お正月企画三題噺シリーズ・ネクスト (ルシエド)
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第一回:ゼファーVSかっちゃん 餅の大決戦

 お題は『かっちゃん』『餅つき』『ゼファー・ウィンチェスター』。
 この作品は『戦姫絶唱シンフォギア feat.ワイルドアームズ』と『課金厨のソシャゲ廃人がリリカルなのは世界に神様転生してまた課金するようです』の軽クロスかつ続編にあたります
 禁断の過去作クロス、シンフォギア・ワイルドアームズ・リリカルなのは・課金ソシャゲが交差する時、世界は終わる!


 餅。

 それは毎年老人が喉に詰まらせて死に至るもの。

 今、それが世界を滅ぼそうとしていた。

 

「申し訳ない、力を貸して欲しい」

 

 幾多の多次元宇宙を司る貴種守護獣すらも凌駕する力を得た男、ゼファー・ウィンチェスター。

 とはいえ過大な力で倒すべき敵も居ないため、彼の仕事はもっぱら美味しいパンを貧しい子供達に配ることであり、彼自身も戦うことより食わせることの方が良いことだと思っている人間であった。

 が。

 貧しい子供達を助けている途中、最近仕事面でよく助けて貰っている女性からの救援要請を受けて駆けつけ、そこで恐ろしい事案を聞くのだった。

 

「えーと、ミス・サンジェルマン。状況が読めないんだが」

 

「我々は食糧危機を乗り越えるべく、緊急で新しい食料を考案していた。

 そこで目をつけたのが日本の『餅』だったのだ。

 世界的にも餅を愛好しているアスリートは少なくないからな。

 そうして私達は、1の餅を100の餅に変える錬金術を発案した」

 

「すげえな錬金術師」

 

 クズ鉄を金に変える錬金術師すげえ、とゼファーは思うも、サンジェルマンは肩を落として。

 

「だが、うちの局長がそれを餅に術式として組み込んでしまった」

 

「……うん?」

 

「餅は五分ごとに術式が発動し、倍の大きさに増える。

 だが人に食べ切られると増えなくなる……と、アダム局長は思っていたようだ。

 ……無能な思考で。

 餅の自己判断は半分食べられても『まだ食べきられてないよ』と自己判断してしまった。

 半分食ってもまた増える。食べなくてもまた増える。

 餅は喉に詰まらせないためにはよく噛む必要があり、結果食事に時間がかかって……」

 

「……んんん?」

 

「餅がアフリカ大陸より大きくなってしまった」

 

「お前らバカしか居ねえの?」

 

「失礼なことを言うな! バカはアダムだけだ!」

 

 そんなやり取りをしている間にも、また餅は大きくなっている。

 

「私達の意見も聞かず、局長は『餅が増える前に』と決め餅を宇宙に廃棄した」

 

「局長……」

 

「この宇宙に並行宇宙と繋がる守護獣移動地点(ワープポイント)があることに目をつけ、その付近にな」

 

「局長」

 

「局長の狙い通り宇宙と宇宙を繋ぐ穴は餅を引き裂いた。

 だが餅の再生はそれでは止まらない。

 むしろ増え続け、多次元宇宙を巡るエネルギーの流れを阻害し……

 宇宙から宇宙へと流れてゆく守護獣の力が流れる穴を塞ぎ、詰まらせてしまったんだ」

 

「局長!」

 

「このままではこの宇宙も、別の宇宙も、拡大した餅に全て埋め尽くされてしまうだろう。

 守護獣の力の穴を使って、全多次元宇宙がその対象だ。

 いや、その前に、力の流れが詰まってしまったことで幾つかの宇宙が壊死し始める。

 この宇宙と平行宇宙に飛んでいった無数の餅を切り刻み焼き尽くさなければ、世界は滅ぶ!」

 

「局長ッッッ!!!」

 

「そうだ、局長が悪い!」

 

 能力がある無能とは、世界で最も危険な存在である。

 

「このままでは……宇宙が餅を喉に詰まらせて死んでしまう!」

 

「他に適切な表現はなかったのか!?」

 

「救えるのは貴方だけだ!

 もはや拡大した餅は銀河星団級を超え、太陽質量の15乗を超えている!

 おそらくは既に直径一億光年級……超銀河団級を超えているだろう!

 そのサイズの餅を『食べきられた』……

 つまり『咀嚼に等しい破壊』を行うには、貴方の一撃しかない!

 宇宙を救う餅つきを……頼む! 剣の英雄、ゼファー・ウィンチェスターッ!」

 

「表現……表現ッ!」

 

 宇宙を救うには、ゼファーが餅をつかなければならない。

 食わなくていいからぶっ壊さなければならない。

 ロードブレイザーに匹敵する、多元宇宙崩壊の危機だ。

 この事態に直面し、サンジェルマンは必死にゼファーに頭を下げ、アダムは特に罪悪感もなくフラフラとこの場に現れた。

 

「やあ」

 

「え、突然現れて誰」

 

「……うちの局長、アダム・ヴァイスハウプトだ」

 

「お前がかよ!」

 

「カストディアンをパン職人として雇ってる人が居ると聞いて。

 いやあ、あのカストディアン野郎を超える秘訣を聞きたいな、と。

 贅沢は言わないんであのカス野郎と並べるようになる秘密をお聞かせいただきたい」

 

「こ、腰が低い! 何か聞いてた話とイメージが違う!?」

 

 そして宇宙の餅を気にせずゼファーに擦り寄り始める。

 恐ろしいことに、恐ろしいほど敬語が似合っていない。

 ゼファーの背筋にぞわわっと鳥肌が立った。

 

 アダムの話曰く、アダムは人類の前に宇宙からの来訪者カストディアンが作った人類のプロトタイプなのだとか。

 その辺はカストディアンが始祖守護獣と呼ばれていた理由も知っているので、ゼファーもさして驚かない。

 アダムはカストディアンに『完全過ぎて発展性がない』と断じられてしまった"完全な失敗作"であり、神に等しいものになろうとするヒトモドキであった。

 なので、守護獣完全復活の立役者であり、守護獣の名を持ち、カストディアンを街のパン屋で働かせているゼファーはアダムにとって興味の対象なのだ。

 

 神の上を行くには、神に並び立つには、どうすればいい? そう、彼は問いかけている。

 

「アダム。あんた、何ができる?」

 

「錬金術を少々……」

 

「将来の夢は?」

 

「神を超えることです」

 

「熱中していることはある?」

 

「核融合で金玉を作ることです」

 

(……絵面が就職面接だ……)

 

 自動車免許も食品衛生関連の資格も持っていない無能なアダムであったが、ここでゼファー(パン屋店長)は彼らしい温情を見せた。

 

「よし、しばらくウチでパン焼いてくならいいぞ。

 お前は今日まで敵を焼いてきた火で、明日からはパンを焼くんだ」

 

「は……あ? 僕は、そんな機能を与えられてないんですが」

 

「人間だってそんな機能与えられて生まれて来てなんてねえよ。

 だから生まれた後、頑張って覚えて身に付けるんだ。そういうもんだろ」

 

 生まれた時から完全だったアダムと、生まれた時からずっとずっと完全でないゼファー。

 

「誰も教えてくれなかったのかもしれねえけどさ。

 お前にも誰かを笑顔にして、好かれて、神より美味いパンを作る権利はあるんだぜ」

 

「……カストディアンのパンより美味いパンを僕が……ふむ」

 

 アダムは太古の昔から生き続ける世界最大級の老人(外見は若い)であるが、世の中へのリサーチは欠かしていない。

 若者なゼファーにウケがいいフレーズは、一から十まで熟知していた。

 

「よろしくオナシャス!」

 

「……気持ち悪いくらい腰が低いッ!」

 

 まあでも、それでもちょっと古かったが。

 

 サンジェルマンに見送られ、ゼファーとアダムは複数の宇宙を埋め尽くす餅を切り刻み、焼き尽くすべく、はるか遠い宇宙へと飛び立っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私ことティアナ・ランスターは課金バカと一緒にロストロギアの回収のため走っていた。

 

「課金したものが皆SRを手に入れられるとは限らん。

 しかし! 手に入れた者は皆すべからく課金しておる! 分かるかティアナ!」

 

「分かんないわよこのバカぁー!」

 

「SRをロストロギアに置き換えろ!

 そんなんだから執務官試験なんてもんの勉強に苦労してるんだよ!」

 

「アンタだったら絶対に受かんないわよこのバカぁー! そして分かんないわよこのバカぁー!」

「うぐぅ喉に餅が詰まった! しまった、餅グラブルは人を殺す!」

 

「ちょっと大丈夫!? 待ってて、人を呼んでくるわ!」

 

「はやくっ……課金ボタンを押してから確定演出が出るより早く死ぬぅ……!」

 

 そうして喉に餅を詰まらせたバカを数分眺めてから、私は歩き出した。

 自動販売機の前で少し迷ってコーヒーを買い、ちびちび舐めるようにして飲み干し、缶を捨ててまた歩き出す。

 正月だというのに街には人がポツポツと見え、正月文化が普及した後コンビニが普及して変わった街の変化がよく分かる。

 ああ、いいものだ。

 平和がやっぱり一番なんだ。

 そう思える。そう感じられる。

 何度か危機が訪れたこの街も、やっぱり平和ボケしてるくらいがちょうどいいのだろうと思う。

 背後で止まる餅由来の苦しみの声を背中に、私は街に歩き出した。

 

 三十分ほど街を歩いたが、それでも飽きることはない。

 何に急かされることもなく、何に脅かされることもなく、のんびりと平和を眺めているというのは存外悪くない。

 正月の散歩、毎年の習慣にしてみてもいいかも。

 そうしたらスバルとバッタリ会ってしまって、久しぶりに一緒にご飯を食べることになった。

 

 昔は毎日のように一緒にご飯を食べていたのに、今では機会が無いと一緒にご飯を食べることすらしないのだから不思議なものだ。

 けれど、それも当然のこと。

 時間は流れる。

 時は止まらない。

 年末があり、正月があるように。

 去年があり、今年があるように。

 私にもこいつにも個別の人生があり、時間の中でそれは近寄ったり離れたりする。

 その中で"それでも近い人生で居たい"と思えるのが、親友というやつなのだろう。

 

 私はこっ恥ずかしいことに、いつまで経ってもこいつを親友だと思っているようだ。

 

 空に星が見える。

 流星群のような流れ星だ。

 ニュースが『空から細切れにされた餅が降って来た』とか言ってるが、なんというか驚くに値しない。

 ちょっと課金関連のとんでもない事件に私は巻き込まれすぎたらしい。

 管理局から緊急連絡が飛んで来ない限り、そうそう驚かない体になってしまった。

 

 ああ、でもなんだか、空が綺麗だ。

 流れる星で空が絢爛に彩られている。

 あの空の一つ一つが餅で、あいつが後々吐き出すであろう餅と同じ形をしてるんだろうか。

 ゲロの流星……

 

「あけましておめでとう、スバル、ティアナ」

 

「なのはさん! あけましておめでとうございます!」

「あけましておめでとうございます。

 なのはさん、あっちで旦那さんが餅を喉に詰まらせてますよ」

 

「いいよ、またどうせ詰まった餅がジュエルシードになって出て来るんだから」

 

 この奥さんの旦那への評価は、いつも通りだった。

 私からの評価もいつも通りだった。

 去年もそうだったので、多分今年もそうだろう。

 正月から思うのもどうかと思うが、来年もそうなると思う。

 

 

 




 土壇場で『餅をGoogle Playカードに変えるロストロギア』を確保したかっちゃんのおかげで、空から餅が降り注ぐことによる世界滅亡は回避された
 空より降り注ぐ幻想的な課金の雨
 年末ガチャ・年始ガチャで金を使い果たしていた皆は歓喜したという
 これで狙い目のキャラを引き当てた者も少なくなく、かっちゃんはたいそう崇められたそうな

 なお、本人はGoogle Playカードを喉に詰まらせて病院に運ばれた患者として病院史にその名を残した


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第二回:華麗なるカルデアの食卓

お題は『ドッペルゲンガー』、『巌窟王』、『カレー』


「カレーって美味しいですよね」

 

 アルトリアのその一言から戦いは始まった。

 日本で愛されているカレーが実はイギリスで生まれた、ということをご存知だろうか?

 イギリス飯は不味いと言われているが、実は新しい料理を生み出そうとする者も定期的におり、イギリス料理が高評価な国も多い。

 中国料理は濃すぎるという国も、日本の料理は塩分が多いと思う国も多いので、大切なのはお国柄に在った料理・その個々人に合う料理なのである。

 

 さて、この地球上でこれが問題となる場所は?

 ……そう、カルデアである。

 

 古今東西の英霊が集まったこの場所は、西洋と東洋の味覚の違い、過去と現在の味覚の違いがモロに出るという現代の魔境!

 現代人向けの味付けが濃すぎるだの脂っこいだの言われることも珍しくはない。

 『美味いもの』なんてものは、時代と場所で変わっていくものなのだ。

 が、共通する『美味さ』も確かに存在する。

 多くのサーヴァントが好みとする味付けは存在し、マスター藤丸が好みとする味付けが存在し、それを追求することには意味があるのだ。

 

 アルトリアの一言は味の好み論争を引き起こし、サーヴァント間の言い争いを誘発し、最終的にこうなった。

 

「第一回! チキチキ『カルデアで最も美味いカレーライス対決』ゥー!」

 

「司会のダ・ヴィンチちゃん! そのチキチキの意味は!」

 

「これはイギリスのチキ・チキ・バン・バンという映画が元だとも言われているね。

 チキチキバンバンは1968の映画だから元ネタ知っている上で使ってるならお爺ちゃんだよ」

 

「あれそれダ・ヴィンチちゃんがお爺ちゃんってことじゃ」

 

「愉快な審査委員を紹介するよ!

 審査員1! 我らがマスター!

 審査員2! カレー臭のアルトリア!

 審査員3! カレー臭の新宿アーチャー!

 審査員4! カレー臭の千子村正!

 審査員5! カレー臭の柳生但馬守宗矩!」

 

「うわあ父上が加齢臭を発してる枠に!

 年齢的にもうアラフォーなのに十代半ばの少年を仕事にかこつけて食うショタコンだから!?

 年甲斐もなくショタ食いに精を出す心を体が反映しちまったのか!? なんてことだ!」

 

 叛逆の騎士の蒸発が、試合開始の合図であった。

 

 Aブロック第一回戦第一試合は巌窟王VS新宿のアサシンの好カード!

 どちらも腐女子の餌食にされやすい容姿と性格をしており、同人誌やファンイラストでは格好の餌にされている!

 普段腐女子の食い物にされている彼らが食い物(カレー)を作るとは何たる皮肉か!

 

「あの調子こいてるアヴェンジャーに吠え面かかせてやるぜ」

 

「ふん、やってみろ。英霊未満とドッペルゲンガーの融合体ごときができるのならな」

 

 ちなみに今日は5/14イエローデー!

 恋人が居ない人がカレーを食う日。

 ついでに言えばローズデー!

 恋人が居るならデートをしなければならない日だ。

 恋人が居ない人間を確実に殺しに来ていると言えよう。

 

「これは……巌窟王選手、ドラゴンだ!

 ドラゴンの肉を入れている!

 ブロック状に切り分けたドラゴンの肉を、一度サイコロステーキ状にして……入れたー!

 これは旨い! 絶対に旨い! ドラゴンの旨味が全てカレーに出ることだろう!」

 

「ダ・ヴィンチちゃん、解説ノリノリだね」

 

「巌窟王選手はドラゴンのサイコロステーキの他、じゃがいもやニンジン等を投入!

 適宜切れ目を入れていたりもするが、全体的にかなり大きい!

 これは具材を大きくしつつも、味をしっかり染みさせる満足タイプカレーだァー!」

 

 正統派な日本風カレーを作る、巌窟王に対し。

 

「新シンくんはベーシックなチキンカレー……い、いや! 違う!

 鍋が五つ有る! それぞれが別の皿を割り当てられてる!

 そしてそれぞれの鍋の前で……五人の審査員それぞれに変身している!」

 

「ダ・ヴィンチちゃん、これは一体!?」

 

「そうか、我々五人の味覚をいちいち再現しているんだ!

 そして味見をし、我々の味覚に最も適した味に調整している!

 それぞれの味覚に合ったカレーを作れば勝利は既に確定事項さ!

 なんてバケモノだ……ここまでカルデア厨房ポテンシャルの高いダークホースが居たとは!」

 

 新宿のアサシンは、美味いカレーを作る巌窟王の対極を行くように、それぞれの審査員に相応しいカレーを作り上げていた。

 配膳係に立候補したスカサハが二人のカレー、合計十皿を審査員の前に運ぶ。

 匂いの時点で美味い。見た目の時点で美味い。

 大きな肉と野菜がゴロゴロと転がる巌窟王カレーも、マスターの舌に合わせたオーダーメイドチキンカレーも、マスターの喉をごくりと鳴らすに相応しい。

 

「では、いただきます」

 

 唾を飲み込み、スプーンで口元に運び、食べる。

 

「……?」

 

 マスターは首を傾げた。美味しそうだったはずなのに、不味い。

 何故か不味い。味が薄い。

 マスターが配膳してくれたスカサハを見ると、スカサハは得意気に笑った。

 

「スカサハ師匠、これは一体!?」

 

「およそ私に殺せぬものなどない」

 

「師匠!」

 

 カレーの旨味が死んでいた。

 

「さあ、これを食うが良い」

 

「これは……師匠のカレー?

 こ、これは! カレーの上に乗っているこの肉の塊は!

 美味い! 旨すぎる! このカレーと最高のハーモニーを奏でるこの肉は……!」

 

 彼女こそは、(カレ)ーの国の女王様。

 

「そう……ハンバァァァァァァグッッ!!!」

 

 優勝―――スカサハ師匠ッ!

 

 ハンバァァァァァァグッッ!!!

 

 

 




ジャック「なぞなぞしよ!」
バニヤン「わーい!」
アビゲイル「それじゃナーサ-、出題をお願いね?」
ナサリ「えっとねえっとね……バーグおじさんを半分に切ったらなるもの、なんだ!」

スカサハ「殺人犯だぞ」

アビゲイル「えっ」

スカサハ「おじさんを半分に切ったら殺人犯になる」


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第三回:もしもアザルド・レガシーがカルデアの仲間入りするイベントがあったら

お題は『デスガリアン』、『むきむきのパンツ』、『fgo』

アルテラ・レガシー=セファール


 昔、昔のこと。

 宇宙に存在する知的生命体のほとんどが恐れた、二つの破壊神があった。

 片や、アザルドと呼ばれる者。

 星から星へと渡り歩き、娯楽のように全てにぶつかりことごとくを壊す破壊神。

 片や、セファールと呼ばれる者。

 捕食遊星ヴェルバーの端末として活動し、星を破壊するという形で収穫する、文明のリセッターと言っても良い破壊神。

 

 かつて宇宙は、この二柱の破壊神によって蹂躙されていた。

 目を付けられれば手遅れ、手を伸ばされれば破滅、触れられてしまえば終焉。

 大昔に一度、この二つの破壊神がぶつかりそうになったこともあったが、結果から言えば二つの破壊神はどちらも死に至ることなく終わった。

 一説には他ヴェルバー端末の介入があったと言うが……事実は、定かではない。

 事実として存在するものは、ヴェルバーの中に記録された、セファールとアザルドの最後の会話のみ。

 

「アザルド」

 

「てめえは初めて見つけた俺と対等の遊び相手だ。俺以外の誰にも負けるんじゃねえぞ」

 

 やがて、セファールはヴェルバーの指示に従い地球という星へと向かい、それを耳にしたアザルドもその後を追い―――どちらも、帰っては来なかった。

 二柱の破壊神は消えた。

 宇宙の誰もが、こう思う。

 滅びたわけがない。あの二つが滅びるわけがない。だが……地球には、どれほど恐ろしいものがいるのだろう? どんなに異常なものが居るのだろう?

 ああ、なんと恐ろしい。

 ヴェルバーの抱える神の如き端末と、不死身の神の如き怪物を、倒してしまうだなんて。

 

 セファールが星の聖剣エクスカリバーによって打ち倒され、その一部が独立した『アルテラ』という人間として認識され、英雄としての記録を残してから永き時が経過した。

 アザルドが星の結晶キューブホエールによって打ち倒され、封印されたアザルドが宇宙外からの飛来生物によって地球に落ち、大地に埋まり果ててから永き時が経過した。

 実に、数万年にあたる途方も無い時間が過ぎる。

 彼らは宇宙を蹂躙し、神にも勝利し、地球に敗北し、人に敗北した。

 

 されどその程度で滅びる存在などではなく。

 人類史を動き回るという形で、あらゆる時、あらゆる場所を駆け回る者達にとって。

 ヴェルバー・セファール・アルテラ・アザルドの物語は、いつか必ず触れるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザルドが目を覚ます。

 既に封印は残っていない。

 力には何の枷もなく、あれほど動かなかった体が嘘のように自由だった。

 途方も無い時間の経過が記憶も、力も、寝ぼけた頭のように胡乱にしていたが……アザルドは眼前の『普通の男』、そして『褐色肌の女』を見て、その意識と記憶を完全に覚醒させる。

 

「マスター、頼みを聞いてくれて感謝する」

 

「それはいいけど……大丈夫なのかな?

 俺は破壊神、って聞くだけでちょっと尻込みするけど」

 

「分からない。ただ、私には分かる。『可能性』はなくもない」

 

「そっか。じゃあ俺も、アルテラの判断を信じるよ」

 

「ありがとう」

 

 アザルドは、かつて決着がつかなかった強敵を見て歓喜し、自由になった体を起こして力の充実感に笑み、やがて"彼女に助けられた"ことを理解して困惑した。

 

「……『セファール』、か? まさかてめえが……」

 

「今の私は、アルテラと呼ばれている」

 

「アルテラ、ね。ああ、なんだか知らねえが、悪くねえ。かなり悪くねえぞ」

 

 何度も変性を迎え今の形となったアルテラと違い、今のアザルドは遺物(レガシー)とでも言うべき超古代の遺物である。

 因縁も、信念も、大昔のそれをそのまま保持している。

 アルテラに襲いかからんとするアザルドの迫力に、カルデアのマスターはその身を震わせ、アルテラは眉一つ動かさずにその威圧感を受け止めた。

 

「なんだか知らねえが、てめえのお陰で最高の気分だ。さあ、あん時の続きをやろうぜ!」

 

「嫌だ」

 

「……あ?」

 

「私はお前と戦いに来たのではなく、仲間に勧誘しに来たんだ」

 

「舐め腐ってんのか? 俺とてめえはそんな関係じゃなかっただろうが」

 

 アザルドの知るアルテラ(ヴェルバー02)は、もっと冷たく、もっと無機質で、もっと残酷で、もっとよく分からない、強大な文明殺しの破壊神たる巨人だった。

 目の前のアルテラは、確かにそれそのものなのに。

 何かどこかが、決定的に違っている。

 

「俺は不死身だ! 俺は破壊神だ!

 だからこそだ、分かるだろ? 肝心なのは『対等』だ!

 俺が認めたそいつと俺が対等で、何かを競っていくってことだ!」

 

 彼は本質的に破壊者であり、狩猟者である。

 彼の中では狩る対象である弱者と、狩りを競う同格者がハッキリと区分されている。

 彼の視界の中では黒髪のマスターが弱者、その横のアルテラが同格の強者と、ハッキリと区分されていた。

 

「お前はどうだ、アルテラ!

 俺と戦った時、心は踊らなかったか?

 対等の野郎を見つけて、そいつが自分を楽しませることを期待しなかったか?

 前の冷てえてめえならともかく、今の冷たくなさそうなてめえはどうなんだ?」

 

 ふぅ、とアルテラが深く息を吐く。

 

「分からない、でもない」

 

「だろう? てめえと俺に、敵として戦う以外に何が有る」

 

「それは分からない。そもそも私は、私に戦い以外の何があるかも分からない」

 

「何言ってんだ?」

 

 アザルドには破壊しかなかった。アルテラには破壊しかなかった。

 今もアザルドには破壊があるのみだが……今のアルテラは少なくとも、破壊以外の何かを求める心がある。破壊以外で自分を表現する何かがある。

 破壊することでのみ自分を表現するアザルドから、彼女は少し離れた場所に居る。

 

「アザルド。

 お前は対等の者と殺し合いたかったのか? 潰し合いたかったのか?

 高め合いたかったのか? 競い合いたかったのか?

 対等の者が消えることをお前は望むのか?

 対等の者が死に絶えることをお前は望むのか?

 記録に残るお前の姿を、かつての私ではなく、今の私が眺め、思ったことは……」

 

 アザルドは弱者を蹂躙し、強者も蹂躙し、何かを守ることにも向いていない、タイプとしては悪に分類される……カルデアでは珍しくない、正義の敵に適した男だ。

 その男の嗜好を、アルテラはよく理解している。

 

「お前が望むものは、敵も味方もお前と対等である、皆がお前を楽しませる環境だ」

 

「―――」

 

 アザルドの雰囲気が変わった。おそらく、いい方向に。

 

「私が保証する。この男の隣はおそらく、壊すものだけは事欠かない」

 

 アルテラが背を向け、歩き始める。

 その後を追うようにして、アザルドがマスターの横に歩み寄った。

 

「はっ。あいつ何言ってんだ。

 あいつが一人居りゃ、俺が殺す者も壊す物も残らねえだろうによ」

 

「いや、ダメなんだ」

 

「何がダメなんだ? ハッキリ言えよ」

 

「アルテラが居てもまだ足りない。

 だから俺はここに来たんだ。

 アルテラが強いと断言した、宇宙の破壊神に力を貸して貰うために」

 

 "壊すものだけは事欠かない"というアルテラの言葉がチラついて、"とにかく暴れたい"というアザルドの欲求と、マスターの要求が脳内で噛み合う。

 アザルドは興味を持った。

 眼前の弱っちそうなマスターに、ではない。

 そのマスターが挑もうとしている敵に、だ。

 

「敵はどいつだ?」

 

「この星を、皆の歴史を、滅ぼしてしまえるような奴らだ」

 

「……はっ」

 

 笑える話だ。

 セファール(アルテラ)が、自分(アザルド)が壊せなかったものを壊す? 滅ぼせなかったものを滅ぼす?

 悪い冗談のようだが、どうやらやってしまえるような連中がこのマスターとやらの敵で、見方によってはそれは完遂されたらしい。

 アザルドは興奮と不快感の両方を覚えた。

 

 滅ぼせなかった。

 負けた。

 封印された。

 自分も、自分が認めたセファールもだ。

 だからこそ、地球の命の力とやらをアザルドは心の底で認めてはいた。

 それがこのザマだ。

 自分達を撃退した力と命の全てが『お前達の歴史は間違っていた』という否定に負け、一切合切消し去られかけたのだという。

 

 だからこその興奮と不快感だ。

 そんな強者とぶつかり、叩き潰せるのだという高揚。

 自分達に勝ったような者達があっさり負けたということへの侮蔑。

 それが興奮と不快感に直結しているのだろう。

 だからこそ、彼の感情は沸騰した。

 

(この星の全てを狩り尽くすのは、この破壊神アザルドだ)

 

 彼が納得する結末は、自分かアルテラのどちらかがこの星を破滅させる結末以外にありえない。

 

「俺を楽しませろ。俺を楽しませてる間は、俺もお前を楽しませてやる」

 

「……ああ、よろしく。バーサーカー・アザルド」

 

 アザルドという破壊神は、きっと平行世界の者達を皆殺しにしても狼狽えない。愛ゆえに滅ぼす人類悪を潰そうとも後悔しない。善い想いを命ごと踏み潰しても罪悪感は抱かない。

 

 好き勝手に暴れて何もかも壊す破壊神が、ここでは誰かと共に戦える。

 

 バーサーカー・アザルドが、カルデアの戦力に加わった。

 

「なんだこれ邪魔くせえ」

 

(パンツ脱いだ!?)

 

 封印中、アザルドのムキムキな体躯は封印アイテムであるキューブと、何故か布っぽい黒パンツによって覆われていた。

 キューブっぽい部分はキューブによる封印のため納得もできるが、股間を包む謎の黒パンツがキューブ由来でないことは間違いない。謎の黒パンツであった。

 アザルドは体表に残っていたよく分からないそれを脱ぎ捨てたが、そのせいでマスターに"人前でパンツを脱ぎ捨てる破壊神"として認識されてしまう。

 以後しばらく、『アトラス院の破壊神』という彼の異名がカルデア内で定着した。

 

 

 




 第一部で仲間イベント起こしても第二部で仲間イベント起こしても運用法が基本「敵陣に放り込んで適当に暴れてもらう」になっちゃう系実体持ちタイプサーヴァント


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第四回:絶対に笑ってはいけないエグゼイド24時

お題は『絶対に笑ってはいけない都庁爆破』『檀黎斗』『ポプテピピック』

プロデューサー・檀正宗


 絶対に笑ってはいけない企画。

 それは、五人くらい人を集めて"笑ったらケツぶっ叩くぞ"というルールで行うお笑い番組にして、年末の皆のお楽しみだ。

 今回の参加者は宝生永夢、鏡飛彩、花家大我、九条貴利矢、パラドと世界に名だたるバグスター医療関係者が揃えられていた。

 

 テレビ局としても視聴率が取れる得難い逸材達で良し、CRのドクターとしてもバグスター医療に関する宣伝時間を設けてもらえるということでよし。

 そして司会はこの男。

 

『アハハハハハァ! 宝生永夢ゥ! 君達はこの

 "絶対に笑ってはいけない都庁爆破"

 テレビ企画を突破しなくてはならない!

 数々の刺客を前にして、君達は笑うことを許されない

 何故なら笑えば……即座にケツを叩かれるからだああああああ! ハハハハハハハハッ!』

 

「うるさいんですけど」

 

「フハハハハハハハハハハハッッッ!!!!」

 

 永夢、飛彩、大我、貴利矢は普通の都庁職員の服が割り当てられていたが、何故かパラドだけは侍のような着物衣装。

 それも、左右で赤と青で色分かれしている侍衣装だった。

 

(侍?)

(侍……)

(何故侍……)

 

 首を傾げる飛彩達をよそに、永夢だけがパラドの苦い顔の意味を理解する。

 

「ああ、『ゴザルアップ!』ってことか」

 

「「「 んんっ 」」」

 

《 デデーン! ヒイロ、タイガ、キリヤ、アウトー 》

 

「こんな笑いはノーセンキューだ!」

「俺が笑うか! 俺のキャラを考慮しろ! 俺は笑ってねえ!」

「これ嘘じゃなくてマジな話なんだが今のアナウンスの声まさかニコちゃんじゃ……」

 

「あがっ!」

「うごっ!」

「痛いっ!」

 

 早くも三人がケツを叩かれてしまった。先行き不安な滑り出しである。

 

『さあ君達、都庁の受付で名簿に名前を書き足したまえ』

 

「黎斗さんのことだから名簿に変な名前書いてあるとかでしょ、分かってるんですよ」

 

『宝生永夢ぅ……私を信じたまえ。君の水晶のような心は、いつから汚れてしまったんだ?』

 

「僕が疑いの目で見るのは黎斗さんだけですよ」

 

『そう聞くとこう、なんだ。

 私が水晶にベタベタ触ったせいで、私に向いている面だけが汚れてしまったようだな』

 

「黎斗さんの手って汚そうですもんね」

 

『九条貴利矢を殺して手を汚してしまったからな……汚れを乗せられてしまった』

 

「悪事に手を染めたのも僕にちょっかいかけたのももっと前の頃からでしょうが!」

 

 声もなく貴利矢が吹き出した。

 

《 デデーン! キリヤ、アウトー 》

 

「これは俺特攻だろ! 檀黎斗絶対許さねえ! ずぁっ!」

 

 貴利矢の尊い犠牲を乗り越え、皆は都庁入り口へ。

 

「世界で一番の都庁職員になって……世界で一番の都庁職員になって……」

 

「さ、サキ……」

 

「「「「 ぶっ 」」」」

 

《 デデーン! エム、タイガ、キリヤ、パラド、アウトー 》

 

 初球から殺しに来るのは卑怯だろ、と飛彩以外の四人のケツがぶっ叩かれた。

 響き渡る四つの悲鳴。

 ケツを抑えて、名簿に名前を書き加えて、五人は都庁の階段を登る。

 階段を登った先には、『鴻上会長(天ヶ崎社長でないとは言ってない)』というプレートを胸に付けた男と、眼鏡をかけて人形を抱えた男が廊下のど真ん中で談笑していた。

 

「素晴らしい! ドクター真木ィ! 新しい欲望の誕生だよっ!」

 

「恐縮です」

 

 鴻上会長(デブ)が眼鏡の男を褒め、眼鏡の男が人形を握り頭を下げている。

 頭を上げると、眼鏡の男は飛彩に歩み寄り、その手の中の人形を渡した。

 

「人形? これは……」

 

 戸惑う飛彩の目の前で、眼鏡の男は眼鏡ごと変装用顔皮をバリバリと剥がす。

 

 サキだった。

 

「世界で一番のドクター真木になって……世界で一番のドクター真木になって……」

 

「サキ……い、いやだ」

 

「「「「 んんんんっ 」」」」

 

《 デデーン! エム、タイガ、キリヤ、パラド、アウトー 》

 

「天丼やめろマジでクソがぁ! 止めろニコぉ!」

 

「スピーカーに向けて叫んでも意味ないです大我さん! あいだっ!」

 

 またしてもヨンレンダァ!

 

「早く先に進みましょう。これ、意外とヤバいです」

 

 永夢の的確な判断で、次々とドクター達がこの場を脱出していく。

 そして、一列となって進む五人の最後尾にサキがこっそり近寄り、最後尾の大我の耳元でそっと囁く。

 

「世界で一番のドクターペッパーを飲んで……世界で一番のドクターペッパーを飲んで……」

 

「うふぅ」

 

《 デデーン! タイガ、アウトー 》

 

 不意打ちを食らった大我のポケットにドクターペッパー(2L2本)をねじ込み、サキはゴキブリのような俊敏さで逃げ出して行った。

 

「クソ、油断した! つかなんで今俺だけ狙った! 言え! いづぅっ!」

 

 尻を抑えた大我の到着を待ち、皆は先に到達した部屋で発見したテレビ――これつけたら絶対ロクなことにならないとは分かってるが――のスイッチを入れた。

 

『ごきげんよう! そして突然だがこれより、神の雷による都庁爆破を開始する!』

 

「!?」

 

『ヴゥァハハハハハハハハ!

 君達は存分に、必死に逃げるといい!

 その必死な顔だけで確実に視聴率は取れるだろうさぁ!』

 

「お前はいい加減その後先考えずとりあえず思いつきで他人の迷惑無視してやる癖を―――」

 

 ポチッ、と黎斗が画面の中でボタンを押す。

 永夢達が身構えるが、都庁が崩壊することはなく、やがて遠くから鈍く響き渡る大きな音が聞こえてきた。

 

『あ……間違えて竹書房本社を爆破してしまった』

 

「何やってんだ檀黎斗ォ!」

 

『いや、待て! なんだあれは!?』

 

 テレビ画面が分割され、右半分に崩壊した竹書房が映し出される。

 おそらくは神の技術力による賜物だろう。

 崩壊した竹書房の爆煙の中に、薄っすらと見える人影がある。

 

 黎斗は本気で焦っていて、これが彼の仕込みでないことは明白だ。

 察しのいい貴利矢が気付く。

 これは、演出:檀黎斗に見せかけた―――檀黎斗さえも出演者に組み込まれている、"絶対に笑ってはいけない"なのだと。

 

『私はあんなものは知らない!

 竹書房にあの爆発を耐えられる者がいるだと!?

 待て、なんだあれは、人影が胸元に文字の書かれたホワイトボードを持っていて―――』

 

 そして、煙の中から。

 

 黎斗のパパが現れて、胸に抱いたホワイトボードの文字を読み上げた。

 

「檀黎斗、タイキック」

 

『檀正宗貴様ぁッ!』

 

 タイキックの例のBGMが流れ、黎斗の背後に瞬時に現れた二人のタイキッカーが、黎斗の左右の尻を蹴り込んだ。

 

『神の尻がぁぁぁぁぁッッ!!』

 

「「「「「 んぐっ 」」」」」

 

『尻が割れてダブルアクションゲーマーになってしまった……』

 

「「「「「 んうっ 」」」」」

 

『くっ、手鏡で怪我の度合いの確認を……

 右が赤く腫れて左に青あざが……なんだ、パラドクス化しただけか』

 

「「「「「 んんんっ 」」」」」

 

《 デデーン! エム、ヒイロ、タイガ、キリヤ、パラド、アウトー 》

 

 普通に喋ってるだけで卑怯な神。

 

「ま……不味い! 何故かなんとなく何見ても笑える空気が出来てしまってる!

 今だと特に面白くなくても笑ってしまいそうな、そんな雰囲気が!

 そこに台本無しの方が面白いことする黎斗さんが混ざって、大変なことに!」

 

「部屋を出るぞ! 永夢に続け!」

 

 永夢が部屋を脱出し、皆もその後に続くが、逃げ出す彼らの前に一人の美女が姿を現した。

 

「竹書房の破壊者、ポプテピピッーピポパポだよ。改名したよ」

 

「んっ(含み笑いの音)」

 

「アスナさん!」

 

「永夢……私なんというか、アスナって呼ばれないよね。

 皆ポッピー呼びだよね。というか永夢も途中からポッピー呼びメインだったよね。

 なんで皆私の人間の時の名前を呼ばなくなっちゃったんだろうね……」

 

「いや知りませんよ」

 

「んんっ(含み笑いの音)」

 

「永夢、チベットスナギツネみたいな目をしてるね……ポッピー、君の瞳に乾杯」

 

「っ(笑いをこらえる音)」

 

「え、ポプテピピッーピポパポに改名したんじゃないんですか?

 それならもうポッピーじゃないですよねあなた。元ポッピーですよね」

 

「「「「 んんっ 」」」」

 

《 デデーン! ヒイロ、タイガ、キリヤ、パラド、アウトー 》

 

「お前も笑いに加担してんじゃねえぞ永夢ゥ!」

 

「あいつら組んでる! 絶対組んでる!」

 

「俺の永夢がそんなことするわけないだろ!」

 

「いや待て、これおそらくポッピーが前日辺りに何か準備と仕込みして……」

 

「うごっ」「あぐぅ」「い゛っ」「んごっ」

 

 彼らの戦いはまだまだ続く。

 年が明け、それでも終わらない。年度が変わってもまだ続く!

 それが『笑ってはいけない』である。

 

 壁の役目を果たせなくなったポッピーの代わりを果たすべく、現れたのはなんとギャグと無縁なグラファイトであった。

 グラファイトはポッピーのカバンの中に手を突っ込み、ブラジャーを剣のように振り回す。

 

「我が敵として申し分無し!」

 

「ああ、ポッピーの着替えが! 下着が!」

 

 そして、ポッピーのブラジャーを胸に装着する。

 

 パラドが思わず、その名を呼んだ。

 

「ぶ……ブラファイト!」

 

 吹き出す音。

 彼らの戦いは、まだまだ続く。

 

《 デデーン! エム、ヒイロ、タイガ、キリヤ、アウトー 》

 

 まだまだ、続くのだ!

 

 

 




※誰も引き出しの中のビデオを見つけられませんでした


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第五回:ローズレッド・ストラウスの終わりの次

お題は『口笛』『鬼』『幼女』

ブラックスワンが消えた後の刃蓮火、赤バラが消えた後のリトルレディ


 全てが終わった。

 全てに決着がついた。

 何をするか、何をしたいか、何をするべきか。

 蓮火の頭はそれら全てを明確に分かっているはずなのに、それらを心に定められずにいる。

 

 ストラウスを殺そうとしていた時とは完全に逆だ。

 あの頃の蓮火は心が復讐を決意し、復讐心を鈍らせないために頭で合理的な判断を考えないようにして、心に引っ張られるように戦っていた。

 そのストラウスも、もう居ない。

 

 小松原ユキが生きていた時、彼女は彼の全てだった。

 小松原ユキをストラウスが殺した後は、ストラウスが彼の全てだった。

 そのストラウスが死んだ今、何となく何もする気がしない。

 ストラウスが守ろうとしてたもんでも守ってやるか? なんて考えてはみるものの、そんなことを考えても"あの燃えるような復讐心"に近い熱が湧き上がってくることはなく。

 自然と、彼の口は口笛を吹いていた。

 

「~♪」

 

 蓮火の口笛を聞き、少し離れた場所で黄昏れていたブリジットも寄って来た。

 ブリジットは静かに彼の口笛を聞いていたが、やがて彼のリズムに合わせる。

 

「―――♪」

 

 蓮火がブリジットに、ブリジットが蓮火に合わせ、即興にしてはリズムが上手い具合に噛み合って、なんとなくで口笛曲が一曲仕上がってしまった。

 一曲終わり、蓮火が感心した様子で頷く。

 

「上手いもんだな。即興で合わせてくるとは思わなかった」

 

 ブリジットは偉そうに笑って、寂しそうに笑みを引っ込めた。

 

「口笛は、地球の人間達の間に自然と生まれたものだ」

 

「? ああ、そうだな」

 

「だが、ヴァンパイア達の間に自然と生まれたものでもある」

 

「……ん? どういう意味だ?」

 

「口笛の起源など探す意味は無い、ということさ」

 

 蓮火と紡いだ口笛の旋律が記憶の中に入っていき、押し出されるようにブリジットの大切な記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 むかし、むかし。

 それこそ千年以上前と言っていい昔。

 まだブリジットが幼女だった頃、彼女の愛した男が60歳の若造だった頃。

 若き日の二人の吸血鬼は、小さく綺麗な彼女の部屋で確かな絆を深めていた。

 

「私の小さな娘(リトル・レディ)

 君の推測は正しい。

 人間の中に生まれた口笛も、ヴァンパイアの口笛も、種族の内から自然と生まれたものだ」

 

 ローズレッド・ストラウスの教えは、いつだって彼女の心に染みていった。

 彼女の中で大切なものになっていった。

 彼女は彼が好きだった。

 愛していた。

 彼の生き方が幸せになれないものだと理解した後も、全てを崩壊させるものだと理解した後も、彼女は彼の生き方が好きだった。

 

「口笛は、人間や吸血鬼の身体構造に依存する。

 きっと、遠い宇宙からそのままの姿で来た宇宙人には真似もできないだろう。

 けれどそれ以上に……口笛は、その心から生まれるものなのだと思う」

 

「心?」

 

「ああ。きっと、人間やヴァンパイアに似た生物を作っても意味は無い。

 その生物が口笛を吹くことはないだろう。

 楽しい気分になると口笛が吹きたくなる気持ち、口笛を吹くのが楽しいと思える気持ち……」

 

 そういうものがなければ、きっと口笛は吹けないんだ、とストラウスは言う。

 

「私は思う。人間とヴァンパイアは、同じ心を持っているんだ。

 だから同じく口笛というものを生み出した。

 ……同じ心を持っているなら、どんな困難があったとしても、分かり合えるはずだろう?」

 

 幼い少女の心には、分かり合うことの大切さ、相互理解は可能であるという確信、相手と同じ音を愛することの大切さが刻まれた。

 

 

 

 

 

 そして今、かつて幼い少女だった女の心に、刻まれた大切なものはない。

 彼女が愛した男があの頃紡いでいた言葉は、一から十まで甘過ぎた。幻想だった。脆い理想だった。儚い夢だった。

 口笛を分かり合う心の証明にしようとした男は、結局不和に理解の拒絶、そして強者への恐怖が合わさった心をぶつけられ、悲劇のままに死んでいくしかなかったのだ。

 今のブリジットには分かる。

 人間とヴァンパイアには同じ心があるから分かり合える? 手を取り合える?

 違う、逆だ。

 

 同じ心を持っているから、人間とヴァンパイアは同じように互いを憎み恐怖した。

 同じ心を持っているから、人間とヴァンパイアは同じようにストラウスを恐れた。

 同じだ。

 心の形が同じだったからこそ、両者の共存は不可能だった。

 

 せめて片方の種族が、ストラウスのように過剰に寛大な心を持っていればよかったのに。

 

「ブリジット」

 

「どうした、蓮火。何か用か?」

 

「どうした、は俺の台詞だ。泣きそうな顔しやがって」

 

「―――」

 

 心の中を見抜かれた。

 蓮火の成長を肌で感じ、ブリジットは苦笑する。

 ブリジットが背中を追って行けるストラウスはもう居ない。

 これからはブリジットが蓮火達に背中を見せ、進んで行く方向を指し示していかなかればならないのである。

 

 それが寂しくて、悲しくて、辛くて―――心の痛みで、気合いが入った。

 

「蓮火。もう一曲付き合え。今度は私の方にお前が合わせろ」

 

「二回連続で上手く行くとは思わんが……まあいいか。何の曲だ?」

 

 ブリジットは月を見上げる。

 

鎮魂曲(鎮魂曲)だ」

 

 前に進み続ける彼ら彼女の勇み足が、夜の闇の中でも何かに躓かないように、月は彼ら彼女らの足元を照らしてくれている。

 

 その輝きは、いと高き月の恩寵だった。

 

 

 




 吸血しない吸血鬼はただの鬼
 ストラウスは鬼から見ても恐ろしく強い異次元の鬼


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第六回:遠いようで近い未来のダイレンジャー

 お題は『ドゥエリスト』『マヨネーズ』『転身』。

 西暦20000年ッ!
 201世紀の近未来ッ!
 全てが歴史になった未来の果てでも、天に輝く五つ星ッ!


 西暦20000年ッ!

 201世紀の近未来ッ!

 世界の平和は、五星戦隊ダイレンジャーが守っていたんだァ!

 

 五星戦隊ダイレンジャー。それは、ダイ族の子孫によって構成される平和の守護者。

 20世紀も、21世紀も、25世紀も、28世紀も、その後もずっと世界の平和は彼らが守ってきた。

 家族を守ると決めた男が、恋人を守ると決めた女が、人々を守ると決めた警察官が、あまりにも強すぎる巨悪に脅かされた―――そんな時。

 悪と対になる正義として、彼らは必ず現れる。

 

 角田(かくた)各道(かくみち)は、そんなダイレンジャーの近代の支援者だった。

 

「悪いな各道、また奢って貰っちまってよ」

 

「いいんですよ、いつもアイツらから街を守ってもらってるお礼です。

 金欠ならいつでも頼って下さい、頼ってもらえて正直嬉しいんで」

 

「へへっ、マヨマヨ」

 

「……まあなんというか、マヨラーもほどほどにしたほうがいいですよ、リョウさん」

 

 彼の名はリョウ。

 天火星の戦士であり、天火星の赤き戦士は21世紀から数えると始めて――つまり180世紀ぶりの赤き天火星の戦士――ということで、仲間内でもちょっと評判の男だった。

 とにかく強いが、とにかく不器用。

 真面目だが常に金に困っているという情けないチームリーダーだ。

 

 各道はダイレンジャー、その中でも特にリョウを支援していた。

 彼の先祖は20世紀から21世紀にかけてのダイレンジャーに助けられ、それを恩に感じてダイレンジャーの支援を徐々に開始し、子孫にもダイレンジャーを助けるよう命じたのだという。

 角田家はそれはもう真面目で義理堅い家系だったもので、それから180世紀以上経っても真面目にダイレンジャーの支援を続けていたというトンデモ一族だった。

 

 そんな180世紀以上の時の間にダイレンジャーが角田の一族を助けたりするパターンも増え、ダイレンジャーがまた助けられ、悪の組織がまた湧いて……の繰り返し。

 かつてのダイレンジャーの戦いは、既に記憶でも思い出でもなく、歴史になっていた。

 

「うまうま」

 

「マヨラーのリョウさんはそれでいいかもしれませんけど……

 俺ぁ、あの大神龍ってやつのせいでストレス溜まりっぱなしですよもう」

 

「ん、そうか」

 

 大神龍。

 それは、大昔からダイレンジャーの戦いの傍らに在ったもの。

 宇宙の秩序を守るため、大宇宙が生み出した宇宙の化身であると言われている。

 

 宇宙そのものであるため打倒は事実上不可能であり、争う者全てを否定し、正義と悪の戦いに横から殴り込んでは正義も悪も滅ぼしてから去っていく。

 争いを止めれば一時的には去ってくれるが、正義と悪が争わないなんてことないわけで。

 正義だけの宇宙も悪だけの宇宙も歪んでいる、とばかりに正義と悪のどちらかが勝ち切る結末を潰していく。

 

 正義が無くなることも、悪が無くなることもない。

 それすなわち宇宙の法則、太極也。

 今代のダイレンジャーと悪の組織の戦いにも、大神龍は既に介入を始めていた。

 

 ダイレンジャーが何度勝っても悪の組織はまた生える。

 悪の組織が勝ち切ろうとしてもダイレンジャーはまた蘇るだろう。

 そしてどちらかが極端に勝ち切ろうとすれば、それを大神龍は許さない。

 正義を傍らから眺めている各道からすれば、ストレスが溜まって仕方がなかった。

 

「犯罪者を処罰するのを否定してるようなもんじゃないですか、アレ?

 正義ってのは一応『皆』に支持されてるもんであって。

 悪ってのは一応『皆』に迷惑かけて否定されてるもんであって。

 いいじゃないですか別に、正義のヒーローが最後まで勝ち切ったって」

 

「んー」

 

 リョウはマヨ丼を頬張り、飲み込み、口を開く。

 

「俺は……まあ、マヨラーだ」

 

「知ってますよ」

 

「一般的にはこんなにマヨをかけることはおかしいことだ。

 栄養士とかなら、俺にマヨ禁止を言いつけるだろうな。

 俺の健康を考えるならそれが正義で、一番優しい判断だ。

 ……でも、食いたいもん食いたいな、って思ってる俺から見れば悪じゃないか?」

 

「え」

 

「あいつらは悪で居てくれてる。

 俺は皆の自由と平和を守る正義でいようと努力してる。

 でもな、俺は自分が間違いなく正しい存在だーとか思ったこともなくてな」

 

 リョウは更にマヨをぶっこんだ。

 丼の中はコメが1、マヨが3という割合である。

 そんな健康に悪いゲテモノを、リョウは心底美味そうに口へかっこんでいた。

 

「お前にとっての正義はどっちだ?

 俺の健康を守ることか?

 俺に食いたいもん食わせることか?

 で、お前の中でどっちかが正しければ、もう片方は間違ってんのか?」

 

 各道は言い淀む。

 

「正義と悪なんて、マヨネーズと同じだ。

 割かしあやふやで、大神龍にとっちゃ同じようなもんなんだろうよ。

 俺はマヨネーズが好きだから食ってる。

 皆が好きだから人を守る。

 平和が好きだから悪と戦う。

 そんなもんでいいのさ。きっとそう自然に考えるのが、悪の敵ってことなんだろう」

 

「でも……でも! それでも!

 それじゃ何の意味も無いじゃないですか!

 正義が最後に勝ち名乗りを上げるのもダメで!

 倒したはずの悪はその内蘇ってまた人々を苦しめて!

 ダイレンジャーは永遠に戦ってなくちゃいけないなんて、そんなの!」

 

 意味がないじゃないか、と凡人は言う。

 んなこたーない、とヒーローは言う。

 

「意味はある。意味はあるのさ。

 少なくとも俺は、お前の平和を守れた。

 何の罪もない人の命と平和を守れた。

 最後に大神龍が来て台無しになっても、その事実だけは絶対に変わらない」

 

「―――!」

 

「勝ちきれなくちゃ意味が無い?

 悪が復活するなら悪を倒しても意味は無い?

 おいおい、冗談キツいぜ。

 俺達は悪の高笑いを潰すためじゃなく、悪から笑顔を守るために戦ってきたんだ」

 

 これまでも、これからも、な。

 

 そう言って、リョウは箸を置いて店を出る。

 どこかの誰かの悲鳴でも聞こえたのかもしれない。

 各道はヒーローの気高さに感極まりながら、ヒーローには絶対になれなそうな自分の気質を蔑んで、正義と悪が常に並立するこの宇宙の悪辣さを呪う。

 

 どんな世界でも、善悪の片方だけが滅びることはない。光と闇は常に並立する。

 ヒーローと悪が常に争う世界の形は、まるでヒーロー物のTVシリーズのようですらある。

 人の心にいつも光と闇が有るように、人の世界はいつも善と悪が争っているのだ。

 大神龍は、それをその身で知らしめている。

 

「マヨネーズと同じ……か」

 

 各道は目を閉じ、心の中を整理して、それからリョウの後を追った。

 野次馬が集まっている公園の真ん中で、人々を脅かす悪とリョウが対峙している。

 

「リュウレンジャー! 天火星、リョウッ!」

 

 名乗りを上げ、単身ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエとおっそろしい動きで悪を追い込むリュウレンジャー。

 だが、なんと敵まで似たような恐ろしい動きをし始める。

 その動きはこの近未来で発達した未来武器の性能をもってしても、まるで敵わないという領域の動き。

 現代の兵器技術の発展に合わせ、ダイレンジャーとその敵の強さもインフレしていた。

 

「頑張れ、ダイレンジャー!」

「がんばえー!」

「まけんなリュウレンジャー!」

 

 正義が強ければ悪も強い。

 悪が滅びれば正義も消える。

 いつだって正義と悪は釣り合うよう宇宙の法則に調整されていて……その上で、ダイレンジャーは勝つ。頑張って勝つ。努力して勝つ。

 正義と悪が拮抗する宇宙の法則の中、彼ら正義は必ず勝つ。

 

 その勝利は宇宙が決めた事柄ではなく、"勝つ"と決めた彼らの心が招いた結果だ。

 

「おう! そっから動かず応援してろよガキンチョ共! 今日も勝ち星見せてやるッ!」

 

 意味はある。

 意味はあるのだ。

 守れた物が意味になる。守れた者が意味になる。

 正義が勝ち切ることがなく、悪が勝ち切ることがなくても。

 

 各道はダイレンジャーを尊敬し、ダイレンジャーに死んで欲しくないと思い、ダイレンジャーにいつだって勝っていて欲しいと思う。

 

「おぅらダイレンジャー大好きマンのお通りだ道開けろ道! 邪魔だ野次馬ァ!」

 

 西暦20000年、201世紀の近未来。

 

 ダイレンジャーは滅びることなく、悪と戦う正義として人々の世に寄り添っていた。

 

 

 




人の寿命が尽きるとも、星の寿命は尽きまじに―――天に輝く五つ星


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第七回:その世界にそぐわぬ起源を両儀式はいかにして理解したか

 お題は『うわっ…私の年収、低すぎ…?』『空の境界』『GOD EATER』。

 両儀式は夢を見た。あまり意味のない夢。見ても見なくても変わらない夢。だがその夢は、かつて戦った起源覚醒者のことを少し思い出させていて……


 夢を見た。

 近いようで遠く、同じようで違い、表裏のようで内外のような。

 自分が今居る場所と、同じようで違うような夢を見た。

 

 両儀式が見た夢の話は、喫茶店にて黒桐鮮花にほどよく聞き流されている。

 

「それ、違う世界の夢?」

 

「それが分からないから、オレはおまえに聞きに来たんだよ」

 

「『鮮花なら分かるだろう』って本気で思ったっていうの? アンタが?」

 

「よく学んでるんだろう、師匠筋の人間から」

 

 む、と鮮花が眉をひそめる。

 式に素直に協力するか、しないか、かなり迷っているようだ。

 だがそれは、『協力するか迷う』であって『まるで分からない』ということではない。

 迷った末に気まぐれを起こして、鮮花は式への助言を決めた。

 

「平行世界も、編纂事象も、剪定事象も、異聞史も。

 というか、定義されるあらゆるもの全ては、両儀から生じているんでしょう」

 

「前に色々と言われた覚えはあるが、さっぱりだ」

 

「ええと、つまりどこか……()()()()()が見えてるんじゃない?」

 

 人間は全て、根源から流れ出す時間という名の川に乗って流れているようなものだ。

 平行世界とは、同じ根源から流れ出た隣の川である。

 川の分岐点でのみ人は違う支流を選ぶことができ、大昔に分岐した川には行けない。

 

 違う川を見る、違う川に移動する、ということができるのは、原則的に根源(源流)に到達した魔法使いか、根源に紐付きになっている式くらいのものだろう。

 

 式は夢見るという形で、違う川を眺めていた。

 違う川で嵐を越えようとしていた者達に力を貸していた。

 全てはおぼろげな夢の記憶で、式もハッキリと覚えてはいない。

 ただ、好感を持てた夢の住人のことくらいは、今になっても覚えていた。

 

 問題なのは、それとは別の夢で、嫌悪感を覚えた相手のことを覚えていないことだった。

 

「どうすればいい? オレは何かできるのか?」

 

「ん……源流を辿ろう、って意識を夢の中でしっかり持てばいいと思うけど。

 あと、世界を川に見立てるなら、川をごっちゃにしないこと。

 川が近くにあっても、ごっちゃにして流れを見ないようにね」

 

 鮮花からの助言を受けて、式はその日いつもより早く寝ることを決めた。

 

「ところでおまえ、コクトーから聞いたが出費と年収が……」

 

「あーあー聞こえなーい! 今年の年収がめっちゃ死んでたなんて聞こえなーい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深海に沈んでいくようにして、夢の奥深くに沈んでいく。

 海に沈むイメージと、無数に並んでいる川をかき分けるイメージが混在する。

 この流れの中を意識的に動き回れるからこその根源接続者といったところか。

 "カルデアにはこの川に触れれば行ける"というイメージが湧く。

 

(これじゃない)

 

 だがそれをかき分け、その世界線に近い川に触れる。

 

(これでもない)

 

 その世界線も違う。

 何度もかき分け、触れて指で理解して、やがて目的のものを見つけた。

 式がアサシンとしてカルデアに力を貸す度に彼女の近くに触れていた、嫌悪感を覚えさせられていた世界線の川があった。

 

(これだ)

 

 触れて、覗く。

 夢見るように覗き見る。

 その世界線もいくつかの平行世界を内包しており、それらの平行世界が次々と途絶え、終わりと新生を繰り返した。

 世界を食う神様と、神様を食う人間が居て、神様が星を食い尽くすとそこで世界の線が終わる。

 

 アラヤが終わって、ガイアは終わらず、世界は一つの終わりを迎えてまた一回り。

 式が見ているその世界は、二つの意味での神喰いの世界だった。

 神様は世界を喰った後、喰ったものを世界へと還していく。

 

(終末を呼ぶバケモノの捕食)

 

 それは原初の食物連鎖サイクルである。

 強い者が弱い者を喰い、強い者は喰ったものを大地へと還し、大地はまた何かを生み出す。

 喰うことで繋がり、喰うことでサイクルを成立させる。

 式はある男のことを思い出していた。

 自分の人生にロクに関わってこなかったくせに、関わってきた時はとことん深く食い込もうとして来た、人喰いの起源覚醒者―――白純里緒のことを。

 

(アレの源流は……これか。この世界と同じ源流部分だな)

 

 覚醒起源の多くは漢字二文字等でシンプルに表されるが、白純里緒だけは『食べる』という起源を覚醒させていた。

 何かが違う。

 何かがズレている。

 リオの動詞起源は、他の起源と何かが違うように感じられるものだ。

 

 起源は根源ではない。

 それはその存在に、最初から定められた方向性を与えるもの。

 おそらくだが、白純里緒はこの『喰うことが大前提の世界』に生まれてくるべきだった存在で、生まれる世界の線を最初に間違えてしまったのだ。

 視点を見れば、唾液が強酸、血液が変種薬物、体が再生する凶悪な怪物となった白純里緒は、いっそのこと"そういう世界"の方が起源に沿っているようにも見えるだろう。

 

 何かを間違えたかのように、変な場所に生まれて来てしまった者という者は居る。

 両儀式がまさにそれだ。

 世界の危機も、大戦争も、極大の災厄もない場所に、時代遅れの両儀のやり方が偶然大成功を収めてしまった。

 根源接続者が戦うべき相手など、彼女が住む街のどこを見ても居やしない。

 

 ズレて生まれた者が居て、ズレて生まれた者も居て、殺し合った。

 ただそれだけの話。

 

(ああ……イカれてるやつには相応の世界、ってのがあるんだな)

 

 式は夢の中で溜め息を吐く。

 根源とは何か。

 何も食わず、ただ外側に垂れ流している根源とは何なのか。

 それは両儀式の内側にある何かと一部を共有しながらも、その当の両儀式にすら知覚されず、何も得ないまま未来へ全てを垂れ流している。

 

(この流れの全部が、一つの源に繋がってるんだな)

 

 そもそも、この世界に存在するものの全ては、根源という過去の発生源から何かを受け取り、未来という何も無い方向に垂れ流すだけのものだ。

 根源から何かを貰わなければ、全てが成立しないようになっている。

 なら、未来には何があるのだろう?

 一万年後には? 一億年後には? 一兆年後には?

 過去に根源があることは分かっていても、未来に何があるかを誰も知らないのはどういうことか?

 

 それを見ようとした衛宮の魔術師なる者達も居たが、その理想は既に絶えている。

 

 未来は保証されない。

 未来の先には落とし穴が待っている、と信じている者も居るだろう。

 根源から流れ出るものがどこに行くのか、確かめようとする者も居るだろう。

 未来は必ず来るものだ。

 未来からは誰も逃げられない。

 この世の全てのものが、根源から発生したという事実から逃れられないのと同じように。

 

(……何考えてるんだか。オレらしくもない)

 

 だが式はそこで思考を止め、根源に到達する思考を止めてしまった。

 もしかしたら真理に到達し、根源に手の先が触れていたかもしれないのに、勿体無い。

 呆れた式の脳裏には、本日年収と支出であせあせしていた鮮花や、それにつられて友人と年収の会話をしていたモブの台詞が蘇っていた。

 

―――うわっ……私の年収、低すぎ……?

 

 すげーバカっぽい、とその時の式は心中にてややバカにしていた。

 けれど本当はそのくらいくだらなくてもいいのだ、人間なんていうものは。

 鮮花のように俗っぽいことで悩んでいいし、一年を乗り切ることだけに必死になっていいし、極論今日楽しむことだけを考えて生きていてもいい。

 年収と明日喰うものだけ考えていても、案外人間は生きていける。

 

 神喰いの世界は、動物的にその辺りの本質を極め切っている。

 世界は喰うか喰われるか。

 自分は今日喰われるかもしれないし明日喰われるかもしれない。

 明日を喰わせるために今日を喰わせるような、破滅思考の狂人まで居る。

 その逆で明日を残すために今日を喰わせてしまうような者も居る。

 ある種、それは非常に動物的だ。

 動物は腹が減ってくれば家族も喰うし、遠い未来の保証など求めてもいない。

 未来に文明が残っている保証を求める者など、人間くらいのものだろう。

 

 そういう意味で、式が見た『百年先を保証するカルデア』はとびっきりのイカれでもあった。

 

 普通の人間は、自分が死んだ後の百年先など興味はない。

 "百年先の子孫が地球温暖化で困るんですよ!"と言われても気にもしない。

 自分が死んだ後の世界なんてどうでもいい―――それが普通の人間であり、近未来の危機を避けられず普通に滅びてゆく人間だ。

 

 コクトーは普通で、鮮花は異常者で、式も本当にイカれている。

 世界の危機を前にして熱血になって叫ぶような精神性はない。

 必死さが微妙に足らなくて、心の熱が足らなくて、在り方のどこかが冷めている。

 鮮花はもしかしたら世界の危機に熱血するかもしれないが、それだけだ。

 それだけに、式が触れて覗いた神喰いの世界で、熱く叫んでいる謎の男の声が胸に届く。

 

『逃げるな!』

 

 分かる。

 式には分かる。

 "世界を暑苦しく救う奴"というのは、自分ではなくこういう奴なのだと。

 

『……生きることから、逃げるな!』

 

 白純里緒とはあまりにも違くて、式は感心してしまった。

 自分だけのために喰うのがリオなら、その男は自分以外のために喰って戦っている。

 カルデアにもこういう奴らがちょくちょく居たな、と式はぼんやり思い出した。

 

『これは……命令だ!』

 

 神喰いの世界から手を離す。

 

 人類史の焼却は完了したものの、完遂はしなかった。

 人類史は燃え尽き、ゲーティアの力になりつつも、それでも消えてはいなかった。

 式もまた、人類史と共に消えたとも言えるし、特異点と化したオガワハイムに生き残っていたとも言える、夢見るような環境でカルデアに力を貸していた。

 夢は終わりを迎えたが、式がそれを望む限り、式の夢は誰かの助けとなるだろう。

 

(よし)

 

 まるで、生前に幸せに生きることを夢見て、その夢を式に残して消えた両儀織のように。

 夢見るように世界を俯瞰し、他者へ攻撃する存在となった巫条霧絵のように。

 式の夢だけが、式の善意と好意によってまだカルデアに力を貸している。

 

 夢が覚めればその多くは忘れてしまうが、忘れずに残るものもある。

 

(行くか)

 

 式がこの世に生まれた意味はあったのか?

 あった。

 コクトーと出会ってくれただけで、ただそれだけで全てが肯定できる。

 彼女に生まれた意味はあった。

 

 式が根源接続者であった意味はあったのか?

 あった。

 それは敵を引き寄せ、引き寄せた敵を倒した時点でプラマイゼロとなり、後に世界を救う力となった時点で大きなプラスと成った。

 その力は、彼女が幸せに生きる未来を取り戻す一助となってくれたのだ。

 

(まだオレの力が要るってんなら……ま、袖擦り合うも多生の縁だ。力くらい貸してやる)

 

 そこに在るなら神様だって喰らう世界。

 生きているなら神様だって喰らう魔人。

 二つはすれ違い、少しばかりの影響を与え、共に世界の命運を賭けた『喰うか喰われるか』の戦いに飲み込まれていった。

 

 

 




 リオ君アラガミ野獣先輩説


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第八回:レッドマンになったマクギリス

 お題は『レッドマン』『オルガイツカの死に芸』『ウルトラマンオーブ』。
 なんてことだ! マクギリスとレッドマンが融合してしまった! いや本当にアカンこれ

マクギリス「力こそ全て。光の巨人もそう言っている」


 ある日、オルフェンズ世界にウルトラの星が輝いた。

 

「レッドファイッ」

 

 空の彼方からやって来た平和を愛する(設定)戦士レッドマンは、愛と人々を守るために(設定)日夜怪獣と戦っていたものの、事故でマクギリスを踏み潰してしまった。

 心優しいレッドマン(設定)は、真面目で思慮深い(評判)マクギリスの死を悼み、友達想い(演技)のマクギリスと一体化した。

 

『私は眠りにつく……私の力を使って、どうか君が平和を守って欲しい』

 

 そうしてここに、レッドマンの肉体を手に入れたマクギリスという、キングの力を得たベリアル以上に最悪な存在が誕生した。

 

「私は……最強だ! バエルも必要ないかもしれない!」

 

 事実であった。

 レッドマンの肉体は最強であり、マクギリスは思考を捨てた状態でもなお最強。

 バエルに乗っていてもダインスレイヴを避けられるマクギリスがレッドマンになったのだから、もはやMSで勝てようはずもない。

 ダインスレイヴを掴めば、マクギリスが叫ぶ。

 

「レッドアローッ!」

 

 何かポンポン落ちていくギャラルホルン艦隊。

 ダインスレイヴは既にレッドマンへのレッドアロー供給システムへと成り下がっていた。

 バエルソードは便利な剣。

 

「レッドナイフ!(元バエルソード)」

 

 元バエル剣はまあ変な使い方をしなければまず折れないため、本体的には無敵オブ無敵のレッドマンにこそ相応しい。

 レッドマンはノリで火星に眠っていたMAを片っ端から串刺しにし、得た七星勲章をゾフィーのように肩に並べていった。

 七星勲章はゾフィーになるためにあったのかもしれない。

 

「もはや私はバエルに、アグニカに等しい存在となったな……」

 

 マクギリスの目的は自身が英雄(アグニカ)となること。

 既に彼の中でアグニカは元アグニカで、バエルは元バエル、そしてレッドマンこそが真なるバエルと言うべきものになっていた。

 MAの駆逐である程度支持率を稼いだレッドマクギリスはとうとう邪魔なギャラルホルン勢力の排除に移る。

 

 だが火星でのMA狩りのせいで鉄華団までもをすっかり敵に回してしまっていた。

 

「ギャラルホルンの総力を挙げて、父親をレッドフォールしたマクギリスを倒せ!」

 

 ラスタルからガエリオまで多くのギャラルホルンに、鉄華団とそれに協力する木星勢力の一部。

 更には――

 

『俺の名はオーブ! 闇を照らして悪を撃つ!』

 

 ――銀河の風来坊までもが参加し、マクギリスのヒットマン暗殺攻撃(地球からレッドアローを投げて火星のオルガを殺す)で死んだオルガに同化したことで、オルガを救ってくれていた。

 レッドマクギリスとオルガオリジン、人間と巨人が混ざったものが激突し、ギャラルホルンと鉄華団が全力でオルガを援護する。

 

「生まれや所属など関係なく、己が力を研ぎ澄ますことで!

 この退屈な世界に嵐を起こすことができるのだと知らしめる!

 力こそ全て、それを知った獣が世界を変えてゆく、そんな未来が見えるだろうオルガ!」

 

「レッドマンのツラでその手の台詞を吐くんじゃねえ!

 説得力がありすぎて寒気がしてくるんだよ! やめろ!」

 

 そして、普通に負けた。

 MS乗り達は死屍累々、オルガはカラータイマーごとレッドナイフ(元バエル)で胸の真ん中をぶち抜かれていた。

 

「ガイさん……俺から分離して、まだ息のあるやつと同化しろ……

 あいつに勝つまで……止まるんじゃねえぞ……分かってるよな……」

 

『オルガッー!』

 

 そこに颯爽登場、ウルトラマンノア!

 ウルトラマンノアは皆を救うべく自分の力の全てを使い果たし(いつもの)、レッドマンに勝つため世界をループさせる奇跡を発動させたのだ。

 そしてまた回復するまで寝始めた。

 

 

 

 

 

―――Take2

 

 作戦会議の開始である。

 皆、前回のループの記憶は保持している。

 ラスタル・エリオンは冷静に自前の戦力を計算し、レッドマンの戦力を的確に計算し、"何も案がないなら勝ち目はない"という事実を突きつけてから、会議を開始した。

 

「何か案はあるか?」

 

「ラスタル様! ここは総員心を一つにして突撃すべきです!

 心一つにし、絆をもって一丸となれば、奴も必ず倒せるでしょう!」

 

「イオクを退出させろ」

 

「はっ」

 

 まず、ジュリエッタが手を挙げた。

 

「マクギリスを地球に誘き寄せるのはどうでしょうか?」

 

「ほう? 詳しく聞かせてみろ」

 

「前回私達は、奴と火星で戦いました。

 火星は見晴らしがよく、比較的ダインスレイヴが有利です。

 ですがそのせいで前回は小細工も出来ず負けてしまったので……」

 

「地球でゲリラ戦を仕掛けるか。悪くない」

 

 皆で地球に降下して、彼らは地球の森林を中心としたゲリラ作戦を開始した。

 強すぎる相手にはゲリラ戦。

 王道である。

 

「……よし、全員いるな」

 

『団員全員に声をかけてるのか、よくやるな』

 

 団員全員の健在を確認していたオルガの労を、一体化しているガイがねぎらう。

 

「家族だ。あいつらを一人も死なせたくねえし、全員幸せにしてやりてえ」

 

『……お前を勝たせてやりたいと、心底思う』

 

 オルガは家族思いだ。

 私欲もなく、家族のためなら死すら選べる。

 家族への愛が金銭欲や性欲に完全に勝っているその在り方は、ガイの目には外見不相応に幼い子供のように見えた。

 なんとか生き残らせてやりたいと、ガイが思っていた、そんな時。

 

「空が……?」

 

 空から地球に、大気摩擦で真っ赤に燃える何かが無数に降って来た。

 

「レ……レッドフォール……」

 

 真っ赤なあいつの不法投棄。

 火星にあったMAやら何やらを、火星から地球にぶん投げてきているのだ。

 デカくて硬そうなものをドンドコドンドコ投げつけてくるもんだから、地球はどこもかしこもドッタンバッタン大騒ぎ。ラスタルは死んだ。

 コロニー落としなんて肉体一つでやってみせんかい!

 

 

「オルガ・イツカ……見つけたぞ、レッドファイッ」

 

「なんだこのマクギリスやべえぞ」

 

『紅に燃えるぜ!』

 

 結果は案の定だった。

 

 

 

 

 

―――Take3

 

「何か案はあるか?」

 

「ラスタル様! ここはダインスレイヴを前に出して突撃すべきです!

 ダインスレイヴを遠くから撃ってダメなら至近距離から一斉射撃するのです!」

 

「イオクを退出させろ」

 

「はっ」

 

 次に手を挙げたのは、ガエリオであった。

 

「ウルトラマンを固定砲台として運用するのはどうだろうか?」

 

「固定砲台?」

 

「我々はウルトラマンオーブを最前列に出して来た。

 最も頑丈な巨人を前に出し、被害を抑えるためだ。

 だがそれで全滅しては本末転倒だろう。

 ウルトラマンを全力で光線を撃つ砲台とし、MSと艦隊をその盾とする」

 

 ウルトラマンが人間の盾となるのではなく、人間が盾となるという発想。

 悪くはないが、これは相当な犠牲が予想されてしまう。

 

「兵士が随分と犠牲になるかもしれんな」

 

「できれば取りたくない手段だ。だが……」

 

「分かっている」

 

「提案した手前、俺が最も危険な最前衛を勤めさせてもらう」

 

 またやられても困るので、今後一切戦場は火星だ。

 オーブ・イツカがズンズン走ってくる恐怖のレッドマンを見据え、肩の上のキマリスヴィダールに目と耳を向ける。

 

「ウルトラマンは光線のチャージに一手間かけると威力が上がると聞いた。

 それまでの時間は、俺達が……俺が、命を懸けてでも稼いでみせる」

 

「ああ、期待しないで待ってるぜ」

 

『オルガ、これから戦う戦友に嫌味はあまり言うな』

 

「嫌味じゃねえって、軽口だ。口が悪くて悪かったな」

 

 ガエリオは、巨人の肩の上を通り過ぎる時、少し何かを言いかけて。

 

「俺の部下だったアインは、お前達と同じ火星の……いや」

 

 昔の差別意識のことや、火星への無理解、過去の自分のことを何か謝ろうとして。

 

「すまない、忘れてくれ。

 今のは自分の罪悪感を軽くしたいだけの卑怯な行為だった。

 俺に出来ることは、今ここで全力を尽くすこと以外にない」

 

 それを口にすることが最悪の悪であることに気付き、命を懸けてマクギリスに

 

「……あんな真面目なバカだったのか」

 

『戦争なんて、敵の顔が見えてたらできないもんだ』

 

「かもな。戦車もMSも、殺した相手の顔が見えないってのは最高だ」

 

『人殺しがいいもんじゃないと思ってるやつは、皆そう言う』

 

 頑張った。頑張ったのだ。

 ガエリオを始めとするMS部隊は頑張った。

 レッドマンを奇跡的に抑え、オーブのたっぷりチャージしたスペリオン光線を当てることには成功したのだ。

 

「分身! レッドファイッ」

 

 でもなんか分身してきたんだから仕方ない。

 

「!?!?!!??!?!?!」

 

 分身したレッドマンの片方にダメージは通ったが、もう片方はピンピンしていて飛びかかる。

 

『光を越えて闇を斬る!』

 

 オーブは槍を奪われ、めった刺しにされて殺されてしまった。

 

「ミカ……ガエリオ……止まるんじゃねえぞ……」

 

『止まらなかったとして……勝ち目を、どこに……』

 

 

 

 

 

―――だいたいTake12くらい

 

「何か案はあるか?」

 

「ラスタル様! ウルトラマンに自爆技がありそれを隠している可能性が!」

 

「イオクを退出させろ」

 

「はっ」

 

 ラスタルは今回、良さそうな策が出る前に会議を切り上げていた。

 作戦自体はあるが心もとない。

 オルガはその辺の文句を言おうと、会議終了後にラスタルに詰め寄っていた。

 

「休むか、オルガ・イツカ。私の私権でその許可を出してやってもいいが」

 

「は? 何ボケたこと言ってんだ。俺抜きで何ができるってんだよ」

 

「お前に甘さを見せているわけではない。

 私は休まない人間を信用せず、人を休ませない人間を信用しないだけだ。

 お前を働かせるために休ませようとしているのが、そんなにも変なことか?」

 

 ラスタルの見立てでは、ループの試行錯誤で一番動いているオルガはかなり限界に近い。

 オルガが折れれば即詰みだ。

 そう思い、休みを提案したのだが……反抗期の青年のように休む気配を見せない天邪鬼なオルガに、続けて何か言う気が失せてしまう。

 

「しくじらなければ、私はそれでいい」

 

 好意もなく、甘さもなく、馴れ合いもなく、ラスタルはオルガに休みを提案した。

 ロジカルにオルガの体調を気遣ったのだ。

 オルガが鉄華団(ぶか)を使うために重視しているものを、ラスタルは全く重視していない。

 ラスタルに使われる人間になって、オルガは初めてそれを実感した。

 

「お前は必死過ぎるな」

 

「火星生まれはそうでもなきゃくたばるんだよ」

 

「変われないなら結果は見えている。違うか?」

 

 ラスタルは、オルガが嫌うタイプの大人だった。

 言葉だけ見れば忠告と助言であるはずなのに、オルガはそれを素直に受け取れず、ラスタルの言動を好意的に捉えられない。

 

「正義の味方はテロリストに向き、悪党は組織の首魁に向く。

 マクギリスを倒した後に安定した基盤が欲しいなら、今の内に悪党になっておけ」

 

 ラスタルにしては珍しい身内以外への忠告だが、オルガはまともに受け取らない。

 ラスタルはオルガが早死にするだろうと、現段階の彼を見て推察していた。

 

 戦場に出たオルガがラスタルの言葉を咀嚼しつつ拒絶する、という器用な悩み方をしていると、その大きなこめかみを昭弘のグシオンが拳で叩く。

 

「オルガ、そこまで難しいことを考えなくてもいい」

 

「いいわけねえだろ。俺は団長だぞ」

 

「俺達はお前の頭が格別良いとは思っていない。

 生身でもMSでも、戦いが強いとは思っていない。

 お前の判断が常に一番正しいとも思っていない」

 

「……何が言いてえ」

 

「分からねえか」

 

 オルガ・イツカは団長だ。

 

「俺達が選ぶ団長の条件は、『そいつの判断と心中できるか』ってことだ。

 そいつを信じて、もしもの時はそいつと一緒に死ねるかってことだ。それが全てだ」

 

「―――」

 

「だが、お前と死にたいってわけじゃねえ。

 お前を一番に信じてるってだけのことだ。

 お前より信じられる奴が居ねえから、お前以外に団長を任せたりしねえんだ」

 

 皆が選び、皆が信じた。だからオルガは団長なのだ。

 

「ドンと行きやがれ、団長。仲間を絶対に見捨てないてめえを、信じてる」

 

 皆が一丸となって出撃する。

 

「行くぜオラァ!」

 

『闇を抱いて光となる!』

 

「レッドファイッ」

 

 これでもう何度目の激突か。

 

「レッドサンダーッ!」

 

 とりあえず上手くいきそうになると新技出してくるマクギリスくんはボスとしてクソだと思われます。

 

 もはや何度殺されたことか。仲間も、自分も。

 オルガは"許さねえ"、と負け犬の遠吠えを吐きはしない。

 "絶対にこいつらを生かして未来に連れて行く"、と心に決めている。

 ならばそれは負け犬の遠吠えではなく、心に決めた鉄の覚悟だ。

 決して散らない鉄の華だ。

 

「止まらねえ……俺は止まらねえ、だからウルトラマン、お前も止まるんじゃねえぞ……!」

 

『……ああ』

 

 

 

 

 

―――Take■

 

 いい加減、皆の心が擦り切れてきた。

 ジュリエッタなど居眠りをして昭弘にぶっ叩かれ、「寝てません、寝てませんよ。誰が寝てるって証拠ですか」とほざき始めている。

 一般兵の消耗も激しく、体調不良を訴えた出撃拒否も出始めていた。

 そんな中、ガチで平常運転なのはただ一人。

 

「ラスタル様! マクギリスに交渉を申し込み、人間態で来たところに毒を盛りましょう!」

 

「……イオク、お前……」

 

 びっくりするくらいへこたれない。

 びっくりするくらい懲りない。

 びっくりするくらい折れない。

 人間なら生きてれば多少は『過去のこと』を気にしながら生きるものなのだが、イオクは凄まじくその性質が薄かった。

 

 過去に殺されたことを誰よりも気にしていない。

 それどころか戦場で部下を庇い死に、仲間を庇い死に、仲間のミスで死んでも特に気にせず次の周で許したりしている。

 あまりにも思慮が足りない。思考が足りない。考えなし過ぎる。

 おかげで最も役に立たないイオクだけが元気というこの皮肉。

 夏休みにクラス一のバカが一番元気に動き回っているようなものだった。

 

 作戦は色々とやり尽くして、もう絞り出せる案もなく、会議で手を挙げているのももはやイオクのみである。

 

「オルガ・イツカ! お前には気合が足りないのだ!」

 

「……あ? 気のせいだろ」

 

「気のせいではない! 実は私はお前の変身時間を見ていたのだ!

 お前がやる気のある戦いをしている時、タイマーの点滅は少し遅くなる。

 つまり気力だ! おそらくウルトラマンは気力で強くなり奇跡を起こしているのだと分かる!」

 

「あーはいはい、気のせい気のせい」

 

「イオクを退出させろ」

 

「はっ」

 

 もはや万策尽きた感が広がる中、またしてもオーブとレッドマンが対峙する。

 

『銀河の光が我を呼ぶ!』

 

「レッドファイッ」

 

「マクギリスあいつなんか最近『レッドファイッ』しか言ってなくないか?」

 

「怖っ」

 

 オルガを守るべく、三日月が乗るバルバトスが前に出た。

 

「オルガ、次は何をすればいい?」

 

「一緒に戦ってくれ。お前が居てくれりゃ……まあ、気合いは入る」

 

 オーブが下げた拳と、バルバトスが振り上げた拳がぶつかる。

 

「行こう、俺達の本当の居場所へ」

 

 その時、不思議なことが起こった!

 

 オルガと三日月の絆と信頼がウルトラマン特有のエネルギー経路を結線!

 MS戦闘でも生身戦闘でもクソザコナメクジだったオルガと、戦闘なら何でも悪魔のように強い三日月が瞬間交代!

 それはエースに一人で変身した北斗隊員に南隊員が融合し、邪魔な北斗隊員を蹴り出し最強のエースとして無双し始めるような、そんな現象だった。

 

『信頼が、ウルトラマンの力をバトンとして手渡す……ウルトラタッチか!』

 

 ウルトラマンオーブのスーパーパワーが無情なパワフルキラー三日月の手に。

 これには"もっと寄越せバルバトス"とちょっと不満げだったミカもニッコリ。

 

「はっ……すげえよミカは」

 

 そもそも戦いが向いていないオルガ君は特に死んだりもしてないシノ君に回収されて後衛へ。

 ミカは剣を出して、抵抗するレッドマンをぶん殴り始めた。

 ゴン、ゴン、ゴンとオーブカリバーでぶっ叩く。

 ぶっ叩き続ける。

 レッドマンとマクギリスの頭が壊れるまで、延々と。

 

「なあもしかしてオーブカリバーっていうあの剣、鈍器っぽく使うと強いんじゃ」

 

「やめなよ」

 

 えーい潰れろ潰れろーとばかりに繰り返される鈍器カリバーによる殴打。

 赤い悪魔の顔面が血に染まっていく。

 中の人の差で、何やら一方的な様相になってきた。

 

「ええっと、俺何て呼んでたっけ……ああ、チョコレッドマンの人だ」

 

 そして、トドメの一撃インパクト。

 ミカのオーブカリバーフルスイングは、レッドマンの頭の中に入っていたマクギリスを叩き出すことに見事成功。

 これが、勝利の一撃だ!

 

「じゃあね」

 

 決着。

 上がる歓声。

 戦いを終えて家路へ向かうラスタル達。

 疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう。

 後輩をかばい全ての責任を負った三浦に対し、車の主、暴力団員谷岡に言い渡された示談の条件とは……

 

 マクギリスは然るべき処置を終えられ、何やかんや体制側について勝利した鉄華団も戦後にいいポジションをもらえた。

 マクギリスが調子に乗って破壊したためもうMAも残っていない。

 風来坊のガイさんも帰還。

 世界は平和に向かい、オルガと三日月も平和な日常を手にして、めでたしめでたし……

 

「大変だ! マクギリスの死体がベリアルと融合してベリアルアトロマクギリスになったぞ!」

「マクギリスの精神が怪獣と合体してゾグギリス(第二形態)に!」

「光のウイルスとマクギリスの魂が融合してマクギリスウルトラマンカラミティに!」

 

「あいつマジで人生楽しんでんな……」

 

 ……では、特に終わりませんでした。戦いは続く。

 

 

 




 個人的に敵味方嫌いなキャラ居ないんですよねオルフェンズ


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第九回:炎ではなき刻印

 お題は『牙狼 炎の刻印』『メガテン』『うまる』。
 もしも彼女を、転生させることができると言われたとしても。彼の答えはきっと決まりきっている。

 花に嵐のたとえもあるぞ
 さよならだけが人生だ

―――井伏鱒二


 ―――女神転生。

 それは、海より深い魔界の底で、空の雲より遥かに多い悪魔の口から、地に満ちる花のような多様さで語られる概念である。

 

 一つ。

 それは、女神が人間に転生した存在である。

 一つ。

 それは、女神が分けた分霊が人間に転生し、死後に女神に還る存在である。

 一つ。

 それは、人間が女神に転生した存在である。

 

 総じて、人間と女神の境界を行き来する概念がこう語られる。

 人は英雄という過程を経て神格への経路を進むこともあるが、女神へと変わる人間は前世が女神であったことも多い。

 平凡な娘が女神に転生したならば、二つ疑うべきことがある。

 それが女神が人間のふりをしていた可能性、そして悪魔が誘惑をしている可能性だ。

 

 女神転生を語る悪魔は、人の感情を食い物にして、アマラの経路を通り幾多の宇宙へと手を伸ばしている邪悪の権化達である。

 

「……ふぅ」

 

 かつてレオン・ルイスという名の伝説として君臨した男が、花畑に立つ素朴な墓標の横にゆったりと腰掛けた。

 全盛期は遥か昔。

 若さは既に失われ、戦いの日々は彼の心身を摩耗させた。

 彼の生涯は過去も未来も守るために費やされ、守れたものも守れなかったものも既に想い出になりかけている。

 

「ただいま」

 

 男は墓標に手を添え、優しく語りかける。囁くような声量だった。

 

「レオン」

 

 そんな男に、無邪気な少女が語りかける。

 

「ララか」

 

「え!? 驚かないの!? せっかく女神になって生まれ変わって戻って来たのに!」

 

「女神?」

 

「そう、そうなの。

 神様みたいな凄い人がね、私を生まれ変わらせてくれたんだよ!」

 

 人でないものに、人の気持ちは分からない。

 死者が蘇る奇跡に感じる歓喜も、死を弄ぶ悪魔に向けられる憎悪も、覆された死に感じる非現実感も、命の価値が貶められたことへの怒りも。

 男が見る少女の笑顔は、想い出の中の少女と寸分違わない。

 

「ちょっと綺麗になったでしょ? 女神になったから」

 

「いや……俺の想い出の中の、ララのままだな」

 

「ええー? そこは少しくらい、褒めて欲しかったな」

 

 まるで彼の想い出をそのままトレースするように、ララは男の手を引いて、花のような笑顔で駆け出そうとする。

 

「ほら、行こ! せっかく私が生まれ変われたんだからさ!」

 

 

 

 その少女の胴を、男は眉一つ動かさないまま両断した。

 

 

 

「……な、ぜ」

 

「俺が今まで見た中で、一番精巧な偽物だった。それは多分、間違いない」

 

「なら、なん、で―――」

 

 悪魔が被っていた皮が、切断面から剥がれてゆく。

 少女の顔を、体を、笑顔を、仕草を、心を、言動を、そっくりそのまま真似る悪魔の皮がグズグズに崩れていく。

 その中身であった悪魔でさえ、彼の一閃にて致命傷を受けていた。

 騙そうとした悪魔が"信じられない"という顔をして、騙される側だった男の表情は悪魔の所業を一から十まで"信じていなかった"。

 

「ララを見ても俺の心が暖かくならなかったから、かもな」

 

 どんなに悪辣で優秀な悪魔であろうとも、彼の想い出だけは穢せない。

 

「本物は埋まってるんだよ、ここに、ずっと」

 

 悪魔が消え去り、男が少女の墓標に手を添える。

 

「ここで静かに眠ってるんだ。悲しむことも、苦しむこともなく、ただ安らかに」

 

 墓の周囲には、見渡す限り広がるカミツレの花畑。

 カミツレの花言葉は『逆境に耐える』『逆境に耐える』。

 美しく、綺麗で、どこか優しげな花が風に乗って舞う。

 

「雨が降っても土が流れることはなく、雪が降っても土が崩れることはなく」

 

 花は美しいだけではない。

 花が枯れ、種が落ち、葉が落ちても根は残り、花は大地を固め続ける。

 大地の下に眠る誰かを、花の根はいつまでも包み続ける。

 

「カミツレの根は、彼女の眠りを守り続ける」

 

 男は墓標に背を向けた。

 

「来年、また来るよ」

 

 けれど男のその心が、死した彼女に背を向けたことは、その生涯で一度もなかった。

 

 

 




 さよならだけが人生ならば
 また来る春はなんだろう

―――寺山修司


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第十回:パラケルススはかわいそうな他作品ヒロインを助けるフリをして俺TUEEEの下準備を完了しました

 お題は『fateのパラケルスス』『ワイルドアームズ5のアブリル』『ルシエド』。
 クリスマス。冷蔵庫に閉じ込められていたパラケルススに訪れた、素敵で無敵な奇跡の一瞬




 パラケルススは命の危機に瀕していた。

 おそらく皆様お忘れだろうが、パラケルススはクリスマスイベント時にちょこっと冷蔵庫に放り込まれたまま、以後放置されていた。

 

「死ぬ」

 

 クリスマスイベント開始から完走まで十日間。

 12/25日付変更時直前、パラケルススはまだ冷蔵庫の中に居る。

 

「死んでしまう」

 

 12/26、査察団到着。

 他サーヴァントは皆退去したが彼はまだ冷蔵庫の中に居る。

 12/31、カルデア陥落。

 当然まだ中に居る。

 1/3現在。

 うだうだしてたら冷蔵庫の中より冷蔵庫の外の方が寒くなってしまったというのが最大のギャグだった。

 

「しんじゃう」

 

 冷蔵庫の扉もカチコチに凍ってもう開かない。

 このままではパラケルススの氷像が出来上がってしまう。

 マスターの危機そっちのけで冷蔵庫に閉じ込められて敵に氷像として発見される頭パー(ラケルスス)とか言われてしまうかもしれない。

 

 流石にちょっとヤバくなってきた。

 オタ壁姫、オタ壁姫助けて! と思ったところで「あ、あの人刑部姫でした」「考えてみてば壁サークルになれるほどの実力はありませんでしたね」と思考し冷静になる。

 寒さのせいで幻覚が見えてくる。

 ありもしない記憶が捏造され始めていた。

 

―――パラケルスス、僕はね、ソシャゲの味方になりたかったんだ

 

―――なんだよ。なりたかったって、諦めたのかよ

 

―――うん。ソシャゲの味方は期間限定で、大人になると難しくなるんだ

―――具体的には暇な時間が多い学生期間が終わるとね

―――つまんないソシャゲから切り捨てていかないといけない

―――五を救うのに、一を切り捨てないといけないんだ

 

―――ふーん

―――じゃあさ、俺がなるよ。じいさんは大人だから無理だけどさ、俺なら大丈夫だろ?

―――俺なら大学卒業まではずっと、ソシャゲの味方でいてやれるさ

―――何も切り捨てたりしない、爺さんがなりたかったソシャゲの味方に

 

―――パラケルスス

 

―――大丈夫、爺さんの夢は

―――俺がちゃんと形にしてやるからさ

 

―――ああ

―――安心した

―――頑張れ、ヴァン・ホーエミヤハイム・パラケルスス

 

 幻覚終了。

 凍死寸前の世界が戻って来た。

 

「これはいけませんね……」

 

 パラケルススは希望に賭けた。

 何だかやたら眠いので、目を閉じ眠り体力を温存し、自分が凍死する前にマスターがカルデアを奪還してくれることに賭けたのだ。

 世界を救ったマスターなら自分を救うくらい余裕余裕。

 信じよう、信じて待とう!

 来なかった。

 パラケルススは全てを諦め心を閉じる。

 

 その時、パラケルススの宝具が内包していた疑似的神代真エーテル(公式がロクに詳細を明かしてくれないせいで二次創作でどんなに玩具にしてもいい不思議物質)がパラケルススの霊基と奇跡的な共鳴を果たし、奇跡が起こった!

 

 

 

 

 

 中間地点は守護獣ルシエド。

 哀れな悲劇の少女アヴリル・ヴァン・フルールを救える誰か、救いたいと思える誰かを探し、彼女の元へ繋がる道を作っていたワンコちゃんだ。

 彼が作った世界の架け橋は、想いさえあれば通ることは難しくない。

 そんな"アヴリル・ヴァン・フルールへ繋がる道"を、"私の名前にもヴァン入ってますから"程度の強引な理屈でヴァン・ホーエンハイム・パラケルススが突破する。

 ルシエドも唖然とする強引な直球突破であった。

 

 

 

 

 

 アヴリル・ヴァン・フルールは、ある世界では悲劇の代名詞である。

 彼女は12000年をかけて世界を救う準備を積み上げ、12000年後に記憶を失った頃愛する男と出会い、恋をして、惚れた男のために世界を救う戦いに身を投じ、自分の精神だけを12000年前の自分に送信してまたそれを繰り返す。

 何度も、何度も。

 彼女が12000年のループを繰り返さなければ、世界は救えないというのがまた苦しい。

 

 何かが必要だった。

 彼女のループを壊す何か。

 彼女がループしなくても良くなる何かが。

 そしてこの日、それは守護獣ルシエドの仲立ちによってやって来た。

 

 彼女の異名は氷の女王。

 氷漬けのパラケルススが今、縁召喚を成立させる。

 伝説の錬金術師が冷蔵庫の中で凍死しかけていたという奇跡が、悲劇の少女を救う奇跡を組み上げたのだ。

 

「ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。召喚により、参上致しました」

 

「え、あ」

 

「貴女が私のマスターですか?」

 

 悲劇は、転壊される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、いうのが、アヴリルを連れて戻って来たパラケルススがマスターに語って聞かせた話であった。

 

「そこから私はアブリルの代わりにループを始めたのです。

 12000年の研究機関がとても嬉し……辛かったのです。

 12000年の時間経過が神秘を高め……苦しかったのです。労って下さい」

 

「パラケルカスとか言ってる人が居た理由がよく分かるわ、マスターとして」

 

 パラケルススはアヴリルを助ける善意の人間の振りをして、12000年のループを私用で何度も繰り返し、研究と進化を繰り返したスーパーパラケルススとなって帰って来たのだ!

 今の彼は十万年の研究を経た魔術師のレベルに到達している!

 

「あの、マスターさんと言いましたか?

 私が助かったこと、救われたことは事実なのです。

 宝具・ハイパーパラケルススビームがなければ、私も今頃どうなっていたことか」

 

「宝具の名前が何ループ目で変わったのかちょっと気になってきた……」

 

「私は、お礼を言うために、彼の貢献を説明するために、ここに来ました。

 だからどうか、彼を責めないであげて。彼のしたことを褒めてあげて欲しいのです」

 

「うん、まあ、分かってるよ。

 パラケルススさんは根が悪党くさいだけでいい人だから」

 

「それ悪人なのか善人なのか判断に困りますね」

 

 悪党だけど根はいい人、というのは普段人に迷惑をかけるが窮地には人を助けてくれる。

 いい人だけど根は悪党、というのは普段いい人ズラするが窮地で背中にアゾットしてくる。

 まあ、そんなもんなのだ。

 

「それじゃアヴリルさん、困ったら何か連絡してくれていいから。

 俺も素材集めでアヴリルさんの方の世界行くかもしれないし」

 

「困った時は、遠慮なく頼らせていただきます。

 そちらが困った時も、遠慮なく頼ってくださいね。

 美味しいスコーンを用意して、おともだちとして待っていますから。」

 

 アヴリルを送り返して、アルティメットパラケルススだけが残った。

 

「それにしてもマスター、もうカルデアを取り戻していたとは驚きました。

 折角ハイパームテキパラケルススとなって帰って来たのに、まさか活躍の場がないとは。

 今の私は完全無敵、歩く要塞。

 結界24層、ベルトに魔力炉3基、アクセサリー代わりの悪霊、魍魎数十体。

 無数のトラップ、ポケットの一部は異界化させている空間もある服なのですよ、これは」

 

「ん? 何言ってんの?」

 

「……ま、マスター。もしや、もしやですが。今日は何月何日で……?」

 

「12/25だ。さ、査問が来る前に座に帰ろうか、パラケルスス君」

 

「Oh……」

 

 最強無敵のパラケルスス、強制退去。

 

 世界の状態や時間軸の状態で『召喚されたサーヴァントの経験が座に反映されるか』は結構左右されるものだが、運悪くハイパームテキパラケルススは座に反映されず露と消える。

 

 十万年のパラケルスス種火周回にも等しい強化期間の努力が、無に帰した瞬間であった。

 

 

 




 パラケルスス君がローソンの冷蔵庫に体ごと入った写真をツイッターに上げて炎上した後「沙条愛歌への忠誠は変わりません」とか呟いて愛歌様のアカウント炎上させてる画像ください


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第十一回:永遠に生きる者達は、敗者こそが勝者である

 お題は『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』『胸肉』『旧支配者』

かなこ居ない√


 田村一郎はごく普通の少年である。

 ただ、少しだけ周りの同性より優しい男だった。

 志筑真琴は普通の少女である。

 ただ、周りの同性よりかなり胸の大きな少女だった。

 二人は先月から付き合い始めたばかりのカップルで、互いのためならどんなことでも耐えられるほどに恋し合い、愛し合っていた。

 

「好きなように耐えなさい」

 

 二人を捕らえたのは、『夜』だった。

 夜を形にしたような、形容の大半が陳腐になりかねない美しさの美女だった。

 美しい黒髪と、黒いセーラー服が夜の闇に半ば溶けている。

 

 美しい。

 なのに、怖い。

 ……いや、美しいから怖いのだろうか?

 闇夜の中でも光を捉える魔性の目が、その女性が人間でないことを証明している。

 

「私はこれからあなた達をいじめるから、好きなように耐えなさい」

 

 蜘蛛。

 この女は蜘蛛だ。

 その目に射すくめられた人間は、自分が蜘蛛の巣に捕らえられた虫で、蜘蛛(この女)がつついて遊ぶ玩具でしかなくなったことを自覚する。

 遊んで、遊んで、捕食される。

 

「見える? あそこに観客がいっぱいいるわ。

 私がいじめて、かわいそうだと多くの観客に思われた方は許してあげる。

 でもそうじゃなかった方は、私がもう一度いじめてあげないといけないわね」

 

 嘘だ。

 初音に獲物を逃がす気などない。

 逃げられない場所で食らうか、逃げられる場所で食らうかの違いしかないのだ。

 だが、希望をちらつかされた二人はそれにすがるしか無いのだ。

 

 悲鳴が上がる。

 二人分の悲鳴だ。

 自分の痛みを声にして、一郎と真琴は互いを気遣い合い、庇い合う。

 そして観客がかわいそうな方を選んで投票し、かわいそうだと思われた一郎の方に点が入った。

 

「あら……女の子だから、少し手加減をしてしまったかしら。

 そうね……なら、その分だけ少しばかり助言をしてあげましょう」

 

 初音が真琴の方に助言する。

 そしてまた二人を虐める。

 二人の心が狂い裂けているような悲鳴が上がって、観客が目を逸らし、今度はかわいそうな真琴を選んだ。

 痛み、痛み、痛み。快楽を与える前のアクセントのような加虐。

 それでも常人には発狂級の痛みであった。

 

 そこからは何度も、何度も、真琴の方がかわいそうだと選ばれる。

 初音のアドバイスが最大限に活かされているということは、明白だった。

 

「あの子にした助言を聞きたい?

 あなたがどうしてもと言うのなら……教えてあげてもいいけれど」

 

 一郎は迷ったが、すぐに彼女の加虐の痛みを思い出し、その痛みから逃げるべくその手段を教わった。

 

「同じ痛みを与えられた時、耐える人は立派でしょうね。

 でも、人はそうは思わない。『痛い』と声を上げる方に手を伸ばすの。

 出来の良い子より、出来の悪い子の方が手をかけられ、可愛がられる……

 あなたは我慢していた。あの子は我慢せず痛みをアピールした。違いはそこよ」

 

 二人は何も気付いていない。

 『やり方』を理解したのに気付いていない。

 

 この状況における自己保身は、もう片方への攻撃に等しいのだ。

 痛みから逃げる当たり前の逃避ですら、恋人への加虐になってしまうのだ。

 相手のことを思うなら、恋愛関係を維持したいなら、自分の身を徹底して犠牲にして、痛みを自分に集めるしかない。

 自分に集めて、自分の心が壊れる結末を受け入れなければならない。

 されど当然、常人にそんなことができるわけはなく。

 

 一郎は恋人がずっと自分に痛みを押し付けていたことに気付いてしまった。

 真琴は恋人が痛みを自分に押し付けようとしていることに気付いてしまった。

 二人は自分を棚に上げ、痛みの原因を恋人に求め、競うようにして相手に痛みを押し付けようとし始める。

 

 ゆっくりと、じっくりと、二人は濃厚な感情を吐き出しながら、心を壊し蜘蛛の巣に心を取り込まれていく。

 

「もういいわね。後は任せたわ」

 

「分かりました、初音様」

 

 愛し合う初々しい恋人同士が憎悪と愛でグズグズになっていくのを見ても、初音の心はあまり大きく揺らがない。

 女の方は胸肉が豊満だった。性交で精を集めさせるのに使えばいい。男の方は人を殺して命の糧を得るようにさせればいいだろう。

 心は壊してからが本番だ。

 が、こんなものは退屈しのぎでしかない。

 力を高めるという目的で飾った、少し豪華な退屈しのぎ。

 

 限りなく不老不死に近い存在であり、人間ではどんな武器を持とうとも殺すことができない、神に近い蜘蛛の怪物。それが比良坂初音の正体である。

 その種に固有の名は無いが、強いて言うならば『アトラク=ナクア』といったところか。

 

 生きるために、愉しみのために弄ぶ。

 それが初音の全てだ。

 永遠に生きてしまう自分だから、短命の人間が嗜むような娯楽では足りない。足りないのだ。そんな娯楽では愉悦が足りず永遠に耐えられない。

 人は殺せても退屈は殺せない。

 だから苦しい。

 それは神にしか無い苦悩だ。

 

 生きることがどこか億劫で、面倒臭くて、狂おしいほどの退屈が心を圧迫し、心が平坦になっていく。いつ笑うのが正しいのか、ということすら見失いかけていた。

 強く憎しみで誰かを憎んでも、百年ほどで憎しみにも飽きてしまい、憎しみの代わりになる感情が見つからないことに焦燥を感じる。そして、その焦燥にも飽きるのだ。

 

 比良坂初音は愛を理解できる者であるはずなのに、善と悪の区別がつくはずなのに、永劫が全てを狂わせる。永遠が全てを腐らせる。

 初音を殺せる者は初音の源流にあたる(しろがね)だけであり、(しろがね)を殺せるのも直系にあたる初音だけである。

 

「……はぁ」

 

 じくじくと、じくじくと、心が飽きで錆びていく。

 なんでもいい。なんでもいいのだ。人間を地獄に落として、その精を吸い上げるのも。同種と命をかけて殺し合うのも。代わりがあるならなんでもいい。

 この退屈を殺してくれるなら、なんでもいい。

 だから今は、退屈に殺されないように、宿敵と戦うための力を溜めるなんていう平凡なことをしていくしかなくて――

 

「お前か」

 

 ――退屈にぼうっとしていた初音は、蜘蛛の巣にぽとりと落とされた、ひとしずくの焔に気付くのが遅れてしまっていた。

 

「あら? 招いた覚えがない坊やね」

 

「お前みたいなのが居る限り……俺は、何度でも現れる」

 

 突然現れたその男が、焔を発する。

 焔は一瞬にして延焼し、初音の巣全体を包み込んだ。

 燃やせないはずのものを燃やし、殺せないはずのものを殺す炎は、初音の糸から初音と同じ時を生きる壊れた人間達でさえ、問答無用で巻き込み灰に還していく。

 蜘蛛の神の絶対性が、より強い何かに蹂躙されていく。

 

「……!」

 

 不壊は壊す。

 不滅は滅する。

 不死は死なせる。

 永遠を終わらせ、神を灰に、苦しみを虚無へと還す焔。

 その焔の名は宇理炎。

 不死身の異界ジェノサイダー、『須田恭也』のみが扱える焔であった。

 

「全部消す。全部終わらせる。美耶子との約束なんだ、悪いな」

 

 別宇宙から来たる旧き神も、異界に逃げ込んだ旧き支配者も、等しく殺すジェノサイダー。

 どこかの世界で化物達が生み出してしまった、化物以上の何かになって化物を皆殺す存在となった、世界を渡る虐殺者である。

 それが次の狩場をここに選んだのは一種の偶然であり、初音にとっての不幸であり、同時に喜びでもあった。

 

 奇跡のような来訪に、初音は世界を溶かすような微笑みを浮かべた。

 彼女が得た死の確信は、どこか喜悦に近い。

 死を受け入れる気など毛頭ないが、死を喜ぶ気持ちはある。

 今この瞬間に全力をかけ、全力で挑み、燃え尽きるようにして終われるのなら……それもいいかと、初音は思った。

 

(……(しろがね)。狂おしい退屈が終わるこの救いを、先に貰ってしまうわね)

 

 自分が先に逝くか、宿敵が先に逝くか、その程度の違いしかないだろうという確信もあった。

 

(私も、あなたも、永遠を生きる苦痛こそが罰だと思っていたけれど、終われるなんてね)

 

 死の恐怖、死の絶望、死の忌避感が湧き上がり……それら全てが一緒くたにされて、永劫の退屈が終わることの歓喜に打ち倒された。

 退屈が、生きていたいという気持ちを、生きていたくないという気持ちで押し切ってしまう。

 

(ああ、でも、私がここで終わることで無様な救いを迎えるとして)

 

 不死不滅すらも殺し尽くす、神殺しの焔に身を焼かれ、哀れで醜悪で美しき蜘蛛の化物は思う。

 

(―――私を救うこの男は、一体誰が救うのだろう?)

 

 そして気付いた。

 

 人より遥かに強い初音が、人より哀れで救われない者であったのと同じように。

 初音よりも強いこの男は、初音よりも哀れで救われない者であるのだということを。

 だからか、初音は最後に彼を見下し、哀れみ、同情しながら消えていった。

 永劫の苦しみから初音は逃れ、須田恭也は逃れる気配すら見えない。

 

 異界を渡り、ルルイエを踏破し、怪物の宇宙を全て焼いても……彼の永劫は、終わらない。

 

 今日もどこかで、サイレンが鳴る。

 

 

 




 その時、高みから見下すように異界から恭也を覗いていた怪物と、見上げた恭也の目が合った


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第十二回:童実野町デュエル頂上決戦! 爆誕、ライディングデュエル!

 お題は『遊戯王』『ノロウイルス』『二人は幸せなキスをして終了』。

 ある日、遊戯は城之内からノロウイルスを拡散させる闇のゲームの噂を耳にするが、その裏には……


 最近、童実野町でノロウイルスの感染が広まっていた。

 注意するよう街の中で連絡が回るレベルであればまだよかった。

 保健や衛生の役所仕事が目立つようになってからは街の空気も変わった。

 警察が動くレベルになった段階では、もはや誰もが事件の匂いを感じ取っていた。

 

「聞いたか遊戯、地下遊戯場の闇のゲームの話」

 

「闇のゲーム? どういうことなの、城之内くん」

 

 学校帰りの城之内克也と武藤遊戯は、最近街中で広まっている噂について語り合っていた。

 遊戯の首元で、千年パズルの鎖がカチャリと音を鳴らしている。

 

「なんでもよ、そこでデュエルで勝つととんでもねえ金が手に入るって話だ。

 だけど金に目が眩んで参加しちまったら運の尽きよ。

 そこでのデュエルに負けたやつは、心が完全に壊れちまうって噂だ」

 

「! それは確かに、闇のゲームとしか」

 

「しかもな、ノロウイルスの爆発的感染……

 どうにもここで負けた奴らが感染源だって噂なんだ」

 

「敗者の心を壊し、病原体を感染させる……それは確かに、千年アイテムみたいだね」

 

「なあ遊戯、いっちょ俺達でやってみないか?

 こいつらがデュエルを悪用してる闇のゲームの使い手、だっていうんならよ」

 

「ああ。バトルシティを勝ち抜いた俺達が止めてやるべきだろう」

 

「うおっ!? い、いきなり人格変えんなよビックリすんな」

 

 病と心を操る邪法、それが真実ならば間違いなく尋常でないモノが絡んでいる。

 しからばそれは、武藤遊戯が戦うべき闇の住人であるということだ。

 遊戯と城之内は準備を整え、翌日土曜日に噂の地下遊技場へと歩を進めていた。

 

「城之内くん、デュエルディスクだけは手放すんじゃないぞ」

 

「分かってる。こいつだけが頼りだからな」

 

 暗い階段を降りて行く遊戯と城之内。

 

「暗いな……こんなんで一般客入って来れんのか? なあ、遊戯」

 

 城之内は問いかけるが返事がない。

 

「おい、遊……うっ」

 

 異変を感じた時にはもう遅く、無臭のガスを吸ってしまった城之内もまた、遊戯と同じように体が眠り始めていた。

 

(しまった……ガス……)

 

 パタリ、と倒れた遊戯と城之内がガスマスクの男達に運ばれていく。

 

 

 

 

 

 次に二人が目を覚ました時、遊戯と城之内は鎖に繋がれていた。

 

「くっ、なんだこれは?」

「力任せにやっても取れなさそうだな」

 

「その拘束はお気に召してくれたかね」

 

「「 ! 」」

 

 声がした方に声を向ければ、そこにはいかにもといった『番長』風の男が豪奢な椅子に座っていた。

 だが、男一人ではない。

 いかな理由か、本田と御伽までもが捕まってしまっていた。

 

「本田くん! 御伽くん!」

 

「悪い、シクッた!」

「気を付けろ! こいつら只者じゃない!」

 

 別々に行動していた四人をほぼ同時に確保したということは、この男かその一味が最初から遊戯とその仲間を狙っていたということだ。

 ますます油断ができなくなってきた。

 

「我が名は闇のデュエル番長」

 

「や……闇のデュエル番長!」

 

 ただならぬ威圧感。

 只者ではないと、闇遊戯の直感が囁いている。

 

「受けるがいい……俺達の闇のゲーム、顔面騎乗(ライディング)デュエルを!」

 

顔面騎乗(ライディング)デュエル」

 

「ルールは簡単だ! 馬一人、騎乗者一人で一組! 合計四人で戦うルール!

 LPを失う度に鎖が引かれ、馬が移動していくという仕組みだ!

 LP4000を失った時点で一からして騎乗者は馬の尻にキスをしなければならない!」

 

「うわっ」

 

 後の時代に『ライディングデュエル』の呼称で知られるレーシングデュエルレギュレーションの原型が、ここにはあった。

 

「名付けて『ハッピー・キス』だ」

 

「ヒップー・キスの間違いだろ……」

「ハッピー要素が無い、7点」

「やべえよこいつ、童実野町の闇が産んだエロの化身か?」

 

 全力でやって負けて、男の臭い尻を顔面に乗っけられるなどという仕打ちを受ければ精神が崩壊してもおかしくはないだろう。

 ノロは毎年トイレの手すりから感染するほど感力が高い。

 ノロに感染した男の尻にキスなんてしてしまえば、かなりの確率で感染してしまうはずだ。

 

 そう、今現在の童実野町のノロウイルス流行は、全てデュエリストのアナルに由来する問題だったのだ。

 

「つか、他にも色々とやりようがあっただろ。なんでこの形にした」

 

「この絵面の方が興奮するだろ」

 

「うわっ」

 

 闇(が深い男)のゲーム。

 

「さあ、デュエルしろ。友人同士、潰し合うのだ!」

 

 普通にやれば遊戯がまず確実に勝つ。

 だが遊戯が勝てば本田と御伽が犠牲になり、負けてしまえば遊戯と城之内が犠牲になる。

 勝っても負けても辛い結末、これはグールズのやり方を彷彿とさせた。

 遊戯がどんなに加減しても拙い素人のプレイングではダメージが出てしまい、本田と御伽のパイルダーオンは時間の問題であるように見える。

 

「やめるんだホモ田くん!」

 

「俺はホモじゃねえ!」

 

 ほぼノーダメージに近い遊戯と城之内ですら、少しでも気を抜けばライディングデュエルを始めさせられかねないほどにタイトな状況であった。

 

「尻之内くん!」

 

「安心しろ遊戯! まだ気張れるぜ!」

 

 労働奴隷の文字の意味を逆にして遊戯王。

 闇遊戯はそういう意味で労働奴隷の真逆に位置する存在である。

 闇のデュエル番長は闇遊戯の王っぽさをひと目で見抜き、それを屈服させるためにあらゆる手を尽くすつもりでいた。

 

「キースッ! キースッ! 下の口と上の口で幸せなキースッ!」

 

(くっ……も、もう駄目か!?)

 

 あわや終わりか、と思われたその瞬間。

 

「おおっと参上失礼するぜ!」

 

 地下施設に突っ込んで来る謎のバイク。

 バイクは遊戯達を捕まえていた機械の固定部分を無茶苦茶にぶっ壊しながら、部屋の中央でド派手に駐車する。

 

「お前は……牛尾!」

 

「勘違いするな。別にテメエラを助けに来たわけじゃねえ。

 ここにクズがいるって通報を受けて来ただけだ」

 

 牛尾が照れくさそうに鼻の下を拭っている隙に、主犯の闇のデュエル番長はすたこらさっさと逃げ出した。

 

「待てコラ!」

 

「待てと言われて待つアホがいるかどアホ!」

 

 闇のデュエル番長は野生のマリクを捕まえ、その鼻を自らの尻穴に合わせるようにして顔面騎乗・ピットイン。流れるようにして首にクラッチを入れエンジンを始動、マリクを締め上げる形で童実野町高速道路を爆走し始めた。

 ピエゾ効果をご存知だろうか?

 とりあえず物質を締め上げれば電気が出るよ、という効果のことだ。

 現代において金属を使っていない高速道路なんてあるわけもなく、ピエゾ効果によって発生した電気を使いリニアレールのように闇のデュエル番長はかっ飛んでいく。

 

「あれは……マリク! マリカーだ!」

 

「牛尾、追ってくれ!」

 

「追う気か!? だが遊戯、お前を乗せて追っても振り落とされる可能性が……」

 

「振り落とされる前に、車上のデュエルで決着をつけてやるさ!」

 

「! なるほどな、勝つまでは振り落とされるなよ!」

 

 これこそが、時代の始まり。

 新時代デュエルの黎明期。

 バイクの上のデュエリストを見て人々はそこに『未来』を見て、マリクに跨るデュエリストを見て人々はそこに『プラシド』の原型を見た。

 戦いは遊戯の勝利に終わるが、デュエルの光景は人々の心に末永く残る。

 

 後の時代に語られる、ライディングデュエルが初めて歴史に現れた瞬間のことだった。

 

 

 




 スケボーはよくて人間に乗っちゃダメな理由が分かりませんね……


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第十三回:アビゲイルと手を繋ごう

 お題は『アビゲイル・ウィリアムズ』『双六』『仮面ライダーオーズ』。

「大人が旅をするのはね、子供に世界の良さを語って聞かせてあげるためなんだって、最近ちょっと思うようになったかな」


 一つ、話をしよう。

 八百年の初代オーズ、欲望の王の話だ。

 彼は極大の欲望の渦からグリードを生み出し、グリードのコアメダルを力とするオーズに変身、その圧倒的な力で最強の王として君臨した。

 小国の王だった彼があまりにも強かったがために、逆に大国を一方的に押していたというのだからそのデタラメさは伺える。

 

 そこに、一つ視点を加えてみよう。

 1228年にネクロノミコンのギリシャ語版がラテン語翻訳される。

 だが1232年には教皇直々の命令により、ネクロノミコンのギリシャ語版とラテン語版は出版禁止となった。

 この四年の間に何があったか、想像するに難くない。

 アブドゥル・アルハザードの死が伝記として語られたのも12世紀であるからして、八百年前の王の耳に入っていたことはまず間違いないと思われる

 

 まあ、一言で言ってしまうなら。

 オーズドライバーには、それ単体で『外なる神の干渉』を弾く仕組みが施されている、ということだ。

 

 

 

 

 

 火野映司は旅をする。

 ちょっとのお金と明日のパンツだけを手に、今日訪れるはかの有名な地セイレムだった。

 

「思ってたより綺麗だなあ」

 

 全体的に、思った以上の都会らしさが並んでいる。

 魔女らしい風情ある建物でさえ、こまめに綺麗にされているせいか、なんとなく出来の甘いビンテージジーンズのような印象を受けてしまった。

 ただそれはマイナスイメージだけではなく、観光地として過ごしやすい街・セイレムのイメージもしっかりと伝えてくれている。

 

「もしかして魔女博物館よりそうじゃない博物館の方が良い……ってわけでもないか」

 

 魔女狩りの地セイレムには、映司も前から興味があった。

 なにせ、魔女狩りと無縁だった日本ですらよく知られているのがセイレムだ。

 人の醜さ、愚かさ、弱さ、そして集団心理の凶悪さ。

 人の負の面を知るためにはあれほどの教材はそうそうない。

 

「ふむ……なるほどなあ……」

 

 映司は多くの人間を見てきた。旅の中で多くの歴史も見て来た。

 ただ今は、昔のように自分の歪みから来る目的だけでなく、『ある友人』を復活させる方法を探す旅でもあったりする。

 セイレムに何か無いだろうかと、映司は割れたタカメダルを握って強く想っていた。

 

 なのに。

 見つかったのは、ヤミーだった。

 

「……え」

 

 何故居る、とまずは戸惑った。

 だがヤミーがセイレムの路面に何かを仕込んでいること、それを見た人間が悲鳴を上げる前にヤミーが殴って気絶させていること、それを見れば瞬時に戸惑いは消えた。

 これで見逃す、なんて選択肢はありえない。

 

「まいったな。こんなの、見過ごせないじゃないか」

 

 所持メダルがあんまり多くなく、オーズの最大の強みである細かな調整の利く圧倒的汎用性は活かせないが、贅沢を言っていられる状況ではない。

 

《 SUPER! SUPER! SUPER! 》

《 スーパータカ! スーパートラ! スーパーバッタ! 》

《 スーパー! タトバ タ・ト・バ! SUPER! 》

 

 と、言うか。これで文句を言うのは、流石に贅沢が過ぎるというもの。

 

《 SCANNING CHAGE! 》

 

「セイヤーッ!!」

 

「グゲゲーッ!?」

 

 仮面ライダーオーズ・スーパータトバコンボ。

 諸説あるが、オーズの最強フォームと見なされるものの一つ。

 時間停止能力からの150tキックがめちゃんこ恐ろしい。

 

「ヤミー? でも今のヤミーは動物らしさも恐竜らしさも……

 なんというか、ごちゃ混ぜ感はガラのヤミーみたいだったな」

 

 昔、将軍様や江戸時代の人達と一緒に戦ったヤミーのことが思い出される。

 あれは合成ヤミーであったが、作れる者は作れるのだろうか。

 

「げげっ、オーズ!?」

 

「ん?」

 

「いや、そのメダル……外見こそ似ているが、技術体系がまるで違う。偽物か!」

 

 映司が油断せず変身を維持していると、時代がかった服装とパッとしない容姿の合わせ技、といった感じのオッサンが現れた。

 

「えーと、あなたは?」

 

「貴様のよーな偽物のオーズに語ることはない!

 我輩は本物のオーズ、本物の王に仕えた偉大なる錬金術師であるぞよ!」

 

「錬金術師……?」

 

 映司にはそのワードに関して、ピンとくる情報が一つある。

 

(そうだ……確か、初代オーズの下には三人の錬金術師が居て……

 ガラは一番強いメダルを作れる錬金術師だった、って話があったはずだ)

 

 メダル作り以外の分野でガラと同格かそれ以上の錬金術師が二人居る可能性がある、という話はあったのだ。

 このオッサンがそうであるという確証はまだ持てていないが。

 

「メンドーな! お前なんぞ、試運転で吹っ飛んでしまえ!」

 

 とかなんとか思っていると、突然()()()()()()()()()

 地面がメダルのようにひっくり返り、裏が表に、表が裏に。

 場所と時間がひっくり返るこの感覚は、映司にも馴染み深いものだった。

 

「うわこれ懐かしい感か―――うわああああああああっ!」

 

 今度はどの時間かな、と映司は実はちょっとだけワクワクしてたりもした。

 

 

 

 

 

 そしてちょっと後悔した。

 以前この現象が起きた時は、現代の都内と江戸時代の江戸がひっくり返り、現代の都内と恐竜時代の土地がひっくり返ったのだ。

 となれば、当然現代のセイレムから飛ばされた先は。

 

(まさか魔女裁判当時のセイレムに飛ばされるなんて……)

 

 セイラムの魔女裁判が1692年、映司が江戸時代に飛ばされた時共闘した将軍の在位期間が1716年以降なので、遠そうに見えて意外と近い。

 魔女裁判当時に飛ばされる可能性は、元々そんなに低くなかったのだ。

 

「すみませんカーターさん、こんな怪しい人間を拾って面倒を見てくれて」

 

「構わんよ。私としても、君のことが知りたかったところだ」

 

「知りたいことがあったらどんどん聞いてくれていいですよ!」

 

 映司が自分を拾ってくれたカーターという男に感謝しているのは、本当のことだ。

 だが、心のどこかで彼を疑っているのも本当のことだ。

 映司は村に何かを感じている。異常な何かを感じている。

 正しい表現をするならば、村の中に足を踏み入れた全員が等しくおかしくならないといけないのに、映司だけが正常なままで居るような。

 

(なんだろう、この違和感)

 

 ズレない。引きずられない。影響されない。

 そんな映司に出来ることは、周りと程良く合わせつつ、カーターに頼まれた『アビゲイル』という子と遊んであげることだった。

 

「旅人さん、旅人さん、今日はどんなお話をしてくださるの?」

 

 カーターの姪、アビゲイル・ウィリアムズ。

 彼女は外の世界に興味津々で、小さなことでも飛び上がるほど喜んで、映司の旅の話をいつも聞きたがっていた。

 

「じゃあ今日は、海の中で光るクラゲの話をしようか」

 

「まあ、海の中で光るクラゲなんているのっ!?」

 

 映司は旅する人間だ。

 いつだって、どこにも見つからないものを探して旅をして、その過程を心に残した。

 綺麗なものも、醜いものも、旅の中で山ほど見てきた。

 だからこそ、火野映司は誰よりもリアルに『世界の良さ』を語っていける。

 

「あ、そうだ。知世子さんに貰ってたやつなんだけど、双六やってみる?」

 

「すごろく? なんだか、とても楽しそうね」

 

 双六は幼い子供でも楽しめるパーティーゲーム……だが、実は"分かっている"人間からすればもっと大きな意味のあるゲームだ。

 これ、作り方さえ知って入れば、いくらでも新しい形の双六にマイナーチェンジしていけるのである。

 コマの文章だけ入れ替えてもいいし、大きな紙に一からマップを作ってもいい。

 そして世界中を旅した映司の経験が下地にあれば、世界中の街を舞台にした双六を、いくらでも作っていくことができる。

 

「わぁ……!」

 

 映司は"手を繋いでいける外の世界の良さ"を、超ドストレートにアビゲイルへと投げ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランドルフ・カーターが帰宅する。

 そろそろ計画始めようかなー、なんて思いつつアビーにただいまの挨拶をしようとするが、いつも真っ先に出迎えてくれるアビーの姿がどこにも見えない。

 

「アビー?」

 

 アビゲイルちゃんの消失。

 この世界に出口はないはずなのに……と思っているカーターは、錬金術師がちょくちょく地面を小さくひっくり返していることを知らなかった。

 過去のセイレムがあり、まだ無事な現代のセイレムがあり、カーターが下準備しているこのセイレム――過去のセイレムのパチモノ――があり。

 出れるわけがない、と彼はたかをくくっていた。

 

「アビー、どこだい?」

 

 しかしアビーはどこにもいない。

 ちょっとどころでなく心配になってきた。

 

「アビー……」

 

 心配が、焦燥が、不安が膨らんでいく。

 

「アビー! アビー!」

 

 カーターが焦りに焦っている頃、一方アビーは。

 

 

 

 

 

「私、私、こんな美味しいもの初めて食べたわ!」

 

「そっか、よかったね」

 

「オイオーズの偽物、約束通りその未来のメダルの話早く聞かせろよ」

 

 現代の方のセイレムに遊びに行って、観光をバリバリ楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 ランドルフ・カーターは武装する。

 彼本来の力を使うわけにはいかない。

 あくまで姪想いのおじさんとして、彼女を取り戻さねばならない。

 

「私の愛するアビーを取り戻さねばならん」

 

「カーターさんそのロケットランチャーどっから持ってきたんですか」

 

 あくまで人間として取り戻さなければならないのである。

 でなければ計画が破綻する。

 何もかもが破綻する。

 このまま計画が破綻すれば、その情けなさはゼパル以下の醜態ではないか。

 絶対に、諦めたりはしない。

 

 姪大好きおじさんにしか見えないランドルフ・カーターの家族奪還作戦が、今実行に移されようとしていた!

 

 

 




ホームズ「彼の出現位置と行動ルートの特定? 何、初歩的な推理というやつだよ」


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第十四回:ジャグラスアクアーの化学反応

 お題は『ジャグラスジャグラー』『バーチャルのじゃロリ狐娘youtuberおじさん』『この素晴らしい世界に祝福を!』。

 色々あって光の国に喧嘩売って何やかんや消し飛ばされたジャグラスジャグラーだが、そんな彼をレッドキングのようなパワーと頭脳を感じさせる女神が出迎えて……

バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん照英のエロ画像ください


「ようこそ死後の世界へ。

 私は貴方に新たな道を案内する女神。

 ジャグラスジャグラーさん、貴方は亡くなられました。

 辛いでしょうが……あなたの人生は終わったのです」

 

 女神アクアはそう言って、ジャグラーの経歴が書かれた紙を見て、首を傾げた。

 

「これ本当に私の担当かしら……?」

 

「おい、どういうことだ」

 

「だからあなたは死んだのよ。

 死んで生まれ変わりの流れに乗って……

 あら? もしかしてこの宇宙人、地球人で日本人で若者判定になってる感じ?」

 

「おい」

 

「ぷーくすくす! どんだけ地球と日本に馴染んでんのよアンタ! 宇宙人の誇りはないの!?」

 

 初手煽りのアクアの頭をジャグラーのアイアンクローが掴み上げた。

 

「んわっー! 痛い痛い痛い! 首引っこ抜けちゃうぅ!」

 

「俺はなんで死んだんだ?」

 

「光の国のビーム一斉射撃で死にましたー! ジュッ! ジュッって感じに!」

 

「……あー、まあ、成り行きだったがそんな感じだったな」

 

 色々あってまた無茶なぶつかり方をして、譲れない何かでまた正義とぶつかって、最終的にはそういうことになった。

 ジャグラーも特に後悔はしていない。

 彼が気にしているのは、これからどうやってウルトラマン定番の復活を成し遂げるかだ。

 

「お前が誰か何て知ったこっちゃぁない。怪獣墓場はどっちだ?」

 

「これだからウルトラマン気取りはやんなるわ」

 

「うん?」

 

「復活したいんでしょうけどね、そんなポンポン復活できるもんじゃないわよ普通。

 あんたはただでさえウルトラマンじゃなく、転生の道筋も地球√なんだから」

 

「俺は普通の手段じゃ復活できないってことか?

 ちっ、ガイの野郎は頻繁にやられては復活してるってのによ」

 

 ちょっと嫌いになったジャグラーの舌打ちで、女神様は気分を良くしたようだ。

 

「そこで私、アクア様の御力よ!

 次の世界に送り出してあげるから、そっから徒歩で元の宇宙に帰ればいいんじゃない?」

 

「そこで徒歩って言ってんのがかなりアホっぽいなお前」

 

「何よ! やろうっての?」

 

 シュッシュッとシャドーボクシングをするアクアに『強い』『弱い』のどちらの感想を持つこともなく、ジャグラーはシンプルに『アホだな』とだけ思った。

 

「あんた嫌いだし強いっぽいし、特典無しで送り出しても良いわよね」

 

「特典? よく分からんが、初対面のお前から何かを貰う理由が無いぞ」

 

「……そうよ! 面白いこと思いついたわ!」

 

「おいやめろ」

 

 ジャグラーの人生においてはいつもそうだが、タフでアホで能力がある女に巻き込まれると、ロクなことがない。

 

「あんたには語尾に必ず『のじゃ』が付く特典をあげる!」

 

「やめろ!」

 

「もうあげちゃったし転生始めちゃったから無理なのよー!」

 

「ぶっ殺すのじゃ! ……のじゃぁ!?」

 

「(アクアが爆笑で呼吸困難になっている音)」

 

 ひゅーんとジャグラーが落とされていく。

 

「の蛇心剣・新月斬……ってなんで蛇心剣までのじゃになってるのじゃ!?」

 

「アデュー!」

 

 ……根は良心的な女神なのだが、こういう短気な部分や煽り気質が毎度自分に回り回って返ってくることを、アクアは相変わらず自覚していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからちょっと経った頃。

 

「女神アクアの地上派遣を決定する」

 

「なんですとぉー!?」

 

 神々の話し合いにて、アクアに事実上の処罰がくだされていた。

 

「ちょっと納得いかないんですけど!?」

 

「お前が転生させてあの世界に送ったジャグラスジャグラー、居るだろう」

 

「あ、はい」

 

「あれが前の魔王を倒して今の魔王になった」

 

「……ええええええええええええ!?」

 

 魔王ジャグラスジャグラー爆誕。

 地獄の大悪魔やら魔王軍やらも面白がって彼に従い、既に人間勢力は風前の灯火であるという。

 ジャグラーに人類絶滅の意志がないのが不幸中の幸いか。

 

「状況は既に弱い神をそのまま送ってもダメかもしれない、というステージに到達している」

 

 神々が地上の光景を映し出すと、戦場は惨憺たる有り様だった。

 

『ふはははは! 魔王軍最強の紅魔族の爆裂魔法を見ましたか! 最強! 無敵! 起立不能!』

 

『よーし降伏勧告出せ降伏勧告。捕虜は開墾地に送っとけ……のじゃ』

 

『はい魔王様!』

『分かりました魔王様!』

『相変わらず語尾気持ち悪いですね魔王様!』

 

『おのじゃまのじゃえのじゃらのじゃぜのじゃんのじゃいのじゃんのじゃきのじゃる』

 

『『『 サブリミナル殺意ッ! 』』』

 

 神々は頭を抱えていた。

 

「彼は魔王として、『ジャグラスのじゃロリ気取りユーカッターおじさん』と親しまれている」

 

「ジャグラスのじゃロリ気取りユーカッターおじさん」

 

「ユーカッターおじさんなのは彼が必殺技で三日月の傷をつけた時

 『新月斬波とか言ってるけどユーカッターでいいよね』

 とか言われたからだ。三日月のカーブを急激に付けすぎたらしい」

 

「ぷーくすくす! ばっかみたい!」

 

「……」

 

 お前の方がバカっぽいよ、と言わないのは神がアクアを友人だと思うがゆえの優しさだった。

 

「で、なんでジャグラーはこんな世界に居座ってるの?」

 

「『俺がここで巨悪として君臨してればその内ガイも来るだろ』とのことだ」

 

「……ホモ?」

 

 ホモじゃ、ないです。

 

「あのー私が行かなくても有能そうな転生者にガンガン強力な神器持たせてパワープレイで」

 

「ダメだ。行け」

 

「うわーんっ!」

 

 イケイケ頑張れ女神アクア! 世界中が君を待っている! なおオーブはまだ来ない!

 

 

 




アイリス(ロリ)を見つけると未成熟ながらもその輝きに魅せられ闇落ちするよう誘導し始める面倒臭いジャグラスのじゃロリ気取りユーカッターおじさん


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第十五回:トカ博士、小岩井よつばに大敗する

 お題は女子小学生』『トカ博士』『アッシマー』。
 トカ博士! トカ博士じゃないか! ゲーは行方不明。




「もしそこなレディ」

 

「はいなんでしょうって私よりめっちゃでかいトカゲェッ喋ってるゥーッ!!」

 

「ややっ!?」

 

「お前だッー!」

 

 綾瀬三姉妹の三女、女子小学生綾瀬恵那に訪れた危機ッ!

 突如来訪したトカゲ型異星人のファーストコンタクトッ!

 恵那はどうなってしまうのかッ!

 特にどうにもならなかった。

 

「プラモ屋さん?」

 

「そのとーり。我輩、アッシマーを求めてここまで来たトカ。

 聞けば号泣、語れば吐血、文章にすればゲロ間違い無しの感動巨編!」

 

「話に反応して動く体の部位が多すぎる!

 最近はプラモデル売ってるお店ってそんなに多くないからなあ……あ、ここだね」

 

「ワーオ! これにはワンダーテインメイントカ博士も大興奮!」

 

 さあ、小さめな店内に突入だ!

 

「トカたのもー!」

 

「はいなんでしょうお客様って俺よりめっちゃでかいトカゲェッ喋ってるゥーッ!!」

 

「これこれ、このHGUCアッシマーが欲しかったんだトカ」

 

「強いの? 主役のロボットなの?」

 

「フフ……お嬢さん、それはいつの日か君がアニメ本編を見る時までとっておくトカ」

 

 チャリンチャリンと硬貨を置いて、トカ&エナは店内を去る。

 

「宇宙人も地球のプラモデルを欲しがるとかあるんだね」

 

「ふふっ、ここまでの造形だと流石に鳥肌もバリバリのバッリバリィ」

 

「鳥肌……あなたはトカゲの誇りをどこに置いてきたの」

 

「君にも見えるトカ見えないトカ評判のウルトラの星、かな……」

 

 さっそくその辺の公園でプラモデルを作り上げるトカ&エナ。

 だが恵那が手伝うまでもなく、トカ博士の巧みな宇宙的指使いが超高速でプラモデルを組み上げてゆくッ!

 トカ博士は鳥肌も立つが、その手の指も人間と同じ構造の五本指! 地球のプラモデルとプラモデル作成道具に最適化された指の構造をしているのだッ! トカゲ要素は一体どこに?

 

「完成! アッシマーッ!」

 

「あ、なんだかかっこいいね」

 

 巻き舌気味に叫ぶトカ博士。

 

「更にここに手を加え……アッシマー・ブルコギドンカスタム!」

 

「ダサくなったー!?」

 

 何故余計な手を加えていくのか。

 

「大切なのはカッコイイことじゃなくブルコギドンであることなのだトカ」

 

「じゃあアッシマーを買わなくてもよかったんじゃ……」

 

「馴染む……世界観が馴染むトカ! ハッ、まさかこの世界が我輩の原作!?」

 

「原作って何!?」

 

 だがゆめゆめ忘れることなかれ。

 突如やって来る嵐の風雲児は、宇宙のトカ博士だけではない。

 この街にはトカ博士の相手に相応しき者、地球の風雲児が存在するのだ。

 

「お エナだ」

 

「あ、よつばちゃん」

 

「みてみてミニダンボー! さいきょーのミニダンボーじゅうにせい!」

 

「うわっ、まっかっかな手のひらダンボー?」

 

 いつでもどこでも楽しいハチャメチャを引き起こす少女、小岩井よつば推参。

 その手の中には、真っ赤に染められたダンボール製ロボット風手作り玩具が握られていた。

 だがその『最強』発言が、トカ博士の興味を引く。

 

「最強トカ、興味があります。かくいうこのブルコギドンカスタムも最強の一角!」

 

「へー、おまえもさいきょーなのか」

 

「このアッシマーはブルコギドンと同じくロボット心臓を搭載ッ!(設定)

 膨大な電力を流し込み、アクチュエータとマニピュレータが唸りを上げるッ!(設定)

 宇宙鉱石を圧力加工した指先は岩石をポテチのようにサクッと砕く攻撃(設定)を……」

 

「むてきバリアー!」

 

「……なんですと!?」

 

「ダンボーのむてきバリアーはふめつのバリアー、こうげきはきかないしふれたらしぬ」

 

「触れたら死ぬ!? そ、そのギミックの詳細はいかに」

 

「むてきはむてき さいしょからそうきまってるからむてきなのだ!」

 

「なんですとー!?」

 

 ビビるトカ博士の前で、よつばはアッシマーの拳で木の枝を叩く。

 折れない。プラスチックだからか。

 よつばはダンボーの拳で枝を殴る。

 折れた。

 

「このダンボーのてのなかには てっぱんがしこんである」

 

「思ったより強いこのダンボー!」

 

 攻撃力でも惨敗したトカ博士に、もう最強を名乗る気はなかった。

 

「フッ……我輩の完敗だトカ。

 今日は地球に何もせず去ろう!

 だが小僧、その勝利はダンボーの性能のおかげだという事を忘れるでないぞッ!

 ではさらばだトカ!

 レディ・エナちゃん、今日のお礼はまた後日しに来るとかしないトカッ!」

 

「するのかしないのかどっちッ!?」

 

 かくして、異性からの愉快な侵略者(地球に来た当時の理由はそうだった)は星の海へと帰っていった……

 

 後日談ならぬ後日の話。

 エナのもとに『先日のお礼』、よつばのもとに『最強への贈り物』と題された宅急便が届けられる。開けてみれば、ダンボールの中には謎のコントローラーがあった。

 試しによつばが遊んでみると、何も起こらない。

 飽きたよつばが放り投げて、恵那が「しょうがないなあ」とそれを拾う。

 夜になって、宿題をしていた恵那が夜空を見上げ、ふとコントローラーを触ってみる。

 

 空の星が、十個くらい動いていた。

 

 くらっ、と来た恵那は二つのコントローラーを机の奥に押し込み、これを墓の下まで持って行くことを決めたのだった。

 

 

 




よつばは無敵


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第十六回:アイマス架空戦記ってこんなんだったよなと思いつつ書くゴールデンカムイ

 お題は『ビックリドッキリメカ』『大凶』『いせスマ』。
 アイマス架空戦記。それは全然関係ないキャラをロボットや戦闘機に乗せても別に怒られない創作の魔界、二次創作の坩堝。それと同じノリで戦闘機の戦う世界に放り込まれたゴールデンカムイメンバーだったが……




 ACES(エイセス) M@STER(マスター)とは!

 AWACSP先生作成のim@s架空戦記シリーズである! 結構面白い。

 略してイセスマ!

 

 かつてニコニコ動画において隆盛したジャンル、仮想戦記!

 架空の国家間戦争や政争、世界スケールの物語を描くことが多い小説の仮想戦記とは違い、動画界隈における仮想戦記は架空の機体に架空のキャラを乗せるものも多い!

 小説ではロボットの戦闘が大して見栄えしないため、動画にそれを求める声があったから……と仮説を立てることは容易いが、何が真実かは定かではない!

 

 ここにもまたひとり。

 自分の本来の世界観を無視して、戦闘機F-2A/Bに乗り込まされようとしている男が居た。

 

「やってやる」

 

 男の名は杉元佐一。

 何度撃墜されようとも蘇ってきた不死身の男。

 人は彼を尊敬と恐怖の念を込めて『不死身の杉本』と呼んだ。

 

 彼のF-2A/Bは次のスクランブル警報に備えて今整備中ではあるが、その性能は最強の一言だ。

 同じなのは名前と外見くらいのもので、接近すれば隠し腕でぶん殴られ、両翼が無くなっても緊急用予備翼が内部から展開されまだ戦い続けられる。

 "キャノピーが破壊されても空で戦い続けた"という伝説を持つ杉本の搭乗を前提とし、ガラス部分が全て粉砕されても継戦可能な作りとなっている。

 日本の技術者達が作り上げた、外国兵士のことごとくを震え上がらせる最強のビックリドッキリメカだった。

 

「今日も生きて帰ってやるさ」

 

 鳴り響くスクランブル警報。

 彼は警報を受け止めつつ軍服、パラシュートなど、今まで自分を生かして帰してくれた全てをチェックし、控え室から格納庫へと移動する。

 

「……?」

 

 そして、自分の愛機F-2A/Bにウコチャヌプコロしている姉畑支遁を目にした。

 

「エンジンをおとなしくしなさいッ! 大丈夫ッ大丈夫だからッ! 大好きだからッ!」

 

「……???」

 

 給油口、ジェットの噴出口、敏感なレーダー、全てが徹底してウコヌチャプロされている。

 

 管制室のアシリパさんがマイクを手に取った。

 

『どうしてだ? 杉元……どうしてこんなことを?

 人間が戦闘機とウコチャヌプコロしても子供なんか出来ないのに……

 ましてやスクランブル真っ最中にウコチャヌプコロする意味が分からない。

 仕事放り投げて戦闘機とウコチャヌプコロするなんて、どうしてだ? 杉元……」

 

「知るか」

 

 今日は大凶、彼にとって間違いなく大凶だ。

 

 杉本は姉畑を殴り飛ばして引き離し、ウコヌチャプロ液まみれの戦闘機は華麗に空を舞い、姉畑支遁は格納庫で静かに息を引き取った。

 

 

 




 アイマス架空戦記は確かこんなんだった


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第十七回:ヘボットとウルトラマン二次創作

 お題は『砂上銀河』『仮眠ライダーブラックRX』『ヘボット』。

 この作品は『ウルトラマンオーブ Another Century's Episode』というギャグもヘボットも欠片もない二次創作世界にヘボットをぶち込んだ三次創作です。

 二次創作の世界へ旅立つことが許されたヘボット達。他の版権世界ならプロデューサーやスポンサーのことも気にしなくていい(元から気にしてない)ということに気が付いたのだが……


 かつて、ウルトラマンが救ってくれた世界があった。

 ウルトラマンと一体化し、ウルトラマンと助け合い、世界を救った砂上銀河という少年が居た。

 少年はなんやかんや平和を守る仕事に就こうとしていて、そのための勉強もしていた。

 

「ウルトラマンに助けてもらったんだ。後の人生、少しくらい真面目に生きないとよ」

 

 そこにやって来たのが、『仮眠ライダーブラックRX』。

 どこからかやって来た"ギャグアニメの住人じゃねえの?"と思われる異形は世界中の全ての人間を眠らせ、機転を利かせて睡眠を回避した銀河とタイマン勝負に挑んでいた。

 世界中で大惨事? 心配ご無用。

 ギャグアニメの住人の能力はどんなに恐ろしくても、死人を出すことはない!

 

「スワロー……キックッ!」

 

 飛び上がり、空中回転した銀河の超強力キックが、鋼の異界侵略者を蹴り砕いた。

 

「ワガハイ様を倒しても第二第三のワガハイ様が現れ……ウバァー!」

 

「現れてたまるか」

 

 よし皆を起こさないとな……と、銀河が一息つく間もなく、空に穴が開く。

 

「……現れた。マジかよオイ」

 

 そして空から、また何かロボットが降って来た。

 

「ここが金曜日の世界ってやつヘボ?」

 

「なんだよ金曜日の世界って……いや今日は確かに金曜日だけどよ」

 

「二次創作の世界……ハッ! 自由、自由だヘボ! 今ならなんでもできるヘボ!」

 

「二次創作の世界? ん?」

 

「他に誰もいない今こそ、好き勝手やるチャンスヘボ!」

 

 なんだか低性能っぽい黄色いロボット。

 それを見て、かつての銀河なら即座に破壊行動に移っていただろう。

 まずは話して、会話と暴力のどっちで解決するか考えようとしている辺りに、銀河の精神面の成長が窺える。

 

 そのロボットが屁をこくと、こいた屁が怪獣になった。

 

「―――ん何ィー!?」

 

 キングジョー、ガラオン、デスフェイサーギガバーサーク、インペライザー、ギャラクトロン、グローカービショップとそらもうワラワラと現れて、街を破壊し始めた。

 

「何してくれてんだブッ殺すぞテメエッ!」

 

「大丈夫、ギャグアニメで人は死なないヘボ。建物が壊れても誰も不幸にはならないヘボ」

 

「本当だな? 俺はその言葉を信じていいんだな? つかギャグアニメ?」

 

「そんな細かいこと気にするとか、頭のネジをどこに置いてきたんだヘボ?」

 

「はっ倒すぞ」

 

 残虐超人のような銀河の目を見て、ヘボットはちょっとビビった。いやかなりビビった。

 

「クソ、ガイさんも居ない、俺もウルトラマンにもうなれねえってのに……!」

 

「任せるヘボ! 今のオレ様はおよそ全能ヘボ」

 

 ヘボットは同意を得る間もなくノータイムで銀河の尿道と肛門にネジをねじ込んだ。

 

「うごぅ」

 

「だめヘボ! ウンともチンともいわないヘボ!」

 

「ウンもチンもいてえんだよこの野郎……!」

 

 んごおおおおと苦しむ銀河の横で、うむむむとへボットは悩む。

 

「ウルトラのチチがいるー」

 

 踊るヘボットに合わせて乳が輝くウルトラの父が現れる。

 

「ウルトラのケツがいるー」

 

 踊るヘボットに合わせて父の尻が光る。

 

「でもタロウはここにいないロボ」

 

 そしてウルトラの父は消えた。

 

「そこはオーブ呼べよ! 来たかもしれないだろ! ……いやこれで来られるのは俺が嫌だ!」

 

 尻と股間を抑えた銀河がヘボットを何とかしようと詰め寄ると、へボットはそちらに尻を向け、至近距離からの屁を銀河の顔面に叩き込んだ。

 

「くっせええええええええ……お、オーブ!? 俺がオーブになってる!?」

 

「あーまた出そう……ケツからオナラ怪獣が出そうヘボ……

 最初のはロボが出そうな感じで、今のはウルトラマンが出そうな感じだったヘボ。

 あの尻からウルトラマンが出そうな感じが甘美でもっかい感じたいから出しとくヘボ」

 

「出すな! 絶対出すなよ!」

 

 それから、またちょっと時間が経って。

 

 地球上の皆が目覚めた頃、壊された後直された街と、倒され積み上げられた怪獣達の前で、ヘボットを元の世界に押し戻した銀河少年が、息を切らして倒れ込んでいたそうな。

 

 

 




皆もヘボット二次創作書こうね!


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十八回:君の名は、ウルトラマン、―――

 お題は『解凍』『ウルトラマンベリアルアーリースタイル』『君の名は。』。
 遠い昔、ベリアルがまだアーリーでケンの背中を守っていた頃の物語。

普通の魚は、綺麗過ぎる水の中では生きられず、泥水の中でこそ自分らしく生きられる


 ある時代のウルトラマン達が、口を揃えて言っていたことがある。

 以後の時代のウルトラマン達が、絶対に言わなくなったことがある。

 

「ケンとベリアルは無敵のコンビだ」

「あの二人こそ平和の守護者」

「どんなに強い相手でも、あの二人がいればなんとかなる気がする」

 

 かつては、誰もがそう言っていたのだ。

 エンペラ星人がウルトラの星に攻め込んだ、あの大戦争の時ですらも!

 

「行け、ケン!! このユグニア回廊を進め!

 その先にエンペラ星人が一人だけで居るはずだ!

 お前の力で……ウルトラの星を守り、平和を守り、この戦いを終わらせろ!」

 

「だが、ベリアル! お前をこの怪獣軍団の前に置いていくわけにはいかない!」

 

「行けと言ってるのが分からないのか、ケン!

 俺はお前が皇帝を倒すと信じている!

 なのにお前は、俺がこの程度の怪獣ごときに勝つことを信じられないのか!」

 

「……っ、死ぬんじゃないぞ、ベリアル」

 

「馬鹿なことを言うんじゃない、愚か者が」

 

 後にウルトラの父と呼ばれる男、ケンがユグニア回廊を進む。

 ウルトラマンベリアルは回廊の入り口に立ち、皇帝を助けんとする無数の怪獣を睨んだ。

 宇宙空間に大気はなく、光は減衰せずに突き進み、遠くの怪獣もよりハッキリと見える。

 億……いや、おそらく十億の怪獣。

 帝国を作り上げたエンペラ星人の配下は、その何割かでさえ十億の域に達していた。

 

 信じられない数の怪獣達は、一斉にベリアルに殺到する。

 

「108万1322勝108万1322敗、452万8946引き分け。

 お前との模擬戦で勝ち越すまで……この俺が死ぬものか!」

 

 ベリアルは全ての怪獣を長時間足止めした。

 ケンはエンペラ星人との一騎打ちに打ち勝ち、互いに深い傷を負い、光の国と皇帝の帝国の大戦争を集結させた。

 そして、平和がやって来る

 ケンとベリアルはウルトラマン達に揃って賞賛され、ケンが初代宇宙警備隊の隊長に選ばれ、宇宙警備隊とウルトラマンが宇宙の平和を守る時代がやって来た。

 

 それは、宇宙の新たな時代の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの大戦争から、一年が経った。

 ようやくまともに前線に出られるようになったケンを連れ、ベリアルは『永久氷塊の星』へと飛んで行く。

 ケンの体を気遣う者も居たが、そんな者達も"ベリアルが居るなら大丈夫か"と納得していた。

 

「古傷はもう治ったか? ケン」

 

「ああ、触れなければ痛みも感じない。

 すまないな、ベリアル。任務もお前との模擬戦も、ずっと休んでしまった」

 

「構わん。模擬戦の時も、そこは攻めないでおいてやろう。

 そんな場所を攻めてお前に勝っても意味は無いからな……」

 

「お前は本当に、ウルトラマンというより戦士と言うべき考え方をしているな」

 

 ケンは周囲から尊敬される者で、ベリアルは周囲から変わり者と見られる者だった。

 それは、ベリアルが他のウルトラマンからどこかズレた者であり、ケンが他のウルトラマンの清廉な精神の延長線上に居る立派な者である、ということを意味していた。

 

「皇帝はまた攻めてくるかもしれん。

 ベリアル、私達もより力を高めなければならないな」

 

「ああ、全くだ。次は負けないようにしないとな。

 二度と俺を見下させたりはしない。

 だが、あの絶対的な闇の力には、学ぶことも多かった……」

 

「ベリアル。闇の力には学ぶことなどない。我々は光であるべきだ」

 

「……ああ、そうだな。

 あれは強いだけだ。強いから弱いやつを全て見下せるし、誰にも見下されない。それだけだ」

 

 ベリアルとケンは氷塊の星に降り立ち、膨大な光を熱に変えて星を解凍していく。

 

「一体何があるんだろうな、この中に」

 

「星を包むこの永久氷は我々でなければ溶かせない、明らかな人工物だ。

 この永久氷とそれが封印に用いられたものの正体を知らなければ分かるまい。

 我々ウルトラマンにとって、冷気は大敵だ。それが封じているものとなると……」

 

「俺達ウルトラマンの類が封印されてしまっている」

 

 答えを求める、それ自体はいい。

 解凍には慎重になっている、それ自体はいい。

 だが失敗だった。

 彼らはこの解凍の先にあるものを知らなかった。

 

 知らずにいれば、彼らは今までの自分達で居られたのに。

 

「何!?」

 

 氷壁に封じられていた機械が、『対象』を見つけて起動する。

 

 対象に選ばれたケンとベリアルが、機械の光に包まれた。

 

「なんだ、攻撃か!?」

 

「ベリアル、気を付けろ!」

 

「「 ……ん? 」」

 

 ケンがベリアルのように、ベリアルがケンのように話している。

 

「俺たち」

 

「私たち」

 

「「 入れ替わってる!? 」」

 

 その体の中に入ってる、君の名は?

 

 

 

 

 

 しょうがないので、ウルトラの星に帰って状況報告。

 二人の体を調べたことで、体を入れ替える光の無効化方法も、入れ替わった体が時間経過で元に戻ることも分かった。

 どうやら、大したことにはならないらしい。

 ベリアルはケンの体で、散歩に出かけた。

 

(やはりよく鍛えてある。流石はケンだ)

 

 自分の体とは違うケンの体に、ベリアルは素直に感嘆する。

 

「おーい、ケン!」

 

 そこでケン(ベリアル)に声をかけてくるウルトラマンが数名いた。

 ベリアルにも見覚えのある、ケンの友人のウルトラマン達だ。

 

「遅れたけど宇宙警備隊の隊長に就任おめでとう!」

「初代隊長はお前しかいないと思ってたぜ」

「ベリアルも頑張ったけど、やっぱ上下はハッキリさせないとな。しょうがない」

 

「……ああ」

 

 エンペラ星人との戦いの後、ケンだけが宇宙警備隊の隊長に選ばれ、ケンが上でベリアルが下、という認識が一般化していた。

 

 いつも同格だった。

 いつも一緒だった。

 肩を並べて戦ってきた。

 今日までの日々の中、ベリアルはケンと同格扱いされても不満に思ったことはなかった。おそらくケンより格上に扱われても文句は言わない。

 けれどベリアルは、ケンの格下として扱われることが苦痛だった。

 ケンと同じならいい、ケンの上ならいい、ケンの下だけは嫌だった。

 それは地球人であれば、当たり前のライバル意識だったと言えるもの。

 

 ベリアルはウルトラマンの誰もが嫌ったエンペラ星人の闇の力にすら惹かれ、キングを除いたどんなウルトラマンよりも強かった皇帝にすら、見下されたくはなかったのだ。

 

(見下されている)

 

 ケンを素直に褒めているウルトラマン達を見て、ベリアルの中に滲む闇があった。

 

(ケンと比べられ、見下されている)

 

 地球人のプロスポーツ選手には、たびたびこういうことがあるようだ。

 優秀なプロが居る。駄目なプロが居る。

 プロの時点でプロ以外の人達よりは確実に上手いはずなのに、一般の人達はこのプロ達を比較して駄目なプロをけちょんけちょんになじるのだ。ヘタクソだと罵るのだ。

 ベリアルは、ケンと比較されてケンの下に見られていた。

 下に見られていた。

 一般的なウルトラマン達が、ベリアルを下の者であると見なしていた。

 

 けれどウルトラマン達は、ベリアルがそこを気にしているだなんて気付かない。

 それも当然。

 このウルトラマン達はベリアルを自分の下だなんて思っていないし、ベリアルの強さも認めているのだから。

 ただ、ケンを上に置いているだけ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「まあでもベリアルは力量自体はケンより高かったんじゃないか、なんて俺は思うんだよな。

 どうやって皇帝を倒したんだ?

 お前が皇帝を倒せたなら、ベリアルだって皇帝を倒せた未来があったと思うんだよねえ」

 

「それは……」

 

 ウルトラマン達は去っていく。

 ベリアルは今の肉体に秘められた力を探った。

 ケンの肉体には、ベリアルの肉体にある力以上の力はない。

 むしろ肉体のスペックと戦闘技術を比べれば、明確にベリアルの方が上だっただろう。

 なのに、何故ベリアルが倒せなかったエンペラ星人をケンが倒せたかと言えば、その理由は一つしかない。

 

(ケンの、強化形態)

 

 ケンはエンペラ星人との戦いの中で、自身の真の力に目覚めた。

 強化形態となったケンは暗黒の皇帝と拮抗し、皇帝に深き傷を刻み込んだのだ。

 あの強化形態がなければ、ケンは今でもベリアルと同格のはずで。

 あの力があれば、ベリアルはケンと同格のはずで。

 

(あの力さえあれば……いや、それ以上の力があれば。

 俺がケンに代わり宇宙警備隊の隊長に選ばれるだろう)

 

 肉体のスペック、戦闘技術だけを比べていたベリアルは、"ベリアルとケンは心を比べられた"ということにも気付けない。

 

「ケン。少しいいかしら」

 

「マリーか」

 

 ウルトラウーマンマリー……後にウルトラの母と呼ばれる女性が話しかけてくる。

 ベリアルも認めている女性であり、その能力に疑うところはない。

 最近はケンとも仲が良いと聞いていたが、所詮噂だ。ベリアルは少し悪戯心を出した。

 

「『私』じゃなくてベリアルには声をかけなかったのか? 奴に頼むといい」

 

 ケンを演じて、今はベリアルをやっているケンの方に話を誘導する。

 そうしてベリアルにマリーが相談したところで、ベリアルの肉体を使っているケンが種明かしして、マリーをびっくりさせて……その程度の、悪戯心だった。

 何気ない、一時の気の迷いだったのに。

 マリーは言う。

 

「私はベリアルじゃなくてケンに相談しているの。ベリアルじゃなくてケンがいいのよ」

 

「―――」

 

 胸に、小さな穴が空いたような気がした。

 

「……からかって悪かったな」

 

「え?」

 

「オレはベリアルだ。まあなんだ、色々あってな」

 

 何もかもが、どうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 ベリアルの肉体を使うケンが、軽く走り込む。

 

(流石はベリアルだ。ここまで鍛え込んでいるウルトラの肉体を、私は他に知らない)

 

 ケンはいつもよりも軽い体に、少し高揚する自分を自嘲していた。

 普段の自分の体よりもベリアルの体は高性能で、少し動かすだけでもそれがよく分かる。

 

(怠けることなく、精進しなければな。

 与えられた地位に満足していれば、私もすぐにベリアルに置いていかれてしまう)

 

 ベリアルの存在が、ケンを強くしてくれる。

 正しくあろうと、思わせれくれる。

 

「ようベリアル! 今日も訓練か?」

 

 走り込むケン(ベリアル)の横に並ぶようにして、数人のウルトラマンが現れる。

 ベリアルの友ではない。

 ベリアルが心許した者ではない。

 だが、ベリアルに敬意を表しているウルトラマン達だった。

 

「お前ほど居残りで訓練してる奴は他に居ねえよ」

「誰よりも早く訓練場に来て、誰よりも後に帰るもんな」

「俺さ、宇宙警備隊の初代隊長はお前の方が相応しいと思ってたよ。

 ケンは尊敬できるけどさ、お前の強くなろうってスタンスを皆が見習うべきなんだぜ」

 

 ベリアルの肉体に向けられたベリアルの褒め言葉を聞いていると、ケンはほんのり胸の内が暖かくなり、誇らしいという気持ちが湧いてくる。

 

「ケンもお前にいい影響を受けてたと思うよ。

 ケンの隊長就任はお前達二人で勝ち取ったようなもんさ。

 隊長になったケンの背中を信じて任せられるのは、お前だけだ」

 

「……ああ。『俺』も、心底そう思う」

 

 ケンはベリアルを演じ、"ケンの背中はベリアルにしか任せられない"という言葉に同意した。

 

(相棒が褒められているのを"自分のことのように"受け止めるのが、こんなにも楽しいとは)

 

 分かれ道で去っていくウルトラマン達。

 今の褒め言葉をその内ベリアルに伝えてやらないとな、とケンは思う。

 

 ベリアルはケンへの賛辞で心を傷め、苦しみを抱き、己の内に闇を育んだ。

 ケンはベリアルへの賛辞が誇らしく、胸を暖かくし、光の想いを強くした。

 それだけの話で、だからこそどうしようもなかった。

 

 

 

 

 

 人間としての視点で見れば分かる。

 ……いや、逆に言えば。

 何千年、何万年と生きたウルトラマンではなく、十数年だけ人間の中で生きてきた十数歳のウルトラマンでもなければ、この気持ちはウルトラマンには絶対に分からない。

 理解を示すことが出来ても、共感することはできないだろう。

 

 ベリアルは普通だったのだ。

 光の国は警察が要らない国だった。

 理由がなければ犯罪はしない、理由があっても犯罪はしない。感情に流されてルールを破ることはなく、自分のために他人を踏みつけにすることもない。

 それが()()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 ベリアルは普通だった。普通でしかなかった。

 宇宙警備隊の初代隊長に選ばれる者は清廉潔白な聖人でなければならず、感情に流される者も悪を行いかねない者も選んではならない。

 普通の心の持ち主では駄目なのだ。

 人間基準であれば、"そんな人間は存在しない"と言い切れる。

 "どんな人間でも悪には堕ちる"と言い切れる。

 

 だからこそ人間の組織には腐敗というものが存在し、人間には悪人というものが存在し、堕落という言葉が存在するのに、光の国は上から下まで綺麗なままなのだ。

 

「私は、ウルトラマンキングは、間違っていたのかもしれない」

 

 カプセルの中で、キングは想う。

 

「あの時、もう少し待つべきだったのかもしれない。ベリアルを封じたあの時に」

 

 カプセルの中で、キングは悔いる。

 

「あの時、ケンは全力を出していなかった。

 ベリアルと戦うことを躊躇っていた。

 私があの時手を出さなければ……ケンとベリアルは決着をつけ、あるいは……」

 

 カプセルの中で、キングは省みる。

 

「強者は迂闊に動いてはならない。

 力ある者は無自覚に他者から奪ってしまう。

 ゾウが無自覚にアリを踏み潰してしまうように。

 私がケンとベリアルから決着の機会を奪ってしまったように。

 ウルトラマンとウルトラマンの戦いが、地球人を巻き込んでしまうように」

 

 あの時、誰もが気付いていなかった。

 ケンですら気付いていなかった。

 ベリアルが闇に堕ちたのは、ケンの優秀さと、ケンの優秀さを認めていたベリアルの両方があって初めて成立したのだということを。

 

 ベリアルが心底認めるケンには、プラズマスパークがなければ勝てないという確信。

 ケンの力量に対する最大の賛辞と評価と信頼があったからこそ、ベリアルはプラズマスパークへと手を伸ばした。

 ケンがもう少し弱ければ、ベリアルが鍛錬で超えられる領域に居れば、ベリアルがプラズマスパークに手を伸ばすことも、レイブラッドに堕ちることもなかったかもしれない。

 

 偉大な光の父であるセブンが実父だと知る前は単純な力を求め、知った後は父と自分を比較しながら光の道を選んだゼロとは、同じであると同時に対照的でもあった。

 

 光があった。

 自分の比較対象になる光があった。

 ベリアルはケン。

 ゼロはセブン。

 ゼロは『ウルトラマンらしく』、父と同じ光の道で父を超えていこうとした。

 ベリアルは『ウルトラマンらしくなく』、光から目を逸らした。

 地球にはありふれている普通で人間らしい弱さと闇が、ベリアルの中にはあって。

 人間世界では埋没するようなありふれた苦悩が、ベリアルの中にはあって。

 

 地球人とは何の関係もないベリアルの遺伝子から作り上げた生命体の成功作は、何故だか不安定なところもなく、異形である部分もなく―――地球人のような、心と姿をしていた。

 

 

 




セブン&ゼロや父&タロウは時々しか「俺はお前の父親だ」「お前は俺の息子だ」って言わないけどベリアルはジードを前にすると笑っちゃうくらい父親だ息子だって連呼しますよね
多分あれウルトラマン価値観基準だとめっちゃ異常


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第十九回:ヒストリー・パワポケヒロイン

 お題は『無重力』『怪しい薬』『エイトメロディーズ』。
 パワポケ良いだろ! という作者のパワーと怪しい薬でああなったカズ幸せになれ!という祈りをとにかく詰め込みました。

カズ幸せになれ……正史で幸せになれ……

カズ幸せになれ……正史で幸せになれ……よしこんだけ祈れば叶いますよね多分


 大江和那は飛んで行く。

 正確には落ちているだけなのだが、飛んで行くと表現する。

 落ちて行く人生が終わってから、和那はずっと自分の能力を飛んで行くと表現していた。

 

 かつての彼女の人生は、落ちて行くだけだった。

 保有する超能力も重力の向きを変えるだけ。

 空を華麗に舞うように見せても、その実空を自由自在に落ちているだけだった。

 敵は増え、降伏は遠のき、かつて夢見たものは失われ、戦いに終わりの無い人生。

 摩耗する中で自分らしさを見失い、非殺と殺人の境界線を行ったり来たりして、正義のために戦った後は悪に媚を売り、正義と善のどちらを信念に据えているかも分からなくなり。

 

 その後もまあ色々とあって、個人の幸せを追求するならともかく、社会的倫理を考えると全く正しくない道を行き。

 終わりなき戦いが終わった後は個人の幸せを求めてみるものの、本当に散々に苦労して。

 何やかんやでなあなあの着地点を見つけ、胸が痛くなる人生を送って、周りの人の善意に救われ何とか幸せをゲットした。

 

「おーす、朱里!」

 

「突然空から降って来ないでよ、迷惑ね」

 

「無重力飛行! あっはっは! まあ落ちてるだけなんやけどな!」

 

 空から"ゆっくり落ちてきた"和那に、和那の親友・浜野朱里は苦笑した。

 

「ウチはなあ、好きな人と結ばれて、アホほど子供作って、年とって……

 んで、孫とひ孫に囲まれて往生するって夢があったんや。叶いそうで何よりやで」

 

「そーですか。あたしは特に祝福とかしないわよ」

 

「けけけ、そーかい」

 

「で、何の用よ」

 

 和那が朗らかに笑う。

 

「うちの子もすくすく大きくなっとるんやが、そろそろ子守唄も必要かなと思うてな。

 んで知り合いの中で子供がいる奴に子守唄のワンフレーズだけ貰って、子守唄作ろ思って」

 

「あんた、このタイミングになってそんなの調べ始めるって本当に母親?」

 

「うっさいなあ、子供生まれる前からウキウキで色々集めてた朱里とは違うんや」

 

「う、うるさいわね」

 

 子供が生まれて結婚するまで色々ゴタゴタしていた和那と違い、朱里は結婚と出産の前にしていた生活が極めて平和で穏やかだった。

 その差は大きい。

 朱里は赤い顔を隠して、ワンフレーズ伝える。

 

「へへ、おーきに」

 

 遠くから、朱里の三人の子供が駆けて来る。

 様子が済んだ和那は、絡まれるのが面倒だからと飛び上がった。

 

「あんたはもう大江和那でもないし、茨木和那でもないのよ。三つ目の名字、大事にしなさい」

 

「へーへー。そんなん、あたしが一番よく分かっとるわ」

 

 時は流れる。

 

 彼女らはもう、落ちていくだけの少女達(ファーレンガールズ)ではない。

 

 

 

 

 

 次に向かったのは、とあるマンション。

 ここにある二つの部屋は二人の旦那・二人の奥様・その間に生まれた子供達が揃ってとんでもなく仲が良い。

 両方の家の子供達が、もう片方の家の子供達をピンクだーブラックだーと相性で呼んでいるくらいだ。

 

「よっすー」

 

「む」

「あ、ダークスピア……じゃなくて和那! 何よ、何しに来たの!」

 

「大した用じゃあらへんて、ピンク。実はな」

 

 かくかくしかじか。

 

「なるほど、分かった。協力する」

「別にいいわよ。そんな苦労することでも無いし」

 

 二人からワンフレーズを貰って、これで三つ。

 

「サンキューサンキュー。それにしても……」

 

「何よ。何か文句でもあるの?」

 

「や、ブラックは人間の姿の方が本体やし分かるんやけど」

 

 和那はピンクの下腹部を見た。

 彼女は人間の思念から生まれた具現化生物であり、ヒーロースーツこそが本体で、今している人間の姿に『変身』している変身ヒーロー……いや、変身人間だ。

 

「スーツが本体なお前に子宮があるっちゅうのが……」

 

「デリカシーっ! いや、確かに無かったんだと思ってるけど。生えてきたのよ多分」

 

「なんでもありやなあ、具現化」

 

 ブラック、芹沢真央。

 ピンク、桃井百花。

 二人は存在そのものが、『人の想いに不可能はない』という証明である。

 

「思えばなんでもできるのよ!

 それがあたしやブラックを生み出した人間ってもんでしょ?

 人間が生み出した人間だって、思えばなんでもできたってだけの話じゃないの」

 

「思えばなんでもできる。せやな、あたしもそう思うわ」

 

 思えばなんでもできる。

 かつて諦めた幸せも今は手の中にある。

 最後の最後に諦めなくてよかった、と和那は思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 飛ぶように落ち、落ちるように飛び、和那は金のかかってそうな屋敷の部屋に飛び込む。

 

「子守唄のフレーズ頂戴な!」

 

「……」

 

 部屋の主、野崎維織が飛び込んで来た和那に目を向ける。

 

「……?」

 

 首を傾げる。

 長い髪が肩にかかって、傾げた首に連動する。

 よく分かってない顔だ。

 

「……」

 

「オイオイオイオイさらっと本をまた読み始めるなや!」

 

「私?」

 

「あんた以外に誰がこの部屋におるんや!」

 

「だけど私は、子守唄なんて歌ったことが……」

 

「あ、そうなん? そりゃ悪いことを……」

 

「……あるけど」

 

「あるんかいっ!」

 

 四つ目のフレーズもゲットした。

 維織は天然なので不安だったが、貰った子守唄のフレーズは至極真っ当だったので安心する。

 

「ほな、さいならな」

 

「和那」

 

「ん?」

 

 維織は本を閉じ、詩を詠むように語り出す。

 

「人間は人生で沢山の人を好きになる。

 きっと私や、貴女のような人種の方が、多分少数派。

 途中で好きになった人と最後に好きだった人が別な人も居る。

 一度に複数の人を好きになる人も居る。

 でも……それなら、最後に好きになって貰えれば、過程がどうであっても勝ちだと思う」

 

 和那は野崎維織の旦那が他の女と最初は結ばれ、旅立ち、女の命と旅が終わってから街に戻って来たところを捕まえたのだ、と夏目准から聞いた話を思い出した。

 

「……おっどろいた。あんたが長台詞吐いたん見るの、初めてやわ」

 

「うん」

 

「あんがとさん。ほな、行くわ」

 

 誰の人生にもドラマが有り、誰の人生にも山がある。

 

 和那は、自分だけが苦労しているわけではない、と何度目かも分からない再認識をした。

 

 

 

 

 

 迂闊に飛び込むように近寄って、痛い目を見たことがある。

 なので和那は、離れた場所に着地して、普通に歩いて近付いた。

 そうしないと危険がありそうだと思えるのが、雨崎千羽矢の怖いところである。

 

「カズさーん、そんな歩いて恐る恐る近付かなくてもいいのに」

 

「うおっ、この距離で背後から近付く足音消したあたしのことが分かるんか」

 

「足音聞いてりゃそりゃ分かるよ。空飛んでるのも音で分かってたよ?」

 

「身体能力すんごいなあ……」

 

「ちなみにLINEで人脈使ってカズさんの目的も判明させております」

 

「人脈もすんごいなあ!」

 

 五つ目のフレーズも、速攻で回収してしまった。

 恐るべし雨崎千羽矢。

 ヤバいヤバいぞ雨崎千羽矢。

 旦那が昔から運動で勝てない、口でも勝てない、まさか夜の生活でも勝てなくなるとは思わなかった……とか言うだけはある。

 

「子守唄に野球とか、チハヤらしいような、らしくないような」

 

「んー、誰が子守唄のワンフレーズとして提案してもおかしくはない、と思うんですけど……

 逆にそのせいで、誰も提案しなくて子守唄に入らないフレーズになる気もしちゃいまして」

 

「あー」

 

「やっぱホラ、野球でしょ。

 息子でも娘でも野球して欲しい……みたいな」

 

「分かる分かる、ウチらはそういうもんや」

 

 野球バカが居て、野球バカに惚れた女が居て、その子供が野球をするようになって。

 自分の子供が野球をやって、知人友人の子供と一緒に野球をするようになったら。

 それはとっても素敵なことだと、千羽矢も和那も思うのだ。

 

「後はそうだね、私もカズさんも子供が化物だったり超能力者だったりしなければいいね!」

 

「うおっ、考えたくないことを!」

 

「能力無けりゃないでいいけど、あるなら野球でズルしないよう言い含めないといけないしさ!」

 

 馬鹿みたいに笑う千羽矢は、そのことを懸念してはいても、心配している様子は全く見られなかった。本当に心の根っこの部分から強い子なんだなあと、和那は思うのだった。

 

 

 

 

 

 突撃! 瑠璃花家!

 もう南雲じゃない瑠璃花さんの家に突撃した和那。

 瑠璃花はツンデレの素養があるだけで地雷要素の無い、性格に関する問題点がほとんどない和那の知り合いの中でも指折りの安牌である。

 不安になることなどまるでなかった。

 

「はぁ、子守唄のワンフレーズですか」

 

「せやせや」

 

「では、こんなのはいかがでしょうか」

 

 手早く貰って、これで六つ目。

 

「今お客さんがいらしてまして、手早く終わらせてしまって申し訳ありません」

 

「ええてええて、忙しいのに時間割いてもらったのが申し訳ないくらいや」

 

「……そうですわ!

 今来ている方は、私も尊敬している方なのです。

 もしまだフレーズを貰う相手が決まっていないのなら、その方にも貰ってみては?」

 

「ええんかな? せやったら、あたしも助かるけど」

 

「ええ、名付け親になってもらうようなものでしょう。

 それでいて名付け親ほど重くもありません。先方の反応次第ですわね」

 

 瑠璃花が聞いてみたところ、快諾してもらえたらしい。

 どうやら良い人であるようだ。

 赤の他人の助けになることを、これっぽっちも迷惑に感じていない。

 実際に顔を合わせてみると、明るい表情と雰囲気にハキハキした話し方で、和那はその女性に好感と"いい女"という印象を受けた。

 

 年齢はもう50手前の女性に見えたが、それでも"いい女"に見えたのだ。

 

「あたしは和那っちゅうんですが、お名前伺ってもよろしいですか?」

 

「あたし? 四路智美。うーん、子守唄に『ロマン』の一言でもあれば良いと思わない?」

 

 先人が和那に言葉を残してくれる。

 

「私はね、色んな男性のヒロインになってきた女の子達を見てきたの。その上で言うよ」

 

 先を歩いてくれた人が、惚れた男と結ばれた和那を祝福してくれる。

 

「頑張れ、ヒロイン! 母親になってからが本番だからね!」

 

 それだけで、和那は嬉しかった。

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 七つ目を貰って、和那は最後の家に向かう。

 

「やっ」

 

 紫色の髪をした女性が和那を見て、溜め息を吐いた。

 

「ワンフレーズだけやる。早めに帰れ。うちの娘はお前のことが大嫌いだからな」

 

「あんたの懐が異常に深いだけやと思うけどなぁ」

 

 この女性は確信している。

 『彼』が一番に愛しているのは自分だと。

 和那が不安になるのは、彼女と違ってそう言い切れないから。そう確信できないから。

 色々としたゴタゴタがあって、和那は認めざるを得なかった。

 根本的な心の強さというステージでは、この女には絶対に敵わないということを。

 

「ほな、またな」

 

 八つ目を貰って、和那は家に向かって飛んで行く。

 

「ああ、またな」

 

 その背中を、天月五十鈴は優しい目で見送った。

 

 

 

 

 

 世界は主人公とヒロインだけでは完結しない。

 もっと多くの人間が絡み合って、助け合って、敵対し合って構成される。

 そして生まれた家庭の数だけ、お父さんとお母さんという主人公とヒロインが居る。

 ヒロインの物語においては、ヒロインこそが主人公であり伴侶の男は添え物だ。

 物語が、世界を積み上げ編み上げていく。

 

 家に帰り、八つのフレーズを組み合わせ、和那は子守唄を作る。

 お隣さんに預けていた子供を受け取り、子守唄を聞かせていく。

 この子供も、幼い頃に聞いたこの子守唄を、自分の子供に聞かせていくことだろう。

 

 和那の優しい腕の中には、いつかの未来で次のヒロインのために全力を尽くすであろう、次の主人公が寝息を立てていた。

 

 

 




 まあパワポケナンバーワンヒロインはさらちゃんに決定してるんですけどね


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第二十回:敗者の憎しみ、オディオ

 お題は『ガリアンのマーダル陛下』『ライブ・ア・ライブ』『#帰ってきた伝説のヒモ鷹山仁』。

 敗者の憎しみ、世界を越えて魔王に至る絶望。

捕食とは闘争、闘争は悪、悪こそが人を育て、それは日常の中にある


 引き寄せられるように、世界の守り手とオディオはぶつかる。

 

 オディオは時に魔王であり、時に欲に溺れた人間であり、時に周囲を傷付けるようになった被害者である、時に恐ろしい化物であり、総じて倒すべき敵である。

 オディオでなかった者は、オディオに至りこう語る。

 

 それは太古の昔より、はるかなる未来まで在るもの。

 平和なる時も、混乱の世にも在るもの。

 あらゆる場所、あらゆる時代に戦いの火ダネとなるもの。

 それは人間が存在する限り、永遠に続く『感情』

 その感情の名を……『憎しみ』あるいは『オディオ』という。……そう、語るのだ。

 

 オディオの名を冠した者はどんな世界にもどんな時代にも現れる。

 それを止める者も対になるように現れる。

 例外はない。

 討つ者と討たれる者、オディオとそれを止める者は世界を超え、自分の世界ではない場所でぶつかり合うことすらある。

 

「あんたがオディオって奴か?」

 

 どこかの世界で、独裁者マーダルは豪華な王座に腰を降ろしていた。

 オディオ、と鷹山仁の名を呼ぶ。

 マーダルがオディオと召喚されたことは一度も無い。

 なのに何故か、その呼称が妙にしっくりと来る自分が居た。

 

「……誰もそう呼んでいなかったというだけで、余はそう呼ばれるべきだったように思える」

 

 マーダルは自身の名を捨て、オディオという名を使い始める。

 ここが自分の居た世界ではないという確信が、オディオの胸の中にあった。

 

「ジョルディ王子……ディ、オージ……

 『席が埋まっていたから』か。

 余がオディオであったか……

 それとも王子がオディオとなる可能性があったか……

 いや、そんなことを考えることに、意味はないのだろうか」

 

 物語に主人公と宿敵というものがあるならば、主人公がオディオとなる物語も、宿敵がオディオとなる物語もある。

 

「余はあの平和を否定するために生まれ、生きたのか。

 余はあの世界が許せなかった。

 与えられた平和の中で、何の欲望も目的も持たなくなった者達の世界が!

 怒りで攻撃もせず! 希望で立ち上がりもせず! 絶望を激情で吹き飛ばしもしない!

 だから闘争をあの世界に放り込もうとした!

 あんな平和を享受し、水に溶かされる塩のように呑まれる未来の自分など、許せるものか!」

 

「ああ、分かる。おかしい世界の中で……何もしない自分が憎かった」

 

「無力なまま何もせず、間違っていると思っている状況を肯定するなど許せなかった。

 何もしない自分が憎い、許せない。

 ゆえに世界をひっくり返した自分しか許せない……

 あの結末で、余は余を許さぬまま、後を託して自らの信念と心中したのだ」

 

「……いいんじゃないか、自分を許さないまま死んでいっても。上等だろう」

 

 オディオは平和が腐らせた人間の世界を否定した者である。

 彼は闘争の肯定者。

 食らい合う闘争ではなく、混沌を前提とした闘争、悪を否定しようとする闘争だ。

 

「生命は闘争を好む。それは闘争の中から生命が生まれたからだ。彼らは戦い続ける……」

 

 鷹山仁が初めて意外そうな顔をした。

 

「初めて意見が分かれたな。

 生命が闘争を好むは……食ってやろうとするからだ。

 相手の体の肉を、土地という肉を、金という肉を。

 で、自分の肉を食われる痛みに抵抗するため、食らい合う闘争が始まる」

 

 闘争の中から命が生まれたがゆえに、命に罪は無い。

 だからこそ何も考えられず与えられる平和に悪がある、とオディオは言う。

 仁はそれに対し、そこまで善く人間を見られないのだと言う。

 命は食うからこそ罪深く、食うからこそ戦い、罪の無い作られた者ですら、他の命を食うという罪を重ねずにはいられない。

 

「闘争の中から生命が生まれたって言ったな。

 そんなことはなかったよ。

 俺が闘争のないビーカーの中で生み出した命は……ずっと、戦っていた」

 

 仁の視点から解釈すれば、オディオが居た世界の平和に毒された豚の人間は、何も喰わない生命という欠陥品に近いものがあったのだろう。

 オディオはこれ以上語ることもない、と言わんばかりに、鼻を鳴らす。

 

「永遠に腹が一杯な生き物は、必ず破綻する。それだけのことだ」

 

 王座から立ち上がるオディオの姿は、仁には恐ろしい異形に見えた。

 魔王になった人間に見えた。

 憎しみの名が、オディオでなかった者をオディオに至らせる。

 仁はこれを倒せば元の世界に戻れるだろう。

 この戦いを記憶に変えて。

 その邂逅を教訓に変えて。

 自身とアマゾンに関する憎しみを捨てられず、それをもって終わりなき戦いの火種となってゆくならば、鷹山仁もオディオと成り果てる可能性はある。

 

「俺も一歩間違えたら『そう』なるのか……

 あるいは、俺もその内『そう』なるのか……

 ……もしかしたら、もう『そう』なってるのかもな」

 

 ベルトを巻いて、起動する。

 

「アマゾン」

 

《 アルファ 》

 

 切り刻み、切り刻み、切り刻んだ。まるで野獣のように。

 

「お前は人間であることをやめたのだな」

 

「……人間を守るには……人間をやめないと、な」

 

「覚えておけ。

 お前は怪物を狩れない人間であることが嫌になったのだろう。

 だが、人間である以上、人間であることが嫌になったなら……おしまいだ」

 

 拳を握り込み、憎しみを噛み潰し、硬い床に踏み込んで。

 

「知ってる」

 

 終わった世界の残り香である憎しみの首を、仁の刃が刎ね飛ばした。

 

 

 




●五常の徳・仁
 他人に対する親愛の情、優しさ。人を思いやること。愛すること


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