を組む。

 

『これ以上は受け付けん。下がれ、デスペア大尉』

「しかし!せめてピーリス大尉の誤解だけは――」

「いえ。司令の仰る通りです。此度の失態は一重に自分に責任があります。超兵として、あるまじき行為でした」

「ソ、ソーマ?何を……」

 

突然ソーマが俺を遮って処罰を受け入れた。

それどころか責任を全て背負い、猛省している。

それにいつもと様子が違う。

今のソーマは最初に会った頃にどこか既視感がある。

 

『ふむ。認めたのはいいことだ。だが、両者共に庇えはしない。謹慎中、頭を冷やして来ることを命ずる』

「はっ!」

「……了解」

 

まだ食い下がれないが、ソーマが潔く敬礼してしまったので今更口を開くこともできない。

こうして俺も渋々艦を去ることになった。

 

 

 

 

 

 

カタロンの軍事基地を叩く事に成功したアロウズ。

ソレスタルビーイングの横槍が入ったことにより、一度態勢を立て直した。

そして、絶対にこのままでは終わらない。

打撃を与えたからこそカタロンを追い込む機会(チャンス)だ。

作戦はそう間のないうちに決行されるだろう。

 

「そんな時に艦を離れるなんて……」

 

四時間程のフライトを済ませて陸地に到着した俺とソーマ。

さっきまで搭乗していた機体が空を飛翔して母艦へと戻っていくのを眺めてボヤく。

もちろん俺達は置いてけぼりだ。

謹慎という処罰はリボンズが俺と話し合うために戻ってこいとの意図ある指示だろうな。

 

「さて、モスクワまで来たがソーマはどうする?スミルノフ大佐の家だろ。大佐に連絡したのか?」

「いや……」

 

ソーマが俯いて答える。

やっぱりな。

 

「いきなり押しかけると迷惑になるぞ」

「……私は大佐の家にはお邪魔しない」

「じゃあ、どうやって乗り切るんだよ」

「それは…」

 

案なしか。

まあ俺も家なんてないから人のことは言えんが、どこかのベンチで夜を明かすつもりだろう。

さすがにそれは許容させたら大佐に怒られそうだ。

 

「仕方ない。俺と来るか?」

「え?」

 

意表を突いたのか表情を暗くしていたソーマが思わず俺を見上げる。

だが、すぐさま視線を背けた。

なんともわかりやすいな。

 

「遠慮する。私に構わなくていい」

「そうはいかないだろ。なんなら大佐には俺から連絡して―――」

「やめろ!!」

 

懐から取り出した端末がソーマの払った手で地面に転がる。

さらにソーマは思い詰めたものが爆発するように勢いのまま叫び続ける。

 

「これ以上大佐に甘えるわけには……っ!そんな資格が私にある訳がない!ある訳が……っ!!」

「……少し場所変えるか」

 

意思で止まれなくなったソーマの言葉を俺が遮る。

すると、冷静になったソーマは何を口走っていたのか気付いたらしく閉口する。

その視線は俺の拾うヒビだらけの端末に流れ、バツが悪そうに顔色を悪くした。

 

「あっ……私…っ」

「これの事はいい、気にすんな」

 

土を払って端末を回収し、すれ違いさまにソーマの頭に軽く触れてやる。

母艦から回収した荷物は一週間をローテーションで過ごせる分の重みがあった。

俺とソーマの二人分に手を掛ける。

 

「デスペア大尉……」

「付いてこい。置いていくぞ」

「あ、あぁ」

 

荷物を二人分持って先に歩みを進めていく。

ソーマは荷物を追って同行を余儀なくされ、渋々……といった訳ではなく、俯きながらも文句を言わずをに後を付いてきた。

大佐という選択肢を消せば本当に行く宛がないんだろう。

といえどもソーマの伝を全て網羅してるわけじゃないから一概には言えないけどな。

 

4年間のことはもちろんのこと、俺が去った後の『頂武』でソーマが誰と接していたのかも当然知らない。

俺が知ってるのはミン少佐をスミルノフ大佐同様尊敬していたのと、リンユー少尉とシイナ少尉に対して稀に接していたことくらいだ。

だが、特に後者については本当に数えられる程しか一緒に居るところを見たことがない。

だからソーマが他に言い出さないのであれば行く宛がないという結論に至るしかない。

 

「……」

「……」

 

無言で海岸線を歩いていく。

そういえばこうして二人で出歩くのも久しぶりだな。

というか5年振りか。

 

「それで、何があった?」

「えっ……」

 

唐突に切り出した俺にソーマが拍子の抜けた声をポツンと漏らす。

さっきまでは現場を離れたことで頭がいっぱいだったが、今は切り替える。

再会してからというもののソーマとあまり向き合えてなかった。

そのせいか、ソーマがこんなにも感情を表に出すまで気付いてやれなかった。

ほんと情けない話だな。

 

「何かあったからそんなに思い詰めてよそよそしいんだろ?まあ、話したくないならそれでもいいけどさ」

「それは……」

 

ソーマが言葉に詰まったのか歯切れの悪い間を残す。

俺の背を追うソーマの表情は窺えない。

振り返って見るつもりはなく、適当に視線を海に流していた。

まあ確認しなくても大体予想はつくが。

 

「デスペア大尉はあの掃討作戦について何も……何を感じた?」

 

絞り出すようにソーマが俺に尋ねる。

わざわざ訂正したのは俺が何も感じていないわけがないと思い至ったからだろう。

ソーマは俺が戦う理由を知っている。

それ故だ。

 

「そうだな……。俺は、俺の力不足を感じた。目の前のことばかりに囚われて、自分の立場を気にすべきだった。普段から俺が上手く立ち回れていれば手回しされることもなかっただろうな」

「だが、大尉が悪いわけでは……」

「ならソーマも同じだ」

「えっ?」

 

俺が立ち止まるとソーマも遅れて歩みを止める。

言葉を返されると思わなかったようでソーマは僅かに戸惑った。

そんなソーマに俺は続ける。

 

「司令に言ってたよな。超兵として、あるまじき行為だった……って。それに掃討作戦の帰投中も自分を責めていただろ。罰なのかってな。勝手な判断だが、今のソーマは俺と出会った頃に近いと感じている」

「出会った頃……」

「また自分のことを任務をこなすだけの、人を殺す為の道具だと思ってるんじゃないのか?」

「……っ!」

 

振り返るとソーマは意表を突かれて驚愕の表情で目を見開いていた。

図星だな。

 

「俺が約束を破ったから、もう忘れちゃったか?」

「ち、違う!そういうわけでは……」

「ならなんでまた自分を兵器だと思ってるんだ」

 

5年前。

俺とソーマが交わした約束。

俺が守れなかった『生きて帰ること』は、ただ道具のように任務を忠実にこなすのではなく、ソーマに人として生きて欲しいから願ったことだ。

だが、今のソーマは以前の頃に戻ってしまっている。

人であることを自然と否定しようとしていた。

 

「わ、私は……」

「スミルノフ大佐からの暗号文、だろ」

「どうしてそれを!?」

「意地悪して悪いな。俺の所にも頂武時代の暗号文が大佐から届いていたんだ」

「そ、そんな……っ」

 

ソーマが両手で口を覆い、悲しげに視線を逸らす。

大佐からの暗号文にはとんでもない事実が記されていた。

先のカタロンの軍事基地に対する掃討作戦。

あれは大佐の得た情報により、結構されたものだったと。

そして、俺に宛てられたメッセージにはソーマに寄り添って欲しいと切実に綴られていた。

 

「大佐……。まさか、デスペア大尉にまで声を掛けて……」

 

ソーマには簡単に予想がついたらしい。

大佐もお辛い筈なのに……と自分の無力を嘆いている。

なるほど。

これでソーマは自身を『超兵1号』と再認識した、ということか。

まったく……。

 

「ソーマ。大佐に言われたからじゃない。俺もソーマのことを想ってる。もう約束を破ったりしないと誓う。だから――」

「やめろ!私にそんな価値はない!」

「ソーマ……」

 

触れようとした手をソーマが拒絶する。

引き締めれる胸を苦しそうに抑えながら瞳には涙を浮かべていた。

次第に涙は雫となって頬を伝い、その軌道が光沢ある弧線を描く。

 

「私は超兵、人を殺す為の道具……っ。そんな私が幸せを、手に入れることは許されない!デスペア大尉にまで優しくされたら、私は……幸せを…感じてしまう……っ!」

「ソーマ……」

 

夕陽に照らされた涙腺が煌めいて落ちる。

首を振って涙を散らしたソーマ。

自らを卑下する故に他人からの想いがさらにソーマを苦しめている。

今のソーマには優しさが逆に辛い。

 

だが、ソーマは間違ってる。

想われることに傷つく必要なんてない。

ソーマは兵器なんかじゃない。

触れ合って、話して、成長することができる普通の人間だ。

だから――。

 

「……ソーマ」

「デスペア大尉―――っ!?」

 

勢いを緩めず頬を伝う涙を拭い、その手でソーマの腕を引く。

突然のことにソーマは声もなく驚愕することしかできず、無抵抗のまま俺の胸へと飛び込んだ。

そして、ソーマを逃がさないよう俺はソーマを強く抱き締める。

 

「デ、デスペア大尉!?な、なにを……っ」

「すまない。再会してからソーマと向き合うことをずっと避けてた。俺の想いを伝えて、それを理由に目の前の戦いにばかり目を向けていた」

「そんな、ことで……。私は別に……」

「それでも謝らせてくれ」

「ん……っ」

 

腕に力を込めると胸に押し付けられたソーマから小さく声が漏れる。

もう離さないように、離れないように包み込む。

目を背けている間にソーマは深く傷付いてしまった。

脳裏に後悔が真っ先に浮かぶが、それよりもソーマを優先したい。

悲観してしまったソーマに気付かせてあげたい。

俺の、想いを。

 

「ソーマ。5年前にちゃんと言えなかったことを、今ここで言わせてくれ」

「5年前に言えなかったこと……?」

「あぁ」

 

俺の胸で顔を上げるソーマ。

怪訝そうに眉を顰めるその表情が、揺れる瞳が俺を捉えている。

そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「俺はソーマが好きだ」

「……っ」

 

心の底からの想いを伝えた。

脳量子波で嘘ではないことが分かるソーマの目が大きく見開かれる。

驚愕のあまり涙は一度止まり、激しく動揺していた。

夕陽の横光でハッキリと映っている。

その隙にさらに言葉を綴る。

 

「5年前からずっと俺はソーマが好きだった。前は俺自身の気持ちに気付くのが遅かったが、今は違う。本当に好きだ」

「そ、そんな……っ。デスペア大尉が、私を?」

「あぁ」

 

頬をほんのり紅く染めるソーマの問いを肯定する。

微笑を浮かべる俺にソーマは俺の腕の中で少しだけ震えた。

それを隠すように目を逸らし、徐々に赤みの増す顔を夕陽で誤魔化していく。

だが、暫くしないうちにまた視線を俺と合わせる。

 

「でも……どうして?」

 

不安そうに尋ねる瞳。

俺はそれに真摯に応える。

 

「どんな時でもずっと寄り添ってくれたソーマの優しさが、思いやりが心を満たしてくれた……。ずっと戦いばかりをしていた俺を想ってくれたのはソーマだけだ」

「デスペア大尉……」

「そんな優しいソーマが俺は好きなんだ」

「あっ……」

 

ソーマの頬に触れる。

その手をソーマは目で撫で、俺はソーマをさらに抱き寄せようとする。

しかし、ソーマは拒絶するように俺の胸に手を突きつけた。

 

「ダ、ダメ……。私に、デスペア大尉に愛される資格などない……。私は、兵器なのに……っ」

「ソーマは兵器じゃない。それに、それはソーマが決めることじゃない」

「えっ?どういう―――んん…っ」

 

強引にソーマの口を塞ぐ。

触れ合う唇の感触が夕陽に照らされた二人の影を繋ぐ。

暫くして俺からゆっくりと離し、ソーマのとろけそうな瞳を捉える。

 

「俺がソーマを愛するのは俺の気持ちだ、ソーマが決めることじゃない。俺はただソーマが好きなんだ」

「しかし、私は……っ!」

「兵器なんかじゃない。ソーマは魅力的な女の子で、今を生きる人間だ」

「デスペア大尉……っ」

 

ソーマと額を合わせる。

こうして触れ合うことができる。

想い合うことができる。

だから、ソーマは兵器なんかじゃない。

例え誰もがソーマをそう呼ぼうとも俺は否定する。

 

「確かに俺達は贖罪を受けずにはいられないだろう。だが、それでもソーマの言ってることは違う。ソーマは幸せになってもいいんだ」

「幸せに?」

「あぁ。俺がお前を幸せにしてやる」

「んっ……」

 

ソーマの顎に手を添えて引くと、潤いのある紅い唇が強調された。

そこにもう一度俺のものを重ねる。

今度は厚く、ソーマの方から求めてきた。

彼女の純白の髪が小刻みに揺れる中、華奢な腕も俺の背へと回される。

暫く熱を交わすと、互いに透明な糸を形成して見つめ合った。

 

「デスペア大尉……」

「何も言わなくていい。分かってるから。今は…」

「んっ。それでも言いたい」

「ソーマ……」

 

息が吹きかかるほど触れ合おうとした俺を離してソーマは熱を帯びた瞳を俺に向ける。

そして、一瞬噤んだ後、振り絞るように想いを口にした。

 

「私も、デスペア大尉が好き。5年前から……ずっと愛していた」

「俺もだよ。ソーマ」

「デスペア大尉……」

 

互いに手を絡め、想いを伝え合う。

俺はそっと微笑み、ソーマは堪えきれなくなった涙を口を抑えて流し始めた。

そんなソーマをなるべく優しく包み、俺達は地平線へと沈んでいく夕陽を肩を寄せあって眺め続ける。

そこには確かに幸せの形があった。

 




レンアイ、ムズカシイ。
告白シーンだけで一週間くらい費やしましたよ……。
いっそのこと殴りあってくれた方が万倍書きやすいですね!あはは!


と、いうことでアレマリファンは血の涙不可避のレイ×ソマですが……まだ続きまっせ。
イチャイチャはこの程度では止まらない。
砂糖を顔面に擦り付ける気持ちで暫くやっていきます。


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幸福の時間

この回は飛ばしても内容に支障はありません。
なのでアレマリ絶対派はこの回を読まないでください。その為に2話連続投稿にしたので。
レイ×ソマを許容できる方のみに推奨します。
読まなくても許容できない方は公式いってください。追いません。




では許容できる方のみどうぞ。


妙な脱力感を感じる。

さらに微動すると何かと触れ合う感触。

とても柔らかく、暖かい純白の肌。

何処か重い瞼を開ければ胸に添えられた華奢な腕が映った。

そして、隣に気持ち良さそうに寝息を立てるソーマの輪郭を認識してようやく意識が覚醒する。

 

「……っ。朝、か…。頭が痛てぇ」

「んっ……」

 

頭部を抑えつつ白い布を剥がして身を起こすと、眠っているソーマも少し揺れる。

どうやらまだ夢の中らしい。

起こすのは忍びない。

 

「それにしてもここは……」

 

辺りを見渡す。

隅々まで掃除の行き届いた清楚なワンルーム。

部屋の中央には俺とソーマが一晩を過ごしたと思われる大きなダブルベッド、隅には二人分の荷物が纏められている。

俺達は何も身にまとっておらず、軍服だけが脱ぎ散らかされていた。

そこまで状況を見てなんとなく思い出してきた。

 

「あぁ、そうか。結局泊まったんだったな……」

 

未だ本調子でない思考力で現状を理解する。

先の作戦の不始末で謹慎を食らったが、俺には帰る家なんてあるわけもなく、ソーマも大佐に連絡していないことからホテルに宿泊することになった。

昨日、ソーマが落ち着いた後に二人で決めたことだ。

まあリボンズは暗に本拠に戻ってこいって伝えたかったのかもしれんが、元々モスクワからじゃどこかで一泊しなきゃいけない距離ではあった。

その上、モスクワに着いた頃には夕暮れだったからな。

言い訳はできそうだ。

 

「……ソーマ」

「んんっ」

 

隣で寝息を立てているソーマの髪を耳に掛けてやる。

触れる度に眉は揺れ、潤いのある唇が震える。

そんなソーマを見てると愛おしく思う自分がいた。

 

「愛してるよ、ソーマ」

「………んっ……」

 

無意識に俺の手を掴むソーマによって温もりが伝わってくる。

同時に、脳内に一筋の閃光が過ぎ去った感覚を覚えた。

俺の瞳が金色に輝き、脳に直接声が響く。

 

「リボンズか」

 

自然と名を呟く。

ある程度要件を聞いて交信は途絶えた。

どうやらもう会う必要はないらしい。

今こうして直接脳内で話し合いは終えた。

 

「ま、当然お叱りは受けるか。それにしても……俺の専用機、か。注文通りならいいんだがな……」

「デスペア大尉?」

「あっ。ごめん、起こしちゃったか?」

「いや、そんなことは……。それよりここは……」

 

シーツに溶けそうな純白の髪を連れてソーマも起き上がる。

寝惚け眼を擦るソーマが俺と同じように辺りを見渡した。

暫くすると合点がいき、昨晩を思い出したようで顔を紅潮させる。

 

「あ、あの……私…っ。昨日は、変なところはなかっただろうか?」

「もちろん。綺麗だったよ、ソーマ」

「……っ!そ、そうか。なら良かった……」

 

安堵してソーマは胸をなで下ろす。

俺はその手を取り、頬に空いた片手を添えた。

ソーマは一瞬目を見開き、愛おしそうに俺の手に触れる。

 

「デスペア大尉……」

「ソーマ……」

 

熱を帯びた目で見つめ合い、次第に互いの距離が近づいて行く。

ソーマは俺の胸に両手を添えて、柔らかい真紅の唇を主張し、目を瞑る。

そして、二人の息が掛かり、交じり合ったと同時に室内に発信音が鳴り響いた。

 

「あっ……」

「あー、そういやモーニングコール頼んでたっけ……」

 

発信音に気を取られてキスは直前で止まってしまう。

顔を顰めるソーマに俺は苦笑いする。

だが、受話器を取らないわけにもいかないのでソーマとは一旦離れた。

するとソーマは明らかに肩を落とす。

 

「続きはまた後でな」

「そんな……っ」

「とりあえず一緒に朝食に行こうか?」

「……っ!」

 

俺が誘うとソーマは一転して表情を明るくして、顔を上げる。

期待の眼差しで嬉しそうに俺を見ていた。

 

「い、いいのか?」

「恋人だろ。今更遠慮することはない」

「……恋人」

 

目を見開くソーマが呟きを繰り返す。

そんなに喜んでもらえるならこっちも冥利に尽きるってもんだな。

実際、俺もソーマと結ばれて嬉しい。

だからというわけでもないがソーマの気持ちはわかる。

俺もソーマも5年間想い合い、すれ違ってきたからこそ今の関係が心満たされる。

現にソーマは布で身体を隠しつつ胸に手を当てて実感していた。

 

「ほら。歩けるか?」

「……あぁ」

 

手を差し伸べるとソーマは微笑を浮かべて掴んでくる。

そのまま引いてベッドから抜け出し、露わになった柔肌は俺に飛び込むことでまた隠す。

すると、二人の胸の高鳴りが、鼓動が重なった。

 

「おっと。大丈夫か?」

「あ、あぁ。凄い……デスペア大尉をこんなにも感じる……」

「そ、そうだな。俺もソーマを感じるよ……」

 

ソーマが俺の胸に密着し、心臓に耳を傾ける。

かろうじて冷静に返したが、この体勢はまずい。

あまりにも密接し過ぎてソーマの柔らかい肌や凹凸物がダイレクトに伝わってくる。

さらにソーマの髪から甘い匂いが鼻孔をつつく。

俺の理性が吹き飛びそうだ……。

 

「なあ、ソーマ。その……とりあえず服着ようか。お互いに」

「え?あっ……す、すまない…」

「いや、いいんだ」

 

触れ合うことに夢中になっていたソーマが自分の姿を見下ろして赤面する。

俺も非があるためなんとも言えない気持ちになる。

とりあえずお互いに背を向けながら部屋着を身に纏う。

ホテルの朝食時間も限られてるので、最低限の用意を済ませて玄関に向かおう……と思ってドアノブに手を掛けたところで後ろから裾を引かれた。

振り返るとソーマが頬を紅潮させて上目遣いで俺を見つめている。

 

「な、なんだ?ソーマ。どうかしたか?」

「その……やっぱり……」

 

ソーマの年相応の乙女な表情に、僅かに揺れる瞳。

あまりに暴力的な魅力に思わず息を呑む俺に対してソーマは言い出すのに勇気がいるのか震える唇を強く噤んだ後、振り絞って言葉を繋いでいく。

 

「デスペア大尉ともう一度、キスがしたい。ダメだろうか?」

「……っ!」

 

そんな顔を真っ赤にしたソーマの甘えた声に俺の理性は簡単に吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を出る前に厚い接吻を交わした俺とソーマはそのままホテル内のレストランで朝食を取った。

ちなみに謹慎が解けるまでホテルに泊まり続ける予定だ。

出費は高いが仕方ない。

 

「そういえばスミルノフ大佐に連絡はしたか?」

「い、いや……まだしていない」

 

朝食を終えてレストランの座席を借りてソーマに尋ねると案の定の返事が返ってきた。

まあ昨日から一緒だしそんなことだろうとは思ってた。

 

「俺達の謹慎が大佐に伝わるのも時間の問題だ。後でいいから連絡しとけよ」

「あぁ。分かっている」

「ほんとかよ。俺達の関係も話さなきゃいけないんだぞ?」

「そ、そうか。確かに……」

 

そこまでは考えてなかったのかよ。

流石に四年間もソーマの親代わりを担った大佐に何の報告もなしではいられない。

俺は既に覚悟を決めている。

絶対に大佐に認められてソーマの傍に居続ける。

例え認められなかったとしても離れるつもりはない。

ソーマとの約束の為に。

なにより、ソーマの幸せの為に。

俺が幸せにすると誓ったからだ。

 

「もし大佐が私達の交際に反対したら私と大尉は離れ離れになってしまうのだろうか?」

 

いざ自覚するとソーマが不安になったのか尋ねてくる。

大佐に限ってそんなことはない、とは思いたいが実際は分からない。

俺達の気持ちを尊重してくれるとは思うんだが……所詮は憶測に過ぎない。

何も大佐を信じていないわけじゃない。

だが、どうしても不安は過ぎってしまうんだ。

ソーマの気持ちも分からなくはない。

 

「何とも言えないな。大佐は部下としての俺を認めてくれてはいるがソーマに見合う男となると話は別だ」

「私は大尉と一緒にいたい……」

「なら説得しないとな。大丈夫、大佐なら分かってくれるさ」

「あぁ」

 

ソーマがなんとか頷く。

大佐を信じることでソーマの肩の荷も少し楽になったようだ。

やはりあの人の存在は大きいな。

 

「そういえば大尉。この前の掃討作戦の前に何か言いかけていたが、結局あれは何を言いたかったんだ?」

「あぁ……大佐と養子の件で話した後のことか」

 

確かに途中で艦内アナウンスに遮られたなあの時は。

ソーマは俺が避けていたにも関わらず、ずっと寄り添ってくれていた。

その御礼をしようと思ってある誘いをしようとはしていたが、結局タイミングを失っていた。

以前なら感謝の意を込めてってことになるが、今の関係性だとまた違った意味になってくるな。

さて、どうしたものか……。

 

「デスペア大尉?」

「あぁ、いや……結局その件はどうするんだ?やっぱり大佐の養子になるのか」

「それは、大佐が良ければ是非話を進める方向へと思っている……ってそうではない。今はデスペア大尉の話をしている。誤魔化すな」

「ははっ、やっぱりそうだよな」

 

話を逸らそうとしたことを見透かされ、とうとう逃げ場がなくなった。

勢いできたここまでと違って改めて正面から誘うのは中々恥ずかしい。

あの時は軽い気持ちだったが今は無自覚ではいられないからな。

やはりこういう関係となるとどうしても意識してしまう。

だが、いつまでも言い出せずにウジウジしてるとソーマに嫌われてしまいそうだ。

ソーマはあまり好まないからな、そういうやつ。

仕方ない、切出すか。

 

「あの時はソーマに日頃の感謝も込めて御礼をしようとしていたんだ」

「御礼?」

「まあ要するに……デートのお誘いってことになるな」

「デート……」

 

羞恥心のあまり目を逸らしつつ伝えるとソーマが唖然としながら言葉を復唱する。

そして、言葉を遅れて認識したのか一気に頬を紅く染めて、どうしていいのか視線を泳がせた後に下に落ち着く。

 

「デ、デート……デスペア大尉と……」

「いや、でも謹慎中だから実現不可能な話だ。悪い、この話は忘れてくれ」

「そんな……っ。忘れるなんて無理だ、私は大尉とデートがしたい」

「そう言われてもな……」

 

我儘になってくれたことはいいが、不可能なものは不可能だ。

今や連邦の目は中東以外に行き届いている上に俺とソーマともなれば特定しやすい。

その中で隠し通すのはかなり難易度が高いだろう。

 

「今回は諦めるしかないだろ」

「そ、そうか……」

 

うっ、ソーマが見るからに肩を落とす。

ここまで弱られるとこちらにも来るものがある。

いや、しかし無理なものは無理だ。

今回ばかりはどうしようも―――。

 

「すまない。我儘を言って……デスペア大尉に迷惑をかけてしまった。私はただ、大尉と…その……恋人らしいことを……したかったんだ」

 

俯き加減で謝るソーマ。

さらにバツが悪そうにしょんぼりする。

よし、デートに行こう。

 

 

 

 

 

 

「我ながら弱い……弱過ぎる……」

 

指定された場所で頭を抱えながらソーマを待つ。

ホテルから出る時間はズラして私服を調達し、待ち合わせ時間もズラした。

最低限の対策だ。

ちなみにソーマはまだ時間が掛かってる。

連絡によるとスタイリストさんに捕まっただとかなんだとかで長くなるらしい。

まあ素材はいいからな。

目を付ける気持ちもわかる。

凄く分かる。

 

「それはいいんだが……あれは反則だろ……」

 

あの時のソーマを見てるとどうにかしてあげたいという気持ちが先走って、気が付いたら行動に起こしていた。

リスクは充分にある。

その中で即決できたのだから恐ろしい……。

 

「まあ上手くやるしかないか。ん?」

 

ふと顔を上げるとソーマがやって来るのが見えた。

だが、その姿はいつもとは違う。

落ち着いた色合いの民家や建造物と集合場所である駅前にある噴水。

周辺で交差する人の流れの中からなびく白髪を抑えてソーマは現れる。

 

上は紺のニットに、下は黒を基調としたリバーシブルのスカート。

それらを包み込む純白のフーディコート。

さらに紺と黒の混色のブーツで大人らしさを感じさせ、そのことによりフーディの甘さが際立つ。

そして、服装で色を抑えた分明るい色合いのお洒落なバッグを持ち、バランスが取れていた。

コートからチラつくタイツといい首から掛けられたネックレスといい色気を漂わせる一方、フーディの甘さで可愛らしさが引き立てられていてソーマの美貌は妖艶っぽくクールに、人形のような愛らしさはより一層目立った。

そんなソーマに俺は魅入られて暫く何も言えずに見つめ続ける。

 

「ど、どうだろうか?」

「……っ」

 

ソーマが恥ずかしそうに赤面しながら俺にコーデを見せつける。

果たして俺に気に入ってもらえるのだろうかというあくまでそれだけが気かがりなソーマに早く声を掛けてやらねばと思う一方、あまりに魅了されて息を呑むことしかできない。

結局返事のない俺にソーマが不安を抱えてしまった。

 

「似合って……ないか」

「い、いやそんなことはない!その、あまりに綺麗だったから圧倒されて……ごめんな」

「いや、だ、大丈夫だ。そうか、綺麗……私が…」

 

視線を逸らしながらソーマは髪を耳に掛ける。

その仕草一つ一つが色っぽく俺を虜にする。

ダメだ、ここは謝るところじゃなくて褒めるところなのに上手く言葉が出ない!

な、何か言わなくては……。

 

「ソ、ソーマ」

「なんだ?」

「その……行こうか」

「あぁ!」

 

本当に情けないことに目を合わせるのに精一杯で大したことを思い付けず、手を差し伸べる。

ソーマは満面の笑みでその手を取って柔らかく、けれど大事そうに握ってくる。

それだけで俺の心臓は破裂しそうだった。

 

なんなんだ、この制御できない胸の高鳴りは。

どこか調子が悪いのか?

困惑する俺は後で『ヴェーダ』に頼ることくらいしか思いつかなかった。

 

繋いだ手を離さぬよう二人で歩き始める。

特に行先は決めてないが、元々はソーマへ日頃の感謝を込めて誘ったんだ。

ソーマの行きたいところを優先していこうと思う。

 

「ソーマ、何処か行きたいところあるか?」

「デスペア大尉と一緒なら何処でもいい」

「お、おう……」

 

めっちゃ可愛いこと言うな。

ソーマは無自覚なのか楽しそうに歩みを進めていく。

足取りは軽く、とても機嫌がいい。

とりあえずこの感じだと俺がリードする形か……。

 

「無難だが映画でも見に行くか。それと一応フードは被っとけ。どこに軍の目があるか分からないからな」

「あ、あぁ。すまない」

 

浮かれ気分だったソーマが取り直してフードに手を掛ける。

俺も最低限、頭を隠しておいた。

あとは呼び方をなんとかしないとな。

 

「ソーマ。今から俺のことを階級で呼ぶのは禁止だ。一発で軍人だってバレる」

「そうか。しかし、何と呼べば……」

 

ソーマが顔を顰めて悩み始める。

確かにデスペアじゃあ随分と他人行儀だよな。

となると、やはり……。

 

「レイでいい。ほら、呼んでみろ」

「えっ……そ、それは…」

 

戸惑いを隠せないソーマ。

名前で呼ぶのは気恥しいようだ。

恋人なら普通だと思うがな。

寧ろ初対面の時に名前呼びでいいと言ったのに階級を貫いたのはソーマだ。

まさかそのことで苦しめられるとは思ってもみなかっただろう。

ソーマは暫く恥ずかしそうに口を紡ぎ、やがておずおずと小さく口を震わせ始める。

 

「レ、レイ」

「んっ。なんだ?ソーマ」

 

微笑んでわざと顔を覗いてみる。

すると、ソーマは顔を真っ赤に紅潮させた。

 

「い、意地悪するな!」

「ははは。ごめんごめん」

 

照れ隠しするように目線を逸らすソーマに謝りつつも悪戯に笑ってみせる。

ソーマは不満げに唇を尖らせるが、後から釣られるように笑った。

そんなソーマを連れて街のデパートへと入る。

最上階の映画館まで行くとそれなりのデパートリーで公開中の項目が端末に並んでいる。

 

「どれか気になるのあるか?」

「え、えっと……ならこれを」

「了解」

 

端末を操作してソーマが指定した作品をタップする。

料金を挿入すると、チケットが2枚出てきたのでそれを受け取って列から抜け出した。

 

「私が選んだもので良かったのか?それにお金も……」

「気にするな。ソーマにお礼したいって言っただろ。ほら、これ」

「あ、あぁ……ありがとう」

 

ソーマの分のチケットを手渡し、飲食物の購入も済ませる。

丁度開場開始の時間だったのでソーマを連れて薄暗い通路へと進んでいった。

今はポップコーンやジュースで手が空いていないのでソーマは自然と俺の腕に自身のを絡めてくる。

そのまま劇場へと入っていき、二時間ほどで映画の視聴を終えた。

退場するとソーマは興奮のままに感想を口ずさむ。

 

「ま、まさか大男の方の機械人間にあんな使命があったとは……」

「それにしても死闘だったな。確かに大男の機械人間が現代に送り込まれた理由には驚いたが、女の機械人間が液状化したのが一番度肝を抜かされた気がするよ、俺は」

「あぁ。性能差では大男の方が完全に劣っていた。それでも使命を果たす為に戦い続ける姿は中々かっこよかったぞ。迫力も充分あった」

「そうだな」

 

ソーマの意見には同意できる。

どんなに性能差があろうとも立ち向かい、使命に生きる姿は痺れるものがあった。

 

「そういえば、以前スミルノフ大佐とも同じ作品を見に行ったことがある。恐らく前作なのだろうが……あれはラストシーンで今回の大男の機械人間が親指を立てながら溶鉱炉に沈んでいくシーンが涙無しには見られなかった」

「へぇ。シリーズものだったんだな。ソーマがそこまで言うなら最初から見るのもアリかもな」

「ふふっ、大佐と私のイチオシだ。デスペア大……じゃなくてレイもきっと感動するだろう」

「そうか」

 

意気揚々と語るソーマに俺も微笑を返す。

スミルノフ大佐に先を越されたみたいだが、その経験もあってソーマは実に満足してくれた。

ひとまず成功でいいだろう。

呼び名についてもまだ慣れてはいないようだが気恥しさは軽減してきている。

いい調子だ。

 

「さて、次は何処へ行こうか」

「レイとならどこへでも構わない」

「はは……またそれか……」

 

ソーマはブレない。

コートを掛けている腕とは逆の腕を俺のものと組んで身を寄せてくる。

頻りに俺の反応を上目遣いで確認しているのが堪らなく愛おしい。

 

「へ、変だろうか?」

「いや、可愛いよ」

「……っ!」

 

スキンシップに不安があったのか尋ねてきたソーマに本音を伝えるとまた頬を紅潮させ、身を震わせる。

あぁ、ほんとに……。

 

「丁度いい時間だし昼食でも取るか?」

「あっ……いや、私はさっきの映画館で食べたものが溜まっていてできれば軽いものがいい」

「了解。となると喫茶店とかで済ませるのがいいか」

「あぁ。それがいい」

 

よし、ソーマの同意も得たことだし辺りに喫茶店がないか見渡す。

デパートとなれば大抵は内装にあるものだ。

俺とソーマのいるフロアにも出入口付近に有名なチェーン店があった。

 

「あそこに行こう」

「わかった」

 

俺が目をつけたところを指すとソーマも頷く。

彼女を連れて入店した。

 

「何名様でしょうか」

「二人です」

「かしこまりました。あちらの席へどうぞ」

 

ウェイトレスの案内で向かい合う形の二人席にソーマと共に腰掛ける。

席に着くと先程のウェイトレスが来たので注文をすることになった。

手始めに頼むものは決めている。

 

「お決まりでしょうか」

「俺は珈琲を、ブラックで。あとドミグラスのバーガーを頼む」

「わ、私も同じものを……」

 

思わずソーマを見遣る。

視線に気付いたのか、ソーマは澄ました顔で笑みを俺に向ける。

どこか胸を張っているので、もうブラックを飲める歳になったのだと暗に主張しているようだ。

まあ、止めはしないが……。

 

「大丈夫か?」

「問題ない。私とて成長している」

 

ソーマは断固として言い切る。

そこまで言うなら自由にさせるか。

 

「お待たせしました」

「あぁ、ありがとう」

「……っ」

 

暫くしないうちにテーブルの上に真っ黒な液体が注がれたコップが置かれる。

ソーマは改めてその色を見て息を飲んだ。

全くコップの奥底が見えないことに身震いしているようだ。

 

「ほんとに大丈夫か?震えてるぞ」

「も、問題ない。私は大人だ!」

「あっ……」

 

そう言って勢いよく口に付けるソーマ。

直後、急激な熱さと強烈な苦味で顔を顰めて仰け反った。

 

「うっ……!」

「言わんこっちゃない……仕方ないな」

 

ウェイトレスを呼び出してカフェオレを頼む。

ソーマは不服そうだったが、彼女の苦しんでる姿を好んで見る趣味はない。

 

「二杯とも俺が飲むから安心してくれ」

「い、いや、これは私のだ」

「……大丈夫。俺はソーマのこと子供だなんて思ってない。それにソーマが無理してるのを見たくない」

「それは……」

 

そっと微笑んで頬に触れるとソーマも意地を曲げ始める。

それとは別に赤面しているようだが。

 

「ソーマはそのままでいい、無理して俺に合わせなくていい。俺はそのままのソーマが好きなんだ」

「レイ……」

 

俺の想いを伝えると頬をほんのり紅く染めていたソーマが目を見開く。

そして、私もそんな優しいレイが好きだ……と小さく俺に告白した。

その時の俺の胸の高鳴りは言うまでもないだろう。

 

喫茶店で軽い食事を済ませると、一旦外へ出る。

実はソーマが恋人らしいスポットに行きたいというので端末で調べたところ、モスクワにはその類で有名な場所があることが判明した。

そうと決まれば次の目的地は自ずと確定し、数十分共に歩くと俺達はとある『橋』に辿り着いた。

 

「……と、見えてきたな」

「あれが噂の橋とやらか?」

「そうみたいだな」

 

橋の名前が記されたプレートも事前に確認したものと一致する。

間違いないだろう。

なんでも橋の上に植えられた木に二人で南京錠を掛けて、鍵を川に放り投げることで永遠の愛を誓うのだとか、そんな言い伝えが広がっている。

俺とソーマも互いに顔を見合わせ、少し照れながら南京錠を掛ける。

 

「それで鍵を投げれば……いいのか」

「あぁ。ソーマ、投げるか?」

「いや、どうせなら二人で投げよう」

「……可能なのか、それ」

 

ちょっと二人で投げる姿が想定しにくい。

俺が微妙な表情をしているとソーマは取り繕うように目を逸らす。

 

「ぜ、善処する……っ。というよりやらなければ分からないだろう!」

「まあ、それもそうか」

 

なんとなく納得して鍵を握るソーマの手を上から包む。

 

「ひゃっ!?」

「あっ……す、すまん」

「いや、いいんだ……」

 

突然触れたからか、ソーマの肩が跳ね、震える。

俺は謝罪しつつゆっくりとソーマを後ろから抱いた。

そして、投げるというよりは落とすように俺とソーマの手から鍵が重力に従って離れていく。

 

「……これで、私達の間にできた四年間の空白は埋まるだろうか」

「ソーマ……」

 

川に呑まれる鍵を見つめてソーマが不安げに呟く。

ソーマは言っていた。

俺がいなくなってから胸に穴が空いたような締め付けられる感覚で苦しんだと。

スミルノフ大佐との日々は確かに大佐の思い遣りに満たされていた。

だが、時々思い出すあの日、俺を失った時が()ぎると苦しくなる。

そんな四年間をソーマは過ごしてきた。

俺と誓ったこの永遠の愛がその分を取り戻してくれるのか。

ソーマは微かに期待している。

 

「そうだな。ここに誓ったように、俺はもうソーマから離れない」

「デスペア大尉……っ」

 

あの日破ってしまった『約束』は『誓い』となり、俺達を強く結びつける。

俺達はもう決して離れ離れにならないように思い切り抱擁し合い、誓いの口付けを交わした。

肩に触れて離した時、ソーマの瞳は揺れていて、火照るように紅潮した彼女の柔らかい唇に俺は二度と離さないことを誓った。

 

 

 

 

その後も二人でモスクワの街並みを散策し、最低限の注意は払いながら充実した一日を過ごすことが出来た。

最後に帰路を歩みながらソーマが顔を顰める。

 

「もう帰るのか……?」

「ホテルのディナーに間に合わなくなるからな。それに隠蔽したとはいえ、さすがに一日部屋を空ければチェックアウトしたことがバレる」

「そ、そうか……」

 

言葉では頷いたもののソーマは納得していない。

それも当然で、ソーマは『ヴェーダ』のこともリボンズのことも知らない。

俺が敏感になっている理由が分からないのだろう。

だからか、街道を進んでいくうちにソーマの足が止まる。

必然的に手を繋いでいる俺はそれを見逃すことはない。

 

「ソーマ?」

「………」

 

ソーマはなにやらフロントガラスを眺めていた。

具体的にはその奥にある宝石店のショーウィンドウ、展示されているペアのブレスレットだ。

 

「欲しいのか?」

「いや……」

 

俺に尋ねられてソーマは首を振る。

だが、見ない振りをしても視線は自然とブレスレットへ向かっていた。

余っ程欲しいらしい。

俺も少し見遣るが、どうやらそれほど高価なものでもない。

……なら買ってやるか。

 

「欲しいのはこれだな?中に入るぞ」

「えっ……いや、私は別に……」

「遠慮しなくていい。記念だ、このままじゃ味気ない気もするしな」

「………ありがとう」

 

ソーマは小さな声で礼を呟いて嬉しそうに微笑を作っていた。

俺に手を引かれて入店し、ペアブレスレットを購入する。

店員に説明を聞いていると、バングルの側面に本物の赤い糸が入っているらしい。

ずっと一緒に居たい気待ちを表現したのとのことだ。

 

「"私たちは赤い糸で結ばれている"……」

 

ソーマがブレスレットに彫られている文字を読み上げ、目を細める。

そして、左腕に付けて満たされるように胸に抱えると、熱っぽい視線で俺を見た。

 

「デスペア大尉……今日は本当にありがとう……」

 

ブレスレットを胸に抱え、ソーマが小さく微笑む。

夕闇の中での彼女はとても綺麗だが……。

 

「だから、階級はやめろって」

「あっ……」

 

ソーマが思わず口を覆う。

気が抜けてしまったようだ。

そんなソーマを見て俺も口元を緩め、手を差し出す。

 

「帰るか」

「あぁ」

 

ソーマが俺の手を取り、絡め合ったまま俺達は密かな幸福の時間を終えた。




手元の資料が全部春物で関係なかったです。
気に食わないのに読んだ人は自己責任でお願いします。


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翼持ち再来

お久しぶりです。
最終話まで書き溜めしようとしていた時期が私にもありました。
プロット書いた時点で最低でもあと35話は必要なことに気付いて轟沈、ということで不定期でいきます。


謹慎処分から4日が経った。

俺とソーマはその間、ホテルに泊まっている。

スミルノフ大佐にも当然謹慎は言い伝わったが、ソーマの要望によりソーマは俺が預かる事になり、事情を話すと大佐は俺達の交際をお許しになった。

大佐のことを信じていたとはいえ、一抹の不安はあったが大佐は寧ろ快く祝福してくれた程だ。

本当に有難い。

 

ちなみに謹慎処分は言わばリボンズからの帰還命令だったが、俺達が降り立ったのがモスクワだったこともあり、脳量子派でお叱りを受けて解決した。

内容は割愛するが、リボンズもそれなりに遺憾なようだ。

あまり好き勝手するとあの手この手を回して俺が反逆者のような扱いになってしまうかもしれない。

まあ、恒久和平実現をこれ以上に邪魔するよなら……という前提だが。

 

『アザディスタンへの攻撃、連邦が中東再編に着手に失敗しました。一説ではガンダムの妨害を受けたとの情報もあり、現地で撮られた写真にはガンダムと思わしき姿が―――』

「………」

 

端末で同じニュースを繰り返し見ている。

リボンズがアザディスタンを解体しようとして送り出した傭兵のアリー・アル・サーシェス。

【GNW-20000 アルケーガンダム】を駆るサーシェスの腕は俺も一度対峙した時に実感している。

あの戦闘センスとアルケーの性能があればさらに恐ろしい力を発揮するだろうと俺は睨んでいた。

だが、そのサーシェスがたった1機のガンダムに退けられた。

何度も報じられる映像で紹介される一枚の写真。

そこに映る白翼を有するシルエットは見間違いでもなく、【ガンダムサハクエル】だ。

 

「レナ……」

 

写真の全貌は把握出来ないが、俺にはその正体が断定できる。

例えサハクエルでもアルケーに乗るサーシェスを凌駕できるパイロットはレナだけだ。

ならばこれはレナが起こした行動……。

正直、アザディスタンをこうも無理矢理解体しようとしていることは後から知った。

それでなければ事前に止めている。

リボンズのやり方は分かっているつもりだ。

だから、常に目を光らせているつもりだがそれはリボンズも同じ。

サーシェスを動かすことで俺の目を盗んだようだ。

 

だが、それよりも気になることがある。

サーシェスを退けたまでは納得できる。

しかし、レナの行動にいくつか疑問を持つことがあった。

ひとつは『ヴェーダ』にアクセスして目を通したアルケーの戦闘データ。

その中でアルケーはサハクエルに撃墜された。

そこまでならまだしも、コア・ファイターで逃亡しようとしたサーシェスをあろう事かサハクエルは照準を合わせていた。

『奪い合いの連鎖』を断ち切る、その為に俺達も『奪わない』。

二人で決めた誓いだった筈なのに、サハクエルは――レナは確実にサーシェスの命を狙っていた。

 

そして、二つ目はレナがアザディスタン解体に否定的なことだ。

サーシェスを退けた後、特に何をするまでもなくサハクエルは去った。

つまりアザディスタンの解体を意図的に防いだことになる。

……何故だ。

アロウズによる統一世界の実現。

それにより達成される恒久和平の為にアザディスタンの解体自体は必要なことで、中東の再編も必須だ。

俺はリボンズのやり方は許容できないが、行動は肯定している。

現に目指す目標は同じなんだ。

ただ、これ以上奪う必要はどこにもないだけで……。

 

「なのに何故あいつは邪魔をするんだ……俺に分かっていて、あいつに分かってない筈がないのに……」

 

レナが何を考えているのか、全く理解できない。

一体あいつは何がしたくて何を目指してるんだ……?

俺達の理想は二人で掲げたものじゃなかったのか。

 

「なんで……」

「デス―――レイ、どうかしたのか?」

 

俺が思い悩んでいるとソーマが心配して隣に腰掛けてきた。

ちなみにこの4日間で俺達の距離も縮まり、名前で呼び合うようになっている。

ソーマに声をかけられて、眉間に寄っていたシワに気付いた。

どうやら随分と思い悩んでた姿を晒してしまったみたいだな。

 

「あ、あぁ……いや、なんでもないよ」

「だが、なにか苦しそうだ。私で良ければ相談に乗ろう」

「……本当に大丈夫だ。ありがとう、心配してくれて」

 

本気で想ってくれるソーマにかろうじて笑みを作る。

ソーマはそれを見破っていたが、追求もしたくはないのだろう。

視線を落とすだけでそれ以上は聞いてこなかった。

 

「そうか……。なら朝食に行こう」

「そうだな」

 

ソーマの提案に頷いて端末を閉じる。

俺がずっと同じ件に執着していることにソーマは当然気が付いているため、それを目で追ったが例の如く何も聞いては来ない。

その気遣いが俺の心を締め付けていく。

だが、それでもレナのことを話すわけにはいかない。

 

……と思ったが、少し触れるくらいなら問題ないか。

なんだか心配してくれているのに無下にするのは申し訳なくなってきたからな。

 

「なぁ、ソーマは『翼持ち』って知ってるか?」

「えっ……」

 

バイキング形式で皿に料理を盛りながら藪から棒にソーマに尋ねる。

ソーマは一瞬戸惑い、取り直すように頷いた。

料理を盛り終えた俺は近くの席に腰掛け、ソーマもそれに続く。

そして、『翼持ち』について話を進めた。

 

「4年前、『フォーリンエンジェルス』の時に突如現れたガンダム……通称『翼持ち』。私もスミルノフ大佐も対峙したことは一度しかないが、軌道エレベーターへのガンダム襲撃の際に『不殺』だったことでそのインパクトを残してはいた」

「あぁ。その後にもそれらしき痕跡はあったらしいが記録として残せたのはあの時だけだな」

 

ソーマの言う通り、【ガンダムサハクエル】が公の姿を晒したのは一度だけ。

俺とレナがトリニティと共に行動していた時、『犠牲のない恒久和平』を目指してアレハンドロ・コーナーが暗躍する国連軍の軍事用ファクトリーを襲撃していた。

だが、唯一軌道エレベーターに秘匿されたファクトリーだけは破壊に失敗し、さらには頂武ジンクス部隊と鉢合わせた。

その時に初めてサハクエル、『翼持ち』は目撃された。

それ以降は目撃情報を聞いていない。

 

「『翼持ち』の外見は覚えてるか?」

「いや……だが、名の通り生物的な白翼を有していたことはこの目に焼き付いている」

 

やはりそこには誰もが目を付けるか。

サハクエルの最大の特徴といっていいウイングバインダーは一度目にすると相当のことがない限り記憶から抜け落ちることはないだろう。

モビルスーツには不可解な白く大きな双翼。

その特徴をソーマから聞き出したところで、端末を立ち上げてさっきのニュースを見せた。

画面は固定し、アザディスタンの空に浮かぶシルエットを映す。

 

「これ、ソーマには何に見える?」

「……っ!まさか『翼持ち』!?」

 

直前の話もあって、白のシルエットに対してソーマは即座にイメージが浮かぶ。

中東国に出没したガンダムの正体を看破してみせた。

サハクエルの今回の行動について説明するとしよう。

 

「『翼持ち』がアザディスタンに現れた理由は中東再編の為の布石に連邦がアザディスタンへ攻撃を仕掛けたからだ」

「そうか、虐殺を防ぐ為に……」

「以前と行動理念が同じなら、そうだろうな」

 

少しぶっきらぼうに肯定した。

無意識に皮肉を込めてしまったようだ。

レナに対する不安と懸念が隠し切れない。

 

「レイ?」

「………」

 

ソーマに即刻看破された。

ダメだな、どうもレナのことになると感情がコントロールしにくい。

どうしてなんだろうな。

 

「……私は『翼持ち』とレイにどこか近いものを感じる。根拠はないが、何故か……そう…感じる」

「どうだかな」

 

不殺という共通理念は似ていた……というよりは同一のものだった。

寧ろあれはレナと掲げたものだ。

それ以前に仲間を失うことを俺は苦悩し、守る為に戦うことを決意したが、『犠牲』を無くそうと取り組んだのはレナと出会ってからになる。

まあ、ソーマが言っているのはそういう理屈的なことじゃないんだろうが。

どちらかというと直観的な方だ。

 

「同じ、だと思ってたんだがな……」

「……?」

 

案の定ソーマには伝わらない呟きを漏らして朝の珈琲を口に含む。

いつもは心地いいはずの苦味が今日は少々不快に感じた。

だからといって苦手な甘いものを手に取ろうとは思わないが。

 

そんな俺とは対称的に、ソーマは見るからに甘そうな苺のジャムをパンに塗り付けていく。

そして、それを幸せを噛み締めるように美味しそうに頬張りながら自身の端末を確認して、怪訝そうにした。

 

「どうかしたのか?」

「この時間になればマネキン大佐が親切に報告をくれる筈なのだが……どうやら今日はないらしい」

「へぇ、マメそうに見えるがな。それにしても謹慎中にも関わらず連絡を取ってくれるなんてソーマを想ってくれてる人は……多いんだな」

「……あぁ、ほんとうに…その通りだ」

 

俺に指摘されるとソーマは一瞬目を見開き、視線を落としたかと思ったら何か心に染みる温かいものを抱えるように胸に手を重ねた。

確かマネキン大佐は4年前の『フォーリンエンジェルス』でスミルノフ大佐との交流ができたと言っていた。

だから、ソーマを気遣ってくれるのだろう。

ソーマはそんな思い遣りを大切に受け入れるようになった。

 

「良かったな」

「あぁ…っ」

 

微笑む俺にソーマも頬を緩ませて返す。

と、同時に俺の端末が振動した。

 

「誰だ……ってマネキン大佐?」

「えっ?」

 

つい今しがた話題に出ていた本人から俺の方に連絡が来た。

ソーマも困惑気味に声を漏らす。

どういう意図があってソーマではなく、俺に送ってきたんだ?

というかいつの間にあの人は俺の連絡先を知ったんだ……教えた覚えがない。

とにかく、ソーマには了承を得て、見せないようにメッセージを開いた。

 

「なんだこれ。母艦への帰艦命令……?」

 

なにかソーマに言えないことなのかと思ったが、指令は俺だけでなく、ソーマも含まれている。

特にそれ以外のことは記載されていなかった。

特段問題はないので気まづそうにしていたソーマにも内容を見せる。

するとさらに眉を顰めた。

 

「こんなにも早く帰艦命令が?」

「謹慎ってなんだったんだろうな……」

 

この4日間、ソレスタルビーイングを含む交戦は未だ行われていないと昨日までマネキン大佐と繋がっていたソーマが断言する。

普通ならカタロンの軍事基地追撃の作戦が現場で決行しなくとも上層部が指令を下しそうなものだが、どうも動かなかったらしい。

なんでもここ最近電波障害が激しかったとかが原因とのことだ。

それでもなんとか乗り切っていたらしいが、謹慎処分中の俺達を呼び戻す程、状況が切迫してるのか?

だとしたら無視はできないな。

 

「ソーマ、チェックアウトを済ませるぞ。今から迎えを寄越す」

「了解した」

 

『ヴェーダ』に接続して近くの軍事基地に機体を要請する。

何故かは知らないが俺達が行きに乗ってきた機体が迎えるに来るという内容も合流地点も記されてなかった。

マネキン大佐のミスか。

いや、でもあの人はもっと几帳面な気がするが……。

 

とにかく返信は送ってみたが、返事を待つ時間も惜しい。

間に合えばそれでいいが機体を呼んだのは念の為だ。

どっちが早くても問題はない。

一通り段取りを済ませて俺とソーマは即座に軍服に着替え、荷物を纏めて宿泊場所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

カティ・マネキンの名義で偽装メッセージをレイに送ったレナは、端末を閉じ、サハクエルのコクピットで視線を上げる。

監視衛生からは捕捉されない孤島にGNステルスで姿を隠す【ガンダムサハクエル リペア2】。

レナはそこから直線上に位置するベーリング級海上空母の動きを探っていた。

空には広域に大量散布された擬似GN粒子が赤に染めて支配しており、その範囲はペルシャ湾の殆どを覆っている。

 

「スローネ ドライのステルスフィールド起動から約30分……。あとはお兄ちゃんが、レイ・デスペアが釣れれば……」

『狙イ通リ。狙イ通リ』

 

レナの呟きを拾って黒HAROが呼応する。

作戦決行に踏み切り、今も尚、一抹の抵抗があるレナは瞼を閉じて【あの人】の言葉を思い出す。

 

 

―――『大事なのは分かり合うこと。戦いは、哀しみしか生まないわ』

 

 

可憐で清楚な黒く清い長髪。

世界の悪意を、紛争の哀しみを理解している寂しい表情。

それでも人と人とが分かり合える道がきっとあると信じる微笑み。

彼女の『歌』がレナを……満たしていく。

 

「連鎖は、力では断ち切れない……。だから、分かり合う必要がある……」

『レナ。こっちの準備はできた。いつでも狙い撃ち可能だ』

「わかった。ごめんね、こんなことに付き合わせて……」

『おいおい、今更気にしなさんな。もうそんなこと気にするような間柄じゃあない筈だぜ?』

「……うん、そうだね。ごめん」

 

モニターで対面するニールに苦笑いを浮かべるレナ。

どうしても自責の念があって、レナは気付かず謝罪を口にしていた。

そんな彼女にニールは嘆息する。

4年前、レナと出会い、それからというもの互いに惹かれあった仲である二人。

ニールにとってレナは優しくて思い遣りがあって魅力的だった。

だが、唯一の不満を言うとすればすぐに謝罪を口にすることだ。

レナは4年前とそれより過去の過ちで自責が癖になってしまっていることにニールは手を焼いている。

 

『そうすぐ謝りなさんな。レナは何も悪くない。俺は好きでレナに付いて行ってるんだ』

「う、うん。ごめん……」

『……全く。仕方のない奴だな』

 

注意しても口に出てしまうレナにニールは呆れるように笑みを浮かべる。

やれやれ、とでも言いたげだ。

 

『それにしてもほんとにレナの兄貴は来るのか?もうあの艦には乗ってないんだろ』

「……来るよ。お兄ちゃんは、来る。例え罠だと気付いても……お兄ちゃんは優しいから」

 

謹慎処分でベーリング級海上空母にレイが搭乗していないことはレナもニールも既に把握している。

それ故の今回の作戦だ。

ここ最近は『ヴェーダ』には追跡できないサハクエルの擬似太陽炉を使って、上空から擬似GN粒子による電波障害でカタロンの追撃を防いできた。

サハクエルには、GNステルスとは別に迷彩システムがある。

それを使えば監視衛生に捉われることなく作戦行動をこなし、人知れず帰還することが可能だった。

あとは夜になるまで連日で同じことを繰り返すのみ。

 

そんなことを繰り返し、敵に勘繰られるか否か丁度いいタイミングでトレミークルー、ソレスタルビーイングの戦術予報士、カタロンの軍事基地襲撃によって脳裏に過ぎった過去の記憶で倒れ込んでしまった、スメラギ・李・ノリエガが目を覚ましたとの報告が紅龍(ホンロン)から伝えられた。

その期を待っていたレナは作戦を第二段階に移行し、行動に出る。

それは、アロウズの直接部隊であるベーリング級海上空母への接触。

【ガンダムスローネ ドライ】のステルスフィールドで外部との通信をジャミングし、援軍を呼ぼうにも呼べず、あちら側の上層部もベーリング級海上空母の正確な座標が分からない以上まずは捜索から始まることになる。

 

そして、その間にレナは事前にハッキングしたカティ・マネキンの端末を利用してレイにメッセージを送り、艦の座標も同時に添付する。

これでアロウズの誰よりも早くレイが援軍として向かうことが出来るのだ。

唯一の懸念材料は『ヴェーダ』を有するイノベイターだが、そこはレイを信じるしかない。

レナにとってそれは何よりも容易いことだ。

 

『レナ。これだけは聞かせてくれ。正直、俺にはここまでする意味がまだハッキリとは見えていない……レナの兄貴を呼び出して、何が目的だ?』

「……そうだね、ニールには言うべきかな」

 

ニールの問いにレナは引き金を無造作に引きつつ、今最も胸に秘めていることが故に一度、瞼を閉じる。

サハクエルのGNバスターライフルの銃口から噴かれる粒子ビームは敵母艦の武装を的確に奪っていき、ニールの【ガンダムデュナメス リペア】と共に艦の動きを制限させる。

そして、レナが瞳を再び開いた時、それは色彩に輝いていた。

 

「私は……正したいの」

『正す?そりゃ一体どういうことだ……?』

「そのままの意味だよ。私は……4年前にお兄ちゃんに間違った誓いをしちゃったから……」

 

レナの表情が暗くなり、俯く。

4年前。

兄の深也(しんや)と再会し、彼の想いを聞いて二人で理想を掲げた。

 

―――『犠牲のない恒久和平』。

 

それが、あの時二人が望んだもの。

だが、レナは数年前に出会ったとある王妃の言葉を受け入れてから自身の過ちを、理想の間違いを認識した。

レイとレナが掲げたのは言わば、『犠牲を出さない』ということを除いた過程をすっ飛ばし、『恒久和平』という結論を急いだものだった。

後にレナは『奪い合いの連鎖』を断ち切りたいと願うが、二人の掲げたものは『奪う』ことで達成される。

それは、単に物理的なものだけではない。

他人の意思を、想いを踏みにじる。

力に訴え掛けた結果は必ず心の傷を伴う。

 

しかし、レナは連鎖を無くす方法を教わった。

まだ不器用で、以前は傭兵の男を相手に失敗してしまったが、『奪う』ことでは連鎖を増幅させるだけだということに気付いた今のレナは思い描くやり方は間違いではないという確信があった。

そう……分かり合い―――理解し合う―――そのことで、未来を……築くのだと。

 

「――今度も、私がお兄ちゃんに気付かせてあげないと。それが私がお兄ちゃんにしてあげれる唯一の償いなの」

『レナ……』

 

またしても自責の念を背負うレナにニールは顔を顰める。

それでも、口出しはできない。

レナにとってレイが、兄がどれだけ大切な存在なのかをニールは知っているから。

レナが決めたこと、彼女なりにレイと向き合いたいと言うのなら、ニールにそれを止める気はない。

故に彼も覚悟を決めてスコープから目を離し、レナの瞳を真っ直ぐ捉えた。

 

『オーライ。俺も全力を尽くす。レナの邪魔をする奴は誰であろうとも俺が狙い撃ってやるさ』

「ニール……」

 

彼の心遣いが温かい。

レナは密かな幸福に満たされながらニールへの想いを胸に抱える。

そんな時、黒HAROの耳がパカパカと開閉し出した。

 

『敵機セッキン!敵機セッキン!』

「……っ!向こうの指揮官が対応してきた?」

 

黒HAROの警告にレナはサハクエルのレーダーを確認する。

既にステルスフィールドを抜け出し、捕捉できる範囲にまで接近している機体が1機のみ。

さらにデュナメスにも1機同系列の機体反応が向かって来ている。

監視衛生と向こうの艦のレーダーも使えない中でサハクエルとデュナメスの位置は特定されていた。

 

「ニール!エースパイロット機が1機ずつ分担して来てる!気を付けて、相手はこっちの位置を完全に把握してるよ……!」

『うおっ!?マジかよ、そいつはヤバイな。

―――了解!デュナメス、ニール・ディランディ。目標を狙い撃つ……っ!!』

「……っ!他のMS(モビルスーツ)部隊は?」

 

レナの指示でデュナメスが狙撃体勢に入り、レナもサハクエルを飛翔させる。

エースパイロットだけを分担して向かわせるこの戦術―――恐らくは他のMS(モビルスーツ)部隊をステルスフィールドを発生させるスローネ ドライに当てたのだと予測したレナだが、それは的中した。

スローネ ドライのパイロット、ネーナからの連絡に目を通して唇を噛む。

 

「エースパイロット級の対応に負われてる間、私達は狙撃を行えない……。ドライへの攻撃の妨害を防ぐ為のこのタイミング、私とニールの狙撃能力を見破った上での作戦……これが、『鉄の女』の判断力と決断力……っ!」

 

カティ・マネキンの対応に感嘆すると同時に表情を苦くするレナ。

即座に目の前の相手――【GNX-704T アヘッド】に意識を向ける。

機体の信号から考察して、向かってくるのはレイからの報告で聞いた要注意人物のライセンス持ち、4年前の好敵手であるネルシェン・グッドマンだ。

 

『やはり生きていたか……―――【翼持ち】』

 

『……また、戦いに身を投じてるんだね。貴女は』

 

姿を表したサハクエルを前に、ネルシェン専用のアヘッドが空中停止した。

そして、GNバスターソードを抜刀して剣先をサハクエルへと向ける。

 

『そうだ。私は、貴様と遭遇するのを待ち侘びていた。……4年だ。貴様を超える為に私が己の身を費やし、鍛え上げたのは。全ては私の強さを取り戻す為……いや、更なる『強さ』を手に入れるため』

『そうやって、また力に訴えて誰かの未来を奪うの?』

『奪うのではない。力こそが、未来を切り拓く唯一無二のものだ』

『……そう』

 

断言するネルシェンにレナは目を細める。

これ程の固定概念、簡単に覆せるものではない。

彼女の認識を変えるにはぶつかり合い、その末に分かり合う必要がある。

今のネルシェン・グッドマンは『強さ』への固執に身を宿す者。

そして、【翼持ち(レナ)】を強者と認め、乗り越えることで新たな自分へ進化しようとしている。

だが、そうなってしまえば彼女は二度と戻れない、強さのみに囚われた操り人形になってしまう。

 

『……貴女に何があったのかは分からないけど、違うよ。力が為せることは……連鎖を生むこと。未来を奪うことだけだよ』

『違うな。弱ければ奪われ、強ければ存在が許される。それがこの世の摂理だ』

 

否定するレナをさらに否定するネルシェン。

互いに譲らない理念が衝突する。

 

『御託はここまでだ。今ここで、私自身の復讐を果たさせてもらうぞ……っ!!』

『……私達に必要なのは強さじゃない。それを教える為に、貴女に倒される訳にはいかない』

 

肩部のスラスターを噴かせ、アヘッドが斬り掛る。

サハクエルはGNバスターソードの軌道を飛び越え、GNバスターライフルの銃口でアヘッドの背後を捉える。

レナによって引き金が引かれ、放たれた粒子ビームはネルシェンの反射能力によってGNバスターソードに防がれた。

 

『くっ……!』

『サハクエル、目標を淘汰するよ』

 

淡々と呟くレナと全装備を解放してフルバーストモードを晒すサハクエル。

その機体を回転しつつ距離を取ることで、間合いを稼ぐと同時に、至近距離での散弾で、ネルシェンのアヘッドは後方に退り切れずに粒子ビームの嵐が直撃する。

なんとか堪えたネルシェンはGNバスターソードを捨て、GNビームライフルを構えて反撃に出ようとするが、知覚で感じた包囲網に目を見開いた。

 

『なっ……!新装備か!?』

 

鳥類の羽根を連想させる小型のウイングビット。

その数、20基のビーム砲がアヘッドを四方八方から捉える。

そこから注ぎ込まれた粒子ビームをネルシェンは機体の体勢をコントロールして反射を研ぎ澄ませ続けた。

 

『チッ!数が多過ぎる……!だが、この程度では―――ッ!?』

 

4年間、人であることすら捨て、ひたすらに好敵手を超える為に磨いてきた。

その努力は4基のGNガンバレルII、その誘導兵器に内蔵されたGNマイクロミサイルの発射門の開門、サハクエルのフルバーストモードによる六つの銃口、その全てに捕捉され、踏みにじられる。

そして―――。

 

『……狙い撃ち』

『―――――――――――っ!?』

 

弾圧の悪夢がアヘッドを木っ端微塵に仕立て上げた。

爆炎の中からは、コクピットだけが重力に従って落ちてゆく。




展開変更に対するリクエスト、設定改変の強要は一応サイト内ルール違反なので気をつけてください。
個人的には前者が以前から感想欄で目立つ気がしたので忠告させていただきます。


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約束、再び

俺とソーマを搭乗させた機体が高度を保ちつつ目的地へ飛行していく。

モスクワを発ってから約3時間。

フライト時間は4時間程だ。

あと一時間は余裕がある。

そんな中、個室の座席に腰掛ける俺は瞳の色を金色から通常のものに戻す。

 

「……ダメか」

 

さっきから『ヴェーダ』に接続して現場で何があったのか探っては見たが、俺達の母艦に起こったことに関しては何も発覚しなかった。

しかし、ベーリング級海上空母が航海しているペルシャ湾のほぼ全域で大規模な電波ジャミングが起きていることだけは分かった。

状況が把握出来ないのは恐らくそれが原因だ。

さらに監視衛生からの映像にはペルシャ湾を大きく包む擬似GN粒子の大量散布領域が見える。

巨大なジャミングフィールド―――いや、『ステルスフィールド』。

……その機能を持つモビルスーツはこの世に唯一のみ。

 

「スローネ……ドライ…。ネーナなのか?」

 

可能性は最も濃い。

ネーナ・トリニティ。

4年前では【ガンダムスローネ ドライ】のガンダムマイスターとして活動していた『チームトリニティ』の末っ子。

そして、俺やレナと共に行動し、トリニティはネーナを残してこの世を去った。

唯一残ったネーナは『フォーリンエンジェルス』の最後の戦いには参加しなかった。

 

だが、だからといってレナと一緒にいるとは限らない。

俺は4年間レナ達には会っていない。

必要以上の連絡は交わさない今の関係ではあいつらの現状は把握出来ない。

ただ、もしスローネ ドライに乗っているのがネーナなら、彼女は今実行部隊を妨害することでアロウズの邪魔をしていることになる。

……少なくともレナの行動と一致するところがある。

 

「誘い出されているのか……レナに」

 

憶測だが、的外れではない筈だ。

マネキン大佐からの返信がない。

さらにベーリング級海上空母の位置も分からないので本来は音信不通だ。

……幸い、俺の手元には仕組まれたように母艦の座標がある。

 

口外は禁じられているからカタギリ司令には伝えられなかったが。

相手がレナならリボンズにも伝えられない。

母艦の位置を把握しているため、母艦は人質に等しいが、レナなら命までは奪わない―――と考えるのは迂闊だ。

今のレナはサーシェスを殺そうとした奴だ。

何をしでかすか分からない。

 

「はぁ……」

 

思わず深い溜息が出た。

レナの目的が読めない、何を考えてるんだ……?

 

「レイ、珈琲を持ってきた」

「あ、あぁ。ありがとう……」

 

頭を悩ませているとソーマが黒い液体が注がれたカップを俺に渡してくれた。

空席だった隣の席にソーマは腰掛ける。

 

「どうかしたのか?」

「いや……調べては見たが、肝心なところは何も分からなかった」

「……そうか」

 

わかってる。

ソーマが聞きたいのはそっちじゃないってことはな。

 

「それよりもうすぐペルシャ湾に入る。着陸に備えておけよ」

「分かっている」

 

話を変えて誤魔化すとソーマも察して頷いてくれる。

ただ、彼女の頭は俺の肩へともたれかかってきた。

本心は話してくれなくても、触れ合うことは許してくれとでも想いが伝わるように……。

 

「……楽しかったな」

「……あぁ」

 

この四日間、二人で過ごした日々を思い浮かべる。

久々に戦いから身を離し、幸福だと感じることの出来る時間を過ごせた。

それも、俺もソーマも想いが通じ合っていたからだ。

謹慎期間に抱く感想ではないのは承知だが、二人で過ごした時間は確かに楽しかった。

自然と隣合う俺とソーマの手が重なる。

 

「ダメだと理解していても、何気なくレイと過ごす日々が………また欲しくなる……」

「駄目じゃないさ。言っただろ、ソーマは兵器じゃないって」

「あっ……」

 

どうもまだ負い目を感じてるソーマが思い出したように声を漏らす。

身を起こし、震える瞳で俺を捉えた。

俺はそんなソーマの頬を撫でる。

 

「レイ……っ」

「恒久和平が実現したら……俺と暮らそう。ずっと一緒にいよう」

「……一緒に、ずっと…っ」

 

指先からソーマが歓喜に震えるのを感じる。

頬を桜色に染め、口元には笑みを作っていた。

俺の手が頬から顎へと撫で移るとソーマは目線を上げて、熱っぽく俺を見つめる。

そして、これからの行為を待つように瞳を閉じた。

 

「ソーマ……」

「んっ……」

 

ソーマの紅い唇が誇張される。

そこへ、俺のものを近付け―――息が混じり合った時、個室の扉が開いた。

 

「失礼します。デスペア大尉、ピーリス大尉。まもなくペルシャ湾に…………あっ…」

 

「あー……」

「~~~~~~~~っ!?」

 

報告に来た兵士に目撃される。

結局触れることのなかった唇を離し、俺はなんとなく頬を掻き、ソーマは恥ずかしさで目を逸らしてしまった。

心なしか入室してきた彼も気まづそうだ。

うーん……意外と邪魔って入るものなんだなぁ…。

 

「し、失礼しました!」

「あぁ。悪かったな」

「………っ」

 

敬礼をして足早に退室してくれたが、それじゃあやり直そうかとはならない。

ソーマは未だに頬を火照りを治めようと外を眺めている。

耳の方はまだ赤いな。

 

「ほら、ソーマ。もう行ったぞ」

「あ、あぁ」

 

俺に声を掛けられるとソーマは今にも燃えそうな程紅潮した顔をこちらへ向ける。

無意識なのか、口は手の甲で覆い隠していた。

 

「思わぬ邪魔が入ったな」

「……もう少しだったというのに」

「ははは……まあ仕方ないさ」

 

本音を言うと俺も惜しかったと思う。

出来るなら仕切り直しをしたいくらいだが、さすがにそういう気分にはお互いなれない。

だが、さっきより身を寄せることでお互いに接吻の欲求を埋めた。

ふとソーマの視線が俺の左腕に映る。

具体的には謹慎中に俺とソーマがこっそり抜け出して手に入れた、ペアのブレスレットだ。

ソーマの腕にも同じものが輝いている。

 

「レイ」

「んっ。なんだ?」

「その……さっきの、話だが……」

「ずっと一緒に……ってやつか?」

「あ、あぁ」

 

照れを隠せず、ソーマは自身のブレスレットに触れて落ち着こうとする。

言いたいことは大体分かる。

だから、俺から代わりに言葉にしてやろう。

 

「大丈夫。このブレスレットに誓うよ」

「あっ……」

 

ソーマの手を取り、額を合わせる。

ブレスレットに掘られた言葉を口に、強く指を絡ませる。

俺の言葉を聞いたソーマは安堵と共に底知れない歓喜にまたも震える。

触れ合っている手から、額から互いの熱が把握出来た。

熱い想いが交わっている……。

 

たが、俺達の意識は突如、窓の外の景色に奪われた。

嫌でも視界に入った空模様に俺もソーマも目を見開き、振り向く。

 

―――空が赤く染まっていた。

 

「これは……」

「4年前の合同軍事演習で見たGN粒子の波!?」

 

ソーマが乗り出すのも無理はない。

過去、およそ10回の武力介入で世界を混沌に陥れた『新型』のガンダム。

【ガンダムスローネ】の出現により、あの時も人革連は大きな痛手を受けた。

合同軍事演習は失敗し、各地のファクトリーは制圧。

俺もスローネに一度は殺されかけた。

 

「うっ……ぐっ…!あぁ……っ!?」

「ソーマ?」

 

突然、ソーマが頭を抑えて苦しみ出す。

俺も予想打にしてなかったので思わず見遣ったが、ソーマは膝から崩れ落ちてしまった。

 

「なっ!?おい、大丈夫か!」

「はぁ……はぁ……っ!デスペア、()()……!!」

「―――っ!」

 

倒れる寸前でソーマを支えると、苦しそうに表情を歪めながらソーマが呟いた。

俺の名だが、階級が今とは違う。

人革連時代の中尉のままだ。

……そうか、ソーマにとってはあの時、一度俺を失っているのか。

俺は殺されかけたんじゃない。

あの時、一度『死んだ』んだ。

 

「ソーマ……大丈夫だ。俺は、生きてる。生きてるから……」

「嫌、嫌ぁ……行か、ないで………っ!」

「分かってる。ソーマを置いていったりしないさ。……俺はここにいる」

「デスペア、中尉……」

 

なるべく優しく声を掛け、白髪を梳かすように撫で続けると呼吸の荒れていたソーマは落ち着きを取り戻し始め、目の焦点も徐々に修正されていく。

辛い過去(トラウマ)を思い出したソーマはゆっくりと呼吸し、俺を瞳に捉えた。

 

「レ、レイ……」

「あぁ。俺だ。大丈夫、傍にいる」

「今……私、は……っ」

 

動揺で揺れるソーマの黄色(おうしょく)な瞳。

ソーマの頬に一筋の涙が伝う。

それを感じたのか、拭ってみてソーマは困惑する。

どうやら俺が思っていた以上に傷痕は深いようだ。

 

「ソーマ、ごめんな」

「えっ?」

 

突然謝罪を口にする俺にソーマはさらに困惑する。

だが、俺は構わず続けた。

 

「あの時、帰らなくて……悪かった、で済むとは思ってない。でも俺のせいでソーマがこんなにも苦しんでるのを見てられない」

「その件はもう……」

「ソーマが許しても、俺が許せない。大切なソーマに辛い目に合わせてしまったから」

「レイ……」

 

愛する彼女を哀しませてしまった。

心に大きな傷を残してしまった。

ソーマの優しさに甘えるわけにはいかない。

 

「本当に、ごめん……」

「………」

 

ソーマが黙る。

怒っているのか、哀しんでいるのか。

表情は伺えない。

 

「ソーマ?」

「……レイが居なくなって、私は辛かった」

「……っ!」

 

我慢を解いた告白に俺も息が詰まる。

だが、顔を上げたソーマは不敵な笑みを浮かべていた。

これは俺も予想外だ。

 

「ソ、ソーマ?」

「この広域に散布されたGN粒子はガンダムによるものだ。帰艦命令は恐らく、私達に増援を求めているからだろう」

「あ、あぁ。そうだな」

 

さすがに俺も気付いてることをソーマは言う。

本題は、そこからだった。

 

「この任務、私と生きて帰ること……それで貴官を許す」

「えっ?」

 

俺の鼻を突くように指されたソーマの指先に目をパチクリさせる。

というかソーマが怖い。

 

「いいな?」

「あ、あぁ……」

 

圧に負けてなんとなく頷く。

俺が承諾するとソーマは「よし」と、相槌を打った。

その表情は何処か満足そうで……とにかくソーマは納得したようだ。

 

なんとかソーマも落ち着き、約束?めいたものも交わした。

4年前は破ってしまった『生きて帰ること』。

それをソーマと達成することで彼女が過去を乗り越えられるなら俺は喜んで生を優先しようと思う。

当然、ソーマも生きていなければ達成されない。

だから、彼女は俺が守る。

 

そう決意した頃には機体の高度が下がっていくのを感じた。

アナウンスも入り、俺達の母艦であるベーリング級海上空母も視野に入る。

機体は車輪を展開し、滑走路に着陸する。

ただ……着陸する直前まで何故か艦の方は準備が為されていなかった。

まるで俺達が来るのを知らなかったかのように機体の光通信でやっと滑走路を空けてくれた。

まさか、な……。

 

「行くぞ」

「あぁ」

 

『────────────』

 

機体からソーマの手を引いて降り、艦内へと向かう。

上空には2機のガンダムがこちらを見下ろしているが、どうやら攻撃の意思はないようで微動打にしない。

GNステルスフィールドを展開する【ガンダムスローネ ドライ】と恐らくその護衛の役割を担う【ガンダムプルトーネ ブラック】だ。

まあプルトーネの方は俺が知ってるものより随分と重武装(ヘビーウェポン)だが。

母艦だけでなく、辺りの海面からも黒煙が上がっているところを見るに、戦闘は既に終了しているのか?

海に浮かぶアヘッドとジンクスIIIも目に映る。

 

「ガンダムの接触がないから着陸に移ったが……ほんとになんもしてこなかったな」

「ここまで徹底的にやられているのに母艦はやられていない。奴らの目的は一体……」

 

そうなんだよな。

ソーマの言う通り、ベーリング級海上空母は武装を全て失っていた。

ビーム痕から敵の粒子ビームを受けたと見ていいだろう。

抉れた角度から、恐らくは上空からの……というよりかは遠方からの狙撃によるものだ。

格納庫も傍目に見たが残存するMSはない。

なのに艦は沈んではいない。

だから、ソーマの言いたいこともわかる。

相手の目的が読めない。

 

「失礼します」

『入れ』

 

司令官室の扉にノックすると凛とした女性の声が響く。

ソーマと顔を見合わせて入室すると、指揮官席に座する女性―――カティ・マネキン大佐はレンズの奥で細い目を俺達に向けた。

正直、想像していた以上に周囲はお通夜のような重い空気が漂っている。

 

「よくぞ来たな、大尉」

「いえ。任務ですので」

 

手始めに労うマネキン大佐に俺とソーマは敬礼で返す。

直後、彼女は細い目をさらに鋭くした。

 

「それで?何故貴官らはこの非常時に駆け付けてくれた?そもそもどうやって我が艦の位置を……まさか、この危機を知って来たわけではあるまい。どのような偶然が重なればこうなるのかは分からんが、正直助かったとだけは言っておこう」

「えっ?マネキン大佐が帰艦命令を下したのではないのですか……?」

「なんだと?」

 

諦め半分な所に俺達が奇跡的に駆けつけた。

そう口にしたマネキン大佐に、ソーマは矛盾が発生して首を傾げる。

確かに俺達は大佐に呼び戻された。

ただ、繋がりのない俺の端末に通達が来たんだ。

 

「大佐。その件につきましては私から説明させてください」

「……何か知っているというのか」

「はい」

 

正確に言えばほぼ明確な推測だが、まあ問題は無いだろう。

躊躇もなく頷く。

 

「今朝、私の端末に大佐からの司令が届きました。ですが、大佐は私の連絡先を知らないはず」

「……あぁ。私が司令を下すのであれば、ピーリス大尉に伝令を通達するだろう。最も、貴官らの謹慎はカタギリ司令以外に解くことはできんがな」

 

承知の上だ。

俺とソーマは既にカタギリ司令からの許可が降りて、マネキン大佐を経由して伝達してきたのだと最初は考えた。

後からカタギリ司令に話を聞いたところ、噛み合わなかったがな。

その時点で司令からもベーリング級海上空母の捜索を頼まれた。

まあこれも例の如く本当は知っていたが。

 

「続けろ」

「はっ。GN粒子の広範囲散布によってペルシャ湾全域は通信遮断領域なっています。そもそも大佐が救援を呼ぶことは不可能に近い……」

「確かに、今朝の時点で我々は既にジャミングフィールドに覆われていた。もしや知っていたのか?」

「……えぇ、まあ」

 

その程度なら『ヴェーダ』で検索すれば最新情報で出る。

端末じゃ情報規制のせいで見つけられないからな。

 

「なら一体誰が大尉らを呼び寄せたのだ……?」

「推測ですが、恐らく―――敵です」

「なに!?」

「なっ……!」

 

俺の話を聞いて密かに驚愕していたソーマが思わず俺の方を見遣る。

マネキン大佐も目を見開いた。

だが、簡単な推理だ。

俺達の謹慎は解けていなかった。

こっちからカタギリ司令に連絡して捜索部隊に含まれたのだから確かだ。

さらにこの艦からの連絡はできない。

ならば―――ベーリング級海上空母の位置を把握し、尚且つ俺とソーマ……いや、俺をここに呼び寄せられるのは一人しかいない。

 

―――レナだ。

 

「そして、敵の狙いも恐らく俺です。大佐、どうか出撃許可を。この状況から解放されるには相手の思惑に乗るしかありません」

「……しかし」

 

マネキン大佐が顎に手を当てて思考に耽る。

冴える人だ、もう俺の推測など見破っている。

ただ引っかかる点があるとすればレナを知らないがために敵が俺を呼び寄せた……いう点は首を傾げるだろう。

そこは俺を信じてもらうしかない。

 

「………」

「………」

 

状況を見据え、思考するマネキン大佐。

そんな時、一つの伝令が入る。

 

「た、大佐!上空にいたガンダムが撤退を開始しました!」

「なに!?」

 

レナ達が動いた?

上空に構えていた機体となると……スローネ ドライとプルトーネ ブラックか。

多分パイロットはネーナとレオだ。

確証はないけどな。

 

「さらに粒子ビームが来ます!」

「なんだと!?回避しろ……っ!」

「それが、照準が全くあっていません!」

「なに……?」

 

マネキン大佐がさらに困惑する。

禍々しい赤い光が母艦の目の前を過ぎる。

一筋だけでなく、視界を覆うほどに連射させた。

 

……誘い出しているのか。

 

「外した?」

「いや、撤退したガンダムとは逆の方向からの狙撃だ。それにこれは……」

「わざとか。まさか本当だというのか?デスペア大尉」

「……はい」

 

再度深く肯定する。

顔を顰めたマネキン大佐だが、暫くして諦めたように溜息をつく。

 

「生存者を回収し、ロストしたグッドマン大尉の捜索を開始せよ。ブシドー機には帰艦命令を出せ!デスペア大尉は敵のガンダムの注意を引け、どうせ誘い出されているのだろう?ならば乗ってやる。やれるな?」

「無論です」

 

艦内に的確に響く司令、俺を試す大佐は満足な回答を得る。

空の敵機が撤退した今が好機。

マネキン大佐は母艦の撤退までの算段を付けた。

艦の武装はないから当然の判断だといえば、そうだがタイミングを計るのは重要だ。

今回は相手側に踊らされているようなものだがな。

 

「マネキン大佐、私にも出撃許可を……!」

「ダメだ。ピーリス大尉は母艦の護衛を務めてもらう」

「お願いします。行かせてください!」

「ソーマ?」

 

格納庫へ向かおうとしていた足を止めて彼女を見る。

マネキン大佐に必死に食らいついていた。

なんでそこまで……と思ったが、俺と目が合った。

不安げに一瞥して、再度大佐に懇願する。

 

「お願いします、マネキン大佐!」

「………」

 

マネキン大佐は少し考え込む。

上空の敵機が撤退したとはいえ、戻ってこない可能性がないわけではない。

さらにブシドー機が今さっき帰艦したみたいだが、どうやら粒子ビームとは真逆の方角から来たようだ。

ということは敵は少なくとももう1機いることになる。

 

俺は粒子ビームの方へと向かう。

故に必然的に残ったソーマが母艦の護衛をするのが適切だろう。

だが、ソーマだってそんなことはわかってる。

分かった上で俺を一人で出撃させたくないんだ。

また失うのが怖いから。

 

「マネキン大佐。俺からもお願いします」

「……っ!」

「何?」

 

ソーマの隣に並び、俺も懇願する。

すると、マネキン大佐は一瞬顔を顰めたが、何かを察してくれた。

そのおかげか、小さく笑みを作って承諾する。

 

「……いいだろう。デスペア大尉は敵機の気を引き、ピーリス大尉はグッドマン大尉の捜索をせよ。ミスター・ブシドー……母艦の防衛を頼めるか?」

 

『―――その旨を良しとする』

 

モニター越しにブシドーが目を瞑り、仕方が無いというように承諾した。

珍しいな。

ガンダムと対峙しない指示には従わないと思っていたが……。

 

『手合わせを拒まれたのでな』

 

尋ねてみたらそう返された。

まあさすがにこれだけの危機の中なら艦隊の防衛を優先してくれるらしい。

ブシドー機が再びテイクオフし、俺とソーマは格納庫に現存していた各々のアヘッドに乗り込む。

 

「作戦を開始する!」

 

そして、マネキン大佐の宣言を合図に俺とソーマは出撃した。



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兄妹衝突

GNステルスフィールドが覆うペルシャ湾。

その範囲を抜けたところにある孤島で、ネルシェン・グッドマンは大破と共に墜落した自機のコクピットからようやく脱出に成功する。

足場を駆使してこじ開けた先には、空から舞い降りる【ガンダムサハクエル】が、翠色の瞳で彼女を見下ろしていた。

その姿を目にして、ネルシェンは鋭く睨み付ける。

 

「貴様……っ!なぜトドメを刺さん、私を侮辱するつもりか……っ!!」

 

4年前、『フォーリンエンジェルス』にてネルシェンは絶対的な自信のあった己の強さを【翼持ち】によって完膚なきまでに淘汰された。

故に彼女はこの四年間、己が腕を磨き続けてきた。

全ては愛する者のために。

必要な力を取り戻す―――否、新たな力を手に入れるために。

だが、ようやく宿命の相手と合間見えたというのにその機動を目に焼き付けることもなく、意識を取り戻した頃には既に空を見上げていた。

 

完敗した。

またしても完膚なきまでに淘汰された。

だというのに―――戦場で気を失っても尚、彼女の心臓は安定に心拍し、現存していた。

これは、耐え難い雪辱だ。

 

「私を斬り裂き勝利を掴み取れ!貴様にはその権利がある筈だろう……!」

 

『そんなもの、求めてないよ』

 

「なに!?」

 

ネルシェンの激昴に対し、【翼持ち】のサハクエルからは穏やかでいて、しかし芯のある声音が響いた。

4年前、少女であった彼女と対峙したことのあるネルシェンは彼女の言葉を信じられないと、目を見開く。

 

「今更冗談を抜かすな!貴様は私と同じ……他者を淘汰し、その強さを以て為したいことを為す筈だ」

 

『………』

 

バイザーの奥でレナ・デスペアは押し黙る。

ネルシェンの叫ぶ通り、以前の彼女は『奪い合いの連鎖』を断ち切るためならば、どんな力でも行使した。

淘汰し、力を奪い、圧倒的な強さで抑え込む。

『フォーリンエンジェルス』でネルシェンと剣を交わらせた時も、そうだ。

レナにとってその過ちは指摘されても言い返す材料を持ち合わせていない。

だが、それでもハッキリと断言出来ることはある。

 

『確かに私は……貴女と同じだったかもしれない。でも、気付いたの。ただ犠牲を出さないだけの力の行使は、奪うことと一緒だって。本当に必要だったのは―――お互いに理解することなの』

 

サハクエルのコクピットハッチが開放される。

そして、姿を晒したのは肩まで伸びた黒髪を持つ少女。

4年前にネルシェンが目に焼き付けた好敵手の顔。

色彩の瞳で見下ろすレナにネルシェンは目を見開く。

次の瞬間、鋭い眼光と共にホルダーに手をかけたネルシェンだが、僅かに走った一閃の弾丸によってそれは弾かれた。

 

「くっ……!」

『……銃は要らない。私は、貴女を知りたい』

「何?」

 

目に追えない早撃ちを披露したレナも銃を自ら捨てた。

さらに彼女の言葉にネルシェンは思わず顔を顰める。

 

「どういうつもりだ?私を知るだと……?何が目的だ」

『私は貴女のことを何も知らない。強さに執着する理由も、戦う理由すらも』

「知ってどうする?戦場でいちいち相手の事情を考慮する気か、そんなことをしていてはキリがない!」

『それをしないから哀しいすれ違いが起こる』

「………」

 

ネルシェンが睨むがレナは断固として譲らない。

彼女は人類が無視してきた問題を突きつけ続ける。

だが、互いに譲れないものはあった。

 

「仮に。貴様の言う通りだったとして、私が戦いをやめる理由にはならん」

『……っ!どうして?』

「貴様を超えた先に私の欲するものがあるからだ」

『えっ?』

 

ネルシェンは至って真剣に、力のこもった声音で断言する。

意味を与することが出来ないレナは顔を顰めるが、対する彼女は構わず続けた。

 

「貴様を淘汰し、私は手に入れる……。故に貴様が生きる限り、私の戦う理由はそこにある」

『な、なにを……』

 

指で差されるレナはただ困惑する。

ネルシェンの言葉の真意に汲み取れない部分があった。

しかし、このまま彼女との対話をやめてしまえば、何も変わらない。

レナは必死に思考を絞り出し、ネルシェンの言動を脳内で反復すると、ある事に気付いて顔を上げた。

 

『―――ナオヤさんのためじゃないの?』

「…………」

 

純粋な疑問をレナはぶつける。

以前、ネルシェンはナオヤ・ヒンダレスという一人の男の人生の為に己が人生を掛け、不要なものとしてナオヤを切り捨てていたイノベイターから彼を守ろうとした。

だが、今の彼女は完全に私情で戦場に身を置いている。

あくまで『レナを超えた先にあるもの』を求め、何かまでは断定できないが、自身の利益を望んでいる。

レナの問いを聞いたネルシェンは一度石のように目を見開いて固まった後、一瞬だけ目を細め、吹き出すように口元を緩めて笑った。

 

「ふっ、ははははははは!何を言い出すかと思えば、まさか貴様に指摘されるとはな」

『どういうこと?』

 

いきなり参ったとでもいうように頭を抑えて笑い出した彼女にレナは特段面白くもなくさらに表情を顰める。

だが、ネルシェンも面白い訳ではなく、即座に殺意を込めた眼光に変え、レナを捉えた。

 

『……っ』

「分からないならば教えてやる。理解し合うだと?笑わせるな。私から全てを奪ったのは他でもない、貴様だ……っ!」

『私……っ?』

 

瞠目するレナ。

未だに理解できていない彼女にネルシェンはさらに睨みを効かせて続ける。

 

「もはや私に残されたものは何も無い。この肉体ももはや私一人の意思の元にはない。だから、貴様を倒す必要がある。私に本来あるべき強さを取り戻すため……いや、更なる強さを求めてな」

『強さを手にして、何をするの!?』

「決まっている。私の全てを取り戻す。そして、守り続ける」

『それじゃ奪い合いが終わらない!』

「ならば奪われたままでいろというのか!そもそも貴様は、相互理解を押し付けながら現に私を見下す位置にいる。それは私にとって最大の侮辱だ……っ!!」

『……っ』

 

思わず息を呑む。

確かにネルシェンの指摘通り、レナはサハクエルのコクピットから彼女を見下ろす形で対話していた。

他意はない。

レナに傲慢な態度があったわけでも。

ただこれから来るであろう人の為に用心していただけだった。

だが、それだけのことが既にネルシェンと向き合えていない証拠でもあった。

 

ネルシェンは過去にレナによって負けている。

誇張していた強さはねじ伏せられ、【翼持ち】によって淘汰された。

これほどに強さに執着する彼女を、負かしたレナが見下ろすことが何を意味するのか、考えればすぐにわかった事だ。

しかし、レナの意識は若干他者に向いていたがために疎かになり、それをネルシェンは看破したのだ。

 

『ち、違……っ!私は―――!』

 

指摘されて狼狽するレナだが、ここで退るわけにはいかないと食ってかかろうとする。

だが、そんな彼女を阻むかのようにサハクエルが接近する機体を捕捉し、警告した。

レナは無意識にそちらに意識を取られ、ハッとしてネルシェンに視線を戻す―――が、既に彼女は背を向けていた。

 

「ま、待って……!」

 

「………」

 

ヘルメットを取り払ってレナが呼びかける。

ネルシェンは一度足を止め、彼女を一瞥したがすぐに歩みを再開し、現場を離れていった。

 

「……っ、私は……」

 

彼女を追うか、それとも兄を選ぶか。

レナは迷った末にサハクエルに乗り込む。

ヘルメットを被り直し、レバーを握った。

 

『サハクエル、飛ぶよ』

 

レナに呼応するかのようにサハクエルが双翼を展開し、浮遊する。

そして、ペルシャ湾から飛来するアヘッドがモニターに捉えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸地に近い孤島。

そこに1機だけモビルスーツの反応があった。

俺を待ち受けていたのは生物的な双翼を広げる【翼持ち】のガンダム。

―――サハクエルだ。

ちょうどGNステルスフィールドの範囲を抜ける。

 

「やはりレナか……」

『レイ。孤島に生体反応が』

「……!ネルシェンか、そっちは任せていいか?」

『あぁ。だが、一人で【翼持ち】と……』

「心配するな。あっちは俺一人をご所望だ。それに、俺もあいつに用がある」

『……?』

 

ソーマが首を傾げるが、こればっかりは説明できない。

ただ俺はレナに尋ねなければならないことがある。

俺には対峙する理由があるんだ。

 

『グットマン大尉、今……そちらに』

 

「………」

『───────』

 

【翼持ち】―――サハクエルへと接近する俺のアヘッドを一瞥するソーマは、生体反応を追っていく。

既にネルシェンとの連絡は取れているようだ。

眼下には大破したネルシェンのアヘッド。

アロウズの最新鋭機を瓦落多に変えてくれたサハクエル、レナを俺は睨む。

 

『レナなのか?』

『……そうだよ』

 

ほぼ確定ではあったが、一応尋ねてみた。

肯定したレナと通信が繋がり、モニターにヘルメット越しの顔が映る。

随分と……久しぶりの対面だ。

 

『レナ。どういうつもりだ?アザディスタン再編の妨害。アロウズの実行部隊への攻撃。聞きたいことは山ほどある』

『……うん』

 

なんだ?

妙に覇気がないな。

ここ最近のレナの行動は間違いなく連邦の邪魔になっている。

恒久和平を乱す行為だ。

何か考えがあるのか、それかただとち狂ったか。

ハッキリさせる為に俺はここに来た。

だが、今対峙してるレナはそのどちらにも見えない。

 

『どうした?俺を呼び出しておいてその態度はどういうつもりだ?』

『うん。ちょっと、ね』

『……?』

 

何か思い詰めるように視線を逸らしたレナは一度目を瞑り、今度こそ俺と向き合う。

 

『私が連邦の妨害をするのは……連邦が間違ってるからだよ』

『何?』

 

口を開いたかと思えば意味のわからないことを言い出した。

連邦が間違ってる?

確かに虐殺行為は許容できないが、レナの言葉はもっとこう……連邦の行動そのものを否定しているように聞こえる。

いや、実際そうだ。

俺には何故か確信がある。

 

『どういうことだ?恒久和平はイオリアの計画にも含まれてるだろ。それにイオリアは紛争根絶に特に着目してる筈だ。間違いである筈がない』

『問題なのは手段だよ。今日、改めて気付いたの。武力を……力を行使して出来ることはやっぱり奪うことだけだって』

『何を、言ってるんだ……?』

 

なんだ?俺の理解力が足りないのか?

レナが何を言ってるのか本当に理解できない。

それでも構わずレナは決心したような力のこもった瞳で俺を見つめる。

……武力を使うこと自体が間違ってるとそう、言ったのか。

ありえない。

なら何故ガンダムは生まれた?

何故ソレスタルビーイングは生まれた?

それは、紛争根絶の為に世界を淘汰する必要があるからだ。

 

『ありえない。計画に武力は必ず付いてくる。戦争を根絶する為に……!そして、俺達の理想―――恒久和平の犠牲を生まないためにも!』

 

そうだ。

誰の命も落とさせない為に、犠牲を生まない為に力を行使する必要がある。

実際、そうしてきた筈だ。

―――俺達は。

 

『お兄ちゃんは間違ってる。力でねじ伏せようとするのは間違いだってなんで気付かないの?』

 

だというのに、レナは否定する。

俺達二人で掲げたものを絶対に否定してはいけないレナが。

何故だ。

まさか、後悔してるのか?

4年前の『フォーリンエンジェルス』で目的を達成できなかったことが……だとしたら。

 

『そうじゃないだろ!あの時は俺達に力が足りなかっただけだ……!』

『違うよ。理解しようとせず、ただ支配下に置く……それで本当に幸せな世界が作れるの?』

『なら犠牲が出てもいいって言うのか!?支配されて恒久和平になるならそれでいいじゃないか。誰の涙も流れない!!』

『お兄ちゃん……?』

 

レナの目が見開かれ、瞠目する。

何かに衝撃を受けたように、やがて哀しむように目を瞑った。

再度瞼を開いた時には眉間に皺を寄せて怪訝さを滲ませる。

 

『ソレスタルビーイングを退け、カタロンを無力化して解体させる。そして、アロウズによる統治で戦争が終わる。俺達イノベイターが世界を導くことで犠牲のない恒久和平が達成される!』

『そんなの間違ってる!』

『何が違う?何故違う!これが俺たちの追い求めた理想形だろ!レナ!?』

 

俺の言葉をレナが否定し、俺は想いを叫び返す。

間違いなく俺達二人で4年前に掲げたものだ。

犠牲のない恒久和平……それを達成する為に俺は戦い続けてきた。

そして、この四年間でようやく答えを見つけたんだ。

それが間違いだなんて……言わせるものか……っ!

 

『じゃあなんでリボンズさんと話さないの?』

『……っ』

 

たった一言。

放たれた指摘に息が詰まるのが分かる。

その隙を逃さずレナは続ける。

 

『リボンズさんは虐殺を許容している。全て吹き飛ばすことで統一ではなく、画一しようとしてる!お兄ちゃんはそれを認められるの!?』

『そ、それは……』

 

確かにリボンズは犠牲を厭わない。

アロウズの虐殺行為を容認し、裏で手を引いているのはリボンズだ。

俺はそれを知っていて、手を尽くしてきた。

リボンズの目を掻い潜ろうと……結果を出した時、いつかわかって貰えると信じて。

そうだ、その為にもまずは俺が行動と結果を示さなければいけない!

 

『そんなの……俺がなんとかする!俺が上手く立ち回れば、なんとかなる!俺とリボンズの目的は同じなんだ。結果が良ければリボンズも後から納得してくれるはずだ!』

『そうやって話し合うことを避けようとする!今のお兄ちゃんは力でねじ伏せるのが楽だから、そっちを選んでるだけ。考えることを放棄して世界を変えようだなんて……傲慢過ぎるよ』

『……っ!』

 

冷たく言い放つレナが目を細めた。

背筋まで凍てつくのを感じる。

 

『お兄ちゃんがやり方を変えないなら、お兄ちゃんの望むものは間違ってると私は思う。必要なのは人と人とが分かり合える道、だから―――!』

 

レナの瞳に力が込められたと同時、サハクエルが羽ばたく。

そして―――。

 

『私はお兄ちゃんを――討つ!』

 

サハクエルのバスターライフルの銃口が向けられる。

こいつ……!

 

『なっ!?』

 

右翼から引き抜かれたバスターライフルから赤黒い粒子ビームが飛来し、俺はアヘッドの操縦舵を操り避ける。

レナのやつ攻撃してきやがった……!

 

『やめろ、レナ!』

『……っ!』

 

アヘッドのGNビームライフルを構えて威嚇する。

こちらの銃口もサハクエルを捉えていた。

だか、だからこそスコープ越しにそれを目に焼き付けることができる。

―――サハクエルの腰部から展開された未知の砲口を。

 

『なに!?』

『狙い撃ちっ!』

 

腰部に展開されたビーム砲から放たれた赤黒い粒子ビームが二閃、空を裂く。

視界右から来るものは避け、左から来るものはGNシールドを犠牲に防いだ。

 

『ぐっ……!』

『――フルバースト』

『なっ……』

 

レナの呟きと共に展開される武装がウィングバインダーから稼働するのがわかる。

おいおい、一体いくつあるっ言うんだ……!

姿を見せたのは更なる新装備、ウィングバインダーから出現した俺の知らない二対のビーム砲。

当然、その砲口は俺のアヘッドを捉えている。

 

『狙い撃ちっ!』

 

レナの叫びと共に肩のビーム砲から放たれた赤黒い粒子ビーム。

マズい、回避行動の後じゃ―――!

 

『ぐああ……っ!?』

 

GNビームライフルと左肩部が粒子ビームに貫かれた。

マウントしていたGNビームサーベルが狙いか。

こいつ、とことん武装を……っ!

 

『いい加減にしろ、レナ!!』

 

残った右肩にマウントされたGNビームサーベルを抜刀し、刃を生成して構える。

すると、サハクエルも右肩から右手にGNビームサーベルを抜き、一気に推進してきた。

 

『はあっ!』

『ぐっ……!』

 

加速を掛けたサハクエルとの衝突になり、両者共に衝撃で機体が弾かれる。

少しの間、間合いができた。

これを利用して体勢を―――と考えたところで俺はそれが目に入る。

腰部にマウントされた柄に手を掛けるサハクエルが。

嘘、だろ……っ?

 

『……やあっ…!』

『なっ、あっ……!』

 

予測通り、腰部からGNビームサーベルを()()()()で抜刀したサハクエルが俺のアヘッドから右手ごと切断し、GNビームサーベルを奪う。

ビームサーベルと切断された部分は重力に従って破片と共に海に吸い込まれ、さらにサハクエルは上に振り抜いた体勢から右を振り落とし、アヘッドの頭部も斬り飛ばされた。

なんだこの接近での対応力は……!?

以前のレナとは違う!

 

『……っ!!』

 

それからは一瞬だった。

サハクエルは下げた左の刀身を再度下段から振るい、アヘッドの右腕奪い、また右の刀身を振り落としてアヘッド左腕奪った。

最後に右左を横ナギに払い、足を一本ずつ解体する。

GNビームサーベルによる赤黒い光剣の舞が一瞬にしてアヘッドをバラバラにしてしまった。

 

『そん、な……っ』

 

胴体を残したアヘッドが重力に従って落ちていく。

メインモニターをやられた俺は、砂嵐の中、微かに映る翠色の瞳に見下ろされながら振り抜いたGNビームサーベルを構え続けるサハクエルを最後に、地上へと墜ちた―――。




【解説】
前半については、
レナの問いに対するネルシェンの応え。
彼女が欲するものを理解したレナですが、未だに真意を汲み取れない部分がある……その真意とは、自信を超えた先にそれがあるというネルシェンの言葉です。レナにとっては何が何やら。ただネルシェンも自身と向き合おうとしないレナに敢えて詳細に説明はしなかった、という場面になっています。

後半では、
レイの想いを知ったレナが彼の思考の変化に気付き、戦意を削ぐ為に淘汰する。
という場面ですが、これによりさらにレイの感情を激化する……というのが次回になります。

ちなみに書き溜めはもうありません。


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共に生きてる

主人公の傲慢諸々ここが最高潮です。


暗くて静かだ。

俺は艦内の自室で一人、何をする訳でもなく床を見つめていた。

 

「………」

 

脳内に過ぎるのはレナの言葉とサハクエルの姿。

話し合いだとか人と人とが分かり合える道だの言って、結局は力でねじ伏せてきたレナの考えがまるで読めない……。

 

「クソ……ッ」

 

目を瞑れば俺を見下ろすサハクエルの翠色の瞳が瞼の裏に映り、こべりついたそれは全くといっていいほど取れない。

ベーリング級海上空母への攻撃を行ったレナが駆るサハクエルに俺は淘汰された。

さらに共に掲げた理想、犠牲のない恒久和平をよりによってあのレナに否定された。

何故だ。

何故、こうなった?

分からない。

それが酷くもどかしくてイライラする。

 

「クソ……ッ!」

 

床に吐き捨てるように悪態をつき、拳に力が自然とこもる。

そんな時、艦内通信が届いた。

 

『デスペア大尉。至急、司令官室へ。先の作戦の報告をお願いします』

「……了解した。ご苦労だったな」

『はっ!』

 

伝令に敬礼で返して通信を切る。

……報告、か。

もう全て晒してしまおうか……なんてまだ冷静じゃないな。

少し頭を冷やしながら行くとしよう。

 

『デスペア』

「うおっ、びっくりした……」

 

突然通信が繋がったから驚いた。

なんだネルシェンか。

今しがた伝令を聞き終えたところだから油断してた。

それにしても珍しいな。

 

「どうした?出撃前と作戦後以外で接触してくるなんて初めてだな」

『……昨日の戦闘データを寄越せ。要件はそれだけだ』

「戦闘データ?」

 

モニター越しにネルシェンの顔を見遣る。

昨日行った戦闘といえばたった一つしか心当たりがない。

なにせ謹慎から解放されてすぐに作戦に投入されたからな。

 

「……まあ、別に構わないが。何に使うつもりだ?」

 

一応尋ねておく。

 

『試したいことがある』

「そうか」

 

目を伏せ、簡略的に答えるネルシェン。

詳しいことは言いたくないようだがそれでも答えたのは頼み事をする側だからだろう。

だが、やりたいことは大体わかる。

寧ろ俺も考えていたことだ。

部屋の端末に手をかけて操作した。

 

「ほら、送ったぞ」

『受け取った。……貴様も必要か』

「そうだな」

 

ほんと脳量子波使えないのか疑いたいくらい見透かすのが上手いな。

ネルシェンからアヘッドのメインカメラで撮った映像が送られる。

そこには俺の知らないサハクエルの武装が映っていた。

あいつ、他にも積んでたのかよ……。

それも誘導兵器か。

 

「すまん。助かる」

『奴を倒すのは私だ。そこだけは譲らん』

「あ、おい……!切りやがった……」

 

言い残すだけ残してネルシェンは一方的に通信を切断した。

勝手なやつだ。

それにしても……私が倒す、か。

心のどこかでそれを許している自分がいる。

いや、あいつはもう連邦の敵だ。

もはや恒久和平実現の妨害をする反乱分子、カタロンと同列にある。

あいつは俺の邪魔もした、それに明らかな敵意も存在する。

倒してもいい……とは何故か割り切れない。

それが俺の激情の大元だ。

 

「クソ……」

 

せっかく立ち上がったのに再度ベッドに腰を下ろす。

座った衝撃でギシリと響く音を耳に入れ、端末に映したサハクエルを見つめる。

すると、徐々に沸き上がる何かが俺の中で沸騰した。

 

「クソ……ッ」

 

自分自身でも、翼持ちに対して忌む視線を送っているのが分かる。

今の俺には翠色の瞳が悪魔の目に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「報告は以上です」

「そうか。下がれ」

「はっ!」

 

司令官室にて、マネキン大佐に報告を済ませる。

室内には俺と並ぶネルシェン、そしてマネキン大佐の隣に長椅子に腰掛けるリント少佐が嫌味な笑みを俺に向けていた。

 

「……何か?」

 

居心地が悪いのでいい方向に転ぶ訳がないが声を掛ける。

すると、リント少佐は眉を歪めた。

 

「いやぁ?これまで随分と好き勝手してきたライセンス持ちのデスペア大尉が……これまた随分な醜態を晒したものだと思いましてね」

「何?」

「やめろ、少佐」

 

マネキン大佐が宥めるもリント少佐は止める気がない。

肩を竦め、さらに挑発的な態度で俺を見る。

 

「これはもはや人類を超えた存在であるイノベイターという話も信じ難いものですねぇ。作戦の妨害に続きこの失態……連邦の盾となり矛となる我々アロウズの兵士ともあろう者が中々どうして……」

「………」

「おっと。怖いお顔だ。なんだ?上官に対して何か口答えでも?」

「やめろ!少佐。デスペア大尉も落ち着け!」

 

マネキン大佐の制止の声で溢れそうな感情を押し殺し、なんとか留まる。

だが、リント少佐は気にも止めない。

 

「モビルスーツ1機如きにこうも惨敗し、掻き乱されるとは……イノベイターもたかが知れますね」

 

鼻で笑い飛ばしたリント少佐の一言。

それが起因で俺の中の何かが切れた。

 

「……黙れ」

「はぁ?」

 

リント少佐はあくまで挑発げに耳を傾ける。

俺は彼との間合いを瞬間的に詰め、ナイフの刃先を少佐の首を充てた。

薄い肌に触れる切っ先は鮮血を一筋流させる。

リント少佐が目前に迫った俺に気付いたのは数秒してからだ。

 

「ひ、ひぃ!?」

「―――人間風情に下に見られるのは我慢ならないな」

 

怯える人間の目に金色の輝きが映る。

それでも容赦なく刃先を首に突きつけてやった。

身動きを取ろうにも抑え込んでいるから為す術はない。

首を動かそうとすればさらに刃は刺し込まれる。

たかが人間を封じるのはこんなにも簡単だ。

 

「デスペア大尉……っ!!少佐から離れろ!貴官は一体自分が今なにをしているのか分かっているのか!?」

「そ、そうだ!これは上官に対する―――」

「黙れ」

「………っ」

 

さらに刃先を動かし、鮮血が垂れる。

睨みを効かせると人間の男もついに力を抜き、俺を忌々しげに睨む。

……上官を完全に敵に回した。

だが、俺の立場が危うくなることはない。

寧ろこの人間の俺達に対する軽蔑は我らイノベイター総意で許容できないものだ。

俺達は人類の進化系、人類を超えた存在。

卑下にされるなんてありえないんだよ。

 

「グッドマン大尉!」

「……了解」

 

今まで傍観に徹していた女が五月蝿い女の指示で動き出す。

そして、俺を見遣った。

 

「近付けばもっと深く刺す」

「ならばそれよりも早く間合いを詰める」

 

警告に対して即答で淡々と返すネルシェン・グッドマン。

既にいつでも切迫できるように、瞳は獲物を狙う獣の如き俺を捉えている。

 

「……失礼する」

「ほう、やらないのか」

 

少佐を解放し、ナイフを仕舞うとネルシェンは挑発じみた視線を向けてくる。

だが、ここでこいつとやり合うのは不毛だ。

必要性を感じない。

 

「貴様がこうも態度に表したのは初めてだ。だからこそ、少しは期待したがやはり乗らないか」

「………」

 

ネルシェンの言葉を無視してオート式の扉に近付くと、俺に反応して扉が開く。

 

「デスペア大尉、どこへ行く?」

「大佐。奴がいようがいまいが次の戦術会議に支障はありません。放って置いてもいいでしょう」

「しかし……!」

「グッドマン大尉の言う通りですよ、マネキン大佐。彼はライセンサーですからねぇ。これまで通り、作戦なんて無視しますよ……ふんっ」

「私は大佐の指揮下に入ります。どうぞ、次のプランを―――』

 

一通り耳に入れてやった後、ネルシェンの言葉の途中で扉が閉まる。

それ以降の会話は聞き取れなくなった。

……アヘッドの様子でも見に行くか。

 

「チッ」

 

盛大に舌打ちを残してその場を去る。

俺のアヘッドは『翼持ち』に解体されて改修中だ。

今は修復が可能か整備班が検討しているだろう。

全く……ヴェーダに任せれば一瞬で解決するものを……。

骨が折れるな。

 

「アヘッドはどうだ?」

『ハッ。現在、切断部を確認しています』

「そうか」

 

格納庫に辿り着いて真っ先に近くにいた整備士を捕まえて尋ねたが、結果は予想通りだった。

クソ、じれったいな……。

 

「シミュレーションは動くな?」

『えぇ。それはもちろん』

「なら借りるぞ」

 

許可を得て四肢と顔面部のない俺のアヘッドに乗り込まさせてもらい、端末と接続してシミュレーションを起動した。

どうもむしゃくしゃして何かしてないと落ち着かないんだよ。

ここで発散しておきたい。

ま、どうせ後でやろうとしてたことでもある。

 

設定をアヘッドの標準武装にしてあとは状況を選択する。

5年前のガンダムのデータはほぼ軒並み揃ってるな……。

特にスローネ系列は随分と幅広く設定できる。

選択肢も細かい。

……が、それよりも目を引くものがあった。

 

「【GNR-01 GUNDAM SAHAKELL】……」

 

端末に保存されていた戦闘データの映像。

これには俺のアヘッドのメインカメラで撮ったものに、ネルシェンから貰ったもの、さらには【アルケーガンダム】から入手した映像データも含まれている。

このデータを元に用いれば『翼持ち』のシミュレーションをすることが可能になる。

 

「……武装さえ分かれば、俺は負けない」

 

そうだ、あの時は虚を突かれた上に4年前にはなかった新武装に戸惑ってやられたんだ。

戦闘になると分かっていて、武装を把握していれば技量は五分……いや、間合いさえ詰めれば俺が有利の筈だ。

とにかくあいつに完膚なきまでに淘汰されたこの苛立ちを晴らしたい。

 

「どんだけ誘導兵器積んでんだよ……」

 

愚痴を零しつつシステムにデータを入力してシミュレーションに新型の枠で【WING】を組み込む。

言うまでもないが『翼持ち』の意味を込めてだ。

操作して目の前に出現させると4年前からカラーディングを変えた『翼持ち』が姿を晒した。

青と白の塗装で翠色の瞳を俺に向ける。

 

「……ッ!レナ……!」

 

反射的に鋭い眼光を向けた。

こいつのせいで……俺達は多大な損害を受けて、戦力を失い、カタロンの軍事基地への追撃の絶好の機会を失った。

次に俺達が動くのは明日に来る海上空母艦に乗り換え、モビルスーツを一新してからだ。

その頃にはもうソレスタルビーイングが態勢を立て直しているだろう。

全て、こいつのせいで……っ!

 

「レナァァァーーーーーーーーーっ!!」

 

GNビームサーベルを抜刀してスラスターを噴かせる。

アヘッドの最大推進力を発揮してGNシールドを構えつつ接近した。

対する『翼持ち』のガンダムはGNバスターライフルを一丁こちらへ向ける。

 

「当たらねえ!」

 

放たれた赤黒い粒子ビームを避け、もう一丁から追撃される粒子ビームもGNシールドを横向きに投げてわざと当て、角度を変える。

これで間合いに入れる!

 

「貰った……!」

 

右肩にマウントされているGNビームサーベルも抜刀して振り上げる。

アヘッドと『翼持ち』のガンダムの間合いは一拍空く程のもの。

この距離なら恐らくアヘッドの腕を吹き飛ばそうとウィングバインダーか腰部からビーム砲を展開する筈だ。

それを切り落とせば近接で押し切れる!

 

『甘いよ』

 

「えっ?」

 

冷酷な一言が淡々と告げられる。

そうか、そういえば拾った声を元に自動音声も付けたな。

今思えば要らなかった―――そんなことより『翼持ち』のガンダムが武装を展開しない。

どういうことだ?このままじゃ腕を落としてコクピットを貫けば終わるが……。

最悪、後から展開されるビットで相打ちなら有り得る。

 

「なっ……」

 

だが、俺の予想は全て裏切られた。

『翼持ち』のガンダムは頭部に輝く銃口をアヘッドのメインカメラへ向ける。

 

『狙い撃ち』

 

「……っ!?」

 

またしても淡々と吐き出される冷たい吐息と共に『翼持ち』のガンダムの頭部からマシンキャノンの銃弾がアヘッドの頭部に撃ち込まれる。

断続的に破損していくメインカメラはすぐに暗転した。

 

「くっ……!」

 

しまった、視界を失った。

奴との対峙でそれが何を意味するのか俺は十二分に理解している。

こうなったら……っ!

 

「このまま押し切る!」

 

距離を取られる前に切り刻もうとGNビームサーベルを振るう。

だが、手応えのなさが一瞬で伝わった。

空を斬る軽みが背筋まで嫌な冷気を通していく。

 

「まさか―――!」

 

『フルバースト』

 

起動したサブカメラが見たこともないサハクエルの姿を目に焼き付けさせる。

それは、数えるのも嫌になる程展開された砲門、目で追うのも馬鹿らしくなる数のガンバレルとビットが全て俺を捉えていた。

そして―――。

 

『さようなら』

 

その一言でアヘッドは原型を崩され、木っ端微塵で空に消えた。

最後に確認できたのは三十を超える粒子ビームの閃光が一筋足りともコクピットを貫いていないことだけ。

 

「なっ……あっ……!?」

 

言葉が出ない。

なんだ、この化け物は!?

あんなもの撃たれたら小隊を三つは潰せるぞ!?

 

「だ、だが最大火力は分かった……今度こそ!」

 

そうだ。

危険なことは分かっていた。

その度数が上がっただけだ。

あんなもので為す術なくこちらの行動を止められては打つ手がなくなる。

もう二度と仲間を失わないためにもこいつを攻略しなければ守れない。

それに……犠牲のない恒久和平を実現させるために俺はもっと強くならなければならないんだ。

 

「だからこそ、お前を倒す!」

 

再度シミュレーションを起動して『翼持ち』のガンダムに仕掛けた。

今回はGNビームライフルを投げ、GNバルカンで奴の目前で爆発を起こした。

その隙にGNシールドも投擲し、GNビームサーベルを二刀構えて接近する。

 

だが、GNビームライフルでの爆破はウィングバインダーで防がれ、投擲したGNシールドはGNバスターライフルを二丁ドッキングさせたGNツインバスターライフルで破壊。

さらにウィングバインダーと腰部から展開した例のビーム砲で避けたにも関わらずこちらは破損し、その隙を利用して射出されたガンバレルとビットで対応に追われた。

結果、後からバスターライフルとビーム砲四門も加わってアヘッドは塵となる。

 

「つ、次こそは……!」

 

諦めずに所定の位置に戻して、今度は武装を増やして挑む。

それから4回。

……全て惨敗した。

 

「あぁ、クソ……っ」

 

さすがにこれだけ回数を積むと苛立ちを感じる。

なんなんだ、あの機動は。

距離を取られて勝てるわけがない。

必中狙撃を誘導兵器に追われながら対応するほど俺は器用じゃない!

というかあの弾幕にGNマイクロミサイルまで追加された時は本気で死を覚悟した。

イノベイターである俺が怯えるなんて……クソ!

 

「チッ」

 

やり返して気晴らしになるかと思ったが、GNバスターソードは圧倒的な火力で木っ端微塵にされる上に重武装(ヘビーウェポン)で挑んでも結局それが足枷になって誘爆で体勢を崩した。

とにかく手数が多過ぎる。

さらに恐ろしいのはこれで全武装とは限らないっていうことだ……。

ここまで戦った『翼持ち』のガンダムはあくまで過去3回程度の記録を元に設定されたものに過ぎない。

もしまだ隠された武装があるのなら……全く勝てるビジョンが見えない。

 

「はぁ……」

 

嘆息と共にシミュレーションを終える。

全周囲モニターが暗転し、景色が海上からいつもの格納庫に変わった。

すると、コクピット前にいる人影が目に入る。

 

「ソーマ……?」

『……っ。レイ?』

 

俺の声に反応したソーマが一拍遅れて顔を上げる。

軍服に身を包んでいるソーマはいつからか分からないがずっと待っていたようだ。

 

「すまない。気付かなかった」

「いや、私は大丈夫だ。それよりも……」

「あぁ……そういうことか」

 

心配そうに顔を覗き込んでくるソーマ。

そんな彼女を見遣って大体の事情を察した。

先程から周囲の視線が突き刺さるのを感じる。

つまり、リント少佐への行動が言い伝わったのだろう。

ソーマはそれを聞いてやって来た、と。

 

「別に大したことじゃない。誰に何を言われようと俺のやることは変わらない。ただ……少し気が立っていただけだ」

「そうか……。でも、レイは……大尉は少し、無理をしている」

「え?」

 

思わず反応する。

俺が無理を?

……心当たりがないな。

 

「無理なんてしてないさ」

「いえ、その……大尉は心のどこかで誰かを想ってる……その痛みが大尉を苦しめて……いる、気がする……。ごめんなさい、ただそれだけだ」

「……いや」

 

そういうことか。

どうやら俺はあいつに裏切られて随分と堪えてるらしい。

ソーマは脳量子波で悟ったんだろう。

 

「そうか。大体わかった。だが、もう解決したことだ。気にするな」

「え……あっ…」

 

レナは敵、それが結論だ。

ソーマから預かったタオルを返して格納庫を後にする。

戸惑いつつもソーマが俺を追い、俺は気にせず歩みを進めた。

 

「………」

「………」

 

暫く沈黙が続く。

俺はただ自室へ戻ろうと歩いているだけなのだが、ソーマもついてくるので随分と空気が重い。

……今は一緒に居たい気分じゃないんだけどな。

 

「大尉」

「……なんだ」

 

ソーマに声をかけられ、振り返る。

そこには5年前と比べて凛々しい表情を作るようになったソーマが、それでも俺より小さくて見上げていた。

 

「リント少佐との口論を聞いた」

「だから……どうした」

 

触れて欲しくない話題を出してきたので眉が少し揺れ、目を細める。

普段のソーマならそんなことはしない。

何か意味があるのだろうが俺は単純に苛つきを感じた。

まあ、聞くだけ聞いてやろう。

 

「なんだ」

「今日の貴官は何処かおかしい。いや、おかしいのは……再会してからずっとだ」

「なんだと?」

 

思わず顔を顰めてしまった。

俺は何処もおかしくはない。

確かに5年前とは違う。

今はあの時にはなかった理想がある。

だが、それも至って平和的なもので……誰もが望むもの。

それ以外はなんら変わらない。

 

「私の知らない間にデスペア大尉は変わってしまった」

 

だというのにソーマはそんなことを言う。

俺は、無意識のうちに眉間に力が入っていくのを感じる。

 

「貴方は他人を見下している。慕うべき仲間も……敵も……そして、私でさえも」

「なっ……!?」

 

俺が、ソーマを見下している……?

そんな……ことが…。

 

「そんなことはない!!」

「いえ、私にはわかる。脳量子波を操れる私なら、貴方の本心が……例え、それが無意識でも」

「……っ!」

 

何を言ってるんだ?

冗談を言ってる風ではない。

ソーマは至って真剣だ。

ならなぜそんな脈略のないことを告げだした?

心を読み取ろうとしても上手くいかない。

俺が取り乱してるからか。

それとも……。

 

「私は何もしていない。貴方は目を逸らしているだけ――」

「違う!」

 

俺に寄り添い、頬を触れようとしたソーマの手を弾く。

ソーマは驚愕し、目を瞠目させて俺を酷い表情で見つめる。

 

「俺は……っ、見下してなんかいない!俺は……俺達はイノベイターだ!!だから―――!」

「また、無理をしている……」

「―――っ!」

 

どれだけ狼狽しただろう。

目の前のソーマが恐ろしく怖い。

温かな手が俺の頬に触れ、その温もりに、彼女に全て委ねたくなるような不可思議な誘惑がある。

しかし、俺の思考はそれに対して必死に拒否反応を示している。

 

「俺…は………」

「レイは私に兵器でないことを教えてくれた。私が……人と変わらないことを。ならば、今度は私から言わせてもらう」

「なに、を……?」

 

嫌だ。

自分が自分でない感覚に襲われる。

これ以上は危険だ。

脳内でアラームが鳴り響いている。

誰かがここから逃げろと警告している。

だが、後退りしたところでソーマに手を握られた俺は……動けなくなる。

 

「レイも私も人と変わらない。己を卑下することも、何かを背負い込む必要もない。私達はこの世界を―――共に生きている」

「………っ!?」

「共に生きているからこそ、皆同じだ」

「おな……じ…?」

 

……違う。

違う、違う!違う違う違う違う!

俺達はイノベイター。

人類を超越した存在、選ばれた者だ……!

俺達こそが世界を変え、導くことができる。

だからこそ、この力で争いを無くす。

犠牲を生まずして理想を叶えるなんていう夢物語を語れる。

この力があるから……っ。

―――俺は、やれるんだ!!

 

「あ、あぁ……っ。俺、は……」

「レイ?」

 

歩き出そうとするが、足取りが酷く重い。

思わず壁に手を付き、ソーマが寄ってくる。

 

「レイ……」

「退け!!」

「……っ」

 

俺に触れようとするソーマを振り払って足を踏み出す。

思考が乱れる……っ。

なんだ、なんなんだこの感じは?

俺は何も間違っていない。

イノベイターだからこそ、力があるからこそ――。

 

……なのに、なんだ?

俺の中の何かが今の俺を否定している。

―――一体()()()()()()()!?

 

「俺は……俺は、イノベイターなんだ……っ」

「……レイ。まさか貴方も……」

 

視界が点滅する。

知らない記憶がフラッシュバックする。

映像が切り替わって上手く歩けない……っ。

 

 

クソ……。

また、あの……少女の涙か……。




諸事情により暫く投稿期間を空けさせて頂きます。


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喪失

友軍が到着した。

思えば随分とペルシャ湾に留まっていたが、これでようやく動ける。

実行部隊は大破した母艦から友軍を乗せてきたベーリング級海上空母に移動し、艦内にはMSも積んでいたため、先の作戦で損害を受けた機体は改修する必要はなくなった。

 

俺達が元に乗っていた艦に積まれてそのままファクトリーに帰投するらしい。

やれやれ……ここまでやってまだブリーフィングがあるのか。

悠長にしてるとカタロンに逃げられるぞ。

 

「やはりここに居たか」

「ジニン」

 

海を眺めているとジニンがやってきた。

そういやこいつに会うのも久々だな。

 

「招集だ」

「やっとか……」

「随分とせっかちだな、今日のお前は」

「寧ろなぜ焦らない。俺達は一週間近く足止めを食らったんだぞ?」

「悪いが俺は現場にいなかったんでな」

 

チッ。

気楽な奴だ。

俺達がどれだけもどかしい思いをしたことか……。

ソレスタルビーイングが地上にいる今、宇宙の方は大層暇だろうよ。

 

いや、こっちの戦力が地上に偏ってる分カタロンは宇宙での活動が活発になる筈。

その対応に追われる……と考えるとお互い様か。

……まったく、いっそのことイノベイターで統括すればいいのに。

リボンズのやつはケチり過ぎだ。

早くブリングかリヴァイヴか誰でもいいから寄越せ。

 

「そろそろ行くぞ」

「あぁ」

 

ジニンと共に甲鈑を後にする。

ちょうどその時、ソーマがこっちに向かってきた。

当然俺達と目が合う。

 

「あっ……」

「………」

「ピーリス中尉。いや、昇進して大尉となったのだったな。遅れて祝辞を送らせてもらう」

「あ、いえ。感謝します。ジニン大尉」

 

ジニンの祝辞に対して返礼を返すソーマ。

そういやこいつら階級が一緒になったんだったな。

俺もだが。

 

「それで、その……」

「行くぞ。ブリーフィングに遅れる」

「あっ……」

 

一声だけ掛けて館内へと向かう。

過ぎった俺に振り向いたのか、すれ違い様になびく白髪が見えた。

だが、俺は気にせず歩みを進める。

 

「なんだ?あいつ」

「……」

 

二人の視線を背に受けつつ、振り返りはしない。

別に昨日のことでソーマを嫌悪したわけではない。

ただ……俺の中で整理がつかないだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

指揮官であるマネキン大佐を筆頭にMS小隊隊員が一室に集められた。

どうやらまだカタロンは逃げ切っていないらしい。

4日間の遅れ、まだ間に合うか。

 

「監視衛星がソレスタルビーイングの所在を掴んだ。モビルスーツ隊には新たに戦術を―――」

「肩に動力のある2個付きのガンダムは私が相見える。干渉、手助け、一切無用!」

「何だと?」

 

ブリーフィング中、隅で傍観に徹していたブシドーが主張する。

随分と勝手な発言だが、こいつにはライセンスがあるからな。

一応は筋が通っている。

マネキン大佐は否定的なようだが。

 

「良いではありませんか、大佐。ライセンスを持つ噂のミスター・ブシドー、その実力……拝見したいものです」

「ご期待にはお答えしよう。然らば」

 

立ち上がり、発言したジニンの挑発にブシドーは目を瞑って許容し、退室する。

……中々面白いじゃないか。

ジニンのおかげで追求を逃れたブシドーに対して目を細めるマネキン大佐は、顎に手を当てて何やら思考している。

あの表情はこの状況を利用しようとしている顔か。

果たして何を持ち出してくれるのやら……。

 

「あの、デスペア大尉―――」

「ピーリス大尉、デスペア大尉。貴官らに頼みたいことがある。少しいいか?」

 

ソーマが俺の裾を掴んだと同時に大佐が俺達を見下ろす。

ほう、あれだけの口論を繰り広げてまだ俺を起用するか。

面白い。

 

「はっ、なんでしょう?」

「……」

 

少し口角を上げて姿勢を整える。

同時にソーマの手が力なく離れたのも感じた。

 

「ミスター・ブシドー。そして、グッドマン大尉を含め貴官ら特別小隊にはガンダムの各個撃破を担当してもらいたい」

「各個撃破……ですか?」

「つまり一人につきガンダムを1機仕留めろと、それが今回のノルマということですか」

「いや、モビルスーツ2機の支援は付ける。ミスター・ブシドーは不要なようだがな」

 

なるほど。

特別小隊を分担し、それぞれをリーダーとして他二人と小隊を組む、と。

確かに俺もネルシェンもガンダムを抑えつける力はある。

今までは4機による連携に苦戦したが、敵を分担すればそれも解決する。

さらに念の為のサポートがあるなら充分だろう。

 

まあミスター・ブシドーの分の人員を削減してもガンダムを実質4小隊で抑えることができる。

そうすれば必然的に二個小隊分の戦力が残る筈だ。

その分を―――。

 

「残りの二個小隊で敵艦を叩く。その指揮はジニン大尉、貴官に任せるぞ」

「了解しました。お任せを」

 

ジニンが即答する。

なんとも潔いな。

 

「貴官らも良いか?」

「構いませんよ」

「はっ!」

 

ソーマは敬礼し、俺も承諾する。

ブシドーは命じなくても勝手にダブルオーの相手をするだろう。

ここが……腕の見せ所だ。

 

「作戦を開始する!」

 

マネキン大佐のその一言でブリーフィングは終了した。

戦いが始まる。

各自、パイロットスーツに着替え、格納庫にてMS(モビルスーツ)に搭乗する。

アヘッドに乗り込んだ俺もすぐさまシステム全てに目を通した。

 

『太陽炉、マッチングクリア。システムオールグリーン』

『レイ』

『……なんだ』

 

作業を終え、端末から手を離すと共にモニターに人の顔が表示される。

特徴の腰まである長く艶のある白髪はパイロットスーツに呑まれ、ヘルメットのバイザーからは分けた前髪から垣間見える白い肌と小さく収まる輪郭、綺麗な橙色の瞳が映っている。

特別小隊の隊長、ソーマ・ピーリスだ。

俺の素っ気ない態度に彼女は困ったような表情を浮かべる。

 

『いえ、その……』

『何もないなら切るぞ』

『待って!』

 

一押しだけで繋がりを断とうとしていた指を止める。

目線を上げるといつになく不安げなソーマが俺の目を捉えていた。

 

『約束を……』

『はぁ?』

『いえ……やっぱりなんでもない』

 

なんだそれ。

言いたいことは大体わかる。

脳量子波でな。

だが、毎度同じものを交わす意味もないだろうに……。

ハッキリ言って時間の無駄だ。

 

『ふん』

 

通信を切って、全周囲モニターを起動する。

すると、格納庫の開け放たれたハッチから青い空が見えた。

操縦舵を強く握る。

各個撃破。

特別小隊の分担で例えガンダムを墜とせなくとも、二個小隊もあれば敵艦を墜とせる。

奴らが監視衛生に姿を晒したのはまだカタロンが逃げ切っていないからだ。

ならば、早々に後退はしない筈。

叩くなら―――この作戦が好機だ。

 

『アヘッド、レイ・デスペア!出る……!』

 

肩のスラスターを噴かせ、空に上がる。

周囲を見渡すと既にモビルスーツ部隊は陣形を組んでいた。

俺とネルシェン、ソーマが率いる6機のジンクスIIIに、2機のジンクスIIIを率いてるジニンらの小隊が二つ。

さらにブシドーのアヘッド・サキガケ。

これだけの戦力とマネキン大佐の戦術があれば、勝てる。

 

『監視衛生の捉えた敵艦の座標まで残り250。各機武装展開、戦闘態勢!』

 

ジニンの指示が届く。

アヘッドはGNビームライフルとGNシールドを構え、ジンクスIIIはGNランスを両手で持つ。

敵艦であるプトレマイオスの隠れる山脈まで数十分もすれば辿り着く距離だ。

奴らがモビルスーツを展開することを考えれば戦闘は海上となるだろう――――前方からの粒子反応……っ!!

これは……!

 

『狙撃か!』

『ぐああっ!?』

『なっ……』

 

ジンクスIIIが1機墜とされた!

なんだこの射程は!?

 

『【TRANS-AM(トランザム) SYSTEM(システム)】か……』

『……っ』

 

ネルシェンの忌々しげな呟きを拾う。

トランザム……そうか、ケルディムの射程をトランザムで伸ばしているいのか。

ならばやりようはある!

 

『各機散開せよ!制限時間まで迂闊に近付くな』

 

マネキン大佐からの伝達を受けたジニンが指示を叫ぶ。

その指示を受けて俺達は小隊ごとに散らばり、陸地からさらに距離を取った。

俺の後ろにもジンクスIIIが付いてくる。

だが、既に一個小隊が潰された。

 

『クソ……!』

『アヘッドの射程では届かん。制限時間を待つ他はない』

『わかってる!』

 

頭で理解はしていても焦るのは仕方ない。

どう考えてもこれは時間稼ぎだ。

現に迂闊に近づけない今、奴らの戦略は成功している。

その事実が酷く歯痒いんだよ……!

 

『あと大体何秒だ!?』

『……およそ30secondだ。安心しろ、今作戦の目的はカタロンの追撃から敵母艦の轟沈に変更された』

『それもわかってる!』

 

確かにソレスタルビーイングを先に破滅に追い込むとはいった。

だが、恒久和平の実現には必ずカタロンの解体が必要だ。

今は後者に最も都合のいい状況……ソレスタルビーイングに標的を変えて、「はい、墜とせませんでした」では話にならないんだよ。

 

『砲撃が止んだ!』

『全機、突撃せよ……!!』

 

ケルディムのトランザムが終了したのか、粒子反応が消える。

被害状況は……プトレマイオスに強襲する筈だった二個小隊のうち一個小隊とネルシェンの部隊が2機やられたか。

ということはネルシェンは単独でガンダムを相手にすることになる。

まあ、あいつの腕なら心配はないだろう。

 

『ガンダム2機、捕捉した。これより各小隊に別れ、ガンダムを各個撃破する!ドライヴ2つのガンダムは任せますよ、ミスター・ブシドー」

『望むところだと言わせてもらおう』

 

ジニンに対して挑戦的に返答するブシドー。

しかし、おかしいな。

ケルディムを除いて他に3機のガンダムが存在する。

だが、ジニンの発言の通りレーダーに捉えられる機影は2つのみだ。

戦闘開始の導入といい……これはスメラギ・李・ノリエガの戦術プランか。

となると残りの1機は……。

 

『我が隊の目標は羽付きだ!』

『了解です、中尉』

『遂にこの時が来たよ。ママ、パパ……』

 

ソーマの部隊が陣形から外れる。

レーダーに映る2機のうち1機に確かに頭角を露わにした先行する機体がいる。

どうやらこれが【アリオスガンダム】らしい。

超兵の為せる技でもある、か……。

ちなみにあいつの部隊にはアンドレイ少尉とルイス・ハレヴィ准尉が所属している。

 

『ガンダムを視認。全機、攻撃開始!!』

 

ジニンの合図と共に出現した2機のガンダム。

アリオスの他は【ダブルオーガンダム】か。

……待て、セラヴィーはどこだ?

 

『―――っ!海中から粒子反応!』

『ひっ!?うわああああーーーっ!?』

『デスペア大―――っ!!』

 

辛うじて俺は回避したが、海中から突如飛び出した粒子ビーム砲撃に俺に付いていたジンクスIIIが2機溶かされ、手脚の一部を残して蒸発した。

コクピットも消え、味方機の反応も消失する。

間違いなく絶命だ。

あの野郎……っ!!

 

『避けた!?』

 

『てめぇ!』

 

海中から【セラヴィーガンダム】が姿を現す。

何度俺の仲間を奪う気だ。

何度俺に恥をかかせる気だ。

また守ってやれなかった……!

重力に従うジンクスIIIの残骸を目に歯を食いしばり、セラヴィーを睨む。

 

『許さねえ!!』

 

『この感覚、またしても……!』

 

GNビームライフルから噴射された粒子ビームがGNフィールドに阻まれる。

フィールドを解いたセラヴィーはGNバズーカIIで俺のアヘッドを狙った。

当然、俺は飛来する粒子ビームを避ける。

 

『お前を墜とす!!』

『目標を破壊する!!』

 

互いに抜刀したGNビームサーベルを手に俺達は衝突した。

味方機との通信間で他の戦闘音を拾う。

ソーマは標的通りアリオスとの交戦に開始したようだ。

 

『この感覚!』

 

『被験体E-57!』

 

『まさか!う……っ、マリーなのか!?』

 

ブシドーはダブルオーに接近する。

飛来する粒子ビームを掻い潜り、激しく火花を散らしてぶつかり合った。

 

『あの新型は……!』

 

『射撃も上手くなった。それでこそだ!少年っ!!』

 

『くっ……!』

 

衝突の余波で互いに一瞬だけ退き、その隙でブシドーは己の身を酷使してダブルオーに蹴り込む。

そのままブシドーの優勢に持ち込んだ。

そして、ネルシェンは何故かハレヴィ准尉とアンドレイ少尉を連れてジニンの小隊の後に続くように敵母艦へ進行している。

 

『グッドマン大尉、ハレヴィ准尉が敵母艦に!そちらへ向かいます!』

『貴様がサポートしろ。私は山脈の影に隠れた機体を叩く』

『了解です!』

 

なるほど。

どうやらハレヴィ准尉の暴走に付き合わされているらしい。

ネルシェンは上手く流しているが、押し付けられるのが面倒なだけだ。

声に鬱陶しい感情が混じっている。

陸地に上陸すると、ネルシェンはすぐさま降下した。

 

『敵機を確認した。私が殺る』

 

「クソ!ハロ、敵が来る!」

『GN粒子チャージチュウ。GN粒子チャージチュウ』

「早くしろ―――ぐっ!」

 

ネルシェンの射撃を躱し、即座にGNビームピストルIIのブレード部分を展開し、GNバスターソードを振り下ろすネルシェンに対応する。

だが、その物量に堪えるので手一杯だ。

 

『増援はない。ここで貴様を狩らせてもらうぞ』

『ちくしょう……!』

 

火花を間にアヘッドとケルディムが競り合いを行う。

だが、肩のスラスターの推進力もあってアヘッドの優勢は誰が見ても明らかだ。

ケルディムの腹部にネルシェン機が膝部を打ち込む。

 

『ぐあっ!?』

『はあああ……っ!』

 

パイロットのライル・ディランディが怯んだ隙にネルシェンはさらにケルディムを蹴り飛ばした。

ケルディムは山肌に叩きつけられる。

 

『がは……っ!』

『落ちろ!』

『しまっ―――うああああああーーっ!?』

 

追撃とばかりにネルシェンはGNビームライフルで的確に照準を合わせ、ケルディムに粒子ビームを浴びせる。

引き金を引く手は止められる気配はない。

ケルディムはただ両腕で精一杯コクピットを守り続け、装甲は散弾で削られていく。

ふっ……まずは1機落ちたか。

 

『ケルディムが……っ!』

『お前の相手は俺だ!』

『ぐあ……っ!?』

 

仲間に意識を割いたティエリア・アーデの隙を突き、競り合いの最中、セラヴィーに蹴り込む。

セラヴィーは体勢を崩しつつもGNバズーカIIを2艇連結させ、ダブルバズーカの砲口で俺のアヘッドを捉えてきた。

 

『ハイパーバースト!!』

『当たるかよ!』

 

さらにGNキャノンII4門とも連結したダブルバズーカの砲口に、小型のGNフィールドによって粒子が収束され、放たれた特大の球状に圧縮された粒子ビームを俺は双眼を金色に煌めかせて回避する。

これにはティエリア・アーデも目を見開いた。

 

『外した!?馬鹿な……!』

『貰った!』

 

大掛かりなモーションを終えたセラヴィーにまたしても隙が生まれた。

俺はそれを見逃すほど甘くはない!

GNビームサーベルを手に一気に距離を詰め、セラヴィーの上から振り翳し、緋色の弧を目前で描く。

アヘッドのGNビームサーベルは丁寧にセラヴィーのダブルバズーカを切断した。

 

『しまった!ぐあ……っ!?』

『もう一撃!!』

 

ダブルバズーカが爆散し、それにより生じた爆風でセラヴィーは吹き飛び、体勢を崩す。

海上にて、奴は格好の餌となった。

GNビームライフルで照準を合わせ、引き金を引く。

 

『くっ……!』

 

追撃の粒子ビームはセラヴィーが咄嗟に展開したGNフィールドによって防がれた。

そのままGNキャノンIIの砲門が俺を狙う。

 

『チッ……!』

 

4門から放たれた粒子ビームは正確に回避ルートを塞ぎ、コクピットも捉えていた。

こうなればGNシールドで防ぐ手立てしかなくなる。

仕方なく、守りに入った。

さすがはパイロットがイノベイターなだけはある。

やるな、ティエリア・アーデ……!

 

『焦り過ぎたか!』

『まだだ……!まだやられる訳にはいかない!!』

 

手持ち無沙汰だったセラヴィーがGNビームサーベルを両手に生成する。

瞬間、奴の背中の巨大なフェイスが展開され、機体が赤く輝いた。

 

『トランザム!!』

 

『なっ―――』

 

赤い光を全身に宿すセラヴィー。

背部と両脚部に煌めく4門の砲門、GNキャノンIIから粒子ビームが速射され、俺はアヘッドで咄嗟に躱す。

だが、その対応に追われている間に詰めてきたセラヴィーが目前にまで迫り、GNビームサーベルを振るってきた。

それもさっきまでGNキャノンIIだった砲門から新たに4つの隠し腕が出現し、その手にもそれぞれ1本ずつ握られていることから、計6本。

六閃の斬撃が俺に襲いかかる。

 

『はあああーーーっ!!』

『………っ!!』

 

思わず左肩のスラスターだけを噴かせて最後の接近を前に宙を転がるように回避する。

クソ、左肩のスラスターを斬られた……!

機体から煙が巻き上がる。

 

『逃がさない!』

『トランザムか。厄介な……!』

 

後退する俺のアヘッドをしつこくセラヴィーは追う。

6本の刃は高速で様々な弧を描き、空を赤く彩っていく。

俺が下がってはセラヴィーが迫って刃を振るい、それを避けてはまたセラヴィーが向かってくる繰り返し。

だが、徐々に圧されている……!

今はまだ回避が間に合っているが、もう持たない!

 

『そこだ!』

『ぐっ……!』

 

遂に海面に触れるか否かに追いやられ、振り下ろされた刃はGNシールドで防ぐが、当然、シールドは両断されて海に落ちる。

逃げ場のない俺はセラヴィーの攻撃に対する対応の手立てを失い始めた。

 

『くそ……!』

『クァッドキャノン!』

 

セラヴィーの前方に小型GNフィールドが展開され、粒子が圧縮される。

そして、数秒の合間もなく収束されたGNキャノンII4門の粒子ビームが放たれ、俺の構えたGNビームライフルは破壊された。

さらに振るわれたGNビームサーベルをこちらも抜刀して衝突させるが、それすらも脚部から伸びるGNビームサーベルを蹴り上げるが如く俺のアヘッドの右腕を切断し、ビームサーベルごと海中へと沈んだ。

これで俺に残された装備は完全に尽きたことになる。

 

『ここで君との因縁も終わらせる……!!』

『―――――っ!!』

 

背には海面、目前には赤い輝きを放つセラヴィー。

迫り来るGNビームサーベルを防ぐことはできない。

そんな俺にティエリア・アーデは無慈悲にサーベルを振るった。

 

 

 

 

 

脳内に一筋の閃光が走る。

脳量子派が彼の危機を察知した。

戦闘中なのは理解している。

けれど……あの人は私の大切な人だから、つい目の前の羽付きのガンダムから目線を外し、少し離れた所でデカブツのガンダムと交戦する彼のアヘッドを見遣った。

 

―――その瞬間、私が目に焼き付けたのは彼に迫る刃が彼の機体を八つ裂きにしようとする姿。

 

すぐに私の脳内のアラームは鳴り響いた。

 

『ダメ!』

 

涙が滲むのを感じる。

私のアヘッドは既に目前の敵を放棄して彼の機体へと向いていた。

羽付きに突き刺したビームサーベルをそのままに意識は彼の元へと走る。

 

『レイ……!』

 

早く彼の元に駆けつけないと。

彼を助けないと。

また失う。

また……私の前から消えてしまう。

 

そんなのは嫌だ。

私は、彼が好きだ。

レイが好きだ。

だから、彼を失いたくない。

ずっと一緒にいたい。

 

だから―――!

 

『嫌……!やめて、やめて……っ!!』

 

私からもう彼を奪わないで!

やっと気持ちが通じ会えたの!

ようやくあの人の傍に寄り添えるようになったのに……!

だから、殺さないで。

 

『ぐああっ!マ、マリー!!』

『……っ!?』

 

羽付きから離れてレイの元へ、彼を助けにいこうとしたが羽付きのガンダムが私のアヘッドの背部に手を回し、ホールドする。

くっ……絡まって解けない!

 

『離せ!私は……私は………っ!!』

『もう離さない!マリー!!』

『こいつ……!』

 

羽付きのガンダムに突き刺さった私のGNビームサーベルがさらに羽付きにダメージを与えて、羽付きが損傷する。

羽付きは煙を上げ、滞空能力を失った。

奴にホールドされた私のアヘッドも当然―――高度を失う。

 

『うう……っ!』

『ぐぅ……!』

 

激しいコクピットの揺れを感じつつ、機体が孤島に向かって落ちていくのを確認する。

このままでは彼と……レイと離れてしまう……っ!

 

『そんな……っ!』

 

激震の中で私は彼のアヘッドに視線を走らせる。

視界が揺れて彼の機体とデカブツとの交戦がどうなっているのか分からない。

でも、私には直感で察することが出来る。

あのままじゃレイは―――。

 

『レイ……。待っ、て…レイ……っ!!』

 

舵から手を離し、私は彼に手を伸ばす。

数秒後、私の手は彼に届かず、地上に機体が衝突した衝撃で私は気を失った。



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今は離別を、いつか再会を

『貰った!』

『……っ』

 

視界が光剣の輝きに満たされる。

トランザムを使用したセラヴィーが中破した俺のアヘッドに容赦なくGNビームサーベルを振り下ろしてきやがった。

背後には海面、避けられない……!

 

『だが、まだだ!』

 

能力が反映している今の俺は瞬時に緊急の対応に出た。

アヘッドの左脚をセラヴィーの左腰部にあるGNキャノンIIの砲身に目掛けて足を振り上げる。

だが、当然それを許す奴ではない。

 

『無駄だ!』

『くっ……!』

 

GNキャノンIIから露出した隠し腕、その手に握られるGNビームサーベルが一閃を描き、蹴り込んだ脚が切り落とされる。

だが、それが俺の狙いだ。

 

蹴りがセラヴィー本体にダメージを与えることはなくとも、蹴り込んだ時の勢いは切断されたところで止まらない。

切り離されたアヘッドの左脚部はそのまま俺とティエリアの間合いに飛び込む。

同時に俺は既に予測していた地点に照準を合わせていたGNバルカンの引き金を引く。

―――ジャスト!

 

『はああああああーーっ!!』

『なに!?』

 

ティエリアも俺の狙いに気付き、驚愕する。

俺が放った散弾は間合いに飛び込んだEカーボンに命中し、次第に爆破した。

豪炎が俺達の間に炸裂する。

 

『ぐっ……!』

『うあああ……っ!?』

 

衝撃に備えていたとはいえ、かなり身体に響く!

激震と共に俺のアヘッドは風圧を利用して海に落ちた。

モニターが一面蒼く染まる。

セラヴィーも空に吹き飛んだ。

 

『……っ、損傷が……!』

 

海中での浮力と摩擦で潜水時の勢いを殺し、姿勢を保つことはできたが上手く推進できない。

セラヴィーのトランザムが終わるまであと何秒だ?

 

『チッ。待つしかないのか!』

 

悪態をつきつつ姿勢制御に専念する。

セラヴィーは追撃に来ない。

恐らくトランザムの限界時間を迎え、撤退したんだろう。

作戦開始からの時間経過を見れば大体奴らの思惑は達成している。

カタロンは充分逃げてるだろう。

 

レーダーを確認すると、多数の熱源が山脈の向こう―――プトレマイオスと思わしき位置から放たれた。

ということは迎撃か戦況を整えるかどちらか。

広範囲に散られたことからこれはスモーク弾での撹乱だ。

つまりはもう奴らは逃げ始めてることになる。

 

『クソ……ッ』

 

二兎追って失敗した。

今回ばかりは軍令に従ってガンダムを潰すことに専念すべきだったか?

 

『……今更考えても仕方ない』

 

舵を手に取り、機体の深度を上げる。

スラスターの大半が失われたおかげで水圧の抵抗が影響している。

だが、力押しでなんとか浮上し、海面から飛び出した。

 

『随分と遅い起床だな』

 

出てきて最初に掛かる言葉がこれかよ……。

偶然だろうがネルシェンのアヘッドが俺を待ち受けていた。

機体の姿勢制御が困難なところ、手を差し伸べてくれる。

 

『手助けしてくれるのか?』

『命令を受けた』

 

なるほど。

そりゃ一瞬でも優しさだと勘違いして悪かったな。

 

『掴んだな?』

『あぁ』

 

ネルシェンのアヘッドの肩に俺のアヘッドの手を掛ける。

そのまま撤退するモビルスーツ部隊の後を追い、片腕を損傷したアヘッド・サキガケと共にベーリング級海上空母の格納庫に収容された。

格納庫は慌ただしく動き回る整備士と小破した機体から出たパイロットとで入れ替わっている。

俺も降りて辺りを見渡す。

 

「……?おい、スマルトロンは何処だ?見当たらないぞ」

「自分で調べろ」

 

俺の疑問をネルシェンはバッサリと切り捨ててヘルメットを外す。

特に意識した訳じゃないが専用機としてのコーティングが施されているアヘッド・サキガケとスマルトロンは目立つ。

だが、格納庫内のスマルトロンが常に確立していたポジションを見遣ってみてもその姿は見えない。

ワイヤーに手をかけて降りつつ尋ねた返しにネルシェンは目を逸らしていってしまった。

……おい、まさか。

 

「大尉の機体がロスト!?そんな……」

「おい!声がデカいっての」

「あっ」

 

格納庫に響いたハレヴィ准尉の声。

俺の方を見ると失言したかのように口を抑える。

今、なんて言った……?

ソーマのスマルトロンがロスト?

いつだ?

待て、どのタイミングで……今から探して見つかるのか!?

 

―――瞬間、嫌な汗が噴き出る。

 

「整備班!ジンクスでいい、機体を寄越せ!!ジニン。お前も残った小隊をかき集めて再出撃しろ!」

「何?しかし、まだ指示が降りていない。勝手な行動は―――」

「良いからささっとやれ!!命令なんて後で来る!ソーマだぞ!?超兵を探さない軍があってたまるか!」

「待て、分かったから落ち着け!」

 

これが落ち着いてられるか!

寝言を言っている暇があったら動け。

くそ、俺が守ると誓ったのに……距離を置いていたせいで!

 

「たった今、捜索班の編成及び再出撃の命令が降りた。各員、搭乗!作戦を開始する」

『はっ!』

 

ジニンの指示についさっき帰艦したパイロット達がモビルスーツに乗り込む。

損傷していようと動けるものは全て使うつもりだ。

 

「これでいいか?」

「あぁ……。おい!俺にも機体を寄越せと言ってるだろ!」

「し、しかし、もう残機が……」

「ならモビルスーツじゃなくてもいい!ささっと手配しやがれ!」

「お、おやめください!」

 

整備士の襟元を掴みあげて要求する。

何をチンタラしてるんだ!

ソーマだぞ?

ロストしたのはあいつなんだぞ。

お前らだって喉から手が出るくらいには欲しいだろうが!

何故もっと動かない!?

 

「止せ!そんなことをしても無駄だ」

「うるさい!!」

 

肩を掴んでくるジニンの手を振り払う。

こうなったら自分で機体を探すしかない。

 

「私の機体を使わせてやる」

「グッドマン大尉?」

「ネルシェン……」

 

さっきまでヘルメットに収まっていた長い髪を鬱陶しそうに振り広げながら、ネルシェンが背後から声を掛けてきた。

確かにこいつの機体は一番損傷が少ない上に性能が良い。

ブシドーのサキガケの方が機動性は上回っているが貸してはくれないだろう。

その点で言えばネルシェンが許可してきたのも不思議ではあるが……好都合だ。

 

「いいのか?」

「貴様にここで騒がれる方が迷惑だ。早く失せろ」

 

こいつ……。

だが、結局は誰か一人残る訳だ。

マネキン大佐の指示も下ったことから、別に任務を放棄したいってことではないのだろう。

あくまで俺に譲ってくれたってことか。

 

「……なら使わせてもらう」

「何の成果も上げられない場合は貴様も沈めてやる」

「分かってるさ!」

 

それだけ言い残してネルシェンは格納庫を後にした。

くそ、言いたいことだけ言いやがって。

まあいい。

今はソーマの捜索が最優先だ。

 

「ジニン、捜索班は?」

「既に全機発進している。次は我々の部隊だ」

「その前に俺が出る!」

 

ヘルメットを再度装着し、ワイヤーを掴んでネルシェンのアヘッドに乗り込む。

コクピットは大して苦しくはない。

すぐさまバイザーを下げて操縦舵を引いた。

アヘッドの肩部スラスターが粒子を噴き、格納庫から滑走路へ飛び出し、そのまま空へ離陸する。

 

『ソーマ……』

 

ずっと俺に寄り添ってくれた大切な人。

どんなに俺が荒れていようと取り乱していようと彼女だけは俺を想い、心配してくれた。

そんな彼女に対して俺は……。

 

 

―――『約束を……』

―――『はぁ?』

―――『いえ……やっぱりなんでもない』

 

 

そうだ、いつも俺が悪い。

目先のことに必死になって、ソーマを傷付けてしまう。

俺とソーマにとって『約束』は俺達を最も強く繋ぐものだ。

それを俺は無下に扱った。

だから、ソーマは……帰らなくなった。

 

『クソ!この馬鹿野郎……っ!』

 

自分に悪態をつく。

共に帰ると約束したのに。

俺は彼女を守ってやることも認めてやることもできなかった。

本当は分かってる。

怖いんだ。

 

俺には何かが欠けている。

知らないビジョンは恐らく記憶だ。

一時はソーマも同じかと思ったが、少し違う。

俺は……本来の姿を見失っているような気がしてならない。

 

だから、自分のことが何だか分からなくなって、それが怖くてイノベイターであることに意地を張っている。

俺はイノベイターだから、この力を上手く使わなければいけないと何かを残そうとしている。

そんな焦燥が俺に大事なものを見えなくしていた。

 

皆を守りたいとか連鎖を断ち切りたいとかいう想いがないわけではない。

だが、明らかに以前よりは気持ちが薄い。

今の俺はただ必死なだけの……惨めな奴だ。

 

『クソ……あぁ……っ』

 

今更ながらソーマの優しさに気付く。

一体俺はどこで間違ってしまったんだろうか……。

 

『ソーマ……。頼む、無事でいてくれ』

 

辺り一面の青い海を見渡す。

ソーマがいなくなってしまったらもう俺は……崩れてしまう。

 

『……どうにか見つけ出さないと』

 

ソーマのアヘッド・スマルトロンが最後にアリオスと交戦したポイントを中心に捜索を始める。

他の捜索部隊は各自散開してくれている。

だが、捜索を開始したとほぼ同時に指揮官から伝令が下った。

その内容に目を見開く。

 

『ソーマの捜索を打ち切るだと!?』

 

何を考えてるんだ、あの悪人面の人間め!

スミルノフ大佐との仲があるマネキン大佐がこんな司令を出すとは考えにくい。

つまりはリント少佐だ。

奴が言うには既に正規軍へ捜索の要請を出しているらしい。

アロウズは命令通り、帰艦し始めている。

 

……俺は戻らない。

例えどんな罰を受けてでもソーマを助け出してみせる。

操縦舵を引いて俺のアヘッドはさらに加速した。

だが、そんな不安を増幅させるかのように空が暗くなり、降り注ぐ雨で海底は再び暗闇を取り戻し始めた。

 

 

 

 

 

数時間が経過した。

まだソーマは見つかっていない。

このままではかなり危険だ。

雨も酷くなってるし、もう夜に差し掛かっている。

海中も暗くて底が見えなくなってるため、海に落ちてる場合はさらに捜索が困難になる。

その前になんとしても見つけ出さなければ……。

 

『くっ……スマルトロンの交戦ポイント半径10km圏内にいないとなるともっと捜索範囲を広めるべきか?いや、だがここにソーマがいるなら……!』

 

正規軍もいるとはいえ、さすがにこの広範囲は手に負えない。

日没まであと一時間もない。

もし海に落ちていて、このまま見つからなければコクピット内の酸素がやがて尽きてソーマが助かる見込みは――ない。

 

『……っ!』

 

突如、喪失感に襲われて震える身体を抑える。

考えては駄目だ。

最悪の想像はしない方がいい。

酸素が尽きる前に見つければいいだけの話だ!

考えるな!

 

『クソ……!レーダーにも反応がない』

 

かなり高性能なものを積んでるにも関わらず、スマルトロンの信号をキャッチしない。

爆散したのならもう探しようは―――。

 

『―――っ!』

 

辺りを見渡していると突然、脳内に一筋の閃光が走った。

これは……脳量子波だ。

微かだが間違いない。

どこだ?

一体どこから感じる!?

 

『孤島?あそこか!』

 

俺の金色に輝く瞳で捉えた先にある孤島を目指してアヘッドを推進させる。

微かな脳量子波では正確な位置は分からないが、方向からしてあの孤島である可能性が高い。

少なくともその周辺だ。

すぐさま行動し、俺のアヘッドは孤島の制空に侵入する。

 

『こんなところに陸地が……、っ!』

 

アヘッドの端末が信号をキャッチし、レーダーとモニターに上げる。

生体反応!!

それに2機のモビルスーツ反応もある。

一方はスマルトロンの信号でもう一方は【UNKNOWN】だ。

 

後者はモニターに映った映像でアリオスだと視認できた。

その2機の座標から少し奥へ進み、密林が空けた空間に人間二人分の生体反応がある。

俺のアヘッドもそこに脚を付け、着地した。

 

『ソーマ……』

 

端末を操作し、ワイヤーを使ってコクピットから安全に降下していく。

アヘッドのライトに照らされている黄色のテントからは、二人の男女が現れた。

長い白髪を揺らして俺の方に駆け寄ってくるソーマとその後に続くロン毛の男、【アリオスガンダム】のマイスター、アレルヤ・ハプティズムだ。

 

ソーマの顔を見た時は安心したがその背につく男は敵だ。

こっちに駆け寄ってくるソーマを回収したら銃を抜く。

念の為にもう手に掛けておこう。

 

「ソーマ!」

「デスペア大尉……!」

 

髪を乱しながらソーマが俺に向かってくる。

―――いや、違う。

この女はソーマじゃない!!

 

「止まれ!」

「……っ」

 

銃を抜き、銃口をソーマの姿に酷似した女に向ける。

アレルヤ・ハプティズムがそいつを庇うように前に出て警戒し、俺も引き金を手を掛ける。

俺の金色に輝く瞳が目の前にいる女がソーマではないと訴えている。

だが、微かにソーマも感じる。

一体どういうことだ……!

 

「君は……何者だ」

「私です、大尉!ソーマ・ピーリスです」

「違う!」

「……っ!」

 

俺に狙われた途端、不安げな表情を作る女が必死に主張するが俺には分かる。

俺とソーマは通じ合える。

しかし、目の前の彼女からは何の思考も読み取れない。

こんな決定的な理由を俺は逃しはしない。

 

「まず、あいつは俺に砕けた口調で話す。それに……分かるんだよ、俺には」

「デスペア大尉……」

 

銃口越しに対峙する俺と彼女。

俺の言葉を聞いてやっと理解したらしく胸に手を当てて何か思い悩み始めた。

それとほぼ同時にアレルヤ・ハプティズムが足を一歩踏み込むのでそちらに銃口を向けて止めさせる。

 

「……っ。お願いだ!マリーの話を聞いてくれ!」

「マリー?」

 

アレルヤ・ハプティズムが訴える。

どこかで聞いた名前だが……あぁ、そうか。

何を隠そう、目の前のこいつが反政府勢力収監施設での襲撃の時に口にしていた名だ。

じゃあ、なんだ。

あれは……やはりソーマのことを指していたのか?

 

あの場にいたのは俺とソーマだけだ。

俺に覚えがなければ必然的に彼女のことになる。

だが、超人機関から押収した資料にもそんな名前は記載されていなかった。

『ヴェーダ』のデータバンクにもソーマ・ピーリスの名しか存在しない。

ただ、気掛かりではある。

そもそも超人機関そのものの全貌がハッキリとはしてない。

 

だからこそ、アレルヤ・ハプティズムがただ虚言を吐いているとは断定できない。

超人機関は……軍に二度超兵を採用させている。

一人目はレナード・ファインズ。

幼い年齢ながらも組織の存続を図ろうとした超人機関によって戦場に送られた。

ソーマも同じだ。

 

数年経って再び存続が危うくなった超人機関がソーマを起用した。

だが、レナード・ファインズもソーマも俺達イノベイターのような存在を完成形としている超兵としては不完全と断言出来る。

となるとアレルヤ・ハプティズムの発言を鵜呑みにするなら―――。

 

「人格を上書きした……?」

 

元々の人格が起用できる超兵としての負担に肉体が耐えられなかった場合、過度な肉体強化や脳量子波に対応できる人格を植え直す……なんてことも推測はできる。

超人機関という組織なら。

 

「はい……私は大尉の仰る通り、本当は……ソーマ・ピーリスではありません」

「………」

 

俺の呟きを拾ったソーマが認めて俯く。

照準を改めて合わせる。

 

「今の私はマリー……マリー・パーファシーです」

「………っ」

 

銃口が揺れる。

知らない、名前だ……。

今度はアレルヤ・ハプティズムが前に出る。

照準もそれに合わせて移した。

 

「マリーは優しい女の子だ。人を殺めるような子じゃない。マリーはあなたに渡せない。連邦やアロウズに戻ったら彼女はまた超兵として扱われる!!」

 

ソーマを腕で庇うアレルヤ・ハプティズムの叫び。

断固としてソーマを譲る気はないようだ。

強く力を込められた瞳も俺を捉えている。

だが、俺も彼女は譲れない。

譲る訳にもいかない。

 

「お前の言ってる事は正しい。確かに……ソーマが戻れば軍は彼女を起用するだろうし、俺もそれを止められるかは分からない」

「なら―――!」

「だが、お前達はソレスタルビーイング、俺達の敵だ!その意味が分かるか?お前がソーマを匿えば、俺達がソーマを討たなければならないんだ!!」

「………っ!」

 

アレルヤ・ハプティズムが息を詰まらせる。

その背に隠れるソーマも瞳を揺らす。

奴らが武力を放棄しない限り、俺達は敵対し続ける。

ソーマがあっちに渡れば彼女ごとアロウズは沈めるだろう。

そうなったら俺は叫び散らすかリボンズに掛け合うかしかできない。

 

だが、どちらも殆ど意味を為さない。

理由は単純だ。

アロウズという組織は俺一人如きが喚いたところで、例えイノベイターだとしても止められる程甘くはない。

そして、俺は―――無力だ。

 

「お前達が武力を放棄するというのなら、話は別だがな」

「そんなことをすれば……君達はカタロンを一掃し、口先だけの恒久和平を訴えて画一する!そんなことを許容はできない!」

「ならば俺はお前達を討つ!ここでお前からソーマを奪ってでもだ!!」

 

さらに銃口をアレルヤ・ハプティズムに突き付ける。

それでも奴はソーマを決して傷つけまいと背に庇う。

彼女を一瞥し、俺に訴えかけてくる。

 

「……っ!僕は……これ以上彼女を争いには巻き込みたくない!」

「だから、お前が匿うのか?それじゃあソーマを争いからは遠ざけられない!貴様らといてもソーマは争いに巻き込まれる!」

「そんなことはしない!信じて欲しい!」

「どの口で言ってるんだ!!」

「―――っ!」

 

次第に白熱した末、俺の憎悪を込めた語気にアレルヤ・ハプティズムが一瞬、怯む。

あぁ、そうさ。

一体奴らはどれ程の犠牲を生み出した?

その結果、何を得た?何を達成した?

奴らの築き上げた屍の山の上で一体この世界は何が変わったって言うんだ。

 

「お前達にとっては指先一つの動きで奪える命でも……俺達にとっては昨日今日笑い合った人間だ!そいつらの死体を無駄に積み上げておいて、ソーマを争いに巻き込まないだと?笑わせるな!!」

「そ、それは……っ!」

 

アレルヤ・ハプティズムが初めてたじろぎ、狼狽を露わにする。

後ずさった先にいるソーマを一瞥し、己を写す足元の水面を見て酷く動揺している。

 

「し、しかし……君といても彼女は……」

「アレルヤ……」

 

ソーマがアレルヤ・ハプティズムの腕に触れ、不安げに見つめる。

俺を見る時よりも熱の篭った瞳だ。

……ソーマじゃないことは分かっている。

 

「確かに俺といてもソーマは争いからは逃れられない。だが、情けないことに……さっき彼女を失いかけて気付いたんだ。彼女の大切さと今まで避けていた惨めな俺自身のこと……。だから、今の俺なら少なくともソーマを大切にすることはできる。彼女を全力で守ってやれる!!」

「デスペア大尉……っ」

「教えてくれ。ソーマはまだ……いるんだろ?」

 

マリーに対して俺が尋ねる。

彼女はアレルヤの影で迷いながらも僅かに頷いた。

 

「えぇ。私の中に……ソーマ・ピーリスの人格も、記憶も、まだ残っています」

「そうか」

 

なら連れて帰る意味がある。

例えマリーという彼女を抑えつけてでも、ソーマにまた会える。

そして―――謝って、もう離さない約束をまた交わす。

今度こそそれを守り通す自信がある。

だから、俺はソーマを奪う。

 

「……ソーマから離れろ」

「や、やめて下さい!デスペア太尉」

 

アレルヤ・ハプティズムに銃身を向け、リボルバー引く。

するとソーマが奴を守ろうと前に出るが、アレルヤ・ハプティズムはそんなソーマの肩に触れ、制止して足を踏み出した。

 

「アレルヤ……?」

「撃ってくれ」

「何?」

 

思わず耳を疑った。

だが、真剣な瞳で覚悟を決めている。

 

「撃ってくれ。その代わり、マリーを……いや、ソーマ・ピーリスを二度と争いに巻き込まないと誓って欲しい」

「………」

 

俺とアレルヤ・ハプティズムの視線が交差する。

奴の言葉を俺はサイト越しに耳にする。

 

「アレルヤ。何を……っ」

「いいんだ、マリー。君が幸せでいてくれるなら……。彼ならきっと、マリーの事も想ってくれる」

 

縋りよるソーマを剥がし、アレルヤはさらに前に出た。

銃口の前に自ら晒される。

……彼女には万が一被害のないように。

 

「撃ってくれ」

「いいだろう」

 

引き金に掛けていた指を再度掛ける。

そして、指先に強く力を込めた。

 

「嫌ああああぁーー!!」

「マリー!?」

 

アレルヤを庇うように飛び出した影、長い白髪を散らしながら銃口が向けられた二人の間に入った。

俺の引いた引き金が放った銃弾はそんな彼女――ではなく、森林の奥へと吸い込まれていく。

照準は元から外していた。

 

「撃たれて、ない?」

「デスペア大尉……」

「………」

 

二人の視線が俺に注がれる。

俺は拳銃を懐に収めて、必死なあまり飛び込んで倒れ伏せてしまったマリーに手を差し出した。

 

「立てるか?」

「はい……」

 

俺の手を柔らかく優しい手が掴む。

だが、随分と冷たい。

きっと夜と雨とが相まって気温が低いせいだろう。

そんな手を引いて彼女を起こす。

 

「デスペア大尉、どうして……?」

「……俺に君達は討てない」

「え?」

 

膝から崩れ落ちそうだ。

俺にはこの二人から奪うことは……できない。

きっとソーマは―――彼女はアレルヤといた方が幸せになれる。

それに『ソーマ』を幸せにできない俺が『マリー』を幸せにできるわけがない……。

 

―――もっと、簡単な話だったんだ。

討つとか討たれるとかじゃない。

彼女が本当に幸せになれる道を、彼女の幸せを願うことができなかった時点で……俺にソーマを連れていく資格はない。

アレルヤは俺と居てソーマが幸せになれるならそれでいいと言った。

 

だが、俺は自分を分かった気になって、謝罪と約束ばかりを最優先してソーマの未来を考えてやれなかった。

だから……今の俺と一緒に居ても恐らくソーマは幸せにはなれない。

彼女を明け渡す理由には、充分過ぎる。

 

「ソーマ・ピーリス大尉の戦死を伝えるべく軍に帰投する。上手くいくように手配するくらいなら……俺にもできる」

「デスペア大尉……」

 

仮にもイノベイターだ。

ライセンスも持つ権力ある存在ではある。

多少の無理は通せるだろう。

手から抜け落ちて水溜まりに浮かぶ拳銃を放置し、俺は彼らに背を向ける。

アヘッドの暗転している四つ目は普段の凶悪さを鎮め、降り頻る雨で濡れていた。

そいつを見上げて足を止める。

 

「そういえば」

「……?」

 

振り返ってソーマと目を合わせると既にアレルヤも警戒を解き、彼女も反応した。

胸に手を充てる彼女に精一杯の微笑を向ける。

 

「マリー・パーファシー、だったよな?」

「……はい」

 

彼女はソーマではない。

だが、彼女はソーマでもある。

二人を見ることが……俺に出来るせめてもの誠意だ。

 

「良い……名前だな」

「………っ」

 

マリーが口元を手で覆う。

その瞳から頬にかけて涙がゆっくりと弧を描いた。

―――気付いた頃にはもう、彼女は俺の胸に飛び込んできている。

 

「デスペア大尉……っ!!」

 

背に手を回し、精一杯強く抱き締めてくるマリーを俺も出来る限り優しく包む。

そして、俺の首元にある彼女を頭をそっと髪をとかすように撫でると、彼女も一層身を預けてくれる。

最後に微笑を作って俺を見上げる彼女と目を合わせ、肩に手をかけて身体を離した。

 

「生きてくれ……生き続けてくれ。君の幸せを願っている」

「私も……っ!私も大尉の幸せを誰よりも願っています!」

「……そうか。ありがとう」

 

泣きながら敬礼をするソーマに俺も返礼する。

アレルヤは離れたところで見守っていてくれた。

そうか……彼と一緒になるのなら、縛ってはいけないな。

 

「パーファシー。これを預かってもらっていいか?」

「えっ?でも……このブレスレットは……」

「頼む。またいつか、これを取りに来る。その時にまた……会おう」

「……はい」

 

俺とソーマを繋ぐ共通のブレスレット。

腕から外して彼女に渡す。

哀しくはあるが、きちんと受け取ってくれた。

二つのブレスレットは同じ腕に通される。

これを見届けたら帰艦しよう。

長居をしていたら連邦かソレスタルビーイングに遭遇してしまう。

 

「それじゃあ」

「あっ、待って!」

「……?」

 

呼び止められて足を止める。

マリーは何か言いたげに詰まった後、勇気を出して口を開く。

 

「スミルノフ大佐に伝えていただけませんか!?ソーマ・ピーリスを対ガンダム戦だけに重用し、他の作戦に参加させなかった事、感謝していますと……!」

「マリー……」

 

アレルヤが彼女を見遣る。

あぁ、そうだ。

彼女を想ってくれる人達は沢山いた。

その中でも大佐は父親のような存在で、ずっと見守ってくれていたんだ。

 

「分かった。伝えておくよ」

「ありがとうございます!」

「じゃあ―――」

「それと!」

 

俺が背を向ける前に言葉を続ける。

振り返ると目の合ったマリーは熱がこもった瞳で俺を捉えていた。

まだ何か伝えたい人でもいるのだろうか……。

 

「デスペア大尉!私の中のソーマ・ピーリスがこう言っています。貴方と……出逢えて、共に居れて幸せだったと!」

「―――っ!!」

 

思わず目を見開く。

あぁ……なんで…っ、どうして……っ。

どうしてお前はそんなことを言うんだ。

なんで俺の欲しい言葉を知ってるんだ。

 

なぜ―――こんなにも俺の事を想ってくれるんだ、お前は。

 

いつでも、どんな時でも俺の傍に居てくれた。

寄り添ってくれた。

だから、俺は……お前が好きなんだ。

 

「そうか。俺には勿体ないな……。ありがとう、俺もソーマと居れて―――幸せだった」

「デスペア大尉……っ」

 

降ろしたワイヤーを掴みながら俺とソーマは見つめ合う。

徐々に上昇していく視界の中でも俺達の目線が離されることはない。

アヘッドのコクピットが閉じるその時まで彼女は俺に敬礼していた。

 

『脳量子波遮断を解除。アヘッド、離脱する』

 

肉眼での視界からモニターに変り、浮上する。

僅か数秒間、反転するその時までずっとソーマは映っていた。

やがてアヘッドは彼らを後にして飛翔する。

 

「ソーマ……」

 

考え直すべきかもしれない。

俺に見えていないものはソーマのことだけじゃない筈だ。

ソーマの言葉。

そして、レナの言葉。

もう一度……考える必要がある。

またいつか、ソーマと再会する時の為にも―――。

 

俺は、変わらなければならない。




尺の事情でスミルノフ大佐とのやり取りとケルディム遭遇はカットしましたが、かなり真剣に書きました。


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無垢なる歪み

一部深也が紛れています。


整備士も引き上げた静寂の格納庫で、唯一物寂しげに佇む機体があった。

アヘッド・スマルトロン。

ソーマがここにいた証。

彼女の為に用意された脳量子波対応型のアヘッドだ。

 

「………」

 

俺はただそんなスマルトロンを眺め続けている。

あの時の選択が本当に彼女の未来に繋がっているのか、分からない。

だが、少なくともソーマじゃない彼女はアレルヤと共にいた方が幸せになれるだろう。

だからこそ、不安はあっても後悔はない。

問題があるとすればそれは俺自身の話になる。

 

『必要なのは人と人とが分かり合える道、だから!』

 

『共に生きているからこそ、皆同じだ』

 

レナの言う人と人とが分かり合える道を。

ソーマの言う共に生きているということを。

その真意を俺は考えなければならない……。

 

犠牲のない恒久和平。

それが俺の理想だった。

だが、命だけが人間の全てじゃない。

きっとまだ何かある筈なんだ。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

前線には合わない若い女性の声が掛かった。

どうやら随分と考え込んでいたらしい。

近付いてきたのに気付かなかった。

声を掛けてきたのはルイス・ハレヴィ准尉だ。

 

「どうした?俺に何か用か」

「は、はい。その……よろしいでしょうか?」

 

なんだか遠慮がちだな。

早く本題に入ればいいものを……とそうか。

ソーマのことは戦死で言い伝わっていたんだった。

しかも上層部に報告したのは俺だ。

そりゃ遠慮もするか。

 

「別にいい。要件はなんだ」

「はっ。大尉にお願いがあります。この機体、私に任せて頂けませんか?」

「なに?」

 

ハレヴィ准尉の目を見ると……本気だった。

それでいて隠しきれていない怒りと強い力を感じる。

復讐、か。

そもそもソーマとハレヴィ准尉に接点があったことを今初めて知った。

 

だから、自覚させられる。

そんなにも俺はソーマと向き合えていなかったんだと。

でも今は違う。

少なくとも向き合いたいとは思っている。

 

「戦果を挙げてご覧にいれます。そして、中尉の仇も!」

「敵討ちは要らない」

「えっ?」

 

アヘッド・スマルトロンに目線を戻した俺を困惑した表情で捉えてくる。

微かに脳量子波を感じる。

彼女は即座に勘違いをした。

 

「別に俺が仇を取りたい訳じゃない」

「な、なぜ!?デスペア大尉はピーリス大尉を想っていたのでは―――」

「だからだよ」

 

だからこそ、もし仮にソーマが本当に戦死でも仇は取らない。

そんな奪い合いの連鎖を彼女が望むはずもない。

 

「本人の望まないことを俺はできない。俺は、ソーマの望むことを果たす。俺の私情で仇を討っても……あいつが哀しむだけだ」

「そんな……」

 

ハレヴィ准尉の表情に失望が見える。

だが、心も揺れているようだ。

俺の言葉に納得しているところがあるのかもしれない。

それか思うところか。

 

俺も、ソーマの望むことを見つけなければならない。

この模索に答えがあるのかも分からない。

それでもレナやソーマを信じて俺は変わりたい。

 

「スマルトロンは使ってやってくれ。ただし、俺の一存じゃ決められない。ちゃんと上に申請しろよ」

「ありがとうございます!」

 

最初から俺の許可なんて必要ないことくらいは知っての行動だろう。

准尉は真摯に俺に敬礼した。

俺が知らなかっただけであいつにはこんなにも想ってくれる部下がいたんだな。

とりあえずはソーマの仇討ちを目的にスマルトロンに乗せるつもりはないことも准尉は承諾してくれたし、もうあの機体は彼女に任せていい。

 

問題は甲鈑に出た先にある。

ベーリング級海上空母の滑走路に優雅に降り立つモビルスーツが1機、俺を嗤うようなフェイスで見下ろしてくる。

 

【GNZ-003 ガデッサ】。

 

イノベイター専用に作り出された擬似太陽炉搭載型のモビルスーツだ。

剥がせばガンダムタイプのフェイスが現れるため、フェイスカバーをした機体だが随分と狂気的な顔をしている。

それこそ見つめていると嘲笑われているような気分だ。

 

そんなガデッサから、作られた美形を持つ同胞イノベイターがワイヤーを掴んで降りてくる。

リヴァイヴ・リバイバルだ。

 

「前線では初めましてだな、リヴァイヴ」

「ふっ。まさかこの僕がアロウズに入隊することになるとは……」

「無視かよ」

 

折角迎えに来たというのにリヴァイヴは俺を素通りしてヘルメットを抱えたまま、辺りを見渡してほくそ笑む。

あぁ、またこりゃ随分なご挨拶だな。

リヴァイヴ?

 

「おっと失礼。脳量子波を感じないものだから別人かと思ってしまったよ」

「はっ、下手な冗談ならこくなよ」

 

本当に笑えない。

こいつ、思考を送ってやっと振り向きやがった。

成果を出していない俺を見下してる人間と見分けが付かなかったとでも言いたいのか。

なるほど、リヴァイヴでこの評価なら()()()()も頷ける。

 

「それであれはなんだ?」

「見ての通りさ」

 

俺が視線で指したモビルスーツにリヴァイヴはヘルメットを肩に掛けて白を切る。

見上げた先、ガデッサに続くように飛行艇で運ばれてきたモビルスーツはガデッサのプロトタイプとも言える存在。

【GNZシリーズ】のベースとなった機体、【GNZ-001 ガルムガンダム】だ。

 

「俺が頼んだのはガラッゾの筈だろ」

「失敬。注文を聞き間違えた……という訳でなく、今我々が君に対して用意出来る機体はあれが限度ということさ」

「なに?」

 

リヴァイヴが挑発的な笑みを浮かべる。

こいつ……いや、こいつらは敢えてガルムガンダムを選んだのか。

俺に圧を与える意味も込めて。

 

「それに、君にはお似合いだろう?」

「……っ!」

 

リヴァイヴの視線の先、周囲を見渡す。

すると―――

 

「あ、あれって」

「ガンダ、ム……?」

「どうしてこんなところに……」

 

新型を見に来た連中がガルムガンダムを見遣って戸惑いながら忌々しげに呟きあっていた。

そして、必ず視線は機体から俺へと移っている。

くっ……!

 

「これが狙いか!」

「さぁ、どうでしょう。なににせよ我々は君に期待していますよ」

「何を……っ!」

 

勢いよくリヴァイヴを睨む。

そんな俺の鋭い視線にリヴァイヴは金色の瞳だけを俺に向けた。

 

「……っ」

「犠牲のない恒久和平とやらの実現。その為の君の行動を……ね」

 

また歩みを再開するリヴァイヴ。

通りすがったネルシェン・グッドマン大尉に何かを手渡しすると、艦内へとその背は消えていった。

代わりにネルシェンが俺の元にやって来る。

珍しいな、こいつから会いに来るなんて。

いつもは偶然かブリーフィング、俺から用があるかの三つだ。

 

「あれが貴様の新型か?」

「お前も文句か」

「いや」

 

来るなりガルムガンダムを見上げて目を細める。

まったく。

用意されたガンダムの存在もあって今日は特に風当たりが強い。

ネルシェンは一瞥して瞼を伏せると一言だけ告げてきた。

 

「貴様では無理だな」

「は?何が?」

「アヘッドの性能では対抗できん。だが、この機体も足りていない。精々私の邪魔をするなよ」

「いや、だから何の話だよ……」

 

全く本題が見えてこない。

しかも言い残すだけ残してネルシェンは去ってしまった。

一体なんだってんだ。

まあいい。

とにかくこのガルムガンダムをどうするかだ。

ソーマはもういない。

戦うのならアロウズにいる限り、彼女のいるプトレマイオスとガンダムを相手にしなければならない。

 

リヴァイヴも口にした犠牲のない恒久和平。

俺はその為に戦ってきた。

それが正しいと思っていたから、目指すべき理想だと思っていたからだ。

だが、今は本当にそれが正しいか、目指すべきなのかは分からない。

レナは否定した。

それが間違っていると。

なら何が正しいのか。

その答えを見つけなければならない。

 

「この機体を使って俺は……ん?あれは……」

 

ガルムガンダムを見上げていると、丁度滑走路から離陸した飛行機とそれに続くアヘッドが視界に入った。

アヘッドはネルシェンだ。

さっきパイロットスーツを着ていたのはそういうことか。

ただ何処へ向かうんだ?

俺の所には何の話も来てないが……。

近くのやつに聞いてみるか。

 

「すまない、あれはどこへ向かったんだ?」

「え?あぁ……確か経済界のパーティーだとかなんだとかにハレヴィ准尉が参加するらしいですよ。何でもリント少佐からの指令だとか。スミルノフ中尉も護衛で同行しました」

 

なるほど……ってこの状況で欠員を2人出すのか?

あとネルシェンも同じ方向へ向かったな。

ソーマの戦死で特別小隊は解体されたからどこへ行こうが構わないが、大佐のいる戦場を放るのは意外だ。

何らか指令を受けたのか、あるいは……。

 

「そのパーティーの場所は?」

「さ、さぁ?リント少佐かマネキン大佐なら知ってると思います」

「分かった。ありがとう」

 

リヴァイヴの態度を見るに俺はイノベイター側にもあまり信用されていない。

だからという訳でもないが一応探らせてもらおう。

それに、アロウズの出席するパーティーならカタギリ司令が連れてくるであろう人物にも会いたいしな。

 

 

 

 

 

 

さっそくガルムガンダムを使ってパーティー会場へと潜入した。

まあ呼ばれてないからな。

パーティーそのものに参加する必要はない。

ウェイトレスに紛れてこのパーティーを開いた意味、リボンズ達が何か隠していないかを探る。

まずは個人的に用がある人物に近付いた。

 

「どうぞ」

「あぁ、すまない」

 

俺の差し出したグラスをホーマー・カタギリが手に取る。

何度か顔合わせもして言葉も交わしているが気付いていないようだな。

彼の目を盗み、そのまま隣の細身の男にも手渡す。

 

「貴方も」

「あぁ、ありがとう」

「ビリー・カタギリ技術大尉ですよね?後でお話があります」

「……なんだい?君は」

 

ワインを注ぐ時を利用してカタギリ司令の甥であるビリー・カタギリに耳打ちする。

当然訝しんだカタギリ技術大尉は俺にだけ眉を顰めた。

その問いに対して去り際に答えを置いていく。

 

「イノベイター。レイ・デスペア」

「……っ!」

 

周囲に動揺を悟られないよう視線だけで驚愕を示してくるカタギリ技術大尉。

上手いじゃないか。

先に戦場に送った俺を使ってリボンズはイノベイターの存在を軍内で公にしている。

だからこそ、彼も知っていると睨んでいた。

どうやら当たりだったようだな。

 

「出たところで待っている。貴方の力を借りたい」

「応じると思っているのかい?」

「あぁ。貴方ならきっと」

「……分かった」

 

静かに頷く彼から了承を得てその場を離れる。

やり取りは一瞬。

周囲から見ればウェイトレスが下がっていくようにしか捉えられない。

 

「ん?どうかしたか」

「いえ」

「………」

 

本人もシラを切った。

よし、これでフェイスカバーには対応できそうだ。

後はリボンズ達の思惑に対する偵察だが、もうこのパーティーの目的は掴んだ。

どうやらアロウズに出資している経済界の人間を集めて、これからもよろしくっていう魂胆らしい。

 

まあ出資を止められては困るからな。

定期的にこういった関わりの場を儲けないといけないのは頷ける。

これまで1回もなかったことの方が不思議だ。

とにかく偵察の必要はなかったというのが結果論になってしまった。

 

「……出るか」

 

もうここに居ても意味はない。

ささっとビリー・カタギリに俺のガルムガンダムの改造に取り掛かってもらわなければな。

周囲の目を伺ってこっそりと退場しようとする―――が、脳内に過ぎった一筋の閃光に足を止めた。

この脳量子波はリジェネに近い……。

となると奴か。

 

「あいつ……」

「君か。アロウズのイノベイターというのは」

 

出口のルートに差し掛かっていたからか、声が聞こえる範囲には誰もいない。

この場で全くの包みのない凛とした声が俺の耳に届いた。

どうやらこのパーティーに潜入している奴がいるようだな。

……仕方ない、対応してやるか。

 

「そうだが、何の――――は?」

「リジェネ・レジェッタから聞いた。君に話がある」

 

知ってる声を俺は右から左へと聞き流す。

声の主は分かった。

リジェネと同タイプのイノベイター、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターであるティエリア・アーデだ。

 

だが、振り返った時に瞳に映ったその容姿が俺の知っているティエリア・アーデとかけ離れている。

腰まである麗しい髪、整った顔立ちにその美貌を惹き立てる紫のドレス。

―――そう、まさしく可憐という言葉が当てはまる姿だった。

 

「君もやはりイノベイターなのか?イオリア・シュヘンベルグの計画を実行していると聞いたが」

「え、話進めんの?本気(マジ)?」

 

駄目だ。

混乱でついていけない。

ここは一度落ち着こう。

そうだ、冷静に……冷静に……。

ていうかなんでこいつ女装してるんだ?

 

「待て、まずその格好について説明しろ。話はそれからだ」

「マイスターは男だと知られている。戦術予報士の指示に従ったまでだ」

「あぁ……なるほど」

 

まぁ納得はできたけどさすがに説明なしでまともに話し合いに導入はできないだろ。

そうか、でも中々やるな。

良い案だ。

こいつの非常識さ以外は。

 

「それで?俺に何の用だ」

「質問しているのはこちらだ。答えてもらうぞ、君達は―――」

「あー、あのさ。もうすぐリボンズが来る。多分お前が求めてるのはあっちだ」

「リボンズ?誰だ?」

「ほら、来たぞ」

「……?」

 

奥の方が騒がしくなり、俺がそっちを指すとティエリアもそちらに注目する。

脳量子波でリボンズの接近は気付いてた。

ティエリアも俺と話すよりはあいつの方が有益な情報を得られるだろう。

ということで俺は逃げる!

 

「じゃあな」

「なっ……待て!君はまた戦場に出てくるつもりか!?」

 

なんだその質問。

わざわざ向けた背にティエリアが問いかけてくる。

……だが、それに対する答えを俺は持ち合わせていない。

今は何の為に戦えばいいのか分からないからだ。

 

「さあな」

 

曖昧な答えを残してパーティー会場を後にする。

外に出たと同時にウェイトレスの衣装も脱ぎ、コートに着替えた。

 

「何の為に戦うのか……」

 

白い吐息が空に上がり、星空を霞ませる。

柱に背を預けて思考の中で見上げた。

今は会場から漏れる光すらぼやけて見える。

 

俺は変わらなければならない。

そうは思ったもののレナの言葉の意味もソーマの言葉の意味も依然として分からない。

何をどう変わればいいのか、分からないが今の俺が間違っていることだけは理解出来る。

だからこそ、これから俺はこの力をどう使えばいいのか、何とどう戦うのか……それを見つけることが俺に今必要なことだ。

 

頬に触れる冷えた空気を感じつつ目を瞑る。

すると、背後からコンクリートにかかった土を散らす足音が聞こえた。

俺を見つけて彼は足を止める。

 

「まさか本当に待っているとは……」

「ビリー・カタギリ技術大尉。お受けしてくれる気になりましたか?」

「いや、まずは話を聞かせてくれないかい?事情と注文内容を聞かないとこちらも個人的な依頼までは受ける気にはなれないよ」

「なるほど……分かりました」

 

とりあえず建物から離れる。

カタギリ技術大尉が車で来たとのことで、続きは車内で話すことになった。

ガルムガンダムは後でリジェネに持ってこさせる。

ティエリア・アーデを押し付けてきやがった礼だ。

 

「ちなみにこれは仕事の話ですよ」

「ははっ、悪いね。君に敬意を払おうとはどうも思えなくて」

「イノベイターを信じておられないのですか?」

「いや、その話を聞いた時、僕は驚いた。是非一度会ってみたいとも思っていたのだけれど……君は何故か個人としてしか見れないな。あまりイノベイターとしての魅力を感じないというのかな?」

 

酷い評価だな。

どうやら俺はご想像していたイノベイターとは違ったようだ。

いや、ほんとに酷い評価だ。

初対面の印象があれでは良くならないとはいえ、これは頬をひくつかせるしかない。

 

「あぁ、失礼。別に君を侮辱した訳じゃないよ。親しみやすい……うん、そうだ。親しみやすいんだ。僕はそれが君の魅力だと思うね」

「言っとくが全くフォローになっていない」

 

というかビリー・カタギリという人物はこんな奴だったか?

調べた人格と予想からかなり外れてるんだが。

失礼極まりない。

あとちょっと酒臭いな。

原因はそれか。

 

「はぁ……ん?」

 

駐車場にまで来たところで噴水の方を見遣ると偶然にも隣合っている男女がいた。

男の方はどうもパーティー仕様の正装というよりは運転手の制服に身を包んでいて、女の方は可愛らしく、それでいて色合いは大人しいドレスを着ている。

 

少し離れた所にはもう一人お付と思われる男が……ってあれはアンドレイ・スミルノフ少尉か?

よく見たらドレス姿の女性はルイス・ハレヴィ准尉だ。

そういえばハレヴィ准尉はアロウズ最大の出資者、ハレヴィ家の当主か。

なるほど、ここに呼ばれた訳だ。

 

「ん?どうしたんだい?」

「いや……」

 

カタギリ技術大尉も俺の視線に先に気付いて様子を見る。

すると、突然ハレヴィ准尉が苦しみの声を上げて蹲り始めた。

 

「うっ!ぐっ、あ……あぐっ……!」

「どうした!?」

 

即座に傍にいた男が寄り添う。

アンドレイ少尉も駆け付けた。

斯く言う俺は二つ、気になることを発見している。

ハレヴィ准尉に起きた突然の異常に男から聞こえたあの声……。

 

「……っ!大変だ!」

「あっ、おい!」

 

ダメだ、止める前にカタギリ技術大尉も行ってしまった。

仕方ない……俺も後に続くか。

 

「どうしたんだい?」

「分からない、急に苦しみ出して……」

 

駆け寄ったカタギリ技術大尉はかなり迅速に対応する。

落ち着かせようとハレヴィ准尉の背を撫で、近くにいた男から事情を聞き取ろうとした。

だが、その顔を覗いた瞬間、彼の表情が崩れる。

 

「なっ!?き、君は……っ!」

「……!」

 

―――やはりか。

灯りに照らされて俺もようやくその正体を掴んだ。

男の名は刹那・F・セイエイ、ガンダムマイスターだ。

 

「ソレスタルビーイング!!」

 

カタギリ技術大尉が世界の敵の名を叫び、驚愕する。

見た感じ、顔を見ただけで正体を看破したのか?

なら面識があるのか。

ソレスタルビーイングの刹那・F・セイエイに。

 

「くっ……!」

「警備兵!警備兵ーー!!」

 

正体がバレた刹那がこの場から逃げ出す。

その後を近くにいた警備兵二人が追って行った。

本来なら訓練を受けている俺も追うべきだが……。

 

「大丈夫か?ハレヴィ准尉」

「はぁ、はぁ……うっ!」

 

呼吸の荒いハレヴィ准尉に声を掛けるアンドレイ少尉。

だが、彼女が手にぶちまけた錠剤を見て表情を一変させた。

それを飲み込み、ハレヴィ准尉はやっと発作を止める。

そして、俺には分かる。

あの錠剤は……ナノマシンだ。

 

「准尉……君は……」

「……リボンズめ」

 

会場の二階を睨む。

またしても偶然に二階の一室の窓を突き破って脱出したティエリア・アーデの姿を捉えた。

そして、その奥には―――リボンズが笑みを作りながらこちらを見ている。

 

「俺達の支配の下で生まれる人類初のイノベイター……。ハレヴィ准尉に人間の先導者をさせるつもりか、リボンズ!」

 

歯を食いしばる。

あぁ、これだけは確信できる。

リボンズ達は間違っている。

犠牲を生み出し、画一することで人類を統率する。

その頂点にイノベイターが立ち、来るべき対話へと導く。

だが、こんなことをしていては人類は選択肢を失う。

 

全てイノベイターに委ねられ、裏から操られてるとは知らず、踊らされて破滅する。

ならば俺の敵はリボンズ達なのか?

あいつらを倒すために戦うことが俺に必要なことなのか……。

なににせよ、リボンズは危険だ。

念の為に保険をかけるか。

 

「カタギリ技術大尉。先に帰還を」

「えっ?」

「後からモビルスーツで追い掛けます。ソレスタルビーイングがいる以上、貴官の護衛を微力ながら一任させて頂けませんか?」

「……そうだね。任せるよ」

 

カタギリ技術大尉の承諾を得た。

ハレヴィ准尉に関しては今ここで解決することは出来ない。

だが、今日は様々なことを掴めた。

それだけで充分な収穫だ。

カタギリ技術大尉が車に乗車して駐車場から出たのを確認し、俺も森の中にGNステルスで隠していたガルムガンダムの座標まで駆ける。

目標まで数kmはあったが、辿り着き、ステルスを解かせた。

 

『GNシステム、リポーズ解除。プライオリティをレイ・デスペアへ。外壁部迷彩皮膜解凍。GN粒子散布状況のまま、ブローディングモードへ』

 

コクピットに乗り込み、システムを起動させる。

カタギリ技術大尉の車の現在地も特定できた。

一気にレバーを引く。

 

『レイ・デスペア。出る!』

 

俺の意思に従ってガルムガンダムは浮上した。

すぐにカタギリ技術大尉の追跡を始める。

そして、その道中、レーダーに映る珍しい機体を捕捉した。

真っ赤なカラーリングに染ったアルケーガンダムだ。

 

「あれは……リボンズが雇った傭兵か。何故こんな所に、……っ!」

 

例の如く一筋の閃光が走る。

これはティエリア・アーデか。

まだそう遠くはない。

どうやらガンダムとの交戦から帰った後のようだな。

 

刹那・F・セイエイとティエリア・アーデは俺と同様にガンダムを何処かに隠していたんだろう。

これもスメラギ・李・ノリエガの予報か。

それにしてもリボンズはアルケーを用意していたとは……。

 

『俺もガンダムで来て正解だったな……ん?』

 

レーダーに新たな反応が生まれた。

なんだ?アルケーに急速接近する機影!?

端末が機体の型式番号を特定した。

GNX-704T アヘッドって……まさか!

 

『あれは……!』

 

『はあっ!』

『なに!?』

 

俺がアヘッドの姿を視認したと同時にアヘッドがGNビームサーベルを抜刀してアルケーに斬りかかった。

アルケーは即座にGNバスターソードIIで対応し、刃が衝突する。

 

『なんだぁ、てめぇは!?』

『貴様に用がある。ただそれだけだ』

 

サーシェスとネルシェンの会話が通信で拾われる。

彼女の言葉にサーシェスは顔を顰めた。

 

『あ?』

『答えてもらうぞ。イノベイターの犬に成り下がった貴様にな』

『ぐっ……!』

 

アヘッドがアルケーに圧し勝ち、突き飛ばした!

ネルシェンは再びビームサーベルの切っ先をアルケーへと向ける。

そして―――。

 

『ナオヤの居場所を吐け!もはや貴様らの言いなりになる必要はない!!』

 

叫びと共にネルシェンはアルケーにGNビームサーベルを振り下ろした。

 




『共に生きてる』にてソーマのセリフを修正しました。
・共に生きているからこそ、みんな同じ筈だ→共に生きているからこそ、皆同じだ

次の主人公機はガルムガンダムをベースに改造機にする予定です。
NNN様の案を勝手がら一部お借りしました。


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ナオヤの所在

遅くなりました
調子が悪い時に書き溜めをしても仕方ないのでこれからも不定期でやっていきます
書き溜めできれば週一配信などもできたのですが……申し訳ないです


ネルシェンのアヘッドとアルケーガンダムが衝突する。

即座にバスターソードIIに斬り上げられた。

 

『ぐっ……!』

『突然何かと思えば、おらよ!』

『がは……っ!?』

 

切り返しでアヘッドの腹部を的確に狙ったアルケーの脚でネルシェンが蹴り飛ばされる。

奇襲に対応するだけじゃなく、反撃するとはなんて技量だ……!

離されて体勢を建て直したネルシェンのアヘッドは赤く輝く四つ目でアルケーを睨んだ。

 

『吐け。ナオヤの居場所を……っ!』

『おうおう、誰かと思えばあの時の嬢ちゃんか。暫く見ねえ間にえれぇ別嬪になりやがって。もうすっかり姉ちゃんになっちまったなぁ!』

『無駄口を……叩くな!!』

 

通信越しでも伝わるネルシェンの気迫。

強い語気と共にアヘッドはさらにアルケーにビームサーベルを振り下ろした。

ネルシェンにしては単調な動きだな。

あいつ……冷静じゃないのか?

 

『ハッハァー!いいぜぇ、相手してやるよ。戦争はこうでなくっちゃなぁぁ!!えぇ?そうだろ!!』

『ぐっ……うっ……!』

 

再び衝突する刃。

だが、完全にネルシェンが圧されている。

ネルシェンから斬り掛かったというのに既に押し返されつつある。

さらにアルケーの腰部ユニットが開く。

ネルシェンは冷静さを失っていてそれに気付く素振りすら見せなかった。

 

『ネルシェン!』

『隙あり―――なに!?』

『………っ!』

 

思わずアルケーに照準を合わせて引き金を引き、ガルムガンダムの2連装ビームライフルから放たれた粒子ビームがアルケーとアヘッドの間合いを裂く。

ネルシェンもようやくアルケーから距離を置いた。

 

『ネルシェン。迂闊に飛び込むな、死ぬぞ!』

『貴様……誰かと思えば!邪魔をするな。貴様には関係のない話だ』

『そうだとしてももう少し冷静に―――』

 

『いけよぉ!ファングゥーーー!!』

 

『『………っ!』』

 

ガルムガンダムはGNシールドを構えていたが、アルケーが射出したGNファングの最初の餌食となり、ファングに貫かれた。

……というか速い!

射出タイミングからシールドを奪うまでの到達時間が俺が知るよりも!

このファング、新型か。

 

『クソ、俺の後ろにつけ!俺を盾にするんだ!』

『何?』

 

縦横無尽に飛来するGNファングを反射神経を頼りに回避する。

だが、俺もネルシェンもアヘッドとガルムガンダムのスラスターじゃ限度がある。

第一波は良くても第二波からは被弾を避けられない!

 

『早くしろ!この機体はGNフィールドを張れるんだ!』

『………っ!』

 

ネルシェンがようやく俺の意図を察し、アルケーを一瞥してガルムガンダムの陰に隠れる。

最初からそうしておけば良かったものの……やはり思考が鈍っているな。

同時に前方から飛来するGNファングが俺を狙って粒子ビームを放ってきた。

 

『GNフィールド!』

 

ガルムガンダムのGNシールドを中心にGN粒子の壁が俺達を包む。

粒子ビームはGNフィールドに阻まれ、粒子の塵となって霧散した。

そして、ガルムガンダムと共にGNフィールドの恩恵を得たアヘッドは即座にGNビームライフルの銃身をガルムガンダムの肩に設置し、狙撃台として固定する。

その照準は一寸の狂いなく目の前のGNファングに充てられていた。

 

『外すなよ!』

『当然だ』

 

ネルシェンの淡々とした一言と共に引かれた引き金。

ガルムガンダムの肩からの狙撃はGNファング2基を決して逃がさず、粉砕した。

 

『他のも砕く!GNシールドを!』

『あぁ』

 

四方から飛んでくる粒子ビームを防ぎながらネルシェンのアヘッドからGNシールドを預かる。

両腕に構えたシールドで遂に直接突っ込んできたGNファングを弾き返した。

 

『そこ!』

『ふっ……!』

 

弾かれて一瞬、空中で機動を失ったGNファング2基もネルシェンが的確に撃ち抜く。

粒子ビームはGNフィールドで防ぎ、突撃に移ってくるファングはGNシールドで叩いて放り出された所をネルシェンが狙撃する。

俺の反射神経で防御を担当し、動体視力でタイミングを図る。

そして、ネルシェンの正確な狙撃。

二人の能力を併せたスタイルで射出から数秒もしない間に俺達は10基確認できたGNファングを蹴散らした。

 

『あの反応……なんだあいつは!?』

 

GNファングを収容する余裕すら与えない。

厄介な武装は無くなった!

 

『行くぞ、ネルシェン!フォーメーションγ-07だ』

『……いいだろう』

 

借りたGNシールドを投げ渡しつつGNビームサーベルを抜刀して加速する。

ネルシェンも受け取りながら左肩にマウントされていたGNビームサーベルを手に後に続いた。

二人で一気に距離を詰める。

 

『はあっ!』

『野郎が!うおっ……!?』

 

間合いに侵入した後も加速を緩めず、衝突し、アルケーの振り下ろしたGNバスターソードIIと俺のGNビームサーベルがぶつかり弾かれ合って、両者共に体勢を崩す。

機動性と技量差がない限り、本来なら行うであろうこのまま間合いを再度詰めて先手を取る、という戦法を試みることはできない。

アルケーは機動性でガルムガンダムを上回っている。

だから、戻るのは俺の方が遅かった。

 

『はっ!馬鹿が!』

『………っ!』

 

アルケーが先にスラスターで無理矢理戻り、刀身を振り下ろす。

だが、それより早く間合いに侵入した機影があった。

―――アヘッドだ。

 

『貰った!』

『なっ、何だと!?』

 

ガルムガンダムとアルケーの合間に飛び込んだアヘッドが振るう光刃はその軌道にアルケーの胴体を捉えている。

このままいけば敵機の両断は成功する。

タイミングの難しいレベルSのフォーメーションだが、完璧だ!

 

『ぐっ、まずった……っ!』

『なっ……!』

 

後退して回避した!?

ビームサーベルはギリギリ装甲に掠って空を斬る。

クソ、なんて反射だ!

 

『デスペア!』

『あぁ!』

 

2連装ビームライフルを構えてアヘッドの後方からアルケーを狙い撃つ。

だが、大半の散弾が避けられ、残りもGNバスターソードIIを盾に防がれた。

その様子を目撃したネルシェンもすぐ様ビームサブマシンガンで追撃するがアルケーには当たらない。

 

『くっ……!』

『そぉらよ!』

『ぐあっ!?』

『ネルシェン!』

 

アヘッドの射撃を全て回避して、アルケーは間合いに飛び込みネルシェンを蹴り飛ばした。

凄まじい技量だ、ネルシェンに引けをとっていない!

 

『オラオラオラァ!そっちの兄ちゃんも墜ちちまいな!』

『………っ!』

 

GNバスターソードIIを右腕に装着し、ライフルモードにしたアルケーが次はガルムガンダムを狙ってくる。

それらを躱す合間に間合いを詰められ、叩きつけられるバスターソードをビームサーベルで対応した。

 

『ぐっ……!』

『良い筋いってたがちと物足りねえなぁ!そんなもんかよ、えぇ!?』

『まだだ!』

『何?』

 

火花を散らす刀身の競り合いとは別に、腰辺りに用意した2連装ビームライフルの刀身がスライドし、展開する。

開いた銃身の奥から新たな砲口を晒し、2連装ビームライフルはその姿を変えた。

ガルムガンダムの最大武装、GNメガランチャーだ。

 

その砲口を零距離でアルケーに突きつける。

展開した砲身に紫電が走り、蓄積された圧縮粒子は砲撃と化した粒子ビームとなって放たれた。

 

『こいつは……っ!?』

『喰らいやがれ!!』

 

サーシェスは発射直前に察知したのか、引き金を引く前に退ったが、もう遅い。

粒子ビームはアルケーの左腕を捉え、消し飛ばした。

機体の損傷に伴う爆発の衝撃を受けてアルケーも体勢を崩す。

その隙をネルシェンは逃さない。

 

『はあーーっ!』

『なに!?』

 

気迫と共にビームサーベルで斬り掛るネルシェンのアヘッドにサーシェスは驚愕し、咄嗟にGNバスターソードIIで迎え撃つ。

衝突する双方の刃が紫電を散らす中、ガルムガンダムのGNメガランチャーはアルケーを捉えていた。

 

『貰った!』

『また砲撃か……!』

 

動きを止めたところに放った粒子ビームは躱された。

やはり反応が良い!

 

『舐めんじゃねえよ。こちとら動きは見えてんだ!』

『クソ……!』

 

ライフルに変形したバスターソードの粒子ビームを躱しつつ苦虫を噛む。

寄り付くアヘッドをアルケーは刃同士を衝突させ、圧し飛ばしてからガルムガンダムにも接近してくる。

俺はGNメガランチャーで迎え撃ったがやはり回避された。

間合いに飛び込んできたアルケーにすぐ様GNビームサーベルの刃を生成して対応する。

 

『ぐっ……!ファングは失った、もうお前の負けだ!』

『ところがぎっちょん!てめぇには隠し武器をくれてやる!!』

『なっ!?』

 

突如アルケーの両脚部爪先から発生した赤い(サーベル)

生成されたGNビームサーベルは可動域の広い脚の動きに合わせて目前に円を描くようにガルムガンダムの左腕を落とし、GNメガランチャーを切断した。

当然ガルムガンダムに小破の衝撃が襲う。

 

『ぐああ……っ!?』

『ハッハァー!やっぱ物足りねぇなぁ?もっと魅せろよ、てめぇもガンダムだろうがっ!!』

『……っ!』

 

クソ、そうは言われても汎用型の装備じゃ近接特化のアルケーに分が悪過ぎる……。

せめて何か打開策がないとこのままずっと押されたままだ!

 

『ちょいさーーっ!!』

『ぐあっ!?』

 

再度蹴り入れられ、GNシールドで防いだものの脚部爪先から伸びたビームサーベルによってシールドも切断されて失う。

そして、ガルムガンダムは完全に体勢を崩して高度を落としていく。

アルケーには絶好の機会(チャンス)

だが、その背後からはネルシェンのアヘッドがビームサーベルを両手持ちに構えて切迫してきていた。

 

『調子に乗るな!』

『おっ、今度はそっちの姉ちゃんか』

 

ビームサーベルを振り下ろすアヘッドにGNバスターソードIIで迎え撃つアルケー。

しかし、さっきと違うのはもう一つの赤い刃がアヘッドの関節部分を狙って弧を描こうと振り上げられていることだ。

 

さらにアヘッドの四つ目と頭部の動きから、恐らくネルシェンはそれに気付いていない。

普段なら有り得ないがまた冷静を失っている可能性がある。

クソ、ネルシェンもやられる!

 

『てめぇも切り刻んでやるよぉ!』

『ふっ、所詮その程度か』

『何?』

 

サーシェスが顔を顰める。

対するネルシェンは口端を吊り上げ、挑戦的な笑みを浮かべていた。

モニターに映る彼女が顎で軽く上を指す。

……なんだ?

 

『見上げろ』

『あぁん?一体どういう―――ッ!!』

 

ネルシェンの命じた通りに戦闘空域よりさらに高度を見遣る。

すると、アルケーがその四つ目で赤い閃光を捉え、咄嗟に軸をズラしたものの上から振り落ちたGNビームサーベルはアルケーの胴体部から脚部に掛けて貫いた。

同時に背部はコア・ファイターとして分離し、機体から離れる。

串刺しになったモビルスーツそのものは地上へと重力に従って落ち、大きな爆発音が響いて四散した。

 

ビームサーベルを捉えてから瞬時に機体から離脱したアリー・アル・サーシェスも恐ろしいものだが……それを見越して手の内をわざと見せたネルシェンはさらに恐ろしい。

あいつ、わざと命を奪わなかったのか。

 

『墜ちたのは貴様だったな』

『チィ!』

 

コア・ファイターの機動に先回りしたアヘッド。

GNビームライフルの銃口を向けられたコア・ファイターは行く手を阻まれる。

旋回しようにも背後はガルムガンダムが取った。

これでコア・ファイターに逃げ場はない。

 

『……仕方ねえ、降参だ』

 

さすがにこの状況ではどうすることも出来ないと判断したサーシェスが抵抗を止める。

それを確認して俺はビームサーベルの刃を消したが、ネルシェンは依然としてビームライフルの銃口を突き付け続ける。

そして、そのまま尋問を始めた。

 

『吐け。ナオヤはどこだ?』

『知らねえな』

『なに……?』

 

サーシェスの声音から嘘はついていない。

だが、ネルシェンは思い切り顔を顰め、眉に力を込めて憤った。

 

『そんな筈はない。嘘を吐くな!少なくとも生死くらいのことは知っている筈だ』

『嘘じゃねえよ、本当に俺ぁ知らねえよ。ナオヤってやつに関しては大将に名前すら聞かされたことはない。姉ちゃんに聞いたのが初めてだ』

『貴様!そんな嘘が―――』

『落ち着け。ネルシェン』

『なんだと』

 

興奮しているところを制止する。

嘘をついてない人間からない情報を得るのは無理だ。

ネルシェンも気付いているからこそ焦燥している。

ここは一旦冷静にならなければならない。

 

『こいつは嘘をついていない。それに俺ですらナオヤが行方不明なんて知らなかった』

『ふん。身内に拒絶されている貴様が知るはずもないだろう』

『まあ待て。そうじゃない、よく考えろ』

『……?』

 

ネルシェンはやはり思考が鈍ってる。

俺に伝わっていないということはリボンズがそれほど隠したいことということだ。

ナオヤがリボンズの手中に収まってる収まってないにせよ、どちらであっても俺に伝えて有益を得れる情報ではない。

寧ろ隠した方が得策だ。

そして、もし死んでいるのなら俺に隠す必要は一切ない。

 

ナオヤを手中に収めているのならリジェネ辺りが知っている筈だ。

だが、リボンズの寝首を狙っているリジェネですら何処にもそんな情報は漏らしていない。

リボンズが隠し通す基準は俺が離反した時にネルシェンを連れてしまわないかという一点のみ。

ナオヤが囚われていれば、ネルシェンはプライドを捨てて俺と組むことを選ぶ。

気に食わなかろうがナオヤ一人を奪い返すくらいならそれが最適な選択肢だからだ。

 

少なくとも俺はネルシェンよりイノベイターの内情に詳しいし、戦闘時のネルシェンとのコンビネーションの高さも練度がある。

連れて歩くには充分に利用しがいがあるだろう。

俺も人助けなら手伝いたいし、利害の一致もある。

他に、ナオヤの所在をリボンズ達が掴んでいないとしたら、俺に足を掬われる可能性も高く、これもまた利害の一致で俺は戦力が、ネルシェンは捜索が助力になるために組む。

イノベイターの捜索範囲も俺ならばある程度分かるからな。

 

だが、ナオヤが既に死んでいる場合は俺とネルシェンは別の行動に出ると見て間違いない。

ナオヤの死が発覚した時、ネルシェンはイノベイターに真実を求めて襲いかかるか、復讐鬼となるか……何にせよ、俺がネルシェンと組まない。

敢えてリボンズの観点でいえば、俺は負の感情を持った者と戦うような性格ではないからだ。

だから、リボンズが隠している今、ナオヤの所在はどちらにせよ、まだ死んではいないと言える。

 

『……ナオヤは少なくとも生きてはいる』

『あくまで可能性だけどな』

 

俺と同じ発想を辿ったネルシェンが同じ考えに辿り着いた。

あともう少し情報があれば結論は出るが……。

 

『本当に何も知らないのか?』

『しつけぇなぁ。何度も言わせんなよ、俺ぁはほんとに―――いや、待てよ』

 

改めてサーシェスに尋ねると思い当たり始めた。

サーシェスが言うには数ヶ月前の話だという。

 

『確か大将は人探ししてたな。誰かまでは聞いてねぇが』

『チッ!』

『……判断材料としては足りないな』

 

ないよりかはマシな情報ではあるが、リボンズが探している人物は一人や二人じゃない。

4年前、姿を消したフォン・スパークは当然のことレナ達のことやフォン・スパーク同様に姿を眩ませた(ワン)紅龍(ホンロン)(ワン)留美(リューミン)

他にもビサイド・ペインの所在が10年以上前から不明だ。

一概に誰か断定できないのが苦しい。

俺もナオヤの所在は気になるんだけどな……。

 

『ないものを探っても仕方ない。これ以上は無駄だ』

『そんなことは貴様に言われずとも分かっている!くっ……、こいつは生かしておけん!!』

『なっ、おい!?』

 

コア・ファイターに向けた銃口をさらに鋭く突き付け、サーシェスに殺意を向けるネルシェンの前に塞がる。

するとやはり彼女は怒気の込もった剣幕で俺を睨んだ。

 

『邪魔をするというのなら貴様も討つ』

『待て!何も殺す必要は―――』

『―――ある。私の探りがバレた以上生かしては帰せん。退け、今なら貴様は逃してやろう』

『ネルシェン!』

 

アヘッドの肩を掴もうとしたが少し近付いただけで銃口の奥に緋色の閃光がチラつく。

ネルシェンは本気だ。

俺が立ち塞がるなら俺ごと撃ち殺すつもりだ。

クソ、こうなったら仕方ない。

 

『なら聞け。殺すよりもっと良い方法がある』

『何?』

 

ネルシェンにだけ通信を繋いで隠密に交渉を始める。

彼女を打ち崩すには口でやるしかない。

 

『奴を泳がせる。奴ならリボンズ達から有益な情報を引き出せる筈だ』

『……何かと思えば。馬鹿馬鹿しい、それは奴を脅す材料があればの話だ。私はそんなものを持ち合わせていない』

『いや、持ってるさ』

『何?』

 

ここでようやくネルシェンの表情に変化が現れた。

訝しむように眉を顰め、俺の言葉に耳を貸し始める。

 

『少なくとも俺は持ってる。俺の乗るガルムガンダムはこれが完成系じゃない』

『……ほう』

 

目を細めるネルシェン。

これだけの情報では絵空事だと思われるだろう。

だから、俺はあるデータを彼女に送り付けた。

一つはガラッゾとガデッサのデータを用いて構築したプログラム。

もう一つはアロウズの技術主任を任された男の情報だ。

ネルシェンは二つに目を通して俺を見遣る。

 

『貴様が考えていることは大体理解した』

『……それで、どうする?』

『……』

 

暫くネルシェンとの間に沈黙が続く。

やがて、彼女は油断のない鋭い目付きのまま鼻を鳴らした。

 

『いいだろう。貴様に乗ってやる。だが、この男に私を会わせることが条件だ』

『……分かった』

 

交渉は成立した。

ビリー・カタギリ技術大尉には後で連絡を入れておこう。

さて、と……まだ本題が残ってる。

ビームサーベルを生成し、その刃先をコア・ファイターに向けた。

 

『よぉ、話はついたようだが何のつもりだぁ?』

『なに。簡単な話だ。お前には少しの間、俺達の言う通りに動いてもらう。言ってしまえばナオヤの所在を探ってこい』

『……なんだと?』

 

意外だったのか、サーシェスは目を見開く。

そして、暫く拍子抜けになった後、大袈裟に吹き出した。

 

『ふっ、はは……っ、ははははははははっ!!何を言い出すかと思えば、奴さん頭おかしいんじゃねえのか!?』

『そうかもな。だが、状況は把握した方がいい』

『あぁ?』

 

どうやら俺の態度が気に入らないらしい。

サーシェスの語調から苛立ちを感じる。

それでも構わず俺は続ける。

 

『実の所、俺達はいつでもお前を殺れる。ただ今日は特別に見逃してやろうって話だ』

『んだと!?てめぇ、1回勝ったくらいで調子に乗るなんて良い根性してんじゃねえか!!えぇ!?』

『吠えてもらうのは大いに結構だが、俺もネルシェンも今日は万全ではなかった。これから新型のモビルスーツがチューンする。それが何よりの証拠だ』

『……っ、てめぇ……!』

 

半分真実、半分嘘だ。

まずネルシェンも巻き込んだが彼女の事情なんで俺は知らない。

パーティー会場にネルシェンが現れたのは十中八九サーシェスが目的だろう。

そこを敢えて新型のモビルスーツという嘘をついた。

だが、俺に関してはそこまで嘘ではない。

 

既にガルムガンダムを受け取ったが、これから()()を見つけた時、対応できるように改造を施してもらう。

その為のビリー・カタギリだ。

そして、いつでもやれるという話も半分は真実だが、半分はハッタリだ。

もちろん口ではホラを吹く。

 

『俺にはヴェーダがある。ネルシェンには今日お前を見つけた観察眼がある。つまり……万全でない俺達に苦戦したお前に次はないということだ』

『口からでまかせを……!』

『でまかせではない』

『何?』

 

突如、口を挟んだネルシェンもサーシェスを巧みに惑わせる。

 

『私は今回とある飛行艇の護衛の任務を受けてここにいる。貴様はそのついでだ。その飛行艇には私の新型モビルスーツが搭載されている。その機体の出力はなんと―――アヘッドの10倍らしい』

 

……………は?

アヘッドの、10倍!?

とんでもないことを言い出したネルシェンの口は愉快そうに笑っている。

待て。

これは嘘か?辺りに飛行艇はない。

だが、もし仮にネルシェンが護衛の任務を受けていたとして、サーシェスに襲い掛かることを予定していたなら戦闘空域から離脱させることを怠りはしないだろう。

 

だからこの場に居なくても嘘だと断定できる材料にはならない。

とにかく嘘ならばネルシェンにしてはかなり大胆なホラを吹いた。

正直、予想外だ。

真実だった時のことも考慮して、だが。

 

『……おい、本気で俺をゆすごうって腹か?』

『全て真実だと言っている。疑いたいのなら好きにしろ。貴様の身体が明日を迎えられないだけだ』

『………っ!』

 

サーシェスが揺れている。

かなりデタラメだがネルシェンの陽動が効いているようだ。

戦いの中で俺と彼女の能力の高さはサーシェスが一番感じている。

そう単略的な判断はしないだろう。

さて、どう出るか……。

 

『…………』

 

沈黙がこの場を支配する。

大袈裟な嘘にも聞こえるおかげで相手も逆に判断に躊躇している。

少しでも賭けに負ければ最悪の場合、ここでサーシェスを殺すことを容認するしかなくなる。

少なくとも俺にそれは止められない。

 

『……いいぜ。飲んでやる』

 

先に沈黙を破ったのはやはりサーシェスだった。

俺達の要件を飲み、誘いに乗った。

そして、忌々しそうに表情を歪める。

 

『チッ!口約束で痛い目にあっても俺ぁ知らねえぜ?』

『その時はその時だ』

 

無けなしの嫌味だけを残してコア・ファイターは戦闘空域を離脱した。

残ったのは俺のガルムガンダムとネルシェンのアヘッドのみだ。

アヘッドの四つ目がこちらを捉えてくる。

 

『貴様の要望は受け入れた。その男の元へ案内してもらうぞ』

『……分かってるよ』

 

まったく、流れとはいえ変なことになってしまったな。

それにしてもビリー・カタギリに会ってどうするつもりなんだか。

大方新型のモビルスーツの件、なのだろうが。

飛行ルート上に確かに飛行艇はいた。

だが、その中に眠る化け物の姿だけはこの時見ることは叶わなかった。



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イノベイターの使命(前)

護衛を務め終えた俺とネルシェンはネルシェンの新型モビルスーツを乗せた飛行艇と共に元ユニオンの軍事用ファクトリーの格納庫にガルムガンダムとアヘッドを収容した。

そして、今は格納庫に隣接する一室にて機体を見下ろす位置にいる。

 

「さて、と。僕が新型機の開発やらで忙しいのを承知で頼み事をしてきたということでいいかな?」

「引き受けたのは貴方だ」

「ははは……。それを言われると痛いね」

 

苦笑いしつつも端末を起動して作業に取り掛かるカタギリ技術大尉を他所に俺はガルムガンダムに目を向けた。

世論に対するガンダムの印象は最悪だ。

その中でアロウズにその存在を置くことは避けたい。

だから、まずはフェイスカバーを用意しなければならないが、それだけでわざわざこんな所に足を運んだりはしない。

 

俺が望むのは―――『答え』を見つけた時に必要になる力だ。

その為に『ヴェーダ』からガラッゾとガデッサのデータを盗んできた。

データの入ったメモリをカタギリ技術大尉の前にかざす。

 

「これを参考に汎用機にしてもらいたい」

「汎用機?つまりどんな状況にも対応出来る機体が欲しい……ということかい?」

「あぁ」

 

カタギリ技術大尉の返答に頷く。

俺が求めるのはガラッゾのように鋭く、ガルムガンダムのようにバランス良く、ガデッサのように高火力を持ったモビルスーツだ。

果たしてそれが実現するのか分からないが、俺はカタギリ技術大尉が実現させるだけの能力を持っていると睨んでいる。

俺の要望を聞き受けたカタギリ技術大尉は次に奥で壁に背を預けて腕を組む、いつものスタイルのネルシェンに目を向けた。

 

「なるほど……。大体理解したよ。ところで君も彼と同じかな?」

「そうだ。私はあの機体の出力向上を求める」

 

事前の交渉もなしにここまで来たネルシェンは遠慮なく淡々と要望を述べる。

結構無礼だな、こいつ……。

俺は苦労して改装を受託してもらったってのに。

まあそんなことはどうでもいい。

ネルシェンの要望も聞いたカタギリ技術大尉は片手間にネルシェンの新型モビルスーツのデータを開き、目を通す。

すると、すぐに目を見開いた。

 

「え、えっと本当にいいのかい?現状でもアヘッドの3倍は出力があるよ」

「お前……やっぱりハッタリだったのか」

「ハッタリではない、これからそうなる。構わん。10倍に上げろ」

「じゅ、10倍!?いくらなんでもそれは無茶だ!」

 

10倍という数字にカタギリ技術大尉は思わず立ち上がった。

正直、俺も絶句した。

アヘッドの3倍の推力を持つモビルスーツなんてツインドライヴでもない限りはコクピットへの負担が尋常じゃない。

それが10倍となれば……。

 

「駄目だ。とても容認できない。パイロットが、君が死ぬ可能性がある」

「構わん」

「冗談で言ってるわけじゃない!僕は本気で――!」

 

反対を押し切ろうとしたカタギリ技術大尉だが、言葉を詰まらせて黙ってしまった。

当然だ。

それ程までにネルシェンが一寸の迷いのない力の込もった瞳をしているからだ。

俺もここまでの覚悟をねじ伏せることはできない。

 

「……分かった。だけど、責任は君自身に取ってもらうよ」

「端からそのつもりだ。10倍でなければあの機体に乗る意味はない」

 

断言するネルシェンは瞼を閉じてそれ以降の意見を一切聞き入れない態度を取った。

これにはカタギリ技術大尉の呆れて溜息をつく。

 

「なんだか彼がもう一人増えた気分だよ……。それで、君の方の期限はいつまでに?」

「悪いが一週間で頼む」

「……もう一人増えた」

 

何やら頭を抱えてしまった。

まあ酷だとは思うが俺も早急に機体が欲しい。

仕方のないことなんだ。

その代わりは報酬は弾ませてある。

と、俺とネルシェンの両方の要望を言い揃ったところでもう一人の来客が到着し、自動(オート)式の扉がスライドした。

現れたのは仮面で顔を覆い隠し、改造したアロウズの制服に身を包むミスター・ブシドーだ。

 

「……新型モビルスーツの開発をしていると思ったが」

「グラ―――いや、今はミスター・ブシドーだったね」

 

突然の来客にも関わらずカタギリ技術大尉は特に嫌な素振りを見せず、寧ろ友好的な笑みを浮かべてブシドーの対応をする。

本名を呼びそうで言い直したところを見るに二人の間柄は親しい。

勿論ブシドーのことを調べた時点でビリー・カタギリの名は出てきているから俺は二人の仲を知っている。

だからこそ、ここに来れたんだ。

 

「勝手にそう呼ぶ。迷惑千万だな」

「気に入ってるのかと思ったよ」

 

ブシドーの雰囲気もいつもとは違う。

時々俺達に視線を向けるが特に反応を示すつもりはないらしい。

カタギリ技術大尉もそんなブシドーに合わせて気さくに返答している。

俺とネルシェンは空気を読んで黙りだ。

というかブシドーって自称じゃなかったのか……。

 

「ところで、今日は何の用だい?見ての通り今は手が回らない状況なんだけど」

「貴官の開発主任就任の祝福を」

「それはそれは」

「それと、試作段階のあの機体を私色に染め上げて欲しい」

「えっ?」

 

ブシドーが見遣る先にある佇む黒を基調とし、赤のラインの入った新型のモビルスーツ。

アヘッドに似たフォルムをしているが未だ開発中の機体だ。

 

「……君もか、やれやれ。どうやらそっちがここに来た本命のようだね。要望はあるかい?」

「最高のスピードと、最強の剣を所望する」

 

もう既に答えは出ているように、ブシドーは即答する。

一瞬、呆気に取られたビリー・カタギリ技術大尉もすぐ様承諾した。

 

「合点承知。こうなったらこの仕事、全部完璧にこなしてみせるよ。誰にも譲る気はないね」

「む?私以外にも先客がいたか」

 

ブシドーがやっとこっちに興味を示す。

まあ他に対象となる奴はこの場にはいないから必然だな。

 

「あぁ。俺達も彼に新型の依頼をしている」

「……言っておくが、先着だ。貴様は最後だな」

「なんとっ!?」

「こらこら、喧嘩しない。どうせみんな期限が短いと見た。なら片っ端から片付けるよ!」

 

ネルシェンとブシドーを宥めたカタギリ技術大尉はやる気に満ちている。

何処か楽しそうだ。

クリエイターや技術屋は忙しい方が時に充実するというのは本当らしいな。

まあそれはそれとして少しやり過ぎたかもしれないとは思っているが。

 

流石に一週間は酷だったか……でも撤回するにできない空気になってしまった。

仕方ない。

それよりも笑みを消し、真剣な表情になったカタギリ技術大尉の方が気になる。

その様子に気付いたネルシェンとブシドーも彼に注目した。

 

「その代わり、確実に仕留めて欲しい。ソレスタルビーイングを」

「無論だ。私はその為だけに生きている」

「……言われるまでもない」

 

―――なんだ、この憎悪の感情は。

俺の知らない恨みがカタギリ技術大尉から漏れている。

それを気にすることもなくブシドーとネルシェンは承諾した。

何故こうも憎しみ合うのか……。

俺も以前は5年前に武力介入をした奴らが許せなかったが今はただねじ伏せればいいとは思えない。

だからこそ、レナの『分かり合うこと』は正しいのかもしれない。

だが、何とどう分かり合えばいいのか俺にはまだ分からない―――。

 

 

 

 

 

 

ガルムガンダムはカタギリ技術大尉に任せて久方ぶりにイノベイターの本拠に戻ってきた。

もちろん用はある。

先の作戦以降、姿を眩ませたプトレマイオス2は恐らく海中を潜航して身を隠している。

 

カタギリ司令らによってその大体の潜航ルートを探るのにも、その報告がマネキン大佐やリント少佐に届き、作戦プランを錬るまでもそれなりに時間を要する。

その間にリボンズは白黒つけたいんだろう。

ソーマがいるプトレマイオス2を墜とせるのか、どうかを。

 

「この先でリボンズが待ってるよ」

「………」

 

いつものテラスの扉付近で待機していたリジェネを無視して入室する。

見慣れた赤い長椅子、半螺旋で上階へ繋がる階段、窓から見える広大な景色。

その中でリボンズはやはり長椅子に腰掛けて俺に見向きもしなかった。

 

「遅かったね」

「俺も暇じゃない」

 

何度目か分からないやり取りをしてようやくこちらへ視線を向けるリボンズ。

俺もわざわざ目の前まで行って向かい合った。

それを確認したリボンズは一瞬ほくそ笑み、足と手を組んで目を伏せる。

 

「そういえば、ソーマ・ピーリスの件は本当に残念だったよ」

「思ってもないことを言うんじゃない」

「本心さ。彼女はアロウズに……いや、恒久和平に貢献してくれる良い兵士だと思っていたんだけどね」

「それで?そんなことを言うためにわざわざ呼び戻したのか?」

「いや。そろそろ君の真意を聞きたくてね、忙しい所申し訳ないけど少しだけ君の時間を僕にくれないかな」

 

また回りくどい言い方を……。

こいつと話そうとするといつも本題に入るまでの導入が長い。

ここは素直に言ってしまおう。

じゃないと日が暮れる。

 

「要件は大体分かってる。手短に頼む」

「随分と急いでるね。分かったよ、手短に行こう」

 

まあ別に急いでる訳ではないがリボンズは承諾してくれた。

ここにあまり長居したくないとは言わないでおこう。

 

「単刀直入言うと僕は君を疑っている」

「……俺を仲間として信用出来ないということか」

「少なくとも仲間であるというのなら証明して欲しいと思っているよ」

 

証明か。

難しいな。

相手が何を求めてるのか見定めなければならない。

だが、今の俺にそんな余裕があるだろうか……。

 

「安心していい。ちゃんと僕から提案があるからね」

 

リボンズが屈託のない微笑みを向けてくる。

嫌な予感がする―――そう考えた直後、リボンズの表情から笑みは落ちた。

金色の瞳が俺の心を覗く。

 

「ソレスタルビーイングの壊滅」

「………っ!」

 

予想していたものがリボンズの口から零れた。

その瞳は酷く冷徹で、ただ見つめ合っているだけで全てを見透かされる。

リボンズは見つけた。

動揺の原因を。

俺の心の弱さを。

 

「出来ないかい?君に、彼等を討つことが。ソーマ・ピーリスを討つことが」

「そ、それは……っ」

 

息が詰まる。

来るとは分かっていた。

頭では理解していたが、実際に引き金に手を掛けさせられると震えが止まらなくなる。

イノベイターである限り、計画遂行の為に必要なことをしなければならない。

それが間違っているとしても代わりの答えを見つけていない俺はどうすることもできない。

 

ただ一つ分かるのはここで肯定しなければ俺は……イノベイターではなくなるということだけ。

それは死ぬことと何が違うんだ?

俺は一体何として生きていけばいい?

……結局、リボンズの問いに対してただ立ち竦むことしかできなかった。

 

「答えは急がないよ。その代わり、君が証明するまでは僕らは君に一切の手助けもしない。悩むのは勝手だけれどあまりに遅過ぎると先に僕が計画を完遂するかもしれない。そのことを……覚えておくといい」

 

立ち上がったリボンズはすれ違い様にそれだけ言い残してこの場を後にした。

取り残されたのは俺一人。

リジェネもどこかへ消えてしまった。

広い空間を静寂が支配し、その中で俺はただ床を見つめたまま決めかねている。

 

「俺は……」

 

どうすればいいのか。

それは、誰も教えてはくれない。



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イノベイターの使命(後)

スローネ4号機、スローネフィーアがすごく気になる…。
プラモはよ。


一週間後。

ビリー・カタギリ技術大尉から機体のチューンを終えたとの連絡が届いた。

丁度アロウズ全体に任務が入った時だ。

無茶な注文にも関わらず本当によくやってくれたとは思うが、作戦が開始されるまでに宇宙(そら)に送って欲しい趣旨を伝えたところ、了承の返答を得た。

 

当人がどんな反応をしているか容易に想像できるが、やり取りの中にそんな私情は一切挟んでこない。

技術屋としてのプライドだろう。

大したものだ。

あちらが機体を宇宙(そら)へ上げる手筈に追われている中、俺も宇宙へ向かうつもりでいる。

今回の作戦がそういうものだからな。

―――時は三日前、艦内の司令官室で決まったことだった。

 

「申し訳ありません。遅れました」

「よくぞ来た。大尉も参加しろ」

「はっ」

 

マネキン大佐に呼ばれた俺は、作戦プランを練っていたらしい大佐とリント少佐が端末の映像を挟んで対談している間にお邪魔した。

どうやら俺に声を掛ける前に始まっていたらしく話の流れから俺が必要になって呼ばれたようだった。

既にリヴァイヴも参加していて、入室した際に俺を見るなり脳量子波による意思伝達を完全に拒絶し、意味深な笑みを秘密裏に向けてきた。

リボンズの忠告は虚言ではなかったらしい。

 

「ガンダムをロストしたポイントと経過時間、移動速度から、敵艦はこの辺りの海底を航行していると推測されます。我が隊は6機のトリロバイトでエリアを包囲し、発見次第攻撃を開始します」

「制空権の確保は?」

「モビルスーツ2個小隊もあれば十分でしょう。保険としてデスペア大尉も配置していいもいいですが、彼らは海中から出る事がないでしょうから」

 

リント少佐が自身の考察と作戦プランを誇らしげに提示し、マネキン大佐の疑問にも即座に回答する。

ソレスタルビーイングの母艦、プトレマイオス2は現在海中を潜航している。

経過時間や移動速度の計算は戦艦の規模からしてほぼ間違いはない。

確かに少佐の予測した座標は正しいものだ。

 

普通に考えれば袋叩きにされるために敵艦が海上に浮上することはないだろう。

だが、リント少佐は一つ大きな見落としをしている。

……その指摘は俺が口にするまでもなかったが。

 

「その戦術には異を唱えさせて欲しいですね」

 

即座に発言権を取ったのはリヴァイヴだった。

リヴァイヴの第一声にリント少佐は顔を顰める。

 

「お忘れになっていませんか?敵艦は大気圏を突破し、地上に降下して来たのです。ならばその逆も有り得るかと」

「そんな事は……!」

 

そう、プトレマイオス2は5年前とは違って大気圏を突破することができる。

GNフィールドの展開、そして、トランザムによる装甲の強度化と突発的な加速だ。

それだけのことができる艦なら無論その逆もできるだろう。

 

「私も同意見だ。ガンダムのGNドライブには、トランザムと呼ばれている高濃度粒子全面解放システムがある。それを利用すれば……おそらく」

 

マネキン大佐も肯定的だ。

 

「静止衛星軌道上に展開している部隊との連携をお薦めしますよ。敵の作戦指揮官も今のオーソドックスな戦術は先刻お見通しでしょうし」

「無礼な、上官である私を愚弄する気か!?」

「ライセンスがあります」

「何だと!?」

 

作戦プランを否定された挙句、貶されたリント少佐が卓上に強く拳を叩き落とす。

それでもリヴァイヴの表情は頬すらピクリともせず動じない。

一方、マネキン大佐はリヴァイヴの物言いに目を細めた。

 

「貴官もワンマンアーミーだというのか?」

「ミスター・ブシドーと違い、大佐の戦術に従う事をお約束しますよ」

「それは有難いな」

「くっ……!」

 

これまた絵に描いたような構図だ。

どういう思惑か、リヴァイヴがマネキン大佐を持ち上げ、リント少佐が忌まわしそうに表情を歪める。

毎回やるのか、これ。

俺達以外のライセンス持ち、ミスター・ブシドーは命令に従順ではなく、ネルシェンは新型モビルスーツの改装を待っている。

 

だが、そもそもネルシェンの新型に改装する必要はない。

リヴァイヴが裏でどういうつもりにせよ、完全に私情で任務に参加していないところを見るに従順なライセンス持ちの兵士はここに来て珍しい。

マネキン大佐も口角を上げる訳だ。

リント少佐は妬んでいるみたいだが。

 

「デスペア大尉には宇宙(そら)の部隊に合流してもらう。リバイバル大尉のガデッサに搭載されているこのGNメガランチャーという装備の射程と威力が嘘偽りないのならば、海中から飛び出した敵母艦の上昇角度をリバイバル大尉が変え、誘導した座標でデスペア大尉にはこれを叩いてもらう」

 

リント少佐の作戦プランを下地にマネキン大佐が要修正していく。

トリロバイトによるプトレマイオス2の包囲は変更せず、進路を塞いだところに集中砲火。

ミサイルを回避する為に深度を上げる敵母艦はすぐさまトランザムを発動し、海中を飛び出すとの予測。

宇宙へと上昇する敵母艦を地上のMS部隊が追撃し、それで撃沈できればいいが、失敗した場合は大気圏突破へと差し掛かった辺りでガデッサのGNメガランチャーで敵母艦の飛行進路を変える。

 

その先に待つ宇宙の部隊から俺が発進し、無防備な敵母艦を迎え撃つ。

大佐が言うにはこの時に敵はガンダムを発進することはできないらしい。

つまり俺と味方のMS部隊がプトレマイオス2を集中的に攻撃すれば―――敵艦は沈む。

だが、問題を唱えたいやつがいるらしい。

修正した作戦プランを聞いたリヴァイヴの視線を感じる。

 

「マネキン大佐。本当に彼に宇宙を一任するべきと判断を?」

「何か問題でもあるか、リバイバル大尉」

「いえ。私は適任ではないと思ったので……ですが、大佐の指示とあらば宇宙は彼に任せるとしましょう」

 

ただの嫌味じゃない。

この一瞬で俺が失敗しても自分たちは関係がない、元から信用していないと言い張れる。

暗に身内ではないと告げていた。

マネキン大佐も大体の事情を察したのだろう、俺に目配せした後、リヴァイヴの言葉を修正した。

 

「安心しろ。大尉は実績がある。それにこれまでの作戦で私は信頼に値すると評価している」

「それはそれは、失礼しました」

 

恭しくお辞儀をするリヴァイヴ。

だが、大佐の言葉も耳に流して目線は試すように俺を捉えていた。

顔を上げたリヴァイヴは、では失礼しましたと、大佐に敬礼し、退室前に俺の隣を微かに横切る。

 

「今回の作戦での成果、期待していますよ」

「……分かっている」

 

最後の脅しを囁いてリヴァイヴは退室する。

あとはマネキン大佐とリント少佐のプランの最終確認となるため、俺も不必要だ。

去らなければ、と管制室に背を向けた。

 

「待て、大尉」

「……何か?」

 

しかし、大佐が俺を呼び止める。

振り返るとリント少佐が端末上のプランを目で追うのを止め、怪訝そうに大佐を見遣っていた。

大佐はその視線に目敏く気付き、立ち上がって俺の傍まで寄る。

 

「貴官のことはスミルノフ大佐に聞いている。イノベイターとしての立場、失うなよ」

「……はい。分かっています」

 

俺にだけ聞こえるように声を潜めてくれたマネキン大佐の心遣いに頷くしかない俺は、ただ僅かに顎を引く。

イノベイターとしての立場……やはり、イノベイターとしての俺以外に価値なんてない。

だが、リボンズ達のやり方に、あいつらの望むものに俺は賛同できない。

レナの言う分かり合うことが本当に大切なのだとして俺達の力は何のためにある?

……まだ答えは分からない。

 

 

そして、迷走が続く中、三日後は何の配慮もなく訪れた。

宇宙(そら)の部隊と合流した後はバイカル級航宙巡洋艦艦内にて待機。

既に艦内の格納庫に俺の機体は届けられている。

収容されているアヘッド、ジンクスIIIに並ぶ黒い塗装の施されたガルムガンダム。

 

通称【GNZ-001B ガルムブラック】。

 

背部に積んだコア・ファイターを撤廃して搭載した新たなバックパックシステム。

ガンダムフェイスを隠すフェイスカバー。

全てが新調された俺の新型モビルスーツ。

格納庫に佇むガルムブラックを俺は見上げていた。

どんな状況にも対応できる程の力を持つこの機体で何を為すのか。

俺はこの力で何がしたいのか。

 

俺が持つ力の意味を、やるべきことを見つけなければならない。

それはとても重要なことでおざなりにはできない。

だから、この場で即決することはできないのかもしれない。

ならば俺が今避けられない戦いで、その戦闘でするべき事は―――。

 

『モビルスーツ部隊、発進。繰り返します。モビルスーツ部隊、発進』

「……っ、来たか」

 

艦内にアナウンスが鳴り響く。

格納庫から整備兵が退去し、大気圏を突破した敵母艦に即座に対応できるよう、宇宙の部隊は作戦開始予定時間より早期に展開する。

アヘッドを隊長機としたジンクスIIIを導く3機の機影。

計6機の2個小隊が大気圏付近の宙域にてプトレマイオス2を待ち伏せの態勢を取った。

 

俺はヘルメットを被り、ガルムブラックのコクピットで待機している。

そう命じられた訳ではない。

寧ろバイカル級航宙巡洋艦プトレマイオスのように射出型のコンテナを搭載していない為、既に出ていなければならない。

だが、俺はまだ出撃しない。

 

――やがて、成層圏付近で一筋の閃光が煌めく。

ガデッサのGNメガランチャーだ。

同時に、艦に急速接近する大気圏を突破した艦の反応を艦内の優秀な搭乗員によってキャッチした。

モビルスーツ部隊、そして俺も肉眼で捉える。

二対のコンテナが特徴の多目的攻撃艦………プトレマイオス2だ。

 

GNフィールドを纏い、全面解放されていた圧縮粒子の赤いヴェールを剥いでこちらへ向かってくる。

ガデッサのGNメガランチャーによって逸らされた進路。

その先に待つバイカル級航宙巡洋艦はその好機を逃さず、モビルスーツ部隊は各砲撃武装で迎え撃つ。

しかし、敵母艦が砲撃を浴びる中、別方向から粒子ビームが飛来した。

これは……。

 

『うあああっ!?』

『て、敵機だ!砲撃を集中しろ!』

 

別方面から現れたのは、【ダブルオーガンダム】。

モビルスーツ部隊が対応するが、機動性に優れるダブルオーガンダムはこちらの砲火をものともせず掻い潜る。

一瞬にしてモビルスーツ部隊は突破された。

そして、ダブルオーのGNソードIIの銃口に粒子が蓄積され、照準はこちらの母艦を捉える。

――そのタイミングを見計らって俺は操縦舵を引いた。

 

『ガルムブラック。レイ・デスペア、発進する!』

 

GNバーニアを噴かし、ガルムブラックがバイカル級航宙巡洋艦から飛び出し姿を晒す。

黒とグレーを基としたカラーリングのフォルム。

フェイスカバーに覆われ、隠された顔と露出する赤い双眼。

特徴的なバックパックを背負った機体はGNフィールドを張ってダブルオーの粒子ビームを弾いた。

安堵を表すジェジャン中佐の吐息が聞き取れる。

 

『新型か!』

 

『ジェジャン中佐、モビルスーツ部隊を艦の護衛へ』

『……っ。あ、あぁ』

 

ガルムブラックの姿を捉え、即座にGNソードIIをソードモードにして構えるダブルオー。

こちらも他のモビルスーツ部隊を退らせて対峙する。

そして、ガルムブラックの瞳に赤い閃光が宿ると同時に、二本のGNビームサーベルを柄の部分で連結させ、ダブルオーへと直進した。

 

『なっ……!』

 

GNバーニアが粒子を噴き、加速する。

両断しようと振るったツインサーベルをダブルオーは躱した。

だが、双方に伸びた刀身が逃がさまいとその胴体を捉え、背後に振るう。

 

刃は届き、ツインサーベルをダブルオーは右に手にしているGNソードIIで弾く。

しかし、衝撃で後退した機体を戻し、ガルムブラックはさらにツインサーベルを振り下ろした。

ダブルオーも回避できず、GNソードIIを胸の前で交差させて斬撃を防ぐ。

 

『貴様!』

『………っ』

 

両者の刃が競り合い、火花を散らす。

その衝突の中で俺は思考に耽り――"一つの答え"を見つけた。

リボンズと俺自身の過ちに気付き、レナの言葉が理解できず、自分の持つ力の意味すら見失った俺が導き出したたった一つの答え。

そう、俺は……俺は………っ!

 

『俺はまだ、選ばない……!!』

『ぐあっ!?』

 

推進力で勝り、押し切ったダブルオーの腹部に蹴り込む。

蹴り飛ばされたダブルオーは無重力に捕われた状態で無防備な体勢になり、そこにツインサーベルを投げつけるとGNソードIIで身を守ろうとした。

だが、ツインサーベルはGNソードIIを巻き込んで外宇宙へと溶けていく。

ダブルオーはメインの射撃武器を失った。

この隙を利用してバイカル級航宙巡洋艦に通信を繋ぐ。

 

『ジェジャン中佐!ソード・バックパックを!』

『何?』

 

モニターに映る中佐が表情を曇らせる。

事前には話してあった筈だ。

それでも慣れない作業に困惑しているらしい。

少し手際が悪い、ダブルオーが体勢を立て直す前に換装したいが……仕方ないか。

ジェジャン中佐も必死に格納庫を確認して目的のものを把握してくれた。

 

『か、確認した。ソード・バックパック、射出!』

 

バイカル級航宙巡洋艦より煌めく光が放たれる。

すると、ブースターで加速する飛行ユニットが姿を晒し、ガルムブラックの元まで飛来してバックパックとの接続を解除した。

ガルムブラックもバックパックを捨て、飛行ユニットが射出したバックパックにセンサーを充てる。

 

センサーに沿い、導かれるようにガルムブラックの背部へと接続されるソードバックパック。

これが、この姿が、改装の施されたガルムの新たな姿!

ガラッゾの武装を換装した―――ソードガルムブラック!

 

『はあああーーっ!!』

『くっ……!』

 

バックパックに腕を回し、ビームクロー搭載型の腕に換装したガルムブラックでダブルオーへと迫る。

生成したGNビームクローの刃を開き、叩き込むように振るった。

 

『こいつ!』

『ぐっ……!』

 

機体に掠めようかというところで突如出現したビーム刃にビームクローは阻まれた。

咄嗟にGNビームサーベルを生成したようだ。

ビームサーベルは粒子を纏わない実体剣に優位だが相手もビームサーベルの場合は相打ち以外の選択肢はない。

ならば……!

 

『でりゃあああーーーっ!!』

『なっ……!』

 

ビームクローでビームサーベルの相手をしつつ左方のビームクローを束ねてビームソードにする。

その刀身をビームクローの斬撃を防ぐGNビームサーベル、それの柄を掴んでいる腕部に目掛けて振り下ろした。

ダブルオーは、いや、刹那・F・セイエイは反応するも間に合わない。

ビームソードは弧を描いてダブルオーの腕を両断する。

 

『くっ……まだだ!はあぁぁぁああーーっ!!』

『なっ!?』

 

斬り込んでいた俺の視界に粒子の光が過ぎる。

間髪開けずにガルムブラックのビームソードが湾曲し、暫くして左腕が千切れていることに気付いた。

こいつ、もう一本のビームサーベルでガルムブラックの腕を持っていきやがった……!

 

『この……!』

『ぐっ!』

 

互いに片腕を失ったが、この程度で形勢を逆転させはしない。

即座に蹴りを入れて距離を取った。

そして、再度母艦に通信を繋ぐ。

 

『中佐!ランチャー・バックパックを……!』

『了解した。バックパックを射出する!』

 

二度目ともなればジェジャン中佐の対応も迅速になり、バイカル級航宙巡洋艦からまたしても異なるバックパックが放たれた。

煌めく光を目撃すると共にソード・バックパックに腕を回して腕を通常のものに戻し、そのままバックパックを捨てる。

 

新たに宇宙(そら)を漕ぐ飛行ユニットから分離(パージ)されたバックパックにセンサーを通して接続し、ガルムブラックの換装が完了した。

それがガルムブラック、第三の姿―――ランチャーガルムブラック!

 

『これで……、―――っ!!』

 

バックパックからGNメガランチャーを取り出し、砲口をダブルオーに合わせた直後、後方からの粒子反応をキャッチして躱す。

六筋の粒子ビームが過ぎ、その逆を辿るとガルムブラックに直進する【セラヴィーガンダム】を捉えた。

 

『刹那!』

『ティエリア……!』

 

『チッ!』

 

ダブルオーの救援に来たのか。

セラヴィーはガルムブラックとの間合いを阻むかのようにダブルオーとの間に乱入してきた。

……だが丁度いい、メガランチャーの火力をダブルオーに当てる訳にもいかなかったからな。

 

『砲身展開。GNメガランチャー、喰らえっ!!』

『なっ―――』

 

換装した時、既に粒子を蓄積していたおかげでGNメガランチャーの照準を合わせるだけで粒子ビームを放つことができた。

元が2連装ビームライフルであるガルムガンダムのメガランチャーとは違い、ランチャーガルムブラックが装備しているのは元が3連装ビームライフルなガデッサのもの。

その分高威力な粒子ビームがセラヴィーへと迫る。

 

『くっ!GNフィールド!!』

 

背後に損傷したダブルオーを庇っているセラヴィーは当然回避の選択肢は取らない。

GNフィールドを展開して直撃に備える。

あの圧縮濃度のGNフィールドならば大破に持ち込むことはできない。

だが、この位置ならダブルオーものとも蹴散らせる!

 

『ぐっ……うあああああああーーーっ!?』

『ぐああっ!?くっ……ティエリア………っ!』

 

破損は防がれても勢いまでは殺せない。

GNフィールドでメガランチャーの砲撃を受けたセラヴィーは背後のダブルオーも巻き込んで粒子ビームと共に何度もアステロイドを貫いていく。

辛うじて途中でセラヴィーが粒子ビームの軌道をズラし、最後はアステロイドに叩きつけられるだけで済んだが、満身創痍の両機にランチャーガルムブラックは既に照準を合わせて次弾をチャージしている。

 

逃げられはしない。

しかし、その砲身に光が漏れ始めたところで粒子ビームの一閃に貫かれ、GNメガランチャーが破壊された。

爆破に巻き込まれる寸前にメガランチャーを捨てて新たな敵反応に意識を割く。

 

『刹那!ティエリア!』

 

『あれは……』

 

飛行形態からモビルスーツ形態に変形し、駆け付けた【アリオスガンダム】。

2連装ビームライフルの射撃を回避しつつ即座に対応する。

 

『中佐。ガルムスタイルで行きます!』

『了解。フォース・バックパック射出……!』

 

ランチャー・バックパックを分離(パージ)して駆け付けた飛行ユニットから新たなバックパックを受け取り、センサーに従って換装する。

バックパックに積まれている武装はガルムガンダムの標準装備と変わらない。

ガルムブラックは2連装ビームライフルとGNシールドを構え、ガルムブラック第一の姿、フォースガルムブラックとなった。

2連装ビームライフルでアリオスに対抗する。

 

『聞こえるか。アリオスのパイロット』

『この声!貴方は……っ!?』

 

アリオスのパイロット、アレルヤ・ハプティズムと通信を繋ぎ、フォースガルムブラックはGNビームサーベルを手に、同じくビームサーベルを抜刀したアリオスと衝突する。

俺は仲間内との通信を切り、アリオスに極力詰め寄った。

 

『アレルヤ・ハプティズムだな?』

『君は……マリーの、確か……』

『レイ・デスペアだ。これから言うことを聞き逃すなよ』

『え?一体どういう―――』

『スメラギ・李・ノリエガに伝えろ、戦闘中域にスモーク弾を撃てとな』

 

アレルヤ・ハプティズムの困惑も押し切って端的に要件を伝える。

モニターに映るアレルヤも目を見開き、驚愕した。

 

『な、なんだって?』

『スモーク弾を撃て。混乱に乗じて撤退するんだ。俺は追撃する振りをする。その間に逃げろ』

『………』

 

俺の言葉にアレルヤは無言で頷く。

一瞬悩みはしたが、すぐに覚悟を決めたようだ。

この判断力、いや、俺達の間に()()がいることでアレルヤが俺を信じる切っ掛けが生まれてくれた。

俺は賭けに勝った。

 

アレルヤが即決してくれたおかげでダブルオーとセラヴィーが体勢を立て直して乱戦になることも、変に仲間に怪しまれることもない。

アリオスとの競り合いもいつまでも持たせることはできない。

だから、賭けに勝った今……手筈通りになった。

 

『分かった』

『ぐっ……!』

 

アレルヤが端的な一言を発した直後、アリオスによってフォースガルムブラックが突き飛ばされる。

その衝撃に耐えながらも俺はアレルヤにアイコンタクトでコミュニケーションを取った。

 

―――今だ。

 

『スモーク弾、発射!』

 

ダブルオーとセラヴィーが持ち直したと同時、プトレマイオス2から放たれたミサイル型のスモーク弾が戦闘中域を割いていく。

ミサイルが目の前を過ぎり、その後を追うように視界を白く覆うスモークが展開される。

スモークはガンダムを隠し、プトレマイオス2もその中へ自ら飛び込んで行った。

 

『逃げるつもりか!モビルスーツ部隊、追跡せよ!』

『俺が行きます……!』

 

フォースガルムブラックで真正面からスモークの中へと飛び込む。

だが、モニターが白く覆われ、視界は霞んで何も見えない。

……この様子ならば見失っても責められないだろう。

通信障害のあるスモークを抜け出してジェジャン中佐に報告をする。

 

『中佐。敵母艦とガンダムがロストしました』

『そうか……モビルスーツ部隊は二つの小隊に分かれて周囲を探索。もし見つからなかった場合はこのまま撤収する』

『……了解』

 

中佐の指示通り、アヘッド1機が隊長機としてジンクスIII2機を連れた1個小隊が二方面に分かれて探索を始める。

母艦の周囲からモビルスーツ部隊は消え、ガルムブラックだけが残った。

動かないガルムブラックにジェジャン中佐が不審に思う。

 

『どうした?デスペア大尉。貴官も探索に参加しろ、せめて敵の足取りくらいは掴まねば―――』

『失礼します』

 

ジェジャン中佐の言葉は聞き入れず、格納庫に戻る。

そして、並べられていたガルムブラックのバックパックをあらかた回収してまた再出撃した。

バックパックは全三種、コードで繋いで全てかっさらった。

 

『な、何をしている!?』

『申し訳ありません。俺は……アロウズにはもう居られない』

『何?』

 

モニター越しに目を見開くジェジャン中佐と向き合って答える。

 

『俺は、アロウズが間違っていると判断しました。アロウズを背後から操るイノベイターが……。だから、俺は決めた。答えを見つけるまで俺は今間違っていると判断したものは全て否定する!!』

『なっ……』

 

ジェジャン中佐だけじゃない、俺の顔が見える艦内の者達が唖然と俺を見ている。

さらに言葉を無くしたジェジャン中佐に間髪入れずに続けた。

 

『俺はアロウズの残酷な虐殺行為を認めない。そして、ソレスタルビーイングとアロウズの抗争に介入し、誰も殺させない!イノベイターの望む恒久和平の実現は力尽くで止める』

『貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか……!』

『分かっている!俺は俺が正しいと思った道を行く。もう間違った道は進まない!』

『………っ!』

 

ジェジャン中佐を始め、仲間達が皆息を詰まらせるのが分かる。

怖気付いたその隙に俺はガルムブラックで母艦から離れていった。

 

『ま、待て!認めん!認めんぞ、貴様が……貴様らが我等を導くイノベイターなどっ!』

『俺は俺だ。今はそれでいい』

 

それだけを言い残して艦に背を向ける。

モビルスーツ部隊が戻ってきても間に合わない。

既に展開し切っている今、戻って追い掛けてもロストするだけだ。

追跡は免れた。

―――ガルムブラックはただ行く宛のない宇宙(そら)へ姿を消す。





レイ専用の新型モビルスーツ【GNZ-001B ガルムブラック】の独自設定を活動報告に上げています。
個人的にガルムブラックの語呂が凄くいい感じ…。


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イノベイドの可能性

長椅子に腰掛けた自らを上位種と謳うイノベイターが一人、同種のリジェネ・レジェッタの報告に溜息を漏らした。

 

「やれやれ、困ったものだね」

 

瞳に輝きを宿らせたリボンズ。

その先には戦場を掻き回して姿を消した黒いモビルスーツの姿があった。

リボンズの反応に手前のソファーに腰を下ろしたリジェネもほくそ笑む。

 

「ホーマー・カタギリからも苦情が来ているよ。リボンズ」

「分かっているさ。それにしても考えたものだね。アロウズでのイノベイターの地位をわざと落としていくとは……」

 

リボンズが瞼を伏せて肩を落とす。

今現在、戦場での有用性を訴えている彼らにとってレイ・デスペアの起こした行動の影響は無視できないものだった。

計画的に事を進めていたにも関わらず乱された。

これには彼らイノベイターも打撃を受けたと言わざる負えないだろう。

 

「それでどうするんだい?」

「そうだね。事前に忠告はしたんだ。それ相応の対応をさせてもらうとしようかな」

「へぇ。それは楽しみだ」

 

リボンズの返答に表面は笑みを貼り付けるリジェネ。

口では簡単に片付けたものの実際はそう簡単に進む事ではないことを知っている故の嘲笑的な意味を込めてだ。

そんな隠しきれていないリジェネの本心も、輝く瞳の奥で把握しているリボンズは表面を取り繕いつつも事実を認めることが出来ず、脳裏で瞑想する。

すると、奇しくも名案ではないが背後から近付く者を確認することが出来た。

当然、イノベイドだ。

 

「助けてやろうか?リボンズ」

「君は……!」

「レン・デスペア。珍しいね、君の方から接触してくるなんて」

 

リジェネすら驚愕を隠せず目を見開く人物、レンの登場にリボンズは視線だけを寄越して対応する。

彼の言葉通りレンが必要以上に絡んでくることはほぼ無い。

裏を返せば今は必要があって現れたということになる。

 

「随分余裕な面してるけど本当は相当やばい状況なんだろ」

「……どうかな」

「別に隠さなくていいって。よっ、と」

 

長椅子を飛び越えて見向きしなかったリボンズの前に姿を晒したレン。

振り返る彼の表情に薄らと浮かび上がる口角の上がりに、リボンズは忌まわしげに眉を揺らした。

図星の合図だ。

 

「もし良かったら僕との交渉、少しだけ譲歩してやってもいいぜ」

「………」

「リボンズ?」

 

レンの挑戦的な笑みに対して普段ならば即座に否定するであろうリボンズが押し黙る。

リジェネも怪訝に思い、顰めた面で顔を覗いたがリボンズは似たような表情で思考するのを読まれないように必死に隠していた。

その様子に見開くリジェネの目も確認し、レンは口角の上がりを強くしていく。

やがて、表情の戻っていくリボンズを見て彼も真面目に向き合う。

 

「いいよ。君の条件を呑もう」

「な……っ!?」

「はっ、そうこなくっちゃ」

 

予想していなかった妥協にリジェネが驚愕する中、レンは再び笑みを浮かべ、舌で下唇をなぞる。

だが、リボンズの賛同に反対の意を唱える者が同じ場にいた。

 

「リボンズ!彼を信用するのかい?」

「おい、黙ってろよ。三下が」

「何……っ!」

「止めないか、リジェネ」

「リボンズ!」

 

リボンズの制止に歯を食いしばるリジェネ。

しかし、止められたとしても引き下がらなかった。

 

「リボンズ!そもそも彼は―――」

「僕が止めたのを聞いていなかったのかい?」

「……っ!」

 

鋭い眼光。

リボンズのほんの少し横に動いた瞳に射抜かれ不満を顔に貼り付けたリジェネは仕方なしに退る。

そもそも彼はまだ話の内情を明らかにはしていない、そう言い掛けたのは分かっていた。

そして、それは正しい。

 

交渉の内容を譲歩するとしかレンはまだ口にしていない。

だというのに条件を飲み込んでしまうほどリボンズが切迫しているというのを彼に晒してしまった。

それがリジェネにとって混乱に値することでもあり、漬け込む隙として睨むのもリボンズは理解している。

その上で彼は話を進めていった。

 

「じゃあさっそく譲歩してくれる条件を聞かせて貰ってもいいかい?」

「あぁ、いいよ」

「……っ!」

 

下唇を噛むリジェネの表情を一瞥で楽しみながらレンはリボンズと向き合う。

そして、順を追って話を始めた。

 

「レイを唆したのはレナだ。それはあんたも分かってるんだろ?」

「……勿論。何が踏ん切りとなったのかは不明だけどね。彼女が彼の前に現れたことがキッカケであることは君の睨んだ通り間違いない」

「そうだ。レナがレイを惑わせ、揺れたあいつが今になってあんたの手から零れ落ちた」

 

卓上の瓶を手に取ったレンが瓶の水が手のひらに注ぎ、指の隙間から漏れて床を濡らしていく。

レンが掴むも流水は止まらない。

同様に、離反したレイはもうリボンズの元には戻らない。

そのことも充分に理解していた。

 

「構わないさ。彼は離れてもどうとでもなる。それこそ、生かすも殺すもね。問題は……」

「レナ・デスペア。組織力をもってる上に技術も力も何でも揃ってる。さすがにあんたでも手を焼く」

「あぁ。彼女は厄介だね。レイに関しては離反した方が後始末はしやすいけれど、彼女を落とすのは実際難しい」

「だから譲歩してやるよ、僕が」

 

語尾を強め、腰を卓上に飛び乗らせて恩着せがましくほくそ笑む。

そんなレンに対してリボンズは一切揺るがぬ表情のまま無言で受け入れた。

それを確認したレンはさらに口角をあげる。

 

「よし。僕に乗ったな?それじゃあレナはもういいからちゃっちゃと殺っちゃえよ」

「なっ……」

 

レンの言葉に絶句したのはリジェネだった。

逆にリボンズは冷静に彼の真意を探る。

 

「なぜ急に心変わりしたんだい?」

「別に?どうせあっちの方も僕のこと覚えてないだろうし。それに―――この前のはちょっとウザかったからな」

「……っ!」

 

底冷えたレンの感情にまたもリジェネが背筋を伸ばし、表情を強ばらせる。

リボンズは当然のこと、リジェネもレンの素性を知っている。

故にその狂気性を理解することが出来た。

一方、リボンズは対象的に笑みを零すだけ。

狼狽するリジェネの目線が移ることに目もくれず、リボンズはレンの提案に乗った。

 

「なるほど、ようやく納得出来たよ。では改めて君の譲歩に乗ろう。それにしても上手く状況を利用したね」

「ハイエナ具合はそっちの犬に負けるけど?」

「な、何のことやら……」

 

思わぬ矛先に目を泳がせるリジェネ。

レンの視線に目を逸らし、動揺を晒す。

慌ててリボンズを見遣ると瞼を閉じてほくそ笑んでいる様子が確認できて何とも言い難い反応にリジェネはさらに狼狽するが、レンが一通り楽しんだ後、悪戯っぽい笑みを向けてきたことに気付いた。

 

「くっ……!」

 

弄ばれた。

その屈辱と羞恥心に染まるリジェネが機嫌を損ねて視線を外したのを確認して、レンは立ち上がる。

 

「レナをやりたくてもやれなかった。なぜなら僕との交渉を踏みにじることで僕の離反を恐れたから。レイも一緒だな、あんたは混成種(ハイブリッド)になりうる因子を一人でも多く手元に置いて置きたかった。一人は捨てられても三人捨てる覚悟はない……結局あんたもそんなもんか」

「ふっ、勝手なことを言う」

「はは。強がりがよく持つじゃん。まあそういうことにしておいてやるよ」

 

リボンズに向ける嘲笑。

失望、否。

初めから見下していたレンがとうとう本性を剥き出しにしてきた。

その態度に対してリボンズは依然としている。

レンが目を細めて注視するもやはり表情は揺るがない。

揺さぶりが通じなかったことを確信したレンはちぇっ、とつまらなさそうに後頭部を搔いた。

 

「まあいいや。そんじゃ、そういうことだから。後はよろしく」

「最後に一つだけいいかい?」

「あぁ?なんだよ」

「いや、そんなに邪魔なのに君自ら手を下さないことが気になってね」

 

立ち去ろうとして制止され、投げかけられた問いにレンはなんだそんなことかと面倒くさそうに溜息をつく。

振り返り際にレンは答えた。

 

「別に邪魔ってわけじゃない。居てもいなくても僕には影響ないし。ただちょっと鬱陶しかったから、やってくれるんならそれに越したことはないでしょ。ただ、それだけさ」

「イカれてる……!」

「はぁ?はっ、情なんてあるわけないだろ。随分と人間的だな、リジェネ・レジェッタ。人間向いてるんじゃない?」

「何!?」

「リジェネ、やめないか」

「……っ」

「ふっ、はは!また言われてやんの」

 

レンの挑発に目くじらを立てるリジェネに、それを制止するリボンズ。

幾度も繰り返すやり取りにレンが腹を抱え、笑いを漏らさぬよう口を抑える。

その様子を見てリジェネはさらに険しい表情で彼を睨んだ。

 

「レン・デスペア……!」

「おっと。じゃあ今度こそ僕はおさらばってね。とりあえずそういうことだから、僕に感謝しろよ。せっかく譲歩してやったんだ、無駄にしたら殺すから」

「もちろん分かっているよ。任せて欲しい」

「くっ……!リボンズ!」

 

リジェネは不服そうに歯を食いしばるがリボンズは特に左右されず、そんなリジェネを見てレンはまた嘲笑して去っていく。

室内からレンが消えると、リジェネも腹をすねかねた。

 

「リボンズ。……今日は僕もお暇させてもらう」

「好きにするといい」

「ふん、レン・デスペアめ!」

 

レンの後を付けてリジェネも消える。

取り残されたリボンズは足を組み替え、嘆息を漏らす。

そして、小さく笑みを浮かべた。

 

「まったく。まだまだ愚かだね……」

 

レイの離反、それは望んでもないことだった。

彼が手元にいても彼は進化しない。

そのことにリボンズは気付いていた。

イオリアの提唱する混成種(ハイブリッド)のイノベイター。

本当にその進化の過程が存在するのなら。

イノベイターの出現を促す為に生み出されたイノベイドにも、進化の道が実在するというのなら。

まずはその存在を実際に目に焼き付け、見極めなければならない。

 

そして、最も進化の可能性のあるレイ・デスペアが見せてくれるというのならば、喜んで手放そう。

ほんの少し予定は狂ったが、変更した進路には沿っている。

まだ全てはシナリオ通りだ。

レンが焦れてけしかけ始めたのも想定通り。

二人に敢えて隙があるようにも見せることができた。

これでいつ反旗を翻しくるかはリボンズ自身が舵取りすることになる。

これほどの完璧な進行具合、本人も自惚れずにはいられない。

混成種(ハイブリッド)のイノベイターの存在がそれを更に加速させる。

 

「もしイオリア・シュヘンベルグがイノベイドの進化も想定していたのならば……僕、リボンズ・アルマークは真のイノベイターすらを凌ぐ存在になり、本当の意味で人類を救う神になれる」

 

全ては混成種(ハイブリッド)のイノベイターの実態次第。

レン・デスペアの言うように純粋な塩基配列パターン0000にしかなれないものなのか。

もしくは、それが虚言なのか。

はたまた、イオリアの予測していないことが起こる可能性の有無も。

仮にレンの発言が真実だとしても何かしらの方法で通常のイノベイドにも可能性が生まれるのならば。

これほど実態のわからない今。

―――充分に試す価値はある。

 

「今度こそ、僕らイノベイドが……いや、この僕が世界を導くことになる」

 

その為にまずはレイの進化を妨げる者を排除しなければならない。

言葉巧みに彼を惑わせる存在。

彼女が居る限り、レイは路頭に迷い続ける。

しかし、彼女は強さも組織力も持つ厄介な人物だ。

だからこそ落とすのならば相当の準備をする必要があった。

 

「ふっ、大丈夫さ。そのための切り札ならもう切っている。後は時間が経つのを待つのみ……心配事は彼らがちゃんと土産を忘れずに持って帰って来てくれればいいんだけどね」

 

そう、冗談めかして彼は笑った。



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弱き者、強き者へ

世界が赤色に染っていた。

少女の目に映るのは、浸る鮮血。

覆う暗闇。

ひとたび暗闇が晴れると、そこには血塗られた風景が満ちていた。

 

「取り押さえろ!」

「は、離せ!」

 

「………っ」

 

赤色の街道で、同様の制服に身を包んだ男達が熟練された動きで暴れ回る男を抑えつける。

男は抵抗を繰り返し、その度に上から掛けられる圧力によって地面に叩きつけられていた。

そんな彼の周囲もまた鮮血や血痕にまみれている。

その全てを伝うと、たった今、手錠を掛けられて抵抗できなくなった例の男が落としたナイフに辿り着いた。

そのナイフから垂れる血液をネルシェンはただ眺めていた。

 

「ネルシェン!」

 

周囲に群がる観衆を分けて、一人の小太りな男性が名前を呼んで駆け寄ってくる。

警察に身内であることを明かした彼は警官に匿われていた少女を、包んでいた毛布から奪い取るように抱き寄せた。

 

「叔父、さん……?」

「良かった。お前は、お前だけは生きていて……本当に良かった」

 

小太りな男性、アーサー・グッドマンは少女、ネルシェンを強く抱き締める。

彼と接するネルシェンには心の底からアーサーが安堵して、自身を心配してくれたのか、ハッキリと理解出来た。

しかし、同時に彼の言葉に違和感を覚える。

 

「あれ……。お母さん、お父さんは?ねえ……叔父さん。叔父さん?」

「…………っ」

 

見渡してみても母も父も見当たらない。

今日はネルシェンの誕生日を祝う為に家族で買い物に来た筈なのだ。

だから、例え離れてもすぐ近くに両親はいる。

実際、その通りではあった。

 

「…………えっ?」

 

ぐしゃっ、と嫌な感触が彼女の小さな手に触れた。

見下ろすと彼女の視界をまたも赤色が染め尽くした。

触れたのは血色に染まった服。

水分を吸って、掴んだ時にずっしりと重い感覚があった。

だが、少女の驚愕の元はそこではない。

 

その服に見覚えがあった。

家を出る時、母が来ていたカーディガンとまったくの同一のもの。

幼い彼女でもすぐに思考が追いつこうとする。

触れた身体を目で追い、顔にまで至ると、瞳孔が次第に広がる。

ネルシェンが自身の身の回りを見遣ると、熱い液体に浸る冷たい肉体が彼女を守るように倒れ込んでいた。

 

「お……おかあ…っ、おと……っうさん……っ!」

 

身体が震える。

見間違えようがない。

ほんの少し前まで自分の手を引き、微笑みあっていた両親の命が絶えていた。

当たり前のようにあった暖蘭も幸せも打ちひしがれた。

 

「あっ……ああっ……!」

 

否定しようと首を振る。

だが、何度瞬きをしても光景は変わらない。

現実は消えない。

ただ実感だけが彼女を襲う。

そこから目を背けようとネルシェンが周囲に視線を振り撒いた時、再度驚愕した。

さっきから視界に入り込んでいた赤色の景色、それは――殺戮の跡だった。

 

「ひっ……!」

 

辺り一面が血で染まり、その中心に彼女はいる。

ネルシェンの周りには横に伏せた屍がノミのように捨てられていた。

誰も起き上がろうともしない。

揺れる気配もない。

風に乗った冷たい血が飛ばされてくるだけ。

 

ネルシェンがあまりに残酷な光景を焼き付けたと同時、犯人と思われる男が警官達に連行されていく。

さっきまで取り押さえられていた男。

その後に続く警官は血に塗れた包丁を回収していた。

連行される男の口元は―――笑っていた。

 

「…………っ!」

「うおっ!?ネルシェン!」

 

『奴』を見てネルシェンは頭の中に疑問を抱える。

それをどうしても直接尋ねたくなった彼女は身を寄せている叔父を突き飛ばし、駆け出した。

アーサーが追い掛けようとするが、ネルシェンが男の元へたどり着くのが早かった。

やってきたネルシェンを見て男は警官と共に強引に静止する。

 

「―――してっ」

「んん?」

「……ねえ、どうして…お母さんとお父さんを殺したの……?」

 

絞り出された問い。

彼女の大きな瞳を見遣る男は、その問いに対してゆっくりと口元を歪めた。

笑みを浮かべたままネルシェンに顔を寄せてくる。

 

「お嬢ちゃんのお母さんお父さんにはね、僕と一緒に死んでもらおうかなって思ってたんだ」

「…………えっ?」

 

男の返答にネルシェンは目を見開き、唖然とする。

内容を飲み込めないまま男は話す口を止めなかった。

 

「お嬢ちゃんも大きくなればわかるよ。一人で死ぬのは寂しくて怖いんだ」

「………っ」

 

息が詰まる。

注視すれば、男の目も虚ろだった。

笑顔は狂気だった。

ネルシェンはだだ、理解が追いつかない。

そんな理由で、たった一人の人間の思想に巻き込まれて何もかもを失わなければならないのか。

 

「止まるな!行くぞ!」

 

「………」

「ネルシェン!」

 

男は連行され、独りになったところにアーサーが駆けつけてくる。

しかし、ネルシェンの表情を目にすると彼の表情も曇る。

 

「あっ…あぁっ」

「ネ、ネルシェン……」

 

彼女は何も答えない。

ただ瞳から光を無くしていくだけ。

そんな彼女を見たアーサーは抱きしめ、涙を流しながら自身を責め始めた。

 

「すまない……。私が、私がいながら……っ!私が弱かった!だからお前を、お前の母さんと父さんを守ってやれなかった!」

「よわ、かった……?」

「あぁ!すまない、すまない。ネルシェン……!」

 

おそらく気休めの言葉だったのだろう。

ろくに接したこともない叔父だった。

故に仕方の無いことだ。

しかし、この時のネルシェンには彼の言葉が心中に収まってしまった。

 

自分は弱かった。

だから、理不尽な理由で奪われた。

両親は強かった。

だから、私はこうして一命を取り留めている。

 

―――弱ければ大切なものが奪われる。守る為には、強くならねばならない。

 

弱者は踏み躙られ、強者のみが存在を許される。

それがこの世界の仕組み。

それがこの世界の真意。

 

「あ………っ!」

 

自我を取り戻し、ネルシェンは自身の身体と顔が濡れていることに気づいた。

両親の強い赤液が肉体に染み込まれていく。

この時、熱い血流が彼女に訴えた。

 

 

―――強さを求めろ、と。

 

 

 

 

 

それから18年、ネルシェンの手の元に力が宿った。

求めた最高のものではなく、更なる強さを得るための力が――。

 

「【GND-01 ギルス】。これが、私の機体……」

 

ラグランジュ3の資源コロニーにて、ネルシェンは機体データが記された端末を放り、イノベイターに普及された新たな専用モビルスーツを眺めていた。

格納庫に収められたMS(モビルスーツ)、【GND-01 ギルス】。

瞳を隠すバイザーに騎士を彷彿とさせるヘルメット。

アヘッドの推進力の10倍を誇るため、大型スラスターを内蔵した肩部は大きく、規格外の加速に耐えるための強靭な胸部の装甲を含めて鎧を纏っているかのような印象を抱かせる。

 

さらに脚部の裏に二つの大型バーニア、双方の下部に二つの小型スラスター、腰部にも一つの大型バーニア、その両隣に小型のスラスターが二つ。

右腕のドーバーガンやメガランチャーなどの集中された火力も。

非対称にシールドだけを持たせた左腕も、腰部に付属させた武装の何もかもがネルシェンの要望通りに揃えられている。

背部にもある大型バーニア、その下のGNドライヴを二連結したダブルドライヴ、他にも満足のいく内容だ。

しかし、どうしても引っかかる点があった。

 

「イノベイター共め……」

 

許容できないわけではないが、明確な嫌がらせを無視するほど寛大でもない。

ギルスのカラーリングはネルシェンにとって忌むしている()()だった。

 

「ぐっ……!」

 

疼く胸をはだけたパイロットスーツから覗くインナーの上から掴む。

右肩から心臓部にかけてある痣のような痕が熱い血流を脈打った。

18年前、路上殺人犯の狂気の刃からネルシェンを覆い、両親は刺し殺された。

その時に被った二人の血液は今も尚、ネルシェンの身体に残り続けている。

彼女を守った証であるように、強者の熱がネルシェンを駆り立ててくるのだ。

 

「……っ!分かって、いる……っ!貴様らに言われずとも……!」

 

ネルシェンの鋭い瞳がギルスを睨む。

ギルスの真紅は言わばイノベイターが、否、リボンズ・アルマークがサーシェスの一件に勘づいているがための警告だ。

だが、イノベイターの警告など必要ない。

ナオヤの所在が変わらず不明である以上、イノベイターが掌握していないことを期待して動くなどというリスクを犯しはしない。

今はそれほどの『力』がないのだから。

 

『フォーリンエンジェルス』の時、ネルシェンは敗れた。

それまではこの世界で思うがままに生き抜くことのできる、とまでは言えなくとも大切なものを守ることができるくらいの強さが、自分にはあると思っていた。

しかし、そんな過信は見事に足元を救われたのだ。

 

―――『翼持ち』、【ガンダムサハクエル】によって。

 

あの機体に乗る少女は強者だ。

望むものを自らの力で手に入れることが出来る者。

ネルシェンの求めていた力を持つ者。

その少女に、ネルシェンは淘汰された。

力を以て()()全てを奪われた。

今度はありきたりの幸福ではなく、この世界で生き抜くために必要な力を。

無力を理解させられたネルシェンは一度は生きることを諦めた。

 

しかし、彼女を手駒として必要としたイノベイターは死ぬことを許さなかったのだ。

サハクエルに敗れ、赤黒いGN粒子の影響で左半身が再生治療不可となったネルシェンに義眼、義手、義足を与え、最高質の治療と待遇で動けるようにまでなった。

そして、ナオヤの存在を餌にネルシェンを傀儡としたのだ。

奴らは、否、リボンズは最初にナオヤの生死を握っているとネルシェンを脅したが、当然彼女は信用などしない。

だが、その次のリボンズの言葉が彼女を揺れ動かした。

 

『別に構わないよ。君が信じないのであれば、処分するだけさ。僕らにとってナオヤ・ヒンダレスは必要ないからね』

『………っ!』

 

正直なところ、ネルシェンにはリボンズの言葉の真偽は分からない。

イノベイターがナオヤを掌握していないと言い切る判断材料などどこにも存在しない。

それに、リボンズは理解していた。

身体を治しても、ネルシェンはその恩義で服従するような性格ではなく―――『餌』が必要なことに。

 

そこまで用意周到な人物が果たして嘘を吐くだろうか?

答えは分からない。

故に、ネルシェンは膝を地に付け、(こうべ)を垂れた。

プライドも何もかもを捨て、人であることも止め、ただ機会を待つことにしたのだ。

 

――この世界で存在することが赦され、思うがままに生き抜くことのできる『強さ』を得る機会を――

 

こうして、ネルシェンはイノベイターの従順な飼い犬としてアロウズに就任した。

弱い彼女にはそれ以外の選択肢は選ぶことができない。

『力』が、必要だった。

ネルシェンの出会った『力』の象徴―――【ガンダムサハクエル】。

あのモビルスーツを倒した時、あの機体を駆る少女を超えた時、初めてネルシェンは……『強者』となる。

 

「奴を超越した時、私の求める強さが手に入る。奴に奪われた私の強さを取り返すのではなく、更なる強さ……この世界に君臨することのできる『最強』の称号だ」

 

血痕の痛みに耐え、再度ネルシェンはギルスを見上げる。

ネルシェンが見定めた『最強』の存在を淘汰するために。

 

「この機体、例えこの命が尽きることになろうとも乗りこなす……!」

 

自身に見合わないモビルスーツであることは承知している。

乗りこなす技量などないことも承知している。

ギルスの出力ならば戦闘中に命尽きることなど何の意外でもない。

だが、それでもこの戦いだけは負けてはならない。

敗北の結果、命拾いしたとしてもその先に未来などない。

再戦の猶予すらも。

 

また失う前に大切な者を、ナオヤの身の安全が保証されない今、猶予に賭ける余裕などないのだ。

だからこそ、勝たねばならない。

敗北はネルシェンの存在価値を無にする。

勝利以外は死と変わらない。

ネルシェンにとってこれは―――最後の機会だ。

 

「……来たか」

 

先程放った端末の画面に再び光が点る。

もはや確認する必要もない。

内容がどうであれ、ネルシェンのやることは事前に伝えられたことのみ。

 

すなわち、『翼持ち(サハクエル)』の討伐。

 

その他の条件がどれほど悪質だろうと飲むしかない。

寧ろサハクエルと対峙し、戦えることだけで充分。

リボンズ・アルマークの傀儡と成り果てたあの時、この対決の時のみは邪魔は入らないようにだけは交渉させてもらえた。

後は―――刃を交えるのみ。

 

「ようやく……この時が来た……!」

 

はだけたパイロットスーツを肩に戻し、チャックを閉めつつヘルメットを掴んで床を蹴る。

無重力のため、制限のない浮遊によって上昇していく。

やがて、ギルスと同じ目線の高さにまで至り、コクピットハッチへと掴み寄った。

そのままヘルメットを被り、ギルスへ乗り込んで端末に触れる。

 

「……これがあれば奴の本気と渡り合える」

 

端末に浮かぶ文字。

そこに記されているのは―――【TRANS-AM System】、ビリー・カタギリという技術主任が仕込んだ奥の手だ。

ギルスの出力向上の際にレイ・デスペアには内密に授かった。

ソレスタルビーイング壊滅に同調したことが幸いしたらしい。

なににせよ、ネルシェンは思わぬ収穫に歓喜で震えていた。

 

「デスペアにその意思がないことを見抜くとは。あの技術屋、中々やる。これで私の邪魔は入らんというわけか」

 

フッ、と笑みを零しバイザーを下ろす。

操縦舵を握ると全周囲モニターが起動し、格納庫を映した。

そして、ギルスの双眼に青い閃光が宿る。

 

『ギルス、ネルシェン・グッドマン。出陣する!ぐうっ……!』

 

大型バーニアから大量のGN粒子を噴き、最大出力で上昇する。

その間、コクピットにかかる負担にネルシェンは堪え、コロニーから飛び出した閃光―――ギルスは一直線に無所属の極秘コロニーへと向かった。





書き溜めが尽きたので次の更新まで暫く期間を空けます。


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軌跡

ラグランジュ5。

実質世界を統制する連邦、その実行部隊である独立治安維持部隊アロウズも4年前の宇宙開発から進歩があるとはいえ、開発の手はラグランジュ5全域にまでは及んでいなかった。

宇宙開発を行うにはラグランジュ5の全貌は掴めておらず、軌道エレベーターや軌道ステーションから最も離れた地点でもあるため、あまり宇宙開発には適さない現状に至ってしまうのが今の人類の開発技術の限界だ。

 

開発を進めようにも物資を運ぶ軌道エレベーターとの往復分の燃料や費用は破格となる。

そんなラグランジュ5には連邦も知らない極秘コロニーが存在している。

コロニー内の一室にて、レナは端末に写し出したとある写真を眺めていた。

 

「お母さん……お父さん、お兄ちゃん……」

 

写真の中では4人の男女が身を寄せあって笑い合っている。

わかりやすいほどの幸福の形。

写真の中の人物はレナが(たちばな) 深雪(みゆき)として生きていた時の家族だ。

年の離れた兄に、優秀な科学者だった父、そして、いつの時も優しくて明るかった母。

 

どこにでもあるような普通の家族、その中に安住することはレナにとって何よりも居心地がよかった。

それがあんな形で奪われるなんてことは写真の中で笑顔を浮かべている深雪にはとても想定はできなかった。

今でも思い出すと涙が頬を伝う。

 

「お母さん……」

「レナ?」

「あっ」

 

自室のオートドアが開き、ニールが入室する。

レナは慌てて涙を拭い、端末もスリープにした。

 

「おいおい、何も隠すことはないだろ。俺は何度も見てんるんだ。レナの家族……だろ?」

「う、うん。あ、その……さっきのは、違うよ。誰かに見られるとね。つい……」

「隠しちまう。分かってるさ」

 

言い訳がましい物言いで目を泳がせるレナに対して、ニールは柔らかく笑みを漏らして隣に腰掛ける。

ニールの体重で沈むベッド。

レナは下手な会釈を返して再び端末を開いた。

 

そこに映るレナ……否、(たちばな) 深雪(みゆき)の家族は向けられているカメラレンズであろうものに向けて、誰が笑顔を浮かべていた。

母と父の間に二人の兄妹が並び、その二人を包むかのように両親が立っている。

父は母の肩に手を掛け、四人で構成された家族は誰が見ても幸せそうだ。

そんな家族の写真をレナは寂しそうに撫でる。

 

「ダメなのは分かってるの。ニールだって同じなのに、ニールは我慢してるのに……私だけ……」

「何言ってる。俺は我慢なんてしてねえさ」

「え?」

 

母親を失い、父親は姿を消し、最後に残った兄を残して逝ってしまった。

新しい人生でレイとなった兄に出逢えたのに一緒に居られた時間も束の間だった。

口では寂しくないといい、気にしてない素振りを貫いてきたが本心はずっと辛い。

でもそれはニールも同じ……レナはそう思っていた。

 

「俺だってライルのことが心配だぁ。よく家族の墓参りに来るあいつと遭遇しては隠れて様子を見てた。それに……あいつがガンダムマイスターになったって聞かされた時はいても立ってもいられなかったさ」

「そう、なんだ……」

 

会えないより会えるのに会わない方がずっと辛い。

レナはそう考えている。

だから、申し訳ない気持ちになった。

 

「ごめんね。ニール」

「辛いのはレナの方だろ。いい加減謝り癖は直せって」

「ご、ごめ……あっ。えっと……」

 

いつからこんなに弱気になったのだろう。

ニールに指摘されてレナは内心で自分が嫌になる。

最初に謝り癖がついたのはあのアザディスタンのお姫様に会ってしばらくしてからだ。

彼女の言葉に感動したレナは、戦争の真っ只中で相互理解を呼び掛けた。

しかし、誰も理解してくれない。

 

【ガンダム】の存在を悪意として認識している世界では、レナの声に耳を貸すものはいなかった。

そして、レナは結局武力を行使した。

それがどうしてもレナには正解には思えない。

初めて敵を無力化して、対話を試みようとした時、眼下で投降する兵士の怯えた表情をレナは忘れない。

ずっと脳裏にこびりつき、そこから彼女の思考は迷宮にさまよった。

今のレナはどうすればいいのか、もう分からない。

 

「震えてるのか?レナ」

「えっ?」

 

思わず肩をビクつかせる。

気付かないうちにレナの身体は震えていた。

昔より小さな手を見下ろすと、その手で握りこぶしを作るほどの力も込めることができない。

レナは恐怖心を抱いていた。

 

「………っ」

「おい、大丈夫か!?」

 

震える身体を止めようとしたのか、レナが両肩を抱えて上半身をうずくまらせる。

突然その様子を見せた彼女にニールが心配した。

 

「……分からない」

「はぁ?」

 

ボソリと絞り出した声で呟くレナ。

小刻みに震える唇から不安を吐露する。

 

「もう……どうすればいいのか分からないよ。マリナさんの言ってたこと、分かるのに……なのに……誰も分かってくれない!それに怖いよ。最近、どんどん抑えられなくなって……」

「塩基配列パターン0000の力ってやつか。そいつのことは俺も分からねえが……。レナ、俺達のマイスターはお前だけじゃない。なんなら暫く出撃しなくても―――」

「ダメだよ。アロウズは今でも勢力を拡大してるし、イノベイドの人たちだって動き始めてる。それに、私達のガンダムは旧世代が多いから……いざって時は私とサハクエルがやらないと……」

 

震える身体を抑え、重い息を吐くレナ。

レナが生み出した【ガンダムサハクエル】は時代と共に進化している。

実際に開発されたのが15年も前でもその性能は他の太陽炉搭載機より数年分は上回っていた。

そこに武装の大幅な改良があり、今となっても連邦の量産機、ソレスタルビーイングのガンダムにも引けを取らない。

そして、ただのリペア機でないそのサハクエルを完璧に操れるのはレナ・デスペアたった一人のみ。

 

他に能力値の高い人間、イノベイドであっても本人が細部まで専用に手を加えたサハクエルをレナ以上に扱うことは叶わないのだ。

つまり、どれだけレナを想っていようと彼女に変わってやることはできない。

結論、レナ達の戦力の中で突発的な事態に対応できるのはサハクエルだけということになる。

 

「……とにかく、今は間違ってることを止めないと。そっちは確かだから、私達なら抑止力なれるよ」

「だといいがな」

 

ニールが付け足した一言にレナも顔を顰めて俯く。

渋い反応を取ってしまうのも仕方ない。

気が滅入るくらい、今は盤面が乱れている。

下手に事を動かせないのだ。

 

『デンタツ!デンタツ!アベックドモ!アベックドモ!』

 

「あ、アベックって……」

「はははっ。まったく、こいつはとんでもねえ時代遅れだ」

 

二人のやり取りを静かに見守っていた黒HAROがチカチカと両目を光らせて揺れた。

黒HAROの言葉に苦笑いしつつレナは伝達を送ってきた主を問う。

 

「HAROちゃん。誰から?」

 

『モレノ。モレノ』

 

再び目を点滅させる黒HARO。

名を聞いてレナとニールは顔を見合って、レナは長い金髪が特徴のダンディなドクターを、ニールは金髪のおカッパ頭が特徴のドクターを同時に浮かべる。

 

ジョイス・モレノ。

元々は4年前までソレスタルビーイングの母艦【プトレマイオス】の搭乗医師として尽力していたが、【フォーリンエンジェルス】にてプトレマイオスが沈み、そこから瀕死の搭乗員二人と共にレナ達が匿っていた。

そこから4年間、最初は客人だった彼らも今やレナと志を共にする者達であり、レナ達の力となっている。

そして、その内の一人も()()()コロニー内の医務室にいる。

 

「HAROちゃん。伝達事項を見せて」

『マカセロヤイ!マカセロヤイ!』

 

端末を黒HAROとコードで接続し、メッセージを確認する。

そこに添付されたデータはモレノから定期的に送られてくる診断書。

まさしくもう一人の元トレミー搭乗員のものだ。

 

「こいつは……リヒティのか」

「うん」

 

頷きつつニールの表情を横目で窺う。

5年経った現在でさえ、昏睡状態に陥っているかつての仲間に思うところがないわけがない。

やはり今でもニールの表情が沈むようだ。

 

「様子は変わらないみたいだけど、行ってくるね」

「おいおい、俺は置いていくのかよ?」

「え?えっと……」

 

リヒテンダール・ツエーリ。

医務室の第一救命ポットで常に眠る彼もまた元トレミー搭乗員だった。

ニールからすればソレスタルビーイングの武力介入より以前、メンバーが集められた時からの付き合いだ。

様態を見に行くといえばついて行く、と言うのは当たり前だろう。

だが、レナは困った顔をした。

そして、それにニールも気付く。

 

「ははっ、冗談さぁ。そう真に受けんなよ」

「う、うん。ごめんね。ニールにはデュナメスで確認もしてもらいたいことあるし、モレノさんに個人的に用もあるから……」

「あぁ。分かってる。だから、早く行けよ」

「……ありがとう」

 

目を逸らしながらレナは礼を言い残して退室する。

レナを見送り、出て行ったのを確認するとニールは自分の髪をかきあげて盛大なため息をついた。

彼女にあんなに申し訳無さそうな顔をさせる自分が情けない。

 

「……馬鹿か、俺は」

 

4年前の【フォーリンエンジェルス】にて、国連軍との戦いの最中にアリー・アル・サーシェスが乗った【ガンダムスローネ ツヴァイ】を目にし、奴を追った先でレナと出会った。

スローネ ツヴァイから咄嗟に守った交戦中モビルスーツは自慢の双翼は根元から熱を帯びて千切れられていて、複眼は片方を失い、五体は満足ではなかった。

そして、その中に瀕死のレナがいたのだ。

 

ニールは即座に手を差し伸べたが、彼女はそれを断わり、ニールに彼の仲間が危険であることを伝えた。

なぜレナがトレミーの状況を把握していたのかは当時は理解できなかったが仲間の危機を聞いてはいても立ってもいられず、ニールはレナの元へ戻ってくることを約束して国連軍との戦闘宙域に戻り、既に討たれていたソレスタルビーイングの内、半壊状態に陥っていたプトレマイオスの乗員を三名のみ救出することができた。

 

それがモレノ、リヒティともう一人……クリスティナ・シエラだ。

クリスティナ・シエラもまた元プトレマイオスの乗員で、戦況オペレーターだった。

当然、リヒティやモレノと同様にニールの大切な仲間でもある。

そんな三人を一人は今もなお昏睡状態とはいえ救い出すことができた。

 

後からレナに聞いた『本筋の流れ』というものとは別の結果を手に入れることが出来た。

そんなレナには感謝しかない。

現にクリスもリヒティのこともあるが、レナに感謝してソレスタルビーイングに戻りたい気持ちを抑えて彼女の手助けをしている。

 

だが、レナがそれだけのことをしてくれたに対して自分はどうだろうか。

ニールは自分がレナの役に立てているとは思えない。

実際、今のレナは目的とは違う行動を取っている。

それなのに彼女を止めることすらできない。

それは何もニールだけではない。

みんながそうだ。

今のレナは誰にも制御できない。

本人にも。

 

とある中東国の姫からの言葉を受け、レナの目的は対話で世界とわかり合い、戦いを止めることとなった。

だが、実際にレナがやっていることは呼び掛けた相手が応えるまで淘汰し続けることだ。

ニールも周囲の人間も一度はそんなレナを制止した。

しかし、最初のレナは自分を信じ切っていたのだ。

いつの間にか手に負えなくなるまで。

気付いた時にはレナは自身の手でレイ・デスペアを討っていた。

その直後の彼女の様子はニールですら目が当てられない。

 

「クソ……っ!」

 

誰もいない部屋で悪態をつく。

やり場のない焦りと憤りを抱えてニールは立ち上がった。

レナに言われた通り、デュナメスの点検に向かう。

デュナメスを動かしている間は気晴らしになるだろうと思ったからだ。

なによりずっと暗い気持ちでは気が滅入る。

ニールが部屋を出ると室内でスリープしていた彼のハロも起動し、無重力を頼りに跳躍してついてきた。

 

「デュナメスの動作確認だ。ハロ、悪いがちょっと付き合ってくれ」

『マカサレタ。マカサレタ』

 

パイロットスーツに身を包み、ヘルメットを肩に掛けてハロを捕まえて脇に抱える。

そうしてニールは医務室とは逆方面の格納庫へ向かった。

 

 

 

 

 

黒HAROの中に内蔵された各モビルスーツのデータを眺め、移動中にも作業を欠かせないレナは前も見ずに医務室へ向かう。

見知ったコロニー内の移動なので下を向いていても道がわかった。

もちろん危ないことも承知だが、それだけ手を休めている暇がないのだ。

そんな多忙さにレナが嘆息する中、いつの間にか目的の医務室前に辿り着く。

入室するとドクター・モレノは待っていた。

 

「やあ。最近はこもりっぱなしだったからな。久しいな」

「お邪魔します。モレノさん。相変わらずなんですね。そのサングラス」

「はははっ。どうだ?似合ってるだろ。実は新品なんだぞ」

 

入室してすぐレナが思わず口にした通り、モレノは自身のアイデンティティとでも言うかのようにサングラスを掛けている。

4年前はおカッパだった髪型は今ではすっかり伸びてロン毛になっていた。

なんでも昔に戻しているだとか、どうでもいい話だ。

 

「リヒティさんの容態はどうですか?」

「相変わらずぐっすりだ。こればかりは本人の回復を待つしかないな」

「そうですか……」

 

隣接する部屋は医療カプセルが並んでいるが、そのうちの一つは常に使用中のランプが点滅している。

リヒティだ。

 

「幸い、もう命の心配はない。リヒティの半身が機械だったのが良かったんだ」

「そうですか……良かった」

 

モレノの報告を聞いて安堵の笑みを浮かべる。

だが、モレノには目の下のクマが原因でやつれた笑みにしか見えなかった。

そのことについて指摘する。

 

「最近、あまり寝てないだろう?」

「………っ…!それは……」

 

言い訳はしない。

交渉相手などとの会話でブラフを混ぜることはできても意味のない嘘はつけないタイプだ。

目を逸らすレナにモレノはため息をつく。

 

「まあ、無理もないが……。休息はきちんと取った方がいい。君の場合なら尚更だ。辛いからこそな」

「……はい。わかっています」

 

レイとのことで相当きているのは自覚している。

モレノがカウンセリングを本格的に始めたのもその後からだ。

レナを床に固定したパイプ椅子に座らせ、レナのカウンセリングを始める。

前置きはもう済ませた。

最初から彼女の心の奥に引っかかっているものを突いた。

 

「一応彼を殺してはいないんだろう?」

「はい。でも、死んでても死んでなくても……私がお兄ちゃんを攻撃したのは間違いないから……。その事実はもう、変えられない……」

 

膝の上に乗せる拳に力がこもる。

レナの身体は小刻みに震えていた。

自分の犯してしまったことを痛感している。

 

「確かに。もう彼は頼れない。彼自身の意思もそうだが、我々は君を中心に動いている。君が彼を敵と認識してしまった今、我々の総意も同じなってしまった」

「……わかってます」

「まあ、あの時は仕方がなかったのは間違いない。みんな君にそうするように願っていた。君は強いが、心までは強くない。周囲の重圧に焦ってしまうのも無理はない」

「そんな……」

 

レナの表情に失望が浮かぶ。

あの時はアロウズのイノベイターとしてのレイの行動に誰もが不快感を抱いていた。

レナを支持する子供たち……今では立派に成長した子もいるが、彼らを筆頭にデルやクリスもレイを邪魔者のように扱った。

実際にレイはレナ達にとって敵勢力だった。

途中からはレオとニールも折れ、留美(リューミン)も賛同した。

 

みんなの心のうちはただ一つ、辛い思いをしているレナに一番寄り添わなければいけないレイがレナの邪魔をしていることがどうしても許せないということだ。

レナを想ってのことがレナを逆に苦しめているとも知らずに。

最後まで反対したのはネーナくらいだった。

彼女は作戦実行中もあまり乗り気ではなかった。

 

「ネーナ君と違い、私は強く反対できなかった。本当にすまない……」

「いえ……。私がもっとしっかりしてれば……みんなを宥めることができたのに……。みんなに責任を擦り付けても意味はないです。やったのは私、お兄ちゃんを討ち落としたのは、間違いなく私なんです」

「何を言う!そう、あまり自分を責めるんじゃない。直接手を下したのは君でも、あの状況では仕方ない。君は悪くない。悪いのは我々だ。我々を悪く言いたくない君の気持ちもわかるが、これは事実だ」

「………っ」

 

レナの意見を否定したいばかりに身を乗り出してしまったモレノ。

発言を終えてからそのことに気付き、咳払いをして気を取り直す。

 

「失礼。感情的になり過ぎた。とにかく自分を責めるのはやめなさい。それはいずれ君を追い詰める」

「……はい」

 

どこか納得は言っていないが、とりあえずレナを頷いた。

それを確認してモレノは胸を撫で下ろす。

このままレナが自身を責め続けると自壊してしまう恐れがある。

もうそれも目前に迫っているほどだ。

どうにか今は寸止めできたと言ってもいいだろう。

ほんの少しのさじ加減でレナ・デスペアは崩壊してしまう。

 

そうなればいつ起こりうるかわからないイレギュラーに対応できる勢力が、モレノ達もが道ずれを食らって崩壊する。

だが、モレノにとってそんなことはどうでもいい。

彼にとって最も重要なのはレナが壊れてしまわないことだ。

彼女に罪はない。

関係のない世界の悲しい運命に巻き込まれて沢山のものを失った哀れな被害者だ。

 

その上で自分も失ってしまうなんてことはあってはいけない。

彼女は前世も合わせてもう何十年も生きているが、モレノも驚く程に精神年齢は幼い。

イノベイドの外見の変化は人間より遅いため、精神年齢がそれを上回ることはあるが、レナは逆に外見に相応する。

おそらく前世で最期に迎えた年齢とさほど変わらないだろう。

数々の修羅場を乗りこえた彼女を達観したように見る者も多いだろうが、モレノにはそれが年相応の心の脆さを守る砦に見えた。

そして、今はその砦が崩されそうになっているのだ。

 



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強襲

レナが俯く中、足元で転がる黒HAROの瞳が点灯する。

 

『レナ。デンタツ。レナ。デンタツ。デルカラ。デルカラ』

 

「デルから…?」

「おや、お呼び出しか」

 

デル・エルダ、本名はデルフィーヌ・ベデリア。

元人革連のパイロットだった彼女は今ではレナや子供たち技術士のサブチーフだ。

レナが格納庫にいない時は基本、デルの指示で現場は動く。

 

そのデルからの呼び出しとなればそれなりの報告事情でもあるのだろう。

もしくは彼女にも手に負えないことか。

そうなるとレナが出向くしかない。

 

「ごめんなさい。途中なのに」

「いや、大丈夫だ。今日はここまでにしよう。行ってきたまえ」

「はい」

 

モレノに断りを入れて黒HAROを抱えたレナは医務室を後にする。

そのまま格納庫に向かった。道中、レナは自身の犯してしまったことの軽率さを思い返していた。

レナの意思は今やレナだけのものではない。彼女の決定が彼女を支持する者たちの総意となり、それが世界に影響をもたらすものでもある。

 

軽率だった。重圧に負けたなんて言い訳に過ぎない。

もはや組織と言ってもいいほどに膨らんだこの集団は以前のようにレナが子供たちを寄せ集め、(ワン)家に支えられていた頃とは比べ物にならない。

アロウズ艦隊を退けられる戦力。イノベイターに対抗できる情報量。

 

そして、レナ・デスペアとガンダムサハクエル。最近サハクエルを作ったのは間違いだったのではないかとレナは考え始めた。

塩基配列パターン0000はまだ全貌は把握できていないのかもしれないが、戦闘面だけ見ても特殊なイノベイドであることがわかる。

 

転生者のために用意されたボディだが、ナオヤ・ヒンダレスのような無能力も存在するため、全個体が同じ仕様であるというわけでもないのかもしれないが、少なくともレイとレナには特殊能力タイプの能力をマイスタータイプにカスタムしたものが備わっている。

しかし、レイは、能力は明らかになってるもののその力を最大発揮できるモビルスーツに出会っていない。

 

彼が搭乗した第2世代ガンダムのアストレアやプルトーネも充分優れた機体だが、どちらもレイとの相性が飛び抜けて良い機体ではなかった。

元は第2世代のガンダムマイスターに合わせて製造された機体なのだから当然といえば当然だ。

 

だが、逆にレナは自身の能力・肉体に最適なモビルスーツであるサハクエルを自らの手で生み出してしまった。

レナとサハクエルが起こした化学反応は凄まじい力を発揮し、今も尚、進化し続けている。

 

レナはそれが恐ろしくてたまらない。

彼女とサハクエルという絶対的な個の存在に欠如していた組織力、勢力が身についてしまった今、他の勢力も無視できない存在となり、引き返しがつかなくなった。

 

どれほど恐れていてもレナはもうサハクエルから降りることはできない。必要性と後悔だ。

どうしても今は捨てることができない。世界を変えるために、犠牲をださないために、仲間を失わないために。失って、後悔しないために。

 

「………」

 

格納庫へと向かう道中、少しだけ兄のレイが羨ましく思った。

彼はまだ自身の能力の全てを解放しているわけではない。レナにとってのサハクエルのようにレイだけに合わせた最高の相性を、それを持つガンダムと出会わなければ彼の操縦時の負担無効による高機動能力は最大発揮されることはない。

 

つまり、レイはまだ引き返せる。まだ選択肢がある。

レイはサハクエルとレナのようにこの塩基配列パターン0000に与えられた強大な力に呑まれることを知らない。

それが本当に羨ましく思える。

一度この力を手にしたらこれ以下の力なんて考えられない。

 

「あはは……」

 

―――醜いな。そう自分を嘲笑しながら前髪を掻き上げる。

そんなことを思ってるうちに道順を誰よりも覚えているレナはすんなりと最後の扉まで辿り着いた。

最後の扉を通り、格納庫に現れたレナに、気付いたデルが無重力で浮遊してレナの前に降りてくる。

 

「ごめん。遅くなっちゃったかな」

「大丈夫。でも忙しいから要件だけ先に伝えておく。たった今【GNR-02】がロールアウトした」

「……っ!ほんと!?」

「あぁ」

 

頷いた後、格納庫の奥の方にデルが目配せする。

レナも柵に手をかけ、乗り出して見ると、今まではそこにいなかった純白のモビルスーツと目が合った。

間違いなく、レナが設計し、デザインも施した機体、ガンダムだ。

訳あってほとんどレナが一人で建造を担当した機体だが、最終調整はみんなに任せていたのだ。

デルがその報告書を読み上げる。

 

「各部特に問題はない。システムもレナが調整した通りだ。……まあ我々には確認できないところもあったが、装備の欠陥もないだろう」

「そう。ありがとう、手伝ってくれて」

「我々は特に何もしていない。というより、何もしなかった」

「……うん。そうだね」

 

デルの言葉をレナは否定しなかった。

事実、あの機体を建造する時と言った時は誰も賛同しなかった。

それどころか誰もが謝罪を口にしてまでレナの手伝いを拒んだのだ。

それだけはできない、と。

しかし、誰もが建造を中止すると思っていたそのモビルスーツをレナは一人で建造し始めた。

 

見るに耐えず、助けてくれた子供もいるがそのほとんどがデルの制止を受けて手を止めてきた。レナも止められたが、その制止を払い除けてきたのだ。

そんな多くの反対を買ってでもレナが建造を諦めなかった純白のモビルスーツ、【GNR-02】。

 

アロウズやイノベイターの動きが活発になり、戦いが激化した今、レナが現場に駆り出される機会も増えたため手がつけられなかった最後の調整だけは子供たちが協力してくれた。

しかし、それはあくまで【GNR-02】がレナの予備機であるという説明を受けて納得したがためだ。

 

実際は4年前のフォーリンエンジェルスでプルトーネブラックを修復した少年、今は青年となった子供たちの中で最年長の男の子、シンがデルを納得させるため他の子供たちが協力しやすいようにするためについた嘘であるが、皆なんとなく気付いているにも関わらず最後の調整を手伝った。

理由はもちろん子供たちがレナを慕っているからだ。

だが、その違和感を無視しない者もいる。

 

「それで、本当に私たちが予備機であることを信じてるとでも思ってるのかい?」

「……あなたは信じてないの?」

「さぁね。ただ私はあまり嘘に敏感じゃない。でも、あの子達はどっちかと言うと鋭い方だよ」

 

デルに言われてレナは辺りを見渡す。

4年前は全員が子供だった子達が、一部はもう大人の仲間入りを果たしていた。

そして、その全員が今は格納庫にいて、GNR-02に嫌悪感を抱いている。

 

だが、誰も口には出さないのはそのモビルスーツにレナの想いが詰まっているからだろう。

彼らはそれを知っている。

ずっと見てきたのだから。

 

「……そう、だね」

 

奥から引っ張り出してきたにも関わらず、誰にも良い印象を抱かれないGNR-02を見遣り、ポツリと呟くレナ。

サハクエル同様、レナが生み出したGNR-02にとってレナは生みの親のようなものだ。

だからこそ、致し方ないとは分かっていても寂しく感じる。

そんな私情は押し込め、思考ごと振り払うように首を振るうレナにテルが尋ねる。

 

「ところであのモビルスーツの名前は?」

「もう決めてあるよ」

 

デルに問われ、再びGNR-2と見つめあったレナは手すりを蹴り、GNR-02の方へと浮遊する。

そんな彼女に周囲で作業がてらにGNR-02に見遣っていた元超人機関出身の子供らも注目した。

そして、レナはGNR-02の名を口にする。

 

「『涙の天使(イスラフィム)』。ガンダム……イスラフィム」

 

格納庫にいた全員がその名を聞き、デルも嫌悪感を忘れてその名を小さく反復する。

GNR-02のどこか清楚的なフェイスにそっと手をあてるレナを含め、その名を聞いた誰もが神秘を感じていた。

 

デル、子供たち、デュナメスのコクピット内ではニールが。

プルトーネブラックのコクピット内ではレオが。

それだけではない。

もう一人、その名を聞いた者がいた。

 

「そう。それがこのガンダムの名前なのね」

「………っ」

 

聞き覚えのある声にレナが振り返り、格納庫の入口を見遣る。

子供たちや声の主の最も近くにいたデルも彼女に注目した。

レナがその名を叫ぶ。

 

「絹江さん…!」

「久しぶりね、レナちゃん。みんなも!」

 

レナが絹江のところまで浮遊し、飛んできた彼女を絹江が受け止めるように手を取る。

ある事情で一定期間不在だった絹江は、束の間の再会を堪能した後、すぐに見たことのないガンダムへと視線を走らせた。

 

「ねえ。あの新しいガンダムの話を聞かせて?……レナちゃんが一人で作ったんでしょ?その、レイさんのために……」

「別に全部私だけってわけじゃないよ。最後はみんな手伝ってくれたし、ネーナもできる限りは手助けしてくれたから……」

「そ、そう……。それなら少しだけ安心したわ」

 

後ろのデルに聞こえないよう小さな声で配慮して話を振ってきた絹江。

そんなところからも彼女の気遣いをレナは感じる。

モレノは自分を含め、レナに重圧をかけてしまったみんなを責めたが、レナはそうは思わない。

 

絹江の気遣いやニールの想い、デルたちも今ではみんな手助けしようとしてくれている。

彼らの気持ちも理解しているレナにはそんな彼らを責めることはできない。

やはり自身の心の弱さが原因なのだろう。

レナはそう結論づけた。

 

「レナちゃん、どうしたの?」

「え?」

「なんだか追い詰めた表情してるから……」

「あっ……えっと、大丈夫です」

「そう?」

「……はい」

 

絹江に指摘されて、レナは慌てて誤魔化し、絹江に背を向けて軽く自分の頬を叩く。

心が弱いのならそれを表に出してはいけない。

きっとさらけ出してしまえばそこから崩れ落ちるようにさらに脆くなってしまう。

それにレナはみんなを引っ張る立場にいる。

 

自分が弱くなればみんなが不安になり、そこから乱れてしまう。

それだけはダメだ。

レナはなんとか頬を揉んで表情を柔らかくしようとする。

絹江はデルに声をかけられて気付いていない。

 

「絹江。再会に浸るのはそれくらいにして、報告を聞かせてくれ」

「あぁ、ごめんなさい。ここに全部入ってるわ。カタロンの情報もこれからしばらくの活動予定も。それと連邦の動きや現状の情勢もね」

「ゆ、優秀だな……」

「これでも元ジャーナリストだもの。これくらいはするわ」

 

絹江の持ってきた情報の量にデルは少々度肝を抜かれる。

データの入ったメモリを受け取り、さっそく端末に指してコピー作業を始めた。

その作業中、突然振り向いた絹江にレナは慌てて頬を揉んでいた両手を後ろに隠す。

 

「そういえばレナちゃん。アロウズについて調べてる時、凄い情報が手に入ったのよ……!」

「凄い情報?」

「なんだそれは」

 

レナだけでなく、デルも端末の待機画面から顔を上げて注目する。

元ジャーナリストとしての絹江の腕を完全に認めたデルも彼女の言うことは虚偽ではないことを理解していた。

 

ならば、絹江が凄い情報と言ったらただごとではないだろう。

たまたま通りがかったレオも物を取りに来たついでに傍目を向けて、耳を傾けている。

 

「あ、えっと……みんな聞く感じ?」

 

デルやレオも聞き耳を立てることに気まづそうにする絹江。

まさか2人にも聞こえているとは思っていなかった。

なんとなく察しがついたデルとレオの2人だが、顔を見合せたその反応は対照的に顰めっ面と苦笑いだ。

 

「……まあ仕方ないか。それじゃあ言うけど、実は―――」

『レナ!』

 

絹江が話し始めたと同時、彼女の護衛として共に宇宙(そら)に上がってきたネーナが通信越しに慌てた様子で割って入ってくる。

突如として格納庫の端末に映し出された尋常じゃないネーナの様子にレナは即座に対応した。

 

「ネーナ、どうしたの?」

『て、敵襲……!!』

「ええっ!?」

 

レナが思わず漏らした声を合図にしたかのようにコロニー内に緊急事態を知らせるブザーが鳴り響く。

格納庫も赤いランプの点灯で照らされ、場に緊張が走った。

その中で状況を把握しようとレナがネーナに切迫する。

 

「敵の数は!?どこまで侵入されたの!?」

「えっ……あっ、えっと……」

「早く!」

「は、はい!」

 

コロニーの周辺を取り囲むアステロイドには敵の侵入を知らせるためのセンサーが張り巡らされている。

その警戒領域は三段階に分かれ、第三の外郭には監視衛生を設置している。

それら全てを設計、建造したのはレナだ。

 

そのおかげで早い段階に察知できているはずだが、侵攻速度が設備の許容範囲を超えた場合、対応も間に合わなくなる。

情報が鍵となると理解しているレナは緊急事態でも冷静に必要な情報を求めた。

 

ネーナが返答を詰まらせている間、痺れを切らしたレナは髪をひとつに結っている若い女性に声をかける。

4年前、地上での拠点防衛において戦いに敗れたレナを介抱した時の女の子だ。

 

「第一警戒領域超えました!」

「じゃあ第二から防衛システム作動して!他のみんなはモビルスーツをカタパルトへ!」

「迎撃するのか?我々に接触してきた協力要請者という可能性も」

「ネーナが敵襲って言ってたでしょ。信じられない?」

「……いや、すまなかった」

 

謝罪を口にして子供たちへの指示を飛ばすデル。

別に彼女に悪意があったわけではないことはレナも理解している。

だが、この緊急時に丁寧に対応している場合はないがためにネーナをダシに使った。

内心では申し訳ないが、ネーナには脳量子派能力があるため、彼女が敵と断定したのならその可能性は高いのも事実であり間違ったことは言っていない。

 

『レナ!迎撃するならあたしも行くよ!』

「待って。焦ならないで。まだ敵の戦力がわからない。とりあえず第三防衛ラインまでネーナは下がって」

『で、でも多分すぐに突破されちゃうよ!』

「……それだけの戦力ってことだよね。でも、ここでネーナを犠牲にして後に繋ぐ選択が正しいかなんて今はまだ決められない。それにネーナを犠牲にしたくないし、失いたくもないの」

『レナ……』

 

絹江を連れて帰ってきた後もコロニー周辺の警戒を担当していたネーナは確かに敵の近くにいて、先に手を打つことが出来る。

だが、4年前と違い、もう連邦のモビルスーツとの性能差はあまりない。

 

襲撃してきたのが何者であれネーナもタダでは済まない。

そして、ここでの時間稼ぎにまだ意味を見いだせない今、レナはネーナの早とちりを止めた。

レナは本心も混ぜることで彼女の制止に成功する。

 

『わかったわ。でも、敵は多分あいつらよ!』

「………っ。そう。ありがとう、ネーナ。第一防衛ラインまで下がってドライで待機しておいて」

『了解ね』

「クリスさん。監視衛生の映像をこっちに回してください」

『もうこっちで敵は捕捉してる……ってそれはもう分かってるんだ。さすがレナ!格納庫の大型モニターでいい?』

「はい」

 

周囲がデルの指示で慌ただしく動く中、管制室にいるクリスによって格納庫の大型モニターに熱解析画像が映し出される。

そっちに気を取られた子供をデルが注意し、レナは熱反応の型から敵のモビルスーツを考察した。

さらに脳量子波も感知する。

 

「間違いない。ネーナの言う通り……イノベイドの専用機!」

 

以前、レイの残した情報を頼りに照合した。

間違いなくイノベイドが自身らのために開発したモビルスーツとモビルアーマーだ。

名称は【GNZ-005 ガラッゾ】、【GNZ-003 ガデッサ】、【GNMA-Y0001 エンプラス】。

 

「先生、敵の数は?」

「全部で4。でも1機だけ照合不能の機体がいるから、聞いてたイノベイド専用機は3機かな」

「照合不能は情報がないからどうしようもないとしても……もう1機のイノベイド専用機はどこに行ったんでしょう?」

「多分この時期は衛生兵器の護衛かな。衛生兵器の完成は紅龍(ホンロン)さんからの情報で確認してるから可能性は高いと思う」

「問題はそこじゃあねえだろ」

 

レオとレナ、二人の状況分析の間にニールもやってくる。

これでネーナを含めればマイスターが揃う。

デルはレオの申請で手が足りない時以外はパイロットの数には含まれていない。

 

「いない敵より目の前の敵だ。その照合不可能な機体ってのはレナの目で見て何かわかることはないのか?」

「……私から言えるのはこの機体がもの凄く速くてどの映像にもハッキリした姿は映ってないから情報が取りにくいってことくらいかな」

「イノベイド専用機の新型でしょうか?」

「わからないよ。とにかく侵攻を止めなくちゃ」

 

防衛ラインが破られるのも時間の問題。

今のうちに手を打たなければならない。

ネーナが回線をオープンにしていることを確認してレナは作戦会議を始める。

 

「第二防衛ラインで足を止めてる間に私とニールが出るよ。第二防衛ラインは突破された同時に出れたら理想かな」

「そこから先生たちが食い止めるんですね」

「そう。サハクエルとGNアームズの遠距離射撃で今度は私たちが防衛の役目を果たすの。その間にレオは出撃してネーナと一緒にコロニーの砲台を守って欲しいんだけど……お願いできる?」

「了解です」

『了解ね』

 

レオとネーナが同時に頷く。

だが、ニールが不満げだった。

 

「おい、レナ。お前はやめとけよ」

「……そうはいかないよ。ここで私が戦わないとみんなを守れない」

「レオがいるだろ」

「プルトーネ ブラックとサハクエルとじゃ砲門の数が全然違うよ。役割も交代できない。ニールの気持ちは嬉しいけどみんなの命には変えられない、そうでしょ?」

「………っ」

 

傷痕の残るニールの右眼に触れるレナ。

レナは傍目で第二防衛ラインの状況データを確認して、維持できる猶予を脳内で導き出していた。

だから、強行手段に出た。ニールは右眼を負傷した状態で、かつての仲間の制止を無視して出撃した。

故にニールにはレナは止められない。彼にもそれがわかっていた。

 

「……あぁ、悪かった」

『ニール……』

 

話だけ聞いていたクリスから呟きが漏れる。

彼女にはニールの気持ちがわかる。

逆にレオとネーナは事情を知らなかった。

 

「えっと……先生、どこか悪いんですか……?」

「ううん。大丈夫。それよりもう時間が無いよ。作戦を始めよう」

 

レナの一言にマイスター全員の気が引き締まる。

アステロイドに設置した砲台は敵によって駆逐されていく。

もう全滅も近い状態だ。

砲撃武装を持つ機体が3機いるのが原因だろう。

 

なににせよ、今のうちに行動を起こさなければ間に合わなくなる。

レナ達はパイロットスーツとヘルメットを抱えてそれぞれの機体へと散らばった。

移動中にもレナは指示を飛ばす。

 

「みんな、整備は下がって!デルの指示に従ってプトレマイオス改とネオ・トリニティ鑑をコロニーの砲台にセットして。急いで!」

「でも先生!艦長が1人足りないよ!」

「それなら俺が行く。いいだろ?先生」

『うん。お願い、シン』

「わかった。みんな下がれ!」

 

シンと4年前地上拠点を襲撃された際、レナを介抱していた女の子、共に最年長のリンの2人が他の子供たちを引率して行動する。

レナはサハクエルへと乗り込み、システムを確認しながら回線をデルと繋ぐ。

 

『デル、絹江さんも連れていって。きっとそっちの方が安全だから。あと医務室にいるモレノさんとリヒティさんも!』

『わかった。任せて』

 

承諾するデルに、ありがとう、と返すレナ。

後のことはデルに一任してサハクエルをコロニーのカタパルトへと移動させた。

隣のカタパルトにはデュナメスが上昇してくる。

 

発射口から見えるのは防衛システムを全て破壊してこちらへ砲門を向けてくるガデッサとエンプラスの姿。

GNバスターライフルを2挺ドッキングさせてツインバスターライフルを構えたサハクエルはカタパルト内部から照準を合わせる。

 

『狙い撃ちっ!』

 

刹那、敵の砲門が煌めき、二本の粒子ビームがコロニーへと迫る。

レナも引き金を引き、サハクエルのツインバスターライフルから粒子ビームが放たれた。

両者は互いにぶつかり、大きな爆発を起こして視界を奪ってくる。

 

『今の照準……』

『デュナメス、ニール・ディランディ。狙い撃つ!』

『GNアーマー射出!』

 

敵の攻撃の違和感を抱きながらレナはニールの発進に合わせてGNアーマーを異なるカタパルトから放つ。

敵は第二防衛ラインから遠距離攻撃を仕掛けてきた。

 

だが、もう1機の【UNKNOWN】とガラッゾの姿はない。

おそらく死角からの強襲だ。

ガラッゾの出力から考えて今の敵の侵攻具合を算出する。

 

『ニール!敵はすぐ近くにいるよ。気をつけて』

『あぁ、わかってる』

 

デュナメスとGNアーマーがドッキングし、GNアームズとなってコロニーの防衛に駆り出す。

それを確認してレナも宇宙(そら)を見据えた。

 

『サハクエル、レナ・デスペア。飛ぶよ!』

 

カタパルトの台座がスライドし、火花を散らしてサハクエルを宇宙(そら)へと放る。

そこからレナの細かな姿勢制御を得てサハクエルは大きな白翼を左右同時に展開して降臨した。

両手にはバスターライフルが2丁握られている。

 

『フルバースト!』

 

レナの掛け声とともに展開するサハクエルの腰部、双翼にマウントされていたビーム砲。

その全ての砲門がGNメガランチャーと大型GNキャノンの砲門に粒子を蓄積しているガデッサとエンプラスに狙いをつける。

ガデッサとエンプラスはそれに気付いて回避行動を取った。

 

砲撃体勢に入った状態ではエンプラスはGNフィールドを張れない。

仕方なしに粒子ビームを放ち、レナも後退して回避運動を取りながら引き金を引いた。

バスターライフル2丁の分も含めた8筋の光の柱が交差する。

 

『………っ!』

 

サハクエルが躱した粒子ビームはコロニーへと直撃し、一部区域が爆発を起こしている。

コクピットの中、ヘルメットのバイザーの奥で冷や汗を垂らすレナは全員を艦に移した自身の判断が幸をそうしたことに安堵した。

そして、すぐに目前の敵に意識を戻す。

 

『ニール。あっちの足を止めるよ。砲撃準備して!』

『悪いな、レナ。もう少し……っ!待ってくれ!』

『……?』

 

返答の歯切れの悪さに違和感を覚えてGNアームズの方を確認するレナ。

すると、GNアームズは1機のモビルスーツに追われていた。

ガラッゾだ。

 

『ニール!』

 

ガラッゾは指部からビームクローを形成してGNアームズに襲い掛かっていた。

GNアームズは逃げる一方。

それも仕方ない。

デュナメスが換装しているGNアーマー TYPE-Dは近接用の武装が脚部のクローしか装備されていない。

 

だが、それでガラッゾとやり合うのは不利だ。

現にニールは反撃の機会を伺っているが実行できていない。

そんなGNアームズにビームクローの光刃が迫る。

 

『貰ったぞ』

『やあっ!』

『何!?』

 

ビームクローと交わるビームサーベル。

競り合う刀身から火花を散らし、GNアームズの元に駆けつけたサハクエルは隙のあったガラッゾの腹部を蹴り飛ばす。

 

『ぐっ……!』

『狙い撃ち!』

『デヴァイン!』

 

サハクエルの一斉射撃(フルバースト)をエンプラスがGNフィールドを展開して、ガラッゾを守るように防ぐ。

だが、守りに入った敵をそのまま逃がすレナではない。

腰にマウントしてあるGNガンバレルの砲口、その上部を展開し、内蔵されていたGNマイクロミサイルを一斉に発射した。

 

『チッ!』

 

舌打ちを漏らすエンプラスのパイロット、デヴァイン・ノヴァ。

GNフィールドをも突破することのできるマイクロミサイル攻撃にエンプラスを操縦するデヴァインはブリングの乗るガラッゾを巻き込みながら後退していく。

 

その入れ違いのように前に出たガデッサのメガランチャーによる砲撃をサハクエルとGNアームズは躱し、サハクエルの一斉射撃でガデッサも退く。

敵の侵攻の足を止めたことを確認したレナは即座にニールに通信を繋いだ。

 

『ニール、今だよ!とにかく撃ちまくって!』

『オーライ。弾幕を張る!』

『ホウゲキカイシ!ホウゲキカイシ!』

 

ハロの掛け声と共にニールが引き金を引く。

GNアームズは大型GNキャノン、GNツインライフル、大型ミサイルコンテナからありったけの弾幕を張った。

一斉に飛来する粒子ビームとミサイルに相手は回避を強いられる。

 

『これは……!』

『厄介な!』

『旧式のモビルアーマーのくせにやってくれる……!』

 

ガデッサのパイロット、リヴァイヴ・リバイバルを含め襲撃に参加したイノベイドたちが表情を歪める。

GNアームズの弾幕も厄介だが、問題はそのタイミング。間違いなく指示を出してるのは『翼持ち』のパイロットだ。

 

レナ・デスペア、それが彼らの標的。彼らはレナだけを狙っている。

コロニーの襲撃、レナの一味への攻撃は二の次だった。

それがレナの感じていた違和感の正体でもあった。

 

『調子に乗って……!』

『フルバースト!!』

『なっ!』

 

GNアームズの弾幕から無理に抜け出したリヴァイヴを待っていたのは全砲門を展開したサハクエル。

放たれた粒子ビームは機転を利かせたブリングがガラッゾのGNフィールドで防ぎ、ガデッサを下がらせた。

 

それを合図にするかのようにサハクエルは無数のGNウィングビットをウィングバインダーから射出する。

腰部にマウントされていたGNガンバレルも本体から分離し、遊撃体勢に入った。

そして、サハクエルとGNアームズの双方の持ちうる限りの砲門がヒリングたちに向けられた。

 

『乱れ撃ちっ!』

『圧倒するぜ!』

 

一斉に放たれる粒子ビームとミサイルの数々。

その圧倒的な物量にイノベイドたちは戦線は押し上げられていく。

 

『ぐっ……!』

『この程度で……!』

 

GNフィールドを張りつつ後退していくガラッゾとエンプラスとは別に強気になりながらもリヴァイヴは回避に専念するしかなくなる。

視界一面が砲撃に包まれる中、反撃など以ての外。

ここで機体を被弾してコア・ファイターで逃走するには敵が恐ろしすぎる。

丸腰になった彼らなど『翼持ち』にかかれば瞬殺、決して逃げられはしない。

 

故にリヴァイヴに、ブリングとデヴァインも焦りを感じ始めていた。

襲撃したのは彼らだと言うのにあっという間に形勢を逆転されてしまった。

それもこれもレナ・デスペアの仕業というのが恐ろしい。

 

だが、向こうの対応力を見越した作戦は用意してきている。

相手の反撃に怯み、焦燥していたリヴァイヴも一変して笑みを浮かべた。

 

『思っていたよりやる。しかし、我々が賭けているのはここからだ!』

『リヴァイヴ、ここから攻めるぞ』

『了解!』

 

ブリングの合図でガラッゾ、ガデッサ、エンプラスが動く。

先程とは侵攻ルートを変え、狙いをGNアームズに変更した。

その行動を目にしたニールは相手の思惑に気付く。

 

「野郎共、俺の方に来やがった……!」

『ビンボークジ!ビンボークジ!』

「わかってるよ……!」

 

パカパカと耳を開閉させ、瞳を点滅させるハロ。

そんなハロに悪態をつきつつニールは敵の対応をする。

彼らがニールに狙いを絞ったのは、レナと違って回避不可能な砲撃ではないからだ。

ニールの得意スタイルは狙撃、早撃ちや多数の敵への掃射攻撃は得意ではない。

 

GNアームズでの物量攻撃でそれを誤魔化していたが、イノベイドたちは看破し、性格の悪いことにニールとレナの射程が被るGNアームズ側から仕掛けてきた。

これではレナの狙いが絞られ、彼女の持ち味である最適な射撃ルートの算出が難しくなる。

 

ここは自分の攻撃を止めて、レナに自由に撃ってもらった方がいい。

そう考えたニールは引き金から手を離そうとした。

だが、レナの通信が割って入る。

 

『待って、ニール。そのまま撃ち続けて』

『なんだって?だが、レナ―――』

『私一人の弾数じゃ相手の動きを全て止めるのはどのみち無理だよ。なら弾圧だけでも数が欲しいの。それに、この程度の動きで私は出し抜けない』

『何か対策でもあるのか?』

『やりようはいくらでもあるよ』

 

言ったそばからGNアームズの放った粒子ビームやミサイルをレナが狙い撃ち、爆発の衝撃で敵モビルスーツを押し戻す。

この攻撃パターンも含めればレナとニールの攻撃範囲が被っても問題はない。

驚きで目を見開くニールを置いてレナはデルにも通信を繋ぐ。

 

『プトレマイオスとトリニティ艦の準備は?』

『どっちもコロニーの砲台にセットできてるよ。これから援護する』

 

コロニーの迎撃システムもデルたちが担当している。

これで一気に物量が増す算段だ。

あとはレオとネーナにも鑑の周辺から援護をしてもらう予定だったが……ここに来てレナは違和感を覚えた。

 

『ねえ、何か見落としてるような気がしない?』

『見落とし?』

 

通信越しにデルが顔を顰め、思考に神経を集中させるレナ。

まず敵の攻撃パターンと戦力が気になる。

敵の構成はイノベイドのみで、アロウズの部隊の気配もない。そのどうにも少な過ぎる戦力が気掛かりとなり、不安を呼んでいる。

それに露骨にレナを狙った分かりやすい攻撃も彼女からすれば無視できない行動だ。

 

それとも思い過ごしか。イノベイドはこんな露骨に狙いを定めているというのに、レナがそれに気付かないとでも思っているのだろうか。

もしそうならそれで、イノベイドを買い被ってただけならいいけど……。

でも、そっちの望みは薄いとレナは睨んでいる。

何か狙いがある。

その予感があたっているなら―――。

 

『私の意識を逸らそうとしているの?何から……』

『レナ!どうした……!』

『あ、ううん。なんでも―――待って!確かもう1機敵がいたはずだよ!そういえば見失ってる!』

 

深く思考にはまり過ぎてイノベイドたちの侵攻を阻止する手が止まっていたレナ。

そんな彼女を一喝するニールの声に応じた丁度その時、レナはようやく見落としていた敵の存在に気付いた。

 

だが、レナは同時にもう一つの見落としに気付く。

センサーが敵機を感知した時は既に遅い。

レナの肉眼の方が早く、近付いていた敵を捉えた。

しかし、彼女の反応より僅かに機体同士の衝突の方が早い。

 

『きゃあっ!?』

『こいつは貰うぞ』

『なんだ!?』

『ニール……っ!!』

 

突然の強襲に対応できたにも関わらず、舌を噛むほどの衝撃がレナを襲い、突如として出現した真紅のモビルスーツは目にも止まらぬ速さで戦場からサハクエルをかっさらって離脱する。

コクピット内でレナは背中を強打したが、そこからすぐに立て直し、舵を握った。

レナの意思によってサハクエルはなんとか真紅のモビルスーツを振り払おうとするが、凄まじい推進力がそれを許さず、ガッチリと腰部をホールドされたまま、レナはただみるみるうちに戦闘宙域から離れていくのを焦りと共に目にすることしか許されなかった。



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辿り着いた領域

早く戻らなければ、そう思えば思うほどレナの焦燥は加速する。

しかし、現実がレナを解放してくれはしなかった。

 

『うっ……!ああっ……!何、この機体のパワー!?』

 

叩いても蹴っても全く手応えがなく、サハクエルの推力さえ足枷にもならない純粋な力。

その全てにレナは驚愕しながらコクピットにかかる負荷に耐え続ける。

 

『GNガンバレル!ウイングビット!』

 

レナの叫びと共に射出されるサハクエルの誘導兵器。

間に合うかは一か八かだけど、やるしかない。

そう考えたレナは誘導兵器が敵機の速度に追いつけることを祈りつつ操作する。

 

だが、射出したガンバレルもウイングビットも照準を敵機に向けた時には既に置き去りとなり、操作範囲外へと一瞬で追放されてしまった。

サハクエルは抱えられたまま移動していく。これでは武装を落として武器を減らしていってるだけだ。

 

『そんな……!』

 

頼みの綱も役に立たない。

こうなったら直接切り離すしかない、その思考に至って肩部からビームサーベルを抜こうとしたが、すぐに腕を絡まれて封じられた。

打つ手全てを失ったレナは焦燥する。

 

そして、微かに推力の上がった敵機によって加速の負担を一心に浴びたのをキッカケに嫌な予感がしてすぐさま後方を確認した。

すると、予感通り、進行ルート上には巨大なアステロイド。敵機の狙いは間違いなくそこにサハクエルを叩き落とすことだ。

 

『そんなこと……させない!』

 

サハクエルのサブマシンガンを敵モビルスーツのメインカメラに照準を合わせ、引き金を引く。放った弾丸は敵機の頭部に装備されたマシンキャノンによる発砲で相殺――否、サハクエルよりも威力が高いそれは、サハクエルのマシンキャノンの銃口を破壊した。

 

それでもレナは足掻きをやめない。できる限り思考を巡らせてあの手この手を使う。彼女らしくない無駄な抵抗の反復。

動くもハズもない舵に何度も力を込め、意味もなくウィングバインダーを扇ぐ。そんな行動の中でレナは閃いた。

 

『そうだ!これなら……!』

 

成功する、その確信を得たレナは早速行動に移す。

彼女が取った行動はウィングバインダーで両機を包み込んだ後での、1基のウイングビットの射出。

だが、さっきのように宇宙空間へ向けて放つのではなく、機体と機体の僅かな隙間に射出した。

そして、同時並行して操作し、強引に展開したレール砲の銃口を、両機が挟み込んでいることにより行く場を失ったウイングビットへと合わせる。

 

『狙い撃ち!』

『………っ』

 

通信機器に息が漏れるような音が聞こえる。

粒子ビームに貫かれたウイングビットは爆破し、その衝撃で爆発を抱擁していた両機は切り離された。

両機はそれぞれアステロイドになんとか着地する。

 

『やっと離せた……!』

『ぐっ……!』

 

ようやく両機が対峙する。

共に体勢を立て直し、レナは改めてその全貌を確認した。

 

「ハロちゃん。見てわかる武装は全部言うから記録して」

『マカセロヤイ。マカセロヤイ』

「まず頭にマシンキャノン……だけどサハクエルと違ってただの実弾じゃないと思う。多分GNミサイルとかと同じかな。それと右腕と両腰部にビーム砲。あと左手首にも。これは多分サブマシンガン。それと……アンカーかな?これはよく見えないや。最後に左腕にシールドと腰部にビームサーベル。記録はデルたちに送って」

『リョウカイ。リョウカイ』

 

黒HAROが耳を開閉させ、瞳を点滅させながら応答する。レナが声にあげなかった敵モビルスーツの外見的特徴。

まるで鮮血のような真紅のカラーリングに騎士を彷彿とさせる頭部のデザインに複眼。

 

各部装甲も鎧のようだった。レナから言わせれば悪趣味でしかないが、その威圧感は記録には言い表せないものだ。

だが、彼女が最も気になることはそんな見た目のことではない。

 

『さっきのあの推力……』

 

そう。敵機の圧倒的な出力。

レナはサハクエルを建造する時、人体が耐えられるギリギリの負荷に合わせた出力をサハクエルに与えた。

しかし、敵機はその限界すら遥かに凌駕している。

 

もちろん個人によって多少無理をすればサハクエル以上の出力を持つ機体も耐えられるだろう。サハクエルの出力設定はあくまで平均的な値を参考にしたものだ。

しかし、相手はそれを考慮しても敵機の推力調整はさすがにやりすぎだ。レナからすればそうとしか評価できない。

 

開発者の正気を疑ってもいい、そもそもそんな機体を操れる者がいるのかも疑いたい。

イノベイドでも同じだ。人間より多少丈夫かもしれないが、もはやそんな領域の話ではない。

それだけ今回の敵機はイカれてる、とレナは恐怖すら抱いた。

 

「一体誰が乗ってるの?めちゃくちゃだよ……」

『サハクエルキラー!サハクエルキラー!』

 

黒HAROも敵機に危機感を感じたのか、台座の上でレナに警告を伝える。おそらく黒HAROはさっき取った記録からサハクエルとの相性を算出したのだろう。

レナも黒HAROと同意見だ。敵機の身につけるものはサハクエルの対サハクエル用武装(アンチウエポン)と見ていい。

 

敵の身につける砲撃武器の形状から大体どれほどの威力を持つ武装なのかわかる観察眼を、レナは持っている。

レナの予想ではバスターライフルと同威力、また、砲身を展開できるであろう形状ラインからして最高威力はツインバスターライフルと同等もしくはそれ以上と見ている。

 

完全にサハクエルの得意なスタイルで、同じ土俵で力押しするつもりだ。

また、その逆にその他武装もまだ、一般的な武装でもどんなカラクリがあるか油断できないものや明らかにサハクエルの攻撃手段を潰しにきているものもある。

と、いうことはつまり―――。

 

「サハクエルを……ううん、完全に私を意識してる」

 

感じるのは完全な敵対心。

そして、レナにだけ的を絞った殺意。レナは多くの人物に狙われてもおかしくない行動を起こしてきた。そんな彼女にとって特定された敵意の正体は候補が多すぎて見当もつかない。今わかるのは一瞬も気を許せないということ。

 

正面に意識を戻すレナ。真紅の騎士はバイザーの奥にある複眼に光を灯し、目が合う。

敵機との間合い。二機のモビルスーツの間に走る緊張を肌で感じながらレナは瞬きすら隙として封じ、ハンドルを強く握った。

 

そして、力を込めたその瞬間に敵モビルスーツの背後から粒子が煌めく。

ビームサーベルと思わしき柄を抜刀して地を蹴り始めた。それを視認してすぐレナは脳に受信された視覚情報を命令に変換して指先にまで飛ばす。

 

「動いた……!」

 

バスターライフルを一丁振り上げて引き金を引く。銃口が粒子ビームを噴くが、その粒子ビームは直進する敵機のシールドで弾かれた。

レナは即座にもう一丁のバスターライフルを構えようとしたが、敵モビルスーツの凄まじい推進力はサハクエルとの距離を一気に詰め、その速さにレナの反射神経はバスターライフルではなくビームサーベルの抜刀を選択する。

 

「速い!」

『それだけではない』

「この声……っ」

 

敵モビルスーツが生成したビームサーベルとサハクエルが生成したビームサーベル。互いのビーム刃が衝突し、敵モビルスーツは自慢の推進力でサハクエルを圧していく。

だが、機体の推進力(パワー)の他にレナは違和感に気付いた。

その正体は敵モビルスーツの持つビームサーベル!

 

「このビームサーベル、出力が強い……!」

 

威力差により、途切れ途切れになっているサハクエルの刃が敵モビルスーツのビームサーベルに圧され、サハクエルの肩部へと迫る。機体においても武装においてもサハクエルの上をいく敵機に圧され、レナは焦燥に駆られる。

しかし、それ以上に気になるのは―――。

 

『ビームサーベルではない。ビームソードだ』

「………っ!」

 

聞き覚えのある低い女の声が通信越しに一言放つ。

一方、レナは相手を振り切れず通信回線を開く余裕がない。このままではビームソードにサハクエルは両断されてしまう。

必死に対抗策を探るレナの視界には、端末が伝える宙域移動時に落としたGNガンバレル二基の帰還情報が映った。分離直後に自律で本体を探索・帰還するシステムを即座に構築し、搭載した機転が功を奏した。

 

「あと少し……!」

 

操作範囲内に入れば頑張れるも発砲できる。それを狙い、モニターを確認しながらレナは踏ん張る。

その間にも刃は迫り、サハクエルの肩部とビーム刃が擦れて火花を散らし始めた。

 

『無駄な足掻きだ』

「調子に乗らないで!」

 

相手が応じられないことをいいことに好き勝手なことをいう。追い詰めている自覚があるらしい彼女にレナも頭にきた。

その意思に従うように両機のいるアステロイド上に途中ではぐれたGNガンバレルが一基合流し、敵機へ向けて砲門から粒子ビームを放つ。

 

『………っ!』

 

死角からの攻撃だが恐らくセンサーで感知した敵モビルスーツは粒子ビームを躱すためにその場から後退して離れる。それと同時に押されつけられていたサハクエルは解放された。

自由を得てすぐ、レナはGNガンバレルの操縦系統に触れる。邪魔をしたガンバレルが間合いから逃げる前に、レナの予測通り敵モビルスーツはビームソードを振るった。

 

『させない!』

『………っ!』

 

通信回線を繋いだことにより相手の息遣いが耳に入ってくる。向こうの驚愕を生み出したビームソードの空振りは、間一髪で回避したGNガンバレルによって生み出されたもの。

まるで意思を持っているような感覚を誘導兵器に覚えるが、敵モビルスーツのパイロット―――ネルシェン・グッドマンはそのカラクリを瞬時に看破した。

 

自動(オート)と手動の切り替えか……っ!』

『狙い撃ちっ!』

 

次はこちらの番だとでも言うように、空振りにより僅かにできた隙を利用してサハクエルがバスターライフルを二丁構えて粒子ビームを放つ。

その動きにも一切の無駄はなく、銃口を向ける速度も引き金を引くタイミングも最短だ。

 

後者に至っては照準が真紅のモビルスーツ―――ギルスを捉えた瞬間と引き金を引いた時の誤差も殆どない。洗練された早撃ち。

少なくともネルシェンが生きてきた中でこれ以上のものには出会ったことがない。

 

『甘い!』

 

だが、その早撃ちのモーションを認識している時点でネルシェンは発砲された粒子ビームを捉えている。即座に体勢を立て直して左腕に装備されているシールドで全て後方に弾いた。

軌道が逸れた粒子ビームはギルスの遥か後方のアステロイド地表面に着弾して爆発する。

 

それを背景にネルシェンは次なる攻撃に備えようとするが、相手に動きがないことに気づいた。彼女の瞳に映るサハクエルは次弾発射のためバスターライフルを構えていたが、そのまま静止している。おそらく初撃を防いだその隙を狙ったのだろう。

だが、ネルシェンもそれは読んでいた。

 

故に次の攻撃を回避し、【翼持ち】へと接近し、近接をしかけるつもりだった。それもおそらく許されることはないだろうが。

だが、それ以前に相手にはこれから行われるであろう激戦に移ろうという気が全くないらしい。それを察したネルシェンは当然落胆する。

 

『また以前のような寝言を吐くつもりか』

 

ビームソードの剣先を向けてくるギルス。挑発のつもりだろう、とレナは睨んだ。勘づいた彼女はその挑発に乗るつもりはない。至極冷静に返答を返す。

 

『冗談じゃなくて本気だよ。今もこの前と同じ気持ち、何も変わらない』

『ほう』

 

動揺を見せないよう嘘をつき、本心を隠すレナ。対するネルシェンは心の余裕の有無を見透かすように目を細める。

両者の間合いには緊張が走り、互いに動かない。睨み合いの硬直が続いた。

 

『以前、言ったはずだ。貴様のやっていることは一方的な押し付けに過ぎん。なぜそうなるか考えたことはあるか?』

『………っ』

 

ネルシェンの問いかけにレナは瞳孔を見開く。それは彼女が最も知りたいことだ。なぜ誰も耳を貸してくれないのか。どれほど戦場で叫んでも、イノベイドに問いかけてみても、なぜ誰も応えてくれないのか。

 

誰もがただ戦い、奪い合うだけ。もうレナにはこの先どうしたらいいのか分からない。答えがあるというのなら知りたかった。

レナの動悸が早くなり、喉につっかえ物があるかのように息を詰まらせる。その様子を感じ取ってネルシェンは"答え"を突きつけた。

 

『それは貴様が自分自身を理解していないからだ』

『………えっ?』

 

思わぬ回答にレナは意表をつかれたように困惑の表情を浮かべる。

そんな彼女の反応も気にせずネルシェンはたたみ掛ける。

 

『貴様がどこで今の愚かな考えを教え込まれたのかは知らんが、これだけは言ってやろう。貴様に他者との相互理解は不可能だ』

『そ、そんなこと……っ!』

『事実だ。貴様には向いていない。なぜなら、貴様の本質は私と……いや、この世界と同じ―――』

 

意志とは関係なく漏れているであろう荒い息遣いの相手に、一拍置いて告げる。

 

『―――力が全てだからだ』

 

ネルシェンの一言に呼応するようにギルスの瞳に光が宿り、ビームソードを構える。

対するレナは無意識に舵を握る手に力を入れていく。

 

『……違う』

 

呟く。

自身の意志とは関係なく増長していく力。それがレナ・デスペアを構成する全てなのか。

―――そんなことは、ない!

 

『違う!』

 

────《Zero Mode Burst System》────

 

レナの叫びに呼応するようにサハクエルの瞳に光が宿り、動き出す。

吹き荒れるGN粒子。

跳び退るサハクエルの手に握られたバスターライフルから放たれる粒子ビーム。それをギルスがまたもや弾く。

 

『そうだ。それでいい』

『見透かしたようなこと言って、わかったような態度を取らないで!』

 

ギルスが弾いた粒子ビームから僅かに遅れて次弾が既にギルスのフェイスプレートにまで迫っていた。ネルシェンは初撃に対応したと同時に次弾に反応し、次にきた粒子ビームをアステロイドから離れて大きく避ける。

両機ともに戦場を宇宙空間へと変えた。

 

『フルバースト!!』

『………っ!』

 

飛翔後、宇宙に漂う無数のアステロイドを利用して砲撃武装を全て展開したサハクエルが死角から一斉掃射をギルスに放つ。

ギルスはそれをアステロイドを盾に後退しながら回避した。

 

『狙い撃ち!』

 

だが、回避した先のギルスの周囲にはアステロイドに囲まれており、逃げ場が完全に消えていた。そこにアステロイドの影から姿を現した三基のウィングビットがギルスを補足し、狙う。

レナの得意な誘導攻撃だ。

 

『くどい!』

 

しかし、ネルシェンからすれば誰よりも見た光景だ。

彼女は【翼持ち】の戦い方を幾度のシミュレーションと敗北し続けた実践で熟知している。

 

故に即座にGNシールドに収容されていたGNヒートロッドを手に取り、粒子の熱を帯びた鞭を展開し、それを振るう。

すると、ヒートロッドは周囲を取り囲むアステロイドごとウィングビットを全て砕き、ギルスを檻の中から解放した。

 

『そんな……!』

 

力技で状況をこじ開けた敵機を前にレナが絶句する。

だが、動揺も束の間。

彼女も即座に次の手に出る。

 

『ならこれなら!』

 

ビーム砲を一斉放射し、僅かにタイミングをずらしてバスターライフルから粒子ビームを放つ。

至ってシンプルな射撃。ギルスは当然のようにビーム砲から放たれた初撃を回避し、次に迫り来るビームも難なく躱した。

サハクエルの抵抗も虚しくギルスは迫り来るその速度を落とさない。

 

『その程度で私の足を止められるものか!』

『……っ!』

 

瞳に血色の敵機の全貌がハッキリと写される程にレナの目が見開かれる。その目はギルスの姿、さらにその背後まで見通していた。

そう。ギルスの背中を狙う粒子ビームを。

 

『何……っ!?ぐあっ!?』

 

明確な被弾、レナを駆り立てそれを利用して優勢に立っていたネルシェンが与えられたダメージに苦しむ。

背部に直撃した粒子ビームにより、ギルスは体勢を崩し、サハクエルへと無様に無防備で突っ込んでいく。

サハクエルはそれを後方に飛来して避け、バスターライフルの銃口をギルスへ向けた。

 

『ぐっ……!』

 

さらけ出してしまった大きな隙を当然のように逃さないサハクエルの銃撃。

粒子ビームの連射をギルスの力任せの推力で後方へ退り、避ける。

立て直しはしたもののネルシェンは内心で焦っていた。

先程の背後からの攻撃。そのカラクリが全く分からない。

 

恐らくタネは先に放った二度に分けた射撃。あの時、ネルシェンは当然のように回避を選択した。

それが不味かったか?

しかし、あれを防御したとてカラクリを破れるか?まずなぜ回避したはずの攻撃が背後から?

思考すれば思考するほど堂々巡りの嵐が脳内で暴れる。それでも尚、ネルシェンは熟考をやめなかった。

 

『さっきの言葉、撤回して……!』

『………っ!』

 

再びビーム砲が展開され、砲口が煌めく。

次の瞬間、今度はそれぞれが放つ粒子ビームが全て違うタイミングでギルスへと向かってきた。ネルシェンは即座に防御に意識を切り替えて、対応する。

 

『全ては防ぎきれん!』

『はあっ!』

『何!?』

 

捌ききれなかった粒子ビームを目で追おうとしたネルシェンは、ビームの軌道に意識を奪われて迫り来るサハクエルに対して反応が遅れた。

サハクエルはビームサーベルを抜刀し、ギルスへと斬り掛かる。

 

『不意を付けば私を討てるとでも思ったか!』

 

完全に隙を突かれたが、ギルスは即座にビームソードを抜き、対応する。

ビームサーベルの刃は僅かにギルスの胴体へは届かず、ビームソードの刃に阻まれた。

 

『貴様……!』

 

4年前よりかは幾分かマシになったと言える翼持ちの接近戦。

それでもネルシェンに及ぶほどのものではないことをレナも理解している。

そして、ネルシェンもレナが理解していることを理解している。

 

この状況でそんな接近戦をレナから仕掛けてくるのはある意味素晴らしい一手だった。

粒子ビームに気を取られていたネルシェンにレナも気付き、接近戦でギルスの動きを止める。

 

さらに『翼持ちは接近戦を仕掛けてこない』というネルシェンの中で固定概念があったが故にその拘束時間は最短には程遠いものとなってしまった。

そして、次の一手が先程と同じ粒子ビームであることを予測し、唇を噛むネルシェンはレナの狙いに勘づいた。

 

『そうか!貴様まさか……ぐぅっ……!』

 

背後からの被弾。

またしても同様のパターンを繰り返してしまった痛恨のミス。

ネルシェンはモニターからギルスの出力を確認し、予測通りのことを目の当たりにして目の前の翼持ちのツインアイを睨んだ。

 

『ギルスの足を止める気か!』

『やあっ……!』

『ぐっ!』

 

直後に腹部に入ったサハクエルの蹴りと追撃のバスターライフルとビーム砲から放たれる粒子ビーム。ギルスは破損したバーニアやブースターから火の粉を散らしながらシールドを構えて受身を取る。

しかし、ここで再度距離を取られたのはネルシェンにとって痛い。

 

まだ完全ではないとはいえギルスの機動力が落ちた今、サハクエルに追いつけるかどうかも怪しい。

幸い、ネルシェンが確認した限りではサハクエルを遥かに上回る機動力は失ったものの同等の機動力はまだ有していた。

 

『初手で機動力の差を潰したか。常に最良の手を打つその頭の回転の早さ、それを実行できる圧倒的な力……まさしく私の求めるものだ』

『またそんなこと……!何度も言わせないで!力だけが私の全てじゃない!』

『ほざけ!』

 

ビーム砲を展開し、バスターライフルを構えるサハクエル。

それぞれから段階的に放たれる粒子ビーム。

ネルシェンは敵機に吐かせたその一手を無駄にしないよう、即座に打てる手を思考し、選択した。

 

裏ではここで畳み掛けて手を引き、味方のために元の宙域へと戻る算段をしていたというのに、彼女の煽りに本心で応えてしまったレナは先程有効だと分かった手に頼よりきってしまったことに気付かず、無意識に実行してしまった。

ネルシェンはせっかく用意したこの舞台を逃さまいとしたことに成功し、罠にかかったレナに思わず口角を緩める。

 

『見抜けずとも……何度も同じ手には掛からん!』

 

第一段階、最初に迫り来るビームをなるべく防ぎ、後になって背後から来るであろう粒子ビームの数を減らす。

次にカラクリを見破りに行かず、先程のようにサハクエルの接近を許すようなミスはおかさまいとギルスは右腕に装着されたビーム砲から粒子砲撃を放ち、サハクエルに接近の隙を与えない。

 

向こうも簡単に当たる的ではないため、当然のように回避され、バスターライフルによるビーム追撃が来るが、それをシールドで防御。

そして、背後から迫る粒子ビーム―――それをギルスは振り返ってシールドで弾いてみせた。

 

『なっ……』

 

完璧なタイミングで対応したギルスにレナが思わず驚愕で目を見開く。

相手の動揺を感じ取り、ネルシェンは通信を投げかけた。

 

『防ぐ分にはカラクリを知る必要はない。最初の射撃と背後から来る粒子ビームの組み合わせパターンを覚えさえすれば攻撃を予測できる』

『そ、そんなこと……っ』

 

確かに防ぐだけなら彼女の言う通り、パターンさえ暗記できれば不可能ではない。

しかし、暗記できれば、の話だが。

あまりの衝撃にレナは狼狽する。それが大きな隙であることに気付くのは充分な隙を漏洩してしまってからだ。

だが、そんなことに陥ってしまうのも無理はなかった。

 

なぜならネルシェンも言うパターンとはおよそ暗記できる量ではないからだ。カラクリを理解していれば余計にそう思える。

レナの躱したはずが背後から返ってくる粒子ビームのカラクリは端的に言えば屈折を利用したもの。

粒子ビーム同士で衝突し合い、その弾みで起きた爆発により、もう一筋の粒子ビームが爆風で屈折する。

 

レナは最初に起こる爆発の規模、ビームの屈折タイミング・角度、跳ね返りその後に伸びるビームの射程、その全てを調整している。

全て分析し、計算するその数は膨大。レナでさえ状況に合わせて最適なルートを算出しているだけであって、全てのパターンを覚えている訳ではない。

 

当然、そんなカラクリを半分程度も見破れていないネルシェンはもっと不可能である。

そこでレナは自身の失敗に気づいた。

ネルシェンは決して全パターンを覚えたわけでも、算出したわけでもない。レナがミスをしたからこそ、防げたのだ。

レナが先程勝負を焦って放ったパターンは一度目に彼女に見せたパターンと全く同じだ。とっさの行動で、異なるパターンを算出せず、同じパターンを雑に放ってしまった。

 

だから、ネルシェンはそれを防げたのだ。

ならば問題はない。異なるパターンならば彼女は対応できない。

それに、宇宙空間ならば背後の爆発の音は響かない。

この戦場が地上で、相手が同じネルシェン・グッドマンならば、彼女ならば恐らく爆発音から導き出してカラクリを見抜き、爆発音の規模でパターンを予測し、対応してくる。

しかし、ここは宇宙空間。レナの方が有利な状況下にある。

 

―――そこまで考え着くのになぜここまで時間が経ってしまったのか。

―――否、どうしてこんなにも悠長に思考してしまったのか。

―――ここは戦場、今は戦闘中。そんなことを忘れて思考に耽ってしまったことに今更なぜ気付いたのか。

全てが遅かった。レナは熟考の間、大きな隙を晒していたことに今更ながらに気付いた。

そして、もう既におそらくビーム砲から放たれた砲撃クラスの粒子ビームが目の前に迫っていた。その強い光が目前まで迫り、視覚を覚醒させたことでレナは我に返った。

 

『あっ……!』

 

現実に戻ったレナはついさっきまで操縦舵に添えていただけのマヌケな自身の手の神経に刺激を与え、急いで倒した。

すると、サハクエルは咄嗟のところで極大の粒子ビームを避けたが、反射で利き手側に回避したのを相手に読まれ、ビームソードを手に待ち受けていたギルスと目が合う。

 

『マヌケめ』

『………っ!』

 

バスターライフルを構えるが、もう遅い。

レナは全てがスローに体感される世界で、瞬時に判断を下した。

ただの反射だが、以前は射撃以外はめっきりだったことが幸いし、レナにはバスターライフルを守る本能が備わっていた。

自身の一番の武器を失う訳にはいかない、そう神経に呼びかける本能により、サハクエルはバスターライフルの破壊を防ぐために銃身を胸の前まで畳み、右翼側のウイングバインダーを盾のように前方に畳んだ。

 

既に間合いに侵入しているギルスが振り下ろすビームソード。その刃がバスターライフルへと迫る前にウイングバインダーは身代わりとなり、ネルシェンはその入れ替わりを見て即座にビームソードの出力を上げた。

いわゆるハイパービームソードとなった刀身はさらに長く、厚くなり、熱量も上がった。その刃は容易に厚みのあるウイングバインダーの入刀に成功し、いとも容易くウイングバインダーを裂いていった。

 

だが、瞬時な判断で飛ばした刀身もバスターライフルへは届かず、微かにサハクエルの右腕に掠り、ウイングバインダーを完全に両断した上で、ようやくその勢いが止まった。

振り終えたハイパービームソード。両断されたウイングバインダーの断面が開かれ、盾となったウイングバインダーが隠していたギルスのツインアイが煌めきを灯してサハクエルを捉える。

その凍りつくような視線にレナは冷や汗を背に思わず息を飲んだ。

 

『なるほど、それを捨てるか。宇宙(そら)ならば当然の選択だ』

『………っ!』

 

地上では平衡感覚を調整し、保つために使用するウイングバインダー。宇宙(そら)では威圧などに使える程度の飾りでしかない。

折れた翼。片翼を失い、レナは後退しようとする。

だが、それを逃がすギルスではない。

 

『ガンバレル!ウィングビット!』

『無駄だ!』

 

ギルスの進行を阻もうと誘導兵器たちが果敢に挑んでいくも、ビームソードで全て両断されていく。

誘導兵器を破壊したことによる爆発の中を意に介さず推進していくギルス。

その装甲は分厚く、零距離ならまだしも爆発を直接喰らわなければ、その余波程度の衝撃ならばダメージもなく、パイロットに大して負荷も掛からない。

 

それをいいことに強行突破したネルシェンだが、レナは敵機のデータをある程度の把握していた。

初遭遇時、そして戦闘中も収集をやめず、常に情報は更新していく。

当然、レナは敵機の強度も理解していた。それを利用してくるであろうネルシェンの心理も。

故に誘導兵器を差し向け、それを斬り伏せさせることで爆煙を煙幕代わりにして巻いたのだ。

相手が思っているように無駄な抵抗、多少の障害などの意味は一切込めていなかった。

 

『何っ!?』

 

視界を一瞬遮った煙幕を切り分けて飛び出たギルス。

突如、目の前に広がった光景にネルシェンは意表を突かれ、驚愕した。

待ち構えていたのは腰部のビーム砲を展開していたガンダムサハクエルの姿。その内蔵が変動し、銃身に込められる弾がビームから実弾に代わる。

レール砲と化したその装備の砲口はギルスのコクピットに一寸違わず照準が合わせられていて、ネルシェンが認識した時には既に発砲され、ギルスに実弾が命中していた。

 

『ぐう……っ!?』

 

強い衝撃。

粒子ビームと違い、物理威力の高い実弾だったため、ギルスは突き飛ばされるように後退を強制された。

その勢いは推進力で支えても無にはできない。

大きく隙を見せたギルス。それを見逃しはしないサハクエル。

レナは即座にその距離を詰めようと舵を前に倒そうとした。

 

「ミンナキケン!ミンナキケン!」

『えっ?』

 

耳を開閉させ、警告を知らせる黒HAROにレナの動きが止まる。

それは同時にサハクエルの動作停止に繋がり、ネルシェンがそれを見逃すことはない。

 

『逃がしはせん!』

『……っ!』

 

ギルスの左腕から射出されたワイヤーがサハクエルに向けて放たれ、ピアサーロックに内蔵された小型ブースターによりワイヤーはサハクエルの腕の周りを周回し、その腕に巻き付き両機を繋ぎ止めた。

腕に巻きついたワイヤーにレナは目を見開く。ダメージを負い、実弾による衝撃を与え、体勢を立て直すのにも時間を要するはず。

だが、そのレナの計算はひとつの武装によって砕かれた。

 

ピアサーロックを放ったギルスの左腕。そこに装備されたシールドは通常のGNシールドではない。

レナは判断材料は少ないが、ギルスの持つ特殊なシールドが実弾の衝撃を吸収したと考えた。逆を言えばそれ以外の可能性を導き出せなかったのだが現実はその予想が的中していた。

ギルスの装備するシールドは通常のGNシールドと同じくビームも防ぎ、実弾による被弾のダメージも吸収するいわばハイブリッドシールド。故にレナが想定していたほどギルスを突き放せていなかった。

 

『どうして……』

 

サハクエルとギルスの推力(パワー)はギルスが先の被弾で落ちて、互角。両機を繋ぐワイヤーがどららになびくでもなく、引き合いは均衡が続き、今にもギチギチと音が聞こえそうなほど張り詰めている。

睨み合う両機、一刻も早くこの場を離れたいレナは責めの意味を込めた歪めた表情でギルスのツインアイを見る。

 

『どうしてそこまで私にこだわるの……!私が4年前、ネルシェンさんを倒したから?だから、私に固執するの!?』

 

レナの悲痛な叫びにネルシェンはサハクエルとの綱引きを継続しながら応じる。

 

『そうだ。貴様は4年前、私から私が唯一持っていたものを奪った。この世界は力こそが全て。強き者が奪い存在を赦され、弱き者は奪われ存在を赦されない。貴様は私より強かった!故に貴様に虐げられた。だが、この機体を手に入れることで私は貴様への挑戦権を得たのだ。この機体を使って私は貴様を倒し、強さを手に入れる!この世界で生きるために……!!』

『私だって何度も奪われた!私は強くなんかない!私を倒しても何も変わらないよ!そうやって……奪われては奪って、それを繰り返して……結局みんな滅びるのが望みなの!?』

『滅ぼすのはいつも貴様たち強者だ!力にものを言わせて貴様たちは多くを奪ってゆく!弱者は淘汰されるもの……この世界に弱者の居場所などない!父に母、この世界を生き抜くための強さ……貴様たちは次に私から何を奪う!そうなる前に貴様を超えて私は本当の強さを手にするのだ!!』

 

はち切れそうになりながらも均衡するワイヤーの引き合いとは逆に激化する両者の意思の衝突。

両機の繋がりを切断しようとビームサーベルを取り出す思考を巡らせたレナだが、それにより生じたサハクエルの予備動作で相手の思惑に勘づいたネルシェンはワイヤーを引く。

 

腰部にマウントされているサーベルの柄に手を伸ばそうとしていたワイヤーに絡まれた腕とは別の手は、サーベルの抜刀をしようとするレナの意識が分散されたことにより油断し、ギルスに引かれてそれどころでなくなる。引き負けそうになったことでもっていかれそうになった身を引き戻すために意識を引き合いに戻したレナは焦りと共に元の均衡に戻そうと力を入れ直すが、押しとどめるので精一杯。

 

一切気の抜けない綱引きのおかげで操縦舵から手を離せなくなったレナには腰部やウイングバインダーにマウントされた火器を展開する手段もサーベルと同じ原理でライフルも取り出す手段もない。

唯一使える筈だったマシンキャノンは破損。完全に手詰まりになってしまった。

 

否、一つだけ打開策は存在する。

トランザムシステムによる出力向上で引き合いに勝ち、加速を利用して衛星に叩きつけるか、または引き離す手段だ。

これならば上手くいけばそのままギルスを置いて元の宙域へと戻り、みんなと合流することができる。

 

だが、その手段に移行しない理由も存在する。

それは万が一引き離すことに失敗した時、具体的にはネルシェンが何らかの対応で乗り切った時だ。

正直そんな事態に陥る可能性は通常ならばほぼ無いに等しい。が、相手はレナを幾度となく苦戦させ、人の手で生み出されたとは思えない規格外のモビルスーツを持ってきた人物だ。

 

そんな非常識な人間を、それもかなりの技量を持つ彼女を前にして必ず成功する確証はどこにもない。

自信が無い訳では無い。一応、自分の力をコントロールできない現状でもトランザムのアドバンテージがあればコントロールできる範疇でこの状況を打破できると予測している。さらに、切り離すだけならば、相手を完封させなくてはいけない状況に追い込まれない限り、力加減を誤って殺しに発展してしまうことはない……筈だ。

 

(だったら……)

 

間違いなく使うのが吉。既に確証に近いのは明確だ。

あとは、レナの決断次第。

トランザムを使うかどうかはトラウマを超え、今の自分自身を信じることと同義だ。

今のレナにそれができるか。正直、不安だ。

 

だが、レナの心はほぼ使用することに傾いていた。

当然といえば当然だ。ここでネルシェンを引き離さなければ、みんなを救うことができない。

みんなを失うくらいなら、自分の決断不足で仲間を見捨ててしまうくらいならば。

 

---例え、自分が壊れたとしても後悔はない。

 

『さぁ、どうする?向こうの戦況もかなり変貌してきたようだぞ』

『………っ!』

 

ネルシェンの一言にレナは動揺をどうにか唇を噛み締めることで表に出すことを押しとどめる。綱引きにもその影響が及ぶのをなんとか防いだ。

彼女の言葉でレナは確信した。トランザムを使用すること、それは相手の思う壺であり狙いであることを。

当然ネルシェンも共に引き連れてきたイノベイド達から元の戦場の情報を得ることができる。

 

故に彼女が状況を認知していることに不思議はない。

しかし、レナからトランザムを引き出すことを狙う理由がわからない。

どう転がっても相手に得はない、とは言い切れないが少なくとも先程のレナの思考でもあったようにトランザムを使用したとしてもこの状況を打破する上では四年前の前回の対決のように暴走する可能性は低いことをネルシェンも把握している筈だ。

 

つまり、なぜトランザムを引き出した場合にネルシェンが不利になる可能性の方が明らかに高いことを知っていながらそれを望むのか、レナには理解できない。

狙いはない。自身の計算が正しければ、そう言い切れる。なら計算ミスをしている?そんなはずは……ないと思いたい。

ならばどうして---どうして---。

 

(どちらにせよ、使うしかないでしょ!?今の私にできる思考は全部した!分からないことは考えても仕方ない。とにかく、みんなを助けるにはトランザムに頼るしかない……!)

 

考えに考えた末、行き詰まった人間は爆発(パンク)する。

ショートしたレナはここまで書き続けた原稿を全て白紙にデリートするように分からない方に蓋をして、自分の納得のいく結論を無理やり叩きつけた。

すなわち、相手に狙いはない。ただの揺動、罠があるとわかったレナにトランザムという切り札を切らせないようにするためのデマカセだと。

例え罠でも構わない。ヤケクソになったレナはトランザムシステム作動のスイッチに手を伸ばす。

 

(そうだ、使うがいい。使え……!四年前、私に見せたあの輝きを。貴様の本当の強さを解放しろ……!)

 

レナが操縦舵から手を離したことで敵機の引き合いが弱くなったことで、ネルシェンも相手が思惑通りに動くことがわかった。

力みが消えたサハクエルが摂理に従い、ギルスへ勢いよく引き寄せられると同時にネルシェンも次の行動へのシフトを脳内で身体に命じる。

 

それは、無防備に迫るサハクエルへの攻撃……ではなく、彼女もまた端末へと意識を移しつつサハクエルの次の一手を待っていた。

どうせ無防備なのは一瞬。だから、攻撃の仕草を見せないことにレナは違和感を覚えなかった。

そうして二人の思惑が交差する。

 

 

 

『トランザム……!!』

 

 

─────《TRANS-AM SYSTEM》─────

 

 

刹那、ギルスの前から赤い粒子を残して姿を消すガンダムサハクエル。

ネルシェンは肉眼でそれを確認し、即座に操縦舵を強く握り、体感を意識する。

サハクエルが力負けしたが、それも一瞬。ギルスは凄まじい力で引き込まれ、気づいた時にはアステロイドが目前に迫り来る。

 

ギルスが今まさにアステロイドに叩きつけようとされる時、事前に備えていたネルシェンは全てがスローモーションに捉えられていた。

最初の衝撃には耐え、アステロイドを捉えたその瞬間に片手を操縦舵から離し、スイッチに触れた。

 

そして---両者を繋ぐワイヤーは突如切断され、サハクエルは一機のモビルスーツを振り回していたその感覚を失った。レナの肉眼に映る見覚えのある赤い粒子を残して。

 

『えっ……?』

 

赤い粒子を確認して瞠目するレナ。理解が追いつかないことよりも先に危機感知が働き、周囲にその姿を探す。

すると、先程まで近くにいた機体が遥か離れた場所から迂回してこちらへと飛行機の頭を向けて進行してくる機体を確認した。

それを目にしてレナは初めて状況を飲み込み、動揺する。

 

『そんな……どうして……あれは……!』

 

こちらを、サハクエルを目掛けて加速するギルス。

オリジナルの太陽炉を所有するソレスタルビーイングのガンダムを除いて現状、トランザムを使用できるそのアイデンティティを持ったガンダムはサハクエルのみのはず。

しかし、レイの持っていた本来の歴史を記す物語、それを記憶したもので想定されていた時期より遥かに早い登場にレナは絶望する。

見間違いではない。確かにそれは―――

 

『トランザム!?』

 

驚愕から一拍の余裕すらなく、赤い輝きを纏う両機は衝突を目前にする。



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宇宙(そら)に散る

 西洋の壁画。騎士の戦。叔父(アーサー・グッドマン)の家にあるその画が、物語っていた。例え導く立場に辿り着いたとしてもその頂きでどんな理想を抱いても、無意味なのだと。

 

 全ては力。強さ。鋭さ。誰かに奪われないためには誰かから奪うための力が必要だ。他者を虐げても構わない。それが、力の象徴であり、生きることなのだから。

 

 憎いのは弱さだ。自身の弱さが両親の死を招いた。私は奪われる立場に甘んじない。故に、壁画の聖戦を前に誓った。

 他者からの虐げを許容しない。他者の支配を受け付けない。

 

 殺せ。奪え。暴力だ。他者より強く、他者より惨く。世界は無情なのだ。

 だからこそ、自身より上位の存在を認めてはならない。足りなくとも届かなくとも手を伸ばさなければならない。例え、命を削ったとしても強者を超える。

 それが、それこそが──―。

 

『この世界で生きる道だ!』

『…………ッ!!』

 

 ビームソードを抜刀するギルス。赤い輝きを纏うことにより得たスピードで、迫り来る相手に対してレナは即断を求められ、射撃より斬撃による刃の衝突という防御手段を選択する。

 

 咄嗟にビームサーベルでギルスを迎え撃つサハクエル。粒子ビームで生成された刀身が交わり、互いに出力を全身に集中させた両機の間で両刃は摩擦による火花を散らす。 

 

 両機の出力は同じ。トランザムを共に使用し、四年前に存在したアドバンテージは完全に消失していた。

 力比べは均衡──ではなく、手に持つその得物の威力が異なっていた。徐々にサハクエルが押される。

 

『トランザム同士の対決……っ!』

 

 サーベルの出力差で自身の刃が迫ってきたレナは即座に後退し、相手のサーベルに空振りを与える。しかし、相手の対応が早い。

 

 否、原因は分かりきっている。速くなったのはギルスだ。ネルシェンの反応速度がその機体の速度に適応、感覚を倍化しているのは確かだ。が、そんな人が少し限界を超えた程度の差異にいちいち驚くほど、レナは人間の対応力も進化も土壇場の最大発揮力も侮っていない。

 

 相手もトランザムを使用している。その稀有な状況に初めて直面してレナの方が反応しきれていないのだ。

 自分の他に、この時代にてオリジナルの太陽炉を用いないトランザム使用者が現れる可能性を考慮していなかった訳ではない。レイに聞かされていた本来の歴史でも一人、例外がいることは確認していた。

 

 そして、自分たちが介入したことにより本筋とは離れ、新たな可能性が起こりうることも当然わかっていた。

 だけど、どんなに予測して計算してプログラムしてシミュレーションをして万全の準備をしていたとしても実際に直面するのは訳が違う。

 

 だって、そうでしょ。イオリアですら想定してなかったことだ。

 いや、想定していても無駄だったことを理解していたのだろう。今、目の前にしているレナだからこそわかる。

 

 こんなものわかってても意味はない。過去にとやかく言われたくない。直面してるのは自分。過去の分析でなんとかできるなら今すぐ助けてよ。そう思わざる負えないほど予測と現実の乖離が激しいのがこのトランザム同士の衝突だ。

 

 対応、その次に対応、そしてまた対応だ。対応するんだ。対応するしかない。

 休みなどない。さぁ、次の一手がくる。それが終わったらコンマで次だ。相手も加速して、自分も加速して、見える世界が加速している。その中で常に、極限の"集中"を──―! 

 

『やあっ!』

『…………っ!』

 

 振り下ろす両機。衝突するビーム状の刃。ビームサーベルとビームソード、その出力の差で毎度サハクエルが押されるが、真正面からぶつかると見せかけてなんとか衝撃を後方へ流すことで相手の勢いも利用して懐に入る。

 

 そのままサハクエルの刃はギルスの腹部へ。しかし、逆手持ちで腰部から抜かれたもう一本のビームソードによって横一文字に真っ二つにしようとしたサハクエルの刃は阻まれる。

 

 両機間で火花が散る。行き過ぎた最初のビームソードがその勢いを終え、自由になったのを機にサハクエルを斬りつけようとするが、サハクエルは相手の右手首を掴んで止める。

 

 両者、力任せに相手を負かそうとすることでギチギチと音を鳴らしつつ睨む合う。

 均衡が始まろうとした時、先手を打ったのはギルス。至近距離であることを活かし、即座に蹴りを相手の腹部に打ち込む。

 

『うっ……!』

『くたばれ!!』

 

 右手に持っていたビームソードを捨て、右腕に備え付けてあるビーム砲の砲身を展開する。砲口を広げることで、砲口が焼けることを防げるため、より強力なビームを放てるようになる。つまり、メガランチャーだ。

 

 その砲口がサハクエルを捉えたのを目と端末で察知したレナはまだ衝撃を殺しきれていないまま、即座に回避行動を取る。

 

『そんなもの……!』

 

 蹴られた衝撃に抗わず、その勢いを逆に利用し、後退を選択するレナ。即座に敵の射程から外れないその動きは、一見、回避運動とはかけ離れたように思えるがレナの脳裏には考えがあった。

 

 相手の最大出力のメガランチャー式ビーム砲は威力こそ凄まじいが、発射までのタイムラグがほぼ確実に発生する。トランザムを用いた今回の砲撃は通常のより射程が広く、粒子の変換量は増えるが変換効率も上がっている。故に、通常と発射までの時間は変わらないが、威力は上がる。

 

 そんな、GN粒子を発見し、太陽炉をトランザムシステムを可能とさせる構造にしてしまったイオリアを恨みたくなる最悪の武器を前にレナは、特に焦燥の感情は覚えなかった。既に回避できる計算式の解が算出されており、あとはその式の通りに動く。

 無論、簡単なことではない。故にレナはより()()領域へと沈んだ。もっと、もっと、より"集中"を。

 

 超強力粒子砲、ガデッサのメガランチャーより凄まじい威力のビーム砲の砲口が煌めくその瞬間、レナはそれを確認して目を見開く。

 今。この瞬間。蹴られた衝撃も緩やかになり始め、砲口の煌めきが目に映ったと同時に舵を右に倒す。

 

 敵との距離。サハクエルに砲撃が届くまでの時間。どれだけ超火力でもサハクエルの機動力なら充分対応できる。

 

『逃がさん』

『…………っ!』

 

 ハイビームの回避に成功したレナ。しかし、ネルシェンはビームを放ちきるまで砲撃の重い負荷の中、強引にサハクエルへと射程をズラしてその跡を追う。

 凄まじい威力のビームに吸い込まれそうになるのを、ビームとは逆方向への出力で飛ぼうとするレナの操縦は何とか力むことで堪え続ける。

 

『…………っ、ぁぁぁ……っ!!』

 

 引力に逆らいながら赤い輝きを纏うサハクエルは、その輝きをさらに加速させる。粒子の濃度が限界値へと到達し、そこから圧縮作業が始まる。そして、圧縮された粒子は太陽炉から機体を経由し、バスターライフルの銃身、さらにはその銃口へと流れていく。

 

 銃口に蓄積されたそのエネルギーは、引き金を引けば放出される状態に。しかし、レナは引き金を引かない。

 相手の粒子ハイビームの出力は弱まっている。その傾向を視覚と触覚で捉えて、タイミングを図る。

 

 二丁のバスターライフル、その接合パーツが稼働する。レナの意志により近づく二丁。センサーが二丁の接近を察知したことで稼働し、バスターライフルは銃口へのエネルギーの蓄積を終えたと同時にドッキングした。

 そして、──―

 

照準固定(ロックオン)……!』

『…………っ!』

 

 相手のキャノンの威力が粒子ビームレベルにまで細くなり、途切れると同時にサハクエルがツインバスターライフルを構える。その銃口は当然、ギルスを捉えていた。

 ネルシェンもそれを視覚で捉える。砲撃を終えた体勢から即座に回避の予備動作へと移った。同じタイミングでツインバスターライフルの引き金が引かれる。

 

狙い撃ち(シュート)……!』

 

 ツインバスターライフルが火を噴く。放たれる粒子ビームキャノン。トランザムでさらにその威力、射程に数字が上乗せされている。相手もトランザム状態とはいえ、その引力、範囲から逃れることは容易くない。

 

『ぐっ……! ぬぁぁ…………っ!』

 

 今度はネルシェンが引力に逆らう。舵を取り、引き込まれないよう限界まで力みながらめいいっぱいに引く。

 サハクエルとギルスはそれを繰り返した。片方が砲撃を放っては引力に逆らい、ビームはその後を追う。やがて、ビームが細くなり、掠れるように消えた後、もう片方が砲撃を放つ。

 

 両機はその行動(ムーヴ)で円を描きながら平行に移動し、どちらかが腕力に限界が来て砲撃に引き込まれるのを狙った。

 だが、どちらも譲らない。幾度か繰り返し、両機のパイロットが粒子残量を同時に確認。それを合図に両機は砲撃武装を射撃形態に戻して距離を取った。

 赤い粒子の輝きで機体全体が包まれている両機にとってそのやり取りと判断にかかった時間は僅か。

 

『はぁ……! はぁ……!』

『存外しぶとい!』

 

 サハクエルの眼光とギルスの眼光が煌めく。互いの瞳に宿した光源から発せられる視線が交差する。

 刹那、両機はビームサーベルを抜刀して斬り結ぶ。機体そのものが交差する。その後、ギルスはビームサーベルをビームソードに出力を向上。

 

 衝突を臨むギルスの突進にサハクエルはレール砲をビームモードにして牽制射撃。それを容易く回避したギルスはサハクエルの懐へと入るもサハクエルはトランザムの速度を利用した後退で回避。ビームソードが空を斬る。

 

『……っ!』

 

 空を斬ったその勢いのままギルスはビームソードを捨てた。そして、その腕に装備されたサブマシンガンの銃口をサハクエルに向けて発射する。その弾道は全て回避され、ネルシェンは顔を顰める。

 と、同時にネルシェンの目に一基のウィングビットが映った。サハクエルはギルスの目前から退避する時に置いていった。小型だったため、センサーもネルシェンも反応できなかった。

 

 気付いた時にはウィングビットから発せられた極細粒子ビームによってギルスの左腕に搭載されたサブマシンガンを破壊された。ネルシェンがビームソードを捨て、サブマシンガンを構えることまで想定されていたが故にそこに()()()()ウィングビットだ。

 ネルシェンは舌打ちする。

 

『異次元の戦闘センスをここまで披露しておいて、それで構成されていないなどとよくほざく。この化け物め……!』

 

 これでギルスはサブマシンガンを失った。ドーバー砲兼ビーム砲を右腕に装備しているため、左腕にしか装備されていない。

 接近困難なサハクエルに接近するために過剰に搭載した装備の数と異常な機動力。もう既にどちらも奪われている。血反吐を吐くほどの暴力的な加速を早々に失い、ネルシェンはほぼ自傷なし。

 

 自身の肉体と腕前(プライド)を捨てた結果、一瞬でそれらを削ぎ落とされ結局前と同じ状態で戦っている。

 これがセンスの差。天才と秀才の差。軍人になり、凡人に与えられる最大限の才能に過信せず、努力も積んだ。それでも足りず、支払えるものは全て支払った。

 

 それでも、どうだ。目の前の敵は。パイロットの言動とは真逆な敵機の鋭い眼光。

 人生の経緯、自身の能力、最後の狂気。何も知らない人間が見れば、ネルシェンのことを戦闘マシンだと思うだろう。

 だが、本物の戦闘マシンは自分からなるような贋作では無い。本物は、神から与えられるものだ。目の前のサハクエル(それ)は、神から戦闘の全てを与えられた究極だ。

 

『くっ……! ああぁあ……っ!!』

 

 雄叫びを上げる。気概で自分を盛り上げないと狂気を保てない。

 究極の戦闘マシン、化け物に挑むには正気に戻ってはいけないのだ。

 ギルスはドーバー砲の砲身を展開、メガキャノンに。両腰からGNプラズマ収束ビーム砲を展開。マシンキャノンも開門し、全門発射。ギルスが可能とする一斉射撃を放つ。

 

『……っ! 狙い撃ちっ!』

 

 サハクエルはギルスの粒子ビームも砲撃も全て回避。結果、機体全体が逆さになり、その状態のままフルバーストで一斉射撃を返す。

 ネルシェンは瞬きを禁じ、目を凝らす。一瞬も見逃さない。瞳孔も揺らさない。

 捉えた。タイミングのズレ。

 

『時間差か!』

 

 今回の戦いでレナが初めて魅せた攻撃。

 ネルシェンは全ての粒子ビームを捌こうとしたが、自身から仕掛けたこともあって迎撃に移るまでのタイムラグが発生。数弾逃した。

 逃したビームはギルスの背後で二閃が接触して爆発。その爆発に反射されたビームが背後からギルスに迫る。

 

 同じ攻撃を何度もくらい、対応もできたネルシェンはその背後から来るビームのタイミングも読める。しかし、そちらに集中させてくれる敵ではない。

 サハクエルは既に追撃の一斉射撃を終えている。

 

『……っ!』

 

 焦って雑な一斉射撃を仕掛けたのが裏目に出た。一瞬の油断に最大物量で来た。

 全ては捌けない……! 

 

『ぐっ!』

 

 一瞬で選択。ネルシェンは捨ててもいい武装を選んでパージした。

 具体的にはピクサーロック、ハイブリッドシールド、ヒートロッド。それらを前方と後方に配置する。ハイブリッドシールドは構えた。

 シールドは前方からの強力な熱線の集中豪雨に熱が集中して膨張、爆散したが、攻撃を全て防いだ。

 

 しかし、ピクサーロックとヒートロッドは当然攻撃を防ぐものではない。弾道予測はしたが、全ては的中しなかった。

 すり抜けた粒子ビームが両腰のGNプラズマ収束ビーム砲と頭部のGNサブマシンガンを破損させる。使用不可となった。

 

『もう降参して!』

『……っ!』

 

 レナからの音声通信。

 相手はギルスの武装を戦闘前から分析し、把握している。ギルスに残された武装がドーバー砲と同様に搭載されているビーム砲。そして、ビームブーメラン。実質二つだ。

 つまり、情けをかけられた。

 

『黙れ!』

 

 ネルシェンの叫びと同時にギルスが変形する。簡易な変形。歪な飛行形態だ。

 宇宙では意味はないが、射撃を得意とするサハクエルに対して的が少し小さくなるアドバンテージがある。

 ネルシェンが見てきた中で最も射撃の才を持つレナを相手に有効に働く可能性はほぼ0だが、例え効果が僅かでもネルシェンにとってはやる意味がある。小さなことを積み上げて少しでも差を縮める。その少しで僅かに刃先でも相手の首に届くなら、やらない手は無い。

 

『墜ちろ!』

『……っ! 当たらないよ!』

 

 レナの言う通り。ギルスの飛行形態の主武装、ドーバー砲での粒子ビーム。バスターライフル一丁と同威力で同射程のそれ一本ではいくら直線で迫り撃ってもサハクエルには当たらない。

 サハクエルは簡単に避け、後退していく。加速力は同じ。両機の距離は縮まらない。

 ドーバー砲の砲身が展開し、ビーム砲となる。砲撃を放つ。サハクエルは回避してバスターライフルで反撃。ギルスも回避した。

 

『これ以上は無意味だよ! 分からないの!?』

『黙れ!』

 

 互いに無意味な攻防。

 アステロイドを避けながら繰り返し、元の宙域の方角へと移動する。

 

『……っ』

 

 粒子残量を確認する。トランザムの終了も近い。

 それは両機共に。だが、トランザムの発動はギルスよりサハクエルの方が少し早かった。先に尽きるのはサハクエルだ。

 その差は数セコンドだが、ネルシェンが攻め手を失っても無駄なあがきを続けるのはその状況にレナを引きずり込むため。

 

『……っ』

 

 そして、それを理解していないレナではない。

 レナもモニターに目線を一瞬逸らし、粒子残量を確認する。

 モニターの端にマップが展開される。サハクエルに搭載されたセンサーが現在のサハクエルとギルスの軌道上に衛生を確認したからだ。このまま直線上に後退を続ければ衛星に衝突する。

 情報を取り入れるレナの瞳は、輝きを宿している。目の前のギルスに対応しつつ瞳を揺れ動かし、状況を読む。

 

 ギルスも衛生を確認する。

 衛生への到達を迎えた後もトランザムは少し持つ。

 互いに脳裏に浮かんだ。決着の場は──―衛生! 

 

『……っ!』

『……っ!』

 

 ギルスがビーム砲撃。サハクエルが避ける。

 狙いは進行ルートの制限。回避行動を取ったことで衛星が近づく中、もうサハクエルは軌道を変えられなくなった。この距離で変えれば不時着する。

 刹那、両者の認識できる領域にまで、衛生が出現する。

 

『ギルス!』

 

 ネルシェンの叫びに呼応したかのようにギルスが飛行形態からMS形態に変形し、眼光が煌めく。ビーム砲を構え、砲撃を放った。

 サハクエルは回避。粒子ビームは衛星に直撃する。

 同時に、サハクエルが衛生の地平に後退のまま接近、地に足は付けず平行移動で後退を続ける。構えて向ける銃口は二丁のバスターライフル。

 

『シュート!』

『やらせるか!』

 

 ギルスがビームブーメランを二本、投擲する。残されたビーム砲以外の武装。これを切るタイミングがこの決着を左右することは両者共に予め認知していた。

 

『フルバースト!』

 

 待っていた。と、言わんばかりにレナは両肩のビーム砲と両腰のレール砲を展開する。レール砲をビームモードに。それを用いて粒子ビームを放ち、ビームブーメランを貫き爆散させる。

 ビーム砲とバスターライフルはギルス本体を狙った。

 ギルスも砲門をサハクエルに向けてビーム砲撃を放った。

 

『……っ!』

 

 先程ビーム砲撃を放って以降、砲身を戻し、ドーバー砲に変換しなかった。ビーム砲の状態のままずっと機を伺い、このタイミングで粒子ビームでは対抗できない選択肢を突きつけた。

 レナは瞬時に判断。機体を傾け、右腕と右肩のビーム砲、右腰のレール砲を犠牲に胴体の直撃を回避した。

 

『ライフルを一つ奪ったぞ! これで貴様の砲撃は封印だ!』

『……』

 

 レナのメットの中、汗が無重力に従って昇る。彼女の性格に反した鋭い眼力。輝きを有する瞳がギルスの姿を映す。

 ふぅっとレナは一瞬の気も抜けない緊迫した戦況で最低限の息を吐いた。

 レナは、それまで全力で引いていた舵をツーセコンドで二段階緩めた後、()()()

 

『何っ!?』

 

 武装も片腕も絶った。抵抗力の減ったサハクエルに、再度砲撃を放ってやろう。そう思考を過ぎらせていたネルシェンは不意を突かれ、動揺する。

 だが、その驚愕も愚かな隙だと言わんばかりに逃げ続けてきたサハクエルが急に推力をオフにし、最高速を出し続けていたギルスに衝突してきた衝撃で舌を噛み、思わず目を()()

 ──―はい。隙三つ。(シックス)セコンド。

 

『やぁっ!』

『……っ!?』

 

 ギルスに衝突する、それに備えていたレナは衝撃を最小限に抑えていた。すぐに回復し、バスターライフルは捨て、残ったサハクエルの左手をビーム砲の砲身に突っ込む。

 両機はギルスが想定していない衝突で勢いを殺せず、衛星に墜落する。無重力空間のため、一度衝突した後、跳ねる。そして、ある程度浮遊して勢いよく二度目の衝突。勢いは死に、二機のモビルスーツは離れて衛生上で落ち着いた。

 

『ぐっ……あぁっ……っ!?』

『……っ』

 

 すぅーっとレナが息を吐く。身体に適度な力を込め、衝撃をできるだけ吸収していた。とはいえ、レナはレイではない。自分で出来る限り吸収しただけだ。人間にできるそれである。

 ナノマシンを消費して肉体に能力を宿すレイのような離れ業はレナにはない。

 

『がっ……! あっ……! うっ、ぁ……ぁっ……! はぁ……! はぁ……! うっ!? ぐっ! うっ、ふっ……! かはっ!?』

 

 ネルシェンが吐血する。呼吸も上手くできない。

 想定外だった。何度も頭に叩き込んだ【翼持ち】の戦闘パターンじゃない。コンピュータの予測でもこんな行動を取る可能性や傾向を一切導き出せなかった。

 これは、レナ(翼持ち)の戦い方じゃない! 

 

 タンと血、鉄分の味を構わずメット内に自ら吐き出す。

 激痛と目眩の中、徐々に落ち着いてきた意識で必死に身体を動かし、ギルスを起こした。

 向こうも捨て身でダメージを受けるし、慣れてないことをしてすぐに動ける訳じゃない。だが、それを差し引いても不意をつかれたネルシェンの方に大きな隙ができる。そこを突かせる訳にはいかない。

 

 正直まだ視界も感覚も鈍いが、少しでもギルスを動かせるならば一秒でも早く起こさなければならない。

 トランザムはまだ継続している。ギルスは翔ぶ。サハクエルも跳ぶ。

 内蔵が裂けたような感覚が襲ってくる。気にする訳にはいかない。

 

 やられた。

 他人の戦術を取り込むのは危険だ。付け焼き刃は隙を生む。

 だが、極限の戦闘の終盤、相手の集中と判断力が落ちる中で採用するのは有効打だ。ここで自分の戦闘スタイルを捨て、新たなものを取り入れる。この終盤でその判断力。

 本当に化け物か貴様は……! 

 

『だが! 貴様は砲撃を失った! それは変わらん!』

『……っ』

 

 ビーム砲を構える。サハクエルを捉え、ネルシェンは引き金を引いた。

 だが、サハクエルへと向かったのは細い通常の粒子ビームだった。

 

『……!?』

 

 ネルシェンが思わず砲身を見遣る。同時に、モニターに出現する武装破損の表示。

 瞳孔が開き、脳裏に先程の衝突がフラッシュバックした。奴は、ビーム砲の砲身に手を突っ込んでいた。その時に砲門を一部破損させたのだ。

 

 レナはモビルスーツから武装に至るまで構造を把握出来る。技術の認知、製造、システム構築。そして、使用。網羅するレナだからこそ、激戦の中で敵機を正確に最低限で無力化できる。

 サハクエルの左手は指がもう二本しか残っていないが、それとバスターライフルを支払ってギルスから砲撃手段を奪い、自身の機体と同じ状態にまで陥れた。

 

『貴様!』

『……っ! 粒子が……』

 

 射程を見誤った射撃など避けるまでもない。粒子ビームは見当違いのところに、衛生の地表に着弾し、レナはその間に粒子残量を確認する。

 トランザム終了まであと──―。

 

12(トゥエルブ)セコンド! 12(トゥエルブ)セコンド!』

 

 黒HAROが両耳を開閉させながらレナに告げる。

 残った武装はビームサーベルのみ。相手は破損したビーム砲、もはやドーバー砲と変わらぬ一本のみ。条件は同じ。

 

『……』

 

 レナはトランザムを使うと自身の力の増長と共に判断力を失う。だが、今は自分でも驚く程に冷静だ。

 ──―勝てそう。レナの脳裏にその思考が過ぎる。肺が痛むほどダメージも負ってるが、相手の方が何倍も酷いはず。

 相手のトランザムは自身の+3~5セコンド程だろうか。

 

 それも含めて計算する。

 相手の最善手は無理に接近戦をしないこと。だが、ただ接近しないだけでは足りない。

 無論、普段の彼女ならこんな簡単な戦況を読めない訳じゃない。でも、直感でわかる。肌で感じる。今のネルシェンに適切な判断はできない。

 

 サハクエルは機動力もある。距離を取って粒子切れを待つのが最善手だが、粒子切れの前に射撃してきても当たらない。

 無論、射撃でも粒子を消耗する。下手に撃ってはこないが。ネルシェンはレナを恐れている。少なくとも1回、粒子切れの前に牽制を放ってくる。粒子切れを考慮してレナが事前に行動のラグを残して粒子切れ直後の対応をしてくるのを防ぐためだ。

 

 ネルシェンは用心深い。だが、今回に限ってはその用心深さで足をすくえる。気付いた時には相手も粒子切れ。

 双方の戦闘不能で終わりだ。みんなの元に駆けつける余裕はなくなるが、相討ちでもネルシェンからしたら敗北だ。レナからしたらギリギリ勝利と言えるだろう。

 

 今回の強襲。相手の狙いは自分だと戦闘中にレナは理解した。

 そうでなければ、レナを本拠から引き離さない。無論、それだけでは判断できない。最終な判断材料は敵総力だ。

 レナを引き離すのはレナが率いる勢力の殲滅においても最善手だが、今回はイノベイドによる少数の襲撃。いくらレナを引き離してもあの戦力ではデル達は墜とせない。

 

 だから、狙いは自分だ。ギルスがアンチサハクエルなのも含めてそう考察できる。

 つまり、ここでレナは負けさえしなければいい。そうすれば敵は撤退する。ネルシェンは捨てて行くだろう。本人には悪いが、イノベイドにとって、彼女はそういう扱いだ。

 イノベイドがこちらに向かってくることは無い。そんなことを許すニール達ではない。それは向こうも分かってる。

 

 イノベイド。彼らの仲間内でレナを処分したい。その上での最善手。

 その結果が今の状況だ。

 だが、それが裏目に出た。

 ──―私は、負けない。

 

『ぐっ……!』

 

 ギルスが距離を取る。

 よし、勝った。

 

『あれ?』

 

 衛生の地表から離れていくギルス。その光景を見て、相手の愚行にレナは自分の頬が緩んでることに気づいた。

 口角が上がっている。

 今、私、笑っている……? 

 

『ははっ』

 

 ビームサーベルを抜刀する。

 

『させるか!』

 

 ギルスが粒子ビームを放つ。ただの回避行動ではこっちの行動が制限されるだけ。

 相手が引き金を引く瞬間、照準を確定したタイミングで、回避行動。それと同時にビームサーベルを投擲する。

 

『……っ!』

 

 相手の驚く顔が目に浮かぶ。

 完璧な回避。完璧な投擲。粒子残量が尽きる。サハクエルのトランザムが終わった。

 でも、追撃の心配は無い。相手の残り時間は飛んでくるビームサーベルを捌くので終わる。

 

 ──―あぁ。

 

『くっ!』

 

 ビームサーベルが撃ち落とされる。ギルスの粒子が尽きた。ギルスのトランザムが終わる。

 それを確認してレナは通信を繋いだ。

 

『ネルシェンさん。もうやめようよ。私達はもう……えっ?』

 

 なんで? 

 どうしてギルス(相手)はまだ粒子を放出しているの? 

 予想外のことが、起きた。

 

『あっ……えっ……ええっ? あはは……えっ?』

 

 引きつった笑いが出る。

 目を見張る。あれ? なんで? おかしいな。

 粒子はちゃんと尽きたはず。どうして? 

 

『……っ』

 

 ネルシェンの舌打ちが聞こえる。レナが通信を繋いだからだ。

 そこでレナの脳裏にある予測が浮かんだ。

 ──―ギルスに搭載されているGNドライヴは一基ではない。

 

『……まさか太陽炉を二つ有しているとはな。余計なものを、と言いたいところだが』

『ダ、ダブル……ドライヴ……っ』

 

 最悪の文字列が、絶望の単語が並ぶ。

 時間がスローで動く。レナはギルスが自身に向けた銃口を瞳に映し、目を見開いた。

 

『どんな形であれ、私の勝ちだ。これで貴様の強さが手に入る』

 

 引き金が引かれる。

 サハクエルは太陽炉のみで動く機体では無い。とはいえ、機体全体を動かせる訳ではないが、ウィングバインダーを前方に折り畳むことくらいは可能だ。

 レナは即座に対応した。でも、簡単に予測できる。そんなもの気休めに過ぎない。運が良ければ即死を免れるくらいの恩恵だ。

 

『待っ』

 

 視界が粒子の眩しさで満たされる。

 刹那、爆炎に包まれた。目の前が吹き飛ぶ。熱い。痛い。

 ウィングバインダーは蒸発し、コクピットは剥き出しになる。コクピット内に爆炎が侵入し、破片と衝撃とパイロットがシェイクされる。

 レナの意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大破したギルスは健在。対するサハクエルは見るも惨たらしい。四肢がもがれ、断面は焼き目がつき、コクピットも丸出しだ。

 周囲には損傷したサハクエルのパーツが泳いでいる。

 

『あーあ。気絶してんじゃん』

 

 サハクエルは最期、ウィングバインダーで攻撃を迎え撃った。ダブルドライヴでまだまだ余裕のあったギルスなら念入りにトドメを刺せる。

 だが、ギルスはそれを行わなかった。

 原因を探る為にギルスに近づいたが、反応無し。その時点で察したがコクピットを無理やりこじあげるとパイロットのネルシェン・グッドマンは気絶していた。恐らく終盤のレナの不意打ちが効いていたんだろう。ずっと飛びそうな意識と戦っていたようだ。

 

『ま、人間にしちゃ頑張った方か。結局自分でやる羽目になると思ってたら、これだし。僕のアズラエルが出番なかったもんな』

 

 そう言って、ネルシェンを見下ろすのは、レン・デスペア。

 次にサハクエルを見遣る。

 

『よっと』

 

 ギルスからサハクエルへ。スーツのジェットを使って移動する。

 

『あ?』

 

 ボロボロのコクピットを覗くと虚ろな瞳と目が合った。

 これには少し、面食らう。

 

『……バケモンかよ』

 

 生きてはいると思ってたが、まさか意識までまだあるとは。

 今にも事切れそうだが、さすがに驚いた。

 レンの脳裏に過ぎる。ここまでして意識があるような奴。レナとの戦闘は恐らく自分の方が劣る。

 まあ、それはそういう()()だ。レイやレナと違って、レンはそこを認識している。故に劣等感はない。寧ろ、こんな化け物に自分がならなくて安心した。

 

『よぉ。元気かよ。って、元気な訳ねーか。ははっ』

『………………ぁ……だ…………………………れ…………っ…………』

 

 虚ろな目が尋ねる。

 

『……』

 

 まあ、これも予想通り。動揺しない。してない。

 レンは舌打ちを1回挟む。

 

『……んなこったろうと思ったよ。まあアンタも覚えてねえよな。おい。まだ死ぬなよ。後でリジェネの奴が迎えにくっから。んっ?』

 

 何か視線を感じた。

 そちらを見遣ると黒いHAROと目が合った。だが、ツインアイは薄い灯火を無灯火と灯火を交互に行き来し、ハロに共通するシステムよりも動きが少ない。揺れすらしない。

 黒くて分かりにくいが、ススがついている。ぶっ壊れ寸前と言ったところだ。

 

『記録されっと面倒だな……。捨てとくか』

 

 ハロには音声の録音など様々な機能が仕組まれている。特にレナのものなら危険だ。

 外宇宙に捨てておいた方がいいだろう。壊してもいいが、そこまで労力かける必要もないと判断した。

 

『おらっ』

『……っ……っ』

 

 何か反論しているが、喋る機能が死んでるらしい。薄い灯火をチカチカと点滅させながら黒HAROはレンに蹴り飛ばされ、宇宙へ旅に出た。

 

『……』

 

 目的は済んだ。後始末は近くで待機してるリジェネがやる。

 リヴァイヴ達も撤退を始めているはず。

 ギルスの回収だけしてささっとこの場を離れるべきだ。

 

『僕の作ったギルス下手に使いやがって──―』

『──―し…………すけ……………………?』

『っ!?』

 

 ギルスの方を見遣った瞬間、後ろから掠れるほど、思わず聞き逃すほど小さな声で、でも確かに聴こえた。

 レンは目を見開いた後、ゆっくりと振り返る。

 

『は?』

『……』

 

 振り返った時にはレナの瞼は閉じていた。

 今聞こえたのが幻聴かどうかももう確かめられない。

 

『おい』

 

 声を掛けるが、反応はない。

 レンは再度舌打ちする。

 

『殺させちまったじゃねえかよ……』

 

 天体じゃない輝きが視界の端に現れる。リジェネが近づいてきた。

 それを確認してレンは【ガンダムアズラエル】に搭乗する。

 

『ま、殺っちまったもんはいいけどさ。そうだろ? アズラエル』

 

 アズラエルのツインアイが煌めく。

 

『レナを使ってリボンズの奴がレイを混成種(ハイブリッド)にしようとする。んで、その前に僕がレイを殺す』

 

 レンの瞳が輝く。思考は筒抜けだ。

 でも、分かってたって意味は無い。出し抜けなんてできない。

 

混成種(ハイブリッド)のイノベイターになるのは僕。それで完璧』

 

 レイじゃない。ましてやリボンズ? なれる訳ねえだろ。夢見すぎ。

 イオリアに進化の機会を与えられたイノベイドは完全な塩基配列パターン0000のみ。適当な解釈で計画上のイノベイドに失望して、悲劇ごっこしてる奴に僕が負けるかよ。

 

『まあまずは、1人。脱落だな』

 

 現時点で確実に進化の可能性を摘まれた完全な候補。

 レナ・デスペア。彼女のイノベイター転生が終わった。



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メメモントで待つ

 

 レナから連絡が来た。

 だが、珍しいタイミングだ。普段なら絶対俺が脳量子波を遮断してる時じゃないと寄越してこない。そうじゃないとメッセージを見た時にリボンズに思考を読まれるからだ。

 そうなれば俺とレナのやり取りが筒抜けになる。

 だから、遮断してない時に送ってくるのはこれが初めてだ。

 違和感を覚えたが、そんなもの、内容に目を通せば吹き飛んだ。

 

「なっ……!?はぁ!?」

 

 思わず叫んだ。

 いや、そらこんな反応になるだろ!!リボンズのやつ、何を考えてやがる……!

 

「衛星兵器だと……っ!あいつ……!遂に虐殺に手を染めようってか!!」

 

 海の中。ガルムブラックのコクピットにいる俺は、端末を荒くしまう。

 当たり前だろ。衛星兵器なんて聞いて呑気にしてられるか。

 絶対に止めてやる……!!

 

「ガルムブラック、レイ・デスペア!発進する……!」

 

 ガルムブラックのツインアイが煌めく。

 俺は海水を掻き分けて、水中から軌道エレベーターを目指した。

 

 

 

 

 

 イノベイターの本拠地では。

 ヒリングがパイロットスーツを纏っていた。

 

「ヒリング。頼んだよ」

「OKよ。あぁ~楽しみ!ようやく戦えるんだからっ!ほんと、待ちくたびれたわ」

 

 足を組み、長椅子から動く気配のないリボンズ。微笑みながら自身を見る彼に、ヒリングは不快感など抱かない。

 そんなことはどうでもいい。誰がリーダーかなんて。そもそもイノベイター全体が、私達が、人類を導くものなんだから。

 それに、今は目の前の戦いにしか目がいかない。ずーーっと待ってたんだから。

 それに、ただの戦闘じゃない。相手は雑魚じゃない。相手は私達と同じ存在。

 相手は―――

 

「標的、レイ・デスペア!イノベイターで、塩基配列パターン0000の特殊能力持ちなんて……あはっ!私、今からもう痺れちゃう」

 

 舌なめずりするヒリング。

 まだ地球にいる同胞を見下ろして、嗤う。

 

「さぁ、早く来てよ。大好物でしょ、非人道的なやつ(ああいうの)

 

 衛生兵器、メメントモリ。

 その光学映像を見て、彼は来ると確信する。

 ヒリングの表向きの任務はその防衛だ。敵は別に彼限定ではなく、衛生兵器を狙うもの。絶対にカタロンもソレスタルビーイングも衛生兵器を壊しに来る。

 でも、そっちはもうどうでもいい。少し前までそちらも興味の対象だった。楽しみだった。

 でも。もう。同胞と戦える。この興奮には勝てない。

 

『ヒリング・ケア。()()()()、行くわ』

 

 宇宙に放たれるガラッゾ。

 あくまでアロウズの機体として出撃する。

 元はガデッサの出撃の予定だったが、ヒリングは自分の都合で機体を変えた。

 だって、そうでしょ?本気の機体。対個人用の機体。そっちの方がしっかり楽しめるじゃない……!

 

『ワクワクする~!たっぷり殺してあげる……待ってるわよ、レイ』

 

 ガラッゾのコクピットで、ヒリングは口角を上げ、ガラッゾはその爪を研いで黒いモビルーツを待望する。

 



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