京太郎になった件 (たぬたぬたぬき)
しおりを挟む

1話

「……」

 

「何、須賀君……?」

 

 

おお……これが生宮永咲か。

 

確かに凄まじいものを感じる。

 

今の時点だと暫く麻雀をやってなかった筈だと言うのに軽く探っただけでこれだ。

 

プロ連中にもほとんどいなかったレベル。

 

外見は大人しい文学少女にしか見えないのになぁ。

 

まさにラスボスの風格…ゴッ倒すとか魔王とかネタにされる訳だ。

 

プロになったら絶対魔王様コース間違いなし。

 

 

内心で主人公に会ってテンションの上がる俺。

 

気付けば目の前の魔王(仮)が怪訝な表情を超えて怯えている文学少女に。

 

探るのと回想に集中しているお陰でデカい男に絡まれている様相になってしまっていた。

 

 

(やっちまったぜ)

 

「ぅ、ぅぅぅ……」

 

 

教室で女子に話し掛けるとか無理だし…と校内の無人スポットで本を読んでいる所に突撃したから周りに人はいない。

 

宮永さんもあまり意識高い系女子ではないようで痴漢よー!と叫んでくれていない。

 

とても有難いことだ。

 

だがしかし、泣かせ始めてしまっている女子を慰めるとかムズすぎるだろ…!

 

どうやって乗りきろう。

 

 

(取り敢えず目線を合わせて…)

 

「ひっ」

 

 

何気に傷付くな…。

 

ちょっと動くだけでこれだよ。

 

わずかに、本当に僅かにだけど涙流れちゃってるんだけど。

 

人に見られたらガチでやばい気がする!

 

 

(慰める……俺一人っ子だから分かんねーわ…)

 

「も、もう行っていいかな……」

 

 

やばい。

 

このままだと変な奴でやばい奴だと宮永に勘違いされてしまう!

 

逃げ方が完全に不良とかうざい奴に絡まれてる大人しい奴のあれだ。

 

見た目はそっちよりだけど中身は宮永と同類なのに!

 

 

「えっと」

 

「っ」

 

 

逃がさないように、謝る機会を作ろうと手を握って捕まえてみる。

 

宮永さんの手ちっちぇえ…。

 

あと結構汗かいてる。

 

ごめんね、多分汗は俺のせいだと思うから頭の中で謝っとくわ。

 

 

「………」

 

「………」

 

(なんだこれ)

 

(なんだろうこれ)

 

 

一触即発(間違い)だった空気がみるみる変な感じになっていくのが分かる。

 

怯えてた宮永さんもいつの間にか泣き止んでて困惑してるし。

 

ひとまずガチ泣きでコミュも取れない事態になるのは回避出来たな。

 

 

さて、ここからどうすべきか……。

 

まだ完全に安心するのは早いだろう。

 

何かしらの下手があればまた文学少女を泣かせてしまう。

 

デカい男はこういう所が弱いな。

 

リラックスさせながら謝るのがいいかな…。

 

 

「なんか、ごめん」

 

「!?」

 

「ほら……あれ、知らなかった?」

 

「分かるけど……」

 

「じゃもっかい」

 

「うん……」

 

「なんか、ごめん……」

 

(それももう1回言うんだ…)

 

「脅かす…泣かすつもりはなくて」

 

「!?」

 

「いや、大丈夫。ちょっと涙が流れてただけだから」

 

「〜〜〜っ」

 

「あ。今の嘘、泣いてない泣いてない」

 

「気を遣ってくれるの遅いよぉ…」

 

 

互いの手をてちてちと合わせながらなんとか会話を重ねる。

 

てちてちじゃ分かりにくいな…あれ、あれだ。

 

せっせっせーのよいよいよいってやつ。

 

お寺のおーしょうさんがー…て、手遊び?

 

あれをやりながら話す。

 

良かった、知らなかったらまた気まずくなってわ。

 

時折中断しては手を握って最初っからやり直す。

 

 

「中学生にもなって人に泣かされるの恥ずいもんな」

 

「だったら何で言っちゃうの…傷口に塩刷り込んじゃうし」

 

「悪い悪い」

 

 

おお、普通に会話できてないか?

 

 

「で話戻すんだけど」

 

「うん」

 

「泣かせる気はなくてだな」

 

「……うん」

 

 

どう言おうか。

 

まさかマンガの主人公を見に来たとは言えないしな。

 

折角解けた変な奴疑惑がまた降り掛かってしまう。

 

 

「……宮永さんが」

 

「うん」

 

「気になった、から…とか」

 

「…!?」

 

「だから」

 

「え、え…」

 

「友達になりに来ました」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリートだな。

 

何とか無事に和解出来たし。

 

友達になろうぜ!とか変な友達のなり方だけど。

 

電話番号の交換も出来たし。

 

 

「さーてと、宮永さんこれからどうする?」

 

「……もう帰ろっかな」

 

「そっかー」

 

「じゃ、さよなら…須賀くん」

 

「また明日なー」

 

 

後は普通に話したりして、高校で麻雀部に誘えばおっけーだな。

 

和とバチバチやったりして姉がインハイに出るのを知って…みたいなのだった筈だし。

 

中学に入りたてすぐに、ってのがちょっと気が早かったかもだけど。

 

まーいいか。

 




帰宅中の宮永さん

(変な人だったなぁ…)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

「須賀くんって」

 

「ん?」

 

 

学校の帰り道。

 

宮永さんと知り合った春も過ぎて夏休みが近づいてくる頃。

 

汗を流しながら帰宅する最中だ。

 

 

そう、宮永さんと、女の子と下校。

 

相手は生前を含めると遥か年下の筈なのだが、そこはこの俺。

 

結局彼女も作れなかった経験の浅い俺。

 

初めの内はJCにドギマギしていた。

 

のだが。

 

それも今では懐かしい。

 

慣れればなんてことはないのである。

 

平気で雑談をして帰れるようになった。

 

なにかあるとすれば、時折付き合ってんのかよーとか男友達から突っ込みがある、それ位だ。

 

意外にというかあまり深く聞かれることがない。

 

 

「割と不良だよね」

 

「失敬な」

 

 

俺のどこがだ。

 

 

「だって入学してもう何回も学校さぼってるし」

 

「いやいや、さぼってないし。病欠病欠、病欠ってことになってる」

 

「つまりさぼり…」

 

 

学校の記録では病欠です。

 

 

「連休になるようにしてるし……」

 

「そうだっけ?」

 

「というか、お土産貰ったよ」

 

 

そうだった。

 

気が向いたから買って帰ってやろうとお菓子を大量買いしたんだった。

 

 

「写真も見せてもらったよ」

 

「だから、あれは休みの間の分で、旅行疲れで休んだんだと」

 

「写真に日付が残ってたけど」

 

「グウの音もでねぇ」

 

 

まぁ良いかと開き直る。

 

品行方正でチクリ魔な学級委員長でも相手にしてるなら必死で誤魔化すが。

 

相手は控え目でボッチ気味の文学少女だし。

 

情報はどうやったって漏れない。

 

 

「情報管理が杜撰過ぎるね…」

 

「うっせぇ」

「……真面目な話なんだけど、先生にバレたりしたら駄目じゃないの?」

 

「駄目は駄目だろうけど」

 

 

実際知ったとしてもわざわざ問題にされることはないだろ。

 

俺も問題のある所なんてないし、寧ろ手が掛からない方だと思う。

 

こっそりか、堂々とか、あんまりサボるなよーと言われて終わりじゃなかろうか。

 

 

「ドラマじゃあるまいし、何でサボったんだ!なんて展開はないだろ」

 

「それはそうだけど…」

 

「だろ?」

 

「サボり癖あり…とか通知表に書かれちゃうかも」

 

「ちょっとありそうで嫌だな…」

 

 

とは言っても辞める気はないけど。

 

単なる旅行でなく、麻雀大会に出る為でもあるから。

 

金持ちで我儘を聞いてくれる両親に俺の雀士としての才能。

 

後はやる気と揃ってるんだから。

 

個人的に遠征して大会に出るというのが可能なのだ。

 

麻雀大会出場と旅行を兼ねた旅は間違いなく有意義な筈、多分。

 

そもそも中学に人気種目である筈の麻雀の部活がないのが悪いんだし。

 

 

「そこら辺も調べといた方がいいかもなー」

 

「調べてどうするの?」

 

「……どうしようもないけどさ、知らないよりましじゃねーか」

 

「サボるのをやめる気はないんだ…」

 

 

ないな。

 

試してみたけど、移動して観光して麻雀大会に出てって凄い楽しい。

 

親からストップが掛かるまではとりあえずやる。

 

2回目の人生なんだから楽しまないとなー。





次は麻雀大会の描写かな。

学生でなく個人で大会出させりゃいいじゃん!と思ったけど、これだと地方とかは行きにくい気がしてきた。まぁいいか。


京太郎(偽)の能力はやっぱ須佐之男関係のものにしようか。
にしても須佐之男って逸話から能力作りにくいな…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

夏休みである。

 

7月の終わりから8月を丸々、およそ1ヶ月と少しの間は学校がお休みになる。

 

つまりは自由。

 

この開放感は社会人になったらもう味わうことは出来ないものだ。

 

なんの心配をせずに遊び呆けることが出来るなんてなんとも贅沢なものだ。

 

 

俺の予定は、目星をつけている麻雀大会への参加、家族旅行、あとは友達と遊ぶ、と言った所だ。

 

 

6月頃、夏休みをそこそこ前に控えて計画を立てるために開かれた家族会議。

 

普段から麻雀旅行を許されている俺だが、それも一月にそう何度もあることではない。

 

二度あれば多いくらいだ、そんなに休めないし行ける日に丁度良い条件の大会があるとは限らない。

 

なので高めの習い事感覚なのだろうか、寧ろ行ってこいと送り出されている訳なのだが、夏休みだとやはり場合が異なる。

 

40連休。

 

行こうと思えば麻雀三昧に出来るのだ。

 

ただし、金が非常に掛かる。

 

交通費、滞在費、食費etc。

 

いくら裕福な我が家でもちょっと待てとストップが出た。

 

 

で、両親曰く。

 

綿密にではないにせよ、何処に、いつ、何日間行って、幾ら位掛かるかを出すのが最低条件だと。

 

あとはあんまり出っ放しはやめておけと。

 

計画を見させろと。

 

ゆるゆるである。

 

それって条件ないも同然じゃねーの?と思ったけど中学生ならこんなもんなのかと思う。

 

自分なりに調べて大体の金額を出したけど。

 

ドッキドキだった。

 

旅行に出る度にありがたいなーと思ってはいたけども。

 

まとめて金額を確認するとなんというか、変な動悸が…。

 

も、もっと安いとことかにした方が良かったかな。

 

高い所はきっちり避けてたんだけど…

 

見せた時に、二人してなるほどなるほど言ってたのはどうだったんだ。

 

良かったのか悪かったのか…。

 

 

 

 

(許可は結局あっさり通ったし、今更気にしなくてもいいか)

 

 

予めほかの予定は調べてあったので、そこを避けて麻雀予定を組んだだけだ。

 

数もまあまあ抑えめであったし。

 

頑張ってこいとお墨付きで送り出された。

 

 

今日からは少し長めに大阪に滞在して、まとめて麻雀大会に出る予定だ。

 

流石は大阪。

 

調べれば幾らでも大会が出て来る。

 

この日に大会があるから来よう、ではなくこの日が空いてるから来て大会に出よう、と普通の大会決めとは逆のことが出来る。

 

とはいえ良さそうな大会であれば、出場を目的にするのは当然だが。

 

 

(今日は、ぐるりと出る予定の大会の会場を見て回ってからホテルだな)

 

 

着いたのはお昼過ぎ。

 

特に予定とずれはないので、出発前から考えていた通りに下見とちょっとした観光に今日の残りの時間を使うことにする。

 

腰を据えて観光するなら朝からしっかりと回りたいし、初日からバタバタする程に詰め込みたくない。

 

1日のんびり観光する予定も入れているし無理をしなくても良い。

 

そう考えて人並みの中を歩いて移動する。

 

にしても大阪って本当に道分かりにくいな。

 

 

(疲れた)

 

大阪初日ホテルで一息ついた感想だ。

 

人混みが極端にストレスにはならないものの、長野では感じることがまずない疲労がある。

 

こんなんで麻雀を打てるかなーと感じる一方で。

 

雀卓に座って集中したいという気分もある。

 

不思議なものだと肩や腰をぐりぐりバキバキと動かしながら思いを巡らせる。

 

 

大阪で期待していたのは観光や麻雀だけではない。

 

ある意味麻雀関連ではあるが。

 

そう、咲-Saki-のキャラクターとの邂逅だ。

 

今の所知り合ったのは宮永さんのみ。

 

後は瑞原プロと三尋木プロを遠目に見たのと、今の時点でプロデビューしている大人勢をテレビで見た位だ。

 

俺は生まれてずっと長野育ちだから県外の人に会うことは出来ない。

 

県内勢にも会ったことはない。

 

そもそも現時点で何の関係性もない人間のことを探すなんてしない。

 

大体俺の記憶の中では高校生の時点での姿が朧気なのさえいるのに。

 

余程特徴的でない限りは分からないぞ。

 

多少髪型が違うだけでも迷う自信がある。

 

 

原作も近付いて、俺自身も行動を起こし始めたから物語が始まるように、咲-Saki-のキャラクターに出会って行ったりするのかなーと思っていたのだが。

 

流石に初日からはなかったか。

 

ここで偶然知り合ったのが、みたいなのは割と漫画とかで定番な気がするんだけど。

 

このまま誰とも会わず帰ることになるか、明日以降の試合で会うことになるか。

 

……大会なら名前も呼ばれる筈だから流石に分かるだろう。

 

気付かない可能性はない、筈。

 

よーくそこら辺も聞いておこう。




京太郎(偽)の麻雀遍歴

親に基本を教えてもらう

主にする場はネトマ

リアルでは家族と親戚などと、大会にも出たことはある(鳴かず飛ばず)

割と最近自分に才能(雀力、運とか)があったり、オカルトを持っていることに気付いた。
オカルト持ちや麻雀的な運を持っているのに気付かなかったのは、そもそも京太郎というキャラクターが弱い(運がない)のはしっていたので真面目にやらず、ルールを把握してある程度やり慣れてればいいや位にしか取り組んでなかったため。コミュニケーションツールの一環位にしか考えてなかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

この世界では麻雀が大変に有名だ。

 

元の世界で言うと野球、サッカーなんかを想像するとわかりやすい。

 

或いは囲碁将棋なんかでもいいかもしれない。

 

 

プロで有名な選手になれば云千万やら億なんてこともざらに聞く。

 

ここら辺は野球やサッカーと同じ感じ。

 

 

つまり子供に習わせる1つの選択肢として当然麻雀が入り、著名な大会でならちょっとした肩書きになる位立場が高い。

 

そして、著名ではない大会も人気と競技人口に比例して存在するのだ。

 

ルールは様々で小学生までとか、シニア(65歳以上)とか、市内在住とか。

 

意外なことに性別の指定は驚く程に少ない。

 

 

咲-Saki-ではインハイばっかりやってるから凄く不思議に思ったものだ。

 

しかし考えてみれば当然だ。

 

プロだと大沼っていう爺様が出てたし。

 

スポーツみたく接触やらからの事故で怪我とかもない訳だし。

 

明確に禁止する理由がない。

 

ただまぁ風潮としても事実としても何故か女性の方が強いというのがある。

 

余程のお馬鹿でも分かるくらいはっきりと。

 

 

だからこそ、大沼プロみたく男で強いと、出たかと目立つのだ。

 

 

 

 

(ぶっちするのはまずかったかな…)

 

 

そこそこな規模の大会で人生的な意味で運良く能力を上手く使うことが出来た俺。

 

ここでいう能力を上手く使うというのは。

 

くろちゃーみたいな居るだけでドラが転がり込んだりでなく。

 

天江衣みたいに自分の支配が発揮出来る条件を知っているのでなく。

 

怜みたいに自分の力をどう思ったように発揮させるか的なニュアンスだ。

 

あまり強い人も多くなかった為に見事優勝することが出来た。

 

 

だがその後が予想外だった。

 

明らかに大会の規模に合っていない記者やらがいたのだ。

 

名前が乗ったりする程度ならどうぞと言いたいが写真は…。

 

今考えるとちょっと過剰な感じの拒否感が湧いてきてしまった俺は思わず逃げてしまった訳だ。

 

いや、だってなんか記者の人の目が怖かったし…。

 

多分男子の俺がド派手に勝ったから、とかかなぁ。

 

記事的な意味で唾をつけときたかったんだろうとは思うがあれは狩猟者の目だよ。

 

人数に関してはたまたまか、そもそも俺の予想が間違っていたか。

 

……夏休みの期間で期待の新人が出やすい、とかあるかもな。

 

少しでも早く見つける為に色んな大会を張っていたとか。

 

 

 

過ぎてしまったことよりも今日の晩飯を心配しよう。

 

会場から適当にぶらぶら歩いてホテルへと向かう最中。

 

電車で帰る所を何駅か歩いて良さそうな所を探す。

 

田舎だとどんだけ時間掛かるんだと思うが、都会ってすごい。

 

駅と駅の近さがぱない。

 

 

 

(ここでいいか、入りやすい気がする)

 

 

そこそこ繁盛してそうで、けどあんまり地元客が居すぎている訳でもない。

 

あとなんか個人経営っぽくて美味そうな感じがする。

 

過剰に汚いこともないし。

 

営業中の看板を見てから中へと入る。

 

 

「いらっしゃいま………うわっ」

 

「?」

 

 

いきなり変な声を上げられてしまった。

 

こっちは突然の原作キャラに声を上げるのを我慢したというのに。

 

会場とかで会うかなーとは思ってたけど、まさかお好み焼き屋で会うとは。

 

しかも店員。

 

実家がお好み焼き屋なんて情報あったっけ。

 

上重漫さん。

 

 

 

「いやー、ありがとうございました」

 

「これくらい構わへんけど…アグレッシブな子やな」

 

 

どうやら上重さんは俺が出てた会場に来ていたらしい。

 

選手ではなく観覧で。

 

俺の打っている所から優勝する所まで確りと見ていたらしい。

 

もちろん俺がいなくなった後まで。

 

何でも優勝者の俺がいなくなったので、小規模ながらも授与式は中止。

 

インタビューしようと考えていた記者も何事かと騒ぎ。

 

主催側もなんでやねんと俺を探し回っていたらしい。

 

 

上重さんからこの話を聞いた俺はすぐに電話をして謝っておいた。

 

気にせんといて下さいとは言われたけど絶対嘘だな。

 

裏で絶対にあのガキぶっ殺すとか言われてるわ。

 

 

「にしても何で逃げたん?」

 

「なんか記者の人とか怖かったんで」

 

「そのタッパで何言うてんのや…」

 

「そう言われても、俺まだ中1っすよ」

 

「おぉ、年下かいな………」

 

「そっすね、先輩は…」

 

「中2や」

 

1個上、記憶通り。

 

 

 

「屋根……そないに…必死かっ」

 

「いやいやいや、まじで怖かったですし」

 

「どんくらい?」

 

「メスライオンの群れに狙われる位…?」

 

「あんたがなんで、アフリカの草食獣の気持ちしっとるんや」

 

「めっちゃ草食動物だからじゃないっすか?」

 

「どこがやねんっ」

 

「見た目とか……」

 

「自信ないのに何言うてんねん」

 

「ほら、目とかめっちゃ純朴な感じでとか」

 

「………」

 

「………」

 

「っ」

 

(なんだこれ…)

 

(よー見るとイケメンやん…な、なんか暑うなってきた)

 

「で、どうですか?」

 

「はえっ!?」

 

「俺の…草食動物具合?」

 

「………ま」

 

「ま?」

 

「まぁまぁ…?」

 

「まぁまぁ草食動物………」

 

(漫の奴、男の客と何色気のない話しとるんや……)

 

 

 

 




中途半端だけどここまで。

京太郎(偽)の記憶は中途半端です。

なんなら宮守勢の学年もほとんど忘れてるし、かじゅの能力を必死に思い出そうとしてしまうこともある位です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

「くはぁぁ」

 

「ちょ、ほんま大丈夫?」

 

「大丈夫」

 

「そうは見えんて…」

 

 

上重さんと知り合った翌日。

 

今度は結構大きめの大会に出場していた。

 

デカい会場を貸し切っての大会で、咲-Saki-でのインハイみたいなテレビ観戦?もある。

 

上重さんは出ている訳ではないが、俺が出るんだーと話したら応援したげる!と見に来てくれた。

 

 

さて、何故俺がグロッキーになっているかと言えば

 

「これ、伝説になりますかね」

 

「自分で言うんかいっ、まぁネタになりやすい話やけど」

 

能力を使い過ぎた反動である。

 

 

上重さんに応援してもらった今日の予選。

 

明らかに別格な選手が1人いたのだ。

 

原作キャラを全員完璧に覚えている訳ではないけど、見覚えのない人だった。

 

つまり、俺と同い年から2つ上から外れていたりする普通に麻雀が強い人だ。

 

可愛いお姉さんに応援してもらってるのもあり意気揚々と試合に望んだのだが。

 

まぁ普通に強かった。

 

能力を十分に使いこなせていない俺ではジリ貧だし、ほかの二人も同じようだった。

 

 

なのでまぁ、今の所奥の手である能力を使って何とか勝とうとしたのだ。

 

結果は一気に連チャンで二人を飛ばし、強い人に逆転勝ちを収めた。

 

しかし代償が大きく一気に疲れてしまった。

 

何というか手足がふわふわして上手く集中出来ない。

 

これでは当然麻雀も打てないだろう。

 

という訳でその局では1位抜けしたのだが、大会自体は棄権して後はのんびりとしようと考えた。

 

もう今日は切上げて会場を出るかは暫く休んでから考えよう。

 

 

 

「折角勝ったのに二位の人が代わりにかー…」

 

「しゃあないですよ、調子崩した俺が悪いんですし」

 

「……それ、あの二位の人に言ってきてみ」

 

「嫌ですよ…ただでさえめっちゃ怖い顔で見てきてたのに、煽る様な事言ったらどうなるか」

 

 

正直な所結果、ここで言うと試合の順位はどうでもいい。

 

いや、何も負けてもいいとかではないから完全にどうでもいい訳でもないか。

 

兎も角、何位になれたかなどよりも全開の状態で打てたことが大事なのだ。

 

自分でいうのはなんだけど全開状態の俺は滅茶苦茶強い。

 

打ち方が上手いとかでなくひたすらに、強い。

 

自分の優位になるように牌が動いて相手方には不運を振りまく。

 

そんな感じだ。

 

天江衣の海底コースの打ち方から、残虐さを引いて容赦のなさを足した雰囲気で大体あってる。

 

つまり相応に俺の支配力に対抗出来る打ち手じゃないと1発で吹き飛んでしまう。

 

巧みで運が多少いい程度なら駄目。

 

竹井久、愛宕洋榎のような打ち手。

 

或いは俺の支配を掻い潜れるオカルト持ち。

 

そんな人でないと全力になってガス欠になる意味が無い。

 

という訳で、全力状態で麻雀をきちんと打てたことので良かろう、と言った所なのだ。

 

二位の人以上の打ち手がいる可能性があって、その人に当たることが出来なかったとかあればもったいないかもだが。

 

その時はその時でどんまい。

 

 

「この後どうしましょうかねー」

 

「なんや、見て行かへんの?」

 

「あんまり集中してできる気もしないですし」

 

「…そか」

 

「だったらまだ試合に出る予定なんで休息を十分取っておくのもありかなー、と」

 

「……ほんなら」

 

「?」

 

「ちょっと、うちの相談に乗ってくれたり、せーへん?」

 

 





京太郎(偽)への人物評価
自分の好きなことをしているお金持ちっぽいけどお金持ちっぽくない男の子。
自由人。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

「――ってことや」

 

 

場所は会場から離れたとある喫茶店。

 

時に頷き、時に質問をして得たことは。

 

上重さんは特に強くもない自分が強豪校に行くのはどうか、といった相談だった。

 

 

何でも中学入りたての頃から、なんなら姫松高校の存在を知った時から胸の内にあったそうだ。

 

弱くはないが、特別強くもない。

 

普通なりに強くなろうと我武者羅にもなれてないと、俺が大会巡業をしているのを見て強く考えたそうだ。

 

そんな自分が強豪校に入って3年間を麻雀に捧げて正解なのか。

 

全く関係の無い普通の高校に入って趣味にするか、姫松に入ってレギュラーを目指すか。

 

そんなことを聞いた。

 

 

(咲-Saki-のことを知っている俺からすれば姫松に入れば大丈夫なのは分かってるけど)

 

 

その内レギュラー抜擢されるから姫松に入っても大丈夫ですなんて言った日には頭のおかしい奴認定されてしまうだろう。

 

だから未来の情報は当然使わずに返事をしないといけない。

 

結局姫松に行った方がいいと言うことには変わりないけど。

 

だって今まで俺が上重さんに見せた姿から相談しようと考えた辺りで内心どういう返事を期待してるかは何となく予想できる。

 

割と我儘放題な俺に相談して保守的に普通の高校がいいと思いますよ、なんて想像はしないだろうし。

 

でもオカルト持ちな俺に雑魚すぎるから止めとけと見て貰うという可能性もなくはないのか、まぁ弱くはないから言わないけど。

 

 

「………行けばいいんじゃないですか、姫松」

 

 

色々と考えたあげく取り敢えず言ってみた。

 

 

「軽いなぁ…」

 

「そうは言いますけど」

 

「や、うん。言わんとすることは分かるけどや」

 

「そうそう、中学生でふらふら麻雀旅してる俺に説得力とか求めてどうするんですか」

 

「やからこそ、実は確りしとるんちゃうかと思ってみたりしとった」

 

 

ああ。

 

使ってるのは親のスネだけど、見方を変えればなりふり構わず使えるものを使って将来に備えてる風にも見えるのか。

 

 

「買い被りですねぇ」

 

「買い被りかぁ」

 

 

俺には分かるぞ。

 

相談するのが間違っていたのかなぁと思われてる。

 

あまり雰囲気とか気にしたくない俺でも分かる。

 

落胆されるには別にどうでもいいが、相談してくれた分位は何か為になりたい気がする。

 

 

「……ほら、入る入らないを決めるのも入学する位までは引き伸ばせますし」

 

「せやなぁ」

 

「もし他校に行った後でどうしても入りたくなったら、転校して入部っていう漫画キャラみたいなことをしないといけないですし」

 

「転校…無理やな」

 

「でしょ?」

 

転校って普通に入学するよりも遥かに難しいってマンガで読んだことある。

 

 

「姫松以外なら、姫松への転入から入部の意識高い系認定まっしぐらなコース」

 

「……」

 

「姫松に取り敢えず入っとけば、グダグダ考える時間も出来るし入るのは思い立ったら入部届を書けばいい」

 

「ふむ」

 

「入らないにしてもそのまま高校生活を続行すればいい、お得!」

 

「ほんまやな!」

 

 

説得完了、やったぜ。

 

 

「今なら俺のメアドも付いて相談にも乗ります!」

 

「DCの生アドレスや!」

 

「上重さんが泣きそうになったら新幹線に飛び乗って慰めに来ちゃいます!」

 

「慰めにって何してくれるんや?!」

 

「なでなでしてぎゅーっとしますよ!」

 

「なんやて、このおっとこまえ!」

 

 

やったぜ。






お話後の上重さん。

(年下、か……)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。