GATE 古龍と共に、彼の地で生きる (始まりの0)
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人物紹介 「主人公」

ネタバレを含みます。


 ~主人公~

 

 名前:狩矢 龍人(かりや りゅうと)

 

 性別:男性

 

 年齢:???(1亰以上)

 

 種族:人間?(1亰を越えてる時点で普通の人間ではない)

 

 容姿:黒髪、黒眼、身体には無数の傷がある

 

 身体能力:鎧なしで古龍と戦える

 

 

 

 ―能力―

 

 ・幽波紋(スタンド):ワイルド

 

 神様から貰ったチート能力。因みにこの能力を貰ったのは世界を渡った際なので、モンスターとは自分の身体能力のみで戦ったことになる。

 

「ジョジョの奇妙な冒険」で出てくる幽波紋(スタンド)。基本的に1人1つのスタンドだが、龍人は複数のスタンドを持っている。しかし必要時以外は能力の発動のみで、スタンドは出現しない。

 

 但し、スタンドを複数同時に使うのは不可能である。

 

 ~使用スタンド~

 

THE WORLD(世界)

 

 お馴染み、DIO様のスタンド。「時を止める能力」……さらに天国の方も使う事が可能だが、両方の能力を同時に使えない。止めれる時間は不明。

 

【クレイジーダイヤモンド】

 

 東条仗助のスタンド。「壊れたものを直す、怪我人を治す」能力。死んでさえいなければ、瀕死状態でも回復可能。

 

【スター・プラチナ】

 

 空条承太郎のスタンド。比類なき力強さとスピード、精密さを持つ、史上最高、無敵のスタンド。

 

【キラークイーン】

 

 第四部ボス吉良良影のスタンド。触れた物を爆弾に変える『第一の爆弾』を始め、『第二の爆弾』『第三の爆弾』も使う事が可能。

 

 

 

 

 ・我を思うがままに創作す(ザ・クリエイター)

 

 材料さえあれば、武器、防具、アイテムと言った物を作成する事が出来るスキル。また、1度触れた物の素材・構造を瞬時に解析できる。

 

 武器等から始まり、家、家具、ビル~橋など様々な物を作れる。手順を省いて物だけ作る事も可能……ある意味、錬金術の領域のスキルで鋼錬宜しく、両手錬成も可能。

 

 制作した武器・防具は通常の鍛冶屋が作るよりも性能が良く、長持ちである。アイテム関してはどんな物でも調合率100%で調合可能。

 

 

 ~アイテム~

 

 ・回復薬

 

 モンハンでお馴染み緑色の回復薬。飲むだけでなく、傷にかける事で治癒可能。あくまでも傷の回復だけで病の治療は不可。

 

 上記のスキルで作成した為、通常の回復薬より凄い

 

 ・モドリ玉

 

 モンハンでお馴染み摩訶不思議なアイテム。本来はキャンプにワープさせる物だが、龍人はこれに手を加えて自分がいる神殿の様な場所に着く様に改良している。

 

「何故、キノコを素材玉を調合してこんな物が出来るんだろう?」と本人も言っており、彼も詳しい原理は分かっていない。

 

 

 

 ・動物会話

 

 名の通り、動物・モンスターと会話するスキル。ただ、相手側がそれなりに知性がないと使用できない。

 

 古龍達を従えれたのも、これによる物が大きい。

 

 

 

 

 

 

 

 天界の酔っ払い神により殺された少年。本来死んでいたのは、彼が助けた子供だったが……彼の行動が運命を捻じ曲げた。だが本来死ぬ人間がしななかった為に、修正力が発生し結果代わりに龍人が死んだ。

 

 優しい女神に転生させられる前の特典を貰おうとしていた時に、酔っ払い神の乱入によりモンスターハンターの世界に転生した。転生した直後、イビルジョーに喰われかけた為に酔っ払い神ならびに命を大切にしない神に足しては怨みを持っている。

 

 本人曰く、あの時生き残れたのは「運が良かったからだ」そうだ。

 

 モンスターハンターの世界でサバイバル生活をしていた所、素手でドスクラスのモンスターなら倒せる様になっていた。それから、人助けをしていく内に彼の周囲に人々が集まり、村となった。

 

 武器や防具を装備し、古龍を倒し動物会話により従えた。彼の居た世界では【モンスターハンター】の称号を手にした最初の人物であり【古龍の王】などと呼ばれ、謳われていた。

 

 天界でのゴタゴタが終わった事で、龍人は異能の力を持つ自分が此処に居れば世界に影響を出しかねないと考えて再び転生した。その際には彼に従っていた古龍達も異世界へ。

 

 ロゥリィとは数百年前に在っているらしい。

 

 彼は生きる為の狩り、何かを護る為の狩りは良しとする。唯、理由もなく楽しむ狩りは人間であれ、モンスターであれ、動物であれ許さない。戦争もまた人間が生物として生きていく為の行為として容認しているが、それが一般人に及ぶ事は良しとしない。

 

 彼は「兵士は覚悟を決め、戦場に赴いている為に殺す事も殺される事も覚悟の内だ。だが普通に暮らしている人々への戦闘行為は唯の侵略行為だ……それは許されない事だ」と言っており、銀座事件の際にも日本の市民を救う為に動いた。

 

 自然の摂理から離れた行為、非戦闘人への一方的な戦闘行為をしなければ彼が動く事は滅多になく、逆に両方の世界に協力的である。

 

 これまでも門が開き、色々な世界に繋がった際に両方の世界の仲介役となったらしい。

 

 門の向こうの世界ではイタリカの先代当主やメイド長と言った、知り合いが多い。

 

 

 

 

 

 

 

 Q.実際に狂暴龍に追われてどうでしたか?

 

「運が良かったからだ……チビってない……決してチビって…………そうだよ!悪かったな!チビッたよ!何なら、何の力もなしに、私服でイビルジョーの喧嘩吹っかけてみよぉぉぉぉ!!!(発狂)」

 

 

 

 

 

 

 

 

~EP16での真実(ネタバレ注意)~

 

 太陽系や特地のある宇宙が始まるずっと昔、世界が何もない頃にこの世界に送られた。そこで転生の際に会った神から力を渡されており、それを使用し世界を始めた。

 

 それから世界が安定するまでは眠りにつき、ある程度の数の宇宙が誕生した時に目を覚まし、多くの宇宙を旅した。

 

 そして特地の星が誕生した段階で、古龍達を送り、環境を安定させ、あの星に棲みついた。

 

 本人曰く、あくまで世界が誕生する切っ掛けを作っただけなので、神を名乗るつもりはなく、神の如き力もない。



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人物紹介 「古龍+オトモ」

ネタバレを含みます。

随時更新


 ―古龍―

 

 龍人がモンスターハンターの世界で物理的に黙らせた古龍達。

 

 元の世界と同じくこの世界でも厄災扱い。人間やエルフの伝説を始め、神話にも出てくる最強の種族。

 

 元の世界でも生命の頂点に立っていた為に、孤独であったが龍人と出会い、言葉を交わす事で分かり合うと言う心を知った。

 

 殆どの古龍が何故か擬人化した際には女性になっており、自分達の王である龍人には恋愛感情を持っている。

 

 龍人曰く、この星に来てから古龍は神の様な存在になった為に、国を滅ぼすのにそれほど時間を必要とせず、地球の技術力を用いても、相打ち覚悟で核を打ち込んでも1体を倒せるかどうからしい。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 名前:レウ(リオレウス)

 

 性別:女性(元々は雄?)

 

 年齢:???

 

 種族:古龍

 

 容姿(人間態):白銀の髪、紫の瞳の美女

 

 

 

 天空の王者・リオレウスの希少種。金属質の白銀の外殻を持つ銀火竜。実際には飛竜種に属するが、この星(アルヌスの丘のある世界)では、他の飛竜達と区別を付ける為に古龍と言う分類になる。

 

 その鱗は1枚でもかなりの価値があり、登場時帝国の弓や剣を物とものともせず、巨大なミサイルを用いてやっと鱗に傷を付ける事が出来る。またブレスは超高温の為に、受ければ確実に死ぬ。

 

 凶暴性と凄まじい戦闘力を持っているが、人間の文化には興味があり、日本では車や人々の服を興味深そうに見ていた。人間態の時には至って大人しいが、龍人の事となると本性を顕す。

 

 本来は雄個体の筈なのだが、人間態を取ると何故か女性。

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:レア(リオレイア)

 

 性別:女性

 

 年齢:???

 

 種族:古龍

 

 容姿(人間態):金髪、青い瞳の美女

 

 

 陸の女王・リオレイアの希少種。金属質の黄金の外殻を持つ金火竜。リオレウスと同じく本来は飛竜種であるがこの星では古龍の分類。

 

 銀火竜同様、鱗1枚でも価値は高く、凄まじい強度を誇っている。ブレスも高温で並大抵の生物は丸焼けになるのは言うまでない。また尾の毒は強力で、龍人の作る解毒薬以外では完全に解毒する事は不可能。

 

 性格は至って普段は常識人だが、高層ビルや飛行機を見て破壊すれば散って綺麗と発言しており、自然を穢す様な物に対しては嫌悪感を抱いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―アイルー―

 

 モンスターハンターの世界で龍人に救われた種族。その一部の者達が龍人と共にこの世界にやってきた。

 

 この世界ではキャットピープル達からは伝説扱いされている。現在龍人のオトモをしているのはかつて、この世界に龍人と共にやって来たアイルー達の子孫。

 

 

 

 

 名前:ネル

 

 初代旦那さん:龍人

 

 レベル:???

 

 攻撃力:???

 

 防御力:???

 

 なつき度:上限突破

 

 性格:勇敢

 

 毛並:白

 

 

 旦那さん大好きのアイルー。勇敢で大型モンスターの猛攻して様が、銃弾の飛び交う中であろうと旦那さんの為に行動する。しかしその反面、慌てん坊が偶に傷。

 

 

 

 

 名前:ファニ

 

 初代旦那さん:龍人

 

 レベル:???

 

 攻撃力:???

 

 防御力:???

 

 なつき度:上限突破

 

 性格:慎重

 

 毛並:青

 

 

 旦那さん大好きアイルー。ネルとは相反する様に物事を慎重に進めるタイプで、勢いの在り過ぎるネルに止める役目を担っている。



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本編開始
EP0 少年、酔っ払い神に殺される


と言う訳で思い付いた物を書いてみました。




 ~???~

 

 1人の少年が真っ白な空間に立っていた。

 

 ーさて、此処は何処だろうか?

 

 俺は確か、子供を庇って看板の下敷きになったはず何だが……なに、この真っ白な空間は?ー

 

【貴方は死にました】

 

 ー……夢かな?翼を生やした女がいるー

 

【えっと私は神です……って、そんなに引かないで下さい。凄く傷付きます】

 

 ーえっ、だって……イタい人かとー

 

【イタい人でもなければ、可愛そうな人でもなく、私は正真正銘の神です!】

 

 いきなり神と名乗られても困るんだけどなぁ等と少年が考えていた。

 

【まぁ、いきなり神ですと言われても信じられないのは分かります】

 

 ー心を読んだ?ー

 

【はい、神なのでこれくらい簡単です】

 

 ー成程……まぁアンタが本当に神だとして、此処は天国?ー

 

【いぇ、此処は転生の間です】

 

 ーと言うことは俺は転生出来ると?ー

 

【はい。実は貴方の死の原因なのですが……】

 

 

 

 

 ーこの女神様によると、人の寿命を管理も神の仕事の内で、俺が死んだのは、他の神が書類を酒まみれにして破いたのが原因だとか……仕事場で酒飲むなよ!ー

 

【えっと実は、その神は神の中でも問題ある者で……女癖が悪く……彼女にフラれてやけ酒していた所】

 

 ー俺の書類に酒ぶちまけて破いたと?ー

 

【正確には酒とげ…吐瀉物をぶちまけました。貴方の物でなく、看板の下敷きになる筈だった幼児の物にです】

 

 ー言い方の問題じゃねぇよ!いや、待てよ。なら何で、俺が死んだんだ?ー

 

【そっそれが……恐らく貴方の助けたいと言う思いが運命を変えた物だと思います。ですが実際に1人しななければ帳尻が合わなくなるために】

 

 ー代わりに俺が死んだと?ー

 

【はい……本当に申し訳ありません!】

 

 ー……はぁ、貴女が悪い訳じゃないんだから頭を上げて下さいー

 

【いぇ、私達が確りとあの神を解雇なり、教育なりしておけば貴方は死なずにすんだんです!謝って済む話では】

 

 ーとは言え、生き返る事は出来ないてしょ?ー

 

【はい、それは】

 

 ーまぁ……あの子が助かって何よりですよー

 

【怒らないのですか?】

 

 ー別にあの時の選択に後悔ないですし……終わった事です。それに俺、神様転生に憧れてたんですよ。

 

 なので、構いませんー

 

【貴方は心の優しい方なのですね……分かりました。私も気を入れ換えて、貴方を転生させることに全霊を込めます】

 

 ーそれじゃ早速……転生先は何処なんですか?ー

 

【えっと、この中から選べます】

 

 女神は少年に紙を渡す。そこにはこう書かれていた。

 

 

 雛◯沢症候群がある世界

 

 猫箱とかの世界

 

 殆どバッドエンディングのホラーゲームの世界

 

 写真で除霊する世界

 

 某ゾンビ世界

 

 もう1人の自分を召喚する世界

 

 鬼の宿った武器で吸血鬼を倒す世界

 

 最後の兵器な彼女

 

 

 ー……ふざけんなぁ!殆ど始まる前から終わり確定の世界ばかりじゃねぇか!ー

 

 あまりの内容に少年は叫んでしまった。

 

【すいません。今、これくらいしか行けなくて。他にも在るには在るのですが……その転生者が一杯で】

 

 ーはぁ……せめて、もう少しマシな所がいいー

 

【なら………………はどうですか?】

 

 ーぁ~まだマシか。そこでいいよ。特典ってもらえるの?ー

 

【はい、でもあまりその世界からかけ離れた物は無理です】

 

 ーじゃあ………………は?ー

 

【えっそれだけでいいんですか?】

 

 ーあまりチート過ぎても困るしな……ー

 

【じゃあ……授けますね。ジッとしてて下さい】

 

 女神が少年に手を翳すと、彼は光に包まれ始めたのだが、思いもよらぬ乱入があった。

 

【それでほk『おらっー!離しやがれー!俺が何したって言うんだよ』】

 

 突如、声ともに酔っ払い神(今回の事故の主犯)と数人の神々が現れ、暴れ始めた。

 

 ーえっちょwー

 

 酔っ払い神が暴れた衝撃で、少年の足元に穴が開き彼は落ちていった。

 

 

 ーうっそー!?ー

 

 こうして少年はこの場から強制退場したのである。

 

 

 

 

 

 ~何処かの森の中~

 

 

「いててて」

 

 少年は森の中で目を覚ました。

 

「何処……此処?森?」

 

 ーグルルルル、ベタッー

 

「ん?何だ……生暖かい……何これ、涎?」

 

 少年が上を見上げると、巨大な何かが此方を見下ろしていた。

 

 少年はその巨大な何かに見覚えがあった。何せ、以前にしていたゲームの中でも最も最悪なモンスターであり、遭遇したくないモンスター1位だったからだ。

 

 その巨大なモンスターを見て、少年の顔から血の気が引いた。

 

「いっ…」

 

【グルルルル】

 

 そのモンスターの名は……恐暴竜・イビルジョー(飢餓)。モンスターハンターに出てくる厄介な竜である。

 

 

『戦闘開始』

 

 野生のイビルジョー(飢餓)が現れた。

 

 転生者(le.1) 装備:私服 武装:素手

 

 ・たたかう ・アイテム

 

 ・魔法    ・逃げる

 

 

 →逃げる ピッ

 

 

「ぎやぁぁぁぁ!」

 

 少年は即決で逃げ出した。

 

 上級者ハンターでもそうそう倒せない相手とても戦うなど無謀である。イビルジョーも逃がすまいと追い掛けてきた。

 

「マジでふざけんなぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 これは少年と古の竜達の、異世界での物語である。



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EP1 銀座事件、銀竜・金竜降臨す

 ー始めまして、酔っ払いのクソ神により殺されて、更に死にかけた転生者の狩矢 龍人(かりや りゅうと)です。

 

 職業は……何だろう?農業したり、鍜治したり、魔法開発したり……まぁ色々だ。

 

 ハンターじゃないのか?

 

 じゃあ、これまでの事を話そうか。

 

 まず俺は何とかイビルジョーから逃げ切り、それから森の中でサバイバル生活をしていた。

 

 始めはランポスとか、ジャギィとかに殺されそうになったけど、しぶとく生き残り、素手で【ドス】クラスの相手なら倒せる様になっていた。

 

 なに?そんな訳あるか……人間、極限状態だと何でも出来る様になるんだよ。うん……。

 

 それで、少しして女神様がやって来たんだが、あの酔っ払いが暴れた所為で暫くは違う世界に行けないと言われた。それで少しの間、モンスターハンターの世界で生活しいてた。

 

 とは言うものの、時代が竜大戦直後と言うもので、正式なハンターが居ない時代だ。

 

 なので、能力を貰った。武器とかに防具作成とか色々だ。

 

 それからモンスター達と闘いながら生活していたのだが……それだけでなく、俺が助けた人々と暮らす様になった。それが何時しか巨大な村になって……色んな出会いがあった。本当に色んな……

 

 10~5・6年くらい過ごした時、女神様が現れ、違う世界に行けると言われた。俺は行くかどうか迷ったが、俺の存在はイレギュラー過ぎて、今後の世界の発展に影響しそうなので、再び転生した。

 

 そして、この世界に来た。来て驚愕して倒れそうになったが、その理由は後々語ろう。

 

 で、色々と在ったんだか現在俺は東京にいます。両手に花でー

 

 

「ほぉ……これが車、あれは変わった服だな」

 

 と俺の右腕に抱き着くながら興味深そうに車や行き交う人々の服を見ている銀色の髪の、白いコートを着た美少女。

 

「空には鉄の塊が飛んでますわね。それに一面ガラス張りの建物……壊したら、さぞ綺麗に散るでしょう」

 

 俺の左腕に抱き着くドレスを着た金髪の美少女。彼女は飛行機やビルを見ながら物騒な事を呟いている。

 

(あぁ……周りからの視線が……視線がヤヴァい)

 

 周囲の男性からは美少女を侍らせている事で嫉妬と羨望の目で見られ、女性からは「二股」などと言う言葉が聞こえてくる。

 

「なぁ、2人共……少し離れて」

 

「「嫌だ(ですわ)」」

 

 と言って離れてくれなかった。

 

 

 

 

 ~20XX年 夏~

 

 銀座の中心に突如、巨大な【門】が出現した。そしてその門より、鎧を着た兵士達、オーク、ワイバーンと言ったファンタジーの世界に存在しない筈の者達が突如、襲来した。

 

 それは一方的な虐殺だった。平和な日本……何の訓練も受けていない一般市民に抵抗する術はなく、彼等は蹂躙されていた。

 

「お母さん」

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 何処にでもいる普通の親子……この親子もまた理不尽な暴力により危機に晒されていた。母親は娘を抱え必死に逃げる……だが鎧を着た兵士達が親子を追いつめた。

 

 母親は娘を護ろうとする。

 

「むっ娘だけは」

 

「――――――」

 

 しかし言葉は通じていない。1人の兵士が、母親から娘を取り上げ、その凶刃で娘を斬り裂こうとした。

 

『おいおい、異世界とは言え娘を殺そうなんて………向こうの世界の人間の質も落ちた物だな』

 

 そう声が聞こえた、次の瞬間、娘を殺そうとしていた兵士の身体が真っ二つになる。そして巨大な太刀を持った少年が現れた。

 

 彼の腕の中には先程まで殺されそうになっていた娘が抱かれていた。

 

「ほらっ……娘と一緒にさっさと逃げな。皇居が避難場所になってる、近くまで行けば自衛隊が保護してくれるだろう」

 

「えっ……あの…」

 

 少年はそう言い、娘を母親に渡す。どうやら娘は気を失っている様だ。母親は何が起きたのか理解できておらず、唖然となっている。

 

「此処は戦場になる………子供には刺激が強すぎる。さっさと行きな、じゃないとその辺の死体みたいになっちまうぞ?」

 

「あっありがとうございます!」

 

 母親は我に帰ると、少年に感謝の意を伝えるとすぐに駆け出した。

 

「――――!!―――――!」

 

 他の兵士達が親子を追おうとするが、少年が立ちふさがった。

 

「おっと………行かせねぇ。いきなり無抵抗な人間に攻撃とは……穏やかじゃない」

 

「―――――!!――!!」

 

「あっ……そうか、日本語は分からないんだったな。じゃあ、そっちの言葉で。

 

『無抵抗な人間を殺し、挙句の果てに子供まで殺そうとする下種共には死を』

 

 少年が、日本語ではない言葉を言い放った。すると兵達にもそれが理解できたらしく、怒った彼等は少年に襲い掛かった。

 

 剣が、槍が、斧が、少年に襲い掛かる。少年は落ち着いた様子で、太刀を構えようとする。

 

 そして次の瞬間、兵士達の武器が止められた。少年ではなく、現れた銀と金の少女達によって。

 

「王よ、此奴等はどうなさいますか?」

 

「まぁ……我等の王に武器を向けた時点で生きて帰すつもりはないですけど」

 

「取り敢えず………門の周りは一掃。追い返そうか」

 

 少年が笑みを浮かべてそう言い放つ。

 

「御心のままに」

 

「御意にございます」

 

 2人の少女はそう言うと、光だした。やがてその姿を変えていく。銀の竜と金の竜へと。その姿を見た兵士達は「古代龍」などと言っているが、彼女達はそれに属さない。

 

「こっちの世界の人間は巻き込まない様にね」

 

 少年がそう言うと、2体の竜は了承したのか頷き、行動を始めた。

 

 2体の竜は翼を広げ、空へと飛び上がると兵士達に向かいブレスを放ち始めた。

 

 兵士達も抵抗するべく攻撃するが弓矢も、剣も、槍も、何もかもが彼の竜達には効かなかった。

 

 

 

 

 ~帝国side~

 

「なっ……なんなのだ!?何故、龍が此処に!?」

 

「矢も、剣も、全く効きません!」

 

 兵士達は困惑していた。

 

「蛮族共は古代龍を飼い慣らしているというのか!?」

 

 古代龍………それは自分達にとっては身近であり、絶対に遭遇してはならぬ存在だ。

 

 

「撤退だ!退け!!」

 

【ガアァァァァァァッァ!!!】

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

「ぐわぁぁぁぁっぁ!!」

 

 銀竜と金竜はブレスで兵士達を焼き尽くし、牙で噛み砕き、爪で引き裂き、尾で叩き潰していく。

 

「なんだ……これは……先程まで我が軍が一方的でだったのに……何故、我等がこんな」

 

 兵士達の将らしい人物は唖然としていた。ついさっきまで自分達は優勢だった……だと言うのに、何故竜が蹂躙されているのかと。現実を受け入れられなかった。

 

「こんな事は出来ればしたくなかったんだけどなぁ……俺は」

 

 と目の前に現れた少年。少年の傍に着地した銀竜と金竜。

 

「ご苦労様………お前達にもこんな事はさせたくなかったけど……先に仕掛けて来たのそっちだし、戦争はやるか、やられるか………撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだよ、おじさん達」

 

 少年は竜達を撫でながら、笑みを浮かべてそう言う………だが兵士達にはそれが悪魔に見えた。少年は太刀を天へ向ける。すると空に巨大な魔法陣が出現した。

 

「【神雷】」

 

 少年がそう呟くと、魔法陣より雷が発生し兵士達に落ちた。

 

「ゆっ……夢だ……これは…y」

 

 その言葉を最後に将は雷に飲み込まれた。

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

 

『王よ、追撃は?』

 

「必要ないよ。あんだけ被害が出たら確実に撤退するだろうし………レア、お前は先に向こうに戻ってくれ。他の皆に連絡を頼むよ、誰かに門周囲を監視させて。でも手出しは無用だ」

 

 龍人は金竜にそう言った。

 

『御意に』

 

「後、万が一の場合は直ぐに退く様に。特に暴には注意を促しておいて……怒ると敵も味方も関係なしに暴れるから」

 

『フフフ、確かに……では失礼します』

 

 金竜は一礼すると、門の中へと入って行く。

 

『王よ、私達はどうするのでしょう?』

 

「取り敢えず、生きてる人間には回復薬をぶっかけて治療しよう」

 

『……王よ。人間に甘すぎます、人間なぞ矮小で愚かな存在。いっそ滅ぼしてしまった方がスッキリするでしょう。そうすれば、動物や我等だけの世界になります』

 

「いや俺も人間なんだけど。それに俺が目指すのは共存………ほらっ戻った、戻った」

 

『はぁ………分かりました』

 

 銀竜は光り出すと、人間の姿に戻った。

 

 

「はい、回復薬」

 

 龍人は緑色の液体の入った瓶を銀竜……だった女性に渡す。そして自分も緑色の液体の入った瓶を持ち、生き残りを探し始めた。

 

 

 

 

 

~数十分後~

 

 

「助けられたのは50弱か………」

 

「それでこの状況……どうなさいますか?」

 

 龍人達は現在、銃を持った人間達に囲まれていた。

 

「王に剣を向けるとは……」

 

「てぃ!」

 

 再び銀竜になろうとする女性に手刀を叩きいれる龍人。

 

「痛いです……王。私はえむではないのですが」

 

「黙らっしゃい。殺すなと言ってるだろ………取り敢えず、自衛隊の皆さん……俺が助けた人々を保護して下さい」

 

 龍人は笑みを浮かべてそう言った。

 

 こうして後に「銀座事件」と呼ばれる事件は、一先ず収束したのである。



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EP2 同志現る

 ~都内の高級ホテル~

 

 都内でも高級ホテルの一室に龍人と銀髪の女性がいた。

 

「何時まで此処にいるつもりで?」

 

「ん~……どうしようかね?」

 

 正確には、高そうなベッドの上で銀髪の女性に膝枕されている龍人がいた。

 

「この世界も、向こうの世界も我等をもってすれば天で威張り散らしている神々さえも殺し尽くし、貴方の意のままにできると言うのに…………貴方はどうして何時もこうなのですか?」

 

「だって世界を滅ぼしても面白くないし、皆と楽しくする方が面白いだろう?」

 

 物騒な事を言っている銀髪美女にそう言う龍人。

 

「我等は貴方が居ればそれでいいのですけど………そう言えば、此度は何故この世界に?」

 

「同人誌に、ゲーム、その他諸々を買いに来た筈なのに………何でこんな所にいるんだろうね、本当に………はぁ、落ち着く」

 

 

 

 

 ~伊丹side~

 

 伊丹耀司……年齢33歳。職業:陸上自衛隊 二等陸尉である。趣味:アニメやゲーム……自他共に認めるオタクである。

 

「趣味に生きる為に仕事をしている」と言ってもいい人生を過していた。

 

 銀座事件の際にも同人誌を買いに行ったのだが、結局は中止になった。

 

 そして彼は現在、先の事件の重要参考人である狩矢 龍人と名乗る少年に会いにホテルを来ていた。

 

「伊丹君。よろしく頼むよ」

 

 と満面の笑みで上司に言われたのが地獄の始まりである。

 

 

 ―銀座事件の英雄となってしまった俺は上司達の陰謀により狩屋 龍人に会う事になった。

 

 同人誌即売会は中止され、挙句に増える仕事。

 極めつけは訳の分からない子供の世話と来た。しかも連れの女性はドラゴンになったとか。

 

 女性の方が凄まじくおっかないと聞く、何でも俺より前に接触した自衛隊の鬼教官が股間を抑えて内股で出てきたとか………少年に武器を向けたら、近くに在った車を素手でぶち壊したと言う。無礼を働けば殺されるかも………俺、生きて帰れるかな?

 

 少年の方は温厚だと聞くが………考えても仕方ない。行くか―

 

 伊丹はホテルの一室……スイートルームの扉をノックした。

 

『どうぞ、入って』

 

 中に入ってみたのは、銀髪美女に膝枕される少年の姿だった。彼は思った……「羨ましい」と。

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

「本日はお日柄も………」

 

 挨拶しようとして伊丹は銀髪女性の睨みによって黙ってしまった。

 

「レウ、止めなさい。よいしょっと……えっと初めまして、俺は狩矢 龍人です」

 

 龍人は身体を起こすとそう挨拶した。

 

「えっはい……私は伊丹耀司であります。宜しく……でいいかな?」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

「君の事は何と呼べばいいかな?」

 

 伊丹は大人の対応として、優しい口調で少年に接した。

 

「狩矢でも、龍人でも、いいですよ……見た目はこんなガキですし」

 

「見た目?」

 

「千年以上生きてるけど、中身は永遠の15歳ってね」

 

「千年……」

 

 千年と聞いて顔を引き攣らせた伊丹。

 

「とっ年上だったとは……失礼しました」

 

「別にいいよ、普通で………俺もタメ口、貴方もタメ口でどうだろう?ちょっと待ってね、本を片付けるから」

 

 龍人はそう言うと、ベッドから降りて持っていた本を机の上に置こうとする。

 

 だが伊丹はその本が何なのかを見逃さなかった。

 

「そっそれは!?人気だったが、内容が生々しく教育上良くないからと販売中止になったコミック!?しかも応募で10人しか貰えない筈のサイン本だと!?それにアレは今はもう絶版となった魔法少女の同人誌!?」

 

「これ結構マニアックな物なんだけど……もしかして………妹12人」

 

「シ〇プリ!」

 

「〇ロウカード」

 

「CC〇くら!」

 

「あれ、1つだけだから。選んでくれて、買ってくれた物だから。初めて、パパが」

 

「クラ〇ド!」

 

 龍人は伊丹にゆっくり近づくと、伊丹もまたゆっくりと龍人に近付く。そして互いに固く握手すると、抱擁した。

 

「「同志!」」

 

 銀髪女性が伊丹を殺しそうになったが、直ぐに龍人に止められたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「いやぁ~、まさか……自衛隊に同志が居ようとは。自衛隊って日々鍛えてるってイメージだったから………喰らいやがれ、赤こ〇ら!」

 

「ぁ~良く言われる。自衛隊って外に出るのは休みか任務の時だから……結構いるんだよ、オタクって……クソッ、避けられなかったか。ならキ〇ー!」

 

「へぇ~……ならば!ス〇ー!」

 

 龍人と伊丹は現在、マリ〇カートをしていた。

 

「チッ!」

 

 と後方で銀髪女性が盛大に舌打ちをしていた。どうやら龍人と伊丹が仲良くしているのが気に入らない様だ。

 

「俺、嫌われたのかな?」

 

「そうじゃないよ、あの子は基本的に人間嫌いだしね……ゴール!」

 

「はぁ~……また負けた……はっ!?」

 

「どうかしたかな、同志・伊丹よ?」

 

「俺、仕事しに来たんだった………」

 

「あっ……」

 

 楽しみすぎて、自分が此処に来た目的を忘れていたらしい。

 

「コホン………えっと本日此処に来たのはお話を伺いたく」

 

「ぁ~……そうだったね。どうしようかね………ん?」

 

 龍人が何かに気付き、足元を見ると、そこに穴が開きそこから2匹の猫が現れた。

 

「「にゃん!」」

 

「猫………!?」

 

 そしてその猫達は、四足歩行ではなく2本足で立ち上がったのである。しかも、兜やら鎧を身に着けている。

 

「やぁ、お前達。どうかしたか?」

 

「ご主人、大変ニャ!」

 

「エルベが動きだしたニャ!」

 

「喋った!?」

 

 伊丹は猫達が喋った事に驚いている。

 

「此奴等はアイルーと言う種族で、あちらの世界では希少な種族でな……絶滅しそうになっていた所を助けたら、俺に仕えるって言い始めてな。白い毛並の方が【ネル】、青い毛並の方が【ファニ】だ。

 

 人語を理解してくれる、向こうの言葉と日本語両方を話せる」

 

「向こうの世界には色んな種族がいるんだな……」

 

 と驚いている伊丹。

 

「それにしても、どんな事が起きたか分かってないのか、アイツ等………」

 

「それが帝国が協力を求めたみたいですニャ……」

 

 龍人はそれを聞くと、頭を抱える。

 

「はぁ………やれやれ、同志・伊丹。どうやら門の向こうで動きが在った様だ、お偉いさんにそれを伝えるといい。向こうの国は戦争するつもりで来るみたいだから」

 

「えっ!?」

 

「俺の事は少し置いてといて……あぁ……そうだ、これ」

 

 と伊丹に本と紙を渡した。

 

「俺が、向こうの世界で使ってた言葉の翻訳本だ。もし向こうの連中と話し合うなら使うといい………後、こっちは向こうの世界の国がどう言った物かという詳細だ」

 

「あっありがとうございます」

 

「うん……じゃあ、俺は向こうの世界に行くから……上手く言っておいてね」

 

「えっ?」

 

「じゃあ、帰るよ、レウ」

 

「はい」

 

 銀髪女性が龍人の傍に来ると、彼は地面に向かって玉を投げた。その玉が爆発すると、緑色の煙が出現した。煙は数秒で消える……龍人と銀髪女性の姿も消えていた。

 

「………どう報告しよう、これ?」

 

 と残された伊丹が呟いた。恐らく上司には怒られるだろうなと考えながらその場を後にしたのである。



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EP3 龍の会合

 ~???~

 

 幾つ物、巨大な影が神殿の様な場所に集まっていた。

 

 ―再び門が開いたそうですね、金妃?―

 

 白銀の衣で身を覆っている龍が金竜にそう言った。

 

「えぇ……既に主は向こうに居られます」

 

 金竜は龍人と共に居た時と同じ人の姿に変わった。

 

 ―此度は何処と繋がったのだ?―

 

 雷を纏った角の付いた馬の様な生物が、人に変わった金竜にそう尋ねた。

 

「此度は主の記憶に在った地球と言う星です」

 

 ―それで貴様は王を残してきたのか?―

 

 ―王の心が万が一にでもあちらに惹かれればどうするつもりじゃ?―

 

 金竜の言葉に、赤と青の獅子の様な者達がそう言う。

 

「炎王、炎妃。例えそうで在ったとしても我等が王は、我等を残して行かれる訳がなかろう?」

 

 ―ムゥ……―

 

 ―それで………王は何と言っていた?―

 

 この中でも一際大きな存在感を放つ黒い龍がそう言い放つ。

 

「一先ずは門の周囲を見張る様にと……今、【霞龍】と【天彗龍】が見張っています。手出しは無用だと」

 

 ―此度の門が開いた事で世界はどう動くか……―

 

 ―何やら神々も動き出しているらしい………のぅ【冥晶龍】?―

 

 この中で最も大きな龍が黄金の甲殻と鳥の様な翼を持つ竜へと説いた。

 

 ―ウム……ハーディが炎龍を起こし、何かを企んでいる様だ―

 

 ―神々め、また痛い目を見ないと分からぬのか………―

 

 ―グルルル……また我等が討滅してくれる―

 

 ―捨て置け【暴竜】【獄狼竜】。王はそれを望んでは居られない―

 

 ―……やるか?―

 

 ―フン……我は一向に構わんぞ―

 

 竜達の間で火花が散っている。

 

 ―ボンッ!―

 

 竜達の中心に緑色の煙が吹き出し、龍人と銀髪女性が現れた。

 

「ふぅ……アレ、なにこの空気?」

 

「金の……何か在ったのか?」

 

「何が在ったか知らんが、此処で喧嘩をするなよ?」

 

 龍人がそう言うと、竜達は頭を垂れる。

 

「取り敢えず……俺は一眠りするよ。何か在ったら起こしてくれ……ネル、ファニ、久しぶりに一緒に風呂入るぞ~」

 

「「はいニャ!」」

 

 龍人はアイルー達と共に奥へと行ってしまう。

 

「王~、私も御伴を!」

 

「では私も」

 

 銀竜と金竜がその後を着いて行ってしまう。竜達はそれを見て、互いに顔を見合わせる………そして竜達が光に包まれ、人の姿に変わった。

 

「では我も」

 

「余も」

 

 人となった竜達は揃いも揃って龍人の元に向かおうとするが入口の前で再び喧嘩を始めた。

 

 ―炎妃……醜い争いだな―

 

 ―そうじゃのぅ………―

 

 残った獅子に似た者達が言い合っていると、この中で最も巨大な龍は欠伸をしながらその場に座り込んだ。

 

 ―どれだけ時が経とうと、この光景は変わらぬのぅ………ククク―

 

 ―翁よ、笑っている場合か……最終的に止めるのは我等ぞ―

 

 ―いいではないですか、炎王………これはこれで楽しい物です―

 

 ―お前まで言うか……はぁ~―

 

 どうやら赤い獅子はどうやら苦労人の様だ。

 

 

 

 

 

 ~アルヌス ゲート周辺~

 

 日本に通じる門の在るアルヌスの丘では現在、自衛隊が駐屯地を建設していた。

 

 エルベ藩王国がアルヌスへ侵攻してきたが龍人の情報が在った為、直ぐに準備を整えた自衛隊が撃退。エルベ藩王国側は凄まじい被害を受けた。

 

 その様子を高い山の上から見ていた存在が居た。

 

 銀色の鱗に包まれた龍が真っ直ぐ、建設されている六芒星型の要塞を見ていた。

 

 ―弱い翼龍とは言え、人間がアレ等を一方的に倒すとは―

 

 自衛隊とエルベ藩王国との戦いを見ていた龍はそう呟く。すると彼の周囲に霧が出てきた。

 

 ―霞か?―

 

 銀色の龍がそう言うと、隣に巨大な紫色のカメレオンの様な龍が現れた。

 

 ―今の……見た?―

 

 ―あぁ……人には過ぎた武器だな。しかし我等が王の武器に比べれば劣る―

 

 ―うん………多分、僕達には効かない―

 

 ―それに空を飛んでいるアレ………古代龍よりも早いが我が速さにはついては来れん。それにアレの出す騒音と匂いは好きに慣れそうにない。王の命でなければ今すぐにでも落としている所だ―

 

 銀色の龍は空を飛んでいる戦闘機を睨みながらそう言った。それを聞くと、紫色のカメレオンの様な龍は何処かへと歩き出す。

 

 ―何処へ往く?―

 

 ―少し……見てくる―

 

 ―そんな命は聞いてないぞ?―

 

 ―敵の内情視察……王様きっと知りたがる―

 

 ―何故だ?―

 

 ―ジエイタイと言う彼等の持つ武器………王様の部屋……の本やげぇむでも出てた……その度に良いと呟いた……僕取ってくる―

 

 ―それは盗みだろう?―

 

 ―1つくらい大丈夫だと思う……バレなければ罪じゃない……王様喜ぶ―

 

 ―………王が喜ぶなら……私も行こう―

 

 ―ん……―

 

 こうして銀色の龍と紫色の龍は王が喜ぶ顔を見たいが為に動き出したのである。



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EP4 亜神と王

 ~荒野~

 

 焚火を囲んでいる男達。彼等は先のアルヌスに出兵した騎士や領主がいなくなった影響で活発化した盗賊たちである。

 

 民衆達が抵抗する手段をないのを良い事に彼等は好き勝手に暴れていた。

 

「コダ村か。炎龍が出たって言うんで逃げ出てんのは羊の群れか」

 

 彼等は次の標的について話し合っていた。

 

「はぁい、おじサマ方ぁ。今宵は生命をもってのご喜捨、どうもありがとぉ………主神にかわってお礼を申し上げますわぁ」

 

 斧を持ったゴスロリ少女が突然現れて、そう言った。

 

「あっ?なんだ、てめぇ」

 

「おい、待て!?……間違いねぇ、アレはエムロイの神官服だ」

 

「って事は死神ロゥリィかよ!?」

 

 これまで人を殺し、女を凌辱していた彼等はこの少女を恐怖していた。

 

「にっ逃げろぉ!!」

 

 1人が逃げ出そうとし、他の者達もそれに合わせて逃げ出そうとした。その時……

 

 ―グオオォォォォォォォォォォォォォオオオオォォォォ!!!!―

 

 耳を貫く咆哮をが聞こえてきた。

 

「あらぁ?何かしら?」

 

 ロゥリィと呼ばれた少女は咆哮のした方向を見ると、ドスッ!ドスッと言う凄まじい音と共に何かが近付いてきたのを見た。

 

「アレは……」

 

「なっなんだありゃ?!」

 

「ばっ化物だ!」

 

 現れたのはドス黒い緑色に血が乾いた黒ずんだ気味の悪い鱗、異常に発達した巨体を支える筋肉の塊の様な脚。大木よりも巨大な尾、刺々しく、血で赤黒くなった鋭い凶悪な顎。圧倒的な殺意と力を孕んだその眼光。

 日本側の人間が見れば「ティラノサウルス」に似ていると言うだろう。

 

「なっ何よ……此奴……いや、待って……まさか」

 

 盗賊達から怖れられたロゥリィと呼ばれる少女がこの龍を見て、驚いている。

 

「ふぁ~……何だ、イル……人が気持ちよく寝ていたのに。咆哮しやがって、鼓膜破れちまうじゃねぇか」

 

 欠伸と共に巨龍の上で何かが動く。

 

『王様、すいません。つい面白い事になってたので』

 

「……ん?」

 

 巨龍の上にいたのは人間……青年と言うには少し幼い顔付の少年だ。彼は龍の上から周囲の光景を見た。

 

「あらぁ……お久しぶりねぇ、龍人」

 

「げっ……ロゥリィ」

 

「久しぶりに会ったに『げっ』はないんじゃない?」

 

「そっそうですね………それよりもこれはどう言う状況?」

 

「このおじサマ方は盗賊……主神がおじサマ方の命を欲したから私は此処に来たのよぉ」

 

「ふぅん………」

 

 龍人はそれを聞くと、目を細めた。そして巨龍から降りると、首を回す。

 

「イル……このおじサマ達に一方的に奪われる痛みを教えてあげなさい。半分はロゥリィに残す様に」

 

『分かりました』

 

 巨龍はそう言うと、盗賊達を見降ろした。

 

 ―グオオォォォォォォ!!!―

 

 巨龍……暴龍・イビルジョーが咆哮を上げると盗賊達に襲い掛かった。

 

「いっいぎゃやぁぁぁぁ!!!」

 

「ぐわぁ!?うぎぃぃぃぃぃ!!!」

 

「ああぁぁぁぁっぁ!!!」

 

 一方的な暴力により盗賊達は次々に蹂躙されていく。

 

「たったすけ……」

 

 ―グルルル―

 

 イビルジョーが脚で踏んでいる男が助けを乞う。

 

『お前達だって楽しんでいただろう?』

 

「えっ?」

 

『向こうの岩陰倒れていた女達……アイツ等を襲い、一方的に嬲って楽しんでいただろう?』

 

 だからオレも楽しむよ……お前達で―

 

 男はイビルジョーの目が本気で楽しんでいるのが分かった。それがとても恐ろしかった。

 

「やっやめ」

 

 グシャと音を立てて、男は人生の幕を閉じた。

 

「はい!終わり!後はロゥリィに任せるよ」

 

「あらぁ……ちゃんと残してくれてありがとぉ」

 

「じゃ、そう言う事で」

 

 残りの盗賊はロゥリィに任せ、その場を去ろうとする龍人。彼女と何か在ったらしい。

 

「あらぁ……話は終わってないわよぉ」

 

「……」

 

『王、面倒ならオレが喰いますけど?』

 

「いや……いい。はぁ……分かったよ。待ってるからさっさと終わらせろよ」

 

 龍人はそう言うと、イビルジョーに寝る様に言う。イビルジョーはそれに従い、その場に寝転ぶ。龍人はイビルジョーを背もたれにする様に座り込んだ。

 

「じゃあ……再開しましょうか?」

 

「ひぃ!?」

 

 残った盗賊達は此処でその命を散らせるのであった。

 

 

 

~数時間後~

 

「朝か……」

 

「終わったわねぇ……もう少し早ければ助けてあげられたんだけどねぇ」

 

 ロゥリィの目の前にある3つの墓、これは盗賊達に襲われた家族の物だ。

 

「あぁ……」

 

 龍人はそう言うと懐から水晶の棒を2本取り出すと、それを打ち合わせた。

 

 ―キィーン!―

 

 と金属をぶつけた様な音がすると、墓から3つの光が現れた。

 

「せめて……来世では幸せになれる様に」

 

 3つの光はそのまま天へと昇って行った。

 

「ねぇ……それ【冥魂石】じゃないの?」

 

「うん……」

 

「冥界の宝物………なんで、貴方が持ってるのよぉ?」

 

「まぁ気にするな………それより、俺に何の用だ?」

 

「ちょっとアルヌスに連れて行って欲しいのよぉ。いいでしょ?」

 

「まぁいいけど……」

 

『亜神風情が、王様にタメ口………殺すぞ』

 

 イビルジョーがロゥリィに向かい凄まじい殺気を放ちながらそう言う。

 

「ぁ~いいの、いいの。此奴とは700年前からの付き合いだから」

 

『しっしかし、王様!』

 

「いいから……取り敢えず、お前は戻れ」

 

『えっ?!』

 

「アルヌスは門が在って、ナズ達の報告では自衛隊が展開してる。お前に乗って行くと大変な事になる……お前、攻撃されたら我慢できずに仕返しするだろう」

 

『うっ……分かりました』

 イビルジョーはそう言うと、足元に魔法陣が展開しその場から消えた。

 

「ねぇねぇ……さっきのは何て龍なの?」

 

「アイツは【暴龍・イビルジョー】……古龍の中でも最も暴れん坊だ。まぁ……仲間だと認識すれば、仲間の為に動く奴でな……根はいい子なんだが、加減を知らないんだ」

 

 それを聞くと、ロゥリィは顔を真っ青にさせた。

 

「じゃあ……行くとするか」

 

 顔を真っ青にさせているロゥリィを抱える。

 

「ちょ……ちょっとぉ」

 

「空を飛んだ方が早い」

 

 龍人がそう言うと、2人は風に包まれ、空へと消えてしまった。



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EP5 狩人VS炎龍

 ~伊丹side~

 

 

「隊長……これからどうするんですか?」

 

「取り敢えず、安全な所までは送り届けないと仕方ないだろう」

 

 此方の世界……日本で言う【特地】に派遣された伊丹は第三偵察部隊隊長となり、部下達と共に偵察に来ていた。

 

 途中で1本首のキング〇ドラではなく……龍に襲われたらしいエルフの里を発見。伊丹が偶然、発見したエルフの少女を保護した。近くに在ったコダ村で龍の事を聞いた所、【炎龍】と呼ばれる災害の様な存在である事を知った。

 

 村の村長からの話では炎龍は本来、50年先まで眠っている筈だったのだが何故か起きて、()を求めて飛び回っている。人やエルフの味を知った炎龍はまた人を襲うらしい、丸ごと逃げ出した。

 

 伊丹はその村人達を放っておくことが出来ず、安全な場所まで連れて行くつもりで在ったが……どうするかと考えていた。

 

 途中で村人の荷車が動かなくなったり等のトラブルは在ったものの、何とか此処までやって来た。

 

「はぁ~……どうするかね。本当に」

 

 そう呟きながらふっと、車の窓から外を見てみる。

 

「それにしても、こっちの太陽……向こうの世界より暑いんじゃないか?」

 

 あまりの暑さにそう言い、空を見上げる。雲1つない、晴天である。だが彼の目が捉えた。巨大な赤い竜の姿を。

 

「ドラゴンだ!」

 

「二尉!ドラゴン出現!隊列後方が襲われています!」

 

 現れた炎龍。伊丹はコダ村の村長の言葉を思い出した、「人やエルフの味を覚えた炎龍はまた人を襲うと」。

 

「クソッ!こんな開けた場所で……全員、戦闘準備!」

 

 伊丹は部下達に指示を出していく。そしてどうにか村人達から自分達に注意を向けさせようとする。

 

「怪獣と戦うのは自衛隊の伝統だけどよ!まさかこんな所でおっぱじめることになるとはな!倉田!走れ走れ!」

 

 伊丹達の部隊が64式小銃を撃つが、炎龍の鱗は堅牢で銃弾が全て弾かれている。炎は車の機動力を活かして避けているものの、決定的な攻撃がない。

 

「隊長!全然効いてないみたいですけど!?」

 

「パンツァー用意しろ!」

 

 攻防を始めて早5分、部下に別の武器を用意する様に指示を出す。だが伊丹は異変に気付いた。つい先程まで晴れていた空が暗雲に覆われている事を。

 

 ―ガアァァァァァァ!!!―

 

 咆哮と共に暗雲の中から、凄まじい水流が伊丹達と炎龍の間を別った。

 

「なんだぁ!?」

 

 この場にいる全員が何が起きたのかと思い、空を見上げてみる。

 

 暗雲から現れたのは、白い羽衣を纏った様な姿の龍だった。白い龍は伊丹達を庇う彼の様に舞い降りる。

 

 ―グオオォォォォォォ!!!―

 

「俺達を……護ったのか?」

 

 白い龍が咆哮すると、炎龍はビクッ!と身体を震わせた。

 

 《アマツ!風の護りを!》

 

「この声、何処かで」

 

 伊丹は先程の声に聴き覚えがあった、つい最近の話だ。伊丹は車を動かす様に指示する、そして白い龍の頭の上を見た。

 

 そこに見知った顔の少年がいた。

 

「良し……『赫醒刃リクへスト』」

 

 そこに居たのは、銀と黒をベースにした双剣を持った龍人の姿だった。

 

「行くぞ!」

 

 龍人はそう叫ぶと、白い龍の頭から飛び降りる。地面に着地した瞬間、凄まじい速さで駆け出した。

 

 ―ガアァァァァァァ!!!―

 

 炎龍は自身に向かってくる人間に向かい咆哮する。

 

 炎龍は大きく息を吸い込み、向かってくる人間に向かい炎を吐く。

 

 その瞬間、炎龍は勝利を確信する。所詮、小さき人間()だ。エルフの里では生物共通の弱点である目をやられたが、自分の息吹()をくらい生きていた物はいない。後の問題は目の前にいる白い龍……アレは駄目だ。自分達とは次元が違う、何としても逃げ延びなければと。

 

 だが炎龍はその考えが愚かである事を知る。

 

 

 

 

―斬―

 

 

 炎龍の炎が斬り裂かれた。

 

 ―?!―

 

 そこには双剣を構えた人間()がいた。

 

「どうした、自分の炎が防がれた事がそんなに不思議か?」

 

 ―グゥゥゥゥ―

 

 目の前の人間が何を言っているかは分からない。だが目の前にいる人間はこれまで人間()とは違う。

 

「お前も自然の摂理の中で生きている……生きていくには食わなきゃならない。さっきエルフの里を見て来たが、喰うだけでなく、他にも多く殺してただろう?」

 

 龍人は理解していた、生きていく為に、子を育てる為に生物を狩り食事をしなければならない。ならば、仕方ないと考えていた。死んだ者達は不幸であった……せめて亡骸を弔ってやろうと考えていた。人間も生きていく為に他の生物の命を奪う……逆に人が被食者になったとしてもそれは自然の摂理の中にあるからだ。

 

 だがこの炎龍はエルフの里で食事以外にもエルフ達を殺していた。どんな獣であれ、生きていくのに必要なだけ狩りを行い、必要がなければ殺さない。獰猛な獅子でさえも満腹であれば、目の前に獲物が通ったとしても手を出さない。だからこそ自然の中では捕食者と被食者のバランスが取れるが、それを崩せば生態系が崩壊してしまう可能性がある。

 

「よって俺がお前を狩る!」

 

 ゾクッと炎龍は身を強張らせる。白い龍だけでなく、目の前の人間もまた危険だと本能が感じ取った。炎龍はその場から逃げ出そうと翼を広げるが

 

 

「【THE WORLD】」

 

 龍人がそう呟いた。次の瞬間、炎龍の身体に無数の傷が出来ていた。そして龍人が炎龍の頭の上に乗っていた。

 

 ―!?―

 

「次行くぞ」

 

 龍人は炎龍の頭からジャンプすると、尻尾の方に向かいに落ちていく。そして回転しながら尻尾へと斬撃を放つ。

 

【剣技:天翔空破断】

 

 斬撃により、炎龍の尾が切断された。龍人はそのまま地面に着地するが、少しよろめいた。

 

「おっとと………久しぶりにこれを使うと眼が周る」

 

 どうやら回転し過ぎで目が周った様だ。

 

 ―グォォォォォォ!―

 

 炎龍が咆哮と共に龍人と襲い掛かろうとするが、振り返った龍人に睨みつけられ動きを止めた。

 

 《ドオォォォン!》

 

 その動きを止めた隙に伊丹の部下が放ったパンツァーファウストにより炎龍の左腕が吹き飛んだ。

 

 ―グガァァァァァァ!―

 

 これには堪らず炎龍は逃げ出した。

 

 龍人は追い掛けようとするが、周囲を見回した。白い龍の後方には無数の怪我人や瀕死の者達がいる。今、追い掛ければ確かに仕留める事は可能だろう。

 

 しかし自衛隊に瀕死の者達まで助けれるだけの医術はあるか?病院が近いならば未だしもそんな物が在る訳もなく、持っている装備にも限界がある。

 

「アマツ!風の結界を解け!お前も人化して手を貸せ!」

 

 白い龍にそう言うと、風の音と共に何かが消えた。

 

 どうやら、白い龍の力で被害が村人達に行かない様に風の幕を張っていた様だ。白い龍が光り出すと、その姿を白い羽衣を纏った白髪の少女へと姿を変えた。

 

「はい、我が王よ」

 

「ん?……同志・伊丹じゃないか!」

 

 龍人が急いで村人達の元へ向かおうとすると、車から顔を出している伊丹を見つけた。

 

「あっどうも……」

 

「取り敢えず話は後だ、今は怪我人の治療が先!はい、これ!」

 

 龍人は伊丹に瓶の入った大きな袋を渡した。何処から出したのだろう?

 

「これは?」

 

「俺特製の回復薬だ。飲ませるなり、傷口にぶっかけるなりすればいい。俺は瀕死の者の治療をする、手伝ってくれ」

 

「あっ…あぁ」

 

「アマツ!怪我人を一箇所に!ロゥリィ!瀕死の者がいたら、直ぐに教えてくれ!救えるなら何とか命を繋ぐ!」

 

「御心のままに」

 

「分かったわぁ」

 

「多少疲れるが、命には代えられんか」

 

 龍人の身体を黄金のオーラが覆った。

 

「時間との勝負だ!動ける者も手伝ってくれ!」

 

 次々に指示を出していく龍人。伊丹達も唖然としていたが、命を救う為に動き始めた。

 

 

 

 

 ~第三偵察部隊side~

 

 

「すっ凄い……」

 

「傷が治っていく」

 

 伊丹とその部下達は龍人から渡された回復薬の凄さに驚いていた。龍人の指示通り、怪我人に飲ませたり、傷口に掛けたりしている……すると傷が数秒で完治するのだ。

 

 龍人に至っては回復薬を飲ませる事無く、怪我人に触れるだけで怪我をしている。瀕死の状態でも直ぐに生存可能な域まで回復している。

 

「何とか……助けれたか」

 

 龍人と彼の齎した回復薬のお蔭でもっと犠牲者が出ていた所を100人弱に抑える事ができた。

 

「ふぅ………何とかなったか」

 

「御疲れ様です、我が王よ。怪我人はほぼ完治……死人は100人程かと」

 

「それでも100人か………もう少し早ければ、助けられたかな?」

 

 龍人は沈んだ表情でそう言う。

 

「戦争なら仕方ないが……今回はそうじゃない。だからこそ残念だよ」

 

「王よ……僭越ながら申し上げます。王がいなければもっと被害が出ていた物だと思います。それに王の御力で本来死んでいた者も死の淵から戻りました」

 

「だと良いのだけどね……」

 

「そっちの龍の言う通りよぉ………生死はそれこそ天の采配による物よぉ。本来はもっと死人が出ていた筈なのに、貴方はそれを変えたじゃない」

 

 白い龍とロゥリィにそう言われると、龍人は顔を上げた。

 

「ふぅ………せめて助けられなかった者達を弔うとしよう」

 

 龍人は気持ちを入れ替えると、伊丹達の元へ向かった。




細かい設定は設定集で書きます。


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EP6 えっ脅し?いいえ、O☆NE☆GA☆Iだよ

 ~夜~

 

 龍人とロゥリィを見て村人達が彼等を崇めたりと色んな事があったが、滞りなく埋葬を終えた。

 

 祈りを奉げる皆を見ながら龍人は懐から、以前も出した金の水晶の棒を取り出し、打ち付けた。

 

 ―キィーン―

 

 すると、墓より光の球が現れる。

 

「これは?」

 

「光の球?」

 

 伊丹とその部下達がその光景を見て驚いた。

 

「これは今回の死者の魂だ……俺がこの石を使って魂を呼び出し、迷わず冥府へと行ける様にしただけだ。この魂達は天へと昇って行く」

 

「魂……」

 

 分かっていない伊丹達に龍人がそう説明する。

 

「せめて来世では、此処とは違う世界・時代で在っても……君達が幸せで在ります様に」

 

 龍人がそう言うと、光球……魂達は天へと昇って行った。

 

 

 

 

「それで村長はなんと?」

 

「神に委ねるらしいよ」

 

 龍人は伊丹達と村長の通訳をしていた。村長は村人達の大半を連れて行き、彼等は近くの親類の元へと向かうらしい。しかし、此度生き残った者達の中で家族を失った子供や老人達、またその他の理由で25人をどうするかを話し合っていた。

 

 村長たちも自分達が薄情ではあるが、彼等も自分達が生きていくのに精一杯なのである。そして、村長たちと別れた。

 

「さてどうしよう……」

 

「どうしましょう……後、龍人君は出来れば俺達と来てくれるとありがたいのだけど」

 

「まぁ……いいけど。あっ……同志・伊丹。この者達の保護は可能か?」

 

「あっ……まぁ、そうするつもりだけど。上の人間が何と言うか」

 

「ならば、俺が君達に着いていく条件として彼等の保護を要請すればどうだろう?」

 

「……成程!上の人間も龍人君の事は知っているから、君からの条件だと言えば嫌な顔をしないだろう!」

 

「もし嫌な顔をしたら、俺が国会に攻め込むと言えばいいよ」

 

「そりゃいい!ハハハ……冗談だよね?」

 

「さっきも俺の力見たと思うけど……その気になれば国の1つや2つ、5分あれば滅ぼせるよ?」

 

 満面の笑みで言う龍人に顔を引き攣らせる偵察部隊。

 

「それでどうだろう?」

 

「喜んで、上の人間を説得させて頂きます!他の皆も協力してくれるよな?!」

 

 龍人の提案を受けた伊丹。部隊の皆も凄い勢いで首を縦に振っていた。

 

 

 

 

 ~アルヌスの丘 自衛隊駐屯地~

 

 

「それで……伊丹、どういうつもりだ?」

 

「どうと言われましても……難民を保護してきました」

 

「そうじゃない!あの【龍】だ!」

 

 伊丹の上司の檜垣三佐へと報告したのだが……三佐は外にいる風を纏う巨大な龍を指差した。

 

「えっと……狩矢龍人氏の使い魔的な存在らしく、彼の龍の風に乗って帰って来た訳ですが………」

 

「何処のファンタジーの世界だ!?……異世界だったか、此処は」

 

「保護しないなら、あの龍が暴れるそうです。因みに本人曰く、国の1つや2つは5分も在れば滅ぼせるとか」

 

「……出来れば、その彼にあの龍をどうにかする様に伝えてくれたまえ。私は陸将に報告してくる」

 

 と檜垣三佐は頭を抱えてそう言った。伊丹は本当にすいませんと心の中で謝罪した。

 

 

 

 

 

 

 

「と以上が報告です」

 

「……それであの龍は暴れないんだな?」

 

「保護して貰えるなら、狩矢龍人は此方にも協力してくれるとの事です。実際に伊丹に此方の言葉の翻訳本を渡しているので信憑性が高いかと……唯、協力しないならあの龍が暴れそうです。因みに彼の者は世界の1つや2つは5分も在れば滅ぼせると」

 

 何やら話が盛られているが、眼鏡の人物・柳田二尉がこの駐屯地のトップ狭間陸将へと報告する。

 

 内容を聞く限りは完全に龍人が脅しているのだが………うん、受け入れて貰わねばならないので仕方ない?かな。

 

「この世界での意思疎通に関しても、情勢についても我等は知る必要がある。あの少年の協力が得られるならいいか」

 

「それに難民保護なら上の方々も嫌な顔はしないでしょう」

 

「取り敢えず、あの龍……何とかして貰わないとな」

 

「ですね」

 

 

 

 

 

「と言う訳で龍を何とかして欲しいんだけど」

 

「ちょっとインパクトが強すぎたかな?……まぁ受け入れてくれるならありがたい」

 

 ―グルルルルル―

 

 龍人が白い龍に視線を向けると、龍は頷いて再び人の姿へと変わる。

 

「王、宜しいので?」

 

「うん、保護してくれるって……じゃあ、俺はお偉いさん達と話し合いかな」

 

「では私も御一緒に」

 

 龍人と白い龍は伊丹について行く。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、此方に全面的に協力して頂けると?」

 

 龍人は狭間陸将、柳田二尉と話し合っていた。龍人の後ろには無表情の白い龍がいる。

 

「然り、貴方達が友好的にこの世界との交流をすると言うのであれば俺は協力を惜しまない。

 

 これでも貴方達よりは長生きで色んな種族にも精通しているし、必要であればそちらのお偉いさんとの会談にも応じよう。

 

 しかし帝国が行った様な一方的な攻撃をしようとするなら………」

 

「もっ勿論、我々は平和的に此方の世界との交流を図るつもりです」

 

「まぁ貴方達がこの世界の資源を欲しているのは分かっています。取るのは構いませんけど、あまり地球みたいに取りすぎは止めて貰いたい。

 

 後、此処に色々と書いてますんで読んどいて下さい」

 

 龍人が紙を取り出すと、狭間陸将そこには色々な条件が書いていた。

 

 ①資源を採取する際はその物と量を報告すること。

 

 ②此方で活動する時の移動や戦闘手段で車・戦闘機等を使うのは構わないが、あまり使わない様にすること。

 

 ③無駄に動植物を乱獲しないこと。

 

 ④特地の住民とは平和的に交渉すること。但し相手が好戦的な場合はそれなりの手段を取っても問題ない。

 

 等、全部で10項目程の条件が書かれていた。

 

「これを守って頂けるなら俺は少なくとも、貴方達と敵対しないつもりだ。異世界同士の交流はこれまでも在った事だし、それを止めるつもりはない」

 

「これまでも門が開いた事が在ったのですか?」

 

「あぁ、在ったよ。まぁそれは後々説明しよう……もっとも守って欲しいのは最後の項目だね」

 

 狭間と柳田は最後の項目に目を向ける。

 

 ⑩門に関する研究などは決して行わない事。

 

 と書かれていた。

 

「門は自然に開き、自然に閉じる。それを止めてはならない」

 

「それは何故ですか?門がこのまま開き続ければ末永く交流していく事が可能ではないですか?」

 

 柳田はそう言った。確かに、交流が長く続くのはいい事だと思える。

 

「かつてそう言った文明が在りました。でも門に手をだした事で、両方世界で天変地異が多発。此方の世界も、その文明は滅び、海の底へ沈みました」

 

 それを聞くと柳田と狭間がどうしてそうなったのか分かっていない様だ。

 

「本来、何の接点もない物同士が繋がるという事は普通では在り得ない事…………まぁ簡単に説明しましょうか」

 

 龍人はそう言うと、周りを見廻した。すると、狭間の机の上に置いていた2つの消しゴムとペンを見つけた。

 

「あの消しゴムとペン、お借りしてもいいですか?」

 

「えっ………えぇ」

 

 龍人は礼を言いながら2つの消しゴムを手に取る。

 

「此方が地球、此方がこの星としましょう」

 

 そう言いながら、ペンで片方の消しゴムに地球、片方に此方の星と記入した。それを見て狭間と柳田はうんうんと頷く。

 

「宇宙創生時から幾つ物の世界が誕生した。そしてそれは並行して存在し続けている……今、この時もね。

 

 それは本来、交わる事はないが……何がの弾みで近付く事がある。それにちょっとした力を加えると」

 

 離していた星に見立てた消しゴムを近づけ、接触する。

 

「こうして接触する事で門は開く……本来で在れば、これはそれぞれ自分達の流れに戻って行くんだけど」

 

「何か問題が?」

 

「このアルヌスにある【門】は何処ぞの誰かが門が消えない様に作った装置だ………これが開き続けていると」

 

 龍人は2つの星に見立てた消しゴムを握り潰した。

 

「「………」」

 

「まぁ……こうなるね」

 

「………でっではいずれは2つの世界が」

 

 世界の崩壊と言う衝撃の真実を告げられた事で狭間も柳田も動揺している。

 

「そう……それがどの程度の期間で起こるかは分からないけどね。それなりに前触れはあるだろうから………それが起きたらどうにかしないとね」

 

「どうにかする……とは?」

 

「門の破壊……または力尽くで門を閉じる」

 

「閉じる事が可能なのですか?」

 

「門を壊さずにと言うのは不可能ではない………でも自然現象……かは怪しいけど、自然に起こる事を人為的に起こすのはいい事じゃない(まぁ俺は門とか関係なしに行き来するけど)」

 

 柳田と狭間はこれは完全に自分の判断できる話ではないと思い、2人は沈黙する。

 

 結局この場での話は上の人間へと持っていく事になり、詳しい話は龍人が説明するという事で話が終わった。



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EP7 狩人、剥ぎ取る

 ~アルヌスの丘 陸上自衛隊 駐屯地~

 

「堅苦しい話終わった~」

 

 龍人と白き龍は話が終わると助けたコダ村の者達の元へ向かった。そこで、伊丹達が何やら話し合っていた。

 

「何か在ったか?」

 

「「うひゃぁぁぁ!?」」

 

 いきなり話しかけられた事で伊丹の部下達が驚いた。

 

「……ちょっと傷付いた」

 

「ぁ~すまない……部下が」

 

「いや……まぁ、いきなり話しかけた俺も悪いし。そういや……そっちの人達には自己紹介してなかったな。俺は狩矢 龍人、見た目はガキだけど見た目以上に生きてる。まぁ宜しくね、でこっちが」

 

「私はアマツマガツチと申します。知っておられると思いますが、龍です。主に風、水、天候を操ります。もし、我が王を侮辱するのであれば、相手が神だろうと王だろうと………存在ごと消します」

 

 ニッコリと笑みを浮かべるアマツマガツチ。それを見た、伊丹とその部下達は顔を真っ青にさせた。

 

 それから龍人は伊丹の部下……桑原、黒川、栗林、倉田達と自己紹介をすると何を話していたのかと聞いた。

 

 どうやら、保護したコダ村の者達について話し合っていたらしい。一応、彼等は保護と言う名目で此処に居るがいずれは自活しないといけない。

 

「伊丹、少し話がしたい」

 

 声のした方向を見ると、そこには水色髪の少女とエルフの少女、ロゥリィが立っていた。

 

「誰だ?」

 

「私はレレイ・ラ・レレーナ、ルルドの一族。賢者カトーの弟子」

 

「私はコアンの森、ホドリューが娘、テュカ・ルナ・マルソー」

 

「レレイとテュカ……俺は龍人だ」

 

「貴方に尋ねたい」

 

 レレイが龍人に聞きたい事があるらしい。

 

「そちらの女性……龍だった。でもあんな龍は見た事も聞いた事もない、古代龍でもない。気になる」

 

「アマツマガツチって言ってたな」

 

 伊丹が先程、聞いた名を呟いた。

 

「天龍のアマツマガツチ様?!」

 

 アマツマガツチの名を聞いた瞬間、テュカが驚いた様に声を上げる。

 

「聞いた事ない」

 

「エルフの神話に出てくる天の神様よ。アマツマガツチ様は、エルフと精霊達の懸け橋となって下さり、精霊魔法を授けて下さったと言われているわ」

 

「へ~……そうだったんだ、アマツがねぇ」

 

 龍人はアマツマガツチの方を見る。

 

「たっ唯………この世界で戸惑っていたエルフ達を憐れに思って少し手を貸しただけです」

 

「お前らしいと言えばお前らしいが……」

 

「やっぱり」

 

 テュカはアマツマガツチの前に跪き、祈り始めた。

 

「じゃあ………貴女は神様?」

 

「神話に出てるならそうなるな………まぁこの世界では神なんて珍しくも何ともないけど。取り敢えz「お兄さま~!」ぐぼぉ?!」

 

 龍人が何かを言おうとした時に、声と共に彼に何かが飛び込んできた。飛んできた何かは彼の鳩尾に直撃し、そのまま倒れた。

 

「なっなんだ!?」

 

「うごごっ……」

 

 苦しそうに起き上がる龍人は自分の腹の上を見る。そこには紫髪の幼女が居た。

 

「ナズチか……そういや、監視する様に言ったんだったか」

 

「お兄さま……の匂い……久しぶり……くんくん……はぁ」

 

 幼女に抱き付かれて、押し倒され、匂いを嗅がれて………端から見ると如何わしい、此処が日本なら確実に警察を呼ばれるだろう。

 

「毎度言ってるけど全力で飛び込んでくるな、鎧を着けてるなら未だしも生身でされると俺も痛い」

 

「ごめんなさい」

 

「まぁ次から気を付けなさい………それで何で此処に?」

 

「監視と見回り……お兄様の姿見えたから……我慢できなかった」

 

「そうか」

 

 龍人はそう言いながら、幼女を抱えて立ち上がり、彼女の頭を撫でる。

 

「ねぇ……龍人……その子はだぁれ?」

 

 龍人が振り返ると、青筋を浮かべているロゥリィ。

 

「誰だか知らないけどぉ……私と被ってるじゃない!」

 

「ようz………コホン、可愛い所かな?」

 

 幼女と言おうとしたが、物凄い勢いで睨まれたので言い直した龍人。

 

「お兄様……この『小さいの』なに?」

 

 とロゥリィを指差してそう言った。ロゥリィに青筋を増やしそうな程の怒りが込み上げてくるが、龍人に抱えられている幼女を見て、危険を感じ直ぐに下がった。

 

「ッ………そう……そう言うこと……」

 

「スンスン………亜神………お兄様、コレと知り合い?」

 

「あぁ、数百年前にちょっとな。なんで、喧嘩はしないでくれよ。後、自己紹介」

 

「……霞龍……オオナズチ」

 

 そう言うと、オオナズチは龍人の胸に顔を埋めた。そして一瞬だけロゥリィの方を振り返ると、ニヤッと笑みを浮かべ再び龍人に甘えだした。ロゥリィは悔しそうに歯軋りしている。

 

「聞いた事のない伝説の龍……その龍と親しくしている貴方は何者?」

 

「ん~ちょっと長生きな人間だよ」

 

 レレイの問いにそう答えるが、彼女はどうやら納得していないらしい。

 

「それで伊丹に聞きたい事があるらしいがなんだ?」

 

「えっと、翼竜のこと」

 

 レレイによると、自衛隊と戦ったエルベ藩王国と戦った際に多くの翼竜が死んだ。その翼竜達の鱗は、鎧などに使われるので高値で取引できる。なので、それを取っていいかと聞きに来たらしい。

 

 伊丹は上の人間に掛け合い、サンプルはもう回収し、在っても射撃訓練の的にするだけなので別に構わないと言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……凄い腐敗臭」

 

 戦いから日が経っている為に、翼竜達の腐敗もかなり進んでいた。保護した者達、自衛達の人間達で、匂いを我慢しながら翼竜から鱗や牙、爪を取ろうとするが、難航していた。

 

「剥ぎ取りじゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

 唯1人を除いて。龍人は腰に装備されていたナイフで、翼竜を解体していた。

 

「あのナイフどうなってんの?」

 

「さぁ?」

 

 翼竜の鱗は12.7の徹甲弾で何とか貫通するくらいの強度を誇る。簡単に言うなら、普通の機関銃では歯が立たず、重機関銃や対物ライフル銃と言うものでないと効かないと言うことだ。それを銃で貫通できないのを、ナイフで解体するなんて普通は在り得ないのだ。

 

 ―ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!―

 

「すっげぇ速いね」

 

「速いですねぇ」

 

 伊丹と倉田はそれを見て唖然としていた。龍人は凄まじい速度で翼竜から剥ぎ取っている。

 

 どれくらいの速度かと言うと……普通の人間が翼竜1体を解体するのに約1時間ちょっと掛かるのに対して、龍人は2分も掛からずに1体を解体している。

 

「高速剥ぎ取り!剥ぎ取りは久しぶりだぜ!!」

 

 かなりテンションが上がっている様だ。龍人の活躍で数時間で作業は終了した。

 

 

 

 

 ~簡易風呂~

 

 

「ふぅ……はぁ……風呂……いいよね」

 

「はぁ~……気持ちいい」

 

 伊丹、倉田は汗と腐敗臭を流す為に自衛隊の用意した簡易風呂に入っていた。

 

「簡易風呂って中々広いんだな」

 

「って何時の間に」

 

 伊丹と倉田が横を見ると、そこには龍人が居り、身体を洗う為にタオルを泡立てていた。

 

「ついさっき」

 

 龍人がそう言うと、泡立てたタオルが浮き上がり彼の背中を洗い始めた。

 

「それって魔法ですか?!」

 

 倉田がその光景を見てそう聞いた。

 

「いやこれは……スタンド」

 

「「………」」

 

 龍人の言葉に固まる2人。

 

「スタンドって……アレですよね」

 

「オラッオラッですかぁぁぁ?」

 

「イエス」

 

 倉田、伊丹の問いにそう答え、洗い終わったのでシャワーで泡を洗い流すと、龍人は湯船に浸かる。

 

「じゃあ、炎龍と戦っていた時に消えたのって」

 

「無駄無駄無駄無駄!」

 

「あの手で触れて傷を治してたのって」

 

「ドララララララァ!」

 

 龍人が言っている事が理解できた2人は子供の様なキラッキラッした目で彼を見る。

 

「でもそんな力持ってるのに……そんな傷が」

 

 倉田が龍人を見る、彼の身体には無数の傷が刻まれている。しかも致命傷になる様な大きな傷もある。

 

「これはスタンドを手に入れる前についたんだ。アマツとかと戦った時にね」

 

「アマツ……それってエルフの娘が言っていたあの龍?」

 

「うん……あの子等とは仲良くなる前には結構戦ったからね。何度死に掛けたか」

 

 龍人は昔を懐かしんでいる様だ。

 

「でもスタンドって本当に在ったんですね!」

 

「俺のこれは神様から貰ったものだし……」

 

「「神様?」」

 

「この世界の神でなく、もっと高位の神様にね……ふぅ、気持ちかった」

 

 龍人はそう言うと、湯船から上がる。そして次の瞬間、彼は服を着ていた。

 

「じゃあねぇ」

 

 彼はそう言うと、その場から消えた。

 

「スタンド」

 

「すげぇ」

 

 改めて伊丹と倉田は龍人の力の凄さを実感した。




~この世界の古龍の扱い~

モンハンの世界でも厄災扱いの古龍達。

この世界では色々な種族の神話に出てきます。



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EP8 イタリカへ

 ~数日前 ~

 

 とある村の、酒場。なんの変哲もない安酒場だ。しかし、疲れを癒す為に多くの人々が訪れていた。

 

 仕事の愚痴、世間話、野郎共の下世話な話など様々である。だがこの日は違っていた、ある話題で持ち切りで在った。

 

「炎龍が撃退された!?」

 

「嘘だろう?!」

 

「そんなん絶対に無理だろ!?」

 

 コダ村の住人を襲った炎龍が撃退された。それも緑の服を着た謎の傭兵団と、突然現れた白い龍、そして龍に乗った少年が撃退したと言う。

 

 ある噂では、少年だけで炎龍を撃退したとか……実に馬鹿げた話であるが、実際に見たコダ村の生き残りと言う多くの証人がいる。だからこそ、酒場はこの噂で持ち切りなのである。

 

 そしてこの酒場には、不釣り合いな鎧を着た4人組がいる。

 

「正体不明の傭兵団……騎士ノーマ、どう思われます?」

 

 仲間の騎士に意見を求めた帝国の女騎士、ハルミトン・ウノ・ロー。

 

 意見を求められた騎士、ノーマ・コ・イグルーは実際に証人が多くいるし、全くの嘘だとは言えないと言うが、炎龍を撃退したと言うのは信じられない。

 

「ホントだよお客さん。あいつは本当の炎龍だったよ。私はこの目で見たんだから」

 

 ノーマの言葉を遮る様に、酒を持ってきた女給がそう言った。この女性もまた、コダ村からの避難民の1人である。

 

「それに、見た事も無い白い龍もね」

 

「アハハハハハ、ありえない。流石に話を盛り過ぎだ」

 

 ノーマは完全に与太話だと思ったらしい。

 

「私は信じるから。良かったら、その龍を撃退した人達の事、詳しく教えてくれない?」

 

「ありがとうよ、若い騎士さん。じゃあ、とっておきの話を披露しようじゃないか」

 

 ハルミトンは情報量として多めのチップを渡した。それで機嫌を直した女給は話し始めた。

 

 まずは緑の服の人達の事、数は12人、女が2人。黒髪長身の美女、栗色の髪をした小柄だが胸の大きな美女。それを聞いた野郎共は歓喜の声を上げる。

 

 女給は気を取り直して話を続けた。緑の人達の乗る荷車は頑丈で凄く速い、火を放つ不思議な魔法の杖を持っていた。しかしそれは炎龍には効かなかった。

 

 なんだ、やっぱりと思うこの場にいる者達。

 

「そこで現れたのが、炎龍と同じ位の大きさの白い龍さ。翼とかはなかったけど、風を纏って飛んでいてね。最初はこれで私達も終わりかって思ったよ」

 

 そりゃ、そうだと女給に同意する話を聞く者達。もし、その場に自分が居たら確実に絶望して諦めていただろう。

 

「でも白い龍は、まるで私達を庇うように炎龍と対峙してさ、白い龍が咆哮したと思ったら私達を包む様に風の壁が現れたんだ。すると、白い龍の頭の上から少年が飛び降りて来た!

 

 少年が双剣を持って炎龍に対峙したんだ。それで炎龍が少年に対して炎を放ったんだけど……驚いた事に少年が双剣で炎を斬り裂いたんだ」

 

「「「「「はあぁぁぁぁぁ!?」」」」」

 

 話を聞いている者達が驚いた。それは当然である、普通は炎龍の炎を受ければ確実に死ぬからだ。

 

「まぁ、私も驚いたけど……その他は風が強くなって良く分からなかったけどね。あっそうそう、後は鉄の逸物さ。特大の魔法の杖で『コホウノ・アンゼンカクニ』って唱えたら、とんでもない音がした後に炎龍の左腕が吹っ飛んだんだ!」

 

 話を聞いた者達は当然の騒ぎ始める。そして騎士達は自分達の机を向き直った。

 

「と、とにかく。この話が本当なら、立派な者達です。如何でしょう、ピニャ殿下」

 

 ハルミトンが凛とした気品をまっとた、見目麗しい赤毛の女性………自分達の主、帝国の第三皇女、ピニャ・コ・ラーダへと視線を向ける。

 

「妾はその者らが持っていた魔法の杖にも興味はあるが………唯1人で炎龍に対峙した少年と白い龍と言うのが気になるな。その様な者と龍は我等でも聞いた事がない……もし、それが本当ならその者に会ってみたい。女、その者の名は?」

 

「さぁ?……聞こうにも戦いが終わった後、少年も村人達の治療で忙しくてね。それが不思議でね、その少年が手を翳しただけで瀕死の者が元通りになったんだ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「それで白い龍が人になったり、緑色の液体を怪我に掛けたら一瞬で治ったり……私も訳が分からない事だらけでね」

 

 ピニャは話を聞いて興味が沸いた。傷を一瞬で治すと言う液体、それも少年が齎した物だと言う。もし、その話が本当なら少年を是非とも帝国に引き込みたいと考えていた。

 

 

 

 

 

 ~車の中~

 

 龍人は、翼竜の鱗を売る為にアルヌスより近い街・イタリカへ向かった。

 

 メンバーは伊丹率いる第三偵察隊、レレイ、テュカ、ロゥリィだった。龍人は通訳として此処に居る。彼等は自衛隊の車両に乗り、イタリカへ向かっていた。

 

 

「いやぁ……車に乗るのは久しぶりだね」

 

「へぇ~、やっぱ普段は龍に乗ってるの?」

 

「まぁね……それよりも、何か煙が見えるな」

 

 龍人の言葉に車を止め、双眼鏡で煙の方向を見てみる。

 

「ねぇ隊長、このまま行くと」

 

「十中八九、煙の発生源に行く事になるな」

 

「おっ……流石、軍用双眼鏡……良く見えるな。なぁ、同志・伊丹、これくれない?」

 

「まぁ……上に掛け合ってみます。それであそこが」

 

「イタリカだ。普段は平和な筈なんだけどなぁ」

 

「知ってるんですか?」

 

「あそこの先代とは懇意でね…………この世界では珍しい趣味の持ち主だったから。取り敢えず行こう、此処で止まっていても仕方ないし」

 

 そう言って、目的地へと向かって車を進めるので在った。



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EP9 イタリカにて

最近は体調が優れないので部屋に篭ってます。

今日は雪が降ってますし、本当に寒いですね。と言う訳でどうぞ。


 ~イタリカ 門前~

 

 

「それにしても……デカい門だな」

 

 装甲車の中から、そう言う伊丹。

 

「あぁ、この辺では結構でかい街だし。まぁこれくらいは普通だな………それで、伊丹、向こうは姿を見せろと言っているけど?」

 

「じゃあ、私が話を付ける」

 

「しかし……」

 

「なら、俺が行こう。此処の前の領主とは仲が良かったから、知っている人間もいるだろう」

 

「「お願いします」」

 

 龍人の提案に伊丹と倉田は揃ってそう言った。

 

「じゃ、行ってくる。伊丹は一緒に来て貰うぞ」

 

「えっ……」

 

「はい、行くよ」

 

 龍人はそう言って車を降りた、伊丹は諦めた様に溜息を吐くと龍人の後について行った。

 

 

 

 

 ~門内~

 

「むむむ」

 

 ピニャ、ハミルトン、そしてもう1人の騎士が外を見ていた。

 

「あっ誰か降りて来ました!………普通の少年です」

 

「確かに……だが、我等を油断させる為の変装かもしれん」

 

「続いて、緑の服の男と魔導師……それにエルフの様です!」

 

「エルフだと……しかし精霊魔法は厄介だな。油断している今の内に弩弓で――――あっアレは?!ロゥリィ・マーキュリー」

 

「アレが死神ロゥリィですか……」

 

「あぁ、以前国の祭祀で見た事がある」

 

「此処のミュイ様と変わりませんな」

 

 ピニャが最も信頼する騎士グレイ・ゴ・アルがそう言った。

 

「アレで齢九百を超える化物だぞ!」

 

 ロゥリィは亜神、姿こそ幼いが実際は900歳を超えている。

 

「しかしエムロイの使徒が盗賊なんぞに加わりますかね?」

 

「あの方達ならやりかねないのだ」

 

「?」

 

「神の行いは唯の気まぐれにさえ見える」

 

「その言葉、神官達の耳に入ったら事ですぞ」

 

「だろうな。だが、神の御心など出鱈目だ」

 

「し小官は何も聞きませんでした」

 

 そう言ってグレイは頭を抑え、天を仰ぐ。

 

「どうしましょう、ピニャ様」

 

 ピニャは小窓を閉めると、一度振り返る。そこには多くのこの街の住民がいた。

 

 何故、彼等がこれほど外から来る者を警戒しているのかと言うと。先日より、この街は盗賊達に襲われていた……それも唯の盗賊ではなく、兵士達が敗残兵となり盗賊になった者達だ。普通の盗賊と違い戦い方を知っている為に、この街に人々も抵抗したものの籠城する事が精一杯……そこにピニャ達がやって来て指揮を取っていると言う訳だ。

 

「もしロゥリィ達が敵なら既にこの街は堕ちている筈……だが敵でないと言う確証もない」

 

 そう言った時、門を叩く音が聞こえてきた。

 

「しかし!敵でないなら是非とも迎え入れたい!」

 

 現在、街の者達の士気はかなり下がっている。正直、後1度耐えられるかも怪しい所だ……なのでピニャは是非ともロゥリィを味方に引き入れたい。彼女は門の閂を外した。

 

「姫!」

 

「えぇい!」

 

 グレイの静止も聞かず、彼女は門を勢いよく開け放った。

 

「良く来てくれた!」

 

 ピニャが見たのは少年、ロゥリィ、エルフ、魔導師が自分の脚元の方を見ている様子だ。彼女も視線を下に向けると……

 

「ぅ……ぅう」

 

「もっもしかして妾が?」

 

「「「「うん」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 一先ず、龍人は倒れた伊丹を門の中へと入れ回復薬を飲ませた。伊丹は直ぐに目を覚まし、直ぐに状況の説明を求め、ピニャが説明する事となった。

 

 そして、龍人と伊丹達は領主の館へと案内された。因みに他の隊員達は待機している。

 

 イタリカは国と国の間にある重要な城塞都市で、貴族であるフォルマル伯爵家が治めて来たのだが、先代が急死。その為に娘である三姉妹で後継者争いが起こった……だが長女と次女は既に他家に嫁いでおり、末女のミュイが後継者になる事になったのだが……後見人争いが起きたと言う。

 

 そこで異世界出兵が始まった、当主が兵を率いて出兵。そして誰も戻って来ずにイタリカの治安が悪くなり始めたと言う。

 

「そして、この向こうにいるのが現伯爵当主、ミュイ殿だ」

 

 ピニャが扉を開けると、大きな椅子に小さな少女が座っていた。

 

「久しぶりだな、ミュイ」

 

「えっ……もしかして、龍人様ですか?」

 

「おう……前に会ったのはコルト……お前の父親の死ぬ半年くらい前だったな。ちょっと見ない間にこんなにも大きくなって」

 

「そなたはミュイ殿と知り合いなのか?」

 

「あぁ、先代のコルトとは馴染でな。趣味が合って酒を共に飲む仲だったんだ。勿論、長女のアイリや、次女のルイも知っている」

 

「ぅ……うぅ」

 

 知っている龍人を見て、安心したのかミュイは涙を浮かべる。

 

「よしよし、頑張ったな………もう安心だ」

 

「ぅぅぅぅ」

 

 ミュイは涙を堪えている。当主とは言え、幼い身。指揮はとっていないものの、その小さい身には計り知れないプレッシャーが掛かっていただろう。そんな姿を見て、龍人は彼女を抱き締めた。

 

「子供がそんな、声を押し殺して泣くもんじゃない」

 

 そう言われると、龍人の腕の中で泣きだしたミュイ。

 

「さて、俺の馴染の街に手を出した賊共………どうしてくれようか?」

 

 そう言って龍人は笑みを浮かべる。それを見て、ロゥリィ以外はゾッとした。一先ず、ミュイを落ち着かせると本題に入った。

 

「それでお前達は妾達の味方をすると?」

 

「あぁ……伊丹、そちらはどうする?」

 

「俺達も参加しますよ、じゃないと死ななくてもいい人間が死ぬ事になりますし」

 

「よし!決まりだ!」

 

 

 

 

 ~夕方 南門~

 

 

「敵がこっちにくればいいんだが……」

 

 龍人、伊丹達は一度破られた南門に来ていた。ピニャの指揮により、彼等は此処に配置されていた。

 

「ねぇ……龍人、なんで帝国のお姫様に味方するの?貴方、向こうの世界では帝国と戦ったんでしょぉ?」

 

「確かにな……一方的に蹂躙する輩は倒す。それが俺のモットーだ……今回もそれに触れたからだ。それに()()()()()()には改めて俺の恐ろしさを知らしめる必要があるしな」

 

「帝国の坊主共?」

 

「皇帝とか元老院の小僧共」

 

「あらっ、皇帝と知り合いなの?」

 

「まぁな……それにコルト(友人)が建て直した街を荒らされるのも許さん」

 

 どうやら、この街にはかなり思い入れがあるらしい。龍人が最後に見せた戦士としての顔を見たロゥリィは笑みを浮かべた。

 

 そしてその時はやって来た。



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EP10 イタリカ防衛戦

 ~夜 南門~

 

 

「あっ……ぅう……はぁん!うぅ~!」

 

 ロゥリィが悶えている。

 

「これは一体どういうことなんだ?」

 

 突然、悶え始めたロゥリィを見て唖然となる一同。テュカに至っては顔を真っ赤にしている。

 

「これは近くで戦い、戦死した戦士者達の魂がロゥリィの身体を通してエムロイ神の元に召されているんだ。それが媚薬の様になってる………まぁ戦いに身を任せればいいんだけど………敵さんは東門の方に来たと……で発散できない訳だ」

 

 現在、龍人達のいる南門。恐らく此処に敵が来るだろうと思いピニャも此処に配置したのだが……実際に敵が攻めて来たのは東門だった。

 

「あぁん!りゅ……と……ぅうん!」

 

「俺に言われても困るが……伊丹、どうする?正直、このままロゥリィを放置しておくと……我慢できずにこっちに襲い掛かりそうなんだが」

 

「………分かった。行こう」

 

「よし、伊丹。城門の内の敵は手を出させない様にしてくれ……ロゥリィ。ちょっと我慢しろよ」

 

 龍人はそう言うと、ロゥリィと彼女の斧を抱えて天を仰ぐ。

 

「『我が名において命ずる!来たれ、雷の栽龍よ!』」

 

 龍人がそう言った瞬間、暗雲もないのに雷が発生し、彼の近くに落ちた。

 

「うわっ!?」

 

「雷!?」

 

 ―オオォォォォォン!―

 

 雷が消えるとそこに居たのは馬に似た生物。

 

「馬?いや違う……雷を纏って、角があって、龍みたいな顔」

 

「これってまさか……神獣・麒麟!?」

 

 伊丹達は驚いた、目の前に現れた生物は伝説上の神獣である麒麟に酷似していた。

 

「よっと……リン、向こうまで走れ!」

 

 龍人がその生物に跨ると、そう言った。すると古龍・キリンは駆け出した。

 

 

 

 

 ~東門~

 

「現実と頭で考える事はこうも違うのか……くっ」

 

 南門に攻めてくると思っていた敵が、現在、東門に襲撃してきた。

 

「それに味方が脆すぎる……」

 

 当然だ、此方の殆どの戦力は市民達だ。相手は元とは言え正規兵が殆ど、例え力押しで在ったとしても差は歴然である。ピニャはこれが初陣故に知らなかった……大義もなく戦いに身を委ねた兵士達の力を。

 

 門が突破され、賊達は柵内に居る市民達を挑発し始めた。味方で在った者達、身内だった者達の亡骸を弄び始めたのだ。

 

 ―オォォォォォォ!―

 

「アハハハハハハハ!」

 

 咆哮と狂気の笑い声と共に賊達の中心に何かが降って来た。

 

「なっなんだ?!」

 

「ウフフフ」

 

「子供?」

 

 近くに居た大男がハンマーを手にロゥリィに襲い掛かる。彼女はそれを避けると、斧で大男を殴り飛ばす。

 

「なっ……えっエムロイの神官か?!」

 

「なめとんのか、ガキ!」

 

「ばっバカ!待て!」

 

 賊達が一斉に襲い掛かるが、ロゥリィはそれを避け舞う様に大斧で反撃する。途中で栗林も参戦し、2人が賊を圧倒し始めた。

 

「このぉぉぉぉ!!!」

 

「おいおい、女を後ろから襲おうなんて戦士のやる事じゃないな」

 

 ロゥリィと栗林を後ろから切ろうとした賊はその言葉と共に吹き飛んだ。賊がいた場所には龍人が経立っていた。そして龍人は周囲に転がっている亡骸を見た、男も女も関係なしに嬲られている。

 

「本当に下種共が………戦場でならいざ知らず、平和な街でこんな侵略行為をした罪……友人の街を荒らした罪、重いと思え」

 

 龍人の身体が紫色のオーラに包まれ、近くに置いてあった人の頭くらいの大きさの石を持ち上げた。そして賊の集団の方に向かい投げる。賊はそれを回避する。

 

「はっこんなん当たるかよ!」

 

「キラークイーン……第一の爆弾」

 

 彼が右手をスイッチを押す様な動作をした瞬間、彼の投げた石が爆発した。その爆発に巻き込まれた賊達は跡形もなく消滅した。

 

「汚ねぇ、花火だ」

 

「おぉ~い!龍人くん!」

 

 龍人がそんな事を呟いていると、伊丹と富田がやって来た。そして彼等からある事を聞いた。

 

「そっか………リン!道を開けろ!」

 

 龍人は城壁の上に佇んでいたキリンに向かいそう言い放つ。キリンが天を仰ぐと、龍人達の道を塞いでいた賊達に雷が落ち、道を作った。

 

「ほらっ!ロゥリィ!逃げるぞ!」

 

「ちょっと」

 

 龍人はロゥリィを抱え、富田が栗林を抱えてその場を離れ始めた。

 

 数秒後、賊達に向かってヘリからのガトリング掃射が行われ、戦闘は終了した。

 

 

 

 ~領主館~

 

 ―なっ何なのだこれは………これが戦いか、これが戦場か。予期せぬ事が起こり、こんなにも無残な物なのか?

 

 それにジエイタイの空を飛ぶ天馬………人が抗えぬ圧倒的な力、禍々しく、凶暴な力。誇りも名誉も全てを一瞬の内に消し去ってしまう。これは……まるで女神の嘲笑だ。

 

 加えて、なんだ……あの龍人()は?先代やミュイ殿と知り合いらしいが……見た事もない雷を操る獣を統べ、謎の魔法を使う男。そう言えば炎龍を1人で撃退した少年と風貌が一致していたな………あぁ、こんな事が在っていいのだろうか?

 

 此度の戦いを見て分かった……ジエイタイにしろ、あの少年にしろ、我等とは戦いの次元が違う。もし彼等が敵となると言うのなら………妾は………―

 

「捕虜の権利は我が方にあるものと心得て頂きたい」

 

 ハルミトンの言葉で我に帰ったピニャ。

 

「と言っているぞ」

 

 ピニャ達の要求を龍人が訳して伝えると自衛隊はこう答えた。情報収集として数人を確保したい、こちらの習慣に干渉する気はないが人道的に捕虜を扱って貰いたいと。

 

「ジンドウテキ?」

 

「友人、知人に対する様に無碍に扱わない……こと」

 

 レレイがハルミトンとピニャにそう説明した。

 

「友人や知人が村、街を襲い略奪などするものか!」

 

 ハルミトンがそう言い返すが、ピニャは自衛隊の条件を飲んだ。

 

 そして伊丹が捕虜の中から数人選び、彼女達をアルヌスへと連れ帰る事にしたのだが……

 

「隊長……女の子だけ選んでません?」

 

「ないない」

 

「まぁ、女の子をこんな所に置いてはおけないのは分かりますけど」

 

 自分の部下達(女性陣)から冷たい目で見られたのは言うまでもない。




後々、龍人の詳細なステータスを出します。


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EP11 空気は読まないといけないと思いまして

 ~装甲車内~

 

 目的の翼竜の鱗も売却し、イタリカからアルヌスへと帰還する事になった一同。

 

「はぁ……じゃあ、ぐるっと回って帰りましょ……って寝ちゃってるのか」

 

「まぁ無理もない、徹夜だもの」

 

 行きと同じく倉田の運転で帰る事になった。だがロゥリィ、テュカ、レレイは流石に疲れたのか眠ってしまっていた。

 

「ん?……前方に煙が見えます」

 

「また、煙かよ」

 

 倉田は車を止めると、伊丹は双眼鏡を取り出した。そして煙の方を見てみるが、煙が邪魔で見えない。

 

「あっ……見えました!ティアラです!」

 

「あぁ……ティアラ……ってティアラ!?」

 

「金髪です!」

 

「金髪!?」

 

「縦ロールです!」

 

「縦ロール!?」

 

 倉田の報告に驚きながら、伊丹は直ぐに双眼鏡を構え直した。そこには騎士の格好をした女性陣が馬に乗って此方にやって来ていた。

 

「バラだな!」

 

「バラです!隊長!金髪縦ロールの実物なんて初めてです!」

 

「おう!」

 

 どうやら彼等は興奮している様だ。

 

「まぁ、こっちの世界ではそんなにも珍しくけどね……伊丹よ、どうする?」

 

「全員、手を出すなよ!協定違反になる可能性がある!」

 

 伊丹が無線でそう伝える。富田が金髪縦ロールの騎士に話しかけられたのだが……何やら口論になっている。騎士達は剣を抜き富田の方に向けた。流石にこのままにはしておけないので龍人と伊丹が車から降りた。

 

「えぇと部下が何か失礼を?」

 

「降伏しなさい!」

 

「えっと話を」

 

「聞く耳持たぬ!」

 

「えっと、話し合えば」

 

「くどい!」

 

 伊丹の態度に腹が立ったのか、金髪縦ロールが動き出した。

 

「ええい!お黙りなさい!」

 

 とビンタ。部下達が動こうとするが、このままではいけないと思った伊丹は部下達に逃げる様に指示を出した。装甲車が急発進でその場から離れる。

 

「取り敢えず、伊丹!お前も行け!」

 

「えっ、ちょw!?」

 

「スタープラチナ!」

 

 龍人の身体からオーラが出現し、スタンド・スタープラチナが現れる。

 

「スタープラチナ?!マジ!?」

 

 《オラァ!》

 

 スタープラチナは伊丹を抱えると、装甲車に向かって投げた。

 

「リン!」

 

 装甲車の上に雷が発生し、そこに白い髪の女性が出現した。彼女は伊丹を片手で受け止めた。

 

「後、頼んだぞ~」

 

 そう言いながら龍人は手を振って彼等を見送った。

 

「さて……俺も逃げようっと」

 

「「貴様ぁ」」

 

「アレ……物凄く怒ってるし………なんだろう。此処で逃げちゃ駄目な空気なんだけど……(はぁ、仕方ないか。空気は読まないとね)」

 

 

 

 ~イタリカ 領主の館~

 

 

「なんてことをしてくれたんだ!!!」

 

 ピニャは現在、部下であるボーゼスとパナシュに叱責した。ボーゼスには杯を投げており、彼女の額からは血が流れている。

 

「ひっ姫様!?私達が何をしたと?!」

 

「協定を結んだ日に、協定破り……よりにもよって」

 

「龍人殿!?龍人殿?!」

 

 ボロボロになった龍人を必死に揺すっているハルミトンの姿を見たピニャ。

 

「ぁ~痛い……生身でドスファンゴに突進された後、ブルファンゴの群れに轢かれた様な感じだ。久々に……意識が飛ぶ……ガクッ」

 

 龍人は空気を読み、逃げる事をしなかったのだが……引っ叩かれるし、馬で引き摺られるしと酷い扱いを受けていた。

 

 ピニャはこんな事、自衛隊が黙っていないと思っていた。だが実際には恐ろしいのは自衛隊ではない……この時の彼女は未だ何も知らなかった。

 

 

 

 

 ~館の一室~

 

 

「ぅう~……痛い。知らない天井だ」

 

「お目覚めになられましたか?」

 

「あぁ……って、メイド長。さっきぶりだね」

 

 龍人は現在、ベットの上で寝ており、周囲には数人のメイドがいた。そしてその中で一番年上のメイド長は彼の知り合いである。

 

「はい……本当に申し訳ありません。先代のご友人であり、此度の恩人である龍人様にこの様な仕打ちを」

 

「ぁ~……まぁ、勘違いと言う事もあるさ……誰か、俺のポーチ取ってくれない?」

 

「はい」

 

 龍人の言葉に髪が蛇となったメイドが、近くに置いていたポーチを身を起こした彼に渡した。龍人はポーチの中から回復薬を取り出した。

 

「Gとか、秘薬とか入れ忘れたな……まぁいいか」

 

 彼は回復薬を飲み干すと、傷が音を立てて消えていくが、大きな物は完全には治癒していなかった。

 

「龍人様、制裁にてこの街を滅ぼすと言うので在れば我等一同、及ばずながらも力を貸す所存にございます。

 

 ただただ、ミュイ様だけにはその矛先が向かぬ様に……どうか、何卒!何卒!御慈悲を!」

 

 メイド一同が龍人に対して頭を下げる。

 

「アハハハハ、大丈夫、大丈夫。友人の街を滅ぼす程、俺は怒ってないよ。今回は運が悪かったと思うからさ………取り敢えず、お腹が空いたんでご飯貰えるかな?出来れば肉で」

 

「はっはい!直ぐにご用意いたします!

 

 この者達は龍人様、専属です。なんでも御申しつけ下さい」

 

「「「「ご主人様、宜しくお願い致します」」」」

 

 龍人の言葉に安心したメイド達は、再び頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ~伊丹side~

 

 伊丹達は現在、イタリカを見渡せる丘へと来ていた。

 

「大丈夫ですかね、彼……」

 

「大丈夫だと思うけど………正直、大丈夫でいてくれないと困る」

 

 伊丹、倉田、栗林、富田、レレイ、テュカは自分達の後ろを見た。

 

 ―バチッ!バチッ!―

 

 音を立てて、放電している白髪の少女。頭には一本の角が生えていた……分かるかも知れないが、彼女は古龍・キリンの人間態である。

 

「あの人間共……我が主をよくもぉ!」

 

「まぁまぁ、落ち着きなさいよぉ……貴方の主だって分かっててやったんでしょうし」

 

 キリンは今にもイタリカを滅ぼしそうな勢いで放電している、ロゥリィはそれを必死に止めているのだが……正直、長く保ちそうにない。

 

「グルルル……」

 

 キリンが唸ると、それに合わせる様に空が暗雲に覆われ始め、伊丹達は空を見上げた。

 

「アレって……」

 

「アマツマガツチ様」

 

 暗雲の隙間から白い龍・アマツマガツチが現れた。アマツマガツチもまたイタリカを睨みつけていた。テュカはそれを見て、祈りを奉げている。

 

 アマツマガツチだけでなく、他にも色々な影が現れ始めた。

 

「怪獣大決戦?」

 

「冗談言ってる場合か………あっあのぉ」

 

 伊丹は一先ず、キリンへ話しかける事にした。彼女は怒ってはいるものの、無暗矢鱈にそれを吐き散らさないので未だ冷静な方だろう。

 

「はい、なんですか?」

 

「あっち、こっちにいるのは……貴女の御仲間ですよね?」

 

「えぇ……皆、主の身に何かを在ったのを感じて集まり始めています」

 

「ですが、彼もそんな事は望まないと思うのですが」

 

「確かに……ん、主?」

 

 キリンは何かに気付くとイタリカの方へと向いた。

 

「畏まりました。

 

 貴方達も聞いたでしょう!下がりなさい!」

 

 キリンはアマツマガツチや他の影に向かってそう叫ぶ。彼の龍達は渋々、その場から消えて行った。

 

「ほっ……」

 

「主はどうやら、領主の館にいる様です」

 

「もっもしかして、思念会話ですか?」

 

「えぇ、主と我等は契約により繋がっていますから……取り敢えず、行きましょう」

 

 そう言うと、キリンは歩き始めた。伊丹達も驚きながらも彼女の後について行った。



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EP12 キレのいい平手打ち

 ~ピニャside~

 

(あり得ない。協定を結んだその日、数刻も経たぬ内に協定破りとは……しかもあの龍人と言う者、このイタリカとは浅からぬ仲と聞く。

 

 ボロボロになった彼を見た瞬間、メイド長から凄まじい目で睨まれた)

 

「はぁ……」

 

 彼女の前で俯いているボーゼスとパナシュ。2人は何故自分達が自分達が叱責されたのか分からなかった。ピニャは彼女達に事情を説明する。

 

「しっしかし!姫様、私達は協定のことなど」

 

「あぁ、分かっている!……だが知らなかったでは済まされん。アレはやり過ぎだ。馬で引き摺ったり、蹴り飛ばしたり………しかもあの龍人殿、このイタリカの先代当主の代からのご友人だと聞く。日本側とは友好関係とも聞くし………謎の獣を使役している」

 

「獣……ですか?」

 

「雷を操り、一撃で賊共を葬った。それにあの男の魔法の腕も凄い物だった」

 

「「………」」

 

 ―グオォォォォォォォ!!!―

 

「なんだ!?」

 

 何かの咆哮がイタリカ全体に響いた。ピニャ、ボーゼス、パナシュ、ハルミトンが窓から外を見る。星空の見えていた筈の空は何時の間にか、暗雲に覆われ、怪しい風が吹き始めていた。

 

「ん……なんだ、あれは!?」

 

 雲の中で何かが蠢いている。それも1つじゃない、2つ、3つ……未だ増えている。

 

「アレは……古代龍なのか?!」

 

「しっしかし、姫様。あっあの全てが古代龍なのでしょうか?」

 

「わっ分からん」

 

 雲にいる存在は古代龍に似た何かだと分かる。しかし本能が言っている「アレは危険だと」。

 

 だが龍達の姿が消え始め、それに合わせる様に雲も消滅してしまった。

 

「なっなんだったんだ?」

 

 その答えは、彼女達は知る由もなかった。

 

 

 

 

 ~領主の館~

 

「我が主!御無事で何よりです、うわぁぁぁぁん!」

 

 上手い事、イタリカへと潜入出来た一同は首狩ウサギ(ウォーリアバニー)のマミーナとキャットピープルのペルシアの案内で龍人と合流する事が出来た。

 

 キリンは龍人の無事な姿を見て彼に抱き付いた。伊丹や倉田達も安堵していた……これで龍達と自衛隊しいては日本の間に何も起きる事はないだろうと。

 

 落ち着いた伊丹達はペルシアやマミーナ達の姿を見て、歓喜したのは言うまでもない。

 

「このくらいは、日常茶飯事だったし………リンやアマツ達の攻撃に比べたら軽い、軽い」

 

「あっ主?!」

 

「此奴等、初めて会った頃なんて…………今考えると、よく死ななかったな」

 

「いや……あの……アレはその」

 

「まぁ……今ではいい思い出だな」

 

 等と話していると、マミーナの耳が物音を捕えた。

 

 ―ガサッガサッ……ゴンッ!―

 

「ベッドの下に何かいます」

 

 マミーナやペルシアが侵入者かと思い、武器を取り出した。

 

「いたたっ……」

 

「ネルはもう少し落ち着いて行動するべきにゃ」

 

 ベッドの下からは2匹の猫が出てきた。

 

「ネル、ファニ……お前等何処から出て来るんだよ」

 

「ご主人!やっと見つけたニャン!」

 

 2匹のアイルーは龍人を見つけると、その腕の中に飛び込んだ。

 

「なんか、ご主人、ぼろぼろニャ」

 

「まぁ……ちょっとした手違いでな。悪いけど、回復薬Gを出してくれるか」

 

「はいニャ!」

 

 ファニは腰につけている樽の中から緑色の液体の入った瓶を取り出した。龍人はそれを受け取り、飲み干す。すると、不思議な光が彼を包み込んだ。

 

「ふぅ……これであらかた完治したな」

 

「それは一体、どういう仕組みなんでしょうか?」

 

 伊丹の部下、黒川 茉莉は回復薬に興味を持った様だ。

 

「以前の炎龍の時も思いましたが、その薬……一体どう言う原理で治癒しているのか気になりまして」

 

「ぇ~と……黒川さんだったか。原理は分からん……ただ、ある草とキノコを調合して作れるものだ。瀕死の怪我でなければある程度はこれで瞬時に回復できる」

 

 それを聞いて、周りの者達も感心していた。黒川はジッと回復薬Gを見つめていた。

 

「これは渡せないよ」

 

「ッ……」

 

「これが在れば多くの人を助けられるって思うだろうけど………残念ながら、コレの原料は俺の農場で栽培している物でしかできないし、こんな物があると………怪我なんて直ぐ治るんだし戦争したい放題だ!……なんて言うバカが出てくるからね」

 

「そっそれは使い方の」

 

「実際在ったんだ。昔、俺が教えた国は回復薬に改良を加えたりして戦争ばかりしてな。俺はそんな事の為に教えたつもりはなかったんだけどね………まぁ、最後には門に手を出そうとして滅んじゃったけど」

 

 それを聞くと、黒川は顔を真っ青にさせる。

 

「始めは皆の為にと言っていても、欲深い人間なんて幾らでもいる………あんなのはもうごめんだからね」

 

「わっ分かりました……変な事を言ってすいません」

 

「いや……気持ちも分からなくもないからね」

 

 一先ず、気を取り直して皆が交流を深めることにした。

 

「あっあの……そっその猫は?」

 

 栗林がネルたちを見てそう尋ねた。

 

「此奴等?アイルーと言う獣人の一族でね、名前は白い方がネル、青い方がファニだ」

 

「あっアイルー?!それって伝説に出てくる獣人族の名前ではないですか!?」

 

 キャットピープルのペルシアがそう言った。

 

「お前等、何時の間に伝説になったんだ?」

 

 などと言って会話していると、金髪縦ロールの女性が入って来た。ネグリジェ姿で………そして彼女は龍人の元に歩み寄ってくるとその手を振り上げた。

 

「えっ……(あっなんか、怒ってる……避けちゃ駄目な気がする)」

 

 ―パァン!―



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EP13 平手打ち、再び

 ~数十分前~

 

「ボーゼス」

 

「はい………」

 

 この場にいるピニャ、ボーゼス、パナシュが居た。何故かボーゼスは俯いている。

 

「今回の事………なかった事にして貰う必要がある」

 

「はい………私とて貴族の家に生まれた娘としてその手の嗜みは心得ております」

 

「そうか……あの男には勿体無いが仕方がない。お前には悪いが我慢してくれ」

 

 ボーゼスはピニャからそう聞くと、頷くとこの部屋を後にした。

 

「ひっ姫様、いいのですか?」

 

「仕方がなかろう。これが最善の手だ……」

 

 

 

 

 

 

 ボーゼスは湯浴みを終え、ネグリジェ姿になった彼女は龍人の部屋の前に来ていた。

 

(私とて貴族の娘、いずれそういう事はあるだろうと考えていた………だが……だがよりにもよって!自分が嬲り倒した男に身を奉げよと命じられるとは)

 

 つまりボーゼスは、龍人に色仕掛けで迫り先の事をなかった事にしろと言われたのだ。彼女の瞳に涙が浮かぶが、全てはピニャと帝国の為と涙を拭い、決意を固めて部屋の扉を開いた。

 

「ハハハ!お前等が伝説って……ククク」

 

 白い髪の女性に抱き付かれている龍人。彼は目の前の猫や周囲の自衛隊の者達やロゥリィ達、この屋敷のメイド達と楽しく談笑しており、ボーゼスに気付いていない。

 

 この瞬間、ボーゼスの中の何かが切れた。

 

(我が身をもって罪をぬぐう雑巾になる………そんな覚悟を決めて来たと言うのに……なんなのだこれは?………無視だと?パレスティー侯爵家の次女たる私を)

 

 ボーゼスは誰も気付かない、それが彼女の怒りを増幅させる。拳を握り締める、力を入れ過ぎているのか手が震えている。

 

(いい度胸だ。私は雑巾にすらならないと言うのだな………この龍人と言う男は)

 

 彼女は龍人の元に近付くと、自衛隊の男性陣は彼女に気付くとその恰好に顔を赤くする。

 

「あっ……」

 

 ボーゼスは手を大きく振り上げる。普段の龍人なら簡単に回避できるが、何かを感じたのか回避しなかった。

 

 ―パァン!―

 

 龍人の頬に綺麗な手形が出来た。

 

「おっ王?!」

 

 

「この……私を……」

 

 龍人に再び手を出そうとしたボーゼスだが……場を覆う圧倒的な殺気と雷により彼女は止まった。

 

 正確に言うならば、殺気により彼女の身体は硬直してしまった。

 

「殺す」

 

 ボーゼスを睨みつけるキリンに異変が起きた。キリンの真っ白な髪が徐々に黒く染まり始め、部屋の温度が低下し始めた。

 

 ―なっなんなんだ?これは本当に人間のものか?いや、違う…………人間がこんなものを放っていい筈がない。かっ身体が言う事を聞いてくれない。

 

 怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわい―

 

 彼女の思考が恐怖一色に染まる。

 

「理由を聞くつもりはない。貴様等人間の理由等大した物ではない、故に聞く価値などない………我が王を傷付けたのだ、楽に死ねると思うn……ぴゃ!」

 

 この場に居る全員を畏怖させていたキリンが、龍人に手刀を落とされた事で可愛らしい声を出した。

 

「お前がやると殲滅になるだろう、止めなさい」

 

 

「しっしかし王!この女は」

 

 

「いいから………」

 

 

「……分かりました」

 

 キリンはそう言うと、渋々放っていた殺気と冷気を収めた。

 

「しかし、王よ!この小娘は王に手を上げたのですよ!」

 

 

「あの程度のこと、昔のお前等が俺にした事と比べたら軽い、軽い」

 

 

「うぐっ!?」

 

 

「リンには……確か、無数の雷を落とされた後に氷漬けにされて、更に角で串刺しにされたっけ?」

 

 

「いっいぇ……あっあの時は……その」

 

 龍人に昔の事を言われてキリンの心に言葉の剣が突き刺さる。今となっては笑い話であるが、当時の彼にとっては本気で命の危機だったことだろう。

 

「今となってはいい思い出と言った所か…………俺は気にしてない。何か理由があっての事だろう、理由も聞かずに殺すのはどうかと思うぞ」

 

 一先ずは理由を聞こうとするが、キリンはボーゼスを睨んだまま動かない。そして龍人は声を出そうとすると、外からバタッバタッと慌ただしい音が聞こえてきた。

 

「先程の音は何事だ?!」

 

 キリンの出した雷の音を聞いてピニャやパナシュ達がやって来た。

 

 伊丹達も唖然としており、

 

 

 

 

 ~広間~

 

「それで……その傷は?」

 

 

「……私がやりました」

 

 ピニャの問いにそう答えたボーゼス。それを聞いた瞬間、ピニャは絶望した。

 

 龍人の従える獣、自衛隊の者達と親しく話している姿を見ていた。だからこそ、これから巨大な力を持つ自衛隊と交渉するに当たって彼に間に入って貰えればと考えていた。だが、これでは絶対に無理だろう。

 

「それで……何故に我等が王を打ったのだ、理由くらい言え」

 

 キリンがボーゼスを睨みつけそう言い放つ。彼女は先程の圧倒的な力と殺気を思い出した身体が震えた。

 

「そ……それは……」

 

 ボーゼスは理由を語った、帝国の……ピニャ皇女の為にと決意をして龍人の部屋へと来たのに、気付かれず、無視されたので頭に血が昇り、引っ叩いたと言う事らしい。

 

「王、殺しましょう!今すぐに!ご安心下さい!王に不快な臭いも、不快な物も見せぬ様に一瞬で終わらせます!なので許可を下さい!この下賤な雌を殺す許可を!

 

 あっ苦痛を与えるべきだと仰るなら、私だけでなく、他の古龍()も呼び出しましょう!王の為なら皆、喜んで集まるでしょうから。呼ぶならば暴竜あたりがいいかと思います」

 

 主が降らない理由で引っ叩かれた事でキリンの堪忍袋の緒が切れた。彼女の中では完全にボーゼスに手を掛ける事が決まっている様だ。

 

「てぃ!」

 

 

「あいたぁ!王、何でですか?!この雌は、あの様な降らぬ理由で王を打ったのですよ!?ふにゃ……おっ王?」

 

 龍人は白熱しているキリンの頭に再び手刀を叩きいれた。彼女は叩かれた所を手で抑えながら龍人に抗議しようとするが、頭を撫でられ抱き寄せられた。突然そうされた事で、彼女は顔を真っ赤にする。

 

「こっこの場ででしょうか?……いぇ王が御望みならば私は何処でもいいのですが………下賤な人間とは言え、王以外の者の前で肌を晒すのは………王がそう言うぷれいをしたいと言うなら、吝かではないですが」

 

 

「ド阿呆、俺はそんな特殊な性癖を持ってない。少しは落ち着いたか?」

 

 

「えっ……はっ……はい」

 

 

「ならばよし。ぁ~皇女さん、俺はこの程度の事でどうこう言うつもりはないから安心してくれ」

 

 龍人はキリンを離しながらそう言った。

 

「えっ……あっ、はい」

 

 

「さてと………メイド長」

 

 

「はっはい!」

 

 

「俺も出来るだけ、此処には顔を出す様にするが何か在れば昔の様に使いを出してくれれば直ぐに駆けつけるよ」

 

 

「まっ真でございますか!?」

 

 

「コルトとは古い付き合いだし、アイツが死ぬ前に「娘達を頼む」と頼まれたしな。俺が出来る事は手伝うつもりだ、もし帝国と何か在ったら言って来いよ。何だったら俺が皇帝(小僧)の所に殴り込むから」

 

 

「あっありがとうございます!」

 

 メイド長やメイド達は帝国には一切忠誠を誓っていない、彼女達が忠誠を誓うのは先代当主の血筋のみ。それは先代から受けた恩を決して忘れていないからだ。最悪の場合、彼女達は街を捨ててでもミュイを護る為に戦うだろう。

 

 龍人もそれを知っていた、だからこそ彼女達に万が一の場合は自分の元に来る様に言った。例え大国を敵に回すとしても、彼にとっては古くから知る者達・その血筋の者達を救う方が重要なのである。

 

「じゃ俺は一旦、戻るとするかな」

 

 

「あっ、それは」

 

 龍人はそう言うと、ポーチの中から緑色の球を取り出した。伊丹はそれに見覚えがあった。

 

「じゃ、これにて」

 

 

「ちょ……ちょっと待った!」

 

 

「なに?」

 

 

「じっ実は……その」

 

 伊丹は龍人に国会に出て欲しいと伝えた。

 

「国会か…………面倒だけど………仕方ないか。リン、お前は一度戻ってレウとレアにこっちに来る様に言ってくれ」

 

「むぅ……分かりました」

 

 キリンは頬を膨らませ、渋々了承すると彼女の足元に魔法陣が現れた。

 

「!?」

 

 

「では王、私はこれにて………何か在れば御声をおかけ下さい」

 

 キリンは一礼すると、魔法陣から溢れた光に包まれて消えた。

 

「じゃ行こうか、伊丹」

 

 一同はこうして再びアルヌスへと戻る事になった。



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EP14 アルヌスへ帰還する

~イタリカからアルヌスへ帰る道中~

 

「ふぁ~」

 

―にゃ~―

 

「随分、眠そうねぇ」

 

―にゃ~―

 

「寝てないからな………しかし」

 

装甲車の後ろで眠そうにしている龍人に声を掛けたロゥリィ。龍人の膝にはネルとファニが装備を外した状態で乗っており、彼に撫でまわされていた。ロゥリィは何故か彼にもたれ掛かっていた。

 

そして彼は向かい側に座っている()()()()()と自分を引っ叩いた()()()()が座っていた。

 

(なんで、この皇女さん達は態々ついて来るんだ?)

 

ピニャとボーゼスは日本と深い関わりを持っている龍人に無礼を働いた事を謝罪する為に、非公式ながらも共に来る様になった。

 

「えっと………なっなにか?」

 

ピニャは龍人に見られている事に気付きそう言った。

 

「いや………別に」

 

 

「ご主人、そこはだめにゃ~」

 

 

「にゃ~ん」

 

龍人はピニャから視線を外し、ネルとファニを撫でる事に意識を戻す。

 

「なぁ、伊丹」

 

 

「はい?」

 

 

「俺達は今から日本に行くんだよな?」

 

 

「あぁ……国会に出て貰う為に向こうに行く事になる」

 

 

「国会って言うと、国会議事堂だよね?」

 

 

「うん、まぁ……そうなるな」

 

 

「だよねぇ………となると、この恰好はないな」

 

龍人は自分の服を見た、黒い皮のコート、シャツ、黒いズボン………流石にこの服で国会に出席するのはどうかと思った様だ。

 

「かと言って鎧を着ていく訳にはいかないし」

 

 

「「鎧……ぉ~」」

 

伊丹と倉田は鎧と聞いて、ゲームで出てくる様な鎧をイメージした。

 

「俺の持ってる服って似た様な物ばかりだし………スーツでも作るか」

 

 

「すーつ?」

 

 

「ぁ~簡単に言うと正装の1つ………お前で言う所の神官服みたいな物だ」

 

 

「へぇ~………どんなのか見てみたいわぁ」

 

 

「機会があればな……おっそろそろ着くか」

 

そんな話をしていると、どうやらもうアルヌスに着いた様だ。

 

「あの杖…イタミらのと同じ物のようだがジエイタイの兵は皆、魔導師なのか?」

 

 

「もしかしたらジエイタイには希少な魔導師を大量に養成する方法が……」

 

ピニャのボーゼスが自衛隊員が訓練しているのを見てそう呟いた。杖と言うのは小銃の事である。

 

「違う、アレは魔導ではない。「ジュウ」や「ショウジュウ」と呼ばれる武器」

 

レレイが銃についてそう答えた。

 

「「武器?!」」

 

 

「原理は簡単……炸裂の魔法が封じられた筒で鉛の塊をはじき飛ばしている」

 

ピニャはそれを聞いてある考えが浮かんだ。

 

「武器であるなら作る事ができる………とすると全ての兵に持たせることも」

 

 

「可能……現にジエイタイはそれを成し、「ジュウ」による戦い方を工夫して今に至っている」

 

 

《ジャキ……ダダダダダッ!》

 

ピニャは先の戦闘で見たジエイタイの銃の威力を思い出した。

 

「戦い方が根本的に違う。我々の戦意と戦技を磨いた戦列も「ジュウ」を前にしてはただ無意味なだけに違いない」

 

 

「そう……だから帝国軍は負け、連合諸国国軍も敗退した」

 

ピニャはそれを聞くと唾を飲み、横に立てかけてある銃をチラッと見る。

 

「何としても戦況を一方的にしない為にも「ジュウ」を手に入れなければ」

 

 

「それは無意味……」

 

 

「なに?!」

 

レレイが杖で外を差す。

 

外に現れたのは、暴力を体現するかの様な鉄の塊だった。鉄の分厚い装甲、巨大な砲、全てを踏み潰しながら進む車輪、【74式戦車】である。

 

「「ショウジュウ」の「ショウ」とは小さいと言う意味。ならば対となる大きい「ジュウ」がある」

 

ピニャとボーゼスはレレイの言葉が信じられなかった。本当にあの様な巨大な物が火を吹くのかと。もしそうで在れば、先に見た戦闘ヘリ(鉄の天馬)、そして目の前にある戦車(鉄の象)、この世界にあんな物を作れる者はいない。正しく、異世界の化物だと。

 

「何故、こんな連中が攻めてきたんだ?」

 

 

「それは帝国がいきなり戦争を仕掛けて来たからだろう」

 

今まで黙っていた龍人がそう言い放った。

 

「お前等が話し合いをすることなく、門から出てきて虐殺行為を行い『この地の征服と領有を宣言する!』なんて言うからだ」

 

 

「まっまるで見て来た様な」

 

 

「見てたよ……と言うより、その場にいたからな。帝国兵が虐殺行為を行っているのを見た、本当に質が落ちたものだな」

 

 

「なっ!?」

 

 

「あっ貴方、帝国の兵に手を掛けたと言うのですか!?貴方もこちらの世界の人間でしょう!?」

 

龍人の言葉にピニャとボーゼスが驚愕し、ボーゼスがそう言い放つ。

 

「それは正確な答えではない。それに虐殺を見過ごす理由にはならない、あの場にいた日本の人間達は唯そこにいただけの一般人だ。それを突然に、一方的に、理不尽に殺した。特に子供とそれを庇おうとしていた母親を殺そうとしていた兵士は親子を見て下卑た笑みを浮かべていた。だから俺が殺した」

 

彼はピニャとボーゼスにそう言った。

 

「俺の事をどう思おうとお前達の勝手だ。だが覚えておけ、兵士は戦場に出る以上は死を覚悟をしているかも知れんが、一般人はそうじゃない。いきなり自分達の住んでいる場所が戦場になって、一方的に虐殺される。俺はそれだけは許せない………ただそこに居たと言うだけで、特に理由もなく、突然に殺される。そんな事、許されると思うか?」

 

龍人は目を細めてそう言った。銀座事件の際に、あそこで殺された者達は殆どが一般人だ。ただ、そこに居た………と言う理由で殺された。龍人も庇ったからとは言え、理不尽な理由で命も奪われた。だからこそ許せなかった、一方的な虐殺なんてものは。

 

彼の口から言われた言葉、それが彼女達に圧し掛かる。そしてピニャは思っていた、今現在の彼の帝国に対する印象は最悪だと。もしこのまま彼が日本の国会(元老院)に帝国の悪印象を伝え、戦争にでもなれば帝国は終わりだと。

 

 

 

 

 

~アルヌス 自衛隊駐屯地~

 

駐屯地に到着した一同、車を降りた所で龍人が何かを思い出したかの様に手を叩いた。

 

「あっ………伊丹」

 

 

「?」

 

 

「向こうに行くのは明日だよな?」

 

 

「あぁ、明日の午前中には行くつもりだ。国会は午後からだから……っとその前にテュカの服を用意しないと」

 

伊丹はテュカの方を見る、Tシャツ、ジーパン、龍人もそうだが流石にこの恰好で国会に出席させる訳にはいかなかった。

 

「少し用を思い出したんで、一度俺は自分の場所に戻る。明日の朝には帰ってくるから、構わないか?」

 

 

「ぇ……ぁ~分かった、上にはそう伝えとくよ」

 

 

「ありがとさん……じゃ」

 

龍人は伊丹に礼を伝えると、ポーチから緑色の玉を取り出し地面に投げつけた。そして割れた玉から緑色の煙が出現し、それによって彼の姿は消えてしまった。

 

「なっ!?」

 

 

「今のは魔法か?!」

 

 

「多分違う………あんな物は見た事も聞いた事も無い」

 

龍人が使ったのは【モドリ玉】と言うアイテムで、本来はキャンプまで戻る為の物なのだが、彼はそれに手を加えた物だ。そんな摩訶不思議な道具が、あるキノコから作られた物だと言う事は誰も知らない。

 

「一体、あの男は何者だ?」

 

 

「あらぁ、貴方……彼の事知らないのねぇ」

 

ロゥリィがピニャの言葉に対してそう言った。

 

「貴方は知っているのか?」

 

 

「えぇ………けど教えないわぁ」

 

 

「何故だ?」

 

 

「そうねぇ……彼はあまりあの名前で呼ばれる事が嫌いだからかしらぁ…………でも忠告はしてあげるわぁ。もし彼を敵に回すならぁ………世界を敵に回すと考えなさぃ」

 

そう言うロゥリィはイタズラする子供の様な笑みを浮かべていた。ピニャやボーゼス、伊丹達でさえその言葉の意味は理解できなかった。

 

(なんせ、龍人は神々さえも恐怖する古龍達の王…………神話にも出てくる存在、それを知った時、貴方はどんな顔をするかしらねぇ?私の時は……)

 

ロゥリィはかつて龍人と出会った時の事を思い出し、今度は年頃の少女が見せる笑みを浮かべた。



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EP15 動き出す龍と日本

 ~龍の集う神殿~

 

「じゃ、皆、準備しといてね」

 

 龍人は自分よりも巨大な龍達に対してそう言い放つ。

 

 ―王よ………日本とやらに行くのは構いませんが、何を話すつもりでしょうか?―

 

 他の龍達を圧倒する気配を放つ黒い龍がそう言った。

 

「何をと言われても……在りのままだよ」

 

 

 ―しかし王よ。人間とは愚かな生き物です、以前の様に王に対して無礼を働く可能性もあります―

 

 

「ぁ~懐かしいな。時の王達に追われたっけ」

 

 

 ―笑い事ではありません―

 

 

「まぁ、アレはアレで面白かったから良い思い出かな……おっとそろそろ行かないと、レウ!レア!行くぞ!」

 

 

 ―御意―

 

 

 ―御心のままに―

 

 龍達の中からリオレウスとリオレイアが出て来た。龍人はリオレウスの上に飛び乗り跨った。

 

「じゃあ、皆、宜しくな」

 

 彼がそう言うと、リオレウスとリオレイアはその翼を広げて飛び上がり、神殿から大空へと舞い上がった。

 

 ―黒龍よ、どうしましょう?―

 

 黒い龍と同じ姿をした白い龍がそう尋ねた。

 

 ー王のご命令だ。従うー

 

 

 ーカッカッカッ、世界を滅ぼしうる御主も王の前では形無しじゃのうー

 

 この中でそれなりに大きな龍が笑いながら黒い龍にいい放つ。

 

 ー五月蝿いぞ、翁。ん?蛇王と大海はどうした?ー

 

 

 ー王の命を受けた瞬間に、熔山、滅尽と共に出ていった。眠い……ー

 

 蛸の様な形をした龍に分類していいのか分からない存在が、ふよふよと宙を漂いながらそう言う。

 

 ーどいつもこいつも忠誠心高いな。我はゲームで忙しいのでこれで失礼するー

 

 神々しい姿の純白の龍がそう言いながら人の姿に変わる。

 

 ーこの引きこもりめー

 

 

 ー仕方ないだろう、我は外に出るだけで生態系に影響を及ぼすからなー

 

 

 ーはぁ……随分と丸くなったな。それは我等もかー

 

 

 ー王が手を差し伸べて下さったあの時からなー

 

 人の姿となった白い龍を見送りながら、黒い龍と金色の龍がそう呟き、昔の事を思い出していた。

 

 

ー総ては我等が王の為にー

 

 かつてその手を差し伸べ、孤独から解放してくれた王の為に古龍達は動き出した。

 

 

 

 

 

 ~午前10時 アルヌスの丘 ゲート前~

 

「来ませんね」

 

 

「来ないなぁ」

 

 準備を整え、ゲートの前で龍人を待っていた伊丹達。特地の使者として、レレイ、テュカ、ロゥリィ、後非公認であるがピニャとボーゼスがいた。

 

 当初はレレイとテュカだけの予定であったが、ロゥリィも自分も行きたいと言い出した。

 

 

 ~回想開始~

 

 

「ちょっとぉ、わたしはぁ?」

 

 門の向こう側に行くと栗林達がテュカに説明していると、ロゥリィがそう言い始めた。

 

 

「どこかのコスプレ少女連れてきたと言われそうだし」

 

 

「亜神と言っても外見は人間と同じだしね」

 

 

「だったら()()を見せればいいじゃなぃ~」

 

 そう言いながら彼女は巨大なハルバートを持ち上げた。彼女の奇跡は現代日本には少々刺激が強すぎる為に、栗林はダメと言う。

 

 倉田と富田が「国会の中だけならいいんじゃない」等と言っているが駄目な物は駄目である。

 

「あーもう!そんなおもしろいことにわたしぃを………仲間外れにするつもりぃ?」

 

 ロゥリィの瞳がギラッと光る。このまま暴れまわれても困るので伊丹に電話し許可を取った。

 

 ~回想終了~

 

 

 

 

 ―オォォォォォ!―

 

 何かの咆哮がアルヌスに聞こえた。皆が空を見上げると、輝く太陽光に反射する2体の龍達が翔けていた。

 

 白銀と金色の龍達、彼等はゆっくりと降下してくると伊丹達の前に降りたった。

 

「待たせたな……よっと」

 

 リオレウスに跨っていた龍人が伊丹達にそう言うと降りてきた。彼が降りたのを確認するとリオレウスとリオレイアは光り始めると女性の姿へと変わった。

 

「ちょっと用が長引いて遅くなった、すまん」

 

 

「いや大丈夫だ。それで今の日本は冬なんで………その恰好で大丈夫か?」

 

 龍人の格好はコート、Tシャツ、黒いズボンだ。現在の日本は冬なので、龍人の格好は少し寒いだろう。

 

「あぁ、問題ない。このコートは龍の皮で作られている、夏でも涼しく、冬は温かい、なのでこれで大丈夫だ」

 

 

「りゅ……龍の皮!?」

 

 龍の皮と言われて、心を躍らせる伊丹と倉田。是非とも触ってみたいと顔に書いている。

 

「ちゃんとした正装は持ってる。ではそろそろ、行くとするか」

 

 

「あっ、あぁ」

 

 龍人がそう言うと、伊丹から向こうに行く際の事を説明され、彼はそれを聞いた。まずはリオレウスとリオレイアの事だ、彼女達が暴れると危険なのでそれをさせない様にしてくれとの事だ。

 

「王に無礼を働けば殺します」

 

 

「一国が滅びようと問題ない」

 

 

「全くお前達は……大丈夫だ。人の居る場所では暴れさせないから」

 

 龍人はそう言うが、皆は「人がいない場所だったら暴れさせるのかよ」と思った。だがあえて、何も突っ込まなかった。

 

「では往こう」

 

 そうして、彼等は日本へと向かった。

 

 

 

 

 

 ~日本~

 

 テュカやレレイ達、特地から来た彼女達にとって、高層ビルを見て唖然としていた。彼女達の世界の建物よりも遥かに高く、ガラス張りになっていた。空には鉄の塊である飛行機が飛んでいる。

 

 ピニャとボーゼスはそれを見て自分の世界との技術に圧倒的な差があるのは嫌でも理解できた。

 

 伊丹は日本に入国するのに必要な手続きを行っているとスーツの男が声を掛けて来た。

 

「情報本部より参りました、駒門です。皆さんの案内とエスコートを仰せつかりました」

 

 伊丹は彼から感じる雰囲気が普通ではないと感じ取った、龍人も同じ様だ。リオレウス達は興味無さそうに空を見上げたり、ビルを見たりしている。

 

 伊丹が考案の人間かと尋ねるが、それに対して駒門は笑みを浮かべ返し、伊丹の経歴を言い始める。

 

(へぇ……伊丹が特殊作戦群(S)だったとは、そんな部隊の怠け者か………凄いな)

 

 伊丹の経歴を聞いた、栗林が衝撃が大きかったようで叫びだすと近くのフェンスまで走り出し、金網を揺さぶりガシャガシャと音を立て始め、この世は間違っているなどと言いだした。その現実逃避はバスに乗ってからも続いており、いい加減に鬱陶しくなったのかリオレウス達が彼女を引き裂こうとしたが龍人がそれを止めた。

 

 それから、牛野屋と言う牛丼屋で昼食を済ませた。なんでも今回の参考人招致は出張扱いで食費は500円以内らしい……世知辛い世の中である。龍人はリオレウス達がそれでは足りないと知っていたので、自分の懐から金を出し追加した。その際に伊丹達が龍人の財布の中身を見て驚愕した、何故なら彼の財布の中には諭吉さんが一杯居たからだ。彼曰く、本来ある財産のほんの一部だそうだ。

 

 食事を終えた彼等はAIYAMAと言う服屋に入る。本来で在ればエルフの使う正装が在ったのだが、例の炎龍の件で焼けてしまっている為に、代用としてスーツを買う事にした。レレイは普段着が正装の様な物だ、ロゥリィにしても端から見ればゴスロリにしか見えないが、しっかりとした正装だ。

 

 龍人は普段の姿だが後ほど着替えるらしい。15時から参考人招致が始まる為に、移動を開始した。

 

 

 

 ~国会議事堂~

 

 バスから降りた伊丹達はそのまま中へと入って行く。ピニャとボーゼスは非公式で此方に来ている為に別の会合場所に行った。

 

「えっとそれで……」

 

 

「あっ……服か」

 

 伊丹が龍人を見る。彼は直ぐに何の事か分かった様だ、彼は指を鳴らすと足元に魔法陣が現れる。魔方陣がゆっくりと彼の身体を昇って行くと服装が変わっていく。

 

「すっすげぇ」

 

 

「これが俺の正装、レウ、レア」

 

 彼の現在の服は、白をメインにした服で金等で装飾されている服だ(イメージはルルーシュの皇帝服)。リオレウスとリオレイアの方を見ると、彼女達は頷いた。彼女達の足元にも魔方陣が展開し、服装がそれぞれの色のドレスになった。

 

「では行こうか」

 

 龍人はそう言うと進み始めた。



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EP16 質疑応答と世界の真実

 ~国会~

 

 公共放送局が義務的に放送している国会中継、普段は低視聴率で面白味の欠ける番組であるが、今日はそうではなかった。何故なら、某巨大掲示板サイトに特地の参考人が招かれると書き込みが在った事をきっかけに開局一番の最高視聴率に達したのである。

 

 入場してきた龍人、リオレウス、リオレイア、レレイ、テュカ、ロゥリィの姿に場はざわめいた。

 

 質疑応答は野党側の女性議員・幸原みずきから始まった。

 

 その質問は悪辣で、炎龍の襲撃の際に出た死傷者数だけを取り上げ、完全に自衛隊の挙げ足取りに専念している。

 

 レレイは特に問題なく終えた、テュカはその場では気を失っていた為に分からないと答えた。そしてロゥリィの名前が挙がった。議員はロゥリィの姿を見て、喪服だと思ったらしい。そしてロゥリィは……

 

「あなた、おばかぁ?」

 

 と日本語で言った。マイクで音が大きくなり、会場に声が響く。

 

「今……なんと?」

 

 

「あなたはおバカさんですかぁ?って訊いたのよぉ……お嬢ちゃん」

 

 

「おじょ……失礼ですね!馬鹿とはなんですか!?」

 

 龍人はそれを聞いて笑いを堪えている様だ。

 

「おバカな質問……繰り返すしか能がないのかしらぁ?イタミ達は誰にも出来ない事をやり遂げたわぁ。

 

 四分の一がなくなった?違う、本来なら全滅していた筈なのに炎龍から四分の三も救ったのよぉ。この言葉の意味が分からない元老院議員ばかりじゃこの国の兵士も苦労しているでしょうねぇ」

 

 

「お嬢ちゃん、大人に対する礼儀がなってないようなぇ……其方の世界の文化がどうかは知らないですが、この国では年長者は敬うものです」

 

 

「へぇ………」

 

 ロゥリィの唇の色が変わり、ハルバートを包んでいる布を解こうとする。

 

「よっと……お前の奇跡は刺激的過ぎるんだよ」

 

 何時の間にか龍人がロゥリィを抱えていた。

 

「伊丹、説明宜しく」

 

 ロゥリィを抱えたまま、彼は席の方に彼女を運ぶ。伊丹が説明を始めた。ロゥリィは961歳、テュカが165歳と言われた事で場が更にざわめき出す。レレイが15歳という事で場はホッとした。

 

 そして、レレイがそれぞれの種族について語り出した。それを聞いて議員は唖然としていたのは言うまでもない。そして質疑応答が大臣へと変わった。

 

「では次に、狩矢 龍人参考人」

 

 次に龍人が呼ばれる、彼は立ち上がるとマイクの前に立つ。その後ろには勿論、リオレウスとリオレイアが同行した。

 

「では貴方の事について教えて貰いたいのですが」

 

 

「名は狩矢 龍人。名から察する様に日本人だ………っと言ってもそっちのロゥリィやテュカみたいに見た目と年齢は一致しないよ」

 

 

「おっ御幾つですか?」

 

 

「途中から数えるのが面倒になったから正確ではないけど………まぁ………地球よりは長生きしてるよ」

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

「世界誕生の時からいるから………軽く1亰は越えてるかな?」

 

 

「「「せっ世界誕生?!」」」

 

 

「あぁ、勘違いの無い様に言っておくけどこの宇宙ではないよ。

 

 俺の言う世界とはこの宇宙を含めた、全て宇宙の事だよ」

 

 

「???」

 

 この場にいる者達全てがそれを理解できていない。当然だ、誰にもそんな事は想像できはしない。

 

「世界を1つの器と考えて貰おう。そしてその器の中には無数のビー玉が入っているとしよう。その1つ、1つがそれぞれの宇宙。この宇宙もそんな中の1つだ、まぁ俺もこの世界に幾つの宇宙があるかは把握してないけど………多過ぎて把握できてないからだが」

 

 皆はもう何がなんなのか理解が追いついていない。

 

「なっ何故、貴方はその様な事を知って……いぇ、その世界誕生とは」

 

 

「元々は違う世界にいたんだが、とある理由で俺はこの世界に来た。この世界の始原……所謂、無という状態の時だ。そこで俺は世界を始める為に力を使い、世界を始めた」

 

 

「せっ世界を始めた?!」

 

 

「(まぁ神からその力を貰ったと言うのは説明が面倒だから言わないけど)

 

 それで、何万年かは眠りに付いていた。ある程度宇宙が誕生した時に目覚めて、それから色んな宇宙を旅して、最終的にお前達が特地と呼ぶ星の環境が気に入ったから棲みついた。

 

(まぁ元々、星が出来た段階で古龍達が環境を整えてくれてたんだけどね)」

 

 あまりの衝撃的な彼の発言に場は唖然とする。

 

 なんせ彼の言っている事が全て事実であるならば、この宇宙を始めとする宇宙……強いては世界の創造主とも言える存在なのだから。

 

「でっでは……あっ貴方は……いや貴方様は造物主様と言う事でしょうか?」

 

 

「ぁ~どの宇宙でもそう言われるけど、俺はあくまで切っ掛けで、後は偶発的にそれぞれの宇宙が誕生しただけだ。そんな御大層な存在じゃない。それで他には?」

 

 

「えっ……えっと……その……」

 

 龍人の語った事があまりに驚愕過ぎて大臣は頭が回ってない様だ。

 

「じゃあ、次に後ろの子達の事を紹介しようか。銀髪の方がリオレウス、金髪の方がリオレイア、多分何かで知っているとは思うが、銀座の時の際の龍達だ。

 

 彼女達の力は見た通りだ。彼女達を1人倒すなら、核ミサイルを数発纏めて喰らわせることだ……まぁ、そんな事したら向こう何百年からその土地に住めなくなるだろうけどな………信じられないなら此処で龍の姿に」

 

 

「いっいぇ!大丈夫です!」

 

 大臣は流石にこの場でそんな事をされれば大変な事になると思った為にそう言った。

 

「そう………あぁ、そうだ。この中継を見ているであろう、各国のトップの皆さん。この場にいる人達もそうだろうけど、突然の事で驚いただろう?」

 

 龍人は近くのカメラに向かってそう言った。

 

「君達も向こうの資源が欲しいだろうけどあんまり力ずくで事を起こそうとしないで貰おうか。俺は争うのは嫌いではないが、無駄に命は奪いたくないんでね………もししようとするならそれ相応の対応を取らせて貰う」

 

 そう言い終えると、彼は視線を大臣の方へと向けた。

 

「……以上だ。何か質問があれば答えるが?」

 

 

「いっいぇ、もう十分です。ありがとうございました」

 

 こうして質疑応答は終了した。



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EP17 伊丹の奥さん

 ~地下鉄~

 

「電車で移動か……だけど逆に目立ってない?」

 

 

「そうだよねぇ」

 

 龍人の言葉に同意する伊丹。何故、地下鉄にしたかと言うと、バスが狙われているという事で急遽移動手段を変更した。勿論、先に会った駒門には内緒でだ。囮にしたバスに着いて行っている頃だろう。しかし、連れている者達が目立ちすぎている。

 

「ひっ……」

 

 

「おい、ロゥリィ………動きにくいんだが」

 

 何故かロゥリィは地下に入ってからと言うもの、何かに脅えている様子で龍人の服を掴んでいる。レレイとテュカはそうではないが、ボーゼスは富田にしがみ付いており、ピニャは平然としている様に見えるが少し脅えている様だ。

 

 リオレウスとリオレイアは今にも殺しそうな眼でロゥリィを睨んでいる。現に身体からオーラの様な溢れている。

 

「彼女達は一体どうしたんだ?」

 

 

「ぁ~向こうの世界では地面の下って言うのは死者の国って事になってる。なので彼女等が脅えるのも無理はない…………ロゥリィに関しては冥府の神のハーディに求婚されてからしつこいかららしい」

 

 

「へぇ……それよりも国会で言ってた事って」

 

 

「あぁ、事実だよ。とは言っても本当に切っ掛けを作っただけだよ」

 

 

『霞ヶ関、霞ヶ関です』

 

 電車は霞ヶ関に到着し、その駅で駒門が乗り込んできた。

 

「よぉ」

 

 

「バスの方は?」

 

 

「予定を早めて箱根に向かう。見事に引っかかったよ」

 

 どうやらバスの方は見事に囮の役目を果たしたらしい。

 

「なぁ、駒門さん。何処の国が狙って来てるんだ?」

 

 

「えっ……ぁ~未だ、確定ではないが……………」

 

 

「へぇ………そう……成程ねぇ」

 

 駒門から国の事を聞いて、笑みを浮かべる。それを見た伊丹や駒門達はゾッとした。

 

「ねぇ……龍人ぉ……まだ駄目なのぉ?はやく、でたいのぉ。もぅガマンできなぁい」

 

 ロゥリィはどうやら限界の様だ。

 

「限界みたいだな………伊丹、次で降りないか?」

 

 

「………分かった」

 

 丁度、電車が銀座に着いた。伊丹も龍人の意見に同意して此処に降りる事にした。

 

「ちょちょっと待てよ!こっちにも段取りが」

 

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 皆が銀座で降りた途端に、事故が起きた事で運休になった。どうやら「敵」の仕業の様だ。

 

 少し話し合っていると、ロゥリィのハルバートを盗む男が現れた。だが直ぐに男は倒れてしまった。そして駒門がハルバートを持ち上げようとして腰を痛めてしまった。

 

 

 

 ~とある家~

 

「それで伊丹、彼女は?」

 

 龍人達はとある場所にある家に来ていた。

 

「ぁ~俺の元「嫁」さん」

 

 

「「「ぇ~!?」」」

 

 この家の主はどうやら伊丹の元奥さんらしい。予想外だったらしく、皆は全員驚いている。

 

「ん?…………ほんもの……ほんものなのね、コスプレじゃなくて……うふふふふふふっ」

 

 伊丹の元妻・梨沙はネットでロゥリィ達の記事を見た様だ。何やら怪しい顔をして画像を保存し始めた。

 

「えっ?………本物の神様きた?この人こそ、本当の創造主……」

 

 今度は龍人の記事を見つけた様で、画面と龍人を交互に見ている。

 

「かっ神様~!」

 

 梨沙は突然、龍人の前に跪いて祈り始めた。この対応に困った表情になっている龍人。

 

 

 

 

 

 翌日、一同は買い物に行く事にした。

 

「ねぇ!龍人ぉ!これ凄いわぁ!」

 

 

「ぁ~どれも同じに見える」

 

 ゴスロリ服の沢山ある店に入りテンションが上がっているロゥリィ。

 

「王、この本が欲しいのですが」

 

 

「では私はこのコミックを」

 

 どうやらリオレウスとリオレイアは大量の本を持ってきた。

 

「おっこのメモリ良さそう、こっちのソフトは新作か」

 

 龍人本人はパソコンの大容量メモリ&ソフト、パーツ、新作ゲーム等を大量に購入した。ロゥリィやリオレウス達の物を合わせて、計200万円のお買い物を現金で支払った。

 

「それでこんなに買ってどうする?確実に持てない」

 

 レレイがそう言った。龍であるリオレウス達には大したことはないだろうが、龍人のパソコン関係の物だけでもかなり量がある、加えて服、本など持って歩くには大変な量だ。

 

 龍人は人目のない場所まで荷を運ぶと、腰に付いているポーチを手に取り、口を広げた。リオレウスとリオレイアは買った物を持ち上げて、ポーチへと近付ける。すると、確実にポーチより大きな物が吸い込まれていった。

 

 これには一同、目が点になっている。

 

「どっどうなってるの?!」

 

 

「企業秘密」

 

 

「よいしょっと………王、これで終わりです」

 

 

「よし」

 

 リオレウスとリオレイアが荷をポーチに入れ終わると、彼はポーチを腰に戻した。

 

「なんでそんなお金を持ってるんですか、神様?」

 

 梨沙の中では龍人は完全に神様認定されている様だ。

 

「神様じゃないって言ってるのに………昔、色んな国の王から貰ったお宝とかを売ったり」

 

 

「なっ長生きなんですね……例えばどんな人とお知り合いで?」

 

 

「………円卓」

 

 

「えっ?!」

 

 

「まぁ端から見てると面白かったけど………現にあの場に居ると辛い。後、お金なくても生きていけるよ……人間、明日のパンツと少しの小銭があれば」

 

 

「そっそうですか……」

 

 龍人が遠い目をしており、それを見た他の者達はこれ以上は聞いてはいけないと思った。

 

「そう言えば貴方に聞きたい事が一杯ある」

 

 レレイにそう言われて龍人は視線を逸らす。何故ならこういう場合、とても面倒な事になるのを経験済みだからだ。

 

「おっと!そろそろ伊丹と合流する時間だ!」

 

 

「……また逸らされた」

 

 伊丹達と合流する為に、一同は移動を始めた。

 

『王……後方に』

 

 

『あっちとあっちのビルの屋上にもいますわ』

 

 リオレウスとリオレイアは自分達を見張る者達の気配に気付いていた。

 

『いいよ、放っておいて。何処の国かは知らないけど…………襲ってくるなら………力を知らしめるだけの事だ。国の領土の半分は覚悟して貰おうかな』

 

 

『王よ、面倒です。今すぐ我等が行って国を消してきましょう!』

 

 

『レウスの言う通りでしょう………暗殺者にしろ、誘拐犯にしろ、王に用があるのであればこそこそせずに堂々と出てくるべきです。矮小な人間如きが』

 

 

『俺も一応人間なんだけど………襲ってくるまで放置で良いよ』

 

 

『『御意』』

 

 各国は直ぐに知るだろう、龍には決しては触れてはならない逆鱗があるという事を。



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EP18 古龍王

 ~箱根 温泉宿・山海楼閣 男湯~

 

「はぁ~気持ちぃ~」

 

 

「日々の疲れが流れていく」

 

 

「ふぅ~」

 

 龍人、伊丹、富田は温泉に浸かっていた。

 

「やっぱ温泉と言えば日本だよね」

 

 

「そうなの?」

 

 

「風呂ならローマ式がいいんだけど………温泉はやっぱり日本なんだよねぇ。これで酒でもあればいいんだけど…………まぁいいや。そういや、富田さんは大変だったみたいだね」

 

 龍人は上がると、一瞬の内に身体の水気が消えた。次の瞬間、浴衣も来ていた。共に上がっていた伊丹と富田はそれを見て唖然とする。

 

「すげぇ」

 

 

「2人も拭いて、着せておいたよ。早く飯を喰おう」

 

 

「「えっ………」」

 

 伊丹と富田は何時の間にか自分達が着替えていた事に驚いた。

 

「流石は精密とスピードを持ってるスタンド………全く気付かなかった」

 

 

「すたんど?」

 

 

「ぁ~後で説明してやるから」

 

 龍人の力に改めて驚きながらも、彼等はこの場を後にした。

 

 

 

 

 ~女湯~

 

「はぁ~」

 

 リオレウス、リオレイア、ロゥリィ、レレイ、テュカ、ピニャ、ボーゼス、梨沙、栗林が温泉に浸かっていた。

 

 普段から龍人以外に表情を見せないリオレウスとリオレイアも気持ち良さそうだ。

 

「王と共に入りたかった」

 

 

「同感ですね」

 

 

「あらぁ……貴方達って龍人とはそう言う関係なのぉ?」

 

 

「王の御世話は我等の役目。夜伽を命じられれば当然、応える。寧ろご褒美だ」

 

 

「「「なななななな」」」

 

 リオレウスの発言に乙女達が顔を真っ赤にしている。

 

「王が望まれるなら、家事から夜のお世話、殲滅、国崩し、世界の破壊、何でもね。それでどれ程の犠牲が出ようと私は一向に構いません。まぁ、私を始めて古龍全員がそうですけど」

 

 

「「「「こっ古龍!?」」」」

 

 リオレイアの言葉に驚いているレレイ、テュカ、ピニャ、ボーゼス。

 

「どうしたの?」

 

 栗林はそれに対して首を傾げた。

 

「こっ古龍………古代龍よりも古くより存在している龍。それ等の龍は伝説によると天災そのもの、私達の世界にある最も古い神話にも登場している。人間、エルフ、獣人、問わず全種族が知っている………ただ、誰も見た事がないという」

 

 

「たっ確か神話の時代に怠惰と傲慢に身を落とした神々がいて、世界が混沌としていた時に何処からともなく1人の王と龍とが現れた。そして天から神々を引き摺り降ろし滅ぼした………それで若い神々が王に命じられ、今の座についた」

 

 レレイとテュカがそう言った。彼女等にとって、古龍の名は畏敬を持たねばならぬ物らしい。

 

「でっでは……まさか龍人殿は」

 

 

「ここここ」

 

 

「【古龍王】よぉ。他にも解放せし者、神殺しの英雄なんて呼ばれてるわねぇ………私達の世界でもぉ、最も偉大な英雄。

 

 唯一古龍を従える事のできる者。彼の怒りを買って、滅んだ国も1つや2つではなくってよぉ」

 

 ピニャとボーゼスの顔が真っ青になる。そして自分達がしてしまった事の大きさを改めて思い知る。龍人の言葉1つで自分達の国は1夜……いや1時間もしない内に地図の上から消えるだろう。

 

「そう言えば………王はどこぞの女騎士共に殴られ、馬に引き摺られたと聞くが」

 

 

「!!!」

 

 

「その事については王からもう済んだ事だと聞いているので、どうこう言うつもりはございません。まぁ……王に抱き付いて気の抜けていた愚か者は現在、御仕置き中ですけど」

 

 リオレイアが笑みを浮かべてそう言う。一体どんな事をされているのやら。

 

「だが………次に王に無礼を働いた場合は殺します。貴方達も………国も、人間も、塵に変えます。例え王が何と言おうとも」

 

 

「「なっ?!」」

 

 

「横暴だと言いたそうな顔ですね。ですが逆です。あの星は王の為に我等が創り上げた物………それを後から出て来た貴方達が此処は自分達の領地だの、自分達の所有物だと言い合って戦争し、勝手に死んだ。

 

 あの星の空気も、石も、木も、総てが我等が王の物です。そもそも貴方達が存在していられるのは王の慈悲が在ってのもの、身の程を弁えなさい」

 

 

「レイア、人間共に関しては王が既に決定済みだ。我等が口出す事ではないぞ………まぁ王に無礼を働く者共にはあの星から出て行って貰いたいと思うがな」

 

 リオレウスは横目でピニャ達を見ながらそう言う。

 

「そうでしたね………まぁいいでしょう。今は警告だけで済ましておきます、次はないと思いなさい」

 

 リオレイアはそう言うと、近くに在った桶を手に取った。

 

「フン!」

 

 彼女は外に向かって桶を投げた。

 

「「「?」」」

 

 

「全く乙女の入浴を覗くなんて」

 

 

「王なら歓迎……と言うか一緒に入りたかったな」

 

 リオレイアとリオレウスはそう言うと、風呂を後にした。彼女達が居なくなった後、梨沙が話しかけた。

 

「ねぇ、古龍王って?」

 

 

「私達の世界で最も古い神話」

 

 レレイが語り出した。

 

 

 

 ―未だ世界に神々が肉体を持ち居た時代。その力故に、神々は人間や獣人族達を畏れさせた。人間や獣人達も神々を畏れ敬う事で自分達も護られると考えていた………だが時の流れの中で、神々は自分達が敬われ、祀られる事でその心に傲慢と怠惰に侵された。

 

 自分達は力を持つ故に、他の種族を従えてもいいのだと。時にそれは生贄、時に天災、時に神託による戦争と言う形で地上に生きる者達に影響を及ぼした。神々にとってそれは遊戯の様な物だった、だが人間や地上に生きる者達にとっては命の問題だ。逆らった者もいた、だがそんな者達は疫病や災害により死んだ。

 

 そんな時、何処からか複数の龍を引き連れて1人の少年が現れた。少年は龍達と共に、神々を蹂躙し始めた。神々もその力で少年と龍達に向かい、国1つを簡単に消し去る神の一撃を放った。

 

 だが、その一撃は無意味だった。彼の者達はその一撃を受けても傷1つ負う事はなかった、突如現れた正体不明の存在、世界の頂点に立つ筈の自分達が手も足も出ない事に恐怖した。そして少年は言い放った。

 

「貴様等は自然の理より逸脱した。神としての役割を放棄し、私欲で地上の者達を苦しめ悦とした。貴様等に神の資格はない。俺が貴様等をその座より引き摺り降ろす」

 

 龍達は神々を蹂躙し始めた。神々は必死に抵抗する、だがそれは無意味だった。自然を破壊する天災そのものの様なその力で神々を喰らい尽くした。そして残ったのは若い数人の神々だった。

 

 少年は若い神々に言った「お前達が新しい秩序を、法を作り、新たな時代を始めよ。しかし覚えておけ、お前達がまた堕落した時、我等は再び現れる」と。少年はそう言うと龍達と共に去った。

 

 若い神々は龍達を畏怖して【古龍】と呼んだ。そして少年を新たな時代を切り開いた英雄としこう呼んだ。

 

 強大なる古の龍を従えし英雄【古龍王】と―

 

 

 

 

 

「古龍王の詳細な名前は不明。だけどその名は神々と共に様々な式典に登場する」

 

 

「エルフにも部族によって少し異なるけど彼の王は登場するわよ。確か、初めてやって来た男女のエルフに道を示し、理を説いた者として」

 

 

「本人はぁ、そんな風に言われるのは嫌いらしいわぁ。でもあの世界で生きていきたいならぁ……アイツを怒らせない方が身の為よぉ」

 

 レレイ、テュカがそう言うと捕捉でロゥリィが伝えた。ロゥリィの言葉がピニャとボーゼスを更に絶望の色に染まる。

 

「わたわたわた………私は何て事を」

 

 

「ハハ………ハハハ……アハハハハ」

 

 ボーゼスは自分の仕出かした事の大きさを再認識し、ピニャは正気では居られなかったのか現実逃避している。

 

「まぁアイツは殴られたくらいで国を滅ぼす程、器が小さい訳じゃないから安心なさい………そうねぇ……年長者としてぇ助言して上げるわぁ。悪い事をすればぁ………ちゃんと謝りなさぁい」

 

 ロゥリィはそう言うと温泉から出て行った。

 

「「ぁ」」

 

 ロゥリィに言われてピニャとボーゼスは思い出した、そう言えば龍人にちゃんと謝罪をしていないと。



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EP19 一方的な防衛戦

 ~温泉宿~

 

「いっ偉大なる英雄、古龍王様とは知らず」

 

 

「いっイタリカでは大変なご無礼を」

 

 

「「ほっ本当に申し訳ありませんでした!」」

 

 龍人に対して頭を下げるピニャとボーゼス。レレイとテュカはその横で龍人の事を崇めている。

 

 当の本人は何で知ってるのと言う表情をしている。

 

 リオレウスとリオレイアの方を見てみる、さっと目を反らした。

 

 次にロゥリィの方を見てみる、ニヤッと笑みを浮かべている。

 

「ぁ~何となく理解した……」

 

 

「古龍王?」

 

 伊丹と富田は何の事か分かってない様だ、レレイが状況を説明した。

 

「つまり、龍人君は神様で、神話に出てくる大英雄……」

 

 

「俺は自分でしたい事をしただけで、そんな崇められる事なんてしてないんだけどな」

 

 

「あらぁ、旧神を排して新世代の神々に引き渡すなんてぇ、十分に崇められてもおかしくないことよぉ。

 

 我が神、エムロイも言っていたわぁ。『我等が父がいなければ、今の自分達は此処にいない』って」

 

 

「俺はアイツ等の親になった覚えはないんだけど……はぁ。取り敢えず、頭を上げなよ。アレはちょっとした行き違いから起こった事だ、別にそこまで気にしてない」

 

 

「しっしかし」

 

 

「そんな事で怒ってたら、君の父親の方が酷かったよ」

 

 

「えっ?」

 

 龍人の発言に驚くピニャ。

 

「父上ですか…?」

 

 

「そうそう………イタリカでの事は特に気にしてないから、別にいいよ」

 

 

「でっでは国は」

 

 

「何もしないからな」

 

 

「でっですが、古龍王様に不敬を働いた者達の国は滅びたと」

 

 

「実際は相手が攻めて来たから追い返しただけなんだけど………まぁ家の子達が追撃したのは言うまでもないけどね。民には被害が出ない様にとは言っていたけど………実質、俺が滅ぼしたのって世界を危機に陥れた奴等だし………後虐殺とか、一方的な蹂躙をする奴とかかね」

 

 そう笑みを浮かべて言う龍人、それを聞いて顔を真っ青にさせるピニャとボーゼス。帝国は日本に対して一方的な侵略行為を行った……それは事実。だからこそ、次に龍人の怒りをかった場合はどうなるかなど容易に想像がついた。

 

 先のイタリカの事は怒ってないにしても、次許されるとは限らない………絶対に無礼が在ってはならないと。

 

「あぁ、そうだ。俺の事は誰にも言わないでくれ。数百年前に、正体がバレて神官共や信者共に追われて大変だったんだ」

 

 

「あの時は大変だったわねぇ」

 

 

「バレた原因が、なに他人事の様に言ってるんだ」

 

 どうやら原因はロゥリィらしい、当の本人はワインを飲んで目を逸らしている。

 

「はぁ………」

 

 どうやらロゥリィに反省を求めるのは諦めたらしい。

 

 

 

 

 ~数時間後~

 

「すぅすぅ」

 

 

「かぁ~」

 

 部屋に居る者達は殆ど眠っていた。

 

 ピニャとボーゼスは龍人に許されたものの、不敬を働いたのは事実の為、龍人の機嫌を取ろうとするが、リオレウスとリオレイアに邪魔をされてしまい、最後には酒に酔ってダウンしている。

 

 他の者達も酒で酔って眠っている。

 

 現在起きているのは、龍人と古龍、ロゥリィと伊丹だけだ。

 

「伊丹も少し寝ておけ……明日は早い」

 

 

「あっ……あぁ。そうさせて貰いたいけど……」

 

 

「ん?……あぁ、アレは俺の方でなんとかするよ。勿論迷惑にならない範囲でな」

 

 

「そっか……なら俺もちょっと休ませて貰うよ。昨日もちょっとしか寝てないし」

 

 

「おう」

 

 伊丹もどうやら眠気に負けて眠ってしまった。

 

「……伊丹はアレか、年下好きなのか?」

 

 何故か伊丹は寝ているレレイに抱き付かれていた。そしてこの行為は向こうの世界ではかなり重要な意味を持っていると未だ彼は知らなかった。

 

「まぁいいか…………それよりロゥリィ」

 

 

「「殺す、殺す、殺す、殺す」」

 

 呪詛の様に連呼しているリオレウスとリオレイア。

 

「あらぁ……なぁに?」

 

 

「近いし、見えてる」

 

 ロゥリィは龍人の膝に座り、彼に寄り掛かっていた。浴衣が肌蹴ており、色々と見えている。

 

「フフフ……見せてるのよぉ」

 

 

「はぁ………毎度、毎度良くやるなお前も。言っとくがその気にはならんぞ」

 

 

「子供の身体で王が満足する訳なかろう!王はボッ!キュ!ボン!が好きなのだ!この間なんか、私の」

 

 

「ザ・ワールド」

 

 龍人は時を支配するスタンド、ザ・ワールドを呼び出し時を止めた。そして何処からかテープを取り出しリオレウスの口に☓印で張り付け、ザ・ワールドを解除する。

 

「何を言うつもりだお前は」

 

 

「もがっもがっ」

 

 

「亜神の分際で王に擦り寄るなど……まぁ所詮は幼児体型、王の寵愛を受け止めきれません」

 

 

「どういうことぉ?」

 

 

「王のぷれいは、とてもh「ザ・ワールド!」もがっもがっ」

 

 リオレイアも同じ様にテープを貼られた。

 

「お前等なぁ………人前で変な事を言うのは止めろ」

 

 

「もがっもががっ(しかし王)!」

 

 

「もがっもがっ(事実です。王はとてもはg)「それ以上言うなら強制帰還させるけど?」」

 

 リオレウスとリオレイアはそう言われると黙ってしまった。

 

「全く………ん?」

 

 ―パスッ!バスッ!キュン!―

 

 何かの音が龍人の耳に聞こえてきた。

 

「ねぇ……龍人」

 

 

「言わなくても分かってる。でも止めろ、折角の温泉地が血生臭くなる」

 

 

「でもぉ……このままじゃあ蛇の生殺しよぉ!我慢できないわ!龍人!私に殺らせなさい!」

 

 

「お前がやると、絶対にこの温泉宿に迷惑だから」

 

 

「ならぁ……貴方がなんとかしないよぉ」

 

 龍人にどうにかして貰うか、何かをさせないと収まらないらしい。

 

「全く……」

 

 龍人は何かを呟いた。すると、綺麗な月が見えていた庭に霧が立ち込め始めた。

 

「お前等は此処で待機だ。よいしょ」

 

 龍人がリオレウスとリオレイアにそう言い、ロゥリィを抱えて庭へと出た。

 

 

 

 

 ~庭園~

 

「奴等、一体どこの国だ!?」

 

 

「知るか!」

 

 

「異世界、ドラゴン、創造主を名乗る奴まで出てくるし!この世界はどうなっちまったんだ!?」

 

 

「くそっ!」

 

 アメリカ、中国、ロシアの工作員達が山海楼の庭園で銃撃戦を繰り広げていた。

 

「ハイデッカー!どうする?!」

 

 

「此処まで来たらやるしかねぇだろ!ん……なんだ?霧?」

 

 周囲に霧が出て来た。

 

「お~い、おっさん共」

 

 

「「「「「はっ?!誰がおっさんだ!」」」」」

 

 

「こりゃ失礼」

 

 

「「「「あっ」」」」

 

 岩の上に立つ龍人とロゥリィ。それを見て、工作員達は唖然とした。なんせ、今回のターゲットの内2人が目の前に居るのだから。

 

「因みに、言葉が通じるのは君等の頭に直接言葉を話しかけてるからだぜ」

 

 

「誰に言ってるのよぉ?」

 

 

「気にするな………さてと、おじさん達。折角の温泉が台無しになるじゃないか………今直ぐにその手に持ってるのを捨てるなら見逃してやってもいいんだけど」

 

 龍人は工作員達にそう言う。しかし彼等も上からの命令で此処に来ている為、退く訳にはいかない。彼等は銃を龍人とロゥリィに向けた。

 

「はぁ………残念だよ。無駄に命を散らせるなんて………ロゥリィに任せよう」

 

 

「ねぇ、いいの?もういいの?」

 

 

「どうぞ」

 

 

「ウフフフフフフ…………アハハハハハハハ!」

 

 まずロゥリィはハルバートを持ち岩の上から飛び上がり、近くに居た工作員を真っ二つにした。

 

「ウフフフ……こっちよ、こっち!」

 

 ロゥリィは銃撃を避け、岩に隠れてやり過ごし、再び飛び出して工作員達を斬り裂いていく。

 

「この化け物がぁぁぁぁ!!!」

 

 

「アハハハハハ!」

 

 5分もしない内に工作員達は全滅した。

 

「はぁ……」

 

 

「何、血塗れで余韻に浸かってるんだお前は………」

 

 余韻に浸かっているロゥリィにそう言う龍人、彼はロゥリィの顔の前に手を持っていく。

 

 ―パチッ!―

 

 龍人が指を鳴らした。

 

「えっ?」

 

 次の瞬間、ロゥリィを我に帰った。先程までの高揚が消え失せている事に気が付いた。そして自分のハルバートを見てみる、人を斬った感触は在った、銃弾にも撃たれた、だと言うのにハルバートには一切血は付いていない。加え、銃弾に撃たれた跡も、返り血も一切付いてなかった。

 

「えっ…………えっ?!」

 

 

「どっどうなってるんだ?!」

 

 

「たっ確かに死んだ感覚が在ったのに」

 

 そして先程の戦闘で確実に死んだ者達も何故か生きており、一箇所に集められていた。彼等は確かに死んだ感覚が在ったのに、何故だと考えていた。

 

「殺すのは一瞬で事足りるけど、命を育むのは時間が掛かるからね。なんでさっきまでの事はなかった事にしてある……………でも抵抗したりすると、後ろの子達が黙ってないよ」

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

 工作員達はそう言われて後ろを見る。

 

 ―グルルルルルッ―

 

 黒い謎の光を放つ銀色の龍が忌々しそうに工作員達を見降ろしていた。

 

 天彗龍・バルファルク、龍気と呼ばれる赤い炎の様な光を放つ力を使い音速の空を翔ける古龍。音速で翔け敵に突進する、その衝撃を受け止める為に防御力もとてつもない物だ。

 

 

 ―ガアァァァァァ―

 

 全身から無数に生える黒い棘と太く発達した双角の龍が今にも工作員達を殺しそうな眼で睨みつけている。

 

 滅尽龍・ネルギガンテ、古龍の中でも極めて好戦的で尚且つ凶暴な性格の古龍だ。特殊な力を使わない代わりに、肉弾戦がメインで棘を使い滅多刺しと言う事も行う。今此処で暴れないのは龍人がいる為だ、彼が居ないならこの場は地獄と化しているだろう。

 

 

 ―キュルルルル―

 

 全身毒々しい紫色の表皮と鱗、何処かカメレオンを思わせる様な姿の龍は工作員達に興味がないのか、龍人を見ている。

 

 霞龍・オオナズチ、古龍の中でもかなり特異な力を持つ龍で、擬態能力と毒、もう1つ特殊な力を有している。

 

「抵抗はしないでくれ。もう面倒は御免だし………抵抗するなら、後ろの子達の餌になるよ。お分かり?」

 

 笑みを浮かべてそう言う龍人、工作員達は滝の様に汗を流しながら勢いよく頭を縦に振っている。

 

「素直で宜しい……さてと、自己紹介の必要はないよね。君等は分かって来てるんだから」

 

 

「ねぇ……今、何したのぉ?」

 

 

「さっきまで霧が出てたろ?アレは、そこにいるオオナズチの能力の1つなんだ。そしてあの霧の中ではオオナズチの想うがままに現実を改変できる。なんで、さっきのお前の奇跡はなかった事にした」

 

 

「事象の改変………神でさえも上位の存在しかできない事を簡単にやってのけるなんてぇ」

 

 

「さて………と」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 ロゥリィとの話を切り上げ、工作員達を見る。彼等それによりビクッと身体が跳ねる。

 

「じゃあ、国籍と名前………君等の上司と目的について吐いて貰おうかな。喋りたくないって言うなら黙秘権を使って貰ってもいいけど……」

 

 龍人が手を上げると、バルファルクがその翼から出る光で森の一部を吹き飛ばし、ネルギガンテは近くに在った巨石を握り潰した。オオナズチは液体を吐きだし、それが岩に触れると音を立てて溶けだした。

 

「あんなふうになっちゃうよ?だから正直に話してくれるとありがたいな……因みに嘘を吐いても分かるからね、長生きしてるからそう言うのは分かるしね。ナズチ、それ直しといて」

 

 オオナズチは再び霧を放つとボロボロになった庭園が元通りになった。

 

「じゃあ、俺の質問に答えて貰おうかな」

 

 

「たっ例え拷問されようとはっ話す訳がないだろう」

 

 

「まっましてや創造主を騙る輩に」

 

 彼等もプロだ、国を売る訳にはいかない。尋問や拷問に耐える訓練も受けている、例え殺されようと話さないだろう。

 

「別に騙ってる訳ではないんだけどな…………事実を話しただけだし。話さないなら仕方ない」

 

 そう言うと、彼はハイデッカー達のポケットの中を漁り始めた。

 

「フム………この写真、君の家族かな。可愛い娘さんだ」

 

 

「なっ何を」

 

 

「俺は無駄に血を流す様な事はしたくないし、嫌いなんだよ。

 

 君等が話してくれないなら別にいいんだよ。日本の人達に聞くからさ……それで俺を怒らせるとどうなるかを、君等の国に教えるだけだから」

 

 そう言いながら彼等から取り上げた写真を振る。

 

「いっ一体何をするつもりだ?!」

 

 

「見せしめに民と国の領土を消滅」

 

 

「「「「っ!!!」」」」

 

 

「なんて事はしたくないんだ」

 

 笑みを浮かべてそう言う龍人。工作員達はその姿に恐怖した。

 

 この男は何を言っているんだ?そんな事が可能なのか?いや、それよりも何万と言う命を殺すと言うのに何故、こんな笑みを浮かべているのだ?

 

 だからこそ、彼等は龍人が人間の皮を被った別の何かに見えた。

 

「(さて、これで折れてくれればいいんだけども。これ以上、面倒はしたくないんだけどな)……それで話してくれるかな?」

 

 当の本人は軽く脅しているだけのつもりでいるが、他の者達から見ればそうは思えなかったのだろう。

 

「わっ分かった………だっだから頼む、我が国と家族は」

 

 

「勿論。まぁ多少なりに俺の力を知って貰う必要があるけど。犠牲は一切ださない事を誓おうじゃないか」

 

 こうして、工作員達は自国と身内の安全を引き換えに総てを話した。



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EP20 古龍襲撃

 ~アメリカ~

 

「大統領!大変です!各地基地に……かっ怪獣が出ました!」

 

 

「ひっ被害拡大中!未知の生命達達には既存の兵器が全く効きません!」

 

 

「いっ一体なんだと言うのだ」

 

 現アメリカ合衆国大統領ディレルは現実を受け止められずにいた。

 

 彼は支持率が低迷しており、国民に成果を示す為に特地から得られる利益と資源を狙って工作を仕掛けた。その手始めとして特地の人間であるロゥリィ達を招待と称した誘拐を行おうとしていた。

 

 だが工作員達(CIA)との連絡は途切れ、アメリカ全土の基地が襲撃され始めた。彼等は知らぬ為に怪獣と称しているが、実際には古龍にである。

 

 そして既存のどんな兵器も古龍には全く通用しなかった。

 

「失礼」

 

 

「なっ何者だ?!」

 

 困惑している彼等に声を掛けた存在がいた。この場には大統領とその補佐達しかいない筈……だと言うのに、彼等の目の前に杖をついた着物を着た髭の長い老人がいた。

 

「儂は王の家臣が1人でゾラ・マグダラオスと申します。勿論、人間ではございません」

 

 ゾラ・マグダラオスと名乗った老人はそう言うと一礼した。

 

「にっ人間ではないだと……それに王?」

 

 

「はい、御存じだと思われますよ。我が王、狩矢 龍人を」

 

 

「なっ!?」

 

 

「此度は王の御命令により此方の方々を御返しに上がりました」

 

 マグダラオスはそう言うと指を鳴らす。すると彼の後ろに魔法陣が出現し送り出した工作員達が出現する。

 

「確かにお返し致しました。そして我が王よりの伝言をお伝えします。

 

【どうも、大統領。俺は言ったよね、力ずくで事を起こそうとしないでくれと。約束通り相応の対応を取らせて貰うよ】との事です。

 

 そして此方を」

 

 ゾラ・マグダラオスは鏡を取り出した。鏡を見る大統領とその補佐達。鏡には本来自分達が映る筈だが、そこには自分達でなく自国の基地が襲われている場面が映っていた。

 

「これは遠視鏡と言う物でして、名の通り遠くの物を見る為の道具にございます」

 

 銀色の龍が凄まじい速度で動き戦闘機を落としていく姿、戦車が砲撃を繰り出すが平然としている龍は凄まじい風を起こして戦車を戦闘不能にしていく光景が大統領とその補佐達に現実を刻む。自分達の最新の技術力で作った兵器がいとも簡単に壊されていく。

 

 自滅覚悟の攻撃でさえも龍達に傷1つ付けることも出来ていない。

 

「あぁ、ご安心を…………我等は人を傷付ける事は王より禁じられております。故に派手に見えますが、死者は出ておりません。

 

 あくまで、此度は………の話ですがね」

 

 

「ッ?!」

 

 マグダラオスがそう言うと、大統領は唾を飲み込んだ。

 

「我等は王の命により人を傷付けぬ様に行動します。されど………我等は愛する王を侮辱されたり、傷付けられますと怒りのあまり何をするか分かりませぬ。

 

 この言葉の意味………貴方達にお分かりになりますかな?」

 

 ゾラ・マグダラオスがそう言うと、長い毛に隠れていた眼が見えた。その瞬間、マグダラオスから凄まじい熱気が放たれ部屋の温度が一気に上がり、大統領達は滝の様に汗を流し始めた。

 

「あっ……がっ……」

 

 

「おっと……王以外の人間にはこれは辛いですかな。ホホホッ」

 

 ゾラ・マグダラオスの眼が隠れると、熱気が収まった。

 

「はぁはぁ………うっぐ」

 

 

「おやっ……少しやり過ぎましたかな?」

 

 マグダラオスはそう言うと、大きな大統領室の扉の方へと歩いて行く。そして軽く杖で扉を叩いた。

 

 ―ドガッ!―

 

 その動作とは裏腹に大きな扉は吹き飛んだ。

 

「なっ………ぼっ防弾仕様の扉が………」

 

 

「この音なら人も集まって来るでしょう…………さてと、儂は王の元に帰るとしましょうかな。ホホホ」

 

 マグダラオスは杖を突きながら、その場から去った。

 

「ばっ………ばけ……も……の」

 

 

 

 

 

 

 ~日本 サービスエリア~

 

 箱根の温泉宿から出た、一同は渋谷に戻る為に車を奪い走らせていた。そして途中のサービスエリアで休憩していた。

 

 車の中には伊丹、富田、梨沙、龍人が居た。栗林、ピニャ、ボーゼスは車の中にいるが、眠っている。

 

 ロゥリィ、テュカ、レレイは飲み物等を買いに行っている。

 

「ふぅ」

 

 

「それにしても………魔法って便利だな」

 

 伊丹は車を奪う際に使用した、敵を眠らせる魔法を思い出していた。

 

「こっちの世界の人間は使えないぞ」

 

 と話していた伊丹と富田にそう言う龍人。

 

「そうなのか?」

 

 

「こっちの世界の人間の魔法を使う為の回路は、かなり昔に閉じちゃってるから。まぁ、稀に開いている人もいるにはいるけど………閉じたものを、無理矢理開こうものなら…………激痛のあまり、廃人になるかな。

 

 上手くいけば、回路開くけど………伊丹、試してみる?」

 

 

「遠慮します!」

 

 

「そう………残念」

 

 

「ねぇ、神様」

 

 本当に残念そうな顔をしている龍人に話しかける梨沙。

 

「だから、神様は止めろと言うのに…………それでなんだ?」

 

 

「明日、銀座に着いてからの事です。またさっきみたいな事になるんじゃ」

 

 

「それについては大丈夫だろう。十分、()()が効いてるだろうから」

 

 物凄く悪い笑みを浮かべている龍人。

 

(((何したんだろう?)))

 

 ―コンッ、コンッ―

 

 3人が龍人が何をしたのかと考えていると、車の窓を叩くする音がした。それを聞いた龍人は迷う事無くドアを開いた。

 

 そこには頭を下げた老人が立っていた。

 

「ご苦労様、首尾は?」

 

 

「確実に行いましたぞ。アメリカには熔山龍()、天彗龍、風翔龍、中国には老山龍、浮岳龍、幻獣、ロシアには、雅翁龍、滅尽龍、熾凍龍が向かいました。

 

 3国の主力基地を壊滅させ、代表と話(と言う名の脅し)を行いました。勿論、犠牲者は出しておりませんので御安心を」

 

 

「あぁ、助かったよ。ネルギガンテ辺りは暴走しなかったか?」

 

 

「王の命なのですからのぅ……事ある毎に、王の事を話したら借りて来たアイルーの様に大人しくなりましたわぃ」

 

 

「そう…………ナナ達に酒とか、料理を用意させてるから向こうに戻って休んでくれ」

 

 

「そうですか、一仕事した後の酒は美味いですからのぅ。では王、儂はこれで」

 

 

「あぁ、そうだ。ナナ達には数日したら戻ると伝えておいてくれ」

 

 ゾラ・マグダラオスは龍人一礼して、杖で地面を叩くと魔法陣が出現し、その場から消えた。

 

「今のお爺さんも、もしかして」

 

 

「ゾラ・マグダラオス。人の姿の時はヨボヨボの老人だけど、実際はデカい古龍だ」

 

 伊丹達は先程の老人がどんな龍になるのだろうと考えていたが分からないので、考える事を止めた。

 

「ねぇ………さっき、凄い力を感じたんだけど」

 

 どうやら、ロゥリィ達が戻って来た様だ。

 

「気にするな」

 

 

「あなたが堂々としてるってことはぁ……古龍関係ねぇ」

 

 

「まぁね……それより外は寒いだろう、さっさと入れ」

 

 ロゥリィ達にそう言うと、彼女達をそれに従い車の中に入って来た。

 

「まぁ、明日はこのまま行くとしよう。攻めて来る事はないだろうからな」

 

 ニヤッと笑みを浮かべる龍人に、一同は少し不安を感じながらも明日の為に今は休む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、銀と金の龍達はぁ?」

 

 

「温泉宿の後始末だよ。流石にアレを、あのままにしておけないしな」

 

 

「あぁ……」

 

 ロゥリィはボロボロになった先程まで居た温泉宿を思い出し笑みを浮かべた。

 

「引っ付くな……」

 

 

「いいじゃなぁい、こわぁい龍の居ぬ間になんとやらよぉ」

 

 ロゥリィは彼女達が居ない間に龍人に引っ付き、眠る事にした。



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EP21 献花

 ~13時40分 銀座事件慰霊碑の近く~

 

 現在、龍人と伊丹達は敵から奪った車に乗り、慰霊碑に献花をしようと考えていたのだが…………アメリカや中国、ロシアが派手な行動を起さない様に梨沙がネットに情報を流した。

 

 故に一目彼女達を見ようとする輩が一杯で、道は渋滞しておいり、見回す限り人ばかりである。

 

「やり過ぎた……大きいお友達ナメてたわ」

 

 梨沙はネットに情報を流し過ぎた事で此処まで大事になると思ってなかったらしく、後悔している。

 

「でっ殿下………これは帝国に攻め込むのでは」

 

 

「こっこれ全て梨沙殿の呼集で集まったのか」

 

 ボーゼスとピニャはこれが帝国への侵攻する為の軍だと勘違いしている。

 

「歩いて行くしかないなかぁ」

 

 

「でも危険じゃないですか?」

 

 伊丹と栗林達がそう話していると、ロゥリィが花を抱えて顔を出した。

 

「このままいけばぁ?」

 

 

「もし戦闘になったら一般人を巻き込む事に」

 

 

「それなら大丈夫だろう」

 

 

「「「えっ」」」

 

 龍人がそう言うと、伊丹達がそう声を上げる。

 

「昨日、トップ達に脅しを掛けておいたし…………古龍を何人か紛れさせてるから、何か在ったら制圧させるから」

 

 

「いっ何時の間に………」

 

 

「まぁ…………次攻めて来たら………もぅそれは目も当てられない事になるよね」

 

 

(((((何をやったんだ!?)))))

 

 ロゥリィ以外は一体何をしたのかが、物凄く気になった。ピニャとボーゼスは古龍王の神話を思い出して震えだし、それを見て面白そうに笑みを浮かべている。

 

「でもこんな場所でドラゴンが暴れたらそれこそパニックじゃ」

 

 

「安心しろ、人間状態でも軍の1つや2つ、簡単にほろb………制圧できるから」

 

 サムズアップしながら笑みを浮かべている龍人。

 

「ねぇ、滅ぼせるって言おうとした?」

 

 

「怪我をさせないと様に言っておいたけど…………まぁ死人はでないだろう。比較的、大人しい奴等を連れてきたし」

 

 

「でもぉ………天災とも言われたぁ古龍がぁ、大人しぃと言われても説得力ないわぁ」

 

 ロゥリィがそう言うと、龍人は「確かに」と同意した。

 

「なぁ、滅ぼせるって言ったよな?」

 

 

「私、何も聞いてません」

 

 

「自分も聞いておりません」

 

 伊丹の言葉にそう答える、栗林と富田。伊丹もこれ以上は聞いても仕方ないと考え、聞かない事にした。

 

「と言う訳で」

 

 パチっと指を鳴らすと、彼を光が包み込み、質疑応答の際に着た服に似た黒い服を纏った。

 

「まぁ………此処でジッとしてても仕方ないし、行こうか」

 

 龍人は車のドアを開けて降り、続いてロゥリィ達も降り始めた。

 

「どうします、隊長?」

 

 

「神様が言うんだし………従うとしよう」

 

 

「了解」

 

 3人は龍人の提案に従い、此処で降りる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、龍人。ギンザってどっち?」

 

 

「ぁ~…………人が多くて分からんな。おっとそこの御嬢さん」

 

 

「なに…………か……」

 

 近くに居た女性に声を掛ける龍人。振り返った女性は固まってしまった。なんせ、世間では神様扱いされている人物(事実この世界の創造主)が目の前に現れたらそう言う反応になるのは仕方ないだろう。

 

「銀座はどの方向かな?」

 

 

「あぁぁぁぁぁ……あっ……ちです」

 

 

「ありがとう…………あっちだって」

 

 

「そう…………じゃぁ、行きましょう」

 

 

「あぁ………おぉ、気が付けば道が出来てるし」

 

 どうやら周囲の人々も龍人達に気付いた様で、何時の間にか人々が開き道が出来ていた。

 

 龍人達はその道を進んでいくと、伊丹、栗林、富田は彼等を囲む様な配置に付きながら歩いている。仮にピニャ達が傷を負う様な事になれば外交問題になる。それだけなら未だしも、可能性が低いが万が一に龍人が傷付く事があればこの集団に紛れ込んでいる古龍達が黙っていないだろう。

 

 正直、目の前でその古龍の力を見ている伊丹達は何がなんでもそれだけは避けたいと考えて居た。

 

 ロゥリィやテュカ達は周囲の声援に応えながら進んでいく。

 

 そして慰霊碑まで到着し、花を供えると膝を付いて祈りを捧げ始めた。そして最後に龍人が立ち上がると、冥魂石を取り出し鳴らした。

 

 ―キィーン―

 

 それに呼応する様に、周囲に光の球が出現しゆっくりと天へと昇って行った。

 

「さてと………そろそろあっちに戻るとするか」

 

 

「一応、門を通るので手荷物とボディチェックがあるんで宜しくお願いします」

 

 伊丹にそう言われ、了承すると龍人は周囲を見回した。

 

「栗林さん、なにやってんの?」

 

 

「あっすいません、直ぐ行きます」

 

 栗林はテレビ局のカメラの前で女性と話していた。

 

「お知り合い?」

 

 

「あっ、妹です」

 

 

「あ……あの!インタビューをお願いして宜しいでしょうか!!?」

 

 栗林の妹・菜々美は突然龍人にそう切り出した。

 

「駄目よ!早く戻らないと色々ヤヴァいのよ!」

 

 

「えっ何が?」

 

 

「この間から追われてるのよ」

 

 

「誰に?」

 

 

「まぁまぁ、ねぇこれって生中継?」

 

 

「はっはい、そうですが?」

 

 

「マイクいい?」

 

 龍人は菜々美からマイクを受け取ると、カメラに向かう。

 

「ぁ~全国の皆さん、こんにちは。

 

 昨日襲ってきた某国のトップ達に改めて忠告です。もし次、同じ様な事をして来たら…………言わなくても、身に染みて分かってると思うけど。

 

 後、襲ってきた部隊の皆さんの事はあまり怒らないで上げてね。何せ相手が悪すぎたからねぇ。じゃあ、そう言う事で。

 

 はい、マイクありがとう」

 

 

「えっ……はぃ」

 

 何の事か分からない菜々美はマイクを受け取った。

 

「おっと………はい、皆、撤収ね」

 

 龍人は何かを思い出し、人混みに向かって叫ぶ。すると、人混みの中から幾つもの光が空へと上がり龍へと姿を変える。それに驚愕する人々の声が上がる。

 

 赤い身体と翼を持つ獅子の様な龍テオ・テスカトル。

 

 テオ・テスカトルと対を成す様な青い獅子の様な龍ナナ・テスカトリ。

 

 幻想的な青い光を放つ霊毛を持つシャンティエン。

 

 白い鱗、血の様に赤い腹、巨大な翼と剣の様な伸びた1本の角を持つディスフィロア。

 

 4匹の龍が空を飛びながら龍人をジッと見つめていた。

 

「と言う訳で皆、静かにあっちに戻る様に」

 

 古龍達はその言葉に頷くと、各々咆哮を上げた。すると彼等の真上に魔法陣が出現し、古龍達は魔法陣の中へ消えて行った。

 

「ふぅ………何事もなく終わったし、あちらに戻るとするか」

 

 

 ()()()()()()

 

 龍人がそう呟くと、再び龍の咆哮が聞こえた。人々が空を見上げると、金と銀の2匹の龍が此方に向かい飛んできた。

 

 金レイアと銀レウスだ。2匹は龍人に向かい急降下してくると、その身が光に包まれ人化して龍人の後ろに着地した。

 

「ご苦労様…………ちゃんと片付けはしてくれたか?」

 

 

「はい、勿論です。我が王」

 

 

「我等が宿に入る前より綺麗にしてきました」

 

 

「ならいい………じゃ帰るぞ」

 

 こうして龍人達の質疑応答の為の訪問は終了した。

 

 この訪問は世界に大きな影響を及ぼした。この後、世界が、人類がどうなるのかは………人類の行動次第だろう。

 

 

 

 

 ~門~

 

 一先ず戻る事にした一行は、手荷物検査とボディチェックを受けていた。

 

 勿論、古龍であるレウスとレイアは人間如きが触れるなと言う顔をしており、龍人は大人しくボディチェックを受けていた。

 

「これは………」

 

 そんな中、ピニャとボーゼスの服の下から出て来たのはオートマチックの拳銃だった。

 

「………」

 

 これは龍人達を襲ってきたアメリカや中国、ロシアの兵士からごうd………頂戴した物だ。ピニャとボーゼスはこれを持ち帰り帝国で量産し、戦力の強化をしようと考えて居た………が失敗した。

 

「あっそれは護身用に持たせていたものです」

 

 と栗林がフォローした。

 

「……どうしたんだ、これ?」

 

 

「某国の事故現場で偶然拾ったんだけど……駐屯地で管理するか?」

 

 と手荷物を検査していた自衛官に伝えた伊丹。

 

「ぁー……今の所、鹵獲した兵器についての規定はないからな。俺は何も見なかった。通過した事だけは記録しておくから、そっちで管理しろ」

 

 

「了解」

 

 

「なぁなぁ伊丹…………強奪した銃器(それ)、俺にくれない?」

 

 

「えっ?」

 

 龍人が突如そう言い始めた。

 

「いや……それは………」

 

 

「タダで寄越せとは言わないさ………俺に恩を売っとけば後々役に立つとは思わないか?別に悪用はせんよ」

 

 

「上司と相談します」

 

 龍人と伊丹達はあちらの世界に帰還した。



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EP21.5 伝説のアレ

 ~アルヌスの丘 駐屯地 酒場~

 

「はぁ~」

 

 地球から帰還した伊丹は休みを取っていた。

 

「どうした同志?」

 

 伊丹に声を掛けたのは話題の人、龍人だった。彼は片手に酒瓶を持っていた。

 

「色々あって疲れたなと………」

 

 

『ちくしょー!』

 

 

『やっぱりアレはないのかぁ!』

 

 

「ん?」

 

 龍人と伊丹は声のした方向を見てみると、自衛官達が集まっていた。

 

「どうしたお前等?」

 

 伊丹がそこに近付き声を掛けると、男達が涙を流しながら此方を見てきた。

 

「伊丹~」

 

 

「これ見てくれよ」

 

 と男達が持っているのは骨についた肉だった。

 

「ぁ~気持ちは分かる。俺も最初はあると思っていた」

 

 どうやら伊丹はそれを見て理解したようだ。

 

 彼等の持つ肉はマ。ヌガと言う牛に似た動物の肉を薄く切り骨に巻き付け焼いた物だ。美味いのだが、自衛官達はこれを伝説の肉(マンガ肉)だと思ったらしい。伊丹も始めはそうだと思ったらしい。

 

「ごくっごくっ……ぷはぁ。成程、成程」

 

 それを聞いていた龍人が声を上げる。

 

「かっかみ………じゃなく、龍人くん」

 

 自衛官達が龍人の登場に驚いていたが、接している内に慣れたのかそこまで反応はない。

 

「気持ちはよく分かる…………!」

 

 龍人は何かを思いついたのは、腰にあるポーチの中から骨付き肉を取り出した。

 

「アレ、どうやって入ってたんだ?」

 

 

「さぁ、神様だし何でもありなんじゃない」

 

 

「それは?」

 

 

「正真正銘の生肉だ。巻き付けてなどいないな」

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 その言葉に、この場にいる者だけでなく周囲の自衛官達も反応する。

 

「此奴は俺の管理する地だけに生息する草食獣から取った物だ」

 

 

「「「「草食獣?」」」」

 

 

「マンモスみたいな奴とか、草食の恐竜みたいな奴とか」

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

「そして此奴が肉焼きセット………よいしょっと」

 

 ポーチから肉を焼くセットを取り出し地面に置くと、何時に座り肉をセットした。

 

「♪~♪~♪~」

 

 鼻歌を歌いながら肉を焼いていく龍人。

 

「ウルトラ上手に焼けました~!」

 

 10秒もしない内にあら不思議、こんがりと焼けた肉が出来ました。

 

「「「「「おぉ!!」」」」」

 

 

「これこそこんがり肉G!食べ方は簡単、片手で歩きながら食べるもよし…………」

 

 龍人は左右の骨の持ち胸の前で肉を構え、大きな口を開いた。

 

「豪快に食べるもよし!ガッ……ガッガッ!もぐもぐっ……ゴクッ!ぷはぁ……けぷっ」

 

 腹をさすりながら、満足そうな顔をしている龍人。

 

「「「「ごくっ」」」」

 

 

「まぁこういう感じで食うんだ………とは言え、美味いかどうかは食べてから確認してくれ。ほれっ同志伊丹、味見してみろ」

 

 もう1つ肉を焼き、伊丹に渡した。

 

「ごくっ…………あむっ……がっ!がっ!美味い!」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

「1つ1000円で」

 

 

「「「「「買った!!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 ~数時間後~

 

「ひぃふぅみぃ………………本日の売り上げ100万程か」

 

 

「マンガ肉すげぇ……………」

 

 

「いや~こんなにも売れるとは………さてと………これで色々買い物できるな」

 

 こうして龍人の財布が潤ったのである。




材料

生肉……狩りなので無料。在庫……カンストしてる。

肉焼きセット……1度買えば壊れない。

10連肉焼きセット……肉焼きセットと同じく。

なので、1000円でもボロ儲け。

次回あたりに皇子が………フフフ。


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EP22 地揺れ

やっと更新できた………


 ~???~

 

「して王は?」

 

 

「アルヌスに滞在中だ………まぁ、何処か他へ行かれてるかもしれんがな」

 

 巨大な影達が何かを話している。

 

「それで………時空の様子は?」

 

 

「フム………もぅそろそろ、徴候が現れる頃ではないかのぅ」

 

 影達の言葉にそう答える人間の姿のゾラ・マグダラオス。彼は自分の髭を撫でながらホホホと笑っている。

 

「では早めにあの門を壊さねばならぬのではないか?」

 

 ゾラ・マグダラオスの横に青い髪の男が現れた。

 

「それに関しては王の指示なくば行えねぇだろう、天翔龍」

 

 暗闇から赤い髪の男と水色髪の女性が現れた。

 

「炎王に炎妃か………」

 

 青い髪の男……天翔龍シャンティエンは、やって来た炎王龍テオ・テスカトルとナナ・テスカトリを見た。

 

「王がお眠りの際は我等が判断すべき事でしょうが…………王が起きておられる時は王の御判断次第でしょう」

 

 

「そうそう………王に任せようぜ」

 

 テオ・テスカトルとナナ・テスカトリがそう言うと、シャンティエンも同意した。

 

「フム…………では王の命が在るまで酒を飲むとするかのぅ」

 

 ゾラ・マグダラオスはそう言うと、闇の中へと溶け込んで行った。それについて、数体の巨大な影達もそれに着いて行った。

 

「じゃ俺も………」

 

 

「貴方はこっちです。まだ片付けが終わってませんので手伝って下さい」

 

 

「うぇ~……俺も酒飲みてぇ~」

 

 

「貴方は酔っ払うとスーパーノヴァを連発するから駄目です。この間も神殿を壊し掛けたでしょう」

 

 

「ぁ~そんな事もあったな。でもそれを言うなら他の奴等も」

 

 

「他の者は他の者………貴方は貴方でしょう。ほらっ子供みたいに駄々こねてないでいきますよ」

 

 

「ぁ~」

 

 強い妻(ナナ)に引きずられていく言い負けた夫(テオ)

 

 端から見たら妻には逆らえない夫………誰もこの男が数多のハンター達を苦しませた古龍だとは思いもしないだろう。

 

 

 

 

 

 

 ~アルヌスから離れた上空~

 

「はぁ~…………なんか………変な感じだよな」

 

 そう呟く龍人、彼は現在リオレウスの上に乗っており、空を飛んでいた。何時も一緒に居るリオレイアがリオレウスの横で飛んでいた。

 

 龍人は地上を見下ろしながら、違和感を感じていた。

 

「ん~………俺はこういうのは分かんないんだよな。お前等は分かるか?」

 

 

【地揺れの予感はします】

 

 

【これが門の影響なのかは我等には分かりかねます。祖龍達なら分かるでしょうが】

 

 

「だよな。でも、あいつ等が出るとそれだけじゃ済まないだろうし………仕方ない。誰かを訪ねてみるか」

 

 

【まさか王、あの愚か者達(神々)の事を言っているのですが?】

 

 

「この星の事は一番あいつ等が理解しているからな。それが一番早い」

 

 

【【‥…………】】

 

 竜の状態の為、表情は分からないがリオレウスとリオレイアは怒りを顕わにしている。

 

「はぁ…………何時までも昔の事を根に持つなよ。古龍(お前等)神々(アイツ等)は顔を合わす度に戦争をしようとするなよ。取り敢えず、戻るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 ~夜 アルヌスの丘~

 

 リオレウスとリオレイアは丘の近くに着地すると、龍人はその上から降りた。リオレウスとリオレイアはそれを確認すると、人化するとそれぞれ龍人の左右に着く。

 

「おい、くっ付くな。歩き難い」

 

 

「「嫌です」」

 

 揃ってそう言うと、龍人の腕に自分達の腕を絡めるレウスとレイア。こうなってしまっては何も言っても離れないので諦める事にして、駐屯地に向かう事にした。

 

 既に夜も遅く周囲は寝静まっており、龍人は伊丹達に掛け合い用意して貰った部屋へと戻ろうと考えていた。

 

 だがサイレント共に自衛隊の車が走ってくると地震発生の警告を始めた。そして数分すると、皆が広場に集まり点呼をとっていた。

 

 レウスとレイアは何かを感じたのか、突然龍人の身体を抱える。

 

「王………来ます」

 

 

「失礼します」

 

 2人はそう言うと、背中からそれぞれ翼を生やすと龍人を抱え飛びあがった。そして、凄まじい音と共に大地が揺れ出した。地震である。

 

「こりゃ………デカイな」

 

 と周囲を見回しながら抱えられている龍人。

 

「この辺りで地揺れとは…………」

 

 

「発生源は此処ではない様ですが……………それより王」

 

 

「?」

 

 

「下で騒いでいる輩………消し炭にしていいでしょうか?」

 

 集まっていたこの駐屯地にいる者達…‥…正確には自衛隊以外のこの世界の者達が悲鳴を上げていた。

 

「止めなさい。まぁ、この辺りの土地では地震なんて滅多にないからな。獣人達の本能が働いているんだろう。取り敢えず、降りよう」

 

 

「「はい」」

 

 龍人はレウスとレイアに地面に降ろされると、近くの自衛隊員に話し掛けた。

 

「あっそこの人………確か柳田さんだっけ?」

 

 

「龍人くん………戻って来たのか」

 

 

「えぇ、まぁ…………結構大きな揺れでしたね。この後も余震が続くでしょうし………どう……伊丹達は?」

 

 

「そっそれが……」

 

 

「帝都に?」

 

 柳田によると伊丹達は任務で帝都に行っているらしい。

 

「まぁ………ちょうどいいか。懐かしい顔を見に行くか………2人とも帝都だ。他にも途中で合流して、乗り込むとしよう」

 

 

「「御心のままに」」

 

 彼女達はそう言うと、その身を竜の姿へと戻した。龍人はレウスの上に跨った。銀龍と金龍はその巨大な翼を広げ、空へと舞いあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 ~帝国 皇宮~

 

 この世界において覇権国家である帝国………首都【帝都】。人口100万の城塞都市である。

 

 そしてその中心は勿論、皇帝のいる皇宮だ。

 

 伊丹は部下の栗林、富田、外交官である菅原と共に皇宮に来ていた。何故、帝国と敵対している彼等が此処に居るのかと言うと………ピニャに泣き付かれたからである。

 

 そして、彼等は玉座の間に居り皇帝モルトと対面した。それからピニャを通して話していたのだが………モルトの息子ゾルザルが乱入した。加え、彼は奴隷を複数連れてきており、その中に帝国が日本に蹂躙した際に拉致された日本人の女性がいた。

 

 故に伊丹が激昂………ゾルザルを殴り飛ばし、現在伊丹達は帝国と対立している状況だ。

 

「皇子たるこの俺に手を出したんだ、どこぞの蛮国かは知らn【グオオオォォォォォ!!!】」

 

 今にも戦闘が始まると言う瞬間、場の全ての者がその咆哮が………圧倒的な殺意と力が場を覆い尽した。

 

 玉座の間の天井が壊れ、黒い影が飛び込んで来た。

 

【グオォォォォォォ!!!】

 

 

「なっなんだ!?」

 

 ―ドゴォォォォォォン!―

 

 さらに天井を壊して、銀と金の龍が天より舞い降りてきた。

 

「此処に来るのも30年ぶりくらいか………ちょっと変わったか?」

 

 

【目障りな者共ばかり………焼き払っても宜しいでしょうか?】

 

 

【この周辺一帯も焼き払い、森にしましょう。その方が、今後の為になります】

 

 

【全部叩き潰せばいいのか、王?】

 

 と物騒な事を漏らす古龍達。

 

「はぁ………レウ、レア、ネル、お前等はどうしてそうも、物騒なことばかり言って……下がれ」

 

 

【【【はい】】】

 

 

「「「りゅ……龍人くん?!」」」

 

 

「よう、同志………それと久し振りじゃないか、小僧(モルト)

 

 こうして長く続いた帝国に最悪の形で古龍王がやってきた。




次回、皇子ピンチ!

運がよければ生きてるかな?


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EP23 テメェは俺を怒らせた

 今にも日本と帝国の戦闘が始まろうとしていた時、皇宮に飛び込んできた古龍王(龍人)

 

「久し振りだなぁ、小僧(モルト)

 

 リオレウスの上から降りた龍人は皇帝に軽く話し掛ける。

 

「古代龍?! ……それにお主は…………」

 

 

「あれっ? 俺の事を覚えてないと」

 

 

「いや……まさか…………」

 

 皇帝モルトとその周りにいた高齢の貴族達は始めは古龍達を見て驚いていたが、龍人の顔を見て段々とその顔からさぁーと血の気が退いて行った。

 

「きっ貴様は!? あの時の!」

 

 皇帝の息子ゾルザルは龍人を指差し叫ぶ。

 

「はて…………誰だったか? 何処かで会ったか?」

 

 龍人はゾルザルを見てそう呟く。

 

「ぁ~そう言えば、ウォーリアバニー族を奴隷にしようとした奴か…………確か名前はぞ……ぞ……ゾルゾルだっけ? なんで此処にいんの?」

 

 

「誰がゾルゾルだ!? 俺は帝国の第一皇子! ゾルザル・エル・カエサルだ! この無礼者が!」

 

 ゾルザルが龍人を指差しそう叫ぶ。

 

【【【グオオオオオォォォォ!】】】

 

 ネルギガンテ、リオレウス、リオレイアがゾルザルの言葉に反応し殺気と共に、鼓膜が破れるのではないかと言うくらい凄まじい咆哮をあげる。

 

 その咆哮でゾルザルは腰を抜かし、彼の回りにいた兵達も恐怖のあまり硬直してしまった。ネルギガンテが硬直しているゾルザル達に近付くと、その前足を振り降ろした。

 

 ―ドゴォォォォォ!! ―

 

 何かが爆発した様な音と共に、ゾルザルの横の床に巨大な穴が開いていた。ゾルザル本人は目に見えて分かる程、足がガクッガクッと震えていた。こんな一撃普通の人間が食らったらペチャンコである。

 

【あまり調子にのるな人間風情が……次は叩き潰すぞ】

 

 ネルギガンテは唸りながらそう言うと、穴から前足を引き抜き元居た場所に戻った。

 

「ぇ~と…………コホン、では気を取り直して。

 

 久し振りだな。モルト…………元気そうで何よりだ」

 

 

「おっ御久しぶりにございます。ほっ本日はどういった御用でしょうか?」

 

 龍人に頭を下げながらそう言うモルトと高齢の貴族達。モルトは未だ何とか平然を装っているが、後ろの貴族達の殆どが顔を真っ青にしている。

 

「なんだ、来てはいけなかったか?」

 

 

「いっいえ、その様な事は…………」

 

 

「そう、なら良かった……さて、アレはお前の息子か?」

 

 

「はっ……はい、我が長子にございます」

 

 

「そうか、それにしても……ロクな教育をしてこなかったと見える」

 

 龍人はそう言いながら、ゾルザルの方を見る。正確には彼が持っている鎖に繋がれた複数の女性達を見てみた。

 

 女性達は人間から亜人まで沢山の種族がいるが、ボロボロで服すら着ておらず、彼女達がどういう扱いを受けたのかは察する事ができる。

 

 それを聞くと、流石のモルト皇帝の顔も青くなった。

 

 会話より分かる様に、モルトと高齢の貴族達は龍人とは面識があり、彼の正体を知っている。加えて、彼等はその力がどの様な物かを知っていた。

 

「よっと……」

 

 龍人は何処からともなく、太刀を取り出すとゾルザルの鎖に繋がれている女性達の元まで歩み寄り、片手で太刀を振り上げ……振り下ろした。

 

 ーキィンー

 

 と音と共にゾルザルの持っていた鎖が断ち斬られた。彼の身体を金色のオーラが包み込むと女性達の怪我が治癒し、それを確認すると腰のポーチから複数の綺麗な布を取り出し彼女達に被せる。

 

 そして、女性達の中に黒髪の女性に近付いた。

 

「怪我は治したけど痛い所はないか、お嬢さん」

 

 

「えっ……日本語? はっはい」

 

 

「お嬢さんは日本人だね、君の他にもこっち側に連れて来られた人間はいるかな?」

 

 

「はい、恋人がいます。それに何人かの日本人がいました」

 

 

「そう……」

 

 龍人はそれだけ言うと、伊丹達に彼女を任せる。そして、ゾルザルの方を向く。

 

「さてゾルゾルくん、残りの日本人達は何処かな?」

 

 

「ゾルザルだ! この」

 

 ゾルザルが名前を間違えられ、腹が立ったのか龍人を殴ろうとしたのだが古龍達に睨まれ固まった。

 

「どうやら素直に話しそうにないな。栗林さん」

 

 

「はい?」

 

 

「素直になる様にO☆HA☆NA☆SHIしてあげなさい。あっ、これどれだけやっても死なない不思議グローブね」

 

 龍人はそう言って、栗林にポーチから出したグローブを渡す。

 

「……ぁあ、そう言うこと。はぁ~い、喜んで!」

 

 どうやら栗林は全てを理解した様でにやっと笑い龍人から貰ったグローブを装着してながら、ゾルザルに近づく。

 

 龍人は古龍達に視線を向けると、古龍達は殺気をおさめた。

 

「ふっ、女が俺の相手だと?」

 

 ゾルザルは小さい栗林を見下ろし、鼻で笑う。

 

「たかが、小娘が舐めるな!」

 

 ゾルザルは栗林に殴り掛かるが、避けられカウンターでアッパーを食らわせる。

 

「ぐほっ!?」

 

 殴られ倒れたゾルザル。直ぐに栗林はゾルザルに跨がり、マウントポジションをとる。

 

「まっ待て待て! 皇子たる俺にまた手をあげるつもりか!? 

 

 けっ警護兵! こいつを取り押さえろ!」

 

 とゾルザルが周りの兵達に言うものの、兵達は古龍に睨まれて動けないでいる。

 

「まっまt」

 

 トゴッ! バキッ! ゴスッ! ベキッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! 

 

 抵抗する間もなく殴り続けられるゾルザル。

 

 十数発殴ると、栗林は立ち上がり彼の胸ぐらを掴み上げる。そして、思い切り殴り飛ばす。

 

「ごはっ……あひー……ひー」

 

 ゾルザルの顔は酷いものへと変わり果てていた。鼻の骨は折れ、前歯は全て折れ、血塗れになっている。

 

 栗林は更にゾルザルの左手を掴むと、薬指と小指をへし折った。

 

「うぎゃぁぁぁ!」

 

 その光景を見たピニャ、モルト皇帝、兵士達、宮仕えしている女中達は顔を青ざめさせる。

 

「栗林さん、ご苦労様……はい、タオル」

 

 

「あっ、どうも……」

 

 栗林は龍人にそう言われ止めようとしたが、最後に「女なめんな!」と言いながら、ボロ雑巾の様になったゾルザルを睨み付けた。そう言われゾルザルはひっと小さい悲鳴を上げ、身体を震わせる。

 

 彼女は龍人からタオルを受けとると離れた。

 

「さてと……そろそろ話したくなったかな?」

 

 ニコニコしながら龍人はそう聞いた。ゾルザルはその笑顔を見て、背筋がゾッとする。

 

「のっ残りの奴隷は市に流した……しました」

 

 

「そう……さて、モルト」

 

 

「はっ……はい」

 

 目的の事を聞けた龍人は次に皇帝へと視線を向けた。

 

「無謀と蛮勇に関しては若い頃のお前にそっくりだな。ただ、若い頃のお前の方がまだ賢かったぞ」

 

 龍人はそこで言葉を区切ると、前髪をかきあげる。

 

「子育てを間違えた様だな……ウォーリアバニーへの戦を仕掛けた時の事は俺が止めたからお前やコルト達に免じて何も言わなかったが……今回の事、そして銀座での事は誠に赦しがたい」

 

 彼の正体を知る皇帝や貴族達はこの世の終わりの様な顔をする。

 

「だがその前に……そこの愚息には罰を与えなければな」

 

 そう言うと、龍人はゾルザルの方を向き歩を進め始める。龍人の正体を知らないものの、連れている龍や以前の事に加え先程の栗林に殴られた事もあり恐怖に顔を歪めている。

 

「さてと……」

 

 

「ひっひぃ!」

 

 傍まで来た龍人に怯えているゾルザル。だがこの皇子、変な所で頭が回る様だ。

 

「きっきしゃま! どこの誰だかひらんが、皇子である俺に……こっこんな状態のおっ俺に何をするつもりだ!?」

 

 と言った。一般人の女性や奴隷を無理矢理辱しめ、暴行した男の台詞とは思えない。

 

 恐らく自分が何故こんな目に合っているのかまだ理解してないのだろう。第一皇子であるこの男は今まで殆ど諫められた事などないのだろう。皇子であるが故に自由勝手に、我儘放題で生きてきた。皇子である自分が弱者である者達を犯そうと、傷付けようと、殺そうとも許されると思って生きてきた。だからこそ、人の痛みも、苦しみも、していい事も、悪い事も、分かっていない。

 

 そういう地位で、環境で育ち、自分を叱る存在も居なかった。居たのは彼の地位にすり寄る貴族だけ……こう育ったのも納得がいくのだが、目の前に居る存在(龍人)にはそんな言い訳が通る訳がない。

 

「確かにそんなボロボロの奴を殴ってもな……なら」

 

 龍人の身体から紫のオーラが被う。

 

『ドラァ!』

 

 その瞬間、龍人から幽波紋(スタンド)・クレイジーダイヤモンドが出現し、ゾルザルを殴り付ける。

 

「ぐほっ……なっなんだ、何をした?!」

 

 

「怪我を治してやった」

 

 

「えっ?」

 

 ゾルザルは自分の身体を触る。先程まで、血塗れだった顔、折れた指、歯が元通りになっている。

 

「こっこの能力は……クレイジーダイヤモンド!?」

 

 龍人がスタンド能力を持ってる事を知っている伊丹は直ぐに何が起こったのか理解した。

 

「その通り……さて、モルトの息子よ。怪我が治ったんだ、これで卑怯じゃないよな?」

 

 

「たっ確かに……はっ!?」

 

 

「これで、お前をボコボコにしても問題ないなよな。普通の人間ならしないんだが……お前の様なクズには容赦しない」

 

 龍人からオーラが溢れだし、出現したのはスタンド・スタープラチナだ。

 

『オオオォォォ!』

 

 スタープラチナは雄叫びを上げ、大きく息を吸う。

 

「まっ待て、皇子の俺を」

 

 

「知ったことか……オラァ!」

 

 始まった。何が? 

 

 オラオララッシュがである。

 

 

 

 

 

 

 

『オラオラオラオラオラッ!』

 

 

 

 

 

 

 スタープラチナが凄まじい速度でラッシュを始めた。

 

 それをまともに受けたゾルザルは悲鳴を上げる間もなくボコボコにされていく。

 

 

 

 

『オラァ!』

 

 

 

 

 

 数十秒間のラッシュの後、スタープラチナの渾身の右ストレートによりゾルザルは吹き飛ばされた。

 

『オオオォォォ!』

 

 スタープラチナが雄叫びを上げる。

 

「お前がこんな目に合う理由はただ1つ。『テメェは俺を怒らせた』」

 

 龍人がそう言うと、彼の横に学生服を着た誰かの姿が重なった様に見えた。



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EP24 皇帝だろうと、貴族だろうと怖いものは怖い

 スタープラチナのラッシュにより吹き飛ばされたゾルザル。

 

 スタープラチナは雄叫びを上げた後に、その役目を終え龍人に重なる様に消えた。

 

 幽波紋(スタンド)は基本幽波紋(スタンド)を使う者にしか見えない。そして、現在この世界においてスタンド使いは龍人のみだ。

 

 なので、彼の力を知らない人が端から見ればゾルザルが勝手にぶっ飛んだ様にしか見えないのである。

 

 因みに伊丹は彼の力を直接聞き、知っているので何が起きたのか理解出来たのか目を輝かせている。

 

「さてと……次は」

 

 ゾルザルをボコった後にクルッと身体を回転させ、モルト皇帝や貴族達の方向を向く。

 

「「「!?」」」

 

 龍人が自分達の方に向いたので、ビクッも身体を震わせた皇帝と貴族。この国において、権力を持っている人物達なのだが……流石の彼等も龍人には逆らえない。

 

 何故なら彼等は知っている、彼が古龍王であること……何よりその力を。

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは古龍王の神殿……つまりは龍人が古龍達と共に住んでいる場所で起きた。

 

 この世界に伝わる伝承では古龍王の神殿には膨大な量の宝や伝説の剣等が納められおり、それ等を手にした者はこの世界の覇者となる等々と言われている。実際に宝やアイテム、装備を龍人が所有しており、どれもこの世界の技術を遥かに越えている物ばかりの為、強ち間違いとも言えず、昔からその神殿へと向かった者達が帰ってくる事がなかったので、その伝承は信憑性を高めている。勿論、戻って来なかったのは古龍達により排除されたからである。

 

 この世界において古龍王は神々と同じ様に信仰されている。彼の神殿は基本的に禁足地であり、入っていいのは神々の使徒……つまりロゥリィ達の様な存在だけ言うことになっている。と言うのも、龍人本人が噂によりやって来た者達を悉く返り討ちにしていたのだが、面倒になった本人がロゥリィの主神エムロイや他の神々に相談した所、神々な自分達の使徒に命じてそう言う取り決めをしたのだ。

 

 それが行われたのが500年程前で、つい最近までそのお陰で平和に過ごしていたのだが、それも数十年前に破られた。

 

 その理由はモルト皇帝と貴族達である。

 

 彼等がまだ若い頃の話しだ。モルトは先帝である兄が亡くなり、先帝の息子……モルトからすれば甥にあたる者が帝位を継ぐ筈だったのだが、まだ未熟だったので、モルトは中継ぎで皇帝になった。そして、皇帝の地位に固執する彼は様々な手を使い甥を廃嫡し皇帝の座に居座ったのである。

 

 更に彼は自分の立場を確実な物にする為にある宝を求め禁忌を犯す。それこそ古龍王に関する宝である。それを手に入れれば、自分の立場が確固たる物となり、伝承通りであれば自分は世界の覇者となれると思い込んだ。

 

 そこで若き日のモルトと貴族達は宝を求め禁足地へと踏み込んだ。普段であればそんな大それた事をすれば、神々にも目をつけられどの様な事をされるか分かったら物ではないものの、当時の彼は全てが上手くいっており、今回も上手くいくだろうと考えていた。つまりは『天狗になっていた』のである。

 

 だがその鼻も直ぐにへし折られる事になる。

 

 当時のモルトは古龍王の伝説は信じていたものの、未だに本人と古龍が存在する等考えもしなかったのである。

 

 龍人と古龍に初めて相対した時、龍人は眠っており古龍達も人の姿でそれを見守っていた。そしてモルト達は彼等に「此処は聖地である、即刻出ていけ」等と言った。これが普通の人間や亜人相手なら未だしもはこの地の主だ。その言葉に怒った古龍一同、その場で元の姿に戻り、モルト達は唖然。

 

 古龍達のブレスにより、一瞬で兵は全滅し運が良かったのか、わざとなのかは分からないが生き残っていたモルトと数人の貴族達。

 

 そしてモルトと生き残った者達は命乞いをする。

 

 古龍達のブレスの轟音で目を覚ました龍人は古龍達に何があったのか尋ね、古龍達はモルト達の事を話す。

 

 龍人はまたかと呆れるとモルト達を見た。運が良かったのか、それともわざとかは分からないが生き残ったモルト達、龍人は一先ず彼等の傷を治すと、彼等の名前などを聞きそのまま帰る様に言った。

 

 それから幾度か龍人が帝国を訪れ、国の発展などに関わったのだがそれはまた別の話。

 

 

 

 

 時は現代に戻り、龍人は笑みを浮かべながらモルト達に近付く。

 

「かつての罪を許し、国の発展の為に手を貸し、色々な事を教えてやったのに……息子が阿呆で、そこを正そうとせずにこの始末とは……あの時、お前達を許したのは間違いだったか?」

 

 

「っ!」

 

 

「お前等がすべき事は俺が言わなくても分かるな?」

 

 

「はっはい! 全霊をかけまして愚息の仕出かした事を納めます! 勿論! 市に流された奴隷の者達も直ぐに日本の方々にお返しします!」

 

 モルトを始め貴族達がそう言った。

 

「ならば直ぐに動け……万が一、死んでいた場合等は亡骸だけでも回収しろ、いいな?」

 

 龍人の言葉に床に額を擦り付け返答するモルトと貴族達。彼の言葉が終わると慌ただしく動き始めた。

 

「伊丹達はそれでいいか?」

 

 

「えぇ、問題ありません」

 

 

「そうか……もし次に同じ様な事があれば……」

 

 視線を皇帝達の方に向けると、彼等はひぃと言う悲鳴を上げる。

 

「……次はないぞ」

 

 龍人はそれだけ言うと、古龍達に目を向ける。

 

 古龍達はその視線が何を意味するのか理解したらしく、リオレウスとリオレイアは翼を羽ばたかせて外へと飛び立った。

 

 こうして、日本と帝国との初の顔合わせは最悪な形で終わった。



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EP25 動き出す世界

 良く晴れた青空、洗濯物がよく乾くであろう天候。通常であれば爽やかな1日を過ごせそうだと思う所であるが、帝国の皇帝並びに貴族、元老院の老人達はそんな事を思うどころではない。

 

 何故なら、現在彼等は、柱だけになった元老院の議事堂にいるからである。

 

 此処は城の近くにあるのだが、議事堂の周辺は完全な更地となっている。加えて城も半壊していた。

 

 モルト皇帝を始め、貴族、元老院達は今にも死にそうな顔である。

 

「陛下……これからどうされるおつもりか?」

 

 元老院の中でも結構年を経ている老人がそう切り出した。

 

「ぁあ、分かっている。全ては余の不徳だ……」

 

 そう言ってモルトは下の方にいるボロボロの息子を見た。

 

 現在、彼等が……帝国がこうなっている原因は日本の自衛隊と古龍達の所為である。

 

 夜中の内に、日本の自衛隊の戦闘機等による奇襲により議事堂が半壊、そこに現れた複数の古龍達により、この有り様だ。

 

 勿論、理由もなく自衛隊も古龍が動く訳もない。自衛隊に関しては帝国に戦力差を見せつける為だろう。

 

 それだけも頭を抱えているのに、もっと頭が痛いのは古龍達である。

 

 古龍達が襲ってくるのは、間違いなく古龍王である龍人の怒りを買った為だ。

 

 モルトを始め、貴族、元老院達はその力を知っているので顔も青くするのである。

 

 それもこれも、ゾルザル(愚息)とその取り巻き達の所為だ。

 

「それでどうなさるおつもりですか、陛下」

 

 

「日本から連れてきた者達を探す。例えそれが既に死んでいてもだ。

 

 それが最優先だ! 貴族に関わる物の復旧は後回しで構わん!」

 

 モルトはそう言い放つ。元老院達もそれに答えそれぞれ動き出す。

 

 しかしこの中でそれに同調しない者達がいた。散々な目に遭ったゾルザルと取り巻き達である。

 

(何なんだ!? 奴は!? この俺をこの様な目に合わせおって! しかも父上と貴族達のあの怯えよう一体何者だ!?)

 

 自分をこんな目に合わせた龍人に対して募る憎しみで、龍人が何者なのか頭の回ってないゾルザル。

 

 そんなゾルザルと違い、冷静であったのは弟ディアボと事情を知るピニャであった。

 

(ジエイタイとやらと古代龍の襲撃……動揺するのは分かるが、父上と年老いた貴族達の狼狽えよう……何かあるな。何にしてもこのままではこの国は終わりか)

 

 兄と違い物事をしっかりと考えるディアボは、父や貴族達の様子から察した様だ。

 

(もう終わりだ……ジエイタイだけでなく古龍王様を敵に回して……これは夢か、そうだ、夢だ。目覚めよ妾、目を覚まして芸術を見よう)

 

 ピニャは冷静ではなく現実逃避している様だ。

 

 

 

 その様子を空から見ている3つの影があった。

 

「どうやら動き出したらしいな」

 

 

「やっとですか……遅すぎる。全く……いっそのこと滅ぼしてしまえばスッキリするものを」

 

 

「我等とて同じ気持ちであるが、王の決定だ……一先ずは王への報告だ」

 

 

「そうしましょう」

 

 

 

 ~古龍王の神殿(龍人の住処)~

 

「以上が報告となります、王よ」

 

 帝国の動きを自分達の主である龍人に報告した3人。

 

 人の姿をしているが、勿論人ではない。龍が人の姿となったものだ。

 

 黒い着物の男、白い着物の女、紅い着物の男、それぞれ凄まじい存在感を放っている。

 

「そう……それは良かった」

 

 

「王……それと、地揺れについてですが」

 

 

「ぁあ、やっぱりあの地震はそうだったのか。さて……どうしたものか」

 

 龍人は彼等の言葉を聞くと顎に手を当てて何かを考え始める。

 

「一番、ハーディ辺りが把握してそうだな。近々行ってみよう……」

 

 

「王、あの国潰さなくて良かったのか?」

 

 

「無駄に犠牲を強してもなぁ……痛手を負うのは罪もない民達だ。必要ないなら滅ぼしたくはないしな」

 

 

「我が王よ、1つだけお尋ねしたいのですが?」

 

 白い着物の女性が凄まじいオーラを出しながら龍人にそう聞いた。

 

「あっ……うん」

 

 

()()は何でしょうか?」

 

 女性は龍人を指差した。正確には大きなソファーに座っている龍人に抱き付きながら寝ているロゥリィを差した。

 

「ぁ~酔っ払って放っておくのもどうかと思って連れて来たんだが……此処でも酒飲んでこの有り様でな」

 

 

「亜神風情が王に抱き付くとは……塵にしてやる」

 

 

「何時もの事だからいいよ」

 

 

「いえ、私ですら我慢しているんです! 何て羨ましい!」

 

 龍人は彼女の両隣の男達に助けてと視線を向ける。

 

((ハハハハハ! 無理です! 王自身で解決してください、と言う訳でこれで))

 

 2人は足音もたてずにその場から消えた。

 

「(アイツ等……)はぁ……」

 

 龍人はロゥリィ(酔っ払い)と女性をどうするかと頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~??? ~

 

 1人の女性が何かを見ていた。

 

「成程……想定より少し早いわね。こっちは……少しずつだけど、広がってる。予定を早めようかしら」

 

 女性は何かを感じると振り返った。

 

「これは、これは……一体何の用でしょう?」

 

 そこには、2体の骸の様な龍がいた。一体は双頭、もう一体はボロボロの布を被っている様な姿をしている。

 

【我等ノ王ヨリ】【伝言】

 

 

【近い内に王が世界の事について問いに訪ねるとの事だ】

 

 

「えっ……我等が父が来られるのですか?」

 

 

【ソウダ】【無礼……駄目】

 

 

「勿論ですわ……それで父はいつ頃?」

 

 

【まだ分からん。何時でも迎えれる様に準備をしておく事だ】

 

 龍達はそれだけ言うと暗闇に消えて行った。

 

「我等が父のお出迎えをしないと……忙しくなりそう、フフフ」

 

 女性は笑いを浮かべていた。

 

 

 

 



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