この大空と相棒に別れを (まさ(GPB))
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この大空(そら)と相棒に別れを

少し早いですが、ACEINFのサービス終了という事で書いた物です。
共に戦場を駆け抜けてくれた、多くの戦友達に感謝を。


『こちらスカイアイ。当空域から敵勢力の撤退を確認した』

空中管制機(AWACS)から国連軍(UNF)所属の機体へ向けて、作戦終了の知らせが入る。

――もう何度聞いたか気にしなかった美声も、今日で最後だと思うと名残惜しいと感じるな。

その中に、この作戦が最後の任務というパイロットがいた。

『アルファ1――大佐へ。……今日までありがとう』

「……スカイアイからそう言われるとは、夢にも思わなかったよ」

『心外だな。私は今まで共に戦ってくれた仲間に、感謝の言葉を口にしないような人間ではない』

互いに笑い合う二人。パイロット――大佐と呼ばれた男は、スカイアイのいる方向を見上げる。

「こちらこそ、今までありがとう」

 

               ◇

 

エリアJ4E――日本国、旧首都「東京」。

敵であるユージア連邦の軍がかつて占拠していたこの地も、当時まだアローズ社所属だった「ボーンアロー隊」と国連軍所属の特殊飛行隊「リッジバックス隊」らの活躍によって解放された。

現在は旧国際空港を利用した、国連軍の極東方面基地の一つが置かれている。

――今でも時折、こうしてユージア軍が侵攻して来ては、俺達が駆り出されたんだがな。

愛機のコクピットから降りた男は、機首に手を当てて撫でていく。

「お前も、今までありがとう。……お前はまだ俺と飛びたかったか?」

そう口にした彼はわずかに微笑みを浮かべてから、自分の愛機に背を向けて歩き出す。一瞬だけ振り向くような仕草を見せたが、再びその機体を見ることはなく前に進む。

 

ロッカーや部屋の中を整理し荷物をまとめた彼は一人、これから自分の送別会をするという会場へと向かっている。

「どうせアイツら、送別会だとか言ってバカ騒ぎしたいだけだろうな」

「いいじゃないですか、楽しく騒いで送り出してくれるなら」

そこに一人の若い女性が姿を見せる。

「……よう、お疲れさん」

少し驚きはしたものの、男は片手を上げて応える。

「相変わらず軽いですね、隊長は」

「そうか?」

「ええ。いつも軽くて、並んで飛ぶこっちは凄く苦労しました」

「ん?それ性格の話か?それとも機動の話か?」

「両方です」

女性は悪戯に成功した子供のように笑う。

彼女は男が率いる特殊編成部隊「アルファ隊」の二番機として、彼と共に各地の戦場を飛び回ったパイロットだ。そういう事もあり、他のメンバーから会場へのエスコート役を任された。

「コイツは手厳しい。しかし、今日まで一緒に飛び続けられたのは、結局お前だけだったな」

男はそう言って右手を差し出す。

「……そうですね。今ではアルファ隊は私達だけになりました」

彼女もそれに応えて差し出した右手で握手を交わした。

「次の隊長はお前だ。俺について来たその腕と経験があれば、今度は二人だけじゃないさ」

「……――はい」

 

二人は会話を続けながら、会場へと向けて歩いていた。

「それで、隊長はこれからどうするんですか?」

「どうするってまたアバウトな質問だな」

「気になったので」

彼女の真剣な眼差しに、男はしばらく考え込む。

「東京に住む、というのは考えているが……それ以外は特にないな」

今でも今日のようなユージア軍の攻撃はあるものの、国連軍が進める「永久の解放作戦」によってこの地は平穏を取り戻しつつあり、郊外で生活する住人も増加している。そして彼もこの東京に腰を落ち着かせ、隣に立っている彼女を含めた同僚や後輩達の翼を、地上から見るのも良いだろうと考えたのだった。

「そうですか……。故郷に帰るというのは?」

「何だ?俺が近くにいるのがそんなに嫌なのか?」

男が苦笑いを浮かべながらそう言うと、女性は慌てた様子を見せる。

「そ、そういう訳ではありませんっ!……そ、その……あまり遠いと……私も……」

「んん?すまん、何て言った?」

尻すぼみになるその言葉は、彼までは届かない。

「なっ、何でもありません!!」

顔を赤くした彼女は走り出し、関係者以外立ち入り禁止と張り紙がされている扉を開けた。

「ここですよ隊長!早く来てください!」

「何怒ってんだ?」

「お、怒ってません!いいから皆さんお待ちですよ!」

「へいへい」

男は先に入った女性に続いて、送別会の会場へと足を踏み入れる。

 

               ◇

 

「ったく、ブラボーの連中だけじゃなくて空自の二人(JASDF309)まで、酒飲んでねぇのによくあそこまで騒げるよなぁ」

「隊長だって一緒になって騒いでませんでした?」

「さて、何の事やら」

送別会も終わり会場を後にした二人。向かうのは、彼を市街地へ送る車が待つ第二ターミナル前の道路だ。

「……本当に、もう隊長とは飛べないんですね」

ふと、女性が立ち止まって口にする。それを聞いた男はニヤリ、と口角を上げて彼女を見た。

「さっきは一緒に飛ぶのは苦労した、とか言ってなかったか?」

「そ、それは言いましたけどっ!……それでも、私は隊長と……貴方と飛んでいたかった、飛んでいたいんです!」

目尻に涙を浮かべ、男に向かってその心の内を叫ぶ。

それぞれ本来の部隊員を失い、臨時編成として作られた部隊に配属されたのが、二人の最初の出会いだった。その時はまだ他にも隊員はいたのだが……。

部隊の二番機として彼と共に飛ぶ内に、いつしか彼女は、単なる一番機と二番機の関係以上になれれば……という想いを抱いていた。しかしそれは胸の奥底に閉じ込め、ただ並んで飛ぶ事を選んだ。

だが彼がパイロットを辞めると聞いた時から、口にするのを我慢していた想い。それが今、限界に達した。

「私はっ……!私は貴方の事が好きです!もっと、もっと貴方と一緒に――」

男が彼女を抱きしめる。

「悪い、今はその願いを叶えてやれそうにない」

「っ……!」

「伏せておこうとは思ったんだが、お前だけには降りる理由を言っておく。今まで無茶な飛び方をしてたろ?あの戦闘機動に、俺の身体がとうとう耐えられなくなったんだよ」

ただでさえ戦闘機のパイロットは過酷な任務により体力的、そして精神的な消耗が激しい。それに加えて、男の機体は機動力に特化させたチューンが施され、通常よりも身体への負担が大きかった。

「だがな、いつか平和になった時……大空(そら)を穏やかに飛べる日が来たら、二人だけで飛ぼう。誰にも邪魔されない、自由な大空を」

彼は体を離して言う。真剣な眼差しを女性へ向けて。

「なっ、何ですかそれ……まるでプ、プロポーズみたいな……!」

顔を赤くする女性。それに対し男は――

「先に言い出したのはお前だろうが」

と笑いながら、彼女の頭をぐしゃぐしゃと荒く撫でる。

「うぅ~……!」

それに彼女は涙を流し、唸るだけでされるがままだった。

 

再び進み始めた二人は第二ターミナルビルを出る。そして男が乗る車両を視界に捉えた。

「あれだな。もうここで良いぞ。ギリギリまで一緒だと、こっちまで名残惜しくなっちまう」

「そう、ですね……。――隊長」

「ん?」

「今まで、ありがとうございました!」

敬礼をする女性。これに対して彼も返礼をして応える。

しばらく互いに見つめ合うが、男が腕を下げると、彼女もそれに続けて腕を下ろす。

「それじゃあ少佐、あとは頼んだぞ。それと……必ず生き残れ」

「……はいっ!」

少佐――彼女の返事を聞いた男は頷くと、自分を待っている車へと向かって歩き出す。

――ありがとう、戦友。またな。

男は一度も振り返ることなく、車に乗り込む。走り始めたその車を見送る彼女は、それが見えなくなるまでその場に立ち続けていた。

 




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再会 ―されど翼は―

前話のアフターになります。
ACEINF終了。改めて、共に飛んだ戦友達に感謝を。
またいつか、どこかの空で……。


大佐――男が戦闘機のパイロットを辞め、地上に降りてから二ヶ月が経った。今ではユージア軍による東京侵攻はなくなり、この地は戦前のような平和を取り戻し始めている。

しかし今も尚、ユージアと国連の戦いは続いており、かつて自分がいた東京基地からも時折、航空隊や艦隊の出撃が見えた。

「世界は未だ平和を取り戻せず、か……」

ニュースでは国連軍の活躍として、リッジバックス隊やボーンアロー隊のリーパーの話題が上がる。だが彼の後輩であり、共に方を並べて飛んでいた少佐――女性の名は、当然聞こえてこない。

――アイツはしっかりとやれているんだろうか……。

上空を戦闘機が飛行する音が聞こえると、男は必ず空を見上げ彼女が乗る機体を探す。見えるはずもない、というのは分かっているが。

それでも彼が探すのを止められない理由は一つだった。

「……心配、だな」

それを口にして、残り少ないコーヒーを一気に流し込む。

男が降りてもう二ヶ月、いい加減に気にし過ぎというものである。それに彼女も“ヒヨっ子”ではないというのは、共に飛び続けた彼自身が誰よりも知っているはずだ。それでも男が心配するのはこれが戦争だから、というのが大きい。

彼女はリーパーやリッジバックス隊ほどではないにしろ、腕の立つパイロットだ。それ故に危険な任務が回ってくる事もあれば、敵も彼女を落とそうと躍起(やっき)になるだろう。

「俺と一緒に飛んでた時だって、それは変わらないはずなんだがな……」

互いに背中を預けあって飛んだからこそ、何度も死線をくぐり抜けてこれた。だが自分がいない今、彼女は無事に飛び続けているのだろうか……と、今までも似たような考えが何度も浮かんでは消えていた。

――俺もアイツと、いつまでも飛んでいたかったのかもな。

それはこの数ヶ月の間に気付いた事だった。最後の任務の日、少佐は自分ともっと飛んでいたかったと言った。それはきっと、自分自身もどこかで望んでいたのではないのか、と。しかしそれは、降りた後になって気付いても遅いというものだ。

「もう前みたいな戦闘機動は出来ないんだがな……」

それは彼女にも告げた、彼が降りる理由。もう自分は、戦闘機に乗っても戦闘に耐えられる身体ではない。もし今でもパイロットを続けていたとして、この身体では墜とされていただけだろう。

今の彼には、少佐と交わした約束を果たすべく、彼女の帰りを待つしかない。ただ空を見上げ、無事に戻ってくる事を祈り続けながら……。

 

     ◇

 

一ヶ月後。

国連軍がユージア軍に対して大規模な作戦を予定しており、その開始が近いらしいという情報を、彼がかつて軍にいた時の友人から聞いていた。

「こんなもんを寄越してくるって事は、アイツ(少佐)も参加するんだろうな……」

この情報はニュースに一切出ていない。そんな物を友人だとは言え、退役した民間人に流すなど有り得ないのだが、わざわざ男に教えたという事はそういう事なのだろう。ここで彼はふと、ある事を思い出す。

――確か、今はジャーナリスト……いや、情報屋紛いの事をやってるんだったか。

男の友人も軍を辞めて、今はそんな事をやっている、というのは他でもない本人から聞いていた。

「ったく、どっからこんなの聞きつけるんだか……」

しかしこんな情報を知らされたところで、今の彼にはどうする事も出来ない。

「人を不安にさせる様な事だけしやがって……あのバカ野郎」

今度会ったら殴りつけてやる。と、そんな事を考えながら、彼はその資料を机に放り投げた。

 

「ふぅ……」

昼食後、彼はまったりとしながらコーヒーを飲む、というのは軍を退役してから始めた事だ。

いつもならこの時間は、自分が穏やかな時間を過ごしているのだという実感を抱けるのだが、この日ばかりは違う。それは先ほど、自分が机に投げた国連軍の作戦資料が原因だった。

「あまり気が進まないんだがなぁ……」

(こぼ)しながら資料を手に取り、目を通していく。

大まかな概要としては、未だ多数のユージア軍が展開しているドバイや石油関連施設、モスクワ、パリ、そしてアルプス山の各五ヶ所を同時に攻撃して完全解放するという事らしい。

――個別の作戦内容は……見なくてもいいか。

彼は後を託した自分の後輩(少佐)が所属する、アジア極東方面部隊が参加する作戦を探す。

「……これか」

モスクワ解放作戦に参加する部隊の中に、J4Eアルファ隊とJ4Eブラボー隊を見つける。なんと他にも、タスクフォース118「アローブレイズ」のボーンアロー隊とリッジバックス隊も参加するようだ。

「あの二つの部隊と一緒に飛べるなら、アイツもちゃんと帰って来れるだろうな……」

両隊はこの東京を解放する作戦において、蝶使い(カーミラ)重巡航管制機(アイガイオン)を撃破している。国連軍のエリート部隊であるリッジバックス隊に、国連の地上部隊から“死神の下は安全地帯”とまで評されるリーパー率いるボーンアロー隊。彼らと共に飛んでいれば、きっと無事にここに戻れるはずだろう。

――リボン付きの死神に一本線のエリート集団、か……アイツを守ってくれよ。

そんな事を考え、しばらくしてからふっと一人、笑みを零す。

「何でよりにもよって死神なのかねぇ……」

 

     ◇

 

更に二ヶ月ほど経ったある日。男はこの日の夕食の買い出しから戻る途中だった。

一人の生活にも慣れた彼は、自分が軍にいた時では考えられないような、平和な日々を送っている。

「そろそろ慣れてきたとは言え、まだ不思議な感覚だな……」

彼はそう言いながら、空を見上げた。

――もうあれ(・・)から結構経ったんだな。

それは例の国連軍が予定していた、大規模作戦に参加する部隊の出撃を見送ってから過ぎた時間だ。あの作戦資料が届いてからあまり間を置かず、作戦の為に各隊が出動して行った。

作戦が開始されると各メディアもそれを報じ、連日その事が報道されていた。

結果として作戦は成功、というところだった。少佐が参加したモスクワ解放作戦はボーンアロー隊やリッジバックス隊の参加もあり、もちろん成功。その他、ドバイとパリも解放された。

石油関連施設は敵の潜水空母(シンファクシ級)が出現。そのため完全とはいかなかったが、ユージア軍を一時的に退却させる事には成功した。

しかしアルプス山は山脈自体が天然の要塞になっているという事と、超大型の火力支援機(ギュゲス)電子支援機(コットス)の出現もあり、攻略する事は(おろ)か撤退を余儀なくされた。

これにより石油関連施設とアルプス山は別途、解放作戦が展開される事になる。

また今回の作戦に現れた潜水空母や超大型航空機以外に、ユージア軍には“(そら)の欠片計画”によって建造された軌道清掃プラットフォームOLDS(オールズ)を転用した宇宙兵器の存在もある。これはアドリア海にて実施されたバンカーショット作戦において使用され、国連軍に甚大な被害をもたらした。宇宙条約によってOLDSの破壊も出来ず、現在でもその驚異に晒されている状況だ。

これらは一般に公表される事はないのだが……。

「まだ平和になるには程遠いな」

そう口にした彼は哨戒(しょうかい)の為に飛行する二機の戦闘機を目にし、やはりまだ自分が現役なら……と、もどかしさを抱えずにはいられなかった。

 

男の自宅前。彼はポケットから鍵を取り出して、扉を開けようとしていた。

「――あの」

しかし後ろの方から、女性に声を掛けられて振り返る。

「はい、何か御用で――」

男はその女性の姿を見て、最後まで言葉を続ける事が出来なかった。何故ならそれが、自身が退役したあの日以来、ずっと気にしていた人物だったからだ。

「この近くに、パイロットだった元大佐が住んでるって聞いたんですけど、ご存じですよね?」

「お、お前……!」

男の驚いた表情を見て、彼女――少佐は以前と同じく子供のような笑みを見せる。

「ふふっ、作戦成功です!」

確かに男は驚きはした。だがそれよりも、彼には気になる事があった。それは目の前の彼女が、あの日とは違う格好をしてるからだ。

私服姿である、という事もそうなのだが、何より――

「少佐……その脚は……」

「……ええっと、やられちゃいました」

車椅子に座る彼女はそう言って、苦笑いを浮かべる。

――ッ!

男はそれを見て、思わず少佐を抱きしめた。内から溢れ出る感情のままに。

「よく……よく生きて戻ってきた」

「……はいっ!」

突然抱きしめられて驚いたものの、彼女はそれを受け止め、男の言葉と涙に自身も涙を流す。

 

「――で、どうしてお前がここにいるんだ?」

しばらく抱き合って涙を流していた二人だが、次第に落ち着きを取り戻した男が、少佐を家へと招き入れる事にした。車椅子のままでは玄関までが限界だった為、彼女を――“お姫様抱っこ”で――抱えてリビングへと運び込み、今はソファに座らせている。

「なんでそんな平気そうにしてるんですか?私、凄く恥ずかしかったんですけど」

「……俺だって恥ずかしかったに決まってんだろ」

わずかに赤くしたその顔を逸らしながら彼はそう口にする。それを見た少佐も赤面しつつ、嬉しそうな表情を見せた。

男は咳払いをして、彼女に質問をする。

「それよりもどうしてここに――いや、まずはその脚の事を聞いてもいいか?」

「ええ、構いませんよ。……ご覧の通り、私も翼を失った一人になりました」

少佐は右脚を(さす)りながら、自分が何故こうなったのかを話し始める。それはJ4Eアルファ隊が参加した、モスクワ解放作戦での出来事だった。

「私達は予定通り任務を進めていました。ボーンアロー隊とリッジバックス隊も参加していて士気は上々、そのまま行けば優勢どころか圧勝です」

ですが、と彼女は続ける。

「突然、奴が現れたんです。――蝶使いが」

少佐が蝶使いと言った瞬間、男の全身が(こわ)ばる。

「味方機が何機か墜とされて、次が私でした。蝶使いだと気付いた瞬間には、私の機体は被弾してましたよ」

そう言って彼女は再び苦笑いを浮かべた。更に少佐は続ける。

「急いでベイルアウトしたんですけど、その直後に機体が爆発して、運悪くその時の破片が刺さっちゃいまして……」

彼女は座りながらロングスカートの裾を掴み上げ、膝下辺りまでを(あらわ)にした。

両脚ともそれぞれが包帯を巻かれていて、実際に傷を見る事は出来ない。しかしその様子は、それがどれほどの傷だったかを物語っているようだ。

「歩けるようにはなるのか……?」

「しばらくは無理と言われましたが、リハビリ次第で日常生活に支障が出ないレベルまで回復するかもしれない、とも言われました」

裾を戻しながら答える少佐に、男はひとまず安心した。

ここでふと、彼はある事を思い出す。

「確か蝶使いが操っている無人機は、ベイルアウトした人間も狙うと聞いたが……」

「……ええ、私もバッチリ狙われましたよ。でもギリギリのところで、ボーンアロー隊とリッジバックス隊に助けられました」

それを聞いた男は、あの時の祈りが無駄でなかったのだと思い、心の中でそれぞれに感謝をする。

「地上に降りた時も当然これで動けませんでしたけど、そこは運良く、味方の地上部隊がいるところで助かりましたよ」

少佐は笑いながら言うが、男にとっては笑えない話だ。

「はぁ……とりあえず脚の事は分かった。それで、どうして俺がここに住んでるって知ったんだ?」

「あぁそれなら、隊長のお知り合いの情報屋さんが教えてくれた上に、近くまで連れてきてくれました」

「あの野郎……」

これは一発追加だな、と男はどこかでほくそ笑んでいるであろう友人に、いつかまとめて借りを返す事を誓うのだった。

 

「そう言えば、これからお前はどうするんだ?」

「この脚じゃパイロットも出来ませんから……そうですね――」

二人はコーヒーを飲みつつ会話を続けていた。

男がこれからについての質問をすると、少佐は口を付けていたマグカップを机に置いて少し考える。彼女は周りと眼前にいる男を見て一言。

「また隊長の隣でずっと付いていく、なんてのはどうでしょう?今度は空じゃなくて地上勤務ですけど」

男がこれを聞いた瞬間、タイミングが悪い事に飲んでいたコーヒーが気管に入り(むせ)てしまう。

「ごほッ!ごほっ……お、お前……!」

――それじゃあまるで……。

「あの時のお返しですよっ!」

少佐は顔を赤らめながらも笑顔を見せる。

「けほっ……。はぁ、んじゃぁまずは、家のリフォームでもするかな……」

彼は観念したかのようにそう口にしながら立ち上がった。

「え、それって……」

「いつか歩けようになるって言っても、今はまだ必要なんだろ?」

「――はいっ!」

嬉しそうな彼女の返事に、男はこれから先の事を考え始める。

 

「とりあえず、まずは夕飯にするか」

「なら私もお手伝いを――」

「いいからそこで大人しく座ってろ。お前の手料理は、脚が完璧に治ったら振舞ってもらうからな」

「むぅ……分かりました!それじゃあ、隊長の一人暮らしの成果、見せてもらいます!」

「あんまり期待すんなよ?」

二人で過ごす、これからの未来を――。

 




キャラ設定
大佐:J4Eアルファ隊の元隊長。45歳。男性。最終的な階級は大佐。機動性能を限界まで引き上げた機体を愛機としていたが、身体が戦闘機動に耐えられなくなった為に、パイロットを降りる。
モチーフは様々な事情により、最後まで飛び続けられなかったプレイヤー。

少佐:J4Eアルファ隊の二番機パイロット。23歳。女性。大佐が退役した後にアルファ隊隊長を引き継ぐ。元々大佐とは違う部隊だったが、ある作戦で互いの部隊員が全滅した為、急遽作られた部隊に臨時として編成された。大佐に対して特別な感情を抱いている。
アルファ1として国連軍のモスクワ解放作戦に参加するが、そこに現れた蝶使いによって撃墜される。直後に少佐自身もMQ-90L クオックスに狙われたが、同作戦に参加していたボーンアロー隊とリッジバックス隊によって助けられる。機体から脱出はしたものの、その際に負傷しており、それが原因でパイロットを降りる事になった。
こちらはACEINFサービス終了まで飛び続けたプレイヤーをイメージ。

独自設定
J4Eアルファ隊:日本国、旧首都「東京」にある旧国際空港を利用している国連軍の航空隊の一つ。これは国連軍の作戦等において他のアルファ隊と共に運用される場合の呼称であり、東京上空やこの部隊のみが運用される場合は、単にアルファ隊とだけ呼ばれる事もある。大佐が隊長を務めていた時から四人体制であったが、長らく部隊員は大佐と少佐の二人のみであった。少佐がアルファ1を引き継いだ後、パイロットが追加補充されて再び四人体制となる。
モスクワ解放作戦において隊長である少佐が撃墜された後も、アルファ2が引き継いで作戦に貢献した。

J4Eブラボー隊:アルファ隊と同じく、東京に駐留しているブラボー隊。モスクワ解放作戦時に出現した蝶使いによって全滅させられる。


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