魔法少女リリカルなのはViVid ooo ~欲望を司る魔王女~ (ハナバーナ)
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キャラ設定

エーリ・コウガミ

 

年齢・10歳 髪型・灰色ツーサイドアップ 瞳の色・紫 身長・ヴィヴィオより頭一つ低い

 

本編開始の4年前、科学者ジェイル・スカリエッティがゆりかごに遺されていた魔王の遺体から摂取した遺伝子情報を元に造り出したクローン。本来は管理局最高評議会を護る為の守護者の位置として生み出されたが、企業間やミッド内で流れる噂を元にエーリの存在を確信したコウガミが、ジェイルに頼み込んで引き取った。性格は明るくポジティブシンキングで、様々な物事に興味を持つ。初等部での成績は学年2位。学校の始業式の日が10歳の誕生日で、その際コウガミからデバイスであるアンクを受け取る。同時に自分が魔王のクローンであることや、自分を生み出した父親ともいえる存在が犯罪者であるジェイルだと知るも、本人は大して気にしていない。体質からか、変身魔法を使っても大人に成長できない。ヴィヴィオとは同級生だが、出生が同じなためか義兄弟の関係。ちなみにジェイルは当初、エーリを生み出した時点ですでに最高評議会の抹殺を目論んでいたため、ゆりかごの鍵であるヴィヴィオの防衛システムに組み込む予定だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アンセイクリッド・オーズ

 

Type・インテリジェント(補助・制御型)

 

エーリが誕生日コウガミから受け取った、赤い腕の形をしたデバイス。愛称はアンク。手のひらに黄色い一つ目があるのが特徴。性格は横暴でわがまま、自分が興味を持ったことにエーリを巻き込んでは責任を負おうとしないデバイスらしからぬ一面を持つ。【最高ランクのデバイス】になることが目標で、今のところエーリはその為の手段としか考えていない。戦闘では、エーリの各部位の魔力・筋力を調整する役目を担う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デューク・K・コウガミ

 

一代で一流企業を築き上げた鴻上コーポレーション会長であり、エーリの養父。元は時空管理局の局員だったが、遠征で地球へと赴いた際出会った男に、欲望の偉大さや地球に存在するヒーローの軌跡を学び、それにあこがれて管理局をやめ、独立してデバイス製造を行う会社を設立した。性格はおおらかで、エーリが興味を持った事に関してはとことん追求を薦める呆れるほどに懐の広い人物。ケーキ作りが趣味で、コウガミが作るケーキはエーリの大好物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サトナカ

 

コウガミの秘書を務める美人女性。エーリを『お嬢様』と呼称する。コウガミへの社内状況の報告や近辺調査、エーリの特訓の補助等業務は様々。一貫して冷めた表情をしているが、決してコウガミやエーリを見下しているわけではなく、エーリに至っては今後を心配している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴトウ

 

エーリやコウガミの専属運転手。サトナカ同様エーリを『お嬢様』と呼称。自由過ぎるコウガミや、興味を持ったことにすぐに突っ込んでいくエーリに胃を痛めている苦労人。その分指摘に遠慮がなく、漫画でいえばツッコミポジションとなっている。未だ二十代前半。

 




話が進むにつれ、設定を更新していく予定です。


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プロローグ

ViVid完結巻発売とオーズドライバーCSM発売記念。駄文ですがどうぞ。


「欲望が、人類を進化へと導いたのだ‥‥素晴らしい‼」

 

これは地球とは別の世界から来た男が、訪れた地球で出会った一人の男から聞いた言葉である。男はまだ若かった。二十代半ばだろうか? 魔法のある世界で、様々な世界を管理・維持する組織に所属している…否、していたという方が正しいだろうか? 魔法を使わない普通の局員だった彼は、仕事の都合で地球に調査に来ていた。次元世界にとんでもない被害を及ぼす者が現れる可能性があるという理由だからだ。男は協力者を名乗る五十代半ばの男性に話を聞いた。

 

『仮面ライダー』

 

地球を守る戦士の総称であると、会長は言った。何人かいる仮面ライダーの中でも、会長がひときわ目を光らせているライダーがいた。

 

『オーズ』

 

欲望のメダルを使い、欲望を否定せず、常に人々の欲望と向き合い続けてきた古代の戦士。友との再会を今もなお望んでいる男。会長はそんなオーズを称賛し、魔法世界の男にもそんな戦士の話や資料、欲望の大切さを説いていった。

 

「何かを生み出したいという欲望が多くの物を生み出し、今の世界を作り上げたのだ。

 欲望は、世界を作る!」

 

欲望で世界を再生させることを望む会長は、そんなことを言いだした。そして魔法世界の男も、そんな会長や数多ある資料に魅了されていった。数年後、男は管理局をやめ、独立して事業を開始したのだ。己が欲望に従って…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後

 

「ほう、彼女が?」

 

事業に成功し、本格的に自分の欲望を解放しようと決断した男は、ある人物にあっていた。長い金髪をした、蠱惑的な女性である。彼女は背中に灰色の髪をした一人の幼い少女を抱えており、片手に納まっているデバイスからは、藤色の髪の男性が映像に写っていた。

 

『ああ、評議会の連中に守備用にと頼まれ、クローニングした【魔王の器】さ。』

 

「魔王の遺伝子情報を使っていることまでは説明していませんが。当然でしょう? 自分達に

 牙をむきかねない要素を持っている事など、教えては造り出した意味がないでしょう。」

 

『君もだんだん私に似てきたね、ドゥーエ。』

 

「褒め言葉ですよ、ドクター。」

 

男が見たドゥーエとドクターの会話は、まるで親子を彷彿とさせるものだった。それだけならまだいいのだが、二十代に見えるドゥーエに対して、ドクターは三十代に見えるというギャップを感じさせた。

 

「しかし、物好きもいたものですね。『犯罪組織が生み出した魔王の遺伝子を継ぐ少女』という

 危険な少女を欲しがるとは。」

 

「何を言うんだね? 魔王とはすばらしいものではないか! 己の心のままに、欲望をさらけ出す。

 人類が過剰に付けている枷を解き放ったかのような存在だ。人は魔王をすぐに批判するが、

 私はその逆、見習うべきだと思っているよ!」

 

『ははは、その点でいえば君とは話が合いそうだね。今度お茶でもしないかい?』

 

「検討させていただくよ。ドクター・スカァァァァリエッティ!! しかし、私も驚いた。

 こうもすんなりと彼女を保護させてくれるとは。」

 

『評議会にはすぐに終わりを迎えてもらうからね。聖王の守護者としての役割も考えたが、

 君のような欲に忠実な人間に伸ばしてもらったほうがいいと考えたよ。』

 

「その選択に、多大なる敬意を評するよドクター。さあ、始めようじゃないか!

 少女が織りなす、欲望の物語を!」

 

男は腕を上げて声高らかにそう宣言する。この出来事は、後にJS事件と称される大事件が収束される、ほんの数日前の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四年後 第一管理世界ミッドチルダ St.(サンクト)ヒルデ魔法学院

 

キーンコーンカーンコーンッ

 

「よっし、始業式終わりーっ!」

 

うーんと背伸びした灰色ツーサイドアップの紫色の瞳を持った少女が、学生鞄を片手に初等部校舎の出入り口からダッと走り出す。途中中等部の生徒二人に出くわし、

 

「先輩方、ごきげんよう!」

 

と、走りながら敬礼して過ぎていく。敬礼された二人のうちの片方が、ポカーンと口を開けながら走っていく少女を見ている。

 

「‥‥なんというか、元気がすごいですね。はしたないですが。」

 

「あれで学年二位なんだから、驚きだよね。」

 

「‥‥‥はい!?」

 

もう片方が告げたことに対して、呆然とするだけだった少女は驚いた。

 

「知らないの? エーリ・コウガミ、デバイス製造で有名な鴻上コーポレーションの令嬢で、

 文武両道で全部に近いジャンルの魔法を覚えようとするほどの好奇心、おまけに格闘技も

 習ってるって話だよ? 確か今年で四年生だったと思う。」

 

「あ、あれで学年二位‥‥しかもお嬢様‥‥。」

 

「見た目に惑わされるなってのは、正にこのことだよねー。」

 

衝撃的なプロフィールをお持ちの小学生に、愕然とする中学生二人なのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

鴻上コーポレーション

 

「ハッピバースデートゥーユ~、ハッピバースデートゥーユ~‥‥」

 

巨大なビルの最上階の広い会長室で、会長であるデューク・K・コウガミが、誕生日の歌を歌いながらケーキを作っていた。四十代半ばに見える顔の濃いおっさんがだ。

 

「ハッピバースデーィディア…‥エーリィィィィィィ…‥ハッピバースデートゥーユゥ…。」

 

全体にクリームが塗られ、イチゴと10本のろうそくを添えられているケーキの中央に、ハートのチョコレートが乗せられ、ケーキが完成する。

 

「会長、お嬢様がお見えになられました。」

 

「ありがとう、ミス・サトナカ。彼女をこちらに。」

 

コウガミが言うと同時に、秘書であるサトナカが会長室の扉を開ける。

 

「ただいま、デュークおじさん!」

 

「お帰りエーリ、我らのお姫様。ハッピーバースデーェェェェェイ!!」

 

エーリの誕生日を祝う声が、会長室に声高らかに響き渡った。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

テーブルにつき、出された豪勢な料理やケーキを堪能するエーリとコウガミ。

 

「君ももう10歳か…‥時がたつのが早いよ。」

 

「あたしもそう思うよ。魔法の勉強してるうちに、もうそんな経ってたんだなあって。でも、

 まだまだだよ! 応用魔導学でもっとレベルの高い魔法を勉強して、格闘技ももっと鍛えて、

 今まで出場できなかったDSAAにも出場して‥‥ああもう、やりたいことが多すぎるよお!!」

 

「素晴らしい!! やりたいと思ったことを遠慮なくやる、至高の欲望だよ! そんな君に

 スペシャルな誕生日プレゼントがある。ミス・サトナカ!」

 

「はい、会長。どうぞ、お嬢様。」

 

そう言ってサトナカは、エーリにラッピングが施されている箱を渡す。

 

「君も競技に出られる年齢だ。魔法の知識も十分ついてきたし、私から最新デバイスの

 プレゼントだ!」

 

「わあ、ありがとうおじさん! あたしもデバイスデビューだぁ!」

 

エーリは恍惚とした表情で、ラッピングをほどいて箱を開ける。中に入っていたのは、つやのある芸術的な装飾をした赤い手だった。

 

「…‥手?」

 

エーリがそうつぶやくと、その手はフヨフヨと浮かびながらエーリの周りを一回転する。エーリの目の前で止まったその手は、手のひらの中央に黄色い一つ目があるのが分かった。

 

『‥‥ふん、こんなちんまいガキが俺のロードってかぁ?』

 

赤い手はエーリの前でチンピラのような口調でしゃべって見せた。



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第一章 デバイスと変身と王の邂逅
カウント1


「うわわわっ!?」

 

コウガミからプレゼントされた腕型のデバイスが、自分の周りを浮いたことに加え、チンピラのような口調でしゃべったことにエーリは驚き、尻餅をついてしまう。それを見たコウガミが、大きく笑う。

 

「ははは、驚いたかね? 多方面に取り組む君用に作り上げたインテリジェントデバイスだ。

 アンティークな見た目だが、クリスタルはちゃんと中に埋め込まれているよ。」

 

「私はさすがに小学生が持つにはミスマッチなのではないかと公言したのですが…。」

 

サトナカがそう言って溜息を吐くあたり、見事なまでに押し通されたのだろう。エーリは立ち上がると、腕型のデバイスに近づく。

 

「えっと、あたしはエーリ・コウガミっていうの。よろしくね。」

 

『まさか俺様の相棒がガキとはな‥‥精々使いこなして見せろ。』

 

マスターであるはずのエーリに対して、随分と見下し気味な態度でデバイスは話す。エーリはそんなデバイスに、あははと苦笑する。

 

「それはこれから君と共に学び、成長していくデバイスだ。名前はまだ決めていないから、

 君がいいと思った名前を付けたまえ。」

 

『ダセェ名前にするんじゃねえぞ?』

 

コウガミやデバイスにそう促され、エーリは腕を組んでうーんと考えるが、それはほんの数秒。すぐに納得したような表情になる。

 

「決めた! あなたのデバイス名は、【アンセイクリッド・オーズ】。愛称はアンクだよ。」

 

「ほほうエーリ、私の昔話からとった名前だね?」

 

「うん! どうかな、アンク…いい名前だと思うんだけど?」

 

『もう名前で呼んでんじゃねえか‥‥だがま、ありきたり過ぎなくていい。それで構わん。』

 

「やったぁ、これからよろしくねアンク!」

 

エーリはそう言って、アンクに抱き付く。アンクはというと、鬱陶しそうにジタバタする。

 

「ねえねえおじさん! あたし、早くアンクと一緒に戦ってみたい。」

 

「エーリならそういうと思ったよ。ミス・サトナカ、シミュレーションルームに彼女を。」

 

「分かりました。お嬢様、こちらです。」

 

サトナカに言われ、エーリとアンクはシミュレーションルームへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーションルーム

 

広いシミュレーションルームに来たエーリとアンクの目の前には、三体の巨大なゴーレムが立っていた。

 

『練習用のゴーレムです。動作は腕を振り下ろすだけです。』

 

「分かったよ、サトナカさん。」

 

放送で話しかけてくるサトナカに、エーリは元気に返答する。

 

『おいエーリ、ゴーレムとの実戦経験は?』

 

「ない。対戦はほとんどスパーリング。でも、アンクとならいける気がする!」

 

『…‥その自信は一体どこから来るんだか。』

 

アンクは溜息の代わりに、手をぶんぶんと横に振る。そうしているうちに、ゴーレムの目が光り、起動する。

 

「アンク、行くよ!」

 

『無様な姿だけはしてくれるなよ?』

 

アンクがエーリにそう言うと、エーリの下に三角の魔法陣が広がる。

 

「マスター認証、エーリ・コウガミ。術式、ベルカ主体のミッド混合ハイブリッド。

 デバイス名称、【アンセイクリッド・オーズ】。」

 

エーリはそう詠唱した後、アンクをつかんでグッとその腕を上に上げ、高らかに叫ぶ。

 

「変身(セットアップ)!!」

 

それと同時に、アンクの一つ目がギラッと光り、エーリの服が光りとなって弾けたかと思うと、魔法陣から光があふれ、裸になったエーリを包み込む。その光はエーリの周りで服やスカート、靴を生成し、ところどころ色が異なるバリアジャケットへと変貌する。魔法陣が消え、変身が完了したエーリは、自らの手足を確認する。

 

「これが‥‥変身したあたし…。」

 

『来るぞエーリ! ボサッとすんな!』

 

アンクはそう叫ぶと同時に、デバイスの役割を担うためにエーリの体に入り込む。エーリも、ゴーレムが腕を振り下ろそうとしていることに気付き、足に力を込めてジャンプする。

 

「‥‥へ? わああああああああああ!?」

 

しかしエーリは驚いた。自分が思っていた以上に、高くジャンプしたからだ、10M近い全長のゴーレムを優に飛び越え、高い位置にあるはずの天井に頭をぶつけそうになるが、何とか寸前で降下する。着地の際ズザザザと摩擦が起こり、完全に止んだころには摩擦の跡からシュウウと煙が出る。

 

「すごい‥‥予想以上だよ、このジャケット!」

 

興奮しているエーリに、振り向いたゴーレムが迫ってくる。エーリはもう一度ジャンプの体勢に入る。

 

「(対ゴーレムの戦術は考えてある。攻撃動作の合間、懐に飛び込むイメージ‥‥!)」

 

エーリがそう考える時、ゴーレムの一体が、腕を振り上げる。エーリはその隙を逃さない、先ほどよりかなり低くジャンプし、ミサイルのような勢いでゴーレムの腹部に迫る。そして腕をぐっと引いた後に、ゴーレムの腹部に勢い良く拳を叩き込む。ゴーレムの腹部から全身にひびがいきわたり、跡形もなく崩れ去っていく。

 

「たあっ!」

 

すかさずエーリは近くにいる一体に向かってジャンプ、ゴーレムの眼前でくるくると回転し、その勢いでかかと落としを喰らわす。ゴーレムはその顔面を地面にめり込む。

 

「やあああああああ!!」

 

ラスト、エーリは残った一体の真下に移動、足に力を込めて勢い良くジャンプし、素早く拳を繰り出してゴーレムにアッパーカットをお見舞いする。ゴーレムは上に吹き飛び、天井に頭部をぶつけ、ガラガラと崩れていく。エーリが着地したころには、全てのゴーレムの機能が停止していた。

 

「やった! 快勝したよアンク!」

 

『ふん、まあまあだな。』

 

余裕で勝ったことに喜ぶエーリだったが、アンクは小ばかにするような態度で、大した評価はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい!! 見事な戦いぶりだったよエーリ、そしてアンク!」

 

うーんと腕を上げて会長室に戻ったエーリとアンクを待っていたのは、モニターで様子を見ていたコウガミの高評価だった。

 

「ありがとうおじさん。でもやっぱり、一回だから慣れないな。これからもっとアンクの事を

 知ろうと思うんだ。」

 

「勝つことへの喜びから、すぐに次の課題に切り替える。それもまた素晴らしいよエーリ。

 アンクも、これから彼女をよろしく頼むよ。」

 

『はっ、安心しろコウガミ。お前の想像をはるかに超える奴に育ててやるからよ。』

 

制作者であるはずのコウガミにも、ひねくれた態度をとるアンク。そんなアンクは、あることをエーリに聞く。

 

『それよりエーリ、聞きてえ事がある。俺の名前の由来はなんだ? コウガミの話からとったとか

 抜かしてたが?』

 

「んーっとね、なんかあたし、昔いた魔王の血統らしいんだよね。おじさんから聞いたんだけど。

 だから、【聖じゃない者】って意味で、アンセイクリッド。オーズは、このミッドとは違う

 地球って世界にいるヒーローの名前なんだって。欲の力で戦うみたいだから、やりたいことを

 やらずにいられないあたしにぴったりなんじゃないかなって。」

 

「それに関してなんだがエーリ、今こそ君に話すべきことを二つ教えようと思う。」

 

「二つ?」

 

「一つは、他の王に関してだ。このミッドには、君の他にも魔王と同じ時代を生きた王の

 血統が何人か存在する。DSAAに出場する以上、これから先関わることになるだろうね。

 もう一つは…君の父についてだ。」

 

コウガミがそう言った瞬間、エーリの体がビクンと震え、眼が見開かれる。

 

「あたしの‥‥父さん‥‥。」

 

『どういうことだ?』

 

「あたし、おじさんが引き取ってから今までの四年間以前の記憶がないの。両親の顔も

 知らないし、おじさんに聞いてもいつか教えるってだけで‥‥。」

 

「戦い始める今がその時だと思ったのさ。心して聞き給えエーリ。君は…‥。」

 

エーリはゴクッと唾を飲み、小さな拳をぐっと握る。そんなエーリに、コウガミは語る。

 

「四年前、ミッドチルダを震わせた大事件、JS事件の首謀者、ジェイル・スカリエッティが、

 魔王の遺品に残された遺伝子情報を元に生み出した、クローンなのだああああああああ!!」

 

コウガミが両腕を大きく振り上げ、声高らかにそう宣言する。

 

「…‥へ?」

 

その事実を聞いたエーリは、ただただ呆然とするばかりだった。

 



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カウント2

訂正 学年一位を、二位に変更しました。コロナが学年一位らしいので。


「よかったんですか?」

 

会長室でサトナカは、ケーキを絶賛作成中のコウガミに問いかける。

 

「なにがだね?」

 

「お嬢様の出生のことを話したことですよ。私は事前に会長から聞いていましたが、10歳

 成り立ての子供にはあまりにも重い事実ではないんですか?」

 

「そうは言うがねミス・サトナカ。引き取った当時の右も左もわからない彼女に話しても、

 心を閉ざし続けるだけ。学校に行き始めた段階でも、恐らくその可能性があっただろう。

 だからと言って一人の選手として戦っている時期にこの話をしては、彼女の心が揺らぎ、

 試合にも影響が出ていただろうさ。だからこそ、まだ多くの選択肢が残っている現段階に

 事実を伝えたのだよ。」

 

「口を閉ざし続ける手もあったのでは?」

 

「エーリがそれを許さない。彼女は好奇心旺盛だ。いずれ絶対に私から吐かせただろうさ。」

 

「‥‥そんなお嬢様の好奇心は、主に会長が原因かと思われますが?」

 

ため息交じりに言うサトナカ。コウガミはケーキを作る手を止め、サトナカの方を向く。

 

「ミス・サトナカ、大人とは子供の手本だよ。何もない子供に大人が物事を教え、子供が

 それに興味を持ち、自らを成長させていく。それが何であろうとね。私は私の理念を、

 彼女に教えただけだよ。欲望を持つことで、前に進むことができるとね。」

 

「物は言いようという言葉を知っていますか?」

 

「素直な意見を言ったまでさ。それに欲があるからこそ人は自分の世界を作れるんだ。

 私の尊敬する師は言った。欲望は、世界を救うとね。」

 

コウガミはそう言ってサトナカにウインクし、再びケーキ作りに戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ、はあっ!」

 

エーリがいる場所は、鴻上コーポレーション内にあるスポーツジム。健康を気にしている者や、スポーツの親善試合のビジネスチーム等が利用している。エーリも鍛えるために定期的に通っており、今は蹴りや殴りの技をサンドバッグに叩き込んでいる。

 

『…‥おいエーリ。』

 

「なに!」

 

エーリの様子を見ていたアンクが、エーリに話しかけてくる。エーリは技を出しているまま、アンクに応答する。

 

『お前、大丈夫なのか?』

 

「なにが!」

 

『話をしてる時くらいやめられねえのかテメェは!!』

 

アンクが怒鳴ってきたため、エーリはトレーニングをやめ、首にかけているタオルで汗を拭く。

 

「ふう…それで、大丈夫って?」

 

『コウガミから聞いたろ? お前は狂気の天才と謳われた犯罪者、ジェイル・スカリエッティが

 造り出した魔王のクローンなんだぞ? その事実を聞いて、大丈夫なのかって聞いてんだ。』

 

「なんで?」

 

『なんでってお前‥‥。』

 

アンクには理解不能だった。親はとんでもない犯罪者ですなんて事実を子供が聞けば、普通じゃいられなくなるのが当たり前だ。だというのに、エーリからはそんな気配が見受けられない。

 

「だってあたし、テレビや新聞で見るだけで、実際の父さんがどんな人なのか知らないし、

 父さんが犯罪者だからって落ち込まなきゃいけないなんてルールないんでしょ?」

 

正論ではあるのだが、普通はそんな考えには至らないだろうとアンクは思った。

 

「それに、そんなこと考えてる暇があったら、特訓なり勉強なりしたいよ。あたしは今、

 やりたいことが山ほどあるんだからね。」

 

そう言ってエーリは二パッと笑う。

 

『…‥あのなあ。』

 

「それにさアンク、あなたの相棒がこんな女の子じゃいや? 辛いことの一つや二つ

 どうにかしろとか無茶ぶりしそうな性格の癖に、以外と優しいんだね♪」

 

そう言ってクスクスと笑いながらアンクをからかうエーリ。アンクはそんなエーリにイラッとした。機械であるはずのアンクがだ。

 

『言ってくれるな! だったら今後、お前が挫折しても慰めてやんねーぞ!』

 

「いーもーん! あたし、落ち込んでもすぐ立ち直る方だしぃ!」

 

これも笑いながら受け止めるエーリ。第三者から見れば、子供同士のけんかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日を終え、自室に戻るエーリとアンク。エーリはベッドに座り、今回自分が変身した際の映像を確認している。

 

「…‥やっぱりだ。」

 

映像を見て、エーリは顎に手を当てる。変身している自分の姿は、かなり風変りである。胸部と腕の部分は黄色、腰から足先までが緑、そして何より、灰色の髪と紫の瞳だった自分の顔は、赤い髪と緑の瞳という状態になっていた。普通では絶対に見られない現象である。

 

「ユニゾンっていうのかな? 融合すると髪とか目の色変わるらしいし。」

 

『そりゃユニゾンデバイスの話だろ? 俺はインテリジェンスだが?』

 

「う~ん、近いうちおじさんに聞いとこ。」

 

エーリはそう言って映像を閉じ、ベッドに寝転がる。そんなエーリに、アンクは質問する。

 

『そういやエーリ、お前体格は変えないのか? 魔法で大人になればいろいろ都合がいいと

 いうらしいが?』

 

「なんでかわからないけどあたし、魔法使っても大人になれないんだよね。体質なのかな?

 まれにそういう子もいるらしいし。」

 

『そうか。』

 

別に珍しいわけでもないためか、アンクはそれ以上追及しなかった、それからしばらくして、エーリはアンクにこんなことを言ってくる。

 

「‥‥アンクって名前さ、オーズのパートナーの名前なんだって?」

 

『コウガミから聞いたのか?』

 

「うん、ワケあってお別れしちゃってるみたいだけど、オーズの人は絶対にまた会うって

 決めてるらしいんだ。」

 

『なぜそんな話をする?』

 

「別れた人の名前を愛称にしちゃったから、嫌われないかなって。」

 

『馬鹿だろお前。』

 

「馬鹿って言われた! 会って間もないデバイスに馬鹿って言われた!」

 

この際、エーリの事は無視しようと思うアンクだった。すぐに立ち直るだろうと思ったからだ。案の定、エーリはすぐ立ち直った。

 

『安心しろ、お前がぶっ壊れない限り、俺様がお前を使ってやる。デバイスはマスターを

 心配する奴が多いらしいが、俺はお前に遠慮なんざさせないからな。』

 

「勿論! あたし、たとえ壊れてもすぐ直っちゃう女の子だからね! アンクこそ、

 あたしの全力でオーバーヒートなんてしないでね!」

 

『俺は最新のデバイスだ。簡単にオーバーヒートしてたまるか。お前は多くの奴と戦いたい。

 俺はデータを集めてバージョンアップがしたい。これ以上の好条件はないだろうぜ。』

 

そう言って鼻を鳴らすアンク。二人の契約は、今なされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし一人と一機は知らない。この先、とんでもない曲者たちに出会うことなど。



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カウント3

ようやく原作キャラ登場です。


エーリが誕生日プレゼントとしてデバイスであるアンクを授かった翌日。この日は休日のため、ラフな私服をしたエーリは、リュックを担いでアンクとともに街に出かけていた。

 

「ん~いい天気。より一層いろんなことに集中できそうだよ。」

 

『お前に不調な日などないと思うがな。』

 

褒めているのか蔑んでいるのかわからないアンクの発言だが、エーリは全然気にしていない。ふんふーんと鼻歌を歌いながら、ゲームセンターの中に入る。

 

『一企業のお嬢様がゲームとはな。』

 

「別にいいでしょ? あたしだってゲームしたいときぐらいあるよ。見てて。」

 

エーリが真っ先に目を付けたのは、ガンシューティングゲームだ。始めるやいなや、エーリは標的を正確に、そして素早く撃ち抜いていく。

 

『ほう、うまいもんじゃねえか。』

 

「へへーん、よくやってるからね。それに実戦でも、遠距離からの砲撃に対応できるから

 結構重要なんだよね、このゲーム。」

 

『(なるほどな…この小娘、娯楽でも戦いのヒントを見出すタイプか。面白い。)』

 

「おっと、まだまだあるよ。」

 

シューティングゲームを終えたエーリが次に向かうのは、クレーンゲームだ。

 

『まさかとは思うが、これも実戦に役立つとかいうんじゃねえだろうな?』

 

「少しは役に立つよ? ほら、あのフィギュア入りの箱。」

 

言いながらエーリは、フィギュアが入っている四角い箱にクレーンを動かす。上に上がる際、爪先は箱を滑らかに滑っていくが、開け口の隙間に引っ掛かり、景品の獲得に成功する。

 

『何かと思えば、運がいいだけだろ。』

 

「え~、そうでもないよ? 確かに運も絡むけど、配置してある箱の位置、クレーンを止める

 位置、排出口までの距離とか、いろいろ考えないとなかなか取れないんだ。これは実戦で、

 相手との距離の間にどんなことをしようかって考える時間とかも関わってくるから。」

 

遊んでいるはずなのに、なぜか遊んでいる感じではないと、アンクは思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後になりエーリは、中央四区にある公民館にやってくる。

 

「ここは格闘技、ストライクアーツの練習場になってるんだ。一応おじさんの会社にも

 特訓場はあるんだけど、ここはより格闘技に集中してる人が集まるから、偶に特訓で

 来るんだ。」

 

『強い奴とのスパーリングができるってことか。』

 

「そゆこと。」

 

公民館の脱衣所に入り、スポーツウェアに着替え、練習用グローブを付けたエーリは、練習場に出る。中は広く、いくつかのトレーニング器具やランニングスペース等もあるため、快適と言える。

 

「あれ、もしかしてエーリ?」

 

エーリの元へ駆け寄ってきたのは、エーリと同い年に見える三人の少女。話しかけた来たのは、三人のうちの一人である虹彩異色の目をした金髪の少女である。

 

「あっ、ヴィヴィオ、コロナ、リオ。」

 

「エーリも練習しに来たの?」

 

「うん、まあね。」

 

エーリは笑顔で、ヴィヴィオの質問に応答する。

 

『エーリ、こいつらは?』

 

「あたしの学校の同級生。虹彩異色の子がヴィヴィオ、おさげの子がコロナ、八重歯の子がリオ。

 いつも三人でいるんだ。」

 

「ねえエーリ、それってもしかしてデバイス? 個性的だね。」

 

「うん、誕生日におじさんからもらったの。アンクっていうんだ。アンク、挨拶して。」

 

『ふん、精々よろしくな。戦うんならこのバカマスターと渡り合うくらいには

 強くなってくれよ?』

 

「馬鹿は余計!」

 

エーリとアンクの漫才じみた会話に、ヴィヴィオ達三人娘は苦笑する。

 

「なんだ、お前らの知り合いか?」

 

四人の元へ、赤毛の女性が二人歩いてくる。

 

「はい、ノーヴェさん。エーリ、この人は私達の格闘技の先生でノーヴェさん。髪を

 まとめてるもう一人の人が、ヴィヴィオの友達のウェンディさん。」

 

「先生はやめろって、コロナ!」

 

先生呼ばわりが苦手なのか、ノーヴェがコロナに注意を促す。

 

「初めまして、ノーヴェさんにウェンディさん。あたし、エーリ・コウガミっていいます!」

 

「よろしくっス!」

 

「よろしくな。ヴィヴィオから評判は聞いてるぜ。結構腕の立つお嬢さんなんだってな?」

 

「ヴィヴィオそんなこと言ってたの!?」

 

「えへへ、だってエーリって組手強いから。」

 

エーリが顔を赤くし、ヴィヴィオは微笑して頬を掻く。アンクも、エーリの恥ずかしげな表情を見れて満足している。証拠に目が弧を描いている。

 

「じゃあよヴィヴィオ、あたしとの組手の前にさ、エーリと軽くスパーリング頼めるか?」

 

「わたしはいいけど、エーリは?」

 

「あたしもいいよ。代わりにヴィヴィオとノーヴェさんの組手、見学させてね。」

 

交渉成立し、小学生四人はさっそくスパーリングに入る。お互いスパーリングしているリオとコロナは、ヴィヴィオとエーリの方を時々見る。

 

「改めてみると、ヴィヴィオもエーリもすごいよね。運動も勉強もできて。」

 

「うん、案外似た者同士なのかも。」

 

ノーヴェやウェンディも、二人のスパーリングを見て感心している。

 

「ヴィヴィオ達三人もそうっスけど、エーリもなかなかいっちょ前っスね。」

 

「ああ、結構筋がいい。対戦では厄介な相手になりそうだな。」

 

ヴィヴィオとエーリの二人も、スパーリングしながら会話している。

 

「ヴィヴィオはさ、やりたいこと見つかった?」

 

「全然。何したいのか、何ができるのかわからないから、色々やってみるの。エーリは?」

 

「いろいろあり過ぎる! だから今は、一番やりたいことを決めてる最中!」

 

「そっか!」

 

エーリが蹴りを繰り出し、ヴィヴィオが拳でそれをバシッと受け止める。

 

「今年はヴィヴィオも出るんでしょ、DSAA? あたしも出るんだ。」

 

「お互い今年で10歳だからね。その時はライバルだね。」

 

「うん。対戦することになったら、絶対に負けないよ!」

 

「こっちこそ!」

 

二人はニッと笑いながら、先ほどより強めのスパーリングを行う。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

それからしばらくして、ヴィヴィオとノーヴェの本格的な組手が行われた。ヴィヴィオのウサギ型デバイスであるセイクリッド・ハート(愛称クリス)と変身した大人モードのヴィヴィオとノーヴェの組手は、周囲の人間を集めてしまうほどに迫力あるものだった。

 

「二人ともやるっスね~。」

 

「凄いです! 衝突で起こった風がこっちまで飛んできて…‥!」

 

『感心してる場合かエーリ。今後はお前があんな試合を何度もやる羽目になるんだぞ?』

 

「そんなこと言ったって、凄いものは凄いもん!」

 

アンクが注意しても、エーリは目を輝かせるばかりである。アンクは呆れていた。

 

「なあ聞いたか? 例の傷害事件の話。」

 

「あれだろ? 妙な女が実力ある奴に喧嘩吹っかけてるって噂。」

 

「これも噂なんだがな、そいつ『覇王』って名乗ってるらしいぜ?」

 

「なんだそりゃ、変な奴だな。まあ噂だから気にしちゃいねえが、一応帰りは気を付けとくか。」

 

「はは、本当だとしてもまだまだ弱っちい俺らじゃ相手にされねえって。」

 

エーリたちの近くで、二人の男性がそんな会話をしていた。

 

『‥‥‥‥。』

 

アンクはその二人の会話を聞き、なぜか半目になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方ごろだろうか、ヴィヴィオ達より早く練習を終えたエーリは、背伸びしながら公民館を出る。

 

「さてと、コンビニで軽い食べ物でも買って帰ろうかな。」

 

『おいエーリ、少しいいか?』

 

近くに誰もいないのを確認したアンクは、エーリに話しかける。

 

「なに、アンク?」

 

『お前、最近起こってる傷害事件の事はわかるか?』

 

「なんか、噂になってたよね。強い人が襲われてるみたいな。」

 

『‥‥‥‥。』

 

「アンク?」

 

『エーリ、今からコウガミに少し遅れて帰ると連絡しろ。』

 

「えっ、どうしたのいきなり?」

 

わけがわからないエーリは、その意味をアンクに問いただす。そしてアンクから出てきた答えは、衝撃的なものだった。

 

『…‥今夜、その襲撃者とタイマンを張るぞ。』



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カウント4

空が暗くなり、街灯の明かりがつき始めたころ、エーリはアンクを連れて、公園のランニングコースを歩いていた。アンクがエーリに、噂に出てきた襲撃犯との接触を提案したためである。

 

「でもさアンク、なんでいきなりタイマン張ろうなんて言い出したの?」

 

『噂されてるやつはなんでも「覇王」とか名乗ってるみてぇだからな。あんときコウガミも

 言ってたろ? お前の他にも王族の関係者がいるとか何とか。捕まえてとっちめれば、

 魔王の事に関してもっとわかるだろうと思ってな。』

 

「本とかで調べればいいのに? まあ、あたしは魔王の事とか気にしてないから

 読んでないけど。」

 

『加えて、腕の立つ奴を倒すほどの実力だ。戦えばいいデータが取れる。』

 

「明らかにそっち本命だよね!?」

 

明らかにデバイス側にメリットが行っていることに気が付いたエーリは、アンクにビシッとツッコミを入れる。アンクは気にせず、辺りを見回す。

 

『お前だって気にならないわけじゃないだろう、そいつの事? 欲望まみれのお前としちゃ、

 戦いたいって気持ちもあるんじゃねぇのか?』

 

「そりゃあ、ないわけじゃないよ? でもさ、襲われてるのって大体筋肉ムキムキの

 マッスルマンとか不良とかそういった強そうってイメージの人でしょ? 見た目が

 ちんまい小学生のあたしなんかが狙われるのかなぁ? 別に大会とか出てる訳じゃ

 ないんだし‥‥‥。」

 

そう言って、大人モードになれない自分の体を確かめるエーリ。競技に出るために修練をしてきたのは事実ではあるが、それでも低い背に幼い顔立ち、魅力的とは言い難い体つきは強者という雰囲気を出せなかった。自分も早く大人になりたいと、こういった瞬間はエーリは偶に思うのである。

 

「------鴻上コーポレーション御令嬢、エーリ・コウガミさんとお見受けします。」

 

「?」

 

後方から声が聞こえ、エーリは振り向く。振り向いた先にあった街灯の頭に、バイザーを付け、バリアジャケットを纏った女性が立っていたのだ。女性は高く飛び、華麗に着地する。

 

「あなたにいくつか伺いたいことと…‥確かめたいことが。」

 

「あの…‥あなたは?」

 

『質問するなら顔見せすんのが礼儀ってもんじゃねえのか?』

 

デバイスなのによくそんな強気に出られるな‥‥とエーリは思ったが、女性は了承したのか、すぐにバイザーを外して素顔を見せる。薄い緑のつやのある髪をなびかせ、その瞳は赤と緑のヴィヴィオとは違う青と紫の虹彩異色をしていた。

 

「(ふぁっ…‥綺麗な人。)」

 

「カイザーアーツ正統、ハイディ・E(アインハルト)・S(ストラトス)・イングヴァルト。

 『覇王』を名乗らせていただいております。」

 

『はっ、見ろよエーリ! 本当に噂の覇王様のお出ましだぜ!』

 

「え‥‥ええ!? 貴方が噂されてた通り魔さん!?」

 

「否定はしません。伺いたいのは『王』達についてです。聖王オリヴィエのクローンと、

 冥府の炎王イクスヴェリア…‥これらについて知っている事は?」

 

アインハルトに言われても、エーリには何のことかさっぱりである。無駄だとは思うが、アンクの方を向いてみる。答えは案の定だ。

 

『俺が知るかよ。まあ、これで過去の王様に関係あるってことは分かった。』

 

「…‥ごめんなさい。あたし、その人たちの事、全然知らないんです。」

 

「理解できました、その件は他を当たるとします。ではもう一つ、確かめたいことは‥‥。」

 

瞬間アインハルトは、拳に力を入れ、スッと胸元に当てる。

 

「【魔王デサイア】のクローンであるあなたの拳と私の拳、どちらが強いかをです。」

 

瞬間、エーリは理解する。彼女は、自分との戦いを求めているのだという事を。

 

『ふん、願ってもないことだ! やるぞエーリ!』

 

「うん! セットアップ!」

 

エーリはアンクを掲げて変身。アンバランスな配色のバリアジャケットを身にまとい、グッと足に力を籠める。

 

「あたしからもいいですか? なんで強い人に喧嘩を吹っ掛けるようなことしてるんです?」

 

「強さを知りたいんです。」

 

アインハルトはそれだけ言うと、目にもとまらぬ速さでエーリに接近し、拳を突き出す。

 

「突撃(チャージ)!?」

 

エーリは驚きながらも、力を籠めていた足で高くジャンプ。回転して足に力を籠め、かかと落としの体勢で、アインハルトに向けて落ちる。アインハルトもそれを回避、後方に移動したかと思えば、再び接近して拳を突き出す。エーリはそれを擦れ擦れで躱し、カウンターとばかりにアインハルトに拳を突き出すも、アインハルトはそれを顔を横にずらすことで躱し、膝蹴りをエーリの腹に叩き込む。

 

「かっは‥‥!」

 

体格差が影響したのか、エーリの小さな体は後方に大きく飛ばされる、足に力を入れて摩擦を起こすことで、飛ばされる距離はだいぶ縮まったが。

 

「列強の王達を全て斃し、ベルカの天地に覇を成す。それが私の成すべきことです。」

 

「ベル、カ‥‥?」

 

アインハルトが言っていることが分からないエーリは、息を荒くしながらも首をかしげる。そうしている間に、アインハルトは再び迫る。

 

『エーリ、ちょっと調整するぞ!』

 

「えっ!」

 

瞬間、アインハルトの拳が迫る。直前にアンクが何を言ったため、混乱しているエーリは、ままよとばかりに頭を下に向けて躱し、距離をとるために後方に走り出す…‥先ほどよりも明らかにすさまじいスピードで。

 

「なっ…‥!」

 

アインハルトは驚く。別段、エーリが足に力を込めていたわけでもない。だというのに、エーリは先ほど以上の速さで躱して見せたのだ。それだけではない。自分のジャケットの腰部分に、ピッと切り込みが入っているのもわかった。

 

「配色‥‥変わってる?」

 

しかし、エーリも驚いていた。自らのジャケットの色が、黄緑の腕と黄色の脚部に変わっていたからだ。細部も変わっており、腕には小さくはあるが刃が付いており、足は横幅が縮まっている感じがした。

 

『形を変えて使う筋肉の量を調整したんだ。ありがたく思え。』

 

「(あ、ありがとう。)」

 

多少の混乱はあるものの、エーリはアンクに礼を言い、アインハルトに接近。先ほどより軽くなった腕を、アインハルトに向けて何度も振るう。アインハルトもそれらを躱し、カウンターに蹴りを放つも、瞬時にエーリが突き出した足で防がれる。

 

「(アンク、元の色にもどして! 早く!)」

 

『…‥何を考えてるか知らねえが、わーったよ。』

 

アンクがそう言った直後にエーリはジャンプ。腕と足のジャケットの色が戻り、エーリはアインハルトに向けて蹴りを放ち、それはアインハルトの腹部にヒット。

 

「(ジャンプする時と同様、足に目一杯力を籠める!)」

 

エーリの力がこもった足の威力はアインハルトに伝わり、アインハルトは吹き飛ばされる。エーリも反動で飛ばされるが、空中でくるくると回転した後、綺麗に着地する。

 

『ほお、中々イカしたやり方すんじゃねえか。』

 

「(ありがとうアンク。)‥‥アインハルトさんがどんな思いで戦ってるのかわからないけど、

 あたしは過ぎちゃったことをうだうだ考えるよりも、これから先を楽しみたいって思う。」

 

膝をついたアインハルトにエーリは笑顔でそう伝えるが、アインハルトは立ち上がって告げる。

 

「‥‥‥終わってないんです。私にとっては、まだ何も。」

 

そう言って構えをとったアインハルトに対して、エーリも構えをとろうとするが、瞬間自分の足と体に、光の鎖が巻きつく。

 

「(バ‥‥バインド!?)」

 

「覇王、断・空・拳!」

 

アインハルトがエーリの腹部に放った強烈な一撃。体が小さいことに加え、防御も取れなかったエーリには、必殺の牙となりえた。バインドは解除されたものの、エーリの意識が朦朧とし、今にも視界が暗転しそうである。

 

「弱さは罪です。弱い拳では…誰の事も守れないから。」

 

勝利を確信したのか、アインハルトはその場から去ろうとする。しかしエーリは、朦朧とする意識の中ですら負けたくないという意志を見出し、自然と足に力が入る。そして最後の力を振り絞って足に力を籠め、低位置に飛び、そのまま腕を突き出す。

 

「!!?」

 

アインハルトがそれに気付き防御をとろうとするも…遅い。エーリの拳はアインハルトの腹部にクリーンヒット。吹き飛ばされたアインハルトの背中は街灯の柱に叩きつけられ、その街灯がゆがむ。エーリはそのまま力を使い果たし、バタンと倒れこむ。

 

「(意識がなくなる寸前でありながらあの一撃…‥凄まじかった…!)」

 

アインハルトはよろよろと立ち上がり、エーリを見据える。そしてその場を去ろうとした瞬間、アインハルトはすさまじい脱力感に見舞われる。

 

「(ダメ、こんなところで倒れたら‥‥。)」

 

頭ではそう考えても、体は言うことを聞かない。アインハルトはバタンと倒れ、そのまま意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、ナカジマです。ノーヴェ、どうかした?』

 

「悪いスバル、ちょっと頼まれてくれねえか?」

 

『どうしたの?』

 

「いや、公園にガキが二人気ぃ失って倒れてるのを見つけてな。」

 

『えぇっ!?』

 

「一人は知らねえが、もう一人は今日知り合ったばっかの、いいとこのお嬢様だよ。」

 

ノーヴェがそう言って向けた視線の先には、体の小さい灰色の髪の女子と薄い緑の髪の女子が倒れていた。



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カウント5

太陽の光が、眠っているエーリを包み込む。エーリはつむっている目をピクピクと小さく動かした後、ゆっくりと開ける。最初に見たのは天井だ。

 

「ここは…‥?」

 

エーリは上半身を起こし、辺りを確認する。最後にエーリがいたのは、アインハルトと戦った夜の公園だった。しかし今いるのは、自分の部屋とは違う別の部屋だ。加えて今のエーリは、私服ではなく少々ブカブカな寝着らしいシンプルなシャツとズボンだった。

 

『よおエーリ、起きたな。』

 

聞きなれた声の方を向いてみると、アンクが浮いてエーリに近づいてくるのが分かった。

 

「アンク‥‥ここってどこ?」

 

『あんときお前と覇王様は相打ちしてな。気絶してたところを昨日会った三人娘のコーチが

 見つけて連れてきたんだよ。』

 

「ノーヴェさんが? じゃあここって‥‥ノーヴェさんの家?」

 

「あっ、起きた?」

 

エーリが首をかしげていると部屋の扉が開き、ノーヴェによく似た青い髪の女性がエプロン姿で入ってくる。

 

「おはよう。エーリ・コウガミさん‥‥で、いいよね? 痛いところとかない?」

 

「は、はい。大丈夫です。」

 

本当はまだ少しだるさが残っているが、大したものでもないため言わないことにした。

 

「ならよかった。あ、荷物はそこに置いてあるから。」

 

女性が指差したエーリの横のデスクには、昨日の自分の服やリュックが置いてあった。

 

「起きれるかな? いろいろと話したいこともあるし。」

 

「はい、分かりました。」

 

エーリは起き上がると、アンクとともに女性に付いていく。階段を降り、リビングと思われる広い部屋に入る。

 

「よっ、エーリ。おはようさん。」

 

「スバル、とエーリさんだよね? おはよう。」

 

「‥‥‥‥。」

 

リビングのテーブルにはノーヴェと初めて見るオレンジのロングヘアの女性、そして体が縮んではいるが、昨日戦ったアインハルトと思われる少女が座っていた。

 

「あの人って‥‥アインハルトさん?」

 

『ああ、俺もあの姿になるのを見たぜ。大方魔法で偽ってたんだろうな。』

 

「空いてる席に座ってて。今朝ご飯持ってくるから。」

 

「はい。なんか、ごめんなさい。」

 

エーリが苦笑しながら謝り、空いている椅子に座る。瞬間ノーヴェが「んで」っと一拍置いてから、アインハルトとエーリに目を向ける。

 

「お前らあの公園で、随分と派手にやらかしたみてーだな?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「‥‥否定はしません。」

 

ニヤつきながら問いかけてくるノーヴェに対して、二人は複雑な表情になる。そしてエーリがこの家に厄介になることになった主な原因であるアンクは、知らんぷりしているかのようにそっぽを向いていた。

 

「まあいろいろ事情があるみたいだからさ、朝ごはんでも食べながら話そうよ。」

 

スバルがそう言って、ベーコンエッグやら野菜スープやらが乗ったプレートを持ってくる。

 

「んじゃ、一応説明しとくと、ここはあたしの姉貴であるスバルの家。で、姉貴の親友で

 本局執務官のティアナ・ランスター。」

 

「よろしくね。」

 

オレンジヘアーの女性、ティアナは優しい表情で挨拶する。

 

「スバルはあたしと一緒にお前らを保護、ティアナはエーリの保護者に連絡入れてくれたんだ。

 お前ら感謝しろよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

エーリが元気に、アインハルトが静かにスバルとティアナに一礼する。

 

「それで、格闘家連続襲撃犯がアインハルトさんなのは本当?」

 

「…‥‥はい。」

 

「理由を聞かせてもらっていいかな?」

 

ティアナの質問にアインハルトは渋るが、代わりにアンクが答える。

 

『こいつベルカとか何とかの戦いがまだ終わってないとか言い出してよ。自分の強さを

 知るために王様関連のエーリに手合わせしてきたんだよ。聖王だの炎王だの知らねえ

 事まで聞いてきやがってからに。』

 

「アンク!!」

 

言い方が悪いと判断したのか、エーリがアンクに対して声を荒げる。それを聞いたノーヴェが、先ほどより真面目な表情で、アインハルトに目を向ける。

 

「本当なのか?」

 

「‥‥間違ってはいません。」

 

「あたしはその王に関係してるやつとは知り合いでな。だけど、みんな普通の人間として

 暮らしてる。ベルカって国も戦争も、もう滅んでる。」

 

「‥‥‥‥。」

 

「お前の望みは、王達を倒すことなのか?」

 

「少し違います。古代ベルカのどの王よりも、覇王のこの身が強くあること。それを

 証明できればいいんです。」

 

「じゃあ、聖王家や冥王家を滅ぼしたいわけじゃないんだね?」

 

「はい。」

 

「ならよかった。」

 

アインハルトの答えに、スバルは安心したかのように笑みを浮かべる。その表情が不思議なのか、アインハルトもエーリも、呆然となる。

 

「スバルはね、その二人となかよしだから。」

 

「そうなの。あ、ご飯冷めちゃうからよかったら食べて。」

 

「はい。」

 

「ありがとうございます!」

 

アインハルトもエーリも手を合わせ、スバルの朝食をいただく。食べている最中、ティアナがこんなことを言いだしてきた。

 

「アインハルトさん、後で近くの署に行きましょ。被害届は出てないみたいだし、

 もう路上で喧嘩しないって約束してくれればすぐに帰してくれるはずだから。」

 

「あ、ティアナさん。あたしも同行していいですか?」

 

「エーリも? どうして?」

 

「実は、襲撃犯の噂を聞いて興味持っちゃって、それで半分会いたいって気持ちで公園を

 歩いてたんです。だから結果的にはおびき寄せちゃった形なんです。ですから、それに

 関して、謝らなきゃって思って。」

 

「アンクもいいよね?」とエーリがアンクにいい、アンクも『勝手にしろ』で済ませる。それに対してノーヴェが、呆れるように溜息を吐く。

 

「ったくお前は‥‥じゃあ、今回は喧嘩両成敗ってことにしてもらおう。あたしも行くよ。

 二人はそれでいいよな?」

 

ノーヴェに言われ、エーリとアインハルトはうなづく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湾岸第六警防所

 

事情聴取後、エーリは腕を伸ばしながら、アンクとともに待合室のベンチに座っていた。

 

「よう。お疲れさん。」

 

そこへ二本の缶ジュースを持ったノーヴェが、笑いながらエーリの隣に座る。そして一本をエーリに差し出し、エーリがそれをお礼を言って受け取る。

 

「気を付けろよな。子供が興味本位で首突っ込むような事案じゃねえんだ。」

 

「ごめんなさい‥‥そういえば、アインハルトさんは?」

 

「まだ取り調べ中。お前の前にも何回かやってるからな。ま、あいつもすぐ終わるって。」

 

「よかった。」

 

エーリが安堵の息を吐く。自分の方がよっぽど被害者だというのに、不思議な奴だとノーヴェは感じる。

 

「もうすぐ解放だろうけど、学校はどうする? 今日は休むか?」

 

「いえ、大丈夫なので行きます。制服とバッグを持ってきてくれるよう、家にも連絡を

 入れておいたんで。」

 

「用意周到なこって。」

 

ノーヴェは苦笑しながら、缶ジュースを口にする。

 

「そういえば、お前ベルカの王様の関係者なんだろ?」

 

「はい。ベルカは知りませんでしたけど、魔王の遺伝子を受け継いでいるとか何とか、うちの

 おじさんが言ってました。」

 

「…‥魔王だって?」

 

「はい。」

 

エーリも缶ジュースを飲みながら答える。ノーヴェは飲み口を放した後、何か思い詰めているような表情になり、再びエーリの方を向く。

 

「‥‥なあエーリ。」

 

「なんです?」

 

「お前ジェイル・スカリエッティが造り出したクローンなんじゃないのか?」

 

ノーヴェの衝撃的な問いかけに、エーリはゴホゴホと咳き込み、叫ぼうとするもここが警防所なのを思い出し、ふうっと落ち着いてから口を開く。

 

「な、なんで知ってるんですか? そうです、あたしが魔王の遺伝子情報を元に生まれて

 それをおじさんが引き取ったって。」

 

「やっぱりな。実を言うとさ、お前を生み出したドクターは一応はあたしらの親父みたいな

 もんなんだ。今は留置所にいるけど、面会に行ったときドクターが当時の管理局上層部の

 依頼で製作して、それを豪快な人物が引き取らせてほしいって言ってきたから渡したって

 言ってきてさ。半年ほど前の話だ。」

 

『…‥ぜってぇうちのバ会長だな。』

 

「おじさんだよね‥‥それで、皆さんは驚かなかったんですか?」

 

「驚いたに決まってるだろ。留置所に入って三年半目だぞ? 今になって言ってきてあたしも

 あたしの家族や知り合いも大慌てだったよ。しかもその引き取り先を忘れてしまったから

 探しようがね~し‥‥ったく、あの人は。」

 

ノーヴェはジェイルに呆れるように、額に手を当てる。そんなノーヴェを見て、エーリは苦笑する。そんな時、アンクの目が一瞬光る。

 

『おいエーリ、連絡だ。迎えが入り口で待ってるってよ。』

 

「分かった。じゃあノーヴェさん、色々ありがとうございました。」

 

「あ、待ってくれエーリ。」

 

エーリはノーヴェに礼を言い、出入り口に向かおうとするが、ノーヴェが待ったをかける。

 

「どうしました?」

 

「今日の放課後さ、時間あるか?」

 

「? 大事と言えるような用事はないですけど?」

 

「ならさ、あたしの知り合いに、お前の事を紹介させてくんねえか? ここでちゃんと

 やっとかないと、後々面倒くさいことになりそうなんだ。それに、王の末裔でも今は

 普通に生きてるなんて言っちまったが、お前やアインハルトもお互いを知っておいた

 方がいいと思う。すっきりできることはさせた方がいいし。…‥駄目か?」

 

ノーヴェは頬を掻きながら、申し訳なさそうな表情で問うてくる。最初はキョトンとした表情のエーリだったが、

 

「はい、いいですよ。あたしも知りたいですし。」

 

と、満面の笑みで返答し、出入り口へと向かう。途中、スバルやティアナにも挨拶しながら。

 

「‥‥‥問題は、ヴィヴィオになんて言うかだよなぁ‥‥。」

 

ヴィヴィオの事をよく知るノーヴェは、再び頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お迎えあっりがと~う、ゴトウさん♪」

 

迎えのリムジンの後部座席に飛び込むエーリ。運転席には、ゴトウと呼ばれた見た目二十代前半の黒髪の青年が困り顔で溜息を吐く。

 

「‥‥‥お嬢様、あなたは鴻上コーポレーションのご令嬢なのですよ? いくら会長の懐が異常に

 広いとはいえ、襲撃犯の喧嘩を買うなどと度が過ぎた行動は控えていただきたい。」

 

「はーい!」

 

本当に反省しているかどうかわからないエーリの返答の仕方に、ゴトウもたじたじである。

 

「そうだゴトウさん。今日の放課後、用事ができたから少し遅くなるっておじさんに

 言っといて。」

 

「それは昨日も言ったことのはずですよ。また危険なことをするつもりではないんですか?」

 

「しないしない。ちょっと友達と会うだけだからさ。」

 

「…‥‥制服と鞄はそちらにございますので。」

 

「ありがとうゴトウさん。着替えなくっちゃ。」

 

「着替えるのは学校についてからにしてください!!」

 

ゴトウのそんな叫びとともに、リムジンは警防所を後にする。



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カウント6

古代ベルカ諸王時代

それは天下統一を目指した諸国の王による戦いの歴史。

『聖王女』オリヴィエや『覇王』イングヴァルト、『魔王女』デサイアも、そんな時代を生きた王族である。

いずれ優れた王とされる彼らの関係は、現代の歴史研究においても明確になっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドの街中にある喫茶店には、待ち合わせとして指定してきたノーヴェ、そしてスバルやティアナが同席していた。

 

「二人とも休日だろ? 別に付き合わなくたっていいのに…‥。」

 

「まあアインハルトやエーリのこと、気になるからね。」

 

「そうそう♪」

 

「‥‥それはそれでありがたいとしてだ、問題は…‥。」

 

ノーヴェは勢いよく立ち上がり、自分の後ろの席に座っている五人組の方に振り向く。

 

「なんでお前らまでそろってんのかってことだ! 呼んだのチンク姉だけだぞ!」

 

そうツッコミを入れるノーヴェ。一人目はウェンディ。二人目はリボンを後ろに結んでいるナカジマ家のディエチ。三人目はディエチに似ているボーイッシュな女性、オットー。四人目はカチューシャをしているロングの女性、ディード。そして五人目は先程ノーヴェに呼ばれた、白髪に眼帯をしている五人の中で一番小柄な女性、チンク。みな、ノーヴェと同じジェイルによって生み出された姉妹たちである。

 

「別にいいじゃないッスか。」

 

「時代を超えた聖王と覇王の出逢いなんてロマンチックだよ。」

 

「それに私達がもう一人の陛下と呼ぶべき魔王の御方も気になりますしね。」

 

「後は陛下の護衛もね。」

 

「すまんなノーヴェ、姉も一応止めたのだが…。」

 

四人が各々理由を述べ、チンクが申し訳なさそうに謝る。ノーヴェは頭に手を当て、はあっと溜息を吐く。

 

「見学自体は構わねえけど、余計なチャチャ入れんなよ? あいつらお前らと違って色々と

 繊細なんだからよ。」

 

その忠告に、チンクを除いた四人は本当にわかっているのかわからない顔でうなづく。

 

「ノーヴェ、みんな。」

 

そんな彼女らの元へ、ヴィヴィオがクリス、コロナやリオを連れてやってくる。

 

「悪ィな、やかましくて。」

 

「全然。それで、紹介したい子って? 後、エーリも。」

 

「二人とももうすぐ来るよ。」

 

「そっか。ねえ、紹介してくれる子ってどんな子なの?」

 

「お前の学校の中等部一年。流派は‥‥旧ベルカ式の古代武術だな。お前と同じ虹彩異色。」

 

「本当!?」

 

「おまたせ~!」

 

元気な声とともに、エーリがアンクを連れてやってくる。瞬間オットーとディードがエーリの前に立ち、片膝をついて頭を下げる。

 

「お初にお目にかかります、魔王陛下。私、聖王陛下に仕えておりますディードと申します。」

 

「同じく、オットー。」

 

「こ、こんにちは‥‥。」

 

突然の事に、エーリは目を丸くする。直後、ノーヴェが片膝をついている二人の後ろに立ち、服の襟をつかむ。

 

「余計なチャチャ入れんなっつったばかりだろうが。」

 

二人を引きずっていくノーヴェを見て呆然となるエーリに、ヴィヴィオは駆け寄る。

 

「ごめんねエーリ、二人が変なことしちゃって。」

 

「ううん、気にしてないよ。ヴィヴィオの知り合いって、みんな面白いよね。」

 

そんな会話をしながら、二人が笑っていると、

 

「失礼します。ノーヴェさん、皆さん。アインハルト・ストラトス、参りました。」

 

制服姿のアインハルトが、鞄を下げてやってくる。そんな彼女に、ヴィヴィオは頭を下げる。

 

「初めまして。ミッド式のストライクアーツをやってます、高町ヴィヴィオです。」

 

「…‥ベルカ式古流武術、アインハルト・ストラトスです。」

 

ヴィヴィオは笑顔で、アインハルトは少し物悲しげな表情で握手する。アインハルトの異変にヴィヴィオやエーリが気付くが、ハッとなったアインハルトが頭を下げる。

 

「あの、改めて自己紹介させてください。基本ミッド式ストライクアーツでやらせていただいて

 います、エーリ・コウガミです!」

 

そう言ってエーリが手を伸ばす。アインハルトは伸ばされた手を数秒見た後、ゆっくりと握る。

 

「まあお前ら格闘技者同士だし、ごちゃごちゃ話すより手合わせした方が早いだろ? 場所は

 抑えてあるから、行こうぜ。」

 

ノーヴェがそう言って、親指でその場所があると思われる方向を指さす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諸王戦乱の時代、武技において『最強』と『最凶』を誇った背中合わせの二人の王女が存在した。

後に【最後のゆりかごの聖王】と言われるオリヴィエ・ゼーゲブレヒト

後に【終焉を呼ぶ蹂躙の魔王】と言われるデサイア・エイリス

それらの王と共に生きた覇王であるイングヴァルトは、彼女らに勝利することができなかった。

アインハルトはその記憶を資質や流派、流れる血とともに受け継いでいる。それは現代に生まれたはずのアインハルトにとっての後悔であり、覇を以って天地に和を成す彼の目標を達成しようとする理由となっていた。

 

『だけど、この世界には拳をぶつける相手がもういない。救うべき相手も、守る国も、

 世界も‥‥!』

 

アインハルトは涙する。結局、どんなに強くなろうとしても、後悔しかないのだと…‥。

 

『‥‥いるよ。』

 

そんな彼女に首を振ってくれたのは、ノーヴェだ。

 

『昨日のお前らや公園の状態を見りゃわかる。少なくともエーリは、お前の拳をちゃんと

 受け止めてくれたんだろ?』

 

その言葉で、昨日の戦いを思い出したアインハルトは、涙ながらに顔を小さく縦に振る。

 

『それに、あたしは知ってる。お前の拳を受け止めてくれる、もう一人の王様をさ。』

 

ノーヴェが二っと笑いながら、そう答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

区民センター内 スポーツコート

 

今朝のノーヴェの言葉を思い出しながら、アインハルトはヴィヴィオとのスパーリングを行っている。ヴィヴィオは変身していないにもかかわらず、軽快でありながら勢いのある連打で果敢に攻める。アインハルトも、そんなヴィヴィオの攻撃をいなしている。

 

「(二人とも、凄い‥‥!)」

 

二人と一度ずつ戦っているエーリも、二人の戦いに興奮する。結果でいえば、ヴィヴィオの隙を突いたアインハルトの平手突きによる勝利だが、アインハルトは曇った表情で一礼し、その場を後にしようとする。

 

「あ、あの…わたし、弱すぎました?」

 

「いえ…趣味と遊びの範囲内でしたら、十分すぎるほどに。」

 

アインハルトはそれだけ言って、背を向ける。そんな彼女に、エーリが手を上げる。

 

「ア、アインハルトさん! 次はあたしと------」

 

『やめておけ。』

 

しかしそんなエーリを、アンクが引き止める。

 

『今やったところで趣味と遊びで済まされるのがオチだ。』

 

「別に関係ないよ。あたしが手合わせしたいんだから。」

 

『俺が気分悪いんだよ。お前と一緒にけなされてるようで。』

 

完全に自己中心的なデバイスに、エーリはガーンとショックを受ける。

 

「今度はもっと真剣にやります! だから、もう一度やらせてもらえませんか? 今日じゃ

 なくてもいいんです。明日でも、来週でも…‥。」

 

そんなヴィヴィオに、アインハルトが振り向く。もっとも、曇った表情なのは変わらないが。

 

「そんじゃまあ、来週またやっか。今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ。」

 

ノーヴェの提案に、反対する者はいない。アインハルトもそれを承諾し、勝負は来週に持ち越されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈むころ、アインハルト達と別れ、エーリはヴィヴィオやウェンディ、ディエチとともに帰路についていた。

 

「でも驚いた、エーリがまさか魔王の血統だったなんて。」

 

「あたしの方こそだよ。ヴィヴィオがまさか聖王の血統だとは思わなかった。」

 

笑いながらそんな会話をする二人。ウェンディやディエチも、そんな二人を微笑ましく見ている。

 

「(本当に仲いいッスねぇ、あの二人。姉妹みたいっスよ。)」

 

「(事実でいえばそうなんだけれどね。でも、今が一番いいと思う。)」

 

念話でそんな会話をする二人。二人はヴィヴィオにエーリの出生のことを話していないのだが、それが今はいいと踏んだのである。そうしているうちに、エーリとヴィヴィオはわかれることとなる。

 

「じゃあヴィヴィオ、また明日ね!」

 

「うん、また明日。」

 

お互い、手を振ってさよならする。そんなヴィヴィオを見てウェンディとディエチは、急に気まずさのようなものを覚えた。

 

「さ、さあ帰ろうヴィヴィオ。送ってくよ。」

 

「ありがとう二人とも。あ、そんなに固くならなくていいよ。ノーヴェからエーリの事

 聞いたから。」

 

「「…‥え?」」

 

ヴィヴィオから出た言葉で、二人は呆然としてしまう。

 

「わたしと生まれが同じなんでしょ? でもわたし、気にしてないよ? だってエーリは、

 ヴィヴィオの最高の友達で、ライバルで、家族のようなものなんだから。」

 

ヴィヴィオはニコッと笑い、クリスと再び歩き出す。そんなヴィヴィオを見た二人は互いに顔を見合わせると、もう心配いらないなというように苦笑する。



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カウント7

「ごめんなさい!」

 

ナカジマ家の宿泊や放課後での用事も重なり、結果的に丸一日かかって帰宅することになってしまったエーリ。コウガミの部屋に入ったエーリは、いつも通りケーキ作りに没頭しているコウガミに深く謝罪する。主な原因のアンクは、相変わらず知らんぷりしているが。

 

「ふぅむ‥‥エーリ、君が物事に興味を持つことは自由だ。私も事前にそう言った。しかし、

 今回の事に関しては、さすがに度が過ぎたね。一歩間違えれば大怪我だった。」

 

「本当に、ごめんなさい!」

 

いつもは喜怒哀楽の激しいエーリだが、さすがにコウガミに心配をかけ過ぎたと思い。渋面を作って必死に頭を下げる。

 

「‥‥‥まあ、お互い大事にならなくてよかったよ。今後は昨日のようなことを

 起こさないように。」

 

「はい、分かりました。」

 

「分かればいいんだ。ところでエーリ、早くも王の血統と顔合わせしたそうだね?」

 

コウガミがそう言った瞬間、エーリはバッと顔を上げ、二回うなづく。

 

「うん、聖王と覇王っていう二人の王様。覇王の方が中学一年のあたしの先輩で、聖王の方が

 あたしと同い年の同級生だったの!」

 

「ふむ。君が昨日の夜喧嘩したのは覇王の方だったと聞くが…‥実力はどうだったかね?」

 

コウガミがクリームを混ぜながらそう聞いた瞬間、エーリの表情は恍惚としたものとなる。

 

「すっっっっごく強かった!! 今度はちゃんとした場所で手合わせしたいって思うほど!!」

 

アンクすらも引いてしまうエーリのテンションの上がりようである。コウガミもクリームをかき混ぜる手を止め、呆然とエーリの方を見るが、

 

「‥‥‥ハッハッハッハッハッハ、なるほどなるほど!」

 

と、不安に思っていないと言いたげに、腹の底から大きく笑いだす。

 

「…‥あんな笑われるほど、おかしいこと言ったかなぁあたし?」

 

『さあな。』

 

エーリとアンクが目を合わせてもなお、コウガミは笑いながらケーキ作りを続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『エーリはさ、お前とほとんど同じなんだよ。』

 

『同じって?』

 

『あたしらのドクターが生み出した王様の器‥‥エーリはお前やゆりかごを護る為に造られた、

 聖王とは違う、魔王の器なんだ』

 

アインハルトとのスパーリング後、更衣室でエーリを呼んだ理由をノーヴェから聞かされたヴィヴィオは、簡潔に言うと激しく動揺していた。もしノーヴェの話が本当ならば、血のつながりがないとはいえ、ヴィヴィオとエーリは姉妹のような関係ということになるからである。ウェンディやディエチの前では平然を装ったものの、内心はどうすればいいかわからないという不安でいっぱいである。

 

「ヴィヴィオ、箸が止まってるぞぅ?」

 

ヴィヴィオにそう言うのは、彼女の養母である未だ二十代前半の女性、高町なのはである。なのはの声を聴いたヴィヴィオは、肩を大きく動かす。現在二人は、食事中である。

 

「な、なんでもないよママ。」

 

「もしかして、エーリちゃんって子の事? ティアナから聞いたよ? 魔王のクローンだって

 話でしょ?」

 

と、勤め先で白い魔王と言われているなのは(本人の前でいうのはタブーである)は、少しいたずらっぽい顔でヴィヴィオに聞いてみる。

 

「うっ…‥わかっちゃう?」

 

「これ位はわかるよ。四年もヴィヴィオのママやってるからね。」

 

クスッと微笑むなのは。ヴィヴィオもそれに返すかのように、苦笑しながらうなづく。

 

「わたし、どうすればいいかな? 今までずっと友達として見てきたから、そんな見方しか

 できる方法が思い当たらなくて…‥。」

 

「それでいいんじゃないかな? エーリちゃんもヴィヴィオに負けないくらい元気に過ごせて

 いるみたいだし、今まで通りに接してあげればいいと思う。まあ、もし拗らせそうな時が

 あったらその時は--------」

 

なのはは握りこぶしを作り、ヴィヴィオの前に静かに突き出す。

 

「正面からドカーンってぶつかってみれば? 私もヴィヴィオと近い年の頃、フェイトちゃん達と

 そうやって自分をぶつけたことがあるから。」

 

「フェイトママ達と…‥?」

 

ヴィヴィオが問い、なのはがうなづく。ヴィヴィオは数秒顔を下に向け、笑顔になって上げる。

 

「うん、ヴィヴィオ頑張るよ! 来週、新しく知り合った人との練習試合もあるし。」

 

「じゃあ、いっぱい食べて元気付けないとね。」

 

「はい!」

 

そうだ、落ち込んでばかりいられない。それではエーリを不安にさせるだけだ。今日戦ったアインハルトという少女を、失望させてしまうだけだ。だから自分は、前を向いて彼女らに今の自分を見せよう。ヴィヴィオはそう胸に誓い、食べるペースを先ほどより早める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る大地…‥草木が枯れ、剣が突き刺さり、数多くの兵が倒れる。そんな、地獄とも表現できる地上に、傷口を抑え、片膝をつく一人の青年と、彼を見据える二人の女性。一人の虹彩異色の金髪の女性は、同じ虹彩異色の青年に微笑む。

 

『今まで本当にありがとうクラウス‥‥だけど私は行きます。』

 

『待ってくださいオリヴィエ! 勝負はまだ…‥‥!』

 

『あなたはどうか、良き王として、国民とともに生きてください‥‥。この大地が、もう戦で

 枯れぬよう‥‥青空と綺麗な花をいつまでも見れるような、そんな国を‥‥。』

 

オリヴィエは笑みを浮かべたまま、後ろを向いて歩いていく。もう一人の女性と同じ位置まで来た時、オリヴィエは立ち止まる。

 

『…‥別れは済んだか?』

 

『ええ、行きましょうサイア。役目を果たすために…‥。』

 

遠のいてゆく二人の女性に、クラウスは痛みに表情をゆがめながらも叫ぶ。

 

『デサイア、貴女はそれでいいのか!? 貴女だって、オリヴィエを愛していたはずだ!!

 この国の民の心を持ち、ともに幸せでいようと考えたはずだ!! なのに何故------』

 

『知れたこと。』

 

立ち止まったデサイアは、ゆっくりとクラウスの方を振り向く。その黄金の瞳に宿っているのは、果てしないまでの虚無感と、全てを凍てつかせそうなほどに冷たい狂気だった。

 

『その愛する者の決意が、余にとって国や民よりも価値ある宝だからだ。』

 

それだけ言うとデサイアは、再び視線をオリヴィエの方に移し、歩み始める。

 

『待ってくださいオリヴィエ、デサイア!! 僕は----------』

 

クラウスは手を伸ばすも、彼女らには届かない。二人の王女は、炎の中に消えていった。

 

・・・・・・・・・・

 

「…‥‥‥!」

 

自室で眠っていたアインハルトは、ハッと目を覚ます。その瞳からは涙があふれており、窓越しの空は暗く、月が出ていることから、まだ夜だとわかる。室内は女の子らしからぬ、トレーニング器具が並べられているだけの部屋だった。

 

「(いつもの夢…‥一番悲しい覇王の記憶‥‥。)」

 

聖王と魔王。覇王イングヴァルトの前から二人の王女が去って行く悲しき夢。そんな夢を見たアインハルトは涙をぬぐい、ベッドから起き上がる。

 

「聖王オリヴィエ‥‥‥。」

 

アインハルトはそうつぶやき、設置してあるサンドバッグにトンッと拳を軽くぶつける。

 

「魔王…‥デサイア…‥!」

 

今度は先程よりも勢いのある拳を叩きつける。オリヴィエを失った悲しみ、彼女を救えなかった自分に対する怒り、そして…‥聖王を止めようとせず、共に過ごした国を捨てた魔王に対する憎しみを込めながら。

 



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カウント8

ヴィヴィオとアインハルトの練習試合が決まって数日後、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、エーリの四人は学校の図書室で勉強をしていた。応用学科に入るとなると勉強の難易度も上がり、テスト勉強も早めに取り組む必要が出てくるのである。エーリが魔王の血統だということが知れ、ノーヴェたちとの関わりが濃くなってきてからは、エーリもヴィヴィオ達三人の輪に入り、一緒に勉強するようになった。

 

「ヴィヴィオとあたしの練習試合?」

 

ノートに目を通していたエーリが、ヴィヴィオの方に目を向ける。ヴィヴィオはうんうんと二回うなづく。

 

「今度、アインハルトさんと練習試合することになったでしょ? わたしも、クリスをもらって

 からはバリアジャケットで対戦したことないから、少しでも慣らしておきたいなって思って。

 それにエーリとの練習試合の予定、入れてなかったからさ。」

 

「あたしは喜んで受けるよ♪ ちょうど変身しての対戦、ヴィヴィオとやりたかったし。

 アンクもそれでいいよね?」

 

『断る理由はねえな。俺様としても、そいつの実力は知っておきたいところだ。』

 

「あっ、あたし見学したいで~す。」

 

「私も見たいかも。」

 

エーリもアンクも迷わず承諾し、リオとコロナが見学を希望する。ヴィヴィオは笑顔で礼を言い、クリスとハイタッチする。

 

『(覇王様の後は聖王様との対戦か…エーリ、世界ってのは思ったより狭いのかもな‥‥。)』

 

アンクはそう思いながら、ヴィヴィオ達と笑い合っているエーリに目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アラル港湾埠頭

 

翌日、待ち合わせ場所でエーリはヴィヴィオとの対戦に備え、軽くストレッチしていた。その場所にはエーリやヴィヴィオの他にスバルやティアナ、ノーヴェ、チンク、ウェンディ、ディエチ、ディード、オットーの姉妹たちに、希望通りリオやコロナも見学に来ていた。ノーヴェは頭を掻きながら、エーリに近づく。

 

「悪いな、こっちのわがままに付き合わせてばっかりでよ。」

 

「いえ、あたしもヴィヴィオの実力とか、皆さんの事とかもっと知りたいので、全然大丈夫

 ですよ。でも、なんでこんな港で?」

 

「あたしの所属してる救助隊の訓練に使われててな。廃倉庫だしアインハルトとの試合にも

 使うつもりなんだ。だから存分に戦ってくれていいからな。」

 

「ありがとうございます!」

 

エーリは笑顔でペコリとノーヴェに頭を下げる。そして準備が終わったヴィヴィオとエーリの二人はお互いに礼をすると、開始の位置につく。

 

「ルールは魔法なしの格闘オンリー。5分間一本勝負だ。」

 

審判のノーヴェがそう言って、対戦する二人はうなづく。

 

「最初から全力で行くよ、クリス!」

 

「絶対勝とうね、アンク!」

 

二人はデバイスを同時に手に取って、掲げる。

 

  「セイクリッド・ハート」            「アンセイクリッド・オーズ」

 

              「「セット・アップ!」」

 

 

二人は同時にバリアジャケットを纏って変身する。エーリはいつもと同じ三色スタイル。ヴィヴィオは大人モードとなり、黒と青を基調としたスーツに白のジャケットを羽織ったタイプである。

 

「へえ、あれがエーリのバリアジャケット‥‥。」

 

「あはは、なんだか信号機みたいで面白いッスね。」

 

「ウェンディ姉様、その言い方は魔王陛下に失礼なのでは…‥。」

 

外野にいる見学者はそんな感想を明るく述べているが、対戦する二人は真面目な表情で綺麗に構えをとる。その二人の様子を見たノーヴェは、問題ないと判断し腕を上げる。

 

「それじゃあ試合…‥開始!」

 

ノーヴェが腕を振り下ろすと同時、二人は同時に駆け出し一気に接近する。最初に拳を突き出したのはヴィヴィオ。その拳はエーリの顔面に突き出されるが、エーリはそれを体勢を低くして回避、そのままヴィヴィオの腹部に肘内をお見舞いする。

 

「----------!」

 

ヴィヴィオは苦しい顔をし、後方に後ずさる。それをエーリは好機と思ったのか、そのままヴィヴィオに急接近し、拳を突き出す。しかしヴィヴィオも負けてはおらず、それを顔を横にずらして回避し、そのままエーリに自分の拳をぶつけるカウンターをお見舞いする。

 

「(エーリ‥‥‥魔王のクローンで、わたしの姉妹…‥。)」

 

瞬間、ヴィヴィオの中に試合では出さないと誓っていた不安が溢れてくる。笑い合える仲のいい友人だと思っていた少女が、自分と同じ生まれ。その事実は、ヴィヴィオの心に重くのしかかる。そんなヴィヴィオのカウンターを喰らい、エーリは吹き飛ばされ、ヴィヴィオは追撃のためにすぐにエーリに迫る。

 

「(わたしの思い‥‥ちゃんとエーリに伝わってるかな…‥。)」

 

そんな疑念が心に生まれ、ヴィヴィオの表情は曇ってしまう。考える暇などないはずなのに、考えてしまう。ヴィヴィオはそれを振り払えぬまま、拳を突き出そうとする。

 

『エーリ!』

 

「!!」

 

その時だった。アンクの念話でハッとなったエーリは足に力を籠め、そのままブンッと勢いよく振る。その足は、ヴィヴィオの顔面に綺麗にヒットし、ヴィヴィオはぐらつく。

 

「ふぅ…‥。」

 

着地したエーリは深呼吸し、ヴィヴィオを見る。強い相手と戦えることが嬉しいのか、年相応の愛らしさのある笑顔が、そのまま表に出ている。

 

「あっ‥‥。」

 

そんなエーリの笑顔を見たヴィヴィオは、首をぶんぶんと横に振った後、エーリ同様ニッと笑って、構えをとる。

 

「(そうだ、不安がってちゃエーリに失礼だよね。)」

 

今は姉妹としてではない、一人の対戦相手として戦おう。あたらめてそう誓ったヴィヴィオは、エーリと同時に地面を蹴って拳を突き出す。

 

・・・・・・・・・・

 

「一本、そこまで!」

 

ノーヴェが腕を上げ、試合が終了する。結果でいえば、ヴィヴィオを回し蹴りで吹き飛ばしたエーリの勝利であった。試合が終了すると、エーリが真っ先にヴィヴィオに駆け寄って手を伸ばす。

 

「ありがとうヴィヴィオ、楽しかった!」

 

自分もボロボロだというのに笑顔でそう告げるエーリ。対してヴィヴィオは、

 

「…‥うん、わたしも!」

 

エーリに負けない笑顔でエーリの手を取り、立ち上がる。

 

「エーリ~、ヴィヴィオ~。」

 

「二人ともすごかった!」

 

見学者たちも駆け寄り、二人を称賛する。

 

「(…‥はは、こいつらあたしが思ったより、うまくやってけそうだな。)」

 

一瞬曇っていたヴィヴィオの表情を見逃さなかったノーヴェ。しかし不安を感じさせないエーリと、彼女を見て不安を吹き飛ばしたヴィヴィオを見て、どんなに辛くても乗り越えることができるだろうと確信したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えたアインハルトとヴィヴィオの練習試合

 

「覇王、断・空・拳!」

 

アインハルトの必殺の拳が、攻撃で隙ができてしまったヴィヴィオにヒットし吹き飛ばす。それが決定打となり、試合はアインハルトの勝利となる。

 

「ヴィヴィオ、アインハルトさん!」

 

試合を終え、変身を解いた二人にエーリが駆け寄る。ヴィヴィオは必殺技で気絶し、アインハルトもヴィヴィオが出した突きが効いたのか、スバルに支えてもらっていた。

 

「どうだったよ、ヴィヴィオは?」

 

「…‥彼女には謝らないといけません。先日は失礼なことを言ってしまいすいませんでした。

 訂正させてくださいっと。」

 

どうやら【趣味と遊び】は抜いてくれたらしい。そう確信したノーヴェは、アインハルトに

「そうしてやってくれ。」と頼む。

 

「よしよし、頑張ったねヴィヴィオ。」

 

エーリはディードに膝枕をしてもらっているのヴィヴィオの頭に、優しくポンポンと手を置く。こうしてみると、本当の姉妹のようだなと事情を知っている者たちは思う。そしてそんなヴィヴィオとエーリに、アインハルトは近づく。

 

「初めまして、ヴィヴィオさんにエーリさん。アインハルト・ストラトスです。」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

エーリは満面の笑みを浮かべ、アインハルトに挨拶する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新暦79年 高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス、エーリ・コウガミはこうして出逢った。

 

これから始めるのは、因縁の三王を主軸とした、勇気と絆と欲望の青春物語。




次回から、第二章開始です。


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第二章 異世界と合宿と大乱戦
カウント9


第二章、開幕です。


「ふんふんふ~ん♪」

 

鼻歌を歌いながら、鏡を見てリボンを結ぶ少女エーリ。制服も着替え鞄も用意できた。結び終えた髪に満足したエーリは、よしっと小さくガッツポーズをとって、鞄を手に取る。

 

「じゃあ行ってくるね、アンク!」

 

『へ~いへい。』

 

つまらなそうに返事をする、エーリが少し前に契約したデバイスであるアンク。自分の部屋を出て、階段を下りた後、一つの扉の前で立ち止まり、ドアを開けて敬礼する。

 

「おじさん、サトナカさん、今日も行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい、エーリ。」

 

「お気をつけて。」

 

エーリは一礼し、家を出る。コウガミはそんなエーリを見て、ふふふと不敵な笑みを見せる。

 

「喜ばしいですか?」

 

「そうだね、ミス・サトナカ。古代ベルカの関係者と関わるというだけで、こうも大きく

 彼女の道が変わっていくとは、私も驚いたよ。」

 

「確かにそうですね。以前は魔法や格闘にほとんどを費やしていましたから、同じ年代の

 方々と積極的に関係を持つのは、大きな変化とみられます。」

 

「これから面白くなるよミス・サトナカ? 歴史的人物の血統であるという一見すれば

 些細な事実。しかしその事実がもたらすのは、決して小さなことばかりとは限らない。

 二人の王との出逢いを皮切りに、彼女はそれを知っていくだろうさ。」

 

コウガミはそう言って座っている椅子ごと後ろを向き、窓越しに澄んだ空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ行ってくるね、ゴトウさん。」

 

「ええ、お気をつけて。」

 

運転手のゴトウに一礼し、学校の校舎へ向かうエーリ。初等部と中等部共通の路には、校舎の違う小中学生が挨拶を交わしながら歩いていた。

 

「ヴィヴィオ、おっはよー!」

 

「あ、エーリ。おはよう。」

 

途中、友人であるヴィヴィオにも出くわし、校舎に向かうために一緒に歩くエーリ。そして、一人の中等部の制服を着た少女を見た二人は、その少女に駆け寄る。

 

「アインハルトさ~ん!」

 

「ごきげんよう、アインハルトさん。」

 

「‥‥はい、ごきげんよう。ヴィヴィオさん、エーリさん。」

 

アインハルトは特に驚くわけでもなく、静かに二人に返事をする。この三人は少し前に互いの事情を知った、古代ベルカの三人の王の血統なのである。それもあってか、三人の交友関係は少しずつではあるが深くなってきていた。

 

「では、中等部はこちらなので。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「遅刻しないように、気を付けてくださいね。」

 

アインハルトは二人に背中を向けたまま、小さく手を振る。エーリとヴィヴィオもアインハルトに手を振り、初等部の校舎へと向かう。

 

「あっ、ヴィヴィオにエーリ。」

 

「おはよう二人とも!」

 

教室に入り真っ先に二人に挨拶するのは、同じく友人であるコロナとリオである。四人は挨拶を交わし、パチンとハイタッチする。

 

・・・・・・・・・・

 

「っていうか、今日も試験だよ~! 大変だよ~!」

 

「そうなんだよね~‥‥。」

 

涙目で教科書に目を通すリオと、ノートにうつぶせになるヴィヴィオ。そしてそんな二人を苦笑しながら見るコロナとエーリ。現在初等部中等部共に、一学期前期試験の真っ最中である。いいペースを保ててはいるものの、応用学科のレベルの高さには流石にうなだれてしまうのだ。最もコロナは学年一位で優秀だし、エーリも根っこからの勉強好きなので苦にはならないのだが。

 

「でも試験を終えれば土日合わせて四日間の試験休み。」

 

「うん、楽しい旅行が待ってるよ~。」

 

「宿泊先も遊び場も、準備万端だって。」

 

そうして笑いあっているヴィヴィオ、コロナ、リオの三人娘。そんな三人を、エーリは羨ましそうに見ていた。

 

「へえ~、旅行かぁ。いいなあ三人は。」

 

「あっ、よかったらエーリも来る?」

 

「いいの!?」

 

ヴィヴィオからの誘いにエーリは目を輝かせながら問いかけ、ヴィヴィオもうなづく。

 

「ママ達に話したら、喜んでОKしてくれたし、これを機にいろんな人にエーリの事を

 紹介したいから。」

 

「行く行く、絶対行く!! おじさんにも許可貰ってくる!!」

 

エーリのあまりの喜びように、三人は苦笑する。

 

「それじゃあ楽しい試験休みを笑顔で迎えるために、目指せ100点満点!」

 

「「「おーーっ!」」」

 

四人は本気で休みを満喫するために、拳を上に上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 中等部

 

「合宿ですか?」

 

アインハルトにもヴィヴィオ達の旅行‥‥基合宿の誘いが、ノーヴェから来ていた。

 

『そうだ。あたしや姉貴もいるし練習相手には事欠かねー。しかも魔導師ランクAAから

 オーバーSのトレーニングも見られる。』

 

「はぁ…‥。」

 

『それに歴史に詳しくてお前の祖国についてのレアな伝記本持ってるお嬢もいる。まあ

 騙されたと思って四日間来てみろって。ちょうどエーリも誘ってるんだ。あいつなら

 誘えば即答するとは思うんだけどな。』

 

「‥‥分かりました。」

 

『おう。後日メールを送るから、とりあえずは今日の試験、がんばれよ。』

 

ノーヴェがそう激励し、通信を切る。それを確認したアインハルトは、空を見上げる。

 

「(エーリさんも‥‥合宿に‥‥。)」

 

アインハルトは、エーリと顔を合わせ、手合わせをした公園での出来事を思い出す。一言でいって、あれを勝利と呼ぶことは、アインハルトにはできなかった。力尽きたと思いこみ、エーリが放った瞬発的な一撃をとらえきれなかった自分を叱りつけたかった。

 

「私は…‥まだまだ弱いですね。」

 

空を見上げながらそうつぶやくアインハルト。誰に言っているのかは、アインハルト本人にしか分からないだろう。そして、

 

「(エーリさんは、私の憎む魔王じゃない…‥なのに私は、あの子とデサイアの事を

  重ねてしまっている。)」

 

それは、自分の心を擦り続ける後悔。自分に本気でぶつかってくれた相手に対する侮辱。今の彼女に、喜びは一切ない。

 

「(ノーヴェさんの言う合宿で‥‥この気持ちを変えられるのでしょうか?)」

 

そう思って自分の胸に手を置くアインハルトは、試験のために教室へ戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

広大な大自然の中に建つ一軒家の屋根に、紫の髪の少女が立っていた。

 

「ふふふ‥‥こっちは準備完了よ。さあ元六課の皆さんもヴィヴィオ達も、そしてさらに

 『あいつ』の秘蔵っ子も、まとめてドーンとおいでませ!!」

 

少女は仁王立ちをしながら、高らかにそう宣言するのだった。



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カウント10

前期試験が終了した後日

 

「それで、どうだったかねエーリ? テストの結果は?」

 

コウガミがエーリにテストの結果を聞いてくる。その表情は、まるで結果を分かっているかのような、嬉しそうな表情だった。エーリがふふーんと誇らしげな表情で、結果表を見せる。

 

「じゃじゃ~ん! 今回も花丸好成績です♪」

 

結果は良好だった。5科目受けた試験で、100点が3科目。残りの2科目も90点後半と、優等生の点数だった。

 

「ほほう、さすがはエーリだ。これだけの点数を取れるとは、私も誇らしいよ。」

 

「でもコロナなんて、オール100点だったからね。負けたのは悔しいなぁ。」

 

と、あははと笑いながらエーリは言う。オール100を目指すあたり、本当にエーリは勉強熱心だとコウガミは思う。

 

「しかしこの点数だ。数日勉学に取り組まなくともお釣りが来るだろうね。」

 

「それじゃあ…‥!」

 

「うむ、行ってきなさい。異世界旅行へ。」

 

「やったああああああああああああ!!」

 

コウガミから旅行の許可を得たエーリは、ピョンピョンと跳ねて大喜びするのだった。

 

・・・・・・・・・・

 

着替えをはじめ最低限必要なものをリュックに入れたエーリは、アンクとともに廊下を歩いていた。

 

「どんな合宿になるのかな~…‥楽しみだねアンク?」

 

『そうだな。どんな強い奴がいるか考えると楽しみでしょうがねぇや。』

 

と、明らかに楽しむ方向を間違えているアンクだが、エーリはそんなことを気にせず、ルンルン気分で玄関を開ける。

 

「よっ、エーリ。」

 

「こんにちは。」

 

門の前には、バッグを持ったノーヴェとアインハルトの姿があった。

 

「ノーヴェさん。もしかして、アインハルトさんも一緒に合宿ですか?」

 

「はい。ノーヴェさんに誘われまして……。」

 

「わあ、よかったです! 一緒に楽しみましょうね、アインハルトさん!」

 

エーリはそう言ってアインハルトの両手を包む。アインハルトは驚いたのかポカーンとなり、コクコクとうなづく。

 

「まっ、立ち話もなんだ。これからヴィヴィオ達と合流するから、歩こうぜ。」

 

ノーヴェの提案に二人はうなづき、歩き始める。

 

・・・・・・・・・・

 

ピンポーンッ

 

ヴィヴィオの家の前に来た三人は、インターホンを鳴らす。それに反応し、玄関を開けたのはヴィヴィオである。

 

「ノーヴェ、エーリ、それに…‥アインハルトさん!?」

 

アインハルトが来ることは知らされてなかったのか、ヴィヴィオが驚きの声を上げる。

 

「ノーヴェさんからお誘いをいただきまして…‥同行してもよろしいでしょうか?」

 

「はい! もー全力大歓迎です!!」

 

ヴィヴィオは先程のエーリに負けない勢いでアインハルトの手を取る。心なしか、その瞳には星が写っているように見えた。

 

「ほらヴィヴィオ、上がってもらって。」

 

「あっ、うん。アインハルトさん、エーリ、どうぞ。」

 

「お邪魔します。」

 

「お邪魔しま~す♪」

 

三人はヴィヴィオに言われ、靴を脱いで上がる。エーリは真っ先に、先ほどヴィヴィオに声を開けた金髪ロングの女性に挨拶する。

 

「こんにちは。ヴィヴィオの友達の、エーリ・コウガミです。」

 

「ヴィヴィオの後見人の、フェイト・T・ハラオウンです。ヴィヴィオやスバルたちから話は

 聞いてるよ。仲良くしてあげてね?」

 

フェイトと軽く握手を交わすエーリ。さらに奥へ進むとそこはリビングで、ヴィヴィオの他にもコロナやリオが来ており、明るい茶髪の女性がアインハルトに挨拶していた。

 

「あっ、ママ。この子が同級生のエーリ。」

 

「あら、あなたがエーリちゃんね? ヴィヴィオの母の高町なのはです。娘がお世話に

 なってます。」

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

エーリは固くなりながら、なのはと握手する。固くなっている理由は、なのはである。小学生の母親にしては、明らかに若すぎるのである。どう見てもなのはは、十代後半から二十代前半の顔立ちをしているのだ。そんな本人からしてみれば失礼すぎる考えをしていたエーリは、笑顔で対応するなのはにドキッとしながらも、元気に挨拶する。

 

「さて、みんなそろったことだし、途中コロナちゃんやリオちゃんの家に寄って、そのまま

 出かけちゃおっか?」

 

フェイトの提案に、小学生組がはーいと元気良く手を上げる。

 

・・・・・・・・・・

 

私服にも着替え、コロナやリオの家にも寄り終えた。合計8人を乗せた車は、旅行で乗る船の港に向かっていた。エーリは車の一番後ろの座席で、アインハルトの隣にウキウキしながら座っていた。よほど合宿が楽しみなのだろうか? アンクはクリスとともに、窓の外を見ている。そんな時、前の席に座っていたヴィヴィオが、エーリたちの方を振り向く。

 

「エーリ、アインハルトさん。これから四日間、よろしくお願いしますね。」

 

「はい。軽い手合わせの機会などがあればお願いしようかと。」

 

「はいは~い、あたしもあたしも~♪」

 

「こちらこそ!」

 

二人はヴィヴィオと、そんな会話を繰り広げるのだった。そして港である次元港へ着いた御一行。入り口前にはスバルとティアナが手を振っていた。

 

「スバルさん、ティアナさん、しばらくぶりです!」

 

「うんうん、エーリも元気そうで何よりだよ♪」

 

エーリとスバルが笑顔でハイタッチし合う。ティアナとスバルも同行することになった事を、直後にノーヴェから聞くエーリであった。

 

・・・・・・・・・・

 

旅行先である無人世界カルナージへは、臨行次元船で4時間のフライト。機内ではメンバーは寝ている者が多く、子供たちに至っては全員眠っていた。それはエーリも同じで、チェアに背を任せ、ヴィヴィオの隣で眠っていた。

 

「うゅ…‥‥。」

 

不意に体勢が横に傾き、ヴィヴィオの腿に頭が置かれる。その衝撃にヴィヴィオはビクッと目を覚まし、エーリの方を見る。

 

『悪いな、うちの馬鹿王様が起こしちまったみたいでよ。』

 

様子を見ていたアンクが、ヴィヴィオに謝る。ヴィヴィオはううんと顔を横に振る。

 

「エーリも眠いみたいだし、わざとじゃないんだから別にいいよ。それにエーリの寝顔、

 こうやって近くで見ると、なんか、癒されるしさ。」

 

言ってヴィヴィオが、優しくエーリの頭をなでる。しばらくしているうちにヴィヴィオに再び眠気が訪れ、ゆっくりと眠りにつく。そんな微笑ましい光景を見ていたノーヴェは、とても穏やかな表情をしていた。



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カウント11

無人世界カルナージ

 

「みんないらっしゃ~い♪」

 

合宿先のカルナージにやってきた一行を出迎えたのは、紫の髪に黒いリボンを結んだ少女ルーテシアと、彼女の母親であるメガーヌである。代表として、なのはとフェイトが挨拶する。

 

「こんにちは。」

 

「お世話になります。」

 

「みんなで来てくれてうれしいわ。料理もいっぱい用意したからゆっくりしていってね。」

 

「ありがとうございます。」

 

メガーヌがそう言う一方で、ヴィヴィオ達はルーテシアに挨拶していた。

 

「ルーちゃん。」

 

「ルールー久しぶり!」

 

「ヴィヴィオとコロナも久しぶり。リオは通信で話すだけだったよね? 実際見ると

 モニターよりかわいい♪」

 

「ほんとー?」

 

ルーテシアに撫でられ照れるリオ。ヴィヴィオはアインハルトとエーリの手を取り、ルーテシアに近づく。

 

「ルールー。この二人がメールで話した‥‥。」

 

「アインハルト・ストラトスです。」

 

「エーリ・コウガミです!」

 

「ルーテシア・アルピーノです。ここの住人で、ヴィヴィオの友達。14歳。」

 

「ルーちゃん、歴史にすっごく詳しいんだよ。」

 

コロナにそう言われ、ルーテシアはエッヘンと胸を張る。

 

「「お疲れ様でーす。」」

 

その声と共に一行の前に現れたのは、髪を結んだ赤髪の少年と頭に小さなドラゴンを乗せた小柄な桃色の髪の少女である。その二人に真っ先に反応したのはフェイトだ。

 

「紹介するね。二人とも私の家族で‥‥‥。」

 

「エリオ・モンディアルです。」

 

「キャロ・ル・ルシエと飛竜のフリードです。」

 

初対面のアインハルトとエーリは、二人にぺこりと頭を下げて挨拶する。そんな時、ガサッと草木が動く音が鳴ったかと思うと、アインハルトの後方に籠を担いだ人型の龍が現れた。

 

「‥‥‥!!」

 

「うわわ!?」

 

思わず身構えてしまうアインハルトとエーリ。そんな二人の前に、ヴィヴィオが慌てて立つ。

 

「大丈夫です二人とも! あの子は--------」

 

「私の召喚獣で大事な家族。ガリューっていうの。」

 

ルーテシアがそう説明し、丁寧にお辞儀するガリュー。アインハルトやエーリも、身構えてしまったことをガリューに謝った。

 

「さて、お昼の前に大人はトレーニングでしょ? 子供たちはどこに遊びに?」

 

「やっぱり川遊びかなと。お嬢も来るだろ?」

 

「ええ。」

 

「よっし、それじゃあチビ達は水着に着替えてロッジ裏に集合だ。」

 

ノーヴェの呼びかけに小学生組やルーテシアが手を上げ、アインハルトは水着を着ることになるとは思わなかったのか、驚いてしまう。

 

「…‥それにしても。」

 

移動中ルーテシアは、じーっとエーリの方を見つめ、エーリもそれに気づいたのか、ルーテシアの方を見る。

 

「なんです?」

 

「『あいつ』の秘蔵っ子って聞いたからどんなものかと思ったけど、普通に可愛らしい

 女の子なのね♪」

 

「? あいつ?」

 

「もう、ルールー!! せっかくの合宿なんだからその話は無し!!」

 

突然ヴィヴィオがルーテシアを叱り、当人もごめんごめんと謝る。何の話か分からないエーリは、アンクと眼を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水着に着替え、広い川にやってきたノーヴェと子供たち。リオが先に川に入り、ヴィヴィオ達も後から続々と入っていく。

 

「アインハルトさんも来てくださーい!」

 

ヴィヴィオに呼ばれ、アインハルトは少々戸惑うも、ノーヴェに背中を押され、川に入り込む。

 

「それじゃあ、向こう岸までの往復、みんなで競争しよー。」

 

コロナの提案に全員が賛成し、合図と同時に六人が一斉に泳ぎ始めるのだが、

 

「えっ…‥?」

 

「うわっ、みんな泳ぐの速い!?」

 

三人娘やルーテシアの泳ぐスピードに、驚愕するアインハルトとエーリ、負けじと二人も速度を速めるも、他の四人には疲れている様子が全く見えなかった。

 

・・・・・・・・・・

 

一通り遊び終え、休憩しているアインハルトとエーリ。エーリは笑顔ではいるものの、疲れが出ていることがアインハルトにも見えていた。

 

「結構面白い経験だろ?」

 

ノーヴェがそう言って、二人にジュースを渡す。二人はお礼を言って受け取り、それを飲む。

 

「あたしも救助隊の訓練で知ったんだけど、水中で瞬発力出すのは、また違った力の運用が

 いるんだよな。」

 

「じゃあ、ヴィヴィオさん達は?」

 

「週2くらいプールで遊びながらトレーニングしててさ、自然と筋肉が付くんだよ。」

 

「プール…‥そんなのもあるんですね! あたしも取り入れよう!」

 

『スケジュールぎっちぎちになるぞおい。』

 

エーリが目をキラキラと輝かせ、アンクが半目でツッコミを入れる。

 

「んじゃ、せっかくだから面白いもの見せてやるよ。ヴィヴィオ、コロナ、リオ。

 『水斬り』やってみせてくれ。」

 

「「「はあい!」」」

 

三人はそう言って腕を引く構えをとり、一気に突き出す。すると大きな音とともに三人の前に水柱ができ、綺麗に真っ二つに割れる。

 

「すっっっっごい!!」

 

その光景を見て、アインハルトは呆然となり、エーリも目を輝かせる。ルーテシアも二人にやってみろと言い、再び川に入った二人は、先ほどの三人同様拳を突き出す。しかし水柱はできたものの、二つに割れることはなかった。

 

「あれ?」

 

「うーん、どうして?」

 

「初速が速すぎるんだよな。」

 

ノーヴェがそう言って、川に入り、構えをとる。

 

「最初はゆるっと脱力して途中はゆっくり、インパクトに向けて鋭く加速。これを

 素早くパワー入れてやると---------」

 

ノーヴェは五人とは違い、足を蹴り上げる。すると水柱ができて二つに割れるだけでなく、周囲の川の底が見えてしまうほどだった。

 

「こうなる。」

 

「「…‥‥。」」

 

あまりの結果に呆然となる二人。そして言われた通り最初は力を抜いて瞬間一気に力を籠めると、割れはしないものの、水柱は先程より前に進む。

 

「さっきより前に進みました!」

 

「すごいっ!!」

 

「…‥もう少し練習します。」

 

「よーし、あたしも頑張るぞ! 目指せ、川の水底上げ!!」

 

アインハルトもエーリも、負けじと水斬りを繰り返す。

 

『ったく、一日で覚えれるなら苦労しないっての。』

 

「でも、筋はいいのよね。思ったよりも早く習得しそう。」

 

エーリの様子に呆れるアンクに対し、ルーテシアは二人を高く評価していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お昼ですよー、みんな集合!」

 

『はーい!』

 

メガーヌに呼ばれ、着替えを終えた子供たちがコテージに集まる。コテージにはメガーヌやトレーニングを先に負えた大人組が、バーベキューやスープの用意をしていた。

 

「おかえり。」

 

「みんな遊んできた?」

 

「もーバッチリ。」

 

ルーテシアはそう言うが、ヴィヴィオ・アインハルト・エーリの三人は体をガクガクと震わせながら、席に着いた。

 

「あらあら、大丈夫?」

 

「三人とも、ずっと水斬りの練習やってたんですよ。」

 

『アホ。』

 

ノーヴェとアンクは呆れながら、座ってもピクピク小刻みに動いている三人を見るのだった。

 

・・・・・・・・・・

 

食事を終え、ヴィヴィオとアインハルト、エーリの三人は、食器を洗っていた。

 

「ヴィヴィオさんは、いつもノーヴェさんからご教授を?」

 

「いつもではないんです。最初は基礎だけやってそこから独学だったんですけど、

 それじゃ体壊すからって時間をかけて教えてくれて、次第にコロナやリオの

 事も見てくれるようになったんです。」

 

「羨ましいです。私は独学でしたので。」

 

「あたしもかな。自分で思いついた戦いをやりたかったし。」

 

「でもでも、これからは一人じゃないですよ。流派は別として。」

 

「…‥はい。」

 

ヴィヴィオの笑顔に、アインハルトは少々照れてしまう。

 

「(ストライクアーツとカイザーアーツ、同じ道は辿れない。でももし、こんな風に

  少しだけ彼女らと一緒に歩めたら‥‥‥。)」

 

そう思ったアインハルトは両手で拳を作り突き出す。二人はその意味を理解してか、拳を作ってアインハルトの拳にコンッとぶつけるのだった。



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カウント12

仕事の忙しさで遅くなってしまいました。それではどうぞ。


ルーテシアの家の書斎で、リオとコロナはルーテシアとともに、覇王イングヴァルトに関しての回顧録を呼んでいた。

 

「なんで聖王家や魔王家の王女様がシュトゥラの王子様と仲良かったんだろうね?」

 

「オリヴィエやデサイアはシュトゥラに留学って体裁だったみたい。三家は国交があったから。

 ただ二人とも、継承権が低かったみたいだから、要は人質交換だったんじゃない?」

 

「戦国時代の人質ってあれだよね‥‥裏切ったら処刑しちゃいます的な‥‥。」

 

「そうそれ。ただ、彼らにとってはそんなこと関係なかったみたい。途中からオリヴィエ王女の

 事ばっかり。勿論デサイア王女の事も書いてあるけど。」

 

「なんでデサイア王女の文献は少ないんだろうね? 絵だってないし…‥。」

 

「うーん……。」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

同じころ、食器の後片付けを終えたエーリ達三人は、コテージ周辺をぶらぶらしていた。

 

「オリヴィエやデサイアって、どんな人たちだったんでしょうか?」

 

「オリヴィエは太陽のように明るく花のように可憐で、デサイアは雲のように自由で、

 バラのように刺々しいところはありましたが、美しく、それでいて不器用ながらも

 気遣いのできる方でした。お二人とも魔導と武術に強い方で…それでも、乱世の中で

 命を落としてしまいました。」

 

「ゆりかごと運命を共に‥‥ですか?」

 

「はい。」

 

「それってオリヴィエって人の事ですよね? デサイアはどうだったんです?」

 

エーリが首をかしげながら、アインハルトに聞く。アインハルトは少し悲しげな表情で、エーリの方を向く。

 

「私の記憶でもわかりません。オリヴィエと同時期にシュトゥラを去ったことまではわかるの

 ですが‥‥クラウスも、デサイアに対してはそれに関して疑問を抱いていましたから。」

 

「ご、ごめんなさい! 嫌な事、聞いちゃいましたよね‥‥‥。」

 

アインハルトの複雑な表情を見てエーリは焦り、アインハルトに謝るが彼女は首を横に振る。

 

「いえ‥‥それ以上にクラウスは、二人を止められなかったことを悔いていましたし。皮肉な

 話ではありますが、それによって彼は強くなりました。すべてをなげうって武の道に

 打ちこみ、一騎当千の力を手に入れて、それでも望んだものは手に入らないまま彼は短い

 生涯を終えました。」

 

「望んだもの?」

 

「本当の強さです。守るべきものを守れない悲しみをもう繰り返さない強さ。彼が磨いた

 覇王流は弱くなんかないと証明する事。それが私の悲願です。」

 

アインハルトの決意のこもった瞳をみて、二人は呆然とした表情になる。

 

「‥‥すいません、自分の話ばかりで。あの、昔話ですので気にしないでください。」

 

「はい‥‥みんなのところに戻りましょうか。」

 

「(うぅ‥‥ヴィヴィオさんが悲しい顔を。これまでの事で思いやりの深い子だというのは

  分かっていたのに‥‥。)」

 

ヴィヴィオの機嫌を直す為にはどうすればいいかと、アインハルトが内心おろおろしてると、

 

「こらぁヴィヴィオ、湿っぽい表情しないの!」

 

エーリがヴィヴィオの前に立ち、彼女の口角を半ば強引にグイっと上げる。

 

「ふぇ、エーリ?」

 

「今は合宿なんだから堅苦しい表情は抜き! …‥えへへ、ルールーさんの時のお返し♪」

 

そう言ってエーリはアインハルトの方にも近寄り、口角を上げる。

 

「アインハルトさんも。折角の旅行なんですから、楽しめることは楽しみましょう?」

 

「‥‥はい、そうですね。」

 

エーリに言われ、アインハルトの口角は自然と上げる。ヴィヴィオもそれが写ったかのように笑い、アインハルトは安堵する。

 

「お~いお前ら。」

 

「あ、ノーヴェ。」

 

「ブラブラしてんなら向こうの訓練見に行かねーか? スターズが模擬戦始めるってよ。」

 

「勿論いくよ。二人も行きましょう。」

 

ヴィヴィオが先導し、アインハルトとエーリもついてくる。アインハルトはエーリに、軽く耳打ちする。

 

「(エーリさん、先ほどはありがとうございます。)」

 

「(いえいえ、機嫌を直せてよかったです。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練場

 

白いバリアジャケットを纏ったなのはは、模擬戦相手のスバルとティアナに向けて拡散魔法を放つ。

 

「シュート!」

 

ティアナがデバイスである二丁拳銃でなのはの拡散攻撃(クラスター)に向けて連射し相殺。その隙にスバルが殴り掛かるが、それをなのはがシールドを展開して防御。そんな攻防一体の激戦を見ていたアインハルトとエーリは、目を輝かせる。

 

「すごーい! 初めて会ったときとはまるで別人だよ!」

 

「航空武装隊の戦技教導官だからね。うちの自慢のママです。」

 

ヴィヴィオがエッヘンと胸を張る中、アインハルトは飛行しているフェイト、そして隣で飛んでいる巨大な竜にまたがっているエリオとキャロを見て驚愕する。

 

「あれは、アルザスの飛竜…‥!」

 

「キャロさんは竜召喚士、エリオさんは竜騎士です。」

 

「で、フェイトママは空戦魔導士で執務官やってます。」

 

そんな話をしているうちにそんな話をしているうちに模擬戦は終了し、六人はそれぞれウォールアクトや砲撃練習を行いだす。

 

「魔法練習だけじゃなくてフィジカルトレーニングまで…みんなあんなに動くんだ~。」

 

『おめーが言えた口か? エーリ。』

 

「局の魔導士の方は、皆さんここまで鍛えているんでしょうか?」

 

「まあな。ティアナは凶悪犯罪を追う執務官、スバルは救助隊。頻度の差はあれどみんな

 命の現場で働いてるわけだしな。力が足りなきゃ救えねーし自分の命だって守らなきゃ

 ならねー。」

 

「ノーヴェさんも、救助訓練バッチリやってますもんね。」

 

リオに言われ、ノーヴェは照れてしまう。

 

「あの、ノーヴェ。わたしここから離れて、アインハルトさんと練習したいんだけど、いい?」

 

「おう、行ってこい。あたしらから言っておくからよ。」

 

「ありがとう。」

 

ヴィヴィオは礼を言うとアインハルトとともに、その場を離れる。

 

「お前は行かねーのか、エーリ?」

 

「本当は行きたいですけどね。明日の模擬戦で大暴れするのでここは我慢して体力温存です!」

 

『へへ。』

 

何か焦らす様子で目を合わせるエーリとアンク。何かあるのだろうなと思い、ノーヴェは彼女を見る。

 

「あっ、コロナ。内緒にしてたけど例のアレ、もう完成してるんだ。」

 

「本当!?」

 

「アレってもしかして…‥!」

 

「私専用のインテリジェントデバイス!」

 

「コロナ専用のかっこかわいいやつね。」

 

「お嬢が組んだのか!? すげーな。」

 

デバイスを組んだというルーテシアに、ノーヴェはもちろんのことエーリも関心する。

 

「みんな準備できてそうだね、アンク。」

 

『くくく、明日が待ち遠しいぜ。俺様の力を思い知らせられるんだからなぁ。』

 

アンクはエーリ以外に気付かれぬよう、小さく悪い笑みを出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大人チームの訓練が終わり日が沈むころ、なのはとフェイトを除く一行は、ルーテシアが設計した天然温泉を満喫していた。

 

「この滝湯も、ルールーさんが造ったんですか?」

 

「ええ、結構オシャレじゃない?」

 

「すごいすごーい!」

 

「お湯もちょっとぬるめで気持ちいい。」

 

子供たちに好評だったようで、ルーテシアも自慢げになる。それからはガリューが持ってきたジュースを飲みながら、みんなでガヤガヤと話していた。エーリもアインハルトと話をしている。

 

「楽しいですね、アインハルトさん。」

 

「はい。エーリさんも私と同じで、合宿には初参加ですよね?」

 

「そうです。それにアインハルトさんと同じで、ノーヴェさん達と知り合ったのも最近ですし、

 今では公園の騒動があってよかったと思ってます。」

 

「うっ‥‥その節はすみません。」

 

「いえいえ、おかげでお互い合宿できるわけですし。こうやって誰かと騒ぐのは新鮮です。」

 

「…‥そういえば、エーリさんも独学でしたね。」

 

「格闘の基礎は教わったんですけどね。そこから自分のスタイルを組み立てたり、勉強したりで

 いつのまにかもう4年生なんだな~って思いました。友達を作るっていいですね♪」

 

「‥‥はい、とても。」

 

そんな話をしていると、何やら別の温泉でギャーギャーと悲鳴じみたものが聞こえてくる。

 

「なんか騒がしいね。」

 

「動物でも出たのかな?」

 

その時、ふとエーリは自分の肌が、触られた感触を覚える。

 

「うきゃっ! もう、ヴィヴィオくすぐったいよ~。」

 

「ふぇ? 触ったのわたしじゃないよぉお!?」

 

ヴィヴィオも触られたのを感じたのか、突然驚いて立ち上がる。どうやら先にティアナたちも同じ目に遭ったようで、安全確認をしてくる。そしてその感触は、アインハルトにも伝わった。

 

「-------------ッ!」

 

咄嗟にアインハルトは素早く力を込めて前方のお湯を切る。すると目の前でお湯がのぼり、それが真っ二つに割れる。

 

「あっ‥‥水切りできた。」

 

「あう~、先越された~。」

 

エーリが悔しがる一方、リオの後方から水着姿の水色髪の女性が、リオの胸を触った。それに反応したのか脱衣室にあるリオのデバイス、ソルが緊急モードに移行。すぐさまリオを大人モードでバリアジャケットを纏わせる。リオは女性の腕をつかんで空中に投げた後、

 

「絶・招・雷・炎・砲!」

 

と叫んでその名の通り雷と炎を纏った蹴りをお見舞いする。女性は吹き飛ばされ、ヴィヴィオ達はリオを心配して駆け寄るのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

セクハラ魔の正体、シスター・セインは、現在正座されられていた。

 

「駄目だよセイン、こういういたずらは。」

 

「セクハラも犯罪なんだからね。」

 

「私が営業妨害で訴えたら捕まるしね。」

 

「こんなのがあたしより年上かと思うと涙出てくるわ。」

 

自業自得とはいえ散々な物言いをされたセインは、泣きながら子供のようにジタバタする。

 

「なんだよ、ちょっとみんなを楽しませようと思ってただけじゃんかよ~! あたしこれでも

 聖王協会のシスターなんだぞ~! あたしだけ差し入れ渡したら帰るとか切なすぎるじゃん

 かよ~! 自慢じゃねーがあたしはお前らより精神年齢大人じゃないんだからな!」

 

「本当に自慢じゃねーよ。」

 

そんなやり取りをエーリ達は興味深そうに見ていた。

 

「ヴィヴィオさん、あの方は?」

 

「セインといって、聖王教会のシスターで修道騎士見習い。たまにお茶目が過ぎるとこも

 あるんですけど、優しいシスターですよ。」

 

「本当に面白いなぁ、ヴィヴィオの周りの人は。」

 

改めてエーリは、あの日アインハルトと決闘してよかったと思うのだった。ちなみにセインは、今夜と翌朝の調理担当をすることで許されたらしい。




オリキャラ募集してるので、興味のある方は活動報告までどうぞ。


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カウント13

合宿2日目、模擬戦の部隊となる広場には、動きやすいジャージ姿のエーリたちが集まっていた。

 

「全員揃ったね。それじゃあ試合プロデューサーのノーヴェさんから。」

 

「あ、あたしですか?」

 

フェイトに突然指名されたノーヴェは、少し照れながら髪をいじる。

 

「えー…ルールは昨日伝えた通り赤組と青組七人ずつのチームに分かれたフィールドマッチです。

 ライフポイントはDSAA公式試合用タグを使います。」

 

「なお今回は数合わせのため、うちのガリューも参加しま~す。」

 

ルーテシアが陽気にこたえ、ガリューはスッと一礼する。

 

「まあ後は皆さん、正々堂々怪我のないよう頑張りましょう。」

 

『はーい。』

 

全員が一斉に返事をし、デバイスを構える。そして、

 

『セーットアーップ!』

 

ガリューを除く13人が光に包まれ、バリアジャケットを身にまとう。その後そのまま、簡単な作戦会議に入る。エーリのチームは赤組で、メンバーはエーリの他にフェイト、、ノーヴェ、アインハルト、コロナ、ティアナ、キャロである。そしてエーリのポジションは前衛となるFA(フロントアタッカー)で、ライフは3000である。

 

「序盤は多分同ポジション同士の1on1。均衡が崩れるまでは自分のマッチアップ相手に

 集中ね。」

 

「はい! アインハルトさん、一緒にがんばりましょうね!」

 

「はい…‥こうして共同戦線を張るのはなんだか不思議な気分ですね。」

 

エーリとアインハルトがそんなことを話していると、モニターにメガーヌが映る。

 

『それではみんな元気に、試合開始~!』

 

メガーヌがジャァァンッと試合開始の鐘音を鳴らすと同時に、全員が一斉に戦闘態勢に入る。

 

「ウイングロード!」

 

「エアライナー!」

 

スバルとノーヴェが魔法で空中に道を作り、メンバーがそれに乗っていく。

 

「コロナさんはリオさんの、エーリさんはガリューさんのお相手をお願いできますか?」

 

「はい!」

 

「よろこんで。」

 

アインハルトの指示を受けてエーリは分散。周りではスバルvsノーヴェをはじめとした、1on1の戦いが行われていた。

 

「凄い乱戦だね、アンク。」

 

『感心すんのはいいが、今は目の前の相手に集中しな。』

 

アンクの言う通り、目の前にはガリューが立っており、エーリは目の前で止って戦闘態勢に入る。

 

「初めて会ったとき、いきなり構えちゃってごめんなさい。でも、戦うからには全力で

 行きます!」

 

エーリの言葉にガリューはうなづき、腕の爪を伸ばしてエーリに迫る。

 

「アンク、腕を緑に!」

 

瞬間、エーリの上半身のジャケットが形状を変え緑に変化。ジャケットに付与されている小型刃で、振り下ろされたガリューの爪を受け止める。そして片足で跳んでもう片足で勢いをつけてガリューの頭部めがけて蹴りを放つも、ガリューがもう一方の腕でガード。エーリはいったんガリューと距離を置いて高くジャンプするも、ガリューも勢いよく高くジャンプし追跡してくる。

 

「うわっ!?」

 

エーリは驚きながら自分の体ごと足を回転しガリューに蹴りを放つがそれをガリューが腕でガード。そしてもう片方の腕で殴り掛かりエーリが防ごうとするが、焦ってしまったのかタイミングがずれ、ガリューの拳がエーリの頬にヒット、エーリはフィールドに設置された建物の屋上に叩きつけられる。

 

エーリ Damage800 LIFE3000→2200

 

「っつぅ‥‥!」

 

エーリは口元を拭いながらすぐさま立ち上がり、左右に魔法陣を展開。

 

「コメット・ショット!」

 

そう叫んで魔力のこもった散弾をガリューめがけて発射。ガリューは腕でガードしエーリはその隙に後ろを向いて建物から飛び降りる。

 

ガリュー Damage300 LIFE3000→2700

 

全ての弾を受け切ったガリューはエーリを追撃するため、エーリが降りた地点から飛び降りる。

 

「?」

 

しかし降りた地点にはエーリがいない。ガリューは警戒しながら、あたりをきょろきょろと見回す。

 

「たあぁぁぁっ!」

 

その時いつの間に建物に上りなおしたのだろうか、エーリがガリューの頭上から飛び降り、そのまま刃を振り下ろす。ガリューはそれを受け止めるがその刃は明らかに電気を纏っており、しびれを体感したガリューは一時後退する。見てみると、エーリの髪の色が緑に、瞳の色は橙色に変わっており、全体が緑という配色的にもバランスがいい姿になっていた。

 

「おりゃああああああ!!」

 

そう思っている瞬間、なんとエーリが左側から迫ってくる。すぐさま分身かと判断したガリューは、すぐさま爪を振い、エーリに直撃させる。そのエーリは霧のように消えるが、

 

「こっちにもいますよ!」

 

先ほど建物から強襲してきたエーリは、電撃を纏った刃で地面を擦り、地を這った電撃をガリューに向けて放つ。ガリューはそれをジャンプすることで回避し、そのまま爪をエーリに向けて振り下ろすが、エーリはそれを刃で受け止める。

 

「今だよ!」

 

瞬間、ガリューの後方にあった建物からまたしてもエーリが現れる。ガリューがそれに気付き振り向いた隙を突いて、最初のエーリがガリューの爪を弾き、逆に刃を振り上げる。それに気づいたガリューは頭を後ろにそらして回避し、足に力を入れて振り上げ、エーリを蹴り上げる。エーリは勢い良く吹き飛ばされた‥‥のではなく、霧のように消えてしまった。すぐさま3人目のエーリの攻撃を予測し後ろに旋回、腕を前に出して防御しようとするが、

 

ドゴッ

 

突如腹部に衝撃が走る。見ると、地に背を付けたエーリの足がガリューの腹部をとらえていたのだ。いつの間に、スライディングしてこの状況までもつれ込んだのだ。エーリはガリューにそんな思考をする時間を与えず、

 

「えへへ、3人目のあたしが本物でした♪」

 

と言って魔力の充填が完了したその足を力強く押し込み、ガリューを蹴り飛ばす。ガリューは後方の建物に激突し、建物が崩れていく。

 

「はぁ、はぁ‥‥。」

 

『まだダウンすんじゃねぇぞエーリ。試合は始まったばっかだ。』

 

相変わらず辛辣なデバイスだなとエーリは思っていると、後方ポジションのティアナから通信が入る。

 

『エーリ、私達もそろそろ動くわよ。なのはさんのところへ向かって。アインハルトと一緒に

 2on1で行くのよ!』

 

「了解です!」

 

エーリは敬礼すると、そのままなのはのもとへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころのルーテシア

 

ガリュー Damage2200 LIFE2700→500 

エーリの直撃⁺建物による接触ダメージにより行動不能

 

「あ~ん、ガリューがやられるなんて~! エーリをこっちに引き込んどけばよかった~!」

 

「ルールー…‥。」

 

さりげなく酷いこと言うなと、ライフ回復中のヴィヴィオは思うのだった。         




オリキャラ募集、まだまだやってます!


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