いずく1/2 (知ったか豆腐)
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プロローグ&雄英入学
いずく1/2 その1


『たとえばこんな緑谷出久』より独立させました。


 緑谷出久。14歳。中学三年生。

 いまどき珍しい“無個性”の男子中学生だ。

 

 無個性ゆえに学校でヒーロー志望を笑われた帰り道。

 出久はかすかな声を聞き取り、人気のない路地裏に足を向けた。

 

「あれ? こ、これは!?」

 

 路地裏に入って出久が見つけたのは衰弱した様子の狐。

 かなり元気がなく、弱っている様子に慌てて近くに駆け寄る。

 

「大変だ! ここは動物病院に連絡を……いや、野生動物相手の対応は保健所かな? とりあえず専門家の意見を聞いて対応を指示してもらわないと」

 

 携帯を片手にブツブツとつぶやく出久。

 その声に気が付いたのか、狐が頭をあげて()()()()()()()

 

『おぬし、“無個性”か? 男……是非も無し。おぬしの生涯、相乗りさせてもらうぞ!』

「え?」

 

 突如聞こえてきた女性の声に驚く暇もなく、出久は飛びかかってきた狐に意識を奪われる。

 

 この日、緑谷出久の運命は大きく変わることとなった。

 

 

     ==========

 

 ――――雄英高校 屋内訓練用ビル

 

 雄英に入学した出久は、オールマイトの初授業「ヒーロー基礎学」の戦闘訓練で因縁の幼馴染である爆豪と対峙していた。

 

「“個性”使えよデク。全力でてめェをねじふせる」

 

 どう猛に笑う爆豪に出久は気圧される。

 出久が無個性ではなく個性があったことを隠されていて、騙されたと怒りに燃える爆豪は容赦ない攻勢を仕掛け、出久を追いこんでいた。

 これまでは個性を使わずに戦ってきた出久であったが、これ以上、その戦い方を続けることは限界を迎えている。

 

『なにをしておるのじゃ、おぬし。何故、妾の力を使わん!』

 

 “個性”の使用をためらう出久に、一年前から体に住み着いた同居人が声を上げる。

 いま出久が持っている個性の力はもともとはこの同居人の能力だ。

 元来、自分の物でない力を使うリスク。それを出久は恐れて使っていないのだ。

 

『でも、今の僕には個性を使った時のリスクをコントロールできていないんだ』

『バカかおぬし。体に影響はないじゃろうが。あんなものリスクとは言わん』

『えぇっ!? 影響がないわけでは……というか、僕、あれが一番嫌なんだけど!』

 

 心の中で会話をする二人。

 個性使用のリスク、いや、正確に言うなら後遺症だろうか。

 それを巡って二名は言い争っていたのだ。

 もちろん、いまは戦闘中。悩んでいる猶予はもうない。

 

『ええい、埒が明かん。おぬしにもう任せておけるか! おぬしの身体、使わせてもらうぞ』

『え、ちょっと待って』

『イ・ヤ・じゃ!』

 

 焦れた同居人が出久の身体の主導権を奪う。

 薄れゆく意識の中、出久は同居人の言葉を耳にした。

 

『安心せい! あの爆破小僧は妾がコテンパンにしておくからの!』

 

 全然安心できない。悪い予感がする。

 そう思いつつも意識を失う出久であった。

 まぁ、この予感は的中するのだが。

 

 

「先生、緑谷の身体が!」

「あ、アンビリーバボー」

 

 画面越しに戦いを眺めていたクラスメイトとオールマイトが驚きの声を上げる。

 それもそのはず。

 画面の向こう側に移る緑谷出久の姿が大きく変化していたのだ。

 まず目立つのは頭に生えた三角形の耳にふさふさの毛に覆われた九つの尻尾。

 昔話に出てきそうな九尾の狐の特徴をした姿に変わっていたのだ。

 

 それだけではない。

 

「緑谷ちゃん、女の子になってないかしら?」

 

 思ったことははっきり口にするタイプの蛙吹が皆の疑問を代弁する。

 大きく膨らんだ胸にくびれた腰、すこし華奢になった身体。

 全体的に丸みを帯びた女性らしい肉体的な特徴が身体にフィットしたジャンプスーツのせいで余計に強調されてしまっている。

 

「緑谷、めっちゃエロい!」

 

 涎を流さんばかりに喜ぶ峰田を耳郎が女性の敵と制裁を加える。

 しかしながら、皆の心中としては同意できるところが悲しいところだった。

 

 

 

「な、なんだてめぇは!?」

 

 一方、目の前で幼馴染が女にかわるという異常事態を見せつけられた爆豪は混乱の中にいた。

 まぁ、10年以上一緒にいた男がいきなり女になって何も感じなかったら逆におかしいのだけれど。

 呆然とする爆豪に対して、イズクは艶美ともいえる笑みを浮かべた。

 

「クフフ。爆破小僧が間抜けな顔をしとるのう。どれ、お望み通り妾の力を見せてやろうかえ?」

 

 そう言って振るった腕の一振りで――――

 

「なん……だと?」

 

 天井数枚をぶち抜き、数階分の吹き抜けを作り出した。

 

「よそ見とは余裕じゃの? これでおとなしく寝とれ」

「チッ、しまっ……た」

 

 あまりの威力に目を奪われたところをすかさず接近したイズクは至近距離で目を合わせ爆豪を昏倒させた。

 視線による暗示・催眠術の類の能力だ。

 

「あっけないのう。まあ、妾にかかればこんなものか。さてと、時間もないしさっさと終わらせねばの」

 

 そう言って自らが空けた穴から上階に飛び上がるイズク。

 核はあっさりと回収され、ヒーローチームの勝利となった。

 

「緑谷少年……いや、少女? とにかく、なんだあの個性は」

 

 オールマイトのつぶやきに皆が頷く。

 戻って来た出久が質問攻めにあう運命はここに決定したのであった。

 

 

     =========

個性『羽衣狐』

 「他人に憑りつく個性」を持った狐が人から人に渡り歩くことで意思を持つ“個性”となったもの。

 出久の中の同居人である。

 超常黎明期から存在しており、人間社会を渡り歩いてきたため知識は深い。

 一度憑りついたらその宿主が死ぬまで離れられない。

 他人から他人に移るたびに能力が増えるという性質を持っており、出久で九代目。尾の数は代替わりごとに増えてきた。

 本来なら、宿主は女性を好んでいる。もとになった狐がメスであったため。

 憑りつく相手は“無個性”であることが条件にあり、無個性の少なくなった現代で前の宿主が亡くなり、消滅しかかっていたところを出久が発見。

 男だが選択肢がないということで宿主に選んだ。

 

 今まで女性ばかり宿主にしていたため、羽衣狐の能力を使おうとすると、出久が女体化する。

 個性を使うと女になっちゃうふざけた体質。

 ほんの一瞬使うだけなら女体化しないため、出久はコントロールができるようになれば克服できると信じている。(女体化しなくなるとはだれも言っていない)

 

 ちなみに、女体化したイズクは昔のお母さんに似たスタイルのいい美少女になります。やったね!

 

 さらについでに羽衣狐の能力はこちら。

 1.憑依+狐の運動能力 2.怪力 3.狐火 4.変化 5.幻術 6.式神召喚 7.催眠術・暗示 8.念力 9.巨大九尾化

 

 結構チートな個性である。



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いずく1/2 その2(戦闘訓練アフター)

 ――――雄英高校 1-A教室 放課後

 

「あかん、これは……あかん!」

 

 恍惚とした表情でだらしなくつぶやく麗日。

 金色のフサフサに埋もれるように抱きつく彼女は本当に幸せそうだ。

 それは彼女だけではないようで。

 

「こ、この毛ざわり、家の毛皮にも負けてませんわ」

「これは人をダメにする尻尾だね」

「ホント、モフモフね。緑谷ちゃん」

「ああ、ダメになる。ウチ、ハマりそうなんだけど」

「すごいね~。一本お持ち帰りしたいくらいだよー」

「あの、みみみんな、落ち着いて!」

 

 八百万、葉隠、蛙吹、耳郎、芦戸のA組女子たちによって、出久は九尾の尻尾を思う存分にモフモフされていた。

 ヒーロー基礎学が終わり、その“個性”の謎の多さから質問攻めにあった出久。

 説明の流れで(しぶしぶ)個性を使って説明しようとしたのだが……詳細を説明する前に尻尾のモフモフの魅力に女子たちがやられてしまっていたのだった。

 ちなみに毛ざわりは出久の健康状態に左右されたりする。

 

「しっかし、不思議な個性だよな。緑谷の個性は」

「うむ。個性を使うと女性になってしまうというところも変わっているが、なにより複数の能力がある強力な個性だな。あの短い間でもいくつか使っているように見えたが……」

 

 女子たちの様子を眺めていた切島が感心したように声を漏らし、飯田が分析を交えつつ疑問を投げかけてきた。

 出久は女子たちによるお触り会に耐えながら返事をする。

 

「あ、うん、ひゃっ! 僕の個性は複数の能力があってね。

 あん! あ、あのとき使ったのは、狐の運動能力に怪力と催眠術と言うか暗示というか……こんなふうなの!」

「うぇっへっへっ、緑谷ぁ、身体は女でも男なんだろ? ならおっぱい揉んでもいいよなぁ……Zzz」

 

 手をワキワキと目を血走らせて迫っていた峰田を、説明の途中で“主導権を奪って”暗示で撃退する。

 

『アホじゃの。このエロめ!』

 

 倒れ伏す峰田を“イズク”が蔑むような目で見下す。

 出久の中の同居人、“羽衣狐”の乙音(おとね)は人から人へ移り渡るという”生きた個性”だ。

 が、しかし、ベースになったのは“憑依”の個性を得た雌の狐。

 峰田の視線は体の主導権を奪うくらいに雌としての嫌悪感があったようだ。齢百歳以上の化け狐が耐えられないとは峰田ェ……

 まぁ、同情の余地はないのだけれど。

 

 倒れた峰田を無視して切島は話を続ける。

 

「いいなぁ。できることが多いのは羨ましいぜ」

「そうだな。もしかしてほかにも能力があるのか?」

「うん、そうなんだ。まだいくつか見せてない能力があるよ」

 

 飯田の予想を肯定する。

 事実、今回の戦闘訓練では、半分も能力を使っていないのだから。ただ……

 

「使うと女の子になっちゃうんだけどね」

「あ、悪ィ」

「む、すまない。無神経だった」

 

 謝る二人。

 だが、目の前にいるのはどう見たって狐耳の九尾美少女である。

 なんかこのままでもいいのでは?

 そう内心思ってしまったのは仕方がない……仕方ないね!

 

 

 そのころの爆豪。

 

「少年!!」

 

 オールマイトに校門の前で呼び止められる。

 後ろからがっしりと肩をつかんだオールマイトは爆豪を励ます言葉を投げかけた。

 

「言っとくけど……! 自尊心ってのは大事なものなんだ!!

 君は間違いなくプロになれる能力を持っている!!

 君はまだまだこれから……」

「放してくれよオールマイト。歩けねえ。

 言われなくても!! 俺はあんたを超えるヒーローになる!」

 

 折れた自尊心をケアしようと話しかけた言葉は、爆豪には余計なお世話だったようで。

 爆豪は勝手に立ち直っていた。

 てか、悩んでいるのはそこじゃない。

 

『デクのやつ、なんで女になっとんじゃ! あいつは!!』

 

 長年一緒にいた幼馴染が美少女に。

 ありえない状況に割と常識人の爆豪は絶賛混乱中であった。

 俺の幼馴染が美少女なわけがねえ!

 

「教師って難しい」

 

 頑張れ、オールマイト。

 まだ彼(彼女)は能力の半分も使ってないんだ……



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いずく1/2 その3(USJ襲撃)

 雄英高校 嘘の災害・事故ルーム(通称USJ)

 

 ヴィラン連合の襲撃により窮地に陥ったA組。

 対オールマイト用の改人“脳無”により相澤先生が負傷し、首魁の死柄木によって蛙吹梅雨が殺される寸前となっている。

 

『ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ』

「へぇ、あの狐のメスガキ脳無相手にやるじゃないか」

 

 出久は化け狐の身体能力と怪力を使って脳無相手に必死に食らいついていた。

 対オールマイト用に作られただけあって、打ち込む打撃は吸収され、爪による裂傷も再生されてしまう。

 暗示や狐火などの有効に働きそうな能力を使う余裕は、乙音から“羽衣狐”の力を渡されて1年程度の出久にはない。

 このままではジリ貧状態になるのは見えている。

 

 焦る出久に乙音が声をかけた。

 

『このままでは埒が明かん! 妾が体の主導権を奪えば能力はお主より使えるがあまりやりたくないのじゃ。なんとかせい!』

『なんとかって、無茶言わないでよ。てか、乙音がなんとかできるなら交代したほうがいいんじゃ』

『馬鹿者! この体はおぬしのものじゃ! そう簡単にポイッと渡すな阿呆め。

 妾はおぬしの同居人ではあるが、おぬしを乗っ取るつもりはないのじゃぞ!!』

 

 出久を叱咤激励する乙音。

 どのような状況であろうと、憑依先の人物の人生を塗りつぶすことはしない。

 それが“羽衣狐”乙音の信念である。

 まぁ、結構な頻度で体の主導権を奪っているのだが、それはそれである。

 

『でも、このままじゃヴィランに殺されちゃうよ!』

『ええい! 情けない声を出すな! “アレ”を使えばよいであろう。

 “アレ”はおぬしの代で発現した力じゃ。妾よりも使いこなせるはずじゃ』

『でも、“アレ”は使ったことは……』

『いいからやれ!』

 

 力を出し渋る出久に乙音が怒鳴り声をあげる。

 脳無の攻勢はますます強くなり、もはや一刻の猶予もない。

 ほかのヴィランの相手をしてくれている同級生も心配だ。

 出久は覚悟を決め、その個性を使う。

 

GAaaaaaaaaaaa!

 

「バカな、脳無が一撃で!?」

「聞いてないぞ黒霧ィ! こんな化物が生徒にいるなんて」

 

 黒霧と死柄木が驚愕に顔を歪める。

 それもそうだろう。

 彼らの切り札である脳無が突如現れた巨大な九尾の狐に叩きのめされたのだから。

 体長は10メートル以上、尻尾を含めた全長は30メートルはあろうかという巨大な化け狐が咆哮と共に狐火で脳無を焼きつくし、巨大な爪で切り裂き、尾の一撃で施設からたたき出した。

 その威容にヴィランどもが浮足立つ。

 もはや形勢は逆転し、ヴィラン連合の敗北が濃厚となったのだ。

 

「撤退しましょう、死柄木弔。オールマイトもいない今、ここで無茶をする必要はありません」

「クソ! なんだよあのチート。無理ゲーもいいとこだぜ…………出直すぞ、黒霧。ゲームオーバーだ」

 

 黒霧の進言に従い、撤退を決める死柄木。

 ワープゲートをくぐりながら化け狐になった出久を睨みつけ告げる。

 

「おまえのことは覚えたからな、狐女。次会ったときは殺すぞ」

 

 殺意を露わにして立ち去る死柄木。

 こうして、ヴィラン連合による襲撃はヒーローたちの救援を待つまでもなく終焉を迎えたのだった。

 

 

「もう大丈夫、なぜって? 私が来……た?」

「あ、ヴィランならもう帰りましたよ。オールマイト」

「あ、あれー?」

 

 

 

 

 

 事件後――

 

「デクくん。すごかったね」

「あんな能力があるなんてすごいわ、緑谷ちゃん」

「麗日さん、あすっ梅雨ちゃん~ぅ」

 

 出久は涙声で二人に返事をする。

 なんだか妙に声が高いような。個性は解除しているはずなのにまるで女の子のような……

 

「あれ? デクくんもしかして」

「女の子のままなの、緑谷ちゃん?」

 

「さっきから、男に戻れないんだよぅ。うわーん!」

 

 化け狐化の後遺症で女から戻れなくなった緑谷出久ちゃん。

 見た目は涙目の地味系巨乳美少女である。

 

 果たして、緑谷出久は男に戻れるのだろうか?

 

 

「救けてよ、かっちゃん!!」

「どうしろってんだ、クソナードがぁ!!」

 

 

 

~オマケ~

 

「ウチ、元男より小さい。ま、負けた?」

 

 身体の一部分を比べて同級生にダメージを与えた模様。

 どこがとは言わんが…



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雄英体育祭
いずく1/2 その4(雄英ちゃんねる)


※注意
スレッド形式


【今年は】雄英高校体育祭実況スレ 一年の部【豊作】

 

1:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

今年も始まったな!

 

2:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

オールマイト教師とかうらやま!

 

3:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

オールマイトが教えてくれるなら絶対雄英行ったのに………

 

4:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>3

お前じゃ無理無理。

 

5:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ふざけんな、やれば出来るわ!

 

6:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>3

てか、学生か? 学校はどうした?

 

7:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

……サボった

 

8:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

やっぱりダメじゃないですかー!

 

         ~~~~~~~~~

 

102:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

選手宣誓ww

 

103:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

斬新すぎるww

 

104:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

こんなの選手宣誓じゃないわ!

宣戦布告よ!

 

 

         ~~~~~~~~~

 

 

623:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

エンデヴァーの息子も爆発くんもすごかったが、狐っ娘がヤバかったな。

意外なダークホースというか……

 

624:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ああ、ヤバいな。あの巨乳……

 

625:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

そうだな。ヤバいな、ケモミミはヤバい。

 

626:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID191303

 

あの尻尾ヤベエ、モフりたい……

 

627:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

パワーもすごかったしな!

 

628:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>624~626

何なんだこいつらwww

 

629:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

変態が湧いてますねぇ……

 

630:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>629

変態じゃないよ。変態だったとしても、変態という名の紳士だよ!

 

631:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>629

変態じゃない!

ただのケモナーだ!

 

632:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID191303

 

>>629

違います! モフリストです!!

 

633:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

俺、雄英体育祭が終わったらあの子を指名して職場体験にきてもらうんだ……

そしたら思いっきりモフる!

 

634:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>630~632

もう、お前ら結婚しろよ。

 

>>633

おい、プロヒーロー!

 

635:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>633

お巡りさーん! 変態です!

 

 

        ~~~~~~~~~

 

 

221:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

騎馬戦……何て言うか……

 

222:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

試合に集中できんかったわ

 

223:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

すごくモフモフでした……

 

224:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

尻尾の毛引き抜いたと思ったら、全部子狐に変わってたな。

なんだ、あの個性?

 

225:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

あんなのズルイ!

可愛すぎて攻撃できないよ!

 

226:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

女子達がそれで行動不能だからな(笑)

 

227:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

後ろ騎馬の女子二人が幸せそうだったな。

 

228:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>225

容赦なく攻撃した爆豪と轟へのヘイトがすごかったな。

 

229:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

一匹ください!

 

 

         ~~~~~~~~~

 

 

476:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

本選きたな。

 

477:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

オレは狐っ娘を応援するぞ!

 

478:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

普通科のやつ応援してやれよ!

 

 

頑張れ、狐っ娘!!

 

479:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>478

おい、なんという手の平返しだよ!

 

480:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

可愛い女の子は応援したくなるよね!

 

481:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

正直者め!

 

分かりますww

 

482:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

お、入場だ。

 

483:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

あ、あれ?

 

484:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

男?

狐っ娘は!?

 

485:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ケモミミハドコイッタ?

 

486:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

どうなってやがる!?

 

487:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** IDkie01h

 

現役雄英生(経営科)がご説明しましょう!

 

488:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

わけがわからないよ!

 

489:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

なん……だと……

 

490:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>487

現役雄英生キター!

 

491:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>487

kwsk

 

492:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

どういうことだ>>487!

説明しろ!

 

493:経営科 投稿日20**/**/** **:** IDkei01h

 

ほいほい。お待たせ。

わてくしが、手に入れた情報によると、彼本来の性別は男。

しかーし、個性を発動させると女の子になるそうな。

 

変わった副作用なのねー!

 

494:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

嘘だろ!?

 

495:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

嘘だ!!

 

496:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

な、なんだってー!!

 

497:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

マジで変身したー!?

 

498:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

狐っ娘だ!!

……娘?

 

499:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID93213

 

女体化したのか?

 

…………ブッ

 

妄想が止まらないいいいいいいいいいい

 

500:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID146027

 

もう、女の子のままでいいんじゃないかな

 

501:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

落ち着け、お前ら。

あれは男だぞ!!

 

502:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID191303

 

>>501

尻尾モフれれば別にいいです

 

503:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>502

ア、ハイ。

 

504:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

今年の一年の部はいろいろとカオスだな……

大丈夫なのか?



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いずく1/2 その5(雄英体育祭前夜)

 ヴィラン連合によるUSJ襲撃事件から一週間後の1-A教室。

 襲撃の熱も冷めやらぬなか、一週間後に迫った雄英体育祭に向けてやる気を燃やす生徒たちのなかで、出久は一人ガチ泣きしていた。

 

「よかった。男に戻れてよかった!!」

 

 USJで巨大化け狐になった後遺症でずっと女のままだった出久。

 今朝起きた時にようやく男に戻れたのだ。

 

「ちぇ、女のままでよかったのによー、緑谷ぁ」

「峰田くんには僕の気持ちは分からないよ!!」

 

 文句を言う峰田に割と本気のトーンで怒る出久。

 この一週間、女子たちによる女子のための女子力アップ講座を受けていたのだ。

 男に戻れないのなら、男子の制服では逆に目立つと、八百万が制服を作成。

 ついでとばかりに女性用下着まで作られて、女子たちの着せ替え人形にされたのは出久にとって黒歴史だ。

 一週間の女子生活で、男のプライドはすでにボドボドだ!

 

「知りたくなかった、知りたくなかったよ。ブラの正しいつけ方なんて!!」

「何それ! 興奮する!! 興奮するぞ緑谷!! 詳しく! ク・ワ・シ・ク!!」

 

 嘆く出久の言葉にエロを感じ取ったのか峰田が迫る。

 

「ねぇ、峰田くん。デクちゃんになにしとるん? 変なことするようなら飛ばすよ? 成層圏まで」

「ギャー! 全然麗らかじゃねーぞ!?」

 

 まったくもって麗らかではない表情で峰田を脅すお茶子。

 出久のモフモフの魅力に憑りつかれ、出久専属のセコムと化した麗日お茶子である。

 麗日以外にも、A組女子たちは出久の味方だ。モフモフは正義。

 

「残念だったな、爆豪。幼馴染が美少女から男に戻っちゃって」

 

 上鳴が爆豪をからかうように話しかける。

 爆豪の返事はいつものごとく怒鳴り声だった。

 

「ふざけんな、クソが! クソデクが男だろうが女だろうが俺には関係ねえ!」

「えっ、関係ないって、爆豪、おまえ、両刀(バイ)だったのか!?」

「どうしてそうなるんだ! このアホ面が!」

 

 不用意な発言をした上鳴は爆破され、すこし男前な顔になった。

 

「爆豪×緑谷……ゴクリ」

 

 教室の女子の誰かが生唾を呑み込む。

 

「ちょっと待てや! いまの発言誰だ!! この教室に腐女子がいんぞ!!」

 

 耳聡くその発言を聞き取った爆豪は怒声を上げる。

 自分が妄想のネタに使われるのは精神衛生上よくない。

 

「婦女子? 皆、そう呼ばれるには年若い気がするのだが?」

「分からねえな。何か意味があるのか?」

 

 意味が分からず、首を傾げる飯田と轟。

 それを見て蛙吹はつぶやいた。

 

「飯田ちゃん。轟ちゃん。ピュアね。そのままの二人でいてね」

 

 

『雄同士など、非生産的すぎて理解できぬ』

『どうしたの乙音? 何かあったの?』

『……数代前の主が腐りきっておったのじゃ』

『それは……大変だったね』

 

 BL怖い。

 そうつぶやく乙音に出久は涙を隠せなかった。



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いずく1/2 その6(雄英体育祭 騎馬戦)

体育祭編開始


 雄英体育祭 第一種目「障害物競走」

 

 最初のロボ・インフェルノを入試の時の再現とばかりに怪力で吹き飛ばし、綱渡りを野生動物ばりのバランス力で軽々と突破。

 最後の地雷原は、先頭を走る爆豪・轟に対して念力を使って埋まっていた地雷を直接ぶつけるという割と過激な手段で一位を通過した出久。

 

 そんな、圧倒的性能を見せつけた出久は今、第二種目の騎馬戦で1000万Pを与えられた重圧に体を震わせていた。

 

 まだ第一種目を終えただけの刹那的なトップの座。それがこんなにも重い。

 トップを走るというプレッシャーに慄きつつも、心を奮い立たせる。

 だが、現実は厳しい。

 

 チーム決めの交渉に難航していた。

 

『うぅ、みんな目を合わせた瞬間に顔を逸らして……これまで自分なりに強さは見せたはずだけど、1000万Pを狙われるリスクは嫌がられるのか?』

『……絶対、それ以外の理由もあると思うのじゃがの?』

 

 このとき出久は気が付いていないが、尻尾とケモ耳がかなり自己主張していたりする。

 断られるときに耳は悲しそうにへにゃりと下がり、話しかけようとするときに尻尾が緊張でピンと立つ。

 口ほどにものを言う尻尾と耳にかわいすぎて皆目を合わせられない。かわいすぎるのも罪だねぇ。

 

『くっ、なんだあの可愛い生き物は!!』

『萌える。萌え死ぬぅ!』

『目を合わせちゃだめだ。(萌え)死ぬぞ』

 

 無自覚の魅力を振りまく出久に周囲の被害は甚大だ!

 彼(彼女)に声をかけるのは勇気がいる。

 だが、ここは雄英高校。勇者はいるものだ。

 

「いっしょに組も! デクちゃん!」

「麗日さん!? い、良いの!? たぶん、僕1000万ゆえに超狙われるけど……」

「ガン逃げされたらデクちゃん勝つじゃん……」

「そ、それ、過信してる気がするよ麗日さん」

「するさ! 何よりデクちゃん(のモフモフ)は私が守るから!!」

「う、麗日さん……!!」

 

 男前なセリフに頬を染める出久。

 それでいいのか? おい。

 

『主が雌の顔に!? なんじゃこれ、なんじゃこれぇ!?』

 

 乙音もビックリである。

 てか、ぶれないね。セコム麗日。

 

 その後、サポート科の発目とA組男子常闇を加入してチームが決まった。

 なお、絵面だけ見れば常闇のハーレムである。一部男性からの嫉妬の目線が来たのはしかたない。

 

「いいなぁ、あの鳥っぽい子。女の子に囲まれてるよ」

許羨(ゆるせん)ッ!」

「俺もモフりてぇーーーーーー!」

 

 ……一部、モフリストからの羨望も仕方ない。

 

 

     ・・・・・

 

 そんなこんなで試合開始。

 当然、1000万P、狙われるに決まっているのだが……

 

「追われし者の宿命(さだめ)……選択しろ、緑谷!」

 

 中二チックなセリフで緑谷の指示を促す常闇。

 

「モフモフや、モフモフすぎて幸せすぎる!!」

「思った以上のモフモフ度。これはハマりそうです!」

「おい、後ろ二人、なにやってる!?」

 

 後ろ騎馬の女子二人は、出久の尻尾に埋もれて幸せそうな顔でヘブン状態になっている。

 常闇が注意をするが、二人は文字通り物理的にもハマってしまっている。

 

「ミドリヤ、モフモフ!!」

「ダークシャドウ!? おまえまで!?」

 

 ついでに自らの個性までこの始末。

 組むチームを間違えたんじゃないかと後悔した常闇だった。

 

「大丈夫、常闇君。僕に任せて! まずは、数の不利をひっくり返す!!」

 

 常闇の不安をかき消すように、出久が行動を起こす。

 尻尾から毛をまとめて引き抜き、フッと息を吹きかけて飛ばす。

 飛ばされた毛はポンと音と煙を立てて子ぎつねたちに変身した。

 

 “羽衣狐”の能力の一つ、式神召喚。

 まだ出久が未熟なため、子ぎつねの式神しか使えないが、今後習熟していけば使える種類は増えていく。

 しかし、この場では大量の子ぎつねで十分効果を発揮できた。

 というより、子ぎつねだからこそ効果を発揮したというかなんというか――――

 

「う、邪魔を……」

「ズルいぞ! こんなの抵抗できるか!」

「How cute! かわいいネ!」

「心を鬼にして……駄目です! そんなつぶらな瞳で見つめないで!!」

 

 フィールドを駆け回る子ぎつねたちは、周りのプレイヤーに手当たり次第に襲い掛かる――――わけではなく、思いっきりまとわりついて甘えていた。

 『窮鳥懐に入れば猟師も殺さず』といったところか。

 いや、どちらかというと『小さきものは、皆うつくし』だろうか?

 とにかく、小動物が無邪気にじゃれついてきたのを無情にも払い落とすような非道な行為をヒーロー志望の人間がそうそうできるわけがない。

 ついでに言えば、この子ぎつねたちは可愛いもの好きの女子たちにクリティカルヒット。

 女性特攻持ちなのでは? と、思うくらいに女子騎馬たちの行動を不能にしていたり。

 

 会場は大混乱だ。でも、幸せそう。

 

「よし、今のうちに離脱だ!」

「緑谷、おまえも身の内に獣を住まわせる者だったか」

「デクちゃん! あとで、あとで一匹モフらせて!!」

 

 子ぎつねの式神たちによる足止めを利用して逃走を開始する緑谷チーム。

 このまま逃げ切るかと思われたが、そうは問屋が卸さない。

 追いかけてきた騎馬が二騎。

 

「全部捕まえるのに思ったより手間取ったな」

「いや、それほど時間は経っていない。しかし、一部だけ凍らせて捕まえるなんて細やかな制御もできたのだな」

「やだねー、才能マンは。でも、味方なのは頼もしいぜ」

「ごめんなさい。後で救けてあげますわ。いまは戦いに集中しましょう!」

 

 轟の個性により子ぎつねの足を凍らせて捕まえた轟チーム。

 飯田の機動力によってあっという間に緑谷チームに迫る。

 

「あんな小さな動物を……心が痛えよ!! やっぱり漢としてどうなんだ!?」

「ごめんね、ごめんねぇ!!」

「俺たち、ヒーローなんだよな? ヴィランじゃねえよな?」

「うるせえ!! あんなもん、デクの個性で本物じゃねえんだ! どうして容赦してやる必要があるってんだ、アァン!?」

 

 周りの子ぎつねたちを無情にもすべて爆破してきた爆豪チーム。

 黒焦げになった子ぎつねたちの姿に、会場からのヘイトが集まっている。

 これが、人間のやることかよ!!

 

「轟くん!? かっちゃん!?」

「もらうぞ、緑谷」

「死ねえ! クソナード!!」

 

 挟み撃ちにされ絶体絶命の出久。

 ダークシャドウと九尾の尻尾による防御、麗日の無重力と発目のエアジェットでの逃走。

 さまざまな手段を駆使して逃げ回る緑谷チームだったが、ついに爆豪の執念が出久を追いつめる。

 

「覚悟しろや、クソデクがぁ!!」

「しまった!? 空中じゃ分が悪い!」

 

 空中戦にもつれ込まされた出久は爆速ターボによって動ける爆豪に、額のハチマキを奪われてしまう。

 そして無情にも鳴る試合終了(タイムアップ)の合図。

 

 その結果は……1位、緑谷チーム1000万325P!!

 

「なんだと!? 確かに俺はハチマキを……ッ!?」

 

 驚く爆豪は奪ったはずのハチマキを見る。が、その手の中には何もなかった。

 確かに手ごたえがあったのに。

 確かにこの手で掴んだはずなのに!

 

「てめえ、何をしやがった!」

 

 混乱し、怒鳴る爆豪。その答えを、近くで見てた轟たちが考察していた。

 

「緑谷の1000万のハチマキ、首にかけてある。俺たちが見ていたのは額にあったはずだ」

「変ですわ。付け替える暇もなければ、そもそも交換する別のハチマキを取ってもいません」

「存在するはずの無い幻のハチマキか。ううむ、何がどうなっているのか」

 

 ふと、飯田の言葉に違和感を感じ、考え込む轟。

 そして次の瞬間に答えを導き出した。

 

「そうか。幻術だ。緑谷の個性の能力の一つに催眠系の能力があっただろう? それを使ったんだ」

「なるほど。いえ、それはやっぱりおかしいですわ。緑谷さんが暗示をかけるには瞳を見るという条件があったはず。私たち、騎馬戦が始まってから目を合わせてはいませんわ!」

「たしかに……いや、待ちたまえ! 緑谷君はいつから個性を使っていた? 普段は女子に体が変わるのを嫌がっている彼が今日はずっと女子のままだったぞ。

 あれは気合を入れているからかと思っていたが、まさか!?」

 

 次々と考察を深めていく轟、八百万、飯田の三人。その推理はおおむね間違っていない。

 上鳴? ああ、となりでウェイウェイとアホになってるよ。

 

「デクゥ!! てめえ、いつからだ!? いつから騙していやがった!!」

 

 激昂して迫る爆豪に、“イズク”はニヤリと笑い、

 

「逆に聞くが……いつから幻術にかかってないと思っておった?」

 

 妖艶に口元が弧を描く。

 そう、初めから。今日の体育祭が始まる朝に仕込みは済ませてあったのだ。

 出久の中の同居人、“羽衣狐”の乙音は何人もの人間を渡り歩いてきた化け狐の個性である。

 化かし合いでは一日の長がある。このくらいはわけはない。

 

「この腹黒狐が!!」

 

 爆豪の負け惜しみが、会場に響く。

 狐に化かされた第二種目。どうなる第三種目!?

 

 

     ~~~つづく~~~

 

 

 ===オマケの物間くん===

 

「この狐をコピーすれば!」

 

 子ぎつねに触れる物間。個性をコピーした瞬間――――

 

「うおっ!? 物間が女になった!!」

「ハァ!? ワケわかんないんだけど!?」

 

 突如出現した、狐っ娘、物間。

 混乱する物間チームに誰かが声をかけてきた。

 

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫に見えるのかよ? あんたの目は節穴か……あっ」

 

 心操の個性により完全停止した物間。

 彼らは試合が終わるまで子ぎつねたちのジャングルジムと化していた。

 

 

 ===オマケの拳藤さん===

 

「モフモフ、可愛いなぁ」

「そんなに好きならもう一匹いるか?」

「本当!? ……あっ」

 

 拳藤チーム、アウト!

 

 

 ===オマケの女性陣(葉隠・小大・角取チーム)===

 

「「「か、可愛い!!」」」

「おい、もう一匹(以下略)」

 

 3チーム、アウトー!

 

 ===オマケの鉄哲チーム===

 

「あぁ! 柔らかくした地面に子ぎつねたちが!?」

「ウオオ! 見捨てるなんて漢らしくねえ! いま救けるぜ!」

「あ、馬鹿、騎手が騎馬を降りるな!!」

「てか、飛び降りたら危な――――」

 

 鉄哲、地面に頭から突っ込み、犬神家状態に。失格。

 アウトォ!!

 

 

 ===オマケの宍戸くん===

 

「なあ、そんなにオレって怖いかな?」

「いやいや、そんなことないって。ほら、肉食獣を恐れるのは動物の本能だし」

「そっか、やっぱり怖いのか……」

 

 宍戸君。子ぎつねたちに怖がられて心に傷を負う。戦意喪失。

 アウトォォ!!

 

 

 ===オマケの峰田チーム===

 

「うわあああ、中に、中に入って来たぞ!!」

「峰田ちゃん、待って、中でもぎもぎしないでちょうだい!」

「おい、俺の背中の上で何やってる!? てか、腕が開かん!!」

 

 峰田混乱につき自滅。

 アウトォォォォォ!!!

 

 

 結論:心操無双により心操チーム2位通過。



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いずく1/2 その7(雄英体育祭 レクリエーション)

 第二種目の騎馬戦が終わった。

 激闘を制した出久は昼休みという束の間の安息を過ごしていた。

 

「ハァ~。子ぎつね可愛かったなぁ」

「めっちゃ愛でまくってたね。麗日さん」

「そりゃ愛でるさ! だってあんなにモフモフなんだもん!」

 

 定食のコロッケをつつきながら麗日がへにゃりと至福の笑みを浮かべる。

 先ほどまで式神の子ぎつねを思う存分にモフりまくった麗日は満足げである。

 もはやモフモフ中毒ともいえるほどモフモフの魅力に憑りつかれた麗日を見て出久は苦笑を隠せなかった。

 そんな二人の元へ来客が訪れる。

 

「緑谷さん、麗日さん、探しましたわ」

「あれ、八百万さん。どうかしたの?」

 

 顔を上げると、何かを手に持った八百万がこちらに向かってきた。

 その手にあるものが用件のようだが?

 

「さきほど連絡が来たのですが、ヒーロー科の女子はこれを着て応援合戦をしなきゃならなそうですの。いま皆様にお渡ししているところですわ」

「これって……チアガールのコスチュームやん!」

「や、八百万さん、これ、誰に言われたの?」

 

 チアガールのコスチュームを渡されて顔をひくつかせる出久。

 まって、いろいろとツッコミたいことが多すぎる。

 

「峰田さんと上鳴さんですわ。なんでも相澤先生が朝に伝え忘れてしまったそうです」

 

 絶対嘘だそれ。

 なんで騙されちゃうかな!? というか、その二人の時点で怪しいと思おうよ!!

 思春期男子の邪な欲望を感じ取った出久。ピュアなお嬢様が悪い男に騙されている……

 

「まった、八百万さん。あのね……」

「心配ありませんわ、緑谷さん。サイズなら以前測ったものを覚えていますので、ピッタリのはずです。もしおかしなところがあったら後からおっしゃってください。

 あ、他の皆さんにもお渡ししなければなりませんので、このくらいで失礼いたしますわ。後で更衣室でお会いしましょう」

 

 出久の不安にあさっての方向で返事をする八百万。

 言いたいことだけ言ってすぐに立ち去ってしまった。

 

 別にサイズのことが言いたかったわけではないのだ。

 もっと根本的な部分でツッコミをいれたい出久である。

 手の中のコスチュームを見て途方に暮れる。どうしようか?

 

「大丈夫だよ、デクちゃん。きっとデクちゃんなら似合うからさ!」

「麗日さん……」

 

 麗日が元気よく励ましてくれるが、そうじゃない。

 何度も言うが根本的なところから間違っていると主張したい!!

 

「ねぇ、八百万さんもだけど、どうして僕が女の子であることを前提に話すの!?」

 

 涙を流さんばかりに声を大にして主張する出久。

 いま男の姿に戻っているはずなのに、どうしてこうも女扱いされるのだろうか。

 おもわず自分の身体を触って確かめてみる。

 

 ……うん、まごうことなき男だ。男の身体なんだけどなぁ!

 

『ナチュラルに女扱いされておるの、主様よ』

『あの一週間で僕の立ち位置が決まったのかな……』

 

 男に戻れなくなった一週間で、男としての出久の立場はお亡くなりになってしまったのであろうか。

 もう泣きそうである。

 

「デクちゃん、食べ終わったら着替えに行かなくちゃね」

「あ、あの、麗日さん? 僕はその服は着なくても……」

「恥ずかしがらなくたって大丈夫だって。デクちゃん可愛いもん! アタシが保証する!!」

 

 恥ずかしがってるわけじゃないとか、保証されても困るとかいろいろと言いたいことはあるのに、邪気のない麗日の笑顔に何も言えなくなりそう。

 しかし、このあと全国放送で自分の女装?が映し出されるのは避けたい出久。

 今大会一番の苦難を迎えていると言っても過言ではないのではなかろうか? プルスウルトラ?

 

 予期せぬところで追い込まれた出久は土壇場で新たな力に目覚めた。

 

 

     ~~~~~~~~~~

 

 昼休憩終了後。

 A組女子たちのチアガール姿に会場は驚く。

 その反応を見てようやく騙されていたことを知る八百万たち。

 

「峰田さん、上鳴さん!! 騙しましたわね!?

 何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」

 

 煩悩全開の二人に騙されてガックリと落ち込む八百万。

 それを小さな影が近づいてきて優しく慰めた。

 

「大丈夫? モモチャン。元気ダシテ」

「……キューちゃんは優しいですわね」

 

 感動して目の前の小さな狐っ娘チアガールを抱きしめる八百万。

 このチアガール狐っ娘幼女、その名はイズキュちゃん。通称“キューちゃん”である。

 

 出久がチアガール姿になりたくない一心で新たに能力を開花させた式神の新たな一種。

 自立行動型の高度な技術のいるものをそれだけのために造り出した出久の執念はいかばかりであろうか。

 ちなみに見た目幼女と侮るなかれ。

 尾の数は一本分。すなわち本体の出久の九分の一のスペックはあるのだ。

 これはある種の出久のアルターエゴと呼べる存在。

 出久の実力が上がればまた数は増えていくだろう。

 そのうち九体ぐらいに分かれてイズクナインと名乗り始めるやもしれぬ……

 ミコーン! 毛並みがアッープ!?

 

 とにかく、可愛らしい狐っ娘を放っておくわけもなく。

 あっという間に女子たちのハートをキャッチしていた。A組だけでなくB組女子たちも当然虜である。

 

「緑谷の裏切り者ォ!! どうして、チアガールになっていないんだよォ! オイラ楽しみにしてたのにぃ」

「そうだそうだ! 元男ならわかるだろ? 俺たちの気持ちが!」

「だから嫌なんだよ! てか、元男ってなんだ! いまも男だよ!!」

 

 当然のようにチアガールになることを前提で話す二人に怒りをぶつける。

 この野郎、いっそ男の姿のままチアガールになってやろうかとやけを起こしそうになりながらも、寸前のところで耐えた。

 

「上鳴君……いっぺん、死んでみる?」

 

 “瞳術 万華鏡”

 

 とりあえず、『元男』などとふざけたことをぬかした上鳴を新技の幻術で〆る。

 “幻術 万華鏡”は相手の体感時間を引き延ばしたうえで短時間に悪夢を見せるという、強力な幻術技だ。

 至近距離で目を合わせるという条件が必要なものの、目を合わせてしまえばそうそう破られない強い技である。

 

 とりあえず上鳴には、「動けないところをマッチョなおっさんがキス顔で迫ってきて熱いベーゼを交わす」という悪夢をみせているところだ。

 まぁ、出久は寛容な心の持ち主だ。だいたい100回くらいループしたら解放してくれるだろう。

 

 地面に倒れ、ピクピクと痙攣する上鳴の隣で峰田が地団太を踏んで悔しがる。

 

「狐っ娘のチアガールが見たかったのに!」

「……狐っ娘のチアガールならあそこにいるよ、峰田君」

「幼女じゃねえんだよ! オイラが見たいのはバインボインのワガママボディの女体を包むチアコスがだな――――ギャッ!」

 

 あまりに不快だったのでつい物理的に黙らせてしまった。

 日ごろ女子たちがどれだけ不快だったのかよーく理解した出久だった。

 

「緑谷君。あの子供はいったい? 君にすごく似ているようだが?」

 

 現れたのは生真面目委員長の飯田。どうやらキューちゃんが気になるようだ。

 

「あ、あの子? あの子は僕が生み出したんだよ」

「産み出した!? 緑谷君、いつの間に出産を!?」

「はぇ!? まって、飯田君、どうしてそうなったの!?」

 

 さすがはA組天然トップスリーの内の一人、飯田天哉。発想が右斜め上である。

 女扱いを超えて母親扱いをされるとは……恐ろしい天然ボケをかますものだ。

 

「緑谷……出産……交合……ハァハァ!」

「峰田君……いい加減にしとけや、クソが!」

 

  “瞳術 万華鏡・鏡花水月”

 

「ギャース!」

『主様、主様! 口調が爆発小僧になっておるぞ!?』

 

 かなり不快な妄想を垂れ流していた峰田に上鳴よりさらに強力な幻術をかける。

 具体的には、上鳴の見ている悪夢に五感も追加してやったのだ。

 まぁ、緑谷出久は優しい人間だ。1000回くらいループしたら解放してくれるだろう。

 

「む、緑谷君。個性をむやみやたらと使うものではないぞ! いくら言動が悪いとはいえクラスメイトを――――」

「ゴメン、飯田君。黙ッテクレルカナ?

「……失礼した、緑谷君! お互い、良い結果を残せるよう頑張ろう!」

 

 静かにキレている出久を見て、戦略的撤退を決める飯田。

 さりげなく彼も逆鱗に触れているのだ。その判断は正しい。

 のちに飯田は語る。

 

「あのときの彼の目は野獣のような目をしていた」

 

 と。

 

 

 一方、そのころのキューちゃん。

 

「キューちゃんの親権はウチがもらう!」

「いいえ、育てるのは私ですわー!」

「ちょっと待った! B組にもその権利はあるはずだ!」

「そうデース! Foxy Girlは渡しまセーン!」

「なにおう! 負けるもんかー!」

 

 なぜかキューちゃんの母親役を巡りバトルが始まっていた。

 これが傾国なのか?

 

「もう、勝手にやってよ……」

 

 試合開始前に燃えつきそうな出久であった。

 

「大丈夫ダヨ。キューのママはイズクだけダカラ」

「キューちゃん、間違ってないけどフォローになってないからね?」



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いずく1/2 その8(心操戦)

 レクリエーションが終わり、第三種目。

 本選ともいえるこの種目は単純明快に1対1の決闘だ。

 その第一回戦の第一試合で、出久は普通科の心操と相対していた。

 

「へぇ、個性を使わないと本当に男になるんだな」

 

 ゴングが鳴る前の前哨戦。

 この心操の挑発に出久は口を閉ざし答えない。

 当然だ。

 

 彼の個性は“洗脳”。シンプルにして強力な個性であり、一度でも喰らえば勝負は一気に傾く。

 クラスメイトの尾白のアドバイスがなければどうなっていたか……

 

『男に“なる”じゃないよ! もともと男だよ!』

『落ち着け、主様よ。この程度の挑発にのるな!』

 

 内心穏やかでない。

 おそらく一発でキレていたろう。

 ただでさえ先ほどからナチュラルに女扱いされていたのだからして。

 

 そんな出久の内心など知ったことではない心操。

 

「性別不明ってわけわかんねえよな。どっちかはっきりしろよ」

「男になったり女になったり、たしか雌雄同体っていうんだったか? ミミズとかカタツムリみたいな」

 

 煽る。

 煽りまくる!

 怒りの導火線に火を点けるどころか、油田にナパームを打ち込んでやるくらいの勢いで出久の怒りに火をつけようとしていく。

 

『はっきりしてるよ! 男だよ、僕は!!』

『ミミズ!? カタツムリ!? クソが! ぶち殺すぞ!!』

『あ、主様ーッ!? また口調が爆発小僧に!?』

 

 出久の堪忍袋は暴れ回っていまにも緒がキレそうだ。

 しかし、出久ここは耐える。ひたすら耐える。

 この程度の暴言、10年以上続いた爆豪の暴言に比べればまだ可愛いものだ。

 そう言い聞かせて心を落ち着ける。

 さぁ、もうすぐゴングだ。開始早々にヤサシク蹴散らしてあげればよいのだ。

 

 レディィィィィイ START

 

 試合開始!

 出久は飛び出そうとしたが、心操の一言につい反応してしまった。

 

「なぁ、毎回女装することになって恥ずかしくないのか?」

「めっちゃ、恥ずかしいに決まってるじゃないか! ……あっ」

『思わす口に出してしまったのぉ……』

 

 とうとう耐え切れず返事をしてしまう出久。

 だが、ここで返事をせねば好き好んで女になっていると思われるやもしれぬ。

 そう考えると答えざるをえなかった。

 何せ出久を女にしたがる輩はいるのだから。現在、幻術にかかっている二人とか。

 

「終わりだな。俺の勝ちだ。

 ……振り向いてそのまま場外まで歩いていけ」

 

 心操の言葉に従い歩き出す出久。

 彼の個性によって頭にもやがかかったようにはっきりとしない。

 これを解除するには体に衝撃を与えればいいが、1対1の対決で他者からの援護が期待できない以上、それは不可能だ。

 普通なら詰みの状況。

 だが、出久には心強い相棒がいる。

 

『仕方ないの、ほれ、交代じゃ』

 

 返事をしたのは出久。つまり返事をしていない乙音には心操の個性は適用されていない。

 彼女が身体の支配権を奪ってしまえばどうとでもなるのだ。

 イズクに瞬く間に狐の耳と九尾の尻尾が生えてくる。

 

「なに!?」

 

 完全に支配下にあったはずの相手が個性を発動させてきたことに驚きを隠せない心操。

 その驚愕に見開いた目は、化け狐の妖女の瞳を真正面から見てしまった。

 

「あっ……」

 

 ガクリと膝をつく心操。

 そのまま崩れ落ち、うわ言をつぶやきながら動けなくなったため戦闘不能とみなされた。

 言葉と視線を交わすだけの(地味な)静かな戦い。

 

 こうして第一試合は終わったのだった。

 

 

「びっくりするほどユートピア……」

「心操君、どんな幻術を見せられているのかしら?」

 

 苦悶の表情というよりは至福のだらしない表情で倒れている心操。

 主審のミッドナイトの疑問に答えられるのは心操と乙音だけである。

 

 

オマケその1 モフリスト麗日

 

 第一回戦の最終試合。麗日VS爆豪。

 爆豪の見てから対処できる優れた反射神経に手も足も出ない麗日。

 相手の爆破を利用し布石を積み上げ続けた必殺の流星群も、爆豪の渾身の一撃で破られたいま、もう後がない。

 

 だが、負けられない。少なくとも爆豪に一撃を喰らわせなければ気が済まない。

 なぜならば……

 

「モフモフの仇ーッ!」

 

 すべては第二種目で黒焦げにされた子ぎつねたちのために!!

 さすがモフリスト麗日。ブレない。

 

「真面目にやれや、丸顔がァ!!」

 

 渾身の爆豪のツッコミ(爆破)が決まるまでに、麗日はきれいなドロップキックを決めて満足そうに気絶したのであった。

 

「どこがか弱いんだよ……」

 

 爆豪の一言はとっても切実だったらしい。

 

 

オマケその2 夢の世界

 

「負けちまったが、頑張ったな。心操」

 

 クラスメイトから賞賛を浴びる心操。

 その表情は満足げであった。

 

「ん。まあ、いいところまでいったんじゃないか?」

「だな。相手が悪かったよ。あれはすげえ強い個性だからな」

「ああ、あれは仕方ない。幸せすぎて立てなかった」

 

 友人の言葉に頷く心操だが、その口から出た言葉に納得のいかないワードが飛び出してきた。

 何故に幸せ?

 もちろん、気になるのでそれについて聞いてみると……

 

「大量の猫に埋もれる幻を見せられた。あれには勝てねえよ」

「心操、おまえ……」

 

 すげえバカだろ。

 そう続けたかったが、彼の顔が本当に幸せそうで何も言えなかった。

 心操人使。彼もまたモフリストの一人なのだろう。

 

 ……モフリストってなんだっけ?

 

 

 ちなみに後日、相澤先生はその話を聞いて非常にそわそわしていたとか。

 無類の猫好きの称号は伊達じゃない。



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いずく1/2 その9(雄英ちゃんねる2)

※スレッド形式
苦手な人は読み飛ばし推奨


【モフモフ】英雄高校体育祭実況スレ 一年生の部 その36【ヒエヒエ】

 

1:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

このスレは雄英高校一年生の部の実況スレです。

他学年のネタは禁止。

荒しはスルー。

モフモフを讃えよ。

 

前スレ

【個性メッチャ】英雄高校体育祭実況スレ 一年生の部 その35【ダダ被り】

URL:https://??????????????????????????????

 

 

2:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>1乙

 って、おい!

 

 

3:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

乙!

讃えるなよwww

 

 

4:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

なんか、モフモフの感染が広がってないか?

 

 

5:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

モフ……モフしたかった、

飼い猫キタ……捕まえもフる…やわかたです。

 

 

6:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>5

おい、かゆうまみたいになってんぞ!?

 

 

7:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

まぁ、モフモフはともかく、次の試合は見ものだな。

エンデヴァーの息子に緑谷ちゃんだったか?

両方強い個性だもんな。

 

 

8:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

エンデヴァーの息子とか嫌いッス!

だから狐ちゃんを応援するッス!!

 

 

9:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

まぁ、エンデヴァーはなぁ……

すごいヒーローだけどアンチも多いっていうか。

 

 

10:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

エンデヴァーの息子もすごいが、狐ちゃんのほうが華があるしな

 

 

11:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

可愛いとか愛想がいいってヒーローにとって重要だよね!

 

 

12:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

確かに、オールマイトとかいっつも笑ってるもんなぁ……

 

69:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

試合開始! と思ったら画面が氷しか見えんのですが!

 

 

70:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

また、開幕ブッぱかよ!

強個性すぎんだろ!!

 

 

71:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

狐っ娘どこ!?

無事なのか?

 

 

72:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

うおおお! 氷の塊が爆散した!?

 

 

73:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

なぁ、これを見てくれどう思う?

 

 

74:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>73

すごく……(狐が)大きいです……

 

 

75:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

アイエェェェェェェェェ!?キョダイキツネナンデ!?ナンデ!?キョダイキツネナンデ!?

 

 

76:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

なにが、なにがどうなってるんだ!

 

 

77:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ゴルゴムの仕業だ!

 

 

78:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

お狐様ーデケー狐っ娘モフモフ

 

 

79:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

超パワーに幻術、使い魔召喚……更に巨大化だと。なんて強かわ個性…。

 

 

80:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ギャー、いま会場で見てるんだが氷塊が客席に!!

し、死ぬウ!

 

 

81:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

やばい、いつから体育祭は怪獣決戦になったんだ!!

 

 

82:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ファーーーーwwwww何処の特撮ですかねww

 

 

83:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>82

草生やしてる場合じゃねえんだよ。

まじヤベエ

 

 

84:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

死ぬ前にあの尻尾をモフって死てえ!

 

 

85:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

あのモフモフに溺れたいだけの人生だった……

 

 

86:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

どいてヒーロー!御狐ちゃんをモフれない!

 

 

87:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

さすがモフリストたち、ブレねえな……

 

 

88:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>86

いま会場で

「危ないので会場に入ろうとしないでください」

って、アナウンス流れたのおまえか!

マジでアブねえからやめろよな!

 

 

89:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

意外と会場組いるんだな。

 

 

90:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

あ、エンデヴァーが氷塊撃ち落としてる。

助かったかな?

 

 

91:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

しかし、巨大な九尾の狐かぁ……

いろいろ思い浮かぶよな。

 

 

92:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

妲己?玉藻前?現在に復活した傾国の妖狐!?

 

 

93:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

白面のもの!?

 

 

94:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

誰か~!!長髪で槍持った少年と虎っぽい妖怪のコンビ連れてきて~!!!

 

 

95:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

獣の槍!獣の槍はどこだ!

 

 

96:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>94

>>95

お狐ちゃんを狩ろうと?

よろしい、ならば全力をもって阻止するのみだ!

 

 

97:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

お、おい! モフリストを怒らせんな!

こいつらなにをするか分かんねえぞ!

 

 

98:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

((((;゚Д゚)))))))

 

 

99:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ちょっと待ってほしい。このサイズなら、子ぎつね幼女集団が狐耳美女軍団になるのでは!?

 

 

100:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

単に子ぎつねが大人の狐になるだけだろ。

 

 

101:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>100

夢くらい見させてくれよ(T_T)

 

 

102:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

おい、おっπどこいった。

狐に変身したらあのナイスバディが見れない!

 

 

103:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>102

うるせえ! そんなことよりモフモフだ!

 

 

104:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

モフモフしたいぜーやっハァー

 

 

105:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

モフりたいですね

 

 

106:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

あの尻尾に埋まりたい!めっちゃモフりたい‼︎

 

 

107:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

轟そこ代われ

 

 

108:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

俺は今、モフリストたちのブレなさに心底驚いている。

 

 

109:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

気にしたら負けだね

 

 

110:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

巨大TS狐っ娘……?ひらめいた

 

 

111:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ん? なにか嫌な予感がするが?

 

 

112:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

俺思ったんだ。この子とMtレディでコンビ組めるんじゃないか?

そして二人の絡みが……

 

 

113:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

なんという妄想力……

ハッ! そういえばMtレディのコスチュームは巨大化しても破れないよう伸縮素材でできている。

しかし、お狐ちゃんは体育服。

つまり?

 

 

114:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ヒャッハー!女学生の全裸だ!

 

 

115:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

おいこら!

 

 

116:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

と、言っている間に巨大化解除みたいだぞ?

 

 

117:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ま、まさか!?

 

 

118:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

こ、これは!

普通に体育服だ!

 

 

119:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ちくしょう、なんで巨大化してんのに服が裂けないんだよ!

 

 

120:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ちょっと,,,,なんだよこの強個性,,,,凄すぎて訳わからん

 

 

121:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

これは将来すごいヒーローになるな。

 

 

122:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

おいおまいら今から出久ちゃんファンクラブ作んぞ!

 

 

123:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

おお! いいな!

 

 

124:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

学生時代からすでにファンができるとは……

 

 

125:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

まって、既にファンサイトが立ち上がってる!

 

 

126:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

なん……だと?

 

 

127:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

仕事が早いぞ。

誰がやったんだ。

 

 

128:経営科 投稿日20**/**/** **:** IDkei01h

 

もちろん、ボクたち雄英経営科さ!

こんな優良物件逃すはずもないよネ!

 

 

129:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

さすが、雄英高校。

ヒーロー科以外でも侮れねえな……

 

 

 

~オマケ~

 

――――関東 某所

 

 車いすに座り、体中に点滴のチューブと呼吸を補助する機器を取り付けた男が雄英体育祭をテレビで眺めていた。

 

「なるほど。今はそこにいるのか」

 

 異様な姿をした彼は、テレビに映る“羽衣狐”の存在に笑みを浮かべていた……



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いずく1/2 乙音オリジン

 とある狐の話をしよう。

 

 かつては一匹の狐だった。

 仲間とは違う何かを抱えながらも普通に野生に生きる一匹の狐だった。

 そんな狐が死の間際に自覚した“超常”によって人間の老婆に憑りつき、〝怪異”となった。

 人から人へ移り渡る“怪異”、『羽衣狐』という名の生きた超常となった。

 

 老婆へ憑りついた狐は知恵を得る。

 長く生きた人の知恵・知識・経験・思考・思想……

 老成された精神を糧に学んだ狐は化け狐。妖狐と呼べる存在になる。

 そうして、妖狐に己の知恵をすべて渡したころにその老婆は息を引き取った。老衰だった。

 

 死んだ老婆の身体を抜け出し、次の宿主としたのは孫娘。

 老いていた前の身体と違い、若々しく活発な体の持ち主。

 当時は超常黎明期。まだ特殊体質が“個性”と呼ばれるほど広がっていない時代に“異能”を得た人間が選ぶ道など二つに一つ。

 

 異能を恐れて、人目に触れぬように振る舞うか。

 異能を使い、自分のために使うか。

 

 孫娘が選んだのは後者だった。

 

「おばあちゃんが私に残してくれた特別な力なんだ!」

 

 狐の力を使い、自分のために好き勝手に使う孫娘。

 そのとき狐は善悪を理解しておらず、老婆から託された孫娘のために力をなんの躊躇もなく使っていた。

 そんなことをしていれば、当然報いは受ける。

 孫娘は、同じ異能を使う者――ヒーローと呼ばれる者に殺されたのだ。

 

 ヒーローが法律による規定もなく、自らの義憤と良心によって行動する時代。

 不運にも彼らの行動は時に行き過ぎた結果をもたらしたのだ。

 もちろん、世の中の評価は孫娘の自業自得。ヒーローを責める声などあるわけがない。

 だが、狐はそんなことは知らなかった。ただ、孫娘を殺された仇を討つことを考えていた。

 

 狐が憑りついたのは自殺未遂の女。

 生きることを諦めていた彼女は容易く狐に体を譲って消え去った。

 自由にできる体を手に入れた狐は、孫娘を殺したヒーローを狙う。

 しかし、容易く討ち取れるようなヒーローではなく、次第に警察にも追われるようになった狐は対抗するために群れを作った。

 社会の裏に生きるはみ出し者を集め、力で従えて悪の限りを尽くす。

 気がつけば、狐はいっぱしの悪の勢力となっていたのだ。

 復讐から始まった悪の栄光。

 

 だが、それも長くは続かなかった。

 悪を潰すのは正義だけではない。さらに巨大な悪だ。

 

「狐の身体能力に怪力。実にいい能力だ。ぜひとも僕の力になってくれるかな?」

 

 狐はある日、複数の異能を持つ“化け物”に襲われた。

 圧倒的な力に、狐は本能で理解する。

 ヤツは絶対的な“捕食者”で自らはその獲物でしかないと……

 

 本能的な恐怖に狐は瀕死の体を捨てて逃げ出した。

 まだ息のある宿主を自分の命惜しさに逃げ出したのだ。

 

『待って、見捨てないで』

 

 意思などもうないはずの彼女が、最後に腕をこちらに伸ばしていたように見えた。

 それを見なかったことにして狐は立ち去ったのだった。

 

 

 逃げた先の次の宿主は幼い少女。傷ついた狐を案じる優しい少女だった。

 その女の子のもとで、狐はようやく善悪を知る。

 

「人を傷つけるのは良くないことなんだよ? 悪いことはしちゃダメ!」

 

 今までの生き方を反省した狐は、女の子のもとで静かに、穏やかに生きると決めた。

 何気ない日々。たわいない日常。

 しかし、穏やかな日常は長くは続かなかった。

 

「やぁ、こんなところにいたんだねぇ。まさか他人に乗り移る能力があるとは思わなかったよ」

『どうして!? どうしてヤツがここに!!?』

 

 狐を追いかけてきた“化け物”によって、女の子の一家は姉を除いて全員が死亡した。

 運よく難を逃れた姉に憑りつき、狐も逃げおおせるが、それはつらい日々の始まりだった。

 

「あんたがこなければ! あんたがいなければ私の家族がこんなめにあうことはなかった!!」

「この疫病神! 妹を返せ! 私の家族を、家を返せ!」

「あんたみたいなバケモノなんかいなくなればよかったんだ!!」

 

 宿主から毎日聞かされる恨み言に狐は次第に精神をすり潰していった。

 自分は存在してはならなかった。呪われた存在だと……

 

 心をすり減らしながら続けた逃亡劇は姉が殺害されて幕を閉じる。

 目の前にはバケモノと言われた自分とは格の違う本物の“化け物”がいた。

 

「君みたいな珍しい“超常”は貴重だ。その力を僕のために役立ててもらおうか」

 

 捕らえられ、従うように強制された狐に抗うすべはなかった。

 抵抗の意志すら起きぬほど、恐怖に支配された狐は生き延びることと引き換えに“化け物”に有益な人物の褒美として与えられることとなった。

 生き延びるために、恐ろしい“化け物”にみじめに『飼われる』こととなった狐。

 自らを呪われた存在だと思いながらも、生きることにしがみつく自分の生き汚さを嫌いながら命令に従って過ごすしかなかった。

 

 六代目の宿主は“化け物”の愛人の一人で、人をだまして生きる悪女だった。

 狐は彼女から人をだます手段・方法を学んだ。

 

 痴情のもつれであっさり死んだ美女に代わり七代目の宿主となったのは、“化け物”の元で働く女暗殺者だった。

 彼女もまたヤツに飼われている者で、妙なシンパシーと同族嫌悪を抱いたが、お互い文句を言えるような立場ではなかった。

 密かに人を闇に葬る日々を過ごす。

 このときに戦闘技術や破壊工作などを学んでいった。

 

 結局、裏社会で汚れ仕事をこなす女暗殺者はある日任務で深手を負ってこれまたあっさり死んだ。

 本人もいずれこうなると思っていたのか、残す言葉もなかった。

 ただ、似た境遇の狐に同情したのか、女暗殺者は最後に狐を逃がしてくれた。

 最後まで何を思っていたのか知らないまま狐は女暗殺者の元を去る。

 

 そうして逃げた八代目の宿主。

 普通の女学生で、裏社会とは無縁の少女だった。

 狐に憑りつかれ、事情を説明された少女は死の恐怖に怯えた。

 当たり前だろう、ある日突然わけのわからない何かに憑りつかれてそいつのせいで命を狙われるかもしれないのだ。

 そうして怯えて、怯えて、怯えて……

 

 彼女は狐を無いものとした。

 狐の存在をまるっきり無視し、存在自体を認めない。

 たしかにあるものを無いように振る舞うというのは健全な状態ではない。

 だが、彼女は死にたくないがために何年も、何十年も続けた。

 狐もそれを受け入れた。狐も死たくないという気持ちは同じであったから。

 

 そうして姿も完全に見せず長い時間を過ごしたが、ある日交通事故で命を落とした。

 死から逃げ続けた挙句、その死に方はありふれた交通事故。裏社会もなにも関係のないただの事故だった。

 

 どうやっても宿主が非業の死を遂げる己の存在はやはり呪われている。

 無能力者=無個性の人間が少なくなり、宿主もなかなか見つからなくなった現在。

 今度こそ消えてしまおうと狐は思っていた。

 思っていたのに……

 

『大変だ! ここは動物病院に連絡を……いや、野生動物相手の対応は保健所かな? とりあえず専門家の意見を聞いて対応を指示してもらわないと』

 

 偶然通りかかった“無個性”の少年に狐は憑りついたのだ。

 身についてしまった生き汚さはどうしようもないと嘆く狐。

 これまでの己の遍歴を語り、呪われた人生を歩ませることを謝る狐だったが、九代目の宿主である少年。

 緑谷出久は笑っていた。

 

「狐さんは無個性の人間じゃないと憑りつけなくて、消えてしまうんだよね?」

「なら、僕は君を救けられて良かったと思うんだ。僕が14年間、無個性だったのは無駄じゃなかった。何の役にもたたない“デク”って呼ばれてきたけれど、君を救けるためにそうだったんだと思えば救われた気がして嬉しいんだ……」

「だから、ありがとう。僕のところに来てくれて、デク()に意味を持たせてくれてありがとう」

 

 自らを否定するどころか感謝の言葉すら投げかけてくれる出久に狐の心は喜びに打ち震えた。

 

 ただ、教えられるだけだった。

 ただ、力を振るうだけだった。

 ただ、ともにあるだけだった。

 ただ、ひたすら従うだけだった。

 ただただ、存在するだけだった。

 

 それがこうして認められるだけで、こうも心が熱くなるものなのか。

 

「ハハハ! こんな化け狐を救えてよかったとは、主様は物好きじゃな。こんな、こんな獣畜生と人生を相乗りすることとなったというのに……

 妾を救ってくれた恩は返さねばならぬ。これから先、妾の力をすべて主様に捧げよう」

 

 いままで命惜しさに逃げ続けてきた生涯だったが、認めてくれた出久のためならば力は惜しむまいと思った。

 この出久のためなら()()()()()()

 そんな覚悟を決めた狐は出久にこの力をどう使いたいか尋ねる。

 その答えを出久は少し恥ずかしそうに、だが、誇らしげに答えた。

 

「僕は……僕はヒーローになりたい。どんな困っている人でも笑顔で救けちゃう超カッコイイヒーローに」

「ヒーロー……か。なれるさ、主様なら」

「そう、かな。僕も、ヒーローになれるかな?」

「もちろんであろう! なにせ、主様は妾を救ってくれたヒーローじゃからな!」

 

『主様の夢を語る顔はキラキラしていて、とても綺麗だった。この夢と笑顔のためなら妾はもう何も怖くない。どんなことでもしてみせる』

 

 

 こうして狐は一人の少年に救けられ、“乙音”という名を少年からもらった。

 一人の少年と一匹の狐が夢を目指して歩き始めた最初の話。

 

 

 ああ、言い忘れていたが、これは一人と一匹が最高のヒーローになる物語だ。



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いずく1/2 その10(轟戦)

『強い……ッ!』

 

 第二回戦。

 優勝候補の一人である轟に出久は苦戦を強いられていた。

 初撃の大氷結を巨大九尾化でしのいだものの、その後も続く猛攻に圧され続けている。

 そもそも、エリアの限られたこのバトルフィールドでは巨体は逆に不利になるのだ。

 身体の一部でも枠外に出れば場外として負けになるルールでは、一撃で圧倒でもできない限り巨体であるメリットよりもデメリットの方が多い。

 

 やむなく巨大九尾化を解除して相対するも、轟のほうが実力は一枚も二枚も上手であった。

 

「グッ、個性の練度だけじゃない。戦いに対する練度が違いすぎる!」

「おまえ対策はしてあるんだ。楽に行けると思うなよ、緑谷」

 

 狐火で氷結に対抗するも、出力が足りず、押し返せない。

 さらに、氷結の個性だけでなく、隙を見せれば体術も絡めて攻撃を仕掛けてくる。

 試合開始からずっと続く轟の猛攻に出久はひたすらしのぐしかない。

 

 この息もつかせぬような攻め一色のスタイル。

 これこそが轟が考えた対出久用の戦術だった。

 

『思った通りだ。何度か目を合わせる機会があったのに幻術を使ってこねえ。やっぱり幻術を使うにはタイムラグがあるってことだ』

 

 轟がこれまで観察した出久の能力から、出久の切り札の一つである幻術の弱点を見抜いている。

 出久の幻術は強力だが、その分使う際にはそれなりの集中力が必要なのだ。

 第二種目の騎馬戦であらかじめA組のメンバーに幻術の発動条件を満たしておいたのはそういう理由があった。

 どんなに強力な幻術も使わせなければ問題ない。そんな考えをもとにした作戦は確実に成果をあげて出久を追いつめていく。

 

 怪力で砕くには氷の質量が大きすぎ。

 狐火もまた火力が足りない。

 幻術は使う暇を与えられず。

 式神は実践レベルに達していない。

 巨大九尾化は地の利が殺してしまう。

 

 使える手段を削られる中、出久は必死に状況を打開する手段を考えるが、考えをまとめる暇を轟は与えてくれない。

 で、ありながら、轟にはこちらに声をかけてくる余裕すらあった。

 

「これでもう終わりだ。だが、ありがとう緑谷。おかげで……父親(ヤツ)の顔が曇った」

 

 出久から目を離し、観客席にいる父親に目を向ける轟。

 真剣勝負をしている相手から目を離すその傲慢。

 

『気にくわぬ。気にくわぬぞ、主様!!』

 

 怒りを抱いたのは出久ではなく、乙音であった。

 

『乙音?』

『やつは主様のことを見ておらぬ。いや、主様だけではない。ここにいる誰のことも見ておらぬ……

 ここで戦う誰もが夢に向かって全力で戦っているのに、やつは己の憎しみのために動いている……

 許せぬ! 主様の夢を薄汚い復讐などで邪魔するなど! あまつさえ、その復讐のゴールが主様と同じ(ヒーロー)じゃと!?』

 

 父親との確執、復讐のために行動する轟の態度は、夢に向かって真っすぐぶつかる出久に対する侮辱だと憤慨する乙音。

 誰よりも出久がヒーローに憧れる姿を間近で見てきて、無個性であることに苦しんできた過去を知る乙音にとって、生まれ持った恩恵を否定して全力も出さずに出久と同じ(ヒーロー)を目指す轟は許せないものだった。

 その乙音の怒りを聞いて出久も同意をする。

 

『そうだね、乙音。僕だけじゃない。みんな、本気でやってる。勝って目標に近づくために。一番になるために! 全力も出さないで一番になろうだなんて、フザけるなって思うよ』

 

 一心に、真剣にヒーローを目指す皆のことを思い出して拳に力を込める出久。

 覚悟は決めた。

 

『轟くんのあの態度は許せない。だから、この試合、轟くんに全力を出させて、その上で勝つ!』

 

 力強い決意。

 主の宣言に乙音も気持ちが高揚したように答えた。

 

『それでこそだ、主様! で、どうする? 何か方策はあるかえ?』

『残念だけど、僕じゃ、今の僕じゃどうにもできない。だから……力を貸して、乙音!』

 

 出久の言葉に、乙音は戸惑う。

 

『……妾は、主様の人生に憑りついただけの不要物じゃ。そんな妾がしゃしゃり出たところで……』

 

 過去歴代の宿主を渡り歩いてきた乙音は、いまだに自分の存在が宿主を殺したという意識が消えていない。

 それゆえの不安。自分が表に出て大々的に活躍するということへの恐怖があった。

 だが、そんな乙音を出久は優しく受け入れる。

 

『乙音は僕に言ったよ。人生を相乗りだって。なら乙音も僕の一部だ。不要なんかじゃない……だから、一緒に戦って!』

『そうか……そうか。ならば、共に戦うぞ! 主様よ!! ここからは妾の大舞台じゃ!!』

 

 出久の言葉で共に戦うことを決めた乙音。

 その覚悟は出久の身体にすら変化をもたらした。

 

「な、なんだ? 緑谷。その姿は!?」

「気をつけろよ、小僧。いまの妾は獣ゆえなッ!!」

 

 人の手足が毛皮に覆われ鋭い爪の生えた猛獣の手足に。

 瞳孔は肉食獣のように縦長となり、瞳は赤く染まった。

 犬歯は鋭く、肉を裂く形に。

 濃い緑の髪は美しくきらめく金へと色を変えていく。

 

 白面金毛九尾の狐。

 

 出久が乙音に体の主導権を委ねたことで、より獣性が増して攻撃的なスタイルとなった。

 名付けるならば『白面金毛モード』とでも言えばよいだろうか?

 

 クラウチングスタートのように体勢を低くして構えた乙音。

 地面を蹴りつけた音と共に轟との距離を一気に縮めて拳を振りぬく。

 

「早い!? グハッ!」

 

 とっさに飛びのき、腕でガードして直撃は避けたものの、あまりの威力に地面を転がる轟。

 直撃を避けてこの威力。

 もしまともに当たっていたらと考えると冷や汗が止まらない。

 

『なんつー威力だ! 見た目相応にパワーアップしてやがるのか。だが、距離が空いたいまなら!!』

 

 接近戦は危険だと、氷結による遠距離攻撃を使って反撃を試みる轟。

 だが、もはや氷結すら乙音には通用しない。

 

「もうその手が効くと思うでない!」

 

“狐火・豪 火炎太鼓 六連三百両”

 

 乙音から放たれる六連の高温の火球が氷結攻撃とぶつかり、水蒸気をまき散らして轟の反撃を相殺する。

 水蒸気で閉ざされた視界の中、乙音は持ち前の嗅覚と聴覚で轟の居場所を把握し、猛スピードで迫る。

 白い靄を突っ切って現れた乙音の攻撃は、轟にとって奇襲と呼べるものになってしまった。

 

「ガアァァァ!」

「なに!? ぐああ!!」

 

 飛びかかってきた乙音の両腕を何とか抑えることができた轟だったが、思いもよらぬ攻撃に苦悶の声を上げる。

 両手を抑えられた乙音は大きく口を開き、無防備になった右肩へ……

 

『おおっと、緑谷ァ! 轟の右肩へ噛み付き攻撃ィ! ワイルドすぎだぜぇ!!!』

 

 プレゼントマイクの実況が響き渡るが、試合を見ている人の代弁とも呼べるものだった。

 噛み付く・ひっかく・四足歩行など、獣じみた戦い方に周囲は驚きを隠せない。

 

 幻術や式神、狐火などを細やかにコントロールし、相手と味方の能力を考察して戦略・戦術を構築して戦うウィザードタイプの出久。

 対して、乙音は怪力と高火力の狐火を使い、本能的な直感に任せて身体能力をフルに使って戦うパワータイプの戦闘方法だ。

 

 さきほどまでとは全く違う戦い方を見せるのだから驚かない方がどうかしている。

 

「くそ! 離れろ!」

 

 至近距離からの氷結も、野生動物の本能的な直感で躱す乙音。

 宙で一回転し、氷塊の上に降り立った乙音は轟を見下ろして言う。

 

「気に入らぬ。こちらに無理やり向けさせたはいいが、憎悪で濁った瞳を向けられるのは不快じゃな」

「うるせえ……分かったような口をきくな!」

「分かるとも! 復讐に狂った者の心くらいはな!」

 

 かつて自らも復讐に身を委ねたことのある乙音には、憎しみで動く轟の気持ちはよく分かっていた。

 

「憎い相手のことを考えれば考えるほど自分でもその気持ちを抑えきれなくなるのであろう? そうやって憎しみ以外見えなくなって……大切なものを忘れてしまっているのがいまのおまえじゃ!」

「黙れ! 俺の邪魔をするんじゃねえ!!」

 

“いいのよ。おまえは――――”

 

 乙音の言葉にかつて言われた母の言葉が頭をよぎる。

 この先の言葉を忘れてしまった、大切な何か。

 それがささくれのように心をかき乱し、苛立ちを強くさせる。

 この苛立ちを打ち消すように轟は叫ぶ。

 

「おまえが何と言おうと、俺は()は使わねえ! クソ親父の個性なんか使わなくても一番になって、やつを完全否定してやる!!」

「クッ、ハハハ! 何をバカなことを言うておるのやら。笑わせるな阿呆め!」

「何が可笑しい!!」

 

 激昂する轟だったが、次に告げられた乙音の言葉に動揺を隠せなくなる。

 

「“父親の個性”? ハッ、そうしてしまっているのはおぬし自身ではないか!」

「何を……何を言っている!?」

「おぬしの力ではないか!! 父親のものではない、おぬしだけの!!」

 

 轟が忌み嫌っているのは、決して“父親”のものではなく、“轟自身”の力だと告げる乙音。

 力は力でしかなく、それをどう扱うか、どう見るかは本人次第なのだと叫ぶ。

 

 忌み嫌っていた己の力を出久に認められて救われた乙音だからこその言葉。

 どんな力であっても人を救うために使うことは間違いではないのだという轟へのエールでもあった。

 

『“個性”というものは親から子へと受け継がれていきます。しかし……本当に大事なのはその繋がりではなく……自分の血肉……自分である! と認識すること。そういう意味もあって私はこう言うのさ! 私が来た! ってね』

 

 轟の脳裏にかつて母と共に見ていたテレビのオールマイトの言葉が思い起こされる。

 そうしてその時言われた、いつの間にか忘れてしまっていた母との記憶も同時によみがえる。

 

『でもヒーローになりたいんでしょう? いいのよ、おまえは血に囚われることなんかない。強く思う“将来(ヴィジョン)”があるなら、なりたい自分になっていいんだよ』

 

 母に認められた記憶を思い出した轟は、その歓喜の興奮に任せるまま左半身から熱を発する。

 

「俺も……ヒーローに! 親父は関係ねえ! “俺の”力でなってやる!」

「ようやくいい顔になったのぅ……じゃが、妾も負けるわけにはいかぬ!」

 

 お互いの夢のために一歩も引く気がない二人。

 轟は両手から氷と炎を生み出し、乙音は九尾すべてに火を灯す。

 

「うおおおおお!」

「カアアアアア!」

 

“氷炎 大爆風”

“狐火・豪 明暦大火振袖炎戯(めいれきたいかふりそでえんぎ)

 

 爆風と火炎の塊がぶつかり合い、会場が真っ白に染まる。

 

 視界が戻った時、立っていたのは……九尾の狐。乙音だった。

 

「轟くん、戦闘不能。緑谷君、2回戦突破!」

 

 主審のミッドナイトの宣言。

 出久と乙音は、3回戦へと進出したのだった。



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いずく1/2 その11(轟戦アフター)

 第二試合終了後。

 勝利を得たはずの出久はひどく落ち込んでいた。

 その理由は単純明快。個性使用後の後遺症である。

 前回同様、巨大狐化による女体化継続の後遺症に加え、今回は白面金毛モードの影響まで受けてしまっているのだから。

 

「うわぁ、尻尾もいいけどケモ耳もかわいいよね。デクちゃん、触ってもええかな?」

「麗日さん、ごめん。いまは放っておいて……」

 

 モフモフ好きになった麗日が新たなモフモフのターゲットに気が付いて目を輝かせているのだが、それどころではない出久。

 現在後遺症として出ているのは『女体化』『狐耳が元に戻らない』『瞳が肉食獣のような縦長のまま』という状況だ。

 かろうじて髪の色は金髪から元の緑色に戻っているが……あまり慰めになっているともいえない。

 地味系美少女からケモ耳美少女へ進化(?)した出久は、せっかく先日男に戻ったばかりだったのにまたしばらく女として過ごさねばならなくなったことを思うと憂鬱な気分にならざるを得なかった。

 クラスメイトからしたら、男の姿よりも女の姿でいる方が見慣れているという時点でイメージがもうヤバイのではないだろうか。

 座っている席の近くで女子たちの話が出久の胃を痛めつける。

 

「びっくりしたけれど、金髪の出久ちゃんもかっこよかったわ」

「ワイルドだったね! 派手ですごかったよー!」

 

 蛙吹と葉隠の褒め言葉にほかの女子たちも同意するように頷く。

 

「ホントだよー! ザ・野生って感じだよね。デンジャラスビースト的な」

「髪色変わると印象違くなるよなー。あ、ウチ思ったんだけど、緑谷の髪形も変えたらもっと違う印象になるんじゃない?」

「面白そうですわね。そのときはコーディネートはお任せください! ぴったりの衣装をご用意して緑谷さんをより魅力的な女子に仕上げてみせますわ!」

「おお! やおもも! サスガ!」

 

 芦戸の意見から耳郎が見た目の話題に変え、八百万がノリノリでコーディネートを提案する。

 あぁ、このままでは着せ替え人形に……より魅力的な女子にしなくていいです!

 てか、八百万さん、完全に女として見ている!? なんでそんなノリノリなのだ!?

 

「緑谷、ここにいたのか」

「あ、轟くん」

 

 キャイキャイと女子たちがはしゃぐ場に轟が出久を訪ねにやってきた。

 出久にとってはある意味救いの主だった。

 爆発の後、気絶してしまったので出久がケガをしていないか確認しに来たらしい。

 自身もダメージを受けていたはずなのに人の心配を出来るところがイケメン……もとい、彼の優しさだろう。

 

「ぼ、僕は大丈夫だよ。むしろ轟くんこそ平気? ほら、乙音の攻撃はワイルドというか、荒っぽいから……」

 

 やけどもそうだけど、噛み付いちゃったし……と、逆に心配する出久に轟は大丈夫だと返事をする。

 

「ああ、リカバリーガールに治してもらった。ほら、この通り痕も残ってねえよ」

 

 ジャージの襟元をはだけさせて噛み傷のあった部分を見せる。

 イケメンがやると些細な動作も妙に色っぽい。

 隣で見ていた女子たちの誰かが、思わずゴクリと生唾を呑み込むくらいに。誰かって? そりゃあ――――

 

「そっか。傷跡が残らなくて良かったよ。ずっと傷跡が残るのは申し訳ないから」

「別に気にしてねえよ。それに、あの傷は残っていても良かったんだけどな」

「え? どういう意味かな、轟くん」

 

 轟の発言の意味がよく分からず聞き返す出久。

 

「あの傷はおまえがつけてくれたものだからな。残っていても気にならねえ。むしろ消えちまって残念だ」

「え……ええっ!?」

 

 意味深なセリフに戸惑う。

 まるで轟が出久を口説いているようなシチュエーションに周りの女子たちが黄色い声を上げる。

 特に恋愛ごとに目がない芦戸は目を輝かせて興味津々といった様子。

 しかし、轟にはそんなつもりなどなく。彼は……一言足りないのだ。

 先のセリフを補足するならば

 

「あの傷は(俺にヒーローの夢を思い出させるために戦って)おまえがつけてくれたものだからな」

「(自分への戒めに良かったから)むしろ消えちまって残念だ」

 

 というのが本当の意味だ。

 それが言葉が足らないせいで勘違いが加速していく。

 

『え? え? どういうこと? どういう意味なの!?』

『あの傷は妾がつけたのじゃが』

『じゃあ、口説かれてるのは乙音なんだ。よかったー!』

『……主様よ。体はどうあがいても主様のものだと分かっておるのかの?』

『うわあああ!』

 

 勘違いだと知らぬまま、乙音の一言に追いつめられる出久。

 こんなどうしようもない状況をさらにカオスにする人物が現れた。それは……

 

「焦凍、ここにいたのか。む、緑谷……だったか? 君もここにいたとはな」

「え、エンデヴァー!?」

「親父……何しに来た」

 

 轟を探しに来たらしいエンデヴァーの登場に場の空気が変わる。

 ナンバー2ヒーローらしく圧倒的存在感を誇るエンデヴァー。

 

「フッ、焦凍。おまえにねぎらいの言葉でも、と、思っていたのだが用事が出来た」

「なに!? どういうつもりだてめえ」

 

 警戒する轟だが、エンデヴァーが声をかけたのは出久だった。

 

「緑谷君。先ほどは素晴らしい試合だった。負けはしたがおかげで焦凍も一皮むけて成長できたようだ。礼を言わせてもらう」

「い、いえ。僕も必死だっただけですから」

 

 珍しいエンデヴァーからの感謝の言葉に驚く出久。だが、次のエンデヴァーの一言はさらに出久を戸惑わせるのに十分な威力を持っていた。

 

「しかし、君の個性は素晴らしいな。強力なパワー・火力に汎用性の高い幻術能力……そうだな。どうかね? 焦凍の嫁に来る気はないか?」

「は? へ? え、ええ!?」

 

 突然の嫁入り発言はとんでもない爆弾であった。

 言われた出久はあまりのことに頭が真っ白になり、轟は“個性婚”という忌まわしい言葉を思い起こして顔を険しくし、見ている女子たちは息をのんで成り行きを見守る。

 このときエンデヴァー、出久のことを女だと思い込んでいたりする。

 まぁ、これは仕方ないことなのだが、エンデヴァーが出久のことを知ったのはこの体育祭からで、しかも出久が男の姿でいたのはほんのわずかな時間でしかないのだから。

 

 とにかく、この勘違いは別にしても、本人の意思を無視して結婚相手を決められるとなれば轟も反発する。

 しかもその相手が“男”のクラスメイトとなればなおさらだ。

 

「(緑谷は男なんだから)余計なマネすんじゃねえよ、クソ親父。俺の結婚相手に口を出されるいわれはねえはずだ!」

「フッ、自分の女は自分の力で手に入れる……か。勇ましいな焦凍。だが、多少強引にでもいかねば後から後悔するぞ」

「なんとでも言えよ。(緑谷は男だから)おまえが何をしたって無駄だ」

 

 言葉の足りない轟に勘違いを加速させるエンデヴァー。

 横で見ている女子たちには強引な手段をとろうとする父親からヒロインを守ろうとする少女漫画の主人公(王子様)という乙女ゲー的な場面に見えていたり。

 カオス度が増していくその場から、出久はエスケープを選択した。

 

「うわああん! どおして! どぉしてこうなったの!?」

 

 出久の悩みは尽きない。



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いずく1/2 その12(飯田戦)

 第3回戦がもうすぐ目の前に迫る中、選手控室にて出久は次の対戦相手の飯田の対策を練っていた。

 

「個性が個性だけあって、トップスピードじゃ勝負にならない。僕はともかく乙音ならいけるかな?」

『うむ。あの狭い場所ならばやつもトップスピードは出せまい。ならば勝算はあろう』

 

 ステージの広さを考えればスピードを出しきれないと判断する乙音。おおよそ出久も同じ判断だ。

 だが……

 

「問題は飯田くんの超必だ。あれを使われたら厳しいぞ」

『あの瞬時に加速する技じゃな……』

 

 第2回戦で飯田が塩崎戦でみせた必殺技“レシプロバースト”。

 瞬時にトップスピードをたたき出すこの技は、先ほど述べた彼の不利をひっくり返す決定打となる。

 分かりやすくスピードだけで比較すれば、出久よりも通常の飯田の方が速く、乙音と状況次第で互角かそれ以上。そしてレシプロバーストを使われればこちらの不利だ。

 

 この強力な技を攻略することが勝利のカギだが、実は心当たりがないわけでもない。

 ヒントは飯田が試合の後にこぼした一言だ。

 

『飯田くん、あんな超必持ってたんだね! すごいや!』

『ありがとう、麗日くん。だが、あれは俺から言わせればただの“誤った使用法”なのだが……』

 

 麗日との会話の中で、勝利後の油断からか口にしたあの言葉。これがヒントになる。

 

『〝誤った使用法”。ならば当然デメリットがあってしかるべきじゃの』

「うん。負担が大きいとか足にダメージがでるとか何かははっきりわからないけど。そう何度も長く使える技じゃないはず」

『考えられるのは制限時間……じゃな。さて、どうする?』

「飯田くんあの技は強力だけど、逆に言えばそれを使わせてこちらが凌げれば一気にこちらが有利になる……」

 

 刻々と近づく試合の時間。

 ギリギリまで考察を深めていく二人。

 すべては勝利のためだ。

 

=========

 第3回戦第1試合。飯田vs緑谷

 

 両者共にステージに上がり、位置に着く。

 幻術対策もあって視線を合わすことは無いが、お互いに闘志を燃やし合図を待つ。

 ゴングの前の前哨戦。いや、盤外戦。

 仕掛けたのは出久――否、乙音だった。

 

「その髪の色は……轟くんとの試合で見せた新モードか!」

「この狭いステージでは小回りの利かないおぬしは敵ではない」

 

 挑発的な笑みを浮かべ言い放つ乙音。対して飯田も不敵に笑みを見せる。

 

「スピード勝負が望みか……いいだろう! ひとっ走り付き合ってもらうぞ!」

 

 10秒間だけだがな!

 心の中で最後の一言をつぶやく飯田。

 彼女の言う通り小回りの良さで負けている以上、勝つにはレシプロバーストしかない。

 だが、コスチュームのラジエーターがない状態では10秒が維持していられる限界だ。

 つまり、この10秒間という短期決戦にすべてをかけるしかないのだ。

 

 〝レディイイイ!”

 

 プレゼント・マイクが声を張り上げるのと同時に、二人は戦闘態勢に入る。

 乙音は獣のように。飯田は陸上競技のスタートのように。

 両者姿勢を低くして両手を地に付けて開始を待つ。

 

 〝スタートォオオオ!”

 

 試合開始。

 合図とともにレシプロバーストを発動し、最高速度で疾走する飯田。だが、相手の乙音の動きに驚きの声を上げさせられた。

 

「何だと!?」

 

 目にしたのは手足で地面をしっかりとらえ、不動の構えをとる乙音だった。

 その表情は策が当たったからか、口元が薄く弧を描いている。

 

『しまった、罠だったか! 俺にレシプロバーストを使わせるための……いや、悩むな! 押し切れ!』

 

 開始前のスピード勝負を仕掛けるような発言は、このためのブラフであったことに気が付いた飯田だが、すでに賽は投げられている。

 一度、レシプロバーストを発動させた以上、この10秒で仕掛けるしかないのだ。

 

 そう覚悟を決めて打ち込んだ蹴りの一撃は――――

 

「九尾の……自動防御だと!?」

 

 乙音の尾の一つにはじかれ躱されてしまった。

 そう、動物の本能的な危機察知能力による九尾の自動防御。スピードで競い合うのではなく、相手に切り札を使わせた上での専守防御が出久と乙音の二人が出した答えであった。

 化け狐のごとく、最初の化かし合いで勝利して見せたことが有利な展開を導いたのだ。

 

 九秒。正面からの攻撃をはじいて躱す。

 七秒。左側面からの回し蹴りもやすやすと防ぎきる。

 五秒。背後からの攻撃は防御が最も厚く、近づくだけで精一杯。

 三秒。一旦大きく距離をとり、助走の余裕を作る。

 

 そして、残り二秒。飯田は最後の勝負に出た。

 そのカードは、まさしく正面突破。全力を込めた足技の一撃だ。

 

「おおオォお!」

 

 雄たけびと共に突撃した飯田の一撃は正面の防御の薄い部分を抜き、出久へと迫る。

 残り一秒、最後の一撃が防御をこじ開けて出久の姿をさらす。

 

「待ってたよ、飯田くん」

「なっ……あぁ!?」

 

 ()()()と目があった。いつの間にか乙音から交代していた出久。

 充分時間を稼いだ上で目線を合わせた。つまり、幻術の発動条件は満たしている。

 

 十秒経過。

 ふくらはぎから出る黒煙が限界時間を知らせ、同時に飯田が倒れ落ちる。

 

「……飯田くん。戦闘不能! 勝者、緑谷出久くん!!」

 

 駆け寄ったミッドナイトが飯田の状態を確かめ、出久の勝利を宣言。

 これで、3回戦突破。次は決勝だ。

 

 

 そして、決勝の相手は――――

 

「勝者、爆豪勝己くん!」

 

 因縁の幼馴染。爆豪勝己!

 

「待ってろよ、クソナード。勝つのは、俺だ!!」

 

 

 

―――――――――

オ・マ・ケ

 

 幻術でうなされる飯田。

 

「う、う~ん、メガネは、メガネは僕の本体じゃなぁい!!」

 

 腕を左右に大きく振って必死に否定する飯田。

 

「いったい、どんな夢を見てるのかしら?」

 

 首を傾げるミッドナイトであった。



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いずく1/2 その13(爆豪戦 プロローグ)

 雄英体育祭ももう終盤。

 次は決勝戦。最後の試合。相手は爆豪という強敵である。

 

「相手はかっちゃんだ。油断できないぞ……」

 

 真剣な表情をする出久であったが、実はシュールな状況だったりする。

 

『主様よ、気持ちは分かるが現実逃避は良くないぞえ?』

『ウン、ソウダネー』

 

 どこかうつろな瞳で見つめるのは、テーブルの上にある〝女性用下着”、つまりブラジャーが置いてあった。

 先ほどまでの試合でノーブラであったことが八百万にバレてしまった結果、

 

「動き回るのにノーブラは駄目ですわ! すぐにお作りしますわ!」

 

 と、うきうきで作り出された物である。

 『天下の雄英が全国波かつ生放送でブルンバストは拙い』との意見は理解できるのだが、心情的に使いたくないといったところ。

 まぁ、せっかくの好意を無視するわけにもいかないし、無視したら無視したで八百万が怖い出久であった。

 

「はぁ……、試合もあるし早く着替えないと」

 

 いろいろと葛藤していたのだが、諦めて着替えを始める出久。

 正しいブラのつけ方は前回で学習済みである。男の子として複雑だ。

 上着とTシャツを脱いで半裸になれば、自分の見事なバストがたわわに実っているのが目に入り、泣きそうになる。

 一人の男の子として出久も興味がないわけではないが、それが自分のモノであるなら話は別であるわけで。

 ちょっとしょんぼりしながらブラを手に取った。

 その瞬間、大きく音を響かせて控室のドアが勢いよく開けられた。

 

「あ?」

「…………へっ?」

 

 ドアを蹴り開けた姿のまま固まる爆豪。

 なんで、おまえがここに!? と、驚くもすぐさま自分のミスに気が付いて焦りだす。

 彼の明晰な頭脳はこの状況が自分にとって良くない状況であると瞬時に判断し、状況を打開すべく言葉を探す。

 目の前にいる幼馴染(現在女)に対して、彼はどんな言葉を口にするのか。

 

「て、てめえは、身体は女でも本当は男だ! だから……問題はねぇ!!」

 

 このセリフ、男が男の裸を見たところで問題ない、セーフだ!

 と、主張したいのであろうが、出久に対してセクハラしても問題ないと言っているようにも捉えられるのでアウトであろう。

 というより、絵面からして既に着替え中の女子の部屋に男子が押し入っている時点でもうヤバイのだが。

 

「いいからでてけよ!!」

 

 出久の反応はごもっともである。

 つべこべ言わずに一言謝って出ていけばよかったのにね。

 無駄に自分を正当化しようとした結果は、顔に大きなもみじのプレゼントである。

 試合前のダメージだが、まぁ、自業自得というものであろう。

 

「うわあああ! かっちゃん相手になんてことを!? てか、ぼくのこの反応の仕方って何!?」

 

 つい、女の子みたいな反応をしてしまった自分に戸惑う出久。

 さりげなく身体だけでなく、精神にも影響が!?

 

『いや、クラスメイトの女子どもの教育が優秀すぎるんじゃないかの?』

 

 気をつけろ、出久。知らないうちに行動が刷り込まれているぞ!

 

 

オマケ~もしセコ~

 

「て、てめえは、身体は女でも本当は男だ! だから……問題はねぇ!!」

 

 このセリフ、男が男の裸を見たところで問題ない、セーフだ! と、主張したいのであろうが、出久に対してセクハラしても問題ないと言っているようにも捉えられるのでアウトであろう。

 事実、その場にいた人間には後者の意味で捉えられてしまった。

 

「ふーん、爆豪くん、デクちゃんになら手を出しても大丈夫っていいたいんやね?」

「ま、丸顔!? なんでここに!?」

 

 爆豪の背後からスッとまったく麗らかでない顔で声をかけてきたのは麗日お茶子。

 通称、デクちゃんセコム1号である。

 

「試合前に最後の応援にって思って来てみたんだけど……爆豪くん、ナニシテルノカナ?」

 

 答え次第ではそのアバラぶち抜くぞ、と、堅気の人間がしちゃいけない顔で迫る麗日に爆豪は冷や汗を流す。

 なんだ、このプレッシャーは!?

 

「へ、部屋を間違えたんだ! これは事故だ!」

「ふーん。そうなの? デクちゃん」

 

 爆豪の言葉を受けて、出久に確認をとる麗日。

 だが、無情にも出久は混乱のあまり答えられる状況ではなく、顔を赤くして涙目で見るだけであった。

 この状況証拠(冤罪)をもって麗日の判決は決まった。

 

 被告! 爆豪勝己!

 判決! 有罪(ギルティ)

 刑罰! 死刑! 死刑! 死刑!!

 

「その罪を贖え! 爆豪勝己!」

「ちょっと待てや! どんな魔女裁判だァ!!」

 

 蝶のように舞い、蜂のように死ねと、ばかりに襲い掛かる麗日から逃げ出す爆豪。

 当然決勝戦には間に合わなかった。

 

 こうして優勝は緑谷出久となったのである。

 

~IF もしもセコムがその場にいたら~



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いずく1/2 その13(爆豪戦 本編)

 雄英体育祭、一年の部。その決勝戦がまさに始まろうとしていた。

 この栄光ある決勝戦に駒を進めたのは、一人は緑谷出久。体育祭の第一種目からトップを維持し続け、試合の度に新たな力を見せつけてきた今回の優勝候補の一人である。

 もう一人は爆豪勝己。選手宣誓にて自らの優勝を宣言し、その言にたがわぬ実力を示し続けてきた。残念ながらトップの座こそとっていないが、優勝を狙うにふさわしい実力者の一人である。

 どちらも一年生とは思えぬスペックを見せてきた。

 会場のプロヒーローたちも注目する中ステージの上で対峙する。

 

「なぁ、デク。最初の戦闘訓練を覚えてっか?」

「うん。忘れるわけないよ」

 

 静かに語りかける爆豪。しかし、その目は幻術対策で視線こそ合わせないものの、闘志に満ちていた。

 

「あの日に負けてから俺はてめえに勝つことだけを考えてきた」

 

 ひたすら自らを鍛え上げ、強くなるためには他人に教えを請うてまでも力をつけてきたのだ、と、語る爆豪に出久も負けずと頷く。

 

「かっちゃんがすごいのは知ってる。でも、僕だってキミに負けない……負けたくない!」

「あの日の雪辱を果たす! 今日、ここでなァ!!」

 

 互いに宣戦布告をして戦闘準備をする。そして間もなく開始の合図が告げられた。

 

 

 先に仕掛けたのは爆豪。

 スタングレネードの閃光が出久の視界を奪い、幻術を使えなくさせる。

 

「しまった!? グハッ!」

「油断してんじゃねえよ! ナメてんのか!!」

 

 目を閉じてしまった出久に正面から爆破をブチかます爆豪。

 九尾の自動防御も正面は薄いため、簡単に破られてしまった。

 とっさに狐火を放ち、後退して距離をとった出久だったが、顔にかかる影に気が付いてハッと上を見上げる。

 

「死ねぇ!」

「うわあああ!」

 

 いつの間にか空中にいた爆豪に頭上から攻撃をくらい、地面を転がる出久。むろんそのまま逃がすような爆豪ではない。

 身体を回転させるように連続爆破で追撃し、最後についに強力な蹴りを当てる。

 今大会で初めて出久がくらったクリーンヒットに会場がざわめく。

 当初の予想を裏切り、爆豪の一方的な試合展開となっている。

 これには出久も焦りを隠せない。

 

『くそ。考えてから動く僕のスタイルじゃ間に合わない』

『主様、妾に代われ!』

 

 爆豪の見てから動ける反応速度に磨きをかけた猛攻に出久は手も足も出ない。

 ならば、動物的本能の勘で反応できる乙音の〝白面金毛モード”で対抗するまで。

 一瞬にして体が変化し、通常モードよりも強化された身体能力で距離を詰め、拳を振りぬく乙音。だが――――

 

「カハッ……」

「見えてんだよ、そんな攻撃」

 

 拳は空を切り、逆にカウンター気味に反撃を貰って吹き飛ばされてしまった。

 再び立ちあがり攻撃を仕掛けるも、また同じように反撃をくらう。

 まるで攻撃を見透かされているような感覚に舌打ちが漏れる。

 

「チィ! 妾の動きが見切られている」

「てめぇの動きは速いが、速いだけで単純なんだよ」

 

 単純すぎて読みやすい、と、告げる爆豪だが、やっていることは高度な先読みである。

 見てから動く反応ではなく、相手の動きを予測して対応する能力は、以前の爆豪にはなかったものだ。

 この力を手に入れたきっかけはもう少し前のことだ。

 

 爆豪は最初の戦闘訓練に負けた翌日に、その足で三年生の教室を訪れていた。

 雄英ビッグ3と呼ばれる三人の実力者の元へ。

 結果、ビッグ3の一人、ミリオに半ば弟子入りさせてもらう形で、時間を見つけては教えを受けていた。

 ミリオの戦闘スタイルは何よりも「予測」を重視した戦い方だ。それに倣った爆豪も必然「予測」の力を身に着けていく。

 元来天才型の爆豪である。ミリオとの戦闘を通して驚くべきスピードで「予測」する力を身に着けていった。

 その結果がこの試合だ。

 守勢に回った乙音の九尾の自動防御ですら虚実を交えた攻撃で空振りをさせ、攻撃を当てるほどの行動「予測」だ。

 師であるミリオに比べれば甘い「予測」も、本人がもともと持っている「見てから動く」反応速度で対応できてしまう。

 

 以前戦った時から新たに身に着けた爆豪の実力に自身の敗北を予感する出久。

 

『このままじゃ、かっちゃんに勝てない……』

『主様、弱気になるな!』

『わかってる! でも、乙音の力を借りるだけじゃだめだ』

 

 出久の思考は間に合わず、乙音の動きは見切られる。二人のどちらが相手をしても勝てないならばどうするべきか?

 出久の出した答えはシンプルだ。

 

『僕と乙音の力を合わせるんだ! 一緒に、戦って。僕と!』

『主様よ……よかろう! 愉しい相乗りとゆこうではないか!』

 

 狐火の業火が出久の周囲を囲むように燃え上がり、爆豪に距離をとらせた。

 そして、その炎が消え去って現れた出久の姿に爆豪は目を見開いて驚く。

 

「てめえ、何だ、その姿は?」

「悪いけどかっちゃん」「ここからは二対一で相手させてもらうぞえ?」

 

 新たに見せた出久の姿。

 まず目に付くのは左右半々で別れた髪の色だ。

 右は緑、左は金とツートンカラーとなっている。

 また、瞳の色は右目が緑で左目が赤と、出久と乙音の特徴が左右で別れて現れている。

 

 新モード、ハーフ&ハーフモードとでも呼ぶべきこの形態は、白面金毛モードの身体強化レベルと高火力に通常モードの細やかなコントロールや幻術能力を合わせ持っている。

 要は出久の思考・考察と乙音の動物的勘による反応を両立させたモードだ。

 

「いくよ、かっちゃん!」「いくぞ、爆破小僧!」

「チッ、また新たな能力かよ。出し惜しみしてんじゃねぇぞ、デクゥウウ!」

 

 正面からぶつかる両者。

 そのさなか、出久が乙音に指示を出す。

 

『右の大振り、くるよ!』

 

 出久の思考・考察が爆豪の動きを読みとり、乙音が尾の一つを操って爆豪の右手を封じる。

 同時に繰り出された爆豪の蹴りは、乙音が本能的な勘で避け、ついに拳を爆豪に届かせた。

 吹き飛ぶ爆豪だが、すぐさま立ち上がり、獰猛な笑みを浮かべて出久に向き直る。

 

『追い付いた……ってか? 俺の先読みに』

 

 これまで一方的に攻撃していた相手からの反撃に、爆豪は怒るどころか歓喜の感情でこれを迎えていた。

 求めるものは完膚なきまでの優勝なのだ。

 その決勝の相手の本気をブッ潰してこそ優勝に価値があるのだ。

 出久が本能と思考を両立させ、身体能力と火力・手数で勝負するのなら、爆豪は持ち前の才能(センス)と反応速度、鍛えた個性と先読みによる虚実を混ぜたテクニックで対応する。

 一進一退。

 とても高校一年生とは思えぬ戦いに、会場は息をのんで戦いを見守る。

 激闘を続ける二人であったが、戦いの天秤は思わぬところで傾き始めた。

 

「うっ、あぁあああ……」

 

 立ちくらみのようなものを覚え、頭を抱えて膝をつく出久。

 こんな大きな隙を晒されて放っておく爆豪ではない。容赦なく攻撃を加え、地をはねるほど大きく出久を吹き飛ばす。

 

 H&Hモードの活動限界だ。

 能力をフル活用しているこのモードでは体力の消耗が激しい。

 個性とて身体能力の一部。強い個性には大きなデメリットが当然あるに決まっている。

 前半に蓄積したダメージもじわじわと効き始め、出久はもはや足元がおぼつかない。

 倒れそうになる出久。

 そんな出久に喝を与えたのは意外にも対戦相手の爆豪だった。

 

「フザけんな! 俺が欲しいのは完膚なきまでの一位なんだよ! 勝手に倒れて終わりなんて許さねえ! だから……最後までかかってこい!!」

「かっちゃん……舐めるなよ! 爆破小僧!」

 

 爆豪の言葉を受けて最後の力で拳を握る出久。

 その顔はお互いに笑みを浮かべていた。

 最後の一撃。最後の全力。最後の決着!

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)

〝二極轟一・天崩”

 

 爆豪の身体を回転させた勢いを合わせた特大爆破と、出久の狐火を纏わせた全力の蹴りがぶつかり合う。

 衝撃と閃光が会場を襲い、皆の視界を奪う。

 

 視界が戻り、その結果は……

 

 出久を馬乗りで押さえつける爆豪の姿だった。

 

 

 

 ただし、出久の姿は幼女である。

 

「は?」

「ふぇええ!?」

 

 お互いに変な声を出す二人。いや、会場中で唖然とした空気が漂っていた。

 

 個性発動、巨大狐化、白面金毛化……いずれの際にも副作用が出久を襲っていたが、今回も例にもれず副作用が出たわけである。

 すなわち幼女化である。

 緑谷出久は自分の個性の新たな力を使った結果、身体が縮んでしまっていた!

 身体は子供、頭脳は大人……とか言っている場合ではない。

 現在の状況はありていに言ってヤバい!

 

 1.爆炎の熱で上気して赤い顔と荒い息。

 2.縮んだせいで脱げかけてはだけた服。

 3.そんな幼女を押し倒す荒い息の男子高校生。

 

 Q.ここから導き出される結論は?

 A.スリーアウト! ギルティ! このロリコン!?

 

 ここで出久は体力の限界を迎え、爆豪の勝利となるのだが……

 ネット上では『ロリコン』の文字が躍り狂っていた。

 

 全力を出して完膚なきまでの一位を取ったのに、なぜか不名誉までついてきた爆豪であった。

 

「俺はロリコンじゃねえよ! どうしてこうなったァ!」



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いずく1/2 その13(爆豪戦 エピローグ)

 例年の一年生とはレベルの違う盛り上がりを見せた雄英体育祭も終わりを迎えた。

 下馬評通り、表彰台を独占したのはA組のメンバーばかり。

 中でも決勝戦を争った二人には大きな注目が寄せられていた。

 

 ……いい意味でも悪い意味でもだが。

 

 

 多くの能力を見せ、またビジュアルとしてもパフォーマンスとしても観客を魅せてきた出久だったが、個性の副作用に浮かない顔をしていた。

 八百万に即席で幼い体に合った体育服を作ってもらったのだが、テンションの上がった女子メンバーにこの後着せ替え人形とされる運命も決まってしまっていたのだ。

 正直逃げたいが、幼女化に伴い身体能力が著しく下がっているため、逃げ切れる自信がない。

 というか、女子メンバーはA組だけでなくB組の女子も含まれているため、数の暴力でも押し切られそうであった。

 

 結論。諦めたら? 試合終了だよ?

 

 憧れのオールマイトがメダルを渡してくれるとあって、テンションが上がったが、そのオールマイトにナチュラルに幼女扱いされ、深い傷を負ってしまったりする。

 思わず泣きそうになってオールマイトを慌てさせたのは快挙といえるだろうか?

 

「よく頑張ったな! よーしよーし、高い高ーい!」

「オールマイト!? こ、こども扱いは、その……グスッ」

「あ、そうだったね! ごめんね! つい……なかないで!?」

 

 

 一方、優勝した爆豪はというと、

 最初の宣言通り、優勝を見事に勝ち取った爆豪だが、同時についてきた不名誉に複雑そうに顔をしかめていた。

 決勝戦の戦いが自分の満足のいくものだっただけに、最後のオチが納得いかない。

 

『ロリコンってなんだよ。ロリコンって。しかも相手はデクだし……フザけんな!』

 

 栄光あるトップと取ったというのに、なにゆえ性犯罪者扱いなのか!

 メダル授与の際もオールマイトの下手くそすぎる慰めをもらい、逆に悲しくなりそうな爆豪だった。

 

「伏線回収見事だったな。爆豪少年」

「オールマイトォ……俺ァ、完膚なきまでの一位を取ったはずだよなァ? なのになんでこンな扱いされなきゃならねえんだ!?」

 

 何故か出久との間に柵が設けられているのを見てオールマイトの笑みが引きつる。

 うん。正直コメントしづらい。

 

「あー、まぁ、うん。人のうわさも七十五日というからね! なあに、すぐに気にならなくなるさ。胸を張っていればいいさ!」

「慰め、下手か!! ロリコンだって胸を張ったらダメじゃねえか!」

 

 ごもっともなツッコミに会場中が頷く。

 オールマイト。いつもの爆笑トークはどこへいったの?

 

 

 そんなこんなでぐだぐだに終わった雄英体育祭。

 ある意味歴史に残るものとなったのだった。

 

 

オ・マ・ケ

体育祭の影響

 

 雄英体育祭は全国放送で流されている。

 そのため、当然のことながら出場して活躍した生徒はしばらくは注目の的だ。

 教室では、登校した生徒たちが通学途中での自分たちの注目度について話が盛り上がっていた。

 

「超声かけられたよ。来る途中!!」

「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

「俺も!」

 

 どことなく嬉しそうに語る彼らに対して、瀬呂は複雑そうな顔で言う。

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

 ため息を吐く瀬呂の言葉を聞いて爆豪は鼻で笑った。

 

『ハッ! 俺なんかロリコン扱いだ! ドンマイコールくらいなんだ!』

 

 強く生きて、かっちゃん……

 

 

 

ベストマッチ!

 

 体育祭後、しばらくは幼女の身体のままだろうということで八百万に衣服を何セットか作ってもらった出久。

 だが、女子たちによるファッションショーの開催は避けられず、疲労困憊に陥った。

 正直言って、体育祭の試合よりも精神的な消耗度は高い気がする。

 

 なんとか時間を過ごし、帰ろうとしたところで八百万から呼び止められた。

 

「緑谷ちゃん、ちょっとお待ちになってください」

「えっと、どうしたの八百万さん(ちゃん? ナチュラルに幼女扱い……)」

 

 自分の扱いに不安を覚えるのだが、問いただす元気もなく素直に用件を聞く。

 いろいろと諦めたのだ。ホント。

 

「いままで使っていたカバンでは体に合っていませんでしょう? なので代わりに作っておきましたわ!」

「えっと、うん。ありがとう?」

 

 鼻高々に渡されたのは、赤色の革の光沢が美しいランドセルだった。

 確かに今の見た目には違和感はないだろうが、高校生になってまたランドセルを担ぐことになるとは思わなかった出久。

 雄英高校の制服にランドセルというどこかマニアックな組み合わせの姿は、人々の目に留まり、ネットで話題となった。

 

 こうして出久の黒歴史は拡散していくのである。

 

 

おそろいっていいね?

 

 出久のH&Hモードの副作用は幼女化なのだが、もう一つ副作用がある。

 それは髪の色がツートンカラーのままなのだ。

 日が経つにつれて徐々にもとの緑色に戻ってきているが、今までと見た目が大きく変わり違和感がぬぐえない出久。

 ちょっと元気がない出久に、轟が元気づけるために声をかけた。

 

「緑谷。その髪の色も悪くないと思うぞ」

「そう……かな? でも、違和感がぬぐえないや」

「色は違うけど俺と同じだと思えば(そんなに変に感じなくて)いいんじゃないか? 俺は(お前のおかげで自分の髪の色が)好きになったけどな」

「え、えっと?」

 

 相変わらず言葉が足りない轟。

 なんだかペアルックになったのを喜んでいるようなセリフにも思えなくもないような……

 こうして誤解は深まっていくのだ。

 

 

 

 

オ・マ・ケ その2次回予告風なんちゃってアイデアメモ

 

ステイン「じゃあな。正しき社会への供物」

飯田  「黙れ…………黙れ!! 何を言ったっておまえは兄を傷つけた犯罪者だ!」

 

????

「その命、ちょお~~~っと待った! 暫く、暫くぅ!

 少々暴走気味ではござますが、その慟哭、その頑張り。

 他のヒーローが聞き逃しても、私の耳にピンときました!

 宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)もご照覧あれ! この人を冥府に落とすのはまだ早すぎ。

 だってこの人、ご主人様のお友達ですから! ちょっと私に下さいな?」

 

 

 

※あくまでネタメモです。ヒーロー殺し編は書くかどうかも未定ですので。ご了承くださいませ。




ここまでが、以前投稿分です。
次回、新作。


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いずく1/2 その14(雄英ちゃんねる3)

最新話です。


【モフモフ】雄英高校体育祭実況スレ 一年生の部【ボマー】

 

1:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

このスレは雄英高校一年生の部の実況スレです。

他学年のネタは禁止。

荒しはスルー。

モフモフを讃えよ。

 

 

2:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

爆発くん、やりやがった!?

 

 

3::名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID170257

 

爆豪君に、良き終末を・・・

 

 

4:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID40431

 

爆豪アウトー!(絵面的に)

 

 

5:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID20885

 

彼はいつかヤルと思ってました

 

 

6:名無しのヒーロー 投稿日20*/**/**/** **:** ID:59960

 

ここから先は一方通行だァ!!見逃し禁止ってなァ!!(幼女直前)

 

 

7:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID11451

 

雄英から犯罪者が出たと聞いて

 

 

8:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ウッソだろ、爆豪?!

 

 

9:名無しのヒーロー 投稿日20*/**/**/** **:** ID********

 

スクラップの時間だぜェェェ!クッソ野郎がァァァ!(幼女後)

 

 

10:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID115348

 

羨ましい……

 

 

11:名無しのヒーロー 投稿日2017/12/18 **:** ID7087710

 

爆豪お前、このロリコンめ!

 

 

12:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>10

通報しますた

 

 

13:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

おいコラテメェ!そこ変われや!!(爆豪に向かって

 

あ、ちょ誰だお前ら!

え?セコム?

へ?ちょ、いやああああぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

14:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>13ェ……

無茶しやがって(AA略

 

 

15:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

【審議中】

    |∧∧|       (( ) )   (( ) )  ((⌒ )

 __(; 爆豪)___   (( ) )   (( ⌒ )  (( ) )

 | ⊂l     l⊃|    ノ火.,、   ノ人., 、  ノ人.,、

  ̄ ̄|.|.  .|| ̄ ̄   γノ)::)  γノ)::)   γノ)::) 

   |.|=.=.||       ゝ人ノ  ゝ火ノ   ゝ人ノ

    |∪ ∪|        ||∧,,∧ ||∧,,∧  ||  ボォオ

    |    |      ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧

    |    |      ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )

   ~~~~~~~~     | U (  ´・) (・`  ). .と ノ

              u-u (    ) (   ノ u-u

                  `u-u'. `u-u'

 

 

16:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID296

 

>>13ンンン!?気持ちは理解できるゥ!

 

しかし爆発君は責任もてんのかな?モフモフ子は確か男じゃなかった?

婦女子が喜びそうな、、、あ。ごめんなさいごめんなさい、石を投げないで

 

 

17:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID170075

 

いや、俺ちょっと緑谷きゅん(男の方)直に見た事あるわ。電車で独り言言ってたから覚えてる。

・・・いいケツだったわ。

 

 

18:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

急な腐った流れに草不可避www

 

 

……腐ってるだけに

 

 

19:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

どうしてホモが湧いてるんですかね?

 

 

20:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>18がなんか言ってるぞ?

 

 

21:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

飯田くーん! >>18の座布団全部持っていって!

 

 

22:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID131549

 

爆轟少年・・・さぁ、お前の罪を数えろ!

 

 

23:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

今更数えてられるか!!(子ぎつね爆破も含めて

 

 

24:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>22

幼女を愛することが・・・罪だとでも・・・?

 

 

25:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID81057

 

イエスロリータ!ノータッチ!!!

なのでタマモちゃん直伝?の日除傘寵愛一身しなきゃ(使命感)

 

 

26:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>24

ヒーローさん、こいつです

 

 

・・・汝、モフモフを愛せよ。

 

 

27:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>22

愛することが罪なら…俺が背負ってやる!!ステンバーイ

 

 

28:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID98489

イエスロリータ!!ノータッチ!!

それがわからない紳士(ロリコン)は粛清ですね…

 

まあ、事故だから今回は見逃そう……今回はな……

 

 

29:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID115348

イエスロリータ!ゴータッチ!

 

 

30:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID137911

 

誰か、警察!!もしくはベストジーニアス呼んで!?

 

 

31:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>29

アウトー!

 

 

32:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID296

 

いや警察やベストジーニアスと言っても事故だから難しくね?この案件

 

 

33:名無しのヒーロー 投稿日20**/** ** **:**

 

このロリコン共め‼

 

 

34:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ラッキースケベとかいつからエロコメの主人公になったんだ?

 

 

35:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ラッキー? ラッキーなのか?

 

 

36:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>35

爆豪くんがロリコンならラッキー

ノットロリコンならアンラッキー

 

 

37:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

事故だっていっているけど、本当に事故なのだろうか?

 

 

38:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/****:** ID71176

 

爆豪君……君も同士だったのか

 

 

39:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

爆豪くんを割と理不尽な風評被害が襲う!

 

 

40:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

しかし、緑谷くん。本当は男なんだよな。

個性のせいで女体化って、本人も大変だけど親も大変そう。

 

 

41:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

男の子にも女の子にもなる自分の子供とか……

 

 

正直興奮します!

 

 

42:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

あー、教育とか大変そうだよな

 

 

43:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

ああ!お狐ちゃんの親になりたい!

 

 

44:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

男装女子とか萌える!

 

 

45:名無しのヒーロー 投稿日2017/12/18 08:13 ID64851

 

>>43

息娘(むすこ)さんを僕に下さい。

 

 

46:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

貴様にお狐ちゃんは渡さん!

 

 

47:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

阻止! 断固阻止!

 

 

48:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>44

もしかしたら、男の娘かも!

 

 

49:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>48

にょた化した男の子だって言ってるだろうが!

 

まぁ、男の娘は萌えるけど。

 

 

50:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

男の娘とか、暗黒面に堕ちたか!

 

 

51:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

男の娘のどこがいいんだよ……

 

 

52:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>50

暗黒面の力はいいぞぉ!

さぁ、みんなも一緒に、「男の娘はサイコー!」

 

 

53:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

男の娘……なるほど、確かに魅力的なコンテンツだ。

だが、狐耳ロリっ娘巫女にはかなうまい!

 

 

54:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

いやいや、狐っ娘メイドも……

 

 

55:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

いいや! 狐っ娘裸エプロンだ!

 

 

56:名無しのヒー□ ̄ 投稿日20**/**/****:** ID********

 

このスレ変態多すぎない……?

 

 

57:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

おまえら、自分の性癖をさらけ出すな!

 

 

58:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>56

何をいまさら! 10スレほど言うのが遅いぞ。

我々を誰だと思っている。

筋金入りのど変態だぞ!

 

いったいいくつの性癖をこじらせてきたと思っているのかね?

 

 

59:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>58

やめて、一緒にしないで!?

 

 

60:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>58

なんだろう……敬意をこめて少佐殿とお呼びしたい。

 

 

61:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

SNS、ツイッタ―、ブログ、インスタグラム……

ありとあらゆる手段を使ってお狐ちゃんの個人情報を暴いて見せる!

 

 

62:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

通報すますた

 

 

63:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

通報すますた

 

 

64:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

通報すますた

 

 

65:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

お巡りさんコイツです

 

 

66:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID24837

 

なぁみんな、緑谷きゅんってあらゆる性癖を完璧に解消してくれる可能性がある天使じゃないか?

 

現状の男、女、モフモフ、獣人、巨大、ロリになれる……。

そして幻術が使える……。

 

 

67:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

属性多すぎィ!

 

 

68:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

言われてみれば何と言うカバーの広さだ!

いかん! このままではファン同士の間で派閥ができてしまうぞ!

 

 

69:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

同じヒーローのファンで派閥とか聞いたことねえよwww

 

……ありえそうで、怖い!?

 

 

70:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

>>69

フフフ、その懸念はあたりですよ。

経営科でも、彼の売り出し方についてさっきから議論が絶えないデス。

 

セクシーモフモフ派(主流派)が勢力を占めていたところに、

ロリカワモフモフ派(新派閥)が台頭してきてバトルになってるよー!!

 

 

71:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

経営科www、やっぱりカオスだな、雄英高校。

 

 

72:名無しのヒーロー 投稿日20**/**/** **:** ID********

 

それでもモフモフは外れないあたり、モフリストって、強いな……




みなさん、ネタ提供ありがとうございました!



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職場体験
いずく1/2 その15(職場体験プロローグ)


とりあえず、できたので投下。
キャラ崩壊注意。


 雄英体育祭の後の二日間の休日も終わり、雄英高校へと登校している出久だが、すでに疲弊していた。

 いまだに副作用の幼女化が戻っていないせいで体力面がかなり低下しており、通学するだけでも一苦労なのである。

 本日はあいにくの雨ということもあり、余計に体力を使っているが、それ以上に精神的疲労がヤバイ。

 

『会う人みんなに声をかけられて……全国放送で僕の姿が! イメージが!!』

『主様よ、変質者にだけは気をつけねばの?』

 

 通学中に声をかけられること多数。

 どれも決まって幼児扱いである。

 

「緑谷ちゃん、見てたよー頑張ったねー!」

「こんなに小さいのに偉いわぁ! おばさん感動よ!」

 

 と、頭を撫でられるやら、飴玉やチョコなどのお菓子をプレゼントされるやら。

 男子高校生に対する扱いではない。

 悲しいことに今の見た目からすると違和感がないのが、出久としては泣きそうである。

 果ては、降りる駅の心配までされてしまって、『いずくちゃん、はじめてのおつかい』状態であった。

 

 ついでに、さりげなくケモ耳と尻尾を触ろうとしてくる人が多くて困る。

 満員電車では何度も触られて不快な思いをしたものだ。

 ……これって、痴漢被害に入るのだろうか?

 

 イエスロリータ! ノータッチ! の精神は世の中に浸透していても、イエスモフリスト! ノータッチ! の精神はまだ広まっていないということであろう。

 いや、そもそもモフリストとはモフるという言葉の通り、触れることを第一としているのではなかろうか? ならばモフリストならば触らないという選択肢はないのでは?

 いいや、真のモフリストたる紳士・淑女ならば相手の嫌がる触りかたはしないはずだ。無許可でモフることなど……

 

 話が脱線した。

 

 なにはともあれ、普段よりも苦労を重ねて出久は雄英高校にたどり着いたのである。

 途中、「イズクたん、prpr」だとか、「ケモ耳幼女ハァハァ」だとか、「はぅ~、イズクちゃん、かぁいいよ~! お持ち帰りぃ~!!」などと迫ってくる人からも逃げながらたどり着いたのだ!

 

「思ったより時間がかかったな。いつもより早く出て良かったよ」

『主様の身体を考えれば妥当なところじゃの』

 

 乙音と会話しながら教室に向かえば、すでにクラスメイトが何人か来ているようだ。

 大きすぎるドアを全力で開けて中に入れば、すぐに駆けつけてくる人物がいた。

 

「おはよう、デクちゃん! 雨の中大丈夫だった?」

「あ、おはよう、麗日さん。だ、大丈夫だったよ」

 

 セコム麗日である。

 姿を視認するや瞬間移動と見まごうばかりのスピードで目の前に現れて出久を抱きしめた。

 わー、女の子に抱きしめられて嬉しいね。出久くん(白目)

 

 出久を抱きしめつつさりげなくモフモフを楽しんでいた麗日だったが、ふと、その手が止まる。

 身体を離してようやく見ることができた、麗日の顔は……とっても麗らかじゃなかった。

 

「ねぇ、デクちゃん……今日来る途中で誰かに無理やり尻尾とか耳とか触られた形跡があるんだけど? どんなヤツだったか覚えてる範囲で教えてくれないかな? チョットツブシテクルカラ

「え、なんで分かるの? てか、顔が怖いよ!? あと、小声でなんか恐ろしいこと呟かなかった!!?」

 

 もう、なんかいろいろと言いたいことはあるけれど、とにかく麗日を落ち着かせようと頑張る出久。

 すごい頑張った。物凄い頑張った。

 最終的には「やめて、お茶子おねえちゃん!」と、涙目&上目使いのコンボで。

 くらった麗日は心臓のあたりを押さえて過呼吸気味になったが、なんとか落ち着かせたのだ!

 代わりに出久は何か大事なものを失った気がするが、まぁ、是非もなし。

 

 

 自分の席に座ろうとしたところで、自分の身体にあっていないことに気が付き、どうしようかと悩んでいると後方の席に座っていた八百万が声をかけてきた。

 

「あら? 緑谷ちゃん、座席が身体にあっていませんのね。お創りいたしましょうか?」

「うーん、なんかごめんね。最近いろいろと創ってもらってばかりで……」

「とんでもありませんわ! むしろ、どんどん頼ってもらって構いませんの!」

 

 目を輝かせて張り切る八百万に少し引きつつも、頷く出久。

 もうこうなれば乗りかかった船である。

 

「あと、ついでと言ったらなんだけど、今の身体のサイズで男子の制服も創ってもらえないかな?」

「ええ、構いませんがどうしてですの?」

 

 出久の頼みに首を傾げる八百万にその理由を告げる。

 

「個性の副作用なんだけど、どの順番で元に戻るのか分からないんだよ。もしかしたら子供の姿のまま男に戻るかもしれないし……」

「なるほど、そういうことですの! でしたら、すぐにお創りいたしますわね」

 

 理由を説明され、納得する八百万。

 その近くで説明を聞いていた麗日にその時電流が走る。

 

「ケモ耳で小さい男の子のデクくん……つまり、ケモショタ。しかも弟系? ……これは!?」

「あのー、麗日さん?」

 

 ジュルリと涎をたらしそうな雰囲気にそばにいた八百万にしがみつく出久。

 ちょっと、この麗日さんは全然麗らかじゃなくて近寄りたくないなー。

 そう思って救けを求めた先の八百万は――

 

「わ、私、頼られてますの? これが、姉心? ああ、守護(まも)らないと! そんな気持ちが溢れてきますわ!」

「あ、なんかこっちもダメだ」

 

 何かに目覚めてしまったらしい八百万。

 「百お姉ちゃんが守護(まも)ってあげますわ!」「百お姉ちゃんと呼んでくださいませ!」と、暴走気味である。

 前門の(麗日)、後門の(八百万)といった絶体絶命の状況を救けてくれたのは蛙なあの人だった。

 

「二人とも落ち着いたらどうかしら。緑谷ちゃんがすごい怖がってるわ。いまはこんな姿になっているけど同い年のクラスメイトなのよ? あんまり自分の趣味を押し付けるのは良くないわ」

「う、ごめんね。デクちゃん」

「し、失礼しましたわ。緑谷ちゃん」

 

 出久を抱え上げながらよしよしと慰め二人を諭すその梅雨ちゃんの姿は、なんというか、そう、いうなれば母性に溢れていた。

 圧倒的な姉力!

 抱え上げられた出久が思わず「お姉ちゃん……」と呟きそうになるこの慈愛のパワーに二人は浄化されそうだ。

 

「おはよう、みんな! むっ、そろそろ予鈴が鳴るぞ。席に着きたまえ!!」

 

 珍しくギリギリにやって来た飯田が教室に来るなり注意を飛ばす。

 兄がヴィランに襲われて重傷を負い、暗い気持ちをごまかして学校に来た飯田だったが、いつもと同じ雰囲気のクラスにすこし救われた気持ちになったとか。

 

 だが、その暗い気持ちがなくなったわけではない。

 飯田が抱え込んだ影を解決できるのは、もう少し後のことになる……。

 

 

オマケ

『幼馴染はどうしてた?』

 

 何かをこじらせた女子二人に幼馴染がピンチなわけだが、爆豪はどうしてたのか?

 

『なんかデクの野郎、大変なことになってるが、下手に関わるとまたロリコン扱いされるよなァ……』

 

 体育祭でのロリコン扱いの傷はまだ癒えていないのだ。

 よって、何もしなかったのだ。

 うん、まぁ、仕方ないよ……。

 ドンマイコールは瀬呂よりも爆豪に投げかけてあげるべきである。

 

 

『なんちゃって次回予告』

 

「コードネーム『ヒーロー名』の考案だ」

「胸ふくらむヤツきたああああ!!」

 

 

相澤「緑谷、その姿じゃ、職場体験は無理だろう。職場体験の日にちまでになんとかヒーロー活動が出来るようになっていなかったら、学校で補習にするからな」

出久「そ、そんな!?」

麗日「デクちゃん、職場体験いけないの!?」

 

 このままでは職場体験に行くことができない。どうする? 出久!




麗日さんと八百万さんには申し訳ないことをした。だが、反省はしない!


さて……。

ぶっちゃけ、デクくんのヒーローネーム考えてないよー!!
ついでに新調するであろうコスチュームもどんなふうにするのか決めてない!!
さらに言えば、職場体験先も決めてぬぇえ!

ヘルプミー!
また活動報告でアイデア募集です。
よかったら覗いてください。

こんな先行き未定な小説ですが、これからもお付き合いください。


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たとえばこんな解説集 いずく1/2編

活動報告にてアンケート実施中。


◎いずく1/2

 タイトルの元ネタは「らんま1/2」より。

 元々、OFA以外にも譲渡されたり、引き継がれる個性があってもいいはずだ、というアイデアから始め、思いついたのが「ぬらりひょんの孫」の羽衣狐。

 ちょうど出久が原作で九代目のOFA継承者というのもあって、九尾ネタにもピッタリだと採用。各種能力は妖怪の狐のイメージから。

 女体化の理由は、羽衣狐の女性のイメージと、「すまっしゅ!」1巻末の堀越先生の女の子の出久が気に入っていたため。

 スピンオフとはいえ公式がやったなら問題ないはずだ! と、決定。

 結果、男になったり女になったりということでタイトルも決まり。

 これで完成したのが「いずく1/2」でした。

 シリーズとして続くとは思っていなかったり。

 

【作中小ネタ解説】

[その2]

 俺の幼馴染が美少女なわけがねえ!

……お察しの通り、あの有名ツンデレ妹小説のタイトルより。

 

[その3]

 巨大狐化 ……モデルはNARUTOの九尾。

 

[その5]

 ボドボドだ! ……仮面ライダー剣のダディこと、橘さんの台詞より。「俺の体はボロボロだ!」が、「ボドボド」に聞こえるんだらか面白い。

 

[その6]

 毛を抜いて式神召喚 ……何故か西遊記のイメージがあります。モンキーマジック!

 

 これが人間のやることかよ! ……Fate/zeroの雨生龍之介の台詞より。本作と違い、元ネタでは「おまゆう」台詞だったり。

 

 いつから幻術にかかってないと思っておった?

……BLEACHの藍染惣右介の台詞より。「一体いつから――――鏡花水月を使っていないと錯覚していた?」

 幻術繋がりで使用。

 

[その7]

 出久のアルターエゴ ……Fateシリーズの玉藻の前がモチーフ。分霊の分霊のそのまた分霊とかいるらしい。

 →イズクナイン ……タマモナインという派生がいる。

 →ミコーン ……上記玉藻の前の謎の台詞より。

 →毛並みがアッープ ……タマモキャットのレベルアップ時のセリフより。

 

 いっぺん、死んでみる? ……地獄少女のキメ台詞より。

 

 瞳術 万華鏡 ……NARUTOの写輪眼ネタ。

 

[その8]

 びっくりするほどユートピア

……まず全裸になり、自分の尻をバンバン叩きながら白目をむき、「びっくりするほどユートピア!」とハイトーンで連呼しながらベッドを昇り降りする。

 2ちゃんねるで紹介された除霊方法……らしい。

 

 無類の猫好きの称号 ……ドラクエ9の称号の1つ、「無類の草好き」より。取得条件は「〇〇そう」と名前のつく道具を合計100個使用すること。

 謎称号である。

 

[その9]

 飼い猫キタ……捕まえもフる…やわかたです。

……初代バイオハザードの作中の日記、通称かゆうま日記がモチーフ。

 

 エンデヴァーの息子とか嫌いッス!

……お察しの通り、彼です。

 

 その他、活動報告より皆さんのアイデア提供多数。

 

[乙音オリジン]

 化け狐と人生を相乗り ……仮面ライダーWより。主人公たちが初変身の際の台詞「悪魔と相乗りする勇気……あるかな?」

 

 もう何も怖くない ……某魔法少女の台詞。不穏?ナンノコトカナー?

 

[その10]

 ここからは妾の大舞台じゃ!! ……仮面ライダー鎧武の決め台詞「ここからは俺のステージだ!」より。

 

 狐火・豪 火焔太鼓 六連三百両

……落語の火焔太鼓より。ボロい太鼓が三百両で売れたのを、馬鹿にしていた妻に50両ずつ投げつけた話から。

 

 噛みつき攻撃 ……仮面ライダーアマゾンの攻撃方法。

 

 狐火・豪 明暦大火振袖炎戯 ……江戸時代の大火事、明暦の大火より。振袖は火元になったという俗説の呪われた振袖から。

 

[その11]

 デンジャラスビースト ……Fate/Grand Orderのハロウィンイベントネタ。まさにデンジャラスだった。

 

 言葉の足りない轟 ……Fateシリーズのインドの英雄、カルナをモデルに。轟くんに勝手につけた捏造設定。すまない……変な設定をつけてすまない。

 

[その12]

 〜ができないおぬしは敵ではない

……仮面ライダーディケイドのカブトの世界にて、仮面ライダーザビーがディケイドへと向けた言葉より。

「クロックアップできないお前など敵ではない」

 

 ひとっ走り付き合ってもらうぞ! ……仮面ライダードライブの主人公の決め台詞より。「ひとっ走り付き合えよ!」

 

 10秒間だけだがな!

 ……上記のザビーの台詞を受けたディケイドの台詞より。10秒間だけ加速するファイズ・アクセルフォームで戦ったシーンのネタ。

 ちょうど飯田君のレシプロバーストの使用限界も10秒間なので。

 「そいつはどうかな? とも限らないぜ。付き合ってやる、10秒間だけな!」

 

 九尾の自動防御 ……元ネタはぬら孫の羽衣狐とNARUTOの我愛羅の砂の防御。中忍試験の我愛羅vsリー戦をイメージしてたけど、あんまり雰囲気はでなかった。

 

[その13]

 着替え中の幼馴染の部屋に間違えて入る。

……テンプレ、鉄板ネタ。部屋を間違える相手を轟くんから幼馴染(女)に変えるだけでラブコメの匂いが……

 結果的にウケたのでよし。

 

 ハーフ&ハーフモード ……元ネタは能力はガンダムooのハレルヤ・アレルヤから。見た目は仮面ライダーW。

 

 二極轟一・天崩 ……「史上最強の弟子ケンイチ」の静動轟一と、Fateシリーズの玉藻の前の技、呪相・玉天崩を混ぜた名前。

 静動の合わせたモードでだしたのと、狐キャラの蹴り技ということで。

 

 爆豪ロリコンネタ ……若干、中の人ネタ。爆豪役の岡本さんがとある魔術の禁書目録のキャラをしているので。で、そのキャラは何かとロリコン扱いされてるので。

 

 身体子供、頭脳は大人。 ……言わずと知れた名探偵ネタ。

 

 諦めたら? 試合終了だよ?

……バスケ漫画の金字塔、スラムダンクの安西先生の名台詞……を改変したもの。

元の趣旨は「諦めるな」ってメッセージなのになー。

 

[その14]

 爆豪君に、よき終末を…

……仮面ライダーオーズのラスボスの台詞より。

 

 こっから先は一方通行だァ!! ……とあるシリーズ。中の人ネタ。

 

 さぁ、お前の罪を数えろ! ……仮面ライダーWの決め台詞より。

 

 今更数えてられるか!! ……上記の台詞に対する劇場版ラスボスの返しより。正確には「いまさら数え切れるか!」が正しいが。

 

 日除傘寵愛一身 ……呪相・玉天崩の別バージョン。別名、一夫多妻去勢拳。ようは金的である。

 

 愛することが罪なら……俺が背負ってやる!!ステンバーイ

……仮面ライダー555の主人公の台詞が元ネタ「戦うことが罪なら、俺が背負ってやる!」ちなみに、555の変身時の音声はスタンディングバイで、ステンバーイは仮面ライダーゴースト登場の仮面ライダーネクロムの変身音声だったり。

 アイデア提供よりそのまま使用。

 

 割と理不尽な風評被害が襲う ……進撃の巨人の巻末ネタ「特に理由のない暴力がライナーを襲う」をもじって原型をとどめていない感じになった。

 

 狐っ娘巫女、狐っ娘メイド、狐っ娘裸エプロン ……全部の属性を持ったキャラがいるらしい。誰のことか全く分からないワン!

 

 何をいまさら! 10スレほど言うのが遅いぞ。〜〜

……HELLSINGの少佐がバチカン13課の「狂ってる」という言葉に対する台詞……を残念にした。

 

 その他、活動報告へのアイデア提供多数。

 

[その15]

 かぁいいよ〜! お持ち帰りぃ〜!! ……雛見沢在住の少女の台詞。この状態の彼女に近づくべからず。

 

 

 とりあえず、こんな感じです。

 もしかしたら見逃していたものもあるかも。




活動報告にてアンケートです。
今後の展開を決めるので、是非どうぞ。
期限も決まっているので、お早目に!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=178414&uid=28246


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いずく1/2 その16(ヒーロー名&職場体験先決定)

遅くなりました。


「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」

「「「胸膨らむヤツきたああああ!!」」」

 

 相澤先生の言葉に盛り上がるA組だったが、すぐさま鋭い眼光に射竦められて静聴の姿勢に戻った。

 静かになったところで体育祭の結果を踏まえた上で行われた『プロからのドラフト指名』について説明する先生。

 1年生の時に来た指名は、将来性に対する興味に近いものでしかなく、今後の成長度合いによってはバッサリと切られてしまう可能性もある。

 だが、現時点での他者からの分かりやすい評価ということもあって、生徒たちの関心は高い。

 そして、その結果は――――

 

 圧倒的な出久の一位であった。

 次に轟、爆豪と続く。優勝だった爆豪よりも出久と轟のほうが指名数が多かった理由は……まぁ、その、ね? いろいろである。

 

「なあ、やっぱり爆豪の指名が少なくなったのって……」

「ああ、きっとロリコ――――」

「てめえ、それ以上、言ったらコロス」

 

 切島と瀬呂が爆豪の指名数について言及するが、爆豪に殺気を向けられて黙り込む。

 ヤブヘビである。口は禍の元ということわざを体感したのだった。

 多少騒がしくなった教室を無視して相澤先生は話を続ける。

 

「これを踏まえ……指名の有無に関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

 プロの活動を実際に体験してもらい、今後の成長の糧にしてもらうためだという。

 その職場体験のために必要なのが、ヒーロー名だ。

 プロヒーローの下で体験ができると、みんなと同じくテンションが上がる出久。だが、そんな出久に冷や水を浴びせるような言葉を先生は口にした。

 

「ただし、緑谷。今のお前は見た目通りの身体能力しかない。職場体験の当日までにヒーローとして活動できると判断できなければ学校で補習授業だ」

「そ、そんな!?」

 

 いくら指名があったとはいえ、使えないお荷物を送りだすのは相手側に迷惑がかかるから、と、合理的判断に基づき冷淡に事実を突きつける。

 それが嫌なら当日までに身体を元に戻してくるか、その身体でもヒーローとして活動できるようになってこいと告げられ、顔を青くする出久。

 そんな状況だったので、その後に現れた18禁ヒーローのミッドナイトが現れてヒーロー名をつけることを告げられたが、ヒーロー名の決定に集中できるはずもなく。

 気が付けば再考の爆豪と並んで残ってしまっていた。

 

「緑谷、なかなか決まらねーのな」

「あ、うん、ちょっとうまく決まらなくてね」

 

 隣の席に座っていた瀬呂が声をかけてきたので、ハッと顔を上げる出久。

 それをきっかけに周囲のメンバーも声をかけ始めた。

 

「デクちゃん、思いつかないなら私考えてみてもいいかな?」

「麗日さん、うーん、ちょっと思いつかないからアイデアを聞いてもいいかな?」

 

 悩んでいるところへ麗日が他人の意見を聞いてみることを提案してきたので、承諾する出久。

 麗日をはじめとして次々とクラスメイトが意見を繰り出した。

 

「“セラピーヒーロー”、『オールグリーン』とかどうかな? デクちゃんの名前の緑も入ってるし、オールマイトっぽいし!」

「悪くないけど、せっかくなら狐要素もいれたいよね。『稲荷』とかいいんじゃない?」

 

 麗日の意見に耳郎がさらに意見を重ねる。

 

「狐なら、稲荷よりも玉藻の前のほうが印象が強えけどな」

「いや、玉藻の前は妖怪だろ? ヒーロー名としてはよくないんじゃねーか? そうだな、特徴から『ナインテイル』とかどうだ?」

「単純に『テイルズ』なんかもいいかもしれないね★」

「あの、俺のヒーロー名『テイルマン』なんだけど……」

 

 上鳴が玉藻の前を推すも、切島が反対して尻尾に注目した名前をだす。それに便乗して青山も意見を出したのだが、尾白の名前と被ることに気が付いて却下となった。

 

「九尾の狐……九尾……きゅうび……キュービー……QB……『キュウベエ』とかどうだ?」

「やめて砂藤ちゃん。その名前、なんだか知らないけど嫌な感じがするわ」

「梅雨ちゃん、その名前に過去に嫌なことがあったのかしら? では、私からも一つ、『善玉(センギョク)』なんていかがでしょうか? 南総里見八犬伝に登場する善玉の九尾の狐からとりましたの」

「おー、さすがヤオモモ。頭いい名前の付け方。んーとね、あたしは、『ファントムフォックス』! 理由はかっこいいから!」

「『ダブルフォックス』!」

「……『狐仙(フーシェン)』」

「芦戸、葉隠、常闇、おまえら完全に趣味に走ったな」

 

 なぜか出久のヒーロー名を巡って意見が飛び交う中、出久は自分の相棒に相談してみることにした。

 というか、いままでしてなかったほうがおかしいのだけれど。

 

『乙音、ヒーロー名なんだけど何かアイデアあるかな。僕じゃどうしても決めきれなくて』

『む? 主様の好きにすればよいと思うのじゃが? というか、憧れておるオールマイトから名前をもじってとればよいのではないかの?』

『前はそう思っていたんだけど、こうやってヒーローへの道を実際に歩き始めてみると逆に恐れ多い気がしてね』

『難儀じゃな。フーム。希望を言うなら、主様の名前が入っているものがいいな。妾にとっては主様こそヒーローゆえの』

 

 乙音の意見を受けて出久は少し考え込んだ。

 自分というヒーローはいったいどんなヒーローなんだろうか?

 そう自問自答したとき、これだというヒーロー名がパッと頭に浮かんできた。

 サインペンをとり、目の前のホワイトボードに力強く書き込む。

 

「あら、決まったのね緑谷君。さあ、見せてちょうだい」

「はい! 僕のヒーロー名はこれです」

 

“お狐ヒーロー”『クオン』

 

 これが出久が決めたヒーロー名だ。

 漢字で表記すれば『久音』となる。出久の「久」と乙音の「音」を合わせている。

 自分がどんなヒーローなのか改めて問い直してみた結果、結論は「一人と一匹で一人のヒーロー」。

 そこで、二人の名前を一文字ずつとってヒーロー名としたのだ。

 ついでに、ずっと一緒にいるという意味も込めて「久遠」の意味も入っている。

 悩んだだけあって、悪くない名前だと出久は思っていた。

 

「はい! 先生、そこは“お狐ヒーロー”じゃなくて、“モフモフヒーロー”だと思います!」

「う、麗日さん!?」

 

 

====================

 

 ヒーロー名も決まれば、あとは職場体験先を決めるだけ。

 指名数一位の出久は大量のリストと格闘していた。

 

「すごい指名数だ。どうする。一つ一つを細かく見ている暇はないぞ。でも、かといって知名度だけで決めるのもなんだか違う気もするし。せっかくの機会なんだから自分の身になるようにしないと。でも、その判断基準もまだ決めてない。地域性にするのか、それとも主に取り扱っている活動内容から? 規模なんかも判断基準だよね。将来自分もサイドキックを雇うかもしれないし、そこの部分をどうしてるのかも見てみたい。あ、でも、チームを組んでいるヒーローもいるのか。それなら、それで見てみたい。いや、待てよ。そのまえに自分の能力をもう一度見直して考えたほうがいいのかも。自分の能力にあってるところに行ったほうが? いやまてまて、むしろ自分に足りないところを補えるようにするべき? 自己分析から始めたほうがよさそうかも。たしか、前に自分の能力をまとめたノートがあったはず。それを参考にしてみるのも―――――」

 

 周囲からはもはや芸だと思われているほど、集中してブツブツとつぶやきながら考える出久。

 見た目幼女がリストを真剣に見ながらつぶやいている姿は、なんとも言えない光景だった。

 

「緑谷、なかなか決まらないのか?」

「あ、うん。そうなんだ。これだけたくさんあるとどこにするか迷っちゃうよ」

 

 迷いに迷っている出久に声をかけたのは轟。

 その声に反応して一度リストから目を離して視線を向けて話をする。

 

「轟くんもたくさん指名来てたけど、もう決まったの?」

「ああ。俺は親父のところに行くことにした」

「ええ!? エンデヴァーのところに!?」

 

 あれだけ嫌っていたのに、と、驚く出久だったが、

 

「あいつがNo.2と呼ばれている事実をこの目と体で体験して受け入れるためだ」

 

 と言われて納得したと同時に嬉しくなった。

 友人が、クラスメイトが前を向いて進んでいっていると実感できたからだ。

 そう思ってニコニコしている出久。

 だが相手は天然くんの轟だというのを忘れてはいけない。

 

「緑谷。ヒーローとしての活動ができないと補習授業になるんだよな?」

「うん。そうだけど、どうしたの?」

「親父が言ってたんだが、おまえにもエンデヴァーの事務所から指名きてるはずだ」

「そうだね。たしかに指名きてたよ」

 

 いつものように爆弾発言を口にする。

 

「俺と一緒に親父のところへ(職場体験に)来ないか? (戦えない状態でも)俺が必ず守ってみせるから」

 

 轟の発言に周囲の空気がザワリと騒がしくなる。

 特に女子たちは黄色い歓声を上げるのを必死でこらえている状態だ。

 こんな言葉を投げかけられた出久はというと。

 

「僕が職場体験に行けなくなるか心配してくれたんだよね? ありがとう、でも、大丈夫。一応、考えはあるから」

「そうか。でも、何かあったら言ってくれ」

 

 慣れてきたのか、言葉の足らない轟の言いたいことを補って受け止められるようになっていた。

 こうなるまでいろいろと苦労したんだろう。きっと。

 

 そんな轟とのやり取りもあって、最終的になんとか職場体験先を決めた出久。

 決め手になったのは麗日の一言だ。

 

「やりたい方だけ向いてても見聞狭まる!」

 

 自分のできることを増やそうという麗日の意見に感銘を受けた出久は、自分の知識の足らない部分や苦手だと思っている部分を補えるような職場体験先を選ぶことにしたのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 

 ――――職場体験当日。

 

 ヒーローコスチュームの入ったケースをそれぞれ手にして駅に集合したA組。

 相澤先生からの注意点を聞いた後は職場体験先へそれぞれ向かっていく。

 列車に乗り込む前に、兄をヴィランに襲われてからピリピリした様子の飯田に声をかける出久。

 

「飯田くん。本当にどうしようもなくなったら言ってね。友達だろ」

「……ああ」

 

 しっかりと返事をしてくれたものの、その様子になぜか不安になった出久はカバンから小物を一つ取り出して渡す。

 

「よかったら、飯田くん、これ持って行って」

「これは、お守りか?」

「うん。安全祈願ってやつ。近くに置いておいてくれるといいんだけど」

「ありがとう。肌身離さず持っているようにしよう」

 

 お守りをポケットに入れて立ち去っていく飯田。

 それを見送った後、出久も目的の列車に乗るために足を向けた。

 

「けっこう山奥の方だから時間かかりそうだ。列車に遅れないようにしないと」

 

 出久の職場体験先、それは――――

 

『ワイルドワイルドプッシーキャッツヒーロー事務所』

 

 である。

 




というわけで、職場体験先は「ワイプシ」でした。
投票結果は以下の通り。
A.「ワイプシ」24票
B.「逢魔ヶ刻」8票
無効票 4票
でした。
圧倒的な差でしたね。期限を過ぎていた4名の方はカウントしておりません。
ご了承ください。といっても、カウントしていても結果は変わらなかったですが。

名前は管蘿乃さんの意見を参考にしました。
それ以外の方もできる限り作中で使わせてもらいました。
ご協力、感謝です。

では、次回からは職場体験先の話。
出久だけでなく、飯田くんや爆豪、轟くんの話なんかも入れながら進めていきたいです。

あと、活動報告も見てもらえればうれしいです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=180975&uid=28246


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いずく1/2 その17(職場体験初日)

続き投下!


 電車とバスを乗り継ぎ、緑豊かな山岳地帯に近い場所に拠点を構えるワイルドワイルドプッシーキャッツの事務所にやってきた出久。

 軽く背伸びをして凝り固まった肩や背筋をほぐしたあと、緊張を和らげるために深呼吸をしてからコスチュームのケースを足場にしてチャイムに手を伸ばした。

 体が幼いのでこんなところでも一苦労だったり。

 

 キンコーン、と、音が鳴り、インターホンから応答がする。

 

『はい。ワイルドワイルドプッシーキャッツ事務所です』

「あ、あの、雄英高校1年A組の緑谷出久です。職場体験に来ました」

『あ、いらっしゃい。待ってたわ。今行くから少し待っててちょうだい』

 

 声が途切れた後、パタパタと人の移動する気配がする。

 扉の前で待つ出久もソワソワとせわしない。

 

『うわぁ、さっきの声、マンダレイだよな。本当に職場体験に来たんだ!』

『主様よ。嬉しいのはわかるが少し落ち着いたらどうじゃ?』

『あ、うん。そうだね。気持ちを落ち着かせないと……』

 

 見かねた乙音が声をかけるものの、あまり効果はなかったようで、出久の狐耳と尻尾はピコピコゆらゆらとその気持ちを表していた。

 これのせいで周囲の人間にとって出久の心理状態がわかりやすいことになっているのだが、そうと知らぬは出久本人だけだったりする。

 なんで、周りの人間は教えてあげないのかって? そりゃあ、見ていてかわいいからね!

 

 ドアノブを回す音が聞こえ、出久の緊張感が高まる。

 元気よく挨拶しないと、と、気合をいれたのだが、その気合は空振りすることになった。なぜなら――

 

「煌めく眼でロックオン!!」

「猫の手、手助けやって来る!!」

「どこからともなくやって来る……」

「キュートにキャットにスティンガー!!」

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」

 

「お、おおお! すごいすごい! ワイプシの生の決めポーズだ!」

 

 扉を開け放たれた瞬間に行われたワイプシフルメンバーによる決めポーズに出久のヒーローオタク魂が黙っていなかったからである。

 緊張感はどこへやら。逆に興奮してピョンピョンと体全体で喜びを表していたり。

 体の年齢に合わせて精神年齢も若干引きずられているらしい。行動がなんだか幼いぞ?

 

「そんなに喜んでもらえるとは思わなかったけど……緊張はほぐれたかしら?」

「はい! ありがとうございます!!」

「あはは。見た目も本当にかわいいキティだね。私はマンダレイ。で、こっちが」

「ねこねこねこ……私がピクシーボブ。よろしくね」

「あちきがラグドール。ニャハハハ! よろしく~」

「そして、我が虎だ。よろしくな」

「はいぃ! 存じてます! よろしくお願いします!!」

 

 ヒーローの職場訪問ということもあってテンション上がりまくりの出久に、ワイプシのメンバーは苦笑ぎみ。

 まぁ、悪くない顔合わせとなったのではないだろうか。

 一応、自己紹介を終えたところで、マンダレイがもう一人の人物を紹介する。

 

「あと、事務所のメンバーではないんだけど、私が預かっている従甥を紹介するわね。ここにいる間は顔を合わせることも多いでしょうから」

 

 玄関から建物の中へ呼びかけるマンダレイの声に答えて出てきたのは5歳くらいの目つきの鋭い男の子。

 

「出水洸汰っていうの。ほら、挨拶しなさい。洸汰」

「はじめまして。ヒーロー科の緑谷出久って言います。よろしくね」

「……フンッ!」

「うわっぷ!」

 

 差し出した右手は無視され、代わりに彼の手から湧き出した水が出久の顔に直撃する。

 

「洸汰!」

「ヒーローになんてなりたいなんて言うヤツなんかとつるむ気はねえよ」

 

 マンダレイがすぐに叱るが、洸汰は悪びれた様子もなく一言言い放って去って行ってしまった。

 残されたのはびしょ濡れになって呆然としている出久と困った顔のワイプシの四人。

 とりあえず、このまま濡れたままにしておくわけにもいかないので、出久にコスチュームに着替えるように促すのだった。

 

 

 更衣室に案内された出久。

 以前の戦闘訓練で破損してしまったコスチュームだが、修理に出して返ってきてから中身を確認するのはこれが初めてだったりする。

 本来ならば事前に確認しておくものだろうが、サポート企業から戻ってきたのが遅くなったのと、コスチュームの管理の関係上、手続きが面倒であったこともあって今日まで先延ばしになってしまっていたのだ。

 ちゃんと直されているか気になりながらケースを開ける出久。

 その様子をみて出久は驚愕で声を上げることになる。

 

「なんっっだ、これ!?」

 

 

 

「お、出てきたみたいだね……うん、いいコスチュームじゃない」

「ねこねこねこ! キュートじゃん!」

「うむ。格好よく決まっているな」

「サムライ! ハラキリ!」

 

 マンダレイが最初に出久の姿に気が付きコスチュームを誉めれば、ピクシーボブ、虎がそれぞれ別のポイントに注目しながら感想を述べた。

 ラグドールの感想はちょっとよくわからないけれど。

 

「ううぅ、前のスーツの原型をとどめてないよ。お母さんが作ってくれたのが……」

 

 一方、着用している出久はといえば、自分がデザインして母が作ってくれたスーツが原型をとどめていないことに泣きそうになっていた。

 サポート企業による修復はもはや改造と呼べるものだった。てか、改造っていうか、ほぼ新調です。これ。

 

 こうなってしまったのは、出久の個性によって男女に体形が変わることに加え、身長が変化してしまうことも考慮したうえでの変更だった。

 この問題を受けて、スーツの生地をMt.レディのコスチュームにも使われているようなすごい伸縮性のあるものに変更し、体格・体形の変化に対応できるピッチリスーツになった。

 しかし、これでは体の線が出すぎて本人や周囲の視線が大変なことになってしまうため、元のスーツをインナーのようにして装飾を増やすことになったのだ。

 その装飾も実用の面と本人のイメージや見た目の良さも考えられている。

 まず、妖狐のイメージから和風のデザインにすることが決定。

 白地で大きくスリットの入った袴に、和服と日本の鎧をモチーフにした防具が組み合わさったような衣装が追加してある。

 着物のような袖の上腕から肩を守るように大きめの長方形の部品が両肩にあり、胸部を守る部品は首元から左右に二つ小さめの長方形のものが垂れ下がっている。

 下半身の日本鎧の部分でいう草摺(くざずり)佩楯(はいだて)と呼ばれる部分は、縦長で両足を守るように配置されている。

 基本的に動きを邪魔しないように設計されていて、できるだけ軽量化もされている。

 これで刀を腰に差していれば狐の侍、女武者といったところだろうか。

 

 まぁ、今のところ見た目幼女でコスプレにしか見えないのだけれど。

 

「うぅ、どうしてこうなったの!?」

 

 ドンマイ、出久。コスチュームの性能は上がっているんだから……

 

 

==================

 ――保須市

 

 ヒーロー『マニュアル』のところへ職場体験に訪れていた飯田は、マニュアルに伴って市内のパトロールに出かけていた。

 マニュアルからパトロールの重要性や意義について解説をもらい、時折返事をしながらも飯田の意識は別のところを向いている。

 

『ヒーロー殺し……現代社会の包囲網でも捕らえられぬ神出鬼没ぶり。

 無駄なことかもしれない……それでも今は追わずにはいられない』

 

 兄を再起不能にしたヴィラン。『ヒーロー殺し』。

 幾人ものヒーローを手にかけた凶悪犯のことが頭を離れないのだ。

 

『僕はあいつが許せない』

 

 それを追う気持ちはヒーローの持つべき義憤ではない。

 暗く、そして理性を今にも焼き尽くそうとする炎にも似た憎しみだった。

 

 

==================

 

 ――東京都 ベストジーニスト事務所

 

「正直、君の事は好きじゃない」

「は?」

 

 目の前のデニム生地で全身をコーデしたコスチュームに身を包んだヒーロー、『ベストジーニスト』から思わぬ言葉を告げられて固まる爆豪。

 指名を受けて職場体験に来たはずなのに、なぜこんなことを言われなければならないのか。

 と、憤る暇もなく。ベストジーニストが口を開く。

 

「私の事務所を選んだのもどうせ五本の指に入る超人気ヒーローだからだろ?」

「(自分で超人気とか言うのかよ……)なら、なんで俺に指名を入れた?」

 

 少しイラっとしながらも、冷静に質問を投げかける爆豪。

 ここで切れようものなら相手からのイメージも悪くなるし、相手の意図もつかめない。

 努めて冷静を心掛ける。

 

「最近は『良い子』な志望者ばかりでねえ。久々にグッと来たよ。君のような凶暴な人間を“矯正”するのが私のヒーロー活動……ヴィランもヒーローも表裏一体だ。そのギラついた目に見せてやるよ。

 何が人をヒーローたらしめるのか」

「ハッ! 上等!!」

 

 自分の凶暴さが気に食わないらしいと聞いた爆豪は好戦的な笑みを浮かべ、ベストジーニストに鋭い眼光を飛ばす。

 生まれついてからこの性格。このキャラクターだ。

 そうそう変わらないし、変えるつもりもない。

 もとより、ここには技術を盗みに来たのであって、性格を矯正してもらうために来たつもりはないのだ。

 思いっきり、反抗する気満々の爆豪である。

 

 そういうところが、駄目だと思われてるんだとは考えないのだろうか?

 

 

「ついでに、今後のヒーロー活動をする上でも悪影響を及ぼすだろう、君の特殊性癖も矯正するとしよう」

「おい、ちょっと待て!」

 

 変なことを言い始めたベストジーニストに爆豪が声を荒げる。

 このヒーロー、自分のあの悪評を信じているのではあるまいな?

 

「君くらいの年頃なら同世代の異性に興味を持った方が健全だと思うのだがね?」

「俺゛は゛ロ゛リ゛コ゛ン゛じゃ゛ね゛え゛ん゛だよ゛! 信゛じて゛ぐれ゛よ゛!!」

「ガチ泣きだと!?」

 

 膝をついて泣き崩れる爆豪。

 プロヒーローにまでそんなイメージを持たれていると知って、さすがに堪えたらしい。

 凶暴な性格の矯正とかの前に、カウンセリングが必要になりそうな爆豪であった。

 

 




出久のコスチューム案。皆さんアイデア提供ありがとうございました。
和風の案が多かったので、元のスーツをインナーのようにして武者鎧っぽくなりました。
具体的なイメージが湧かないという人はFGOの牛若丸とか源頼光とかで検索してもらえればいいかも。

次回の1/2は、
洸汰くんとコミュニケーション!

活動報告 更新しました
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=181132&uid=28246


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いずく1/2 その18(職場体験初日2)

前回の話でハーメルン一かわいそうな爆豪の認定をもらってしまった……


 コスチュームのお披露目を終えた出久はワイプシのメンバーからレクチャーを受けていた。

 

「いい? 山の天気は変わりやすいから、天候には常に気を配っておく必要があるの」

「なるほど!」

 

 ガリガリとノートにメモを取る出久。

 人命救助をする際の基本的な知識や注意点やワイプシの活動地域である山岳地帯での活動について体験談を交えた講義を受けたり、万が一のための森林・山岳地帯でのサバイバル術など、職場体験一日目はほとんど座学で終わることとなった。

 

 

 その晩、ワイプシのメンバーともに夕食を終えた出久。

 野営などで料理をすることが多いからか、大変おいしい料理だった。特に米は土鍋で炊いたのか、普段の炊飯器とはまた違ったおいしさだったり。おこげとかね。

 そんなこんなで夕食を楽しんだ出久だったが、ふと一人だけで外に出かけていく洸汰の姿を見つけた。

 

「あれ? 洸汰くん? こんな時間にどこに行くんだろう?」

『幼子が一人だけ夜中に出かけるとは不用心な。主様よ』

「うん。追いかけよう」

 

 一人出かけた洸汰の後を追いかける出久。だが、身体能力は今は洸汰と変わらないくらいになってしまっていて、なかなか追いつけない。

 結局追いつけたのは洸汰が目的の場所に着いた後だった。

 

「こ、洸汰くん。やっと追いついた」

「てめえ! 何故ここが!?」

「ごめん、出かけるのを見かけて心配になってさ」

「いらねえよ。心配なんて。俺の秘密基地から出ていけ」

 

 出久のことをギロリとにらみつける洸汰。

 5歳とは思えない目つきの悪さに普通ならビビりそうなものだが、出久はあまり気にしていなかったり。

 なぜかといえば……

 

『うわぁ、この目つきの悪さ、昔のかっちゃんみたいだなぁ』

『爆破小僧と似た雰囲気を感じるのお』

 

 昔の幼馴染を思い出していたからだ。

 ついニコニコしてしまう出久に、逆にイラっとくる洸汰。

 本人が精いっぱい睨みつけているのに、相手が笑顔ではそりゃ怒りたくもなる。

 イライラを募らせた洸汰は出久に対して怒りに任せて不満を口にする。

 

「だいたい何なんだよ、俺よりちんちくりんなくせしてヒーロー目指したいなんて、馬鹿じゃねぇの?」

「ちんちくりん!? 馬鹿!?」

 

 あんまりな言われように目を丸くして驚く出久。

 そんな姿もイラつくのかさらに不満を爆発させた。

 

「馬鹿だろ! ヒーロー目指したいなんて言うヤツはみんな!」

「そ、そんなことないよ!」

「いいや、そうさ! ヒーローだとかなんとか言ったって、自分の“個性”をひけらかしたい馬鹿じゃないか!」

 

 ヒーローを否定する洸汰に反論しようとした出久だったが、口をつぐむことになった。

 洸汰の言葉から、彼が嫌っているのはヒーローに対してだけではないと感じたからだ。

 

『洸汰くん、ヒーローだけじゃなく超人社会そのものが……』

 

 なぜここまで“個性”に対して嫌悪感を、それを扱うことを生業とするヒーローを嫌うのか理由を知らない出久はなんと言えばいいのかわからず口ごもる。

 個性に対する考え方は人それぞれだ。特に人生の大半を“無個性”で過ごしてきた自分とは考え方が違うに決まっている。

 自分自身も個性に対して思い悩んだ時期があったのだ。

 うかつなことは出久は言えなかった。

 

「ヒーローを目指すのが馬鹿だと? 勝手なことを言うな、阿呆め!」

「な、なんだと!」

 

 が、出久の口から出てきたのは洸汰に対する暴言だった。

 もっとも、出久本人が口にしたというよりは、別人が出久の体を借りて言ったのだが。

 

『お、乙音!? いきなり何を言ってるの!?』

『いいや、黙って聞いておればこの小僧。主様のことをナメきっておる! 何か言わねば気が済まぬ』

 

 出久の中の同居人である乙音は黙っていられなかったようで、身体の主導権を奪って洸汰と口論を始めた。

 

「個性をひけらかしたいバカじゃと? フン! 犯罪者とヒーローの違いも分らんのか小僧め」

「うるせえ! 個性を使ってちやほやされたいと思ってるのは変わらねえだろ」

「全然違うわ、阿呆め!」

「黙れよ、このバカちび!」

 

 だんだん幼稚な口喧嘩になってきてしまい、収拾がつきそうになくなってきた。

 見た目相応といえばそうなのだが、片方の精神年齢を考えると、何をやっているのかとツッコミたくもなる。

 

『乙音、落ち着いて。子供相手に大人げないよ!』

『うるさい! 主様は、黙っとれ!!』

『黙れって!? ちょ、なんで乙音が拳を振り上げるビジョンが――』

 

 精神だけの状態で意識を刈り取るという器用な技を使われ、プツンと意識が途絶える出久。

 主様とか言っておきながらひどい扱いである。がんばれ、出久。

 

 

 

 翌朝。目を覚ました出久は、同居人に文句を言いながら準備をしていた。

 

『ちょっと、乙音。昨日はひどいじゃないか!』

『すまぬ、主様。あの小僧に主様が馬鹿にされたと思うといてもたってもいられなくての』

『その主様とやらの意識を刈り取ってちゃ、本末転倒だよ』

『うぅ、反省します』

 

 コスチュームに着替え、朝食を食べに行く。

 ドアを開けた先にいたのは、昨日喧嘩をしたばかりの洸汰だった。

 

「あ、お、おはよう。洸汰くん」

 

 恐る恐る、声をかけてみる出久。

 昨日の今日なので、反応が怖い。特に自分が気絶? してからどんな会話があったのか知らないのだ。

 

「チッ、おはよう。朝食できてるからさっさと座れよ」

「う、うん。ありがとう」

 

 また冷たい反応が来るのではと身構えていたが、思ったよりもマイルドな対応をされて気が抜ける。

 舌打ちはされたものの、睨みつけられたわけでもなく、若干こちらを気遣うような言葉を投げかけられて驚くしかない。

 

『ね、ねえ、乙音。いったい昨日はどんなことを話したのさ?』

 

 その原因になったであろう。相棒に思わず聞いてしまうが、乙音の答えはというと。

 

『まぁ、それは主様といえど言えぬな。何せ二人の秘密ゆえの?』

『え、ええ~!?』

 

 教えてくれなかったり。

 なんだか分からないことばかり増えて、頭を抱えたくなる出久。

 自分の相棒と体験先の小さな住人の扱いに困っているところへ、洸汰の面倒を見ているマンダレイが姿を見せた。

 

「あら。出久くんも来てたのね。ちょうどいいわ。今後の活動について伝えておかないといけないことがあったから」

「はい! なんでしょうか?」

 

 職場体験の今後の内容を告げられると聞いて、背筋を正す出久。

 どんなことをするのか気になるので、一言も漏らさないよう意識を向ける。

 さて、どんなことをするのだろうか?

 

「今日からしばらく、体一つで山の中でサバイバルをしてもらうわ。山での活動の仕方を学ぶのは実地体験が一番だからね」

「さ、サバイバル!?」

 

 昨日レクチャーは受けたでしょ?

 と、笑顔を向けるマンダレイはとても冗談を言っているようには思えない。

 マジでか……と固まる出久だったが、現実は無情だ。

 朝食後、ナイフ一本と水筒を持たされて山の中に放り出された出久だった。

 

「ど、どうしよう?」

 

 が、頑張れ出久。プルス・ウルトラ?

 

==================

 

 ――保須市。

 

「君、ヒーロー殺し追ってるんだろ」

 

 パトロール中にマニュアルから告げられた言葉に飯田は言葉を失う。

 図星であった。

 事実、飯田が保須市に来たのはヒーロー殺しを追うためなのだから。

 

「私怨で動くのはやめたほうがいい」

 

 この聞きづらいことを告げたのはマニュアルのヒーローの、人生の先輩としての忠告からだった。

 

 ヒーローに逮捕や刑罰を行使する権限はなく、ヒーロー活動が私刑となってはいけない。

 もしそう捉えられれば、重い罪となること。

 ヒーロー殺しに罪がないわけではないが、飯田の生真面目な性格から視野が狭くなっているのではないかと案じたこと。

 

 それらすべては飯田を思いやっての言葉だった。

 それは飯田もよくわかっている。分かっているのだ。

 

『しかし……じゃあ、しかし……!! この気持ちを――!! どうしたらいい!?』

 

 だが、敬愛する兄を再起不能にされた恨みを、抑えることなどできはしない。

 ましてや、その下手人であるヒーロー殺しが再度現れる確信があるのならなおさらだ。

 その執念が引き寄せたのか……飯田はヒーロー殺しと遭遇することとなる。幸か不幸かは誰も知る由もないが……。

 

 

==================

 

 ――東京都。ベストジーニスト事務所。

 

 超人気ヒーロー、ベストジーニストは必死で職場体験に来た生徒を慰めていた。

 彼の心の傷は大きかったのか、人目も憚らずにベストジーニストに愚痴を言っている。

 最初ということでサイドキックたちと同席していなくてよかった。プライドの高そうな爆豪は周りに人がいたらさらにダメージを負ったことだろう。

 

「ガキのころから一緒にいたクソナードが、無個性だと思ってた幼馴染(デク)が個性を使った上に、最初の戦闘訓練で俺が負けることになってよォ! その上なんでか男から女になってるとか訳が分かるかァ!!」

「世の中には不思議な個性もあるからな」

「不思議で済ませられるかァ!! どうしろってんだ、俺に! デクだけじゃねえ、俺と同じくらいのヤツで実力が俺以上のヤツがほかにも居やがったんだ!」

 

 爆豪の話を聞いてベストジーニストは頷く。

 狭い世界から広い世界に出て挫折を知る。それはよくあることだ。たいていの人間はそこで二つのパターンに分かれるだろう。

 

「だから俺はできる限りの努力をしたんだ。先輩に頭ァ下げて鍛えてもらって、少しでも実力をつけようとしてきたんだぜ?」

 

 そこで膝を折り、諦めてしまう人間。

 その挫折を糧に努力を重ね飛躍する人間。

 そのうち後者である人は褒められるべき人間だろう。そして、この爆豪は明らかに後者であった。

 

「最大限の努力もしただろーが! 体育祭の優勝っていう結果も出した! ――――なのにその評価がロリコン(これ)なんだよ!」

 

 その結果がひどい風評被害と考えれば、彼はどれほど悩んだことだろう。

 先入観から彼を傷つけてしまったことを、ベストジーニストはひどく反省した。

 

「全力を出して全力で戦っただけだろ! 俺の何が悪かったってんだよ!!」

「そうだな。君は悪くない」

 

 挫折乗り越えて全力尽くした結果が悪夢じみた風評被害とか、自分でも心が折れる自信がある。

 こうなれば、自分がこの職場体験の短い期間にできる限り彼のイメージをよくする努力をしていくしかない。

 と、決意したベストジーニスト。

 最初の挨拶の時とは違い、優しい声音で声をかける。

 

「大変だったな。だが、安心するといい。私もこの短い期間だが君のイメージをよくするように協力しよう」

「ベストジーニストォ……」

 

 救けを求めるような目でベストジーニストを見る爆豪に、安心させるように笑みを浮かべる。

 

「私も伊達に五本の指に入る人気ヒーローはしていないさ。任せるといい」

「頼む、ベストジーニスト」

 

 プライドは高いが必要とあらば頭を下げることができるのは爆豪の美点だろう。

 最初はプライドの塊だと思っていたベストジーニストは、自分の見る目のなさに苦笑してしまう。

 

「ああ! まずは粗暴な言動を改めるとしよう。少なからず君が誤解されているのはソレが原因だと思う。何、任せておきなさい。私のところで過ごせば身だしなみも協調性も身に着くさ」

「ベストジーニスト……断る!」

「ああ、一緒に……はぁ!?」

 

 断られると思っていなかったベストジーニスト。

 その理由を聞いてみれば、いかにも爆豪であった。

 

「なんで、俺が間違ってねぇのに俺のキャラクター変えなきゃならねえんだよ! 変えるのは周りの認識だろーが!」

「いや、その周りの認識を変えるためにもだな……」

「俺は悪くねえ! 俺は悪くねえぞ!!」

 

 獰猛に吠える爆豪。

 それを見てベストジーニストは思った。

 

『メンタルが強いのか、それとも繊細なのか……わからない。こんな生徒は初めてだ』

 

 なんでこんな面倒な生徒に指名だしちゃったのか。

 ちょっと、後悔しているベストジーニストだった。

 

 

オマケ『ザ・勘違いサイドキック』

 

 職場体験一日目を終えて爆豪を帰した後。

 ベストジーニストの手の中にはグラビアの写真集があった。

 

「ふう。彼のロリコン(特殊性癖)を直すために用意したのだが無駄になってしまったな」

 

 爆豪がロリコンだと思っていたベストジーニストは、その矯正のために成熟した女性に興味を持つようにとグラビア写真集を用意していたのだった。

 正直冷静になると訳が分からないが、きっとベストジーニストも今までと違った生徒を職場体験に迎えるとなって、緊張していたのだろう。たぶん。そういうことにしておこう。

 

 使い道のなくなった写真集を処理しなければいけないと考えているベストジーニスト。

 いつもなら不要な雑誌の処分はサイドキックに任せていたのだが、なんだかこういったグラビア写真集の処分を頼むのは気が引ける。

 自分で処理するかと、ごみ置き場に向かったベストジーニスト。

 だが、彼の失敗は時間を考えずに捨てたことだ。

 

 彼が写真集を分別して捨てた後に、ほかの雑誌を捨てに来たサイドキックとすれ違った。

 そしてサイドキックが見たのは捨てられている写真集。

 

『べ、ベストジーニスト……そう、だよな。彼もこういったものに興味を持っていて当然だよな』

 

 上司のちょっとした秘密を知ってしまったような気持ちになったサイドキックの彼。

 次の日、彼のベストジーニストを見る目はなんだか生暖かかったという。

 

「ベストジーニストも男ですもんね。興味を持って当然ですよ」

「待て、何の話をしているんだ?」

 

 ああ、風評被害とはこうして生まれるのだなぁ……

 




どうしよう、飯田くんサイドのシリアスが息していないの。
どうして?


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いずく1/2 その19(職場体験二日目~)

お待たせしました。
今回は出久編だけ!


 百聞は一見に如かず。

 実践に勝る経験なし。

 

 あれこれ聞いたりするよりも、とにかく実際に身体を動かして経験した方が何かと身に着くものである。

 その理屈は理解できるのだが、いきなり山の中に一人置き去りにするのはやりすぎじゃないだろうか。

 そう出久は頭の隅で思いながら、必死に今日の寝床を作っていた。

 

「本当に、ナイフ一本と水筒だけ渡されて置いて行かれるとは……」

『思ったよりスパルタじゃの』

 

 蔦をロープ替わりに、枝と草葉で簡易テントを作る。

 そのほかに食料や水の確保をしたりと、いろいろとすることは多くて大変だ。

 大変ではあるのだが、かと言って耐えられないほどかというとそうでもない。

 割と平気な顔で過ごしているくらいだったりする。

 

 というのも、乙音がものすごい生き生きとしていたから。

 

『久方ぶりの森の中、野生が疼く、疼くぞ!』

「あ、木の実発見!」

『残念、毒ありじゃな。む、そこにマムシがおるぞ!』

「え、危ないな。気を付けないと」

『何をしておるのじゃ! 早く捕まえよ! 今晩の夕食じゃぞ!!』

「え、ええ!?」

 

 こんな感じで乙音が野生の勘や知識で助けてくれるので、割と簡単に過ごせている。

 特に火なんかは狐火で一発で着火である。

 逆に、出久も学んだサバイバル技術を活かそうとするものの、ほとんど使うことができなくてちょっと落ち込んでしまった。

 

『乙音に助けてもらってばかりで、僕、全然役に立ててないや』

 

 暗くなる出久。

 実を言えば、こうなってしまうのは山に放り込んだワイプシたちの思惑通りというところでもある。

 サバイバル術を知識として知っていたとしても、いざ実際にそういう状況に遭遇した時にはなかなかその知識を活かせないものなのだと、体で体感させるためのものだからだ。

 結果を見れば、乙音の活躍により問題なく過ごせているものの、ワイプシたちの意図したとおりの事を感じさせられている出久。

 ただ、こう一人きりになった時ほど、考えというのは暗い方、悪い方に向きがちなもので。

 

『今回のことだけじゃないや。体育祭でも乙音の力を借りるばかりで、僕はなにも出来てない』

 

 二人で一人のヒーローだと言ってながら、乙音に頼ってばかりだと思い悩む出久。

 本当のところはそうではないのだが、今使っている“個性”は乙音のものだという考えが頭に根付いてしまって離れない。

 そんな悪い考えにはまり込んでしまった出久を救けるのはいつだって、相棒だ。

 

『主様よ。つまらぬことを思い悩んでおるの』

『乙音……』

『主様と妾は一心同体。妾の力は主様の力じゃ。それが納得いかなくとも、自分のものにするために努力するのが主様であろう?』

 

 そのための特訓もしておったしの。

 と、笑う乙音に元気づけられる出久。

 今は乙音に頼りきりだったとしても、自分が成長していけばいいのだ。

 そして、この相棒はそれをいつまでも待っていてくれる。そんな信頼があった。

 

 不安が払しょくされたからか、眠くなる出久。

 毛布代わりに、自分の柔らかな尻尾に包まって眠る。

 悪い夢は見なかった。

 

 

 翌朝。朝食のカエル(not梅雨ちゃん)を食べた出久は、空を見上げてため息を吐いていた。

 

「これ、一雨きそうだよね?」

『うむ。間違いなく嵐になるの』

 

 乙音と共に、天候が荒れる予想をする。

 空を見れば雲の流れが早く、吹き付ける風も湿ったものになっている。

 何より乙音の野生の勘が、そう告げているのだ。

 

 とりあえず、数少ない荷物をまとめ、すぐに動ける準備をしておく出久。

 簡易テントでは心もとないので、雨風をしっかりしのげる場所を探さねばならない……と、思っていたのだが。

 

『出久ちゃん、天候が荒れそうだから訓練は中止! ラグドールと一緒に迎えに行くからそこから動かないでちょうだい』

「あ、マンダレイさん……よかった。迎えに来てくれるみたいだよ」

『うむ。思ったより早くサバイバル実習は終わってしまいそうじゃの』

 

 迎えが来てくれるとわかり、ホッと胸をなでおろす出久。対して乙音は少し残念そうだったり。

 久方ぶりに野生の本能を発揮できていたのが楽しかったようだ。

 そのことを感じ取った出久は、また時期を見て山に来ようと決めた。自分の相棒が喜んでくれるのならそれくらいどうってことはない。

 

『そういえば、かっちゃんの趣味は登山だったな……装備とかおすすめの場所とか聞いたら教えてくれないかな?』

 

 ふと、幼馴染の趣味を思い出す出久。

 あの決勝戦で全力で戦ってから、少しだけ関係が改善した二人は、周囲の心配をよそにメールやアプリでやり取りするくらいはしているのだった。

 まぁ、学校では爆豪の方が出久のことを避けているのであまり話はできていないのだが。なお、そのことについて出久はあまり気にしていない。

 

 いろいろと考え事をしているうちに、マンダレイとラグドールの二人が迎えに来たので、移動をする。

 といっても、出久の身体能力は駄々下がり状態なので、マンダレイとラグドールに抱えられての移動なのだが……

 

「うぅ……は、恥ずかしい」

「マンダレイ、マンダレイ! あちき、なんか母性に目覚めそう!」

「はぁ……変なこと言ってないで急ぐわよ」

 

 

====================

 

 マンダレイとラグドールが出久を迎えにいく少し前の事。

 

「気象台の予想によると、この後山の天気が大荒れになりそうだ」

「そうみたいね。雨雲レーダーの様子を見てもひどい天気になりそう」

「マズイんじゃない? 出久ちゃんが山でサバイバル実習中だけど、初心者がいきなり山の嵐をどうにかできるとは思えないよ」

「ロクな装備もなく、生半可な知識しかない……あ、駄目かも、これー」

 

 虎が気象台から送られてきたデータを示しながら山の天気が荒れそうだと予測する。

 マンダレイもほかのデータを出してその予測に同意すると、ピクシーボブとラグドールが山にいる出久の心配を口にする。

 山岳救助を主な活動としているだけあって、山の危険については重々承知しているワイプシたち。

 

「山で遭難なんかしたら命の危険もありえるわ。だから……」

 

 マンダレイが言葉を途中まで言うも、ほかの3人とも何をするかはわかりきっている。

 目で合図をしてラグドールと共に出発の準備を進める。ピクシーボブと虎は万が一のことを考え、緊急出動できるように用意を始めた。

 

 するべきことをするために動き始めた4人。

 その陰で、こっそり話を聞いていた人物がいた。そう、洸汰だ。

 

『山が荒れる? そこにあいつがいるのか。ヒーローになるためだか何だか知らないけど、危ないところに好き好んで行って危ない目に遭うなんて馬鹿じゃないか』

 

 ケッと、吐き捨てるも、胸のもやもやは晴れない。

 イライラして頭をかきむしれば、この間の夜の会話がよみがえってきた。

 

 お互い口喧嘩をして大きく息を荒げた二人。

 ついなぜヒーローをそこまで庇うのかと聞いたときに、乙音はその気持ちを語ったのだ。

 

『信じられないかもしれんが、妾は人から人へとのり移ってきた“個性”じゃ』

『長い年月を生きてきて、個性を悪用する人間を多く見てきたのじゃ』

『中には妾の宿主が、妾の力を使って悪事を働いたり、妾の力のせいで破滅したりする姿を見てきたのじゃ……』

 

 そう悲しそうに告げる乙音に、洸汰は「やっぱり個性なんてものがなかった方がよかった」と、告げるが、乙音はその意見に真っ向から反対した。

 

『妾もそう思ったことがある。個性なんてものがなければ妾はただの一匹の獣で生涯を終えたはず。それが個性なんてモノを手にしたせいで、多くの人を不幸にしてきた……と』

『だが、主様に、出久に出会って救われたのじゃ。ここにいてもいいのだと。この力で人を救えるのだと』

『個性だと何だといっても所詮は力でしかない。それをどう使うかでよくも悪くもなる』

『じゃから、“個性”と一括りにして否定しないでほしい。悪いことばかりではないのじゃから』

 

 真摯に告げる乙音の言葉になんと返事をすればいいか分からなかった洸汰。

 何とか返せたのは、悲鳴のような怒鳴り声だった。

 

「そんなの分からないだろ! そもそも“個性”なんてものがなければ、個性のせいで悪いことなんて起きないじゃないか!」

 

 “個性”なんてものがなければ、両親は――

 心の奥でくすぶっていた悲しい気持ちが思わず口に出そうになるのを必死でこらえた洸汰。

 グッと黙り込むその姿を見て優しく微笑んだ乙音は話を続ける。

 

『かもしれんの。それでも、それでも“個性”を使って人を救けよう、人を守ろうとすることは素晴らしいことに違いない。だから、それを仕事とするヒーローも素晴らしいと思えるのじゃ』

 

 

 夜遅くになり、その時の会話はここで終わってしまっている。

 だが、それでも洸汰の幼い心に響くものはあった。

 完全には納得はできない。だが、それでも少しわかったような気がするのだ。

 両親を亡くした当時、周囲の人が口々に誉めた「自分を置いていって」までやっていたヒーロー活動(コト)

 それがどういうことなのか、どんなことだったのか、少しわかる気がするのだ。

 

「個性を使ってまで人を救けることが本当に素晴らしいことなのか……俺が試してやる!」

 

 少年は胸の奥のもやもやしたものを解決するために行動を始めたのだった。

 

 

 拠点に戻ってきた出久とワイプシのメンバー。

 彼らが洸汰の姿がないことに気が付くまで、不運なことに時間がかかってしまうこととなる。

 

 

====================

 

オマケ『悩め! 職場体験先~不用意な一言~』

 

 まだ出久が職場体験先をどうするか悩んでいた時の事。

 なかなか決められない出久を心配してクラスメイトが集まってきていた。

 

「デクちゃん、どうするの? まだ決まらない?」

「うん……行きたい職場体験先が分からないのもそうなんだけど、そもそも僕の今の状態で行くことができる場所があるのか不安でさ」

 

 出久の顔を覗き込みながら尋ねる麗日に不安そうに答える。

 現在、個性の副作用で身体能力が駄々下がりの出久。

 このままでは職場体験に行けないかもしれない。

 暗い雰囲気に耐えられなかったのか、瀬呂が出久のもとにやってきて茶化すようにこう告げた。

 

 

「まぁ、職場体験先なら最悪いいところがあるぜ?」

「いいところ?」

「ああ。キッザニアなら今の緑谷でも大丈夫だろ!」

「き、キッザニアって……」

 

 キッザニアとは、就学前の児童を対象とした職業の模擬体験施設の事である。

 今の出久の見た目をからかっての一言なのだろうが、真剣に悩んでいた出久には大ダメージであったり。

 精神が肉体に引かれているのか、つい、目から涙がこぼれてしまう。

 

「うぅ、酷いよぉ、瀬呂くん」

「え、いや、泣くなよ。なんか悪ィ」

 

 泣き出した出久を見て動揺する瀬呂。すぐに謝罪するが……それで済む状況でなかったのが不幸である。

 何故って?

 そりゃあ、セコム麗日の前でそんなことしたら、ねぇ?

 

「瀬呂くん。ちょっと、裏でオハナシしようか?」

「ヒィ! う、麗日ァ! 全然顔が麗らかじゃな――」

 

 麗日に肩をつかまれ、そのまま重さを無くされて教室から引っ張り出される瀬呂。

 教室の巨大なドアが閉まる直前に見た瀬呂の顔は、恐怖に歪んでいたという。

 

 その日、瀬呂の姿を見たものはいなかった……

 

 なお、翌日にはちゃんと登校してきたのでご安心を。

 

「ウララカ怖い、ウララカ怖い……」

「せ、瀬呂ー!?」

 




デクちゃん、カエルを食す。若干野生に戻ってますね。
学校が始まったら梅雨ちゃんの顔を見れるのだろうか?


一つ、皆様にお願いなのですが、
他の小説の感想の中で、拙作についての言及はお控え願えないでしょうか。
ハーメルンの某出久TS小説の感想に拙作の名前があって心臓に悪かったです(汗)
割と鉄板ネタ使っていたり、同じ原作を下地にしているのでストーリー展開やアイデアが被るのはある程度当然だと思いますので。

何卒宜しくお願い致します。


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いずく1/2 その20(職場体験3日目 出久ルート完)

今回は、
『出久ルート三日目 完』
『飯田ルート三日目 導入』
『オマケ・爆豪』

の、三本でお送りいたします。


「大変、洸汰がいないの!」

 

 マンダレイの慌てた声が事務所に響く。

 一同はしばらく呆然としたあと、事態を飲み込んで騒然となった。

 

「なんだと!? 事務所のどこかにいるんじゃないのか!?」

「あちきの個性を忘れたの? 虎。事務所にもこの周辺にもいないよ!」

 

 虎が事務所のどこかにいるのではないかと疑問を口にするが、即座にラグドールに否定される。

 広範囲をサーチできるラグドールの個性に引っかからない。つまりそれは近くにはいないことを意味している。

 

「あたしたちの目を盗んで出かけたってこと? でも、何のために?」

「たぶん、どこかで山の天候が悪くなることを聞いたんだと思う。洸汰、こんな手紙を残していってたの」

 

 洸汰が出て行った理由を考えるピクシーボブにマンダレイがメモの一切れを渡す。

 そこには拙い文字で短く一言書いてあるだけであった。

 

『いずくをたすけに行ってくる』

 

 出久を救けに、つまり、山に向かったということだ。

 天候はすでに荒れ始め、土砂崩れの危険もありうる状況になっている。

 そんな山の中に、不十分な準備の体力のない子供が一人ぼっち。

 端的に言って非常にマズイ状況だ。

 

「そんな、僕のせいで……」

「出久ちゃんのせいじゃないわ。それよりも、早く洸汰を探しに行かないと」

「うむ。子供の足ならそこまで遠くには行っていないはず。急いで出発だ」

 

 自分のせいで、と、ショックを受ける出久に一言慰めの言葉をかけた後、迅速に動き出すマンダレイ。

 同じく虎の号令に合わせて動き始めるワイプシたち。

 山岳救助のプロだけあって、対応は早い。

 それに一つ二つテンポが遅れて出久も動き出す。

 

「僕も、僕も手伝います!」

「いいや、駄目だ。今の汝の身体ではかえって邪魔になるだけだ。おとなしく我らが戻るまで待っているのだ」

 

 自分も協力を申し出たが、かえって邪魔になると告げられてしまう。

 二次遭難のリスクも理由に挙げられてしまえば、反論もしようがない出久。

 

『肝心な時に限ってなにも出来ない。クソ! 人を救けるヒーローになりたくて雄英に入ったんじゃないのかよ!』

 

 自分の無力さに絶望しかける。

 だが、そんなときに立ち上がらせてくれるのはいつだって身近な相棒だ。

 

『しっかりしろ、主様。こんな時のためにあの力を鍛えてきたのではないのか?』

『乙音……』

 

 身体能力が下がった状態で職場体験に行く権利を勝ち取るために鍛えた能力を使うべきだと告げる乙音に、出久の萎えていた気力が戻ってくる。

 しっかりとワイプシたちを見据え、力強く宣言する。

 

「僕自身が邪魔になるのなら、代わりに()()で協力させてください!」

「「「「こ、これは!?」」」」

 

 出久の見せた能力に驚くワイプシ。

 その能力は確かに山岳で人を探すのに適していた……

 

==================

 

 叩きつけるような雨に、ぬかるんで歩みを邪魔する地面。

 雨音は周囲の音だけでなく自身の助けを呼ぶ声もかき消し、雨粒は視界を遮って正しい道筋を隠してしまう。

 急に降り出した雨のせいで道を外れ、迷子になってしまった洸汰は、大きな樹の下でうずくまって雨粒を避けていた。

 

「クソ! 急に降ってきやがって……」

 

 空を見上げ悪態をつくが、雨はやむ気配を見せない。

 濡れたせいで体温が奪われ、震える身体をギュッと抱き寄せる。

 いや、震えているのは寒さだけが原因ではない。

 

「チクショウ、なんで、こんなことに。あいつなんてほっとけばよかったんだ!」

 

 今の状況に怒鳴り散らす。が、それは不安の表れだった。そうやって気持ちを高ぶらせていないと不安で押しつぶされそうで、だからせめて怒ったようなフリをしている。

 しかし、そんなささやかな抵抗など知ったことではないとばかりに、自然は猛威をふるう。

 

「ヒィ! なんなんだよ! もう!!」

 

 雷鳴が洸汰の意地を折るように鳴り響く。

 おもわず頭を抱えて目をつぶるが、不安は増すばかりだ。

 

「パパ、ママ……」

 

 両親の名前を口にする。

 そうしてみて感じるのは安心ではなく諦めであった。

 

 引っ越し用の段ボールに囲まれ、一人座ってみていたテレビ。

 そこには亡くなった両親を「立派なヒーロー」だと称賛する報道番組が映っていた。

 幼い洸汰にはすべては理解できなかったが、両親がヒーローをやっていたから自分のもとに戻ってこなくなったのだという事実だけは理解できた。

 それ以来、洸汰にとってヒーローとは自分から大事な人を遠ざける存在で、そしてそんな存在が自分を救けてくれるとは思えなくなったのだ。

 

『俺も、パパとママと同じだ。他人のことを救けようとして、結局自分がひどい目にあう。その癖、周りの人はそれをすごいことだって誉めるんだ……』

 

 馬鹿だ、馬鹿みたいだ。

 そうつぶやく洸汰の心は諦観で占められていた。

 何もかもを諦めた洸汰。その足元に何か柔らかなものが触れる感触がしてハッと顔を上げる。

 一匹の子狐が寄り添っていた。

 

「なんだ、おまえ?」

 

 狐を見て出久のことを思い出すが、ありえないなと首を横に振る。

 この狐が出久本人というわけがあるはずもないのだから……

 

「洸汰くん、大丈夫だった!?」

「……シャ、シャベッタアアアァッ!??」

 

 本人ではない、のだが、子狐が出久の声でしゃべりだして、変な声を上げてしまう。

 いやまぁ、動物が急に人の言葉を話し始めたらそりゃあ驚くよね?

 

 

 身体能力を理由に断られた出久は、式神の大量召喚による協力を申し出た。

 体育祭第二種目の騎馬戦で見せた式神の大量召喚。それだけではあの厳しい相澤先生が許可を出すはずもなく、前回よりも修行を積んでパワーアップしてきたのだ。

 強化されたのは、その質。

 ただ出すのではなく、一体一体に対する細かい指示を同時並行的に出せるようになったこと。そして、それらの式神と同期して情報を集め、処理することにも成功している。

 出久本人を司令官とする式神の軍団。それが今回の職場体験のために強化した能力であった。

 ちなみに、式神の能力については他にもできるようになったことがあるのだが、今は割愛しておく。

 

 大量の子狐の式神を操って、人海戦術を使って洸汰の捜索を行った出久。

 視覚だけではなく、人よりも鋭い聴覚や嗅覚を使って洸汰の足取りを追い、ついに洸汰を見つけたのだ。

 五感をリンクさせている出久本人を経由して、ワイプシのメンバー一人一人に着けている式神によって、洸汰の居場所は伝えられ、あとは救助を待つばかり。

 だが、不安そうにしている洸汰をそのままにしておくわけにもいかない。

 そこで出久は洸汰のところにいる式神を変化させ、自分の姿を取らせる。

 

「洸汰くん、もう大丈夫」

「お、まえ……」

 

 目を見開いて驚く洸汰を安心させるように、ギュッと抱きしめて声をかける出久。

 大丈夫、大丈夫。と、頭を撫でながら洸汰に語り掛ける出久に、洸汰の緊張が和らいでいく。

 

「もう大丈夫。僕が来たよ」

「う……うぅ、あああ――」

 

 安心感からとうとう泣き出してしまう。

 自分のピンチに駆けつけてくれた出久に、どこか胸の奥が温かくなるのを感じながら、洸汰の意識は遠のいていった。

 出久の姿をした式神に抱えられて眠る洸汰の姿をワイプシたちが見つけるのは、もうしばらくしてからの事だった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「よかった。洸汰くん、ワイプシの皆さんと合流できたみたい」

『一安心じゃの、主様』

 

 目を閉じて式神の操作に集中していた出久は、向こうの式神からワイプシと合流したことを伝えられてホッと息を吐く。

 同時並行して能力を行使するのは並大抵の苦労ではなく、負担も大きい。

 もし、もう少し負荷のかかることをしていたらキャパオーバーしていたかもしれない。

 何とかなってよかった。

 そう思って椅子から立ち上がったところで視界がグラリと揺れ始めた。

 立ち眩み? と、思った瞬間には床に倒れていることを自覚する。

 

「ど、うして? キャパオーバー、なんて」

『主様! しっかりするのじゃ、主様よ。返事を――』

 

 乙音が必死に声をかけるも、意識を保っていられない。

 出久はそのまま気絶してしまった。

 

 

 

 目を覚ましたのは日付の変わった翌朝の事。

 いつの間にかコスチュームから寝間着姿に変わっており、ベッドで寝ていた。

 

「あれ? 身体が……元に戻ってる!?」

 

 寝ぼけた頭で自分の身体の様子を確認していると、前日までの小さな身体ではないことに気が付く。

 掛け布団を跳ね上げて起き上がる。

 久しぶりの大人の身体、しかも男の身体である。

 今までになく長い期間の副作用だっただけに、嬉しさもひとしおである。

 

「おはよう。起きたみたいだねキティ……何やってるの?」

「あ、え、あの! ……おはようございます」

 

 うれしくて小躍りしているところを、様子を見に来たピクシーボブに見られて赤面する出久。

 とりあえず、着替えることにしたのだった。

 

 

 ハプニングがありつつも、コスチュームに着替えて降りてきた出久。

 その姿にワイプシたちは驚くも、もともと出久が男子高校生であると知っているので、すぐに納得してもらえた。

 そう、ワイプシは。

 

「あ、洸汰くん、おはよう。元気そうでよかったよ」

「なっ……えっ。……はぁ!?」

 

 口をあんぐりと開けて驚く洸汰。

 どうしたのかと思って近づき、問いかける。

 

「どうしたの?」

「おまえ、出久か?」

「え、うん。そうだけど」

 

 本人か確認をされたので頷くと、顔を伏せて震えだす洸汰。

 何かボソボソと言っているので耳を近づけてみる。

 

「……おまえ、男だったのかよ!」

「え、ええっ!?」

 

 思いっきり叫んで走り去る洸汰。

 なんとなく泣いてたように見えたのは気のせいだろうか?

 

「どういうことなんでしょう?」

 

 振り向いてワイプシに問いかけてみる出久。

 

「うーん。ほろ苦い思い出、かな?」

「マセてるからね、洸汰は」

「うむ、青春だな」

「甘酸っぱい思い出、糖質オフって感じだねー」

 

 マンダレイが苦笑いをして、ピクシーボブが肩をすくめる。虎は納得したように頷き、ラグドールは楽しそうに笑っていた。

 それぞれ違った反応を示すものの、全員の見る目が生暖かいのはなぜだろうか。

 なんとなくいたたまれなくなった出久であった。

 

『なんと、哀れな。不幸じゃのお』

 

 

 

 その後、体が元に戻ったからということで、虎より『我'sブートキャンプ』と『キャットコンバット』の訓練を受けることになった出久であった。

 

 

 

==================

 

 ――職場体験三日目、保須市。

 

 ヴィラン連合が脳無を解き放ち、無差別テロを巻き起こしていた。

 混乱し、ヒーローたちが対応に追われる中、飯田は人気のない裏路地に目を向けて立ち止まっていた。

 

 彼の執念が運命を引き寄せたのか、彼は幸か不幸か目的の人物を見つけてしまったのだ。

 

「おまえを追ってきた。こんなに早く見つかるとはな!!」

 

 まさに一人のヒーローを殺そうとしているヒーロー殺しに跳びかかるも、容易くあしらわれてしまう。

 刃を眼前に突きつけられてなお、恨み憎しみを込めて睨みつけながら声高に告げる。

 

「僕の名を生涯忘れるな!! “インゲニウム” お前を倒すヒーローの名だ!!」

 

 怒りを込めて兄から引き継いだ名を告げる飯田。

 

「そうか……死ね」

 

 対するヒーロー殺しは、冷徹に殺意をぶつける。

 復讐劇の幕が、開いた。

 

 

==================

 

 

オマケ『勘違いサイドキック その2』

 

 ベストジーニストヒーロー事務所。

 五本の指に入る超人気ヒーロー『ベストジーニスト』を中心に多くのサイドキックが集まるこの場所に、職場体験に来ている生徒がいる。

 爆豪勝己。

 一流ヒーローを輩出してきた国立の有名ヒーロー科高校の期待の一年生だ。

 先日行われた雄英体育祭において、優勝を勝ち取るという優秀な生徒なのだが、本人の荒々しい性格と先の決勝戦で起きた悲しい事故により悪評が広まっているという悲しい生徒でもある。

 

 そんな彼を心配するのはベストジーニストのサイドキックの一人。

 決勝戦の事故をネットでは面白半分に悪評を広めている人たちが多くおり、それが彼にどんな傷をつけているのか不安なのだった。

 

『あんなの、仕方なく起こった事故じゃないか。そんなのちゃんとしたヒーローなら、いや、立派な人なら見てわかるはずだ! それなのに、ロリコン扱いするなんて、人として最低だよ!』

 

 無責任に風評を広げる人たちに怒りを募らせる彼。

 その時なぜか敬愛する上司が大きくくしゃみをした。

 風邪だろうか? と、心配するも、「誰か噂でもしているかな?」というジョークに胸をなでおろす。

 

 かの上司は人気ヒーローなのだから、誰かしら噂をしているのは仕方ないな。

 と、笑って部屋を後にする。

 

 向かうのは職場体験に来ている爆豪のところだ。

 広い事務所だが、それでも探していれば数分で見つかるもので、目的の本人を見つけて話しかける。

 ちょうど休憩時間のようだし、タイミングとしてはばっちりだろう。

 

 いろいろと話を聞いていくと、やはり口調は荒いものの上昇志向が強く、努力家であることが見て取れた。

 やっぱりロリコンだなんてひどい悪評だ。

 そう改めて感じたところで、彼の異性の好みが気になったり。

 何せ、これだけ悪評をばらまかれているのだ。本当のところが知りたくなるのも当然といえるだろう。

 

「ところで、爆豪くんの女の子の好みってどんなのなの?」

「あ? なんでそんなことを言わなきゃならねーんだよ」

「いいじゃないか。高校生くらいの年頃ならそういうの意識してないわけないしね?」

 

 聞いたところで素直に答えてくれるはずもなく。

 ちょっとからかいがてら、手を変え品を変え聞いてみる。

 好みの女優やアイドルだとか、気になるクラスの女子だとか話題を微妙に変えながら。

 ただ、ちょっとしつこく聞きすぎたのだろう。爆豪がとうとうキレてしまった。

 

「うるせえ! 女なんかに興味ねえんだよ。しつけえぞ!」

「アハハ、ごめんね。あ……怒らせちゃったか」

 

 足を踏み鳴らして怒り心頭といった様子で立ち去る爆豪を苦笑いで見送る。

 どうやらやりすぎたらしい。

 後で謝っておかないと……と、思ったところでふと変なことを考えてしまう。

 

 女なんかに興味がないとは、いったい?

 

 九割九分、照れ隠しに言った言葉だとは思うのだ。

 だが、ふとよくない考えがよぎった。

 

『本当に女の子に興味がない……ってことはないよな?』

 

 そこまで考えて、ハッと頭をブンブンと振って考えたことを振り払う。

 風評被害で苦しんでいる彼に対して、申し訳ないと思わないのか!

 そう、自分を叱りつける。

 が、心の隅っこに何かが引っかかって仕方がない。

 

 その後、ちょっと爆豪に対してぎこちない接し方になってしまう彼であった。

 

 




とうとう5月ですね。

次回は飯田編です。
出久が洸汰くんを救助していたころのお話です。


しかし、主人公不在で原作本編の現場にいないとか、我ながらぶっ飛んでる気がします(笑)


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いずく1/2 その21(職場体験三日目 保須市編)

だいぶ前の伏線回収!


 思いだけで人が殺せるのなら、飯田の憎悪は“ヒーロー殺し”ステインを八つ裂きにしているだろう。

 血走った目で相手を睨みつけ、雄たけびと共に繰り出された全力の蹴りには殺意さえこもっていた。

 

「あああぁ!!」

 

 兄への敬慕や思い出を乗せた一撃。

 だが、現実はその思いとは裏腹に容易くステインに躱され、反撃をくらい、地べたに這いずることとなってしまう。

 

「兄さんは多くの人を救け……導いてきた立派なヒーローなんだ!! 僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!!」

 

 右腕と左肩に刺し傷を負い、地に踏みつけられてなお、兄への思いを語る。

 それほどまでに尊敬していたヒーローだった。それほどまでに大事な家族だった。目標だった。

 だからこそ、そんな兄を再起不能にしたステインが許せない。

 その憎しみは、ヒーローらしからぬ言動をさらしてしまう。

 

「殺してやる!!」

「あいつをまず救けろよ」

 

 ヒーローがしてはならない、相手への殺意の発露。

 それを受けたステインが示したのは、今まさに自分が殺そうとしていたヒーロー『ネイティブ』だった。

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己のために力を振るうな。目先の憎しみに捉われ、私欲を満たそうなどと……ヒーローから最も遠い行いだ」

 

 自己犠牲、滅私奉公こそヒーローの条件だと主張するステインの言葉に、飯田は怒りで視界が真っ赤になりそうだ。

 確かにヒーローとはそうあるべきかもしれない。

 だが、それを、ヒーローを、尊敬する兄を殺そうとしたヤツに言われるのは我慢できない。

 たとえ、ステインの言っていることが正しいとしても、なんの権利があって兄をヒーロー失格としたというのか!

 

「黙れ……黙れ!! 何を言ったっておまえは、兄を傷つけた犯罪者だ!!」

 

 個性を使われ、動けない体で必死に叫ぶ飯田。

 その思いが報われることなく、まさに必殺の刃が振り下ろされようとしていた。

 その時――

 

「その命、ちょお~~~っと待った! 暫く、暫くぅ! その慟哭、その頑張り。他のヒーローが聞き逃しても、私の耳にピンときました! この人を冥府に落とさせるわけにはまいりません。だってこの人、ご主人様のお友達ですもの!!」

 

 裏路地に響く女性の声。

 思わず手を止めたステインは、次の瞬間に顎に強烈な衝撃を感じて吹き飛んだ。

 

「とぅ! ご用とあらば即・参・上! 貴方の頼れる謎の美少女狐っ子、お玉ちゃん降臨っ! です!!」

 

 突如現れた狐耳と尻尾をはやした和装の美少女の登場に、その場の人物は全員唖然とした表情となる。

 うん、キャラが濃ゆいよね?

 

「き、キミはいったい?」

「お初にお目にかかります。ご主人様が作り出した良妻系自律型上級式神、それが私でございます。名前はお玉。気軽にお玉ちゃんと呼んでくださいな?」

「ご主人様? その耳……まさか、緑谷君か!?」

 

 本人の名乗りはよく分からなかったが、見た目から出久の個性由来のものだと見当をつける飯田。

 事実それは正解である。

 職場体験前に出久から受け取ったお守りの中に、尻尾の毛が入っており、それを媒介に召喚されたのが、この式神である。

 身体能力が落ちた出久が職場体験の参加する許可をもらうにあたって強化したのが、能力の一つである式神召喚だった。

 多数の式神との同期による広範囲の索敵・情報伝達能力が一つ。そして、自律型でそれなりの戦闘能力を持った上級式神を作り出す能力が新たに身に着けた力である。

 

「何者かは知らんが、邪魔をするなら殺すまでだ……ハァ……」

「うわぁ、見事にギラついてますね。正直、好みじゃありませんの! というか、さっきから聞いてたらなんです? 正しき社会だとか、そのための供物だとか、真のヒーロー? 贋物? 中二病をこじらせるにもほどがあるって感じなんですけど? マジで」

「ハァ……ふざけているのか?」

 

 ステインから向けられる殺気も気にした様子もなく、飄々とした様子で受け流すお玉。

 というか、若干バカにしているような気がしないでもない。

 

「お玉ちゃんとやら、手を……出すな。君は関係ないだ――どぅおああ!?」

「はいはい、文句なら終わった後から聞きますからちょっとどいていてくださいます?」

「危ないな! 人を放り投げるな! そして、終わったあとでは遅いだろう!?」

 

 自分の復讐に関係がないから下がれ。

 そう言おうとしたところ、安全確保のために後方へネイティブともども放り投げられてしまう飯田。

 見た目の細腕からは信じられない力で、片手に一人ずつ持ってポイっとされてしまった。

 いくら殺す気の相手と向かい合っていて余裕がないとはいえ、扱いが雑である。

 身体が動かず、受け身も取れないのでネイティブなど顔面ダイブだ。痛い……。

 

「そいつらを救けに来たか……だが、俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然……弱い方が淘汰されるわけだが……さァ、どうする?」

 

 周囲を凍り付かせるような殺意をにじませるステイン。

 しかし、お玉は自分のペースを崩さない。

 

「笑わせてくれますね。自分で勝手にやっていることをあたかも当然の事のように言わないでいただけます? 正直押しつけがましい男は嫌われますよ。てか、ホンット、うざいです!」

 

 ステインの主張を鼻で笑い、嫌悪をむき出しにするお玉。

 そんな二人のやり取りを聞いていた飯田がお玉に叫び声をあげる。

 

「やめろ! 言ったろ!! 君には関係ないんだから!」

「関係あるとかないとか、それこそ関係あります? 救ける相手が自分に関係ないなら手を出さないとか、相手が強いから逃げるだとかって、それ、本当にヒーローって言えます?」

 

 動けない体で必死に訴えるものの、きっぱりと返事をされてしまう。

 戦う相手が何であろうと、救けるべき人がいるならヒーローのやることは一つだ。

 そんなヒーローの本質の一つを語るお玉の姿に、贋物とは違うにおいを感じ取ったステインは笑みを浮かべて刃を構える。

 

「良い」

 

 ハァ……、と、ひと呼吸。

 言動は気に食わないが、そのヒーローとしての心構えはその後ろにいる贋物よりはマシのようだ。

 と、考え、鋭くお玉を見据えるステイン。

 どうやら彼の考える自己犠牲を厭わない、他者のために私欲を捨てることのできるという、ヒーロー像に合致する部分があったらしい。

 

 そんな、高評価なお玉だが、実際に内心はというと、

 

『ご主人様のお友達を見捨てるとか、ご主人様からの好感度駄々下がりじゃねーですか!』

 

 とか考えていたりする。

 ステインさん、評価が甘いです! めっちゃ私欲まみれですよ、こいつ!!

 

「行くぞ……救けられるなら救けてみろ!」

「もちろんです。(ご主人様の好感度を上げるためにも)死ぬ気で守って見せます!」

 

 同時に踏み込む二人。

 片方は爪を、片方は刃を振りあげて距離を詰める。

 一瞬の交差の後に、二人はお互いの凶器を避けあうようにして距離を離した。

 初撃は両者ノーダメージ。だが、地力の差は歴然だった。

 

「想像以上の身体能力……ハァ……増強型並みの力はあるようだが、力任せな戦い方だ」

「ちょ、私、格闘は得意じゃないのにぃ! ストップ、ストップ、プリーズ!!」

 

 防戦一方となり、涙目で刃を躱すお玉。

 さっきまでの威勢はどこへやら。というか、接近戦が苦手なのになぜ踏み込んだ!?

 

「いや~ん、お玉ぁ、串刺しにされちゃいますぅ~」

「終わりだ。所詮は口先だけの生物(なまもの)だったか……ハァ……」

「ナマモノとかシツレーナ!」

 

 踏みつけられて刃を突き立てられる寸前のお玉。

 口調からはあまり危機感が感じられないが、絶体絶命のピンチである。

 

 そんな彼女を救ったのは……地を這う氷の刃と吹き付ける炎だった。

 

「悪い。遅くなっちまった」

「次から次へと……今日はよく邪魔が入る……」

 

 『半冷半燃』の個性を持ったヒーローの卵。

 No.2ヒーローの息子、轟焦凍だった。

 

 新たな援軍が駆けつけ、ステインとの戦いは新たな幕を開けた。

 

 

「なに、このイケメン。不覚にも私、トキメイてしまいそう! ご主人様一筋のはずなのにぃ!」

 

 ……この狐のせいでシリアスが死んでいるが、気にしてはいけない。

 

 




最近、ギャグを挟まないと死んじゃう病にかかったようです。
シリアスなシーンなんだけどなー……

次回!
ステイン「うわようじょつよい」

お楽しみに!


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いずく1/2 その22(職場体験三日目 保須市完結編)

連休って、意外と出かけたり用事があったりで執筆時間ってとれない。


 轟が救援に駆けつける少し前。

 

 ヒーロー殺しの今までの傾向から保須市でまた事件が起こると予想したエンデヴァーは、サイドキックを引き連れてきていた。

 偶然にも脳無の襲撃に出くわしたため、迎撃に向かうエンデヴァーたちだったが、事件現場で向かう途中で轟のポケットが激しく動き出した。

 

「なんだ?」

「どこを見ている焦凍ォ! 俺を見ろ!」

「いや、お守りが……」

 

 轟がポケットからお守りを取り出した時、ポンと煙を上げて何かが飛び出してくる。

 ケモ耳と狐の尻尾の生えた幼い女の子。

 体育祭で一度だけ姿を見せた出久の式神、キューちゃんだった。

 

「轟君、救援要請! ヒーロー殺しがいる!」

「なに!?」

 

 キューちゃんの出現に驚く轟。だが、すぐさま伝えられた情報からすぐさま保須市に職場体験に来ている飯田のことを思い出した。

 

「場所、わかるか?」

「うん! 案内するヨ」

 

 キューちゃんの案内で飯田のいる場所へ向かおうと踵を返す轟。

 それに待ったをかけたのが父親のエンデヴァーだ。

 

「どこに行くんだ焦凍ォ!!」

「友達がヒーロー殺しに襲われてピンチなんだ。時間がない! 場所は後から連絡するから応援頼む! そっちはおまえならすぐに解決できるだろ!」

「連絡役にコノ子を置いてくカラ、お願いシマス!」

 

 一方的にエンデヴァーに告げて走り去る轟。

 キューちゃんは連絡役に式神の狐を一匹作り出してあとからの案内を任せて道案内のため、同じく去っていく。

 残されたエンデヴァーはしばし呆然とするも、残された式神の狐を見ておおよその予想を付けた。

 

 狐を作り出して使役する個性は、体育祭で目を付けた息子のクラスメイトが持っていた個性だ。

 そのクラスメイトがピンチで救けを求めに来たのだろう。

 

 そう考えたエンデヴァーは息子の勝手な行動に眉をひそめた後、やれやれと苦笑する。

 

「惚れた女のために勝手に行動するとは、ヒーロー失格だぞ、焦凍。……まあいい。今回ばかりは応援してやるとしよう」

 

 寛大な父親に感謝しながら、しっかりと獲物を捕まえてこい。

 そんな若干生暖かい目で息子を見送るのだった。

 

 ……当然のことながら、勘違いであるため、感謝もされないし逆に訳の分からないことを言われて轟の機嫌が悪くなるだけだったりするのだけれど。

 

 

==================

 

 ――現在。

 

 “ヒーロー殺し”ステインの元にたどり着いた轟は、すぐに戦闘に入る。

 駆けつけてみればまさに誰かが殺害されかけているところで、躊躇している余裕などなかった。

 

「次から次へと……ハァ……」

「轟君まで……」

「ご主人様のお友達のイケメンさんじゃないですか! 助かりました、ありがとうございますぅ!!」

 

 轟の登場に驚く三人だったが、もう一人の乱入者にさらに驚かされることとなる。

 

「せい! テアーッ!」

「チッ、邪魔な!」

 

 鉄パイプを片手にステインに殴りかかるケモ耳幼女の姿。

 キューちゃんである。

 

「お、お姉さま!? 救けに来てくれたんですね!」

「いいカラ、さっさと救助対象を保護シテ! 早く!!」

 

 お玉からお姉さまと呼ばれたキューちゃんは、ステインと切り結びながら救助対象を避難させるよう指示を出す。

 指示を受けてすぐさま動き出したお玉はネイティブを抱え、少し遅れて轟が飯田を抱えて移動を始めた。

 一瞬、ステインの相手を一人で任せることに不安を感じた轟だったが、キューちゃんの戦っている姿を見て先に救助対象の安全を確保することを優先させた。

 

 大人と子供の体格差だが、それを補うような三次元的な動きで渡り合っている。

 左右どころか、上に飛び跳ね、壁を使った三角跳びや逆に低い位置からの切り上げなど、縦横無尽という言葉がぴったり来るような動きだ。

 さらに言えば、キューちゃんは幼女の姿だが、出久の個性の能力の一つである怪力も使えるため、力負けすることもない。

 要は見た目詐欺的な強さがあるのだ。

 

 ステインは、獲物を目の前にして足止めを余儀なくされてしまう。

 

「ハァ……強いな、おまえは……」

「コノ先は、通さなイ!」

 

 

 

 一方、撤退を始めた4人だが、飯田が轟ともめていた。

 

「さっさと退くぞ」

「何故、何故だ……やめてくれよ。兄さんの名を継いだんだ……僕がやらなきゃ! あいつは、僕が……!」

 

 肩を貸してくれている轟へ、自分の復讐心を訴える。

 憎しみ、恨みがにじみ出るような言葉を聞いた轟は努めて冷静に返事をした。

 

「継いだのか? おかしいな……俺が見たことのあるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな」

「何が……言いたいんだ!?」

 

 インゲニウムに似つかわしくない。

 そうともとれる言葉に飯田は瞬間的に激昂する。

 その表情を見て、轟はどこか納得したような声音で語りだす。

 

「兄貴がやられてからのおまえが気になってた……恨みつらみで動く人間の顔ならよく知ってっからな」

「誰の話だ? 何のことを言っている?」

 

 轟とエンデヴァーの複雑な父子関係のことを知らない飯田は何のことか最初は分からなかった。だが、語る轟の横顔を見て彼の実体験だと直感する。

 轟も飯田がなんとなく察したことに気づき、苦笑する。

 俺も人の事は言えねえが、と、前置きして続きを告げる。

 

「そういう顔した人間の視野がどれだけ狭まってしまうのかも知ってる。知ってるか、そうやって視野の狭くなった人間は……自分の大切にしていたモノまで見えなくなっちまう」

 

 俺もそうだった。

 そう語る言葉には経験に基づいた重みがあり、飯田の心にズシリと感じるものがあった。

 思わず目を伏せる飯田。だが、状況は物思いにふける暇を与えてくれない。

 

『お玉チャン! ごめん、やられた。ヒーロー殺しの個性デ動けなイ……そっちにヤツが向かってる!』

「なっ!? お二人さん! あいつ、あいつがこっちに来ます! 気を付けて」

「キューちゃんがやられたのか!?」

 

 キューちゃんが式神の能力による同期による情報伝達で伝えたことで、お玉が警戒の声を上げる。

 バッと振り返ればステインがものすごいスピードでこちらに向かってきているのが目に入る。

 逃げ切れない。

 そう判断した轟は即座に迎撃の構えをとる。

 

「二人で守るぞ。協力してくれ」

「当然です! お姉さまからの伝言によると、『血をなめられたら動けなくナッタ。ヤツの個性だと思う。気を付けテ』だそうですよ」

「それで刃物か。近づかないように距離を取って戦うぞ!」

「ええ! むしろそちらの方が得意ッ、です!」

 

 接近戦は不利だと悟り、狐火と左の炎による攻撃を行う二人。

 細い裏路地を炎が走り、視界を埋め尽くすほどの大規模攻撃となった。

 だが――

 

「氷と炎……なかなか強い個性だ。しかし、己より素早い相手に対して視界を遮る……愚策だ!」

「なんだと! どこに……!?」

「危ない、上です!」

 

 ビルの壁を蹴って炎を躱したステインはそのまま轟に刃を振り下ろす。

 先に気づいたお玉が轟を庇い、鮮血が舞う。

 

()うう~!」

「おい、大丈夫か!?」

「ハァ……まずは一人……」

 

 致命傷は避けたものの、右腕を深く切られてのたうち回るお玉。

 刃に付着した彼女の血はステインの長い舌に舐めとられ、個性発動の条件を満たされてしまった。

 途端に動けなくなるお玉。

 

「ギャー! 乙女の血をペロペロしてんじゃねーですよ。おぞましい! この変態! 変態ぃぃぃ!!」

「ハァ……うるさい女だ」

 

 身体が動かなくなった分だけ口がよく回るようになったとでもいうように、姦しくステインを罵倒するお玉。

 ステインもさすがにその罵倒にイラっときたのか、轟の攻撃をよけながら眉をしかめた。

 さすがのヒーロー殺しも変態扱いは嫌のようだ。

 

 ふざけた態度ではあるものの、れっきとした戦力であるお玉が抜けて一人でステインと相対せざるを得なくなってまった轟。

 そこからは防戦一方で何とか血を摂取されることは避けているものの、身体に傷が次々と増えて血が流れていく。

 その姿はただ見ていることしかできない飯田の心に重くのしかかる。

 

「やめてくれ……もう、僕は……」

「やめてほしけりゃ、立て!!」

 

 諦めたように弱音を吐く飯田に轟は渾身の言葉で叫び返す。

 今の轟が飯田に贈れる全力の言葉。

 

「なりてえもん、ちゃんと見ろ!!」

 

 友を守るため、友の夢を思い出させるため。

 かつて自分がしてもらったように、友人を思って向けられた言葉は確かに飯田に届いた。

 

『規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー!! 俺はそんな兄に憧れ、ヒーローを志した!』

 

 かつて学校の食堂で友人に告げた自分の理想を思い出す飯田。

 

『インゲニウム! おまえを倒すヒーローの名だ!』

 

 だが、今の自分はどうだろう?

 友に守られ、血を流させて。

 兄の名前を復讐のために使い。

 目の前の事、自分の事だけしか見れていない。

 

 自問した末の結論は自分の未熟さだった。

 尊敬する兄の足元にも及ばず、クラスメイトよりもヒーローとしての心構えができていない。

 とんだ未熟者。その事実に悔しさで涙が出る。

 

 だが――

 だが、それでも――

 

『今ここで立たなきゃ、もう二度と兄さんにも彼らにも追いつけなくなってしまう!』

 

 渾身の思いで立ち上がり、轟に迫っていたステインの長刀を蹴り砕く。

 先ほどまでとは違う、覚悟を決めた目でステインを見据える飯田。

 

「これ以上、僕の友人に血を流させるわけにはいかない!」

「感化され取り繕おうとも無駄だ。人の本質はそう易々と変わらない」

 

 そんな飯田の覚悟を否定するステイン。

 

 私欲を優先させる贋物。英雄(ヒーロー)歪ませる社会のガン。

 所詮おまえはそんな存在だ。

 

 そう決めつけて蔑むステインに、飯田は頷いてそれを認めた。

 しかし、それでも――と、言葉を続ける。

 

「俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう」

「論外」

 

 飯田の意地をステインは認めない。

 お互いに相互理解は望めなかった。

 

 再び二人がぶつかる。かと思われた次の瞬間。

 ステインの顔に濃い影が差した。

 

「なん――――」

 

 状況を確認しようとしたステインの言葉は最後まで言うことができなかった。

 宙に浮き、振り回されて壁に叩きつけられるステイン。

 叩きつけられた壁はへこみ、その衝撃を物語るかのように蜘蛛の巣状にヒビが入っている。

 

GURURURU

 

 うなり声をあげる3メートルほどの巨大な狐。

 大型の肉食獣並みの巨体を誇るその化け狐が背後からステインの胴を顎でとらえ、一撃のもとに下したのだ。

 突如現れた化け狐。

 その正体はすぐに判明する。

 

「フーッ! フーッ!!」

「お、お姉さま、落ち着いてくださいまし!」

 

 ポンっと音と煙を立てて化け狐は姿をキューちゃんに変える。

 獣化の影響か興奮しきりのキューちゃんを身体の自由を取り戻したお玉が慌ててなだめる。

 血走った縦長の瞳が否応なく野生の獣を思い起こさせ、本能的な恐怖を思い起こさせる。

 

 なんというか、この幼女、怖いぞ!?

 

「あー、まずいです。まずいというか、ヤバい! というわけで、おふたりさん、私たちはお先に失礼させていただきますね?」

 

 それでは皆々様、お手を拝借……

 などとふざけてから、拍手を一度。音とともに最初からいなかったかのようにキューちゃんごと姿を消してしまった。

 まさに狐に化かされたよう。

 

「……とりあえず、こいつを縛るものを探そう」

「あ、ああ。そこのごみ置き場になにかないか探してくるよ」

 

 ひとまずするべきことをするために行動する二人。

 あっという間の出来事であった。

 

 

 

 そのころ。出久は……

 

「ど、うして? キャパオーバー、なんて」

『主様! しっかりするのじゃ、主様よ。返事を――』

 

 お玉とキューちゃんが大暴れしていたフィードバックを食らって倒れていたり。

 強力な個性にはどうしてもデメリットがある。

 その運命からは逃れられない出久であった。

 




というわけで、ステイン編決着。
キューちゃんはハイスペックなのでした。ホント見た目詐欺。
ちなみに、ステインと鉄パイプで渡り合っているときのイメージはSWのヨー●です。
ピョンピョン飛び跳ねてたり。

次回、『職場体験編エピローグ』、『小ネタ(爆豪職場体験エピソード)』、『次章予告風』

の三本でお送りいたします。
どうぞ、お楽しみに。


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いずく1/2 その23(職場体験編 エピローグ)

職場体験編、完結!


 職場体験を終え、一週間ぶりの教室。

 各々の体験を語り合う中で、爆豪はイラついた様子で頭を抱えていた。

 

「あ゛~~、クソが!」

「おおう。どしたどした? 久々に顔合わせ立ってのに機嫌がわるいな」

 

 イラつきを隠そうとしない爆豪に切島が声をかける。

 その声を聞いて上鳴と瀬呂のいつものメンバーが集まってくる。

 爆豪の機嫌がよくないのはいつものことだが、職場体験の後とあっては何かあったのか気になる三人。

 しつこく聞いてみれば、返ってきた返事はシンプルなもので、

 

「職場体験……行くとこ間違えた」

 

 ということらしい。

 爆豪の希望としては、戦闘訓練やヴィランとの戦闘経験を積みたくて参加したはずなのに、チャリティや奉仕活動ばかりで満足のいくものではなかったらしい。

 向こうからすれば、爆豪の不名誉な風評被害やトラウマを何とかしてやろうとした結果なのだが、本人が納得していないのではしょうがない。

 

 というわけで、爆発寸前のかっちゃんなのであった。

 

 

 一方、山岳でサバイバルやら格闘訓練やらを受けていた出久はというと、

 

「式神の運用方法で最大のメリットは自立して動いてくれるから同時多方面に活動できることと、情報収集、情報伝達がすぐにできるってところだよな。でも、デメリットとしてキャパシティの上限があって、それを超えた瞬間に僕自身が行動不能になることだな。もし、他のところで活動している式神の影響で、ヴィランの前で行動不能とかヤバいぞ。上限がどれくらいなのか確認をしないと。式神でも下級と上級だとキャパの容量が違うよな。わかりやすく数値化すれば限界数が分かるか? いや、この間のキューちゃんの報告だと上級式神の場合は能力の使用如何によってはキャパが変わるみたいだし。どうやって考えたらいいんだろう? 簡単なのはゲームみたいにコストで考えてその上限が超えないように編成を組む感じで……」

 

 職場体験中に強化した式神の運用についてノートにガリガリと考察を書き記していた。

 いつも通りの光景だ。

 “羽衣狐”の個性は代々引き継ぐたびに能力が増えてきているので、使いこなすためには考察の時間がいくらあっても足りないという状況だろう。

 まだまだ課題は多いのだ。

 

 

 キャピキャピと楽しそうなのは女子の集まり。

 芦戸、耳郎、蛙吹、麗日の4人が職場体験先での出来事を語り合っている。

 

 ヴィラン退治に参加したことや、トレーニングの内容。

 パトロール中の出来事やであった事件のあらましについてなどなど、楽しく語り合う。

 

「お茶子ちゃんはどうだったの? この一週間」

 

 3人の会話を少し離れたところで聞いていた麗日に蛙吹が声をかける。

 麗日はスクッと立ち上がり、

 

「とても、有意義だったよ」

「目覚めたのね、お茶子ちゃん」

「バトルヒーローのところに行ったんだっけ?」

 

 コオオォ、と、呼気を吐き出しながら武術の構えをとる麗日。

 その場で突き出す拳は、鋭く空気を裂くような勢いを見せている。

 武術家のオーラを醸し出していた麗日。だが、ふと思いついたように出久に視線を向けた。

 

「そういえば、デク君も格闘習ったって言ってなかったっけ?」

「えっ、僕? うん、習ったよ。キャットコンバット。確か麗日さんは……」

G・M・A(ガンヘッド・マーシャル・アーツ)だね。相手の攻撃を無力化して抑え込む技とか教えてもらったよー」

「拘束系というか、合気的な部分もあるんだ……僕はどちらかというと打撃系かな。体の柔軟性や腕や足のしなりを利用して威力を増す感じのやつ」

 

 麗日と一緒に格闘談義を始める出久。

 共通の話題があると盛り上がるのだが、話題に入れないと周囲の人間はつまらない。

 そうしたこともあって、話題に入れない芦戸がじれて別の話題を持ち掛ける。

 

「格闘もいいけどさ、他にもいろいろやったんでしょ? 緑谷はワイプシのところだと山じゃん! 自然の中で何かやってたんじゃないの?」

「あー、山の中でサバイバル訓練とかしてたよ。ナイフ一本で放り出されたときは大変だったなぁ……」

 

 食料も水もない状況で山に放り込まれ、時折襲ってくる虎と組み手をして食料や飲料を確保していた思い出を振り返り遠い目になる出久。

 あれのせいで乙音が野生に帰りかけたりして大変だったのだ。

 

「えー、食べ物も自分で探さなきゃいけなかったの!? ヤバいじゃん、何食べたの? てか、ちゃんと食べれた?」

「大丈夫だよ、芦戸さん。山の中は幸い、食べれるものは豊富だったから。例えば……」

 

 心配する女子メンバーを安心させるために、何を食べたのかを言おうとしてハッと口ごもる。

 冷静に考えたら結構ゲテモノ食べてる気がするのだ。

 カエルとか蛇とか言ったら絶対引かれるに決まってる。

 特に蛙吹を見てなんだか申し訳ない気分になってしまう。いや、関係ないことはわかっているのだけれど。

 

「例えば……なになに?」

「き、木の実とかかな。いろいろと山の幸が多かったよ」

「へぇ~、そうなんだ」

 

 とっさに嘘をついてしまった出久。

 本当のことは言えない。言えないのだ!

 

 何故か冷や汗をかく羽目になってしまった出久のところへ、新しく人影が差す。

 特徴的な眼鏡のシルエット。飯田だ。

 

「すまない。少しいいだろうか?」

「あ、飯田くん。職場体験、大変だったってね」

「ああ、危うく命を落としかけたが何とか助かったよ。これも、緑谷君が渡してくれた()()()のおかげだな!」

 

 そのお礼をしに来たのだと、手にしたお守りを強調して言う飯田。

 ヒーロー殺しの事件には出久の個性がかかわっていたのだが、未成年の個性無断使用をなかったことにするために、事件はエンデヴァーが解決したということになっている。

 そのため、表立ってお礼を言えないのを、婉曲的にお守りを示すことで言っているのだった。

 その点は、後から出久も式神との情報共有で分かっているので、何のことかはピンと来ている。

 

「気休め程度だったけど、役に立ったならよかったよ」

「いや、気休めってもんじゃねえと思うがな。実際に……心強かったぞ」

 

 轟も飯田に乗っかるように礼を述べる。

 それを皮切りに他のクラスメイトも出久の渡したお守りに話題が移る。

 

「あー、飯田も轟ももらってたんだ! そのお守り!」

「うちももらったけど、みんなもらってたんだな」

「デクくんから貰ったの、肌身離さずつけてたよー」

「私は、水の中で活動することもあったから肌身離さずではなかったわ。でも、ちゃんと大事にしてたから安心してね、緑谷ちゃん」

 

 実はクラスメイトの全員に渡していた出久。

 何かあった時の助けになればと考えての事だったが、実際に使うことになったのは保須での事件だけだったのは幸いといえるだろう。

 出久のお守り。A組の共通アイテムみたいでなんだか楽しく感じたのだった。

 

『クソが! 何がお守りだ……俺はもらってねえぞ?』

 

 ……そう、爆豪以外はみんな持ってる。

 これは爆豪をハブったというわけではなく、悲しいすれ違いのせいである。

 

『かっちゃんにも渡したかったけど、なんだか避けられてて渡せなかったんだよなぁ……』

 

 全員分を作って渡す気満々だった出久だが、体育祭の後、幼女に対してトラウマを持っていた爆豪は幼女姿の出久が近づいてくると無意識に避けていたのだ。

 そんなこんなで、渡す機会を失ってしまったのだった。

 

『デクのヤツ、俺のことを危険人物だとでも思ってやがんのか? クソが!』

『やっぱり、体育祭であんな終わりになっちゃったせいで嫌われちゃったかな? いや、もともと好かれてはいなかったけど……』

 

 長年の付き合いのあるこの二人だが、すれ違ってばかりだ。

 はたしてうまくかみ合うのはいつになるだろう?

 

 

 

小ネタ『みんな大好き、爆豪のおにいちゃん』

 

 ヒーローとは本来奉仕活動。

 ゆえに、ヴィランを捕まえたり災害救助をしたりといった派手な活動以外もしている。

 

 例えば、ベストジーニストが行っている特定の幼稚園・保育園に対するチャリティーイベントなんかもそうだ。

 地域の子供たちに対して夢と希望を与える。

 これも立派なヒーロー活動なのである。

 

「ベストジーニストォ、俺は強くなるためにここに来たんだぜ? それがなーんで、ガキどもの世話をしなきゃならねえんだ!」

 

 それを、若い爆豪が納得できるかどうかは別問題だったりするわけで。

 目を吊り上げて怒る爆豪に、ベストジーニストはため息を吐く。

 本当に扱いづらい生徒だ。

 

「いいか? ヒーローは本来奉仕活動だということを忘れてはいけない。若い君が派手な部分ばかりに目を向けたがるのはわかるが、こういった活動をおろそかにしていてはトップヒーローにはなれないものさ」

 

 あのオールマイトだってチャリティイベントはよくやっているだろう?

 と、かのNo.1ヒーローの名前を出すと、しぶしぶといった様子で黙る爆豪。

 さすがの乱暴者もオールマイトには敬意を払っているらしい。

 

「ついでに君のトラウマの克服も兼ねているんだ。頑張りたまえ」

「あ? 俺にトラウマなんて……」

「いや、気が付いていないようだが、けっこう君、重症だぞ?」

 

 トラウマなんてないと否定する爆豪だが、ベストジーニストはピシリと指摘して見せた。

 先日、パトロールに出かけた際には、子供が通りかかれば無意識に距離を置き、たまたま流れたTVの幼児向けの番組に過剰に反応していたりなど……

 今後、要救助者に幼児がいたら活動に差しさわりがあるのではないか?

 そんな不安を感じたベストジーニストは、こうして爆豪を自身がチャリティなどで支援している保育園に連れてきたわけである。

 理由を説明された爆豪は、自覚があるのか、気まずそうに目をそらした。

 しばらく逡巡したあと、観念したらしくベストジーニストの後に続いて保育園の中へ入っていくのだった。

 

 

 ――約二時間後。

 

 そこには、元気にあふれた園児たちにまとわりつかれて大人気の爆豪の姿が!?

 

「爆発にーちゃん、遊んでー!」

「ちゃんと相手してやるから待ってろ!」

「爆兄ィ、お絵かき教えて……」

「ちょっとしたら行くから何描くのか決めとけ! ソッコーで描き殺したるわ!」

「お兄ちゃん……おしっこ漏れそう……」

「あああ! トイレくらい一人で行け! クソが!! ほら、ついてこい!!」

 

 もみくちゃにされながらも、さすが才能マンといったところか。

 次から次へと押し寄せる園児たちの要求に応えていく。

 

 口は悪いが、なんだかんだで面倒見がよい彼である。

 隠れ属性は「おかん」だろう。きっと、間違いない。

 

 それを見ていたベストジーニストはというと、

 

「馬鹿な! よく訪れている私より懐かれているだと!?」

 

 子供人気が爆豪より低いことに驚愕していた。

 真面目に、丁寧に子供と向き合っているというのにどうして?

 と、悩むベストジーニストだが、これは仕方ないだろう。

 

 子供からしてみれば、来るたびに説教臭いことを話していく大人の男性よりも、口は悪いけど元気にめいっぱい遊んでくれるお兄さんの方がよいわけで。

 爆豪のトラウマ克服はうまくいったが、若干心に傷を負ったベストジーニストであった。

 

 

オマケ『期末試験編 次回予告風』

 

 

「緑谷と爆豪ですが……オールマイトさん、頼みます。この二人、体育祭以来どこかお互いに苦手意識があるようです。上手く誘導してください」

――――相澤先生

 

「私はヴィランだヒーローよ。真心こめてかかってこい」

――――オールマイト

 

 

「ブッ殺すぞ!」

――――爆豪 勝己

 

 

「喰いコロしてやろうッ!」

――――乙音

 

 

「かっちゃんは、僕が守る。だから、信じて!!」

――――緑谷 出久

 

 

 期末試験編 執筆予定!




なんというか、本編よりかっちゃんのネタの方が人気だった気がする……。
みんな、爆豪君好きだよねー!


しばらくは悪墜ちやたとえばの更新をするので、次回はもう少し時間がかかります。
なにとぞ、よろしくお願いします。


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期末試験
いずく1/2 その24(期末試験編プロローグ)


お待たせしました。期末試験編開始です。


 ――雄英高校 運動場γ

 

 職場体験後の初のヒーロー基礎学。

 久しぶりということで、遊びの要素を含めた救助訓練レースが今回の授業内容だ。

 複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯を模した運動場γで、5人のうち誰が一番最初にオールマイトの下へたどり着けるかというレース。

 その最初の組は出久、尾白、飯田、芦戸、瀬呂というクラスでも機動力のあるメンバーがそろっていた。

 誰がトップをとってもおかしくないこの状況。そこで出久は新たな力を見せつけることになった。

 

 

「ちょーっと、今回俺にうってつけ過ぎ……」

 

 肘からテープを射出・巻き取り、空中へ踊り出でる瀬呂。

 迷路のような道は、馬鹿正直に道を走るよりもその上を通っていくことが定石。

 その点から言えば、対空性能の高い瀬呂は有利だ。本人も得意げに声を上げるが、その表情はすぐに驚きに彩られた。

 

「る……って、うおおお!?」

 

 建物の上に飛び上がった瀬呂の顔に影が差す。

 彼よりも上空を軽々と跳びあがるのは、頭から尾の先まで真っ白な巨大な狐だった。

 その巨体に風圧をまとって猛スピードで駆け抜けていく巨大白狐を呆然と見送った後に、瀬呂は思わず叫ぶ。

 

「緑谷!? いきなり本気モードかよ!」

 

 リスクのある巨大狐化をいきなり使ったことに驚きを隠せない。

 それは彼だけでなく、同じくレースの最中のクラスメイトやモニター越しに様子を見ていたクラスメイトも一様に驚いていた。

 だが、岡目八目という言葉もあるように、モニターを見ていた麗日が違和感に気が付いた。

 

「あれ? いつもなら尻尾が9本なのに、1本しかなくない?」

「あら、本当ですわ。大きさもいつもより少し小さいような?」

 

 麗日の言葉に続けて八百万がいつもの姿との違いを発見する。

 二人が意見を出したことで冷静になれたからか、他の人も違和感に気が付いたようだ。

 というか――

 

「あの白い狐の上に乗っているのは緑谷ちゃんじゃないかしら?」

 

 蛙吹が指をさして言う。

 お狐ライダー緑谷ちゃん……と。

 

 

 

「フィニーッシュ!」

 

 巨大白狐の機動力で1位を獲得した出久はオールマイトから『たすけてくれてありがとう』と書かれたタスキをかけられて嬉しそうにしていた。

 オールマイトも出久の成長を喜んでおり、称賛の言葉を投げかける。

 

「おめでとう、緑谷少年。個性の使用の幅が広がったな!」

「はい! 僕の個性は強力ですが、いろいろとリスクがあるので」

 

 いつまでも個性の反動で動けなくなったり戦えなくなったりしていてはいけないと多くの工夫を重ねた結果だという。

 今回の職場体験に臨むにあたって身に着けた『自立型上級式神』の能力は強力な分、使用限界・キャパシティがあり、限界を超えると出久にすぐにフィードバックされて意識を失い行動不能となるデメリットがあった。

 その点を改善するために出久が考え出したのが『能力特化型』式神だ。

 一つの式神に多くの能力を付与するから負担が大きくなると気が付いた出久は、一体の式神ですべてを行うよりも用途に合わせて式神を運用するほうが良いと思いつく。

 そして、その結果の一つが今回の巨大白狐であった。

 名前も付けており、正式名称は『白叡』。通称『シロちゃん』である。

 高火力・高機動を兼ね備えた出久の切り札である“巨大狐化”を、少々のパワーダウンしているとはいえ、低コストで運用できるのは強いメリットだ。

 そして何よりのメリットは――

 

「オールマイト、この能力なら男のままで使えるんですよ! すごいです!!」

「そ、そうだね! 成長したね!」

 

 感極まったように言う出久に、若干引き気味のオールマイト。

 まぁ、力を使うたびに女の子になっちゃうふざけた個性なのだ。それが男のままで使えるというのは本人にとって重要なことなのだろう。

 主に男の子のプライド的な意味で。

 

 

 授業が終わり、コスチュームから学生服に着替えるため更衣室に集まるA組男子生徒。

 その中に出久も混じっていた。

 

『なんか、男子更衣室を使うのって新鮮だな』

『主様は別の場所で着替えておったからの』

 

 コスチュームの上を脱いでいるところで、感傷に浸る出久。

 いままでは個性の副作用で女体化してしまい、男子更衣室が使えなかったのだ。

 身体は女でも精神はれっきとした男子高校生の出久は、一人で空き教室での着替えを余儀なくされていた。

 この度、女体化の副作用を一部克服したことで、皆と一緒に着替えることができたわけである。

 この感動、理解できるだろうか?

 ――――理解出来たら変人である。

 

「おい、緑谷!! やべェことが発覚した!! こっちゃ来い!」

「ん?」

 

 一人静かに感動していたところへ、峰田が興奮した様子で声をかけてきた。

 振り返ってみれば、剥がれかけのポスターを指している。

 

「見ろよ、この穴。ショーシャンク! 恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう!!」

 

 女子更衣室へののぞき穴を発見し、覗き行為をしようと言う峰田。

 いつも通りの通常運転だが、出久はやれやれと止めに入る。

 女子として生活した経験もある以上、見逃すことなどできなかった。

 

「やめようよ、峰田君。きっと後悔するよ?」

「うるせえ! オイラのリトルミネタは誰にも止められねえんだよォオオ!」

 

 出久の咎めるような視線を睨み返し、すぐさまのぞき穴に目を近づける峰田。

 覗き込んで見えたものは、例えるならバラの園のような――――

 

 腰を振る独特なダンスを踊る坊主頭の三人組のオカマ。

 ハイレグ姿のモヒカン頭で、股のところからVの字を描くように上下に腕を動かすオカマ。

 バレリーナ姿の二人組のオカマ。

 

 そのほかいろいろとカオスな風景が映りこんでいた。

 

「なんじゃ、こりゃあー!!」

 

 あまりの光景に泡を吹いて倒れる峰田。

 もちろん、出久の幻術である。

 こうして峰田の野望はもろくも崩れ去ったのだ。

 良いことをしたなー。と、振り返ってみれば、何故か鼻を押さえていたり、前かがみになっている男子メンバーたち。

 

「ど、どうしたの、みんな?」

「どうしたって、緑谷。おまえ気が付いてねえのかよ?」

「バカバカバカ! 言うなよ。気まずくなるだろ!」

 

 何があったのかと尋ねる出久に、切島が気が付いてないことにツッコむ。そして、そのことを伝えようとするのを上鳴が止めた。

 周りを見ても視線を逸らされ、口を噤む皆に出久は首を傾げた。

 何があったのか?

 

 ヒントは出久の個性だ。

 出久は個性を使うたびに女の子になってしまうという難儀な体質をしている。

 それを克服できたような気になっているが、それは式神を使役する能力に限りなのだ。

 そして、今回、峰田に対して一瞬だけだが幻術を使った。

 つまり、何が起きたのかというと……

 

 幸せパンチである。お値段はプライスレス。

 

 知らぬは出久本人と幻術を受けた峰田のみ。

 すでに男の身体に戻っているのに、出久の半裸姿にドキドキしてしまったりして、微妙な空気となったのだった。

 どうしてこうなった?

 

「いったい、何があったのか。誰か教えてよ!」

『主様よ。世の中気が付かない方が幸せというものもあるのじゃ』

 

 

==================

 

 ――――6月最終週

 

 A組の皆は、いや、この時期に限って言えば全国の高校生たちは期末テストに向けて努力をしているところである。

 特にヒーロー科は夏の林間合宿への参加がかかっており、絶対に落とせない状況だ。

 担任の相澤先生からは『赤点は学校で補習地獄』というありがたいお言葉を頂戴しているのだからして。

 幸いにして、筆記試験に関しては成績上位陣が勉強会を開くことでフォローをすることになっており、希望が見えている。

 問題は、同時に行われる演習試験だ。

 

「演習内容が不透明で怖いね……」

 

 食堂で昼食を摂りながら、期末の演習試験について話し合うA組。

 相澤先生は「一学期でやったことの総合的内容」とだけしか教えてくれず、不安が募っていく。

 

「試験勉強に加えて体力面でも万全に……」

 

 整えていかないとね。と、言葉を続けようとしたところで動物的な勘が働き頭を下げる出久。

 その数瞬後には折り曲げられた左ひじが、出久の頭があった場所を空振りする。

 事故ではなく故意にぶつけようとした悪意ある人物。

 それはA組に対して強い対抗意識を持つB組の物間であった。

 

「おっと、失礼。頭が大きいから当ててしまいそうに――ッ!?」

 

 いじわる気なちょっとヤバい顔で笑っていた物間だが、すぐにその顔は恐怖に引きつることになった。

 なぜなら、獣化した出久の鋭い爪が首元に突きつけられていたのだから。

 

「ちょ、ちょっと、からかっただけだろぉ! なんて暴力的なんだ! A組は!」

「あ、ごめん。職場体験の影響で背後に気配を消して立たれたり、悪意や殺気をもって立たれると体が反射的に攻撃するようになっちゃっててね」

 

 お前はどこの超A級スナイパーの殺し屋だとツッコミを入れたくなるような出久のセリフに物間も口元が引きつるのを感じた。

 どんな職場体験してきたんだよ、と。

 

「あと、食事時はちょっと気がたってるというか、警戒心が強くなってるから……気を付けてね?」

「それ、野生動物に対する注意点だろォ!?」

 

 ワイプシたちのところで受けたサバイバル訓練により、野生化が激しい出久であった。

 物間のツッコミが食堂に響き渡る。

 

「うるさい! 食堂で騒ぐな!」

「グフッ!?」

 

 首筋にトッ、と手刀を受けて崩れ落ちる物間。

 同じくB組の拳藤によって意識を落とされたのだ。

 踏んだり蹴ったりである。自業自得だが。

 

「ごめんな、A組。こいつ、ちょっと心がアレなんだよ」

 

 物間を抱えながら謝罪の言葉を口にする拳藤。

 さすがはB組の姉御的な存在だ。

 頼れる姉御は、知り合いの先輩から情報を得ており、それをA組にも伝えてくれたのだった。

 曰く、「入試の時のような対ロボットとの演習訓練」であると。

 懐が深いとか、器がでかいとか言うのは彼女のためにあるのであろう。

 情報アドバンテージを失うとか、A組を出し抜いてやろうだとかみみっちいことは言わないのだ。

 誰かと違って。どこかの誰かと違って!

 

 

「んだよ、ロボならラクチンだぜ!!」

 

 拳藤からの期末試験が対ロボット演習であると聞いて喜びの声を上げている上鳴。

 その隣で芦戸がやったあ、とはしゃいでいる。

 

 二人とも個性が強力なだけに対人では加減が難しいため、ロボット相手ならば小難しいことを考えなくて済むと楽観視していた。

 彼ら二人だけではない、A組全体にどことなく安心感が漂っている。

 そんな空気をぶち壊すのはヤツだ。

 

「ハッ! その情報が正しいなんていう根拠はどこにもねえだろうが、アホが!」

「アホとはなんだ、アホとは!」

「そうだよー! 拳藤さんを疑うなんて、サイテーだよ!」

 

 喜んでいるところに冷や水を浴びせかけるような爆豪に、二人は文句を言う。

 しかし、その程度で自分が口にしたことを曲げるような爆豪のはずがない。

 

「B組のヤツの言葉を信じる信じねえじゃねえよ。ここは雄英高校だろーが! 去年と同じ試験内容? ハンッ! そんな甘ェことする場所じゃねえのはわかりきってるだろーが!」

 

 むしろ、ヴィランの襲撃があったくらいなのだから、より厳しくなってもおかしくない。

 そう正論を主張する爆豪に、たじろぐ上鳴。

 

「じゃ、じゃあ、期末試験は何をやるってんだ? 教えてくれよ爆豪!」

「知るか! ンなもん、知っとったら苦労せんわ!」

 

 縋りつくように聞く上鳴を一言で切って捨てる爆豪。

 いや、ごもっともである。

 

「試験の内容が分からねえ以上、何が起きても大丈夫なように個性をはじめとした体調の管理をしっかりするしかねーだろうが。てめえらも勉強の方ばっかりに力ァ傾けて当日へばってんじゃねえぞ!」

 

 そんなアホは、補習地獄受けてとっとと死ね!

 と、吐き捨てて教室を去る爆豪。

 その姿を見送った出久は目を見開いて驚いていた。

 

「かっちゃんが、かっちゃんが他人を気遣うような言葉を!?」

 

 中学のころはあんなにトゲトゲしかったのに、丸くなったのだな。

 そう思うと涙がこぼれそうになる出久であった。

 B組に姉御がいるなら、A組にはオカンがいる?




なんかいろいろと詰め込みすぎた気がしますが、文字数的にはちょうどいい……はず。
次回から期末試験本編。お楽しみに!


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いずく1/2 その25(演習試験当日)

遅くなりました。


 期末演習試験。

 筆記試験を終えた後に残るこの演習試験を受けるためにコスチュームに着替えて集まったA組の前に、雄英教師たちが並んでいた。

 

「残念!! 諸事情により今回から試験内容を変更しちゃうのさ!」

 

 相澤先生の拘束布からひょこりと顔を出した根津校長が告げる言葉に、楽勝ムードを漂わせていたA組の生徒たちの表情が固まる。

 事前の情報ではロボ相手の試験と聞いていたため困惑する生徒たちに、根津校長が試験内容の変更の理由を語りだした。

 

 ヴィランが活性化している今、現状以上に対ヴィラン戦闘が激化すると考えられる。

 学校側としては万全の体制を整えておきたいわけで、そうなるとロボ相手の戦闘訓練は実戦的とは言えない不十分なものなのだ。

 そこで、対人戦闘・活動を見据えた試験内容、二人一組(チームアップ)で教師一人を相手にする戦闘訓練に変更になったわけである。

 

 根津校長から説明がなされるなか、爆豪は静かに闘志を燃やす。

 

『ロボ相手だろうが、プロヒーロー相手だろうが関係ねぇ。全力でブッ潰す』

 

 あらかじめ、試験内容の変更も予測して備えてきた爆豪にとってはこの程度のことなど動揺するに値しない。

 むしろ質の高い戦闘経験を積む機会だと喜んでいるくらいだ。

 爆豪に不安などありはしなかった。この男、まさに恐れ知らず!

 

「緑谷と爆豪。おまえらチームだ」

「デ……!?」

「かっ……!?」

 

 チームの相手を相澤先生から告げられて、思わず目を見開く爆豪。

 因縁の幼馴染がチーム相手と聞いた爆豪の気持ちはいかばかりだろうか?

 

『大丈夫、大丈夫だ。俺にもうトラウマはねえ! 出久のやつも幼女になってねえ……だから、震えるのを止まりやがれ、俺の手ぇ!!』

 

 めっちゃ、動揺していた。

 トラウマ治しきれてないぞ。何やってんだベストジーニストぉ!

 

『うわあ、かっちゃん震えるほど怒ってるよ! 試験大丈夫なの!?』

 

 一方、出久のほうも爆豪の様子を見て慌てまくっていたり。

 いや、その出久の感じ方と現実の爆豪の思いは違うのだが、それが伝わらなければ意味はないもので……。

 そんな二人を見て、相澤先生は内心でため息を吐く。

 

『あの二人。やっぱりチームにして正解だったな』

 

 期末試験にむけての職員会議を思い出す相澤先生。

 チームを決めたのも、この二人の仲がこじれていたからだった。

 

「緑谷と爆豪。この二人を組ませます。この二人は能力や成績では組んでいません……偏に互いの仲の悪さ!」

 

 体育祭以降、お互いに苦手意識が見受けられる二人。

 だが、プロヒーローになれば、そんなことは言ってられない。

 嫌いな相手や苦手な相手がいたので、ヴィランを逃しました、要救助者を救けられませんでした……では、話にならないのだ。

 そこで、今回の試験を通して仲の改善とまではいかずとも、苦手な相手とでも協力することを学んでもらおうというわけだ。

 本人たちのストレス? Plus Ultra! だろ?

 

 ただし、本人たちの実力はクラスでもトップレベルだ。

 生半可な相手では、個々の能力だけで乗り越えられてしまうかもしれない。

 つまり、相手をするにも確実に、そしてかなりの格上である必要があるのだ。

 ならば相手をする教師は決まっている。

 

「オールマイト。二人の相手をお願いします。お互いが苦手だのどうのこうの言わせる余裕を奪って協力せざるを得ないように追い詰めてください」

 

==================

 

 試験会場に到着した二人は、オールマイトから試験の説明を受けた。

 ルールは単純。

 制限時間30分以内に、「オールマイトにハンドカフスを掛ける」か「どちらか一人がステージから脱出する」というものだ。

 要はヴィランを捕まえて解決するか、応援を呼んで解決するかの判断を問うわけだ。

 教師そのものをヴィランと考えて行う実戦に極めて近い状況での試験である。

 まぁ、教師と生徒の実力差も考慮して、超圧縮重りによる体重約半分の重量増加というハンデが教師側に課せられてはいるが。

 これは、生徒のためというよりは選択を逃走一択にしないための措置である。

 

 

 説明が終われば、試験が始まる。

 しばらくの猶予の間に話し合いをしておくべきなのだがーー

 

「…………えっと」

「…………チッ!」

 

 無言の二人。

 何を話せばいいのか分からないこの状況。とても10年近く一緒にいた幼馴染とは思えない。

 お互いチラッと横目で見合っては視線を逸らすの繰り返しで、モニター越しから見ていたリカバリー・ガールはすごいヤキモキしていた。

 

「何やってんだい、あの二人は。もう、イライラするねー」

 

 完全にテレビドラマを見ているノリである。

 先生ー、試験なんですよー!?

 

 そんな二人に焦れたわけではなかろうが、オールマイトがその空気ごと拳で吹き飛ばす。

 

「さて、脅威(わたし)がいくぞ!」

「なっ!?」

「オールマイト!?」

 

 街を破壊して現れたオールマイトに驚愕する二人。

 No.1ヒーローが街を壊す姿が信じられないのだ。

 まだ自分のことをヒーローとして見ている生徒の二人に、若干の嬉しさを感じながらも教師としてそれを注意しなければならないオールマイト。

 

「街への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えていると痛い目見るぞ」

 

 意識を切り替えてもらうために改めて宣言する。

 

「私はヴィランだ、ヒーローよ。真心込めてかかってこい」

 

 No.1ヒーローの威圧を持って出久と爆豪に迫るオールマイト。

 これで、二人の意識の切り替えはできただろう。問題はこの後だ。

 

『さあて、どう出る? 有精卵ども』

 

 二人の仲がうまくいっていないことは話に聞いている。その苦手を乗り越えどう対処してくるのか、オールマイトは伺っていた。

 そして、その二人の対応は……

 

「ブッ殺す!」

「喰いコロす!」

「あ、あれぇ!?」

 

 バラバラに動くと予想していたオールマイトの予測に反し、二人息の合った動きをみせる二人。

 しかも、選択はオールマイトへの反撃という方向性で一致していたのだからたまらない。

 爆豪は閃光弾(スタングレネード)の目くらましの後に飛びかかってきており、出久も即座に白金モードになって身体能力を強化して攻撃してきた。

 

『こいつは予想外だ! なかなかやるな、有精卵ども。だが!』

 

 驚愕は一瞬だけ。

 多くの修羅場を潜り抜けてきたベテランヒーローであるオールマイトは、即座に二人の攻撃に反応してみせた。

 

「ガッ!」

「まずは、爆豪少年。君からだ!」

 

 爆豪の首元をつかみ、自慢の怪力で振り回して投げ飛ばす。そしてその身体のひねりを利用して、出久を蹴り飛ばしてしまった。

 一つの動きが次の動きにつながる熟練の動きだ。

 受け身も取れずに背中から地面に叩きつけられたせいで動けない爆豪と違い、出久は野生の動物じみた動きで空中で体勢を整え四つ足で着地。

 息つく暇もなく、オールマイトへと突貫してみせた。

 

「ガアアア!」

「元気だな! だが、無謀すぎるぞ!」

 

 真正面から猛スピードで飛び掛かってくる出久の顔面にオールマイトの右ストレートのカウンターが突き刺さる。

 ガチン、と、硬い物がぶつかる音がして、地面を二度三度と転がるほどぶっ飛ばされる出久。

 起き上がった出久は、口から血混じりの唾を吐き捨てる。

 

「緑谷少女、君ってやつは……」

 

 オールマイトが驚いたような、そしてどこか呆れた声を漏らす。

 オールマイトの見つめる右手には、小さく歯形のような傷がついていた。

 そう、オールマイトのカウンターをよけるどころか噛みつくことで、逆にカウンターをとろうとしてきていたのだ。

 こんな自身を顧みないような戦い方に戦慄を覚える一方で、オールマイトは違和感を感じる。

 

『この戦い方は、緑谷少女らしくない』

 

 と。

 そして、歴戦のヒーローであるオールマイトは気づく。その経験から出久がどんな状態になっているのかを。

 

「緑谷少女! まさか、ぼう――」

「俺を忘れてんじゃねえよ! オールマイト!!」

 

 ダメージから回復した爆豪がオールマイトの意識の隙をついて懐に潜り込む。

 その右指は左手の籠手のピンを引き抜いていた。

 直後に起きた爆風で後方へと大きく吹き飛ばされるオールマイト。

 その後を追おうとした出久は……

 

「待ちやがれ、クソナード!」

 

 がっちりと抱き留められて爆豪に身動きできないようにされていた。

 暴れようとする出久へ、爆豪は思いっきり怒鳴りつける。

 

「暴走してんじゃねえよ、アホ狐! とっとと、クソナードと変われや!」

「グゥッ! スマヌ……ふぅ、やっと落ち着いてくれたよ」

 

 ため息を吐いて金髪から元の緑の髪の毛に戻る出久。

 オールマイトの威圧に当てられて野生の防衛反応が刺激された乙音が暴走していたのだ。

 

「ごめん、かっちゃん。迷惑かけたね」

「ちゃんと躾けとけや。てめえの“個性”だろうが」

「うん、ありがとう」

 

 謝る出久に爆豪は言葉少なに応じる。

 試験開始前までのぎこちなさはすでになかった。

 乙音の暴走は結果的に二人の行動の方向性が一致することになったものの、本当の意味で協力しなければオールマイトに勝てない。

 それをこの数秒の戦闘で実感した二人。

 話し合いができる余裕ができたのならば、当然、打開策について意見を出し合わねばならない。

 

「やっぱりオールマイトはすごいよ。中途半端な攻撃じゃだめだ」

「全力攻撃、または必殺技をブチ当てるしかねえってことか。だが、言うほど簡単じゃねえぞ」

 

 先程の一連の戦闘から結論を下す二人。

 オールマイトには普通の攻撃では弱攻撃にしかならず、持ち前の超人的な肉体には通用しない。

 ならば全力の攻撃を仕掛けるしかないが、そうそう当たってくれる相手でもない。

 考えなしに戦える相手ではない。何かしらの策が必要だ。

 

「一応、考えはある。でも……」

「ンだよ。はっきり言え」

 

 作戦を言おうとして口ごもる出久に、爆豪が先を促す。

 少しの逡巡のあとに、出久は考えを口にした。

 

「作戦は――」

「……おまえ、それは」

「うん。僕がミスったら二人とも終わりだ」

 

 出久の作戦を聞いた爆豪はその内容に眉をひそめる。

 どう考えても出久の負担が厳しいものであったから。

 だが、出久は強いまなざしで爆豪を見つめ、はっきりと告げた。

 

「でも、かっちゃんは僕が守る。だから、信じて!!」

 

 

「これは、だいぶ吹き飛ばされたな」

 

 爆豪の大威力の爆破によって大きく吹き飛ばされたオールマイト。

 ダメージは多少はあるものの、戦闘にはまったく支障がないのはさすがといえる。

 軽く血痰を吐きながら、この後の出久と爆豪がどう動くかを考える。

 取れる行動は大きく分けて二つ。

 戦うか、逃げるか。

 そして先程までの二人の様子から、取るであろう選択肢はおのずと予想できる。すなわち……

 

「あくまで、私を倒す気で向かってくるか、ヒーローども!」

「ぜってえ、勝つ!」

「負けません、オールマイト!」

 

 己の打倒を目標に向かってくる二人の決意を受け止めて正面から拳を放つオールマイト。

 それを防ぐために、出久が前に出る。

 

「止めて、みせる!」

「やるな、緑谷少女! だが、まだまだ!」

 

 九つある尾の一つがスマッシュをはじく。

 当然、オールマイトの攻撃が一度で終わるはずはなく、一撃のスマッシュから連打のラッシュへと攻撃が切り替わり出久を襲った。

 その暴風雨のような拳の雨を九尾を使って凌ぐ。

 必死にオールマイトの動きを追う出久の脳裏には、職場体験で教わったワイプシとの訓練の経験が思い浮かぶ。

 

『違う! 正面から受け止めるな。受け流せ!』

 

 強烈な一撃を防御してたたらを踏む出久に虎が叱咤の声を上げる。

 そんな出久を見てマンダレイとピクシーボブがアドバイスをしてくれた。

 

『あたしたちは力では負けていることが多いからね。相手の攻撃をまともに受けてたらやってられないの。だから工夫が必要なんだよ」

『コツは相手の攻撃の方向を変えてやるってことかな』

 

 彼女らのアドバイスを、ラグドールが簡潔に締め括る。

 

『アハハハハ、逸らせ、弾け、ぶっ飛ばせー!』

 

 

 

「真正面から受け止めるな。弾くように、逸らすように……受け流せ!」

 

 ワイプシたちからの教えを思い出した出久は、思考と本能を両立させたH&Hモードになって九尾で体を包み込むように構えて防御をする。

 範囲に入った攻撃を叩き落とす九尾の防衛圏だ。

 鉄壁の防御でオールマイトの攻撃を凌ぎきり、わずかにできたオールマイトの攻防の隙間。それをこじ開けるように爆豪が出久の背後から飛び出す。

 

榴弾砲・着弾(ハウザーインパクト)

 

 爆風による回転の勢いを利用した大火力の必殺技。

 当たればオールマイトにもダメージを与えられる大技だが、簡単に当たってくれるようなら苦労はしない。

 

「甘いぞ、少年。そう簡単に当たってはやらんよ!」

「チイィ!」

 

 後方に飛びのき、爆破を躱すオールマイトに舌打ちをする。

 反射神経では人並み外れた自負を持つ爆豪からしても、オールマイトの反応速度は驚くほどのものだった。

 このままでは当たらない。

 そう本能的に直感した爆豪は、オールマイトに勝つために一つの決断をする。

 

「かっちゃん!? なにを……?」

「届かねえんだよ、おまえの後ろからじゃ。こっからなら、確実にオールマイトをブッ殺せる」

 

 身を寄せるように体を預けてきた爆豪に驚く出久。

 自分から九尾の防衛圏の内側に入り込み、攻撃の機をうかがう。

 もしオールマイトの攻撃が一発でも入れば、先ほどまでいた背後とは違い爆豪もダメージを確実に受けることになるにも関わらず、何の躊躇もすることはなかった。

 

「俺を守るんだろ? てめえがそう言ったんならやり通せ、出久!」

「~~~~ッ! うん!」

 

 なぜなら、信じると決めたのだから。

 爆豪の信頼に応えるべく、オールマイトの攻撃を捌き続ける。

 そして、その一瞬は訪れた。

 

「コフッ!」

 

 突如咳き込み、動きが鈍るオールマイト。

 その隙を逃す二人ではない。

 

「オールマイトの動きが止まった!」

「前に出るぞ、遅れんな!!」

「ああ!」

 

 二人同時に攻撃を開始する。

 爆豪は残り一つの虎の子である籠手のギミックを使いオールマイトにダメージを与える。

 吹き飛ばされたオールマイトに追撃をするべく、出久は身体能力を活かして着地する直前を狙って攻撃を繰り出す。

 

「“キャットコンバット”……『サバトララッシュ』!」

 

 身体のしなりを活かした高速ラッシュ。それを腕をクロスさせて防御するオールマイト。

 反撃の隙を与えまいと猛攻を仕掛ける出久の後ろから、爆豪が体を回転させながら迫ってくるのが目に入る。

 

『爆豪少年の必殺技か、あれは痛そうだぞ』

 

CAROLINA SMASH

 

 クロスしていた腕を振りぬき、出久を弾き飛ばす。

 すぐさま爆豪を迎撃するために、拳を握りこんだ。

 

「DETROIT SMA……なに!?」

 

 振りぬこうとした拳が途中で弾き飛ばされる。

 巨大な獣の腕だ。

 

「やらせないって言ってるでしょ!」

「腕だけの巨大狐化!? そんなことも出来るようになってたのかい!?」

 

 守り抜く、と、必死の形相でくらいついてくる教え子の成長した姿につい喜びを感じてしまったオールマイト。

 その感情の動きは数瞬だけ動きを遅らせてしまった。

 必然、その結果爆豪の攻撃が、届いた。

 

榴弾砲・着弾(ハウザーインパクト)ォォォ!」

 

 直撃。

 巨大な質量が落ちたような音が、破壊音が響き、土ぼこりが舞う。

 オールマイトの体勢が大きく崩れた今がチャンスだ。

 

「行けェ! 出久ゥゥウ!」

「うおおお!」

 

 ハンドカフスを手に雄たけびを上げながら突進する。

 オールマイトにカフスが掛かる!

 

 

 と、思った瞬間。

 

「ガフッ! …………え?」

 

 気が付けば出久は建物の壁に叩きつけられていた。

 何が起きたのか分からない。

 ただ、直感的にオールマイトの動きがさらに鋭くなったとだけ感じられた。

 

『まだ、本気じゃなかったってこと? そんなことどうでもいいだろ! 動け、動かないと』

 

 立ち上がろうとした出久だが、身体のダメージは大きく。さらに悪いことに、H&Hモードの副作用が体を襲っていた。

 くらくらと視界が揺れてめまいがする。

 身体の節々は限界を訴え、倒れてしまえと出久に伝えている。

 だが、それでも……

 

「まだ、だよ。まだ倒れるわけには……いかない!」

 

 無理やり巨大狐化を発動させて、オールマイトと向かい合う。

 横を見れば、爆豪もまた膝を震わせながら立ち上がるところだった。

 

「かっちゃん……」

「まだ行けンだろ、出久!」

「ああ!」

 

 満身創痍ながら戦意は十分。

 そんな二人に、オールマイトは笑顔を向けた。

 

「さすがだ、二人とも。だが、残念だったね」

「どういうことだ、オールマイト」

「何って、こういうことさ。少年」

 

 不信感を煽るオールマイトの言葉に爆豪が聞き返せば、オールマイトは視線を上に向けて呟いた。

 次の瞬間、

 

『タイムアップ!! 期末試験これにて終了だよ!』

 

「な、に!?」

「終わっちゃった?」

 

 無情にも告げられる試験終了の合図。

 呆然となる二人。そして、ショックから緊張の糸が切れて限界を迎えていた体は崩れ落ちた。

 意識を失ってしまった出久と爆豪。

 

 二人の期末試験は、これで終わってしまったのだ。

 




戦闘シーンを書いてる時が一番筆が止まりやすいと気が付きました。
苦手です。上手に戦闘かける人が羨ましい。
コツはなんだー!?

次回は期末試験後のあれこれ。ショッピングモールに行くところまでの予定。
ぶっちゃけ、そっちの方が書きやすいのよね。

活動報告更新しました。
アンケートもしてるので、是非。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=191933&uid=28246


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いずく1/2 その26(ショッピングモール編)

更新します!


 爆豪が目を覚まして最初に認識したのは真新しいシーツの匂い、そして消毒液を始めとした薬品の匂いだ。

 要は保健室の匂いなのだと理解したところで試験をクリアできなかったことに思い至り、悔しさから顔を片手で覆う。

 泣くようなことはしない。だが、そうでもしなければ感情が抑えられそうもなかった。

 

「かっちゃん、目が覚めたんだね!」

「んん? 出久……かっ!?」

「かっちゃん!?」

 

 声がする方に顔を向ければこちらを心配そうに覗き込む出久の姿があった。

 それを見た瞬間、ベッドから跳ね起きて転げ落ちる爆豪。

 隣にいた出久は驚くしかない。

 

「かかか、かっちゃん!? いったいどうしたの? どこか痛いの?」

「うるせえ、俺の側によるな!」

「え、ええっ!?」

 

 心配する出久に対しキツイ態度を取る爆豪。

 何故なら今の出久の姿が……ケモ耳幼女だったからだ!

 いくらトラウマを克服したとはいえ、寝起きは心臓に悪いのである。

 

「なんで!? 僕の何が悪いの? 教えてよ、かっちゃん!」

「いいから、離れろ! クソデク!」

「デク!? 呼び方が戻るほど嫌って、何なの!?」

 

 そんな爆豪の気持ちなど知るはずもない出久は、理由を知ろうと必死で爆豪に詰め寄る。

 そして、懸命に逃げ回る爆豪。

 

 傍から見ていてこれ程滑稽なものはなかった。

 

「何やってるんだい。元気なのは良いけどここは保健室だよ。静かにしなさいな」

 

 当然、リカバリー・ガールに怒られたのであった。

 

===================

 

 期末試験から一夜明けたA組教室。

 そこには暗い顔をしたクラスメイトが数人集まっていた。

 そう、期末試験をクリア出来なかったメンバーである。

 

「皆……土産話っひぐ、楽しみに……! してるっ……から!」

 

 芦戸が涙ながらに語るのを見て、同じく試験未達成組の切島、砂藤、上鳴の空気が更に暗くなる。

 彼らのいる一部区画だけジメジメとした空気が漂っている。

 

「あぁ! ウザってえ! いまさらウダウダ言ったところでどおしようもねえだろうが! メソメソしてんじゃねえよ、雑魚が!」

「なんだとお! 爆豪おまえもクリアならずのくせに!」

「黙れ! 俺とお前らを一緒にすんな!」

「同じだろ! 何自分は違うって顔すんなよな!」

 

 ジメジメした雰囲気にキレた爆豪が食って掛かるが、試験失敗したもの同士の低いレベルの争いになってしまった。

 いや、喧嘩できるくらいの空元気が湧いたとでも思えばよいのだろうか?

 

 一方、出久はというと、芦戸を除いた女子メンバーに囲まれていたりする。

 

「ああ、デクちゃんと一緒に合宿行けないの寂しいよー」

「ごめんね、麗日さん。でも、僕の力不足が招いたことだから……」

 

 出久が試験をクリアできなかったことを悲しむ麗日。

 それを出久は死んだような目をしながら聞いていた。

 なぜって、試験をクリアできなかったショックもそうだが、何よりこの状況だ。

 

 ケモ耳幼女・出久。現在、麗日に抱えられて膝の上である。

 先程からずっとモフモフされっぱなしなのだが、もはや何を言っても聞かないと諦めたのである。

 たぶん、この副作用をなんとかしない限り、この扱いはかわらないんだろうなぁ、と、漠然とそんな予感を感じ取った出久であった。

 ああ、現実は無情であるな。

 

「でも、心配ですわね。補習は学校で居残り授業だそうですけども、出久ちゃんをそこに一人置いて行くのは不安が残ります」

「残る女の子、三奈ちゃんだけだもんねー。男どもにちっちゃい子のお世話は任せられないし……」

「そうね。三奈ちゃんへの負担が大きくなりすぎるのは好ましくないわ」

「やっぱり先生を頼るのがいいんじゃない? 女の先生っていうと、ミッドナイトと……」

 

 八百万が学校に残る出久の心配をしたことで、葉隠・蛙吹・耳郎が次々と意見を述べる。

 自分の心配をしてくれることには感謝したい出久だが、正直一言物申したい。

 

「なんで皆、僕を見た目通りの年齢で扱おうとするの!?」

 

 緑谷出久、れっきとした高校生である。である!

 

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 話をしているうちに時間が来て、相澤先生が勢いよくドアを開けて教室に入ってくる。

 一瞬で静まり返る教室に相澤先生の声が響く。

 

「おはよう。今回の期末テストだが……残念ながら赤点がでた。したがって……」

 

 死刑宣告を待つような気持ちで、言葉の続きに耳を傾ける試験失敗組。

 告げられた言葉は――

 

「林間合宿は全員行きます」

『どんでんがえしだあ!!』

 

 まさかの全員参加宣言に喜びに沸く一同。

 そんな喜びに水をさすように、相澤先生は今回のテストの赤点生徒を告げる。

 

「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤あと瀬呂が赤点だ」

「行っていいんスか俺らあ!!」

「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな……クリアできずの人よりも恥ずかしいぞ」

 

 切島が信じられないとばかりに聞き返し、瀬呂がうつむいて落ち込んでいる。

 そんな各々の反応は良いとして、気になることが一つ。

 

「あの、先生。赤点でないことは嬉しいんですが、僕たち試験をクリアできてないですよ?」

「ああ。その点についても説明させてもらう」

 

 試験をクリアできなかったにもかかわらず、赤点の名前を呼ばれなかった爆豪と出久。

 その理由を尋ねてみれば、相澤先生が顔をしかめながらため息を吐きながら話し始めた。

 

「今回の試験。我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るよう動いた。

 でなければ課題云々の前に詰むやつばっかりだったろうからな」

 

 本気で叩き潰すと言っていたのは生徒を追い込むため。

 赤点は林間合宿に行けずに居残り補習というのもそのためだ。

 そもそも、林間合宿は強化合宿であるので、赤点を取った生徒こそそこで力をつけなければならない。となれば、赤点=合宿不参加になるのは最初からおかしいのだ。

 いわゆる合理的虚偽というやつである。

 

 そう、全ては生徒たちに本気を出させる嘘なのだが……

 

「緑谷、爆豪。おまえたちの試験の最後の方なんだが、あれな。オールマイトのハンデのおもりが外れてたのは気がついてたか?」

「いや、気がついてねえ」

「は、はい。ってことは……ハンデなしの本気のオールマイト相手だった!?」

 

 度重なる高威力の攻撃を受けた結果、耐久力が減っていた手足の重りのバンドが壊れておもりが外れた状態になっていたのだ。

 ついでに言えばオールマイト。二人の思った以上の奮闘にテンションが上がり、手加減を間違えていたり……

 オールマイトの動きに耐えられるようなアイテムなど、そうそうあるはずもなく。ましてやアイテムにダメージがあったとなれば当然の結果と言えよう。

 つまり何が言いたいかといえば。

 

「生徒に本気を出させるための嘘だってのに、教師が本気出してどうすんだ。まったく!」

「マジかよ、オールマイト……」

「そういえば、教師としては新米だったよね」

 

 呆れた様子で相澤先生が吐き捨てる。

 思わずといった様子で爆豪がため息を吐き、出久は思い出したように声を上げた。

 学校側の不備による加点につき、赤点免除。

 そういうことである。

 ちなみにオールマイトはこの件ですっごい叱られたと伝えておく。

 

 

「A組みんなで買い物行こうよ!」

 

 放課後、一週間の合宿で必要なものを一緒に買いに行こうという葉隠の提案で明日の休みに出かけることとなった。

 一部のメンバーを除き、集まったのは県内最大店舗数を誇る『木椰区ショッピングモール』

 多くの店舗が並ぶこの場所ならば、必要なものが揃うだろうということで集まったのだが、各自必要なものは違うわけで、結局バラけて動くこととなった。

 集合時間と場所を決めてあとは解散……となるはずが、出久には一つ問題が。

 

「さ、出久ちゃん。私と一緒にまわりましょう!」

「はぐれて迷子になったら大変だもんね。手えつなごっか?」

「あの、大丈夫だよ。一人でまわれるから」

 

 八百万(保護者)麗日(セコム)が離してくれない。

 完全に見た目通りの年齢扱いされていることに悲しくなる出久。

 半ば暴走気味の二人にどんな言葉を投げかけても無駄だと悟った出久は最終手段を取る。

 これだけは使いたくなかったと思いながら一度うつむいて覚悟を決めた。

 

「おねがい、おねえちゃんたち。ぼく、ひとりでがんばりたいなー」

「「うっ!」」

 

 必殺、涙目上目遣い・おねえちゃん呼び。

 母性特攻の禁じ手に、八百万と麗日はK.O.

 出久が単独行動をすることに首を縦に振ることとなった。

 その代償は、出久のプライドである。尊い犠牲だ。南無。

 

「あ、そうですわ。出久ちゃん、念の為これを渡しておきますわ。何かあったらこれを使ってください」

「これって、防犯ブザー?」

「ええ、変質者が出たときのために!」

 

 手のひらに収まるそれを見て苦笑いを浮かべる出久。

 小学生のとき以来だと懐かしく思いながら、それが似合う姿になっている自分に心で泣いたのだった。

 

 

 

「おー、雄英の子じゃん。スゲー!」

「ど、どうも」

 

 皆と離れて自由行動を始めたところで、声をかけられる出久。

 体育祭以来、よく声をかけられるのでなれたもの、と、思っていたらいきなりしゃがみこんできて肩に手をかけられた。

 馴れ馴れしさに戸惑う一方で、野生の勘が危険を告げる。

 

「あなた、いや、おまえは!」

「へえ、勘がいいな。やっぱり野生動物ってところか?」

 

 気がついたときには首に手をかけられ、絶体絶命の状況になってしまっていた。

 この人物の正体は――

 

「雄英襲撃以来になるか? 緑谷出久」

「死柄木、弔!」

 

 ヴィラン連合のリーダー。

 危険な雰囲気溢れる男の出現に、出久の手に力がはいる。

 警戒心を隠さない出久に、死柄木は諭すように声をかけた。

 

「慌てるなよ。俺はおまえと話がしたいだけだ。だから……

 

 防犯ブザー(それ)から手を離せ。殺すぞ」

 

 出久の手に握られているブツを見て若干、顔を引きつらせる死柄木。

 彼はヴィラン。犯罪者だ。

 犯罪者だが、かといって、不審者・変質者と同等には扱われるのはゴメンなのである。 

 

 

オマケ『恐怖の一言』

防犯ブザーを握る手に力が入る出久。だが、それを死柄木は見逃さなかった。

 

「それから手を離せ。殺すぞ」

 

 死柄木の言葉に従わざるを得ない出久。

 “殺す”という脅しには、出久本人だけに向けられたのではないと理解していたからだ。

 死柄木の視線が、周囲の何も知らずに日常を過ごしている一般市民を示していた。

 人質を前に出されては、ヒーロー志望としては無視することもできない。

 苦々しい思いを噛みしめながら、手の力を緩めた。

 その様子を見た死柄木は、出久に抵抗させないようにさらに言葉を投げかけた。

 

「それと言っておくが、抵抗しようなんて考えるなよ? ……俺は“ペド”だ!」

「クッ! ……えっ? ええっ?」

 

 さらに脅しをかけられたと唇を噛みしめる出久であったが、死柄木の言葉に変なものが混じっていることに気が付き、困惑する。

 最初は意味がわからなかったが、数瞬後に頭がようやくその言葉の意味に追いつく。

 感じたのは今までにないほどの身の危険だった。

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げながら、出久は迷うことなく防犯ブザーのピンを引き抜いたのだった。

 

『本日、午後××ごろ。木椰区ショッピングモールにて、フードを被った20代位の男が幼女に「お茶でもしないか」と声をかけてくる事案が発生致しました。不審者は被害者の女の子が持っていた防犯ブザーの音に驚き、逃走。警察では不審者の足取りを追うとともに周囲への警戒を呼びかけています』




・出久と爆豪、赤点を免れる。
・死柄木とエンカウント
・オマケ、死柄木通報される。
 以上、今回のお話でした。

戦闘シーンがないと筆が進むなぁ……


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いずく1/2 その27(ショッピングモール編2)

遅くなりました。


 死柄木により生殺与奪の権を握られた出久は、その恐怖にじっと耐えるしかなかった。

 抵抗すれば自分だけでなく、周囲の市民の命も危険にさらしてしまう。

 いわば人質を取られたようなものだ。

 死柄木の要求に応じるしか選択肢はない。

 それでもこの状況は出久にとって屈辱だった。

 たとえ不自然でないように話ができる場所へ移動するためだとしても……死柄木に抱え上げられての移動はあんまりだと!

 

 死柄木の右手は依然、首にかけられたまま。しかし、向かい合うような形で抱え上げられている。要は“抱っこ”されているわけで。

 精神年齢高校生男子の出久はもういろいろとダメージが大きかった。

 

「ちゃんとおとなしく出来たなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」

「くっ、馬鹿にして!」

 

 こちらを嘲るような死柄木の言葉に、出久はただ睨みつけることしかできない。

 それが精いっぱいの抵抗だった。

 もっとも、見た目幼女が睨みつけたところでまったく効果はないのだけれど。

 むしろ微笑ましいくらいだ。

 

「それで、話って、なんだよ」

「まぁ、慌てるなよ。まったりと話そうじゃないか」

 

 要件を尋ねる出久に、死柄木は落ち着いた様子で話し始める。

 語りだした内容は、ヒーロー殺し=ステインのことだった。

 

「今一番腹立つのはヒーロー殺しさ」

「仲間じゃないのか?」

「俺は認めちゃいないが、世間じゃそうなってる」

 

 仲間ではないのかと問う出久だが、死柄木は気に入らないと言いながら否定する。が、世間の認識についても言及した。

 問題はそこだ……と。

 

「雄英でのことも、保須でも、俺たちがやってきたこと全部奴に喰われた。誰も俺を見ようとしない……何故だ?」

 

 このショッピングモールに来る前、アジトには連合への参加希望者がやってきていた。

 ……ステインの思想に惹かれて。

 そいつらのことを思い出す死柄木。

 

 

『ステ様になりたいです! ステ様を殺したい! だから入れてよ弔くん!』

 

 ステインの在り方、姿に魅せられてヴィラン連合に近づいてきた人格破綻者。

 

『ヒーロー殺しの意志は、俺が全うする』

 

 ステインの思想に感化されて、その思想の拠り所とみて連合への参加を望んだもの。

 

『ここに来たら幼女をペロペロできると聞いて!』

 

 ステインの風評(被害)を聞いてやってきた……こいつはいいや。速攻で刺されて燃やされて塵になった奴だし。

 

 

 二人が示す通り、世間はヴィラン連合よりもステインを注目している。

 今の状況は、“ヴィラン連合にステインがいる”のではなく、“ステインがいるヴィラン連合”という認識だ。

 これではステインが主、ヴィラン連合が従だ。

 そのことが、死柄木には気に入らない。

 

「いくら能書き垂れようが、結局やつも気に入らないものを壊してきただけだろう? 俺と何が違う?」

 

 納得できない疑問を口にする死柄木。

 だが、出久の答えは答えとは言えないものだった。

 

「そんなの、僕が知るもんか。僕はおまえのことも、ステインのこともよく知らないんだから」

 

 知らない相手のことなど答えようもない。

 これで出久がステインと直に相対して何かを感じ取っていれば何がしかの答を返すことも出来ただろう。

 しかし、出久には直接の面識はないのだ。答えなどあるわけもない。

 そして、それは死柄木も分かっていることだった。

 だから、質問する相手を変えた。

 

「おまえには答えられないだろうよ。だが、化け狐……おまえなら答えられるだろ?」

「何を……!?」

 

 出久ではなく、出久に取り憑いた個性、羽衣狐の乙音に答えを求める死柄木。

 驚いている出久に、乙音が応じる意思をみせる。

 

『主様、妾が答える。代わるのじゃ』

『でも……』

『大丈夫じゃ。むしろこのまま妾が答えないほうが、相手を怒らせるかもしれん』

 

 危険を避けるためだと主張する乙音に出久は同意するしかなかった。

 次の瞬間、出久の髪が緑から金に変わる。

 

「お望み通り、主様と交代したぞ。だが、妾が答える前に一つ問いたい」

「いいぜ。言えよ」

「何故、妾に聞く? いや、そもそも妾の存在をどこで知った?」

 

 ヴィラン連合の首魁である死柄木が、隠しているわけではないが多くには知られていないはずの自分のことを認識していた理由を確かめる乙音。

 死柄木の答えは、乙音の予測した中で最悪の答えだった。

 

「“先生”から聞いた。おまえ、昔“先生”のところにいたんだろ?」

「その、“先生”というのは、やはりあやつのことか? あやつは、まだ妾のことを……」

 

 かつて自分を恐怖で縛りつけた男が、いまだに自分のことを忘れていないと知り、背筋が凍る乙音。

 そんな乙音の心情を慮ることなく、死柄木は問いの答えを急かす。

 

「俺は質問に答えたぜ。次はお前の番だ。俺とステイン、何が違う?」

「……ステインとやらのことはよく知らぬ。だが、“あの男”のことならば話せるが?」

 

 ステインとの比較ではなく、“先生”との比較になると前置きする乙音に、死柄木は了承の返事をする。

 とにかく疑問を解消したい死柄木にとって、その答えのヒントとなるならば何でもよかった。

 

「おぬしは、ただのガキじゃ」

 

 開口一番、飛び出したのは痛烈な一言だった。

 普段ならばすでにキレていてもおかしくはないはずなのに、何かを感じたのか黙ってその先を促す死柄木。

 乙音の語りは続く。

 

「気に入らないと暴れるだけ、駄々をこねるのならば童でもできよう」

 

 今の社会が気に入らない・満足できないと好き勝手するのは“先生”も変わらない。

 しかし、“先生”と死柄木には大きな違いがあると告げる。

 

「まだ超常黎明期のころ、人の規格が崩れた混沌とした時代……あやつは現状に不満を持つ者を集め、己の力を振るうことを是としておった」

 

 現状の秩序を否定する。不満を持つ者を集めて、徒党を組む。

 ここまでは死柄木もやっていること。

 足りないのはその目的。ゴールだ。

 

 “先生”は、超常を持った人間が増え始め、人の規格が崩れ乱れた秩序に対して、『自分を中心とした新しい秩序を作る』という大義名分を掲げていた。

 事実、彼の力のおかげで救われた人間もいたのだろう。

 それがたとえ彼の支配という名の秩序だったとしても、その理念・考えの下に集まった人間もいたはずだ。

 

「それがあやつの本心かは知らないし、それが正義だと言うつもりもないがの。じゃが、対外的にはそういう大義を持っておった」

 

 翻ってみて、死柄木はどうかと言えば……その目的が分からない。

 例えば保須市の事件。あれは何が目的だったのだろう? どんな理由があって脳無という改人を暴れさせなければならなかったのか?

 答えは何もない。強いて言うならヴィラン連合の存在をアピールすることだろうか?

 だが、何か犯行声明を出したわけでもなく、メッセージを出したわけでもない。

 特に主張もないのならば、当然、同じく事件を起こしたといえど自らの主張を大きく広めることとなったステインに注目がいくというものだ。

 

「ステインの野郎は信念がどうとか言ってたな。そういうことか?」

「じゃから、ステインのことは知らんと言っておる。まぁ、こうだろうと予想は付くが」

 

 ステインの言っていた信念についての言葉を思い出し、尋ねる死柄木。

 乙音は知らないと言いながらも、耳にした情報から予測するステインの考えを口にし始めた。

 曰く、「オールマイト」であると。

 

「一言で言えば“オールマイトがすべてのはじまり”ということじゃろう。オールマイトというヒーローの理想を見て、その理想と程遠い現実(ヒーロー)に不満を持った。だから変えようと行動した」

 

 やり方は間違っているが、それでも理想に生きようとしたのだろう。

 そう告げた乙音は、死柄木の顔を見て表情を凍らせる。

 

「ああ……すっきりした。わかった気がする……全部、オールマイトだ

 

 心の底から笑っている、なのに見るものに怖気を走らせるような不気味な笑顔を見せる死柄木。

 それは歓喜の表情だ。暗い、暗い怒りを孕んだ……

 

「救えなかった人間などいなかったように! ヘラヘラと笑っているからだよなぁ!!」

「ぐっ!」

 

 オールマイトへの、否、今のヒーローという正義に対する怒りで手に力が入り出久の首を絞める。

 だが、周囲の市民への被害を考えれば耐えるしかない出久。

 拷問のような時間は、そう長くは続かなかった。

 

「デクちゃん?」

「お知り合い……ではなさそうですわね」

 

 現れたのは麗日と八百万。

 単独行動を認めたものの、不安になって戻ってきたのだ。

 そして目にした光景に警戒心をあらわにする。

 

「なっ、二人とも、来ちゃだめ……」

「なんだ、迷子じゃなかったのか。ごめんごめん」

 

 二人の身を案じて声を上げようとするが、死柄木がパッと手を離し素早く離れていく。

 追ってこないよう脅しをかける死柄木に、なお何か問いかけようとした出久であったが、心配する二人に気を取られている間に見失ってしまった。

 

 そうして一人になった死柄木はほくそ笑む。

 出かける前までの不機嫌は吹き飛び、今は踊りだしそうなほど上機嫌だった。

 なぜなら、彼は自分の信念と理想を見つけることができたのだから。

 

『オールマイトのいない世界を創り、正義とやらがどれだけ脆弱かを暴く』

 

 彼がこれから掲げる、理想・信念の下に今の秩序にあぶれた人を集めるのだ。

 ステインの理想・思想を踏み台にしても……

 悪は、再び動き出そうとしていた。

 

 

オマケ~小ネタ集~

『出久は笑顔で……』

 話をする場所へ移動するため、死柄木に抱えられる出久。

 ヴィランに身を任せなければいけない危機的状況と、幼児扱いされる屈辱に顔を歪ませる。

 そんな様子を嗤うように死柄木が声をかけてきた。

 

「ちゃんとおとなしくできたなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」

「くっ、馬鹿にして!」

 

 よしよしと、あやすような動き。完全に幼児扱いだ。

 出久の嫌がることを的確にやってくる死柄木。

 効果覿面の様子に死柄木はさらに調子に乗った。

 

「なんなら、“お兄ちゃん”って呼んでもいいんだぜ?」

 

 ニヤリと嫌な笑みを浮かべる死柄木。

 その表情を見て、出久は……

 

 笑顔で防犯ブザーを見せつけた。

 

「おい、俺が悪かったからやめろ」

 

 

『出久は黙って……』

 話をする場所へ移動するため、死柄木に抱えられる出久。

 ヴィランに身を任せなければいけない危機的状況と、幼児扱いされる屈辱に顔を歪ませる。

 そんな様子を嗤うように死柄木が声をかけてきた。

 

「ちゃんとおとなしくできたなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」

「くっ、馬鹿にして!」

 

 よしよしと、あやすような動き。完全に幼児扱いだ。

 出久の嫌がることを的確にやってくる死柄木。

 効果覿面の様子に死柄木はさらに調子に乗った。

 

「なんなら、“お兄ちゃん”って呼んでもいいんだぜ?」

「誰が呼ぶか!」

「そう睨むなよ。舐めまわしたくなるだろ」

 

 ニヤリと嫌な笑みを浮かべる死柄木。

 怒る出久に死柄木がふざけた様子で返事をした。

 対して出久は……

 

 黙って防犯ブザーの紐を引き抜いた。

 

 

『何かを射抜く音がした』

「ちゃんとおとなしくできたなぁ? 偉い偉い。ホント、イイ子だなぁ?」

「くっ、馬鹿にして!」

 

 よしよしと、あやすような動き。完全に幼児扱いだ。

 出久の嫌がることを的確にやってくる死柄木。

 効果覿面の様子に死柄木はさらに調子に乗った。

 

「なんなら、“お兄ちゃん”って呼んでもいいんだぜ?」

 

 ニヤリと嫌な笑みを浮かべる死柄木。

 その表情を見て、出久は……自棄になった。

 

「ありがとー。しがらきおニイちゃん」

「は!?」

 

 ニパーっと、満面の笑みに甘ったるいロリっ子ボイスで告げる出久。

 その言葉を受けて死柄木はピシリと固まる。

 ズキューン、と何かが胸を射抜いた音がした気がした。

 

「し、死柄木。どこへ行くつもり!?」

「……黙ってろ」

 

 目的のベンチを通り過ぎて、出久を抱えたまま歩き去ろうとする。

 思わず出久が声を上げるが、気にした様子もない。

 そして、その目的を告げた。

 

「決めたぜ、お持ち帰りだ」

「…………救けて!? 誰か、救けて~!!」

 

 なお、ギリギリにセコムと保護者が駆けつけてなんとかなったとか?

 

 

『あぶないセコム』

 単独行動を認めたものの、やっぱり不安になって出久の元へ戻ってきた麗日と八百万の過保護コンビ。

 何か胸騒ぎがすると戻ってきてみれば、目にしたものは……

 

 フードを被った怪しげな男が、幼い女の子の肩に手をかけて何か話しかけていた。

 出久の青ざめた表情を見る限り、まともな状況ではない。

 二人が目と目で語り合って行った麗日・八百万(魔女)裁判の結論。

 

 有罪(ギルティ)! ロリコン、死すべし。慈悲はない。

 

「なっ、二人とも来ちゃダメ……ヒィ!」

「……マジかよ」

 

 女子二人に気が付いた出久と死柄木。

 だが、二人を見て出久は悲鳴を上げ、死柄木は顔が引きつる。

 だって――

 

「デクちゃんに……触るな、外道!」

 

 怒りの形相で全く麗らかでない(ヒロインがしちゃいけない)表情をしている麗日。

 背後に不動明王のヴィジョンが見えそうなほど濃厚な怒りのオーラが出ていた。

 その手にした日本刀はどこから!?

 あ、八百万さんですか……そうですか……

 

「緑谷ちゃんから離れなさい! さもなくば……分かっていますわね?」

 

 一方、八百万も鬼気迫る表情で死柄木に自らが創り出した銃を向ける。

 ただし、手にした銃は拳銃などではなく……10mm以上の口径に全長は1.5mはあろうかという大型の銃。

 いわゆる対物ライフルと呼ばれているような品であった。

 間違っても人に向ける物ではない。

 おい、ヒーロー志望。おおい!?

 

 これ、警察が駆けつけたとして逮捕されるの死柄木じゃないんじゃなかろうか?




なんかまた本編よりもオマケがメインになっているような気がします(汗)
なんで(拙作の)シリアスすぐ死んでしまうん?

最期のセコム&保護者コンビは中の人ネタを使ってみたり。


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