code;brew ~ただの宇宙商人だったはずが、この地球ではウルトラマンってことになってる~ (竹内緋色)
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prologue

 

 

 

この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。

 

 一体、何のネタの伏線だよ、とコード・ブリュウは思った。彼は人を追っているにも関わらず、気楽に物事を考えていた。彼の追っている人物を彼は既に追い込んだも同然なのだ。

 逃亡者の瞬間転移に巻き込まれ、聞いたこともない銀河系へと飛ばされたときは、流石に肝を冷やしたが、独り身の彼は旅人のように生きてきたのである。未知の世界へと来れてラッキーというくらいにしかとっていない。

 逃亡者は転移に力をそがれたのか、逃げる速度が遅くなっている。宇宙空間を遊び場としてきたコード・ブリュウには、止まっている蠅の如く見える。かくいう彼は宇宙空間移動用のデバイスを使って移動している。自力で移動しているわけではない。

 逃亡者はデバイスと同等かそれより速く移動する。滑空能力からみても基礎能力はブリュウよりも上であるはずだ。しかし、逃亡者は追ってくるブリュウに対して攻撃をしてこなかった。

 いま、逃亡者は、ブリュウが捕縛にちょうどいいと思った惑星に入ろうとしていた。大気の摩擦で逃亡者は赤く光る。

 大気に酸素でも含まれているのか、と逃亡者を観察しながらブリュウは思った。あまり自分にとっていい環境ではないかもしれない。ブリュウはデバイスを大気圏突入モードに切り替える。彼自身、あまり宇宙人としての能力は高くない種族なのだ。

 惑星への自由落下から抜け出せない状態になってから、ブリュウは不安に襲われる。逃亡者の行動は明らかに不自然なのだ。嵌められたのは自分かもしれない、とプラズマの風が頬をかすめるなか、ブリュウは冷や汗を流す。

 どほっん。

 逃亡者が勢いよく地面に着地する。大地がめくれ上がる。

「思ったより背丈の小さな星だな。」

 自然造形物がブリュウの腰あたりまでしかない。この星の住民は思った以上に小さいのかもしれないと思って彼は面倒に思った。ただ、重力が大きくないことだけが幸いである。

「なあ、お前。人様の売り物を万引きするとはいい度胸じゃねえか。」

 デバイスで静かに着地をしながらブリュウは言う。彼は売り物を万引きされたという理由だけで恐らく何千光年も先の宇宙まで逃亡者を追ってきたのだ。

「こんなところ、宇宙人の存在さえ認めてないんじゃないか?とんでもないド田舎だ。」

 逃亡者は何も語らず、ただ、ブリュウと向き合っている。ブリュウがおしゃべりなのか、逃亡者が無口なのかは分からない。

「早く、盗んだものを返しな。まあ、俺もそれを遺跡から盗んだんだから、人のことを言えないが――俺のものだから返してもらおうか。」

 逃亡者の姿は不気味であった。黒い布のローブを着て、フードの奥の影からは、赤い眼光がちらついている。

「お前もこの環境じゃ、長く生きられないだろう。」

 惑星というものは生き物である。異物があると、それを排除しようと免疫が働く。活動限界は3分だろう、とブリュウは思っていた。

「ほら。こっちも時間がないんだから。」

 しかし、逃亡者は動こうとはしない。代わりに初めて言葉を発した。

「お前にはこれの重要さが、これをこの場所に持ってくるという意味が分かるまい。」

 手の上に黒いハンドボールくらいの球体を見せながら逃亡者は不気味に笑った。ブリュウはその物体が何であるのかを知らない。確認する前に目の前の男にパクられた。

「知るかよ。んなもん。」

 ブリュウは胸の中心にある球体に宇宙空間移動用のデバイスを収納する。そして、代わりに剣のデバイスを召還した。

「どこかの惑星の戦国時代、伝説の宇宙人が使っていた聖剣――の、レプリカだ。」

 そう言って剣を逃亡者に向かって振るう。逃亡者は、素手で剣を受け止める。

「んな⁉現代ように作られて、タングステン鋼なら簡単に切り裂くもんだぞ。お前、何者だよ。」

 そう言いながらもブリュウは間合いをとる。もう1分しかない。胸の球体がアラートを発している。

「ま、お遊びはここまで、だな。」

 ブリュウは剣をしまうと、新たなデバイスを召還した。

「軍用対人光線砲だ。」

 大昔の特撮で使われていたようなおもちゃのような銃を逃亡者に向けた。

「おおっと。これはおもちゃじゃないぜ。レプリカでもない。見た目はあれだが、その実、並みの宇宙人なら即死級の砲撃を放つ。戦闘機に使われているレーザー銃を拳銃サイズにまで小さくした壊れ物よ。さ、おとなしくそいつを――おおっと。」

 ブリュウの話している最中、逃亡者が赤いレーザーを発した。地面を裂き、空まで貫く。ブリュウはその攻撃が自分に向けられていないことに気が付いた。逃亡者が狙った先に、蚊ほどの何かが飛んでいる。

「この星の鳥か?というか、お前、軍人か軍用の改造でも受けてやがるのか。」

 やはり、コード・ブリュウという男は口数が多い方らしい。逃亡者は沈黙している。その沈黙している逃亡者は、大きな音を立てて体を至る所に飛び散らせた。

「せっかく商売する星を見つけたんだ。あまりことを荒立てんなよ。」

 いつの間にかブリュウは銃を放っていたのだった。取られたものもバラバラだろうな、とブリュウは考えていた。

「こいつの悪いところは、一日に一発ってところと、腕が当分使い物にならなくなるってところだな。」

 そう言いつつ、ブリュウは自分の足元へと目を移す。先ほどから彼の足元に微弱な生命反応があった。彼は体を急速に小さくし、光球の形状となって、その何かに接触しようとする。彼は地上に降り立ったその時から、足元の小さな命を守りながら戦っていた。

 



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1

 

 私の幼なじみが宇宙人なはずがない。

 そう思いたかった。

「ねえ、あんた、なにしてるのよ。」

 私は目の前に広がる惨状を前に言った。

「何って、物売ってるに決まってんだろ。」

 男はビニールシートを路上に広げて、何やら使い方さえよく分からないガラクタを並べていた。男の顔は私の幼なじみとそっくり。でも、中身は全然違う。

「学校に行きなさいよ。」

「はあ?あんなところ、一回行っただけで行くの嫌になったわ。一日中檻の中なんて、俺には合わないね。」

 ふう、とため息をつく。このナニカに何を言っても仕方がない。心が痛むが、きっぱりと言ってやらなければならない。

「あなたね、居候のくせして、私たちに心配かけさせないでよ。」

「誰が居候させてくれなんて頼んだ?」

「あんたねえ――」

 私は怒りよりも悲しみの方が強くなり、涙をぐっとこらえる。こんな下衆の前で泣いてなるものか。女が廃る。

 

 あれは、大きな地震が起こった日のことだった。その震源近くにいた私の幼なじみ、久我翔一とその父母三人はその地震に巻き込まれ、翔一以外は助からなかった。

 瀕死の重傷にも関わらず、翔一は一命をとりとめ、驚くべき回復力ですぐに日常生活へ戻れるようになった。

 しかし、その代償は大きかった。

 翔一は記憶を無くしたのだった。そして、性格も大きく変わってしまった。

 大人しい性格だった翔一は学校に行くのを嫌がり、こうしてよく分からないガラクタを売っている。私にはこの現実が受け入れられなかった。子犬のように可愛かった幼なじみの少年が別人に生まれ変わったようになるなんて。

 だから私は、幼なじみは宇宙人とすり替わったのだとすることにした。

「なあ、お前、何か買っていかないか?ほら、これなんてな、既定の大きさまでの物体を亜光速の領域までボルテージアップさせてだな――」

「そんなことより、家に帰りなさいよ。みんな心配してるんだから。」

 翔一と一緒に住めると知った時に私はどれだけうれしかったか。

「だってあそこ、俺の家じゃねえだろ。」

 この宇宙人はいちいち私の傷付くことを言う。もう、嫌だった。

「みっともないからこんなことやめてよ!」

 そう怒鳴って私は去っていく。私はあいつを絶対に翔一だと呼ばない。あいつはあいつだ。宇宙人だ。

 

 

 

「ことに十年。十年ぶりなのだぞ、諸君ら!」

 少しじめっとしていて、薄暗くて、人が4人もいるには少し狭い部屋で一人の男が声を張り上げていた。窓がない代わりに薄っぺらい壁が震える。壁を震わせている男以外の3人の男女は鼓膜が震えないように実は耳栓をしている。

「怪獣が現れなくなってから十年間、我々地球防衛隊は日夜税金の無駄遣いのように罵られ、存続が危ぶまれてきた。しかし、とうとう、我らの出番がやってきたのだ。」

 嬉々として、ミュージカルの俳優のような語り口調で男は言っている。

「でも、ウルトラマンがやっつけちゃったじゃないですか。」

 女が言った。ショートのボブの髪を茶色く染め、雑誌をめくりながら興味なさそうに言う。その身はレーサーが着るようなやぼったいジャケットに包まれている。色が白と赤なのがよりダサい。

「何を言うか。これまでの歴史から見ても、人間の力だけで怪獣に勝てた例など十本の指で足りるわ。」

「全然自慢にもなってませんよね。」

 少し気弱そうな男がぼそっと漏らす。その身は茶髪の女性と同じくダサいジャケットを纏っている。

「何か言ったかね、クラブ。」

「その呼び方止めません?」

 髪を短く刈りあげた男があんまり興味なく言った。視線は決して合わせない。

「スペード。私はジョーカーだぞ。」

「上官でしょう。」

 スペードと呼ばれた男はあまり話す気がないと言った風に述べる。

「ところで、諸君ら、ハートはどこへ行ったかね?」

「心ですか?」

 この部屋唯一の女が言った。

「女でも口説いているのでしょう。」

 気弱そうな男、クラブが言った。

「誰が女を口説いてるって?」

 少し立て付けの悪い引き戸を力づくで引いて、一人の人物が入ってきた。背が高く、凛々しく、長い髪で、やぼったいジャケットも彼女が着るときちんとした戦闘服のように見えた。クラブはそんな彼女を真っ向から見れず、俯く。

「心、お帰り。」

「光、ただいま。」

 女同士、仲良くハイタッチをする。

「ハート。一体どこへ行っていたのかね。」

 腕を組んでジョーカーが言った。

「ちゃんと整備班が仕事してるのか見張ってたんですよ。というか、その呼び方、妹尾さんしかしてませんよ。」

 ジョーカーの苗字は妹尾らしい。

「まあ、いい。ところで、あれからというもの、とても平和だな。」

 不満そうに妹尾は言った。

「葉。現場の周辺はどうなってんの?」

 心が言った。

「砕け散った破片からは何もわかりません。少なくとも、怪獣は生物ではなく、機械に近い存在ではなかったかという結果は来てます。」

 クラブと呼ばれていた男、葉が言った。

「光、あの子は?」

 ボブの女に光は聞いた。

「それは剣の方が詳しいのでは?」

「どういうことだ?」

 心は刈りあげの男に目を向ける。

「剣はずっと彼をストーキングしているのです。」

「人聞きの悪いことを言うな。」

 光の言葉に刈りあげの男は無愛想に言った。

「宇宙人が乗り移っていたらどうするんだ。それが心配だっただけだ。」

 剣はそっぽを向いた。相変わらず可愛い奴だと心は思った。

「で、剣。その可能性は?」

「半々、だな。」

「どういうことだ?」

 もう話すつもりはなさそうなので、光に向かって心は聞いた。

「彼の治癒能力はあり得ないほどではないですが、驚くべきものです。破損した臓器の修復の速さは人体で最も速い速度です。」

「つまり、むちゃくちゃ治るのが速いって可能性もあるわけか。」

「そう。だから、半々。そして、頭部に損傷を受けたせいか、記憶障害がみられる。」

「具体的には?」

「事故に遭ったとき以前の記憶が全くないらしいのよ。だから――」

「乗り移りの可能性もある、と。」

 そう聞いて、心は頭を悩ませる。

「なあ、妹尾さん。宇宙人の乗り移りについてのデータとかないの?」

 心は妹尾に聞いた。

「うん。まあ、全然ないね。」

「嘘だろ?」

「まあ、あることには無数にあるんだ。」

「どっちなんだよ。」

「たださ、結局国家機密とかになってたりするし。」

「俺たち、地球防衛隊だろう?なんとかしろよ。」

「いや、言いたいことも分かるよ。多分、請求すれば多少はいただけるよ、データ。でも、それも無駄足なんだよね。」

 どういうことだ、と心が言う前に妹尾が言った。

「今の人類の計測器では計測できないんだよ。何もかもが。特に宇宙から来たものは。」

 どうにかならないのか、と聞こうとして、葉が先に言う。

「今の科学の理論では到底解析できないんです。相対性理論の限界とでもいえる領域です。」

 妹尾が続ける。

「まあ、それを認めたくない輩とかが無理矢理に情報を消して回ってるってのもあるよね。メン・イン・ブラック的な?」

 なんだよそれ、と心は吐き捨てる。

「その例の少年は今、どうなってるんだ?」

 心の問いに、剣が珍しく答える。

「近所の幼なじみの家に居候している。どうも両親が駆け落ちして家を出たせいで、ほとんど失踪状態だったらしい。そこからあいつの将来を推し量るのは簡単だろう。だから、家族同然に接してきた幼なじみの家族と居候だ。」

「そうか。じゃあ、後には――」

「何もなければ、養子縁組でもしてただろうな。」

「どういうことだ?」

 何故か心の中からおぞましい気配、嫌な予感が湧き上がってくるのを心は感じていた。

「記憶を無くすどころじゃねえ。あいつは完全に人格まで変容してやがる。幼なじみを泣かすほどにな。そして、奇行も目立つ。」

 乗っ取りの可能性が半々どころではないじゃないか、と心は戦慄した。

「それでも、半々か?」

「わからねえよ。でも、人間という存在の範疇としては普通だ。ちょっと変わった人間だ。」

「能力は人間の領域だと?」

「はあ。自分で見て来いよ。こいつは誰にだって判断できそうにねえんだ。それに、たった一人の人間に構っていられるほど暇じゃねえ、かもしれない。」

 一か月前の怪獣出現以降、怪獣もウルトラマンも出現していない。今後出てくるのかさえ、不明だ。

「分かったよ。ちょっと、出てくる。」

「これ、心くん。勝手な行動は困るねえ。」

 妹尾が言った。

「タバコ吸いに行くだけっすよ。」

 そう言って引き戸を開けて出て行った。

「そう言ってさっきも全然戻ってこなかったじゃないか。」

 元気がない声でも、妹尾の声は壁を震わせた。

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 鬱陶しい。

 私は思わず腕を横に薙ぎ払う。しかし、体が動かない。そして、覚醒する。

 はっと気が付いたときにはすでに授業は終わっていた。寝ていたのだ。

「なあ、佳澄。」

 寝起きの機嫌が悪い時に、それも今朝のことがあった日に話しかけてくるヤツ、殺す。

「なに?」

 私は思いっきり不機嫌に聞き返す。相手がそんなことで遠慮するやつではないのが残念だ。

「翔一、どうなってんの?」

 もとよりそれほど仲が良かったわけでもないのに聞いてくるヤツ、嫌い。

「知らないわよ。」

 あんなやつ、知らない。そもそも翔一でさえないんだ。あの野郎は。宇宙人なんだよ、宇宙人。

「知らないってことないでしょう?」

 うわ。嫌な声。その言葉を発しているのはあだ名が委員長と付けられている女の子。目つきが怖い。

「久我くんと佳澄さんが同棲しているはみんな知っているの。」

 同居だよ、同居。

「家にも帰ってないもん。」

 私は少ししょぼくれる。

「久我くん大丈夫なの?」

 本気で心配そうな声で聞いてくる女の子。もちろん、委員長なわけがない。

「大丈夫だと思うよ。心配してくれてありがとう。沙耶。」

 親友の沙耶に私は言った。でも、なんで私がお礼を言っている?

「とにかく、久我くんを学校に連れて来なさい。良くないわ。不登校に加えて、家に帰ってないなんて。」

 お前に何が分かる。何を偉そうに。私は心の中だけで委員長に向かって舌を出す。

「佳澄んちに居づらいんじゃねえの?」

 おい、お前、本気で殺すぞ。

「大丈夫だよ、ミレイ。」

 沙耶が心配そうに私を励ましてくれる。ほんと、癒されるわあ。

「次は体育だから、早く急ぎなさいね。」

 委員長はそう言って姿を消す。更衣室へ行ったのだろう。

「私たちも行こう。」

「うん。」

 私と沙耶は女子更衣室へ向かうこととした。

 

 

 心はバイクを走らせていた。地球防衛軍特注の時速300キロは余裕で出せる代物である。やはり税金の無駄遣いだ。きちんと指定された速度を守って運転している。

 徐々に速度を落とし、慣性で滑らかに止まる。目的地に着いた。

 市立山岳中学校。

 グラウンドには走っている生徒が垣間見える。

 もう自分が満足に走れないことを思うと心は心が軋むような気がした。そして、自分と同じ目に子どもたちを遭わせないように、と決意を固める。

 走っている生徒の中に目的の子を見つける。別に足が速いわけでも遅いわけでもない。特に特徴と呼べるものはない子。ただ、誰よりも仏頂面なのが特徴かもしれない。

 大分機嫌が悪そうだな、と心は頭を掻いた。彼女自身、あまり交渉事は得意ではないのだ。

 ただ、デザートは最後である。それまでにやらねばならぬことがある。

 

 心は校長室で面会をしていた。相手はもちろん、校長先生である。

 そこだけが明らかに造りが違うと思わせる木製の扉を開き、心は扉の向こうの校長に頭を下げる。すると、校長も恭しく頭を下げた。それが心には新鮮だった。校長の仕事の主たるものは外からの来客に対して接することというのは知識として知っていたものの、朝礼で威張ったように演説する姿を目の当たりにしてきた光には少し目の前の現実が信じられなかった。

「地球防衛隊の円香心と申します。」

「校長の筒居です。」

 タケノコのような姿の校長はまさに校長という感じの人物だった。

「おかけください。」

 校長の言葉に合わせて心は椅子に座る。思った以上に椅子がフカフカで心は一瞬前後不覚になる。普段座っている本部の椅子は安い備品であるし、戦闘機のコクピットは決して柔らかくはない。

「ふふふ。なかなかいいソファでしょう。」

 柔和な笑顔を見せながら筒居は言った。流石は年長者である、と心は感じた。立場は心の方が上という態度を見せつつも、さりげなく自分が年上であり経験が豊富であるということを示しているように感じた。しかし、それを感じた所で何かが変わる心ではない。少し笑って見せるも、顔を真剣なものへと変えて、話を切り出す。

「電話で伺った件についてなのですが。」

「はい。通常ならば生徒の個人情報を渡すわけにはいきません。しかし、お国からの御通達とあれば仕方がありません。全面的に協力させていただきます。」

 そう言って校長はおもむろに固定電話をとる。そのさりげなさに心は一瞬何が起きたのか分からなかった。

「筒居です。はい。谷崎先生を手配通りに。はい。よろしくお願いします。」

 受話器を置いた校長は心に笑顔を向けて言った。

「今、二人の担任の教師をここに向かわせております。ただ、誠に申し訳ないのですが、校長室で担任教師と御来客だけがお話するというのはあれですし、会議室をご用意させていただきますので。」

「分かりました。では。」

 そう言って潔く出て行こうと心が柔らかいソファから立ち上がったのと同時に、扉がノックされた。校長は心に目をやり、構わないかと確認をとったあと、「はい。」とだけ言った。

「2―E担任の谷崎です。失礼します。」

 そう言って入ってきたのは、何の当たり障りのない男性教師だった。歳は40代くらいで、どちらかというと文化系には見えない容姿である。しかし、それ以上のものはない。

「では、円香さん。谷崎先生。よろしくお願い致します。」

 そう校長は言った。

「失礼しました。」

 そう言って心が礼をして校長に背を見せると、谷崎がつったったままだった。どうも緊張しているらしい。これが普通の人間の態度である。地球防衛隊などという訳の分からない組織で、それも国の息のかかった存在となるとびびらざるを得ない。改めてこの校長は只者ではない、と心は感じた。昨今、校長は市民から選ばれることもあるというが、この学校が選んだ校長は相当に大物らしい、と心は感じていた。

「行きましょう、谷崎先生。」

 心の言葉によって金縛りが解けたように谷崎の筋肉質な体が緩んだ。そして、挙動不審気味に、「はい。よろしくお願いします。」と言い、会議室へと案内を始めた。

 

 会議室と言われていたのに、連れて行かれたのは教室だった。

「ここが久我翔一と佳澄ミレイが学んでいた教室です。」

 何も言わず谷崎が教卓に座ったので、心は少しためらいつつも机の一つに腰かける。椅子は小さそうなので流石に座りはしなかった。

「私は生徒の個人情報を教えることを快くは思っておりません。それも、あれほど悲しく複雑なことが起こった生徒ですから。」

 心は少し苦い顔をした。面倒臭い、と感じてしまった。教卓の中から谷崎のまとめたであろう書類が出てくる。しかし、心が欲しいのは紙切れのデータではない。

「個人情報の類はけっこうです。私は彼ら二人の様子を担任のあなたの意見を交えて聞きたいのです。」

 そう心が言うと、谷崎は心底面倒くさそうに溜息を吐く。ぼろが出始めたな、と心は思った。

「まず、佳澄さんから言いましょうか?」

「いいえ、彼から。久我くんからお願いします。」

 すると、教師は目を細めた。きっとあまり良い事が起こったわけではないと心は確信した。

「久我くんは、事故に遭う前はよくも悪くも、あまり目立たない子でした。目立たないというよりは印象が薄いという感じであったかもしれません。ですが、事故から復帰した後、初めての登校日、私は彼が全く別の人間とすり替わったのかとさえ思ってしまいました。」

「というと?」

「授業中、いきなり『つまらない』などと言い出し、教室から出ようとするのです。それを諫めようとすると、こんなことやっていたって意味がないなどと言い出すのです。なんとかその日は一日授業を受けさせることができましたが、その後、学校には一日も来ていません。一度保護者に、佳澄さんのご両親にお話しを聞こうかと思いましたが、不慮の事故ということもあり、彼の立ち直りには時間が必要かと。」

 少し神経質気味に谷崎は言った。こいつは見かけによらず精神が弱そうだ、と心は思った。

「ちなみに、おかしなことをお聞きしますが。」

 これを言うのは一体何回目だろう、と在りし日の平和な日常と対比して思った。

「彼が何者かと入れ替わったという可能性は考えられませんか?」

 その言葉を言った瞬間、教師の目が変わった。優位になり勝ち誇った表情をした。牙をむき出しにするように白い歯を見せながら唾を飛ばし言う。

「そんなことあるわけないじゃないですか。」

 心はふつふつと湧きおこる怒りの青い炎を鎮める。深く息を吸い、そして、吐く。

「そうですか。ありがとうございました。」

 なるべく急がないように谷崎に背を向ける。

「佳澄の方はいいんですか。」

 谷崎は困惑したような声で心の背中に言葉をかける。心は首だけを横に向ける。

「はい。構いません。それと、佳澄ミレイさんに直接お話を聞かせていただきます。」

 一方的に言い放った。有無を言わせぬ響き。

「は、はい。」

 谷崎は条件反射的に答えてしまっていた。

 

 

 

体育を終えて少し汗ばんだ髪が乾かないまま、私は呼び出された。ここ最近の動向というやつで分かる。きっとよくないことだ。とはいえ、子どもが大人に抗う術などなにもない。担任が言うには、私に校門近くである人物に会えというのだ。髪の長い女に。その女の特徴を説明している時の担任の顔が苦いものを思わずかみ砕いてしまったときのような顔だったので、私はよりその女に会いたくなくなった。担任の元カノか何かだろう。

だけど、私の予想に反して女は若かった。あまり私たちと歳は変わらないかもしれない。中学生ではないだろうけど、高校生くらいな気がする。だが、纏っている空気は担任よりも大人っぽくて暗い。

なんとなく私が立ち尽くしていると(本当に理由も何もない)女が私を見つけた。私のことを知っているらしい。でも、女がその場から動こうとしないので、私が女の元まで歩いていくしかなかった。

そろそろ止まろうか、と思っていた時のことだった。女が口を開いた。

「あの担任。碌でもないだろう。」

 突然何を言いだすかと思えば、担任の悪口。でも、私は確かに担任は碌でもない男だと思っていた。

「ええ。そう思います。」

 そう答えると女は腹を抱えて笑い出した。

「ははは。お前、面白いな。」

 名前も知らない人間に笑われるのは不快だった。

「悪い。突然笑っちまって。」

 そう言って真剣な目つきを私に向ける。ここまでじっと目を見られたのは初めてかもしれない。

「なんの用ですか。」

 授業をさぼれるのはいいが、あまりこの人と話していたくなかった。嫌悪感とかそういうものは不思議とひとかけらもないのだが、何か自分の中の要素が心苦しさを感じていた。

「まあ、話を聞きたいだけなんだが――俺が誰か知りたいか?」

 俺、なんて女の人が言うのはおかしいはずだけど、私はこの人がそう自分を呼んでいるだろうとさえ思っていた。それだけ俺という言葉が似合う人だった。少し照っている太陽が長袖のワイシャツ越しにも暖かいと感じさせるくらいの陽気なのに、その人は厚手のジャンパーを来ていた。白と赤の目立つデザインであるにもかかわらず、自然と調和してしまっている。きっと、この人がジャンパーを屈服させているのだろう。意味和よく分からないけど、そう思った。

「別にいいです。」

 興味はなかった。

「じゃあ、特別に教えてやろう。俺は地球防衛隊隊員円香心だ。」

 別にいいって言ったはずなんだけどなあ。

 関わり合いになると面倒臭そうなので私は話を進めることにする。

「で、なんの用なんですか?」

「つれねえなあ。もっと話そうぜ。」

 私は教室へ戻りたくなった。あの平和な、でも最近軋み始めている教室がなつかしい。

「ま、冗談はさておき、だ。案外人見知りする質でね。ちいとばかし悪戯が過ぎたな。すまん。」

 さわやかな笑顔だった。きっと男だったらモテていただろう。惜しい。

「久我翔一について聞きたい。」

「なんであんな宇宙人についてみんな聞くんですか?地球なんたらと関係があるんですか?」

 少し苛立って私は言った。

「宇宙人?」

 女が、心と名乗った女性が眉をしかめながらそう言った瞬間、私は失言してしまったと気が付いた。

「それはどういうことだ?」

「どういうことって・・・」

 答えられない私に心は攻寄る。

「あいつの正体はやはり宇宙人なのか?正体を見たのか?」

「は?」

 思わず喉の奥からボールが出てくるかのように声が漏れ出てしまっていた。

「宇宙人なんて信じているんですか?」

 その言葉に心はしまったというような顔をした。きっとさっき私は彼女と同じような顔をしていたのだろう。顔の造りは負けるけど。そのあと、心は急に思案顔になった。何か迷っているみたいに見える。なんだか私がいじめたみたいで嫌な気分だった。

「翔一は事故に遭った後から急に変わりました。でも、きっと人間です。ただ、私が宇宙人だと思い込みたいだけ――」

 言いながら私は心苦しくなった。自分の暗示を自分で解くのはこんなに辛いんだと身に染みて感じた。自業自得なんだけど。いや、違うな。あいつが悪いんだな。

「本当にそうなのか?」

 私は何度も視線が外れそうになったけど、なんとか心を見つめ返す。まるで、目の前の真剣な目つきの女性が私が目を背けてきた世界そのもので、私が目を逸らせば負けるような感じ。

 でも、どうして私は現実から目を逸らそうとしないように頑張っているんだろう?

「そうか。」

 先に視線を逸らしたのは心だった。口元には軽く笑みがある。嘲笑ではなく微笑みだと私は思いたい。

「時間とらせて悪かったな。あばよ。」

 そう言って校門から心は出ようとする。そして、校門から学校の敷地内に出た時、私の方にくるりと振り向いて言った。

「授業さぼるなよ。」

 捨て台詞が本当に似あう人だと思った。いい意味で。

 

 

 心は再びバイクを走らせていた。最近になって支給されたものだが、心は愛車だと思っている。

 そう言えば名前をつけていなかったな、と心は思い出す。

「名無しでいいか。」

 どこの掲示板のハンドルネームだよ、と思いながらも道路を滑るように駆けていく。

 宇宙人の存在を今の子どもは知らない。

 かつて世界に起こっていた不思議な出来事、多くの犠牲を払わなければならなかったことはだんだんと風化していく。何年も前の災害を毎日報道わけもなく、十年ほど前起きたばかりの宗教団体のテロでさえ忘れている人がいる。

 覚えているのは被害者ばかりだ。

 

 数年前まで心は将来有望とされていた陸上選手だった。とはいえ、彼女はそんなことなどあまり気にも留めていなかった。自分には走る以外にもいっぱいやりたいこともあるし、陸上選手だけを目指すにはまだ幼く、可能性に満ち溢れていた。

 まだ、佳澄ミレイと同じ年の頃であった。

 

 大抵こういう物語は親の言いつけを守らなかった愚者がひどい目に遭うというものである。

 心は常日頃から一人で夜道を歩くなと親から言われていた。中学生になった心は気が付いたときにはすっかり大人の体になっていた。しかし、精神ははまだ男子たちと野原を駆け巡ったころと変わっていなかった。

 その日は雨が降ったあと曇りが続いていたせいで地面がまだ濡れていた。グラウンドを駆け巡れないことを心は残念に思っていた。

 校舎内での筋トレだけで終わり、心は帰路につく。その頃にはもう辺りは暗くなっていた。

 電灯が暗い道を照らしていた。周りに人はいない。遅くまで部活をしているのは全体の半分くらいで、雨という理由から早くに部活動を切り上げた所も多かったのだ。

 暗い道を一人で歩くなと親にも教師にも言われていた。心はそれを数年前に起きた宗教団体のテロを危惧しているものだと思っていた。

 濡れたアスファルトがくゆらした煙草の煙のように心の鼻腔をくすぐる。ナメクジがでそうだな、と顔をしかめた時、ぴしゃん、と心の背後で音がした。誰かが水たまりを踏んだのだろう。しかし、誰が?心の中で、一人夜道を歩いてはいけない、という訓戒がリピートされる。落ち着こうと心は努めた。しかし、心の歩幅は大きくなり、歩く速さが増す。

 後ろの足音が激しくなる。心の速さに合わせて後ろの誰かも歩くのを速くしたのだ。

 心の頭を何かが何度も何度も渦巻く。そうして何も考えられなくなる。ひときわ大きな水音とともに心は走り出した。

 心臓が運動後とは比べほどにならないくらい奇妙な脈動を行っている。何故か耳から自分の脈動を聞くことができた。思わず足がもつれそうになりながら、それでも足を前に前に出す。すると、どんどんと加速していく。それは心が走っている時に感じている快感を呼び起こさせた。自分に追いつける男子はいない。だから、きっと後ろの誰かも振り切れているだろう。

 走っているうちに誰かの足音が聞こえなくなったので、心は心細くなり、誰かがどうしているのかを確認しようと首を後ろに向けようとした。

 しかし、その必要はなかった。

 心が顔を左に向けて後ろを確認しようとする道すがら、彼女は顔にであった。

 白い歯をむき出しにして唇が裂けんばかりに頬を上げている。そんな不気味な顔。そして、それが自分の顔そっくりだと気が付いた瞬間、心は悲鳴を上げた。

 アスファルトを滑って転がる。体全体がすりむき、アスファルトは赤く染まる。しかし、心に痛みなど感じている余裕はなかった。心臓が奇妙に小刻みに震え、過呼吸を起こしている。奇妙な笑顔のもう一人の心は、立って心を見下ろしている。心と同じ速さで走っていたにもかかわらず、呼吸の乱れがない。その人物は街灯の光を受けて正面が影になり、今は顔さえ確認することができない。

 ほほほほほ。

 そんな上品な笑いとともに、黒いシルエットは一瞬少しと膨らんだあと、ジェルのように柔らかいものとなり、自身の形状を変えた。

 明らかに人ではないシルエット。かろうじて腕のようなものは見つけられるものの、どろっとした何かが垂れている。足に該当する者は見当たらない。体つきは人間のものとはおもえないものだった。

 そんな姿を認識した瞬間、心は意識を失った。

 

 宇宙人ではないかと疑惑の男を目の当たりにして、心は拳銃を抜いていた。精神は済んだ空気のように清く、落ち着いている。

「いきなりなんだよ。」

 男は、久我翔一と呼ばれている少年は拳銃を向けている女に対してそう言った。目を向けただけで翔一は手を挙げようとはしなかった。

「お前は何をしている。一体何者だ。」

「何をしているって、商売だし、商売をする人間は商人に決まっている。」

 あきれたように翔一は言った。

「あんた、ここらを仕切ってる輩――ではなさそうだな。」

「質問しているのは私だ。」

「さっきの答えでは不満か?でも、俺は商人以上でも以下でもないんだが。」

「私はお前が宇宙人ではないか、と聞いている。」

 そう心が言った瞬間、翔一は高らかに笑った。

「そうだったら、どうするよ。」

「今ここで頭を飛ばす。」

 その言葉に鼻で笑って翔一は言う。

「なるほど。そんなものをぶっぱなしゃあ、俺の頭くらいは吹っ飛ぶだろう。」

 そう言った後、心底つまらないという顔をして翔一は言った。

「あんたはなんで俺に銃を向けているんだ?」

「は?」

 翔一はもう銃など見ていなかった。

「俺が宇宙人だったとして、どうして俺に銃を向けているんだ?」

「それは、宇宙人は過去私たちの生活を脅かしてきたからだ。」

 心は何故か自分の中の芯を揺さぶられた気がした。胸が痛い。

 翔一はただ、雲の浮かんだ空を見つめている。

「友好的な宇宙人とかもいたんじゃないか?ETみたいな。」

「だが、そんなものは一握りだ。」

「違うだろ?」

「は?」

「お前たちは宇宙人だったら誰にだって銃を向ける。なぜなら、地球人じゃないからだ。どんな場所でも戦争がなくならないのはそういうことだ。」

 そう言って翔一は品物ごとブルーシートをたたみ、心に背を向け去っていく。

「待て。撃つぞ。」

 そう言う心の手は震えている。撃ったところで当たらないのは目に見えていた。

「お姉さんは何のために武器を使うの?武器を人に向けるのはどういうことで、その意味とお姉さんの中の理由とが一致するのか、考えてみたら?俺は武器とか戦争とかには別に反対はしない。でも、何かを失った時点で、それは戦争じゃなくなる、ってところを俺は何度も見てきた。」

 だんだん翔一の姿が小さくなっていく。それでも威嚇のために撃とうとした時、心の所持している端末が音を出し始める。ちっ、と舌打ちしながら応答する。

「はい。こちら円香。」

「怪獣が出現しました。場所は――」

「いや、いい。目の前にいる。」

 心の目の先に大きな黒い怪獣が姿を現していた。

 

 



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3

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 変身前からブリュウの抱いていた不安の臭いは怪獣を目の前にしてより濃いものとなっていた。

「なんだ、お前は?」

 大体の予想がついているにも関わらず、ブリュウは聞く。本来の姿を取り戻したブリュウは能力を取り戻す。宇宙人が持っているごく当たり前な能力、微弱なテレパシーが目の前の怪獣の声を聞いていた。

『俺はおしまいだ。もう生きている理由もない。』

「ふうん、影、か。」

 ブリュウは宇宙に散らばる伝説に詳しかった。商売をする反面、そういう噂の類を知ることもできるため、彼は一つどころにとどまらず、あらゆる惑星へと旅をしているのであった。

「かつてほろんだ文明が生み出した精神を物理世界へと投影する方法。でも、それは所詮影でしかないわけだろう?」

 怪獣は頭を抱えて苦し気に歩いているだけだった。ブリュウのことなど眼中にない。

 そんな怪獣の皮膚に小さな爆発が起こる。

「なんだ?」

 そう思いブリュウが周囲を見回すと、そこには一機の戦闘機が飛んでいた。

「まあ、そんな攻撃では倒せないだろうが。」

 ブリュウの言う通り、怪獣は無傷のままだった。

「で、もう一匹、と。」

 今度は戦闘ヘリが爆撃を加えていた。

「多分、今の技術だと一番効くのは戦車の砲弾じゃないかな。まあ、今の技術で昔のティガー戦車並の武装を作れば、だけど。超電磁砲は少しやりすぎだろうし。」

 ブリュウの言葉は地球人には通じない。そもそも大気のない環境が当たり前である宇宙人は通常大気中の空気を振動させて話すということはしない。確実なのは光通信だが、それも古典的だ。思念波動を送り、受信することによって会話するのが一般的だ。遺伝子レベルでの認証なので、互いにチャンネルを開き合った者同士だけの会話ができる。

「ああ、俺は3分だけしかこの姿になれないんだったな。この巨体のまま活動できる存在は相当根性あるな。」

 そういいつつ、ブリュウは胸の球体から一本の刃物を出す。

「これぞパンナコッタ星の伝説の鍛冶職人の作った包丁――の工場大量生産品だ。」

 ブリュウはその刃物を怪獣に突き刺す。その瞬間、影は跡形もなく消え去った。

「実体のない存在、影。ただ、その発生源をなんとかしなくちゃ大変なことになりそうだ。」

 ブリュウは眼下の町の様子を見ていた。地球人たちが驚き焦りながら避難をしようとしている。

「こんな状況じゃあ、いい商売はできそうにないからな。」

 

 ブリュウの読みは当たった。ちょうど怪獣の暴れていた場所に一人の男がいた。その男は怪獣が暴れていたことなど知らないというように、頭を抱えていた。ひどく煩悩しているようである。

 この男が怪獣を作り出した張本人に違いないとブリュウは感じた。とはいえ、ブリュウにはどうすることもできない。ただ、声をかけてやることしかできなかった。少しでも前向きになるようにと。ブリュウは男の負の感情が影を生み出したのだと考えた。再び生み出す可能性を少しでも小さくするための処置である。ブリュウは自分の言っている言葉が男を励ますことになるのか自信はなかった。しかし、そのとき紡いだ言葉しかブリュウは言うことができなかった。しないよりかはマシであるという判断である。

「問題なんて問題じゃない。悩んでるのはやろうかやるまいか迷ってる、か。」

 言われた男はブリュウ達が去った後も公園に残っていた。デスクにいた頃はあまり拝むことのできなかった青空を望みながら。案外こんな生活も悪くないと思えるようになっていた。

「とりあえず家族に報告するところから始めないとなあ。母ちゃん怒るだろうなあ。」

 男の顔は笑っていた。清々しい笑みだった。青空を受け入れ、そして進んでいこうとする意志が見受けられた。

 

 一方のブリュウは悩んでいた。それは自身が男に言った通り、ほとんど進むべき道は決まっているがそうするべきかどうかということであった。

「確かに宇宙文明の発達していない地球人相手よりは宇宙人を相手に商売した方が楽なんだろうけどさ――どうもあの女、好きになれないんだよな。」

 ブリュウはもう品物を並べてはいなかった。地球人にとってはガラクタにしか見えないそれらも宇宙人から見れば何であるのかがよく分かる。ブリュウは自身の存在がばれるのを嫌った。

「かといって帰るのもなあ・・・俺、こいつ本人じゃないから気まずいんだよなあ。学校とか行かされるしなあ。」

 もうすぐ陽が暮れようとしていた。

 

 

 心が本部へと戻った時には夕方になっていた。明りも十分にもらえない地球防衛隊の本部は放課後の学校のようにしんみりとしている。

「ふう、お疲れ様。」

「おつかれ。」

 本部にいたのは光だけだった。

「ったく、うちの上官はなにやってるんだろうねえ。」

 どうも警察に地球防衛隊の存在の認知がなかったらしく、そのことで少々もめて時間を食ってしまったのだった。事後処理などもなんとか了承を得た警察官たちの協力で夕刻までには終えることができた。

「他の人は?」

 心が聞いた。

「葉くんは警察の方で事後処理中、剣は上官をこき使ってる。」

「まあ、当然の報いだな。」

 心は武器についても不満を持っていた。対怪獣用の兵器を用意してあると妹尾は言っていたのだが、結局用意しきれなかったらしい。その言い訳が、『怪獣災害なんていつ起こるか予想できないじゃん』である。この言葉に心と剣はキレた。自衛隊の装備を例外的に付与されてはいるが、人間用では怪獣に勝てはしない。特に、自衛隊の兵器は人を殺戮するように配備はされていない。当の自衛隊は法律やら憲法がどうやらで怪獣に対して未だ攻撃できない状況である。

「今までどうやって怪獣倒してたんだよ。」

 消え入るように心は言ったので光には聞こえていなかったらしい。心は光のデスクトップパソコンのモニタを覗いて言った。

「何してるんだ?」

 モニタには久我翔一のデータが出されていた。

「みんなが少年に興味を持ってるからちょっと調べてたんだけど、やっぱり普通の少年だよね。」

「普通、か・・・?」

「うん?会ってみてどこか違和感があった?」

「いや、宇宙人か人間かと言われると人間かもしれない。行動は少々気になるところがあるが。だが、普通――ではない気がした。」

「というと?」

「大物感というか、なんというか――こいつは何か成し遂げるんじゃないかって気がした。」

「ふーん、なるほどね。」

 光は面白がった。

「で、例のは付けてきた?」

「ああ。でも、盗聴器は仕掛けることができなかった。私にはできない。」

「でも、発信機は取り付けたんでしょ。」

「ああ。」

「まあ、心ならそうなると思ってたから。少年はいまどこにいるのかな?」

 光はGPS機能を使用した。

「どうもお家に帰ってるみたいよ。」

「そうか。」

 心は椅子に重い腰をどっさりと落とした。

 

 

 

 私が家の前でソイツを見つけたのは必然だった。そいつは身を隠しているつもりで電柱の裏に隠れていたけれど、男子高校生の体は必然的に電柱より大きい。そんな隠しきれていない姿を見ながら私は同時に二つのことを考えていた。昔やっていた諺かるたの絵が出てきた。それは頭隠して尻隠さずで、大きな尻がかるたの半分以上のスペースを占めているものだった。そして、もう一つは、都会の方では電信柱が無くなってきているらしい。景観とかスペースとかの問題らしい。電線は地中に埋めるとか。じゃあ、なんで初めっから地中に埋めなかったんだろうね。

「田舎に電柱が残っててよかったわねー!」

 私は声を張り上げて言った。そいつは案の定体を大きく仰け反らせて驚いていた。

「何やってんの?ばれてんだから出て来なさいよ。」

 まだあたふたしているので私は痺れをきらせて言った。

「どうしたの?野宿に疲れて帰ってきたの?」

 私は思いっきり意地悪く言ってやる。すると宇宙人の野郎も吹っ切れて出てきた。

「俺の家だろう。帰ってきてもいいじゃねえか。」

 なんと業腹な。翔一なら決してこんなことは言わない。一人称だって僕だし。

「アンタの家はこっちよ!」

 私は怒鳴りあげて私の家の向かいを指さす。そこはかつての翔一の家――があった場所。もうすでに別の家族が移り住んでいて、今もあたたかな明かりが窓から漏れ出ている。翔一の家は私の親が翔一の財産に、とすぐに売り払ってしまった。親は翔一が望んだからって言ったけど、それじゃあんまりだと私は思う。本当の翔一が帰ってきたとき、どう思うだろう。

「なあ、俺はどこに帰ればいい?」

 宇宙人らしくなく、しおれた声で言った。

「知らない!」

 私は家の中へ帰っていった。

 

 勢いよくドアを閉めたもんだから、お母さんがどうしたの、と少し怒ったように言う。だが、私の方が怒っているのだから仕方がない。冷静に考えてみると自分が何を考えているのか分かりはしないものの、腹を立てていることは確かなようだ。

 私は足音を立てながら部屋に戻った。そしてベッドに倒れ込むと、知らないうちに眠ってしまった。今日は色々あったから疲れていた。いや、疲れない方がおかしい。

 朝から宇宙人に怒って、変な人に絡まれて、怪獣が出て来て。

 自分とは関係のないところで何かが動き出しているという確信はあるものの、きっと私はその輪の中へは入れない。

 ふと、そんな気がした。

 

 

「今度は私が会ってこようかな。」

「おいおい。遊びじゃないんだぜ。」

 唐突な光の言葉に心は言った。

「でもね、心。久々に彼が家に帰ったんだから、様子とか知っておきたいじゃない。」

「今、剣が行ってるんじゃないのか。」

 光は苦い顔をする。

「剣の鋭い眼じゃ、そのうちばれちゃうよ。」

「・・・確かにな・・・」

 尾行というよりも暗殺の下調べと言った方があっている男の眼光を思い出しながら心は言った。

「ええっ。それなら、僕も行きたいですよ。」

 帰ってきていた葉が言った。

「いや、お前はダメだ。」

 即座に心が言った。

「どうしてなんですか。」

「どうしてって、お前が行くと本気でストーカーと間違われるだろう。これ以上警察との関係を悪くしないでくれ。」

「ひ、ひでえ。」

 葉は泣きそうな声で言う。

「光。ちょっと様子見ておいで。」

「では、行ってまいります。」

 光は散歩するかのように気軽に本部を出て行った。

「で、葉。例の破片はどうなった?」

「いろんな研究機関を回ってようやく戻ってきたよ。長かったな。」

「簡単に要約しろ。」

「愚痴ぐらい聞いてくれたっていいだろうに。」

「男の愚痴ほど不味いものはない。」

「へいへい。」

 そう言って葉はコンピュータのモニタにデータ表示させる。

「これが先月出た怪獣の体の一部と思われる破片。」

 移されたのは大きな黒色の塊であった。

「で、これがいろんな大学やら研究機関が出した答え。」

「隕石の成分と金属(怪獣の破片)との割合が酷似しており、宇宙空間内で精製されたものである可能性が極めて高い。だから?」

「だよねー。」

 葉は画面をスクロールさせながら言った。

「つまりは、宇宙だったらどこでもできる金属だから、隕石かもしれないよって言ってるの。」

「実際のところ、どうなんだよ。」

「小学生でも知ってるけど、こんな大きな隕石が落ちて来たら、地球が一瞬でぱあだよ。成分の上から言ったら、地球でだってできるけど、この形状は無理だね。隕石だとしか考えられないのは当然だよ。だって、よっぽどの高熱じゃないと、こんな組成にはならないからさ。」

「他になにか分からないのか。」

「まあ、まだこちらの実験は始めてないからね。でも、どれだけ真面目に調べても意味がないって分かっただけいいんじゃない?」

「そんなものか。」

 葉が饒舌になってきたので、心はそろそろ退散しようかと思っていた。

「実験に必要なものって何だと思う?」

「さあ。」

 心は適当に言った。

「それはね、初めに視点を決めることなんだ。僕らには僕らでしかできない視点、つまり、宇宙人は存在するという前提であらゆる可能性を尽くす。ということで、まずは音楽でも聞かせてみようかな。ベートーベンからキングクリムゾン、そして、ソラミスマイル。うーん、なんて耽美な。」

 心は気付かれないようにそっと本部を出た。帰って新兵器の資料でも熟読するか、と大きく伸びをした。

 

「ヘイ、ボス。これから彼に接触するわよ。」

 光は携帯電話に向かって言った。簡単なやり取りをしたあと、光は電話を切る。

「物事の始まりなんて誰にも予想できない。全てが終わった後に一息ついてゆっくり冷静に考えることができるようになる。そうは思わない?」

 光は家の門の前に座っているブリュウに言った。

「お前、あの影が何だったのか知ってるだろう。」

ブリュウは鋭い目つきで睨んだ。

「まあ、大体分かるわ。でも、教えてはあげないわ。誰一人。」

「お前の仲間にもか。」

「ええ。」

 不敵な笑みを浮かべる光にブリュウは不快になった。

「お前の目的はなんだ。」

「とても抽象的な問いね。どんなことが聞きたいのかしら。私が二足の草鞋を履いてるってこと?」

「もう一つの組織の目的はなんなんだ。」

「まあ、宇宙人の組合みたいなものよ。私たちみたいなよそ者だと暮らし辛いじゃない。だから、おなじ宇宙人同士で集まろうってこと。あなただって私たちの仲間になった方が商売だってしやすいじゃない?」

「胡散臭いんだよ。」

「そんな危険な組織じゃないわ。」

「いや、お前がだよ。」

 光は顔色一つ変えずに笑っている。

「お前は一体何を企んでいる。」

 光は物凄い速さでその場から駆けだし、どこかへ消えた。

 

 

 

私は目を覚ました瞬間、部屋の時計を見た。帰って来てからもう二時間は経っている。まさかな、とは思いつつも、居間を見渡す。お母さんがいた。

「宇宙人、じゃなくて、翔一は?」

「翔ちゃん?帰ってきたの?」

 目を丸くしてお母さんが言った。まだ帰ってきていないようだ。私は急いで玄関を飛び出した。

「なんだよ。」

 飛び出した私を見るなり宇宙人はそう言った。

「なんだよって、あんた、風邪ひくわよ。」

 もう辺りは暗くなっていて、電灯に虫がついていた。宇宙人は何も言わず夜空を見上げた。町の夜空は電灯の明かりのせいで星が見えない。

 私は思わず溜息を吐いた。私も頑固ではあるが、この男も私に負けず劣らず頑固なのだ。

「いいから早く中に入りなさいよ。」

 宇宙人は何をとぼけたことをと言った顔で見てきた。腹立つ。

「その代わり、条件があるわ。」

 宇宙人が怪訝に眉を寄せる。

「明日から学校に行きなさい。」

 嫌がるかと思えばそうでもなかった。

「わかった。しばらくお邪魔するよ。」

 この男の中で何が変わったのか私には理解できなかった。

「急にしおらしくなって、どうしたのよ。」

「まあ、普通の生活がしたくなっただけかな。」

 そうとだけ言うと宇宙人は家に入って行った。

 

 その日の食卓は妙なものだった。お父さんとお母さんは宇宙人が帰ってきたことを喜んでいる。二人は単にこの家に宇宙人が馴染めなかっただけ、って考えているみたい。でも、私は翔一でない彼になって声をかければいいのか、なんて顔をすればいいのか全然わからない。なんだか頭がごっちゃになる。目の前の男は翔ちゃんの皮を被った怪人なんだよ?

「まあ、突然のことで色々整理がつかないと思うけど、僕らは家族なんだ。ちゃんと部屋も用意してある。何か困ったことがあったら、気兼ねなく言ってね。」

 お父さんは宇宙人にも優しい。これは自慢になるのかは分からないけど、人にやさしいのは自慢。

「ミレイと同じ屋根の下っていうのもいづらいだろうけど、まあ、我慢してくれ。」

「なによ、それ。」

 まるで私が原因で翔一が逃げ出したみたいじゃない。

「ミレイは翔ちゃんが一緒に住んでくれるから嬉しくて仕方がないのよね。」

「止めてよ。」

 宇宙人はさっきから会話に参加していない。話には耳を傾けているようだが、目の前の料理に興味津々のようだった。一口一口、味わって食べている。

「お味はどう?翔ちゃんのママには敵わないけど。」

 そう言ってお母さんはしまった、という顔をする。翔一に両親の話をするのはいけないと気が付いたのだろう。

「おいしい。すごく、おいしい。」

 宇宙人は胸から溢れ出る言葉を堪えるように言ったようだった。これは宇宙人の本心なんだと思う。グルメリポーターが口に入れただけで言う御託とはわけが違う。それは私にも伝わってきた。

「こんなにおいしいもの、初めて食べた。確かに、記憶には平凡なものと映ってはいるが、これはうまい。地球人はこんなにおいしいものを食べているのか。少し塩っけはあるが、許容範囲だ。これは売れるな。」

 みんな固まる。そりゃそうだ。急に地球人とか言われても困るだろう。

「パパも昔はセカイ系にはまってたもんな。」

 ぎこちない風にパパは、いや、お父さんは言う。中学生にもなってパパは恥ずかしい。中学校に入ってからはもう、お父さん。メリハリが大事。

「お父さん、何歳よ。」

 呆れて言う。

「ママと知り合う前だったな。パパとママはセカイ系のアニメやラノベで知り合ったんだ。」

「そうね。あの頃は革新的だったわ。」

「惚気はよそでやってよ。」

 そんな私たちを宇宙人は眺めている。

「なによ。」

「いや、家族というものはいいものだなって。」

「は?」

 宇宙人がそんなことを言うとは思わなかった。気でも違った?

「俺がそんなことを言うのはおかしいか?」

「別に。」

 お父さんとお母さんは私たちの様子を不安げに見ている。喧嘩してるとしか思えないんだろうし。でも、宇宙人と私ってこんな会話しかしてこなかったものね。

「ご飯食べ終わったら、翔ちゃんお風呂いってらっしゃい。一番風呂よ。」

「翔ちゃん。僕と入るかい?」

「いえ。遠慮します。」

「そ、そんなぁ。」

 娘に入浴を拒否されあた父親のような反応だ。私はもう小学生になったら一人で入ってたんだから。時々ママ、じゃなくてお母さんと入ったりしたけど、お父さんとは入らなかったんだから。その時もそんな顔してたな。

「私、こんなのが入った湯船、嫌だから。」

「ミレイ。」

 お母さんは怖い顔をする。本気で怒っている顔だ。

「翔ちゃんをこんなヤツ、なんて言っちゃダメ。どうしちゃったの、ミレイ。最近おかしいわよ。」

 お母さんから見れば私がおかしいのか。でも、おかしいのは翔一の方なの。

「じゃあ、俺行きますので。」

「僕と一緒に――」

「入りません。」

 きっぱりとした宇宙人の口調にお父さんは打ちひしがれた顔をする。大袈裟な。

 宇宙人が風呂に入った後、私は二人に聞く。

「ねえ、翔一、おかしくない?」

 二人は困ったような顔をする。二人も薄々は勘付いているようだった。

「きっと、事故のショックから立ち直れてないの。まだ、受け入れられないんでしょうね。ちょうどそういう年頃なんだから、特に。でも、帰ってきてくれたんだから、すぐにいつもの翔ちゃんに戻るわよ。」

「今思えば、パパも急に俺、とか言いだして、俺は正義のヒーローだって言ってたことがあったな。いわゆる中二病ってやつだったんだな。」

 そんなものなんだろうか。みんな変わっていくんだろうか。私も胸が膨らんで、今まで意識してこなかった翔一が気になってしょうがなくて。そうやってみんな私の知らないところで大人になっていくんだろうか。変わらないままでいて欲しいなんて、私のわがままなんだろうか。でも、私が好きだったのは、事故に遭う前の優しくて、心がほかほかするような翔一なんだ。

 

「ここがアンタの部屋。」

 もともと物置だったけど、いろいろどかして開けた部屋だ。

「ありがとな。」

「気持ち悪い。」

「そうかよ。」

 けっ、と悪態を吐く。絶対翔一はそんなことしない。

「アンタ、翔一なの?」

「さあな。」

 そう言ってはぐらかす。

「ちゃんと答えて。」

 下に聞こえてるだろうけど、構わない。翔一がどうなったかが一番大事なんだから。

「答えられない。」

「どうして。」

「お前は久我翔一にとって大事な人だからだよ。俺の中の久我翔一がお前を危険な目に遭わせるな、と言っている。」

「どういうことなの?翔ちゃんはどこに行ったの?」

「――」

 宇宙人は答えない。

「翔ちゃんの名前を使って変なこと言わないで。」

「世の中、知らずにいた方が幸せってことがあるだろう?現実は残酷なんだ。ガキであるお前には耐えられない。」

「お前、なんて偉そうに言わないで。」

「じゃあ、なんて言えばいい。」

「そんな話じゃないの。」

 こいつが翔一を奪ったんだ。こいつが翔一をどこかに隠した。

「今日は寝ろ。お前、疲れてるんだよ。」

 それきり、宇宙人は部屋の扉をバタンと閉めて出てこなかった。私は思いっきり扉を蹴ってやった。足が痛かった。バカ。

 

 

 

 ブリュウに親はいない。それ故に家族もいなかった。自分がどこで生れてどこで幼年時代を過ごしたのかもわからない。幼年時代などなかったのかもしれない。初めての記憶は、さびれた星だった。宇宙怪獣に滅ぼされ、砂漠となった星。その時からブリュウは自分が何者であるのかを理解していた。だが、生きる意味はインストールされていなかった。だから、あらゆる星々を回った。自分は何者であるのか、何を目的に生きていけばいいのか。自分では意識していなかったものの、無意識にそれを探し出そうとしていた。旅を続けるうち、商売をする必要がでてきた。そのうち、商人となって星々を巡っていた。彼は自分が何なのかは見いだせていない。しかし、いつの間にか旅が彼の生きる目的となっていた――

 

 

 

「ついてこないでよ。」

「いや、同じ学校だろ?」

 宇宙人は私と一緒に登校する。翔一となら、この時間がずっと続けばいいのに、とおもっていたことが、宇宙人となら、早く終わってほしいと願っていた。

 こんなヤツと登校したくない。

 教室に入ると、みんなに質問攻めされる。

「よく連れ戻したな。」

 だの、

「上出来じゃない。」

 だの。お前ら何様だよ。

 宇宙人にも質問の嵐。でも、事故のことは伏せているようだった。

「急に学校から飛び出してどうしたの?」

 だの、

「ぐれたのか。」

 だの。

「俺にとってはこの環境をおかしく思わない方がおかしいんだがな。」

 宇宙人はそんなことを言っている。

「久我君、変わったんじゃない?」

 そんなこと、私に聞かれてもな。

「一時の気の迷いよ。どうせその内恥ずかしくなってくるんだから。」

 そういうことにしておく。まあ、宇宙人だのなんだの言ってる私の方がおかしいんだけど。普通に考えると、思春期独特の何か、ってことになるな。

 

「今日は転校生が来ています。」

 謎の女の人がいけ好かないと言った担任が唐突に言う。名前、なんだったっけ。

「転校生のハンナ・フォーリナーだ。」

 金髪碧眼ツインテール。どこのアニメのキャラだよ。

「ふぉっふぉっふぉ。皆のもの、我に跪くがいい!」

「ハンナさん。そんなこと言ってはいけません。」

「お前は!」

 がらっと誰かが立ち上がる。それは宇宙人。

「どうしましたか、久我君。久しぶり。」

「なんでお前がこんなところにいるんだよ。」

「初対面の相手にお前とは、礼儀がなっておらんな。今は我もぬしもただの人間。心得よ。」

 どうも宇宙人は転校生と面識があるらしい。なんでだろう。何故か胸がもやもやする。

「とりあえず、あそこの空いている席に座って。久我君も座って。あと、今日は抜け出さないでね。」

 重大なことをさらっという教師だ。名前、なんだっけ。

 

 

 

休み時間ブリュウは突如現れた転校生の手を引き、人気のない校舎の裏まで連れて行った。

「なんだ。いきなり大胆じゃないか。」

「お前、宇宙人だな。」

「唐突に何を言う。」

 ふぉっふぉっふぉ、と少女は笑う。

「誤魔化すな。このタイミングで現れるということはあの女の手引きか。組合とかいうのと関係があるのか。」

「はぁ。勘がいいのは命取りだと習わなかったか。まあ、我は別にぬしに害を加えるつもりはない。我が組織の人間だと認めよう。ぶっちゃけ、ぬしを勧誘しに来た。だが、悪い組織ではないぞ。この地球で行き場のない宇宙人たちが助け合っている組織だ。」

「俺は行かない。」

「だが、融合しているお前はさぞかし行き場がなかろう。最近まで家に帰らなかったらしいではないか。」

「うるさい。」

「話はそれだけか?」

「学校に来て何を企んでいる。」

「別に企んではおらん。ただ、我にも人並みに学校に行ってもよいだろう。」

「暗示を使ったな。」

「そのくらい普通だろう。何を怒っている。」

「いいや。怒ってはいない。」

「そうか。面白い奴だ。」

 ブリュウは少し不満そうだった。

「最後に一つ。」

 小さな金髪碧眼の少女は振り向いて言う。

「我は正確には宇宙人ではない。宇宙人と地球人のハーフだ。」

 ふぉっふぉっふぉ、と少女は去っていった。

 

 

 

 宇宙人が転校生をさらっていった。でも、別に私には関係ないし。宇宙人の行動にいちいち目くじらを立てるなんて――

「アンタ、何してるのよ。」

 宇宙人が帰ってきた瞬間、そう言ってしまった。

「え?ああ。ちょっとあいつに話を聞いてたんだが。」

 何でもないように言う。だけど、いきなり美少女を連れまわしたんだぞ。とんでもなく目立ってしまう。もともと翔一はそれほど目立つ子ではなかったのだから。

「ふぉっふぉっふぉ。痴話げんかか?」

 当事者であるはずのハンナが後から教室に入ってくる。

「大丈夫、フォーリナーさん。こいつに変なことされなかった?」

「ハンナでいい。もともとかりそめの名だ。」

「そう。ハンナさん。大丈夫?」

「ああ。そ奴も言っている通り、二人で内緒の話をしただけだ。して、そなた。名は何という。」

「私?」

 小さいけれど可愛い女の子に名前を聞かれて少しどきりとしてしまう。こんなのはダメだ、と高鳴る心臓の鼓動を聞かなかったことにする。

「私はミレイ。佳澄ミレイだけど。」

「そうか。ミレイか。ぬしはこの男とどんな関係だ?ただならぬ仲だと窺い知れるが。」

「べ、別に、翔一とは幼なじみってだけで。」

「そうか。器とは幼なじみなわけか。で、ぬし、名は何という。その器の名だ。」

「器と言うな。この名前は久我翔一だ。」

「なるほど、翔一か。頼むぞ。」

 転校生は静かに席に戻っていく。周りのクラスメイトは私たちのやりとりをポカンとした顔で見ているだけだった。実際、私も二人が言っていることを理解出来たわけじゃない。ただ分かったことは、二人がとても似ているということだけだった。

 

宇宙人は私との約束を守って、しっかりと授業を受けていた。しっかりとというのは授業から抜け出さなかったって意味で、いびきをかいて居眠りをしていたりしたけど。その一方でハンナはしっかりと授業を受けていた。背筋を伸ばし、黒板をしっかりと見つめるそのしぐさはものになっていた。ザ・帰国子女って感じ。誰もが抱く理想の転校生だった。

昼休み。

「ミレイ。久我くんと喧嘩したの?」

「あんな奴、翔一じゃない。宇宙人よ。」

「また言ってる。」

 沙耶は心配してくれているようだった。本当に優しい子だ。

「なにが宇宙人だ。」

 また、昨日と同じく名前の知らない男子。誰だってんだ。

「何よ?」

 私はギラリと睨む。普通の私はこんなにイライラとしてはいない。もっと大人しい子だ。

「いや、さ。色々と気になるだろ。」

「あんたに関係ないでしょ。そもそも誰よ、あんた。」

「一ノ瀬くんだよ。」

 と、沙耶。

「だれ?」

「亜久里の彼氏。」

「は?」

 そしてもう一度。

「はあ?」

「ごめん。言うの忘れてた。」

 沙耶は申し訳なさそうに言う。このスポーツマンっぽい男が沙耶の彼氏?

「ついで言うと、副学級委員長。」

「それはどうでもいい。」

 私の知らないところで、また、みんな成長している。

「言わなきゃいけないと思ってたけど、ミレイ、久我くんのことで大変そうだったから。」

「別に怒ってないよ。驚いただけ。」

 まあ、沙耶がどんな男と付き合おうと私には関係ない。そう思うと、一ノ瀬が私と仲良くしようと思っていたことにも納得がいく。彼女の友達だもんな。

「その宇宙人とやらはどこに行ったのかしら。」

 学級委員長。

「さあ。」

 私はアイツの保護者じゃないんだ。どこに行こうと知ったもんか。

「また、のっけから問題起して。こちらとしてはたまったものじゃないわ。」

 何か胸に引っかかる。その胸に引っかかった感情を確かめる間もなく、私は委員長に食って掛かっていた。

「あいつが何をしたっていうの。」

 何故だか、イライラしていた。苛立っている自分に腹が立った。なんで私は宇宙人のために怒っている。

「ただ、転校生と話しただけじゃない。何が悪いの?」

 そう。宇宙人はちょっと目立つ行動をしただけなのだ。別に悪いことなんかしていない。

「そうね。でも、目立つ行動は、先生に目をつけられるの。私は久我君のことを思って言っているの。」

 じゃあ、本人に話せよ。でも、気持ちも分からないでもない。今の翔一はどこか不良臭を臭わせているからだ。

「とにかく、私には関係ない。」

 今の翔一は翔一じゃないんだ。それは逃げってことも分かってる。変わった翔一とせっすることを私は恐れているんだ。でも、私は普通の女の子で、勇気なんて全然ない。

 そこで、とりあえず、お開きとなる。

 宇宙人は昼休みが終わるころ、教室に帰ってきた。

「何してたの?」

 私は聞く。

「図書館で調べもの。」

「何を調べてたの?」

「何か調べて悪いか。」

 全く、口が悪い。翔一は私に隠し事なんかしなかった。

「ご飯は食べた?」

「ご飯?」

「弁当。お母さんが作って渡したでしょ。」

「あの布のことか。」

 気付いたように言った。

「そうか。あれはし好品ではなかったのか。あれでエネルギーを取っていると。本能まではインプットされないか。まあ、それはそうか。」

 なんて、変なことを言っていた。

 

 

「あの怪獣について、分かったことはあるか?」

 狭い会議室で心は言った。

「分からないってことはわかりました。」

 葉が的を得ないことを言う。

「どういうことだ。」

「なんの反応もないんですよ。怪獣が現れれば、地震とか何かしらのエネルギー反応が起こるはずなんですが、それが全くない。むしろ、ウルトラマンが起こした被害の方が大きいくらいです。」

「なにそれ。幽霊ってこと?」

 光が言う。

「そうかもしれません。実体があるようには見えているものの、全くありません。」

「でも、攻撃は効いていただろう。」

「ええ。だから、分からないんですよ。あんなの、データベースにはありません。」

 では、どうしようもないのか、と心は歯を食いしばる。

「では、被害もないということではないかね。」

 妹尾は椅子にだらだら腰かけて言う。

「そこも曖昧です。」

「でも、その幽霊も目的なしに現れないだろ。被害が出てからでは遅い。」

 剣はいつもと同じく、険しい顔をしている。

「出てきたもんは倒すほかない。」

 それもそうだ、と心は思った。それが私たちの役目だと。

「で、妹尾さん。新兵器はどうなってるんですか。」

「ジョーカーだ。いや、実は、さっきの情報は政府も認知していて、大して害のない敵に最新の兵器を渡すわけにはいかないと渋られててね。どうするかな。」

 そこをどうにかするのがお前の仕事だろう、と心は悪態をつく。

「また、自衛隊の備品を借りるんですね。」

「そう言うことになる。あと、米軍の力を借りなくて済むように、とのことだ。」

「無茶言いやがる。」

 国内の脅威は国内で完遂しろとうことか。

「じゃあ、視認でしか、怪獣を観測できないってこと?」

「そうなります。」

 光が話を切り替える。

「俺たちは待つことしかできないのか。」

 剣は拳を握りしめる。

「また、ウルトラマンがなんとかするさ。」

 妹尾は気楽に言い放った。

 

 

 

 ブリュウはハンナを追いかけた。放課後とはいえ、まだ、空は青い。

「何か用か?」

 ハンナは分かっているようにブリュウに語りかける。

「俺を組合とやらに連れていけ。」

「入る――」

「入りはしない。」

「まあ、見学ということにしておこうか。」

 二人は歩き出す。その姿をミレイは見ていたのだが、二人は知る由もない。

 ハンナが案内したのは、爆発で吹き飛んだビルだった。上部が破壊され、保護用のネットが設置されているが、持ち主が手放したのだろう。改修はされずじまいだった。

「なかなか雰囲気があるじゃないか。」

「悪の組織のアジトという感じか?」

「自覚はあるんだな。」

「いいや。我らは悪の組織ではないぞ。」

 ハンナは我が家のようにビルに入って行く。

「諸君。見学者だ。」

 ビルには四人の人物がいた。そのどれもがどこかおかしい。顔が歪んでいたり、目が虚ろだったり、恰好が派手であったり。

「組合四天王だ。彼は・・・そう言えば、名を聞いておらんかったな。」

「ブリュウだ。」

「ブリュウか。いい名だ。」

 と、ここで、一番マシそうな、派手な格好の男が言う。

「コイツがあの暴れん坊ですかい?」

「ああ、そうだ。だろう?」

「あの暴れん坊とはどんな暴れん坊だ。」

 男たちから冷ややかな笑いが漏れる。ブリュウはどことなく不快であった。

「化け物相手に光の国の使者のような真似事をしているヤツだよ。」

 顔が歪な男が言う。一目で異星人であることがわかるなりだった。

「誰があんな処刑人だ。」

 ブリュウも自分が光の国の使者と同等であるとみなされ始めているのは知っていた。だが、自分には関係ないと思っていたのだ。

「それより、俺がここに来たのは、聞きたいことがあってだな。」

「まずは、我らの話を聞くのが最初ではないかね。商人。」

 虚ろな目の少女は老人のような声で言う。

「お前たち、俺のことをどこまで――」

「まずは、我らの活動を知るのが先だ。」

 ハンナはそう言って椅子に腰掛ける。元はオフィスであったらしく、ほこり被ってはいるものの、十分に使えそうではあった。

「我らはこの地球に来た宇宙人たちの保護、ならびに、地球人として生きていく上での情報を与えている。金銭の支援などは行っていない。また、許しているのは初期の情報改ざんだけだ。それ以上の能力行使は許していない。」

「つまり、お前らが宇宙人どもの警察というわけか。」

「まあ、そんなこともしているが、それは多くはない。多くの宇宙人はこの地球で平穏に暮らすことを望んでいる。」

「そうか。」

 そうとも思えないヤツが一人いたが、とブリュウは心の中で呟く。

「その一環で防衛隊に一匹ネズミを仕込んでいるということか。」

「ズィーブのことか。彼女は別に我々が送り込んだわけでもないし、構成員というわけではない。我々はこの地球で言うならば、ボランティアとはNPOみたいなものだ。策略を巡らせることもない。彼女が善意で情報を与えてくれることもある。まあ、今回が初めてであったが。」

 ブリュウは不思議に思った。どうしてあの女がこんなどうでもいい組織に自分を関わらせようとしたのかと。実体は分からないが、今のところ、邪悪な組織ではないような気もしていたからである。

「で、あんたらは俺に何をさせたいんだ。」

「支援を受けろ、と言いたいところだが、ぬしはその必要はない。」

「じゃあ、なんで。」

「我らの組織の構成員となってはくれないだろうか。」

「どうしてそんな話になる。」

「我々は、いや、主に我がぬしに興味がある。ブリュウ。」

 ハンナは熱のこもった視線でブリュウを見つめていた。

「ぬしは珍しい融合例だ。人という殻に籠るということは、それだけ自身が消失するリスクを負うということだ。そして、その融合体でありながら、生活に馴染んでいる。」

「どこがだよ。」

 大分浮いているという自覚がブリュウにはあったのだが。

「その殻だと、能力が使えないというのも分かっている。宇宙人は大抵能力を使おうとしてしまう。それも、悪い方向にだ。それは仕方のない事だともいえる。地球の環境は自星の環境と大きく違うのだから。自分の星では当たり前の能力行使が、この星ではできないのだから、フラストレーションがたまるだろう。この星の人間の尺度でいうと、携帯電話が使えないということになるかな。」

「それがどうした。」

「だからこそ、ぬしは異星人と地球人との橋渡しができるのではないか、と思うのだ。」

「橋渡し?」

「そう。この星は、宇宙人の存在を否定しておる。我々の理想は、宇宙人と地球人とが手を取りあえる世界なのだ。」

「だからって、何故、俺が?」

「半分人間で、半分宇宙人。我と一緒だからだ。」

 一緒にされては困る、とブリュウは思った。彼にとってこの星は、旅の途中で寄ったに過ぎない。自分の犯した後始末に追われているだけで、それが終わればすぐに旅立つつもりなのだ。

「残念ながら、協力はできない。」

「そうか。すぐに分かってもらおうなどとは思ってはおらん。ぬしも何か困ったことがあれば、相談に来るといい。ここはそんな組織だ。」

 肩を落としながらも、元気にハンナは言った。

「で、あの影の正体だが。」

「残念ながら、我々でも、正体はつかめておらん。むしろ、ぬしの方が知っておるのではないか。」

「もしかしたら、だが、あれは俺が盗んだ遺跡の宝物のせいかもしれない。」

「どこの遺跡だ。」

「シュメール星だ。」

「なんと。」

 周りがざわめく。ブリュウは何事かと怪しむ。

「ぬしはその星がなんの星であるのか知っておるのか。」

「ただの荒れた星だろ?文明もくそもない。」

「違うな。あそこは宇宙初の、怪獣墓場だ。」

「怪獣墓場?」

「死に絶えた怪獣の怨念が眠る場所のことだ。そうか。なら、あれは怪獣たちの怨念なのかもしれぬ。」

「なんだよ、それ。」

「まあ、その破片が砕け散ってしまった今としては、どうしようもない。できることは、ただ、あの影を倒していくことのみだろう。」

「それだけか。」

「それより、ぬし。我から質問がある。」

「なんだ。」

「ぬしはどこの星のものだ。」

 ブリュウはハンナの質問が真剣みを帯びていることに気が付いた。

「分からない。ただ、気がついたら存在していた。」

「なるほど。異分子ということか。まさか、レイオニクスではあるまいな。」

「あれは都市伝説だろう。怪獣を統べる宇宙人など。」

「そうでもないぞ。この星にもその因子を持ったものが来たことがある。かの、ベリアルだ。」

「まさかそんなはずはない。ベリアルが来たとなると、この星はもう存在していないはずだ。」

 悪逆の限りを尽くしたウルトラマン。ウルトラマンベリアル。破壊の王といわれたそのウルトラマンはすでにこの宇宙から消滅したはずである。

「いいや。事実だ。この宇宙自体が崩壊の危機だったが、それを光の国の使者たちがとめたのだ。」

「そうだ。俺が影を倒さなくていいじゃないか。光の国に応援を呼べば。ウルトラマンはなにをしているんだ。」

「残念ながら、光の国にはつながらんのだ。」

「どうして。」

「それは我々にも分からない。どの星からでも届かんらしい。もしかしたら、光の国に危機が起こっているのかもしれない。」

 それはとても大変なことである。恐らく、宇宙規模の戦争が起こっているのではないか。

「だから、我々もぬしには期待しておるのだ。ウルトラマン。」

「俺はウルトラマンじゃない。」

「では、ぬしは自分の正体を知っておるのか。少なくとも、我々の知る限り、ぬしのような宇宙人は存在しない。ぬしの物質収納は自身の肉体の持つ能力だろう?植え付けやダイレクトリンクではあるまい。そんな宇宙人、存在しないんだよ。」

 ブリュウは剣の切っ先を喉元に突き付けられた気がした。

「それに、あれほど武器を持っている宇宙人はぬしの他にいまい。武器の所持は違法だからな。それこそ、光の国の使者に見つかっては命はない。今、戦えるのはぬしだけなのだ。ブリュウ。」

 だが、ごめんだった。ブリュウは誰かの期待を背負って戦うつもりはない。ただ、自分の犯した失態で、罪もないこの地球が危機に見舞われるのが気に食わないだけだった。

「知らねえよ、そんなもん。」

 もう聞くことはない、とブリュウはビルを出て行った。

 

 ミレイの家への帰り道、ブリュウはミレイと出くわした。しかし、ミレイは様子がおかしい。塀にもたれかけるようにして、ぐったりとしている。

「おい、どうしたんだ。」

 ブリュウは病気か何かかと思い、心配になってミレイに近づく。

「助けて。翔一・・・」

 その時、ミレイの様子が完全におかしいことにブリュウは気が付いた。ミレイの体から、黒い煙のようなものが出ている。

 ミレイは地面にへたり込む。その瞬間、ミレイの魂かのように煙は大量にミレイの体から飛び出し、その煙は怪獣を創り出した。

 

 

 

「ミレイ。大丈夫?」

「何が?」

「だって、久我くん・・・」

「別に、アイツが誰と帰ろうとなんて関係ないでしょ。」

 そう言って、私は翔一とハンナの後ろ姿から目を逸らす。私には関係ない。関係ないのだ、ちっとも。でも、なぜか、心臓がぎこちなく振動する。動揺なんてしていない。

「それより、あんたら、どこで知り合ったのよ。」

「一ノ瀬くんのこと?」

 沙耶は恥ずかしそうにもじもじする。なんだか可愛くて、その、綺麗だった。恋する女は綺麗さ、と誰かが歌っていた気がする。あちちあちの人だ。

「別に特に何もなかったよ。一ノ瀬くんが突然好きだっていうから。」

「それで付き合ったの?」

 お人よしもいいところだ。急に好きだなんて言われると、びっくりしてしまうだろう。私なら普通付き合わない。どこぞの馬の骨とも知らないやつだし。

「私も最初はビックリしたけど、一緒にいると、優しいし。」

「それで、好きになってたと。」

「もう。ミレイの意地悪。」

 惚気だな。聞かない方がよかった。

「もっと早く言ってくれればよかったのに。」

「だって、ミレイ、ピリピリしてるから、話しかけ辛くって。」

 それもそうか。でも、いつもの私と、今の私。どっちが本物かって言われると、どっちも本物なんだろう。

「なんだか、バカらしくなってきた。私も沙耶を見習って、新しい恋でも始めないとね。」

「ミレイ・・・」

「何?」

「無理、してない?」

「全然。」

 私も切り替えないといけない。ずっと宇宙人のことなんか気にしてても仕方がないのだ。向こうもすぐに乗り換えたわけだし。

「久我くんと話してる?一度、きちんと話した方が。」

「余計なお世話。」

 ちょっときつく言ってしまった。こんなの、いつもの私じゃない。

「ごめん。」

 その後、なんだか気まずくなって、私たちは話すことを止めてしまった。いつもならどかこに寄っていくけど、どちらもそんな話もせず、そのまま分かれ道になって別れた。

 それで一人になると、なんだか、嫌な想像ばかりしてしまう。

 翔一は私が嫌いになって家を出たのだろうか、とか。

 ハンナと今頃何してるんだろうか、とか。

 ぶるぶると頭を振る。アイツは宇宙人なんだ。私には関係ないって、無理矢理言い聞かせる。

 でも、私の中の何かが私を責め立てた。

 お前はあいつが欲しいのだろう。アイツを独り占めしたいのだろう。あの女に取られて悔しいのだろう。お前は逃げている。自分を嫌いになったアイツから逃げている。宇宙人だと誤魔化して、自分は悪くないと言っている。

 そんなことは・・・

 気がついたら、私の視界に黒い靄がかかっていた。なんだろう、これ。でも、考える暇なく、私の声で私でない何かが私を責め続ける。

 独り占めしてしまえばいい。奪ってしまえばいい。何もかも壊してしまえばいい。気に食わないなら、暴れてしまえばいい。全てを壊すのだ。

 私は立っていられなくなって、どこかに体をぶつける。壁か何かだろう。

 まだ、責め苦は続く。

 力が欲しいか。全てを壊す力が。何もかもお前の思い通りにできる。お前は神なのだ。

 うっすらと、誰かが近づいてくるのが見えた。何か話している。

「助けて。翔一・・・」

 私はそう呟いていた。

 その後、体から力が抜けるように、意識が遠のいていった。

 

 

「怪獣出現!」

「こんな町中でか!」

 会議室はごった返す。

「私と剣で出る。光はいち早く現場で避難誘導。妹尾さんは警察に行って指示を出して来い。」

「了解。」

 一同、心の指示で動き出す。

「ったく、自衛隊まで遠いんだよ!」

 心はあくたいを吐きながら、バイクを飛ばす。剣も同様である。怪獣出現後は渋滞が起こる。その際、車の合間を縫っていけるバイクの方がいいのだ。心は消防車で現場に向かう。地球防衛隊の基地は消防署の一角にあるのだ。

 バイクからは四足歩行の怪獣が見えた。ソイツは歩きながら町を潰して回っている。

「どこが害はない、だ。」

 怪獣は町を一直線に縦断するつもりであるようだった。

「目的は何であれ、倒すだけだ。」

 心は信号を無視して走り続ける。

 

 

 

 なんだか振動を感じる。

 私は目を覚ました。

「あれ?」

 なんだかとっても温かい。そして、うるさい。世界が終わるような轟音。

「なんなの、これ。」

 目の前では黒い影みたいな怪獣が暴れてたけれど、そんなこと、どうでもいい。私はおんぶされている。

「離しなさいよ。宇宙人。」

 私は宇宙人の背中で暴れる。

「やめろ。死にたいのか!」

 宇宙人の声が必死なので、私は思わず黙ってしまう。でも、こんなのって――

 人々が慌てて避難しようとしていた。でも、どの人も逃げる方向がバラバラで冷静さを欠いている。そんな中、派手な格好をした人やら、歪んだ顔をした人やらが、落ち着くように言ったり、避難の遊動をしたりしている。

「ここに隠れてろ。」

 壊れかけのビルに私を置く。

「ハンナ。頼めるか。」

「ああ。無事は保証する。」

 暗がりの中からハンナが出てくる。

「行ってくる。」

「気をつけてな。」

「待って!」

 私は宇宙人を呼び止めていた。

「どこに行くの?私を一人にしないで。もう、一人に・・・」

「すまない。」

 そう言って宇宙人はビルから飛び出して行った。その背中が翔一の姿に重なる。

「ミレイ。」

 ハンナが私の肩を抱いていた。

「人の悩みなんてちっぽけなものだ、なんて人々は言う。でも、それは当人にとっては世界が壊れかけないほど大事だ。それをヤツは解決しに行く。全く、年よりも子どもっぽいな。」

 なんだかやっぱりよく分からないことを言う子だ。でも、私のことを励まそうとしているに違いない。

「ハンナ。翔一となにをしてたの?」

「ふぉっふぉっふぉ。そうか。ぬしの悩みはそれであったか。」

 笑われて恥ずかしい。

「なに、色っぽいことなどなにもない。やつは我々のボランティアに興味を持っていたので話をしておっただけだ。気にすることはない。やつの必死な姿を見ただろう。やつは誰よりもぬしのことを大事に思っておる。だから、飛び出して行ったのだ。」

「どうして?」

 ハンナは唸る。答えづらいことのようだ。

「それは我の口から言うことではないな。ヤツの口から言わねばならない。その時まで我慢できるか?」

 私は頷く。まるで優しいお母さんのような口調なので、思わず頷いてしまった。

「なら、その涙を拭って見ろ。ウルトラマンが活躍する姿を。」

 

 

 

 飛び出して行ったブリュウは安全な場所に隠れ、本来の姿に戻る。

 精神の波動体である本体はこの地球では干渉が大きいせいで三分しか現界できない。だから、早く何とかする必要がある。

「こんな町中で暴れるんじゃねえよ。」

 ブリュウは怪獣に飛びつき、動きを止めようとする。しかし、怪獣の方が強く、動きを止められない。怪獣に振り払われたブリュウは吹き飛ばされ、町へと落ちる。

「くそっ。」

 ブリュウの本体は精神波動。それ故に、怪獣の波動と同期する。つまりは、怪獣もブリュウと似た存在なのだ。

『返して。私の翔一を返して』

 叫び声がブリュウの頭を揺るがす。

『行かないで。私を一人にしないで。』

「ったく、女を泣かせるのは罪だな。俺もお前も。」

 ブリュウは自分の肉体の主に語りかける。返答などあるはずがない。彼の肉体の主、久我翔一は死んでいない。だが、その生命波動は微弱である。これはこの世界でいう魂が眠っているという状態だ。回復の見込みはない。だが、ブリュウが彼の肉体に宿っている限り、いつかは目を覚ますだろう。それが、彼が地球にとどまっている理由。

「やっぱり、女の涙ってのはどこの星でも食えないもんだ。」

 ブリュウは胸の球体からナイフを取り出す。昨日の戦いで使ったものである。

「さて、これから御覧に入れるのは、世にも珍しい、怪獣の解体ショーです。」

 パッと大きく両手を広げた後、ブリュウは怪獣の上に乗る。そして、ナイフを突き刺そうとした時である。

 バン、バン。

 ブリュウの背中に爆撃が起こった。

「何しやがる。」

 戦闘機が二機、ブリュウの横をすり抜けていく。

「敵味方も分からねえか。まあ、俺も味方って訳じゃねえけど。」

 ブリュウの腕は宙に投げ出され、足だけで怪獣を捉える形となってしまった。ブリュウを振り払おうと、怪獣はからだを横に振る。ブリュウはふらふらと振られる形となる。その内、再び投げ出される形となった。

「ったく、馬力はすごいな。昨日よりパワーアップしてやがる。」

 ブリュウは歪む視界を首を振ることで正常に戻す。

「一発、ぶっ放すか。」

 そう思って胸の球体に手を持っていくが――銃を取り出すことはしなかった。

「くそっ。情が移ったってのか。」

 ブリュウは自身が持つ最強の武器を出すことができなかった。盗人を一撃で破壊した銃。だが、四足歩行の怪獣に向けて放つとなると、地面に大穴を空けることになる。それでは被害が大きくなる。

「お前ら、邪魔するんじゃないぞ。」

 聞こえるはずもないが、ブリュウは戦闘機を睨む。そして、怪獣の前方へと躍り出る。

「ここが踏ん張り時だ。」

 ブリュウは怪獣に真っ向ぶち当たり、なんとか動きを止めようとする数百メートル滑った後、怪獣は動きを止める。そして、そのまま怪獣をたたみ返しのように地面に立てる。怪獣の背中を戦闘機が爆撃する。

「今だ。」

 ブリュウは怪獣の腹に包丁を突き刺す。そして、そのまま下に、怪獣の腹を切り裂いていく。

『翔一。翔一。』

「ったく、お前もモテるよな。」

 怪獣は大きく咆哮した後、霧散した。

 ブリュウの胸の警報装置が危険を告げている。

「じゃあ、またな。」

 ブリュウはまるで今まで巨大な宇宙人など存在していなかったように、消えていった。

 

 

 

「どこ行ってたのよ。」

 翔一の姿が見えて、私はビルの入り口に向かって行く。

「しょんべんだよ。しょんべん。」

「ばか!」

 私は思いっきり翔一の頬をはたく。

「心配したんだから。」

「だからって、はたくことはねえだろ。」

 私は翔一の胸に飛び込む。翔一ではないけど、今は翔一っていうことで許して。

「はぁ。」

 宇宙人はなぜか溜息を吐く。

「もしもの時のために、もうちょい痩せろよな。怪獣より重かったぞ。」

 私は顔を上げる。

「バカ言ってんじゃないわよ。」

 背後に回って背中をはたく。

「いってぇ。何するんだよ。」

 大袈裟にその場で飛び上がる。まるで、海水浴で日焼けした後に背中を思いっきり叩かれたときのようなオーバーリアクション。

「ご苦労だったな。」

「いや、そっちこそ。俺はお前らを誤解してたのかもな。」

 気がつけば、ビルの中には避難誘導していた人々がいた。裏口から入ってきたのだろうか。

「いいってことよ。」

 オールバックにサングラスをかけた男の人が言った。

「どうだ。我らの仲間に――」

「すまねえな。今は他の仕事に手一杯だ。」

 そう言って宇宙人は私に振り返る。

「ほら、早く帰るぞ。」

 そう言って宇宙人はビルから出て行く。

「みなさん、ありがとうございました。その、格好良かったです。」

 顔が熱い。こんなこと言わなければいいんだけど、でも、言いたい気分だった。だって、あのどさくさで誰も彼らのことを覚えていないだろうから。

「女子中学生に格好いいなんて言われるの初めてだ。」

「ボスは言ってくれないからな。」

「誰が言うか!」

 私は宇宙人を追ってビルを出て行った。

 

「ねえ、宇宙人。」

「なんだ。」

 宇宙人でも怒らないんだ、とちょっと残念に思う。

「あんた、あのウルトラマンなの?」

「ちげぇよ。あと、あんなやつらと一緒にするな。」

「何よ。あんたも見たことないでしょ。」

「まあな。でも、あいつは違うぞ。赤くないからな。普通のグレイエイリアンだ。」

「あの連行されてるやつ?」

「その連行されてるヤツ。」

 なんだか会話はかみ合わないけど、それはそれでいいと思った。

「その、ありがとね。助けてくれて。」

「別に。お前が勝手に助かったんだ。」

「素直じゃないなあ。」

 でも、今日は許してあげよう。なんだかいい気分だ。

「あの宇宙人ってどんな人なんだろうね。やっぱり正義の味方かな?」

「知らねえよ。正義の味方なんて存在しない。あいつは地球を救おうなんてこと、考えちゃいねえさ。ただ、目の前で誰かが苦しむのが嫌なだけさ。」

「それが正義の味方でしょ?どんなヒーローだって、世界のことを常に考えてるわけじゃないだろうし。」

「そんなもんかな。」

 夕暮れ時。昼と夜だけの特別な時間。私と宇宙人にとっても、ちょっぴり特別な時間になりましたとさ。

 

 

「ヘイ、ボス。」

 事件現場を見渡して、光は電話をしていた。

「今回も光の国の使者は現れませんでした。はい。経過は順調です。ドルミーチェはいつでも起動できます。はい。眠っている怪獣たちは未だ動きを見せてはいません。でも、すでに二体。後はドルミーチェに吸収された分が散らばれば覚醒し始めるかと。はい。では。」

 そう言って光は電話を切る。

「もうすぐなのね。」

 光の顔は笑顔に満ちていた。

「もうすぐでこれ以上の惨劇が見れるわ。」

 光は怪獣が抉った地面の後を恍惚の表情で見ている。

「楽しみで楽しみで仕方がない。」

 光はずっとずっとこの惨劇を眺めていたいと思っていた。

 

 



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「弁当持った?今日はちゃんと食べなさいよ。」

「うるさいな。朝から。」

 そう言いながら、宇宙人は玄関を出る。髪はぼさぼさ。身だしなみくらい整えなさいよ。

「今日の授業の教科書は持ったわね?」

「持ってるわけねえだろ。」

「は?」

「今さらあんな常識を教えられてもな。生まれた時から知ってるぜ。」

「呆けたこと言わない。」

 途中、一ノ瀬に遭遇する。

「よう。おはよう。」

「誰だっけ?」

「同じクラスの一ノ瀬だよ。強いて言えば学級委員長だよ。覚えろよ久我。」

「よし。忘れた。」

「おい!」

 なんだかんだで、宇宙人もやっていけているようだ。

「あ。おはよう。今日はみんな一緒なんだね。」

 沙耶が分かれ道で待っていて、私たちに挨拶する。

「おはよう、沙耶。」

「おはよう。一ノ瀬くん。」

「朝からお熱いようで。」

 私は二人を冷めた目で見る。朝からいちゃつきは家の中だけで十分だっての。

「弁当、別に昼に食わなくてもいいよな。」

「お腹減るでしょ?ちゃんと食べなさい。」

「いや、早めに食ってもいいよな。授業が始まる前とか。」

「さっき食べてきたばかりでしょうが!」

 お母さんの料理を気に入るのはいいが、なんだか禁断症状めいている気もする。中毒か何かか?お母さん、変なもの入れてないよね・・・

「二人は一緒に暮らしてるんだよね。どう?慣れた?」

「慣れるわけないでしょ。」

「よ、朝から熱いね。」

「モブは黙ってろ。」

「ひどい。ここまでセリフがあるのにモブ扱いかよ。委員長よりいいだろ。」

「誰がモブですって?」

 校門前に学級委員長が立っていた。

「おはようございます。」

「おはようございますじゃない。一ノ瀬。お前、今日当番だろうが。」

「いやあ、寝坊で。」

「いいから、今すぐ仕事。校門に立つの。」

「はい。」

 一ノ瀬は私たちと名残惜しそうに別れた。

 

 確かに、授業は退屈極まりない。中学二年にもなったから、高校受験について先生がことあるごとに言うけれど、どこか自分とは遠く離れた世界のような気がして、実感が湧かなかった。中には沙耶のように学力の高い学校に行こうと頑張っている子もいるけど、私は並の学校に入れればいいし、今一勉強に身が入らないのだっだ。そのくせ、部活動なんかもやってないから、本当に私はなにもない。ただ、目的もなく生きてきていて、それがなんだかんだで無味無臭だけど楽しいのだ。こんな世界が続けばいいのに、なんて思ったりする。

「佳澄。おい。佳澄ミレイ。聞いてるか?」

 いや、聞いてなかった。ごめん。

「すいません。聞いてなかったです。」

「この問題を答えろ。」

 えっと・・・Xは何かって問題?XはXでしょうが。それ以外に何があるっていうのか。

 答えられなくて黙っていると、先生は別の生徒を指名する。宇宙人だった。

「久我。おい。久我。弁当を食ってるのは分かってる。別にそれはいいが、授業も聞いてくれ。」

 私は恥ずかしかった。みんなくすくすと笑っている。別に私が笑われている訳でもないのに。

「おい、久我。お前だよ、お前。」

「ああ、俺か。」

 どうも自分が指名されていることに気がつかなかったらしい。どれだけ弁当に夢中なんだか。

「X=三分の二。XをYに代入して四分の六。」

「うーむ。」

 教師は納得いかないといった風に唸っている。私だって納得いかない。私以上に授業を聞いているようには見えない宇宙人に私が負けたのだ。

「正解だ。」

 その後の先生はずっとテンションが低かった。意外と難しい問題だったのかもしれない。色々見覚えのないグラフも書いてあるし。

「お前、意外とやるじゃん。」

 昼休み、一ノ瀬が宇宙人に話しかけていた。なんだか馴れ馴れしい。

「このくらい常識だろう。」

「腹が立つわね。」

 自然と集まって弁当を食べていた。宇宙人は食べてしまっていたので、宇宙人だけつまらなさそうな顔をしている。

「お前だってそうだろう。」

 宇宙人はハンナに話しかける。

「いや、そうでもない。我はぬしと違って人並みだからのう。」

 ちょっと気に食わない。何が気に食わないって、宇宙人がハンナに話しかけてることで、なんで私に話しかけないのとか仲良さそうとかそんなこと思ってて、そんなこと思ってる自分が気に食わないし、でもやっぱり宇宙人に対して気に食わないな。

「でも、ハンナさん。頭よさそうだけどなぁ。」

 沙耶が言う。可愛らしいお弁当箱を使っている。どこで買ったのかあとで聞こう。

「まあ、勉強は頑張っておるからな。知識を蓄えるほど世の中に対する視点が変わっていく。その移ろいがまた、今だけという感じがして面白いのだ。ぬしたちもそうであろう。」

「私は勉強嫌いだから。」

「俺もー。」

「私は、そんなこと、考えたことなかったかな・・・」

 なんだか縮こまって沙耶は言う。

「ただ、勉強して上の高校に行くことしか考えてない。」

「まあ、それもよいだろう。だが、決して後悔せぬ道を行かねばならぬ。今は今も過去になって行っておる。その一瞬の移ろいこそ儚く尊いのだ。」

「ハンナ、難しいよ。」

「そうか?」

 少なくとも私にはちっとも理解できない。

「命短し恋せよ乙女ってことだけは分かったけど。」

「なんだ、それは。」

「多分諺かなんかだったと思う。そのまんま、乙女が乙女でいられるのは短いから、恋を今のうちにしておきなさいって。」

「歌謡曲の一節だ。」

「あら、そう。」

 宇宙人のくせにやけに詳しいじゃない。そう言えば、この言葉を言っていたのは翔一のママだったっけ。

「いい言葉だ。我は感動したぞ。」

 大袈裟な。

「で、恋とはどうすればいいのだ。」

 一瞬、場が固まる。そりゃそうでしょ。そんなこと、言うまでもないっていうか、言葉にできないっていうか・・・

「成長していけば分かるようになるよ。」

 そう答えたのは沙耶だった。沙耶が大人びて見えたのは見間違いじゃないんだろう。沙耶は恋をして大人になっていく。じゃあ、私はどうなんだろう。恋をしてるんだろうか。大人になっていけるんだろうか。

 

 一日なんてあっという間だ。すぐに過ぎ去る。だから大事に生きなきゃいけないっていうことをハンナは言っていたのだろうか。そのハンナはすぐに下校してしまう。そして、宇宙人の姿もなかった。

「怪しい。」

 昨日のこともあるし、私は少し腹立たしくなった。

 私も急いで帰りの支度をして校門を出ると、二人が並んで歩いていた。はた目から見ると、仲がいいカップルみたいだ。胸が締め付けられる。あんなヤツのこと、どうだって、よくない!

「おい。なにし――」

 私は話しかけてきた男の口をふさぐ。ばれるだろうが。

「何だよ、いきなり。」

「ばれるでしょうが。」

「なにが。」

 私は顎で二人の方を示す。

「なるほどな。」

「ところで、あんた、名前なんだっけ。」

「一ノ瀬だよ。いい加減覚えろよ。」

 その一ノ瀬が物陰から出て行こうとするので、私は一ノ瀬の手を引いてとどまらせる。

「なんだよ。俺、部活があるんだよ。」

「部活なんかより、こっちの方が大事でしょうが!」

 支離滅裂なのは自分でも分かってはいたけど、私にとっては一ノ瀬の都合より私の都合の方が大事なのだ。

「ほら。行くわよ。」

「俺が行く意味あるのか?」

「つべこべ言わない。」

 一ノ瀬は困った顔をしながら、観念したのか、私に付き合う。二人で電柱からハンナと宇宙人を見守るだけだが。

「あんた、離れなさいよ。」

「いや、見つかるだろ。」

「痴漢で訴えるわよ。」

 ま、多少は我慢してやろう。一ノ瀬が変な気を起こしたら、顔面をぶん殴ればいいだけだし。

「うん?」

 一ノ瀬が変な声を上げるので、私もハンナと宇宙人の方を見る。すると、そこにはいつぞやのお姉さんと同じ制服を着た男の人がいた。なんだか宇宙人に詰め寄っている。

「なんなんだ、あれ?」

「さあ。」

 と、男が宇宙人を壁ドンした。額と額、鼻と鼻、唇と唇が重なり合いそうなくらい近くで二人は言い争っている。

「ふわぁ。」

 私はなんだか蕩けてしまいそうだった。禁断の、禁断のレジスタンス。これは、刺激が強過ぎる。

「大丈夫か、佳澄。」

「ダメかも。」

 見ると、ハンナも顔を赤くし、瞳を輝かせ、指と指の間から二人の男を見ている。

 と、宇宙人が男を突き飛ばす。そして、足早に去っていく。男は用は終わっていないという風になにか宇宙人に向かって叫んでいるが、宇宙人は見向きもせず去っていく。

「一体何だったんだ。」

 一ノ瀬は始終首をひねっていた。

 

 

「いやあ、我々ってさ、出番少ないじゃん。それって地球防衛隊的にマズいと思うんだよね。」

 妹尾が言うが、誰も聞いていない。

「今日、光は?」

「休暇です。」

「週休二日だもんね。こんな職場にも法律が行き届いてるって思うと感心するよ。」

 皮肉なのかどうなのか分からない口調で心が言う。

「で、この作戦だ。」

 妹尾は小学生の自由研究かと間違えそうな大きな模造紙に文字やら図を書いている。そこにばんっ、と手でたたき強調する。

「地球防衛隊の方、うるさいです。」

「すません。」

 ボードで仕切られた向こうは消防隊の仮眠室である。

「これが新たな作戦。ネット作戦だ。」

 妹尾が小さな声で言う。

「すいません。質問なんですが。」

「なんだね。クラブ。」

「戦闘機で怪獣を引っ張るって正気ですか?」

「ああ。」

「バカなんじゃないのか?」

 剣がイラついたように言った。

「いいや、大の真面目だ。」

「聞いた俺がバカだった。」

「自衛隊と国には至急、大きなネットを手配するように言ってある。次の作戦から使うことができるぞ。」

「すまない。私は頭が痛くなってきたぞ。」

 心は大きくため息を吐く。

「すいません。そろそろ定時なので帰りますね。」

 剣が腰を上げる。

「待って、剣くん。今日、宿直変わってくれない?」

「嫌ですよ。」

 剣はそのまま帰っていった。

 

 剣は宇宙人に恨みなどない。だが、悪に対しては人一倍嫌悪していた。小さいころ、川でおぼれていたところを警察官に助けられたことがあった。その時から自分は警察官になろうと決めた。だが、挫折した。試験に受からなかった。実技は誰よりも上であったにもかかわらず、学問は一番苦手だったのだ。そして、打たれ弱かった。一度試験に落ちると、そのままぐれてしまったのだ。酒とたばこに溺れ、悪い仲間と夜の街を駆けずり回る日々。そんな折、剣に話しかけてくる男がいた。みょうちくりんな髭を生やした男だった。

「君。世界を救ってみないかね。」

 最初は冗談だと思った。その後、自分の中に熱い思いがたぎってくるのを感じた。でも、と剣は頭を振る。自分はもう悪に染まってしまっている。

 水たまりに自分の顔が映った。喧嘩に明け暮れ、酒におぼれ、赤く腫れている顔面。それは自分が理想としてきたものとは程遠い。

 そして、そんな自分に世界を救ってみないかと言った男。こんな不良に話しかけるのは勇気が必要だっただろう。

「なれる・・・かな。俺に。」

「なれるとも!」

 男は、妹尾は自信満々に言い放つ。

 俺は今からでも遅くないのだ、と剣は決断した。

 

 剣は愛車から降りる。見知った顔を見かけたからだ。わざわざ遠回りまでしていたのだが、たまたま、見かけたのだ。

「おいっ。宇宙人!」

 かつて夜の帝王とまで言われた異名は伊達ではなく、同行人の少女は縮み上がっていた。見慣れない顔だった。だが、脅かしてやろうとした当の本人は剣を揺るがぬ瞳で睨んでいる。なんか用か、と言葉なく語っていた。その瞳が、剣は気に食わなかった。剣は少年が寄っている壁に手をつく。唾を吐きかけるように言う。

「お前の正体は分かってんだ。」

「いつっ。」

 一瞬少年は顔を歪ませる。剣は何もしていない。

「どうした?」

 剣はなじるようにして言う。

「お前らが撃った傷が痛むんだよ。」

 剣は虚を突かれた。あまりにも呆気なかったからだ。

「とうとう、本性を現しやがったな。」

 だが、剣は勢いをそがれていた。少年の意味することがよく分かったので、自分はどうするべきかという迷いが渦巻いていたのだ。

「今さら隠しても意味がないだろう。」

 剣はその場から去った。どうすればいいのか分からなかった。

「くそが。」

 剣はそのまま車を飛ばして逃げるように去る。

 昨日、宇宙人を傷付けたのは剣だった。それは狙ってではない、と剣は思っている。だが、撃つ瞬間、邪な思いがよぎったのも事実だった。

 正義のヒーロー面しやがって。

 そう思った瞬間、引き金を引いていた。だが、剣は宇宙人を憎んでいるわけではなかった。彼は三度も人類を救ったのだ。剣は宇宙人に感謝していた。そのヒーローがあんな年端もいかないガキだなんて――

「畜生。」

 車を飛ばしていると、今度は予期せぬ出会いであった。

「大丈夫か、光。」

 同僚が少女の肩を担いで歩いていた。

「あ、あら。剣。」

「その子、調子が悪いのか。」

 どうも少女の様子はおかしい。意識があるのかないのか分からない。

「病院まで送って行こうか。」

「大丈夫。」

 口早に光は言った。

「ただ、貧血を起こしただけみたい。家がすぐそこだから、私でも大丈夫。」

「だが――」

「男が女の子に易々と触っちゃダメなの。」

 剣は少女が心配だったが、仕方がない。

「もしものことがあったら電話しろ。」

 それだけ言って、四畳間の安アパートに向かって車を走らせた。

 

 

 亜久里沙耶は見てしまった。親友と自分の彼氏の体が密着しているところを。

 思えばおかしかったのだ。

 どこから?

 初めから。

 目立つところもなく、大人しい自分にどうして彼氏なんかできたのか。

 それで?

 彼氏は親友と話すようになった。その顔はとっても嬉しそうで、自分と話しているよりも楽しそうに見えた。

 だから?

 気付いてしまったのだ。

 何を?

 彼氏の目的は自分ではなく、親友なのだと。

 だから?

 捨てられるのは嫌。捨てられるのは嫌。捨てられるのは嫌。

 捨てられるのは嫌。捨てられるのは嫌。捨てられるのは嫌。

 心臓が早く鼓動する。それが沙耶の耳にまで聞こえてくる。何かがおかしい。そう思ったとき、沙耶は浮遊感に襲われた。ああ、倒れるのだな、そう思ったとき、誰かに抱き留められる。

「夜兎?」

「彼氏でなくて残念ね。」

 そのまま沙耶はその人物に肩を抱かれ連れて行かれる。沙耶は何が起きているのか分からないし、今の自分ではどうしようもないことを分かっていた。

「まだまだもちそうね。いいわ。最高の気分よ。」

 夜兎。

 一度も呼んだことがない彼氏の名前を沙耶は呼び続けていた。

 

 

 

 黄金色の光。逢魔が時の前触れ。そんな中、私たちは四人横に並んで歩いていた。

「わざわざこそこそする必要もないだろう。」

 宇宙人は呆れたように言う。

「だって・・・」

「言っておくがバレバレだったぞ。」

 男が去った後、私たちは宇宙人にすぐに見つかってしまった。

「あの人と何を話していたの?」

 穏やかな話ではないことは分かった。あの女の人と同じ制服だったから、きっと宇宙人がどうのという話なんだろうと思う。

「聞こえてなかったか。良かった。」

「ふぉっふぉっふぉ。」

 良かった、のところだけ小さく宇宙人は呟いた。ハンナは意味ありげな顔をしている。やっぱり、二人は仲がいいんだ。

「そう言えばさ、どうして沙耶に告白なんかしたの?」

「やっとモブキャラ卒業か!」

「そういうことを言うからモブキャラなのだぞ。」

 一ノ瀬はハンナの言葉に落ち込む。

「多分さ、亜久里は覚えてないだろうけど、入学したての頃、俺、消しゴム忘れてさ。同じ小学校の友達と離れ離れになったから、俺どうすればいいのか分からなくて困ってたんだ。そうしたら、隣の女子がどうしたのって声をかけてくれて、消しゴムを貸してくれたんだ。その時は親切な子だなってだけだったけど、その内、その子が気になり始めて。席替えで自分が落ち込んでいることに気が付いたとき、思ったんだ。ああ、俺はあの子のことが好きだったんだなって。」

「それが沙耶だったのね。沙耶らしいわ。」

 いつも物静かな子だけど、周りをよく見ていて、困っている人に手を差し伸べる。女神みたいな子なのだ。沙耶は。私はそんな沙耶が大好きだ。翔一と同じくらいに。

「でも、なんで苗字なのよ。沙耶って呼んでやりなさいよ。」

 一ノ瀬はもじもじする。

「なんだか恥ずかしいし、お互い苗字だから。」

「だから一歩進めないのよ。沙耶は寂しがってるわ。」

 冗談だった。沙耶は確かに、一ノ瀬と一緒にいると楽しそうだ。こっちが嫉妬してしまうくらいに。

「そうだな。でも、きっかけがあればな。」

「デートしなさいよ。誘いなさい。それで解決。」

 恋のことなんて分からないけど、ありきたりなことを言っておけばいいだろう。

「そうだな。ありがとう。佳澄。いや、ミレイ。」

「私の名前を呼んでどうするのよ。」

「早速亜久里に、いや、沙耶に連絡だ。ダブルデートだ。」

「ちょっと待って。さっきなんて言った?」

「だから、ダブルデートだって。」

「は?」

「ミレイと久我、俺と沙耶でデートだ。」

「冗談じゃないわよ。」

 どうして私が宇宙人とデートなのよ。私は翔一としたいの。初めてのデートは翔一と、キスもあれもこれもって決めてるんだから。

「じゃあ、我が行ってもいいのか?」

 からかうようにハンナが言う。

「う、うーん。ダメ。私が、行く。」

「じゃ、決定な。」

 一ノ瀬は早速電話をかける。気の早いヤツ。

「もしもし、沙耶?」

 電話をかける一ノ瀬の顔が曇る。

「お前は誰だ。」

 胸騒ぎがした。得体のしれない何かが足元から這ってくる不快感。

「おい、待て。どういうことだよ。沙耶はどうしたんだ。おいっ。」

 電話は切れてしまったようだった。

「何があったの?」

 私は唾を飲みこんで言う。嫌な汗が流れてくる。

「沙耶がさらわれた。」

「え?」

「町はずれの工場に来いって。」

「なんで――」

 頭が真っ白になる。一ノ瀬の言葉を頭の中で繰り返しても、理解が、出来、ない。

「久我。どういうことだ。お前も連れてくるように言われたんだ。」

 一ノ瀬は冷静だった。男の顔をしている。怒りをかみ殺して、無理矢理に冷静になっている顔だ。

「相手は何者だ。」

「女だった。それ以外は分からない。」

「女、だと?」

 宇宙人は考えているようだった。どうも思い当たる節はないように見える。

「とにかく、その場所に行こう。」

 宇宙人と一ノ瀬は行こうとする。

「私も!」

「お前は待て!」

「嫌だ!」

 こんな時に不謹慎かもしれないけど、私は沙耶が危ないことよりも、翔一が私の掌の隙間から細かい砂のようにこぼれ落ちていって、どこかに行ってしまうのが嫌だった。そんな恐怖が私を襲っていた。

「我も行こう。」

 結局、誰も宇宙人の忠告を聞かずついていくことになった。

 

 

「ふぅ。ガキってのはいきり立ってりゃいいと思ってるから、手を付けられないわね。」

 光はスマートフォンを投げ捨てる。ピシリ、と嫌な音がしたが気にしない。自分のものではないからだ。

「っと、後は私の可愛い子猫ちゃんにっと。」

 光は仕事用のスマートフォンを取り出す。よくある設定では独自の機種だったりするが、予算の都合により、地球防衛隊にそんな無駄な出費はできないのだ。

「もしもし、心?」

『どうした?今日は休みだろう?』

 友達の話しかけるような油断した声。この後起こるであろうドラマを想像しただけで、光は震える。

「私、宇宙人なんだ。あの雨の日のこと、覚えてる?」

 電話の向こうから何も聞こえなくなる。電話の向こうの彼女がどんな顔をしているか想像するだけで歓喜がこみ上げてくる。

「ウサギみたいに逃げ回って、追いつかれて可愛い悲鳴なんてあげちゃって。今のアンタみたいな顔してたわ。」

 実際顔など見えなくても心がどんな顔をしているのか容易く想像できる。

「今、どこにいる。」

「冷静になりなさいよ。GPSで私の居場所なんてわかるでしょ。」

 ま、宇宙規模で考えると、原始人なみの技術なんだけど、と光は思う。光は電話を切る。電源はそのまま。電源を切って中のSIMカードを抜けば簡単に逃げられるなんてほんと、原始時代、とバカにしたように言う。

「さて、お嬢さんの中の架空物質(ノット)は育ってるかしら。」

 まるでゴミのようにその場に放り出されている沙耶を見て、光はほほほ、と上品に笑った。

 

 

 

「あら。意外と早かったじゃない。」

 女はそう言って私たちを迎えた。私はその女に見覚えがあった。格好は変わっているけど、確か、一昨日、宇宙人と話していた女だ。

「どういう了見だ。」

 宇宙人は歯をむき出しにして言う。

「なんだ、みんな来たのね。こんにちは。ボス。いいえ。暗くなってるからこんばんわかしら。」

「ズィーブ。どういうことだ、これは。」

 ハンナが険しい顔で言う。ハンナとも知り合いなのか。

「まあ、キャストが揃うまで待っててね。」

 遠くから轟音が聞こえる。工事でもしているのだろうか。と、その轟音はすぐ近くに聞こえてきて――

「光!」

 血走った目で長い髪の、あの変な恰好の女のひとが飛び込んできた。手には重そうな拳銃を構えている。

「あら。心。そんな物騒なものしまってくれないかしら。」

 光と呼ばれた女は腕の中の少女を見せて言う。沙耶だ!

「貴様、どこまで下衆なんだ。」

「ありがとう、心。私には褒め言葉よ、それ。」

 光は始終、いやらしい笑みを崩さない。それは取り繕っているというより、今にも笑い出しそうなのを必死で堪えているように見える。

「人質を開放しろ!」

「まずは私の話を聞いてからじゃない?」

 心と呼ばれた女の人は口を紡ぐ。

「さて、いろいろとさせたいことがあるから呼んだわけだけど、まず、私の話ね。

 私の種族はね、本来、もっと強力な存在なの。ズィーブ星人なんて言葉に出すのさえ恐れられてた。それも昔の話なんだけど。私の望みはね、そんな昔の姿に戻りたいの。そうして人々の恐怖を糧に楽しい暮らしをしたいの。分かる?」

 誰に向けて言っているのだろう。私ではないだろうし。

「それを叶えてくれるのはレイオニクスだけ。みんな、レイオニクスを誤解してるようだけど、彼らは別に怪獣や宇宙人を支配しているわけではないの。みんな望んでついていっているのよ。レイオニクスの本当の力は、眠っている力を引き出すことなの。だから、私は闇の帝王に従っている。」

「なんだと?その言い分ではまだベリアルが存在しているみたいではないか。」

 ハンナが話についていっている。よく分からない横文字ばかりで私にはわからないけど。

「我らの王は死んでなんていない。ただ、今は眠っているだけ。まあ、私が従っているのはその人ではないのだけど。」

「では――」

「その先は言えないわ。私も命が惜しいもの。

 そして、私は、力を手にする術を見つけた。きっと、この力があれば、私は本来以上の姿になれる。分かるかしら、この気持ち。」

 きっと、誰も分かっていない。

「それはなんだ。」

「架空物質よ。死に絶えた悪の塊。それは地球人の感情を糧に膨れ上がる。地球人のみんなは気付いてないんでしょうけど、あなたたちは宇宙人に比べて寿命が圧倒的に短い。でも、それは決して短所にはならない。宇宙人も地球人も持っている命のろうそくの長さは一緒なの。じゃあ、なんで地球人は命が短いのか。それはね、灯している火の大きさが圧倒的に違うの。地球人はもう、ごうごうと燃え盛っているわけ。だから、架空物質のいい餌になる。あの人もよく考えたものだわ。わざと武器を不法所持しまくりの宇宙人に架空物質をばら撒かせたんだから。」

 光の目が宇宙人に向けられていることに気がつく。

「さあ、お話はおしまい。話過ぎちゃったかしら。後は、要求だけね。」

 誰もが息をのむ。

「私は今から大暴れするわ。地球を滅ぼすほどにね。そんな私に向かって、コード・ブリュウ。変身して立ち向かいなさい。」

 ひどく冷たく、ドロッとした言葉。

「もちろん、大切なその子の前でね。」

 私に目を剥けられて、ひやりとする。危ないわけでもないのに、危険を感じる。

「亜久里を、沙耶を返せ!」

 一ノ瀬は顔を歪ませながら言う。きっと怖いんだろう。得体のしれないのだから。そんな相手に物申せるなんて、流石じゃない。

「いいわよ。もう、用済みだから。」

 光は沙耶の胸の中心辺りに手を突っ込む。手品かなんかじゃないか、って私は目を疑った。だって、血は出てないし、ぬめぬめと沙耶の体に手が入り込んでるし。

「あった。」

 光の顔は歓喜で満たされる。沙耶の体から取り出したのは、黒い球のようなもの。でも、光なんてなくって、逆に光を全てのみ込んでしまいそうな、そんな得体のしれないもの。それを光は飲み込んだ!

 ほほほほほ。

 光の体は黒い粒となって霧散し、直後、どこかから轟音がする。大地を揺るがす鳴動。

「沙耶!」

 支えるものがいなくなって地面に倒れた沙耶を一ノ瀬は駆け寄って抱きかかえる。

「しっかりしろ、沙耶!」

 心は機嫌が悪そうに電話を取り出す。

「はい。分かってる。準備をしておけ。」

 そして、私たちに向き直って言った。

「お前たち。その病人を背負って逃げろ。」

 それだけ言って心は工場を後にする。

「逃げよう。」

 私は恐れながら宇宙人に言った。

「悪いな。約束だからな。」

「もう、いいじゃない。早く逃げないと。」

「そのガキにもしものことがあっては危ない。お前は俺の体を運んで逃げろ。」

「言ってることが分からないよ。」

「頼んだぜ。」

 直後、翔一の体から光の玉が出てくる。白銀のとっても神秘的な輝き。それが壮一の体から離れた瞬間、翔一は倒れる。光は天高く昇っていく。

「翔一!翔一!」

 翔一は眠るように倒れる急いで駆けよるけれど、息をしていない。あの時と同じだった。直後、再び大地を揺るがす鳴動。

「ミレイ!逃げるぞ!」

「でも、翔一が・・・」

「引っ張ってでも連れていけ。」

 こういう時、男の子は強いって思う。私なんてパニックで何も考えられなくて、体が言うことを聞いてくれないのに。

「早く!」

「うん。」

 私はいつの間にかすっかり重くなってしまった翔一を担いで工場を後にする。外には白銀の宇宙人と白く滑っとした妖怪みたいなのが睨みあっていた。

「翔一――」

 何もかもが頭の中で正確に、寸分違わず答えの糸で結ばれていって、不快なほどに何もかもが理解できてしまった。まだ、分からないことも多いけど。

 

 

 

「へぇ。ちゃんとみんなの前で変身したんだ。」

「思ったより醜い姿なんだな。」

 目の前のお化けを見てブリュウは言い放つ。

「まだ、架空物質が馴染んでないからね。でも、ほら。」

 虫が脱皮するように醜い表皮が崩れ落ちる。その中から現れたのは、枯れ木のような羽根飾りを持った、人型の生物。

「どうかしら。似合ってる?」

 光は自分の手足を舐めるように見ている。ブリュウは何の冗談かと思った。趣味が悪すぎる。光の姿は図書館の資料で見た、天使のように見える。

「さて、ここで提案よ。」

 光は左目が崩れ落ちている顔でブリュウを見つめる。崩れ落ちた顔の中は黒い霧で満たされていた。

「私と手を組まない?そうすれば、あなたも無制限に元の姿で活動できるし、この星を好き放題できるわ。どう?」

「残念ながら、独裁者のいる星は商売がし辛いんでな。」

「じゃあ、交渉決裂ね。」

 光は初めから興味がなかったようにあっさりと言い放つ。ブリュウは構えを取る。

「私の速さについてこれるかしら。」

 直後、光の姿が消えた。どこに行ったのかとブリュウが探そうとする前に腹部に衝撃が走る。目の前にはすでに光がいて、ブリュウを殴り飛ばしたのだ。

「意外と頑丈ね。流石、出自不明のイレギュラーね。」

 ブリュウは立ち上がり、剣を取り出す。正しい言い伝えも分からない、どこかの惑星の英雄が使っていたという聖剣の模造品。ブリュウはその剣を辺り構わず振り回す。ブリュウは剣が光に当たらないことを分かっていた。だから、まぐれでも、当たればいいと考えていた。

「意外と太刀筋はきちんとしてるのね。あなた、傭兵の訓練を受けたとかじゃないでしょう?なら、筋がいいのかしら。」

 余裕のある声がブリュウの背後から聞こえた。直後、ブリュウの背後に衝撃が走る。

「ほほほほほほほ。」

 不気味な笑い声が静まった夜に響く。町の方は明るい。避難しようとする車でいっぱいなのだろう。

「あら。町が気になるの?」

 嫌な予感がした。

「私ってね、どうもズィーブ星人の中でもさらに性格が悪いんだって。何かを壊すのが好きなの。昔はよく、いい気になってるやつを恐怖のどん底に陥れて遊んだものだわ。」

 急に周りの温度が低くなったことにブリュウは気付く。そして、光の胸部には禍々しい光の塊。それを光は町の方へと放った!

「くっ。」

 しかし、それは町へと至らなかった。その前にブリュウが自らの体で受け止めていた。

「ほほほ。正義の味方気どり?アンタみたいな無法者が今さら改心なの?気分が悪いわ。」

 ブリュウの胸の警報装置が危険を訴えていた。

 

 

 

 心は数分で基地につく。

「発進準備はできてるだろうな。」

「はい。」

 自衛隊員は元気よく尋ねる。

「これは?」

 目の前の戦闘機二機には特別な装備が施してあった。二つの戦闘機に跨るようにネットが取り付けられている。

「妹尾隊長殿が取り付けるようにと。外しますか?」

「いや、いい。」

 心はもしかしたらこれは使えるかもしれないと思った。もし心を襲ったときと同じ能力を光が有しているのなら、足止めになるかもしれない。

「行くぞ、剣。」

「ああ。」

 剣は少し元気がないようだった。

「なあ、心。」

「なんだ。」

 時間がないのは剣も承知しているはずであった。むしろ、心と同じくらい怪獣の殲滅にこだわっていたはずの剣が話すことの方がおかしかった。

「宇宙人ってのはみんな悪いヤツなだろうか。」

「当たり前だ!」

 心は怒鳴る。心は以前までは宇宙人に対して柔軟な考えを持っていた。宇宙人も人間と同じで善悪はあると思っていたのだ。だが、今は違う。親友に裏切られた彼女の目には、宇宙人は全て敵に見えていた。

「行くぞ!」

 心は戦闘機に乗り込む。剣も乗り込む。そして、二人同時に出撃する。

「もっと早くいけないのか。」

「ネットをしょってるんだ。早く飛ぶとネットに引っ張られる。」

「そんなこと、分かっている!」

 心はネットを使おうとしたことは間違いだと思った。これでは白銀の宇宙人が先に光を倒してしまうではないか。

「くそっ。」

 だが、その内、敵が見えてきた。白銀の宇宙人と枯れ木のような羽を生やした、光。

 と、白銀の宇宙人から煙が上がっている。光が何発も光球を繰り出していて、それを宇宙人が防いでいる。

「何やってんだ、あいつは。」

 心は忌々し気に呟く。と、心の目と、光の視線がぶつかる。光は光球を宇宙人ではなく心質の方へと向ける。

「くそっ。」

 逃げようとするが、ネットが邪魔で、自由に避けられない。所詮は上官の間抜けな作戦だったか、と心が観念した時、目前に光球が迫っていて――視界が真っ暗になる。ああ、これが地獄か、やっぱり真っ暗で何もないんだ、と思ったとき、剣の声が聞こえた。

「おい。ボケっとするな。」

 その声で心は我に返る。目の前の障害物を避ける。その障害物は白銀色をした壁だった。

「愚かな。」

 心は何があったか悟った。宇宙人が身を挺して心たちを光球から守ったのだ。

「剣!」

 心は叫ぶ。

「作戦を絶対に成功させるぞ!」

「おう!」

 油断していた光に向けて、ミサイルに繋がれた網を射出する。ミサイルはまっすぐに飛んでいき、ネットに光を絡めとって動きを封じた。

 

 

 

「なによ、これ。小賢しい。」

 ブリュウは目の前の光が動きを止めているのを見た。胸の球から光線銃を取り出す。結合分解光線、スペシウム。そんな有害な光線を放つ、持っているだけで宇宙から狙われる代物。

「お前だけは塵一つ残さねえ。」

 ブリュウは光を狙い、撃つ。光線が光に触れただけで、光は爆発した。それと同時にブリュウも消える――

 

「翔一。翔一。」

 目を覚ましたブリュウが感じたのは頬の生温かさだった。なんだろう、と視界が戻ってくると、目の前に涙を流した少女がいる。

「泣いてるのか。」

 それは悲しい時に出るものだとブリュウは知っていた。宇宙人はなみだを流すことはない。それは無意味だからだ。眼球を潤す以上の分泌物は出ないように進化している。

「翔一。無事でよかった。」

 少女はブリュウを抱きしめてくる。

「だが、俺は――」

「知ってる。ホントは翔一じゃないんでしょ。」

 涙を拭って少女は言った。だが、ブリュウは何も答えられない。

「あれだけ痛そうなのを受けて、死んじゃうかと思ったんだから。」

 それはおかしな考えだった。ブリュウには意味が分からなかった。ブリュウが傷付こうと、生きてさえいれば、宿主の体は無事なのだから。

「大丈夫?痛いところは?」

「バカか、お前は。」

「心配してるのに、なによ。」

 少女は頬を膨らます。

「俺を心配しても意味がない。俺が傷付こうと――」

「アンタの方がバカじゃない。」

「なんだと?」

「痛いけど平気って我慢するのは男の子として偉いって思うわ。でも、辛いのに平気っていうのは違う。分かる?」

 分からなかった。ブリュウにはまだ地球人の理論が分からない。

「とにかく帰るわよ。」

「いいのか。俺は――」

「俺はどこに帰ればいい、なんて濡れた子犬みたいに言ってたのはどこのドイツかしら。」

「う、うるさい。」

 二人は何事もなく歩いて家に帰っていく。何もかも忘れたように。

 

 

 

「ズィーブはやられたよ。ベル。」

「分かっているさ、エル。」

 薄暗い部屋に二人の人物がいた。一人は落ち着きがなく、そわそわし、もう一人は対照的に落ち着いて椅子に座っている。

「まあ、彼女はもう用済みだった。むしろ、あれだけ粉々に架空物質をばら撒いてくれたんだ。感謝しないと。」

「じゃあ、次はドルミーチェを起動させるのね、ベル。」

「ああ。作戦は第一段階終了だよ、エル。」

 くすくすと二人は互いを見つめ合いながら楽しそうに笑っていた。

 




 ここ最近、小説家になろうに投稿し始めたのですが、小説家になろうは二次創作がダメみたいです。なので、ここに。
 設定としてはほとんどオリジナルです。さって、ウルトラマン、ほとんど知らないのだもの。後一話ありますが、執筆中ですので、しばらくこのままです。
 不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします。


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「結局デートするの?」

 私は突然かかってきた見知らぬ番号に出た。流石に怖かったけど、色々とあり過ぎて、もう怖いのなんのと言ってられない。

『ああ。楽しみにしてるぜ。』

 電話の相手は一ノ瀬だった。沙耶から番号を聞いたらしい。

「沙耶は大丈夫なの?」

 あの後、例の何とか隊の人が沙耶を病院に連れて行ったのだ。

『ああ。異状はないから、すぐに出た。』

 よかった、と私は胸をなでおろす。沙耶に何かがあったらと、気が気ではなかったのだ。

「でも、どこに行くのよ。」

 この近くにデートできるところなんて、正直ない。

『スリラーパーク。』

「よりにもよってスリラーパークって。」

 この町にもバブルの頃、遊園地ができていた。パパ曰く、いや、お父さん曰く、国がばら撒いた助成金がどうのって言ってたけど。昔のことなんてよく知らない。そんな遊園地はあっという間に閉鎖されてしまった。でも、最近、どっか都会の会社が買って、営業を再開したらしい。もっといい場所があっただろうに、というのが本音。

「行くならユニバとかにしなさいよ。」

 行くだけで三時間はかかるが、田舎の落ちぶれたテーマパークよりはいい。

『俺もFFとか興味あるけど、金がないし。』

 この、甲斐性無しが。私もお金はない。お母さんからもらうにも小言を言われかねないし。

『じゃあ、明日。十一時にスリラーパーク前に。』

「はい、はい。」

 まあ、あんなことがあったのだから、沙耶の気持ちを落ち着かせるには楽しむに限るだろう。でも、一つ、問題が。

「宇宙人。」

「なんだ。」

 私は宇宙人の部屋の前で呼びかける。

「明日、遊園地でデートだって。」

「そうか。それは良かったな。」

「あんたも行くの。」

 扉を隔てて、宇宙人は沈黙していた。

「嘘だろ?」

「行きなさい。」

 なんだか宇宙人は迷っているようだった。私は回答を待たずに部屋に戻っていく。別にアイツが来なくてもいい。

 昔、翔一の家族と一緒に遊園地に遊びに行ったことがあった。スリラーパークより大きな所だ。名前は憶えていない。

 私は翔一と遊園地に来たことが嬉しくって、でも、親がいるのがなんだか恥ずかしくって、二人で親から離れていってしまった。私が翔一の手を引いて、勝手に連れて行ったのだ。翔一はこまった顔をしていたけど、私は気にしなかった。でも、楽しかったのは初めだけだ。私はだんだん心細くなっていって、気がつけば、親と完全にはぐれてしまっていた。迷子だ。私は翔一がいてくれたにも関わらず、不安で、怖くて泣いてしまった。風船を配っている着ぐるみの表情が変わらなくて、不気味だった。

『大丈夫。きっと大丈夫だから。』

 翔一はそう言ってずっと私を励まし、手を引いて遊園地を歩き回った。しばらくして、親が見つかった。私は真っ先にお父さんとお母さんに抱きついた。そして、お母さんの服の上に大粒の涙を流した。気がつくと、翔一も私と同じように翔一のママに泣きついていた。私は翔一を見ていなかった。自分が泣くのに必死で、私を連れて歩いていた翔一の顔を見ていなかった。きっと、翔一も泣きそうだったに違いない。でも、私が不安になると思って、ずっと涙をこらえていたのだ。私は私を恥じた。そして、翔一のことが、もっと好きになった。幼いながらに芽生えた、熱い感情。きっと、あの時私は翔一に――

 

 目を覚ます。なんだか恥ずかしい夢を見ていた気がするけど、とにかく、今日はデートなのだ。気合を入れていかないと。例え、宇宙人とのデートでも。

 買ったけど、あまり着なかった服に袖を通す。少し、背伸びし過ぎな服だけど、いい。高校生くらいに思われたら最高。

「って、なによ。その服。」

 私が着替えて食卓につくと、翔一がコーヒーを飲んでいた。別に翔一は変な恰好をしているわけではない。いつもの普段着という感じすぎて、こう――

「何か変か?」

 宇宙人はそう答える。

「いや。変じゃないけど。」

 でも、なんだかガッカリ。宇宙人だから仕方がないか。

「あら、気合入っちゃって。」

 お母さんはそう言ってご飯を運んでくる。

「お父さんは?」

「パパは今日も仕事。」

「忙しいみたいだな。」

「怪獣の件で色々大変みたいで。」

 そうか、と宇宙人はコーヒーカップをテーブルに置く。コイツはこいつなりに責任でも感じてるんだろうか。

 

「ミレイ!」

「沙耶!」

 スリラーパークの前。私たちは互いの姿を見て手を握り合ってはしゃぐ。

「大丈夫?」

「うん。ただの貧血。夜兎が心配するから大事になって。」

「ヤト?」

「俺のことだよ。」

 一ノ瀬が言う。

「うわっ。似合わな。」

「お前、本当に正確悪いのな。」

「失敬な。」

「おはよう、一ノ瀬。」

 宇宙人が一ノ瀬に挨拶する。

「あ、ああ。お前も元気そうだな。」

 一ノ瀬はどこかぎこちない。そうか。こいつも宇宙人の正体に気が付いたんだ。

「ほら、行くよ。」

「ああ。」

 男どもはなんだか呆れた顔をして私たちを見ている。子どもっぽいとか思っているんだろうか。男ってホント、恰好つけたがり。こんな時くらい、子どもに戻ってもいいじゃない。

 

「なあ、お前は平気なのか?」

「何が?」

歩いている途中に一ノ瀬が私に話しかけてきた。

「だって、久我が宇宙人なんだぜ。」

 それもそうか。素直に受け入れている私の方が少しおかしいのか。

「それは私たちの問題よ。」

「俺はどう接すればいいのか。」

「あんたの好きにしないさいよ。それと、私とこそこそ話してると、ほら。沙耶がやきもちを焼いてる。」

 沙耶は頬を膨らまして私たちを見ている。可愛い。

「さあ、コーヒーカップに乗りましょ。」

 スリラーパークと名付けられているので、どれだけホラー調なのかと思いきや、別にホラーでも何でもない、ありふれたテーマパークだった。小さなジェットコースターがあるだけマシに思える。他にはお化け屋敷とか、フリーフォールくらい。あとはメリーゴーランドか。あっという間に全て制覇できそうだ。でも、私はそこが気に入っている。大きな遊園地だと、歩かなければならないし、それだけでくたびれる。案外、いいチョイスだったのかも。

 

「あんなのの、何が楽しいんだ。」

「そういうことを言わない。」

 フードコートで休みながら私は宇宙人に言う。

「あのジェットコースターなんて大気圏突入に比べたらな。」

「あんた、地味にすごいのね。」

「ごめん、ミレイ。なんの話をしてるのか。」

「中二病よ。気にしないでいいわ。」

 沙耶は何も知らないのだった。まあ、言いふらすことでもない。宇宙人と同居なんてどこの進行形か。

「ほら。買ってきたぞ。」

 一ノ瀬が色々と飲み物やら食べ物を持ってくる。一ノ瀬は顔面蒼白である。きっと、ジェットコースターが苦手だったのだろう。

 と、私は宇宙人の背後を見る。そこには明らかに怪しい人がいた。サングラスにアロハシャツ。どう見たって不審者なのだが。

「折角の遊園地だ。楽しまねば損だぞ。」

 その不審者の隣に金髪の美少女が座る。

「ハンナ!」

 私は反射的に答えていた。

「我だけ置いてきぼりとはひどいではないか。」

 と、男の座っていた席に四人の男女が座る。顔が歪んでいたり、サングラスにスーツだったり、虚ろな目の少女だったり、どこに売ってるのかわからない奇抜な服を着ていたり。

「のう。地球防衛隊の者。」

「お前、何故――」

「折角の休暇だ。今日は水入らずと行こうではないか。」

「いや、俺は任務で――」

「ほら、行くぞ!命短し恋せよ乙女だ!」

 ハンナは男の腕を取り、どこかへ去っていく。私たちの邪魔をしないように気を使ったのだろう。でも、ハンナの顔は輝いていた。とっても楽しそうだった。後の四人は急いで二人の後を追う。ひどく慌てているようだった。

「なんだか変わった人たちね。」

 沙耶はその様子を呆気に取られて見守っていた。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎて行ってしまう。宇宙人は始終、理解できない、みたいな顔をしていたのが少し残念ではあったけれど。結局それぞれ二回は乗った。

「ねぇ、ここで迷子になったこと、覚えてる?」

 夕焼け空のもと、私は宇宙人に言った。その時はもっと大きな遊園地だと思っていたけど、しばらくして、ここがあの時の遊園地だと分かったのだ。

「もっと大きな所じゃなかったか?」

 宇宙人は言った。

「覚えてるの?」

 なんだか甲高くって私の声じゃないみたい。宇宙人はしばらくしてから言った。

「覚えてるのは俺じゃない。」

 なんだか、その口調がどこか寂し気で、私は胸が締め付けられる思いがした。なんでだろう。なんなんだろう、これは。

「ねぇ、あんた――」

 私はなにか言いたいことがあって言ったのではない。でも、なんだか寂しくて――

 でも、そんな瞬間は長く続かなかった。

 突如として大地が揺れる。そんな中、私が見たのは、黒い、大きな顔。

「待って。」

 私は必死に宇宙人を呼び止めようとする。

「待ちなさいよ!」

 翔一の体から光は抜けていこうとする。

「どうしてあんたが戦わなくちゃいけないのよ!」

 

 



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6

6

 

 どうして俺が戦わなくてはいけないのか。

 そんなバカな問いが俺に投げかけられる。

 全く、バカな問いだ。

 俺が戦わなくちゃいけないのではない。

俺は戦わなくちゃいけないのだ。

あの日見た、少女の火花を想起させる儚さに、俺は忘れかけていた記憶を束の間思い出していた。

 

宇宙に時間なんて概念はもう存在しない。過去や未来になんて誰でも行くことができる。宇宙にも無数の穴が空いていて、それはどこか別の時間軸に繋がっているからだ。でも、誰もそんな穴、入ろうとしない。何故かって?それは危険だからだ。未知に対する恐怖ってのは誰でも持っているしな。地球風に言うなら、自分から高速道路を走っている車に当たりに行くようなものだ。今思えば、この表現もなかなかいい得ているな。原理は同じようなものだからだ。まあ、車が光速で走っていればの話だが。

結局俺が言いたいのは、宇宙人にとって時間を示すものは自身の記憶でしかないってことだ。膨大な宇宙を全て記憶する存在なんていない。アカシックレコードなんてのは嘘っぱちだ。ただ、人々が記憶を繋いでいっているだけ。

まあ、色々と脱線しちまったな。俺が言いたいのは、そう。これが俺にとって比較的古い記憶で、いつの記憶なんていう時間の尺度で測るのは滑稽ってことさ。

俺は俺と言う存在を認識してから色々な星を回っていた。大抵は追い返された。理由はいつも一つ。俺は個体識別を持っていなかったからだ。この地球で言うなら、そうだな。遺伝子情報からの個人の特定、いや、国籍みたいなものか。とりあえず、それがないから俺はまともな星に入ることができなかった。そうやっていろいろな星を転々として、ようやく入ることができたのが、ある星だった。

地上に降り立った瞬間、俺は光線銃を撃たれた。俺は間一髪で躱したさ。その時初めて俺は危険感知と身体能力に恵まれてるって感じたね。向こうは対人無人兵器だった。ドローンさ。え?この星では意味が違うって?いいや、違わないね。ドローンってのはもともと無人の兵器を指すのさ。今、俺はお前の波動と共鳴して記憶を借りているから間違いない。お前の星のドローンももとは軍事技術の転用だ。大抵市民の生活を豊かにしているのは軍事兵器の転用技術。どこの星だってそうだった。

その時俺は何も武器を持っていなかった。丸腰だ。だから、逃げることしかできないわけだが、攻撃を避けるので精いっぱいだ。背中を見せた瞬間、殺される。荒れはてた星だったから、遮蔽物もない。どうしようもなかった。

そんな折、どこからかミサイルが飛んできて、ドローンをやっつけた。俺を巻き込むつもりだったんだろう。まあ、かすり傷で済んだが。

「大丈夫?」

 ミサイルを撃った張本人はそんなことを聞きやがった。

「大丈夫なわけねえだろ。」

「じゃあ、大丈夫ね。」

 そいつも機械の体をしていた。だが、意思疎通は出来るようだった。

「あなた、別の星の人よね。」

「ああ、そうだ。なんなんだ、この星は。」

「ごめんなさい。」

 別に謝ることでもないだろう。お前が悪いんじゃないんだから。

「私はニーナ。この星の住人よ。」

「そうか。それより、安全な場所に連れて行ってくれ。追手が来るだろう。」

「そうね。ついていらっしゃい。」

 ニーナは俺のことなんか構わず飛んでいってしまう。俺はお蔭で走る羽目になっちまった。

 

 小さな洞窟がニーナの隠れ家だった。

「俺は早くこの星から出たい。」

「そうね。ここに脱出用デバイスがあるわ。あなた、直接干渉ができるかしら。」

「知らねえよ。」

 俺はニーナが渡した板を受け取る。

「そのボードに足を載せるの。ごめんなさいね。こんな旧式で。」

 俺はボードに足を載せる。すると、ボードは宙に浮いた。俺の意思で自由に動かせるようだった。

「すごいわね。直接干渉に適応できる宇宙人はもう少ないって聞いてたのに。今はもう、間接干渉の時代だから。」

 よくは分からないが、気になることがあった。

「それはお前の仲間か?」

 洞窟の中にはニーナと同じ機械が無数に陳列してあった。

「いいえ。これも全部私よ。」

「どういうことだ。」

「そうね。簡単に言うと、私はこの星の最後の住人なの。」

 俺は黙って聞く。

「さっきのドローンは、この星で残った殺戮兵器なの。私と同じね。で、その最後の標的が私なの。」

「すまない。あまり理解できないんだが。」

「そうね。この星に何があったのかから話さないと。」

 そうしてニーナは語り始めた。

 

 この星で人種が二つに分かれて戦争が起こったの。始まった理由はわからないわ。とにかく、私はその一方の人種だった。最初は大した理由じゃなくて、すぐに戦争は終わる、なんて私たちは考えていたけど、その期待は簡単に奪われてしまった。この戦争がおかしくなったのは、さっきのドローンたちが生まれてから。彼らはとにかく人々を殺しまくった。敵味方の識別はついていたけど、それだけ。感情がないもの。多くの人間はこの星から逃げるか、死ぬかだったわ。で、残っていた私は、新たな兵器とされた。

 この姿が本当の姿じゃないのよ。私の本当の姿はもっと人間らしかった。

 軍の人間は私を実験材料にした。生体波動と電子容量領域との干渉。つまり、機械の中に私という魂を閉じ込める実験をしたの。理論上は簡単な事だったらしいわ。間接干渉と直接干渉の最大公約数だもの。つまり、その二つの応用ね。でも、誰もしようとは思わなかった。警備隊の目に触れるもの。でも、軍のお偉いさんはどうしても勝つつもりでいた。で、私は最前線で戦うことになった。

 この身体たちはスペアなの。私は一つの体が破壊されると別の体に魂が宿る。こっちが間接干渉の応用ね。で、知らない間に両方とも絶滅してた。私の仲間のドローンはこの星から敵がいなくなったことを知って活動を止めた。でも、向こうは私が生きているのを知っているから、未だ戦いを止めないわけ。だから、あなたが巻き込まれたのも私のせい。あいつら、見方以外は殺してしまうから。

 でも、もうすぐ戦いは終わる。向こうはまだ千体以上残っているけど、こっちはもう十体しかない。全ての体が無くなったら、私は戻る場所を失って死ぬの。

 

「だから、これ。」

 ニーナは俺に銃を渡す。

「かなり違法な武器。スペシウムって言って、原子同士の結合を無くしてしまうの。」

 俺は銃を受け取り、無意識に胸へとしまっていた。

「あら。あなたのそれ。警報装置だけじゃなかったの。面白い能力ね。体の中にしまっているのか、概念だけを封印して、原子をその場で調達して再構築するのか。まあ、どちらでもいいけど。」

「なあ、ニーナ。」

「早く逃げなさい。もうじきこの場所もばれる。だから――」

 その直後、洞窟の外で爆音が鳴る。攻撃が始まったようだった。

「なあ、どうしてお前は――」

「じゃあね。バイバイ。また会いましょう。その時はあなたの名前を教えてね。」

 その時になって俺には名前がない事に気が付いた。

 ニーナは去っていく。

 俺は、ニーナを見捨ててこの星から逃げることにした。

 デバイスに乗りながら、俺はニーナが爆散するのを見た。そして、ニーナの体から発せられた生体波動が俺に微々たる干渉をしてくる。それはニーナの感じた苦痛の一千万倍にも満たない。でも、それだけで俺は意識が飛びそうになった。それほどの痛みが俺の体を襲った。

 一体、一体と壊れていく。でも、ニーナはまた体を変えて立ち向かっていく。一体ニーナは何回この苦痛に耐えてきたのだろうか。

「どうしてお前は、そこまでして戦うんだ!」

 俺はニーナを助けることをしなかった。でも、逃げることもできなかった。ただ、安全な場所で見ているだけだった。

『だって、また会いましょうって言ったじゃない。』

 干渉派となって肉体を取り替える途中にニーナは言った。

「なにが、なにが、また会いましょうだ!」

 俺は無力だった。ただ見ているだけだった。ただ、初めて話す人間の最後の体が潰れていくのを見ているだけだった。

 その時から俺は強くなることにこだわり始めた。宇宙を巡って武器を買いあさった。そのための商人だった。そして、弱くなった。俺は何かを失うことを恐れて、何も得ようとしなくなった。友達を作るから、いなくなったとき寂しいんだ。そう、信じて、誤魔化して。

 

 まあ、つまらない昔話だったな。

『いいや。そんなこともないよ。』

 だが、俺が提案していることは、お前が消えてしまう可能性だってある。俺は俺のことしか考えない。だから、お前を簡単に見捨ててしまうぞ。

『でも、僕を救おうとしてくれてる。君はいい人だ。』

 そんなんじゃない。俺は俺の勝手でお前が死ぬのが嫌なんだ。

『構わない。僕の体を使ってくれ。』

 だが、俺がいる限り、お前は目を覚まさない。

『いいよ。でも、条件がある。』

 なんだ。

『僕の大切な人たちを泣かさないでほしい。そして、君ももう泣かないでいてほしい。』

 別に泣いてなんか――

『無理に逃げなくていいよ。もう。一緒に立ち向かおう。誰かの笑顔を守る為に。僕がついてる。君は僕の出した条件を守っているだけなんだから。僕の中に君がいる限り、君は僕との契約に縛られているだけなんだから。』

 そうか。お前はまるで天使みたいなやつだな。

『宇宙にも天使はいるの?』

 いいや。天使ってのは恐らく宇宙人だ。だって、空から降ってくるんだろ。じゃあ、間違いなく宇宙人だ。

『じゃあ、君が僕の天使なわけだ。』

 それっきり、そいつは殻の奥に沈みこんでしまった。笑ってしまうほどに、いい笑顔だった。

 

 気がつけば、そこは見知らぬ天井だった。

「ありきたりだな。」

 ブリュウは自分に何が起きたのかに気が付いた。

「無事か?」

「俺は負けたんだな。」

 傍らの心が言うが、ブリュウは上の空であった。

「一度は死にかけた。だが、奇跡だそうだ。」

「奇跡なんか起こるかよ。」

「敵は静止している。まるでお前を待っているかのように。」

「そうか。」

 ブリュウは起き上がり病室から出ようとする。

「何をしている。」

「アイツを倒さなきゃいけないだろ。時間は?」

「朝の十時だ。」

「随分と寝坊だな。」

「待て。お前はもう戦わなくていい。」

「どうして。」

「これは私たちの仕事だ。だから――」

「ガキだから戦わせることができないってか?バカ言うんじゃねえ。俺はお前らよりもずっと年上だ。」

「それだから、ガキなんだ。」

「は?」

「不器用すぎるんだお前は。もう、誰も泣かせるんじゃない。」

「誰が泣いたって?」

 心が顎でベッドの隅を示す。そこには椅子に座り、ベッドに体を預けて眠っているミレイがいた。

「それ以上、コイツを泣かせるつもりか。」

「コイツが心配してるのは俺じゃない。この身体のやつだ。俺がいなくなっても、きっとコイツは生きられる。」

「これだから、ガキは。」

 心はイラついたように舌打ちをする。

「久我翔一のためだけに一晩中泣いていたとでも思ってるのか!」

「は?」

「分からんならいい。正午、我々は攻撃を再開する。街中の避難は済ませた。お前も彼女を連れて早く逃げろ。」

 ブリュウは傍らの、泣きつかれて眠っている少女をただ、眺めていた。

 

 

 

「おい。起きろよ。」

 私は乱暴に起こされる。何かで頭を殴られた。

「いったいなあ。」

 と、宇宙人が起きていたので驚いて居ずまいを正す。

「お、起きたんだ。」

「ああ。お前こそいつまで寝てるんだ。もう昼だぞ。」

「うそっ。」

 もうすぐ地球防衛隊が作戦を再開する頃だ。

「急いで逃げないと。」

「早く逃げろ。」

「何言ってるの。アンタも早く――」

「俺は宇宙人だ。それで、これは俺がまいた種。あいつは俺が地球に来て初めて倒した機械やろうだ。俺がケリをつける。」

「なんでアンタはいっつもそうなのよ!」

 私は本気で怒った。もう、絶対に許さない。

「あんたが死んだら翔一はどうなるの。心臓が止まったままじゃない。いい加減にして。」

 でも、口から零れたのは、本当に言いたい言葉じゃなかった。

「大丈夫だ。小僧は強い。俺は出来ることを十分した。半々の確率で生き残るはずだ。それより、俺がずっとコイツの中にいる方が問題だ。俺がコイツの中にいる限り、コイツは絶対に意識を取り戻さない。」

 宇宙人は突き放すように私を冷たい目で見て、病院着のまま出て行こうとする。

 そんな顔しないでほしい。

 そんな傷付いたような、悲しい顔、するな!

「待って。」

 私の声に、冷たい顔のまま振り返る。

「私は、私はあんたも好きだ!だから、行かないで!行っちゃヤダ!どっちかしか助からないなんて私は認めない!絶対にどっちも手に入れて見せる。幸せを!だから、だから!」

「ありがとう。」

 それはどこかぎらついていて、ぎこちない、笑顔。でも、それは宇宙人が初めて見せた笑顔だった。まるで、吹っ切れたような、清々しい、凛々しい、男の顔。

「俺もお前が好きだ。お前たちが大好きだ。だから、俺は戦う。罪悪感からじゃない。自分の弱さを認められないんじゃない。俺は俺のために、戦う。」

 私が宇宙人に決断させてしまったんだ。宇宙人は自分の命に代えても怪獣を倒すつもりだ。

「だから、信じてくれ。俺は必ず帰ってくる。翔一も必ず帰ってくる。だから、俺と翔一が帰ってきたときのために、大事な居場所を残していてくれ。生き残ってくれ。」

 私は思わず力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。

 だって、ずるい。そんなこと言われたら、もう引き留められないじゃない。

 宇宙人は走って去っていく。

 私は、今しがた言った自分の告白に顔を赤くして、尚更その場から離れられなくなってしまった。

 

 

 

「来たのか。」

 ブリュウを見つけた剣はブリュウを悲しそうな目で見る。

「なんだ、その顔は。」

「いや。俺はお前に――」

「なんでみんなそんな顔するんだよ。」

 ブリュウは呆れてしまった。

「来るなと言っただろうに。」

 心はめくじらを立てている。

「俺は俺のために戦う。そして、必ず居場所に帰る。だから、負けない。これでいいだろう。」

「急に大人になりやがって。」

 地球人の考える大人というものの定義は難しそうだとブリュウは思った。

「あなたが宇宙人さんですか。」

 ブリュウの前に見慣れない顔が現れる。葉だった。

「とりあえず、作戦を説明します。」

 とはいえ、作戦らしい作戦ではなかった。戦闘機で怪獣の隙をついた瞬間に変身して襲うという、奇襲らしいものだった。

「だが、俺の武器は通用しなかった。」

 敵は簡単にスペシウム光線銃を弾いてしまった。その隙に、ブリュウは怪獣の怪光線を浴びて倒れたのだ。

「なので、刃物で傷をつけ、そこに戦闘機で爆撃を広げてそこに撃ってください。確率は低いですが、それしか方法はないように思います。今回は自衛隊も協力してくれるので、なんとかなるかと。」

 以前よりパワーアップした怪獣に、以前でも効かなかった刃物が通用するか謎であったが、やるほかはない。

「では、全員配置についてください。宇宙人さんはぎりぎりまで変身を控えてください。」

「ああ。分かった。」

 ブリュウは自分がどこまで我慢できるか分からなかった。

 

 流鏑馬を披露したことで賛否両論が湧きおこった自衛隊の戦車が怪獣を包囲する。そして、戦闘機の群れが怪獣にミサイルを放つ。それが戦闘開始の合図だった。

 機械の体を持つ怪獣は動き始める。戦闘機に狙いを定めて無数の光線の矢を放つ――その瞬間に戦車は火を噴く。足元に気を取られて、怪獣は攻撃を止める。しかし、傷一つついていない。

 上空からミサイルを放ち、地上から注意を逸らし、地上から砲火を浴びせて上空の注意を逸らす。それはうまく言っているように感じた。

 だが。

 怪獣は体中から無数の光の槍を放った。地上へ、上空へ。

 木々は燃え、戦闘機は力尽きた蝶のようにひらひらと舞い落ちる。

 ブリュウはニーナの最後を思い出してしまった。

 もはや、我慢の限界だった。

「すまねえな。約束、守れそうもない。」

 ブリュウは巨体を怪獣の前に晒した。

 

「やっと来たね。ブリュウ。」

「なんだ。この前とは声が違うじゃねえかっ!」

 ブリュウに残された時間はわずかだ。そして、あの怪光線を再び浴びるわけにはいかない。だから、隙など与えない。

「ああ。ドルミーチェの体を借りて君に語りかけている。」

「何もんだ、お前は。」

 ブリュウはナイフを取り出し、刃をドルミーチェに突き刺す。しかし、傷一つつかない。

「名乗る必要もないだろう。君はここで死ぬんだから。」

 ドルミーチェは光線を放つ。ブリュウは側転で避ける。そして、すぐに体勢を取り戻し、再び刃を突きつける。

「君はどうして戦うんだい?折角逃げるチャンスをあげたのに。情でも移ったのかな。」

「どうやらそうらしいな。」

 キンキン、とブリュウの刃とドルミーチェの鋼鉄の体がぶつかる音。

「くそっ。」

 ブリュウは手に痺れを覚える。そんなことはどうでもいい。それよりも、ナイフの刃の方が問題だった。もうボロボロで、使い物になりそうもない。

「くそっ。次だ。」

 ナイフを捨て、胸の光球に手をかざし、剣を取り出そうとした時、ドルミーチェの拳が吹き飛び、ブリュウを殴りつけた。その勢いでブリュウは山に激突する。そして、ドルミーチェはブリュウに集中砲火を浴びせた。

 ドルミーチェの上空にはまだ数機の戦闘機があり、足元にもまだ戦車がある。彼らはブリュウを援護しようと必死になってドルミーチェに攻撃するが、ドルミーチェの視界にはもう入っていない。小賢しい蠅のようにしか見えていなかった。

「この前はここでリタイアだったのに、今日は頑張るね。」

 ブリュウはピクリとも動かなかった。もう、限界だった。体は動かない。でも、消えるわけにはいかない。まだ、諦めるわけには――

 

 そんな時、ブリュウに声が届いた。

「頑張れ、ウルトラマン!」

 それは聞いたことのある声。ブリュウ目には声の主が見えていた。それは遠く離れた場所。避難が終わった先。そこにいつの日かの落ちぶれた元サラリーマンがいた。彼は施設の清掃員となっていた。そんな彼がテレビを見ながらブリュウを応援している。

「頑張れ、久我!負けるんじゃねえ!」

「久我君、頑張って!」

 一ノ瀬と、沙耶。

「頑張れ!ウルトラマン!」

「負けるな!勝て!」

 学校のみんながブリュウを応援している。

「負けんじゃねえぞ、宇宙人!」

「居場所に帰るんだろ!女を泣かせるな!」

 剣と心。

「我らのウルトラマン!立つのだ!ヒーローは必ず勝つのだろう!」

 ハンナ。

「ファイト!ウルトラマン!」

「立って!」

「お前しかいないんだ。負けるな!」

 人々の声援。誰もがブリュウに感謝し、勝利を願っている。

「立て!宇宙人!私のもとに帰ってくるって言ったんでしょ!約束守らなかったら、絶対、許さないんだから。」

 ミレイ。

「立てえええええぇぇぇぇぇ!」

 立てえええええぇぇぇぇぇ!

 ブリュウは立ち上がる。ブリュウの心は光に満たされていた。まだ、やれる。

 ブリュウはドルミーチェめがけて走って行く。

 そして、体当たり。ドルミーチェはびくともしない。それでいい。ブリュウは光線銃を取り出し、ドルミーチェの体にぴったりとくっつけ、ぶっ放す。

「バカな。ビームコーティングが施されている。」

 だが、ドルミーチェの体は半分以上が壊れていた。そして、ブリュウは倒れる。いや、倒れない。土壇場で足を踏ん張る。

「まさか、蠅どもの攻撃で装置が損傷していたのか。そんな、バカな。」

 これで最後だと、剣を取り出した時、ドルミーチェは急に明滅し始めた。

「仕方がない。自爆だ。ああ、ドルミーチェを傷付けるのは止め給え。爆発を早めるだけだ。」

「嘘だろ。」

 土壇場でこれかよ。ブリュウは覚悟を決めた。もう、自分が盾になるほかない。

「すまないな、ミレイ。」

 彼女の名を呼ぶのがこんな場面なのがひどく名残惜しかった。

「さよならだ。」

 ブリュウの警報装置は時間がないと警告している。ブリュウはドルミーチェに飛び込もうとして――

 刹那。ドルミーチェの体がバラバラになる。

 それは自爆のためではない。刃物で切り刻まれたかのように、バラバラと地面に落ちていく。

「まさか、命令系統の回路を全て切り刻んだのか。」

 それがドルミーチェの最後の言葉だった。

 天から怒りの矢がドルミーチェの残骸を焼き尽くす。まるでソドムとゴモラを焼き払った大天使の矢の再現だった。

 その主は天から降りてくる。全身赤く、頭部は鋼の鎧で覆われている。

「誰だ、お前は。」

「ヒーローとはピンチに訪れるものだ。わっはっは。」

 軽快にその赤い人影は笑う。

「私はウルトラセブン。せぶーん、せぶーん、せぶーん、せぶーん。」

「また人の話を聞かないやつだな。」

「せぶん、せぶん、せぶん。」

「うるさい、おっさん。」

「せぶん、せぶん、せぶん。」

「分かった。そこまで自己主張激しいと嫌われるぞ。」

「まあ、私のおかげだな。」

「話がかみ合ってない!」

 ブリュウはもうもとに戻ろうとした。

「待て。コード・ブリュウ。」

「早く済ませろ。こっちはお前と違って時間がねえんだ。」

「これを、君に。」

 セブンは手から柔らかい光を出す。それはブリュウの手に絡まり、謎の赤いブレスレットを出現させた。

「なんだ、これ。」

「これで君も今日からウルトラマンだ。じゃあ、地球をよろしく頼んだぞ。」

「ちょっと待てよ!」

 セブンはわっはっは、と笑いながら、上空へと戻っていく。

「嘘だろ。」

 ブリュウはもう口癖のようになってしまった言葉をつぶやいていた。

 

(o|o)

 

「よくやったね、ブリュウ。」

 その姿を久我翔一は全て見ていた。

「これで、全てうまくいく。そうでしょう?ジャック。」

 翔一の傍らには小さなおかっぱの少女がいた。ランドセルを背負ったその姿は、トイレの花子さんのように見える。

「うんだ。よくやっただ。お前も、ブリュウも。」

 ジャックと呼ばれた幼女はやけになまった口調である。

「さあ、これからだよ、ブリュウ。」

 翔一は意識を失ったかのように、急に倒れた。

 

 

 

「よう。ただいま。」

「何が、ただいまよ。」

 家で待っていたミレイにブリュウは気恥ずかしそうに告げる。

「怪我は?」

「大丈夫だ。」

「そう。」

 ミレイは何か言いたそうだった。

「あの、翔一は?」

「まだ、眠ってる。でも、いつかは目を覚ますだろう。」

「そうなったら――」

「ああ。俺は出て行く。」

「そうなんだ。」

 また、悲しそうな顔。ブリュウはミレイの頭を思いっきり掻きむしる。

「何よ。」

「生きててくれてありがとう。お前は最高の友達だ。」

「へ?」

「へ?」

 ミレイはなんだか、キョトンとしている。そして、どんどん、怒りに満ちた表情になっていく。

「私の想いを返せ!」

「なんだよ。なんで怒ってるんだよ。」

 玄関から飛び出してきた二人を、ハンナと沙耶、一ノ瀬は温かい目で見守っていた。

 

(o|o)

 

 そんな二人の様子を高い場所から眺めている人影があった。妹尾と金髪の小学生ほどの少女である。

「何もかもうまく行きましたな。ゾフィーさん。」

 ゾフィーと呼ばれた少女は黙ってこくりと頷く。

「いろいろとご苦労であった。私の言うことを信じて地球防衛隊のメンバーを集めてくれた。」

「いえいえ。こちらこそ。あなた様に仕えることができて、光栄です。しかし、ゾフィー様。」

「なんだ?」

 ゾフィーは妹尾の顔を見上げる。

「何故、そのような、その、幼女の姿なのですか。」

「ああ、これか。これはな。光の国の影響だ。」

「といいますと。」

「今、光の国は危機に瀕している。闇の者たちに征服され、ウルトラマンたちにエネルギーを供給できなくなってな。」

「それと幼女がなにか。」

「本来なら、お前と融合する予定だったが、それもエネルギー不足でできなくなってしまった。なので、自らで作り上げたわけだが、光の国の不調で、このような姿になってしまってな。バグというやつだ。」

「いいえ。とっても似合ってますよ。ペロペロしていいですか?」

「殺すぞ。」

「すいません。」

「我々ウルトラマンではもう地球を救うことができない。現状では変身も三回ほどしかできない。それではいけない。だから、セブンにウルトラマンの力を注ぎ込むデバイスを作らせていた。メビウスのデバイスの改良版だ。ヤツは自立行動に長けているのでな。」

「ちなみに、他の戦士たちは。」

「地球に来ている。ルーキーたち以外はな。」

「何をなさっているのですか?」

「あるものはプロレス観戦、あるものは幼女として暮らしている。」

「あれ。みんな幼女に?」

「ああ。例外なくな。」

 ゾフィーは大きくため息をついた。

「コード・ブリュウ。反乱因子、か。」

 ゾフィーが二人を冷たい視線で見つめていた。

 

 

EX 宇宙商人について

 

「ブリュウや。」

「なんだ、ハンナ。」

「ぬしは宇宙商人と言っていたな。しかし、少しも商人らしきところを見ておらぬのだが。」

「な、なめんじゃねえ。俺は宇宙商人だぞ。」

「では、どのようなものを売っておるのだ。」

「これだ。」

「これは間接干渉機か。」

「ああ。とある星で仕入れた、服を綺麗にするデバイスだ。」

「でも、ぬしは間接干渉に対応しておらんだろう。」

「ああ。だから、使えるかどうかはわからない。」

「どれ、我が試してやろう・・・起動せんぞ。」

「どういうことだ。」

「恐らく、偽物を掴まされたのだろう。他のも見せてみろ・・・間接干渉の類は全部故障か不良品か偽物だな。少しも使えん。」

「嘘だろ。」

「商人失格だな。」

「くそっ。」

「ぬしもまだまだ青いのう。」

 ハンナはふぉっふぉっふぉ、と高らかに笑った。

 




 これにてcode;brew終了です。お疲れ様でした。
 続きについての構想はこちら。
 二章 怪獣と光の戦士編 あの怪獣や戦士たち、そして、オリジナルのウルトラウーマンもとい、ウルトラガールが出るかも。そして、黒幕も登場。
 三章 闇の戦士編 闇の戦士たちが登場。そして、黒幕も真の姿を見せる・・・
 四章 フィナーレ 数多の戦士たちとともに復活した闇の帝王を倒します。

 ですが、書く気はないです。だって疲れるんだもの。長続きしないんだもの。
 どなたか、書きたければどうぞ。
 あと、あんまりウルトラマン知らないので続きが書けないってのもあります。
 ご了承ください。

 とりあえず難しい事柄について

 実は、この小説、半分くらい以前に書いて、最近続きを書き始めました。なので、前半と後半で整合性が取れてない部分があるかもしれませんが、ご了承ください。
 さて、小説の中で何個か難しい言葉がでましたね。まず、間接干渉と直接干渉から。インダイレクトとダイレクトリンクとでも読んでください。直接干渉というのは宇宙人の体の末端から出ている神経系と直接繋いで装置、デバイスを操作する方法です。自分で車を運転する感覚に近いかと。直接干渉できる宇宙人と間接干渉できる宇宙人、両方できる宇宙人と様々です。ですが、宇宙の主流は間接干渉。念じるだけで遠くから操作できますし。直接干渉は移動用デバイスとか、軍用デバイスが主流。軍人はわざわざ手術して直接干渉できるようにしたりします。間接干渉は最近の宇宙人にしかできません。高齢者がスマホの使い方が分からないのと似たようなものです。
 波動について。
 すごく簡単に説明すると、宇宙人の魂みたいなものです。その波動はあらゆるものに干渉できます。宇宙人が地球で自分の肉体を精製できるのも、宇宙人の波動が地球の元素に干渉して、たんぱく質やらなんやらを形作っています。当然、その肉体から離れて透明になることも可能ですが、それは概念領域、つまり、情報の渦に入り込むことなので、覗きとかはできません。いや、可視光線を認識できないというだけで、文字的なものから女体の詳細情報を知ることができます。簡単に言えば、官能小説を読むということでしょうね。
 ただ、ブリュウは作中でも語られている通り、イレギュラーな存在ですので、上記に当てはまらないこともあります。
 ご了承ください。


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第二章 君の神話

第二章 君の神話

 

 Prologe

 

 平穏な日々に飽きちゃったのなら、心着替えて遊びに行こう。みんなで。

 

 歌詞を書くのはありかよ、とブリュウは思った。

 ブリュウは今、机の上にノートを敷き、その上に頬を載せて眠っている。紙の柔らかな感触と温かさが心地良い。平凡な日々。

 こつん、と軽い感触がブリュウを襲う。なんだ、と不快になって起きる。がさっという音がしたから、髪を投げつけられたらしい。机の下に丸めてある紙が落ちていた。ブリュウはその紙を開いて中身を見る。

『寝てないで授業を受けなさい。どれほど成績がいいからって、内申に響くのよ。』

 内申とか言われてもな、とブリュウは頭をかく。俺はそんなにこの身体に宿っている予定はないとブリュウは思っている。

 セブンが現れ、ドルミーチェを倒してから一か月が立っていた。もうすぐ初夏である。しかし、ブリュウの中の久我翔一は未だ覚醒の予兆はない。むしろ、かつてより波動が弱まった気さえブリュウはしていた。

 恋人が悲しむぞ。

 ブリュウは内に語りかける。しかし、反応はない。

 ブリュウは後ろに振り向き、佳澄ミレイに向かって舌を出す。ミレイは怒ったような顔をする。

 そんな時である。樹海化警報が鳴り響き、ブリュウ以外の世界の時が止まる。

「別の話になってるだろ。」

 とにかく、警報が鳴り響く。それは、怪獣が現れたことを示すものだ。

『ブリュウくん。聞こえてる?』

 携帯が一人でに話し出す。ブリュウは教室から飛び出した。

「なに、人の携帯に変な機能つけてるんだよ。」

 電話の相手は葉だった。

『いや、心さんが連絡を取れるようにしておけっていうから。』

「そりゃ、逆らえないな。」

『怪獣は山の向こうに出たみたいだ。今から迎えを出す。』

「いや、デカくなっていった方が早い。」

「まて、ブリュウ。」

 廊下を走っていたブリュウは急ブレーキをかける。そして、声を発した者の方へと顔を向ける。

「おい。精神感応で話しかけるな。」

「それはすまなかった。口を動かすのを忘れていた。」

 廊下の横道から顔を出したのは、メガネをかけた、幼い少女だった。ボブヘアで、明るい髪色をした小学生。

「お前は誰だ。」

「私を忘れたとは言わせんぞ。せぶーん、せぶーん、せぶーん、せぶーん。」

「あの自己主張の強いおっさんか。」

「せぶんせぶんせぶん。」

「話を聞けよ。」

「せぶんせぶんせぶん。」

 ようやく幼女の自己主張が終わる。

「急いでいるだが。」

「とうとうブレスレットを使う時が来たな。」

「お前が戦え。」

「いや、私は後三回しか変身を残していない。」

「大分しょぼい設定だな。」

「とにかく、今度の怪獣はお前の力では太刀打ちできない。なにせ、地球の怪獣だ。ブレスレットを使うだろう。ブレスレットは一分しか使えない。使った後はお前があと何分残っていようと変身は解かれる。まあ、色々とあるのだが、詳細はウェブで。」

「分かったよ。やればいいんだろ。やれば。」

「地球の平和は君にかかっているのだ。」

 わっはっは、と幼女の声でセブンは言った。

「ああ、もう。」

 ブリュウは変身した。

 

 山の中、黄金色をした怪獣が暴れていた。

「変わった怪獣だな。」

 ぶくぶくと肥り、皮をたぷたぷとさせている。

『それはどくろ怪獣レッドキングという。地球に何匹も生息している怪獣だ。』

「どんな星だよ。」

 怪獣が活性化していないだけましだと思った。

 怪獣の丸太のような腕がブリュウに振るわれる。

 ブリュウは腕でガードするが、弾き飛ばされる。そして、山に激突。ブリュウの腕はひどく痛んだ。

「なんだこれは。」

 ブリュウは一度の攻撃で敵わないと確信した。ブレスレットを使うしかないのか。

 そんな時、レッドキングの体が火を噴く。そして、戦闘機がレッドキングの周りを旋回する。

「おせえよ。」

 戦闘機を操る彼らには聞こえていない。チャンスだと思い、ブリュウは左腕のブレスレットに手をかざす。ブレスレットから炎が湧きおこり、ブリュウの体をブレスレットから染めていく。

「う、うがああああ。」

 焼けるような痛みにブリュウは声を上げる。体が熱を持ち痛みは瞬く間に体中に広がる。

「こんなの、一分も持たないぞ。」

『ブリュウ。スペシウム光線銃をレッドキングに放て。』

 ブリュウはセブンの言うままに銃を取り出しレッドキングに向ける。ブリュウの動きを察知し、戦闘機はレッドキングから去っていく。

 そして、銃を放つ。

 ブレスレットは銃を赤く染め、ビームをより強力にした。

 レッドキングははじけ飛ぶ。

「早く戻ろう。」

『待て。』

 厳しい幼女の声でセブンは言う。

『ウルトラマンは空へと消えるものだ。』

「めんどくせえ。いいだろ。」

『ウルトラマンは空へと消えるものだ。』

 はあ、とブリュウは溜息を吐き、仕方がなく、空を飛ぶ。ウルトラマンの力を得たお陰でブリュウは空を飛べるようになっていた。

 

 私は宇宙人が怪獣を倒すのを見ていた。山の向こうから上半身が見えていた。赤く染まった新しい姿は何故だか私の胸をざわつかせた。なんだか嫌な予感がしたのだ。

 宇宙人が別の何かに変わっていく。染め上げられていく。

 それは宇宙人が成長して変わっていくのが悲しいのだろうか。取り残されるような気持がして嫌なんだろうか。自分の気持ちが自分では分からない。

「宇宙人が怪獣を倒したよ!」

 私は傍らの沙耶に話しかける。

 その瞬間、沙耶は床に倒れた――

 



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 もう、疲れてしまった。ただただ沈んでいく。このままでは彼らと一緒になってしまう。

 闇は恐ろしすぎた。あれは光さえも飲み込む、恐ろしい闇。

 このままではいけない。だが、もう力が出ない。どうしようもない。

 そんな時、言葉が聞こえる。誰かが悲しむ声。

 情景が浮かぶ。

 一人の少女が目をつむっている。その周りを人々が囲んでいる。人々は少女の死を悲しんでいた。

 いや、少女は死んでいない。わずかに波動が残っている。

 少女はこう言っていた。

 悲しまないで。そんなに悲しまれると、諦めきれないよ。

 少女は泣いているようだった。

 人は簡単に死ぬ。一日に何人も死ぬ。だから、これは当たり前の風景。だが、助けたいと思った。少女の純粋な人を思いやる心に惹かれてしまっていた。

 今度は少女と合体か、と頭を悩ませた。

 

「上官は?」

「どうも上の方々から呼び出しを受けたみたいです。」

「どうしたんだろうな。」

 消防署の一角の会議室。三人になってしまった地球防衛隊は少し寂しいな、と心は思ってしまった。かつて心を励ました同僚はもういない。それは彼女の真の姿を恨んでいる心と矛盾していた。それが心を二つに引き裂いてしまいそうだった。

「はあぁ。」

 妹尾が疲れた顔で帰ってくる。

「どうしたんですか。」

 剣が報告を聞きたそうに言った。

「それがね、警視総監とかそういう人たちとの話し合いになると思ってたら、意外と大事になっちゃって。」

「いや、警視総監と話しあいってだけで大事ですよ。」

 剣は少し呆れて言った。

「国連とか、総理大臣とか官房長官とかが来てね。そりゃ大変だったよ。色々文句言ってくるんだからさ。だから、言ってやったよ。もっといい兵器を出せば私たちだけでも倒せます、って。ウルトラマンなんていりません、って。そしたら、なんて言ったと思う?」

 妹尾はみんなの答えを待っていたようだが、誰も答えようとしない。妹尾をそうなることが分かっていたようだった。

「国連が雇ってる軍事会社の軍に吸収されろだって。私たちに民間企業の社員になれってことらしい。」

「意味が分からないのですが。」

 葉は妹尾に疑問を投げかける。

「つまりは、君らは今日から僕らの同僚、いや、部下ということさ。」

 長髪の男と、まだあどけなさを残したボブヘアの少女がノックもなしに入ってくる。

「お前らは?」

 心は怪訝な目をして二人を睨む。

「エレキシュガルカンパニー、通称エ株の怪獣災害特殊部隊の派遣員。コウ・ムラサメと。」

「相沢南です。」

 コウは威圧的に、南は控えめに言った。

「もう決まったことなのか?」

 心は妹尾に詰め寄る。

「ああ。明日にでも法案が通るらしい。ふざけた話だ。」

 妹尾は二人を睨んだ。

「いいや、日本の政府は的確な判断をしたと思うよ。なにせ、うちには怪獣を倒すための兵器が揃っている。日本の国防を考えるなら、我々と手を組むべきなのだと再三言っていたのだがね。」

 そんなことで誰も納得はできなかった。

「こんな狭くて小っちゃくて、機材も何もないところより、我々が作った基地の方が断然いい。早くそちらに映ろう。なに。荷物はそのままで構わないさ。ここにあって向こうにないものなんて何一つないからね。」

 なにかよからぬことが動いているのではないか、と心は訝しんだ。

 

『ということがあってね。』

 葉はさきほどの移籍問題をブリュウに報告していた。

『なんだか騒がしいけど、なにかあったの?』

 葉は宇宙人に対して偏見はないようだった。

「ああ、それが――とんでもなく厄介なことになっちまって。」

「離せ、お前ら!」

 少女が叫ぶ声。沙耶だ。沙耶は病室から出ようとして暴れている。それを看護婦やミレイ、一ノ瀬が必死で止めている。

「一体どうしちゃったのよ。沙耶!」

 ミレイが悲痛な叫び声を上げる。

 少女の力とは思えない怪力で沙耶はミレイたちを跳ね返した。

「俺はあいつを探さなきゃいけないんだ!」

「うろたえるな!小僧ども!」

 バーン、と幼女の声で効果音を発して、病室に明るい色のボブヘアのメガネ幼女が入ってくる。

「まさか・・・親父?」

 沙耶が凍り付いた声で言う。

「親父ではない。パパと言えと言っているだろ。」

「親父、そんな格好でどうしたんだよ。」

「親父ではない。パパと言えと言っているだろ。」

「親父、話を聞け。」

「親父ではない。パパと言えと言っているだろ。」

「パパ。」

「なんだ。ゼロ。」

 ブリュウはやはりそうかと思った。沙耶の中に別の干渉波があるとは思っていた。それが並の宇宙人のものではないから、もしかしたらとは思っていたのだ。

「俺はアイツを探さなくちゃいけない。だから――」

「私はいつも言っているだろう。周りの状況を確認せよと。」

 沙耶は周りの様子を見る。ミレイたちは起き上がり、目には涙を浮かべている。

「すまない。」

 沙耶はしょぼくれた。

「私に任せて。ゼロさん。」

 沙耶は独り芝居のように、会話していた。

「ああ。頼む。沙耶。」

「みんな。」

 沙耶は倒れているミレイや一ノ瀬に向けて言った。

「私は大丈夫。もう体も元気。心配かけさせてごめんなさい。でも、やらなくちゃいけないことがあって。」

「もしかしてだけど・・・」

「ごめんなさい。みんなを巻き込んじゃうから詳しくは説明できないの。でも、大丈夫だから。」

 いつもの沙耶の言葉にみんな説得させられたようだった。

「ごめん、着替えるから、出て行ってくれたら嬉しいかな。」

 沙耶の笑顔に誰も反論できないようだった。

 

「ねえ、どうなってるのよ。説明しなさいよ。」

 私は宇宙人に言った。

「俺も詳しいことはわからん。」

 宇宙人は目の前の小さな可愛い少女に言う。

「説明してもらおうか。」

「まあ、お前たち二人になら説明してもいいだろう。」

 女の子はおじさんみたいな声で言う。

「あれは私の息子、ゼロだ。どうも死にかけていたあの少女と融合したらしい。」

「じゃあ、この宇宙人と一緒ってこと?」

「簡単に言えばな。だが、あの少女と意識を共有できておるみたいだ。ゼロも少女も、融合を解除しようと思えばできんことはない。」

「じゃあ、どうして。」

「恐らく、少女はゼロに協力するつもりなのだろう。ゼロは融合を解除すれば死んでしまう。だから。」

「まったく。」

 私は呆れてしまった。だって、沙耶らしいから。

「でも、あんな風に暴れられたら困るわ。」

「ああ。私からもきつく言っておく。少女の人格の方がゼロも動きやすいだろう。」

「そうね。」

 私は自分自身に驚いていた。だって、普通、簡単に理解なんてできない。宇宙人が変わっていくように、私も変わっていっているのかもしれない。

「あのゼロとか言うやつの目的はなんなんだ。」

 めんどくさそうに宇宙人は言った。

「それは奴にしかわからん。ブリュウ。ゼロに協力してくれ。」

「なんで俺が。」

「私にも私の生活があるのでな。」

 小さな女の子は病院から去っていった。

「おまたせ。」

 沙耶は病室から出てきた。

「沙耶。本当に大丈夫なの?」

「うん。とっても元気。」

「沙耶!」

 トイレから出てきた一ノ瀬が一目散に沙耶に向かって来る。

「あんた、手、洗ったんでしょうね。」

「当たり前だ。アルコール消毒に、手を熱湯につけるまでやった。」

「盟神探湯かよ。」

 宇宙人はつまらなさそうに言った。こいつ、つっこみなんてするんだ。

「一体どうしたんだ。説明してくれるよな。」

 一ノ瀬が沙耶に迫る。沙耶はとっても言い辛そうだった。私は、あの迷惑な宇宙人の人格が出てくる前にフォローを入れる。

「中二病なの。沙耶は。」

「は?」

 一ノ瀬はポカンとしている。

「そ、そうなの。私、中二病で。」

「まさか、あの不治の病、中二病に沙耶が・・・」

 大袈裟だろ。

「でも、大丈夫。俺、沙耶に一生ついて行くから。」

「夜兎・・・」

 一瞬、ヤトって誰だ、と考える。そうか。このクソ生意気な坊主か。似合わない名前。

「でも、夜兎を巻き込むわけには・・・」

「やっと我の出番だな!」

 ババンと言う効果音で現れたのは金髪碧眼の転校生。ハンナ。

「私よりもその坊主の方が目立つのは気に食わん。ただでさえ、警備隊の奴らに座を奪われておるのだ。もっと出番を増やせ。」

「ハンナ。」

「私とこ奴らで探し人を探そう。それでいいな。若造よ。」

「ああ、構わない。」

 沙耶は急に声色を変えた。これが可愛い女の子が言っていた別人格なんだろう。

「では、行くぞ。」

 なんだか何気に巻き込まれているけど、仕方がない、と私は思った。

 

「で、一体何を探せばいいのだ?」

 ハンナは川沿いを歩いている時に言った。

「え?知らないの?」

 なんだか知ってる風に言ってたのに。

「うむ。知らぬ。」

 それは困った。今、歩いているのは三人。ハンナと私と宇宙人。沙耶は一ノ瀬と仲良く手を繋いで帰っていってしまった。ちょっと嫉妬しちゃったのは秘密。

「電話かけてみる?」

「その必要はない。」

 耳元で急に少年のような声が響く。私は驚いて離れる。そこには沙耶がいた。

「あんた・・・沙耶じゃないわね。一ノ瀬はどうしたのよ。」

 いつもの沙耶とは違う険しい顔つきをした沙耶に私は言った。

「ああ、彼にはお昼寝をしてもらっている。」

 意外と物騒だ!

「全く、処刑人は物騒だのう。」

 ハンナは沙耶を睨んでいる。

「処刑人とは、俺たちも嫌われたようだ。」

「幾多もの星々を滅ぼしておいて何を言う。」

「俺たちはそれが最善の方法だと思ってやってきた。」

「歪んだ正義だな。」

 なんだか険悪だった。沙耶の中のゼロって人は悪い人なんだろうか。とっても心配になる。

「ほら。そんなことより、早く人探しでしょ。誰を探してるの?」

 私はそんな空気をぶち壊すように明るく言う。こういうのは沙耶の役割で、沙耶も結構苦労していると思った。

「わが友。ジードだ。」

「ジード?」

 聞き覚えのない名前だった。

「きっとこの星に来ている。だから――」

「とにかく探そ。」

 結局雰囲気は悪いままだが、仕方ないと思った。

 

 ハンナは壊れたビルに連れてきた。一か月前、私が運ばれてきたところだった。

「ジードという者について何か知らないか。」

 ハンナはビルの中の四人に言う。

「ボス。そいつは――」

 おかしな服装をした男が沙耶を睨んでいる。

「こやつらにひどい目に遭わされた者もいよう。だが、今は不問とする。協力してくれるか。」

 みんな黙りこくる。

「どうも名簿には載っていないようです。」

 眼の虚ろな少女が答える。

「ちょっと待て・・・確か近所に引きこもりの宇宙人がいるって聞いたな。ソイツの名前がジードだった気がする。」

 引きこもりって。まあ、現代病の一種だものね。

「よし、行くぞ。」

 ゼロはそう言ってビルを出る。

「おい。」

 サングラスをかけたオールバックの男が言う。

「ありがとうぐらい言ったらどうなんだ。」

「ついでに謝ったらどうだ。」

 顔の歪んだ男。

 ゼロは何も言わず去っていった。

「ちっ。行け好かねえ。」

 おかしな恰好の男が言う。

「ごめんなさい。」

 私が謝った。

「いや、別に嬢ちゃんが謝らなくても。」

「失礼します。」

 私は頭を下げてビルから出た。別にゼロのことがどうこうの思って謝ったわけじゃない。ただ、沙耶が嫌われているみたいで嫌だったのだ。

 

 ハンナが案内したのは、意外と大きな一軒家だった。サザエさんの家みたい。

「おい、ジード。いるんだろ!」

 ゼロは激しく扉を叩く。しかし、反応はない。

「入るぞ。」

 ゼロは扉に手をかける。えげつない音がした後、扉は勢いよく開いた。ぎごぎしゃ、って音がした。絶対バカ力で鍵をぶっ壊したんだ。

 ゼロは靴を脱がず家の中に入ると、そのまま二階に上っていく。そして、部屋の扉を足で吹き飛ばす。

「ちょっと、スカート穿いてるんだから、そういうのやめてよ。」

「そうだよ。」

 沙耶も抗議する。

 でも、ゼロは私たちの話を聞かず、そのまま部屋に入って行く。

「ジード!」

 その部屋はなんとも異様だった。壁を覆うように何枚ものポスターが張り巡らされていて、何層もの防壁を作っている。そのポスターはアイドルだったり、アニメの女の子だったり。ありゃ、これは典型的なオタクだわ。

 そんな中、少しあったかいにも関わらず、毛布をかぶってパソコンにかじりついている男の子がいた。多分、私たちよりちょっと年上くらい。

「何してるんだ。」

「もしかして、ゼロさん?」

 ぬっと幽霊みたいに顔を向ける。

「引きこもりってどうしたんだ。お前らしくない。」

 そんな時、宇宙人の携帯が鳴り響く。これは怪獣警報?

「すまない。俺は行く。」

 宇宙人は出て行こうとする。

「翔一。」

 私は思わず翔一の名前を叫んでいた。

「大丈夫。必ず帰ってくるから。」

 翔一みたいな笑顔で宇宙人は言う。でも、どこかぎこちない。ものまねしてるんだってすぐわかる。

 宇宙人は駆けていった。

 私は、宇宙人に無理強いさせているんだなって、罪悪感みたいな苦い気持ちがこみ上げていた。

 

 ひっそりとした山の中に秘密基地はあった。

「すげぇ。ウルトラマンの秘密基地みたいだ。シークレットベースだ!」

「そうだろ?これだけでも来て意味があるだろ。」

 ムラサメは得意そうに言った。

「各国の怪獣、宇宙人のデータもそろっている。」

「これは、暗黒の秘密文書ばかり。」

 妹尾も驚いていた。

「こいつは――」

 剣はボードに貼られている写真に気が付く。見覚えのある顔があったのだ。

「ああ。それは宇宙人ではないかと思われる人物だ。要注意だよ。」

 そこにはハンナの写真があった。

「どうした。剣。」

 動揺している剣に心は話しかける。

「いいや、別に。」

「次は兵器と行こうか。」

 そう言ってムラサメが部屋を出ようとした瞬間、小さな女の子が自動扉から姿を現す。

「何者かね。きみは。」

 ムラサメは明らかに困惑の色を浮かべながら言う。

「君らこそ、何者だ。」

「ゾフィーさん。」

 妹尾の知り合いのようで、親し気に妹尾は言う。

「なるほど。色々と大変なようだな。」

 ゾフィーと呼ばれた少女の後ろから、メガネの少女が顔を出す。

「彼女たちは協力者です。」

「子どもが協力者だとはな。」

 ムラサメは明らかにバカにしたような口調だった。

「セキュリティはホワイトハウス以上だったんだが。まあ、いい。一体何の用かな。小さい妖精さん?」

「そんなことより、出たぞ。」

 ゾフィーの言葉が終わった直後、うぃーんうぃーん、と基地全体が警報を発する。怪獣警報である。

「行くぞ!」

 ムラサメの言葉に剣と心は反応し、ムラサメに続いて、部屋を出る。

「データ照合。昨日と同じレッドキングです。それも――これは――」

「三体確認。場所は昨日の周辺。」

 南は的確にアナウンスする。

「セブン。頼まれたものはできたか?」

「ええ。」

 セブンは基地の機器をいじりだした。

 

 ブリュウは川辺で立ち止まる。山からは怪獣の頭が見えていた。計三匹。

「昨日のを三匹か。」

 ブリュウは恐怖を抱いた。昨日のブレスレットの感覚。それは自分以外の誰かがブリュウの体の中に侵食していき、別の誰かに変わっていくという感覚。

「ほっとけないだろ。」

「待ちたまえ。」

 ブリュウが変身を決意した時、何者かがブリュウを止める。

 その男は音もなく、気配もなくブリュウの前に現れた。

「何者だ。」

 ブリュウは即座に、その男が真っ当でないと感じた。薄汚れたフードで顔は見えない。

「昨日のままだと、君はあの怪獣たちに絶対に勝てない。」

 怪獣は何もかも破壊してしまいそうな恐ろしい雄たけびを上げている。

「地球防衛隊と協力しなければ、君一人では勝てないよ。」

「お前は何者かと聞いているんだ。」

 ブリュウは焦っていた。

「マーリンお兄さんだよ!」

「世界観ぶち壊しかっ!」

「ともかく落ち着いて。もう、僕には名前はない。きっと誰も忘れてしまっているさ。僕自身、長い旅の末に忘れてしまった。とにかく、彼らを信じることだ。そして、冷静に判断すること。僕もかつてそれが出来なくて、数々の困難に陥ってしまった。でも、君は一分しかウルトラマンの力を使えない。使いどころを見誤らないことだ。」

 気がつけば、フードの男は消えていた。まるで夢の住人かのようにブリュウは感じた。

「でもよ。ジーっとしててもドーにもならねえだろ。」

 ブリュウは変身した。

 

「正義のため、頑張ってきたじゃないか。戦えるのはお前だけなんだ。」

「うるさい!」

 思わず私は耳を覆ってしまった。まるでジードの声が怪獣を煽り立てているように感じる。

「僕も頑張って人々を助けてきた。応援してくれる人がいて、とっても嬉しかった。でも――全てが終わればみんな忘れてしまう。僕が頑張ったところで、僕の生活は豊かにもならない。そんなの、不公平じゃないか!僕はもう、あんな怖い思いをして戦って、でも僕自身には何も帰ってこないのが嫌なんだ!」

「甘ったれてんじゃ――」

 私は沙耶の口を覆った。沙耶は、いや、ゼロは私の手を引き離す。

「何するんだ。」

「そんなんじゃダメなの。私たちに任せなさい。こういう時には沙耶が適任なの。暑苦しいだけのおっさんは黙ってて。」

「俺はおっさんじゃ――」

「呼んだ?ミレイ。」

「沙耶!」

 私たちは抱擁を交わす。

「ハンナも手伝って。」

「よかろう。宇宙人の自立支援も我らの仕事だ。」

 私たちはジードの横に座る。

「僕はもう戦えないんだ。」

 弱弱し気にジードは呟く。

「別にいいわ。」

 私は言った。

「え?」

 ジードは目を丸くして私を見つめる。

「そう。別にあなたが戦わなくちゃいけないわけじゃない。嫌だったら逃げていいと思う。一人だけに戦わせるのは間違ってるもの。」

 沙耶は優しい声で言う。私も聞きほれてしまった。

「そうだ。我々だって、今のぬしと同じだ。力なんて何もない。でも、できることはある。精一杯、今のウルトラマンを応援することだ。」

「それしかできないのがもどかしいけど、私たちはそれしかできない。できることを精一杯やるの。あんたも言ってたでしょ?応援してくれて嬉しかったって。戦えなくても、一歩踏み出さなきゃ。それじゃあ、アンタに感謝しなかった奴らと一緒になっちゃう。」

 出ましょ、と私はジードの手を引く。

 部屋から出るのが引きこもり脱出の一歩。それには手を引いてくれるほど強引な誰かがいないとダメじゃない。

 

 ブリュウは三体のレッドキングと対峙していた。レッドキングは短い足でゆっくりと確実に移動している。

『ブリュウくん。聞こえる?』

 突然轟音がブリュウの耳に響く。頭が割れそうだ。

「何してくれてんだ。」

『あれ?なんかおかしいみたいですよ?』

 どうも強力な間接干渉で語りかけているようだった。

『おお。音量を間違っていたみたいだな。』

「絶対わざとだろ。」

『はっはっは。緊張も解けただろう。』

 セブンの声にブリュウはいつか泣かしてやると怒りをあらわにする。

『だが、事態は最悪だ。一際大きな腹のレッドキングがいるだろう。ソイツはマザーレッドキング。腹に子どもを抱えている。』

 確かに、一団から遅れるようにレッドキングが一体歩いてきている。

『その怪獣の腹には原爆に相当する熱量が感知されています。』

 痺れをきらしたように聞きなれない女の声がした。だが、今はそんなことに構っている余裕はない。

『僕たちはソイツに攻撃できない。だから、そのレッドキングだけを君に任せたいんだ。』

「具体的にはどうするんだ。」

『僕らで他のレッドキングを惹きつける。その内に、マザーレッドキングの腹に強力なスペシウム光線を当てて無効化してほしい。』

「できるのか。そんなこと。」

『できる。スペシウムは原爆の原子さえも破壊可能だ。』

 セブンとは違う幼女の声が聞こえた。

「お前は――」

『今は時間がない。早くするんだ。』

『待って。また別の反応が。もう一体怪獣が近づいている。』

「なんだと?」

 事態は最悪だった。

『データ参照。海底原人ラゴンです。』

『やつは大人しい怪獣のはず。どうして――』

『恐らく、レッドキングが暴れたせいで目を覚ましたのでは?』

 ブリュウが振り向くと、そこにはぬめぬめしい人型の怪獣が現れていた。

「くそっ。次から次へと。」

『ブリュウ。そいつは大人しい怪獣だ。話せばわかる。』

「そんな暇ないだろ。」

 見慣れない戦闘機がレッドキング二体を爆撃している。その威力はすさまじい。

 その時、ローブの男の言葉が甦る。

とにかく、彼らを信じることだ。そして、冷静に判断すること。

「分かったぜ。おっさん方。信じるからな。」

 ブリュウはラゴンに向き直る。

「よう。ラゴン。元気か?」

『コミュ障か。』

『もうちょいいろいろあるだろ。』

『コミュ障の僕にしては、頑張ったと思いますけど。』

『コミュ障。』

「一々うるさいんだよ。自閉モードに切り替えるぞ!」

 干渉で語りかけたが、反応しない。ラゴンは町を破壊しながら、進んでいく。

『ああ。会話はできないのか。じゃあ、踊れ。』

「無茶ぶりが過ぎるだろ。」

『ラゴンは音楽を愛する。だが、音楽など出せないだろ。歌えるのか、お前は。』

「歌ってやるよ。」

 ブリュウは歌った。

 ラゴンは怒り狂って暴れる。

「全然大人しくならないぞ。」

『ジャイアンの方がマシ。』

 きっぱりと言う女だとブリュウは思った。

「くそっ。やっぱり踊るしか――」

 そんな時、街中のスピーカーから音楽が流れる。それはこの町の音頭。少女たちが歌っていた。

 ラゴンは立ち止まり、胡坐をかいて座っている。そして、手を叩く。

『ほら、踊れ。』

「誰だか知らないが、後で覚えてろよ。」

 ブリュウは仕方なく、覚えたての音頭を踊る。

「というか、踊る必要なくないか。」

 そんな時、音頭と呼応するかのように、ブリュウの警報装置が鳴り響く。

「時間切れだ。」

 ラゴンはそのままだ。ブリュウは踊りを止めて、マザーレッドキングへと向かう。その折、レッドキングの一体が倒れ、活動を休止した。

 ブリュウはブレスレットを起動する。そのまま駆けて、マザーレッドキングの背後に回りこみ、羽交い絞めにする。体が焼けるように熱いが、気にしている暇はない。

「頼むぞ、お前ら。」

 マザーレッドキングの異変に気が付いたレッドキングがブリュウに向かって来る。

『お前と会話するなど気持ちが悪いな。』

『へぇ。ウルトラマンと話せるなんて新鮮だね。いいよ。僕たち人間のすごさってのをみせてやろうじゃないか。』

 どうも、戦闘機にも通信ができるようだった。

 戦闘機はレッドキングに爆撃を仕掛ける。レッドキングの注意が戦闘機に向く。

 ブリュウはマザーレッドキングに投げ飛ばされる。岩肌に激突する。怒り狂ったマザーレッドキングはブリュウを襲おうと大きく両手を広げる。

「それを待ってた。」

 ブリュウは光線銃を取り出し、マザーレッドキングの腹に密着させる。そして――ブレスレットによって強化された光線はマザーレッドキングの腹を砕いた。

 それと戦闘機が光線を放ちレッドキングを破壊するのは同時だった。

『やったぜ!』

 剣が喜んでいるのが聞こえる。

「お前らよくやったな。」

『きみの踊りもなかなか見ものだったよ。まだ時間があるのなら、踊ってほしいものだ。』

「知らないやつだが言っておく。絶対にやらない。」

 歌には自信があったのにな、とブリュウは聞こえないように呟いた。

 そろそろ時間切れだった。ブリュウは空に飛び立とうとする。

 そんな折だった。

 ぐるおあああああ。

 腹を破壊されたはずのマザーレッドキングが立ち上がった。スペシウムが腹の熱量を相殺するので力尽き、マザーレッドキングを倒すまでには至らなかったのだ。

 残り二十秒。ピンチだ。ピンチだ。どうにもならない。そんな時――

「ババン。ズバット惨状。ズバット解決。その名も――ウルトラガール・メルちゃんだああああ。」

 謎のウルトラガールはマザーレッドキングを手刀で真っ二つにした。

 そのウルトラガールはブリュウに向き直る。

 白銀と紫、所々青と赤の混じった体。胸や腰のラインが煽情的だった――

 

「あんた、意外とやるじゃない。」

 ジードは照れながら頭をかく。

「いや、皆さんの歌もなかなかですよ。」

 ジードはどうも私たちには聞こえない声を感じ取ったらしく、町の市役所を乗っ取った。乗っ取りはゼロの担当。沙耶の体で好き勝手してくれるのはどうかと思うけど、結果オーライよね。

「僕には僕のできることがある。そんなこと忘れてた。ありがとう。」

「ところでジード。」

 いいところでゼロが割り込む。

「カプセルはどうした。」

「ああ、あれ。」

 何気ない事のようにジードは言ってのける。

「なくしちゃった。」

「はあ?」

 ゼロは一瞬意識を失ったようだった。

「お前・・・」

「まあ、一件落着。」

 勝手に締めた。

 

 秘密基地にみんな帰ってきた。

「君たち、あのウルトラマンの正体を知ってるんじゃないのかい?」

「いいや、知らないな。」

 剣は不機嫌そうに言う。

「では私たちは帰る。」

 ゾフィーとセブンは帰っていく。

「送っていくよ。」

 ムラサメは続いて出て行った。

「君たち、何者なんだい?」

 ゾフィーの後頭部には拳銃が密着していた。

「貴様に言う必要はない。」

 ムラサメは銃の引き金を引いた。

 ちゃかっという音がした。

「ばれてたか。」

 ゾフィーは後ろを振りむかず去っていった。

「ゾフィー。怖かったよぉ。」

 セブンがゾフィーに抱きつく。

「やめんか。気持ち悪い。」

 ゾフィーはセブンを引き離そうとする。

「でも、メルが来たってことは――」

「あの迷惑者もセットだろう。」

 ゾフィーは溜息を吐く。

「まあ、メルだけでも迷惑だけど。」

「そうだよなぁ。」

 疲れたサラリーマンのようにゾフィーは言った。

 



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