鈍感な提督と戦う艦娘たちの日常 (ふ爺さん)
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鹿島があざといだなんて僕は知らない。

昔に書いていた作品なのですが、久々に見たら突っ込みたい部分が山ほどあったので書き直しながら再掲することにしました。駄文ですがお付き合いしていただければ幸いです。


「おはようございます、提督」

 

その言葉を聞いて目を覚ます。

すると、何故か今日の秘書艦である鹿島が布団の中に入っていた。

鹿島の顔が間近にあり、息がくすぐったい。

ついびっくりしてしまい、鹿島と距離をとると、鹿島はムスッとした顔をした。いきなり距離をとってしまったのだから機嫌を悪くしたのかもしれない。

とはいえ、いつも通り気になることを尋ねることにした。

 

「ねえ、鹿島。………鹿島といい他のみんなもどうして毎日布団の中に入っているんだい?」

 

そういうと、鹿島は目を潤ませながらこちらを向いて、

 

「すいません、提督。 寒かったもので…つい提督の布団に入ってしまいました。

その……迷惑だったでしょうか?」

 

なんだ、そういうことか。待っている間、寒さのあまりつい布団に入ってしまったんだな。なるほど、それでみんなも入ってきてたのか。

 

「あー、そうだったか。寒かったのなら僕に責任があるなぁ……

とはいえ、そんなに寒いんだったら僕のコートを貸してあげようか?

でも、僕の着t「嬉しいです是非とも貸して下さい!!」………」

 

なんか必死な顔で言葉を遮られた。うーん…それだけ寒いのかな?

季節は冬だとはいえ、一応暖房設備はしっかりとしているつもりなんだけどな……

よし、今日はみんなで暖まれる料理を鳳翔さんに頼むとしよう!

うーん…おでんもいいけど鍋もいいな……そうだ、僕だったら決めるのに時間がかかるし、ここは鹿島に決めてもらおう。

 

「ねえ、鹿島。 今日は鳳翔さんにおでんか鍋をお願いしようと思うんだけど、どっちがいいかな?」

 

そう尋ねると鹿島は逡巡することもなくやや食い気味で答えた。

「鍋にしましょう! みんなでつつけるし、楽しいではありませんか!!(だって提督のお箸に触れる機会が……キャッ♡)」

 

流石鹿島だ。優柔不断な僕と違ってすぐに決めてくれる。

鹿島にお礼を言い、そしてコートを被せてあげる。

クローゼットに入れてたものだから少し寒かったのだろうか、震えている。

このままではまだ寒いのかな?

 

「ねえ、鹿島? まだ寒いのかな? 寒いなら正直に言ってくれていいんだよ」

 

そう言うと、鹿島はおずおずとした感じで

 

「その…提督がよければ、抱きしめて暖めて欲しいのですが……ダメ…ですか?」

 

うーん、いくら寒いとはいえ、僕なんかが鹿島にハグするだなんて……。

鹿島もいくら提督だからとはいえ嫌なんじゃないか?

 

「いえ、決してそんなことはありません!! さあ、お願いします!!」

 

あれ?今僕声に出してたかな?

でも……そこまで言われると、提督として艦娘の要望に応えない理由はない。

とはいえ、僕も男だ。女性と抱きしめ合うともなると、少しばかり緊張する。

 

「で…では失礼して……」

 

鹿島の背中に壊れ物を扱うが如く優しく手を回す。なるほど、たしかにクローゼットの中に入っていたからなのだろうか、コートはかなりひんやりとしていた。

鹿島に風邪を引いてもらいたくない一心で彼女を抱く手を少し強くする。

 

「…………むきゅぅ♡………」

 

 

数分が経っただろうか、彼女を抱く手を緩める。

暖まったのだろう、鹿島の顔は真っ赤だった。

よし、これで鹿島も風邪を引かないだろう。

 

「大丈夫っぽいね。 申し訳ないけど、着替えるから席を外してもらってもいいかな? 」

 

「………きゅう………」

 

そう言うと、鹿島は錆びついた機械のような動きをして部屋の外に出ていった。

みんなの中ではロボットダンスが流行っているのかな?

後で教えてもらおう。さて、今日も一日頑張るか!

 

ーーーーーー

 

ザザッ……ザザッ……

 

「見た? 鹿島の奴、提督のコートを着せてもらったばかりか抱きしめてもらってやがりますよ!」

 

 

「まさか布団の中に潜り込むとは………そこの場所は譲れません」

 

「ちょっと加賀! あんたも前に潜り込んで折檻食らったでしょ!?」

 

鎮守府の中にいるほかのメンバーだろうか、暗くなったこの部屋で喧騒が起こり始めていたが、

 

「静かに」

 

その一声で静寂に包まれる。

静まったのを確認した大和が、極めて平穏(大嘘)な解決策を提示した。

 

「ここは会長である、赤城さんに判決を決めてもらいましょう」

 

そう言うと、今まで沈黙を保っていた赤城が初めて口を開く。

 

「ええ、ギルティです。 今日は秘書艦なので手を下せませんが、明日の演習では少し反省していただきましょう」

 

微笑を携えながらえげつないことを言っているが、これも日常茶飯事。事実、ここにいるメンバー全員が同じ目に遭っている。

 

「「「「御意に」」」」

 

ここはとある部屋の一室。この部屋の存在を(鈍感な)提督は知る由もない……

 

 

 

ブルッッ!

 

「どうしたんだい鹿島? 部屋に戻ってくるや否や震えたりして?」

 

「……いえ、少し悪寒がしたもので……」

 

悪寒だって!? 鹿島は風邪を引いちゃってるかもしれないのか!?

そう思った僕は鹿島の頭に右手を当てる。「ふぇ!?」うん、予想通り熱いな……

 

「鹿島。しんどいのなら、休んでもいいよ?」

 

そう言うと、鹿島は慌てた表情で

 

「いえいえ、全然大丈夫です! さあ、行きましょう、提督!」

 

そう言って鹿島は僕の手をとって提督室へと足を進めた。

 

ーーーー

 

 

提督の仕事はこう見えてハードだ。

 

「鹿島! 明石に連絡をとって、資源の残量を確認して!」

 

「提督、備蓄室からボーキサイトをかなり消耗していて、備蓄が心許ないと」

 

いつも通りの業務でも十分に忙しいのだが、ここは鎮守府。想定外の事態が起こるのだってある意味普通のことである。

 

「こちら五十鈴!! 敵潜水艦が遠征先のオリョール海に多数出現!! 救援をお願いします!!」

 

このように想定外の事態が起こるのだって日常茶飯事だ。

しかし提督は焦る様子もなく淡々と、そして的確に指示を出す。

 

「了解、まず第六駆逐艦の全員に遠征先の変更を。 そして浜風、浦風には五十鈴達と合流し、作戦δをもって敵潜水艦を急襲するように電報を」

 

「了解です!」

 

このように日々鎮守府の状況は二転三転することも多い。

しかも、提督には書類面での仕事に加え、本部との連携もしなくてはならない。

前にいた提督は面倒だといって私たちに押し付けていたのだが、今の提督は片手間程度に終わらせてしまう。おかげで私たちの仕事は連絡するだけになった。

私たちですら10人がかりでやっとの仕事を一人で難なくやり遂げるなんて……

提督の気づかないところで好感度がどんどん上がっているのだが、提督はそれに気づかないばかりか、

 

「ごめんな、鹿島。 こうして仕事を押し付けてしまって」

 

とまで言う始末。

提督は基本ハイスペックなのに、致命的なまでに鈍感だ。

普通に考えて、晩までかかる仕事を午前中で終わらせてる提督がおかしいだけなんですけどね……

 

そして一時間後には作戦に参加した艦娘全員が帰港した。

普通に考えて片道二時間はかかるはずなんだけど…………

 

「電、たった今帰投したのです!」

 

「五十鈴、浜風と浦風と合流し、敵潜水艦を全滅させることに成功。

こちらも今帰投しました!」

 

提督に褒めてほしいのか我先にと報告をしていく。

そんな彼女たちの表情を見て、提督もうれしかったのだろう、彼女たちの頭を撫でながら、

 

「お疲れ様。 電、これをあげるからみんなで甘味処で楽しんできなさい。

そして、五十鈴。 浦風が小破したことも、勿論君たちも怪我をしたと言う話は聞いている。とりあえずは休んで、落ち着いたら明石にソナーを点検してもらってくれ。

鳳翔さんの方にお願いしてご飯を豪勢にしてもらっておくよ。」

 

そう言うと、全員が嬉しそうな顔をした。

 

「提督さん、私たちと一緒にパフェを食べに行くのです!」

 

電たち、第六駆逐隊が提督を誘ったかと思えば、

 

「提督ー、私たちで食べきれるか分かんないし……後で一緒に食べよ?」

 

五十鈴や浜風たちも対抗するように提督を誘う。

 

「ああ、わかっ「チッ」 どうしたんだい鹿島? なんか嫌なことでもあったのかい?」

 

「いえ、気のせいです。 お気になさらず」

 

「あ、ああ。 了解した。 じゃあ、五十鈴たちは夜に食堂で。今日は鍋だから楽しみにしておいて。鹿島もお疲れ様。 鹿島もゆっくりとするんだよ?

じゃあ、電。一緒に行こっか」

 

そう言って、提督は執務室を出て行った。それに五十鈴も電も続く。

さて、私も帰ろうと思い、部屋を出たのだが、

 

「鹿島さん、貴方には出頭命令が出ています。 抵抗は無駄なので、速やかに投降することをお勧めしますよ♡」

 

鹿島は榛名に捕まった。(GAME OVER)

 

 

その日、晩になるまで鹿島の姿を見た者はいなかったと聞くが、真実は明らかでない。

提督も、しんどかったんだろうなぁと持ち前の鈍感さを発揮していた。

 

ーーーーー

 

「被告人、前へ」

 

「被告人、鹿島。 貴方は提督の聖域である布団に潜り込むだけでなく、コートを着せてもらい、有ろう事かハグまでしてもらったという罪がありますが、何か申し開きでもありますか?」

 

「………」

 

「無言は肯定と受け取ります。 では陪審員。どのような判決にいたしましょう?」

 

「「「「死刑で」」」」

 

「被告人、鹿島は死刑ということで確定しました。 明日の演習が楽しみです。」

 

「よし、明石に徹甲弾の発注を!」

 

「長門、これまでになく楽しそうな顔をしているよ? じゃあ、私も徹甲弾を頼もっと♪」

 

「待って、長門や大和が撃つ徹甲弾なんて受けたら死んじゃいますって!!」

 

「「「「だって死刑じゃん?」」」」

 

「………」

 

次の日。

 

「うわっ、どうしたんだい鹿島!? 演習とはいえ、大破しちゃってるじゃないか?」

 

「いえ、お気になさらず。 これは私の不注意のせいなので」

 

「そうか、でも演習で良かったよ……本番だったらと思うと心が痛いからね……

入渠して、ゆっくりと休むんだよ? 鳳翔さんに元気が出るものを頼んどくから!」

 

「お気遣い、ありがとうございます」

 

提督は気づかない。彼女の後ろにいる皆が達成感に満ちた顔をしていることを。

提督は気づかない。今日の仕事で鋼材が減っていた理由が徹甲弾の作りすぎであることも……

 




自分は提督であったりと明確な人物像がないキャラほど設定を詰め込むことができるので書いてて楽しいですね。
次回、提督がピンチに陥らないです。


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先輩が嫌われていただなんて、僕は知らない。

パソコンの異常なのか、データ全てが吹っ飛んでいきました………
なので、これからは大筋は同じだと思いますが、改変していくと思います。(頑張る)
2000字くらいでも大丈夫でしたら週に2回くらいのペースで投稿出来るよう頑張ろうと思ってます( ̄∀ ̄)


「………ほお。この男によって我々の誇る軍隊が滅ぼされたと言うのかね。」

 

「ええ……奴のせいで我々はあの国から撤退せざるを得なくなりました。それからというものの、戦争好きだった皇帝は家庭菜園にハマっているそうです。」

 

聞いていた男は信じられないと言わんばかりの表情で、驚愕の真実を言った男に捲し立てた。

 

「………は?あの苛烈さで有名だった、あの皇帝だぞ!?戦場を我が家だと言い張って戦帝とまで言われてたようなお人だぞ?」

 

「ああ。年に一回、収穫できた野菜の大きさを比べる大会を行っているらしいぞ。今では菜帝とまで言われているんだからな。本当に帝国は変わってしまったよ。」

 

昨年の優勝者は、お隣さんが栽培していたトマトだった。本当に砲弾くらいの大きさで、皇帝も驚いていたっけ。ちなみに俺もカボチャで勝負したが、僅差で敗北した。来年こそは優勝してやる。

 

「当時は艦娘とやらもいなかったし、我々の軍事力があればあの国なぞほんの数十分で消し飛ばせただろうに。それがまさか皇帝とその護衛だった我々以外全員いなくなってしまうなんて………。それで、この男は今でも戦場で暴れているのか?」

 

「いや……それが、提督なるものをやっているようで。現在は戦線にいないらしい。」

 

なんというか、複雑な気持ちである。

奴が暴れているのであれば皇帝が家庭的になったのにも折り合いがつけれるというのに。

そう考えながら、ふと気になったことを尋ねることにした。

 

「ところで、その男の名前はなんて言うんだ?」

 

そう尋ねると、先ほどまでとはうってかわり男は押し黙ってしまった。

先ほどまで普通に話していたのに、今では顔を真っ青にして歯をガタガタ鳴らしている。

 

「おい、どうしたって言うんだ?そいつの名前を訊いているだけだろ?どうして黙るんだ?」

 

そう言うと、男は恐る恐る口を開いた。

 

「………………………言えない。前にそれを言おうとした奴が破裂して死んだのを見た。何故かは分からんが、奴の名前を言おうとした瞬間に文字通り死ぬ。」

 

だから皆が口を揃えて言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………奴に関すること全てに関わってはいけないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「ねえねえ、提督さん?提督さんって怒ったりする時ってあるんですか?」

 

今日の秘書官は榛名だ。

いつも元気で暗い気持ちを晴らしてくれる太陽みたいな明るさが彼女の魅力だと思う。

 

「てっ、提督、榛名のことをそこまで想ってくれていたのですか?ふふーん、今日はみんなに自慢しちゃおうっと♫」

 

桜色に染まった顔で榛名は嬉しそうに微笑んでくれる。

いやー、本当に榛名は眩しいなぁ。

……ところで、また口に出していたかな?

 

んー、怒ったりとかはあんまりしない方だと思うよ。

榛名は今まで僕が怒ったりした所を見たことがあるかい?

 

「いえいえ、提督さんはいつも笑顔でいらっしゃいます。毎日見てて飽きないくらいですもの。でも、この鎮守府に悪い蝿がいっぱいいるので提督さんの気分を害しないうちに榛名が追い払ってあげたいなぁって。」

 

………え、蝿いるの。じゃあもう少し衛生管理の方を徹底しないといけないな。

とりあえず、鳳翔さんと相談しながらルールとか改訂したほうがいいね。

 

「(なんか違う解釈してるみたいだけど………)とりあえず仕事も終わりましたし、この後暇なら一緒にお散歩しませんか?」

 

うーんと、一応この後に先輩が来るんだ。

先輩とお話ししようと思っているから、一緒に来ないかい?

 

そう尋ねると、榛名の表情が夕立ちのように一気に曇った。

何かあったのだろうか?

 

「大変不本意なのですが、ご遠慮します。たった今急用を思い出したので、代理に大和を呼んでおきますね?確か、大和が先輩の話を聞きたいって言ってました。(嘘)」

 

急用があったのか。

それなら榛名の言う通り、大和にお願いするよ。

先輩といると、時間がすぐに経ってしまうからね。

先輩の仕事の邪魔もしたくないし、大和なら線引きもしっかりしてくれるから適任だね。

 

「では私は大和を呼んできますね。あと一つ言っておきますけど、人目につかない所から来させたほうがいいですよ。」

 

そうなんだ……やっぱり他の鎮守府の視察をする時には迷惑にならないようお忍びでいく方がいいんだね。

前に僕が他の鎮守府に行った時は歓迎してもらえたんだけどなぁ。

 

(…………あそこは問題児が多い鎮守府だったのに、提督さんが定期的に視察に行くと言うや否やトラブルが一切なくなりましたからね。当時は提督を寄越せとほざいたので、ドンパチしたこともありましたねぇ………)

 

「ま、まあアドバイスですね。提督さんのような方がレアだと自覚していただけると嬉しいかなって。」

 

うーん、平凡だと思うんだけどなぁ。

榛名にそう言われると気をつけようかなーって思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「ふふーん♪提督さんが呼んでくださるなんて、本当に嬉しい日です! 榛名が言うには、2人で会いたいって言ってくれたそうですね♪」

 

榛名が呼んでくると言ってから数分後、来客室ではウキウキした表情の大和が僕を待っていた。

僕も大和が楽しみにしてるって聞いていたからこうして嬉しそうな表情をする大和を見ているとほっこりする。

僕が来る前と違って本当に表情豊かになったなぁ。

 

「そう言ってもらえると光栄です! ……で、どうして来客室に?」

 

(うーん、僕もこっちに来ると思ったんだけど、もしかしたら執務室の方にいるかもしれないなぁ。先輩のことだし………)

 

ちょっと用事があったんだ。でももう大丈夫。

来てもらってからで申し訳ないんだけど、一緒に執務室までついてきてくれるかな?

大和にぴったりな桜茶を取り寄せたんだ。

 

「ええっ、本当ですか! 大和、大変光栄です! さあ、執務室でしたね、急ぎましょう!」

 

そう言ったかと思えば大和は嬉々として僕の手を取り、僕たちは執務室へと向かうのであった。




次回予告 
執務室には提督の尊敬する彼が待っていた!
あの榛名が提督と一緒でも会うことを拒んだ男、通称先輩。
戦場で不死鳥と呼ばれ、死んだ回数だけがカンストした彼から聞かされる驚愕の内容とは………

次回、先輩死す! デ○エルスタンバイ!


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常識から外れているなんて僕は知らない

記憶が違ってなければこんな感じだったはず………


大和たち、艦娘にとって天敵の先輩が執務室でのんびりとくつろいでいた。

 

「よぉ〜久しぶりだな! で、俺の言ってた“好感度UPマスク”はどうした?」

 

いや、つけようと思ってたんだけど…みんなが奪っていってしまったんだ。

虎の顔のマスクだから、みんな面白がると思ったんだけどなぁ……

 

「いや、みんなが持っt「どうも久しぶりです〜 駿河支部の提督さん?」」

 

どうしたんだろう? 今日の秘書艦の大和がこれ以上にないほどの笑顔で先輩に話しかけている。

そっか、大和は先輩と仲がいいんだろうな。

先輩は他にもよく赤城とか長門、加賀とも話しているからね。

ここは気を効かせて僕は去ることにしよう。

 

「大和も先輩と話したそうだし、僕は一旦席を外すよ。 終わったら、執務室で集合って事で。お茶を淹れて待っておくよ」

 

「はい、提督♡」

 

うん、いい笑顔だ。……あれ? どうして先輩は顔を真っ青にしているんだろう?

うーん…心当たりがないな…

 

「提督、恐らく彼は船酔いでもしたのでしょう。 なので私の方から酔い止めを渡しておきますから、心配はご無用ですよ」

 

大和がそう言うのなら、大丈夫だろう。

僕も大和のことを信頼しているからね。

 

「あ、提督。 すいませんが、執務室からペンを持ち出したままだったので、持って帰っていただいてもいいですか?」

 

それぐらいなら全然大丈夫。

分かったと言って、大和からペンを受け取り、胸ポケットの中に入れる。

それじゃあ、僕は執務室にでも戻ろう。

 

ーーーーー

 

「ターゲット、艦娘から距離をとりました。 今なら行けます」

 

「そうか、ならアレを使って捕獲しろ!」

 

のんびりと歩いているターゲットにアレを放つ。すると、ターゲットは糸が切れた操り人形のようにその場に倒れた。とりあえず縄で縛り、回収する。

 

「捕獲に成功。 今からアジトに戻ります」

 

「よくやってくれた。 これでこの鎮守府も終わりだ!!」

 

この一部始終を見たものは誰もいない。

演習と遠征。それらが被り、他の艦娘が戻ってこられない中で行われたからだ。

しかし、彼らは知らない。ここの鎮守府にいる艦娘は普通の艦娘とはひと味もふた味も違うことを………

 

ーーーーー

 

「「「「ーーーハッ!!」」」」

 

今まで砲撃戦が繰り広げられていた演習場では、珍しく静寂に包まれていた。

皆が一斉に弾を撃つのをやめたからだ。

 

「……皆も気づいた?」

 

赤城が周りの皆に尋ねる。そして、その全員が首を縦に振った。

 

「「「「提督が連れ攫われている(ような気がする)!!!」」」」

 

そう勘付いた彼女たちの行動は早かった。彼女たちの持つ端末から大和の声が響く。

「大和! こちらも異常を察知!提督に発信機をつけています!!」

 

「了解、すぐに明石に連絡を。 提督に付けた発信機の情報を送るように指示して!!」

 

「連絡が出来ました! 位置情報、出ます!!」

 

そして彼女たちの目の前に大きなマップが表示される。

 

「提督はここから400メートル先を高速で移動中。 今すぐにでも出れば、3分15秒程で追いつきます!」

 

「ここは高速艦に先導を頼むわ。 島風に連絡を。 3秒で支度させるように。敵の本拠地が判明するまで手出しは厳禁よ。」

 

「了解。 てか大和が隙を見せたからこんなことになったんでしょ!?」

 

「分かっているわよ! そのためにも保険も兼ねて提督に発信機を付けたのよ!?

しかも、あのクソ野郎の処分をしていたのだから仕方ないじゃない!!」

 

「「「「それなら許す」」」」

 

こんな感じで彼女たちは、提督のことについてのみ、連携が早いのである。

勿論ここまで追い詰められていることに拐った敵は気づいていない。

 

ーーーーー

 

「ここまで上手くことが進むとはな」

 

「ああ、これで我らの悲願は達成することになる!!」

 

「しかし、本当にこの男を持って帰る意味などあったんですか?」

 

「何を言っている、当然だろう?

奴には無数の妖精というものが取り囲んでいる。それが奴が妖精に愛されている証拠だ。

そのためにも、わざわざ妖精が避ける物質が含まれている弾を特別に用意した。

妖精の加護がなければ奴は一般人と変わらん。

後で生きたまま解体して、なんとしてでも妖精に好かれている理由を判明させねばならんのだ。

万が一、こいつの艦娘共が気づいたとしても、奴は提督としてすでに手遅れってこった」

 

「成る程。 この男の秘密さえ分かれば、我々の計画は上手く行くんですね?」

 

「そうだ。これで我々の目指す、妖精を取り扱った商売が出来るってことだ!!」

 

「確かに妖精を扱う商売は聞いたことがないですし」

 

「ああ、全くだ。この男とすれ違う度に捕まえていた妖精たちが一斉にこいつの元へと逃げ出していく。これでは商売にならんからな!!」

 

「これで妖精を効率よく集められますね」

 

「フハハハハ!! これから先は、俺たちの時代だ!!」

 

「ああ、そのためにも急いでそちらに向かうとするよ」

 

「それでは、本拠地で待っている」

 

「了解」

 

ブツッ…………

 

ーーーーー

 

これはとんでもない話を聞いた。

まさか妖精を商売の道具に使っていたとは。

とはいえ、先輩の貸してくれた漫画に、銃弾を指で挟んで止めるシーンと縄から抜け出すシーンが書いてあってよかった。ぶっつけ本番でやってみたけど、おかげで上手くできた。

本当に先輩にはいつもお世話になっているよ。

もしその銃弾が体内に入れば、僕も提督業を辞める羽目になっていたのだろうけど、そうさせるわけにはいかない。

だって、まだみんなと別れたくないしね。

言っておくが、妖精のことについては全く心当たりがない。毎回みんなピンク色のオーラを纏って僕のところに来てくれているだけなんだし。

とりあえず、僕が気絶していると勘違いしてくれているし、この地図に書いてある本拠地まで行こう。

声真似も上手くいったようで良かった。

 

 

 

現在、艦娘に尾行されているこの船には二人の男がいる。

一人は、今船を運転している白い軍服を着た男で

一方でもう一人は、縄で縛られている全身黒ずくめの男であった。

 

ーーーーー

 

「おっそーい!! まだ攻撃出来ないのー?」

 

そう言うと、島風は酸素魚雷を撃つそぶりを見せる。

 

「島風。 もう少し待ってくれ。 あと少しの辛抱だから!!」

 

長門が島風を必死になだめている。

 

「しかし、妖精の皆も気を効かせてくれたおかげで、敵は勘違いしてくれているようだ」

 

「でも、まさか提督にあの弾を撃とうとするだなんて……」

 

提督が機転を効かせたのだろう、攫われたと思われる現場には撃った弾丸が転がっていた。

それを明石が調べた結果によると、妖精の嫌う成分を体内で放出させる特殊な弾だと言うことが判明した。

これが当たっていれば、提督は提督でいられなかっただろう。

もしそうなっていれば…と思うと殺気を抑えられずにはいられない。

 

「とりあえず、提督は生きていることが分かっただけでも大きな収穫だ。

提督のことだし、きっと誘拐犯を逆に縛って本拠地に向かっているに違いない。

だから、本拠地が見え次第、砲撃を許可する!」

 

「りょーかい! 長門さんも私に負けないように頑張って下さいねー!!」

 

「う…うむ。(私は一応低速艦なのだが……)」

 

そう思いながらも前を走る船を尾行する。

このことに提督は気づいていない。だが一方で、彼が船を運転しているだろうと言うことは、彼女たちは何となくで分かっていた。

提督は鈍感なことさえ除けば、超ハイスペックな人なのだから。

 

ーーーーー

 

「あれ? どうしてこんな所にゴミが落ちているんでしょうか?」

 

明石は原型を留めていない何かを見つけた。

 

「………」

 

ピコーン!!応急処置女神が発動しました。

 

すると、どうだろう、今までゴミ屑にしか見えなかった物がみるみる人間の形へと戻って行くではないか!

 

「ふぅぅぅぅ! 毎回のことだが死ぬかと思ったー!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

明石が驚くのも無理はない。 ゴミ屑が突然人間にへと変わったのだから。

しかも、あろうことかその全裸の変態は明石に話しかけようとしたのである。

 

「すいませんがお嬢ちゃん? おr「きゃぁぁぁぁ!!来ないでぇぇぇぇ!!」グヘェ!」

 

そこには顔に紅葉をつけて飛んで行く変態と、走って逃げ出す明石の姿があった。

 

ーーーー

 

「そういえば大和? あのクソ野郎はどうしたの?」

 

瑞鶴がふと思い出したかのように大和に質問する。

すると、大和は華が咲くかのような微笑みと共に

 

「丁寧にマッシュしました☆」

 

と返事をした。




言っておきますけど、前回の話で話してた人と提督は…………


いえ、これについてはまだ口を閉ざしておきましょう


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